オラクル船団がオラリオにやってきた (縁側)
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プロローグ

 ピンクの花が咲き誇る湿地帯に、一人の少女が佇んでいた。

 その少女は、同年代の少女よりも小柄であった。肌は透き通るように白く、瞳は赤、髪は青色であるが髪の先端に向かうに伴い紫へ変色していた。耳はニューマンの特徴である、長く細い形をしていた。

 その赤い瞳に移るのは、少女の足元で横たわっている白い少女。

 白い少女は眠っているのか、呼吸をするため胸を上下させている以外に、動きはない。

 

「ミケ!」「守護輝士(ガーディアン)!」

 

 小柄な少女を呼ぶ声が聞こえてきた。

 小柄な少女が声のする方へ顔を向けると、二人の少女が小柄な少女──「ミケ」に向かって来ていた。

 

「ヒツギ!ハリエット!無事だったんだね」

 

 ミケは、2人の無事を喜んでいると、ヒツギと呼ばれた少女が、倒れている白い少女を見て心配そうにしていた。

 

「こっちは大丈夫!マトイのほうは大丈夫?」

 

「今は寝ているだけかな。暫くすれば起きると思う。それとシエラに、回収用のキャンプシップを準備するように連絡済みだから、ここで迎えが来るまで待機かな」

 

 白い少女──「マトイ」を優しい表情で見ながら、ミケは答えた。

 

「了解!おわったぁ!無事に帰ってこられたし一件落着だね!」

 

 ヒツギはそう答えると、大きく伸びをした。

 

「おかえりなさい、守護輝士(ガーディアン)。ご無事なようで、何よりです」

 

 ハリエットと呼ばれた少女は、そう答えつつ笑みをミケへ向けた。

 その時、マトイが身動ぎをした。

 ミケはもうそろそろ起きるかな?と思いマトイの顔を眺めていると、その赤い瞳が開かれた。

 マトイは起きがけで焦点の合わない瞳を何度か瞬かせていると、焦点があったのかミケを瞳に映した。

 その後の行動は、まさに風のようであった。瞬時に立ち上がると、ミケへ向かって突撃しその体を抱きしめると、瞳に涙を浮かべながらミケに叱責する。

 

「ミケ!ばか!ばかばか……!もうあんな無茶したら絶対に許さないんだからね!」

 

 ミケは嬉しいような困ったような、なんともいえない表情を浮かべながら、自分より背の高い少女の頭に手を向け優しく撫でた。

 

「はいはい!お二人さん!いちゃつくのは後でもできるからね!」

 

 ヒツギは、後頭部をかきつつ呆れたように明後日の方向に目をやる。

 ハリエットは、微笑ましそうに二人を見ていたが、何かに気が付いたように空を見上げた。

 

守護輝士(ガーディアン)。お迎えが来たようですので、皆のもとへ戻りましょう」

 

 マトイはミケの体から離れると、涙を手で拭いながら改めてミケを見つめる。

 

「これからは、ずっと……ずっと一緒だよ!」

 

 そう言うと、満面の笑みをミケに向けた。

 

 

 キャンプシップに搭乗し、帰還の途についている間、ミケは今までの事を思い出していた。

 【終の女神シバ】からマザーシップを取り戻すために、マトイと共に突入した事。

 【終の女神シバ】は倒したが、そこから【原初の闇】が現れて、取り込まれそうになった事。

 取り込まれそうになった時、マトイを筆頭に、ヒツギ、ハリエットが駆け付け、救ってくれた事。

 最悪は、全部自分1人で抱えこもうと考えていたが、自分には帰る場所が、愛しく思う人がいるんだなぁと実感した事。

 その様な思いを胸に、今までの長く苦しい戦いの日々の終わりを迎えれた事。

 様々な思いを噛み締めつつ、自分の肩に頭を乗せて眠るマトイを見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「終の女神シバの消滅を確認……やった……やりましたよ!みなさん、本当にお疲れさまでした!そして、お帰りなさい、守護輝士(ガーディアン)!」

 

 その日、オラクル船団内は戦勝ムード一色となった。

 アークス・ロビー内では、各アークスたちが、各々でこの空気を満喫していた。

 勝利の喜びを高らかに叫ぶ者。

 自慢のダンスやポーズを披露している者。

「俺の衣装倉庫が火を噴くぜー」と叫びながら早着替えを披露している者。

 仲間内と祝杯を挙げるべく、フランカーズ・カフェへ談笑しながら移動する者。

 アークス・ロビーはカオスな状態であった……

 

 

 

 戦勝ムードのアークスシップ内で、ミケとマトイの姿は、艦橋にあった。

 シエラから、今後の事についての説明に、耳を傾けていた。

 

「ミケさん、マトイさんほんとーにお疲れさまでした」

 

 【原初の闇】が、完全消滅したことにより、新たなダーカーの発生がなくなった。そのため、現存するダーカーを殲滅すれば、ダーカーの脅威が去るであろう事。

 ダーカーの残党討伐には、守護輝士(ガーディアン)以外のアークスが行う事。また、地球のダーカーについてはアースガイドとの共闘、オメガ世界についてはハリエットを交えて神聖エピクエント魔道国と共闘し、討伐に当たる事。

 

「それで、守護輝士(ガーディアン)であるミケさんマトイさんですが、新たな調査任務の依頼が近々行われます」

 

 オラクル船団の目的は、ダーカーの殲滅が主目的であるが、それとは別に、外宇宙への進出のための調査などもある。

 ダーカーについては、ある程度の目途がたったため、もう一方の目的である外宇宙への進出へ力を入れるのであろうことは、容易に想像できた。

 ミケがアークスになった切っ掛けは、様々な世界を見に行きたいそしてその世界を冒険したい、と考え期待を胸に志願したのだが、紆余曲折の末、気が付いたら守護輝士(ガーディアン)になっていた。という経緯がある。

 そのため、シエラの説明を聞きながら、当初のきっかけを思い出し、赤い瞳をキラキラさせながら、話に聞き入っていた。

 

「カスラさんによれば、以前接触のあった一時接触世界(コラボワールド)の内の一つが近いうちに接続が安定し調査可能になるそうです」

 

一時接触世界(コラボワールド)

 オラクル船団は、今まで様々な世界と一時的な接触を行ってきていた。接触当時は、接触世界との接続が不安定であり人員を派遣することが困難であったため、表層情報の入手のみに留めていた。その時に、その世界の髪型や装飾品、衣装等のファッションの取り込みや、技術をまねて武器への反映などを行ってきた。

 これらの世界をオラクル船団では、一時接触世界(コラボワールド)と呼んでいる。

 尚、この時に何名かのアークスが行方不明となっているが、因果関係は不明である。

 

「今話せる範囲はここまでです。この後、祝賀会の用意がございます。お二人とも、楽しんできてください!」

 

 

 

 祝賀会の後、ミケとマトイはショップエリアのベンチに腰掛け、祝賀会の余韻に浸っていた。

 

「わたしね、またこうしてミケのそばにいられて、本当幸せなんだ」

 

 ミケはマトイの手を取り、マトイを見つめた。

 

「マトイには、ちゃんと言葉で伝えてなかったね。私もマトイと一緒にいられるのが嬉しいよ!」

 

 それぞれの瞳に相手を映し、改めてそれぞれの思いを伝え合った。

 マトイは、恥ずかしくなったのか、ミケから手を離すと、話題を変えるべく話しかけた。

 

「んーと、えーっと、それでね、シエラちゃんの説明を受けてた時、ミケの瞳がものすごく輝いていたけど、何か良い事あった?」

 

「マトイには話してなかったっけ?私は元々まだ見ぬ世界に冒険を求めてアークスになったんだよ。だから念願の冒険ができるなぁって思うと、わくわくしちゃって」

 

「そっか。その時はわたしも一緒だよ?」

 

「もちろん!いっしょに冒険しよ!」

 

「うん!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 【原初の闇】消滅から幾ばくかの月日が流れたある日、私とマトイは艦橋に集まった。

 シエラより、調査任務についての詳細が決まったとの連絡を受けたためだ。

 

 シエラの説明によると、この世界の名前は現地の一番大きな都市の名前を取って「オラリオ」と名付けられたらしい。

 この世界では、上位存在である神々が下位存在である人と共に、生活を行っているそうだ。

 神ではなく神々である。沢山の神がこの世界にいるのだろう。

 その神々は神格はあるので、【幻創造神(デウス・エスカ)】のような存在とはまた違うらしい。

 但し、その神の力は使用せず、下位存在である人と同じ力の範囲内で生活を行っているという。

 なんとも不思議なことだ。まぁ神の力を振りかざしていたら、下位存在たる人々は、たまったものではないだろうが。

 現在は、情報部にてベース基地の建設準備を行っているそうだ。

 私たちの任務は、ベース基地の建設予定地の周辺調査と安全確保である。とりあえずは、ベース基地ができてから、本格的な調査になるのかな?と考えていると情報部からの緊急回線が繋がった。

 

「こちらオラリオ一次先遣隊、巨大な敵性生物(エネミー)及び無数の小型敵性生物(エネミー)の反応を検知致しました。現状戦力では対応できないと判断し、応援を要請します!」

 

 その通信を聞き、マトイに目配せする。

 マトイは、瞬時に頷いた。

 

「シエラ!マトイと現地にいくね?」

 

 シエラは私の言葉に頷くと、出発準備に取り掛かる。

 

「了解です!キャンプシップの準備を行いますので、ミケさんマトイさんはロビーへ向かって下さい」

 

 私とマトイは、シエラの言葉に了解と答えつつ、艦橋からアークス・ロビーへ向かう。

 道すがら、マトイは苦笑しつつ、なんだか慌ただしくなっちゃったね?と言い、私もいつもの事だよね。と答えつつ先を急いだ。

 

 ロビーに到着後、キャンプシップの管制を行っているアンネリーゼの元へ向かう。

 

守護輝士(ガーディアン)、キャンプシップの準備はできておりますので、搭乗ゲートへ向かってください」

 

「了解!ありがとうねアンネリーゼ」

 

 アンネリーゼに手早く挨拶を行い、搭乗ゲートへ急ぐ。

 キャンプシップへマトイと共に乗り込むと、パイロットへ搭乗完了の連絡を行う。

 パイロットからの発進シーケンスを聞きながら、装備のチェックを行いつつマトイへ確認を行う。

 

「マトイ、準備は大丈夫?」

 

「うん、こっちは大丈夫」

 

 マトイからの返事と同時にキャンプシップが発進した。

 

 

 

 

 

 私は、狩猟の女神アルテミス。

 以前封印したアンタレス復活の兆しを感じ、【アルテミス・ファミリア】の主力メンバーと共に封印した遺跡へ向かった。

 遺跡に到着すると封印はすでに解かれており、多数のアンタレスの眷属に襲われた。

 眷属自体はそこまで強くはなかったが、数が多く苦戦を強いられた。

 私は現状を見極め、一時撤退して応援を呼ぼうと考えていたが、アンタレスは自身を封印した私を仕留めたかったらしい。後方より忍び寄り私に襲い掛かってきた。

 気が付いた時には【ファミリア】達と引き離されていた。

 私はアンタレスを再度封印すべく立ち向かったが、アンタレスは以前封印した時より強化され更に強固な外殻により、私の攻撃を受け付けなかった。

 私は徐々に傷を受け、倒されるのも時間の問題となっていた。【ファミリア】達も私の危機に気付き加勢に来ようとしていたが、眷属達により道を阻まれていた。

 ここで私が死ねば、【ファミリア】達に与えた『神の恩恵(ファルナ)』が消えてしまう。そうなると戦える力を失い、あの子たちも死んでしまう。

 それは何としても避けたかった。だが現状がそれを許さない。

 最悪は『神の力(アルカナム)』を使用して一掃することも考えたが、私の力では今戦っている【ファミリア】達を含め吹き飛ばしてしまう。

 そう考えている内に、一人また一人と【ファミリア】達が眷属達に圧し潰されていた。

 

「ここまでか……」

 

 私は、どうにもならない現状と、【ファミリア】達が倒されて行くのに耐え切れず、せめて自分の手でと『神の力(アルカナム)』を開放しようとした。

 

 その時上空から

 

「やっちゃうよーーーーーーーーー」

 

 との掛け声と共に、一条の巨大な光の矢が飛んできた。

 いや、矢では無い──少女だった。

 その少女が、アンタレスへ向かって突撃を仕掛けている。

 無謀だと思いつつ、その突撃した少女の姿を確認しようと目を向けると、信じられないことが起こっていた。

 なんと私の攻撃をも弾いた強固な外殻が、まるで飴細工のように粉々に砕け、更にアンタレスの魔石と思わしき結晶をも粉々に砕いていた。魔石が砕けたことにより、一撃でアンタレスの姿が霞のように消えていった。それに伴い、無数にいた眷属達も同じく霞のように消えていった。

 

「まさか、あのアンタレスが一撃で……」

 

 私は改めて、矢のように飛んできた少女を確認する。

 その姿は小柄だな。神友たるヘスティアと同じくらいの身長、赤い瞳、そして印象的なのが、青髪ではあるが髪の先端へ向かうに伴い紫へ変化している髪をした、エルフの少女であった。

 

「大丈夫ですか?」

 

 エルフの少女から、安否を確認する言葉が紡がれた。

 私は大丈夫だと答えつつ、私の【ファミリア】達の安否を確認する。

 眷属に圧し潰され致命傷を受けていたが、まだ命の灯は消えていない。

 急いで万能薬(エリクサー)を与えようと、持ち物を探り取り出そうとしたが、容器が壊れていた。私がその事実に固まっていると、倒れている【ファミリア】達の所から、別の者の声が聞こえてきた。

 

「ミケ、怪我している人たちの治療は済んだよ。テクニックでの治療だから、応急手当にしかならないけど……」

 

「あぁ、そっか。とりあえずお疲れ様、マトイ!」

 

 その言葉を聞き、私は安堵の息を吐いた。あのまま放置していたら、【ファミリア】達の命の灯は消えていただろう。

 治療した者へ礼を述べようと、マトイと呼ばれた者へ視線を向ける。

 その姿は、まさに白と形容しても可笑しくないいでたちであった。髪は白、白を基調とした衣装、そして、その瞳だけ赤色をした、ヒューマンの少女であった。

 エルフの少女と同じ瞳の色だなと、なんとなく考えているとマトイが私へ近づいてきた。

 

「怪我の治療をするよ。応急手当にしかならないけど、幾分かましになるはず……」

 

 そう言うと私へ手をかざしてきた。手を中心に空間が淡い光を帯び、その光が私を包み込んだ。その瞬間、体中で悲鳴を上げていた痛みが幾分か和らいできた。

 

「今の段階で出来る治療は、ここまでかな。」

 

 そう言うとマトイは、私から離れた。

 見たことのない治療魔法だなと思いつつ、礼を述べる。

 

「助けて貰ったこと感謝する。私は【アルテミス・ファミリア】の主神アルテミス。お礼をしたいのだが、あなた方は何処の【ファミリア】か?」

 

 そう言うと、二人は目を大きく見開いて驚きの表情をし、お互いの顔を見合わせていた。

 

「まさか、いきなり神に遭遇するなんて。えーっと私はミケ、こっちはマトイです。私たちはファミリア?ってのではないです。応援要請を受けて急行した所、貴方達が襲われていたので助けた次第です」

 

 なんと!『神の恩恵(ファルナ)』も無しに、あのアンタレスを一撃で仕留めたというのか?驚愕を顔に浮かべていると、ミケが更に声を掛けて来た。

 

「とりあえず応急手当は行いましたが、ちゃんとした治療が必要になります。私たちの仮拠点へ行きませんか?そこなら皆様の治療も出来ます。」

 

 願ってもない提案であったので即座に頷いた。

 アンタレスが倒された事、【ファミリア】達の安全が確保された事で緊張の糸が切れたのだろう、私はそのまま意識を失った。




アルテミスについては、映画をみただけなので性格などはよくわかっておらずオリキャラ見たいな感じになっております。


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一話

 第一次先遣隊と合流したミケ達は、気絶しているアルテミスとその仲間たちを仮拠点へ運んだ。

 仮拠点は、遺跡があった場所からさほど離れていない場所に設営されていた。指揮用、居住用、医療用、物資運搬用のトレーラーが複数台鎮座しており、上空にはこれらを運搬してきた大型のキャンプシップが待機している。

 ミケ達は、第一次先遣隊の指揮官に会うべく、指揮用トレーラーに向かった。

 指揮用トレーラーには、戦術ディスプレイの前で指揮官と思わしき壮年の男性が、オペレーターたちへ指示を出しており、数名のオペレーターがコンソールの前に腰掛け、忙しく仕事をしていた。

 ミケ達に気が付くと、壮年の男性が挨拶をしてくる。

 

守護輝士(ガーディアン)自ら出向いて頂けて助かります。第一次先遣隊の指揮を執っているジョージと言います」

 

 そう言って、握手を求めてきた。

 ミケは、その手を握り返し挨拶をする。

 

「暫くお世話になるよ。それで、こっちに被害は出てない?」

 

「お陰様で、仮拠点には被害は出ませんでした。守護輝士(ガーディアン)のお二方が大型敵性生物(エネミー)を討伐した後、こちらに群がっていた小型敵性生物(エネミー)が消滅しましたので」

 

「よかったぁ」

 

 被害が出ていないことに、ミケは安堵の息を吐いた。

 

「我々がこの地に到着した時は、あのような敵性生物(エネミー)は皆無でした。また、先行偵察隊の報告でも、あのような敵性生物(エネミー)がいることは報告されておりませんでした」

 

 ジョージは、訳が分からないというように手を挙げ首を左右に振った。

 

「もしかしたら、救助した人たちが何か知っているかもね?」

 

「救助した者たちは何者でしょうか?」

 

「一人……一柱?とは、接触時に会話できてるよ。どうもこの世界の神の一柱みたい。名前はアルテミスだったかな?」

 

 ジョージは、興味深そうにミケの話を聞いていたが、何か思い当たる節があるような顔をした。

 

「ほほぅ、アルテミスですか……以前調査した地球で同じ名前を見かけましたな。確か狩猟・貞操の神だったかと」

 

「へー、もしかしたら、地球の並行世界の一つなのかもね」

 

「かもしれませんが、それはもう少し調査を進めないことには……」

 

「そうだね、現時点での調査資料ってなにかある?」

 

「いえ、第一次先遣隊である我々はベース基地の建設を主目的にしていますので、調査は限定的にしか行っておりません。救助した者達から情報を得られれば良いのですが……どちらにしてもこれからとなります」

 

 ミケは少し残念そうな表情をしつつも、まぁこれからだと気持ちを切り替え、依頼されている任務へ就くことにした。

 

「了解。それじゃ私たちは、周辺の安全確保のための見回りに行くね。救助した人たちを宜しく」

 

「了解致しました」

 

 ミケ達は、指揮用トレーラーから出ると、見回りへ向かった。

 

 

 

 

 

 アンタレスに取り込まれた私は、私の【ファミリア】達が成す術もなく、アンタレスに倒されているのを見ているだけしか出来なかった。

 【ファミリア】達が倒された後、アンタレスは私の『神の力(アルカナム)』を引き出して『アルテミスの矢』を放とうとしていた。

 私は何もすることができず、『神の力(アルカナム)』を引き出されるに任せていた。

 永遠ともいえる時間をどうすることも出来ない自分に自己嫌悪しながら過ごしていると、突然目の前が明るくなった。

 私の目の前に白兎に似た少年が、目に涙をためながら黒いナイフを手に向かって来た。

 あぁ、この少年が私を終わらせて(救って)くれるのかと、直感的に思い感謝を込めて少年を見つめていると、急に周りが眩しくなり何も見えなくなった……

 

 私は、そこで目を覚ました。

 夢?でも妙に現実味がある夢だったな……そう思いながら体を起こした。

 その瞬間、鋭い痛みが全身を駆け巡った。痛みに怯みつつ周りをみてみると、景色に違和感を感じた。私の部屋とは、随分と装いが違っていた。

 ここは何処だろう?と更に周りを見渡すと、白い服に身を包んだ女性が視界に入った。

 その女性は、私がベットから起き上がりそうになると、慌てて近づいてきた。

 

「アルテミス様でよろしかったでしょうか?お加減は如何でしょう?一通りの治療は致しましたが、今は安静にしていて下さい」

 

 その言葉に私は頷きつつ、ベットに腰掛け直しながら眠る前の事を思い出した。

 そうだった!アンタレスに倒されそうになった私は、ミケと名乗るエルフの少女に助けられたんだった。

 

「私の【ファミリア】達は無事だろうか?」

 

「ファミリア?と言うのは分かりませんが、一緒に運ばれた方々は絶対安静ですが無事です。別の場所で治療中です」

 

 その言葉を聞き、改めて安堵の息を吐いた。

 

「それでは、私はアルテミス様が起きたことを連絡しますので、失礼致します」

 

 そういって、白い服の女性は部屋から出て行った。

 私は、改めて部屋の中を確認する。

 見たことのない物が沢山あるな。どの様な用途で使うのだろうか?と思いを馳せながら部屋にある物を眺めていると、ドアがノックされた。

 

「アルテミス様?入ってもよろしいでしょうか?」

 

 壮年の男性の声がした。

 私は改めて、自身の身なりを確認した。

 私が着ていた鎧や鎧下は脱がされており、簡素な薄手のワンピースを纏っているだけの状態であった。

 流石にこの身なりで、男の前に出るのは遠慮したいなと考えていると、先ほど居た白い服の女性の声が聞こえた。

 

「アルテミス様、壁にガウンが掛けてありますので、そちらをお召しください」

 

 その言葉に従い壁を見ると、確かにガウンが掛かっていた。これなら問題ないか……と思いガウンを羽織ると、警戒しつつ入室の許可を出した。

 部屋に入ってきたのは、先ほどの白い服を着た女性と壮年の男性であった。

 男性は部屋に入室すると、無遠慮な視線を私に向けることなく、私の顔を見て挨拶を行った。

 

「初めまして、ここの責任者をしておりますジョージと申します」

 

「こんな格好ですまない。アルテミスだ」

 

 そう言って私は寝台に腰掛けた。

 ジョージは、他の男神や男の『子供達』と違い、実に礼儀正しかった。

 そのため私は、少し警戒を解いた。

 

「アルテミス様の怪我はまだ完治しておりませんので楽にして下さい。治療については、こちらの看護官が行いますので何かありましたら連絡して下さい。当方の治癒テクニックは、フォトンを持たない身体には効果が薄いため、一般医療での治療となります。不便をおかけしますが了承願います」

 

「すまない。色々言葉の意味が分からないが、助けて貰った事には感謝している」

 

 テクニック?フォトン?聞きなれない言葉に困惑していると、ジョージも申し訳なさそうに答えた。

 

「こちらこそ申し訳ございません。まずは傷を癒して頂いて、その後にお互いの情報交換を行いたいと思っております。我々はこの地より遥か遠くから来ておりまして、この辺りの世事に疎いのです」

 

 ふむ?世事に疎いというが、どれだけ遠くから来たのだろうか?全く想像が出来ない。

 嘘も付いていない様だし、情報交換の際に色々聞いてみるか……そう思いつつ了承の意を伝える。

 

「それでは、お体に障りますのでこれで失礼します」

 

 ジョージは、そう言うと部屋から出て行った。

 なんとも不可解な者たちだ。

 何処かの【ファミリア】かと頭をよぎったが、そういえば、ミケと名乗った少女は違うと答えていたな。

 とりあえず今は傷を癒すことに専念するとしよう。

 そう結論付けると私は、横になり瞼を閉じた。

 

 

 

 それから数日間、私は傷の治療に専念した。

 傷の具合は、私が一番軽いらしく【ファミリア】達は、未だに治療を行っているそうだ。意識自体は全員取り戻しているらしいが、面会謝絶とのことだ。

 万能薬(エリクサー)があればと思うが、【アルテミス・ファミリア】で所有していた万能薬(エリクサー)は、全て私が管理していた。そのため現在は、在庫がない状態である。

 万能薬(エリクサー)を手に入れるためには、一度オラリオへ行かねばならないが、現状【ファミリア】達は重症で動けない状態、私自身も怪我のため長距離の旅は無理な状態である。

 看護官に万能薬(エリクサー)を持っていないか確認をしたが、そのような物があるのですね?と逆に質問をされてしまった。

 なんとももどかしい思いをしながら、さらに数日が経過した。

 

 

 

 私の傷がある程度回復し動き回れるようになった頃、情報交換についての打診がジョージからあった。

 こちらとしても、現状を打破出来る物があるかもしれない……そう思い了承した。

 情報交換の場は、私が泊まっている部屋で行われることになった。参加者は、ジョージ、ミケそして私の3人である。マトイは別件があるため、この場には居ないそうだ。

 まずは、ということでジョージから彼らの話をすることとなった。

 

 彼らはなんと星々を旅し、異種族と交流しながらダーカーと呼ばれる存在と戦っていたらしい。そのダーカーとの戦いもひと段落ついたため、異種族との交流へ重みを徐々にシフトしているとの事。

 

 ダーカーについても説明があった。

 ダーカーは生物に浸食し狂暴化させるそうだ。そして浸食が進むと浸食された生物自体がダーカーとなり、さらに周りの生物を浸食していくそうだ。ダーカーに浸食された生物は元には戻らず、倒すしかないらしい。但し、その生物を倒すためにはフォトンと呼ばれるエネルギーを使用出来る者でないと、ダーカーを滅ぼすことが出来ないという。

 そして彼らの中で、フォトンを使いダーカーと戦っている組織を『アークス』というらしい。彼らは、その『アークス』の一員との事だ。

 この世界でダーカーのような存在がいるか?と質問されたが、私の知る限りではそのような存在を聞いたことが無いため、その旨答えた。

 

 フォトンは、ダーカーを倒す以外にも様々な用途で使用されているとの事だ。マトイが使った私の痛みを和らげた癒しの力──治療テクニックと言うらしい。その力もフォトンを使用しているとの事。治療テクニックの効果についても、フォトンを持たない生物に対しての効果が薄いことを改めて説明された。

 

 そして彼ら『アークス』は、現在この世界と交流を行うべく、拠点をこの地に建設中とのことだ。

 

 

 

 それから彼ら『アークス』の種族を教えてくれた。

 ヒューマン

 ジョージとマトイは、ヒューマンらしい。見た目からして私達の世界のヒューマンと同じという事か。

 

 ニューマン

 ミケがニューマンだそうだ。エルフではないのか。こちらのエルフとの違いが気になり聞いてみたが、力が弱くフォトン適正に秀でた種族とのことだ。後寿命は別に長くはないらしい。寿命以外は、エルフと同じようなものかと結論付けた。

 

 キャスト

 看護官がキャストらしい。見た目はヒューマンと同じなのだが、何が違うのだろうと思ってたら、全身が金属でできているそうだ。とてもそうは見えないが、なんでもフォトンの力に元の体が耐え切れず体を移し替えた人々とのことだ。今一つ理解が及ばないが、そういう種族として無理やり納得した。

 

 デューマン

 この種族は、比較的新しい種族とのことだ。種族が新しいというのが分からなかったが、見た目はヒューマンとさほど変わらないらしい。しかし瞳が特徴的で、角が生えているらしい?現在この地にはデューマンはいないそうなので、機会があれば紹介してくれるそうだ。

 

 下界にも色々な種族がいるし、世界は変わっても同じ様なものなのだな……と感慨に耽った。

 

 

 

 一通り彼らの説明を聞いた限りでは、嘘は言っていないが私の想像の範囲を超えており、なかなかに受け入れ難いものであった。

 何とも言えない表情をしていると、ジョージから傷が完治したら、彼らの船『アークス・シップ』へ招待してくれるらしい。論より証拠という事だろう。

 

 

 

 次に私達のことについて説明をした。

 まず、私達神々について話せる範囲で話をすることにした。

 神々は不変であり、長い退屈な時を天界で過ごしていたが、ある時『下界』──今いる世界に住む『子供達』──下界で暮らす住人に娯楽を見出した。

 退屈していた神々は、それを見て興味を持った。そしてそれを肌で感じるために、下界に降臨した……『神の力(アルカナム)』を地上で使用しないことをルールとして。

 

 次に【ファミリア】についてだ。

 【ファミリア】は、『子供達』の中から自分が気に入った者に、『神の恩恵(ファルナ)』を与えることによって自分の眷属、『神の眷属(ファミリア)』とした者たちのことだ。【ファミリア】は、地上にいる神々がそれぞれ持っていて、神の名前を取って【〇〇・ファミリア】と名乗る。私の場合は、【アルテミス・ファミリア】となる。

 

 それから、『神の恩恵(ファルナ)』についても簡単に説明した。

神の恩恵(ファルナ)』とは、神が与える力のことで、始めはモンスターと戦えなかった者が、低級のモンスターを倒せるようになる程度の力しかないが、その後の行動によって、様々な能力を発現させる切っ掛けを与える力である。

 

 この地にある、ダンジョンについても語らねばなるまい。

 ダンジョンは何時から有ったか……遥か昔より存在している、多階層の地下空間である。

 そしてダンジョンは、モンスターを生み出す。

 昔は、ダンジョンからモンスターが出てきて、地上にいる『子供達』を襲っていた。

 ある時、神ウラノスがダンジョンからモンスターを出さないようにするため、封印を施した。そしてその場所に、バベルの塔を建設した。それから当時からあった街が更に発展して行き、やがて迷宮都市オラリオと呼ばれる様になった。

 

 地上に残ったモンスターの殆どは、その力を弱体化させる代わりに繁殖能力を得て、地上に住み着いた。それでも、『神の恩恵(ファルナ)』を持っていない『子供達』には十分脅威ではあるが……

 それから、一部強力なモンスターもまだ健在だ。アンタレス──ミケが倒したモンスターもその内の一匹だ。

 アンタレスは、遥かな昔私が精霊の力を使い封印していたのだが、その封印が破られ、以前より強力になって出現した。

 私は、封印状態の確認及び復活した場合の討伐のため、【ファミリア】達と共に封印した場所へ向かったのだが……後は、御覧の有様だ……

 

 

 

 私が、アンタレスの話を終えると、ジョージがミケに質問をした。

 

守護輝士(ガーディアン)あなたが倒したアンタレスだが、どの位の強さか解りますか?」

 

 ミケは首を傾げつつ難しい顔をしていた。

 

「うーん。目の前で襲われている人がいて、敵性生物(エネミー)も強そうに見えたから、思いっきりやったし。正直良く解らないかな?でも硬さからして、ファルスヒューナルよりは、強いと思う……」

 

「それ程ですか!かなりの強さですね……警戒度を上げる必要があるか……」

 

 ジョージは頭を俯かせ両手で頭をガシガシ掻きながら、考え込んでしまった。

 

「あのような強力なモンスターは、数は少なく封印されていることが殆どだ。一部例外は居るが……もし活動している所を発見したら討伐隊が編成される。なのでそこまで心配することはないぞ?今回は私達の準備不足が原因だしな……」

 

 私がそう言うと、ジョージは頭を上げ、少し気が楽になったのか表情を和らげた。

 

「それよりも、先ほどミケの事を守護輝士(ガーディアン)と呼んでいたのは?」

 

「あー、『アークス』内の役職みたいなものです。大した意味は無いですよ!」

 

 ミケはそう答えたが、ジョージが訂正してきた。

 

守護輝士(ガーディアン)とは、『アークス』内にある指揮系統に束縛されず自由に行動できる者の事を言います。ミケ様とマトイ様の2人だけが就任されております。特にミケ様は、『アークス』の最高戦力であり数々の功績を成し遂げております。一部の方からは英雄の様に見られております!」

 

 なんと、ミケは『アークス』の英雄なのか……だからアンタレスをあんなに簡単に倒せたのだな。

 私はミケを尊敬の目で見つめた。ミケは右手で後頭部を掻きながら頬を染めていた。

 どうやら照れている様だ。

 

「うーん……目の前で困ってる人助けたりしてただけ、なんだけど……」

 

「簡単に言いますが、そうそう出来る事ではないですよ」

 

 ジョージはそう言いながら、尊敬の眼差しをミケに向けていた。

 

 

 

 それから私はポーションの話題を持ち出した。

【ファミリア】達を早く苦しみから解放させたいため、重要な話だ。

 ポーションは簡単に言えば、傷を治す薬の事である。効果はピンキリで最高級のポーション万能薬(エリクサー)ともなれば、四肢切断以外の怪我は瞬時になおせる事。但し高価である事などを説明した。

 同じような物があるなら【ファミリア】達に使って欲しい事も話した。

 

 2人は、興味深そうに私の話を聞いていたが、【ファミリア】達の話になると悲しそうな顔になった。

 

「我々の所にも似たような効果の物はありますが、残念ながらフォトンを活性化させて傷を癒すため、フォトンを扱えない者──こちらの方々には効果がないのです。ですがその分治療に関しては万全を期し行っております」

 

 私はその話を聞き、内心落胆した。

 だがもしそのフォトンを扱えるようになれば?と思い、私達にもフォトンが使えるようにならないか質問をした。

 

「フォトンのことですが……失礼ながら素質があるかどうか、治療の際に調べておりまして……その、残念です……」

 

 そうかと私は答え、視線を下に向け落胆していると、ミケから声が掛かった。

 

「じゃぁ、その万能薬(エリクサー)っての手に入れれば良いでしょ?」

 

「それが出来ないのです。現状この地の貨幣を我々は持っておりません。お話を聞く限りでは、貨幣で購入する様ですし……また、例え買えたとして、それが本当に目的の万能薬(エリクサー)なのかが我々には分かりません」

 

 ミケの発言に対して、ジョージがそう切り返した。

 ミケは、うーむと眉間に皺を寄せて考え込んだ。

 

「アルテミス様、お連れの方々ですが、傷のほうはだいぶ回復しておりまして、数日中に面会が可能となっております。動けるようになるにはもう少しかかりますが……」

 

 ジョージは、私を元気づけるためかそう発言した。

 

「ジョージ、気遣いありがとう。私の傷は大分治ってきているので、近いうちに一度ホームに戻ろうと思う。その時に万能薬(エリクサー)を手に入れてくる」

 

 私は気持ちを切り替え今できる最善を尽くそうと、そう発言した。

 

「それでしたら、出立の際には我々のほうで護衛を付けます」

 

 ジョージがそう提案してくれた。

 私自身戦えるとはいえ、病み上がりで更に一人での長旅になる。そのため有難い申し出であった。

 ミケはジョージの話を聞きながら、なにやら小声でつぶやいていた。

 それから私に顔を向け

 

「じゃぁ、その護衛私とマトイでやるよ!マトイも良いって」

 

 ミケはそう言い私に笑い掛けた。



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二話

 アルテミスとの会話の後、ミケは上層部への報告があるジョージと別れて、ミケとマトイの部屋がある居住用トレーラーへ向かった。

 部屋にはマトイが居て、飲み物の準備をしつつミケの帰りを待っていた。

 ミケはマトイから飲み物を受け取り、マトイに話しかけた。

 

「マトイ、早かったね」

 

「うん。工作隊の人たちが頑張ったから、施設設営が早く終わったんだよ」

 

 第一次先遣隊は、本来であれば現段階でベース基地の建設任務を終えて、地域住民との交流と情報収集という、次の任務に赴くはずであった。しかしながら、アンタレスの眷属の襲来によりベース基地設営の作業を中止し、警戒態勢を維持していた。

 数日の間、第一次先遣隊+ミケ達による警戒態勢を維持していたが、当面の安全は確保できたと判断し、漸く本来の設営任務を始めた。

 現在ベース基地には、フォトン集積用のタンク3基、転送装置1基、防御ソケット5基が設営されている。後は、防衛要員である部隊が到着すれば、ベース基地として機能するようになる。

 マトイは、念のための護衛要員として設営作業に参加していた。

 

「話し合いの方はどうだった?その様子だと、良い事合った見たいだけど?」

 

 マトイは、始終にこにこして飲み物を飲んでいるミケを見て、質問した。

 

「ん。概要しか聞いてないけど、面白そうなのがあったよ!ダンジョンってのがあるんだって!きっと見た事ないようなものがあるよ!」

 

 ミケは赤い瞳を輝かせながら、マトイにアルテミスから説明されたダンジョンの事を語った。

 ミケの説明を聞きながら、マトイは微笑んでいた。

 

「ミケそういうところ大好きだもんね。一時期アムドゥスキアの火山洞窟に籠ってたし」

 

「うん。あそこは調査初期の時は人もいっぱい居たし、珍しい物もいっぱいあったからね。籠ってた時に友達も沢山出来たし」

 

 ミケはそう言いながら、懐かしそうに目を細めた。

 ミケを見つめながらマトイはふと思った……んー?そのダンジョンって、封印されてるって言ってたから、中に入れないんじゃないかな?でもミケの楽しそうな姿を見ていると、水を差すのは悪いかと思い、その言葉を飲み込み別の話題へ話を変えた。

 

「この世界は一次接触世界(コラボワールド)だけど、ミケはこの世界の衣装とか持ってないの?」

 

 ミケは、一次接触世界(コラボワールド)が発見される度に、開発される服等をよく買い漁っていたので、マトイはどんな服があるかの興味と、話題転換のために聞いてみた。

 

「あーその時私、浄化のためコールドスリープ中だったから……あんまり詳しくは知らないんだよね」

 

 ミケ達『アークス』は、ダーカーとの戦いで体内に溜まったダーカー因子を除去するため、コールドスリープを定期的に行っていた。ミケの髪はその影響で、毛の先端から変色してしまっている。

 ミケは、自分の髪の先端を弄びながら、話を続けた。

 

「えーっと。確かワンピースだったかなぁ。但し、胸部の真ん中辺りと背中はお尻のところまでバッサリ開いていたけど。あと何故か青い紐があった。後は服じゃないけど、正しい歯磨きの仕方?とかいうのが在ったかなぁ。まぁ、私は持ってないけど」

 

 それって本当に服なのかな?とミケの説明を聞きながらマトイは、アルテミス達の服装を思いだそうとした。

 歯磨き云々についてはスルーする事にした……

 

「アルテミスさん達は、そこまで奇抜な服装ではなかったと思うけど……」

 

「まぁ、鎧着てたしね。普段着は案外ああいうのかも知れないよ?『アークス』でもすごい恰好してる人いるし」

 

 ミケとマトイは、アークス・ロビーにいた殆ど裸だよね?と突っ込みたくなるような服装をした『アークス』達を思い出していた。

 それから、お互いの服装についても考えていた。

 ミケは、マトイも十分露出度高いと思うけどなぁ……と思っていた。

 マトイは、ミケはミニスカートの時が多いから、戦闘中下着が丸見えなんだけどなぁ……と思っていた。

 話が変な方向になってしまったので、マトイは更に話題を変える事にした。

 

「そういえば、設営しているときに聞いたんだけど、近々近くの街に調査隊を派遣して、情報収集するって聞いたよ。ミケはどうする?」

 

 ミケは一瞬行きたそうな顔になったが頭を左右に振って、行きたいけど今回はいかない、と答えた。

 

「楽しみは、アルテミスさんの護衛の時まで取っておくよ!」

 

 護衛の話が出たため二人は、護衛任務についての詳細を詰めるための話し合いを行った。

 話し合いの後、ミケはマトイにこの後どうするか確認した。

 

「んー?設営も終わったし、警戒態勢も解かれたから、今日はもう休もうかなって思ってるけど?」

 

 ここ数日の警戒態勢で交互に休みを取っていたため、二人一緒に居る機会が無かった。

 ミケは数日ぶりに一緒に過ごしたいなと思い、マトイを誘った。

 

「私もこの後は予定ないし、久々に一緒にいよっか」

 

 マトイは、自分が言った「ずっと一緒」の言葉を事ある毎に守るミケに改めて感謝し、笑顔で答えた。

 

「うん!」

 

 

 

 

 

 ジョージはミケと別れた後、指揮用トレーラーへ戻り、カスラへアルテミスの話の内容について報告をしていた。

 

『神の恩恵(ファルナ)』に万能薬(エリクサー)ですか……『神の恩恵(ファルナ)』は兎も角、万能薬(エリクサー)については、是非詳細が知りたいですね」

 

 カスラは『神の恩恵(ファルナ)』があれば、『アークス』になりたいがフォトン適正のない人々も、ダーカー対応以外の『アークス』の仕事を任せる事が出来るかもしれない。そうなれば万年人手不足を解消できるのに……との考えが頭をよぎったが、流石に他世界とはいえ神の力を解析する事は難しいだろうと思い、過度な期待は控えた。

 それよりも、万能薬(エリクサー)である。まずは現物の入手、できれば材料及び製造方法の入手……それから解析してこちらでも製造できれば、怪我に苦しむ一般市民へ適用できるかもしれない。

 こちらについては現実味があるなと考え、調査の進捗状況について質問した。

 

「現地の情報収集の方は、どうですか?」

 

「はい。敵性生物(エネミー)の襲撃で遅れておりましたベース基地の設営も無事に終わり、防御部隊の要請も申請済みです。防御部隊の到着を待ち、調査隊を派遣する予定です」

 

 ジョージは、現在の状況を簡潔に答えた。

 

「分かりました。それでは、調査隊には万能薬(エリクサー)の件は、特に念入りにと伝えておいて下さい」

 

「了解致しました」

 

 報告を終え、通信を切った後ジョージは笑みを浮かべながら、カスラが万能薬(エリクサー)の件を気にしている事に、カスラさんらしいなと呟いた。

 ジョージは、カスラとは上司部下の関係ではあるが、長い付き合いだった。

 カスラは他の仲間からは、「うさんくさい」「何を考えているか解らない」などと言われているが、ジョージはカスラが情に厚く正義感の強い人物である事を知っていた。

 ルーサーが台頭していた時代、カスラは非情の選択を良く迫られていた。その苦しむ姿をみて、どうする事も出来ない自分に歯がゆい思いをしたものである。

 そのためジョージは、守護輝士(ガーディアン)のミケに対して、カスラを苦しみから救ってくれる切っ掛けを作ってくれた者として、特に尊敬をしていた。

 

「さて、仕事するか!」

 

 両手で自分の頬を叩き気合を入れなおしたジョージは、自分の仕事へと赴いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ミケ達との話し合いから更に数日たったある日、漸く【ファミリア】達と面会する事が出来た。

 皆はベットに寝ており、全身に包帯を巻かれて、細長い管のようなものが各所につけられていた。一部の者は、足を布状の帯で吊るされている者や、腕を固定されている者もいたが、皆元気であった。

 私が顔を見せると、皆ベットから起き上がろうとしたが、看護官に止められていた。

 私はひとりひとりベットの傍に近づき、皆から話を聞いた。

 皆総じて、私が無事である事を喜んでいた。また自分たちが動けない状態であるため、傍に居られない事に憤りを感じでいると語っていた。

 私は、万能薬(エリクサー)が、アンタレスとの戦いで失われた事、近いうちにホームへ戻り、万能薬(エリクサー)を入手するためオラリオへ向かう事を皆に話した。

 オラリオ行きの話をした時、自分が行きます!と手を挙げる者も居たが、流石に動ける状態ではないため、看護官から無理はいけません!と窘められていた。

 私は、私達を助けてくれた者たちと向かうので大丈夫だと伝え、皆を安心させた。

 

 

 

 短い時間ではあったが、【ファミリア】達が元気である事をこの目で確認でき、改め安堵した。

 そして早く万能薬(エリクサー)を手に入れなければ……と気合を入れなおした。

 

 

 

 私は鈍った体を解すため、看護官に外出の許可を求めた。看護官は暫く考えた後、激しい運動を行わなければ大丈夫と答えてくれた。

 

 

 

 私はここに来て初めて、外の様子を見る事が出来た。部屋は窓が無いため、外の様子を伺う事が出来なかったからだ。

 まず最初に目についたのは、エルソスの遺跡であった。木々に囲まれて全体は見えないが、遺跡の頂上部分が確認できた。意外と近くだったのだな……と思いつつ周りを見渡した。

 周りは、木々が伐採された広場になっていた。その広場の中心に、大きな筒状の物体が3つ鎮座していた。

 ここにある物は用途不明の物ばかりだな……と若干諦めの表情で更に周りを見ると、ベンチに座るミケとマトイの姿を見かけた。二人は楽しそうに談笑をしていたが、何故だろう?傍から見ると物凄く口の中が甘くなってくる……

 私は何となく居心地が悪くなり離れようとしたが、丁度ミケが私を見つけたようだ。

 

「アルテミス様?もう動き回って大丈夫なんですか?」

 

 ミケが私に話しかけた途端、先ほどの甘い雰囲気が霧散した……私はほっとしつつ、二人に近づいて行った。

 

「看護官からは許可は貰っている。体が鈍っているから少し体を動かしたくてな。ただ激しい運動は禁止されているが……」

 

 私がそう答えると、ミケはマトイのほうをちらりと見た。マトイは、ミケが言いたい事が解ったのだろう……軽く頷いた。

 

「それじゃぁ、散歩がてらこの辺りを案内しますよ」

 

 ミケはそう言うとベンチから立ち上がった。マトイも付いてくるのだろう、同じくベンチから立ち上がり、ミケの隣に並んだ。

 

「君たち二人は仲が良いのだな?」

 

 私は先ほどの事を思い出し、何となくそう質問してしまった。

 

「まぁ、任務で別々になる事が多いけど、一緒に居れる時は必ず一緒にいますね」「わたしも、ミケと一緒にいれればとても幸せかな」

 

 ミケは愛おしそうにマトイを見つめながらそう答え、マトイも幸せそうにミケを見つめ返した。

 いかん、藪蛇だったようだ。

 私は再び先ほどの甘い雰囲気を醸し出した二人を後悔と共に眺めつつ、何とかこの空気を霧散させようと、話題を変える事にした。

 

「そういえば、外に出たときに気になったのだが、あの3つの筒状の建物は何なのだろうか?」

 

 どうやら私の目論見は成功したらしい。二人は、先ほどの雰囲気を霧散させ、質問に答えてくれた。

 

「あれは、大気中のフォトンを集積して蓄えるための物です。蓄えられたフォトンはこの基地のいろんな施設で使用されています」

 

 ミケ達の話を聞くと、私が泊っている部屋の明かり、【ファミリア】達を治療するための道具等を動かすのにフォトンが使われているらしい。

 先日説明があったフォトンとは、色々な事に使えるのだな……と実感した。

 また、フォトンを使えない事を若干残念に思った。

 

 

 

 それから私は、基地の中を色々案内された。

 その最中、全身を勇ましい甲冑で覆った人物を見かけた。なかなか勇ましく頼もしい姿だなと眺めていると、ミケから声が掛けられた。

 

「あー、あの人はキャストですよ」

 

 なんと、あれが話に聞いたキャストか。

 看護官もキャストらしいが、どうもそうは見えないので想像できなかったが……という事はあれは甲冑ではなく肉体という事か。なんとも不思議なものである。だが、勇ましさと頼もしさを感じたのも事実。

 私はその勇壮なキャストを見つめながら、

 

「キャストか、看護官もそうらしいが、実感がわかなくてな……でも勇ましくそして頼もしく見えるな」

 

 そう答えた。

 私の声が聞こえたのだろう……件のキャストがこちらへ向き胸を叩き礼をすると、その場を後にした。

 

「キャストは見た目もそうですけど、実際強い人が多いですよ。頑丈だし、私よりも遥かに力が強いし」

 

 キャストが立ち去る姿を見ながら、ミケはキャストについてそう評した。

 

 一通り基地の案内が終わった後、若干の疲れを感じたため、私は部屋に戻る事にした。

 かなり体が鈍っているなと実感した。

 旅に出る前に体を鍛え直さねばと思い、看護官にその旨を伝えたが、あまりいい返事は貰えなかった。

 但し、良い事も聞いた。旅の際は、乗り物を使用するため長時間歩く必要はないらしい。馬車か馬でも用意してくれるのだろう。徒歩と比べれば、体の負担も少なく、時間も短縮できるため有難く思う。

 私は疲れた体をベットに横たえ、オラリオへの旅を思いながら、眠りについた。




次話以降で、ダンまちの世界のことを掘り下げていこうと思っております。
そのため少し投稿が遅くなるかもです。ダンまちの方はいまいちよい資料がないので原作読み直しているところです。

キャストいいよね!


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三話

ご注意
アルテミス・ファミリアについては、完全にオリ設定となります。
アルテミスにいても、オリキャラ化しております。


 私とマトイは、明日のアルテミスさんの護衛のための準備を行っていた。

 明日の目的は、【アルテミス・ファミリア】のホームを経由して、オラリオに赴き万能薬(エリクサー)を手に入れる事だ。

 先立って行われた、調査隊による近くの街での調査では、万能薬(エリクサー)は無かったらしい。低級のポーション等は在ったそうだが、やはり最高品質となるとオラリオまで行かないと無理だそうだ。

 そしてここで、私にとっての朗報があった。

 なんと万能薬(エリクサー)の材料は、あのダンジョンにあるらしい。

 これは行かねば!と一人興奮していたが、残念ながら今回はダンジョン探索はお預けだ。

 アルテミスさんの仲間達の治療が優先だからしょうがないんだけど……まぁ機会はいくらでもあるし、それに今回はダンジョンには入らないけど、ダンジョンの資料があればそれを入手してきて欲しいと頼まれている。

 アルテミスさんに確認したら、ギルドに所属すれば入手は可能らしい。

 ギルドというのは、冒険者達──ダンジョンを探索する【ファミリア】に所属する人達──や迷宮の管理をしている組織の事だそうだ。

 私達は冒険者ってわけでは無いから、門前払いだそうだ。

 そのため、ホームにいる【ファミリア】の方にお願いして入手して貰う事になった。

 但し、万能薬(エリクサー)の材料があるらしい階層の情報は、一部の【ファミリア】のみに公開されている情報らしく、【アルテミス・ファミリア】の人でも入手は出来ないそうだ。

 

 【アルテミス・ファミリア】は狩猟系の【ファミリア】というらしく、普段はホーム近くの山や森で狩りを行ったり、モンスターが出たときはそれを退治して生活しているらしい。

 ダンジョンにも行くがそれは、オラリオで物資を買う時の資金調達目的が主だそうだ。

 そのため、ギルドから見たら深い階層の情報を渡せる【ファミリア】とは見なされていないそうだ。

 【ファミリア】は、その主神の意向によって様々な活動をしているそうだ。ダンジョンの探索をメインにしているところが多いそうだが、それ以外にも商売や作農、中には国を作っている所もあるそうだ。

 

 それからオラリオについても注意を受けた。

 一見平和そうな街ではあるが、【ファミリア】間で、主神間の仲が悪い場合など、争いがよく起こるらしい。そしてそれを面白がって煽る神々たちもいるそうだ。なんとも質が悪い。そのため、冒険者や他の神々とは、必要最小限の接触に留めたほうが良いらしい。

 私からしたら、なんとも物寂しく感じてしまう……冒険中やふとした切っ掛けで出会い、仲良くなっていくのも、楽しみの一つなんだけどなぁ……

 

 そんな事をつらつらと考えつつ私は、自分の準備を終えた。

 マトイの方を見ると、早々に準備を終えたのかソファーで寛いでいた。

 

「マトイ、準備もう終わったんだ?」

 

 私がそう声をかけると、マトイは若干呆れた顔で私に言った。

 

「ミケが遅いだけだよ?準備の間、時々手を止めて百面相してたしね」

 

 マトイはそう言い、ふふふと笑いながら、百面相を眺めているのも楽しかったよと付け加えた。

 私はなんともばつが悪くなり、話題を変える事にした。

 

「明日は朝一の出発で良かったよね?」

 

 私がそう言うと、マトイは端末を操作してスケジュールを確認した。

 

「うん。朝一で輸送機でホームがある街の近くまで行って、徒歩でホーム入り……それからまた輸送機でオラリオ近くまで行って……徒歩でオラリオ入りかな。一応、最大で3泊予定かな?」

 

「そうだね。直接輸送機を乗り付けれれば、1日もあれば帰ってこれるけど、流石にね……」

 

 輸送機を初めて見たアルテミスさんの反応を思い出し、私はそう言った。

 

「仕方がないよ?この世界は、ああいう乗り物を作れる程の技術レベルじゃないし……」

 

 ホント驚いてたもんなぁ……普段は凛々しい感じだったアルテミスさんが、目を点にして壊れたブリキのおもちゃみたいになってたし……

 その後、何故か居たラッピーを抱きしめて暫くぶつぶつ呟いていたのは、記憶に新しい。

 

「というかあのラッピー何処に紛れてたの?」

 

 そう、なぜかラッピーがいた。

 ラッピーは、時空を超えてやってくる不思議な生き物?だ。

 

「基地の資材に紛れていたらしいよ?」

 

 マトイは、工作隊の人がそう言ってたのを聞いたそうだ。

 

「まぁあのラッピーのお陰で、いつものアルテミスさんに戻ったから良いけど……あの後、お持ち帰りしちゃったけど……まぁ無害だし良いのかな?」

 

 私は、アルテミスさんの心の平穏のためにそっとする事にした。

 でも、今度『アークス・シップ』に招待するんだよね?大丈夫かな?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌朝、私達は雲の上にいた。

 最初はおっかなびっくりだったアルテミスさんも、機内が揺れない事や、静かな事に安堵したのか、落ち着いて肩の上に乗ったラッピーをあやしていた。

 ってか、昨日は抱えるくらいの大きさだったのに、今日は肩に乗る程度の大きさまで縮んでるし……相変わらず良く解らない生き物?だ。

 私はラッピーを無視し、アルテミスさんに話しかけた。

 

「アルテミス様、ご気分は大丈夫でしょうか?この手の乗り物は、気分が悪くなる人もいますので」

 

 アルテミスさんは、大丈夫だと答えた。

 顔色を見る限りでも問題なさそうなので安心した。

 なんでも、ワイバーンというモンスターの背に乗り、空の旅を行った事があるそうだ。それに比べれば快適だよ、と言っていた。

 生き物の上に乗って移動するという経験が私には無いので、そうなったら今度はこちらがおっかなびっくりになりそうと思った。

 そんな事を考えている内に輸送機は、最初の目的地である【アルテミス・ファミリア】があるセリニへ到着した。

 

 

 

 セリニは、山と森に囲まれた小さな街であった。

 狩猟と畜産で生計を立てているそうだ。足りないものなどは、近くの村や行商から仕入れているらしい。

 私がアルテミスさんから話を聞きながら街の様子をみていると、アルテミスさんを呼ぶ声が聞こえてきた。

 

「アルテミス様!お帰りなさいませ。ご無事で何よりです。それで、団長たちは?」

 

 両手に大荷物を抱えていた少女が、荷物を下ろしアルテミスに挨拶をした後、周りを見渡して不思議そうに、いつもならお傍を離れる事は無いのに、と呟いていた。

 

 私はその少女、特に頭にある二つの大きな耳に釘付けになった。

 うさ耳である!

 まごうことなき、うさ耳である!

 しかも時折、ピクピク動いている!

 ねこ耳の動くアクセはもっているが、うさ耳の動くものは、持っていない!

 というか存在しない!

 動くうさ耳いいなぁ……欲しいなぁ……と思い、見つめているとマトイに脇をつつかれ、そんなに見てると失礼だよと窘められた。

 

 私は、はっとして改めて少女を観察した。

 うさ耳を視界の端においやりながら……調査隊から聞いていた、獣人族だろう。

 狼や猫など、様々な動物の特徴を持った人達らしい。

 それぞれの動物で種族が違うらしく、この少女の場合だと、兎人(ヒュームバニー)というらしい。

 

 そんな私達に気付かず二人は会話を続けていた。

 

「ルーナ、今戻った。その事だが色々あってな、詳しい話はホームで行う。それと、ここにいる二人は私の客人だ」

 

 アルテミスさんが私達の事を伝えると、ルーナは私達の方へ向き挨拶をしてきた。

 

「初めまして、ルーナと言います。よろしくお願いします」

 

「ミケだよ。よろしくー」「マトイだよ。よろしくね」

 

 私たちは挨拶を交わすと、アルテミスさんがルーナに他の子達は皆ホームにいるか確認をし、全員いる事を確認すると、急いで戻るぞと言い足早に歩いて行った。

 私達とルーナは、慌ててアルテミスさんの後を追った。

 

 

 

 【アルテミス・ファミリア】のホームは、太い木の柵で覆われたログハウス調の建物が数棟ある場所であった。

 その内、一番大きな建物に案内された。

 そこに皆がいるらしい。

 

 建物の中に案内され、【アルテミス・ファミリア】の他の団員達と合流した。

 挨拶もそこそこに、アルテミスさんから、エルソスの遺跡での出来事が語られた。

 皆、真剣に話に聞き入り、団員たちが次々と倒れていく様が語られた時は、皆自分がもっと強ければ一緒に戦えたのにと悔しがり、アルテミスさんが倒されそうになった時を語られた時などは、悲鳴すら上がった。そして私達の事を語った時は、涙を流しながら皆を救ってくれてありがとうと、手を力強く握りしめられ感謝された。

 改まって感謝されるのは、やはり照れ臭いものである。

 

「それで私は、万能薬(エリクサー)の買い付けのため、これからオラリオに向かう。ルーナ、君も一緒に来て欲しい。他の者は、ホームの警備を厳にしておくように!我々の現状を何処からか入手し、襲い掛かってくる輩がいるかもしれんからな」

 

 アルテミスさんがそう激を飛ばすと、ルーナ以外の人達が一斉に建物から出て行った。

 そしてルーナは、アルテミスさんのそばに近づくと、私は何を致しましょうと尋ねた。

 

「ルーナには、万能薬(エリクサー)の買い付けとダンジョンの階層情報の……現状我々が入手できるところまでで良い……入手をやってもらう。ギルド員に言えば用意してくれるはずだ。それと忘れずにギルドの許可証を準備しておいてくれ」

 

 ルーナは更に、アルテミスさんはどうするのか尋ねた。

 

「私はオラリオに着いたら、ウラノスに呼ばれるだろう。なのでルーナとは共に行けぬ。ミケとマトイも当事者だから一緒に連れて行くつもりだ」

 

 アルテミスさんは今回のアンタレスの復活に際し、もしもの時はオラリオにいる他の【ファミリア】に協力を要請できるよう、ギルド……正確にはウラノスという神へ一報していたらしい。

 そのため、報告を求められるだろうとの事だそうだ。

 ルーナは了承し、お金と許可証を準備してまいります、といい建物を出て行こうとした所をアルテミスさんに止められた。

 

「ルーナ、旅の支度だが、最大でも3日分あればいいぞ」

 

 その言葉に、ルーナは首を傾げた。

 セリニからオラリオまでは、徒歩で早くて10日、天候によってはそれ以上掛かるそうだ。

 そのため、想定よりはるかに少ない準備で良いと言われ、不思議そうにしていた。

 

「ミケとマトイの方でオラリオまで早く行く手段を準備して貰ったのだ。そのため私は予定より早くセリニへ戻って来られた」

 

 ルーナは、そのような早い手段があるのですねとひとりごち、アルテミスさんにその様に致しますと答えた後、今度こそ建物を出て行った。

 

「アルテミス様、ルーナさんに輸送機の事、事前に話したほうが良いのでは?」

 

 私がアルテミスさんにそう言うと、アルテミスさんは、耳のあたりを撫でながら答えた。

 

「ルーナは、ああ見えて私より肝が据わっている。きっと大丈夫だ」

 

 私は何気なくアルテミスさんが撫でている耳を見てみると、ラッピーが居た。肩乗りサイズから、イアリングになっていた。

 不思議な生き物?を通り越して、物になっていた。

 私はオラクルに戻ったらエンペラッピーに、この何とも言えない思いをぶつけようと考えたが、逆に抱きしめられて慰められている自分を幻視して、更にやるせない気持ちになった……




オラリオのところまで書くと長くなりそうでしたので一旦切ります。

ラッピーはラッピーだろラッピー。


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四話

オラリオ入り~ギルド到達まで


 私達は予定よりだいぶ遅れたが、オラリオの外壁を望む場所までやってきた。

 時刻は太陽が外壁に沈み暗闇が迫り始める頃、そのためオラリオへ入るための門はまだ開いてはいるが、今並んでいる人達を受け入れたら、明日の日の出まで門を閉ざすらしい。

 門から少し離れた場所には、明日のオラリオ入りを控えテントを張り休むもの、馬車の中に身を潜め休むもの、はたまたオラリオまでやってきて入れなかった者達に対して、商売を始めるものなど様々な人たちが、思い思いに過ごしていた。

 その間を武装した複数の集団が、睨みを利かせるようにして佇んでいた。

 

「あの人達は?」

 

 私は武装した集団を眺めながら、アルテミスさんへ訪ねた。

 

「あの子達は、【ガネーシャ・ファミリア】の者だな。大方この辺りで悪さをしている者がいないか、見回りをしているのだろう」

 

 私はアルテミスさんが説明した、冒険者間のいざこざを思い出し尋ねた。

 

「ここにも、冒険者達の争いがあるってことですか?」

 

 アルテミスさんは、そういえばいろいろ話を漏らしているな……とひとりごち説明をしてくれた。

 

 基本的に、『神の恩恵(ファルナ)』を受けている者や神は、オラリオへの出入りは厳しくチェックされるらしい。

 オラリオ外の勢力への戦力流出を防ぐためだそうだ。

 『神の恩恵(ファルナ)』は良質な『経験値(エクセリア)』を得ることにより強化されていくそうで、それを得るにはダンジョンが一番効率が良いそうだ。

 そのためオラリオ内の【ファミリア】は、外の【ファミリア】とは比べ物にならない程戦力差が大きいらしい。

 オラリオ内の第一級冒険者ともなると、一騎当千の活躍をするそうだ。

 オラリオはその強大な戦力となる冒険者達により、他勢力の影響を受けることなく、都市国家のように独自の運営を行えているらしい。

 国の利害とかは私は良く解らないので、そうなんだ位の感想しか出なかったが、そこでふと気が付いた。

 

「ということは、アルテミス様やルーナは、オラリオに入れないのでは?」

 

 私がそう言うと、アルテミスさんは一枚の書状を手に取り、それでこのギルドの許可証があるのだよと説明を続けた。

 

 【アルテミス・ファミリア】は、アルテミスさんがアンタレスを封印した関係で、大昔に流出した強力なモンスターの封印監視や、早期発見任務をギルドから請け負っているらしい。

 それなりの戦力がないと遂行できないため、オラリオのダンジョンを使用できるようギルドが許可を出しているそうだ。

 色々と制約はあるそうだが、他のオラリオ外の【ファミリア】と比べ戦力的に勝っていると自負しているらしい。

 

 

 

 その様な話をしていると、周りはすっかり暗くなっていた。

 外壁を照らす明かりや、外壁の上の方から漏れてくオラリオ内の明かりを眺めていると、ルーナがやってきて夕食の支度ができたことを告げた。

 私たちは火を囲むようにして座り、ルーナから食事を受け取り食事を始めようとすると、ルーナから本日何度目になるか分からない謝罪の言葉が紡がれた。

 

「アルテミス様、ミケ、マトイ、私のせいで本日中にオラリオに入れなくなり、申し訳ありません」

 

 ルーナはそう言いつつ頭を下げた。

 頭の上にある二つのうさ耳も、根元から折れて萎れている。

 私達も何度目になるか分からない、慰めの言葉をルーナにかけた。

 

「大丈夫だよ。気にしないで。むしろ、オラリオの夜を外で過ごせるという、貴重な経験ができたから私は嬉しいかな?」

 

「そうだよ。ルーナちゃん。だれも気にしてないよ」

 

「そうだぞルーナ。あの子達も、誰もルーナを責めたりはしない」

 

 何となく、私が一番惨いことを言っている気がしないでもないが、本心だしなぁ……

 

 一応の予定としては、今日中にオラリオに入り買い物や報告をしてオラリオで1泊、翌日ベース基地へ直接戻り、療養中の人たちへ万能薬(エリクサー)を配る予定となっていた。

 その間に、トラブルなどがあった場合を想定して、2日ほど余裕をみていたが……それでなぜ遅れたかというと、【アルテミス・ファミリア】からの出発の際、まぁ色々あった……ルーナの名誉の為に黙すけど……その間、お互いの事を呼び捨てで呼び合うようになった。

 マトイはちゃん付けだけど。

 ルーナを慰めつつ、ふとルーナの頭を見るとやつ(ラッピー頭乗りサイズ)がいた。

 私は確かめる様にアルテミスさんの耳を見たが、イアリングはそのままだった。

 ということは新しいやつか……やつ(ラッピー頭乗りサイズ)は、歌うように鳴きながらルーナの頭の上で踊りだした。

 そうする内に、ルーナも落ち着いてきたのか、うさ耳が立ちだした。

 癒し効果があるのは認めるが、なぜこうもピンポイントで来るのだろう?と不思議に思ったが、気にしてもエンペラッピーに慰められる未来しか見えないので、気にしないことにした。

 そうして食事を終えた後、マトイと交代で見張りを行う旨を告げ、アルテミスさんとルーナは休ませることにした。

 ルーナは、自分も見張りを行うと言っていたが、私達は元々アルテミスさんの護衛としているため、そこは遠慮しなくていいよとルーナに伝え休ませた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 朝霧が立ち込める早朝、私は朝霧の中にうっすらと浮かぶ外壁を眺めていた。

 昨夜は【ガネーシャ・ファミリア】の見回りのお陰か、特に問題もなく過ごすことができた。

 私はいよいよオラリオに入れるという思いから、興奮のためかよく眠れず、早々にマトイと見張りを交代した。

『アークス』として過ごしてきて、それなりに経っており数日寝なくても問題ないため、そこはマトイも素直に了承し眠りについた。

 そうしている内に、背中が温かくなってきた。

 どうやら日が昇り始めたらしい。

 そろそろ開門かな?と思い皆を起こすことにした。

 

 

 

 朝食を終え準備を終えた頃には、門へ並ぶ列が大分長くなってきていた。

 私たちは急いで列に並ぶことにした。

 そして列の流れに沿って進む内に、漸く順番が回ってきた。

 受付に着くと、アルテミスさんを見た受付の人が席から立ってお辞儀をした。

 

「アルテミス様。ウラノス様より、ギルドへお越しいただくよう承っております。それから、お連れの方々は【ファミリア】の方でよろしいでしょうか?」

 

 アルテミスさんは、無言でうなずくと書状を受け付けの人に見せた。

 受付の人は書状を確認すると、確認致しましたのでお通り下さい……といって再度お辞儀をした。

 私達は、そのまま門を潜りオラリオへ足を踏み入れた。

 私は未知への突入だと、高鳴る胸を押さえることなく、わくわくしながらオラリオ入りを果たした。

 

 

 

 ミケは、始終興奮しっぱなしだった。

 オメガ世界で体験した街並みとは異なるオラリオの街並みを目を輝かせながら、きょろきょろと見渡し、時折ルーナに質問しながら大通りを中心部へ向けて歩いていた。

 その様子をマトイとアルテミスは、微笑ましいものを見るような眼差しで見ていた。

 ルーナはミケの興奮した状態に引きながらも、質問に対しては律儀に答えていた。

 そうして、一同はひと際開けたけた広場へ足を踏み入れた。

 そして目の前には、巨大な塔がそびえたっていた。

 それを見たミケは更に興奮し、ルーナに詰め寄り説明を求めていた。

 ルーナは涙目になりながらミケに説明をした。

 

 ダンジョンに蓋をするように立てられた塔「バベル」、地上部と地階にはギルドの施設とダンジョンの入り口があり、上の階には【へファイトス・ファミリア】──武器や防具を作成している鍛冶系【ファミリア】──のテナントが入っている。

 更に上層は、神々の住居があるという。

 

 ミケはその話を聞きながら、バベルを見上げて、おおぉと声を上げながら眺めていた。

 その様子を見た周りの人たちは、

 

 ……お上りさんかな?

 

 ……オラリオは初めてなのかねぇ

 

 ……冒険者志望の子かなぁ?

 

 ……あれ?アルテミスじゃん

 

 ……ロリエルフキタ!

 

 等とミケ達を見ながら話していた。

 どうやら神も居たらしい……

 

 流石に目立ちすぎたのか、アルテミスはミケを無理やり引っ張りながら広間を後にした。

 マトイとルーナは慌ててアルテミスの後を追っていった。

 広間から離れた後、アルテミスはミケに言い聞かせていた。

 あまり目立つ行動を取ると変な神の目に留まり、不愉快な思いをすることになるため、気を付けるようにと。

 流石にミケも反省したようで、皆に謝っていた。

 その後は若干気落ちしたミケを伴いながら、ギルドへ続く大通りを歩いていた。

 

 

 

 そして道半ばまで来た時、通りに男女の声が響いてきた。

 

「急ぎたまえ!ベル君!僕達の新しい未来が待っているのだよ!!」

 

「神様ぁ~。そんなに急がなくても、ギルドは逃げませんよ~~!」

 

 どうやら片方、女の声の方は神の様である。

 ミケはアルテミスに知っている神か尋ねたが、アルテミスは聞いたことある声だが誰だったか……と答え周りを見渡して声の主を探していた。

 だが、人が多いため声の主を見つけられなかったが、ギルドに向かっているようだし行けば会えるだろう。とアルテミスは答えた。

 ミケ達は歩みを早めギルドへ向かった。




次回辺りで一区切りで次々回あたりで原作に突入かなと思っております。


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五話

 私達は人通りの多い大通りを通り、ギルドの建物の前までたどり着いた。

 ギルドは、白い柱が特徴的な作りをしている。

 こういう建物、地球の資料で見たことあるなぁ……と資料に書かれていた事を思い出しながらギルドを眺めていた。

 私がギルド前で立ち止まってなかなか動かないのを見かねたのか、マトイが私の背中を押しながら早く中に入ろうと促してきた。

 私は背中を押されながら、他の人は自分の意志でギルドの中へ進んだ。

 

 

 

 ギルドの中は訪れている冒険者が少ないようで、複数ある受付は一か所しか開いていない。

 奥の執務スペースでは、近くの同僚と談笑している人達、机に突っ伏している人、大量の書類に涙目になりながら立ち向かっている人等が居た。

 私は先ほどの人達が居ないか辺りを見渡したが、見た限りでは居ないようだ。

 私達が受付の方へ向かっていると、受付の人がアルテミスさんを目に留めると、慌てたように受付から出て来てアルテミスさんの前でお辞儀をした。

 

「アルテミス様、お待ちしておりました。ウラノス様からアルテミス様が来られたらお通しするようにと承っております」

 

 そう言うと、奥にある扉を開け案内しよとしたが、アルテミスさんがそれを引き留め、私とマトイの方を向きこの二人も連れていくと伝えた。

 

「お連れの方々はその……」

 

 受付の人は言い難そうにし、なんとか思いとどまってもらおうと四苦八苦している様に見える。

 まぁ、行き成り見ず知らずの人をお偉いさんに合わせろってのは、戸惑うよね。

 押し問答をしている内に、アルテミスさんは若干煩わしそうな表情をした後に開け放たれた扉の奥を見つめ、良いだろう?ウラノス、この二人は当事者だ、と言い放った。

 そうすると、奥の方から声が聞こえてきた。

 

 ……良かろう、その者達も通せ。

 

 その声に、受付の人は慌てたように扉の奥向かってお辞儀をし、私達も扉の奥へ案内してくれた。

 

 アルテミスさんはルーナに向かって、集合場所はいつものところでと伝え、開かれた扉をへ進んでいく。

 私とマトイもアルテミスさんの後を追うように扉へ向かった。

 

 

 

 

 

 暫く長い廊下を歩いていくと、途中に下へ降りる階段が見えてきた。

 アルテミスさんは迷うことなく、その階段を下って行く。

 長い階段の終着点には巨大な扉があり、アルテミスさんはその扉を躊躇することなく開け、中に入って行った。

 私達もそれに続いて扉の奥へ向かう。

 中は所々にかがり火が灯っているが、薄暗く部屋の全容が掴めない。

 部屋の中央には祭壇の様な物があり、その頂上には背の大きな老人が椅子に腰掛けて、私達を見下ろしていた。

 

 この老人がウラノスかな?多分私の身長を倍にしても届かなそう……

 そんなことを考えていると、アルテミスさんは挨拶もそこそこに、エルソスの遺跡でのあらましと私達『アークス』の事についてウラノスへ語った。

 私達の話が出ると、ウラノスは私とマトイへ視線を向け話を聞いていた。

 マトイはその視線に若干居心地悪そうにしていたが、私は……なんで祭壇の上に座っているんだろう?……薄暗いから目が悪くならないのかな?などと考えていた。

 

 

 

 アルテミスさんが一通り話を終えた後、ウラノスは私達に話し掛けてきた。

 

「アルテミスを助けてくれたこと、礼を言おう。それで、そなたらはこの地に何をしに来た?」

 

 私は一瞬冒険に……と答えそうになったが、それは私の答えであって『アークス』の答えではない。

 難しいことは、後で詳しい人に来てもらい、伝える事を前置きして説明を行う。

 

「異種族と交流し皆と仲良くなることですね。もちろんそれ以外にも困難なことが起きたら協力するとか、技術や文化を教え合うとかありますが」

 

 ウラノスは、皆と仲良くか……と呟き暫く考え込むように沈黙し、視線に威圧を込めて私に質問してきた。

 

「もし、もしだ、敵対していたもの、そうだな……モンスターが言葉を得、敵対しない、仲良くしたい、と伝えてきたらどうする?」

 

 私は特に臆することなく答える。

 

「仲良くする意思が本心であれば、当然仲良くしますよ」

 

 私はウラノスへそう言い、以前の出来事……惑星アムドゥスキアで龍族と知り合った時のことを話した。

 龍族と『アークス』は、当初敵対関係であった。しかしそれはダーカー因子による暴走であり、本来の彼らは理性的な種族である。

 そのダーカー因子の除去──病の治療──を行い、信頼を得ることに成功し、そこから交流が生まれ、現在もダーカーとの共闘や龍族の指導者的立場にいる、ロ・カミツとも親交がある事を伝えた。

 しかしながら、それに関係なく敵対する龍族もいる事も伝える。

 その龍族の対応としては、友好的な龍族の言葉に従い倒している事も……

 

 

 

 ウラノスは、静かに私の説明を聞いていた。

 そしてしばらく考え込んだ後、言葉を発した。

 

「フェルズ、あれを渡してやれ」

 

 ウラノスがそういうと、祭壇の陰からフードを深く被った人物が一枚の紙を手に現れた。

 その人物は私に紙を差し出すと、紙の説明をしてくれた。

 

「それは、君と君と共にいる者に、オラリオの往来を自由にして良いという書状だ。門の受付へ見せればすぐに通してくれるだろう」

 

 私はその紙を受け取ると、フェルズと呼ばれた人物にお礼を言った。

 

「今日の話はここまでだ。アルテミス、ご苦労であった。ミケよ、また会おう」

 

 ウラノスはそう言い、目を瞑った。

 

 

 

 

 

 私達がギルドを後にしたのは、日が傾きかけているがまだ明るい時間であった。

 アルテミスさんと私達は、ルーナとの合流地点へ向かいながら、ウラノスとの会話の話をしていた。

 

「まさかウラノスがその書状をミケに渡すとはな」

 

 アルテミスさんは、あの書状は余程の信用と信頼がないと、まず渡されることがない物だと。

 アルテミスさんが持っているものは、アルテミスさんとアルテミスさんといる場合の【ファミリア】のみ通行可能な書状らしい。

【ファミリア】達のみで来た場合は、書状が有っても入れないらしい。

 門を通った時にアルテミスさんが、無言で頷いたのは、私とマトイがオラリオへ入る際の審査時間を省くためにしたことだそうだ。

 私が貰った書状は、私と私と一緒にいる人を無条件で通すことができる物なので、この書状を使う際は、よく考えて使うよう注意された。

 まぁ私が使うときは、私とマトイが通るときか、後はジョージを連れてきた時くらいかな?

 

 

 

 その様な話をしている内に、ルーナとの合流地点である公園へたどり着いた。

 ルーナは先に合流地点に着いていた。

 私達を見かけると手を振りながら近づいてきた。

 

「ルーナ、万能薬(エリクサー)は?」

 

 アルテミスがルーナにそう問いかけると、ルーナは荷物を軽く叩きながら満面の笑みを浮かべている。

 

「これで、団長達も元気になります!」

 

 ルーナはそう言いつつ、私に紙の束を渡してきた。

 

「それは、ダンジョンの階層情報になります。中層迄のマップ、出現モンスターとその特徴が記載されています」

 

 私はその紙の束を受け取ると、ルーナにお礼を言った。

 

「それではあの子達に、万能薬(エリクサー)を持っていこう」

 

 それから早々にオラリオを後にし、ベース基地への帰路についた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ミケ達がベース基地へ到着したのは、夜も更けてきた頃であった。

 着陸した輸送機の近くには、ジョージと看護官が出迎えに来ていた。

 アルテミスは看護官に、今から万能薬(エリクサー)を【ファミリア】達に使いたい旨を伝えた。

 看護官は嬉しそうにし、直ぐに許可を出した。

 アルテミスとルーナそれに看護官は、【ファミリア】達が休んでいる医療用トレーラーへ向かっていった。

 

 

 

 ミケとマトイは、ジョージにウラノスとの話を伝えるため3人で、指揮用トレーラーへ向かった。

 ミケは指揮用トレーラーにある会議室にて、ウラノスとの会話内容をジョージに話し、詳しい話ができる人を連れていく旨を話していることを伝えた。

 ジョージはミケが話した内容を聞き終わった後、ため息をつきつつこぼした。

 

「いやはや、ミケ様が入ると話が進むのが物凄く早いですな。我々だけでここまで漕ぎつけるのにどれだけ掛かるやら……」

 

 そういいつつも、やはり話が早く進むのは嬉しいのだろう。笑顔になり、カスラに話をするが自分が次の話し合いに出るだろうことを伝えた。

 

 

 

 話を終え、ミケ達はアルテミス達の様子を見に行こうと席を立った時、来客を知らせるベルの音が響いた。

 扉を開けると、アルテミスとその【ファミリア】達が全員来ていた。

 ミケ達は怪我をしていた人達とは、救出時以来会っていなかったため元気な姿を見て喜んでいた。

 ジョージはアルテミスとその【ファミリア】達を会議室へ招き入れ席を勧めた。

 席に着くと、アルテミスが横に座っている人物を促している。

 件の人物は立ち上がると、

 

「アルテミス様並びに、我々を助けていただき、感謝致します」

 

 そう言って頭を下げた。

 この人物が【アルテミス・ファミリア】の団長である。

 【ファミリア】を代表して、ミケ達にお礼が言いたいとここまで来ている。

 ミケとマトイは、その人物に笑顔で答えた。

 

万能薬(エリクサー)ってすごい効き目だね。元気になってよかった」

 

「元気になってよかったね。困ったときはお互い様だよ」

 

 団長は嬉しそうにミケ達に応え、出来る事があれば【ファミリア】として協力は辞さない旨宣言した。

 

 ミケは、なんだか大げさだなぁと思いつつも、仲良くしてくれればいいよと伝えた。

 

 団長はそういうわけには……と更に言い募ろうとしたが、アルテミスに止められた。

 アルテミスは、ミケはこういう子なのだと団長を説得している。

 団長も困惑しながらも、アルテミスの言葉に従い引き下がった。

 

「えーっとそれで、皆さんはこれからどうします?今日はもう遅いからここに泊るとして、ホームにも帰りたいだろうし……」

 

 ミケがそう提案すると、アルテミスが意を決した表情で答えた。

 

「それなのだが、我々は自分たちの戦力不足を痛感してな、出来ればでよいのだが……この子達を『アークス』で鍛えてもらえないだろうか?無論我々は、君たちが使うフォトンは扱えないが、実戦形式でなら我々の足りないところを鍛えられるのでは?と思ってな……この子達もさらに強くなりたいとの意志が固く、私もこの子達を後押ししたいが、今以上となると手立てがなくてな……」

 

 ミケは困ったようにジョージに顔を向けた。

 ジョージは暫く考えた後、相談してみることをアルテミス達に伝えた。

 

「今この場で返事はできません。我々は戦闘を司る部署の者ではないため、上司を経由して教導部か戦闘部に可能かどうか確認してもらいます。暫く時間が掛かるかと思われますので、一度あなた方のホームへ帰還して下さい。ホームで待っている方々も心配しているでしょうし。返事は必ず行いますので」

 

 アルテミス達はジョージの返事に一応の納得をした。

 ミケは自分も教導部に知り合いがいるので、可能か聞いてみると伝えた。

 それに模擬戦なら自分もできるので、まずはそこからでどうかと提案した。

 

 団長たちは模擬戦の話をミケがすると、全員席から立ち真剣な顔で、是非お願いしますと頭を下げてきた。

 ミケはちょっと安請け合いしすぎたかと、若干後悔しつつも了承した。

 

 




一応の一区切りです。
今後の方向性はまだ決めていないので、次回の投稿は少し先になります。


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閑話-アルテミス・ファミリア

本篇前に何話か、閑話を挟もうと思います。



 私は、セレーネ・セリニ。

 セリニの街の長を代々受け継ぐ家系に生まれました。

 そして【アルテミス・ファミリア】の団長を拝命しています。

 第2級冒険者で、得意武器を弓、二つ名は【女狩人(アタランテ)】を頂いております。

 アルテミス様との出会いは、私が15歳の誕生日の時のお祝いの席で、初めてお会いしました。

 その美しい容姿に一目……失礼、その凛とした佇まいと、自然と調和して生きていく在り方に感銘を受けました。

 次の日には、【ファミリア】の門を叩いておりました。

 その後は色々ありましたが、無事アルテミス様のお傍に常に居れる……失礼、団長の座を拝命することが出来ました。

 

 

 

 【アルテミス・ファミリア】はオラリオ外にある、未婚女性のみの【ファミリア】です。

 普通オラリオ外の【ファミリア】は、良質な【経験値(エクセリア)】を得る機会が非常に少ないため、精々第3級冒険者どまりとなることが多いです。

 ですが私達の【ファミリア】は、ギルドより特殊な任務を受けております。

 それは、アルテミス様が太古の時代に封印した魔物の監視任務です。また、こちらはついでですが、三大冒険者依頼に代表されるような凶悪なモンスターの早期発見任務も有ります。

 何を隠そう、先々代の団長達が陸の王者(ベヒーモス)を発見しギルドへ報告しております。そして、報告を受けた当時のオラリオ内最強のファミリアが陸の王者(ベヒーモス)を討伐しました。

 その様な事もあり、私達の【ファミリア】はギルドで優遇されております。優遇内容としては、オラリオ外の【ファミリア】でありながら第2級冒険者までの強化をダンジョンで行う事が可能となっております。それとダンジョンでの金策も。

 そのため、オラリオ外の【ファミリア】の中では、私達の【ファミリア】は上位に位置するものと自負しております。

 

 

 

 

 

 ある日、アルテミス様が凶悪なモンスターであるアンタレスの復活を予見し、封印した場所へ向かうとおっしゃられました。

 私は、第2級冒険者のみの主力メンバーを招集し、アルテミス様と共に封印の地……エルソスの遺跡へ赴きました。

 

 

 

 エルソスの遺跡は地獄でした。

 アンタレスは既に復活しており、無数の眷属を召喚し私達に襲い掛かってきました。

 眷属はそこまで強くないので、最初は何とかなるかも?と甘い考えを持っておりましたが、数が尋常ではありません。

 私達は徐々に孤立され、とうとうアルテミス様からも離されました。

 

 そうしている内に、アルテミス様の下に巨大なモンスターが現れました。

 あれが、アンタレスなのでしょう。

 アルテミス様に凄まじい殺気を放ちながら、アルテミス様へ向かっていきます。

 私は必死にアルテミス様の下へ向かおうとしましたが、次々に襲ってくる眷属に阻まれ、アルテミス様の下へ向かうことができません。

 無尽蔵かと思われる程の眷属を前に、私達の仲間は一人、また一人と眷属に倒されていきました。

 アルテミス様もアンタレスを前に傷を負い、不利な状況となっております。

 これはいけません。私は死を覚悟しました。

 せめてアンタレスに一太刀と思い、アンタレスへ向かおうと無謀な突撃を敢行します。

 しかしこの思いは届かず、眷属に背中と足をやられ動けなくなってしまいました。

 

 私は最後に一目……とアルテミス様の方を向いた瞬間、想像を絶する力の奔流がアンタレスへ向かっているのが見えたのを最後に、意識を失いました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私が気が付いた時、全身を包帯と添え木で固定され、動けない状態となっていました。

 私は周りを見渡すと、私の仲間達も同じような状態になっているのを見つけました。

 体を動かそうとすると、激しい痛みが襲ってきます。

 私はアルテミス様の姿を探しましたが、この場には居ない様です。

 私は焦燥感と、最悪の事態を想像し必死に体を起こそうとしました。

 

 その時、部屋の中に白い服を着た女性が入ってきました。

 その女性は、私が必死に体を動かそうとしているのを見て慌てて私に近づき、私を押さえつけます。

 

「今は安静にしてください、怪我に響きます」

 

 その女性はそう言って、私を落ち着かせようとしております。

 私はアルテミス様の無事を確認出来るまではと、体を動かしアルテミス様の安否を尋ねました。

 

「アルテミス様!アルテミス様はご無事なのですか!?」

 

 私がそう尋ねると、その女性は私を安心させるように、ゆっくりとアルテミス様の安否を伝えてくれました。

 

「アルテミス様はご無事です。今は別室で治療を行っております」

 

 私はその言葉を聞き、落ち着きを取り戻しました。

 私は今の状況が分からないため、その女性に説明を求めました。

 

 その女性の説明によると、アルテミス様と私達は女性の仲間に助けられ、怪我の治療のためこの場にいることを教えてくれました。

 それとアンタレスは、その仲間の人に倒されたそうです。アンタレスの眷属も、アンタレスが倒されたと同時に消滅したと。

 

 私は直感的に、この女性が本当の事を言っていると悟り、安堵しました。

 女性にお礼を言い、私はアルテミス様の傷の治りが早くなるよう祈りました。

 そして私も傷を早く治し、アルテミス様の下へ馳せ参じなければと考え、早々に眠ることにしました。

 

 

 

 

 

 それから、治療を受けつつ数日を過ごしている間に、仲間達が一人また一人と目を覚まし、私が行った行動を順番に行っていました。

 流石私の仲間(ライバル)

 私はその度に、目を覚ました仲間(ライバル)を落ち着かせるために説明をしていきました。

 

 

 

 そうして過ごしていたある日、アルテミス様が私達を、私達のために、私達を心配して、わたしたt(y……訪ねて来てくれました。

 私達はアルテミス様の無事な姿が見れて、改めて安堵しました。それから私達の不甲斐なさをアルテミス様に詫びました。

 アルテミス様は万能薬(エリクサー)が無くなっていることを伝え、気落ちしておりました。

 私達はアルテミス様が無事であれば、その様な事は些末な事と切り捨てました。

 アルテミス様は近いうちにオラリオへ赴き、私達のために万能薬(エリクサー)を入手してくると仰いました。

 私達は感激しました。

 もし体が動けば、私達にもみくちゃにされ少し涙目になっているアルテミス様を拝むことが出来たでしょう……少し残念です。

 

 

 

 

 

 アルテミス様が訪ねて来てくれてから更に数日が経過しました。

 アルテミス様は、現在オラリオに万能薬(エリクサー)を買いに旅立っております。アルテミス様に当分会えないのは残念ですが、こればかりは仕方がないです。

 私達はアルテミス様に会えない寂しさを紛らわすため、アルテミス様との思い出話に花を咲かせていました。

 私は団長権限を使い、アルテミス様と2人きりで旅をした事があります。その時にアルテミス様は、その天然ぷりを発揮しよく失敗をしておりました。その時の涙目になったアルテミス様を慰めた時の事を皆に自慢していると、誰かが訪ねてきました。

 

 尋ねてきたのは、暫く会えないと思っていたアルテミス様とそしてなんと、ルーナ(ファミリアのご意見番)が訪ねてきました。

 ルーナにこのような姿を見られるとは……後で何を言われるか分かりません。

 ルーナには、私達が苦手な【ファミリア】経営を任せております。その関係で団長である私もルーナには頭が上がりません。そして今回の失態です。

 私がビクビクしながらルーナの様子を見ていると、アルテミス様から万能薬(エリクサー)を持ってきたことを伝えられました。

 アルテミス様達が旅立ったのは確か昨日のはずです。とてもオラリオに行って帰れるとは思えず私も含め驚いていると、アルテミス様からここの人達──『アークス』というらしいです──に物凄く早い乗り物を用意して貰い、2日で帰ってこれたとのことです。なんとも驚きですが、現にアルテミス様は万能薬(エリクサー)を持っておられます。

 各自1本づつ万能薬(エリクサー)を配られました。

 私は半分服用し、ある程度痛みが引き動けるようになると、体に巻かれている包帯や添え木を取り外します。そして傷跡に残りのエリクサーを振りかけていきます。手が届かない所はルーナが手伝ってくれました。

 万能薬(エリクサー)を掛けると見る見るうちに傷が癒え、痛みも取れていきます。全員の傷が癒えるとルーナが私達の前に来ました。

 

「団長と皆様、今回は随分と大変な目に会いましたね。詳細はアルテミス様から伺っております……本当に無事で良かったです」

 

 ルーナは瞳に涙を浮かべつつそう言ってきた。

 私達はてっきりルーナには嫌われていると思っていた。面倒な雑務をすべて押し付けてよく呆れられていたからだ。でも、今回の件で嫌われていないことに安堵した……今後はルーナにも気を掛けようと心のメモに書き記した。

 

 アルテミス様も私達の前に来て、皆が元気になって良かったと涙ながらに仰りました。 

 私達は、改めてアルテミス様とルーナに感謝をしました。そしてアルテミス様に怪我を負わせてしまうという、自分たちの不甲斐なさを改めて詫びました。

 今回は、『アークス』の人達に助けられましたが、次も同じようなことがないとも限りません。私は自分の力が及ばないため、アルテミス様に怪我をさせたことに悔しさを滲ませていると、アルテミス様から声を掛けられました。

 

「私の可愛い子供達よ!今以上に強く成りたいか?」

 

 アルテミス様の言葉に、私達は一も二もなく頷きました。

 私達はダンジョンでこれ以上の強化は、ギルドとの契約上出来ません。他の方法があれば是非と、私達もアルテミス様にお願いをしました。

 アルテミス様は、『アークス』にお願いをしてみようと仰りました。

 『アークス』にはミケとマトイという、アルテミス様と私達を救出し更にアンタレスを倒した猛者が居るとの事。

 直接の師事は無理かもしれないが、その様な猛者がいる組織ということで私達の糧になるかもしれないと、アルテミス様は仰りました。

 私はそういう事であれば全員で赴き、お礼とお願いをしたいとアルテミス様に言いました。

 

 

 お礼とお願いをしに、『アークス』の人達がいる建物に向かうとそこには、件のミケ様とマトイ様が居ました。

 ミケ様は、小柄でとても可愛らしく思わず抱きしめて頬ずりしたくなるような容姿をした、エルフの女の子でした。とてもアンタレスのような強大なモンスターを倒せるようには見えません。しかし、アルテミス様は確かにアンタレスを倒したのは、ミケ様であると仰られておりました。

 私はまだ、相手の力量を測れるほどの修練を積んでいないため分かりませんが、きっとミケ様はお強いのでしょう。

 マトイ様は、ヒューマンの少女で癒し系のオーラが漂っていました。話をしていても心が癒されました。

 

 その後、私は【ファミリア】を代表してミケ様、マトイ様へお礼を言い、アルテミス様は私達を鍛えて欲しいとお願いをしました。

 返事は保留となりましたが、ミケ様が模擬戦をしてくれると提案をしてくれました。

 

 

 

 

 

 数日後、ホームへ帰った私達はミケ様と模擬戦を行いました。

 しかしミケ様は、ミケ様(小柄な猛者)でした。

 

 まずは、という事で1対1の模擬戦を行いました。

 私は様子見と言う事で軽く攻撃を仕掛けましたが、私の攻撃は全てカウンターとして返されてしまいます。

 攻めあぐねていると、ミケ様の方から攻撃を仕掛けてきました。私はミケ様の攻撃を見逃すまいと、五感を研ぎ澄まし構えていましたが無駄でした。気が付いたらミケ様の攻撃で打ち抜かれておりました……

 ミケ様は暫く考えた後、今度はカウンターはしないから打ち込んできて!と仰られました。

 私はそれならばと胸を借りる気持ちで思いっきり行くことにしました。私の全力の攻撃を受けたミケ様は、首を傾げながら全力で攻撃してね?と仰られました……

 そこで私の自信は粉砕されました。

 私はその場にへたり込み、今までの修練は何だったのだろう?と自問自答していました。

 その様子を見ていた他のメンバーは、私を追い抜くチャンスとばかりに、ミケ様へ模擬戦の申し込みをしていました。

 そして他の皆も漏れなく私と同じ状態となってへたり込んでいます。

 ミケ様は首を傾げながら、軽くやっただけなのになんでだろう?と首を傾げています。

 

 あれで軽くとは一体どれだけお強いのやら……私はミケ様を眺めながら黄色くて温かくモフモフとした毛並みの鳥?を撫でておりました。

 周りを見ると、私と同じように他の者も鳥を撫でております。

 その様子を見たミケ様は、なんとも言えない表情になって明後日の方向を向いてぶつぶつと呟いています。

 暫くその鳥を撫でていると、私の心の中にある闘志が再燃していくのを感じました。もしかしてこの鳥が私の砕けた心を癒してくれたのかも?そう思い撫でていた鳥に礼を言うと、歌うような声で返事をしてくれました。

 その瞬間、私の心はこの鳥への感謝で一杯となりました。これでまだミケ様へ向かっていける!

 私はミケ様に再度模擬戦を申し込もうと近づくと、ミケ様の呟きが聞こえて来ました。

 

 ……なんで私が模擬戦とかの相手をするとラッピーが湧くんだろう?今度エンペ・ラッピーを問い詰めて見ようかな?

 

 この鳥はラッピーと言う名前のようです。

 私はラッピーを再度感謝を込めてひと撫ですると、ミケ殿に再戦を申し込みに行きました。

 

 




キャラが壊れているのはご愛敬です。

2021/2/13追記
見やすさの改定及び内容について増量しております。


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閑話-ある調査隊員の詩

閑話2話目
本来書く予定だった閑話ではないですが、あほな話を思いついたので・・・


 諸君、獣耳は好きかね?私は大好きだ。

 犬耳、猫耳、きつね耳、うさ耳……どれをとっても至高の一品である。

 私が最初に獣耳に会ったのは、きつね耳を付けた女性アークスであった。

 私が受けた衝撃は、凄まじい物であった。全身を駆け巡る衝撃は、まるで絶対令(アビス)を受けたかと思うほどであった。

 私は一目で恋に落ち、女性アークス(きつね耳)に声をかけた。

 しかし残念ながら、端末操作に忙しいのか、いくら声をかけても反応が無かった。

 

 私が失意のうちに踵を返したその時、ふと周りを見ると女性アークス(きつね耳)を熱いまなざしで見ている数人の男性アークス(仲間)がいた。

 私は、彼らに速攻で声をかけた。そしていかに女性アークス(きつね耳)が素晴らしかったかを力説した。

 彼らは私の言葉にいたく感銘を受けたようであった。その後、私と彼らはすぐに打ち解け本当の仲間となった。

 我々は仲間内で「獣耳を愛し隊」と名乗り、何度も同じ任務をこなした。そして現在は同じ部隊に所属している。

 

 

 

 

 

 それからしばらくして、【原初の闇】が守護輝士(ガーディアン)達によって討伐された。

 この事は、アークスの悲願であるダーカーの殲滅に王手が掛かった状態となる。そのため余力が出来たアークスは、他世界への交流に力を向けることが出来るようになった。

 そして我が隊「獣耳を愛し隊」も新たな任務、オラリオ第一先遣隊の調査隊員として遠征に参加している。

 何故我々がここにいるかというと、オラリオには獣耳の種族がいるという噂を聞いたためである。

 そのことを聞いた我々の行動は早かった。真っ先に先遣隊に志願し、この権利(獣耳を愛でる)を勝ち得た。

 

 

 

 オラリオ第一先遣隊がベース基地設営に選んだ場所は、人里離れた鬱蒼と茂る密林の中であった。

 近くにかなり古い遺跡があったが、サーチした範囲内に人や敵性生物(エネミー)の反応は無い様だ。

 現在我々は、ベース基地設営に必要な場所を確保するため、密林の伐採を行っている。

 アークスの機材を使えば数刻で、密林も開けた土地に早変わりである。

 

 

 

 伐採作業を終えキャンプシップから各種トレーラーを降ろし、ようやく一息ついた。

 我々は、工作隊がベース基地の設営準備を行っているのを後目に、調査隊としての準備を進める。

 獣耳雑談を行いながら準備を進めていると、指揮用トレーラーの緊急警報が鳴り響いた。

 

 全員が作業を中断し、急いで指揮用トレーラーへ向かった。

 指揮用トレーラーの前で、指揮官(ジョージ)が緊迫した顔で現状を伝えてきた。

 

「近くの遺跡に突如、大型の敵性生物(エネミー)と無数の小型の敵性生物(エネミー)の反応が出た。小型の敵性生物(エネミー)に関しては、現在も数が増えている。大型の敵性生物(エネミー)は遺跡から動いていないが、無数の小型の敵性生物(エネミー)がこちらに進行中だ。我々はこの拠点を確保するため、小型の敵性生物(エネミー)との戦闘状態に突入する。尚、既に増援を要請済みである。増援が来るまで持ちこたえてくれ」

 

 我々は一瞬呆気にとられた。

 ダーカーでさえも出現するときは、出現前に反応があるというのに……しかしながら、即座に気持ちを切り替え、武器を手に敵性生物(エネミー)を迎え撃つべく配置についた。

 

 

 

 

 

 それからは地獄であった。

 倒しても倒しても押し寄せる敵性生物(エネミー)、我々は負傷者こそ出ていないものの体力を削られていた。

 普段であれば、指揮用トレーラー内で指示を出しているオペレーターさえも武器を持ち、戦線を支えていた。

 

 上空からは、キャンプシップに配備されている戦闘機も駆けつけ戦闘支援を行っているが、あまりにも数が多いため捌き切れていない。

 

 せめてもう少し遅く来てくれれば、設営される予定であった防御設備を使えたのに……とない物ねだりをしつつ、目の前の敵性生物(エネミー)を倒していく。

 

 

 

 増援を心待ちにし戦闘を行っていると、ついに一部の防御線が破られてしまった。

 そこから無数の敵性生物(エネミー)が、仮拠点内に押し寄せてきた。

 惑星リリーパでの防衛戦よりは数が少ないとはいえ、こちらの防衛人員が少なく、そして普段戦況報告をしているオペレーターも戦闘に参加している。そのため防衛の穴を付かれ突破されたようだ。

 せめて一目本物の獣耳を見たかった……と死を覚悟して、押し寄せてきた敵性生物(エネミー)に対応しようとしたその時、空からフォトンの塊が遺跡に向けて突入してきた。

 あれはテレプールから地表に降りる時の光ではない。キャンプシップから直接飛んで来たものだ。

 そんなことができる者を私は一人しか知らない。

 フォトンの塊が遺跡に到達した瞬間、いくら倒しても倒しても湧いてきた敵性生物(エネミー)が一瞬で消え去った。

 

 私は仲間の安否を確認しつつ、残敵が居ないか周囲に気を配った。我が隊の仲間は皆無事であった。

 崩壊した防御線を守っていた者も、怪我はしていたが看護官のテクニックで治療をしてもらっている。

 どうやら山は越えた様だ。

 私は遺跡に向け、感謝を込めて敬礼をした。

 

 ……ありがとう守護輝士(ねこ耳)と……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私が守護輝士(ねこ耳)であるミケ殿を見かけたのは、アークス・ロビーであった。

 その小柄な体で、何体もの強大な敵性生物(エネミー)を倒している守護輝士(ガーディアン)のミケ殿が、私がいるアークス・シップに来ているという話を聞きつけ、私は興味本位でロビーへと向かった。

 そして発着場からロビーへ来たミケ殿を見た瞬間、何時ぞや感じた衝撃が全身を駆け巡った。

 

 守護輝士(ガーディアン)守護輝士(ねこ耳)であった。

 

 思わす私はミケ殿に近づき、

 

ねこ耳(守護輝士)!お会いできて光栄です」

 

 と挨拶をしていた。

 というかしてしまった……私は蒼白になり、恐る恐るミケ殿をみたが一瞬目を丸くした後、

 

「これ似合うでしょ?」

 

 とねこ耳を指さし笑いだした。

 

 

 

 ミケ殿はとても気さくな人であった。

 私の失言から獣耳好きということが分かり、自分も獣耳好きなんだよねーといいつつ色々な獣耳姿を私に披露してくれた。

 私は感激のあまり二礼二拍手一礼(以前地球で見た、尊い物を崇める方法)をしてしまった。

 ミケ殿は若干引いていたが……

 

 

 

 

 

 敵性生物(エネミー)襲撃後、散らばっている結晶状の物体を集めていると、ミケ殿達の姿が見えた。

 どうも怪我人を運んでいるらしく、その時は挨拶を控えた。

 その後、再度会う機会があり私はミケ殿に増援のお礼と挨拶をした。

 しかしミケ殿は、ねこ耳をしてなかった。

 話を聞くと、こちらの世界に獣耳の人たちがいることを噂で聞き、流石に配慮して付けていないそうだ。

 本人達にあった後に、こういうの(獣耳アクセ)も有りかどうか確認してから、着けるかどうか考えるそうだ。

 

 そこまで考慮しているとは……私はミケ殿の獣耳に対する愛に、改めて尊敬してしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 とうとうこの日がやってきた。

 本日我々は、本来の仕事である調査任務に赴く日である。

 我々は指揮官(ジョージ)より調査の際、万能薬(エリクサー)について特に念入りに情報を入手するよう命令を受けた。

 確かにその様なものがあれば、アークス・シップで暮らす市民に対して計り知れない恩恵を与えるだろう……我々は、使命感を胸に近くの街へ向かう輸送機へ乗り込んだ。

 

 

 

 

 

 そして我々は、現実という途方もなく高く巨大な壁を前にして、打ちひしがれていた……

 

 

 

 

 

 我々が街について最初に目にしたのは、様々な獣耳が行き交う大通りであった。

 我々は興奮した。

 

 ……ここは楽園か?

 

 ……俺ここに骨埋めるわ。

 

 などと言葉が自然にでた。

 そして我々は、更に周りをよく観察した。

 そして現実に突き当たった。

 

 

 

 露店で客相手に対応しているおばちゃん。

 

 大通りの端の方で荷車を引いているおっさん。

 

 杖を突き、ベンチに腰掛け日向ぼっこをしている老夫婦。

 

 

 

 皆頭には、獣耳があった。

 あまりの現実に私は、呆然としてしまった。

 仲間達も両手両足を地面に付き打ちひしがれている者や、この現実を受け入れたくない!とでもいうように頭を振るものなど……

 

 我々は獣耳を愛していたはずだ!なのになぜこんな気持ちになる……

 

 解っている。

 

 いや、理解してしまった。

 

 種族として存在するということの意味を……

 

 

 

 

 

 なんとも言えない感情が心中を巡り虚しさだけが漂う我々の下へ、それは現れた。

 

「あの……大丈夫ですか?」

 

 そこには、年のころは十代半ば程の可憐な少女がいた。

 私は少女の顔を一瞥し、自然と視線を頭の方へ向けた。

 それを見た瞬間、今までの虚しさが吹き飛んだ。

 そして今迄で、特大の衝撃が体中を巡った。

 目の前で心配そうな顔をして我々を見ていたのは、うさ耳の可憐な少女であった!!そのうさ耳は時折ぴくぴくと、我々を心配しているかのように動いていた。

 

 それからの私の行動は早かった。

 打ちひしがれている仲間を蹴飛ばし、正気を戻させた。

 そして心配してくれたうさ耳少女にお礼を言った。

 

「すまない。少し嫌なことがあってな。だがもう大丈夫だ。心配してくれてありがとう!」

 

 そう私が言うと、その少女は心配そうな顔からほっとした顔になり、笑顔で我々の前から立ち去った。

 

 

 

 その後ろ姿を我々は、清々しい気持ちで見送った。

 

 ……可憐だった。

 

 ……やっぱ俺ここに残りたい。

 

 ……獣耳の可憐なお嫁さんが欲しい。

 

 などと言っていた。

 しかし我々はそれをしてはいけない、いや出来ない。

 我々と言う種をこの地で芽吹かせてはならない。

 それはアークスの理念──その星の生態系は、その星の中で完結させるもの──に反する。

 絶対令(アビス)にも深く刻まれている。

 

 だが思うだけなら、問題はない!

 いや寧ろ、その思いこそがフォトンを強化する。

 フォトンは思いの力でもある。

 その思いが強いほど、我々を更なる高みへと導いてくれる!

 

 そして仲間の一人が言った。

 

 ……我々の部隊名だが改名しないか?

 

 私は候補があるのかと問うと、その仲間は我々を示す素晴らしい名前を提示した。

 

 

 

「獣耳の美少女を愛で隊」

 

 

 

 こいつ天才か?

 私は戦慄と共に仲間を見た。

 その仲間は、いい笑顔でサムズアップしていた。

 我々は、新たな気持ちで「獣耳を愛し隊」から「獣耳の美少女を愛で隊」へと部隊名の改名を行った……

 

 

 

 そして我々は、本来の目的を思い出した。

 我々は一糸乱れぬ動きで、街の各所へ散っていった。

 

 そして素晴らしい情報(獣人族について)を入手する事が出来た。

 我々は意気揚々と、ベース基地へ帰還した。

 

 

 

 

 

 帰還後私は、まずはお世話になったミケ殿にと、我々が入手した素晴らしい情報(獣人族について)を伝えた。

 ミケ殿は、素晴らしい情報をありがとうと笑顔で答えてくれた。

 

 

 

 その勢いのままに、指揮官(ジョージ)の下へ赴き、誇らしげな気持ちで素晴らしい情報(獣人族について)を報告した。

 

 

 

 報告後、指揮官(ジョージ)からそれ以外の情報は?と尋ねられた。

 我々は、これ以上の素晴らしい情報(獣人族について)は無いと胸を張って答えた。

 

 指揮官(ジョージ)は我々を指揮用トレーラの外に出すと、ものすごく渋い顔をして、

 

万能薬(エリクサー)の情報がない!もう一回行ってこい!」

 

 と怒鳴ってきた。

 解せぬ……




アークスの理念云々は、オリ設定です。
あと1話閑話を書いたら本編の作成に入ります。


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閑話-ルーナ

 私はルーナ、姓はありません。

 【アルテミス・ファミリア】で第3級冒険者の筆頭を務めさせて頂いております。

 私の仕事は、【ファミリア】内の資材管理と財政管理を行っております。

 団長や幹部の仕事だとは思うんですが、あの団長や幹部達(アルテミス狂い)に任せても碌なことになりません。

 私は元々商家で育てられておりましたので、この手の仕事は苦ではないのですが、釈然としません……

 

 

 

 

 

 現在【アルテミス・ファミリア】の主要メンバーは、辺境の地にあるエルソスの遺跡へ遠征に出ております。

 メンバーは、アルテミス様、団長、そして幹部達(第2級冒険者)のフルメンバーとなっております。

 私達の【ファミリア】は定期的に、封印されたモンスターの監視のため遠征を行っております。

 普段の遠征は数班に分かれ、それぞれの目的地へ遠征を行いますが、今回は1か所に対しフルメンバーでの遠征です。そのことが少し気に掛かります……

 

 

 

 そろそろ遠征から、ひと月と半ば程が過ぎております。

 エルソスの遺跡は、どんなに急いでも帰還までふた月以上は掛かります。

 多少心配ではありますが、あのメンバーなのでその内帰ってくるでしょう。

 

 私は資材管理の一環として資材のチェックを行い、在庫が不足している物の買い出しを手の空いているメンバーにお願いしています。

 ある程度お願いしていると、手の空いている人がいなくなりました。

 買い出しに行っているメンバーが戻ったら、またお願いすることにしましょう……

 

 買い出しに行ったメンバーが戻ってきましたが、残念ながらこれから座学の講義をやるそうなので断られました。

 私達の【ファミリア】はそこそこの人数が在籍しています。

 そのため足りない知識等を教え合う事が出来ます。

 私も、私の仕事を手伝える人を求めて講義を何度か行いましたが、残念ながら私の求めるレベルの人がいませんでした。

 冒険者って脳筋が多いですからね……アルテミス様が帰ってきたら、頭脳労働ができるメンバーについて相談しますか……

 

 仕方がないので残りの買い出しは、私が行う事にしました。

 そこそこ量があるので、一人ではちょっと厳しいですが……

 

 

 

 買い物を終えた私は、予想以上に多い荷物と格闘しながら帰路に就いていました。

 帰路の途中で、覚えのある気配を感じました。

 アルテミス様が帰ってきたようです。

 予想よりはるかに速いですが、折角いるのであればこの荷物を団長や幹部達(アルテミス狂い)に渡すことにしましょう。

 

 そう思いアルテミス様の所へ向かいましたが、団長や幹部達(アルテミス狂い)が居ません。アルテミス様も様子がいつもと違っておりました。

 私はなんとなく嫌な予感を覚えました。

 アルテミス様は、ホームに全員いるかどうか尋ねました。

 私が買い出しに出たときは全員食堂で講義を行っておりましたので、全員いる旨を伝えました。

 アルテミス様は急いでホームに戻ると言い、足早にホームへ向かっていきました。

 

 私は慌てて、荷物を拾い後を追います。

 私は先ほど挨拶したミケ様とマトイ様に何かあったのでしょうか?と尋ねましたが、ミケ様から詳しい話はアルテミス様から聞いた方がいいよと言われました。

 

 

 

 ホームの食堂にミケ様、マトイ様を案内して簡単に紹介をした後、アルテミス様からのお話がありました。

 話の内容は衝撃的でしたが、皆無事である事が分かり私はほっとしました。

 

 その後、アルテミス様よりホームの防衛について言い渡されました。

 私以外のメンバーは、訓練通りに食堂から出て行きそれぞれの持ち場に就く事でしょう。

 

 私には一緒にオラリオへ向かい万能薬(エリクサー)の買い出しと、ダンジョンの階層情報の取得をお願いされました。

 ミケ様とマトイ様が、ダンジョンの情報が必要とのこと。

 私はアルテミス様と団長達の命の恩人である、ミケ様とマトイ様のお役に立てるならと了承し準備に取り掛かります。

 

 途中でアルテミス様から不思議な依頼をされましたが、まさか騎乗用のワイバーンでも用意しているのでしょうか?ワイバーンならまだいいですが、ロック鳥クラスになると私のトラウマが刺激されますので、できればワイバーンでありますように!と願いながら準備を行いました。

 

 

 

 

 

 私がまだ商家の家で過ごしていたころ、別の街へ馬車で旅行をしたことがあります。

 その時の私は幼く初めての馬車の旅でしたので、大はしゃぎで馬車の窓枠に掴まり外の景色を眺めていました。

 暫く進んでいると、どこからともなく大きな鳥が飛んできて私が乗る馬車を掴みました。

 私と養父様達は、馬車の中で揺さぶられました。

 そしてその鳥が飛び立とうとした時、護衛の冒険者がその鳥──ロック鳥を倒したそうです。

 私は少し宙に浮いた状態の馬車の中で、揺さぶられ非常に怖い思いをしました。

 その経験から、ロック鳥は大の苦手です。

 まぁ会うことはそうそうないのですが……

 

 

 

 

 

 それから荷物の準備を行い、オラリオへ出発しました。

 そして街はずれに着いた時、アルテミス様からこれから乗り物が来るので少し離れるよう言われました。

 私は空を見上げながらワイバーンを探しますが、見当たりません。

 首を傾げていると、風を叩きつけるような音と共に巨大な……そこで私は意識を失いました。

 

 

 

 

 

 私は気が付いたら、ホームの自分の部屋に居ました。

 確かアルテミス様と一緒にオラリオに向かったはず?と思い周りを見渡すと、アルテミス様が心配そうな顔で私を見つめていました。

 アルテミス様の説明によると、私が気を失う前に見たものはミケ様が持っている空を飛ぶ箱だそうです。

 ワイバーンよりも早く飛ぶそうですが、箱の中に居れば外も見えないし揺れないので安全だと、アルテミス様がおっしゃいました。

 私はロック鳥ではないのかと尋ねましたが、違うそうです。

 私は、過去のトラウマのことを話し本当に違うか再度尋ね、アルテミス様から違うと言われほっとしました。

 そしてアルテミス様から、黙っていたことを謝罪されました。

 私もトラウマの件は、誰にも話したことがないため謝罪を受け入れました。

 

 

 

 そして今度こそオラリオへ向けて出発しました。

 私が気絶したことにより、本日のオラリオ入りはかないませんでしたが、日が沈む前に外壁前までたどり着けました。

 

 ワイバーンよりずっと早いのですね……

 

 そして夕食の準備をしている時、ある事に気が付きました。

 私は最初に出発した時と服装が違っていました。

 何故でしょう?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ギルドでアルテミス様と別れた後、私はダンジョンの階層情報をギルド員より受け取り、万能薬(エリクサー)を手に入れるため【ディアケンヒト・ファミリア】の治療院へ向かいました。

 やはりポーション類なら、ここが一番品質が良いため良く利用しています。

 私は、万能薬(エリクサー)を団長と幹部達分、注文しました。

 流石に予備を買う余裕は無いです。

 元気になったら団長達に稼いで貰うとしましょう。

 店員が万能薬(エリクサー)を準備している時、後ろから声をかけられました。

 

「ルーナではないか」

 

 声のした方へ振り替えると、そこには【アポロン・ファミリア】の団長である、ヒュアキントス様がいました。

 

「ヒュアキントス様、お久しぶりでございます」

 

 【アルテミス・ファミリア】と【アポロン・ファミリア】とは、良好な関係にあります。

 主神同士が姉弟の関係であり、自分たちの眷属達を大切にしているため、私達眷属もお互いを尊重しあっております。

 とはいっても【アポロン・ファミリア】の眷属達は、2種類に分かれておりますのでその片方の方達だけ、という但し書きが付きますが……

 ヒュアキントス様は、良好な関係の方々の一人となります。

 もう片方の方々は、アポロン様に無理やり改宗させられた方たちの中でアポロン様を恨んでいる人たちです。

 

 まぁ他の【ファミリア】の問題なので、私達は不干渉としております。

 

 アポロン様は、自分の目にかなった方たちを他の【ファミリア】に入っていようとお構いなしに眷属にしようとします。

 狙われた方達は、たまったものではないでしょう。

 しかし改宗して暫く経つと、結果良かったとおっしゃられる方も多くいました。

 それだけ大切にされたのでしょう。

 

 実際、アポロン様は自分の眷属が死んだ時は、遺品を肌身離さず持っておりました。

 持てなくなった遺品は、古い方から宝物庫へ保管しております。

 一時期オラリオ内が不穏だった頃、遺品の保管場所に悩んでたアポロン様がアルテミス様に相談し、私達のホームで預かることになったそうです。

 厳重に封印された宝物庫が私達のホームにありますので、そこに収められているのでしょう。

 

 ヒュアキントス様は、私の周りを見渡し団長達は居ないのかと尋ねられました。

 私の口から本当の事を話すわけには行きませんので、今は一緒ではない旨伝えます。

 それから、今日はホームへ寄るかどうかも尋ねられました。

 アルテミス様とアポロン様は、不定期ですがお会いになられて近況報告をしております。

 私も何度か【アポロン・ファミリア】のホームへお邪魔したことがありますが、あまり行きたい場所ではありません……

 本日はホームへ寄らない旨を伝えると、ヒュアキントス様は了承し私から離れました。

 私の方も万能薬(エリクサー)の用意ができたそうなので、挨拶をしヒュアキントス様と別れました。

 

 

 

 

 アルテミス様達と合流した後、団長達の下へ向かいます。

 困った人たちではありますが、【ファミリア】にとって必要な人たちですので早く元気になって貰いたいものです。




次回から本篇に戻ります。


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閑話ーアークスの方針

本篇予定でしたが、内容が閑話っぽくなってしまったので、閑話としてあげます。


 【アルテミス・ファミリア】の一件後、私はジョージさんから惑星「オラリオ」における今後の予定と方針という資料を貰い、説明を受けた。

 私の惑星「オラリオ」での活動方針にも関わるため、おさらいしておこう。

 

■体制

 オラリオ第一次先遣隊を増員&再編成しアークス・オラリオ支部を新設。

 責任者と概要を記載する。

 

 総責任者:ジョージ(第2世代指揮官職)

 部門

 外交部門  :現地協力神及びその眷属達(現地協力者)との折衝を担当。

 ジョージ(兼任)+総務部から配置。

 技術研究部門:ポーション開発、魔石技術の研究及び開発。技術提供の選定。

 各研究部署から配置。

 販売部門  :魔石及び戦利品の販売。技術研究で開発された製品の販売。総務部から配置。

 衣食部門  :衣料系の研究開発。現地の食料調達。総務部から配置。

 保安部門  :各施設の警備を担当。オラリオ第一先遣隊のメンバー+戦闘部から配置。

 

 各部からの人員については選定中。基本、第2世代の人員を配置予定。

 

■拠点

 ベース基地  :現ベース基地を拡張し大型拠点に変更。初回接触時の戦闘を考慮し

 兵装は惑星「リリーパ」の基地と同等とする。

 セリニ基地  :現地協力者のサポート及び技術開発の拠点とする。

 【アルテミス・ファミリア】のホーム近くに新設予定。

 ダンジョン基地:ダンジョン内の安全地帯に新設予定。

 

■現地協力者

 神:ウラノス、アルテミス

 人:アルテミス・ファミリアの眷属

 

 今後の活動で増加予定。

 

■惑星「オラリオ」での基本方針

 ・冒険者登録は行わない事。

 ・ファミリアに所属しない事。但し現地協力者のファミリアについては、審査後検討する。

 

 今後追加予定。

 

 

 

 

 

 他にも色々書いてあったけど、関係ありそうなところはこんなところかな?

 

 まずは体制の所かな。

 ジョージさんがそのまま総責任者になってるから、私は気楽でいいかなぁー。話しやすい人だったしね。

 

 外交に関しては、基本ジョージさんが行うそうだ。ウラノスさんにも紹介済みだ。

 しかし、私にも出席して欲しいと頼まれている。

 私は話を聞いても分からないんだけど……

 

 技術研究に関しては、ポーションの現物は手に入ったけど、レシピは無理だったらしい。なんでも門外不出との事だそうだ。

 そのため、現物と材料で成分分析を行って、独自に研究をするそうだ。

 魔石研究については、この世界の技術である魔石を使用した技術について研究するらしい。アークス技術の提供具合で商品化も考えているそうだ。

 魔石とは、この世界のモンスターを倒した際に手に入るエネルギー結晶だ。魔石は以前の襲撃の際、大量に手に入っているそうなのでそれを使うらしい。

 ……なんかフォトンドロップみたい。

 

 

 

 技術提供については、この世界にどこまでアークス技術を流すかの決める物らしい。

 まぁ私には関係ないか。

 

 

 

 販売は、今大量にある魔石やダンジョンで手に入る物をこちらの通貨に変えるためのルートを開拓するそうだ。

 冒険者になればギルドに売ればいいけど、そういうわけにはいかないのでその代替え手段だそうだ。

 私もダンジョンで入手したものは、こちらに卸す事になっている。

 後、技術研究で販売できそうなのがあれば売り出すらしい。

 地球でやってたアークス・ショップみたいなのでも開くのかな?

 

 

 

 衣料に関しては、是非とも研究をしてほしい。私の服のレパートリーも増えるし。

 食料は、基本オラクル側から届いているけどやっぱり現地でも調達できるルートは作るそうだ。その内フランカさんが飛んできそう……

 

 

 

 保安は、各基地の防衛隊として配備するそうだ。

 今後基地が増える事を考えると、ここは人がいっぱい来そうだね。

 知り合いが来ればいいけど。

 

 

 

 それから拠点についてだね。

 今のベース基地を拡張するそうだ。それとアンタレスの襲撃があったのを考えて兵装も強化するらしい。

 アルテミスさんはまずないって言ってたけど、そこは念のためだそうだ。

 リリーパ基準ってA.I.Sも置くんだ……

 

 セリニ基地はこれから設置するらしい。

 主に技術研究部が使用するそうだ。

 それとアルテミス・ファミリアの人は、ここで訓練するそうだ。

 そうそう、アークスの訓練をする許可が出たらしい。

 私も模擬戦でお手伝いをしてみたけどラッピーが増えただけだったし、ここは専門家にお任せしよう。後はVR訓練場も作るそうだ。

 そこでオラリオに居るモンスターのデータより、模擬戦闘が可能となるそうだ。

 私もたまに訓練で使わせてもらおうっと。

 

 ダンジョン基地は、私が持ち帰った資料を基に建設可能な場所がある事が分かったため、作る事にしたそうだ。

 私が主に使う基地になるかな?

 ダンジョンにまだ入ったことないので、どのような基地にするかは私の報告待ちだそうだ。

 ダンジョンへの突入は、私達守護輝士(ガーディアン)が先陣を切る事になった。

 まぁいつもの事だけど、今回は嬉しいかな……なにせアークスの中で第一発見者になるわけだし。

 

 

 

 現地協力者の選定は、ジョージさん管轄らしい。

 私は交流は止められていないけど、過度なのはダメと念を押された……

 でもそこは状況次第かな……

 

 

 

 それと、基本方針。

 冒険者登録ってのはギルドに登録する事でいろいろなギルドのサービスを受けれるらしいけど、当然義務も発生するらしい。

 でもウラノスさんの組織だからいいのでは?って思ってたんだけどウラノスさんは、運営には一切手をだしていないそうだ。そのため、ウラノスさんの意志とは関係なく動くそうなので、ギルドに属するのはリスクが高いため禁止になった。

 でもダンジョンの管理もしているから、入れなくなるのでは?って思ってたけど、制限は特にしていないそうだ。

 入るのは自由、でもギルドに入るとサービス受けれるからお得だよ!という事らしい。

 

 ファミリアに所属する事については、現段階ではダメって事らしい。

 『|神の恩恵(ファルナ)』を受けた際の影響が分からない事が理由だそうだ。

 後、仮に許可がでても、現地協力者の所以外は禁止となっている。

 まぁ入らなくても戦えるので、別に問題はないかな?

 

 

 

 

 

 そして私はダンジョン攻略に際して、オラリオの街の中に私とマトイの拠点を作って欲しいとお願いをした。

 資金調達の目途は立っていたので、準備するのは問題ないそうだ。

 但し、拠点の管理は自分達で行うようにと言われた……

 うん無理!

 流石に拠点管理までしている余裕はないよ!

 よし、ここは自分のサポートパートナーを呼んで管理してもらおう……

 

 私は、そそくさとオラクル船団に帰るための手続きを始めた……

 

 

 

 

 

 ジョージはウラノスから貰ったオラリオ内のファミリアの一覧を見ながら、どこと交流するかの素案を作成していた。

 

 まずは、商業系ファミリアから主要なところを見ることにした。

 

 ヘファイストス・ファミリア:武具 △

 ソーマ・ファミリア    :酒造 ×

 ディアンケヒト・ファミリア:道具 ×→△

 デメテル・ファミリア   :作農 ◎

 ゴブニュ・ファミリア   :武具 △

 ディオニュソス・ファミリア:酒造 ×

 

 それぞれのファミリアの特徴を見ながら印をつけていった。

 

 

 

 武具については、アークス製の武具があるため利用しないが、研究部署がうるさいからなぁ。

 まぁ交流するにしても、後回しで問題ないだろう。

 

 

 

 酒造については、そもそもアークスには酒の文化がない。

 地球と交流した際に初めて遭遇したものとなる。

 その時のアークス側の反応は、毒?だった。

 少量の摂取で判断力低下、行動不能となったためだ。

 しかし地球では、交流の場で使用されていたため研究をしていたが、そこまでして必要なものなのか?との意見が出て研究は凍結された……

 ジョージも地球調査の際、口にしたことがあったが一口で行動不能に陥った経験がある。

 まぁ不要でいいだろう……

 ジョージの個人的な意見であった。

 

 

 

 道具については、ポーション制作のために交流を行いたかったが、生憎と製造方法は入手できなかった。そのため、さらなる交流は不要であると判断した。

 あとは、現物と素材でどこまで研究ができるかにもよるか……様子見にしておくか?

 

 

 

 作農については、現地での食料確保の観点からも必須である。

 ここのファミリアは最大手ということなので、ここと契約ができれば問題ないだろう。

 人員を派遣してより深い交流をするのも有りだな。

 

 

 

 次は、ファミリアとして最も多い探索系ファミリアだが、こちらはアークスとしては積極的関与はしないことにした。

 トラブルの種が多すぎる……

 

 

 

 その他のファミリアについては保留とした。

 沢山ありすぎるので、皆の意見も聞きたかったためだ。

 

 

 

 さて、次はなにをまとめるか……

 ジョージの仕事はまだまだ終わることはない……

 

 

 

 

 

 第xxx回獣耳定例会

 諸君、この度、部署異動がある、そのため皆の意見を聞きたい。

 

 ……保安部に移動だっけ?そうなると獣耳調査のために、街に行けないではないか!

 

 ……だが待って欲しい。基地によっては、街が近いため機会はあるはずだ!

 

 ……ベース基地、セリニ基地、ダンジョン基地だったか?普通に考えたらセリニ基地が一番の候補だが。

 

 ……セリニ基地ならルーナちゃんとも合えるし。 

 

 ……うんうん

 

 ……そうなのだが、俺はダンジョン基地もいいと思うんだ。

 

 ……なぜだ?近くに街はあるとのことだが、あまりいい情報はなかったぞ?

 

 ……冒険者のお姉さん(獣耳)と会える機会は、断然ダンジョン基地が多いと思うんだ。

 

 ……流石にそれは、夢を見すぎだと思うぞ。

 

 ……オラリオ内に、基地作らないのかなぁ

 

 ……それな

 

 ……それで先ほどミケ殿に聞いたのだが、オラリオ内に自分たちの拠点を作るそうだ。但し、管理は自分たちでやらないといけないから、サポパ呼んでくると言って、先ほどオラクル船団へ帰っていった。

 

 ……まぁ守護輝士(ガーディアン)の特権だな。

 

 ……そこで考えたんだが、我々がミケ殿の拠点管理の手伝いの名目で、潜りこむことは出来ないだろうか?

 

 ……拠点の規模によるんじゃないか?それに、女性のみの所に、我々が押し掛けるのは迷惑だぞ?

 

 ……現状では、情報が少ないな。各自以下のことを確認して次回までに提示して欲しい。

 ・ベース基地:外の街との交流機会があるか?

 ・セリニ基地:セリニの街に行ける頻度は?

 ・ダンジョン基地:基地詳細の確認。

 ・ミケ殿の拠点:まずは規模。ある程度の規模があれば、我々もお手伝いするとミケ殿に伝えてみて、結果を報告。

 

 以上 解散




次回からダンジョンに入れるといいな…


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六話

短いですが本篇となります。
ダンジョンまでが遠い…


 迷宮都市オラリオ

 太古の昔より存在するこの広大な都市は、都市中心部にあるダンジョンの入り口に蓋をする様に建てられてた塔「バベル」を中心に放射状に広がっている。

 バベル及びバベルから続く8つの大通りを中心に人が集中しており、一歩外れると歴史に忘れられた様な地域が幾つか存在していた。

 その一画、廃墟にしか見えない場所に小柄な少女が一人佇んでいた。

 その少女は辺りを見渡しながら、歴史に思いを馳せ感動でもしているのか、小刻みに体を震わせ辺りの景色を堪能してるように見える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 いやいやいやいやいや。

 流石にこれはない。

 

 ジョージからオラリオ内の拠点候補地を教えてもらい、意気揚々と来てみれば無事な建物が一つもない廃墟だった。

 探索している途中で見つけた住居跡とかなら私も、どんな人がどんな感じで住んで居たんだろう……とか思いながら感慨にふけることもできるけど、流石に自分が住むとなると話は別。

 で、さっきジョージに通信で聞いてみたら、空いている建物付きの土地は流石に無かったらしい。

 ジョージも悪いと思ったのか、空間隔離と手伝いの手配をしてくれるそうだ。

 後は、いい場所を見つけたらそこの座標を教えて欲しいとの事。

 この一帯は特に誰の持ち物でもないそうなので、好きなところを選んでいいって……

 私は目ぼしい場所を探しながら、この一帯を歩くことにした。

 

 

 

 

 

 暫く歩いていると、唯一原型を留めている建物を見つけた。

 ここを改修して、住めるようにしようかな?と思い建物を眺めていると声を掛けられた。

 

「あのー。何か御用ですか?」

 

 声のした方をみるとそこには、耳のない白兎がいた……

 違った、白い髪と赤い瞳の少年が困惑した表情でこちらを見ていた。

 

「こんにちは?」

 

 私もまさか、こんな所で人に合うとは思ってなかったのでびっくりしてしまい、おかしな挨拶をしてしまった。

 

 その少年の話だと、私が眺めていた場所は少年の住居だそうだ。

 私は、この辺りに住めそうな場所がないか聞いてみたが、少年も最近ここに来たらしく知らないと返された。

 私がどうしたものかと悩んでいると、その少年が一緒に探しましょうか?と声をかけてきた。

 流石に当てのない探し物に初対面の人を巻き込めないので、有難い申し出だったけど断った。

 しかし、このような場所で当てのないものを一緒に探すと申し出るとか、かなりのお人好しなんだろうなぁ。

 

 お前が言うなって聞こえた気がするけど幻聴かな……

 

 私はその少年と別れ、当てのない旅を続けることにした。

 

 

 

 

 

 しかし、とても外壁に囲まれた都市とは思えない広さだ。

 所々柱のようなものが立っているが辺り一面、倒壊した建物跡しか無かった。

 これはもう、一から建物作ったほうがいいかも?と思っているとまたもや声を掛けられた。

 

「おーい!そこのエルフ君~」

 

 私の見た目は、ここではエルフという種族に見えるんだっけ?アルテミスさんとの会話を思い出して声のした方を見てみると、なんかとても見覚えのある服を着た少女がいた。

 あれって確か最初の接触時に作られた服……

 まさか、オリジナルの服を着ている人に会えるとは。

 うん、やっぱりあれくらい胸ないとあの服はダメだね。

 以前店で見かけたときに試着してみたけど、胸の辺りがスカスカなのと心許ない布面積だったから買わなかった。

 

 そんなことを考えていると、その少女は私の近くまで来て私の方をびしっと指さしながら、

 

「君!見たところ『神の恩恵(ファルナ)』は受けていない様子。女の子なのが多少……いや、かなり気になるが、君はとてもいい人に感じる。だからよければ、僕の眷属……ファミリアに入らないかい?」

 

 と一気に捲し立てられた。

 ん?ということはこの少女は神なのかな?

 私は、もう一度その少女……神を観察した。

 アルテミスさんとはまた違った雰囲気だった。

 こちらを指さしながら、私の返事を待っているのだろう……その姿はとても神には見えなかった。

 それと、腕を上げているので青い紐が胸を押し上げており、豊かな胸がさらに強調されていた。あの紐って胸を強調するための物なのかな?

 

 私がなかなか返事をしなかったため、腕を震わせながら若干不安そうな顔になっていた。

 

「ごめんなさい。ファミリアに入っちゃいけないって言われているので……」

 

 私が断ると腕を降ろし、すごく残念そうな顔をしながら落ち込んでしまった。

 私は申し訳なく思い、事情を聴くことにした。

 なんでも最近ファミリアを立ち上げたのはいいが、なかなか眷属が集まらないらしい。

 現在は一人いるだけとの事。

 今いる子はとてもいい子で、もう二人だけでいいかな?っと思っていたところに私を見かけて感じるものがあり誘ってみたそうだ。

 

「ところで、君はこんな何もないところで何をしているのだい?」

 

 私はダンジョン攻略のためにこの地に来たが拠点が欲しくなり、この辺りなら住んでもよいと言われ来てみたものの、いい場所がなくて彷徨っていることを話した。

 

「『神の恩恵(ファルナ)』も無しにダンジョン攻略?君は正気かい?下界の子達は、『神の恩恵(ファルナ)』がないとモンスターを倒せないはずだ!」

 

 私を諭すようにそう言い、やはり『神の恩恵(ファルナ)』を受けるべきだ。と忠告してくれた。

 

 なんだろう、すごくいい人……神だなぁ。

 さっきの少年といい、私が事前に聞いてたオラリオ内の神や人とは随分違っていた。

 私は自分達の事を話すことにした。

 まぁ話しちゃダメって言われてないしね。

 

 その神は、私の話を聞き終わると腕を組み難しい顔をしていた。

 やっぱりなかなか信じられないよね。

 アルテミスさんも最初は同じようにしてたし……

 

「わかった、君を信じよう。折角遠い所から来たんだ。僕は君を歓迎しようじゃないか!」

 

 そういうと、じゃぁこの辺りを案内しよう……そう言い私の腕を引っ張りながら案内をしてくれた。

 案内といってもこの辺りはほぼ瓦礫しかないので、自分が気に入っている場所とか、ここから見る景色がいいとか、そういう案内を受けていると見覚えのある場所まで来た。

 

「そして、ここが僕達のホームさ!」

 

 そう言うと見覚えのある建物……あの少年が住んでいると言っていた……を差しながら自慢げに胸を張った。

 

「案内はここまでだ。何かあれば力になろう。是非頼ってくれたまえ!」

 

 そういうと別れを告げ建物へ入っていった。

 

 私はその後姿を眺めつつ、心の中が温かくなっていくのを感じた。

 そして踵を返すと目の前の瓦礫の山を見つめた。

 

「うん。ここがいいな」

 

 私は、瓦礫の山の座標をジョージへ送った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 僕は、いつもの時間に目を覚ました。

 寝ていたソファーから体を起こし、周りを見てみるとベットで神様がすやすやと眠っていた。

 僕は、神様を起こさないように準備を始める。

 

 今日からいよいよ、ダンジョンに入るんだ!

 

 僕は期待を胸に準備を終えると、まだ寝ている神様に行ってきますと小声で挨拶をし、外へ出るための階段を上った。

 

 礼拝堂を抜け扉を開け放ち、早朝の新鮮な空気を胸一杯に溜め勢いよく息を吐いた。

 そして、ダンジョンに出会いを可愛い女の子達と出会いハーレムを目指すんだ!

 と心の中で叫びつつ意気揚々と外へ足を踏み出した。

 

 

 

 

 

 そして絶叫した。

 

 

 

 

 

 昨日までは、この教会の前は瓦礫の山だったはずだ。

 しかし、今目の前には金属?製の建物が建っていた。

 

 え?

 なんで?

 

 僕は、混乱する頭で辺りを見渡していると声を掛けられた。

 

「昨日ぶりだね?今日からここに引っ越してきたミケだよ!よろしくー」

 

 その声の方を向くと、昨日ホームを覗いていたエルフの少女が笑顔で手を振っていた。

 

 

 

 おじいちゃん、ダンジョンに入る前に出会いがあったよ……

 




次こそは…


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七話

ダンジョンがさらに遠く…


 私は昼間に教えて貰ったお気に入りポイントの一つにある、倒れかけている柱に腰掛け夜の街並みを眺めていた。

 周りは薄暗く、倒壊した建物の柱部分が影の様になっている。そしてその奥に、オラリオの街並みから漏れる明かりが地平線の様に浮かび上がっていた。

 

「なかなかいい景色だね。流石おすすめポイント」

 

 私が何故ここに居るかと言うと、拠点設置作業の邪魔になるからだ。

 ジョージに座標を指定した後、空間隔離された瓦礫地帯に入った私は瓦礫撤去を行おうとしたが、一緒に転送されて来たお手伝いの人達に止められた。

 お手伝いに来たのは、調査隊(獣耳フレンド)の人達だった。

 なんでも自分たちが撤去作業から拠点設置まで全てを行うので、この拠点において欲しいと頼まれた。

 彼らは元々は保安部門へ異動予定だったらしいが、衣食部門で人員派遣の募集がありそちらに志願したそうだ。そのためオラリオ内で拠点が必要になったそうだが、丁度私も拠点を作る予定だったのでそれなら一緒にしてしまおう……とジョージの一声があったそうだ。

 それで、一応私の許可を貰って来い!と言われたらしい。

 

 私は小型拠点を想定していたが、今後色々な事で人員が増える可能性が高いため、大型拠点を用意したそうだ。

 その代り、最初に言われていた拠点の管理は専用の人を配置するので、自分達でしなくて良くなった。

 

 私はそういう事ならと了承して設置作業をお願いし、手持ち無沙汰になった私はここで暇を潰していた。

 

 

 

「そういえば、神と接触したら報告しろって言われてたっけ」

 

 私は、ジョージに昼間神に会ったことを通信で報告した。

 

「それで、なんという名前の神ですか?」

 

 私は名前を思い出そうとしたが、とても面倒見の良い神であること、例の服を着ていたこと、後は身体的特徴位しか思い出せなかった。

 

「あっ、名前聞いてない」

 

 通信越しに、ジョージは呆顔でため息をついた。

 

「では、特徴を教えて下さい」

 

 私は、特徴を思い出しながらジョージに説明した。

 

 面倒見の良い神である事。

 初回接触時に開発された服を着ていた事。

 私と同じ位の身長である事。

 髪をツインテールに纏めていた事。

 胸が大きいから服がとてもよく似合っていた事。

 

「あの服ですか……であればすぐ分かるかもしれません。少しお待ちを」

 

 

 

 暫く夜景を眺めていると、ジョージから回答があり「ヘスティア」という神である可能性が高いらしい。

 確認のために、アルテミスさんに通信を繋げるので確認して欲しいそうだ。

 

 現地協力者の所には、円滑な情報伝達のため通信機が配られている。

 ウラノスさんの所にも配られているが、ウラノスさんは非常に忙しいため、緊急の場合以外は連絡は控えて欲しいと言われている。

 

「これに話し掛ければよいか?」

 

 通信からアルテミスさんの声が聞こえる。

 私達が使用している「通信」は、フォトンを介して行っているためいろんな情報が一度に見えるけど、現地協力者では使用できないため音声のみ伝える事ができる「通信機」を渡している。

 

「アルテミスさん、数日ぶりです。アークス・シップではおつかれでしたー」

 

 アルテミスさんは、数日前にアークス・シップへ招待している。

 その時いろいろあって「様」呼びでなく「さん」呼びに変わっていた。

 

「ミケか、あぁ、そちらも元気そうで何よりだ」

 

 私は早速、今日あった神のことについて伝えた。

 

「ヘスティアで間違いないな。そうか、降臨してたのか……」

 

 

 

 炉の女神ヘスティア

 3大処女神の一柱であり、家庭生活の守護神、祭壇・祭祀の神、孤児院の保護者などと記されている神である。

 

 

 

 私は以前ジョージから借りた、「神々について」という本に記載されていた内容を思い出していた。

 うん、確かにそんな感じかなぁ……面倒見が良くてなんか安心する感じだったしね。

 

「ヘスティアが居るのであれば、私も近いうちにオラリオへ行こう。ヘスティアは神友だしな」

 

 来るときは連絡してくださいと伝え、通信を終えた。

 通信を終えた後再度夜景に目を向け、これからの事に思いを馳せながら拠点設置が終わるのを待った。

 

 

 

 

 

 空が明るくなり朝霧に廃墟が包まれだした頃、拠点設置が終わり空間隔離を解いたと連絡を受けた。

 設置作業をしていた彼らは、一度転送で外に出て門から入り直すらしい。

 余計な干渉を防ぐためだそうだ。

 私は自分達の新しい拠点に向け、朝霧をかき分けるようにして廃墟の中を歩きだした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 うん。

 絶叫にはびっくりした。

 

 顔引きつってないかな……

 

 

 

 ダンジョンに行くという少年と別れた後、私は早速拠点の中に入っていった。

 中に入るとエントランスになっており、上の階へ行く階段と各施設へ通じる扉があった。

 

 1階は、転送装置や食堂などの共用部となっていた。

 転送装置は、登録されてる「テレパイプ」の帰還用とベース基地への移動用として使用する。

 当面はダンジョンからの帰還に使う予定だ。

 ダンジョン基地が出来れば、ここからダンジョン基地へ直接飛ぶことも出来る。

 まぁそれまでは歩きかな?

 

 2階からは、居住スペースになっている。

 私とマトイの部屋は最上階だそうだ。

 そこは融通してくれたらしい。

 

 最上階の部屋は、とても広く私のマイルームと同じく3部屋に分かれていた。

 これなら中央の部屋を共用にして、私とマトイの部屋で分けていいかな?

 

 そんなことを考えながら、家具を設置していく。

 ちなみにマトイはオラクル船団に戻っている。

 私がサポートパートナーを連れに戻る際、一緒に付いて来たけど向こうで用事が出来て一旦分かれている。

 ダンジョンへ行く場合は必ず呼んでね!と念を押されている。

 

 私は家具をある程度設置した後、パートナー端末を共用部へ設置した。

 

 

 

 サポートパートナー。

 アークスに支給されているAIを内蔵された、所謂ロボットである。

 マスター登録した者の戦闘補助や、身の回りの世話等を行う。

 支給の際、アークスの種族と同じ外見を選択できる。

 

 

 

 私は、私と同じ見た目にしてるけどそれだと混乱起きるかな?

 まぁ似た別人ってことにして、服と髪型変えればいけるかな?

 

 そんなことを考えつつ、髪型や服装を変更し端末を起動した。

 

「お待ちしていました」

 

 そう言いお辞儀をして、私の次の言葉を待っていた。

 相変わらずの真面目さんだ「トラ」は……

 

「今の状況は入力したとおりだけど、トラには私とマトイのお世話をおねがいねー」

 

「かしこまりました」

 

 相変わらず硬いなぁ。

 性格を変更する機能もあるけど、それをすると今までのトラを否定するみたいで嫌んだよね。

 なので変更はしない。

 それに、たまに笑ってくれるしね。

 

「それじゃ、こっちでもよろしくー」

 

 

 

 私のマスターであるミケさんは、事あるごとに私を人のように扱います。

 

 話し方を変えてみよう!

 

 もう少し気楽にいこう!

 

 等と……

 私はミケさんに、

 

「話し方や性格を変えたいのでしたら、変更して下さい」

 

 と伝えますが、それは嫌!とおっしゃいます。

 

 なんでも、私が私でなくなることが嫌だそうです。

 私はAIですので、気にする必要はないのですが……

 とても不思議な状態です。

 でも私は、その状態がとても良い状態だと、認識しています。

 ミケさんがマスターで良かったと。

 

 トラは笑顔になっているが、それをトラは認識できていなかった……




書きたいこと書いているとダンジョンに行けない法則。


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八話

ダンジョン…


 体が揺れる、宙をたゆたう様に……

 体が揺れる、水の上で浮かぶ様に……

 体が……

 

「ミケ、起きて」

 

 私はその声で意識を浮上させた。

 目を開けると、私が寝ているベットに腰掛け私を揺すっているマトイと目が合った。

 マトイに挨拶をし、体を起こすと伸びをした。

 最近色々やっていたのでまともに寝ていなかった。

 そのためかベットに入るとすぐ眠りについて、起こされるまで起きれなかったようだ。

 

「あれ?起こすならトラがいたと思うけど?」

 

 トラが私を起こそうと私の部屋に向かおうとした所をマトイが見つけ、普段出来ないから是非やってみたいといってトラに代わって貰ったらしい。

 トラの方は食事の準備をしてるそうだ。

 マトイ曰く、

 

「ミケを起こすのはわたしの仕事!」

 

 マトイは、そう言って胸を張った。

 偶に、マトイの言っていることが良く解らない時がある……

 

 

 大型拠点を設置したことにより、食堂等共用施設の管理を行う人が来たため食事などはそちらで摂っても良かったけど、最初に施設管理は自分たちでと言われていたので、色々準備をしていた。折角準備したので、食事等は自分達で行う事にした。

 トラも連れて来たしね。

 

 

 

 私達はトラが用意してくれた食事を摂りつつ、今後の事を話し合った。

 といっても準備等は、ほぼ終わったので後はダンジョンで行う事についてだ。

 ダンジョンで行う事は大きく6点ある。

 

 ・環境データの取得

 ・戦闘データの取得

 ・鉱物資源の取得

 ・その他資源の取得

 ・ダンジョン基地設営ポイントの策定。

 ・モンスターの確保

 

 環境データは、私達がダンジョンに入るとフォトンを通じてデータがベース基地へ送られる。

 そのため私達は、特に意識する必要は無い。

 

 戦闘データは、ダンジョン内の敵性生物(エネミー)──こっちではモンスターと言われている──と戦闘を行い、強さや遭遇した場所から出現範囲などの情報を取得する。

 こちらもデータはベース基地へ送られるため、私達はダンジョンの中で普通に戦闘をするだけで良い。

 以前手に入れたダンジョンの情報にモンスターの事もあるけど、中層までの情報しかないのとデータの信憑性確認も兼ねているそうだ。

 

 鉱物資源については、最初の内は目についたのを適当に拾ってくるだけで良いらしい。

 そこから解析して有用そうなのを選別するそうだ。

 

 その他資源は、モンスターの落とす魔石や、倒した際にまれに落とすというドロップアイテムの取得がメインである。

 

 ダンジョン基地設営については、近くにある町の様子を確認して近くに設置するか、離れて設置するかを見めるための調査を行う。

 実際設置場所を決めるのは、私達の報告を受けてからだそうだ。

 

 モンスターの確保については、ダンジョン基地を設営するまで出来ないそうなので今の所不要との事だ。

 

 

 

「というわけで、当面は18階層を目指すことになるかな」

 

 私はそう言いつつ話を終えた。

 

「18階層かぁ……どのくらいで到着するのかな?」

 

 と言いつつマトイは首を傾げていた。

 

「アルテミス・ファミリアの団長さん……セレーネさんの話だと、最短で行けば半日も掛からないらしいけど、私達は各階層くまなく回るから数日は見たほうがいいかもね」

 

 私がそう答えると、じゃぁその間はずっと一緒だね……とマトイは微笑んだ。

 

「マスター、私はどのように致しましょう?」

 

 トラからも質問が来た。

 当初はトラに拠点の管理をお願いしようと思ったけど、大型拠点になったのでそれも不要となった。

 

 だったら……

 

「トラも一緒にダンジョンにいこう。資源の取得はトラの得意分野だし。私だと言われないと判らないしね」

 

 サポートパートナー達は、戦闘もある程度できるが資源取得に関しては特に得意である。

 オラクル船団に居た時は何時もお世話になっていた。

 

「かしこまりました」

 

 トラはそう答え、空いたお皿の片づけを始めた。

 トラも最初に比べたら随分と物腰が柔らかくなってきた。

 口調は相変わらずだけど……

 私はそんな事を考えつつ、トラの後姿を眺めていた……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時刻は丁度お昼を過ぎた頃、私達は準備を終えダンジョンへ向けて出発するため部屋を出た。

 この時間を選んだのは、他のファミリアの人達との接触を極力避けるためだ。

 先日あった神「ヘスティア」や白髪の少年など、いい人もいるだろうが大多数はやはり接触は危険との事。

 そのため私達がダンジョンに入るのは、昼間か夜間になっている。

 中に入れば誰かいるだろうから一緒だとは思うんだけど……と思っていたが、少しでもリスクを減らすための措置だそうだ。

 管理人さん──実態は拠点防衛の防衛隊の人達で、私は心の中で管理人さんと呼んでいる──に挨拶をし、拠点を後にする。

 

 

 

 今日はギルドがある通りではなく、別の通りを通ることにした。

 オラリオの街の中もまだまだ行ってない所が沢山あるため、ダンジョンに行きがてら周ることにした。

 

 今通っている通りは、飲食店が多いようだ。

 私達の食事は、基本拠点で摂るようにしている。

 この辺りの食事に出る飲み物は、お酒が多いらしく他のアークスの人達は行かないからだ。

 私とマトイは、お酒を飲んでも何ともなかったけど、他の人達は一口でダウンしてしまうそうだ。

 この世界の食事自体も興味はあるけど、その内フランカさんがふらっと現れて再現してくれるのを期待している。

 

 通りは人がまばらだった。

 お店の方も閉まっている所が多い。

 この世界の人は1日2食が基本らしく、朝と夜で摂るらしい。

 お昼もとる人もいるらしいが、そういう人たちは所謂お金持ち(冒険者が多い)の人達だけだそうだ。

 

 

 

 その様な事を考えている内に、バベルへ到着した。

 バベルの前にある広間には殆ど人が居ない。

 ここに集まる人たちは、冒険者が殆どらしいから当然だろう。

 

 そして、いよいよダンジョンへ……私の冒険の始まりである。

 

 このために色々準備もしてきた。

 私はどきどきわくわくしながら、マトイ、トラと一緒に、ダンジョンの入り口がある塔の地下へ向かって歩き出した。




短いですが、切りがいいのでここで切ります。
次回はやっとダンジョン突入です。


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九話

ダンジョン突入-上層まで


 私達はダンジョンの入り口に通じる、バベル内の螺旋階段を下っていた。

 地上部には荷物の搬入をするためか、巨大な滑車が取り付けられていた。

 私はそれを眺めながら……こんな大きな滑車で何を運ぶんだろう?と考えながら階段を下りて行った。

 螺旋階段を降り切るとかなり広い広間になっており、その一画にさらに下へ降る階段があった。

 そこがダンジョンの入り口へ通じる道のようだ。

 地階にはギルドが管理している施設もあるようで、ダンジョンで流した汗や汚れを流すためのシャワーがあるそうだ。

 まぁ私達は使えないけど……

 それよりも先ほどから気になっていた事があった。

 

「ここって……」

 

 マトイも感じているのだろう、しきりに周りを見渡していた。

 

「うん。螺旋階段を下りていた時から気になったけど、段々フォトンの濃度が上がってきてるね。この様子だと、ダンジョンの中はフォトンで満たされていそう」

 

 ここまで高濃度のフォトンがあるなんて、まるでマザーシップの中のようであった。

 

 

 

 マザーシップ

 オラクル船団の全アークス・シップの管理管制や環境維持、そして各シップへフォトンの供給を行っている惑星クラスの巨大な船である。

 2隻存在していたがとある事件により1隻は放棄され、現在は1隻のみとなっている。

 

 

 

 私とマトイは、何度かマザーシップに入ったことがあった。

 そのたびに大変な目にあったけど……

 ダンジョン部分が近づくにつれて、その感覚が蘇ってくる。

 私はマザーシップの中はとても懐かしい、という不思議な感覚があった。

 アークスになる少し前の記憶からアークスになってからの記憶は有るけど、それ以前の記憶は無いんだけどね。

 

「うーん。マザーシップに近い感覚ではあるけど。少し違うかな?」

 

 そう私が感想を述べながら進んでいると、ダンジョン部分へ到達した。

 いよいよここからが本番だ。

 

 

 

 

 

 私達が最初に行ったのは、興奮したオペレーターへの対応だった。

 想定外の環境データの数値、マザーシップに近いフォトンの量を検出したためベース基地の指揮所は大騒ぎだそうだ。

 私達はとりあえず、オペレーターが落ち着くのを待ってからダンジョンの中の感想──自分達もマザーシップにいる感じがする──を伝えさらに奥へ進む事にした。

 

 

 

「ダンジョンって聞くと何となく人工物のイメージがあったけど、本当に天然の洞窟だね。それにフォトンのせいか、明かりがなくても明るいし」

 

 私はダンジョンの壁とか天井を見渡しつつ、感想を言った。

 

「一応資料にも書いてあったけど、自分の目で見ると不思議な感じ……」

 

 マトイも私に釣られるように、感想を述べた。

 私はトラの方を見たが、トラはなにも感じていないのか黙ったままだった。

 

「トラは感想とかない?」

 

 トラは特に御座いません。と返した。

 トラと探索する時は、なるべくトラに話しかけるようにしている。

 最初は無反応だったけど、最近は返事をしたり笑顔になるためだ。

 

 私達はそれぞれの感想を語った後、さらに奥へ進んでいった。

 

 

 

 1-5階層について一通り回ったが、モンスターには会わなかった。

 2-4人組の冒険者の集団と何度かすれ違った程度であった。見た感じだと、装備も簡素であったため、駆け出しさん達だろう。

 私は、初めて惑星「ナベリウス」に行った時のことを思い出した。

 あの時は、いきなりダーカーに襲われるわ、周りの人たちはアフィン以外殆ど倒されるわで、自分達が生き残るのに必死だった。まぁお陰でマトイと出会えたけど……

 その様なことを考えながらすれ違う冒険者たちに心の中で、がんばれ……と応援をした。

 そういえば、白髪の少年は見かけなかった。今日はダンジョンに居ないのかな?

 

 

 

 時間もまだまだ余裕があったため、私達は6階層へ降りることにした。

 ここにきて、ようやくモンスターと遭遇した。

 資料の情報からウォーシャドウってモンスターだろう。

 

 私達はダンジョンに入る際に役割分担を決めていた……大雑把にだけど。

 私が前衛、後衛がマトイ、補助をトラ、トラは私の後ろマトイの前の位置で臨機応変に動いて貰う様にしている。

 

 ウォーシャドウは、前方に数体いた。

 そのため私が突撃して、フォトンを乗せた攻撃を行った。

 私の攻撃を受けたウォーシャドウ達は、呆気なく霧散し魔石へと姿を変えた。

 

「うーん。弱い?」

 

 私は魔石と自分の武器を見比べながら首を傾げた。

 

「まだ上層だし、強い敵は出ないのかも?」

 

 マトイはそういいつつも周りを警戒している。

 まぁ敵は弱かったけど資源も手に入ったし良いのかな?

 そう思いつつトラに資源の回収をお願いし、私も警戒しつつ周りを見渡した。

 

 そうしていると、壁のほうから破砕音が聞こえてきた。

 そちらに目を向けると、壁の中からモンスターが現れようとしていた。

 現れたのは、先ほど倒したのと同じくウォーシャドウだった。

 

 モンスターってこうやって出てくるんだ……不思議だなぁ……

 他の惑星だと原生生物は、茂みや物陰から現れた。ダーカーは、空間侵食して出てきた。

 世界が変わると、出現方法も変わってくるのかな?

 

 私はそのようなことを考えつつ、壁から出てきたモンスターへ向け武器を振るった。

 

 それからもちょくちょくモンスターに遭遇したが、強力なモンスターに遭遇することなく12階層まで走破した。

 そこで時間を見てみると、かなり遅い時間となっていたため一度帰還することにした。

 まぁ続けてもいいんだけど、一人じゃないしね。

 

 私は帰還するために、テレパイプを13階へ続く道の近くに設置した。

 フォトンが使えないと使用できないけど、念のため分からないようにカモフラージュを行い拠点へ帰還した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私達はとりあえずダンジョンから帰ったらお風呂だよね?という謎のマトイの誘いにより湯船に浸かっている。

 

 今使っている家具類はすべて私が用意したものだ。

 そのため一人用しかなく、お風呂もそれぞれ別の物を使っている。

 マトイが入っているお風呂は、花びらを浮かばせている物、私が使っているのは、ダンジョンで感じたマザーシップの感覚を思い出して、マザーシップで作られている水を使ったお風呂を使用している。

 トラは専用のお風呂があるため、そちらを使用して3人並んで湯船を堪能していた。

 

「今日のダンジョン探索はどうだった?」

 

 私は皆に今日の感想を聞いてみた。

 

「うーん。壁からモンスターが出てきた時はびっくりしたけど、でもダンジョンの中は落ち着く感じだったかなぁ?こう、なんとなくシオンさんに抱きしめられてるみたいで」

 

 そういってマトイは、湯船に深く沈み目を閉じた。

 きっとダンジョンでの感覚を思い出しているのだろう。

 私もマトイと同じ感覚だった。きっと2人の生まれが特殊なせいだろう。

 あのダンジョンにはきっと何かがある……私はそういう予感がした。

 

「トラはどうだった?」

 

「マスターの期待に応えられるよう、頑張りました」

 

 そう言い、口元に笑みをたたえていた。

 口調は相変わらずだけどいい傾向だ。

 この調子で、どんどんコミュニケーションを図っていこう。

 

「私もマトイと同じ感覚だったけど、見る物すべてが新鮮で楽しかったなぁ。食糧庫(パントリー)だっけ?あのモンスターまっしぐらなの見てると、ちょっとモンスター倒すのが可愛そうになったよ」

 

 私も感想を述べ湯船に深く沈み、今日見たことを思い出していた。

 そして、明日もいろんな発見があるんだろうなぁ……と期待しつつ目を閉じた。

 

 

 

 お風呂から上がりテラスで涼んでいると、ジョージからの通信がきた。

 なんでも今日提出したダンジョンの環境データでオラクル側も大騒ぎになったらしい。

 シャオはあまり乗り気でなかったため、追加の調査員が派遣される以外は大きく変わらないらしいけど……

 

 私もシャオに賛成かな。

 この世界のことはこの世界の人達で……てのが基本的な私の考えだ。

 但し、目の前で助けられる事があれば手を出しちゃうけど……

 後は、ダーカーが関わっていたら私達のせいになるからがんばるけどね。

 

 ジョージにはやりすぎないようにしてね、とお願いし通信を終えた。




ダンジョンの設定は原作でも語られていないため、オリ設定マシマシてお送りしております。
原作でその辺りが出てきたら練り直すかも?


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十話

短いですが、18階層到達まで


 ダンジョン中層

 13階層から始まるその地帯は、最初の死線(ファーストライン)と呼ばれ、幾多の冒険者の命を奪っている。

 それはモンスターの強さもさることながら、そのモンスターが徒党を組んで襲い掛かっている所謂「怪物の宴(モンスター・パーティー)」と呼ばれる現象が、発生しやすいためであった。

 駆け出しを卒業し、新たな冒険を行うために訪れる数多の冒険者をその顎で食らい尽くさんとする階層である。

 そのような危険な階層を、3人の少女が1列に並んで進んでいる。

 先頭と中間を歩くのはエルフの小柄な少女、最後尾を歩くのはヒューマンの少女であった。

 そして階層は、新たな獲物が来たと喜び勇むかのようにその顎を少女たちに向けようとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 うん。

 13階層から一気にモンスターの数が、増えたような気がする。

 まぁ弱いんだけど……

 

 私達は、モンスターがいた場所に落ちている魔石を協力して拾っていた。

 理由は良く解らないけど、魔石を拾うのはマナーらしい。

 

 自分の周りの分を拾い終わった私は、改めてこの中層と呼ばれる階層を見渡した。

 

「穴ぼこだらけだね……」

 

「えーっと、穴に落ちたら下の階層にいけるらしいよ?」

 

 マトイも拾い終わったのか私の方へ近づいてきて、近くにある穴を覗き込んでいる。

 

「マスター、魔石の回収終わりました」

 

 トラも終わったようだ。

 

「それじゃ少し休憩しようか?ここまでずっとモンスター倒しながら来たし」

 

 ダンジョンのモンスターはある程度倒すと、再度壁から出てくるまでインターバルが出来るらしい。

 私は周りを見渡しモンスターの気配がないことを確認すると、そう提案し近くの岩に腰掛けた。

 

「しかし数だけはすごかったね」

 

「周りに冒険者の人が居ないから?」

 

 マトイも私のそばに座りつつ、周りを見渡してそういった。

 

 今の時刻は深夜である。

 なぜこのような時間にダンジョンに入っているかというと、朝にシャオに呼び出されたからであった。

 渡したダンジョンの環境データがやはり気になったらしく意見を聞きたいと言われ、私とマトイは一度オラクル船団へ戻っていた。

 といっても、今の段階ではあまり話せることはなかったんだけど……

 とりあえず調査は現状維持で、もし何かあった時はお願いねと言われた。

 それで戻ってきたら夕方だったので、ダンジョンの調査は明日にしようかと話したら、マトイは行きたかったらしく、夜中まで待ってダンジョンへ向かうとにした。

 

 まぁ、行きたかったのは私なんだけど……マトイが気を利かせてくれた様だ。

 

 そういえば、最近シャオの姿見てなかったから久しぶりに見たよ。

 

 

 

 暫く休憩をした後、私達は1階層ずつ降りて行った。

 

 途中幾度かの戦闘を繰り返し、17階層にたどり着いた。

 

 

 

 おおぉ、ここが17階層かぁ。

 それでこの他と違う色した大きな壁が「嘆きの大壁」っと。

 

 私は今までの階層と雰囲気の違う17階層をあちこち眺めながら歩いていた。

 この階層には、迷宮の孤王(モンスターレックス)である「ゴライアス」という巨人のモンスターしか居ないらしい。

 今はそのモンスターの姿が見えないってことは、誰かに倒されたのかな?

 ちょっと見てみたかったけど次の機会かなぁ。

 倒されると当分出てこないらしいし。

 

 私はもう一度「嘆きの大壁」を見つめ満足し、出口のトンネルへ向けて歩き出した。

 ちなみにマトイとトラは、先に出口の方へ向かっていた。

 私が「嘆きの大壁」をしばらく眺めていたいと言ったからだ。

 

 出口のトンネルの方へ向かうと、マトイとトラがトンネルの前で並んで待っていた。

 マトイはにこにことトラもどことな嬉しそうな雰囲気で、私を出迎えてくれた。

 

「ミケ、満足した?」

 

「うん。堪能したー」

 

 合流した私達は、当初の目的地である18階層へ向け歩みを進める。

 

 

 

 

 

 そしてトンネルを抜けるとそこには、ダンジョンの中であるにも関わらず緑あふれる広大な大地が広がっていた。

 

 

 

 

 

 うん。

 やっぱり情報で知るのと、実際に見るのとでは大違いだね。

 今は丁度日中の時間のようで景色は明るい。

 この階層にある水晶が時間によって発光し昼夜を作っているそうだ。

 本当、このダンジョンは不思議が一杯!

 

 

 

 私は景色を見渡しながら、資料に書かれていたこの階層の事を思い出していた。

 私達がいる場所は、南側で森林地帯が東側まで広がっており、北側には湿地帯、そしてリヴィラの街は西側の湖に囲まれた島にあるらしい。

 マトイも目の前の景色を見て目を丸くしている。

 トラも不思議そうに周りを見渡していた。

 

「すごいね。まるで外にいるみたい」

 

「座標は地下を示しております。しかしながら目の前は地表にしか見えません」

 

 私は二人を見ながら、この感動を共有できる仲間と居れて嬉しかった。

 オラクルでの冒険でも、また違った不思議な場所を目にしてきたが殆どの場合1人だった。

 最初の内は興奮した……しかしその内楽しさと虚しさという、二つの感情がごちゃ混ぜになるという何とも言えない感覚に陥っていた……

 

 しかし今は楽しいと嬉しいという感情になっている。

 やっぱり、冒険はみんなでやるのが一番!

 ミケは改めてそう思うと、少し後ろに下がり目の前に広がる景色をバックに2人の姿をその目に映した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それからミケ達は、一度拠点へ戻ることにした。

 疲れはそれほどないが、折角のいい場所であるため時間を掛けて見る準備と、他の人達(アークス)とも共有したいという思い、後単純に18階層が想像以上に広く3人では調査しきれないと判断したためである。

 

 オペレーターを通じ調査隊を編成して貰うよう要請をしたあと、マトイの一声でまたもや湯船に身を委ねている。

 

 

「うーん。マトイ?これって毎回やるの?」

 

「当然だよ!ダンジョンから出たら皆でお風呂、これからの習慣だよ?」

 

 マトイの言に、ミケは何とも言えない表情でにこにことこちらを見ているマトイを視界に収めていた。

 

 

 

 ……ふふ、マスターとお風呂はここに来てからが初めてでしたが、良いものです。

 

 トラも満更でもない様であった。

 




18階層は、原作でもいろいろ書かれているためじっくりと周りたいと思います。


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十一話

18階層の調査です。


 ダンジョン18階層

 この円柱の形をした広大な階層は、モンスターが発生しない階層「安全階層(セーフティポイント)」の一つである。

 そして何よりも目を引くのが、ダンジョン内であるにも関わらず緑豊かな土地を有し、それを彩るかの様に点在する水晶柱がこの階層の景色を彩っている。

 中層以降を攻略する冒険者たちの一時の休息の場、はたまた物好きな好事家の旅行先として愛されている。

 いつしかこの階層は迷宮の楽園(アンダー・リゾート)と呼ばれるようになっていた。

 ただ一つ忘れてはならないのは、ここはダンジョンである。無防備な姿を晒すと、途端にダンジョンの供物へと成り果てる。ここはそういう場所である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 戻ってきました18階層。

 今回はこの階層調査のため大人数で来ている。

 私達は調査隊に同行していろいろ見て回るつもりだったんだけど……

 調査隊の人達は目の色を変えて「俺はここ……私はここ……」と調査場所を先に決めていた。

 アキさんと同じ匂いのする人達だった……

 で、一か所だけ残った場所があって結局私達は残った場所、リヴィラの街を調査することに。

 それと基地の設置場所については、私達がもたらした環境データと事前入手した情報よりある程度当たりを付けたらしい。なのでそっちもお任せすることにした。

 この階層にはモンスターの生態等を研究する施設も作るそうだ。そのため少し大きめな基地になるらしい。

 ということは、街から離れて作ることにしたのかな?

 

 私達はいつものメンバー──マトイとトラと私──3人でリヴィラの街目指して出発した。

 

 

 

 

 

 南部の森林地帯を抜けると、目の前には大草原が広がっていた。

 その大草原には随所に水晶柱があり、大草原をアクセントとして彩を与えている。

 そして階層の中央部辺りに大樹があり、根元に19階層への入り口が存在している。

 そのような風光明媚な場所をミケ達は進んでいた。

 

「うーん?モンスターは発生しないって聞いてたけど、モンスターはいるんだね?」

 

 マトイは天井を見上げ空を飛ぶモンスターらしき姿を眺めていた。

 

「他の階層から来るんだって。セレーネさんたちがそう言ってたよ」

 

 ミケもマトイに釣られて空を見上げた。

 

「それじゃ、言葉通りの安全階層(セーフティポイント)という訳でもないんだ?」

 

「マスター、距離は遠いですが複数のモンスターの反応が在りますのでご注意下さい」

 

 トラがモンスターを探知し注意を促してきた。

 

「モンスターは迂回しよっか。今日はそういう気分でもないし」

 

 ミケは気分が乗らないとでも言うように溜息を吐きながら、皆に提案した。

 

「でしたら、北周りで行くのがよろしいでしょう。大樹を経由すればモンスターに遭遇しません」

 

 ミケ達はトラの案内に従い大樹を目指し進路を変更した。

 

 

 

 

 

 18階層の中央部に位置する場所に、中央樹と呼ばれている大樹が存在している。

 そしてその根元には、19階層へ続く穴が冒険を求める冒険者達を誘うかのように口を開けていた。

 

 

 

 ミケとマトイは、懐かしい物でも見ている様な表情をし大樹を見つめていた。

 

「惑星ナベリウスのお気に入りの場所にそっくり」

 

 マトイはそう言い大樹を見上げた。

 ミケは言葉にはしてないが、『今』のミケとマトイが最初にあった場所に似ている……と懐かしそうに大樹を見上げるマトイと大樹を見つめていた。

 ミケ達はモンスターの気配がないことを確認した後、暫く休息をとることにした。

 

 

 

 

 

 リヴィラの街

 18階層の西側に位置する湖にある大島、その一画に建てられた冒険者の街である。

 ギルドの目が届かないこの場所では、地上と比べ相場が非常に高く設定されており、この街で店を経営している冒険者は営利を貪っていた。

 しかしながら補給をすることが難しいダンジョン内では、訪れる冒険者達にとってまともに補給できる場所であり休息もできる。

 また、戦利品などもここで処分できるため高い料金には目をつむりつつ、冒険者達の前線基地として利用されている。

 武器防具を始め、食料や各種道具類など冒険者にとって必須なものや、酒等の嗜好品、地上では手に入らないご禁制の品々も扱われている。

 そしてなによりも、リヴィラの街はよく壊滅する。

 モンスターの大量発生等により、過去何度も文字通り街が壊滅していた。

 しかし壊滅しても、この街を愛する──お金を愛する──住人達により、何度も復興されるというバイタリティー溢れる街である。

 

 

 

 

 

 やってきましたリヴィラの街。

 丈夫そうな木製の外壁に囲まれているけど、所々修復したような箇所があったり、建物も天幕や木の小屋と言った簡素な建物が多い。

 なんでも稀に発生するモンスターによる襲撃で、この街は何度も壊されては復興するということを繰り返しているらしい。

 この地に住む人たちの力強さを感じるよ。

 そして何よりも目を引くのが、街の至る所にある水晶。

 その水晶が街の中を彩りとっても綺麗。

 

 私達は南側にある門から街に入り、丁度中央付近にある広間まで来ていた。

 

「この水晶の柱、双子みたいだね」

 

「えっと、そのものすばり双子水晶だって」

 

 私はセリーネから以前貰った「リヴィラの街おすすめポイント」と書かれたメモを見ながら答えた。

 

「うーん。なんというか調査というよりは、観光に来た気分?いいのかなぁ?」

 

 マトイは双子水晶を見ながら苦笑いをしていた。

 

「まぁ観光も調査の一環だよ!それに、報告をちゃんとすればいいし」

 

 私はそう力説した。

 私の方は、観光する気満々である。

 

「そうだね」

 

 マトイは観光気分に切り替えたようだ。

 トラの方は真面目に街の様子や行き交う冒険者達、売り物などのチェックをしていた。

 私とマトイも観光しつつそのあたりはある程度チェックしているので、後で情報をまとめて提出すれば立派な報告になるだろう。

 

 

 

 次に私達が向かったのは北西にある高台。

 その道中は、水晶と岩壁に囲まれた細い道になっている。道を抜けると、視界が一気に広がり手すりの付いた展望台のようなところに出た。

 私は高台から見える景色を見渡した。

 

「ここなら街を一望できるね」

 

 マトイは手すりに掴まり、眼下の街の様子を見ている。

 

「こうしてみると街の中に水晶があるんじゃなくて、水晶の林の中に街があるみたい」

 

 私もマトイの傍に行き、同じく街の様子を眺めた。

 

「オラリオの街とはまた違った感じがして良いね。トラはどう思う?」

 

 私はトラが居た場所を見たけど、別の冒険者と何やら話し込んでいた。

 何かあったのかな?そう思いトラの方へ行こうとすると、丁度話が終わったようでトラの方から近付いてきた。

 

「トラ、何かあったの?」

 

「いえ、街の中で聞いた噂話の確認をしておりました」

 

 トラによると、何日か前に大規模な集団が19階へ向けて移動していたとの話を聞いたそうで、そのことについて確認していたらしい。

 

「それで何かわかったの?」

 

「ロキ・ファミリアというオラリオでも屈指のファミリアが、遠征をしているそうです」

 

「やっぱり、下の階層は大変なんだ?」

 

「モンスターも強力になりますが、どちらかというと帰りのことが大きいようです」

 

 私達は1日行けるところまで行ってテレパイプで戻ってを繰り返していけばいいけど、普通は進んだ分戻らないといけない。

 そのため下層を攻略する場合は、大規模な遠征という形で行われるそうだ。

 それでその様な遠征をよく行っているのが、ロキ・ファミリア等の規模が大きく、優秀な人たちが揃っているファミリアだそうだ。

 

「それじゃ、わたし達も人数を揃えて進んだほうがいいのかな?」

 

 いつの間にかマトイも近くに来てそう零した。

 

「その辺はジョージと相談かなぁ?」

 

 アークスの惑星「オラリオ」の調査は、オメガの時みたいに私が中心になっている訳ではない。そのためアークスとして、どの様に調査を行うかはジョージが決定している。

 今回得た情報を元にどの様に進めるかを確認する必要がありそうだ。

 

「まぁ今考えてもしょうがないね。私は行けるところまで行ってって考えてたけど、後続の人達の事もあるしね。それよりも今はこの街を堪能しよう!」

 

 そう言って私は次の場所へ2人を誘った。

 次の場所は一番のお勧めである北側だ。

 

 

 

 北の街路は群晶街路《クラスターストリート》と呼ばれており、水晶壁に囲まれた通路となっている。

 そしてこの道は唯一整備されている。きっと目玉の場所であり自慢の通りなのだろう。

 

「すごいねこの壁、まるで鏡みたい」

 

 マトイは水晶の壁に映る自分の姿をみて、楽しそうにしている。

 

「うん。この街で一番のお勧めポイントだって」

 

 私はマトイと同じようにしている他の冒険者達を眺めた後、マトイと同じように壁に映る自分の姿を見つめた。

 

 

 

 私達は暫く群晶街路《クラスターストリート》を堪能した後、中央広場に戻ってきた。

 街の調査(観光)としては、西側と東側が残っているけど展望台である程度確認出来ている。

 そのため、他の班の状況を確認することにした。

 ……皆さんもとても楽しそうに調査を行ているみたい。

 

 それから基地の設置場所は、北東に決めたらしい。

 人があまり来ておらず、北側にモンスターが群れている地帯があるため、研究にもってこいの場所だそうだ。

 私達も一度様子を見に行こうと思っていると、周りが薄暗くなってきた。そろそろ夜の時間らしい。

 

 他の班の人達は一度帰還して、明るくなったら再開するそうだ。

 私達は泊りの用意はしていたけど、結局他の所の調査はお任せになっちゃったからなぁ。

 

「どうしようか?」

 

「泊るにしても、街では無理だよね?わたし達お金そんなに持ってないし……」

 

 マトイの言うように、この世界のお金をあまり持っていない。

 使う機会が殆どないのと、かさばるためである。

 

「どちらにしても、街の外に出よっか」

 

 私達は街がある島の外まで移動する事にした。

 他の階層と違って、薄暗く青い色の水晶がぼんやり光っている以外の光源はない。

 そのため私達は、基地を設営しているポイントまでの移動を諦め帰還することにした。

 

 私がテレパイプの準備をしていると、マトイから声が掛けられた。

 

「ミケ見て!」

 

 マトイは、天井を指さしながら興奮しているようだ。

 マトイが指さす方を持て私も目を見開いた。

 

「ここダンジョンだよね?」

 

 天井には星空が広がっていた。

 トラが近くにある青い水晶を指さしながら「この水晶の光が、星のように見えている様です」と答えた。

 

「すごく幻想的な光景だね……よし、今日はここに天幕張って星空を堪能しよう!」

 

 

 

 私はテレパイプを片付けて天幕の準備を始める。マトイも賛成なのか、私の手伝いを買って出た。トラは無言ではあるが賛成なようで、準備の手伝いをしてくれている。

 天幕を張り終えた私達は、天井に煌めく水晶の星を眺めながら夜を過ごすことにした。

 




結局、リヴィラの街の要所観光になりました。


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十二話

遅くなりましたが、12話目です。


18階層が明るくなり、私達は野営の片づけをした後、北東に設置中の基地へ向けて出発した。

私とマトイは結局、ずっと天井をみて過ごしていた。

トラはというと、火を起こしたり、飲み物を用意したり、と私達の世話をしてくれた。

最初は、手伝うよと言ったんだけど、頑として拒否されてしまった…なんでも私の世話はトラの仕事らしい…

トラの初のわがままということで、お任せすることにした。

うん、すごく快適でした…

で、今はトラのナビに従い、基地目指して移動中。

 

的確にモンスターを検知し避けながら進んでいるので、モンスターに遭遇する事もなく無事に、基地予定地へ到達した。

 

基地予定地では、沢山の人達が忙しく作業を行っていた。

昨日見た時より人が増えているということは、先に転送装置つけたのかな?

私は、基地の担当になっていた人を探して話を聞いてみた。

なんでも、ダンジョンのフォトン量が多いため先にこちらを完成させるべく、今建造中のベース基地から人を引っ張って来たそうだ。ベース基地の方は、ある程度の機能があるので、後回しにしたらしい。

確かに、ここのフォトンが使えるようになれば、後々楽になる。

基地の順番としては、理にかなっているのかな?

建設作業をしている人たちとは離れて、武器を手に巡回している人達もいた。

ベース基地で見かけた防衛隊の人だったので、ベース基地のことについても聞いてみることにした。

ベース基地は、最初の襲撃以来、平和そのものだそうだ。

それに、オラクル側からも増員が来ているため、この地での戦闘に慣れている防衛隊の人が、増員された人達と入れ替わり、こちらに来たそうだ。

私達も、巡回の手伝いをしようと提案したが、手は足りているそうなので、自由にしてくださいと言われた…

 

「どうしよっか?他の調査隊の人達の所にいってもいいけど。」

 

他の調査隊の人達は、アキさんと同じのりの人達だから振り回されそう…。

 

「基地の建築も調査の方も任せられそうだから、一度戻る?」

 

私が悩んでいると、マトイがそう提案してきた。

 

「19階層以降の調査方針もありますし、戻られるのがよろしいかと。」

 

トラも戻ることに賛成の様だ。

 

確かに、19階層以降の調査は、ジョージに相談が必要だろう。

 

「それじゃ、一旦戻ろっか。ここからならベース基地に直接行けるし、ついでにジョージに報告しておきましょ。」

 

 

 

 

 

ジョージは、ミケ達からの報告を受け今後の方針について悩んでいた。

オラリオの調査において、特にダンジョン調査で、いずれは探索系ファミリアとの接触は、必ずあるだろう。

 

「流石に、いきなり排斥にでるとは考えにくいが…」

 

アークスは、オラリオにとっては現状部外者である。そのためちょっとしたことで排斥される可能性もある。現在は、商業系…特に食料など必需品を取り扱うファミリアとの交流を積極的におこなっており、人員も派遣している。そうやって、この世界の住人達に、アークスが有用な存在であると、認識を広めていく様にしているが…

 

「とはいえ、結局物を言うのは武力か。」

 

以前オラリオの有力なファミリアが、遠征に失敗し有力な人員を失ったそうだ。そこから今まで黙認してきた他のファミリアが、排斥行動を起こし、結果オラリオを追放されたそうだ。

そのため、ある程度の武力を示す必要があると考えられる。

 

「しかしなぁ…」

 

ジョージは、ある報告書を手に取りため息をついた。

アルテミス・ファミリアと防衛隊との模擬戦闘訓練の報告書である。

戦闘部と教導部へ現状の能力を報告するため、行われたものである。

 

まず近接戦

アルテミス・ファミリア  アークス(第2世代)

〇 主力陣のメンバー   × 一般クラス

△ 主力陣のメンバー   △ 隊長クラス

× 主力陣のメンバー   〇 指揮官クラス(ジョージ)

△ セレーネ       △ 指揮官クラス(ジョージ)

 

「彼女達強かったなぁ…」

 

ジョージも測定のため駆り出されていたが、セレーネと引き分けになっている。

アンタレス戦では不覚を取っていたようだが、あれは数に押され、連携がうまく取れなかったためであろうと予測できる。

 

次に中距離戦

中距離戦では、アルテミス・ファミリア側が弓、アークス側は、弓使いがいなかったため銃となっている。

アルテミス・ファミリア  アークス(第2世代)

△ 主力陣のメンバー   △ 一般クラス

× 主力陣のメンバー   〇 隊長クラス

△ セレーネ       △ 隊長クラス

 

ジョージは、第2世代であり近接の適正しかないので、見学である。

今回は特殊な模擬弾を使用しており、肉体にあたった時どの程度肉体にダメージが入るか測定できるようになっている。勿論、実際に肉体へのダメージが入ることは無い。

まず銃撃は、躱せないようだった。弾が見えなかったという話だ。

特殊弾の測定結果では、肉体ダメージは、期待できる数値ではなかった。

精々が足止め程度であろう。

弓の攻撃については、アークス側にも弓があるため、こちらは十分対処可能であった。

 

最後に遠距離戦について

此方は、VR訓練所とこの世界の魔法についてのサンプリングが必要なため、遠距離戦(魔法戦)の模擬は、現状無理である。そのため、この世界の魔法とテクニックの違いについて纏めてある。

 

魔法

詠唱が必要で、長いほど威力が高い。

先天的に使用できる種族が使用する。

後天的に使用できる者もいるが非常に少ない。

1人当たり多くても3種類までしか使用できない。

 

テクニック

詠唱不要、但しフォトン制御に多少時間が必要。

種類により、威力が変わる。更に、使用者の能力により威力が変わる。

第2世代では、適正者のみが使用可能。

種類は、攻勢用、補助用、回復用で複数ある。

 

魔法については、サンプルが少ないため大した情報は得れていないが、汎用面ではテクニック、威力では魔法が強くなるのかもしれない。

 

アルテミス・ファミリアの強さが、どの程度の位置にいるかは不明であるが、十分な脅威と認識できる。

更にそれ以上の強さがあるという、オラリオのファミリアと対峙する事になった場合は、現状の戦力では対処不可であろう。

 

「まぁ、A.I.Sを出せばこっちが有利だろうが、それは本末転倒だからなぁ…」

 

A.I.Sは、対敵性生物(エネミー)用である。

それにそんなものを出してしまったら、それこそこの世界の人達に、排斥されてしまいかねない。

A.I.Sは、ベース基地に配備されてはいるが、現状ジョージの許可なく使用出来無いよう封印をしてある。

 

「まぁ、それでも守護輝士(ガーディアン)達なら何とかしそうだが…」

 

ジョージは、そこまで考えて、一旦考えをリセットした。

確かに直接対決となればそうなるだろうが、我々は争うために来たわけではない。

あくまで、友好的な交流を行うためである。

 

「そういう意味では、地球は楽だったな。」

 

地球では、アースガイドという組織のみと交流をしている。

アースガイドが、地球の主要な国とパイプがあるため、アークスとしては、アースガイドと交流すればおのずと、地球全体との交流となっていた。

 

オメガ世界は、特殊な状況であったため除外するとしてやはり龍族との交流時の様に、こちらの有用性を全面的にだして認知してもらうしかない。

 

「この品々が、我々の価値を示す試金石となってくれればいいが。」

 

ジョージの目の前には、大小様々なものが置かれている、フォトンで動作する者を魔石を代用して動作可能にした物の試作品である。

この中から、現状オラリオに無いもので、この世界に劇薬とならない物を選び、売り出す予定である。

 

ジョージの仕事と悩みは、尽きることがない…

 

 

 

 

 

 

 

 

第xxx獣耳定例会

諸君、現在我々が出向している先の神についてだが…

 

…あーデメテル様だっけ?巨乳の

 

…おっぱい大きい神様だね

 

…俺は、もう少し小さい方が好みだな

 

…その、デメテル様に獣耳をつけるとしたら何が似合うと思う?

 

ガタン

皆が一斉に立ち上がった。

 

…そうか、我々は獣人族の皆さんの調査に目が行ってしまいがちだったが、本来は獣耳を広めるための活動がメインだったな!

 

彼らは、最初に見かけた女性アークス(きつね耳)からの衝撃により、獣耳を全アークス(当時は意識していなかったが、女性アークスのみ)にを信条としていた。

 

…あぁ、それでオラリオに居る獣人族の皆さんの調査は継続するとして、本来の我らの目的の範囲を広めてみるのも良いかなと思い、まずは娯楽が大好きというこの世界の神に、アプローチをしてみようと思ったんだ。それでまずは身近なデメテル様だ!

 

…それで?そういうことを言うのであれば、持論はあるのだろう?

 

…無論だ!デメテル様はおっとり巨乳!であればきっと、犬耳(たれ)が、似合うはずだ!

 

…ふむ、一理あるが、俺はきつね耳も捨てがたいと思う。

 

…いやいや、ここはやはり、ねこ耳だろう!

 

…ねこ耳は、巨乳向きじゃないだろ!

 

…うさ耳(たれ)

 

彼らの会議は白熱していた。

とても罰当たりな気もするが、彼らに悪意は無い。あくまでもどの獣耳が似合うかを話し合っている?だけだ。

 

…なかなか意見が纏まらないか。

 

…それじゃ試しに、今出たものをデメテル様に付けてもらうってのはどうだ?

 

…それを以前、アークス内でやろうとして散々な目にあっただろう?

 

彼らは、以前女性アークス達に獣耳の素晴らしさを説いて周ったことがあった。

反応は、殆どの場合は白い目で見られ、少なくない罵倒を浴びせられている…

一部友好的な人もいるがごく少数であった…ちなみにその人達とは「獣耳フレンド」として今も交流がある。

 

…では獣耳を送り付け、反応をみるか?

 

…いや、流石にそれはまずいだろう?

 

…ではどうする?

 

…さりげなく獣耳アクセを近くにおいて、様子を見るってのはどうかと思うんだ。

 

…そうだな。それでいってみるか!

 

…では各自、明日から押しの獣耳を持参して、デメテル様を見かけたら近くにそれを置いて反応を見るように!

 

 

 

デメテルは、最近大口の取引先が出来たため、非常に忙しい日々を送っていた。

しかし、その大口の取引先相手より手伝いと称して、人を派遣して貰っているので助かってもいたが…最近その人たちが、自分を目にすると、懐から獣人族の耳を模したアクセサリ?を出して、自分に見せつけるように、近くに置いて立ち去り、こっそり私の様子を覗っていた…

デメテルは、彼らの行動に暫く頭を悩ませることになる…

 




アークスVSダンまち冒険者としては、こんな感じにしてみました。
あくまでタイマン勝負の場合です。
集団戦になるとまた変わってくるかと思います。
セレーネ達は第2級冒険者なので、そこまで一般アークスは弱くはないはず?


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十三話

そろそろ原作が近づいてきました。


18階層の報告をした後、ダンジョンに戻っても手伝えることが余り無いため、オラリオの街を散策することにした。まだ見て無い所もあるからね。

 

「何処いこっか?」

 

私は、「オラリオ観光案内」と書かれた冊子を眺めて、まだ足を踏み入れていない地域の情報を見つつ、どこに行こうか考えを巡らせた。

 

まずは、北側

北側は、この世界の各種族向けの衣服関連のお店が集中している。

服は欲しいけど、オラクル製の服と違って、体形自動調整機能等の便利機能や、強度に問題があるため、現地の服を直接着ることはない。この世界の服を着れるようになるのは、衣食部門の研究待ちかな…

 

次に、東側

東側は、旅行客用の宿屋と闘技場がある。後は、露店が多くあるため食べ歩きにもいいらしい。

ここは、最初にオラリオに来た時に通過しただけなので、改めて見るのも有りかな?

 

後は、南側

南側は、オラリオ最大の繁華街となっている。

劇場などの娯楽施設や、賭博場などもあるらしい。

うーん、ラッピースロットは好きだけど、そういうのはあるのかな?どちらにしても、お金あんまりないから今回はいいかな…

 

南西側

待ち合わせの場として有名なアモールの広場、後は南西にある街からの商品を扱う市場や、ダンジョン産の商品、魔石製品を扱うお店が多くあるらしい。

この辺りは、他のアークス達が現地の製品調査で良く通っている。

何個か、製品を見せてもらったけど、魔石を使った灯や、水を浄化する物など色々あった。

食料品とかもあるみたいなので、現地料理の再現に期待しよう。

 

「ミケ、どこに行くか決めた?」

 

「うーん、東側かなぁ。」

 

「最初に来た時、通ったよね?」

 

「他の場所は、お金沢山ないと楽しめなさそうだし、東側は通っただけだから…」

 

「そっか、ミケの行きたいところなら何処でもいいよ。」

 

「トラはどうする?」

 

「私はメンテナンスがありますので、残念ですが遠慮します。食事の準備をしておきますので、楽しんで来て下さい。」

 

トラは、メンテかぁ…こればかりはしょうがない。

 

「それじゃ、トラの食事楽しみにしてるよ!」

 

私とマトイは、トラに挨拶をしオラリオの東側へ向かった。

 

 

 

「あっ、あの、こんにちは!」

 

バベルの付近を歩いていると突然声を掛けられた。はて?誰だろ?

声の方を見ると、白髪の少年がいた。

 

「あー、引越した日以来だね。」

 

「こ、この前は済みませんでした。目の前の建物に驚いてしまって、碌に挨拶ができませんでした!」

 

確かに、一晩で瓦礫の山が建物に変わってたら、びっくりもするか。

あの時は物凄く挙動不審な感じで、ダンジョン行きますっていって走っていったっけ?

 

「それじゃ改めて、隣に引越てきたミケだよ。よろしくー」

 

「マトイだよ、よろしくね。」

 

「ぼ、僕は、ベル・クラネルです。よろしくお願いします!」

 

ちょっと緊張している感じで挨拶してきた。人見知りかな?

 

「ベル・クラネルさんは、ダンジョンの帰りかな?」

 

「あっ、ベルでいいです。いえ、休憩に戻っただけです。ダンジョンに戻ろうとしたら、ミケさんを見かけたので…」

 

そう言うベルくんを見ていて、ふと思った。

 

「マトイとベルくんって、並んでいると姉弟みたいだねぇ。」

 

「えっ?そうかなぁー?」

 

「え、えええ~~~~~~!?」

 

まぁ、髪と瞳の色以外は全然違うけど。

しかし、リアクションが大きいなぁ…突然のオーバーリアクションに少しびっくりしてしまった。

 

「よく見ると違うけどね。でも、この色の髪と瞳の組み合わせは、珍しいんじゃない?」

 

「た、確かに言われてみれば…」

 

「ふふふ、瞳と言えば、わたし達3人共、同じ瞳の色だね。」

 

「それじゃ、3人姉弟かな?」

 

「えっ!?ミケさんエルフじゃないですかぁ。」

 

流石に引っかからないか。もう少しリアクションを楽しみたかったけど…

そういえばアルテミスさんが、今度挨拶に来るって言ってたっけ。

 

「そうだ、ヘスティア様って今ホームにいるの?」

 

「神様は、バイトに行っています。」

 

神がバイト?

私は、訳が分からず首を捻る。

 

「僕達みたいな弱小ファミリアだと、生活が厳しいので…でもいつか僕が強くなって、神様を養えるようにして見せます!」

 

ベルくんは、鼻息荒く宣言した。

そういえば、1人しかいないって言ってたっけ…

 

「そっか、それじゃ頑張らないとね。」

 

「はいっ!」

 

ダンジョンに向かうベルくんと別れた後、私達は東の通りにたどり着いた。

この辺りは露店が多く見ているだけでも楽しい。

何件目かの露店を物色していると…

 

「美味しいじゃが丸くん!じゃが丸くんはいかがですかー!」

 

何処かで聞いた声が聞こえてきた。

声がした方を見ると、神であるヘスティアが露店で売り子をしていた…本当にバイトをしていたよ…

私達はヘスティアがいる露店へ向かった。

 

「おや、君はいつぞやのエルフ君ではないか!じゃが丸くん買っていかないかい?」

 

私はとりあえず2つ購入すると、アルテミスさんの件を伝えた。

 

「おや、僕は君に名前を教えたかな?いやはや僕も有名になったもんだ!」

 

ヘスティアは腕を組み、胸を強調させながらうんうんと感慨に耽っている。

 

私は、アルテミスさんに聞いたことを伝えると、ヘスティアは少し残念そうな顔になった。

 

「しかし、アルテミスかぁ、なつかしいな!君はアルテミスと知り合いかい?」

 

私は、この世界にきて初めてあった神である事を伝えた。

 

「それでアルテミスはいつ来るんだい?僕はバイトもあるから昼間は難しいけど…」

 

私はそれならと、ヘスティアが都合の良い時間を教えてもらった。夕方以降であれば問題ないらしい。

 

「それでは、アルテミスさんに伝えておきます。」

 

私達は、ヘスティアと別れ、東の通りの散策に戻った。

じゃが丸くんを齧りながら、露店に並んでいる商品を眺めつつ通りを抜けて、闘技場に到着した。

残念ながら中には入れないそうだ。その代わり近々怪物祭(モンスターフィリア)という、モンスターをテイムする様子を見世物にした催しがあるそうだ。怪物祭(モンスターフィリア)の最中は中に入れるそうなので、その時に来ると良いと教えて貰った。

まぁ、都合が合えば来てみるかな?

 

空を見ると日が大分傾いてきている。

 

「それじゃ帰ろっか。トラが食事の準備してくれてるし。」

 

私達は、闘技場を後にし拠点へ帰ることにした。

拠点に戻ると、丁度トラが食事の準備を終えて私達の帰りを待っていた。

 

「お帰りなさいませ、食事の準備ができております。お風呂についても準備しておりますので、食休み後皆で入りましょう。」

 

食事は良いとして、お風呂は皆で入ることは確定なんだね…

 

 

 

食休みの時に、ジョージから連絡が来た。

何となく想像してたけど、現地の大規模遠征隊がいる間は、19階層以降の調査は見送るそうだ。

遠征隊の近くでうろつくのは、相手を刺激する可能性があるため控えるとの事。

18階層まではいいのかな?って思ったけど、それは基地もあるから最悪の場合は、そちらに向かえばいいとの事。

 

「うーん、どうしよっか?」

 

「ダンジョンの比較的浅い階層は、モンスターに遭遇しておりません。そちらの調査をするのは如何でしょう?」

 

トラから、そう提案された。そういえばそうだったね…1-5階層はなぜかモンスターに合わなかった。

 

「あとは、まだ行ってない街の散策もいいかも?」

 

マトイからは、街の散策の提案が出た。

うん、こっちも捨てがたい…

 

「それじゃぁ、午前中は街の散策で、午後からダンジョンの調査かなぁ…」

 

「そうだね。」「了解しました。」

 

「よし!方針も決まったしお風呂入ろ?」「入りましょう。」

 

うん、皆一緒にお風呂入るの好きだね…

 




ヘスティアのバイト先は、何処にあるかわからなったので適当です。
次回の更新ですが、NGSのCβに参加するため、遅れるかと思います。



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十四話

大変遅くなりましたが十四話目です。


ダンジョン上層

1階層から12階層までの天然洞窟を模した階層であり、駆け出し冒険者達が、最初に訪れ経験を積む階層である。

しかしながら、オラリオに住む冒険者の大多数が、この階層から中々抜け出せない。

長い時間を掛け、様々な経験を積むことにより、成長を行う必要があるからだ。

そのため、碌な経験を積めず、時間ばかりが過ぎ、この階層で冒険者としての一生を終える者も数多く存在している。

それに、こういう言葉もある。

 

『冒険者は冒険をしてはいけない』

 

とあるギルド職員の言葉ではあるが、真実を突いている。

手っ取り早く、冒険者が冒険を行うには、自分より強いモンスターの相手をする…つまりは、命を掛ける事である。

血気盛んな駆け出し冒険者達が、功を焦りその命を燃え尽くしてしまうか、冒険者生命を絶ってしまうか…それらを事前に防ぐための戒めの言葉である。しかしながら、その言葉に耳を傾けず、多くの冒険者達がその命を燃やし尽くしている。

この様に、ダンジョン上層とは、大多数の冒険者達の活躍の場であり、燻る場所でもあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ここ数日、午前は街の探索、午後はダンジョン1-5階層の探索を行っている。

街の探索の方は服屋を周ったり、繁華街にも出かけてみた。

服については、どんな服があるか気になったので、覗くだけだったけど、和服っぽい服を見つけた。

聞いてみたら、極東ってところの服らしい。やっぱり、地球と同じ文化の並行世界なのかも?

繁華街については、残念ながら朝から空いているところは殆ど無かった。やっぱりこういう所は、夜に来るべきだね。

 

 

 

それからダンジョン探索の方だけど、かなり難航してる。

最初に来た時は、偶々だったのか、そこまで多くの冒険者は見かけなかったけど、今回は結構な頻度で、他の冒険者を見かけた。

始めは、駆け出しさんが多いのかな?って思ってたけど、装備やらを見るとそういう訳でもないみたい。

そのため上層の特に浅い所は、モンスターの奪い合いになっている様だった。

私達もモンスターを探しているんだけど、中々見つけられずにいた。

これはもう戦闘データを取るのは諦めて、姿だけでもって思って、戦闘の気配を感じたら見に行っているんだけど、結局他の冒険者に倒された後にしか遭遇できなかった。

 

「ここまで出会えないって、そんなことあるのかなぁ?」

 

「モンスターの反応を見る限りでは、そもそも数が少ないというのもあるようです。」

 

「湧いた瞬間に、他の冒険者さん達に倒されてるってことなのかな?」

 

私達は、揃って首を傾げながら、考え込んでいると、壁から破砕音が聞こえてきた。

 

「マトイ!トラ!やっと会えるかも!」

 

私達は、音のする壁の方へ武器を構え、モンスターが出てくるのを見守った。

出てきたモンスターは、小人のような姿をしたモンスターだった。

 

「資料にある、ゴブリンのようです。特徴が一致します。」

 

トラが、モンスターの名前を教えてくれた。これで戦闘データも取れそうだね。

私はようやくデータ取りできると、嬉々としてゴブリンに向かおうとしたら、私達の姿を見たゴブリンは、方向転換すると、一目散にダンジョンの奥へと走って行った…

 

「はい?」

 

私は突然の出来事に、呆然としたまま、ゴブリンの後姿を見送っていた。

 

「逃げちゃった…のかなぁ?」

 

「先ほどのゴブリンですが、私の探知範囲から離れてしまいました。」

 

マトイとトラも私と同じく、ゴブリンの後ろ姿を見送りながら呟いた。

 

「まぁこういう事もあるのかな?」

 

私達は、気を取り直して探索を再開した。

 

 

 

その後、何度かゴブリンに遭遇できるようにはなったけど、結局私達を見ると一目散に逃げて行った…

 

「今まで殆ど出会えなかったのって、わたし達を見て逃げてたからなのかな?」

 

マトイの呟きに、私とトラは何とも言えない表情をしてお互いの顔を見合わせた。

 

「とりあえず、ゴブリンの姿は見れたから…後は何が居たっけ?」

 

「1-5階層のモンスターは、先ほどのゴブリン、後はコボルトとダンジョン・リザードとフロッグ・シューターです。」

 

「…先は長そうだね。」

 

私達は、重い足取りで先に進む事にした。

 

 

 

暫く探索をしていると、見覚えのある少年が戦闘をしていた。

その少年…ベルくんは、コボルトと思わしきモンスターと対峙していた。

ベルくんは、自身の俊敏性を武器にしている様で、モンスターの攻撃を大きく避けながらモンスターに、少しずつダメージを与えていた。

暫くそうやって戦っている内に、モンスターの動きが鈍くなってきた。その隙を付いて、ベルくんは止めを刺し、モンスターを霧散させた。

モンスターを倒したベルくんは、額の汗を拭いつつ、周りを警戒するように見渡し、私達を見つけると驚いた様な顔をした。

 

「み、ミケさん!?どうしてダンジョンに?危ないですよ!」

 

ベルくんは、私達に近づいてくると、私達に怪我がないかを確認しつつ、心配そうな顔をしていた。

 

「あれ?ヘスティア様から聞いてない?私達は、ダンジョンの探索をしにオラリオに来たんだよ。」

 

「えっ?ということは何処かのファミリアの人ですか?」

 

ベルくんは、そう言えば、神様の事知ってたし…と呟きながら首を捻っていた。

私は簡単に、アークスという遠くから来た集団の一員であること、ギルドやファミリアには所属していないことをベルくんに説明した。

 

「まるで、古代に居た『神の恩恵(ファルナ)』を受けずに、戦っていた人達みたいです…」

 

ベルくんは、半信半疑な様子で私の話を聞いていた。うーん、この世界の人達的には、『神の恩恵(ファルナ)』無しで戦えるのは、不思議なのかな?

その様な話をしていると、壁から破砕音が聞こえてきた。

 

「モンスター!?」

 

ベルくんは素早く、破砕音のした方に向かって身構え、そして顔を引き攣らせた。

 

「嘘ぅ!?」

 

壁からは、6匹のコボルトが出現した。そのコボルトは、私達を見て一瞬怯むも、ベルくんを見ると、私達だけの時とは違い、ベルくんに向けて威嚇行動を取り出した。

 

ベルくんは、顔を引き攣らせつつ私達の方を一瞥すると…女の子は守らなくちゃ…と呟き、顔を引き締めコボルト達に対峙した。

 

うん、女の子扱いされたのは初めてかも…私は、若干震えているベルくんを優しく脇に押し退けると、武器を取り出しコボルト達へ向けて一閃した。

私の攻撃を受けたコボルト達は、一撃で霞となって消え魔石に姿を変えた。

 

「ええっ!?い、一撃っ!?」

 

ベルくんは、驚愕した様子で私と魔石になったモンスターを交互に見ていた。

私は、先ほどのモンスターの行動を思い出し、ベルくんにお願いをすることにした。

 

「ベルくん、もし良ければ、少しの間私達と一緒にダンジョンに入ってくれないかな?私達は、この辺りの階層のモンスターの調査をしているんだけど、私達だけだとこの辺りのモンスターみんな逃げちゃうんだよ…」

 

「えっ!?、えっとそのぅ…」

 

「もちろん、ベルくんの成長の邪魔はしないよ!さっきみたいに、ベルくんの手に負えそうにない場合だけ、手を貸すから!マトイ達もいいよね?」

 

「ミケがいいならいいよ。」「マスターが宜しければ。」

 

「で、どうかな?」

 

ベルくんは、しどろもどろになりながらも、僕でお役に立てるなら…と了承してくれた。

 

「それじゃ今日はもう遅い時間みたいだから、明日の正午に待ち合わせでもいいかな?ベルくんには手間をかけるけど…」

 

時間を確認すると、結構遅い時間になっていたので、そう提案した。ベルくんは少し言い難そうにした後、意を決した様に私に話し掛けた。

 

「あ、あのぅ、一緒に行くのは構わないのですが、その代わりと言っては何ですが…僕に戦い方を教えて下さい!」

 

ベルくんによれば、今までは独学で戦っていたそうだ。他のファミリアだと先輩の人がいろいろ教えてくれるらしいけど、ベルくんのファミリアは一人だけなのでそうもいかず、手探りで戦いをしていたそうだ。

 

「うーん、私はあまりそういうのは向かないんだけど、戦い方のアドバイスならできるかも?」

 

「それでもいいです!お願いします!」

 

ベルくんはそう言って、深々と頭を下げた。

 

 

 

 

 

それから私達は、ベルくんと一緒にダンジョンを後にした。ベルくんは、ギルドに向かうそうなので、バベルの広場で別れた後、拠点へ戻った。

 

 

 

「とりあえず、ダンジョン上層のモンスター調査は何とかなりそうだね。」

 

私は湯船につかりつつ、ベルくんと知り合いて良かった…と腕を組みうんうんと感慨に耽っていた。

 

「でも、ベルくんに戦い方を教えるのはどうするの?」

 

マトイは体を洗いながら、セレーネさん達みたいに、ならなければいいけど?と心配していた。

セレーネさん達は、私と模擬戦してラッピーまみれになったっけ…

 

「うん、だから、私が直接模擬戦とかしても糧にならないかもだから、モンスターとの戦闘を見せてもらって、こう動けばいいよ、とかのアドバイスをしようと思ってる。」

 

「ベル少年は、独学とはいえ基本的な動きは出来ている様でしたので、それだけでもだいぶ変わると思います。」

 

トラは、マトイと並び体を洗いつつそう感想を述べた。

 

私は、ベルくんの戦い方を思い出しながらどういうアドバイスがいいかな?と考えながら湯船に深く浸かった。

 



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十五話

冒険者

オラリオにおける冒険者は、神の恩恵(ファルナ)を得て、その力を行使する者の総称である。

冒険者を志す者は大抵の場合、一攫千金を夢見る者、神の恩恵(ファルナ)により生来の技能を強化し、それを活用する者に大別される。

しかしながら、どちらの道に進んでも、ダンジョンとは切り離せない。

神の恩恵(ファルナ)から得られる力を強化するのに、ダンジョンでモンスターを狩る必要があるためだ。

そのため、冒険者はパーティを組んでなるべく安全に、モンスターを狩るのを常としている。

ソロでダンジョンに籠り、モンスターを狩るのは、余程自分の腕に自信が有るか、余程の愚か者だけである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ベルくんとダンジョンに来るようになって、モンスターに会える機会が増えた。

お陰様で、モンスター調査も大分捗った。

 

それで、ベルくんへのアドバイスの件だけど、まずはどの位の知識があるか確認してみた。

すると、大体の知識はあるようで、後はその知識が、血肉になっているかの確認かな?

 

モンスターの戦闘は、基本ベルくんにお願いしている。

1-2匹なら、ベルくん一人で対応して貰っている。

3匹以上が来た場合は、1-2匹をベルくんに任せて、残りは私達が担当して、戦闘データも取れる様になった。

 

「ソロでダンジョンに入るより、物凄く楽です…」

 

ベルくんは魔石を拾いながら、今までの苦労は一体…と苦笑いをしていた。

 

「ベルくんのファミリアに、早く人が増えると良いね。それで、相変わらず人は入ってこないの?」

 

「はいぃー。神様も探していますけど、成果は無いそうです…」

 

ベルくんは、ガックリと項垂れながら、ため息交じりにそう零した。

 

「私も一緒に居てあげたいけど、ここの調査と遠征中のファミリアが戻ったら、19階層以降に行くからねぇ…」

 

今回のパーティは、あくまで一時的なものだ。

そのため、この辺りのモンスター調査が終われば、後は遠征中のファミリアが戻ってくるまで、街の散策を行う予定だ。

 

「あのー、それでさっきの戦闘は、どうでしたでしょうか?」

 

ベルくんが、戦闘する度に、戦闘のアドバイスを行っている。

先ほどは、ベルくん一人で2匹のゴブリンと戦っていた。

戦闘の様子を思い浮かべながら、私は思いついた事を指摘していく。

 

「まずは、位置取りは良かったね。うまい具合に、一対一になるように動けてたかな。あとダメなところは、相手の攻撃を避ける際、大きく避けすぎる所かな。それが隙になるからね」

 

それと…私はそう言うと、天井に張り付いていた、モンスターに対して、テクニックを放った。

テクニックを受けたモンスターは、霧散し魔石に変化すると、ベルくんの頭の上に落ちてきた。

 

「あいたっ!」

 

「油断しない事かな?私の話を真剣に聞くのは良いけど、ここはダンジョンだからね?常に注意を怠らない事!」

 

ベルくんは頭を摩りながら、はぁぃぃぃーとしょんぼりしつつ、落ちてきた魔石をバックへ仕舞った。

今回の調査同行の報酬として、ベルくんには、ここで手に入った物は、全部ベルくんへ渡すことにしている。

その話をした時、ベルくんはかなり遠慮したけど、私達は団体として動いているので、ここで収入が無くても問題がない事を伝え、無理やり押し付けた。

 

そういえば、初めてテクニックを見せた時、物凄く羨ましがられた。

まぁ魔法と勘違いしてるんだろうけど…

こっちの世界の魔法は、種族が使用する先天的な物以外だと、なかなか使えるようにならないって、ジョージが言ってたっけ。

なのでヒューマンだと、使用できる人は少ないらしい。

この世界の魔法については、アークスの方でも、まだまだ調査が必要だそうだ。

アルテミス・ファミリアで使える人も、先天的な魔法だそうなので、後天的となると物凄く高価な魔導書を使用して、覚える位しか知らないそうだ。

そういう勉強はしないの?とベルくんに尋ねてみたけど、反応はいまいちだった。

どうも、そういう勉強は苦手らしい。

テクニックもフォトンを扱う技術だから、使用方法を頭に叩き込む必要があるんだけど、勉強が苦手だと、魔法を使える様になるのは、厳しそうだね…

 

「それじゃ、まだ時間もあるし、もう少し周ろうか?」

 

その後も、基本ベルくんに戦闘を任せ、モンスター調査を行った。

 

 

 

 

 

ここ数日、ベルくんと一緒にダンジョンに潜ることにより、モンスター調査…嬉しいことに戦闘データも含め、データ取りを終える事が出来た。

その間も、ベルくんへのアドバイスは、継続して行ってきた。

ベルくんの努力の甲斐あってか、4匹位ならこの辺りのモンスターに対して、危なげなく戦える様になっていた。

ベルくんがフォトンを使えれば、戦闘方法なども教えることが出来るんだけど…まぁ使えない物はしょうがない。

模擬戦は、論外だしね…まぁベルくんにラッピーは、似合いそうだけど…

 

 

 

「ありがとう!ベルくん。お陰で目的が果たせたよ!」

 

「僕のほうこそ、ドロップ品全部譲って貰えたので、装備も良い物が買えました。ありがとうございます!!」

 

今は、ベルくんと2人で、冒険者の装備品を売っているお店に来ている。

ベルくんの装備は、ギルドの支給品だったらしく、あまり良い物ではなかった。

そのため、駆け出し冒険者が、購入できそうな装備品を売っているお店を他の調査員に聞き、ベルくんを誘って、装備品を揃えさせた。

今のベルくんは、軽装の部分鎧一式と、少し長めのナイフを装備している。

出会った頃の装備に比べれば、大分良くなっている。

やっぱり、戦い方もそうだけど、装備品も良くないと、これから辛くなるからね。

 

ちなみに、ベルくんと2人なのは、マトイは別件でベース基地へ、トラはメンテのため拠点に残っているからだ。

 

「戦い方のほうは、あんまり協力出来なかったけど…」

 

「い、いぇ!参考になってます!それに、僕の弱点も見えてきたので、これからその辺りをどうするか考えてみます。」

 

「そう言って貰えて何よりだよ。後は、ベルくんと一緒に戦う仲間が集まれば、文句なしだね!」

 

ヘスティア・ファミリアの勧誘については、相変わらずのようで、未だにベルくん一人の状態が続いていた。

 

「もう違うファミリアの人でも、一緒にパーティ組める人を探すのも有りなのかもね?ギルドのほうで、そういうの斡旋とかしてないの?」

 

「話はしてますけど、ファミリアで固まってる人が殆どなので、余り居ないそうです…」

 

ベルくんは困った顔をして、途方に暮れていますと答えた。

ここでも、ファミリア間の関係の難しさが、弊害となっている様だ。

 

「後は、ヘスティア様と仲の良い神様の所で、人を紹介して貰うとか?」

 

ベルくんは難しい顔になった。

その辺りは、結構難しいらしい…弱小ファミリアの悲しい所だそうだ。

 

「うーん。後は、良い出会いに、期待するしかないかな?」

 

私がそう言うと、ベルくんは、それですよそれ!と興奮気味になった。

 

「僕は、ダンジョンに素敵な出会いを求めてきたんです!ミケさんと出会えたのも、そのうちの一つだと思ってます!」

 

なんでも、死に別れた祖父に、ダンジョンの事や、この世界の英雄譚の話を聞いて、育ったらしい。

そして、その中で頼れる仲間や、魅力的な女の子との出会い…そういうのに憧れを抱いて、冒険者になったそうだ。

まぁ、典型的な男の子の憧れって所かな?

 

「まぁ、魅力的な女の子ってのには、ご期待には沿えていないけどね」

 

「そそっ、そんなことはないです!!」

 

ベルくんは、顔を真っ赤にして、十分魅力的だと思います…と呟いた。

ふむ、そんなこと言われたのは、初めてかも?まぁ悪い気はしないかな?

 

「それじゃ、パーティは解散だけど、暫くは拠点に居るから遊びにおいで。ヘスティア様とベルくんの事は、話をしておくから」

 

拠点は、基本的にアークスと関係者以外の人は、立入禁止にしている。

アークス技術の漏洩を防ぐためだ。

ヘスティア・ファミリアは、現地協力者ではないので、本来は入れないけど、私の部屋以外に入らなければ、問題ないはずだ。

 

「はいっ!!今までありがとうございました!」

 

その後、装備を慣らすためダンジョンに行く、というベルくんと別れた後、私は拠点へ戻った。

 

 

 

 

 

そして、数日後にベルくんと再会したけど、血で真っ赤に染まっていた。

なんで?




ベルくんは、真っ赤になるのは定めらしい…


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十六話

遅くなりましたが、原作突入です。


ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているのだろうか?

僕は間違っていなかった…と思う。

ミケさんも、出会いは良いものだと言っていた。

 

ミケさんと最初に出会ったのは、ホームにしている教会の前だった。僕のファミリアのホームがある場所は、お世辞にも良い場所ではない。

教会を見ながら、どう改修しようか…等と不穏なことを呟いていたので、思わず声を掛けた。

ミケさんは、最近オラリオに来て、住めそうな場所を探していたそうだ。

それで、この辺りで原型を留めている教会に、目を付けたらしい。

僕は、ここに住んでいることを伝えると、他に住めそうな場所がないか、尋ねてきた。

僕もちょっと前にオラリオに来たばかりだったので、分からない事を伝えると凄くガッカリしていた。

僕は分からないなりに、手伝う事を伝えたけど、当てのない探し物に、初めて会った人は巻き込めないよ…と言って遠慮されてしまった。僕は後ろ髪を引かれる思いで、ミケさんの後姿を見届けた後、ホームへ帰った。

 

 

 

その翌日に、目の前の瓦礫を一晩で大きな屋敷に変えてたのには、びっくりしたけど…

 

 

 

街中でミケさんを見かけた時は、僕から声を掛けたりもした。

その時にマトイさんって女性にも出会えた。ほんわかとした女性で、話をすると凄く癒される感じがした。

なんだか、ダンジョンよりも街中での出会いが多い気がする…

 

 

 

それから暫くダンジョンにソロで潜り、モンスターとの戦闘に悪戦苦闘していると、今度はダンジョン内でミケさん達に出会った。そこで初めて、ダンジョンでの出会いとして、トラさんに出会えた。よくよく見ると、ミケさんにそっくりだった。

トラさんは、無口な方みたいで、余り話は出来ていないけど…

ミケさん達は、冒険者では無いと思ってたから、ダンジョンで合った時はびっくりしたなぁ。ミケさん達は、アークスというオラリオから遥か遠く離れた所にある集団の一員だそうで、ダンジョンには、冒険に来たそうだ。しかも、神の恩恵(ファルナ)を持っていない。

僕は、そんな古代の人じゃあるまいしと、半信半疑で見てたけど、その後の出来事で認識を改めさせられた。

 

それからミケさんは、僕にダンジョンに暫く一緒に入って欲しいと、頼み事をしてきた。なんでも、ミケさん達だけだと、上層のモンスターが寄り付かないそうで、モンスターの生息調査と言うのが出来ないらしい。

それって、僕がモンスターをおびき寄せる餌になるってことじゃぁ…

でも僕は、ミケさん達みたいな、強い人達と一緒に居る事で積める経験が得られると考え、戦い方を教えてくれる事と引き換えに了承した。残念ながら、戦い方については、教えて貰えなかったけど、戦闘アドバイスや心構え等を実践的に教えて貰えたので、僕の血肉になっている。心構えとかは、エイナさんから聞いてたけど、実践を交えると全然違った。

いかに僕が甘く考えていたかを思い知らされた…

 

 

 

短い間だったけど、ミケさん達とパーティを組めたことは、冒険者としての僕のレベルアップに繋がったと思う。

実際、ステータスも結構伸びたし。

 

 

 

パーティ解散後、ソロでダンジョンに潜る生活に戻った。

ファミリアのメンバーは、相変わらず増えていないけど、ダンジョンでの出会いで、仲間を得るという事もありかな?と思い始めている。でもやっぱり、魅力的な女性との出会いも、期待してたりして…

ミケさんも魅力的だけど、ミケさんはどちらかと言うと、近所の世話焼きなお姉さんって感じかな?実際、お隣に住んでいて僕よりも年上だし、背は神様より低いけど…

ソロに戻って改めて思ったけど、僕が戦いやすいように色々と気を使ってくれていたし、装備品についても、いいお店を紹介してくれた。

まさかバベルにあんなお店があるなんて…

 

 

 

今僕は、5階層に来ている。

ミケさん達が居た時、何度か来ていたのでソロでも大丈夫かな?と思い来てみたけど、今日はモンスターが少ないようで、数が余り居なかった。そこで少し調子に乗ってしまい、奥に向かって進んでいた。

ミケさんが居たら怒られるなぁ…

そして、僕は運命の出会いってのを経験してしまった。

 

 

 

『ミノタウロス』との出会いという…

 

 

 

そして今、僕は絶賛追いかけっこの最中だ。勿論僕が追いかけられている。

ミノタウロスは、雄たけびを上げながら僕を追いかけてくる。僕は、大声を出して周りに警告をしつつ逃げまわってる。

ミケさんに言われたっけ…敵わない敵にあったらとにかく逃げること、やみくもに逃げずに出口へ向かう事、そして周りに助けを求める事って…

僕の声が聞こえているか分からないけど、逃げている方向には、他の冒険者は居ない。僕は、最悪の事態を思い浮かべつつ、必死に助けを呼ぶ声を上げて、逃げまわった。

 

その時、後方から激しい風切り音が聞こえ、その後ミノタウロスの雄たけびが悲鳴に変わった。僕は、立ち止まり恐る恐る後ろを振り返ると、ミノタウロスが血飛沫を吹き出しながら僕のすぐ後ろに居た。

どうやらあと少し遅かったら、僕が血飛沫を上げていた状況のようだ。しかし立ち止まったのが、失敗だった。

振り向いた瞬間、その血飛沫を僕は頭からもろに被ってしまった。

 

そして僕は、ダンジョンで心を奪われるほどの衝撃的過ぎる出会いをしてしまった…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ダンジョン上層の調査もひと段落し、私はのんびりと街の散策をする事にした。

マトイとトラも各々やりたいことがあるそうなので、今日は別行動だ。

 

「とはいっても、目ぼしい所は一通り行ったからどこ行こうかな?」

 

私はひとりごちつつ、バベルに向かって歩き出した。バベルまで行って、そこから適当に何処に行くか考えれば良いかな?通りの露店を眺めつつ、のんびりとバベルへ向かう事にする。

 

 

 

時間的には、お昼を過ぎた辺りかな?

バベルの広間に差し掛かった時、バベルの中から赤い物体が飛び出してきた。

 

はい?

 

私は思わず2度見した。

真っ赤に染まっているが、ベルくんだった。ただならぬ状態だったので、ベルくんを呼び止めて話を聞いてみる事にした。

 

「ベルくん?どうしたの?」

 

ベルくんは私の声に気が付いて、私の方へ近づいてきた。

 

「ミケさん!アイズ・ヴァレンシュタインさんですよ!!」

 

ベルくんは物凄く興奮した口調で、そう捲し立てた。

言ってる意味が分からないんだけど…

とりあえず、ベルくんの様子を見た限りだと、赤いのはモンスターの返り血かな?ベルくんから生臭さが漂ってきている。モンスターの戦闘中にでも浴びたのだろうか?でもベルくんのスタイルだと返り血は浴びにくいと思うけど?それと見た限りでは怪我とかもしていない。

 

私は困惑しつつも、何があったかベルくんに聞いてみた。

なんでも、5階層を探索中にミノタウロスと遭遇したらしい。それで、助けを求めて逃げ回っている最中に、ベルくんの言っていたアイズ・ヴァレンシュタインという人に助けられたそうだ。

5階層にミノタウロス?5階層では出なかったと思うけど…

 

「それで、ミケさんはアイズ・ヴァレンシュタインさんの事知ってますか?」

 

ベルくんは、妙に目をキラキラさせて私にそう聞いてきたが、生憎とベルくん以外の冒険者だと、アルテミス・ファミリアの人達しか知らない。

私が知らない事を伝えると、ベルくんはびっくりした顔になった。

 

「ええっ?知らないんですか?ロキ・ファミリアの第1級冒険者、アイズ・ヴァレンシュタインさんですよ!?」

 

幾つか気になるワードがあったけど、私はベルくんに、ミノタウロスが何故5階層に居たのかを尋ねてみた。

 

「その人の事は兎も角、なんで5階層にミノタウロスが居たの?あれって確か中層のモンスターだったよね?」

 

私がそう言うとベルくんも、そう言えば…と言いつつ首を傾げた。ベルくんも分からないか…

中層のモンスターが上層に来るという事は、資料にもなかった。大体生息範囲は決まっている。ダンジョン内で何か起きたのかな?

私は、ダンジョン内の事が気になったので、予定を変更してダンジョンに行く事にした。

 

「私も気になるから、ダンジョンに行ってみるよ。ベルくんはこの事をギルドに報告したほうが良いんじゃない?ギルドって、確かダンジョンの管理をしてるんでしょ?」

 

ベルくんは、そうでした!と答えると、ギルドへ向けて走り出した。

私は慌てて、ベルくんの背中に声を掛けた。

 

「ベルくん!ギルドに行く前に、その血は洗い流した方が良いよ!」

 

私がそう声を掛けると、ベルくんは方向転換して、バベルへ向かっていった。バベルのギルド施設にあるシャワーを使うのだろう。

私もベルくんの後を追う形で、バベルへ向かった。

 

 

 

 

バベルの地階に行くと、数多くの冒険者が集まって話をしていた。

話に聞き耳を立てると、上層に居るはずのないミノタウロスが、5階層で見つかり、慌てて逃げて来たらしい。その際、ミノタウロスに追われていた冒険者が、周りに警告を発しながら逃げていたそうなので、事なきを得た様だ。

きっとベルくんの事だね。

 

私は、騒然としている地階を抜け、ダンジョンに向け歩みを進めた。

 

 

 

ダンジョンに入ると、冒険者は無論、モンスターの姿も見えなかった。そのため、すんなりとベルくんが、ミノタウロスと遭遇した5階層まで来れた。まぁモンスターに関しては、逃げちゃうからなぁ…

今の所、ミノタウロスの姿は見掛けない。

ベルくんが言ってた冒険者に、もう倒されちゃったかな?

私は更に、下層へ向かって歩みを進めた。

 

 

 

うーん、上層階を一通り見て周ったけど、ミノタウロスの姿は無かった。

やっぱりもう倒されちゃったのかな?

私はそう思い、一度戻ろうかと踵を返すと、中層階の方から人の気配がしてきた。

結構な数の団体さんだった。ミノタウロスの事について何か知らないかと思い、思い切ってその団体さんに聞いてみることにした。

 

「あのーすみません。上層でミノタウロスが出たって聞いて、来てみたんですけど何か知りませんか?」

 

私がそう声を掛けると、団体の中から槍を持った少年が出てきた。

 

「すまない、そのミノタウロスは、我々が取り逃がしたんだ。全て倒したので安心して欲しい」

 

その少年はそう言ってきた。

よかった、既に倒されていたんだね。それとモンスターって逃げ出すと、階層跨ぐのかぁ…私も注意しないとね。

 

「そうですか、では安心ですね。それでは失礼します」

 

私はそう言い、彼らが来た方へ向かって進んだ。ここからだと、18階層に行った方が帰るの早いしね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「リヴェリア、さっきのエルフ知ってるかい?」

 

先ほど、ミケと話をしていた少年…小人族(パルゥム)のフィン・ディムナが、近くに居たエルフの女性…リヴェリア・リヨス・アールヴへ問いかけた。

 

「知らぬ。しかし…」

 

リヴェリアはそう言い淀み、考え込んでしまった。

 

「とんでもない化け物じゃったなぁ。他の連中なぞ委縮して、一言も発せなかった様だぞ?」

 

そう言いながら体格の良いドワーフ…ガレス・ランドロックが口髭を撫でながら、件のエルフが去っていた方を見ていた。

 

「これは、とんでもない土産話が出来たね」

 

フィンはそう言い、動きが止まっている団員に向かって一喝し、帰還する旨を伝えた。

 




エイナさんの役割を奪ってる気がしないでもない…


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十七話

私は、団体さんと別れた後、18階層のダンジョン基地へ向かった。

道中は、先ほどの団体さんがモンスターを倒したのだろう、モンスターに邪魔されずに18階層までたどり着いた。

ダンジョン基地には、設営している段階で訪れて以来、来ていない。上層のモンスター調査があったからね。

数日ぶりに訪れたダンジョン基地は、ほぼ完成していた。研究用の施設が設置中だったけど、防御施設や住居、指揮所の施設は終わっていた。

私は挨拶をしに、指揮所へ向かった。

 

「お疲れ様です、守護輝士(ガーディアン)。何かありましたか?」

 

指揮所に行くと、ダンジョン基地の指揮官が少し驚いた様子で、出迎えてくれた。まぁ予定になかったからね。私は、これまでの経緯を指揮官に話した。

 

「なるほど、了解です。モンスターの行動については、私から研究者に伝えておきます。それで、そのモンスターを討伐した冒険者達と言うのは、もしかして?」

 

指揮官は、冒険者の集団が、遠征中のファミリアか気になったようだ。ダンジョンの調査に影響するからね。そういえば、どこの所属かは確認してなかったなぁ。

 

「あーごめん。何処のファミリアか、確認してない。でもロキ・ファミリアの第1級冒険者が、上層で確認されているから、多分遠征中のファミリアだとは思う。地上に戻ったら確認してみるよ」

 

私は、指揮官にそう伝えると、拠点に帰還した。

 

 

 

 

 

拠点に帰還すると、マトイは戻って来ており、1階の共用スペースで、他のアークス達と談笑していた。

 

「ミケおかえり…ってなんで転送装置から?今日は街の散策するって、言ってなかった?」

 

マトイは私が転送装置から戻って来たので、首を傾げながら尋ねてきた。

私は、マトイと他のアークス達に挨拶をした後、ダンジョンに行っていた事と、その経緯を話した。

 

「そんな事があったんだ。ベルくんは大丈夫?」

 

マトイは、ベルくんがミノタウロスに襲われたという話を聞いて、ベルくんの様子を気にしていた。

 

「うん。怪我もなく元気だったよ。助けが遅れてたら危なかったみたいだけど」

 

私がそう答えると、マトイも安心した様だ。

ロキ・ファミリアの件について、情報を集めて貰うよう他のアークス達に話をして、私は自分の部屋に戻ることにした。マトイも話はもう良いのか、私と一緒に戻るようだ。

 

「マスター、お帰りなさいませ」

 

部屋に戻ると、トラが出迎えてくれた。しかしトラは、少しそわそわしているように見える。

はて?

 

「ミケ、ダンジョンに行ったんだよね?なら、お風呂だよ?」

 

一緒に部屋に戻ってきたマトイに腕を掴まれ、部屋の隅の方へ連れていかれる。

あれ?お風呂は部屋のテラス部分に設置してるから、ここには無いはずだけど…

連れていかれた先には、仕切りがありその奥には、何故かテレパイプが展開されていた。

 

「なにこれ?」

 

私はテレパイプとマトイを交互に見た後、首を傾げた。

 

「えーっとね、以前アークスの保養拠点に温泉施設があるって聞いて、それで用意したんだ。そこなら一緒の湯船に浸かれるよ?」

 

マトイはそう言い、にこにこしながら、早く行こ?と促してくる。

私は、トラにも確認してみる事にした。

 

「トラは、これ知ってた?」

 

トラはバツの悪そうな顔をしながら答えた。

 

「マトイ様から、聞いて知っております。それで、マスターには内緒にして、驚かせようと。私も準備をお手伝いしました」

 

どうやら、私に内緒で2人で準備をしていたらしい。偶に居なくなってたのは、これの準備をしていたのかな?しかし、2人共お風呂好きすぎ…

 

「さ、早く行こ?すごくいい所だよ」

 

私はマトイに促されるままに、テレパイプに入っていった。

 

 

 

 

 

テレパイプを出るとまず目に着いたのは、小高い丘の様になっている温泉であった。温泉は頂上の方から湧いているらしく、下に向かって流れている。そして、途中途中が、湯船の様になっていた。

こういうのって温泉棚田って言うんだっけ?

そして、丘の麓は切り立った崖となっており、お湯はそこに流れ込んでいる。崖のこちら側には、休憩所と脱衣所があり、温泉棚田とこちら側は、橋で行き来するようになっている。

 

いやいや、広すぎでしょ!

専用のテレパイプで来るようになっているから、私の部屋からしか来れない所なんだろうけど、3人で使うには広すぎる。

 

「マトイ、ここ少し広すぎない?」

 

私がそう言うと、マトイは、そんなことないよ?と言いながら自慢げに胸を張った。

 

「ミケとわたしのプライベート温泉だよ?もちろんトラも入って良いからね!」

 

トラの方を見ると、マスターと一緒の湯船に入るのは夢でした、とうんうんと頷きながら嬉しそうにしていた。

私は、2人のお風呂に掛ける情熱は何なんだろう?と首を傾げつつも、折角用意して貰ったんだから、堪能することにした。

 

「折角用意してもらったし、使わないのは勿体ないね。それじゃ入ろっか。」

 

私達は脱衣所へ向かい、準備をして温泉棚田へ向かった。

 

 

 

温泉は良い感じでした。普段のお風呂も良いけど、湯船が広く手足を伸ばして、寝そべりながら湯船に浸かれるのも良いし、周りを見渡すと、森林地帯を模した作りになっているので、景色も良い。

私が、浅い所で大の字になって浸かっていると、左側にトラが、右側にマトイが来て、それぞれ寝そべりながら湯船に浸かった。何故か私の腕を枕にして…

いや、動けなくなるんだけど。

私は退いてもらう様に言おうとしたけど、2人共幸せそうな顔をして目を瞑っていたので、言い出せず、暫くこのままの姿勢で、湯船に浸かることになった…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、昨日出来なかった街の散策を3人で行った。

散策の途中で、ロキファミリアが遠征から帰ってきている、との噂話を耳にした。昨日会った団体さんが、そうだったみたい。戻ったら、ジョージに確認してみるかな?すぐに確認しても良いけど、ダンジョンは逃げないしね。

 

夕刻まで街の散策を行い、拠点に戻ってから、ジョージに連絡をした。

ジョージは、今日明日は様子を見るので、それ以降に改めて連絡してくれるそうだ。

それから、アークス製魔石製品の販売をそろそろ始めるそうだ。オラリオ内でアークスの認知度がまだ低いので、まずは商業方面で進めるそうだ。

 

「明日は待機かなぁ。何処か行きたい所ある?」

 

私は今日の散策で、行きたい所は一通り周ったので、マトイとトラに、何処か行きたい所が無いか、尋ねてみた。

 

「早ければ明後日から、ダンジョン調査だから、明日は休みにしたらどうかな?」

 

街の散策も休んでいる様なものだけど、一応報告を上げてるから、調査の一環か。何もしない日が有って良いかもね。

 

「それじゃ、何もなければ、明日はオフ日にしよっか!」

 

時計を見ると、結構いい時間だったので、そろそろ休もうかと考えていると、部屋に備え付けの端末から呼び出し音が鳴った。

はて?通信でないとすると、来客かな?今の所、私を尋ねてきそうな人は、ベルくんかヘスティアかな?時間的に、遊びに来たわけではなさそう。何かあったのだろうか?

私は、その様なことを考えながら、呼び出し音に応答した。

 

 

 

来たのはヘスティアだった。

なんでも、ベルくんが食事に出かけて以降、この時間まで帰ってきていないそうだ。

それで、ここに来ていないか、確認のために来たらしい。

私は、今日ベルくんに会っていない事を伝えると、ヘスティアはおろおろしだした。

 

「食事だけでこんなに時間が掛かるはずは…ベル君は、黙って何処かに行くような子じゃないし…はっ!もしかして何か事件に巻き込まれたんじゃぁ!?」

 

ヘスティアは、慌てて部屋から出て行こうとした。私とマトイで、一旦ヘスティアを落ち着かせることにした。慌てている時に行動するのは良くない。

 

「ヘスティア様、神の恩恵(ファルナ)を与えた人を感知できるって、アルテミスさんから聞いてますけど、それでベルくんの居場所は分からないのですか?」

 

神は、恩恵を与えた人の生き死にが、感じられるという話をアルテミスさんから聞いている。それで居場所も分かるのでは?と思い、ヘスティアに尋ねてみた。

 

「ベルくんが居る、ということは分かるけど、居場所は分からないんだ」

 

ヘスティアは、ベルくんの存在を感知し少し落ち着いた様だ。

ベルくん何処に行ったんだろう?ベルくんは、ヘスティアの事は、いつも気にかけてたから、心配をかける様な事はしないと思う。オペレーターにお願いしてみようかな?

私は、通信を指揮所に繋げ、ベルくんのバイタルデータをサーチして貰うよう頼んだ。バイタルデータは以前パーティを組んだ時に、取得済みだ。

オペレーターからは、ダンジョンで反応があったと回答が来た。

 

「えっと、ベルくんダンジョンに居るみたい。ベルくんのデータがあったから探してもらったよ」

 

私がそう答えると、ヘスティアは私に向き直った。

 

「本当かい!?よく居場所が分かったね?それも君達のフォトンってやつの力かい?でもなぜダンジョンに?」

 

ヘスティアはそう言うと、首を傾げた。ベルくんの居場所が分かり、一応落ち着いた様だ。

冒険者であるベルくんが、ダンジョンに居ること事態は問題無い。問題は、ヘスティアに告げずに、ダンジョンに行っている事だ。

 

「うーん。理由分からないけど、戻ってきたら確認するしかないですね」

 

私がそう言うと、ヘスティアはそれもそうだなと答え、改めてベルくんを見つけた事に礼を言いホームへ帰っていった。

 

 

 

そして直ぐに戻ってきた。

 

「どどど、どうしよう!?ベルくんの装備がホームにおきっぱなしだったんだ!装備も無しにダンジョンに行くなんて自殺行為だ!!」

 

ヘスティアは、そう喚きながら、私に掴みかかってきた。

ちょっと落ち着いて欲しい…って無理か。

私は、ヘスティアをなだめつつ、ベルくんがどうしてその様な行動を取ったか考えたが、思いつかなかった。本当に何かに巻き込まれたのかな?

 

「私も気になるので、ダンジョンに行ってベルくんの様子を見てきます。幸い居場所はすぐわかるので」

 

ヘスティアをマトイに任せて、私はダンジョンへ向かうことにした。オペレーターに確認すると、6階層に居るそうだ。

 

「ミケ君!有難う!ベル君を頼む。私も行きたいが、神はダンジョンに入れないから…」

 

理由は分からないが、神はダンジョンに入るのは、禁止されているそうだ。アルテミスさんからもその様な話を聞いている。

私はヘスティアに頷くと、ダンジョンへ向かった。

 

 

 

 

 

ベルくんの反応がある場所に着くと、ベルくんは複数のモンスターと戦闘中だった。どうやら一人で戦っている様だ。全身傷だらけになりながら、鬼気迫る勢いでモンスターを倒していた。

加勢に行こうかと思ったけど、傷を負いながらも、確実にモンスターの数を減らしていたので、少し様子を見ることにした。

パーティを組んでいた時のベルくんと違い、動きも気迫も見違える様だった。

冒険者って、ちょっと見ない間に、物凄く成長するんだなぁと感心していると、最後のモンスターを倒したベルくんが、地面に寝そべり荒く息を吐いていた。

私はベルくんにそっと近づき、声を掛けた。

 

「ベルくん?」

 

私の声に反応して、ベルくんは飛び起きると、武器を構えて私の方を向いた。私を認識すると、力が抜けたのかその場に崩れ落ちた。

 

「ミ、ミケさんどうしてここに…」

 

ベルくんは力なく問いかけてきた。

 

「ヘスティア様が、ベルくんが帰ってこないって心配して、私の所に来たから、探しに来たんだよ。ベルくんはどうしてダンジョンに?」

 

「…」

 

ベルくんは、一瞬悔しそうな顔をしたけど、何も語ろうとはしなかった。

何かあったな?でもそれは話したくないと。

 

「ベルくん?何があったかは知らないけど、その様子だともう戦うのも辛いでしょ?ヘスティア様も心配してるから、帰ろう?」

 

ベルくんは、私の言葉に躊躇するも、自分の状態を確認し、限界に来ているのを悟り頷いた。

 

「ベルくん立てる?」

 

私はベルくんに手を貸し立たせた。ベルくんはふらふらだけど、自分で歩ける様だ。

 

「それじゃ帰ろう」

 

私が先頭に立ち、ベルくんと共にダンジョンを後にした。道中は幸いな事に、モンスターに遭遇する事は無かった。

 

 

 

「ベル君!!」

 

拠点の近くまで来ると、ヘスティアが外で待っていたのか、ベル君の下へ駆け寄ってきた。

ヘスティアとベルくんは、何やら話し込んでいる様だったので、私は傍を離れて見守ることにした。部外者の私が近くに居たら、話したい事も話せないだろうし。

 

暫く話し込んだ後、2人は私の方へ改めて礼を言い、ホームへ帰っていった。

何はともあれ、無事でよかった。

私は、2人を見送り拠点へ戻った。

 

 

 

 

 

翌日、ベルくんが自分を鍛えて欲しいと頼みに来たけど、どうしよう?

ベルくん…そんなにラッピーに会いたいのか…

 




ラッピーグッズって何があったっけなぁ…


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十八話

 うーん。

 私はベルくんの強化案について、思考を凝らしていた。

 ベルくんの希望で1回だけ模擬戦やったけど、ベルくんは死んだ魚のような眼をして、ラッピーを撫でていた。

 うん。案の定ラッピーまみれになっていた。

 あの時のベルくんは、ラッピーリュックを背負い、両腕、両肩、両足、頭にラッピーを装備し、数匹のラッピーがベルくんの近くで、必死に歌や踊りを行いベルくんを癒していた。そしてその様子を空からエンペ・ラッピーが見守っているという、中々カオスな状態になっていた。

 

 やはり、私が直接やるのはダメだね……

 

 私は、別のアプローチを考えることにした。

 私が行った様々な訓練を思い出し、ここでも出来ることが無いか当てはめていた。

 そういえば私が飛躍的に強くなったのは、早さを競う実戦演習からだっけ?通称TA(タイムアタック)と呼ばれていた実戦演習だ。狂暴化した敵性生物(エネミー)が闊歩する領域をいかに早く、多くの敵を倒して突破するかを競う演習だ。

 演習だけど当時は報酬も良かったので、主催者のクロトの所には長い行列が出来てたっけ。

 冒険者のベルくんには、培うものが似通っているので良いかもしれない。

 まぁベルくんの強さがどれ位か今一つ分からないので、どの階層でやるかは考えないといけないけど。

 

 私がどうしたものかと頭を悩ませている横では、ヘスティアがソファーに腰掛けて本を読んでいた。

 あれ以来ヘスティアは、暇を見つけると私の部屋に入り浸るようになった。私の部屋がホームよりすごしやすいそうだ。また、アークスの衣装にも興味があったようで、私が持っている衣装を試着して楽しんでいた。ちなみに今はスペース・ツナ服を着ている。

 何故に?

 それと、一度連れて行った温泉施設も非常に気に入っており、事あるごとに入浴しに来ている。

 

 私はヘスティアに、ベルくんの強さがどのくらいか尋ねることにした。これが分からないと、演習をするにしても何処で行うのが妥当か分からないし。

 ヘスティアは本から目を離し暫く考えた後、ミケ君なら大丈夫か、とひとりごち1枚の紙を取り出し私に手渡した。

 

 渡された紙を見ると、ベルくんの名前の下にレベル1と書かれており、後は力や耐久といった文字の横に数字が書かれていた。

 なにこれ?

 私が首を傾げていると、ヘスティアが説明をしてくれた。

 

 この紙は、神の恩恵(ファルナ)を受けた冒険者の強さを数値で表したものだそうだ。レベルは冒険者の総合的な強さであり、力等の数値はステータスと呼ばれ、この数値がある一定上になり、神々が認めるような行いをすると、レベルが上がるそうだ。

 そして冒険者は、そのレベルにより呼び方が変わるらしい。

 

 レベル1で、下級冒険者

 レベル2以上で、上級冒険者と呼ばれ、レベル2は、第3級冒険者

 レベル3、4で第2級冒険者

 レベル5以上で第1級冒険者

 

 このレベルとステータスの数値により、ギルドの方で適正のダンジョン階層が定められているそうだ。

 ふむふむ、これを参考に演習場を決めれば良いかな?

 そしてレベルを上げるのに、手っ取り早いのが格上のモンスター討伐らしい。今のベルくんのステータスだと格上を相手にするのは、無理なのかなぁ?もう少しその辺りを調べないと……

 私が紙を見つつ考え込んでいると、ヘスティアが何かを決意したような顔になり、私が持っている紙を手から引っこ抜くと、ある一部分をなぞり再度渡してきた。

 

「この紙は本来、本人以外には見せないものなんだ。それこそファミリア内でも。しかしベル君は今、強くなりたいという思いで頑張っている。そしてミケ君は、ベル君の思いに答えるためにいろいろと手を尽くしてくれてる。なんの見返りもないのにだ。そして何よりも僕の直感が、ミケ君を信用しても良いと言っている。だから……そんなミケ君になら、ベル君の本当の状態を見せても良いと思っている。スキルの欄を見てくれないか?」

 

 私が、スキルの欄に目を向けるとこう書かれていた。

 

憧憬一途(リアリス・フレーゼ)

・早熟する

・懸想が続く限り効果持続

・懸想の丈により効果向上

 

 これが神の恩恵(ファルナ)を受けた後の行動によって得られる力ってやつかな?

 しかし、懸想ねぇ。

 

「ベルくんは、誰か好きな人でも出来たの?」

 

 私がそう聞くと、ヘスティアは物凄く不機嫌な顔になって、知るもんか!といってそっぽを向いた。

 地雷だった様だ。

 私は、改めてスキルの欄を見直した。早熟するってあるから、きっと成長が早くなるってことかな?

 好きな人を思い成長が早くなるかぁ。ベルくんはロマンチストだねぇ。

 ん?という事は、今もベルくんはダンジョンで己を鍛えている。そして戻ってきたら、また強くなっているって事かな?

 

「ベルくんって、日を追うごとに強くなっているの?」

 

 ヘスティアにそう聞くと、不機嫌な顔を少し不安そうな顔にして頷いた。

 

「ベル君の成長スピードは異常とも言って良い。このスキルのお陰だとは思うけど、こんなスキル聞いたことも無いんだ。きっと希少なスキルだと思う。だから他の神にこの事が知れたら厄介なことになる。ミケ君もくれぐれも内密に頼むよ!」

 

 ヘスティアはそう言った後、日々更新しているベルくんのステータスを渡してくれると約束してくれた。それを使ってベルくんを鍛えて欲しいと。

 

「私の出来る範囲で協力するよ!」

 

 私はダンジョン調査があるので、四六時中面倒を見ることはできないけど、空いている時間を使いベルくんの鍛錬に協力することを伝えた。

 

 

 

 話は一段落し、ヘスティアは再度本へ、私はベルくんの訓練メニューを考えていると、私の部屋にマトイが訪ねてきた。

 

「ミケ、っとヘスティアちゃん来てたんだ?ご飯の用意が出来たって。ヘスティアちゃんも一緒にどう?」

 

 マトイは、相手の名前を呼ぶときは基本ちゃん付けを行う。流石にマリアさんとかはしないけど。ヘスティアに対しては、最初にちゃん付けで呼んで、ヘスティアも特に何も言ってこなかったのでそのまま定着した様だ。

 

「お?いいね!ここのご飯は美味しいから大歓迎だ!さぁミケ君!君が行かないと食事が出来ないから早く行こう!」

 

 ヘスティアは本を閉じると、私の腕を引っ張りながら促してきた。ヘスティアはトラの料理が気に入ったようで、ほぼ毎日食べてるような気がする。

 まぁトラも満更でもなさそうだから良いけど。

 そして食休みの後に温泉施設でお風呂に入って、ベルくんがヘスティアを迎えに来て、帰宅の流れになるんだろうなぁ……

 

 

 

 食休み後のお風呂に4人で入っている。うん、予想通りの展開だね。

 私とヘスティアで湯船に浸かり、マトイとトラは体を洗うため、崖の向こう岸へ行っている。

 私は何となく、湯船に浮かぶヘスティアの胸を見ていた。大きいと湯に浮かぶんだよね……

 ぼーっと、ヘスティアの胸を眺めていると、ヘスティアから声を掛けられた。

 

「ミケ!すまないが君が持っているドレスを貸してもらえないか?」

 

 なんでも、近々神の宴と言う催しがあるそうで、そこでベルくんのための武器を知り合いの神に作って貰うよう頼みに行くらしい。……確かに、ベルくんの武器を更新することは良い事だ。アークスの武器は、ベルくんでは使いこなせないから渡せないしね。

 それで宴用の衣装を用意する必要があるが、今持っているものだと見劣りするらしいので、貸してほしいとの事だ。神々の間でも、見栄の張り合いがあるそうだ。

 私は、そういう事なら好きなのを持って行くと良いよ、とヘスティアに伝えた。

 

「ミケ助かるよ!」

 

 ……これでロキが来ても馬鹿にされないな!

 

 ヘスティアが小声で何か言いつつ、ぶくぶくと湯船に口まで浸かった。

 

 

 

「ミケさーん。神様のお迎えに来ましたー!」

 

 風呂から上がり、まったりとした時間を過ごしていると、ベルくんのお迎えが来たようだ。

 

「ベルくんおつかれー。今日はどうだった?」

 

 私はヘスティアを迎えに来たベルくんを部屋まで案内しつつ、今日の進捗状況を聞いてみた。

 

「はいっ!今日は5階層に行ってました。数が多いと手こずりますけど、何とかなってます!」

 

 ベルくんは、にこにこしながら自分の成長を報告した。

 うん。元気になった様で何よりだよ。今はラッピーも消えている。

 

 以前パーティを組んでいた時は、5階層だと1匹倒して息切れしてたから、凄く成長してるね。

 これって、私が訓練メニュー作らなくても勝手に成長しそう……

 でもまぁ、身体能力だけ上がっても戦闘技量は上がらないかなぁ。身体能力だけのごり押しも出来るけど、それだと何処かで限界が来るだろう。戦闘に関してのアドバイスが出来ればいいんだけど、私はフォトンを使用した戦い方だから、ベルくんに教えても使えない。悩ましい所だ。

 今は身体能力を中心に上げる方向で行くしかないかな?成長が早いと言ってもまだベルくんは駆け出しさんだし。技量に関しては時間を設けて、いかに早くモンスターを倒せるかというTA(タイムアタック)モドキを行い、まずは自分で考えて貰うか。

 そういう方面で師事出来る人が居れば良いんだけど……今度模擬戦に行く時にでも、アルテミス・ファミリアの人にでも聞いてみるかな?

 

 アルテミス・ファミリアの人達とは、定期的に模擬戦を行うことを約束している。あれだけラッピーまみれになっても、是非にと頼まれた。

 そういえば、まだ教導隊の人が派遣されたって話は聞いていない。いつ来るんだろう?

 

 

 

 ベルくんがヘスティアをホームへ連れて帰った後、ジョージから連絡が来た。

 なんでも、近々怪物祭(モンスターフィリア)で使用するモンスターをガネーシャ・ファミリアとギルドの共同で捕獲するという作業があり、ダンジョンにその面子が籠るらしい。アークスとしてもこの催しで名を売れればと考え、キャプチャーシステムを携えウラノスさんの所に、売り込みに行ったそうだ。しかし、モンスター関連の事は結構複雑らしく、そういう物をギルド員や、ファミリアの一般構成員に見せるのは歓迎出来ないと言われ、退散したらしい。

 アークスで捕獲を行う場合は、空間隔離を行い誰も入れないようにして使用するそうだ。

 それで、その面子がどの階層に行くか分からないため、怪物祭(モンスターフィリア)が終わるまでは、ダンジョン調査は中止となった。

 

 そういう事なら、ベルくんの訓練にもう少し時間を割けれるかな?

 




話の都合上、神の宴とモンスターフィリアの開催タイミングを変えております。

追記
現在、改定作業も並行で行っております。
経過については、活動報告にて行っておりますのでそちらをご覧ください。


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十九話

「ミケさーん!やっと突破できました~~!」

 

 ベルくんの嬉しそうな声が、ダンジョン内に響いていた。

 ベルくん用に作成したTA(タイムアタック)コースだけど、今はバージョン2。

 最初のバージョンは1階層から6階層までの場所で、行き止まりの通路に空間隔離を掛け、テレポーターで移動するコースを作成した。

 そこで湧いているモンスターを倒しつつ最終エリアで6階層、ウォーシャドウが湧いているエリアへ進むという至って単純なコースにしていた。

 しかし、ベルくんのステータスだとやはりというか、バージョン1ではモンスターが弱すぎてベルくんの相手にならなかった。

 そのため、今のバージョン2では5階層から7階層でコースを作成した。

 モンスターの種類も多少増え、しかも複合で現れるためどの敵から倒せば良いかという戦略性も要求される。中には素早く倒さないと仲間を呼ぶモンスターや、軽微だけど毒持ちも居る。

 バージョン2からは、流石のベルくんも苦戦し突破できず悔し涙を流してた。

 しかしベルくんって負けず嫌いというか、忍耐力があるというか、何度もチャレンジしていた。

 そのお陰か、それともモンスターに慣れてきたのか、今回ようやく突破出来た。

 

「おめでとう!あとは、如何にタイムを縮めるかだね。それと武器の方はどう?そろそろ限界が近いんじゃない?」

 

 ベルくんはナイフを好んで使用している。

 しかしナイフは、硬い敵とまともに戦うような武器ではない。そのため今回のコースにいる仲間を呼ぶモンスター──キラーアント等の硬い甲殻を持ったモンスターには相性が悪いため、ナイフ自体に負担が掛かっていた。

 ベルくんは、自分の武器を眺めつつため息をついた。

 

「確かにボロボロですね。でも今僕が買える装備だとこれが限界で……」

 

 武器は使い慣れたのが一番だけど、この階層だと今のベルくんが買える武器では強度的にも威力的にも不足している。もう少し上のランクの武器が必要だ。

 そういえばヘスティアが昨日私のドレスを借りに来たので、そろそろベルくんの武器が更新されるかな?ベルくんには黙っておいて欲しいとヘスティアには頼まれている。サプライズプレゼントだそうだ。

 そのため、当たり障りのない返事をしておく。

 

「とりあえずは、お金貯めて上のランクの武器買うしかないかなぁ?後その武器もちゃんとメンテしとかないと壊れるよ?」

 

 ベルくんは再度ため息をつきつつ、ですよね~~と零していた。

 武器はある意味消耗品。アークスの武器もフォトンで強化しているとはいえ限界が来れば呆気なく壊れる。良く壊している筆頭はマリアさんだけど……

 そのため細目なメンテナンスは必須。ベルくんの武器もメンテナンスが必要だ。

 

「今日はもう上がろうか?武器が壊れたら困るしね」

 

 そう言って私は今日の訓練の終了を告げた。

 

 

 

 

 

 装備のメンテナンスに行くベルくんと別れ、私は拠点へ戻った。

 

 今回ベルくん用に用意したTA(タイムアタック)のコースはアークスの全面協力が得れた。

 元々は、コース予定の場所を私とトラで封鎖して、マトイにベルくんの付き添いを頼みベルくんの安全を確保しつつ廻そうとおもってたんだけど、どこからか私がTA(タイムアタック)のコースを作成していることを聞きつけた他のアークス達が、私の所に来て是非参加させてほしいと頼んできた。

 後で聞いたけど、ジョージも一枚噛んでいた。

 私はそうでもないんだけど、他のアークスの人達TA(タイムアタック)好き過ぎ……

 それからはあれよあれよという間に、空間隔離申請やテレポーターの手配、バイタル低下による転送手配等の安全措置が用意されていた。そのお陰でTA(タイムアタック)モドキがちゃんとしたTA(タイムアタック)コースになった。

 ただ、悪乗りしてきたアークス達は凶悪なトラップやギミックを凝りだしたので、流石にそれは遠慮しておいた。

 でもその案は、アークス用のTA(タイムアタック)コースに使用することが何故か決まった。

 近いうちに、走破演習:オラリオが出来る事だろう……

 

 ベルくんが中層迄行けるようになったら、中層のコースをアルテミス・ファミリアの人達に開放するのも良いかなと思っている。

 彼女たちも強くなりたい一心で訓練してるしね。

 アルテミス・ファミリアの所には現在、戦闘部の教育部隊が来ている。

 今は、アークスの戦術などを学んでいるそうだ。

 アルテミス・ファミリアは、元々アンタレスみたいな凶悪モンスターを監視する任務を行ている。そのため、対峙した時のために個人の強さよりも集団としての強さが求められるそうだ。

 そういう意味ではアークスも集団戦闘を得意としているため、学ぶことが多い。

 オラリオの冒険者は、集団というより個に赴きを置いているそうで、集団戦闘はあまり得意ではないとの事。

 アルテミスさんも一緒になって学んでいるそうで、大変助かっていると通信機でお礼を貰った。

 

 個々の強さは教導隊で面倒を見るそうだけど、教導隊は今忙しいらしくオラリオにはまだ来れないそうだ。なんでも新型の武器開発を行っているそうで、そのテストに駆り出されているらしい。

 そのため、当分は私が定期的に模擬戦を行い鍛えておいて欲しいとの事。

 私がやってもラッピーが増えるだけなんだけどなぁ……

 

 

 

 

 

 翌日もベルくんはバージョン2で訓練を行っている。

 

「よっ、と!」

 

 ベルくんは、掛け声と共にコース最後のモンスターを倒した。

 モンスターを倒した後も残身しつつ周囲に気を配っている。

 

「ベルくん、おつかれ。終わりだよ」

 

 私がそう告げると、ほっと息を吐きつつ武器を収めた。

 

「う~~ん。タイムはどうでした?」

 

 ベルくんは、今回の周回での自分の動きに納得出来てなさそうな顔で尋ねてきた。

 

「うん。ベルくんの予想通りあんまり変わらないかな。キラーアント地帯が今のベルくんの鬼門だねぇ」

 

 あれから安定してコースの走破は出来る様になったけど、タイムは伸び悩んでいた。やはり硬いモンスターで時間が掛かるため、現状ではこれ以上は厳しい。

 ベルくんは、左手で自分の武器を持ち右手で指折り数えた後、ガックリと首を下げた。

 

「やっぱり武器ですね~。まだまだ稼がないと良い武器は遠いです……」

 

 ベルくんは目当ての武器でもあるのか、全然たりないや~とぼやいていた。

 

「そうだね。ベルくんの武器が更新出来たらまたチャレンジしてみると良いよ。それまでは金策頑張って!」

 

 ドレスを貸す時に3日程で武器を持ってくるとヘスティアが言っていたので、明日以降武器が更新される。どんな武器になるか分からないけど、きっと喜んで使うだろう。

 私はベルくんにそう伝え、訓練の終了を告げた。

 

 ベルくんとの別れ際、丁度明日は怪物祭(モンスターフィリア)が開催されると聞いていたので、明日一日休んで英気を養って貰うことにした。

 ベルくんは怪物祭(モンスターフィリア)の事は知らなかった様で、そういう催しがあるんですねと感心していた。

 ヘスティアは用事で留守にしているそうなので、一人で周ってみますと言っていた。

 懸想している相手でも誘えば良いのにね……

 

 

 

 

 

「ミケおかえり。明日はどうするの?」

 

 私が拠点に帰ると、マトイが出迎えると同時に明日の予定を聞いてきた。

 怪物祭(モンスターフィリア)というか闘技場の中の見学はしたかったけど、私がダンジョン調査に行く前に、ベルくん用の新しいコースを考えておかないといけない。

 ベルくんのステータスは現在更新されていない。ヘスティアが武器の作成依頼で留守にしているためだ。

 ステータスと武器を更新したらきっとベルくんは余裕で今のバージョンを攻略しちゃいそう。

 そのためにも、新しいコースの設定は必要になる。

 

「明後日以降ダンジョン調査に戻るから、それまでに次のコース考えておかないと……だから明日は拠点に籠ってコース作成を行うつもり」

 

 私がそう言うとマトイは、それならばとダンジョン調査の準備をトラと共に進めてくれるそうだ。

 私はマトイだけでも怪物祭(モンスターフィリア)を楽しんでくると良いよと提案した。

 

「ミケが頑張っているのに私だけ休めないよ?」

 

 マトイは首を振りつつそう言った。こういう時マトイは梃子でも動かない。

 そのため私は素直に準備のお願いをすることにした。

 

 

 

 

 

 日が明けて翌日。

 私は上層TA(タイムアタック)コースの最終ともいえるバージョン3を考えている。

 10階層からは確か霧が発生していた。視界を奪う天然のギミックとなるのでそういう場所を含みつつコースになりそうな場所を選択していく。

 モンスターも人より大きなモンスターが出てくる。きっとベル君も苦戦するだろう…………苦戦するよね?

 上層にはたしかボス的なモンスターが居たような?確かインファイトドラゴンって言ってたっけ。

 資料を取り出しで確認してみたけど絶対数が少ないようで、なかなか会えないらしい。

 私も会ってなかったっけ?コースの下見ついでに探してみようかな?

 他はハードアーマーというガロンコ見たいなモンスターもいる。

 終盤にこの辺りのモンスターを混ぜて最後にシルバーバックがいる地帯を最終エリアに設定っと。

 運が良ければ、インファイトドラゴンと出会えるって感じでコースを纏めていった。

 それから私はダンジョンに籠るから、付きっ切りでベルくんに付き合えなくなる。そのためTA(タイムアタック)コースをベルくん一人でも使用できるように手配もしておかないと。

 

 しかし、予想以上にベルくんの成長が早い。

 戦い方は特に誰に教えて貰ったとかは無いそうだ。元々センスが良いのだろう。

 失敗しても、そこから自分で学んでいけている。

 ホント凄いね……自身の努力もそうだけど、これもあのスキルのお陰なのかな?

 

 

 

 コース設置の手配を行い終え、一息つくためにテラスへ向かう。

 外は夕闇が迫っていた。

 今日は一日中自分の部屋に籠ってたなぁ。

 私はテラスで伸びをしつつ眼下に広がる廃墟を眺めていた。

 

 外の景色を眺めているとジョージから通信が来た。

 なんでも怪物祭(モンスターフィリア)でテイム用のモンスターが暴走し逃げ出す騒動があったらしい。

 騒動の際、アークスも協力してモンスターの討伐を行ったそうだ。

 主催であるガネーシャ・ファミリアの人に感謝されたと喜んでいた。

 アークスとしても良い切っ掛けがあれば、介入して面識を得て交流を深めていくとの事。

 いい方向で交流を持てれば、仲良くなれるしね。

 それと討伐時、資料に無い植物型モンスターも居たらしい。討伐時に共闘していたファミリアの人──ロキ・ファミリアらしい──も新種と言っていたそうだ。

 ダンジョン調査の際、そのモンスターにつていも調べて欲しいとジョージからも依頼された。

 有名どころのファミリアの人も知らないって、ダンジョンはやはり未知の領域なんだね。

 

 私は明日からのダンジョン調査を楽しみにしつつ、夕闇に沈むオラリオを眺めていた。




モンスターフィリアについては主人公はスルーになりましたが、他のアークスが活躍する形になりました。


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閑話-怪物祭sideベル

今話と次話は閑話となります。


 僕はダイダロス通りを神様を横抱きにして、必死に走っている。後ろからは白い毛並みの大猿のモンスター──シルバーバックが迫ってきている。

 何故こんな事になっているかというと、怪物祭(モンスターフィリア)に来た時まで遡る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今日は怪物祭(モンスターフィリア)と言う事で、ミケさんからは訓練は中止にして休息するよう言われた。

 でも僕は少しでも良い武器を買いたいため、午前中だけ祭りを覗いた後、午後からダンジョンに行くつもりだ。

 そのためメンテナンスに出しているナイフを受取に、北西にある修理屋を経由して祭りが行われている東のメインストリートへ向かう予定だ。

 ミケさんから武器のメンテナンスの重要性を聞かされているので、ミケさんと訓練後は必ずメンテナンスに出していた。

 

 

 

 

 

 ミケさんの訓練は所定のコースを時間内にモンスターを倒しながら進むものだ。

 ミケさんはTA(タイムアタック)って言っていた。

 コースを紹介された時に使った『テレポーター』って言うのは不思議な物だったなぁ。

 光る筒状の帯の中に入ると見知らぬ場所に出るから最初は戸惑った。ミケさんは「そのうち慣れるよ」っていってたけど僕は未だに慣れない。なんというか感覚が追い付かないというか……

 

 最初に紹介されたTA(タイムアタック)のコースは、正直拍子抜けする位簡単だった。これで本当に強くなるのかと不安になったけど、その後連れていかれたコースで今の僕にとっての難敵──キラーアントと出会った。

 キラーアントは、硬い外殻に覆われた昆虫型のモンスターだ。僕のナイフだとその外殻を貫けず、関節を狙って倒すしかないんだけど、倒すのに時間が掛かると仲間を呼ばれる。最初に対峙した時は仲間を沢山呼ばれた。

 やられる!?

 僕は必死になって逃げ様とした時、気が付いたらミケさんが横にいた。

 

 僕は周囲を見回したけど、あれだけ居たキラーアントの姿は見えなかった。

 ミケさんが言うには、僕が危機的状況に陥ると『安全措置』が働いてスタート地点に戻され失敗扱いになるそうだ。

 こんな上層のモンスターすら倒せない状態で、本当に強くなれるのか?あの人に追いつけるのか?という不安がよぎり、視界がぼやけて来た。いや強くなれるのかではなく、なるんだ!追いつけるのかではなく、追いつくんだ!あの出会いと酒場の一件でそう決めたはずだ!

 僕は、視界を覆う涙をぬぐうと自分に発破をかけるために頬を叩きミケさんの方を向いた。

 

「もう一回お願いします!!」

 

 ミケさんは僕の勢いに驚いた顔をしていたけど僕を見た後、笑顔で背中を押してくれた。

 

「うん、大丈夫そうだね。何度でも挑戦すると良いよ!」

 

 その後何度も挑戦したけど、その日はキラーアントの所で戻されるを繰り返していた。

 ホームに戻った後も、いかにキラーアントを効率よく倒すかを考えるのに夢中になっていた。

 神様はそんな僕を微笑ましそうに見ながら、ステータスの更新をしてくれた。

 

 

 

 翌日ミケさんの所に行く際に、神様から今日から数日留守にすると言われた。なんでも用事があるらしく、それが終わるまでホームに帰らないらしい。

 神様を送り出した後僕もミケさんの所へ訓練に向かった。

 

 

 

 ステータス更新のお陰か、昨日あれだけ苦戦したキラーアントを倒せるようになっていた。キラーアントの動きが手に取るように分かり、的確に弱点である関節部を攻撃できるようになった。ただやはりと言うか、僕が使っている武器だと外殻は貫けない。

 ステータスが上がっても武器が良くないと厳しいな。キラーアントとの連戦でボロボロになっていく武器に負担を掛けないよう戦っているため、残念ながら目標の時間内に突破は出来なかった。でも時間は掛かったけどコースの走破は出来たので、強くなっている実感が湧いてきた。

 ミケさんにお願いして正解だった。僕はミケさんに感謝しつつ、その日は武器のメンテナンスのためダンジョンを後にした。

 そして、走破は出来ても時間の短縮が出来ない事に苦慮しながら、怪物祭(モンスターフィリア)の日を迎えた。

 

 

 

 

 

 メンテナンスに出していた武器を受取、僕は怪物祭(モンスターフィリア)の会場である闘技場がある東のメインストリートを進んでいる。多くの人が行き交い、道の端には普段ない色々な露店が立ち並び賑わっていた。

 食べ物系の露店の所には、ミケさんの所に行くと良く対応してくれるアークスの人達が、荷物を忙しそうに運んでいた。

 その内の一人は、僕を見るなり「案外いけるかもしれん」といって僕にうさぎの耳が付いた頭飾りを進めてきた事もあった。僕が全力で拒否すると残念そうに去って行った。何だったんだろう……

 

 人をかき分けながら進んで漸く闘技場に着いたものの、余りの人の多さに道が塞がれていた。

 僕は途方に暮れて、これじゃ入れないから今からでもダンジョンにと考えていると、僕を呼ぶ声が細い通りの方から聞こえてきた。

 

「ベ~ル~く~ん!!」

 

 そこには数日見掛けなかった神様が、手を振りながら僕の方に駆け寄って来ていた。

 神様は始終ご機嫌だった。僕の声が届かないくらい……

 そして何故か、恐れ多くも僕は神様と所謂『デート』をしている。といっても神様に振り回され僕がドギマギしている様を神様が楽しそうに見ているというものだったけど。

 

 そう『デート』というのは相思相愛の相手と行うもので、例えば僕があの人──アイズ・ヴァレンシュタインさんと仲良くなって一緒に歩いたり、食べ物を分け合ったり、夕日が沈む公園をバックに……といったようにもっとこう嬉恥ずかしなイベントのはずだ。僕はそんなことを考えながら神様と歩いていると、神様がジト目で僕を見つめていた。

 

「なんだい!?僕とのデートは楽しくないのか!そんなにヴァレン何某がいいのかぁぁ──!!」

 

 神様は僕の胸倉を掴み前後に揺さぶってきた。

 僕は慌てて思考を切り替え神様をなだめようとした時、闘技場の方から悲鳴が聞こえてきた。

 僕と神様は今までのやり取りを忘れたかのように互いの顔を見合わせ、悲鳴が聞こえてきた方へ視線を向けた。

 そこから出てきたのは、大勢の逃げ惑う人達とそれを追うかのように出てきた大猿──シルバーバックだった。

 シルバーバックは僕達を視界に収めると、こちらに向かって威圧を込めた雄たけびを上げて進んできた。

 シルバーバックの強制停止(リストレイト)だ。けど今の僕にその様な物は効かない。なにせミケさんとの模擬戦の時に受けた威圧に比べたら、子犬が鳴いている程にも感じない。

 あれは何だろう?僕の魂というか存在を掻き消されるかのような途方もない威圧を受け、僕は何も出来なかった。気が付いたら黄色い鳥に囲まれていたっけ……

 僕は封印したはずの記憶を振り払い、神様を庇いシルバーバックと対峙した。

 

 シルバーバックは確か11階層から出るモンスターだったはず。今の僕で敵うか分からないけど、レベル1で行ける階層の敵である事には間違いない。

 とりあえずは一戦交えて敵わなければ神様を抱えて逃げる。そう決めると僕はシルバーバックに向かって突撃した。

 シルバーバックに攻撃した際、僕のナイフは刀身から粉々に砕けてしまった。

 武器が壊れるなんて!?メンテナンスしたばかりなのに……

 幸いシルバーバックの動きは緩慢に見えたので、素早く方向転換し神様を抱え上げると脱兎のごとく逃げ出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そうして僕は神様を抱えて逃げている。

 シルバーバックの姿は見えないけど確実に僕達を追って来ているのは分かる。このまま逃げ続けても何れ追い付かれる。

 どうしたものかと考えていると、神様が真剣な顔をして僕に話しかけてきた。

 

「ベル君止まってくれ。こうなったらベル君、君があのモンスターを倒すしかない!」

 

 しかし僕の武器は先ほどの一戦で壊れてしまっている。

 

「今の僕の武器では、あのモンスターは倒せません」

 

 現状僕が買える一番良い武器での攻撃は、シルバーバックの毛皮に傷をつける事すらできなかった。僕は粉々に砕け持ち手のみとなったナイフを神様に見せつけるようにして差し出した。

 

 しかし神様は僕の腕から降りると、笑顔で僕に発破を掛けてくれた。

 

「君の新しい武器はある。僕が君を勝たせて見せる!それに僕は君が勝つ事を信じている」

 

 神様はそう言って、背負っていた包みを僕に押し付けた。

 包みの中には1本の黒いナイフがあった。神様はもしかしてこの武器のために数日空けていたのか……僕は神様への感謝と僕への信頼に目頭が熱くなってきた。

 

「この武器を使うにはステータスの更新が必要だ。何処かにいい場所は無いか……」

 

 神様は周りを見渡しとある物陰を指さした。

 

「あそこでやろう。さぁベル君急いであそこへ!」

 

 僕は神様に言われるがまま、神様が指さした物陰へ再び神様を抱えて向かった。

 

 

 

 ステータスを更新後何故か呆然としている神様を残し、向かってきたシルバーバックと再び対峙した。

 後ろの方で神様が何かぶつぶつと呟いていたのが気になるが、今は目の前のシルバーバックに意識を集中した。

 

 その後は一方的な展開になった。ステータスの更新もそうだけど神様が渡してくれた黒いナイフ『ヘスティアナイフ』の威力は絶大だった。

 あんなに硬かったシルバーバックの毛皮をいともたやすく切り裂くことが出来た。僕は止めとばかりに魔石が有る場所──体の中心に向けてナイフを突き出した。

 ナイフの突きを受けたシルバーバックは、苦しみながら霧散していった。

 

 シルバーバックが倒されると物陰から見守っていたと思われる人達に囲まれ、歓声を浴びせられた。僕もシルバーバックを倒せた事に安堵して、神様のほうに向くと前のめりにへたり込んで僕に向けて右腕を上げ親指を立てている神様がいた。

 僕が慌てて神様の下へ行くと神様は先ほどの格好のまま眠っていた。今回の騒動で疲れたのだろう。

 僕は神様を抱えると、歓声に包まれながらホームへの帰路に付いた。




次話はアークス側の活躍となります。


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閑話-怪物祭sideアークス

 ベルとヘスティアがシルバーバックに襲われていた時を同じく、我らがアークス達もこの騒動に巻き込まれていた。

 

 我々「獣耳の美少女を愛で隊」は、現在デメテル・ファミリアに出向という形で所属している。

 デメテル・ファミリアは、ファミリアに所属する事イコール神の恩恵(ファルナ)を与えるという事はなく、普通の農民も多数所属している変わったファミリアである。

 そのため我が隊もファミリアに所属することが出来ている。

 

 本日は、怪物祭(モンスターフィリア)という催しが行われる。

 デメテル・ファミリアとしても稼ぎ時となっており、我が隊も荷物の搬送に従事していた。

 転送装置か輸送機が使えれば楽なのだが、その手の技術はまだ大っぴらに使うのを控えているため、馬車と己の手足で荷物を運んでいる。

 我々は何時もの様に獣耳雑談をしながら、各所へ荷物を運んでいた。

 

 ……神様獣耳化プロジェクトの進捗はどうだ?ちなみに私は全然ダメだった。

 

 ……俺もだ。

 

 ……俺も。

 

 ……なぁ、アプローチの仕方がまずかったのではないか?

 

 当プロジェクトは元々デメテル様にどの獣耳が似合うかを話し合っていた時に、物は試しにとデメテル様に獣耳を見せて反応を試した事より始まった。デメテル様の反応は芳しくなかったが。

 その後デメテル様へのアプローチは諦め、最近ミケ殿が懇意にしているヘスティア様にも試してみた。

 ヘスティア様はミケ殿の所有する衣装には興味を示していたので期待していたが、残念ながらこちらも空振りであった。

 しかし我々は諦めなかった。デメテル・ファミリアと懇意にしているファミリアの主神に会う機会があれば試していたが、それでも反応は芳しくなかった。

 中にはこんな言葉を神から貰った事もある。

 

「獣耳のアクセサリー?そんな物付けるより本物見た方が良いじゃん?」

 

 ここの神々は自身が追体験するのではなく、他人が行っている様を眺めて悦に入る傾向が強いようであった。

 そして中には、私が獣耳を出す前から物凄い形相で睨みつける主神と、同じ様に睨んでくる眷属のニューマンに出会う事もあった。その後すぐに取り繕ったが、あれは珍しい反応だった。

 そのことを踏まえデメテル様に報告したら、デメテル様からのお叱りの言葉と共に、そのファミリアであるディオニュソス・ファミリアの対応を任される様になった。なんでもお得意様の機嫌を直してもらうため、詫びを兼ねて我々に対応して貰うとの事。我々も訳も分からず外されるのは本意ではなかったため、有難い提案であった。

 その様な事もあり、我々のプロジェクトは暗礁に乗り上げていた。

 我々はこのままこのプロジェクトを推し進めるか、別のアプローチを模索するかの選択を迫られていた。何もなしていない現状で当プロジェクトを諦める選択は我々には無い。

 

 今後の進め方について話し合おうとした時、闘技場の方から歓声とは異なる声──怒声や悲鳴が聞こえてきた。

 我々はお互い顔を見合わせ頷くと、騒動の場である闘技場へと向かった。

 

 

 

 闘技場の周辺は騒然となっていた。

 漏れ聞く話によれば、テイム用のモンスターが数体逃げ出し暴れているとの事。

 我々の腹は決まった。

 アークスとしても逃げ惑う住人を守るため、まだ見ぬ獣耳の美少女を助けるため、そして何よりもデメテル・ファミリアで出会った気の良い獣人族の皆様のためにも、我々は逃げ出したモンスターの対処へ向かった。

 

 

 

 数体のモンスターを討伐した私に、あるフォトンの囁きが聞こえてきた。

 これは、幼い獣人族の子供が怯えている!?

 私は仲間にフォトンの囁きを伝えると、急いで現場に向かった。

 

 現場には、植物型のモンスターと対峙している3人の少女たちが居た。

 2人の少女がモンスターを素手で叩いていたがあまり効果は無い。もう1人の少女はモンスターの方に向かい、何かを呟きながら意識を集中している。

 あれは魔法を発動させているのか?

 私は仲間に彼女達の援護を任せ、フォトンの囁きを辿って戦闘が行われている広場の端へ向かった。

 広間の端には複数の屋台が立ち並んでおり、その一つから囁きが聞こえてくる。

 その場に行くと、幼い獣人族の少女が蹲り怯えていた。

 私はそっとその少女に声を掛けると、恐る恐る顔を上げ私の方を見た。

 涙で酷い状態であったが、その少女には見覚えがある。デメテル・ファミリアと取引がある露店主のお子さんで、何度か一緒に遊んだ事もある。そのため私を確認すると勢いよく私に飛び込んできた。

 

「おじさん!!怖かったよー」

 

 私は少女をあやしながら仲間たちの様子を確認すると、事態がさらに動いていた。

 魔法を発動させようとした少女の元には触手が向かっており、そして少女を庇う様にして武器を構える仲間の一人。彼は我が隊が誇る守備の要だ。魔法発動中の無防備な所を狙われたのだろう。

 2人の少女の所へは、残りの仲間が向かっていたが、こちらの攻撃で傷を付ける事は出来ているがあまり芳しくない。倒すには時間が掛かりそうであった。

 私は少女を抱え安全な場所まで送り、加勢に戻ろうと考え踵を返した時、空から別の少女が飛んできた。

 その少女は、何か力のようなものを全身に纏い、手に持った剣でモンスターを一刀の元に切り伏せた。

 切り伏せられたモンスターは霞となり消え去った。

 

 空を飛んできた少女と他の少女たちは仲間の様で、お互い声を掛けて健闘をたたえ合っていたが、私の仲間は新手の気配を感じ、構えを解かず新手の出現を待ち構えていた。

 私もこの場に居てはこの少女を巻き込む可能性があると考え、早々に離脱する事にした。

 

 

 

 広間の入り口に行くと、ギルドの職員へ少女の母親である露店主が少女を探して欲しいと訴えている。

 私は少女と露店主を安心させるため、そちらへ向かった。

 

「ままー!!」

 

 母親に気が付いた少女は私から飛び降りると、勢いよく母親へ向かって突進した。

 少女に気が付いた母親は驚きの表情の後安堵した表情になり、少女の突進を受け止めた。

 

「よかった……ほんとうによかった……」

 

 母娘の再開を前に私も安堵の息を吐いた。

 これであの少女も大丈夫だ。

 私は仲間の加勢のために再び広間へ向かおうとすると、母親から声を掛けられた。

 

「この子を助けてくれてありがとう……あら?あなたはデメテル様の所の?」

 

 私は母親からの感謝の言葉を聞き感無量となった。

 思えば我々はオラリオに来てから随分と変わった。

 オラリオへは獣耳を求めて来たのは今もそうだが、獣人族との出会そして絶望と再起を経験し獣人族への思いは、愛でる存在ではなくこの世界を共に生きる隣人として思うようになっていた。

 現金なものでそう思うと、獣耳のおばちゃんやおっさんを見ても以前の虚無感を全く感じない。寧ろ他の種族より友好的に接する様になっていた。

 ……獣人族以外の種族は今一つ把握し切れていないが。

 そのお陰か私のフォトンは更に強化され、某六坊の六の人みたいにフォトンを感じ取れるようになっていた。まぁ獣人族限定だが。

 無論我が隊の仲間もそれぞれ強化されている。他のアークスと比べても頭一つ抜けているという自負がある。

 

 私は仲間の加勢に向かう事を伝えると母娘に背を向ける。

 私の背中へ少女の声が掛けられた。

 

「おじさん!がんばってね!」

 

 その声を聴いた瞬間、私のフォトンがさらに活性化された!?

 私は少女に力強く頷くと全速で広間と駆けて行った。

 

 

 

 広間では新たに3体のモンスターが暴れまわっており、仲間と少女達は苦戦している。

 空から飛んできた少女が持っていた剣は壊れてしまったようで、今は素手でモンスターと対峙していた。

 私は空を飛ぶ少女がこの中で一番強いと直感で感じ、私が今持っている武器をその少女に差し出した。

 フォトンが無くても、只切る武器としても使えるはずだ。

 

「君の使っていた直刀と違い曲刀だが君なら使えるだろう。この武器を使ってくれ!」

 

 私がそう言うと少女は頷き、私から武器を受け取ると勢いよくモンスターへ向かっていった。

 私は弓を取り出すと心を落ち着かせ集中、己のフォトンを収束させていく。

 暴れているモンスターの1体に狙いを定め私の渾身の一撃を解き放った。

 私の攻撃と武器を渡した少女の攻撃により、2体のモンスターが霞となって消える。

 残りの1体は素手の少女たちによる連携攻撃で内部が破壊されたのだろう、同じく霞となって消えた。

 

 残身を残しつつ周囲を警戒したが、新手は居ないようで私は構えを解く。

 仲間たちが私の所に集まると、開口一番獣人族の少女の安否を確認してきた。

 流石私の仲間だ。私が少女が無事であり母親の所に届けたと伝えると、漸く安堵した顔になる。

 ちなみに仲間たちは怪我一つなく無事であった。まぁあの程度の硬いだけの敵は、アークスとして散々戦っているので問題は無いと踏んではいたが、無事で何よりである。

 

 我々が話していると、共闘していた少女たちが私達が集まっている所へやって来た。

 武器を貸した少女が最初に私達の所に近づき、私に武器を差し出す。

 

「武器ありがとう……この刀物凄く良かった。それに、あなたの弓の攻撃も凄かった」

 

 私の武器は、アークス正式採用の武器ではなくオーダーメイドの武器だ。そして数々の強化とアークスの最終ボス(ドゥドゥ)との激戦を繰り広げ、勝利した武器でもある。

 私は武器を褒められた事を誇らしく思いながら武器を受け取った。

 

「そうそう、矢がぴかーって光ったと思ったらびゅーんって飛んで行ったの凄かったねー。あんな弓の攻撃初めて見たよー。あっ、あたしはティオナだよ、よろしくね」

 

 そう言いながら私に近づいて来たのは、素手で戦っていた少女『ティオナ』であった。

 

「そうね。確かに見たことない攻撃だった。まるで単発の魔法ね。私はティオネよ」

 

 少女の言葉に同調するように、もう一人の少女『ティオネ』も近づいて来る。

 

 アークスのフォトンを纏った攻撃はこちらの世界では魔法の様に見えるのだろう。

 私は素直に礼を言っていると、魔法と言う言葉に反応したもう一人の少女──見た目からニューマンだろう──がため息を吐いていた。

 

「私がちゃんと魔法を詠唱出来てれば……」

 

 ズーンという擬音が聞こえそうなほど落ち込んでいるニューマンの少女の下へ、先ほど名乗った少女達が慰めの言葉をかけている。

 

「レフィーア、しょうがいないよ~!あの新種は魔法に反応してたし」

 

「私達も武器があればここまで手こずらなかったからお相子よ。それにレフィーアはお礼を言わないと」

 

 レフィーアと呼ばれた少女は「そうでした!」と言い顔を上げ我が隊の守備役の所へ行き頭を下げた。

 

「あの、助けて頂いき有難う御座います!」

 

「ついでで助けただけだ。気にするな」

 

 彼はそう言いそっぽを向いた。照れている様だ。

 

「ついで……ですか?」

 

 レフィーアは首を傾げながら彼に問いかけている。

 彼は助けを求めるように私に視線を向けた。

 

 ……説明を頼む。

 

 ……ちょ、おまっ。

 

 我が隊の仲間は、口下手が多く交渉事などはすべて私が行っている。そのせいでやりたくもない隊長職を任されている。

 彼らも普段から獣耳雑談の時みたいに饒舌になれば良いのだが……彼は我が隊の新しい名前を考えた天才だ。きっとまともに話が出来ればもっと出世するだろうに。

 私はため息をつきつつ彼女達に説明をした。

 

「すまない彼は口下手でね。実はここの露店の陰に獣人族の少女が逃げ遅れていてね、それを私が救出するため、彼らには援護を頼んでいたんだ」

 

 私の説明を聞き、レフィーヤは「そうだったんですね」と納得し頷いている。

 

「うん……彼が助けてくれたから私も攻撃に回れた」

 

 今まで黙っていた武器を貸した少女が、私の説明を肯定するように頷いた。

 

「アイズさんは気が付いてたんですね?それなのに私は自分の事ばかりで……」

 

 そう言うとレフィーヤはまた落ち込んだ。良く落ち込む子だな……

 

 ティオナとティオネは呆れ、アイズと呼ばれた少女はどう話そうか右往左往していると、彼女達を呼ぶ声が聞こえてきた。

 

「お仕事ご苦労さん!さっきので暴れていたモンスターは最後や」

 

「「「「ロキ!」」」」

 

 そう言いながら彼女達の所へ来たのは、剣を持ったスレンダーな女性だった。

『ロキ』という名前と今まで様々な神と会ってきた経験から、彼女が神である事が分かった。彼女達ファミリアの主神だろう。

 

「それとおたくらも手助けありがとな。デメテルにはうちからも礼いうとくわ」

 

 ロキは我々の胸や背中にあるエンブレムを見ながら労いの言葉をくれる。

 我々は、デメテル・ファミリアに出向した際にエンブレムをアークスの物からファミリアの物に変更している。

 

「しっかしデメテルのとこに、こない戦えるやついたかいな?」

 

 ロキはそう言い首を捻る。そして「あーおたくらがアークスか」と独り言ちた。

 どうやらデメテル様に我々の事を聞いている様だ。

 

「そや、ちいと聞きたいんやけど、髪が青から紫に変色していて赤い瞳のエルフっ子知らん?」

 

 エルフ?私達はエルフと言う言葉にお互いの顔を見合わせ首を捻る。こちらの種族はヒューマンと獣人族以外の見分けが付かない。まったく興味が無いというのもあるが……

 ロキは我々の反応が悪い事に気が付き、レフィーヤの耳を指さしながら「こういう耳の子や!」と教えてくれた。

 それを聞き我々は合点がいった。特徴からミケ殿である事が分かる。そういえばミケ殿はロキ・ファミリアと思われる一団に会ったことがあると言っていたな。

 

「ミケ殿の事ですかな?」

 

「ミケっちゅうんかいな?なんやものごっつう強いらしいな?」

 

 ミケ殿はアークスの最高戦力であり守護輝士(ガーディアン)である。そして何よりも守護輝士(ねこ耳)であり我らの誇り(獣耳フレンド)だ。

 

「ミケ殿は我らアークスの最高戦力で誇りです」

 

 ロキは私の言葉を聞き「さよか」と答えた後、少女たちに向き直った。

 

「地上にいるモンスターは全部討伐完了。アイズたん達は地下の様子を見に行ってもらってええか?まだ何かいそうなる気がするわ。うちはこの子達にまだ聞きたいことがある」

 

 そう言いつつロキは手に持っていた剣をアイズに渡した。

 彼女たちはロキの言に従い地下へと向かっていった。

 

「それで話とは?」

 

 私がロキに尋ねると、ロキはにんまりといやらしい顔になった。

 

「なぁ、おたくら獣人族の耳を模したアクセサリーもっとるってほんまなん?」

 

 ロキの言に我々は互いの顔を見合わせると素早く懐から押しの獣耳を取り出した。

 

「おおぉ、これかいな、デメテルがいっとったのは!」

 

 ロキは目を輝かせながら我々が取り出した獣耳を眺めていた。そして何かを想像したのかだらしない顔になった。

 

「なぁ?これゆずってもらってもええか?」

 

 なんと!オラリオに来て初めて獣耳に興味を持って貰えた!我々は満面の笑みを浮かべながらそれぞれの獣耳をロキに渡す。

 

「神ロキよ、これはお近づきの印として差し上げましょう!しかし獣耳は非常に高価です。もし数がご入用でしたら次回から料金を頂きたいです」

 

 ロキは渡された獣耳をしげしげと眺めている。

 

「確かに高そうやな。よしわかった、次からはこうたるわ!」

 

 私はロキと固い握手を交わす。

 ロキは嬉しそうにしながら我々の前から去って行った。

 

 ……我らのプロジェクトに進展があったな!

 

 ……あぁ、素晴らしい!

 

 ……うんうん

 

 ……よし、ロキ・ファミリアは我らの最重要ファミリアとして記録しておこう!

 

 我々は清々しい思いを胸に、広間を後にした。




次回から本編に戻ります。

2/26追記
次回の投稿ですが、バタバタしておりまして3月以降を予定しております。


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