真・女神転生square root (長月 海里)
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1部-異殻の召喚士達 異殻の少女
異殻の少女


はじめまして。
描写は大変拙いですが書けるだけ書き切ろうと思います。
どうぞよろしくお願いします。


I regard the brain as a computer which will stop working when its component fail.

 

なぜこんな世界に放り込まれたのかはいつまでたっても理解できない。

きっかけなんて御大層なものはなかっただろう。物語はうっかり期限がその日までなのを忘れていた通販の支払いをコンビニで済ませた夜十時半の帰り道から始まる。

 

 

 家まで7,8分の帰り道、別に家でやってもよかったが人もいないし大丈夫とスマホで送金完了のメールを確認してポケットにしまおうと―――

 

 

「アンタ、まだ気づいてないの?」

 ほぼ目の前で声がした。

 

 

しまった、やっぱり歩きスマホなんてするんじゃなかった、と思い顔を上げて一歩下がり、謝ろうとしてようやく相手の出で立ちの随分奇妙なことに気がついた。

 只今ゴールデンウイークの終わる5月の初め。そろそろ半袖が活躍しだしてもいい頃だ。が、彼女(女性だった)は耳付きの分厚い帽子にモッズコート、今から登山できそうなゴツいブーツとブラックジャックにすら心配されそうな厚着具合だった。

 それだけならまだ寒がりなんだなぁ...で無理やり済ませてもOKだったのだが槍だ。

小柄な彼女の身の丈ほども長さのある棒。先っちょにぎらつく(ように感じた)黒っぽい穂先。

紛うことなき槍である。槍なんて初めて見た。

 新手のカツアゲだろうか。

「...こんなドンくさいのマジでいるのか...私ばっか見てないで周りを見なさい。周りを。」

 意味がわからず呆然としていた僕にヒラヒラ動く左手とあきれた声で促され、ようやく状況を理解した。

 いつものアスファルトの道、鉄筋コンクリートのマンションビル、愛想のない街灯、見慣れた光景が全部赤茶けた蝉の抜け殻みたいな物に覆われて異形の世界と化していた。

「なんじゃこりゃ。」

 なんで気付かなかったんだろう。歩きスマホって怖い。

「こいつアホだホ。スライムの徒競走よりニブニブホ。」

「は?」

 つまらない反応ばっかりしていて申し訳ないとは僕も思う。が、ひょこっと彼女の隣に現れた雪だるまに可愛い声で罵倒されれば誰だって間抜けな声が出ると思う。なんだコイツは。

この二人だけ季節が違う。

「ごめんな、よくわからないところで口の悪い雪だるまに罵倒されて家に早いとこ帰りたいだろうけど色々こちらとしてもルールはあるし...あいつらは新参者の匂いを嗅ぎ付けたし質問はちょっと待っててくれ。5分で済ませるから。」

 話がつかめない。あいつらって誰だ?

「フロスト、そこの重要参考人キープしておいて。」

「ホ。」

 振り返りながらおもむろに両手に槍を構えたと思うと女の子の腕力とは思えない力強さで中空を薙ぎ払った。

 

 

『ぎゃ!!』 

 耳につく、不愉快な悲鳴(あまりに不愉快で奇声に近かった。)がして、ヒト型にしてはいやに小さくでどす黒い物体が3つ彼女の足元に転がった。

「さまなーが忙しいからオイラが説明してやるホ。あいつらは『ガキ』。バカで弱っちくてオイラ達より食いしん坊なバカホ。オマエの匂いにオイラ達のことの考えずにオマエを食いに来たバカホ。」

 僕の方にてとてとと近寄ってきて呑気にその『ガキ』の解説をはじめる『フロスト』。

説明は(雪だるまにしては)大変上手いがすごく『ガキ』をバカにしている。口が悪い。

 そんな間にも無双の如く彼女は次々現れる『ガキ』を薙ぎ払い(あのごつくて重そうな)ブーツで蹴り飛ばしていく。

「で、疑問に思ったかホ?あのバカは何でこの可愛~いオイラは何なのかって。思ったかホ?」

 真顔で迫って可愛~いとか言わないで欲しい。

「思ってなくともご紹介だホ。バカもオイラもみ~んな"悪魔"。オマエみたいなニンゲンをぱくっと出来る超スゴイ存在なんだホ。」

「カイロを食い物と勘違いしてとろけた雪だるまだけどね。」

 迫った『フロスト』に遮られて見えなかったがいつの間にか『ガキ』の山を後ろに彼女が立っていた。

こんなにいたのか...。

「説明お疲れ様。で?どこまで説明した?」

 

 

 家で親御さんは待っていないか、時間に余裕はあるか?と尋ねる彼女に問題ないと答えるとじゃあちょっと来てくれと彼女に緑の生き物(これも『フロスト』の言う悪魔なんだろうか?)に乗せられ赤茶けた夜道を走る。

「悪いね、ニュービー見つけたら救助と説明は絶対やれって決められてるんだ。死者行方不明者なんて出したくないからさ。まず荒川行こうな。帰りも送るから。」

 遠っ。

「今遠いって思ったホ。」

「あと20分もかからず着くよ。」

 待って。今時速何キロ?チーターの倍は早い計算になるんですが。

 

 




最速のバイクは670㎞/h出せるんだとか。

次は7日に投稿予約しています。









ガキ:仏教の六道の一つである餓鬼道に生まれた存在。閻魔大王が支配する世界に生息するとされている。
様々な姿があるとされるが、飲食物を口に入れようとすると火に変わって消えてしまうため、常に飢えと渇きに苦しんでいるものが一般的。しかし、供養によって施されたものは飲み食いすることができるという。

造魔ジード:獣のような姿をした忠実かつ強力な悪魔。
詳細不明。一説によれば土の人形と悪魔を合成することで生まれたものの一体とされている。
悪魔達が姿を保つのに必須の物質である生体マグネタイトを一切必要としないが、月の無い間は力が失われる。


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武器屋の聴講

いつだって説明は大変難しいです。


「ハイ到着。毎回足役悪いな、お疲れ。」

 怖かった...。

時速200キロ越えの文字通り悪魔のタンデムで連れてこられたのは元は三階建てくらいの個人ビルと思しき正面入り口。勿論あっちこっち出来損ないのクッキーみたいなでこぼこで中に入るにはなかなか度胸がいりそうだが入る感じなんだろうか。

「はいるホ。」

 ですよね。

「中は普通だよ。割と。」

「割と...。」

「二ブニブ早く入るホ。重要参考人は速やかに移動ホ。」

「はいどうぞご案内。...こんばんは入るよ~。」

 べしべしと僕の尻を叩く『フロスト』にお構いなしにぼこぼこの扉を涼しい顔で彼女は開くと僕を中に招き入れた。

 

 

「こんばんは〜。」

「ホ。」

「し、失礼しま〜す...。」

 中は彼女の言った通り明るくて掃除の行き届いた、割と普通の内装だった。

が、パッと見た感じは小さい楽器店のくせに並んでいたのは残念なことに長ドスだったり拳銃だったりと銃刀法違反ぶっちぎりの商品たちだった。日本でこんな光景見れるとは想像してなかった。

「よぅセヲリ。あっちこっちで厄介ごと片づけてる割に拾わないとは思ってたがついに新入り連れてきたか。」

 にたにた笑いながらカウンターの奥で店番していたおじさんが話しかけてきた。

「立川か国立かあたりで迷い込んでたのを連れてきた。ガキどもが20も30もやってくるし、ここなら座って話せるしイサカがいれば説明も楽だからさ。イサカいる?」

 備え付けのソファに僕を促しつつ反対側にぼふっと座り込んだ彼女(セヲリ?)はおじさんに尋ねる。

「今日は課題煮詰めるってよ。明日以降だな。...で?わけもわからないいたいけな少年をアヤシイおじさんの店に連れ込んだわけか。厄日だな。」

 全くです。

 

「さて、そのいたいけな少年に色々ご教授といきますか。長くなって悪いな。日付変わるまでには返すから。」

「二人とも言い方がヒワイホ。」

「まずは自己紹介しようか。私はセヲリ。あっちはミナモト。みんなツネキチおじさんとかじいさんって呼んでる。関東一の武器屋ね。で、この雪だるまは『妖精ジャックフロスト』。夏場とカイロが苦手。」

「今後ともよろしく~ホ。」

 ヒワイ発言に蹴り飛ばされた『ジャックフロスト』がくるり~んぱ、と起き上がりながら手を挙げて挨拶。

あの毒舌を聞いてなければ素直に可愛いと思った。

「あとそこの天井にいるのがイチモクレンだ。」

「天井?」

 指をさされた上を向いたら水木しげるの漫画みたいな目玉が手を振っていて思わずソファから転げ落ちた。なんであんなのがいるんだ。

「はははははははははははははははは!!!!」

 そろってものすごい笑われた。さてはこれ名物だな。

「伊勢の風と海難防止の神様だ。うちの監視カメラ兼警備員。」

「ヨロシク...。」

 

 

 

 

「そろそろ真面目に行くか。...さっきアンタを襲った『ガキ』。私の相方『ジャックフロスト』。足役になってもらった『ジード』。伊勢の神様『イチモクレン』。これらは全部ひっくるめて"悪魔"と呼ばれる存在だ。ちょうどピカチュウもリザードンもコラッタもポケモンと呼ぶのと同じ感じ。人間以外ここで動くモノは真っ白い羽根の天のお使いだろうと黒山羊頭の黒ミサの司会だろうと全部悪魔だと思ってもらってもいい。」

 (まだふざけているようにしか聞こえないが)大変わかりやすい例えを混ぜ込みながらさっきとは大違いの真面目な顔でセヲリは話始める。

「で、ここは異殻(いがい)。現実の世界とは時間の流れもルールも全く異なる殻に覆われた世界。」

「異殻...?」

「そう。"異なる殻"で、"いがい"。細かい説明はイサカ行き、詳しい話は後に回して次はこれだ。」

 と、セヲリはスマホを取り出した。

 

 

 

「この世界に入ると勝手に"COMP"って名前のアプリがインストールされる。見てみ、ページの端の方にあると思う。」

 促されてポケットに入れていたスマホを確認すると確かに"COMP"と名前の付いたあまり愛想のないアイコンがページの端っこにひっそりと存在していた。いつの間に...。

「入ってすぐに"進入・帰還"のアイコンがあるだろ?これワンタッチで出入り可能...押すなよ。説明は終わってないから。」

 わかるわかるという顔を(後ろのツネキチじいさんと一緒に)しながら押そうとした僕をやんわり止めながらセヲリもアプリを立ち上げる。

「"進入・帰還"以外にも色々機能はある。一つ目、"時計機能"。」

 二つのデジタル時計が表示された画面を僕に見せる。

「現実の世界と異殻の時間が表示される。さっきの異殻の説明の時に言ったけれど現実とこちら側は時間の流れ方が違う。現実世界の月が満ちれば満ちるほど時間の流れが遅くなって欠ければ欠けるほど早くなる。数字で換算すると満月の時は八分の一、新月の時は三分の一。おかしいと思っただろ?すぐにでも帰せるような言い回しのくせにわざわざ荒川まで連れてき(らちっ)て話を始めた事。今は大体異殻の時間の流れは現実の五分の一。向こうの日付が変わるまであと四半日はあるわけだ。わかる?

「はい。」

 つまり現実世界の一日がこの世界...異殻の五日ってことだろう。逆浦島太郎だ。

 

 

「時間の話はこれでいいか。次は...。」

「待て待てセヲリ。お前一つ一つの説明はそこそこ上手いが全体的にはなっちゃねぇぞ。第一"俺達"のことも名前だけじゃねえか。悪魔、異殻、アプリ、時間の説明はまぁ出来てるが肝心の"サマナー"の話がまだだ。機能の話もサマナーを知らんと成り立たねえ。」

「だから私はイサカみたいにそういうのは得意じゃないんだよじいさん...。ご指摘にあったから次はアプリの前に私達についてだ。」

 う~ん...と、うなりながらセヲリはスマホを一度仕舞う。

「私やツネキチじいさん...ミナモトは武器を持って悪魔を仲魔にして悪魔と戦う『サマナー』。その中でも異殻での活動を専門にする『ニューエイジ』だ。」

 サマナーとはいうけれどほかの呼称も結構あるらしい。

「なにがあったっけ?"サマナー"、"サモナー"、"COMPER"、"悪魔使い"、"エクソシスト"、"祓魔師"、"テイマー"...あとなんだっけ?」

「今この話いらんホ。」

「...『ニューエイジ』ってのは元々いた現実世界で『サマナー』やってる連中との区別のために使われてる呼び方だ。だからあんまり私達"は"使わない。」

 "達"のところで死んだ目をしてため息をつくセヲリ。

私達以外の『サマナー』が使うってことだろうか。というか、現実世界に悪魔使いがいるのか...。

「ここに迷い込んだ人間の大体は一発目に死なない限り大抵サマナーになる。というか、私達先達がさせる。」

 させる...。

「じゃあ...僕も?」

「それは勿論。」

 と、セヲリは頷いた。

 




『ずとまよ』にはまっております。



セヲリ:『切っ先』、『六陣氷神』
19歳。中学卒業直後にこの世界に迷い込んだ。短槍を振り回して戦う女傑。
千葉県在住。理系短大生。日常生活においては就活以外は大体マトモ。

ジャックフロスト:お馴染み雪だるま型の妖精。
セヲリとの付き合いは長い模様。比較的テンションは低いがかなりの毒舌。
昔カイロをお菓子と間違えて齧ったり持ち歩いて溶けかけたことがある。

ミナモト:『武器屋』、『二兵風神』
50代前半。通称ツネキチ。
ニューエイジの中ではかなり古参。
異殻の荒川区で武器屋をやっているが現実世界の武器も仕入れているので正体が怪しまれるオヤジ。怪しいが人柄は良いので慕われている。

イチモクレン:ミナモトの仲魔の一体。
普段は武器屋で監視から製作まで色々しているらしい。
ドッキリは割と面白がってやっている。









ジャックフロスト:霜男。イングランドに伝わる雪や氷、霜でできた妖精、冬将軍。
無邪気で悪戯好きな性格の持ち主。しかし気まぐれに人を氷漬けにして殺すような残忍な一面を持つ。
その姿は小人、老人、雪だるま等諸説あるが、とあるイラストレーターの『ドラゴンクエストのスライムを目指して描かれた』姿が現在、この悪魔を形作っている。

イチモクレン:一目連。三重県多度大社に祀られる一つ目の神。
天候を司る神とされ、海難防止、雨乞いの儀式が行われていた。
元々は神社から出ると暴風を起こし暴れる隻眼の龍神だとも、天照大御神の孫であり、鍛冶・製鉄を司る神との習合存在ともいわれている。

異殻:現実の世界に膜を張るように存在するという世界。この物語の根幹。
異骸、異鎧と称する場合もある。
時間の流れが遅く、現実世界の月齢によって速さは変動する。
確認されたのは21世紀に入ってからで、侵入可能な人間が限られていることもあり、調査はあまり進んでいない。

COMP:異殻に迷い込んだ人間のスマートフォンにいつの間にかインストールされているという謎のアプリ。現実世界でならば消去も再インストールも自由に行うことが出来る。
実は数年前まではアップデートが時折行われていたらしい。
現在は有志によって解析・改良が為されている。


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入りの口

一月の末から予約登校しています。
原稿用紙換算5枚ずつくらいで上げてけるといいな。
でも就職戦争が始まるっぽいです。


「物事は一度知ってしまうと視野が広がってしまう。悪魔の存在を知った人間は常に悪魔の影を見て生きることになる。でもって異殻に迷い込んだ連中(私達)は異殻に迷い込むようになってしまう。言いたいことわかる?」

「つまりまたふらっとここに来ちゃうかも~...みたいな?」

「正解。しかも異殻を拒んで出入りしない奴ほど不安定になる。めんどくさいことにな。」

 『来ちゃうかも~』に吹き出しているミナモトを無視して(目じりがピクピクしているが)深呼吸するとセヲリは続ける。

異殻(ここ)が怖いのもわかる。関わり合いになりたくないのも理解できる。けどね、迷い込む度迷い込む度私達が助けられるとは限らない。だから自分の身は自分で守れるようにして欲しいわけよ。少なくとも私は必要な人助けも、自分で解決出来るはずなのに出来ずに死ぬ人間を増やしたくない。」

「コイツ偽悪者のお人よしだからな。死人が出るのが嫌なんだってよ」

 ぎょろりと睨むように言い放ったセヲリを指さしてミナモトはけたけた笑いながらぶち壊した。

「あのね、人が死ぬとか死なないとか人より10倍...。」

「じいさん!!!」

 バーン!と入り口が開け放たれた。

 

 

「なんだいきなり。」

「弾ちょうだい。」

 はぁはぁ息をついている女性を一瞥するとぬらりとセヲリは立ち上がった。

「セヲリ...!?ブンキョーでぼ、暴走族!3人やられてる...!」

「忙しい日だな今日は。」

 そういいながらミナモトはサイズにしてはなんだか重そうな箱をカウンターに置いた。

「金。」

「送った。たびたび悪いね用事できた。家に帰すの日付変わってからになるかもしれない。フロスト!」

「待ったセヲリ。そいつ連れてけばどうだ?」

「無理。」 

 素晴らしい即答だった。

「いきなりガイアーズは危険すぎ。すぐ終わるし。じいさんが話してればいいじゃん。ねぇさん息切らしてるところ悪いけど応援呼びに行きな。場所はアンタしかわからないから。」

「はい...。」

 言いながらずかずかと出口へと去っていくセヲリ。

「おいマジでおいてくのかよおま―――。」

 ミナモトの声がまるで聞こえていないかのようにバタンと音を立てて戸を閉めて行ってしまった。

 

 

「あ~あ。行っちまった。」

 何やらスマホを操作しながらつまらなさそうにミナモトはため息をつく。

「銃刀法知らずのおじさんと二人で待ってるなんて不安だよなぁ。少年。」

「いえあの、暴走族とかガイアーズって...。」

「いかれたカルトだよ。ガイアーズがガイア教って宗教の教徒。暴走族ってのはそんなかでも飛び切りバカで危険な連中だ。」

 インパクト強い宗教だな...。

「それはサマナーとは違うんですか?」

 勉強熱心だな、と呟いて煙草をくわえるミナモト。ついでに僕にルマンドをくれた。

袋で。

「よ~くわかんねんだなこれが。サマナー上がりっぽいのがいる気もするし違う感じのやつも多いし...。悪魔だらけのところにバイク持ち込んで爆走(はし)る狂人どもだし...。」

 一番の問題はな、とミナモト一拍置いた

「追い詰められても逃げるでもなく死ぬまで暴れまわる奴ばっかだから情報がとれないんだよ。」

「え、じゃあセヲリ...。」

「業だよなぁ。19で人殺しまくらなきゃいけないなんて。神も仏もあったもんじゃねえ。どこ行っても悪魔ばっかりだ。」

 背低くてわからなかったけど年上だったのか。

いやそんなことじゃない。

「セヲリはお節介焼きのお人よしだけどもそれが原因で自分をとんでもなく血生臭い手にしてる。アイツのあだ名教えてやろうか?『切っ先』だぜ?」

 灰皿に煙草をぽいと捨てるとカウンターの下から今度はペットボトルのお茶が出てきた。

「イサカとセヲリにこの世界のあらましは教えてもらうとして無学な武器屋が言えることはまぁ、今まで培ってきただけの常識では待ってるのは破滅だけってことだな。な?」

 

 

 

「話してればいいじゃんとは言ったけども怖がらせろとは言ってない。」

「武器屋趣味悪ホ。」

 はっや。

出て行って20分経ったか経っていないかでセヲリとジャックフロストは傷一つない様で帰ってきた。

「どうだった?」

「暴走族3人。ラフィン・スカルとマッドガッサー合わせて5体。そう難しい話でもなかったよ。あとの処理にジョバンニが来てたから任せてきた。」

 先程座っていた席にまたひっくり返るように座ると僕より先にルマンドの袋を開けてもぐもぐと食べ始めた。

「アイスくれホ。」

「15マッカな。」

 この人達本当に人殺して来たんだろうか。

 

 しばらく2人と1匹でおやつタイムを楽しんだ後、セヲリは話を再開した。

「..異殻に迷い込んだ人間が一部例外を除いて発見者より年下の場合、発見者が異殻でのルールから戦い方まで基礎的な事を教える決まりになってる。わかりやすい言葉で言えば弟子。アンタ見た感じ高校生だろ?」

「はい。」

「じゃあアンタの管轄は私だ。別に見る悪魔見る悪魔倒せるようなサマナーになる必要はない。基礎的なことはなんとかするよ。第一発見者のせいで殺人鬼の弟子になることになって悪いな。」

 殺人現場みたいな言い回しだな...。後やっぱり人殺してるんだな...。

「今回は邪魔も入るし私の説明は下手だしダメダメだったな。明日はイサカいるんでしょ?持ち越しだな。明日の10時過ぎからでいい。時間ある?」

「はい。」

 じゃあまた明日も初めて会ったあたりでと言い、セヲリは僕を送ると立ち上がった。

 

 

 

「アプリの使い方はわかったな?じゃあお疲れ様。...あ。」

 あの『ジード』から僕を下ろし、別れようとした寸前セヲリは何かを思い出したように呟いた。

「散々連れ回しておいて自己紹介して弟子にするのに名前聞いてなかった。」

 そういえば確かに僕は名乗った覚えがない。衝撃だ。

「で、お弟子君。名前は?あだ名でいいよ。」

 




多分主人公の台詞のところは選択肢出てる。





ラフィン・スカル:笑う骸骨。笑い声を聴くと心臓が凍って死ぬといわれるドミニク共和国に伝わる悪霊。
世界各地に喋る骸骨の話は伝わっており、自分を殺した相手に復讐する『歌う骨』の伝承は岩手県やドイツ、アフリカなど多くの類話が見られる。

マッドガッサー:100年ほど前にアメリカ各地の都市部に現れたというガスマスクをした黒衣の怪人。
まき散らされた甘いにおいのするガスは、頭痛や吐き気を催すが、死にはしなかったという。
口裂け女などと同じく都市伝説に端を発した存在だといわれている。

ガイアース:ガイア教徒。カルト集団のメンバー。
混沌と自由を是とし、唯一神に貶められた神々を崇め降臨を待つ。
彼らの求める自由と混沌には、己を縛るものは何一つないが己を守るものも自分の力以外には存在しない。新宿周辺を主な拠点としている。

暴走族:時折現れるバイクに乗って道にあるものを全て破壊・切り伏せながら疾走するガイア教徒に付けられた通称。
悪魔であろうと、サマナーであろうと、同じガイア教徒であろうと構わず標的とするため、悪魔以上に嫌われており、発見次第報告・無力化が行われている。
実力はピンからキリまであるが、改造され、凄まじい速さのバイクに追いつくためには高い忠誠心と速さを持つ悪魔が必須である。

異殻のルール・師弟制
発見された新しいサマナーは発見者よりも年下の場合、余程理由がない限り発見者の元で異殻での身の振り方を学ぶ。
これは比較的若年のサマナーが多いこと、以前幾度か師の年齢を理由に忠告や理解を疎かにし死者を多く出す事件があったことなどが理由。


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人造半魔事件
学者の講義


やることにやる気が反比例することが多すぎて就活大変だなと思います。


「よう、こんばんは。」

 只今深夜10時過ぎ。約束通り夕べと同じ場所のいつもの道で待っていたらふっとセヲリは現れた。

「この時間に女の子1人がコート姿で電車のるとまァ〜怪しまれてね。異殻(なか)通って来たんだよ。さて。」

 念の為と人気のない路地まで入るとセヲリはアプリを起動させる。

 

 

「今日もとりあえず武器屋に行く。で…」

「イサカって人に会うんですよね?どんな人なんです?」

「学者ってあだ名の文系院生だよ。文献解読とフィールドワークが専門。」

 ジードに僕を乗せながらセヲリは答える。

「文献解読?」

「悪魔の文字とかカルトの予言書とか。色々あるわけよ。他の連中もやってるけどあいつが頭ふたつくらい抜けてる。」

 悪魔の文字読むってそれ抜けてるの実力だけじゃないんじゃないだろうか。

「リャナンシー連れてるんだよ。」

 リャナンシーって...昔漫画で見たな。

「寿命と引き換えに男の人に文学的才能を与えるって言うアレですか。」

「いや、意外とどっちでもOK。」

「なんか言いました?」

「変わり者の悪魔ってだけ。ほら行くよ。あ、あと私敬語いらないから。」

 モニョモニョ言っていたことの追求も返事もする前にリニアも真っ青な加速度でジードは走り出した。

 

 

「お邪魔しまーす。」

「失礼します…。」

 見上げるとイチモクレンが手を振っていた。振り返す。

「よぉ。上で待ってるぜ。」

 カウンターの裏に回ってちょっと言ったところの階段を登っていくと長〜い髪の美女がふわふわと浮いていた。

「あれがリャナンシー?」

「あらボウヤ、ダメよ。女の人にあれなんて言っちゃ。」

 女性の扱いがなってなくてすみません。

「こんばんはリャナンシー。」

「こんばんは。中で待ってるわよ...。」

「ど〜も。これ神田で買ってきた詩集。」

「あら、ありがとう。」

 株上げ上手いなこの人...。

「こんばんは〜。」

「おじゃまッ」

無言で読み始めたリャナンシーを傍目にドアを開けてウワサのイサカとご対面...する前に足元の紙に滑って頭からこけた。

「んぐッ!」

「イサカアンタ書き散らした紙はまとめろって何回言わせるんだよ。」

「あ〜ごめんごめん。新入り君大丈夫やった?」

 頭が大分大丈夫じゃないです。

ひっくり返って見上げたイサカは学者のあだ名の割にもやしやオタクな感じもマッドな感じもない普通の人だった(清潔感あるジーパンに麻シャツメガネだったし)。でも異殻(ここ)の人である分普通じゃないんだろうな...。

 

 

「そいで?このセヲリのお弟子君に異殻とサマナーのイロハを教えてほしいってわけやな。」

「私じゃ順番に教えるのも理解させるのも限界があってここなら資料も多いしいざとなったらアンタの助手に出来るし...。」

 押し付け狙ってんじゃないすかお師匠。

「心配せんともやること変わらんからそんなショックな顔せんでええんやで。やりたきゃ一通りやってから頼むわ〜。...さて。異殻の構造やら何やらは必要なしでサマナーとしてはまずはこれやな。」

 バサッと東京全体が描かれた大きな地図を出してきた。

 

 

色々なところにマーカーが引いてある。

「最低限覚えなあかんのは、まず東京の勢力図とか危険エリアやな。異殻自体は地球全部覆っとるけど今んとこは知らんともええやろ。」

「えっ地球全部?」

「海外旅行でふざけてアプリ使ったら入れたんだってさ。英米中仏伊豪南極...まァここまで行ったら全域だろうってなったわけ。入んなきゃいいのよ。入らなきゃ。」

 誰だよ南極行ったやつ。

1人資料の山となっている本棚から漁って読書をしていたセヲリが代わりに答えたがなんか顔が渋そうだ。

「で、まず千代田区、新宿、あと墨田。ここ行っちゃダメな。」

 マーカーで真っ赤になった3箇所を指差す。

千代田と墨田って超隣じゃん。

「気持ちはわかるで。新宿はガイア教、墨田はメシア教の本拠地でな。人間が一番怖いエリアなんさ。わかる?ガイア教とメシア教。」

「ガイアースなら昨日私がクソバイク潰してきた。」

「そりゃお疲れ。ガイア教は自由と混沌。メシア教は法と秩序を教義にするカルトなんさ。詳しいことはまた今度な。今は触るな危険のカルトでいいから。で、千代田区。ここはとにかく危険な悪魔がうじゃうじゃおるん。もうマジでうんざりするくらい。」

 うじゃうじゃ...。

「特に霞ヶ関はヤバいで。な〜セヲリ。」

「二度と御免。」

 セヲリにここまで言わせる霞ヶ関のなんかヤバいのは相当らしい。

「とにかく寄らないこと。行っても誰も絶対助けてくれへんからな。入ってしもたらすぐ現実帰ること。死ぬよりはマシやから。...で、どこになんで行ったらいかんかわかった?」

「新宿、墨田はカルト、千代田は悪魔がとにかく危険ですよね。」

「そう。で、今度はここ。何があるかわかる?」

 と、今度は水色で囲まれた台東、武蔵野、港区、江東の一角を指差す。

ここ遠足で行ったことあるな。

「公園ですか?」

「地理勉強しとって偉いな。正確には恩賜公園。ここは話のわかる悪魔と協定結んであるから何もせんだら安全地帯。イタズラくらいはあるかもしれんけど。」

 悪魔と協定...。

「協定なんか組めるん?ッてなるやろけど意外と行けるもんなんさな。ほら、セヲリ悪魔使ってここ来たり戦ったりしとったやろ?それって大体悪魔と交渉して仲魔になってもろてやっとんのさ。」




イサカ:『学者』、『三闘火神』
文系の大学院生。西日本出身。
武器屋の3階を拠点に異殻の各調査を行なっている。
自身とよく似た名前のショットガン愛用者。
説明上手で穏やかに見えるが、かつてはスラムファイアによる無茶苦茶な戦闘から『ファイアーウォール』のあだ名がついていた。

リャナンシー
イサカの仲魔の一体。
イサカに惚れているようだが、その理由は大変悪魔的。
リャナンシーの中でもかなりの変わり者らしい。







リャナンシー:妖精の恋人。アイルランドに伝わる美しい妖精で、気に入った男性に憑き、詩歌の才能と引き換えに寿命を啜る。
その為、アイルランドの名だたる芸術家は皆短命というが、相手が愛に応じなければ応じられるまで懸命に尽くし、また求める男性以外からはその姿は見えない等、非常に一途な面を持つ。

異殻東京勢力図・危険地帯
墨田区、スカイツリー周辺はメシア教、新宿区、駅周辺はガイア教が強い権勢を持っている。これは天や世界に声を届ける為、新宿駅という混沌とした要塞と法から半ばはみ出た人々が多くいたという名残り等、それぞれの理由があるらしい。サマナー達は余程理由があるか攻め込む時以外は近寄らない。
また、千代田、特に霞ヶ関は議事堂という日本の思想、感情等人々のエネルギーであるマグネタイトが大量に集まる場所が存在するため、マグネタイトを多く必要とする強力な悪魔達が集まっており易々と近寄れる場所ではなくなっている。

異殻東京勢力図・セーフエリア
恩賜公園各地は温厚、あるいは理性的な悪魔達の住処となっており、協定によりこちらから手を出さなければ休息や悪魔達との交流が可能となっている。
特に上野では妖精達が最大の勢力を築いており、妖精王と妖精女王が種族を率いている。


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交渉の基本

せせこましの極みです。せせこまし。


「さーこっからがサマナーの基本や。悪魔と会話して利点妥協点を見つけ出す。通称、『悪魔交渉』。」

「悪魔と交渉ってそうそうできるもんなんですか?」

 ごそごそと机を漁ってスマホを持ってくるイサカに僕は訪ねた。

「向こうから話しかけてくることもあればこっちから積極的に行くのもありや。ボコボコにしたったらやめてくれるならって言うてくるときもある。」

 どっちが悪魔かわかんないなそれ。

「交渉そのものはセヲリの方が上手いから実技は向こうに任せるとして交渉に必要なのはこれ。」

 と、スマホからコロコロコロンと何かを取り出した。

...スマホってアイテムボックス機能あったっけ。

「おもろいやろ?スマホからこんなもん出てくんの。これは魔貨(マッカ)。異殻...というより悪魔の通貨やな。悪魔交渉の必須やけど買い物(かいもん)にも使える。わかりやすく言うと雇い賃。普通に渡しても連中、吊り上げに吊り上げてくるしやっぱや〜めもやってくるからどんだけ安く出来るかに腕が見えるな。」

 渡されたマッカを翳したり手に転がして見る。

「つまり、これをあげるから仲魔になってって言うわけですか。」

「そうそう。まぁ他に物欲しがったりするやつもおるけどこれが基本。で、次は『生体マグネタイト』。」

 と、もう一つの塊を僕に手渡した。

「これは悪魔が肉体を保つ為のエネルギー。人が生きてくにタンパク質が必要なんと同じ感じで欠乏してくると弱るし無くなると召喚出来んくなる。」

 悪魔は情報が生き物(いきもん)になったもんや言われてるからな。ソフト動かす為のハードの素みたいなもんや。と僕から回収したマッカとマグネタイトをくるくる指で遊びながら言った。

「この2つは悪魔を倒しても出てくるし、然るべきところで交換も出来る。その辺に落ちとることもあるけどな。」

 金落としてんじゃないよ。不用心な。

「さっき千代田が悪魔すごいって言ってたでしょ?あれマグネタイトがあそこにすごいいっぱいあるからなわけよ。マグネタイトは精神のエネルギーが固まった物でね、思想と感情の中心地(せいじのば)に大量にあるってわけ。」

「ちなみに複雑な思考と感情のモン程よく取れるらしくてな、人間は美味しいらしいで?二重に。」

 シャレにならんのでやめてください。

「で、あとは月。悪魔は満月に近なるほど興奮して話が出来ん代わりにマグネタイト保有量が増えて新月ほど逆になる。お弟子君、ここから導き出せる答えは?」

 おちゃらけて尋ねるイサカに僕は少し考えて答えた。

「マグネタイトを稼ぎたい時は満月に、仲魔が欲しい時は新月にってことですよね?」

「そう言うこと。...さて、座学の基本はこんなもんやろ。次ゃお師匠殿の時間やで。」

「明日が終わるのは大体現実世界の4時頃。休む時間も含めてたっぷりあるからそっちの基本もじっくりやるよ。それとも一眠してからやる?」

 時間気にしなくていいのは便利だな...課題とかもゆっくり出来そうだ。

「ああ、実際やるで?こんな便利なもん使わんの損やさかい。課題がちんたら出来るの最高やで。」

 考えることは皆同じだな。

それはそうとして。

「今からで。」

「じゃ、下行くよ。まずは武器見繕わないと。」

「あ、おもろそうやで一緒に行く〜。」

「勝手にして。」

 

 

下に降りてきた3人衆を傍目にミナモトはタバコを吹かせる。

「終わったか?早いな。」

「今から実戦。...で、我が弟子殿にいい武器ある?銃以外にして欲しいんだけど。」

 銃の方が安全そうだけどな...?

「弾切れ怖いし反動半端ないからな。サブで持つくらいが丁度いいんさ。」

 ソファでぶらぶらするイサカに2人が総ツッコミを入れる。

「お前が言うか?」

「アンタに言われたくない。」

「てへ。」

 ペロっと舌を出すイサカ。

何者なんだこの人。

「刀だな。槍は今長いか重いのしか無いんだよ。」

「それでいいでしょ。どうせ我流で身につけてくものだし。」

 それでええんかい。

ちょいちょいと手招きするミナモト。

「はいこれ持ってみろ。」

「えっ重っ。」

 出した手に漫画で見るような刀を持たされた。

「思ってたより重い...。」

「これが1番普通なやつだよ。慣れてくれ。」

「金は私が全部出すからちゃんとした準備品出して。」

「出されなくても初めはちゃんとしてやるよ。他に薬と簡単な防具と石と...。」

 ばさばさカウンターに出されていく物品にヒヤヒヤする僕。

「身につける物以外はスマホに入れておけるから。あと、イヤホンマイク持ってる?こういうの。」

 と、セヲリは帽子の左耳を上げて片耳イヤホンを見せた。

「家になら。」

「じゃあ今度から付けてきて。音声機能で出し入れとかよくわからない悪魔の翻訳とか出来るから。」

 今時の携帯ってすごいよなぁ。

持ち物の保管とか悪魔の翻訳出来るんだから。

 















マッカ:魔貨。悪魔達の使用通貨。
1マッカあたり現実世界換算で10円程度。
悪魔との交渉、売買の取引の際に使われるが武器屋でもある程度は使用可能。

生体マグネタイト:通称、マグネタイト、MAG。
悪魔達の肉体を構成する物質にして精神エネルギー。
欠乏した悪魔は段々身体を維持できず弱っていき、サマナーと契約していない限り最後には消滅する。
複雑な精神構造を持つ物から大量に発生しており、人間が悪魔に狙われる一因となっている。
サマナー達も戦っているうちにこれを体に取り込んでおり、能力を強化して行っている。


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実践開始

ウェズペリアが進められません


「山手線って覚えられんよなぁ。東京、神田秋葉原御徒町上野までしかわからん。」

「私高田馬場までしか覚えてない。」

 ダメじゃん。

下らない話をしながら3人はゆったり悪魔に揺られながら上野公園に向かう。

 武器と戦闘の基礎を僅か30分で教わっただけなのだがこんなので大丈夫なんだろうか。

そう聞いたらこう言われた。

「どうせみんなカタ無しの我流ばっかやもん。実戦でごちゃごちゃ言うとる暇あると思うか?」

 無いと思います。けどそういうことじゃない。

「そもそもスポーツどころか対人ですらないし。」

 先日バイク相手に無双したの誰だっけ。

いや、あれも対人とは言わないか...?見てないからわからない。

「上野は前言ったみたいに安全地帯やから大丈夫やよ。下手に暴れたら妖精共に死ぬまでオモチャやし。」

 怖すぎる。

「まずは慣らしよ。慣らし。妖精ならいい感じに相手してくれるし制止がきくし...。」

「妖精ってどんな悪魔なんですか?」

「敬語が抜けへんね〜お弟子君。セヲリくらいとは言わんけどもっと砕けてええのに。」

 双頭の悪魔の上にだらりとひっくり返りながら(悪魔は嫌そうだ)へらへらイサカは笑う。

「妖精ね~妖精はセヲリのと会った事あるんちゃう?あの口悪ダルマ。」

「一番大事な要素(ワード)が抜けてるし。」

 口悪でどの悪魔か分かってしまうのが恐ろしいな。

「ジャックフロスト?」

「あれのもうちょっと可愛いのがいっぱいいる...みたいな?」

「可愛いっていうか無邪気っていうかガキ...だと表現があれだから子供っぽいというか...。」

「行きゃわかるやろ。」 

 適当な人ばっかりだ。

 

 

「はいとーちゃく。」

 ひょいと悪魔から飛び降りるとよしよしと2つの頭を撫でまわし(微妙そうな顔だ)イサカは伸びをする。

「上野は緑があってええね。」

「緑...。」

 独特の赤茶色っぽい殻に覆われた世界に木だけが現実そのままなのであろう色をしている。そう、色だけ。

はっきり言って気持ち悪い。(頭重そうだし)なんでここだけこうなんだ。

「桜の時期はピンクになるで。」

 絶対行かない。

「じゃあ、交渉と戦闘のの実践といきますか。」

「ちょっとフィールドワーク行ってくるわ。」

 自由だな。あの人...。

 

 木々の間の道を2人で歩く。

「なんにもいない...。」

「見えないだけであっちこっちでうずうずしてるよ。さて、」

 入口から結構歩いたかなと思った頃にセヲリは立ち止まって振り返る。

「では、お弟子君には今からさっきのこの公園の入り口まで来てもらいます。」

「え?」

「妖精の方には話をつけてあるからギリ容赦ある程度に相手してもらいます。仲魔を作るなりバトルするなりで私の所まで来ること。これをうまく使って頑張ってきてね。」

 と、セヲリは僕に1000マッカとマグネタイトを渡した。

「そんなスパルタ!?」

「まずは悪魔が何たるか身をもって知ってもらわなくっちゃね。魔石も傷薬も考えて使いなよ。1日経っても来なかったら助けてあげるから。」

 待って、いきなりすぎる。

何か言い返そうとしたが、セヲリはふっと煙のように消えてしまった。

「うっそぉ...。」

 自動車教習所だって隣に乗って教えてくれるのに無茶苦茶だ。

でもまぁ、うだうだ言っててはどんなレベルかは知らないがイタズラの餌食だ。

 やるべき事は大まかに仲魔の確保と入口まで戻ること。戦闘はその過程で起こるというわけだろう。

今手元にあるのは武器と攻撃用の魔石(どうやって使うんだ?)、傷薬にセヲリからもらった魔貨とマグネタイトこれが交渉と進行の要だ。

よし。

 とりあえず来た道を戻ってみよう。

 

 

 ガサガサ...くすくすと茂み(これもコーティングされていて素人の砂糖菓子みたいだ)に潜む何かが僕を煽る。

なるほど、これが妖精のイタズラか...。

 歩けど歩けど全く進んだ感じがしない。

上野公園は来た回数こそ少なかれ迷うような事は今までなかったしそもそも僕は地図が読める人間なので道順通り進んで辿り着かないのは明らかにおかしい。

 周りの連中をなんとかすれば通れるよ系なんだろうけどどうやって仕掛けたもんか...。

 とりあえず腰に佩いていた刀を振り抜きの勢いで音のした茂みに切り込ませる。

「わぁ!?」

「なにこいつ!いきなりすぎ!」

 ぱっ、とふたつの影が飛び出した。

青のレオタード(レオタード着るんだ...)に赤毛、虫の羽、第一号妖精と第二妖精発見だ。

 まずはどうしよう。怒ってるから交渉は無理かな...?

「もーくらえっ!」

 バチバチしだした妖精の指に危険を感じぱっと飛び退る。

 小さな雷撃が走ったかと思うと元いた場所には小さな黒こげが出来ていた。

怖。

「よけた!」

「よけるな!」

 無茶を仰る。

 これ斬っちゃっていいんだろうか?スッパリいって輪切りの妖精とか僕は嫌だ。

「うー!ダメだって言われてるにんげんを、黒こげにできるチャンスなのに!」

 あ、ダメだ。輪切り嫌だとか言ってたら死ぬ。

基礎も何もわからないので片手で振り上げた刀を第一妖精に向かって振り下ろす。

悲鳴を上げる第一妖精。アレで生きてるの!?

「いったぁ...。」

「しっかりしてよ、もお。ほら!」

 第二妖精が手を掲げると第一妖精のケガ(向こうからしたら巨大な刃に斬られたろうにケガなのはなんでだ)がみるみる小さくなった。

 これは大変面倒だ。




考え事をしていたと思ったら突然振り抜いてくる主人公。中々ヤバい。
真知子巻のピクシーも好きです。

上野恩賜公園:西郷像とパンダで有名な台東区の恩賜公園。
異殻では妖精達のテリトリーとなっており、妖精王国の別称を持つ。
3年前にニューエイジと交渉、理由なき戦闘禁止の土地となった。
恩賜公園とは、皇室から下賜された土地に作られた公園という意味がある。
1873年開園。


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初めての仲魔

進撃の巨人って鬼滅の刃と一緒のような話でしょ?と言われどこから対処すればいいかわかりませんでした。


 2対1の状況は精神的にとてもキツい。

しかも相手はバチバリ言わせながらこちらを焦がそうとしつつ回復能力持ち。オマケに人間ですらないので現実味の無さでどうにかなりそうだ。

 辛うじて避けて回復させないように刀を振り回せているので拮抗出来ているが普段使わない筋肉が泣き出している。どうしよう。

「もー!しね!」

「せっかくのヒトカリのチャンスなのにーっ!」

 何その怖いワード。

「君達公園内は殺し禁止じゃないの?」

「なにいってんのこーんなチャンスみのがすわけないじゃない!『じこ』でひよっこサマナー(アンタ)にはしんだってことで。」

「王様たちにバレなきゃソレで良いのよーッ!」

 遵法精神を持って。

「アンタ達!いい加減にしなさいよ!」

 うわ増えた。

今度は烈火の如く怒った妖精が現れる。

怒ってなかったら区別がつかないな...なんでみんなこんなそっくりなんだ。

「セヲリのお願いでやってる事を殺して返したりなんかしたら今度は何されるかわからなのよ!死にたいなら外でやりなさい!」

 何したのあの人。

凄腕の有名人だと言う感じは何となく察していたけどどうにも血生臭そうな話を感じる(正当性がありそうなのがまた怖い)。

「うるっさいわね!ジャマしないでよ!」

「アンタまえからウザかったのよね。いっしょにころしてあげる!」

 バチバチバチ!

怒っていた妖精に向かって電撃が放たれる。

「ちょっと、そこのあなた!」

 えっ、僕?

ひょいひょいっと電撃を躱した妖精が振り返って僕に叫ぶ。

「このままだとアイツらにあなたもあたしも殺される!仲魔が欲しいんでしょ!?なってあげるから手を貸しなさい!」

「えーっ!?」

 仲魔ってそうやって作るもんなの?これでいいのか?

「もー早くして!あたしだって死にたくないんだから!」

「僕だってどうすりゃいいか知らないんだよ!」

「えー何セヲリのロクでなしーっ!」

 あの人強いけど先立としてはダメダメだよなぁ。

「とにかく、アイツらを倒して切り抜けよう!」

「後ろから助けるから攻撃して!」

 そこからはとても早かった。

「あっ!まずいかも。」

「もう遅いわよ!サマナー!右の方の守り落とすから先に倒して!」

「ええぃ!」

「イヤーッ!」

 相手の動揺と仲魔になってくれた妖精のサポートで一気に...本当に漫画のようにこちらに流れが傾いた。

「もうやらないからゆるして!なんでもするから!」

 片方がやられてしまった妖精は泣きながら懇願し始めた。

正直、虫が良すぎるが見てからは泣き喚く小さな女の子だ。

「どうする?」

「どうせ王様にお仕置きされちゃうんだもの。だから...。」

「スキあり!」

 バチバチッ!

嘘泣きをやめて魔法を振りかぶった妖精は黒焦げになって地面に落ちた。

「こんな所だと思った。いい?サマナー。あたし達は決まりは守る方だけど口約束はしない方がいいわ。」

「だろうね...。」

 これアレだ。証拠が無かったら何してもいいと思ってるやつだ。

人の世界ではめちゃくちゃ嫌われるやつだけど悪魔にもやっぱりいる...というかデフォルトなのかなぁ...。

「さて、面倒なのもいなくなった事だし...。」

 そうだ、ここにも同じのがいるじゃん。ヤバいかも。

「僕を殺す?」

「あたしをあんなバカやバカと一緒にしないでよ。約束は守らないと守って貰えない事くらいちゃんとわかってるんだから。」

 さっきの2体と区別のつかない見た目の割に頭がいいな。

この妖精、マナーがしっかりしてる。

「大体、あんな事しておいて王様達にバレないわけないじゃない。サマナーは殺すより仲良くした方がよっぽど身の為よ。」

 訂正。マナーじゃなくて身の振り方がしっかりしている。

「人間臭...。」

「ほっといてよね!大体、気の向くまま風の向くままが妖精なんだから人の道理が通じるあたしと会えた事に感謝しなさい!」

「そんなだからああいうのに嫌われてるんだろ。」

「あたしは嫌われてなーーーい!」

 何この見たことある茶番。

「もう...とにかく、面倒なのがいなくなったんだから早く行きましょ!行ってセヲリに文句言ってやらないと。」

 ぷんすと腰に手を当てる妖精。

「この先にもまだいる?」

「いるわ。こんな感じだったしまた殺される可能性もなくはないわね。気をつけないと。でも...。」

「でも?」

「なんだかこの状況、女王様に遊ばれてる気がするのよね...。」

「まじか〜。」

 溜息をつきながら僕らはようやく先に進む。




Q.なんでピクシーを初めの仲魔にしたんですか?
建前A.属性がN-Nで基本的な耐性、技構成に優れているからです。
本音A.この世の理だからです。

就活ヤバいのでゆっくりやって行きます。
Twitterにはいます。


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凶兆を得る者

モンハンの映画観に行きました。
ミラさんカッコ良かったです。75年生まれだそうです。


「どう思う?」

「そうね。おかしいと思うわ。」

 ついて来ておいてサマナー訓練中の2人を他所にフラフラと園内を調査していたイサカ。

 いつも通り何かを調べては小さなノートに書き綴っていたところ、奇妙な物に気付いた。

「空気中のマグネタイトの様子が普段の上野公園と全然違うわ。ごっそり減った上で変なものが代わりに混じってる。」

「"なんか変なのが来た"感じがするなあ。お茶コップに入れて半分飲んでからジュース入れた感じ?」

「でも妖精達は騒いでいないし協定のサマナー達もなにも言っていなかった...。『来た』だけ?」

「多分。」

「周辺のマグネタイトを変化させるような悪魔が来ただけで妖精達も何一つ騒いでないなんて...確かに妖精達はマグネタイトの揺れにそう敏感にでなくても活動できるけれど。」

 例のスマホアプリや器用なサマナー達が独自に作成した機械を暫く弄っていたイサカは立ち上がって軽く伸びをした。

「埒あかんな。聞いてみよか。」

 

 

「ホ?最近おかしな悪魔がいなかったか?」

「そう。見た目とか、どこ行ったとか、詳しくなくてもええから。」

「いくらくれるホ?」

 イサカはその言葉に2本指を立てた。

「足りないホ。3倍は出してもらわないと思い出せないホ。」

「なるほどなあ。」

じゃっこん、と先程まで背負っていた散弾銃が攻撃的な音を出す。

「ごめんな。手持ちないもんで残りは弾で払うわァ。」

「ホーッ!?公園内は争い事はご法度だホー!?」

「ただの『精算』やろ。慌てんなさ。」

 眉間に銃口を突き付けにこーっ、と笑うイサカに吹っ掛けた悪魔は震え上がりリャナンシーは微笑む。

「わかった!わかったホ!教えるからヤメテ〜!」

「よし。」

 ビビってくれなかったらどうしようかと思った〜と内心思いつつ銃を下ろすと悪魔はホッとした顔をして情報を話した。

 

 

「昨日今日に来た?」

「だホ。変な悪魔だな〜とは思ったけど、悪魔でも人間でも協定を守ってる間はノータッチが基本だホ。あれ?それならオマエに反撃しても...。」

「追加料金?」

「なんでもないホ。」

 どう見ても笑顔のサマナーがぶっ放す方が早いと見た悪魔は速攻で抵抗を諦め続きを語る。

「昼のオイラが眠たい時間に来るんだホ。この辺のマグネタイトを食って代わりに変なマグネタイトを出して帰って行くんだホ。」

「う〜ん?」

 『後入れのジュース』の謎がわかったところで首を傾げるイサカ。

「なんでマグネタイト食いに来るのに吐いて帰って行くんや?」

「そんなの知らんホ。でもアイツの出すマグネタイトは美味いからなんでもいいんだホ。」

「危機感ガッバ〜、他に知ってる事は?他に知ってる悪魔(ヤツ)でもええで。」

「見た目はオマエみたいな感じでもうちょっと大きかったホ。で、ぺかぺか光ってて...。」

「人型で光ってて?」

「それだけホ。後は他に聞くホ。」

「ふ〜ん...。」

 悪魔の認識と記憶能力なんてこんな物である。

「ありがと、じゃあこれな。200マッカ。」

 はいとイサカは悪魔に手渡す。

「え?くれるホ?」

「価値に対価を、悪意に銃弾を。そういう事で。」

 イサカが基本的に詰めている銃弾は命中重視で鳥撃ちに使われる散弾(ペレット)な上、連射可能な様に改造されているので撃たれると大変悲惨な事になる。

 本人も暴発で穴だらけになって死に掛けた経験があるが。

「あ〜きな臭いきな臭い。さて...異殻の平穏な為に動きますか。」




助詞が『を』の作品は一方その頃編です。




武器屋の武器
ミナモトが売る武器の殆どは彼の仲魔達によって製作されており、使用者の好みに合わせて時に素材や悪魔と合体させ、調整を行なっている。
どの武器を取っても質は高く長く使える物ばかりだが、それぞれの獲物や悪魔と戦うという性質上、消耗品のようになってしまうサマナーもちらほら存在する模様。

イサカM37-丹生:サマナーイサカが愛用するショットガン。
同じ名前だが、銃の由来はNY近郊の地名。異殻でも通用するように属性弾やスラムファイアが使用可能な様に改造が施されている。
丹生は日本最古の水銀鉱山の名前。

短槍-陸別:セヲリの愛用する槍。
競技用薙刀と比較しても非常に短く、150cm程しかない。
氷結属性に特化した作りになっており、敵を氷漬けにすることも可能。
陸別は日本で最低気温を記録した北海道の地名。

バードショットが暴発したら普通は多分死にます。


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妖精の主

メダカ捕まえようとしてた男の子達にザリガニの居場所教えたら目を輝かせていてとても可愛いかったです。でもちょっと早いんじゃないかな。


 結論から言うと殺意剥き出しの妖精は他にもいた。

あれから15戦くらいしたが2、3回に1度は僕のことを丸焼きや細切れにしたい気持ちを隠そうともせず襲いかかって来た。

「あ〜...無理...。」

 その辺の縁石に座って刀に寄りかかってぐったりする。

「情けないわね。」

「殺し合いなんて現代の日本人は普通しないんだよ。」

 しかも悪魔とだし。

こんなの週刊誌(ジャンプ)に任せておけばいいと思う。

「それにしてもバカなこと考えてるヤツがこんなにいるなんて...。」

 先程までそのバカを片っ端から感電死させていた妖精が深刻そうな顔をして考え込んでいる。

「3回に1回は来たね...。」

「そうよ。『3回に1度は必ず』来たわ。まさか...。」

 ダシにされたかなぁ。

流石に僕でもこれはわかる。言う事を聞かずに不満を持った妖精達を殺してもいい訓練相手に配置したんだろう。

 初心者に無茶苦茶させる連中ばっかりだ。もうやだ。

「まだいる?」

「もう終わりだよ流石にこれは。」

 パッと顔を上げるとセヲリが呆れ顔で立っていた。

「気前がいいと思ったら粛清のダシか。あんなナリして随分臭いこと考える。」

 すごく不快そうな顔だ。

無茶苦茶させてると思ったらそうでもなかったんだろうか。説明不足なのは変わりないが。

「セヲリ!アンタ契約法も教えずに何やってるのよそれでも先輩なの!?」

「それは否定出来ない。」

「ほらー!こういう大事なことはしっかり教えておくものでしょ!?ちゃんとしてよ!」

「否定できないけど妖精のくせに人間臭いヤツだな。他の妖精に嫌われてそう。」

 ほら言われた。

「あたしは嫌われてないって言ってるでしょーー!?」

「電撃属性の癖に何処の水柱だ。言った?」

「言った。」

 というか貴女の問題も棚に上げないで。

「いきなり敵地のど真ん中に放り出すって酷くないですか?」

「説明不足は置いとくとして上野に置き去りなんか優しい優しい。他の連中は初めっからガキだのチンだのと戦うしかないんやから。」

 フィールドワークを終了させたらしいイサカがとんでもない実態を暴露しながら戻ってきた。

「ふーんピクシーなあ。いいヤツ仲魔にするやん。育て方次第で攻撃、回復、支援なんでも出来る様になるで。ただし紙ッペラやから前行かせたらすぐ死ぬで気をつけなよ。」

「ピクシーって言うんですね。」

「なんで知らないのよ。」

 お前が名乗らなかったからだよ。

「お前スマホのアナライズくらい教えろや。」

「前教えてたし自分でアプリくらい見てると思って。」

「無理があるやろ、アンタと違うんやから。」

 触ったら変なことなると思うと怖すぎて見れませんでした。

「で、なんでこんなぐったりしとんの?」

「今?」

 天才(きじん)はすぐ話変わるな。

「本気で5回くらい殺されかけたからです。」

「あーねー。災難やったなお弟子君。そろそろ2年半経つからなあ。どう扱ってもいい訓練相手として処分するなんてなー。えげつないえげつない。」

 2年半?確か協定は3年前だった筈だ。

何があったんだろう。

「2年半前に何があったの?」

 セヲリとイサカが何か話している間にこそっとふわふわ浮いているピクシーに尋ねた。

「セヲリがこっそりふざけてサマナーを嬲ってた妖精達を皆殺しにしたのよ。100近くね。」

 これか!さっきコイツがキレていた理由は。そりゃ怒るわ。

「妖精ってルールに緩いの?」

「あたしはちゃんと守ってるけど...。」

 お前はどう考えてもあの中では異端だろ。

「よく覚えときなお弟子君。人間臭いってことは平気でウソ吐くいうことやで。ですよねー!?お弟子君の訓練は終わりですやろー?出てきたらどうですー!?」

「あらあら。」

「お前達には敵わんな...。」

 楽しそうな女と若干悔しげな男の声がした。

「ま、まさか...。」

「まさか?」

「お弟子君セヲリに拾われてラッキーやったなあ。新人サマナーがそうそう会えるような悪魔ちゃうで。アレら。」

 もう自分は部外者です。という顔でイサカは欠伸をしながら言った。

「説明してもらおうか?私は訓練を頼んだだけで粛清の手伝いをさせるとは言ってないけど。」

 セヲリは腕組んで大変不機嫌そうに尋ねる。

「そうは言ってもティターニアが後から言い出した事でな...。」

「うふふ、丁度いいと思ってね。殺した分だけその子も強くなったでしょ?」

 つむじ風と共に2体のえらく立派な格好と蝶みたいな羽の悪魔が現れた。

「ティターニアって、シェークスピアのアレですか?」

「そうそう、アレ。よう知っとるな。」

 初めて知ったのがSAOだからあんまりいいイメージないけどね。

「上野恩賜公園・妖精王国が(ヌシ)くそ碌でもない妖精女王、ティターニアと棚上げ悪魔、妖精王オベロンってわけ。」

「酷...。」

 初めて会う相手を紹介する言葉じゃないな。

ピクシーがまた怒るかと思ったが微妙な顔して何も言わなかった。

 成る程。

この2体、関わりたくない。

「死んでたら私がアンタらもまとめて殺しに行ってたけど?」

「その前に私が助けるつもりだったもの。それに殺されなかったからそれでいいでしょ?協定は今でも守られてるわ。それに、その子可愛いし?」

 そう言って僕を見る目にゾワっとした。こっち見ないでください。

 




お気に入り登録とても嬉しいです。
めっちゃ頑張ります。隙見て書いて更新していきます。






ピクシー:イングランド南西部に伝わる妖精。
姿についてはまちまちだが、小人のような小さい身体であることは共通している。悪戯好きだが概ね良いモノとされており、人間と共生関係にあるという。

ティターニア:タイテーニア、日本ではタイターニアとも。
ウィリアム・シェイクスピア『真夏の夜の夢』に登場する妖精達の女王。
誇り高い性格でオベロンと対立するがオベロンの計略からロバの頭をした男に恋させられるという被害を被った。

オベロン:オーベロンとも。
ルーツを辿ると北欧神話の神に行き着くとされる妖精達の王、またはティターニアの王配。
『真夏の夜の夢』ではティターニアとの喧嘩から配下に命じて人間に恋をさせ、トラブルを引き起こした。


SAO:ライトノベル、ソードアートオンラインの略称。
作中でとあるキャラクターのアバターにオベイロンとティターニアとして名前が使用されている。


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協定の理由

Q.世界観イメージは真4ですか?
A.いいえ。上橋菜穂子です。
イサカさんは仮面ライダーの悪役や作家さんにいます。漢字を間違えると怒られます。


「可愛いとか不細工とか関係ないんだよ。」

 謎の悪寒に震え上がった僕を背にセヲリは追及を続けるがひらひらと妖精女王は言葉を躱す。埒があかない。

「イサカさん、時間ありそうなので契約の仕方教えてください。」

「まだしてないん?スマホ出して。」

 イサカの指示を聞いてポチポチボタンを押すと『登録悪魔一覧』という項目に『妖精 ピクシー』が表示された。

「これでよし。スマホに入れたり出したり出来るで。ただし契約したからマグネタイトはサマナー依存や。出しとりたかったら稼ぎいよ。」

「はい。」

「やっとねー。もう。じゃ、今後ともよろしく〜。」

 ピクシーをスマホに戻した後もセヲリはまだごちゃごちゃ言い合っている。

どうしよう。イサカに色々聞こう。

「そもそもなんで協定とかあるんですか?」

「うーんとな。前までサマナーの中で『羽狩』っちゅーのがあったわけ。」

 似たようなワードさっき聞いたぞ。それ。

「妖精の羽とか髪とかワッペンとか毟るみたいな。駆け出しからいっぱしへの腕試しみたいな感じなんやけど素材としてもそこそこええし、変態がおったもんで怖がらせて嬲って...みたいなのがあったわけよ。」

 トキの乱獲みたいで生々しい。

「悪魔に対しての鬱憤払いってのもあるのよ。まぁ〜殺されまくったからなぁ。それはさておき、その頃事件が起こる。メシアとガイアの大抗争や。ブンキョー・ダイトウを舞台にそれはもう暴れる暴れる。上野公園にもとんでもない被害が出たわけや。そこで出てくるのがマコトっちゅーオッサンとあそこでまーだごちゃごちゃ言うとるセヲリ。」

 威厳がないなあ。あっても困るけど。

「ちょっとした小競り合いや1日2日のもんならオッサン共のええ酒の肴やけど現実で1月たっても終わりゃせん。妖精はバタバタ死ぬしサマナー達にも大迷惑。みんな困った所にセヲリが上野公園に目ェ付けたわけ。」

「どこから突っ込めば良いんですかね。」

「な。」

 もう遠慮するのも馬鹿らしくなって来た。突っ込み所が多すぎる。

「こっから先は詳しくは知らんけど元々セヲリは需要がなかったもんで羽狩は積極的な方じゃなかったし相方はあの口悪ダルマや。席作るのは簡単でこそないけど早かった。マコトのオッサン抱き込んであそこの2体と大交渉。羽狩の禁止を絶対条件に協定が完成。上野公園を城にカルトをボコボコにしてようやく平和が訪れたわけ。以降、羽狩する奴はセヲリにぶちのめされた後ここの連中の玩具にされるようになりましたとさ。お仕舞い。」

 びっくりするくらい利害一致の末だった。

「妖精って聞いてももうときめけませんね。」

「ティンカー・ベルだってウェンディ殺そうとするもんなぁ。」

 なにそれ、聞きたくなかった。

「因みに他の恩賜公園との協定は別のサマナーが聞いた話を元に付けた話。ただしルール破りの始末はセヲリに任されてるから手足の甲あの槍でキリストみたいにされて公園まで引きまわされた後(捨て)られるで。」

 キリストみたいって何?話の流れ的にぶっ刺される感じだったけど。

「痛そうですね。」

「生きたまま食われるで。」

 今日一聞きたくなかった。

「あの人今19ですよね。当時僕より年下でそんなことしたんですか?」

「そもそも歳忘れた。おーい!何歳〜!?」

 いつまでやってんのかまだまだ争っていたセヲリにイサカは叫ぶ。

「あら、年上の女性の歳なんて聞いちゃダメよ?」

「お前ちゃうわ。」

「19の短大2。」

 茶番を無視して答えるセヲリ。

「お弟子君が16でよく無茶苦茶できたなって言うてるで。」

 言ってないです。思っただけで。

「ああ、アレ?オッサンがいなかったら無理だったよ。私は言出屁は得意でも後に付いてくれる人がいないとどうしようもないから。」

「マコトのオッサンなぁ。あの人も何なんやろな。ヤバいよな。」

「どんな人ですか?」

「最強。」

「最強ネゴシエーター。」

 口を揃えるセヲリとイサカ。

「あの人に勝てる人間なんか天と地が3べんひっくり返ってもないに全額賭けれるわ。」

「むしろあの人が負けるより先に天地が3回ひっくり返る方に全額賭ける。」

 何で人の黒星より先に世界が3回滅びるんだよ。

ドウェイン・ジョンソンみたいなのを想像しておこう。

 多分ムキムキマッチョの凄いおじさんだ。

「何想像しとるん?」

「多分蝶野みたいなのをイメージしてるんだろ。」

 あながち間違ってないです。

「さて、アホな言い争い見るのも飽きたしやる事出来たから行くわぁ。」

「何かあったの?」

「ん〜?ちょっと〜。」

 適当な返事だったが妖精女王はピンと来たらしい。

「ああ、アレね。駅の方だと思うわよ?」

「マジで?ありがとう。じゃあ〜。」

 適当な言葉だけ並べてイサカは去って行った。

「あー疲れた。私らも行きますか。」

 口喧嘩してただけの割に疲れた様子のセヲリは伸びをする。

「とりあえず。」

「あー!ごめんやる事に気ぃ取られて忘れとった〜!」

 どたたたたと例の双頭の悪魔に乗ったままイサカが戻ってきた。

「何?」

「はいこれ。お弟子君にプレゼント。」

 と、イサカは僕に小さな箱を渡した。

「ホイッスル?」

「サマナー必需品その5くらい?じゃ、後よろしく。」

 本当に渡すだけ渡して行ってしまった。何なんだあの人。




ドウェイン・ジョンソンは妹が好きです。



協定経緯:メシア・ガイアの大抗争を切っ掛けに行われた妖精達との協定。
敷地内での相互の同意のない戦闘・攻撃を禁止し、両者の安全地帯とする事が義務とされている。
破られた場合は破った者を破られた側が好きに扱って良い。
元々セヲリが『妖精作戦』という名前で行おうとしていたが交渉前日に『ケートハブン作戦』に変更させたという逸話がある。
これをきっかけに、各地の恩賜公園で協定が結ばれた。

ホイッスル:イサカが新人達にいつも渡している笛。通販で購入している。
デザインはその時によって変わるが120dB(飛行機のエンジン周辺)以上の音が出せる事、金属製は共通する。自身の危機を知らせたり周囲への危険勧告にとても有効。


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それを見つける

ゴジラの映画観に行きたいですね。


 異殻・ウエノ駅構内。

「ここね。」

「ここやな。」

 カツーンカツーンと足音響かせながらスマホを左手にイサカは探索を開始する。

「人型で光る悪魔か...駅ン中は明るいからなあ。」

 異殻の住宅の照明は手動で電源を入れないといけないが駅や街灯といった公共物は何故かいつでも着きっぱなしだ。

 かつては色々調べたがどうにもよく分からなかったので千代田区がマグネタイトの一大集合地であるのと同じく認識の問題だろうと諦めた。

 何年調べてもノウハウも先立も存在しない中では異殻の理解には程遠い。

「まー出来る方がおかしいんやけどさァ...。」

「何が?」

「何も。...『縋って叫んで朝はない笑って転んで情けない誰のせいでもないこと誰かのせいにしたくて...』」

 誰もいない構内にワンワンと歌が響く。

『「僕っているのかな?」本当はわかってるんだ...』

 ヒタヒタヒタ、と中央改札の向こうにある階段から音がした。

「イサカ。」

「なんかおるな。」

 ピタッ、と止まる音。

「アイツか?」

「そうね。」

「よっしゃ。...そこの悪魔。お前やろ?そこの公園にちょこちょこ来とるんは。」

 そう言った途端、音の主はベタベタベタッ!と凄まじい勢いで階段を駆け上がった。

「あー!瞬発力どん詰まりのデットエンドやっちゅーのに逃げんなや!!」

 中央改札を漫画顔負けに飛び越えると音の主を追い掛ける。

「イソラ!追っかけてちょい寝かし!」

「マカセロ。」

 

 

 階段を駆け上がるまでにホームでドタガタと暫く騒がしい音が聞こえていたが、ドサッという音がして静かになった。

「私でも出来たのに...。」

「イソラの方が面積広いから逃しづらい思て。」

 そう言いつつイソラに眠らされた悪魔に近づく。

「なるほど。人型で光っとるな。歩道の信号機みたい。服がえらい現代的やけど。Tシャツとジーパンかこれ?アナライズ。」

 ぶつくさ言いながらアプリを起動してアナライズを開始する。

セヲリは新人サマナーにしっかりと教えなかったが、アプリには悪魔の情報を解析する機能が付いており弱点や攻略法がある程度得ることが出来る。

 戦闘中に中々扱えたものでは無いが、知っていれば戦闘は格段に楽になるはずだった。

 

「何やこれ?」

 何度試しても悪魔として認識されない。

「リャナンシー。まさかとは思うけどこいつ、悪魔か?」

「さあ。少なくともマグネタイトを摂取しているのは確実だけど。」

「...マグネタイト吐いたとも言うとったよな?一つ思たんやけど、コイツ、作ってない?マグネタイト。」 

 悪魔はマグネタイトを貯蔵したり消費することはできても生産することは出来ない。

 公園で聞いた『妙なマグネタイトを吐き出していた』理由が一つの可能性を生み出していた。

「確かに。この悪魔、マグネタイトを自分で作ってるわ。でもそんなの...。」

「じゃあ上野に来てんのは足りななって来た時の補給か?でも吐いてるし...貯めんのが下手なんか?」

「イサカ、チガウ。」

「ん?」

 ぐるぐると回っていたイソラが妙な方向に行きかけたイサカを引き戻す。

「マグネタイト、作レル悪魔ハ存在シナイ。」

「そうやん。...そうやん!ヤバいやつ!」

 可能性にぶち当たってとんでも無いことに気づいたイサカはイソラに謎の悪魔を運ばせると慌ただしく動き始めた。




Q.何で急に歌い出したんですか?
A.飛び道具持ちがここにおるで〜みたいなのもあるけどむか〜し1人で調べもんしとったら悪魔と間違えられて襲いかかってきて死にかけたから。向こうが。
とのことです...向こうが?
Q.瞬発力皆無なのに改札飛び越えてません?
A.他のサマナーと比べても下から数えた方が早い壊滅的瞬発力ですがスイッチが入ると妙な動きをするしそもそも田舎生まれなので多少の障害物は飛び越えます。逆に持久力は尋常ではないようで4.50キロを平気で歩いてフィールドワークしてます。デフォルトでも自転車なら50キロくらい平気で移動します。
Q.そもそも何者なんですか?
A.以前書いた通り西日本出身の文系院生です。
異殻調査と悪魔の情報管理の一端を担う奇才ですが最近までナチュラルボーンを(natural『bone』)と思っていたそうな。
因みにミナモトとは同居(書生に近い)しており料理が得意です。
脳味噌も他と大分変わっていますがキリ無いので本編で半年以内に書きます。頑張ります。
Q.あんまり仲魔強くなさそうなメンツじゃないですか?
A.レベル上げられるからいいんだよ。そこは。

 


イソラ:アズミノイソラ。神道の神で海の神と言われており、神武天皇の父神や岩戸開きの際鏡を差し出した神と同一の存在とも言われている。
太平記では顔に牡蠣や鮑を貼り付けた非常に醜い神とも書かれているが、舞に誘われて姿を現し神功皇后に力を貸したという伝説が残っている。


唐突に歌い出す人間が身の回りに1人います。
近隣の小学生に通報されてました。

楽曲使用
作品コード 723-1881-3
ISWC T-302.555.361-7


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頻発の衝突

ソニック大好きなんですがコラボ世界観合うんですかね 5.28
真5の主人公君があまりにすけべでドキドキしました。すけべの用法は正しくないです。雪子かアレックスかと思いました。6.16


「今度の時はもうちょっと計画性のあるやつにして欲しいですね。」

「まだ言う...?」

 只今現実時間およそ12時。行きと同じくセヲリの悪魔の背に揺られてアラカワの武器屋に向かって行く。

 疲れてウトウトしたいところだが乗っているのが車ではなく悪魔(鞍や鐙なんて素敵なものはない)なのでそんなふざけた真似をすればいろんな意味で即落ちする。

 セヲリは横乗りでブランブラン足を振る余裕だが。僕も早く慣れたい。

「次は乗れる悪魔探ししないとね。私抜きでも動いてほしいし。いると移動速度が段違い(ダンチ)だからね〜。」

「そんな見つかるもので?」

「武器とか戦い方とかすり合わせて行かないといけないけど意外といるよォ~?井の頭とかに。」

 悪魔の活動地域やなんやかんやを聞きながら歩いていくと前方から二人の人物が手を振りながら現れた。

「おーーい!セヲリーー!」

 僕と同い年くらいの男女だった。

顔立ちが似ているのできょうだいかもしれない。

「よー!セヲリお疲れーそいつが新しい奴?俺と同い年くらいじゃんやったねー俺...。」

「早いわお前。」

 矢継ぎ早な少年にセヲリは馬上(悪魔だが)から踵を落とす。

ゴン、と鈍い音がして少年は頭を抱えて蹲った。

「おお...。」

 そんな少年を足で僕に示してセヲリは紹介する。

「このバカはジョバンニ。で、あっちは双子の妹のアリス。」

 アリスは知らないがジョバンニの名前はゆうべチラッと聞いた気がする。

セヲリとは結構親しいんだろう。踵落とし食らっていたし。

「よろしくー。」

「よろしく...。」

 手を振って自己紹介をする。

僕の顔引き攣ってないだろうか。

「ねね、もう仲魔はいる?武器屋でメンテとかして時間あったら一緒に行かない?」

「どこ行くつもり?」

「アラカワ遊園!」

「本当は昨日行くつもりだったけどごちゃごちゃしたからさ、俺たちいるし大丈夫だろ?」

「ふーんいいんじゃね?...どうする?この2人ならそこそこ強いし私いなくても行けるよ。バカだけど。」

 バカだけど。

「ひっでー!」

「自分が短大行ってるからって人を小馬鹿にするー!暴言ハンターイ!」

「うるせーだったら化学反応式くらいちゃんと覚えて点数取ってこい30点コンビ。」

「英語は85点取ったもん!」

「部活は優勝したしー!50m9秒切れないくせにー!」

 どいつもこいつもひどい。

が、僕としては同い年くらいの子と一緒に色々できるのは嬉しい。

 行くと返事をしようとした時、ブロロロロロ...とエンジン音が遠くから聞こえてきた。

 セヲリ、ジョバンニ、アリス3人の顔が揃って険しくなる。

「エンジン...!?」

「まさか、ガイア!?嘘でしょ!?こんなすぐにまた!?」

「また遊園地には行けなさそうだな。降りて。」

「え!?」 

 ぺっ、とセヲリは僕を落馬させる勢いで降ろすと背負っていた槍を持ち直し音の方向を探らんと首を伸ばした。

 セヲリの悪魔...ジードは背になっていると2階に届かんばかりの高さになる。

暫く目を細めていたが、げっ、という音がセヲリの喉から出た。

「燃えてるし先頭のバイク。どう見ても悪魔だ。しかも2ケツ。合わせて5台。」

「悪魔ってバイク乗れるの?」

「馬や戦車乗ってる奴いるくらいだからバイクくらいあるってことでしょ。2人とも、私の弟子任せるから一緒に始末しておいて。」

「デビューその日に対人戦やらせるの?キツくない?」

 既に自分の獲物らしき鈍器をブンブン振り回しながら眉間に皺を寄せるアリス。殺る気充分と言った感じだ。

「アンタらの悪魔じゃ2ケツは無理だしこのまま私のになってたら道路で粗挽きミンチよ?仕方ないでしょ。ほら来た!」

 セヲリを乗せたジードは一瞬で僕らの前に飛び出たと思うとバイクからの攻撃を弾いた。

「チッ。」

 舌打ちが聞こえる。

ガキンガキンと攻撃を弾かれながら駆け抜けていくバイクから4つの影が飛び降りた。

 バイクの後ろに乗っていた連中らしい。ギラギラとした視線がメット越しにでも感じられる。

「早く追っかけろよ!」

 えらく刃の厚い刀(カットラス?)をブンと風切音を立てて構えながら叫ぶジョバンニ。

「わかってるってーの!!」

 負けじと叫び返したセヲリはワープと思えるほどの速さでバイクを追って行った。




メガテン5発売日決定めでたいですね。ダイレクト中叫んでました。
制服の刺繍って東京の私立校とかはああいうのあるんでしょうか。









ジョバンニ:特攻
主人公と同年代の少年。双子の妹にアリスがいる。
セヲリに続く次鋒役で彼女より火力が高い。
頭が回らないわけではないがあまり後先は考えていないので時々アクシデントや物理制裁で痛い目に遭っている。
『ジョバンニ』は名前ではなく苗字が由来らしい。

アリス:トゥイードル
主人公と同年代の少女。双子の兄にジョバンニがいる。
若干ズレた性格で自信と周囲の状況が一致していない時がままあるが兄と一緒にいると反比例してまともになる。



テンプレ兄弟。


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四字を持つ戦士達

PV観ててスルトってライトセーバーだな〜と思ってました。


「真夜中にバイクと武器ってソルジャーかってーの...。」

 ポケットから取り出した笛を何度も吹きながらセヲリはぼやく。

アラカワには首都高への入り口がないのでバイクとの殴り合いは他のサマナー達もいる一般道だ。

 避ける気も避ける暇もない連中がF1じみた速さで走るので轢かれた相手は普通に襲われるより悲惨な目に遭う。危険勧告は重要だ。

 そのおかげかもう道には人影ひとつなく彼女が存分に槍を振るう舞台が整った。

「順番待ちは無しだ。かかってきな。」

 カタカタカタ...!と彼女の死角からラフィン・スカルが飛びかかる。

が、振り返りもせずに槍を無造作に後ろに向かって振った。

 吸い込まれるように石突が眉間にヒット。ガン!と音がしてラフィン・スカルは落下した。

「オオッ!」

 降ってくる武器をひょいひょいと人馬一体(馬ではない)の動きで躱して代わりに槍の柄を相手の胴に叩き込む。

 見た目からはありえない剛力をくらってぐらついたバイクに更に突き込むと痛みと横からの力でバランスを完全に失い転倒。

 ついでに後続車を一台巻き込んで後ろに見えなくなった。

 それを確認すると残りの敵を疑問の目で睨む。

「随分今日は大人しいな...。」

 普段ならば我先に悪魔を呼び出したと思ったら殴りかかり体当たりかましで誰が敵かわかっているのかと言いたくなるような過激さなのに今日は様子見ばかりだ。疑問には感じるし普段の鬱憤と放り出して来た弟子を思うと腹は立つ。

「そんなこと言わないでよーみんな緊張してるんだから。」

「は?」

 先頭を走っていたバイクの悪魔がセヲリとスピードを合わせると横に並んだ。

 後ろに乗っていた人物がヘルメットを外す。

やんちゃ顔の女の子と言った容姿の人物が猫を思わせる笑顔でセヲリを見ていた。

「やーどーも。私率先垂範(そっせんすいはん)陳勝呉広(ちんしょうごこう)ってあんただよねー?」

「いや知らねーよ。」

 嫌そうに顔を歪めて答えつつセヲリの警戒心が急上昇する。

今まで自分から口を聞いてくるガイア教徒とは会ったことがない(だから陳勝呉広とか言われてもわからない。)ので対応法がわからない。

『ただ絶対油断するべきではないんだろうな...。他と同じにするとヤバそう。』

 ピュッと唐突に突きを頭に入れてみると綺麗な動きで躱された。

「人の話聞いてる時は黙って聞けって言われなかった?」

「殺し合いする相手と話し合うタイプじゃないんで。」

 逆にジョバンニやミナモトあたりは喋ってるのか殺し合うのかわからないくらい喋っているのでそちらにお願いしたいと内心呟く。

「もー、じゃあ六陣氷神ならいーい?」

「そのイタいのよく使えるな...。」

 六陣氷神はある時から急に現れたセヲリの二つ名だ。

 字の並びがかなり特殊(そして大変イタイタしい)なので余程彼女を恐れているか情報でしか知らないサマナーくらいしか呼んでいないし急に定着した名付け親不明の二つ名は本人からしたら薄気味悪くしか感じない。

「てかガイア教でも知られてんの?」

「羨ましいのよー...四字を2つも持てる九字の者...貰えるなら私も欲しいわー...。」

「私のをあげたいよ...。」

 恍惚そうな顔で呟く率先垂範にドン引きしながらジードに指示を出して彼女のすぐ後ろに着く。

 もう他の暴走族は蚊帳の外だ。

「食え!ジード!」 

 率先垂範ごと噛み砕かせようと飛びかかる。が、

「私の話終わってないってば。」

 バイクの悪魔はスルリとすり抜けてしまう。

「あのねー私達探し物してるの。くれるか協力してくれたらこんな風に襲いにくるのとおんなじ感じにしなくていいんだけど...手伝ってくんない?」

「バカだホ。」

 いつの間にかセヲリの後ろに乗っていたジャックフロストが言った。

まんまるボディで今にも滑り落ちそうなのに当の本人(?)はまるで電車の席に座っているようにゆったりしている。

「サマナー襲いながら探し物してるどっちつかずのぱっぱらぱーになんでセヲリが(オイラ達が)手を貸さないといけないんだホ。」

「どこでぱっぱらぱーなんて覚えたの?」

「襲われる方が悪いと思うんだけどやっぱサマナー相手じゃそうなるー?じゃあ実力行使で。」

 そう言った途端、率先垂範の乗っていた悪魔の気配が変わった。




感想とTwitterをどうぞよろしくお願いします。待ってます。
"""私が喜びます"""。



率先垂範:本来の意味は『人の先頭に立って物事を行い、模範を示すこと。』
ガイア教徒の1人と思われる女性。
呑気でフレンドリーな口調だが思想は強者を重んじ弱者を排斥するガイア教そのもの。

陳勝呉広:本来の意味は『物事の先駆けとなる人、真っ先に行動する人。』
ガイア教徒におけるセヲリの呼称。なお、この熟語の由来となっている人物はどちらも味方に殺されている。
ガイア教は強者であれば誰であろうと、サマナーやメシア教徒にも畏敬を込めた二つ名を付けている。
名前の由来は主に四字熟語である模様。

六陣氷神:いつの間にかセヲリにつけられた二つ名。
六陣は九字から取られたようで現在七列まで確認されている。参考基準は強さだけでなく、何か他に高い能力を持ったサマナーである模様。名付けられた当人達が名乗ることは滅多にない。


サマナー画像データ追加:編纂にも以下データ記載。

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主を絞め殺す

この2人が原神で言うパイモンとウェンティポジションですね。
ストーリー次も一方その頃編になりそう


『本当にそんなのいたのか?』

 電話からヒロの厳しい声がする。

「アンタにそんなウソついたら携帯潰されるやろ。」

 腰に手を置いて若干苛つきながらイサカは答えた。

ヒロの二つ名は『技師』。

 悪魔と『COMP』の解析の他、悪魔の合体・強化を司る『邪教の館』の管理運営を行う唯一無二の人材だ。

 ふざけるのは大好きだが人を傷つけたり軽視する言動が嫌いで本気で怒らせるとアプリや邪教の館の機能を潰して来る。

 また、高い実力にも関わらずとある理由から表に出てくることは少ない。

 

『まるでオレじゃなかったらやるみたいな言い方だな。』

「心配せんでも自己保身の為しかウソは付かんから。」

『最低じゃねーか。』

 

「そんなこと言うとるヒマちゃうねん。ウソ言うからもっぺん言うで?『人が改造されたと見られる悪魔を発見』。連れてくから色々準備しといて。」

『わかったけど大丈夫か?というか本当に改造なんてあるのかね?サマナーがポカしてそうなったとかじゃねーよな?』

「イサカのことわからないサマナーなんているの?1人で歌いながら歩き回ってる人間なんてそういないでしょう。」

 リャナンシーの言う通り歌うというのは人だけでなく悪魔にも居場所を知らせる事になるため、1人でこれをやるのは実力と胆力が必要になる。

「まぁこっちは顔のわかるサマナーなんておらんけど。」

 ケタケタ笑うイサカ、実は他人の顔認識が出来ていない。声と会話の内容で人を区別している。名前覚えもかなり悪い。

『お前の顔認識はもう失認だろ。』

「これと寝汚さだけは医者に匙投げられたからな。で、改造の根拠やけどこれはまァ文献参照ってとこやな。昔分捕った資料にこういうのあった。この世のもんやないような言語やったせいで今でも碌に読めてへんくていくらか翻訳あったから辛うじて分かるくらいやけど。あと捕まえたのはとりあえず寝かして親指結束で締めといた。起こして暴れたらもっかい寝かす。」

『相変わらずの万能倉庫っぷりだけど容量いくつ使ってんだ?』

 COMPアプリにはサマナーの荷物を情報化するアイテムストレージ機能があるが魔貨とマグネタイト以外はスマホの容量を使用する。

 因みに、このアプリのデフォルトサイズは2Gもない。

そして平均使用量は精々10Gである。意外とコストパフォーマンスが良い。

「25くらい。」

『馬鹿じゃねーの?...で?資料の出処は?』

「ガイア教。」

 長い溜息が電話越しに聞こえた。

『面倒になりそうだな。』

 

 

「ホンマやで。じゃあよろしく。さて起こそかぁ。」

 電話を切るや否や薬を取り出す。

「あ、先行資料で写真だけ送っとくかぁ。肖像権働くかな?」

 と、薬をポケットに突っ込んで着ていた服(上半身)をペロッと剥くとパシャパシャとシャッターを切る。

「囚人みたいな格好してんな...うーん絶縁破壊された時みたい。」

 所謂リヒテンベルク図形によく似た模様が全身で薄く発光している。

人間は勿論、これまで見てきた悪魔とも全く違う特徴だ。

 また、イサカの顔認識では判明していなかったがこの稀人はイサカと大して歳の変わらない青年だった。

「植物に絞め殺されてるみたいね。」

「植物かぁ...改造人間も人造半魔も悪魔もアレやからとりあえず『ユンガブラ』かな。」

 しれっと便宜名をつけて写真を送りつけるとポケットから再び薬を取り出してぺっ、とユンガブラに使った。

 

 

 気付薬とは比べ物にならない効力で起こされたユンガブラはビクン、と体を震わせて目を開いた。

「!?」

「よぉ。」 

 焦って縛られたことに気づかないまま立ち上がって逃げ出そうとした途端ユンガブラは頭から転んだ。

「まぁこうなるかぁ〜。」

「もうちょっと穏やかに出来ないの?」

「交渉より説明派なんで。」

 ショットガンを背負い直すと明らかに怯え切った相手に溜息をついてイサカは腕を掴んで助け起こす。

「もう話聞かんと逃げられると困るもんで縛らせて貰たんさ。無理に取ろうとすると親指千切れんで。」

「...僕を連れ戻しに来たのか。」

「生憎人と悪魔こねくり回す程倫理観捨ててなくてな。イサカや。こっちはリャナンシー。アンタ、サマナーちゃうやろ?」

 予想アタリ〜と内心思いつつ出来る限り穏便に質問と説明を続けていく。

軽快な(軽薄とも言う)西の言葉にやや眉を顰めながらユンガブラは言葉を返す。

「サマナー?」

 対話の姿勢を見せた相手にイサカは内心ニヤリ。

「そう。このリャナンシーみたいな悪魔を使役って言うと響悪いけど色々やっとる人間でな、アンタが予想しとる連中とはう〜ん敵対しとって妙な話聞いたからやって来たっちゅーわけ。そこの公園でちょいちょい見かけた変なマグネタイト撒く悪魔ってアンタやろ?」

「...僕は悪魔じゃない。」

「公園の連中がそう言ったっただけやでわかっとぅから安心しいや。で、本題。アンタそのままここで引き篭もれんのわかるやろ?この辺は人よぉ来るしガイアーズも少ないけど現実世界に比べりゃ危なて危なて禄でもないことあらせんし何より家帰りたない?くそカルト(ガイアーズ)から守るしアンタのそれ治す方法探すから一緒に来てくれん?無理言わせたないねん。」

「...嫌って言ったら?」

 

 

「無理言わせたないねん。」

 にこりとイサカは微笑むが目は一切笑っていなかった。

「拒否権ないじゃないか。」

「そら敵のムチャクチャ見かけてほっとくなんて土台無理な話やろ。それにそのままやと見つからんでも死ぬで?さっきも言うたけど引き篭もれるようなとこちゃうねん。ほら回れ右。」

 ぐるっとユンガブラを半回転させると親指を括っていた結束バンドを外す。

「もう専門家に話はつけてあんねん。ほら行くで。」

 くいくいと促してイサカは歩き出す。

ユンガブラはやや不安げな顔をしたが覚悟を決めると背中を追った。




基本的にTwitterでフラフラしています。
感想等々待ってます。



ユンガブラ:イサカが発見した改造人間につけた便宜的な呼び名。
『改造人間』『人造半魔』に感じられる表現を避けている。
正式な発音は’’ユンガブッラ’’でオーストラリアにある地名。
カーテンフィグ国立公園という観光名所がある。


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脱兎を追うのは

フォロワーを真Ⅲに突き飛ばしたんですがL-N-Cの属性にめちゃくちゃショック受けてて面白かったです。
Ⅲそれないもんね。


「どこへ行くんだ?」

 上野駅から出たユンガブラは前を歩いていたイサカに尋ねる。

「ネリマのヒカリガオカ。あそこの団地にヒロっていう悪魔のこと色々調べとるヤツがおるん。オルトロス!」

『アォーーン!!』

 遠吠えにこの野郎ワザとだなと半目になるイサカとその後ろでひっくり返るユンガブラ。

「何?これ...?」

「仲魔。リャナンシーと大体同じ。」

「この頭が2つもあるのに碌に頭の働かない馬鹿犬と同じにしないでくれる?」

「ごめんな。」

 貶しっぱなしに唸り出したオルトロスをイサカははたくと『伏せ』のポーズをさせてユンガブラに手を差し出した。

「まさか乗っていくのか?」

「ここからヒカリガオカまで歩いたら半日かかるて。ほら痛がらんから鬣しっかり持って前乗って。オルトロス、今日巫山戯たら(東京湾)沈めるからな。」

 因みにこのオルトロス、前科3犯の凶悪犯である。

「よし行くでー。」

 事前の忠告から感じられた危機感とは裏腹に穏やかにオルトロスは走り始めた。

 

 

「このペースやと50分くらいかな〜なんにもない、とい、い...。」

 そうは言ってもやや衰弱しているユンガブラに配慮してゆったりと走らせていたイサカは笛の音に顔を上げた。

「笛?」

「他のサマナーの笛や。あんだけ鳴らしとるってことはガイアーズがまた出たか。しかも高速に上がらん場所...アラカワやな。マズイかも。」

 流石に昨日今日暴走族が現れたのはユンガブラを探していることに気が付いている。

「昨日今日って上野の悪魔言うとったからまぁまぁ辻褄合うわな。オルトロス、気をつけながら行くで。」

 見つかったらスピードの出せない今、間違いなく追いつかれる。

 イサカは普段であれば暴走族に対抗できないわけでは無いが武器の圧倒的なリーチと操縦能力で追い回すのが常だ。追われたことはまず無い。

 

 

 ブンキョーを出てトヨシマに入ろうとした頃、嫌な音が後ろから聞こえて来た。

「見つかった!」

 舌打ちをして前のユンガブラの耳に障らないように笛を吹いた。

先程よりもやや高い笛の音が街中に響く。

「まだアンタってことはこの遠目じゃ気付いてない...と思いたいな。」

 2人とも振り落とされないよう後ろからしっかりと腕と内腿に力を入れて走らせる。

 恐らく目標を探すための装置なりなんなりあるであろう。

捕まったら自分は間違いなく殺されるしユンガブラはどうなるかわかったものではない。

「絶対喋らんと手ェ放すなよ!」

 スマホを落馬しない内に素早く操作して雷撃の魔石を取り出すと後ろへ向かって投げつけた。

 バリバリバリ!後ろからの衝撃と閃光が発動を知らせる。

しかし、バイクの機械音は止まらない。

 確実に近づいて来ているのを感じる。

「ポンプアクションこういう時不便やで!」

 イサカの銃は昔の映画の様に片手では撃てない(そもそも片手で撃つものではない)構造になっているのでいまいち決定打が与えられない。

「ヤバい...!」

 腹決めて轢かれる前に撃とうかと思った時、漸くツキはやって来た。

「なにしてんのお前。」

 すれ違いざまにボソリと呟くと走って来ていたバイクの運転手1人の首を一瞬で掻き切った。

「ラッキーやわ。アイツ来るとは。」

「あの人は?」

「『騎兵』。1番器用に悪魔に乗れるやつやで。」

 

「ケルピー反転!」

 素早く身を返すと今度はバイクを追いかけ始める。

2メートル半はある槍で相手の武器を危なげなく弾くとまたスパリと首を刈ってしまいあっという間に片付けてしまった。

「くたばってろ。」

 手をはたきながらとても文面に表せない罵声を2、3吐き捨て火炎の魔石で暴走族の死体を骨まで焼き捨てると2人に視線を移す。

「よォイサカ。俺の名前覚えてる?」

「ハから始まったことしか覚えてない。騎兵。う〜ん3ヶ月ぶりくらい?あと今こんばんは。」

「ハヤトな。あと3月の末に会ってる。随分賑やかだったけどそいつ何?」

「お前ガイアーズ嫌い過ぎて面倒くさいから教えたくな〜い。」

 先程の様子かられる通りハヤトは異殻最強の騎乗能力を持つが同時に誰よりもガイア教が嫌いである。

 理由は答えることがないので誰も知らない。

「うるせー奇天烈学者。とっとと吐けや。」 

 馬上でブンブンと槍を振り回しながら不機嫌そうに迫る。

「じゃあ説明すっから護衛して?ヒカリガオカまで。」

「技師案件かよ...わかったから俺にも一枚噛ませろよ。」

「まぁ頑張るわぁ。」

 

 




上野公園〜光が丘は大体20キロないくらいです。
国道254号線使ったら40分くらい。

基本的にTwitterでフラフラしています。
https://twitter.com/@NinethMonth

モチベーションに繋がりますので感想・お気に入り登録お願いします。
https://syosetu.org/user/341851/



ハヤト:騎兵、七列風神
18歳の少年。非常に落ち着いていてドライな性格だが、ガイア教徒に対しては激しい感情を見せる。
騎乗しての戦闘がサマナーで最も強く、両刃のついた槍を使用するが状況に応じて竜騎兵にも化ける。


オルトロス:『速い』という意味を持つテューポーンとエキドナの間に生まれた双頭の犬。
兄弟に地獄の番犬ケルベロスや多頭の毒竜ヒュドラなどを持つ。
クレタ島で牛の番をしていたが牛を求めてやって来たヘラクレスに殴り殺されたという。

ケルピー:スコットランドに伝わる馬の姿をした魔物。
人間を大人しく良い馬を装い乗せようとするが乗った瞬間水に入り苦手な内臓以外の全てを食い尽くす。しかし、乗りこなすことができれば右に出る者がいないほどの駿馬として活躍するという。


次回はセットで書けるといいな


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死中の活を獲る

諺としてはだいぶ正しくないです。


「ヒャーーッ!!ようやくか!待ちかねたぜ!!」

 とてつもない威圧感を放ちながらぐるんとこちらを振り向いたバイクの悪魔。

その顔には肉がなく、髑髏がこちらを見つめていた。

「まさか...。」

「私の最高の相棒!『魔人』ヘルズエンジェル!さて、私たちを満足させられる?」

 どっと背中に汗が流れるのをセヲリは感じた。

 

 

 髑髏頭の人型悪魔、それらは全て『魔人』という分類に属している。

わからないことだらけの悪魔の中でも一際変わった存在で、命懸けで調査をした学者—イサカによれば『人』と『死』に関連する存在だということらしい。

 そして命懸けでという事は恐しく強いという事だ。

 

 

「なんで魔人なんかガイアーズについてんだ!」

「細かいこと気にしてると死んじゃうよ!?」

 ぶぉん、と耳元をタイヤが掠めた。

「あぶねっ!クラウドか世良か!?」

「反撃だホ。」

「わかってるって!」

 ピキ、と短槍の穂先が音を立てた。

サマナー達はどれだけ悪魔を倒してマグナタイトを保有しても人間である限り魔法は使えない。

 が、武器は別だ。サマナー達の使用する武器は悪魔と合体させたり特殊な素材を組み込むことで高い威力や擬似的な魔法を発揮する。

 そして六陣氷神。この小っ恥ずかしい名で注目すべきは3つ目の氷の字。

これはセヲリの使用する属性を示している。

 セヲリの武器は血も涙も凍らせる氷結の槍だ。

 

「やっと本気出してくれた〜!」

「殺す。」

「行くぜェ〜〜!!」

 パギ!と耳につく音がしてセヲリの短槍と率先垂範の柄の長いメイスがぶつかった。

「おっ...もっ...!」

 騎乗するセヲリは重心がブレ易い。

対して率先垂範は多少揺れはするが悪魔が乗りこなすバイクだ。

 そして武器は重さをそのまま威力にする鈍器であり、突く・払うを基本とする槍とのぶつけ合いには圧倒的に彼女が有利だった。

『こりゃ状況悪すぎるわ。何処かで逃げないと本気で死ぬ。でも相手は魔人のバイク...。』

 しかもまだ2台の手下が残っている。死ぬ気で逃走妨害をしてくるだろう。

なんだか打ち合いが続いて突き返すがこれはまたバイクが器用に避けてしまった。しかもそのままタイヤの回し蹴りが飛んでくる。

「ぐぅっ。」

 無理矢理体を反らせて躱すがその間に連携攻撃が飛んでくる。

「フロスト!」

「ホ。」

 広域氷結(マハブフ)が両者に無理矢理距離を作る。

このままバイクのどっか凍りつかないかなと願っていたが燃えたタイヤにあっという間に溶けてしまった。

「そうそうそういう小技がいいのよ!私達じゃそうはいかないもの!」

 率先垂範はこちらが不利でジリジリと削られているのをわかって大変楽しげだ。

 命懸けで逃げに転じようかというところでセヲリにも悪運は回ってきたらしい。

「え!?見つかったって!?」

 唐突に右耳を押さえて率先垂範は叫ぶ。

どうやら何か連絡があったらしい。

「でも私今...はーい。わかった。ちぇっ。」

 拗ねた様に通信を切ると若干不満気にこそこそっとヘルズエンジェルに囁いた。

「ごめんね陳勝呉広。呼ばれちゃって行かなきゃ行けないの。また遊んでくれるよね?」

「2度と来んな。」

「バイバーイ。」

 くるっと向きを変えると部下を引き連れてあっという間に行ってしまった。

「勝手だホ。」

「まぁ、悔しいし何してたかわからないけど死なずに済んだから良しとしておこう。」

 ジードのスピードを緩めて去っていった方向を見る。

そして、は〜、と溜息をついて呟いた。

「片付けてあいつんところ行こ。」

 

 

 

 

 

『ガン!』

「ぐぅぅ...!」

 降ってくる鈍器を刀で受け止める。

重い。妖精達はひらひらふらふらしながら不意に魔法を飛ばしてきたけれどこいつらは殴れるところがないか殴って来る。

 とにかく怖いので受け止めることしかできてない。

「私のサマナーに何してくれてるの!!」

 バチバチバチ!と、ピクシーの電撃が相手の右腕に当たってノックバック。続けて脳天に直撃した電撃で頭からひっくり返ってしまった。

「とどめ!今!」

「うっ。」

 とどめと言うことは殺すという事だ。

襲ってくる彼等が会話ができる様な相手ではない事はわかってる。

 でも、僕には無理だ。

尻込みする僕の顔に妙に温い液体が飛んできた。

 

 

「やべ、飛んだ。」

 見るとジョバンニの足元には既に2人の敵が真っ赤な水溜りの上で寝ていた。

いや、これは僕の認識がおかしい。バグってる。

 ジョバンニに殺されて自分達の血溜まりに倒れているんだ。

 

 今まで画面や紙の向こうにしかなかった光景に視界がぐらぐらする。

「やべ、こいつ貧血起こしてる。」

「今!?ウソでしょ!?」

 ぐしゃ、と音がしてピクシーが伸した敵の頭から血が噴き出した。アリスがとどめを刺したらしい。ぽたぽた武器から血が垂れている。

 2人とも武器を振って手早く血を落とすと僕の方に駆けてきた。

「ちょっと大丈夫?」

「これお前より酷いぜ?武器屋近いからあそこで...。」

 ジョバンニが僕に肩を貸して1歩歩こうとした時、分厚い氷の壁が僕達を包囲する。

 ガツン!ドスッ、ドサ、という音が壁の外から聞こえて、

「ちゃんと死んだのを確認しないと危ないって9Sが出会い頭に言ってんだろ。」

 というセヲリの不機嫌そうな声がした。




銀座の地下街もうないの一昨日知りました。

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死体処理:戦闘時、特にガイア、メシア両教団と戦う時は必然的に死者が発生してしまう。
サマナーであれば可能な限り現実世界にて埋葬を行うが、両教団員であった場合やあまりに凄惨な状態になった時は異殻にて火炎の魔石・魔法を使用した処理を行う。この処置を怠った場合悪魔に食い散らかされる危険性がある為、発見時、あるいは発生時は必ず対応することが求められる。


魔人:人型、頭部が骨という共通点を持った詳細不明な悪魔達。
死を与える事に特化しているとも何かに全てを捧げた存在ともいわれている。
皆強力な存在であり異殻のサマナー達にとっても最も恐しいものの一つ。出会う事があれば生きて帰れるかは運次第。


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異を覗く-1

真Ⅴの漫画描いてて遅れました。終わってません。(つまりまた遅れます。)


「ヒローーッ!」

「イサカうるさいなんだお前。」

 玄関を蹴飛ばすような勢いで開いた所に転がり込む音と声を奥の部屋で聞いたヒロはキーボードを叩く手も止めずに叫び返した。

 

「あ、失礼しまーす。」

「なんで挨拶だけは律儀なんだよ。」

「ばあちゃん厳しいから。」

 ガタガタと音がして3人がヒロのいる部屋までやってきた。

ユンガブラはともかく、3人ともどこか草臥れた様子だ。

「お前も来たのか。」

「途中クソバイクに追い回されてたからな。」

「早速か、どうりで草臥れてるわけだな。で、そっちが例の?」

 異形の青年に興味も恐怖も見せない医者のような顔で指差すヒロにイサカは頷いた。

「オレはヒロ。悪魔と情報の調査をしてる。元に戻せるよう出来る限りのことはさせてもらうから。よろしく。なんて呼べばいい?」

「あだ名でもええで。」

 勝手知ったる他人の家と床に座り込んだイサカが2人の下から呟く。

「お前が聞いとく事なんだよ。」

 チクチクと攻める声に耳を塞いで知らん顔のイサカ。

異殻一の学者も開いてみればとんでもないろくでなしである。

「イ...イスカです。よろしく...。」

「...で、俺も聞かされてないんだけどソイツ、何?ガイアーズに関係してるんだろ?」

「説明するからとりあえず仕事してくれん?」

 早く暴れたそうなハヤトを抑えつけてイサカは言ったら。

 

 

「な〜る〜?確かにマグネタイト生成してるし外見はどう見ても人間だが反応は狂ってるしこの線と目は人間じゃないな。」

 説明を聞きながらユンガブラ—イスカを調べてはキーボードを叩いていたヒロは呟く。

「バサッと言いやがった。」

「オブラートがない。」

「お前が言うな。」

「お前が言うなお前が。」

 戻ってきたブーメランに胡座をかいていたイサカは仰反る。

仰け反りすぎて床に頭をぶつける様子を見てハヤトはバカじゃねぇのと呟いた。

「しかもまたセンスあるのかないのかわからん名称つけて...。」

「まぁ、駅で見つけて追いかけられながら連れてきたってだけやからあとはそちらからきいて。」

「...この人の名前は?」

「一字違い?」

「......。」

 どうにも締まらないイサカを見て溜息を吐いたヒロは質問を開始した。

 

 

「ここに...いや、攫われたのはいつかわかるか?そしてそれは何処だ?」

「ゴールデンウィークの最終日だったと思います。代々木公園駅の側で友達と別れて歩いてて気づいたら暗い部屋に転がされてました。」

「渋谷じゃん。」

 出張して来たのかよ。と呟くハヤトにまァ目と鼻やもんな、と返すイサカ。いつの間にかレポート用紙数枚とボールペンを取り出してつらつらと何か書いている。

「じゃあ、『何』があったか聞いていいか?そしてどうやってウエノまで逃げて来たかも。」

「...連れられて来て半日位した頃だと思います。急に扉が開いて地下みたいなところに連れてかれて...あれは多分病院の手術室でした。」

「新宿は病院多いぞぉ...。」

 新宿区は東京3位の病床数を誇る自治体であり、大きな病院自体もかなり多い。

これからの苦労を考えてイサカは顰めっ面。

「僕以外にも何人か連れてこられた人がいました。そこで...。」

 ぐっ、とその時を思い出したのかイスカは黙り込んだ。

しばらくイサカのペンの音のみが響く。

「気味の悪いヒルみたいでした。瓶のなかで僕らの方に向かってうぞうぞ動いてて...それを...。」

 

 

「ヒルか...。」

 その後を察してか察さずかイサカはペンを止めて呟いた。

「心当たりあるか?イサカ。」

「大分違うけどカミキリムシみたいなクワガタみたいな頭のイモムシみたいなんが例の資料と一緒にぶんどったやつに描いてあった。それかもしれん。続きも教えて。聞こえとるから。」

 そう言って立ち上がって隣の部屋に行くとガチャガチャと勝手にコピー機をいじり始めた。




書いててほんまコイツロクでもねぇなと思ってました。



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異を覗く-2

暑いですね


「...その後はまた気絶しててどれだけ経ってたかわかりません。とにかく全身が痛くて考える暇もありませんでした。だから暫く経った頃としか言えませんが、僕にも、周りの人にも『それ』は発生しました。」

 ガチャガチャピーガシャンガシャンと隣の部屋から聞こえる騒がしい音が再び言葉の間を支配する。

 

「僕はかなりマシな方でした。痛みがひどくなった場所が出来たと思ったらコイツが出て来たんです。」

 と、のたうった線の浮いた右腕を持ち上げる。

明るい室内でも瞬くように光るそれはただの刺青や落書きとは違うことをひしひしと感じさせた。

「マシっていうが他の連中はどうなったんだ?」

「それは...。」

 

 

「T-ウィルスって知っとる?」

 

 

 調整作業を終えたイサカが唐突に尋ねた。

「は?」

 何言い出した?コイツ。という顔でハヤトはイサカを見る。

「別にGでもAでもウロボロスでもええんやけどまァご存知バイヨ... BIOHAZARDに出てくるウィルス。あれ、ゾンビになるイメージが強いけど元々何か知っとる?」

「バカにしてんの?」

「フィクションを交えてわかりやすい説明にしとると言って欲しいな。あれ、生物兵器作るための材料なわけよ。10人に9人は感染すればゾンビ、後1人は抗体持ちで感染耐性持ち、そいで、1000万人に1人はウィルスを制御しきって優れた身体構造に変えてしまう。わかった?」

「...コイツが10人か1000万に1人で後は10人中の9人ってことか。」

 イサカがイスカの話を戯けたような喩え遮った理由に気付いたハヤトの瞳に怒りが宿る。

「まァこの人も弾いたわけでも完全に適合してるわけでもなさそうやしあくまでそれまでの手持ちとガイア教が態々人攫ってやってるって事を統合して出したヤマ勘やけどな。遊んだ事ないし。」

「ないのかよ。」

「あ、コピー終わった。」

 どこまで本気かわからない口調で言いたい事だけ言うととコピー機の方に戻っていく。

 

 

「そういう事か?」

 尋ねるヒロ。何も言わずに頷くイスカ。

「...人の形じゃなかった。5人はいたのに正気...正気というかわからないけど正気だったのは僕以外いませんでした。意味がわからなくて怖くてそれから暫くまたあんまり覚えてません。痛みや怠さは感じましたが空腹とか、水が欲しいとかはなかったです。いや...空腹...みたいなのはあったんですけど...。」

「学者ー。」

「マグネタイト補給とちゃう?病院なら少なからず人は集まるから供給はそんな難しないやろしそもそも人間やから光合成みたいにできるやろ。あの虚数マグネタイトは気になるけど...ウエノ来てたのはその方が楽やからちゃう?」

 ガタガタとどこからか持ってきた簡易テーブルを2つ並べながら疑問に仮説を重ねるイサカ。そのままコピーして来た紙を並べるとまた何か書き始めた。

 

「逃げられたのは本当に運です。あんな状態になってたのに逃げる意思も気力もあった理由もわかりません。足音がして扉が開いた所を突っ込むように飛び出して地下から飛び出しました。エントランスには人や悪魔...?悪魔もいたんですがそれもどうやってか振り切って...。あとはさっき話してもらった通りです。」

「言葉通り火事場の馬鹿力だな。」

ユンガブラ(半魔)の能力かもしれへんな。ウエノまで来たのはだいぶ凄いけど。...人攫ってやっとるんやでコレ相当不味い話やで。ヘタこいたらオールドエイジに突っ込まれるどころか警察だななんだのの大騒ぎや。けど、ゴールデンウィーク末からならまだ何が狙いか知らんがまだ始まって2、3日や。」

「2、3日!?」

「この世界は現実世界より時間の流れが早いんだ。今は大体向こう1日で5日くらいだ。長い間随分頑張ったな。」

 愕然とするイスカにヒロは説明し、労う。

「犠牲者はなくせんけど今なら片せばかなり減らせる。...いや、倫理とかそんなん置いても時期的に早く片さんとマズイな。」

「何?」

「今年何あるかわかるか?...オリンピックや。人がアホみたいに集まって来る。年齢性別なんなら国籍までよりどりみどり、それこそヘタこいたら入れ食いで連れてかれる。一歩違えば国際問題やぞ。」

「イスカ、どこの病院に連れて行かれたかわかるか?イサカ。」

「もうできる...よっしゃ。」

 先程からイサカが書いていたのはA4紙4枚から構成された新宿区の地図からの病院のピックアップだ。病院の地図記号が赤い丸で囲まれている。

 

 

「縄張り差し引いてもウエノまで来れるちゅー事はブンキョーとの境周辺や。チヨダなんか通れたもんじゃないしミナトは遠回りすぎる。精々トヨシマか。」

「それでもって手術室...外科があって人を何人もぶち込める病室がある...みたいな感じか。意外と絞れるな。」

「やからこの辺のハズや。」

 ぐるぐると怪しい病院を指で示す。

「絞れたが直接確かめるには手間だな。どうする?」

「ヤマトにガイア教の息が掛かった病院とか聞けないか?そういうのも調べてるだろ?」

「その手があった。」

 パン、とイサカは手を打つ。

「どうせこうなった時点で巻き込み確定や。善は急ぐで。」




さりげなくこの時にレポートの写真もコピーしている学者。


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第一次半魔工場襲撃作戦-1 戦前

短くても多くあげようかなと思ってます


「まさかお前ら今から殴り込む気か?」

 ヤマトの返信待ちの間にガサゴソと準備を始めたイサカとハヤトに呆れ顔のヒロは尋ねる。

「勿論。」

「そら、まァ、他にも人おるっぽいし?ラッキー言っても1人逃げれるくらいの相手なら2人で上等やろ。後始末はともかく。」

 と、武器の手入れをしつつ持ち物確認をするハヤトと帽子とカバーゴーグル、そしてアイスピックの様な短剣を装備するイサカ。

「ともかくじゃないんだわ。被験...被害者の回収と奴等の始末にデータ回収にどんだけ手間かかるか知ってんだろ。」

 何事も始める前より終わった後の方が手間が多いのは異殻でも...ましてや敵勢力との戦闘でも当然同じである。

 なおかつ、今回は非サマナー(一般人)の命と重要性の高い情報が絡んでいる。2人でよし行くか、の発想で行けるものではない。

 

 

「先殴り込んでおいて後始末に人連れてくればいいだろ。それこそセヲリ連れてくるとか。仲魔いるし。」

「あーセヲリ昨日新人拾て来て今日バッタバタやったから無理やと思う。」

「ウソだろ!?アイツそんな事できんの!?」

「お弟子君トラブルと説明不足で死にかけとったな。まァ、連絡はするか。」

「......。」

 あーあと呟く2人と置きっぱなしにされたイスカ。

拉致被害者な事以外は基本的に一般人なので当然ではあるがなんせ場所が特殊だ。

 

 

「話ずれてんぞ人足りねぇぞ。オレはコイツいるし出ないからな。」

「ヤマト、俺、イサカ、セヲリ...あと誰?」

 既に約2名を確定条件として扱って計算するヤマトに突っ込むものは誰もいなかった。

「いっそアレは?デイム。」

「却下。」

「他が良くてもオレが嫌だ。あの狗。」

 バッサリと斬り飛ばされるイサカの意見。

 

それも当然、デイムとは現実世界で活動するサマナー...ニューエイジ(異殻のサマナー)と区別してオールドエイジと呼ばれる連中の1人である。

 異殻と現実世界両方で活動可能なサマナー...どんな役割をしているかは察される話だ。

 

 

「どちみちこんな面倒臭い事件バレるから今のうち巻き込んで適当にする手はあると思うけど。セヲリとマコトのオッサンの心労も考えて。」

 オールドエイジとの交渉担当は主に切先セヲリと異殻最強の交渉人ことマコトだ。

マコトはともかく、セヲリはいつもブツブツと文句を言いながら始末をつけている。

 イサカも役割柄、2度ほど出向いた事があるが2度とも5分と経たずにその場で乱射したいと思って過ごしていた。

「まだ早いだろ。報復でやったらなんかしてたよ、くらいで行かねえと。」

「う〜ん...じゃあ誰よ。」

 

 そんな話をしているうちにヤマトから返信が来る。

「アタリ〜。ついでに参戦確定。」

「よし3人でもいいから行くぞ。」

「返信が来たからしゃーないしゃーない。」

 言葉尻が残念そうでないのはハヤトはガイアーズを早く沢山締め上げたい為であり、イサカの方は資料と被験体の情報狙いだ。

 自分達からの奇襲なら何処だろうがガイアーズ程度に負けないという自信もある。

 最も、そんな相手でも状況が悪ければ先程のイサカのように苦汁を飲むハメになる事もなくはないが。

 

「今日平日なのを後で思い出して苦労しろ。」

 恐ろしい事実を2人の背中に叩きつけてヒロは2人を見送った。

 

 



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合間の一時

PVでチロンヌプがジンギスカン踊ってて面白かったです。北海道ネタ。


 恥ずかしいことに貧血で行動不能になりセヲリに担がれて武器屋に戻ることになった僕は例のソファに双子と座らされて反省会の最中だ。

「だからあんなの来るなんてわかるわけないっつてんだろ!」

「だとしてもこいつらなんの武器使ってるかくらい覚えてんだろ目の前で人の頭潰れたら普通はひっくり返るんだよ。そもそもなんだその訓練方法は?お前は後輩を殺す気か。」

 反省会というよりは言葉で殴り合っているのに近い。セヲリとミナモトが。

 

 

「セヲリに普通求めるのも無理あると思うけどな。」

「私らも知ってるからね。セヲリの話。」

 何があったんだこの人は。

 

 

「んーとね?なんだっけ?色々あるよね。」

「1年目に何人かに嫉妬されてスマホ取られてチヨダのどっかの駅に放り出されたとか?」

 怖すぎる。

チヨダに該当する辺りは絶対に近づくなと釘を刺された危険地帯だ。

 どうやったかわからないが共謀して放り込む方もだがスマホなし...仲魔も呼ばずに帰ってきたセヲリもセヲリでとんでもない。

 そういえば2度と御免とか言っていた気がするがそういうことだろうか。

 

 

「他何?妖精事件か?」

「それって協定違反した妖精を片っ端から殺したっていう?」

「あ、知ってた?それそれ。凄かったらしいね。関わった妖精はもちろん、反撃したやつも殆ど穴だらけにされたらしいよ。槍で。」

 穴だらけってどういう事。

「そーよ、あの時あたしみたいにとばっちり受けた方はどんだけ怖かったと思う?立ち向かった騎士もみーんな殺されてたのよ?どっちが悪魔がわかんないわ。」

 ジャックフロストと一緒にお菓子を齧っていたピクシーが膨れっ面で会話に参加する。

「そんな事あったのに僕殺されかけたの?」

「でっしょ〜?ホント虫みたいな頭してるんだから。アイツら。」

「虫みたいなのは羽だろ。」

「お兄ちゃんそうじゃない。」

 

「人の災難で何盛り上がってんだお前らは。」

 ミナモトとの応酬に一区切りついたらしいセヲリがぬっと会話に入って来た。

「お前がどんだけ無茶苦茶か教えてた。」

「セヲリ変態だよね。意味わからなくて。」

 残念な事に同意するがそれはそれとして酷い言われようだ。

「妖精事件は災難でもなんでもないと思う。」

「あたしとしてもアイツらが悪いと思うけどね。あの時点では人間の方も妖精(あたし)達に手は出してなかったし。でも自分から殴り込んでる時点で災難じゃないわね。」

「アンタら最高のコンビだよ。」

 僕とピクシーのセリフに苦い顔のセヲリ。

言いたい事と言い返せない事が大量にありそうな顔だ。

「コイツの関わってる騒ぎなんて手の指じゃ足りねぇよ。なんなら片っ端から上げてやろうか?」

「私のいる所でするんじゃない。」

 

 セヲリが再び若干の殺意を醸し始めた所でセヲリのスマホからバイブ音が聞こえた。

「お?」

「連絡?」

「ん〜...今すぐ手貸して欲しいって。ちょっと時間かかりそう。じいさん、代わりに送ってあげてくれない?家の最寄駅とかまででいいと思うから。」

 そんな雑な。

「お前の急な用事なら仕方ないって言ってやる。ほらさっさと行け。」

「ありがとう〜じゃあ。」

「また来るホ。」

 そう言ってジャックフロストと共に軽い足取りで出て行った。



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第一次半魔工場襲撃作戦-2 強襲

コロナやばいですね。皆様の周囲は大丈夫ですか?


「大丈夫なんですか?あの人達。」

 2人を見送った(取り残されたとも言う)後、さらに細かい検査を受けていたイスカは機械と自身の腕と交互に睨み合うヒロに尋ねた。

「大丈夫って何が...あ、いや知らねないもんな。そりゃそうなるか。刺すぞ。」

 針(消毒済)を取り出してイスカの腕からサンプルを採取しながらヒロは答える。

「アイツらはサマナー...オレ達みたいなのの中でも指折りだよ。悪魔の扱いも戦い方も。よっぽど相手が悪くない限り心配する必要なんてないさ。むしろ相手が可哀想な話だ。」

「......。」

「お前の身元はオレ預かりだ。現実世界に協力者が何人かいてな、心配しなくていいさ。必ず日常に戻してやる。」

 

 

 

 

「あ、来た。」

「暫く〜。」

「今すぐ新宿来いってだけ言われて来るやつ私ぐらいだとは思わんか?」

 指定されたビルの屋上に集まった4人のサマナー達。

ハヤトこそ待たされてピリピリしているが緊迫した空気はまるでない。

「で、何するの。」

「あそこ病院あるやろ?中にガイアーズと誘拐された人おるから殴り込み。」

「誘拐?サマナーを?」

「いや、普通の人。」

 その言葉に怪訝な顔をするセヲリ。

それも当然。異殻に入ることが出来るのは唐突に迷い込んだ者とアプリを使用するサマナー達のみ。

 アプリを持っていない人間を意図的にこちら側に連れて来る事は出来ないのだ。

「何でそんな事?」

「それを今から確認しに行くんやと。」

 と、1人病院を見下ろしていた『情報屋』ヤマトが答える。

「なんでも現実世界から人攫ってきて人体実験しとるとさ。詳しい事は後で後でって言うからよくわからんが。」

「人体実験ン〜!?」

 声こそ抑えたがそんなバカなと言う顔のセヲリ。

サマナーとして4年間そんな話は一度も無かったためこの反応は当然だ。

「ウエノで別れた後なにがあったのよイサカ。」

「う〜ん実験被害者保護してヒロのところに連れ込んだ?」

「で、俺はその成り行き。」

「だからか!あんなのが出張って来てたのは!」

「ウエノでお前らなにしとったの?」

 

 

 

 

「作戦ってほどやないけど4人の役割分担はこう。イサカとハヤトが現場確保。セヲリと俺は被害者救出。公式サイトのガイドと2人からの話じゃあの病院は上4階に地下1階。メインの入り口2つと夜間の入口1つ、救急の入口1つってことになっとる。俺は東、セヲリは西のメイン入口から入って敵を誘導。西側には受付の広い所があるからそこでお前の造魔配置してとにかく暴れさせろ。お前は救出対象を探せ。俺は東と救急の入口に仲魔配置したら参加する。」

「よし来た。」

「イサカとハヤトは夜間の方から入って地下への道探せ。その後は任せる。」

「雑くね?」

 ヤマトの指示にハヤトは首を傾げる。

「俺は地下に『何』があるか知らねーんだわ。」

「そりゃ俺達もだよ。」

「ごちゃごちゃ言うとらんとやるで。10分後に2人で入り込むから。」

「作戦開始だ。」

 

 

 入り口の見張りをしていた悪魔を一瞬で蹴散らし自動ドアに体当たりする勢いで病院内にセヲリは転がり込む。

 エントランスにいたガイアーズが動く間も許さず声の限りに叫んだ。

「暴れろ!ジード!!」

 パッと帽子の上から耳を押さえて伏せた瞬間、先程のセヲリの声とは比べ物にならない大音量の雄叫びが響く。

 わずか数秒で人間はひっくり返り悪魔の幾らかは戦意喪失。残ったものも明らかに孕んだ様子を見せた。

「覚悟しな。」

 何に言うでもなく呟くとセヲリは飛び掛かった。




ヤマト:情報屋
作業着姿の30代の男性。やや老けて草臥れたように見えるが異殻、現実世界両方において情報収集能力に優れる。
ヒロと並ぶ最古参のニューエイジであり、イサカと同郷。


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第一次半魔工場襲撃作戦-3 鹵獲

ヒロアカ読みました。お茶子ちゃんかわいいですね。


「おる?」

「遅えよ...。」

 夜間入口で見張っていた敵をハヤトが叩きのめした所に何をしていたのかようやくイサカがやって来る。

「何してたんだよP凹MAのいい靴履いてるくせにトロ臭いぞお前。」

「ええやろ〜コラボの受注生産。ちょっと嫌がらせして来たん。」

 皮肉の含んだ言葉にさりげなく自慢しながら返すイサカ。

妙に笑顔なイサカの背後をよく見ると所々何か置いてある。

「あれなんだ?トラップか?」

「テグス。思いっきり引っ掛かったら悪魔も脚切れるかも。」

「ここも塞ぐんだから表の入口でやれよそんなの...ポルターガイスト、頼むぞ。」

「任された〜〜!」

 他の入口同様悪魔を配置して2人は侵入する。

 

 

激しい戦いの音が廊下の向こうから聞こえて来た。

「す〜ごい音。大立ち回りやで。」

 そう言いつつ飛び掛かって来た悪魔の喉元に例のアイスピックの様な短剣を突き刺す。

喉を潰され悲鳴もあげられず悪魔はのたうち回る。

下級の名無し(ダイモーン)ぐらいで止められると思うなんて片腹痛いわ。」

「どう見ても俺らみたいなの前提の悪魔じゃねーだろ。前から気になってたけど何だその短剣。」

 見た目は勿論、悪魔がのたうち回っているのは喉を狙ったのもあるだろうがそのまま反撃もして来ないのは少々異常だ。

「『鈴鹿』。」

「銘は聞いてないんだわサーキットかよ。」

「まぁそうなるよな。違うけど。」

「違うのかよ。」

 振り回され始めたハヤトにまァ先に見つけるもん見つけよや、とイサカは肩をすくめる。

 

「地下ってエレベーターか?」

 数メートル前で槍を振るうハヤトが尋ねる。

「停電なったら困るやろ。階段の一つくらいあるわな。バックヤードみたいなとこ探すで。背中は任せ。」

「俺を穴だらけにするなよ。」

「ちゃんと一粒弾(スラッグ)に変えてきたわ。」

 そういう事じゃない、とは当然ハヤトも思ったが何も言わなかった。

 

 

 

 

「セヲリ、俺は配置完了。今どんな感じや?どこにおる?」

『こっち側の2階階段の踊り場。3割倒して2割が戦意喪失逃亡。残り半分。人は何人か倒したけど元々少ないっぽい。ちょっと逃げた。』

 通信のセヲリの声と共に激しい音が聞こえる。

敵は彼女にほぼほぼ釘付け状態だ。この時点での強襲を想定してなかったのだろう。

 イサカとハヤトのせっかちさが今回は良い方向に動いていた。

「逃げ切られたかね?」

『それは知らない。』

「やろなぁ。もう少し減らすぞ。安全と判断した時点で救出開始や。俺は上から行くから下から攻めろ。」

『了解。』

 

 

 

 

「これか。」

「やな。なんか変な音聞こえる。」

 イサカの耳にはごそ...ガタ...という音が僅かに聞こえていた。

「ちょっとマジバイヨかもしれん。」

「今更帰れねえよ行くぞ。」

「待ちや、何あるかホンマわからんのやで。」.

 急かすハヤトを抑えてイサカはごそごそとスーパーボールを5つ取り出した。

「何でそんなの。」

「それ行け〜。」

 

 ポイっと全て階段に向けて放り投げる。

ポポポポポポン、と軽快な音がして跳ね回っているのが見えたが階下の闇に消えていった。

「...何もおらんっぽい。」

 先程から聴こえる僅かに何かが擦れる音とボールの跳ねる音以外に特に音はなく、唐突に投げ込まれた物に反応して向かって来る敵もいない。

「ヤマト、セヲリ、地下発見。そちらも救出よろしく。」

『了解。』

『任せ。』

「行くか。」

「よし、行こう。」

 

「暗いな〜。」

「電気消してんのやろ。ほら懐中電灯。」

 最低限に縛られた光源の中、足元を照らしながら2人は進む。

「...これか。イスカの言ってた部屋。確かに変な音聞こえてるな。」

「うわ見てこのセンサー。マグネタイトがエグい反応してるで。」

 虚数表示とエラー表示、そして大量検出の表示が代わる代わる出ている。

この反応がこの世界においても普通でないものがこの扉の先にある事を2人に教えていた。

「扉俺が開けるから構えてろ。」

「よし来た。...カウントするで、3.2.1...。」

 シャッと扉が開いた瞬間何かかが飛び出した。

 

 

「どわ!?」

 のけぞってそのまま横にすっ飛ぶイサカ。かなり器用な体をしている。

「何だ!?」

 赤い謎の物質...としか呼べないものがぶわりと飛び出してきた。

流石の2人も一瞬腰が引ける。

「センサー反応してるこれ例の虚数マグネタイトだわ。オタマジャクシ飛んできたと思った。」

 と、ストレージからメスフラスコを取り出すと虚数マグネタイトを回収するイサカ。

「フラスコ使い方違くね?」

「細かい事気にすんと禿げんで。それより...。」

 漸く2人は中を覗き込む。

 

 

「うッ...。」

「これはユンガブラも言えへんわ。」

 肉塊がいくつも転がっていた、としか言えない光景だった。

肉塊にはユンガブラ...イスカと同じネオンの様な光があちこちに見られる。

「これ、人間...だよな。」

「まァそやろな。成る程なぁ、適性がないとこうなるわけか。しかもこれ光っとるのは多分まだ生きとる。」

 説明のできない顔のハヤトと腕を組んでどう扱うべきか思索するイサカ。

「どうするよ?」

「とりあえず閉めて。」

 

 

 扉を閉めさせると少し離れた場所に移動して自分の見解をトーンとボリュームを落とした声で語る。

「あれはまァ、素人目にも無理や。サンプル回収して殺してやるのがベストやと思う。ただ目下、問題なのはこれをどんくらいやっとるかや。」

「つまり?」

「この病院だけでもまだ他にもおるはずや。それにここ以外でもやっとったらどうする?この実験成功させとったら?」

「......。」

「サンプル回収とやる事しとくから上の2人にも言うて資料なり何なり探してきて。あるもんとにかく片っ端から。後ヒロに報告。セヲリに何しとるか言うなよ。未成年にこんな作業はさせへんで。」




やっと夏休み入りました。






ダイモーン:悪魔を意味するデーモンの語源にして、個々の名前を持たない最下級の邪悪な霊、悪魔の総称。
元々は善悪を問わず精霊や超自然的な存在を示す言葉であったが、その悪の部分を恐れ意味が変化したといわれている。

ポルターガイスト:ポルターガイスト現象。
誰一人として触れていないものが唐突に動いたり飛んだりし始める心霊現象の一種。ドイツ語で『騒がしい音を立てる霊』という意味がある。

短剣-鈴鹿:イサカのもう一つの武器。
アイスピックに短剣の柄がついた様な見た目をしており、刺突と防御以外の機能を持たないが、モデルになった民話を再現する様に刀身では激痛を伴う毒が生成されている。
鈴鹿とは東海道有数の難所にして多くの山賊が横行したと言われる峠の名前。
なお、『地名に肖った』武器は多いが『その地の物語』をモデルにした武器は制作にも使用にも難があったため大変希少なものになっている。


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第一次半魔工場襲撃作戦-4 撤収

オリンピック終わりましたね。パラリンピックはどうなるんでしょうか。


 ガキン!ガチン!と激しい音を立てて病室の扉に取り付けられた南京錠が破壊される。

「もー!腕痛い!疲れた!終わり!」

『撃って壊せばいいモンを...。』

「弾もったいない。」

 現実世界とは対照的に構造上、属性弾の使用できない上に武器屋では弾倉が製造できないオートマ銃を使用するサマナーは少数だ。

 その少数派の1人がセヲリというわけで、戦闘以外で無闇に使うと財政負担の元になる。 

 

 そういう訳で南京錠を片っ端から槍の石突で叩き壊していたセヲリは若干痛む手首をぶんぶん回しながら足で病室の扉を開いた。

 

 

「これで全員か?」

「2階から4階までは全部一応見て来たけど。もう一回見てくる。」

「よし、こっち俺に任せろ。」

『セヲリ、ヤマト、今大丈夫か?』

 ハヤトから通信が入る。

『今』大丈夫か?という言葉に2人の実力が見て取れる。

「丁度終わったから確認中。そっちは?」

『イサカが地下で色々やってる。資料なりなんなりあるモン全部回収して来いってよ。あと地下来たら殺すってさ。』

「殺意高ッ。」

 最後の言葉は正確ではないが誰か向かえば確認なしで撃ち抜かれる事は概ね間違いない。

「あいつ基本動くモノの認識能力あらんよな。反射神経はあるのに。」

「反射神経と認識能力バカなのと『あの』運動神経を合成した結果何かわかる前に撃ってんだよ。」

 そういう評価である。

 

 

 

「リャナンシー、頼むわ。」

「効くのかしらねぇ...。」

 イサカの指示に疑問も呈しつつもドルミナーを発動。

肉塊の灯す光を見てイサカは頷く。

「...多分効いたかな。今から3分に1回掛け直して。それでも痛みや耐性であかんだら...まァ。」

 そう言ってストレージからメスを取り出すと足元の肉塊に刃を入れた。

 

 

 パンパンパンパン!と、火薬の弾ける音が立て続けに聴こえ、被害者達が悲鳴を上げた。

「イサカか?」

『ごめん、サプレッサー忘れとった。ついでにそっちどう?』

 当の本人から通信が入る。

「救出完了。アンタに言われた資料集めも大体終わった。あとは捕まってた人をどうするかかな。」

「あとハヤトが屋上で見張ってくれとる。」

『今んとここっちも問題なし。だーれもいねえし来ねえ。』

『こっちももう少ししたら終わると思う。じゃ、よろしく。』

「待ったさっきなんでそんなぶっ放した。...切られた。」

 ゴーイングマイウェイめ、とセヲリは舌打ち。

『...悪魔出たんだろ。』

「どうだか。なんか妙だったけどな。」

 普段は銃に負担がかかるからと言って絶対しないような連射だった。

余程危険な相手がいるかそれとも...。

 

『セヲリ、妙な連中が見えた。』

「何。」

『先頭は燃えてるバイク。アレ多分あく...。』

「ゲッ、それ魔人。」

『ハァ!?』

 予想外の言葉にハヤトは驚愕。足を纏らせでもしたか転んだ音がした。

「ヤバイな今来られたらあの人達死ぬかも。」

『その魔人ってガイア教か?バイクと一緒にいるし。』

「...。」

『おい黙んな。』

「お前そうですっつったら飛び掛かるだろ。」

 騎兵戦に優れたハヤトも魔人相手では流石に少々危険だ。

しかし、安全は確保したい。魔人が彷徨いていては被害者達を連れ出せない。

 イサカとハヤトせっかちはここでしっかりと仇になった。

「うーんジレンマ。」

 

 腕を組むセヲリに元凶1号...ハヤトから再び通信が入る。

『セヲリ、ヤマト、ヒロから連絡来た。仲間に協力してもらって捕まった人の移動手段確保したから指定の場所に連れて来いってさ。』

「バスでも呼んでくれたんかね?」

 そういやアイツも噛んでたなァと呟くヤマト。

「聞いてないんだけど。」

『無理して頼んだから速やかに済ませろってさ。俺はあのバイク誘って安全確保する。』

「お前が殺りたいだけだろそれは。」

『うるせぇ、一石二鳥だろ行くからな!』

 金網を飛び越える音がして通信が途切れた。

「飛び降りたなアイツ。」

 どいつもこいつも無茶苦茶だと呟くが、特大のブーメランである事を忘れている。

 

 

『セヲリ、ヤマト、こっち作業完了。手伝う事ある?』

「ハヤト暴走。ヒロが手配して被害者の移動手段確保。現実世界のここに連れて来いってさ。」

『暴走てなんやねん。とりあえずそっち行くわ。早よ終わらせてしまお。』

 




現状
イサカ:地下にて『各種』回収作業完了。今日は学校サボりたい。
ハヤト:ガイア教勢力の魔人とだけ聞いて暴走。殺す。
ヤマト:被害者確保中。帰って寝たい。
セヲリ:院内調査中。1番何も分かってない。


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日常の中

PV公開されましたね。
鶴翼の天使と警察みたいなお兄さんが大変気になる所です。


 ぐったりと頭を机に乗せてホームルームを聞き流す。

普段は面白い話なぞ無くてもそれなりにちゃんと聞いていたが今日はちょっと無理だ。

 いくら時間が取れて休んでいても包丁以外のもので肉を切ったり命をかけたチャンバラをしたあの感覚が残ってしまっていてどうもダメだ。

 おまけに(一応)女の子に担がれたし。

大きく溜息をついた所にガツ、と頭に何か乗せられた。

 

 

「あだっ。」

「何、五月病治んないの?」

「違います...。」

 同級生のリオンだ。驚くべき事に中学から一緒のクラスで変わった試しがないのでお互い遠慮がない。具体的には頭に肘を置かれるくらい。

 

「いつもは虚無顔でちゃ〜んと話聞いてっからさ〜どうしたどうした明日は休みだぜ〜?」

「命の重み感じただけ...あとお前の肘。」

「は?」

 僕の頭から腕を退けると隣の席に勝手に座る。

「何、夜通しゲームでもしてた?面白いやつ?」

 ちょっと殴りたい。

「それだったらいいけどな...まぁなんでも。」

「な〜ん〜だ〜ヨ〜その下手くそなはぐらかしは〜!教えろよ〜。」

「うるさい、うざい、ほら掃除始まるんだから出てけお前当番2階だろ。」

 抱きついて来てゆさゆさ揺すってくるリオンを引っ剥がすとシッシと追い払う。

「後で教えてな〜!」

「蹴るぞ。」

 ケタケタ笑いながら去って行くリオンを見て再び溜息を吐くが、少しあの『異常』を忘れて安心した。

 

 

 でもまぁ、あんな事が起きた事なんて言えないし、言えば言ったで頭を心配されるだろう。

 

 

黙っておく事に越した事はない。越した事はないが、コイツはしつこ...しぶとかった。

 

「教えろよ〜。」

 しつこい。しかも偶にコイツ麻薬犬の才能あるんじゃないだろうか?と思うくらいカンがいい。

 下校途中にふらふら〜ふらふら〜と僕に張り付きながら聞いてくる。

中学校が同じ...家が近いんだからこれがずっと続いている。

「だーから調子悪かっただけだって言ってんだろ何回言わすんだお前。」

「いーや、俺にはお前に何か悪魔にでも追いかけられた後のような疲労感を感じた。これは何かメンタルショックを受けたとカンが言っている。」

 追いかけられてこそいないがどんな例えと的中率だ。恐ろしい。

「言わない。これは僕のプライバシー。」

「ケチクサ〜ッ!」

「私も教えて欲しいですね。昨日セヲリが何してたのか。」

「あのね...。」

 そこでハッ、として振り向いた。

 

 なんで言ってもいないセヲリの名前が出てくるんだ?

そして、今のは誰だ?

 

 振り向いた場所には変わった格好の女の子が面倒そうな顔をして立っていた。

 説明が難しい。袖の長くて黒い甚平の上だけ着てあとはスーツみたいな格好だ。

 あとめちゃくちゃ髪が長い。初音ミクもびっくりな毛量の黒髪をポニーテールにしている。なんなんだ、この子。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「どうした?いきなり。」

 リオンの方は唐突に増えた人間に違和感を感じていないようだ。

ここであのカンを働かせて欲しかった。

「ダメですか。今回の新入りは手強そうですね。流石セヲリの弟子。」

「リオン、この子誰かわかるか?服装どう思う?」

 女の子を指差して尋ねてみる。

「何言ってんだ、  だろ?服は別に普通じゃん。女の子の服装にケチつけるとか失礼だぞ?」

 名前を言えていない。よくわからないが知らない筈の人間なんだろう。

そして最後の一言は余計だ。殴りたい。

異殻の関係者なのだろうか。僕らと同じサマナーなのか、それとも昨日襲って来たガイア教なのか、未だ見ぬメシア教という連中なのか。

 いや待て。

 

 初日にセヲリに聞いた話にあった。

現実世界で活動するサマナーがいる、と。

「...現実世界のサマナー...?」

「基本を抑えてて感心な事ですね。セヲリの教えがいいんでしょうか。」

 そんな事はないです。大分ヤバイです。

「僕に何の用ですか?こんな道の真ん中で友じ...同級生も巻き込んで。」

「今なんか俺の関係性訂正しなかった?」

 リオン、もうお前帰って。邪魔。

「切先と学者、技師に情報屋が動き出したと聞きました。話は聞きたいけどみんな一筋縄では行きませんから。貴方なら都合がいいと思いまして。」

 ゲームで弱い敵から狙ってこうみたいな感覚だろうか?

間違ってないが大変腹が立つ。

 

「僕はセヲリが呼ばれて出て行った事しか知らないんですが。」

 ついでに言うと技師...は聞いた気がするが情報屋もよくわからない。誰だそれは。

「都合がいいから、です。貴方がダメなら貴方を対価にすれば良い。」

 これ誘拐されるやつだ。どうしよう。異殻に逃げ込んだら...もっとヤバイか。ついでにリオンに色々バレる。

 じり...と、一歩下がった所で助っ人はやって来た。




リオン:主人公の中学からの同級生。
明るい性格で気になった事はとことんまで調べる性格で、時々主人公を巻き込んでいる。鍵っ子でいつも東京のどこかをふらふらしている。



イラストはえらく前に描いたので色々あんまり良くないです


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無視鬼の協力者

越水さんが1番気になってます。
天使と共に彼が守るのは国民か、それとも...的な


「あぶね、間に合った。」

 やや締まらない声がして男の人が僕と女の子の間に割って入る。

「お前がオールドエイジのデイムか?話通り変な格好してんな。イタいぞ。」

「いきなりなんですか貴方。」

 それは僕も思った。

 

 唐突に現れた灰色のキャップに灰色のシャツ、黒いジーンズに目つきの悪い男の人は僕(とリオン)の前に立ち女の子...デイムと睨み合う。

「俺は勇。アンタらの言う『技師』に腐れ縁で手伝いをしてるモンだ。アンタらが嗅ぎつけてコイツ狙ってる事に気づいたはいいが誰も手が空いてなくてな、俺らに鉢回ってきたわけだ。よろしくしてくれなくて良いぞ。関わりたくねえ。」

「技師の...!?」

「これどう言う状況?」

「僕も聞きたい。」

 あの人達何したの?

 

 訳のわかっていない僕らを置いて話は進む。 

「一般人を巻き込んで使うなんてまた勝手な真似を...!」

「今のお前にゃブーメランだよ。用があんのは誰ぞの弟子なんだろ?2人いるなんて聞いてねぇけどな。でだ、俺らはそいつを守れとも言われたがこれを渡せとも言われた。ほれ、今ここで読めすぐ読め。」

 どこからともなく茶封筒を取り出してポイと放り投げる勇。

 

デイムは訝しげだったが受け取った封筒を開けて中身を読む。

「...これは私に判断できる内容じゃありません。」

「言うと思ったぜ全くやっすい言葉しか言わねぇな。だったら上にさっさと聞けよ。お前らだってスマホくらい使えるだろ?」

「その人を確保した後にしますよ。」

「力付くか?辞めてくれよ警察来たら俺が捕まるんだから。」

 勇もサマナー相手にやる気満々である。僕どうすればいいんだろう。加勢?

 

 

「人避けはしてありますよ。それでも、悪魔も見られない貴方に敵うとでも思ってるんですか?」

「確かに俺らはお前らの言う悪魔なんぞは見たことねぇな。が、人避けしてあるのに俺らが入って来てるからにはそういうモンは対策されてると思ってねぇのか?」

 確かに。第一ニューエイジ(サマナー)現実世界のサマナー(サマナー)を相手するよう派遣されてるのに対策してない方がおかしい。

「あと、お前の相方は俺の妹が相手してくれてる。妹は俺より手が早くてな、ぶちのめされてるかもしれねぇな。」

「なっ!?」

「そういえばずっと俺『ら』って言ってたなあの人。」

「そういえば言ってた。」

 あの人すごい早口だから聞き流してた。

 

「ちょっと新入りと非サマナー(かくした)だからって舐め過ぎだお前ら。ガキだって機関銃持ったら兵士なのと同じようにちょっと工夫したらお前らとは並べるんだよ。いい事かどうかは知らねぇけどな。お?俺とやるつもりか?」

「任務は遂行するから任務なんですよ。」

「撤退も出来ねぇなんて頭の悪い奴らだなあ、オイ。俺は拳だけなら広より強いぞ。第一俺の妹もいるのに勝てると思ってんのか?」

 ベキベキ拳を鳴らし始める勇。

これは血が流れるやつか?下校中だってのに勘弁して欲しい。

「貴方と妹さんが私達より強い証拠がどこにあるんです?」

「脳筋みたい。」

 僕の呟きに勇とリオンは吹き出した。

「偶に容赦ないよなお前って。」

「言われてるぞ脳筋。」

 一瞬顔を赤くするデイム。

 男3人に馬鹿にされる1人の女の子という酷い構図だが、これはもう向こうが悪い。

 

 

 デイムが踏み込んだ...!と思った瞬間、電話が鳴った。

「!?」

「あぁ、やっとか。お前だぞ。出ろよ。」

 じり...と踏み込んだ3倍は後ろに下がるとスマホを取り出して電話に出る。

「...わかりました。」

 それだけ言うとスマホをしまい立ち直る。

「時間稼ぎが本命ですか。」

「当たり前だ。お前みたいな木っ端に誰がこんな緊急性の高い交渉なんかするか。狗。」

口悪(くちわっる)〜。」

「可哀想になってくるな。」

 それはない。

 

 

「桜が連れてってくれるだろ。俺はこいつら回収しなきゃいけねーんだ。ほら、消えた消えた。」

 シッシッ、と追い払われるようにデイムは去って行った。

 

「さて、と。セヲリの弟子。」

「あ、はい。」

「お前、家遅くまで出てても平気な家か?」

「えーと連絡すれば外泊しても怒られない系の家です。」

 主に夕飯の行方を心配される家です。

「じゃあ今から連れて行くから連絡しとけ。で、こっちはどうするか。」

「なぁお前弟子とかなんなの?秘密にしてたのこれか?」

 そうです。結局バレちまってる。

「う〜んこっちも連れてくか。お前家は?」

「あ、うち夜中まで誰も帰ってこないんで全然。」

「よし。こっちはこっちで預かる。じゃあ来てくれ。連れてくから。」

 僕とリオンは勇に連れられその場を後にした。

 

 

「どこへ行くんです?」

「お前は光が丘。広ってのがいるから従ってくれ。後でイサカ...?とセヲリも来るってよ。そっちは俺と一緒にその辺の店。仲間と集まるついでに奢ってやるよ。」

「やった、もうけ。」

「凄いなお前。」

 図太い神経持ってるやつだ。僕には真似できない。




デイムって日本ではまァ聞かないですよね。私も漫画で知った。







カヅラ:デイム、五皆破神
現状で唯一の異殻で活動するサマナー『ニューエイジ』にして現実世界で活動するサマナー『オールドエイジ』である女性。
先祖代々、日本国内の霊的秩序統制を司る機関に所属しているようで非常に忠実。ニューエイジには使えない術を数多く駆使する。
ニューエイジには最も煙たがれる存在であると同時にオールドエイジとの窓口でもある。




『仲間』:技師、ヒロの協力者。
全員、悪魔も見た事のない一般人だが、異殻や悪魔、サマナーについての知識に精通しており現実世界において様々な協力をしてくれる。
東京以外にもいるらしく、そちらは地方に散ってしまったニューエイジのサポートや情報解析等を手伝っている模様。
元々何かの事件を共に解決した仲間らしく結束力は非常に強い。


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禍の中へ

他界隈のフォロワーにナホビノに性癖歪められた人多そう何これって言われてましたね。
それ私。


「よぉ広。アタリだったぜ。」

 光が丘団地の駅すぐそばの道端で待っていた男性...ヒロにしたかしてないかわからない挨拶と報告と共に僕は車から放り出された。

「助かった。悪いな。...けどその後部座席の少年は?」

「巻き込まれた少年A。囲い込もうと思って。」

「囲い込んでもらいます!リオンです!今後ともよろしくお願いします!」

 殴りたい。

「...任せた。」

 ヒロは目を一瞬逸らして諦めたようにため息をついた。

 

「自己主張遅れたな。オレはヒロ。例のアプリとか悪魔の研究をしてる。技師って言えば大体わかると思うから。よろしく。」

 団地までの道を歩きながらヒロはゆったりと説明を始める。

「詳しい説明は揃ってからするんだがゆうべイサカが前代未聞の大事件拾ってきてその関係でセヲリが暴れたんだがそれをオールドエイジが嗅ぎつけたらしくてな、交渉手段にお前を使おうって強行に出られたわけだ。」

 どこもかしこも超不穏。

あの人達一晩のうちに何してんだ。

「そんな勝手にさせるわけにはいかないから条件をつけることで事任せるように交渉、誘拐の方もオレの仲間に頼んで妨害してもらって時間稼いで何とかしたってわけだ。で、お前連れてきたのは同じような事がまたあったら困るって言うのと巻き込んだ責任とりだな。あと、セヲリが暫くこっちにかかりっきりになりそうってのもあるからお前もこっちに入れちまえってなったのさ。」

「それいいんですか?」

 色んな意味で面倒臭そうでもあるんですけど。

 

「最前線で何やってるかが見られるとでも思っておきゃいいんだよ。巻き込まれたからには教えておくべきだし知りたいだろ?オレもイサカもヤマト(関係者各位)秘密ばっかだがその辺はちゃんもしてるさ。」

 

 

 エレベーターを使って目的の部屋に辿り着くと既に1人待っている人がいた。

僕よりは年上だがヒロよりは下だろうか(ヒロは大変年齢が分かりづらい容姿だった)若い男の人だ。

「あ、おかえりなさい。」

「ただいま。調子どうだ?」

「大丈夫です。何もありませんでした。」

 イスカと名乗った男の人はやや不安げな顔で頷いた。

 

「他の連中はあと1時間もすれば集まるからそれまで新人君2人にサマナーの色々教えてやるよ。イサカほど上手くはないけどな。」

 そう言ってヒロはパソコンチェアに座るとタブレットを取り出して話し始めた。

 

「来たぜ〜。」

「何その屍は。」

 僕と同い年くらいの少年を引き連れやって来たセヲリから一発目に出たのは僕とイスカの惨状だ。

僕らは2人してぐったりと地べたにひっくり返っている。

 

 とんでもない情報量だった。

 イサカが一つ一つゆっくりわかるまで教えて次にいくならヒロは大量に詰め込んで後で自分で復習して覚えさせるタイプらしい。

 しかも結構専門用語がポンポン出てくる。注意深く聞いてないと話の全部がわからなくなるだろう。スパルタだ。

 

「オレはやっぱり人に教えるのに向いてない。」

 デスクで頭を覆いながら呟くヒロ。やっててマズイと思ったらしい。

「あ〜...ヒロ専門用語が多いもん。中級者向けなら全然いけると思うけど。私よりは。」

「最後お前も傷ついてなかったか?」

「で、他の人は?」

「イサカはコイツより先に大熱唱しながらやって来て来たら起こして(来るまで起こすな)っつって隣の部屋で潰れてる。異殻にいるからもう7時間は寝てるな。」

「寝汚ねぇ〜。」

「今に始まったことじゃないじゃん。」

 

 

「俺はハヤト。普段はあっちこっちの学校とか、施設に危険な悪魔が巣食わないように見回ってる。騎兵って言ったら通じるから。よろしく。」

 僕と同じくらいだがメチャクチャ強いらしい。

かっこいいな、騎兵って。

「その人が例の?」

「あぁ、名前はイスカ。」

「セヲリです。よろしく。」

 各々、自己紹介を終えるとヒロはパン、と手を叩いた。

「自己紹介はこの辺だな。セヲリ、イサカ起こして来い。どうせ自分じゃ起きねぇからアレ使って起こせよ。」 

 

「アレ?」

「それってすごい強烈な眠気覚ましみたいなヤツですよね。」

 イスカは嫌そうな顔をして尋ね、頷くセヲリにさらに嫌そうな顔をした。

経験済みか、この人。

「イワクラの水、パトラストーン。どっちも状態異常回復アイテムって所かな。イワクラの水の方が安いしもっといいヤツにアムリタソーダとかある。」

 そう言って妙な(少なくとも光の反射が水ではない)液体を取り出した。

「使い方は簡単。粘膜に触れさせる事。つまり顔にぶっかければ大体オッケー。」

 嫌だな。言い回しもだけど変な液体顔にかけられたくない。そもそも顔にかける時点でアウトだ。

「しかもアレめちゃくちゃキツイよ。酔いがいきなり覚める感じ。」

 未成年なので想像するしかないが確かにキツそうだ。

「イサカの反応面白いから来なよ。爆笑するから。」

 お礼参りのない事を祈ろう。

  

 異殻の、さっきまでいた部屋の隣ではヒロの言っていた通りイサカがフローリングの上で潰れるように寝こけていた。

「絶対体痛いのによく寝るよね。」

「だから寝汚ねーんだよ。」

「あ、光ってる。」

 セヲリがイスカを見て呟いた。

確かに腕や服の下が緑のネオン色に光っている。

「あ、これは...。」

 

「そんな事よりさっさと寝坊助学者起こそ。」

「あ、はぁ。」

 見られても大した反応のない僕らに逆に動揺するイスカ。

「セヲリはともかくお前も普通なの意外だったぜ。」

 光ってるくらいなら害ないし。

大変気不味そうなイスカには悪いが今の僕としては槍を振り回して悪魔の群れや人を殲滅するセヲリや現実世界でよくわからないパワーを使って攫おうとしてくる連中の方がよっぽど不思議だし怖い。人に襲われたのを思い出すと尚更だ。

「僕にはセヲリの方が怖いです。」

「成る程。」 

「おい。」

 僕に刺々しい視線を向けながら(つまり見向きもせず)イサカの顔にイワクラの水の容器を逆さにした。

「なーすんねん!!」

 喧嘩中の猫のような潰された蛙のような表しきれない声を上げてイサカは飛び起きた。すげぇ効果だ。

「これどこで手に入りますか?」

「悪魔が売ってたり武器屋にもいくらか。」

 イサカとセヲリが騒いでるのにイスカが呆れるのを無視してハヤトに入手法を聞いておく。昨日のうちに理解したが構ってるだけ無駄だ。

 

 

「起きたな。ヤマトも他の連中も来たから始めるぞ。顔洗って来い。お前が解説役だろ。」

 かなり不満そうだったがそれを聞いてイサカは一度現実世界に戻って文字通り顔を洗って戻ってきた。

 

 先程の部屋には知った顔も知らない顔も合わせて10人ほどが4つ合わせた机を囲んで座っていた。

 イサカは開けられた場所に僕とイスカはセヲリの後ろに座って知らないサマナー達の名前なんかを教えてもらう。

 皆何かしら実力や能力を持つサマナーらしい。

僕の場違い感が半端ない。

 

「先に初めてのもおるし改めて紹介しとこか。イサカや。異殻と悪魔に関わる文化調査担当ってとこやな。学者でも通じるから、よろしく。さて。」

 そう言って2枚の紙を取り出した。




Twitterにいます。
https://twitter.com/@NinethMonth


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異殻資料編纂-2

5話〜10話まで。
例によってちょっと増えてます。


悪魔

 

オベロン:オーベロンとも。

ルーツを辿ると北欧神話の神に行き着くとされる妖精達の王、またはティターニアの王配。

『真夏の夜の夢』ではティターニアとの喧嘩から配下に命じて人間に恋をさせ、トラブルを引き起こした。

 

ティターニア:タイテーニア、日本ではタイターニアとも。

ウィリアム・シェイクスピア『真夏の夜の夢』に登場する妖精達の女王。

誇り高い性格でオベロンと対立するがオベロンの計略からロバの頭をした男に恋させられるという被害を被った。

 

ピクシー:イングランド南西部に伝わる妖精。

姿についてはまちまちだが、小人のような小さい身体であることは共通している。悪戯好きだが概ね良いモノとされており、人間と共生関係にあるという。

 

 

その他

上野恩賜公園:西郷像とパンダで有名な台東区の恩賜公園。

異殻では妖精達のテリトリーとなっており、妖精王国の別称を持つ。

3年前にニューエイジと交渉、理由なき戦闘禁止の土地となった。

恩賜公園とは、皇室から下賜された土地に作られた公園という意味がある。

1873年開園。

 

協定経緯:メシア・ガイアの大抗争を切っ掛けに行われた妖精達との協定。

敷地内での相互の同意のない戦闘・攻撃を禁止し、両者の安全地帯とする事が義務とされている。

破られた場合は破った者を破られた側が好きに扱って良い。

元々セヲリが『妖精作戦』という名前で行おうとしていたが交渉前日に『ケートハブン作戦』に変更させたという逸話がある。

これをきっかけに、各地の恩賜公園で協定が結ばれた。

 

ホイッスル:イサカが新人達にいつも渡している笛。通販で購入している。

デザインはその時によって変わるが120dB(飛行機のエンジン周辺)以上の音が出せる事、金属製は共通する。自身の危機を知らせたり周囲への危険勧告にとても有効。

 

 

武器屋の武器

ミナモトが売る武器の殆どは彼の仲魔達によって製作されており、使用者の好みに合わせて時に素材や悪魔と合体させ、調整を行なっている。

どの武器を取っても質は高く長く使える物ばかりだが、それぞれの獲物や悪魔と戦うという性質上、消耗品のようになってしまうサマナーもちらほら存在する模様。

 

イサカM37-丹生:サマナーイサカが愛用するショットガン。

同じ名前だが、銃の由来はNY近郊の地名。異殻でも通用するように属性弾やスラムファイアが使用可能な様に改造が施されている。

丹生は日本最古の水銀鉱山の名前。

 

短槍-陸別:セヲリの愛用する槍。

競技用薙刀と比較しても非常に短く、150cm程しかない。

氷結属性に特化した作りになっており、敵を氷漬けにすることも可能。

陸別は日本で最低気温を記録した北海道の地名。

 

短剣-23:ヒロの短剣。

銘にある様に基本的に23本で構成される。

突き刺す事に特化しており、投擲して使用。紛失・破壊した分は武器屋で再生産される。

持ち手部分の細工で使用者のスマホと連動しており所在が判る様になっている。

23は日本で最も人口の多い土地の総称。

 

手斧-濃尾:ヒロのもう一つの武器。

消防斧に近い見た目をしているが使用者の特性上、属性が付与できない為頑丈さに全振りされており何かに叩きつけても刃こぼれ一つしない。

濃尾は戦国の三英傑の出身地である平野の名前。

 

 




Q.何で武器の名前が地名なんですか?
A.絶対他と被らないネーミングかつ下手に武器の名前が使えない作品だからです。


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異殻資料編纂-3

レポート(挿絵付きです)


登場人物

 

アリス

主人公と同年代の少女。双子の兄にジョバンニがいる。

若干ズレた性格で自身と周囲の状況が一致していない時がままあるが兄と一緒にいると反比例してまともになる。

 

ジョバンニ:特攻

主人公と同年代の少年。双子の妹にアリスがいる。

セヲリに続く次鋒役で彼女より火力が高い。

頭が回らないわけではないがあまり後先は考えていないので時々アクシデントや物理制裁で痛い目に遭っている。

『ジョバンニ』は名前ではなく苗字が由来らしい。

 

率先垂範:本来の意味は『人の先頭に立って物事を行い、模範を示すこと。』

ガイア教徒の1人と思われる女性。

呑気でフレンドリーな口調だが思想は強者を重んじ弱者を排斥するガイア教そのもの。

 

ハヤト:騎兵、七列風神

18歳の少年。非常に落ち着いていてドライな性格だが、ガイア教徒に対しては激しい感情を見せる。

騎乗しての戦闘がサマナーで最も強く、両刃のついた槍を使用するが状況に応じて竜騎兵にも化ける。

 

 

悪魔

 

イソラ:アズミノイソラ。神道の神で海の神と言われており、神武天皇の父神や岩戸開きの際鏡を差し出した神と同一の存在とも言われている。

太平記では顔に牡蠣や鮑を貼り付けた非常に醜い神とも書かれているが、舞に誘われて姿を現し神功皇后に力を貸したという伝説が残っている。

 

 

オルトロス:『速い』という意味を持つテューポーンとエキドナの間に生まれた双頭の犬。

兄弟に地獄の番犬ケルベロスや多頭の毒竜ヒュドラなどを持つ。

クレタ島で牛の番をしていたが牛を求めてやって来たヘラクレスに殴り殺されたという。

 

 

ケルピー:スコットランドに伝わる馬の姿をした魔物。

人間を大人しく良い馬を装い乗せようとするが乗った瞬間水に入り苦手な内臓以外の全てを食い尽くす。しかし、乗りこなすことができれば右に出る者がいないほどの駿馬として活躍するという。

 

 

その他

 

 

死体処理:戦闘時、特にガイア、メシア両教団と戦う時は必然的に死者が発生してしまう。

サマナーであれば可能な限り現実世界にて埋葬を行うが、両教団員であった場合やあまりに凄惨な状態になった時は異殻にて火炎の魔石・魔法を使用した処理を行う。この処置を怠った場合悪魔に食い散らかされる危険性がある為、発見時、あるいは発生時は必ず対応することが求められる。

 

 

陳勝呉広:本来の意味は『物事の先駆けとなる人、真っ先に行動する人。』

ガイア教徒におけるセヲリの呼称。なお、この熟語の由来となっている人物はどちらも味方に殺されている。

ガイア教は強者であれば誰であろうと、サマナーやメシア教徒にも畏敬を込めた二つ名を付けている。

名前の由来は主に四字熟語である模様。

 

 

魔人:人型、頭部が骨という共通点を持った詳細不明な悪魔達。

死を与える事に特化しているとも何かに全てを捧げた存在ともいわれている。

皆強力な存在であり異殻のサマナー達にとっても最も恐しいものの一つ。出会う事があれば生きて帰れるかは運次第。

 

 

ユンガブラ:イサカが発見した改造人間につけた便宜的な呼び名。

『改造人間』『人造半魔』に感じられる表現を避けている。

正式な発音は’’ユンガブッラ’’でオーストラリアにある地名。

カーテンフィグ国立公園という観光名所がある。

 

 

六陣氷神:いつの間にかセヲリにつけられた二つ名。

六陣は九字から取られたようで現在七列まで確認されている。参考基準は強さだけでなく、何か他に高い能力を持ったサマナーである模様。名付けられた当人達が名乗ることは滅多にない。

 

 

レポート

 

ユンガブラ発見時記録レポート

著者:イサカ

 

【挿絵表示】

 




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