ライカレ短編集 (喜怒哀楽)
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自覚

カレンが見た夢の話。


ライ、記憶喪失の男の子。

 

最初は面倒だと思ってた。学園とレジスタンスの二重生活に彼のお世話係だなんて、迷惑でしかなかった。

 

でも、一緒に行動するうちに彼の優しい所、かっこいい所、強い所、ちょっと天然な所...

どんどん彼の存在が私の中で大きくなっていった。

 

彼といるとドキドキする...

 

この感情はお兄ちゃんでも、ゼロに向けているものでもない。

 

この感情は.......

 

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━・・・

 

 

 

 

 

「カレン」

 

ライが私の名前を呼ぶ。

たったそれだけで私は嬉しくなって、自然と頬が緩む。

 

「なに?ライ。...きゃっ」

 

そう言って私が近づくと、ライは私の手を取って自分の胸に引き寄せた。華奢だけどしっかり鍛えられた体。意外と筋肉質な彼の腕に抱きしめられ、私の顔は赤くなる。

 

「...ライ?」

「.......」

 

ライは何も言わない。顔を私の肩に埋めて、背中に回された腕に少し力が入った。

 

「ねぇ...どうしたの?」

「.....告白」

「えっ?」

「今日、知らない男から告白されていただろう?」

 

どうやらお昼休みに呼び出されたのを見ていたらしい。知らない男から告白されて私は迷惑でしか無かったのに、ライはヤキモチを焼いているようだ。

 

貴重な彼のその姿に、私の頬は更に緩む。

 

「ふふ、でも断ったわ。私にはライがいるんだから」

 

だから安心して?そう言って彼の背中をポンポンと優しく叩く。幼い子をあやす母親のような仕草。嫌がるかな?って思ったけど、ライは気持ちよさそうに目を細める。

それがまた可愛くてたまらない。

 

「カレン...」

「なぁに?」

「...好きだ」

 

ライは肩から顔を離すと、そう言って私を見つめる。綺麗な青紫色の瞳が私を写し出し、熱っぽく潤んでいく。

 

「カレン...」

「ライ...」

 

私の頬に手を添えて、ライの顔がだんだん近付いてくる。私はそれに合わせて、彼の背中に回した手をキュッと握りそっと目を閉じた。

 

そして.......

 

 

 

 

 

━━━━━━━━━・・・

 

 

 

 

 

目が覚めた。

 

「.......................

.....〜っっ!!?」

 

しばらくボーッとしていたカレンだったが、その夢の内容を思い出した途端、トマトに負けないぐらい顔が赤くなり、ベッドの中でゴロンゴロンと回転をした。

 

「な、なんで私、あんな夢を!?」

 

ライにヤキモチを焼かれ、抱きしめられ、愛おしげに見つめられた。そんな事今までされた事はない。しかし夢の中のカレンはそれを当然のように受け入れていた。

 

(あれじゃあまるで、恋人同士じゃない!!)

 

そう思ったカレンは再度、湯気が出そうなぐらい顔を真っ赤にさせる。

 

(そもそもまだ付き合ってないし!ましてやキ、キスなんて...!)

 

それでも、そんな夢の中での出来事が全部嬉しいのは、つまりそういう事で.....。

 

(〜〜ッ!!!今日、どんな顔でライに会えばいいのよ!)

 

カレンは顔を真っ赤にしたまま、しばらく頭を抱えてベッドの上で悶絶するのであった。

 

 

 

 




初ライカレ小説です。
Twitterにもあげてるやつで、これからどんどんライカレ小説をあげていこうと思っています。
完全初心者なので拙い所もあるかと思いますが、ご容赦くださいませ。


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さよなら

ギアス編END。
ライカレ風味です。


すべて思い出した...

 

僕がこの時代の人間じゃない事も。

 

ブリタニアの王だった事も...

 

...........

 

僕は...ここにいてはいけない...

 

ギアスがいつ暴走するかわからない。

 

 

また.....僕のせいで、皆を失いたくない。

 

だから、僕は.......

 

 

 

 

 

 

━━━━━━━━━━・・・

 

 

 

 

 

 

僕は神根島に戻ってきた。

 

「そのサークルで、君の思いを強く祈ればいい.....」

 

V.V.に案内してもらい、サークルの上に立つ。

強く眩い光が視界を覆った。

 

「僕は再び眠りたい。

誰も傷つけないために.....」

 

瞬間、身体中が熱を帯びる。

 

(これは...ギアスの暴走...?)

 

身体の中から力が溢れ、光が遺跡に吸い込まれていく。

 

(ああ、これで...)

 

僕は目を瞑りながら、これまでの事を振り返る

 

遠い昔。愛する妹と母を守るためにギアスを使い父と異母兄達を殺した。戦いに明け暮れ、領土を広げ、殺伐とした日々を送っていた自分。

 

(守る為に必死だった。2人の笑顔の為なら、僕の事なんてどうでもよかった。でも.....)

 

ギアスの暴走で全てが無駄になった。

絶望して、記憶を消して、眠りについた。

目覚めても見える景色は灰色で、記憶をなくしていてもそれは変わらなくて...

 

(でも、みんなが僕を変えてくれた)

 

黒、白、緑、金、青、オレンジ、ピンク...

 

目を向ければ、こんなにも鮮やかな色で世界は満ちていて...

 

それを最初に教えてくれたのは綺麗な『紅』。

 

『ライ』

 

記憶の中の彼女が、優しい声で僕を呼ぶ。

空色の瞳が僕を映し、笑いかける。

 

(カレン...)

 

燃えるような紅い髪の少女。

彼女のおかげで、世界が色付き始めた。この世界で生きたいと思えた。

 

これは...初めての感情だ。

 

笑いかけられたら嬉しくて。

声を聞けば胸が暖かくなった。

 

妹と母以外で初めて...守りたいと思った。

 

(.......そうか、僕は...君の事が...)

 

ふっ、と自傷気味な笑みが漏れた。

今更気付いても、もう遅い。

 

(本当は、一緒に生きたかったけど...)

 

でもそれは許されない。僕は本当はここにいてはいけない人間だから。

 

ギアスの暴走も、いつまたあるかわからない。

 

僕には勿体ないくらい綺麗な『色達』。

 

大切で...大事で...壊したくない...

 

だから...

 

(どうか.....どうか.....)

 

僕は瞑っていた目を開き、強い想いを乗せて、空に向かって手を伸ばす。

 

空の色が彼女の瞳のようで.....少し、笑った。

 

「みんなが、僕を忘れますように...」

 

僕の最後の願い...

 

その願いと共に、僕の意識は光に溶け込んだ。

 

 

(ありがとう)

 

「さよなら」

 

 

 

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━・・・

 

 

 

 

 

 

 

「あ、れ...?」

 

頬に涙が伝う。突然の出来事にカレンは驚くが、何故だろう、涙が止まらない。

 

「やだ、私ったらなんで泣いてるの?」

 

悲しい事なんて何もないのに。胸にぽっかり穴が空いてしまった様な喪失感がカレンを襲った。

 

「おーいカレン!」

「あ、扇さん」

「すまない、今大丈夫か?格納庫に謎のナイトメアが.....って泣いてるのか?」

「ううん、大丈夫!行きましょ『 』!」

 

涙を拭って、そう元気よく呼ぶが、続いた言葉は出てこなくて...

 

「カレン?誰を呼んでるんだ?」

「え?あっ...誰だっけ...」

 

ふと、隣が寂しく感じた。いつもいた人がいなくなったような...

 

「わからない、でも...」

 

それは、とても大切な人だった気がする。

 

 

「『 』」

 

 

何度呼んでも、名前は出てこなくて...

 

 

「さよなら」

 

 

遠くで、その人の声が聞こえたような気がした...

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「未練はある、だから未練はない」

 

「僕に色をくれたみんなを

悲しませたくないから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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お正月

特区設立後。
ライカレ同棲設定。



「もう少しで今年も終わりね」

 

炬燵に入っているカレンが時計を見ながらそう呟く。傍らには同じく炬燵に入ったライが、みかんを剥いている。

 

「ああ、そうだな」

 

ライは今年あった出来事を振り返った。

 

記憶をなくし、アッシュフォード学園に迷い込んだ事。カレンがお世話係主任になって色々面倒を見てくれた事。黒の騎士団に入り共に戦った事。撃たれたものの、記憶を取り戻して特区日本を無事に設立し、カレンと結ばれた事。そして...

 

「ん?どうしたのライ?私の事じっと見て」

「ああ、いや。カレンと一緒にお正月を迎えられて幸せだなって思って」

 

愛しい人とこうして穏やかな日常を過ごせること。それが、ライには何よりも嬉しい。

 

柔らかな笑顔でそう言われて、カレンは頬に熱が集まるのを感じた。

 

「そ、そう?そう思ってくれてるのなら、嬉しいわ」

 

照れからか、少し目線を逸らして言うカレン。

 

その表情に愛しさと悪戯心が刺激され、ライはいい事を思いついたと言わんばかりの笑みを浮かべた。

 

綺麗に剥けたみかんを食べやすい大きさに割り、その1つをつまんでカレンの目の前まで持っていく。

 

「カレン。あーん」

「ふぇ!?ちょっ、ちょっと!」

 

突然の事に、カレンは驚く。しかし、ライはキョトンとした顔で首を傾げた。

 

「何も驚く事はないだろう?僕達は恋人同士なんだから」

 

さらっと、恋人であるならそれが普通であるかのように振る舞うライ。

 

「ここには僕と君しかいないしさ」

「うぅ...それは、そうだけど...」

「.....もしかして、嫌なのか?」

 

不安そうな顔になるライにカレンは慌てて手と顔をぶんぶんと振りながら否定した。

 

「嫌なわけないじゃない!ただ、恥ずかしいだけで...」

 

その言葉を聞いた途端、先程までの不安そうにしていたライの顔がパッと明るくなり再度みかんを差し出してくる。

 

「そうか、嫌なわけじゃないんだな。じゃあ.....はい、あーん」

「うぅ...あ、あーん」

 

ライにそんな顔をされればカレンはもう勝てなかった。観念したように目を閉じて、恥ずかしそうに口を開ける。それを確認すると、ライはみかんをカレンの口に入れた。

 

 

 

 

 

 

口移しで。

 

 

「ん...」

「んんっ!!?」

 

カレンの空色の瞳が驚きで見開かれる。目に入ったのは悪戯が成功して、楽しそうに目を細めるライの顔。

 

青紫色の瞳がそのままゆっくりと閉じられ、いつの間にか頬に添えられた手によってキスをもっと深いものにされたのだった。

 

 

 

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━・・・

 

 

 

 

 

 

しばらくして、ライはやっと満足したのか唇を離す。みかんはとっくに潰れ、カレンが飲み込んでいた。

 

「ん...はぁ...美味しかったか?」

「はぁ...はぁ...な、なな何してるのよ!!?」

「何って.....みかんを食べさせただけだが?」

 

クックッ、と少し意地悪く笑うライに、カレンの顔はこれ以上ないぐらい赤くなる。恨めしそうにライを睨むが、涙目になっているのでたいした威力はない。

 

「ダメだったか?」

「ダ、ダメなわけじゃないけど...急っていうか...その、心の準備があるのよ!」

 

ぷいっ、とそっぽを向くカレンに、ライは苦笑しながらカレンの頭を撫でる。

カレンは気持ちよさそうにふにゃっと顔を緩め、絆されそうになるが

 

(だめよ紅月カレン!ここで許したら負けよ!)

 

らしい。緩んだ顔を引き締め直し、再度ムスッとしている。ライは困った様な笑みを浮かべて次の言葉を紡いだ。

 

「カレンがあまりにも可愛いから...つい意地悪をしてしまった。すまない」

「か、かわっ!?」

 

その言葉に、カレンの顔は再び赤くなる。

クスクスと楽しそうに笑うライに、カレンは振り回されっぱなしだ。

 

「どうしたカレン?顔が赤いぞ?」

「誰のせいよ!誰の!うぅ〜っ!...あ、あなたってこんなに意地悪だったっけ?」

「...ああ、自分でも驚いてる。僕は所謂『好きな子ほど虐めたくなる』性分なのかもしれないな」

 

そう言うと、ライはカレンの肩を抱き、自分の方へ引き寄せた。

 

「幸せだな...」

「ライ...?」

 

ライの雰囲気が変わった。先程までの楽しそうな感じではなく、少し憂いを帯びた表情にかわる。

 

「本当に...本当に幸せだ。こうして、愛する人と、こんなに楽しい日々を送れるなんて思ってなかった。僕に、その資格なんてないと思っていたから...」

「.......」

 

話してもらったライの過去を、カレンは思い出していた。

 

この時代の人間ではない事、ブリタニアの王様だった事、自分のせいで母と妹を死なせてしまった事、魔法で長い眠りに着いていた事...

 

にわかには信じられない話だが、その話をしたライの表情は苦しそうで...

とても嘘を言っているようには見えなかった。

 

「あの頃は殺伐とした日々を送っていて、楽しい事なんて母と妹と一緒にいること以外なかった。苦しくて辛くて...最後は僕の過ちのせいで、取り返しのつかない事をしてしまった」

 

泣きそうな顔でカレンに語り掛けるライは儚げで、苦しそうで...

 

カレンを抱く腕に力が入る。

 

「僕に生きる資格はないと思ってた。幸せになるなんて...許されないと...。でも、カレン。君が、僕に生きていてもいいと言ってくれた」

 

過去を話した時、カレンは罵倒するでも、失笑するでもなく、真剣な眼差しでライの手を握り、生きてもいい、ここにいていいと言ってくれた。

 

『一緒に生きよう』と言ってくれた...

 

「君のおかげだ、カレン。君がいたから、僕は今も生きていける」

 

カレンを抱きしめたまま、ライはまっすぐカレンを見つめる。青紫の、深い海を連想させるその瞳と、カレンの空色の瞳が交差する。

 

カレンはそっとライの手に自分の手を重ね、柔らかく微笑んだ。

 

「バカね。生きるのも幸せになるのにも資格なんていらない。私は、貴方と一緒に生きていきたいし幸せにしてあげたい。だから...」

 

カレンの手が、ライの頬を撫でる。優しい眼差しでライを見つめ、次の言葉を紡いだ。

 

「来年も再来年も、その先も、ずっと一緒に生きましょう?嫌だって言っても、離さないんだから」

 

そう言って笑うカレンはとても綺麗で、ライは心の底からカレンに出会えてよかったと思った。

 

(ああ、本当に...)

 

「ありがとう、カレン。僕は世界一幸せ者だ」

 

2人は笑いあい、そのままキスをした。お互いの存在を確かめ合うような、深く優しいキスだった。

 

 

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━・・・

 

 

 

 

 

 

 

時計の針が、0時になった事を報せる。

 

年が明けた。

 

「あけましておめでとう、ライ」

「ああ、あけましておめでとうカレン。

今年もよろしく」

 

そう言って、ライとカレンは再びキスをして笑いあう。2人の明るい未来を願って.....

 

 

 




おまけ

「...ところで、日本には『姫はじめ』という文化があるらしいな。どういう物か教えてくれないか?」
「.....へ!?」

2人の夜はまだまだ長い.....


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酔っ払い〜ライの場合〜

酔っ払いネタ。ライバージョンです。
そのうちカレンバージョンも書きます。


ー深夜の特区内 政庁ー



カレンは困惑していた。

その原因は、恋人であるライ。

 

「ん〜...かれん...ふふ」

「〜〜ッ!(い、一体何がどうなってるのッ!!?)」

 

ライの今の状態は、上気した頬に潤んだ瞳。

それに他人がみたら腰が砕けるんじゃないかと思うぐらい蕩けるような...幸せそうな笑顔でカレンを抱き締めている...微かな酒の臭いを漂わせながら...

 

端的に言えば酔っているのだ。

 

普段見れない極上の笑顔で抱きつくライに、カレンの頬も髪と同様、赤く染まる。

しかし、原因を探るためカレンは早くなる心臓の鼓動を落ち着かせながら、努めて優しくライに話しかけた。

 

「ね、ねぇ、ライ?一体どうしたの?誰かとお酒でも飲んだ?」

「ん〜?...おさけじゃないけど、たまきとぉ、いのうえさんに"じゅーす"をもらったぁ...さしいれにって...」

「そ、そう...(やっぱりあの2人かっ!!!)」

 

特区日本設立後、2人は恋人同士になった。

しかし、まだまだ不安定な状況ゆえ、恋人らしい事などさほど出来ぬまま、ライとカレンは仕事に奔走していた。

特にライはそのゼロと同等の頭脳で、カレンより仕事量が多かった。KMFは互角でも、書類整理などはカレンの5倍程はやっている。

 

当然、2人きりでゆっくり過ごす時間などなく、会えても仕事の話か挨拶程度。

寂しくないといえば嘘になるが、我慢していた。

 

それなのに、突然ライが政庁のカレンの部屋に来たかと思うとこの状況である。何かあるとしか思えず、聞けば案の定の答え。

 

(玉城、井上さん...覚えてなさいよ...!)

 

「はぁ...かれん.....チュッ」

「ひぁんっ!!?」

 

ライがカレンの首筋にキスをする。突然の事に、変な声をだして耳まで赤くして動揺するカレン。

 

(な、なななっ!!?何今の!?い、いま、首!首に!首にキスされたっ!?)

 

「チュッ...チュッ...」

「ふゃんっ!っあ...ち、ちょっとライッ!」

 

首筋、耳、っと何回もキスをされ、カレンは先程までの怒りなど忘れてあられもない声を出してあたふたしてしまう。

 

「ん...ずっと...あいたかった」

「〜〜っ!!!」

 

耳元で舌ったらずだが艶を含んだ声でそんな事を言われて、カレンの脳は容量を超えそうになる。熱い吐息が耳をくすぐり、頭をクラクラさせた。

 

「かれん...」

「ライ...」

 

潤んだ青紫色の瞳がカレンを見つめる。

カレンも、ライの妙な色気に何も考えられない状態になっていた。

 

2人の顔がゆっくり近づいていく...

 

「.........お盛んだな」

「ほわぁああああーーー!!!!!」

「うっ、かれん...」

 

突然の来客に、カレンは素っ頓狂な悲鳴をあげ、それを間近で聴いたライは煩さに顔を顰めた。声をかけたのは緑髪の魔女、C.C。

 

「あっ、ライごめんなさい。...って!なんであんたが私の部屋にいるのよ!!」

「無論、そこのドアから入ってきたからだ。不用心だな?鍵が開いていたぞ」

「そういう意味じゃなくて!!!」

 

(せっかくライとキス出来そうだったのに!)

 

むしろそれ以上の事をしてしまいそうになっていたが、カレンは気付いていない。いや、本当は気付いているが、考えないようにしていた。

 

「うるさいやつだ。キスを邪魔されたぐらいでそんなに怒るな。........ああ、もっとエロエロな事をしようとしていたのか?それは失礼した」

「んなぁっ!?」

 

C.C.がニヤリと口の端をあげてカレンが必死で考えないようにしていた事を口にする。

カレンは顔を赤く染め、目を見開き、口をパクパクとさせた。

 

「なんだ、図星だったのか?」

 

C.C.はクッと、口の端を吊り上げながら、意地の悪そうな笑みを浮かべた。カマをかけたら大当たりだったようで、楽しそうにクスクスと笑っている。

 

「お盛んだな?」

「う、うううううるさいわね!!あんたには関係ないでしょ!?」

 

登場した時と同じセリフだが、今度はニヤニヤと、含みのある口調でカレンに言い放つ。

動揺しまくりのカレンのその態度に、C.C.は更に笑みを深めた。

 

実に楽しそうだ。

 

このままからかい続けても良かったが、そういえば...とカレンの部屋に来た目的を思い出し、本題に入った。

 

「予想外に面白かったからすっかり失念してしまったぞ。私はライに用があってきたんだ。ほら...これだ」

 

そう言ってずっと小脇に抱えていた書類をカレンに差し出した。幾分か落ち着いたカレンが、それを受け取り目を通す。

 

「書類?なんであんたがこんなの持ってきてんのよ」

「ゼロに頼まれたんだ。急ぎでライに処理してもらいたいものらしいが何処にもいなくてな。お前の所に行けばいるんじゃないか、と思って来たんだが.....今は使い物にはならなさそうだ」

「え?あ.....」

「すー...すー...」

 

C.C.がちろり、とライに視線をやれば穏やかな寝息が返ってきた。

 

元々ライはお酒に弱い。以前は日本酒や焼酎の匂いを嗅いでいただけで倒れる程だったのだ。アルコール度数が弱いやつだったとはいえ、ここまで来れたのは、ひとえにカレンに会いたいがためだったのだろう。

 

「まったく、もう寝たのか?つまらん。もっとエロエロな事をするかと「ちょっとっ!?」.....うるさい女だ。これぐらいで騒ぐな、ライが起きるぞ?」

「あ、ごめん.....じゃなくて!誰のせいよ、誰の!私だって好きで叫んでるんじゃないわよ!」

 

幾分かトーンを落とした声でC.C.に抗議するカレン。C.C.は興醒めしたのか呆れたように肩を竦め、カレンがもっている書類を取ると踵を返した。

 

「これは私がゼロに返しておく。あいつはライに頼りすぎなのだ。自分でどうにかするように言っておくよ」

「.....やけに優しいのね」

「そいつが寝る間を惜しんで仕事をしているのを知ってるからな。少し休んだ方がいい。それに.....」

 

C.C.が首だけ振り返り、ニィっとまた口の端を釣りあげた。

 

「若い2人の逢瀬を邪魔しては悪いからな。ああ、すぐに起きて事を始めても声は抑えろよ?一応ここは政庁だからな」

「なぁ!!?!」

 

それだけ言うと、C.C.は「はははっ」と笑い、手をヒラヒラさせながら部屋を去っていった。

 

「.....まったくもう!あの女はっ!」

 

カレンは禄に言い返す事も出来ず、赤い顔のままC.C.が去っていくのを見送ると、今度は抱きついたまま眠ってしまったライを見る。

 

いつもは凛としていて、隙など無さそうなライだが、今は幸せそうに無防備に寝ている。

 

先程まで散々C.C.にからかわれまくって恥ずかしい思いをしたカレンだが、その顔を見て毒気を抜かれてしまった。

 

「気持ちよさそうに寝ちゃって...」

 

サラサラの銀髪を撫でてみる。

自分と同じハネっ毛だが、指に絡まることなく通る髪に少しの嫉妬を覚えつつ、ライの頭を撫で続ける。

 

「う.....ん.....」

「おっと」

 

擽ったいのかライが少し呻いたが、すぐにふにゃっとした笑顔になり...

 

「...ふ...かれ、ん...すき...だ...」

「〜〜っ!!」

 

カレンにとって爆弾でもある言葉を口にした。

 

(は、反則でしょ...)

 

なんだか今日はずっとライに振り回されている気がする...

 

そう思ったカレンは、持ち前の負けず嫌いを発揮し何か仕返し出来ないか考えた。

 

やがてなにかいい事を思い付いたのか、悪戯っぽい笑みを浮かべると、ライを部屋に備え付けてある簡易ベッドまで運び、寝かせる。

 

「.....これで勘弁してあげる...」

 

そう言って、カレンはライの横に潜り込んだ。

簡易の為どうしても密着しないと2人は入らないので、自然と抱きしめられる体制になる。

 

我ながら大胆な行動に、カレンの頬が赤く染るが、ここでやめたら負けた気がするのでそのまま自分からもライの背中に腕をまわし、更に密着させた。

 

「おやすみ、ライ」

 

先程まで散々ドキドキさせられたのだ、これぐらいの仕返しはかわいい物だろう。

 

翌朝のライの反応を想像して、カレンも眠りにつくのであった。

 




C.C.がもし来なかったらバージョンも書きます。
C.C.が来なかったら内容は...大人向けです(いい笑顔)


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ちゃんと閉めましょう

ライが少し迫る話。


黒の騎士団アジト。

 

「ふぅ、暑い」

 

そう言ってライは演習用コックピットから出てきた。

 

ラクシャータが設定した『敵の出現率鬼レベル』の戦闘シュミレーションを、普通なら5分も持たずにLOSTする所を30分も持ち堪えたのだ。

 

当然その分だけ神経を使い、大量の汗が吹き出していた。

 

(汗で気持ち悪い。シャワー室に早く行こう)

 

そう思ったライは汗で濡れた髪をかきあげ、首まであるパイロットスーツのファスナーを鎖骨あたりまで下ろす。

 

.........少し遠い所で黄色い悲鳴と倒れる女団員達がいたが、ライは気付かなかった。

 

 

 

━━━━━━・・・

 

 

 

「あ、ライ!お疲れ様」

「ああ、カレン。お疲r...カ、カレンッ!」

 

シミュレーター室から出ると、廊下で横からカレンに声をかけれて、ライは挨拶を返そうとそちらを向いた。

 

が、慌ててカレンに近寄って行った。

 

カレンのパイロットスーツのファスナーが、なんとヘソ下まで下ろされていたのだ。

 

当然そこまで下ろしていては形のいい鎖骨も、豊満な胸の谷間も、くびれたお腹にある可愛らしいおへそも全て丸見えである。

 

「きゃっ!ちょ、ちょっとライ?」

「なんて格好をしているんだ!君は!」

「え?...あ...ご、ごめんなさい、つい...」

 

カレンのファスナーを首まで持ちあげ、肌の露出度を下げる。

ついでに鼻の下を伸ばしていた団員達をギロリッ、と睨んで顔を覚えておくのも忘れない。

 

本当は今この場で、カレンの肌を見た不届き者達の記憶を消し去ってやりたかったが、今はそれよりもやらねばならない事があった。

 

「カレン...ちょっとこっちへ」

「えっ...ちょっ...」

 

ライはカレンの手を引いて、廊下を後にした。

 

 

 

 

━━━━━━━━━・・・

 

 

 

 

「なんで君はそう迂闊なんだっ!!」

「うぅ...ごめんなさい...」

 

ライがカレンの手を引いて連れてきたのは、ゼロから与えられたライの自室。そこで、カレンへのお説教が始まっていた。

 

戦闘隊長として活躍し、更にその高い頭脳から書類仕事等も完璧にこなす彼には、特別に彼専用の部屋が与えられていたのだ。

 

ここならば、気兼ねなく話をする事が出来る。

 

「いつから...」

「えっ?」

「...いつからあの格好でいた?」

「あ、えっと...私もライと同じシミュレーションしてて、終わったのがちょっと前だったから......10分前ぐらい?」

「10分もあんな格好でいたのか...?」

 

ライはその事実に愕然とした。それを見て、カレンは慌てて言い訳をする。

 

「だ、だって...暑かったし、汗で気持ち悪くて...」

「シャワー室には行かなかったのか?」

「行ったけど、満員ですぐに出来そうになかったから...」

「それで、あんな格好でうろうろと...?」

「ま、まぁ...うん」

 

ジトッとした目で見られて、カレンはバツが悪そうに目を逸らした。

 

ライは顔を右手で覆って、深い.....それはもう深いため息をついた。

 

10分...それだけの時間、カレンのあの扇情的な格好を他の団員達に見られていたのかと思うと、軽い頭痛に襲われそうになる。

 

先程廊下にいた団員達の顔は覚えているが、10分となると、どれだけの人数に見られているのかわかったものではない。

 

学園では病弱なお嬢様として、きっちり制服を着こなしているのに、なぜ素だとこんなに開放的なのだろうか?

 

いや、素だからこそ、開放的になっているのか.....

 

ライは再度、深いため息を吐いた。

 

「あ、あの...ライ?」

「...............なんだ?」

「(うっ、何よその間は...)その...怒ってる?」

「.....怒ってない...呆れているだけだ」

 

そう言って、3度目のため息を吐いた。

 

「まったく......もし変な男に襲われでもしたらどうする」

「だ、大丈夫よ!これでも、黒の騎士団のエースパイロットだもの!そこいらの男になんか負けないんだから!」

 

そう言って胸を張るカレンだが、ライが聞きたいのはそんな言葉ではない。

 

自分がこんなに心配しているのに、どうしたらこのかわいい恋人は危機感を持ってくれるのだろうか?

 

(少しお灸を据えないとダメなのかもしれないな.....)

 

ライは口に手を当ててそう考えると、ニッコリと笑い、次の言葉を紡いだ。

 

「ふぅん...じゃあ、僕が襲っても平気なんだな?」

「そうよ!ライに襲われたって平気........へっ!?」

 

カレンがその言葉の意味を理解するのに、数秒を要した。

その間に、ライはゆっくり、1歩、また1歩と距離を縮めていく。

 

「え?え?ちょっ...ライ?」

「ほら、僕に襲われても平気なんだろう?」

 

笑顔でゆっくりと追い詰めてくるライに、カレンはジリジリと後退りをしてしまう。

だが、悲しいかなここはライの自室。

 

すぐに壁際まで追い詰められ、更に顔の両側にライの手が置かれたことによって完全に逃げ道を塞がれてしまった。

唯一の脱出口である扉はライの真後ろにある。

 

「〜〜っ!!?(な、何この状況!?何このライ!?なんで私は壁際まで追い詰められてるの!??襲う...って、誰が?ライが?襲う.....私を!!??)」

「どうした?抵抗しないのか?」

 

顔の両側に置かれている腕を曲げて、ゆっくりカレンの顔を覗き込んでくるライ。

 

汗によって濡れた髪に、鼻腔をくすぐるライの匂い。パイロットスーツの襟から除く形のいい鎖骨。そして、この状況と先程の言葉によって、やっとその機能を取り戻そうとしていたカレンの頭は、ボシュッという音を立てて再度その機能を停止させてしまう。

 

「えっと...えっと...」

 

顔を真っ赤にして、涙目になりながらおろおろと目線を泳がしているカレン。一応抵抗のつもりなのか、両手をライの胸に押し当ててはいるが、いつもの力が出せず、弱々しい。

 

どう見てもいっぱいいっぱいになっているカレンに、ライは更に追い打ちをかけるように言葉を続けた。

 

「ほら、抵抗しないと...襲うぞ?」

「うぁっ...ラ、ライ...」

 

スルッ...と右手を頬に持っていくと、それだけでビクッと体を震わせるカレン。

 

困惑と、羞恥と、少しの期待が綯い交ぜにになった感情が、潤んだ空色の瞳に載せられる。

 

それを見て、ライは壁に手をついていた左手もカレンの頬に添え、ゆっくりと顔を近づけていく。次にされるであろうライの行動を予想して、カレンは目をギュッと瞑り、覚悟を決めた。

 

「.......」

 

むにっ

 

「ふぁ!?」

「.......全然ダメじゃないか」

 

キスをされる...そう思って目を瞑っていたカレンだったが、それはライに頬を引っ張られた事により叶わなかった。

 

驚きで目を開けると、呆れたような顔をしたライが目に飛び込んでくる。

 

「そこいらの男には負けないんじゃなかったのか?抵抗らしい抵抗、全然されてないんだけど?」

 

むにむにっ

 

「そもそも君は隙が多すぎるし、自分がどれだけ他の男に狙われてるかわかってない」

 

むにむにむにっ

 

「ちゃんと危機感をもってだな.....」

「ひょっ!ひょっひょ!ひゃい、いひゃいいひゃい」

「.....ああ、ごめん。つい力が入ってしまった」

 

そう言ってライはカレンの頬から手を離す。カレンは赤くなった頬を擦りながら、涙目になった瞳をキッ、と鋭くさせて睨んできた。

 

「うぅ〜、いたた...なにするのよ!」

「なにするのよ、じゃない!君が襲われてもそこいらの男には負けないから大丈夫と言ったんじゃないか!やってみたら、全然抵抗出来てないし.....僕じゃなかったら確実に襲われてたぞ!?」

「うっ...だってそれは...相手があなただったから...」

 

先程の威勢はどこへ行ったのか、怒られてしゅん、としてしまったカレンに、ライは4度目のため息を吐いた。

 

ビクリっ、と散々呆れられて愛想を尽かされてるんじゃないかと怯えているカレンに、ライはカレンの頭を撫でて、優しく語りかける。

 

「まあ、さっきのは僕もやりすぎた。すまない。でも、本当に心配してるんだ。君は、自分がどれだけ魅力的かわかってない。さっきだって、どれだけの男が鼻の下を伸ばしていたか.....」

 

形のいい眉を八の字にさせて懇願するように言うライに、カレンは魅力的と言われて嬉しい様な、申し訳ないような複雑な感情が入り交じる。

 

少し...本っ当に!少し残念ではあったが、ライがあんな事をしてまで自分を心配してくれたのだ。

 

あんな.....妖しげに微笑んで...迫られて...襲うと言われて.....

 

カレンは先程のライとのやり取りを思い出し、また顔を赤くするが、今度は首をぶんぶんと振って顔の熱をとる。

 

そして、ライに向き直ると、素直に頭を下げた。

 

「ごめんなさい...次からは気を付けるわ」

「わかってくれたなら、もういいよ。さぁ、もうシャワー室も空いてるだろう。一緒に行こう」

「うん!」

 

そう言ってライが手を差し伸べると、カレンははにかむような笑顔になり、その手をとる。

 

そして、嬉しそうに、手を繋ぎながらライと一緒にシャワー室に歩いていく。

 

 

 

カレンは知らない。

 

ライもかなりドキドキしていた事を...

 

ギリギリの所で鋼の理性が働いてくれたが、もし、この理性が崩壊していたら...

 

「結構、危なかったのかもな(ボソッ)」

「え?ライ何か言った?」

「いいや、なんでもない」

 

そう言って、ライは自分の欲望を笑顔で隠した。



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リップクリーム〜桃の香り〜

多分R15で収まってるはず...多分。



「ライの唇ってちょっとカサカサしてるわよね」

 

そう言って、カレンはライの唇を指で撫でた。

 

2人は今、一糸纏わぬ姿でベッドに寝転んでいる。身体の局部を布団で隠して身を寄せ合い、先程までしていた、お互いの熱を確かめ合う行為の余韻を楽しんでいた。

 

「ん?気になるのか?」

「んー.....キスする時、ちょっとね」

 

カレンは苦笑しながらも、ライの唇を触る手は止めない。

 

指に来る感触が気に入ったのか形を変える唇が楽しいのか、撫でるだけでは飽き足らず、ぷにぷにとつついてみたり、つまんでみたりと遊んでいる。

 

ライは擽ったいのか逃げるように顔を逸らそうとするが...

 

「こら、逃げないの」

 

カレンはそれを許さなかった。両手でライの顔を挟んで固定すると、親指で唇を撫で続ける。

 

「ふふっ、やめてくれ。くすぐったい」

「ダーメ。大人しくやられなさい」

 

ライはその擽ったさと悪戯っぽく笑うカレンが可愛くて自然と笑みがこぼれた。

 

お返しと言わんばかりにカレンの手を掴んでそのまま手の平にキスをしたり、たまに指を甘噛みしては、甘い息を漏らすカレンの反応を見て楽しむ。

 

お互いにクスクスと笑いながらじゃれあうライとカレン。

 

甘い空気が部屋中に充満し、2人は暫くお互いをオモチャにして楽しんだ。

 

 

──────・・・

 

 

「そういえばさ...唇の話に戻るんだけど、ライはリップとか使わないの?」

 

やがて満足したのか、ベッドから体を起こしたカレンが下着を着けながら、先程の事を思い出したかのようにライの唇についての疑問を話す。

 

ライも起き上がり暫く考えた後、リップクリームに対する自分の価値観をカレンに伝えた。

 

「女性が使うイメージで、考えた事もなかったな。男の僕がリップクリームを使うのは、ちょっと抵抗があるというか.....おかしくないか?」

「そんな事ないわよ。最近は男の人でも使ってる人が多いみたいだし.....あ、そうだ」

 

そう言って、カレンはベッドの下に乱雑に脱ぎ散らかされた服から、自分の上着を取るとガサゴソとポケットを漁る。

 

そして、何かを取り出すとそれをライの目の前に持って行った。

 

「はい、これ。私のリップなんだけど、試しに使ってみたら?」

 

取り出したのはカレンのリップクリーム。薄い赤の背景に桃の絵が描かれており、パッケージには『桃の香り付き』の文字が書かれている。

 

「これなら、香りがするだけで色はついてないし、ライでも付けやすいと思うんだけど..........ね、よかったら私が塗ってあげようか?」

 

リップクリームの蓋を取って、ベッドに座っているライにカレンが四つん這いで迫る。塗ってあげようかと聞いておきながら、既に塗る気満々のカレンに、ライは苦笑しながら答えた。

 

「じゃあ、お願いするよ」

「ふふ、まかせて」

 

そう言ってニンマリと笑ったカレンはライに近付き、頬に手を添えて顔を持ち上げると、その薄く、少し荒れた唇にリップクリームを塗っていく。

 

自分の口を這う擽ったい感覚にライは身を捩るが、カレンは構うことなく塗っていった。

 

いつもはできないこの行為が楽しいのか、カレンは機嫌が良さそうだ。

 

桃の香りが、ライの鼻腔をくすぐる。

 

「はい、できた!」

「.......口がぺたぺたするな...」

「あー、確かに。初めてだと違和感があるわよね」

 

慣れてないからか、唇に塗られたリップクリームの不快感にライは眉を顰めた。

 

「塗ってもらっておいてなんだが、ちょっとぺたぺたするのが嫌だな。落としたい」

「ダメよ。保湿が目的なんだから。取ったら意味が無くなっちゃうでしょ?」

「むぅ...」

 

自分の唇を触って、不満気に唸るライ。

 

普段は冷静でとても大人びているライが、今はカレンに窘められて少し拗ねたように口を尖らせている。

 

そんな子供っぽい表情を見せるのは恋人であるカレンの前だけ。

 

そう思うと、カレンから自然に笑みが零れた。

 

「慣れたら大丈夫よ。だから、今回はこれで我慢して?」

 

そう言うと、カレンはライの唇にキスを落とす。

 

ライに塗られたリップが、カレンの唇にも付き、お互いの唇がキラキラと光る。カレンはライから離れると、少し上目遣いでライを見つめた。

 

「どう?これでちょっとはマシになった?」

 

ライの唇に付いたリップクリームの不快感を和らげるためにされたキス。それが少しだけ恥ずかしかったのか、カレンの頬がほんのりと赤い。

 

「...ん.....どうかな。まだ違和感がある気がする......」

 

それを見てライは自分の唇を撫でながら、とぼけた返事を返した。

 

妖しく目を細め、スルっとカレンの髪に指を通すと、甘く...低い声で囁く。

 

「だから、もう1回...」

 

そこまで言うと、ライはカレンの頭を引き寄せて再びキスをした。

 

角度を何度も変えて啄むようなキスから、深く貪るようなキスまで....

 

ライはキスをしたまま、カレンの肩を掴むとそのままそっとベッドに押し倒す。

 

ベッドのスプリングがギシッと鳴った。

 

「.....またするの?」

 

唇を離し、押し倒されたカレンがライを見上げる。ライは少し意地悪そうな笑みを浮かべると、質問に質問で返した。

 

「.....したくないのか?」

 

カレンの唇を撫でながら、ライがそう呟く。愛おしむように撫でられた唇はリップクリームと唾液でテラテラと光り、それがよりライを昂らせた。

 

「わかってる癖に...」

 

そう言って、カレンも熱っぽくライを見つめる。

 

2人は見つめ合い、同時にクスクスと笑い合った。

 

答えはもう分かりきっているのだから.....

 

ライはカレンの下着を外し、カレンはライの首に甘えるように腕を絡める。

 

 

 

 

お互いの唇から、桃の香りがふわり...と薫った。

 

 

 

 




おまけ

「あっ、ライったらまた唇がカサカサじゃない!あげたリップクリーム、付けなかったの?」
「ん?ああ、すまない。忘れてた」
「もう!ほら、こっち向いて。塗ってあげる」
「いや、大丈夫だ。また自分でやるよ」
「そんなこと言って付けない気ね。いいからこっちを向きなさい!」
「うわっ!ちょっ、カレ...んむっ!」

ヌリヌリ

「はい、できた!」
「...ぺたぺたするから嫌なのに...」
「我慢しなさい。慣れよ慣れ!」
「むぅ...じゃあ、仕上げのアレ、やって?」
「え...アレってこの前のアレ!?えっ、ちょっと、ここで!?」
「アレをやってくれないと気持ち悪くて仕方ないんだ。ほら早く」
「も、もう...今日だけよ?...んっ」
「んっ.....まだ足りないな...もう1回」
「ええ!?ちょっ...んぅっ!」

イチャイチャ

「ひゃあ...2人とも、大人...」
「大胆...です」
「これはこれは...あれはもう完全に二人の世界に入ってるわね〜」
「俺ここから逃げたい...」
「え、なんで?仲が良いだけじゃないか。ねえルルーシュ」
「お、俺に振るな!!!」

生徒会室での日常

おわり


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一級フラグ建築士(ルルーシュは別)

ほぼネタ。ぐだぐだ。ルルーシュの扱いが酷いし、ぶっ壊れてます。ご都合設定。
作者はLGBTに偏見は御座いません。


私の恋人であるライはモテる。

尋常じゃないぐらいモテる。

 

男女問わず(なんで男もいるのよ)、あちこちでフラグを建てては自分の虜にしてしまう一級フラグ建築士だ。

 

ほら、今も

 

「ライくーん!これ、調理実習で作ったの!良かったら貰って〜♡きゃー!渡しちゃった!」

「あ、ああああの!ライ先輩!放課後ってお時間、あいてますか...?」

「ライ.....お前ってまつ毛長いよなぁ.....女みたいに綺麗で.....俺、お前ならイケr(シュッ)(ブスッ)ぐあっ!!」ガクッ

「お、おい!!どこからペンが...」

 

「.................チッ」

 

こんな風に、今まで建てたフラグから発生したライに群がる煩い虫......もとい、男女が多すぎる。

 

ライは優しいから、困ってる人がいたらほっとけないしほっとかない。必ず手助けをして、最近はよくする様になった柔らかな笑顔(私のおかげと言っていた。もう、ライったら)で対応するから、それにヤられた人達が次々にライの虜になっている。

 

ああ鬱陶しい...

 

ライは彼女である私のなのに...

それなのにここで見守る事しか出来ない。

 

理由は簡単。今の私は病弱なシュタットフェルト家のお嬢様だから。そのお嬢様が、あんな人混みに突っ込んでライを引っ張り出しに行くなんて出来るわけがない。

 

レジスタンス活動をしてる事を隠す為にこの設定にしたけど、今日ほど後悔した日はないわ...

 

「不機嫌そうだなカレン」

「ルルーシュ...」

 

最も鬱陶しい奴がきた...

 

こいつもライの事が好きだから、その目には苛立ちの色がありありと見える。

 

「そう言うあんたも不機嫌そうね」

「当然だ。『俺の』ライがあんな愚民共に群がられて、気分がいい訳ないだろう」

 

そう言って、ルルーシュはフンっと鼻を鳴らしてライを囲んでる生徒達を睨みつけている。

 

『俺の』というのを強調しているけど、ライの恋人は私だし、この前も6回目の告白(ライがげんなりしながら教えてくれた)をしてこっぴどく振られているのに何を自信満々に言っているのかしらこいつ。

 

「ねえ、そろそろいい加減にしてくれない?ライの恋人は私なんだけど?」

「フンッ、お前みたいにガサツな女にライは不釣り合いだ。あいつには眉目秀麗。家事全般完璧。統率者としても優れているこの俺こそが相応しい!」

 

そう言って無駄に優雅でカッコつけたポーズで私を睨んでくるルルーシュ。

 

私も周りに悟られないように睨みつけ、バチバチと火花を散らした。

 

ああウザい。凄くウザい。

 

こんなのが敬愛していたゼロの正体だなんて知りたくなかった。

 

私がゼロの正体がルルーシュだと知ったのは今から少し前。私とライが付き合いだしたのを一緒にゼロに報告しに行った時。

 

執務室にライと手を繋ぎながら入ると、書類整理をしていたゼロはそれを見た瞬間、持っていた書類をバサバサっと落として数秒固まった。

 

そして、よろよろと椅子から立ち上がったかと思うと、足から崩れ落ち、手を地面について絶望していた(見たくなかった)。

 

暫くして立ち直ったかと思えばゼロの仮面を脱ぎ捨てて泣きながら自分がどれだけライを愛しているか熱弁し(この時正体を知った) 、ライに抱きつこうとしていた(ライに殴り飛ばされて潰れたカエルみたいな声を出してた)。

 

それからというもの、ゼロの権限を使って別れさせようとしたり、無理矢理私とライを2人きりにさせないように任務を与えたり、ゼロの左腕として、ちょくちょくライを自分の部屋に呼び付けては襲おうとした前科がある(全部ライが暴れて事なきを得たけど)。

 

ゼロとしての戦術や統率に関しての手腕は認めるけど、ことライに関しては、私はこいつが大っ嫌いだ。

 

「あんたねぇ...この前もライに迫ってボコボコにされてたじゃない。もう諦めなさいよ。それ以前にあんた...男でしょ?」

「愛の前に性別等関係ない!それにあれは照れているだけだ!俺のこの熱い想いを伝え続けていれば、ライもきっとお前とは別れるはず「ルルーシュ...」ハっ!!」

 

私とルルーシュが言い争いをしていると、いつの間にか人垣から抜け出したらしいライが、とても綺麗な笑顔でルルーシュの後ろに立っていた。

 

目は恐ろしいくらいに笑ってないけど...

 

「ふふっ、聞き間違いかなぁ?今、僕とカレンが別れるとか聞こえたんだけど?」

 

─そんなに殺されたいのか?

 

ライは全く笑ってない目を細めてルルーシュを見る。目が語ってる、本気の目だ。寒気を感じてしまうほど。

 

その目で直接見られているルルーシュはどれだけの悪寒を感じているのかしら?ガタガタと体を震えさせて、硬直している。

 

「ルルーシュ...僕は何度も言っているだろう?僕とカレンの仲を引き裂くようなマネはやめてくれと...」

「い、いや!しかしだな「ルルーシュ?」ッ!」

「あまり我儘を言って僕を困らせないでくれ.......死にたくなければ(ボソッ)」

「っぁ......」

 

ライに耳元で囁かれた事により、ぶるりと体を震わせて少しだけ艶っぽい声を出したルルーシュ。顔は赤くなり、まるで恋する乙女のような顔で、熱っぽい視線をライに送っている。

 

耳元で囁かれてそうなってしまう気持ちはわからなくもないけど、明らかな殺意を持って脅されてるのにそんな視線を送るなんて......こいつはドMなのかしら?

 

ライはそれを華麗にスルーして私に向き直ると、ルルーシュに向けたものではない、慈しみを込めた蕩けるような笑顔で私を見る。

 

正直、突然そんな顔をしないで欲しい...心臓に悪いから...

 

ああ、ほら。周りの生徒達が顔を赤くして胸を押さえてるし、間近で見てしまったルルーシュなんて鼻血を出して倒れちゃったじゃない。

 

「すまないカレン、お待たせ。ルルーシュに嫌な事はされなかったか?」

 

自分の笑顔でどれだけの人的被害があったのか気付いてないライは、そう言って私の頬を優しく撫でた。

 

撫でられた頬が熱くなる。ライの少しひんやりとした手が心地いい。さっきまで他の生徒とルルーシュのせいでイライラしていた私は、たったそれだけで機嫌が直ってしまう。我ながら単純だと思うけど、嬉しいんだからしょうがない。

 

「大丈夫よ。ルルーシュとは軽いお話してただけだから」

「そうか、よかった。何か嫌な事があったならすぐに言ってくれ。粛清するから」

 

私の頬を撫でながら笑顔でサラッと怖いことを言うライに、少しだけ頬が引きつったけど、それ以上に私の心配をしてくれているのかと思うと嬉しい気持ちが込み上げる。

 

「ふふ、ありがとう」

「それじゃあ、一緒にお昼を食べに行こうか?」

「うん!」

 

ぎゅむぅっ

 

「ぐあッ!」

 

ライは鼻血を出して倒れているルルーシュを踏み付けると、私の手を取って何も無かったかのように歩き出した。

 

正直可哀想と思わなくもないけど、今までしつこくライに付きまとってライを困らせてるんだから、扱いが酷くなるのは当然よね。

 

そうして、私とライは手を繋ぎながら一緒にお弁当を食べる為に、教室を後にした。

 

 

 

 

 

「くっ!俺は諦めん!諦めんぞぉ!!」

「いや、諦めろよ。どう見たってお前勝ち目ねぇよ」

 

リヴァルのツッコミはルルーシュの耳には届かなかった。

 

このゾンビのように倒れても這い上がる不屈の姿が、ライを諦めきれない数多の生徒達に勇気を与えている事を.....ルルーシュは知らない。

 

 



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愛しい君に

小説の書き方を少し勉強しました。


 

  アッシュフォード学園の屋上に行く為に、僕は足を動かしていた。 

 そこで僕はカレンとお弁当を食べる約束をしている。

 クラスが一緒だから一緒に行けばよかったんだけど、僕が教師から頼まれ事をされた為にカレンには先に行ってもらっていた。

 予想以上に時間がかって少し遅くなってしまったけど。

 

 「カレン、待ってるかな」

 

 屋上に続く階段を登りながら、僕はポツリと呟く。

 特区日本が設立されてから、僕達は目まぐるしい毎日を過ごしていた。反対派の残党の処理や会談、事務仕事、遠征・・・等々。こうして2人で学園に来れたのは久しぶりだ。

 

 まったりとした空気。平凡な日常。

 

 ここは平和で何も変わらない。

 僕達が出会った大切な場所。

 

 僕達が黒の騎士団で活動していたのを生徒会メンバーに話しても少し驚きはしたものの、前と変わらず暖かく迎えてくれた。

 本当に・・・皆には感謝してもしきれない。

 

 (特区日本が無事に設立出来てよかった)

 

 そうでないと、今頃こんなに皆と穏やかに過ごせなかっただろうから・・・

 

 僕はそんな事を考えながら、階段を登り終えると屋上へ続くドアの前に行き、ドアノブに手をかけて扉を開く。

 抜けるような青空が目に飛び込み、頬を撫でるそよ風が心地いい。

 

 僕は視線を左右に動かしてカレンを探した。

 

 「??・・・カレン・・・・・・・・・ぁ」

 

 ぐるりと辺りを見回してもカレンはいなかった為少し歩いてみると、すぐに見付けたが声をかけるのは躊躇ってしまった。

 カレンは屋上の壁に寄りかかって眠っていたからだ。

 

 「すー・・・すー・・・」

 

 最近は忙しかったから疲れが溜まっていたのだろう。穏やかな寝息をたてている。

 でも、少し前まではブリタニアとの戦争で気を張りつめて気配に敏感だった彼女が、扉を開いた音にも僕の気配にも気付かないのは珍しい。

 こんなに無防備に眠れる様になったのも、少しだけ平和になった証拠だろうか?

 僕は起こさないようにそっと近付いて、屈んで彼女の顔を覗き込む。手を伸ばして指でちょいちょいと顔にかかっている髪を払ってやれば、くすぐったいのか少し唸った後、ふにゃっと蕩けたように微笑んだ。

 その柔らかで、安心しきった様に笑う顔が・・・たまらなく愛おしい。

 

 ふっ、と自分の口元が緩むのがわかった。

 

 (かわいいなぁ・・・)

 

 多分、今の僕の顔は締りのない、だらしない顔をしているのだろう。

 でも、それでも、頬が緩むのが止められない。

 だって、こんなにもカレンを愛しいと思っているのだから。

 

 (こんな感情が僕にもあったなんて、知らなかったな)

 

 そこまで思って僕はふと、考える。

 もしカレンと出会わなければ自分はどうなっていたのだろう?

 

 記憶を無くして、色を無くして、抜け殻のようだった自分。

 記憶を取り戻そうともがいて、少しずつ思い出す記憶の断片に苦しんでいた自分。

 そして思い出した血塗られた過去。

 はるか昔の人物である僕はきっと、ギアスの暴走のことも考えて皆の前からいなくなっていただろう。

 なんのアテもない僕は、その時は実験動物に逆戻りか、もしかしたら死を選んでいたかもしれない。

 

 考えただけでゾッとする。

 

 (カレンがいてくれてよかった)

 

 カレンが僕に生きる意味を・・・居場所を与えてくれた。

 

 同じハーフだと、一緒だと喜んで。

 黒の騎士団では双璧としてお互いの背中を預けて戦って。

 好きだと言って、この暖かな感情を教えてくれた。

 

 僕に希望を与えてくれた彼女。

 僕の存在を喜んでくれた彼女。

 僕に・・・一緒に生きようと言ってくれた彼女。

 

 その言葉で、どれだけ僕が救われたか・・・

 

 僕はカレンの頬にそっと手を伸ばす。

 起こさない様に最大限の注意を払って。

 長い前髪をくぐり抜けてその柔らかな頰に触れるとピクっと反応したけれど、無意識なのだろうか?頬を僕の手に擦り寄せてきた。

 暖かな体温と、擦り寄せる頬の感触が手の平に伝わって少しだけ擽ったい。

 だけど、その仕草もとても愛らしくて。

 

 (ああ・・・好きだなぁ・・・)

 

 何度想っても足りない。

 もう無くさない。僕の大切な人。

 

 彼女の喜ぶ顔が見たい。

 ずっと笑っていて欲しい。

 できるなら・・・僕の隣で。

 

 (こんな事を思ってしまうのは・・・少し我儘だろうか?)

 

 僕は苦笑しながら彼女の顔に自分の顔を近付けて、触れるだけのキスをする。

 

 僕の想いが伝わればいいと、ほんの少しの願いを込めて。

 

 カレン・・・愛してるよ・・・

 

 

 

 

 



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マフラー

お久しぶりです。
長らく投稿しないで申し訳ありません。


「……ックシュ」

「大丈夫?ライ」

「ああ、大丈夫だ」

 

 そう言って取り繕うライだが、明らかに寒そうだった。

 授業が終わり放課後。ライとカレンは暖房の効いた教室を出て、玄関まで向かっていた。教室と違い底冷えしそうな冷気が2人を包み、校舎から出ると肌を刺す程鋭い風が吹いた。

 カレンの格好はマフラーにコート。対してライは指定の制服のみだ。今の季節は12月。いくら最近まで暖かかったとはいえ、彼の格好は明らかに薄着だった。

 

「ねえ、ライ。あなたコートとか持ってないの?」

 

 カレンの純粋な問いかけに、ライは気まずそうに目を逸らす。そしてバツが悪そうにボソボソと喋った。

 

「……持ってきてない」

「なんで?」

「教室は暖かいし、クラブハウスが近いから多少寒くても大丈夫だと思って……」

 

 そこまで言ってチラリ、とカレンを見れば呆れたような顔でため息を吐かれた。

 

「……すまない」

「いつも言ってるでしょ?自分の事を適当にしないでって」

「はい……」

 

 素直に謝るライだが、再度ため息を吐くカレン。

 それにライは母親に叱られた子供のようにしょんぼりとしてしまった。

 そう、カレンが呆れてライがこんなに気まずそうなのは普段の彼の行いが原因だった。

 

 特区日本が無事設立し、日本とブリタニアは友好関係になった。

 だがそれは表向きの話。現実は元植民地への平等な対応に不満を抱くブリタニア人と、『ブリタニアに媚びた』という日本人の反乱やテロが、まだまだ続いていた。

 それに伴いユーフェミアとコーネリアを主軸とするブリタニア軍と黒の騎士団が協力し、騒動を納めているのだが、いかんせん10年も続いた蟠りを溶かすことは容易くない。

 皆死に物狂いで働いていた。

 しかし、彼ほど自分の身を削って働いている者はいないだろう。

 特区反対派のテロリストとのKMF戦闘。

 ブリタニアや諸外国への外交。新しい法律の作成。予算会議。意見交換会。ゼロと同伴の貴族のパーティー。書類仕事の山、山、山。

 二徹三徹当たり前。食事は酷い時だと塩と水で済ませ、カラスの行水の様なシャワーで最低限の汚れをとる。明らかにオーバーワークだった。

 しかし、彼以外の人間で、彼以上の仕事の成果を出す人間も残念ながらいなかった。

 普通なら、自分から休みが欲しい、休みたいと言うだろう。

 だが彼は、休みはいらないという。

 それ所か、今のこの現状が幸せだと言っているのだ。

 

『君の望んでいた日本解放とは少し違うかもしれないけど、ブリタニア人や日本人が共に笑って過ごせる世界を今、僕達は造っている。皆が幸せになれる、優しい世界が実現しようとしてる』

 

 そう言って笑いかけるライに、カレンは嬉しくなった。

 しかし、次の言葉で憤慨した。

 

『 その為なら、僕の事なんてどうでもいいんだ』

 

 彼が優しい事は知っている。

 他人の助けになるのなら、喜んで力を貸すだろう。

 だが、裏を返せば自分の事を蔑ろにしているのだ。

 KMFでの戦闘や外交、書類仕事は完璧にこなすのに、自分の事になると身なりも食事も、睡眠さえ忘れてしまう事がある。

 その度に彼は適当に済ませて『大丈夫』と言うが、適当にも限度があった。

 カレンはそれが心配だった。

 ブリタニアと日本の為に、2人で笑いあえる日々を過ごしたいと願った。

 それなのに、このままではいつか彼だけが倒れてしまう。

 

(そんなのは、嫌)

 

 自分では何ができるだろう?彼の為に、恋人である彼の為に、今出来ることは?

 

「……あ」

「……?どうしたんだ?」

 

 ぐるぐると回った頭に、ちょっとした妙案が浮かんだ。

 本当に些細な事だが、しないよりかはマシだろう。

 

「じゃあ……こういうのは?」

「ん?……ッ!?」

 

 自分の赤いマフラーを取って、ライの首にかける。

 そのままライの首だけに巻こうとも思ったが、彼の驚いた顔は珍しい。もっと見たくなって、勢いのまま自分と一緒に巻いてしまう。

 

「…………」

「よしッ……っと、ほ、ほら!こうすれば貴方もちょっとは暖かいかなって……」

 

 巻き終わって、それでも終始固まっているライに、中々大胆な事をしたのではないかと恥ずかしくなったカレンは、顔を背けて早口に捲し立てた。

 数秒しても何も言わないままの彼に、チラリと視線を向ければ、ライはそのまま巻かれたマフラーに触れながら

 

「これは……少し、恥ずかしいな」

 

 はにかむ様に笑った。

 その頬は心無しか赤い。寒いのもあるのだろうが、きっとそれだけが理由ではないだろう。

 

「そ、そうね。でもほら、何もしないよりあったかいでしょ?」

「ふふ……そうだな」

 

 赤くなったカレンの顔。ライは愛しくなって、彼女の手をそっと握る。

 当然握られた手に驚きながらも、カレンも優しく握り返した。

 カレンの熱が、じんわりとライに浸透していく。

 

「あったかいな」

 

 ライの嬉しそうな顔に、カレンも自然と笑みがこぼれていた。

 



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レクイエム

ライがもし、悪逆皇帝の道を選んだらifです。


 

 

「ぐっ·····ぁ·····」

 

 冷たく鋭い刃が、腹の肉を貫いた。

 遅れてくる熱と激しい痛みに、ライは眉を顰める。

 根元深くまで入れられた剣を持つ手は、少しだけ震えていて、仮面の中からは微かに嗚咽が漏れて耳を掠めた。

 

(あぁ、スザクには悪い事をしてしまった·····)

 

 ライはゼロ……スザクの体に垂れ掛かると、仮面を撫でながら、初めてできた親友の1人に最後の言葉を投げかける。

 

「すまないスザク。辛い役目をさせてしまって……でも、これで世界の憎しみは僕に集まり、過去から蘇ったブリタニアの始祖、狂王ライは……正義の味方。ゼロが討った」

「ッ!……ラ、イ……」

「枢木スザクという存在は無くなるけれど、君と、ルルーシュがいれば……きっと世界は……優しい世界は実現する。君はその為に、残りの人生を捧げてくれ」

「ッ!!そのギアス……確かに受け取ったッ」

 

 ずるり、と。

 腹から剣が引き抜かれた。

 体に力が入らなくなったライはよろける様に一、二歩程進むと、そのまま前のめりに倒れる。

 少し傾斜がかかっている壁を滑るように落ちて、自分の視界に映る景色が次々と変わる。

 そして行き着いた先。最初に目に入ったのは美しく鮮やかな『紅』の髪。

 

「ラ……イ……?」

 

 カレンの震えた声が、耳を掠めた。

 目を見開いて、まるで信じられないものでも見ているように呆然とした顔をしている。

 

「貴方達が……やろうとした事って」

 

 どうやらカレンは気付いたようだ。

 ライは応える代わりに、少しだけ微笑んで見せた。

 

「ッ!ライ!」

 

 カレンは手が血で汚れるのも構わずにライの手を握ると、そのまま自分の頬に押し付ける。

 

「いやッ!ライお願い!!死なないで!!」

 

 そう言いながら、カレンは叫んだ。瞳は涙で滲み、とめどなく流れては、頬を伝って地面に落ちていく。

 

(なんだか、最近は泣かせてばかりいるな……)

 

 苦笑を漏らしながら、枷に繋がれているもう1人の親友、ルルーシュに視線を送る。

 ルルーシュは涙を流しながら、小さくだがしっかりと頷いてくれた。

 ライはそれに、さらに笑みを深めてカレンに視線を戻すと、言葉を発する為に口を開く。出来るだけ優しく、穏やかな声で。

 

「すまない、カレン。君には酷い事ばかり言って、悲しい想いをさせてしまった……」

 

 頬に寄せられた手を握り返し、カレンに向かって最後の言葉を投げかける。

 

「後の事はルルーシュ達に頼んである。君は、新しい人生を歩んで……幸せに……」

「いやッ!貴方のいない人生なんてッ、そんなのいやッ!!幸せになんてなれない!貴方がいないと意味がないッ!!」

「……参ったな」

 

 このままでは、彼女も後を追ってきかねない。

 だから力を使った。呪われた力を。愛する人に向かって、ありったけの願いを込めて。

 これが、ライの最後のギアス。

 

「カレン、君は……生きて」

 

 目の奥から赤い鳥が羽ばたく。

 強い力が放出され、カレンの涙で濡れた瞳に、ギアスにかかった者特有の紅い縁取りが浮かび上がった。

 

「……うん、生きる!生きるから!!貴方も生きてよ!!私と一緒に……生きてよッ!!」

 

 顔をぐしゃぐしゃに歪めて、カレンはあらん限りの想いを込めて叫んだ。

 死なないで欲しい。

 ずっと傍にいて欲しい。

 だけど、ライはただ困った様に微笑むだけ。

 

「お願いだから、一緒にいてよ……ライ……ッ」

 

 だがその想いは届かない。ライの腹部から血が流れていく。掴んでいる手がどんどん冷たくなっていく。

 それでもカレンはライの手を強く握った。自分の体温を移すように、強く。

 

(ああ……サクラもこんな気持ちだったのだろうか?)

 

 ライはそんなカレンを見つめながら、自分に微笑んでくれた妹の顔を思い出していた。

 

『お兄様……どうか、生きてください』

 

 それが妹の最後の言葉だった。

 自分はどうなってもいい。ただ、愛する人には生きていて欲しい。

 生きてさえいれば、きっと次の幸せがあるから。

 なんて身勝手で、我儘で、残酷な願いだろう。

 

(ふふ……似た者兄妹だったな……)

 

「ありがとう、カレン。僕に色をくれて」

 

 

 

「……さよなら」

 

(愛してる)

 

 本当の言葉はそっと胸に隠して。

 目線をカレンから空に移せば、抜けるような青空が広がっていた。いつしか彼女と交わした、たわいもない会話が蘇る。

 

『君といる時はいつも晴れているな。もしかして君は晴れ女?』

『そう?貴方が晴れ男かも』

『もしくは雨男と雨女で相殺……』

『あら、じゃあ私達、なるべく一緒にいた方が皆の為ね』

 

 カレンと打ち解けたと感じたあの日。

 何気なく交わしたあの言葉が、それが今ではこんなにも眩しい。

 お互いが笑いあった、楽しい日々。

 一緒に過ごしていた穏やかな日常。

 懐かしく感じる尊い記憶。

 出会った頃は記憶を失っていた癖に、いつの間にかこんなにも思い出が出来てしまった。

 

(ああ……嫌だな……)

 

 ――ずっと、嘘をつきたくないと思っていた。

 だが結局、父親が皮肉で付けた名前の通りになってしまった。

 

(ライ。『嘘』。ふっ、今の僕にピッタリだ)

 

 ずっと嘘を付いている。本心を嘘で包んで。皆の、彼女の負担にならないように。

 いや、本当は自分の為なのかもしれない。本心を言ってしまえば、決意が揺らぐ。

  全てを投げ出して、彼女と一緒に逃げ出してしまいたくなる。

 

(なんて無様で弱いんだろう)

 

 だから嘘をつく。仮面を被って、心にもない事を言って。自分の気持ちを隠して。

 ずっと嫌いだった名前。それが、今では少しだけ可笑しい。

 

「いや!私は『さよなら』なんて言わない!!言いたくないッ!一緒にいてよ!ライ!私を置いていかないでよッ!」

 

 カレンが叫んでいる。

 紅い髪を乱して、空色の瞳を涙で濡らして。

 

(ああ、綺麗な色だ)

 

 血のようで嫌いだった紅。大好きになった紅。

 ずっと好きだった空。愛した人の瞳と同じ空。

 

(最後に見れてよかった)

 

 だが、それも段々と薄れていく。視界が歪み、色が霞んでいく。

 最後に微笑んだ。

 上手く笑えているだろうか?

 

「ありがとう。カレン」

(ありがとう。僕の愛した人)

 

 体が冷たく重い。瞼もだ。もう目が開けられない。強烈な睡魔に似た感覚がライを襲い、すぅっと目を閉じる。

 

「ライ!いやッ、いやあぁぁああああッ!!」

 

 カレンの絶叫を最後に、ライの意識は…………

 

 

 途絶えた。

 

 



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付き合ってる?①

長くなったのでシリーズにしました。


 

 黒の騎士団アジト内、ラウンジスペースの一角。

 

「う〜ん」

 

 そこで扇はソファに座って目を瞑り、しきりに首をひねって考え事をしていた。

 考え事の種は、彼の今は亡き親友の妹の事だ。

 名前は紅月カレン。

 紅い髪に空色の瞳。ブリタニアと日本のハーフの少女。

 幼い頃から彼女を知っている扇からすれば、自分でも妹同然……いや、最近は娘のように思っている大切な少女だ。

 その彼女だが、どうも最近様子がおかしい。

 

「う〜ん」

 

 扇は再度、唸る。

 これまでの彼女の行動を思い返していた。

 以前の彼女ならば、空き時間はKMFの専門書を読むか、日本解放の為、体の鍛錬をするか、学校でのお淑やかなお嬢様設定の為に勉強をしたりしていたのに対し、最近は『必勝!美味しい弁当の作り方』という本を読んだり、ソファに座ってボーッとしては、何かを思い出したかのように顔を赤くしてボスボスとソファを叩いたりしている。

 普段の彼女からは考えられない行動だった。

 明らかに挙動不審で、おかしかった。

 扇はガッチリとした腕を組んで、また唸った。いくら考えても答えは出ない。

 本格的に参った。どうしたものかと考えていると、コツコツと固い廊下を叩く靴音が聞こえた。

 少しづつこちらに近づき、一拍置くと、シュンという音と共に自動扉が開かれ、音源の主が部屋に入ってきた。

 青みがかった長い黒髪に黒の瞳。額には旧扇グループの証であるバンダナを巻いている。

 カレンや自分とも親しい女性。

 騎士団メンバーの井上だった。

 井上は扇を見つけると、手をヒラヒラさせながら話しかけた。

 

「あっ、扇〜。ちょっと物資の供給について聞きたいんだけど……」

「井上!いい所に来た!!」

「は?」

 

 渡りに船とはこの事か。

 扇は顔に喜色を浮かべた。男の自分より同じ女性である井上の方が、何かカレンの最近の行動についてわかるかもしれない。

 井上の話などそっちのけで、扇は今まで悩んでいた事を話すと、井上は呆れたようにため息を吐いた。

 

「扇……あんたバカねぇ。そんなの恋に決まってんでしょ!こ・い!!」

「こ……い?……ッ!!?」

 

 一瞬、何を言われたのか解らず扇は同じ言葉を反芻した。しかし、扇とて鈍感ではない。脳が情報の処理に追いついた時、目が飛び出すのではないかという程見開いた。

 

「こ、ここここ恋だってッ!!?そんな馬鹿な!あのカレンがか!?」

 

 唾を飛ばす勢いで詰め寄る扇に、井上は嫌な顔を浮かべる。なんなら体を少し仰け反らせているが、扇はそんな事を気にかけるほどの余裕はなかった。

 

「まだ……まだあの子は17歳だぞ!?」

「『もう』17歳よ。カレンだって年頃の女の子なんだから好きな男の子の1人や2人……ッ!?」

 

 そこまで言葉を続けて、井上は体を思い切り逸らした。

 カレン程とは行かないものの、これでも日夜ブリタニアと戦っているのだ。それなりの身体能力はあるつもりだった。

 井上は鍛えぬいた反射神経を使って、扇が先程から飛ばしそうで飛ばしてなかった兵器を辛うじて避けたのだ。

 『唾』を。

 

「いいやダメだ!そういうのはまだ早い!」

 

 先程の言葉に激昂した扇は、特大の唾を飛ばされて嫌そうな井上の表情が見えないのか、鼻息が荒かった。目も血走っている。井上は更に顔を歪めた。もちろん嫌悪で。

 

「早いって言ってもねぇ……」

 

 しかし彼とは長い付き合いだ。井上は一つだけため息を吐き、体を戻すと、何事も無かったかのように会話を再開した。井上は扇がカレンの事を大切に思っているのを知っている。亡き親友の妹なのだから、当然だろう。

 だからといって、今の発言は少々過保護すぎるのではないか。まるで娘を持つ頑固親父のようだ。

 そこまで考えた井上は、ピンッと頭に何か閃いた。とてもいい事でも思い付いたのか、満面の笑みだ。

 

「……そんなに気になるんなら、偵察しに行きましょうか」

「偵察?どこへ……」

「決まってんでしょー」

 

 突然の井上の発言に困惑した顔の扇。井上はその少し情けない顔に、白い歯を見せながら笑った。

 

「カレンが通ってる学校よ」

 

 

 

 

 常日頃から、カレンには普通の女の子らしく過ごして欲しいと言っている。

 友達に囲まれて笑い。勉学に励み。クラブ活動や趣味に時間を費やして、平穏な日々を送って欲しいと常々思っている。

 血なまぐさいテロ活動なんかは、十代である彼女にはしてほしくなかった。

 だから、その彼女が楽しそうに学園に通う姿は、幼い頃から知っている身としてはとても嬉しいものだ。

 しかし――

 

「恋なんてカレンには早い!早いぞぉ!」

「まだ言ってんの?」

 

 それとこれとは別である。

 学園から少し離れたビルの屋上。

 呆れている井上を無視して、扇は鼻息荒く右手に持っている双眼鏡を覗き見た。先には赤髪の少女、紅月カレンが、今はお淑やかなお嬢様、カレン・シュタットフェルトとして、アッシュフォード学園の制服に身を包み授業を受けている。

 

「何回言ってるのよそのセリフ」

 

 もう耳タコだ。うんざりしながら井上も手に持っている双眼鏡を覗き込む。

 カレンは真面目に授業を受けているようだ。ノートに筆を滑らせているその眼差しは真剣そのものである。

 だが時折、チラリと視線を外す時がある。

 

「あら?」

 

 視線の先を辿れば、銀髪の髪の男の子。

 幾度となく、チラチラと目を向けている。

 

「あららららー?」

 

 以前、カレンが愚痴ていた。

 『記憶喪失で学園に迷い込んだ銀髪の男のお世話係になった』と。

 その男というのが、目線の先の彼なのだろう。

 

「あんなに面倒臭そうにしてたのにねぇ……」

 

 そういえば、いつだったか彼女の表情が柔らかくなっていた事があった。

 あんなに嫌々行ってた学校だって、最近は文句ひとつ言うことなく通っている。

 それもこれも、全て彼のお世話係になってからである。

 

「何も知らない彼のお世話をする事によって縮まる距離。深まる仲。淡く実る恋心。…………アリじゃなーい?」

「なんだ!?相手がわかったのか!?どこの馬の骨なんだ!?」

「……なんであんたはわかってないのよ」

 

 あんなにわかりやすくカレンが視線を送ってるのに、扇は現実を見たくないのか本気でわかっていないのか、相手がわからないようだった。

 

「ほらほら、あの銀髪の彼よ。前にカレンがお世話係になったって言ってた子!」

「なにぃ!あいつか!?」

 

 井上に教えてもらって、扇は覗いてる双眼鏡から銀髪の少年を発見した。

 美しい銀髪、整った横顔、宝石のような蒼の瞳。

 まるで童話に出てくる王子のような外見の少年に、扇は一瞬目を奪われたが、すぐに頭をふって立て直すと厳しい眼差しを送った。

 

「すごいイケメンよねー」

「いいや、まだ安心できないぞ!!確か身元不明の記憶喪失の男なんだろう!?イケメンだろうが、そんな得体の知れない男の事をカレンが好きになるわけがないじゃないか!!」

「ふーん?」

 

 完全にカレンの視線が気になる男の子に送るソレなのだが、扇の言う事にも一理ある。

 あの警戒心が強くブリタニア人嫌いのカレンが、そんな謎の多い男に心を許すのは、よほど彼の人柄がいいのか騙されているのか……。

 気になった井上は、またいい事を思いついたと言わんばかりの、笑顔を浮かべた。

 

「じゃあ2人でいる所を尾行しちゃう?」

「はあ?」

「カレンが彼の事を好きかどうか知りたいんでしょー?ならいっそ、普段の2人が一緒にどういう風に過ごしてるかを尾行しちゃえば、その謎がわかるかもしれないじゃない」

 

 と言うのが建前だが、ただ単に『面白そう』というのが彼女の本音だ。

 

 (だって気になるじゃない。あの学校では誰にも心を開かなかったカレンが唯一心を開いた男なんて。本人の口から直接聞いてもいいんだけど、どうせ誤魔化すだろうし彼の事もわからないし?なら、自然体の2人を見た方がこの面倒臭い扇も納得するでしょう。私も楽しいし一石二鳥!うーん、我ながらナイスアイディアだわー)

「尾行か……」

 

 そんな井上の思惑など知らない扇は、顎に手をやって考える。井上の言う事はもっともだ。もう偵察という名の覗きもやってしまっているし、尾行をしたとしても、同じ事だろう。

 

「ほらほら、考えてる内にちょうどよくカレン達が出て来たわよ」

 

 再び双眼鏡を覗いていた井上は声をあげた。

 最後の授業が終わったのか、ぞろぞろと校舎から生徒達が出てきていた。カラフルな髪色の生徒達の中でもわかる派手な赤と銀の髪色の2人は、お互い肩を並べて談笑しながら歩いている。その距離感は近い。

 

「あれって、やっぱりもう付き合ってんのかしら?」

「んなぁ!?お、おおおお前、言っていい冗談と悪い冗談が……!」

「あー、はいはいごめんごめん。そうね、まだカレンが彼の事を好きかどうかもわかってないもんね」

 

 軽く呟いた発言にも全力で抗議してくる扇。

 とても面倒臭い。

 

「じゃあ、それを解明する為に、尾行するわよ。いいわね?」

「ああ!やってやろうじゃないか!」

 

 井上は双眼鏡から目を離し、適当にあしらった後、有無を言わさずに先程の提案を決行することを表明した。

 扇も頭に血が昇ったのか、鼻息荒く井上の言葉に頷く。

 

 

 こうして、ライとカレンの尾行は開始された。

 

 



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