ハイスクールD×D 【現れし最古の吸血鬼】 (黒紙 優紫)
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放課後のパンデモニウム
歴史に残らなかった吸血鬼


はい。こんにちは!
前まで投稿していた作品を、マルっと吹っ飛ばした作者です!
心機一転で、新しく投稿始めましたので、暖かい目で見守ってください…!


1390年。

立ち上る煙。

大地に広がる数多の屍。

それでもなお、迫り来る人々。

手には、剣や槍、弓など様々な武器が握られている。

その軍隊を迎え撃つのは、180cmの身長に、服越しでもわかる鍛えられた体、白銀の髪に蒼い瞳、その体を漆黒のローブを身に纏う一人の男だけだった。

軍隊に向かって、真っ直ぐに歩き始める、周りに転がる屍を無視しゆったりとした歩幅が徐々に早くなる。

その足が走る歩幅へと変わり、その足が30歩を超えた時、眼前へと迫りった男性兵士の剣を躱し、その右腕を取り、捻りあげ手から剣が離れると、その剣を右から迫る兵士へとまっすぐ投げ、剣を持っていた兵士を殴り飛ばす。

更に、左から迫っていた兵士の首を一瞬でへし折り、その屍を他の兵士へと投げ飛ばす。

投げ飛ばした兵士が持っていた槍で、周りを取り囲む兵士たちの頭を一振で胴体とお別れさせる。

この男、名をレイ・ドラクレシュティという。

軍を迎え撃つには如何せん、人数不足と言うしかほかないだろう。

何十万人もいる軍隊を、たった1人で迎え撃つには無鉄砲と言う他ないだろう。

1人で軍を潰すというのは、無理難題もいい所だろう。

しかし、この男が一人で戦場に立つのには、それ相応の理由があった。

今の歴史で有名なのは、この男の後に君主となるヴラド・ドラクレシュティ、別の名をヴラド・ツェペシュだろう。

あの有名なヴァンパイアの祖とも言える男の先祖である。

と言っても、この男からの子孫では無いのだが。

 

しかし、このドラクレシュティ家において、ヴァンパイアと呼ばれるのは、ヴラド公だけではなかった。

戦場を駆け回るレイ・ドラクレシュティの体は時折黒い集合体になり消え、人とは思えないような怪力で人を吹き飛ばしていく。

この当時、圧倒的強さを誇り、化け物と呼ばれ、体を黒い集合体、コウモリへと姿を変え、人を薙ぎ倒すのはこの時代においてこの男しかいなかった。

気づけば何十万といた敵兵も既に全員が事切れ、地へと骸となり倒れ伏している。

その中を、まるで何も無かったかのように己が居城へと戻りゆく。

レイ・ドラクレシュティ。

歴史から消され、語り継がれることのなかったヴァンパイアの祖である。

数百の戦場を一人で出向き、その全てにおいて勝利を収めてきた。

歴史上に名が残らなかっただけで、この時代においてのレイ・ドラクレシュティの呼び名は様々だった。

【真祖】【デイ・ウォーカー】【不滅】【怪物】【吸血鬼(ヴァンパイア)】【白銀の悪魔】【一人軍隊(ワンマンアーミー)】【一騎当千】他にも様々だった。

それでも、自分の配下たちに嫌われることも、嫌悪されることもほとんど無かった。

一人一人を気にかけ、死ぬかもしれない戦に連れていかれることも無く、やる事は城の警備と、城へと攻められた時の防衛戦くらいである。

そもそも、レイが一人で戦場へと赴く為、ほぼ城へと攻められることは無かった。

更に、給金がいいこともあり、レイが嫌われると言うことはほぼ無かったのである。

しかし、いつの時代においても世代交代と言うものはある。

この日、レイ・ドラクレシュティの眼前に、一人の男が跪いていた。

 

「突然呼び立ててわるかったな。ヴラド」

 

「いえ。滅相もございません」

 

「呼びつけたのは他でもない、俺は隠居しようと思う。

故に、俺の後を継いで君主となれ」

 

「自分が…ですか…?」

 

「あぁ、と、言うことであとは頼んだぞ」

 

そう言うとヴラドからの返事も待たず、玉座から無数のコウモリへと姿を変え、空へと飛び去って行った。

そして、もう1つ付け加えるとするなら、この男自己中なのかもしれない。

 

「え!?ちょ!?……押し付けられた」

 

こうして、語られることのなかった初代ヴァンパイアは、あっという間に隠居してしまった。

そして、この君主を押し付けられた男が、後にヴラド・ツェペシュなどの祖先となるヴラド二世である。

こうして、ワラキアの地に正史通りの君主が誕生した。

後にこの地は、ヴラド・ツェペシュ公。

別名串刺し公が後を継ぎ、正史通りの歴史を歩むのであろう。

 

 

 

そんなこんなで、時代は移ろい、気づけば平成へとなっていた。

場所は変わり、日本、駒王町。

ある一軒家から、白銀の髪をした美丈夫が朝日を嫌そうに見ながら出てくる。

表札には、上城(かみしろ)とあった。

しかし、しかしである。

家から出てきた美丈夫を、見る人が見たならこう言うであろう。

『いや、お前レイ・ドラクレシュティだろ!?』と。

いかにも。彼はヴラド二世へと君主を押し付け、隠居したレイ・ドラクレシュティである。

しかし、日本に居着いてからは、上城零へと名前を変え、長いこと生活してきた。

それこそまだ日本に侍がいる時代から。

まぁ、その話はまたどこかでするとしよう。

そして、そんな零が身に纏う服は制服である。

今更学生?

と、思わなくもないが、何を隠そうこの男、今まで学び舎と言うものに行ったことは無いのだ。

帝王学やら、知識やらは何者にも負けないほど、頭に詰まっているが、学び舎という物に通ってみたいという事で、嫌いな朝日を浴び緩やかに学校へと足を進めていた。

彼がこれから通うのは、駒王学園。

そこは、悪魔の通っている学校と言うことを、この時の零はまだ知らなかった。

 

レイ・ドラクレシュティ改め、上城零の学園生活はこれから始まるのだ!

と、なんだかんだナレーションで言ってはいるが、既に教師への挨拶も済み、自分がこれから通うことになる、2年のクラスでの転入の挨拶を終え、帰路に着いている零。

物語というものは、合間合間を端折られる傾向にあるものである。

ざっくりと説明するならば、白銀の髪に蒼い瞳と、その整った顔立ちから、あちらこちらから視線を感じるものの、特に気にした様子は無く、編入初日を難なく乗りきったという所である。

1つ気になるとすれば、茶髪の男子生徒と、坊主の男子生徒、それからメガネの男子生徒が血涙を流しながら、まるで親の仇を見るかのような瞳で睨みつけてきていたことくらいだろうか?

俺は転入初日で奴らに恨みを買うような事したか…?

まぁ、それはさておき。

これからの学園生活を楽しみにしつつ、己の時間へと移り変わる空を見ながら自宅へと帰宅した。

 

「ただいま」

 

零の声に反応する者は一人もいなかった。

それはそうだ。

ここは零が一人で暮らしているのだから、誰かから返事が帰ってくる訳は無いのだから。

日本へと来る前にも、色々な場所を渡り歩き、色々な出会い、色々な戦場を駆けて来たが、それでも特定の人物と添い遂げる事は無かった。

しかし、何故だろうか。

玄関には、一足の女性用の白いブーツが置いてある。

一応、家には認識阻害の陣を引いてあるのだが。

警戒しつつ、ゆっくりと中へと入る。

光が漏れている、リビングへと続く扉を開け、中を覗き見ると、キッチンで鼻歌を歌いながら何か料理をしていると思われる女性が一人いた。

 

「なんでお前がここに居る?」

 

その姿を見た零は、ため息を吐きつつ自分が思った疑問を相手へとぶつけてみた。

声をかけたからだろう、自分が帰ってきたことに今気づいたのか、その女性が此方へと視線を向けた。

プラチナブロンドのストレートの長髪、こぼれ落ちそうな瞳。

白のワンピースであろう服の胸部を押し上げる大きな胸。

同じ人間とは思えないほどの美しさをした女性が、そこでは料理をしていた。

 

「レイさん。おかえりなさい」

 

「おかえりじゃない。俺は、なんでここに居るのかを聞いたんだ。ガブリエル」

 

侵入者が誰かわかったからと、警戒をとき制服の上着を脱ぎながらガブリエルと呼んだ女性へと近づく零。

そんな零を気にした様子もなく、また料理を再開するガブリエル。

 

「天使であるお前が、魔の塊である俺に近づいていいのか?」

 

「だって、レイさん会いに来てくださいませんし、御一緒してても私堕天してないからいいじゃないですか〜。

真実の愛に、種族は関係ないんですよっ」

 

そんな事を宣いながら、可愛らしくウインクを飛ばすガブリエルに、やれやれと首を左右に振る零。

そして、そんなガブリエルの元からは食欲を刺激する美味しそうな匂いが漂ってきていた。

 

「しかし、よくここが分かったな。一応認識阻害は掛けているのだが?」

 

ガブリエルの横に立ち、その手元を覗くとそこには、美味しそうなホワイトシチューが鍋で煮詰められていた。

しっかり腹ぺこです。

 

「私だって一応熾天使なんですから、本気を出せばレイさんを見つけることくらいできるんですよ!」

 

自慢するようにその上体を逸らすガブリエル。

そんなガブリエルに呆れながらも、頭を数度撫でてやると、後ろに設置された棚から、食器を2人分取り出す。

 

「今後はもう少し本気で陣を引くようにしよう」

 

ご飯を粧い、シチューをかけ、スプーンを持ちリビングのテーブルへと移動する。

その後を同じく着いてきたガブリエルが、目の前の席へと腰を下ろし、合掌と共に食事が開始された。

 

「それは流石にやめて頂けると嬉しいんですけど?私、探せなくなっちゃいます…」

 

少し落ち込む様な顔になったガブリエルへ、クスリと笑みを浮かべ冗談だと言えば、怒ったように頬を膨らませるガブリエル。

これ、天使と吸血鬼(ヴァンパイア)の会話だぜ?信じられる?

 

 

 

 



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烏の大将

なんやかんやあっての翌日。

零は二階にある自室のベッドにて目を覚ました。

上半身を起こせば、身体に掛かっていた布団が滑り落ち、鍛え抜かれた肉体美と呼んでいいそれが現れる。

ゴリマッチョという訳でもなく、細マッチョという訳でもない。

正に黄金比!!

そんな上裸族っぽい零の隣では、今だに寝息をたて目を瞑ったままの全裸のガブリエルがいる。

朝から眼福です。

ん?昨夜何してたって?言わせんなよ恥ずかしい。

 

と、そんなこんなで一人静かに起き上がり服を着替え、下へと降りて来た零は、朝食を作り始めた。

本日は火曜日。

登校しなければならい。

いくら昨夜激しく愛し合ったと言っても、自分は学生と言う立場になったのだ。

学校、サボる、ダメ絶対!である。

ガブリエルの分の朝食に時間停止を掛け、メモ書きを残して登校するため外へと出た零に、本日もサンサンと降り注ぐ朝日。

本当に鬱陶しいことこの上なく。

そんなことを考えつつ、登校した駒王学園。

朝イチから、何故か追いかけ回されている昨日の血涙男子3名と、それを追いかける運動部と思わしき女生徒の集団を横目に、本日から楽しく学業に励もう!

ビバスローライフ!!!

 

 

とかね、思ってる時期がありましたよ俺にも。

確かに、昔は自分から面倒事や、争いには進んで乱入していたよ。

でもな?ここ数年は、面倒事にも争いにも、極力関わらないようにして来たんだぜ?

なのによぉ。転入1週間でこれはねぇだろ…。

俺の転入初日に血涙を流し、次の日には女生徒達に追いかけ回されていた男子生徒が公園の中央で、腹にぽっかり穴を開け、そこから明らかに致死量の血を流して倒れている。

まぁ、人間なんだから腹にあんなでかい穴空いてたら死ぬんだけどな。

まぁ、問題はそこじゃない。

明らかに、堕天使と思わしき女と、駒王学園の制服を見に纏った女生徒が、腹が愉快な事になってる男子生徒を真ん中にして睨み合っていることが問題なんだ。

そりゃ、俺が人払いの結界が張られたのを感知してたのにも関わらず、気にせず中を通過して帰ろうとしたのが悪いと言わざるを得ないかもしれん。

それでも、こんな面倒くさそうな場面にエンカウントすると思わんだろ?

と、言うことで。

あの二人が睨み合ってる間に、俺はさっさと退散させて貰うとするよ。

進行方向を真逆へと変え、そのまま真っ直ぐ最短で一直線に、後ろのことを努めて気にせず帰時に帰った。

途中後ろから呼び止めるような声が聞こえたから、全力疾走をかましてやったが、気の所為だよな?あの声は空耳だよな?

 

 

 

零が走り去った後方では、紅い髪の女子生徒が口をポカーンと開け立ち尽くしていた。

そう、上城零の空耳では無く、しっかり呼び止められていたのだ。

しかし、そんな事は無いとフルシカトをかまして走り去った零。

これが本当の、あっという間と言う奴か。

と言いそうになるくらいそれは綺麗に、人間では出せないような速度でその場を走り去ったのである。

あんなのを見せられたら、そりゃ人外娘も間抜け面を晒すほか無いだろう。

さて、このお腹に綺麗な穴を空けられた男子生徒の横に立ち、間抜け面を晒している女子生徒。

彼女の名はリアス・グレモリー。

現四大魔王の一人、サーゼクス・ルシファーの妹である。

ストロベリーブロンドの長髪に、大きな胸、整った顔立ちに、くびれた腰。

172cmという高身長、安産型のお尻に、すらっと伸びた綺麗なおみ足。

ふむ。実にけしからん!!!

けしからんぞリアス・グレモリー!!!!

 

と、そんな馬鹿なナレーションなど露知らず、ハッとしたリアス・グレモリーは、自分の後ろで今にも生命活動が止まるのではないか、という致命傷を負っている男子生徒へと近寄った。

 

「あら。貴方面白い物を持っているのね。ふふっ。その命、私のために使ってみない?」

 

そんなセリフと共に、赤より紅い、まるでストロベリーブロンドのような髪を、失いつつある意識の中、微かに視界にとらえた男子生徒はゆっくりと意識を失っていった。

 

「さて、さっきの男子生徒は誰だったのかしら。朱乃に調べてもらいましょうか」

 

そして、上城零。

いや、あえてこう言おう!

レイ・ドラクレシュティ!我らが主人公は、見事逃げ切ることが出来るのか!?

 

次回!ハイスクールDxD【現れし最古の吸血鬼】

『各自の思惑。交差する思い。』

 

「俺、この戦いが終わったら結婚するだ…!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

と、次回予告を挟んだが、別に次話に行く訳では無い。

難なく家へとたどり着いた零は、昨日と同じように家へと入っていった。

玄関には、既にガブリエルのブーツは無く、いつも通り自分の靴だけがあるだけだった。

上着を脱ぎつつ、リビングへと足を運ぶ零。

思うことはただ一つ。

 

「バレてねぇよな?制服見られただけだし、向こうからは顔は見えてなかったはず。大丈夫…だよな…?ま、大丈夫か。制服一つで俺を見つけ出せるわけねぇしな」

 

実は既に、リアスが零を探しているとは露知らず、そんなことを宣っていた。

自己完結で満足いく答えが出たからなのか、本当に満足そうに頷くと、上に着ていたシャツを脱ぎながら、浴室へと向かう零。

鍛えられた逞しい上半身を露出させながら、ゆったりと向かう。

きっとここの読者様は、男性ばかりだと思うので、野郎の入浴シーン何ぞカットですわぁ!!!!

 

零が入浴中の浴室から、シャワーの音が聞こえ始めた頃。

この上城家の玄関の扉が開き、中へと一人の男性が入って来ていた。

うむ。一つ言いたい。うちの主人公は不用心では無かろうか?

何故鍵を掛けない。そもそも、家に帰ってくる時も、鍵を開ける、掛けるなんてシーンは1度もなかった。そう、一度もだ。

まだ4回ほどしか玄関のシーンは出ていないが、それでも、一度も鍵を触った形跡がない。そりゃ不法侵入もされますわ!

なんやかんや言っていたら、入ってきた男性は、浴室からの音に気づき、そのままリビングへと向かう。

リビングに置かれた、ソファーへと腰を下ろすと、そのまま目の前にあるテレビを付け見始めた。

シャワーを浴びる家主。テレビを見る不審者。

ここはスラムか何かなのだろうか?

1時間ほどすると、浴室から上裸の零が髪の毛を拭きながら出てくる。

そして、リビングからテレビの音を聞くと、そのままリビングへと入っていった。

零の目に映るのは、テレビを見る不審な男性。

いや、呆れた顔をした零を見るに知り合いなのだろう。

しかし、まだ名前の出ていないこの男性など不審s「いつ入ってきたんだ、アザゼル」

 

出来れば、ナレーションに被せて喋るのやめてくれないかなぁ!?

この不法侵入者、何を隠そう神の子を見張る者(グリゴリ)の総督、堕天使アザゼルである。

 

「よー!レイ。久しぶりだな!元気だったか?」

 

「元気だったよ。それよりアザゼル、不法侵入について弁明はあるか?」

 

「ははは!そんな硬いこと言うなよ。俺とお前の仲だろ?」

 

「一時は敵対者同士だったろうが」

 

「それはあの戦争の時の話だろ?今じゃ飲み友と言っても過言では無い!」

 

「まぁ、それは否定しねぇけどよ。んで?何の用だ?」

 

「あぁ、そうそう。零、ちょっと仕事頼めないか?」

 

「仕事だと?」

 

昔、一度は戦場で出会い、その後何かと会う機会があった2人は飲み友という関係へとなっていた。

そして、アザゼルから仕事の依頼が来るのも又、初めてのことでは無い。

しかし、とても嫌そうな、面倒くさそうな顔をする零。

この男が持ってくる仕事の依頼にろくなものが無いのである。

 

「なぁ、おまえ前回俺に何依頼したか覚えてるか?」

 

「あれだろ?ヒュドラの睾丸の採取だろ?」

 

「あぁ、そうだ。しかも、発情期のヒュドラの睾丸だ。なんに使うのかと思えば、ただの興味本位でヒュドラの睾丸が見て見たいだけだったとかいうクソみたいな依頼だ。あれな、俺じゃなきゃ死んでるぞ?あの場に何匹のヒュドラがいたと思ってやがる。全部で約36体だぞ?普通に考えて死者が出るわ!!!」

 

このようなクソみたいな依頼を持ってくるのだ。

そもそもなんだ。ヒュドラの睾丸って。

あいつタマタマ着いてんのかよ。

そんな零にまぁまぁ、と落ち着かせると。

アザゼルは真剣な顔で零を見た。

アザゼルのその真剣な顔に、零もしっかりと耳を傾けた。

 

「今回のは何時もみたいな酔っ払った時の依頼じゃない」

 

「じゃあなんだよ」

 

「ラミアを一体生け捕りにして欲しい」

 

「ラミアを?…物凄く聞きたくは無いが、きっと聞かないと行けないんだろうな。…何でだ?」

 

「ラミアの乳がどうなってるのか気になるからだ!!」

 

「んな事知らねぇよ!!クソ堕天使ぃ!!!!」

 

この夜、零の家からはドッタンバッタンと暴れるような音が鳴り続いた。

しっかり防音と認識障害の結界が貼られていたことが幸いだったのだろう。

近所迷惑になる事は無かった。

そして、この(アザゼル)が頼む依頼はろくなものが無い。

再認識させられる一件となった。

 

 



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見つめる者たち

あのクソ烏に今までの鬱憤を晴らした翌日。

零はいつも通りに学校へと通学していた。

しかし、零は一つ忘れている事があった。

それもこれも全てはアザゼルのせいなのだが。

 

いつも通りの鬱陶しい朝日。

眠そうな学生達。

校門前で挨拶をしている先生。

そして、3階の教室の窓からこちらを見つめる紅い髪の女生徒。

そう、リアス・グレモリーである。

たった一晩で、あの公園でリアスから逃げた生徒が零だとバレたのだ。

何故そんなことになったのか。

それは一つの見落としがあったからだ。

零は距離的に、制服がバレても問題ない。顔は見られていない。

そう思っていた。確かにそこに関しては安心しても良かったであろう。

しかし、この学園で髪の色が白銀なのは零ただ一人だけなのだ。

あの時リアスは、走り去る前の零の後ろ姿を見ており、「駒王学園の制服」「男子生徒」「白銀の髪」この三つの情報を得ていた。

頭二つの情報。「駒王学園の制服」と「男子生徒」これだけならば特定される事も無かったはずだ。

しかし、「白銀の髪」たった一つ。この情報が加わっただけで一晩という短い時間で、零はリアスに、昨夜の生徒が零だということがバレたのである。

髪の色は時として、人を見つけるのに役に立つという事を読者の皆様は学べましたね。

こちらを見つめる、リアス・グレモリーから視線を外し、あぁ、絶対めんどくさいことになる。そう確信するのだった。

そして、何故バレた?いまだに理解出来ていない零はそんな事を思いながら校舎へと入っていったのであった。

 

そんな確信を抱いた日のお昼。

編入してから早2週間目に入ろうとしているが、何だかんだで友達もでき、そして、昨晩お腹に愉快な大穴を開けていたはずの男子生徒、兵藤一誠も、昨日のおなくなり一直線とは裏腹に、元気に登校してきていた。

うむ。今日も今日とて不思議がいっぱいなことである。

この世界には死という概念が無くなってしまったので有ろうか。

神様、仕事してください。まぁ、もう死んじゃってますし、俺も不死なんで人のこと言えないんですけどね。

そんな日々を過ごし、また1週間過ぎた頃だろうか。

いつも通りの日常、いつも通りのお昼休み。

嘘です。翌日でした。ちょっと日数稼ごうかなって思いました。

お昼休み、そんな兵藤一誠の元へ、他クラスの木場祐斗なる者が訪ねてきていた。

ん?周りの女子生徒が話しているのが聞こえたから、名前がわかったのである。

そもそも、他クラスの生徒なんぞ誰一人として知らん。

何か会話をしていると、ふとこちらを見るではないか。

待とう。そこの優しそうな顔をしたイケメン。

こちらを見るでない。やめなさい。とてつもなく面倒事の匂いしかしてこないから。

この間死にそうだった子が、まるで何も無かったかのように登校してきた次の日に、何の接点も無さそうなイケメンくんが来て話しかけるとか怖すぎるから。

ギャルゲか、ラノベの設定でもあるまいし、そんなモノに巻き込まれた暁には、俺は俺の全ての力を使って抗うと決めているんだぞ。

だから、そのにこやかな顔でこっちに寄ってこないで下さいませんか。

それに君、明らかに人間じゃない匂いがするんだもん。

しかし、そんな零の願い虚しく、しっかりと目の前で停止する木場祐斗。

 

「こんにちは。初めまして、僕は木場祐斗。君は上城零くんでいいよね?」

 

「あぁ。初めまして。俺が上城零であってるが、何か用か?」

 

周りからの視線、兵藤一誠からの視線、そして湧き出る貴腐人の方々。

やめて頂けないだろうか。うちの主人公様は決して淫夢よろしい趣味は無いのである。

生まれてこの方、女性以外をそういう対象に認識したことは一切ない。

 

「よかった。今日の放課後少し時間をくれないかな?うちの部長。

あぁ、僕はオカルト研究部って言う部に所属してるんだけど、そこの部長が君たちに話しがあるそうなんだ」

 

何が良かったのだろうか。

明らかにわかっていてこちらに来ていたとしか思えない。

完璧にロックオンされていたのは認識している。

そして部長と言うのも、きっとあの紅い髪の女子生徒の事なので有ろう。

彼と同じ匂いがしていたから、人ならざるモノからしたら丸わかりである。

 

「オカルト研究部?なんでまた。俺、そういうの興味あるって話もした事ないし、誰一人として知り合いは居ないのだが?」

 

三十六計逃げるに如かず。

厄介事に巻き込まれそうなら、そこから逃走する手段を一つや二つ用意していない訳が無かろう。

俺は絶対にこいつらとお関わりになりたくはない!!!

 

「そうだな。君にわかりやすく言うのなら、一昨日の放課後過ぎ、公園にいたよね?」

 

明確な日時とシチュエーションを提示してくるイケメン。

しかし、この男伊達に600年以上生きてきただけはあるのだ。

 

「いや?俺はその日公園じゃなくて、住宅街の方から帰ってたから公園には寄ってないが?」

 

その日、人払いの結界を通過して帰時に着いていたことが幸をなした。

自分をみた者は居ないということ。

これならば逃げ切ることができると確信していた。

 

「え?そうなんだ。んー。来てくれないと僕が困るんだけどな…。まぁ、部長に呼んできて欲しいって頼まれてるし、上城くんも申し訳ないんだけど、放課後残っててくれるかな。よろしくね」

 

そう言うとイケメンはしれっと自分のクラスへと帰って行った。

 

「いや、は?」

 

最近の若いやつは言いたいことを言って去っていくのか?

零の心に浮かんだことはそれだった。

しかし、よくよく思い返して欲しい。

お前もヴラド二世に言うだけ言って、君主を譲り渡しどこかへ行って無かったか?と。

デジャブである。

因果応報である。

唖然としたままの顔で、木場祐斗を送り出した数秒後予鈴が鳴るのであった。

 

帰りのSHRも終わり、木場祐斗から待つように指定があった放課後。

教室には、数人の生徒が喋りながら帰宅の準備を整え、校庭からは部活動に勤しむ生徒たちの声がきこえてくる。

そんな2年1組の教室で、兵藤一誠は木場祐斗を待っていた。

微かに廊下がざわついている。

主に聞こえる声は、女子生徒のものだろう。

自分から近い、教室の後ろ側の扉が音を立てて開くと、お昼休みに待つように伝えてきた木場祐斗が笑みを浮かべ立っていた。

 

「やあ。兵藤くん。待たせたかな?」

 

「いや。そんな事ないぜ。早く行こうか」

 

「そうかい。所で、上城くんは?」

 

「あいつなら帰ったぞ?」

 

「は?」

 

もう一度言おう。

三十六計逃げるに如かず!!

我らが主人公、レイ・ドラクレシュティは帰路へと着いていた!!!

木場祐斗が教室を去ってから、零は気づいたのである。

いや、普通に帰っちまえば良くね?と。

その結果、SHRが終了後何食わぬ顔でカバンを手にしれっと下駄箱まで歩き、靴を履き、校舎内からの脱出に成功。

その後、視線を感じぬうちに、学校敷地内から撤退。

無事に自宅へとたどり着いていた。

後に零はこう語っていたとか。

 

「待つように言われたが、待っているとは答えていない」

 

しかし、零は知らない。

例え零がその場に行かなかったとしても、厄介事は向こうからやって来ることを。

物語は勝手に進んでいくことを。

(作者)は言っている。介入しないのなら巻き込めば良いと。

 

認識阻害と防音の陣を敷いてある家へと帰宅した零は、いつも通りにご飯を食べ、シャワーを浴び、特に誰も来ることなく睡眠を取るのだった。

 

 

 

駒王町の上空にて、人が一人街を見下ろす形で浮いていた。

その視線の先は、先程零が通り過ぎた閑静な住宅街。

その姿を目に入れ、後を追うように視線を動かしていたが、瞬きをした一瞬のうちにその姿は消えてしまっていた。

当たりを見回すが、周囲にその姿を見つけることは出来なかった。

それが、約2時間ほど前の事だ。

その人物は、約2時間この場所で浮いていた。

 

「我。見つけた」

 

そう言葉を残すと、2時間浮いていたその身体を、まるで初めからそこに存在しなかったかのように消滅させたのだった。



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王とは

翌日。

零はしれっと登校していた。

昨日の呼び出しを無視したのにも関わらず。まるで初めから呼ばれていないかのような顔をして、教室の自分の席に座っていた。

木場祐斗は通りかかった零たちの教室にそんな零が居ることに気づき、いつも通りのにこやかな笑顔を浮かべながら、そんな零へと近づいていった。

 

「やあ、上城くん。昨日はなんで待っててくれなかったんだい?」

 

朝から面倒事に直結する奴が来た。

心底うんざりした表情を浮かべなかっただけ、良しとして欲しい。

顔は笑顔で、心ではうんざりしながら木場祐斗へと顔を向ける。

 

「おはよう。悪いな、昨日は他に予定があってな、待ってることは出来なかったんだ」

 

もちろん嘘である。

こやつ、昨日は帰宅してからいつも通りに過ごし、寝ている。

予定なんてものは全く存在していなかった。

 

「あぁ、そうだったんだ。それじゃあ仕方ないよね。今日は特に予定はないんでしょ?」

 

「今日は大丈夫だ」

 

「そっか。なら今日は放課後、ここで待っててくれるかな。迎えに来るから」

 

そう言うと、木場祐斗は笑顔を浮かべたまま自分の教室へと帰って行った。

だが、敢えて言おう。

皆様ならお気づきであろう。

全くもって、行く気の無い零は今日もしれっと帰ろうと思っている。

予定がないと言っただけで、誰も行くとは言っていないのだ。

言質を取られていない以上、この男、なんとしてでも行かない姿勢は崩さない。

 

誰が好き好んで、面倒事っぽいものにホイホイついて行くんだよ。

都市伝説部だか何だか知らんが、俺は行かん!!

そう心に決めた零は今日も今日とてSHRが終わって直ぐに、帰宅するのであった。

そんな事が1週間程続いただろうか。

帰路での視線に加え、学校での木場祐斗の誘いを悉く無視を決め、一週間。

木場祐斗もついに気づいてしまった。

 

「いや、上城くん来る気ある!?」

 

逆に何故一週間もそれに気づかなかったのかが不思議で仕方がない。

行く気なんてものはそもそも存在していないのだから!

 

「いや、全くないな」

 

「そんな、何を当たり前な?みたいな顔しないでくれるかな!?」

 

だが、残念なことにこの日はついに木場祐斗に捕まってしまった。

いつも通りに、しれっと帰ろうと下駄箱へと向かうと、少し引き攣った笑顔の木場祐斗がそこで待ち構えていたのだ。

逆に、一週間よく逃げ切ったと褒めて欲しいくらいである。

 

「はぁ、まぁいいや。今日は来てもらうからね!」

 

これ以上、逃げ回っていたら直に自宅まで来そうだと判断した零は、致し方なくついて行くことにした。

確かに、認識阻害の陣を引いてはいるが、そこまで本気で掛けているわけでは無いので、探知が特にな者がいればすぐにでもバレてしまうだろう。

それに、自宅までの帰路を追跡されたら確実にバレる。

 

「あぁ、わかった。今日は行こう」

 

そして、一週間という時間を費やし、やっと木場祐斗はオカルト研究部へと零を連れていくことに成功したのだった。

 

 

 

零が連れてこられた部屋は、旧校舎の一室。

その部屋に置かれたソファーへと腰掛けていた。

対面にあるソファーには、紅髪の女生徒が座り、その後ろに木場祐斗、兵藤一誠、黒髪のポニーテールの女生徒、小柄な白髪の女生徒が立って此方を見ている。

ふむ。面接か?面接官が多いのだが?何をそんなに警戒している?

そんなくだらない事を考えていた零へと、目の前の紅髪の女生徒が口を開く。

 

「初めまして、でいいかしら。上城零くん。私は3年のリアス・グレモリーよ、よろしくね」

 

「あぁ、初めましてだな先輩。で?俺に何の用だ?」

 

簡潔に簡単に話を終わらし、さっさとこの面倒事を持ってきそうなメンバーから離れたい零は、早々に話を切り出した。

 

「そうね。イッセーの事は知っているわよね?」

 

「うちのクラスメイトだろ?俺が編入してきた日に血涙流しながら、睨んでたから覚えているぞ」

 

リアス・グレモリーの後ろに立つ兵藤一誠を見ながらそう述べる。

そんな兵藤一誠を苦笑しながら、一目見たリアス・グレモリー。

 

「貴方、イッセーが殺されそうだった時に、あの場所に居たわよね?」

 

「ほぉ、そんな事があったのか。一生徒が殺されかけるとは、通り魔か何かか?」

 

零の言質を取られないようにした発言。

恐らく、零は昔の君主としての経験から、不利となる発言はしないようにしているのだろう。

一種の職業病である。居たとも言わず、居ないとも言わない。

 

「えぇ、一週間ちょっと前かしらね。その時その場所で、私は貴方の後ろ姿を見ているのよ」

 

「後ろ姿、ね。何故後ろ姿だけで俺だと判断した?」

 

皆様、覚えているであろうか。

この男いまだに理解していないが、校内で白銀の髪は自分しかいないことを。

 

「俺を呼んだと言うことは、恐らくこの学園の制服を着た男子生徒だったんだろう。しかし、学園の制服と男子生徒という情報だけで、なぜ俺を呼び付けた」

 

髪の色です。零。

君が気づいてないだけで、髪の色でバレてますよー!

 

「そうね。私が見たのは駒王学園の制服を着た男子生徒よ」

 

「それならば、他にも数多くいるだろ」

 

「そうね。でも、貴方以外有り得ないのよ」

 

「それは何故だ?」

 

「私が見たのは、駒王学園の制服を着た白銀の髪をした男子生徒だからよ。この学園で、白銀の髪をしているのは貴方以外いないのよ」

 

この瞬間、零はやっと理解した。

いや、させられたと言ってもいいだろう。

いくら言質を取られないようにしようが、全くの無駄。

全ては己の髪の色一つでバレていたのだ。

リアス・グレモリーのその発言から、何分経っただろうか。

真顔のまま固まった零と、そんな零を見つめる10個の瞳。

あれ?これ無理くね?

逃げ道は絶たれた。

他の学園生と言うことも出来る。

しかし、この学園に姉妹校が無いのは知っているし、この付近に、この学園の制服と見間違えるような、似た制服の学校は存在していない。

そう、完璧に退路は無いのである。

 

「……確かに、俺だな。だからといって何か問題があるのか?

確かに、あの瞬間何故救急車も呼ばずその場から逃げたのかと言われたら、人道に反する行いかもしれないが、あの場には人が居たのだから俺でなくても良かったはずだろ?」

 

「そこに関しては何も言うことは無いわ。でもね、貴方、見てたわよね?あの堕天使と私の事を」

 

「ほぉ?堕天使ね。そんな伝説みたいな存在がこの世界に存在するとでも言いたいのか?」

 

「貴方は知ってるはずよね?貴方だってこっち側の筈なのだから」

 

リアス・グレモリーのその一言に、一瞬眉が動く。

しかし、それを否定しようと口を開きかけた零に、更にリアス・グレモリーは言葉を続ける。

 

「否定しようとしても無駄よ?この子、貴方が人間じゃないって教えてくれたの」

 

そういい、後ろに立った白髪の女生徒に目を移す。

この部屋に入った瞬間から、零は人外の存在しか居ないことに気づいていたが、その中でも二つの気配を発する二人の人物がいる事に気がついていた。

その内の一人である白髪の女生徒。

 

「塔城小猫です…よろしくお願いします…」

 

塔城小猫。そう名乗った女生徒から感じるのは、

目の前のリアス・グレモリーや、木場祐斗から感じる気配と、俺や京都に居るあいつと同じ気配の二つ。

それが混ざったに気配がしていた。

なるほど。感知に特化した妖なんだな。

 

「確かに俺は人では無いな。だからなんだ?この学園にも居るじゃないか。お前らと、生徒会のメンバーもそうだな」

 

「気づいていたのね。そうよ、私たちと、生徒会のメンバーは悪魔なの」

 

そう言うと、リアス・グレモリーを筆頭に、後ろで立っていたメンバーの背中から蝙蝠のような羽が生える。

俺の翼に似ているな。

 

「それで、貴方はどこの勢力の人なのかしら?それともはぐれ?」

 

リアス・グレモリーのその一言で、後ろに控えていた木場祐斗や塔城小猫、黒髪ポニーの女生徒が何時でも動けるように芯をズラしたのがわかった。

 

「ふむ。どこの勢力、と言われても俺にはイマイチ分からないんだが?」

 

「悪魔で無いのは分かるわ。もし悪魔からこの学園に生徒が来るなら、お兄様が教えてくれるはずだもの。でも、お兄様からはそんな連絡は来なかった、ということは、貴方は天使、もしくは堕天使の可能性があるわよね?私が思うに、貴方は堕天使勢力じゃないかしら?」

 

見当違いもいい所だが、一応そう思う理由くらい聞いてもいいだろ。

無駄に話していたせいで、外ももう暗くなり始めているし、もう18時過ぎだ。

もう満足いくまでお付き合いしてやろうじゃないか。

 

「何故そう思った」

 

「ここにいるイッセーは2度堕天使に狙われたの。何でかは、まぁ、理解しているわよね?ちょうど貴方がこの学園に編入して一週間後に起こったの。恐らく貴方はこの学園に入って、イッセーの動向を向こう側に伝えていたんじゃないの?でも、イッセーは死ななかった。だからきっと、近々貴方がイッセーを殺そうとする。違うかしら?」

 

タイミングが悪かったとしか言いようが無いだろう。

間が悪かった、だから俺が疑われ、今警戒されているのだろう。

ならば、その間違いを訂正するのが俺の仕事になるのだろう。

 

「確かに、そう考えられなくもないな」

 

「じゃあ、貴方は堕天使なのね!」

 

その一言で、先程体制を整えていた二人がこっちに向かって迫ってくる。

1番早く俺に攻撃してきたのは木場祐斗だった。

いつから持っていたのか、その手に持った剣で俺の肩を狙って突きを放つ。

その剣を、人差し指をそっと当て、軌道をずらし、顎へと衝撃を与え脳震盪を起こさせる、その後を追うように迫っていた塔城小猫の拳を受け止め、腹に手を当て発勁を使う。

最後に、動かなかったが、リアス・グレモリーの後ろで何か陣を発動させている、黒髪ポニーの女生徒を背後から膝を崩し、腕を取って無力化する。

この間約、5秒の出来事である。

 

「俺の話も聞かずに殺そうとするのは少し早計じゃないか?」

 

「っ!?…貴方いつの間に!?」

 

リアス・グレモリーと、兵藤一誠は俺がソファーから動いて女生徒を無力化したのが見えていなかったのだろう。

さっきまで俺が座っていたソファーでは、木場祐斗が上半身を預ける形で、崩れ落ちており、塔城小猫はソファーの下で崩れ落ちている。

兵藤一誠に置いては横で驚いて固まっていた。

 

「俺はそういう考え方が出来ると言っただけで、俺が堕天使だとは一言も言っていない」

 

「私の可愛い眷属をよくもっ!!」

 

その一言と共に、リアス・グレモリーの手の平に陣が現れ魔力弾が飛んでくる。

少し位置をずらす事によって、その魔力弾を避け、リアス・グレモリーの両腕を取り、クロスするようにリアス・グレモリーの腕で首を絞める。

 

「話を聞く気があるのか?そもそも、この結果は貴様が招いたものだろ?俺は一言も堕天使だとは言っていないにも関わらず、貴様の憶測で俺を堕天使だと決めつけた結果が目の前の結果だ。1度目は見逃そう。だが、次は無いぞ?いいな?」

 

そう問いかければ、リアス・グレモリーは納得したのかしてないのかは分からないが、一応頷いてみせた。

それを見て、零は両腕を掴んでいた手を離す。

咽るリアス・グレモリーを横目に、ソファーへと戻り話を続ける。

 

「さて、それじゃあさっきの話を続けようか。

確かにお前が考えていた事も一理ある。しかし、俺は堕天使でも無ければ、その堕天使陣営ってやつでもない」

 

あまり強くやらなかったからだろう。

木場祐斗は脳震盪が治った用で立ち上がり、こちらを警戒しながらリアス・グレモリーの方へと下がっていく。

塔城小猫も、向こう側へと下がっていた。

黒髪ポニーの女生徒に関しては、俺がリアス・グレモリーの拘束を解いた後位に立ち上がってこちらを警戒している。

 

「じゃあ、貴方は何だって言うのよ」

 

そんな零を睨みながら、リアス・グレモリーは問いかけた。

俺睨まれすぎじゃない?

そのリアスの問いかけとともに、零の背中から蝙蝠に似た、悪魔とはまた違う大きな翼が生える。

 

「俺はヴァンパイアだ。日本だと吸血鬼って言うな」

 

それを見たリアス達は、少し唖然としていた。

恐らく予想していなかったのだろう。

悪魔だの堕天使だの言っていたのに、いざ蓋を開ければ目の前にいるのは妖。

 

「で?俺への疑いは晴れたのか?」

 

零の言葉に、今まで警戒していた黒髪ポニーやこちらを睨んでいた木場祐斗、塔城小猫が警戒をやめ、申し訳なさそうに視線を下げる。

それはリアスも一緒だった。

 

「ごめんなさい。本当に私たちの勘違いだったわ」

 

「まぁ、疑いが晴れたのならそれでいい。さっきの事は水に流してやるよ」

 

さて、話は以上のようだし俺は帰らせて貰おう。

そう思い、零がソファーから腰をあげようとした時、ふとリアスが言葉を漏らす。

 

「ねぇ、上城くん。貴方、私の眷属にならない?」

 

唐突に何を言ってるんだこいつ?

眷属にならないか、だと?

 

「それはどういう意味だ?」

 

リアスは零を見ながら、スカートのポケットから紅いチェスの駒を出す。

 

「貴方は知らないと思うけど、これは悪魔の駒(イーヴィル・ピース)って言うんだけど、ほかの種族を悪魔へと転生させることが出来る駒なの。昔、3大勢力、悪魔、堕天使、天使の戦争があったの。その時に各陣営に多大なる被害が出て、純血の悪魔の数がかなり減っちゃったの。

それをどうにかする為に、魔王様の一人、アジュカ様が作った駒なの」

 

「悪魔は面白い物を作るな。それを使って、お前の眷属にってことか?」

 

「えぇ、そうよ。悪魔になる気はないかしら?」

 

「それはお前の手駒に慣れって意味か?」

 

「そういう意味じゃ無いのだけど、まぁ、そう捉えられてしまうわよね。他にも理由はあるのよ?態々貴方を監視しなくてよくなるし、貴方が私の眷属になれば、貴方を疑うようなことも無くなるわ」

 

「悪いが断らせて貰う。」

 

その誘いを零は即答で断った。

 

「俺は俺より弱い奴につくつもりは無い。とは言わないが、眷属と言うことはお前を頭に据えるという事なんだろ?悪いが、憶測で物事を判断し、早計な判断を下すような王で、その王の決断によって落さなくてもいい命を落とすかもしれない。そんな王の元には着きたくは無い。失礼かもしれないが、それは最早愚王と言っても過言ではない。俺ほどとは言わんが、せめてヴラド三世位の王になら着いてやらんことも無い。それじゃあ、俺は帰らせて貰うとする」

 

驚いた表情をするリアス達を置き去りに、その場で蝙蝠へと変化し窓から外へと飛び去って行く零であった。

 

 

 

零が去った後の部室ではこんな会話が繰り広げられていた。

 

「部長。彼の最後の言葉は」

 

「えぇ、まるで昔は王様だったみたいな発言だったわね。しかも、態々吸血鬼(ヴァンパイア)の祖とも言われているツェペシュ公の名前を出して」

 

「ですが、ツェペシュ公位と言うことは、彼の眷属であったわけではありませんね」

 

「少し、調べてみましょうか。それと、皆、今日はごめんなさい。私のせいで…」

 

「大丈夫ですよ部長。お気になさらないでください」

 

黒髪ポニーの女生徒の言葉に、同意とばかりに塔城小猫や木場祐斗、兵藤一誠は頷く。

 

「朱乃、それにみんなもありがとう」




こんな予定では無かったのだが…


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似た色の2人

憂鬱、とはまさにこの事だろう。

昨日の放課後のオカルト研究部での一件で、零は少し反省していた。

いくら王としての格が低いからと言っても、あれはなんでも、初めましての女性への対応ではなかった。

あんな事を言ってしまった翌日の登校なんぞ、地獄でしかない。

しかも1人は同じ教室なのだから、なお最悪である。

それでも、自分が言ったことが間違っているとは思ってはいない。

王の判断が、家臣の命を左右するのだ。

早計な決断を下し、裏ずけも確証も無いうちに物事を決めてしまえば、失わなくていい命を失う。

確かに、そういう確認を取る時間がない場合もあるが、昨日の事に関していえばいくらか早計過ぎたと言わざるをえないだろう。

兵藤一誠の命が狙われていたのなら、護衛を付けるなり、数人で行動するなりの対策を取りつつ、俺の身辺調査を行い、確証を得てから話し合いの場を設ければ良かったのだ。

 

そんなことを考えながら、今日も今日とて教室の席で窓の外を眺める零。

今まさに零が考えていた確証や、裏ずけをとるためにオカルト研究部が動いているとはつゆ知らず、いつも通りに過ごしていく。

最近は、特に誰かが家に来ることも無く、穏やかな日常を過ごしている。

時折、帰路にて視線を感じるが、それそはそれである。

それからまた2週間ほど経ったであろうか。

何時もより賑わっている教室。

周りの声から察するに、転校生がこのクラスへと来るらしい。

担任の教師と共に入ってきたのは、金髪慧眼の女生徒だった。

可愛らしい見た目に浮かれる男子生徒を他所に、その体から発せられる、悪魔の気配に零は、また一人増えた。と、ため息をついた。

 

さて、その転校生、アーシア・アンジェルトが加わったオカルト研究部へと二度目の呼び出しを受けた零。

呼び出しを受けたと言うより、ほぼ強制的に木場祐斗、兵藤一誠に連れてこられたと言っても過言ではないが、前回のようにソファーに座りながら目の前のメンバーを見つめる。

 

「この間はごめんなさいね」

 

「いや、気にしないでくれ。俺もあれは言いすぎた」

 

始まりの会話は、リアスからだった。

前回のように警戒されているわけではなく、こちらをただ見つめるだけのメンバーと、比較的穏やかな雰囲気を纏ったリアス。

そして、イマイチなんで呼ばれたのか分からない零。

その理由は、すぐに分かった。

 

「きっと気づいていたと思うけど、この子。私の新しい眷属のアーシアよ。仲良くしてあげてね」

 

「クラスメイトだからな。まぁ、話すような事があれば仲良くはしよう」

 

「そう。改めて聞きたいのだけど、私の眷属になる気は無いかしら?」

 

またその話か。

前回断っただろうが。

 

「答えは変わらん。断わらせてもらう」

 

「どうしてもなりたくないと?私たちとしても、今のところ不穏因子である貴方に監視として人員を割くより、眷属として私の元に来てくれた方が少し気が楽になるのだけど」

 

「それはそっちの事情だろ。俺にはメリットがない」

 

「貴方も毎日監視されるのは嫌じゃないかしら?」

 

この事は、零も考えていなかった訳では無い。

零も色んなツテを使い、リアス・グレモリーの事を調べていた。

この駒王町の管理者らしく、現魔王サーゼクス・ルシファーの妹。

性格はワガママらしく、我儘姫なんて言う渾名まで着いている。

そして、グレモリー家は愛情深い悪魔であり、眷属に深い愛情を注いでいるのは、前回のリアスの行動を見ればよく分かる。

そんなリアスが、不穏因子である零を放置しておくわけが無い。

それを考えた時に、零は一つ妥協案を考えてきていた。

 

「確かに、毎日毎日監視されるのは俺としても気分が悪い。

だから、一つ案を持ってきた」

 

「その案というのは?」

 

「眷属にはならんが、何かしら困った事があれば力をかそう。

それと、この部屋へ放課後は可能な限りは顔を出す。それでどうだ」

 

監視されるくらいなら相手の懐にいた方が楽というもの。

少し面倒事に巻き込まれそうではあるが、協力するという条件付きなら、まぁ何とかなりそうなものである。

 

「そうね。まぁ、それで良しとしましょうか」

 

「交渉成立だな。それじゃあ、よろしく頼むわグレモリー先輩」

 

「ええ、こちらこそよろしくね上城くん」

 

お互い握手を交わす2人と、それを見つめるメンバー達。

これで、零が物語へと巻き込まれることは決定した瞬間である。

 

さてさて、その後は話した通り放課後は頻繁にオカルト研究へと顔を出すようになった零。

元々、人付き合いが苦手な訳では無いので、オカルト研究メンバーとも親交を深めつつ、まったりした学園生活を過ごしていた。

別段悪魔になった訳でもないので、悪魔稼業の手伝いやらなんやらは一切しないが、それが終わるまでは部室待機をしながら、黒髪ポニテ女生徒、姫島朱乃のお茶を飲みつつ、リアスとチェスを打ったり、木場祐斗、兵藤一誠と日常会話をしたり、塔城小猫を餌付けたりと有り得ないくらいその場に馴染んでいた。

学園に通い、夜はオカルト研究と親交を深める。

そんな日々が続いたある日。

零がオカルト研究の部室へと向かうため、旧校舎へと向け歩いているとふと、旧校舎側からいつもとは違う気配を感じた。

どこかで感じたことのある気配だな。どこだっけか。

そんなことを考えながら、オカルト研究へと向け足を進めるていると、不意に気配が一つ増える。

あ、絶対面倒事だろ。

確信を抱きつつ、しれっと窓から室内へと侵入。

そこには、ソファーに座るリアスの横で、まるでホストみたいな見た目をした男が肩に腕を回していた。

そんな事よりも気になったのは、リアス達の近くに立つメイドの姿だった。

 

「ライザー!私は貴方と結婚する気は無いわ!」

 

そんな零を他所に話は進んでいたらしく、リアスはホスト崩れの手を払い声をだいにして宣言していた。

さて、それでは久々に面倒事に首を突っ込むとしましょうか

 

「んで?俺にもわかるように説明してくれないか、グレモリー先輩?」

 

今気づいたとばかりに、その場にいたオカルト研究部メンバーとホスト崩れ、それと銀髪のメイドがこちらへと振り向く。

 

「上城くん。来てたのね」

 

「誰だその人間は?」

 

少し驚いた表情をしたリアスが言葉を投げかけ、ホスト崩れがこちらに向かって睨みつけてくる。

銀髪メイドは本当に驚いたとばかりに、少し目を大きく開き口元に手を当てている。

はて?この子どっかで見たことあるような?

 

「誰だか知らないが、今少し虫の居所が悪いんだよ。失せろよ人間」

 

ホスト崩れから言葉に、表情を変えることなく零はホスト崩れを見る。

 

「俺からすれば、お前の方が誰だか知らんやつなんだがな?

挨拶のひとつもまともに出来ねぇのか?ホスト崩れ」

 

「あぁ?テメェ、今なんて言った?」

 

どうやら沸点が低いようだ。

実に見た目通りである。

 

「耳も悪きゃ、頭も悪いって救いようがねぇな。ホスト崩れ」

 

「はっ!死ねよ人間!!!」

 

その一言と共に、ホスト崩れから炎が巻き上がり、零へと向かって炎の玉が飛んでくる。

そのまま返してやろうと、手をあげようとした目の前に人影がスっと入ってきた。

それは、先程まで向こう側で立っていた銀髪メイドだった。

ホスト崩れが飛ばして来た炎を消し去り、こちらへと振り向くとまるで何年も離れていた恋人へ接するかのように零の頬へと手を添え、少し涙ぐんだ瞳で真っ直ぐに見つめる。

あ、思い出した。この子あの時の───

 

「お久しぶりです。レイ様…。あれから500年、もう会えないかと思っていました……」

 

「グレイフィア、だったよな?久々だな。姉妹揃って元気にしてたか?」

 

「はいっ。あの時は本当にありがとうございました。姉共々助けていただいて…」

 

昔、銀髪の姉妹を助けたことあったわ。

その時の子だ。うん。思い出した。

 

「しかし、昔よりまた綺麗になったな?一瞬誰か分からなかったぞ」

 

「そうですか。綺麗、ですか。ありがとうございます」

 

優しく微笑むグレイフィア。

その笑みへと笑みを返す零。

因みにだが、未だにグレイフィアは零の頬へと手を当てたままである。

なんですか?ラブコメですか?

そんな二人を唖然と見つめるオカルト研究部メンバーと、ホスト崩れ。

周りが空気と化してますよー!!!

 

「あ、グレイフィアそういえば、さっきのグレモリー先輩の結婚がどうとかって教えてくれるか?」

 

「はい。それはですね────」

 

そうして語られたのは、純血悪魔の繁栄の為の婚約と言う。

そして、その婚約をリアスが拒否した場合にはレーティングゲームなるもので決着を付けるらしい。

なんだ、政治的なあれか。

しかし、手を貸すと言った手前、一応は聞いておかねばならぬだろう。

 

「グレモリー先輩。手を貸しましょうか?」

 

「そ、そうね。お願いしてもいいかしら?」

 

「そういう約束ですからね」

 

今まで空気だったリアスに零が問いかければ、少し動揺した様子で返答を返す。

どうやら、目の前で起こっている零とグレイフィアのやり取りが衝撃的だったようだ。

しかし、この話し合いにはもう一人当事者がいる。

そう、腐れホスト崩れだ。

 

「はっ!?…リアス。ここにいる奴らが君の眷属か?」

 

「上城くんは違うけど、他の子達はそうよ?」

 

どうやら腐れホスト崩れは、零とグレイフィアのやり取りを記憶の彼方に消し去る事にしたようだ。

ついでに存在も。全くこっちを見ない。

 

「そうか。君の女王(クイーン)位しか、俺の可愛い眷属に勝てる奴はいないんじゃないか?来い!我が愛しい女達!!」

 

腐れホスト崩れの一言と共に、部室内に燃え盛る魔法陣が現れる。

あれ、部屋の備品とか燃えないのか??

渦巻くように消えゆく炎。

その中から現れたのは、15人の美女、美少女達だった。

それを見た、兵藤一誠は大号泣である。

いや、なぜ泣いた?え?なんで泣いてんの?

 

「ん?そこの奴はなんで泣いてるんだ?」

 

ホスト崩れも同じ疑問を抱いたようだ。

俺も気になる。なぜ泣いている?

 

「イッセーの夢はハーレム王になることなのよ。だから、貴方の眷属を見て泣いてるんじゃないかしら?」

 

リアスのその言葉に、向こう側の女性陣から野次がとぶ。

しかし、リアスのそんな言葉より気になることが一つある。

それは───。

 

「ところで、上城くんとグレイフィアはいつまでそうやってるのかしら…?」

 

そう。

みんな忘れているかもしれないが、未だに零とグレイフィアは見つめあったままなのだ。

時折、ホスト崩れがこちらをチラチラ見てきたり、ホスト崩れの眷属達が、少し頬を赤らめながらこちらを凝視していたり、グレモリー先輩も少し笑みが引き攣っていたりするが、俺は悪くない。

俺の顔からてを離さない、グレイフィアが悪いと思うんだが?

 

「あぁ、すまん。グレイフィア、手を離してくれると嬉しいんだが」

 

「すいません。少し感情が爆発してしまったみたいで」

 

そう言うと、グレイフィアは零の頬から手を離す。

しかし、そっと零の後ろへ控えるようにして佇むと、零の制服の袖をキュッと摘むのであった。

 

「後ほど少しお話がしたいのですが、よろしいですかレイ様?」

 

「ん?あぁ、問題ないぞ」

 

そう返答すれば、まるで花が咲いたかのような笑みを浮かべるグレイフィアであった。

 

 



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ゲームスタート

すみません!お待たせしましたァ!
え?別に待ってないって?いやいや、そんなこと言わずにぃ〜




リアスとホスト崩れの話し合いも終わり、10日後にレーティングゲームなるものが行われるという情報と、集合場所があの部室という事だけを聞いた零は、グレイフィア・ルキフグスと共に自宅へと帰っていた。

そして現在は、リビングのソファーにて、対面する形で座りあっている。

 

「さて。それで、俺の家まで着いてきてなんの話しだ?」

 

「改めて、お久しぶりですレイ様。そして、その節は大変お世話になりました」

 

「いや、それに関しては気にするな。ほとんど俺のせいでもあるんだからな。それに、そんな事が言いたかったわけじゃねぇだろ?」

 

「それもお伝えしたかった事なのですが、本題は別にあります。

…レイ様、どうか私をこのお家に置いては下さいませんか?」

 

そう告げたグレイフィアの瞳は、真っ直ぐに零の目を見つめていた。

零が言っていたように、昔グレイフィアとその姉を助け、数日間だが一緒に過ごしていたという経緯はあるが、こんなに想われる程とは想像していなかった零は、少しばかり思案に耽っていた。

 

「置くって言ってもな、そんなに広い家じゃないし、一人暮らしの男の家に女が住み込むってのはな?

俺も流石にこんな綺麗な子が同じ家に居たら、抑えが聞かなくなるかも知れないからな」

 

「大丈夫ですよレイ様。覚悟の上でございます。むしろ願ったり叶ったりです…

 

決して難聴系主人公でも、鈍感系主人公でもない零にはマルっと聞こえているのである。

小声って聞こえないようにするためにあるんじゃ無かったか?

まぁ、ここまで言われて、無下にすることもできない。

しかし、一つ注意しないといけないことがある。

この家なんだかんだで色んなやつが来るのだ。

おかしい。認識阻害くん仕事してる?全然阻害出来てないみたいだけど?

最近、おっとり天使と、くそ鴉が家に入ってきてましたが?

 

「……。分かった、置くことは了承しようか。でも、置くに当たって、一つだけ守ってもらわなきゃならねぇ事がある。家にまぁ、色んなやつが来ると思うが、無闇矢鱈に敵対しない事と、手を出すな。これを守れるなら家に居ていいぞ」

 

「はいっ!分かりました。それでは、本日からお世話になります」

 

そう、活きのいい返事をすると、三指を着きこちらへと頭を下げるグレイフィア。

どこでそんなこと覚えてきたのかねぇ?

それお嫁に行く時の挨拶の仕方だよ?

そんなこんなで、そもそも帰る気無かったでしょ?と、聞きたくなるような荷物が家に来るわ来るわ。

え?今日知ったんだよな?前から俺がここに居るって知ってた訳じゃないよな?監視されてんの俺?

と聞きたくなるような手際の良さで、グレイフィアの荷物が家に搬入され、二階にある一部屋をグレイフィアの私室とした。

2階にあるのは俺の部屋、たった今グレイフィアの部屋となった一室、あと二部屋あるんだが、何故だろうか。

まだこの家に人が増える気がしてならん。

静かに暮らすとか、もしかして無理?

 

そんなくだらないことを考えている内に、夜は更けていった。

そんなこんなで、オカルト研究部の面々は修行だか何だかに行っており、部室にいない状態が続いた10日後。

指定されていたレーティングゲームなるものの日だ。

ん?俺か?

俺は普通に学生らしい日々を過ごさせて貰ったぞ。

修行に同行?する訳無いだろ。

手は貸すが、俺はグレモリー先輩の眷属ではないからな。

わざわざ修行にまで同行する義務は無いだろ。

 

深夜0時と共に、部室にて待機していた零とグレモリー眷属は、足元に浮かんだ魔法陣と共に旧校舎の部室から全員姿を消したのだった。

 

眩しい光が無くなると同時に、目を開ければそこは先程と変わらない旧校舎の部室であった。

 

「あ、あれ?転移失敗ですか?まさか、俺のせいで…」

 

「いいえ。違うわよイッセー。ここがレーティングゲームの会場なの。別次元に学園のレプリカを作ってあるのよ」

 

そう。今リアスが説明したように、今回のレーティングゲームの会場は駒王学園のレプリカとなっている。

さて、両陣営。

グレモリー眷属+αとフェニックス眷属がこの空間に転移してきた様子を別の空間から見ている人達がいた。

 

「少しよろしいか。サーゼクス殿」

 

「どうかしましたか、フェニックス卿」

 

「私の気のせいでは無いなら、サーゼクス殿の妹君と一緒にいるあの白銀の髪の男は…」

 

「それには私がお答え致しましょう、カイザー・フェニックス様」

 

覗いていた人物は、リアス・グレモリーの兄であり、現魔王サーゼクス・ルシファーと、ホスト崩れの親であるカイザー・フェニックス。

そして、サーゼクス・ルシファーの眷属で女王(クイーン)

グレイフィア・ルキフグスの姉アレイシア・ルキフグスとグレイフィア・ルキフグス。

そして、カイザー・フェニックスの妻のメイシア・フェニックスである。

グレモリー眷属と共に現れた零を見て、なにかに疑問を抱いたカイザーの問いかけに答えたのは、グレイフィアであった。

 

「恐らくですが、カイザー様が思っておられる戦争時の時の人物と同一人物であります。我々悪魔と魔王、天使と神、堕天使を相手に、圧倒的強さで戦場を一人駆け巡った理不尽。今だに語り継がれる不条理。覇王(・・)レイ・ドラクレシュティ様でございます」

 

グレイフィアのその言葉と共に、グレイフィア、アレイシア、サーゼクス以外の頬が引き攣る。

何故あの理不尽がここにいる?

蘇る当時の記憶。

3種族に囲まれようが、笑みを浮かべその尽くを屠り、後に現れた二天龍さえも蹴散らし、気づいたら戦場から居なくなった圧倒的強者。

それが再び目の前に現れた。

 

「サーゼクス殿、何故あの白銀の覇王(・・・・・)がここにいるのかお聞かせ願えるか?」

 

引き攣った笑顔のまま、サーゼクス・ルシファーへと問いかけるカイザーに、サーゼクスは困ったような笑みを浮かべた。

 

「フェニックス卿、実は私も何故彼がここにいるのかは分かってないのです。妹の眷属では無いらしいのですが、何か妹と契約を交わしているらしく、私自身も驚いているところですよ。何せ、各陣営が探しても全く見つからなかった人物がふらっと目の前に現れたのですから」

 

そんなカイザーへとサーゼクスは、爽やかな笑みをそえてそう答えた。

さて、少し混沌としてきた両陣営親族をよそに、いよいよレーティングゲームが始まろうとしていた。

 

「さて。それではグレモリー先輩。俺は協力するとは言ったが、指示に従うとは言っていない。だから、ゲームスタートと共に自由に動かさせてもらうぞ」

 

「ええ。構わないわよ。本当は指示に従って貰いたいのだけど、貴方との約束に指示に従うようにっていうのはなかったものね」

 

リアスの了承と共に、校内放送にてゲームスタートの合図がなされた。

その瞬間、オカルト研究部部室から、零の姿は消え去るのであった。



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予想外

レプリカの駒王学園にある校舎内。

一回廊下を零は何食わぬ顔で歩いていた。

遠くの方では、何かの破壊音が微かに聞こえてくるが、知ったことではない。

確かに手伝うと言ったが、別に率先してライザー(ホスト崩れ)の眷属を倒そうとは思っていない。

向こうから仕掛けてくるのならば、いくらでも御相手するが、わざわざこちらから行く必要もあるまい。

そんなこんなで、敵陣本拠地である駒王学園の校舎内をブラブラと散歩しているのである。

 

しかし、接敵しないつもりではなかった。

もし接敵しないつもりならば、わざわざゲーム開始早々に敵陣本拠地へと単身突入等という馬鹿な真似はしない。

もし敵がわざわざ自陣に単身突入してきているのに、見逃すようなマヌケはいないだろう。

そして、それはこのゲームにおいてもそうだ。

零は初めて顔を合わせた時に、敵将であるライザー・フェニックスを散々コケにした。

それを許すような家臣など、自分の主に忠誠を持っていないものくらいだろう。

故に、現在零の目の前に立つ女性はちゃんとライザー・フェニックスに忠誠を誓っているという事なのだろう。

 

「こんばんは。こうやって言葉を交わすのは初めてですね。私はユーベルーナと申します」

 

「初めまして。知っているとは思うが、俺は上城零。

貴女はライザー・フェニックスの眷属の中で一番強いな」

 

「ふふっ。それはそうですわ。私はライザー様の女王(クイーン)ですもの」

 

駒王学園二階にて、遂に敵と接敵した。

零の目の前に立つのは、女性一人。

そして、忠誠を誓っているという事は、ここで零を見逃すつもりは無いようだ。

零の周りで動く魔力。

既に、相手方は攻撃の為に動き始めている。

 

女王(クイーン)か。と、言うことは貴女を倒せばグレモリー先輩達の勝率も自然と上がるわけだ」

 

「残念ながら、それは有り得ませんわ。

たかが人間風情の貴方に私が倒せるわけがありませんもの。それに、何かの間違えで貴方が私を倒したとしても、我らが主、ライザー様を倒す事は不可能ですわ。それでは、さようなら」

 

ユーベルーナのその言葉と共に、零は爆発に飲み込まれた。

 

「だから言いましたのに。貴方が私を倒す事など無いと」

 

そう言い残し、振り向き立ち去ろうとするユーベルーナ。

しかし、立ち去ること無くその場で足を止め、もう一度零の立っていた場所へと目を向ける。

舞っていた土埃が少しづつ晴れて行くと、そこには無傷で立つ零がいる。

 

「なぜ…ですの。確かに貴方は私の爆発に呑まれたはず!!」

 

「あぁ、今の爆発の事か?あんなもんで俺を殺せるとでも?ん?あ、これゲームだから死なないって言ってたか。言い直そう。あんなもんで俺を倒せると思ったのか?」

 

「人間でしたら、今の一撃で跡形もなく消し飛ぶはずですわ!」

 

「はっ。よかったよ、俺がただの人間じゃなくて。」

 

上着に着いた土埃を払い、ユーベルーナを見据える零。

 

目の前で不敵な笑みを浮かべる零。

そっから何が起こったのかは、ユーベルーナに理解できなかった。

魔力も何も感じない人間が、悪魔である自分を一方的に攻撃をくわえてくる。

気づけば眼前におり、正面から殴り飛ばされ、殴り飛ばされたと思えば、吹き飛んだ場所におり、そのまま蹴り飛ばされ、魔法を使おうとすれば、何故か魔力が分散し魔法が使えず。

 

何が起こっている?

何故人間などにここまでやられる?

なんで魔法が使えない?

なんで?どうして?

 

そんな事が10分ほど続いただろうか。

満身創痍のユーベルーナなが吹き飛んだ場所は、駒王学園の校庭だった。

気づけば、学園内から校外へと吹き飛んでいた。

恐らく、今自分が吹き飛ばされたであろう学園の廊下部分の壁が崩れ、土埃が立っている。

その土埃を睨みつけながら、起き上がり胸元に手を入れる。

 

「ユ、ユーベルーナ!?」

 

あの人間かどうかも分からないモノを警戒していると、横から声をかけられた。

ふと、周りを見渡せば自分の味方二人と、グレモリー眷属が3人立っている。

みんな一様に驚いた顔をして、こちらを見ていた。

 

「どうしたのユーベルーナ!?」

 

「レイヴェル様……」

 

自分を心配して駆け寄ってくる、金髪に縦ロールのツインテール。

少し小柄だが、胸の発育は十二分というほど育っている。

 

「離れて…いてください……」

 

そう言うと、少しづつ晴れていく土埃を睨みつけ、胸元を漁る。

何かを探していたのだろうが、その探しているものが見つからなかったのだろう。

胸元から手を外し、真っ直ぐに土埃へと両手を伸ばす。

消えていく土埃から、ゆっくりと歩き出てくるのはもちろん零。

その右手には何か小瓶が握られている。

 

「探し物はこれか?何か分からなかったが、とりあえず貰っておいたぞ」

 

「くっ…やはり、貴方が…!」

 

「ん?まだこんな所にいたのか。兵藤一誠、木場祐斗、姫島先輩」

 

小瓶を見せると、ユーベルーナの顔が歪む。

零は、そんな事はお構い無いと、その後ろでライザー(ホスト崩れ)の眷属と剣を合わせたままこちらを見ている木場祐斗と、間抜け面を晒している兵藤一誠、そして、いつでも動けるようにしている姫島朱乃へと視線を向けていた。

呆れたと言わんばかりに、首を左右に振る。

 

「ここは俺に任せて(ライザー)の首でも取ってこい。効率良く、無駄の無い一手、それが大事だぞ」

 

その言葉と共に、木場祐斗と剣を合わせていた女が吹き飛び、木場祐斗の目の前へと現れた。

 

「ほれ、ボケっとしてないでさっさと行け」

 

その言葉を聞き、イッセー達は校舎へと走っていった。

その後ろ姿を横目に、ユーベルーナとライザー眷属2人の女と対峙する零。

満身創痍なユーベルーナ(女王)、レイヴェルと呼ばれた女の子、木場祐斗と剣を合わせていた女がこちらを睨みつける。

兵藤たちにああ言ったはいいものの、既にこのゲームとやらには飽きてきている。

数百年前なら愉しく出来たかもしれないが、最近はあまり闘争心というものがわかなくなり始めたからかもしれない。

俺が最後に暴れ回ったあの戦からはもうだいぶ経つしな。

弱いものいじめのような気もする。

それにわざわざ倒す必要は無いわけだ。

と、いうことは。此奴らが疲れ果てるか、兵藤たちがライザー・フェニックス(ホスト崩れ)を倒すまで攻撃を捌ききればいいか。

 

「さて、では少々御付き合い願おうか」

 

 

 

 

 

そうして、俺の予想とは裏腹にグレモリー眷属は負けた。

投了(リザイン)という形で。

 



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