がんばれ!ゼロの使い魔!! (雛月 加代)
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トリステインの貴族たち
プロローグ


「何が悪いって言うのよ!」

 

「『「『えっ?』」』」

 

「アンタたち、平民はなんの役にも立てないただのゴミクズでしょ!?家畜と同じ!!それをどう扱おうがアタシの勝手じゃない!!だいたいアイツ家畜のクセに貴族に逆らうなんて生意気すぎ!!私がこんっなに魔法が使えないことで悩んでるのに!!だから盾にしてあげたのよ!!むしろご主人様のために死ねたんだから感謝すべきだわ!!」

 

「『「『・・・・・・・・・・・・・・。』」』」

 

桃色髪の少女、ルイズの言い分に周りにいた者たちは唖然とする。

 

「それにアンタたちが私を放っておいたのが悪いんでしょ!謝罪なんてしないから!」

 

「・・・ミス・ヴァリエール、あなたって人は・・・・」

 

あまりの言いように側にいたメイドが口を開く。

 

「何よ?文句あるの?言いたいことがあるなら言いなさいよ!!」

 

「・・・・・・・・・・・・・。」

 

「あいつが死んだのはアンタたちのせいなんだからね!私は一切悪くない!」

 

周りの人間は険しい顔でルイズを睨みつける。

 

「とにかく私は悪くない!だって、姫様が言ったのよ。そうよ、姫様がやれって!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

トリステイン魔法学院では春の使い魔召喚の儀式の最中であった。 それは二年次に進級する生徒達が使い魔を召喚、契約し、自身の魔法属性と専門課程を決める重要な儀式である。生徒達は自分たちが召喚した使い魔をみて明るい表情を浮かべている。 だがその中で一人だけ暗い表情をした生徒がいた、 杖を掲げながら使い魔召喚のための呪文「サモン・サーヴァント」を唱えては爆破を繰り返していた。

 

「何で!?何で何も出てこないのよっ!!」

 

彼女、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブランド・ラ・ヴァリエールは本日数回目の叫びを上げた。

 

周囲からは

 

「さすがゼロのルイズだな!」

 

「サモン・サーヴァントすらまともにできないのかよ!」

 

冷たい言葉が投げかけられる。

 

彼女はヤジを飛ばした生徒達を睨みつけ言いかえす。

 

「うるさいっ!見てなさい!あなたたちの使い魔なんか遠く及びも付かないほど 強く!美しく!気高い使い魔を召喚してみせるんだから!」

 

そして彼女は再び杖を掲げ今までで、最も集中し、心の底から念じながら「サモン・サーヴァント」の呪文を唱えた。

 

「宇宙の果てのどこかにいる・・・・・・わたしの僕よ。神聖で美しく!そして、強力な使い魔よ! 私は心より求め、訴えるわ!・・・我が導きに、応えよっ!」

 

ドーーーーーーーーーーーーーン!!!!!!

 

そして例によって大きな爆発が起き、砂埃がその場にいた全員の視界を覆った。

 

「私の・・・っ!私の使い魔は!?」

 

ルイズは必死になって目をこらした、もしかしたら成功しているかもしれない!という淡い希望があった。

 

 

 

 

 

だが

 

「平民だ。ルイズが平民を召喚したぞ!」



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1

「あんたたち誰?」

 

ルイズに召喚された少年は周りを見渡していた。

 

(おい、スネ夫。ここはどこだ?)

 

(わかんない。)

 

そこは見慣れない土地で変な服装の少年少女たちがいた。

 

「ちょっと!平民が貴族を無視してただで済むと思ってんの!?何とかいいなさいよ!?」

 

ルイズはただでさえサモンサーヴァントで平民を呼んでしまいイライラしているのに、その平民に無視されたことから、怒りが込み上げてきた。

 

「ミスタ・コルベール!」

 

少女がそう怒鳴ると、人垣を分けて中年の男性が出てきた。

 

「なんだね、ミス・ヴァリエール?」

 

「あの!もう一回召喚させて下さい!」

 

だがあきれた顔つきでコルベールと呼ばれた男は許可しなかった。

 

「それはできない・・・この儀式はメイジとして一生を決めるもの・・・それをやり直すなど、儀式の冒涜だ!」

 

「そんな・・・」

 

ルイズはガックリと肩を落した。

 

「さて、では儀式を続けなさい。」

 

「えー、あれと?」

 

まるで汚物を見るかのような目で少年たちを指差すルイズ。

 

「そうだ。早くしないと次の授業が始まってしまうじゃないか。君は召喚に、一体どれだけの時間をかけたの思っているんだね?何十回も失敗して、やっと呼び出せたんだ。いいから早く契約したまえ!!」

 

そうしている間にも周りからは罵声が飛び交い、ルイズの怒りが頂点に達した。

 

「なんであんたみたいな役立たずが出てくるのよ!!」

 

ブチッ

 

少年たちは目の前の少女が自分たちに対して、何故これ程までに憤慨しているのか理解しかねていた。しかも怒りの全てが自分たちだけに向けられているのではないというのは何となく分かったものの、いきなりこんな見知らぬ場所へ連れて来られ、更に「何故来たんだ!」と逆ギレされれば、いくら二人でもムッとなる。

 

「ハァ?意味分かんねーよ。何でアンタがキレてんだよ?寧ろ、こっちがキレたいくらいなんだけど・・・・」

 

「うるさい!平民の子供のくせに貴族へそんな口利いて!?」

 

「平民?貴族?何だよ、それ?ホント、マジ意味分かんねーし。」

 

「うるさい!うるさい!うるさい!」

 

「・・・・・・疲れるなこの猿。」

 

ジャイアンが怒り半分、呆れ半分で言葉を返した。そんな彼を尻目にルイズはジャイアンの顔を見つめると、一度、溜息をつく。

 

「(・・・・仕方ない。さっさと終わらせよう。) あんたたち感謝しなさいよね。貴族にこんなことされるなんて、普通は一生ないんだから!」

 

そう言うと、ルイズは真剣な顔で杖を振り上げ呪文を唱える。

 

「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。五つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え、我の使い魔となせ。」

 

どうやら目の前の少女は自分の話は聞かず、強引に使い魔にしようとしているらしい。コントラクト・サーヴァントの呪文を紡ぐと、ジャイアンに唇を近づけていくが・・・・

 

「・・・・なにしゃがる!!」

 

次の瞬間、ルイズの顔面にジャイアンの拳がめり込んだ。唇を近づけた瞬間に、少年は本能的に身の危険を感じたのだ。

 

 

ドカン!

 

ノーモーションからのパンチ、それだけでルイズは数メートルも吹っ飛んだ。

 

「乱暴な! 急に何を!」

 

コルベールがルイズに駆け寄り、助け起こす。

 

「なっ、何すんのよアンタ!」

 

ルイズはジャイアンに怒鳴り出す。



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2

「ちょっと聞いてるの!?返事くらいしなさいよ!」

 

ルイズが額に青筋を浮かべて、ずんずんと近づいてくる。

 

「ここはどこなんだ?」

 

「・・・ここはトリステイン魔法学院よ。そんなことよりご主人様に向かってその口の利き方はやめなさい!!」

 

「トリステイン・・・・・?なんだそれ・・・・?食いもんか?」

 

「はあ!?トリステインを知らないなんて・・・・どこの田舎ものよ!?って、そんなことはどうでもいいわ。さっさと契約の儀を済ませてこの話は終わりよ!!」

 

「さっきからなんなんだ、お前は?」

 

妙につっかかっくるルイズに少年たちはすごく嫌そうな顔をする。

 

「私はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール!あんたのご主人様よ!さっさと契約して私の使い魔になりなさい!」

 

「落ち着きなさいミス・ヴァリエール!」

 

すると憤慨しているルイズをコルベールが仲裁に入る。

 

「さて、あなたはこの魔法学院の召喚儀式で呼び出されたのです。使い魔召喚は神聖なる儀式でいかなるルールよりも優先されます。突然で申し訳ありませんが、掟に従って貴方たちには使い魔になってもらいたいのですが・・・・・」

 

「・・・・・使い魔?」

 

目の前の人間が自分を使い魔にしようとしていたのは理解した。さっきの術は使い魔の契約というやつなのだろう。

 

「どうする、ジャイアン?」

 

スネ夫がジャイアンとコソコソ話を始める。勝手にここに連れてきた挙句、理不尽な要求。何て自分勝手な人間たちだろう。使い魔と言うのは何か分からないが、契約したらロクな事にならない事だけは分かる。

 

「・・・・それじゃあ可哀想だけど仕方ないね。」

 

「可哀想?全然可哀想になんか見えねーけど。」

 

なので二人はルイズに向き直ると

 

「・・・・ってことで、俺たちはお前の使い魔ってのにはならないから。」

 

「なっ!?アンタ!たかが平民が貴族の使い魔になれるなんて名誉なことないんだから黙って言うこと聞きなさいよ!!」

 

「うるせえ!なんで俺たちがお前みたいなチビの使い魔にならないといけないんだよ!?」

 

ジャイアンのハッキリとした物言い。

 

「~~~~~~~!!」

 

遂にルイズがキレる。咄嗟に杖を少年に向け、何やら呟いた。その瞬間、少年たちは強い殺気を感じ、すぐにその場から飛び退いた。すると、その直後に少年たちのいた場所が爆発する。

 

「このお・・・・・」

 

ジャイアンは一瞬でルイズの目の前まで来ると、彼女の首をその手で掴み、持ち上げる。

 

「ぐっ・・・・!?」

 

「なにしゃがる、このチビ!?」

 

ジャイアンは殺気を込めた目で睨み付けた。勝手に連れて来られた上に身勝手な要求、更に実力行使までされては流石のジャイアンも我慢出来なかった。

 

「私の生徒に何をする!?」

 

すると後ろでコルベールが先程のルイズと同様に杖をジャイアンに向けた。怒りの形相を浮かべ、杖を強く握りしめ少年を睨みつける。



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3

「あぁ?変な真似したらこいつの首へし折るぞ?」

 

ジャイアンは振り向かずに言った。言葉は乱暴だが、その口調は驚くほど静かで不気味であった。それを目の当たりにしただけで、コルベールは目の前の少年がこういうことに慣れており、その言葉が偽りではないことを悟る。どんな境遇にいれば、こんな年端もいかぬ少年にそんなことが出来るのだろうとコルベールは思わずにいられなかった。

 

「わ、分かった。だが、彼女から手を離してくれ」

 

そう言いいながら、コルベールは杖をおさめる。ジャイアンもルイズの首から手を離すと

 

「この国について色々と知りたい。ここの責任者に会わせてくれ。」

 

と声をあげる。使い魔の契約を拒否されるなど前代未聞の事態に、コルベールは自分では対処しきれず、学園長に合わせることにした。

 

「そんな!ミスタ・コルベール!私はまだコントラクト・サーヴァントを済ましてません!」

 

「・・・まぁ待ちたまえ、ミス・ヴァリエール。私に考えがあります。」

 

とコルベールはルイズに耳打ちした。

 

「???」

 

「見たところ、彼らは相当の異郷から来た様子。帰還は困難を極めるでしょう。言い包めてしまえば、その内こちらに住みたくなりますよ。」

 

そう。それはルイズにも分かっていた。この平民たち、恐らくはハルケギニア近郊の民ではない。妙な服装をし、話を聞く限り文化も大きく異なる。如何な理屈か、言葉は通じているのが不幸中の幸いだ。

 

「それに契約をしてしまえばこっちのもの。例え、その後彼らが暴れても、ルーンの力で簡単に抑え込むことができます。だからまず彼らが契約をするよう仕向ければ良いのです。」

 

「・・・・・そう、そうですね。ありがとうミスタ・コルベール。ヴァリエール家の名誉と誇りに懸けて、必ずやあの使い魔たちと契約してみせます!」

 

コルベールに煽られ、ルイズはノリノリに。使命感に燃えるルイズを誰にも気づかれる事のない刹那、冷ややかな目で見つめた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それでは皆さん、春の使い魔召喚の儀はこれにて終了です!教室にて待機するように!」

 

ここでコルベールが大きな声で叫び、生徒達は、一斉に宙に浮いた。

 

「ルイズと使い魔、お前達は走ってこいよ!」

 

「急げよー」

 

そういって、生徒達は飛び去っていった。

 

「・・・・ジャイアン、人が飛んでる。」

 

「そうだな・・・・・」

 

秘密道具を使ってるわけでもなく、こちらの世界では飛ぶのが普通なのか?

 

「どうかしたのかい?」

 

「いや・・・・・こっちではあんな風に飛ぶのが普通なのか?」

 

「はぁ?あんたたちフライも見たことないの?それに飛べるのはメイジだけよ。・・・全くどんな田舎からきたんだか・・・」

 

「こら、ミス・ヴァリエール口を慎みなさい。」

 



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4

「なるほど。君たちの存在はよく分かった。さて、話は変わるが、よかったら君たちはミス・ヴァリエールの使い魔になってくれんかね? 君たちの故郷は遠く、帰ろうにも帰り方も帰る手段も見つからぬのじゃろう?ミス・ヴァリエールの使い魔になれば君たちを無下に扱いはせんし、衣食住の保証は出来るしの。」

 

「そうね・・・さっき殴ったのは・・・まぁ、私の寛大な心で許して、私の使い魔になることで不問にしてあげるわ!」

 

それだけ言うとルイズはふん、とそっぽを向く。

 

「断るぜ。」

 

オスマンの頼みを却下する。

 

「な、な、何んですって!!ふ、ふざけないでよ!!」

 

「ふざけてんのはどっちだよ?お前らの都合を勝手にこっちに押し付けんなよ。」

 

「貴族に召喚されることがどんなに有り難いことか、オールド・オスマンの話で分かったでしょ!?」

 

「あのなあ、逆の立場で考えろよ。アンタが同じことされた上にそんなこと言われて、素直に『はい、光栄です』って言えるか?」

 

「・・・・・うっ!」

 

少年の反論にルイズが言葉を詰まらせる。

 

「フム。やはりのう・・・。しかし使い魔がいないと彼女は留年になってしまうのじゃよ。」

 

「それは、おじいさんが特例を出せばいい話じゃない。学院長なんでしょ?」

 

「少年たち。彼女の使い魔にならないのなら、ここに身を置くことは出来んのじゃが・・・・・・・・?」

 

「別にいいぜ。そこまでしてこんな所にいたくないし・・・・・・。」

 

「ふぅ・・・・・困ったもんじゃのぅ・・・・・・。」 

 

少年たちの言葉にオスマンは何も言い返す事ができない。

 

 

 

 

 

 

「ちと三人で話をさせてもらいたい。他の者は席を外してもらえんじゃろうか?」

 

ミス・ロングビルはうなずいて少年たちをチラ見した後、部屋の外に出て行った。ムスっとしていたルイズもコルベール先生に促されて出て行った。

 

バタン

 

三人になったのを確認したあとオスマンは口を開いた。

 

「この世界の社会は魔法を使える貴族と使えぬ平民で成り立っておる。やはり力を持つものと持たぬものじゃ扱いもだいぶ変わってしまう。」

 

話が長くなると悟った少年は近くにあった椅子に腰掛ける。

 

「その貴族の中でも一、二を争うほど上の位にいるのがヴァリエール家なのじゃよ。」

 

「『・・・・・・・・・・・。』」

 

「そうなればこそ魔法の扱いにも余計に長けておかねばならぬのじゃよ。ただの貴族でない故にな。」

 

「『・・・・・・・・・・・。』」

 

「ただあの子は生来魔法がうまく使えず過ごしてきた。この学院に入ってから勉学も重ねてきたのじゃが、うまくいかん・・・・。それゆえに周りからの重圧も陰口もあったろう。」

 

「『・・・・・・・・・・。』」

 

「そしてようやく上手くいったのが使い魔の召還なのじゃ。君たちがここに居るのはあの子の努力の証なのじゃよ。まだまだ子供ではあるが、どうかあの子の使い魔としてすごしてもらえんじゃろうか?」

 

オスマンは頭を下げた。

 

「・・・・・・・・・・・。」

 

だが少年たちは、この老人が真剣に教え子のことを気に病んでいないことは知っていた。聞くところによると、ルイズは魔法を失敗するたびに他人からバカにされてきたという。そのバカにしていた人物たちの中にはこの老人も含まれているだろう。こうやって必死になって頼むのも自分の学院長としての立場故。ヴァリエール家の娘が進級できなければ、オスマンは校長としてなんらかの責任を取らされる。そんな自分の保身しか考えない人間の頼みなど、どうでもいい。



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5

扉の外ではロングビルとコルベールとルイズが待機していた。

 

「うー」

 

「大丈夫ですよ。学院長ならなんとか説得してくれるはずです。」

 

にっこり微笑みながらコルベールはルイズに語りかける。

 

ガチャリ

 

開いた扉から少年たちが出てくる。

 

「あ!」

 

ルイズは駆け寄り、下から少年たちを睨みつける。だが少年たちはルイズに見向きもせず、そのままどこかへ行こうとする。

 

 

 

 

 

 

ガチャリ

 

「待ってくれ!」

 

少年たちを呼び止める声がした。振り返るとそこにはオスマンが息を切らせながら追いかけてきていた。

 

「ならばこういうのはどうじゃ?わしらが君たちを元の場所に戻す手段を探す間、彼女のそばにいてくれんかね?召喚した使い魔を送り返すことなど今まで前例がないことじゃからの、どうしても時間がかかるんじゃ。契約するかどうかは君たちに任せる。言わば仮契約期間と言う事で大目に見てはくれんかね?その間、君たちはこの学校で暮らしてもらってかまわんよ?」

 

「・・・・・・・・・。」

 

少年たちは考える。帰るためには、まず一旦どこかに落ち着いた方がいい。前例がない以上、すぐには見つからないからだ。それにオスマンたちに頼るのは、大きな間違いだ。何故なら使い魔とは生涯を共にするパートナー。故に彼らは契約をする機会を狙っているに違いない。帰る方法を探す気なんてさらさらないのだ。ならば自分たちで探すしかない。運良くここは学校、ならば図書室もあるだろう。必要な情報はそこで探すことにしょう。

 

「いいぜ。その話を受けよう。」

 

「おお!感謝する。それと、ここにいる者たちはほとんどが貴族じゃ。危害を加えないでもらいたいんじゃが・・・・」

 

「それは保証しない。」

 

「・・・・最悪、国が総力を挙げて殲滅にやってくるぞい?」

 

「いいぜ、別に。」

 

「うん、むしろ望む所さ。」

 

こんな奴らに従うくらいだったら、死んだ方がマシだ。少年たちはそんなことを考えるのであった。

 

「・・・・・・・・・・・。」

 

少年たちの言葉にオスマンは黙り込んでしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

コルベールが新しく部屋を用意する間、仕方なくルイズの部屋に泊まる事にした少年たち。

 

「ご主人様への言葉遣いはともかくとして!ようやく立場を理解したようね!」

 

オスマンとのやりとりを見て何を勘違いしたのか、ルイズはベッドに仁王立ちになりビシィッ!っと少年たちに人さし指を突き付ける。

 

「ハア〜っ。」

 

そんな彼女に少年たちはため息をつく。殴られた事をまだ根に持っているのかこの後もルイズは、平民の癖に貴族の言う事を聞けない訳!? と、語気を荒めて言う。平民、平民と連呼して。終いには、まったく、なんでこんなの召喚しちゃった訳?と言うルイズ。

 

「・・・・・とにかく、使えないあんたたちに仕事をくれてやるわ。」

 

そう言いながらルイズは脱いだ下着を少年たちに投げつける。

 

「それ、明日の朝に洗っておいて。それと・・・」

 

今度は床を指差し、

 

「あんたたちは・・・・ゆ『ドン!』!?」

 

言葉を言い終える前に、ルイズの顔面に拳がめり込む。この後、ジャイアンの攻撃を受けたルイズはその場に倒れた。ある程度気の晴れたジャイアンとスネ夫はルイズのベッドで眠りに突いた。



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6

少年たちとルイズは朝食をとるために、『アルヴィーズの食堂』にいた。そこは華やかな作りで見るからに貴族趣味といった感じの建物であり、豪華絢爛という言葉がぴったり当てはまる。食堂には豪華な料理が沢山並んでおり、さすが貴族だと思い席に着いた。

 

「ちょっとここは貴族しか座っちゃダメなの!あんたたちはこっち!」

 

床を指さしながら少年たちに言い放つ。そこには堅そうなパン一つが置いてあった。

 

「本来なら食事中、使い魔は外で待機しているのよ!特別に一緒に居させてあげてるんじゃない!」

 

感謝しなさいと言いたげな態度を取るルイズ。勝手に連れてきておいてなんという言い草だ。

 

(こいつらご主人様に向かって偉そうなのよね。どっちが上なのかはっきりさせないと・・・・)

 

というルイズの考えだった。

 

「いいわね! ご飯が食べたければ、これからきちんと言うことを聞きなさい!」

 

ルイズが勝ち誇ったような顔で少年たちに向き合い、言い放つ。するとジャイアンとスネ夫は沈黙したまま踵を返し、外へと向かう。

 

「どこいくのよ?」

 

「『・・・・・・・・・・・。』」

 

ジャイアンとスネ夫は無言のまま立ち去った。

 

「なによアイツら・・・・」

 

そうつぶやくと食事の前の祈りの唱和がはじまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あら、どうかなさいましたか?」

 

「えっ?」

 

後ろから声をかけられたのでジャイアンとスネ夫は振り向く。そこにはメイド服を着た黒髪の素朴な少女が大きい銀のトレイを持ち、立っていた。

 

「貴方たちは、もしかしてミス・ヴァリエールが使い魔として召喚したという平民の方ですか?」

 

「そうだよ、君は・・・・?」

 

「貴方と同じ平民のシエスタといいます。貴族の方々をお世話するために、ここで住み込みでご奉公させていただいてるんです。」

 

「僕、スネ夫!」

 

「俺、武!」

 

自己紹介したシエスタに二人はおとなしく挨拶した。その時

 

ぐ〜〜〜〜〜っ。

 

お腹がなった。

 

「お腹が空いてるのですか?」

 

「『うん・・・・・・。』」

 

「こちらにいらしてください」

 

シエスタはそう言うと、二人の手を引いて歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「美味いぜ、これ」

 

「よかった。お代わりもありますから、ごゆっくり」

 

「ありがとう。」

 

シエスタが二人を案内したのは、食堂の裏の厨房だった。料理長のマルトーが豪快な笑い声とともに口を開いた。

 

「ハッハッハ、貴族の使い魔なんておめえたちも大変だなぁ!大したもんはないが、食ってけ!」

 

ジャイアンとスネ夫は今、まかないのシチューをご馳走になっている。

 

「うめえや!おかわり!」

 

「あ!僕も!」

 

「あぁ・・・・スゲェな・・・・。これ一応4杯目なんだけどな。まあ、いっぱいあるから安心してくれよ。」

 

マルトーはジャイアンとスネ夫の喰いっぷりには目を見開かざるを得ない。



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7

少女は傷つき、血だらけで倒れていた。そんな彼女にキザな貴族、ギーシュは笑いながら唾を吐きかける。周囲の生徒達も、教師も、大笑いしながらワインのボトルや皿に乗った食べ物を投げつける。事の発端は数分前に遡る、シエスタがケーキを配っている途中、ギーシュが落とした小瓶を拾って届けようとした。その結果、ギーシュは二股がばれてフラれてしまった。その腹いせにギーシュはシエスタを痛めつける。

 

「やっちまえ、そんな意気地のないヘボメイド!」

 

この世界は魔法が全て。魔法が使えない平民は無力。それ故、他のメイドや料理長は何も出来ず、ただ拳を震わせるだけ。

 

「弱い上にプライドもない。喧嘩の一つも買えない。しかし頭の中は夢いっぱい。まるで虫けらだ!!」

 

「『「『「『「アハハッハハハハハハハハハハハ!!!!」』」』」』」

 

「いいか?平民は貴族にはどうやっても勝てない!平民が夢を見る時代はないんだよ!」

 

「『「『「『「アハハッハハハハハハハハハハハ!!!!」』」』」』」

 

生徒たちだけでなく、教師も一緒になって笑いだす。こうなると貴族という言うよりも、まるでチンピラだ。

 

「・・・・・う・・・・・う・・・・・・」

 

シェスタの目から涙が溢れる。どうして自分はこんなに弱いんだろう、自分はなんて無力なんだろう。

 

「随分、躾のなっていないメイドじゃないか。平民なだけある。まったく親の顔が見てみたい、そして聞いてみたいよ。どんな躾をしたんだい。と」

 

「!?」

 

その言葉にシエスタは殺意の篭った目でギーシュを睨む。

 

「ん?何だい、その目は?」

 

「あ・・・・・・いえ・・・・その・・・・・」

 

「君は貴族に対しての礼儀がなっていないようだね? 流石、平民だ!」

 

ガッ

 

そう言いながらギーシュはシエスタの頭を蹴り上げる。

 

「『「『「『「アハハッハハハハハハハハハハハ!!!!」』」』」』」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シエスタは洗濯場で体育座りをしていた。その表情はまるで魂の抜けた抜け殻のようだ。

 

「随分、面白い格好をしてるね。」

 

「!?」

 

「アハハハハ、ここのクックベリーパイはやっぱり最高だ。」

 

突然声をかけられ、シエスタは我に返る。そこにはをあぐらをかきながら、クックベリーパイを食べているジャイアンがいた。

 

「あなたは、今朝の・・・・・」

 

そう言いながら少女は険しい顔で少年を見つめる。

 

「何を悔しがってるんだ?さっきの戦いはお前の勝ちだぜ。」

 

「えっ?」

 

少年の言葉にシエスタは目を見開く。

 

ニヤリ

 

「あいつらの言ってる事は全てクソだ!!平民が夢を見る時代はないだって!?おい!?ハハハハハハハッハハ!!!」

 

「・・・・・・・・・・。」

 

「人の夢は終わらない!そうだろう!?」

 

ジャイアンは決心し、高々に宣言した。この世界でこれからやるべきことを。



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8

「先生、止めといた方がいいと思いますけど・・・・」

 

キュルケが困った声でシュヴルーズを止める。

 

「どうしてですか?」

 

「危険です!」

 

キュルケが即答すると、教室の殆ど全員が同意し頷く。

 

「危険?何故ですか?」

 

ミス・シュヴルーズは何の事か判らないと言った風で、ルイズに向ってやってごらんなさいと促す。

 

「やります!」

 

と立ち上がったルイズに向って、キュルケは顔面蒼白にして

 

「ルイズ、お願いやめて!」

 

と必死になって止める。だがルイズは杖を振り上げる。それを見た生徒たちが慌てて机の影や椅子の下に隠れる。ルイズが短くルーンを唱え、杖を振り下ろす。その瞬間机と、その上に置かれた石が爆発した。

 

ドガーン!!

 

爆風をもろに受け、シュヴルーズは黒板に叩きつけられる。悲鳴が上がり、驚いた使い魔達が暴れだした。

 

「ちょっと失敗したみたいね。」

 

そう言ってボロボロの姿のルイズがスス交じりの黒い煙を吐き出した。シュヴルーズは気絶し、あらかじめ机の下に避難していた生徒たちにも甚大な被害が及んでいた。

 

「ちょっとじゃないだろ!ゼロのルイズ!」

 

「いつだって成功の確率、ほとんどゼロじゃないかよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

失敗魔法による爆発で、メチャクチャになった教室の片付けを命じられたルイズ。だが

 

「おい!手伝えよ!」

 

「そうだよ!僕たちばかりに働かせて!!」

 

当の本人は机に座りながら、

 

「お風呂に入りたーい!!」

 

などとブツブツ文句を言っている。その姿をみてジャイアンとスネ夫の堪忍袋の緒が切れた。

 

「そもそもこれは全部お前の責任だろ?」

 

「そうだよ!何で僕たちまでこんなことを!?」

 

声をあげる二人に対して、ルイズはゆっくりと机から降りる。

 

「ーったく。あんたたち何かカン違いしてるみたいね・・・・。」

 

「『???』」

 

「あんたたちは私の『使い魔』なのよ!?ご主人様の命令ならどんなことでも喜んでする・・・・『犬』なのよ!!」

 

仁王立ちになりビシィッ!っと人さし指を突き付ける。

 

「ーってワケで、ここ片付けておいてちょうだいね。今日は疲れたわ。ねむ〜い〜。」

 

それだけ言うとルイズは教室を出て行った。

 

「くっそぉー!」

 

「冗談じゃないよ!」

 

残されたジャイアンとスネ夫はシブシブ教室の片付けを再開した。

 

「なあ、スネ夫・・・・・」

 

「なに、ジャイアン?」

 

「そういえば俺たち、いつもああやってのび太に掃除当番押し付けてたよな・・・・・」

 

「うん・・・・・・・・・・」

 

自分たちがやっていたことがどんなに酷い事かを理解する二人。

 

「帰ったら、のび太に謝ろうぜ。」

 

「うん、それがいいね。」



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9

「アンタってさ・・・・強いの?」

 

ふとルイズはジャイアンに問う。

 

「ああ、強いぜ!」

 

「ふ〜ん。」

 

「町内では俺様を知らない奴なんていないからな。」

 

「悪い意味でね。」

 

「なんか言ったか、スネ夫?」

 

「いや、別に。」

 

胸を張りながら、威張るジャイアンにスネ夫は小声でつっこむ。

 

「なら証明してみせて。」

 

「別に信じなくてもいいけど、いったい何をさせる気だ?」

 

「簡単よ。あそこに金髪のキザっぽいやついるでしょ?あいつを倒してみせて。」

 

「なんでオレ様がそんなことを?」

 

「できないの?やっぱり弱いのね。あれだけ偉そうなことを言っておいていざとなったら逃げるのね。」

 

「いや、そうじゃなくて。なんでアイツなの?」

 

「ムカつくからよ。」

 

「『???』」

 

「アイツ、昨日私を散々馬鹿にしたのよ。私のことを馬鹿にするようなやつは絶対制裁を受けるべきなのよ。」

 

「なら、自分でやればいいじゃねえか。」

 

「そうそう。」

 

「お生憎様、貴族同士の決闘は禁止されているのよ。」

 

その言葉にジャイアンとスネ夫は心底呆れる。

 

「いいわよ。別に逃げても。もともと期待してなかったし。弱いのなら仕方ないわね。この臆病者! 卑怯者!」 

 

そう言いながらケラケラ笑うルイズ。

 

「行くぞ、スネ夫。」

 

「うん。」

 

冗談ではなく、本気で言っているのだからタチが悪い。

 

「なによアイツら・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それからジャイアンとスネ夫はあてもなく学院内を適当に散策していた。すると先程の金髪男が呼びかけてきた。

 

「君たち!待ちたまえ。」

 

「『・・・・・・・・。』」

 

二人の感が告げていた。こいつに関わらない方がいいと。なので無視して歩き出した。

 

「待てと言っているのがわからないのかね?」

 

「・・・オレたちになんの用だ?」

 

一応反応はしたがとても面倒くさそうに対応している。

 

「何、ここは神聖な貴族の子供が学ぶ学び舎だ。君たちのような子供が来る場所ではないと注意しようとしただけさ。」

 

急いで周りを見渡す。どうやら男子寮の方へ来てしまったようだ。

 

「そんなことも知らないとは、流石ゼロのルイズが呼んだ平民だ!」

 

バカにされているのは自分たちではなくルイズだ。なので、普段なら怒り出すジャイアンは、この時ばかりは腹が立たなかった。

 

「あ、すまない。平民ではなく、ゴリラだっか・・・・。」

 

ピクッ

 

「すまない、ブタゴリラくん。」

 

「・・・・・・・・・。」

 

ジャイアンの体がかさかに震えだした。その様子にスネ夫はオズオズと男に近寄り

 

「ダメだよ、本当の事言っちゃ。命の関わるぞ。」

 

小声で話しかける。



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10

「何を言っているんだい、君は?」

 

スネ夫の忠告に全く耳を傾けないギーシュ。するとジャイアンは無言でギーシュに近づき、右手を差し出す。

 

「ん?握手かい?本来なら君のようなブタゴリラとはしないのだがね。今日は本当に機嫌がいいんだ、してやろう!」

 

そう言い、ジャイアンが差し出した右手を握ろうした時、

 

ドスッ

 

ギーシュの顔にジャイアンの右ストレートがめり込む。続いて左ジャブ、右フック、左アッパー。

 

「ぐふぅ!何をする・・ぶへぇ!」

 

ドスッ

 

「くそっ平民のくせ・・・ぬふぁ!」

 

ドスッ

 

「痛っ、ちょっ・・・・」

 

ドスッドスッドスッ

 

「ひょっと・・・まっ」

 

そして数分後。

 

「あ〜っ。スッキリした。帰るぞ!!」

 

「う、うん・・・・・・。」

 

ジャイアンは歌を歌いながらその場から歩き出し、スネ夫がその後を追った。だが

 

 

 

「ま、待て・・・・」

 

「『???』』

 

いきなり呼び止められる。振り向くと、ボコボコになった貴族、ギーシュであった。どうやらまだ息があるらしい。ジャイアンが指を鳴らすととヒッ、とギーシュが悲鳴をもらす。

 

「き、貴様・・・貴族相手に・・・手をだして・・・ぶ・・・じで・・・すむと思って・・・いるのか・・・」

 

「貴族だ~?そんなものオレ様には関係ない!」

 

「決闘だ・・・!」

 

「ハァ?」

 

「決闘だと言ったのだ!!貴族が舐められるわけにはいかない!ゆえに、君に決闘を申し込む!!・・ストップ!ここでじゃない!だから拳を振り被るのはやめてー!」

 

「・・・ならどこでやるんだ?」

 

「ヴェストリの広場ならちょうどいいだろう。今度は不意討ちはなしだ、正々堂々僕と戦え!」

 

「望むところだ。ギタギタにしてやるぜ!」

 

「それでは、四半刻後に『ヴェストリの広場』に来るように!」

 

そう言い残して、ギーシュは去って行った。

 

「大丈夫かな?」

 

「心配するなって・・・・・俺様に任せとけ!」

 

心配そうに呟くスネ夫。そんな彼の肩をにジャイアンが笑いながら叩いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「また失敗・・・・・・・ハア〜っ。」

 

魔法を失敗して落ち込むルイズ。

 

「それもこれもあいつらのせいだわ!全く、あの二人が来てからろくな目にあってないわね。」

 

ルイズは文句を言いながら歩いていると、野次馬が見えた。

 

「何かしら、この人だかりは?」

 

ルイズが好奇心を出して近づいていくと、

 

「諸君、決闘だ!!」

 

聞きなれた声が聞こえてきた。

 

「ギーシュ?まったく、決闘は禁止されてるって言うのに、何をしてるのかしら。でも、誰が相手なのか気になるわね。」

 

ルイズは対戦相手が気になり、人だかりを掻き分けて進んでいく。

 

「ギーシュと決闘ってことはおそらく女絡みなんでしょうけど、決闘相手は誰かしら?まぁ平民とかだったら命知らずと笑ってあげ・・・る・・・わ?」

 

ルイズが先頭にたどり着くとギーシュと対峙している人物を見て言葉が出なくなった。



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11

ヴェストリの広場。これから行われる"決闘"―という名の貴族による一方的な制裁を見物しようと噂を聞きつけた生徒たちで溢れかえっていた。

 

「諸君!決闘だ!」

 

その広場の中心、決闘を申し込んだ男子生徒、ギーシュは薔薇の造花を掲げ高らかに宣言をする。うおーッ!見物人から歓声が巻き起こる。

 

「ギーシュが決闘するぞ!相手はルイズの使い魔だ!」

 

ギーシュは腕を振って、歓声に答えている。一方、決闘を受けたジャイアンは呑気に観客に手を振っている。自分の応援の為に集まったと、勘違いしているのだろう。一方人だかりの最前列では、ルイズが腕組みをしながら決闘を見学見していた。すると隣にいたキュルケがルイズに話しかける。

 

「あらルイズ、自分の使い魔が決闘するっていうのに助けないの?」

 

「いいの。これでアイツも思い知るでしょうね。『平民は貴族にはどうやっても勝てない』って事!」

 

とルイズはあっさりと答える。

 

「ふ〜ん。」

 

するとキュルケは反対側にいたタバサにも話しかける。

 

「それにしても珍しいわねタバサ、あなたがこういうの見に来るなんて。」

 

「あの男が気になる。」

 

その返答にキュルケは驚いた顔を見せる。

 

「あら?ああいう男が好みなの?」

 

「・・・・・・・・・・・・・。」

 

「・・・・・ねぇ、タバサ。あなたどっちが勝つと思う?」

 

「まだわからない。」

 

それだけ言うと、タバサは視線をジャイアンに戻す。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ジャイアン、本当に大丈夫?」

 

「おう、任せとけってんだよ!」

 

「でも・・・・・・・」

 

「心配ねえよ。俺様を誰だと思ってる?」

 

「ジャイアン。」

 

心配性のスネ夫はオズオズとジャイアンに声をかける。すると

 

「武さん、決闘なんて駄目です!殺されちゃいます!」

 

メイドが声を掛けたきた。

 

「大丈夫だって!ところでシエスタ、なんでいんの? お前、関係ないじゃん。」

 

「あ、そういえばそうですね。どうしてでしょう。ずっと見てたからでしょうか、

 なんだかわたしにも責任があるような気がしちゃって・・・・」

 

と言ってすごすごと引き下がっていく。

 

「『・・・・へんなやつだな。』」

 

ジャイアンとスネ夫の声がハモった。

 

 

 

 

 

 

ジャイアンとギーシュは、広場の真中に立ち、睨みあう、といっても睨んでいるのはギーシュだけだが。

 

「とりあえず、逃げずに来たことは、褒めてやろうじゃないか。」

 

ギーシュは、薔薇の花を弄りながら言った。

 

「これは決闘だ、どちらかが負けを認めるまで続ける。それと僕はメイジだからね、

杖を落としたら負け、というルールも付け加えてあげ―『始めろ、時間の無駄だ。』」

 

ジャイアンにルール説明を中断され、ギーシュは顔をしかめる。

 

「フン、では始めよう!」



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12

「今年度も何事のなく無事始まったの・・・・・・」

 

「ええ、なによりです。」

 

「学院長としてこれ以上のことはない」

 

そう言いながらオスマンはパイプを吸おうとしたが、突然何かに弾き飛ばされる。

 

「やれやれ・・・・・」

 

「健康管理も秘書の務めですから・・・・・・」

 

どうやら今のはロングビルの魔法のようだ。

 

「年寄りの数少ない楽しみを奪おうというのかね。ミス・ロングビル」

 

そう言いながらオスマンはロングビルのお尻を触った。

 

「お尻を触るのはやめてください!」

 

「はへーほほーはへー」

 

突然オスマンは部屋をうろつき始めた。

 

「都合が悪くなるとボケたふりをするのもやめてください!」

 

すると今度は何処からともなく現れた小さなネズミがオスマンの手に乗る。

 

「お前とも長い付き合いじゃの、うモートソグニル。」

 

「ちゅちゅちゅー」

 

「おおーそうかそうか白か!しかしミス・ロングビルには黒が似合うと思わんかね・・・・・」

 

ブチッ

 

その言葉でロングビルの堪忍袋の尾が切れた。

 

「オールド・オスマン!・・・・・次やったら王室に報告します!!」

 

「かー!!たかが下着を覗かれた程度でカッカしなさんな。そんな事だから婚期を逃すんじゃ!」

 

火に油を注いだオスマンはロングビルの足で何度も蹴り飛ばされる。

 

「あた・・・・・やめて・・・・・もうしない・・・・・だから許して・・・・・」

 

それでも日ごろのストレスを解消するように蹴り続けていた。

 

 

 

 

 

コンコン

 

すると突然部屋の扉が開かれる。

 

「ヴェストリ広場で、決闘をしようとしている生徒がいるようです。大騒ぎになっており、止めに入ろうとしている教師がいますが、生徒たちに邪魔されて、止められないようです」

 

「まったく、暇を持て余した貴族ほど、たちの悪い生き物はおらんわい。それで、誰が暴れておるんじゃね?」

 

「一人は、ギーシュ・ド・グラモン」

 

「あのグラモンとこのバカ息子か。オヤジに輪をかけて女好きじゃからの、どうせ女の子の取り合いじゃろう。まったく、あの親子は。それで相手は誰じゃね?」

 

「それが、メイジではありません。先日、ミス・ヴァリエールに召喚されたの使い魔の平民のようです。教師たちは『眠りの鐘』の使用許可を求めていますが・・・・・」

 

「オ、オールド・オスマン! す、すぐに『眠りの鐘』を使いましょう! 危険過ぎます!」

 

 「・・・・・・いや、今はまだ使わん」

 

しかし、オスマンは敢えて使用許可を出さなかった。当然、コルベールはそれに反発する。

 

「な、何故ですか!? 平民が貴族に勝てないのは分かっている筈でしょう!? 早く止めなければ、最悪彼が殺されてしまいます!!」

 

「そんなことは分かっておる!!」

 

 突如、学院長室にオスマンの怒号が轟いた。普段の彼からは想像も出来ないような怒号にコルベールとロングビルの二人は思わずビクリと肩を震わせる。有無を言わせないオスマンの迫力にコルベールとロングビルは押し黙るしかない。

 

「無論、危ないと思ったら即座に『眠りの鐘』を使う。じゃが、彼の本当の力を見極める為にも彼の戦う姿を一度見ておきたいのじゃ・・・」

 

そう言って、オスマンは杖を振るう。オスマンの遠見の魔法によって、壁にかけられた大きな鏡に別の光景が映し出される。

 



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13

ギーシュは薔薇の花を振った。すると花びらが一枚、宙に舞ったかと思うと・・・・。

女戦士の形をした青銅の人形となった。

 

「僕の二つ名は『青銅』。青銅のギーシュだ。従って、青銅のゴーレム『ワルキューレ』がお相手す――」

 

――スガーン!

 

ギーシュが余裕たっぷりに言い切る暇もなく、ゴトゴトッ、と『ワルキューレ』がジャイアンの一撃で遥か後方の壁に吹っ飛ばされ粉々になる。

 

「なっ!!!ぼ、僕のゴーレムが・・・・」

 

「な、なに!? 何が起きたの!?」

 

「・・・・え、あ!もしかして後ろで煙が上がってるのってそうなのか?」

 

「そ、そんなまさか? 人間の力であそこまでゴーレムを吹っ飛ばしたって言うの!? 魔法も無しで!?」

 

野次馬たちが声をあげる。そんな中、ジャイアンは指を鳴らしながらギーシュに近づいていく。

 

「う、うわああああああ!!!」

 

薔薇の杖を振り、限界まで精神力を行使する。花びらが舞い、新たに六体のゴーレムが現れた。今度は素手ではなく、それぞれが槍や長剣で武装している。ワルキューレたちは一斉に武器を振りかざし、ジャイアンに襲い掛かかった。ジャイアンは笑みを浮かべて、ワルキューレの群れに飛び込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

静まり返ったヴェストリの広場。

ギーシュ自慢のゴーレム、六体のワルキューレは、十秒足らずで壊滅した。魔法も使えない、武器すら持たない平民によって。ジャイアンはギーシュの前まで来ると

 

スッ

 

「ひっ!」

 

拳を振り上げる。

 

「た、たすけて!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「そこまでよ・・・!!タケシ!!」

 

 

 

 

 

 

 

場に凛とした声が響く。ルイズである。

 

「その手を下しなさい!」

 

「決闘には勝ったんだから、コイツをどうしようと俺様の勝手だろ?」

 

「貴族同士の決闘は、禁止されてるのよ!?」

 

「俺様は貴族じゃないぞ。平民と貴族の決闘は、禁止されてるのか?」

 

ルイズは言葉に詰まる。

 

「決闘を止めるどころか、傍観者になってたクセに。今頃ノコノコ出てきて、勝手な事言ってるんじゃねえよ!!」

 

ルイズは口ごもる。

 

「それに、これはお前が望んだことだろう?」

 

「えっ?」

 

するとルイズは以前ジャイアンに言った事を思い出す。

 

『あそこに金髪のキザっぽいやついるでしょ?あいつを倒してみせて。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そ、それは・・・・・・と、とにかく! ギーシュを離しなさい!」

 

「ふん!」

 

ルイズの命令を真っ向から拒否して、ジャイアンはギーシュに向き直った。

 

「タケシー!!!」

 

怒鳴り声が響き、ジャイアンのすぐ横の地面が爆発した。パラパラと砂が舞う。ルイズはゆっくりと、杖をジャイアンに向けた。

 

「もう一度言うわ。ギーシュを離しなさい、タケシ。」

 

今度は静かに、怒気をはらませたルイズの声。辺りの空気が張り詰める。睨み合う二人。広場に集まった者達は、物音ひとつ立てることができずに、それを見つめた。

 

「ジャイアン、離してあげなよ。」

 

その中で、口を開いたのは、スネ夫であった。ジャイアンはチラッとスネ夫の方へ視線を向ける。

 

「何でだよ、スネ夫。こいつ・・・・・」

 

「僕だっていきなりバカにされて腹立ったけど、もう止めなよ。それ以上したら、僕たちも彼らと同じ、ロクデナシになっちゃうからね。」

 

「・・・・・・そうだな。」

 

ジャイアンは、拳をおさめた。



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14

決闘の後、ジャイアンとスネ夫は寝床を探して、うろついていた。。

 

「そういえば、スネ夫。お前、身体は大丈夫か?」

 

「どういうこと?」

 

「俺、この世界に来てから身体が凄く軽いんだ。おまけに力も・・・・・」

 

そう言いながらジャイアンはワルキューレを素手で破壊したことを思い出す。

 

「そんなの簡単さ、僕らはこの星ではスーパーマンになってるんだ。」

 

「???」

 

「多分、この星は小さな重力しかもってないんだ。つまり重力が小さいと動き回るのに大きな力はいらないんだ。だからこの星では、僕たちはスーパーマンって事になるんだ。」

 

そう言いながらスネ夫は、コーヤコーヤ星の事を思い出す。

 

「は〜ん。」

 

すると、二人の前に赤いサラマンダーが現れた。

 

「何だ、コイツ?」

 

「誰かのペットかな?」

 

サラマンダーはジャイアンの裾を銜え、引っ張る。

 

「ついて来いって事か?」

 

サラマンダーは軽く頷くと、歩き出す。そしてそれに二人はついて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何よ何よ!!あいつらったら、主人である私を放ってどこかに行くなんて!!」

 

決闘の後、ルイズはジャイアンとスネ夫に駆け寄ろうとしたが、出来なかった。ルイズが駆け寄るよりも早く、観戦していた生徒たちが二人に押し寄せたからだ。それ故にルイズは二人を探し学院中を歩き回っていた。

 

「何処行ったのかしら。あいつらには一度説教してやらないと気がすまないわ。でもまぁ、そこそこ強いみたいだし、あいつらが頭を下げるなら使い魔として使ってやらない事もないわね。」

 

何気にまだ自分が優位だと思っているのか、二人を見下した態度を取り自分にジャイアンとスネ夫が頭を下げる姿を想像して笑っていた。

 

「それにしてもあいつら本当に何処に行ったのよ。手がかりも無いんじゃ探しようが無いじゃない。」

 

もしかしたら部屋に戻ってるかも。そう思ったルイズは部屋を探すため寮の中に入ると、どこからかジャイアンたちの声が聞こえてきた。それも、宿敵であるキュルケの部屋から。

 

「あ、あの犬!よりによってキュルケの部屋にいるなんて!!」

 

ルイズは頭に血を上らせ、キュルケの部屋に入ろうとドアノブに手を伸ばした瞬間。

 

「きゃあ!!」

 

突然ドアが破壊されルイズは瓦礫の下敷きになった。

 

「ったく・・・ホントに貴族には、ロクな奴がいないな。」

 

「どうするジャイアン?」

 

「爺さんの所に行くぞ。いくらなんでも遅すぎるぜ。部屋一つ用意するのに、何日かかってるんだ!」

 

ジャイアンとスネ夫は扉の下敷きになっているルイズを踏みつけて寮から出て行った。



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15

虚無の曜日・・・・・所謂休日の今日。ルイズは休日であることを利用し、街へ買い物へ行こうとしていた。ルイズはジャイアンたちに武器を買い、恩を着せることで自分に忠実な使い魔になってもらおうと考えたのだが

 

「彼らなら朝早く出かけましたよ!」

 

シエスタにそう言われ、ルイズはワナワナと震えだす。ご主人様らしい所を見せてやろうとしたのにあいつらは・・・ッ!そう思いながら拳を握り締めるルイズ。不機嫌さを隠そうともしない表情で、通り掛かった生徒達はそそくさと脇に避けていく。

 

(私の使い魔の癖に断りもなくふらふらして何様のつもりなのかしら!!)

 

ぶつける場のない怒りは溜まる一方だが、そもそも契約すらしていない上に、オスマンに頼まれてこの学園に残っているだけなのだ。そんなことはすっかり忘れてしまっているし、仮に覚えていてもそんなことは関係ないと理不尽に怒っていただろう。

 

「くっ!」

 

ルイズは全速力で馬を走らせる。目指すは城下町。どうやら彼らはそこへ向かったらしい。彼を見かけたメイド――シエスタはそう言っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

日がだいぶ暮れてきた頃、ある酒場では・・・

 

「・・・・・・・・・・・・・。」

 

カウンター席に座り、クックベリーパイを食べていた少年がいた。そして彼の隣の席には

 

「・・・・・・・・・・・・・・。」

 

フードを被った少女が同じようにクックべリーパイを食べていた。一見、普通の酒場に見えるが、給仕をしている可憐な少女達は全員際どい衣装を身につけ、料理やら酒やらを運んで仕事をしている。だが、変わっているのは際どい身なりだけで接客はしっかりとしている。その証拠に客達は少女達の接客に満足している様子だ。

 

「わたしは店長のスカロンでございます。今日はぜひとも、当店〝魅惑の妖精亭〟で楽しんでいってくださいませ!」

 

そう言いながらスカロンはジャイアンとフードの少女に歩み寄る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ダン!!

 

「『おい、(オヤジ!)オッさん!!』」

 

ジャイアンとフードの少女は同時にテーブルを叩く。

 

「な、何かしら?」

 

いきなりの事でスカロンは驚くが、オズオズと二人に尋ねる。

 

「『このクックベリーパイは死ぬほど、(美味いな!)不味いな!』」

 

ジャイアンは顔を青くしながら、そして少女は笑みを浮かべながら声をあげた。

 

「『!?』」

 

二人は互いの存在を認識した。ジャイアンと少女は睨み合い、互いに火花を散らす。そして紅茶が入ってる自分たちのコップを一気に飲み干す。

 

「『この紅茶は死ぬほど、(不味いな!)美味いな!』」

 

ジャイアンは笑みを浮かべながら、そして少女は顔を青くしながら声をあげた。



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16

「『!?』」

 

二人は互いの存在を認識した。

 

「お前、舌オカシイんじゃないのか?」

 

「お前、頭オカシイんじゃないのか?」

 

ジャイアンと少女は睨み合い、互いに火花を散らす。

 

 

 

 

 

 

そんなことをやっている矢先、中年の男が店の中に入ってきた。派手な衣装と貴族のマントを身に着けた、肥えに肥えた体格に、道端に生えた雑草のような薄い髪を生やしていた。

 

オホン

 

その瞬間、賑やかだった店内がシンと静まりかえる。

 

「これはこれはチュレンヌ様・・・ようこそおいでくださいました!」

 

スカロンがもみ手をせんばかりの勢いで入ってきたチュレンヌとその部下たちに歩み寄る。軍人のような風体の彼らはどうやら下級の貴族であるらしく、腰にはレイピアのような杖を携えていた。

 

「ふむ。おっほん! だいぶ店は繁盛しておるようだな?」

 

「いえいえ、今日はたまたまでして。日頃はもう、閑古鳥が鳴くような・・・・」

 

「言い訳は良い! 今日は客として来たのだ!」

 

冷や汗を滲ませながらスカロンは言葉を続ける。

 

「チュレンヌ様。本日はこのように満席でございまして・・・・」

 

「私にはそのようには見えないが?」

 

チュレンヌが一度、ちらりと店内の客達を一瞥すると

 

パチン

 

したり顔で指を鳴らす。すると、彼の部下達が杖を抜き、客達を威圧しだした。その威圧に耐えきれず、客達は次々と店から出ていってしまった。

 

「がっはっはっは! 閑古鳥というのは本当のようだな!」

 

客が殆どいなくなったことに満足して、チュレンヌは大笑いをする。

 

 

 

 

「一応聞くけど・・・・・誰?」

 

離れた場所で様子を見ていたスネ夫がジェシカに尋ねる。

 

「この辺の徴税官をやってるチュレンヌ。アイツらに逆らったら重い税をかけられちゃうから、商売やってる人はみんな逆らえないんだ。」

 

「ふ〜ん。」

 

「触るだけ触って、チップ一枚払いやしない。」

 

ジェシカは、怒りながら答えた。

 

「おい、お前たち! そこは我々の席だぞ!」

 

チュレンヌはジャイアンと少女の席にやってくると、声を上げる。

 

「あの二人、まだやってたのね・・・・」

 

「うん。」

 

未だに睨み合い、互いに火花を散らすジャイアンと少女にジェシカたちは呆れる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『おい、(オヤジ!)オッさん!!』」

 

ジャイアンとフードの少女は同時にスカロンを呼ぶ。

 

「な、何かしら?」

 

いきなりの事でスカロンは驚き、オズオズと二人に尋ねる。

 

「俺、肉 五十個、おみあげに。」

 

シエスタたちにおみあげを買うジャイアン。すると

 

「私はクックベリーパイ51個をおみあげに。」

 

少女が笑みを浮かべながら口を開く。その言葉にジャイアンは眉間にシワを寄せる。

 

「やっぱ、俺の肉を52個に!」

 

「ごめん、私のパイを53個!」



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17

「ん? 見慣れぬ格好だな・・・・。 まあ、良い。ここはたった今から、我らの貸切りなのだ。そして、そこは我らの特等席。すぐに退け!」

 

「いや、俺の肉54個。」

 

「パイ55個。」

 

「肉60個。」

 

「パイ70個!」

 

「80個!」

 

「100個!」

 

べシッ

 

「『なんだ、お前やるのか!?』」

 

当然のように命令するチュレンヌを無視してジャイアンと少女はにらみ合う。

 

「おい!聞いているのか!」

 

やかましい金切り声を上げるチュレンヌ。取り巻きの貴族達が一斉にジャイアンたちに杖を突きつけてくるが、まるで聞いていない。店の隅ではスネ夫やジェシカ、給仕の少女たちが緊張した様子で見つめていた。

 

「私は宮廷の徴税官である「『うるせえ!黙ってろ!!』」バコン・・ギャアアア!」

 

突然二人に殴られチュレンヌは尻餅をつく。

 

「ええい! 貴様ら! 宮廷の徴税官にこんなことをして、ただで済むとは思っていないだろうな!?」

 

取り巻き達が一斉に杖を突きつけ、暴言を発した二人目掛けて魔法を放ってきた。ジャイアンと少女はすかさず自分が座っていた椅子とテーブルを蹴り上げると飛んでくる攻撃を防いだ。さらに少女は、別の椅子を魔法で打ち飛ばすと、一人にぶつけて昏倒させる。

 

「貴様ら、ここまでするとはな! 縛り首は間逃れんぞ!」

 

「『ゴチャゴチャ、うるせんだよ!』」

 

ジャイアンと少女の怒りの一言にチュレンヌは顔を顰める。

 

「『喧嘩の邪魔だ!!』」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数分後、冷静さを取り戻したジャイアンと少女は、店の中を見渡す。

 

「『・・・・・・・・・・。』」

 

先ほどまで自分たちが座っていた椅子とテーブルはバラバラに壊れてしまい、壁にはアチコチ穴が空いている。店の隅では怯えるように震えているスカロンや給仕の少女たちがいた。

 

(やりすぎたかな・・・・・)

 

床には失神した下級貴族が転がっている。いくらこいつらが原因とはいえ、暴れすぎたかと少し反省する。それからしばらくして、衛兵がやってきた。衛兵達は店主であるスカロンから簡潔に事情を聞かされると、チュレンヌの一群を縄で縛り上げ、うなだれたままの彼らをそのまま連行していった。

 

 

 

 

 

「やったあっ!!」

 

「あのチュレンヌの顔ったら無かったわ!」

 

「胸がすっとしたわね、最高っ!」

 

妖精亭の給仕達や見物人から歓声が上がる。

 

「もうっ! あなたたち素敵よおっ!」

 

スカロンがジャイアンと少女に抱きつこうとしたが、二人はヒラリとそれをかわす。それ故、スカロンは勢いあまって壁にぶつかってしまった。

 

フッ

 

スカロンを避けた拍子に少女のマントキャップが少し浮き上がり、彼女の尖った耳が露わになる。



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18

「っ!?」

 

少女は慌ててキャップを深く被り直す。

 

「『・・・・・・・・・。』」

 

そんな少女にジャイアンとスネ夫は何も言わなかった。おそらく、やもえない事情があるのだろう。なので見なかった事にした。

 

「奴らは相当、歓迎されない連中だったようね。」

 

「当然よ。あいつ、この辺の徴税官を勤めてたんだけど、ああやって管轄区域のお店にやってきては、あたし達にたかってたの。本当、嫌な奴だったわ。銅貨一枚たりとも払ったことなんてなかったんだから!」

 

腰に両手を当てて憤慨するジェシカ。

 

「そんな奴がああして捕まって、満足というわけね。」

 

「もちろん!」

 

ジェシカは、心底嬉しそうな顔で答えていた。

 

「でも、ゴメンな。店をこんなにしちゃって。」

 

ボロボロになった店内を申し訳なさそうに見回すジャイアン。

 

「良いのよ! 店は充分直せるんだから!」

 

それを聞いてジャイアンと少女は少し安心する。その後、チュレンヌたちが巻き上げた税金は、店の修理代とチップ、そして残りは庶民達の元へと戻されることになった。

 

 

 

 

 

 

 

「あ!」

 

もうすっかり外は夜。そろそろ学院に戻らねばシエスタたちが心配するだろう。

 

「アンタ、平民にしては、勇気あるわね!」

 

少女は笑みを浮かべて、ジャイアンに話しかける。

 

「そうかな・・・・・普通だと思うけど・・・・」

 

ジャイアンは頬を赤くしながら照れる。

 

「俺、武。」

 

「僕は、スネ夫。」

 

「私は、ルクシャナ。人間にもアンタたちみたいな奴がいるのね。ちょっと見直したわ。」

 

「『人間?』」

 

「フフ、タケシが王だったら、この国も安泰するのにね。」

 

「俺が王様?」

 

少女の言葉にジャイアンはキョトンとする。すると

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「探したわよ〜。」

 

気の抜けた声と共に誰かが目の前に現れる。それは一日中城下町でジャイアンとスネ夫を探し回っていたルイズであった。

 

「ヤバイ。」

 

ルイズが現れた途端、スネ夫はルクシャナの後ろへと隠れた。

 

「あれ?シエスタ。どうしたんだ、こんな所で?あっ、そうそう。お土産があるんだ!あの店の肉、美味しくてさ〜。」

 

ジャイアンは目の前にいるルイズを無視し、彼女の後ろに立っているシエスタに話しかける。

 

「あ、あ・・・・・ありがとうございます・・・・・・」

 

シエスタは申し訳なさそうにお土産の入ったカバンを受け取る。

 

「ムムムムムムム。」

 

それが気に食わなかったのか、ルイズは怒り出す。

 

「あ〜、ルイズもいたのか・・・・・」

 

さも今気づいたかのように言う。

 

「いたわよ!アンタ、使い魔のくせに・・・・」

 

「落ち着いてください!ミス・ヴァリエール、武さんには武さんなりの考えがあって・・・・・」

 

「考えなんかあるか、コイツに!!大体アンタ・・・・・ハア・・・・・・ハア・・」

 

「ミス・ヴァリエール、大丈夫ですか!?」

 

肩で息をしているルイズにジャイアンは、

 

「まあまあ、ルイズ。これでも飲んで一息ついてくれよ!」

 

ジャイアンは骨董品店で買ったコーラのペットボトルを差し出す。

 

「///あ、ありがとう・・・・・いや、そんな手にはのらないわよ!!////」

 

ルイズが蓋をあけると

 

ぶーしゅ!!!

 

ボトルの中に圧縮されていた炭酸が一気にルイズの顔にかかる。



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19

〜虚無の曜日から数日後〜

 

ジャイアンとスネ夫が昼食のために厨房へ入ると、厨房全体の空気が重く沈んでいる事に気づいた。

 

「どうかしたの?」

 

「おぉ・・・!、『我等の王』!来てくれたか・・・!」

 

「その呼び方、やめろ!」

 

ジャイアンとスネ夫に気づいたマルトーが声をかけてくる、だがその声はどことなく元気がない。

 

「・・・シエスタはどうした・・・?」

 

ジャイアンはシエスタがいないことをマルトーに訪ねる。

 

「・・・・あぁ・・・、シエスタか・・・・実は・・・・もう、居ないんだ・・・」

 

「まさか・・・・!?」

 

「死んだ!?」

 

ジャイアンとスネ夫の顔がみるみる青ざめていく。

 

「え?あ、いや、そうじゃなくて・・・・・先日、王宮からの勅使で来ていた、モット伯っていう貴族に見初められて、ソイツに仕える事になってな。今朝早く迎えの馬車で行っちまったんだ。」

 

「何だ、そっか!」

 

ジャイアンとスネ夫は、ため息をつく。

 

「でも何でみんな元気がないの?」

 

苦々しく話すマルトーに二人は首を傾げる。

 

「元々、あのモット伯ってのは、あまりいい噂を聞かないんだ!そうやって気に入った若い娘を、次々召抱えているらしい!」

 

「・・・・・シエスタは、抵抗したのか?」

 

「したさ!でも逆らったら、俺たちをここで働けなくしてやるって脅されて・・・・」

 

「『・・・・・・・・・・。』」

 

ガチャ

 

席を立ち、厨房を出ようとするジャイアンたちを見つつマルトーが呟く、

 

「結局、平民は貴族の言いなりになるしかないのか・・・」

 

 

 

 

 

 

 

ジャイアンとスネ夫が厨房を出ると後ろから誰かが話しかけてきた。

 

「アンタたち、妙なこと考えてないでしょうね?」

 

「『???』」

 

現れたのは二人の主と言い張るルイズだった。

 

「あんたたちがいくら強くても、貴族を殺すなんて許されないことなのよ。」

 

「何で?貴族が平民を殺しても罪にはならないんでしょう?だったら、その理屈はオカシイよ!」

 

「そうだ!」

 

正論を言うスネ夫とジャイアンにルイズは顔を真っ赤にして怒鳴る。

 

「ダメに決まってるでしょ!貴族は許されるけど、平民はダメなの!使い魔の分際でなにえらそうな事言ってるのよ!」

 

「まるで悪魔だな。」

 

「そうだね・・・・。」

 

「なっ!なんですって!?貴族を・・・・私を侮辱する気!?私はヴァリエール公爵家の3女よ!!しかもあんたの主人よ!」

 

このやり取りは一体何百回目だろう。流石のジャイアンとスネ夫も、ため息をついた。呆れて反論する気にもなれなかった。



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20

ジャイアンが部屋に戻るとスネ夫が話しかけて来た。

 

「ジャイアン、やっぱり行くの?」

 

「モット伯とやらに挨拶に行くのも悪くはないな。」

 

二人が出かける準備をしていると、珍客がやってきた。

 

「タケシ!スネ夫!あんたたちいつまでここにいるのよ!さっさと戻ってこないと使い魔としての仕事が溜まってるんきゃっ!!」

 

ノックも何もせずに入ってきたルイズに対してジャイアンは情け容赦なくグーを返す。

 

「ちょっと、何するのよ!!」

 

いきなり攻撃されたことに対してルイズも怒り心頭の様子だ。だが、ジャイアンはそんなルイズには構いもせずに一心不乱に拳を振るう。

 

「説明くらいしてよ!いきなり攻撃するなんて理不尽じゃない!!」

 

結局ルイズはボコボコにされ、階段から蹴落とされ一階まで転がり落ちる羽目となった。

 

「本当にタイミング悪いんだよな〜。」

 

同情した顔でルイズを見送ったスネ夫は、ドアに鍵をかける。

 

 

 

 

 

 

 

数分後。

 

カチャカチャ

 

ドアノブが回る音がした。

 

コンコン

 

そしてノックが聞こえた。

 

「何回も、何回も、よく続くな〜。」

 

本当にタフな奴だと、スネ夫は半ば呆れも感心する。

 

「どうする、ジャイアン?」

 

「構うな、それより準備するぞ。」

 

二人は無視する事にした。

 

コンコン

 

コンコン

 

コンコン

 

コンコン

 

コンコン

 

コンコン

 

コンコン

 

その間もノックは続く。

 

「しつこいな!」

 

シビレを切らしたジャイアンとスネ夫が文句を言おうとドアに近づくが

 

シーン

 

突然静かになった。

 

「やっと、諦めたか。」

 

「ふう・・・・・・・・・・」

 

二人は、回れ右してドアに背を向けた瞬間。

 

ドカーン

 

突然ドアが破壊され二人は瓦礫の下敷きになった。

 

「タケシ!スネオ!大変・・・・あれ?」

 

コートを着た少女、ルクシャナが現れる。彼女はキョロキョロと部屋の中を見渡す。

 

「『う・・・・・う・・・・・・・・・・・』」

 

ジャイアンとスネ夫は這いつくばりながら、なんとか脱出する。

 

「あ、いた!二人とも何でそんな所で寝てるのよ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「モット伯?」

 

「場所、分かる?」

 

スネ夫とジャイアンは、シエスタの事をルクシャナに説明する。

 

「それで、その・・・・・シエスタ?・・・・を助けに行くの?」

 

「ああ。」

 

「うん。」

 

「相手は貴族よ?大丈夫なの?」

 

「どうってことねえよ!だってアイツの物は俺の物だろう?」

 

「え?」

 

ジャイアンの言葉の意味が分からず、ルクシャナはキョトンとする。

 

「だ・か・ら・アイツの物は俺の物、お前の物も俺の物だ!」

 

「・・・・・・・・・・。」



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21

「いた~・・・・・まったく、あいつはご主人様をなんだと思ってるのよ。」

 

数分後、ジャイアンにボコボコにされて階段から突き落とされたルイズは、医務室から出てくる。あれだけボコボコにされたのに驚くべき生命力である。

 

「まぁ、ゼロのルイズじゃ仕方ないわね。やっぱりダーリンの手綱を握るのは私かしら?」

 

「・・・・・彼は誰にも従わない。」

 

ルイズの横を歩くキュルケとタバサ。

 

「勝手なこと言ってんじゃないわよ!あいつ、今度こそ絶対に言うこと聞かせてやるんだから!!」

 

そういいながらルイズは再びジャイアンたちの部屋へと急ぐのであった。すると目の前を馬が猛スピードで駆け抜けた。

 

「きゃっ!な、何?」

 

「今の、ダーリン?あんなに急いで何処に行くのかしら。」

 

「・・・・事件?」

 

タバサの一言にルイズは、言葉が出なくなった。

 

「あのバカ!あれ程忠告したのに何してるのよ!!」

 

「どういうことよ?」

 

ルイズの説明で、二人はシエスタがモット伯に連れて行かれ、ジャイアンたちが彼女を助けに行こうとしている事を理解した。

 

「何考えてんの!?この学院内ならまだしも、伯爵クラスの貴族に喧嘩売って勝てるわけ無いじゃない!!」

 

ルイズはそう言うと、馬小屋まで走り、馬を借りようとする。だがすでに馬は全て貸し出されていた。

 

「・・・・乗って。」

 

するとタバサとキュルケがシルフィードに乗って現れた。どうやらこの二人もスネ夫たちを追うつもりらしく、ルイズを乗せてモット伯の家まで飛ばしていった。

 

「ありがとう、タバサ。」

 

「礼はいらない。」

 

三人と一匹はスネ夫たちを追いかけ、空を駆けた。

 

 

 

 

 

 

モット伯の屋敷に到着し、三人は馬から下りる。

 

「タケシ。」

 

「???」

 

ルクシャナは、ジャイアンに何かを手渡す。

 

「これは・・・・・?」

 

「私の村にあった伝説の武器よ。なんでも・・・・遥か昔、人間とエルフは戦争するたび、互いに九人の戦士を選んだの。そしてその伝説の武器で球を打ち、互いの戦力を削っていったそうよ。」

 

「要するに・・・・・ただのバットだな。」

 

「伝説でも何でも無いじゃん。」

 

ルクシャナの説明にジャイアンとスネ夫は何とも言えない顔をする。ジャイアンはバットを装備した。

 

「何者だ!」

 

すると、すぐに門番に見つかり、槍を向けられる。

 

「まずい!」

 

だがジャイアンは槍を弾き飛ばすと、一瞬で門番を撃破する。すると騒ぎを聞きつけた他の衛兵達も駆けつけ、三人を取り囲む。

 

「話し合いしなくていいの?」

 

「話し合いはシエスタがしただろう?」

 

「そもそも話し合いで済むんだったら、こんな所まで来ないわよ!」

 

ジャイアンとルクシャナは笑みを浮かべる。

 

「さてと、始めますか?」

 

「いくぞ!」

 

多くの衛兵が三人目掛けて突撃する。三人は突撃してきた衛兵を一人、また一人と気絶させていく。

 

 

 

 

コンコン

 

「モット伯!侵入者です!!」

 

衛兵がモットの部屋をノックし、声をかける。

 

「侵入者?そんなもの、衛兵達がかたずけるであろう。」

 

「いえ、すでに十人以上倒されています!!」

 

衛兵の報告にモットは驚き、声を荒くした。

 

「馬鹿な!たかが賊相手に何をてこずっている!?」

 

「それが、浸入者の中にエルフと思われる輩もいて・・・・。」

 

「この役立たずども!全員縛り首だ!!」

 

モットは再びシエスタに向きなおると

 

「すまないね、シエスタ。私は賊の退治に行ってくるから、君は大人しく待ってなさい。」

 

そう言うとモットは部屋を出て行った。



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22

ルイズたちはモットの屋敷に到着するが、時すでに遅く。床には気絶した兵士たちがゴロゴロと転がっていた。

 

「・・・・・・・。」

 

「まさかここまで・・・・・」

 

「・・・・彼らしい。」

 

三人の顔が青ざめていく。、

 

ガタン

 

「ぐあっ!!」

 

そして聞こえてくる悲鳴や打撃音を頼りに屋敷の中を進んで行く。そしてルイズたちは、ジャイアンたちを発見した。

 

「あんたたち!何してんのよ!こんなことしたらモット伯どころか軍が動いちゃうじゃない!死刑になるわよ!!」

 

ルイズの叫びに、三人はゆっくりと振り向く。

 

「何しに来たんだ?邪魔だから帰れよ。」

 

「帰れって、そんなことできるわけないでしょ!?あんたたち、あのメイドに何処まで入れ込んでるのよ!」

 

「シエスタは俺たちの仲間だ、だから助けるんだ。」

 

三人はそのまま屋敷の奥に進むと、杖を持ったモットが現れた。

 

「貴様らが侵入者だな?」

 

「だったら何?」

 

ジャイアン、スネ夫、ルクシャナも武器を構えて応戦する体制になる。その様子にルイズは声をあげる。

 

「あ、あんたたち、何しようとしてるのよ!!それにその態度!すみません、モット伯爵。後でしっかり躾ておきますので・・・」

 

「ならん!斯様な平民の無礼を捨て置いては、ジュール・ド・モットの名が廃る!」

 

「どうでもいいけど、シエスタを返してもらうよ。」

 

「ちょっ!あんたも何言ってるのよ!今すぐに謝りなさい!これは主人としての命令きゃっ!」

 

「俺様に命令するなんていい度胸だな。俺もスネ夫もお前の使い魔になった覚えはないぞ。」

 

ジャイアンに命令しようとしたルイズは首根っこをつかまれそのまま投げ捨てられる。

 

「お前たちこそ、それで貴族か!」

 

「!?」

 

「弱い者相手に権力を振り回し、その力を真の敵へ向けることはできないのか!!」

 

「なんですって・・・・?」

 

「金持ちの子供なら何をしてもいいのか?魔法が使えるなら全て許されるのか?」

 

その鋭い眼光に、ルイズは小さく悲鳴を漏らし身を竦めた。

 

「お前たちみたいなのが居るから争いごとは無くならねぇし、国が腐っていくんだよ!」

 

ジャイアンは、強い意志をもってそう言い放った。

 

「『・・・・・・・・・・。』」

 

その言葉にルクシャナは、心が揺さぶられるような感覚を覚えた。そしてスネ夫はジャイアンに、今この場にいない幼馴染の面影を重ねるのであった。

 

「平民が・・・・・ふざけるな!!」

 

平民に反論されたのが気に食わなかったのか、モットは水の刃を作り出し、ジャイアンに向けて放つ。

 

「くっ!!」

 

するとジャイアンの前に、ルクシャナが現れ、モットの攻撃を魔法で防ぐ。

 

「なら、アンタが平民たちを救ってよ!立派な王様になって!」

 

ルクシャナは笑みを浮かべる。

 

「行こう、ジャイアン!」

 

スネ夫も笑いながら前に出る。

 

「ああ!いくぜ!!」

 

三人はモットに飛びかかった。

 

 

 

 

 

 

 

「あの・・・・・タケシさん?」

 

その日の夜、ジャイアンたちは馬車に乗り、学院を目指していた。

 

「何?」

 

「これ、バレたら打ち首どころじゃすまないんですが・・・・・」

 

馬車の中にはジャイアン、スネ夫、シエスタの他に屋敷から奪った宝石や金貨の詰まった袋が大量に積まれていた。

 

「アイツのモノは俺のモノ、俺のモノは俺のモノだ!」

 

「そうですか・・・・・・・・・」

 

シエスタは苦笑いする。その後、ジャイアンたちは奪った宝石や金貨を学園で働く平民たちにボーナスとして、分け与えたのであった。



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23

学院へと戻ってきたジャイアンたちはまず、シエスタが再び学院で働くことが許されたことを他の平民たちに話してやった。メイドや若いコック達はシエスタが戻ってきたことを大いに喜び、彼女を連れ戻してくれたジャイアンたちに感謝した。そして数日後。

 

「スネ夫、何か面白い事ないか?」

 

「う〜ん・・・・。」

 

ベンチに座り、欠伸をするジャイアン。そしてその隣に座るスネ夫。

 

「『???』」

 

すると食堂から沢山の悲鳴が聞こえてくる。よく見ると、教師達が避難誘導を行っていた。何事かとジャイアンがその場から立ち上がると

 

ズズゥゥゥゥン!!ズズゥゥゥゥン!!

 

遠くの方で高さ30メイルぐらいのゴーレムが学園の本塔を殴っていた。

 

「なんだあれ?」

 

「ゴーレムだよ。」

 

「そんなものは見ればわかる、何してるんだ?」

 

呑気に会話を交わすジャイアンとスネ夫。

 

「どうやら、壁を壊そうとしてるみたいだねぇ、止めた方がいいかな?」

 

「何で俺たちが?こういう時の為に貴族がいるんだろ?」

 

「それもそうだね。」

 

普段から平民を散々バカにしている貴族たち、こういう時こそ彼らは役に立つべきだ。それ故に、平民であるジャイアンとスネ夫はその場を動こうとしなかった。

 

ドカン!!

 

するとゴーレムの胴体部分がわずかに爆発した。

 

「あれは・・・ルイズか。」

 

「うん、あの爆発はルイズだね。」

 

教師より先に動いたのは、この学園の落ちこぼれ、ルイズであった。やがてゴーレムは目的を達成したのか、大きな音と振動を立てながら学院から去って行った。

 

「終わったか・・・・」

 

「終わったな・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しばらくしてジャイアンとスネ夫が部屋へと戻ろうと廊下を歩いていると、

 

ザッ

 

目の前に顔を真っ赤に泣き腫らしたルイズが立っていた。そんな彼女の目の前を二人はそのまま通り過ぎる。

 

「待ちなさいよ!」

 

「・・・・なんだ?」

 

ジャイアンは振り向かず答えた。

 

「あんたたち・・・・いままでどこに行ってたのよ!学院に賊が入ったのよ!?」

 

「知っている。」

 

「じゃあなにを!」

 

「いいだろ、別に。」

 

「な、何ですって・・・・・」

 

ルイズは杖を取り出し、ジャイアンに向ける。

 

「そもそも、ああ言うのは貴族の仕事だ。それとも何か?お前たち貴族は、平民を虐めるためにこの学園に通っているのか?」

 

「~~~~っ!!」

 

その言葉を聞き、押し黙るルイズ。

 

「私は・・・っ、あのゴーレムを止めようとしていたのよ!あのゴーレムを止めれば誰も私をゼロなんて呼ばない!そう思って必死に止めようと思ってたのよ!」

 

「ふ〜ん。で?その事に俺たちがどう関係あるんだ?まさか貴族のお前が、平民の俺たちをアテにしてたわけじゃあるまいし・・・・・」

 

「っ・・・・!」

 

突き刺し抉るような言葉にぐうの音も出ない。

 

「なっ!ないわよ!なにも!」

 

ルイズは叫ぶと、自室へと走って行った。

 

ガバッ

 

ルイズはベッドの中に潜り込む。なんで来てくれなかったの?そう言いたかった、だが彼らの口から出た言葉は『俺たちには関係ない』の一言だった。そもそも誰にも頼りたくないから一人ゴーレムに挑んだのだ。

 

「くっ!」

 

自分はあまりに無力だ、だが必ず見返してやる。そう決意を固めルイズは眠りへと落ちた。

 



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24

翌日、トリステイン学院は噂の盗賊、『土くれのフーケ』の襲撃という前代未聞の大事件で大騒ぎになっていた。厳重な『固定化』の魔法で守られていたはずの秘宝が強奪されたのだ。そして犯行現場には、『秘蔵の破壊の杖、確かに領収いたしました』という犯行の旨を記したカードが落ちていた。まさに学院創設以来初の大事件であり、同時に過去に例を見ない大失態でもあった。学院長室では、教師達が集まり対策会議と称して責任の擦り合いを行っていた。それを一喝して黙らせたオスマンがゆっくりと口を開く。

 

「さて、みっともない所を見せてしまったが・・・・君たちに集まってもらったのは他でもない、『土くれのフーケ』による学院襲撃の件についてじゃ。犯行の現場を見た君たちに説明してもらう為にここに来てもらったと言うわけじゃ。」

 

オスマンは呼びつけた三人と二人の使い魔を見る。

 

そこにはキュルケに、相変わらず無表情のタバサ。目を充血させ、目元に泣きはらした痕を残しているルイズの三人、そしてジャイアンとスネ夫の姿があった。

 

「では犯行を見た時の事を説明してもらうとするかの。」

 

ルイズとキュルケは昨晩あったことを詳しく説明した。

 

「それで、破壊の杖を奪われたということじゃな?」

 

「・・・・・はい。」

 

ことの経緯を説明したルイズは教師達の心無い言葉に責められていたが、それを助けたのは

 

「オジさんたちが攻めることは出来ないんじゃないの?」

 

意外なことにジャイアンだった。

 

「こんなに大きな学校なんだから、見回りとかがいるのは当然でしょ?それに、ルイズたちが少しは足止めしたのに誰も来る気配が無かったってことは、寝てたりして当直を怠ってたって事でしょ?」

 

「そうだよ。自分が何もしなかった癖に他人を責めるのは筋違いだ!」

 

ジャイアンとスネ夫の正論に何もいえなくなった教師陣。以外にも自分を守ってくれたことに少し感謝したルイズだった。すると突然ドアから秘書のロングビルが現われた。

 

「ミス・ロングビル、どこ行ってたんですか!?大事件ですぞ!」

 

「申し訳ありません。昨晩から急いで調査しておりましたの・・・・。」

 

ロングビルの話では、近くの森にフーケの隠れ家らしい小屋を見つけたとの事だ。初めはこの事を王宮へ報告し、助けを予防としたのだが、その間にフーケに逃げられてしまう可能性と自身の問題は自分たちで解決するというオスマンの意向によりそれは却下された。

 

「では、捜索隊を編成する。我と思う者は、杖を掲げよ!」

 

だがオスマンの言葉に誰も杖を掲げず、全員顔を見合わすだけだ。

 

「おらんのか? おや? どうした! フーケを捕まえて、名を上げようと思う貴族はおらんのか!」

 

再度、オスマン尋ねた。だがやはり、誰も杖を掲げない。



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25

スッ

 

するとルイズが杖を掲げる。

 

「私が行きます!」

 

フーケを捕まえてみんなを見返してやる!そう決意を固め凛々しく名乗りを上げた。それを見て驚いたミセス・シュヴルーズが声を上げる。

 

「あなたは生徒ではありませんか!ここは教師に任せて・・・・」

 

するとキュルケも、しぶしぶと杖を掲げた。

 

 「ヴァリエールには負けられませんわ。」

 

さらに続けてタバサも杖を掲げる。

 

「タバサ。あんたまで付き合わなくても・・・・・」

 

「心配。」

 

そんな三人の様子を見て、オスマンが笑った。

 

「そうか。では、君らに頼むとしようか」

 

「オールド・オスマン!わたしは反対です!生徒達をそんな危険にさらすわけには!」

 

「では君が行くかね、ミセス・シュヴルーズ?」

 

「い、いえ・・・・。わたしは体調が優れませんので・・・・・」

 

異議を申し立てたシュヴルーズだったがオスマンの言葉に引っ込んでしまった。

 

「うむ、では彼女等に頼む事としよう!」

 

その様子を見てオスマンが言った。

 

「心配はいらん!ミス・タバサは、若くしてシュヴァリエの称号を持つ騎士だと聞いている!」

 

その言葉に教師達は驚いたようにタバサを見つめた。

 

「本当なの?タバサ」

 

キュルケも初耳だったらしく驚いている。そしてオスマンは、キュルケに視線を向ける。

 

「ミス・ツェルプストーは、ゲルマニアの優秀な軍人を数多く輩出した家系の出身で、彼女自身の炎の魔法も、かなり強力と聞いているが?」

 

オスマンの説明にキュルケは得意げに、髪をかきあげた。それからルイズが自分の番と言うかのように可愛らしく胸を張る。だが

 

「・・・・・・・・・・・。」

 

オスマンは困ってしまう。何故なら褒める所がないのである。オスマンはさりげなく目を逸らす。

 

「その・・・・・、ミス・ヴァリエールは数々の優秀なメイジを輩出したヴァリエール公爵家の息女で、その、うむ、なんだ、将来有望なメイジと聞いているが?しかもその使い魔は!」

 

そう言うと、ジャイアンを熱っぽい目で見つめた。

 

「平民でありながらあのグラモン元帥である、ギーシュ・ド・グラモンと決闘して勝ったという。魔法とは違う未知の力を使えるという噂だ?」

 

自分よりも使い魔が褒められた事にルイズはムッとする。

 

「この三人に勝てるという者がいるのなら、前に一歩出たまえ!!!!」

 

オスマンが威厳のある声で言う。そして誰も反論しないことを確認すると

 

「魔法学院は、諸君らの努力と貴族の義務に期待する!」

 

ルイズたちは真顔になって直立する。そして

 

「『「杖にかけて!!!」』」

 

唱和し、スカートのすそをつまんで恭しく礼をする。



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26

「自分の不始末は自分で解決する・・・・・・か。」

 

「カッコイイね・・・・・」

 

「ああ。尊敬するぜ!」

 

オスマンの話を聞いたジャイアンとスネ夫は感動していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だがすぐにその考えを改めるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それでは、タケシ君。スネ夫くん。破壊の杖の奪還、よろしく頼むぞ!」

 

「『え?』」

 

オスマンの言葉に二人は眉をひそめた。感じていた違和感の正体が分かった。

 

「何で俺たちが行くの?」

 

「そうそう。」

 

てっきりオスマンがルイズと一緒に行くものだと思っていた二人。

 

「いやっ、その、君たちの主人が行くのじゃぞ?」

 

二人の返答が想定外だったのかオスマンは驚いたように聞き返す。

 

「主人じゃないよ。そもそも何で僕たちをここに呼ばんだの、関係ないでしょう?」

 

「それは君たちがミス・ヴァリエールの使い魔――」

 

全く噛み合わない会話が始まった。

 

「そもそもこの学園の責任者は誰だ?」

 

「???」

 

「宝物の持ち主は?警備の配置を計画したのは?」

 

ジャイアンの言葉にその場にいる全員がオズマンの方を向く。

 

「だったらあんたも行くべきなんじゃないのか?生徒だけに行かせるなんて、恥ずかしいと思わないの?」

 

オスマンは目を瞑り、顔を伏せる。

 

「うむ、もっともじゃ。だが、偉くなりすぎるというのも考えものでな。責任っちゅう名の鎖がギチギチと儂の体を縛りよる。」

 

先程の老人と同一人物とは思えないくらい情けない。

 

「『ハア〜っ。』」

 

ジャイアン、スネ夫はため息をつく。すると後ろからルイズがジャイアンに飛びかかる。

 

「あんたたちも行くのよ!わたしの使い魔なんだから、それぐらいの事はしなさいよね!いい?これは命令よ。」

 

何かと言い訳をかこつけるルイズ。教師も教師なら、生徒も生徒である。

 

「そうよダーリン!私もダーリンの戦う所見てみたいなぁ!」

 

「来て欲しい!」

 

キュルケやタバサまで説得に加わる。

 

「『・・・・・・・・・・・・・。』」

 

こうしてジャイアンとスネ夫は渋々ルイズたちに同行することになった。

 

 

 

 

 

 

 

フーケの隠れ家のある森へ馬車を走らせる。御者は案内も兼ねてロングビルが務めることとなった。

 

「それにしてもフーケって魔法が使えるってことは貴族なのかしら?」

 

「貴族が盗賊なんて恥知らずな真似するわけないわ!絶対違うわよ!」

 

「・・・・・いいえ。世の中には国の事情で家を取り潰されて、仕方なく盗賊や傭兵をやっている貴族もいる見たいですよ。」

 

「・・・・・・と言う訳よ、あんたって結構世間知らずよね!」

 

「////う、うるさいわね!ちょ、ちょっと忘れてだけよ!////」



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27

「・・・・・う・・・・う・・・・う・・・・・・ま・・・・だ・・・・」

 

少年はフラつきながら、立ち上がる。身体中アザだらけだ。

 

「いい加減、しつこいんだよ!!!!」

 

ジャイアンは必死で少年を殴る。

 

バコン

 

メシっ

 

ビシッ

 

バタン!

 

「ハア・・・・ハア・・・ハア・・・・・これで懲りたか。ハア・・・・ハア・・・ハア・・・・何度やっても同じだ。いい加減、諦めろ。」

 

ガシッ

 

少年はジャイアンの足にしがみつく。

 

「いい加減にしろよ、お前!!!!!!」

 

「僕だけの力で君に勝たないとドラえもんが安心して未来に帰れないんだ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!?」

 

ジャイアンは目を覚ます。

 

「ジャイアン!」

 

「スネ夫・・・・・・?」

 

ジャイアンが辺りを見渡すと、そこは馬車の中だった。スネ夫だけじゃなく、ルイズたちもこちらに視線を向けていた。

 

「夢か・・・・・・・」

 

ジャイアンはへたり込む。

 

「随分魘されていたみたいだけど、大丈夫?」

 

「ああ。」

 

「もしかしてアイツの夢を見てたの?」

 

「・・・・・・・・・・。」

 

スネ夫の問いに答えず、ジャイアンは窓の外に視線を向ける。その様子からしてどうやら図星のようだ。

 

 

 

 

 

 

 

「アイツ?」

 

「誰よ?」

 

アイツという単語を聞いて、ルイズとキュルケが疑問符を浮かべる。

 

「何でもないよ、コッチの話。」

 

何とか誤魔化そうとするスネ夫。だが

 

「なによ!主人様である私に向って隠し事をする気!?さっさと吐きなさい!!」

 

スネ夫の胸ぐらを掴んでルイズが揺する。

 

「・・・・・ぐ、ぐるじい。」

 

「 ちょっとルイズ、やめなさい!」

 

何とかルイズをスネ夫から引き離すキュルケ。

 

「・・・・僕たちの幼馴染さ。」

 

「幼馴染?」

 

「うん。顔はブサイク、成績は下の下、運動神経はゼロ。何の取り柄もない、ダメ男さ。」

 

「『「・・・・・・・・・・・。」』」

 

「ジャイアンはソイツに喧嘩で負けたんだよ。」

 

スネ夫は簡単にルイズたちに説明する。

 

「それってつまり・・・・・・タケシがそのダメ人間に負けたって事?」

 

「・・・・・・・・・。」

 

スネ夫は無言でジャイアンの方を見る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『「ぷっ!」』」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『「『ハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!』」』」

 

するとその場にいた全員が笑い出した。

 

「散々偉そうな事言ってる癖に、そんな落ちこぼれに負けるなんて!!!」

 

「あは、あはは、ご、こめんダーリン我慢できないわ!!!」

 

「・・・・ぷ。」

 

幼馴染の話に大笑いする三人。それを見たスネ夫は、

 

(そうか・・・・だからジャイアンはルイズの事を・・・)

 

何故ジャイアンが貴族を嫌うのか理解した。



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28

森に入り、そのまま進んでいくと、そこには廃屋があった。一行は、小屋の中から見えないように、森の茂みに身を隠したまま廃屋を見つめる。

 

「情報では、確かにあの小屋です。」

 

ミス・ロングビルが廃屋を指差して言った。ジャイアンは小屋の壁に張り付き、窓から中を覗く。中には埃を被った家具がいくつかあるだけで、人の暮らしていた形跡は見当たらない。正真正銘の廃屋だ。ジャイアンは合図をして、ルイズたちを呼んだ。

 

「誰もいないぞ。」

 

タバサが扉の前で杖を振り、『ディテクト・マジック』を唱える。反応なし。罠がないことを確認したタバサは、ドアを開けて中に入っていく。それにキュルケが続いた。

 

「私は外を見張ってるわ!」

 

外には見張りとしてルイズが残り

 

「じゃあ、私は辺りの偵察をして来ます!」

 

ロングビルは辺りの偵察に森の中に入り

 

「じゃあ、僕たちは馬車にもどってるね!」

 

どさくさに紛れてジャイアンとスネ夫は逃げ・・・

 

ガシッ

 

「どこ行くのよ、あんたたち!?」

 

首根っこをルイズに掴まれてしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

小屋の中を探し始めてすぐ、タバサが盗み出された『破壊の杖』を見つけ出した。

 

「ずいぶんあっけないわね。」

 

キュルケがそう漏らす。

 

「『!?』」

 

ジャイアンとスネ夫は『破壊の杖』を見た瞬間、目を丸くした。

 

「おい、スネ夫!」

 

「うん。なんでこれがこんな所にあるんだろう・・・?」

 

間違いない。これは――。

 

「きゃあああああああああああああ!!!」

 

その時、見張りをしていたルイズの悲鳴が聞こえた。三人が一斉にドアを振り向いたと同時に、小屋の屋根が吹き飛ぶ。屋根が無くなった小屋の中を、巨大なゴーレムが覗き込むようにして立っていた。

 

「ゴーレム?」

 

キュルケが叫んだ。するとタバサはすばやく詠唱し、巨大な竜巻をゴーレムにぶつけるが、びくともしない。続いてキュルケが炎を放つも、ゴーレムはまったく意に介さない。

 

「無理よこんなの!」

 

キュルケが叫んだ。

 

 

 

 

 

 

 

「退却。」

 

「うん。『破壊の杖』も取り返したし、ワザワザあんなのと戦う必要もないね。」

 

「そうだな!」

 

「行きましょう!」

 

全員一致で撤退を決める。

 

ボンッ!!

 

「『「『!?』」』」

 

聞き覚えのある爆発音が聞こえた。振り向くと、ルイズがゴーレムに何度も失敗魔法をぶつけている。ゴーレムもルイズに気づき、襲い掛かってきた。

 

「逃げろ!」

 

「嫌よ!」

 

ルイズは断固として逃げようとせず、ゴーレムに攻撃を続ける。

 

「私は貴族なの!魔法を使える者を貴族と呼ぶんじゃない!敵に背を見せない者を貴族というのよ!」



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29

ジャイアンは走り出し、ゴーレムの股の間を一気に駆け抜けて、ルイズを捕まえた。

 

「何すんのよ!」

 

首根っこを捕まれ、ルイズが抗議の声を上げる。

 

「秘宝は取り戻した、後は逃げるだけだ!・」

 

「いやよ! あいつを捕まえれば、誰ももう、私をゼロのルイズなんて呼ばないでしょ!」

 

ジャイアンの手を払い除けて、ルイズは強く言った。

 

「私にだって、ささやかだけどプライドってもんがあるのよ。ここで逃げたら、ゼロのルイズだから逃げたって言われるわ!」

 

真剣な目でルイズが言いかけた言葉をジャイアンは遮った。

 

「お前は本当にマヌケだな。あいつを捕まえる事とお前がゼロのルイズと呼ばれることは関係ないだろう?」

 

「っ!?」

 

息が詰まる。怒りで目の前が真っ赤になった。許せない。ただその言葉だけがルイズの頭の中に浮かんだ。

 

「ふふふふ、ふざけるなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

その叫びに、ゴーレムも驚いたのか動きが止まる。

 

「ななな、なんであんたにそんな事がわかるのよ!?」

 

怒りのあまり呂律の回らなくなった口調で、ルイズがジャイアンに掴みかかる。

 

「お前がゼロって呼ばれてるのは、日頃の横暴な態度と魔法が使えないからだろう?だからあいつを捕まえようがお前が魔法を使えないことに変わりはない。」

 

まったく熱を感じさせない声でジャイアンがルイズに告げる。

 

「・・・・・・だから逃げろって?こいつを倒しても扱いは変わらないから。・・・・・ふん、冗談じゃないわ!」

 

ルイズは短く吐き捨てる。

 

「あんたにはわかんないかもしれないけど、私は貴族なのよ。魔法が使える者を、貴族と呼ぶんじゃないわ!敵に後ろを見せない者を、貴族と呼ぶのよ!」

 

ルイズは杖を握り締め、巨大なゴーレムを見据えた。

 

「『じゃあ、何で魔法が使える使えないことに拘ってるんだよ・・・・。』」

 

ジャイアンとスネ夫はため息をつく。

 

ボンッ!!

 

ゴーレムの胸辺りで、またルイズの爆発が起きるが、まるでダメージにならない。

 

「・・・・・・・・・・。」

 

ゴーレムの巨大な足がルイズとジャイアンに向けて落ちてくる。ジャイアンはルイズを抱えながらそれをかわし、走り出す。

 

「???」

 

ジャイアンは抱えたルイズが、ぽろぽろと涙をこぼしているのに気づいた。

 

「お前、泣いてるのか?」

 

「だって、悔しくて・・・・。わたし・・・・。いっつもバカにされて・・・・」

 

いつもバカにされているのが、よほど悔しいらしい。今回の討伐も、ルイズはその汚名を返上するために志願したのだ。



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30

目の前にタバサの風竜シルフィードが舞い降りた。

 

「乗って!」

 

タバサが叫んだ。ジャイアンはルイズをシルフィードの背中に放り投げると、拳を振りかざすゴーレムを見上げる。

 

「ジャイアン!」

 

シルフィードの背に乗っていた、スネ夫が何かを投げ渡す。

 

「よし、行け!」

 

今にも拳を振り下ろしそうなゴーレムを見て、ジャイアンはシルフィードを飛び立たせる。

 

ドン!!

 

シルフィードが飛び立った瞬間、ゴーレムの拳が地面に叩き付けられた。

 

「タケシ!」

 

ルイズが悲鳴のように叫ぶ。ジャイアンはゴーレムの攻撃をかわすと、ゴーレムの腕に、バットを振り下ろす。だが

 

ガチッ

 

バットはあっさりへし折れた。木製なので無理もない。

 

「あ、やっぱり折れたか。ルクシャナに怒られるな・・・・」

 

ジャイアンは、折れたバットを投げ捨てると、スネ夫から渡された物を取り出す。それは『破壊の杖』と呼ばれる小さな突起のついた筒一本。それを手にはめると、ゴーレムに向き直った。

 

「ドカン!」

 

手にはめた筒から強力な衝撃波が飛び出し、それがゴーレムに直撃したのだ。

 

ドカン!!!

 

巨大な爆発とともにゴーレムはバラバラに破壊された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・間違いないな・・・。」

 

ジャイアンは、呟く。するとシルフィードはゆっくりと降りてきた。

 

「タケシ! すごいわ、さすが私のダーリン!」

 

そういいながら抱きついてくるキュルケを引きはがす。

 

「た、倒しちゃった・・・・」

 

ルイズはあっけに取られたように呟く。

 

「フーケはどこ?」

 

タバサの言葉にはっとしてあたりを見渡すルイズとキュルケ。その時、近くの茂みから、偵察へ行っていたロングビルが現れた。

 

「ミス・ロングビル! フーケはどこからあのゴーレムを操っていたのかしら?」

 

キュルケが尋ねるが、ミス・ロングビルはわからない、というように首を振って『破壊の杖』を見る。

 

「それが、盗まれた秘宝ですね?」

 

「ええ」

 

カチャ

 

するとジャイアンは何を考えたのか、ロングビルに砲口を向ける。

 

「ちょっと!何してるのよ!!」

 

ルイズが慌てて止めに入ろうとするが、ジャイアンは腕を下ろさない。

 

「い、いきなり何をするんですか!!」

 

叫ぶロングビルにスネ夫がゆっくりと口を開いた。

 

「あなたが盗賊なんでしょ?だから捕まえるんだよ。」

 

「な、何を言ってるんですか!?私は・・・・・」

 

「あなたの言ってた調査には矛盾が沢山あったからね。どうせ『破壊の杖』の使い方がわからなかったから、学院から誰か連れてくれば使い方がわかると思ったんじゃないの?」

 

「っ!!」



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31

ロングビルは事件が起こってすぐに調査したと言っていたが、ジャイアンたちが事件を目撃にしたのは、夜も更けてかなり遅い時間だ。そんな時間なら当然馬を借りることはできない為、自分の足で歩くしかない。その上、馬を飛ばして三時間ぐらいかかるということは、歩けば確実に六時間以上かかる計算になる。つまり往復だけで半日掛かり、調査などろくに出来るわけが無いのだ。さらに言えば、夜中にこんな森の中をうろつく人などいるはずも無く、目撃情報なんているわけが無い。

 

「なんだい、バレてたらしょうがないね。ゴーレム!!」

 

正体がばれた瞬間、ジャイアンたちから距離を取り、ゴーレムを召喚する。

 

「まさか、本当に?」

 

ルイズはまだ信じられないのか、いまだに困惑し、動けずにいる。その隙にゴーレムはルイズを掴み、人質にした。

 

「さぁ、『破壊の杖』を渡しな!さもないと、あんたの主人の命は無いよ!」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」

 

形勢逆転。これで勝利を確信したフーケ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だが

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「誰が主人だ?俺様に主人なんていないよ。」

 

「へ?」

 

ジャイアンの反応はフーケにとって予想外のものだった。ジャイアンが乱暴者だと言っても、最低限の使い魔をしているものだと思っていたフーケは、主人を人質に取れば簡単に秘宝を渡すだろうと思っていたのだが、

 

(こいつ、アッサリ主人を捨てやがった!?)

 

ジャイアンがここまで使い魔をしていないとは予想外だった。

 

「もういいか?じゃあ、いくぜ。」

 

ジャイアンはゴーレムに砲口を向ける。

 

「ちょ、ちょっと待ちなって!あんたいったい!?」

 

「ドカン!!」

 

凄まじい衝撃波でゴーレムを再び破壊する。

 

「ぎゃあああああああああ!!」

 

ドーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!

 

「きゃああああ!!」

 

ルイズは間一髪脱出に成功したが、着地に失敗し、顔面から地面に激突してしまう。

 

「タケシ!もうちょっとマシな助け方は無かったの!?」

 

ルイズはすぐに立ち上がり、ジャイアンに文句を言う。予想通りの生命力にジャイアンは半端呆れる。

 

「あ?悪いのは逃げずにボーと立っていた、お前だろ?助かっただけ感謝しろよな。」

 

それだけ言うとジャイアンは歩き出し、スネ夫もその後に続く。

 

「スネ夫の推理した通りだったな。」

 

「でしょ?」

 

「お前って本当に頭がいいな。」

 

二人は気絶しているフーケを縛り上げ、馬車の中に押し込むと、そのまま森を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして学院に戻った二人は、フーケを衛兵に引き渡し、学院長室でオスマンに事の次第を報告した。



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32

「ふーむ・・・・・。ミス・ロングビルが土くれのフーケじゃったとはな・・・・・」

 

「・・・・・まさか、彼女が・・・・」

 

現在ルイズたちは、学院長室にてオールド・オスマンへ事の顛末を報告していた。衝撃の事実に圧倒されたオスマンは、自身の椅子へともたれかかりながら重々しく口を開く。オスマンの隣に控えていたコルベールも、思わず声を零してしまう。そんな彼らの反応に、ルイズたちは神妙な面持ちを見せていた。芝居とは言え、自分達よりも深くロングビルと接していた二人、思うところも多々あるのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「一体、どこで採用されたのですか?」

 

「街の居酒屋じゃ。彼女は給仕をしておった。あまりに美人だったもので、ついついこの手がお尻を撫でてしまってな・・・・・・」

 

その言葉にルイズたちは冷たい視線をオスマンに向ける。

 

「今思えば、あれも魔法学院に潜り込むためのフーケの手じゃったに違いない。居酒屋でくつろぐわしの前に何度もやってきて、愛想よく酒を勧める。魔法学院の学院長は男前で痺れます、などと何度も媚を売りおって・・・・。終いにゃ尻を撫でても怒らない。惚れてる?とか思うじゃろ?そりゃ秘書にも雇っちゃうわい。」

 

「そ、そうですな!美人はただそれだけで、いけない魔法使いですな!」

 

「そのとおりじゃ!君はうまいことを言うな!コルベール君!」

 

そんなオスマンに同調するように声をかけたのはコルベールである。彼も何か、やましいことがあったのだろう。二人の姿に、ルイズたちはため息を漏らし、呆れた顔をする。そんな生徒達の冷たい目線に気づくと、オスマンは照れたように咳払いをし、厳しい顔つきへと戻る。

 

「さてと、君達はよくぞフーケを捕らえ、『破壊の杖』を取り返してきてくれた。これは私の恩人からの預かり物でな。本当に、感謝しておる。ありがとう」

 

オスマンは話を戻し、四人を褒め称える。もっとも、ジャイアンとスネ夫以外は全くと言っていいほど役に立っていないが。

 

「・・・・・これにて一件落着じゃな。君達にはシュヴァリエの爵位申請を、宮廷には出すつもりじゃ。とはいっても、ミス・タバサはすでにシュヴァリエの爵位を持っておるからの。代わりに精霊勲章の授与を申請するつもりじゃ!」

 

ルイズたち三人は、顔を輝かせた。

 

「本当ですか・・・・!?」

 

「本当だとも。いいのじゃ。君達はそれだけのことをしたのじゃから!」

 

驚いた声で尋ねるキュルケに、オスマンは当然のことだ、と答える。そんな時、ルイズはチラリと隣に立つジャイアンとスネ夫に視線を向ける。

 

「・・・・・オールド・オスマン。タケシとスネオには、何もないのでしょうか・・・?」

 

「残念ながら、彼らは貴族ではない。」

 

その答えに、ルイズは「そんなぁ・・・」とうなだれる。だが当の本人たちは褒章などには全く興味が無く、ほぼ無表情で立っているだけだった。

 

「さてと、今日の夜は『フリッグの舞踏会』じゃ。このとおり、破壊の杖も戻ってたので、予定どおり執り行う。」

 

「そうでしたわ!フーケの騒ぎで忘れておりました!」

 

顔を輝かせたキュルケを見て、オスマンは満足そうに頷く。

 

 

 

「今日の舞踏会の主役は君たちじゃ。用意をしてきたまえ。せいぜい、着飾るのじゃぞ!」

 

 

 

ルイズたちは礼をする。

 

 

 

 

 

こうして一同は学院長室を後にしようするが・・・・・・

 

「ミス・ヴァリエールの使い魔の君たち。ちょっといいかな?」

 

「何だ?俺たちは、お前らに用は・・・」

 

言いかけて、ジャイアンは『破壊の杖』のことを思い出す。

 

ちょうど良い、こいつらに聞くか。そう考えて、二人は立ち止まり、学院長室へと残る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・それで、何のようだ?」

 

ルイズ達が学院長室から出て行った後、ジャイアンは尋ねる。

 

「ほっほっほ、豪胆じゃのう。・・・・率直に言うと、わしらは君を単なる平民などとは思っておらん。以前の決闘騒ぎに続き、今回の一件でも君の存在は大きい、そうじゃろう?只者ではないと思っての。」

 

それで聞きたいのじゃ、とオスマンは続ける。

 

「君は一体何者で、どこから来て、何を思っておるのかを。君は、これから何を成そうとしておるのじゃ・・・?」

 

質問の上に、さらに質問を重ねて尋ねるオスマン。

 

「教えてもいいけど、その代わり僕たちも聞きたい事がある。」

 

スネ夫の言い分に、コルベールは難色を示したが、オスマンはすんなり承諾する。

 

「いいじゃろう。君たちには爵位を授けることはできないが、質問ぐらいには答えよう。」

 

何でも聞きたまえ、というオスマンに、スネ夫は『破壊の杖』の箱を指差す。

 

「じゃあ単刀直入に聞くけど、これを何処で手に入れたの?」

 

「君たちはこれを知っているのかね?」

 

バキバキ

 

「俺たちの質問に答えろ。殴られたいのか?」

 

「ま、まて!話すからまってくれ!!」

 

オスマンが()()に答えるように腕を鳴らすジャイアン。そんな彼をオスマンはおびえながらも語り始める。



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33

オスマンはかつて自分を助けてくれた恩人のことを語り出した。彼がワイバーンの群れに襲われたとき、霧の中から現れた一人の少女のことを。その少女は、腕に『破壊の杖』を装着し、あっさりとその群れを壊滅させてしまったらしい。オスマンは、助けられた礼を言うとしたが、少女は誰かに呼ばれたのか、霧の中に去って行った。慌てて後をおったが見つからず、代わりに『破壊の杖』が落ちていたのだと言う。それからオスマンは、今まで大事に保管していたらしい。

 

「それにしても、あの子、綺麗じゃったの~。将来はきっとスゴイ美人になるに違いないわい。」

 

かつての恩人のことを思い出しながら、シミジミとした様子で言うオスマン。だが、ここまでの話を聞いて、オスマンの恩人だという少女に関して、ある人物に思い当たっていた。

 

「爺さん、近くに男の子はいなかったか?」

 

「ドジで、マヌケで、バカ顔なんだけど・・・。」

 

ジャイアンとスネ夫は、オスマンに詰め寄る。

 

「いや、わしが見たのはその子だけじゃよ。」

 

「そうか・・・・・・・・・。」

 

ジャイアンとスネ夫はため息をつく。

 

「まぁ、でも、おかげでこいつの謎も解けた。礼を言うぜ・・・・」

 

ジャイアンとスネ夫は踵を返し、学院長室を出て行こうとする。

 

 

 

 

 

 

 

「これ!まだこちらの質問に答えて貰ってないぞ!」

 

オスマンの呼びかけに立ち止まる二人。

 

「僕たちは東の国から来た唯の平民さ。」

 

静かに語るスネ夫に、耳を澄ませるオスマンとコルベール。

 

「僕たちはある男を探しているんだ。もしさっきの話が全て本当なら、この国にはなんらかの手がかりがあるはず。だからこの国でその手がかりを探し出す、それだけさ。」

 

するとオスマンが重々しく口を開く。

 

「・・・・正直に言おう。我々は君たちの存在を危険視しておる。」

 

表情を変えない二人に、オスマンはさらに続けた。

 

「君は強力な使い魔じゃ。素手でメイジを倒せるほどにな。故に、ミス・ヴァリエールが御し切れぬのなら、野放しにはしておけん。」

 

「ん?俺たちは全然強くないぞ?」

 

「そうそう、強いっていうのはアイツの事を言うんだ。」

 

「ミスタ・グラモンとの決闘を見させてもらった。あの時君は、ミスタ・グラモンを殺そうとしたじゃろう?」

 

「『・・・・・・・。』」

 

オスマンとコルベールは、厳しい表情でジャイアンを見つめる。

 

「なら、何故、決闘の騒ぎを止めなかったの?」

 

突然の質問に困惑するオスマンとコルベール。スネ夫の視線はちらりと、遠見の鏡へと向けられる。



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34

「あれで事の成り行きは見てたんでしょう?なら、何故あの騒ぎを止めようとしなかったの?」

 

二人が気づいていたという事にオスマンとコルベールはたじろぐ。

 

「高みの見物で何を考えていたかは知らないけど、お前たちは教師なんだろう?なら何故、決闘を止めようとしなかった? 俺様はアイツを殺す気なんて毛頭なかったけど、もしあれでアイツが死んでいれば、それを傍観していたお前達はどう責任を取っていたつもりだ?」

 

ここに来て二人は、オスマンたちの行為を非難する。表情は先ほどからまるで変化していないが、変わらないのが逆に恐ろしい。

 

「他の教師達までも止めるどころか、あなたたちと同じ傍観者と成り果てていた。教師であるあなたたちにはこの学院にいる全ての人間達を守る義務がある。それができないようでは教師失格だ。」

 

「俺たちはお前たちを信用していない。故に、これは俺たちが貰っておくぜ!責任感のない人間に預けるのは危険すぎるからな。」

 

近い将来また盗まれると確信したジャイアンは、『破壊の杖』を取り上げる。

 

「・・・・確かに、そうじゃ。ワシらは好奇心を優先して、一番大事なことを忘れていたよ。君たちの言う通り、ワシらはとんだ大馬鹿者じゃ。君に教師失格などと言われるのも無理はない・・・・。まことに、申し訳ない・・・・・・・・・」

 

コルベールもオスマンと共に頭を深く下げる。

 

「いやはや・・・君たちには恐れ入るわい。ミス・ヴァリエールは素晴らしいパートナーを得たようじゃな。」

 

ジャイアンとスネ夫は用が済んだとばかりに踵を返し、学院長室を後にする。

 

 

 

 

 

 

「オールド・オスマン・・・」

 

コルベールがオスマンに話かける。

 

「まだ彼らが安全と決まったわけではない。だが確かに決闘の時、彼らはミス・ヴァリエールによって止められた。今回も、主と共にフーケ討伐の任を果たした。少なくとも、ある程度はミス・ヴァリエールに従うようじゃ。」

 

「・・・・はい」

 

「ミスタ・コルベール。この件は引き続き私が預かろう。」

 

「わかりました。」

 

「君はミス・ヴァリエールの方に気を使ってやってくれ。彼女、扉の向こうで話を聞いておったぞ。」

 

「! ・・・分かりました」

 

そう言って、コルベールも部屋を出て行く。ひとり学院長室に残ったオスマンは、

 

「願わくばその力、壊すためではなく、守るために使ってほしいものじゃ。」

 

静かに呟いた。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の夜。 アルヴィーズの食堂の上階にて、フリッグの舞踏会が行われようとしていた。



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35

華やかに着飾った教師や生徒達が食事や会話をしながら、年に一度の舞踏会を満喫していた。そんな中、一際注目を浴びているのはフーケ討伐に赴いたキュルケとタバサだった。タバサは食事に夢中なので周囲に人はいないが、キュルケの周りには大勢の男が群がっていた。

 

「『・・・・・・・・・・・・。』」

 

そんな中、ジャイアンとスネ夫はバルコニーから、星空を眺めていた。

 

「あんたたち、こんなところで何してるのよ。」

 

そこに現れたのは二人のご主人と言い張るルイズ。ただ、いつもと違うのは妙に着飾っており、二人からすれば違和感が物凄くあるということだ。

 

「楽しんでる?」

 

「まあな。」

 

ルイズはすっと二人に手を差し伸べた。

 

「踊ってあげても、よくってよ。」

 

目を逸らして、ルイズは照れたように言った。

 

「おいおい、そこは踊って下さい、だろ?」

 

「うっ!し、仕方ないわね・・・・今日だけよ。」

 

ルイズはドレスの裾を両手で持ち上げると、膝を曲げて一礼した。

 

「わたくしと一曲踊ってくださいませんこと。ジェントルマン。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『御断りします。レディ。』」

 

「少しは考えなさいよ!!」

 

ルイズの誘いを即答する二人。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ホントムカつく使い魔ね。まぁいいわ、今回は特別に許してあげる。」

 

そう言うとルイズもバルコニーから、星空を眺める。

 

「ねぇ、聞きたいことがあるんだけど。」

 

「何だ?」

 

「あんたたちが探してる男って、この間の話に出てきた幼馴染なの?」

 

「盗み聞き?ま、知ってたけどね。」

 

「だ、だって・・・・不安じゃない。あんたたちが何かやらかしたら、主の私の責任なのよ?」

 

ばつが悪そうに言うルイズ。

 

「聞いた内容はすべて黙っていろ。」

 

「え?なんでよ?」

 

キョトンとするルイズに二人は呆れた顔をする。この女は盗み聞きした内容を他人に話すつもりなのか、余程神経が図太いとみた。

 

「わかったわ、黙っておいてあげる。そのかわり、私の言うことは何でも聞くこと!いいわね!」

 

「フン・・・考えておいてやる。」

 

ジャイアンは素っ気なく言った。

 

 

 

 

 

 

 

「それで、アンタたちは何でソイツの事を・・・・・・・」

 

ルイズは詳しい話を聞こうとするが

 

「ルイズ、あまり人の事情に首を突っ込まない方がいいよ。人には話したくない事はいくらでもあるんだから。」

 

「お前の今の行動は『優しさ』じゃない。唯の『御節介』だ。」

 

二人は立ち上がるとそのまま部屋へ向かって歩き出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・バカ。少しは教えてくれてもいいじゃない。」

 

ルイズはむくれながら部屋に戻り、着替えて睡眠をとることにした。



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36

「いやあぁぁぁ! お か さ れ る ぅ ぅ~~~~ ! ! ! ! 」

 

少女は泣き叫びながら走る。

 

「おかされるぅ~!!おかされるぅ~!!おかされるぅ~!!」

 

悲鳴は石造りの廊下をよく反響しながら奥へと吸い込まれていく。そして悲鳴が吸い込まれていった廊下の奥からおびただしい数の男子生徒が集まってきた。そしてあっという間にジャイアンを取り囲む。ざっと見て、30、32人いる。

 

「貴様! ルイズの使い魔の平民!! 貴族を愚弄しただけでなく、今度は婦女子に暴行を加えようとするとは・・・もはや到底見逃すことは出来ん!!」

 

集まった男子を代表するように一人の男子が前に出て、声を上げた。先程悲鳴を上げた少女は、少し離れた所でニタニタ笑いながら、あっかんべーをしている。

 

「ふぅ・・・・・・・・・・・。」

 

多分説明をしても無駄だろう。この様子ではこちらの言い分に聞く耳を持つ者がいるとは思えない。

 

「きゃははははっ!みんな、やっちゃえ!きゃははははは!!」

 

先程の少女は、手を叩いて笑いだす。

 

「さあ、罪人に聖なる鉄槌を!!!!」

 

その声を合図にジャイアンに様々な魔法が襲い掛かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だが数分後。

 

 

「ごめんなざいいい、ゆるじでぐださいい。」

 

代表の男子はへなへなしゃがみ込む。よく見たらズボンが濡れていて・・・いい歳して、お漏らしていた。

 

「お前ら、俺が何もしてないってことを分かった上で、こんなことしたってことでいいか?」

 

「はい・・・その、悪かったって思ってます。・・・・反省してます、許してください・・・・」

 

するとジャイアンは離れた所で震えている少女に視線を向ける。

 

「わ、私は悪くないの!みんなが、みんながやろうって言い出して・・・・許して・・・ね?」

 

そう言いながら少女は泣き叫ぶ。だがジャイアンは少女に近づくと

 

「そのセリフ、聞き飽きたぜ。」

 

容赦なく拳を振り上げた。

 

「いやあああああああああ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・どうしたもんかのぉ。」

 

頭を抱える学院の長、オールド・オスマン。この学院で最も強く、最も学院を愛し、最も尊敬されるメイジだ。そんな彼が頭を抱える理由。それはルイズの使い魔として召喚された彼らについてだ。

 

「タケシ君、スネ夫くん、ちょっとやりすぎではないかの?」

 

ジャイアンとスネ夫が部屋で筋トレをしていると、オスマンが今までの行動を警告してきた。

 

「俺たちは降りかかる火の粉は払っているだけだ。悪いのは全部あっちだろ?」

 

舞踏会の日、何人かは面白くないという表情でジャイアンたちを睨んでいた。平民がメイジに圧勝したという事。平民が盗賊を捕まえたという事。この二つを面白く思っていないのだろう。ましてや彼らの態度はそれに対して火に油を注いでいるようなものに違いない。なぜなら彼らにとって、メイジに勝ったことや盗賊を捕まえた事など、どうでもいいことと言わんばかりの態度なのだ。



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37

「いや、それにもやり方があるじゃろ。」

 

「常識がない人間に常識的なやり方が通用すると思うか?」

 

「教師は生徒を写す鏡。学園長のあなたが情けないからあんな生徒や教師が生まれるんだよ。」

 

「それは・・・・・」

 

「平民は貴族の奴隷じゃないんだぞ。」

 

ジャイアンは、強い意志で言い放った。何故なら、彼が医務室送りにしている生徒や教師たち、その全てがメイドやコックといった平民を虐めてたからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その夜。ルイズは、少し顔を赤くし、心ここにあらずといった感じでフラフラとベッドに倒れこんでいた。それから立ちあがったり、フラフラしたり、枕を抱いてベッドに腰掛けたりと落ち着きのない行動をとっていた。

 

「久しぶりだな、ルイズ。」

 

突然声をかけられ、顔をあげる。

 

ニヤリ

 

そこにはコートを被った人物が立っていた。

 

「あ、アンタは・・・・・」

 

いつの間に部屋に入ったのかと慌てるルイズ。

 

「噂は聞いてるよ。随分、活躍しているようだな。」

 

ニヤニヤ笑う少年にルイズは視線を向ける。

 

「どうだ?バカにしてた奴らを見返すのは快感だろ?」

 

「そ、それは・・・・・・・」

 

確かにこいつの言う通りだ。ギーシュやフーケとの一件で、生徒達のルイズを見る目は変わっていた。今までバカにしていた生徒や教師たちが手の平を返したような態度で接してくる。ルイズはそれが堪らなかった。

 

「もっとその快感を味わいたくないか?」

 

「えっ?」

 

すると少年の姿が徐々に消えていく。

 

「あっ、ちょっ・・・・」

 

「また、会おう。」

 

少年の姿が消えた。

 

「・・・・・・・・・・・・・。」

 

呆気に取られるルイズ。

 

トントン

 

不意に部屋のドアがノックされた。初めに長く二回、それから短く三回。その音にルイズは反応し、急いで扉へ向かうと、ドアを開けた。そこに立っていたのは、真っ黒な頭巾をすっぽりと被った少女であった。キョロキョロと辺りを伺い、誰もいない事を確認した後、急いで部屋に入り、扉を閉める。ルイズが声を出す前に、少女がしっと口元に指を立てる。少女はマントの隙間から魔法の杖を取り出し、軽く振りながらルーンを呟く。すると光の粉が部屋に漂うのであった。

 

「・・・・ディティクトマジック?」

 

「どこに耳が、目が光っているかわかりませんからね。」

 

部屋に異常がないことを確認すると、少女は頭巾を脱いだ。

 

「姫殿下!」

 

ルイズが驚きの声を上げ、急いで膝をつく。

 

「お久しぶりね。ルイズ・フランソワーズ。」

 

「ルイズ、そんな堅苦しい行儀は止めてちょうだい!貴女と私はお友達じゃないの。」

 

「勿体ないお言葉でございます、姫殿下」

 

「やめて! ここには枢機卿も、母上も、あの友達面をして寄ってくる欲の皮の突っ張った宮廷貴族たちもいないのですよ!ああ、もう、わたくしには心を許せるお友達はいないのかしら。昔馴染みの懐かしいルイズ・フランソワーズ、貴女にまで、そんなよそよそしい態度を取られたら、わたくし死んでしまうわ!」

 

「姫殿下・・・・・」

 

ルイズは顔を上げた。そこからは二人の幼馴染の懐かしい昔話が続いた。要約すると、ルイズとアンリエッタが幼馴染で、幼いころ、遊んだり取っ組み合いの喧嘩をした、というようなことだった。

 

「姫様に紹介したい奴らがいるんです。」

 

「???」

 

「バカで、冷徹傲岸不遜で、身勝手で、気がきかなくて、これ以上ないほど朴念仁な奴らですけど、きっと姫様の力になってくれます。」



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38

そしてジャイアンとスネ夫の部屋。

 

コンコン

 

「タケシ!スネオ!」

 

不意に部屋のドアがノックされる。

 

「俺様は、タケシだが?お前は誰だ?」

 

「私よ、私!」

 

「わたしわたし詐欺なら間に合ってるぞ!」

 

「私よ、ルクシャナ。」

 

「知ってて聞いたんだけどな。」

 

「ムカ!タケシ、アンタねぇ・・・・・」

 

扉の向こうでルクシャナがご立腹のようだ。そろそろ揶揄うのは、やめておくか。

 

「鍵はかけてないから、入って来なよ!」

 

「たく・・・・・・・・・・・」

 

スネ夫に言われ、ルクシャナは部屋の中に入る。

 

「相変わらずね、二人とも。」

 

ルクシャナは、眉毛をピクピクさせながら、苦笑いする。

 

「久しぶりだな。」

 

「元気そうだね。」

 

そんな彼女にジャイアンとスネ夫は笑みを浮かべる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「へーっ。そんな事があったんだ。」

 

ルクシャナにこの数日の間に起こった出来事を話す。

 

「それで?元の世界に戻る方法は見つかりそうなの?」

 

「ううん、僕たちも探してはいるんだけどね。」

 

「コルベールとか言う先生がその方法を探すとか言ってたけど、全く期待出来ないな。」

 

そう言いながらジャイアンとスネ夫は、ため息をつく。

 

「それなら、私の村に来ない?」

 

「『???』』

 

「もしかしたら、手掛かりが見つかるかもしれないよ?」

 

「君の村って・・・・・・・・」

 

すると

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「入るわよ!」

 

ノックなどせず、不躾な態度でルイズは部屋のドアを開ける。

 

「???」

 

そこにいたのジャイアンとスネ夫の主人と言い張るルイズと、この国の王女であった。ジャイアンたちはアンリエッタに視線を向けると

 

「『「だれ?」』」

 

と首を捻る。その様子にルイズは鼻息を荒くし、爆発する。

 

「あ、あ、あ、アンタたち、歓迎式典をサボったわね!なんて、無礼なことを、あ、あ、あ、頭のわ、悪いつ、つ、使い魔にせつめ、めいし、し、してあげる。い、い、い、いいかしら?この人は!この国の王女!アンリエッタ様!よ!!本来、アンタたちみたいな平民風情が、会える事さえ、許されないんだから!態々こんな汚いところに、来てもらえて光栄に思うことね!!」

 

怒りで言葉がところどころ震えながらそうルイズは叫んだ。

 

「ルイズ、この方たちは・・・・?」

 

「こいつらは私の使い魔です。」

 

まるでゴミを見るような目で少年たちを指差すルイズ。幼馴染みの前だからか、ルイズはいつになく少年たちを罵倒する。

 

「そ、そうなの・・・・。ごめんなさい。ルイズ・フランソワーズ、貴女って昔からどこか変わっていたけれど、相変わらずね。」

 

「好きでアレを使い魔にしたわけじゃありません!」

 

ルイズは憮然として答える。その様子に少年たちは深いため息をつく。



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39

数分後。

 

チーン

 

ボコボコになったルイズが正座をさせられていた。そんな親友の無残な姿をみてアンリェッタは言葉を失う。

 

「ルイズもいい加減、ジャイアンが怒り出すパターンを覚えろよな。」

 

ルイズの学習能力のなさにスネ夫は呆れる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で?何の用だ?」

 

ジャイアンの質問にその場にいた全員の視線がアンリェッタに止まる。するとアンリエッタがため息をついた。

 

「姫様、どうなさったのですか?」

 

「いえ、なんでもないわ。ごめんなさいね・・・・。いやだわ、自分が恥ずかしいわ。あなたに頼めるようなことじゃないのに・・・・わたくしってば・・・・」

 

(うわあ、白々しい。)

 

アンリェッタの手の込んだ芝居にジャイアン、スネ夫、ルクシャナは直感で感じた。この女は面倒事を持って来た、と。

 

「おっしゃってください。あんなに明るかった姫様が、そんな風にため息をつくということは、何か大きなお悩みがおありなのでしょう?」

 

「・・・・・いえ、話せません。悩みがあると言ったことは忘れてちょうだい、ルイズ。」

 

(だったら初めっからここに来るなよな!)

 

アンリエッタの態度にジャイアンの顔が険しくなる。

 

「いけません! 昔はなんでも話し合ったじゃございませんか! 私をお友達と呼んでくださったのは姫様です。そのお友達に、悩みごとの解決を託せないのですか・・・・?」

 

ルイズの真剣な口調に、ついにアンリエッタも決心したらしく、嬉しそうに微笑んだ。とんだ茶番ね、とルクシャナは内心思った。

 

「わたくしをお友達と呼んでくれるのね・・・ルイズ・フランソワーズ。とても嬉しいわ。」

 

頷いて、何かを決心したかのように語り始めた。

 

「今から話すことは、誰にも話してはいけません。」

 

アンリエッタは再び沈んだ様子で語り始めた。現在、アルビオンでは貴族による反乱が起きており、王室は今にも倒れそうなのだという。反乱軍が勝利を収めたら、次にトリステインに攻めてくることが予測されるため、トリステインはゲルマニアとの同盟を画策している。そのための条件としてアンリエッタとゲルマニア皇帝の結婚があるのだという。いわゆる政略結婚であり、アンリエッタ自身が望むものではないが、アンリエッタは責務としてそれを実行することにしたのだという。

 

「なんてこと・・・あの野蛮な成り上がりどもの国に、姫様が嫁がなければならないなんて・・・!」

 

「仕方がないの。トリステインの未来のために、同盟を結ぶためなのですから・・・」

 

そういいつつも、アンリエッタの表情と口調は暗い。

 

「礼儀知らずのアルビオンの貴族達は、トリステインとゲルマニアの同盟を望んでいません。二本の矢も、束ねずに一本ずつなら楽に折れますからね。」



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40

トリステインとゲルマニアの同盟は当然、反乱軍には好ましくない、そのため反乱軍はこの同盟を破談させるための材料を探しているのだそうだ。

 

「では、もしかして、姫さまの婚姻を妨げるような材料が・・・?」

 

「おお、始祖ブリミルよ・・・・、この不幸な姫をお許しください・・・・」

 

アンリエッタが顔を両手で覆い、床に崩れ落ちる。まるで芝居がかった仕草である。もしかしたらこの王女は、悲劇のヒロインという立場を演じたいだけなのかもしれない、と彼女以上の不幸を散々味わってきたジャイアンとスネ夫はアンリエッタを冷えた眼差しで見つめていた。

 

「『・・・・・・・・・・・・。』」

 

アンリエッタがアルビオンの皇太子、ウェールズへ送った手紙があるらしく、それがゲルマニアに対して明るみになった場合、即座に結婚は破談になり、トリステインは一国でアルビオン反乱軍と戦わねばならなくなるのだという。

 

「では、姫様、私に頼みたいことというのは・・・?」

 

「無理よ! 無理よ、ルイズ! わたくしったら、なんてことでしょう! 混乱しているんだわ!考えてみれば、貴族と王党派が争いを繰り広げているアルビオンに赴くなんて危険なこと、頼めるわけがありませんわ!」

 

「何をおっしゃいます! 例え地獄の釜の中だろうが、竜のアギトの中だろうが、姫様の御為とあらば、何処なりと向かいますわ! 姫様とトリステインの危機を、このラ・ヴァリエール公爵家の三女、ルイズ・フランソワーズ、見過ごすわけには参りません!」

 

 ルイズは膝をついて恭しく頭を下げた。そんなルイズとは対照的に、ジャイアンたちは険しい表情を浮かべて、ため息をついた。

 

「『土くれ』のフーケを捕まえたこのわたくしめに、その一件是非ともお任せくださいますよう。」

 

 おまけにジャイアンの手柄までちゃっかり自分のものにしている。もうここまで来ると、怒りを通り越して呆れるしかない。

 

「このわたくしの力になってくれるというの? ルイズ・フランソワーズ! 懐かしいお友達!」

 

「もちろんですわ! 姫様!」

 

 ルイズがアンリエッタの手を握って、熱した口調でそう言うと、アンリエッタはボロボロと泣き始めた。

 

「姫様! このルイズ、いつまでも姫様のお友達であり、まったき理解者でございます! 永久に誓った忠誠を、忘れる事などありましょうか!」

 

「ああ、忠誠。これが誠の友情と忠誠です! 感激しました。わたくし、あなたの友情と忠誠を一生忘れません! ルイズ・フランソワーズ!」

 

するとアンリエッタの手を握っていたルイズはジャイアンたちに視線を向ける。そしてアンリエッタに向けるものとは違うキツイ口調で言い放った。



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41

「というわけだから、あんたたちもついて来なさいよ。あんたたちはわたしの使い魔なんだから、それぐらいの事はしなさいよね。」

 

この時ルイズは、ジャイアンとスネ夫が困ったような笑みを浮かべながら、しょうがないなぁと言うのを予想ではなく、確信していた。それは彼らの事を本当に信頼しているがゆえの確信ではなく、主の自分が言うのだからついてくるに違いないという、もはや勝手な思い込みから来る確信でしかなかった。だから、ルイズは二人が冷え切った目をしていた事に気付かなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「頼もしい使い魔さんたち。」

 

「『???」」

 

アンリエッタのたおやかな微笑みに、ジャイアンとスネ夫は反応する。

 

「わたくしの大切なお友達を、これからも宜しくお願いしますね。」

 

す、と、左手を差し出すのに、ルイズは驚いたような声を上げた。

 

「いけません殿下! そんな、使い魔に手を許すだなんて!」

 

「いいのですルイズ。忠誠には報いるところがなければいけません。」

 

そう言って、再びジャイアンに左手を差し出した。アンリエッタは彼がその手に口をつけることを許したのだ。

 

「・・・・・・・・・・・・・・。」

 

ジャイアンは、ゆっくりアンリェッタに近づくと、彼女の手・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『「『えっ?』」』」

 

 

 

 

 

 

 

 

ではなく背中に回りこむと、彼女の腰を両腕で抱える。

 

「へ?」

 

突然の事にアンリェッタも呆気に取られ、動けずにいる。するとジャイアンはそのまま後方へ彼女を反り投げる。

 

ドーン!!!!!

 

視界がひっくり返り、アンリェッタの身体は頭から地面にめり込んだ。スープレックス、それはプロレスで用いられる投げ技の一種である。

 

 

 

 

 

「・・・・・・・・・・・・・・・。」

 

ルクシャナもジャイアンのとんでもない行動に空いた口が塞がらなかった。まさかとは思ったけど、この男、本当にやりやがった。しかも一国の王女に。

 

 

 

 

「ひ、ひ、ひ、ひ、ひ、ひ、め、めめめめ、さ、まま。」

 

ルイズの口から魂らしき物が飛び出している。姫様に何てことを。いくら幼馴染でも、これは死刑確定である。

 

 

 

 

 

 

「なに、勘違いしてんだ?」

 

ジャイアンは、その場から立ち上がると

 

「俺たちは、お前の尻拭いをする気はないぜ。そもそも全部、お前が蒔いた種だろ?」

 

「・・・・・・・・・・。」

 

「甘いんだよ、お前らは。置かれている環境も、世間への認識も・・・・何もかもな。貴族や王族の家に生まれたからって、毎日毎日好き放題しゃがって・・・・。だからいざというとき一人で何もできないんだよ。」



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42

「お前みたいなのが王女だから、争いごとは無くならねぇし国が腐っていくんだよ!」

 

ジャイアンはアンリエッタから視線を切ると、ドアノブに手をかけ、部屋を出て行った。

 

「・・・・・・・・・・・・・。」

 

やはりこの男は何かが違う。そんな事を思いながらルクシャナは後を追う。

 

「ハア〜っ。」

 

スネ夫はヤレヤレといった感じで、後を追いかける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして次の日。

 

「じゃあ、そろそろ出発するか。」

 

「は、はい!」

 

「了解しました。ミスター・ワルド」

 

ルイズ達の旅立ちを見送った『偉大なる』オールド・オスマンは、窓から三人の様子を微笑ましげに見つめていた。

 

「さて、ヴァリエール嬢は無事出発いたしましたぞ。」

 

窓から目を離し、くるりと向き直る。

 

「お二人とも。」

 

その視線の先には悠然と佇むジャイアンとスネ夫の姿があった。

 

「こんな朝っぱらから、何の用だ?」

 

「伝えておきたいことがありましてな。」

 

「『???』」

 

「まずはミス・ヴァリエールのことじゃ。彼女の『爆発』は魔法の失敗によるものではない。彼女の持つ力が強力過るから故、なぜなら彼女の系統は・・・・・・」

 

「『虚無』だろ?知ってるよ。」

 

ジャイアンは何でもないように答える。オスマンは、キョトンとする。

 

「し、しっておったのか?」

 

「そりゃあ土、水、火、風じゃなかったら、虚無しかないじゃん。」

 

「・・・・・・・・・・・・・・。」

 

オスマンは照れたように咳払いをして、厳しい顔つきへと変える。

 

「ワシ等の仕事はミス・ヴァリエールが一人前のメイジになるまで見守ること。彼女について余計な手出しをする気はないし、させる気もない。」

 

「何が言いたい?」

 

オスマンの目が鋭く光り、少しの沈黙が部屋に訪れた。

 

「二人とも。ミス・ヴァリエールのことを手伝ってやってはくれんか?」

 

「『・・・・・・・・・・・・・。』」

 

「いや、ミス・ヴァリエールがこれから何をしようとしているのはワシャ知らん。あぁ、まったくもって知らんとも。」

 

オスマンはおどけるように肩をすくめる。このジジイ絶対知ってんな、と二人は思った。

 

「以前も言うた通り、彼女は少しばかり『特別』じゃ。虚無の話はワシ等とコルベール君しか知らん。じゃがどこに目があり、耳があるかわからぬのが世の中というもの。彼女がその力を利用しようとする誰かに狙われる可能性がない、とは言い切れぬ。とはいえ、下手に護衛をつけたりすれば彼女に何かあると宣伝して回るようなものじゃ。彼女のそばに最も自然に居れるのは使い魔である君たちなんじゃ。」

 

しかも、これほど心強い護衛は他におるまい? そう付け加えてオスマンは笑った。

 

「それは、『取り引き』か?」

 

ジャイアンの目が鋭く光る。

 

「いや――――老い先短い老人からの単なる『お願い』じゃ。」

 

 オスマンはにこりと目を細め、頭を下げた。

 

「『・・・・・・・・・・・。』」

 

そんなオスマンをジト目で睨むと、

 

ガタン!!

 

二人はオスマンを部屋から叩き出す。

 

「真面目に聞いた俺たちが馬鹿だった。」

 

 

 

 

 

 

 

 

コンコン

 

「『???』」

 

しばらくするとドアが優しくノックされる。またオスマンか。

 

ブチッ

 

「ジジイ・・・・・」

 

ジャイアンは勢いをつけてドアを蹴破る。

 

ガチャ

 

「行かねえって言ってるんだろが、この腐れジジイ!」



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43

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!」

 

ルイズは何度も地べたに頭を擦り付ける。

 

「ですがあれはアイツが勝手にやったことで、私は一切関係ありません。アイツは私が責任を持って処罰します。だから命だけは・・・・・・・」

 

必死で泣きながらアンリエッタに謝るルイズ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・・・・・・・。」

 

いくら、ワルドが風のスクウェアメイジと言えど、孤立無援の状態で混沌のアルビオンからルイズを無事に守りきれるか疑問が残る。数で押されれば、もしもという事もある。無二の親友が命をかけて危険な任務をしてくれるのならば、自分に出来る事は何か。そう考えると、自然と足が動き、いつの間にかあの部屋の前に立ってしまっていた。

 

コンコン

 

何気にドアをノックする。

 

タタタタタタタタタ

 

部屋の中から足音が聞こえてきた。

 

バタン!!

 

ドアが勢い良く開き

 

メリッ

 

「行かねえって言ってるんだろが、この腐れジジイ!」

 

ジャイアンの足がアンリエッタの顔面にめり込む。

 

「『・・・・・・・・・・・・。』」

 

後ろで様子を見ていたスネ夫とルクシャナは驚く。この男、一度ならず二度までも。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で何の用だ?」

 

「貴方たちにお話したい事があります。」

 

「大体検討はつくけどな・・・・・・・。」

 

「私はアンリエッタ・ド・トリステイン、この国の姫殿下であり、ルイズ・フランソワーズの幼馴染みです。どうかお見知りおきを・・・・」

 

アンリエッタはそう言うと優雅に御辞儀をしたが、三人はそれを白けた目で見ていた。

 

「・・・・・・・・・・・。」

 

アンリエッタは顔をあげると、鋭い視線を三人に向ける。

 

「この国の王女としての命令です!ルイズに同行し、彼女を手助けしなさい!」

 

さも当然のように命令する姫。だが三人はゆっくりと彼女に向き、ハッキリと言った。

 

「『「いやだ!」』」

 

「な!?王女の命令が聞けないっていうのですか!?」

 

アンリエッタが叫び、杖を突き付ける。

 

「聞けなかったら・・・何だ?」

 

「な、何だって、その、あの・・・」

 

「俺たちを殺すか?処刑するのか?悪いが俺たちは脅されて、命をかける気はないぞ?」

 

その言葉を聞くとアンリエッタは崩れ落ちるように泣き出してしまった。

 

「あなたたちが、東の国から来たことも。そしてあの土くれのフーケも斃したとルイズやオールド・オスマンから聞きました。無礼を承知で、わたくしに、いえ、ルイズに力をお貸し願えませんでしょうか?」

 

あのチビとじじい、あれ程念を押しておいたのに、喋りやがった。

 

「俺たちにルイズの任務を手伝えって?」

 

「は、はい、その通りです!」

 

「嫌だね!何で俺たちがアンタの尻拭いをしなくちゃならないんだ?」

 

「でも平民は王族につかえるべき・・・・・・・・」

 

「お前、また投げ飛ばされたいか?平民がいるからお前たちは王族でいられるんだよ。それが分からないお前は王を名乗るしかくはない。」

 



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44

一瞬、ハンマーで頭を殴られたかのような衝撃がアンリエッタを襲った。

 

「そんな・・・・・」

 

にべも無く拒絶され、アンリエッタにとっての最後の望みが断たれたような物だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あんた、昨日ゲルマニアが野蛮な連中だって馬鹿にしたわね?」

 

すると今まで黙っていたルクシャナが口を開く。

 

「なら、あんたはどうなの?」

 

「???」

 

ルクシャナの言葉にアンリエッタはキョトンとする。

 

「あんたは、彼らの皇家が始祖ブリミルの血を引いていないから、格下に見ているようだけど。血を引いてるあんたは彼らに勝っているの?」

 

「それは・・・・・・・」

 

血筋で国を差別している姫にジャイアンとスネ夫も鋭い視線を向ける。

 

「確かに彼らは、お金があれば領地を買い取って貴族になることができるわ。でもだから何?あんたが彼らを罵れるの?馬鹿にできるの?自分のやった事の後始末もできない、あんたが?」

 

物凄い蔑んだ表情で、辛辣な言葉を吐くルクシャナ。

 

「お金を稼いだこともないくせに。彼らが『野蛮な成り上がり』なら、あんたは『口先だけの役立たず』ね。」

 

その言葉にアンリエッタの心が折れてしまった。力なく床に座り込み、うなだれたまま、ピクリとも動かない。そして、しばらくの後

 

「・・・ごめん、なさい・・・・・・・・・・・」

 

アンリエッタは、力なくつぶやいた。 

 

「ごめん・・なさい、本当にごめんなさい!どうか、許して下さい!!こんな、こんな事になるなんて思わなかったんです。ゲルマニアを・・・・平民を馬鹿したこと、謝ります。本当にごめんなさい。あなたたちが望むなら、私の全てを捧げます。お金なら・・・・・墓場に入るまで働きます。身体が欲しいのなら・・・・・・・好きにしてください。だから、だから、助けて、下さい。お願い・・・しま・・・す・・・・・・」

 

ぽろぽろと大粒の涙を流しながら、アンリエッタは必死に謝った。それを見たスネ夫、ルクシャナ、ジャイアンは困った顔で見合わせた。

 

「行こうよ。」

 

「そうね。」

 

「行ってやるか。」

 

三人はさっきとはうってかわって優しい笑顔でアンリエッタを見つめた。

 

「エグッウッ、あ、あ``の``、それって、ゥッ、もじがじで・・・」

 

アンリエッタは、涙と鼻水でクシャクシャになった顔を、恐る恐る上げた。

 

「行ってやる、但し条件があるぜ。」

 

「あ``、ありがどうございばずぅ!」

 

アンリエッタはジャイアンやスネ夫、ルクシャナにまで抱きついて、泣きじゃくりながらお礼を言い続けた。



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45

「よし、行くぞ!!」

 

「うん。」

 

「ええ。」

 

学園前でジャイアン、スネ夫、ルクシャナは声をあげる。

 

「いってらっしゃい、気を付けてくださいね!」

 

シエスタに見送られ、そのまま馬小屋まで走り、馬を借りようとする。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ルイズを助けに行くの?」

 

振り向くと、そこにはタバサがいた。

 

「盗み聞き?」

 

「・・・・・・・・・・・・・。」

 

この学園の生徒は盗み聞きをするのが趣味なのかと思い始めた。

 

「違う。手紙を貰いに行くだけだ。」

 

その言葉を聞くと、タバサは自身の使い魔、風竜のシルフィードを呼ぶ。

 

「乗って。」

 

そう言うと、ジャイアンたちに手を差し出した。

 

「『「・・・・・・・・・・・・・・。」』」

 

こうして、4人を乗せた風竜は空へと飛んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

上空ではスネ夫とルクシャナが、お互いに無言で遠くの景色を見ていた。タバサは片手に杖を持ち、もう片方の手に本を持ってそれを読んでいた。一方のジャイアンは仰向けで昼寝をしている。

 

「聞きたいことがある。」

 

ふと、タバサが読んでいた本を閉じると、スネ夫にむかって背中越しに話しかけた。

 

「・・・・・何?」

 

タバサの後ろで、スネ夫がキョトンとする。

 

「この間のこと・・・・・・・。」

 

数日前話したジャイアンと幼馴染の事だ。

 

「タケシがその子に負けたって、本当?」

 

ジャイアンの強さを嫌という程見てきたタバサ。そんなジャイアンを負かした幼馴染の強さに彼女は興味をもっていたのだ。

 

「さあね。」

 

だがスネ夫は真面目に答える気にはなれなかった。

 

「・・・・・ちゃんと答えてほしい。」

 

「知らない。」

 

直後、タバサが勢いよくスネ夫の方を振り向くと、彼に杖を突きつけた。

 

「もう一度言う。ちゃんと答えて。」

 

タバサが再び問う。その表情はいつもと変わらないものの、どこか威圧的な雰囲気を醸し出している。だがスネ夫はそれに怯むことなく、寧ろ余裕の表情で見つめ返した。

 

「それが人にモノを頼む態度?」

 

しばらくの沈黙の後、スネ夫が口を開いた。

 

「ふん・・・・・。何を必死になってるのかは知らないけど、話しても意味はないよ。」

 

スネ夫が嘲るようにニヤリと笑う。

 

「???」

 

「強さだけを追い求めてちゃダメだってことさ。」

 

スネ夫の言葉に、タバサはキョトンとする。だが、すぐに元の固い表情に戻る。

 

「なら、どうすれば・・・・・・」

 

「何が?」

 

「・・・・・何でもない。ありがとう。」

 

タバサは礼を言うと前を向き、本を開いて再び読書に没頭し始めた。そして、何事もなかったかのように再び無言の時間が続いていくのであった。



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46

その日のうちに無事一行はラ・ロシェールへと辿りつくことができた。ジャイアンたちがタバサと共にルイズ達が宿をとっている『女神の杵亭』へと入ると

 

「あんたたち!なにをしてたのよ!ご主人様を待たせるなんてっ・・・!」

 

目に涙を溜めながらジャイアンたちに走り寄ってくるルイズ。

 

「ばかっ・・・・!どれだけ心配したと思ってるのよ・・・」

 

ルイズは地団駄を踏みながらつぶやいた。

 

「あ、ようやく来たようだね、いやぁ心配していたよ!」

 

視線を上げると、酔っ払っているギーシュとキュルケがテーブルについていた。

 

「そうよぉ、ルイズったら、ダーリンが来てないからすごかったのよぉ、もう泣いちゃって泣いちゃって―『わー!!わー!!何言ってるのよ!そんなわけないでしょ!』」

 

真っ赤になりながらルイズがキュルケに飛びかかる。そんな彼らを無視し、ジャイアンとスネ夫は席についた。

 

「おや?使い魔君、ようやく到着かね?」

 

すると長身な貴族がジャイアンたちの前に現れた。

 

「女王陛下の魔法衛士隊、グリフォン隊隊長、ワルド子爵だ。姫殿下より、ルイズ達に同行する事を命じられてね。

君達だけではやはり心許ないらしい。しかしお忍びの任務であるゆえ、一部隊をつける訳にもいかぬ。そこで僕が指名された。」

 

その言葉にジャイアンとスネ夫は眉間にシワを寄せる。自分たちはこいつの引き立て役に選ばれたのだ。だがこれが最初で最後の任務だと自分に言い聞かせ、二人は怒りをおさめた。

 

「君たちが、ルイズの使い魔・・・・だね、僕の婚約者がお世話になっているよ!」

 

そう言うとワルドがジャイアンに右手を差し出す。

 

「人違いだ。」

 

三人はワルドを無視し、別のテーブルに座る。

 

「その・・・ワルド・・・?ごめんなさい、・・・あいつら、失礼な所があるから・・・・」

 

「はは・・・気にしていないよ・・・はは・・・・」

 

ジャイアンたちの無視に、ワルドは気まずそうな笑みを浮かべた。そしてその隣で、ルイズが怒ったように顔を赤くしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、時間的にはまだ早朝にも関わらず、ジャイアンたちは散歩をしていた。すると

 

「何だ、ここは?」

 

古びた建物の前にジャイアンたちは、立ち止まる。

 

「どうやら、骨董品店みたいね。」

 

「骨董品?」

 

ルクシャナの言葉にジャイアンは首を傾げる。

 

「古い道具を売っているお店のよ。」

 

そう言いながらルクシャナは店の中に入り、ジャイアンとスネ夫も後を追う。

 

「へーっ、色んなものがあるんだな・・・・・」

 

店の中には壺や絨毯など、色々な物が飾ってあった。



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47

「タケシ!スネオ!早く!早く!」

 

まるで子供のように燥ぐルクシャナにジャイアンとスネ夫は、ヤレヤレといった顔をする。

 

「ルクシャナ、静かに・・・・・!?」

 

ルクシャナを注意しょうとしたスネ夫の声が中断される。

 

「ジャイアン、これ!」

 

「何だよ、スネ夫?」

 

ジャイアンの服の袖を引っ張り、スネ夫は棚に飾られているある物を指差す。

 

「これって・・・・・・」

 

棚の上に飾られているメガネにジャイアンも言葉を失う。

 

「おじさん、このメガネをくれ!いくらだ!?」

 

大急ぎで店の奥にいる店主に声をかける。

 

「ああ、それなら・・・・・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「毎度有りー!!」

 

ジャイアンたちは部屋に戻り、買った商品を見定める。流石骨董屋、売られている商品もかなりの値段がする。出かける際に、シエスタから貰ったお金を粗使い果たしてしまった。だがそれに見合う物を手に入れたのだ。

 

「なんなの、そのメガネ?」

 

ルクシャナは興味津々な様子でスネ夫に聞いてくる。

 

「これは、さいみんグラスさ!前に知り合いが同じ物を持っていたから、覚えてる。」

 

「どうやって使うの?」

 

「ああ、それは・・・・・」

 

トントン

 

すると誰かが部屋のドアをノックする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ジャイアンがドアを開けると

 

「おはよう、使い魔くん。」

 

ボコン

 

「・・・・・・ぬあっ!」

 

「使い魔じゃないっていってるだろ。どいつもこいつも俺たちを見たら使い魔使い魔って・・・・。」

 

迂闊にもワルドがそう言うと、ジャイアンは愚痴をこぼしながらゲンコツでワルドの頭を殴った。ワルドの額に青筋が浮かぶ。

 

「で、なんの用だ?」

 

ワルドは唇の端を吊り上げた。

 

「(この男、貴族である僕に対しこの態度・・・まあいい。今はおいておこう。)昨日グリフォンの上で、ルイズに聞いたが、きみは東方からやってきたそうじゃないか。その上、フーケの一件は、実は君がほとんど一人で解決したんだろう?」

 

ルイズの口の軽さにジャイアンは内心怒り出す。

 

「明日にはアルビオンに行くわけだが、あそこは今知っての通り、戦場だ。僕が率いる以上、敵に襲われた時、迅速に対応できるように、君たちの実力を知っておきたいんだ。今から手合わせ願いたいんだが、どうだい?」

 

「断る。」

 

あっさりと拒否された。

 

「何故だい?」

 

ワルドは気に入らん男だと心で呟きながら口を開く。

 

「お前たちと一緒に行動する気はない。だからあんたの下につく必要もない。だから手合わせする必要もない。」

 

「だ・・・だが君自身の強さにも興味がある、本当に君にルイズを守れるのか。そしてフーケを倒した君の実力が、

君も、魔法衛士隊の隊長である僕と戦って見たいと思わないのかい?」

 

「全然。」 



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48

「そうか、つまり君は怖いのかね?僕と戦って怪我をすることが。」

 

「なんだと・・・?」

 

ワルドの挑発にジャイアンは眉間にシワを寄せる。

 

「ダメよ、タケシ。そんな安っぽい挑発に乗ったら!」

 

だがルクシャナの言葉にジャイアンは我に帰る。

 

「とにかく!君には申し出を受けてもらう!もし逃げたら君はそれまでの男だった、と言うことにする!」

 

「俺はやらない。他を当たれ!」

 

そう言うとジャイアンは周り右をする。

 

「仕方がないな。」

 

ワルドは猛烈な気配を放った。

 

「『「!?」』」

 

ワルドが杖を抜いた。そして粗同時に、三人はすぐにその場から飛び退いた。

 

ドン!

 

ジャイアンに当たらなかった風の魔法は、ルクシャナとスネ夫が座っていたベットに命中する。かけ布団が破れて、白い羽根が部屋中を舞う。ジャイアンは顔をしかめた。

 

「どういうつもりだ、お前?」

 

「アルビオンでは、貴族派の攻撃が予想される。襲撃を受けた時も、『他を当たれ』と言えるかな?」

 

「お前、そんなに俺と戦いたいのか?」

 

ワルドは笑顔を浮かべて、うなずいた。

 

「ああ、どうしても君と戦いたいんだよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ようやく来たか、使い魔君。」

 

十分後、ジャイアンが指定された旧練兵場に着くと、既にワルドが待っていた。錬兵場と言っても今は『女神の杯亭』の物置き場としか使われておらず、そこかしこに樽や木箱が積み上げられている広場で、二人は二十歩ほど離れて向き合う。

 

「昔・・・・、といってもきみたちにはわからんだろうが、かのフィリップ三世の治下には、ここでは貴族がよく決闘をしたものさ・・・・古きよき時代、王がまだ力を持ち、貴族たちがそれに従った時代・・・・・貴族が貴族らしかった時代・・・・、名誉と、誇りをかけて僕たち貴族は魔法を唱えあった。でも、実際はくだらないことで杖を抜きあったものさ。そう、例えば女を取り合ったりね。」

 

そして今、そのくだらないことで、争う貴族がまたあらわれたと言うわけか。

 

「そして立ち合いには、それなりの作法というものがある。介添え人がいなくてはね!」

 

「???」

 

「安心したまえ。もう、呼んである。」

 

すると物陰からルイズが現れた。彼女は二人を見ると、はっとした顔になる。

 

「ワルド、来いって言うから、来てみれば、何をする気なの?」

 

「彼の実力を、ちょっと試したくなってね。」

 

「ワルド!お願いだからそんなバカなことやめて。今は、そんなことしているときじゃないでしょ?」

 

ルイズは慌ててワルドを止める。これから大切な任務だというのに、怪我をしては元もこもない。

 

「そうだね。でも、貴族というヤツはやっかいでね、強いか弱いか、それが気になるともう、どうにもならなくなるのさ。」

 

だがルイズの心配をよそにワルドは聞く耳持たない。

 

「タケシ、やめなさい。これは命令よ?」



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49

今度はジャイアンを止めようとする、だがワルドよりも説得が困難な彼が首を縦に振る筈がない。

 

「なんなのよ! もう!」

 

すると、広間に三人の人間が現れた。キュルケ、タバサ、ギーシュである。

 

「ダーリン、ギーシュから聞いたわよ、立ち合いをするんですって?」

 

キュルケが興味津々といった顔で話しかける。

 

「へー・・・・面白いじゃない。いいわ、応援してあげる。」

 

タバサやギーシュとともに適当な木箱に腰をかける。

 

「ちょっとキュルケ!こんな立ち合い無意味よ!あんたたちも止めて!」

 

「大丈夫だよ、ちょっとした腕試しさ!」

 

ワルドはルイズを優しくたしなめる。

 

「もう!本当バカなんだから!どうなっても知らないからね!」

 

どうあっても止められないと知るとルイズも仕方無く見ることにする。

 

 

 

 

 

 

 

(さて、どうするか・・・・・・)

 

ジャイアンの頭にそんな言葉が過る。

 

「ジャイアン!!」

 

スネ夫は、さいみんグラスをジャイアンに投げ渡す。

 

(ああ!)

 

ジャイアンはメガネをかけると、ワルド、ルイズ、ギーシュ、キュルケ、タバサをそれぞれ睨みつける。

 

「では、介添え人も来たことだし、これ以上の見物人が増える前に、始めよう!」

 

ワルドは腰から杖を引き抜き、フェンシングの構えのようにそれを前方に突き出す。

 

「さあ!全力で来い!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数分後。

 

 

「君ではルイズを守れない!」

 

崩れた樽に埋まったギーシュに、ワルドはそう言い放った。慌ててキュルケたちが、樽を退けてギーシュを掘り出しにかかる。

 

「どうなってるの?」

 

ルクシャナは困惑しながらスネ夫に視線を向ける。

 

「ああ。ジャイアンは、あのメガネでワルドたちに催眠術をかけたんだ!」

 

「催眠術?」

 

「うん、だからみんな、ギーシュがジャイアンだと思ってる。そしてギーシュ本人も、自分がジャイアンだとおもってるんだよ。」

 

「ふ〜ん。」

 

 

 

 

 

 

 

「ワルド!大丈夫!?」

 

ルイズは慌ててワルドに駆け寄る。

 

「ああ、大丈夫だ。」

 

「よかった。 ・・・タケシ!!二度とこんな事したら許さないから!」

 

安堵したルイズは、勝手に決闘をした怒りの矛先をギーシュへ向ける。

 

「何でタケシが許しを請うの?そもそも仕掛けてきたのはあっちでしょ?」

 

ルクシャナはジト目でルイズを見る。

 

「ワルドを侮辱しないで!決闘を止めなかったあんたたちにも責任はあるんだから!」

 

ルイズは声をあげ、今度はスネ夫とルクシャナを叱り始める。

 

「『・・・・・・・・。』」

 

ルイズの言い分にスネ夫とルクシャナは眉間にシワを寄せる。



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50

「ねえ、あんたたち・・・・・」

 

ジャイアンとスネ夫が部屋の奥にあるバルコニーで筋トレをしていると、後ろから彼らの名を呼ぶ声が聞こえてきた。振り向くと、バルコニーの入り口には顔を赤らめたルイズが立っていた。

 

「・・・・・何の用だ?」

 

「その・・・・何してるのかな・・・って思って・・・・・」

 

「俺たちが何をしてようとお前には関係ないことだろ。それと、勝手に部屋に入ってくるな!」

 

「き、聞いてもらいたいことがあって・・・・。じ、実はさっき、ワルド様に・・・・ワルド様に、プ、プロポーズされたの。・・・・だから・・・あの・・・・。えっと、二人はどうしたらいいと思う?」

 

「だ・か・ら・俺たちには関係ないだろ?」

 

予想通りの答えだ。だが、その返答には、突き放されるような恐怖を感じた。

 

「な、悩んでるから相談してるんじゃないッ!少しは優しくしてよっ!!」

 

声をあげるルイズに、ジャイアンとスネ夫はゆっくりと口を開く。

 

「なら結婚すればいいじゃん。」

 

「色んな意味でお似合いだと思うぜ!」

 

「真面目に聞きなさいよ!!!あんたたちは私の使い魔でしょ!!!!」

 

そう言いながら二人に近づいていく。だが、あと数歩というところまで近づいた瞬間。

 

シャンッ!

 

ジャイアンがバットの先をルイズに突きつける。すると椅子に座って本を読んでいたルクシャナが口を開いた。

 

「その歳になってそんな事も自分で決められないの?いい加減にしなさい、自分の面倒も見れない奴に居場所なんてないのよ!」

 

ルクシャナの言葉にジャイアンとスネ夫も頷く。

 

「!?」

 

使い魔に見放された、そんな悲しさ、寂しさ、悔しさがごちゃまぜになりルイズにのしかかる。そしてその重圧に押し潰されたルイズは

 

「なっ!なんなのよ!わかったわ!もう決めた!私ワルドと結婚する!もう知らないんだから!あんたたちなんかどっかいっちゃえ!」

 

部屋から出て行った。泣いたり、喚いたりと騒がしい女である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ルイズは部屋を出た後、流れる涙を止められずにいた。使い魔に見放された、そんな悲しさ、虚しさ、寂しさが襲いかかってきた。

 

「うっ・・・・うぅっ・・・・ひっく・・・・・」

 

止めて欲しかった、文句を言って欲しかった。だが彼らの口から出て来た言葉は一切の関わりを拒絶する言葉。胸が、心が締め付けられるかのように痛い。

 

「なんであんなこと言っちゃったんだろう・・・・」

 

そう呟きながらワルド達が酒を飲みながら談笑している一階へと降りる。



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51

活気に溢れる酒場だった宿の一階は、一変して惨状を示していた。テーブルは倒され、食事や飲み物があちこちに散乱している。談笑していた客たちは、テーブルの下でビクビク怯えていた。店の入り口付近には、武装した荒々しい連中で埋めつくされている。数にして百人はいそうな彼らは、いつでも攻撃が仕掛けられるように武器を構え、様子をうかがっていた。そんな彼らと相対しているのは、部屋の中央にある倒れたテーブル。その中には、ルイズたち四人の姿があった。

 

「どうやら狙いは私たちのようね。」

 

テーブルを背にしながら、キュルケが呟いた。様子を見ようとテーブルの右端から顔を出すが、すかさず入り口の方から矢が放たれた。キュルケは慌てて顔を引っ込める。

 

「彼らはこの町の傭兵だ。我々の邪魔をしようと、何者かが雇ったんだろう。」

 

冷静にワルドが杖を構えるが、間合いが遠すぎるため魔法を唱えることができない。

 

「このままじゃ埒があかないけど、どうしましょう?」

 

キュルケがワルドにむかって問いかけた。ワルドは顎に手を当て、考える。

 

「正面突破は諦めるしかなさそうだな。誰かが囮になって、その隙に・・・」

 

ワルドが戦況を分析し、作戦を考案していると

 

「タケシとスネオ!あの二人は!?」

 

ルイズがワルドの腕の中でもがき、二階へと向かおうとする。

 

「ルイズ!彼らなら大丈夫だ!だから落ち着いて!」

 

ワルドは必死にルイズをなだめる。

 

「でもっ!でもっ!」

 

ドオーーン!!

 

すると外で大きな音がした。

 

「なっ・・・なんだ!?」

 

「こいつら一体!?」

 

「ヒッ・・・ヒィィィィィィ!!!」

 

外から傭兵達の悲鳴が響き渡る。ルイズはおそるおそるテーブルから顔を覗かせ外を見ると

 

ズッドォォォン!!

 

ルクシャナは魔法で、ジャイアンとスネ夫はそれぞれの武器で、傭兵達を攻撃していた。その様子をルイズは複雑そうな表情で見つめる。

 

(なによなによ!なんであの女なんかと仲良くしてるの!?なんで私には全然相手してくれないのよ!)

 

ご主人様である自分を無視してルクシャナと仲が良さそうに戦っているジャイアンとスネオを見て泣きそうになる。

だが、もう知らないと言ってしまったのは自分だ。癇癪を起こし文句を言うことはできない。ぐっと涙を堪え無視するように隠れる。

 

「この野郎!よくも!」

 

「てめぇらからブッ殺してやる!」

 

傭兵達は武器を構え、ジャイアンたちを一斉に取り囲んだ。

 

「ど・・どうやら、貴族派には僕たちがここにいることがすでにバレてしまっているようだね・・・・。」

 

ワルドが口を開いた。

 

「仕方がない、今すぐアルビオンへ出発することにしよう、船長には僕から説得する。」

 

その言葉にギーシュやキュルケ達も納得する。

 

「でもワルド!タケシたちを置いて行けない!」

 

「ルイズ、僕達には大事な任務がある、それを忘れるな!」

 

「離して!タケシ!スネオ!!!」

 

ワルドは尚も叫ぶルイズを抱き抱え、港へと向かう。ギーシュとキュルケもそれに続くが、タバサだけは動こうとしない。

 

「ちょっとタバサ!?どうしちゃったの?」

 

「彼らを手伝う、後でシルフィードで追いつく。」

 

そう言うと、タバサはジャイアンたちの元へと向かう。

 

「だ、大丈夫なのかい?」

 

ギーシュが心配そうにキュルケに訪ねる。

 

「ダーリンとタバサならここは問題ないわ、私たちはルイズ達と先を急ぎましょ。」

 

そういうとキュルケとギーシュも港に向かうのであった。



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52

「ばっ!ばかーーーー!何してんのよーー!!!」

 

突然天井から乱入し、ウェールズを攻撃しようとしたジャイアンたちにルイズが慌てて怒鳴る。

 

「こいつは賊だろう、攻撃して何が悪い?」

 

ジャイアンは、ジト目でルイズを睨みつける。

 

「ちっ!違うのよ!その人は空賊だけど殿下なのよ!」

 

「ちょっと何言ってるか分からない。」

 

スネ夫は首を傾げる。

 

「だから空賊として襲ってきたけど、その人は本当は殿下本人で・・・あぁもう!」

 

ジャイアンたちはワルドを見る。

 

「つまりだ、君が今攻撃しかけたその人こそ、僕たちの旅の目的であるウェールズ殿下本人だ。空賊に扮し敵の物資補給を断つ作戦の最中だったらしい、僕たちの乗った船は偶然それに巻き込まれてしまった、ということだ。」

 

そう言いながらワルドは苦笑する。

 

「『「・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」』」

 

突然の展開にジャイアンたちは呆然とするも、武器をおさめた。するとルイズは二人を見ながらおずおずと話しかける。

 

「あの・・・・タケシ・・・・スネ夫・・・・・・・」

 

「・・・手紙は?」

 

「えっ?」

 

「手紙は取り戻せたのか?」

 

「あ・・・それはアルビオンのニューカッスルにあるって・・・」

 

「『・・・・・・・。』」

 

「その・・・助けに来てくれたのよね・・・?」

 

「『そんなわけないだろう。』」

 

ジャイアンとスネ夫の声がハモった。

 

「な、なによ!殿下にあんなことしたくせに!・・・・でっ・・・でも助けに来てくれたのは・・・その・・・ほっ・・・・褒めてあげるわ!」

 

「『・・・・・・・・・・・・』」

 

ジャイアンとスネ夫は沈黙したまま船室へと向かう。宿で感じた冷たさは少しだけ減じている、そんな気がした。

大変なことになりかけたが、二人が自分を救うために来てくれたのだ、そのことが何よりもうれしかった。

 

「ありがとう・・・・」

 

誰にも聞こえないように、ルイズは小さく呟いた。こうして一行は、ニューカッスルの王党派しか知らない港へ向かい、そこからニューカッスル城へ行くことになった。それはルイズが説明したとおり、アンリエッタの手紙はそこにあるからである。

 

 

 

 

 

 

 

 

城のホールでパーティが行われた。玉座には年老いたアルビオン王、ジェームズ一世が腰掛け、皇太子ウェールズがその脇に控える。明日で自分たちは滅びるというのに、ずいぶんと華やかな宴であった。キュルケとギーシュはパーティをそれなりに楽しみ、タバサは料理を食べ進めている。一方、ルイズはどこか暗い表情をしながら椅子に腰かけていた。ジャイアンとスネ夫が適当に料理を食べていると、ウェールズが話しかけてきた。



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53

「・・・・・タケシ君とスネ夫くん、だったね、楽しんでるかい?」

 

「まあ、それなりに・・・・・」

 

「うん。」

 

「それはよかった。これが我々にとっては最後の晩餐だからね。」

 

「『・・・・・・・・・・・・。』」

 

「君たちは、何故彼女と行動しているんだい?」

 

「『彼女?』」

 

ウェールズは、ホールの隅で壁に寄り掛かっているルクシャナに視線を向ける。

 

「友達だから。」

 

「うん。」

 

二人は目を大きく開け、「何か問題でも?」という顔をした。

 

「そうか、つまらない事を聞いたね。ほら、これが件の手紙だ。」

 

ウェールズは小さく笑うと、折り畳まれた手紙を差し出してきた。

 

「・・・・見ての通り、この手紙はボロボロだ。できる限り大切に扱ってほしい。」

 

「ならルイズに渡せよな。」

 

「君たちに託したいんだ。」

 

スネ夫は、折り畳まれた手紙を受け取った。

 

「お前、あの姫とはどういう関係だ?」

 

「なんだ、聞いていなかったのかい? てっきり知ってるものかと思ったんだが・・・・・」

 

ウェールズが意外そうな口振りで答えた。

 

「僕とアンリエッタは恋仲だったのさ。」

 

ウェールズの言葉に、ジャイアンとスネ夫は予想通りという顔をする。

 

「さっき渡した手紙は、彼女が僕に永久の愛を誓ったものさ。これが見つかれば、アンリエッタの婚約もご破算になってしまうからね。」

 

ウェールズは窓の方を向き直ると、夕闇に染まり始めた空を見上げた。

 

「この戦いに、勝ち目はあるのか?」

 

「ないよ。五万の敵に対して、こちらは三百。例え奇跡が起こっても、勝つなんてことはあり得ない。」

 

「それでも戦うのか?」

 

「ああ。」

 

ウェールズが窓の外を向いたまま、ふっと笑った。

 

「今トリステインへ逃げ出せば、レコン・キスタはこれぞ好機とトリステインに軍を差し向けてくるだろう。そうなれば、君たちの働きが全て水の泡になる。」

 

「お前、なんだかあいつに似てるな。」

 

「あいつ?」

 

「ああ。俺たちの幼馴染で、心の友だ。」

 

ジャイアンは、ウェールズに幼馴染の話を聞かせた。

 

「笑わないのか?」

 

「何故、笑うんだい?とても素晴らしい話じゃないか。きっとその人は、本当の強さをもっていたんだろうね。」

 

まるで自分の事のように喜ぶウェールズ。

 

「会って見たかった、君たちの友達に。」

 

「『・・・・・・・・・・・・・。』」

 

「一つ頼まれてくれないか。アンリエッタに会ったら伝えてほしい、『ウェールズは勇敢に戦い、勇敢に死んでいった』と。」

 

「・・・会うことがあれば、ね。」

 

「頼む。」

 

「お前は、死ぬには惜しい男だな。」

 

「それは、君たちも同じだと思うよ。」

 

ジャイアン、スネ夫、ウェールズは笑みを浮かべる。



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54

「君たちに言っておかねばならない事がある。明日、僕とルイズはここで結婚式を挙げる。」

 

「ふ〜ん。」

 

「こんな時にね・・・・・」

 

あまりに非常識な事を言ってるワルドにジャイアンとスネ夫は呆れる。

 

「是非とも僕たちの婚姻の媒酌をあの勇敢なウェールズ皇太子にお願いしたくなってね。皇太子も快く引き受けて下さった。君たちにも是非出席してもらいたいのだが・・・・、仮に出席してしまうと君たちが帰還するための手段がなくなってしまうんだ・・・・」

 

「頼まれたって出ないぜ。」

 

「うん。」

 

「そうか、ならば君たちは明日の朝、すぐに船で発ちたまえ。僕とルイズはグリフォンで帰る、滑空すれば問題なくトリステインまでたどり着ける。」

 

その答えを予期していたかの様にワルドは頷く。

 

「俺たちに命令するな。」

 

ジャイアンとスネ夫はそのまま部屋へと向かうのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

部屋に戻ったジャイアンは窓際に歩み寄る。

 

「ジャイアン、嬉しそうだね。」

 

「初めてマトモな奴に会えたからな。」

 

「そうだね。」

 

バタン

 

いきなりドアが勢い良く開いた。

 

「『ハア〜っ。』」

 

ジャイアンとスネ夫はため息をつく。そして立っていたのは予想通り、ルイズだった。

 

「やっぱりここにいたのね・・・・」

 

ルイズは、ジャイアンの近くに歩み寄り、背中にしがみついた。上着に顔をうずめ、泣きじゃくる。

 

「いやだわ・・・・、あの人たち・・・・、どうして、どうして死を選ぶの? 訳わかんない。姫様が逃げてって言っているのに・・・・、恋人が逃げてって言っているのに、どうしてウェールズ皇太子は死を選ぶの?」

 

「君がそれを言うのかい?」

 

スネ夫の言葉にルイズはキョトンとする。

 

「えっ?」

 

「君は、『魔法を使える者を貴族と呼ぶんじゃない!敵に背を見せない者を貴族というのよ!』って言いながらゴーレムに突っ込んで行ったでしょう?あれと同じだよ。多分、ウェールズは死んでも敵に背を向けたくないんだよ。」

 

「なによそれ!?」

 

ジャイアンはルイズを突き飛ばす。ルイズは尻もちをつく形で二人を睨みつける。

 

「そもそも何で争いが起こるのか分かるかい?それは、君たちみたいな人間が他人を見下し、差別するからだよ。差別がなければ、戦争も起きない。今のこの状況は、君たちの普段の行いが招いた結果さ。もっと言うなら、ウェールズは君たちに殺されるようなものだ。」

 

「なっ!なんですって!?貴族を・・・・私を侮辱する気!?」

 

「事実だろ?」

 

「もういいわ!あんたたちは人の気持ちを理解しようともしない!この国の皇太子は残される人の気持ちなんか理解しようともしない!そんなに死にたいなら勝手に死んじゃえ!みんなっ・・・!みんな!大嫌いよ!」

 

ルイズは部屋を走り去ってしまった。



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55

「あなたは・・・・私を愛していない、今解った・・・・・。あなたが愛しているのは私にあるという在りもしない魔法の才能。そんな理由で結婚しようだなんて・・・・酷い・・・・こんな侮辱・・・・・最低だわ・・・・」

 

ルイズは暴れてワルドから逃れようとする。そんなルイズをワルドから引き離そうとするウェールズだったが、逆に突き飛ばされてしまう。その瞬間ウェールズが素早く杖を抜き、ワルドへ向けた。

 

「なんたる無礼!なんたる侮辱!子爵!今すぐラ・ヴァリエール嬢から手を引け!さもなくば我が魔法の刃が君を切り裂くぞ!」

 

するとワルドはようやくルイズから手を離した。

 

「ここまで僕が言ってもダメかい? ルイズ。僕のルイズ。」

 

「誰があなたと結婚なんか・・・!」

 

「そうか・・・この旅で君の気持ちを掴むために努力はしたが・・・仕方ない。わかった。今、返事をくれとは言わないよ。でも、いずれ、君の気持ちは、僕に傾くはずさ。こうなっては・・・・『目的のひとつ』は・・・・一先ず保留としよう・・・・」

 

「目的?」

 

さっぱり意味が解らないというようにルイズは呟いた。

 

「そう。この旅における僕の目的は『三つ』あった。そのうちの二つが達成できただけでも、よしとしよう。まず一つは君だルイズ。君を手に入れる事だった。二つ目の目的はアンリエッタの手紙だ。これは手に入れるのはたやすい・・・・」

 

「ワルド、あなた・・・・・」

 

何やら只ならぬ雰囲気が場を支配する、キュルケとタバサもゆっくりと杖を構えた。

 

「そして三つ目・・・・・」

 

『手紙』という単語で今こそ確信を得たウェールズは魔法を詠唱する。だがそれよりも早く、二つ名の閃光のようにワルドは杖を引き抜き呪文を詠唱。

 

「危ない!!」

 

するといきなりジャイアンが、ウェールズの前に現れる。

 

グサッ

 

ワルドは風のように身をひるがえらせジャイアンの胸を青白く光る杖で貫いた。

 

「貴様!!」

 

邪魔をされたことで、ワルドは杖を引き抜き、後ろに飛んだ。どうやら三つ目は、ウェールズの命だったようだ。

 

「ジャイアン!」

 

「タケシ!!」

 

「タケシくん!」

 

ジャイアンが胸を抑えて、膝をつく。そんな彼にスネ夫、ルクシャナ、ウェールズは駆け寄る。

 

「き、貴様。まさか『レコン・キスタ』か。」

 

突然の暴挙に凍り付いていた衛士がいっせいにワルドに飛びかかる。しかしワルドが杖の一振りで巻き起こした『ウィンド・ブレイク』で、その全員が吹き飛んだ。

 

「貴族派・・・!ワルド、あなたアルビオンの貴族派だったのね!」

 

ルイズの叫びにワルドは頷いた。

 

「いかにも。だが『アルビオンの』というのは正確ではないな。我々『レコン・キスタ』は国境を越えて繋がった貴族の連盟さ。我々に国境はない。」

 

そう言ってから、ワルドは再び杖を掲げた。

 

「・・・では使い魔くん。君を殺して手紙を奪うとしよう、そこの仲間も一緒にな。」

 

ワルドは冷たく言うと、杖を構える。



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56

礼拝堂ではキュルケとタバサ、ギーシュ、そしてルイズがワルドと対峙していた。四人はもはや満身創痍だ、一方のワルドは傷一つ負うことなく余裕の表情を浮かべている。

 

「どうしたのかね?魔法学院の生徒はその程度なのかね?」

 

「やっ・・・やっぱり僕らじゃダメなのか・・・?」

 

「ギーシュ!何弱音吐いてんのよ!!」

 

呻くように呟くギーシュにキュルケが檄を入れる。

 

「ハハハハ!実に美しい友情だな!」

 

「ギーシュ!行くわよ!」

 

ルイズは立ち上がり、へたりこんでいるギーシュに檄を飛ばした。

 

「レディが戦っているのに僕だけ見ているなんて・・・そんなことはできないね!」

 

ギーシュは立ち上がり、残り少ない魔力を絞り出し、ワルキューレを作り出した。ワルドが飛んでくる火球をかき消し、ワルキューレを蹴散らすようにウインドブレイクを飛ばす。

 

「タバサッ!」

 

ワルドの足がタバサの腕を踏みつけ、顔に杖をつきつける。

 

「ぐっ・・・・」

 

拘束されたタバサがうめき声をあげる。

 

「さて、ルイズ、君が僕と来るというならばこの仲間の命は助けよう、無論そこの二人もな、それでも断るというならば・・・わかっているね・・・?」

 

ワルドは楽しそうにルイズに話しかける。

 

「くっ・・・・人質を取るなんて・・・・!そんなの卑怯よ!貴族の誇りも失ってしまったの!?」

 

「僕も本来はこんな手は使いたくないんだ、だが君が僕を困らせるからさ、さてどうするんだね?」

 

 

 

 

 

 

シン

 

「!?」

 

背後から殺気を感じ、すかさず振り向くと、ジャイアンが金属バットを振り上げている。

 

ドカン!!

 

何とか後ろに飛びかわすが、地面に大きな穴が空いていた。

 

(何だ、あの武器は?)

 

あまりの破壊力にワルドが焦り始める。ダメだ。あれを一撃でも食らったら終わりだ。彼の本能がそう言っていた。

 

「ハハハ、やはり主人のピンチはみていられないか、使い魔くん!」

 

ワルドの言葉にジャイアンだけでなく、ルクシャナやスネ夫も目を細める。

 

「勘違いするなよ。俺たちはルイズがどうなろうと知ったこっちゃない。」

 

「何?」

 

「そもそもここは戦場だ。ここに来た以上、あいつも死ぬ覚悟が出来ているはずだ。」

 

そう、ここは戦場。本来自分の身は自分で守らなければならないのだ。

 

「えっ?」

 

だが当の本人のルイズはキョトンとしている。実はアンリエッタの役に立ちたい一心で、命を失う覚悟など微塵もしていなかった。当然のように自分の使い魔たちが守ってくれる思っていたのだ。

 

「正義っていうのは立場によって形を変える。お前がルイズを裏切るのも、ルイズが平民を虐めるのも、オズマンの爺さんが俺たちに責任を押しつけるのも、アンリエッタが俺たちに命令するのも、俺は責めはしなさい。ただ、俺たちの邪魔をするんだったら、誰だろうとぶっ殺すぜ!」

 

そう言いながらジャイアンはバットの先をワルドに向ける。

 

「フッ・・・・ハハハハハ!!!言ってくれるじゃないか使い魔風情が!いいだろう!ラ・ロシェールでは手加減してやったが・・・・今度は全力で相手をしてやる!」

 

ワルドの体が素早く動いた。ウィンド・ブレイクをジャイアンに放つが、ジャイアンは最小限の動きで魔法をかわす。チッとワルドは舌打ちしてさらに魔法を放つが、ジャイアンはそれも見事にかわす。



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57

「ではこちらも本気を出そう。何故、風の魔法が最強と呼ばれるのか、その所以を教育いたそう。」

 

ワルドが呪文を唱えると、5人になった。

 

「分身・・・・・・?」

 

「ただの『分身』ではない。風の偏在ユビキタス・・・・・・。風は偏在する。風の吹くところ、何処となくさ迷い現れ、その距離は意思の力に比例する。」

 

「ふ〜ん。それで終わりか?」

 

ジャイアンは新しく手に入れた武器のバットで素振りをする。

 

「なんだと!?」

 

ワルドが怒りの声を上げる。

 

「もし平民の俺たちが勝ったら、風の魔法が最弱と呼ばれるのか。」

 

ジャイアンはニヤリと笑う。

 

「俺たちは今まで何度も死ぬ思いをしてきたんだ。だからお前如きに躓く訳にはいかないんだ。

 

あの男と再会するまでは、と心の中で呟く。

 

 

 

 

 

 

 

 

しゅん

 

ジャイアンが一瞬で遍在の一体の前に現れると、バットを思いっきり振り上げる。

 

「早い!?」

 

「お前が遅いんだよ。」

 

ガチャン

 

「馬鹿なッ!私の杖が!?」

 

ドーン!!

 

杖で受け止めようとしたが、バットは杖ごと遍在の頭を砕いた。

 

「一匹。」

 

すると遍在の一体がジャイアンの背後から切りつけ・・・

 

ドーーーーン!!

 

ウェルーズの放った風の魔法が命中して吹き飛ぶ。ウェルーズはニッコリ笑う。

 

「油断大敵だよ。」

 

すると今度はウェルーズの視界から遍在の一体が・・・・

 

「あなたもね。」

 

スネ夫の一撃によって吹っ飛ぶ。その様子にウェルーズは苦笑いする。

 

「くっ!」

 

遍在の三体がやられたことで、焦り始める。ワルドは、再び呪文を唱えて四人の偏在を生み出す。それをジャイアンはくだらなさそうな目で見ながら、ボキボキをと指を鳴らし始める。

 

「芸がないな。」

 

 

 

 

ドン!!

 

遍在の一体が爆発し、掻き消えた。

 

「何っ!?」

 

ワルドが驚愕し振り向くと、そこには杖を構えたルイズが立っていた。一瞬の出来事に、ジャイアンですら呆気にとられてしまっている。

 

「私だって、戦うわ・・・・戦えるんだから!」

 

そんなルイズをみてキュルケが驚く。

 

「ちょ!ルイズ!なにやってるの!?ダーリンにまかせればいいじゃない!」

 

「使い魔だけに任せるなんてできないわよ!」

 

「ルイズゥゥ!!!貴様ァァ!!」

 

そのルイズの行動はワルドの逆鱗に触れたのか、遍在の一体がルイズへ向けウインド・ブレイクを放つ、ルイズの体が木の葉のように宙を舞い、壁にしたたかにたたきつけられる。

 

「ルイズ!!」

 

キュルケがルイズの体を抱き抱えると、ルイズは頭から血を流しぐったりとしていた。

 

「ハッ・・・ハハハハ!!これで我々の脅威が消えた・・・!主が死んだ以上・・・ルーンが消える!貴様も終わりだなガンダールヴ!ハハハハ!!!」

 

高笑いするワルド。だが

 

グサッ

 

その直後、ジャイアンは背後からワルドの身体を手刀で貫く。

 

「お前、今よそ見したな?戦場では常に周囲に気を配る、常識だぜ。」

 

ワルドはルイズに攻撃され、敵であるジャイアンたちから目を放してしまったのだ。戦場では一瞬の隙が命取りになるのだ。

 

「ぐはっ!!」

 

ワルドの口から、ゴボリと大量に吐血。気づけば、四人の偏在もやられていた。

 

「後、俺たちはルイズと契約していない。だからお前が今したことはなんの意味もない。」

 

「くっ!」

 

ワルドは悔しそうに顔を歪ませる。

 

「さあ、選べ。このまま拘束されて拷問されるか、それともこのまま死ぬか?。」

 

「黙れ、平民如きが何を偉そうに!」

 

「消えろ!」

 

ジャイアンはワルドの心臓を手探りで掴むと、それを握り潰す。

 

ぶはっ!

 

ワルドの体はうつ伏せに倒れた。



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58

「あれ・・・・?私・・・・」

 

「ルイズ!目を覚ましたのね!?」

 

「あれ・・・・?キュルケ・・・?ワルドは・・・・?」

 

ズキズキと痛む頭を押さえながらルイズはキュルケに尋ねる。

 

「それが・・・あの・・・・その・・・・」

 

キュルケが視線をジャイアンに向ける。

 

「・・・・・・・・・・・。」

 

ルイズはジャイアンに視線を向けた後、彼の横で倒れている血まみれのワルドに視線を移す。そして全てを理解した。

 

「脱出するぞ、これ以上ここにいても無意味だ。」

 

すると地面からヴェルダンデが顔を出す。どうやら脱出用の通路が出来上がったようだった。

 

「・・・・・・・・・・・。」

 

ウェールズは指にはめていた風のルビーを引き抜き、ジャイアンに手渡す。

 

「これをアンに渡してくれ。そして、伝えてくれないか?愛していると。」

 

ジャイアンはそれを受け取り、ウェールズは手を差し出してくる。

 

「タケシくん、スネ夫くん、ルクシャナちゃんも面倒をかけたね。」

 

ジャイアン、スネ夫、ルクシャナはそれぞれ交代でウェルーズと握手をする。

 

「さあ、早く逃げるんだ。もうすぐここも・・・」

 

「そうだな。」

 

近くで爆発音。さらに近くで、反乱軍のものと思しき鬨の声がする。ジャイアンたちなら全滅させることも可能だが、足手まといが多すぎる上、脱出が面倒になる。そう考え、脱出することを決めた。

 

「君たちが親友に再会できることを祈っているよ。」

 

ウェルーズに別れを告げ、ヴェルダンデの掘った穴へと飛び降りる。ヴェルダンデが掘った穴は、アルビオン大陸の真下に通じていた。ルイズたちが穴から出ると、そこは雲の中だった。落下する7人とモグラを、シルフィードが受け止める。明らかに定員オーバーだがそんなことは言っていられない。ヴェルダンデはシルフィードの口にくわえられたので、抗議の鳴き声を上げた。

 

「きゅいきゅい!」

 

最後の一人を回収したタバサはシルフィードに脱出命令を出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・・・・・・・・。」

 

雲の中を飛び、アルビオンから脱出した一同は、追っ手の気配が無い事を確認して一息ついた。

 

ヒュン!!

 

「あ!!」

 

強い風が吹き、ルクシャナの被っていた帽子が宙を舞う。

 

「『「『!?』」』」

 

帽子の下から現れた彼女の耳にルイズ、キュルケ、タバサ、ギーシュは言葉を失う。

 

バサ

 

スネ夫は咄嗟に帽子を掴み、そのままルクシャナの頭に被せる。

 

「このことは黙っていろ、もし誰かに話したら・・・・分かってるな?」

 

「も・・・・もちろんだよ!!ねぇ!?」

 

ジャイアンは凄まじい殺気で四人を睨む。ギーシュとキュルケは怯えながら首を縦にブンブンと振る。タバサは無言でいる。そしてルイズは

 

「・・・・・・・・・・・・・・・。」

 

眉間にシワを寄せながらルクシャナを睨む。



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59

「わたくしの婚姻を妨げようとする暗躍は未然に防がれたのです。わが国はゲルマニアと無事同盟を結ぶことができるでしょう。あなたたちのおかげで、危機は去り、平和な時間に戻りました。ありがとう、ルイズ」

 

アンリエッタは無理矢理に明るい声を出した。いつまでも落ち込んではいけないと考えたのだろう。するとジャイアンはポケットから風のルビーを取り出し、アンリエッタに手渡す。

 

「ほらよ!」

 

「これは、風のルビーではありませんか。ウェールズ皇太子から預かってきたのですか?」

 

「じゃあな!」

 

用が済んだとばかりに、ジャイアンとスネ夫は部屋を出て行った。ルイズも慌ててアンリエッタに一礼をした後、部屋を出ていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてその帰り道、馬車の中では

 

「ね、ねぇ、タケシ、スネ夫?」

 

「・・・なんだ?」

 

「・・・・ん?」

 

しばらくの沈黙、そしてルイズは顔を赤くして何か言いにくそうにしている。

 

「えと、その・・・・いつまでも、このままっていうのはあんまり・・・よね。だ・・・だから・・・その、契約してあげてもいいわよ?」

 

「『断る。』」

 

一瞬で答えが返ってきた。ルイズは思わず肩をずるっと落とす。

 

「なっ・・・なんでよ・・・?別にかまわないのよ?」

 

以前契約の事で話し合った事をすっかり忘れているルイズ。

 

「あのね。平民が貴族と契約したいと思ってるんなら、大間違いだよ。」

 

「解除の方法も分かってないのに、するわけないだろう。」

 

その言葉にルイズはおとなしく窓の外に視線を戻す。

 

(解除方法・・・か・・・・もし見つかったら・・・・)

 

そんな事を考えながらルイズは声をかける。

 

「ごめんね、私なんかが召喚しちゃって。」

 

「あいつの手掛かりが見つかった。そのことには一応感謝している。」

 

「一応って何よ・・・」

 

「俺たちは、いずれ元の世界に戻るつもりだ。」

 

「元の世界?何よ、それ?」

 

キョトンとするルイズにスネ夫は答える。

 

「僕たちはこの世界とはちがう、別の世界から来たんだ。」

 

その言葉を聞いたルイズは二人に身を乗り出してくる。

 

「ち、ちょっと待ちなさいよ!あんたたちは東の国から来たんじゃなかったの?」

 

慌てふためくルイズにジャイアンは面倒くさそうに答える。

 

「東の国?ああ、あれは嘘だ。」

 

「なあんですってえ!!!!!!」

 

「約束を守らない奴に秘密を打ち明ける馬鹿が何処にいるんだよ。」

 

「こっ、この・・・・」

 

嘘の情報を掴まさせれていたことにルイズは怒り出す。

 

「お前は信用できない。だって俺たちとの約束を破っているだろ?」

 

そう、ルイズはジャイアンとスネ夫の秘密をあっさりとアンリエッタ、ワルド、キュルケ、タバサに喋っていたのだ。



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60

「そ、それは・・・・・・・ワ、ワルドに話してことは悪かったと思うけど・・・・・・・で、でもキュルケやタバサには平気よ!」

 

約束を破った事を正当化しょうとするルイズ。そんな中、馬車は学園へと到着した。

 

「俺たちにバレなきゃ、約束を破った事にはならないとでも思ったのか?だからお前は信用できないんだ。」

 

「うるさいうるさい!何がいけないって言うのよ!」

 

ジャイアンとルイズは睨み合う。

 

「まあ、いい。俺たちは、いずれ元の世界へ帰る。」

 

「何よそれ・・・」

 

ルイズは呟く。二人が手も届かないほど遠くへ行ってしまう?そう考えると急に胸が苦しくなり、鼓動が速くなる。

 

「ダメダメダメダメ!!絶対ダメ!!」

 

突如頭を横に振り叫び出すルイズに二人は静かに視線を向ける。

 

「何で?」

 

「なんでも絶対ダメ!元の世界に帰るなんて!そんなの絶対認めないんだから!」

 

「いつも迷惑してるってほざいているじゃんか?」

 

「そんなの関係ない!あんたたちは私の使い魔だもん!絶対遠くになんか行かせないから!」

 

半ば涙声になって叫ぶルイズ。それは最近になって自分を罵っていた周りの連中が自分を認め始めたからだ。以前に比べてゼロと呼ばれる回数も少なくなった。なのでルイズは決心した。このままドンドン功績を上げて、英雄になることを。トリステインにこの人アリと、みんなから称えられる。この二人がいれば、それが叶うと思っていたのだ。

 

「あんたたちもウェールズ殿下と同じよ!残される人の気持ちをなんで考えないの!?」

 

「残される者?その残される者の事を考えずにサモン・サーヴァントを唱えて、無理やり契約しょうとしたのはどこの誰だ!?」

 

誰もが見て見ぬ振りをしてきた一つの可能性。召喚は決して無から有を生み出す魔法ではない。呼び出された使い魔も、元の生活が必ずあった筈なのだ。使い魔にするということは、それを全て捨てさせること。建て前として、使い魔として召喚されたものはそれを受け入れたものであるということになっているが、本当のところを知る者はいないのが現状である。

 

「・・・・・・・・・・・・・くっ!」

 

何か言い返したい。でも、自分を正当化させるような言葉が出て来ない。せめぎ合う理性と感情の中で、ルイズはとうとう爆発した。

 

「もう!このわからずや!とにかく絶対行かせないんだから!」

 

そう言いながらルイズは泣きながら自分の部屋へと帰って行った。

 

「なん・・・・でよ!!どうし・・・・て、私だけこんな・・・・。私だけ・・・・私だけ!!」



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61

「これ、一応あんたたちも読んでおきなさい!」

 

手紙をジャイアンに渡した。

 

「なんだこれは?」

 

「姫さまからの手紙よ!」

 

内容をかいつまむとこうだ。アルビオンは艦隊が再建されるまでまともな侵攻をあきらめ、不正規な戦闘を仕掛けてくる可能性が非常に高い。例えば、街中の暴動や反乱を扇動するような卑怯なやり口でトリステインを中から攻めててくる。そのような敵の陰謀がある可能性を危惧したアンリエッタは治安の維持を強化する判断を下したということだ。

 

「それで? 俺たちになんの関係がある?」

 

「だから! ちゃんとこの先に書いてあるでしょ!」

 

ルイズはジャイアンを叱りつける。

 

「わたしは身分を隠して情報収集をしなくちゃいけないの!なにか不穏な活動が行われていないかとか、平民達の間で流れてる噂とか調べるのよ!わたしがやるんだからあんたたちも手伝うのは当然でしょ!」

 

「・・・・・・・・・・・・。」

 

ジャイアンが一通り手紙に目を通すと、手に力を込め

 

ビリビリ

 

「ちょっと! アンタ!?」

 

その場で手紙を破り捨てる。

 

「手紙なんて寄こしやがって・・・・・あの女はいつからそんな大物になり下がっちまったんだ!」

 

「待ちなさいよ!それは大事な手紙だって姫さまが!!!」

 

「あの女に伝えて来い!俺様にものをいいたきゃ、報酬もって自分で来いってな!」

 

図々しくまたタダ働きさせようとするアンリェッタにジャイアンは怒りを隠せずにいた。

 

「分かったんなら、帰れ!」

 

それだけ言うと、ジャイアンはルイズを部屋から追い出した。

 

「ジャイアン、いいのかな?」

 

「いいって、いいって。」

 

ジャイアンはその場で横になる。

 

「でもこの任務・・・・・。」

 

「ああ、絶対失敗するぜ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「タケシ・・・・・スネ夫・・・・・」

 

次の朝、ふらふらな足取りでルイズがジャイアンとスネ夫の部屋のドアを開けた。相変わらずノックをせずに。

 

「無事に帰ったか、結果は言わなくていいぜ!」

 

「おそらく博打で持ってたお金を全部スッたって所かな?」

 

ギクッ

 

図星を突かれて身体を震わせる。

 

「ね、ねぇ・・・・二人とも? あの――」

 

するとルイズはなにやら言いにくそうにジャイアンとスネ夫を上目遣いで見つめながら口を開いた。

 

「『断る!』」

 

本題切り出す前にバッサリ断られ、ルイズがずるっと肩を落とした。ここで手を貸したら、彼女の為にならない。ジャイアンとスネ夫は心を鬼にした。

 

「ま、まだ何も言ってないじゃない!」

 

「他に何がある?」

 

ジャイアンはこれ以上ないほど冷たい目でルイズを見る。

 

「呆れはてて何も言えん。」

 

「だ、だったら何で一緒に来なかったのよ!?」

 

「失敗すると分かっている任務に何で行かないといけないんだ?」

 

「仮に行ったとして、君は僕たちの言うことを少しでも聞いたかい?」

 

「うっ・・・・。」

 

ルイズが言葉につまる。そんな彼女に興味を無くしたのか、二人はそのまま視線を逸らす。



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62

「タ、タケシ!」

 

ルイズは服の袖で涙をグイッと拭って、両足でしっかりと地面を踏みしめる。痛いほどにギュッと手のひらを握りしめ、ビシッと杖を突き出した。

 

「私と決闘しなさい!」

 

眼と指が真っ直ぐジャイアンの背中に挑む。

 

「何言ってんだ?今まで散々俺様にギタギタのメタメタにされて来たのに・・・・」

 

ジャイアンは飽きれ顔になる。だが今のルイズにそんな言葉は届かず、硬い意志で彼女は牙を剥く。その瞳には勇気の光。貴族としての誇りと名誉を守るため、そして意地を貫くためにも、使い魔にいいようにされる訳にはいかない。

 

「そして・・・・・そしてッ! 私があんたに勝ったなら!あんたは自分が使い魔だと認め、私に従いなさいッ! 

あんたは、私の使い魔なんだからッ!」

 

ジャイアンの眼差しが真っ向からルイズの眼光と衝突し、ルイズの意志が気圧される。

 

「・・・・本気か? お前・・・・・」

 

「も、もちろん! 本気も本気の、大本気よ!私が勝ったら、私のところに戻ってきなさい。そして私がご主人様だって認めるのよ!」

 

「なら、お前が負けたら即自主退学。二度と貴族を名乗るな。そして一生俺たちに関わるない、いいな?」

 

ルイズの、杖を握る手に力がこもる。

 

「さあ、タケシ! かかってきなさい!」

 

するとスネ夫が慌てた様子でジャイアンに近づき、耳打ちする。ジャイアンもスネ夫の案に賛成し、頷く。

 

「待て、まずはルールの説明をするぜ。」

 

「ルールですって?」

 

ジャイアンは床に転がっていた小さな石ころを拾い上げ、ルイズに投げ渡す。

 

「ルールは簡単だ。期限は一週間。それまでに、その石を青銅に錬金してみろ。勿論自分の力だけでな。それができたらおとなしくお前の使い魔をやってやるぜ!」

 

「そ、そんな・・・・・」

 

できない。できる訳がない。ルイズはこの間の授業で錬金を失敗したばかりでなのである。もちろん今まで一度たりとも成功した事はない。それを一週間でなんて、そんなの無理だ、絶対無理。だがルイズは、震える唇でハッキリと大声で応えた。

 

「や、やるわ! その賭け、受けて立とうじゃないの!」

 

それをしっかりと聞き届けたジャイアンはニヤリと笑った。

 

「スネ夫、この事は誰にも話すな。これは真剣勝負なんだからな!」

 

「わ、解った。誰にも言わないよ・・・・」

 

ジャイアンはルイズをそそくさに部屋から追い出すと、バットで素振りを始める。

 

「まあ、アイツが負けても素直に退学するとは思えないがな・・・・・・・・・」



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64

「そういえば、タケシさん、スネ夫さん、思い出したことがあるんです。」

 

荷物を持った私服姿のシエスタがジャイアンたちに話かける。

 

「・・・・何だ?」

 

「私のひいおじいちゃんが遥か東から空を飛んできたらしいんです。『竜の羽衣』に乗って。」

その言葉にスネ夫が反応した。

 

「『竜の羽衣』って?」

 

「それって・・・・・・」

 

「はい、私の村・・・・タルブっていうんですけど、そこに『竜の羽衣』が残ってますよ。と言ってももう飛べないらしいですけどね。」

 

「・・・・・・・・・・。」

 

スネ夫が腕を考える、東から?空を飛んできた?もしかして宇宙船?それとも飛行機?

 

するとシエスタがポンと手をたたいた。

 

「そうだ!二人とも一緒に行きませんか!?他にもおいしい郷土料理があります!歓迎しますよ!」

 

スネ夫がジャイアンに耳打ちする。

 

(もしかしたらアイツの手掛かりか、もしくは元の世界に戻る手がかりがあるかもしれない。)

 

(そうだな。)

 

スネ夫とジャイアンはシエスタに向き直る。

 

「『是非、行かせてください!』」

 

二人は目を輝かせた。だが、突如聞こえてきた叫び声によって嫌な顔へをする。

 

「こぉぉぉぉぉぉぉぉの馬鹿犬ぅぅぅぅぅぅ!!!!!」

 

叫びながら凄まじい速度でルイズが走ってくる。そのままの勢いを利用しジャイアン目掛けレインボウを放つ。

 

「・・・・・・・・・・・。」

 

だがその全体重を乗せた見事なとび蹴りがジャイアンの顔面にヒットするはずもなく、片手で足を掴まれる。

 

ポイ

 

そして空高く放り投げられる。ルイズはそのまま地面に墜落・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

すると思われたがどこにそんな運動神経があるのかと問いただしたくなるほどの見事な動きで空中で体勢を立て直し、きれいに地面に着地する。

 

「この馬鹿ぁぁぁぁぁ!!!なにメイドに尻尾振ってるのよぉぉぉぉぉ!!!」

 

拳を振りまわしジャイアンを殴ろうとするが

 

バコン!!

 

逆にカウンターを喰らい、校舎の壁にめり込む。すると今度はキュルケとタバサもやってきた。

 

「お、落ち着いてルイズ!お願いだから!」

 

ルイズは再び殴りかかろうとするがキュルケとタバサに止められる。

 

「離しなさいよ!キュルケ!タバサ!こいつらに今日こそ自分の立場ってものを叩きこんでやるんだからぁ!!」

 

「と、とにかく落ち着いて!」

 

なぜルイズが怒り狂っているのか理解できないジャイアンとスネ夫は呆れたような眼でルイズを見て尋ねる。

 

「『何の用(だ)?』」

 

「この期に及んで何の用だじゃないでしょあんたたちはぁぁぁぁぁーーーー!」

 

野獣のように怒り狂うルイズ。

 

「あんた達タルブへ行くんでしょ!?私も行くわ!使い魔が行くんだもん!当然よ!それとそこのメイド!勝手に人の使い魔に手を出さないで!」

 

何やらジャイアンの肩にポンと手が置かれる。振り返ると、スネ夫が「早く行こう」と視線を送っていた。二人はシエスタと共に馬車に乗り、学園を後にした。

 

「ルイズ、もうすぐ授業よ、さ~教室に戻って戻って~。」

 

「むがっ! は、離しなさい! あんたたち! 夜が明けるまでに戻ってきなさいよ! 絶対だかんね! 戻ってこなかったらお仕置きだから!! っていうか殺ス!!」

 

ルイズはキュルケとタバサに引きずられながら教室に向かった。



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65

約束の時間まで後数時間。

 

「なん・・・・でよ!!どうし・・・・て、私だけこんな・・・・。私だけ・・・・私だけ!!」

 

ルイズはボロボロと涙を零し、思いを吐露する。それは理路整然としてはおらず、ただ感情に任せるままの言葉であった。

 

「私は・・・・私はただ、魔法を成功させたいだけなのに・・・・何で上手くいかないのよ!?」

 

ルイズはそのまま手で顔を覆ってうずくまった。

 

「・・・・ひくっ、勉強だって沢山してるのに、努力だって怠ったことないのに、何で魔法が使えないのよ!」

 

静まり返ったヴェストリの広場にルイズの泣き声だけが響き渡る。

 

ザッ

 

「!?」

 

ルイズの前に四人の黒いローブにフードをすっぽりと被った人物たちが現れた。

 

「何なのあんたたち?どこの手のもの? ゲルマニア? ガリア? それともトリステインの低級貴族?」

 

ルイズの言葉を無視し、四人はルイズに襲いかかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐえっ!」

 

ボロボロになったルイズは首を掴まれ、そのまま持ち上げられる。

 

「ふっ、こんな奴を何で欲しいのかね、あの方も・・・・」

 

ルイズは殺気のこもった目で四人を睨みつける。

 

「~~~~っ!!!あんたたちなんて・・・タケシたちが来たら一瞬でお終いなんだからっ・・・・」

 

その言葉に四人は呆れる。

 

「お前、いつまでそうやって他人に助けて貰うつもりだ?」

 

「まぁ、こんなクズみたいな学院にいてもお前は並みの人間止まり、強くはなれねえぜ。」

 

「仲間とヌクヌク貴族ごっこじゃあ、お前は腐る一方だぜ!」

 

「私たちと一緒に来い。そうすれば、あの方が力をくれる。」

 

するとルイズの首を掴んでいたコートの人物がそのまま彼女を投げ飛ばす。

 

「無理やり連れて行っては意味がないそうだ。お前が決めるんだ!」

 

「どうするんだ?くるのか?来ねえのか?はっきりしろ!!」

 

バタン!!!

 

「ぐはっ!」

 

ルイズの身体が校舎の壁に叩きつけられる。

 

「このぉ・・・・私はヴァリエール公爵家の3女よ!アンタたちごときゴミクズが逆らっていい人間じゃないの!分かる!?」」

 

「あのな。お前は爵位持ってないんだろう。しかも継承序列は3位。つまりは、親の威を借りてるだけのただの猿だ。それをまず自覚しな。」

 

「なななな!」

 

「お前に敬意を評している奴らはお前を見てるんじゃない。お前の親の影を見てるんだ。つまりお前は親に頼らなきゃ何も出来ん無能な家畜だ。」

 

「な、何たる侮辱!」

 

ルイズが、ぶんぶん腕を振りまわす。だが四人は、いとも簡単によけながら言い負かしていく。

 

「何よなによなによなによなによ!」

 

ぶんぶん!!!

 

ベシッ

 

ルイズは頭にカカト落としを喰らい、その場に倒れる。

 

「こんな生温い場所で仲間と傷を舐め合って、どうするつもりだ?」

 

「この学園はお前にとって枷にしかならない。くだらない繋がりなど、絶ってしまえ。そうすれば、お前はもっと素晴らしい力を得ることが出来る。」

 

それだけ言うと四人は姿を消した。

 

「・・・・・・・・・・・。」

 

後にはボロボロになったルイズだけが残されていた。



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66

ガサゴソ

 

ルイズは部屋にある持ち物を整理していた。必要な物は大きな旅行用鞄に詰め、要らないものは処分していた。

 

「・・・・・・・・・。」

 

トントン

 

不意に部屋のドアがノックされた。初めに長く二回、それから短く三回。だがその音にルイズは反応せず、そのまま作業を続けていた。

 

ガチャ

 

しばらくするとドアが一人でに開き、入ってきたのは、真っ黒な頭巾をすっぽりと被った少女であった。

 

「ルイズ!」

 

アンリエッタがルイズを呼んだ。

 

「・・・・・・・・・・・。」

 

だが彼女はかまわず作業を続ける。

 

「・・・・る、ルイズ?」

 

「・・・・・・・・・・・。」

 

「驚かしてごめんなさいねルイズ。実は個人的な事で貴方にお願いしたい事があってきました。」

 

ガタン

 

作業を終えたルイズは、旅行用鞄を手に部屋の扉を開ける。

 

「ルイズ!」

 

アンリエッタはルイズの腕を掴み、彼女を引き止める。

 

だが

 

「邪魔よ・・・・・・・」

 

けだるなルイズの声が聞こえた、次の瞬間、彼女の腕がわずかに揺れた。

 

「・・・・・え・・・?」

 

何かが這った感触に、アンリエッタが体を見ると、ドレスの胸元が横一文字にばっくりと裂けていた。わずかの間の後、そこからせきを切ったように血があふれだす。

 

「あ・・・・・・・・・・・あ・・・・・・・・」

 

アンリエッタはぱくぱくと、呻きを上げると胸を押え、後ずさりに倒れた。そんな彼女を無視し、ルイズはそのまま学園を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お待ちしております、ミス・ヴァリエール。」

 

「どういう風の吹きまわし?」

 

目線の先には、ローブを着た四人の人物がルイズに向かって膝をついていた。そしてその後ろには五匹のグリフォンたちが待機している。

 

「この時を持って、私たちはあなたの部下になることが決まっておりました。今までのご無礼をお許しください。」

 

そう言いながら四人は数時間前にした数々の仕打ちを謝罪し、頭を深深く下げる。

 

「ふん!そんな事より・・・・・・

 

ルイズは四人に自分の荷物を投げ渡すと

 

「行くわよ!!」

 

グリフォンに乗り込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「美味いぜ!」

 

「うん、そうだね。」

 

タルブ村では郷土料理、『ヨシェナヴェ』というシチューがふるまわれていた。シエスタ曰く、父親から教わり、その父親も祖父から教わったらしい。

 

「この村にある『竜の羽衣』の話を聞きたいんだけど。」

 

その言葉にシエスタの父親が簡単に説明してくれた。村から出て、少し歩いたところに祠があり、そこに奉納されているらしい。だが現在オーク鬼の群れが出没するらしく、現在は近寄ることができないそうだ。

 

「よし分かった!明日その祠に言ってみようぜ!ついでだ、そのオーク鬼とやらも退治してやるよ!」

 

そう言うとジャイアンは食事を再開する。



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68

「ここが祠?」

 

「は・・・はい!」

 

ジャイアンとスネ夫はシエスタに案内されるがままに祠に足を踏み入れる。

 

「あれが『竜の羽衣』です。」

 

シエスタがそれを指差した。

 

「・・・・・これは・・・・」

 

なぜこれがここに?ジャイアンとスネ夫はその存在はしっていた。22世紀の一般人なら見てすぐ分かる潜水艇型巡視船。それほどまでに有名な乗り物がそこにあった。

 

「もしかしてお二人はこれを知っているんですか?」

 

「うん。僕たちが元いた世界の・・・・未来で・・・・軍人が使っていた乗り物さ。」

 

「え? 元の世界ってどういうことですか?」

 

シエスタの質問をスルーする二人。

 

「じゃあ、これって飛ぶんですか?」

 

「分からない、もし壊れてなかったら動くかもしれないけど・・。その前に・・・これを譲ってもらえないかどうか交渉しないとね。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて明日はどうするかな、スネ夫。」

 

その夜、ジャイアンとスネ夫は考えていた。

 

「うん、動くかどうかはもう少し調べてみないと分からないけど・・・・。一度学園に戻った方がいいと思う。」

 

「どうしてさ?」

 

「バカだな。ルイズの決闘の事忘れたの?」

 

「ああ、そうだった。」

 

ルイズを適当にあしらうための口実をすっかり忘れていた。しかも約束は明日なのだ。

 

「出来ると思う?」

 

「さあな・・・・・・。どちらにしてもあいつに魔法を使わせるのは危険だ。」

 

「そうだね。」

 

次の日、世話になった村人やシエスタの家族に別れを告げた後、三人は馬車を走らせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ミス・ヴァリエール、この辺でいいでしょう。」

 

五人はグリフォンを着地させた。

 

「何よ?」

 

「実はあの方から仰せ付かった大切な事が一つあります。」

 

「だから何の話よ!」

 

「あなたの覚悟を見せていただきたいのです。」

 

「覚悟?」

 

コートを着た四人は視線をズラし、

 

「ええ、この村にある物全てを壊して欲しいのです。」

 

崖の下にある小さな村、そして空に浮かぶアルビオンの艦隊に目を向ける。

 

「壊すって・・・・・・」

 

スッ

 

ルイズに一冊の本が手渡された。ルイズはオズオズと本を開くが、中身は白紙。

 

「さあ、詠唱してください、そして見せてください、あなたの力を!!」

 

すると水のルビーと本が光りだした。

 

「あれ?読める・・・・・」

 

ルイズは恐る恐る本の中で光り輝く文字を読み始める。それは古代のルーン文字で書かれており、真面目に授業を受けていたルイズは読むことができた。

 

「・・・・・・・・・・・・。」

 

しばらくすると光の球があらわれた。太陽のような眩しさをもつ球は、膨れ上がる。そして包んだ。村全体そして上空の全ての艦隊を。さらに膨れ上がって、見るもの全ての視界を覆い尽くした。誰もが目を焼いてしまうと思い、つむってしまう程光り輝くそれ。そして光が晴れた後、全てが炎によって包まれていた。この日、タルブにいた人間たちは死んでしまった。



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69

トリステイン学園。

 

「・・・・・・・・・・・・・・。」

 

ジャイアンは自分の部屋で昼寝をしていた。最近忙しかったせいで疲れが溜まっているのかグッスリと寝ていた。いつもならこのへんでルイズが怒鳴り込んでくるのだが、彼女はもういない。数日前、ルイズの部屋で血まみれのアンリエッタが発見された。運良く命に別状は無かったものの、学園で起こった前代未満の大事件に学園は大騒ぎしている。部屋の主人であるルイズは行方不明。国は彼女を最重要容疑者と認識し、全力で彼女の居場所を詮索している。

 

カチャ

 

不意に部屋の扉が開いた。

 

「・・・・・・・・・・・・。」

 

真っ黒な頭巾をすっぽりと被った人物が入ってきた。ジャイアンが寝ている事を確認すると、今度は

キョロキョロと辺りを伺い、誰もいない事を確認した。そして急いで部屋に入り、静かに扉を閉めた。最後に杖を取り出し、軽く振りながらルーンを呟く。すると光の粉が部屋に漂うのであった。

 

「・・・・・・・・・・・・・。」

 

頭巾を被った人物は寝ているジャイアンの前に立つと、ナイフを取り出した。そして

 

「くっ!」

 

それを思いっきり振り上げる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドガン!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ジャイアンは、ナイフで滅多刺しに・・・・・・・・・・・・なるはずもなく。ジャイアンは、頭巾の人物を壁に叩きつけた。

 

「きゃっ!」

 

壁に身体を打ち付けられ、可愛らしい悲鳴をあげる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ズー、ズー。」

 

そしてジャイアンは何事もなかったかのように昼寝を再開する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ズルイ。」

 

ジャイアンが再び目を開けると、そこには尻餅をついたアンリエッタがいた。どうやら先程の暗殺者は彼女のようだ。

 

「そんなに強いのにどうして助けてくれないの?ズルイわ!」

 

ジャイアンは欠伸をしながら上半身を起こす。

 

「ズルくない。何でもかんでも手を貸せばいいってもんじゃないんだよ、その人の為にならないからな。そして今のお前たちには手を貸さない、それが俺たちの答えだ。」

 

「そんなの酷い!」

 

「酷くない。この国はお前の物だろ?なら一所懸命守ってみろ。自分の力で。部外者の俺たちに頼らずにさ。」

 

「・・・・・・・・・・・・。」

 

「考えてみるんだな、自分に何が出来るのか。」

 

そう言うとジャイアンは昼飯を食べに歩き出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・・・・・・・・・出来るもん。」

 

残されたアンリエッタはオズオズと口を開く。

 

「私・・・・・・・私・・・・・・あなたの・・・・・・・お嫁さんになってあげる!!」

 

そして大声で宣言した。



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70

アンリエッタの言葉に一瞬周囲の時が止まった。そしてしばらくすると

 

「はあ!?」

 

ジャイアンは目を丸くする。

 

「だから、結婚してあげるって!!」

 

「けっこんって・・・。そういう事じゃなくて・・・・・」

 

「お嫁さんを見捨てて行く気なの!?」

 

髪を振り乱しながらジャイアンの腰にしがみつくアンリエッタ。必死である。

 

「お嫁さんがどういうもんか知ってるのか?」

 

「//// え!?し、知ってるわ。半分くらい・・・・・。/////」

 

「半分じゃダメだろ!」

 

「//// 残りは勉強します!/////」

 

「誰が教えるんだ!」

 

「/////・・・・・・・そ・・・それは・・・・/////」

 

ジャイアンの言葉にアンリエッタは口籠る。そんな彼女にジャイアンはヤレヤレとため息をつく。

 

「あのな、そういう事じゃないんだ。お嫁さんって言うのは幸せで、幸せで、幸せの絶頂でなるもんなんだ。」

 

「・・・・・・・・・・・・。」

 

「俺様と結婚したってお前は幸せじゃねえだろ。第一、俺たちにはその資格がない。」

 

「資格?」

 

「お嫁さんとお婿さんには強い絆がなければならない。どんな絶望的な状況であろうと互いを信じられる絆がな。」

 

「・・・・・・・・絆ですか。」

 

「そうだ。例え、体を乗っ取られても、記憶を塗り替えられても、寄生虫に脳を破壊されても、改造手術されても、人として死んでも、人格を書き換えられても、世界の全ての生き物を敵に回したとしても、切れることない固い絆だ。そんな物は俺とお前にはない、だから諦めろ。」

 

その言葉を聞くとアンリエッタは目から涙を流し、

 

「なら・・・・・・私は一体どうしたら・・・・」

 

その場に崩れ落ちる。

 

「私はルイズを助けたい・・・・・・でも今の私には何もできない・・・・・」

 

ウェールズに続いて、今度はルイズまでも失ってしまう。そんな恐怖からアンリエッタは冷静な判断ができないほど取り乱していた。

 

「なら助けに行けばいいじゃないか?」

 

「ふぇ・・・・?」

 

泣いていたアンリエッタが顔を上げる。

 

「失いたくないんだろ?だったらお前が連れ戻せばいい。」

 

「・・・・・・私が・・・・・・・・・・」

 

「人は同じ立場に立つことで互いを理解し合える。俺たちはルイズのように落ちこぼれでもなければ、金持ちじゃない。それに魔法も使えない。だからあいつの苦しみは理解できない。・・・・」

 

そう言うとアンリエッタに手を差し出すジャイアン。

 

「・・・だがお前ならあいつの気持ちを分かってあげられるんじゃないか?」

 

アンリエッタはオズオズと差し出された手を取り、立ち上がる。

 

「今、あいつを救えるのはお前しかいない。」



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71

「なんで・・・・・私たちがなにをしたっていうの・・・・・?」

 

急いでタルブに戻ってきたシエスタは膝から崩れ落ちる。全ての家は燃やし尽くされ、所々黒い煙りが立ち昇っている。

 

「まだ生き残っている人がいるかもしれない、探そう!」

 

「うん。」

 

ジャイアンの言葉にスネ夫は頷く。するとアンリエッタが声を上げる。

 

「あれは!」

 

目線の先には丘の上から村全体を見渡している少女がいた。アンリエッタは急いで彼女の元へと駆け出し、ジャイアンとスネ夫もその後を追う。

 

「ルイズ!」

 

アンリエッタは力強く彼女の名を呼ぶ。すると彼女もアンリエッタに気づき、振り向く。

 

「姫様!見て下さい。これ、全部私がやったんです!」

 

そう言うとルイズは小さく呪文を唱え、

 

ドガン!!!

 

近くにあった家の残骸を派手に破壊する。

 

「ほらね、凄いでしょう?この素晴らしい力でみんなを見返してやるの!!」

 

「ルイズ!?」

 

「気安く呼ばないで、この詐欺師!!」

 

声を上げるルイズにアンリエッタはビクつく。

 

「なに言ってるの・・・・・・。あなたは、わたくしをお友達と呼んでくれた・・・・・・・・」

 

「友達?フン!そろそろくだらない芝居はそこまでにしなさい、見ていて不愉快だわ!」

 

ルイズの言葉にアンリエッタは目を見開く。

 

「あの時だって、あんたは幼馴染との友情を餌にして私を死地へと追いやろうとした!」

 

ウェールズに渡った手紙を取り戻して欲しいと依頼してきた時の事だ。

 

「そっ・・・・それはっ・・・・わたくしの周りに信用できる者がいない・・・から・・・」

 

「違う!私があんたにとってもっとも忠実で、使いやすく、そして替えが利く駒だったからよ!」

 

ルイズは烈火の如く声を上げる。

 

「そんなッ・・・わたしは・・・・あなたを信用して・・・・」

 

アンリエッタはそんなつもりではなかったと言葉を失う。

 

「この力さえあれば、もう誰もバカにしない。力は裏切らない。力こそ全て。今の私には『虚無』の力がある。あの無敵と謳われたアルビオン艦隊を一撃で葬った伝説の力が!!この力で私は英雄になる。トリステインにこの人アリって、そんな風にみんなから称えられるのよ!!」

 

「違う・・・・違うわ・・・・・そんなことで誰も幸せに・・・・・」

 

「姫様・・・・・・」

 

アンリエッタは顔を上げる。

 

「私、幸せです!」

 

「!?」

 

その言葉にアンリエッタは膝から崩れ落ちる。

 

「そんな・・・・・・・・・」

 

するとルイズの隣にコートを着て、フードで顔を隠した四人の人物が現れる。



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72

「あなたたちね・・・・・あなたたちのせいね・・・・・ルイズが変わったのは!一体ルイズに何をしたの!?」

 

アンリエッタはルイズの左右隣に立っている謎の四人組に視線を向ける。

 

「我々は何もしてません。」

 

「トリステインを裏切る。」

 

「あなたとの関係を断ち切る。」

 

「これは全てミス・ヴァリエールの意思なのです。」

 

そう言うと四人は不気味な笑みを浮かべる。

 

「黙りなさいっ!」

 

目に涙を溜めながらアンリエッタが杖を突き付ける。

 

「・・・・・・・腕・・・・・・・震えてる・・・・怒り・・・?それとも・・・・恐れ・・・?」

 

「・・・・・よくも・・・・・ルイズをっ!」

 

何とか呪文を唱えようとするアンリエッタだったが、悲しみと恐怖で体が動かない。

 

「トリステインの王女・・・・・お前のそれは勇気じゃない・・・ただの無謀だ。」

 

するとルイズは再び杖を取り出し

 

「姫様・・・・・もしあなたが私の邪魔をするのなら私はあなたを倒さなければならないわ。だって私、この力失いたくないもの!!」

 

呪文を唱え始める。

 

「さよなら、姫様!」

 

アンリエッタの視界が光に包まれる。

 

「目を覚ましてルイズ!」

 

ドガーーーーーーーーン!!!!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、行くわよ!」

 

「『「『はい。』」』」

 

気が済んだルイズたちはその場を去って行く。

 

「・・・・・・・・・・・・。」

 

するとコートの人物の一人がジャイアンとアンリエッタに視線を向けると

 

「・・・・・異界の住人・・・・それを支える少女・・・・英雄の伝説も所詮は昔話か・・・・」

 

小さく呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!?」

 

アンリエッタは目を覚ました。そしてすぐに上半身を起こし、辺りを確認する。ここは紛れもなく自分の部屋だ。

 

「気がついたか?」

 

声をかけられ、振り向くとそこにはジャイアンが椅子に座っていた。

 

「あなたは・・・・」

 

「あんなことで気を失うなんて情けない奴。」

 

「!?」

 

その言葉にアンリエッタはジャイアンに食ってかかろうとする。だが

 

「あなた、怪我してる・・・・・(もしかして自分を庇った時に)。」

 

ジャイアンの体に包帯が巻かれている事を確認する。

 

「大した事はない。そんなことよりこれからどうするんだ?」

 

「え?」

 

「ルイズはお前を拒絶した。なら近い将来、お前はあいつと戦う事になるぜ。」

 

「・・・・・・・・・・・。」

 

「ルイズの事は忘れるんだな。」

 

「えっ?」

 

「ルイズは進んでこの国を裏切ったんた。お前もあいつの頑固な性格をしってるだろう?お前が何をしょうとあいつは変わらない。」

 

「・・・・・・・・・・・。」

 

「ルイズを連れ戻そうとか思ってるんならやめとけ。そういうのは思い上がったバカのすることだ。」



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74

数ヶ月後、人の口に戸は立てられず、ルイズが居なくなった事が公爵家に知れたのがつい先月。それからは毎日のように使者が訪れ、事実確認を求めてきた。そして今日、全くまともな返事を出さない学院に業を煮やし、ラ・ヴァリエール公爵と公爵夫人が直談判に訪れた。一応事実は伝えたのだが信じてもらえなかった。

 

「弱った弱った。どうしたもんかのう・・・・・」

 

「もうどうにもならないのでは?」

 

困った顔で髭を撫でるオスマン氏に冷たく返すコルベール。既に彼はこの学院から逃げ出す算段を纏めていた。

一方のオスマン氏は誰に責任を押し付けるか悩んでいた。どうしようもない二人である。

 

コンコン

 

学院長室にノック音が響き渡る。

 

「ラ・ヴァリエール公爵御一行の、おな~り~」

 

扉が開くと同時に既に白髪に近い金髪の厳しい顔をした壮年男性と桃色の髪をまとめあげた美しい貴婦人が現れた。

深い怒りが感じられる腹の底に響く低い声で、公爵はオスマン氏に問いかける。

 

「さて、オールド・オスマン。此度の訪問、何の用かは理解しておられるだろうな?」

 

「・・・・それはもちろん。」

 

「娘はどこだ!?」

 

「ええと、そのですな・・・・」

 

「そちらの報告書によるとルイズが姫殿下を刺し、逃亡したそうだが・・・・・」

 

「その通り。ミス・ヴァリエールは逃亡中、今も行方は分かりませぬ。」

 

「・・・・・そんな下らん言い訳は良い。あの子は姫殿下の良き友人だぞ、そんなことをするはずがなかろう。きっとここの生徒が姫殿下を襲い、あの子を連れ去ったのだろう? 何故正直に言わずそんな戯けた嘘をつく。責任ならばルイズを連れ去ったその貴族に取らせればよかろう・・・」

 

既に公爵の中ではストーリーが出来上がっているらしい。そもそも連れ去った生徒などいないのだから責任の取らせようが無い。どうしようかと頭を抱えたオスマン氏を見て、額に青筋を浮かべた公爵が詰め寄ろうとした時。

 

(!!!!)

 

オスマンに名案が浮かんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さてと、早く着替えて飯だ!飯!」

 

「今日は何だろうね?」

 

ジャイアンとスネ夫は昼食のために厨房へ入ると、厨房にいる全員が二人に視線を向ける。

 

「どうかしたの?」

 

「おお!!!、『我等の王』!無事だったか!!!」

 

「その呼び方、いい加減やめろ!」

 

ジャイアンとスネ夫に気づいたマルトーが声をかけてくる、だがその声はどことなく慌てている。するとメイドたちも二人に詰め寄ってくる。

 

「二人とも、今すぐここから逃げろ!でないと・・・・・」

 

そう言いかけた時、数人の兵士たちが厨房に入ってきた。

 

「な、何だ!?」

 

兵士たちは出入り口を塞ぎ、ジャイアンとスネ夫に杖を向ける。

 

「あなたたちが、噂の平民使い魔ですね?」

 

兵士たちをかき分けて、壮年男性と桃色の髪の貴婦人が姿を現す。



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75

「オバさん、だれ?」

 

「オバさんですって!?」

 

「そう、オバ・・・ぶぐっ。」

 

スネ夫はジャイアンの口を塞ぎ、苦笑いする。

 

「あなたたちっ!何を目的に娘を誘拐したのです!」

 

「娘?誘拐?」

 

「何のことだが分からないな。」

 

ジャイアンとスネ夫は首を傾げる。

 

「あなたたちがルイズを誘拐するのを見た者がいます!」

 

すると兵士たちをかき分けて、大勢の生徒や教師たちがゾロゾロやってくる。

 

「私は見ました。この二人がミス・ヴァリエールを脅し、連れ去る姿を!!」

 

ジャイアンとスネ夫を指差しながらギトーは声を上げる。

 

「俺も!!」

 

「俺も見たぜ!!」

 

「私も!!」

 

「私も見ました!!」

 

ギトーに続き、大勢の生徒や教師たちも声をあげる。それは、日頃からジャイアンとスネ夫を目障りだと思っている貴族たちだ。

 

「彼らの証言からあなたたちが姫殿下を刺し、ルイズを誘拐したのは明白です。よって、あなたたち二人を拘束させていただきます!」

 

その言葉にジャイアンとスネ夫はファイティングポーズを取る。

 

「動くな!」

 

ラ・ヴァリエール公爵の一言に、その場に全員が静まり返る。

 

「抵抗すると、全員ここで死ぬぞ!!」

 

兵士がシエスタの身体を掴み、彼女の首に剣を突きつけている。よく見るとシエスタだけではない。マルトーも、他の平民たちも全員人質にされている。

 

「用があるのはお前たち二人だけだ。お前たちが大人しくわしらと来れば、あとの平民は全員無罪としよう!わしとて平民を苦しめることには反対だからな。」

 

「タケシさん、スネオさん、行っちゃダメです!!」

 

「そうだ、処刑されるぞ!!」

 

泣き叫ぶシエスタたちを無視し、スネ夫はジャイアンに指示を仰ぐ。

 

「どうする、ジャイアン?」

 

ジャイアンは真剣な顔でラ・ヴァリエール公爵に問いかける。

 

「今、言ったことは本当か?」

 

「わしも貴族だ。約束は必ず守る。」

 

ラ・ヴァリエール公爵はジャイアンの問いに頷く。

 

 

 

 

 

 

 

 

「『・・・・・・・・・・。』」

 

ジャイアンとスネ夫は両手を上げて、降参のポーズをする。兵士たちはジャイアンとスネ夫に近づくと縄で二人を縛り上げる。二人は、そのまま馬車に押し込まれ、連れて行かれた。

 

「ど、どうして・・どうしてこうなるの!!一生懸命生きてる人たちや人のために命がけで戦ってる人や・・・、正しいことをしてる者がなぜこんな目にあわなきゃいけないのよ!!!」

 

シエスタが心から叫ぶ。だが、彼女も他の平民たちもなにもできない。自分たちにもっと力があればと拳を強く握りしめる。

 

「・・・・・・・・・・・・・・。」

 

『偉大なる』オールド・オスマンもまた、学院長室の窓からその様子を微笑ましげに見つめていた。

 

「これで学園に平和が戻った。めでたい事じゃ。」



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76

ジャイアンとスネ夫が学園から去って数日。

 

「いやー!!!やめてー!!!!」

 

「大人しくしろ。ほら、早く口を塞げ、お前は早く縄を持ってこい!!」

 

「んー!んんー!!」

 

ビリビリビリ

 

「んんーー!!!」

 

魔法学園には変化が現れていた。メイドが一人行方不明になったのだ。当然、他の平民たちは発砲を尽くして探したが、見つからない。

 

「シエスタ、大丈夫か?」

 

「は、はい・・・・大丈夫です。」

 

「無理をするな。ここ最近、ロクに寝てないじゃないか。」

 

「・・・・・・・・・・。」

 

「心配なのは分かるが、無理はしないことだ。」

 

「はい・・・・・・・・。」

 

シエスタは浮かない顔をする。当然だ、中の良かった友達が行方不明になったのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてその日の夕方。

 

「最近はメイドと言えども、おとな顔負けのプロポーションを持つ者が多いですからな。」

 

「ほうほう! 君もかね! やはりおなごは胸が大きいに限るからの!」

 

「そうそう。たまりませんな。」

 

「おっしゃる通りです!あんなのを見れば、そりゃあ何とかしたいと思いもしますって。」

 

「わかってますよ。でも、こないだやつとふたりっきりになる機会があったんですが、つい『過ち』を犯してしまいましてな。」

 

教師たちは下品に「がはは」と笑った。会議室に集まり、今後の教育方針について語っていた。だがふとした拍子に先日行方不明となったメイドの存在が上がり、彼女たちの存在に話が切り替わってしまった。

 

「今なら、みなの目は奴らの方に向いている。死んだ後に地獄に行くのは仕方ありません。でも生きてる間は、今はあの平民たちのせいに出来ます。」

 

その数日後、またもメイドが行方不明になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前、よくも俺の女に手をだしたな!あいつは俺と付き合ってるんだ!!」

 

「取られる方が悪いんだ、バーカ。」

 

「なんだと!?」

 

「やるか!?」

 

バタン!!ドガーン!!

 

グサリ。

 

バタン。

 

「ざまあみろ、身の程知らずめ。前からお前の事、ウザいと思ってたんだ!」

 

キョロキョロ

 

ガシッ

 

「さてと、とりあえずどこかに埋めとくか・・・・」

 

その数日後、今度は学園の生徒が行方不明となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「知ってることを教えてくれないか?」

 

「ぼ、僕は何も知りません。」

 

「どんな小さな事でもいいんだ。」

 

「そういえば、前にあいつらと目が合ったんです!」

 

「あいつら?」

 

「例の二人組の平民です。きっとあいつらです。あいつらがなんらかの方法でケビンを消したんです!」

 

貴族たちは口を揃えてこう言うのだ。そしてそれはこの学園に限らず、国全体で起こっていた。不安、恐怖、憎悪が国を支配し、人間としての誇りは忘れ去られていた。



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77

バチン!!

 

「しらない!しらない!」

 

「だまらっしゃいっ!!」

 

ヴァリエール家の地下室では数日前から悲鳴が聞こえていた。その悲鳴はヴァリエール公爵御が捕らえたジャイアンとスネ夫のものだ。彼らはヴァリエールの屋敷に幽閉され、毎日のように拷問されている。

 

「平民の割に、強情ね。」

 

拷問されている二人をまるで下らぬものでも見るかのようににらみ、見下ろしている女性。彼女はエレオノール・アルベルティーヌ・ル・ブラン・ド・ラ・ブロワ・ド・ラ・ヴァリエール。ルイズの姉で、ラ・ヴァリエール公爵家の長女。ルイズの高慢さを拡大したような激しい気性の持ち主。

 

 

 

 

 

 

 

「お姉様、やりすぎです!」

 

声をあげるのはルイズのもう一人の姉、カトレア・イヴェット・ラ・ボーム・ル・ブラン・ド・ラ・フォンティーヌ、性格はルイズと違っておっとりとしていて優しく、傷付いた動物を発見しては拾って手当てをしているため、彼女の馬車や部屋の中は動物園と化している。

 

「お黙りカトレア!これはヴァリエール家にかけられた、あらぬ疑いをはらすために、どうしても必要な事なのです!!」

 

オスマンを含む学園の貴族たちはジャイアンとスネ夫がルイズを連れ去ったと言っている。逆にシエスタを含む平民たちは、ルイズが自らの意思で姿を消したと言っているのだ。貴族と平民の話が食い違っている。だが名門ヴァリエール家としてはどちらを信じるか考えるまでもない。

 

「ゼロといえども、あの子もヴァリエール家の一員です。姫殿下に手をあげるなんて事は絶対にしません!」

 

完全に貴族の言うことを鵜呑みしているエレオノール。

 

「でもこのままでは二人とも死んでしまいます!」

 

「平民の命なんてどうでもいいわ!」

 

「・・・・・・・・・・・・。」

 

姉や両親に何度講義しても、この調子なのである。そんな姉と両親の態度にカトレアはある作戦を立てていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、王国では・・・・・

 

「本当はお前なんじゃないのか?」

 

「何が?」

 

見張りの兵士たちがコソコソ内緒話をする。

 

「マザリーニ枢機卿がいなくなったの・・・・・」

 

「なんのことだか?」

 

「俺、お前とマザリーニ枢機卿が一緒に歩いているの見たんだぜ!」

 

「チッ、見てたのかよ。誰にも言うんじゃないぜ!」

 

すると背後から人影が現れる。

 

「どういうことです?」

 

「『マリアンヌ大后!?』」

 

よりにもよって一番ヤバイ人間に話を聞かれてしまった。

 

「今の話は本当ですか!?本当にあなたがマザリーニを・・・・」

 

このままでは自分は打ち首になってしまう。そんな事を思いながら兵士は拳に力を込める。

 

「えぇい!!!!」

 

ドン!!

 

兵士は突然、マリアンヌの腹部を殴る。

 

「ガッ!」

 

不意打ちをくらい彼女はその場で膝をつく。

 

「この女、あの平民たちと結託して我々を消そうとしてるぞ!」

 

その言葉に兵士たちが集まり出し、マリアンヌの身体を拘束していく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、マリアンヌ大后が病に倒れたと国民に発表された。



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78

「・・・・・・・・・・・・・・・・・。」

 

ルイズとの一件以来、自室に籠りっきりで一切顔を出そうとしないアンリエッタ。

 

「どうしてこんなことに・・・・・・・」

 

親友だと思っていたのに。自分の味方だと思っていたのに。

 

「・・・・・・・・どうして・・・・・どうして・・・・・」

 

あの日、彼女に言われた事が心に突き刺さる。

 

コンコン

 

突然扉がノックされた。こんな夜遅くに何の用事であろうか、また面倒なことが起こったのであろうか、億劫だが無視することもできない、万一アルビオンが再び艦隊を送り込んできていたらそれこそ事である。

 

「誰ですか? こんな夜中に?」

 

「ぼくだよ、アンリエッタ。この扉を開けておくれ!」

 

その言葉を耳にしてアンリエッタの顔から表情が消えた。そして扉へと駆け寄った。

 

「ウェールズ様? 嘘、貴方はお亡くなりなったはず・・・・」

 

震える声で、そう口にする。

 

「それは間違いだ、ぼくはこうして生きている!」

 

「嘘、嘘よ。どうして・・・・」

 

「信じられないのも無理はない。では、ぼくがぼくである証拠を聞かせよう!」

 

アンリエッタは震えながらウェールズの言葉を待った。

 

「風吹く夜に・・・・・」

 

ラグドリアンの湖畔で何度も聞いた合言葉。アンリエッタは返事をすることも忘れ、ドアを開ける。

何度も夢見た笑顔がそこにあった。

 

「ウェールズ様っ・・・・・! よくぞ・・・・よくぞご無事で・・・・」

 

アンリエッタはウェールズを抱きしめ、泣きじゃくる。そんな彼女の頭をウェールズは優しく撫でる。

 

「相変わらずだね、アンリエッタ。なんて泣き虫なんだ。」

 

「だって・・・・だって!てっきり貴方は死んだものだと! どうしてもっと早くにいらしてくださらなかったの?」

 

「本当にごめんね。」

 

いたずらっぽくウェールズは笑った。

 

「昔と変わらず意地悪な方・・・・。どんなにわたしが悲しんだが・・・、寂しい想いをしたか、あなたにはわからないでしょうね。」

 

「わかるとも。わかるからこそこうやって迎えにきた、もう寂しい思いはさせないよ、アンリエッタ。」

 

時がたつことも忘れ、二人はしばらく抱き合った。

 

「僕は『ある方』の命令で君を迎えに来たんだ。」

 

「わたし・・・・・を?」

 

するとウェールズの後ろから人影が現れる。

 

「あ、あなたは・・・・・・!?」

 

それはこの国の大后で、アンリエッタの実母、マリアンヌであった。

 

「・・・・・・・・・・・。」

 

マリアンヌはアンリエッタに反応せず目は活力を失っていて、人形のように動かない。

 

「僕たちの世界統一に協力してくれるかい?」



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79

「僕たち、このままどうなるんだろう?」

 

「さあな・・・・・・」

 

ジャイアンとスネ夫は牢屋の中でうずくまっていた。体にはいくつもの傷や痣、歯は何本も引き抜かれ、爪も強引に引き剥がされている。明らかに残酷な仕打ちがされたことが見て取れる。

 

「う・・・・う・・・・・・」

 

身体中の痛みに耐えるだけの日々。一体、今日で何日目だ。自分たちは何でこんな事してるんだろう?いつまでこんなことしなければならないんだろう?

 

カチャ

 

すると地下室の扉が開き、誰かが入ってきた。

 

「・・・・・・・・お前は・・・・・」

 

入ってきたのはこの国の女王、アンリエッタだった。彼女は、軽くため息をしてから強い語気で口を開いた。

 

「なんて汚らわしい豚どもなのかしら。こんなのに期待してたなんて・・・・・私が馬鹿でした。」

 

その言葉にジャイアンとスネ夫はアンリエッタを睨みつける。

 

「何をしているのです!私はこの国の王女なのですよ。頭を下げなさい!」

 

「嫌なこった。俺たちにこんな仕打ちをしておいて、敬意を示せだ?お前はただ威張るしか能のないクソガキじゃねぇか。」

 

「言いますね。平民や使い魔風情が王族に何されようと文句言う筋合いなんてないはずです。」

 

「今のうちに精々笑っておけばいいさ、お前も、他の王族も、貴族も。」

 

「何が言いたいのです・・・・・」

 

「こんなことがいつまでも続かないってことさ。いずれ天が裁けぬお前たちを、闇の中で始末する奴らが現れる。」

 

そう言いながらジャイアンは笑みを浮かべる。するとアンリエッタは溜息を吐いた。

 

「お前たちの処罰が決定しました。日時は後程。」

 

「その顔は他の平民たちの見せしめの為に死んで来いって言いたそうだな。」

 

「そうです。お前たちみたいな性根の腐った連中は死んだ方が世のためです。」

 

それだけ言うととアンリエッタは去って行った。

 

「処刑か・・・・・・」

 

「まぁ・・・・・当然か・・・・」

 

公開処刑。本来ならこんな理不尽な事に泣きわめくところだが、自分たちのしてきたことを考えたら当然の事だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

城に戻ったアンリエッタは今は亡き父、王の居室に入っていった。

 

「上出来だよ、アンリエッタ。」

 

頼まれ事を見事にやり遂げ、ウェールズに抱きつくアンリエッタ。

 

「愛している、アンリエッタ、これからもぼくと一緒に来てくれ。」

 

アンリエッタの心が、ラグドリアンの湖畔でウェールズと逢引を重ねていたころと同じ鼓動のリズムをはじき出す。

 

「ぼくを信じてくれるね? アンリエッタ。」

 

「はい、勿論です。」

 

アンリエッタとウェールズの唇が重なった。

 

(そう。私にはウェールズ様がいる。ウェールズ様だけいればいい。ウェールズ様のおっしゃることは全て正しい。

ウェールズ様のおっしゃることは絶対。)

 

アンリエッタの脳裏に暗示のようなものが組み込まれる。



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80

「陛下はその男に騙されております!!どうか民の声に耳をお傾けください!!」

 

「こんなことが・・・・・まがり通ってもいいのか!!!!」

 

「罪には罰が必要なんだ・・・・・誰でもいい・・・・頼む!!!この悪魔に然るべき報いをー!!!!」

 

女王の命令により平民たちは毎日、朝から晩まで働き続けた。彼らは処分を恐れ、過労で動けない身体に鞭を打ち、必死に働いた。勿論、中にはそんな扱いに耐えきれず、国から逃げ出す者たちもいた。だが、そういう者は『なぜか』事故に遭ったりと悲惨な末路を辿っていた。

 

「税金で飲むワインは格別だ・・・・・・・・・・」

 

「愉快、愉快、愉快。」

 

そんな平民たちを見ながら貴族や王族はワインを片手に、悪魔の笑みを浮かべていた。

 

「働け、働け、鬼畜ども!この世界は魔法が全て。魔法が使えない平民は無力。魔法こそ力。我らが正義!」

 

「『「『「『「アハハッハハハハハハハハハハハ!!!!」』」』」』」

 

「いいか?お前たちは家畜だ。家畜が貴族に仕えるのは当然の事だ!!」

 

「『「『「『「アハハッハハハハハハハハハハハ!!!!」』」』」』」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

平民たちは口を揃えてこう言った。

 

「君たち、もしかしてトリステイン王国に行くつもりなのか?」

 

「やめたほうがいい・・・・・あそこは賑わってはいるが、このオークよりもタチの悪い化物が一杯いるんだ・・・・。」

 

「人だよ・・・・・人だけど心は化物・・・・。そんな連中ばかりなんだ・・・・・」

 

「少し違う、女王はいるが今は子供だ。その女王を影で動かす人物こそがこの国を腐らせる元凶だ。」

 

「女王に逆らった人間の公開処刑でしょ?トリステイン王国ではよくあることよ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

わずか数か月の内に、100人を超える平民がアンリエッタの独断で処分された。

 

「私の悪評が?」

 

「はい。このところ姫様の評判は悪くなっていると言わざる負えません。」

 

「そうですか・・・・・・」

 

独裁者に近い悪政はわずか数か月でアンリエッタへの支持は激しく落ち込んでいた。100人もの人間を独断で処罰すれば無理もない。

 

「やはり所詮は愚家畜ばかりということでしょうか。女王として神の啓示に従い政治をしている私の考えなど、理解できるわけがないのかもしれませんね・・・・・・・・」

 

アンリエッタはウェールズの首に腕を回し、唇を重ねた。

 

(そう。私にはウェールズ様がいる。ウェールズ様だけいればいい。ウェールズ様のおっしゃることは全て正しい。

ウェールズ様のおっしゃることは絶対。)



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エピローグ

ガタン

 

「処刑場に連行する。」

 

兵士たちは寝っ転がっているジャイアンとスネ夫を無理やり立たせると、そのまま牢屋を後にする。

 

「・・・・・・・・・・。」

 

「・・・・・・・・・・。」

 

手を後手に拘束されたジャイアンとスネ夫は言われるがまま馬車に乗せられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しばらくして二人はアンリェッタが用意した処刑台へと連れてこられた。そんな彼らを大勢の貴族や王族は笑っている。

 

「やっちまえ!!!」

 

「死ね、平民!!」

 

「貴族に逆らうからだ!!」

 

「『「『「殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ!!!!」』」』」

 

大笑いしている。しかもワインやお菓子を片手に。彼らにとって、平民が処刑されるのは酒のつまみに等しいことなのだろう。

 

「さあ、乗れ。」

 

ジャイアンとスネ夫は台の上でうつ伏せに寝かせられ、首が動かないように固定される。ギロチン。それは、2本の柱の間に吊るした刃を落とし、柱の間にうつ伏せ状態にさせた罪人の首を切断する斬首刑の執行装置である。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・。」

 

するとジャイアンとスネ夫の前に一人の人物が現れた。

 

「誰だ、お前は?」

 

それは嘗て自分たちが友達になった男、ウェールズだった。

 

「姿形を真似ても、中身は誤魔化せねえぞ!!」

 

その言葉にウェールズは笑みを浮かべる。

 

「無礼者!!」

 

するとウェールズの隣に見知った顔が現れる。

 

「アルビオン王国の皇太子で、私の大切な人になんて口をきくのですか!!!」

 

アンリェッタは声をあげる。それを見て、ジャイアンとスネ夫は全てを理解する。この女はとうとう完璧な操り人形になってしまったのだと。

 

「こいつはウェールズじゃないぞ?」

 

「そんなことは知ってるわ。わたしの居室で唇を合わせたときから、そんなことは百も承知。でも、それでもわたしはかまわない。お前たちは人を好きになったことがないのね。本気で好きになったら、何もかもを捨ててもついて行きたいと思うものよ。嘘かもしれなくても、信じざるをえないものよ。わたしは誓ったのよ。水の精霊の前で誓約の言葉を口にしたの。『ウェールズさまに変わらぬ愛を誓います』と。世のすべてに嘘をついても、自分の気持ちにだけは嘘はつけないわ。」

 

偽者と知りつつも側にいることを選んだアンリェッタ。そんな彼女にジャイアンとスネ夫はため息をつく。彼らにしてみれば、愛というよりも互いに利用し合っているように見えるからだ。ウェールズはアンリェッタを使い、反逆者たちを処刑する。そしてアンリェッタは女王という名のプレッシャーに押しつぶされないようにウェールズに支えてもらう。このような関係に愛などあるはずがない。

 

「わたしのお前たちに対する、最初で最後の命令よ。この国の為に死になさい!!!」

 

そう言うとアンリェッタはウェールズと共に去っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『ごめんなさい、許してください!』」

 

「許すか、ボケ!!」

 

ジャイアンとスネ夫がいきなり謝罪を始める。そんな二人に執行人たちはツツコミを入れる。

 

「すみません。ルクシャナが食べていたクッキーにコッソリ鼻糞をつけたのは俺です。」

 

「すみません。ルクシャナが米を洗っていた川の上流でオシッコをしたのは僕です。」

 

しかも全く関係ないことを誤っていた。

 

「最後に言い残すことはないか?折角、こんなに見物人がいるんだ。」

 

「『・・・・・・・・・・・・。』」

 

「まあ、いい。どっちにしてもお前たちはここで死ぬのだからな。」

 

するとジャイアンとスネ夫は息を大きく吸い込み、叫んだ。

 

「俺はジャイアン。 ガキ大将、天下無敵の男だぜーーーーーーー!!!!」

 

「ママーーーッ!!!!」

 

二人の大声が国中に響き渡る。

 

「『「『・・・・・・・・・・・・』」』」

 

聞いていた貴族や王族たちは時が止まったかのように唖然とする。すると黒い雲が空を覆い始めた。

 

「死刑、執行!!!」

 

ガタッ

 

ギロチンの刃が支えを失い、落下する。




デッドエンド


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81

「死刑、執行!!!」

 

ガタッ

 

ギロチンの刃が支えを失い、落下する。

 

ニヤリ

 

ニヤリ

 

ニヤリ

 

ニヤリ

 

ニヤリ

 

刃がジャイアンとスネ夫の首を切り落とす。その瞬間をニヤニヤしながら見守る貴族と王族たち。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だが

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドーーーーーーーーーーーーン!!!!!

 

偶然か、必然か。いきなり処刑場に雷が落下した。

 

バタン。

 

処刑場に火が上がり、二つのギロチンが灰となって崩れ落ちる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハハハ、やっぱ生きてた。もうけっ。」

 

ジャイアンは大笑いし、立ち上がる。スネ夫は突然のことでその場から動けずにいた。

 

「『「『「『「・・・・・・・・・・・・・・・・。」』」』」』」

 

そんな二人をあんぐりと口を開けながら見守る貴族と王族たち。

 

 

 

 

 

 

 

「ジャイアン、逃げるよ。」

 

「お、おお。」

 

スネ夫とジャイアンは急いで処刑台から降りると、走り出す。

 

「二人が逃げるぞ、追え!!!」

 

しばらくして我に返った兵士たちは、二人を追いかける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「スネ夫、一体どこまで走るんだ?」

 

「追っ手をまくまでさ。」

 

二人は全速力走る。すると

 

「あっ、出口だ。」

 

「しめた!街から出られれば、なんとかなるぞ。」

 

二人は笑みを浮かべる。だが、出口には

 

「逃がしません!」

 

アンリェッタが杖を持ちながら、待ちかまえていた。

 

「死になさい・・・・・三度は言いません。」

 

「悪いが、死ねないね。特にお前みたいな化け物の為にな。」

 

アンリェッタは殺気が篭った目でジャイアンを見る。反対にジャイアンは挑発的な目でアンリェッタを見る。

 

「『・・・・・・・・・・・・。』」

 

互いに睨み合っていると

 

ザッ

 

誰かが走ってくる音がした。音のする方に顔を向けると、そこには刃物を持った男の子がいて・・・

 

「お父さんの仇ーっ!!!」

 

アンリェッタめがけて刃を思いっきり振りかざしてきた。

 

「くっ!」

 

アンリェッタは寸でのところでかわしたが、腕に少し刃物がかすった。男の子はもう一度刃物を振り上げた。

 

「このっ!」

 

パチン

 

アンリェッタは、杖を子供の頭に叩きつける。子供はフラつきながら、その場に尻餅をつく。

 

「お前が・・・・お前がお父さんを殺したんだ・・・・!」

 

子供は殺気の篭った目でアンリェッタを睨む。

 

「お前がお父さんに濡れ衣を着せ、処刑した!!手紙にそう書いてあった!」

 

子供は泣きながら声をあげる。

 

「事実確認もした。知らないとは言わせないぞ!」

 

すると後ろから声がした。

 

「いたぞ、あそこだ!!」

 

追っ手の兵士たちが追いついてきた。

 

「・・・・よ、よくも!!」

 

アンリェッタは杖を子供に向けると、何やら呪文を唱え始める。

 

「まずい!」

 

氷の矢が追っ手の兵士たち諸共子供に襲いかかる。

 

「くっ!」

 

ジャイアンは、子供の前にくると両手を広げ、アンリェッタの攻撃を受け止める。スネ夫も、子供に覆いかぶさる。

 

「『「『「『「な!?」』」』」』」

 

兵士たちの身体に氷の矢が突き刺さる。何人かその場に倒れる。

 

「この!」

 

攻撃が止んだ瞬間、ジャイアンはアンリェッタに飛びかかり、彼女の顔面に拳を叩きつけた。

 

「キャッ!!」

 

アンリェッタは吹き飛び、地面に叩きつけられる。



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82

「武さん!スネ夫さん!」

 

突然馬に乗ったシエスタが現れる。

 

「乗ってください!」

 

シエスタの言葉にジャイアンとスネ夫は互いの顔を見合わし、頷く。二人は子供に別れを告げた後、馬に乗り込むと

 

「行きます!」

 

その場を去った行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何をしいるのです。は、早くあれを捕えなさい! 」

 

腰を抜かし、床にへたれ混んでいたアンリェッタが兵士たちに命令する。だが先程の彼女の攻撃で重症負った為、兵士たちは動けずにいた。

 

「立ちなさい、立つのよ!立って早く追いなさい!!」

 

怒りに身を任せているせいか、段々王女とは思えない程の気品のない言葉遣いになっていく。

 

「起きろ、起きろと言ってるのが聞こえないの!!」

 

アンリェッタは拳を握りしめる。

 

「なんという腰抜け・・・・・恩を仇で返す不忠者めがぁ!」

 

ブチッ

 

その言葉に兵士たちは全員アンリェッタを睨み、立ち上がる。

 

「な、なによ!」

 

その威圧に圧倒されてか、アンリェッタは後ずさりする。

 

「俺は数日前、娘を処刑されたんだ。」

 

兵士の一人は拳を鳴らしながらゆっくりと近づいてくる。

 

「私は息子を・・・・」

 

「儂は妻を・・・・・」

 

平民たちはアンリェッタを次々と取り囲み始めた。

 

「ま、待ちなさい・・・・・。私に何かあったらただじゃすまないのよ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして数時間後。

 

「これからどうしましょう?」

 

「学園には戻れなし・・・・・・・・」

 

酒場でフードをかぶりながら途方にくれるスネ夫、ジャイアン、シエスタがいた。一見、普通の酒場に見えるが、給仕をしている可憐な少女達は全員際どい衣装を身につけ、料理やら酒やらを運んで仕事をしている。

 

「おい、オヤジ!ここのクックベリーパイは不味いな。」

 

「ジャイアン。目立つ行動は控えてよ。」

 

ジャイアンのイラつきにスネ夫が瞬時にツッコム。落ち込むスネ夫とシエスタに対してジャイアンはバクバクとクックベリーパイを食べている。

 

「こんな時、タイムマシーンでもあればな・・・・・・・・・。あの時代に戻って、色々やり直せるのにな〜。」

 

ため息ばかりつく二人。

 

ドン!!

 

「あー、もう、煩い!」

 

突然叫び声とテーブルを叩く音がする。声のした方に視線を向けると、

 

「下品な声がすると思ったら、やっぱり。」

 

見知った顔がいた。彼女も椅子に座りながら好物のクックベリーパイ食べている最中だったのだ。

 

「煩いとは何事だ!」

 

「そうだぞ、胸ナシまな板エルフ〜!!!!」

 

ドン!!!!!

 

ドン!!!!!

 

スネ夫とジャイアンの顔面に拳が減り込み。

 

「喧しい!!!!」



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83

「着いたわよ!」

 

「へーここが・・・・・・・」

 

「私たちの国、ネフテス。」

 

辺り一面砂漠。そんな砂漠にぽつんと立っている、ルクシャナのオアシス。ジャイアンたちはしばらくここで身を隠すことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして数日、スネ夫とジャイアンは元気に朝食を食べていた。

 

「・・・・・・・・・・・。」

 

するとシエスタは暗い顔をしながら立ち上がり、歩き出す。彼女は朝食に一切手をつけていなかった。

 

「待て、シエスタ!」

 

そんな彼女にジャイアンは怒り出す。

 

「いくら俺様がウンコをした後、手を洗わない手でご飯を作ったからって、残すことはないだろう!!」

 

「『ぶーーーーーーっ!!!!』」

 

ジャイアンの発言にスネ夫とルクシャナは口に入れていた物を吹き出してしまう。

 

「馬鹿野郎!!!」

 

ジャイアンはシエスタに駆け寄ると、彼女の胸倉を掴む。

 

「見損なったぞ!!!!!お前はそんなに他人行儀だったのか。え!?聞いてるのか!!!!????」

 

するとスネ夫はジャイアンとシエスタの間に割って入る。

 

「待ってよ、ジャイアン。シエスタがご飯を食べないのはジャイアンがウンコのあと手を洗わないからじゃないよ!」

 

ジャイアンはシエスタの胸倉を離す。

 

「え?そうなの?」

 

するとシエスタは重い足どりで立ち上がると、そのままフラフラと部屋を出て行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もしかしてトリステインに残していきた人たちを心配してるのかな?」

 

「・・・・・・・・・・。」

 

ジャイアンとスネ夫は思い出す。魔法学園で親しくしていたマルトーや他のメイドたち。そしてシエスタの従妹の

ジェシカやスカロン。

 

「・・・・・・・・・・。

 

トリステインの現状をルクシャナから聞いたジャイアンたちは胸騒ぎを感じた。

 

「スネ夫、行ってくるか!」

 

「う、うん。」

 

こうしてジャイアンたちは魔法学園に向かうことになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして数日後、魔法学園に到着したジャイアンたち。

 

「あれ?」

 

着いた途端、何か異変を感じる。いくら夜中とはいえ、静かすぎる。

 

「我らは一個中隊で、貴様らを包囲している!人質を解放しろ!大人しく投降すれば、命までは取らん!!」

 

遠くの方から何やら声がする。そして

 

ドーーン!!!!

 

ドーーン!!!!

 

ドーーン!!!!

 

ドーーン!!!!

 

爆発と悲鳴。しばらくすると建物から黒い煙も上がる。

 

「アンリエッタの銃士隊とやら!無駄な抵抗はやめておけ!ただの魔法学院だ!?それなら何故お前たち銃士隊が駐留している?トリステインにとって、この学院は国を未来を担う人材の宝庫だ。」



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84

「き、君たちは・・・・・!?」

 

「ん?」

 

こっそりと学院の中に忍び込んだジャイアン、スネ夫、ルクシャナ。そして意外な人物と再会する。すっかり禿げ上がった頭に優しい顔立ち、眼鏡の似合う壮年男性。トリステイン魔法学院の教師で、火のトライアングルメイジの42歳。

 

「おい、ハゲ!」

 

「ハ、ハゲ?」

 

いきなりハゲと呼ばれ、コルベールは驚く。

 

「一体何が起こってるんだ?」

 

「そ、それは・・・・・・・・」

 

コルベールは、話し出す。突然アルビオンの兵隊が攻めてきて、彼らは生徒たちを人質に学園の中に立てこもっているのだ。

 

「君たちはどこかに隠れて・・・・い・・・・?」

 

コルベールが言葉を言い切る前にジャイアンたちは歩き出す。

 

「チャンスね。」

 

ルクシャナたちは笑った。全員の目がアルビオンの兵隊に向いてる今なら、仕事がやりやすい。

 

「さて、まずは・・・・・マルトーのおっさんたちの寮に向かうか・・・・。」

 

「待ちたまえ。ここは危険だ、今すぐに・・・・・」

 

「大丈夫。用が済んだら、すぐにここから出て行ってやるよ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「二人とも・・・・」

 

「何だ?」

 

「君たちの国では、平等に技術を扱えると聞いたのだが・・・・・・・。」

 

「・・・・・う、うん、そうだよ。」

 

「そうか。素晴らしいことだ。いつか君たちの国を見てみたい。」

 

「『・・・・・・・・・・・・。』」

 

「私も連れて行ってくれないか?」

 

「『???』」

 

「君たちには話ておこう。私は嘗て罪を犯した。その罪を贖おうと研究に打ち込んできたが、最近思うことがある。それは罪を贖うことはできないことだ。」

 

黙って話を聞くジャイアンたち。コルベールは昔、トリステイン王国の魔法研究所実験小隊の隊長で、学院に来るまでは様々な『汚れ役』を担わされていた。現在の研究バカに見える言動も、魔法を人殺しの武器ではなく文明に貢献するために尽力していることが原動力になっているとのこと。

 

「あの日、君たちを助けられなかったのは本当に申し訳ないと思っている。それでもわたしは君たちの国をみたい、どうか連れて行ってくれないか?」

 

そう言いながらコルベールは頭を下げる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ジャイアンはゆっくりと口を開いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・話になんねー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・え?」

 

ジャイアンの返答にその場の空気が凍り付く。

 

「は、話にならないとは?」

 

コルベールは思わずジャイアンに聞き返した。するとルクシャナが口を開く。

 

「自分の罪と真剣に向き直れってことよ!」

 

ジャイアンたちはコルベールを睨み付けた。



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85

「それは無いわ。いくらなんでも。」

 

スネ夫の言葉にコルベールは混乱する。

 

「無いって?え?」

 

「何年経っても倫理観がマヒしたまま、自分が悪いなんてこれっぽっちも思って無い。一生やってろ。」

 

「そうやって被害者ぶってる間は変わらないわ。ちゃんと現実をみなさい!」

 

ジャン・コルベール、彼は学院に来るまでは様々な『汚れ役』を担わされていた。そして今も魔法を人殺しの武器ではなく文明に貢献するために尽力している。これだけ聞けば、彼はとても立派な人間に思える。だが、ジャイアンたちはそう思えなかった。もし本当に魔法を人殺しの道具にしたくないのなら、サモンサーヴァントでの彼の言動や行動は矛盾する。彼はサモンサーヴァントでジャイアンとスネ夫の人生を壊そうとしていた。召喚は決して無から有を生み出す魔法ではない。呼び出された使い魔も、元の生活が必ずある筈なのだ。使い魔にするということは、それを全て捨てさせること。建て前として、使い魔として召喚されたものはそれを受け入れたものであるということになっているが、本当のところを知る者はいないのが現状である。もし本当にコルベールが過去の行いを反省しているのなら、サモンサーヴァントの破棄、あるいは召喚した者を送り返す方法を見つけるはずだ。だが彼は、ルイズの召喚やり直しの要求を拒否し、ジャイアンたちを使い魔にするよう指示している。仮にそれがルイズを進級させたいが為だったとしても、人の人生と進級、どちらが大切かは誰が聞いても明らかだ。それに召喚自体は成功しているので、オスマンと交渉すれば特別に合格のお達しを出してもらえることもできた。契約する必要性は一切ない。それなのにコルベールはルイズを契約するように仕向けていた。平民の人生よりも、自身の教師の立場を優先したのだ。そして極め付けは、学園の平民たちの虐めに目を逸らす。以上の事からジャイアンたちはコルベールが過去の誤ちを償おうとしている自分に酔っているだけだと決断付けた。

 

「そんな昔話しをして、俺たちが同情しながら手を差し伸ばすと思ってたか?バカにすんな。世の中には、あんたよりも辛い人生を送っている奴もいるんだ。俺たちはあんたと違って自分の罪から逃げる気はさらさら無いから。」

 

ジャイアンたちに自分も(地球に)連れて行ってくれと頼むのも、罪から逃れたいが為。

 

「俺たちをアテにするのはやめろ。迷惑だから。」

 

そう言いながらジャイアンたちはその場を歩き出す。



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86

「・・・・・・・・・・・・・・。」

 

ジャイアンたちが魔法学園に行っている間、シエスタは空を見上げていた。真っ暗な空に光輝く星たち。シエスタはそれらを見つめながら、左手の薬指に嵌めている指輪を硬く握りしめる。

 

「・・・・・サイト・・・・・さん・・・。」

 

すると彼女の頭にある記憶が蘇ってきた。それはジャイアンとスネ夫がトリステインに召喚される少し前の記憶。

 

 

 

 

 

 

「俺はお前の側にいたかった!!お前と同じ時を過ごしたかった!!!」

 

少年は泣きながら墓の前に蹲っている。季節が冬なのか、辺り一面、雪が積もっていた。

 

「あの・・・・・・・」

 

そんな彼を心配してか、シエスタがやってくる。声を掛けようとするも、すぐに押し止まる。何て声をかけていいか分からないからだ。

 

「何泣いてるのよ。」

 

ルイズが呆れた顔でやってきた。

 

「『「『・・・・・・・・・・』」』」

 

彼女の後ろにはアンリエッタ、キュルケ、タバサ、コルベール、そしてルクシャナもいる。

 

「返せ!俺たちの時間を!!!!」

 

少年はルイズに掴みかかる。

 

「お前がサモン・サーヴァントなんてしなければ、俺たちはこんな事にはならなかった!!返せ!!!返せーーー!!!!!!」

 

憎しみと殺意に満ち溢れた視線をルイズに向ける。だが

 

「何が悪いって言うのよ!」

 

「『「『えっ?』」』」

 

パチン!!

 

ルイズは少年の手を力一杯振り払う。

 

「アンタたち、平民はなんの役にも立てないただのゴミクズでしょ!?家畜と同じ!!それをどう扱おうがアタシの勝手じゃない!!だいたいアンタ、家畜のクセに貴族になんて口を聞くのよ!!アンタが私に尽くのは当たり前でしょう!!ゴミ屑はゴミ屑らしく私たちの言うことだけ聞いていればいいのよ!!」

 

「『「『・・・・・・・・・・・・・・。』」』」

 

桃色髪の少女、ルイズの言い分に周りにいた者たちは唖然とする。

 

「それにアンタが召喚されたのが悪いんでしょ!私は頼んでない!だから謝罪なんてしないから!」

 

「・・・ミス・ヴァリエール、あなたって人は・・・・」

 

あまりの言いようにシエスタがワナワナと口を開く。

 

「何よ?文句あるの?言いたいことがあるなら言いなさいよ!!そいつが死んだのはアンタのせいなんだからね!私は一切悪くない!」

 

周りの人間は険しい顔でルイズを睨みつける。

 

「とにかく、私は悪くない!だって、姫様が言ったのよ。そうよ、姫様がやれって!」

 

とうとう親友であるはずのアンリエッタに罪をなすり付けるルイズ。

 

「許さない・・・・・・・・お前たち・・・・絶対に許さないからな!!!!」

 

後に、この騒動がハルケギニアに起こる歴史的な大騒乱の幕開けとはその時には誰も知り得なかった。



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アンリエッタの改造
87


「あっ、町だ!!」

 

「あそこで休んでいきましょう!!」

 

ジェシカ、シエスタ、ジャイアン、スネ夫は町に立ち寄って一休みすることにした。

 

「何だ?」

 

騒がしい声が聞こえ、町を探索していたジャイアンとスネ夫は足を止める。広場に人だかりが出来ていた。

 

「あの・・・・・すいません。」

 

スネ夫は近くにいた中年男に話しかける。

 

「あ?何だ兄ちゃん?」

 

「これって・・・・何の集まりですか?」

 

「ああ、オークションだ。」

 

「オークション?なんの?」

 

「見れば分かるよ。」

 

そう言いながら中年男は視線を前に戻す。ジャイアンとスネ夫は、近くにあった木に登り、オークションを眺める。舞台の上では販売人らしき男がいて、その隣には

 

「さあ、見てらっしゃい!寄ってらっしゃい!」

 

全裸のうえに首輪を付けられ、後ろ手に手錠を掛けられている少女がいた。人身売買、人間を物品と同様に売買すること。トリスティンでは決して珍しい事ではない。

 

「それでは参りましょう、まずは新金貨三千!!」

 

「九千!!」

 

「一億!!」

 

「五億!!」

 

司会の提示した金額に観客はそれぞれ出せる金額を上げる。そして

 

「さあ・・・五億。これ以上はいませんか?」

 

「おめでとうございます、商品番号一番は新金貨五億で落札されました。」

 

そして落札された少女はリードに引っ張られていく。

 

「続いての商品です・・・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

それからもオークションは続き、様々な女性が落札されていく。

 

 

「『・・・・・・・・・・・・・。』」

 

ジャイアンとスネ夫は気分が悪くなり、その場を去ろうとした。すると

 

 

 

 

 

 

 

 

「皆様大変お待たせしました。今回出品された商品の中でも、大変貴重な品です!」

 

少女が舞台に上がった。

 

その瞬間、観客たちがざわめき始める。

 

「『ぶーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!』」

 

ジャイアンとスネ夫は思わず吹き出してしまう。舞台にあがってきたのは、見知った少女だった。数日前、自分たちを処刑しょうとした元トリステイン王女、アンリエッタ・ド・トリステイン。最近見ないと思ったら、こんな所にいたのか。

 

「あっ・・・・あの女は・・・・まさか・・・・」

 

「間違いない・・・・・一度しか見たことはないがはっきりとおぼえているぞ。」

 

「あの噂はやはり本当であったのか・・・・・」

 

アンリエッタを知っている観客たちは驚きの声をあげる。

 

「今回の商品は格別だな・・・・・・・・・・」

 

「成る程・・・これはなかなか・・・・・・・」

 

「それでは参りましょう、まずは五百万!!」



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88

「アンリエッタ王女・・・・・・」

 

「あの女・・・・落ちるところまで落ちたな・・・・」

 

目線の先には『元王女』という肩書きを持った奴隷が立っていた。キッとなって観客たちを睨みすえた。本当は恐ろしさと恥ずかしさで泣きたいくらいだ。なにせ一糸まとわぬ素っ裸を、見ず知らずの平民たちに晒しているのだから。萎えそうになる気持ちをそれでもなんとか奮い立たせているのは、王女としてのプライド、そしてこの場にいない想い人への信頼と愛情だ。トリステインの白百合と評される程の美貌と、木目細やかな肌に、その存在を大きく主張する胸だけでも、世紀末計算では水食料一ヶ月分以上はカタい。

 

「七百万!!」

 

「八百万!!」

 

「九百万!!」

 

そうこうしている内に落札は進んでいく。

 

「愚かだね・・・・・・」

 

「・・・・・・・・・・」

 

その様子を呆れた顔で眺めるジャイアンとスネ夫。

 

「落札、おめでとうございます!!」

 

アンリエッタは自分を落札した人物に視線を向ける。

 

「ひっ!」

 

180cmくらいの中年男性で全身がメタボ体型で、顔はまるでオークのように醜く、顔から出る汗は脂じみていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・・・・・・・・。」

 

馬車の中にはオークションで落札された少女たちが悲しみのあまり蹲っていた。そんな少女たちの中にアンリエッタはいた。手足を縛られ、これから自身に起こるであろう地獄の日々に怯えながら泣いていた。そんな彼女の元へ・・・・

 

「『「『・・・・・・・・・・・・・。』」』」

 

ジャイアン、スネ夫、シエスタ、ジエシカが現れる。

 

「あなたたちは・・・・・」

 

一瞬目を見開くアンリエッタ。だがすぐに目を逸らした。

 

「私を・・・・笑いに来たんですか?」

 

「ああ、そうかもな・・・・・・・・・」

 

アンリエッタの目から涙が零れ落ちる。

 

「女、お前がもし髪の毛が赤いだけで、殴られたらどうする?」

 

「ふぇっ!?」

 

「殴り返すか?」

 

「・・・・・それは・・・・」

 

ジャイアンの問いにアンリエッタは言葉を詰めらせる。

 

「もし向こうがまた殴り返してきたら?また殴り返すか?」

 

「・・・・・・・・・・・。」

 

「それが戦争だ。そしてその戦争に平民は巻き込まれる。お前たち、王族や貴族が好き勝手している間、平民たちはこうやって苦しんでるんだよ。王族や貴族なんて偉くもなんともない。本当に偉いのは辛いのを我慢して、他人の為に何かをしている奴の事だ。」

 

「なんといって・・・・貴方に謝ればいいの? わたくしのために傷ついた人々に、なんと言って赦しを請えばいいの・・・・?」

 

「さあな。そんなの自分で考えろ。生憎、俺様は誰かさんと違って人を変える力は持ってねえよ!」



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89

「・・・・・殺せ。殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ!!

 

「殺せ!!」

 

「殺せ!!」

 

「殺せ!!」

 

「殺せ!!」

 

「殺せ!!」

 

「殺せ!!」

 

「殺せ!!」

 

「殺せ!!」

 

「殺せ!!」

 

「殺せ!!」

 

「殺せ!!」

 

「殺せ!!」

 

「殺せ!!」

 

「殺せ!!」

 

「殺せ!!」

 

「殺せ!!」

 

平民たちはアンリエッタを取り囲み、声を上げていた。

 

「待てっ・・・・・・!!!」

 

すると中年の男が声を上げる。彼の声に周りの連中は静まり返る。

 

「コイツには莫大な懸賞金がかかっている。恨みがある奴も大勢だ。」

 

男はアンリエッタに視線を向けた後、周りの平民たちに視線を移す。

 

「文字通り、二つとも山分けといかないか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こうしてアンリエッタの地獄の日々が始まった。

 

「あ、あぁああああああああああああああああああああああ!!」

 

何度目になるかはとっくに分からなくなっていたアンリエッタの絶頂を示す叫び声が木霊する。

 

「や、やめて・・・・・」

 

与えられる快楽に意識を何度も白くさせられていくことにより、アンリエッタの心は砕けそうになっていた。

 

「こんなの、おかしい。みんな、話を・・・・・」

 

それでも、絶頂の直後にわずかに取り戻す意識でアンリエッタは声をかけ続ける。だが彼女の言葉に今更耳を傾ける者はいない。

 

「あ、ひゃぅ! あ、あっく・・・・・・あ、あぁ・・・・・・はぁああああああああああ!」

 

代わりにアンリエッタに返されるのは新たな快楽。全身に走る刺激に、アンリエッタの説得の声は喘ぎ声へと変えられてしまう。

 

「助けて・・・・・・・・助けて・・・・・・・・助けて・・・・・・・・・・助けて・・・・・・・お願い・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「帰るぞ!!」

 

やがて興味を失ったかのように踵を返すとすたすたと歩き去ってしまった。

 

「待って!」

 

アンリエッタは立ち上がり、ジャイアンたちへ駆け寄ろうとする。だが・・・・

 

「っ!?」

 

足枷のせいで上手く走れず、その場に転倒してしまう。

 

「お願い、待ってください!」

 

アンリエッタは這いつくばりながらジャイアンたちへ駆け寄ろうとする。そんな彼女を見て、ジェシカは名案を思いつく。

 

「ちょっと待って、みんな。」

 

「『「???」』」

 

ジェシカ

の言葉にジャイアンたちは立ち止まる。すると彼女は膝を曲げ、アンリエッタに話しかける。

 

「助けてあげようか?」

 

「え?」

 

アンリエッタは目を見開く。

 

「はい、これ!」

 

ジェシカは魔法でアンリエッタを立たせると、彼女にナイフを持たせる。そして馬車に乗っている他の奴隷たちに背線を向ける。

 

「奴隷たちの中から一人を選びなさい。そして選んだ奴隷の喉をそのナイフで貫くのよ。」

 

「え!?」

 

突然の事にアンリエッタは唖然とする。

 

「そうしたら、助けてあげるわ。」

 

「・・・・・・そ、そんな・・・・・。」

 

「どうしたの?助かりたいんでしょ?『平民は王族に尽くすもの』なんでしょ?」



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90

「・・・・・・・・・・・・。」

 

アンリエッタはナイフを持ちながら奴隷に近づいていく。

 

「ひっ!?」

 

奴隷は涙目になり、首を振って嫌がる。だがアンリエッタは

 

「・・・・・・・・・ごめんなさい・・・・」

 

と小さく呟く。そしてナイフを思いっきり振り被る。

 

「いやああああああああああああああああ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だが

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!?」

 

アンリエッタは震えながらその場に座り込む。そんな彼女にジェシカは呆れた顔をする。

 

「どうしたの?今まで散々人を処刑してきたんでしょ?」

 

「・・・う・・・・・う・・・・う・・で、でも見ず知らず人間を殺すなんて・・・・」

 

「あなたが今までしてきたことじゃない。今更、人を殺すのが怖くなった?」

 

「・・・・そ、それは・・・・・・・」

 

「その子が無理なら、他の奴でもいいわよ。あいつとか、あの子とかさ・・・」

 

ジェシカは他の奴隷たちに視線を向ける。

 

「わ・・・・・・私には・・・・・無理です。」

 

アンリエッタはその場で泣き出してしまう。無理もない。元王族とはいえ、彼女はまだ17才の少女。自らの手で人を殺す覚悟など持ち合わせてるはずがない。

 

「なら、あなたが自害する?」

 

「えっ!?」

 

「もしあなたがここで自害すれば、この奴隷たちは助けるわ。」

 

「・・・・・・・・・・・」

 

アンリエッタは部屋の隅で震えながら許しを問う奴隷たちをみる。そして何かを決心したかのように立ち上げる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【この力さえあれば、もう誰もバカにしない。力は裏切らない。力こそ全て。今の私には『虚無』の力がある。あの無敵と謳われたアルビオン艦隊を一撃で葬った伝説の力が!!この力で私は英雄になる。トリステインにこの人アリって、そんな風にみんなから称えられるのよ!!】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの、一つお願いがあります・・・・・・・」

 

「???」

 

全員の視線がアンリエッタに集中する。

 

「私が死んだ後、この国とルイズの事をお願いします。」

 

アンリエッタの心は罪悪感と後悔でいっぱいだった。だが全てを失った彼女にも一つだけ気がかりなことがあった。それは幼馴染みのルイズのことだ。例え本人から詐欺師と貶されようとも、彼女はアンリエッタにとって大切な友達なのである。

 

「私は王女失格です。ルイズやあなたたち平民に互いな迷惑をかけてしまいました。全て私がせいです、誰のせいでもない。私自身が犯した罪なのです。」

 

ジェシカから与えられた選択肢をアンリエッタは飲むことにした。

 

「こんな私に選択肢を与えていただきありがとうございました。」

 

アンリエッタは持っていたナイフの先を自身の喉元に近づけていく。

 

「ごめんね、ルイズ・・・・・・・・・・・・」

 

グサッ



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91

「おはようございます、旦那様。」

 

メイド服を着たアンリエッタが、ペコリと頭を下げる。あの後、ジャイアンたちはこっそりアンリエッタをアジトに持ち帰っていたのだ。ジャイアン曰く「楽に死なせては意味がないとのこと。」

 

「今日からお前は、俺たち専属のメイドだ。ちゃんと、働くんだぞ!」

 

「はい、旦那様。」

 

ジャイアンの言葉にアンリエッタはペコリと頭を下げた。するとシエスタがアンリエッタに話しかけてきた。

 

「分からない事があったら、何でも聞いてください。」

 

「はい、シエスタさん。キャッ!」

 

するとジャイアンは、アンリエッタの頭を叩いた。

 

「おい!シエスタさんじゃなくて、シエスタ様だろ!メイド長になんて口を聞きやがる!」

 

何事も最初が肝心である。誰がご主人様であるかを教え込まなくてはならない。さもないと、後々まで舐められ、酷いことになる。平民として奴隷扱い。冗談ではない。ジャイアンとスネ夫は、最初に会った貴族、ルイズで懲りているのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アンリエッタの表情が不快から真っ赤な怒気へと変わった。

 

「無礼者!王家の者に対して今のような振る舞い、許しませんよ!!」

 

矮小な小娘の身の上ながら、精一杯の王の威厳を見せて、アンリエッタは言い放つ。だがジャイアンたちは、呆れた顔をするだけであった。

 

「あのな。お前はもう王族ではないだろう。仮にそうだったとしても、お前は、親が王族なだけ。お前自身は、偉くもなんともない。つまりは、親の威を借りてるだけのただのクズだ。それをまず自覚しろ。」

 

「なななな!」

 

「お前に敬意を評している人はお前を見てるんじゃない。お前が振りかざしてる親の影を見てるんだ。5歳の子供同士の喧嘩で、親を呼び出して相手をぶちのめしてもらって喧嘩に勝ったと自慢する奴がかっこいいか? 親に頼らなきゃ何も出来ん無能にしか見えん。」

 

「な、何の根拠を以て、そのような暴言を口にするのです!?何も知らないあなたが!!」

 

「今のトリステインがその証拠だ!」

 

「!?」

 

アンリエッタは目を見開く。そして自分が平民たちにしてきた数々の悪事を思い出す。そして今でも微かに聞こえてくる彼らの怨念。

 

「あ、ああぁ・・・」

 

ジャイアンの言葉に答える気力は、すでにアンリエッタには無かった。心の内側にあるものを曝け出され、その不格好さが露呈されたアンリエッタには、自分の姿がひどく無残で惨めなものに見えた。やがてはその場に崩れ落ちてしまった。

 

「お前は王族じゃない。家畜以下だ。分かったか!?」



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