改造人間 立花響のシンフォギア (一種の信者)
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一応、主人公である響の説明と仮面ライダーのショッカーの設定を書いときます。

敵幹部と決着が付いた時に増やそうかと、ゲルショッカーまでの予定。


 

 

 

立花響

 

この物語の主人公であり一番の被害者。

原作では普通の女子高生だったが、ショッカーに拉致され、心臓のガングニールの所為で改造人間にされて一年以上ショッカーの下に居た為、原作よりもネガティブな性格に。それでも根っ子は変わっていないので基本的には人助け体質。

改造手術によって肉体の95パーセントが機械に変えられてしまった。脳の一部と心臓だけが生身と言える。

 

ショッカーの改造人間としては動植物の能力は移植されなかった分、人間としての能力のみ上がっている。最高幹部でもあり怪人作りの名人と言われる死神博士の最高傑作であるのが皮肉と言える。改造された影響で人間の三大欲求が消されてしまいそれに苦しんでいる。

力は完全に人間を超え、弦十郎以上の力を持つ。更には脳に電子頭脳も取り付けられており原作の響より物覚えも良く頭も良い方。

 

 

 

 

ショッカー

 

皆ご存じの元祖悪の秘密結社。度々復活しては潰され派生の組織も無駄に増えてる人気の秘密結社。

シンフォギア世界でも暗躍し、様々な要人の暗殺にテロや内戦を操作する悪の軍団としても健在。昭和時代から暗躍しており密かにフィーネも狙っていた。全ての人間を改造人間にして支配しようと企むが、たまに人類を皆殺しにしようとする作戦を行う為、二課も気が気でない。

度重なる響達の活躍により作戦は失敗し多くの怪人を失うが未だに組織力は健在といえる。尚、秘密のわりに堂々としてる事が多数で戦闘員や怪人がそのままの姿で闊歩してる事が多い。

 

非人道的な計画も平然とやり、もし原作世界の響が聞けばアダム以上に殴るだろう。

最大の目標は当然、世界征服である。

 

ショッカー首領の正体を知る者は誰もいない。

 

 

 

 

ゾル大佐

 

ショッカー組織の最高幹部の一人。

 

元ナチス所属の軍人。片目にアイパッチをしている。

ナチスドイツが世界大戦で敗れ、南米に逃げていたが後にショッカー首領のスカウトによりショッカーに入る。主に作戦指揮により功績を上げる。中東での動乱はゾル大佐の手腕と言われておりショッカー組織の中でも一目おかれている。

 

立花響を始めとした特異災害対策機動部二課との戦いにより最終的に敗北するが特異災害対策機動部二課を大いに苦しめた強敵といえる。

一時は特異災害対策機動部二課の本部を占領するが殺人をゲーム感覚でやった為、弦十郎たちを生かしてしまう。

最後は、フィーネのカ・ディンギルの奪取及び改造人間の素体としてリディアン音楽院を襲撃し一時はフィーネ及び完全聖遺物のソロモンの杖、ネフシュタンの鎧を奪う事に成功したが響が土壇場でシンフォギアを覚醒させゾル大佐も正体の黄金狼男になって交戦、一時は響と翼にクリスの三人を追い詰めるがフィーネに歌えと言われた三人の装者に弦十郎の参戦もあって敗北し壮絶な死を遂げた。

 

 

 

 

 

 

死神博士

 

ショッカーの最高幹部の一人。

 

一見不気味な老人に見えるが生化学及び生体改造学に精通しておりマッドサイエンティスト。白いスーツに裏が赤い黒いマントを羽織っている。

ゾル大佐以上に残酷な性格であり、立花響を改造人間にした張本人でもある。

 

ゾル大佐死後、地獄大使と共により過激な作戦を行い、新リディアン音楽院でも大量虐殺を行なおうとした。その後、カ・ディンギル跡地での戦闘で響を暴走させ、ネフィリムの心臓回収後も響と遭遇戦を行い強力な怪人で響を消耗させた後に未来たちを人質に使い響の捕縛に成功する。

捕らえられた響は死神博士に再改造されて脳改造も施されショッカーに利用されてしまうがウェル博士の機転により未来が神獣鏡のシンフォギアにより奪還されてしまう。

 

フロンティアも一時占領に成功したが用済みのマリアにウェル博士の裏切りにより形成が逆転。再生怪人軍団を率い響達の抹殺を企んだがマリアの介入により失敗。

追い詰められた死神博士は、正体であるイカデビルの姿になりネフィリムの心臓を取り込み巨大化。更には頭の中に仕込んでいた隕石誘導を使い地球に隕石を落とす作戦を実行。

しかし、装者たちがバビロニアの宝物庫に閉じ込める事で隕石も封じられ最後には敗北する。死に際響だけでも抹殺しようとするが弦十郎が投げたソロモンの杖が目に直撃して空間が閉じエネルギーが臨界して消滅した。

 

 

 

 



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無印 CMネタ

シンフォギアのDVD&BD発売ネタCMを見てやってみたくなった。


 

 

 

その1

 

立花響「こんにちは、戦姫絶唱シンフォギアの主人公、立花響です。今度の敵はなんと、あの仮面ライダーの敵組織ショッカー軍団です」

風鳴翼「…仮面ライダーのクロス物は多いが敵だけのクロスは初めてかも知れないな」

雪音クリス「味方はアタシ等だけか。やってやろうじゃねえか!」

風鳴翼「雪音は最初敵だろ」

雪音クリス「あ…」

 

 

 

その2

 

ゾル大佐「やりましたな、首領。令和の時代に我々が復活しました」

ショッカー首領『これを期に今度こそ世界征服だ。未だに映画でも途中で邪魔されたり達成しても阻止されたりしたからな』

ゾル大佐「…首領、私は映画には殆ど出てないんですが…」

ショッカー首領『DCDで出てたろ』

ゾル大佐「あれは私であって私ではありません!」

 

 

 

 

その3

 

立花響「えー!今度の作品だと私、改造人間なの!?」

雪音クリス「作者も大胆な事するな」

ゾル大佐「これこそショッカーの恐るべき戦略よ」

立花響「フエーン!ご飯を食べたいよ、未来!」

小日向未来「よしよし、響がどんな事になっても私は変わらないから」

 

 

 

 

 

その4

 

風鳴弦十郎「今度の敵はショッカー軍団だと!?」

風鳴訃堂「…分かってるな愚息よ」

風鳴弦十郎「はい」

風鳴訃堂&風鳴弦十郎「「変身!!出たな、ショッカー来い!!」」

雪音クリス「いや、アンタらは変身出来ねえだろ」

 

 

 

 

その5

 

雪音クリス「ただでさえノイズやフィーネでも厄介だってのに今度はショッカーの怪人軍団だ!?敵が滅茶苦茶増えてるじゃねえか!」

立花響「あと、戦闘員もノイズ以上にいるよクリスちゃん」

雪音クリス「…アタシ等に平穏ってくるのか?」

 

 

 

 

その6

 

板場弓美「来た来た来た!昭和の恐怖の怪人軍団!」

寺島詩織「…嬉しそうですね、板場さん」

安藤創世「アニメじゃなくて特撮だけどね」

板場弓美「怪人の中にはキモカワもいるのよ!」

寺島詩織「…キモいのは納得ですけど…」

安藤創世「カワイイ?」

 

 

 

その7

 

ゾル大佐「訃堂よ、ショッカーに入って共に世界を征服しようではないか」

風鳴訃堂「断る!ショッカーには可愛い女の子が居ないではないか!」

ゾル大佐「ドクダリアンはどうだ?」

風鳴訃堂「一つ目な上にババアではないか!下手すればワシより年上だぞ!!」

ゾル大佐「アリキメデス」

風鳴訃堂「アリじゃん!美女に化けれるけど所詮アリじゃん!」

ゾル大佐「クラゲダール」

風鳴訃堂「声が女ってだけじゃん!性別が男だってワシ知ってるからな!」

ゾル大佐「ならば、思い切って蜂女はどうだ?正直、おススメ出来るのは此奴くらいだが。DCD版だと滅茶苦茶美人だぞ」

風鳴訃堂「帰れ!!」

 

 

 

その8

 

フィーネ「人を意のままに操り頭脳を持つ蝙蝠ビールスだと!人間を完全に溶かす毒液に無限にミサイルが出る手の原理は何だ!?」

ショッカー首領『知りたければショッカーに入る事だな。今なら幹部の席が空いてるぞ』

フィーネ「そう言っといて用済みになれば殺すんだろ」

ゾル大佐「バレたか」

 

 

 

その9

 

立花響「今更だけど、この作品の私って少し暗すぎない?下手すれば平行世界の私より暗いんだけど」

雪音クリス「少しって言うか原作のお前が馬鹿みたいに明るいだけだろ」

立花響「クリスちゃん、酷い!」

風鳴翼「まあ、この世界の立花はショッカーに拉致されて改造され一年半も捕まっていたんだ。性格が変わるのは仕方ないだろ」

雪音クリス「これで原作みたいに明るかったらそれはそれで悲劇性が薄いからな」

立花響「未来~、翼さんとクリスちゃんがイジメるよ!」

小日向未来「…こんな性格の響もいいね」

立花響「未来!?」

 

 

 

 

 

その10

 

ゾル大佐「歌で世界を救う?御伽噺もいいところだな」

立花響「歌にはそれだけの可能性がある!」

風鳴翼「それが分からないから貴様らは負け続けたんだ!」

雪音クリス「悪党どもには分かんねだろうよ!」

ゾル大佐「黙れ、小娘ども!貴様らの歌はこの俺が打ち砕いてやる!あと、モニター向こうの諸君。ショッカーにも名曲があるからよろしく!」

立花響&風鳴翼&雪音クリス「「「ズコー!!」」」

ゾル大佐「うむ、昭和らしい反応だ」

 

 

 

 




突発的にやりたくなった。満足


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G編 CMネタ

またやってみたくなった


その1

 

 

 

 

立花響「このシリーズってまだ続くんだ」

風鳴翼「さては味を占めたな作者め」

雪音クリス「本編だとシリアスが大部分だから少しでもギャグとかやりたいんだろ」

立花響「確かに、本編だと私がまた拉致されて未来の代わりに敵になったり未来がエクスドライブしたり私のクローンが出たりでギャグがないんだよね」

風鳴翼「ギャグが足りないのは仕方ないが、作者自身にギャグセンスはあるのか?」

雪音クリス「ギャグ系は見るのは好きだけど考えるのは苦手なタイプだからな。無いんじゃねえ?」

 

 

 

 

 

 

その2

 

 

 

 

立花響「ゾル大佐が首領じゃなかったの!」

ショッカー首領「ゾル大佐が首領だと誰が言った?さては貴様、初代仮面ライダーを見てないのか!?」

死神博士「ショッカーと言えば私や地獄大使も有名な筈だが」

雪音クリス「さすがにリアルタイムで50年前だからな。知らない奴が居ても仕方ないぜ」

地獄大使「最新の映画にもショッカーは出てきてるぞ!」

風鳴翼「最新の映画と言っても原作に忠実でもないからな。仮面ライダーが首領だったり別組織の幹部を従えさせてたりな」

 

 

 

 

 

 

 

その3

 

 

 

 

ウェル博士「なんとっ!?敵は悪魔のショッカー軍団!!これはまさに僕が英雄になる為の物語!言わばロード!ショッカーに拉致された僕は頭脳の優秀さで幹部候補にされてバッタの怪人として改造人間にされた後に謎の美女に助けられた後にショッカーの改造人間をバッタバッタ倒し最後はカッコよく大幹部たちも千切っては投げて世間は僕が英雄だと知るんですね。これならあの生意気なガキどもも僕の事を見直してサインを強請ってきますね。ですがそこで豪快に……何ですか?時間が無い?それに改造人間は立花響?そして、僕は死神博士の教え子の一人。………英雄伝説仮面ライダーウェルが台無しだ!!!」

 

 

 

 

 

 

その4

 

 

 

風鳴訃堂「…なあ、愚息よ」

風鳴弦十郎「…何でしょうか?」

風鳴訃堂「ショッカーの新たなる大幹部、死神博士と地獄大使が出たのだろう」

風鳴弦十郎「その通りです」

風鳴訃堂「そして、ショッカーの攻勢に手こずっている。間違いないな」

風鳴弦十郎「…はい」

 

風鳴訃堂「それは正直どうでもいいが、ワシの出番無さすぎない?」

風鳴弦十郎「…なにぶん、原作でもほぼ出てこないので」

風鳴訃堂「GXじゃ絶対出てやるからな!」

 

 

 

 

 

 

 

その5

 

 

 

マリア「ちょっと、私達の初登場のアレ何よ!完全にショッカーの踏み台じゃない!!」

月読調「こっちは領土要求に対してショッカーは会場での虐殺に人類皆殺し作戦…」

暁切歌「何というか、規模が違いデース」

マリア「一昔前の小説だと絶対叩かれるわよ!『マリアさん、可愛そ~』とか『マリアを踏み台にするなんて許さん!』とか絶対言われるから!」

月読調「…でも敵は元祖仮面ライダーの敵、ショッカーだから…」

暁切歌「マリアも基本的に善人デスから、悪の差は雲泥の差があるデス」

マリア「キーッ!大体何よ、調も切歌もフルネームなのに何で私だけマリアなのよ!!」

月読調「…だって…」

暁切歌「マリアのフルネームは長いデス」

 

 

 

 

 

その6

 

 

 

小日向未来「響!帰って来て!」

雪音クリス「お前の居る場所は其処じゃねえだろ!!」

風鳴翼「立花!」

立花響「………」

死神博士「フフフ…幾ら呼び掛けようと無駄だ。立花響は既に脳改造を施しショッカーの忠実な犬となったのだ」

小日向未来「え、本当に?響、お手」

立花響「ワンッ!」

雪音クリス&風鳴翼「「ええ~~~」」

死神博士「ショッカーのだと言った筈だが…」

 

 

 

 

 

その7

 

 

 

暁切歌「マリア~!調~!」

マリア「あら、どうしたの切歌。泣いちゃって」

月読調「切ちゃん、どうして泣いてるの?」

暁切歌「死神博士が、死神博士が!」

マリア「死神博士?まさか切歌にイタズラでも!?」

月読調「切ちゃんにイタズラ…許さない」

死神博士「お前らが私をどんな風に見ていたか気になるが、イタズラなどしとらんわ!」

マリア「じゃあ、何で切歌が泣いてるの?」

 

暁切歌「死神博士が私の武器をパクったデス!」

 

マリア「え、イガリマを!?」

月読調「死神博士、切ちゃんのイガリマを返して」

死神博士「盗ってない!小娘が言ってるのはこっちの方だ」

マリア「…イガリマじゃなくて本物の大鎌ね」

暁切歌「パクりデス!パクリ!私のイガリマをパクって真似してるデス」

死神博士「だから、私の方が元祖だと言ってるだろ!本編では使わなかったがテレビシリーズでは何度かこれで戦ったわ!どっちかと言えばお前の方がパクリだ!このパクリ娘!」

 

マリア「アホらし」

 

 

 

 

その8

 

 

 

ウェル博士「はあ~、何だって僕がこの爺さんの弟子扱いなんですか?」

死神博士「やかましいぞ、小童が。クロス物の宿命だと諦めろ」

ウェル博士「いいや、言わせて貰うが幾らクロス物でもこんなクロスは僕は望んじゃいない!僕に相応しいのは英雄である仮面ライダーになる事だ!それを誰も分かっちゃいない!!」

死神博士「お前が仮面ライダーになれるものか!なれてもせいぜい流行りの悪のライダーにしかなれんわ」

ウェル博士「僕こそが…僕こそが英雄である仮面ライダーになる資格があるんだぁぁぁぁぁ!!!」

死神博士「……人の話を聞かん奴だな…」

 

 

 

 

その9

 

 

 

立花響「ショッカー響!?」

マリア「ショッカーはそんな物まで!」

死神博士「フフフ…それだけだと思わん事だ。お前達の力を見せてやれ」

ショッカー響たち『はい』

 

ショッカー響2号「ゆうたいりだつ~!」

ショッカー響4号&5号「「ちょっと、ちょっとちょっと!」」

 

風鳴翼「………」

マリア「………」

立花響「…私、何見せられてるの?」

雪音クリス「…おい」

死神博士「…いかん、宴会用に作った奴が混じっていた」

暁切歌「…宴会用…」

月読調「…そんな物まで」

死神博士「口直しに…イカでビール」

雪音クリス「それはもういい!!」

 

 

 

 

 

 

 

その10

 

 

 

死神博士「フフフ…怪人軍団を倒しショッカー響も倒すとはな。しかし、ショッカーの世界征服は止められんぞ」

立花響「止める。止めて見せる!」

風鳴翼「昔から悪の栄えた試しはない!」

マリア「私達がいる限りショッカーが世界を手に入れる事なぞないと知れ!!」

死神博士「ほざけっ!ショッカーの大幹部、死神博士を舐めて貰っては困る。どれ此処は私が作詞作曲し振り付けもした最悪だ!大ショッカーの歌とダンスを仕込んだショッカー響を出してやろう」

マリア「あなた達は、大ショッカーじゃなくてショッカーでしょ」

雪音クリス「それに、作者も全曲知らねえから止めとけ。…てか何やってんだ?」

月読調「…ちょっと聞いてみたい」

暁切歌「調!?」

 

 

 

 

 



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戦姫絶唱シンフォギア ショッカー現る
1話 狙われた少女


 

空から強い雨が降り注ぎ、時間帯も遅い。

そんな中、一人の少女が傘も差さず歩いている。

 

━━━雨、強くなってきたな。傘も隠されて何処にも無かったし

 

少女は雨の中、トボトボと帰る。

既にずぶ濡れで走って帰る意味もない。

 

少女の名は、立花響。

 

数か月前に起きたツヴァイウイングのライブでの惨劇。

其処から、立花響の人生は狂わされた。

マスコミの根も葉もない情報に踊らされた人々は生き残った人間達に対する嫌がらせを始めた。

立花響も学校でのいじめ、仲が良かった筈の近隣住民の嫌がらせ、何より遠方からわざわざ来て罵詈雑言を吐いてくる輩まで。

 

「……へいき…へっちゃら、…へいきへっちゃら…」

 

響の口から先日、失踪した父の座右の銘が出る。

忽然と姿を消した父に失望もしたが同時に納得もした。

まだ、直接的な暴力は振るわれてないが、響の精神は一杯一杯になりつつある。

 

━━━未来が居てくれたらな……掃除を全部押し付けられなかったのにな

━━━このまま濡れてたら未来みたいに風邪引くかな…

 

一人だけの親友を思いを胸に少女は歩き続ける。

小日向未来。

彼女と言う親友が居なければ、全て投げ出して逃げ出すか、心が壊れてしまっただろう。

それぐらい、彼女の存在は響にとってありがたかった。

 

うおおおおおおお

 

「?」

 

声らしき物が聞こえ少女は辺りを見回す。

雨の上にこの時間帯では、少女以外人影は見えない。

気の所為かと思いまた歩く。

 

 

 

 

     しかし、立花響は、まだ知らない

 

 

 

 

 

うおおおおおおお

 

また聞こえた。

即座に振り向き辺りを見るが、やはり自分以外だれも居ない。

 

 

 

 

      世界征服を企んでいる悪の組織が

 

 

 

 

 

「誰か居るんですか!?」

 

少女の声が空しく辺りに響く。

怖くなった少女が急いで帰ろうと前を見るが、

 

 

 

           自分を狙ってるなどとは     

 

 

 

 

「蜘蛛の…おばけ…」

 

目の前に蜘蛛の姿をした怪人が居た。

 

━━━私って…本当に呪われてる

 

 

 

その日、一人の少女が消えた。

家族や親友が探すが、世間の協力も無く、警察の捜査の進展はない。

メディアも最初は、面白おかしく騒いでいたが暫くすれば別の芸能ニュースを取り扱いだす。

やがて、家族と親友以外の人々は立花響の存在を忘れていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから、1年半以上が過ぎ…物語は動き出す。

 

一人の男が、小学生くらいの女の子を腋に抱え上げ何かから逃げている。

事案ではない。

赤毛が特徴の赤っぽい背広を着た男が走りながら後ろを振り返る。

其処には、やたら派手な色をした変な物が追いかけて来る。

 

               ノイズ

 

特異災害と言われる人類の天敵。

触れれば炭素の塊になり命はない。

 

その大群に追われていた。

 

「くっそっ、通信機を忘れなければ!」

 

男はとある組織の司令官をしてる。

今日は、偶々外出していた時にノイズと遭遇。

途中に母親とはぐれた女の子を発見し保護した。

 

「おじちゃん、前にも!」

 

逃げてる先にもノイズが現れる。

狭い道を走っていた男は立ち止まり後ろを見る。

やはり、ノイズの大群が追ってきていた。

逃げ道は無いかと思われたが男が渾身の力でジャンプして二階建ての家の屋根に上る

屋根から屋根へジャンプし、その場を離れようとするが、

 

「うお!?」

 

飛行型のノイズが男に体当たりしようと迫る。

足場の悪さに苦戦をしつつ逃げるが、下からの突き上げる攻撃に男は咄嗟にジャンプして林のある自然公園に着地する。

 

「しまった!」

 

周囲には無数のノイズが取り囲む。

空は、飛行型がうようよしている。ジャンプで逃げるのは得策ではない。

ジワジワと近づくノイズに男は死を覚悟したが、

 

「危ない!」

 

何処から飛び出したのか少女が男の前に現れ、ノイズへと向かっていく。

 

「ま、待つんだ!」

 

男も、咄嗟の事で止めるのが遅れた。

しかし、その生死も聞かず、少女はノイズに拳を振るう。

そして信じられないものを見た。

少女の拳はノイズを一撃で粉々にした。

 

「シンフォギアも無しに!?」

 

ノイズもターゲットを少女に変更したのか男と女の子を無視して少女へと迫る。

戦い方はどう見ても素人だが、次々とノイズを蹴散らしていく姿に男は唖然とする。

しかし、ノイズの数は未だに無数に居る。

少女の体力は目に見えて落ちて息も乱れる。

 

「君、直に逃げるんだ!今なら逃げ道もある!」

 

少女がある程度ノイズを倒した事でノイズの数は減り上手くいけば逃げれるかも知れない。

だが、男に言葉に少女は目を瞑る。

 

「変身」

 

少女が一言言い終えると、少女の体が光る。

そして其処には、

 

「ガ…ガングニール!?」

 

変身した少女の姿だった。

 

 

 

 

それから間もなく、ノイズは少女が全滅させ辺りが静まり返る。

それを確認してから少女は歩きだすが、

 

「待ってくれ!それを一体何処で、それに君は誰なんだ」

 

男の問い掛けに立ち止まる。

ゆっくりと男の方に振り向く。

 

「私は…「イーッ!!」!?」

 

「な、何だ此奴ら!」

 

声をした方を見るとベレー帽を被り目の部分が開いたアイマスク、全身黒タイツ姿の男たちが何時の間にか居た。

 

「戦闘員」

 

少女がボソリと呟く。

 

「貴方達は逃げて!こいつ等の目的は私だ!」

 

そう言って、赤髪の男から離れる少女。

黒タイツの男たちも少女を追う。

男と少女はその様子を見続ける。

男達が少女へと襲い掛かる。どう見ても味方ではない。

少女の戦いに先程のキレがない。

素人とはいえ、ノイズに出してたパンチもキックも出さず、男達に攻撃を避けるだけ。

 

「君、暫く其処の木に隠れてなさい」

 

男が何か決意すると、女の子に隠れろと言う。

女の子も何か分かったのか言う通りに木に隠れる。

 

 

 

 

「イーーーッ!」「イーーーッ!」

 

「しつこい!」

 

戦闘員の攻撃を避けつつ距離を取ろうとする。

しかし、

 

「イーッ!」

 

「くッ!」

 

逃走経路を悉く塞がれてしまう。

拳を握るが、戦闘員の一人を押しのけ様ともがく、

 

「イーーッ!」

 

「わあ!?」

 

別の戦闘員が響にタックルする。

倒れた響に戦闘員が取り囲む。

逃げ場はない。

 

その時、

 

「女の子に何をしてるんだ!」

 

さっきの赤い髪の男が戦闘員の一人を殴り飛ばす。

いきなり攻撃された戦闘員は、男の方を向く。そして、少女も。

 

「貴方は…どうして…」

「何、さっきの御礼だ。それに、こいつ等は俺でも対処ができる!」

 

更に、もう一人の戦闘員の顔面を殴り飛ばす。

 

 

それからは、一方的だった。

取り囲もうが、奇襲しようが男の拳や足に次々と戦闘員が倒れていく。

 

「おらああ!!」

 

更には、戦闘員を投げ飛ばし別の戦闘員にぶつけるなどもやった。

男の周囲を再び取り囲んだ戦闘員だが、何かに気づき撤退の合図を出す。

戦闘員達は、倒れた仲間を放置し逃げていく。

 

男は、追わなかった。

グングニールを纏った少女と木に隠れた女の子を残しておく訳にはいかなかった。

暫く、警戒してると背後からバイクのエンジン音が聞こえる。

振り向くと、よく知ってる顔の少女が此方に来てる事がわかった。

 

「叔父様、無事ですか!?」

 

余程、急いで来たのだろう。ヘルメットを取った少女は息を切らせていた。

 

「…叔父様、これは一体…」

 

周辺を見回した少女が倒れている戦闘員達に気づく。

 

「ノイズの後に襲ってきてな。気絶させただけで「叔父様!」!」

 

少女の言葉に男が見る。

視線の先には緑色の液体を出しながら溶けていく戦闘員達だった。

 

「な、何だ!?」

 

突然、人間が溶けてる姿に驚く。

一瞬、ノイズの事を考えるが、ノイズは人間を炭素にする。溶けたりはしない。

 

「機密保持…それが奴等のやり方です」

 

二人が声のした方を見る。

最初に出会った頃に姿が戻った少女が居た。

 

「あなたは…」

「待て、翼君。…君のおかげで助かった。俺は風鳴弦十郎、君は」

 

「…立花…響です」




シンフォギアの設定がいまいちわからん。

取り合えず生身の響がノイズを倒したのは改造されたからということで。

歌と言えばショッカーの歌も好きです。特に「悪魔のショッカー」が


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2話 戦いたくなんてない

一期、見終わりました。

Gからはどうするか考え中、アマゾンプライム系の動画サイトに入るかブルーレイ機器を買ってブルーレイを揃えるか。

それにしても、フィーネが月の欠片を落とすのがアレとは、


「立花響…出ました」

 

大きなモニターに立花響の顔が映る。

 

「立花響は一年半以上前に下校中に行方不明になって捜索願いが出されてます」

「家族の方も、先日にチラシ配り等をして情報提供を呼び掛けてました」

 

男女の職員の報告に風鳴弦十郎は手を顎に当て考える。

 

一年半以上前に行方不明、本人曰く拉致されていた。

これは、本格的に話を聞かなければな。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あったかいもの、どうぞ」

「あ…ありがとうございます」

 

響が女性にホットココアを貰う。

 

 

戦闘員との闘いの後、政府の人間が後処理をし、女の子も無事母親に返される。

自分はどうしようかと考えていた響だが風鳴弦十郎が「お礼もしたいし付いてきてくれ」と言うと同時に拘束され車に押し込められる。

道中、手枷を何度も破壊して職員の人に怒られた。

解せぬ。

着いた場所は私立リディアン音楽院高等科。

大好きな親友が受験すると知り、自分もと思っていたが受験する事すら出来なかった場所。

そして、その地下施設に連れてこられた。

 

 

ホットココアに少し、口を付ける響は眉を顰めると、風鳴弦十郎が入って来た。

 

「やあ、響くん。ようこそ特異災害対策起動部二課に。改めて名乗ろう。俺は此処の責任者の風鳴弦十郎だ」

 

「オペレーターの藤尭朔也です」

「同じく、友里あおいよ」

 

傍に控えていた男性とココアをくれた女性が名乗る。

 

「そして、私が出来る女って評判の桜井了子。響ちゃん、早速だけど服を脱いでくれるかしら?」

 

初対面の女性に響は「えっ!?」とこぼす。

やたら豊満なボディをしたメガネの女性に突然「脱げ」と言われればしょうがない。

 

「了子くん、検査なら後でも…」

「歌も無しにシンフォギアが起動したのよ。この子、相当体をイジられてるわ」

 

了子の言葉に俯く響。

それでも後にしろと説得され了子は渋々引き下がる。

 

「それで、響くん。あの黒づくめの男たちは何だったんだ?明らかに君を狙っていたが…」

 

弦十郎の質問に響は直ぐには答えない。

十秒程だろか?何かを考えていた響はようやく口を開く。

 

「…戦闘員…ショッカーの兵隊です」

 

「ショッカー?」

「響ちゃん、ショッカーって?」

 

了子の質問に響は真っ直ぐ目を向ける。

 

「秘密結社ショッカー。世界征服を企む悪の組織で、……私を改造人間にした連中です」

 

 

 

「改造…人間…」

「世界征服…ねえ…」

 

━━━やっぱり信じてもらえないよね。今時、世界征服を目指す秘密結社なんて昔のアニメや特撮じゃないんだから

 

響が笑われる事を覚悟する。

当然だ。もし、自分がこの話を聞いてもフィクションとして真面目に相手をしない。

もしくは、妄想癖があると近寄らないかもしれない。

 

「ショッカーか、調査部に調べるよう要請するか」

「その方がいいわね。世界征服なんて物騒すぎる」

 

「!…信じてくれるんですか?」

 

鼻で笑われるのも覚悟していた響は驚いて聞く。

 

「ああ、平時なら冗談の一つだと思っただろうが、あの戦闘員という連中を見てな」

 

黒づくめ……戦闘員が響を襲い風鳴弦十郎が助け、倒れた戦闘員は緑色の泡を出し消滅した。

いたずらにしては手が込んでる上に、戦闘員を殴った手は未だ、その感触を忘れていない。

 

「あ…ありがとうございます!」

 

風鳴弦十郎達の言葉に響が泣きそうになる。

 

「さて、それじゃ早速行動を…」

 

 

 

 

「その必要はない」

 

 

 

 

辺りに突然不気味な声が響く。

風鳴弦十郎達が辺りを見回すが姿が見えない。

 

「誰だ!一体何処に居る!?」

 

警戒する弦十郎達、誰かが要請したのか銃を持った職員も入ってくる。

 

「この声…」

 

響が呟く。

聞き覚えのある声に響は立ち上がる。

 

「蜘蛛男!」

 

「上だ!」

 

職員の一人が天井に張り付く何かを見つける。

その何かは、天井を床に着地する。

それは、二本の角を持ち三つの目の部分に幾つもの複眼を持つ緑色の体に赤の混じった色もある。

 

「く…蜘蛛?」

「何だ、このデカい蜘蛛は」

 

 

 

「ショッカーを知った者は死んでもらう!」

 

 

「ば、化け物だ!」

「馬鹿な!此処は特異災害対策起動部二課の本部だぞ」

 

直ぐに反応した職員が銃で蜘蛛男を撃つ。

弾は蜘蛛男に命中するが、

 

「無傷!?」

「だが、ノイズと違って当たるぞ!」

 

弾を受け続ける蜘蛛男は銃を撃つ職員に何か吐き飛ばす。

 

「痛えっ!針?」

 

痛みを感じた職員が手を見ると針状の物が刺さっていた。

抜こうとするが、

 

「うわああああああああああ!!!」

「溶けてやがる!」

 

刺さった手から腕、体と溶け出す職員。

そして、あっと言う間に職員は死んだ。

更には、手から糸を出し、職員の体に巻き付け壁に叩きつける。

 

「特異災害対策起動部二課の本部とはついている。ショッカーの邪魔となる組織は潰しておく。だが、桜井了子!お前には一緒に来てもらうぞ!!」

 

蜘蛛男の突然の言葉に了子も「私!?」と戸惑う。

 

「貴様はショッカーの最優先拉致目標の一人だ。桜井理論とやらが完全に手に入れば我らショッカー怪人はより強くなれると聞いている!忌々しいノイズ共も物の数ではない!我々の時代が到来するのだ!!」

 

言い終えると同時に蜘蛛男は了子に飛び掛かる。

逃げないよう抑えた後、職員を殺して拉致するつもりであった。

驚きつつも冷たい目で見る了子。

 

「!?」

 

突然の殺気に蜘蛛男は天井に糸を伸ばし上に行く。

直後に、蜘蛛男の居た場所に衝撃波が走る。

衝撃波が出た先には弦十郎が拳を突き出していた。

 

「悪いが家の職員を勝手に勧誘しないで貰えるか」

 

「おのれ、人間ごときが!」

 

目標を変更した蜘蛛男が弦十郎に迫ろうとする。

だが、それよりも早く弦十郎は床を踏み込み蜘蛛男に迫る。

咄嗟の動きに蜘蛛男も右腕から糸を出し側面へと移動する。

蜘蛛男の背後にあった壁に弦十郎の拳が吸い込まれる様に当たり壁を粉砕する。

 

「な!?貴様も改造人間か!誰に作られた!?」

 

「俺は人間だ!」

 

蜘蛛男の質問にアッサリ答えた弦十郎はまた蜘蛛男に迫ろうとするが、

 

「させるか!」

 

蜘蛛男は手から粘着質の高い糸を出し弦十郎の足に絡める。

 

「何だと!?」

 

糸は足と床にくっ付き弦十郎の動きを阻害する。

蜘蛛男は更に床に付いた弦十郎の手に糸を出す。

 

「如何に改造人間と言えど、その糸を外すのは時間が掛かろう。丁度いい、貴様もショッカーに連行してやる!」

 

高笑いを始める蜘蛛男。

それを見て、自責の念にかられる。響だ。

 

━━━私の所為だ。あいつは、多分戦闘員が襲ってきた頃から私を狙ってたんだ。ずっとつけられてたんだ。私の所為で此処の人達が死んでしまう。…そんなの許せない。

 

其処で響は地上に繋がるエレベーターを見る。

 

「さて、桜井了子とこの改造人間以外は皆殺しに「蜘蛛男」ん?」

 

蜘蛛男は自分が呼べてる事に気づき視線を向ける。

其処にはエレベーターに乗る立花響の姿が映る。

 

「私と勝負しろ!お前なんか怖くないもん!」

 

言い終えると同時に響の乗ったエレベーターは扉が閉まる上へと進む。

蜘蛛男は一瞬、考え込む。

 

(オレに与えられた任務は立花響の確保或いは抹殺し心臓を持ち帰る事。正直、桜井了子とあの改造人間は惜しいが此処は任務を優先する)

「良いだろう、その挑発乗ってやる!」

 

エレベーター扉を破壊し響の乗るエレベーターに糸を付け追跡する。

その様子を只、見守る事しか出来ない職員。

 

「叔父様!敵が侵入したというのは本当ですか!?」

 

丁度、指令室の扉が開き諸事情で席を外していた風鳴弦十郎の姪、風鳴翼が入る。

中は悲惨の一言だった。

何かが溶けたような跡が幾つもあり血を流し苦しんでる者も居る。

 

「指令!一体何が!?」

 

翼の付き添いをしていた青年が弦十郎の傍による。

 

「俺の事は良い!それより翼、響くんの援護に行ってくれ!」

「…あの娘の…援護…」

 

弦十郎の言葉に翼は複雑な表情をする。

慌てる中、誰も気づかない。響の渡されたココアが全く減ってない事を…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハア…ハア…」

 

既に暗い夜。

外に出た響は人を避ける為に近場の林を走っている。

人間にしては早いスピードだが、

 

「如何した?さっきまでの威勢はどうした!?」

 

木の枝を伝って追ってきた蜘蛛男は情け容赦無く背後に蹴りを入れる。

「うあああ!?」と短い悲鳴を出す響は蹴りの勢いに倒れてしまう。

丁度、林と広場の間付近で会った。

 

「さっさと変身したら如何だ?それとも捕まる気にでもなったか?」

 

「…もう止めてよ…」

 

「何だと?」

 

「私達はノイズと違って言葉が通じるんだよ!戦う理由なんてない!」

 

「…やはり、貴様は臆病者だ!戦いたくないと言うなら大人しくショッカーに戻れ、そうすれば貴様の臆病な性格も脳改造で立派な戦士となる」

 

「…脳…改造…」

 

「さあ、大人しく「嫌だ!」!?」

 

「変身!」

 

近づこうとした蜘蛛男に響は拒絶し変身する。

 

「ほう、やっと戦う気に「お願い、帰って!」」

 

「貴方だって元は人間なんでしょ!?ショッカーに改造されて戦わされてるだけでなんでしょ!?こんな戦い不毛だよ」

 

「…もういい」

 

蜘蛛男を説得しようとする響だが、蜘蛛男は一気に響に近づき体を殴りつける。

更に、蹴りを響の顔をに叩き込む。

 

「何が博士の最高傑作だ!お前の様な出来損ないはサンドバックがお似合いにだ!」

 

蜘蛛男は手から糸を出すと響の足に絡め、響を砲丸投げの様に回していく。

 

「貴様は本来、心臓だけを取られ残りは廃棄される筈が何を思ったのか博士はお前を聖遺物怪人第一号として選んだ!だが、貴様は戦闘員にすら負ける弱小怪人!あの基地で戦闘訓練も嫌がり何も学ばなかった臆病者だ!」

 

蜘蛛男は糸で振り回す響を木に叩きつける。

 

「ぐはっ!?」

 

「本来なら貴様の戦闘データでおれ達も強化されノイズを圧倒し世界征服が始まる筈だったが…やはり、博士は人選を間違えたようだな!」

 

 

ショッカーのプランでは今頃は既に世界征服を達成してる筈であった。

それが遅れに遅れてしまっていた。

原因はノイズの出現だ。

尤も、ノイズの出現は有史以来から確認されていたが、何十年か前にショッカー基地でノイズが大量に出現し、基地は壊滅的被害を喰らう。

運が悪い事に、その基地は本格的な世界征服の為の人員と物資が集められていた。

戦闘員や科学者はなすすべく炭にされ、1~2体なら戦える怪人も数の暴力の前に散り世界征服は頓挫した。

 

それからのショッカーはノイズに対する切り札を探していた。

そして、近年桜井了子の提唱する「桜井理論」に注目し、更に特異災害対策起動部が作ったシンフォギアに目を付け拉致のタイミングをはかった。

しかし、装者と呼ばれる二人の女と桜井了子の警備は思いのほか厳しく拉致は不可能と判断され一旦保留。

次に、ショッカーは聖遺物を手に入れようとするが、悉くが失敗。動き出すのが遅く、国が管理するなど手が出しづらかった。

そんな矢先であった。

ツヴァイウイングの惨劇が発生し、ショッカーの協力者のタレコミに立花響の心臓に聖遺物がある情報を掴む。

ショッカーは直ぐに立花響を監視しチャンスを待つ。

直ぐに生存者へのバッシングにより響が孤立するのには時間が掛からなかった。

 

これが響が狙われた理由である。

 

「そ…そんな事のために…」

 

そんな事の為に私は改造人間にされたの?

 

「貴様が逃げた所為であの完成間近だった基地も破棄せざるえなかった!まぁ、奴隷共の反乱で遅かれ早かれ破棄は決定していたがな」

 

奴隷!?ならあの人は!?

 

「私を助けてくれたあの人は…お「死んだ」!?」

 

「貴様を逃がそうとした、あの男は死んだ。俺が殺した」

 

嘘だ!

嘘だ!嘘だ!

噓だ!嘘だ!嘘だ!

私を逃がしたら直ぐ逃げるって言ったのに!

やっぱりあの人は嘘つきだ!

 

「ふん、壊れたか?」

 

座り込み天を見上げる響に蜘蛛男は手をサッと上げる。

その背後に二人の戦闘員が現れる。

 

「捕らえろ、基地に連行する。だが、その前に俺は特異災害対策起動部二課の連中を皆殺しにしてくる」

 

「「イーーーッ」」

 

 

ふん、博士の最高傑作も大した事は無い。

あの方にも間違う事があるようだ。さて、さっさと特異災害対策起動部二課の本部に「イーッ!?」!?

 

 

戦闘員の悲鳴と共に蜘蛛男の横を吹っ飛ばされる戦闘員。

転がった戦闘員は緑色の泡となって消える。

 

「何があった!?」

 

もしや、特異災害対策起動部二課の者が助けにでも来たのかと振り向く蜘蛛男だが、

 

「な!?」

 

その光景は蜘蛛男の想像とは違っていた。

 

「イーっ、イー」

 

戦闘員が必死に藻掻く。

その首は、響の手が握っている。

一切緩めることなく、寧ろ力を入れ鈍い音と共に戦闘員は動かなくなる。

戦闘員から手を放し蜘蛛男を睨みつける。

その顔は夜とは言え尚一層黒かった。

 

雰囲気が変わった!?

 

「貴様、戦闘員にも負ける弱小ではなかったの「うわああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」

 

咆哮を上げる響が蜘蛛男に殴りかかる。

 

許せない

目の前の蜘蛛男が許せない

 

「何故奪う!?」

 

何で好き勝手、他人の命を奪える

 

 

拳が何度も蜘蛛男に殴りつける。

 

「何故殺す!?」

 

簡単に殺す此奴が許せない

 

 

回し蹴りが蜘蛛男に炸裂する。

 

「舐めるな!」

 

苦し紛れに私に針を吐き出すが片手で止め握り潰す

手が少し溶ける感覚があるが直に治る

 

「お前が…オマエ達しょっかーが奪イ続けるのナラ…私が潰ス」

 

 

 

 

 

 

 

「あ…あ…」

 

弦十郎に響の援護を頼まれた風鳴翼は声を漏らす。

目の前では一方的な戦いが起こっていた。

蜘蛛男の角を持ち何度も顔面に膝蹴りを食らわせ、倒れれば何度も踏みつけ、腹にも膝蹴りを入れ、遂には腕の一本を千切る。

 

 

蜘蛛男は勘違いをしていた。

立花響は心優しく何処までも甘い少女であり、他人と競い合う事が苦手であった。

それは、改造された後でも変わらない。

人間体であった戦闘員にもそれが原因で負けていた。

本来のスペックなら戦闘員は愚か蜘蛛男すら圧倒している。

 

 

最早、蜘蛛男に勝てる可能性は無い。

 

 

「翼くん、響くんは…!?」

 

蜘蛛男の糸を外した弦十郎と了子達が戦闘音を頼りに翼と合流する。

同時に、響の戦いに絶句する。

響の戦いはその位、容赦ない。

 

 

 

満身創痍の蜘蛛男はふらつく体で響を見るが、

 

「これが奪い続けた報いだ!」

 

響の渾身の右ストレートが蜘蛛男の顔面に叩き込まれる。

蜘蛛男は、その威力のまま倒れたままになる。

 

「ハア…ハア…」

 

渾身の力で殴った響は地面に座り込む。

その様子を見た風鳴翼と弦十郎達が響に駆け寄る。

 

「響くん!大丈夫か、響くん!」

 

「…あれ、私は…蜘蛛男は」

 

正気に戻った響は弦十郎達を見て聞く。

 

「蜘蛛男は君が倒した。終わったんだ!」

 

弦十郎の言葉に響は笑みを浮かべる。

 

「終わったん「何も終わってないぞ!」!?」

 

皆が一斉に声のした方を見る。

最早、何時死んでもおかしくない程の傷を負った蜘蛛男が立っていた。

蜘蛛男が響達に指を指す。

 

「聞け…確かに俺は負けた…だが、立花響と…貴様ら…特異災害対策起動部二課…の情報は…既にショッカー本部に…伝えている!直に…俺より強力な…怪人軍団が…貴様らを抹殺に来る!…秘密結社ショッカーの恐ろしさを思い知る…がいい!ふは…ふは…ははは…ガはっ!」

 

蜘蛛男の体が次々と赤い液体となり遂には形を保てず完全に液体化し地面に流れる。

その不気味な姿を唖然として見る弦十郎達。

 

 

 

空には一羽のカラスが旋回し一声鳴くとその場を離れる。




秘密って何だろう?
政府の紐つき機関に正面から喧嘩を売る秘密結社って……。


因みに、怪人とノイズの力関係の設定ですが、1体か2体までのノイズなら怪人が勝利し、5体以上になると怪人はなすすべなく炭にされます。
え?怪人がノイズと戦える理由?…怪人だから?

そして、響が未だに歌ってない事実。
歌わなくても変身出来るから仕方ない。



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3話 響の過去と父の愛

「ショッカーか、暫く放置しても問題ないとは思うが…」

 

蜘蛛男の襲撃から数時間、時間は既に日の出。

そんな中、櫻井了子は立花響の身体データを纏めていた。

 

 

 

「しかし、立花響を改造した奴は間違いなく天才か、気が狂ってるな」

 

体の至る場所が機械や人工物に変えられている

普通此処までやれば拒絶反応が起き改造された人間に命は無い

だと言うのに立花響にはその兆候がまるでない

此処までの技術は(フィーネ)ですら持っていない

もし、これが表社会に出れば人類の技術は100年近く進むだろう

一体だれが…思い当たる節がある

嘗て、ロシアと日本のハーフで若くして博士号を収得した「死神」の渾名を持つ男

残念ながら以前の私とは縁が無く会うことはなかったが…第二次大戦後行方不明になったと聞いたが、奴だろうか?弟子の可能性も十分あるが

 

「…凄まじい技術だ…尤も、立花響にとっては不幸だろうがな」

 

ある日、突然拉致され体を改造されたのだ

生身と言っていい部分は脳と心臓くらいか、だが脳も一部が欠損していたり代わりの機械が取り付けられ、心臓には未知の金属が周りを取り囲みレントゲンもCTも意味が無い

 

私は、一枚のレントゲン写真を見る

二年前にツヴァイウイングの惨劇で死にかけた立花響の胸部のレントゲン

心臓には幾つもの破片があり手術でも取り出せなかった物だ

 

「立花響の心臓は天羽奏のシンフォギア『ガングニール』の破片を受け重傷。手術により助かったが取り除けなかったガングニールの破片をショッカーが狙った。…か」

 

立花響が拉致された理由は分かった

なら、何故立花響は改造人間にされた?

心臓から取り出して別の怪人にでも使えなかったんだろうか?

蜘蛛男の言葉からもショッカーにはまだまだ怪人達が居る筈だが…

 

「まさかデータ取りか?」

 

立花響から蜘蛛男は立花響のことを『聖遺物怪人第一号』と言ったそうだ

怪人達に移植する前に立花響で実験をしていた?

 

「それなら辻褄が合うか」

 

立花響のシンフォギアは形だけのもの

身体能力は上がるが、天羽奏や風鳴翼のようにシンフォギアの力はない、正にハリボテ

そんな立花響がノイズを倒したのは間違いなく胸のガングニールのおかげだ

恐らく、この未知の金属がガングニールから無理矢理アウフヴァッヘン波形を引き出してるのだろう

だが、如何やって……!

 

「まさか、融合してるというのか!?」

 

そうか!ショッカーの狙いはこれか!融合症例と言えばいいのか!

ショッカーは立花響を実験体(イケニエ)にするのが目的か!

 

解剖したい!

今直ぐ立花響の体をバラバラにして隅から隅まで観察したい

だが、そんな事をすれば立花響は間違いなく死ぬ

 

「それに、風鳴弦十郎が許すはず無いか…」

 

ならば待てばいい

ショッカーも立花響を狙い動き出す筈だ

そのどさくさに紛れてあの娘を動かす

上手くいけば手に入る筈だ、立花響(モルモット)

 

「それにしても、女としての機能すら奪われたか…少し、同情してやってもいいな」

 

レントゲンを片手にコーヒーでも飲むか

ん?脳のこの部分…どうやら立花響はとことん運に見放されてるな

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

蜘蛛男の襲撃から一昼夜が過ぎ、特異災害対策起動部二課本部は落ち着きを取り戻しつつあった。

侵入を許した事で、起動二課本部の警備やセキュリティも近々上げる事が内閣で決まった。

そして、現在弦十郎を始めとしたメンバーがソファーに座る響を見続ける。

 

「は~い、お待たせ♪」

 

其処へ、響の身体検査のデータを纏めた了子が入り弦十郎達に報告書を渡す。

それに目を通す大人達は皆眉を顰める。

風鳴翼も報告書に目を通し舌打ちをする。

 

「予想はしていたが……子供になんて事を!」

「!?」

 

弦十郎の吐き捨てる言葉に何だか申し訳なく感じる響。

報告書を読み終えた弦十郎が再び響の方を見て語りだす。

 

「響くん、昨日の今日で悪いがショッカーの知ってる事を話してほしい。少しでも手掛かりが欲しいんだ」

「調査部でも調べてるんですが、偽の情報が多いらしく…」

 

「…わかりました。最初から話します」

 

響は意を決して語りだす。

あの日からの本当の悪夢を、

 

 

 

 

 

 

 

あれは一年半前、雨の日でした

私が一人帰る途中に蜘蛛男に攫われました

 

「此処を襲った蜘蛛男が君を…」

 

はい

攫われた時に気を失った私は次に目覚めたのは丸い台の上でした

体を動かそうとしても両手両足は鎖で繋がれ身動きが出来ず、何とか周りを見て数人の人影を見つけました

 

『あ…あの助けて下さい!縛られてるんです!』

 

その人影に助けを求めたんですが人影は微動だにせず、何かおかしいと思った私は自分の状況をよく観察しました

両手両足は縛られ、体には薄いシーツ。感覚からして裸にされてたと思います

それに、気付いた時物凄く恥ずかしくなって何か叫んでたと思います

 

「あら、裸なんて恥ずかしくないじゃない」

「了子さんは恥ずかしくなくても若い響ちゃんは…何でもありません」

 

あははは…叫び疲れて静かになった時でしたね

正面にあった鳥のレリーフから変な機械音と緑色の光が点滅して声が響きました

 

「声?」

 

はい

 

『ようこそ、立花響!そしておめでとう、貴様は我らショッカーに選ばれたのだ!』

 

『選ばれた?ショッカー?お願い家に帰して!』

 

『貴様はこれより改造手術を受けショッカーの新たなる改造人間となり、世界制覇の為のコマとなるのだ!』

 

「その声の持ち主が…」

 

首領。と呼ばれてました

 

どんなに嫌だと言っても聞いてもらえず傍に控えていた人達が私に近づいて来たんです

そこで気づいたんです。その人達がドラマとかで見る医者が手術をする時に着る服を着て顔に変なペイントをしていたのを

私は言い知れない恐怖を感じました

 

『嫌!誰か助けて、お母さん!お祖母ちゃん!未来!…お父さん!』

 

あらん限り、私は助けを呼びました。恥も外聞も無くまるで子供のように…当然助けなんてありませんでした

必死に逃げ出そうとしましたが、どんなに暴れても鎖はビクともせず首に痛みが走ると意識を失って…目が覚めたら私は人間じゃなくなっていました

 

聖遺物怪人

 

それが私の新しい名前でした

 

「聖…遺物…」

「ガングニールの破片の事ね」

 

そうだと思います

改造手術を終え私は直ぐに戦闘訓練をやらされました

戦闘員に怪人、ノイズと戦わされました

 

「ノイズ!?」

「ちょっと待って響ちゃん、ショッカーはノイズを戦力にしてるの!?」

 

いいえ。戦力とは到底言えるものではありません

特殊な機械でノイズを呼び出すそうですが一日一体だけ、制御も碌に出来ないそうです

 

(なるほど、ソロモンの杖の劣化版か)

 

そこで、私はひたすら戦闘訓練をやらされました

ノイズとは戦えるようになりましたけど戦闘員と怪人は…

 

「戦闘員と怪人とは戦えなかったのか?」

 

はい。他人と争うのは苦手で……そんな私をあいつ等…ショッカーは許してくれなかった

複数の戦闘員や怪人の技の練習台にされ、来る日も来る日もサンドバック扱いされて…それでも私が戦うのを拒否すると、あいつ等は最低な事をし出して

 

「最低な事?」

 

どこからか連れてきた人間に私を殺せば逃がしてやると言って嗾けて…私が必死に説得しようとしました

体が改造されてましたから、一般人の攻撃なんて効かなかったんです、私の説得にその人は冷静になって話を聞いてくれました

その瞬間、その人の首は爆発して宙を飛びました

直後に分かったんですが、その人の首には爆弾が埋め込まれて、時間が来るか私の説得に耳を貸した瞬間爆発するようにされてたみたいです

 

「下種が!」

「なんと惨い!」

 

そんな事をされても私はあいつ等とは戦えなかった

ノイズと違って言葉が通じる。分かり合える。それを本気で信じてたんです…嫌、信じようとしていたんです

爆弾で死んだその人を抱きかかえて茫然とする私の姿を見て笑ってる連中でも…きっと分かり合える。そう思ってました

ですが…

 

『聖遺物怪人、響!貴様の脳改造が明日に決まった!』

 

一年経っても私が戦わない事に業を煮やしたんでしょうね

突然の死刑宣告を受けました

 

「死刑?」

「響ちゃん、脳改造って?」

 

脳改造は文字通り、脳を完全に改造してショッカーの忠実な下僕にする脳の改造手術らしいです

その手術をすると死ぬまでショッカーの操り人形になるそうです

 

「ショッカーめ予想以上の外道だな」

 

常日頃からの酷い扱いに私の精神も限界だったと思います

楽しい事なんて一つもない。そんな日々を過ごす位ならいっそ脳改造された方がいいかな。まで考えてました

翌日に脳改造が決まった夜の事でした

ショッカーから宛がわれた牢獄みたいな部屋で休んでると部屋の外から騒ぎが聞こえてきたんです

最初は、何だろうと思って扉の方を見ました

その騒ぎから少し経って覆面タイプの戦闘員が入って…ああ、戦闘員にも幾つかのタイプが居るみたいなんです。

顔にペイントを塗ったタイプと銀行強盗が被る様な覆面後、戦闘員リーダーには赤い模様の入ったタイプもいました。化学者の戦闘員も居てそいつ等は白い覆面と白衣を着ています。

…話を戻して黒い覆面を被った戦闘員が入ってきて、

 

『響、今のうちに逃げ出すんだ』

 

懐かしい声が聞こえました

 

『そ…その声…まさか…』

『俺だ、響』

 

戦闘員の覆面を脱いだ人は

 

『お父さん!』

 

「響ちゃんのお父さん!?」

「何故、響くんの父親まで…確か、彼は失踪していたんじゃ」

 

お父さん曰く、あの日失踪した訳じゃなくショッカーに拉致されてたそうです

基地を造るための奴隷。私が捕まるより前から強制的に働かせられてたそうです

……記憶の中のお父さんより遥かにやせ細っていました

 

私とお父さんは部屋を出て出口の方に行きました

この騒ぎもお父さんと同じように捕まっていた人達に頼んで騒ぎを起こして貰ったそうで

 

『どうせ、この基地が完成しても俺達は殺される。なら、最後くらい嫌がらせしてやろうってな。一人で行動していた戦闘員を皆で襲って服を手に入れたんだ』

『でもお父さん、どうして私が此処に居るって…』

『先日、資材を運ばされた時に遠目だがお前の姿を見てな。それ以前にも戦闘員が偶に響って言ってたから嫌な予感はしていたが。皆に頭を下げて騒動を起こしてもらったんだ。最初は渋られたがショッカーに最大の嫌がらせが出来るって言ったら皆、納得してな』

『…お父さん』

 

正直、嬉しかったんです

家族を、私たちを捨てて出て行ったと思ってたお父さんが助けてくれた。それがとても嬉しかった

出口に向かう私たちは少しづつですがお互いの話をしたんです

「あのご飯は不味かった」とか「〇〇怪人の性格は最悪だとか」とか「此処を出たらお母さんのご飯をお腹一杯食べようとか」ほんの僅かですけど久しぶりに楽しかったんです

 

『お父さん、私…あいつ等に体を弄られて改造人間に…私、もう人間じゃ…』

『そうか…いいか、響。お父さんも上手くは言えないかも知れないが大事なのは心だ。それを忘れるな』

 

正直よくわかりませんでした

見張りや巡回してる戦闘員をやり過ごして私たちは格納庫に行きました

お父さん曰く、通常の出入り口よりこういう場所の方が警備が薄いらしいです

 

『よし、響。此処を出れば基地の外に行ける。脱出でき『させると思うか?』!』

 

後ちょっとで脱出できる時に奴が…蜘蛛男が現れたんです

 

『お前達の脱出劇も此処で終了だ。直に他の怪人共も此処に来る、諦めるんだな』

 

『くっ、響!お前だけでも逃げろ!』

 

そう言ってお父さんが資材として置かれていた鉄パイプで殴り掛かりました

でも、蜘蛛男はアッサリ防いで逆にお父さんは吹っ飛ばされました

 

『人間ごときが改造人間に勝てる訳ないだろう。さあ、大人しく捕まるがいい』

 

蜘蛛男がゆっくりと私に近づいて来ました

折角逃げたのにまた捕まる

私が諦めかけた時でした

エンジン音が聞こえたと同時に蜘蛛男が視界から消えて壁の方を見ると格納庫に置かれていたフォークリフトが蜘蛛男を壁の間に挟んで、それに乗ってるのが

 

『逃げろ、響!』

 

お父さんでした

 

『き…貴様!』

 

蜘蛛男が藻掻いてましたがフォークリフトと壁の間から抜け出せずにいました

 

『響、シャッター付近にあるレバーを下すんだ!そうすればシャッターが開く!』

 

お父さんの言う通りにシャッター近くにあったレバーを下すとシャッターが開いて外が見えました

 

『シャッターが開いたよ!お父さん早く逃げよう』

『悪いが先に逃げろ!フォークリフトのアクセルを少しでも放すと此奴が自由になる!」

『そんな事、出来ないよ!』

『大丈夫だ!お前が逃げたら俺も直に逃げる!へいき、へっちゃらだ!』

 

その言葉を信じた私は基地を脱出して街に…家に向かって走り続けました

外は暗く獣か怪人の声らしき物が聞こえて耳を閉じひたすら無我夢中で走り続けました

 

『へいき、へっちゃら。へいき、へっちゃら。へいき、へっちゃら。へいき、へっちゃら。へいき、へっちゃら…』

 

お父さんの口癖を繰り返して

 

 

「そして、三日後に私は貴方達に会いました」

 

響の語った話に一同は沈黙する。

想像はしていた。だが、その想像よりも響の経験は想像以上に過酷だった。

 

「その…お父さんは?」

「蜘蛛男が「殺した」とはっきり…笑っちゃいますよね?娘を助ける為に命を…ドラマだけの話だと思ってたのに!…改造人間でも泣けるんですね」

 

響の目から涙が溢れる。

それを見る事しか出来ない弦十郎達。

了子が溜息を付きつつ口を開く。

 

「泣いてる所を悪いけど蜘蛛男以外の怪人って分かる?出来れば教えて欲しいんだけど…」

「了子くん」

「だってしょうがないじゃない。怪人の情報があれば対策もたてやすい筈よ」

「いえ、お気遣いありがとうございます。私が知ってるのは蜘蛛男以外に10人の怪人です」

「教えてくれるかしら?」

「はい。あ、でも能力までは分かりませんけど、蝙蝠の改造人間「蝙蝠男」サソリの改造人間「さそり男」何かしらの植物から作られた「サラセニアン」蟷螂の改造人間「かまきり男」カメレオンの改造人間「死神カメレオン」蜂の改造人間「蜂女」コブラの改造人間「コブラ男」コンドルの改造人間「ゲバコンドル」ヤモリの改造人間「ヤモゲラス」そして、私の教官役でサボテンの改造人間「サボテグロン」…この10人です」

「…思ったより種類が多いな」

「植物からも改造人間が作れるのね。教官役をしていたサボテグロンがリーダー格かしら」

「…戦闘員達が話してるのを聞いただけですが、メキシコの完全占領を成し遂げた怪人だとか」

 

響の言葉に一同は声を詰まらせる。

その話が本当ならたった一人の怪人が国一つ占領できるということだ。

 

「メキシコが占領されたなんて情報はない筈だ。本当なら国連が黙っていない」

「…いえ、ですが此処何年かのメキシコは可笑しな行動ばかりしていました。麻薬の密売に重火器の販売が以前と比較して何倍にも膨れ上がってます」

「裏で乗っ取られてるとみていいわね」

 

「それでは、私はそろそろ行きますね」

 

弦十郎達が話す中、響は立ち上がて出入り口に向かう。

 

「!待つんだ響くん、行くって何処にだ!?」

「もしかして、お家に帰るのかしら」

 

「…家になんて帰れる訳ないじゃないですか。こんな体にされて、お父さんを殺されて…お母さんとお祖母ちゃんに何て言えば……それに私が帰ればきっとショッカーはお母さんとお祖母ちゃんを狙ってきます。それに私が此処に居れば貴方達もショッカーに狙われます。だから此処じゃない何処かに行けば…」

 

「それはないわね」

「ああ」

 

「!?」

 

「蜘蛛男の言葉が正しければ、俺たち特異災害対策機動部二課は奴等にとって邪魔者らしい。なら、当然ショッカーは俺達を狙ってくる」

「私も蜘蛛男に最優先拉致目標なんて言われたしね」

「そこで、提案なんだが響くん。俺達と一緒に戦わないか?何より、此処なら君を守りやすい」

 

弦十郎が響に向かって手を差し出す。

 

「…本気…ですか?…私が見たところ、ショッカーは大規模な組織のようですけど」

「なら、ますます放置は出来んな」

「そうね、このまま放置して何時の間にか日本が乗っ取られてた。なんて事になったら目も当てられないわ」

 

━━━1人でも戦う覚悟をしていた

 

「一緒に…戦ってくれるんですか?」

「もちろんだ」

 

━━━私の巻き添えなんて出しちゃいけない

 

「一人で戦う事なんてない」

「僕達もね」

 

━━━蜘蛛男の最後の言葉にずっと悩まされていた

 

「あ…ありがとうございます」

「あら、響ちゃんて涙脆いのね」

 

━━━私は一人じゃない!

 

響が弦十郎の手を握る。

 

 

 

 

 

 

「歌、ですか?」

 

響が機動二課に入る事を決めた直後に了子からある話を聞かされた。

 

「そう、シンフォギアは本来特定振幅の波動…要は歌によって聖遺物をエネルギー化して再構築して身を纏う鎧みたいになるの。でも、響ちゃんは一言も歌わずにシンフォギアを使ってる。そこで、響ちゃんの歌が加われば…」

「成程、今以上に強くなれる可能性があるのか」

「強く…分かりました。私歌います」

 

場所をトレーニングルームに移し響は一人佇む。

 

「良い、響ちゃん。胸の奥から歌がこみ上げる筈よ。そうすればシンフォギアの姿になるから」

 

了子の声に響は目を閉じる。

胸の奥に響く歌。

 

「balwis…!?」

 

歌い出した響に異変が起こる。

突如、苦しみだし床へと倒れ悶える。

 

━━━痛い!苦しい!気持ち悪い!胸と頭が!?

 

「!直に医務室に運べ!」

「響ちゃん!?」

 

痛みでのた打ち回る響に弦十郎達が慌てて響を医務室に運ぶよう言う。

そんな中、了子は「やっぱりね」と呟く。

 

「了子くん、「やっぱりね」とはいったい」

「ショッカーは、余程響ちゃんに歌わせたくないようね」

 

歌を歌わなくてもシンフォギア(擬き)を纏える。

ショッカーには歌が邪魔なものに思えたのだろう。

 

一呼吸置いて了子は断言する。

 

「響ちゃんは歌う事すらショッカーに奪われた」

 

それは、響にとってとても残酷な現実だった。




まさか響の父こと立花洸が退場!
後々、重要キャラらしいけど、どうしよう。
まぁ捏造や一部原作改変するしかないか。原作見て判断するしかねえ。

そして、歌うことを封じられた響。
ある意味、お約束。

仮面ライダー世界より時間が進んでる事でメキシコは完全にショッカーの物に。
完全に占領されたらどうなるんだろう?


次回、怪人たちが出現。


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4話 不協和音と怪人と

思い切ってDアニメに加入。
月額の安さにひかれた。
これで、シンフォギアが全部見れる。

個人的にはガンバルガーや新ビックリマンも欲しかった。


「立花響は歌うことも出来んか」

 

トレーニングルームで倒れた響は現在、治療室に運ばれている。

命に別状はないが響の精神に問題はないか検査されているのだ。

 

「こんな時に奏なら…」

 

風鳴翼は嘗ての戦友を思い出す。

家族をノイズに殺され復讐心から戦うことを選んだ少女。

最後は、他人を守る為に命を賭け絶唱を使い死んだ。

 

 

分かっている

立花響が悪いわけではない

彼女を改造人間にしたショッカーが全て悪い

分かってはいるが、

どうしても奏の事を思うと立花響を毛嫌いしてしまう

 

 

「…防人として私は未熟だな」

 

頭では解ってる。

しかし、感情が、

 

 

しかし、風鳴翼の思考はそこで途切れる。

本部に警報がなる。

ノイズが現れたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ノイズが現れました。住民は直ぐに最寄りのシェルターに…』

 

街中で避難警報の指示が出るなか、風鳴翼は十数体のノイズに立ち向かう。

 

「Imyuteus amenohabakiri tron…」

 

風鳴翼が歌うと共に響より青が多い、シンフォギアを纏う。

それに反応したか、ノイズは溶け合い一つとなる。

 

「■▼■▼■▼■▼■▼■▼■▼!!!」

 

怪獣の様な雄叫びを上げるノイズ。

飛び掛かるノイズに避ける風鳴翼。

ノイズは体の一部を手裏剣の様に発射する。

風鳴翼が剣を出し、全て切り伏せる。

そして、そのまま、風鳴翼は刀を大型にしそのままノイズに振りぬく。

 

蒼ノ一閃

 

ノイズは縦に切り裂かれ爆発。

 

「ああ、間に合わなかった…」

 

その声に気づいた翼は振り向くと、急いで来たのか息を乱した響がいた。

 

「すいません、私も戦おうと急いだんですけど」

 

検査を終えた響は弦十郎や了子に無理を言って翼を追ってきた。

 

「そう」

「これから一緒に戦えるようにがんばります!」

「歌えないあなたが?」

「………」

 

翼の言葉に響は黙り込む。

シンフォギアは歌で聖遺物の力を引き出す。

響は、歌えない奴は邪魔だと言われた気分になる。

 

「でも、そうね。戦いましょうか。私とあなたが」

「え!?」

 

響に剣を向ける翼。

 

「どう…して…」

「あなたに罪が無いのは分かっている。それでも感情がついていかないのよ。同情はする、でも私はあなたを受け入れられない。歌えないあなたにアームドギアを使えるの?」

「私は…私は…ただ…」

 

風鳴翼も意地悪で言ってる訳ではない。

シンフォギアは歌によって様々な力が使える。

歌う事の出来ない響がどんなに頑張ろうと歌えなければ意味がない。

 

 

 

 

「何だ?仲間割れか?」

 

 

二人しか居ない筈の場所に第三者の声が聞こえた。

 

「!?」

「ショッカー戦闘員…」

 

二人が周囲を見ると、無数の戦闘員が自分達を取り囲んでいた。

更には、

 

「俺達に構わず戦えよ」

「シンフォギア装者も愚かな人間か」

「ケケケケケケケケ…」

「出来損ないの改造人間が」

 

4人の怪人が居た。

 

腕から翼を生やし茶色い体に鋭い牙を持つ男。

 

「蝙蝠男!」

 

「キキキキキキキキッ!」

 

上半身が赤く、左手がハサミような男。

 

「さそり男!」

 

「シュシュシュシュっ!」

 

手足が緑で腹部に赤い血管のようなものが見え、植物の蔓のような物が生えている。

 

「セラセニアン!」

 

「ケケケケケケっ!」

 

左腕が鎌となり鎖鎌を持つ、蟷螂のような姿をした男。

 

「かまきり男!」

 

「ギエーーーっ!」

 

ショッカーの怪人達も居た。

 

 

 

「貴様の相手は俺がしてやる!」

 

「くっ」

 

先に動いたのはかまきり男だ。

風鳴翼に左手の鎌を振り下ろし、剣で受け止める。

剣と鎌から激しく火花が飛び散る。

 

「翼さん!」

 

風鳴翼の加勢に行こうとするが、足を緑の蔓が絡まる。

 

「ケケケケケケ!」

「お前の相手は俺達がしてやるよ」

 

セラセニアンとさそり男が行く手を阻む。

 

 

 

「さて思う存分戦うがいい」

 

蝙蝠男は一人、空から文字通り高みの見物をしている。

サボってる訳ではない。

シンフォギアと聖遺物怪人・立花響の戦闘データを得るのが任務であった。

 

 

 

 

風鳴翼は、かまきり男との鍔迫り合いから一旦距離を取る。

しかし、其処には、

 

「イーーーーッ!」

 

複数の戦闘員が待ち構えていた。

襲い掛かる一体の戦闘員を切り倒し、逆立ちして足のブレードを展開する。

 

逆羅刹

 

「イーッ!?」

 

逆立ちしたまま回転し複数の戦闘員を一気に切り裂く。

切り裂かれた戦闘員は断末魔を上げると地面に倒れ、緑色の液体となり消えてしまった。

 

「…気分のいいものではないな」

 

ノイズと違う感触に一瞬不快感を感じる風鳴翼だが、

 

「シンフォギアも中々強いじゃないか」

 

かまきり男の鎌が迫る。

咄嗟に手に持つ剣で受け止める。

 

「決めたぞ、貴様もショッカーに連行してやる!その力、ショッカーの為に役立てて貰うぞ!」

 

「くっ、防人を…舐めるな!」

 

剣と鎌から火花が散りかまきり男の鎌を打ち払い距離を取る。

 

「それにその恰好、博士の趣味かと思えばシンフォギアの正装か、誘ってるのかおい!?」

 

「…この下種が!!」

 

かまきり男の発言に気持ち悪さと羞恥心を感じた風鳴翼。

そのまま、剣で切りかかる。

 

 

 

 

 

 

 

「如何した?お前の実力はその程度か出来損ない」

 

さそり男のハサミをギリギリかわす響。

そこに、セラセニアンの蔓が鞭のように響を攻撃する。

 

「うっ!」

 

セラセニアンの蔓の鞭に響の頬に傷が入る。が、

 

「ふん、相変わらず耐久力と回復力は並外れているな」

 

僅かな煙の後に響の傷は完全に治る。

 

「だが、それだけだ。攻撃もろくに出来ない屑が」

 

さそり男が吐き捨てるように言うと、ハサミでない方の腕で響を殴る。

セラセニアンは蔓を使い響の足を攻撃し転ばせる。

転んだ響の背中を踏み込むさそり男。

 

「…結局、基地の地下訓練所で何も学ばなかった屑が本当に蜘蛛男を倒したのか?」

 

さそり男にとって、立花響は地下訓練所から何も変わってないようにしか見えず。蜘蛛男を倒したようにも見えなかった。

そして、それは響も同様である。

響が気付いた時には蜘蛛男は瀕死だった。

 

「そんなこと…私が知りたいよ…グっ!」

 

響を踏みつけるさそり男の足の力が強まる。

 

「ふ、とんだ期待外れだ。もう少し、出来るかと思っていたが。まあいい、少し痛めつけてから連行「させるかあ!!!」なに!?」

 

さそり男が振り向くと目の前に拳が迫る。

咄嗟にガードしたさそり男だが、勢いを殺せず立花響から離れてしまう。

 

「大丈夫か?響くん」

「え?指令」

 

響を助けたのは特異災害対策機動部二課の指令、風鳴弦十郎だった。

風鳴翼が立花響に剣を向けた時に地上に向かっていた。

 

 

 

 

「ぬ、特異災害対策機動部の改造人間も来たか。なら…」

 

風鳴弦十郎の姿を確認した蝙蝠男は動き出す。

 

 

 

 

 

「ははは、まさかお前が改造人間だったとはな!弦十郎!!」

 

風鳴弦十郎の拳を受けたさそり男は態勢を立て直し弦十郎に挑みかかる。

 

「だから、俺は人間だと…待て、その声!?」

 

「思い出したか弦十郎!」

 

さそり男の蹴りをガードするが弦十郎の表情は信じられないものを見た顔だった。

 

「…五郎…早瀬五郎か!?」

 

「やっと思い出したか、弦十郎!」

 

風鳴弦十郎には嘗て、親友と呼べる男が居た。

早瀬五郎。

学生の頃からの付き合いで、切磋琢磨し合った親友。

公安の時代にも良き同僚だった男。

しかし、10年前に突如行方をくらませた。

 

「何故だ!?お前程の男が…何故!?そうか!ショッカーに攫われて…」

 

「勘違いするな!俺は自分の意志でショッカーに入ったんだ。全てはお前に勝つ為にな!」

 

さそり男のハサミをかわし正拳突きで反撃する弦十郎。

それを片手で止めるさそり男。

衝撃波が辺りに発生する。

 

「!たったそれだけの理由でショッカーに入ったと言うのか!?響くんがどんな目にあったか…」

 

「そうさせたのはお前だ!」

 

掴まれた手を振り解き後ろに飛ぶ弦十郎だがさそり男の言葉に動きが止まる。

 

「!?」

 

さそり男の剣幕に弦十郎も言葉を出すことが出来ない。

 

「才能の塊だったお前には分からんだろうな、努力してきた奴の気持ちなぞ!」

「…早瀬」

 

「幾ら努力してもお前には追い付けなかった!それどころか、お前は常に先を行き続けた!大した努力もせず!!」

 

「違う、早瀬!」

 

「俺はお前を尊敬していた!だが、その尊敬も嫉妬に代わり、やがては憎しみとなった!そんな時だった、ショッカーが俺をスカウトに来たんだ!人間を超える力が手に入る!お前を超える為に改造手術を受け、さそり男となったんだ!!」

 

「早瀬…俺は…そこまで…お前を追い詰めていたのか…」

 

嘗ての親友の成れの果て。

弦十郎にとって酷くショックであり、隙だらけであった。

さそり男のハサミが弦十郎の腕を切り裂く。

 

「ぐうっ!」

 

「終わりだ、弦十郎」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「如何した?防人。貴様の力はその程度か?」

 

風鳴翼はかまきり男に苦戦を強いらていた。

鎌での鍔迫り合いは力でかまきり男に押され距離を取れば、かまきり男の鎖鎌が厄介だった。

そして、偶に飛ばしてくる毒針が特に厄介だった。

剣で弾いた毒針が戦闘員に刺さり、その戦闘員が白い糸の様な姿になって溶けてしまったのだ。

 

「その武器、封じさせて貰うぞ」

 

次の瞬間、かまきり男の鎖鎌が風鳴翼の刀に絡む。

完全にノイズと違う戦法に翼は翻弄される。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ケケケケケケ!」

 

「うぐっ!」

 

セラセニアンの蔓が響の喉に巻き付く。

何とか振り解こうとするが、

 

「させるか!」

 

空中を飛ぶ蝙蝠男が響に向け口を開ける。

その口から出る超音波が響を苦しめる。

 

「力も碌に発揮出来ん奴が俺達に敵うと思うな!改造人間の性能を発揮せず死ね!」

 

蝙蝠男は更に超音波の出力を上げる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「早瀬、お前がショッカーに入った理由は分かった。…だが、如何なる訳があろうと悪に屈したお前を許しはしない!」

 

「負け惜しみを!」

 

「負け惜しみかどうか…見せてやる!」

 

切られた腕を庇いつつ弦十郎は足に力を入れる。

途端に、弦十郎の足元が陥没し周囲のアスファルトが吹き飛ぶ。序でに、弦十郎の靴も弾ける。

 

「なに!?」

 

まだ、それだけの力があることに驚くさそり男。

だが、驚いたのはさそり男だけではない。

 

「ケケ!?」

「何だこれは!」

「あの男、どんな改造をされたんだ!?」

 

蝙蝠男、セラセニアン、かまきり男、それぞれが驚愕する。

そして、それが隙となった。

 

 

 

 

負ける…もんか負けるもんか…お前達に負けるもんか!

 

「ケ!?」

 

超音波が止まった隙に響は首に巻き付く蔓を思いっきり引っ張る。

弦十郎の行動に意識を持ってかれてたサラセニアンはそのまま引っ張られ響の下に引き寄せられる。

 

「うおおおおおおおおおおおお!!」

 

響の渾身の一撃がセラセニアンの顔に命中し拳の威力に今度は逆に離れる。

セラセニアンの蔓がブチッブチッと千切れ地面を転がる。

立ち上がろうとしたセラセニアンだったが途中で力尽き、緑色の液体と化し地面に消えた。

 

 

 

 

 

 

 

「そんなに、この剣が欲しければくれてやる!」

 

「なに!?」

 

かまきり男の鎖鎌に巻き取られた剣を手放す風鳴翼。

その剣を手にするが、粒子の如く消え元となった柄の部分が残る。

直に、風鳴翼を見るかまきり男だが、其処には誰も居ない。

逃げたかと考えたかまきり男だが、上から歌が聞こえてくる事に気づいた。

見ると、風鳴翼が剣を出し、巨大化させた。

 

「馬鹿な!?その剣はシンフォギアで作られたと言うのか!?」

 

「勉強不足だったな!」

 

巨大化した剣の柄を蹴り抜き自分事、かまきり男に突っ込む。

 

 

天ノ逆鱗

 

 

「ギェギェッギェー!!!!」

 

かまきり男は巨大化した剣に潰され爆炎の中消えた。

 

 

 

 

「サラセニアンだけでなく、かまきり男までも!さそり男、此処は引くぞ!戦闘員の数も少ない!」

「!?ちっ!弦十郎、その首預けるぞ!次に会った時が貴様の命日だ!」

 

今回の襲撃は威力偵察が目的だった。

二人の怪人が敗れた事で蝙蝠男が撤退の指示を出し、さそり男もそれに従い蝙蝠男の足に捕まりその場を去る。

 

「待てっ、早瀬!」

 

弦十郎が追おうとするが残った戦闘員が行く手を阻む。

 

「邪魔をするな!」

 

残った戦闘員を倒した弦十郎だが、その頃には蝙蝠男とさそり男の姿は完全に消えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まさか、早瀬がショッカーに入っていたとは…」

 

怪人や戦闘員を倒した弦十郎と響達は機動二課本部に戻った。

風鳴翼は自宅に帰り、立花響はこの場に居なかった。

傷の手当てをした風鳴弦十郎がソファーに座り、嘗ての親友を思い出す。

 

「早瀬五郎。指令の公安時代の同僚で仕事に対する姿勢も真面目で正義感も強かったそうですね」

「そんな人が、ショッカーに…何で…」

 

オペレーターコンビの藤尭朔也と友里あおいがデータベースにある早瀬五郎の情報を読む。

指令である、風鳴弦十郎にも負けないような経歴だった事に二人はショックを感じる。

 

「俺に対する焦り、奴は努力家だった、だが俺との差に悩んで…俺はそんな事にも気づけなかった。そして、ショッカーは早瀬の心の闇につけこんだ。…だが、奴が悪に堕ちた以上俺がこの手で…」

 

弦十郎が手を前にし拳を握る。

次に会った時に親友との決着を付ける事を心に誓う。

 

「そういえば響くんは?」

「トレーニングルームです。…彼女、まだ諦めてないみたいです」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「balwis…!ゴホッ!」

 

トレーニングルームで歌を歌おうとする響だが一フレーズも歌えず座り込んで咳込む。

最初よりマシだったが、響は何度も続けて歌おうとする。

その度に胸や頭に痛みや不快感が響を襲う。

 

「も…もう一回…」

 

咳が落ち着いた響がまた歌おうとする。

 

「少し、休憩しろ」

 

見ると、腕に包帯を巻いた風鳴弦十郎が水の入ったペットボトルを投げる。

 

「あ…ありがとうございます」

 

ペットボトルを受け取った響は弦十郎に礼を言う。

座って、水をチビチビ飲む響。

弦十郎はそんな響の横に腰を落とす。

 

 

 

「…止めないんですね」

 

暫く、水を飲んでいた響が話し出す。

 

「止めて欲しいのか?」

「いえ、…私、小さい頃から歌うのが好きだったんです。よくアイドルの真似をして家族と笑い合ったり、未く…親友と一緒に歌ったりして。今日、風鳴翼さんと話して思い出したんです。2年前に見たツヴァイウイングを」

「………」

「流行りの歌とかには疎かったんですけど、未来…親友が誘ってくれて。残念ながら親友は急用が出来てしまって一人で見たんですけど、初めて見たライブは感動しました。あんな風に輝きたい、私も歌で皆を感動させたい。…でも、その後のノイズとショッカーの所為で…」

「…響くん」

「私達が何をした!お父さんが何をした!世間は私達を悪者扱い。私の周りからたった一人の親友以外、皆離れて…未来が居ない時にショッカーに攫われて…挙句、改造人間なんて化け物にされた!!」

「………」

「全てショッカーに奪われた。お父さんも人間としての私も家族との生活も…歌う事すら…」

「ショッカーが許せないか?」

「当然、ショッカーは許せません。…でも、それ以上に許せないのは、私の様な被害者が増える事です。だから、ショッカーと戦います!」

「立派だぞ、響くん」

「立派だなんてそんな。ノイズに対抗する組織の指令の方が立派ですよ!」

 

弦十郎に褒められた響は少し嬉しくなりそう返す。

しかし、弦十郎の表情は何処か辛そうだった。

 

「立派なものか。俺は親友と思っていた男の事すら理解出来なかった愚か者だ!」

 

弦十郎は悔しそうに腕を振るわせる。

そこで、響は話題を変える事にした。

 

「あの、指令。私の戦い方を教えてください」

「戦い方?」

「はい。ショッカーに居た頃は人を殺す方法なんて学ばないと意地を張ってた所為で碌に学べなくて…」

「そうなのか?別に構わないが、俺のやり方は厳しいぞ」

「はい!」

「それで、響くん。君はアクション映画は好きかい?」

「…え?」




風鳴翼、初めての怪人戦。
原作より幾分かマイルド。


そして、唐突に生える風鳴弦十郎の交友関係。
仮面ライダーの早瀬五郎の設定が面白かったんでシンフォギアに出して見ました。
最初は、響達の関係者というのも年がいってるしツヴァイウイングの惨劇の遺族も考えたんですが関係性が薄い。
よし、弦十郎の親友にしよう。こんな流れですね。

弦十郎も原作だとああだし、嫉妬の一つや二つはされてるだろう。…たぶん。


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第5話 響と学院

 

 

━━━昨日も響は見つからなかった

 

ある晴れた日の学校、私立リディアン音楽院高等科。

少女達が挨拶したり談笑を楽しんだりしているが一人の少女はそんな気分になれず机に伏していた。

小日向未来

行方不明となった立花響のたった一人の親友だった。

 

 

響、何処に居るんだろう?

私もおばさん達も心配してるんだよ

口の悪い人はノイズに殺されたとか男をつくって逃げたなんて言うけど響がそんな事する訳ない!

そんな響が一年半前に煙の様に消えてしまった

きっと何かあったんだと思うけど警察も未だに何も見つけられず、ワイドショーも情報提供を呼び掛けつつ憶測でものを言って私やおばさん達を傷つけるだけだった

駅前や、人通りの多い場所でチラシ配りをして一年

何の成果も無く、寧ろツヴァイウイングの惨劇の被害者の遺族が私達に怒鳴り散らす

おばさん達はみるみる痩せっていった

私は学生だからっておばさん達が手伝わせてくれるのは休日くらい

響…逢いたいよ。逢って抱き締めたいよう

もう、逢えないなんて私は嫌だよ…響!

 

「ヒナ、何か手掛かりあった?」

 

声のした方を見ると三人の友人が私に話しかける

声を掛けたのは黒鉄色のショートカットが特徴的な安藤創世さん

もう一人が、長い金髪が特徴の寺島詩織さん

最後の一人がツインテールの板場弓美さん

 

「ちょっと、大丈夫なの?」

「あ、うんごめん大丈夫」

 

弓美の言葉にそう返す

正直、ちょっと寝たい

 

「その様子じゃ全然みたいだね。やっぱり私達も手伝おうか?」

「そんな、悪いよ」

 

この三人からは以前から響捜索のチラシ配りを手伝うと言われていた

その度に私は断るようにしている

昔よりだいぶマシになったとはいえ生存者のバッシングを続けてる者も居る

何より、チラシ配りの最中に強引にナンパしてくる輩も滅多に居ないが存在する

それを考えると、どうしても三人を巻き込む事は出来なかった

 

「また断られたか」

「辛くなったら相談して下さいね。私達は小日向さんを応援しますから」

 

詩織の言葉に「うん」と返事をする

早く、響を見つけて三人の事も紹介したい

きっとこの三人なら響も直ぐに友達になれる

 

「あ、そうそう知ってる?今日転入生が来るって」

「転入生?この時期に?珍しいね。アニメみたい」

 

弓美の言葉に私も頷く

でも、転入生か。響だったらいいな。なんちゃって

 

 

 

 

 

「え~と…立花響です。…よろしくお願いします」

 

 

本当に響だった!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

━━━めっちゃ見られてる!未来にめっちゃ見られてる!!

 

親友である小日向未来の居る教室に転入生として来た響は内心焦る。

なぜ、立花響が私立リディアン音楽院高等科に転入したのか、それは三日ほど前に遡る。

 

 

「え、学校ですか?」

「そうだ。このまま本部に籠りっきりで戦う時と修行の時しか外に出てないからな。このままでは不健康だ、だからせめて学校だけでもな」

 

一修行と映画の鑑賞が終了した弦十郎が響に学校に行かないかと誘った。

 

「私も学校には行きたいんです…けど、下手したら学校事体ショッカーに狙われる可能性が…」

 

先日、怪人の半分を倒したが残りは逃走。

その後、度々ノイズを倒した後に戦闘員が襲撃に来るが怪人達の姿が見えず特異災害対策起動部は警戒していた。

 

「その点に関しては問題ない。此方も幾つか対策してあるからな」

「本当ですか?なら私、学校に行きたいです!」

 

このやり取りで響は学校に行くことになった。

 

 

 

━━━だからってリディアンなんて聞いてないよ!それに未来の居るクラスだなんて!

 

響としては、親友である小日向未来を巻き込まない為にもリディアンではない別の学校に行くだろうと予想していた。更に、歌えない自分にリディアンって嫌がらせかなと疑う。

 

弦十郎達にとっては久しぶりに親友と会いたいだろうと気を使い、何よりとある事情によりリディアンは政府との結びつきもあり、少数ながら自衛隊も居る。ショッカーも簡単には手を出せないと踏んでいた。

 

悲しいすれ違いが発生していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねえ、あの娘…小日向さんが探していた人じゃ」

「確か一年半前から行方不明になっていたとか」

「一年半も何してたんでしょ?不潔ですわ」

 

教室内がザワザワと騒ぎ出す。

小日向未来が立花響を探していた事は、学院でも結構知られていた。

何しろ、未来自身が学院でチラシを配り情報提供を呼び掛けてたくらいだ。

 

「なにかあの視線と似てるよ」

 

奇異な目で見られる響だが、少なくともツヴァイウイングの時の様な悪意は感じられない事で内心ホッとする。

紹介も終わり授業に入るが響には別の問題が起こる。

 

「見たことない数式と漢字が一杯ある…」

 

勉強に全くついていけないのだ。

ショッカーに捕まってる間、勉強などやらせても貰えなかった以上仕方ないが。

響の転入初日の授業は散々だった。

 

 

 

「響、ちょっと来て!」

「あ、未来久しぶりってちょっと!?」

 

休み時間となり、他の生徒が響に話しかけるより早く未来が響の手を取り教室を出る。

戸惑う響だが、親友が一年半ぶりに姿を現したのだと納得する。

響にその気が無ければ未来の力では響を動かすのは不可能だ。

未来が向かったのは人通りの無い屋上近くの階段の踊り場だった。

 

「響!一年半も何処に行ってたの!?心配したんだよ!」

 

涙目になりつつ未来は本当に嬉しそうに響に抱き着く。

教室で抱き着かない分自重していたようだ。

 

「うん、ごめんね。未来」

 

久しぶりの親友とのやり取りに響も涙目になる。

抱き合って喜びあいたい。いっぱいお喋りしたい。一緒にお風呂に入りたい。

 

 

無理だ。ショッカーを倒さない限り

 

 

「昨日だっておばさんと一緒にチラシを配ってたんだから!」

「…え?なにそれ、知らない」

 

響が特異災害対策機動部に入って一月。

響と弦十郎達の間でとんでもない齟齬が発生していた。

 

響は、弦十郎達政府の人間が自分が生きている事を伝えてると思い。

弦十郎達も響や他の職員が連絡しているだろうと思い込んでいた。

更に、響の家族のチラシ配りもショッカーの目を欺く為の行動と勘違いしていた。

 

悲しいすれ違いがまたもや起きていた。

 

 

 

「その様子じゃ家にも帰ってないんだね。直ぐに電話して安心させようよ!」

 

後で、師匠の弦十郎に相談しようと考えていた響に未来がそう言う。

今にも、携帯を取り出して電話しようとする未来を止める。

 

「駄目!今教えるのは駄目なの!」

 

響が慌てて未来の肩に触れる。

 

「痛っ!響、痛いよ!」

「ご、ごめん!?」

 

未来の痛がりに慌てて手を引っ込める響。

慌ててたとは言え、そんなに力は入れてなかった。寧ろ力なぞ入れていない。

それにもかかわらず未来の肩から「メキィ」という音と感触を感じていた。

 

━━━やっぱり力の制御が上手くいかない。師匠と特訓しても何も変わらなかった。……私、もう未来と触れ合うことも出来ないんだ…

 

少なからずショックを受ける響は自分の手の平を見る。

師匠である弦十郎に特訓を願い出て幾日が過ぎるが力の制御が上手くいかない。

戦い方が上手くなっただけである。

特訓の最中に弦十郎の腕に触れただけで骨折させかけた事もある。

急遽弦十郎は、響にタマゴを手で別の器に移す訓練をさせるようになったが、少しでも触れるとタマゴが潰れてしまう。未だに一つも成功していない。

尚、潰れたタマゴは特異災害対策機動部が責任もって処理していた。

おかげで職員の中には「タマゴはうんざり」と愚痴を漏らす者も出始めている。

 

━━━こんな手じゃ誰かと手を握る事も……

 

立花響は孤独が嫌いだった。

一時は、迫害されても家族や親友が居た。

しかし、ショッカーに拉致され体を改造された際は一年以上の孤独を味わった。

世界制覇を目指すショッカーの事など理解できる訳も無く、異質な怪人達や戦闘員に響がコミュニケーションを取ろうとしても、善人よりの響とショッカーの操り人形である怪人も戦闘員も話が合う訳がない。

結局、ショッカーを逃げ出すまで響は孤独を味わい尽くした。

 

━━━1人は嫌だ。……でも、

 

「ひ、響。如何したの?」

「ごめん未来。暫く私に話しかけないで…」

「!何で…」

「聞かないで、詳しくは言えないから!」

 

それだけ言って響は一人階段を降りる。

気付けば授業の時間はとっくに過ぎていた。

 

「待って!響、待って!」

 

響の背後から未来が必死に呼び止めようとする声が聞こえる。

しかし、響は止まらない。

もし止まったら、未来が追い付いたら、全てを話してしまうかも知れない。

シンフォギア装者として特異災害対策機動部に入った事や悪の秘密結社に捕まり改造人間にされたなど。

 

━━━でも、未来が酷い目に合う方がもっと嫌だ!

 

響の未来の思う気持ちをショッカーに気付かれる訳にいかない。

 

━━━さようなら、私の「陽だまり」………

 

 

 

 

 

 

教室に戻った響は教師に怒られた後に席に着き、未来も遅かった為怒られる。

その後、歌の授業があったが、

 

「仰ぎ見よ太~♪、ゴホッ!ゴホッ!」

「…立花さん、苦しいのなら見学してなさい」

「いえ、私は大丈……分かりました」

 

歌を歌おうとする響が何度も咳込む姿に見学するよう言う教師。

続けて欲しかった響だが、教師の目が明らかに「邪魔」だという目をしていた。

響は大人しく空いてる座る。

 

「歌唱の授業で見学って聞いたことないけど」

「喉が弱いのかしら?」

「…て言うか歌えないのに何でこの学校に転入したのかしら」

 

響の様子に生徒たちが軽くざわつく。

響に同情的な者、否定的な者、無関心な者と色々居る。

 

「響…」

 

小日向未来が響の名を呟く。

 

 

 

 

 

 

「はぁ~」

 

結局、どの授業も散々な事になった響は帰り支度を始める。

 

「ねえ、ビッキー」

 

本部に戻ったらチラシ配りをするお母さん達の事を相談しようと、

 

「ビッキーてば!」

「え!?」

 

考え事をしていた上に聞きなれない名前に驚く響。

呼ばれた方をみると三人の同級生と思しき女学生と申し訳なさそうな表情をした未来がいた。

 

「ビッキーって、私?」

「そう、響だからビッキー。良いあだ名でしょ」

 

未来の友人、創世の自信満々の姿に呆気にとられる響。

苦笑いする他の二人と未来。

その後、三人と響が自己紹介などした。

 

「それで、響さん。この後どうでしょう?フラワーっていう美味しいお好み焼き屋さんでお食事でも」

「悪くないわね」

「おお、良いね。行こうよビッキー!」

 

一緒に食事に三人。

響と未来が教室に戻った時に違和感を感じ喧嘩でもしてるのかと考え仲直りさせようと考えだった。

未来が語っていた響なら間違いなく乗ってくると思った、

しかし、

 

「…ごめん、私用事あるから」

 

そう言って足早に教室をでる響。

三人が止める間もなく姿が見えなくなった。

 

「ちょっ…早や」

「振られたか」

「小日向さんが言っていた人物像と随分と違いますけど」

 

未来が話していた響と今の響との差異に驚く三人。

 

「響……何があったの?」

 

昔の響との違いに不安になる未来。

また、自分の前から居なくなるのではないか?と思うほど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「皆揃ったようだし、仲良しミーティングを始めましょうか」

 

響は未来達と別れた後、本部に来ていた。

其処には既に風鳴弦十郎、風鳴翼、櫻井了子が居て響が最後だった。後、オペレーターコンビ。

そして、了子が先程の発言を口にした。

 

「ここ一カ月、ノイズの発生がいくらなんでも多すぎる」

「そう言えば、響ちゃんはどのくらいノイズの事を知ってるのかしら?」

「…テレビや昔授業で習ったくらいですね。話し合いが出来ない、人間を優先的に狙ってくる。…そう言えばショッカーがノイズを偶に変な風に呼んでいたような…」

「変な?」

「どんな風に言っていたの?」

「確か…埃をかぶった兵器と」

「兵器?」

「…ショッカーはノイズの事を私達より知ってるのかしら?」

「分からん。ノイズには未だ謎が多い」

 

ショッカーがノイズをどの位知ってるのかは分からない。

どちらにせよ敵であることには変わらない。

 

「只今戻りました、指令」

「緒川か、何か掴めたのか?」

 

扉が開き1人の青年が入る。

特異災害対策機動部二課のエージェントである緒川慎次である。

 

「はい、ショッカーの犠牲者のご遺族との接触に成功しました」

「犠牲…者…」

「遺族か」

 

緒川はネットの片隅にあったショッカーという情報を頼りに遺族との接触し情報を得ていた。

その内容は信じられない物が多かった。

 

「ショッカーの勢力は、すでに世界規模であり、アメリカ、東南アジア、中近東、ヨーロッパ、アフリカ、世界中のテロや内戦を操作してるようで、眉唾ですがあのナチスの深層部とも繋がってたそうです」

「ナチスだと!!」

「あ、歴史の授業で聞いた事あります。でも100年ぐらい前ですよね」

「ナチス。第二次世界大戦時にあらゆる戦争犯罪を起こしたと言われる組織。今でも欧州連合じゃタブーとされてる」

「厄介な話だ。アメリカともなるとますます『デュランダル』を渡せなくなった」

「デュランダル?」

 

響のよく分からないという反応に皆が説明する。

曰く、欧州連合が所持していたが経済が破綻して日本に譲渡。

完全聖遺物と呼ばれ響や翼が所持する聖遺物より希少らしく。

現在は本部の地下のアビスと呼ばれる場所で保管されている。

それをアメリカが安保を盾に引き渡すよう迫り、既にここ数カ月で数万と言うハッキングを受けている。

一度機動すれば装者じゃなくても扱う事が出来る。

ただし、起動させるにはかなりのフォニックスゲイン…歌が必要である。

 

「完全聖遺物って事は、ショッカーも…」

「狙ってくるだろう。間違いなく」

「最後に遺族の一人である石神氏曰く」

 

『警察も…マスコミも…信じてくれない。このままじゃいつか……世界はショッカーに征服されちまうぞ!!』

 

「…やっぱり誰も信じてくれないんですね」

「しょうがないわよ。人は何時でも起きてしまってからしか認めないのよ。自分達が被害に会うまでね」

「…正直、俺も戦闘員を見なければ疑っていたかもしれない」

 

ショッカーが存在する事など一般人には分からない。

秘密結社や世界征服など創作の世界だけの話だと信じて疑わない。

 

その後、マネージャーモードに戻った緒川は、仕事ということで風鳴翼を連れて退室。

残ったメンバーはソファーに座り喋っていた。

 

「それにしても如何して争いって無くならないんでしょ?ショッカーがテロや内戦を操作してる情報を公開すれば……一般人じゃなく師匠や了子さんが言えば皆ショッカーを倒すために団結出来ると思うんですけど」

「無理だな」

「ええ」

 

響の言葉に無理だと断言する弦十郎と了子。

 

「緒川の情報が正しければショッカーの影響力は絶大だ。良くて我々の虚言。下手をすれば我々がショッカー呼ばわりされ潰される。そうならなくても秘密を暴かれたショッカーが如何動くか予想がつかん。隠れる必要が無くなれば堂々とテロ活動を行なうかも知れん」

「それだけじゃないわ。ショッカーの技術は予想より高いわよ。自力で核兵器も作れる程に」

「核…兵器…」

「そんなにか?」

「あの後も、響ちゃんの体を調べて分かったんだけど心臓の近くに超小型の原子炉を確認したわ」

「へっ!?」

「原子炉だと!?」

 

弦十郎の言葉にその場に居た人間達の視線は響に集まる。

自分の胸を触る響。

 

「ああ、安心して放射線とかは一切漏れてないわ。っというか心臓を囲う未知の金属と接続されていて強制的にアウフヴァッヘン波形を発生させ原子炉のエネルギーを使ってより力を高めてるようね」

「そんな事可能なのか!?」

「私だって知らないわ。聖遺物に関しては此方が上だけど、他の技術はどのくらいショッカーが上回ってるのか未知数ね。これを公表すれば世界の原子力事情も一変するわ。でも…」

「核兵器の小型化か…」

「ええ、スーツケースどころかポケットに入る核兵器ってね。ショッカーがその気になれば一般人に化けた戦闘員で主要都市だけ核攻撃も出来るかも」

 

この日、特異災害対策機動部二課はショッカーの恐ろしさを再認識した。




響がリディアンに転入する話。

本当はクリス戦まで行こうかと思ってたんですが学院パートが長引いた。

響が友達と活動出来るのは…Gからかな?

今年で、初代仮面ライダーの放送から50年らしいですね。
あんまり関係ありませんけど、仮面ライダー一号の特殊能力図解によれば小型原子炉は股間についてるようです。


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6話 響の葛藤と白い少女

 

 

 

 

「はぁ~」

 

響が溜息をつく。

現在、歌の練習の授業でまた歌えなかった響が、先生に休んでいろと言われ席についていた。

皆が歌う中、響は窓の外をぼんやりと見る。

思い出すのは昨日の事だ。

 

『響くんの家族?』

『はい、私が無事なのを知らせて貰えれば』

『…まだ、知らせてなかったのか』

『ショッカーの襲撃や師匠との特訓で……それに下手に知らせればショッカーに嗅ぎつけられて…』

『良くて人質。最悪命がないか』

『…はい』

『一応、我々で保護する手もあるが…』

『でも、それってほぼ軟禁状態になるんでしょ。少なくともショッカーを倒すまで…』

『そうなるな』

『お母さんはともかくお祖母ちゃんの健康が心配で。それに、それをやるとショッカーに気付かれる可能性が』

『…なら、秘密裏に守らせるしかないか。調査部から腕利きを出そう。それから、君が無事な事は俺が伝えておく』

『ありがとうございます』

 

ショッカーに嗅ぎつけられないよう、弦十郎が手を打つと言ってくれて安心する響だが、心の何処かで不安にも思う。

 

「……花…ん」

 

緒川の調査でショッカーの勢力は響の想像以上だ。

それに怪人達の能力も未知数だ。

 

「た…花さん!」

 

ショッカーの技術が高いという事は、怪人達の能力も…

 

「立花さん!!」

「ひゃい!?」

 

大きな声に反応する響。

見ると、担任の先生が響を見下ろしていた。

 

「立花さん!見学しろとは言いましたが外を見てて良いとは一言も言ってませんよ!」

「は、はい!」

 

外を見ている響に気付いた担任が声を掛け続けていたが一向に返事も反応もしない事で先生が怒った。

そのまま先生の説教は授業が終わるまで続き、反省文を書かされる事になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…今、戻った」

「あらお帰りって、ほっぺ如何したの?」

 

特異災害対策機動部二課本部。

用事があると言って出かけた弦十郎が帰ってきたが了子が弦十郎の頬を赤くしてる事に気付いた。

それに、髪も出かけた時よりもボサボサしていた。

 

「響くんの家に行って事情を話そうとしたら誘拐犯と勘違いされてな…警察も呼ばれて大変だった」

 

弦十郎は昨日、響に言ったように響が無事な事を伝えに響の家に向かった。

家に着いたまでは良かったが、響の母親と祖母との会話で響を誘拐した犯人と思われた。

娘を返してくれと泣き叫ぶ母親に警察に通報する祖母。

なんとか説得しようとしたら逆上した母親のビンタが弦十郎を襲う。

通報により近くに居た警官が到着し錯乱する母親と祖母と警官に身分を明かす。

警察は直ぐに納得したが錯乱する母親と祖母の説得に骨が折れた。

 

「最終的にはなんとか説得できた。此方の詳しい事情は言えんかったが毎日一回は響くんが電話すると言って納得させた」

「…それ、響ちゃん知ってるの?」

「だから、響くんが戻ってきたらまた説得だ」

 

了子が呆れたような顔をして仕事に戻る。

弦十郎は疲れたとばかりにソファーに座る。

子供を心配する親の姿をまじまじと見せられたのだ。

 

「…つくづく…俺達とは違うな…」

 

弦十郎は一人呟く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…やっと終わった」

 

響が一人、日の暮れかけた教室で反省文を書き終えた。

うっかり、力が入って何本の鉛筆が無駄になったか、

 

「あ、終わった?ビッキー」

「え?」

 

声に反応すると、扉から安藤創世を始めとした昨日話した三人がいた。

さらに後ろには、

 

「響…」

「…未来」

 

昨日、絶交した小日向未来も居た。

一瞬、目が合うが響は直ぐに視線を外す。

その姿に、未来が胸が締め付けられる思いがした。

 

「それで何か用?安藤さん」

創世(くりよ)でいいよ。それでこの後暇?今日の夜沢山の流れ星が見れるんだって。皆で一緒に見ようって話になって良ければビッキーも…」

 

その時、響の携帯の着信が鳴る。

響は、ポケットから携帯を取り出し画面を見た後、電源を切る。

特異災害対策機動部特注でとにかく頑丈な携帯で響が使っても壊れない仕様だった。

 

「ごめん、用事ができた」

 

それだけ言って響は荷物を片付け、教室から出ようと席を立つ。

 

「!待ちなさいよ!」

 

その態度に板場弓美が待ったをかけ響の腕を握る。

 

「放してくれない?」

「あんたと未来がどんな関係でどれくらいのつき合いかなんて知らないわ!でも、友達なんでしょ!?親友なんでしょ!?」

「放して…」

「未来…昨日泣きながら電話してきたんだよ!」

「弓美!?」

「板場さん!?」

「あんた達だって聞いたでしょ!未来の泣き声!あんたと未来に何があったかわ知らない。でも、ただの喧嘩ならもう仲直りしなさいよ!」

「放してぇ!!」

 

響の大声にビクッと硬直し手が離れる。

 

「ただの喧嘩?それだったらどれだけ良かったか。…もう私に関わらないでぇ!」

 

それだけ言って響は教室をでる。

その後ろ姿を見守る事しか出来ない四人。

 

「…何なのよあいつ!」

 

弓美が悔しそうに地団駄を踏む。

 

「弓美…」

「何であいつが泣きそうな顔するのよ!普通逆でしょ!」

 

響の泣きそうな顔に釈然としない弓美達だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これで、未来にも完全に嫌われたかな?」

 

ちょっと寂しいけど少しは安心出来る

私が近くに居なければショッカーも未来の存在に気付かないかも知れない

あの後、私は反省文を職員室の担任に渡して今は地下鉄の駅の入り口に居る

本部からノイズの迎撃要請が出たんだ

駅の階段を見ればノイズが今にも襲い掛かりそうだ

 

「今はあんた達に感謝したあげる」

 

私は心にもない事を言ってシンフォギアに変身する

ノイズに感謝?あいつ等の所為で私はショッカーに狙われたんだ

 

 

あの時、丁度いいタイミングで話を切り上げたんだ

帰る途中、板場弓美に止められたけど

 

「でも流れ星か…」

 

私だって未来と…皆と見たかった

皆と楽しみたかった

でも、私にそんな余裕はない

ノイズだけならまだしも

ショッカーは他の人を犠牲にしてでも私を捕らえようとする

もし、捕らえられたら今度こそ脳改造される

私が私でなくなるのも怖いけど、ショッカーの尖兵にされれば師匠も了子さんも翼さんも…そして未来も…

そんなのは絶対嫌だ!

 

『響くん、一際強力なノイズの反応がある!翼を向かわせたから無茶はするな!』

「分かりました。私は私の出来ることをします」

 

私の拳や蹴りが次々とノイズを砕いていく。

師匠との特訓で普通のノイズには苦戦しない程だ。

途中、葡萄みたいなノイズが自分の体の一部を切り離して爆発させてきたが問題ない。

逃げたノイズを追わな「イーッ!」い!?

戦闘員!?

もうショッカーが嗅ぎつけたの!?

何時もは、ノイズが全滅した後に来るくせに!

 

「私の邪魔をするな!」

 

もう戦闘員との戦いにも慣れた

私の拳が戦闘員を次々となぎ倒す

此奴らを倒して残りのノイズを……

 

「ヒヒヒヒヒヒヒヒ…少しは闘るようになったようだな!」

 

!?この不気味な鳴き声

咄嗟に声のした方を見ると、其処には緑色の体に棘のあり口元が赤くショッカーのベルトを着けサボテンの様な棍棒を持った怪人

 

「…サボテグロン」

 

「教官と言わんか。まぁ、貴様は出来損ないだったがな」

 

嘗て、私の教官役をしてた怪人、魔人の異名を持つサボテグロンが居る

更には、

 

「クワックワックワッ」

「ウヒュー!」

「ウククククク!」

 

右手が蛇で蛇の様な見た目をした怪人、コンドルを基にしたにはクチバシの代わりに鋭い牙を生やし腕から腰に掛けモモンガのような皮膜を持つ怪人、黒と赤の爬虫類のような姿をした怪人

 

「コブラ男にゲバコンドル、ヤモゲラス。そして多数の戦闘員…一人に対して大袈裟じゃない?…!?」

 

何時の間にか師匠たちと連絡が取れなくなってる

妨害電波?

 

「ヒヒヒヒヒヒ、それだけショッカーがお前に注目しているという事だ。かかれぇ!!」

 

サボテグロンの声を合図に怪人や戦闘員が私に一気に群がる。

私は咄嗟にジャンプして戦闘員の一人を蹴り上げる。

 

「隙あり!」

 

コブラ男が右手の蛇を伸ばし私に巻き付けようとするが逆にその蛇を掴んで引っ張る

引っ張られたコブラ男に顔面に一撃を入れてその反動を利用し少し離れた場所に着地する

一撃を受けたコブラ男もあっさりと立ち上がる

致命傷には到底及ばなかったようだ

でも、前より十分…

 

「甘いわ!」

 

次の瞬間、わき腹に重い一撃を受ける

気付いた時には私は壁に激突した

 

「グフッ!」

 

口の中を切ったのか血が飛び出る

見ると私の立っていた場所にサボテグロンがサボテン棍棒を振り切ってる姿だった

 

「戦い方は良くなったがそれだけだ。ノイズや戦闘員には有効だろうがショッカー怪人の相手ではない!」

「ウヒェー!」

 

!?ゲバコンドルがいきなり目の前に!?

近くに寄る素振りすら見えなかったのに!

ゲバコンドルの猛攻に私は防戦一方だった

 

「ゲバコンドルは初期の怪人達の長所を集めた怪人として造られた実験体だ。蜘蛛男達とは比べ物にならんだろ!」

 

このままじゃ不味い!

なんとか脱出したいが周囲は戦闘員と三人の怪人が邪魔をする

多勢に無勢だ

 

「ゲバコンドル!そのまま出来損ないを殺せ!その後、適当に若い女を襲っていいぞ!」

 

その言葉に反応したのかゲバコンドルの攻撃が激しくなるが私の頭の中に疑問が生じる

 

「若い…女を…襲うって…?」

 

「特別に教えてやろう。ゲバコンドルのエネルギー源は若い女の血だ」

 

つまり私を始末した後、若い女性が狙われる

最悪、未来やあの三人が…ダメ!

 

私は攻撃するゲバコンドルの腕を掴み、態勢を変えて一本背負いのように投げる

投げられたゲバコンドルは、ヤモゲラスと何人かの戦闘員を巻き込む

 

「ほう~、やるではないか。狩りはこうでなくては「イーッ!」なって如何した?」

 

1人の戦闘員が慌ててサボテグロンに駆け寄る

戦闘員が慌てて後ろの方を指さし「ノイズ」と言った

見ると、葡萄のような房を持ったノイズが房を切り離し地下鉄駅の天井を爆破した

 

「なにぃ!?」

「イーッ!?」

 

その爆発は凄まじく、崩れた天井や倒れる柱の下敷きになる戦闘員に爆発の余波を受ける怪人達

包囲網が崩れた!

私は急ぎ、ノイズが天井に開けた穴に近づく

爆破したノイズが駆け上がって外に出るのが見えた

後ろを見れば、怪人や戦闘員も爆発の煙や瓦礫で私への対応が遅れて居る

狭い場所は不利だ

私もノイズを追うように穴から出る

 

「逃げたぞぉ!追えぇぇぇぇぇ!!」

 

サボテグロンの声を尻目に私は地下鉄から脱出した

先に、ノイズを倒さないとと考えた直後にノイズに向かって巨大な斬撃が襲う

ノイズはあっさり倒され誰かが空から降りてきた。…翼さんだ

着地した翼さんは私と目を合わせてもくれない

たぶん嫌われている。でも…でも…例え受け入れられなくても、

 

「私だって守りたいんです!家族を!世界を!…親友を。…だから!」

 

受け入れてもらえなくてもいい

それでも、一緒に戦ってほしい

 

「だから?っでどうするんだよ!」

 

翼さんとは別の声がした

まさか、ショッカーが追い付いてきた!?

声のした方を見る

月明かりが照らす中、白い鎧に両肩から紫上の突起物、顔をバイザーで隠してるけど声で女性だと分かる

 

「ネフシュタンの…鎧…」

 

翼さんが呟く

ネフ…何だって?

 

 

 

 

「ネフシュタンの鎧だと!?」

「あらあら、やっと響ちゃんとの通信が回復したと思ったら」

「現場に急行だ!」

 

特異災害対策機動部二課にネフシュタンの鎧の情報が入るや弦十郎と了子は急いで現場に行く。

行方知れずとなっていたネフシュタンの鎧の回収の為に。

 

 

 

 

 

「この鎧の出自知ってんだ?」

 

「二年前、私の不注意で奪われた完全聖遺物…忘れるものか!あの時の失われた命を忘れるものか!」

 

二年前…ただの偶然だよね…

翼さんが叫ぶように剣を白い鎧の娘に向ける

このままでは翼さんと白い鎧の娘は戦う

その前に、

 

「待ってぇ!」

 

「「何だ!」」

 

私の声に翼さんも反応するけど私は白い鎧の娘の見続ける

 

「一つ聞かせて、あなたはショッカーなの?」

 

彼女がショッカーの一員なのか?

もし、ショッカーなら私と同じように改造人間にされたのか?

どうしても知りたかった

 

「ショッカーだ!?あんな連中と一緒にするな!」

 

その答えは予想だにしていないものだった

彼女は本気でショッカーに対する怒りを感じているようだ

ショッカーの事を知っている!?

 

「なら、私達が戦う事なんてない!話し合えば…」

 

「「戦場(いくさば)で何を言っている!…!?」」

 

二人の声が重なり会い二人が互いの顔を見あう

 

「どうやらあなたと気が合いそうね」

 

「だったら仲良くじゃれ「ヒヒヒヒヒヒヒッ」!」

 

白い鎧の娘がしゃべり終える前に不気味な声が…

!忘れてた!

 

 

 

 

 

「見たぞ聞いたぞ!完全聖遺物のネフシュタンの鎧、我らショッカーが貰い受ける!!」

 

 

 

 

地面の一部が爆発し怪人が出てきた

 

「サボテグロン!」

「怪人だと!?」

 

「こいつが怪人?」

 

「イーーーーッ!」「イーッ!」

 

後ろの私が脱出した穴から戦闘員が次々と這い出して来る。

それに、

 

「逃げようとしても無駄だ」

 

コブラ男にゲバコンドル、ヤモゲラス

地下鉄の崩落を受けても無事なんて!

 

「ノイズだけでなく怪人まで来ていたとはな」

 

剣を構える翼さん

それに、ショッカーはあの白い鎧の娘も狙っている

ショッカーの味方じゃないなら共闘出来るかな?

 

 

 

 

 

 

「おい、そこのサボテン野郎!」

 

「ん?」

 

ネフシュタンの鎧を付けた少女がサボテグロンに話しかける。

サボテグロンもそれに反応する。

 

「お前達がショッカーか?」

 

「ほう、小娘がショッカーの名を知ってるとはな。その通り、俺は偉大なるショッカー怪人軍団の一人。サボテグロンだ!」

 

「お前達、ショッカーが内戦やテロを操ってるって本当か?」

 

「よく知ってるではないか。愚かな人間どもを操るなど簡単だ」

 

少女の質問にサボテグロンは答えていく。

この時、サボテグロンは機嫌が良かった。立花響や風鳴翼だけでなくショッカーが喉から手が出る程欲していた完全聖遺物。それが目前にあるのだ。

後は、目の前の少女を殺すなり拉致するなりすれば完全聖遺物が手に入る。

 

しかし、サボテグロンは気付かない。

質問に答えるたびに少女の怒気が上がってる事を。

 

「最後の質問だ、南米のバルベルデもお前たちの差し金か」

 

「…ヒヒヒヒヒヒ、死ぬ前に教えてやろう。バルベルデはショッカーの数ある実験場の一つに過ぎん。怪人や兵器の性能を試すのには良い場所だ」

 

その答えに少女の怒りは頂点となる。

 

「…そうか、ならお前らはアタシの敵だ!!」

 

その少女は何より戦争の火種を作る者を憎んでいる。

 

 

 

 

 




クリスの生い立ち上、ショッカーの存在を許さないと思う。




シンフォギア装者のショッカーへのスタンス

・立花響:自分と同じような犠牲者が出ないようショッカーを倒す。

・風鳴翼:防人の使命を果たす。

・雪音クリス:内戦やテロを操るなんて許さね!融合症例の捕獲?そんなの後だ!


「ショッカーの事、話過ぎたかしら…」


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7話 絶唱と大佐

 

 

アタシは戦争が嫌いだ!大っ嫌いだ!!

内戦もテロも嫌いだ!

パパもママも内戦で殺された!

フィーネから聞かされたショッカーはアタシの大っ嫌いな連中そのものだ!

許して置けるものか!

 

「アタシのパパとママを殺したのもお前達か!」

 

「殺した人間の事なぞ一々覚えとらんわ!!」

 

ネフシュタンの鎧の鞭をサボテン野郎に振り回す

 

「ふんっ!」

 

だが、ネフシュタンの鞭はサボテン野郎の持ってるサボテンにあっさり弾かれちまう。

サボテンがサボテン使ってんじぇねえよ!

 

「どうした?貴様と完全聖遺物の力はこの程度か?」

 

舐めやがって

アタシは、ネフシュタンについてる二本の鞭でサボテン野郎に攻撃する

しかし、鞭はまたもやサボテン野郎のサボテンに弾かれてしまう

なら!

 

「ほう、鞭が効かんとみるや肉弾戦にシフトか。少なくともあの失敗作より才能があるようだな」

 

アタシの蹴りを軽々と避けるサボテン野郎がそんなこと言いやがる

蹴りと鞭の攻撃にも関わらず軽くいなされる

 

「なら、これならどうだ!」

 

ネフシュタンの鞭から黒い電撃を帯びた白いエネルギー球を作りサボテン野郎に投げる

 

 

NIRVANA GEDON

 

 

「何だこれは!?」

 

驚くサボテン野郎にアタシが作ったエネルギー球が迫る

爆発が起き、煙が舞い上がる

直撃した筈だ、いくら改造人間でもあれが直撃すれば無事じゃいられない筈…?

爆心地にはサボテン野郎が影も形も居ない

まさか、消し飛ん「ヒヒヒヒヒヒッ…」!?

どこからともなく奴の声が、

 

「少し驚いたぞ。さすが完全聖遺物といったところか」

 

「何処だ!姿を現せ!」

 

アタシが周囲を見回すが、居るのは政府の特機部二(とっきぶつ)の二人装者と三体の怪人にアタシの周囲も無数の黒い奴等、確か戦闘員だったか、囲んでいる

見える範囲にサボテン野郎は居ない

一体どこに隠れて…待て奴は最初何処から…

 

「お望み通り姿を見せてやる!」

 

軽く地面が揺れた後に、アタシの目前に姿を現すサボテン野郎

あの攻撃が当たる前に地面に潜ってたのか!?

 

「!?」

 

「遅いわ!」

 

アタシが動くより先にサボテン野郎のサボテンがアタシの腹を襲う

衝撃を殺しきれず、アタシはぶっ飛ばされネフシュタンの鎧にもひびが入る

しかし、そのひびもアタシの痛みと引き換えに治っていく

 

「それがネフシュタンの鎧の性能か、ますます欲しくなるというものだ」

 

アタシの悲鳴を聞いたのかネフシュタンの鎧の性能の見当をつけたサボテン野郎

化け物め

アタシが思っていた以上に怪人は強い

このままじゃ返り討ちに…バケモンにはバケモンをぶつけてやる!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「貴様の血を寄越せ!」

 

「いきなり目の前だと!?」

 

私の前にあの娘がゲバコンドルと呼んでいた怪人が現れる

直ぐに持っていた剣で相手をする

ゲバコンドルの一撃一撃が予想より重い

こいつ、かまきり男より強い!

 

「翼さん!」

 

「お前の相手は俺だ」

 

私に駆け寄ろうとしたあの娘もヤモゲラスと呼ばれた怪人が立ちはだかる

怪人など私一人で十分だ!

 

「ハアっ!」

 

私の斬撃がゲバコンドルの体に入る

しかし、ゲバコンドルはそれに構わず私を組み伏せる

 

「血だ、血を寄越せ」

 

ゲバコンドルの口から大量の涎が垂れる

明らかに、私の血を狙っている!

私は咄嗟に剣を上にあげ空から大量の剣を降らせる

 

千ノ落涙

 

剣を柄でゲバコンドルの頭を殴る

一瞬態勢を崩したゲバコンドルから急いで離れる

私が降らせた大量の剣がゲバコンドルに降り注ぐ。

全ての剣はゲバコンドルに刺さる、これなら…

 

「こそばゆいぞ、シンフォギア!」

 

直撃を受けて無傷だと!?

こいつ、ノイズより遥かに耐久力が高い

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「死ねっ!立花響」

 

ヤモゲラスの攻撃をかわす

蹴りや拳もなんとか防ぐ

やっぱり、ヤモゲラスはそんなに強くない

なら、

 

「悪いけど、あなたには私の技の練習台になってもらう」

 

「! 舐めるな!!」

 

逆上したヤモゲラスが私に飛び掛かる

纏でヤモゲラスの攻撃を弾きそらし、川掌で反撃

 

「なにっ!?」

 

態勢を崩したヤモゲラスに靠撃

私の靠撃を受けたヤモゲラスは倒れる

師匠との特訓、無駄じゃなかった!

 

「オッス!」

 

私でも、怪人一体なら十分戦える

あれ?でも、怪人はもう一体…コブラ男は?

迫りくる戦闘員を倒し、周囲を見回し…いけない!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さあ、血を寄越せ!」

 

ゲバコンドルの耐久力は予想以上だ

あれから、いくつかの技を叩き込んだが、まるで効果が見込めない

ゲバコンドルを倒せる火力…もはやアレしか、

だが、アレをやれば私自身もただでは済まない

ネフシュタンの鎧の娘も放置する訳には「死ねッ!」!新手!?

見れば、蛇の様な男の蛇状の右手から何かが噴出された

 

「翼さん!」

 

直後に、あの娘…立花が私を庇った!

蛇が放った何かは立花の背中と足にかかる

 

「あ…ああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!」

 

立花の絶叫にも近い悲鳴が辺りに木霊する

何事かと立花を見ると、背中と足が煙を出しゆっくりと溶けかけている!

 

「立花!?」

 

私は茫然と見る事しか出来なかった

シンフォギアにはバリア機能がある筈なのに…

 

「なんで…バリアが…」

 

「馬鹿め、シンフォギアのバリアはあくまでもノイズの炭化能力を防ぐだけに過ぎん。俺様の溶解液の前では意味などない」

 

私に何かを噴出した蛇…コブラ男が自慢げに語る

 

「本当ならば、俺様の溶解液はお前にかかりお前は骨も残さず死に聖遺物だけが残った筈が。余計な事を!」

 

コブラ男が忌々しげに倒れた立花を蹴り上げる

苦しそうな悲鳴を上げる立花

 

「やめろ!!」

 

私は剣を振り回しコブラ男を遠ざけ、立花の頬に手を当てる

 

「何故…何故だ、立花!何故私を助けた!?私などほおっておけば…」

「そ…そんな悲しい事…言わないでください。…翼さんが…どう思おうと…仲間を…助けるのは…あたりまえ…じゃないですか…」

 

立花は息も絶え絶えで話す

立花の背中の皮膚は溶かされ内部の機械が露になる

改造人間。

まるで実感がなかったが立花は本当に改造人間にされてしまっていたんだ

 

「それにしても、さすが博士の最高傑作だ。既に回復が始まってる」

 

コブラ男の言葉にもう一度立花の背中を見ると、溶けた背中の皮膚が再生し始めている

立花は苦しそうな息遣いだ

普通の人間には不可能な速度だ。これが改造人間か…私は大馬鹿だ!

奏の事ばかり考えて立花の事なんか少しも考えてなかった

ショッカーに拉致され体を改造されて改造人間に、そして父も亡くしてどれだけ不安だったか

立花が生き様を見せた以上、私も…だが

 

「安心しろ、二人仲良くあの世へ送ってやる!」

「殺す前に血を吸わせろ!」

 

私は重傷を負った立花を背負う。目の前には二体の怪人に無数の戦闘員。遠くには立花が倒したと思われるヤモゲラスも立ち上がる

アレを使うには全員巻き込みたいが、立花を背負っての戦闘は無謀の一言だ

何か手は…!

 

 

その時、一筋の明るい緑色の光が走る。光が着弾した場所に、

 

「なにっ!?ノイズだと!」

 

光の後にノイズが現れる

ノイズが戦闘員に襲い掛かる

ノイズが操られている?だが、チャンスだ!

 

 

 

 

 

 

 

「イーッ!?」

 

一体の戦闘員がノイズに取り付かれ炭化した

ノイズの出現にショッカーの連中は慌てふためいてやがる

 

「何だ、それは!?ノイズを大量に出現させ使役しているのか!?」

 

サボテン野郎も慌てていやがる、幾ら怪人だろうがノイズの能力のまえじゃ…

 

「それを寄越せ!それがあればショッカーの世界征服が大幅に進む!」

 

「誰が渡すかよ!くたばりやがれ!!」

 

アタシはソロモンの杖をサボテン野郎の周囲に向ける

明るい緑色の光が出てノイズが大量に出て来る

これで奴も、

 

「ノイズ如きでどうにかなると思うな!」

 

サボテン野郎が周囲のノイズにサボテン棒を振り回す

ノイズはサボテン棒に当たると次々と消滅した!?

 

「うそだろオイっ!」

 

怪人がノイズを倒せるなんて、

 

「グアッ!?」

 

だが、無傷なはずのサボテン野郎が膝をついた

よく見れば、足先や胴体などが炭化してきている

怪人でもノイズは有効みたいだ

 

「脅かせやがって…結構苦しそうじゃねえか」

 

「くっ、ノイズどもめ!相も変わらず鬱陶しい兵器だ!だが、それがあればノイズも丸ごとショッカーの戦力にできる!そうなれば…」

 

「そういうのは、捕らぬ狸のなんたらっていうんだよ!」

 

アタシは更にノイズを出す為、ソロモンの杖を構える

 

 

「あまり、ノイズをポンポンと出されても困るな」

 

 

声のした方を見ると、あのいけ好かねえ装者がドヤ顔で来やがった

…何で融合症例(ターゲット)を背負ってるんだ?

奥の方を見れば三体の怪人がこっちに来てやがる

 

「何しに来やがった!一体も倒してない役立たずが!」

 

「確かに私は役立たずだ。鍛えてきた剣が怪人にも役にたたなかった。それどころか冷たくした私をこの娘…立花に助けられる始末。だが、それも今日までだ!」

 

あのいけ好かねえ装者がジャンプして、小刀をアタシや怪人達に投げつけた

しかし、小刀はアタシや怪人に当たらずそのまま地面へと刺さる

 

「ノーコンかよ!」

 

「追い付いたぞ!シンフォギア装者ども、覚悟しろ!」

 

ちっ!他の怪人どもも着きやがった!

まさか、アタシに全部押し付ける気じゃないだろうな!

 

「奪われたネフシュタンの鎧を取り戻し、汚名を雪がせてもらう」

 

「脱がせるもんなら脱がして…!?」

 

アタシが、怪人どもと一旦距離を取ろうとしたが体が動かねえ!

見れば、怪人どもも様子がおかしい

 

「何だ!?体が動かん!」

「ウ…ウヒュー…」

「…あの小娘が何かしたのか!」

 

怪人どもも動けなくなっている!

一体…何を…!

アタシの視線が、あの女が投げた小刀を映す。小刀はアタシの影事地面刺していた

 

 

影縫い

 

 

「この時を待っていた。お前達がなるべく近くに居る時をな」

 

あの女が融合症例の女を地面に寝かせてこっちを見る

動きを封じたからって何だと…まさか…

 

「う…歌うのか…絶唱を…」

 

アタシの質問に女は笑みを浮かべる

 

 

 

 

 

 

 

 

翼さんが私を地面におろした

コブラ男の溶解液をまともに浴びた私は未だに背中と足に酷い激痛がはしる

 

「翼さん…何を…」

「あなたに見せて上げる。防人の生き様を、その目に焼き付けて置きなさい!」

 

止めてぇ、翼さん!

翼さんの目…あの時のお父さんと同じだ

 

Gatrandis babel ziggurat edenal

 

翼さんが歌いながら怪人達に近づいていく

 

「何だ!?自分へのレクイエムか!」

「おめでたい奴だ!」

 

翼さんの歌の意味に気付かない怪人達が嘲笑う

止めたいのに…体が動かない…

 

Emustolronzen fine el baral zizzl

 

「くそっ!くそっ!」

 

あの白い女の子だけは必死に逃れようと藻掻いてる

 

「体がまだ動かん!戦闘員ども、この女を殺せ!!」

 

サボテグロンも何かに気付いたのかノイズを牽制していた戦闘員に命令をだした

でも、ノイズの出現に多くの戦闘員が炭素化してそんなに数も居ない

それでも、残った戦闘員は急ぎ翼さんへと迫る

立って!立ってよ、私の体…どうして立てないの…

 

Gatrandis babel ziggurat edenal

 

そして、翼さんは怪人や白い女の子の懐まで来た

手を伸ばす必要もない程の距離だ

 

Emustolronzen fine el zizzl

 

「イーーーッ!!」

 

サボテグロンの命令に集まった戦闘員が一斉に翼さんに飛び掛かる

直後、翼さんを中心に大爆発が起こる

 

 

 

 

 

 

 

 

絶唱

 

シンフォギア装者が力を限界以上に開放する歌。

装者にとっての最大威力の攻撃で切り札と言える。

しかし、装者への負荷も凄まじくはっきり言って諸刃の刃である。

事実、風鳴翼の前パートナーであった天羽奏も絶唱を使い死んだ。

それを、風鳴翼が使ったのだ。

 

 

 

 

 

最初は、飛び掛かった戦闘員が文字通り消し飛んだ。

緑色の泡になる事もなく瞬時に、

 

「た…たかが歌程度に!?」

 

怪人達も絶唱のエネルギーを諸にくらった。

ヤモゲラスが耐え切れず爆散し、続いてコブラ男も爆発する。

 

「血…血を…!」

 

耐久力で風鳴翼を驚かせたゲバコンドルも遂に耐え切れず爆発する。

爆発のエネルギーは周囲に展開していたノイズ達も巻き込み消滅させていく。

 

「これが…シンフォ…ギア…」

 

最後のサボテグロンも爆発し消滅した。

これで、怪人は全滅した。

 

「あああああああああああああ!!!」

 

悲鳴を上げ、吹っ飛ばされる少女。

ネフシュタンの鎧の防御力のおかげか怪人達のようにはならなかったが、砕けたネフシュタンの鎧が少女の体を蝕む。

負傷した少女は空を飛び、逃げていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

「翼さん…」

 

ろくに立つ事も出来ない私は地を這ってでも翼さんの下へ行く

了子さんが前に言っていた絶唱…もし本当だったら翼さんが…

 

「これが…人類守護…の務めを果たす…防人」

 

私に振り替える翼さんの顔は、目や口から大量に出血していた。これが絶唱…

 

「翼さん…喋らないで…直ぐに行くから…」

 

未だ、立ち上がれもしない私に何ができるんだろう?

それでも、翼さんの傍に…軽い処置は出来るかもしれない

 

「…こんな所で…折れちゃいけないの…」

 

翼さんが地面に倒れた!!

早く、早く!何で早く動いてくれないの私の体!

これじゃ…

 

 

 

 

 

パチィ…パチィ…パチィ…

 

 

 

 

何か聞こえる。まるで一人の人間が拍手するような…

 

「これが絶唱か、データで見ていたがこの目で見れるとはな」

 

誰か居る!林の奥の方から誰かが出てきた。

だが、数は一人ではない。少なく見ても20人程はいる

暗い中、月明かりに照らされたその姿は、

 

「さそり男…」

 

最悪だ!

以前、私たちを襲ってきた、さそり男に多数の戦闘員。それから…

 

「私の知らない…怪人?」

 

蜘蛛男の様な角みたいな物を持った昆虫のような怪人だったが、私はその怪人を見た事がない

それにもう一人、

 

「だ…れ…」

 

軍服を着て左目にアイパッチを付けた男がいた

 

「名乗っても意味はない。これから貴様らを基地に連れていき改造手術と脳改造を受けるのだ」

 

軍服の男が合図を送ると控えていた戦闘員が私達に向かってくる

私だけじゃなくて翼さんまで拉致する気だ

翼さんは絶唱で倒れて、私はこのざま

このままじゃ、抵抗も出来ずにまた連れていかれる

力を入れようとしても立つことすら出来ない。見れば足の方も完治した筈なのに…

 

「体が完治したのに動けなくて不思議そうだな。コブラ男の毒には改造人間の体をマヒさせる能力がある。もう暫くはそのままだ」

 

マヒ!コブラ男の毒にそんな効果が!

戦闘員の手がすぐ其処まで…ここまでなの?

 

私が一瞬だけ諦めかけた時、車のエンジン音が近づいてくるのに気付いた

戦闘員が逃げる様に私達から離れると一台の車が急停止した

 

「大丈夫か!翼、響くん!」

 

師匠だ

了子さんと師匠が来てくれた

 

「チッ、予想より早かったな!」

 

軍服の男が残念そうな顔をしたが直に笑みを浮かべる

 

「何者だ!怪人ではなさそうだがショッカーの手のものか!」

 

師匠も軍服の男に気付いて私や翼さんの前に立って臨戦態勢に入る

私も軍服の男は気になっていた

 

「控えろ人間!この方こそショッカーの最高の実力者、ゾル大佐だ」

「止めんか、地獄サンダー」

 

軍服の男の代わりに傍に居た見たことない怪人が喋った

ゾル大佐…やっぱり、私の記憶にはない

 

「大佐だと、軍の関係者か!」

 

「元…ではあるがな、それよりいいのか?その娘、間もなく死ぬぞ」

 

ゾル大佐が手に持つ鞭で倒れている翼さんを指す

 

「…翼。了子くん、翼と響くんを急いで病院「死ねぇ、弦十郎!!」に、早瀬!」

 

師匠が僅かな間だけ了子を見た瞬間、さそり男が襲い掛かって来た

さそり男のハサミを避けつつ師匠も反撃する

 

「止めろ、早瀬!今はそれどころじゃない、昔の事を思い出せ!」

 

「人間だった頃の記憶なぞ何の意味がある!俺はお前に勝つために再改造によって更に強くなった!この力が俺の総てだ!!それに言った筈だ、次に会った時が貴様の命日だとな!」

 

さそり男の猛攻に師匠も押されてる

あれ?師匠の目が変わった?

 

「…そうか、お前はもう昔の早瀬じゃないんだな」

 

「何度もそう言った筈だ」

 

「ならば本気で来い!俺は全身全霊でお前を殴る」

 

「いいだろう、俺も自慢のハサミでお前を切り刻む!」

 

二人が一旦距離をとる

その間に了子さんが翼さんを応急処置して車に運び入れる

 

「死ねぇぇぇぇぇぇぇ!!」

「馬鹿野郎っぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 

師匠の拳とさそり男のハサミが激突

師匠の拳から血が噴き出す

 

「師匠…!」

 

勝利を確信したさそり男が笑みを浮かべるが、ハサミに亀裂がはしる

亀裂はハサミだけではない、左腕全体に広がり体にもヒビが入る

 

「何だと!?」

 

さそり男が驚愕の声を出す

そして、遂にハサミは左腕ごと粉砕され師匠の拳がさそり男の体に打ち込まれる

師匠の拳をまともに受けたさそり男は地面へと倒れる

 

「忘れたか、早瀬。飯食って、映画観て、寝る!男の鍛錬はそいつで十分だ!改造手術など必要ない!」

 

「だから…それは…お前だけ…。昔から…そういうとこが…嫌いだった…」

 

さそり男の体が赤い液体となり泡になって消えた

師匠が勝った!

でも、師匠の顔はとても悲しそうだった

 

「ほう、人食いサソリを使ってなかったとはいえ、さそり男を倒すとはな。特異災害対策機動部二課の改造人間の力見せてもらったぞ」

 

師匠とさそり男の戦いを見終えたゾル大佐が喋る

 

「!だから、俺は改造人間じゃない!ただの人間、風鳴弦十郎だ!!」

 

師匠が声を高く主張してる

そういえば、ショッカーからずっと改造人間扱いされてたな

 

「嘘も休み休み言え、貴様のような人間が…風鳴?…貴様、風鳴と言ったか!」

 

ゾル大佐が師匠の苗字に反応した?

 

「あ、ああ」

 

「ふむ、…訃堂は元気か?」

 

訃堂?誰だろ

師匠の表情が固まってるけど

 

 

 

 




怪人達が絶唱を受けた話。
みんな大好きゾル大佐登場。


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8話 響の心

「…辛うじて一命はとりとめました。ですが容体が安定するまで絶対安静。予断の許さない状況です」

「よろしくお願いします」

 

あの戦いの後、風鳴翼は病院に運ばれ緊急手術となった。

風鳴翼の担当医と弦十郎が先程のやり取りをした。

 

「…それから立花響くんですが…家で見るのは難しいですね」

「そんなに重症なんですか!?」

「いえ、もう直ぐ動けるようにはなりますが…我々があの体を見るのは不可能と言っていい。我々ですら見たことない機械に原子炉、心臓は妙な金属の所為でレントゲン検査も出来ない。脳は一部機械化され迂闊に触れない。あの体に我々が出来る事はありません。どうやって彼女に取り付けたのか医者として興味がありますよ」

「そう…ですか…」

「…こんな事言いたくはないんですが彼女は本当に人間なんでしょうか?人間そっくりのロボットと言われたら私は納得してしまう」

 

この病院の医者は特異災害対策機動部二課との繋がりもあり優秀であった。

そんな、彼らですら響の体を見るのは不可能だと判断した。

そして、この医者は響を恐れている。いや、この医者だけではない。

響を見た医者や看護師は少なからず響を恐れる。

当然だ。

あれだけの機械が拒否反応もなく正常に動いているのだ。投薬もせず。

 

「私がこんな事を言うのはあれですが、彼女の体は異端技術の固まりと言っていい」

「異端…技術…」

 

弦十郎は心で「それでは響くんが聖遺物みたいじゃないか」と考える。

そして、それだけショッカーの技術も高いということだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、昼

響はリディアンの屋上のベンチに座っていた。

風が響の頬を撫でる。

 

「うん…分かってる。暫くは会えないけど…うん。じゃあね、お母さん」

 

響が携帯の電源を切る。

弦十郎の説得で家に電話していたのだ。

最初は、母親が頻りに「元気か?」「病気してないか?」と聞かれ響も焦った。

それでも、久しぶりに聞く母親やお祖母ちゃんの声を聴けて嬉しかった。

しかし、これ以上話すと家族に会いたいという気持ちが強くなると考えた響は「そろそろ授業だと」言って電話を切った。

 

「…ゾル大佐…」

 

響は暗い気持ちになりかけた所で宿敵の名を呟く。

思い出すのは昨日の事。

 

 

 

風鳴翼を入院させ、響も即退院して特異災害対策機動部二課本部でまたミーティングを行っていた。

 

「…指令、出ました」

 

オペレーターの一人がキーを操作し、モニターにある人物が映る。

ショッカーのゾル大佐だ。

 

「やはり出たか」

「…本名、バカラシン=イイノデビッチ=ゾル。ドイツ国防軍の大佐でナチスにも所属していたようです。欧州でも未だにA級戦犯として手配されてます。間違いなく100年前の人間です」

「それだけではありません。ゾル大佐はあのアウシュビッツのガス管理人としても有名だったようです」

「ガス管理人?」

「…アウシュビッツには収容された人間を使って毒ガスの実験をしていたなんて言われてるのよ。たぶんそれね」

 

オペレーター達の報告と了子の言葉に一同は声もでない。

まさか、本当にナチスが現代まで生き残っていたとは。

 

「ナチスと関係があったと聞いたが、奴自身がナチスだったのか!」

「…噂じゃアウシュビッツ強制収容所には人間を改造していたっていう都市伝説まであるのよね。…やだ、現実味帯びてきたじゃない」

 

「更に、指令。これを見てください」

「ん?この映像は?」

 

モニターには中東と思しき場所と爆発する映像が流れた。

 

「3年前に起こった中東での爆弾テロです。ハト派の政治家が殺され民衆にも多大な被害を出した事件ですが私が見て欲しいのはこれです」

 

オペレーターの友里あおいがキーを弄り、モニターの一角を拡大する。

そこには、

 

「え?」

「ゾル大佐だと!」

 

かなりぼやけてるが、映像にはゾル大佐らしき人物が映っていた。

 

「まさかこれも!?」

「分かりません。偶然か実行したのかは不明です。…ですが、この爆弾テロの犯人は未だに捕まっていません」

「更に、これがきっかけで収まりかけてた内戦が再開したそうです」

「ショッカーが内戦やテロを操ってるってこういうこと?」

「かもしれんな」

 

一同は再び静まり返る。

ゾル大佐が思っていた以上に大物だったからだ。

 

「それにしても、100年前の人間にしては随分と若いわね。子孫が名乗ってる可能性はないのかしら」

「…わからん。ショッカーの技術は未知数だ。それにしても、100年前の人間が何故今更…」

 

弦十郎はゾル大佐とのやり取りを思い出す。

 

『貴様…親父…あの人と何の関係が…』

『親父?ほう、あの頑固者が所帯をもっていたか。それにその反応、まだ生きてるようだな。それにしても、風鳴の血ならその強さも納得だ。貴様が改造人間になれば、さぞ素晴らしい怪人が出来るだろう。どうだ、ショッカーに入る気はないか?』

『………』

『だんまりか、まあいい。ならば言付けを頼むとしよう』

『言付けだと?』

『近々異国の友が会いに行く。そう伝えればいい。…そうそう、最後に一つ言っておこう。私の名を聞き、姿を見た者は必ず死ぬ。覚えておけ』

 

それだけ言って、ゾル大佐は弦十郎達の前から消えた。

ナチスの生き残りが親父に何の用だと考える弦十郎。

 

(あの護国の鬼に異国の友人?何の冗談だ)

 

「しかし、中近東のテロに関わってるかもしれない奴が日本に…」

「…どうしてでしょうね」

 

「私の所為です」

 

響の言葉に皆が一斉に響に視線を向ける。

響は、俯きながらも淡々と呟く。

 

「私が悪いんです。一年半前も今回の事も、私がショッカーから逃げた所為で怪人たちが翼さんにも…私の所為で翼さんは怪人たちの相手までしなきゃいけなかったんです。私が居なければ怪人たちも現れず翼さんも鎧の娘だけ相手にして今回みたいにはならなかったかも知れないのに…それなのに…全部私の所為で…」

「響くん?」

「響ちゃん?」

「挙句の果てに翼さんも師匠も了子さんもショッカーに狙われてしまって…全部私が悪いんです!生まれてきてごめんなさい。生きていてごめんなさい。ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい…」

「…了子くん」

 

泣きながら謝り続ける響に弦十郎は了子に視線を送る。

了子は頷き、響を医務室へと運んだ。

 

「…響ちゃん、そうとう参ってますね」

 

了子と響が退室した部屋で、オペレーターの藤尭朔也が呟く。

 

「仕方ないだろう。多感な時期にショッカーに拉致され体を改造され、一年以上の世間と隔離されてたんだ。そして、響くんは優しく責任感も強い、怪人や戦闘員との戦いに疲れてるのかもしれん」

「…怪人達も言うなればショッカーの犠牲者ですからね」

「ある意味、脳改造された響ちゃんと言ったとこでしょうか?」

「…かと言って、早瀬のように自らショッカーに入った者もいるだろうな」

「指令…やはり早瀬さんの事をまだ」

「分かってる。大人の俺が…俺達がしっかりしなければ…だが、それでもアイツは親友だったんだ…俺のかけがえのない…友だった」

 

弦十郎の呟きに誰も何も言えない。

親友だった男をその手で殺した。弦十郎にとっても心に傷を受けていた。

 

 

「響ちゃん、元の体に戻れないんでしょうか?」

「…私見だが、あそこまで改造されては…」

 

部屋に残った者たちは暗い顔をした。

 

 

 

 

 

 

 

私はあの後、了子さんのカウンセリングを受けて何とか持ち直した

師匠たちはゾル大佐こそ、ショッカーの首領格と睨んでるけど…私が手術前に聞いた声とは違う気が…機械で声を変えてると言われればそれまでだけど

 

「ナチス…」

 

ナチス。第二次大戦で敗北して消滅した組織

でも、消滅した筈の彼らがショッカーを結成したの?

分からない事が多すぎる

 

「…響」

 

懐かしく、今一番聞きたくない声がした

声のした方を見ると、やっぱり未来が居る

出来れば今日は会いたくなかったのに

 

「隣…良い?」

 

私は未来の言葉を無視する

そうすればきっと未来も私が嫌いになる筈だ

きっと…

 

「勝手に座るね」

 

何時までも、私が反応しないから未来が座ってしまった

どうしよう。未来が隣に居るだけで嬉しくなる

未来の手が私の手に重なる。暖かい…

 

「響、無理しないで」

 

やっぱ未来は凄いな。一年半以上会ってなかったのに私の事分かるんだもの

でも、

 

「無理なんてしてないよ」

 

やっぱり未来を巻き込む事は出来ない!

 

「嘘言わないで。私は響が響のままでいて欲しいの」

「私が私のまま?」

「そう、変わってしまうんじゃなく響のまま成長するんだったら私も応援する。だって響の代わりは何処にも居ないんだもの。居なくなって欲しくない」

 

 

 

「…何それ!」

「響?」

 

響の突然の反応に未来は息をのむ。

何時の間に手も放していた。

 

「私が私のままって何!?一年半前の私?それとも今の私?私だってこんな風に変わりたくなかった!普通に過ごしたかった!あいつ等に攫われて体を弄られえて化け物に…!」

 

そこで、響はハッとした。

未来に言っても仕方がない。むしろ、これ以上の会話は未来を危険に晒すと気付いた。

 

「響!その話どういうこと!?『あいつ等』って誰!?『体を弄られた』ってどういう事!?」

 

未来が響に詰め寄る。

何かしらの変化があったのは未来も分かってはいた。

しかし、響の口からは予想よりも酷い単語が出て未来も気が気でなかった。

 

「…ごめん!」

「響!?」

 

未来の質問攻めに響は屋上から逃げた。

響の目から涙が零れる。

そして、屋上に残された未来は去り行く響を心配そうに見ていた。

その日、響は早退した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

人里離れた海の近い断崖絶壁。

交通の便が悪そうな場所に一軒の屋敷があった。

 

「うあああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」

 

少女の悲鳴が屋敷から聞こえる。

 

「どう、クリス。少しは反省した?」

 

別の女性が悲鳴を上げた少女に声をかける。

屋敷の中では磔にされた少女と全裸の女性が少女の傍に立っている。

悲鳴を上げた少女はネフシュタンの鎧を着ていた少女だ。

 

「苦しい?可哀そうなクリス。あなたが悪いのよ、誘いだされたあの娘を此処まで連れてくれば良かったのに、無視してショッカーの怪人に夢中になった上に空手で戻って来るなんてね。何よりショッカーの前でソロモンの杖を使ったのは不味いわね」

「でも…」

「ん?」

「でも、ショッカーの連中を放置なんて出来ない…。戦いの原因を生み出すあいつ等をぶっ潰せば争いが減ると思ったんだ…」

「そうね、確かにショッカーは邪魔よ。でもね、ショッカーを潰したところでショッカーに代わる別の組織が出るだけよ」

 

クリスと呼ばれた少女の頬を触れた後、全裸の女性は傍にあったレバーを下ろす。

途端、クリスの体に激しい電流が襲う。

 

「うああああああああああああああああああああああああああああ!!!」

「可愛いわよ、クリス。私だけがあなたを愛してあげられる」

 

苦しむクリスの姿を楽しそうに見る女性。

暫く楽しんだ後、レバーを戻しクリスに触れる。

 

「聞きなさい、クリス。痛みだけが人の心を繋ぐ絆と結ぶ世界の真実だということを。さあ、食事にしましょうか」

 

女性の言葉にクリスは嬉しそうな表情をする。

しかし、クリスは気付かない。

女性が邪悪な笑みを浮かべてる事を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから、間もなく特異災害対策機動部二課に凶報が入った。

自分達の後ろ盾だった広木防衛大臣が殺害された。




響「ショッカーの所為で私の心はボドボドだ!」

この作品の響は原作の響よりメンタルが脆いです。
原作通りの未来のセリフが響を余計に傷つけるという。

そして、ショッカーの所為で全く話題にならないクリス。


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9話 深淵の底より地獄の歌を

 

 

「広木の小僧が死んだ?先を越されたか」

 

薄暗い部屋の中、ゾル大佐が部下の報告を聞いていた。

 

「此方はどう動きますか?」

「腰抜けの官僚どもの動きはある程度は分かるが…スパイ共の報告は?」

「はっ、此処に」

 

ゾル大佐の部下が書類を渡す。

幾つかの書類に目を通したゾル大佐は笑みを浮かべる。

 

「デュランダルが動く。リディアン音楽院の監視を厚くしろ!奴らは必ず近日中に動く」

「「「「イーッ!!」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「名付けて天下の往来独り占め作戦」

「あ…はい」

 

了子さんの作戦名に思わず戸惑う私

私達は現在、早朝に車の前に立っていた

完全聖遺物のデュランダルを永田町へ移送するためだ

 

事の発端は、特異災害対策機動部二課の後ろ盾だった防衛大臣が殺されたからだ

ショッカーがやったのか別の勢力かは分からない

それでも、直前に了子さんが政府の機密指令が入ってるチップを持って帰りこの作戦が組まれた

リディアンを中心にノイズが発生してるのは、特異災害対策機動部二課の最奥、アビスに保管されてるデュランダルが目的と政府は考えて、永田町最深部の特別電算室に移すらしい

途中、ショッカーの襲撃の可能性がある以上、警備は厳重にされるようだ

 

「それじゃあ、頑張りましょう」

 

了子さんの言葉に私も頷く

時間は丁度、明朝5時となっていた

 

 

 

 

 

 

 

 

五台の車が誰も走ってない道路を走る。

風鳴弦十郎が広木防衛大臣殺害犯の検挙という名目で一部、道路の検問をしていたのだ。

五台の車はスムーズに走り、弦十郎が乗るヘリも上を飛ぶ。

このまま行けるかと思われたが、

 

『了子くん、気を付けろ!検問を突破したバイクの集団が我々を追ってきてる!』

「「え!?」」

 

弦十郎の言葉に了子と響がバックミラーを見ると米粒大に見えた黒い集団が自分達を追ってきていた。

ショッカー戦闘員のバイク部隊だ。

それだけではない。軍用の輸送トラックも何台か走っていた。

バイク部隊は徐々に五台の車に接近する。

 

「イーッ!」

 

乗っていた戦闘員が最後尾の車を蹴りだす。

車の方も負けじと横にぶつけたりする。

その途端、橋の一部が崩れ、回避し損ねた一台の車と数台のバイクが橋から落下した。

 

 

 

 

 

「不味いな、戦闘員の反応的にノイズまで「指令!」い…どうした?」

「レーダーに何か近づいて来る物が」

 

パイロットの言葉に弦十郎もレーダーを見る。

確かに、何かが近づいてくるのが分かった。

 

「一体なにが」

 

弦十郎が、レーダーの差した方角を見ると三機のヘリが見えた。

一瞬、味方かと考えたがどうも様子が可笑しいと気付いた瞬間、一機のヘリが此方にミサイルを撃ってきた。

 

攻撃ヘリ(アパッチ)だと!」

 

 

 

 

 

 

『すまない、了子くん!こいつ等を振り切る為に暫く離れる!』

「え!?ちょと…」

 

師匠の突然の離脱宣言に師匠の乗っていたヘリを見る

弦十郎の乗るヘリは別の二機のヘリの機銃を避けつつこの場を離れ一機のヘリが近づいてくる

 

「了子さん!」

「今時攻撃ヘリ!?まさかアメリカ!?」

 

了子さんの声に私はヘリの操縦席を見る

そこには、見慣れた戦闘員の姿が、

 

「いえ、操縦してるのは戦闘員です!ショッカーです」

「あいつ等、秘密の意味知ってるかしら!」

 

攻撃ヘリの機銃が火を噴き、隣を走っていた護衛の車を穴だらけにする

護衛の人達もろとも車は爆発した

護衛の車は残り二台

 

「了子さん!」

「しっかり掴まってなさい響ちゃん」

「へ?」

「あたしのドラテクは狂暴よ」

 

私達は、橋を渡り切り市街地へと走る

それにも関わらず戦闘員の乗ったヘリの機銃がまた火を噴く

狙いは私達の乗る車。了子さんの運転で次々と弾をかわす。右へ左へ、上へ下への移動に攻撃ヘリの機銃がかすりもしない

 

「了子さん、凄いです!」

「でしょ~、へ?」

 

了子さんの表情が突然凍り付く

私も了子さんの見たバックミラーを見ると二つのミサイルが接近…ミサイル!?

 

「うっそでしょ!!」

 

了子さんが咄嗟に急ブレーキを踏みスピードを殺す。ミサイルは通り過ぎるが、その間に戦闘員のバイク部隊と近づいてしまう。急発進で移動するが、上にはショッカーの戦闘ヘリが、

 

「あいつ等、デュランダルがこの車に乗ってる事知らないの!?」

「…多分、手に入らないなら壊してしまえの精神なんじゃ…」

「傍迷惑過ぎ!?」

 

了子さんがまたハンドルを切る

私達が走っていた場所に機銃の弾が地面に降り注ぐ

 

次の瞬間、先頭を走っていた護衛の車がマンホールから噴き出した水に空に飛ばされる

飛ばされた車は私達を攻撃し続ける戦闘ヘリに直撃し爆発した

炎上し墜落するヘリは何台かのバイクを巻き込む。それでも、ショッカー戦闘員のバイク部隊はなお多かった

護衛の車は残り一台

 

「ラッキー!…って言ってる場合でもないわね。ノイズも私達を狙ってるみたい」

「どうするんですか?…うわっ!?」

 

ヘリや車の残骸をものともせず輸送トラックが迫る

途中、戦闘員の乗る一台のバイクが残骸に引っ掛かり転倒するするが、輸送トラックは見てないかの様に倒れた戦闘員を轢き私達へと迫る

 

「…流石悪の組織ね、部下が倒れようが知ったこっちゃないってわけか」

 

バックミラーでちょくちょく確認していた了子さんも顔を引きつらせている

その間にも、輸送トラックが近づく、後ろに回ってた護衛の車に何度も体当たりしてスリップさせた。止まってしまった車は別の輸送トラックにぶつかられ爆発した。ぶつけたトラックは何事もなかったかのように私達に迫って来る

 

「少しは減速しなさいよ!どういう構造なの、あのトラック!」

 

了子さんの文句は私も同感だ。私達の護衛は全滅した

 

護衛の居なくなった私達の車に輸送トラックが側面から体当たりしてくる

トラックからの衝撃に了子さんも苦戦する

 

「…あいつ等、私達を強制的に誘導してるわね」

「え?」

「この先に薬品工場があるんだけど、そこでショッカーが仕掛けたいようね」

「脱出は?」

「…無理ね。四方をトラックに囲まれてオマケにバイクに乗った連中も居るわ。馬力は当然トラックが上」

「なら、ショッカーの企みを正面から叩き潰すだけです」

「あら言うようになったじゃない。自信は?」

「昨日、師匠に徹底的に鍛えて貰いました」

「勝率は?」

「師匠なら『思い付きを数字で語れるものかよッ!!』って言いますね」

「OK!」

 

腹を括った了子さんが一瞬の隙をつき、トラックの包囲を抜け出す

薬品工場側のガードが甘かったおかげだ

トラックが私達を追うが途中のマンホールからノイズが飛び出し、トラックに取り付く

突然のノイズの出現に、トラックはハンドル操作を誤り、仲間のトラックを巻き込み事故を起こす

爆発炎上によりトラックの数がやっと減った

 

「やりましたよ、了子さ!」

 

敵の数が減ったことに喜ぶのも束の間、工場のパイプにタイヤが接触し私達の乗る車がひっくり返る

ひっくり返った車は暫く回転してやっと止まった

了子さんがちょっと気持ち悪そうにしていた

ドアを開いて外に出ると、トラックから降りた戦闘員が私達の前に、

 

「了子さん、これを!」

 

私はデュランダルが入ってるケースを()()()()()()()()

 

「え…ええ」

 

了子さんが渡されたデュランダルを両手で持ち重たそうに私達と少し距離を取る。…重いんだアレ

でも、今はショッカーにデュランダルを渡さない事が先決だ!

 

「フフフ…よく来た、立花響に櫻井了子。此処が貴様たちの終着点だ」

 

何処からともなくゾル大佐の声が…居た!薬品工場のタンクの上だ

ゾル大佐の合図に戦闘員が襲い掛かる。攻撃を回避し反撃しようとするが足がグラつく。ヒールが邪魔!

私は躊躇う事もなく足のヒールを取り、構える

思い出すのは昨日の師匠とのやりとり

 

『いいか、響くん。君はもう攻撃力自体はある。後はそれをどう生かすかだ』

 

あの後、師匠とカンフー映画を見まくって練習も少しだけした

 

「イーッ!」

 

何人かの戦闘員が剣を武器に襲い掛かる

攻撃を避けた私はカウンターとして一体の戦闘員に冲捶を繰り出す

更に、別の戦闘員にも回し蹴りを喰らわす

 

 

 

 

 

「あの娘…ヤモゲラスの時より動きが良くなってる。最早、戦闘員では相手にならん…ならば」

 

響の戦う姿を見て強くなったと思いつつも笑みを浮かべる

 

 

 

 

 

 

戦闘員は次々と倒され緑色の泡となって消えていく

これなら…

 

 

ウヒヒヒヒヒヒヒ

            フアフアフアフアフア

                       イヒヒヒヒヒヒヒヒ

 

 

不気味な声、怪人か!

 

「死ね、立花響!」

 

蟹のような怪人が左腕のハサミで切りかかってくる

一旦、距離を取るが、怪人が何人も居る

カエルみたいな奴や、魚のような奴とまるっきりヒトデも居る。どれも私が見たことない連中だ

 

「ちょっと、何体の怪人を連れてきたのよ」

 

「八体だ。そうだ、これから死ぬ貴様も相手の名くらいは知りたいだろう。お前達名乗ってやれ!!」

 

了子さんの言葉にゾル大佐が答える。そして、ゾル大佐の命令通り怪人達が名乗りをあげる

 

「ガマギラー!」「クラゲダール!」「エイキング!」「カニバブラー!」「ピラザウルス!」「ヒトデンジャー!」「アマゾニア!」「ムカデラス!」

「これだけの怪人軍団を相手に出来るか?」

 

正直厳しい。でも私がやらなきゃ「悪いがアタシも相手だ!ショッカー」!

あのネフシュタンの鎧の娘が何時の間にか別のタンクの上に居た。

もしかして味「そいつはアタシが連れていくんだ。邪魔をするな!」方…ではないらしい

 

「完全聖遺物の娘か、邪魔をするのなら貴様も死ねぇ!」

 

「ならこういうのは如何だ!」

 

そう言って、ネフシュタンの鎧の娘は手に持っていた白い奴から明るい緑色の光を放つ

光が着弾した地面にノイズが大量に出て来る

成程、怪人が幾ら強くてもノイズの炭化能力でいつかは灰になる。これなら…

 

「愚か者め!何時までもノイズに苦戦するショッカーと思ってるのか!」

 

ゾル大佐の言葉に何人もの戦闘員がゾル大佐の近くまで行き腕を背中に回し正面を向く

一体何をする気だろう

 

「今更、雑魚が何するって…」

 

ネフシュタンの鎧の娘の声が途中で止まる。変な音楽が薬品工場から流れ出したのだ

 

 

               斗え!斗え!斗え!

                くもの男よ 毒バリをふけ

 

歌?ショッカー戦闘員が歌ってる!?

 

「戦闘員が歌ったからって…!?」

 

                     ガマギラー さいみんガスだ

                   サラセニアン ムチを打て

 

 

ネフシュタンの鎧の娘の顔が驚愕した!それは私もだった

 

「走れ稲妻!」

「イーヒッヒッヒッヒッヒ!」

「最早、ノイズなど我々の敵ではないわ!」

 

エイキングの稲妻がノイズを次々と消し炭にし、ピラザウルスの蹴りが何体ものノイズを貫き、カニバブラーの口から大量に吐く泡にもノイズはなすすべがなく崩れ落ちる

怪人達が次々とノイズを蹴散らしていた!炭化する事もなく!

 

                      シンフォギア装者を やっつけろ!

                       ワォ!ワォ!ワォ!

 

 

「何時もよりも力が溢れてくるぜ!」

「もっとだ!もっと暴れさせろ!!」

 

「つ…強い!」

 

ムカデラスの体に付いてる足(…虫だから節足?)、を手裏剣のように投げつけアマゾニアは指からのミサイル攻撃が来る

二人の怪人に圧倒される私と、

 

「死んでもらうぞ、小娘!」

「完全聖遺物は我らショッカーの物よ!」

「ついでに、ノイズを操るその装置も貰おうか!」

 

「だ…誰がお前らなんかに!…何でこんな古臭い歌なんかに!?」

 

ガマギラーの鎖鎌にクラゲダールの触手回避しつつヒトデンジャー回転体当たり攻撃をかすりつつ回避し、ネフシュタンの鎧の鞭で牽制してるが明らかに押されてる

 

                         こぶしを あげよ

                    我らは地獄の軍団 ショッカーだ

 

 

「この野郎!」

 

ネフシュタンの鎧の娘が鞭をガマギラーに巻き付け、振り回しタンクの一つに投げつける。爆発するタンクだが投げつけられたガマギラーが平然と戻る。怪人達の強さが上がっている?

あ、鎧の娘がヒトデンジャーの回転攻撃を受けた!

 

私の耳に不愉快な歌が聞こえる

 

 

 

 

 

 

 

                  進め!進め!進め!

                    コブラ男よ ほのおをふけ

 

 

私は信じられない物をみた。

その事にありえない程の怒りが沸く

 

「実験は上々と言ったとこか」

 

「ゾル大佐!お前達は一体何をした!?」

 

「貴様なら感づいてるのではないか?」

 

 

            クラゲタール 電気ショックだ

             エイキング いなずまをよべ

 

 

その言葉ではっきりした

 

「私の作ったシンフォギアシステムをパクったな!」

 

「パクった?模範した。と言ってもらいたいな」

 

ショッカーが何時の間にかシンフォギアをパクっていた!?いつの間に?

本部のデータもハッキングは受けていたけど破られた形跡はなかった

 

               シンフォギア装者を ぶちたおせ!

                ワォ!ワォ!ワォ!

 

 

「不思議そうだな。ショッカーを舐めてもらっては困る。我々が何の考えも無しに戦闘員や怪人を差し向けていたと思うか?」

 

「……あれは最初からシンフォギアのデータを取る目的で?」

 

「その通り!最後の決め手は風鳴翼の絶唱のデータによりショッカー科学陣によってショッカー版シンフォギアシステムが完成した!これで、鬱陶しかったノイズも敵ではない」

 

「…世の中、そこまで甘くないわよ」

 

 

                軍旗を あげよ

              我らは地獄の軍団 ショッカーだ

 

 

    

ショッカーがあっさりシンフォギアシステムをものにしたのには正直驚いた。()()()()()()()

歌ってる戦闘員が次々と倒れ緑の泡となる。恐らくはシンフォギアのバックファイヤーが戦闘員にきているのだろう。

ショッカーは歌う者と戦う者に分けてシンフォギアシステムの再現に成功した。ある意味、合理的ではあるが、歌う者が減ればその分戦う者の負担が増える。最後には…、しかしおかしい、シンフォギアを使うには最低でも聖遺物は必要な筈だが…ショッカーは既に聖遺物を手に入れてる?

シンフォギア(おもちゃ)をパクられたのは腹立たしいがこの程度ならば…

 

「戦闘員の事を言ってるのなら足せばいいだけよ」

「「「「「イーッ!!」」」」」

 

…なん…だと?

なぜ、薬品工場から戦闘員が出て来るんだ!?

まさか此処は!?

 

「フフフ…気付いたか、この薬品工場自体、数多あるショッカーのアジトだ。貴様らは既に袋のネズミなのだ」

 

やはり、ショッカーの罠だったか!

どうする?クリスも立花響も怪人達に苦戦している。弦十郎がまだ来れない以上なんとか…デュランダルの入ってるケースが…デュランダルの起動には相応のフォニックゲインが必要なのに…まさかこんな歌で!?

 

 

 

 

           たおせ!たおせ!たおせ!

           カニバブラー あわをふけ     

 

 

 

 

「俺の頭脳破壊電波で死ねぇ!」

 

「!?ああああああああああああああああああああああああああああああああ!?!?!?!?!?」

 

ムカデラスの頭脳破壊電波をまともに受けてしまった響は頭を抱え地面に蹲ってしまう。

今まで感じた事のない激痛が響の脳を襲う。

 

「貴様の脳だけを破壊し心臓を持ち帰る!やれアマゾニア」

「任せろ!」

 

アマゾニアが無防備な響に指先からミサイルを撃つ。

頭の激痛に避ける事すら出来ない響にミサイルが直撃。鮮血が舞う。

 

 

               カマキリ男 くさりがまだ

               ピラザウルス パンチをかませ

 

 

「こうなっては改造人間もお終いだな。…死ね!!」

 

アマゾニアがトドメとばかりに大量のミサイルを撃ち込む。

ミサイルの攻撃に響も動こうとするが、ムカデラスの頭脳破壊電波に先のミサイル攻撃での足の負傷もあり動けない。

 

━━━私…死んじゃうんだ…ごめんね、未来、お母さん、お婆ちゃん。奏さんが言った言葉…私守れませんでした

 

 

              シンフォギア装者を ぶち殺せ!

              ワォ!ワォ!ワォ! 

 

 

 

響が死を覚悟した。その瞬間、

 

「諦めるのは早いわよ、響ちゃん」

「…了子さん!?」

 

響の前に了子が立ち、怪人達に手を翳す。薄いピンクの様な色をした膜が現れアマゾニアのミサイルが全て阻まれ爆発する。

 

「何だと!?」

 

「了子さん?」

「皆には内緒よ」

 

了子の悪戯っぽい笑みに響も「はい」と返事をする。

そう言えば、頭の痛みも無くなった事で立ち上がる。

 

「俺の頭脳破壊電波も妨害されてるだと!?」

 

ムカデラスが驚愕した声を出しアマゾニアの下まで響達と距離を取る。

その間も、アマゾニアは指からミサイルを出し続ける。

 

「響ちゃん、これを上に放り投げてくれる」

「え?デュランダルをですか?」

 

怪人達に如何攻めるか考えてた響は了子の突然の頼みに困惑する。

しかし、了子の事を信用していた響は言われた通りデュランダルの入っているケースを上に投げた。

 

 

 

                勝どきあげよ

             我らは地獄の軍団 ショッカーだ

 

 

 

戦闘員達の歌が終わった。っと同時にデュランダルの入ったケースが砕かれ一本の剣が宙を舞う。

完全聖遺物デュランダルが覚醒したのだ。

 

「え!?」

「なに!?」

「はッ!?」

 

その場に居た一同は硬直する。響もネフシュタンの鎧の娘もゾル大佐に怪人達も暫く見続けていた。

 

「!デュランダルの覚醒に相応のフォニックゲインが必要じゃなかったのかよ!」

 

先に動いたのは鎧の娘だった。

 

「何をしている怪人ども!デュランダルを確保しろ!!」

 

鎧の娘が先に動いた事でゾル大佐も慌てて指示をだす。

 

「響ちゃん!」

「は、はい」

 

了子の声に響は急ぎ、上に飛ぶ。距離は圧倒的に響が近かった。

アマゾニアのミサイル攻撃で負傷した足も回復した事で、怪人や鎧の娘より早くにデュランダルを掴む。

その瞬間、響に異変が起こる。

デュランダルから膨大なエネルギーが放出され響が剣を上に向ける。

途端、デュランダルの燻っていた刀身が伝説の剣のように洗練された刀身へと変わる。

 

「剣が変形した!?」

 

突然のデュランダルの代わり様に驚くゾル大佐。

しかし、剣を掴んでいる響は何処か可笑しかった。いつかの蜘蛛男との闘かった時みたいな状態であった。

 

「あいつ、何をしやがったんだ!?」

 

「完全聖遺物を寄越せ!」

 

鎧の娘が立ち止まる中、怪人達はお構いなく響へと迫る。

そして、響が()()()をして怪人達を睨みつける。

 

「!?」

 

身の危険を感じた鎧の娘は急ぎその場を離れる。

響が唸り声を上げ、怪人達にデュランダルの剣を振り下ろす。

 

「なにっ!?」

「馬鹿な!」

 

デュランダルの出すエネルギーに次々と呑まれ消滅する怪人達、そしてエネルギーは薬品工場にまで達し次々と爆発を上げていく。

 

「ちっ、あれがデュランダルか!?怪人はどの位生き残った!?」

「イーッ!クラゲダールとピラザウルス以外全滅です!戦闘員も僅かしか」

「…此処は引く!アジトの処理をしておけ!」

 

戦闘員からの報告で撤退を指示するゾル大佐。

デュランダル確保には失敗したが実験は成功した。この報告だけでも持ち帰ろうとした。

 

━━━それに、櫻井了子のあの能力…まさかな

 

生き残ったショッカー怪人と戦闘員は急ぎこの場を離れる。

 

 

 

 

 

その後、ショッカーの戦闘ヘリを撃退した弦十郎が戻り、他の者が後処理したりデュランダルの輸送計画が白紙になったそうだ。

デュランダル攻防戦は特異災害対策機動部二課の勝利であった。




シンフォギア世界にショッカーの歌を。
これがやりたかった。

了子にこんな歌呼ばわりされましたが一応題名は「怪人のうた」です。
一部、歌詞を変えました。仮面ライダー居ないからしょうがないね。


一応、ショッカー版シンフォギアシステムの話も、

ショッカー版シンフォギアシステム

度重なる立花響、風鳴翼の戦闘データを元にショッカーが作り出したシステム。
ある聖遺物もどきを使う事によりノイズと安定して戦う事に成功。
櫻井了子のシステムとは異なり、戦闘員が歌い怪人が力を発揮する。
これにより、ノイズとの戦闘では炭化しなくなり怪人も幾分か力があがる。
半面、バックファイヤーの存在で歌う戦闘員が減れば当然、怪人達に能力も戻り炭化する危険性も爆上がりする。
後、歌う戦闘員が目立つ為、攻撃目標になりやすい。攻撃され歌う戦闘員が減れば当然、シンフォギアシステムの力も弱まる。
更には、それようの改造手術が怪人にも戦闘員にも必要になる為時間が掛かる。

了子「欠点だらけもいいとこね」


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10話 特異災害対策機動部二課VSショッカー 前編

 

 

「ショッカーがシンフォギアシステムを手に入れただと?」

「ええ、今までの響ちゃん翼ちゃんの戦闘データを参考にしたそうよ」

 

デュランダルの事件から一夜明け、特異災害対策機動部二課本部で弦十郎は了子からショッカーとの闘いの一部始終を聞いていた。

 

「あの薬品工場がショッカーのアジトだったらしいけど、何か分かった?」

「緒川の話ではコンピューターは全て破壊されデータのサルベージも不可能らしい。あの工場で働いてた従業員の殆どはショッカーの存在を知らないようだ。工場長並び複数の従業員が行方不明だという。あったのはこれぐらいだ」

 

弦十郎は懐から一枚の写真を出し了子に渡す。

写真には丸い地球の上に羽を広げた鷲のマークが映っていた。

 

「響ちゃんが言っていた鳥のレリーフってこれ?」

「可能性が高い。後で響くんにも見せるつもりだ。それにしても、ショッカーがシンフォギアを…」

 

ショッカーがシンフォギアシステムを作った事に驚く弦十郎。

 

「ショッカーの技術は我々の想像以上という事か」

「それだけじゃないわ。シンフォギアシステムを使ってた怪人からこんな反応が出たのよ」

 

了子が弦十郎に一枚の書類を渡す。

渡された書類に目を通す弦十郎は目をカッと見開く。

 

「ガングニール!?怪人全てからガングニールの反応が出たのか!?」

「そうよ。響ちゃんのに比べれば極小もいいとこだけどノイズには十分といったとこね」

「…ならば、ショッカーは如何やってガングニールを手に入れたんだ?」

「…横流しでもされたか、二年前のライブ会場かしら?あそこ暫く閉鎖されて誰も近づけなかった筈だし…それより葬儀の方はもういいの?」

 

弦十郎は何時もの服ではなく黒い喪服を着ていた。

殺された広木防衛大臣の葬儀に出る為だ。

 

「もうそんな時間か、行ってくる」

 

弦十郎が指令室を後にする。

見送った了子は一息つく。

 

━━━天羽奏が使っていた砕けたガングニールが全て回収出来たとは言わないが本当にそうだろうか?ショッカーが回収したガングニールの欠片を更に砕き、それを怪人や戦闘員に投与した?有り得ない話ではないが…何か引っかかる

 

コーヒーを一口飲み了子は考える。本当にショッカーはライブ会場でガングニールを手に入れたのだろうか?可能性を否定しきれない以上これ以上考えても仕方ないなと考える了子。

っと、其処へ指令室の扉が開き了子が反応し見る。

 

「あら弦十郎くん、葬儀に行ったんじゃ?」

 

其処には喪服を着た弦十郎が立っていた。

 

「…さっき電話で「お前は来るな」と言われてな。議員連は俺を参列させたくないようだ」

 

溜息をつく弦十郎に了子は「そう」と言う。

 

「じゃあ、さっきの話の続きだけど…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハア…ハア…ハア…」

 

響はグランドで走り続ける。

現在は体育の授業で先生が自習と言って他の皆はドッジボールをしたりバレーボールをしたりする中、響は一人黙々と走り続ける。

 

「立花さん、何時まで走り続けるのかしら?」

「あれもう10周ぐらいしてる筈だけど」

 

走り続ける響に他の生徒も注目したりするが一分もせず自分達の競技に戻る。

 

「…響」

 

そんな中、小日向未来だけが響を見守り続けていた。

 

━━━もう20周近いのに全然体が疲れてない。運動がそこまで得意じゃない筈なのに…師匠との特訓でもそうだったけど、これが改造人間なんだ

 

響は走る中、一人考える。

 

━━━怪人達はどんどん強くなっている。暴走したデュランダルの力が無ければ私達は負けていた。ショッカーに勝つにはもっと強くならないと、じゃないとショッカーは全てを奪っていく。私にした改造手術や拉致を平気で…でもデュランダルなら…!

 

走る響は頭を振る。

 

━━━暴走するデュランダルは危険だ。でも怖いのは暴走じゃない、躊躇いもなく怪人ごとあの鎧の娘に振り下ろそうとしたからだ。デュランダルに頼っちゃ駄目だ…私自身がもっと進まないと、もっと先に…

 

一心不乱に走り続ける響はチャイムが鳴り止むまで走り続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「デュランダル移送計画が頓挫して正直安心しましたよ」

「そのおかげで本部の防衛システム強度も上がる事になったんですよね」

「そうよ、予定より17%アップしてるんだから」

 

指令室で了子達が談笑する。暫く口を閉じていた弦十郎が口を開く。

 

「そう言えば、デュランダルは何処に保管されてた?」

「?何言ってるんですか指令、此処の最深部アビスに安置したじゃないですか」

「おお、そうだったそうだった」

「…弦十郎くん、今日おかしくない?」

 

了子が弦十郎の態度に違和感を感じていた。

何時もより口数が少なく、まるで此方の情報を探るような口調のような…

 

「俺は俺さ、了子」

「…弦十郎くん、もしかして酔って「ふう、今戻った」い…え?」

 

弦十郎が了子の後ろに回り腰に手を当てる。やっぱり何時もの弦十郎ではないと感じた了子が酔ってるのか聞こうとした。

だが、その瞬間指令室の扉から弦十郎がもう一人入って来たのだ。

 

「し、指令!?」

「な…なんで指令が!?」

 

了子だけでなくオペレーターの藤尭朔也と友里あおいも驚愕する。

 

「ん?如何したんだ…って、俺がもう一人!?」

 

今入って来た弦十郎も自分と同じ顔に驚く。

 

「何で弦十郎くんが二人…!」

 

次の瞬間、了子の腰に手を当てていた弦十郎?はその手を了子の首に回す。

 

「思いのほか早かったな、風鳴弦十郎」

 

了子を人質にした弦十郎?は、本人がやらない様な邪悪な笑みを浮かべる。

 

「お…お前は!?」

 

「あ…あの人が指令じゃない!?」

「今まで話していた指令は偽物!?」

 

突然の事に他の職員も動くことが出来ない。其処に、

 

「「「「イーッ!」」」」

 

何処からともなく戦闘員が指令室に入って来る。

 

「戦闘員!?貴様、ショッカーの者か!?」

 

「フフフ、特異災害対策機動部二課。どれほどの物かと思ったが大した事もない」

 

弦十郎?が空いてる手を自分の顔に持っていく。

顎の下辺りの皮を引っ張る。其処には、

 

「!?」

「ゾル大佐!?」

 

其処に現れたのはゾル大佐だった。何時の間にか服も何時もの軍服となっていた。

ゾル大佐に特異災害対策機動部二課本部を、それも指令室に潜入していた。

オペレーターの藤尭朔也と友里あおいはオペレーターの席から離され戦闘員がオペレーター席につく。

二人は他の職員同様、ソファー付近に立たされた。

 

「ゾル大佐!一体どうやって…」

 

「化粧は得意なのでな。貴様の姿をしてるだけでアッサリ通れたぞ。俺が通信機を落としたと言えば簡単に渡した」

 

「なんだと?」

 

「さて、それじゃあ交渉といこうか。デュランダルを渡せ、そうすれば櫻井了子を無傷で返してやってもいい」

 

捕らえた櫻井了子を戦闘員に任せソファーに踏ん反り返るゾル大佐。

特異災害対策機動部二課本部はゾル大佐に占領された。

 

 

 

 

 

 

 

 

「はい…はい…私がですか?」

 

授業が終わり、機動二課本部へ行こうとした響は緒川から電話を受けていた。

内容は自分の代わりに風鳴翼の見舞いに行ってほしいという頼みだった。

 

『こんな事、響さんにしか頼めなくて』

 

聞けば、緒川達は現在ショッカーの協力者と思しき人物の拘束に動いていたそうだ。

 

「そうなんですか?」

『はい。ああ、それから翼さんのお見舞いが終わった後でもいいんで本部の方も顔を出して貰っていいですか?本部の防衛システムの強度上げの最中か此方から連絡ができないんです』

「それなら…はい。分かりました」

 

言われなくても響は本部に行くつもりだった。自分の居場所なんて其処しかないと考える。

見舞いに行く事を了承した響は携帯を切る。

 

「…響」

 

まるで、電話が終わるのを待ってたみたいに声が聞こえった。

声のした階段の方を見ると未来が居る。

 

「…何かよう?」

「…うん、今日これから買い物に行くんだけど良ければ一緒に行かない?今日、運動してお腹すいたでしょ。前に言ってた『ふらわー』に行かない?奢るよ」

 

未来を無視するのを諦めた響が聞く。元より響の性格上、未来を無視し続けれる訳が無かった。

あの日から完全にギクシャクし出した二人の関係。

響に何があったのかは分からないが昔の関係に戻りたい未来が響を誘う。何よりゴハンが好きな響ならと考えた未来だが…、

 

「…ごめん、先に予定入っちゃった」

 

それだけ言って響はその場を後にする。やはりその姿を見て未来は見守るしか無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…そんな…翼さん!」

 

見舞いの花を買い、翼の入院する病室まで来た響。慎重にドアロックを解除したが翼が見当たらず部屋も散らかっていた。

響の頭に最悪の想像が溢れるが、

 

「…何をしてるのかしら」

 

丁度其処へ、リハビル代わりに病院を歩き終わった翼が戻り、響に何をしてるのか聞いた。

其処で、響が翼が攫われたのかと勘違いしていた事に気付く。

 

「ショッカーは翼さんの身柄も狙ってるんです!だから、この部屋で襲われて連れていかれたのかと…」

 

其処まで話した響が翼が顔を赤くしてる事に気付いた。其処で大体察した。

その後、翼の入院部屋の跡片付けを手伝おうとしたが、

 

バキィ!ビリィ!パリンッ!

 

翼の入院部屋から謎の破壊音が響く。病室の中で翼が頭を抱えていた。

小物は壊す。服や下着は破る。花瓶を握りつぶす。などゴミを増やすばかりで結局部屋にあった物全てをゴミ袋に入れて出してしまった。

「こんなんなら自分でやった方がマシだった」とすら考える。

翼が頭の中で緒川に「人選を間違えた!」と文句を言って響を見る。響はただ俯いてジッとしていた。

 

「…力の制御も出来ないの?」

「すいません…」

「改造人間って厄介ね」

「すいません…」

「そんなんで戦えるの?」

「…戦います。私にはもうそれしかないから」

 

「そう、なら教えてもらおうかしら。あなたの戦う理由を」

「え?」

「ノイズや怪人との戦いは生半可じゃない。幾つもの死線を潜って来たあなたなら分かるでしょ」

「…困ってる人をほおって置けないからじゃ…駄目ですか?」

「それだけ?」

 

「…お父さんの仇もあります。でもそれだけじゃないんです。私、人助けとか趣味だったんです。他人と競い合う勉強やスポーツが苦手で…人助けなら他の人と競い合う事もないと…私、人に誇れるものは何も無かったんです。だから、皆の役に立ちたかったんです。アハハ…」

 

翼は静かに響の言葉を聞く、響の言葉はまだ続く。

 

「…切っ掛けは、二年前と一年半前ですね。ライブの時に奏さんに助けられて、その半年後にショッカーに拉致されて…私、人を沢山見捨ててきたんです」

 

「見捨てた?」

「ショッカーには私以外にも大勢の人が拉致されてたんです。私みたいに改造人間にする為や新兵器の実験体、単純に奴隷として…私の目の前で大勢の人が殺されたんです。実験とか私に戦う意志を持たせる為に…でも私はショッカーの思惑通りに動くかって意地になって…その所為で助けれる人まで死なせてしまって」

「それはあなたの所為じゃないわ」

 

「そう言って貰えると嬉しいです。でも私は償いたいんです、これ以上ショッカーに泣かされる人を減らすために、それが今の私が生きている意味だと思うんです」

「…ネガティブな理由ね。それってもしかして自殺衝動なのかも」

「自殺衝動…」

 

「誰かの為に自分を犠牲にする事で古傷の痛みから救われたいという自己断罪の現れなのかも」

「…否定はしません。でも、ショッカーを倒すまでは死ぬ気はありません」

 

響の暗い顔に翼は溜息をつく。そこで、気分転換に病院の屋上に場を移す。

外は快晴で響にとっても気分転換になるだろうと翼が配慮した。

 

「それでもね、自分で考えなきゃ駄目。じゃないとあなたは本当に死ぬか私みたいになるわ」

「…考えても考えても分からないんです。デュランダルに触れて暗闇に飲み込まれショッカーに対する怒りに支配されて鎧の娘ごと消そうとしたんです。私がアームドギアを使えていれば…やっぱり歌えなければアームドギアは使えないんですか?」

「私には分からないわ。シンフォギアは生まれてそんなに時間は経ってないの。でもシンフォギアは装者の心象に大きく左右されるそうよ。あなたが本気でアームドギアを使いたいと願えばもしかして…」

「………」

 

「でも憶えておきなさい。力の使い方を知るという事は、即ち戦士になる事」

「…戦士」

「それだけ、人としての生き方から遠ざかる。あなたにその覚悟はある?」

「覚悟があるかと言われれば微妙です。でも、私にも守りたい物があります!ショッカーに拉致されて改造され日常の大事さを思い知りました。何でもない日常、そんな日常が大事だと…大切にしたいと思うようになりました。でも、思うだけじゃ…」

 

「戦いの中、あなたが思っている事は?」

「ショッカーやノイズに苦しめられてる人が居たら一秒でも早く助けたいです!最速で!最短で!真っ直ぐに!一直線に駆け付けたい!」

「今、あなたの胸の中にある思いを出来るだけしっかりハッキリ思い描きなさい。それが立花響のアームドギアに他ならないわ」

 

翼の言葉に響は拳を握る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「珍しいわね、一人で来るなんて」

「…友達を誘ったんですけど先に用事が入ってて…」

 

小日向未来は、現在お好み焼き屋「ふらわー」でお好み焼きを注文していた。

フラワーの店主である、おばちゃんは大量のキャベツを乗せてお好み焼きを作る。

 

「じゃあ、今日はおばちゃんがその友達の分まで食べるとするかね~」

「食べなくていいから焼いて下さい」

 

未来の言葉におばちゃんは笑う。

しかし、未来はどこか元気が無さそうだった。

 

「お腹空いてるんです。今日はおばちゃんのお好み焼きを食べたくてお昼あんまり食べてないんです」

 

その言葉におばちゃんは未来の顔をチラッと見てお好み焼きを作る。

 

「…お腹空いたまま考え込むとね、嫌な答えばかり浮かんでくるもんだよ」

 

━━━そうかも知れない。何もわからないまま私が勝手に思い込んでるだけかも知れない。響とちゃんと話さなきゃ

 

「ありがとう、おばちゃん」

 

未来がお礼の言葉を言う。その後、おばちゃん特製お好み焼きを食べ店を出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…それにしても、ショッカーはよくそこまで人間を攫えたわね。警察とかに気付かれそうだけど」

「…以前、怪人達が話してたんですけど人を攫う時には適当に炭をばら撒いておくそうです」

「炭?…!ノイズの所為に出来るのか!?」

 

翼の驚愕の声に響は頷く。

 

「ショッカーは昔からそうやって人を攫ってきたようです。行方不明になってもノイズに殺られたと判断されれば警察も動かないと」

「…そういえば、ノイズの反応が無い地域で炭化された人間が発見されたなんてニュースが流れていたが」

「恐らく、ショッカーの仕業だと」

「ショッカーはノイズまで利用していたのか!?そして、私達はまんまと乗せられていたのか!?」

 

翼が怒りを露にする。自分達が昔からショッカーの掌の上で踊らされていた。

防人としてのプライドがまたもや傷ついた。

 

ぐうううううううう

 

響の耳に翼から妙な音が聞こえた。厳密に言えば翼の腹からだ。

途端、翼の顔を赤くする。

 

「いや…これは…」

「お腹空きましたか?ん~そうだ!お好み焼き屋のふらわーで私買ってきます。お店の場所も聞いてますしお持ち帰り出来るらしいですから」

「ま、待ちなさい立花!」

「友達の話だととても美味しいらしいんです。じゃ行ってきます!」

 

翼の静止も聞かず響は屋上から出て病院を後にする。

目的はふらわーで翼のお好み焼きを買う為だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ネフシュタンの鎧の娘の反応あり!」

「此方に近づいてます」

 

特異災害対策機動部二課本部のコンピューターがネフシュタンの鎧の反応を感知する。

尤も、それを聞いていたのは、

 

「小娘がこっちに?何か感づかれたか?まあいい、我々は我々の話をしようではないか。風鳴弦十郎」

 

オペレーター席に座る戦闘員の報告を聞いたゾル大佐は視線を目の前の弦十郎に戻す。

 

「何度言われようとデュランダルは渡さん!了子くんも解放しろ!」

 

はっきりゾル大佐の交渉を断る弦十郎。断られたゾル大佐は笑みを崩さない。

 

「櫻井了子の命が惜しくないのか?」

 

「貴様こそ、了子くんに価値があるから最優先拉致候補にしていたんだろ。それだけの科学者を貴様は殺せるか!?」

 

その言葉を聞いて、ゾル大佐は少し考え口を開く。

 

「ならば、俺が素晴らしい提案をしてやろう」

 

「素晴らしい?」

 

「貴様たちをショッカーに勧誘しよう。そうすればこの場の人間どもの身の安全は保障してやる。どうだ?己の事しか考えない官僚も政治家も関係なく、馬鹿な衆愚どもの機嫌も考えなくていい。ともに人類を支配しようではないか」

 

「話にもならん!」

 

ゾル大佐の提案をはっきり拒絶する弦十郎。

っと、其処へオペレーター席についていた戦闘員がゾル大佐に耳打ちする。

 

「もう此処には用は無さそうだ。だが、最後に貴様に絶望を与えてやる」

 

そう言うと、ゾル大佐は指を鳴らす。

戦闘員が弦十郎以外の起動二課職員を縛り上げ拘束する。

 

「待てぇ!一体何をする気だ!!」

 

「イーヒッヒッヒッヒッヒ!」

 

弦十郎が制止しようとするが、扉からトカゲのような顔をした怪人が入って来た。

更に、怪人の腕には機動二課の職員が引っ張られてた。

 

「ピラザウルス!貴様の力を見せてやれ!」

 

「分かりました」

 

「止めろ!止めてくれ!!」

 

ゾル大佐の命令を受けたピラザウルスが引っ張っていた職員を抱き抱えトサカから白い煙を出す。

少量の煙を吸った職員はピラザウルスから解放されるが苦しみもがき弦十郎の方に行こうとするが、

 

「うわ!?」

「いやああああ!!」

 

職員は倒れアッと言う間に白骨死体となった。

 

「どうかね?ショッカーが開発した毒ガス、死の霧は?」

 

「ゾル大佐!貴様!」

 

弦十郎が激怒するがゾル大佐にはどこ吹く風。

 

「ゲームをしようではないか。貴様とピラザウルスが何方かが死ぬまで戦う。そして、貴様が死ねばこの本部はピラザウルスの死の霧で包まれる。残った職員は全滅だ」

 

「!?」

 

「此処に来る前に何人かは死んだが多くの職員は空き部屋に閉じ込めて居る。そして、この部屋の空調は各部屋に繋げた。だから、此処で死の霧を発生させれば、フフフ」

 

「貴様!人の命を何だと思っている!?」

 

「可笑しな事を聞く、命は所詮命でしかない。そして、全ての人間の命は我らショッカーの物よ」

 

それだけ言って、ゾル大佐は笑いだす。その姿はまさに悪魔だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一人、学園までの道を歩く未来。

何かを決意したように歩く。

 

「あ、響!」

 

その途中、立花響の背中を見つける。

悪戯心でちょっと脅かしてやろうと近づくが、

 

「え?」

 

「イーッ!」「イーッ!」

 

響の前に黒タイツの男たちと、

 

「立花響!今日こそ死んで貰うぞ!」

 

クラゲのお化けみたいな奴が響の前にいた。

 

「ひ…響?」

「え?」

 

未来の言葉に背中しか見えなかった響が反応する。

振り向いた姿は間違いなく大好きな親友、立花響だった。

 

「未…来…どうして」

 

「ん?目撃者か、死ね!」

 

クラゲのお化けことクラゲダールが未来の存在に気付き、止まっている赤い車に触手を巻き付け躊躇いも無く未来に投げ飛ばす。

 

「え?」

 

投げた車は未来に迫る。




機動二課本部がショッカーに占領される話。
蜘蛛男の時点でショッカーには筒抜けだったんでこの動きを。

これで、本部を潜水艦にする説得力が上がるか。


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11話 特異災害対策機動部二課VSショッカー 中編

 

 

 

油断していたつもりはなかった。翼さんへ、ふらわーのお好み焼きを買いに道を走っていたらショッカー戦闘員が現れ襲ってきた。

ノイズも居ない時に来たのは珍しいけど今の私は変身しなくても戦闘員なら倒せる。

だから、シンフォギアも使わないで戦闘員を次々と倒した。最後の一人を倒したと思ったらまた戦闘員が出てきた。それから、

 

「此処が貴様の墓場だ!」

 

デュランダルの時に出てきたクラゲ怪人ことクラゲダールも現れた。

 

「イーッ!」「イーッ!」

「立花響!今日こそ死んで貰うぞ!」

 

怪人は此奴以外居なさそうだ。今の私でも十分…

 

 

           「ひ…響?」

 

            「え?」

 

 

少なくとも今最も私が聞きたくない声に思わず振り向く。

其処には、茫然とする未来が!

 

「未…来…どうして」

 

見られた!未来に見られた!私の頭が理解に追い付かない。でもショッカーの怪人にはそんな事関係なかった。

 

「ん?目撃者か、死ね!」

 

クラゲダールはなんの躊躇いもなく未来に止まっていた車を投げつける。

それを見て、私は直ぐに変身して未来の下に走る。

片手で車を弾き、私は未来を見る。驚いて座り込んだだけで怪我はしてない。そのことに私はホッとした。

 

「響…」

「逃げて、未来!」

 

大好きな親友の言葉にそれしか返せない。それがとても辛い。

 

「庇った?…そうかそうか。ならば、戦闘員どもあの女を殺せ!」

「「「イーッ!!」」」

 

戦闘員がこっちに走って来る!狙いは…未来!?あいつ等、わざと未来を狙っている!やらせない!

 

「やらせるもんか!」

 

「イーッ!?」

 

迫る戦闘員を次々と倒す。お前達なんかに未来に指一本触らせるもんか!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

響が黒いタイツの男たちを次々と倒している。あの優しい響が、何の躊躇いもなく

 

「あ、あの…大丈夫ですか?」

 

響に倒された黒タイツの男の人に話けてみる。響の身に何が起こったのかわかるかも知れなかったからだ。でも、私は信じられないものを見る

 

「ヒィ!?」

 

倒れた男の人が緑色の泡になって溶けて消えた!?トリックやマジックとかでは無く本当に目の前で消えてしまった。何で人間が溶けて消えるの!?新手のノイズ!?うっ、喉の奥から酸っぱい物が……おばちゃんのお好み焼きを出しかけた

 

「…響…」

 

響、あなたは何と戦ってるの?

 

「…ごめん…こんな事に巻き込んで」

 

響が私に顔を逸らして謝る。違う、聞きたいのはそんな言葉じゃない!

でも響はそれだけ言って私の体を掴んで森の中へ移動した

 

「追えぇぇぇ!!逃がすなぁぁ!!」

 

掛け声と共にクラゲ男と黒タイツの男が私達を追う。正直、響の持ち方が痛かったけどあのまま居れば私は殺されていた。それだけは分かる

暫く森の中を駆けていた響が物陰に私を座らせた

 

「此処に隠れてて、あいつ等は私が引き付ける」

「ま、待って!響」

 

頭の中がパニックになった私は響を呼び止めようとするが、響の姿がアッサリと見えなくなる

遠くの方で「私はこっちだ!」と叫ぶ響の声と「イーッ!」という声が聞こえた

あれは何?響を攫ったっていう人達?全然わからないよ響!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「イーヒッヒッヒッヒッヒ!!」

 

「ぐはっ!」

 

ピラザウルスの拳が弦十郎の頬を抉る。少しふらつくが弦十郎もピラザウルスの顔面を殴り返す。弦十郎の拳にピラザウルスもふらつく。弦十郎とピラザウルスの拳が交互に行き交う。

 

「ほう、ピラザウルスの体は無反動砲の直撃すら傷つかぬほど頑丈だと言うに予想以上にやるではないか」

 

その様子を楽しそうに見るゾル大佐。手足を拘束された職員たちは固唾を呑みこむ。

その直後、ピラザウルスが弦十郎の腕を抱え床に倒れる。

 

「!?」

 

弦十郎も予想外の行動に反応できず倒れてしまう。

そして、弦十郎の腕から鈍い音が、

 

「折られた!?」

「指令!?」

「今のってプロレスの腕折り!?」

 

悲鳴も出さず腕を押さえる弦十郎に心配する職員、その内の人のがプロレスと発言した。

 

「よく知ってるではないか。そのピラザウルスの素体となった男はプロレスラーだ。確か名は…草鹿昇…だったか?」

 

「草鹿昇だって!?」

 

ゾル大佐の言葉に一人の職員が反応する。その職員は先ほどプロレス発言をしていた者だった。

 

「誰か知ってるのか?」

 

藤尭朔也がその職員に聞く。

 

「人気レスラーの一人ですよ。家の爺さんが大のプロレス好きで生前よく話してました。でも草鹿昇は70年前にノイズに襲われて亡くなったらしいですけど」

「ノイズに!?それが何でショッカーに!」

「そのノイズ被害は嘘だった?」

 

「貴様、そんな前から…」

 

弦十郎が腕を押さえゾル大佐に睨みつける。だがやはりゾル大佐は意にも介さない。

 

「70年か時が経つのは早いものだ。…おっとそろそろ時間だ」

 

ゾル大佐が立ち上がり戦闘員と共に指令室の出入り口に行く。櫻井了子を連れ。

 

「ま、待てぇ!貴様たちの目的は一体…グっ!」

 

弦十郎が止めようとするが背後からピラザウルスがチョークスリーパーを掛けられる。

 

「立花響から聞いていないのか?我等の目的は唯一つ、世界征服(せかい)だ!我々の目的はそれしかない、後にも先にもな。貴様はそのままピラザウルスと遊んでいろ。俺は櫻井了子をショッカー本部に連れていかねばならん」

「イーヒッヒッヒッヒッヒ!」

 

ゾル大佐達が指令室を後にする。残るはピラザウルスに2~3人の戦闘員と拘束された職員が何人か、そして弦十郎だけだった。

 

「こ…の!」

 

ピラザウルスが与える首への圧力に弦十郎が前に引っ張る。引っ張られたピラザウルスはそのまま前へと転がり弦十郎の首を解放する。

 

「ハア~」

 

首が圧力から解放された弦十郎が息を整える。僅かな時間が流れピラザウルスと弦十郎が同時に動く。

二人の手が絡み合い押しつ押されつつ拮抗する。しかし、ピラザウルスに片腕を折られた弦十郎が押されつつある。

 

「俺は怪人のチャンピオンだ!」

 

「負けてなるものか!!」

 

一人の人間と怪人が激しくぶつかり合う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちょっと、女の扱いはもう少し丁寧にやりなさいよ」

 

指令室から出たゾル大佐たちだが、道中了子が戦闘員に対し文句を言う。

戦闘員も文句を言うのが世界的権威ある学者、櫻井了子なので無下に扱い切れない。

 

「それで、私は何処へ連れてかれるのかしら」

 

「…一旦はショッカーのアジトに移動し、其処で精密検査をした後に本部に行く予定だ。お前にはシンフォギアの事で色々やってもらう」

 

「あら、ショッカーはもうシンフォギアシステムを物にしてるじゃない」

 

「あんなもの、お前のオリジナルに比べれば児戯にも等しい。手に入れるならばより完璧な物が必要だ。そして、ゆくゆくはシンフォギア怪人の製造も視野に入れる。あの絶唱のエネルギーはショッカーこそ利用すべきだ」

 

ゾル大佐の言葉を聞いて了子はゴミを見るような目をする。

 

「シンフォギア怪人?響ちゃんはどうなるの?」

 

「立花響は所詮、聖遺物の実験体に過ぎん。オマケに兵器としても未熟、脳改造しても役に立つとは思えん。心臓さえ手に入れば最早要らん」

 

その瞬間、了子は拘束していた戦闘員をぶちのめす。

他の戦闘員が了子を押さえようとするが、了子は手から衝撃波のような物を出し戦闘員を壁に叩きつける。

 

「ほう?」

 

「私も自分が悪者だとは思っていたけど、あんた達には負けそうね」

 

「フフフ…如何した?立花響に同情でもしたか?櫻井了子…いやフィーネ」

 

その言葉に、了子はゾル大佐を睨みつける。

 

「知っていたのね」

 

「我々を舐めて貰っては困るぞ、終焉の巫女。デュランダルの件である程度察しはついていた」

 

「へ~…で、私とやりあう気?」

 

「貴様の頭脳は惜しいが今回は引いておこう。我々の今回の計画は一先ず成功したからな」

 

ゾル大佐が懐から何か取り出す。

 

「データチップ?最初からそれが目的!?」

 

「ショッカーは聖遺物に対する研究が遅れていた。ならば他所から奪ってくればいい、シンプルだろ?出来ればお前も確保しておきたかったが仕方あるまい。また会おう、フィーネ。ふっははははは…」

 

通路の電源が一瞬落ち、次の瞬間にはゾル大佐の姿は何処にもなかった。

 

「…ショッカー…か」

 

了子がボソっと呟く。予想以上に厄介な相手だと認識した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「イーッ!」

 

立花響は小日向未来との距離を離した事で、戦闘員と戦い次々と倒していく。

それでも、未だに戦闘員が尽きる事がない。

 

「一体何人居るの!?」

 

響が思わず声を漏らす。今、倒したのも含めもう30人くらい相手をしていた。

 

「隙あり!」

 

「!しまった!?ああああああああああああ!!」

 

一瞬の隙をつかれクラゲダールの触手に右手が捕まった。放そうとしたが触手からの電撃に思うように体が動かない。

 

「俺の電撃を浴びて死ねぇ!!」

 

クラゲダールが電撃を浴びせ続ける。このまま響がやられてしまうかに思われたが、

 

「させるかよ!」

 

聞き覚えのある少女の声と共にネフシュタンの鎧の鞭が振るわれた。

何人かの戦闘員を吹き飛ばしクラゲダールの触手も千切れる。

 

「何だと!?」

 

電撃が止んだ響は声のした方を向く。其処にはあのネフシュタンの鎧の娘が居た。

 

「あ…ありがとう」

 

思わず礼を言う響。その言葉にネフシュタンの鎧の娘が顔を少し赤くする。

 

「た、助けた訳じゃねえ!お前を連れていくのはアタシなんだ!」

 

「お、おのれ!完全聖遺物の小娘がまたも邪魔をするか!?」

 

クラゲダールがネフシュタンの鎧の娘に文句を言う。それに対してネフシュタンの鎧の娘はクラゲダールを睨みつける。

 

「邪魔なのはお前らだ!丁度いい、お前らを倒してからソイツを…!?」

「危ない!?」

 

ネフシュタンの鎧の娘の背中から爆発が起こる。突然の事で受け身も取れなかった少女は真っ逆さまに地上に落ちるが響が直ぐに動いて抱き抱える。

 

「え!?」

 

更には、響の足元に流砂が発生する。直ぐに移動するとその流砂から怪人が出てきた。そして、空からも、蛾が人間並みの大きさの怪人が姿を現す。

 

「ちっ、ドクガンダー!地獄サンダー!何のつもりだ!?」

「苦戦してるから手伝ってやろうとしただけだ」

「右に同じよ。ついでにショッカーに逆らう愚か者も見に来た」

「ほざけ!立花響は俺の獲物だ」

 

空を飛ぶ蛾の怪人と地面から現れた虫型の怪人。クラゲダールが文句を言うが響にとって最悪だった。

 

━━━怪人が三人に増えた!?この娘を守りながら戦うのは…

 

「おい」

「へ?」

 

空から落ちたネフシュタンの鎧の娘の声に視線を落とす。明らかに不機嫌そうな表情をしていた。

そして、強引に響の手から離れる。

 

「お前を連れていくのは後だ。アタシは蛾の方を相手にしてやる!」

「え、協力してくれるの!?」

 

響の言葉に舌打ちをするが否定もせずドクガンダーの下に迫る。

 

「手を出すな地獄サンダー!」

「知った事か、早い者勝ちだ!」

 

口喧嘩をしつつ響へと迫るクラゲダールと地獄サンダー。

クリスとドクガンダー、響とクラゲダール&地獄サンダーの戦いが始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

某所にある古き日本家屋

和室の一室にて一人の白髪の長髪の老人が刀を脇に精神を統一している。

 

「……何者だ」

 

一人静かに目を瞑っていた老人が置いていた刀に手を置き薄暗い部屋の一角を睨みつける。

護国の鬼の勘が何者かが要る事を教えていた。

其処から一人の男が現れた。

 

「…久しいな、訃堂。元気そうで安心したぞ」

 

それは、紛れもなく特異災害対策機動部二課本部を襲撃したゾル大佐だった。

ゾル大佐は、本部襲撃後入手したチップを部下に持たせ以前から調査させていた風鳴訃堂の居場所に単身乗り込んだ。

 

「!貴様はゾル!?本当に生きていたのか」

 

「随分と老けたではないか。…100年ぶりと言ったとこか我が友よ」

 

この日、鬼と悪魔が再会を果たした。




未来さん、ゲロインをなんとか回避。

ゾル大佐の目的は二課の聖遺物のデータと櫻井了子の身柄。
ただし、了子がフィーネか確かめる事も目的でした。

そして、特に響と戦ってもいないクリスが味方に。
しょうがないね、ショッカーなんてほおっておけないもんね。


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12話 特異災害対策機動部二課VSショッカー 後編

 

 

 

遠くで爆発音が聞こえ黒いタイツ姿の男たちがたまに横切る。体調も落ち着いたし響には「此処に隠れてて」と言われたけど音のしてる方に行ってみようと思う。危険なのは分かってるつもりだけど私にも何か出来るかも知れない。それに、響に何があったのか分かるかも知れない。あの怪物たちと響がどう関係してるのか私は知りたい。

 

「…響!」

 

何か嫌な予感がする。もしかして、響がまた遠くに行くような予感が。

私の足は爆発音のする場所まで駆けて居た。

 

 

 

 

 

 

 

「完全聖遺物の小娘ごときが!」

 

「クソっ、蛾の癖に早え!」

 

ネフシュタンの鎧の娘はドクガンダーとの戦闘に入るが指からのロケット弾に苦戦を強いられる。

少女も負けじとネフシュタンの鎧の鞭を使うが自由に飛び回るドクガンダーにかすりもしない。

 

「空中戦は素人のようだな!小娘!」

 

無数のロケット弾がドクガンダーから発射される。

ネフシュタンの鎧の鞭で捌くが幾つかのロケット弾が命中する。

 

「うわあああ!!」

 

「小手先で対処仕切れる程、ショッカーは甘くはない!」

 

 

 

 

 

 

 

「その首貰った!」

 

クラゲダールの再生の終えた触手が響へと迫る。それを、ギリギリで回避する響。

動きが明らかに良くなってる事に驚くクラゲダール。しかし、

 

「俺の存在を忘れてもらっちゃ困るな!」

 

地面から地獄サンダーの腕が響の足を掴む。動きが止められた響はクラゲダールの触手の一撃を受ける。

触手で殴られた響は地面へと倒れる。其処へ、

 

「うわあああ!!」

「え!?」

 

ドクガンダーのロケット弾に叩き落されたネフシュタンの鎧の娘が響の前に落下する。

響はネフシュタンの鎧が所々ひび割れが起こってる事に気付く。

 

「ふっははは、完全聖遺物の小娘。恐るるに足らず!」

 

笑い声を上げながら降りて来るドクガンダー。更に、此方に来るクラゲダールに地獄サンダー。

そして、未だに無数の戦闘員が響達の退路を断つ。

 

━━━このままじゃ…こうなったら一か八か!

 

響がネフシュタンの鎧の娘の前に立つ。即ち怪人達の前に立ち塞がる。

 

「ハアアアアアアアアアアア!」

 

響が両手を自分の前にして集中する。そして、両掌の間からオレンジ色に輝く光が生み出る。その姿に驚きつつ警戒する怪人達だったが、その光が爆発し響は地面へと倒れる。

 

「何だ今のは?」

「ただの虚仮威し(こけおどし)か!?」

 

その様子に怪人達が嘲笑う。地面に倒れた響が何とか立ち上がるが、

 

「やっぱり私じゃダメなのかな…」

 

風鳴翼の言う通り本気でアームドギアを使おうとした。しかし、アームドギアはそれに答えてくれなかった。アームドギアならきっと、あの怪人達も倒せる筈と考える響。

 

「…お前、歌わずにアームドギアを使おうとしてんのかよ!?」

「え?」

 

ネフシュタンの鎧の娘が響に呆れながら呟く。どうやら少しだけ気絶していたようだ。

 

「只でさえ、短期間でアームドギアを手にしようとしてる癖に何で歌わねえんだよ!」

「…あははは…私歌えないんだ…」

「歌えないって…!」

 

「二人仲良くあの世へ逝けぇぇ!!!」

 

ドクガンダーが両手のロケット弾をネフシュタンの鎧の娘と響に撃ちまくる。無数のロケット弾が命中し爆発して辺りには煙が漂い視界が悪くなる。

 

「撃ちすぎだぞ、ドクガンダー!」

「心臓は残ってるんだろうな!?」

 

視界が悪い中、響達の死体を確認しようと近づくクラゲダールと地獄サンダー。だがあるのは壁の様な物が立ち塞がった。

 

「壁?」

「立花響は何処行った!?」

 

怪人達の前に壁の様な物が立つ。最初は砕けた岩が層にでもだろうと考えたがそれにしては奇麗過ぎる。っと其処に、

 

「剣だ」

 

「「!?」」

 

響ともネフシュタンの鎧の娘でもない声にクラゲダールと地獄サンダーは壁らしきものの上を見る。

そこには、

 

「風鳴翼!?貴様、まだ入院していたのではなかったのか!」

 

「もう何も、失うものかと決めたのだ」

 

「おのれ、くたばり損ないが!!」

 

壁の正体は翼が出した巨大な剣であり、風鳴翼は突き刺した巨大な剣の上で仁王立ちしていた。

 

「翼さん!」

「あいつ…アタシまで…」

 

剣が盾となり響もネフシュタンの鎧の娘も無事だった。翼が視線を響に向ける。

 

「立花、私も十全じゃない。それに本部とも連絡がつかない、急いでこいつ等を片付ける必要がある。だから怪人の一体は任せてくれ」

「翼さん…はい!」

 

「舐めるなぁぁぁ!!」

 

攻撃を防がれたドクガンダーが翼に向けロケット弾を放つ。翼は一旦、響達の方に着地し出した剣でロケット弾を受け止めるが、

 

「…長くは持たんか」

 

翼の目に剣がひび割れていくのが分かった。そう長くは持たない。

更に、周囲には無数の戦闘員が三人に近寄っていた。戦闘員は強くはないがこれだけの数は厄介と言えた。

 

「おい、アタシの話を聞け」

「え?」「なに?」

 

何か思いついたのかネフシュタンの鎧の娘が二人に語りだす。

 

 

 

 

ドクガンダーのロケット弾に翼の出した巨大な剣が壊れ崩れる。

崩れた剣の煙でまた見えないが、其処に人影が現れる。シルエットからネフシュタンの鎧の娘だ。

 

「覚悟でも決めたか?」

 

ノコノコ一人姿を現したネフシュタンの鎧の娘。大方二人を逃がすための囮だろうと考え地獄サンダーは戦闘員たちに大きめの包囲網をつくらせる。

しかし、ネフシュタンの鎧の娘は不敵に笑う。

 

「吹っ飛べ!アーマーパージだ!」

 

次の瞬間、ネフシュタンの鎧の娘は自身のネフシュタンの鎧をパージし無数の破片にする。

破片となった鎧は周囲の戦闘員を貫きさらに怪人にも襲い掛かる。

 

「なんだと!?」

 

ネフシュタンの鎧の破片が次々と戦闘員を貫き怪人達が連れてきていた戦闘員が全滅した。

響と翼は事前に聞いていて身を低くしてネフシュタンの鎧の破片をやり過ごした。

 

「凄い、あれだけ居た戦闘員が壊滅した」

「凄いよ、あの娘」

「あの娘じゃねえ!アタシの名は雪音クリスだ!」

 

響と翼の言葉にテンションが上がったのか少女は自分の名を言う。響がボソっと「クリスちゃん」と呟く。

その言葉に少し顔を赤くするクリス。

 

Killter Ichaival tron

 

「う…歌だと!?」

 

怪人達はクリスが突然歌った事に驚く。

 

「この歌って…」

 

クリス突然歌った事に響達も驚く。そして、歌うクリスの周りにエネルギーが渦巻く。

 

「クリスちゃんも…」

 

「あの小娘も装者だというのか!?」

 

「見せてやるよ、怪人ども。イチイバルの力を!」

 

クリスの姿が赤い色の多いシンフォギアを纏ったの姿となった。

 

「ついでに教えてやるよ怪人ども、アタシは歌が大っ嫌いなんだ!そんなアタシに歌わせやがって!!」

「歌が」

「嫌い?」

 

「ほざけぇ!貴様が勝手に歌ってるだけだろうが!!」

 

クリスに向けドクガンダーが再びロケット弾を撃ち込む。

 

疑問…? 愚問! 衝動インスパイア

6感フルで感じてみな

 

クリスが両手にボウガンを取り出し変形させる。ボウガンが一瞬でガトリング砲に代わる。

 

『BILLION MAIDEN』

 

両腕のガトリング砲から銃弾が雨あられと撃ちまくる。銃弾はドクガンダーのロケット弾に命中し次々と撃ち落とす。

 

絶ッ! Understand? コンマ3秒も

背を向けたらDie

 

「この俺と撃ち合うだと!?」

 

ドクガンダーはただ驚愕するしかなかった。

 

 

 

 

「連れてきていた戦闘員は全滅した!しかし、貴様を拉致すればまだおつりは来る!」

 

「御託はいい、来い。怪人!」

 

風鳴翼が地獄サンダーとの戦闘に入る。

翼の剣劇に素手で対応する地獄サンダー。偶に地面に潜って蟻地獄を作り翼を地中に引きずり込もうとするが翼も近くの木を切り倒し足場にする。

 

 

 

 

 

「は~…」

 

響が構えて精神を集中する。もう一度アームドギアを使うためだ。

 

━━━エネルギーは感じる。でもそれがアームドギアにならないなら、それをぶつけるだけだ!お願い、私に答えてガングニール!

 

響の右腕のギアが蒸気を上げ開く。

 

「いい加減死んで貰うぞ!立花響!」

 

クラゲダールが触手で再び響を拘束しようとする。しかし、響はクラゲダールの触手を掴む。

 

「掴んだだと!?それなら電撃を喰らえ!!」

 

クラゲダールの電撃が響を襲う。ダメージはくるが響はクラゲダールの触手を思いっきり引っ張る。

 

「な!?」

 

━━━雷を握りつぶすように!!

 

響の腰の部分がスラスターとなり火を噴く、一気にクラゲダールに接近する。予想外の動きにクラゲダールも対応が出来ない。

 

━━━最速で最短で真っ直ぐに一直線に拳を叩きつける!!

 

響の拳がクラゲダールの胴体に入る。そして、拳はクラゲダールの体を貫く。

 

「ば…馬鹿な!?」

 

真っ二つとなったクラゲダールはそのまま爆発し、響は無事着地する。

 

「わ…私にもできた…」

 

響、クラゲダールの撃破に成功。

 

 

 

 

 

 

 

 

傷ごとエグれば忘れられるってコトだろ?

イイ子ちゃんな正義なんて剥がしてやろうか?

 

「こ…こんなバカな!?この俺が押されてると言うのか!?」

 

ドクガンダーの声に焦りが伺える。赤いシンフォギア装者…雪音クリスの攻撃が一層激しくなったのだ。

 

「アタシのとっておき持ってきな!」

 

クリスの腰の部分のアーマーが開きミサイルポッドが出て、全てのミサイルがドクガンダーへと発射される。

 

『CUT IN CUT OUT』

 

「な、何だこの物量は!?」

 

HaHa!! さあIt's show time 火山のよう殺伐Rain

さあお前等の全部 全部 全部 全部 全部

 

ガトリング砲を未だ撃ち続け更には大量のミサイルにドクガンダーの対応が追い付かない。遂にはドクガンダーのロケット弾が撃ち漏らしたガトリングの弾やミサイルがドクガンダーに命中する。

 

「ぬおおおおおおおおお!!」

 

ドクガンダーは防御して耐える。耐え切れば反撃のチャンスがあると睨んだ。しかし、

 

「本命はこっちだ。バ~カ」

 

クリスの声にドクガンダーが視線を戻す。其処には大型ミサイルに乗ったクリスが此方に迫っていた。

 

否定してやる そう…否定してやる

 

「これがシンフォギアの能力だと!?」

 

回避も間に合わずドクガンダーはクリスの大型ミサイルが直撃し大爆発を起こした。辺りに破片が散る中クリスは平然と着地する。

 

「ハア、ハア、ハア…ショッカー、アタシはお前たちの存在総てを否定してやる」

 

雪音クリス、ドクガンダーを倒す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なっ!?クラゲダールもドクガンダーも殺られただと!?」

 

地獄サンダーは予想外といった声を出す。それだけクラゲダールもドクガンダーも弱くはない。寧ろ対シンフォギア用に強化改造手術までされていた。

 

「後はお前だけだ、地獄サンダー!」

 

翼が地獄サンダーに剣を向けて言い放つ。それに一瞬怯むが、

 

「俺はショッカーの改造人間、地獄サンダーだ!貴様なんぞに!」

 

地獄サンダーが一気に迫るが翼も一気に動き、二人の体が交差する。

翼が自分の剣を納めると共に地獄サンダーが膝をついた。

 

「貴様…明らかに…絶唱を使った時より動きが…良くなっている。…あの時…手を抜いていたのか?」

 

「…私は常に全力で戦っている。一つ言えるのはシンフォギアは装者の心象で強さも変わる。それだけだ」

 

「そんな…欠陥品に…」

 

そう呟き地獄サンダーが爆発する。それを憐れむような目で見る翼。

 

翼、地獄サンダーを撃破。

 

響、翼、クリスの三人は無事、怪人達を撃破した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「うおおおおおおおおおおおおお!!!」

 

「イーヒッヒッヒッヒッヒ!!」

 

響達が怪人達を撃破したころ、特異災害対策機動部二課本部でも戦いは佳境に入っていた。

弦十郎とピラザウルスが互いに拳を交える。弦十郎とピラザウルスの血が辺りに散らばり心の弱い職員は気絶する者も居た。

そして、互いの拳が同時に相手の顔を捕らえ打ち込む。

 

「ク、クロスカウンター!?」

「…どっちも動かないぞ?」

 

弦十郎とピラザウルス。まるで時間が切り取られたかのように二人は動かない。一分…十分…実際はもっと短いが特異災害対策機動部の職員にはそう感じていた。

先に倒れたのは弦十郎だった。

 

「指令!?」

「指令が負けた!?」

 

職員たちの悲痛な叫ぶが飛び交う。あの指令が…映画を見ただけで強くなれる人類なのか怪しい指令が負けた事が信じられない。

 

「…俺は…勝った…勝ったぞ…」

 

ピラザウルスが勝利宣言を上げようとするがガッツポーズを途中まで掲げ力尽き倒れる。その直後に爆発が起こる。その様子に職員たちは茫然とし残った戦闘員は逃げて行った。

 

「あ、相打ち?」

「いや、俺が勝っただけだ」

 

先に倒れた弦十郎が立ち上がる。顔中血まみれで、ピラザウルスのパンチの影響か膝にきていたが。

特異災害対策機動部二課本部の戦いも終わった。

何人か殺されたが囚われていた職員を解放し本部コンピューターに何か仕掛けられてないか調べる事に集中し翼への連絡が遅れた。

 

弦十郎は本部の移転を考える。ショッカーにこの場所がばれてる以上、何処かに遷した方が良いだろうと考思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「翼さん、私やりました!アームドギアが使えたんです!これで私も…!?」

 

翼の下に響が駆け足で寄っていく。初めてアームドギアを使えて嬉しかったのだ。

しかし、響の目に翼がクリスに向け剣を向けてる光景が映る。

 

「翼さん!?どうして!?」

「忘れたのか?立花。この娘…雪音クリスはネフシュタンの鎧を奪っていた事を」

「それは…」

 

翼の言葉に響は口ごもる。響としては助けてもらった恩もあるがネフシュタンの鎧も無視出来ない事は理解している。

 

「ハア、此処で決着を付けてやろうか?」

 

クリスの方も手に持つガトリング砲を翼に向ける。響を攫うにしろ逃げるにしろ翼の存在は無視できない。

二人が睨み合う中、響の耳が妙な音が聞こえる。何かが飛び落下するような音。響が上を見ると飛行型のノイズがクリスに向かって釘の様に細くなり落ちていくところだった。

 

「!?危ない!!」

「は!?」

 

咄嗟に響はクリスを押し出す。落下するノイズに響は肩から背中までの傷を負う。

 

「ノイズ!」

 

翼が落下するノイズを切り捨てる。

 

「お、おい!お前、何やってるんだよ!?」

 

倒れる響を抱き抱えるクリス。

 

「ごめん…クリスちゃんに当たりそうだったから…遂…」

「ば、馬鹿にしてるのか!余計なお節か…え?」

 

響を心配そうにしていたクリスだったが響の傷口を見て固まる。響の体の中の機械が目に入って言葉を失った。その直後に抱き抱えていた響の体を押し退けて翼が抱きとめる。

 

「おい、一体何を!?」

 

「…ざけんなよ…」

 

「…クリスちゃん?」

 

助けてもらって響をぞんざいに扱い怒る翼。突然の事で茫然とするしかない響。

 

「ふざけんなよ!お前もショッカーの怪人だったのかよ!?」

 

そう叫ぶとクリスは響にガトリング砲を向ける。響の中の機械を見てクリスは響が改造人間である事を始めて知った。

 

「…クリスちゃん」

「待て!立花は違う!立花は」

 

「違うならその体の中の機械は何だ!?今の医学でも、そんなもの入れられない事くらいアタシだって知ってる!!そんな事が出来るのはショッカーくらいだ!」

 

「待つんだ!立花「響?」はって、え?」

 

翼が別の人間の声に反応した。声のした方を見ると小日向未来が響の傷口を目撃した。

 

「…未来…」

「だ…誰だ!?」

「響、その体どうしたの!?あなたは本当に響なの!?」

 

傷を負った響に未来が詰め寄る。響が傷を負ったのは心配だが中から機械が出て急速に回復する姿に目の前の響が本当に響なのか分からなくなった。

 

「未来…私は…」

 

「おい、危ないから近づくな!此奴はショッカーの改造人間だ!!」

「ショ、ショッカー?改造人間?」

 

クリスが近づく未来を静止させる。ショッカーの改造人間なら何をするか分からないからだ。

 

『…とんだ茶番ね』

 

場が混沌としてきた頃に一人の女性の声が聞こえた。全員が声のした方を見る。

海の見えるスポットの手すりに凭れかかる女性が居た。金髪の全身黒の服をした女性だ。

 

「フィーネ」

 

「フィーネ?終わりの名を持つ者…」

 

『クリス、あなたにはほとほとガッカリよ。命じた事も出来ずショッカーの怪人と戦うなんてね。本当に失望したわ』

 

その言葉にクリスは響をチラッと見た後、フィーネに口答えする。

 

「あんな奴が居なくても私一人で戦争の火種を消してやる!ショッカーも纏めてぶっ飛ばせば、あんたの言うように人は呪いから解放されてバラバラだった世界は一つになるんだろ!!」

 

「世界を一つに?」

 

クリスの言葉に未来が反応する。最も、この中で一番状況が分からないが。

その言葉を聞いてフィーネは溜息を漏らす。

 

『もうあなたに用はないわ』

 

フィーネがクリスに興味を無くした方に言い放つ。愕然とするクリスだが、フィーネは構わず手を光らし散らばったネフシュタンの鎧を回収する。その後、翼にノイズを数体相手にさせてる間に海の方へ飛び込む。

 

「待てよ、フィーネ!!」

 

後を追う形でクリスも移動してしまう。その場には響と翼、未来が残った。

 

 

 

 

「…未来…私は…」

 

傷が完全に回復した響は未来になんと説明すべきか迷った。一応傍には翼も居たが翼自体なんと言えばいいか分からない。

 

━━━不味いよ、このままじゃ未来を完全に巻き込んじゃう。どうすれば…

 

「…ねえ」

「!」

 

最初に口を開いたのは未来だった。

 

「あなたは本当に響なの?」

「?」

 

言葉の意味が今一理解できない響。しかし、次の言葉で理解が追い付く。

 

「私の知ってる響はもっと優しくて話し合いを大事にする娘なの。あなたみたいな乱暴者じゃないわ」

 

「!?」

 

ショックだった。大好きな親友が自分を偽物扱いしたことに。だが、それと同時に響にある案が浮かぶ。

 

「そんな言い方は!」

「良いんですよ、翼さん」

 

あんまりな言い方に翼も訂正させようとしたが響が止めた。

 

「あ~あ、どうして分かっちゃたんだろ。せっかく()()()()()()()()()()

 

その言葉に驚愕する翼。目つきが鋭くなる未来。

 

「やっぱりあなたは偽物なの!?じゃあ本物の響は何処!?」

 

「本物?そんなのもう何処にも居ないよ。もう死んじゃったんだから」

「お、おい立花!?」

 

「!?…嘘。返してよ、返してよ!私の太陽を!」

 

「死んじゃったらもう帰って来ないよ。それにしても残念だったな…本物の代わりに私が未来の親友になる筈だったのに…」

 

次の瞬間、辺りに乾いた音が響く。未来が響にビンタをしたのだ。

痛かったのか、未来が涙目で手を押さえる。

 

「最低! もう二度と私に話しかけないで!化け物!!

 

そう言い残して未来は走っていった。目から涙を流して。

茫然と見送る響に翼が怒鳴るように言う。

 

「立花!何故あんな事を言った!あれでは…」

「…しょうがないじゃないですか。未来の性格上、私に何があったか知ったらもっと深入りして完全にショッカーに狙われてしまう。今ならまだ間に合うと思うんです。それにしても、私から未来に話しかけた事なんて一度も無いのにな…でも、これで未来と離れられると思うとせいせいしますよ」

「…なら、何でお前は泣いてるんだ」

「な、泣いてなんて…」

 

響が自分の顔を触る。そこで涙が溢れ出てる事に気付いた。

 

「あれ?…私…なんで…」

「…私の胸を貸してやる」

 

戸惑う響に翼は抱きしめそう言った。最初は混乱する響だが直に鳴き声に代わる。

 

「未来…未来!嫌だよ!このままお別れなんて嫌だよ!また一緒に過ごしたいよ!!未来!!」

 

泣き叫ぶ響を撫でながら翼は改めてショッカーを倒す事を誓う。




フィーネはクリスに響に対して同情心を持たないよう改造人間とは話してません。
クリスはネフシュタンの鎧よりイチイバルの方が強そうだと思います。

誤解が誤解を呼んで響にとって最悪な事態に。


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13話 日向に迫る黒い影

シンフォギアで大ショッカーが世界征服を完了して平行世界も侵略し出しXDに登場した全ての装者が戦うネタが思い浮かびました。
惜しむらくは自分はXDをやった事がないこと。

誰か書いてぇぇ!

世界蛇とどっちが強いだろう?


 

 

 

薄暗い和室。幾つかの蠟燭が灯される中、二人の人物が座布団に座っていた。二人の人物の正体はゾル大佐と風鳴訃堂だった。

 

「…以前言っていた高級玉露という物を出せ。また会った時に出すと言ったではないか」

「ほざけ、急に来おった癖に厚かましい。貴様こそ高級ワインとやらを出して見「持ってきてるぞ」よ…本当に持ってきおったか」

 

ゾル大佐が後ろからワインの入ってるボトルを取り出し前に置く。

 

「これは、南米に逃げる時に幾つか持ち出した奴の一つよ。毒は入っていないから安心しろ」

「…少し待ってろ」

 

ワインボトルを確認した訃堂は立ち上がり一旦部屋を出て五分もしないうちに戻る。その手には二つのワイングラスを持っていた。

そして、ゾル大佐の持ってきたワインを開け二つのグラスに注ぎ、そのうちの一つをゾル大佐に渡す。

 

「名目は何にする気だ?」

「我々の再会に、でどうだ訃堂」

「ふん、勝手にせい」

「それでは我が友との再会に、乾杯」

 

ゾル大佐がワイングラスに口をつけ喉を鳴らす。その姿を見た訃堂もワインに口をつける。

 

「…随分とうまいな」

「あの頃の安物のワインよりイケるだろ?」

「懐かしい話を」

「あの頃は若かったな、俺もお前も…最早、あの頃の戦友は俺とお前だけか」

 

「…昔話でもしに来たのか。要件を話せ」

「そうだな、率直に言おう。訃堂、ショッカーに入れ。お前の力が加わればショッカーに敵は居ない」

「…ショッカー…愚息には聞いていたが、本当にそんな組織を作っていたとはな。復讐か?」

「戦争の事を言ってるのなら違う。第三帝国は世界に戦いを挑み負けた。それだけだ」

 

「ならば何故だ?」

「愚問だな、訃堂。戦争には負けたがそれだけだ。次は負けぬ戦いをすればいい、それが俺にとってのショッカーだ」

「……」

「世界を支配し人類全てを改造人間にし意のままに操り、そして神の力を手にする。それがショッカーの大いなる目的だ。それで訃堂、返事は?」

「ワシの返事はこれだ!」

 

訃堂が脇に置いていた刀を取り抜刀しそのままゾル大佐の首元に振るう。ガキィンという金属音が部屋に響く、ゾル大佐は片手に持つ鞭で訃堂の刀を止めていた。刀と鞭の間に火花が散る。その後、何度か刀と鞭が打ちあう。

 

「ゾル、冥府魔道に落ちて得た力がそれか」

「昔より更に磨きがかかってるな。安心したぞ訃堂、老いてなお鋭き剣。力が衰えて居れば殺してやろうと思っていたが」

 

ゾル大佐と訃堂の間に再び火花が散る。暫しの睨み合いの中、訃堂は刀を戻す。

 

「去れ、昔のよしみで見逃してやる」

「…残念だ、訃堂」

 

訃堂の言葉にゾル大佐が残念そうに呟きつつ立ち上がる。

 

「訃堂、俺は日本をとる。戦場で会えばお前とて容赦はせんぞ」

「特機部二を甘く見るな。愚息とはいえワシの息子じゃ」

「…去らばだ。もう二度と会う事はあるまい」

 

それだけを言うとゾル大佐は和室を後にする。

 

「…馬鹿者が、国は違えども国家の為に戦った男が…あのザマか」

 

ゾル大佐の姿が完全に見えなくなり訃堂は一人呟く。

部屋には昔の友人が変わった事にショックを受ける老人が一人、空になったワインボトルが転がる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ショッカーの襲撃から数時間、特異災害対策機動部二課本部も落ち着きを取り戻しつつあった。

指令室には、腕を固定した風鳴弦十郎とオペレーター達そして風鳴翼も居た。

 

「その少女は確かに自分の事を雪音クリスと言ったんだな」

「はい」

 

翼がネフシュタンの鎧を着ていた少女とフィーネと呼ばれた女性の事を報告した。

 

「ビンゴですよ、指令」

 

藤尭朔也がモニターに映像を映す。映像には邦人の少女行方不明の新聞の記事や雪音クリスの顔写真が映る。

 

「こ、この娘です」

 

風鳴翼もそれが雪音クリスだと発言する。

 

「あの少女だったのか…」

「雪音クリス、現在16歳。二年前に行方不明となった過去に選抜されたギア装着候補の一人です」

「選抜?」

「その少女がイチイバルの装者となって敵対してるのか」

「…ですが、雪音クリスはショッカーに対して並々ならない程敵対感情があります」

「彼女もショッカーを知っていた?……まさか彼女も改造人間!?」

「あり得ない…とも言い切れません。響ちゃんが何か知ってるかも」

 

雪音クリスが行方不明になったのは二年前、立花響がショッカーに拉致されたのは一年半前、弦十郎たちはクリスがショッカーに拉致されていたのではないかと考えた。それならば、クリスがショッカーを憎んでる理由が分かる。しかし、

 

「ですが、怪人も雪音クリスの存在を把握できてなかったようですが」

 

翼の言葉で憶測に域を出ない。ショッカーが雪音クリスを拉致し改造人間にしてるのなら対応がおかしすぎる。何より、ショッカーは立花響を聖遺物怪人第一号として改造した。響の前に雪音クリスが拉致され改造されるのはどうにもおかしい。何よりショッカーの改造人間は響以外、動植物の能力をベースに改造され最早、見た目は人間ではなくなっている。雪音クリスにそのような兆候は見られない。

 

「響くんと言えば未来くんへの事情説明はどうした?」

「それが、調査部も未だに会えてないそうです。寮にも戻ってないとか」

「…日が暮れてだいぶ時間が経つんだがな…響くんのメディカルチェックもまだ終わらんしな」

 

響や翼が怪人たちと戦ったところを小日向未来が見てしまった。響には悪いが機密保護の為の説明で弦十郎は小日向未来を連れて来るよう命令を出す。しかし、調査部の捜索にも関わらず未来の姿が捉えられないでいた。住まいの寮にも帰った形跡がない。

 

「それにしても了子さんが無事逃げれて良かったですね」

「ああ、何でも隙をついて逃げ切ったそうだが…」

「了子さんには働きづめで悪いけど」

「了子くんの代わりなど早々居ないから仕方ない」

 

弦十郎がピラザウルスを倒した一時間後に了子は無事指令室に戻った。皆には隙をついて逃げたと説明して現在は響のメディカルチェックを行っていた。

 

「メディカルチェックと言えば叔父様はもう大丈夫ですか?ショッカー怪人と激しく戦ったと聞きましたけど」

「こんなもの、薬飲んで唾つけて寝たら一晩で治る」

「叔父様、本当に人間ですか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「外傷は大きけど、もう殆ど完治してるわ。凄いわね、その体」

「…はい」

 

響は了子にメディカルチェックとして体を色々見て貰って血も少し抜かれた。

CTスキャンの台に腰をかける響。

 

「相変わらず体の中がよく見えないけど問題はなさそうね」

「…はい」

「でも、無茶しちゃ駄目よ。響ちゃんが怪我をしたら皆心配するわ」

「…はい」

「過労も蓄積してるから気を付けた方がいいわ」

「…はい」

「……物を燃やした時に出来るものは?」

「…はい」

「重症ね」

 

了子が何を言っても「はい」としか返さない響にどうしようか考える。風鳴翼から親友である小日向未来とのやりとりを聞いていたが予想以上に元気がない。響はただ項垂れている。

 

「…そんなに落ち込むならあんな事言わなければ良かったのに」

「…私だってあんなこと言いたくなかった。でも…でも…」

 

了子の呟きに響が反応する。それを見て了子は溜息を漏らす。

 

「ショッカーのターゲットにならないようにするのは分かるわ。でも言い方とかあるでしょ」

「そんなの、あの時に思い浮かばなかったんです。私って呪われてますね」

 

「…呪われてるのは人類全体よ」

 

「え?何ですか?」

「ん?何でもないわよ」

 

了子の呟きに響が聞こうとしたが了子は何でもないと返す。

 

「それより、体の傷跡が消えないのね」

「…これでもマシになったんです。一時期は顔や腕、足先にまで傷跡がありましたから」

 

了子が露骨な話題転換をする。それに乗る響。暫しの沈黙の後に了子が再び口を開く。

 

「お友達の事が心配?」

「…はい、あのどうしても事情を説明しないといけませんか?」

 

響も弦十郎が未来に事情を説明すると聞いていた。即ちせっかく未来を遠ざけようとした自分の嘘もバレてしまうと考えた。

 

「仕方ないわよ、機密保護とか色々面倒なのよ。でも、まだ未来ちゃんは見つかったって報告がないのよね」

「え!?」

 

了子の言葉に響は驚く。自分の知ってる未来ならもう部屋に帰ってる筈だ。それが日が暮れてだいぶ経つのに帰っていない。

響の胸に不安が産まれる。

 

 

 

 

 

 

 

 

「しかし、イチイバルが行方不明だった雪音クリスの下にあるなんて」

「ショッカーに渡るよりはマシと考えた方がいいわね」

 

指令室でオペレーターの二人が話す。それを黙って聞く司令官の弦十郎と翼。

 

「でも聖遺物を力に変えて戦う我々の優位性がドンドン無くなるわね」

「ショッカーとフィーネの関係も分からない。協力関係か敵対か、あるいは…」

 

「深刻になるのは分かるけど、シンフォギアの装者は二人とも健在。それにショッカーの怪人も次々と倒してるんだから頭を抱えるには早すぎるわよ」

 

指令室の扉が開きメディカルチェックの終えた了子と響が入る。それを見て弦十郎と翼が立ち上がる。

 

「響くん、体の調子はどうだ?無茶はするなよ」

「は、はい」

「立花、私もまだ完璧とは言えないが立花の援護くらいなら戦場に立てる」

「つ、翼さん」

「仲間として一緒に戦おう」

 

翼が響に手を差し出す。一瞬嬉しくなり手を握ろうとするが力の制御が未だ出来ない事を思い出し、手を引っ込めてしまう。

 

「…立花」

「ごめんなさい、翼さん。でも私が触れたら翼さんの手が…」

「そうか、こっちこそ悪かったな立花」

 

翼が残念そうに手を引っ込める。

 

「ところで響くん、雪音クリスがショッカーに捕まってた可能性はあるか?」

「…正直分かりません。私がショッカー基地に居た時はクリスちゃんの名前なんて一度も聞いた事がない」

「そうか」

 

弦十郎の質問が終わり少しの沈黙が流れる中、今度は響が口を開く。

 

「それで…未来は見つかりましたか?」

 

その言葉に弦十郎やオペレーターの二人は互いに見つめ合ったりする。

 

「それが…」

「未だに見つからん」

 

その言葉に響はより不安に駆られる。響はただ「未来…」と呟くしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私の太陽()は死んだ。あの偽物(あの娘)はそう言った、信じられなかった、でも体から見た事も無い機械が見えて…響の体にあんなものは無い!ある訳がない。響は普通の人間だ。普通の人間にあんな物はない。ショッカー?改造人間?あの髪の白い娘が言っていたけど…分からない事ばかりで寮に帰る気も起きない。私の太陽が居ないなら私の生きる理由なんて…

 

「ウエーン!!」

「次はあっちの方を探してやるから泣くなよ!」

 

ん?子供の声と聞き覚えのある声に私は気付く。自然と足が声のした方向に進む。そして、

 

「妹を泣かすな!!」

「アタシが泣かした訳じゃないだろ!!」

 

兄妹と思しき二人の子供とあの白い髪の娘が居た。夕方の時の姿とは違い、濃い赤い色をした服を着ていた

 

「あの~、どうかしました?」

 

思わず三人に声を掛けてしまった。もう少し様子を見た方が良かったんじゃないかとも思ったけど、

 

「ああ、関係ない奴はあっち行ってろって…お前」

 

向こうも私の事を憶えていたようだ。そうだ、この娘に教えて貰えば良いんだ。

 

 

「あなたが迷子の世話?」

「そうだよ、此奴等連れて街中を回ったけど父親に会えなくて此処に戻って来たんだ。後、アタシの名はクリスだ」

 

そう、クリスって言うんだ。そのクリスが言うには偶々人気のない公園に通りかかったら女の子が泣いていて傍に居た男の子が泣かしたと思い止めようとしたら逆に妹が怒って「お兄ちゃんをいじめるな!」と言われて何時の間にか父親捜しを協力していたそうだ。

 

「クリスって優しいね」

「な、何言ってんだ、急に!」

 

あ、顔が赤くなった。ピュアだなクリスは。其処で気付いた、女の子が落ち着かずソワソワしだした事を。もしかして…、あ、クリスも気付いた

 

「おい、どうしたんだ?」

「…おしっこ」

 

やっぱり。しょうがない。

 

「あっちにトイレがあるから一緒に行く?」

「いや、お兄ちゃんがいい」

「え、また!」

 

あら、振られちゃった。それにしても仲いいなこの兄妹。その後、男の子は文句を言うけど結局妹の付き添いで公衆トイレに行き私とクリスだけになる。…またとないチャンスだ。

 

「ねえクリス」

「ん?」

「夕方ぐらいにショッカーとか改造人間とか言ったよね」

「…そうだな」

「教えてくれない」

 

私の言葉にクリスは複雑な表情をする。迷ってるようだ。

 

「…世の中、知らない方がいいって言葉もある。下手すればお前の価値観が変わるかも知れない。それでも聞きたいか?」

「価値観なんてもう変わっちゃったよ。お願い」

「…分かった。ショッカーってのは…」

 

クリスから聞いた情報は私の予想を遥かに上回っていた。世界征服を企む秘密結社が現実に存在し、人間を改造して文字通り改造人間にしてしまう。そして改造人間を使って暗躍し世界を支配しようとしてる。普段なら私も信じない、でも夕方に見たクラゲの怪物や目の前で消滅した戦闘員と呼ばれる人を間近で見てこれが現実だとわかる。…現実感は未だにないけど、弓美ではないけどアニメや漫画のような話だ。そして、改造人間は怪人と呼ばれショッカーの為に働く。…あれ?

 

「待って、じゃあ何で響…あの子はなんでショッカーと戦ってたの?」

「響?…ああ、癒合症例の奴か、アタシも分かんねえ。仲間割れじゃないか?」

 

仲間割れ、本当にそうだろうか?話を聞いた感じショッカーは話し合いが出来る組織とは到底思えない。何より、私を守る為に戦っていたあの娘の顔は辛そうに見えた。…待って、もし響が巻き込まれてて私を巻き込まないよう動いていたら?…響の性格上…まさか!

 

「お、おい大丈夫かよ!?」

 

何時の間にか汗を流して息が荒くなっていた私にクリスが大丈夫かと聞く。

 

「う、うん大丈夫」

 

クリスのはそう言ったけど、内心の私は不味い。もし、私の考えが正しければ響は…

 

「それにしても、あいつ等遅いな」

 

クリスが少し心配そうに言う。そう言えば大分時間も経ってるのにまだ戻ってこない。もしかして、また迷子になったのかな?

 

「お、やっと戻って来たな。…でも一人だけか?」

 

クリスの言葉に私もクリスの視線の先を見る。外灯で薄暗い公園を走ってる子供の影が見えた。でも、クリスの言う通り一人だけだった。そして、ある程度近づいて分かった。女の子が泣きながら此方に走ってる事を

 

「ウエーン、お姉ちゃん!」

「おい、どうしたんだ」

 

クリスの下まで走って来た女の子は泣きながらも抱き着きクリスも受け止める。やっぱりクリスは良い娘だな。

 

「お兄ちゃんが、お兄ちゃんが!」

「お兄ちゃんがどうしたんだ?怪我でもしたのか?」

「お兄ちゃんがキノコのお化けに捕まっちゃったの!」

「キノコの?」

「お化け?」

 

私とクリスはお互いの顔を見る。クリスも困惑してるようだ

 

「あのな、それはたぶん見間ちが…」

 

                   ヴェ、ヴァヴァー

 

クリスは最後まで言い切る事が出来なかった。私とクリスの耳に不気味な声が聞こえた。

声のした方を見る。まるで女の子の後を追うように同じ場所から複数の足音が聞こえる。

 

「…ガキを追ってみれば報告で見た女が居るな」

 

人影はそう言って私達に近づく。最初は暗くて見えにくかったが外灯の明かりに照らされ姿が見えた。

 

「キ…キノコ…!?」

「怪人か!?」

 

目の前の人間…いや怪人は頭の部分がキノコで顔がキノコの裏のスジみたいな顔をしていた。そして、片手にさっきの男の子の首が握られている

 

「!「動くな」!?」

 

クリスがペンダントを握って何かしようとしたがキノコの怪人が掴んでる男の子を前に出す

 

「妙な行動をしてみろ、このガキの命はないと思え」

 

怪人は男の子を堂々と人質にした。クリスが苦虫を嚙み潰したような顔をする。許せない!

 

「人質なんて卑怯よ!」

 

「卑怯?我等にとって誉め言葉よ」

 

私の言葉に微塵も動揺しない。これがショッカー、悪の組織。っと何処からともなく黒タイツの男たち…戦闘員が私達を囲いだす。

 

「くそっ!」

 

「お前がシンフォギア装者だということは知っている。お前が変身するのが早いかこのガキが死ぬのが早いか試してやろうか?」

 

男の子から悲鳴が漏れる。手に力を入れて男の子を苦しめてるようだ!

クリスが動けない。あの怪人が言ってる事はハッタリでもなんでもない、本気で子供を殺すつもりだ。

 

「…わかった、抵抗はしない。だからこいつ等には手を出すな!」

 

ペンダントから手を放し両手を上げるクリス。戦闘員がクリスのペンダントを引き千切りキノコの怪人の下に持っていく。

こいつ等ってのには私も含んでるようだ。クリスは私を巻き込まないようにしてる。やっぱりあの時…

 

「ガキどもは構わんが小日向未来は駄目だ。大佐より連れて来るよう命じられている」

 

私の事を知ってる!?それに私もショッカーに狙われてた!?

次の瞬間、キノコの怪人の口から白い煙のような物が噴き出す。頭がボーっとしてきた…意識が…

 

「なんだよ…これ…」

 

「安心しろキノコの胞子だ。ただし吸った人間を仮死状態にするがな」

 

キノコの怪人は楽しそうに笑う。意識がドンドン遠のく中、「アジトまで運べ」と聞こえ私は意識を失った。

 

 

 

 

一時間後、犬の散歩をしていた人が倒れてる子供を発見して救急車を呼び病院に担ぎ込まれ無事だった。

しかし、兄妹の証言は夢として処分され起動二課に届く事はなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結局、一晩が過ぎても未来が発見されたという報告はなかった。

私は現在授業にでている。何時もなら未来が座る席には誰も居ない。先生が未来が無断外泊したようだと言いクラスが軽く騒めく。未来の友人たちが私に未来を知らないか聞いてくるが私だって知りたい。そのまま今日の授業は終わり、私は何時も通り特異災害対策機動部二課本部に足を運ぶ。未来の情報を得たのではないかと儚い期待を抱いて。

 

でも、

 

「響くん大変だ!」

 

それは、

 

「ショッカーからメッセージが届いた!」

 

どこまでも、

 

「メッセージを再生します」

 

私にとって

 

『聞こえるかね?親愛なる特機部二ならび立花響よ。我々は雪音クリス並び小日向未来を確保した。無事取り換えしたくば我々のアジトまで来るのだな。こなければこの二人は改造人間にする。場所は……』

 

最悪の情報だった。




朗報(悲報?)この作品の訃堂はそこまで腐ってない。
ゾル大佐としては訃堂をショッカーに入れたかったようです。

一応、ゾル大佐と訃堂の二人の関係の設定を。

1936年の日独防共協定より同盟を組む為の交渉を開始。その使者にまだ下士官時代だったゾルと若かりし頃の訃堂などが中心であった。
しかし、アジア人を見下すゾルと国粋に浸透していた訃堂が合う訳も無く互いに罵り大喧嘩が多発。しかし、それでも互いの事が分かってきて1940年に日独伊三国同盟を成立させる。それなりに友人関係を築けたが第二次世界大戦が勃発、互いに「また会ったら高級玉露を飲ませてやる」「なら俺は高級ワインだ」と言い分かれた。
口には出さないがお互い、相手をリスペクトしていた。

こんな感じですかね。


OTONAたちがクリスに勘違いを。
そして、響の嘘に気付きはじめた未来さん、運悪く人間狩りをしていたキノコモルグに捕まる。



思い付きの次回予告などを、

我らが立花響を狙うショッカー本部が送った次なる使者は怪人キノコモルグ。二人の囚われたショッカーアジトに響達が向かう。ショッカーの非道を垣間見るクリスと未来は何を思うか!?
そして、ゾル大佐の恐るべき罠とは!?
次回、『悪魔のショッカー』にご期待ください。


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14話 悪魔のショッカー

 

 

薄暗い空間。此処はショッカーの数多あるアジトの一つ。広めの部屋に複数の人影が拘束されている。キノコモルグに誘拐された人達がいる。その中には雪音クリスと小日向未来の姿もあった。奇妙な機械音が耳に入る。

 

「う、う~ん」

 

雪音クリスが目を覚ました。

 

 

アタシは一体…確か二人の子供の父親を捜していて…そうだショッカーのキノコ野郎に捕まったんだ!変な機械音が聞こえる。…!?体が動かねえ!よく見るとアタシの腕と足に鎖が付けられている!アタシの他にも何人もの人が捕まってる。…!

 

「おい、未来!しっかりしろ未来!」

 

アタシの隣に未来も同じ姿にされていた。幸い裸にされてないが状況が良くなってる訳じゃない

 

「う…ううん」

「此処は…一体」

「…何で…縛られて…るんだ?」

 

アタシの声に未来以外にも目を覚ます奴が居た。どうやらアタシら以外の人も拉致されてたみたいだ。未来も目を覚まし周囲の確認や手足が拘束されてる事に気付く。アタシに何か聞こうとしたけど扉が開く音が聞こえアタシや他の人も視線を向ける

 

「ほう?もう起きたか」

 

扉からはあのキノコ野郎と戦闘員に白服に顔に緑色と赤色の男が入って来た。医者っぽいが…

 

「ば…化け物!?」

「な!?なんだお前らは!?」

「こ、此処から解放してください!」

 

アタシや未来以外の人達が恐怖し解放してくれと叫ぶ。だがキノコ野郎はそれを楽しそうに見てやがる

 

「ようこそ、ショッカーのアジトに!諸君らはショッカーの改造人間候補となった!」

 

医者っぽい奴が何か言いだした。改造人間候補って何だよ!?

 

「なんだよショッカーって!?」

「ショッカーって都市伝説のあれだろ!まさか本当に実在したのか!?」

「いいから此処から出してよ!」

 

医者の発言に困惑する人達。当然だ、アタシだってショッカーを知らずにこんな所に連れてかれてたら同じ反応をする。アタシと未来は声を出さず様子を伺う。シンフォギアが取り上げられた以上チャンスを待つしかない

 

「本来なら改造手術は知能と体力の優れた人間に行われる!しかし偉大なる支配者、ショッカーは君たちにチャンスを与えてやるのだ!諸君らはこれより肉体改造テストを受け合格すれば改造人間となりショッカーの一員に…なれる!!」

 

困惑する人達の言葉を無視し医者は自信満々になんの迷いも無く言い切った。クソッ!ああいうのが一番厄介なんだよ!自分の言葉に欠片も迷いが無い。だから酷い事が出来るんだ!

 

「ふざけんな!ショッカーに入った覚えはない!!」

「勝手に人を改造しないで!!」

 

「誰しもが最初はそう思う!そして、やがてはショッカーに感謝するようになる!」

 

アタシや未来の言葉にも医者はそう言い切る。狂ってやがる!アタシ達の言葉なんて聞こうともしない

 

「これよりテストを行う!!」

 

すると、部屋の中央が開き下から何かせりあがって来る。人一人くらいなら寝そべれそうな丸い台のようだ。医者が指示を出し、キノコ野郎がアタシの反対側の人を拘束を解いて丸い台に連れていく。その人は抵抗するがキノコ野郎には効果がない。そして、その人は台に寝かされ拘束される

 

「これより5万ボルトの電流が流れる、それに耐えられたら改造人間研究室へと送られショッカーの改造人間となる。もっとも並の人間なら黒焦げになって死ぬが貴様たちには既に予備注射を打っている。簡単には死なん」

 

「や、やめろ!やめてくれ」

 

台の上に拘束された人が止めるよう懇願する。しかし、ショッカーの連中は誰一人耳を貸さない。キノコ野郎は寧ろ笑っていた

 

「これより電流を流す!」

 

医者が台に付いているスイッチを弄る。途端に拘束された人が悲痛な叫びを上げ悶え苦しむ。見ていて気分が悪くなる。未来も顔を青くしている

 

「5万ボルトに到達、10万ボルトに上げる!」

 

電力を更に上げ、拘束された人は最後に悲鳴を上げガクッと首から力が抜ける

 

「もういい、死んだ」

 

医者は淡々と死んだと言い戦闘員に捨てるよう命じる。戦闘員も慣れてるのか拘束されてた人を退かしてキノコ野郎が別の拘束された人を連れていく。人をアッサリと殺しておいて、バルベルデの方がまだ人道的っだた気さえする。あそこには悪い奴も居れば良い奴も居た

 

「止めてください!私にはまだ幼い二人の子供が要るんです!私が死んだらあの子たちが!!」

 

中年の親父が必死に懇願する。二人の幼い子供って!?

 

「あ、あなたの子供たちって…」

 

未来が中年の親父に話しかける。もしかして、此処に連れてかれる前に一緒に居た子供たちの…

 

「な、何故あなた達が私の子供を」

 

本当に親だった。つまり、あの兄弟の親ははぐれたんじゃなくショッカーに拉致されていた!その間にもショッカーはその父親を淡々と台に拘束する。少しはコッチに興味持ちやがれ!!

 

「おい、そいつの言ってる事は本当だ!解放してやってくれ!頼む!」

「クリス…」

 

アタシも、あの子供の父親を解放するよう訴える。この先、生きていくのに親無しなんて駄目だ!アタシみたいな人を増やしちゃいけないんだ!頼む、解放してくれ!!

 

「クックックック…そうかそうか」

 

だが、帰って来たのはキノコ野郎の笑い声だった。こいつ等に慈悲なんてない!分かっていた筈なのに!

 

「子供たちも心配だろ。生き残れるよう気合をいれるんだな」

「二人目のテストを開始する!」

 

医者は無慈悲にスイッチを入れる。父親の悲鳴が聞こえアタシや未来、他の人達も目を逸らす。悲鳴は数十秒ほど続いた後に静かになった。見ると、中年の男性はピクリとも動かない

 

「5万ボルトにも耐えられんか、期待外れだな」

「次だ!」

 

人間がアッサリ殺されていく。くそっ!くそっ!くそっ!!…此処は地獄だ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゾル大佐からのメッセージから既に3時間、工場跡地に響や翼、緒川が物陰に隠れ周囲を警戒していた。

 

「指令、ゾル大佐の言葉通りアジトの出入り口を発見。自動小銃を持つ戦闘員の数も多いですが…」

『…其処は何年か前にノイズ被害で捨てられた地帯だ。秘密のアジトを造るにはうってつけと言う訳か』

「後、通風孔らしき物を発見してそこからは入れそうです」

『すまんな、俺もアジトの乗り込みたかったが…皆に止められなければ』

 

弦十郎の悔しそうな顔に緒川は顔を引きつらせる。自分が留守の間に本部はショッカーに一時的占領されたと聞いて心配したが怪人との殴り合いに勝ったと聞いてホッとする。しかし、無傷の勝利とはいえず片腕の骨がまだ治ってない。他の打撲の怪我は数時間で治った。

 

「それでは手筈通りお二人が陽動で僕が潜入を」

「緒川さん、お願いです!私も連れて行ってください!」

「立花!?」

 

本来二人には外で戦闘員と戦って陽動、その隙に緒川が潜入して雪音クリスと小日向未来を助けて手順となっていた。しかし、立花響が「未来が攫われたのは自分の所為」と言い緒川の手伝いをしたいと言ってきたのだ。まだ、風鳴翼も病み上がりである以上響と一緒に外で戦ってほしかった。

 

「…響ちゃん」

「我儘だって事は分かってます。それでも…未来を…助けたいんです!例え嫌われてても!」

「立花…緒川さん、私からもお願いします」

 

響が土下座するような勢いで頼む姿に翼も根負けして緒川に連れていくよう頼む。

 

「…仕方ない」

 

緒川が折れた事で響が明るい顔をする。その後、軽い打ち合わせをして緒川と響が通風孔から潜入、その一時間後に翼がアジトの出入り口の戦闘員に仕掛ける。

 

 

 

潜入はアッサリ成功した。通風孔は人一人余裕で通れる広さだ。ショッカーはわざと僕達を侵入させてる事に気付く

 

「緒川さん、あれ」

 

響ちゃんが通風孔からアジトの内部を見る。何度か戦闘員の集団や科学者と思しき白づくめの戦闘員を見てきた。また、それかと思い僕も覗いてみる

 

「…戦車!?随分旧型のようだけど…」

 

通風孔の向こうには多数の戦車があった。あまり兵器に詳しい方じゃないけど第二次世界大戦時にドイツが使っていた奴だと思う。シンフォギア装者にとって敵でもないけど動き出すと厄介だな

 

「響ちゃん、ちょっと此処で待ってて」

 

通風孔の隙間から中に侵入する。何人かの戦闘員が居たけど気付かれる前に全員倒す。後は戦車が動かないよう細工をして……さすがショッカーだ、見た目は古い戦車だけど中身は随分と新しい。…これでよし。あ、それから…

 

「ただいま」

「お、おかえりなさい」

 

通風孔から戻ると響ちゃんが目をパチクリしながら見て来る。忍者の動きをしすぎたかな?それはそれとして僕は響ちゃんにある物を渡す。

 

「…戦闘員の服ですか?」

「内部に侵入するなら着といた方がいいよ」

 

僕が此処に戻る前に二人の戦闘員から服をかっぱらった。ちゃんと顔も隠れる覆面タイプだ。

 

「あの~これ付けるんですか?」

「無理言ってついて来た以上従ってもらうよ」

 

僕の言葉に渋々従う響ちゃん。後は適当な場所で通路に降りればいいともう少し移動した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アレから何人もの人が殺された。男の人も女の人も皆、心なしか肉の焦げた匂いが漂ってる気がする、気持ちが悪い。残ってるのは私とクリスだけだ。こんな絵に描いたような悪が居るなんて!

 

「あれだけ居て誰も耐えられんとは…情けない!」

「そう言うなよ、博士。俺は楽しめたぜ」

 

医者っぽい人が文句を言いつつキノコの怪人がフォローしている。何人も殺してきたのに全く悪びれる様子もない。この人たちは本当に人間だったの!?死んでいった人達の悲鳴がまだ消えない!フラワーのお好み焼き以外食べてない事が良かったなんて

 

「なんなんだよ……これだけの事をしといてお前達は何がしたいんだ!」

 

クリスが叫ぶように喋る。クリスの目から涙が溢れてる

 

「聞いていなかったのか?肉体改造テストと言ったのだ。この程度も耐えられんようなら到底強い怪人になれんわ!」

「まあ、俺としては人間が苦しんで死んでいくのが見たいだけだがな」

 

医者っぽい人はさも当たり前の様に答え、キノコの怪人は嫌な趣味を話す。その答えに愕然とするクリス。こんな組織じゃ響も話し合いを諦める…そうだ、響だ!

 

「響にもこんな酷い事をしたんですか!?」

 

「ひびき?」

 

私の言葉に医者っぽい人は分からない表情をする。響を改造したのはこの人じゃない!?

 

「立花響は、特別だ。このようなテストは行っていない」

 

扉が開き、アイパッチをした軍人風の男が入って来た。響が特別?如何いう事!

 

「ゾル大佐、わざわざ此方まで…如何しましたか?」

「なに、様子を見に来ただけよ」

 

医者っぽい人の反応でこの軍人の人が上司みたいだ。名前は…ゾル大佐?それより、

 

「響が特別ってどういう事!?」

 

「貴様は、立花響がライブで死にかけた事を知っているか?」

 

「ライブ?」

 

クリスが何か反応しけど私はゾル大佐という男に意識を集中する。響がライブで死にかけた?当然知ってる。あのライブは私が誘ったんだから!

 

「その死にかけた時に立花響の心臓に聖遺物、ガングニールが付着した。勿論、手術はしたが全てを取り切る事は不可能だったようだ。一部が心臓に残り、我々はその情報を手に入れた。そして、ライブの事件の半年後に我々が立花響を拉致したのだ」

 

半年後!?響が突然行方不明になった時と一致している!?

 

「響が一年半前に行方不明になったのは貴方達の仕業ね!!…響になにをしたの!?」

 

「最初は単純に心臓の聖遺物が目的だった、即ち心臓以外捨て聖遺物を取り出す手筈だ。しかし立花響の体を調べ思わぬ情報を手に入れた。聖遺物が立花響の心臓と融合を起こしていたんだ」

 

融合?そう言えばクリスも響の事を融合症例って…

 

「そこで我々は考えた、このまま立花響から心臓を取り出すより改造人間として観察した方がいいのではないか。その結果、立花響から心臓を取り出すのを止め改造人間にし実験データを得る事にした。何よりも聖遺物が改造人間にどれだけの力を与えるかも知りたかったからな」

 

そんな理由で響を!私の太陽を、許せない!

 

「そうして、立花響はショッカーの技術の粋を集めた最強の改造人間となる…筈だった。しかし、立花響は我々に協力するどころか逆らってばかりだったのでな。聖遺物が脳改造の影響を受けるのではと後回しにしたのが響いたようだ」

 

脳改造。また知らない単語だけど言葉からして碌でもない物だろう

 

「半年前と一年半前で…二年前?ライブ?…まさか」

 

クリスが何か呟いてるけど私はゾル大佐を睨みつける

 

「そ、それで響は何処に!?」

 

「後はお前も知ってるのではないか?一月以上前にショッカーから逃走し特異災害対策機動部二課に保護された。我々の調べではリディアン音楽院に通ってるそうじゃないか」

 

そ…それじゃああの響は本物だった…!私を巻き込まない為にあんな嘘を!…なのに私は何てことを!?

 

 

 

「ゾル大佐、喋り過ぎでは?」

「フフフ、構わん。どうせこの二人はエサだ、そしてこのアジトが立花響たちの墓標となる」

 

医者ことショッカー科学陣の一人が俺に進言するが別段構わん。どうせこのアジト諸共この小娘たちも死ぬ。最初からこの二人は立花響を誘き寄せる為の餌よ。まぁ、仮に生き残ったところでこんな小娘どもに何ができる?




クリスと未来、ショッカーの洗礼を浴びる。
目指せ、シンフォギア作品系の一の悪役を。
ゾル大佐が喋りすぎ問題。

ショッカーのアジトのイメージは「新仮面ライダーSPIRITS」の一巻に出てきたアジトです。


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15話 クリスと未来の危機 ショッカーの恐怖

 

 

装着した適合者の身体能力を引き上げると同時に体表面をバリアコーティングする事にてノイズの浸食を阻止する防護機能。更には、別世界にまたがったノイズの在り方をインパクトによる固有振動にて超越。強制的にこちら側の世界の物理法則に固着させ位相差障壁を無効化する力こそシンフォギアの特性である。同時にそれが人が扱えるシンフォギアの限界でもあった

 

「…だと言うのに」

 

ショッカーは、シンフォギアを使わなくてもノイズを倒した。私の開発したシンフォギアシステムの模倣だろうが、薬品工場での戦いにその力を垣間見た。私から見ればお粗末なシステムではある、しかしショッカーにとってノイズは最早敵ではない。立花響クラスの怪人なら攻撃が通るなら普通に殲滅も出来る。此方の優位性がなくなるのは正直厳しい。立花響の体を見る限りショッカーの技術は私の予想以上だろう。だが、それでもショッカーは私のシンフォギアシステムを欲しがっている。ゾル大佐の口ぶりを聞く限りショッカーは絶唱を利用したいようだ

 

シンフォギアから解放されるエネルギーの負荷は容赦なく装者を蝕み傷つけていく。その最たるものが絶唱。人とシンフォギアを構成する聖遺物とに隔たりがある限り、負荷の軽減は見込めるものではないと私の理論でも結論が出ている。だが、そんな負荷はショッカーにとって全く問題がないのだろう。使い捨て同然の戦闘員に負荷を押し付ければショッカーの怪人にとって絶唱の力による負荷などノーリスクだ。なるほど、ショッカーが欲しがる訳だ。けど、あの大佐の言葉でショッカーは絶唱をまだ再現出来ていないという事だ。これなら、此方にも十分アドバンテージがある。しかし、ショッカーは、人と聖遺物の融合体第一号立花響の心臓を手に入れようとしてるが何を企んでるのか?ノイズを倒したいだけならもう必要ない筈。より強い怪人を作りたいだけか?

 

人と聖遺物が一つになる事で、更なるパラダイムシフトが引き起こされるのは疑いようもない。人がその身に負荷なく絶唱を口にし、聖遺物の力を自在に使いこなす事が出来れば、それは遥けき過去に施されしカストディアンの呪縛から解き放たれた証。真なる言の葉で語り合いルル・アメル(人類)が自らの力で未来を築く時代の到来。過去からの超越。ショッカーの狙いはそれか?今この場で考えても仕方ない。…しかし、

 

「立花響の心臓の様子を見れんのが痛いな」

 

融合症例第一号の立花響の調査がまるで進まない。心臓を包んでいる未知の金属の所為だ。おかげで血液検査でしか判断が出来ない。データが足りなさ過ぎる。これでは「あの方にお会いしたい」という気持ちが強くなる一方だ。これ以上は待っていられん

 

「ぶっつけ本番…か」

 

転生を繰り返した私らしくない反応だな。心のどこかで私はショッカーを恐れてるのか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戦闘員の服を嫌々着る響ちゃん。僕もさっさと戦闘員の服を着て適当な場所で下に降りようとし、もう暫く通風孔中を進んだ。そして、

 

「響さん、あれが?」

「はい、ショッカーのシンボルです。でも私も此処まで大きいのは初めて見ます」

 

通風孔のダクトの中から大きな広場のような部屋を見る。其処は100人以上は集まれる程の広さだ。そして、その正面には巨大な地球とその上に立つ鷲のエンブレムが存在感を放っていた。此処から見たところ見張りの戦闘員は居ない。僕達は此処から下に降りる事にした。

 

「此処からは降りて侵入しよう。なに、堂々としていれば案外バレないよ」

「は、はい」

 

緊張してる響ちゃん。でも僕は構わず下に降りる。もう直ぐ翼さんが陽動をする筈だ。それにしても、僕達の予想通りこのアジトから妨害電波が出ている。翼さんとも本部とも通信が出来ないのは痛い

 

 

 

 

 

 

 

 

「響…ごめんなさい、ごめんなさい…」

「アタシは…アタシは…」

 

「何やら様子がおかしいな」

「壊れたんでしょうか?」

 

ゾル大佐の言葉を聞き終えて、未来とクリスの様子がおかしい事に気付く。少し考えたゾル大佐は口をにやける。

 

「せっかくだ、此奴らも肉体改造テストを受けさせろ。なぁに、死んだら死んだで有効利用も出来よう」

「了解しました。この娘たちのテストを行う。先ずは白い髪の娘からだ!」

 

科学者の声に控えていた戦闘員がクリスに迫る。

 

「…嫌だ…嫌だ!…嫌だ!!」

 

心の折れかけていたクリスが逃げようと藻掻くが、シンフォギアもない状態ではろくな抵抗も出来ない。それでも暴れるクリスに戦闘員がクリスの顔を殴りつける。かつてのバルベルデの記憶が蘇ったクリスが抵抗を弱め台の上に乗せられ縛られる。

 

「もう止めて!私達はエサなんでしょ!?なら、もう用はない筈よ!!」

 

「そう、もう用済みだ。だから最後に役立って貰うぞ」

 

未来の必死の訴えもゾル大佐は笑いながら答える。生き残るなら良し、死んでも大した問題はショッカーにはない。手にする鞭を未来に向けるゾル大佐。

 

「ショッカーにとってお前達はもう必要のない人間。利用価値が無い者には死だっ!死にたくなければショッカーの求める人材となるのだな」

 

クリスの体に5万ボルトの電流が流れる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…響さん、此処は?」

「…監房です」

 

私と緒川さんはアジトの内部を歩き回った。このアジトは私の知ってる物より大きく広い。其処を私達は手がかりも無しに未来とクリスちゃんをさがしていた。途中、本物の戦闘員と何度かすれ違ったが特に怪しまれてはいないと思う。何度か私の方を見る戦闘員が何人かいたけど…。そして、私達は内部が赤く塗られた檻の前に立っていた。その中には…

 

「…何人もの焼死体が…ショッカーは一体何を…」

「恐らく怪人の性能を実験する為の犠牲者です」

 

私は緒川さんに知ってる事を話す。ショッカーは強制労働をさせられていた何の罪も無い人達が疲労で働けなくなれば死刑と称して新兵器の実験台にされる事を

 

「…ショッカーはどこまで!」

 

珍しく緒川さんが怒った声を出し拳を握る、私も同じ気持ちだ。ショッカーを野放しにしてはいけない。何としても倒さないと……

 

ウ~~~~~~~

        ~~~~~~~~

                ~~~~~~~~~~~

 

アジトの警報が鳴った!?翼さんだろうか!?

 

「不味い、もう時間だ!急ごう、響さん!!」

 

私と緒川さんは急いでこの場を離れる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ…ああ…あ…」

 

台の上でクリスが白目を向いて泡を吹いている。体中から大量の汗を流すが生きている。断末魔の叫びを聞いた未来は目を逸らし、笑みを浮かべるゾル大佐。

 

「素晴らしい、5万ボルトどころか10万ボルトも耐えるとは、改造人間の素体としては申し分ない。…そうだ、聖遺物を心臓に移植し立花響のように改造しろ。イチイバルの調査も終えた、ガングニールとイチイバルの違いがあるのか見てみたい。直ぐに実行しろ!」

「し、しかし、ゾル大佐この娘はテストを終えた直後で体力を消耗しています!改造手術に耐えられるとは…」

「回復薬でも飲まして置け、まぁ死んだら死んだでそこまでの小娘ということだ」

 

科学者が焦りの進言をするが、何処までも冷たいゾル大佐の言葉。未来は今日何度目かの自分の耳を疑う。そして、ゾル大佐の命令に科学者と戦闘員が頷き、グッタリとするクリスを部屋から運び出す。

 

「もう…止めて…クリスに…酷い事は…もうしないで…お願い…します…」

 

クリスの悲鳴を聞き続けた未来が憔悴し泣きながら止めるが、

 

「他人の事を心配してる場合か?次はお前の番だ」

 

ゾル大佐の言葉に戦闘員が近づき、未来に触れようとした。

 

「響…」

 

ウ~~~~~~~

         ~~~~~~~~~~~

                     ~~~~~~~~~~   

 

警報が鳴りだし別の戦闘員が部屋に入る。

 

「アジトの出入口に剣を使うシンフォギア装者が接近!戦闘に入りました!」

「…敵は一人か?」

「今のところ、特異災害対策機動部二課らしき黒服の人間が複数ですがそれだけです!」

     

その報告にゾル大佐が少し考えた。

 

「立花響は、既に潜入してるだろう。剣を使うシンフォギア装者にはモグラングを行かせろ!キノコモルグ、所定の位置につけ!エジプタスと共に立花響を殺せ!」

「…了解。…アイツの言葉分かんないんだよな」

 

キノコモルグが愚痴を呟きつつ部屋から出る。

 

「…響!」

 

憔悴しきった未来はゾル大佐の立花響という言葉に反応する。

 

「俺も所定の位置に付こう。お前達は小日向未来の肉体改造テストを行なえ!」

 

ゾル大佐は命令を出し部屋を後にする。残された戦闘員は言われた様に未来を台の上に寝かす。憔悴しきった未来に抵抗する力は残っていなかった。未来の口から「響…ごめんなさい」と言う言葉が何度も流れる。しかし、戦闘員は一切に気にせず準備を終え、5万ボルトのスイッチに手をかけた。

 

「小日向未来の肉体改造テストを開し「待ってぇ!!」!?」

 

今まさにスイッチが入ろうとした時、部屋のドアが破壊され戦闘員の服を着た響が乱入した。

 

「ひ…響?」

「それ以上、未来に触れるな!!」

 

戦闘員が響の迎撃をしようとするが、響にアッサリとやられてしまう。最後の一人を倒した響は急ぎ未来の下に行く。そして、未来に付けられていた鎖の拘束も引き千切る。

 

「未来!大丈夫!?あいつ等に酷い事されてない!?」

「響…響!!」

 

響の顔を見た未来が泣きながら響に抱き着く。未来の口からひたすら「ごめんなさい!」と言う声が漏れる。

 

「ごめんなさい…響!私何も知らなかった!ショッカーに何をされたのか、私分かってなかった!!」

「未来…」

 

未来は泣き続ける。ショッカーの邪悪さは未来の予想以上であり響はそんなショッカーから自分を守ろうとしていた事に気付く。響が未来の体をソッと触る。なるべく力を入れず丁寧に、未来の体が震えているのが分かる。恐らくは響の想像以上の怖い目にあったのだろう。

 

響が未来を見つけたのはほぼ偶然だった。通路を歩いている時に一つの部屋からキノコの怪人とあの日、風鳴翼が絶唱を使った後に出てきた軍服の男を偶然発見。念の為部屋のドアに聞き耳を立ててみた。そして、戦闘員の小日向未来の言葉で響は部屋に突入した。少し遅れて緒川も合流した。

 

「良かった、未来さんは無事ですね。雪音クリスさんは何処に?」

「!響、クリスが連れて行かれたの!聖遺物を心臓に移植して響との違いを見るって!」

「!?」

 

クリスは、此処とは別の場所に連れて行かれた事を知る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これより、雪音クリスの改造手術を行う」

 

アタシの周りに何人ものショッカーの科学者が囲んでいる。手には大き目な注射器やメスやハサミも持っていた。これからアタシを怪人に改造手術をする気だ。傍には、電動ノコギリと一緒にアタシの心臓に移植する為のイチイバルもある。正直逃げる方法を考えたいけど、あの電撃の所為で頭が上手く動かない

 

「嫌だ…嫌だ!放せよ…放して!パパ!!ママ!!」

 

頭が動かないアタシは錯乱して必死に逃れようとし、もう居ないパパとママを呼んじまった!裸にされてショッカーに見られるのが悔しくて悲しかった。尤も、ショッカーの連中はアタシの裸に全く興味がない素振りで淡々と手術の準備をしている。そして、注射がアタシに向けられた。アタシが諦めて目を瞑った

 

「生きることを諦めないで!!」

 

その声にアタシが首を動かして扉の方を見る

 

「立花響!!」

「裏切者を殺せーー!!」

 

科学者どもが慌てふためく。其処にはシンフォギアを装着した融合症例の立花響が居た。何時もだったらお節介な奴と思うが今はとても嬉しく、そして後ろめたさの気持ちが溢れる。その後、立花響は護衛の戦闘員と科学者を蹴散らしてアタシの繋がれてる鎖を引き千切る。アタシが引っ張ってもビクともしなかったのに

 

「…」

「その様子なら間に合ったみたいだね。もう直ぐ、緒川さんと未来が来るからクリスちゃんは脱出して私「あのさ」は、ん?」

「…あのさ…ありがと…そして…怪人だとか改造人間なんて言って…ごめん」

 

アタシの口からアイツに謝る声が漏れる。他にも言わなきゃいけないのに…でも、何も知らなかった自分が許せなかった。融合症例とショッカーがグルだと勝手に思い込んでいた。しかし、ショッカーに囚われ改造されかかった今なら分かる。此奴は改造人間になりたくてなった訳じゃない。寧ろ逆だ。なのに…

 

「…謝る事なんて無いよ。だって事実だし…」

 

なんでそんな悲しそうに言うんだよ!アイツは何処からか取り出したシーツでアタシの体を覆う。まだ体の自由がきかないアタシにはありがたかった。丁度その時、未来とアタシより年上の青年が入って来た。…危なかった

 

「クリス!良かった。無事だったんだね!」

「…お互い無事なようだな」

「後は脱出するだけですが…通路の一部に隔壁が降りていて進めませんね。通風孔にも大勢の見張りが立ってます」

「隔壁の降りてない所を通りますか?」

 

そういう事になった。まだ体の自由がきかないアタシは未来に肩を貸して貰いついていく。正直、未来も体力を消耗してる筈なのに…

 

「イーッ!」

 

「邪魔です!」

 

あの青年忍者だったのか!?数人の戦闘員をアッと言う間にやっつけた。アイツも追ってくる戦闘員を次々とぶちのめしていく。これなら逃げれるかもしれない。アタシはそう思ったけど

 

「やはり誘導されてますね」

「…此処通った通路ですからね。しかもこの先は…」

 

緒川っていう青年とアイツが話してる。この先に何があるんだと思いつつ通路を進むアタシ達。そして、到着したのは、

 

「うわ~」

「大きいね」

 

巨大な鷲と地球のエンブレムが飾っていた。そして、その前には…

 

「待っていたぞ立花響!後ついでにオマケも居るようだな」

 

ゾル大佐(クソったれ)が居た

 

「ゾル大佐!僕達を此処に誘導したのは貴方ですね」

 

アイツの代わりに緒川って奴がゾル大佐に聞く。

 

「その通り、そして此処が貴様たちの墓場となる!」

 

           ヴェ、ヴァヴァー

             アポロボロボロ

 

ゾル大佐が鞭を振り上げるとアタシ達の目の前に二体の怪人が姿を現す。一体はあのクソったれなキノコ野郎、もう一体はエジプトの王様がつけるような仮面みたいな顔をした怪人だ

 

「このアジトこそ貴様たちの処刑場となる!」

 

「そんな事、させるもんか!!」

 

アイツがアタシ達の前に出る。二体の怪人と睨み合いアイツが動く。体力の回復してないアタシと未来は見守るしか出来ない。あ、緒川って奴も助太刀にはいった。電撃の所為で未だに体が痺れてるアタシはイチイバルを握る。体力が回復したらシンフォギアを使ってアイツらを助けてやる。例え大嫌いな歌を歌っても。




緒川は響がシンフォギアを装着した時に戦闘員の服を脱いでます。

フィーネはエジプタスと会話できそう。


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16話 ショッカーアジトの戦い ゾル大佐の罠

 

 

 

日も暮れた工場跡地。普段は人影もない場所だが、一部で何人もの声が響く。黒いタイツ姿の男たちが青い髪の長髪女性に襲い掛かる。ショッカー戦闘員と風鳴翼だった。

 

「イーッ!」「イーッ!」

 

「何の!」

 

次々と襲い来る戦闘員。それを切り捨てていく風鳴翼。斬られた戦闘員が次々と緑色の液体となっていくが、廃工場の中から次々と戦闘員が沸いてくる。普段の翼なら戦闘員の相手など全く問題ない。しかし、翼は先日まで絶唱を使い反動で入院していた。まだ、完治もしていない。

 

「ハア…ハア…」

 

息の上がる翼。戦闘員は未だに無尽蔵な数が居る。少しづつ翼との距離をつめ取り囲もうとするが、数発の銃声がしたと同時に何人もの戦闘員が倒れる。倒れた戦闘員は緑色の液体となった。

 

「よし、この調子だ!少しでも風鳴さんを助けるんだ!」

「おうよ!あいつ等はノイズと違って銃弾は効くんだ!」

 

特異災害対策機動部二課の黒服の職員がスナイパーライフルを片手に喜ぶ。ノイズ戦ではハッキリ言って出番はない。シンフォギア装者のサポートや裏方が主な任務と言えた。ノイズにはシンフォギア以外の現行兵器は役には立たない。しかし、ショッカーはノイズと違い銃弾が当たる。戦闘員くらいならば頑張れば黒服でも倒せる。少しでも風鳴翼の負担を減らそうと黒服たちも支援していた。

 

「いいぞ!響ちゃん達が脱出するまで持たせ「邪魔だ、人間ども」て!?」

 

サポートしていた黒服の一人が地面に引きずり込まれる。黒服たちに緊張が走る。怪人が出現したのだ。黒服たちにとって怪人はノイズみたいな物だ。銃弾は当たるが対物ライフルクラスでないと傷つける事すら難しく、その力はシンフォギア装者以上であり、空を飛ぶ者も居れば銃弾以上に素早い者も居る。そして、ノイズと違い人間一人殺した程度では消えやしない。そして、また一人地面に引きずり込まれた。

 

「!」

 

翼も異変に気付く。あれだけ斬られようと構わず向かってきた戦闘員が突然距離を置きはじめた。まるで観戦するように。

 

「邪魔な人間は処理した。次はお前だ」

 

突然、地面が盛りあがり誰かが出て来る。全身が黒く右手が剣のようで左手がシャベル、ショッカーの一味が付けるベルト。怪人が現れた。

 

「俺の名はモグラング。ゾル大佐の命令によってお前を殺してやる!」

 

「くっ!」

 

モグラングが接近戦を仕掛ける。翼も迎え撃つが翼の剣は悉くモグラングの体に弾かれる。

 

「固い!?」

 

「俺の体の前ではお前の剣術など児戯にも等しいぞ!」

 

翼から見ればどの怪人よりもモグラングは隙だらけだ。しかし、剣の一撃が悉く弾かれモグラングに傷一つつける事が出来ない。

 

「それなら!」

 

翼がジャンプし手に持つ剣をモグラングに投げつける。剣は巨大化し、翼のシンフォギアにブースターが火を噴き剣に加速し巨大化した剣の柄を蹴り抜く。

 

天ノ逆鱗

 

かまきり男を倒した技だ。これならと翼は考えた。モグラングはその剣を見ても避けようともせず防御する姿勢もせずただ、その場に立つだけであった。そして、天ノ逆鱗はモグラングに直撃する。が、

 

「温いわ!!」

 

「なにぃ!?」

 

天ノ逆鱗がモグラングの体に接触した瞬間砕け散る。何とか地面に着地する翼はモグラングを見る。モグラングの体には傷一つ無い。

 

「改造人間を舐めると後悔するぞ!!」

 

モグラングの反撃が始まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アジトに警報が鳴り響く。戦闘員達が各所に集まる。とある格納庫にも戦闘員が集まり持ち場に着く。仲間の見張りが居ないが誰も気づく事はなく止まっている戦車に乗り込み起動させようとした直後に轟音が響く。

 

 

「ん?何処かの格納庫がやられたか?だが構わん。どうせ破棄予定の兵器だろ」

 

アジトに轟音が響く事に気付くゾル大佐だが大して気にしない。大方、立花響か忍術を使う男が何かしたのだろうとあたりをつける。今は目の前の戦いの行方を観察する。

 

 

 

 

 

 

 

 

「アポロブラブラ」

 

「何言ってるか分かんないけど」

 

響がエジプタスの攻撃を避けつつ攻撃を当てていく。しかし、エジプタスは少しよろける程度であまり効いてる様子はない。

 

「アバラボロボロ!」

 

「!」

 

咄嗟に響は横へと逃げる。先程までいた場所に火炎が降り注ぐ。エジプタスが口から火炎を噴いたのだ。更にエジプタスが火炎を噴く。

 

 

 

 

 

 

「まだ忍者が生き残ってるとはな、この俺の前に跪け!」

 

「悪いけどそんな気はないよ!」

 

緒川はキノコモルグを相手にしていた。キノコモルグの持つレイピアに何度か刺されそうになるが『変わり身』で防ぐ。緒川も負けじと拳銃や小刀で戦うが刃物ではキノコモルグの方が強く拳銃程度では怪人には力不足だ。そこでふと、キノコモルグの目に端に居る二人の少女とエジプタスと戦う立花響が目に入る。

 

「あっちの方が面白そうだな。エジプタス、俺と変われ!」

 

キノコモルグがエジプタスに近づく。突然の事にエジプタスも慌てるがキノコモルグに押され相手を緒川に切り替える。響と緒川の相手が変わった。

 

「ポポピピプぺ!」

 

「危ない!」

 

緒川にエジプタスの吐く火炎が迫る。何度か影縛りをするが吐く火炎によって影の位置が変わりあまり効果がない。何より、『変わり身』を焼き尽くす火炎に緒川も苦戦を強いられる。

 

 

 

 

 

 

相手を立花響に変えたキノコモルグはレイピアを振り回し攻撃する。カスリはするが響は着実に避けている。

 

「攻撃事態はかわせる、これなら!」

 

「これなら何だ?言ってみろ」

 

「え?」

「響…」

 

自分の背後から声が聞こえ響は、視線を僅かに後ろに向ける。其処には戦いに巻き込まれないよう端の方で待機していた未来とクリスが居た。そこで初めて響はキノコモルグが笑ってる事に気付き誘導されていた事を知る。「何か仕掛けて来る!」っと身構える響。

 

「喰らえ!」

 

キノコモルグが口からキノコの胞子を出す。後ろに未来やクリスが居る以上下手に避けられない響はガードする。キノコの胞子は響の体が盾となり二人には届かない。僅かだが響は自分の体に異変が起こる事を知る。力が徐々に抜けていくのだ。キノコの胞子が響を蝕む。

 

「うっ!」

「響!」

「何だよ、吸った人間は仮死状態にするだけじゃないのかよ!」

 

響の苦しそうな反応に未来やクリスが心配の声を出す。

 

「馬鹿めぇ!俺が何時それだけだと言った!?俺は毒キノコの改造人間、体内にはもっと危険なキノコの胞子がある。それこそショッカー科学陣が作り出した人間が吸えば即死する程の胞子をな!」

 

「即死だって!」

「じゃあ、響は!?」

 

キノコモルグの言葉に未来とクリスは響に視線を向ける。響の体にキノコモルグの胞子が次々と付着し苦しそうにしていても響は一歩も動かず自分達を守ってる事が分かる。

 

「その胞子は人間は即死だが改造人間には別の効果がある!改造人間のエネルギーを徐々にだが吸っていく!そして最後は…クックックック」

 

キノコモルグは笑い声を上げつつキノコの胞子を吐き続ける。その胞子は着実に響の体を蝕む。

 

「響!」

「クッソ、卑怯だぞ!!」

 

「馬鹿が!世の中、勝てば良いんだよ!」

 

クリスの罵りもキノコモルグには効果が無い。クリスが苦虫を嚙み潰したような表情をする。

 

「正義の味方気取りも大変だな!足手まといを庇わなきゃいけないんだからな!!」

 

キノコモルグの言葉に未来とクリスはハッとする。自分達さえ居なければ響はもっと自由に戦えた筈だ。自分達が響の足を引っ張ている事に気付く。かと言って移動しようにもキノコモルグが見逃す筈がない。クリスが手元のイチイバルを見る。使うにはまだ体力が戻っていない。

 

「なんだったら、一人だけ助けてやってもいいぞ。黒髪の女か白い髪の女、どっちを助けて欲しい?」

 

そう言いのけるキノコモルグだが助ける気など欠片も無い。どっちか選び、選ばれなかった方が罵詈雑言を吐き憎しみを抱いたまま死に、自分達は助かったと思った奴等を裏切って殺す。キノコモルグは改造人間となる前から絶望する人間の顔がとても好きだった。

 

「ふ…けない…で…」

 

「何だ?」

 

「ふざけないでって言ったの!未来もクリスちゃんも私の大事な友達だ!」

「…響」

「お前…」

 

響の怒鳴り散らすような声にキノコモルグも少し驚く。未来は安心したように、クリスは友達扱いされ少し顔を赤くする。

 

「なら、足手まとい諸共死ねぇ!!」

 

キノコモルグは更に胞子を吐き続ける。状況は何一つ良くなっていない。このままではいずれ倒れるのは響だ。

 

━━━私が倒れたら未来やクリスちゃんが…

 

響の脳裏に最悪な結末が過る。なんとしても倒れる訳にはいかないと響は考える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「響さん!?」

 

響の苦戦は緒川の目にも入っていた。出来れば手助けしたがいエジプタスの火炎が邪魔をする。手持ちの手裏剣や小刀もエジプタスの火炎で溶かされ手持ちは存在しない。

 

━━━どうする!?どうすれば…僕が怪人を倒せる可能性は低い。かと言って響さんを見捨てる訳には…せめて火炎攻撃を何とかすれば…火炎!?

 

エジプタスの火炎を避ける緒川にあるアイディアが浮かぶ。

 

━━━はっきり言って賭けにも等しい!かと言ってこのままではジリ貧だ。僕達が負ければショッカーを止めれるのは指令達しか居ない。なら、

 

「エジプタスさん、貴方さては弱いですね?この程度の火炎しか吐けないなんて」

 

「アブラマシマシ!」

 

「本当に何を言ってるか分かりませんね。あ、でも知ってます?日本には「弱い犬ほどよく吠える」ってことわざがある事を」

 

緒川にはエジプタスの言葉は分からない。しかし、エジプタスの反応を見る限り日本語は知っているようだ。だから、緒川はエジプタスを敢えて挑発してみたのだ。

 

「アバラポロポロ!!」

 

結果は成功と言えた。エジプタスはさっき以上の火炎を緒川に吐きかける。最早、エジプタスは周りを見ていない。緒川は一世一代の賭けにでる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「フフフ、後どのくらい持つ?せいぜい数分と言ったとこか?」

 

キノコモルグの胞子は、既に響を覆っている。付着してないのは背中くらいだ。響はもう立っている事すらつらい。響の頑張りで未来にもクリスにもキノコモルグの胞子を吸い込んではいないが、それも時間の問題と言えた。

 

「私は…私は…守るんだ…二人を…」

 

意識が朦朧とする中、響は二人を守ると呟く。響を立たせる原動力はもうそれしかない。

 

「お前に守れる者なんてある訳が…ん?」

 

キノコモルグが横から何か来ている事に気付く。胞子を吐き出す為、視線しか動かせないが何か明るい物と熱が迫る。

 

「なっ!?」

 

火炎がキノコモルグと響を飲み込む。エジプタスが吐いた火炎だ。

 

「おい!?」

「響!?」

 

突然の大惨事に未来もクリスも驚愕する。

 

「何をしている!エジプタス!?ぎゃああああああああああああああ!!!」

「エバラボロボロ!?」

 

断末魔の声を上げたキノコモルグが火を消そうと床を転げまわるが火は消えることなくキノコモルグの体が爆発した。自分の火炎が仲間のキノコモルグを焼いた事に焦ったエジプタスは緒川を睨みつける。目標である響も焼き殺したのだ。まだ挽回は出来ると判断したが、

 

「今です、響さん!」

「…はい!」

 

目の前の緒川の声に背後から焼いた筈の響の声が聞こえた。エジプタスが振り向こうとした視線には体についた胞子が焼き尽くされた響が、腕のジャッキが開いて一気に閉じて拳を握る。そして、エネルギーを纏ったパンチがエジプタスの背中を貫く。

 

「イバラ…ボロボロ…」

 

背中にまともに響の一撃を受けたエジプタスは数歩前に歩いた後倒れ爆発する。体から煙を上げつつも響は肩で息をする。未来とクリスが急いで駆け寄る。

 

「響!」

「おい、大丈夫か!無茶しやがって!」

「だ…大丈夫。…へいき…へっちゃら…だから…」

 

ふら付く響に肩を貸す未来とクリス。それに息も絶え絶えで答える響。そこに申し訳なさそうな顔をした緒川も合流した。

 

「すみません、響さん。エジプタスの火炎でキノコ怪人だけを倒そうとしたんですが」

「いえ、私は…大丈夫…ですから。…体に付いた胞子も…燃え尽きたし…それより…今は…」

 

謝罪する緒川に響は大丈夫と言い張る。未来とクリスが緒川を睨みつけたりするが、今はやるべき事があると、視線をショッカーのシンボルに目を向ける。其処には響達に向け拍手を送るゾル大佐がいる。

 

「エジプタスを倒すとはやるではないか。素晴らしい性能だ、立花響」

 

部下の怪人が倒された筈なのにゾル大佐は終始笑みを浮かべる。何か嫌な予感を全員が感じる。すると、どこからともなく「キュラ、キュラ」という音が聞こえ振動が起こる。

 

「ならばこういうのはどうかな?」

 

ゾル大佐が言い終えると共に壁が崩れ戦車が何台も入って来る。キュラキュラ音はキャタピラの音だった。

 

「戦車!?」

「なんで戦車が!?」

「そんな、戦車は動かないよう細工したのに!?」

 

未来やクリスは驚き、緒川は細工した戦車が正常に動いてる事に驚く。

 

「馬鹿め、ショッカーの戦車が格納庫一つだけだと思ったか!?このアジトには幾つもの戦車が保管され何時でも起動出来るようにされている!そして、この戦車は前の大戦のナチスの土産として俺が日本に持ち込んだ物だ」

 

緒川が潰した戦車などショッカーの保有している全体の一部に過ぎない。そして、このアジト以外にも戦車が幾つも保管されている。

 

「こんな物をどうする気だよ!」

「まさか、これで日本中の街を焼き尽くす気!?」

 

「無論だ。「ショッカー」の目的は世界征服。改造人間はその悲願達成する為の兵器…戦車と同様よ。立花響!貴様もそうだ!ショッカーが貴様を改造した恩を返すがいい!!」

 

その言葉に未来が反論する。

 

「ふざけないで!勝手に改造して何が恩よ!!」

「…確かに…この力は…兵器かもしれない…。でもね、ゾル大佐…この力は貴方達を倒す為に…使う!」

 

響が戦車の前に一歩踏み出すが、キノコモルグとの闘いの影響が残ってる体では厳しい。現に今も響の体はフラついている。しかし、ショッカーはそれを見逃さない。戦車の主砲が響に向けられる。

 

「愚かな選択をしたな。ショッカーに逆らった事を後悔して死んでいけ!」

 

Killter Ichaival tron

 

「え?」

「クリスさん?」

 

「なんだと?」

 

ゾル大佐が戦車に攻撃命令を出そうとした瞬間その場に歌が響く。クリスの歌だ、クリスの歌に皆が一斉にクリスを見る。起動聖詠によりシンフォギアを装着したクリスは目をカっと見開く。

 

「体力も十分回復した。次はアタシがやってやるよ!」

 

響の前に出てそう宣言する。アームドギアをガトリング砲に変形させ一斉掃射する。戦車が次々と破壊される中、戦闘員も戦いに加わる。しかし、クリスのアームドギアの前に次々と倒されていく。

 

「ふむ、此処までと言ったとこか」

 

その様子を見届けたゾル大佐は懐からスイッチを取り出し押す。その直後にアジト全体が揺れ出す。

 

「なにっ!?地震!?」

「これは…アジト全体が揺れている!?」

 

「自爆スイッチを押した。貴様たちはこのアジト諸共死ぬがいい」

 

ゾル大佐がそう言い放つとアジトの各所から爆発音が響く。ハッタリでもなんでもない、自分たち諸共アジトを爆発させる気だ。そして、何時の間にかゾル大佐の姿も消えていた。

 

「居ない!?まさか、奴だけしか知らない脱出路が?」

「おい、どうしたんだよ!?」

 

ショッカーの戦車と戦闘員を全滅させたクリスが何事かと聞く。未来が今の状況を説明すると、クリスは悔しそうに地面を踏む。

 

「してやられたのかよ!アタシ達!」

「脱出出来る所を探さないと、幸いこのアジト自体そこまで地中深くに造られたものじゃないんですが、それでも生き埋めにはなります。ゾル大佐が使ったと思しき脱出路を探そうにも時間も足りませんし僕達も使える保証がありません」

「ゾル大佐のこと脱出出来る場所は全部隔壁を降ろしてる可能性が高い。あれ改造人間でも壊せなくて…たぶんクリスちゃんも無理じゃないかな」

 

此処に来る前、響は隔壁を壊せないかと攻撃してみたが、少し凹ませるだけで効果があったとは言い難い。じゃなければゾル大佐の策に乗ったりはしない。崩壊していくアジトの中で響や未来が絶望を感じる。

 

「…なあ、アタシの策に乗らないか?」

 

クリスの言葉に響と未来、緒川が視線を向ける。クリスが三人に自分が考え付いた策を話す。

 

「そんな、無茶だ!」

「でも、此処に居るよりは…」

「クリスちゃん…自信ある?」

 

響の言葉にクリスは頷く。それを見て響はクリスに任せる事を決めた。大部屋の真ん中に立つクリス。

 

         なんでなんだろ? 心がグシャグシャだったのに

           差し伸ばされた温もりは嫌じゃなかった…

 

クリスは歌う。自身のシンフォギアの力を高める為に。

 

         こんなに…こんなに…こんなに溢れ満ちてゆく

               光が…力が…魂を…?

 

『アタシのイチイバルの特性は長射程広域攻撃。それを一か所に狙いを定めて此処の天井の一部にぶっ放す』

『そうする事で天井に穴を開けて脱出すると?無茶です。天井に穴を開けた瞬間に瓦礫が降り注ぎ僕達は圧し潰されてしまう。それに、そこまで深くないとはいえイチイバルだけでは…』

 

                ぶっ放せッ!

            激昂、制裁、鼓動!全部

             空を見ろ…零さない…みつけたんだから

 

『まさか、絶唱を使う気?クリスちゃん』

『…アタシの命はそこまで安くねえよ』

『なら、どうやってです?』

 

             嗚呼ッ二度と…二度と!迷わない

                 叶えるべき夢を

 

『ギアの出力を引き上げつつも放出を抑える。行き場のなくなったエネルギーを臨界まで溜め込み一気に解き放ってやる』

『なるほど、もう戦闘員も壊滅した今ならチャージもし放題ということですか』

 

            轟け全霊の想い

             断罪のレクイエム

               歪んだFAKEを千切る

 

『そういう事だ。後はアタシが出すミサイルの一つに乗っていけば穴が塞がる前に出られる筈だ』

『ミサイル!?』

 

               My song未来の歌

                 やっと…見えたと…気づけたんだ

                 きっと届くさ…きっと

 

『アハハハ…過激だね、クリスちゃん』

『で?どうすんだ。乗るか乗らないか?』

 

          なんでなんだろ? 世界は何も変わらなく

            とても綺麗な太陽の火は何を意味するの?

 

『…乗るよ。何よりクリスちゃんの提案だし』

『響が乗るなら私も』

『…仕方ありませんね。あまり時間もないようですし』

 

           今から…ここから…いつでも笑ってもいいのかな?

              湧き出る…すべてが…止まらない

 

歌い続けるクリスのシンフォギアにエネルギーが溜まっていく。響と緒川は念の為とクリスの護衛をする。突発的に戦闘員が現れるが問題なく対処をしてクリスに近づけさせない。しかし、この場所にも爆発が起こり壁が崩れていく。

 

             ぶっ飛ばせッ!

             ありのままの道に正義を翳し

           生きてゆく…生きている…もう先を向こう

 

エネルギーが十分になったのかクリスのシンフォギアからガトリング砲と小型ミサイル、そして大型ミサイルが4基が出て来る。そして、クリスがガトリング砲と小型ミサイルを先に天井に撃つ。天井がどんどんと崩れるが同時に周りも崩壊していく。アジトの電気などとっくに止まっている。今周りを照らしてるのは戦車の残骸の炎とクリスのシンフォギアから出る光くらいだ。

 

「よし、本命!いくぜぇ!!」

 

4基ある内の3基の大型ミサイルが発射される。大型ミサイルは寸分狂わずクリスが集中攻撃した天井に吸い込まれるように着弾。僅かだが月明かりが見えた。

 

「今だ!乗れ!!」

 

チャンスを見逃さなかったクリスが合図を送る。緒川と未来を抱えた響がミサイルに捕まる。最後のミサイルに火が付く、ミサイルに乗った響が手を伸ばしクリスが掴みそのまま引き上げる。爆発していくアジトから脱出できる。誰もがそう思ったが、

 

「…あ…」

 

一瞬、気が抜けた響は疲労もあってか飛んでいくミサイルから落ちる。緒川もクリスも咄嗟の事に動けなかった中、

 

「響!!」

 

未来だけが響を追ってミサイルから落ちる。

 

「ば、馬鹿!!」

 

クリスが反応した時にはミサイルは天井の穴から外に飛び出した後だった。崩壊するアジトに響と未来が取り残された。




悪の組織名物、このアジト諸共死ね!発動。

響達の受難はまだ終わらない。

シンフォギアってミサイルに乗る印象が強いと思います。

原作の10話の前に「繋いだ手だけが紡ぐもの」がフライングで歌われる事に。


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17話 脱出と孤独

 

 

 

キノコ怪人の胞子は私の予想よりしつこかったみたい。エジプタスの炎でも全てを焼き切れず少しだけ残っていた、未来とクリスちゃんを取り返した事に安堵した瞬間、私の体から力が抜けクリスちゃんのミサイルから落ちてしまった。そこそこ高さがあるけど改造人間にとっては大した問題はない。でも、ミサイルも無事外に行けそうだし私だけなら何とか此処から脱出できるかもしれ…

 

「響!!」

 

未来!?なんで…、未来たちは崩壊するアジトから脱出して欲しかったのに!私の驚きを無視して未来が私の体に捕まる。懐かしい暖かさに思わず涙が出る。ショッカーに拉致され改造人間にされてから二度と味わえないと諦めていたのに。私は未来の体になるべき丁寧に手を回しそのまま戦車の残骸の上に着地する。幸運にも火がついてない残骸だったが私は誘爆を恐れ急ぎその場を離れる

 

「未来…なんで来ちゃったの?あのまま脱出していれば…」

「…あのまま響と離れたら…もう会えない気がして…一年半前の想いは…もうたくさん…」

 

未来の目に涙が溢れている。未来の気持ちは分かる。もし、私と未来の立場が逆だったら多分、私も今の未来と同じ行動をしてると思う。私だって未来と離れたくない。ずっと傍に居たい。でも…でも…!

 

「危ない!」

 

アジトの揺れの激しさが増して近くで大爆発が起きた。私は咄嗟に未来を炎や熱風の盾になる。背中が焼け付くがこの程度なら問題ない。炎と熱風が治まって私は未来に向き直る

 

「此処も危ない。脱出の役に立つ物を探そう」

 

私の言葉に未来は頷く。このアジトに役に立つ物があるのか正直分からない。最悪どんな手を使ってでも未来だけは…。未来の歩き方に違和感を感じて足を見ると少しだけど火傷をしている。さっきの爆発の時に!?

 

「未来…その怪我は…」

「…ちょっと火傷しちゃっただけだよ。早く行こうよ」

 

未来は強がってるけど動きがぎこちない。明らかに「ちょっと」レベルではない。それに温度も上がってきている。私はともかく、生身の未来には危険域に入りそうだ。それに煙とは違い変な匂いがする。ショッカーのことだ、毒ガスも保管していた可能性が高い。急いで逃げないと

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クリス達がアジトから脱出する少し前

地上では翼とモグラングの戦いが未だに続いていた。

 

「温い、温いぞ!シンフォギア装者の力がこの程度とはな、他の怪人どもは何を遊んでいた!」

 

「ハア…ハア…」

 

モグラングの左手のショベルが翼に振り下ろされる。辛うじて剣で受け止めるが、モグラングの力に押される。

 

「俺の右手を忘れたか!」

 

モグラングが翼の首に右手の剣を振る。左手を弾き、辛うじて避けたが翼の頬に僅かな傷を負い片膝を地面につける。

 

「良い動きだ、歌手なんぞ止めて大道芸人にでも鞍替えしたらどうだ?」

 

「…大道芸人はお前の方が似合ってるぞ、醜悪な怪人め」

 

「負け惜しみを、戦闘員、後はお前達がやれ!せいぜい甚振り殺してやれ!」

 

モグラングの言葉に観戦に回っていた戦闘員たちが剣やナイフを片手に翼へと向かう。病み上がりとモグラングとの戦いで消耗した翼は、剣を地面に突き立て杖代わりにして立ち上がる。戦闘員が薄ら笑い浮かべてる事に気付く。

 

『翼!此処は引くんだ!直ぐに他の職員を向かわせる!』

「駄目です、叔父様。戦闘員ならともかく、あの怪人は今までの奴より強い。あれがアジトに戻れば立花達の身が危険です。なにより(つるぎ)として放置する訳にはいきません」

 

本部に居る弦十郎も通信で翼に引くよう指示を出すが、翼は拒否する。ただでさえアジトの内部には怪人が何体居るのか分からないのだ。それに、目の前の怪人は普通に強い。響達の負担を減らす為にも今は引くことは出来ないと突っぱねる。

 

「仲間との別れは済んだか?今のお前にこれだけの戦闘員の相手が出来る…ん?」

 

モグラングが何かに気付いた。地面に右手の剣を突き立てる。その直後に、戦闘員達の居た地面が爆ぜた。巻き込まれた戦闘員は空中に放り出されたり体がバラバラになったりとする中、爆発した中心点から細長い物が出て来る。

 

「ミサイル!?」

 

翼の脳裏にショッカーのミサイル攻撃かとも思ったが、そのミサイルから二人の人間が降りミサイルは上空で爆発した。

 

「なんとか出れましたね」

「…ああ」

 

緒川とクリスが翼の前に着地する。無事脱出できたのかと喜ぶが響や未来の姿が何処にもない。

 

「…立花と小日向は?」

 

二人の事を聞くとクリスが悔しそうな顔をする。それを見てある程度察した翼は剣を落とし座り込んでしまった。

 

「あの失敗作が死んだか。実に目出度い、さすがゾル大佐の策よ!」

 

響と未来が崩壊するアジトに取り残された事を知ったモグラングが笑いながら言う。その言葉にクリスが激高する。

 

「ふざけんな!!お前らの…ショッカーの所為で何人の人間が死んだと思ってる!?何でアイツが…」

 

クリスの脳裏に肉体改造テストを強制的に受けさせられ殺された人たちの姿が過る。淡々と殺される人たちに何度吐きそうになったか。

 

━━━あんな死に方、ノイズに殺された方がマシだ!

 

しかし、そんなクリスの言葉を嘲笑うモグラング。

 

「ショッカーに選ばれなかった人間どもの事なぞ知った事ではない!第一、本来なら立花響は怪人どころか戦闘員の適正もない落ち零れ。心臓を取られた後は破棄される予定だった。それを博士が立花響を栄光ある改造人間にしたというのに立花響は恩返ししなければならん立場の筈がショッカーを裏切る大罪を犯したのだ!あの小娘は死んで当然だ!」

 

「…お前!」

「あなたと言う怪人は…」

「…貴様!」

 

モグラングのあまりの自分勝手な言葉に怒りを感じる翼にクリス、緒川。更にモグラングの声を聞いていた通信機の向こうでは握りしめた拳から血を滲ませる弦十郎。

 

「お前だけは許さねえ!」

 

「ショッカーの力思い知れ!!」

 

モグラングと残った戦闘員たちと翼、クリス、緒川の戦いが起こる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

響はアジトの通路を進む。上からの瓦礫に気を付けつつ、ひしゃげた隔壁を蹴破る。頑丈だった隔壁も爆発や天井からの瓦礫により脆くなり今の響でも壊せた。そして、響の背中には、

 

「響、無茶しないでね」

 

毛布に包まれ顔にガスマスクを付けた未来が居る。未来の足は歩けない程ではないが、響が背負った方が遥かに速い。途中ガスマスクと耐火用の毛布を見つけ響は未来に全てを渡す。暑さやただの毒ガスは改造人間である響には効果が薄い。しかし、苦しくないと言えばウソになる。それでも、響は未来に毛布とガスマスクを付けさせたのだ。未来を背負う為に響はシンフォギアの姿を解除していた。

 

未来の言葉に頷く響。暫しの沈黙が流れ二人の耳には爆発音と遠くの方で崩落する音が聞こえる。まるで世界の終わりかと思わせるような光景に未来が口を開く。

 

「…ねえ、響。ショッカーを倒したら平和になるのかな?」

「え、…なるんじゃないかな。少なくても内戦やテロは減ると思うよ」

「平和になったら響の家に行こうね。おばさん達本当に心配してるから」

「…ショッカーを倒したらね」

「倒せるよ、きっと…。そしたらきっとおじさんも帰ってきてまた仲の良い家族に戻れるよ」

「お父さん?お父さんはもう…居ない」

「出て行ったままなんだよね。でも、きっと平和になったら…」

「違うの…お父さんは…もう…ショッカーに…」

「!?」

 

響の口からショッカー基地からの脱出が語られる。その内容に未来は言葉を失う。

 

━━━おじさんは失踪した訳じゃなく拉致されて殺された!?ショッカーは何処まで非道なの!?

 

「…お父さんがあんな行動できるなんて知らなかったよ。…でも、出来れば一生知りたくなかった…」

「響…」

「…まるで本当に…ドラマの…ワンシーンみたいだったよ…あそこまでカッコイイ姿…初めて見た。本当にお母さんたちに何て説明すれば…」

 

これには未来も口を閉ざす。失踪したと思ってい肉親が自分を助けて殺された。響がどれ程のショックだったか未来には想像も出来ない。下手に慰めの言葉を言えば響は余計傷つく。また暫くの沈黙が続き、幾つかの階段を上がり、壊れたエレベーターのワイヤーで上に昇る。その直後に爆発音が酷くなってる事に気付く。

 

「…長く持ちそうにないね。急がないと」

「うん…」

「お父さんの事は気にしないで。全部ショッカーが悪いんだから」

「…響は強いね」

「…そんな事…ないよ」

「改造人間にされてお父さんも殺されたのに折れずに戦うなんて響は立派だよ!」

「そんな事…ない…」

「悪の組織と戦うなんて立派だよ。弓美だってきっと…」

「私は立派なんかじゃない!」

「…響?」

 

叫びにも似た響の声に未来が驚く。

 

「聞いて未来。私ね、ゾル大佐に未来とクリスちゃんが捕まって改造人間にするって言われた時に助けなきゃと思う気持ちと他の気持ちもあったの。その時は分からなかった。でも未来やクリスちゃんを助けた時に私の心にある感情を感じたの」

「ある感情?」

「うん、助けれたという気持ちと『残念感』を感じたんだ。未来やクリスちゃんはまだ改造人間になってない、されてない。そこで気付いたんだ、最初に感じたのは『期待感』だったって」

「…期待感…」

「未来やクリスちゃんが私と同じになってくれる。知らずに心の中で喜んでしまった…酷いよね!私は自分と同じ境遇の子を望んだの。二人をショッカーとの戦いに巻き込もうとした」

 

響が特異災害対策機動部二課に入ろうと心の孤独感は消えなかった。ノイズや怪人達との何時終わるかも分からない戦い、翼や弦十郎も居るが響の孤独感を埋められなかった。ショッカーに改造人間された事で一部の職員から白い目で見られてる事には響も気付いている。

 

改造人間は人間とは言えない、ゾル大佐も改造人間を兵器と言っていたがその通りだと響も思う。未だに完全に制御出来ない力、壁に手をついただけで陥没させ触っただけで倒れる扉に千切れたノブ。特殊なワイヤーを内蔵した服や下着でないと日常生活も出来ない不便な体だった。そして、特異災害対策機動部二課にも響の力を恐れる者もまた多い。何よりショッカーの恐ろしさを経験した者は尚更だった。

 

そして何より、響はそんな自分が嫌だった。口では人助けが趣味と言いながら自分と同じような悲劇が起こってほしいと思ってしまったことが…なによりそれが無二の親友である小日向未来に起こってほしいと考えてしまった自分に…。

 

「私は自分の同類を欲しがったんだ。未来やクリスちゃんが私と同じ改造人間になったら寂しくないって思っちゃた…最低だよね」

 

響は乾いた笑い声を出す。響の心は未だにショッカーによって深く傷ついている。そんな響に未来は毛布から手を出し響を後ろから抱きしめる。

 

「!?未来、この通路もまだ温度が高いから…」

「やっぱり響は優しいよ。響が望むなら私、改造人間になってもいいよ。一人が寂しいなんて当たり前だよ」

 

未来の言葉に響は驚く。こんな自分と一緒に改造人間になってくれる、その言葉だけで響は嬉しかった。

 

「…気持ちだけ貰っておくよ。…ありがとう、未来」

 

響の心は少しだけ回復した。直後、背後で今までに無いほどの爆発音が響く。振り返ると見たこと無いほどの炎が通路一杯に迫る。

 

━━━不味い!あの炎の量じゃ未来の体がもたない!何処か…!

 

通路を走る響の目が開いてる出入り口を見つけ急ぎその中に入る。未来を下した響は扉を閉める、直後外から凄まじい熱に扉が内側に膨張する。響は扉を押さえるが手から煙が出る程の高熱が襲う。

 

「う…ぐっ!」

「響!ツっ!」

 

近寄ろうとした未来だが足の痛みと熱の所為で近づく事も出来ない。そうこうしてる扉の膨張も納まり響もやっと扉から手を剥がす。

 

「ひび…!?」

 

這いながらも響に近づく未来だが響の掌を見て硬直する。響の掌の皮膚は完全に炭化し内部の機械が見える。しかしそれも瞬瞬、響の掌の皮膚が再生し、10秒足らずで元の掌に戻った。その様子に唖然とする未来。

 

「…これが改造人間だよ。ちょっとした怪我でも直ぐに治る。…怖いでしょ?」

 

響の言葉に未来は首を横に振る。それどころか未来は響の掌を握りしめる。少し驚く響。

 

「優しい響を怖がるはずないじゃない。響の手は昔と変わらずあったかいよ。今も昔も響は私の太陽なんだから」

「未来…」

 

今の響にとっては未来の言葉は何よりも有難い。二人の時間が止まったような感覚が走るが崩壊するアジトの地響きに現実に戻る。良く見ると此処は格納庫のようで整備中の戦車や天井の瓦礫に圧し潰されたヘリがある。何時此処も爆発するか分からない状況に響は周囲に目を向ける。其処で、響はシートを被せている何かを見つける。

 

「何か見つけた?」

「うん、ちょっと…」

 

響が近づき、シートを取り払う。其処にあったのは、

 

「バイク?」

「…それも最初期の改造人間用のだ」

 

シートの中から一台のバイクが出て来る。しかし、ただのバイクではない。ショッカーが作り上げた改造人間専用のバイクだ。白と赤い模様にショッカーのシンボルが付けられている。響の頭に操作方法とマシンスペックが流れる。

 

「これなら…いける!」

「え?」

「未来、私に命を預けてくれる?」

 

突然の響の発言だったが未来は躊躇いも無く頷く。それを見た響はバイクに乗り込み未来を後ろに乗せる。無免許だが仕方がないと割り切る。アジトの崩壊も酷くなってきていた最早、全てが崩れるのも時間の問題だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、外ではモグラングと翼たちの激しい戦闘が行われていた。戦闘員は全滅したがモグラングの頑丈な体に攻めあぐねる。

 

「くっそっ!アイツの体の硬さは何なんだよ!」

「そんな事、私が知りたい」

 

クリスの銃撃や小型ミサイルも大したダメージを与えらえず翼の剣戟も病み上がりで本来の力を出せない。緒川が戦闘員の武器を拾ってはモグラングに投擲したり影縛りをするがあまり効果が無い。

 

「忍者もどきがうっとおしい!どんなに攻めようが俺の体に歯が立たない事がまだ分からんか!」

 

強がりでもなんでもない。事実、モグラングは避ける事も防御する事も無く翼やクリスの攻撃を受けていた。しかし、そのどれもがモグラングにダメージを与えたとは言い辛い。

 

━━━あのモグラ野郎の言う通りだ!アイツを倒すには絶唱かアジトから脱出した時の様に最大限チャージするしかない

 

モグラング自体動きが素早い方ではない。それでも目の前で歌いチャージすれば即邪魔しに来るのは明白だ。満身創痍の翼や道具を使い切った緒川ではモグラングを止めれるとは思えない。今も緒川は変わり身でモグラングの攻撃を防ぐのがやっとだ。

 

「今更、ショッカーに逆らった事を後悔してるか?ショッカー軍団を敵にまわした恐ろしさを味わって死んでいけ!!」

 

「後悔だぁ!?勘違いすんなモグラ野郎!」

 

クリスがガトリング砲を撃つ。弾は全てモグラングの体に当たるが怯みもしない。それどころかゆっくりと近づく。後ろから切りかかる翼だが、その斬撃もモグラングの体に弾かれる。

 

━━━硬すぎる!刃がまるで通らん!

 

「貴様から先に死にたいか!?」

 

モグラングがシャベルのような左手で翼を攻撃する。辛うじて避けたが翼の体力も限界に近い。そして、クリスもガトリング砲のアームドギアも元に戻る。クリスもまた限界に近い。

 

「翼さん!クリスさん!」

 

二人の様子に焦る緒川。対してモグラングは勝ち誇ったように声を上げる。

 

「所詮、シンフォギアなどショッカーが本気を出せばこの程度よ!ノイズも装者もショッカーの前に平伏す。我らの時代が到来し!?」

 

モグラングが最後まで喋りきることが出来なかった。モグラングの背後から瓦礫を砕くような騒音が響くと同時にモグラングの背中に今まで感じた事のない衝撃がはしる。

 

「オオオーゥ!?」

 

雄叫びを上げて前に吹っ飛ばされるモグラング。そしてモグラングの居た場所には、

 

「立花!?」

「響さん!」

「…お前、生きてたのかよ」

 

「ふう~、何とか外に出れた」

「やったね、響」

 

見たことないバイクに跨った響と後ろに引っ付いている未来が居た。無事、崩壊するアジトから脱出したのだ。モグラングはこのバイクに背中を轢かれたのだ。翼やクリスが安堵する中、吹っ飛ばされたモグラングが立ち上がる。

 

「お…お前は、立花響!?死んだのではなかったのか!?」

 

「貴方達、ショッカーが居る限り死ぬもんか!!」

 

「な…ならば俺自らが…ぐっ!」

 

あれだけ頑丈だったモグラングが初めてふら付く。偶然とはいえ響の乗ったバイクがモグラングに大ダメージを与えたのだ。そして、クリスや翼もそれを見逃さなかった。

 

「おい!」

「ああ!」

 

クリスが翼に声を掛け翼もクリスの意図を察する。翼がジャンプしクリスが再びガトリング砲と小型ミサイルポッドを出す。そのまま一斉掃射し翼も剣を巨大化させモグラングに突撃する。

 

BILLION MAIDEN

CUT IN CUT OUT

天ノ逆鱗

 

「し…しまったぁ!!」

 

最早、モグラングに余裕はない。不意打ちの大ダメージにクリスの一斉掃射が直撃し巨大化した剣が突き刺さる。直後に爆発が起き、辺りは一瞬静まる。爆発の起きた場所に立つものは居ない。モグラングを倒した。

 

「…倒せたか」

「手強い相手でしたね」

 

モグラングを倒した事で場の空気が緩む。もう立つのも辛い翼に緒川が肩を貸す。クリスが響と未来の方に行く。

 

「おい、そのバイクどうしたんだ?」

「あ、クリスちゃん。アジトで見つけてね」

「という事はショッカーのバイクか、それがモグラ野郎の負ける原因になるなんて皮肉ってやつか」

「アハハハ…」

 

クリスの言葉に未来が笑う、つられて響も笑みを浮かべる。少しだけ和やかな雰囲気になったが直後に地面が揺れ轟音が響く。

 

「不味い!アジトが大爆発を起こす!皆さん逃げて!!」

 

緒川の言葉に皆が一斉にその場を離れる。満身創痍の翼もバイクに乗せられ離れる。

その数十秒後に廃工場一帯は大爆発が起き連日連夜テレビを賑わす事になる。そして、響達は無事特異災害対策機動部二課本部へと戻ったが何時の間にかクリスの姿が消えてる事に響達は気付く。




バイクのイメージはまんまサイクロン号です。文字でどう表現すればいいか分からなかった。正直、あんまり出番はない。

モグラングがやたら頑丈でしたが原作でも仮面ライダーの必殺技ライダーキックも効かなかったので。そして、響が偶然とはいえモグラングにサイクロンクラッシャーを食らわせて勝利の引き金に。

そして、響の心の闇と未来の覚悟。


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18話 歴史の闇 人間の闇

 

 

 

薄暗い部屋。男が手に持つ鞭を空いてる掌に軽く何度もぶつける。ゾル大佐だ。目の前には幾つもの作戦計画書が置かれどれをやるか迷っていた。

 

「そろそろ、本格的に日本侵攻作戦を進めるべきか…」

 

怪人は多数倒されたが問題はない。また造ればいいと考えるゾル大佐。そこへ、慌てて入って来た戦闘員が報告をする。

 

「緊急報告です!立花響の抹殺に失敗!繰り返します、立花響の抹殺に失敗!エサも奪還されました!」

 

敵である立花響の抹殺に失敗した。ゾル大佐が主導して立てた計画だったがゾル大佐は笑みを浮かべる。其処へショッカーのエンブレムの鷲のマークの胸の部分が光が点滅して声が出る。

 

『貴様の立てた計画が失敗したようだな。ゾル大佐』

「フフフ、生き残ったのなら生き残ったで構わないでしょう。あの作戦も古くなったアジトの処分も重ねた序での作戦でしたので」

 

別段、ゾル大佐は立花響の存在など如何でも良かった。切り札は己の手にある。何時でも抹殺する自信があった。ゾル大佐にとって、響の抹殺はゲームのようなものだ。

 

『貴様をわざわざ中近東支部から招いたのだ。私の期待通り働いてもらうぞ』

「承知していますよ。その為に特異災害対策機動部二課本部にスパイを送ったのですから」

 

すると、ゾル大佐のポケットから機械の呼び出し音がかかりスイッチを入れた。その機械からの連絡を受けたゾル大佐は再び笑みを浮かべる。

 

「お喜びください()()、鳥は無事巣に帰りました。あの女の住処が判明したんです」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

人里離れたとある屋敷…フィーネの屋敷だ。一人全裸の足にタイツだけを穿いた女性…フィーネが紅茶を飲んでいた。

 

「ふ~」

 

フィーネが溜息をつく。理由は昨日の電話だ。とある所に電話をして苦情などを言ったが相手はのらりくらりと交わし話にならなかった。そろそろ手を切るべきか考えたフィーネだが其処に扉が力いっぱい開けられる。見るとクリスが入って来た。

 

「フィーネ、アタシが用済みだとか今は如何だっていい!アタシと一緒にショッカーを倒すのを手伝ってくれ!あいつ等だけは野放しにしちゃいけないんだ!頼むよフィーネ!」

 

ショッカーの恐ろしさを身に染みて理解したクリスがフィーネに共闘を申し込む。自分一人では駄目だと感じたクリスは頭を下げてでもフィーネにショッカーの恐ろしさを話すつもりだった。クリスの誤算はフィーネがショッカーと戦う事に消極的だった事。

 

「どうして誰も私の思い通りに動いてくれないのかしら」

 

ゆっくりと立ち上がりソロモンの杖でクリスの周りにノイズを呼び出すフィーネ。突然の事に驚くクリスは胸元のペンダントになってるイチイバルを見る。

 

「そろそろ潮時かしら?」

 

「!?」

 

「そうね、あなたのやり方じゃ争いを無くすなんて無理よ。せいぜい一つ潰しても争いが二つ三つ増えるだけ。ショッカーに関してもそう。仮に潰したところで別の組織が産まれるだけよ」

 

「!あんたが言ったんじゃないか!痛みもギアもあんたがアタシにくれた…」

 

「私の与えたシンフォギアを纏いながらも毛ほどの役にも立たないなんてね。そろそろ幕を引きましょうか」

 

フィーネの手が光る。直後に裸だったフィーネの体も光り包まれる。

 

「私もこの鎧も不滅。未来は無限に続いていくのよ」

 

其処には、クリスが着ていたネフシュタンの鎧を着るフィーネが…クリスの時よりやたら露出しているが。

 

「カ・ディンギルは完成してるも同然。あれが完成すればショッカーも遅るるに足らず、もうあなたの力も必要ないの」

 

「騙してたのかよ!アタシに言ってた事全部嘘だったのか!?」

 

クリスの言葉にフィーネは返答しない。代わりにソロモンの杖を向けようとした。

 

 

           アァッアッアッアッ

 

 

突如、聞こえた不気味な声にフィーネもクリスも動きを止める。

 

「…クリス、あなた余計な者も連れてきたようね」

 

「え?」

 

フィーネの発言にクリスは思わず口走る。少なくともこの場にはノイズを除けばフィーネとクリスしか居ない。それなのに不気味な声が屋敷内部に響く。

 

「小娘を追跡したのは正解だった。フィーネの下まで案内してくれたのだからな」

 

「「!?」」

 

屋敷の壁から緑色の体をし爬虫類の顔をした怪人が現れる。

 

「フィーネ、貴様をショッカーに迎える準備は出来た。大人しくショッカー本部に来てもらう」

 

爬虫類の怪人はフィーネに一緒に来るよう要求する。それに対しフィーネは鼻で笑う。

 

「ほざけ!」

 

フィーネが爬虫類の怪人にソロモンの杖を向ける。クリスの周りに居たノイズが一斉に襲い掛かるが、爬虫類の怪人は一瞬で姿を消しノイズが素通りする。

 

「な!?」

 

「どうした、フィーネ?かかってこい」

 

驚くフィーネが怪人の声に振り向くと消えた爬虫類の怪人が居る。

 

「姿を消す能力に瞬間移動能力?お前が死神カメレオンか!?」

 

「いかにも」

「イーッ!」「イーッ!」

 

死神カメレオンの声に戦闘員も雪崩れ込んでくる。突如、発生したフィーネと死神カメレオンの戦いにクリスはこの場を逃げ出した。フィーネもショッカーもクリスを見もしない。先ず目の前に居る敵が優先だ。クリスはあてもなく街の方まで逃げる。

 

「ちくしょう…ちくしょう!!」

 

クリスの声が木霊する。信じていた大人(フィーネ)に裏切られ、たまたまとは言え敵視する悪の組織(ショッカー)の乱入により命からがら逃げ出せた。それがクリスにとって悔しかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クリスが屋敷から逃げ出す少し前、特異災害対策機動部二課本部では弦十郎が緒川からの情報を纏めていた。

 

「警察の報告によればアジトは完全に消し飛んでおり調査不可能との判断です」

「…何人の殉職者が出た?」

「…僕以外の黒服は全滅。発見された遺体はどれも酷かったそうです」

「ショッカーの怪人は確実に強くなっている。…何人かが辞表を出してきた。ノイズとの時とは違うな」

 

特異災害対策機動部二課で職員が止めていく者が続出していた。一時本部を占領された後は特に酷かった。

 

「なまじ言葉が通じるぶんショッカーはノイズより厄介ですよ。一度、本部を占領されたのも痛かったですね。あれの所為で本部の安全性に疑問を感じてる職員も多いんです。そしてショッカーの殺し方に恐れをなす職員もいます」

「…骨だけになって死ぬか、服すら全てを溶かされ殺されるか、か。少なくとも炭となって残るノイズとどっちがマシか…」

「正直、団栗の背比べですね。それからショッカーの保有してる戦車ですがやはり第二次大戦でドイツで使われた物と一致します。中身は改良されてましたが」

 

「戦車まで保有してるのか、ショッカーの危険性が跳ね上がるな」

「それからこれらも、僕がアジトのゴミ箱から偶然見つけたんですが…」

 

緒川が懐から何枚かの書類を渡す。そのどれもが乱暴に扱われ時間も大分過ぎてたのかシワくちゃだった上に変色していたが目を通した弦十郎の額に汗が流れる。

 

「1970年代にあった世界中の金の延べ棒が強奪された事件はショッカーの仕業だっただと!?ナチスの鉄箱とは何だ!?あの政財界の首脳が殺された事件はやはりショッカーだと!?そして、嘗て名のある科学者の失踪もショッカーが行っていただと!?」

 

書類にはショッカーが行った様々な作戦の一部が乗っており中には迷宮入りした事件やノイズの被害と思われた事件が多数載っていた。

 

「これを上にどう報告しろっていうんだ…正直、胃が痛くなる」

 

時代が進んでいるが、どれもが歴史的大事件であり偶にテレビが特集を組む程の知名度を持つ。そんな事件の真実が今更になって目にするとは思わなかった弦十郎は胃のある個所を触る。どう報告しようが議会が荒れるのが目に見えている。

 

「…指令、最後にこれも」

 

緒川が更に懐から紙を取り出す。正直、先程の書類で腹が一杯だった弦十郎だが奇妙な事に気付く。その紙は先ほどのより新しく途中まで燃やされた跡があった。そして、その紙にも目を通す、其処には

 

「…『響計画』?」

「ショッカーが響さんを使って何か計画していたようです」

 

紙には立花響を利用した計画が書かれていたが大部分は灰となって燃え尽きており名前の部分しか分からない。だが、ショッカーの計画だ。碌な物じゃないと勘づく。

 

「響くんの拉致計画か、改造人間にする計画の奴だと思うが響くんには注意するよう言っておくか」

「その方がいいですね」

 

二人は溜息をつきつつお茶を飲んで一服。そして、弦十郎はまたも真面目な顔をする。

 

「それで、響くんが奪ったというショッカーのバイクの調査は終わったのか?」

「…はい、一通りは…ジェットエンジンを内蔵されて時速は最高400キロ。響さんの話ではメインエンジンにはプルトニウム原子炉が使われているらしく下手に解体するのも危険です」

「…翼でも持て余しそうだな。響くんが免許を取るまで保管するしかないか」

「響さん曰く、これでも最初期の旧式のバイクらしいです」

「…旧式ということは新型もあると見ていいか。頭の痛い問題だ」

 

響がショッカーアジトで見つけたバイクを特異災害対策機動部二課は軽く調査をしたがそれだけでも一般に出回っている物を遥かに上回っている。詳しく調査しようにもメインエンジンがプルトニウム原子炉ならば誰もが二の足を踏む。結局、バイクは響に託される事になった。

 

「それから、指令。一部の職員に響さんに対する風当たりが…」

「…む、そうか…」

 

緒川は弦十郎に更に頭の痛い話題を話す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

特異災害対策機動部二課本部通路

足の火傷を治療した未来が通路を歩く。

 

「~♪」

 

怪我をしてるが歌を口ずさむ未来、親友である響とやっと仲直り出来た。それがとても嬉しかった。どんな形にしろ未来にとって響は響なのだ。これからの日常に少なくとも胸を躍らせる未来は通路の分かれ道に響が立っている事に気付く。一瞬声をかけようと近づいたが響の様子がおかしい事に気付く。

 

「ひび「たく、やってらんねよ」?」

 

響に声をかけようとした未来だが通路の奥で何人かの職員たちの話し声が聞こえてきた。

 

「特異災害ってノイズ被害の対策をする場所じゃなかったのかよ」

「そうだよ、ショッカーなんて悪の組織は警察や自衛隊にでも任せりゃいいのにな」

「聞いた話じゃ調査部の連中がまた数人殺されたらしいぜ」

「マジかよ、幾ら翼さんが居る職場でもやってらんねえよ。本当に」

「ああお前、翼さんのファンだもんな」

 

喫煙所で煙草を吸う職員たちの口から次々と不満が漏れる。自分達は人類守護する為の組織。断じて世界征服しようとするイカれた連中と戦う為ではない。

 

「もう俺、退職するわ。ノイズならともかく世界征服を狙う悪の組織と戦うなんて聞いてないしな」

「そうだな。俺も田舎に帰って畑でも耕そうかな」

「…なあ、聞いた話なんだけどシンフォギア装者の立花響っているじゃん」

「ん?あのやたら壁や扉を壊してる娘か?」

「そう、何でもあの娘。元ショッカーらしいぜ」

 

「!?」

 

「え?あの娘もあの化け物たちの仲間か?」

「うへ~ショック~。結構好みのタイプだったのに」

「…ショッカーのスパイとかじゃないよな?」

「そこらへんは大丈夫だろ。緒川さんも櫻井さんも指令も人を見る目はある方だしな」

「ああ、俺はもう無理だわ。今月まで働く気だったけど敵のスパイかもしれない奴がいるんじゃ危なくてしょうがないわ」

「俺はもう少し働こうかな。響ちゃん悪い娘じゃないと思うし」

「ハリケーン・ジョーさんも人が良いですね。敵のスパイかも知れないのに」

「おっと、もう時間だ。職場に戻ろうぜ」

 

腕時計を見た一人の職員が時間と言って煙草を灰皿で消し捨てる。それに続いて他の職員も煙草を消し職場へと戻る。

 

━━━何なの、あの人たち!?響はスパイなんかじゃない!響がどんな気持ちで戦ってると思ってるの!?大体なに!?あのハリケーンって人、自分から響が元ショッカーとか言っといて悪い娘じゃないって!響が寂しがっていたのはこれが原因!?一言文句言わないと!

 

職員の心無い言葉に憤慨した未来が職員たちを追おうとするが、響の腕が未来の進路を妨げる。

 

「止めて、未来」

「響…でもあそこまで好きに言われて悔しくないの!?」

「…だって本当の事だし…」

「…響」

 

未来が響が涙目になってる事に気付く。平気なわけがない。響の心は普通の女の子だ。

 

現在、特異災害対策機動部二課には響の事を良く思っていない者が少なからず居る。風鳴弦十郎が一応、立花響の事は知らされていたが全てではない。立花響への誹謗中傷を避ける為にショッカーに拉致され改造人間にされた事は伏せている。

 

何よりも弦十郎はショッカーの情報を余計な混乱が起こると思い極力伏せていた。知っているのは上の政治家達と一握りの人間である。しかし、それも本部が一時的に占領された事で他の職員にもショッカーの存在が明るみとなった。このご時世に世界征服を狙うイカれた組織というのが職員たちの感想であった。

 

しかし、人の口に戸は立たない。知っている誰かがウッカリ喋ったり、響自身も力の制御も効かず壁や扉を破壊して普通の人間でない事はアッサリばれていて風鳴弦十郎並みの人間だと思われている。そして、何時頃からか立花響が()()()()()()()()()()()()噂が流れる。一度占領されショッカーの恐怖を味わった特異災害対策機動部二課職員にとって立花響に疑いの目が向けられるのに時間は掛からなかった。弦十郎や緒川たちが火消しをして治まったがマダマダ響を疑う職員は少数ながら居る。

 

「平気へっちゃらだから。未来は気にしなくていいよ」

「…分かった」

 

響の言葉に未来は引き下がる。これ以上響を悲しませるのは未来の本意でもないし、仮に未来が文句を言って響の扱いが更に悪くなれば本末転倒だ。

 

「…じゃあ、私は一旦寮に戻るね。授業の準備と先生への説明もしなきゃいけないから」

「うん。気を付けてね」

 

未来は一旦寮へと戻り授業の準備をしに帰る。途中まで護衛の黒服も同行するので問題はない筈だ。響も起動二課から自分に与えられた部屋に戻り今日の授業の準備をしようと戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

雨の降る街中、一人の少女…クリスがシンフォギアの姿で走る。その後ろには、

 

「イーッ!」「イーッ!」

 

何人もの戦闘員が追いかける。更にその後ろには、

 

「そのまま捕らえてしまえ。ショッカー軍団から逃げられると思うな!」

 

フィーネの屋敷で見た怪人とは別のウロコがついた一見昆虫のような怪人が戦闘員の指揮を執っていた。

 

「しつけぇぞ、虫野郎!」

 

迫る戦闘員の一人を蹴飛ばし怪人に文句を言うクリス。

 

「俺は虫野郎ではない。化石から現代に蘇った三葉虫の改造人間ザンブロンゾだ!」

 

「結局、虫じゃねえか!!」

 

クリスがアームドギアをガトリング砲に変えて戦闘員やザンブロンゾに撃ち込む。次々と倒れる戦闘員だがザンブロンゾが体のウロコを剥がしクリスに投げつける。

 

「痛ッ!?」

 

投げたザンブロンゾのウロコがクリスのシンフォギアを切り裂き脇腹を掠める。それでもクリスは態勢を崩さずガトリング砲を撃ち続ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

雨の中、傘を差し歩く未来。時間帯は早く未来以外の通行人も居ない。汚れた制服から奇麗な制服に着替えてまだ早いが登校する。昨日の激動な一日で少し眠たいかったが我慢して登校していた。リディアン音楽院まであと少しと言う所で突然横から何かが飛び出した。

 

「戦闘員!?」

 

それは紛れもなくショッカー戦闘員であった。未来は直ぐに逃げようとしたが様子がおかしい事に気付く。その戦闘員は倒れたまま立ち上がらず緑色の泡になって消滅した。一体何が起こったのかと戦闘員が飛び出した路地を見る。其処には、

 

「クリス!?」

 

昨日の夜、一緒だった雪音クリスが壁にもたれ掛かれ座っていた。その周囲には明らかに戦闘した後が残っており未来が只事ではないと感づいた。

 

「クリス、しっかりして!クリス!!」

 

未来がクリスを起こそうとするがクリスは完全に気を失っている。

 

「…この辺だと、おばちゃんのお店が一番近い」

 

意識の無いクリスの肩を担ぎつつ未来はふらわーのおばちゃんの店まで行く。

 

━━━クリスはショッカーに襲われたんだ。そして戦っていたんだ、一人で

 

その場を後にする未来だが少し離れた路地に三葉虫には気付かなかった。

 

 

 

 

 

 

ぬかった!あと少しで小娘の捕獲が出来た筈が血液不足で!何処かで血を補給しなければ!

 

 

 

現代に蘇った三葉虫は何かを探す為に路地の奥へと進む。

 

 

 

 

 




死神カメレオンですけど、劇中ではカメレオン男らしいですが公式で死神カメレオンと言われてるので二つ名があるということで。

ショッカーに殺されるのとノイズに殺される、どっちがマシか。

この世界のショッカーは仮面ライダーが居ないから、やりたい放題してます。成功しなかったのは人類皆殺し作戦と日本占領作戦くらいですね。

それではまた次回。…え、フィーネと死神カメレオンの戦い?普通に死神カメレオンが負けました。


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19話 残酷

 

 

 

「あ…ああ…」

 

薄暗い路地裏、一人の人間が力なく倒れる。よく見ると人間は痙攣をしているが生きている。その人間の前には、

 

「ふぅー、なんとか怪人としての力を取り戻した」

 

人間の血を吸ったザンブロンゾが居る。クリスとの闘いの後、調査しに来た特異災害対策機動部二課職員を襲い吸血し怪人体へと戻った。

 

「おいどうした!」

 

倒れた音に気付いたのか声とともに何人かの足音がコッチに来る。当然、ザンブロンゾも気付いている。

 

「もう少し、血を呑んでおくか」

 

しかし、ザンブロンゾは身を隠すではなく戦闘中、また血液不足になっては堪らんと考え迫る足音の方に進む。その後、何人かの悲鳴と銃声の後に残ったのは何人かの昏睡した職員たちだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え?学校を休む?」

 

特異災害対策機動部二課本部から直接学校に来た響が携帯電話で話す。電話相手は未来だった。丁度、学校に着いたと同時に携帯がかかって来た。未来とはアジトを脱出した後に連絡のやりとりをしていたのだ。

 

『うん、学校に行く途中でクリスが倒れているの見つけたの。多分、ショッカーに襲われたんだと思う』

「そう…分かった。…先生には…私が言っとく。…私も…学校が終わったら直ぐに向かうよ」

『うん。場所はお好み焼き屋のフラワーのおばちゃんのお店だから。待ってるね』

 

会話が終わり携帯の電源を切る響。ぎこちないが未来との会話が出来て少し嬉しかった。それにしてもと響が考える。

 

「二課から出る前に師匠がイチイバルの反応が出たって言ってたけど、クリスちゃんショッカーと戦ってたんだ」

 

特異災害対策機動部二課でもクリスのイチイバルの反応をキャッチした。ノイズの反応が無い以上、相手はショッカーだろうと睨んでいた。弦十郎を始めとした職員が現場に行ってるそうだが大丈夫だろうかと心配になる。

 

「…師匠なら大丈夫か」

 

修行をつけてもらっている響は十分、弦十郎の強さを知っている。何より本部が襲撃された時、弦十郎は一対一で怪人を倒していると聞いている。心配はないだろうと思い直す。

 

響が職員室で担任に未来が休むと伝える。後日、未来には無断外泊と学校をサボった事で説教が確定するが響の知らぬとこであった。担任に伝えた響は教室へと入り席につく。

 

「あの…小日向さんは、今日もお休みなんですか?」

 

誰かが響に話しかけてきた。振り向くと安藤創世と寺島詩織と板場弓美の未来の友人の三人だった。

 

「う…うん、風邪ひいたらしくて…」

 

流石に本当の事も言えないので未来は風邪引いたと誤魔化す。その言葉に三人が少なからず驚く。その反応に響は疑問に感じるが少し話して三人が離れる。

 

「立花さん、雰囲気が良くなりましたね」

「うん、前のビッキーだったら知らないの一点張りだろうしね。昨日か一昨日に何かあったのかな?」

「…きっとアニメみたいな展開で仲直りしたのよ。川原で殴り合いとか」

「…今の時代にないと思います」

 

その後、響達は授業を受ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『イーッ!』『イーッ!』

 

            止めろ!

 

『大人しくショッカーに来るのだ!』

 

              嫌だ!

 

『貴様は改造人間となりショッカーの為に働くのだ!』

 

           アタシはそんな事望んじゃいない!!

 

『決定権はショッカーにある。貴様にはない!』

 

                誰か…誰か!

 

『…クリス』

 

         フィーネ!?助けてフィーネ、このままだとアタシはショッカーに…

 

『あなたは本当に役立たずね』

 

               フェーネ?何を言ってるんだよ

 

『もうあなたは要らないの、さようなら。永遠にね』

 

             待ってよ、フィーネ!置いていかないで……フィーネ!!

 

 

 

 

 

 

「はッ!」

 

夢か、…酷い悪夢を見た。アタシは路地でショッカーの襲撃を受けて撃退したけど疲労とかで倒れて…此処は!?アタシが周囲を見回す。路地じゃない、和室の部屋に布団が敷かれてその布団に寝かされていたようだ

 

「良かった、目が覚めたんだ」

 

直ぐ傍で聞いた覚えのある声が聞こえ振り向くと、

 

「…未来」

 

一緒に、ショッカーのキノコの怪人に捕まり脱出した未来が傍に居た。見ると、桶の中に水と手拭いがあり看病もされていたんだろう。体に違和感を感じて下を見るとアタシの服じゃない!

 

「ずぶ濡れだったから着替えさせてもらったよ」

 

胸にはデカデカと小日向と書かれてる。これ体操服ってやつじゃねえか!?

 

「勝手な事を!」

 

アタシは勝手に着替えさせられた事に文句を言う為に立ち上がった。…下半身がスースーする上に未来が顔をそらしてる。見ると案の定、下には何も着けられてなかった

 

「…下着の換えまではなかったの…ごめん」

 

恥ずかしくなったアタシは布団に包まった。…死にたい

その後、この部屋の持ち主のおばさん…お好み焼き屋のおばちゃんらしい…人がこの部屋と布団を貸してもらった上にアタシの着ていた服も洗濯してくれた。信用できる大人か分からないけど未来の様子を見る限り大丈夫だと思う。少しして、未来がアタシの背中をぬれタオルで拭いてくれた

 

「何も…聞かないのか?」

 

アタシの体の傷やどうして路地で倒れていたのか聞かれる覚悟はしていた。アタシの体は無傷じゃない。昔の傷もあるし、ショッカーに襲われたのもあるがフィーネに付けられた傷もある。アタシの体は傷だらけだ

 

「…うん。私は…そういうのが苦手みたい。前に私の事を避けてた娘が居てね、何かがあったんだろうとは思ってたの。事情を聞かずに昔みたいに仲良くしようとしてたの。でもある日、偶然その娘が戦ってる場面に遭遇して私を助けてくれたのに、私は体に機械があるからってその娘を偽物扱いして…剰え化け物って罵って!一番大切なものを自分で壊して…一年以上行方不明になっていた大事な親友だったのに!」

 

話し続けるけど段々未来の声に涙が混じっている。親友ってのは多分、融合症例のあいつだろ。ある日ってのはアタシとあいつ等とで共闘した時か…あれ?アタシの所為でもありそうな…

 

「あいつと喧嘩でもしたのか?」

「…喧嘩ですらないよ。私の一方的な勘違いが原因なんだから」

 

アタシと未来の間に沈黙が流れる。丁度その時におばちゃんがアタシの服が乾いたって持ってきてくれた。とっとと着替えていると玄関の方から「お邪魔します」と言う声が聞こえてくる。あの声って確か…

 

「あ、響だ」

 

どうやら癒合症例のアイツも来たらしい。それにしても喧嘩ですらないって分かんないな

 

「アタシにはよく分かんないな」

「友達と喧嘩した事ないの?」

「クリスちゃん、こんにちは。それで何の話?」

 

思わず口から出た言葉に未来が質問して来たばかりのアイツは何の話か分かっていない。未来が後で説明するって言ってる。友達か…

 

「友達居なかったんだよ」

「「へ?」」

「地球の裏側、南米のバルベルデって国でパパとママを殺されたアタシはずっと一人で生きてきた。友達どころじゃなかったんだ。たった一人理解してくれるって思った人もアタシを道具のようにしか思ってなかった。アタシの知ってる大人は皆クズばかりだ。挙句、ショッカーなんて連中も出てきやがって、テロや内戦もあいつ等が操っていやがった」

「ショッカー…」

「サボテン野郎が言ってたんだ。バルベルデは数あるショッカーの実験場だって、多分パパとママが死んだのもあいつ等が関わってる筈だ」

 

あの日、初めてショッカーの怪人と戦った時聞いた事だ。あいつ等は何の悪びれた様子も無く、むしろ自慢するように吐き捨てた

 

「そうか、クリスちゃんも…ある意味私と同じなんだね」

「同じ?如何いう事だ?」

「響のお父さん、ショッカーの手に…」

「…そうか、お前もか…」

 

こいつのパパをショッカーに…許せない!やっぱりショッカーは倒さなきゃ駄目なんだ。じゃないと争いの無い世界なんて…待て、こいつがショッカーに狙われたのは心臓にガングニールがあったからだ。その発端になったのは2年前…!そう言えばあのゾル大佐(クソ野郎)が二年前のライブって…

 

「そんな…そんな事って…」

 

何だよ、全部アタシの所為じゃねえか…

 

「クリスちゃん?」

「どうしたの?クリス」

 

未来がアタシの手を握る。様子がおかしい事に心配してくれてるようだ。アタシにそんな資格はない。未来の手を振り払う

 

「アタシが原因なんだ…」

「え?」

「なに?」

「お前がショッカーに狙われたのはアタシが原因を作っちまったんだよ!」

 

2年前、アタシはフィーネに連れ出されてある実験を行った。ソロモンの杖と言う完全聖遺物の起動実験でそれがアタシの歌で覚醒した。ソロモンの杖はノイズの召喚と制御、これを使って2年前のライブの惨劇を起こしネフシュタンの鎧を奪った。そして、その惨劇で天羽奏は死に響の心臓にガングニールが食い込んだ

 

「ごめん…ごめんなさい…」

 

二人がアタシの話を黙って聞く。殴られるかも知れない、罵られるかも知れない。それでも構わない、これはアタシの罪だ。平凡に過ごしていた立花響(こいつ)がショッカーなんていう悪の組織に狙われたのは全部アタシの所為なんだ!

 

「…!?」

 

誰かがアタシを抱きしめた。目を開けると未来がアタシに抱き着いてる。融合症例はアタシ達を優しい目で見つめている

 

「クリスはやっぱり優しいよ」

「うん、クリスちゃんは悪くないよ」

「でも…でも、アタシの所為でお前はショッカーに…」

 

アタシは言葉を詰まらせる。あまりに残酷な現実、ショッカーに狙われる原因を作ったアタシの目が熱くなる。きっと涙が溢れてるんだ。そんな資格も無いのに!

 

「結果的に狙われたけど、裏で暗躍していたショッカーを表に引きずり出したって思えば良いと思うよ。実際に特異災害対策機動部二課や政府でも対策しようとしてるし。私が狙われてなかったら多分、誰一人ショッカーの存在に気付かなかったかも知れない。それはとても怖い事だよ、クリスちゃん」

 

そうだ、アタシもフィーネから聞かされ目の前に怪人が現れるまでショッカーの存在なんて知りもしなかった。でもだからって…

 

「…クリスが責任感じる事なんてないよ。どうしても責任を取るなら響の手助けをしてほしいの」

「え?」

「手助け?」

 

未来の言葉にアタシは驚く。…で何で此奴も驚いてるんだ?

 

「響と一緒にショッカーやノイズと戦って欲しいの。翼さんもいるけどショッカーの戦力に押される事が多いみたいだし」

 

アイツと一緒にショッカーやノイズと戦え?()()()()()()()()()()()上等だ!ショッカーはぶっ潰さなきゃいけないし、ついでにノイズも叩き潰してやら!アタシが静かに頷くと未来は喜び融合症例は複雑そうな顔をしている

 

「これで、クリスも私達の友達だよ。ね、響」

「え…う、うん…」

 

未来がまたアタシの手と融合症例の手を握る。融合症例の方は相変わらず複雑そうだ。というか無理矢理、友達にされたような気がするけど…まっ、いっか

 

ヴ~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

っと突然、街中から大きな音が響き出し融合症例が懐から携帯を取り出し部屋から出て行ったと思ったら店からも出て行った。外の騒がしさにアタシと未来、おばちゃんが外に出てみると皆、何かから逃げ回っている

 

「おい、一体何の騒ぎだ?」

「何ってノイズが現れたのよ!この音は警戒警報なの!」

 

何だって!?ノイズが出たからアイツも此処から出たのか。呑気にしてられねえ!

 

「お前達は避難しろ!アタシも行く!」

「うん。ほら、おばちゃん行くよ」

「ま、待ちなさい、あの娘は…」

 

おばちゃんがアタシの心配をするが問題ない。二人を見送ったアタシは逃げる群衆の逆の方に走る。アタシのやらかしは自分でどうにかするんだ!商店街の入り口まで走って正直しんどい。でも、これ以上関係ない奴らを巻き込めるか!多分、これはフィーネが出したノイズだ。アタシを見つけた途端、逃げる奴等を放置してアタシの方に来た。

 

「アタシは此処だ!だから、関係ない奴らの所になんていくんじゃねえ!!」

 

アタシが歌おうとした時だった。

 

「ひえ~~~~~~~~!!!」

 

老人の様な声の悲鳴が聞こえる。アタシが視線を向けると白髪の老婆が必死に逃げいる。逃げ遅れたのかよ!

 

「誰か助けておくれぇ~~~~!!もう直ぐ孫の誕生日なんじゃ!死にたくねえよ~~~!!」

 

アタシの体が咄嗟に動いた。見ず知らずの婆さんだったがこれ以上、関係のない奴が死ぬのはごめんだ!アタシは婆さんの手を取って走ろうとしたが婆さんの足がもつれてまともに走れない。仕方ないから婆さんを背負って安全な場所に行こうとしたが、

 

「!囲まれてる」

 

周囲はノイズに囲まれ退路は何処にも無い。今から歌おうにもノイズの攻撃が始まった。間に合わない

 

「はあ!!」

 

赤い服を着た厳ついオッサンが突然出てきて地面を踏みしめた。その所為かアスファルトが捲れてノイズの攻撃の盾になった!?見間違いかとも思ったがアタシの前で同じことをして、またアスファルトを盾にした。その直後にオッサンはアタシと婆さんを抱えてジャンプし近くのビルの屋上に着地した。このオッサンも改造人間か!?

 

「大丈夫か?」

 

アタシと婆さんをビルの屋上に下したオッサンがそう聞いた。でも今はノイズをぶっ倒すのが先決だ。アタシが歌おうとしたが

 

「おお、ありがとよ!お嬢さん。ありがとよ!」

 

アタシが助けようとした婆さんがアタシの背中にしがみ付いてお礼を言いだした。感謝されるのも悪くないな。でも今は…

 

「婆さん、感謝は後にしてくれ。今は…」

「アンタは良い娘じゃよ、本当に良い娘じゃ!良い娘すぎてチョロいね」

 

え?

 

「離れろ!!」

 

オッサンがこっちを見て血相を変える。アタシが婆さんの方を見る。其処には

 

                「ヒィーア!」

 

頭が花の姿をした一つ目が居た。婆さんはショッカーの怪人だった!?早朝に見た怪人じゃない!

 

「ゾル大佐が言った通りだったね。反吐が出るぐらい甘い小娘だよ!」

 

あの老人は罠だったんだ!アタシが直ぐに歌おうとしたけど花の怪人が持っていたツタでアタシの首を絞めてきた

 

「馬鹿め、こんな密着して歌わせる訳ないだろう!ショッカーの調査でシンフォギア装者など歌わせなければその辺に居る只の小娘同然なんだよ!お前も動くんじゃないよ、風鳴弦十郎!下手に動けば私のツタがこの小娘の首をへし折るよ!」

 

怪人の言葉にオッサンも動けなくなった。アタシがショッカーの怪人に騙された所為で…ちくしょう!何やってんだよアタシは!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

抜かった!あの娘が助けた老婆が怪人だったとは!?雪音クリスくんが人質にされては迂闊に動けん。…!不味い、空飛ぶノイズが俺達に狙いを定めた!

 

「ウオァッウオァッ!」

 

茶色く細長いものが投げられ空を飛ぶノイズが次々と切り裂かれた。花の怪人を刺激しないよう視線を向けると花とは別の一見節足動物みたいな怪人が居る

 

「ドクダリアン!その娘は俺が先に目を付けたんだぞ!」

「煩いよ、ザンブロンゾ。取り逃がしておいてよく言えるね!」

 

怪人達が軽い口論をするが、その間にも壁をよじ登るノイズにもザンブロンゾと呼ばれた怪人が自分のウロコを剥がし投げつける。投げたウロコはノイズを切り裂く、さっきの空を飛ぶノイズもこれにやられたようだ

 

「ふん、まぁいいさ、なら俺はこの男を連れて行く事にしよう。あれだけの身体能力だ。怪人の素体に十分使えるだろう。念の為、手足は切り落としておくか」

 

ザンブロンゾがまた体のウロコを剥がし俺に投げつける。俺は咄嗟に飛んでくるウロコを叩き落した。…しまった!捕まっている雪音クリスくんの方を見るとドクダリアンが首を絞めてる最中だ

 

「あ…グぐ…」

「止めろ!」

 

「言った筈だよ、風鳴弦十郎。下手に動けばこの小娘の首をへし折るって。私らは別段、無理に生きたまま捕まえなくてもいいのさ。ショッカーには死人を生き返らせる技術も手に入れてるからね」

 

苦しそうにするクリスくんだが、俺はドクダリアンと呼ばれる怪人の言葉に驚く。死んだ者すら蘇らせるだと!?ただのハッタリだと思うが…ショッカーの技術は俺達の予想を超える物が多い。どうすれば…

 

「何だったら、試してみるかい!?」

 

「あ…が…」

 

ドクダリアンが首に巻いてるツタの力を入れた!クリスくんの顔色が悪い!このままでは絞殺される!本当にクリスくんを殺すつもりだ!

 

「…分かった。好きにしろ。その代わりそれ以上、彼女を苦しめるな」

 

俺は構えを解き怪人の前に無防備な姿になる。響くんは此処とは別の地区でノイズを掃討しているし翼も簡易検査でまだ病院に居る。緒川も居るし、彼女達だけでも無事ならまだショッカーと戦える筈だ

俺が無防備になるのを確認したドクダリアンはクリスくんの首のツタを緩める。苦しそうに咳き込むクリスくん。何が大人の務めだ!何も出来ない俺は大人失格だ!

 

「手間をかけさせやがって!」

 

「ぐっ!?」

 

ザンブロンゾが剥がしたウロコを俺の太ももに突き刺す。鋭い痛みに俺が声を出すとザンブロンゾは実に嬉しそうに笑った

 

「ついでだ、ザンブロンゾ。そいつの血も飲んじまいな。昏睡状態にすれば暴れられないだろう」

「…それもそうだな、あんまり旨そうな血じゃなさそうだが」

 

ドクダリアンの言葉にザンブロンゾは俺の首筋に噛みつき血を啜る。血を吸われるのは初めてだったが…気持ちが悪い上に頭がボーとしてきた。済まない皆…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ちくしょう…ちくしょう」

 

弦十郎がザンブロンゾに吸血されるのを黙って見ているしかないクリス。響や未来との約束も守れずクリスを助けようとした弦十郎もあの様だ。何も出来ない自分にクリスが悔しがる。

 

「風鳴弦十郎と雪音クリスの捕獲は概ね完了。後は立花響を確保出来ればショッカーの初期目的は概ね達成される」

 

「…初期…目的…?」

 

まるで他にも目的があるような言い方にクリスが聞く。

 

「冥土の土産にいい事を教えてやる。ゾル大佐は他にも最大の目的があるのさ。それが成功すれば確実に世界征服が近くなるねえ」

 

それだけ言うと、ドクダリアンはチラっとビルの屋上から地上を見る。外には未だにノイズがひしめき合い道路を闊歩する。

 

「さて、私達もさっさと本部に戻るとするか」

 

「ま…待てよ、ノイズを放置したら他関係ない奴らが…」

 

「だから?ショッカーに何か関係あるのかい?」

 

クリスはドクダリアンの言葉に絶望する。ショッカーにとって人間など取るに足らない存在、何人死のうと関係も無い。例え改造人間に適合できる奴が死んでも運が悪かった程度だ。何より先程ドクダリアンが言っていた死人を生き返らせる技術があれば猶更だ。

 

「アタシは…アタシは…」

 

怪人に捕らえられ何も出来ず、守ろうとした弦十郎もショッカーの手にかかっている。クリスの心に絶望がのしかかる。

 

 

 

 

 

 

「クリスちゃんに手をだすなぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 

 

 

 

 

突然の大声と共にドクダリアンの横っ腹に衝撃が走る。クリスはドクダリアンから解放され横を見ると、拳を突き出してる響が居た。

 

「ごめん、クリスちゃん。遅れた」

「お前…お前…」

 

クリスが涙を流す。今の響の姿にクリスが安堵した。

 

「何だ!?何が起こっグハッ!?」

 

響の登場に弦十郎から意識が外れたザンブロンゾの胸に弦十郎の掌底が叩き込まれる。突然の事に胸を押さえ後ずさるザンブロンゾの目に弦十郎の拳が映った。殴り飛ばされたザンブロンゾは倒れそうになるが踏みとどまる。

 

「馬鹿な!?貴様の血は何時失神してもおかしくない程吸ったんだぞ!何故、平気で立ち上がる!?」

 

「…だろうな、おかげで頭がボーとして仕方がない」

 

ザンブロンゾの問いに弦十郎はふら付きながらもそう答える。その答えに不服だったザンブロンゾは弦十郎に襲い掛かる。

 

 

 

 

 

 

 

 

「立花響!貴様は別の場所でノイズと戦ってたんじゃないのかい!?」

 

「ノイズならもうとっくに片付けたよ。私の耳にクリスちゃんや師匠の悲鳴が聞こえて急いで来たんだ!」

「アタシの悲鳴?」

 

「悲鳴だと…そうか!改造手術によってお前の感覚はより研ぎ澄まされている。当然聴覚もね!」

 

ドクダリアンが手にするツタを鞭にして響に振り回す。響はドクダリアンの鞭を受け流し一気に近づく。

 

「クリスちゃんにやった事、絶対に許さない!」

 

「は、早い!?」

 

響はドクダリアンの腹部に弦十郎から習った掌底を繰り出す。勝負は一瞬、ドクダリアンが後ろに倒れビルから落下し地上まで落ちた。何とか受け身をとったドクダリアンだが響の一撃でろくに動けず周りには、

 

「ノ…ノイズ!?」

 

ビルに集まりつつあったノイズがドクダリアンの方にも来る。平時なら兎も角、今のドクダリアンでは対応が出来ない。

 

「くそっ!くっそ!立花響!貴様さえ来なければその娘も風鳴弦十郎も手に入ったものを!この恨み忘れんぞ!忘れ……」

 

恨み言を言うドクダリアンは一つ目で響達を睨みつける。そうしてる間にも何体ものノイズが取り付き声が聞こえなくなった。ノイズが去った後は炭の塊が風に流される。響とクリスはそれを見届けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「貴様の相方は倒されたようだぞザンブロンゾ」

 

「し…信じられん!あれ程優勢だった俺達が何故!?」

 

弦十郎の言葉に焦りだすザンブロンゾ。何より大量出血して失神寸前の弦十郎に押されてる時点で最早、ザンブロンゾに勝ち目はない。動揺したザンブロンゾの反応を弦十郎は見逃さなかった。

弦十郎の拳がザンブロンゾの胴体を捕らえる。衝撃波がザンブロンゾを貫き響達にも届く。

 

「…これだけの血を吸ったというのに、人間に負けるというのか…!」

 

致命傷を受けたザンブロンゾは倒れ徐々に体が溶けていき残ったのは三葉虫の化石だけだった。

 

「ザンブロンゾ。…普通に恐ろしい相手だった」

 

体力の限界が来たのか弦十郎はそのまま地面に腰を下ろす。大量出血と疲労によって滅茶苦茶疲れていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあ、行こうか。クリスちゃん」

「分かってるよ」

 

響とクリスがビルの屋上から外を見る。未だにノイズが大量に居る。

 

Killter Ichaival tron

 

クリスが歌いシンフォギアを装着する。早速、クリスが近づいてきた飛行型ノイズを撃ち落とす。

 

「さすが、クリスちゃん。私も」

 

屋上から飛び降りた響が地面に着地すると共に拳で何体ものノイズを叩き潰す。二人の前にノイズが次々と消滅していく。

 

「結局、俺は何も出来なかったのか」

 

ビルの屋上でノイズが掃討されていくのを見ていた弦十郎が呟く。クリスの助けた婆さんが怪人で人質にされもう一人の怪人に吸血された。響が来なければ二人共、ショッカーにそのまま拉致され改造人間にされてたかも知れない。弦十郎はこれほど自分が情けないと思ったのは初めてだ。そして、そのまま弦十郎の意識は闇に落ちた。

 

 

 

弦十郎の目が覚めたのは日が暮れて夕方になっていた時だった。屋上ではない、担架に乗せられて救急車に乗せらる寸前だった。

 

「指令!良かった、目が覚めたんですね!」

 

声のした方を向くと緒川が弦十郎の顔を見て喜んでいた。首筋には包帯が巻かれ点滴もされている。

 

「戦闘は終わったのか?」

「はい。出現したノイズは全て駆逐出来ました。…ただ、僕の部下たちの何人かは昏睡状態で…」

「…そうか」

 

緒川の部下のエージェントの内何人か怪人に襲われ昏睡状態となり緊急入院となった。ショッカー相手に命があるだけマシと言えるが

 

「あ、師匠。良かった目が覚めたんですね」

 

響も弦十郎の目が覚めた事に気付いて近寄って来た。

 

「響くん、すまんな。頼りないところを見せてしまって」

「そんな事言わないでくださいよ。ショッカーまで襲ってきたんですから仕方ないですよ」

 

弦十郎の言葉に響は笑って返す。こんな子供に戦わせてしまった事に罪悪感を感じる弦十郎だが、

 

「ところで、クリスくんは何処に?」

「クリスちゃんはノイズを倒した後に離れて行っちゃって。ショッカーの目標を分散させるって」

 

クリスはあの後、響たちとは別行動をとった。一か所に固まるより分散してショッカーの気を逸らそうとした。尤も、クリスはまだ大人が信じきれない上に怪人にいいようにされた事で顔を会わせずらかったのもある。

 

そして、風鳴弦十郎は救急車で運ばれ入院。尚、飯食って寝たら一日で回復した。

 

「弦十郎くん、本当に人間?」

「…人間だと言っている…」

 

 

 




未来とおばちゃんは普通に避難出来ました。

そして、ショッカーがクリスへの騙し討ち。
悪の組織がやる変身などさせるかが発動。

でも、シンフォギアって普通に宇宙でも歌ってるな…


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20話 立花響の隠し事

 

 

 

天羽奏。

嘗て、風鳴翼のパートナーであり相棒だった少女。ツヴァイウイングのライブにノイズと戦い死んだ。二年が経つが風鳴翼は未だに心に思い続ける。

メディカルチェックを受けてる最中にも翼は奏との思い出を振り返る。バイクの整備中に鼻歌を口ずさんでいたのを聞かれ軽く揶揄われまた聞かせてくれと言われた。何気ないやり取りだったが翼にとっては大切な思い出でもある。

 

「お疲れ様、チェック終了です。無事回復しました」

 

翼のメディカルチェックをしていた医者が無事に回復したと告げる。それを聞いた翼は静かに手を握りしめる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

特異災害対策機動部二課本部。

私立リディアン音楽院高等科の地下に作られた人類の砦。その多くは機密として扱われてる。その通路を二人の人間が歩いていた。

 

「へぇ~、学校の真下にこんなシェルターや地下基地が…ショッカーのアジトより明るいですね」

「あそこと比べられるのは心外ですね。此処は人類の砦なんですから」

 

未来と緒川が歩いていた。日を改めての事情聴取とある決定により未来は特異災害対策機動部二課本部の通路を歩いていた。

 

「あ、響さんと翼さんです」

「え?本当だ、響!」

 

丁度、緒川が通路の休憩スポットに居た立花響と風鳴翼、そして藤尭朔也が談笑をしていたのだ。未来の声に気付いた響が振り向く。

 

「未来!?どうして此処に!?」

「小日向さんは外部協力者として二課に委嘱登録されたんです」

 

響の疑問に答える緒川。それでも納得できない響。

 

「そんな、それじゃ未来もショッカーに狙われるんじゃ…」

「それは違うよ。響」

「え?」

「私はもうとっくにショッカーに狙われていた。少なくともゾル大佐には私の存在を知られている」

 

キノコモルグも未来の存在を知っていたしゾル大佐も気付いていた。つまり、二課に登録されようがされなかろうがショッカーに狙われるのは確実だった。

 

「そっか…ごめん、未来」

「響の所為じゃないよ。悪いのは全部ショッカーなんだから」

 

自分のせいで未来がショッカーに狙われてると思った響が自責の念にとらわれるが、未来がそれを否定して響の手を握る。

 

「でも…私がショッカーから逃げなければ…未来や皆が狙われる事なんて…」

「違うよ、響」

「そうだぞ、立花」

 

今まで話を聞いていた翼が口を開く。

 

「立花がショッカーから脱走しなければ我々はショッカーの存在に気付きもしなかった。そうなれば特異災害対策機動部二課本部(ここ)も無事ではすまなかっただろう」

「でも、私の所為で本部が襲われて…」

「ショッカーの事です、遅かれ早かれ本部の場所を特定していた可能性が高いです」

「最早、ショッカーにとってノイズは障害でもなんでもない。今までノイズがショッカーの動きを制限していたのは皮肉ね」

 

災害であり人類の敵だったノイズが同じ敵のショッカーにも抑止力になっていた。しかし、シンフォギアシステムを手に入れたショッカーにはもうノイズが抑止力になる事はない。最早、ショッカーの動きを止めれる者は居ない。

 

翼や緒川の言葉に頷く響。それを見て何処か安心する未来。

 

━━━やっぱり響は優しいな。少しネガティブになっているけど、根本的な所は変わってない

 

ショッカーに捕まり改造されようと優しいままの響に安心する未来。ただ、元はポジティブな性格もネガティブになってしまって居るが時間が解決してくれると考える未来。

 

「あら、良いわね。ガールズトーク」

「了子さん」

 

途中、通路の奥から櫻井了子が歩いて話に加わる。

 

「…あの…僕らも居るんですけど…」

 

緒川の言葉に藤尭朔也も頷く。しかし、了子は気にせず話を続ける。

 

「櫻井女史もそういうのに興味が?」

「もちのろん。私の恋話百物語を聞いたら夜眠れなくなるわよ」

「…それはどっちの意味でですか?」

 

了子の言葉に緒川が突っ込む。そして、了子の恋話に興味津々の未来。

 

「響、大人の女性の恋話だって!きっとドラマみたいなお洒落なお話が聞けるかも!」

「う…うん」

 

未来とは対照的に響は目を伏せて返事をする。興味が無い訳ではないのだが。

 

「そうね…遠い昔の話になるわね。こう見えて呆れちゃう位一途なんだから~」

「意外でした。櫻井女史は恋と言うより研究一筋かと…」

 

了子の恋話に未来は目を輝かせ翼は意外に思い。そして、響はそんな了子の恋話を羨ましそうに聞いていた。

 

「命短し恋せよ乙女っていうじゃない。それに女の子の恋するパワーって凄いのよ」

「…女の子ですか」

 

何か言いたそうな緒川だったら直後に了子の裏拳が顔面にヒットし倒れる。

 

「私が聖遺物の研究を始めたのも…!」

 

了子の言葉が途切れる。未来の期待の表情と響の視線に了子が我に返った。

 

「ま、まぁ、私も忙しいから此処で油を売る訳にもいかないわ」

「…自分から割り込んだ癖に…」

 

緒川の文句に了子が蹴りで返事をする。介抱していた藤尭朔也が緒川の名を呼ぶが内心「懲りない人だ」と思っていた。

 

「とにかく、出来る女の条件はどれだけいい恋をしてるかに尽きるのよ。ガールズ達も何処か何時か良い恋なさいね」

 

了子が良い話風に纏める。傍で悶える緒川の所為で台無しもいいとこだ。現に翼が冷めた目をしている。

 

「あの…了子さん」

 

そんな空気の中、響が了子に口を開く。

 

「どうしたの?響ちゃん」

「私も…恋が出来るんでしょうか?こんな体で恋なんて…」

 

響の言葉に一同は固まる。了子の蹴りで悶えていた緒川すら黙った。響の体は最早人間ではない。ショッカーに拉致され望まぬ改造人間にされ生身と言える部分が脳と心臓のみ。そんな体で誰かを愛する事が出来るのか?ましてや恋なんて、大分力の制御も出来る様になったが未だに集中してないと何かを破壊してしまう体だ。

 

「…響」

 

これには未来も何も言えない。未来もショッカーの恐ろしさ思い知った。出来るなら響を慰めたい。しかし、それは響に余計な苦痛を強いる事だとも分かっている。未来は了子がどう答えるか待った。

 

「…正直言って私にも分からないわ。でも、出来ないからって諦めたら本当に出来なくなる。それだけは忘れないで響ちゃん」

「…はい」

 

了子の答えにややガッカリする響。まぁ、気軽に「出来る出来る」と言われても困るが、

 

「ところで、弦十郎くん見なかった?ちょっと聞きたいことがあったんだけど」

「ああ、私達も探してるんですが何処にも」

 

露骨に話を逸らす了子に翼が答える。翼も現場復帰の報告で弦十郎を探し偶然通りかかった響と話していたのだ。

 

「そう、なら弦十郎くんが帰って来るまで研究に戻るわ。それじゃあね~」

「あ、聞きそびれちゃったね」

 

爽快に去っていく了子を見届けつつ残念そうに呟く未来。響も出来れば了子のロマンスを聞きたかったが残念に思う。翼はあまり興味が湧かなかった。

 

 

 

 

 

 

 

通路を歩く了子。周りには誰も居なく了子一人。

 

━━━らしくない事を言ったわね。私が立花響(あの娘)に同情でもした?それとも女としての優越感?…後者だとすれば私も落ちるとこまで落ちたわね。そんな女にだけはなりたくなかった筈なのに…

 

自分の中で問答する了子。自己険悪を感じつつもそのまま奥の通路へと進む。

 

 

 

 

 

 

「指令、まだ戻って来ませんね」

「ええ、メディカルチェックの結果を報告しなきゃいけないのに」

 

了子が去った後、四人は通路に置いてあるソファーのある休憩所で座っていた。尚、藤尭朔也は普通に仕事に戻った。

 

「次のスケジュールが迫って来ましたね」

「もうお仕事ですか?」

 

緒川が腕時計を見て仕事の時間が近づく事を知らせ響が翼がもう仕事をしてる事に驚く。

 

「少しずつよ、今はまだ慣らし運転のつもり」

「じゃあ以前のような無茶なスケジュールじゃないんですね。良かった」

 

以前の様な無茶なスケジュールではないと知ってホッとする響。それを見て翼が何か考えたようだ。

 

「そうね、そこまで忙しくもないし、三人でデートしてみる?」

「え?」

「デート?」

 

翼の突然のデート発言に固まる響と未来。翼の突然の思い付きに溜息をつく緒川。そして、三人のデートが決まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

人気の無い廃マンション。雨の降る中、廃マンションの一室で少女が一人座り込んでいた。響と別れたクリスだ。クリスの周りにはコンビニで買ったと思しき弁当の箱やカップ麺の容器が散乱していた。それでも、時間が経ったのかクリスに空腹感が襲い腹の音がなる。直後に誰かが扉を開け廊下を歩く音に気付く。

ショッカーかと警戒するクリスだったが、

 

「ほらよ」

 

白いビニール袋を見せた後に素早く部屋に入り込む。あまりの早業にクリスも動けずにいた。

 

「応援は連れてきていない。俺一人だ」

 

素早く部屋に入ったのは弦十郎だった。

 

「…あんたかよ」

 

先程より警戒を解くが弦十郎を睨むクリス。変な動きをすれば即座に起動聖詠を歌うつもりだった。

 

「安心しろ、俺は本物だ」

「…如何して此処が分かった?」

「これでも元公安だからな、お手の物だ。…君の保護を命じられたのは、もう俺一人だ」

 

クリスの質問に答えた弦十郎がビニール袋を差し出す。

 

「差し入れだ」

 

弦十郎がクリスの為に幾つかの食料を買ってきたのだ。それを見て腹を鳴らすクリスだが、手を出さない。万が一、ショッカーの罠の可能性も十分ある。それを見ていた弦十郎は買ってきたパンの一つを開け食べて見せる。

 

「…何も盛っちゃいないさ」

「…ありがとよ」

 

弦十郎からパンを受け取ったクリスは口に運ぶ。久しぶりのパンに齧りつくクリスに弦十郎が喋る。

 

「バイオリン奏者、雪音雅律と声楽家の母ソネット・M・ユキネが難民救済のNGO活動中に戦火に巻き込まれ死亡したのが8年前。残った一人娘も行方不明となった。その後、国連軍のバルベルデ介入によって事態は急転する。現地の組織に捕らわれていた娘は発見され保護、日本に移送される事になった」

 

話してる最中にも弦十郎はおにぎりや小さいパックの牛乳を渡し平らげるクリス。

 

「…よく調べちゃいるが一つ訂正だ。パパとママの死はショッカーが関わってるそうだ」

「!?やはりそうか」

 

クリスの言葉に弦十郎も納得がいった。バルベルデの軍事力はそこまで高い訳ではない。しかし、介入した国連軍の死者や行方不明者が嫌に多く、生き残った国連軍の兵士の証言に「化け物を見た」というのまであった。弦十郎も最初は都市伝説か兵士の見間違いだろうと思っていたがショッカーの存在を知った今なら信じられる。

 

「ショッカーは内戦やテロを操ってると言う。ありえない話ではないか。それで、君はあの後ショッカーとは?」

「…何度か戦闘員とやりあっただけだ。あいつ等は突然現れるから気を付けた方がいいぞ」

「それは知っている。前にも本部に直接乗り込んできたからな」

「それで?わざわざこんな話をする為に来たんじゃないんだろ。何が目的だ?オッサン」

「俺の目的は君を救い出す事だ。引き受けた仕事をやり遂げるのが大人の務めだ。きみを二課で保護したい」

 

弦十郎の言葉にクリスは驚きながらも弦十郎から目を離さない。

 

「…その前に一つ教えろ。前に病院に運ばれ保護された男の子と女の子の兄妹はどうなってるんだ?」

「父親をショッカーに殺された子供たちか、それなら母親の方に引き取られてる。政府の方も支援する方針だ」

「そっか、なら安心だ。…大人は嫌いだけどオッサンの事はそれなりに信用してるつもりだ。でも…!」

 

弦十郎に何か言おうとしたクリスだったが突然の轟音に潰される。

 

「イーッ!」「イーッ!」

 

見ると、ドアを蹴破って戦闘員が雪崩れ込んでくる。

 

「オッサン!つけられてたなぁ!?」

「そのようだ!!」

 

二人は躊躇いも無くガラスを突き破り部屋を脱出する。弦十郎は直下の部屋のベランダの柵に捕まり落下するスピードを殺し更に下の階のベランダの柵に捕まる。それを繰り返して一階まで降りた。クリスは、

 

Killter Ichaival tron

 

落ちながらも歌いシンフォギアを装着して逃走する。屋根から屋根、時には屋上を飛び移る姿を見て安堵する弦十郎だったが空からクリスを追跡する者がいた。

 

「此処まで距離を開ければ大丈夫か?」

 

雨の中、途中の電柱の上で立ち止まったクリスが逃げたマンションの方に振り向こうとした。が、

 

「!?」

 

突然の衝撃波にバランスを崩したクリスが電柱の上から落ち雨で濡れる地面に落ちた。突風かとも考えたがクリスの前に何かが着地する。一見、齧歯類の顔をしていたが大きさは人間並みであった。

 

「雪音クリスだな?貴様の命、このムササビードルが頂く!」

 

目の前に新たなショッカーの怪人が現れた。ちょっと可愛いと思った自分を恥じるクリス。その後、その付近で突風によって家が壊れるといった事件や近くに居た人が突然の内臓破裂が起きる事件が発生した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

雨も上がり快晴の日。響は一人、公園の橋近くに居た。翼達とのデートの待ち合わさせだ。特にやる事もなく響は暫く前から未来や翼を待っていた。

 

「響~」

「立花」

 

一人黄昏ていた響の耳に二人の声が聞こえた。見れば二人が急いでこっちに来る。時間はまだ十分余裕がある。

 

「響、珍しく早いね。何時もは寝坊して遅刻するのに」

「そ、そうかな…」

 

未来の言葉に響が苦笑いする。内心「そんな遅れてたかな?」と疑問に思いつつも言葉には出さない。

 

「それより、立花。何でまた制服なんだ?」

 

翼の言葉に未来も響の服装を見る。それは確かにリディアン音楽院の制服のままだった。そう言えばと未来は響の服装は何時も制服だった事を思い出す。あのアジトの脱出の時さえ響は制服を着ていた。

 

「…私、もうこれしか服が無くて…最初に来ていた服も駄目になって…」

「家に帰れれば響の私服もある筈だけど…」

 

響の服は制服を除けば弦十郎が用意したジャージぐらいしかない。他の服を買おうにも並みの服では簡単に破けてしまう。それに下手に家に帰れば母親と祖母がショッカーに狙われる可能性が高い。ショッカーの事だ平気で人質にしてくるのは想像に難しくない。それなら、特殊なワイヤーが仕込んでくれる起動二課の服の方が丈夫で良かった。

 

「…よし、今日は立花の服も買おう。後でワイヤーを付けて貰えば十分着れるだろう」

「そうですね」

 

翼の言葉に未来も賛成する。異論をはさむ余地も無かった響は釈然としなかった。

その後、響と未来、翼はショッピングモールへと足を運びウィンドウショッピングや映画を見たり楽しんだ。丁度、時間も経ち小腹が空いた一行はソフトクリーム屋で食べようとしたが、

 

「響は注文しないの?」

「あ、私さっき食べたばかりだから…」

 

その言葉に未来の中に疑問が生まれる。三人で遊んで大分時間が経つ、なのに響はさっき食べたといった。少なくとも()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。未来と翼の視線が合う。二人の脳裏に嫌な考えが浮かぶ。そこで、翼は一計を案じた。

 

「立花、一人で先に食べた罰だ。この唐辛子たっぷりのソフトクリームを食べろ」

「え?これをですか!?」

 

翼が響に真っ赤なソフトクリームを突き出す。響の目が未来に助けを求めるが、

 

「これは罰だよ響」

 

未来も笑顔で罰だという。助ける気がないと判断した響はソフトクリームを軽く舐める。

 

「辛っ!予想より辛いよこれ!舌が痺れるよ」

 

赤いソフトクリームを一舐めして辛いとリアクションをする響。普段の響なら気付けた筈だ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。ソフトクリーム屋のメニューに唐辛子のアイスなど置いてない事を。響の反応に二人は顔を青くする。

 

「響…」

「…立花…」

「どうしたの?…イチゴの匂い?…!」

 

響の名を呟く二人に響はやっと自分の間違いを知った。そして、翼は思い出した。響が機動二課に入って何か食べていた記憶など無い事を。水ぐらいしか飲んでいない事を。

 

「…バレちゃったか」

 

響が小さい呟きが二人には大きく聞こえた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

近くのベンチに座って翼と未来が響の話を聞いた。弦十郎や他の者にも話していない響の秘密を。

 

「何時頃からなんだ?」

「…改造手術された直後には、もう」

 

響の口から話す内容に翼も未来も眉を顰める。改造手術を終えた直後から響は戦いには関係ないとして味覚を抹消された上に胃に代わる新型のプラスチック繊維製消化器官も超小型の物しか付けられず、脳の満腹中枢も弄られ空腹を感じない体にされた。今の響には流動食しか受け付けない体だ。脳を機能させる栄養素は響の体に仕込まれた装置が行う。ショッカーが聖遺物とともに水だけでも数百年動き続ける事を目的とされ作られた改造人間の実験体。それが響だった。

 

「知ってます?匂いだけでも食べれるって嘘ですよ、五感の内味覚以外が軒並み強化された所為か口に入れただけで粘土みたいな感触がして気持ち悪いんです」

「…何で今まで黙ってたんだ?」

「言ってどうにかなるんですか?痛覚の一部も弄られて辛味すら感じられない私に何かしてくれるんですか?」

 

響の言葉に翼も未来も黙る。何より未来は響の好きな食べ物はごはん&ごはんと知ってる程ご飯が大好きだった。それが、響にとってどれ程の絶望だったか想像に難しくない。ショッカーによって全て奪われた響にとって食事の楽しみなど最早存在しない。

 

「でも、ショッカーは一体何の為にそんな改造を」

「…ショッカーは「水すら必要としない究極の改造人間の製造」を目的にしてるみたいです」

「!狂ってる」

 

ショッカーの目標の一つを聞かされ未来が吐き捨てるように呟く。改めてショッカーの非道さを垣間見た二人はこれ以上ショッピングとかする気になれずにいた。響の服は後日に買うと決めた二人。そこで空気を変える為に未来がある提案をする。

 

「そうだ、響も翼さんも良いところに行きましょ」

「良い?」

「ところ?」

 

未来の言葉に響も翼も茫然とする。そして、三人が来たのはカラオケ店だった。

 

「小日向!カラオケは…」

「ほら、響!前に響が好きって言っていた歌がやっとカラオケで配信されたんだよ!」

「え…そうなの?」

「待つんだ、立花は…」

「じゃあ、私予約してくるから」

 

止めようとする翼の言葉も聞かず未来はフロントの方に向かっていく。

 

「小日向」

「良いんですよ、翼さん」

「…立花」

「未来が私に気を遣ってくれてるのは分かってます。それに、あれから大分時間も経ちましたから、もしかしたら歌えるようになってるかも知れません」

 

響がそう言うが、翼の目には無理してるようにしか見えない。しかし、響が言うように歌えるようになってるかも知れないと考え未来の後に続く。

しかし、結果は、

 

「ゴホッ!ゴホッゴホッ…オエぇ…ゴホッ!」

「響!しっかりして!…響!」

「立花!ゆっくり息を吐くんだ!」

 

少しでも歌おうとした響に待っていたのは激しい咳き込みと頭痛、喉の不快感だった。予想外の事に未来が涙目になり、逆に予想していた翼は落ち着きつつ響の背中を摩る。

 

「ごめん…ごめんなさい!響。私そんなつもりじゃ!!」

「…いいよ、私も未来に説明してなかったし。それに無理に歌おうとしたのは私だし」

 

暫くして咳き込みと吐き気が治まった響に泣きながら謝る未来。響も自分が歌えない事を教えなかったと気にしてないが、

 

━━━私、何してるんだろ?空回りしてばっかり!響が何をしたって言うの!?何で響ばかりこんな目に…歌が好きだった響が…ショッカー…!

 

何とか響を励まそうとするが空回りばかりしてる自分に嫌になる未来。それと同時にショッカーへの怒りも増す。結局、響は聞き専として翼や未来の歌をゆっくり聞くことになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな三人が居るカラオケ店を見張る二つの影。そして、その傍に居る何人かの一般人と思しき人達。しかし、その人達はどこかおかしかった。顔には幾つもの紫の斑点があり口からは異様に伸びた犬歯。そし、目が虚ろだった。

 

「風鳴翼、立花響があの店に入ったね」

「ほう、仕掛けるか?」

「待ちな、ここ等へんだと目立つ。仕掛けるならもっと人が減った場所で仕掛けるよ」

「…なるべく急いでくれよ。ムササビードルの奴が赤いシンフォギア装者を取り逃がしたそうだからな」

「その為にはもう少し肉壁を増やした方が良いわね。あれとか」

 

一つの影がある方向を指さす。其処には風鳴翼のシングルを片手に喜ぶファンが居た。

 

「あれか、お前達行ってこい」

 

その命令に一般人と思われた人達が一斉に動く。その人達の口から何か聞こえた。

 

きーー

   キーーー

        きーーーー

 

 

 

 

 




ショッカーのお蔭でクリスが原作よりも丸くなってます。
半面、響は原作よりもネガティブになってるので原作の明るい響の案は大体、未来や翼の提案になります。
因みに3話で「此処を出たらお母さんのご飯をお腹一杯食べよう」と言ってますがこれはあくまでも父の立花洸と話を合わせてただけです。


それでは、また次回予告などを、

我らが立花響を狙うショッカー本部が送った次なる使者は怪人蜂女。ショッカーの開発した恐るべきビールスに苦戦を強いられる響たち。卑劣な蜂女の策に追い詰められる響。
次回「卑劣なりし蜂女!蝙蝠ビールスの恐怖!」にご期待ください。


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21話 卑劣なりし蜂女!蝙蝠ビールスの恐怖!

 

 

 

「ハア…ハア…ハア…」

 

一人の女性が路地裏を走る。顔の表情を見る限り何かから逃げてるようだ。

 

キーー

   キーーー

       キー

 

「ヒッ!?」

 

入ろうとした横の路地から聞こえた声に女性は立ち止まる。

 

━━━どうして…どうして私がこんな目に!?ミミもツッキーも襲われて私一人だけ…

 

女性は今日偶々友人たちとショッピングをして前から欲しかった風鳴翼のシングルを購入して人生の有頂天を感じていた。しかし、その直後怪しい人達に襲われる。友人たちが怪しい人達の犬歯に首筋を刺され苦しみだし自分だけ路地裏に入って逃げてしまった。路地裏を闇雲に逃げたが大通りに出ようとすると必ずあの変な声が聞こえて来る。

 

「今日の私の運勢はラッキーな筈なのに…」

 

どの位走ったのか?体力を消耗した女性が壁に凭れる。兎に角、何処かで大通りに出て警察に助けに求めなくてはと考えた。

 

「そうだ、携帯!」

 

何で今まで忘れてたのかと懐に入れていた携帯を取り出し警察に電話しようとするが、

 

「圏外!?噓でしょ!」

 

無慈悲にも画面には圏外と書かれていた。落胆した女性が天を仰ぎ見る。直後に真横から足音が聞こえ振り向く。

 

「え?ミミ?」

 

其処には友人であり怪しい人達に襲われたミミが居た。

 

「良かった無事だったんだ!私一人で心細くて…」

 

女性が友人に抱き着く。心細かった時に顔を知っている友人が来たのだ、それが嬉しくて仕方なかった。しかし、彼女は気付かない。昼間とは言え薄暗い路地では友人の顔に紫の斑点と伸びた犬歯に、

 

「キー」

「え?」

 

女性は、あの耳障りな声を耳元で聞こえると同時に首筋の痛みと共に意識が遠のく。

 

『貴様もショッカーの(しもべ)となるがいい』

 

意識が無くなっていく中、男の声が聞こえた気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

日も大分傾いた夕方。カラオケの終えた翼、未来、響の三人が小高い丘にある公園へとやってきた。時間が時間なので子供の姿も居ない。その時、未来が翼と響の手を握りある場所まで連れて行く。

 

「ふぁ」

「…良い眺めですね」

 

その公園から街を一望できる所で街を見る。

 

「あそこの公園で待ち合わせしてあのモールで今日は遊んだの。こうして日常を送れるのは二人のお蔭です」

 

日が暮れる街並みに翼も響も息をのむ。その景色は何処までも美しかった。

 

「…そうか、これが奏の見てきた世界か」

「ショッカーやノイズを放置すればこんな景色も…」

 

二人がそれぞれの想いを胸にする。翼は嘗てのパートナーである奏の言葉を思い出し、響はこの日常を守ろうと誓う。そんな中、突然背後から声がした。

 

「ねえねえ、お姉さんたち俺達と一緒に遊ぼうぜ」

 

見るといかにもな若者が三人、此方に話しかけてきた。身なりからしてナンパだろうか。

 

「俺達と一緒に行こうぜ。此処より刺激的な場所があるんだよ」

 

「悪いが断る。時間も時間だし我々は帰らねばならん」

「ごめんなさい」

 

翼の断りと未来の謝罪で乗り切ろうとするが、

 

「ええ、良いじゃん行こうぜ」

 

男の一人が翼の腕を掴む。

 

「!ええい、放せ不埒者!」

 

翼が男の手を振り払おうとするが、翼が全力で振ろうが離れなかった。何かがおかしいと感じる翼。

 

「いいから行こうぜ。ショッカー本部に」

 

「「「!?」」」

 

男たち口からショッカーと言う言葉と共に牙が露出し翼たちに襲い掛かる。

 

「キィーーーーー!!」

 

「!」

 

翼は咄嗟に男の腹を蹴る。男は倒れその拍子に捕まれた手も離れる。

 

「何者だ!こいつ等、ショッカーと言ったのか!?」

「私も聞きました!」

「ならばショッカーの改造人間か!?」

 

Imyuteus amenohabakiri tron

 

翼が歌いシンフォギアを装着し立ち上がって襲い掛かる男の一人を剣で叩き伏せる。

 

「ん?何だこの感触?」

 

翼が違和感を感じた。戦闘員とも怪人とも違う感触に一瞬戸惑う。横を見ると、変身した響が二人の男を拳で叩き伏せていた。男たちが立ち上がる気配が無い。代わりに男たちの顔に紫色の斑点が浮かんだ。

 

「…響、この人たちって…」

「ショッカーって言ってたから倒したけど、溶けも爆発もしないぞ」

「力も戦闘員以下、本当にショッカーだったのかな」

 

響が倒れてる男に触れようとした。

 

「ハハハハハ、当然さ!そいつ等は唯の人間どもだ」

「ただし、ショッカーの開発したビールスにかかっていたがな」

 

「「!?」」

 

翼と響が声のした方を見る。其処に遊具の上に立つ二人の怪人。

 

「蝙蝠男!?」

「あなたは蜂女!」

 

以前に最初の怪人戦で襲ってきた蝙蝠男と響の知る最後の怪人、蜂女が居た。

 

「人間蝙蝠だ!」

「そんな事は如何でもいいよ。立花響、よくも裏切ってくれたね!ショッカーは裏切り者を決して許しはしない!」

 

「ふざけないで!勝手に響を連れ去って勝手に改造人間にしといて!」

 

蜂女の言葉に未来が反論する。大事な親友にあのような仕打ちは未来として決して許せるものではなかった。

 

「だからどうした?ショッカーに選ばれたのなら、それはもうショッカーに入ったも同然。裏切りは決して許されない!」

 

「なッ!?」

「外道め!」

 

蜂女の言葉に未来は絶句し翼も憤慨する。ショッカーの身勝手な理論はこれまでも聞いて来た。しかし、今回のは翼も憤慨する程の自分勝手さだった。翼が剣を構え響も臨戦態勢を取る。

 

「慌てるんじゃないよ!」

「お前達の為に用意してやったんだ。出てこい!」

 

キー  

   キーー

     キーーーー

 

蝙蝠男が合図すると、公園の奥や階段から何人もの人達が此方にゆっくりとやって来る。その人達の顔には倒れた男達と同じ紫の斑点と鋭く伸びた犬歯がある。

 

「なに、この人たち!?」

「倒れた人と同じ紫の斑点…」

 

「驚いたか!?これこそが過去にショッカー科学陣が作り上げたビールスだ」

 

「ウイルス?まさかこの人たちは!?」

「そのウイルスに!?」

「…この人たちは唯の一般人?」

 

蝙蝠男に言葉に自分達に集まる人たちの正体に気付く翼と響そして未来。

 

「その通り、こいつ等は正真正銘の一般人さ。いいのかい?シンフォギアの力を使って」

「ウイルスに操られた人間達を貴様らは殺せるか!?」

 

蜂女と蝙蝠男の言葉に顔を引き攣らせる翼と響。ショッカーとは大分戦ってきたが此処まで堂々と一般人を巻き込むのは初めてだった。未来や人間狩りをしていた時もあったが人目の少ない場所でやっていた。心の何処かで油断していたのかも知れない。ショッカーもなるべく人目につきたくないと勘違いをしていたのかもしれない。

 

「やれぇ、お前達!その女達は敵だ!ショッカーの敵だ!憎むべき敵だ。殺せ!殺すのだ!」

 

蝙蝠男の言葉にウイルスに感染した人達が襲い掛かる。さっき倒した人たちも立ち上がり響達ににじり寄る。剣を構える翼だが、

 

「駄目です、翼さん!この人たちはショッカーに操られてるだけです!」

「…峰打ちで何とかするしか…」

 

「一つ良い事を教えてやるよ。ビールスに感染した人間は強い衝撃を受けると死ぬよ」

 

「「!?」」

 

蜂女の言葉に翼と響は絶句し未来も口に手を当てる。さっきは辛うじて手加減はしたが直ぐに立ち上がる。だが気絶するほどの威力ではこの人たちが死んでしまうかも知れない。感染してる人たちはざっと見ても十数人は要る。ショッカーは確実にシンフォギア装者の嫌がる事をやってのける。此処は撤退して態勢を立て直すべきかと考えた翼が小高い丘から柵の向こう側を見るが、

 

「逃げようなんて考えるんじゃないよ。逃げればこの人間達を街中に解き放つからね」

 

蜂女の警告に翼は顔を歪ませる。ショッカーの作り上げたウイルスが街中に解き放たれれば大パニックは必然だ。何よりショッカーは労せず感染した人々を戦力に出来る。通信で機動二課に救援を求めようかとも考えたがミイラ取りがミイラになる可能性もある。なにより弦十郎が感染すれば目も当てられない。ならばと翼は考えた。

 

「立花、お前は蝙蝠男を倒すんだ。私はあの蜂女と戦う」

「…翼さん、分かりました」

 

ウイルスを操る怪人を倒せば光明が見えると考えた。翼はジャンプして蜂女の下へ行き、響も未来を抱えてジャンプしビールスの感染者の包囲網から脱出させて蝙蝠男と向き合う。

 

「未来は暫く逃げてて、幸いあの人たちの動きは遅いから」

 

響の言葉に頷く未来。事実、感染者の動きはかなり遅い。元陸上部の未来なら十分に逃げられるだろう。

 

「貴様が俺の相手だと!?貴様にも俺のビールスを味合わせてやる。立花響!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「はあ!」

 

翼が剣を蜂女に切りかかる。しかし、蜂女の持つレイピアに弾かれる。

 

「風鳴翼、此処が貴様の墓場となる!」

 

「人類守護の防人としての使命、今果たす!」

 

蜂女と翼の間に何度も火花が散る。蜂女のレイピアと翼の剣が何度もぶつかる。途中何度か感染者が翼を掴もうとしたがギリギリ避ける。しかし、蜂女はそんな感染者ごと翼を切り捨てようとし何人も突き殺す。

 

「!?貴様!!」

 

「惜しかったねぇ」

 

蜂女に刺された感染者が溶けて消滅していくのを見た翼が激怒するが、蜂女には涼しい顔をしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「蝙蝠男、この人たちを元に戻す方法は!?」

 

「簡単に話すと思うか?マヌケ!」

 

響の攻撃を躱し高くジャンプして距離を開ける蝙蝠男。そしてそれを追う響。途中、感染者が行く手を阻もうとするが何とか避けて蝙蝠男に近づくのを繰り返す。

 

「それとも、またくだらん話し合いでもしようと言うのか?ショッカーでは誰もお前の話など聞かなかったがな、キッヒヒヒヒヒ!!」

 

「!?」

 

響の脳裏にショッカーに捕らわれて時の記憶が蘇る。最初は改造人間にされたのに絶望もしたがショッカーの非道を止めようとショッカー科学陣に怪人や戦闘員と話し合おうとした。しかし、響に待っていたのは孤独だった。効率よく人を殺す事を考える科学陣は勿論、ショッカーに忠誠を誓うよう脳改造されてる怪人達には響の言葉は意味が無く、戦闘員も「イーッ!」としか喋れない者が圧倒的に多くそもそも喋れる者も響との会話などするつもりもなかった。響の理想などショッカーとはとことん相性が悪かった。

 

「それでも私は!」

 

「ショッカーは力こそが全てだ!そして逆らう者は決して許しはしない!此処で死ねぇ!!」

 

「!?」

 

響から距離を取るばかりだった蝙蝠男が反転、今度は響との肉弾戦をする。蝙蝠男の突然の行動に一瞬体の動きが握り蝙蝠男の一撃を受けたが直に姿勢を戻し蝙蝠男との戦いに集中する。

 

「キー」

 

「え?」

 

耳元で声がし響が振り向くと感染者が響の肩を掴んだ。

 

「貴様もビールスに感染しろ!」

 

振り解こうとする響だが他の感染者が拘束する、その間にも感染者の牙が響の首筋に迫る。

 

「響!」

「未来!?」

 

「なんだと!?」

 

未来が響を襲う感染者に体当たりをして響を解放する。拘束の解けた響は自分の首筋に迫る牙の感染者との距離を離し蝙蝠男に向き直る。響が蝙蝠男と肉薄に持ち込む。

響と蝙蝠男の肉弾戦は蝙蝠男の態勢が一緒んだけ崩れた、響がそれを見逃さず腕のシンフォギアが開くと同時に閉じ蝙蝠男の体を打ち抜く。

 

「ぐわあああ!!」

 

腕から蒸気が出ると共に蝙蝠男が倒れ、同時に感染していた人達も倒れていく。

 

「これで…ウイルスが…消えるといいけど…」

 

蝙蝠男が倒れたのを見た響が呟くが、

 

「…馬鹿め」

 

「!?」

 

「貴様は最悪な選択をしたのだ。せいぜい後悔するんだな…グはッ!」

 

最後に響に不気味な言葉を残した蝙蝠男はそのまま溶けて消えてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よし、蝙蝠男を倒したか!」

 

翼は響が蝙蝠男を倒した事に喜ぶ。少なくとも感染者がもう増える事はない。

 

「蝙蝠男が…、クククク…ハハハハハ!そうか倒したか馬鹿な奴!」

 

「貴様、自分の仲間を!」

 

突如、笑い出す蜂女に翼が剣を向けるが、

 

「勘違いするでないよ。私が言った馬鹿な奴は蝙蝠男じゃない。あの失敗作の事さ」

 

「失敗作?…立花のことか」

 

「そうさ、アイツは自分で感染した人間どもの死刑執行のサインをしちまったからね」

 

丁度、蝙蝠男を倒した響と未来も翼も下に来たが蜂女の様子に尻込みする。そして、蜂女は響にレイピアを向け言い放つ。

 

「最後に教えてやる。このビールスには血清があるんだよ。それがないとビールスは決して取り除けれやしない!」

 

その言葉と先程の蜂女の反応に嫌な予感がする翼。

 

「その血清は何処に!?」

 

翼の代わりに響が血清の在り処を聞く。それを見て蜂女は笑みを浮かべる。

 

「血清は蝙蝠男の羽の付け根にある『目覚めの棘』という小さな棘だ」

 

「なっ!?」

「え?」

 

蜂女の言葉に響は愕然とし蝙蝠男の溶けた場所を見た。そこにはもう何も無い。蝙蝠男の居た痕跡すら完全に消えてしまっていた。

 

「血清は蝙蝠男諸共完全に消え去った。そして、蝙蝠男が死んだことで感染者どもは間も無く死ぬ。良かったね、お前が蝙蝠男を倒したから皆死ぬんだよ!」

 

蜂女は実に楽しそうに語る。人を助けようとした響達にこれ以上ない程の現実を教え絶望させる為に。

 

「…私の…私の所為で…また人が…」

「響!?」

「立花!?」

 

蜂女の言葉にガクッと力が抜ける響に未来が支え翼が声を掛ける。響はそのまま意識を失ってしまった。

 

「ハッ、この程度で意識を失うなんてね。本当に失敗作だね」

 

「…べるな…」

 

「あれで本当に最強の改造人間なのか疑わしいね。所詮はただの実験体だろうに」

 

「…べるな…」

 

「まぁ、精神が脆弱な人間のままだからだろうね。脳改造もされてないままでは宝の持ち腐れだね」

 

「喋るなと言っている!!」

 

響を侮辱する蜂女の言葉に翼が激高して切りかかる。予想通りといった反応で迎えうつ蜂女。

 

「あんな挑発でキレるとはね。これだから脆弱な人間は…!」

 

怒りに燃える人間ほど単純な者は居ないと蜂女が返り討ちにしようと待ち構え翼の剣が迫る。予想通りの剣筋にほくそ笑む蜂女。弾いた直後にレイピアで止めを刺そうとしたが、

 

「フェイント!?」

 

翼の剣が蜂女の予想外の動きをしレイピアを空振りさせ思わず蜂女は立ち止まってしまう。その一瞬の隙があれば翼には十分だった。気付いた時には翼は蜂女の後ろで剣をしまう。剣を納めたと同時に蜂女の体が切り裂かれていた。それを茫然と見る未来。

 

「…激高したフリをして私の油断を誘ったのかい?」

 

「これでも防人だ。感情で流されたりはしない…つもりだ」

 

翼が言い終えると共に蜂女は倒れ蝙蝠男の様に溶けて消える。僅かな静寂の後に翼が本部に連絡して迎えを寄越してもらった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何だこれは!?」

「先生、何か分かったんですか?」

 

翼からの報告で響や感染者が病院に運ばれ検査された。響は気を失ってるだけで問題は無かったが問題はウイルスの感染者だった。弦十郎が驚く医師に聞くが、

 

「感染者の血液から未知のウイルスが検出されました。信じられない事にこのウイルスには頭脳があるようだ」

「ウイルスに頭脳!?」

 

本来、ウイルスには頭脳は存在しない。しかし、現にこのウイルスには頭脳が確認された。

 

「それで、先生。血清は作れるのでしょうか?」

「こんなウイルスが居る事さえ信じられない。血清を作るには時間が掛かり過ぎる」

 

感染者たちの体力はもう少ない。即ち手の施しようがなかった。この日十数人の人間が死亡した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…じゃあ、あの人たちは皆死んでしまったんですね」

「…そうだ」

 

医務室にて弦十郎は目を覚ました響に結果を教えていた。結局、蝙蝠男や蜂女にウイルスを感染させられた人たちは誰一人助からなかった。政府はこれを病死として片付ける事にした。

 

「私が…私が…蝙蝠男を倒した所為で…」

「そんな事…ないよ…」

「そうだ。あれは明らかにショッカーの罠だろ」

 

蝙蝠男を倒した事を後悔する響に傍にいた未来が慰め弦十郎もあれが罠だと言った。しかし、それで響の心が軽くなる訳が無い。

 

「いえ、ショッカーは明らかに私を狙ってました。あの人たちは私の所為で!」

 

響に再び自責の念に駆られる。ショッカーから逃げたからこんなことになったのか、あのツヴァイウイングの惨劇で生き残った所為か、もう響には分からない。

 

「あの時、奏さんの代わりに私が死んでいれば…」

「響!」

「響くん!」

 

━━━もし、私じゃなくて奏さんが生きていたらショッカーも簡単には手が出せなかったんじゃ…

 

響の言葉に未来と弦十郎は思わず響の名を言う。しかし、互いに響を慰める言葉が出てこない。悪の組織から逃げ出しその所為で追われる響にどう言葉を駆けていいのか?暫しの沈黙が流れる。

 

「立花、そんな事言わないで欲しい」

 

医務室の扉が開き翼が中に入る。

 

「翼さん」

「奏が命を懸けてお前を守ったんだ。そんな事言わないで」

「でも、その所為であの人たちが…」

「あれは私の所為でもある。怪人を倒せばあの状況を打開できると思った私の責任だ」

 

そう言うと、翼は懐からひび割れたCDケースを取り出す。

 

「これは今日の被害者の持ち物だ。後で遺族に渡しに行く。あの中に私のファンが居たんだ。私はそんな事も気付かずに蜂女と戦っていたんだ。そして、その娘を蜂女が…」

「…」

「その娘は死体どころか灰すら無かった」

 

翼の目から涙が落ちる。響も未来も弦十郎もただ黙って見ていた。その直後に響は医務室を後にする。

 

 

 

 

「…復帰ステージ…ですか」

「アーティストフェスが10日後にな。そこに急遽ねじ込んでもらったんだ」

 

翌日、響は未来と一緒にリディアン音楽院の屋上で翼が復帰をすると聞く。それと同時にチケットを手渡された。チケットをマジマジと見る響はステージの場所を見る。其処は昔ツヴァイウイングがライブしノイズが襲撃してきた場所だった。

 

「…此処は」

「立花にとっても辛い思い出の会場だな」

「…そうですね。でも何時までもウジウジしてられないのも事実です。それにこの復帰ステージ、あのファンだった娘の為でもあるんでしょ?」

「…そうだ。せめて私が出来る事をしようと思ってな」

 

翼が響に向け笑顔を見せる。それに不慣れながらも響も笑みを見せ未来はそれを見守っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

薄暗い部屋の中、ゾル大佐の耳にも風鳴翼のステージの話が入る。

 

「ほう、風鳴翼の復帰ステージか、是非ショッカーも祝ってやらないとな」

「祝う?何か送るのでしょうか?」

 

戦闘員の言葉に笑みを浮かべるゾル大佐。

 

「ああ、とっておきの物をな。G作戦の準備に入れ!」

 

ショッカーが再び動き出す。

 

 

 

 

 




仮面ライダーもモブにはとても厳しいです。大体溶かされるか白骨化させられます。

仮面ライダーの二話の蝙蝠男も感染したルリ子も遅かれ早かれ死ぬと言ってるんで感染者は死んだ流れです。
原作の仮面ライダーだと、アッサリ血清の場所を喋った蝙蝠男も首領の命令も無かったので普通に喋りませんでした。ウイルスには詳しくないのでこれ以上書けません。

当初の予定ではナンパしてきた感染者を誤って殺してしまう流れでしたがその後の展開や響の心情が思いつかずに変更しました。

次回予告
我らが立花響を狙うショッカー本部が送った次なる使者は怪人トリカブト。風鳴翼の復帰ステージで人間の大虐殺を企むショッカーに響の怒りが炸裂!響はG作戦を阻止出来るのか!?
次回「恐るべきG作戦!防人の歌」にご期待ください。


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22話 恐るべきG作戦!防人の歌

 

 

 

 

蜂女達の襲撃から10日。

翼のステージの準備は着々と進んでいた。

 

「リハーサル、良い感じでしたね」

「ありがとう」

「これなら本番もバッチリですよ」

「だと良いけど…」

「…気になりますか?ショッカーが沈黙してる事を」

 

翼が何か気にしてる事を悟った緒川がそう聞く。そして静かに頷く翼。蜂女たちの襲撃後、何度かノイズと戦ったがショッカーは不気味な沈黙を保っていた。弦十郎たちもショッカーの大規模な作戦が起こるのではないかと警戒を強めている。

 

「早く持ってきてくれ!」

「分かった、分かった!」

 

スタッフが忙しなく動いているもう直ぐ開演だ。急ぎつつミスがないよスタッフたちも慎重に仕事をしていた。

 

「緒川さん、あれは?」

「隠花植物ですね」

 

翼の目にある物が映り緒川に聞く。それは隠花植物であると緒川は言った。

 

「今回のフェスは自然と共存がテーマらしいですからね。多分それの一環かと。…でもあんな隠花植物見た事ないな」

「そう」

 

翼はスタッフが運ぶ植物を見る。その植物はどこか不気味に見えた。

その後、外国人のトニー・グレイザー氏と話し合う翼の脳裏に先程の植物の事は奇麗さっぱり忘れてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

もう直ぐ翼のステージが開演する。ステージの外にはファンが今か今かと待っていた。

そんな中、響は所用で遅れ急いで会場へと走る。と、突然響の携帯が鳴り取り出すと響の表情が強張った。

 

「はい、響です」

『響くんか?敵が出た!』

「…ショッカーですか?ノイズですか?」

『ノイズだ。まだ時間もあるから翼にもこれから連絡を…「師匠」…どうした?』

「現場には私一人でお願いします。今日の翼さんは自分の戦いに臨んでほしいんです。恐らくノイズの後にショッカーが仕掛けてきます。そうなったら間に合いません」

『…アイツらが仕掛けて来ると言うのか?』

「ショッカーが何かを狙っているのは確かです。それが何なのかは分かりませんけど…横やりの好きなショッカーの事です」

『やれるのか?』

「はい!」

 

 

響が現場へ急行する。その間に会場も人が入り満員となる。後は始まるだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

「チッ!」

 

響の向かう現場には多数のノイズと大型のノイズ、そして襲われてるクリスが居た。

クリスがガトリング砲を撃つが多勢に無勢で徐々に押されていく。大型ノイズが放つ弾丸の爆風に倒れこむクリスにノイズが飛び掛かる。そのまま攻撃を喰らうかと思った矢先、

 

「はあ!」

 

響の飛び蹴りが飛び掛かるノイズに命中し、そのノイズは灰となる。更に響は倒れたクリスの前に立ち腕の腕のギアを引っ張り一気にノイズの群れを吹き飛ばす。ノイズの大部分を倒した響に大型のノイズが襲い掛かろうとするが、クリスの放つ弾丸に阻まれる。

 

「貸し借りは無しだからな!」

「クリスちゃん…うん!」

 

その後、響とクリスが次々とノイズを倒し残るは大型のノイズ一つ。クリスや響が攻撃するが大型ノイズの巨体差もあって全く効いていない。

 

「固い!なら」

 

響が腕のギアを更に引っ張ろうとした。その時だった、

 

「必殺シュート!!」

 

突然大型ノイズが爆発を起こし半分近くが消し飛ぶ。クリスが突然の事に固まる中、響はやはり来たかと思った。そして何かが近づいてくる。

 

「ウルロロロロロロロロッ、つまらんテストだと思ってみれば小娘どもも居るな」

「あれは、立花響?会場に行ったのではなかったのか?…そうかノイズか」

 

ノシノシと歩く姿が二メートル近い怪獣の様に見える怪人ショッカー怪人では珍しくショッカーベルトを付けて居ない。白い頭に赤い花の様な物が咲いた植物のような怪人が現れた。更に、

 

「見つけたぞ、雪音クリス!」

 

「げっ!?」

 

空からもう一体の怪人、クリスの命をつけ狙うムササビードルが現れる。

 

「もう逃がさんぞ!今度こそ地獄に送ってやる!」

 

合計三人の怪人が現れ響とクリスも臨戦態勢を取る。そんな中、半分消し飛ばされたノイズが動こうとしてる事に気付き見ると吹き飛ばされた部分を再生をしつつあった。

 

「まだ生きているのか、ならトドメだ!」

 

トカゲの怪人が何処からか取り出した黒いボールの様な物を取り出し地面に置く。

 

「必殺シュート!」

 

トカゲ怪人の蹴りで黒いボールが飛び大型ノイズに命中し爆発すし残っていた部分が消し飛ぶ。これで残ったノイズも全滅した。

 

前座(雑魚)はとっとと消えるんだな、ノイズ!」

 

「…嘘だろ、おい」

 

クリスが驚愕する。ノイズには位相差障壁があり通常なら物理干渉など出来ず此方の攻撃は一切通らない。それを無視して強制的に此方の世界の物理法則に引きずり込むのがシンフォギアシステムだ。しかし、ショッカーは最早歌も介さず大型のノイズをも蹴散らした。

 

「驚いたか?この『ノイズ破壊ボール』は偉大なるショッカーが新しく作り出した兵器だ!俺様はそのテストに来ていただけだが…丁度いい。このボールがシンフォギア装者にどの程度効くかこのトカゲロン様が試してやる!」

 

言い終えると共にトカゲロンが響達に向けノイズ破壊ボールを二つ同時に蹴り抜く。咄嗟に避けた二人だが早く正確なボールが二人の体を掠り後ろの建物に直撃し爆発を起こす。

 

「マジかよ」

 

トカゲロンの二つ同時に蹴り上げるノイズ破壊ボールの威力に唖然とするクリス。響も額から汗が流れる。その時、見ていた二人の怪人が声を荒げる。

 

「トカゲロン!雪音クリスは俺の獲物だ!勝手に手を出すな!」

「立花響もだ、風鳴翼と同じ俺の抹殺目標だ!」

 

「チッ!なら見せてもらうぜ。ムササビードル!トリカブト!ただしお前らがピンチになったら助けてやるよ!」

 

ムササビードルとトリカブトの抗議にトカゲロンが嫌味を言ってノイズ破壊ボールを手にし見物に回る。それを見て少なくともホッとするクリスと響。戦ってる最中にあのボールが蹴り込まれないだけでも大分助かる。

 

━━━それにしても…

 

響はトリカブトの言葉に引っ掛かりを憶える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「雪音クリス!今度こそ、その命貰い受けるぞ!」

 

「くっそ、空ばっかり飛びやがって!」

 

雪音クリスが空を飛ぶムササビードルにガトリング砲と小型ミサイルを撃ちまくるが碌に当たらない。今までにもクリスは空を飛ぶノイズとショッカー怪人ドクガンダーを倒している。しかし、ムササビードルのスピードは圧倒的だった。そして何よりクリスを苦しめたのはムササビードルの飛行速度から生まれるスリップストリームだ。ムササビードルが高速で通過した際に発生する真空に周囲に人間が居れば、その人間の内臓が破裂してしまう。その所為でクリスも近づけず遠距離から発砲するしかない。

 

だが、チャンスが無い訳ではない。ある程度飛んだムササビードルはまた上空にジャンプする為に一旦地上に降りる。

 

「今だ!」

 

「ぬ!?」

 

地上へと降りたムササビードルにクリスが攻勢をかける。取り回しの悪いガトリング砲からボーガンタイプへと戻しムササビードルに接近戦を仕掛ける。クリスはそこまで接近戦が得意という訳ではないが遠距離になればムササビードルは多少の被弾も無視して空を飛ぶ。ムササビードルの拳がクリスの腹にめり込むがクリスも負けじとボーガンでムササビードルの肩を撃つ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハアッ!」

 

私の拳がトリカブトに打つが寸前のところで回避される。お返しとばかりに右手を鞭のようにして反撃し私はギリギリ防御した。

 

「溶けてしまえ!」

 

防御したと見たトリカブトが口から緑色の液体が噴出する。嫌な予感を感じた私は回避すると地面に降り注いだ液体が爆発を起こす。それを横目に私はトリカブトを睨みつける。

 

「トリカブト、私や翼さんが抹殺目標ってどういう事!?」

 

さっき聞いたトリカブトの言葉に私は思わず質問する。普通なら答えないと思うけど…

 

「知りたいのか!?良いだろう、地獄の土産に教えてやる!何より、貴様が此処に居るのなら会場を守る者は居ない!G作戦の成功は約束されたのだ!」

 

「G作戦!?」

 

やっぱりショッカーは何か仕掛けていた?それにしても怪人ってお喋りだな…

 

「ショッカーの開発した毒ガスを出す殺人植物が無事会場に搬入されたのだ!後は俺が持つ起動スイッチを押せば風鳴翼ごと観客どもは皆殺しだ!」

 

!? 毒ガス!?ショッカーの目的は会場での大虐殺!?直ぐに師匠に伝えないと!

 

「師匠!」

『こっちでも聞いている!会場は此方で何とかしてみる!』

 

師匠たちも直ぐに対応してくれる。これでショッカーの企みも…

 

「無駄だ!既に風鳴翼の歌は始まっている!下手に止めれば暴動ものよ!仮に無事止められても風鳴翼の経歴に傷もつくのは目に見えている!フッハハハハ!!」

 

! こいつ等、どうしてこんなに笑ってられるの!?何でそんな平気で笑ってられる!!

 

「…ねえ、何が可笑しいの?その人達がショッカーに何かしたの?」

 

この世界には悪い人達も沢山居る。それは分かっている、それでは話し合えば理解できる、分かり合えると思っていた

 

「今更それを聞くか!?ショッカーにとって人間どもなどムシケラも同然!目障りなムシケラを駆除して何が悪い!地球は我等ショッカーの物だ!」

 

でも無理だ。少なくともこいつ等とは話が出来ない。そもそもショッカーは話し合う気すらない。蜂女の時の様に人間をただの消耗品やムシケラとしか思っていない

 

「もういいよ。お前達にも少しは人間の心があると私が勝手に勘違いしていただけだから」

 

私は他人と競う事は苦手だ。それでもこれ以上、こいつ等(ショッカー)を野放しにしちゃいかない。…ならなってやる!ショッカーに逆らう嵐に!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

響とクリスが戦う中、特異災害対策機動部二課本部も蜂の巣をつついたように右往左往していた。

 

「指令、やはりライブを中止した方が!」

「…いや、既に翼が歌っている。それに下手に中止すればショッカーが何をするか分からん。殺人植物の方は如何した!?」

「今、緒川さんが確保しに行ってます……緒川さんから緊急連絡!ショッカー戦闘員と交戦に入りました!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「イーッ!?」

 

Justice空に掲げて 感情のままのイノセンス

輝いたメロディ 叶えてPraying

 

「さあ、早くその植物の処分を急いで!」

 

ワンオクターブ背伸びして 後ろ髪追いかけて

涙の行き場所を 探したEyes

 

クナイを片手に戦闘員の一体を倒して僕は顔見知りのスタッフに植物の処分を言う。スタッフも只事ではないと急いで植物を持って離れた。翼さんの歌も佳境に入る。観客の誰、一人にも気付かれずに植物を処分しないと

 

「イーッ!」「イーッ!」

 

消えないで… 嗚呼せめて…

胸の中の記憶は褪せずに

 

何処からともなく戦闘員が現れる。一体この会場にどの位入り込んでるんだか。あの植物を運んでいたスタッフもショッカー戦闘員だった

 

「特異災害で戦えるのが響さんや翼さんだけでない事を教えてあげましょう」

 

永久(とわ)のYour shine…宝石に…

片翼の羽根と 泣かないと誓うよ

 

指令ほどじゃないですけど僕も戦えるんです!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

トカゲロンは退屈であった。

 

悲鳴も上げないノイズより悲鳴や命乞いをしそうな小娘が別の怪人の相手をしていた。赤いシンフォギアの小娘が歌うが興味も無い。裏切者の小娘の動きが報告より良くなってる事が気になる。トリカブトも押され出してるから見間違いなどではない。ムササビードルも空中にジャンプしようとするが悉く赤いシンフォギアの小娘に妨害され次々とボウガンの矢を喰らっている。口ほどにも無い奴等だ

 

「さて、そろそろか」

 

いい加減、退屈も飽きた。俺様も動くことにしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ムササビードルは焦っていた。初めて戦った時は完全に此方が有利であった。空の移動速度に雪音クリスは全く対応出来ていなかった。結局仕留めきれずに逃したがこの十日間、逃げ回るクリスを追いかけ何度も交戦しては寸前のところで逃げられていた。ムササビードルにとってクリスは最早敵ではない。…筈だった。

 

「雪音クリス!その動きは一体…!?」

 

「お前の動きはとっくに見切ったんだよ!」

 

クリスも今まで無意味にムササビードルと戦った訳ではない。少しづつだがムササビードル動きや癖を覚え何とか反撃する事が出来た。クリスのボーガンがムササビードルの目を射抜く。

 

「ぎゃあああああ!!俺の目を…よくも…殺してやる…殺してやる!!」

 

ボーガンで射抜かれた目を押さえムササビードルは激怒しクリスに襲い掛かる。

 

「早い!?」

 

クリスも、もう体力が残り少なく疲労も隠しきれない。半面、ムササビードルはダメージを受けても尚クリスより未だに体力が多い。長期戦はクリスが圧倒的に不利だと言える。

 

 

 

 

「クリスちゃん、伏せて!」

 

トリカブトと戦っていた響の声にクリスは言う通り地面に身を伏せる。その直後に頭上に何かが通り過ぎムササビードルに直撃する。それは響と戦っていたトリカブトだ。後ろを見ると響がトリカブトの右腕の鞭の先端を持って立っていた。どうやらトリカブトの右腕を振り回してムササビードルに当てたようだ。

 

「今だよ、クリスちゃん!」

「よっしゃー!」

 

響の言葉を理解したクリスはボーガンを再びガトリング砲に変え小型ミサイルも出し二人の怪人に一斉射撃する。ムササビードルもトリカブトも回避できずクリスの一斉射撃が直撃す爆発に呑まれる。

 

「クリスちゃん、ナイス!」

「…お前もな」

 

響がクリスの前に手を出しクリスもその手にタッチする。辺りは燃え盛る炎に包まれる。

 

 

 

 

 

 

 

 

「トリカブトの撃破に成功しました!」

「会場から戦闘員が逃げていくようです!」

 

トリカブトの撃破は直ぐに特異災害対策起動部二課本部にも伝えられ職員はホッとする。装置を持っていたトリカブトが死んだ事で会場の危機は去ったと言っていい。緒川の方も殺人植物の処分は順調のようだ。

 

「当面の危機は去ったが…俺も響くんたちの方に向かう」

「指令!?」

 

会場での危機は去ったが、弦十郎は胸騒ぎを感じ何人かの黒服の部下を引き連れ響達の方へ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

「お…己…己!!」

 

「「!?」」

 

炎の方から声がし見ると、満身創痍のムササビードルが炎に焼かれながらも、こっちに向かって歩いて来た。皮膜のボロボロでもう飛ぶことも出来ない見た目だったが、ムササビードルの執念に二人は息をのむ。

 

「…まだ生きてやがったのかよ!?」

 

「…改造人間がこの程度で「いや、そこは死んどけよ」!?」

「必殺シュート!」

 

トカゲロンの放ったノイズ破壊ボールがムササビードルに直撃し爆発する。その光景に響もクリスも言葉が出ない。

 

「負け犬はとっとと退場するもんだ、ムササビードル」

 

味方を殺したトカゲロンは平然として言い放つ。

 

「味方を殺した?正気かよ!?」

 

クリスが信じられない物を見たような顔をして言うが、

 

「あのまま生かしておいても、もうお前らには勝てんだろ。だから、俺が引導を渡しただけだ、ウルロロロロロロロロッ!」

 

味方殺しを何とも思っていないトカゲロンが平然と言い終える。同時にトカゲロンは再びノイズ破壊ボールを二つ蹴り込む。それを何とか回避する響とクリス。

 

「ふん、大分ボールに慣れたか。なら、これならどうだ!」

 

トカゲロンがノイズ破壊ボールを一つ蹴り込む。身構えた響とクリスだったがそのボールが自分達ではなく明後日の方向に飛んでいく。

 

「何だよ、蹴りそこないかよ。脅かしやがって!」

 

「ウルロロロロロロロロッ…」

 

クリスがガトリング砲を向けるがトカゲロンが笑っている事に気付いた響が明後日の方向に行くボールを見る。そのボールは弧を描いてる事に気付く。目標は…クリスだった。

 

「クリスちゃん!?」

「何だよ…え?」

 

響がクリスを突き飛ばす。直後にノイズ破壊ボールが響の背中に直撃し爆発する。

 

「痛ッ!何を…!」

 

クリスの目に飛び込んだのは、背中から黒煙を上げ倒れる響だった。急ぎ、響を抱き抱えるクリスはトカゲロンを睨み付ける。

 

「どういう事だよ!ボールは出鱈目に飛んで行ったんじゃないのかよ!?」

 

「バナナシュートも知らんのか?俺の素体となった奴はプロのサッカー選手だ。曲がるシュートはお手の物だ。こんな風にな!!」

 

今度はトカゲロンは響達の居る場所とは逆方向にノイズ破壊ボールを蹴り上げる。クリスがボールを見続けると信じられないという気持ちで一杯だった。そのボールはドンドン曲がっていき最終的には自分達の方に迫って来た。正確には自分の頭部へと、

 

「!?」

 

咄嗟に頭を下げてボールを通過させる。後ろから爆音が聞こえクリスの背中に冷や汗が流れる。

 

━━━こいつ、今までの怪人よりも強い!? アタシは勝てるのか?

 

クリスとて結構な数の怪人と戦ってきた。しかし、目の前のトカゲロンは今までの怪人との異質さにクリスの本能が逃げろと訴える。

 

「…クリスちゃんは逃げて…」

 

クリスの腕に抱かれた響が立ちあがりクリスの前に立つ。一瞬頼もしくもあったが、響の背中はボロボロで立ってるのが精一杯に見える。

 

「ほう」

 

「無茶だ、やめろ!」

「…平気、へっちゃら…だから…」

 

トカゲロンが感心したように声を出し、クリスは無茶だと響を止める。しかし、響も譲らない。目の前のトカゲロンは倒さなければならないと感じていた。

 

「面白い、一発譲ってやる。こい!」

 

響の反応を面白がったトカゲロンは先手を譲ると言う。響は拳に意識を集中し腕のギアが開くと同時にジャンプしトカゲロンに迫る。

 

「ハアーーーーーー!!」

 

響の拳がトカゲロンの胸に命中し腕のギアも一気に押し込まれる。確かに響の拳はトカゲロンに直撃した。が、

 

「生温いぞ!!」

 

「へ?」

 

トカゲロンが胸に力を入れると響の拳が弾かれると共に響は空中へと弾き飛ばされる。

 

「必殺ってのはこういう風にやるんだよ!必殺シュート!!」

 

空中へと放り出された響にトカゲロンは容赦なくその体にノイズ破壊ボールを蹴り込む。受け身も取れない響はボールの直撃を受け爆発に巻き込まれクリスの近くに落ちる。

 

「…お…おい…しっかりしろよ…」

 

クリスが介抱しようとするが響の体は所々ボロボロで片腕のギアも破壊され機械が露出する。クリスに出来る事は何もない。

 

「弱い、弱いぞ!このトカゲロン様の前では改造人間の装者などこの程度よ!!」

 

辺りにはトカゲロンの勝ち誇った声が響く。この日、立花響はトカゲロンに敗北した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

響達が戦っていた場所、一台の車が猛スピードで到着し弦十郎が降りる。後ろからも特異災害対策機動部二課の車が続々と到着する。

 

「響くん!」

「…おっさん」

 

其処でクリスに抱き抱えられていた響を見つける。

 

「…怪人は?」

「…こいつを倒したら満足して帰っていったよ」

 

止めも刺さずに帰った?と疑問に思う弦十郎だが、今は響が優先だと急いで病院に運ぶよう指示をだす。

 

「し…師匠…」

 

完全にボロボロになっていた響の口から師匠という言葉が聞こえ弦十郎が響の顔を覗き込む。響は薄く目を開けて弦十郎に何か言おうとしている。

 

「ご…ごめん…なさい…師匠。…私…負けちゃい…ました…」

「!?今は少しでも休むんだ、響くん」

 

弦十郎の言葉に響は「はい」と返事をし意識を手放す。響は担架に乗せられ急いで病院に運ばれた。

 

「君も俺達と一緒に来るか?」

 

一人その場に残ったクルスに話しかける。しかし、弦十郎の言葉にクリスは首を横に振る。

 

「アタシはまだ駄目だ。まだケジメをつけていない」

 

そう言い終えると、クリスは路地裏へと消える。

この後、特異災害対策起動部二課では響が負けた事で騒ぎとなる。

 

 




メインはトリカブトではない、トカゲロンだ。
原作のトカゲロンも仮面ライダーを倒している強豪怪人です。トドメも差さずアッサリ帰ってます。

最後に、ノイズ破壊ボールの設定でも、

ノイズ破壊ボール
ショッカーが長年研究していた爆弾。
ノイズの位相差障壁を無効にしてノイズの除去を目的として造られた。立花響のデータを得て完成する。破壊力は大型ノイズも二発で沈む威力。足で蹴りだす必要があり一部の怪人しか使えない。


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23話 敗北と修行

 

 

 

「ハア、ハア、ハア…」

 

未来が病院の中を走る。本来ならイケない事だが未来にそれを気にする余裕はない。事の始まりは翼のライブが終わって少し経った時だった。特異災害対策起動部二課からある事が告げられた。

 

立花響がショッカーに敗北した。

 

最初はただの冗談だと思って笑ったが弦十郎からの言葉もあり未来も信じざるえなくなった、未来は特異災害対と縁のある病院へと来て響の居る病室へと急ぐ。

 

「響!」

 

受付から聞いた病室に入った未来は響の名を呼ぶ。

 

「…未来」

「小日向…」

 

中にはベッドで横になる響と傍の椅子に腰かける翼が居た。未来が翼の存在を知り顔を赤くしてお辞儀した後、響のベッドに近づく。響の姿は頭に包帯を巻き顔には幾つものバンドエイド、服やシーツで見えにくいが両腕にも包帯が巻かれている。改造人間である響に通常の治療は意味が無い。医者もお手上げで人間の消毒薬や包帯で様子を見るしかなかったが、響の体は常人より遥かに治りが早い。

 

「…ごめんね、未来…せっかく…来てくれたのに…ッ!」

「響、無理しないで!」

 

響が上半身を起こして対応しようとするが、響の痛々しい姿に未来は制止する。トカゲロンにやられた傷は治りつつあるが未だに響の体は悲鳴を上げている。

 

「立花…とにかく、今は休むんだ」

「でも…こうしてる…間にも…ショッカーや…トカゲロンが…野放しに…」

「無茶だよ、響!そんな体で戦ったら今度こそ死んじゃうよ!」

 

響の言葉に未来は涙ながらも訴える。それ程、響の体はボロボロだったのだ。

 

「小日向もこう言っている。良いから休め!」

「…はい」

 

未来の涙と翼の説得で響もベッドで大人しくする。そして、未来と翼と少し話した後、二人は病室を後にした。病室に響が一人残る。

 

「未来に…心配かけるなんて…駄目だな…私。こんなんじゃ…ショッカーを倒すなんて…本当にショッカーを倒せるのかな…ノイズだって…私…何の為に戦ってるんだろう………ヒックッ…ヒックッ…負けちゃった…負けちゃったよ…もう嫌だ…怪人…怖いよ…家に帰りたい…誰か助けてよ…」

 

一人になったからか、独り言を呟く響の口から弱音が出る。理不尽にショッカーに拉致され改造手術をされて父を殺された。復讐もあったが自分のような人間を出しちゃいけないとショッカーと戦い続けた。しかし、ショッカーの怪人も戦闘員も尽きる事は無く響達の前に立ち塞がる。何より、ノイズ以上に不気味な怪人も響の悩みだった。そして、終わりの見えない戦いでとうとう負けたのだ。体のダメージも大きいが心のダメージも大きかった。

 

 

 

「響…」

「立花…」

 

響の入院する病室の前に立つ小日向未来と風鳴翼。少しドアの前で話していた二人は響の嗚咽に気付く。出来れば中に入って慰めたいが何と言えばいいのか?「がんばれ、負けるな」など以ての外だ、響はもう頑張っている。「もう戦わなくていい」も良くない。ショッカーの目的は立花響だ。戦わなくていい訳がない。

結局、翼も未来も病室に入れなかった。翼は共に現場へと行けなかった事を悔やみ、未来は己の無力さを悔やんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『よくやったトカゲロン。よくぞ立花響を倒した』

「有難いお言葉です。首領」

 

その頃、ショッカーのアジトでは立花響を倒したトカゲロンに首領が褒めていた。

 

『だが、何故立花響の心臓を持ち帰らなかった?貴様なら出来たであろう』

「そんな命令は受けて居ません。俺に与えられた任務はノイズ破壊ボールのテストだけです」

 

首領の問いに当然のように答える。トカゲロンにとって立花響など敵ではない。また戦えば勝てる自信があった。その自信は首領も感じる程だった。

 

『特別に許そう。だが、次戦う時は必ず心臓を持ち帰れ』

 

特別に許されたトカゲロン。次は心臓を持ち帰れと言う指示に頷く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…未来くん、今何と言ったんだね?」

「私を鍛えて下さい!響みたいには戦えないと思いますけど怪人とまでは言いません。戦闘員くらいは倒したいんです!」

 

翌日、病室での響の嗚咽を聞いた未来は居ても立っても居られなく雨の中、特異災害対策機動部二課本部の指令室に行き弦十郎に鍛えて欲しいと懇願する。周りの職員もそれを見守る。

 

「未来くん、君は民間協力者だ。これ以上は…」

「…足手まといなのは分かってます。それでも響の助けになりたいんです!響は泣いていました…助けてって泣いていたんです!」

 

弦十郎は未来が民間協力者だから断ろうとしたが、未来が響が泣いていた情報を聞いて黙り込む。未来も言い切った後にアッという顔をして口元を押さえた。うっかり響の弱音を暴露してしまった事に後悔する。

 

「響くんは…泣いて…いたのか?」

「…はい、ショッカーが…怪人が怖いって、家に帰りたい。とも」

 

弦十郎の言葉に未来は溜息をつくと共に病室の外で聞いた事を話す。未来もこれ以上黙ってるのは無理だろうと話す。

 

━━━俺は…俺達は何をしていた!年端も行かない少女を戦わせて!!ショッカーが怖い?当たり前だ!奴等は世界征服の為なら人が死のうが何とも思わん邪悪な組織だ!ノイズなら兎も角、ショッカーなら俺達にだって戦えた筈だ!それを…何が大人だ!!

 

弦十郎は己の不甲斐なさに腹を立て握りしめた拳から血が滴る。

 

「…俺の鍛錬は厳しいぞ。それでもやるか?」

「!はい!」

 

覚悟を決めた弦十郎は未来に聞く。未来も覚悟を決めた顔で即答する。早速トレーニングルームに行く事になったが道中、弦十郎の通信機に連絡が入る。

 

「俺だ、ふむ…ふむ…なに!?響くんが消えた!?」

「え!?」

 

弦十郎の言葉に未来も驚く。昨日までベッドの上で上半身を動かすのも苦労した響がベッドから消えていたのだ。弦十郎は直ぐに響の捜索を命令する。未来も響を探したい衝動があったが、その気持ちを抑え込む。もし、響が失踪するならそれも仕方ないと考える。何処かショッカーの知らない場所で静かに過ごした方が響の為かも知れない。だが、不可能だろう。ショッカーは立花響に執着していた、簡単に諦める訳がない。だからこそ、今は弦十郎に鍛えて貰い少しでも早く響を支える力が欲しかった。

 

「…本来なら、俺も響くんの捜索に入るべきだろうが…君は俺を軽蔑するかい?」

「…いいえ」

 

未来は寮から持ってきたジャージに着替えて弦十郎の前に立つ。これから暫くは登校前と下校後に鍛えてもらう予定だ。未来の戦いも今始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

響は一人、当ても無く歩いていた。昨日までは上半身を動かすのも苦痛だったが一晩経って歩ける程アッサリ回復した。そして衝動的に病室から抜け出してしまい裸足のまま地面を歩く。雨粒が響の体を濡らすが特に気にせず歩き続ける。雨の所為か響の通る道の所為か人がほぼ居ない。目的地何て今の響には無い。

 

━━━私、何してるんだろ?こんな人通りも少ない場所で…ショッカーに見つかっちゃうよ…

 

自分の不甲斐なさに絶望したのかショッカーの力に絶望したのか響はただ歩き続ける。幸か不幸か、響は誰にも見られず森林公園方まで歩き一本の大きな木に触り殴る。

 

「なにが…なにがショッカーに逆らう嵐だよ!なにも…なにも出来なかった!」

 

トカゲロンに文字通り手も足も出ず負けた。今まで怪人を倒したガングニールの力もトカゲロンには通じなかった。

 

『必殺ってのはこういう風にやるんだよ!必殺シュート!!』

『弱い、弱いぞ!このトカゲロン様の前では改造人間の装者などこの程度よ!!』

 

頭の中にトカゲロンの声が響く。

 

「ちくしょう!ちくしょう!ちくしょう!!」

 

響は悔しかった。あの卑劣なショッカーに負けクリスを危険に晒した自分が許せなかった。響が自分の拳を痛める為にも木を殴る続ける。しかし、響の拳は傷を負っても直ぐに回復し逆に木が持たなかった。何発も殴ると大きな木は圧し折れてしまった。

 

「こんな雨の中何をしとる。この馬鹿者が!」

「!?」

 

後ろからの突然の声に振り向くと何時の間にか和傘を差した老人が響を見て怒っていた。

 

「その木は樹齢何年と思っておる、この罰当たりが!」

「え?いやその…ごめんなさい!」

 

響の頭が一気に冷静に戻り老人に謝る。ショッカーに負けてナーバスになってたとはいえ公共の場の木を殴り倒したのだ。更に響は土砂降りの中、傘も差さずに病院の入院服のままこの公園に来ていた。はっきり言って不審者もいいところだ。

 

「全く、近頃の若い奴は!…ん?お前は…」

 

老人が謝る響の顔を見てな何かに気付いた。暫く考えて居た老人はやがて口を開く。

 

「何か悩んでるようだな、近くにワシの離れがある。付いて来い」

「いえ、そんな「警察に訴えてもいいんだぞ」…分かりました」

 

老人の言葉に最初は断ろうとしたが公共の場の木を圧し折った事を持ち出され大人しくついていく事になった。その直後に何人かの黒服が圧し折れた木を片付けた。

 

 

 

老人が連れてきた離れは、良く言えば由緒正しき日本家屋と言えたが悪く言えばかなり古臭い家だった。玄関を開けて即囲炉裏は響も面を喰らった。そんな響の様子も無視して老人は囲炉裏に火を入れ傍に座る。老人の目が座れと言ってる気がした響は老人の反対側に座る。囲炉裏の火で響が暖を取る。空気が暖かくなり囲炉裏の上に吊るされていたヤカンから湯気が昇る。何時の間にか老人が急須(きゅうす)を持ってヤカンのお湯を入れる。暫く急須を置いておいた後に二つ用意された湯呑に注がれ老人が響の前に置く。

 

「飲め、体が温まる。この時期の雨はまだ冷たい」

「…ありがとうございます」

 

最初は断ろうとした響だが老人の目力に押されてお茶を飲む。

 

「…良い香り…」

 

味覚が無い筈なのに心なしかそのお茶はとても美味しく感じる。その様子に老人も笑ったように見えた。

 

「それで、この雨の中で、何故あんな事をしていた?」

 

お茶を飲んで落ち着いた頃に老人が質問をする。あんな事とは当然木を殴り倒した事だろう。

 

「………」

「………」

「……悪い人達に負けたんです。絶対負けちゃいけない人達だったんです」

 

老人の圧力に負けた響はなるべく機密を伏せて喋る。

 

「喧嘩でもしたか?」

「喧嘩ならマシだったんですけどね。師匠を…友達を…守るって誓ったのに…」

 

響の目から涙が伝う。それを見ていた老人は少し考えて口を開く。

 

「強くなりたいか?」

「…なりたいです。…強くなって…皆を…守れるように…なりたい!」

 

老人の問いにハッキリと答える。それを聞いた老人はさっきよりハッキリした笑みを浮かべる。

 

「良いだろう!ワシが鍛えてやる。丁度雨のあがった、付いて来い!」

「え?…え!?」

 

そう言い終えると老人は響の返事も待たず離れの外に出る。響が茫然とする中、「早く来い!」っと言う言葉で響も老人についていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの…此処って?」

 

老人の後を付いて行った響が見たのは今時珍しい石切り場。周りの街から取り残されたような場所だ。

 

「嘗てはこの地の産業の一つだったのだが、ノイズの出現と会社の倒産でこの場所だけ取り残され国すら見捨てた場所をワシが買い取った。昔は馬鹿息子どもを此処で鍛えたもんだ」

「そうなんですか。…買い取った?」

 

老人の言葉に納得仕掛けた響だったが一部聞き逃せず思わず聞き返す。それを無視して老人はジャンプを繰り返して石切り場の天辺に立つ。響は内心「師匠みたいな人だな」と思った。

 

「これよりお前に此処にある岩を投げる!お前はそれを壊し続けるんだ!出来なければあのトカゲには勝てんぞ!」

「…トカゲってお爺さん、貴方は…一体…」

「問答無用!そりゃ!」

 

響が言った覚えのない単語に聞こうとするが老人が一メートルの岩を問答無用に響に投げつける。

 

「!変身!」

 

響は咄嗟に変身して岩を飛んでくる岩を殴り粉砕する。

 

「よし、ドンドン行くぞ!」

 

響が変身したのにも関わらず老人は一切に気にせず次々と一メートル級の岩を投げつける。響も投げ付けられる岩を次々と腕や足で粉砕する。

 

「!?うわああ!!」

 

が、粉砕した岩の直後に別の岩があり、響の体に命中する。幸運だったのはトカゲロンが蹴ったボールより遥かに威力が低い事だった。

 

「馬鹿者め、敵が一々一発ずつ撃ってくれる保障など何処にも無いわ!常に一の矢二の矢を用意せい!」

「一の矢二の矢…そうだ!」

 

老人の言葉に響は一旦目を瞑り集中する。トカゲロンの時は片手だけだった。片手で駄目なら両手でと考えた響の両腕のギアが開く。更に響はトカゲロンが現れる前にやろうとしていたギアを掴み更に引っ張る。そして、老人が再び岩の影になるよう別の岩を投げる。

 

「もう負けない!」

 

響は岩を破壊し別の岩も粉砕する。その姿に老人も笑みを浮かべる。

 

 

 

それから、半日程して雨上がりの空も日が陰る。

 

「あの…ありがとうございました!」

 

老人がもう投げる岩は無いといって修行は終わった。響としては何か掴めたとしてこの修行は無駄ではないと感じていた。

 

「ワシも良い暇潰しが出来たわ。それで勝てるか?」

「勝ちます!絶対に!」

「ならば良し。今日はもう帰って休め!」

 

老人言葉に響は「はい!」と言って返事をし、病院へと戻った。老人が何故トカゲの事を知っていたのかとか目の前でシンフォギアを使った事なども完全に忘れていた。

 

 

 

 

 

「何時まで、其処に居る気じゃ?出てこい!」

 

響の姿が完全に見えなくなった頃に老人が独り言を言う。しかし、その言葉の直後に一人の男が岩の影から出てきた。弦十郎だ。

 

「…正直貴方から連絡があって驚きました…。珍しいですね、誰かを鍛えるなんて…」

「全ては護国の為よ。小娘一人の面倒も見切れん青二才め」

「…それは申し訳ありません」

 

老人…風鳴訃堂の言葉に弦十郎も痛いところをつかれた顔をする。小日向未来の指導中に弦十郎の通信機に一本の連絡が入った。内容は「ワシが立花響を鍛える」の一言だった。心配した弦十郎は未来に休憩と言って何本かのおススメの映画を渡してこの場に来たのだ。

 

「東夷の犬どもも最近活発じゃ、あの女も注意しとけ」

「…分かりました」

 

訃堂の言葉に返事をした弦十郎は急ぎ本部へと戻る。それを見届けた訃堂は沈みゆく太陽を眩しそうに見る。脳裏には響の涙が思い出す。訃堂が響を見つけたのはほぼ偶然だった。響を修行させたのも日本を狙うショッカーやノイズなどから国を守る為だ。それに、改造人間の響なら長い時を掛けて日本を守れると考えたのだ。それでもあまり良い気分とは言い難かった。

 

「…ゾル…ワシは、やはりショッカーは好かん…」

 

訃堂の呟きを聞いた者は誰も居なかった。

 

 

 

尚、病院へと戻った響に待っていたのは医者や看護師からの雷と未来のガチ泣き、翼の説教だった。

 

 

 

 

 

 

 

あくる日、フィーネの隠れ家に何者かが集まる。銃を片手に突入寸前であった。しかし、一人また一人と倒れていく。

屋敷の中では了子が何か響のデータを纏めていた。しかし、入り口から誰かが入って来た事に気付いた了子が入り口の方を見る。銃を持った外国人と思しき人達がゆっくりと入って来た。

 

『連絡も無しに何の用かしら?あんた達と会う約束なんてしてない筈だけど』

 

了子が英語で男達に言う。男達とは、お互い利用しあった関係だ。防衛大臣の暗殺も彼らがやった。

 

『それとも私を始末しに来たのかしら?品性下劣な米国政府らしいわね』

 

了子が色々言うが男たちはただ静かに歩く。そして、そのまま倒れてしまった。

 

『え?…!?』

 

流石に予想外の反応に了子が驚くが次の瞬間、男たちの体が溶け骨と服と武器だけが残った。

 

「外の連中は片付いた。後はお前だ」

 

「!…ゾル大佐」

 

入り口の方から声がし再び見るとゾル大佐と複数の戦闘員が現れる。武装した男たちは既にショッカーに殺されていたのだ。

 

「如何して此処が!?…死神カメレオン!」

 

フィーネと戦う前に死神カメレオンが色々とショッカーに連絡していた事に気付く。

 

「思ったより鈍いな。想定ではとっくにこの場所を引き払ってると思ったが。さて、では一緒に来てもらおう、フィーネ。貴様の知識の全てをショッカーに捧げて貰う。それからカ・ディンギルの事も話してもらうぞ」

 

ゾル大佐の言葉に戦闘員は了子…フィーネの周囲を囲む。逃がす気はない。

 

「ブラックアートの深淵を知らない青二才が」

 

ゾル大佐に忌々しそうに喋るとフィーネの体が光に包まれる。

 

 

 

 

 




今回は修行回。
響の修行相手はまさかの!シンフォギアで響に容赦なく岩を投げつける人がこの人しか浮かばんかった。
そして、未来も弦十郎の鍛錬に、G以降どうなるか?

原作だとあまり弱音を吐かない響ですが、この作品では…ねえ。バリバリ命狙ってくる悪の組織がいるから。


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24話 カ・ディンギル

 

 

 

クリスが走る。もう直ぐフィーネの屋敷に到着する。クリスは色々と聞きたかった。フィーネの目的は何なのか?争いの無い世界を作るのは嘘だったのか?フィーネの屋敷ももう目と鼻の先、

 

「!?」

 

もう少しで屋敷に入れるかと言う所で突然クリスの腕が捕まれ森の中に引きずり込まれる。ショッカーかと思い歌おうとするが口元を塞がれ「シーッ!静かに」と耳元で言われる。ショッカーではない、聞き覚えのある声にクリスが振り向くと弦十郎が自分の動きを押さえていた。

 

「…何のつもりだよ」

 

口元を押さえていた手が動かされクリスが弦十郎に聞く。それに弦十郎は答える代わりにある一点を指さす。

 

「?…ヒっ!?」

 

指の先を追ったクリスが見たのは何人もの白骨死体だった。更に弦十郎は「窓の方」と言いクリスが窓から屋敷の中を見る。そこには、

 

「戦闘員…」

 

ショッカーの戦闘員が屋敷で動き回っている。

 

「ショッカーは先に動いていたようだ。何が目的か分からんが「フィーネ!!」って待つんだ!」

 

前のやり取りでフィーネはショッカーと敵対していた。そんなショッカー戦闘員が屋敷の中を闊歩している。フィーネに何かあったと感じたクリスが弦十郎の静止も聞かず屋敷に突入する。

 

 

 

 

 

「兎に角、何かないか探りな!フィーネの拠点なら聖遺物の一つや二つはある筈だ。それに逃げたフィーネが何をするのか探るのも私らの役目だ」

 

一方、屋敷の中では黒い体に虫の触覚がある蟻のような怪人、『アリキメデス』が戦闘員の指揮をとる。ネフシュタンの鎧を纏ったフィーネを追い詰めたものの後一歩で取り逃がしてしまったゾル大佐がアリキメデスにこの屋敷の調査を命じる。聖遺物の確保に失敗したショッカーとしては是が非でも入手したかった。フィーネの弄っていた機械からはもうデータはある程度取り出していたがまだ何かあるか調査も兼ねている。

 

「目ぼしい物は特にはありません!」

「此方もです。他に聖遺物の類も発見出来ません!」

「メイン以外のパソコンの方はロックされておりこれ以上の調査は不可能です。本部に持っていきますか?」

 

しかし、戦闘員たちの調査でも大した物は見つからない。ゾル大佐も正直其処まで期待はしていない。フェーネがシンフォギアの一つでも隠し持っていれば万々歳と言えた。

 

「ちっ、仕方ない此処を爆破して私らの痕跡を消した後にゾル大佐と合流を「お前ら、フィーネの家で何してやがる!」!?」

 

突然の扉からの少女の声に驚き見ると、ショッカーの拉致目標の一人雪音クリスが入ってき戦闘員の一人を殴り倒す。

 

「待てと言ってるだろう!」

 

少し遅れて、またショッカーの拉致目標である風鳴弦十郎と部下の黒服たちも入り戦闘になる。アリキメデスは戦闘員と自分の使役する殺人蟻を操り戦う。黒服の一人が殺人蟻に呑まれるが弦十郎の震脚で蟻や戦闘員が吹き飛ばされる。

 

「戦闘員も殺人蟻も吹き飛ばされた!?報告で聞いていたが此奴、本当に人間か!?こうなれば…!」

 

自分の不利を悟ったアリキメデスが撤退しようとしたが、次の瞬間屋敷は爆発に呑まれる。

 

 

 

 

 

 

 

「ふん、つまらんな」

 

少し離れた丘。フィーネの屋敷も見える場所でトカゲロンがノイズ破壊ボールを踏む。先程の屋敷の爆発はトカゲロンが蹴り込んだノイズ破壊ボールだ。実は、トカゲロンはゾル大佐から密命を受けていた。

 

『トカゲロン、特異災害対策機動部二課の風鳴弦十郎が来たらアリキメデスが生きてようが死んでようが構わずノイズ破壊ボールを蹴り込め。奴では風鳴弦十郎を倒すのは無理だろう。アリキメデス諸共葬り去れ』

 

「任務終了。行くぞ」

 

トカゲロンは任務を果たしたとノイズ破壊ボールを設置する部下の戦闘員に撤収を命じる。トカゲロンはまたもアッサリと撤退した。それにしてもと、トカゲロンは思う。

 

━━━今日はやけにノイズ破壊ボールの爆発が小さいな…

 

立花響と戦った時に比べ爆発が小さい気がした。

 

 

 

 

 

トカゲロンが去った直後、破壊された屋敷では煙がもうもうと舞う中、職員と弦十郎そして崩れた天井の一部を片手で支えた弦十郎にもう一方の片手で守るように抱き寄せられたクリスがいた。

 

「…何が起こったんだよ?」

「衝撃は発勁でかき消した」

「…おっさんが人間か怪しくなったけど、そうじゃねえよ!」

 

クリスが藻掻いて弦十郎の腕から出る。

 

「何でギアを纏えない奴がアタシを守ってんだよ!普通逆だろ!」

 

持っていた天井の一部を捨てた弦十郎がクリスに向き直る。

 

「俺がお前を守ったのはギアの有る無しじゃなくて、お前より少し大人だからだ」

「大人!?アタシは大人が嫌いだ。死んだパパとママも嫌いだ!夢想家で臆病者、戦地で難民救済?歌で世界を救う?その結果、パパとママは殺されて娘のアタシは一人ぼっちだ!娘より夢の方が大事なのかよ!いい大人が夢なんか見てるんじゃねえよ!」

「大人が夢を…か」

「本当に戦争を無くしたいなら、戦う意志と力を持つ奴等を片っ端からぶっ潰した方が良い!特にショッカーみたいな奴等をな!それが一番合理的だろ!」

「それがお前さんの流儀か?なら聞くがそのやり方でお前は戦いを無くせたのか?」

「そ…それは…」

 

弦十郎の問いにクリスは渋い顔をする。

 

「いい大人は夢を見ないと言ったな。俺はそうは思わない、大人だから夢を見るんだ。大人になったら背も伸びるし力も強くなる。財布の中の小遣いも多少は増える。子供の頃の夢も大人になったら叶えるチャンスが大きくなる。半面(しがらみ)も増えるがな、俺も子供の頃は自由に生きたいとも思ったが。お前の親はただ夢を見に戦場に行ったのか?違うだろ、歌で世界を平和にするって夢を叶える為、自ら戦場に行ったんじゃないのか?」

「何で…そんな事…」

「お前に見せたかったんだろう。夢は叶えられるっていう揺るがない現実をな」

 

弦十郎の言葉にハッとした顔をする。

 

「お前は嫌いと言ったが、お前の両親はきっとお前の事を大切に「笑わせてくれるね」!」

「!?」

 

クリスと弦十郎の横の瓦礫から声がし、アリキメデスが這い出る。咄嗟に弦十郎がクリスを庇う形で陣取るがアリキメデスが攻撃してくる気配はない。トカゲロンの攻撃でアリキメデス自身も瀕死の重傷を負っていた。最早、長くはない。

 

「夢や何だと言っているけど結局死んでりゃ意味無いんだよ。お前の親はただの無駄死にだ!」

 

「ち…違う、アタシのパパとママは!」

 

「違わないね!危険を承知で娘を連れてきて自分がおっちんでりゃ世話ないんだよ!両親が死んでお前がどんな目にあった!言ってみろ!」

 

「やめろ!!」

「アタシは…アタシは…」

 

「どんなに取り繕うが夢を見た馬鹿が死んだ事には変わりないさ。そしてお前に起きた現実は何一つ変わらない。両親を恨め憎め!あの世で罵詈雑言を吐き散らせ!…どうせお前たちも、もう直ぐ死ぬ。ゾル大佐はフィーネのカ・ディンギルを既に嗅ぎつけた!」

 

「カ・ディンギル?」

 

「フィーネが造り出した兵器までは分かっている。ゾル大佐の事だ、もう直ぐ場所も特定される。ショッカーがそれを手に入れた時がお前達の最後だ!!」

 

「!全員脱出しろ、急げ!」

 

何かに気付いた弦十郎が部下の黒服に退避するよう命令し、クリスを引っ張って割れた窓から脱出する。直後、アリキメデスの爆発で館の殆どが崩れ去った。

 

 

 

 

 

 

アリキメデスの壮絶な爆発に屋敷は全壊。もう此処には用は無いと黒服たちが車に乗り込む。殺人蟻に呑まれた職員も急ぎ病院へと向かわせる。そして、クリスは弦十郎の車の前で立ち止まる。

 

「…本当にアタシも行っていいのか?」

「今更一緒に来たくない訳じゃないだろ」

「でも、アタシはお前達と敵対して…」

「なに、何時もショッカーとの共闘しかしてなかった気がするがな」

「…分かったよ、乗ってやるよ!」

 

弦十郎の意地悪そうな言葉にクリスは頬を膨らませつつも弦十郎の車に乗り込む。

 

「あ、そうそう。これも渡しとこう」

「…通信機?」

 

後部座席に座ったクリスに弦十郎が運転席から投げ渡す。それは特異災害対策機動部が使っている通信機だった。

 

「限度額内なら公共機関も使い放題、買い物も出来るし自販機にも対応している。便利だぞ」

 

弦十郎の説明にクリスは複雑な顔をして通信機をしまった。

 

「それにしても、カ・ディンギルか、ショッカーももう動いている。これ以上後手に回る訳にはいかない」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

リディアン音楽院。

廊下にて未来と響が歩く。トカゲロンとの闘いの傷も二日程で完治しアッサリ復学した響は未来と廊下で歩きながら喋る。その最中に校歌が聞こえる。

 

「♪~~ゴホッ!ゴホッ!」

 

釣られて響も鼻歌で校歌を歌ってみたが咳き込み歌うのを止める。

 

「響、大丈夫!?」

「大…丈夫、口に出して歌うよりはマシだから。…私、鼻歌も歌えないんだね」

 

響が悔しそうに呟き廊下の窓の外を見る。外には何人もの生徒が行き交いリディアン音楽院の校歌も流れている。

 

「響…」

 

外の景色を見続ける響に未来が呼ぶ。

 

「心配しないで、未来。ただリディアンの校歌を聞きたいだけだから」

「校歌を?」

「うん、リディアンの校歌を聞いてると心が落ち着く。皆が居る場所だと思うと安心できるだ。私が居ても良いって思えるから…私が入学して一月も経ってないのにね」

 

響の声は楽しそうであり何処か寂しそうだった。

 

「…響」

 

未来が響にどう声を掛けようか考えて居ると響の通信機が鳴り出る。相手は弦十郎だった。

 

「はい、響です」

『翼です』

『……よう』

「え?クリスちゃん!?」

『クリスは俺が通信機を渡して本部に連れてきた。そして収穫もあった』

 

その後、弦十郎が先程、屋敷で起こった事を説明する。

 

『そうですか…ショッカーが』

「カ・ディンギルも気になりますね」

『その辺、知っていそうな了子くんと連絡が取れない。何かあったのかも知れない』

『まさか、ショッカーが』

 

翼が了子がショッカーに襲われたかと心配する。その瞬間に本部の警報がなる。

 

『こんな時にノイズだと!』

 

本部のモニターには今までにない程の大規模のノイズが映し出される。

 

「はい、分かりました」

「響」

「ごめん、午後の授業出られそうにない。翼さんとクリスちゃんも居るから大丈夫だよ」

 

通信機の電源を切った響が未来に返事をする。少し迷った後に未来は口を開く。

 

「約束して響、必ず帰って来るって」

「未来?」

「どんなに離れていても私、待ってるから!響の帰って来る場所に私待ってる」

「私の帰る場所…分かったよ、未来。私はどんな事があっても必ず未来の下に戻るから。…流れ星を一緒に見る約束ってまだ有効?」

 

その言葉に未来は頷く。それを見た響は笑みを浮かべた後に急ぎ現場に行く。途中、ノイズは東京スカイタワーに集まってると聞き本部から寄越されたヘリに乗る。

 

「あ、クリスちゃん」

「よう、元気そうで安心したよ」

 

中には既にクリスが乗っており響に少し話した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ノイズが東京スカイタワーに集まりつつあるそうです!」

「カ・ディンギルとは東京スカイタワーではないでしょうか?」

 

薄暗いショッカーのアジトにノイズが出現した情報が流れる。地図を睨むゾル大佐が手で黙る様合図を出す。戦闘員たちはピタッと静まる。代わりに鷲のエンブレムの胸が光り首領が話す。

 

『それで?スカイタワーがカ・ディンギルなのか?』

「ノイズの動きは明らかに陽動じみています。この動きは典型的な囮ですね。狙いは別かと」

 

首領の問いにハッキリ答える。ノイズの動きを陽動と読んだゾル大佐の脳裏にカ・ディンギルの情報が巡る。

 

━━━カ・ディンギルとは古代シュメールの言葉だった筈。確か天を仰ぐ程の塔を意味していたが……スカイタワーでは足りん。…そう言えば特異災害対策機動部二課本部に妙な違和感があったな。あの変なエレベーターシャフト、異様に深い本部、櫻井了子がフィーネ……!成程、そうか。それにあそこには…

 

「ふふふ、読めた。各員に通達!動ける者は俺に続け!目標は…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

スカイタワー周辺では四体の空を飛ぶ巨大な飛行型ノイズが小型のノイズを吐き出す。其処へ到着した響とクリスがヘリから飛び出す。

 

「変身!」

「Killter Ichaival tron」

 

響とクリスがシンフォギアを装着し一体の大型飛行ノイズを倒す。丁度、仕事で学園に居なかった翼も合流しノイズを次々と倒す。しかし、順調とは言い難かった。クリスと翼の体が何度もぶつかり合う。

 

「さっきから何だよ、引っ込んでな!」

「あなたこそいい加減にして、一人で戦ってるつもり?」

 

何度もぶつかり合ったクリスがとうとう翼に文句を言う。クリスの言い方にカチンときた翼もクリスに文句を言う。その間にもノイズは響が倒している。

 

「こっちはスタンドプレーが当たり前だったんだよ。即席でチームプレーを求められても困るね」

「それは…そうだけど…」

「大体、あんたの動きだってな!」

「フフ…」

 

ある程度ノイズを倒した響が二人に近づきやり取りを見て噴き出した。

 

「立花!?」

「おい、何がおかしいんだよ」

「あ、ごめん。二人のやり取りがおかしくて…まるで何年も付き合いのある友達みたい」

「え!?」

「なに!?」

 

響の予想外の言葉に二人は互いの顔を見て響に向き直る。それが響のツボにハマってまたクスっと笑う。もう半ば、自分には無理だろうと諦めた光景に響の目から涙が出そうだった。

 

「ん」

「え?」

 

と、突然クリスが響に手を出し響は一気に困惑する。見ると、翼もクリスの様に響に手を出していた。

 

「なに、自分だけ黄昏ているんだよ」

「立花も私達の仲間だ」

「ほら、お前も手を出せ」

「でも…私が握ったら二人の手が…」

 

響も大分、力の制御が身について来たとはいえ未だに油断すると物を破壊してしまう。もし、翼とクリスの手を握りつぶしたらと考えたら響は怖くて仕方なかった。

 

「良いから、お前は手を出すだけで良いんだよ!」

「そうだぞ立花」

「…分かった」

 

二人の言葉に響はオズオズと二人に手を差し出す。その瞬間、二人は響の手を握った。

 

「あ…」

「良いか?力を入れるんじゃないぞ」

「立花の手を握るなら私達だって出来る」

 

クリスと翼の手が響の手を握りしめる。最早、人間としての硬さではなかったが二人の温もりが感じられ響の目から涙が出る。

 

「お前が握れないんだったらアタシらが握ってやる」

「立花が、自分の力に怯えるなら代わりに私達がどうにかする。そうだろ」

「…はい!」

 

二人の言葉は響にとってどこまでも嬉しかった。その後、残った飛行型の大型ノイズをどう倒すかと話し合った時にクリスがショッカーのアジトの時に使った長射程広域攻撃で殲滅する事を提案。翼は知らないが見ていた響が賛成して作戦開始。無事、ノイズの殲滅に成功した。

 

「やったな」

「当たり前だ」

 

クリスと翼がノイズの殲滅に喜ぶ中、響は辺りを警戒するように見回す。

 

「どうした?立花」

「まだノイズが居ると思ってるのか?」

 

響の様子に二人が声を掛ける。

 

「ショッカー仕掛けてこないのが不思議で、これだけの戦いをショッカーが放置するとは思えないんです」

 

響の言葉に翼とクリスも辺りを警戒する。横やり上等なショッカーだ。突然襲い掛かってきても不思議じゃない。そんな中、響の通信機から呼び出し音がかかる。

 

「はい」

『響!?学校が…リディアンがショッカーとノイズに…』

「未来!」

 

途中で切れたが響の耳には確かにショッカーと聞こえた。

 

 

 

 




やっぱりショッカーのお蔭でクリスは丸くなっている。原作では響から握った手もクリスや翼が率先して繋ぐ。

あんまり関係ないけどシンフォギアの原作10話で弦十郎が夢云々言ってるけどその夢に付き合わされたクリスが酷い目にあったのは無視なんだろうか?


最後に、活動報告でお知らせもあるんで良ければ見て行ってください。


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25話 ノイズVSショッカー リディアン音楽院の殺人大パーティー

 

 

未来が響に連絡する少し前。ノイズと戦ってる頃、未来たちは午後の授業をしていた。

 

「え~このように音楽が世界に与えた影響は…」

 

響が早退扱いで居ない事を除けば順調に授業が進む。生徒たちもノートを書いたり教科書を読んだり先生の話を聞いたりしていた。誰しもがこのまま時間が過ぎると思っていた。

 

♪~~~~~

 

「ん?何ですか?」

「音楽?」

 

授業の最中に突然、クラスに取り付けられているスピーカーから音楽が聞こえる。

 

「静かに、授業中よ。…それにしても何か放送があるなんて聞いてないけど…」

 

クラスの騒めきに静かにするよう注意する担任だが何事かとスピーカを見つめる。誰も聞いた事の無い音楽はそのまま進み歌詞に入った。

 

 

 

            ショック!ショック!ショッカー!!

ショック!ショック!ショッカー!!

 

 

 

「!?」

「しょっかあ?何よ、この歌」

「聞いたことないわ」

 

生徒たちの間に不穏な空気が流れる。男の声で不気味な歌を歌ってるのだ。生徒たちが不安になっていた。

 

 

 

            地獄の底から 地の底から

             生まれ出るショッカー 改造人間

 

 

 

「ねえ、弓美。あんたなら知ってるんじゃないのこの歌」

「私だって知らないわよ、こんな歌。こんな不気味なの私の好みじゃないし!」

 

誰も知らない不気味な歌、それが教室へと流れている。教室の中は面白がる生徒や不気味がる生徒など様々に騒めきが大きくなる。

 

 

 

               地球はショッカー われらのもの

               オー ショッカー オー ショッカー

 

 

 

「皆さん落ち着きなさい。落ち着くんです!」

 

教室の騒めきに教師が注意してスピーカーのスイッチを切る。これで不愉快な音楽は聞こえなくなる。…筈だった。

 

 

 

             ショック!ショック!ショッカー!!

 

 

「嘘、どうして」

 

スピーカーのスイッチは切った筈だった。それにも関わらずスピーカーから不気味な歌が聞こえて来る。次に音量調節を弄るが歌が小さくなる事はない。寧ろ大きくなってる。そして、教師が気付いた。この不気味な歌が学校中に響てる事に。

 

━━━何?この歌。まさかショッカーが!

 

一人、ショッカーの存在を知る未来の胸に不安が押し寄せる。響はノイズを倒しに行っていて不在。その隙にショッカーがリディアン音楽院に何しに来たのか?それは未来には分からない。

 

「先生!」

 

 

           ウ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

とにかく、未来は教師に避難を促そうとしたが、タイミング悪くノイズ発生の警報までなった。リディアン音楽院は混沌と落ちる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ノイズも現れたリディアン音楽院に自衛隊も駆けつけ銃を乱射しつつ生徒たちをシェルターに誘導する。しかし、通常兵器の効かないノイズに自衛隊は苦戦する。更には、

 

「弾丸スクリューボール!」

 

タイル状のような球体が銃を乱射する自衛隊諸共、装甲車を貫き爆発する。そして、爆発で発生した炎から誰か出て来る。

 

「ヴヴァッ、ヴァー!ショッカーの力、思い知れ人間ども」

 

球体を解除した怪人、アルマジロングが次の獲物を探す。

 

 

 

 

 

 

 

「何だ、コイツ!ノイズじゃないぞ」

「化け物だ!」

 

何人かの自衛隊の人間が一か所に銃撃する。ノイズのようにすり抜けたりせず命中はする。しかし、ダメージを与えてるようには到底見えなかった。

 

「ギ~ゴ~」

 

自衛隊の隊員に化け物と呼ばれた黒く目元の赤い怪人は大きな左腕で隊員たちを薙ぎ払う。アッサリとぶっ飛ばされ隊員たちに怪人は頭の方から垂れ下がる鼻のような部分から舌を出し隊員たちに突き立てる。

 

「お前達に耐えられるか?()()()()()()()が」

 

怪人が興味深そうに言うが10秒もせず隊員たちの体が溶けてきた。

 

「これだけ居ても耐えられんか。次だ」

 

アマゾンの呪いで死んだ者たちに一瞥もせず怪人、アリガバリは次の獲物を探しに行く。

 

更に戦闘員も多数現れ、自衛隊の隊員に襲い掛かっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こっちです!急いで」

 

ノイズや怪人が暴れる中、隊員たちの多くは生徒たちをシェルターに避難させる。それはリディアン音楽院の中でも行われていた。

 

「落ち着いて、シェルターに避難してください」

 

廊下で何人かの自衛隊の隊員と未来が生徒たちに避難を促す。窓の外では未だにノイズや怪人、戦闘員が暴れている。

 

「ヒナ!」

「皆」

 

避難誘導してる最中に自分のニックネームを呼ばれ未来が振り向くと友人の創世と詩織に弓美が心配そうに来ていた。

 

「どうなってるの?ノイズだけじゃなくてあの黒い人達なんなの?何で学校を襲うの?これじゃまるでアニメだよ」

「それだけじゃありませんわ」

 

詩織が学校の廊下に備え付けられたスピーカーを見る。

 

              地球はショッカー われらのもの

 

「この曲、ずっとリピートしてる」

「大体何なの!?この不気味な曲!」

 

学園中で流され続ける不気味な曲。何人かの教師が放送室へと向かおうとしたがノイズが出てそれどころではなくなった。

 

「とにかく、皆は避難して」

「小日向さんも一緒に」

「先に行ってて、私は他に人が残されてないか見て来る」

「ヒナ!」

 

三人が止める間も無く、未来は他の場所へと向かう。

 

「君達…」

 

未来が言った廊下の反対側から声がし三人が振り向くと自衛隊の隊員と思しき人がこっちにやって来る。尤も、片手で首を押さえて苦しそうだったが。

 

「急いでシェルターに…逃げるんだ。…ノイズ以外の…化け物も…校舎内に…うわあああああああああああ!?」

 

「え?ちょっと」

「だ…大丈夫ですか」

 

突如、苦しみだした隊員に三人が近づこうとしたが服が破れていく事に気付き立ち止まった。そして、見る見る隊員の体から青い体毛が生え口が大きく裂け鋭い牙が生える。

 

          

 

「ワァオーン!!」

 

 

 

目の前の隊員が青い体毛の狼男となった。何が起こったのか分からない。分かるのは目の前に怪物が居る事くらいだ。

 

「イ…イヤアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」

 

弓美の悲鳴が廊下に木霊した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふん、順調と言ったとこか」

 

リディアン音楽院の屋上。学院を一望できる場所でゾル大佐は戦況を見続けていた。アリガバリを襲ったノイズが逆に返り討ちにされ灰となり、アルマジロングが自衛隊員諸共ノイズを弾丸スクリューボールで蹴散らす。そして、大型のノイズが此方に来るが、

 

「トカゲロン」

「あいよ、必殺シュート!」

 

ゾル大佐の護衛としていたトカゲロンが大型ノイズにノイズ破壊ボールを蹴り込み更にもう一発蹴り込む。大型ノイズが消滅したがゾル大佐は大して興味も無い。ゾル大佐の視線の先には一人の怪我をしている自衛隊の隊員が何人かの仲間が怪我の治療をしようと運ぶ姿だ。途中でその隊員は青い狼男となり他の隊員を襲いだす、その襲われた隊員たちも次々と青い狼男となっていった。

 

「おお、えげつねえ」

「ウルフビールスは順調なようだ。これで怪人狼男の量産も可能になる」

 

ウルフビールス。嘗て、ゾル大佐主導で開発したウイルス兵器。感染した人間を怪人狼男に変えてしまう悪魔の兵器だ。ゾル大佐はこれを使って怪人の大量生産を狙っていた。

 

その狼男がノイズに襲い掛かり次々と蹴散らす。しかし、中にはノイズの攻撃によって灰となる狼男もいた。

 

「即席の怪人ならこの程度か。もう少し改良が必要か?」

「人間相手なら十分だろ。これ以上は…ん?」

 

トカゲロンが何かの気配に気づき空を見ると、飛行型のノイズが針の様に細くなり自分達に突撃してきた。もし人間が喰らえば貫通しノイズ諸共炭化する。

 

「けっ!」

 

しかし、トカゲロンは飛来するノイズを力任せに引き千切る。別のノイズがトカゲロンに突撃し突き刺さるが、ノイズの先端はトカゲロンの皮膚で止まってしまった。

 

「何かしたか?」

 

飛行型のノイズの攻撃も痛くも痒くもなかったトカゲロンはノイズを握り、また引き千切る。

トカゲロンの他にもゾル大佐にも飛行ノイズが襲うが手に持つ鞭で難なく叩き落す。直後、自分の掌を見るゾル大佐。

 

     ショック!ショック!ショッカー!!

 

「新しいシンフォギアシステムの実験も順調だな」

 

ショッカーの歌を聞きつつ手を動かす。全く炭化の兆候が無い事に満足気であった。

 

「歌わなくても炭化しないとは、便利な事で」

 

ショッカーは以前のシンフォギアシステムを更に改良し録音された歌でもシンフォギアのシステムを使えるよう改造されていた。これである程度、音楽を放送出来る設備又は機器があれば何処だろうとノイズを駆逐できる。更に、このシステムはバックファイヤーすら無効に出来る。半面、シンフォギアでのパワーアップは全く期待できない上に音楽を出す関係上隠密には向かない。それに相変わらずそれようの改造手術が必要であった。尤も、ノイズを駆逐するのを考えればそこまで面倒という事ではない。

これで飛び道具を持たない怪人もノイズ戦に投入出来る。

 

「常にショッカーは、一歩二歩先に進むという事だ。…そうそう」

 

何かを思い出したのかゾル大佐は通信機を取り出す。

 

「再度各員に通達する。軍人や教師は幾ら殺しても構わん。ただし生徒は上手くシェルターに逃がせ!生徒全員がシェルターに入れば俺が良いと言うまで手を出すな。奴等は大事な改造人間候補だからな!ただし、逆らう様なら殺して構わん」

 

それだけ言うとゾル大佐は通信機を切る。ゾル大佐の目的の一つ、それはリディアン音楽院に通う全生徒の拉致及び改造手術だった。シェルターにわざと逃がすのも他の出入り口を潰し袋のネズミにする為でもあった。

 

「しかし、本気かい?大佐。この学院には高等科だけでも千人以上の生徒が居ますぜ。しかも全員女、本気で改造人間にする気で?」

「入手した特異災害対策機動部二課本部のデータを洗い出してる時に面白い物を見つけてな。もし、そのデータが正しければショッカーのシンフォギア技術は更に伸びる筈だ。それに数が居るという事はそれだけ実験も出来るという事だ。それこそ、危険過ぎて立花響に出来なかった実験もな」

 

トカゲロンの質問にゾル大佐はそう返す。後は女狐が巣穴からお宝を持って出て来るのを待つだけだった。

 

「だが、その為にも…」

 

ゾル大佐の目にトカゲロンが映った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「誰か!残ってる人はいませんか!?」

 

学校の廊下を走り回る未来。片っ端から声を出して誰か残ってないか確認していくが直後に爆音と衝撃を感じた未来は窓から外を見る。外では最早自衛隊の影は無く、戦闘員や怪人がノイズと戦っていた。その影響か学校中の至る所が破壊され炎に包まれていた。

 

 

            地獄の底から 地の底から

 

 

「学校が!響の帰って来る所が!」

 

あんな立派だった学校が最早、廃墟寸前。入学してそんなに経っては居ないが未来にとって響や他の友人たちの大事な思い出がある。

 

「イーッ!」

 

「!戦闘員!?」

 

そして、運悪く未来は戦闘員と遭遇した。数は一人だが他にも居るかも知れない。戦闘員はゆっくりと未来に近づく。顔をペイントされてるタイプの戦闘員は未来を見て不気味に笑う。戦闘員としてはゾル大佐の命令通りシェルターに逃がす為に脅かすつもりであった。何人かの生徒も脅かしてシェルターに逃げさせている。そして、今回もそのつもりであったが、

 

「戦闘員が一人。なら私だって!」

 

未来が片足を上げ構える。弦十郎の鍛錬は短い上に始めたばかりで心許無いが我儘は言ってられない。戦闘員も未来が戦る気と知り隠し持っていたナイフを握る。ゾル大佐の命令通り未来を始末するつもりだった。ジリジリと近づく戦闘員に未来の心臓が脈打つ。そして、一気に戦闘員が未来にナイフを突き立てる。

 

「やー!」

 

寸前で躱した未来は逆に戦闘員の体に蹴りと正拳突きを喰らわす。戦闘員に直撃したがそれでも倒せる程ではない。

 

「響みたいに上手くいかない!?」

 

「イーッ!」「イーッ!」

 

「嘘!?」

 

騒ぎを嗅ぎつけたのか別の場所を警備していた戦闘員たちが次々と合流する。一人しか居なかった戦闘員も倒せない未来は絶望した。最早、戦闘員たちに未来を捕まえる気はない、此処で始末する気だ。改造人間候補の生徒はシェルターにたっぷりと居る、一人死んだところで計画に支障は無いと戦闘員も判断した。ナイフや剣を持ち近づいてくる。

 

「逃げなきゃ!「イーッ!」!?」

 

戦闘員の居ない場所に逃げようとした未来だが振り返った先に戦闘員が飛び出してくる。未来の逃げ場は何処にもなかった。

 

「…ごめんね、響」

 

退路を断たれた未来は自分の死を覚悟し座り込んでしまった。戦闘員一人も倒せなければ響と一緒に戦うなど夢のまた夢だ。これでは寧ろ、響の足を引っ張ってしまう。未来はそう考えてしまった。

未来が抵抗を止めた事を確認した戦闘員の一人が警棒を伸ばし未来の頭に振り下ろそうとした。直後、エンジン音と窓ガラスの割れる音が響く。

 

「「「イーッ!?」」」

 

それから戦闘員の断末魔が聞こえ未来が顔を上げると一台の車が戦闘員たちを轢き壁に激突していた。

 

「すいません、未来さん。遅くなって」

「お、緒川さん!」

「ギリギリでしたよ、次上手くやれるかは…」

 

車のドアを開き男が一人降りてきた。未来も知る特異災害対策機動部二課の緒川だった。未来が緒川に何があったのか聞こうとしたが、

 

「イーッ!」「イーッ!」

 

車の音かガラスの音が聞こえたのか遠くにいた戦闘員が集まってくる。

 

「走りますよ、未来さん!」

「ええ!?」

「三十六計逃げるに如かず、と言いますからね」

 

戦闘員が集まる前に緒川は未来の手を引いて走り出す。目的地は本部に繋がるエレベーターだ。緒川がボタンを押し扉が開くと未来を先に乗せ通信機で扉を閉め下に降りる。扉が閉まった事で追跡を諦めた戦闘員たちだが他の場所に居た赤服の戦闘員が何かを命令した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふん、なるほど、そうか」

 

通信機で戦闘員からの報告を聞くゾル大佐。次に如何いう手を打つかは既に考えて居る。

 

「エレベーターの扉を爆破しろ。量産型の狼男も連れて行け。再び特異災害の本部を占領しろ!」

 

戦闘員達に命令を出したゾル大佐は通信機をしまう。

 

「戦闘員やあの量産型だけで本部を占領できるんで?」

「ふん、失敗しても構わん。全てはフィーネを燻り出す為よ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前達も気付いたという事はショッカーにも気付かれてると見ていいね」

 

「未来さん…逃げて」

 

緒川とエレベーターに乗った未来だが、緒川が通信機で弦十郎と話してる途中にネフシュタンの鎧をつけたフィーネが襲撃する。そのままデュランダルが保管されてる階に着き緒川をネフシュタンの鎧の鞭で捕らえ締め上げる。緒川が未来に逃げろと言う。

 

「止めて!」

 

フィーネの背中に抱き着き止めようとする未来。フィーネが鬱陶しそうに振り返る。

 

「今、ショッカーが攻め込んできてるのに…如何して?あなたも特異災害で一緒に働いてたのに…了子さん!」

 

「…悪いが特異災害は私の目的の為に利用しただけに過ぎん。それに、ショッカーが来てる以上時間もあまりな…ん?」

 

途中で、この階に止まる別のエレベーターが止まり中が開くと何人かの特異災害の職員が降りてきた。一瞬、弦十郎が寄越した増援かとも思ったが如何にも様子がおかしかった。

 

「ウウうう…ウ…ワァオーン!

 

「なッ!?」

「え!?」

 

その内の一人が青い狼男となると他の職員も次々と狼男となっていった。ショッカーは既に職員にもウルフビールスを感染させていた。

 

「ちっ!」

 

襲い掛かる狼男たちに咄嗟に未来をエレベーター内に押してネフシュタンの鎧の鞭で迎撃する。一体二体と倒すが、次は戦闘員達が学校にあったエレベーターの扉を破壊して侵入する。その内の何人もの戦闘員がこの階にもやってきた。

 

「今更、戦闘員なんぞに」

 

ネフシュタンの鎧の鞭が何人もの戦闘員を切り裂く。更には、フィーネは蹴りやパンチも繰り出し狼男も次々と倒す。

 

「…凄い…」

 

その光景を未来はただ見ていた。そして、最後の狼男を倒してデュランダルの保管場所へ入ろうとしたが、

 

「…!チッ!!」

 

デュランダルの保管場所にはロックが掛かり特異災害の支給する通信機で開けられたがフィーネの持つ通信機は戦闘の影響か通信機が壊れて起動しなかった。

 

「当てが外れたか、了子」

「!?」

 

弦十郎の声が聞こえると共に天井の一部が破壊され弦十郎と狼男が落下する。

 

「ワァオーン!」

 

落下した狼男一声鳴いてドロドロに溶けていく。どうやら弦十郎が倒したようだ。

 

「くッ、急がねばならんというに」

「何をそんなに焦っている。了子」

「まだ私をその名で呼ぶか」

「信じたくはなかったがやはりお前だったか了子」

 

立ち上がった弦十郎がフィーネの方に向かい構える。

 

「女に手を上げるのは気が引ける。降伏するんだ了子」

「その様子だと私も一応疑ってたようだな」

「調査部だって無能じゃない。米国政府の丁寧過ぎた道案内、正直罠かと疑ったよ。それでも確信は持てなかったが…」

「甘い男だよ、相変わらず。そんなんで私を止められると!?」

「止めて見せるさ仲間として。だがその前に一つ聞きたい。お前もショッカーと敵対しているのか?」

 

弦十郎が如何しても聞きたかった事、それはフィーネが本当にショッカーと敵対してるかだった。本部が占領され了子が連れてかれ時に何かあったのではないかと気になっていた。

 

「心配するな、少なくとも私はショッカーは嫌いだ」

「それだけ聞ければ結構」

 

弦十郎とフィーネの戦いが始まった。フィーネがネフシュタンの鎧の鞭を使うが弦十郎は軽く避け拳を一気に突き立てる。フィーネも負けじと避けるが掠ったネフシュタンの鎧にヒビが入る。そして、二本の鞭を一気に振るが弦十郎は待ってましたとばかりに二本とも掴み一気に引き寄せ、ネフシュタンの鎧の無い腹部に一撃入れる。その威力に床に倒れるフィーネは弦十郎に視線を向ける。

 

「…完全聖遺物を退ける。相変わらず出鱈目の男だ」

「諦めろ、了子。お前の負けだ」

 

弦十郎は強い。それはフィーネも分かってはいた。しかしネフシュタンの鎧と一体になっても全く勝てないとは予想だにしていなかった。「あと少しで自分の願いが叶うはずなのに」と諦めないフィーネだが、

 

「指令、危ない!」

 

突然、緒川の声が響く。何事かと弦十郎が後ろを見ると、青い狼男が鋭い爪を振り回して飛び掛かって来る。討漏らしかと考えガードするが、

 

━━━…!違う、コイツの狙いは俺じゃない。了子くん!?

 

「了子くん!」

「!?」

 

狼男の狙いがフィーネと分かった瞬間、弦十郎はフィーネの下に行き狼男の爪から守った。弦十郎の背中から鮮血が舞い狼男が雄叫びを上げる。しばし、茫然としていたフィーネも意識を戻しネフシュタンの鎧の鞭で狼男を始末する。

 

「指令…」

「いやああああああああああああああ!!」

 

弦十郎はそのまま倒れ緒川は指令と呟き、未来は悲鳴を上げる。

 

「何故…何故私を助けた!答えろ!」

 

背中から流血し床に倒れた弦十郎にフィーネが掴みかかって聞く。

 

「…仲間…だからだ…」

「!だから甘いと言ったんだ」

 

弦十郎はそれだけ言って気を失い、フィーネはその言葉を聞いてちょっとだけ笑い弦十郎の持つ通信機を取り出す。

 

「興がそがれた。逃げるなり治療するなり好きにしろ」

 

フィーネは保管室の扉を開けそう言って中に入った。

 

 

 

 

 

 

 

 

倒れた弦十郎は急ぎ、指令室へ戻り治療を受けた。友里あおいが弦十郎の背中に包帯を巻く。その間に友里あおいの席を緒川が座り代わりに操作する。

 

「ショッカーが続々本部内に侵入しています。新しくつけた警備システムに足止めを喰らっていますが何時まで持つか。…さらに桜井了子も敵に」

「何だって!?」

「そんな」

 

指令室の温度が一気に下がる。天才科学者で特異災害では何人もの人間が了子に世話になっていたのだ。それが敵に回るというのだから士気も下がる。

 

「響さん達に回線を繋ぎました」

 

コンソールを弄っていた緒川は響の通信機に回線を繋げ未来に視線を送る。未来は頷き一歩前に出る。

 

「響!?学校が…リディアンがショッカーとノイズにしゅ…」

 

            地球はショッカー われらのもの

 

襲撃されたと言いたかった未来だが通信が途切れ指令室の電源も落ちショッカーの歌が流れる。

 

「なんだ!?」

「これは…本部内とリディアン音楽院からのハッキングです!」

「こちらの操作を受け付けません」

 

何とかしようとする職員たちだったがモニターやコンソールに砂嵐になり操作が不可能になる。

 

「リディアン音楽院という事はショッカー?」

 

『聞こえるかね?特異災害の諸君』

 

砂嵐の中、ゾル大佐の顔がモニターに映し出される。誰もが息を飲みそれを見る。

 

『既に地上に居たノイズは全て片付けた。後は諸君らだけだ、だが直ぐには殺さん。諸君らには我等ショッカーの恐ろしさを骨身にしみこませてから殺してやろう。それまで我らの作った歌でも聞いて震えるがいい』

 

通信が終わるとモニターは再び砂嵐となりショッカーの作った歌がエンドレスで流れる。外の状況も分からない助けも呼べない。職員たちに絶望の二文字が過る。

 

「響…」

 

未来は親友の名を一言呟いた。

 

 

 

 

 

 




フィーネが原作よりマイルドです。悪行の殆どはショッカーがやってますから。

そして、リディアン音楽院に流れた曲は「オー!ショッカー!」です。聞いた事ない人は一度は聞いて欲しい曲ですね。

ウルフビールスをばら撒き狼男を量産するゾル大佐。

一応設定などを、

量産型狼男

ゾル大佐が実験用狼男から得たデータでウルフビールスを改良し誕生した怪人。ビールスに感染する事によって即席の怪人を作れるようになった。感染力はそこまで強くはないが嚙まれえると確実に感染する。
実験用狼男より狂暴性を落とし戦闘員の命令も聞くようになったが戦闘力も一緒に落ちてしまい初期怪人レベルの力しか持たない。ビールスの特性上、女が感染しても狼男となる。量産型ゆえか実験用にはあったショッカーベルトは量産型には無い。狼男になったら最後、元に戻る方法はない。




それから、新しく出たショッカー版シンフォギアシステムの設定も

ショッカー版シンフォギアシステムⅡ

ショッカーが以前のシンフォギアシステムを改良しより効率化を目指し完成させたシステム。録音された歌を再生させる事でノイズの炭化能力を無効にし位相差障壁も一方的に無視できる事に成功する。バックファイヤーも無くなる半面、シンフォギア装者のようにパワーアップは完全にしなくなってしまった。後、音楽を流すとやはり目立つ。


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26話 響の逆襲 死闘トカゲロン

 

 

 

「う…此処は…」

 

電気が消え非常灯だけがついた特異災害の本部。ひたすらショッカーの歌が流れる中、弦十郎の意識が戻る。多少背中の傷が痛むが問題は無い。

 

「指令」

 

上半身を起こす弦十郎に手を掛ける友里あおい。周囲を確認した弦十郎があおいに視線を向ける。

 

「状況は?」

「…ショッカーによって本部機能の殆どが制御を受け付けません。戦闘員と怪人が本部に侵入したとの報告以外地上の状況も…」

「そうか…」

 

予想はしていたが状況はかなり悪かった。弦十郎は少し考えて口を開く。

 

「皆、聞いてくれ!…本部を放棄する」

 

弦十郎は大胆な決断を言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

本部の放棄を決めた後は早かった。先に弦十郎達が安全な場所を探して地上に出ることになり指令室に残った者もギリギリまでシステムの復旧を目指し不可能なら弦十郎たちの後を追う手筈にした。

 

「イーッ!?」

 

「グっ!」

 

弦十郎が何人目かの戦闘員を倒す。何時もならどうという事はないが背中に激痛を感じ短く声が漏れる。

 

「指令、無理しないでください」

 

直ぐに弦十郎に肩を貸す緒川。他はオペレーターコンビと小日向未来もついてきていた。

 

「隔壁の降りてないエリアですから戦闘員が多いですね」

「一体、何人の戦闘員が…」

 

此処を通るまでに多数の戦闘員を弦十郎や緒川が蹴散らすが定期的に現れる戦闘員に辟易していた。

 

「ショッカーも大分本腰を入れてるんだろ。だが、これを退ければ奴等の戦力は大きく減る筈だ」

 

絶望的な空気の中、弦十郎は皆に活を入れる。その場の空気が若干和らいだが皆、戦闘員や怪人に警戒しつつ進む。その後も何度か戦闘員と遭遇戦に入ったりしたが特に問題は起こらなかった。

そうこうしてる内に弦十郎たちはとある部屋の扉の前に立つ。ここの区画なら電力が生きてるかも知れないと望みがあった。そして、扉を開け中に入る。

 

「やーーーーー!」

「ふぁ!?」

 

最初に入った緒川が掛け声と共に振り下ろされる棒に気付く距離を取る。棒は空振りして地面を叩いた。

 

「いったああああああああ!!」

 

少女の甲高い悲鳴が木霊する。誰もが立ち尽くす中、未来は聞き覚えのある声に中に入る。

 

「みんな!」

「いたたた…ヒナ?」

「小日向さん!」

 

中には未来の友人の三人が居り未来の姿を見つけた瞬間抱き着いた。

 

「良かった。小日向さんも無事でしたのね!」

「ごめん、ヒナ。てっきり狼男が私達を追ってきたのかって勘違いしちゃって!」

「みんなも見たんだね、アレ」

 

自衛隊員が青い狼男になった時、三人は兎に角逃げて逃げて逃げまくってこの部屋に隠れていたのだ。そんな三人を他所にオペレーターコンビの藤尭朔也がこの部屋にあったパソコンを弄り映像を出す。

 

「この区画の電力は生きています!」

「他を調べてきます」

 

此処を一時的な拠点と決め緒川が他の場所で生存者を探しに行く。本来なら弦十郎も行くべきかも知れないが此処の護衛に怪我人という事で残る事になった。

 

「ところでヒナ、この人たちは?」

「ええと、この人たちは…」

「我々は特異災害対策機動部。この一連の事態の終息にあたっている」

 

創世の質問に如何答えるべきか迷った未来だが、椅子に座って治療を受けている弦十郎が代わりに答える。勿論、要点をボカシつつだが。

 

「…それって政府の…」

「それではあの怪物たちも新しいノイズですか?」

「そ…それは…」

 

詩織の質問に弦十郎は言い淀む。怪物とは十中八九ショッカーの怪人だろう。ノイズ以外の脅威を果たして教えて良い物かと迷う。

 

「モニターの再接続に成功、此方で操作出来そうです」

 

朔也が置いていたパソコンの操作が終わり、モニターに外の様子が映し出される。

 

「「!?」」

「酷い…」

 

モニターに映った外の様子を見て未来たちは息を飲んだ。校舎や施設、グラウンドも予想以上に破壊されている。もう一度、学校として使えるか疑問に思うほどに。

 

「待って、誰か学校に来たよ!」

「もしかして、助け?」

 

モニターに誰かが学校の敷地内に入って来るのが見え弓美たちは興奮する。そして、カメラがズームして捉えたのは、三人の少女だった。

 

「ビッキー?」

「翼さん!?」

「クリス!」

「小日向さん、知ってるんですか?あの人」

 

詩織の言葉に未来は頷く。助けを期待していた三人は少しガッカリしたが未来たちはそのままモニターを見続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「未来ーーーーー!みんなーーーーーーーーー!」

 

私の声が廃墟となった学校に響く。時刻はもう夕方、このままでは日が暮れてしまう。でも誰も私の声に答えてくれる者は居なかった

 

「ひでぇな」

「リディアンが…」

 

クリスちゃんと翼さんの声だけしか聞こえない。皆無事だよね?リディアンにはシェルターがあるから平気だよね!?

 

「ウルロロロロロロロロロッ、随分と遅い到着だな。ゾル大佐はとっくに本部に向かったというに」

 

この独特な笑い声、私は声のした学校の屋上を見た。其処には、

 

「ノイズも、もうとっくに全滅したがな」

 

忘れようとしても忘れられない私が負けた怪人

 

「トカゲロン!」

「トカゲ野郎!」

「あれがトカゲロン?ならば」

 

「変身」「Imyuteus amenohabakiri tron」「Killter Ichaival tron」

 

私達は皆、シンフォギアを装着し構える。前みたいには…

 

「負け犬の装者がまだ歯向かうか。だが慌てるな、先ずはこいつ等の相手をしてやれ」

 

トカゲロンが言い終えると同時に崩れた校舎から誰かが出て来る。自衛隊の人に校舎でたまに見かけた先生?

 

「一体なにを…」

 

翼さんの疑問は私も同感だ。まさか操ってる?ショッカーのやりそうな手だけど…「ワァオーン!」

一人が犬のように吠えて青い狼男の怪人に代わると次々と他の人達も吠えて青い狼男になる

 

「怪人?人間に化けてたのか?」

 

クリスちゃんが呟くけど多分違う。ショッカーはそんな生易しくない!

 

「トカゲロン!この人達に何をした!!」

 

私は大声でトカゲロンに聞く。私の予想が正しければ…最悪だ

 

「ウルロロロロロロロロロッ!その様子なら気付いてるようだな。まぁいい、教えてやろう。そいつ等はショッカーが開発したウルフビールスに感染した人間どもだ」

 

「ウルフビールス?」

 

「感染すれば最後、改造手術の手間も掛からず改造人間が出来上がる。これで怪人を量産するのがゾル大佐の作戦よ!」

 

ゾル大佐も来ているの!?そう言えばさっきも…でも今は、

 

「!じゃあ、自衛隊員や教員は!?」

 

「勿論、ただの人間だ。全員この場所で感染させたな」

 

トカゲロンが笑って答える。半面、私も翼さんもクリスちゃんも顔を青くする。ショッカーはどこまで!

 

「…元に戻す方法は!?」

 

「ショッカーがそんなものを用意してると思うかマヌケ!!」

 

私の問いにトカゲロンは更に笑い声を上げる。関係ない人をよくも!許せない

 

「お前達だけは許さない!」

 

「ほざけぇ!かかれぇ!!」

 

トカゲロンの声に狼男たちは一斉に私達に襲い掛かる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「立花さんと翼さんが変身した!?」

「それよりあのトカゲ男何なの!?ショッカーって何!?ノイズじゃないの!?」

「ショッカーって午後に教室に流れた曲に出てたよね」

 

モニター越しで見守る未来の友達の三人は困惑する。ノイズかと思っていた怪物が喋り響達が変身して戦う姿。弓美が「まるでアニメ」と呟く。それ程、モニターに映る映像は常識では考えられなかった。

未来が弦十郎の方に目を向ける。弦十郎は静かに首を縦に振ると未来は三人に語りだす。

 

「みんな、聞いて。ショッカーは………」

 

未来の説明を聞く三人は唖然とする。ショッカーの正体、それは世界制覇を企む悪の秘密結社であり人を攫い改造人間にして自分達の手足として使役し世界をショッカーの物にしようとしてる組織だと。そして、響はショッカーに狙われている少女だと教えた。

 

「世界征服って、今の時代で?」

「何よそれ、悪の秘密結社で世界征服って本当にアニメみたいじゃない!」

「板場さん…」

 

未来からショッカーの全容聞いた三人は息を飲む。何時もの日常でなら笑い話の一つに聞こえるが、実際に学校を襲われ自衛隊員が狼男になりモニターには作り物ではない本物の喋るトカゲだ。特に弓美が怯えている。

 

「響…クリス…」

「響くん…翼…」

 

そんな三人の反応を他所に弦十郎や未来はただ静かに響たちの戦いを見守る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ワァォーン!!」

 

「ちっ、やりづらいったらあらしね!」

 

クリスちゃんが愚痴を漏らす。私も同感だ。恐らく翼さんも…。それでも私達は狼男の爪や指先の弾丸をいなしカウンターで次々と倒している

 

「この怪人自体は其処まで強くはない!けどやはり…」

「分かってはいるけどな…」

 

剣で狼男を切り捨てる翼さんと狼男が大口を開けた瞬間にボーガンで打ち抜くクリスちゃん。私も拳で次々と狼男を殴り飛ばす。倒された狼男たちは溶けたり爆発して消滅していく。

これなら「必殺!シュート!」

 

「翼さん!クリスちゃん!避けて!!」

「「!?」」

 

私の咄嗟の言葉に翼さんとクリスちゃんは素早くジャンプする。直後、球体がその場所に当たり爆発を起こし何体かの狼男が巻き添えとなった

 

 

「チッ!マヌケどもめ、足止めも出来んのか?」

 

 

球体…ノイズ破壊ボールを蹴ったトカゲロンが残念そうに呟く。アイツ味方ごと…

 

「トカゲロン!味方も巻き込むとは何を考えて居る!?」

 

「味方?そいつ等は人間どもが居る限り幾らでも量産できる。戦闘員と同じ消耗品よ!それとも同情でもしたか?元に戻す方法なんて存在しないがな!」

 

翼さんの言葉を冷酷な答えで返し笑うトカゲロン。クリスちゃんもこれには苦虫を嚙み潰した顔をする。大分数を減らしたが未だに無数の狼男たちが私達を取り囲む。それに学校の屋上から私達を狙うトカゲロン。長期戦は不利だ。だけど、遠距離攻撃が出来るクリスちゃんは狼男たちにマークされている。…なら

 

「翼さん、クリスちゃん、協力して」

 

私の言葉に二人は頷く。たぶん、私の考えが分かったんだろう。二人は狼男たちの群れに突っ込む。トカゲロンの方向に居た群れに

 

「はあ!」

「邪魔だ!」

 

翼さんとクリスちゃんの攻撃に本能のままで迎撃する狼男たちがだ二人の勢いを殺せない。その後ろを私も付いて行く

 

「この辺りでいいだろう」

「そうだな」

 

途中、二人の足は止まり手を掴み合う

 

「立花!」

「後はお前に任せるぞ!」

 

二人が繋いだ手を下して私の方を見る。私はその手に足を乗せると二人は勢いよく上に振り上げた

 

「「行けぇぇぇぇぇ!!」」

 

私は屋上に要るトカゲロンに向け飛んだ

 

「ウルロロロロロロロロロッ、成程そう来たか。だが今回の俺はサービス無しだ!必殺!シュート!

 

トカゲロンは空中に居る私に容赦なくノイズ破壊ボールを蹴り込む。ボールは私に直撃した

 

「立花!」

「アイツ…!」

 

「ふん、わざわざ逃げ難い空中に来たのが運の尽きだ。あの世で後悔「ハアーーーーー!!」し!?」

 

トカゲロンが驚いた顔をしている。正直、ガードが間に合ってなかったら前の時みたいになってたかも知れない

 

「あれで無事だとならばもう一発を喰ら「やらせない!」わ、早い!?」

 

もう一発打たせる訳にはいかない。脚のジャッキと腰のバーニアで一気にトカゲロンに迫る。そして、私の拳がトカゲロンの胸に突き刺さる。

 

「グッ!?前より威力が上がってるようだが、俺を倒すにはまだ足りんぞ!前みたいに吹き飛ばして「もう一発!!」やる…何だと!?」

 

片方で駄目ならもう片方。私の片腕もトカゲロンを殴れるようにしている。これが私の二の矢だ!

 

「はああああああああああああ!!!!」

 

私のもう一発の拳がトカゲロンに突き刺さり体がヒビ割れいく。お願い倒れて!これで効かなかったらもう私には…

 

「馬鹿な…こんな馬鹿な!!俺様が、こんな小娘に敗れるのか!?」

 

ヒビが全身に広がったトカゲロンは断末魔を上げ爆発する。倒したけど私もその爆発に巻き込まれて空中に投げ出された。上手く着地したいけどトカゲロンの放った一撃が思いのほか響き、直地の姿勢が取れない。このままじゃ頭から落下する、改造人間の私なら多分大丈夫だと思うけど…痛いだろうな…?何時まで経っても衝撃が来ない?それにちょっとあったかいような…

 

「おう、目覚めたか」

「やったな、立花」

 

瞼を開くと翼さんとクリスちゃんが私を抱きしめていた。どうやら落下した時に受け止めてくれたみたい。周囲を見ると狼男たちも居なくなってる。翼さんとクリスちゃんが全部倒したみたい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「やったーーーーー!!!」」」」

 

モニターで見守っていた未来や創世達が抱き合って喜ぶ。ショッカーと呼ばれる悪の組織の改造人間を倒したのだ。少なくとも悪い奴、それもこの学院を襲撃してきた敵を倒したのだ。自分たちの脅威が取り除かれたと思った。

 

「………」

 

しかし、弦十郎は渋い顔をする。

 

━━━報告では怪人は少なくとも三体確認されている。後の二体は何処に?何故トカゲロンの援護をしなかった?

 

弦十郎はフィーネを追う前に怪人は三体居ると聞いていた。その内の一体、トカゲロンを倒し残りは二体。ショッカーの狙いが分からない弦十郎に不安が募る。

 

「あれ、トカゲ男の居た場所じゃない屋上に誰かいる?」

 

弓美の言葉に皆が再びモニターに集中する。そこには、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「トカゲロンを倒してくれて助かったわ」

 

!突然の声に私達はリディアンの別の屋上を見る。其処には了子さんが笑みを浮かべて立っていた

 

「櫻井女史!」

「了子さん!」

 

私と翼さんは無事だった了子さんの下に歩み寄ろうとした。けど、

 

「待て」

 

クリスちゃんの声に私も翼さんも止まる。クリスちゃんが了子さんを睨みつけてる。どうしただろう?

 

「フィーネ、この惨状はお前も関わってるのか!?」

 

「フフフ…ハハハハハハハハハハ!!」

 

クリスちゃんの問いに笑い声を出す了子さん。了子さんがフィーネ?どういうことなの?

 

「…その笑い声が答えなのか!?櫻井女史」

 

翼さんも怒りを込めた声を発する。嘘ですよね?

 

「いい加減正体を見せやがれ、フィーネ!」

 

クリスちゃんの言葉に了子さんはメガネと髪留めを取る。直後に青色の光を出した。そして、其処に居たのはネフシュタンを纏った了子さんだった

 

「嘘ですよ…そんなの嘘ですよね?あの時、了子さんは私を怪人から助けてくれたじゃないですか」

 

「あれは、デュランダルを守ったに過ぎない。あのままお前が倒れればショッカーにデュランダルを奪われていた可能性が高いからな」

 

「…了子さんがフィーネなら本当の了子さんは?」

 

「桜井了子の肉体は先だって食い尽くされた。いや、意識は12年前に死んだと言っていい。超先史文明期の巫女フィーネは遺伝子に己が意思を刻印し自身の血を引く者がアウフヴァッヘン波形に接触した際、その身にフィーネとしての記憶と能力が再起動する仕組みを施していたのだ。12年前、風鳴翼が偶然引き起こした天羽々斬の覚醒は同時に実験に立ち会った桜井了子の内に眠る意識を目覚めさせた。その目覚めた意識が私なのだ」

 

「それではまるで亡霊じゃないか」

 

クリスちゃんの呟きに了子さんは笑う。そして、了子さんは話を続ける。

曰く、フィーネさんの覚醒は過去に何度もあり、歴史に名を遺す偉人や英雄は大体がフィーネさんらしくパラダイムなんとかという技術の転換期に何時も関わっていたらしい。フィーネさんにとってシンフォギアも玩具…オモチャらしい。

 

「お前の戯れに奏は命を散らしたのか!?」

「アタシを拾ったり、アメリカの連中と組んでいたのもそれが理由か!?」

 

「…そうだ、全てはカ・ディンギルの為!」

 

あれ?了子さんが一瞬悲しそうな顔を…って、地面が揺れて轟音が!地面から何かが出て来る!?

 

 

 

 

 

 

 

突如、発生した揺れはリディアン音楽院を中心に広がる。その影響は地下でも起きた。

 

「なんだ、この揺れは!?」

 

発生した揺れに慌てたのは特異災害対策機動部二課本部に潜入した戦闘員達も同じであった。通路が次々と分断されエレベーターシャフトのエレベーター部分も崩れ、戦闘員や狼男が次々と落下する。

 

「きゃあああああああああ!!」

「皆、何かに捕まるんだ!」

 

慌てたのは弦十郎たちも一緒である。モニターで見守っていたらフィーネがカ・ディンギルと言った瞬間、地響きが起こり強烈な揺れも発生して弓美たちはパニックを起こし弦十郎が落ち着かせようとする。

 

「弓美、しっかりして!」

「何なの、この揺れ!?ショッカーの改造人間を倒したらハッピーエンドじゃなかったの!?このままじゃ皆死んじゃうよ!もう嫌だよ!!」

 

未来が必死に弓美を宥めようとするが安心したのも束の間、別の恐怖が襲ってきた事で弓美のメンタルは限界に近かった。

 

「了子くん…」

 

モニターを見ていた弦十郎は嘗ての仲間の名を呟く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

土埃が舞い、地面から何かが出て来る。それは、私が前に見たエレベーターの外側だった。これが、

 

「これこそが、地より起つりしし天にも届く一撃を放つ荷電粒子砲、カ・ディンギル!」

 

それはまさに巨大な塔と言える物だった

 

「これがショッカーの言っていた…こんな物でバラバラになった世界が一つになると?」

 

「そうだ、丁度月も出た。あの月を穿つ事によってな!」

 

「月を!?」

「穿つだと!?」

「何でさ!?」

 

私達の言葉に了子さんはこっちを見る。…やっぱり悲しそうな表情をしている

そして、了子さんは語る。了子さんはあのお方と呼ばれる人に近づこうとして怒りを買い塔は砕かれ人類は言葉もバラバラにされたそうだ。それがバラルの呪詛と了子さんは言っている

 

「月が何故古来より不和の象徴と伝えられてるのか分かるか?それは、月こそがバラルの呪詛の源だからだ!!人類の相互理解を妨げるこの呪いを月を破壊する事で解いてくれる!そして再び世界を一つに束ねる!そうすればショッカーなど敵ではない!」

 

カ・ディンギルが光り出している!エネルギーをチャージしている!?

 

「呪いを解く?それはお前が世界を支配するって事か?安い…安さが爆発しすぎている。やっている事はショッカーと変わらないじゃねえか!?」

 

「……クリ「その通り、世界を支配するのは我々ショッカーだ」ス…!?」

 

了子さんが何か言おうとした時、突然の男の人の声に私達も了子さんも声のした方に目線を向ける其処に居たのは、

 

「トカゲロンが敗れればノコノコ姿を現すと思ったが、予想通りだったな。古来より何度も転生しているとは知っていたが…成程そういうカラクリだったのか。バラルの呪詛をまだ破壊される訳にはいかん。…しかし、これがカ・ディンギルか素晴らしい、ありがたくショッカーが貰い受ける事にしよう!」

「ヴアッ、ヴアッ!」

「ギーゴーギーゴーギー!」

 

ゾル大佐と私の知らない二体の怪人が私達の前に現れた。

 

 

 

 




学院が襲撃されたのが早くて弦十郎たちは創世、詩織に弓美と早めに合流。それで、モニターにて響達がシンフォギアを纏うのを目撃し怪人達との戦闘も目撃。

トカゲロンを倒しフィーネが現れるにカ・ディンギルを出したらゾル大佐も現れ現場はより混沌に。


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27話 再生怪人と響計画

 

 

 

「ゾル大佐!貴様は特異災害の本部に行っていたんじゃ!?」

 

「お前を誘き出す為の芝居よ。さあフィーネ、大人しくカ・ディンギルの操作権を渡せ。そうすればお前を五体満足のままショッカー本部に連れっててやる」

 

「ほざけ!」、

 

ゾル大佐の言葉に怒った了子さんがネフシュタンの鎧の鞭で攻撃する

 

「ふん。アルマジロング!」

 

その鞭をアッサリ弾いたゾル大佐は傍に居た怪人の名を呼ぶ。直後、岩のような怪人…アルマジロングが体を丸めた

 

「弾丸スクリューボール!!」

 

その丸めた体で了子さんに体当たりしようとする。了子さんが直前に鞭を使ってバリアを作る。これなら、

 

「無駄だ!」

 

怪人の声を共にバリアが粉砕される!それならばと了子さんが鞭を剣の様にして受け止めようとするが、

 

「ギーゴー、俺が居るのを忘れるな!」

 

何時の間にか、了子さんの背後を取っていた黒い怪人が巨大な左腕で了子さんを殴り飛ばす。殴り飛ばされた了子さんだけど空中で姿勢を制御して私達の前に降り立つ。口の端から血を流す了子さんを見て私は決心した

 

「了子さん、一緒に戦いましょう!」

 

「「「!?」」」

 

私の言葉に三人が驚いた顔をする。当然か

 

「おい、良いのかよ!?」

「立花!?」

「私と共闘するだと?」

 

「少なくともショッカーは私達の敵です。なら協力し合える筈です!」

 

三人が呆れたような顔をする。そして、ゾル大佐達はそんな私達を黙って見ていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なに!?また誰か現れた!?ただでさえややっこしいのに!」

「しかも、トカゲじゃない化け物が二体…」

「何なのよ、学院に変な塔は立つし見るからに軍人みたいな人が来て…顔が明らかに味方じゃなさそうなんだけど」

 

揺れが納まった後、落ち着きを取り戻した創世たちは未来と一緒にモニターで外の様子を見ていた。フィーネと名乗る女性が月を破壊するだの先史文明がどうのと聞いていた弓美たちだが、二体の怪人を連れたゾル大佐の出現に困惑する。

 

「…奴の名はゾル大佐。我々がショッカーの首領格と睨んでいる人物だ」

 

弦十郎が淡々と説明する。その言葉を聞いてキョトンとする詩織たち。

 

「あいつがボス格なの!」

「つまり、あの男を倒すか捕まえればショッカーは壊滅する?そうでなくても機能不全に陥るかも!」

「立花さん、翼さん、負けないでください」

 

弦十郎たちは地下で戦いを見守る事しか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…しょうがねえ、フィーネと組んでやるよ」

「そうだな、櫻井女史との決着はショッカーを倒した後にでも出来る」

「お前達…」

 

私の説得に翼さんとクリスちゃんが折れて了子さんと一緒に戦う事を納得してくれた。クリスちゃんが了子さんの方をチラチラ見て困惑する了子さんだったけど私の顔を見て溜息をついた。なんで?

 

「仕方ない、今回だけだ」

 

了子さんも私達と一緒に戦ってくれる

 

「話し合いは終わったのか?わざわざ待ってやったんだ。ありがたく思え。貴様らを片付けた後はカ・ディンギルの接収とシェルターに逃げ込んだ生徒どもを捕らえねばならんのでな」

 

「そんな事、こっちは頼んでいない!」

「生徒たちを捕らえてどうするつもりだ!?」

 

「無論、改造人間の材料にしてやるだけよ!」

 

翼さんの質問に答えるゾル大佐。皆を改造人間に!?

 

「なんでさ!?」

 

「理由は貴様が知っているのだろ?フィーネ。話してやったらどうだ?」

 

「…了子さんが…」

 

ゾル大佐の言葉に私達は了子さんの顔を見る。了子さんが汗をかき顔を見せている。知ってるんだ了子さんは、

 

「…リディアンに通う生徒は、シンフォギアの適合が見込まれた装者候補たちだ。聖遺物に関する歌や音楽のデータを生徒を被験者にする事で集めてた…」

「な…なんだと?」

 

!リディアンが!?

 

「よく考えれば分かる事だ。財政界の寄付金があるとはいえ、あそこまで学費を安くして生徒を集め音楽を中心に学ばせる。そして特起部二の本部がなぜ学院の地下なのか。特異災害の本部のデータから、これを見つけた時は笑ったもんだ。国も絡んでるとはいえ此処まで堂々とやっていたからな。だが、勝利者はショッカーだけで十分だ!全ての生徒もデータもショッカーが頂く」

 

じゃあ、未来もシンフォギアを纏う可能性が…駄目だ未来を巻き込むのは駄目だ!

 

「そんな事、許さない!」

「数はこっちの方が有利なんだ!怪人が二体なら十分倒せる!」

 

ゾル大佐の言葉に私とクリスちゃんがそう返し翼さんも剣を向ける。確かに私達と了子さんなら怪人に二体くらい…

 

「ふん、数の利を押すか。丁度いい、お前達の為に用意していたものがある」

 

そう言い終えるとゾル大佐は手を上に向け指を鳴らした。一体何を…ウオオオオオオオオオオ…!

 

「な、何だこの声は!?」

           イッヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ

「まだ別の奴が潜んでのか!?」

               ギーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

周りから不気味に聞こえる声に私達はお互いにカバー出来るよう背中を預け合う。その間にも不気味な声が増えていく

 

シュシュシュシュシュシュ

           ヴヴヴヴヴヴヴヴヴ

                  フワフワフワ

 

そして、学校の残骸からそいつ等が姿を現す。あれは!

 

「嘘だろ、おい!」

「馬鹿な!?」

 

クリスちゃんも翼さんも驚愕の表情をしている。了子さんも汗を搔いている。正直私も…現れたのは間違いなく

 

「地獄サンダー!」「キノコモルグ!」「ガマギラー!」「蜘蛛男!」「カメレオン!」「エジプタス!」「エイキング!」「トリカブト!」「蝙蝠男!」「ザンブロンゾ!」「ドクダリアン!」「ムカデラス!」「クラゲダール!」「ムササビードル!」「ヒトデンジャー!」「モグラング!」「サボテグロン!」「ピラザウルス!」「さそり男!」「カニバブラー!」「ドクガンダー!」「サラセニア!」「蜂女!」「アマゾニア!」「コブラ男!」「かまきり男!」「ヤモゲラス!」「ゲバコンドル!」

 

それぞれの怪人が名乗り上げる。間違いない私達が倒してきた筈の怪人たちだ!!

 

「一体どうなってるんだ。アタシが倒した怪人が何で此処に!?」

 

クリスちゃんの声に私も翼さんも頷く。確かに私達が倒した筈なのに

 

「フフフ…ハハハハハハハハハハ!愚か者どもめ、改造人間は死なん!破損した部分を造り換えれば何度でも蘇るのだ!!どうだ、立花響!お前の兄妹たちだ!さあ、これだけの怪人軍団を相手に出来るか!?」

 

「私に…兄弟は…いない!」

 

ゾル大佐の言葉に反論するけど皆は茫然とする。改造人間は死なない…それって、私達に勝ち目はない?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何か一杯増えたんだけど!?」

「数が多すぎる!」

「小日向さん、勝てますよね!?立花さんたち負けませんよね!?…小日向さん?」

 

弦十郎たちもモニターで怪人軍団が現れたのを目撃した。数が一気に増えた怪人達に不安を感じた詩織が未来に同意を求めるが、未来の様子がどうにもおかしい事に気付く。良く見ると弦十郎たちの特異災害の職員たちも信じられない物を見たような反応をする。

 

「嘘…うそ…」

「し…信じられない…」

「ど…どうしたの?」

 

事情の知らない弓美が未来に聞く。暫く口を閉じていた未来は重い口をゆっくり動かす。

 

「一部知らない怪人もいるけど、この怪人達は一度、響達に倒されてる。…爆発して死んでるの」

「死んでるって、まさか幽霊!?」

「いや、ショッカーの事だから何かある筈だ」

 

弦十郎が落ち着かせるよう言ったが、直後にゾル大佐が「改造人間は死なん!」の発言を聞いた。

 

「直せば復活するだと!?さしずめ再生怪人と言えばいいのか?」

「…もう終わりだよ、私達…」

 

モニターに映ったゾル大佐の言葉に弓美が呟く。その言葉に皆が一斉に弓美に視線を向ける。

 

「学院も滅茶苦茶になって、あんなに化け物が…勝てる訳ない…。あの男が言った通り私達も改造人間にされちゃう…」

「まだ終わりじゃない!響達だって私達を守る為に頑張っているんだよ!」

「そうだよ、私達も装者候補だって言ってたし戦えるかも…」

「頑張ってどうにかなるの!?あの数を見てよ!」

 

未来の言葉も弓美の叫びにモニターを見る。映像は響達が怪人達に囲まれていた。

 

「あれだけの数に勝てる訳ない!仮に勝てても怪人は何度も復活するんでしょ?倒しようがないよ。こんな事ならリディアンになんか通わなければ良かった…」

 

ゾル大佐の言葉が正しければ怪人を倒しても復活する。復活し続ける敵を倒す事なんて出来ないと弓美は考えた。

 

「…案外そうではないのかも知れない」

 

「え?」

 

しかし、少し考え事をしていた弦十郎の呟きに弓美や未来が振り向きモニターに目を移す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「敵の言葉を鵜呑みにするな!」

 

翼さんもクリスちゃんも私も茫然とする中、了子さんの檄が私達を正気に戻す

 

「しかし、櫻井女史。怪人達が死なないなら私達の攻撃なんて…」

「馬鹿が!そんな直ぐに復活する訳が無い。直ぐに復活できるんだったら何故直ぐにお前達に差し向けなかった!?」

「「「!?」」」

 

了子さんの言葉に私達はハッとする。そうだ、直ぐに蘇るんだったら何で今まで出てこなかったんだろう。答えは…直ぐには蘇らない!

 

「直ぐには蘇らない…」

「…少なくとも復活には時間が掛かるってことか」

 

翼さんもクリスちゃんも私と同じ結論にいったみたい

 

「…気付いたか、だが分かったところでこれだけの数を相手に出来るか?アルマジロング!アリガバリ!」

 

ゾル大佐の二体の怪人の名を呼び屋上から移動し私達の前に現れる。そして怪人達が一斉に吠える…不気味な事この上ない。私や翼さんにクリスちゃんが構える

 

「待て、ゾル大佐!一つ聞かせろ!」

 

そんな中、了子さんがゾル大佐に話しかける。今にも飛び掛かりそうだった怪人達が止まった?

 

「どうした?くだらん時間稼ぎなら付き合う気はないぞ」

 

「私が聞きたい事は一つだ。何故、この怪人達からもガングニールの反応がする?仮にライブ会場で破片を回収できてもこんなには無い筈だ!」

 

ガングニール?怪人達から反応?どういうこと?

 

「気付いていたか。そうだな…貴様たち装者への地獄の土産に教えてやる」

 

そう言うとゾル大佐は懐から一枚の紙を取り出す。どうやら写真のようだ。それを屋上から了子さん向けて投げ渡す。写真を受け取った了子さんが見た瞬間、了子さんが顔を引き攣らせゾル大佐を睨みつける

 

「ゾル大佐!貴様…!」

 

「何故貴様が怒る?お前にとって立花響なぞどうでもよかろうに。それとも同情か?」

 

私!?その写真、私に関係あるの!?

 

「了子さん、私にもその写真を見せて下さい」

「…止めとけ、ハッキリ言って胸糞が悪くなる」

 

私のお願いに了子さんは顔をしかめて断られる。胸糞が悪い?ショッカーの事だ、覚悟は出来ている

 

「お願いです、了子さん。その写真を見せて下さい!多分、私は見なきゃいけないと思います」

「櫻井女史、私からもお願いします」

「アタシからも頼む」

 

翼さんもクリスちゃんも私に加勢してくれる。お願いです了子さん

 

「…後悔するなよ」

 

了子さんが写真を渡してくれた。その写真を受け取り写ってる物を見る。翼さんとクリスちゃんも横から見た

 

「「「!?」」」

 

私だ!写真にはガラスのカプセルに入れられ液体に浮ぶ裸の私が写って居る。でもおかしい、それは一つではない()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「これは一体…」

「…恐らく、クローン人間だ」

 

翼さんの呟きに了子さんが答える。クローン人間?よくSF映画に出る…でも何の為に…

 

「ショッカーが立花響の体を調べた時、面白い事が分かったと言っただろ?それである計画が立案されたのだ」

 

計画!?前に師匠が言っていた…

 

「響計画…」

 

私の呟きにゾル大佐はニヤリと笑う

 

「知っていたか、大方アジトで処理された書類でも見たのだろう」

 

「その計画は立花響を改造人間にするものではなかったのか!?」

 

「それはあくまでもオマケだ。本命はこの響計画にある」

 

了子さんの言葉にゾル大佐は言い切る。それだけ力を入れていた?

 

「さっきから何なんだよ響計画って!?」

 

ゾル大佐の態度に苛立ったクリスちゃんが大声をだす。でもそれも見てもゾル大佐は態度を変えなかった

 

「慌てるな、小娘。その面白い事と言うのは立花響の血液中に通常ではあり得ない物質が検出された」

 

「ありえない物質?」

「!まさか…」

 

「そう、ガングニールだ」

 

「「「「!?」」」」

 

ガングニールが私の血から検出された!?なんで!?

 

「馬鹿な、私が調べた時はそんな物出なかったぞ!」

 

「貴様らの機械(おもちゃ)と我々ショッカーの装置を一緒にするな。貴様も考えれば分かるのではないか?聖遺物ガングニールが心臓の細胞と融合してるのなら血液にも少なからず影響があると。そこで、ショッカーは考えた。この立花響の血を使ってクローンを作り出し其処から聖遺物を量産出来ないかとな」

 

「聖遺物を量産!?」

「無茶苦茶だ!」

「そんな事、出来る訳がない!?」

 

了子さん達がゾル大佐の発言に反発する。確かに聖遺物を量産するなんて滅茶苦茶だ

 

「ショッカーの科学力を舐めるな。…っと言いたいが出来上がったクローンはどれもオリジナルに比べ聖遺物の反応は脆弱、これではノイズへの対抗にもならんかったのは事実だ。だから、計画の一部を変更した」

 

「変更だと」

 

「弱いのなら強化すればいい。クローンで作り出した立花響を材料にして加工する事にした」

 

「加工?」

 

「何十、何百という立花響を生きたまま刻みバラバラにし溶かし圧縮してやっと完成した。それが『ショッカー・ガングニール』だ!これが、響計画…またの名を『ガングニール量産計画』の真意よ!」

 

フハハハハハ…ワッハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!

 

ゾル大佐は本当に素晴らしい物を作ったように自慢する。同調した怪人達も笑い出す

 

「…狂ってやがる!」

「人の命をなんだと思っている!?」

 

その反応に翼さんやクリスちゃんが怒る。それが私には嬉しくて…そして悲しい

 

「魂も無い人形に命など笑わせる。もういいだろう、かかれぇーー!!」

 

ゾル大佐の声に控えていた怪人達が一斉に襲い掛かってきた。私達はショッカーに勝てるの?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…如何いう事?どうしてあの写真にたくさんの響が写ったの?」

 

未来たちもモニターで偶然、写真の内容が見え弓美や創世が混乱する。

 

「小日向さんなら何か知ってますか!?」

「………」

 

詩織の質問に未来は押し黙る。響に断りもせず伝える事に罪悪感を感じて黙るしかなかった。

 

「何で黙ってるのよ!?まさか響もあいつ等の元仲間なの!?」

「!ちがっ」

 

未来のおかしな態度に弓美が響は元ショッカーだったのではないかと言う。即座に否定したかった未来だが、否定した後どう説明すればいいか分からなかった。

 

「それは違う」

 

だから、未来の代わりに弦十郎が話す。一年半程前に起きた立花響を襲った悲劇を。後で響に恨まれるかも知れない、しかしこのまま友達に悲しい勘違いをさせるべきではないと弦十郎は判断していた。

弦十郎の話を聞く三人は当初は疑いの目をしていたが、話が進む連れて三人の目から涙が溢れていた。

 

「ビッキーがそんな目に…酷いよ!」

「拉致されて無理矢理改造人間に…立花さん!」

「…何よ、アニメでもこんな酷いストーリーなんて無いわよ!ショッカーの馬鹿ーーーー!!」

「響のお父さんがそんな最後を…」

 

弦十郎から語られる内容は未来としても初耳だった。響のお父さんが死んだ事は知っている。でもそれが()を逃がす為に行動して殺された。

部屋に暫く少女たちの泣き声が響く。そして、モニターには怪人達が一斉に響達へと向かったところだった。

 

 

 

 

 




フィーネ、まさかの響たちと共闘。…尚、カ・ディンギルは動き続けてる模様。
仮面ライダーで当たり前の再生怪人軍団が出現。響達に再生怪人達が名乗り上げるところが、この作品で一番やりたかったネタです。


後は、今回出てきた設定など改めて。



『響計画』

またの名を『ガングニール量産計画』。ショッカーが拉致した立花響の体を調べ、血液中に未知の物質を確認。以前から観測されていた天羽奏のガングニールの反応と一致してショッカーは響作戦を立案。内容は立花響を改造人間にして取り出した臓器や肉体、血液からクローンを作り出しガングニールを量産しようと目論んだ。しかし、出来上がったクローンは確かにガングニールの反応はしたが、オリジナルの響に比べ遥かに低く対ノイズとしても使い物にならないと判断される。
そこで、ショッカーは計画の軌道修正を行う。ガングニールの濃度を上げる為、立花響のクローンを文字通り加工して「ショッカー・ガングニール」の作製に成功した。



『ショッカー・ガングニール』

ショッカーが作り上げた聖遺物モドキ。数多くの立花響のクローンを磨り潰して完成させた。これだけしてもオリジナルの響のガングニールを遥かに下回るがノイズへの対抗には十分と判断されている。大きさは卓球のピン球程度しかない。更にこの状態で生命反応もある。
尚、外気に触れたままでは消滅してしまう為製造されたら怪人か戦闘員、拉致した人間の体内にしまわれる。


これがショッカーが響を改造人間に本当の理由です。


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28話 シンフォギアVS怪人軍団

 

 

 

「喰らいやがれ!」

 

クリスが腰部アーマーから小型ミサイルを展開し、ミサイルを怪人達に撃つ。殆どの怪人は回避行動に移るが、飛び道具を持つ怪人が相殺する。

 

「風鳴翼、今度こそ死んで貰うぞ!」

 

「かまきり男!」

 

かまきり男の鎌を剣で受け止める翼。鎌と剣の間に火花が散るが、

 

「ケッケッケッケッケッケ!」

 

突然、背後から緑色の鞭が伸び翼の片腕に絡まる。

 

「なにっ!?」

 

翼が振り向くとセラセニアンが鞭を引っ張ってる。更に、地面から腕が出て翼の足を掴む。

 

「今度こそ息の根を止めてやる!」

 

地獄サンダーが地面から顔を出し翼に宣言する。怪人達の集団に翼は苦戦する。

 

「この!」

 

響の拳がモグラングに直撃する。しかし、モグラングは少し後ずさっただけで大してダメージがない。

 

「そんなもんじゃ歯が立たねえ!大人しく死ね!」

 

モグラングのシャベル状の腕が迫り響がガードするが、響の背中が爆発を起こす。背後からの攻撃によろめく響。後ろに視線を送るとアマゾニアが笑みを浮かべ、指先を此方に向けていた。

 

「頭脳破壊電波!」

 

「グっ!?」

 

ムカデラスの攻撃に頭を押さえるフィーネ。酷い激痛がフィーネに襲い掛かる。

 

「これは、…以前立花響が喰らった奴か!…なるほど、…この威力ならあの叫びも納得できる!…ツっ!」

 

「俺の頭脳破壊電波で脳細胞がメチャメチャになった時、お前がどうなるか見ものだ!」

 

攻撃が聞いていると判断したムカデラスが威力を強める為、フィーネに近づく。辛いのかフィーネが地面に蹲りムカデラスは勝利を確信した。その時、薄紫の鞭が地面から飛び出しムカデラスを刺し貫いた。

 

「何だと!?」

 

「…不用意に…近寄り過ぎたな…ムカデラス…」

 

「貴様、わざと地面に蹲ってネフシュタンの鎧の鞭を地面に刺していたのか!?」

 

言い終えると共にムカデラスの体は爆発四散する。頭脳破壊電波が消えたが頭痛が残る中、立ち上がるフィーネだが周りには無数の怪人が狙っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ムカデラスめ、不甲斐ない」

 

リディアン音楽院の屋上でシンフォギア装者と怪人達の戦いを見ていたゾル大佐が呟く。手の空いたフィーネに蜘蛛男とカニバブラーが襲い掛かる。他のシンフォギア装者も見れば複数の怪人達が襲い掛かっていた。

 

雪音クリスにはムササビードルとサボテグロンが相手をし、サボテグロンのサボテン棒がクリスのアームドギアを弾き飛ばす。そこムササビードルの拳がクリスの体に撃ち込まれる。

 

複数の怪人に拘束された風鳴翼もかまきり男の鎌を一瞬だけ弾き、セラセニアンの鞭を切り足を押さえている地獄サンダーの頭を刺し貫く。短い悲鳴を上げた地獄サンダーは地面に沈み爆発する。そして、拘束を解いた翼はセラセニアンを切り捨て、かまきり男に向かう。しかし、そこを蜂女が襲い掛かった。蜂女の剣と翼の剣が再び火花を上げる。

 

モグラングの頑丈さに苦労する立花響、隙を見せればアマゾニアやドクガンダーがロケット弾で攻撃してくる。無理に避ければモグラングの攻撃をまともに受けてしまう。ならばと、響はトカゲロンに使った戦法を繰り出す。それでもモグラングは倒せなかったが大ダメージを与えたようだ。

 

フィーネに視線を戻すと、丁度蜘蛛男がフィーネに毒針を撃ち込みガードしていたフィーネの手に刺さる。代わりにカウンターとしてネフシュタンの鎧の鞭が蜘蛛男を切り裂く。しかし、蜘蛛男の毒で手先から溶けけだしていく、その事にフィーネは即座にネフシュタンの鎧の鞭で溶ける腕を切り落とした。

 

「了子さん!」

「櫻井女史!」

「フィーネ!?」

 

それに気づいた響達が心配そうに近寄ろうとするが、怪人達が立ち塞がる。

 

「!…平気だ、この程度ネフシュタンなら」

 

そう言った直後に鎧の鞭が切られた腕に巻き付き、少し光った後離れた。そこにはフィーネの手が復活していた。

 

「ほう…」

 

それを見て益々ネフシュタンが欲しくなるゾル大佐。怪人達が何体か倒されたが未だに怪人達の方が圧倒的に上回っている。同士討ちを避ける為に一人に2~3体の怪人が相手をし、倒されるか離れた場合に交代するよう指導している。今のところ上手くいっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「がんばれ!」

「負けるなぁ、響!」

「ショッカーなんかに負けるな!」

 

未来や弦十郎の居る部屋にも響達の戦いの様子が映る。モニターの前で必死に響達にエールを送る創世や詩織に弓美。未来も声を出さず心の中で響の勝利を願っている。

 

「くっ、今から俺も!」

「指令は此処に居て下さい!」

「本部に降りたショッカーがまだ要る可能性があるんですよ!」

 

思わず部屋を飛び出そうとした弦十郎を止める朔也とあおい。飛び出したい気持ちを押さえ椅子に座る弦十郎。背中の傷もだいぶ回復してきた。モニターには、嘗て弦十郎が倒したピラザウルスがフィーネを抱きしめた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「グハァ!」

 

フィーネの口から悲鳴と血が噴き出す。ピラザウルスがフィーネの腰の部分に抱き着き力を入れる。ベアハッグをまともに喰らったフィーネの背骨と腰の骨を砕かれたのだ。ネフシュタンの鎧が回復させるがその度にピラザウルスが砕く。フィーネもされるがままではなくネフシュタンの鎧の鞭や蹴り、肘で必死に反撃するが無反動砲も効かないピラザウルスには暖簾に腕押しもいいところであった。

 

「イッヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ!」

 

フィーネの悲鳴を聞いたピラザウルスが笑い声を上げ更に腕の力でフィーネの背骨と腰の骨を砕く。

 

「グアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」

 

何度目のベアハッグを喰らったフィーネは大声で叫び大量に血を吐く。それと同時にフィーネが何かを落とした。

 

「フィーネ!?」

「了子さん!?」

 

クリスや響が助けに行こうとするが、それを許す程ショッカーの怪人は優しくない。

 

「いいぞ、ピラザウルス!フィーネの心を折れ!ショッカーに忠誠を誓うまでやり続けろ!!」

 

フィーネの悲鳴に気を良くしたゾル大佐が命令を下す。フィーネの抵抗も大して効いていないピラザウルスは頷き回復したばかりの背骨と腰の骨を砕く。

 

「くそっ!邪魔をするな!」

 

フィーネの悲鳴を聞いたクリスがガトリング砲と小型ミサイルで怪人を牽制しようとするが、サボテグロンはサボテン棍棒でガードし、ムササビードルは上空に飛び速度で小型ミサイルを撒いた。

 

「これじゃ近づけない!?」

 

アマゾニアとドクガンダーのロケット弾を搔い潜り近づこうとするがモグラングがそれを許さない。剣のような右手で切りつけられ、響は行きたい方向の逆へと引かざるえない。

 

 

 

 

 

 

 

 

「このまま順調にいけば…どうした?」

「ゾル大佐、これを」

 

途中、蝙蝠男がフィーネの落した物を持ってきた。それは、

 

「あれは、ソロモンの杖!?」

 

クリスが声を出す。フィーネが落としたのは完全聖遺物のソロモンの杖だった。

 

「ほう、これが…先ずは一つだ」

 

狙っていた完全聖遺物を手に入れた事に喜ぶゾル大佐は蝙蝠男に戦いに戻る様指示をだす。

 

「これでショッカーも更に強くなる。…ん?」

 

戦いが有利に進んでる事に満足したゾル大佐がカ・ディンギルの方を見る。カ・ディンギルは先程よりも輝きが増していた。

 

「いかんな、このままでは発射される。…最悪、月が破壊された場合のプランも考えなければ」

 

ショッカーとしては、バラルの呪詛は重要ではあるが最悪壊されてもいい。月が破壊されれば重力崩壊を起こし人間達は大混乱に陥る。その混乱に乗じてショッカーが世界を支配すればいい。そう考えたゾル大佐はカ・ディンギルを放置した。何より操作の仕方など知らない。

 

「カ・ディンギルが!」

 

そして、カ・ディンギルが発射されようとしている事に気付いたのはクリスだった。

 

「させない!」

 

怪人達の一瞬の隙をつき、大型ミサイルを展開し発射させる。そのミサイルに皆が注目する中、フィーネにベアハッグをしていたピラザウルスもミサイルに目を向け一瞬力が緩んだ。

 

「…ここだ!」

 

その隙をフィーネは見逃さなかった。ネフシュタンの鎧の二本の鞭を持ったフィーネはピラザウルスの目に突き立てる。悲鳴を上げたピラザウルスがフィーネを放して顔を押さえるが直後に倒れ爆発する。解放されたフィーネが飛んだクリスのミサイルに目を向けると、響から離れたドクガンダーがロケット弾でミサイルを撃ち落とした。

 

「クリスのミサイルのもう一発は!?」

 

周囲を探すが、居るのは怪人と響と翼だけ。だが、皆が上を向いてる事に気付いたフィーネも上を見る。そこには自身の出したミサイルに掴まりカ・ディンギルの上空を飛ぶクリスの姿が。

 

「クリスちゃん?」

「なんのつもりだ!?」

 

「あの娘、カ・ディンギルの上に行って何するつもりだ?」

 

「…!止めろ、クリス!カ・ディンギルの発射はもう止められん!そんな事をすればお前が!!」

 

響も翼もゾル大佐もクリスが何をするのか分からなかった。しかし、フィーネだけ何かを悟ったようにクリスを制止しようとする。

 

 

Gatrandis babel ziggurat edenal

 

 

「歌?」

 

「これは歌は…絶唱?」

「クリスちゃん!?」

 

大気圏付近でミサイルを離したクリスは地球に向けて絶唱を歌う。

 

Emustolronzen fine el baral zizzl

更に腰の部分のパーツが開き小型ユニットが飛び出る。それがクリスの周囲に展開する。

 

「クリス、今なら間に合う!逃げるんだ!カ・ディンギルのエネルギーはシンフォギアの絶唱ではどうにもならん!!」

「クリスちゃん!!」

 

フィーネや響がクリスの名を呼ぶが、クリスは構わず絶唱を口にする。

 

Gatrandis babel ziggurat edenal

 

アームドギアを手にしエネルギーが撃たれる。そのエネルギーがクリスの出した小型ユニットに当たり乱反射する。その姿は蝶のように見えた。

 

Emustolronzen fine el zizzl

 

絶唱を歌い切ったクリスのアームドギアが拳銃型からレールカノンのような大きさになる。

 

「クリス!!」

 

フィーネの絶叫と共にカ・ディンギルの砲撃が起こると同時にクリスも絶唱を込めた一撃が放たれる。

 

「フハハハハハ!これが、カ・ディンギルか!?素晴らしいエネルギーだ!確かにこれなら月を破壊できるかも知れん!!」

 

カ・ディンギルの生み出した衝撃波に帽子を押さえるゾル大佐が年甲斐もなくはしゃぐ様に声を出す。このカ・ディンギルを改良し運用すれば世界中の都市の破壊も夢ではない。

 

そして、カ・ディンギルの砲撃とクリスの砲撃がぶつかり合う。一見拮抗しているように見えた。

 

「押し留めている?…そうか一点集束か!?」

 

「…素晴らしい、あれが絶唱の本当の力か」

 

フィーネとゾル大佐が呟く。しかし、押し留めていたクリスのアームドギアにヒビが入りそれが広がっていく。限界が近かった。

 

━━━ずっとアタシは、パパとママの事が大好きだった

 

『危険を承知で娘を連れてきて自分がおっちんでりゃ世話ないんだよ!両親が死んでお前がどんな目にあった!言ってみろ!』

 

━━━あんな怪人が何と言おうとアタシの想いは変わらない。だから、二人の夢を引き継ぐんだ。パパとママの代わりに歌で平和を掴んで見せる。アタシの歌は、

 

カ・ディンギルの砲撃がクリスの砲撃を掻き消しクリスに迫る。そして、クリスを飲み込んだ。

 

━━━その為に!

 

地上に居た響も翼もフィーネもゾル大佐も怪人達も月を見ていた。カ・ディンギルの砲撃が月に到達し一部が破壊された。

 

「逸れた!?クリスが僅かに逸らしたのか!?」

 

フィーネの声が辺りに響く。そして、上空から何かが降って来る事に気付いた。

 

「「あ…」」

 

響も翼も声を出す。それは絶唱を使ったクリスだった。その光景は弦十郎達も目撃し自分達の無力さに打ちひしがれる。そして、落下するクリスは林の方に消えた。

 

「あ…ああ…アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」

 

それを見届けた響の絶叫が辺りに木霊する。そして、直に鳴き声へと変わった。

 

「…そんな…せっかく仲良くなれたのに…私の体の事も…クリスちゃん…優しい娘だったのに…こんな別れ方…嫌だよ…嘘だよ…」

 

嗚咽交じりで喋る響は石を握って砕き地面を殴りつける。それを黙って見ている翼に動かない怪人達。

 

「自分を殺して月への直撃を阻止なんて…馬鹿な娘だよ」

「!?そんな…!」

 

クリスが侮辱されたと思いフィーネの方を見る響だが、フィーネが泣いている事に気付いた。

 

「こんな世界を守って何の意味がある。バラルの呪詛を破壊しなければ人類は一つにならない。痛みだけが人の心を繋ぐ絆なのに!」

 

フィーネの遣り切れない思いを口にする。しかし、その目からはクリスへの涙が溢れていた。フィーネもクリスの事で悲しんでいる。それが、響にも翼にも分かった。

 

「素晴らしい…素晴らしいぞ!!これが絶唱の本当の力か!この素晴らしい兵器を何としてでもショッカーが手にするのだ!!」

 

そんな空気の中、ゾル大佐が歓喜の声を出す。響も翼もフィーネもゾル大佐の方を見る。ゾル大佐はまるで素晴らしい物を見たかのような反応で拍手までしていた。

 

「…あの男!」

「…ゾル大佐!」

 

翼と響がゾル大佐を睨みつける。響の心臓が僅かながらに脈打つ。

 

「あの小娘の死体はあっちか、後で回収し立花響のようにクローンで増やすとするか。あの絶唱も使えればショッカーの世界征服はより確実なものとなろう。フッハハハハハハハハ!!」

 

ゾル大佐の笑い声に怪人達も笑い出す。ショッカーにとってクリスのやった事など意味の無い、理解できない行動だった。フィーネの瞳に怒りが宿る。

 

「笑うな!命を通して大切な物を守り通した者を、侮辱するな!」

「…クリスちゃんの行動にあなた達は何も感じないの?」

 

翼の怒鳴り声と響の静かな疑問にゾル大佐は笑みを浮かべる。

 

「あの小娘の絶唱でシンフォギアにはまだ色々利用価値がある事に気付いた。それについては感謝しよう。だからクーロンを作り世界征服の為に役立って貰う事にする」

 

ゾル大佐が冷酷な言葉を発する。ゾル大佐にとってクリスはその程度の価値しかない事に響の怒りが爆発した。

 

『それが、人の夢を奪ってきたお前達の言葉か!!』

 

シンフォギア諸共体が黒く塗りつぶされたようになった響が獣のように叫ぶ。

 

「立花?」

「…暴走?」

 

翼とフィーネが響の様子に困惑する中、ゾル大佐はその様子を見て笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 




この世界のフィーネはクリスとそれなりに絆があったようです。


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29話 暴走とカ・ディンギル攻防戦

某サイトで「シンフォギアXD」が「ひぐらしのなく頃に」とコラボするらしいです。
この調子で「超ヒロイン戦記」の続編出ないかな。

後、仮面ライダーコラボとかも無いかな?
敵はショッカー辺りで響達の反応とか見てみたい。


 

 

 

 立花響の戦闘データは大いに役立った。聖遺物の兵器転用、改造人間に聖遺物の投与を含め、シンフォギア装者との戦闘はじつに実りがあった。怪人達の戦闘力も想定以上に伸び、特異災害は中々便利だ。だが、そろそろ消えて貰おうと考えたが、立花響のデータで気になるものがある。蜘蛛男への最後の攻撃が想定されていた数値を上回っていた。報告では、夜とはいえ立花響の顔はどす黒く変色していたそうだ。あの小娘の感情データから見てキレた可能性が高い

 

「目論見通りと言ったとこか」

 

俺の目の前に完全に黒く染まった立花響が咆哮を上げている。まるで獣のようだ、こんなんで更なる戦闘データが取れるのか?

 

 

 

 

 

 

「立花!?一体…」

「…融合したガングニールの欠片が暴走している」

「ガングニールが!」

 

響の突然の代わり様に焦る翼。フィーネが響に何が起こったのか話す。

フィーネは言葉を続ける。

 

響の感情が高ぶり、それが心臓にあるガングニールの欠片が反応し制御しきれない力が響を襲っている。このままではガングニールに意識が塗り固められ最後には…

 

「どうやら、私が想定していた以上に心臓とガングニールの欠片が融合しているようだ」

「そんな、止める手立ては!?」

「…そんなものはない。融合症例は立花響が初めてなんだ」

 

フィーネにも打つ手がない。その事を聞かされ翼は愕然とした。

 

「面白い、その状態でどのくらい戦えるのか見せて貰おうか!」

 

ゾル大佐の声に怪人達が響を囲む。もはや翼やフィーネを無視してる。

 

「!」

「迂闊に動くな、今の立花響に敵味方の判断が出来るとは思えん」

 

翼が動くのを止めるフィーネ。すると雄叫びを上げた響が怪人達に飛び掛かる。

 

「はああああああああああああ!!」

 

「は。早い!ぎゃああああああああああ!!」

 

ヤモゲラスが響に切り裂かれ爆発する。それを見ていたサボテグロンが響にサボテン棒を振り下ろす。

 

「死ねぇ!…!」

 

しかし、響はサボテン棒を受け止め握り潰し爪でサボテグロンを切り裂き返り討ちにする。

 

「…強い…だが…」

「…ああ」

 

「まるで動物だな、これでは期待外れもいいとこだ」

 

今の響は強いと言えば強い。しかし、それはゾル大佐の想定していた強さではなくガッカリしていた。

 

━━━この程度なら、最早利用価値も無いか

「総員、落ち着け相手はただの獣だ!」

 

早々に見切りをつけたゾル大佐の指示に怪人達も対応する。そんな中、響の赤い目がゾル大佐を捉える。咆哮を上げ飛び上がると、そのままゾル大佐に飛び掛かった。辺りに砂ぼこりと衝撃で出来た突風が吹き荒れる。

 

「やったのか!?」

「…いや!」

 

フィーネが響がゾル大佐を仕留めたのかと期待したが翼が否定する。土煙が晴れると其処には響の腕を掴む無傷のゾル大佐が要る。ゾル大佐は響の攻撃をアッサリと掴んでいたのだ。

 

「力もスピードもある程度上がってはいる。だがそれだけだ、本能のままに暴れる事なぞ誰だって出来る。立花響、最早貴様に価値はない!」

 

ゾル大佐の手にする鞭で響を殴りつける。怯んだ響はゾル大佐に更に追撃され地面に落とされるが即座に立ち上がる。しかし、響の呼吸が明らかに乱れ疲労が隠せなくなる。

 

「もう止せ、立花!これ以上は聖遺物との融合を促進させるばかりだ!戻れなくなるぞ!」

 

翼の言葉に響が振り向く。その目は未だに赤く光っていた。そして、翼をターゲットにした響が飛び掛かる。翼が咄嗟に肘打ちでぶっ飛ばすが態勢を立て直し再び翼へと飛び掛かる。

 

「内輪揉めか、面白い。お前達、手を出すな!このまま潰し合わせろ!…アリガバリ!」

「此処に」

「俺は暫く此処を離れる。指揮は貴様に任せるぞ」

「それは構いませんがどちらに?」

「カ・ディンギルに、な。あれ程のエネルギーは恐らく…」

 

翼を襲う響にゾル大佐は怪人達に手を出すなの指示を出す。怪人達の見物する中、響が翼を襲い続ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

モニターで見守っていた弦十郎や未来たちも響の突然の代わり様に驚く。

 

「どうしちゃったの響!元に戻って!」

 

未来の声が部屋に空しく木霊する。しかし、モニターには黒くなった響が構わず翼を攻撃し続ける。

 

「…やっぱり無理だったんだよ」

 

弓美が再び弱音を吐き涙を流す。皆が一斉に弓美の方を見て言葉を続ける。

 

「怪人もまだ一杯いるし、響もおかしくなって…」

「…無理じゃない、響も翼さんも頑張って…」

「怪人を放置して翼さんと戦う事が頑張っているの!?」

 

モニターから響が獣のように唸り、響と翼を見物する怪人達が映る。明らかに怪人達は響達の同士討ちを楽しんでいた。

 

「立花さん…」

「ビッキー…」

 

創世と詩織が響の名を呟く。そんな中、未来だけは真っ直ぐ響を見続ける。

 

「私は響を信じる。きっと正気に戻ってショッカーに勝つって」

 

断言する未来だが顔には僅かばかりの汗が流れる。

 

「…私だって響を信じたいよ、この状況をどうにかしてくれるって信じたい。…でも…でも…怪人がまだあんなに残ってるのに!もう嫌だよ、誰か助けてよ!ショッカーが怖いよ、改造人間になりたくないよ!!」

「板場さん」

 

弓美の泣き叫ぶ声が室内に木霊する。弦十郎たちも黙って見てるしか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

土煙が上がり煙の中から翼が飛び出る。肩の付近にあったシンフォギアの装甲が砕け散る。

 

「ハア、ハア、ハア…」

 

翼の息が上がる。響との戦いで疲労が蓄積していた。

 

「だいぶ息も上がって来たね。後何分持つかしら?」

「愚かな女だ、あの動きなら獣になった娘など切り捨てる事も容易いだろうに」

「仲間は切りたくないって奴だろ。人間らしい愚かさよ」

 

そんな、翼を見て怪人達が口々に勝手な事を言う。確かに力量から見れば翼が響を倒す事は出来るだろう。

 

「風鳴翼、もう無理だ。立花響を倒さねばお前は…」

「…私の剣は仲間を傷つけるものではない。必ず助ける」

 

フィーネの言葉もよそに翼は響を助けようとしていた。だが、次の瞬間カ・ディンギルが再び輝き出す。チャージに入ったのだ。

 

「カ・ディンギルが!?櫻井女史!」

「カ・ディンギルは最強最大の兵器として造った。必要がある限り何発でも撃ち放てる。その為に炉心に不滅の刃、デュランダルを取り付けてしまった」

「止める方法は!?」

「ない。月を破壊するまで撃ち込むようプログラムしているんだ。何より此処からでは操作も出来ない」

 

フィーネとしては月さえ破壊できれば後はどうにでも出来る筈だった。人類が一時的に混乱しようが聖遺物を持っている自分なら言葉が一つになった人類を纏める事が出来る。

最大の誤算はカ・ディンギルの情報がショッカーに漏れていた事だった。

 

「なら、私がカ・ディンギルを破壊する!」

「そんな事、私が許すとでも…」

 

そう言うと、翼は剣をカ・ディンギルへと向けフィーネはネフシュタンの鎧の鞭を翼に向ける。しかし、カ・ディンギルと翼の間に居た響が立ちあがり翼を睨みつける。

 

「立花…」

 

獣の咆哮を上げる響を見て何かを決意する翼。そして、響が翼へと襲い掛かるが翼は手に持っていた剣を地面に突き刺し無防備な姿をする。

 

「な!?馬鹿者!」

 

フィーネの叫びと共に響の手が翼の胸へと迫る。直後に鮮血と何かの破片が宙へと舞う。

 

「やったか!?」

 

シンフォギア装者が死んだかと歓喜した怪人達だが、紫色の鞭が響の体を縛り付けていた。

 

「櫻井女史!?」

「本当に馬鹿者だお前は!!私が押さえなければ立花響の腕はお前の胸を貫通していたのだぞ!!」

 

寸前でフィーネはネフシュタンの鎧の鞭を響に巻き付け威力を殺していた。もし、フィーネが手を出さなければ響は改造人間の力を暴走状態で繰り出し、翼は即死していただろう。

 

「感謝します!」

 

フィーネに感謝の言葉を言い終えると共に翼は響を抱きしめた。驚くフィーネと何をしてるのか分からない怪人達。

 

「お前の手はこんな事に使うものじゃないだろ」

 

優しく諭すように言い血に塗れた響の手を握る。すると翼は小刀を響の影に差す、響に影縫いを使い動けなくした。

 

「立花、奏から継いだ力をそんな風に使うな。これではお前は本物の怪人になってしまう」

 

その言葉に響の目から涙が出る。そして、ゆっくりと歩く翼は怪人達に剣を向ける。

 

(Ya-Haiya-セツナヒビク Ya-Haiya-ムジョウヘ)

(Ya-Haiya-Haiya-Haiya-ie チカラヨカエラン)

(Ya-Haiya-Haiya-Haiya-ie アメノハバキリYae-)

 

「待たせたな」

 

「チッ、最後まで役に立たない奴だ!」

「あれだけ押しといて止められるか」

「役立たずは所詮役立たずだって事だ!」

 

怪人達が口々に響に対して罵倒する。同士討ちとしてはソコソコ楽しめたがこんな終わり方は怪人達は望んでいない。そんな罵倒を無視する翼。

 

颯(はやて)を射る如き刃 麗しきは千の花

宵に煌めいた残月 哀しみよ浄土に還りなさい…永久(とわ)に

 

「其処を退け!私はカ・ディンギルを破壊する」

 

「ほざけ、死にぞこない!」

「あれは我等ショッカーの物よ!」

「折れかけの剣如きに何が出来る!?」

 

「今日日折れて死んでも、明日に人として歌う為に風鳴翼が歌うのは戦場(いくさば)ばかりでないと知れ!怪人ども!」

 

「ならば此処で死ねぇ!」

「走れ、イナズマ!」

 

ガマギラーの鎖鎌とエイキングの稲妻が翼に向かう。

 

慟哭に吠え立つ修羅 いっそ徒然と雫を拭って

思い出も誇りも 一振りの雷鳴へと

 

翼はこれをジャンプして躱す。そして、脚部のブレードを広げ怪人達が密集している場所に逆立ち状態で着地する。

 

「なに!?」

 

逆羅刹

 

そのまま回転し、死神カメレオンとコブラ男が切り裂かれる。ヒトデンジャーが弾き、翼は態勢を戻す。同時に切り裂かれた死神カメレオンとコブラ男が爆発した。

 

去りなさい!無想に猛る炎

神楽の風に 滅し散華(さんげ)せよ

闇を裂け 酔狂のいろは唄よ 凛と愛を翳して

 

そして、翼は剣を大型にし怪人達に向けて振りぬき青い斬撃を飛ばす。

 

蒼ノ一閃

 

「させるか!?」

 

ヒトデンジャーとモグラングが斬撃を受け止める。耐久力もあった怪人達と接触した斬撃が爆発し消滅する。それでも、ヒトデンジャーとモグラングに少ないながらもダメージを与えた。

そして、斬撃の爆発した煙が消えると風鳴翼の姿が何処にも見えない。

 

いざ往かん…心に満ちた決意 真なる勇気胸に問いて

嗚呼絆に すべてを賭した閃光の剣よ

 

「あの女は何処に!?」

「…!上だ!」

 

蜂女の言葉に怪人達が一斉に上を見る。其処には、丁度剣を投げつけ巨大化させその剣の柄を蹴り足のバーニアで加速させる。

 

天ノ逆鱗

 

「小癪な真似を!弾丸スクリューボール!!」

 

アルマジロングが体を丸め翼の天ノ逆鱗に突撃する。弾丸スクリューボールと天ノ逆鱗が激突する。激しい火花が散る中、翼の天ノ逆鱗が停止する。チャンスとばかりにアマゾニアとドクガンダーが翼に射程を向ける。

 

四の五の言わずに 否、世の飛沫と果てよ

 

「ま…負けん、お前達に負けてたまるか!!」

 

翼の脚部のバーニアの出力が上がる。そして、アルマジロングの弾丸スクリューボールが弾かれ地面へと迫る。逃げ損ねたカニバブラーとエジプタスが巨大化した剣の下敷きとなり爆発した。

 

「わがよ誰(たれ)ぞ常ならむ」と 全霊にていざ葬(ほふ)る

迷いを断ち切る術など 覚悟を牙へと変えるしか…知らない

 

そして、翼は巨大化した剣からジャンプし両手の剣と足先から炎を出しカ・ディンギルへと飛ぶ。

 

炎鳥極翔斬

 

「あの女、俺たち無視してカ・ディンギルを破壊するつもりだ!空を飛べる奴は追えぇ!」

 

アリガバリの言葉にエイキング、蝙蝠男、ムササビードル、ドクガンダー、蜂女、ゲバコンドルが即座に翼を追う。

そんな翼をフィーネは黙って見ていた。

 

 

 

 

「…何故だ、何故私は風鳴翼を攻撃しなかった?」

 

自分の掌を見て呟くフィーネ。長い時間をかけ、念願だった人類を一つにする。それがやっと叶う…その筈だった。カ・ディンギルを破壊すると言う風鳴翼を許す事など出来ない。それなのに、

 

運命(さだめ)の悲劇の過去を 強く…強くなればいつか斬れると

何故か…何故か…何故か? 涙など要らぬのに

 

「…まさか私はあいつ等を仲間だと思ってしまったのか?…ありえない。…それに今更過ぎる…!」

 

翼が飛んでいる所で爆発が起きた。フィーネが翼に視線を向けるとドクガンダーのロケット弾が翼へと直撃し再び爆発が起り飛行できる怪人が殺到する。

 

 

 

 

 

 

「私では…無理なのか…」

 

ドクガンダーのロケット弾が直撃した翼は一瞬意識を失いかける。その瞬間、翼は懐かしい気配を感じた。嘗てのパートナーで相棒だった天羽奏が翼を励ます。夢か幻か…それとも化けて出たのかは分からない。それでも翼には十分有難い激励だった。意識を戻した翼が目にしたのは、ゲバコンドルが自分に止めを刺そうとしていた所だった。

 

「死ねぇーーーーー!!」

 

今から、防御や回避は間に合わない。一撃を覚悟した翼だが悲鳴を上げたのはゲバコンドルだった。

 

「グアア!?」

 

「これはネフシュタンの鎧の鞭!」

 

紫色の鞭がゲバコンドルの体を貫いていた。出所を見ると自分でも驚いた顔をしたフィーネが鞭を握っていた。

 

「感謝します。櫻井女史!」

 

翼が再び両手の剣から炎を出す。そして、再びカ・ディンギルへと突撃する。

 

「止めろ!止めるんだ!」

「さっきより早い!」

「俺でも追い付けないだと!?」

 

怪人達が翼を止めようと攻撃するがその悉くが翼に当たらない。それでも必死に追う怪人達だったが、

 

「立花!!」

 

翼の叫びに響は涙を流し続け遂に翼はカ・ディンギルへと到達した。一瞬光ると同時にカ・ディンギルもあらぬ場所から光が漏れ出し爆発を起こす。

 

「しまった!!」

「ぎゃああああああ!!」

 

翼を追っていた怪人達は爆発するエネルギーをまともに受けて消滅。地上にいた者たちも次々と光に飲み込まれた。カ・ディンギルは破壊された。辺りはカ・ディンギルの爆発に包まれる。

 

「…カ・ディンギルが…」

 

一瞬悔しそうな顔をするフィーネ。そして、爆発が治まると響を止めていた小刀が霧のように消えてしまった。響の体が光るとシンフォギアの姿から制服の姿へと戻った。響は元に戻っていたが、

 

「あ…あ…翼さん…」

 

目元から涙が溢れ膝が地面へとつく。クリスも翼も失い響の心に絶望が訪れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、それは弦十郎たちも目撃していた。

 

「天羽々斬…信号途絶…」

 

オペレーターの朔也の報告に一同から嗚咽が漏れる。あおいは顔を手で覆い背中を向けて泣いていた。

 

「見事だったぞ、翼。カ・ディンギルを破壊してショッカーに奪われる最悪の未来は回避された。お前の歌は世界を守ったんだ。世界を守り切ったんだ!」

 

弦十郎たちにとってカ・ディンギルがショッカーに奪われていたら最悪だった。フィーネ以上に人の命を何とも思わないショッカーがカ・ディンギルという兵器を手に入れれば何をするか目に見えている。恐らくはカ・ディンギルを改造し世界中の主要都市を撃てるようにし、逆らう者たちを皆殺しにして世界を自分達の物にするだろう。それを防いだ翼は正に世界を守ったのだ。

 

「…分からないよ、どうして皆戦うの!?痛い思いをして怖い思いをして!死ぬために戦ってるの!?」

「分からないの!?」

 

弓美の言葉に未来は泣きながら弓美の肩に触る。

 

「分からないの?戦わないとショッカーが世界を支配してしまう。…そうなったら多分、地獄だよ」

「!」

 

未来の言葉に気付いたのか弓美は大きな声で泣いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「翼さん…クリスちゃん…」

「元に戻ったか、立花響」

 

地面に座り込み二人の名を呼ぶ響にフィーネが話しかける。響の首がフィーネの方向に向く。

 

「了子さん…」

「私をまだ、その名で呼ぶか。死んだ魚のような目をしおって!…まぁいい、正直如何でもよくなった」

 

フィーネの表情は悔しそうであり、残念そうであり、どこか吹っ切れたように見える。フィーネが響に横に移動する。

 

「少し、昔話につきあえ」

「…昔話?」

「もうずっと遠い昔、あの方に仕える巫女であった私は、何時しかあの方を…創造主を愛するようになっていた。だが、この胸の内を告げる事は出来なかった。その前に私から…人類から言葉が奪われた。バラルの呪詛によって唯一創造主と語れる統一言語が奪われたのだ。私は数千年に渡りたった一人、バラルの呪詛を解き放つ為、抗ってきた。何時の日か、統一言語にて胸の内の想いを届ける為に…」

「胸の想い?…だからって、こんな事を…翼さんも…クリスちゃんも…」

「…恋心も知らん小娘には分からんだろうな。今更だが二人には悪かったと思うが謝罪はしない。あと少しで私の願いが叶う筈だったんだ。それが風鳴翼とショッカーの所為で台無しだ」

 

口では悔しそうに言うが、やはりどこかスッキリしているように見えるフィーネ。

 

「…これから如何するつもりですか?」

「そうだな、このまま弦十郎たちから逃げて旅にでも出てみるか」

 

 

 

 

 

 

「いや、ショッカーの為に働いてもらう」

 

 

 

 

 

 

 

「「!?」」

 

後ろからの突然の声に二人が振り向こうとしたが。が、

 

「ウッ!?」

 

フィーネの後頭部が捕まれ振り向くことが出来なかった。だから、振り向いた響が相手の名を言う。

 

「ゾル大佐!!」

 

ゾル大佐が何時の間にか自分達の背後に居たのだ。響の声も無視してゾル大佐は言葉を続ける。

 

「フィーネ、貴様の頭脳ショッカーの為に使わせてもらう」

 

「ふざけるな!誰が…!?」

 

拒否しようとしたフィーネだが、頭に電流が流れると共に違和感に襲われた。

 

━━━何だ!?私の意識が…塗りつぶされて…いく………

 

口を開き目の焦点が合わないフィーネは地面へと力なく座り込む。

 

「了子さん!!ゾル大佐、了子さんに一体何を!?」

 

響の声にゾル大佐はフィーネの頭を掴んでいた掌を見せた。掌には小さな機械がある。

 

「?」

 

「強制洗脳装置よ。これでフィーネを洗脳した」

 

ゾル大佐は響に説明し出す。洗脳と聞いて響は苦虫を嚙み潰したような顔をする。

 

「本来なら、ムカデラスの催眠電波で操る手筈にしていたが…念のために用意したこれが役に立った。カ・ディンギルが破壊されたか、まぁ良いだろう。フィーネの頭脳があれば幾らでも作れる」

 

「今まで…何処に…」

 

「フフフ…これを取りに行っていた」

 

そう言って、ゾル大佐は片方の手に持っていた金色に輝く剣を見せた。

 

「!デュランダル!?」

 

それは紛れもなく完全聖遺物のデュランダルだった。響の驚く声にゾル大佐は笑い出す。

 

「フフフ…手に入れた…手に入れたぞ!ソロモンの杖!デュランダル!ネフシュタンの鎧!フィーネ!そして、後はお前の心臓だ!これでショッカーが世界を支配する日が近くなった!!」

 

「ギーゴー!」「ヒィーア!」「シュシュシュ!」

 

ゾル大佐の笑い声に瓦礫から怪人達が出て来る。かまきり男。アマゾニア。さそり男。モグラング。ヒトデンジャー。クラゲダール。ドクダリアン。ザンブロンゾ。トリカブト。ガマギラー。キノコモルグ。アリガバリ。アルマジロング。

13体の怪人まで現れた。

 

 

 

 

 




フィーネがまさかの洗脳。ショッカー大勝利か!?

ゾル大佐の最大の作戦。それは、完全聖遺物とフィーネの確保。カ・ディンギルは失敗したが、他は概ね成功。後は響の心臓とクリスを回収できるのか?


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30話 偽物から本物に 復活の歌

 

 

 

「ゾル大佐だと!」

「怪人もまだあんなに!」

 

モニターで見守っていた弦十郎たちに緊張が走る。翼もクリスも倒れた今、ゾル大佐が響達の前に現れたのだ。それもデュランダルとソロモンの杖を持ち、フィーネも洗脳した。

 

「もう我慢ならん、俺は行くぞ!!」

 

クリスや翼の戦いを見て不甲斐なさを感じていた弦十郎は居ても立っても居られなく立ち上がる。普通なら止めるだろうオペレーターの二人も今回は黙っている。ゾル大佐の前に響が一人、対してゾル大佐にはまだ10体以上の怪人が居た。正直、弦十郎が加勢しても厳しい戦いになるだろうと思われた。

 

「ああ、指令。此処に居たのか?」

 

そんな時に、部屋の外から男の声がし、皆が見ると屈強な男と二人の職員が入って来た。

 

「!?」

「ジョーさん!」

「ハリケーン・ジョー!良かった君も無事だったんだな」

 

特異災害で、黒服たちのトレーナーをしていたハリケーン・ジョーが無事に合流できた。尤も、ハリケーン・ジョーに良い印象が無い未来は少し距離を取る。

 

「いやあ、負傷したって聞いたから心配したぞ。指令」

「丁度良かった、ハリケーン・ジョー。俺はこれから響くんの援護に行く。キミは「させんよ」ここ…ハリケーン・ジョー?」

 

ハリケーン・ジョーが弦十郎の言葉を遮るとハリケーン・ジョーと一緒に居た職員が犬の様に吠えて青い狼男となった。

 

「いやああああああああああああああ!!」

「怪人!?」

 

弓美が悲鳴を上げ、弦十郎が未来たちの前に出る。

 

「ハリケーン・ジョー、やはりお前が…」

「そうだ!俺はショッカーのスパイだ!悪いが指令には死んで貰う。かかれえ!!」

 

二体の狼男が弦十郎に襲い掛かる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「翼さんも…クリスちゃん…二人共もう居ない。…学校も壊れて…みんな居なくなって…未来も…それでも、私はまだ戦える!変身!」

 

ゆっくりと立ち上がった響の目に力が戻る。例え一人になろうと二人が守ろうとした世界を守る為に響はシンフォギアを装着する。そして、それを見て笑うゾル大佐。

 

「立花響、やはり貴様は何処までも愚か者だったな」

 

ゾル大佐が鞭の柄の底にあったスイッチを押す。瞬間、響の姿は制服に戻った。最初は何が起きたのか分からなかった響は自分の両手を見る。

 

「…嘘…嘘だ!変身!…変身!!変身…如何して?」

 

響が何度もシンフォギアの姿になろうとするが幾ら「変身」と言ってもシンフォギアを装着する事が出来なかった。

 

「不思議そうだな、立花響。貴様を改造したのは誰だ?我等、ショッカーよ!貴様のシンフォギアを解除する装置など、とっくの昔に作っていた。お前は最初からショッカーの掌の上で踊っていたに過ぎん!」

 

ゾル大佐が押したのは言うなれば響のシンフォギアを解除する装置だ。

 

「!?…そんな…なんで…」

 

「「なんで今まで使わなかったの?」という顔をしているな。全てはお前達の戦闘データを得る為よ。シンフォギア装者と怪人達の戦闘データは実に役立った。怪人達も当初の想定以上に強くなったからな。貴様には感謝してるぞ、ショッカーの邪魔者だった特異災害対策機動部二課の本拠地も教えてくれて、最大の目標だったフィーネの確保も出来た。…だが、もうそろそろ得る物もなさそうだ。特起部二諸共消えてもらおう」

 

その言葉に、響は再び絶望した。ショッカーにとって響は体のいい戦闘データを得るためにただ生かしていただけ。ショッカーは最初から響を捕まえる気など無かったのだ。

 

「最大の目標?…なら了子さんをどうする気?」

 

「手足を削ぎ落し、加工する」

 

「!?まさか、改造人間に!?」

 

「それこそまさかだ。我々が欲しいのはフィーネの頭脳、それ以外はいらん。最終的には脳髄を取り出し小型のカプセルに詰めて利用しつくすだけよ。まあ、その分寿命も減るが死ぬ寸前にクローンで作った櫻井了子の肉体にアウフヴァッヘン波形を当てる。そうすればフィーネの記憶と能力が再起動するらしいからな。仮に別の肉体に転生しようと時間が経てばショッカーがフィーネを見つける手段も出来上がるだろう」

 

その言葉に響は身震いした。このままではフィーネはショッカーに利用され逃げる事も出来なくなる。

 

「…そんな事…許さない!」

 

変身出来なくなった響だが、まだ五体満足で動ける。ならばと、響は怪人達に拳を繰り出す。何とかゾル大佐たちを退けフィーネと一緒に逃げようとしていた。パンチにキック、掌底など怪人達に浴びせるがビクともしない。

 

「無駄だ、改造人間とはいえ変身してない貴様では強化改造を施された、こいつ等を倒すのは不可能だ。風鳴弦十郎ならともかくな」

 

そう言い終えるとゾル大佐は怪人達に合図を出す。合図を受け取ったドクダリアンが蔓を響の足に絡め地面に倒す。

 

「うああ!?」

 

「変身出来ん貴様など最早、我等ショッカーの敵ではない。だがそうだな、最後にその体が怪人達の攻撃を何処まで耐えるか試してやるとしよう。やれぇ!」

 

「ヴェ、ヴァヴァー!」「オオオーゥ!」

 

キノコモルグとモグラングが響を無理矢理立たせ腹に蹴りを入れる。怪人達が次々と響に攻撃し出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ワォーン!?」

 

狼男が倒れ溶けていく。狼男の前に居た弦十郎が肩で息を切らせハリケーン・ジョーを睨みつける。

 

「お前の連れてきた怪人は全て倒した。終わりだ!ジョー」

 

「やっぱり強いな、指令。だがまだ終わりじゃない!」

 

連れてきた怪人が倒されたハリケーン・ジョーは懐から拳銃型の注射器を取り出し自分の首元に当てる。

 

「ハリケーン・ジョー!それは!?」

 

「中身はウルフビールスだ。こうなれば俺も狼男なって指令を抹殺するしかない!」

 

「ジョーさん!」

「もう止めて下さい、ジョーさん!正義に燃えていた何処にいったんですか!?」

 

オペレーターの二人がハリケーン・ジョーを制止しようとするが、ジョーは二人の方をチラッと見ただけ。

 

「…あれはお前達の懐に潜り込むための芝居よ。本当の俺はこんなもんだ」

 

「止めろ、ジョー!感染させたが最後、元に戻る方法なんてないんだぞ!」

 

「元より覚悟の上!」

 

弦十郎たちの静止を振り切り注射器のレバーを引こうとするジョー。そして話に付いて行けない未来たち。

 

「な!?体が!」

 

今まさに注射を打とうとしたジョーだったが途中で体が固まってしまった。

 

 

 

「あの~よく分かりませんけど止めさせて貰いました」

「緒川!」

「緒川さん!」

 

ハリケーン・ジョーの後ろから別の場所を見に行った緒川が現れた。緒川がジョーの影に小刀を刺し動きを封じていた。その後、弦十郎たちに捕縛された。

 

「ジョー、何故ショッカーなんかに…」

 

「…指令、俺の前の職を知ってるか?」

 

「確か…プロレスラーだったか?」

 

弦十郎の尋問にジョーは淡々と答える。

 

「そうだ、時代遅れの貧乏レスラーだ。小さいながらもショーをやっていたが客もろくに入らず借金ばかり増えて…」

 

「だから、ショッカーに入ったのか?」

 

「…ショッカーは俺の腕っぷしを買ってくれたんだ。その金で借金も全て返済できた」

 

金の為に魂を悪魔に売り渡した男、それがハリケーン・ジョーだった。それに反応した未来が口を開く。

 

「じゃあ、響の悪口を言っていたのも?」

 

「ゾル大佐の指示だ。特異災害と立花響の分断が目的だったそうだ」

 

「何て恐ろしい…」

「あんな堂々と工作されていたとは…後で公安に引き渡す。それまで大人しくしているんだ」

 

弦十郎の言葉にハリケーン・ジョーが項垂れる。もう暴れる気はなかった。

 

 

 

 

「指令、全生徒の安全を確認しました。ただ、一部のシェルターに破損が発生した為、何人かの民間人を連れてきました」

「そうか、よくやってくれた」

「指令、モニターが復活しました」

 

緒川が安全上の理由で何人かの民間人を連れてきた事に返事をした直後に狼男との戦闘の際にモニターが消えてたが復旧させた、あおいの言葉で皆が一斉にモニターに注目する。

 

『弾丸スクリューボール!』

 

『うわああああ!!』

 

『オラ、立てよ!』

『まだまだこんなもんじゃないぞ!』

『ショッカーを裏切った事を後悔して死ねぇ!』

 

「響!」

「響くん!?」

 

弦十郎たちが見たのは複数の怪人に嬲られてる響だった。アマゾニアのロケット弾にかまきり男の鎌、さそり男の電磁鋏とモグラングのシャベルのような手、ヒトデンジャーの回転体当たり、クラゲダールの触手にアルマジロングの弾丸スクリューボールと怪人達が響を嬲る殺しにしようとする。そして、それを見て笑い顔をするゾル大佐。

 

「…酷い!」

「もう…止めてよ…」

 

あまりの光景に見る事も出来ない詩織や目から涙が溢れる未来。直後に何人もの足音がする。

 

「あ!お母さん、私を助けてくれた格好いいおじちゃんだよ!」

 

一人の幼女が弦十郎を見て、そう喋った。弦十郎もその子がノイズから共に逃げていた幼女だと思い出す。どうやら、ショッカーがリディアンを襲撃した時に近くに居て巻き込まれたようだ。

 

「あ、それに私とおじちゃんを助けてくれたお姉ちゃんだ!」

 

モニターに響が映ってるのを見た幼女がモニターに近づく。一瞬、モニターの映像を見せるのを躊躇した弦十郎たちだが、モニターには響が倒れている様子が映し出されそのままにした。尤も怪人たちも映ってるが。

 

「ねえ、お姉ちゃんお化けに虐められてるの?助けられない?」

「助けたくても私達じゃ…」

「じゃあ、一緒に応援しようよ!ねえ、此処から話しかけられないの?」

 

幼女が藤尭朔也に話しかけられないか聞く。一瞬考えた藤尭朔也。

 

「ちょっと、待って……よし、指令!学校施設とのリンクで繋がりました。校庭のスピーカーが生きています、これなら声も送れます!」

「!みんな、聞いて!」

 

未来が創世と詩織と弓美、それから合流したリディアンの生徒に話す。内容は…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「う…あ…あ…」

 

怪人に嬲られ続けた響は地面に倒れたままだ。最早、起き上がる事も出来ない。

 

「ふん、こんなものか。止めを刺せ」

 

ゾル大佐言葉にアリガバリが頷き響へと近づく。変身も出来ず怪人に嬲られた響の心も折れ掛けていた。アリガバリが大きな左腕を振りかぶる。

 

「死ね!」

 

 

…仰ぎ見よ太陽を

 

 

「ん?」

「何だ?」

 

 

よろずの愛を学べ

 

 

怪人達が聞こえた妙な音に反応し辺りを見回す。アリガバリも例外ではなく響そっちのけで音の根源を探す。

 

「歌ですか?」

「確か、これはリディアン音楽院の校歌だった筈だ。グランドに倒れるスピーカーから聞こえてるな」

 

 

朝な夕なに声高く 調べと共に強く生きよ

 

 

 

未来たちは歌う。自分達が無事だと知らせ響が落ち着く。安心する。と言っていたリディアンの校歌を歌い続ける。

 

━━━響、私達は無事だよ。響が無事に帰れるよう願っている。だから、ショッカーなんかに負けないで!

 

「へ、無駄な事を」

「無駄かどうか試してみる価値はあるだろう」

「…ゾル大佐を倒すには奇跡を起こすくらいじゃないと無理ですよ」

 

縄で縛られたハリケーン・ジョーが毒ずく毒づく。それに反論する弦十郎、この歌にはそれだけの価値があると思っていた。

 

 

 

 

遥かな未来の果て 例え涙をしても

 

 

 

 

「この調子なら地下は無事の様だな。後で戦闘員達を呼ばなくては、だがこんな歌が何になる?立花響への鎮魂歌(レクイエム)のつもりか?下らん「違う!」ん?」

 

「この歌は私を元気づける為の歌だ。皆が私を支えてくれる、貴方達に負けないでって言ってる!この歌があれば頑張れる!戦える!!」

 

怪人達に打ちのめされた響が立ちあがる。その目には先程よりも力強くアリガバリが後ろに下がった。感心するゾル大佐だが、未だに笑みは崩れない。

 

「ほう、変身出来ん貴様に何が出来る?」

 

「Balwis……ゴホッ!ゴホッ!ゴホッ!」

 

誇れ胸を張る乙女よ 信ず夢を唄にして

 

響の口から歌が漏れ出すが直後に口元を押さえ咳き込む。胸と頭に激痛が走る。

 

「成程、変身出来んのなら起動聖詠で変身しようと言うのか?だが、無駄だ。ショッカーが貴様に取り付けた『ショッカーニウム』が貴様の歌を阻害する」

 

「ゴホッ!…ショッカーニウム?」

 

「貴様の心臓を覆っている金属の事よ。人間どもは未だに正体も掴めてないが、あれは我々ショッカーが開発した特殊金属だ。その能力は聖遺物の完全コントロール。つまり貴様のガングニールはショッカーが操作しているのだ!」

 

「聖遺物の…操作」

 

響が自分の胸を触る。ショッカーが自分の体を改造して何かしたのは知っている。しかし、それが聖遺物を操るとは。

 

「それがある限り、貴様が歌おうとする度にショッカーニウムがお前の脳に信号を送りその信号が激痛となって貴様を襲う。その痛みは拷問クラスで貴様の()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

━━━死にかける。…なら!

 

「Balwisyal…ゴホッ!ゴホッ!」

 

「フッハハハハハハハハ、何度歌うと「Balwisyall N…ゴホッ!ゴホッ!」む…貴様、人の話を聞いてるのか?」

 

咳き込み口元を押さえる響は痛みが引く前に何度も歌おうとする。最初は面白がっていた怪人たちもその内、不気味な物を見る目をしてきた。

 

「Balwisyall Nesce…ゴホッ!ゴホッ!」

 

「!歌が伸びている!?まさか、貴様正気か!?」

 

響が痛みを無視して起動聖晶を歌い続け、歌える歌詞が伸びてる事に気付いたゾル大佐が声を荒げる。それだけ、響の感じる苦痛は並ではない筈だからだ。

 

「ゴホッ!ゴホッ!…()()()()()()()()()()()()()()()()って事でしょ?それにこんな痛み、歌えなくなった時のショックに比べれば全然!Balwisyall Nescell …ゴホッ!ゴホッ!」

 

━━━本当に正気かこの娘!?いくら死なんと言ってもその苦痛は大の男も失神し恐怖しトラウマになるほどの苦痛なのだぞ!言うなれば死んだ方がマシというレベルだぞ!それをこんな小娘が!?「Balwisyall Nescell gungnir …ゴホッ!ゴホッ!」

 

今までの余裕は何処へやら、ゾル大佐の顔に焦りが浮き出る。それほど、響の行動はゾル大佐の想像を超えていた。

 

「こ、殺せ!今直ぐ立花響を殺すんだ!」

 

ゾル大佐は急ぎ、怪人達に響を抹殺するよう命令する。響が歌うのを某立ちして見ていた怪人達は一斉に響へと群がろうと動くが

 

「Balwisyall Nescell gungnir …tron」

 

ゾル大佐は命令を出すのが少し遅かった。起動聖晶を歌い終えた響の周りに衝撃波が発生し怪人達は吹き飛ばされる。そして、胸と尻に光の輪がかかる。それと同時に響の胸からピシという音もした。

 

「な、何だこのエネルギーは!?こんな土壇場でショッカーニウムの制御を外したというのか!?それにこれが、ガングニールの力!?こんな物、我々は知らんぞ!そもそも我々が造り出したのは櫻井了子ことフィーネが作ったシンフォギアの模範…形だけ真似ただけに過ぎん!言うなれば偽物だ!それを…それは一体なんだ!?お前が纏うそれは!答えろ、立花響!!」

 

驚愕するゾル大佐の言葉に響は睨みつける。と同時に響から光の柱が立つ。更に林の方とカ・ディンギルの残骸からも光の柱が立つ。

 

「あの光…馬鹿な!?」

 

何かを感づいたゾル大佐が更に驚く。そして、三つの光が治まると同時に上空へと飛び立つ。

 

 

「シンフォギアアアアアアアアアアア!!!!」

 

 

死んだと思った雪音クリスと風鳴翼も響に合流した。その姿は先程のシンフォギアの姿とは少し違っていた。…後、羽が生えた。

 

 

 

 

 

 




悪役特有の調子に乗ってたら逆転されてる現象。

一応、響のシンフォギアの強制解除装置がゾル大佐の切り札の一つです。
ハリケーン・ジョーはもう此処で出さないと永遠に出てこない気がしたので…結果、雑に処理された。

リディアン音楽院の校歌の楽曲コードを調べても出てこずワンチャン、フリーの可能性に賭ける。もし、アーティスト名や著作者名を知ってる人が居たら教えてください。私立リディアン音楽院生徒一同では出てこなかった。

原作から殆ど変わらないので弓美たちのイベントはカットで。
そして、響の歌復活!解決法はまさかの脳筋…
ゾル大佐はここにきて初めて焦る。


それでは今回出た設定でも、


ショッカーニウム

ショッカーの開発した特殊金属。その特性は聖遺物の完全操作だがショッカー内でも未知の金属。開発したショッカー科学陣がノイズの襲撃を受け全滅して製造法が不明になってしまった。そもそも聖遺物の確保に失敗したので性能も試せないままだったが、立花響の改造にこれも実験として心臓を覆う金属として埋め込まれていた。一年程の立花響の観察である程度は把握した。


ニュアンス的にはバダンニウムのパクリ。



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31話 立花響が取り戻したもの

 

 

 

 

「シンフォギアアアアアアアアアア!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

「響!」

「お姉ちゃんたちカッコイイ!」

 

地下で響達を見守っていた未来たちに歓喜の渦に包まれる。幼女の声に誰もが同意する程だ。

 

「頑張って、響!あたし達もついてるんだから!」

「少しでも立花さんの助けになればいいんですけど」

「私達も一緒に戦うよ、ビッキー!」

 

弓美たちの声にも明るさが戻り未来も静かに頷いた。既に夜は明けた。太陽が響達を照らし出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゾル大佐が鞭の底にあるスイッチを何度も押す。しかし、響のシンフォギアが解除されることはなかった。舌打ちをしたゾル大佐はスイッチを押すのを止める。

 

「ショッカーニウムが機能停止したか…忌々しい小娘だ」

 

ゾル大佐が改めて響達に目線を送った。吹き飛ばされた怪人達も立ち上がり響達を見る。

 

「みんなの歌声がくれたギアが私に負けない力を与えてくれる。クリスちゃんや翼さんに、もう一度立ち上がる力を与えてくれる。歌は戦う力だけじゃない…命なんだ!」

 

「そんな物で我等ショッカーに勝てると思うな、小娘!」

「幾ら、シンフォギアの姿が少し変わった所で、調子に乗るな!死に損ないめ!」

 

『へっ、弱い怪人程よく吠えるってか!』

 

「!通信?…いやこれは念話か、人間如きが!」

 

突然、クリスの声が頭に響いたゾル大佐は通信かと思ったがクリスは改造人間ではないので通信できる筈がないと考え、念話をしてきたクリスを睨みつける。

 

「調子にのらん事だ」

 

そう言い終えるとゾル大佐はソロモンの杖を持ち何体かのノイズを出した。

 

『次はノイズを使って来たか!』

『それを使うと言う事は、もうお前達の戦力も限界のようだな!』

 

翼の念話にゾル大佐は鼻で笑う。

 

「ノイズの正体も分かってない癖に言ってくれるな」

 

『ノイズの正体?』

 

ゾル大佐の言葉に響達は思わず聞き返す。世界でも未だにノイズの正体など分かってない筈なのにと考える。

 

「聞きたいのなら、教えてやる!ノイズはバラルの呪詛で相互理解出来なくなった人類が同じ人類を殺す為に造られた自立兵器だ!」

 

『人間が人間を!?…埃をかぶった兵器ってその意味!?』

 

「フフフ、その通りだ。笑えるだろ?理解できなくなった瞬間、人類は同じ人類を敵としているのだからな!人間の業とは恐ろしいものよ!」

 

『何でその事をお前達が知っている!?』

 

「そんな事、貴様たちが知る必要はない。そして、見るがいい!ソロモンの杖の力をな!」

 

ゾル大佐がソロモンの杖を上に掲げる薄い緑色の光が伸び、それが上空で幾つもの枝分かれして地上に着弾する。そして、着弾した場所には何十体ものノイズが現れた。街中には数えきれない程のノイズが解き放たれた。

 

「ハハハ…ここまでノイズを出そうが何ともないとは流石、ソロモンの杖よ!これさえあれば世界は我等の物だ!」

 

『こいつ等でアタシ等を相手にする気かよ!?』

 

「勘違いするな!」

 

「「「!?」」」

 

響達が驚く。出現したノイズは響達を無視するように移動を開始したのだ。

 

「どういう事だよ?」

「…そうか!翼さん、クリスちゃん、二人はノイズを!私はゾル大佐を相手にします!」

 

ノイズの行動に疑問に思うクリスだが、響の言葉に二人共響の方を見る。

 

「何か分かったのか?立花」

「ゾル大佐の狙いは私達がノイズを相手にしてる間に逃げるか、地下の皆を捕らえるのが目的です。かと言ってノイズを放置すれば人のいる場所を襲いだします。私がゾル大佐の相手をしてる間にノイズの殲滅を」

「そう言う事か、セコイ手を使いやがって!」

 

説明を聞いたクリスが散らばるノイズに向かう。それを見送った翼は改めて響に向き合う。

 

「それじゃ、私も行ってくる。死ぬなよ」

「待ってください、翼さん。…あの時はすみませんでした」

「あの時?」

「私、翼さんに……」

 

響の表情から翼は響が暴走状態で暴れた事を謝罪してる事に気付く。それも見て笑みを浮かべる。

 

「もう終わった事だ。立花は私の呼びかけに答えてくれた、自分から戻って来たんだ。それだけで十分だ」

「翼さん…」

「ショッカーを倒して平和を取り戻すぞ」

「はい!」

 

翼もノイズの方に向かうのを見届け、響は地上に降りる。地上ではゾル大佐が面白くなさそうな顔をしていた。

 

「貴様一人で何が出来る?」

「ギーゴー」「ヴァヴァー」「シュシュシュシュ」

 

「お前達を…倒せる!」

 

ゾル大佐を真っ直ぐ見つめる響はそう宣言した。その目は力強く輝く程だった。

 

「倒せるものなら倒して見ろ!弾丸スクリューボール!!」

 

アルマジロングが体を丸め響にまた弾丸スクリューボールを放つ。

 

絶対に…離さないこの繋いだ手は

こんなにほら暖(あった)かいんだ ヒトの作る温もりは

 

「歌?」

「今更、歌ったところで!」

 

響の腕のガングニールが開き、その腕で丸まったアルマジロングを殴りつける。同時に開いたガングニールが閉じ、衝撃波がアルマジロングを貫いた。

 

難しい言葉なんて いらないよ

今わかる 共鳴するBrave minds

 

「ば…馬鹿なああああああああああ!!!」

 

全身にヒビが広がり断末魔を上げたアルマジロングが爆発四散する。その煙から響が無傷で現れた。

 

ぐっとぐっとみなぎってく 止めどなく溢れていく

紡ぎ合いたい魂 100万の気持ち…さぁ

 

「全員でかかれぇ!」

 

ゾル大佐の指示に茫然としていた怪人達が一斉に響へと迫る。さそり男の電磁鋏を、ザンブロンゾのウロコの手裏剣を、かまきり男の鎌を躱し、ドクダリアンに掌底を浴びせる。

 

ぶっ飛べこのエナジーよ

 

響の蹴りがかまきり男を蹴り上げ、拳がモグラングを貫き、回し蹴りがトリカブトの脇腹に入る。

 

━━━凄い、胸の奥から歌が溢れて来る!歌ってる…私は今、歌ってるんだ!見ていてお父さん…

 

響は久しぶりに歌えた事に感動を覚えた。ショッカーに奪われていた物を一つ、取り戻したのだ。それと同時に響はショッカーの怪人に同情もしていた。

 

━━━怪人達の多くは私と同じ拉致されて勝手に改造され脳改造までされた被害者だ。これ以上罪を重ねるなら私が!

 

解放全開!イっちゃえHeartのゼンブで

進む事以外 答えなんて あるわけがない

 

「これでもくらえ!!」

 

アマゾニアが指先からミサイルを放つ。ミサイルの爆発で煙が漂う。響の姿が見えない。ザンブロンゾとヒトデンジャーがその煙へと近づく。

 

見つけたんだよ 心の帰る場所

Yes届け!全身全霊この想いよ

 

「!?」

「なにっ!?」

 

煙から飛び出した響はザンブロンゾの腹部に肘鉄を喰らわせた後にアマゾニアにダッシュし勢いに任せ飛び蹴りをする。そして、ジャンプして、さそり男にチョップを喰らわす。

 

響け!胸の鼓動!未来の先へ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「立花響の力が想定以上だ。このままでは全滅する」

 

次々と部下の怪人達が敗れていく姿を見て、次の手を考えるゾル大佐。

 

━━━立花響の心臓の確保は失敗したが、他は概ね成功した。無理に小娘どもと戦う必要はない。だが撤退するにも立花響が視線を此方に向けて来る。撤退は容易ではない、怪人達が役に立たん以上俺自ら出るべきか?

 

もういっそ自分が出るべきかと考えたゾル大佐だったが、傍らに白目を向いてるフィーネを見て笑みを浮かべた。

 

「フィーネ、この状況を打開できる方法はあるか?」

「…あり…ます…」

 

そこまでゾル大佐はフィーネには期待してなかった。最悪、フィーネを人質に強行突破も考えていたゾル大佐はほくそ笑み「聞かせろ」と言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヴァ、ヴァヴァー!」

 

響が最後の怪人であるキノコモルグを倒した。まるで、キノコモルグが倒れるのを待つかのように倒された怪人達が爆発していく。響の前には愛用の鞭とデュランダルを持ったゾル大佐が佇んでいる。

 

「ゾル大佐、貴方の部下たちは全て倒した」

 

「見事だ、強化改造を施された怪人達を全滅させるとはな。今からショッカーに戻れ、今の貴様なら幹部になれるぞ」

 

ゾル大佐がショッカーに戻れと言うが響は首を横に振る。

 

「貴方こそ投降して、今までやって来た非道、罪を償う時がきた。頼りのノイズも翼さんとクリスちゃんが全部倒す」

 

響がゾル大佐に投降するよう言うが、それを鼻で笑うゾル大佐。

 

「そんな言葉だけで俺が投降すると思っているから、お前はケツの青いガキなんだ。フィーネ!」

「はい…」

 

「了子さん!?」

 

ゾル大佐が体を動かすと響の視線がフィーネに移る。単純にゾル大佐がフィーネへの視線を隠してた。そして、フィーネはゾル大佐から渡されたソロモンの杖を自分の腹部に刺し貫いた。直後にフィーネの肉体から幾つもの小さい手がソロモンの杖に伸び掴んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん?何だ?」

 

響の分もノイズを撃破し続けていた翼がノイズ達に違和感を感じていた。その瞬間、ノイズ達は細く変形して響たちの下に飛んでいく。それはクリスも一緒だった。

 

「!?立花!」

 

何かが起こった。そう直観した翼が急いで戻る。そして、クリスも、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

響は信じられない物を見た。ノイズ達が次々とフィーネとゾル大佐に付着し、大きくなっていく。街中に解き離れた物だけでなくソロモンの杖から更に光が放たれ其処からもノイズがゾル大佐たちに付着する。

 

「立花!」

「何があったんだよ、おい!…って!」

 

異変を感じた翼とクリスが響と合流し何があったのか聞こうとしたが、響の目の前の光景に言葉を失った。

 

「了子さんとゾル大佐がノイズに取り込まれて…」

「…いや、どっちかと言えばノイズが取り込まれている」

 

響の言葉にクリスが反論する。翼も黙っているがクリスの言葉の方に納得する。そうこうしてる内にノイズを全て取り込んだ物は巨大化し、赤い巨大な物になり先端からレーザーが放たれる。

 

「「「!?」」」

 

レーザーの光衝撃波に耐えた響達が見たのは、レーザーによって燃え盛る街だった。

 

「街が!」

「なんて威力だ!」

 

「フッハハハハハハハハ、素晴らしい…素晴らしいぞ!この威力!」

 

ゾル大佐の声が聞こえ、三人が振り返る。其処には赤い巨大な物の内部にゾル大佐が鎮座しその足元には、

 

「フィーネ!」

「了子さん!」

「櫻井女史!」

 

フィーネがまるで磔にされたような格好で居り意識がない事が伺える。体の所々にノイズの体が纏わりついている。

 

「これが完全聖遺物の本当の力か!これならば世界を焼き尽くし我等の理想も叶うわ!」

 

「ゾル大佐、了子さんに何をした!」

「まさか、生体ユニット!?」

 

翼の言葉にゾル大佐は更に笑う。

 

「当たりだ、風鳴翼!フィーネは今、このデカブツを動かす生体ユニットとして俺が有効活用している。こんな風にな!」

 

先端を響達に向けて巨大なビームを放つ。間一髪避ける響達。クリスが反撃にレーザーを打ち込むが、

 

「閉じろ」

「…はい」

 

ゾル大佐の居る場所に黄色いシャッターが閉じる。直後にクリスのレーザーが掻き消えてしまった。そして、ゾル大佐は反撃として、クリスと同じようなレーザーを放つ。辛うじて避け切るクリスだがその額には汗が流れる。その後、翼の一撃や響が一撃を入れるが傷ついてもほんの数秒で回復してしまう。

 

「くだらん真似を、聖遺物の欠片と完全聖遺物。どちらが力が上かなど赤子でも分かるぞ」

 

ゾル大佐にしてみればただの嫌味でしかなかった。最早、シンフォギア装者に打つ手はない。このまま世界を焼き尽くし、その世界をショッカーが支配する気でいた。しかし、ゾル大佐の言葉を聞いた翼とクリスが互いに顔を見て頷いた後、響に視線を送る。一瞬困惑する響だったが二人が何かをすると悟った。

 

「よくは分かりませんけど…やってみます!」

「なら、私と雪音で露を払う!」

「頼りにしてるぜ!」

 

「何をするのか知らんが死ね!!」

 

翼とクリスは無数に飛んでくるレーザーを掻い潜りゾル大佐たちへと近づく。ゾル大佐も近づけまいとするが、翼が力を溜め剣を巨大化させ、その剣で蒼ノ一閃を放つ。爆発して煙が出るがゾル大佐を倒せる程ではなく穴を開けた程度だ。しかし、クリスには穴を開けるだけで十分だった。穴が閉じ切る前にクリスが内部に突入する。

 

「ちっ、考えたな!外から破壊出来ないのなら内部から破壊すればいいと!?狙いはフィーネか!?」

 

ゾル大佐はクリスが入って来た時点で、磔になっているフィーネの前に出てクリスに奪われない様に動く。クリスも一瞬、フィーネを助けたそうにしたが、即座に周りをレーザーで撃つ。

 

━━━狙いはフィーネではない!?ならばこの小娘の狙いはなんだ。ええい、煙で見えん!

 

「開け…ます…」

「!?ま…」

 

煙で見えない事を感じ取ったフィーネがゾル大佐が制止する間もなくシャッターを開ける。そして、シャッターの外には剣を振り上げ待ち構えていた翼が。

 

「ハアアアアアア!」

 

「これが狙いか!?」

 

翼の斬撃からフィーネを守るゾル大佐。爆炎の中、翼の一撃を防ぎきったゾル大佐だったが、デュランダルを握っていた手に衝撃が走り思わず手放してしまった。

 

「一体、何が!?」

 

「チョッセイ!」

 

ゾル大佐の視線の先には拳銃タイプのアームドギアでデュランダルを撃つクリスの姿があった。あの爆炎の中、ゾル大佐の手を撃ってデュランダルを弾いたのはクリスだった。

 

「狙いはフィーネではなくデュランダルだと!?」

 

ゾル大佐が視線をデュランダルに向けると丁度、響が握った所だった。しかし、響がデュランダル取った途端、目が赤くなり体が黒くなりかける。

 

 

 

 

 

 

 

 

その様子を見ていた未来は地上に出ると言い出した。

 

「無茶よ!」

「響は帰って来るって約束したんです。だから、私は響が帰ってこれるように道標になりたいんです。響に守られてばかりの私じゃない。守れるよう強くなるって決めたんです」

 

あおいが止めようとしたが、未来の力強い決意を聞いた皆が黙り込む。

 

「未来…」

「ヒナ…」

「小日向さん…」

「分かった、なら…」

 

未来の言葉に弦十郎も腹を決めたようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい、大丈夫かよ!?」

「しっかりするんだ、立花!」

 

響の様子に翼とクリスも近寄り励ます。その様子を見ていたゾル大佐はまだ勝機があると睨んだが、シェルターの入り口が破壊され、何人もの人が出てきた。弦十郎と未来たちだ。

 

「正念場だ!踏ん張りどころだ!」

 

弦十郎の声に響が視線を向ける。

 

「強く自分を意識してください!」

「昨日までの自分を!」

「これからなりたい自分を!」

 

━━━み…みんな…

 

「その力に屈するな立花。お前の覚悟を私に見せてくれ!」

「みんな、お前に賭けるんだ!その期待に応えて貰うぜ」

 

翼とクリスの励まし、

 

「頑張って、立花さん!」

「ショッカーなんかに負けないで!」

「ヒナから聞いたけど私達ビッキーと友達になりたいんだ!この戦いが終わったら遊びに行こうよ!」

 

創世達の声援が響に届く。

 

 

 

 

「ムシケラどもが鬱陶しいぞ!!」

 

その応援を邪魔に思ったゾル大佐が弦十郎たちにレーザーを放つ。直撃はしなかったがその場に居た全員が爆発に巻き込まれ倒れてしまう。何とか全員、擦り傷で済んだがゾル大佐は狙いをそのままにしていた。

 

「!?」

 

「丁度いい、立花響の絶望の為に死ね!」

 

ゾル大佐は倒れた弦十郎たちに更にレーザーを撃とうとする。

 

「ひび…き…」

 

倒れた未来が響の名を呟く。その声をとても弱弱しかった。

 

━━━!未来!そうだ、私が倒さなきゃ!この衝動に塗りつぶされるものか!!

 

瞬間、響の体の黒が取り除かれ光り輝き出す。その光はデュランダルの刀身を遥かに伸ばしゾル大佐もそれに気付いた。

 

「何だこの輝きは!?これが完全聖遺物の力なのか!?」

 

「響き合う皆の歌声がくれた…シンフォギアだーーーーーー!!!」

 

響がデュランダルを一気に振り下ろす。デュランダルはゾル大佐の居る赤い巨大な物体を切った。直後に赤い巨大な物体の崩壊が起こる。

 

「何が起こっている!?」

 

「完全聖遺物…同士の…対消滅…」

 

「対消滅だと!?何とかしろ、フィーネ!お前なら出来るだろう!」

 

「不可…能…」

 

赤い巨大な物体は爆発を繰り返し大爆発を起こした。この爆発はゾル大佐の野望は失敗を意味していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戦いは終わった。全てのノイズも倒しシェルターに避難していた人々も地上へと戻る。街や道路はボロボロになってしまったが復興が直ぐに始まる。

決戦の場となったリディアン音楽院の方でも弦十郎や未来たちが擦り傷だらけの中、佇む。そこへ響がフィーネを支えて戻って来た。

あの戦いの後に響はフィーネとゾル大佐を探していたのだ。結果、倒れたフィーネしか見つからなかった。

 

「お前…如何して…私を…」

「…助けたかったからです」

 

フィーネの質問に響は答えた。その様子に翼もクリスも呆れたような表情をするが、クリスはどこか嬉しそうでもあった。そして、響は瓦礫の一つにフィーネを座らせる。

 

「…お人好しが…過ぎるぞ」

「昔、みんなにも言われてました。親友からも変わった娘だって…」

 

一息つく、フィーネ。その表情は疲れているように見える。

 

「もう終わりにしましょうよ、了子さん」

「…私はフィーネだ」

「それでも了子さんは了子さんです。きっと私達、分かり合えます。…少なくともショッカーよりは」

 

その言葉を聞いたフィーネはゆっくりと立ち上がり歩き出す。

 

「…ノイズを作ったのは先史文明期の人間。統一言語を失った我々は、手を繋ぐよりも相手を殺す事を選んでしまった」

「ノイズが…」

「ゾル大佐が言っていた事は本当だったのか?」

 

弦十郎たちは疑問に思う。先史文明の巫女であったフィーネが知っているのは分かる。しかし、悪の組織…ショッカーのゾル大佐が何故、その事実を知っていたのか?

 

「ゾル大佐が何故知っていたかは知らん。だが殺し合いを望んだ人間が分かり合えるものか」

「人が…ノイズを…」

 

フィーネの独白に一同はしんみりとする。

 

 

 

 

「フフフ…その通りだ!終焉の巫女よ!」

 

 

 

 

「「「「「!?」」」」」

 

そんな中、聞き覚えのある声が辺りに響く。皆が瓦礫の方に目を向けとゾル大佐が響達を見下ろしていた。

 

「ゾル大佐!?」

「まだ生きて居やがったのか!」

 

翼とクリスの言葉にゾル大佐が一瞬だけ弦十郎たちに視線を送った後、フィーネを見る

 

「所詮人間などその程度の価値しかない。我々ショッカーが管理しなければ人類は互いに殺し合い滅ぶ」

 

「そんな事ない!人は言葉よりも深く繋がれる。私達はそれを知っている!」

 

「ほざけ!言葉が通じないどころか心の通じ合っている筈の親子や兄弟でも殺し合うのが人間だ!人類は愚かなまま進化せずこの星を食い潰す!そうなる前に人類はショッカーが支配すべきなのだ!」

 

「それでも…それでも私達は…」

 

ゾル大佐に反論しようとする響だが、翼とクリスが響の前に立つ。

 

「もう止めろ、立花。あの男にお前の言葉は届かない」

「いい加減アイツの顔も見飽きた!アタシ達が引導を渡してやるよ」

 

クリスの言葉にゾル大佐は高笑いを出す。

 

「フッハハハハハハハハ、それは此方のセリフだ。一つ良い事を教えてやる!立花響、貴様が変身できるように俺もまた変身出来る!」

 

「!?」

「なにッ!?」

「やはりゾル大佐も改造人間か!?」

 

「俺の本当の姿を今、見せてやる!!」

 

ゾル大佐の言葉に全員が驚愕する。果たしてゾル大佐の正体とは!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

=NGシーン=

 

「…一つ良い事を教えてやる!立花響、貴様が変身できるように俺もまた変身出来る!」

 

「え?シンフォギアに?」

 

「そっちではない!」

 

 

 




ゾル大佐、原作のフィーネでもやらなかった悪行をやる。

次回。ゾル大佐との最終決戦。

NGシーンは突然書きたくなった。反省はしていない。


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32話 決戦!ゾル大佐、悪魔の正体

 

 

 

「俺の本当の姿、今を見せてやる!」

 

直後に、ゾル大佐は鞭を下に振ると白い煙が出て、ゾル大佐の体を包む。

 

 

「ワオオオオオーーーーーン!!」

 

其処には牙を生やし獣のような姿。まさに金色に輝く狼男の姿である。これがゾル大佐の正体だった。

 

 

 

 

 

 

「あれが、ゾル大佐の正体?」

「何よ、響達にやられまくっていた狼男なんて今更敵じゃないわよ!」

 

ゾル大佐が黄金の狼男になったのを見て、先の戦いで響達が倒した量産型の狼男と大して変わらないと高を括る弓美たち。尤も、弦十郎は嫌な予感がしていたが。

 

「もう貴様らを捕らえる気はない。全員皆殺しだ!」

 

「やれるもんならやってみやがれ!!」

 

ゾル大佐…黄金狼男の言葉にクリスが先制攻撃を叩き込もうとしトリガーを引こうとした瞬間、クリスの目の前に黄金狼男が居た。

 

「なっ!?」

「クリスちゃん!」

「避けろ、雪音!」

 

「遅いわ!」

 

翼や響が気付き避けろと言うがクリスが避けるより早く、黄金狼男の蹴りはクリスの腹部に減り込み、弦十郎たちの方に飛ばされる。

 

「このー!」

「やあー!」

 

翼と響が即座に黄金狼男に切りかかるが、翼の剣も響の拳も平然と受け止める黄金狼男の姿が。

 

「くッ!強い!?」

 

「俺を今までの雑魚と一緒にするな!」

 

即座に翼の剣を弾き頭を握った黄金狼男は瓦礫の方に投げ、響の前に指を伸ばすとそのままロケット弾を撃つ。ゼロ距離からロケット弾を喰らった響が吹き飛んでしまう。

 

「嘘、何なのあの強さ!」

「耐久力も攻撃力も完全にあの量産型を超えている」

 

弓美や弦十郎が黄金狼男の戦いを見て茫然と呟く。

 

「そんなの、当然だ」

 

縄で縛られたハリケーン・ジョーの呟きに弦十郎たちが視線を向ける。ハリケーン・ジョーはまるで独り言の様に呟いていく。

 

「量産型は元々、ゾル大佐の黄金狼男のデータから生み出された劣化した物だ。その際に命令を出来るように狂暴性も戦闘力も落とされた、な」

「弱点とか無いんですか!?」

「そんなの知れねえよ…」

 

詩織の質問にもハリケーン・ジョーはそう返した。弦十郎が見た限りハリケーン・ジョーが嘘を言ってるとも思えなかった。すると、黄金狼男の目がハリケーン・ジョーに向けられた。

 

「ん?ハリケーン・ジョー。その姿…貴様失敗してオメオメ生きていたか」

「うっ…」

 

黄金狼男の言葉にハリケーン・ジョーが申し訳なさそうな顔をする。

 

「貴様はもう少し使える奴かと思えば…俺が買いかぶっていたようだな。まあいい、貴様を使う事にしよう」

 

そう言い終えると、黄金狼男はダッシュしハリケーン・ジョーを掴んで弦十郎たちから距離を取った。

 

「しまった!」

 

あまりのスピードに反応も出来なかった弦十郎。

 

「俺の体内のウルフビールスを貴様に流してやろう。量産型じゃなく実験用の狼男になるが戦力になるからな」

「わ…分かりましたゾル大佐…」

「恐れる必要はない。死んでもあの世で仲間に会えるぞ」

「!?俺の仲間はみんな解放したんじゃ!?」

「奴等はウルフビールスのいい実験材料になった。その事だけは感謝してやろう」

「騙してたのか…ずっと俺を騙していたのか!?ゾル大佐!」

 

ハリケーン・ジョーの叫びに黄金狼男は無視し牙を体に突き立てる。即座に苦しむハリケーン・ジョーに最早、視線すら向ける事のない。

 

「貴様は弦十郎たちを始末しろ」

 

そう言うと、黄金狼男は立ち上がりだした響達へと向かう。そして、入れ替わりに弦十郎と緒川がハリケーン・ジョーを介抱しようと近づいた。

 

「しっかりするんだ、ハリケーン・ジョー!」

 

「ワォーン!!」

 

弦十郎達が近づいた時には遅かった。ハリケーン・ジョーの体は青い狼男となり弦十郎たちを襲いだした。

 

 

 

 

 

「フフフ…待たせたか?」

 

「ゾル大佐、あの男はお前の仲間…部下じゃなかったのか!?」

 

黄金狼男が立ち上がった響達の前に来る。フラつきつつも翼がハリケーン・ジョーにやった行為を罵る。響もクリスも口では言わないが同意見のようだ。しかし、黄金狼男にとってはどこ吹く風。

 

「それが如何した?敗北した時点で奴の利用価値など最早無くなった。利用価値の無い者には死を。それがショッカーの掟だ!」

 

「本当にろくな組織じゃねえ!」

 

黄金狼男の言葉にクリスはほとほとショッカーに呆れかえる。それと同時に放置も出来ないと確信する。翼と響が再び黄金狼男に攻撃するが、またもや黄金狼男がその攻撃を防ぎ翼の剣と響の拳を握る。

 

「どうした!?馬鹿の一つ覚えみたいに攻撃を繰り出すか。そんな攻撃をしたとこで無駄だという事がまだ分からんか!」

 

「勘違い」

「するな!」

「本命はこっちだ!」

 

そんな、黄金狼男の発言に一瞬だけ笑みを浮かべた翼と響の発言にクリスがそう言い切る。見れば巨大なミサイルを此方に向け発射した。響と翼が素早く離れ、ミサイルが黄金狼男に迫る。

 

「こんなものが!」

 

避けるのが間に合わないと判断した黄金狼男は防御より拳をミサイルに叩き潰し大爆発を起こす。

 

「よっしゃ!」

「これなら…」

 

爆発炎上する光景に翼たちは黄金狼男を倒したかに思もえた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、狼男になったハリケーン・ジョーの相手をしていた弦十郎たちも必死に説得していた。

 

「しっかりしろ、ハリケーン・ジョー!人間としてのお前を思い出せ!」

 

「ワオォーーーン!」

 

しかし、弦十郎の説得もハリケーン・ジョーには届かず獣のような咆哮を上げるだけだった。現状、狼男となったハリケーン・ジョーの手を取ってプロレスのロックアップの状態で拘束している。

 

「指令、もう無理です!人間としての意識が…」

「…やるしかないのか」

 

ハリケーン・ジョーはもう人間には戻れない。短い間だったが共に働き同じ釜の飯を食った間がらだ。何より弦十郎は非常にはなり切れない男でもあった。スパイだろうが仲間を手に掛けるのが気が引けていた。

 

「し…指令…」

 

「!?ハリケーン・ジョー、お前意識が!?」

 

しかし、其処で狼男の口からハリケーン・ジョーの声が漏れている。その事に一瞬喜ぶ弦十郎だが、

 

「指令…××の×…と○○の×…です」

「××?」

「其処が…俺の知る…ショッカーの…拠点です…本拠地かは…分かりませんけど…指令に…伝えておきます」

 

ハリケーン・ジョーは最後の最後に弦十郎達に自分の知ってるショッカーの拠点を伝える。一瞬、人間の目に戻った狼男も少しずつ獣の目に戻りつつあった。

 

「最後に…指令と…話せて…良かったです…ワオォーーーン!!」

 

目が完全に獣になった狼男は咆哮を上げ、弦十郎に嚙み付こうした。

 

「去らばだ、ハリケーン・ジョー。俺達は必ずショッカーを…ゾル大佐を倒して見せる!」

 

ハリケーン・ジョーの最後の言葉に弦十郎は打倒ショッカーを誓い、目の前の狼男に蹴りを放つ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おいおい…」

「無傷だと」

 

クリスと翼は驚愕し響も額に汗が流れた。炎の中から黄金狼男が平然と現れたからだ。

 

「言った筈だ、俺をそこらの雑魚怪人と一緒にするなと。そろそろ貴様らとの戦いも飽いたわ!」

 

そう言い終えると、ゆっくりとクリス達に向かう黄金狼男。クリスが黄金狼男に向けてレーザーや銃弾を放つ。しかし、命中はするが黄金狼男の足を止める事は出来なかった。

 

「これが、ショッカーの…ゾル大佐の本当の力だと言うのか!?」

 

翼の言葉が響やクリスに重くのしかかる。誰しもがゾル大佐に勝てるのか疑問に感じる程、絶望的と言えた。だからこそ、

 

「三人とも何をしている。胸の歌を信じろ!!」

 

フィーネの言葉に誰もが反応した。

 

「胸の…」

「歌…」

「…そうか」

 

響も翼もクリスもお互いの顔を見つめ合った後、目を閉じた。

 

 

ぎゅっとほら…怖くはない

わかったの…これが命

後悔は…したくはない

 

 

「この期に及んでまだ歌か?下らん!!」

 

黄金狼男は響達に向けて両指を向けロケット弾を発射する。幾つものロケット弾が命中し爆発が起こりその影響で幾つもの衝撃波が突風となる。

 

「響ーーー!!」

 

その光景に未来は絶叫を上げ、他の皆も心配する。

 

 

「歌と共に死ぬ「夢、ここから始まる…さあ世界に光を…」!?」

 

 

黄金狼男が歌のした上を見ると三人が飛び、そのまま歌っていた。

 

止めどなく 溢れてく この力

これが想い合うシンフォニー

 

翼の飛ぶ斬撃が、クリスのレーザーが、響の拳が、黄金狼男に命中する。さっきと違うのは黄金狼男に確実にダメージを与えてる事だ。

 

「チッ、多少のダメージを与えたからと言って舐めるな!」

 

黄金狼男は先ず遠距離主体のクリスを潰そうと爪を振りかざし近づくが、

 

「やらせんよ!」

 

弦十郎の蹴りがそれを阻止した。一瞬、茫然とする黄金狼男だがその目は怒りに染まっていた。

 

「貴様は!ハリケーン・ジョーめ、足止めも出来んとは何処までも役立たずだ!」

 

「スパイだったとは言え、仲間の仇取らせてもらうぞ。ゾル大佐!」

 

闇を裂き 輝くよ 聖なるフレイム

全身全霊 いざ往かん往かん ありのまま

すべてを放とう!

 

響の拳が、翼の剣が、クリスの銃に弦十郎の拳が黄金狼男の体に命中する。明らかに黄金狼男が苦戦しだす。

 

「おのれ…おのれ!たかだか人間如きが!!」

 

『へ、その人間にいいようにやられてる癖に』

『人間を侮り過ぎたな、ゾル大佐!』

 

届け!一人じゃない 紡ぎ合うそれがLOVI SONG

伝え!胸の鼓動 原初の音楽よ

 

黄金狼男の言葉に念話で反論する翼とクリス。聞こえていたのか弦十郎もそれに頷く。響の拳が黄金狼男の顎に入り、よろける。しかし、黄金狼男は視界の端にあるものを捉えた。

 

「調子に乗るな、人間どもが!」

 

距離を取った黄金狼男が手を向けて指先からロケット弾を撃ち出す。一瞬、身を固める翼たちだったがロケット弾は翼たちを素通りする。

 

「素通り?」

「ノーコンか!?」

「…!違う奴の狙いは小日向たちだ!」

 

翼の言葉に全員が後ろを振り返る。ロケット弾は確かに未来や弓美たちに向かっていた。未来たちの足では避けようとしても間に合わない。

 

「お前達が守ろうとしたものが破壊されるのを指を咥えて見るがいい!!」

 

「未来!!みんな!!」

 

黄金狼男の言葉に響が未来の名を叫ぶ。今から迎撃しようにも間に合わない。このままではロケット弾が未来たちに直撃するかと思われた。しかし次の瞬間、ロケット弾が全て撃ち落とされた。

 

「僕が未来さん達を守ります。皆さんはゾル大佐を!」

「緒川さん!」

 

銃と短剣を持った緒川が黄金狼男のロケット弾を全て撃ち落としたのだ。忌々しそうにそれを見た黄金狼男が歯ぎしりをする。

 

その後、響達の連携で確実に追い込まれていく黄金狼男だが、未だに響達が黄金狼男に決め手を与えられないでいる。

 

「最後は私が!」

 

響が両腕のギアを引き上げ黄金狼男に腰のブースターで突撃する。トカゲロンを倒した時の技を使う気であった。しかし、黄金狼男はそれを間一髪で避けた。

 

「簡単に当たると思うな!「いや、当たってもらう」なに?」

 

ジャンプして、弦十郎たちの背後に回ろうとした黄金狼男だったが、自分の足に紫色の鞭が絡まっているのを見つけた。フィーネが黄金狼男の行動を邪魔したのだ。思う通りにジャンプ出来なかった黄金狼男が着地し足に絡まるネフシュタンの鎧の鞭を引き千切る。

 

「こんなもの、俺の動きを一瞬だけ止めるのが精一杯だ!」

 

「その一瞬で十分だ。立花!」

 

「!?」

 

翼の言葉に黄金狼男の動きが止まる。自分の影を見ると其処には小太刀が刺さっていた。翼の影縫いだ。そして、翼の言葉通り、響が迫って来た。

 

「ゾル大佐、これで終わりだーーーー!!!」

 

「しまったーーー!!」

 

響の両腕が黄金狼男の胸に入る。そして、両方のギアが下がると共に黄金狼男の体に凄まじい衝撃がはしる。その衝撃に黄金狼男は吹き飛ばされ瓦礫に埋もれた。

 

「ハア…ハア…ハア…」

 

響が疲れたように息をする。いや、響だけではない。翼もクリスも弦十郎も皆疲れていた。皆が皆、全力を出し切った。そんな戦いだったのだ。

 

「立ち上がるな…立ち上がるな…」

「そこでくたばってろ…」

「お願い…もう立ち上がらないで…」

 

翼もクリスも響も正直限界に近い。もう一度、ゾル大佐との闘いなど考えたくもなかった。

 

しかし、黄金狼男が埋まった瓦礫が動き出すのを見て三人に緊張が走った。もう一戦覚悟したが出てきたのは人間体となっていたゾル大佐だった。

 

「グフッ、見事だ…」

 

口から血を吐くと同時に片膝を地面に付けたゾル大佐。最早、戦えるようには見えない。響達が勝利した皆がそう思う中、ゾル大佐は不敵に笑う。

 

「聞け、この戦いは俺の負けだ、それは認めよう。もう直ぐ俺も死ぬ。…だが一人では死なん、貴様らも道連れにしてやる!!」

 

「なにっ!?」

「へ、満身創痍で何が出来るんだ!」

 

翼や響、弦十郎が構えるがボロボロの状態のゾル大佐を見てクリスがそう言い放つ。それ程、ゾル大佐は満身創痍で立ち上がる事も出来ない程ダメージを負っていた。しかし、クリスの言葉にゾル大佐は笑みが崩れない。

 

「フフフ…嘘だと思うならフィーネの方を見てみるんだな!」

 

ゾル大佐の言葉に皆が一斉にフィーネに視線を向ける。そんな中、フィーネは月に向けてネフシュタンの鎧の鞭を伸ばしていた。

 

「フィーネ!?」

「了子さん!一体何を!?」

「私にも分からん!体が勝手に!?」

 

フィーネ自身も訳が分からなかった。ゾル大佐が「道連れ」と言った途端、体が勝手に動きネフシュタンの鎧の鞭を月へ投擲していた。そして、慌てる響達にゾル大佐が勝ち誇った声を出す。

 

「洗脳が溶けたと思ったか、マヌケ!!フィーネには俺が負けた時にある行動をするように細工していたんだ!」

 

フィーネの体が勝手に動いた理由。それはゾル大佐が赤い竜の時にフィーネにマインドコントロールをしていた。内容は「ゾル大佐が敗北した時、考えれる限りの最悪の手を打て」であった。

響達もフィーネを止めたかったが戦闘の疲労とゾル大佐の方を向いていた事で反応が遅れ止める前にネフシュタンの鎧の鞭が月の掛けた部分に突き刺さりフィーネがそれを一本背負いで一気に引っ張る。その際、ネフシュタンの鎧が粉々となりフィーネの動きが止まった。

そして、フィーネの行動を理解したゾル大佐は高笑いを上げる。

 

「フッハハハハハハハハ!月の欠片を落とすか、いいぞ!これで貴様らの勝ちは無くなった!この場にいる者、全員死ぬのだ!…俺は先に地獄で待っているぞ。…グッ!」

 

限界が訪れたのか最後に大笑いしたゾル大佐が倒れると大爆発を起こし、発生した風が響達の髪を撫でる。その場に居る皆は唖然と月の方を見る。心なしか月の欠片が大きくなってる気がした。

 

 

 

 

「…軌道計算出来ました。…このままでは直撃は避けられません」

 

藤尭朔也の報告を皆が静かに聞く。ゾル大佐を倒したというのに、場の空気は最悪となっていた。

 

「ゾル大佐め、とんでもない置き土産を残しやがって」

 

クリスの発言が皆の耳に届く。せっかく、ショッカーに勝ったのにその余韻に浸ることすらできない。

 

「すまなかった…」

 

フィーネの謝罪が辺りに響く、その声に響達もフィーネの方を見る。

 

「私は最後までショッカーにいいように利用されてしまった。何が終焉の巫女だ」

「…気に病む事はありませんよ。全部ショッカーが悪いんです」

 

響がゆっくりとフィーネに近づく。その目には何か決心したようにも見える。

 

「ところで、了子さんにお願いがあるんです」

「お願い?」

「了子さんは何度でも蘇るんですよね。なら私の代わりに皆に伝えて下さい。世界を平和にするのに力なんて必要ない事を。言葉を超えて私達は手を握り合える事を。例え、ショッカーみたいな組織が出来ても皆と手を取り合えば…取り合えば怖くなんてない。私には伝えられないから…了子さんにしか出来ないから」

「おまえ…」

 

響の言葉に何かを感じ取ったフィーネ。

 

「了子さんの為にも私が今を守ってみせます。ショッカーが勝つのは絶対嫌ですから」

 

その言葉を聞いてフィーネは少し笑った。そして、瞳の色が変わった。

 

「なら、最後のアドバイス、胸の歌を信じなさい。クリス、後はあなたの自由に生きなさい!」

「!?」

 

クリスがフィーネの言葉に思わず涙ぐみ。しかし、そう言い終えたフィーネの体が白くなり砂の様に風に舞い散る。それを見届けた響は月の方を見る。

 

「それじゃあ、ちょっと行ってきます」

「響?」

「待ってよ、その状態で行く気!?」

 

響の言葉に未来が呼び止めようとする。それは弓美たちも同じだった。

 

「大丈夫、ちょっと行って月の欠片を壊してくるだけだから」

「無茶ですよ、立花さんの体はもうボロボロなんですよ!」

「ヒナも止めてよ!」

 

弓美たちが必死に響を止めようとする。それだけ響の体は傷だらけで直ぐに手当てをした方がいいように思えた。だから創世も未来に響を止めるよう言うが、

 

「響…必ず帰って来てね。約束だから」

 

未来は泣きながらも響を行かせる事にした。元より響は頑固でもある。

 

「うん、約束。大丈夫、改造人間の体は頑丈だから…私だって諦めない。だから皆も生きるのを諦めないで」

 

未来達に言い終えると響はジャンプし、翼を広げ月に向かって行った。響の姿はアッと言う間に見えなくなる。

 

Gatrandis babel ziggurat edenal

Emustolronzen fine el baral zizzl

 

響は絶唱を歌う。絶唱の力で月の欠片を破壊する為に

 

Gatrandis babel ziggurat edenal

Emustolronzen fine el zizzl

 

その歌声は地上にも聞こえ、未来は涙を流す。

 

「響…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

月の欠片へと向かう響はアッサリと大気圏突破をする。そして、横目で少しだけ地球を見た。

 

━━━奇麗な星だな…皆が居るんだ、守らないと!

 

地球を見る偶にちょっとだけ止まった響は決心を改め月の欠片へと向かおうとした。

 

『おいおい、アタシ等を忘れるなよ!』

 

━━━!?

 

突然の念話に響が後ろを振り返る。翼とクリスが響を追って飛んできたのだ。

 

『こんな大舞台で歌えるとはな、立花には驚かされてばかりだ』

『翼さん!クリスちゃん!どうして…』

『お前にばかりいい恰好なんてさせねえよ』

『一人より二人、二人より三人。そうだろ立花』

『でも、私は改造人間だから、まだ助かる可能性がありますけど二人は…』

『そんな事、気にするな』

『アタシ達はお前の手を握ってやるって言っただろう。素直に受け取れよ』

 

翼とクリスの念話に響は頷いた。そして、三人は歌い月の欠片に接触した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「本日未明、月の欠片は消滅。装者は行方不明との事です」

 

日本某所、薄暗い部屋の中に戦闘員が二人の人物に報告をしていた。一人は外側が黒く中が赤いマントを羽織った初老の男。もう一人は顔の部分が開いたツタンカーメンのような物を被り物をした男が居る。そこへ、ショッカーのシンボルから光と共に声がし出す。

 

『ゾル大佐が敗れたか。それで()()()()、データは?』

「想定以上に素晴らしいデータを得られました。これで怪人達の更なる強化も出来ます」

「首領、装者どもは間違いなく生きてるかと。今のうちに日本占領作戦を進めては?」

『慌てるな、()()()使()。特機部二どもはゾル大佐をショッカーの首領と思っている。今の内に怪人達の強化改造を急ぐのだ』

「全ての怪人達を強化するのに三カ月は必要かと。構いませんか?」

『いいだろう。三か月後に思い知らせてやればいい。我等ショッカーの恐ろしさを。ハリケーン・ジョーが喋った拠点も大して価値がない。仮に特機部二や公安がガサ入れしようが痛くも痒くもない』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一つの戦いが終わりゾル大佐は敗北した。三週間後に立花響たちも無事に未来との再会を果たす。

しかし、ショッカーは滅びず闇に隠れ蠢く。彼らが動くのは三カ月後、そして、響たちは思い出す。ショッカーの恐ろしさを。

 

 

 

無印 完

 

 

 

 

 




これで、無印は完。

ゾル大佐が普通に強いですが上級怪人ですからね。昭和の悪役、ショッカーの魅力が少しでも書けてればいいんですけどね。
Gでは死神博士と、とあるキャラクターがクロスオーバーする予定。その前に閑話か絶唱しない話をするつもりですけど。



最後に出しそびれたハリケーン・ジョーの設定でも、

ハリケーン・ジョーはプロレスラーになり小さいながらも団体を立ち上げて試合をするも時代の流れもあり閑古鳥ばかりで借金が膨れ上がり首が回らなくなって解散になりかけるがショッカーのスカウトによりハリケーン・ジョーは大金を得ることになった。
内容は戦闘員の戦闘訓練が主だが偶にスパイとしての活動もしていた。…スパイはあまり出番は無かったが。
その際に、ハリケーン・ジョーの裏切り防止として彼の仲間が何人かが人質になっていたが後に開放されたと言われる。しかし、実際はゾル大佐のウルフビールスの検体として使い潰され死亡。
ハリケーン・ジョーは、既に居ない元仲間の為に頑張り続けていた。


こんな感じですね。


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絶唱しないシンフォギア その1

 

 

 

=響、家に帰る=

 

ゾル大佐との死闘に勝利した機動二課。それから一月程が経ち街もだいぶ復興に向かっていた。そんな中、響がある一軒家の前に立って何か悩んでいた。

 

「響、いい加減覚悟を決めたら?」

「その通りだ、響くん」

 

そんな響の様子に付いて来ていた未来と弦十郎も呆れて言った。その言葉に響の目が泳ぐ。

 

「分かってるけど、一年半以上…二年近く行方不明だった私が何て言えばいいの?「ただいま」でいいの?それとも「こんにちは」?未来、この格好変じゃない?」

 

響が悩む。此処は響の家でありショッカーに攫われて以来久しぶりの実家だった。ショッカーも倒した事で響も母やお婆ちゃんに会えると思って実家まで来たのだ。最後に見たのは誹謗中傷のビラが貼られた家だったが今の家はそんなビラは何処にもない。少し安心した響。

しかし会いたい会いたいと思っていたが、いざ家の前まで来ると響の足が竦んでしまった。因みに響の格好は未来が選んだ物に特殊なワイヤーを仕込んだ服で未来と遊びに行くときに着る服だ。

 

「響くん、電話で今日帰ると伝えてるのだろう」

「おばさん達も首を長くして待ってるよ」

 

弦十郎と未来の言葉に深呼吸をして落ち着こうとする。因みに未来は付き添いで弦十郎は響の家族に改めて響の現状を説明する為に一緒に来ていた。

 

「…よし!」

 

自分の頬を叩いて気合を入れた響は実家の呼び鈴を押す。呼び鈴の音が木霊し響にとってそれは何よりも長く感じた。

 

「は~い」

「!?」

 

女性の声と共に扉が開く。中から響の髪と一緒の色をした女性が出てきた。母親だ。記憶の中の母親より少し窶れた姿だった。

 

「あの…その…」

 

「ただいま」と言いたかったが言葉が出てこず、しどろもどろになる響。しかし、女性はそれを見て噴き出した。

 

「…お帰り、響」

「!た…ただいま、お母さん」

 

ゆっくりと女性に抱き着かれた響の目から涙が出る。会いたくて会いたくてたまらなかった母とやっと会えたのだ。家の廊下の奥にはお婆ちゃんも居て同じく涙ぐんでる。

 

「良かったね、響」

「…そうだな」

 

様子を見ていた未来も弦十郎も涙目になる。この日、響が帰って来れたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「一体今まで何処に行ってたんだい!あの人も居なくなって響まで…」

「響、よく帰って来たね」

 

家の中に入った後は、響は母親に何処に言っていたのか聞かれ言い淀む。お婆ちゃんは響の頭を撫でていた。改めてどう説明すればいいか分からない響だったが、

 

「その事なのですが…」

 

響の傍に居た弦十郎が話し出す。一応トップシークレット扱いの情報だったがショッカーを打倒したと判断し響の家族だった事もあり弦十郎は響の身に起きた事を話す。

 

その内容は改めて聞くと酷いものであった。響はショッカーと呼ばれる悪の秘密結社に拉致され改造人間にされ一年半もの間捕まって政府の特異災害対策機動部二課が保護した事を。

 

「…本気なんですか?」

「秘密結社だなんて…」

「これを」

 

半信半疑の家族に弦十郎は封筒を渡す。中を確認すると響のレントゲン写真と響の治療の写真に医者の検査報告であった。

 

「酷い!何で家の娘がこんな目に!」

「人のやる事じゃないよ!こんな事…」

「お母さん…お婆ちゃん…」

 

酷い現実を聞かされ泣き出す二人。こうなる事は弦十郎としても予想されていた。しかし、隠し通してもいずれは気付いてしまうとして今この場で二人に教えたのだ。

 

「お母さん…お婆ちゃん…こんな体にされた私をまだ娘として見てくれますか?…家族として見てくれますか?」

 

「「!?」」

 

その言葉に二人はハッとする。一番傷ついてるのは紛れもなく響だ。

響としても不安であった。人間でなくなった自分を家族が…母や祖母が家族として見てくれるのか?最悪、化け物と罵られ家から追い出される事も覚悟し目を瞑った。しかし、響の体に暖かさを感じ薄っすら瞼を開くと二人が響に抱き着いていた。

 

「馬鹿ね…響は響だよ…」

「そうだよ…誰が何と言おうとね」

「お母さん、お婆ちゃん」

 

二人の言葉と行動に響が未来や弦十郎の目も気にせず泣いた。響にとっても久しぶりの大泣きに未来も弦十郎も貰い泣きしかけた。どの位泣いていただろうか?外も大分日が落ちて時間も経つ。

 

「お母さん、お婆ちゃん。お父さんの事で言わなきゃいけない事があるの」

「洸さん?」

 

一頻り泣いた響は意を決したように話す。最初は不機嫌だった二人も話し手を進めていく内に二人の顔が青ざめていく。

 

「…ということなの」

 

響の発言は終わった。二人は暫しの沈黙し未来と弦十郎がハラハラと見守る。

 

「…そうあの人が」

「失踪したんじゃなくて拉致されていたなんて…」

「…お父さんは私を守る為に…」

 

夫が、義息が逃げた訳ではなく、拉致されて殺されていた。娘の響を守る為にとは言え、命を落とした。一瞬、悲しそうな顔をしたお母さんが響に笑顔を向ける。しかし、響には笑顔が無理してるように見えた。

 

「家の孫はまだショッカーに狙われとるのか?」

「…ご安心ください。ショッカーの首領格を撃破しました。もう響くんが狙われる事はないかと」

 

弦十郎の言葉に二人はホッと胸をなでおろす。

その後、響の母が弦十郎や未来に夕飯を一緒にどうかと誘うが、弦十郎は仕事で未来は家族に会いたくなったとして辞退。響は一晩泊まった後に機動二課に出向くことになる。尚、響の家族が響の好物を沢山作ろうとしたが、響がもう流動食ぐらいしか受け付けない事を話すと二人は愕然とする。

いたたまれなくなった響は早々に自分の部屋へ向かう。響の部屋は当時のまま残されたままでまるで時が止めったような錯覚をする。

 

暫くベッドで仰向けになっていた響は本棚から一冊の本を取り出す。それはアルバムだった。小さい頃の自分や父と母、お婆ちゃんが写ってる姿をひたすら見ていた。時間が暫く過ぎた頃だろう。

 

「洸さん…洸さん!」

 

下の階に居た母の泣き声が聞こえる。お婆ちゃんの声はしなかったけど恐らく母に寄り添ってるのだろう。

 

「…お母さん…やっと泣けたんだ…」

 

響の声が部屋に静かに響く。ショッカーに奪われた歌は取り戻せた。しかし、取り戻す事が出来ない物はどう足掻いても取り戻せない。響の胸に悔しさが残った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

=拠点制圧=

 

薄暗い通路、何人かの武装した男達が進む。ドアの前に止まると男たちは爆弾を設置し爆破してドアを破った。

 

『此方、Bチーム。制圧完了』

『此方、Dチーム。戦闘員の排除に成功し制圧しました』

 

通信機からの報告に緒川は一先ず安心する。ハリケーン・ジョーの残した情報でショッカーの拠点を制圧する為にチームも編成し公安との連携もされ無事制圧も終わりつつある。一つ目の拠点は早々に抑える事に成功した。尤もその拠点には戦闘員も科学者も居らずパソコンの機械も壊されていた。

現在、緒川達が居るのは二つ目の拠点だった。少数ながら戦闘員も配備され此処が重要拠点と思われた。

 

『此方、Aチーム。…制圧は出来ましたが緒川さんに見てほしいものがあるんですが』

「見て欲しい物ですか?分かりました」

 

拠点の完全制圧も終わりの頃に通信機から緒川を呼び声に反応しAチームの居るある地下室へと向かった緒川。無事にたどり着いた場所には何人かの人間がおり中には戻してる物もいた。そんな中、チームの隊長が緒川を見つけて敬礼した後、見つけた物を説明する。

 

「…見て欲しいというのはこれです」

「こ…これは…」

 

そこにあった物を見て緒川が顔を顰める。其処にはガラスで出来た人の頭ほどの大きさのシリンダーに満たされてる液体。そして、液体の中には、

 

「これは…脳みそ?」

「脳髄一式と言ったとこですね。殆どが生命反応が無くなっていますけど。この仕事をやってきて長い方ですけどこんな物見た事が無い。臓器売買のブローカーだってこんな事しませんよ」

 

緒川の前に脳みその入ったシリンダーが二桁程あり、どれも人間の物と思われる脳みそが入れられていた。その殆どが壊死し崩壊してたが一つだけ生きてるようにも見えた。

 

『誰か…居るの…か?』

 

突然の声に緒川とチームの隊長が互いに顔を見合わせ互いに指を指し互いに首を振った。緒川と隊長の声でない。ならと、緒川が生きている脳の入ってるシリンダーに目線を送る。そのシリンダーは先程より光ってるように見えた。

 

『誰か…居るなら…答えてくれ…一人は…辛いんだ…』

「つかぬ事を聞きますけど…あなたはその状態で喋れるんですか?」

『良かった…白川くんも大隅くんも…死んでしまってずっと…孤独だったんだ。…その言葉使い…君はショッカーでは…無いようだね』

「はい、僕達は政府の特異災害対策機動部二課のエージェントと公安の混合チームです」

『おお…やっと政府が…動いてくれたか。…申し遅れた…私は緑川弘…元、城北大学…教授だった…男だ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「緑川教授だと!?」

 

緒川の報告を政府の用意した簡易指令室で聞いた弦十郎の声が荒立つ。

 

「知っているんですか?」

 

あおいの言葉に弦十郎は頷く。

 

「彼は生化学の権威と飛ばれていた天才だ。彼のお蔭で今の生化学があると言っても過言ではない。だがしかし、緑川教授は70年前に突如行方不明となりノイズに殺されたと言われていたが…」

『行方不明の科学者の…大多数はショッカーに拉致…されたと思って…いい。奴等は…狡猾で…ノイズの…仕業に…見せかける事も…多かった。奴らが…私達を…こんな風に…したのは…私達の…知識を…奪う為だ…脳だけになってしまえば抵抗すら出来ない…』

 

弦十郎の前にあるシリンダーから緑川の声がする。簡単な事情聴取が終わった後に、公安から特異災害対策機動部二課に回されたのだ。

その言葉を聞いて弦十郎の額に汗が流れる。緑川が言った「白川」と「大隅」も天才的な科学者と言える人物だった。

 

『それにしても…風鳴か…フフフ…』

「?何か」

『いや…昔の…友人を…思い出してな…最後に…会いたいと…思ってたが…70年か…流石の彼も…もう生きては…いないだろう』

 

緑川の諦めたような発言にその場の全員が言葉を無くす。聞けば70年間も脳髄だけでシリンダーの中で生かされていたのだ。その苦しみはどれ程の物だったか想像すら出来ない。

 

 

「弘!!」

 

 

そんな空気の中、扉が開かれると共に緑川を呼ぶ声が響く。

 

「親父…」

 

弦十郎が呟く。入って来たのは風鳴訃堂だった。

 

『その声…訃堂か?…生きていたんだな』

「それは此方のセリフだ、馬鹿者!突然消えよって!」

 

訃堂は周りの目を気にせず緑川の脳の入ったシリンダーへと近づきそっと触れる。

 

『訃堂…ルリ子がどうなったか…分かるか?』

「ああ、お前が突然失踪して落ち込んでおったがモトクロスの選手の若者が励まして結婚した。孫にも恵まれ10年前に逝った」

『そうか、それだけ…聞けて良かった。すまない…訃堂、君との…約束…守れそうに…ない』

「!何を言っている…貴様の…頭脳とワシの武で日本を守ろうと誓い合ったではないか!!」

『すまない…もう限界みたいだ…最後に…君の…声を…聞けて…よかった…』

 

シリンダー内の緑川の脳が崩壊を始める。公安が特異災害対策機動部二課に渡したのもこれが原因だった。寿命だ、脳外科の医者も70年間も持っていたのは奇跡だと言うほど緑川はずっと耐えていた。

緑川の死を見届けた訃堂は、一筋の涙が流れ機動部二課から出ようとした。

 

「親父」

「何も言うでない。…何も」

 

この時、弦十郎は訃堂の初めて人間らしいところを見た気がした。

 

 

 

 




響が無事に家に帰り、仮面ライダーの有名な博士が脳みそで見つかる話です。
そして、無駄に広がる訃堂の交友関係。
設定では、訃堂と緑川は竹馬の友で共に日本を守ろうと言っていた親友です。


訃堂何歳だ?(100歳越えは確実らしいけど)


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絶唱しないシンフォギア その2

 

 

 

=引っ越し=

 

「ねえ、響。一緒に住まない?」

「…え?」

 

未来の突然の発言に目が点となる響。何故その話になったか、そもそもの始まりは特異災害対策機動部二課から聞かされた情報だった。

 

 

 

「…新しいリディアンですか?」

「そうだ、カ・ディンギルの跡地は使えんからな。政府が廃校になった学校施設を買い取って新生することになった」

 

弦十郎の口からリディアン音楽院の再開を聞かされる。一月ほどの準備に時間が掛かり元々居た生徒の多くも転校や自主退学して数を減らしていたが未だ多くの生徒がリディアンの再開を望んでいた。

 

また学校に行ける。ちょっと嬉しくなった響は、早速この情報を未来に伝えたが未来も既に知っていた。そして、学校の近くに寮も作られる事を教えられた響だったが未来の冒頭のセリフであった。

 

「私と…一緒に?」

「そう。…嫌?」

「ううん、嫌じゃないよ。でも」

 

未来としてはもう、響を狙うショッカーも打倒して平和に暮らせると思っていたし、響としても親友の未来と一緒に住むのは賛成するところではある。しかし、少し悩む響に未来は「どうしたの?」と考えた。

 

「でも、なに?」

「私、力加減が今一だから未来の大事な物を壊しちゃう可能性が…」

「なんだ、そんな事?私にとって響より大事なものなんてないよ」

「そう…ふぇ!?」

 

未来の予想外の言葉に驚く響。結局、未来の圧力に押された響は一緒に住むことを了承した。

 

 

 

そして、引っ越し当日

 

「ひ…響、無理だったら無理って言ってね!業者の人を直ぐに呼ぶから!」

「こんなのへいき、へっちゃらだよ。大袈裟だな未来」

 

二段ベッドを片手で持ち上げてる響に未来は汗を流しつつ見守った。その後も、響は本棚やタンスにテーブルといった重い物を次々と部屋の中に運び、引っ越し業者を唖然とさせる。結局その後も響が重い物を全て運んで引っ越し終了。業者は茫然としながら帰り響は未来とダンボールから小物など取り出し飾りつけなどした。

そして夜となる。

 

「ねえ、響。一緒に寝よ」

「…突然過ぎない?未来」

 

夜も更けそろそろ寝る時間となった頃に未来が一緒に寝ようと誘う。見れば自分のベッドの寝る場所に幾つもの荷物が置かれ横になる事は出来そうにない。

 

━━━もしかしたら、未来に謀られたかな?

 

自分としては問題ないが、もし本当に謀られたら未来は策士だと思う。

 

「その…私、寝相が悪いしもしかしたら未来を潰しちゃうかも…」

「昔、寝た時はそんな事なかった筈だけど」

「う…」

 

響が断ろうとするが悉く未来に潰される。結局、響と未来は二段ベッドの上で布団に入っていた。

 

「じゃ、お休み響」

「うんお休み、未来」

 

電気を消して二人は目を瞑った。こうして今日という日は終わり翌日となる。

 

 

 

 

 

…筈だった。

 

一時間が過ぎ未来が静かに寝息を立ててる事を確認した響は静かに未来から離れベッドから降りる。真っ暗な部屋の中の筈がまるで電気がついてるかのように移動した響は椅子に腰かける。

 

「やっぱり、未来と一緒でも眠れないか」

 

響は、ショッカーに改造されてからまともに寝て居ない。改造手術の時に脳を弄られた影響でろくに睡眠をとれなくなっていた。極度の肉体的疲労や重度の精神的ショックなら一時的に意識が無くなるが、単純に気絶してるだけだ。幸い、響の体の機械が脳をリフレッシュさせている為問題はない。

結局、響は電気も点けず本を読んで暇潰しをして朝を待つ。暗いが問題はない、その気になれば響の目は光の無い闇の中だろうが昼間の様に見る事も出来る。

 

「…こんな事思いたくないけど、便利な目だな」

 

響の呟きが空しく闇に消える。響は今日も眠れなかった。

 

「響…」

 

布団の中に居た未来が薄目を開け響の名を呟く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

=カラオケ=

 

「え~本日は忙しい所、まことにすまないと思っている。しかしゾル大佐打倒の処理が終わった為、やっと皆を労をねぎらえる。今日は二課の奢りだジャンジャン歌ってジャンジャン食べるといい」

 

「「「「「「「「「「おおおおーーーーーーーーーーーー!!!」」」」」」」」」」

 

弦十郎の挨拶が終わると一同が一斉に声を上げた後にメニューを見たり機械を操作したりする。

 

ゾル大佐との死闘の後処理がやっと終わった二課は政府お抱えの施設を借り切り、響達を呼んで遅れていた祝勝会をやっていた。ちゃっかり創世や詩織、弓美も参加していたが誰も気にしない。尤も、カ・ディンギルの解体はろくに進んでないが。

 

「よくもまあ、こんなどんちゃん騒ぎが出来るな」

「何だ、クリス。お前も楽しむだけ楽しめ、こんな機会でもないと楽しめんぞ。金の事なら気にするな、経費で落ちる」

「…それでいいのか?公務員」

 

既に酒を飲んで軽く酔っていた弦十郎の言葉にクリスが呆れながらも突っ込む。

 

「どうだ、雪音。楽しんでるか?」

「ん?お前らか」

 

クリスが声のした方を見ると翼と響が自分に近づいて来た。翼は幾つかの料理を並べた小皿を持ち、響は水の入ったコップだけ持っていた。

 

「ボチボチってところだ。そっちは?」

「私はそれなりだな」

「私も。どっちかと言えば皆が楽しそうにしていたら私も楽しいよ」

 

クリスが「そんなもんかね」と思いつつ周りを見る。取り付けてあるカラオケで楽しむ者や仲間内で集まって楽しむ者に料理にしか興味が無い者までいた。殆どが職員だが弓美たちがカラオケの取り合いなどもして未来が引き攣った笑みを浮かべる。

 

「そう言えば、クリスもリディアンに通うらしいな」

「え?本当、クリスちゃん!」

「…嬉しそうな反応をしやがって。その通りだよ来週から通う事になった」

「えへへへ、よろしくね。クリスちゃん」

 

響の嬉しそうな反応に満更でもないクリス。居心地良いなと内心思いつつ取った料理を食べる。カラオケの方を見れば未来が歌ってた。

 

━━━あの争奪戦に勝ったのか?

 

弓美たちが悔しそうな顔をしてる以上、ジャンケンでもしたんだろうと納得したクリス。

 

 

 

その後、少し時間が経ち

 

「はい、響」

「え?」

 

何人かの歌を聞きながら壁の花になっていた響だったが其処に未来がマイクを渡しにやってきた。

 

「もう歌えるようになったんでしょ?私、響の歌が聞きたいな」

「未来…うん!」

 

本当は久しぶりにカラオケで歌いたかった響は未来の誘いに乗りカラオケで歌う。その歌に未来や創世たちは愚か翼やクリスも静かに聞いていた。途中に弦十郎や職員たちも次々と響の歌を聞き出す。

 

「…良い歌だ…な…」

「…そう…だな…でも…」

 

 

 

 

 

「がんばれ!蜘蛛子さんのテーマ」

 

 

 

 

 

 

「…何の歌だ?」

「分からん。あんな歌あったかな?」

 

クリスと翼が響の謎の歌に頭をひねる。

その場に居る全員…未来すら知らない歌を歌う響。凄い早口で歌う響に皆が感心する。歌い切った後には全員が拍手をするがやはり何の歌か分からない。

 

「す…凄かったよ、響」

「うん、胸の奥から出た歌なんだ」

 

若干引き攣った笑みを浮かべた未来が響を褒める。響も嬉しそうに未来に話す。その後もカラオケが続きオオトリは弦十郎が務めた。

 

「これで今日は終わりだな」

「そうだな…でも…」

 

 

 

 

「パンチーンゴー ンガァンホンチー ペンチョチョッ ヤッサンティ…」

 

 

 

 

「…あれもカラオケにあるのか?」

「あるんだからあるんだろ。…たぶん」

 

翼が弦十郎の歌に頭を抱え、クリスは引き攣った笑みを浮かべる。

弦十郎の歌に皆が微妙な反応をする。響や未来もどう反応していいか分からない。最後は今一盛り上がらなかったところで解散する事になった。

こうして祝賀会は終わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

=お風呂=

 

「何だか最後は盛り上がらなかったわね」

「私、あの歌初めて最後まで聞いたよ」

 

祝賀会も終わり日も暮れかけてきた中、弓美や未来が寮に帰る準備をしている。響達はもうとっくに終わって後は二人位だった。

 

「あ、ちょっと待って!」

 

あと少しで準備が終わる頃にあおいが響たちの下へ来た。見ると翼も一緒だった。

 

「どうしたんだよ」

 

代表してクリスが引き止めるあおいに質問する。すると、あおいは笑みを浮かべて話す。

 

「此処のお風呂も貸し切りに出来たの。皆も入って行きなさい、大きいお風呂よ。当然、女の子限定♪」

 

あおいの言葉に皆が一斉に目の色を変える。…響以外…

 

「大きいお風呂だって!?」

「折角だし入って行く?」

「いいですね」

 

弓美や創世に詩織も目の色を変えて風呂に興味心身だ。クリスも満更ではない。翼が一緒ということは同意してるという事だろう。未来が響に近づく。

 

「響、大きなお風呂だって!久しぶりに一緒に入ろうよ!」

「え…あ…えっと…」

 

未来の言葉に戸惑う響。響としてもお風呂は好きな方だ。未来と一緒にも入りたい程だ、しかし響にはとある事情もあり出来るだけ一人で入りたかった。そんな、響を見てピンとくる未来。

 

「大丈夫だよ、響。胸の傷だって皆は気にしないよ」

 

未来は響が嫌がる理由が過去にツヴァイウイングのライブ中の事故で負った胸の傷だろうと思っていた。退院した後に響から見せて貰った事がある。

 

「……」

 

未来の言葉に沈黙する響。結局、響は未来に引っ張られて風呂の脱衣所へと行く事になった。未来としても少し強引だと思っていた。

 

━━━ごめんね、響。でも私はもっと響が皆と仲良くなって欲しいの。…でも響、胸の傷そこまで気にしていたかな?

 

お互いに和解出来た響と未来だが、響にはまだ壁のようなものが感じて心配していた未来。この際だからその壁も取ってしまおうと考えたのだ。ただ、自分の記憶では響はそこまで胸の傷を気にしていた記憶がない。…後に未来は知る、自分がどれだけ軽率な行動をしたか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お風呂♪お風呂♪」

「わあ、広いですね」

「此処は政府でも自慢のお風呂だからね」

 

素早く服を脱いだ弓美、詩織にあおいが体を洗ったり湯船に浸かったりする。翼もゆっくりと寛ぎクリスは初めてなのかおっかなっびくりで色々と見渡す、途中でタオルを巻いたまま湯船に浸かろうとして翼に注意を受ける。未来はそれに笑いつつ響が入って来るのを待つ。

 

それから間もなく脱衣所の扉が開き、響が入って来た。その姿はタオルで胸の部分を隠していた。そして、そのまま、かけ湯をして風呂に入ろうとするが。

 

「おい、風呂にタオルをつけたまま入るのはマナー違反なんだぜ」

 

クリスが先程、翼に言われた事をそっくり響に言う。その言葉に響はビクっと反応する。しかし、タオルを取ろうとはしなかった。その反応にクリスは湯船から出て響へと近づく。

 

「お前の胸の傷は未来から聞いてるよ。変な目で見ねえから取っちまえよ」

 

そう言い終えると、クリスは響のタオルを素早く抜き取った。響は一瞬アッという顔をしたが直に目を伏せてしまった。「何か響の様子がおかしい」と感じた未来も湯船からでて響へと近づく。

途中、クリスの口があんぐりとしているのが気にはなったが未来は改めて響の胸を見る。

 

「!?」

 

未来が口元を押さえた。

 

━━━違う!!昔の響の傷じゃない!!

 

未来の記憶では響の傷は5センチぐらいの物でしかなく白い線みたいなのがチョンと付いてるだけだった。

しかし、今の響の胸には蜘蛛の巣のような線が肩や首筋まで広がり背中で合流している。シンフォギアの時はインナーで隠れてて見えなかっただけだ。

 

「響、その傷跡!?」

「これ…改造手術の跡なんだ。ショッカーに掴まって改造人間にされた時の」

 

そこで、初めて未来は響が頑なに一人で風呂に入ろうとしていた理由を知った。

その後、響も湯船に入り他の皆も響を囲うように湯船に浸かる。皆、それぞれ響の傷跡を見たりする。そして、響が語りだす。

 

「…これでも大分、傷跡が目立たなくなってきたの。最初は酷かったんだ、顔や手先に足先、お腹にも手術の傷跡が残ってて一年ぐらいしてやっと消えたんだ。でも胸の傷跡はどうしても消えてくれなくて…」

 

響は鏡を見て胸の傷跡を見るたびにショッカーに捕まっていた悪夢を思い出し、未だに心がショッカーから逃れられずにいた。やり場のない怒りと悲しみが響を襲うのだ。それゆえに、この傷を知っている者はフィーネだけだった。

皆が静かに聞く中、響が最後として言う。

 

「ごめんね、こんな気持ち悪い物を見せちゃって。もうみんなの前じゃ脱がないから安心して」

 

そう言い終えると響は湯船から立ち上がり出ようとした。

 

「まっ!」

 

呼び止めようとする未来に翼、クリスとあおいも響を止めようとするが何て声を掛けていいか分からない。下手な言葉は響を余計に傷つけるだけだからだ。

 

「そんな事ない!アンタの…響の傷はカッコいいよ!!」

 

風呂場に大声が木霊する。クリス達が声のした方を見ると叫んだのは弓美だった。

 

「ありがと、お世辞でも嬉しいよ」

「お世辞なんかじゃないよ!それに胸の傷は響の所為じゃない、全部ショッカーが悪いんだ!響が気にする事じゃないよ!」

「そうだよ!ビッキーの傷はカッコいいよ!気持ち悪くなんてない!私が保障する!」

「そうですよ、立花さん!少なくとも私達はあなたの傷を気持ち悪いとは思いません!」

 

それに、頷いたクリスや翼、未来も続く。

 

「そんな物、気にするな。お前はお前じゃねえか!」

「立花、そんな傷の事は気にするな。少なくとも私は立花に敬意を払う」

「クリスちゃん、翼さん」

「響…」

「…未来」

「ごめんね、響。知らなかったとは言え、響が嫌がってたのを無理矢理。…私、最低だね」

 

知らなかったとはいえ、響の傷を皆に見せてしまった。未来の心に後悔が押し寄せる。しかし、響の未来の涙を指で拭くと笑みを浮かべる。

 

「そんな事ないよ。未来の気持ちは分かってたしそれがとても嬉しかった。…もうちょっとだけお風呂に入ろうか」

 

響としても未来がお節介焼きなのは知っている。昔と変わらない未来に新しい友達の説得で湯船に入りなおす。その目じりから液体が流れた。その日、響は久しぶりにゆっくりと親友と風呂に入ってリフレッシュ出来た。

 

 

 

 

 

 

 

響の時は過ぎていく。まるで、ショッカーに捕まっていた間の青春や日常を謳歌するように。

 

 

そして…

 

 

 

「ソロモンの杖の護送?」

「そうだ」

 

再び、時代が動き出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

=???=

 

「これより、XXX回目の実験を行います」

 

科学者と思しき人物が薄暗い部屋の中で呟く。周りには同じ姿の科学者に黒ずくめの男たち…戦闘員が居る。

そして、科学者の前に液体が満たされた容器の中に灰が積もっていた。科学者が手に持っているフラスコの液体を灰へとかける。暫しの沈黙の後、灰に変化が現れ容器の液体が減っていくと共に灰が集まり肌色をしていく。そして、最後には容器の液体が空となり女性の姿が其処にあった。

 

「ここは?」

 

「お喜びください。『スーパーXアルファー液』の実験は成功です。首領」

『よくやった、これでノイズに殺された者も復活できる。早速、ノイズに殺された物理学者のエドワード博士と数学者のケインズ博士の復活を急ぐのだ。女は改造人間研究室へと送れ』

「はっ」

 

その日、悪の組織が画期的な発明をする。しかし、世間がそれを知る事はなかった。

 

 

 

 




響の胸の傷のイメージは新仮面ライダーSPIRITSの一巻に出る一文字ですね。一文字のように感情が高ぶっても顔に傷跡が浮かばない代わりに胸の手術跡は消えない設定です。響の傷跡は13話でもちょろっと出てます。

次回からG編スタート。

弦十郎が歌ってたのは彼の代名詞になりつつある「英雄故事」ですね。文字だけじゃ何歌ってるのか分かんねえや。英雄故事がカラオケにあるのか?…しらない。

最後にまた設定を

スーパーXアルファー液

過去にショッカーが入手した死者を蘇らせる「Xアルファー液」だったが、ノイズに殺され灰となった者の復活は不可能であった。しかし、ノイズに殺された科学者の知識を欲したショッカーは諦める事無く「Xアルファー液」の改良を進めていた。
「スーパーXアルファー液」の完成によりショッカーは灰によって人間の保存方を思い付きそれを目的としだす。

これで、ショッカーは灰になっても復活できる。




原作でも、政府関係者が被害者やノイズの灰を機械で吸い取ってるけど、吸い取った後どうしてるんだろ?


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戦姫絶唱シンフォギアG ショッカーとの激闘 フロンティア争奪戦
33話 動き出す悪とガングニールの少女


 

 

 

ゾル大佐との死闘から三カ月。俗に言う「ルナアタック」と呼ばれた騒乱が終わるが月は現在砕けた欠片が大小の隕石となり月の周回を周りまるで土星のように見える。そんな月夜の下を列車が走る。

現在、響とクリスはその列車に乗っていた。武装し厚い装甲に守られた護送列車だ。響達二課は現在、完全聖遺物の「ソロモンの杖」を在日米軍基地へと運ぶための護衛として乗っていた。途中、ノイズや敵対勢力がソロモンの杖の奪取を伺ってる可能があったからだ。

 

しかし、

 

「ふぁ~」

「平和だね」

 

列車の控室で待機していたクリスが欠伸をして、それを苦笑いで見る響。

もう直ぐ、米軍基地に到着するのだが襲撃者どころかノイズのノの字も現れない。これには弦十郎もニッコリ、という訳ではなく厳しい目で指令室から列車の様子を見守る。

 

「二人共…あまりだらけ過ぎないようにね」

 

同行していた、あおいも流石に苦言を呈する。それだけ、クリスがだらけていたのだ。

 

「まあまあ、いいじゃないですか。彼女たちはまだ若いんですから」

 

すると、一人の男があおいを窘める。響達の視線が一斉にその男に向く。薄い水色の白髪に近い髪をして白衣とメガネをつけた一見、二枚目に見える男。ソロモンの杖の入っているケースを持つ護衛対象の、

 

「ウェル博士!お部屋に居なくて大丈夫なんですか?」

「あそこは息が詰まりそうですからね。それに、英雄の娘と少し話したかったので」

 

そう言い終えると、ウェル博士は響とクリスに視線を移す。その視線に自分達が値踏みされてる気分になり気持ち悪く感じる響とクリス。

 

「英雄…ですか?」

「そう君達は英雄だ!三カ月前ルナアタックだけでなく、あのゾル大佐が率いてたショッカーを壊滅させたと聞いています!」

「「!?」」

 

ウェル博士の言葉に響とクリスは顔つきが変わる。

 

「ショッカーとゾル大佐を知っているんですか?」

「…ショッカーは裏の世界では伝説のような扱いなんです。曰く、知ろうとした者の末路は死しかないとか、国によっては、その名を口にする事すら出来ないとか。そしてゾル大佐もある意味、伝説的な扱いなんです。元ナチスとしては当然ですが…曰く、世界に居るテロ組織の殆どがゾル大佐が育てたとか…此処だけの話、アメリカのFBIが捜査しようとして何人もの捜査員がゾル大佐に殺された。らしい噂まであります」

「FBI!?」

 

その言葉に響もクリスも唖然とする。ショッカーが世界中に網を張りめぐらせているのは知っていはいたが、よもやそこまでとは。

 

「まあ、あくまでも噂ですよ。…ですがゾル大佐が実在した以上、もしかすれば…」

 

半ば怪談じみた話になって響から乾いた笑いが漏れる。結局、ノイズも襲撃者も現れず響達は米軍基地へと到着した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「これで搬送任務は完了です。ご苦労様でした」

 

ソロモンの杖とウェル博士を無事米軍基地に渡して書類のやり取りをする軍関係者とあおい。響とクリスが互いの顔を見てニコリと笑う。そこへウェル博士が口を開いた。

 

「お二人の力を見れなかったのは残念です。ルナアタックの英雄の力を是非、見て見たかった」

「はあ…」

「英雄ねえ…」

 

ウェル博士の英雄発言に苦笑いする響となんとも思ってないクリス。しかし、二人の反応をよそにウェル博士は言葉を続ける。

 

「世界がこんな状況だからこそ、僕達は英雄を求めている!そう、誰からも信奉される偉大なる英雄の姿を!」

「…それが私達だと?」

「そう、ショッカーという悪を倒した君たちは正に英雄だ!」

 

大袈裟に言うウェル。それを胡散臭そうな目で見るクリスだが、響は胸に手を当て悲しそうな目をする。

 

「私は…私は…こんなので…英雄になんてなりたくなかった」

「へ?」

「こんな体にされるくらいなら…平凡な女の子として生きたかった」

「おい…」

「…あの噂、本当だったんですね」

 

響は確かに、ゾル大佐を倒した英雄と言えるだろう。しかし、その代償に響は改造人間にされ人間でなくなり父も殺され家族は不幸になった。何より響は、なりたくて改造人間になった訳ではない。選択肢すら与えられず強制的にショッカーに改造されてしまったのだ。

響の呟きに心配そうなクリスとあおい、不快とも同情とも取れる表情をするウェル博士。響の話を聞いて何かを察したウェル博士は話題を変える。

 

「皆さんが護衛してくれたソロモンの杖、僕が必ず役立てて見せます。これを解析できれば認定特異災害ノイズに対抗しうる新たな可能性を模索する事が出来ます」

 

そう言って、ソロモンの杖が入っているケースを見せるウェル博士。その姿に響が頭を下げ、クリスが「頼んだぞ」と言い言葉を続ける。

 

「ソロモンの杖は簡単に扱っちゃいけない物なんだ。アタシがとやかく言う権利は無いけど…」

 

拳を握りしめ下を向くクリス。クリスは未だにソロモンの杖を起動させた事を後悔していた。

そして、響達が基地を後にし弦十郎が手配したヘリに乗って翼のステージへと急ぐ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウェル博士は複数の護衛と共にソロモンの杖が入ってるケースを保管する為に移動していた。

 

 

 

やれやれ、彼女は英雄になるより普通の人間でいたかったとか理解出来ませんね!その力を使えば英雄になりたい放題の筈なのに…やはり、英雄は僕みたいな人間がやるべきなんだ!ああ、英雄になりたいな。…そう言えば彼女達との約束どうしましょう?例え、僕が居なくても彼女達なら勝手に動くでしょうが…あの計画で僕が英雄になれるんでしょうか?それにしてもショッカーですか、伝説は本当だったんですね。…彼女達には言ってませんが噂にはショッカーには三人の大幹部が居るらしいのですが…

 

「ウェル博士、お客様です」

 

思考してる最中に話しかけないで欲しいですね。僕はソロモンの杖を運んでるのですよ!

 

「これを保管庫に持っていきますから待たせて置いて下さい」

「いえ、直ぐに来てもらいます」

 

ちょっと、強引ですよ!人の手を引っ張んないで下さい。そんな事してると僕の護衛が…?護衛達が何も言わずに僕達に付いて来ている?これは…

 

「此処です、ソロモンの杖と一緒にどうぞ」

 

そう言って、連れてこられたのは上級士官用の客室ですか?何だか逆らえる雰囲気じゃないんですけど…分かりましたよ!入ればいいんでしょ入れば!僕は半ば自棄になって部屋の中に入った。其処には、

 

「久しいなウェル、元気か?」

「せ…先生…」

 

其処に居たのは僕に生化学と改造学を教えた先生だった。

 

 

 

 

 

その数時間、基地が爆弾テロに遭い死傷者が多数出てウェル博士もその中に入る。そして、ソロモンの杖は何処かに消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「首領、予定していた最後の怪人の強化改造が無事終了しました」

 

薄暗い部屋の中、ショッカー科学陣が首領に強化改造の終了を報告する。その言葉に鷲のエンブレムの胸が点滅し声がする。

 

『予定通りだな、死神博士の方も上手くいったようだ。早速動かすがいい、おあつらえ向きに奴等はこのようなイベントをしようとしてる』

 

部屋の中にあるモニターが光、映像が映る。どうやらニュース番組のようだ。

 

「これは今夜開催するという風鳴翼とマリアなんとかのデュエットライブですか。これを襲撃するので?」

『そうだ、それで思い出させてやる!我等ショッカーの恐怖をな!手始めに会場の人間は皆殺しだ!既に準備は終わっている。フハ…フハハハハハ!!』

 

首領の笑い声が木霊する。三カ月間、沈黙していた邪悪が動き出す時が来た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

もう間もなく、日が沈みライブが始まる時間が迫る。会場の近くに止まっている大型トラックの内部にてハイテクな車いすに座り右目に眼帯を付けた高齢の女性がモニターを見る。そのモニターには今夜、風鳴翼とコラボするマリア・カデンツァヴナ・イヴが歌っている姿が映る。その女性の周りには他にも幾つものモニターが映り、その殆どが素人にはチンプンカンプンな文字が書かれていた。

その時、一台のモニターが文字を映し出す。メールのようだ。内容は英語で「汝 平和を欲せば 戦の備えをせよ」と書かれていた。

普通ならチンプンカンプンだが、女性は意味が分かったのか

 

「ようやくのご到着。随分と待ちくたびれましたよ」

 

そう言いつつも笑みを浮かべる女性。そしてライブが始まろうとした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

日本の風鳴翼と世界のマリアのライブがもう直ぐ始まる。会場の熱気も最高潮になり、備え付けられてる世界中のニュースのテレビ画面も今や遅しと会場の様子が映し出される。

そして、やや黒っぽい衣装を着た歌姫マリアが会場に向けて手を振ると会場に歓声が埋め尽くされマリアの名前が連呼される。

それはVIP席で見ていた未来たちも同じだった。

 

「きゃー!生のマリア、迫力が違うね!!」

「全米チャートに登場してからまだ数カ月なのに、貫禄がありますね」

 

弓美がはしゃいでペンライトを振り回し詩織がマリアの実績を言う。何故、未来たちがVIP席に居たかと言えば風鳴翼が手配した為だ。

 

「もう直ぐ始まるけどビッキーたちはまだ来ないの?」

「さっき電話でもう直ぐ着くって言ってたけど「ごめーん、遅れた!」!響」

 

もう直ぐメインイベントが始まると言うのに響とクリスがまだ来ない事で創世が未来に聞く。

その直後に、VIP席の扉が開き響とクリスが入って来た。尚、クリスだけ息を切らしていた。

 

「ハア…ハア…間に合ったか?」

「ギリギリだよクリス」

 

息を切らして汗だくのクリスに返事をする未来。そして、響と未来が座ると同時にVIP席の電気が暗くなり会場に居る観客席のペンライトが一斉に光り胸元が白い服を着た翼とマリアが舞台に現れる。そしてライブが始まった。

 

 

 

 

 

翼のマリアのライブは圧巻の一言だった。響もクリスも未来たちも二人の歌に聞きほれる。

 

「良い歌だね」

「…そうだな」

 

言葉数は少ないがその分二人の歌を聞いていたかった。この時、会場は愚かテレビでも聞いている人達の心は一つとなりかけた。が、

 

 

 

「これが歌姫の歌か、くだらん」

 

 

 

邪悪な存在には二人の歌の良さなどどうでもよかった。

 

 

 

 

 

 

 

二人が歌を見事に歌い切った。観客たちは大歓声を上げ弓美も立ち上がり両手でペンライトを振りまわす。クリスが口を開けたままだがその顔を見れば感動した事が伺え、響も自然と拍手する。

 

そんな歓声の中、観客に手を振る二人。そして翼とマリアのトークが始まる。

 

「ありがとう皆!私は、何時も皆から沢山の勇気を分けて貰っている。だから今日は、私の歌を聞いてくれる人達に少しでも勇気を分けられたらって思っている!」

 

翼の発言に更にヒートアップする会場。それに負けじとマリアも喋る。

 

「私の歌を全部、世界中にくれてあげる!振り返らない、全力疾走だ!付いてこれる奴だけ付いて来い!」

 

堂々としたマリアの発言に世界は熱狂する。中にはマリアの姿を見て泣き出す者までいた。

 

「今日のライブに参加出来た事を感謝する。そして日本のトップアーティスト風鳴翼と歌えた事を」

「私も素晴らしいアーティストと歌えた事を感謝する」

 

二人が握手をかわすと会場もまた歓声に包まれる。

 

「私達が世界に伝えていかないとね。歌には力がある事を」

「それは世界を変えていける力だ」

 

握手した手が離れるとマリアがステージの前の方に歩く。

 

「そして、もう一つ」

 

「?」

 

マリアの言葉に翼は少し驚いた顔をする。台本にはそんなセリフはないからだ。しかし、翼の反応を無視してマリアがバッと右手を振る。瞬間に観客たちの前や通路にノイズが現れた。

さっきまでの歓声とは反対の阿鼻叫喚が観客を襲う。

 

「…たえるな…狼狽えるな!!」

 

パニックを起こす観客たちにマリアがボソッと呟いた後にマリアはマイクに向かって言い放った。

マリアの声が会場を支配し観客たちも取り合えず静まる。

 

「ノイズを出しただと!?」

「アニメじゃないのよ!」

「何でまたこんな事に!?」

「マリアさんが出したの!?」

「これじゃ、迂闊に動けない!」

 

パニックになってるのは未来たちの方もだった。幸いVIP席だった為、周囲にノイズは居ないが観客とノイズが近い為、迂闊に動くことも出来ない。クリスがイチイバルを握り響が会場の様子を見守る。

ノイズの出現は直ぐに二課にも知られるが、大型トラックに乗った高齢の女性は「遅い」と言いつつ「計画が始められる」と言った。

 

 

 

観客たちがノイズに取り囲まれてる中、翼は自分の持つギアのペンダントを触り何時でもシンフォギアの姿になれるよう準備をするがマリアにアッサリと見破られる。その後、少しの会話をした後に、マリアがマイクを回転させ宣言する。

 

「私達は、ノイズを操る力をもってして、この星の全ての国家に要求する!!」

「世界を敵にまわす口上!?これはまるで…」

 

マリアの口から語られたのは宣戦布告だった。更に、

 

「そして」

 

マイクを空中に放り投げて目を瞑る。

 

「Granzizel bilfen gungnir zizzl」

 

マリアの体が光り輝く。間違いなくシンフォギアの装着の光だった。

 

「黒い…ガング…ニール…」

「嘘だろ、おい!」

 

マリアの姿に息を飲む響とクリス。

そのシンフォギアは嘗て響を助けた天羽奏と立花響のガングニールと瓜二つだった。違うのは奏や響のガングニールより黒い事と黒いマントが付いていた。

その姿に翼も響も弦十郎すら言葉が出ない。しかし、その反応にシンフォギアの姿となったマリアは空中に放り投げたマイクをキャッチし再び喋る。

 

「私は…私達はフィーネ!そう、終わりの名を持つ者だ!」

 

 

 

 

 

 

 

「ほう、フィーネだと?」

「どうします?あの娘を捕獲しますか?」

「首領からそのような命令は受けていない。それに過去にもフィーネの名を騙る者もいたそうだ。だが予定より作戦を早める。他の戦闘員にも連絡しろ」

「イーッ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、翼もシンフォギアを纏う為に歌を口にするが緒川に止められ、それならばマリアが観客を逃がし解放しようと言いかけた時に異変が起きた。

 

「なんだこれ?」

「スモークか?」

「ママ、煙いよ!」

 

突如、観客席に大量のスモークが漂う。背の低い子供が煙そうにして親が抱き上げたりもした。

 

「ちょ、誰よスモークを出したの!?」

 

これにはマリアもご立腹だった。まさか、観客やテレビの目から翼を隠しその間にシンフォギアを纏うのかとも考えたが翼の方に視線を送るもその様子は全くない。翼は何が起こってるのか分からず、響は嫌な予感がした。

 

「きゃあああああああああああああああああ!!!」

 

突如、発生した悲鳴にマリアも翼も響達も会場を見る。もしやノイズかと考えて居た翼たちだが其処で見たのは一人の男性が女性を殴り倒してる現場だった。いや、殴り倒すの話ではない男はそのまま女性を殴り続ける、他の観客が止めようとしたがその観客が別の観客に襲われる。その近くに居た子供を抱えた母親が子供の首を絞めだした。

 

「いやーーーーーーーーーーー!!」

「うわあああああああああああ!!」

「助けてくれーーーーーーーーー!!」

 

気付けば別の観客席からも悲鳴や断末魔が聞こえる。観客が観客を襲う姿があっちこっちで見られる。何時の間にかナイフを持って観客たちが殺し合いを始めた。観客だけではない、さっきまでその存在に怯えていたノイズにも襲い掛かり灰となる者までいた。

 

 

 

 

「いやああああああ!!」

「一体何が起こってるんだよ!?」

 

VIP席からその様子を見ていた弓美たちが叫びだしクリスが何が起こってるのか判断ができない。

 

「…あの煙が流れてから皆さんがおかしくなった気がしますけど…」

「煙?」

 

詩織の指摘に響は改めて会場に流れたスモークの出所を探る。しかし、そこにはもう煙などなかった。

 

 

 

 

「皆、止めろ!止めるんだ!…止めてくれ!」

 

あまりの事態に翼の体が動かずステージの上から制止しよう叫ぶが殺し合いを始めた観客が止まる気配はない。それどころか、暴れる者が次々と増える。そこで翼が気付いた、暴れる者たちの目が正気でない事に。

 

「!マリア、これもお前の仕業か!?」

 

目の前のありえない光景に翼がマリアを疑うが、マリアの方を見ると自分以上にありえない物を見た顔をして震えていた。

 

「し…知らない!私はこんな物、知らない!」

『マリア!マリア、如何したのですか!?マリア!』

 

マリアがパニックになりかける中、マリアの持つ無線機にあの高齢の女性の声がする。

 

「マム、見ての通り観客同士が殺し合いを!」

『落ち着きなさい、マリア!モニターを見なさい!!』

 

マムと呼ばれた女性の声にマリアが世界のニュースを流しているテレビ群を見る。

 

「どうして…どうして何も起こってないの!?」

 

その映像には自分達が慌てえる様子や観客たちの殺し合いが起こってなかった。ただ、マリアと翼が話す様子が流されていた。

 

『落ち着きなさい、マリア!これはループ映像です!』

「ループ映像!?」

 

落ち着いてよく見ると確かに映像がループされていた。何時の間にかテレビ画面がループ映像に切り替えられていた事にやっと気付くマリアと翼。これなら今の会場がどうなってるかなど誰にも分からない。

 

「本当だ、一体だれが…」

『分かりません。二課にしては早すぎる。念の為にと既に調と切歌を向かわせています!』

「お前達でないなら…まさか!?」

 

マリアの反応に翼も別の奴が犯人だと睨む。そして、脳裏に災厄な考えが浮かぶが、

 

 

 

「その考えは正しいぞ!シンフォギア装者の風鳴翼!アーアアアアアー!!」

 

 

 

突然の不気味な声が空からして二人が上を見る。上には一羽のカラスが飛んでいた。

 

「カラス!?」

「ちょっと待って、こんな時間帯でカラスって…え!?」

 

日の暮れたこんな時間帯にいくら此処が明るくてもカラスが飛んでいるのは不自然だと感じたマリアだったが次の瞬間、ただのカラスが人型へと変わり、マリアが絶句して翼が顔を顰めた。

 

「俺の名は怪鳥人ギルガラス!この会場の人間どもは俺のデッドマンガスで殺人鬼となったのだ!」

 

「怪人だと…」

 

翼はただただ見たことない怪人に驚いた。

 

 

 

 




原作ではマリアの優しさもあり無事解放された観客たちもショッカーの所為で大惨事に。

ここのウェル博士は原作程、マムたちの計画には今一乗り気ではありません。それによって、Gの原作では列車時に襲って来たノイズも出てきません。でも、響達は活躍はちょっとだけ見たかったようです。

ショッカーは裏の世界では伝説扱いです。知ろうとしたり関わったりすれば行方知れずになる事が多いからです。

そして、原作では遅れた響達が無事ライブ鑑賞。


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34話 悪魔の再始動!恐怖の人類皆殺し作戦!!

シンフォギアXDが聖闘士星矢とコラボしたみたいです。

コラボ動画を見て思ったんですけどその内、ドラゴンボールともコラボしそうだな。

かめはめ波や元気玉を撃つ響に自分以上の大食いを見て唖然とする響や暴走するブロリーに話し合おうとする響とフリーザに勧誘される響達。


…ありだな


 

 

 

「怪人だと!?」

 

弦十郎の居る特異災害対策機動部二課本部でも翼の通信で怪人が現れた事を知る。現在、本部でもモニターがループ映像に変えられていて四苦八苦していた。が、

 

「会場の監視カメラのハッキングに成功!映像に出します!」

 

本部でも流れていたループ映像が切り替わりモニターに現状の翼たちが映りギルガラスの姿を確認した。

 

「何だこの怪人は!?」

「…過去のどのデータとも一致しません!未知の怪人です!」

 

機動二課には今まで戦ったショッカーの怪人のデータが収められている。もし、ショッカー残党が再生怪人を使って来ても対処できるようにだ。しかし、データに無いという事は、

 

「…新しい怪人なのか…」

 

首領格と思われたゾル大佐が敗れたにも関わらず新しい怪人が現れた。この意味は…

そこで、起動二課に防衛省からの通信が入りモニターにソバを啜る白髪の爺さんが映る。

 

「斯波田事務次官!」

『ここにきて怪人が現れたらしいじゃねえか。どういう事だ?』

 

ソバを啜りつつも眼光の鋭さに弦十郎を睨みつける事務次官。

 

「それは…」

 

直ぐには言葉が出てこない弦十郎。最悪な答えが脳裏に浮かぶがどうして口にする事が出来ない。

 

「!緒川さんから緊急通信です!」

 

其処へ、会場内にいた緒川が緊急通信をしてきた。不味い事態なのか音声だけである。

 

『指令、一大事です!』

「分かっている!会場に新しい怪人が現れたんだろ!」

「それだけじゃありません、会場のスタッフ全てが戦闘員に入れ替わってます!』

「何だと!?」

 

緒川の報告に弦十郎は度肝を抜かれる。

翼にカメラの前でシンフォギアを纏うなと言った後に緒川はカメラを止める為に通路を走っていた。しかし、通路の途中にあるモニターに映ってる画がループしている事に気付く。その事を弦十郎に報告しようとした瞬間、四方八方から戦闘員が現れ襲って来たのだ。その中にはスタッフが来ていた服のままの戦闘員も居た。

 

『用意周到だな、だがこれではっきりした。ショッカーは滅んじゃいねえ!』

 

事務次官の言葉に頷くしかない弦十郎。最悪な予想が当たってしまった。

 

『落ちこんでる所悪いがもう一つ二つ悪いニュースがある』

 

そう言うと、ソバを啜り間を開けた。

 

『今しがた例の在日米軍基地で爆弾テロが起きた。死傷者多数でソロモンの杖も行方不明。それから米国の聖遺物研究機関が襲撃を受けたそうだ。詳しい事はまだ分からんが、人間じゃない連中が押し寄せたらしい。それがこの犯人どもだ』

 

事務次官が言い終えると共に弦十郎に幾つかの画像を見せる。多数の戦闘員に別の画に弦十郎には見思えがあった。

 

「!こいつはコブラ男!死神カメレオン!蜘蛛男!こいつ等も再生していたのか!?」

『現場は悲惨らしいぜ。黒焦げにされたり溶かされた連中が多いらしい』

 

此処にきて弦十郎も確信した。ショッカーが再び動き出した事を、そして

 

「間違いない、こちらの動きと連動している」

『俺としちゃ気になるのはアイドル大統領の方だ。あの娘の言うフィーネがショッカーと手を組んでるかだな』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「怪人!?」

「嘘、ショッカーはゾル大佐を倒して壊滅した筈でしょ!?何で今更、怪人が!?」

 

VIP席の方でもギルガラスの姿を確認した未来たちは信じられなかった。三カ月間前のゾル大佐との決戦で怪人は全て倒したと思っていた。現にこの三カ月の間、怪人どころか戦闘員すら出てこなかった。

 

「クリスちゃん、皆の避難をお願い!」

「避難?っておい!」

「響!?」

 

クリスや未来の返事を待たずVIP席の窓を破り外に飛び出す響。

 

「此処、四階建て相当の高さなんだけど!?」

「Balwisyall Nescell gungnir tron」

 

響の行動に創世が思わず突っ込んでしまう。

しかし、響は落下しながらも聖詠を口にする。歌を取り戻した響はシンフォギアを纏う時に「変身」とはもう言わなかった。ショッカーから完全に解き放たれる為にも響は歌えるようになった後から聖詠でシンフォギアを装着してきた。そして、空中でシンフォギア、ガングニールを装着した響は腰のブースターを使って一気にステージに向かう。途中、観客たちの殺し合いを見て止めたい衝動に駆られるが今は怪人の排除を優先した。

 

 

 

 

「あの馬鹿、本当に馬鹿!」

「響…無事に帰って来て…」

 

返事も待たずに飛び出した響に歯ぎしりするクリス。未来は響の無事を願った。

 

 

 

 

 

 

 

「イーッ!」「イーッ!」

 

「一体何が起きてるデスか!」

 

会場の施設の通路を逃げる二人と追う複数の戦闘員。

言葉に一部特徴的に喋る少女がもう一人の少女の手を連れて走る。金色の短髪の少女が後ろを振り向くと戦闘員が自分達へと迫る。慌てる少女の代わりに手を引かれていた黒髪のツインテールの少女は慌てる素振りも怖がる素振りもしていなかった。最初はトイレに行く為に迷子になったと誤魔化そうとしたが姿を見られたと判断した戦闘員が二人を抹殺しようとしていたのだ。

それに気付いた二人は直ぐに逃げたが戦闘員はどこまでもしつこく追って来た。二人の少女が逃げ続けるが戦闘員に袋小路に追い詰められる。

 

「!調には手を出させないデス!」

 

ツインテールの少女を守るように金髪の少女が戦闘員の前に出る。

 

「このガキども何処から入って来た?」

「知るか、だが俺達の姿を見たからには死んで貰う!」

 

戦闘員が二人へと迫る。ナイフを片手に話し合いの余地も無い。万事休すかと思えたその時、

 

「ねえ、切ちゃん」

「なんデス?」

「これ使お」

 

そう言って、ツインテールの少女は胸元に隠してた赤いペンダントを見せる。それを見た切ちゃんと呼ばれた少女は溜息を零すと静かに頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、ステージの上では空に羽ばたくギルガラスが薙刀を握りマリアと翼に向ける。その目は明らかに獲物を見るような目だった。

 

「もう一匹は情報に無いな。まぁいい、貴様も死ね!」

 

「ば…化け物…」

 

ギルガラスの言葉に圧されるマリアが思わず呟き、それに翼が反応する。

 

━━━怪人を知らない?

 

マリアがギルガラスを化け物と言った事に引っ掛かりを感じる翼。そこにシンフォギアを纏った響が到着する。

 

「融合症例第一号!」

「え、私そんな風に呼ばれてるの!?」

 

マリアが自分の事を知ってる事に驚く響。それでも怪人と呼ばれるよりは何倍もいい。響が翼に視線を向ける。

 

「立花!」

「翼さん、此処は任せて人目のつかない場所でシンフォギアを!」

 

響の言葉に翼は頷く。観客席は阿鼻叫喚に陥り既に多数の死者も出ていてステージを気にするものは居ない。全てはギルガラスのデッドマンガスの所為だ。翼は急いで舞台袖に行き聖詠を口にする。

 

「Imyuteus amenohabakiri tron」

 

翼もシンフォギアを纏い改めてギルガラスを睨みつける。

 

 

 

『フッハハハ…フハハハハハハハハハハハハ!!ショッカーが滅んでなくて残念だったな!立花響!!』

 

 

 

「「「!?」」」

 

「…モニター!」

 

突然の不気味な声に身構える響と翼。そして、マリアの言葉に翼とマリアの歌の様子を流していた巨大モニターを見る。そこには先程までマリアの顔がデカデカ映されていたが、

 

「なにこれ、…地球の上に左を向いた鳥?」

 

「…立花、あれは…」

「…ショッカーのシンボル」

 

響も出来れば二度と見たくない秘密結社ショッカーのシンボル、丸い地球の上に左に向いた鷲のマークがデカデカと映り独特な機械音が鳴る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちょ、何なのよ!あれ!」

 

クリスが脱出路を探してる間に響達の様子を見守っていた創世や未来たちも巨大モニターに映し出されたショッカーのシンボルを見た。

 

「あれが…ショッカーのマークだよ、間違いない。前にショッカーのアジトで見た事がある」

 

未来の言葉に誰もが言葉を無くす。やはりショッカーは健在であった。翼とマリアのダイブ中に火の鳥が映ったがそれと比べてショッカーのシンボルはどこまでも恐怖心しかでてこない。

 

「…あれが」

「不気味ですね…」

「ヤバい…アニメみたいでちょっとカッコイイ」

「「「え?」」」

 

弓美の予想外の言葉に未来たちが軽く引く。その直後にクリスが脱出路を見つけて皆を誘導してVIP席を離れた。

 

 

 

 

 

 

「ん?ネズミが逃げ出したか」

 

未来や創世の脱出に気付いたギルガラス。三人の装者は巨大モニターに夢中になっている。逃げ出した者も始末する為に追おうとしたが、

 

『放っておけ!』

「死神博士。よろしいので?」

 

上司であり大幹部の死神博士が追撃は不要と通信を入れてきた。

 

『ムシケラ四匹如き逃がしたところで問題ない。仮に我等の事を喋ろうが待っているのは孤独と絶望だけだ。それよりも、シンフォギアの小娘どもを確実に仕留めろ』

 

死神博士の命令に「了解」と返事をしたギルガラスは意識を響たちに戻す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『久しいな、立花響。少しはやるようになったのではないか!』

 

「その声…!ショッカー首領!!」

「首領!?この声が!…ならゾル大佐は!?」

 

響の記憶に改造手術前に聞いたショッカー首領の声が蘇り声の主が首領であると気付く。響の声にモニターを凝視する翼に一人置いてかれてるマリア。

 

『ゾル大佐が首領だと誰が言った!?ゾル大佐は我等ショッカーの大幹部の一人に過ぎん!この三カ月間の貴様たちのマヌケ面は実に笑えたぞ!だが、それも今日までよ!貴様たちとの戦いで怪人軍団が更に強化された!その強さを味わって死んで行けい!』

 

言うだけ言うと、モニターがブラックアウトしてショッカーのマークが見えなくなった。それと同時にループ再生されていたニュース映像も途切れ「NO SIGNAL」と表記される。戦闘員の包囲網を突破した緒川が映像を流している部屋に突入して念のためにと全ての映像機器のスイッチを切ったのだ。巨大モニターの画面が消えた事で視線が再びギルガラスへと向かう。

 

「また…また戦わなきゃ…」

「立花…」

 

ショッカー首領の言葉にまた怪人達との死闘が始まる事に響は拳を握り、翼が響の心配をする。

 

「そう言う事だ、貴様たちも殺人鬼になるがいい!」

 

そんな響の反応を無視するギルガラス。元より立花響が戦いに積極的だろうが消極的だろうが知った事ではない。ショッカーの邪魔をするのなら殺す。それだけだった。

ギルガラスが翼たちに向け青い煙を吐く。咄嗟にジャンプして煙を躱す三人。マリアに至ってはマントを使って煙を払いのけた。

 

「今のがデッドマンガスか!?」

 

「そうだとも、この煙を浴びればお前達も殺人鬼となるのだ!憎しみあい、いがみ合って地獄に落ちろ!!」

 

そう言い放ちギルガラスは再びデッドマンガスを吐く為、嘴を開ける。

 

          「地獄に落ちるのはお前だ!!」

 

「!?」

 

背後からの声にギルガラスが振り向くとミサイルが自分へと迫り着弾し大爆発を起こす。直後に響達の前にクリスが降り立った。

 

「クリスちゃん!」

「雪音!」

「未来たちを避難させて直ぐに着てやったぜ!」

 

クリスは未来たちを無事に会場の外へと逃がした後にシンフォギアを纏い大型ミサイルを出して急いで来たのだ。その序でに乗っていたミサイルをギルガラスへとぶつけていた。

 

「これで邪魔者は消えたわね」

 

クリスの攻撃でギルガラスが倒されたと判断したマリアが翼や響たちを睨みつけ持っていたマイクを向ける。

 

「へっ、やろうってのなら!」

「その黒いガングニールの事も聞かせてもらおうか」

 

クリスが銃を翼は剣を構える。一触即発の空気に響は戸惑うが会場の方に目が行く。

 

「…待ってください」

 

構える翼とクリスの横を抜けマリアの前に立つ響。

 

「何かしら?」

 

「今、私達が戦う必要はない筈です。それより観客の皆を止めるべきです!」

 

響の言葉にマリアも翼にクリスも会場に目を向ける。

 

「「「!?」」」

 

三人の目に血だらけの会場が見えた。ギルガラスや巨大モニターのショッカー首領に集中していたが響の言葉でやっと気付く。多数の人間が倒れ二階席、三階席から落下する観客も居り死屍累々の光景に三人は思わず顔を歪める。出していたノイズも何時の間にか一体も居なくなり血に濡れる灰がノイズがどうなったか物語っている。そんな光景でもデッドマンガスを浴びた者は血を流しながらも殺し合いを止めない。はっきり言って地獄の様な光景だった。

 

「マリアさんがどうしても戦いたいと言うなら戦います。でも今は生き残ってる人達を助けたいんです」

 

「私は…」

 

会場の様子に気付いたマリアが目を伏せてしまう。マリアの予定ではこんな事になる筈ではなかった。本当なら人質になっていた観客は全て解放して邪魔者が居なくなった後に風鳴翼にシンフォギアを纏わせる筈だった。

 

「わか「無駄な事だ」た!?」

 

マリアとしても無駄な犠牲は出したくない。一時休戦でもと思った矢先にあの招かれざる客の声がした。響達が一斉にクリスのミサイルで起きた煙の方を見る。爆発した個所を中心に煙が濛々としていたが妙な突風で煙が吹き飛ばされた。其処には、

 

「ギルガラス!?」

「無傷かよ!?」

 

己の羽で煙を吹き飛ばしたギルガラスが五体満足どころか無傷で響達を見下ろしていた。

 

「俺のデッドマンガスを浴びた者は解毒剤がない限り元に戻ることはない」

 

「解毒剤!?」

 

ギルガラスの解毒剤という言葉に反応する翼達。それを見て嘴で笑みを作るギルガラス。

 

「無論貴様らに渡す気はない。だがそうだな、こいつ等が邪魔なら…」

 

何かを考え付いたギルガラスが観客の方を向く。

 

「聞けっ!殺人鬼どもよ、この俺ギルガラスが命じる!外の連中を殺しに行けぇ!!」

 

その言葉を聞いた生き残ってる観客たちが外へと移動する。中には脚を引きずる者や立ち上がれず這う者さえいた。

 

「あなた!一体何を言ったの!?」

 

これには、マリアもギルガラスに怒鳴りつけるが、

 

「何だ?聞いてなかったのか外の連中を殺しに行けと言ったんだ。知ってるか?外にはお前らの事が気になって多数の人間どもが野次馬の人だかりが出来てるんだぜ」

 

現在、コンサート会場の周りには騒ぎを聞きつけた翼のファンやマリアのファンに観客の身内にただの野次馬と多数見に来ていた。無論、警察や二課も中に入れないように警戒態勢であり保護されたのは未来たちだけであった。

そして、

 

「きゃああああああああ!!」

「なんだ、こいつ等!?」

 

外からの悲鳴も聞こえてきた。警察から奪ったのかそれとも警察が撃ってるのか拳銃の発砲音も聞こえる。

 

「フッハハ、いいぞ涙と悲鳴がショッカーの再始動の旗印となるのだ!!」

 

「!いけない!」

 

響が外の観客たちを止めようと走り出すが、

 

「させるか!!」

 

空を飛んでいたギルガラスが響の目の前に現れ、持っていた薙刀の柄で響の腹部に一撃を入れステージの上に戻す。響をキャッチする翼とクリスがギルガラスを睨む。

 

「貴様らを片付けた後は人類皆殺し作戦が発動するのだ!俺のデッドマガスを世界中にばら撒く、手始めに先ずはこの日本東京だ!邪魔はさせん!!」

 

「人類…」

「皆殺し…」

「作戦…」

 

響達が絶句する。ショッカーは既に人類の皆殺しを企んでいたのだ。止めなければと響とクリス、翼は立ち上がる。

 

「人類の皆殺しなんて私がさせるものか!」

 

ショッカーの企てた作戦を聞きマリアがマイクを剣代わりにして斬りかかる。その姿に一瞬呆気に取られる響達。

 

「何だ?貴様にとっても他人なぞ如何だっていいのだろう?主要都市にノイズをばら撒くのではなかったのか?」

 

マリアの攻撃は手にしてるマイクを剣の様に斬りかかったりマントを使って変幻自在の動きでギルガラスを攻撃する。

 

「違う!私は皆を…」

『マリア!』

 

其処間まで言い掛けてマリアは口を塞ぐ。通信機越しのマムの声でこの場に響達が居る事を思い出した。しかし、ギルガラスの薙刀がマリアのマイクの間に火花が散る。ギルガラスはマリアの攻撃を捌き続け遂にはマリアのマントを掴む。

 

「しまった!?」

 

「まあいい、世界を支配するのは我等ショッカーだけで十分だ!貴様も殺人鬼になるがいい!!」

 

マントを掴んだギルガラスがマリアにデッドマンガスを吐き出す。しかし、咄嗟にマリアはマントを伸ばしてギルガラスのデッドマンガスを回避する。寸前で躱されたギルガラスも舌打ちをしてマントを掴んでいた手を放す。

 

「はああ!!」

 

直後に背後から響と翼がギルガラスに攻撃する。響の拳や蹴り、翼の剣がギルガラスへと迫るがマリアの時の様に捌く。そして、

 

「死ねぃ!」

 

ギルガラスの薙刀が横に振るわれ響と翼の脇腹部分が薙ぎ払われる。

 

「ウッ!?」

「強い!」

 

「チッ、二匹纏めて片付けるつもりだったんだが…そうだった、立花響は改造人間だった」

 

この時、翼は命拾いをしていた。ギルガラス薙刀は響の体で勢いが死に翼にそこまでのダメージはなかった。もし、翼だけ、あるいは響が生身の人間だったら翼の体も響諸共真っ二つとなっていた。

 

「クリスちゃん!」

「今だ!」

「おおうよ!」

 

ギルガラスに吹き飛ばした響と翼だが、脇腹を押さえつつクリスに合図を出す。二人の声にクリスが大型のミサイルを展開してギルガラスへと発射した。

 

「こんな分かりやすい攻撃など。…なに?」

 

自分もミサイル攻撃を避けようとしたギルガラスだったが突然体が動かなくなる。下を見れば何時の間にか自分の影に小刀が刺さっていた。

 

影縫い

 

翼がギルガラスの隙をついて刺したのだ。少し驚いたギルガラスはそのままクリスの大型ミサイルを受けて爆発する。

 

「よっしゃ!」

 

直撃した事に喜ぶクリスだったが、

 

「まだだ!」

 

一つ目の太刀 稲光より 最速なる風の如く

二つめの太刀 無の境地なれば 林の如し

 

翼は二本のギアから出た小刀を握り、剣にして柄を繋げる。その途端、両方の剣から炎が巻出る。

 

「手合わせして分かった。ギルガラスはまだ倒れてはいない!」

 

百鬼夜行を恐るるは

己が未熟の水鏡

 

「ほう、読んでいたか?」

 

翼の言葉通り、クリスの大型ミサイルを喰らったギルガラスが煙を吹き飛ばし姿を現す。

 

「また無傷かよ!?」

 

クリスの言葉通りギルガラスには負傷した様子はない。

 

我がやらずて誰がやる

目覚めよ…蒼き破邪なる無双

 

床を滑るように移動する翼は焔に燃える連結させた焔の剣を回転させ焔を強めギルガラスへと迫る。ギルガラスも素直に受けさせるもなく、持っている薙刀で翼の剣と打ち合う。

 

「幾千、幾万、幾億の命

すべてを握りしめ振り翳す」

 

「ふむ、これがシンフォギア装者の真骨頂か!確かにさっきよりは強い」

 

歌を口ずさむ翼の攻撃にギルガラスの対処していく。その力はギルガラスも思わず褒める。

 

「その背も凍りつく断破の一閃

散る覚悟はあるか?」

 

ギルガラスとの激しい鍔迫り合いの末、翼は一瞬の隙を付き剣のアームドギアでギルガラスを一閃。

 

風輪火斬

 

響もクリスも決まったと思った。翼にも手応えは確かにあった。

 

             しかし、

 

「温いな!」

 

           ギルガラスへの効果は

 

「なに!?」

 

           今一だった。

 

翼の風輪火斬が直撃したギルガラスは直ぐに態勢を立て直し、翼へと迫る。ギルガラスが薙刀を大きく振りかぶる。

 

「翼さん!」

「あぶねえ!!」

 

響とクリスが翼の援護をしようとするが間に合わない。このままギルガラスの薙刀が翼の首を刎ねるかと思われた。だが、次の瞬間赤く平べったい物がギルガラスに殺到する。

 

「!」

 

それに気付いたギルガラスが翼への攻撃を止めその赤い物体を叩き落す。その間に翼は距離を取り響達と合流をする。

 

「なんだこれは?オモチャか?」

 

ギルガラスは自分に迫る赤い平べったい物を手で受け止め観察する。それは小さな赤い丸鋸の刃に見える。早々に興味の失せたギルガラスは手に持った赤い丸鋸を握り潰す。

 

「マリア!」

「調!切歌!」

 

巨大モニターの上から声がして響達が上を見る。其処には二人の少女が降りてきており、どちらもシンフォギアを纏っていた、その内のピンクっぽい少女がさっきと同じ丸鋸の刃みたいな物をギルガラスに飛ばし、近くに居た緑っぽい少女が手に持ってる鎌の刃を飛ばす。

 

しかし、どれもがギルガラスにダメージを与えていない。それどころか緑の少女の飛ばした斬撃すら掴み取られ握り潰された。

 

「ムシケラが増えたか」

 

「こっちも強い!」

「マリア、此処は逃げた方がいいと思うデス!」

「待ちなさい、全員でかかればこいつ一人ぐらいなら…」

 

ギルガラスの強さに頭を抱えるマリアだが、調や切歌が加われば勝機があると睨む。

 

「…違う!」

「化け物はまだ…」

 

切歌という少女がそこまで言い掛けた時に異変が起こる。何かを破壊する音がする。それも自分達へと近づいていることに気付いた。

 

「ふん、やっと来たか」

 

その音に気付いたギルガラスがそう漏らす。

次の瞬間、巨大なモニター部分が破壊され何かが出てきた。

 

それは体が青黒く胴体や頭部が血の様に赤い、ゴーグルの様な目をした牙を持ち銀色のショッカーベルトを付けた怪人。

 

「ベアアァァー!」

「遅いぞ、ベアーコンガー!ガキのケツでも追っていたのか!?」

 

「また新しい怪人…」

 

「新しい化け物…」

 

マリアは勘違いしていた。調と切歌は自分達を助けに来たのではない化け物…怪人から逃げていたのだ。

 

 

 




ギルガラスがかなり強いですがゾル大佐と比べるとまだまだです。それでも初期の怪人とは比べ物になりません。

インパクトを出す為にギルガラスを出して「人類皆殺し作戦」と言わせました。これにはマリアもドン引き。

ただでさえ苦戦しているのに二体目の怪人が出現。響達はどうするのか?


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35話 響たちの奥の手

 

 

 

調と切歌がマリアと合流する数分前

 

「イーッ!」

 

「しつこいデス、こいつ等!」

 

切歌の鎌が戦闘員を切り裂く。切り裂かれた戦闘員は緑色の泡になって消えてしまった。ノイズとは違い最初は戦闘員を殺す事に罪悪感を感じていた調も切歌も無数に現れる上に本気で殺しにくる戦闘員を倒す事で罪悪感が薄れていった。

 

「でも、切ちゃん。こいつらそんなに強くないよ」

 

ヘッドギア部分のツインテールから小型の赤い丸鋸を出し複数の戦闘員を倒した調がそう言った。切歌もそれには納得している。

 

「だいぶ数も減ってきたデス。このままマリアと合流を…」

 

まだ複数の戦闘員が居る中、切歌がそこまで言い掛けた時だった。目の前の壁を突き破り何かが来た。

 

「な、なんデスか!?」

「…新手?」

 

「戦闘員が随分とやられてるから来てみればガキどもか、俺が始末してやる」

 

壁を突き破ったそれはゴーグルのような目を輝かせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時間は戻り現在

 

『皆さん、緊急事態です!『フィーネ』と名乗ったマリア・カデンツァヴナ・イヴ氏に人質にされていた観客たちが警官隊に襲い掛かりました!!一体中で何が起きたのでしょうか?…!発砲音です!発砲音が聞こえました!!』

 

会場での騒ぎを聞きつけたテレビクルーが付近で取材をしていた時、カメラが会場前の道路は混乱に陥りつつある光景を捉えていた。当初は警官隊も人質が解放されたと思い込み無防備に近づいて襲われ武器などを奪われた。デッドマンガスにより殺人鬼となった観客たちは次々と警備していた警官隊や機動二課職員を襲い一部が野次馬の市民にも襲いだす。

中には警察のパトカーを奪って通行人を轢こうとするものまでいたが、

 

「やらせるか!」

 

指令室から救援に駆け付けた弦十郎が暴走するパトカーにパンチをしてひっくり返す。弦十郎の欠けた指令室はよけい右往左往とするがノイズではなく人間が暴れてるなら自分でも対処出来ると踏んでいた。しかし、

 

「殺す…殺す…」

 

引っ繰り返ったパトカーから出てきた元観客はどこで拾ったのか鉄パイプを持って襲い掛かる。

 

「…ふん縛るしかないか」

 

デッドマンガスによって気絶する事も無い殺人鬼化した観客の手足を縛る事にする弦十郎。見れば他の警察官も弦十郎を同じことをやろうとしている。そんな時にコンサート会場から轟音が響き何かが戦っている事が伺えた。

 

「彼女達に任せるしかないか」

 

出来れば弦十郎も会場に行って怪人と戦いたかった。しかし、響たちの事だ「私達の事より観客の皆を」というのが目に見えていた。そう考えた弦十郎はまた一人の殺人鬼化した観客をふん縛った。

 

余談ではあるが、弦十郎が拳一つでパトカーを引っ繰り返す映像が取れた為、ニュース映像はヤラセではないかと疑われる事になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうした装者ども!ゾル大佐を倒した力を見せてみろ!」

 

突然現れた二体目の怪人、ベアーコンガーが響に翼とクリスに襲い掛かる。響と翼が前衛で抑えつつクリスが後衛に回り援護射撃をする。が、ベアーコンガーの攻撃を完全にいなす事が出来ず翼の頬や肩にベアーコンガーの爪の傷が出来始める。

 

「こいつも…強い!」

「アタシの攻撃は直撃してるのに!?」

「だとしても!」

 

響の拳も翼の剣もクリスの射撃もベアーコンガーには全く通用してるようには見えない。ベアーコンガーの爪が二人のシンフォギアの一部が砕かれ響にも重い一撃を入れる。

 

 

 

 

 

 

「こんな化け物に!」

 

「化け物ではない、怪人と呼ぶんだな!」

 

ギルガラスの薙刀がマリアのマイクを弾き飛ばす。追撃を続けるギルガラスにマリアはマントを使って攻撃を防ぐのが精一杯だ。

 

「…この!」

「マリアはやらせないデス!」

 

調と切歌がマリアの援護をしようとするが、ギルガラスの薙刀と拳が二人を迎撃し、ステージの床に殴り倒す。薙刀の柄が切歌の側頭部をギルガラスの拳が調の腹部に減り込む。床に倒れる調は咳き込み切歌に至っては白目を剝いていた。

 

「調!切歌!」

 

倒れる二人の名を呼び駆け寄ろうとするマリアだが、目の前にギルガラスが立ち塞がる。

 

「!退けぇ!」

 

「先に死ぬのは貴様か?慌てなくてもあの二匹も纏めてあの世に送ってやる」

 

「舐めるな!」

 

ギルガラスの言葉に憤慨したマリアは両腕を上に突き出して両手首部分のギアを一つにして槍となってマリアの手に納まりギルガラスへと向ける。

 

「ほう、アームドギアというやつか。面白い!」

 

『マリア!』

「マムは黙っていて、こいつは倒さなきゃいけないんだ!」

 

マムと呼ばれる女性の言葉を遮りマリアはガングニールの槍でギルガラスに立ち向かう。槍と薙刀で幾つもの火花が散り一見互角のようにも見える。

 

「さっきよりはマシだな、だがその程度か?」

 

「アームドギアを出したのに…まだ強い!」

 

ギルガラスは未だに余裕を見せていたがマリアは早くも焦りの色が見える。調はまだ無事ではあるが、薙刀の柄で側頭部を殴られた切歌が不味いと判断して焦りが出たのだ。

早く助けねばと思えば思うほど攻撃が雑になりギルガラスが有利となる。そして、激しい金属音の後にマリアの槍が手から離れてしまった。

 

「しまっ!?」

 

「ここまでだな、死ねッ!」

 

ギルガラスの薙刀の柄がマリアの足を強打させ床へと倒す。そして、薙刀の刃をマリアへと向けそのまま胸に刺されるかに思われた。

 

 

首をかしげて 指からするり 落ちてく愛をみたの

拾い集めて 積み上げたなら お月さまに届くの…?

 

 

歌が聞こえたと共に無数の赤い丸鋸がギルガラスに迫る。咄嗟にマリアへの攻撃を止め迎撃するギルガラス。其処には立ち上がる者が、

 

「調!?」

「マリアは…やらせない!」

 

DNAを教育していく エラー混じりのリアリズム

人形のようにお辞儀するだけ モノクロの牢獄

 

腹部を押さえ口から涎を垂らしつつ無数の赤い丸鋸を出し続ける調だが、ギルガラスには全く効果がない。手に持つ薙刀で次々と叩き落され体に命中しても碌に傷すら出来ない。ゆっくりと近づくギルガラスに恐怖した調は赤い丸鋸を出したヘッドギアから今までの奴より二つの大型の丸鋸を出してギルガラスに投げつける。

 

「だからそんな…世界は… 切り刻んであげましょう」

 

γ式 卍火車

 

ギルガラスは回避する事もなく大型の丸鋸を受けた。一瞬、倒したかと喜ぶ調だが、良く見ると二つの大型の丸鋸がギルガラスが同時に素手で止めていた。

 

「威力からして間違いないか」

 

そう言い終えると共にギルガラスが掴んでいた大型の丸鋸を握り潰す。

 

「!?」

「逃げて、調!」

 

自分の技をアッサリと潰された調が驚愕しマリアが逃げるよう叫ぶが、ギルガラスの拳が調の頭部を攻撃する。咄嗟にツインテールのアームでガードしようとしたが、アームごと粉砕されて床に倒れる調。尤も、アームを使わなければ調の頭すら粉砕されていた。

 

「う…アグッ」

 

調から苦しそうな声が漏れる。ギルガラスの足が調を仰向けにして胸を踏みつけたのだ。

 

「装者どもの攻撃を受けて分かったが…お前が一番弱いな」

 

「!?」

 

ギルガラスは調がこの中の装者で一番弱いと睨み真っ先に排除しようとした。実力も見抜かれた調もなんとか状況を打破しようとギルガラスの足の下で藻掻く。しかし、調がいくら力を入れてもギルガラスの足はビクともしない。

だが、それを見て笑ったギルガラスが少し足を浮かせた後に再び調の胸を踏みつける。

 

「ガフッ!」

 

悲鳴と口から血を漏らす調を見てギルガラスは何度も踏みつける。踏みつけられる度に短い悲鳴と血を吐き出す調。

 

「調!!」

 

マリアの悲鳴が木霊するがギルガラスは構わず調を踏みつけ続ける事を止めない。

 

「何度目で死ぬかな?ショッカーに逆らった事を後悔して死ね!」

 

最早、決着はついている。それでもギルガラスは調を攻撃するのを止めないのは見せしめとして殺す気だからだ。そして、トドメ刺そうとしてもう一度足を上げた時に片方の足に誰かが捕まった。マリアではない。マリアは、まだ床へと倒れていて手放したガングニールの槍を取ったところだ。

もう片方の足の方を見れば予想通り、意識を戻した緑のシンフォギアで鎌を武器にしていた切歌だった。

 

「調は…殺らせないデス!この命に代えても…」

 

「鬱陶しいぞ!このムシケラが!」

 

ギルガラスが再び薙刀の柄で切歌の顔を殴りつける。それでもギルガラスの足を離さない切歌。しかし何度も殴られてる内に鼻から血が出て顔にも痣が出来つつあった。そこで、業を煮やしたギルガラスが薙刀の刃を切歌へと振り下ろす。薙刀の刃が切歌に刺さるかと思われたその瞬間、黄色い風のような物が吹いて、切歌を狙った薙刀の刃が何もない床へと刺さる。ギルガラスが床を見ると倒れていた調も消えていた。その状況に茫然となるマリアだったが、

 

「間に合ったね」

 

ギルガラスから少し離れた場所から声がし其処に視線を向けると、

 

「…どうして」

「…私達を助けたデスか?」

「助けたかったから。じゃダメ?」

 

調と切歌を抱えた融合症例(立花響)がいた。少しホッとしたマリアは槍を杖代わりにして立ち上がる。

ベアーコンガーと戦っていた響はギルガラスが薙刀で切歌を殺そうとしてるのを目にし居ても立っても居られなく助けにきたのだ。尚、三人でやっと持たせていたベアーコンガーの戦いが翼とクリスの負担が大きくなった。

 

「…偽善者!」

「調!?」

 

響の言葉に調がつい口走ってしまった。鼻を押さえた切歌が窘めようとするが、調だって分かってはいる。もし、響が助けなければ自分は愚か大好きな切歌もギルガラスに殺されていた。

それは分かっているが響のスタンスがどうしても許せなかった。

 

「かも知れないね」

「「!?」」

 

響の言葉に思わず驚く二人。言い訳の一つでもするのかと思っていた調は響を凝視する。

 

「私は…困ってる人を助けたい!特にショッカーに襲われてる人は、…でもショッカーは狡猾で今回みたいな事もしてくる。ルナアタックの英雄なんて言われたけど私に出来る事なんてたかが知れてる。…痛ッ!」

 

調を抱えてる腕に痛みが走る。気付いた調が響の腕から離れる。

 

「あなた、怪我をして…え?」

 

切歌を救う時にギルガラスの薙刀で切られたのだろう切り傷を見た調。手当の一つでもしようとしたが響の傷口からありえないん物が見てしまった。機械だ、チラリとだが見え調は思わず息を飲んだ。

暫く動けないで居た調は目の前の傷が高速で治っていくのまで見た。

 

「調?」

「…ごめんね」

「!?」

 

一瞬、響を疑った調だったが、様子のおかしい調に切歌が心配して響が一言謝る。その事に少なからずショックを受ける調。だが、まだ戦いは終わっていない。槍で立ち上がったマリアが再びギルガラスと戦い切歌を離した響もギルガラスへと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まさか、あのショッカーが現れるとは…ですが思ったよりマリア達の数値は伸びてはいます」

 

マリアにマムと呼ばれた高齢の女性はモニターを見て渋い顔をする。モニターにはフォニックスゲインの波長と数値が書かれていた。

 

「ですがこれ以上はマリアも調も切歌も持ちそうにないですね。アレを使うしかないですか」

 

そう言い終えるとマムはあるスイッチを押した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

響の拳がギルガラスへと当たりマリアも槍のエネルギーを放出して援護をする。翼も剣の柄でベアーコンガーの爪を受け止めると背後に回っていたクリスが小型ミサイルを連続で撃ち命中する。

攻撃は激しく、響達の必死の攻撃にギルガラスもベアーコンガーも大分消耗してきている。それでも未だに怪人達が有利ではあった。正直、響達も怪人以上に消耗している。

その時だった。会場の中心が光り、其処から薄緑色の何かが増殖するように出てきて頭部部分が赤く光る。

 

「緑のイボイボ?」

 

呆気に取られた響が呟く。誰しもがショッカーの秘密兵器かと思ったがギルガラスとベアーコンガーの反応は渋い顔だった。

 

「増殖分裂型のノイズだと!?相手をするのが特に面倒な奴だ!」

「地下に何か搬入しているのは知っていたが、こいつか!」

 

増殖分裂型ノイズ。ノイズの中でも最も厄介だと言われる種類。確認されてる大型ノイズの中でも特に危険と言われ此奴が出た街は実質放棄されると言われる。

ショッカーでもこのタイプのノイズは面倒な存在として相手したくないノイズ、ナンバー1と言われている。

 

「これを使うなんて…マム?」

『三人とも此処は引きなさい。怪人の相手はそのノイズにさせます』

「でも…わかったわ。調、切歌」

 

マムの言う通り、マリアと調、切歌はその場を後にする。マリアとしては戦い怪人を倒したかったが調も切歌も怪人によって大ダメージを受けている。そして自分も無傷とは言えなかった。調はフラつきつつ腹部を押さえ偶に血を吐き、調を支える切歌は未だに鼻血も止まらず切歌の顔がギルガラスに殴られた箇所が少しずつだが腫れ上がっていた。「もう戦えない」マリアはそう判断した。調と切歌は最後に響の方を見た後にマリアに付いて行った。

 

「逃げるか!?」

 

ベアーコンガーが追いかけようとするが、タイミングよく餅のように破裂したノイズの一部がベアーコンガーの前に落ちそれがノイズとなる。そのノイズはベアーコンガーを攻撃し進路を妨害する。

 

「ノイズが怪人を狙ってる?」

 

翼の呟きに響もクリスも驚く。見れば空中に飛んだギルガラスにもノイズが襲い掛かり薙刀で払い除けてた。たまに響達にも襲うがあくまでも怪人達が目標のようだ。

 

「どうすんだよこれ」

「こいつの特性は増殖と分裂か」

「このままだと、此処から溢れ出しますね」

 

今は怪人が相手をしてるからいいが、倒しても倒しても増殖するノイズに打つ手はない。そんな折に会場の施設内にいた緒川から連絡が来て会場の周りは混沌としていてノイズを外に出すわけにはいかないと言われる。

 

「出すなって言われてもな」

「下手に攻撃しても増殖と分裂を促すだけだ。あの怪人のようにな」

 

翼の言葉に響達はベアーコンガーの方を見る。幾つのも分裂体に集られては力で叩くがその度に数が増えていく。

 

「絶唱。…絶唱を使いましょう」

 

響の言葉に翼もクリスも息を飲む。

 

「絶唱ってあのコンビネーションをやる気か?まだ未完成だぞ!」

「でも、それしか…」

「増殖力を上回る殲滅力で一気に倒すか。他に手はないだろうな…しかし怪人はどうするんだ?」

 

増殖分裂型のノイズを倒してもまだ怪人が残っている。ノイズが怪人を倒すまで待つという手段もあるが、その場合怪人達が逃走する可能性が高い。何より怪人達が暴れまわった後の後始末が出来る保証が何処にもない。

 

「はい、だから…」

 

響に一つ策があった。その説明に二人は驚く。

 

「本当にやる気かよ!?」

「ある意味、立花らしいと言えばらしいか。私は乗るぞ」

「ああ、分かった分かった。アタシも乗ってやるよ」

 

クリスが溜息をつくと改めて響と翼、クリスが顔を見合わせ翼とクリスが響の肩に手を置く。

 

「いきます、S2CA トライバースト!!」

 

響の掛け声に三人は目を瞑る。ノイズを相手にしているギルガラスもベアーコンガーもまだ気づいていない。

 

Gatrandis babel ziggurat edenal

Gatrandis babel ziggurat edenal

Gatrandis babel ziggurat edenal

 

「この歌は!?」

「ん?なんだ!?」

 

響達が絶唱を口にしてギルガラスとベアーコンガーがやっと響達が何かをしようとしてる事に気付いた。

 

Emustolronzen fine el baral zizzl

Emustolronzen fine el baral zizzl

Emustolronzen fine el baral zizzl

 

「絶唱だと!?何をする気だ、小娘ども!」

「何をするのか知らねえが俺が引導を渡してやるよ!」

 

ベアーコンガーが響達を殺そうと近づくが、

 

Gatrandis babel ziggurat edenal

Gatrandis babel ziggurat edenal

Gatrandis babel ziggurat edenal

 

「ええい、ノイズめ!邪魔をするな!!」

「このノイズども、俺達を敵として認識してやがる!」

 

途中でノイズがベアーコンガーの進路を妨害する。見て居られなかったギルガラスも響達に迫ろうとしたが、ベアーコンガーと同じくノイズの妨害を受ける。

 

Emustolronzen fine el zizzl

Emustolronzen fine el zizzl

Emustolronzen fine el zizzl

 

絶唱を唱え終わった直後に響達から強烈な光りが溢れ出し一番近くにいた分裂体のノイズが消し飛んだ。更に他の分裂体のノイズも消し飛ぶ。

 

「なんだ、このエネルギーは!?」

「話に聞いていた以上だぞ!?」

 

ギルガラスもベアーコンガーもこれには驚く。話に聞かされていた以上のエネルギーが辺りに渦巻きノイズを包み込む。

 

「グっ!」

「耐えろ、立花!」

「もう少しだ!」

 

響の苦しそうな声に励ます翼とクリス。

S2CA トライバースト。三人の絶唱を響が調律し一つのハーモニーと化し、その力は普通の絶唱以上の力がある。半面、響への負荷が絶大でもある諸刃の剣。

 

「こんなの…へいき、へっちゃらだーーー!!」

 

響達のエネルギーが虹のような光りとなり辺りを包み、其処を中心に光りがノイズに当たるとノイズが消滅しだす。

 

「ノイズが!」

「消えた!?」

 

その力を目の当たりにした怪人達も驚愕する。

 

 

 

 

響達の出した光は会場の外まで見えた。警官隊も野次馬も弦十郎もその光を見て唖然とする。暴れている殺人鬼化した観客の取り押さえも完了したが警官隊や機動二課職員に多数の犠牲者を出した。幸い、一般市民の方は無事ではあった。

 

そして、その光りは未来たちも同様に見ていた。

 

「響」

 

未来が響の無事を祈る。

 

 

 

 

 

響達のトライバーストの虹が最初に出てきた増殖分裂型に接触し周りに付いていたブヨブヨが弾け飛び骨組みが現れる。そして、ノイズの頭部付近に赤く光るコアらしきものが現れた。

 

「あれのコアが露出した!?」」

 

ベアーコンガーが増殖分裂体のコアを確認して驚く。ショッカーでも増殖分裂型のコアを見た者は居ないからだ。

 

「はあ!」

 

しかし、そんなベアーコンガーに斬りかかる者がいた。翼だ。響から手を離した翼がベアーコンガーに斬りかかったのだ。

 

「ぬ!?」

 

突然の事に驚くベアーコンガーだったが、翼の剣ではベアーコンガーの体を斬れない。せいぜい傷つけるのがやっとだ。それにも関わらず翼はベアーコンガーに攻撃させまいと次々と剣でぶん殴り翼の蹴りがベアーコンガーの顎に入り少しだけ浮かせた。

 

「こんな物で、俺が「まだだ!」たお…!」

 

空中で態勢を立て直したベアーコンガーだったが、次にクリスが両腕のガトリング砲と小型ミサイルの連続攻撃でベアーコンガーを攻撃する。しかし、それでベアーコンガー倒せる程ではない、せいぜいベアーコンガーの体を浮かせ少し移動させる程度だ。

 

「無駄だ!こんな豆鉄砲で俺を倒せると思うな!」

 

ベアーコンガーがクリスに言い放つ。この銃撃が止んだら直ぐに翼もクリスも殺す気でいた。

 

「バ~カ、アタシの目的はお前を倒す事じゃねえ。お前を良い位置に置く為にやってたんだよ」

 

「良い位置だと!?…!俺の後ろにノイズのコア!?」

 

クリスの言葉に最初は意味が分からなかったベアーコンガーだが、背中に何か感触がして振り返ると其処には響達のS2CAの影響でコアが露出した増殖分裂型のノイズが居た。

 

「今だ!」

「あいつ等をぶちのめしてやれ!」

 

翼とクリスの声に響は両腕に付いていたギアを片手に持っていき、体のギアも少し形が変わる。虹のように広がっていた光も響の元に集まり内部のギアが回転する。

 

「何だ、何をする気だ!?」

 

ベアーコンガーが声を無視して腰のブースターで一気に飛び上がり一気に拳を構える。

 

「これが、私達の絶唱だああああああああ!!!」

 

そして、響はベアーコンガー諸共大型ノイズのコアを殴りつける。

 

「こんな物でショッカーの怪人を倒せると…」

 

「倒す…お前達を絶対に倒す!!」

 

響の声と共に腕のギア部分が開いて回転する。その拳にベアーコンガーの体が耐え切れなくなりヒビが入る。そのヒビが全身へと広がり、

 

「こんな馬鹿なあああああ!!」

 

響の拳に耐えきれなかったベアーコンガーが爆発する。更に響から放たれた拳のエネルギーが竜巻のようになり怪人の後ろに居たノイズのコアを破壊する。

 

「馬鹿な、これがシンフォギアのエネルギーだと言うのか!?」

 

空を飛んでいたギルガラスもその竜巻の様なエネルギーに巻き込まれる。そのエネルギーは遥か上空まで伸び宇宙にまで達しようとしていた。

 

 

 

 

 

 

「アレが…」

「…奇麗」

「言ってる場合じゃないデスよ、調。…痛ッ」

 

会場の近くのビルの屋上で会場の様子を見てたマリア達が呟く。調に肩を貸していた切歌も顔に痛みが走る。

 

「それはあなたもよ、切歌。…顔が腫れてきてるじゃない!急いで戻るわよ」

 

響達の戦いを見届けたマリアは調を負ぶって急いで戻る。マリアの背中に負ぶさった調は光の治まりつつある会場の方を見る。自分が偽善者と言ってしまった響がどうにも気になったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

光りの治まった会場ではシンフォギアから普通の服に戻った響がその場に座っていた。

 

「無事か!?立花」

 

響と同じく普通の服に戻ったクリスと歌う時の姿に戻った翼が響に駆け寄る。その事に響は「大丈夫です」と言った後にクリスが響を立たせる。

そんな時だった、上から何かが落ちてきた。警戒するクリスと翼だったが、

 

「…ギルガラス」

 

響の言葉に翼とクリスはギョッとする。確かによく見ればさっきまで戦っていた怪人の片割れギルガラスだ。尤も背中にあった両方の翼は引き千切られ両腕も両足もズタボロになっていた。よく見れば体から火花も散っている。

 

「…アタシ達の勝ち…だよな」

「その筈だ…」

 

ギルガラスは響の作ったエネルギーの竜巻に呑まれボロボロとなり会場に落ちてきた。今一勝った気になれないクリスだがそんなギルガラスに響が近づいていく。

 

「おい」

 

思わずクリスが制止しようとしたがそれよりも早く響がギルガラスの横に行き顔を覗き込む。

 

「…貴様らか…体が動かん…俺は負けたようだな…」

 

「ギルガラス、皆を治せる解毒剤を渡して」

 

今にも死にそうなギルガラスの言葉を無視して響は解毒剤を渡すよう言う。響自身、ギルガラスが持っている可能性は低いと思っていた。しかしゼロではない。

 

「…解毒剤か…いいだろう…俺のベルトを調べてみろ」

 

ギルガラスの返事に響はギルガラスのショッカーベルトを調べる。其処でショッカーベルトから赤い液体の入った小瓶が出てきた。

 

「これが…」

 

「…そうだ…解毒剤だ。…尤も…数人分しか…ないがな…」

 

「数人分!?」

 

響が愕然とする。響の記憶ではギルガラスの命令で会場を出た観客は100人は居たからだ。これでは圧倒的に足りない。成分を調べて機動二課本部で量産するしかない。

 

「…一つ、良い事を教えてやる。…俺の…デッドマンガス…で殺人鬼に…なっていた奴に…解毒剤を…使えば…そいつの…殺人鬼になっていた…時の記憶は…そのまま残る…」

 

「「「!?」」」

 

「…一体何人の…人間が正気のままで…いられるかな…」

 

「なんて悪辣な!?」

「お前らこそ正気じゃねえ!!」

 

ギルガラスの言葉に意味に気付いた翼とクリスが罵倒する。しかし、それを冷ややかな目で見るギルガラス。

 

「…ショッカーの怪人…に悪辣や正気か…なんて聞くのは…100年遅い。…俺の体力も…ここまでか…先に地獄で…待っているぞ…」

 

「「!?」」

 

翼とクリスがギルガラスの言葉を聞き終えると同時に響の体を引っ張り距離を開ける。瞬間、ギルガラスの体は爆発し木端微塵となり破片が辺りに散らばる。衝撃波の風が響達を通り過ぎる。ギルガラスの爆発した場所を見て、その光景に響達は戦いが終わったと実感する。ギルガラスを倒した。

しかし、響は浮かない顔をして赤い液体の入った小瓶を見つめた後に会場を見回す。戦いで気にしてる余裕が無かったが今なら分かる。夥しい数の人の死体が。翼もクリスも少し見た直後に目を逸らす程の悲惨な光景だった。

今日、会場に居た数万の人間がショッカーに殺された。響の胸に悔しさが溢れる。

 

「…戦いには勝ったが…これでは実質、我々の負けだ!」

「畜生、ショッカーめ!アタシ等の油断を付きやがった!」

 

翼とクリスの悔しそうな言葉に響も頷く。少なくともショッカーの初期目的は達成している。自分達ショッカーの再始動を響達に知らせる最悪な狼煙として。

 

━━━ショッカー首領の声がゾル大佐と違う事をちゃんと説明できていたら!

 

響は悔やんでも悔やみきれない気持ちで一杯だった。

 

そして、そんな響を見つめる怪しい影が……

 

 

 

 

 

 

 




ショッカーの所為でマリア達にも被害が、ギルガラスの調への発言はGXのミカの所為という事で。
増殖分裂型うんぬんはかなり適当。調べても絶唱でしか倒せないしか出てこなかった。

悪役が凶悪であればあるほど倒した時のカタルシスは大きくなる。



次回予告
我等が立花響にショッカー本部が送った次なる使者は怪人「セミミンガ」
ラジオ局を占領したショッカーは風鳴翼の名を使い殺人音波で虐殺を行ない日本を大混乱に落とそう企んでいた。響達は殺人音波を止められるのか?
次回「悪魔の歌」にご期待ください。


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36話 悪魔の歌

 

 

 

「お疲れ様でーす!」

「はい、お疲れー」

 

此処はとあるラジオ局。今日の仕事を終えたスタッフが帰っていくのを見送りブースの残ってるのは中年男性…局長一人だった。

 

「いやー、マリアの騒動のお蔭で話のネタには困らんな。だが、他のラジオ局やテレビでも話題だしそろそろ別の切り口を用意するべきかな?」

 

マリアの宣戦布告から丸一日。テレビもラジオも連日、マリアの報道ばかりであった。中には明らかにマリアへの捏造報道もありこのラジオ局もそれに一枚噛んでいた。

彼らにとってはマリアが何故決起したのか、何が目的なのかなど如何だっていい。

 

「そうだな…、此処はマリアの生き別れの兄妹か子供の頃の幼馴染とか出したらウケるかな。どうせ視聴者どもには分からんだろうしな」

 

この先も暫くマリアの報道で数字が稼げると考えた局長は嬉しくなたまらなかった。ライブ会場では観客たちはほぼ全滅したが局長の親しい人間や身内は会場には行ってないので被害はなかった。だからこそマリアの適当な情報を好き勝手に垂れ流しにしている。

 

「そうと決まれば早速、台本と役者を決めないとな。全く、他人の不幸は蜜の味って本当だな。…それにしても代わりのスタッフが来るのが遅いな」

 

何時もの時間なら、この時間帯になれば交代のスタッフがやって来て挨拶なり業務命令もあるのだが今日はまだ誰も来ない。

 

                 ミミーン!

 

「ん?誰か居るのか?」

 

局長の耳に変な声が入り、辺りを見回すがブースには自分しかいない。おかしいなと思いつつ台本の準備をしようとした時、背後に着地音がした。

 

「!?化け物!」

 

恐る恐る背後を振り返った局長が見たのは両目が飛び出した口が尖っている茶色い虫のような奴だった。局長は咄嗟に化け物と距離を取ろうとするが壁にアッサリ阻まれる。

 

「此処は我等ショッカーが貰い受ける。貴様は死ね!」

 

「うわあああああああ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…それで、君は指令室から態々現場まで行ったんだね?」

「はい…」

 

弦十郎は現在政府の偉い人達の前に立たされ事情を説明していた。というか証人喚問に近かった。尤も、弦十郎の前には政治家が10人足らずであったがどれも重鎮クラスの者ばかりであり特異災害対策機動部二課の設立にも尽力してもらった。つまり、この場に居る政治家たちは二課との縁も深い者ばかりだ。

 

マリアが宣戦布告をしショッカーが再始動して二日、弦十郎は政府のお偉いさんに強制的に呼び出されて政治家たちの前でマリア達の宣戦布告の時に何があったのか改めて聞かれたのだ。

別段、隠すことない弦十郎は自分の知っている情報を全て話す。その度に政治家たちは頭を抱える。

 

「やれやれ、マリアという小娘だけでも厄介だというに…」

「ショッカーが再び動き出した上に会場に居た人間、数万人が殺されただと?」

「前代未聞もいいところだ。まだノイズが襲い掛かって来たと言った方が現実味がある」

 

会場での数万人の犠牲。現在、ニュースで騒がれない暇はない程の大ニュースとしてテレビで騒がれていた。それは二年前のツヴァイウイングの悲劇以上に世間に大きな衝撃を与えたのだ。

ノイズで死んだ者も居るがそれはほんの一部だ。それ以上に会場で殺し合いが発生して殆どの人間が死に幾らか残った観客も殺人鬼となり外で暴れてしまった。現在、殺人鬼化し生き残った観客は拘束され立花響が入手した解毒剤の解析が進んでいる。 

 

最悪なのは丁度、マリアの騒ぎを聞きつけたマスコミと大勢の野次馬だった。大勢の人の目で誤魔化すことも出来なくなり、殺人鬼化した観客たちはマリアに操られたカバーストーリーとなりマリアが弦十郎や響達の予想以上に極悪人となってしまったのだ。

 

「…やはり、ショッカーの存在を公にすべきでは?あの少女に全ての罪を被せるのは…」

「公にしてどうすんだね?現代日本で魔女狩りでもやらせるつもりか?」

 

弦十郎がショッカーを公に存在を発表する事を提案するが政治家たちが難色を示す。

 

現状、ショッカーの存在を知っているのは響達特異災害対策機動部二課と響の友達以外にこの場にいる政治家たちだけだった。その理由もショッカーが何処に潜んでるのか分からない為だ。怪人は人間に化けれる。隣の、または見ず知らず、或いは肉親が怪人と入れ替わっている可能性がある以上、公には出来ないでいた。下手にやれば現代の魔女狩りが行われるのは想像に難しくない。

何より公にすれば以前、桜井了子が言っていた掌サイズの核攻撃をされる可能性も高い上に、

 

「デッドマンガス?でしたか、恐ろしい兵器だ。人を殺人鬼に変えるガスなど」

「ウイルス兵器も同じく厄介ですな。人間を意のままに操る蝙蝠ビールスに人を狼男に変えるウルフビールス」

「更に向こうにもシンフォギアの技術が流れるなど…奴等は本気で世界を征服する気か」

 

ショッカーの保有するウイルス兵器や毒ガスなども厄介だった。最初に報告書で呼んだ政治家達もどこのSF映画の設定か疑う程だった。幸いなのは蝙蝠ビールスの血清がもう直ぐ完成する事だけだ。

 

そして、何より

 

「政界でもショッカーの信奉者がいる可能性が高いそうだ」

「下手をすれば我々の中にもか…冗談であってほしいがな」

 

ショッカーに同調する者が少なからず居ると予想されていた。今の人間社会に絶望した者や人間を超えた力を持つ改造人間に憧れる者、単純に金を貰う者やただ騙されてる者。それらが一定数存在する可能性が高かった。一部の政治家にしかショッカーの情報を開示されない要因の一つである。

考え過ぎと言う意見もあったが元公安の弦十郎の親友だった早瀬五郎という例が居る。

 

「そもそもショッカーは君達が壊滅させたのではないのかね?」

 

タバコを吸っていた政治家の一人が弦十郎にそう聞いた。その言葉に弦十郎はバツの悪そうな顔をしつつ口を開く。

 

「それにつきましては、私の予想が外れたとしか…申し訳ありませんでした!」

「これでは何のために君達に莫大な血税を使ってるのか分からんねえ」

 

弦十郎の謝罪に嫌味を言う政治家。他の政治家も口には出さないが頷く者が多い。

 

「おいおい、特異災害対策機動部二課が何時から世界征服を企む悪党と戦う組織になったんだ?」

 

そんな中、一人弦十郎を弁護する者が居り皆が視線を向けると、

 

「斯波田」

「事務次官!」

 

マリアの騒動の時に通信してきた斯波田事務次官が座っていた。因みに事務次官の前にはソバがあり事務次官は手に持っていた露でソバを啜る。

 

((((なんでこいつ、此処でもソバを食ってるんだ?))))

 

仮にも会議の場において堂々とソバを食べる斯波田事務次官に皆の心が一つとなる。そんな周りの様子を一切気にせず事務次官は言葉を続ける。

 

「俺の記憶が確かなら特異災害対策機動部二課の本業はノイズへの対抗であって秘密結社と戦う組織じゃなかった筈だが」

「それは…」

「いくら、ショッカーが二課を狙ってるからって全ての責任を被せるのは違うんじゃねえか?」

「……」

 

事務次官の言葉にぐうの音も出ない政治家達。確かに特異災害対策機動部二課の使命はノイズへの対抗と対策であり断じて悪の秘密結社と戦う組織ではない。

 

「私としては気になるのはショッカーは勿論、立花響の存在だな」

 

すると、他の政治家が響の名を口にする。

 

「…響くんがどうかしましたか?」

「彼女は本当にショッカーから逃げてきたんだね?何か怪しい動きは無かったのか?」

「怪しい動き?…!まさか疑ってるのですか!」

 

弦十郎が怒鳴りように言うがその政治家は眉一つ動かさず弦十郎の返答を聞く。弦十郎が他の政治家の方も見るが皆が皆、弦十郎の返答を待っていた。

 

政治家達としては立花響はショッカーの改造人間であり、組織から逃げ出して弦十郎の特異災害対策機動部二課に保護されたと報告書に書かれていた。なるほど、良くできている。しかしそこからだ、ショッカーが二課の前に現れ桜井了子がフィーネとして動き出し月が砕かれマリアが決起し壊滅したと思われたショッカーが再始動した。

 

響の資料を見た政治家たちは響に疑いの目を向けるのに十分だった。もしも、響がショッカーを逃げたと装い特異災害対策機動部二課スパイ、或いは破壊工作が目的だったら。今回の事も響がワザとゾル大佐を首領と言って特異災害対策機動部二課を引っ掻き回したのではないか?疑うには十分と言えた。

 

「響くんがスパイな筈はありません!第一それをしてショッカーの大幹部であったゾル大佐を使い捨てにする必要があったのですか!?」

 

弦十郎自身も上が響を疑ってる事はなんとなく察してはいた。弦十郎たちは響の事を信頼していたが書類上でしか響を知らない政治家には十分怪しい人間にしか見えなかった。だからこそ、響の働きで上の信頼を勝ち取らせようと弦十郎も考えて居たのだが。

 

「確かにな、世界的犯罪組織が大幹部を切り捨ててまで二課にスパイを送るとは思えねえ」

「う…」

 

斯波田事務次官の言葉に響を疑った政治家も黙るしかなかった。

 

これにて、会議も終了して弦十郎は二課へと戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

弦十郎が会議をしていた頃、新しくなったリディアン音楽院では響達が授業を受け休み時間となった。

 

「ああ、もう!誰もショッカーの事を信じてくれない!!」

「秘密結社なんてやはり信じて貰えませんね」

 

創世や詩織が響と未来の居る机で愚痴を零す。ライブ会場の惨劇の後にマスコミや警察にショッカーの事を話してみたのだが誰もが本気にせずパニックで錯乱したとみなされてしまった。

弓美に至ってはアニメの見過ぎと両親に叱られる始末だったが、それでもルナアタックの時に共に歌った僅かな生徒は信じてくれた。

 

「しょうがないよ今時、悪の秘密結社なんて誰も本気にしてくれないよ」

「もう、あの時写真とってれば!!」

 

響の言葉に弓美が悔しがる。せめて、巨大モニターに映っていたショッカーのシンボルだけでも撮っていればと後悔する。

 

「ほら、あの人たちあのライブで生還した」

「殆どの観客が亡くなったのに…」

 

廊下で話すヒソヒソ話が響達に聞こえ見ると何人かの生徒がこっちの事を話していて此方が見ると蜘蛛の子を散らすように移動した。現在、響達はある意味有名人であった。数万人がほぼ全滅したライブを生き残った事で。

 

「何なのよ、あいつ等。言いたい事があれば言えばいいのに」

「あはは…少なくとも二年前よりはマシだよ」

「響、それ笑えない」

 

響の自虐に突っ込む未来。

現状、響達は注目の的ではあったがツヴァイウイングの惨劇に比べれば随分とマシである。少なくとも響の時のような迫害は受けて居ない。

理由の一つは観客が殺人鬼となって暴れ、未来たちは逸早く避難した事で被害を免れ暴れた観客たちにヘイトが向いたからだ。

 

「それより、マリアさんボロクソに批判されてるね」

「え?どれ?」

 

雑誌を読んでいた未来が皆にも見せる。内容は「ノイズを使って数万人を虐殺した堕ちた歌姫」とか「ノイズを使ったアイドル独裁者」だの酷い内容だった。

そして、もう一つがツヴァイウイングの時とは違い明確な悪者としてマリアが居たからだ。世界の歌姫から一転稀代のテロリストとなり被害者の関係者のヘイトを一心に受けた。それでも海外では未だに人気がある。

 

「…やっぱりショッカーの事は書かれないか」

「ショッカーはほぼ都市伝説扱いだからね」

 

雑誌にはショッカーのシの字もなく残念がる弓美と励ます創世。

 

「あれ?翼さん、ラジオに出るんですか?」

 

携帯を弄っていた詩織が響に聞く。

 

「翼さん?暫く仕事は無いって言っていたけど…」

 

現在、翼は休学し本部に詰めていた。マスコミが翼のインタビューを目論見、学校前にも張っている所為だ。何より。会場で大量の死体を見た事でクリスと共に精神的ストレスになってないかも調べられていた。

 

「でもこれ」

 

そう言って詩織は響達に携帯に映ってる情報を見せる。内容は「衝撃!風鳴翼が話す衝撃の告白。あの時マリアはこうしていた!今夜の生トーク!!」とハッキリ書かれている。

 

「本当だ。本部に行ったら聞いてみるよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ラジオ?私は知らないけど…緒川さんは?」

「僕も知りません。そもそも翼さんには暫く仕事は入れてません」

 

学校の授業が終わった響は本部へと顔を出し翼にラジオの仕事のことを聞いたが翼もマネージャーの緒川も初耳であった。

 

「…情報出ました。確かに〇〇ラジオで翼さんの生トークと宣伝されてます」

「…駄目です、〇〇ラジオとの連絡が繋がりません!」

 

あおいがコンソールで調べると翼のトークが宣伝され藤尭朔也が詳細な情報を取ろうとラジオ局にコンタクトしたが一切の連絡が取れない。

 

「あきらかに臭いな」

 

あまりにも露骨な罠の匂いに弦十郎たちは警戒するが調べない訳にもいかない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「此処か?嘘の情報を出したラジオ局って?」

 

クリスが遠目でラジオ局を確認する。一応電気は点いていて普通に働いてる人もいるようだ。更に、

 

「凄い、人だかりですね」

 

ラジオ局の前では既に人だかりが出来ており一目翼に会おうと集まていた。更にプラカードを持っている者もおり其処には「あの夜に起きた事を教えて」とデカデカと書かれていた。

 

「既に僕の部下が何人か潜入したのですが全員が音信不通。皆さん気を付けてください」

 

緒川の言葉に返事をする響だが、

 

「でもどうやって入るんだ?表にはあんなに居るし裏口に行くのか?」

 

何処から入るのか疑問に感じたクリスが質問する。それに笑った緒川は通信機を取り出しスイッチを入れた。途端、黒山の群衆は突然別方向にに向かって行く。

 

「おお~」

「何をしたんですか?緒川さん」

「いえ、向こうに翼さんが歩いてやって来るっという情報を流しただけですよ」

 

緒川の言葉に翼とクリスは呆れた目で緒川を見る。とにかくこれでラジオ局に入れるようになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「随分と明るいが…」

「誰も居ねえな…」

 

正面玄関から侵入した響達は受付に来たが案の定人っ子一人見つからない。途端、入り口のシャッターが閉まる。

 

「やっぱり罠でしたね」

「!戦闘員が来る!」

 

緒川が予想通り罠だったと言い響が戦闘員の気配に気づく。

 

「イーッ!」「イーッ!」

 

「戦闘員って事は相手はショッカーだな!」

 

何処からともなく現れた戦闘員が響達を取り囲む。戦闘員を確認したクリスが相手はショッカーだと確信する。

 

「戦闘員ですか皆さんは久しぶりに戦いますね」

「マスクタイプか、久しぶりに見るな!」

「待て、マスクタイプにしては骨のようなマークを付けてるぞ!」

 

響達は実に三カ月ぶりに見る戦闘員だが、その戦闘員達は明らかにタイツの胸の部分に骨のマークが入っていた。翼も響も結構な数の戦闘員と戦っていたがこのタイプを見るのは初めてだった。

 

「それでも戦闘員だろ!」

 

クリスが聖詠を口にすると響達も急ぎ続いた。

 

Killter Ichaival tron

Balwisyall nescell gungnir tron

Imyuteus amenohabakiri tron

 

三人がシンフォギアを纏い、戦闘員達を睨みつける。緒川も武装し何時でも撃てるようにしている。

 

「ようこそ、立花響と特異災害対策機動部二課の諸君。ショッカータワーによく来てくれた」

 

その途端、戦闘員達の奥から声が響き、誰かがやって来る。戦闘員が道を開けると其処には顔の部分が開いたファラオのような被り物をし怪人達の付けるベルトとは違うショッカーのマークが入ったベルトをした男性が現れる。

 

「お前は!?」

「誰だ!?」

 

「ワシの名は地獄大使、ショッカーの大幹部の一人よ。あの世に行っても忘れん事だな!」

 

地獄大使を名乗った男がそう言い放つと共に取り囲んでいた戦闘員が襲い掛かる。

 

「今更、戦闘員…」

「…に遅れは取らん!」

「首を洗って待っているんだな!」

 

響が拳や蹴りで、翼は剣で、クリスがボーガンで迎撃して緒川も戦闘員と戦う。

 

「イーッ!」「イーッ!」

 

「…強い!?」

 

戦闘員を殴り倒す響だが一撃では倒れず反撃を喰らう。

 

「動きが違う!?」

 

剣で戦闘員を切り裂く翼。しかし、腕や肩を切り裂かれた戦闘員は倒れず反撃を行なう。

 

「どうなってんだよ、一体!?」

 

クリスのボウガンが戦闘員を射抜くが今までの戦闘員は肩や腹部でも当たれば倒せていた。しかし、この戦闘員達は頭部に命中させないと倒れもしなかった。

 

それでも次々と戦闘員は倒してるが三人と緒川は戦闘員達への違和感が拭えなかった。以前に戦った戦闘員よりも耐久力も攻撃力も速度も凌ぐ。

 

「フフフッ…驚いたかそいつ等は新たに作られた新型の戦闘員だ。お前達が今まで戦った戦闘員の10倍の力があるぞ」

 

「「「「!?」」」」

 

地獄大使の言葉に響達は驚愕する。今はまだそんなに数は居ない、それでも若干の苦戦をしている。もしこれ以上の数の戦闘員が襲ってきたら、考えただけで悪夢である。

それでも、何とか戦闘員を倒していく響達。

 

「ほう、思いのほかやるではないか」

 

その姿に感心する地獄大使。しかし、その顔つきは笑っておりそれに舌打ちするクリス。

 

「余裕をみせるのもいい加減にしろよ!こいつ等を片付けた後はお前だからな!」

 

「慌てるな小娘。ワシの相手をするなど自惚れるな!貴様たちの相手は此奴だ!来るがいいセミミンガ!!」

 

地獄大使の呼び声に響達の背後から何かが降って来る音がし振り向く。其処には、

 

「怪人!?」

「見たところ、虫の怪人か!」

「被り物野郎の言葉からセミだよな!」

 

「ミミーン、『悪魔の歌計画』の前にお前達を殺してやる!」

 

セミミンガと呼ばれた怪人の宣言に身構える翼たち。

 

「こいつもギルガラス並みの力かも知れない!皆で一斉にかかるんだ!」

「はい!」

「アタシが援護してやるよ!」

 

翼の声と共に響達がセミミンガに向かいクリスが援護しようとした。

 

「真っ直ぐ向かって来るとはな、喰らえ!殺人音波!!」

 

セミミンガが羽を振るわせた途端、響達の耳を劈く音と衝撃波が襲った。気付いた時には壁に叩きつけられた後だった。

 

「う…グ…」

「何が…頭がイテェ…」

 

響が見ると、翼とクリス、そして緒川も壁に叩きつけられたのか四つん這いになり、背後の壁にはヒビが入っていた。どうやら響や翼だけでなく後方に居たクリスも緒川もセミミンガの攻撃を受けたようだ。

 

「ほう、セミミンガの殺人音波を聞いてまだ生きているか。だが同じことよ、貴様らを始末した後は『悪魔の歌計画』が実行される。貴様らは大人しく死ぬがよい」

 

「悪魔の…」

「歌計画…」

「何だよ…そりゃ?」

 

何とか立ち上がる響達は地獄大使やセミミンガがさっきから行っている悪魔の歌計画を聞く。セミミンガの殺人音波で大ダメージを受けたと思った地獄大使は冥土の土産に教えてやることにした。

 

「死ぬ前に教えてやる。悪魔の歌計画とは、このショッカータワーに改造したラジオ局からセミミンガの殺人音波を流し聞いた人間どもを皆殺しにして日本を大混乱に陥れる計画だ!!」

 

「「「!?」」」

 

地獄大使の目的、それはあの夜の会場と同じ大虐殺だ。それもあの会場で死んだ観客の数を圧倒する程の。

 

「その為に翼さんの名を…」

 

「その通り!風鳴翼の名を使えば愚か者どもが自分でチャンネルを合わせる。それが死刑執行のボタンと知らずにな!」

 

響の言葉に笑いながら答える地獄大使に響達の怒りは燃え上がった。

 

「そんな事させない!!」

「殺人音波など流させはしない!!」

「お前らの計画はアタシ等が阻止してやる!!」

「及ばずながらお手伝いします!」

 

響達の声にも地獄大使は笑っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 




死神博士より先に地獄大使が響達の前に出現。死神博士が響達の前に現れるのはもう少し先に、それでもフロンティアが出て来る頃は二人共出る予定。
新型の戦闘員が登場。たぶん世間で一番有名なショッカー戦闘員かと。

緒川もセミミンガの殺人音波を聞きましたが吹き飛ばされるだけですみました。多分、弦十郎と緒川は吹き飛ばされるだけで済むのでは…。
セミミンガの戦闘は「正義の系譜」が参考です。


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37話 ショッカータワーの戦い 悪魔の歌VS少女の歌

 

 

 

「ちょ、治療中なんですから動かないで下さい!」

「ドクターの治療が荒いんデス!」

 

壁紙が剥がれ裸電球が辺りを照らす部屋の中で白衣を着た一人の青年男性と金髪の少女が何かをしていた。

少女はあの日、マリアと共にショッカーと戦った暁切歌だった。現在ドクターと呼ばれた男性の手でギルガラスから受けた傷の手当てとして絆創膏の張替えと消毒薬を塗っていた。

しかし、男が乱暴なのか単純に仲が悪いのか切歌は文句ばかり言って数分で終わる治療が三十分もかかっていた。

 

「ドクター、そちらは如何だ?」

 

そんな騒ぎの中、マリアが様子を見に入って来た。

 

「マリア!こっちはようやく終わったデス!」

 

マリアの姿を見た途端、不機嫌な表情から笑顔でマリアの方へ向かう。反対に治療していたドクターと呼ばれた男はヘトヘトになっていた。

 

「…ガキはこれだから嫌いなんですよ」

「お疲れ、ドクター。調と切歌の様子は?」

「調くんは肋骨にヒビが入ってる可能性が高いですね。切歌くんは見た目よりも軽症ですよ。ただ目に傷が付いてなくて良かったといえますね」

 

ドクターの言葉に自分に抱き着く切歌を撫でベッドで横になる調に視線を向ける。ベッドには上半身を脱がされ包帯を巻かれた調が静かに眠っていた。

 

「さて、僕は少し外で甘い物でも飲んできますよ」

 

そう言ってドクターは部屋から出て外に行く。その後ろ姿を見送ったマリアは切歌を抱きしめながら調の寝てるベッドに近づいて行った。

 

「…さて、あちらの方は上手くいってますかね」

 

メガネを光らせたドクターが一人呟く。その声は闇に呑まれ消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「立花、周りこめ!雪音はそのまま援護を!」

「はい」

「ヘマするんじゃないぞ!」

 

現在、響達はショッカータワーに改造されたラジオ局の内部にてセミミンガとの激しい戦闘をしていた。翼の剣がセミミンガの鎌状の左腕で弾かれ、響の拳を右腕で受けクリスの射撃を響を盾にして防ぐ。

 

「うわあ!?」

「悪りい!」

 

味方のミサイルが直撃した響の悲鳴に思わず謝罪するクリス。

 

「平気だよ、クリスちゃん」

「!二人共くるぞ!」

 

一瞬、セミミンガから意識が逸れた響とクリスに翼が声を掛ける。二人は意識をセミミンガに戻すが、

 

「喰らえ、殺人音波!!」

 

セミミンガの発する殺人音波が響達の襲い掛かる。幸いシンフォギアのお蔭で即死はしないが少なからずダメージを受けてセミミンガに距離を取られる。

その様子は地獄大使も見ていた。

 

━━━セミミンガの殺人音波をまともに受けた上で立つとはな改造人間である立花響は兎も角、青いのと赤いのまで生きてるだと、シンフォギアの防御力が上がってるのか?この三カ月間、我等ショッカーだけが力を蓄えていた訳ではないか。…面白い!

 

「…とは言えだ、セミミンガ!時間だ!」

 

地獄大使の言葉に響達と戦っていたセミミンガがジャンプし地獄大使の横に立つ。

 

「待てぇ!逃げる気か!」

 

「愚か者が!もう直ぐセミミンガの殺人音波を流す時間が近いのでな。貴様たちはこいつ等で遊んでいろ!」

 

地獄大使が腕を上げ合図した途端、響達の前に何かが降りてきた。

 

ウヴー! ボアボアボア!

 

「なッ!?」

「またこいつ等か!?」

「エイキングにヒトデンジャー!」

 

それは、嘗て倒した筈の怪人達、即ち再生怪人のエイキングとヒトデンジャーだった。

 

「シンフォギア装者はそいつ等に任せて行くぞ!」

「ハッ!」

 

「待ちやがれ!」

 

「走れ、イナズマ!」

 

去って行く地獄大使を追おうとしたクリスだったがエイキングの攻撃に阻止される。

 

「悪魔の歌計画の邪魔はさせんぞ!」

「此処を貴様たちの墓場にしてやる!!」

 

ヒトデンジャーとエイキングの再生怪人を倒さない限り、響達は地獄大使を追う事は出来ない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「状況はどうなってる!?」

「現在、ラジオ局の電気を遮断しようとしてますがラジオ局自体に内部電源があるようです!」

 

緒川からショッカーの大幹部である地獄大使の情報と恐るべき計画を知った二課が響達の援護をしようとしていた。その一つがラジオ局の電気を遮断だった。しかし、遮断しても内部に居る緒川から電気が消えたの報告が無い以上、ショッカーはラジオ局に独自の電源を用意してる事が想像できる。

 

「なら、電波の遮断は!?」

「そちらも…強力な電波が流されてるそうです…」

 

次に二課は、ラジオ局の電波を妨害しようとしたが強力な電波がそれを拒む。こうなればラジオ局を物理的に潰さない限り止められない。

 

「結局、俺達に出来る事は無いのか…」

 

現状、ショッカーを止められるのは内部に入った響達の全てを託すしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「本番まで後五分!」

「此方の準備も完了しました!」

 

セミミンガがスタジオに入りショッカーが特注で作った収音マイクの前に立つ。作業に入っていた戦闘員達が次々と準備完了の報告をする。後は時間になれば大量に死人が出て日本は大混乱に陥りその隙にショッカーが大攻勢が始まる。

 

「死神博士の弟子に手柄を上げられては堪らんからな。手柄を上げるのはこのワシ、地獄大使だ!」

 

地獄大使が一人呟く。そうしてる内に刻一刻と時間が過ぎ計画まで秒に入る。

 

「本番まで30秒を切りました!」

 

 

「…20秒を切りました!」

 

 

「…10秒を切りました!…5…4…3…」

 

戦闘員達の報告でいよいよセミミンガの殺人音波を流そうとした時にショッカータワーに小さい揺れが起こると共に電気が消え、非常灯に代わる。

 

「何が起きた!?」

 

非常灯が辺りを照らす中、地獄大使の怒鳴り声が響く。戦闘員達も何が起こったのか必死に調べている。

 

「発電機部屋を警護していた者たちからの連絡がとれません!恐らくは…」

「馬鹿者!あの発電機はショッカー科学陣に特注で作らせた物だ。怪人でも簡単に壊せる物ではないぞ」

 

このショッカータワーを支える電力はショッカー科学陣が作り上げた発電機で賄っていた。怪人が集中攻撃をしても壊せない程の頑丈に出来ていた。

 

「貴様たち、直ぐに発電機のある部屋を調べに行け!」

「「イーッ!!」」

 

地獄大使の命令に戦闘員が発電機のある部屋まで行こうとドアを開けようとした瞬間、ドアが爆発し戦闘員が巻き込まれた。煙が辺りを漂う中、

 

「此処に居やがったか」

「追い詰めたぞ、地獄大使!」

 

擦り傷だらけのクリスや翼に響までやって来た。即座に再生怪人が敗れたと感じた地獄大使。更に、

 

「貴様達か!?このショッカータワーの電気を止めたのは!」

 

「私達の前に電気を操るエイキングを出したのは大きな間違いだったね」

「ついでにヒトデ野郎を建物内に配置したのも不味かったな!」

「響さんたちに敵が行ってましたから楽に潜入できました」

 

地獄大使の言葉に響とクリス、緒川がそう返答した。

響達がエイキングやヒトデンジャーと戦ってる頃、緒川は戦線を離れ独自に調査をし、このショッカータワーの電気の中枢だった発電機を発見した。

 

 

 

 

『これがこのショッカータワーを支えている発電機。あれさえ止めれば』

 

発電機を発見した緒川は直ぐに発電機を止めようと動く。

 

『『イーッ!?』』

 

護衛していた戦闘員に影縫いをした後に首を掻っ切って倒す。首を切られた戦闘員は倒れて緑色の液体となって消滅する。

 

『…何度倒しても慣れませんね』

 

愚痴の一つも零した緒川は直ぐに発電機へと近づき調べた。しかし、何処を探してもオンオフのスイッチが何処にも無い。

 

『遠隔操作型の発電機?なら壊して…』

 

止めるスイッチが無いと判断した緒川は直ぐに発電機を破壊しようと試みるが、

 

『傷一つ付かない!?』

 

緒川の持ってる道具では発電機に傷一つつけられない上にネジ穴の一つも見当たらない。なら、発電機から伸びるコードを切断しようと試みるがこちらも千切れるどころか傷もろくにつかない。

 

『なんて、頑丈な…!?』

 

改めてショッカーの技術力に緒川も舌を巻く。八方塞がりになり、焦りだす緒川だったが部屋の壁が壊れ響が転がり出る。更に、

 

『今度こそ、死ねぇ!!立花響!』

 

エイキングが飛び出し稲妻を出して響を攻撃する。辛うじて避ける響だったがエイキング相手に攻めあぐねてるようだ。

 

『響さん。…!』

 

そんな様子を見ていた緒川にあるアイデアが閃いた。

 

『エイキング!響さんの前に僕が相手になってやる!!』

『え?緒川さん!?』

 

『いい度胸だ、人間如きが!死ねぇ!!』

 

緒川の突然の言葉に驚く響と緒川をターゲットにしたエイキングが緒川に襲い掛かる。エイキングの蹴りやカギ爪を何とか避けつつ影縫いで相手をする。

 

『無駄な事を!』

 

しかし、緒川の攻撃ではエイキングを倒せる程の威力は無く徐々に緒川を追い詰めつつあった。それでも、緒川は笑みを浮かべている。

 

『何が可笑しい?人間』

 

その緒川の態度が気になったエイキングが聞く。

 

『いえいえ、天下のショッカー怪人も大したことないと思いまして、僕一人倒す事も出来ないんですから!』

 

緒川の馬鹿にしたような物言いにエイキングも腹を立てる。

 

『ならば、お望み通り殺してやる!走れ、稲妻!!』

 

左腕の電磁ブレードを上に掲げたエイキングが最大の稲妻を緒川に放つ。

 

『ここだ!!』

 

緒川は咄嗟に横に転がりエイキングの稲妻を避けた。目標の消えたイナズマが緒川の後ろにあった発電機に吸い込まれるようにイナズマが命中し、直後に爆発して発電機が発火しショッカータワーの電気が消え非常灯に切り替わった。

 

『なにぃ!?』

 

自分の攻撃で発電機を破壊してしまったエイキングが思わず体の動きを止めてしまう。

 

『今です、響さん!』

『はい!』

 

緒川の声に響が動きの止まったエイキングにブースターで一気に迫り魚のようなエラのような物がついた胴体を殴り抜ける。殴られた衝撃でエイキングは炎上する発電機に接触して爆発を起こした。

響と緒川はエイキングの撃破と発電機の破壊に成功する。

 

 

 

 

 

 

 

『ハア!』

『この!』

 

翼の斬撃とクリスの銃撃がヒトデンジャーに当たるがダメージを与えたようにはまるで見えない。

 

『かてぇ…』

『耐久力が更に上がってるのか?』

 

『どうした装者ども、攻撃は終わりか?なら次は俺の番だ』

 

翼とクリスの反応にヒトデンジャーがそう返す。体を回転させ宙に浮くとそのまま翼やクリスに体当たりをしてくる。

 

『早々、当たるかよ!』

『だが、このままではいずれ…』

 

幸い、ヒトデンジャーの攻撃は単純で手足を使った格闘戦か、回転しての体当たりが主だ。避け続けること自体は難しくはない。それでも、こちらの攻撃が殆ど効かない事に翼とクリスに焦りの色が見える。

 

『俺の防御力を超えれぬまま死んで行け!』

 

『回転して体当たりするしかない癖に!!』

 

ヒトデンジャーの言葉にクリスがガトリング砲と小型ミサイルを出して応戦する。しかし、回転するヒトデンジャーを倒すどころか止める事すら出来ない。

 

『危ない、雪音!』

 

翼が咄嗟にクリスを抱き抱えて横に飛ぶ。さっきまでクリスが立っていた場所に回転するヒトデンジャーが通り過ぎて着地する。翼がクリスを助けなければ大ダメージを受けていただろう。

 

『フッハハハ!打つ手なしか?装者ども』

 

『ちくしょう…どうすりゃ…』

『何か手は…ん?』

 

そこで翼がある事に気付いた。クリスの撃った小型ミサイルが一発だけヒトデンジャーを外れて天井付近を飛び爆発した。だから如何したと言われればそれまでだが改めて翼がヒトデンジャーに剣を向ける。

 

『お前達の攻撃が俺には効かんとまだ分からんのか?』

 

ヒトデンジャーの言葉にクリスは顔を歪ませる。

 

『どうする?あれを倒すにはチャージか絶唱を使うしかないぞ』

『チャージは時間が掛かり過ぎる。私が絶唱を…』

 

翼がそう言い掛けた時だった、ポタリと頬に何か落ちた感触がして触れてみると、

 

『水?』

『さっきのミサイルでスプリンクラーが作動したのか?』

 

ラジオ局の天井には幾つものスプリンクラーが設置されクリスのミサイルの爆発で誤作動したようだ。クリスの頬にも水滴が落ち雨のように降って来る。

 

『スプリンクラーだと!?』

 

徐々に増えていく水滴にヒトデンジャーが目に見えて慌てだす。翼もクリスも不思議そうにヒトデンジャーを見る。

 

『何を慌ててるんだ?』

『…そうか!雪音、奴にミサイルを撃て!』

『お…おう』

 

翼が何かに気付くクリスにミサイルを撃つよう言う。言われたクリスはまた腰のギアから小型ミサイルを出してヒトデンジャーに発射した。

 

『ぎゃああああああ!!』

 

さっきとは違い、クリスのミサイルが命中して腕が吹き飛ぶ。直ぐに再生して元に戻るが翼もクリスもそれを見逃さなかった。

 

『やはり、奴は水が弱点だ!』

『みたいだな!』

 

弱点がバレた。スプリンクラーが作動する中、ヒトデンジャーの勝機は消えた。その後、クリスの集中攻撃を受け翼の一閃で真っ二つにされ爆発し敗れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おのれ、エイキングめ!しくじりおって!」

 

「明らかにあなたの配置ミスです」

「終わりだ、地獄大使!」

 

緒川の言葉と翼の宣言に地獄大使は顔を歪ませる。

 

「ほざけ!セミミンガ!」

「ミミーン!!」

 

地獄大使の前にセミミンガが現れ響達の前に立ち塞がる。

 

「貴様らを片付け後に改めてラジオで殺人音波を流せばいいだけよ!」

 

「そんな事、させるものか!」

 

地獄大使の野望に立ち向かう響と翼にクリス。セミミンガとの最後の戦いが始まる。

 

 

 

ぎゅっと握った拳 1000パーのThunder

解放全開…321 ゼロッ!

 

一つ目の太刀 稲光より 最速なる風の如く

二つめの太刀 無の境地なれば 林の如し

 

挨拶無用のガトリング

ゴミ箱行きへのデスパーリィー

One, Two, Three 目障りだ

 

三人がそれぞれ歌い、セミミンガに挑む。響の拳が翼の剣がクリスの銃撃がそれぞれ命中しセミミンガが後ずさる。

 

「ミミーン!?」

「さっきよりも力が上がっている!?…これが歌の力だというのか!?」

 

最短で 真っ直ぐに 一直線

伝えるためBurst it 届け

 

百鬼夜行を恐るるは

己が未熟の水鏡

 

ドタマに風穴欲しいなら

キチンと並びなAdios

 

地獄大使の目に先程までセミミンガに苦戦していた響達が徐々にセミミンガを押している姿だった。セミミンガが振り下ろす鎌状の左腕を翼の剣が受け止め響がその懐に蹴りを放ち、クリスが銃撃でセミミンガの行動を鈍らせる。

 

「舐めるな!喰らえ、殺人音波!!」

「馬鹿者、それをここで使うな!!」

 

地獄大使が静止の声を出すが間に合わずセミミンガが殺人音波を発する。

 

「何故私でなくちゃならないのか?」

道無き道…答えはない

 

我がやらずて誰がやる

目覚めよ…蒼き破邪なる無双

 

One, Two, Three 消え失せろ

撃鉄に込めた想い

 

響達は歌いつつもガードし、後ずさるだけで済んだ。逆に、

 

「イーッ!?」

「そ、装置が破壊されました!!」

 

ショッカー戦闘員が操作していた装置が火花を上げて停止する。地獄大使の目的だった悪魔の歌計画が完全に潰えた。

 

「悪魔の歌計画は失敗です!」

「そんな事、分かっておるわ!セミミンガ、装者たちだけでも殺せ。しくじれば貴様は死刑だ!」

「りょ、了解!」

 

作戦が潰された地獄大使はせめてセミミンガに響達を殺せと命令する。死刑を恐れたセミミンガも響達を殺そうとするが地獄大使の死刑と言う言葉に動揺しほんの一瞬の隙が致命的となった。

 

「立花、相手は動揺している!」

「やっちまえ!」

「はい!」

 

君だけを(守りたい)だから(強く)飛べ

響け響け(ハートよ) 熱く歌う(ハートよ)

 

響の腰のブースターで一気にセミミンガに迫り拳を叩きつけ蹴りも放つ。そして、最後に胴体に重い一撃を入れた後に引き上げていたギアが閉じて衝撃波がセミミンガを襲う。

 

「ミーン!?」

 

殴られたセミミンガがぶっ飛ばされ床へと倒れる。何とか立ち上がろうとしたセミミンガだが途中で力尽き倒れ爆発した。

 

へいき(へっちゃら) 覚悟したから

 

そして丁度、響の歌も終わった。

 

「作戦は失敗した。引くぞ!」

 

「逃がすかよ!」

 

逃げようとする地獄大使にすかさず弾丸とミサイルを撃ち込むクリス。そのまま地獄大使に着弾するかと思われたが、

 

「フンッ」

 

手に持ってる鞭を一振りするとミサイルが全て爆発し弾丸も叩き落される。それを見て舌打ちするクリス。

 

「強い!」

「流石は大幹部といったとこか」

 

流石は、ただでさえ苦戦したゾル大佐と同じショッカーの大幹部と思い知る。改めて地獄大使に攻撃しようとするが、

 

「このショッカータワーを貴様らの墓標にしてやる」

 

地獄大使が言い終えた途端、ラジオ局全体が揺れ始めあちこちで爆発音が響く。ショッカー戦闘員が予め仕掛けて置いた爆弾が次々と爆発してるのだ。

 

「正気か?…て、消えた!?」

 

一緒に自爆するつもりかと疑ったクリスだったが、少し目を逸らした隙に地獄大使も戦闘員達も姿が消えていた。ショッカーは既に脱出していたのだ。

 

「不味いですよ、皆さん。通路や階段も瓦礫で埋まりつつあります!」

「こりゃ、さっさと脱出した方がいいですね」

「そうだな。幸い此処は地下じゃねえし」

 

 

 

 

 

 

 

 

〇〇ラジオ局が音を立てて崩れ行く。翼目当てのファンや野次馬が遠巻きに見守る。そんな中、サイレンを上げて数台の消防車が到着して消火作業に入る。

 

「凄えぇ爆発だな」

「ショッカータワーの最後ですね」

 

近くのビルでラジオ局を見ていた響達。あの後、壁を破壊して無事に外に逃げた響達は屋上にてラジオ局を爆発を見ていた。因みに緒川は翼にお姫様抱っこをされて一緒に脱出している。

 

「あの~降ろしてくれません」

 

未だにお姫様抱っこされた緒川の声が空しく響く。

 

 

 

後日、ラジオ局の爆発はガス爆発として発表され翼の出演も大ウソだった事が新聞やテレビに報道され翼への取材は鳴りを潜める。尚、ラジオ局で働いていた人達は全員失踪扱いとなった。

しかし、水面下ではショッカーの新たなる計画が着々と進んでいる事は想像に難しくない。

 

 

 

 

 

 




ギルガラスに比べてセミミンガがアッサリ倒された感じですけど、公式での弱点が打撃です。つまり響が天敵。

再生怪人もそれなりに強化されてます。


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38話 世界を狙う者、世界を守る者

 

 

 

街の外れ離島にある、とある廃病院。

人がほぼ消えた病院の中にて複数の機械音がする。マリアにマムと呼ばれた高齢の女性が明らかに外から持ち込んだと思しきパソコンを弄っていた。

パソコンのモニターには会場での響達の絶唱を使う姿が映っている。

 

━━━ショッカーの乱入と言う想定外がありましたが、無事に立花響達のフォニックゲインによりネフィリムを…天より堕ちたる巨人を目覚めさせた

 

モニターには何かを貪る獣の様に見える物が映る。

 

「これで、人類は救われる」

 

マムの言葉が部屋に流れる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、特異災害対策機動部二課本部でもマリア達、フィーネに動きがないか監視していた。

 

「ライブ会場での宣戦布告からもう一週間ですね」

「ああ、ショッカーが一度行動してもう四日だ。その間にも動きがないか?」

「政府筋からの情報では、その後『フィーネ』と名乗るテロ組織が何だかの行動や各国との交渉も確認できないそうです」

「つまり連中の狙いはまるで見えないという事か」

「傍目には派手に動いて自分達の存在を知らせただけです。正直、ショッカーの方がまだ分かりやすいんですけど」

 

マリア達は会場で動いた後に不気味な沈黙を保っていた。その狙いが何なのか二課では掴むことが出来なかった。

朔也の言う通り世界征服という野望を持つショッカーの方がまだ分かりやすい。

 

「事を企む輩には似つかわしくないな。ショッカーのようになられても困るのは確かだが…」

 

ショッカータワーことラジオ局で働いていた数十人の行方が分からない。恐らくショッカーに消されたと二課は見ていた。この短期間に大勢の人間がショッカーの手によって殺されたのだ。

 

「今は彼女達よりショッカーを優先すべきだが…」

 

二課としても出来れば「フィーネ」よりショッカーの方を追いたかった。しかし、ノイズを操った者を放置する訳にもいかない。一応政府の方も二課以外に一部の機関や公安がショッカーを追っていたが聞こえてくるのは行方不明者になった機関や公安の職員たちの話くらいだ。

 

「歯がゆいものだな」

 

行方不明になった職員の中に弦十郎の公安時代の同僚と後輩は、まだ含まれてはいない。それでも時間の問題かと思うと弦十郎にも焦りが出てる。

 

「…!地獄大使の情報が出ました!」

「やっとか、どんな情報だ!」

 

あおいの報告に弦十郎がそう聞く。二課のモニターに二人の男の顔が映し出される一見同一人物にも見えるが、

 

「本名はダモン。アメリカ合衆国での犯罪歴あり、アルカトラズ刑務所にて収監されてたようですが脱獄したようです。眉唾ですが、顔そっくりの兄弟が居たらしく新興国家のゲリラ軍を率いていたとか、そこで戦死したという情報まであります」

アルカトラズだと!?また古いのが出てきたな」

 

響達や緒川が撮った地獄大使の顔からアメリカ合衆国の警察が管理する犯罪歴を扱っていたデータを調べていたところ、ある人物との照合が一致し、そこからダモンにいきついた特異災害対策機動部二課。情報が不確かな部分がありどこまで本当かは分からないが一先ず地獄大使の情報を得られた事にホッとする。

 

その直後に、二課の通信機から声がした。

 

『風鳴指令』

「緒川か、そっちはどうだ?」

『ライブ会場に放置されたトレーラーの入手経路からどうやら架空の企業から医薬品や医療機器も大量発注されていたようです。いま、とある反社会勢力の事務所ですが此処の人達が素直に吐いてくれました』

『これで全部だ!アンタらに渡すよう言われた物はこれで全てだ!!』

「言われた?誰にだ」

『な、名前は知らねえ。ただ、白髪の眼鏡をかけた胡散臭い奴だ!ノイズを出してきて、アンタらが此処に来た時に渡すよう指示されたんだよ!なあ、もういいだろ。組は解散するし務所にも入るから!』

『さっきからこればっかりで。…如何思いますか?』

「罠の可能性が高いが追いかけてみるか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

リディアン音楽院。現在、響達のクラスは授業をしていたが響はボケーっと外を眺めていた。

 

━━━ショッカーが本格的に動き出した。これからの戦いはより一層激しくなるかもしれない。私達が頑張らないと…

 

ラジオ局での激戦に勝利した響だが不安が拭えない。新たなる大幹部、地獄大使がどう動くのかがまるで分からない。

 

 

 

 

 

 

 

━━━それにしても、お母さんの説得に苦労したな

 

響はラジオ局の戦いの後に母と祖母に会いに行っていた。ショッカーが現れた事を、家の周りだけでなく出掛ける時には注意するよう言う為に帰ったのだが…

 

『ショッカーが滅んでなかった!?』

『あの時はショッカーの首領格を倒したんじゃなかったのかい!?』

『それにつきましては申し訳ありませんでした』

 

母と祖母の前で説明の為に響と一緒に来ていた弦十郎が土下座して謝っていた。当初は家に帰って来た響を歓迎して弦十郎が持ってきた粗品も受け取っていたが響の口からショッカーが再度動き出した事を聞いて顔色が変わった。

 

『だからって、うちの娘をまた戦わせる気ですか?』

『…現状、ショッカーは再度響くんを狙う可能性が高く…我々の力不足です!」

『!帰ってください!』

 

弦十郎の言葉に堪忍袋の緒が切れた母は、弦十郎を家から追い出す。相手は民間人という事もあり素直に響の家から出る弦十郎。その際送った粗品も突き返されて今は弦十郎の手に戻っている。

そして、弦十郎を追い出した母と祖母は改めて響と向かい合う。

 

『響!一緒に逃げよう!誰も知らない場所に行って静かに暮らそう!あなたが戦う必要なんてないの!!』

『そうじゃ、なんだったらワシの古い友人が海外で一旗揚げたらしいしソイツに頼もう!ド田舎だろうと外国だろうと可愛い孫の為じゃ!』

 

母と祖母はこの町から日本からも逃げ出すつもりであった。ショッカーと呼ばれる危険な組織に何故響が戦わないといけないのか?今回の弦十郎の態度で愛想が尽きた母と祖母は響を少しでも安全な場所で一緒に生活をしたかった。例え生活が苦しくなろうと家族が一緒なら耐えられる。悪の組織に拉致された娘が帰って来たのにまた悪の組織と戦わされるなど認めたくもない。現状のノイズとの戦闘にも目を瞑って来た、響は十分戦った。もういいじゃないか、っというのが母と祖母の考えだった。

しかし、二人の言葉に響は首を横に振る。

 

『駄目だよ。ショッカーの怪人は更に強くなってて私が抜けたら翼さんとクリスちゃんだけになっちゃう。それにショッカーの影響力は世界中に広がってるって話だし外国も十分危ないと思う』

 

以前、緒川が調べた情報でショッカーの規模は世界中にあり世界中のテロや内戦を操作している。海外に行けば特異災害対策機動部二課の庇護も無くショッカーに襲われる危険性も高い。

 

『なら…』

『大丈夫、お母さん。私、悪い奴等になんて負けないから。きっとお母さんもお婆ちゃんも私が守るから』

 

 

 

 

 

 

━━━結局あの後もお母さん、泣きっぱなしだったな。でも、これ以上ショッカーの好きにさせる訳には…怪人は強いけど私達だって特訓して強くなってるんだ!

 

ギルガラスとの戦いの後、響と翼にクリス、そして弦十郎は訓練室でひたすら修行をしていた。主に響と翼の模擬戦。クリスの接近戦に三人がかりで弦十郎との闘いで少しずつだが三人と弦十郎の腕も上がってきている。たまに未来も参加して響を心配させているが。

 

ショッカーは関係ない一般人を殺す事を何とも思って居ない。そう考えれば未来も身の安全を守る為には必要だろう。それは翼とマリアのライブとラジオ局での戦いで思い知っていた。しかし、響の脳裏にマリア達の事が浮かぶ。

 

━━━マリアさん達は一体、敵なのかな?味方なのかな?宣戦布告をしていたとはいえ、一緒にショッカーの怪人と戦ったから味方と思いたいけど…ガングニールのシンフォギアが二つあるんだし戦う理由だって違うのかも知れない。でも出来れば一緒に戦って欲しいな…

 

ライブ会場では一時とは言え一緒にショッカーと戦ったのだ。向こうにとってもショッカーは敵の筈、それなら一緒に戦えるのではないか?と響は考える。

 

響は響で悩んでる。しかし、その姿は先生にも見られ説教をくらう事になるのは別の話。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…でね、信じられないのはそれをご飯にかけたんデスよ」

 

場所は変わり、マムが居た廃病院のシャワー室。本来なら水も流れる訳が無いシャワー室ではお湯が流れ二人の少女が暖かいシャワーを浴びている。

マリアと一緒に逃げた調と切歌だ。

 

「本当に信じられませんよ。そしたら!」

 

シャワーを浴びつつ何かを語っていた切歌だったが調の様子がおかしい事に気付く。調はただ静かに暖かいシャワーを浴び続ける。

 

「まだ、アイツの事が気になるデスか?」

 

切歌の言うアイツとはギルガラスから自分達を助けた立花響の事だ。

 

『助けたかったから。じゃダメ?』

 

調の脳裏にあの時の響の言葉が蘇る。

 

「何も背負ってないアイツが人類を救った英雄だなんて私は認めたくなかった」

「うん。本当にやらなきゃならない事があるなら、例え悪いと分かっていても背負わなきゃいけない」

 

切歌がそろそろ出ようとシャワーのレバーを引き切歌のシャワーは止まった。

 

「…違う」

「え?」

「何も背負ってないってのは私の勘違いだったかも知れない」

 

目の前の壁を触って独白する。何も背負てない英雄気取りの馬鹿だと最初は思っていたし、所詮は恵まれた唯の運のいい少女でしかないと思っていた。しかし、ショッカーと呼ばれる組織の怪物たちと戦い何かが違うとも考える。

 

「調?」

「切ちゃんは見てないもんね、あの傷」

 

響から助けられた時にギルガラスの薙刀が響の肩を傷つけた。その時に調は目撃した、響の体の中にあった金属…機械を。

それから…

 

『…ごめんね』

 

思い出すのは響の済まなそうな表情と謝罪。あの謝罪の意味を考えると調の胸に得体のしれない物が駆け巡る。

そんな、調の様子を見ていた切歌はそっと調の手を取る。そして、そのまま切歌は調の浴びるシャワーに入り込み一緒に浴びだす。そんな中、全裸になったマリアがシャワー室へと入りそのままシャワーを浴びる。

 

「融合症例が何を背負って居ようと私達は私達の正義を貫くしかない。正直、迷って振り返る時間すら惜しいわ」

「マリア」

 

マリアの言葉に切歌がマリアの名を呟く。あの会場で宣言した以上もう戻る事は許されない。その事はこの場に居る三人もよく知っていた。何より会場での虐殺がマリアの所為にされてしまった以上、日常にも戻れない。

そんな、感傷に浸る中警報が鳴り響く。

 

 

 

警報がなる廃病院内の通路の隔壁が次々と閉じる。それも厳重なロック付きで。

マリアがマムと呼ぶ女性がモニターを凝視し其処には赤い文字でLOCKEDと書かれている。それを見て一安心したマムはモニターに別の映像を映す。前に何かを貪っていた獣のような奴だ。

 

━━━あれこそが、伝承に描かれし共食いすら厭わない飢餓衝動。やはりネフィリムとは人の身に過ぎた…

「人の身に過ぎた先史文明期の遺産。とかなんとか思わないで下さいよ」

 

マムが思考に浸ってるときに男の声が聞こえ振り向く。其処には、

 

「ドクターウェル」

 

在日米軍基地で爆弾テロに巻き込まれたと思われていたウェル博士だった。

 

「例え人の身に過ぎていても人類を救えればいいじゃないですか。それが英雄というものですよ」

 

ウェル博士は笑顔を浮かべてそう言い切った。確かにここで計画を中止する訳にはいかない。マリアたちももう動いている。

 

「マム、さっきの警報は!」

 

っとそこで、先程までシャワーを浴びていたマリアと切歌と調が急いで駆け付けた。急いで来た為、調も切歌も薄着でマリアに至ってはバスローブ姿ではあった。

部屋に入ったマリアはウェル博士の存在に気付く。

 

「次の花は、まだ蕾ゆえ大切に扱いたいものです」

「心配してくれたのね、でも大丈夫。ネフィリムが少し暴れただけ、今は食事を与えたから大人しくしくなるわ」

 

マムがそう言い切るが数秒もせずに建物が揺れ衝撃音も聞こえた。閉じ込めてるネフィリムが暴れてるのだ。

 

「マム!?」

「対応処置は済んでいるので大丈夫です」

「それよりもそろそろ視察の時間では」

 

マムとマリアの話を切ったウェルが視察の時間を知らせる。

 

「フロンティアは計画遂行のもう一つの要。機動に先立って視察を怠る訳にはまいりません」

「留守なら任せてください。ついでにネフィリムの食料調達でも考えておきますよ」

 

マムの視線にウェル博士は笑みを浮かべ言い切る。

 

「なら調と切歌を護衛に付けましょう」

「此方に荒事の予定はありません。それに彼女達も病み上がりです、寧ろマリアと一緒にさせるべきでは?」

 

その言葉にマムは暫くウェル博士の顔を見る。確かに調と切歌は病み上がりである。

 

「…分かりました。予定時刻には帰還します」

 

ウェル博士に留守を任せたマムはマリアたちと部屋を出る。それを見送ったウェル博士は別の事を考えて居た。

 

━━━さて、僕達の有用性を先生たちに見せなくては。蒔いたエサに獲物は掛かりますかね?

 

溜息をついたウェルはそう考える。全ては英雄になる為に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夕刻、授業の終わったリディアン音楽院に残った生徒はだいぶ少なくなっていた。そんな学院の通路を走る生徒が居た。まるで何かに追われてるように走る生徒は角を曲がった。瞬間、ぶつかった音と何かが落ちる音がする。

 

「脇見しつつ廊下を駆けるとはあまり関心出来ないな」

「いてて…」

「雪音?」

 

廊下を駆けていた生徒はクリスで丁度荷物を持っていたのは翼だった。立ち上がって荷物を拾いつつクリスを見る翼。

 

「何をそんなに慌てて…」

「奴等だ、奴等に追われてるんだ!もう直ぐ其処にまで」

 

立ち上がったクリスがそう言って廊下の壁にへばり付く。クリスの言葉に警戒する翼。

 

「奴等?まさかショッカーか!」

 

翼は何時でも起動聖詠を出来るようペンダントを握る。ショッカーの事だ、生徒の一人や二人を人質にする事など造作もないだろう。しかし、翼がいくら警戒しようと怪人や戦闘員も現れない。数人の女生徒が走っていくだけだった。

 

「それで、雪音。ショッカーは何処だ?」

「…アタシが何時ショッカーだって言ったよ。上手くまけたから別にいいけど」

 

一安心と溜息をついたクリス。そのの返答に警戒を解いた翼。

 

「ショッカーでないなら誰に追われてたんだ?」

「ああ、なんやかんや理由をつけてアタシを学校行事に巻き込もうとするお節介なクラスの連中だよ」

「…なんだ」

 

クリスの返答にちょっとだけ笑う翼。そう言えば遠くの方で「雪音さん」という声も聞こえる。

翼が床に散らばったガムテープやカッターを拾っているとクリスが言葉を続ける。

 

「再び動き出したショッカーに「フィーネ」を名乗る武装集団、アタシ等にそんな暇は…何してんだ?」

「見ての通り雪音が巻き込まれている学校行事の準備だ」

 

 

もう直ぐ、私立リディアン音楽院では秋桜祭という学祭が行われる。

共同作業や連帯感で共通の思い出作りがメインで生徒たちが懐く新生活の戸惑いや不安を解消することを目的に企画されている。そして、一般の民間人も楽しめるよう来場できる。

それの準備で生徒たちは忙しい中、盛り上がってもいた。

 

 

そして、とある教室で翼とクリスは学際用の花を紙から作ていた。

 

「なんでアタシまで手伝わされてるんだよ」

「少しくらい付き合ってもいいだろう?」

「その少しって、後どの位だよ」

 

文句を言いつつもクリスは次々と紙の花を作っていく。そこでふと翼がクリスに聞く。

 

「少しはこの生活にも馴染んでるか?」

「お陰様で、だいぶ馴染んでいるよ。…そういえばアイツはどうした?」

「アイツ?…ああ、立花か。立花も十分馴染んでるそうだ。さっき見かけたがクラスでの荷物運びも率先としてやっている」

「そうか、まあアイツに細かい作業とか苦手そうだしな」

 

この場に居ない響の事を話し合う二人。因みに響が今どうしてるかと言うとハンマーが見当たらないということで釘を指で押し込み未来の顔を引き攣らせていた。

 

「なあ」

「ん?どうした」

「学際の間、ショッカーが大人しくしてると思うか?」

「正直、分からんな。ライブの時のように何か仕掛けて来るかも知れない。叔父様から警備の人間を何人か配置するらしいがどこまで有効かは…」

 

学際と言うイベントをショッカーが見逃すとも思えない。警備員として黒服が何人か学際の警備に回されるが、怪人と戦えるのはシンフォギア装者以外だと弦十郎と緒川くらいだ。

最悪、黒服たちが避難誘導をして自分達が戦う可能性が高い。

 

「平和に終わるといいな」

「そうだな」

 

そうして黙々と花を作っていると翼のクラスメイトが入って来て手伝いをする。クリスは翼が青春してるのを目撃して自分ももう少し頑張ろうと考えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その夜、響達は廃病院の前に立っている。通信機から弦十郎が「今日中に終わらせるつもりで行くぞ」と言う。

 

「街のすぐ外れの廃病院にマリアさん達が潜んでたなんて」

 

此処は、マリア達が潜む廃病院であった。緒川が入手した情報を調査してこの場所を割り出した。

 

『二カ月前から少しづつ物資を搬入していたようですがここ数日で活発にやっていたようです。罠の可能性もあるので注意してください』

「罠だとしても防人として行かなければなりません」

「尻尾を出したなら後は引きずり出すだけだ!」

 

クリスが走り出しと翼と響も廃病院に走る。特に妨害も罠も無く廃病院に入るが、

 

 

 

「さて、先ずはおもてなしといきますか」

 

モニターで響達の動きを見ていたウェル博士がパソコンのキーを操作する。途端に廃病院の通路から赤い煙みたいな物が噴出する。

 

 

 

「…!止まってクリスちゃん、翼さん!」

 

異変に一番先に気付いた響が二人を呼び止める。

 

「なんだ?ビビってるのか?」

 

クリスが冗談交じりで言うが響が視線を少し動かした後に口を開く。

 

「廊下中に赤い煙のような物が出てます。注意してください」

「赤い煙だと!?」

 

響の言葉に翼とクリスが口元を押さえつつ廊下を見回すが暗い中で赤い煙など見える訳が無い。

 

「…毒ガスの可能性は低いと思います」

「赤い煙は分からんが出迎えは来たようだ」

 

翼の視線の先にノイズが何体も歩いて来ていた。

 

Killter Ichaival tron

 

クリスが先に聖詠を口にしてシンフォギアを纏いアームドギアをガトリング砲にしてノイズを倒していく。遅れつつも翼と響もシンフォギアを纏いノイズを相手にする。

 

「このノイズ…制御されていますね」

「なら操ってる者がいる筈だ!」

 

響達は何時ものようにノイズを倒していく。ショッカーの怪人に比べればノイズは十分倒せる程の強さしかない。しかしどうにもおかしい、何時もより体力が消費されてる上にノイズを倒しきれず再生し始める。

翼もクリスもノイズを完全に倒せないでいる。唯一、響だけがノイズを倒してるが何時もよりも力を出してる事は響も分かっていた。

 

「何でこんなに手間取るんだ!?」

「…ギアの出力が落ちている!?」

「まさか、この赤い煙の所為!?」

 

翼がシンフォギアの出力が落ちていることに気付く。更に二課の方でも適合数値が落ちている事が確認された。

それでも、ノイズを倒していく翼たち、少し息が乱れた響だったが暗闇から襲い掛かる何かに拳を振るう。しかし、その何かは殴られても直ぐに態勢を直して次に翼へ襲い掛かる。翼も素早くアームドギアの剣を握り迎撃する。だが、それは翼の剣に切られた筈なのに上手く着地する。

 

「アームドギアが効かない!?」

「まさか、ノイズじゃなく怪人か!?」

 

アームドギアの攻撃で炭化しないのならショッカーの怪人の可能性が高い。と考える翼。

 

━━━もしや、マリアの情報は私達を誘き出す為の…

 

翼が其処まで考えた時、奥の方から一人の人間が出す拍手のようなものが聞こえてきた。

暗闇の中、その人物は近づいてくる。地獄大使かと考えた翼とクリスだが、

 

「!ウェル博士!?」

「なに」

「マジかよ!」

 

響の言葉に翼とクリスも一瞬、固まる。そうこうしてる内に拍手する人物が翼やクリスにも分かる程の距離になる。その人物は確かに、響とクリスが護衛をしていたウェル博士、その人だった。

 

「本当にウェル博士だ」

「だが、ウェル博士は在日米軍基地の爆弾テロで…」

 

「トリックですよ。いやあ、ルナアタックの英雄も案外大した事ありませんね」

 

メガネを触るウェル博士博士を睨みつける響達。ウェル博士の手にはソロモンの杖も握られておりさっきのノイズもウェル博士が使役していた事で間違いない。

ウェル博士が敵になったと分かった響達は構える。ウェル博士を捕まえソロモンの杖を取り戻す為に、

 

 

しかし、響達は知らない。廃病院の遥か地下にて自分達を監視している者たちがいる事を…

 

 

 

 




地獄大使の情報で兄弟と言ってますが正しくは従兄弟ですね。古い情報ですので齟齬が生じたという事で。

調が響の事情を感づいて来てます。
そして、リディアンでは原作通りもうすぐ学際。果たしてショッカーは動くのか?


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39話 ドクターウェル

 

 

 

廃病院の遥か地下。黒い全身タイツに覆面をした者たち…ショッカー戦闘員がモニターを監視する。

モニターには、響と翼にクリス、そしてウェル博士が映っている。

 

「さあ、ウェルよ。貴様の能力を見せるがいい」

 

黒いマントをした老人がそう呟く。そしてその背後には人ならざる者たちが騒ぎ出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの爆弾テロは貴様が仕掛けたのか!?ウェル博士!」

 

「…まあ、そう言う事ですね。全てはこのソロモンの杖を手に入れる為に、ね」

 

少し沈黙しそう言って、ウェル博士はソロモンの杖から何体ものノイズを出す。何時の間にかケージに入っていた何かが反応するそぶりを見せる。

 

「バビロニアの宝物庫からノイズを呼び出し制御できるなどこの杖以外にありませんから。どうです?これがあれば世界を思うままに出来ると思いませんか?」

 

「ショッカーみたいな事を言いやがって!」

 

ウェル博士の言葉にキレたクリスが腰の部分のギアに小型ミサイルを展開する。途端、クリスの体に異変が走る。それにも関わらずクリスはウェル博士の出したノイズに向けて小型ミサイルを撃ち放った。

 

「うあああ!?」

 

途端にクリスが悲鳴を上げる。激痛がクリスの体に走ったのだ。それでも、クリスの小型ミサイルは着弾し廃病院の一角が吹き飛ぶ。

 

 

 

 

「報告通りAnti LiNKERにより装者達の適合値は減少しているようです」

「雪音クリスがシンフォギアのバックファイアーに蝕まれています」

 

クリスの様子は廃病院地下のショッカーアジトでも確認されている。戦闘員達の報告に黒いマントの老人は笑みを浮かべた。モニターには三人のデータが映し出されている。

 

「ウェルの奴め、中々の物を開発したではないか。合格でよかろう」

 

 

 

 

 

クリスのミサイルの爆炎から青白く光る塊が出る。直後に塊が崩壊し中からウェル博士が出てきた。なんて事は無いクリスのミサイルが直撃する前にノイズに自分を守る様、指示を出していたのだ。

そして、煙の中から響とクリスの肩を貸す翼が出て来る。

 

「どうなってんだ、何でこっちがズタボロなんだよ」

 

クリスの言葉に翼は思考する。

 

━━━この状況で強力な技を使えば、最悪そのバックファイアーで身に纏ったシンフォギアに殺されかねない。だが、いきなり何故適合値が落ちたんだ?…!立花の言っていた赤い煙!?

 

翼は先程、響が言っていた赤い煙の事を思い出す。毒ガスの類で無くシンフォギアに作用するガスだったならクリスや自分達がここまで苦しむのも納得する。

 

「!ノイズがさっきのケージを持って行ってます!」

 

響がチラっと空の方を見ると先程、自分達を襲って来た怪物の入ったケージが気球のように空を飛ぶノイズに運ばれていた。ノイズがこのまま行くと海の方に行ってしまう。

 

━━━さて、デモンストレーションとしては十分でしょう。後は…!

 

空を飛んでいくノイズを見送ったウェル博士が響達の方に視線を向ける。立花響が構え、肩に担いだクリスを下す翼にアッサリと降伏の意思を見せる。

 

「立花、その男の確保を!雪音を頼む!」

 

そう言い終えると翼は空を飛ぶノイズの方向に向けて走り出す。途中、アームドギアの剣を抜く。

 

━━━天羽々斬の機動性なら!

 

 

 

 

 

翼の行動は二課の方でも伝えられていた。

 

「翼さん、逃走するノイズに追い付きつつあります!ですが…」

「指令!」

 

翼の進む先は海だ。つもり陸路ではない。

二人のオペレーターの声に頷いた弦十郎。

 

「そのまま突っ込め、翼!」

 

弦十郎の檄が翼に送られた。

 

 

 

 

 

 

「了解!」

 

弦十郎の言葉に頷いた翼はそのまま、途中で途切れた道路まで走り一気にジャンプして足の部分のギアからブースターで飛ぼうとしたが推力が足りないらしく途中で落下する。

 

 

 

「仮説本部、急速浮上!!」

 

 

 

そのまま落下して海に落ちるかと思われた翼だったが海中から突如何かが飛び出し翼がそれを足場にして再びジャンプする。翼が飛んだ後に海に着水する。

 

それは潜水艦であった。

新造された次世代型の潜水艦。それが特異災害対策機動部二課の新たなる仮説本部だった。機動性と機密性を上げショッカーに前本部を襲撃された前例から造られたのだ。

そして、仮説本部を足場にしてジャンプした翼は空を飛ぶノイズを切り裂いて倒した事でノイズが掴んでいたケージが落下する。

翼はそれを追ってケージへと近づく。海の近くまで来ていたウェル博士を捕まえていたクリスと響もそれを目撃する。

 

あと少しで翼がケージを掴むといった時に突如横から衝撃を受けて弾かれ海へと落下する。そして、翼が弾き飛ばされる前にいた場所に一本の槍があった。

 

「翼さん!」

 

突然の事に響は翼の名を叫ぶ。

そして、海の上に浮ぶ槍の柄に降り立つ一人の人物。丁度怪物のケージを掴むと同時に背後から太陽が昇る。その人物とは、

 

「マリア…さん…」

 

黒いガングニールを纏ったマリア・カデンツァヴナ・イヴだった。

 

「時間通りですね、フィーネ」

 

ウェル博士の言葉に響とクリスは驚愕する。

 

「フィーネだと?」

 

「終わりを意味する名は我々組織の象徴であり、彼女の二つ名でもある」

 

「まさか…じゃあアイツが…」

 

「そう再誕したフィーネです!」

━━━まぁ、どこまで本当かは知りませんけどね

 

心の中で呟くウェル博士。どうにもウェル博士自身、マリアが本当にフィーネであるか疑問でもあった。

 

 

 

 

 

 

 

一方、潜水艦を仮説本部にした特異災害対策機動部二課でもマリアがフィーネという情報を聞いていた。

 

「つまり、異端技術を使う事から『フィーネ』という組織になぞられたのではなく」

「蘇ったフィーネそのものが組織を統括しているっていうのか?」

「馬鹿な!?ショッカーが滅んでいない事は了子くんだって分かってるだろうに!」

 

二人のオペレーターの言葉に弦十郎が嘆くように呟く。なによりフィーネは二課以上にショッカーと敵対している。そんなフィーネがショッカーを放置して二課と敵対する理由が分からなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

マリアが登場してからその場が暫く沈黙する。海に落ちた翼は海面から顔を出し、クリスと響はウェル博士を捕らえたまま固まっている。それ程までにウェル博士の言葉は衝撃的だった。

 

「…嘘です、あの時了子さんは…」

 

響が思い出すのはゾル大佐との死闘の時に手を貸してくれた事と、アドバイスしてくれた事だ。

 

『三人とも何をしている。胸の歌を信じろ!!』

『私は最後までショッカーにいいようにされてしまった。何が終焉の巫女だ』

『なら、最後のアドバイス、胸の歌を信じなさい。クリス、後はあなたの自由に生きなさい!』

 

最後に優しく笑みを浮かべて砂の様に散っていった彼女の姿に嘘は無いと思いたい。

 

「リインカーネイション」

 

「遺伝子にフィーネの刻印を持つ者に魂を移し、永遠の刹那に存在し続ける輪廻転生システム…」

 

ウェル博士の呟きにクリスがフェーネの終焉の巫女の説明をして響はジッとマリアの方を見続ける。そんな時にウェル博士は少し考えて居た。

 

━━━ただ、そうなると元の魂は何処にあるんだか

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

暫くの沈黙の後に海上から水しぶきが上がる。翼が足のギアで海上を滑るように移動して来た。それを確認したマリアは持っていたケージを上へと投げる。投げられたケージは間も無く消失するように消えるが翼はそれに構わず剣を振るいマリアと交差する。

 

「甘く見ないで貰おうか!」

 

剣を巨大化させ一気に振るい斬撃を飛ばす。

 

蒼ノ一閃

 

とっさにマリアもマントでガードするがマントの一部が裂けて海上へと抜けていく。その事に汗を浮かべるマリア。

 

「あ…甘くなど見て…!」

 

翼に言い返そうとしたが、翼がいきなり真正面に入り腹部を蹴られる。その事により二課の仮設本部である潜水艦の甲板の上に着地するマリア。腹を押さえて歯を食いしばっている。

 

「続きはベッドの上で聞いてあげる」

「…可愛くない剣ね」

 

マリアを追って翼も潜水艦の甲板に着地する。翼の言葉に苦笑いするマリアは右手を上げる。海上に浮いていたガングニールの槍がマリアの手におさまった。

その事で、翼もアームドギアの剣を構え二人が睨み合う。

 

「私は全力で戦っている!」

 

マリアが翼へと迫る。翼の剣とマリアの槍が交差し火花を散らす。距離をとる翼にマリアが槍を振り回す。

そして、翼が一気にマリアへと近づくが、

 

この胸に…「ガーブ、ガブ、ガブ、ガブーッ!」やど…「え?」

 

マリアが歌おうとした時に潜水艦の横から水しぶきが上がると共に何かが飛び出して翼に襲い掛かる。

 

「な!?」

 

咄嗟に剣を振るって何とか対応するがそれはマリアと翼の間に降り立つ。

 

「怪人!?」

「ショッカーかよ!?」

「…あれが」

 

それを見ていた響とクリスが反応する。初めて見る怪人にウェル博士もジッと見つめる。頭の前の部分と鼻の部分が異様に伸びており青白い体をした鋭い牙を持ち、腹部に金色のショッカーベルトを巻いていた。間違いなくショッカーの改造人間である。

 

「また、化け物!?」

「こんな時にショッカーの怪人だと!?」

 

マリアと翼も声に出す。まさに最悪な時にショッカーが乱入してきたのだ。

 

「俺はノコギリザメの改造人間、ギリザメスだ!風鳴翼、貴様の命貰い受ける!!」

 

ショッカーの怪人、…ギリザメスがそう言い放ち翼へと襲い掛かる。咄嗟に翼が剣でガードしようとするが、ギリザメスの鼻先に触れた剣が砕ける。

 

「!?」

 

「無駄だ、俺の鼻先のドリルはあらゆる物を砕く!」

 

そう言い放ったギリザメスはがら空きになった翼に蹴りを入れる。ギリザメスの蹴りをまともに受けた翼は甲板に倒れてしまった。

 

「翼さん!」

「ちっ、白騎士が今助けてやる!」

 

そう言ってクリスがアームドギアのクロスボウでギリザメスを狙う。しかし、

 

「危ない、クリスちゃん!」

 

響の言葉と打撃音に振り替える。其処には。

 

「戦闘員!?」

 

何時の間にか自分達に接近していた戦闘員たちがおり、響がクリスに襲い掛かった戦闘員を撃破したところだ。

 

「これが戦闘員ですか」

 

戦闘員を初めて見るウェル博士がまた感心するように呟く。

 

「イーッ!」「イーッ!」

 

そうしてる間にも戦闘員が次々と現れて響達を取り囲む。

 

「ショッカーめ、本格的にアタシ等の邪魔をする気かよ!」

 

「当たり前だ、装者ども!ウォォォォォッー!」

 

クリスの言葉に声たるように誰かが言うと、戦闘員が道を開ける其処から来たのは爬虫類の顔をした首の辺りに襟巻のような物がある怪人が現れた。

 

「また怪人かよ!」

「しかも、私たちの知らない怪人!?」

 

「俺は名は毒トカゲ男!装者ども、その男を渡して死んで貰おうか!」

 

毒トカゲ男の言葉に響とクリスはウェル博士の方を見る。ショッカーの狙いはウェル博士だと気付いた二人は毒トカゲ男と戦闘員達との戦闘に入る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ショッカーが乱入してきただと!?状況は!」

「翼さんは現在、ノコギリザメの改造人間ギリザメスと交戦!押されています!」

「響ちゃんとクリスは戦闘員の集団との戦闘!毒トカゲ男の猛攻に押されています!」

 

ショッカーが乱入した事で二課本部も混乱していた。想定してなかった訳ではない、しかしショッカーの新しい怪人だとどうしても情報が足りずに後手後手に回るしかないのが二課の現実である。

 

「それにしても、ショッカーが次にウェル博士を狙うとは!」

 

ショッカーが昔から科学者を拉致してる事は分かって来ていた。それなら同じ科学者のウェル博士も狙われるのはある意味、納得が出来る。

 

「ショッカーめ、何を企んでいる!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ガブガブガー!」

 

「くッ!?」

 

ギリザメスのカッター状に左腕を辛うじて避ける翼。そんな、翼に追撃するように口から火炎を吐く。これも辛うじて避けるが翼の息遣いが荒くなる。

 

━━━シンフォギアの出力は大分戻ったが、私一人でコイツを倒せる自信は無い

 

翼がチラっと響達の方を見る。

響達は響達で多数の戦闘員と毒トカゲ男の伸びる舌に苦戦する。あれでは援護も期待できない。

 

「よそ見するとは余裕だな、死ねぇ!!」

 

ギリザメスが此方に飛び掛かって来る。鼻先のドリルが此方に向かってき、咄嗟に後ろに下がって回避する。が、ギリザメスの鼻先が接触した甲板が爆発を起こし潜水艦が揺れる。

 

『翼、何とかギリザメスを引き剥がせないか!?』

 

弦十郎の声が無線から流れる。今のギリザメスの一撃で潜水艦の機能が大幅に破壊されてしまった。このままでは大破して本当に海に沈んでしまう。弦十郎の言葉に翼はギリザメスを睨む。

 

━━━この怪人もかなり強い!

 

「来ないのならコッチから行ってやるよ」

 

何時までも来ない翼に業を煮やしたギリザメスが近づこうとしたが、背中からの突然の一撃に止まり振り向く。

 

「マリア…」

 

「何のつもりだ?小娘」

 

ギリザメスが喰らった一撃はマリアのマントの一撃だった。潜水艦をも傷つける一撃だがギリザメスには傷一つない。

 

「「何のつもり?」そっちこそ突然出てきて私の獲物を横取りして何のつもり!?大人しく消えろ、化け物!」

「!」

 

ギリザメス相手に啖呵を切るマリア。翼はマリアの言葉の一部に反応する。

 

「チッ、生意気な、だが貴様は殺すなと命令されてる。今は風鳴翼の抹殺が先決だ」

 

マリアを無視して翼へと向かうギリザメス。この態度にカチンときたマリアはギリザメスを攻撃し出し翼もそれに続く。二人は無意識だが共闘してギリザメスの撃破を狙った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「イーッ!」「イーッ!」

 

「イーイー五月蠅い!」

 

クリスが次々と飛び掛かって来る戦闘員をボーガンのアームドギアで打ち抜いていく。セミミンガの時のような戦闘員ではなく顔にペイントしたタイプやただのマスクタイプの戦闘員が主だったので何とか倒していた。

 

「フフフ、死ねぇぇぇ!!」

 

クリスが背中を見せた事で毒トカゲ男がクリスに向け赤い液体を吐き出す。クリスが気付いた時には遅く避けるのが間に合わない。ならばガードしようとしたが、

 

「クリスちゃん!?」

 

咄嗟に響がクリスを抱きしめて横に避ける。対象を失った赤い液体はクリスの相手をしていた戦闘員にかかる。

 

「イーッ!!?」

 

赤い液体がかかった戦闘員は苦しみ藻掻きそのまま溶けていった。それを目の当たりにしたクリスは顔色を青くする。もしも、響が助けに来ずガードしていたら戦闘員のように自分は溶けていた。正直、響に抱き着かれた箇所が痛むのは内緒だが。

 

「助かったぜ、っておい!博士はどうした?」

 

助けてくれた響に礼を言おうとしたが、確保していたウェル博士の事を思い出し聞くと響もアッという表情をする。振り向くとウェル博士は一人、響達と翼の戦いを交互に見て居り戦闘員も先ずは自分達を倒そうと標的を此方に向けていた。少しムカつくが逃げる様子もないウェル博士を見てホッとするクリス。

 

「惜しかったな、今度こそ死ね!装者ども」

 

「チッ!部下を巻き込んでも平然としやがる!」

「…ショッカーにとって戦闘員なんてその程度なんだよ」

 

部下の戦闘員を巻き込んだ毒トカゲ男だが何の躊躇もない様子に毒づくクリスにショッカーだからと納得する響。まだ多数の戦闘員が居る中、再び戦闘に入る。

 

━━━…時間ですね、こちらもそろそろ…

 

「喰らえぇ!!」

 

「グっ!?」

 

ウェル博士がチラッと時計を確認した直後に毒トカゲ男と響の声がし見ると、毒トカゲ男の舌が伸び響の首を絞めていた。更に、

 

「うわああああああああああああああ!!!!!」

 

毒トカゲ男の舌から高電圧が流れ響を苦しめて悲鳴を上げる。何とか舌を解こうとする響だが高圧電流の所為で思うように体に力が入らない。

 

「!今、助けてやる!」

 

響の異変に気付いたクリスが響を助けに行こうとするが、戦闘員達がそれを阻止する。

 

「!退けえぇぇぇ!!」

 

クリスが必死に戦闘員を倒して響の下に行こうとするが思うように戦闘員が倒れもしない。セミミンガの時のような新型の戦闘員ではないが、適合値の低下したクリスは廃病院での無茶が祟る上に長時間戦ったことでの疲労まである。焦れば焦るほどクリスの攻撃が雑になり戦闘員の撃破率が下がる。…このままでは下手をすれば戦闘員達に負けるかも知れない。

 

「このまま死ねぇ!!」

 

━━━不味い!怪人が僕の予想以上に強い!流石にこれは想定外だぞ!

 

響の様子にウェル博士が若干焦る。その瞬間、

 

「イーッ!?」

 

突如、響く戦闘員の断末魔にクリスと翼、毒トカゲ男が声の発生した場所を見る。其処には何人もの戦闘員が赤い丸鋸に切り裂かれていた。更に毒トカゲ男の伸びた舌も切り裂き響を自由にした。

 

「ぎゃあああああ!?」

 

「…これで貸し借りは無し」

「イガリマーッ!」

 

緑色の大鎌を振るうシンフォギア装者、切歌が数人の戦闘員を切り刻む。

 

「アイツ!?」

「…あの子たち!?ありがとう!!」

 

調と切歌の乱入に一瞬、味方してくれるのかと期待したが、調の放つ無数の赤い丸鋸が戦闘員や怪人もろとも響達にも襲い掛かる。咄嗟にクリスの前に出て当たりそうな丸鋸を叩き落す。直後に響が調に礼を言い、調もそれに頷く。

その様子にクリスが響を呆れた目で見る。

 

「えーい、例の装者どもか!?よくも俺の舌を、邪魔をするな!」

 

「邪魔なのはお前たちデス!!」

「…倒す!」

 

切歌が大鎌のアームドギアで、調が地面を滑るように移動してヘッドギアから赤い丸鋸を出して次々と戦闘員を倒していく。

 

「ヌッ、調子に乗りおって!貴様らの抹殺命令があれば!」

 

調と切歌の攻撃を浴びる毒トカゲ男。

赤い丸鋸や大鎌の攻撃を受けても平気な毒トカゲ男だが、何度も受けてる内に片膝を地面に付ける。全く効いてなかった訳ではない。少しずつだがダメージが蓄積していたのだ。

 

━━━あの子たちに抹殺命令が出てない!?でも今は…

 

「クリスちゃん!」

「ああ、行ってこい!!…でも無茶すんな!」

 

毒トカゲ男がダメージを受けた事でチャンスと感じた響はクリスに声をかける。響の心情を悟ったのかクリスが返事をしそれを聞いた響は腰のブースターで一気に毒トカゲ男に接近する。

 

「立花響!貴様!」

 

響の突撃に毒トカゲ男が気付くが態勢を立て直すよりも響の速度が速かった。両手のギアを引き上げ一気に毒トカゲ男に両拳を叩き込む。

 

「ギャアあああああああ!!」

 

響の拳の勢いに吹き飛ばされ海に落ちた毒トカゲ男。直後に爆発して水しぶきが上がる。舞い上がる水しぶきが雨の様に降りその音以外、全ての音が置き去りにされた感覚が走る。

 

「…よっしゃ!」

 

最初に口火を切ったクリスだった。響が毒トカゲ男を撃破した事に喜び僅かに残っていた戦闘員達が逃げていく。

 

「…凄い」

「まあ、私達のお蔭でもありますデス」

 

その光景を見ていた調と切歌も素直に褒める。目的は果たした、ソロモンの杖も取り戻しウェル博士に近づく。

 

「時間ピッタリ帰還ですね。助かりましたよ」

「助けたのは貴方の為じゃない」

 

一応礼を言うウェル博士に冷たい態度の調。元より期待していなかったウェル博士は両手を広げてヤレヤレの態度をする。

 

「これは、手厳しい。…本当にね」

 

 

 

 

 

「クリスちゃん」

 

響が地面に座り込むクリスに肩を貸して立ち上がらせる。適合係数の低下に戦闘員軍団との戦闘で消耗したクリスにもう戦えるとは思えない響は調や切歌に視線を向ける。

 

「一体どこから?」

 

突然現れた調と切歌に響は辺りを見回す。周囲には隠れられそうな場所はない。海から来たにしては調と切歌の体が濡れて居ない。その時、響の目が何かを捕らえるが響自身には分からなかった。

 

 

 

 

一方、二課本部でも突然現れた調と切歌に慌てていた。

 

「伏兵が潜んでいたのか、周辺の策敵はどうなっている!」

「それが…」

「センサーの類はギリザメスによって破壊されてレーダー類は壊滅してます!わずかに残ったセンサーにも不具合が!」

「…なんて事だ!」

 

ギリザメスの攻撃の余波が二課の仮説本部の潜水艦は多大なダメージを受けた。こうなれば一旦ドッグにもっていて修理するしかない。

 

 

 

 

 

 

 

 

「チッ、毒トカゲ男が敗れたか!」

 

一方、ギリザメスも毒トカゲ男が敗れた事に気付き、翼とマリアを睨みつける。

翼は両膝を甲板に付け息を乱し、マリアも脇腹を押さえて同じく息を乱している。二人はギリザメスに大苦戦していた。切り裂く左腕のカッターに鼻先のドリル、そして火炎を吐く能力に二人は確実に追い込まれていた。しかし、どういう訳かギリザメスはマリアに積極的に攻撃せず翼ばかり狙い、マリアを無視し続けていた。

あまり攻撃が効かないとはいえマリアの攻撃を受け続けるギリザメスは面白くも無い。

 

━━━私の動きに合わせてくるなんて、この剣やるじゃない!

━━━シンフォギアの出力は戻ったが…このままでは

 

二人の息が乱れてるがギリザメスはまだやる気である。反対に翼も何とか剣を握るがマリアに至っては自身のシンフォギアが重いと感じていた。

そんな時にマリアに通信が入る。内容は引き上げだった。

 

「時限式ではここまでなの!?」

「!」

 

マリアの呟きに嘗てのパートナーの天羽奏を思い出す。

 

━━━時限式!?まさかLiNKERを…!

 

突如、上から強風とヘリの音が聞こえる。翼が周囲を見ても何も無かった筈が突然現れたヘリにマリアが乗り込む。

 

「これで、あの女は消えた。風鳴翼を…帰還命令だと!?」

 

それを黙って見ていたギリザメス。邪魔をするマリアが居なくなり翼を抹殺しようとするが、本部より帰還命令が出て舌打ちをしつつ海へとダイブする。

 

 

 

 

 

 

 

同じ頃、響達の方でも、調と切歌が響とクリスを見つめ合う。

 

「あなた達の目的は何なの?」

 

「私達は正義では守れない物を守る為」

 

響の質問にそう返す調。直後に響達の下に強風が吹き上を見るとヘリがフックを落としていた。切歌がウェル博士を担ぎ、調と共にフックを握る。そして、そのまま海の方に向かうヘリ。

唖然としていた二人がそのまま見てとヘリは空へと消える。それも丸で空の色にとけるように。

 

こうして、廃病院での戦いは終わった。新しく姿を見せた仮説本部の潜水艦が早々ドック入りになったが…

 

 

 

 

 

 

響達から逃走したマリアたちも順風満帆とはいかなかった。

弦十郎も舌を巻く程の異端技術を使っていたが、絶対とは言えない。何よりマムが咳き込み押さえた手に血が滲んでいた。マム自身も時間が無いと分かる。

そして、格納庫では回収したウェル博士に一撃を入れる切歌。

 

「下手うちやがって!連中にアジトを押さえられて、計画実行まで何処に身を潜めればいいデスか!?」

 

座り込むウェル博士に胸倉を掴む切歌がそう捲くし立てる。あの廃病院が自分達のねぐらであったのだ。それを失った以上、もう安心して休める場所などない。

 

「お止めなさい、こんな事しても何も変わらないわ」

 

一応止めるマリアだが、目は完全に怒っていた。その言葉に切歌は舌打ちをして手を放す。

 

「…やれやれ、いい訳の一つも許されないとは思いませんでしたよ」

 

ウェル博士はウェル博士で立ち上がってそう言い切る。それに切歌の目は更に鋭くなった。

すると、格納庫に備え付けられているモニターにマムの姿が映る。

 

『虎の子を守りきれたのが幸いとは言えますが、アジトを押さえられネフィリムに与える餌も無くなったのは我々にとっても痛手です』

「その事なんですが、僕に提案があります」

 

これからどうするべきかと悩むマムにウェル博士がそう言い放つ。マリアも調も切歌も睨む中マムは「提案?」と聞き返す。

 

「ええ、提案です。()()()()()()()()、少し僕とお話しましょうか?」

 

ウェル博士の眼鏡が怪しく光り、マリアたちに嫌な予感をさせた。その後、ウェル博士と二人で話をするナスターシャはある決断をする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、戦闘の終わった響達はドッグ入りした潜水艦の中、二課仮説本部に居る。

 

「無事でよかった、三人とも」

 

突然のショッカーの乱入があったが無事に帰って来た事を喜ぶ弦十郎。

しかし、響もクリスも暗い顔をしていた。それどころか本部の人間達にも暗い顔をしてる者がいる。

 

「…師匠、了子さんとは分かり合えなかったんでしょうか?」

 

マリアが新しいフィーネと聞いてまた彼女と戦うのかと意気消沈する響。そして、それはクリスも同様だった。

そして、本部の人間達が暗いのもこれが原因だった。

 

「結局通じ合えないのかよ、アタシ等!」

「…通じないなら通じるまでぶつけてみろ!言葉より強い物を知らぬお前達ではあるまい!」

「…言ってる事は全然わかりませんけど、でもやってみます」

 

弦十郎の励ましに感銘を受けた響がやる気を出しクリスも呆れながらも気力を回復させる。今度戦う時に語れるよう励もうとするが、

 

「マリアは櫻井女史ではない」

 

そんな中、翼の言葉に固まる一同。そんな様子を見ても翼は言葉を続ける。

 

「マリアは櫻井女史ではない。ただの騙りだ」

 

翼の言葉に驚愕する一同。誰しもが「え~!!」叫ぶ。それも潜水艦の外まで、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

━━そして、話に出てきたマリアは、

 

「くっ!」

「マリア…」

 

調と切歌がマリアに抱き着く。明らかに周りを怖がっていた。

 

ブルルルルル

            スゥノーオオオ

                         エエエー

 

明るいとは言えない薄暗い部屋。見た事も無いコンピューターがそこかしこにあり黒づくめの男達に異形の怪物たちの泣き声。

そして、極めつけは、

 

『ようこそ、マリア。並びにフィーネの諸君!我等、ショッカーは君達を歓迎しよう!!』

 

あの日、大型モニターで聞いた不気味な声が気味の悪い音と共に緑色の光が点滅して流れる。二人を庇う姿勢のマリアも背中に冷や汗が流れる。

そして、静かにショッカー首領の声を聞くウェル博士とナスターシャ教授。

 

━━見慣れない人達に囲まれていた。

 

現在、マリア達はショッカーのアジトに来ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 




歌を強制キャンセルされるマリア。
そして、マリア達がまさかの…

ギリザメスがアッサリ撤退しましたが、ショッカーの目的はウェル博士の作った物であり今回の響たちは二の次でした。



次回予告

我等が立花響にショッカー本部が送る次なる使者は怪人「カメストーン」
秋桜祭で盛り上がるリディアン音楽院での大虐殺を狙うショッカーに響の怒りが炸裂する。響はカメストーンを倒せるのか?
次回「悪夢の秋桜祭!殺人オーロラの恐怖!」にご期待ください


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40話 悪夢の秋桜祭!殺人オーロラの恐怖!

 

 

秘密結社ショッカー

 

それは世界征服を企む悪の秘密結社である。世界中に網を張り巡らせているショッカーは現在、立花響を始めとする日本政府の特異災害対策機動部二課との戦いに明け暮れている。尤も、世界征服の作戦を悉く潰されてもいた。

 

そして、何の因果かマリア達はそんなショッカーのアジトに入りショッカー首領の言葉を聞いていた。

 

『死神博士の推薦を見たが、中々の物ではないか。その力我等ショッカーの為に役立てるがいい!』

 

マリアは、来たくて来た訳ではない。提案があると言ってウェル博士がマムと二人で話した後にマリア達のエアキャリアはある場所まで行き、カモフラージュされたドッグが開き基地の中に入って着地する。その後、迎えの人間が来て此処まで通されたのだ。そして、此処こそが秘密結社ショッカーのアジトの一つである。

 

首領が喋り終えると一人の人物がマリアたちに近づく。見た限り普通の人間に見えるが黒いマントの姿が不気味に映る。

 

「ウェルよ、前に言った通り貴様たちを首領に推薦したぞ」

「ありがとうございます、先生!」

 

マントの老人にウェル博士が頭を下げる。マリアはウェル博士の言葉に引っ掛かりを覚えた。

 

「…先生?」

「えー、先生です。僕の生化学及び()()()()()は先生…死神博士から学んだことです」

「それよりも、ウェル。例の物を」

 

そう言って死神博士はウェル博士の前に手を出し何かを催促する。それを見たウェル博士は、溜息をつくとポケットから小さなチップと調が取り戻したソロモンの杖を渡す。

 

「ほう、これが」

 

ソロモンの杖を握った後にマジマジと見た死神博士は、杖から明かるい緑色の光線を出す。その光線は床に当たると数体のノイズが現れた。通常のノイズなら戦闘員やマリア達に襲い掛かるがそのノイズ達はジッとしていた。

 

「素晴らしい、直ぐに解析にかかるぞ!」

 

ソロモンの杖の性能に死神博士も満足したようだ。

 

「待ちなさい、それは貴方達みたいなのが使っていい物ではないわ!」

 

今まで、黙って見ていたマリアがそう言い放つ。マリアの発言にその場の空気の温度が一気に下がった。

こめかみを押さえて溜息をつくウェル博士。

 

「…小娘どもの躾がなっていないな、ウェル。だから脳改造なり洗脳をしろと言っただろ」

「…申し訳ありません、先生」

「ウェル!私達を騙したの!?」

 

死神博士の言葉で謝罪するウェル博士。それをみて溜息をつくナスターシャ教授。自分達をショッカーに売り渡したと思ったマリアがウェル博士を今まで以上に睨みつける。

そして、マリアがペンダントのギアを握り、調と切歌も握りだす。何時でもシンフォギアを纏い脱出できるようにしたのだが

 

「…止めなさい、三人とも」

「マム!?」

 

それに待ったをかけるナスターシャ教授。マリアたちの目が信じられないといった反応だった。

 

「マム、どうして!?」

「アジトを失いネフィリムのエサも無くした私達には最早、ショッカーしか無いのです。なによりエアキャリアの補給と整備が出来るのは此処位しかありません。それにフロンティアまでの支援は約束してくれてます。そうですね、死神博士」

 

「フフフ、勿論だとも。ただし、戦闘データ及び身体データ、そして聖遺物のデータは貰うぞ」

 

そう言って、死神博士はウェル博士に渡された小さなチップを見せる。それを苦虫を嚙み潰したような顔で見るマリア。

 

その時、一人の戦闘員が入り死神博士に向けて報告する。

 

「イーッ!死神博士、結社から例の物が届きました!」

「やっと来たか。これで全てが揃った…フム、そうだな貴様たちに面白い物を見せてやろう。第三研究室で準備しろ!」

「イーッ!」

 

死神博士の命令に白衣を着た戦闘員が返事をして部屋から出る。マリアたちは一体に何をするのか疑問ではあったが、

 

「ついて来るがいい」

 

そう言い終えると死神博士が部屋を後にしウェル博士とナスターシャ教授も続く。流石にこの場に残されたくなかったマリアと調、切歌もそれに続く。

途中何体かの戦闘員とすれ違い、その度に警戒していたマリア達だが死神博士たちがある部屋に入り自分達もそれに続く。

其処には、

 

「だ…誰デスか、この人は?」

 

切歌が思わず喋ってしまう。丸い台の上に中年男性と思しき人物が寝ている。

 

「改造人間の素体よ、名は知らんでも良かろう。中々凶悪な男だぞ」

 

そう言うと、死神博士は持っていた書類をウェル博士に渡す。その書類には男の犯罪歴と性格が書かれている。

 

「…確かに凶悪な男ですね」

 

ウェル博士がそう呟くと渡された書類をナスターシャ教授に渡し、ナスターシャ教授も目を通す。

 

「何という凶悪な!?」

「ちょ、見せてマム!」

 

思わず声を荒げるナスターシャ教授にマリアも見せて欲しいと頼む。少し考えたナスターシャ教授だが書類をマリアへと渡す。書類を読むうちにマリアの表情も厳しくなる。

 

「なんて凶悪な男!!とても言葉じゃ言い表せないわ!」

「ちょ、マリア!私達にも見せて欲しいデス!」

「…見たい」

「あなた達は駄目!」

 

マリアたちの反応に切歌と調も見たいと言い出す。しかし、マリアはそれを拒否して書類をウェル博士に渡し、そのまま死神博士に帰した。二人の情操教育に悪いとマリアの判断だが、それはナスターシャ教授もウェル博士も同じ考えのようだ。仲間外れにされたと感じた切歌は頬を膨らませ、調は一言「残念」と呟く。流石に死神博士に頼む程の切歌も調も豪胆ではない。

 

っと、その時戦闘員が車付きの台を持って入って来た。その台の上には、

 

「石?」

「どちらかと言えば化石ですね」

 

マリアは、一見石のように見えるがウェル博士が化石だと言う。確かに化石の様にもみえるが、

 

「正解だ、ウェル。これは「ユニコルン」の化石であり聖遺物だ」

 

「ユニ…コルン?」

「ユニコルンとは嘗て伝説と言われユニコーンの原型だと思われる生物です。ですが、ユニコルンはあくまでも生物で、聖遺物とは言えないのでは?」

 

切歌の疑問にナスターシャ教授がユニコルンの説明をする。しかし、聖遺物とは、超古代の異端技術の結晶の総称であり幾ら伝説と呼ばれてもユニコルンの化石が聖遺物になる筈がないとナスターシャ教授もウェル博士も考えて居たが、

 

「確かに伝説とはいえ、ただの生物なら聖遺物とは呼べんだろう。だが、ユニコルンが生物兵器として造られたのならどうだ?」

 

「生物兵器!?」

 

死神博士の言葉に愕然とするナスターシャ教授とウェル博士。確かに生物兵器ならその化石は聖遺物と呼んでいいかも知れない。しかし誰がそんな物を作ったのか?

 

「我々の調査により、ユニコルンは嘗てカストディアンが造り出した生物兵器だという事がわかった。まあ、目的までは知らんが…よし、取り出す事に成功した」

 

化石を弄っていた死神博士は手に粉末状の物を取り出し満足気にしていた。マリアたちが不思議に思う中、死神博士は取り出した粉末を特殊な溶液に入れその溶液を寝ている男の腕に刺す。反対の腕には別の管が繋がれそこから男の血が流れている事に気付く。

 

「死神博士、一体なにを!?」

 

あまりの光景にナスターシャ教授は思わず死神博士に質問をする。男の罪状が本当なら別段死んでも構わないと思ってるがやはり目の前で死なれると後味が悪い上に切歌と調の情操教育にも悪い。ショッカーに入った時点で今更ではあるが

 

「男の血とユニコルンの取り出した粉末血液を入れ替えている。もう直ぐ新しい怪人が生まれるぞ」

 

死神博士の一言にマリア達は眠っている男の方を凝視する。男の顔色がドンドンと青くなる。マリアがチラッと死神博士の顔を見ると笑っていた。

 

━━━こんな事で本当に怪人が?…!

 

マリアの心に疑問を感じる。瞬間、男の体に変化が起こる。顔が白く変わり体は深緑、足の部分が赤く、目が一つに角が生え口の部分が赤い。

 

「ガァァー、ルルッ!!」

 

実験室に怪人に変化した男の泣き声が木霊する。本当に怪人となった男の姿にマリアたちは愚か、ナスターシャ教授やウェル博士まで目を見開いている。

 

「フフフ、完成したぞ。貴様の名は「ユニコルノス」だ。聖遺物怪人2号の完成よ!!」

 

今此処に、ショッカーの新たなる怪人、その名も聖遺物怪人2号のユニコルノスが誕生した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

廃病院の戦いから数日、ドッグ入りした特異災害対策機動部二課の仮説本部である潜水艦の修復が行われる中、弦十郎は斯波田事務次官と通信でやり取りをしていた。

 

「…では、自らフィーネと名乗ったテロ組織は米国政府に所属していた科学者たちだと?」

『正しくは米国連邦政府聖遺物研究機関、「F.I.S.」の一部職員が統率を離れ暴走した集団らしい』

 

そう言い終えると事務次官はソバを啜る。それに気にせず弦十郎は言葉を続ける。

 

「ソロモンの杖と共に行方不明になり再び現れたウェル博士もまたFISの研究者だったと」

『こいつはあくまでも噂だが、FISってのは日本政府の情報開示以前より存在してるとの事だ』

「つまり、米国と通謀していた彼女(フィーネ)が由来となる研究機関ですか」

 

弦十郎の傍で立っていた緒川がそう聞いた。

 

『出自がそんなだからな。連中がフィーネの名を使う理由があるのかも知れん。…後、調べて分かったんだが、FISは以前にも謎の勢力に襲撃されたそうだ』

「襲撃?」

『生き残ってFISを辞めた元職員の話じゃ、そいつ等は黒い全身タイツを着た人間達と化け物らしい』

「!ショッカー!?」

 

事務次官の思わぬ情報に弦十郎は立ち上がる。全身黒のタイツ姿と化け物ならショッカーで間違いないだろうと弦十郎も判断する。しかし、そこで新たな疑問が生まれる、何故今回のショッカーの怪人はマリアたちを襲わなかったのだろうか?戦闘時の様子からして怪人たちはマリア達に攻撃する事は無く最低限の反撃しかしていなかった。

 

『どうも、フィーネの留守中に襲撃されたそうだ。運が悪い事に聖遺物の実験中で何人もの研究者や職員が死んでいる。後、何故かその施設に居た子供たちもな。…今回のFISにショッカー、存外周到に仕組まれてる可能性が高い。気を付けろよ』

 

弦十郎の疑問もに感じてるところ、ソバを啜りつつ事務次官は鋭い目をして弦十郎に忠告する。その言葉に弦十郎も緒川も思わず息を飲んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、リディアン音楽院では予定されていた学際の「秋桜祭」が行われており学院外からも大勢の客が来ていた。尤も、特異災害対策機動部二課から送られた黒服の職員が警備員として配備され内部にも何人かが目を光らせている。正直、評判はよくないが対テロ警備と言って押し切っていた。

 

そんな光景でも無事にリディアン音楽院に入った人たちはそれなりに楽しむ。中には家族連れや生徒の家族まで居る。

そんな様子を踊り場辺りで眺める響。しかし、響の脳裏では別の事を考えて居た。

 

━━━翼さんは、マリアさんが了子さんじゃないって言っていたけど…

 

思い出すのは先日に言っていた翼の発言だ。

 

『翼さん、マリアさんが騙りって…』

『何か証拠でもあんのかよ』

『…証拠としては弱いかも知れんが、マリアは常に怪人の事を怪物と言っていた。少なくとも櫻井女史は、怪人の事を怪人と言っていた。そこがどうしても引っ掛かってな…』

 

翼の発言に納得もする響。しかし、それ以上に引っ掛かる物も感じている。

 

━━━でも、マリアさんが嘘をついてるならどうしてそんな事をしたんだろ?

 

わざわざ、マリアがフィーネの名を騙る事に違和感を感じていた響。しかし、どんなに考えても響の脳裏に答えらしい答えも浮かばない。

 

「響」

「…未来、どうしたの?」

 

そんな時に響が横から声を掛けられ見ると未来が自分の近くに来ていた。

 

「「どうしたの?」じゃないわよ。もう直ぐ、板場さんたちのステージだよ」

「ええ!もうそんな時間!?」

 

未来の言葉に驚く響。友人のステージまでまだ余裕があると思っていたのだ。その後、未来に左手を掴まれて一緒にステージにいく事に、しかし、その背後には二人の少女の影が、切歌と調だ。その少女たちは響達に見つからないように移動をする。

何故、切歌と調が秋桜祭に来ているのか?それは凡そ昨日の事である。

 

 

 

『取り合えず、ショッカーから提供された聖遺物で凌ぐことが出来ました』

『だけど、ショッカーに借りを作ってしまったわ』

『それに関しては向こうと話が済んでいます。僕とナスターシャ教授の頭脳と君達の身体データと引き換えにすればお釣りが来ますよ』

『…要は私達はショッカーの傘下扱いじゃない!?』

『…同盟と言って欲しいですね。問答無用で君達が改造人間にされなかったのはそれが大きいんですから』

『マムは?』

『現在、先生の手で調整を受けています。なに、僕達に利用価値がある内は向こうも変な真似はしないかと』

『でも、何時までもショッカーに頼るのは危険よ』

『なら、僕達だけで聖遺物を集めますか?まあ、今時聖遺物の欠片なんてその辺にゴロゴロと転がってますからね』

 

そう言い終えるとウェル博士は切歌と調のペンダントを見る。その後、マリアが動こうとするが切歌と調が止め二人が翼やクリスのペンダントを奪いに来た。

 

「調、あれ美味しそうデス!!」

「…切ちゃん」

 

二人は翼とクリスのペンダントを奪いに来た。

 

 

 

 

 

しかし、この時響達は愚か、二人の少女も気付かなかった。

 

「あの、免許証か身文書の提示を」

「問題ない」

「いえ、ですから免許証か…」

「何も問題ない。いいな?」

「はい…問題ありません」

 

リディアン音楽院の出入り口に悪魔たちが来ていた事を。

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい、あれ見てみろよ」

「なにかのコスプレかしら?」

 

学院内の一角、生徒や観客の目が三人の人物に集まる。二人はまだ気温も高い中、厚手のコートと帽子をかぶりサングラスとマスクを付けた怪しい人物でもう一人も気温が高い中、黒と赤の分厚いマントをつけ純白のスーツを着た老人である。その時、一人の観客らしき人物が老人へと近づく。

 

「死神博士、立花響が講堂へと入ったそうです。その講堂では歌のステージをしてるとか…」

「…そうか、なら講堂へ向かうぞ」

 

老人の言葉にコートを着込んでいた者も頷き講堂へと向かう。それを見ていた観客や生徒は老人が立ち去るとまた秋桜祭を楽しみ始める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…まだ、フルコーラス歌ってないのに!二番の歌詞が泣けるんだよ!!」

 

歌っていた弓美がブーたれる。自信満々に歌っていたのに一番が終わった時点で鐘が鳴ったのだ。

これには見ていた観客も大いに笑いだし、見に来ていた響も釣られて笑い出す。

 

━━━やっぱり響には笑顔が似合うよ

 

その笑顔を見てホッとする未来。ショッカーが再始動してから響は何かに追い詰められたような表情が多くなり未来としては心配していた。これで、響も少しはリラックス出来ればと未来も考えてはいた。

 

それから暫く、歌が続きだいぶ時間も過ぎる。

 

「さて、次なる挑戦者の登場です!」

 

司会の女生徒がそう言って舞台袖に向けて手を向ける。少し間が空き押されたかのように出て来る一人の少女。

 

「響!あれって!」

「ウソ!?」

「雪音だ」

 

その少女を見た響と未来は思うわず声を出す。その時、響達の隣の席に翼が座る。

 

「私立リディアン音楽院二回生の雪音クリスだ」

 

翼が言い終えると共に音楽が鳴りクリスが歌いだす。最初は恥ずかしそうにしていたが直に慣れたのか楽しそうに歌う姿に会場は魅了されていく。響や翼も楽しそうに眺める。

そんな中、

 

「…くだらん」

 

響達の反対側の席に座っていた死神博士はつまらなそうに言う。死神博士にとってクリスの歌など価値が無い物でしかない。

 

「死神博士、風鳴翼も講堂に入りました」

 

部下からの報告に口元をニヤケさせる死神博士。

 

「上手く出来れば一網打尽か、いいぞ。こういうのは飛び入りもある、その時には貴様が行け」

 

死神博士の言葉にコートを着込んだ物が頷く。

 

そして、クリスの歌が終わると万雷の拍手が鳴り響く。翼も響も未来も惜しみない拍手を送る。そして、それを冷めた目で見る死神博士。

 

「さあ!勝ち抜きステージ新チャンピオン誕生!」

 

司会の娘がそう言うとクリスにスポットライトが当たる。その事に驚くクリス。しかし、司会の娘の言葉は続く。

 

「さあ、次なる挑戦者は!?飛び入りも大歓迎ですよ!」

 

 

 

「飛び入りか、そろそろ頃間だ…「やるデス!!」ろ、む?」

 

 

会場に一人の少女が手を上げ其処にスポットライトが当たる。出番を盗られた死神博士は面白くないといった反応だが、その少女が二人立ち上がるのを見て目を光らせる。

 

「「「!?」」」

 

「ほう」

 

その少女を見てクリスや響が驚き、死神博士も声を出す。

それは紛れもなく切歌と調だった。

 

「チャンピオンに…」

「挑戦デス!」

 

切歌と調の姿を見て立ち上がる翼。事情をよく知らない未来が二人の事を聞き、マリアの一派だと知る。

 

━━━あの二匹、何処かに出かけたと聞いていたが此処に来ていたとはな、

 

「死神博士、如何しますか?()()

「歌が終わった後に保護してやれ。あの二匹にはまだ使い道がある」

 

死神博士が冷酷に言い、二人はステージへと向かう。途中、クリスに舌を出して挑発した後に二人が歌いだす。

 

 

 

 

同じころ、マリアたちのエアキャリアを保管している廃工場では戦闘員達がエアキャリアの整備を行っていた。そんな、エアキャリアの中でマリアとナスターシャ教授にウェル博士が待機していた。マリア達が地下のアジトで休憩するのを嫌がった為だ。

 

マリアの脳裏には昨日の切歌と調とのやり取りだ。自分を庇いマリアの為に動くと言った二人を思い出していたのだ。

 

「後悔してるのですか?」

 

そんな、マリアの様子を見兼ねた見兼ねたナスターシャ教授がそう聞く。控えてるウェル博士も口には出さないがマリアたちの様子を見ていた。

ナスターシャ教授の言葉にマリアが首を振る。

 

「大丈夫、私は私の役割を全うする」

「…役割ですか」

 

マリアの言葉にウェル博士が反応する。直後に通信が鳴りナスターシャ教授がスイッチを入れると一人の人物が映る。

 

「これは、地獄大使。どうかしましたか?」

 

通信相手は死神博士と同じショッカーの大幹部である地獄大使だった。

 

『ネズミどもが来たぞ、貴様らの知り合いか?』

 

そう言った直後に地獄大使が外の映像を見せる。その映像には銃を持った完全武装の兵士がこの廃工場を囲んでる姿が何人も映っている。

 

「本国からの追ってですか」

「此処が嗅ぎつけられたの!?」

「異端技術を使うとはいえ、私達は素人の集団。訓練されたプロに立ち回れるとは思わない方がいいです。マリア、排撃を出来ますか?」

「!排撃って、相手はただの人間。ガングニールの一撃を喰らえば…」

 

ナスターシャ教授の言葉にマリアは躊躇する。同じ人間である以上、マリアの甘さが最大の弱点と言えた。そして、その様子を黙って見守るウェル博士。

 

━━━ソロモンの杖を先生に渡したのは早計でしたかね?

 

『貴様らが出来ないと言うなら、我等ショッカーがゴミ掃除をしてやろう。死神博士から貴様たちを守ってやれと頼まれたからな』

 

躊躇うマリアに業を煮やした地獄大使の言葉と共に入り口が爆破され何人もの兵士が入って来る。兵士達の目的はマリア達の殺害、或いは捕縛して本国に送る事である。経験も豊富な兵士達にとって楽な任務の筈だった。

 

「ぎゃあああああああああああああ!!!!」

 

一人の兵士の悲鳴が辺りに響く。何事かと声の方を向いた兵士達が見たのは、

 

「キーリー!」

 

虫のような人間大の化け物が何人もの兵士に火炎放射を振りまいている。

 

「ば、化け物だ!撃てええぇぇぇぇぇ!!!」

 

兵士達が銃を乱射する。外れもあるが殆どの銃弾が化け物に命中する。しかし、

 

「こそばゆいぞ!人間ども!!」

 

銃弾が直撃しようがダメージらしいダメージが無い。更に、

 

「殺人レントゲン!!」

 

エアキャリアの上に陣取っていた鳥のような怪物が一瞬、目から光を放つと何人もの兵士が骨だけになり、

 

「死ねぇい!」

 

怪物が首に巻き付いてる蛇の口からのガスを出し浴びた者は骨すら残らず溶ける。など大被害が出る。

 

そして、その様子はエアキャリア内のマリア達も戦々恐々で見ていた。

 

「…酷い!」

「…ウップ!!」

 

これは最早戦いではない。ただの虐殺だった。流石のウェル博士もこの様子に口元を押さえる。何も言わないナスターシャ教授だが、苦虫を嚙み潰したよう表情だ。

アメリカの特殊部隊は僅か数人足らずの怪人達にアッサリ壊滅する。怪人を倒したければ本格的な軍隊を連れて来るかシンフォギア装者か弦十郎を連れて来るしかない。

 

「ヒイ…ヒイ…」

 

一人生き残った兵士が何とか廃工場から逃げ出した。急いで本国と連絡しようとするが無線機が壊れていて動かない。こうなったら日本政府に泣きつくしかないと思った兵士だが、横を見ると、

 

「おじさん、大丈夫?」

「もしかしてサバゲーでもしていたの?」

 

突入時の爆発音が聞こえ様子を見に来た野球少年の何人かが兵士に聞く。

 

『君達、早く逃げなさい!化け物がいるぞ!!』

「「「?」」」」

 

その少年たちに兵士が叫ぶが生憎、英語で少年たちに伝わらない。なら、一緒に逃げようとしたが、

 

「何処へ行く気だ?」

 

足元からの声に下を見ると地面と同じ茶色い色をした腕と頭に緑色のした目をした怪物が兵士の足を掴んでいた。

直に後に穴に引き釣りこまれた兵士の悲鳴が響くが直に止み、穴から出た怪物が骸骨をその場に置く。口に血をしたたせながら。

これにも、少年たちも愕然とする。怪物を見たのもそうだが、大人の兵士がアッサリと骨にされたのが信じられなかった。

 

「?ガキどもか」

 

そして、少年たちの存在は直ぐに怪物に知られ、上司である地獄大使に通信を送る。

 

「目撃者です。どうしますか?」

『消せ』

 

即答で答える地獄大使。元よりショッカーは目撃者を消してきた。今回もそのつもりだ。

 

『待って、その子たちはまだ子供よ!』

 

マリアが止めるよう通信するが怪物…怪人達がマリアの言葉で止まる事はない。子供たちは逃げ出す間も無く怪人に殺された。それを見ていたマリアの口から慟哭が響きナスターシャ教授とウェル博士がそれを見届ける。

 

 

 

 

そして、怪人が兵士を皆殺しにした頃に切歌と調も歌い終わり観客たちもクリスの時のように惜しみない拍手が飛び交う。それを満更でもない表情で喜ぶ切歌と調。

 

「…良い歌でしたね」

「何故…歌う者同士が戦わねばならんのか?」

 

二人の歌を聞いていた響と翼も思わず漏らす。響も翼も戦いたいから戦う訳ではない。全ては打倒ショッカーの為だ。

 

「ふぁ~、やっと終わったか」

 

尤も、そのショッカーの大幹部は眠くてしかたなかったが。そしていよいよ切歌と調の得点が発表されようと言う時に切歌と調に通信が入る。

ナスターシャ教授からで、内容は先程襲撃を受けた事、此処を一時的に離れる為、一旦戻る様の趣旨だった。その命令に悔しそうにする切歌だが調が切歌の手を引っ張ってその場を後にしようとした。

 

「調!」

「マリアが居るから大丈夫だと思う。だけど…」

 

調の言葉を聞いて納得するしかない切歌。その時、前方にいたコートを着込んだ者に当たり二人はよろけてしまう。

 

「…ごめんなさい」

「気を付けるデス!」

 

穏便に済ます為に調が謝罪するが切歌がけんか腰で文句を言う。一瞬、焦る調だがコートを着込んだ者は二人に一瞥する事無くステージの方に向かていく。切歌と調を追おうとしたクリスも翼もその人物に注目し響は胸騒ぎを感じていた。

 

「あ、あなたも飛び入りですか?もう直ぐ、あの子たちの点数が発表されますからそれまで…きゃああ!!」

 

司会をしていた生徒がステージに上がろうとしていたコートの着込んでいた者に少し待ってもらおうとしたが返事は拳だった。

 

「おい、なんだよあれ!?」

「誰か警備員、呼んでこい!」

 

その光景に会場が騒めき出す。クリスも今切歌と調に接触するか迷う中、ステージに上がった者がコートを脱ぎ棄て帽子とマスクも脱ぎ去る。

 

「エエエーーー!!」

 

コートを脱いだ者の姿は亀の姿をしていた。

 

「なんだ?また電光刑事バンでも歌うのか?」

「さっきの女生徒より完成度高くない?」

「でも、電光刑事バンにあんなキャラ出てたかな?」

 

突然乱入した亀男を先程女生徒が歌っていた『電光刑事バン』のキャラだと思い込む観客たち。しかし、

 

「響、あれって!?」

「あのベルト、間違いない!ショッカーの怪人だ!」

 

響達は亀男をショッカーの怪人だと気付く、

 

「切ちゃん、あれって!?」

「あの時、居た怪人!?」

 

様子を見ていた切歌と調も驚いている。その時、自分達に近づく一人の男が、

 

「二人共、これを」

「え?」

「あなたは一体?」

「死神博士の命だ。死にたくなければ掛けるように」

 

突然、男に手渡されたのは二つのサングラスである。色々知りたかった二人だが、死神博士の名が出ると渋々掛ける。

 

「やれ、カメストーン。愚かな者どもに貴様の力を見せてやれ」

 

「貴様たちに素晴らしい物を見せてやろう!」

 

そう言うと亀男は右手を翳して何かを見せようとする。

 

「!?翼さん、見ちゃいけない!」

「きゃあ!?」

 

咄嗟に響は傍に居た未来を押し倒して床へと伏せる。言われた翼も手でガードしようとしたが、

 

「見るがいい!殺人オーロラをな!!」

 

その瞬間、電気のついた明るい講堂に奇麗なオーロラが見えた。

 

 

 

 

 

 

 




本当は、死神博士が撤退して響達が追跡して原作の切歌と調を取り囲んだようにそのまま戦闘に行こうとしたけどマリアたちとショッカーの絡みが思いのほか長くなった。



言うなればマリアたちはショッカーと同盟を組んだ感じです。
内容的にはショッカーはマリアたちのサポートをしてフロンティアに行きマリアたちはショッカーにシンフォギアのデータを渡すといった感じです。ショッカーが何処まで約束を守るかは不明ですが。

尚、今回アメリカの特殊部隊を殲滅したのはカミキリキッドにフクロウ男、海蛇男とドクモンドです。

話の都合上、ユニコルンがカストディアンの生物兵器に、
ユニコルノスを聖遺物怪人2号にするためです。


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41話 学院での戦い!聖遺物怪人VS響

 

 

「誰だよ、電気を消したの!?」

「何も見えねえぞ!」

「痛い…痛い!!」

 

観客たちが口々に騒ぎ出す。混乱が広がり誰もが暗いと喚く。

 

「…一体、何が起こったデスか?」

「みんな、おかしい」

 

観客達が誰もが()()()()、暗いと言い出し、目の不調を訴える。何が起こったのか分からない切歌と調だが、

 

「…死神博士より連絡を伝える。此処を出るから付いて来いとの事だ」

 

二人にサングラスを渡した男が伝える。状況が良く分からない中、二人はあれよあれよと言う内に出入り口まで誘導され死神博士と合流して外に出る。当然、会場にオーロラを流した亀男も一緒だ。

 

 

 

 

「ま、待てぇ!翼さん、私が止めてきます!未来は此処の人達の事をお願い!」

「待つんだ、立花!クッ!」

 

咄嗟に止めようとした翼だが、それよりも早くにショッカーと二人の少女を追う響。その直後に翼は会場で蹲っているクリスの下に行く。

 

「雪音、ショッカーだ!追うぞ!」

「あ…ああ」

 

翼がクリスの手を握って響を追いかける。この時、翼は失念していた。何時ものクリスなら翼に言われずも怪人を追うのに今日のクリスは翼に声を掛けられるまで蹲っていた事を、亀男の()()()()()()()()()()()を。そして翼も己の片目を押さえていた。

 

「響、頑張って」

 

翼とクリスを見届けた未来は響の名を呟く。心の中で無事に帰って来てと願う。

 

「ちょっと、未来!何があったのよ!」

 

その時、舞台袖から板場を始めとした友人と何人かの参加者が出て来る。彼女らは舞台袖の奥に引っ込んでた為亀男のオーロラを見て居らず助かったのだ。

未来は、無事な女生徒に応援を頼み、一緒に目の見えなくなった観客たちを介抱する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、切歌と調は死神博士に付いて行っていた。オーロラを出したカメストーンともう一人のコートを着た者も一緒だ。それ故に良くも悪くも目立つ。

 

「待てぇ!」

 

「ふん、やっと来たか」

 

そんな中、何時の間にか前方に回り込んでいた響が死神博士の前に立ち塞がる。後ろを見ればクリスの手を引いた翼もやって来る。

 

「みんなに何をしたの?」

 

響が真っ先に口を開いた。カメストーンのオーロラを見て皆に異変が起こったのだ。ショッカーが何かしたに違いないと響は考える。

そして、響の質問を聞いて邪悪な笑みを浮かべる死神博士。

 

「フフフ、簡単な話だ。会場の人間はカメストーンの「殺人オーロラ光線」を見たのだ」

 

「殺人!」

「オーロラ!」

「光線だぁ!?痛ッ!

 

「…ウソ」

「デス!?」

 

死神博士の言葉に響達は愚か切歌と調まで驚く。しかし、その反応を無視して死神博士が話を続ける。

 

「殺人オーロラ光線を見た者は先ず目が見えなくなり、そこから腐って最後に全身が溶けて死ぬ。分かり易かろう?」

 

その言葉に翼もクリスも息を飲む。切歌と調は顔を青くし響は歯を食いしばる。ショッカーがまたもや虐殺を企んでいたのだ。それも生徒たちが楽しそうに浮かれる秋桜祭で。それが響には許せなかった。

 

「…お前は一体…」

 

「おっと、名乗り遅れて居たな。私の名は死神博士、ショッカーの大幹部の一人だ」

 

翼の質問に答える死神博士。予想以上の大物に響が口を開く。

 

「大幹部!?なら地獄大使と同じ」

 

「その通り、地獄大使と並んでショッカーの最高幹部と言われている」

 

それを聞いた、翼やクリスがペンダントを握る。それに反応して切歌と調もペンダントを掴む。しかし、その姿を見て死神博士が笑いながら言う。

 

「周りを見たらどうだ?野次馬どもが居る中で変身するつもりか?」

 

死神博士の言葉に響と翼が周りを見る。死神博士や亀男の姿や歌姫である翼の姿に野次馬が集まって来ている。迂闊に変身すれば翼がシンフォギア装者だとバレてしまう。

 

「だが、それはお前達も同じはずだ。秘密結社なのだろ!」

 

翼が指摘するが、死神博士はそれを鼻で笑う。

 

「ククク…もう直ぐその必要もないのだよ」

 

「何だと!?」

 

「特別に教えてやろう、ショッカーでは近々ある特別な作戦が行われる。それが成功すれば最早、我々は隠れて行動する必要が無くなるのだ。即ち我々の時代が到来する!!」

 

「作戦だって!?」

「それは何だ、答えろ!死神博士!!」

 

クリスが作戦という言葉に反応し翼が怒鳴るように質問をする。

 

「そこまで答える気はない。ユニコルノス!カメストーン!」

「エエエーーー!!」

「ガァァー、ルルッ!!」

 

二人目のコートを着込んでいた者も正体を現す。それを見て更に野次馬が集まりだす。

 

「おい、何かやってるぞ」

「気合の入ったコスプレだな」

「見ろよ、風鳴翼だ!」

「分かった、きっと何かの撮影よ!」

「カメラどこ?カメラ!」

 

「!?」

「しまった!」

 

野次馬の人だかりが奇麗に響達を取り囲む。これでは翼がシンフォギアを纏えない。逆に死神博士は逃げるなり野次馬を巻き込むなり好きに出来る。

 

「さて、もう一度聞こう。変身するのか?しないのか?」

 

このまま死神博士を逃すのは論外だ。何より、このままではカメストーンの殺人オーロラ光線を見てしまった観客たちが死んでしまう。最悪、翼抜きで戦おうかと考えた響だが、

 

「もういい、私も覚悟を決めよう」

「翼さん…」

 

そう言って、翼はペンダントを握り響が翼の名を呟く。それに感心する死神博士。

 

Imyuteus ameウ~~~~~~~~~~~~

                   ~~~~~~~~~~~~~!!

 

今まさに、翼が聖詠を口にしようとした時、学園のスピーカーから警報が鳴る。更に、

 

『ノイズが現れました!ノイズが現れました!住民は直ぐに最寄りのシェルターに避難して下さい。繰り返しま…』

 

放送でノイズが現れたと言う。これには響達は愚か死神博士も反応する。しかし、一番反応したのは、

 

「やばい、早く逃げるぞ!」

「シェルターは何処だ!?シェルターは!」

「ママ!」

「こっちよ。早く避難するわよ」

 

あれだけ集まっていた野次馬たちが次々とシェルターに逃げていく。その様子を見て響達もシンフォギアを纏えると思ったがノイズを放置してショッカー怪人の相手をしてよいのか考える。その時、通信機から緒川の声がする。

 

『間に合いましたね。これでシンフォギアを纏って戦えますよ!』

「緒川さん!?『間に合いましたね』ってこれは、まさか」

『はい。まあ誤情報なんてあんまり珍しくありませんから』

「…感謝します!」

 

緒川が偽の警報を鳴らした事に防人として複雑ではあったが、これで人目を気にせずシンフォギアを纏える、と判断する翼。

 

Imyuteus amenohabakiri tron

Balwisyall nescell gungnir tron

…Killter Ichaival tron

 

翼が先に聖詠し響も続く、そしてクリスも何か躊躇いつつ聖詠を口にしてシンフォギアを纏う。

 

「周辺にノイズが反応は無い。…特異災害対策機動部二課め、やりおったな」

 

死神博士は何時の間にか戦闘員が用意したノートパソコンを打ち込み周辺にノイズが出たのか調べていたがノイズの反応が無いと分かると改めて響達の方を見て鼻で笑う。

 

「カメストーン、貴様は赤いのと青いのを相手にしてやれ。立花響、お前の相手は聖遺物怪人2号のユニコルノスがやる!」

 

「聖遺物怪人2号!?」

 

死神博士の聖遺物怪人に反応する響。

 

「そうだとも、貴様のデータを参考にしつつ貴様の時とは違うアプローチをして完成させた怪人だ!」

 

観客も生徒の居なくなった学院の敷地内で三人の装者と二体の怪人の戦いが起こる。

 

 

 

 

 

 

 

「死ねぇ!!剣の装者に銃の装者!」

 

カメストーンが背中の甲羅を外して投げつける。その甲羅は真っ直ぐ翼たちの下に迫る。

 

「クッ!」

「うわああああ!!」

 

咄嗟に避ける翼だがクリスが甲羅をまともに受けてしまう。倒れるクリスを抱き抱える翼。その間に甲羅は宙を飛びカメストーンの背中に戻る。

 

「何をしている、雪音!何時もだったら、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「わ、悪い…」

 

翼の言葉にクリスは謝りつつロングボウを向ける。()()()()()()()

 

「!…雪音…お前…」

 

「フッハハハ、こいつは傑作だ!銃の装者が既に俺の殺人オーロラ光線を見て目が見えてない事に気付かんとはな!!」

 

「くっ!」

 

カメストーンの言葉に翼は歯噛みする。クリスの様子が殺人オーロラ光線を放たれた後からどうにもおかしいと思っていたが盲目にさせられていたとは…尤も翼も人の事は言えないが、

 

「ついでに言えば剣の装者、貴様も片目が見えて居ないな。さっきから動きがおかしいぞ」

 

「!?」

 

翼にとって、その言葉は図星だった。響に言われて咄嗟に片手で防ごうとしたが両目を守るには少しばかり時間が間に合わずつ現状、翼は片目を失明していた。

 

「ククク、お前達が溶けて死ぬのを待つのもいいが、せめてもの情けだ。これで殺してやる」

 

そう言い終えるとカメストーンは何時の間にか刺突剣を握り翼に向けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「フフフ、赤いのと青いのは事実上戦力外。まともに戦えるのはお前だけのようだな立花響」

 

翼やクリスの様子を見て笑みを浮かべる死神博士。視線を立花響の方に向けると、

 

「グハッ!」

 

「どうだ?俺の威力は分かったか?」

 

ユニコルノスの膝蹴りを腹部で受けた響が悲鳴を上げ、地面に倒れ込む。一つ目しかないユニコルノスだが、その目が笑っているとハッキリ分かる。

 

何とか立ち上がる響だが、両手は腹部を押さえていた。ダメージがかなりきているのだろう。

 

「そうだ、立ち上がるがいい。お前は俺の手によって殺されるのだからな!」

 

その瞬間、ユニコルノスの口から液体のような飛沫を噴射する。嫌な予感がした響は防御せず避け後ろに在った気に掛かる。直後に飛沫が掛かった気が石のようになってしまう。

 

「!木が石になった!?」

 

「化石だ。ユニコルノスの飛沫に触れた生命は全て化石に閉じ込められるのだ」

 

響の疑問に答える死神博士。化石に閉じ込められると聞いた響はよりユニコルノスに注意して戦っていた。だが、次の瞬間に翼とクリスの悲鳴が聞こえて翼たちの方を向く。

響の目はカメストーンの猛攻にクリスを守りつつ戦う翼だった。カメストーンの持つ刺突剣を剣のアームドギアで受けて立つ翼だが、動きが何時もより散漫になっている翼の体にカメストーンの刺突剣が傷をつけていく。

 

「翼さん!クリスちゃん!」

 

二人を助けに行こうとする響だが当然、黙っていかせるショッカーではない。ユニコルノスが突然響の前に現れる。

 

「邪魔をするなぁ!!」

 

響が叫ぶように言う。それでもユニコルノスは退く事は無く戦いは続く。

 

 

 

 

「フフフ、それでいい。それが立花響の最大の弱点だ」

 

焦る響の姿を見てほくそ笑む死神博士。

目の見えなくなったクリスに片目が見えない翼は当然、カメストーンに苦戦する。その悲鳴を聞いた立花響は攻撃より二人を助けに行こうとするがユニコルノスに悉く邪魔をされる。その事より立花響はユニコルノスに集中出来ず攻撃がおざなりとなり、余計にユニコルノスを倒せなくなる。

 

 

 

 

 

 

 

 

「大丈夫ですから…誰か濡れタオルを!」

 

その頃、未来や創世たちは会場で苦しむ人達の介抱をしていた。何人かの目の見えなくなった観客や審査員を床に寝転がせ濡れタオルを瞼に当てていた。

 

「痛い…痛い…!」

「お母さん、何処にいるの?痛いよ…」

 

それも目の痛みを訴える人は減る事は無い。何人かの生徒が救急車を呼ぼうと携帯や学院の固定電話で救急車を呼ぼうとしてるが、

 

「駄目、やっぱり通じない」

「こっちも駄目」

 

携帯は悉く圏外で有線での電話も電話線が切られてるのか通じなかった。外へ助けを求めようとした生徒も放送でノイズが出たと聞いて外に出る事が出来なくなっていた。

 

「響、大丈夫かな?」

 

忙しい中、未来は響の事を考える。元凶となったカメストーンを倒せば元に戻るかは分からない。だけども無事に戻って来てほしいと考えて居た。

 

 

 

 

 

 

 

 

「酷過ぎる光景デス」

 

切歌と調は響や翼たちの戦いを見ていた。死神博士からは先に戻っていいと言われたが響達の事を気にした切歌と調は響達と怪人の戦いを見守っていた。

 

翼は目の見えないクリスを庇い何とかカメストーンの攻撃からクリスを守るが次第に翼の傷が多くなり、響は二人が気になってユニコルノスに集中出来ず、ユニコルノス攻撃をまともに喰らい出店の一つに突っ込んでしまう。そして、戦闘員にノートパソコンを持たせて何かのデータを取る死神博士。

 

状況は完全にショッカーに有利だった。

 

「…切ちゃん、私もう我慢できない!」

 

Various shul shagana tron

 

響達を見続けてきた調が聖詠を口にしてシンフォギアを纏い、響の下に突っ込む。

 

「調!?ああもう!」

 

Zeios igalima raizen tron

 

「しょうがないデスね、調は」

 

口では文句を言っていたが口元に笑みを浮かべる切歌。調を追う。

 

 

 

 

 

 

 

「うわああああああ!!」

 

響が今度は別の出店に吹き飛ばされ、衝撃により出店にあった調理器具が響にのしかかる。何とか立ち上がろうとしたが、

 

「化石になってしまえ!!」

 

「…しまった!」

 

目の前には既にユニコルノスが口から飛沫を出す。まだ、態勢が整っていない響では逃げる事は出来ない。響がもう駄目かと思った。

その瞬間、響の目前に巨大な回転ノコギリが縦状態で展開され、それが響の身を守った。

 

「!?」

 

「何だと!」

 

怪人が驚く声を上げ、響も声には出さないが非常に驚いていた。響の前に巨大の丸鋸を展開していたのは調だった。

 

「これで、貸一つ」

 

チラッと響の方を見て無事なのを確認した調が呟く。直後に盾にしていた巨大な丸鋸が化石に包まれ出し調がそのパーツを切り離す。切り離された丸鋸は砕けて消える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここまでのようだな、死ねぇ!!」

 

傷だらけになり片膝を地面に付けた翼にカメストーンがトドメを刺そうと刺突剣を振り上げていた。片目も見えずクリスを守る為に無茶をした翼にもう打つ手は無かった。

クリスも援護はしようとしてカメストーンの声を目標に撃っていたが偶に翼の悲鳴が聞こえる度に何度も躊躇いアームドギアのボーガンが撃てなくなる。そうこうしてる内に翼のダメージが大きくなり動きが鈍るとカメストーンがトドメを刺そうとしたのだ。

 

最早、無茶をし過ぎた翼にこの一撃を防ぐ事は出来ない。カメストーンの刺突剣が一気に翼へと迫り金属音が響く。

 

「お前は…」

 

「貴様は!?」

 

「邪魔させてもらうデース」

 

刺突剣の一撃は緑色の鎌に阻まれる。カメストーンが刺そうと翼へのトドメは邪魔された。暁切歌の手によって、

 

この日、二人の少女がショッカーに反旗を翻した。

 

 

 

 

 

 




因みにカメストーンが戦わず逃げた場合、翼とクリスは死にます。

ショッカーの襲撃時点で秋桜祭も滅茶苦茶に。

切歌と調は此処でショッカーを裏切るのか?


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42話 少女は悪を裏切る夢を見るのか

 

 

 

「なに!?マリア側の装者が味方してるだと!」

「はい、響ちゃんや翼さんの報告です!」

「学院側の防犯カメラにも二人が味方してるのが映ってます!」

 

あおいの報告後に本部のモニターにも監視カメラの映像が映る。

 

学院の秋桜祭がショッカーに襲撃されて二課本部でも慌ただしくしていた。警備に回っていた黒服の大多数は避難誘導をし何人かが未来たちの居る講堂に救援にむかう。周りの生徒や観客の目を退ける為に偽のノイズ警報を出して響達をサポートしていたが、視界を奪われたクリスや、クリスを守る為にカメストーンの攻撃を受ける翼。響も二人の事を気にしてユニコルノスに防戦一方で完全に装者達が押されていた。

 

そこに、マリアと一緒に現れた少女の装者が響達を助けたのだ。モニターにはユニコルノスに無数の赤い丸鋸を飛ばすピンクのシンフォギア装者とカメストーンに鎌で攻撃する緑のシンフォギア装者が映る。

 

「この際、味方してくれるのはありがたい。…ありがたいが…」

 

あの二人の少女が味方してくれてありがたいと考える弦十郎。同時にその少女が何故、ショッカーの大幹部である死神博士と一緒に居たのか疑問に感じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほう、あの二匹が」

 

死神博士が切歌と調が反旗を翻した事に大して驚きもしない。少し考えてカメストーンとユニコルノスに命令を出す。

 

「その二匹を殺せ!私が許す」

「…宜しいので?」

「あの二匹を殺したのは立花響を始めとしたシンフォギア装者の所為にすれば済む話だ。仮に小娘や教授が真相に気付いても脳改造なり洗脳なりすればいいだけよ」

 

ショッカーに逆らった事で死神博士が切歌と調を抹殺するようカメストーンやユニコルノスに言い渡した事に戦闘員が死神博士に伺うが、死神博士は笑みを浮かべてそう言い放つ。

何より、ショッカーにとっても死神博士にとっても、切歌と調は翼やクリスたちに比べ適合率の低い出来損ないの装者だ。ウェル博士の要請がなければ即実験室で解剖されていた程、ショッカーも期待してない二人だった。

 

「計算上、あの二匹が加わった程度では怪人達の勝率は揺るがん。ならば、より良いデータを引き出す為に使う事にしよう」

 

翼やクリスと比べ弱く適合係数を上げるLiNKERすら打っていない切歌と調が響達に加勢してどの程度戦えるか興味が湧く死神博士。

二人の装者が加勢し戦いが再び起こる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「死神博士の命令も出た。死ねぇ!小娘!」

 

カメストーンが手に持っている刺突剣で切歌に斬りかかる。緑色の鎌で弾く切歌だが翼の目には会場での戦い程、動きのキレが無い事に気付く。

 

━━━動きがあの時より鈍い?…!まさか、この子もLiNKERを使っていたのか!?

 

切歌がLiNKERを使って戦っていた事に気付いた翼。その刹那、切歌の鎌が弾かれ態勢を崩した。

 

「う!?」

 

「出来損ないの装者が!今、地獄に送ってやる!」

 

そう言ってカメストーンが切歌を刺突剣で突き刺そうとする。切歌の脳裏に諦めの言葉が響く。

 

━━━こんな事なら、あのマッドから一二本くすねれば良かったデス

 

ウェル博士に頼んでLiNKERを貰ってればと後悔する切歌。そのまま刺突剣が切歌の体に突き刺さるかに見えた。しかし、聞こえてきたのは金属音だった。

 

「ぬ!?」

 

「あ…」

「貴様の相手は私の筈だろ、カメストーン!」

 

カメストーンの刺突剣を弾いたのは翼だった。更に、

 

「死にぞこないが!ガっ!?」

 

忌々しそうに罵るカメストーンの体い赤い矢のような物が刺さる。見ればクリスがアームドギアのボーガンでこっちを撃ったのだ。一瞬、「赤いシンフォギア装者の目が見えるようになったか!?」と考えたカメストーンだが、片手で両目を押さえて痛みを感じてる事に気付きその線は無いと判断する。

 

ただの偶然か声のした方を狙ったのかはカメストーンには分からない。だが、未だに自分達が有利なのは変わらないと判断した。

 

「ムシケラどもが。とっとと死ねぇ!」

 

そう言って、再びカメストーンは背中の甲羅を投げつける。それを、切歌が躱し翼も今度はクリスの体を掴んで回避させる。それを見て舌打ちするカメストーン。

 

「…おい、アタシに策がある」

 

どう攻めたものかと考える翼と切歌にクリスが話を持ち掛ける。不安はあったが二人はクリスの話を聞く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私のα式のギアから出る丸鋸を出して、一つ目の怪人に攻撃してる。けど、

 

「ムシケラが一匹増えたところでどうにかなると思うな!」

 

怪人の体に当たるけど私の攻撃は一つ目の怪人、ユニコルノスには全く効いていない!それどころか私の攻撃を物ともせずこっちに来る

 

「なら、これなら!」

 

そう言って、私は今度は大きい回転ノコギリでユニコルノスを攻撃する。これなら…

 

「無駄だ!」

 

でも、その攻撃もユニコルノスの拳一つで砕け散り、ユニコルノスの蹴りが私に命中して後ろに飛ばされる。LiNKERが無いと私はここまで役立たずなの!?

 

「危ない!?」

 

壁に激突して背中の衝撃を覚悟した私だけど直後に誰かが私の体を受け止めてくれた。目を開いて後ろを見ると立花響が私の体を抱きとめていたのだ。正直、彼女の体は固くて痛かった。でも、また私は助けられた

 

「…ごめんなさい…」

「え?」

 

私の口からお礼より謝罪の言葉が漏れた。たぶん、あのイカれた死神博士の行動の所為だと思う

 

「…私達は…こんな大事に…する気なんてなかった。私も…切ちゃんも…皆の楽しみを…壊すつもりなんて…ごめんなさい…」

 

私の目から熱いものが流れそうだった。私達の所為でお祭りを台無しにして…。偽善者だと見下していた立花響にこんな話をするなんて…

 

「あなたの名前は?」

「…月読調(つくよみ しらべ)」

「そっか、じゃあ調ちゃんだね。調ちゃんは何も悪くないよ、悪いのはショッカーなんだから。調ちゃん達が来なくても死神博士は会場で殺人オーロラ光線を流していた筈だし」

 

立花響…彼女に元気づけられた。確かに、死神博士なら私達が居なくても作戦を実行していたかも知れない。だけど、

 

「…でも…私達は…ネフィリムの…食料として…風鳴翼と雪音クリスのギアの…ペンダントを奪おうとして…」

「うん…うん?」

 

私の言葉に彼女は言葉を詰まらせる。当然だろう、仲間のギアを奪おうとしていたんだから

 

「なに無駄話をしている!?二匹纏めて化石にしてくれる!」

 

私達の会話中にも攻撃を仕掛けて来る怪人、私と彼女はギリギリでジャンプして避けて何とか着地する。それにしても、この怪人も強い!

 

「色々言わなきゃいけない事や聞かなきゃいけないとは思う。でも今はユニコルノスを一緒に倒そう」

 

そう言って彼女は私に手を差し出す。少し考えて私は立花響の手を取った。ショッカーはFISより非道な組織だ、野放しにしてはいけない。…それにしても彼女の手に力が全く入ってなかったのはどうして?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふむ、中々良いデータではないか」

 

戦闘員が支えるノートパソコンを弄っている死神博士がそう漏らす。立花響や風鳴翼に雪音クリスだけでなく月読調に暁切歌のデータまで手に入れてるのだ。

 

「しかし…」

 

だが、死神博士はパソコンのデータを見て首をかしげる。

 

「暁切歌と月読調の能力データが想定以上に高い。ウェルが渡したデータより上回っている?」

 

ウェル博士から渡されたデータチップに入っていたデータでは切歌と調の身体データ及び戦闘データでもここまでの伸びは無かった。一瞬、パソコンがバグってるのかと思った死神博士だが、調べてもバグの様な物は発見できずにいた。

 

「ゾル大佐が残したデータではシンフォギアは感情によって性能も変わると聞いたが…それを考えればユニコルノスの能力が想定以上なのも納得できるか?」

 

ノートパソコンのモニターに映るユニコルノスの能力数値が想定よりも上がっている。ユニコルノスはシンフォギアではなく聖遺物を流用して生み出された怪人だ。そのユニコルノスの力が想定よりも上がってる事に死神博士が何か考え付く。

 

「ん?」

 

その時、ノートパソコンから警告音が響く。何事かと調べた死神博士はそれがカメストーンの脳波が乱れてる事に気付き、立花響からカメストーンの方に視線を向ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「離せ!離せ、小娘!!」

 

「嫌デス!絶対に離さないデス!!」

 

カメストーンと切歌の言い争いが起きていた。よく見ると切歌がカメストーンの顔を体で遮るように抱き着いていた。これではカメストーンは前が見えない。

 

「貴様に恥じらいという物はないのか!?地味に暑苦しい!!」

 

「怪人に言われたくないデース!」

 

頭を振り回し切歌を振り払おうとするカメストーン。離れるかとカメストーンを顔をガッチリ掴み自分の胸部で目隠しする切歌。膨らみかけの切歌の胸がカメストーンの顔に当たるが、今更人間に興奮するカメストーンではない。足や腰に手をかけて引っ張ろうとしていた。

 

 

 

 

 

 

「何をしとるんだ、あの馬鹿は!?カメストーン、遊んでないでさっさとその小娘を始末しろ!」

 

切歌にいいようにされてると判断した死神博士が、カメストーンに改めて抹殺するよう命令する。大方、目の見えなくなった二人の装者を逃がす為の行動だろうと読む死神博士。その証拠に二人の姿が何処にも見えない。

 

「無駄な事を」

 

カメストーンの殺人オーロラ光線を見た者は確実に死ぬ。仮にこの場を逃げられても数日もしない内に激痛にのたうち回り、最後に溶けて死ぬのだ。そう死神博士は考えて居た。

しかし、死神博士は気付かなかった。カメストーンの背中の甲羅が外れていた事を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ええーい!こうなればこの剣で突き殺してやるわ!!」

 

死神博士の叱責に慌てたカメストーンが持っていた刺突剣で切歌の体に突き刺そうとした。切歌もカメストーンの刺突剣を見て息を飲むがカメストーンの顔を決して離しはしなかった。

 

「死ぬがい「死ぬのは貴様だ!!」い!…!?ギャアアアアアアアアアアアア!!!」

 

今まさに、切歌の体に剣が突き刺さろうとした瞬間、翼の掛け声と共にカメストーンは背中に激痛が走る。

 

「なに!?」

 

その戦いを見ていた死神博士が驚きの声を上げる。姿が見えず逃げたと思っていた翼が上から落下してきて持っていたアームドギアの剣を甲羅のないカメストーンの背中に突き立てた。

 

「風鳴翼、貴様逃げたのではなかったのか!?」

 

「防人が逃げる筈がないだろう!」

 

死神博士の疑問の声にそう反論する翼。事実、翼はカメストーンの一瞬の隙を待って行動に移していた。切歌が危険な役割を買って出て、この一撃に繋がったのだ。

 

「やるではないか。しかし、怪人の生命力を舐めて貰っては困る!」

 

「エエエーーー!!」

 

死神博士が言い終えると共にカメストーンも咆哮し、背中に手をまわして翼の剣を掴む。更にもう一本の手で切歌の頭掴む。

 

「あぐっ!?」

 

途端、切歌の頭から骨のきしむ音と悲鳴が聞こえる。このままでは切歌の頭蓋骨が砕かれて殺される。その様子に気付いた翼が更に剣を突き立てる。止めようとするカメストーンだが、片手ではろくに翼の渾身の力を入れてる剣を止める事が出来ない。そして、翼の剣がカメストーンの胸から飛び出し貫通したのだ。断末魔の悲鳴を上げるカメストーン。

 

「今だ、雪音!」

「おうよ!」

 

「あの娘、あんな所に!?」

 

翼の声にクリスが草むらから姿を現す。その姿はボーガンのアームドギアがガトリング砲に代わり腰から小型のミサイルも展開して()()()()()()()()()()()()()()()それに驚く死神博士、片目が見えない翼なら兎も角、完全に盲目になったクリスは足手まといとして別の場所に移動させたと思っていた。

 

これが、クリスの考えた策だった。切歌がカメストーンの目隠しをして翼がカメストーンの隙を見つけ甲羅の取れた背中にキツイ一撃を入れる。そして、最後に自分の射程内にカメストーンを誘導して、そこで最後の一撃を加えるのだ。

 

「地獄に行って閻魔様に詫び続けろ!亀野郎!!」

 

目が痛む中、クリスのアームドギアのガトリング砲と小型ミサイルが一斉に火を噴き弾丸がカメストーンに迫る。当たる直前に翼は切歌の腕を取り共にカメストーンから離れる。

 

切歌が離れた事で視界が戻ったカメストーンだったがクリスの攻撃が目前に迫る。風鳴翼に一撃を喰らわされたとはいえこの程度の攻撃ならまだ避けられる。そう判断したが、

 

「!?」

 

避けようとしたが体が動かない。そこでふと自分の影を見ると短剣が一本突き刺さっていた。

翼の影縫いだ。離れる寸前に翼はカメストーンの影にアームドギアの短剣を刺し影縫いをしていたのだ。クリスの攻撃を避ける術がない。

 

「し…死神博士ええええぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

 

最後に、カメストーンが死神博士の名を叫ぶ。ただの断末魔か、死神博士に助けを求めたのかは謎だがクリスの攻撃が全てカメストーンに当たり大爆発を起こす。衝撃波と熱風がクリスに降り注ぎ翼に近くに着地する。それでもクリスはガトリング砲を下げる事無く構えたままにする。万が一、カメストーンを仕留めれなかった時に直に攻撃できるようにだ。だが、直ぐにその必要もなくなる。

 

「…!見える…見えるぞ!!」

「私もだ、雪音」

 

クリスの両目に光りが戻り、翼の片目も元に戻った。カメストーンが死んだ事で殺人オーロラ光線の能力も消滅したのだ。未来が居る会場でも目が元に戻る者が出始める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「カメストーンがやられただと!?」

 

響と調と戦っていたユニコルノスが驚愕の声を出す。視力を完全に奪われた装者と半分奪われた装者に出来損ないと言われた装者。三人いるとは言えカメストーンの敵ではないと聞いていた。しかし、結果はカメストーンは装者の誰一人殺せず逆に倒されたのだ。その結果に茫然としてしまったユニコルノス。

 

その隙を逃す程、調も響もボケてはいない。

 

「今だ!」

「うわああああああああ!!」

 

調の声に響が反応し、腰のブースターを吹かして一気にユニコルノスに近づく。構えてる腕のギアは既に最大限引っ張り、何時でも打ち込む事が出来る。

 

「ユニコルノス!!」

 

「しまった!?」

 

カメストーンがやられた事に意識がいってしまったユニコルノスが響に意識を戻すと、既に響は腕を繰り出しユニコルノスの顔面に当てていた。更に響の腕のギアが一気に押し込まれ衝撃がユニコルノスに襲い掛かる。

 

「いけええええええええええええ!!!!」

 

「こんな事があああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

響が拳を一気に振り抜く。ユニコルノスが勢いを殺せず化石化した木に激突して更に他の木々もなぎ倒していく。

 

「ハア…ハア…」

 

渾身の力で殴った響の息が乱れる。ユニコルノスから少なくないダメージに渾身の力を使ったのだ。響もかなり消耗している。少しフラ付く響に調が駆け寄る。

しかし、響が調の前に手を出し制止するような仕草をする。

 

「動かないで…」

「え?」

 

響がただ一言そう言った。調には分からなかったが、響はまだ感じていた。自分達に対する殺意を。その時、一本の丸太が飛んできて響も調も躱す。躱した丸太は出店の一つに直撃して煙が上がる。その様子を見た調が汗を掻きつつ響に視線を戻す。やはり、響は前方を睨んでいた。

 

「殺してやる!殺してやるぞ!!小娘!」

 

殺意に満ちたユニコルノスの声がすると突然、響の前にユニコルノスが姿を現す。此方に向かって来た動きが一切見えなかった事に調も響も驚く。

 

「透明になっていた?」

「あるいは瞬間移動?」

 

ユニコルノスの動きに二人が予測を立てる。怒りのユニコルノスの顔にはヒビが入り左右対称になっていた顔の横の出っ張り部分も一部が欠けている事からダメージはあったと予想される。

響と調が構えて戦う姿勢を見せる。が、

 

 

 

 

 

 

「戻れ、ユニコルノス!」

 

「「!?」」

 

死神博士がユニコルノスに戻る様言い放つ。不満に思うユニコルノス何か言おうとするが、

 

「カメストーンが敗れ赤いのと青いのの目も回復する。これ以上の戦闘に意味はない」

 

その瞬間、空から黒い影が差し何かが降りてきた。それは調の知らない怪人だった。

 

「蝙蝠男にドクガンダー!」

 

その怪人達を知っている響が怪人の名を言う。死神博士の言葉に舌打ちをするが大人しく従うユニコルノスは蝙蝠男の足を掴んで空を飛び、死神博士もドクガンダーが回収する。

 

「逃がすか!?」

 

「貴様たちはこいつ等の相手でもしていろ!」

 

「イーッ!」「イーッ!」

 

死神博士が言い終えると同時に突然何体もの戦闘員が現れる。それも地獄大使の時に見た骨のマークの戦闘員だ。これでは死神博士を追う事は出来ない。

 

「こいつ等、何処に隠れてやがった!?」

「兎に角、戦闘員を倒すんだ!」

「デース!」

 

「翼さんにクリスちゃん!良かった…」

「切ちゃん!」

 

丁度、響達に合流した翼やクリスも戦闘員との戦いに入る。ショッカータワーの時いほど数も居ない戦闘員だったのであまり苦戦はしなかったが、少し時間が掛かり戦闘員が全滅した頃には死神博士が見えなくなっていた。直後に本部から講堂に居た観客や生徒の目が回復した事を知らされる。

 

 

━━━カメストーンが倒されたのは驚いたが、その分データも得られた。それにしても、ユニコルノスに一撃を入れた時の立花響の能力は想定以上だ。特異災害対策機動部二課に更に改造されたのか?あるいはフィーネにでも…

 

ドクガンダーに回収され空を飛ぶ死神博士は、響が想定以上に強くなってる事に内心驚いていた。

 

 

 

 

 

 

 

「本当に行くの?」

「なんだったら本部に保護も出来るぞ」

 

「ううん、もう決めたデス」

「私達が裏切ったって知ったらマリアやマムが危険」

 

戦闘員を全滅し本部から被害者の目が治ったと聞いた後に切歌や調が戻ると言い出す。ある程度事情を聞いた響達が止めようとするが二人の意志は固かった。本来なら自分達も一緒に行ってマリアやマムという人物を保護した方がいいのだろうが、作戦を失敗した死神博士がまた学院を狙わない保証がない以上戦力を割けれない。

 

結局、響達は切歌と調を見送った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

講堂では、目が完治した観客や生徒が外に出つつ喜びを分かち合っていた。何人かの救急隊員も来ており怪我をした人の手当てもしていた。その場に、制服に戻った響達も来て皆の様子を見てホッとする。

 

「響!」

「未来!」

 

響達の姿を見つけた未来が走り寄って来る。

 

「皆の目が元に戻ったの!」

「…良かった」

 

未来が嬉しそうに全員が回復した事を知らせ響が良かったと呟く。

 

━━━カメストーンを倒したからかな?

 

響の視線が翼とクリスに向かう。翼は救急隊員に何かしらの指示を出し、クリスは泣いている子供の世話をしていた。その姿を響も何か手伝えないかと思った。が、

 

「もう、ノイズまで現れるなんて!」

「秋桜祭が台無しよ」

「私の出店壊されてる!皆と一緒に作ったのに!!」

 

「…」

 

カメストーンの殺人オーロラ光線の被害者の生徒たちが談笑をするが、自分達の出店の様子を見に行った生徒が壊されてる事を知って泣きながら戻って来た。他の生徒たちが眺める中、響は拳を握りしめ歯を食いしばる。

 

「響の所為じゃないよ」

 

その様子に気付いた未来が響の拳をソッと触る。未来は響がショッカーが襲って来た責任を感じてる事に気付いてそう励ましたのだ。響もそれに首を縦に振るがやはり悔しそうであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

日も傾きかけた夕方、嘗てリディアン音楽院があり今はフィーネの作ったカ・ディンギルの残骸が解体される現場近くに一機の大型ヘリ「エアキャリア」が止まっている。

 

そして、エアキャリアの外に二人の人間が居た。マリアとナスターシャ教授だ。切歌と調の待ち合わせ場所は此処に指定され二人が来るのを待つマリア達。尤もマリアの顔色は優れなかったが。

 

「マリア!」

「マム!」

 

二人の少女…切歌と調の声がして見ると二人が急いで此方に向かっていた。

 

「…遅かったわね」

「二人共遅刻ですよ」

 

予定の時間より遅れた事に切歌と調に小言を言うナスターシャ教授。

 

「う…」

「…ごめんなさい」

 

二人の謝罪にマリアは溜息をつくと二人を抱きしめた。

 

「心配したんだから」

 

内心、時間になっても来なかった二人の身を心配していたマリアは二人の無事を純粋に喜んだ。

 

「マリア!」

「良かった。マリアの中のフィーネもまだ覚醒してないのね!」

 

三人が喜びあい、その様子を見ていたナスターシャ教授も少しだけ笑みを浮かべる。しかし、

 

「イーッ!」「イーッ!」

 

それに水を差すように戦闘員が三人の周りを取り囲む。

 

「なに!?何のつもり!」

 

二人を守るようにマリアが戦闘員に立ち向かう。切歌と調は戦闘員の姿を見て渋い顔をする。

 

 

 

 

「何のつもりは此方のセリフだ」

 

 

 

 

エアキャリアから誰かが降りて来る。鞭を片手に笑みを浮かべてるが目が笑っていない。

 

「地獄大使」

「ゲッ!」

「地獄大使も一緒に…」

 

マリアが地獄大使の名を呟き切歌と調も嫌なの物見た反応をする。

 

「死神博士から連絡があったぞ。その二匹の小娘は作戦の邪魔をし、あまつさえ特異災害対策機動部二課の装者に協力して怪人の撃破を手伝ったのだからな」

 

「…何ですって!」

 

地獄大使の言葉にマリアは驚き二人の顔を見る。二人が顔を逸らしたりした所為でそれが事実と分かるマリア。

 

「我等、ショッカーに逆らった以上、その二匹は処刑する」

 

そう言い終えると同時に、取り囲んでいた戦闘員がマリアたちに近づく。マリアの顔色が青くなる。

 

このまま、切歌と調はショッカーに処刑されるのか!?

 

 

 

 



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43話 悪魔の博士 その名は死神

 

 

 

「怪我人が何人か出ましたが被害者の殆どが回復しました」

「此方の守秘義務の手続きも概ね完了です」

 

特異災害対策機動部二課本部にて、カメストーンの殺人オーロラ光線の事件の後処理をしていたオペレーターコンビ。

 

「何とか片付いたが、ショッカーが直接学院を狙うか」

「…世界征服を狙ってるんだ。学院の人間なんてあいつ等には関係ないんだ!」

 

事態が治まりホッとする弦十郎だが、クリスは危機感を持ってそう言う。一般人を攫い奴隷にしたり改造人間にしたりするショッカーの事だ、今更学院の一つや二つの人間を虐殺する事なぞ何の躊躇もない。何よりカ・ディンギルの時にも学院を襲っている。

 

「私が気になるのは死神博士の言葉です。『特別な作戦が成功すればショッカーはもう隠れる必要がなくなる』と」

「特別な作戦だと!一体、どんな作戦なんだ」

「どうせ碌な作戦じゃないぜ」

 

翼や弦十郎にクリスがああでもないこうでもないと言い合う。元よりショッカーの作戦など予想も出来ない二課では憶測でしか言えず皆が頭を抱える。そんな中、翼が響の様子に気付く。弦十郎たちの会話に混ざらずただ俯いている姿に翼が声をかける。

 

「どうした、立花。何か考え事でもあるのか?」

「あ…いえ…」

 

翼の声に弦十郎もクリスも響の方を振り向く。三人に見られた響だが一息入れて何か言おうとした。その瞬間、本部に警告音が流れる。

 

「外部からの強制通信です!」

 

『聞こえるかね?特異災害対策機動部二課の諸君』

 

本部のモニターに突如老人の姿が映る。一見老人に見えるがその姿に誰もが息を飲む。

 

「…死神博士」

「あれが…」

 

その人物は間違いなく先程事件を起こしたショッカーの大幹部、死神博士だった。

 

『ふむ、聞こえてるようだな。ならば聞け、今日の○○時に暁切歌と月読調の処刑を行なう』

 

「「「「!?」」」」

 

死神博士の言葉にその場にいた響達以外の本部の人間も息を飲んだ。切歌と調の二人が響達に協力したのは事実だが、こうも早く処刑を決めるとは、

 

『処刑場所ぐらい教えてやる。助けに来るかは貴様ら次第だ』

 

そう言い終えると通信が途切れる。

 

「死神博士より場所が添付されました!此処は!」

「どうした!?」

「…東京番外地、特別指定封鎖区域!」

「!そこは!?」

即ち、カ・ディンギルのあった場所だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

響や翼、クリスが走る。死神博士が指定した時間まであまり猶予がない。カ・ディンギルの跡地は戦いの影響が残っており道が荒い。現在、カ・ディンギルの残骸は解体されようとしていたが、道の整備まではしていなく、運動の得意でないクリスが途中にへばったりしたが、

 

「うわああ!!」

「休んでる暇はないぞ!」

「師匠!?」

「叔父様!?」

 

疲れで動きが遅くなったクリスを担ぐ弦十郎の姿に驚く一行。司令官である弦十郎が本部を離れて良いのかと考えるが、

 

「ショッカーの事だ、どんな罠を仕掛けてるか分からんからな。お前達だけ戦わすのが大人ではない」

 

その一言に納得する翼や響。本部ではオペレーターたちが目を光らせ何かあった場合は直ぐに弦十郎に知らされる。万が一の時は事務次官などに根回しもしている。何をしてくるか分からないショッカーにもし三人で手も足もでなかった場合、弦十郎が命を賭けて戦う気だ。そうこうしてる内に死神博士が処刑場所と言った場所に着く。

 

「待ちかねましたよ」

「やはり着よったな」

 

その場所には二人に人影が居り、その一人が話しかるともう一人も話しかける。響達はこの声の主を知っている。

 

「ウェル博士に死神博士!?」

「その言葉、やはり罠か!」

 

死神博士とウェル博士の姿を確認する。死神博士の手にはソロモンの杖が握られている。

 

Balwisyall nescell gungnir tron

Imyuteus amenohabakiri tron

Killter Ichaival tron

 

三人がそれぞれ聖詠を歌いシンフォギアを纏う。その姿を黙って見ている死神博士とウェル博士。

 

「死神博士、調ちゃんたちを開放して!」

「処刑なんてさせねえぞ!」

 

響とクリスの言葉に死神博士が笑みを浮かべる。

 

「処刑?なんの話だ。あの二匹にはまだ利用価値がある」

 

「如何言う事だ!?」

 

「分からないんですか?全ては君達を誘き出す為の罠ですよ」

 

弦十郎の質問に答えるウェル博士。全ては響達を此処に呼び寄せる為の罠だった。

 

「なら、調ちゃんと切歌ちゃんは!?」

「一体何を企んでいる!FISにショッカー!」

 

「企む?人聞きが悪い。僕達が望むのは人類の救済!」

 

翼の質問に答えるウェル博士はそう言って指を月に刺す。ルナアタックで欠けた月が尚も輝いていた。

 

「人類の救済?」

「嘘だ!ショッカーがそんな事考えるものか!」

 

「そうでもありませんよ、僕達の目的は月の落下にて損なわれる無辜の命を可能な限り救い出す事だ」

 

「「「!?」」」

「月だと!?」

 

ウェル博士の言葉から驚くべき事が言われた。月が落下すると言うのだ。

 

「月の公転軌道は各国で三カ月前から計測中!落下などと結果が出れば黙ってる訳が「装者というのは随分とマヌケだな」…なに!?」

 

翼の言葉を死神博士が馬鹿にする。翼が死神博士を睨みつけるが死神博士はそれを意にも返さず言葉を続ける。

 

「対処法の見つからん極大災厄など為政者なら誰が発表したがる?」

「これを愚民たちが知ればただ混乱するだけですよ。不都合な真実を隠蔽する理由など幾らでもありますからね」

 

「まさか、この事実を知る連中ってのは自分達だけ助かろうとしているのか!?」

 

「フフフ…愚かな人間らしいだろ?知らんのは貴様たちばかりだな」

 

クリスの怒気の混じった言葉に返答する死神博士。おかしくて仕方ないのか不気味な笑みを浮かべている。

 

「対して僕達はある一つの解決法を思い付きました」

 

「解決法だと!一体それは!?」

 

ウェル博士の言葉に翼が質問するが、

 

「貴様らが知る必要はない」

「イーッ!」「イーッ!」

「ついでだ」

 

死神博士が一方的に言い終えると四方八方に戦闘員が現れる。それも強化改造された骨戦闘員が学院の時よりも多く手には刺突剣や槍なども持っていた。更に、死神博士はついでにとソロモンの杖から何体ものノイズを出す。響以外が臨戦態勢を取る中、

 

「…最後の質問、何で学院を襲ったの?私だけを襲えばよかったのに!?」

「え?」

「おい…」

「響くん?」

 

翼たちが響の質問に目を丸くする。響の様子が何かおかしいという事には気付いてはいた。しかし、それを聞き出す暇がなく響はずっと抱え込んでいたのだ。

 

「あなた達が私を狙っているのは知っている。でも他の皆を巻き込むのは…」

 

響はずっと苦悩していた。ゾル大佐を倒してショッカーは機能不全に陥り後はそれぞれの国の警察の仕事だと思っていた。しかし、翼のライブの事件にショッカー首領の言葉、更に二人の大幹部が現れまた自分の命を狙って来たのだ。それ自体は響は構わないと思ている。だが自分の所為で他人が巻き込まれる事を望まない響には我慢が出来なかった。何より皆が楽しみにしていた秋桜祭が最後に滅茶苦茶にされた事も響には許せなかった。

 

「何を言っている?全ては貴様の所為ではないか」

 

「!?」

 

それ故に響の耳に死神博士の言葉がよく響いた。

 

「貴様がショッカーから逃げたのが全ての原因だろ。何を我々に責任を押し付けている?貴様が逃げなければ他の者達は巻き込まれず済んだものを」

 

「私の…私の…所為…」

「おい!?」「立花!?」「しっかりするんだ、響くん!」

 

響の様子がおかしくなっている事に気付いた翼たちが響に呼び掛けるが段々と響の耳に届かなくなり死神博士の言葉だけがハッキリと聞こえだす。

 

「そうだ、全てはお前の所為だ。お前が逃げた事で沢山の人間どもが人生を狂わされ殺されたのだ」

 

「私の…所為…」

━━━やっぱり私の所為なんだ。私がショッカーから逃げたから…

 

「さあ、立花響よ。全ての原因は貴様なのだ、これ以上犠牲を出したくなければ…分かるな?」

 

「はい…」

 

他がぼやけて聞こえる中、死神博士の言葉がハッキリと聞こえる。その声は響の脳裏や心に木霊して何十にも聞こえだす。

 

━━━そうだ、私は生きていちゃいけないんだ。早く死なない「立花!!」と…!?

 

その時、響の耳に翼の声と共に頬に鋭い痛みが走る。そして、目の前に何時の間にか翼が立って右手を翳していた。どうやら響は翼にビンタをされたようだ。

 

「翼…さん…」

「正気に戻れ、立花!敵の言葉に惑わされるな!!」

「そうだぜ。それに、どうせショッカーの事だ!お前が逃げなくてもあいつ等は行動を起こしていた!」

 

翼とクリスの声に響は正気に戻る。気付けば戦闘員もノイズも攻撃を仕掛け、ノイズはクリスが戦闘員は弦十郎が相手をしていた。

 

「何時の間に…」

「立花が死神博士の言葉を聞き出して直ぐだ。私達も戦うぞ」

「はい!」

 

 

 

 

 

「あわよくば同士討ちをさせようとしたが上手くいかんものだ」

 

響が正気に戻って戦闘員やノイズと戦いだす姿を見て呟く死神博士。響が学院が襲われた事に責任を感じている事に気付き得意の催眠術を響に一瞬でかけ自滅させようとしたが仲間の装者に助けられ死神博士の策の一つが失敗した。

戦況は翼とクリスがノイズを次々と倒し、戦闘員の槍を奪った弦十郎が戦闘員の集団を文字通り薙ぎ払い響も戦闘員を倒していく。既に戦闘員もノイズも数は当初の四分の一も残っていない。

 

「前哨戦としてはまあまあと言ったところか。お前達、出て来るが!!」

 

ガァァー、ルルッ!! ギエーッ!! ケケケケケケッ!!

 

死神博士が呼び寄せるとどこからともなく不気味な声が聞こえ、響や翼たちも死神博士の方を向く。そこに三体の怪人がいた。

 

「ユニコルノス!」

「また出てきたか!?」

「後の二体は見たことないぞ」

「あれは俺も初めて見る」

 

一体は昼間、学院を襲撃したユニコルノスだった。響に暗かれた顔の突起も既に治っており回復が終わってる事が分かる。もう一体は頭に二本の角が縦に生え顔の真ん中に赤い口のような物がある怪人で、もう一体は目が赤両生類のような顔をした怪人だ。

 

「サイギャング、ザンジオー。お前達は赤いのと青いの、それから風鳴弦十郎の相手をしてやれ!!」

 

その命令にサイギャングとザンジオーはジャンプし翼とクリス、そして弦十郎の前に降り立ち三人を襲う。

 

「翼さん!クリスちゃん!師匠!」

 

「お前の相手は俺だ!」

 

三人の心配をする響だがユニコルノスが再び響の前に立ち塞がる。

 

 

 

 

 

 

 

「死ねぇ!装者ども!」

 

「化け物め!」

 

ザンジオーの吐く火炎を辛うじて避ける翼とクリス。ザンジオーが放った火炎は地面を焦がしノイズを焼き尽くし岩をも溶かす。

 

「なんて威力だ!」

「まともに喰らえば骨すら残らんか」

 

ザンジオーの放った火炎の威力に冷や汗を流す二人。下手をすればシンフォギアも焼き尽くされてしまう。

 

「どうだ!?これが日本アルプスに住む人食いサンショウウオ、ザンジオー様の実力だ!」

 

「日本アルプス、どんな魔境だよ!?」

 

クリスは素早くアームドギアのガトリング砲でザンジオーを攻撃する。しかし、クリスの放った弾丸は当たらずザンジオーの体が泡状になり移動を開始する。

 

「な!?」

「に!?」

 

これには翼もクリスも驚く。怪人の大多数は常識が通用しないがこのザンジオーもまた奇妙な能力を持っている。

 

「俺の異名を教えてやる!エリート怪人。それが俺だ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「たあああーー!」

 

弦十郎の拳がサイギャングに命中する。並みの怪人なら吹き飛んだりするがサイギャングはビクともせず、逆に弦十郎が殴った手が赤くなりパタパタと振る。殴っただけで手に相当なダメージがきた。

 

「なんて硬さだ!?」

 

「人間にしてはやるようだが俺には敵わんぞ!」

 

サイギャングと弦十郎の激しい攻防が起こる。弦十郎のパンチが何発も入るがサイギャングは退くこともなく逆にサイギャングの蹴りや拳が弦十郎に命中する。その攻撃によろける弦十郎、その口の端から血が流れる。

 

「これで死ねぇ!」

 

口から火炎を吐き弦十郎に止めをさそうとするが咄嗟にジャンプして躱す弦十郎。

 

「お前も火炎を吐くのか?」

 

「そうだ。お前の死体も火葬してやるよ!」

 

そう言い放つとサイギャングが再び弦十郎に火炎を吐く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今度こそ殺してやるぞ!立花響!!」

 

ユニコルノスが響に向け持っている鉄棒で襲い掛かる。ガードして反撃する響いだがユニコルノスの棒術に苦戦を強いられ腹部に重い一撃が入れられる。

 

「よし!…グフッ!?」

 

しかし、響も一方的にやられてはおらずユニコルノス顔面にカウンターの蹴り入れる。これに逆上するユニコルノスは更に攻撃をするが動きが単純化し響の攻撃が次々と入る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やはり、立花響の力が想定以上に高まっている。ユニコルノスも伸びてはいるが…」

 

死神博士が、戦闘員の用意したノートパソコンでそれぞれの怪人並び装者のデータも解析する。ゾル大佐から送られたデータと響の改造データを並べつつ比べてみると響の能力が想定を超えてる事に改めて気付く。

そして、ユニコルノスのデータを見て笑みを浮かべる死神博士。

 

「二課の装者も中々やりますね」

「ユニコルノスめ、不甲斐ないものだ。ウェル、例の物は?」

「何時でもいけますが」

「ならばやれ」

 

死神博士の言葉に頷くウェル博士。その口元は歪んでいた。

 

 

 

 

 

「さて、皆さん!僕が先ほど言った解決策をお話ししましょう!」

 

ウェル博士の声が木霊する。怪人と戦っていた翼もクリスも響に弦十郎も怪人を警戒しつつウェル博士に注目する。

 

「それは…ネフィリム!!」

 

その瞬間、地響きが起き地面から何か飛び出してユニコルノスの背後に着地する。

 

「あれは!?」

 

その姿を見て驚く響。それは紛れもなく廃病院で自分が殴り飛ばした化け物だったからだ。尤も体の大きさは響の伸長を超えており体中に黄色い光がある。

 

「人々を束ね、そしきをあみくにをかけて命を守護する!ネフィリムはその為の力!」

 

新たに現れたネフィリムが獣のような咆哮を上げる。翼もクリスもその気迫に汗を流す。

 

「フッハハハ!お前達はもう終わりだ!お前達のシンフォギアはネフィリムのエサとなるのだ!」

 

ユニコルノスが響に指さしてそう宣言する。その声は実に嬉しそうだった。

 

「エサ!?」

 

「そうだ、お前達ごとシンフォギアをエサにすればネフィリムは更に成長するのだ!」

 

そう言い終えるとユニコルノスは狂った様に笑う。もう直ぐ忌々しい立花響や翼にクリスもネフィリムに食い殺されると思ってるからだ。

 

「そんな事、させると…!?」

 

弦十郎がネフィリムを止めようとするがサイギャングが道を塞ぐ。同時にザンジオーも翼とクリスの足止めをしようとする。

 

「各個撃破するつもりか!?」

 

翼の叫ぶような声に死神博士は笑みを浮かべたままだった。ユニコルノスが笑い続けネフィリムが動き出す。その刹那、何かを引き千切る音が辺りに響いた。

 

「へっ!?」

 

違和感を感じたのはユニコルノスだった。腕が一瞬引っ張られた感覚がして、更にエサ候補だった響やクリスに翼と弦十郎が信じられない物を見たような表情をしている。試しに引っ張られた腕の方を見ると肘の先から無くなっており()()()()()()()()()()()()()()()事に気付いた。

 

「ネ…ネフィリム…貴様!?」

 

自分の腕が食われた。その事実に気付くのにあまり時間はかからなかった。

 

「ユニコルノスよ、貴様は一つ勘違いをしているな」

「勘違い…だと!?」

「ネフィリムのエサは貴様だ!」

 

死神博士の口からとんでもない言葉が飛び出しネフィリムの咆哮が響き渡る。

 

 

 




死神博士は洗脳が得意というので響との会話で一瞬で洗脳して自滅させようとしました。その為に、翼たちにお戦闘員やノイズで襲い掛かりましたが弦十郎とクリスのアシストで翼が響にビンタをして正気に戻しました。

そして、ユニコルノスは二度の響との戦いで死神博士に見切られネフィリムのエサにされた設定です。その為にユニコルンを聖遺物にしました。

明日辺り、シンフォギアの動画であるネタを見てちょっとやってみたくなったので小ネタを投下します。


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44話 ショッカー、血の掟

 

 

「ネフィリムのエサは貴様だ!」

 

死神博士の宣言にネフィリムが咆哮を上げユニコルノスに近づく。その姿はまさに捕食者が獲物を襲うような姿であった。

この状況に響は愚か翼もクリスに弦十郎が驚愕する。それどころかウェル博士ですら初耳だったようだ。

 

「じょ…冗談ですよね。先生…」

「ウェルよ、私が冗談を言うのように見えるか?」

 

その言葉に顔を青くするウェル博士。死神博士は本気でユニコルノスをネフィリムのエサにする気でいる事に気付く。

 

「ふ…ふざけるな!何で俺をエサなんかに!?」

 

流石のユニコルノスもこれには納得がいかず死神博士に問いただそうとする。

 

「理由は単純だ。貴様が立花響に勝てなかった。ショッカー、血の掟を知らん訳ではあるまい!」

 

「ショッカー、血の掟!?」

 

死神博士の言葉に響が反応する。その反応に翼やクリスたちの視線が響に向かう。

 

「な…何だよその掟って」

 

クリスの質問に響はソッと答える。

 

「…ショッカー、血の掟。敗者には、あるのみ」

 

響の言葉にゾッとする翼達。つまり死神博士はユニコルノスを敗者とみてネフィリムに処分させようとしていたのだ。

 

「お…俺は負けて居ない!」

「あのまま戦っても貴様が立花響に勝てたとは思わんな。ならまだ生きてる内にネフィリムに食わせるだけよ」

 

ユニコルノスの言葉にも取り付く島もない返答をする死神博士。元々、死神博士はユニコルノスが響に勝てばよし、負ければネフィリムのエサにするつもりであった。死神博士にとってユニコルノスが必要ならまた再生すればいいだけである。その直後にネフィリムが咆哮を上げユニコルノスに近づく。

 

「な、舐めるな!!」

 

飛沫を出してネフィリムを化石にしようとするユニコルノスだが、その瞬間ユニコルノスの体が硬直し動けなくなる。

 

「何が…」

「あまり抵抗されても面白くないのでな。動きを封じた」

 

死神博士の手にリモコンのような物が握られていた。これでユニコルノスの動きを止めたのだ。そして、ネフィリムが大口を開けユニコルノスの悲鳴が響く。

 

「フフフ、この為にも貴様の体には金属類の類は入れずに改造したのだ。最後位役に立ってもらうぞ」

 

ユニコルノスの悲鳴に関心も無く呟く死神博士。その姿を見て顔を青くするウェル博士。

 

 

 

 

「ギャアアアアアアアアアアアア!痛てぇ!!俺の体を食いちぎってやがる!ザンジオー、サイギャング!頼む助けてくれ!!」

 

ネフィリムに体を食い千切られていくユニコルノスが同じ怪人のザンジオーとサイギャングに助けを求める。尤も、二体の怪人は助けるどころかユニコルノスに目線も向けず口から笑い声を出していた。

 

「助けないのかよ!?」

 

思わずクリスがザンジオーに向かって助けないのかと聞く。しかし、ザンジオーは馬鹿にしたように

 

「助ける?ショッカーは選ばれた民。助けを乞う者など必要としない」

「そうだ、ショッカーに役立たずは必要ではない」

 

と言い放ち、サイギャングもそれに続いた。ザンジオーもサイギャングもユニコルノスを助ける気など毛頭ない。

 

「痛てぇ…痛てぇよ…ならシンフォギア装者に特異災害!頼む助けてくれ!もう悪い事はしない、何だったら俺の知っているアジトの場所も吐く!だから…死にたくねえよ…」

 

「!?」

 

「させるか!」

 

最早、同じ怪人にも頼れないと感じたユニコルノスが最早なりふり構わず響や翼にクリス、弦十郎に助けを求めた。翼とクリスがが固まる中、弦十郎が動こうとするがサイギャングが行く手を阻む為火炎を吐いた。これでは弦十郎でも助けるのは不可能だ。

そして、響もどうしていいか分からず動けないでいる。ショッカーの事だ、お芝居で自分達を騙している可能性があると考えたからだ。既にユニコルノスの手足は食われネフィリムは腹部に歯を突き立てる。ユニコルノスの一つ目に絶望が宿る。

 

「嫌だ…こんな最後は嫌だ…。これなら…まだお前らに…負けた方がマシ…だ…」

 

徐々にユニコルノスの声が弱まり遂に遂に息絶える。と同時にユニコルノスの体を完全に食い尽くしたネフィリムが再び咆哮を上げ響や翼の方を見る。

 

 

 

 

 

 

「あのイカレ爺、正気ですか!?道を踏み外してるにしても限度があるデス!!」

 

その頃、戦いの場から少し外れた場所に止まってるエアキャリアのモニターでマリア達が戦いを見守っていたが死神博士の外道過ぎる行為に切歌が叫ぶように言い手で壁を叩く。

手を組んでるとはいえショッカーは切歌にとっても敵でユニコルノスと親しい訳でもない。それでも、部下である怪人にあんな仕打ちをする死神博士に怒るのは当然とも言えた。

 

「ネフィリムに聖遺物を与えるって…そういう事?」

 

「フフフ…死神博士め、中々合理的な考えだ」

 

それぞれがユニコルノスに同情的な表情をする中、一人の人物が死神博士の手腕を褒める。

 

「楽しそうですね、地獄大使」

 

それは、マリア達の護衛という監視で残っていた地獄大使だ。ナスターシャ教授の言葉にそれぞれの目が地獄大使へと向く。

 

「あなた達は自分の味方を容赦なく見捨てるの?」

 

「それがどうした?ショッカーに役立たずは必要ない」

 

思わずマリアがそう口にするが地獄大使はにべも無くそう言い放つ。それに少なからずショックを受けるマリアは立ち眩みを起こす。

 

「「マリア!」」

 

切歌と調が直ぐにマリアの傍に言って体を支える。今マリアは重度の貧血であった。その原因はマリアの体を支えている切歌と調である。

 

 

 

 

事は響達がカ・ディンギル跡地に来る一時間前、地獄大使の二人の処刑を聞いたマリアが地獄大使に土下座をしたのだ。

 

『お願いです、二人の処刑を止めて下さい!』

 

『ほう、貴様にも劣る適合値の二匹を庇うのか?』

 

地獄大使が土下座するマリアの前に歩く。手には愛用の鞭を弄る。土下座をするマリアに全く関心のない地獄大使。

 

『この二人は私の家族でもあるんです。もう、私は家族を失いたく無いんです!!』

『…マリア』

『デス…』

 

『家族への愛情か、くだらんな』

 

マリアの言葉に嬉しく思う切歌と調だが、地獄大使は馬鹿にするように言う。調や切歌が悔しそうに地獄大使を睨みつける。

 

『なら、お前がその二匹を助けるために何が出来る?』

 

『なんでも!』

 

マリアの決心は固かった。それこそ、この場で裸になれと言われれば脱ぎ、踊れと言われれば踊る程に。そして、それを聞いた地獄大使の顔は邪悪な笑みが浮かぶ。

 

『ならば貴様の血をショッカーに献上しろ』

 

地獄大使の言葉にマリアが頷く。そして戦闘員の一体がマリアを何処かへ連れて行く。

 

 

 

 

 

こうして、マリアはショッカーに血を大量に抜かれたのだ。

 

「マリア、無茶しちゃ駄目!」

 

調の言葉にゆっくり頷くマリア。

 

「マリア、少し休みなさい」

 

マリアの体調を見かねたナスターシャ教授が休むよう言う。しかし、マリアは首を横に振る。

 

「…私達は此処で見てる様言われてる。そうでしょ?」

 

マリアが地獄大使に向かって聞く。実質、此処で待機するよう命じたのは地獄大使だからだ。

 

「その通りだ、やっと自分達の立場が分かったようだな」

 

マリアの言葉に満足気に答える地獄大使。その場に居るマリア達に睨みつけられるが気にもしない。

 

「人の命を弄んで…」

「私達、正しい事をするんデスよね」

「間違ってないのなら…どうしてこんな気持ちに…」

「あなた達…」

 

マリアや切歌に調が口々に弱音を吐く。何よりマリアにとって会場での無意味な虐殺が後を引いていた。そんな三人にナスターシャ教授が何か言おうとするが言葉が出てこない。

 

「くだらん事で悩みおって、正しい事にしたいのなら勝つのだな。歴史は勝者が作る者だ、それが愚かな人間どもの築いた歴史よ!」

 

地獄大使がそう言い放つと高笑いを上げる。誰もが地獄大使に軽蔑の眼差しを送る中、マリアはモニターを見てあることに気付く。

 

━━━あれ?あの怪人どこかで…

 

懐に大事そうにしまってあったギアのペンダントを触りそう考えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ユニコルノスを喰らい尽くしたネフィリムに異変が起こる。体に取り巻いていた光りが赤く輝き出したのだ。

 

「か、完全聖遺物ネフィリムは言わば自立稼働する増殖炉!他のエネルギー体を暴食し取り込むことで更なる出力を可能とする!」

「どうやら始まるようだな」

 

ウェル博士がネフィリムの説明し死神博士が閉める。その直後にネフィリムの体が膨張し体から赤い光が飛び出す。

 

「聞こえるぞ、覚醒の鼓動が!この力がフロンティアを動かすんだ!」

 

ウェル博士が言い終えると共に成長したネフィリムが雄叫びを上げる。その姿に翼もクリスも弦十郎も冷や汗を流す。そんな中、

 

「…それだけの為に自分の部下を食べさせたの?」

 

響が死神博士に質問するように言う。その声に翼たちの視線は響に向かい無理矢理テンションを上げていたウェル博士も響に視線を向ける。

 

「それがどうかしたか?」

 

死神博士の返答は簡素な物だった。その言葉は響には到底、許せる物ではなかった。

 

「どうして!?…どうしてそんな酷い事が…」

 

響の目から涙が一筋流れる。響は今までショッカーの怪人や戦闘員を倒してきた。そして、ユニコルノスはも敵でショッカーの企みを打破する為に戦った。学院の時と今回で二度も…しかし、最後は味方だと思っていた死神博士に裏切られネフィリムのエサにされたのは響としても同情してしまう。

 

「立花…」

「あいつ…」

 

響の心情に気付く翼たちが響の名を呟く。弦十郎も察してしるが我関せずの二体の怪人。黙って眼鏡を触るウェル博士。

響は良くも悪くも優しく正義感が強い。出来る事ならショッカーの怪人とだって戦いたくない甘ちゃんである。それでも世界征服の野望を持つショッカーは倒さねばならない敵だ。

 

「下らん事を言いおって、立花響。貴様は思い違いをしているぞ」

 

「思い…違い…」

 

「ユニコルノスは対貴様を想定して作った物だ。それが貴様を倒せない時点で奴は役に立たん。既にお払い箱となった。だから、最後にネフィリムのエサとしての役割を与えたのだ。役立たずを使えるようにした所謂、リサイクルというやつだ」

 

「役立たず…」

 

「全く、おかしい事を言う。元はと言えば、ユニコルノスも貴様も私が作り上げた改造人間。それを貴様は口を開けば正義だの、愛だの、平和だの、小賢しい事をほざきおって。『ショッカー』が作った物は『ショッカー』の為に尽くせばいいものを!」

 

「あの爺…!」

「なんて奴だ!」

 

死神博士のあまりの自分勝手ぶりに怒りが燃えるクリスと弦十郎。しかし、翼は死神博士の言葉に引っ掛かりがあった。

 

()()()()()()()()()()

 

 

「あなたが私を改造した…」

 

そして、それは響も聞き逃しが出来なかった。響は震える声で死神博士に聞く。

 

「そうだとも。私がお前を改造した死神博士だ。私の異名を教えてやろう、『怪人作りの名人』だ」

 

その言葉を聞いて響の体が震えだし息が荒くなる。弦十郎や翼が響の傍に居たら気付いたかも知れない。その目に怒りが宿っていた事を。

 

━━━この人の…この男の所為で私は…私は!!

 

「さて、折角だ。成長したネフィリムには更に貴様らの聖遺物を…」

「せ、先生!立花響の様子が!」

 

話は終えたと判断した死神博士がこの際、邪魔者の響たちをネフィリムに食べさせようかと考えて居たが傍に居たウェルが大声で死神博士に呼び掛ける。

ウェル博士の声に死神博士が改めて響に視線を戻すと響の胸の部分が山吹色の輝きが溢れ出し黒い影のような物が響の体を包み込む。

 

「ほう」

「一体、あれは!?」

 

「そんな…まさか…」

「何だよ、ありゃ…」

「暴走だと!?」

 

響の様子に死神博士は笑みを浮かべウェル博士は汗を流して茫然とし、翼とクリスは顔を青くし弦十郎が「暴走」と口にする。

 

「怒りでガングニールの制御を外したか!?丁度いい、その状態での貴様の性能も見ておきたかったところだ!!」

「イーッ!」

        「イーッ!」

                   「イーッ!」

 

直後に四方八方から再び戦闘員が現れ、更に死神博士はソロモンの杖からノイズを出す。

 

「まだこんなに居やがったのか!?」

 

その数に驚くクリス。声には出さなかったが翼と弦十郎も内心驚いている。

 

「かかれぇ!!」

 

死神博士の声に戦闘員やノイズが一斉に響へと襲い掛かる。黒く暴走した四つん這いで獣のように吠え一体の戦闘員に飛び掛かり腕を振るう。次の瞬間には戦闘員の上半身が消えていた。

それからの戦いは凄惨であった。戦闘員やノイズを次々と蹴散らしているが、戦闘員の体を引き千切ったりノイズを切り裂いたり戦闘員の頭を握り潰すなど普段の響では絶対やらないような戦い方だった。

 

「立花!?」

「酷ぇ戦いだ…」

 

その戦い方に思わず声を出す翼に響に軽く引くクリス。その声に響が翼たちの方を見るが直に戦闘員やノイズに突進する。

 

「ふむ、どうやら敵味方の区別ぐらいは出来るようになったか?パワーもスピードもゾル大佐が報告した以上に上回っている。流石は私の最高傑作だ」

「そんな事言ってる場合ですか!?先生」

 

響の残虐ファイトを間近で見ていたウェル博士が慌てた様子で言う。このままでは戦闘員もノイズも全滅して響の矛先がこちらに向くと思ったからだ。

 

「慌てるでない、しかし戦闘員やノイズだけのデータではあまり意味がないか。ザンジオー、サイギャング、お前達も加われ!何なら立花響を殺してもいいぞ!!」

 

死神博士の言葉に翼や弦十郎の相手をしていたザンジオーとサイギャングが響の方に視線を向ける。

 

 

 

 




ショッカー、血の掟。

PS版のゲームのショッカーストーリーではスキップしない限り何度も聞くフレーズです。

そして、初めて響が自分を改造人間にしたのが死神博士と知りました。

響の片腕が食われなかった代わりにユニコルノスが目の前で食われ自分を改造した元凶が現れたことで響は暴走しました。


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45話 奇跡と限界

 

 

 

「ギエーーーーッ!!」「ケケケケケケッ!!」

 

死神博士の命令を受けたザンジオーとサイギャングは直ぐに翼や弦十郎の牽制を止め、響に飛び掛かる。戦闘員の相手をしていた響も直ぐに気付き、相手をしていた戦闘員を掴みサイギャングへと投げる。

 

「こんなものが!」

 

投げられた戦闘員を殴り飛ばしてサイギャングは口から火炎を吐く。戦闘員やノイズ諸共響が炎に呑まれるが、ジャンプしてサイギャングの火炎から脱出する。

 

「■■■■■■■■■■■■■■■■■■!!!」

 

獣のような咆哮を上げた響がそのままサイギャングへと飛び掛かり拳を振るう。

 

「ぬっ!?」

 

弦十郎の時とは違い、響の拳の勢いに後ずさるサイギャング。更に響が追撃しようとするが横からの火炎がそれを阻む。

 

「俺が居る事を忘れるな!!」

 

ザンジオーの言葉に響が唸り声を出す。暴走する響は二体の怪人との激しい戦闘に入る。

 

 

 

 

 

「お…おい、アタシ等もアイツに加勢した方がいいんじゃないか?」

 

響の戦いぶりを見てクリスが翼に援護した方がいいんじゃいかと言うが翼は黙って響の戦いを見ていた。

 

「…止めた方がいいかも知れん」

 

そして、クリスの言葉に返答したのは弦十郎だった。怪人のマークが外れ合流したのだ。

 

「いいのかよ?」

「俺達が加勢して暴走した響くんが攻撃を躊躇う可能性がある。そうなったら怪人の思う壺だ」

 

加勢しに行って万が一人質にされたら果たして響は怪人達を攻撃出来るのか?仮に出来たとして正気に戻った響が気に病むのではないのか?そう考えると弦十郎としてもおいそれと救援には行けなかった。

目の前では、響の蹴りがザンジオーに命中して地面に倒すがサイギャングが再び火炎を吐き響を牽制する。

 

「アタシ達は見てる事しか出来ないのかよ…」

 

クリスが悔しそうに呟く。言葉に出さないが翼も弦十郎も響を見守る。

 

 

 

 

 

 

 

 

「■■■■■■■■■ッ!!」

 

響が四つん這いになり唸り声を出す。

 

「まるで獣だな!いい加減死ねぇ!!」

 

獣のような唸り声を出す響にサイギャングが三度火炎を吐き出し響を飲み込む。今度こそ響を倒したと思ったサイギャングだが、

 

「■■■■■■■■■!」

 

上から響の唸り声が聞こえ上を向くサイギャングとザンジオー。其処には何時の間にかサイギャングの火炎を避けた響が右腕を槍のような形状にしていた。

 

「何だと!?」

 

アームドギアの出したのではなく右腕を槍の様に変形させた事に驚くサイギャング。それが隙となり右腕を槍にした響が一気にサイギャングへと突っ込む。

 

「しまッ!?ギャアアアアアアアアアアア!!」

 

避けるのが間に合わず響の突撃を受けたサイギャングは断末魔を上げ、直後に爆発が起こる。

 

「まさか、サイギャングが!?」

 

相方であったサイギャングが敗れた事に驚くザンジオーだが、爆煙の中から飛び出す響はザンジオーに飛び掛かる。

 

「ええい、舐めるなぁーッ!!」

 

響の突撃を泡となって回避するザンジオー。響の攻撃を空ぶらせ背後に回り込もうとするが、

 

「なに!?」

 

背後に回ったと思っていたザンジオーが見たのは自分を見て唸り声を出し拳を振り上げてる響だった。そして、響は振り上げた拳でザンジオーを突き立てる。拳はザンジオーの胸を貫く。

断末魔を上げる事も出来ずザンジオーは爆散し響は無傷で唸り声を上げていた。

 

 

 

 

 

「怪人を!?」

「ふむ…パワーもスピードも能力も生かし切れている。素晴らしいデータだ」

 

サイギャングとザンジオーが敗れた事に驚くウェル博士にノートパソコンで響のデータを入手しご満悦な死神博士。

二体の怪人を倒した響が次に睨みつけたのがネフィリムだった。これにはネフィリムも響に向け咆哮をあげる。

 

「ま、まさか!?」

「次の標的はネフィリムか。面白い戦えネフィリム!」

 

ネフィリムの咆哮に響は一際大きな唸り声を上げると一気にネフィリムの下に迫り胴体や顎に一撃ずついれネフィリムが大きく仰け反る。

 

「や、止めろ!止めるんだ!!成長したネフィリムはこれからの時代に必要なんだぞ!!それを!!」

 

ウェル博士が叫ぶように言うが響はネフィリムを殴り続ける。ネフィリムも反撃するが吹き飛ばされても響は直ぐに態勢を立て直しネフィリムを攻撃する。目に見えて響が押している。

 

「どうした!ウェル、ネフィリムがてんで役に立たんではないか!どういう事だ!」

「だから、ネフィリムは自立稼働するエネルギー炉って言ったでしょ!戦闘を想定させてませんよ!!」

「!何が堕ちた巨人だ!名前負けもいいところではないか!!」

 

響との戦闘で役に立たない姿を見た死神博士がガッカリしたように言う。遂には響から逃げ出そうとするネフィリムの姿により呆れる。そして遂に響がネフィリムの体に手を突っ込んで赤く点滅する石の様な物を掴みだしてその辺に捨てる。

 

「ああ!ネフィリムがああああ!!」

 

一方的にやられるネフィリムの姿にウェル博士が絶叫する。そんな、ウェル博士を他所に死神博士が響のデータをを見ていく。ネフィリムが期待外れだったので響の身体データをなるべく取りたかったのだ。

 

「ん?…ふん、成程」

 

そんなデータを見ていた死神博士がそう呟き響の方を見る。その目にはどこか憐れんでいた。

次の瞬間、響は再び腕を槍の様に変形させジャンプしてネフィリムに突き立てる。赤い光と共に衝撃波が走り辺りが爆発する。

 

 

 

その揺れは離れていたエアキャリアに乗っていたマリア達にも伝わる。

 

「…マム、あれって…」

「聖遺物…シンフォギアは心のあり様で幾らでも強さが変わると言います。恐らく死神博士の言葉で立花響の心が大いに傷ついたことで胸の聖遺物の制御不全を起こしたのでしょう。いずれにしても…ゴホッ!ゴホッ!」

 

響に何が起きたのか解説していたナスターシャ教授が突然咳き込む。口を塞いだ手には血がべっとりと付いていた。

 

「マム!」

「…こんな時に…」

 

「…仕方ない、治療位はしてやる。まだ貴様に死なれては困るからな」

 

そんな様子を見ていた地獄大使は溜息をつきつつ白い戦闘員の恰好をしたショッカー科学陣を呼び出しナスターシャ教授の治療をやらせる。マリア達はそれを黙って見守る事しか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

「お、終わった…のか?」

「たぶん」

 

怪人も倒れネフィリムも倒した響。しかし、響の呼吸は荒く黒いままだった。その様子を見て心配になる翼とクリス。

 

「ヒイイイイイイイイイーーーー!!」

「落ち着かんか」

 

自慢のネフィリムが一方的に倒された事にウェル博士が怯える声を出し死神博士が窘める。それでも響がこっちに歩んできた事でウェル博士のパニックは収まらない。

 

「あばばばばばばばばばッこっちに来た!?」

「落ち着けと言うとろうが!あれはもう限界だ」

 

死神博士がそう言い終えると共にこっちに近づいていた響が膝から崩れる。息は更に荒くなるが這ってでもこっちに来ようとしていた。

 

「立花!もう止めろ!」

「お前、黒いの似合わないんだよ!」

 

様子を見ていた翼とクリスが駆け寄り響を止めようとするが響の藻掻きに中々押さえられずにいる。ウェル博士や死神博士を捕まえようとしていた弦十郎もこれに加わる。

 

「響くん、しっかりするんだ!響くん!」

 

三人の呼びかけにやっと落ち着きだした響は直後に強烈な光を出す。その光りに翼もクリスも思わず目を瞑るが、光りが治まると制服姿に戻った響が意識も無しに倒れかけ翼とクリスが支える。

 

「よかった、元戻った」

 

響が戻った事に安心するクリスだったが、

 

「元に戻っただと?おめでたい頭だ」

 

死神博士の言葉にクリスと翼は目つきを鋭くし響を庇うように弦十郎が前に出る。しかし、そんな姿にも関わらず死神博士は言葉を続ける。

 

「聞くがいい、特異災害対策機動部二課どもよ。その娘、立花響にシンフォギアを纏いさせ続ければ近日中に死ぬぞ!」

 

「「「!?」」」

 

死神博士の言葉に驚愕する三人。嘘だと言えればどれだけ楽だろうか。

 

「う…嘘だ!」

 

翼が辛うじてそう言い放つがどこか不安気だった。ショッカーのいう事だただのハッタリの可能性がある。しかし、立花響を改造人間にした張本人だ。何か理由を知ってるのかも知れない。

 

「フフフ、信じる信じないは貴様らの勝手だ。なんだったら貴様らのコンピューターで調べてみるがいい。尤も貴様らの貧弱なコンピューターで分かればの話だがな。フッハハハハ…フッハハハハ!!」

 

最後に死神博士は笑い声を上げウェル博士と共に姿が消えた。弦十郎が慌てて動くが二人の姿はもう無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

元に戻った響は意識が無く、本部に戻った後にストレッチャーで医務室へと運び込まれる。尤も機動二課で改造人間の響を治療できる者はおらず簡単な検査しか出来ない。

 

 

 

 

あれ?此処は…ああ夢か、久しぶりに見るな。あの後戦いはどうなったんだろ?翼さんやクリスちゃん無事だといいけど

 

『よく生きてられるわね』

『政府からお金貰ったんでしょ?』

『ああいうの税金ドロボーって言うんでしょ』

 

懐かしいな、ツヴァイウイングの惨劇で生き残った私に待っていたのはクラスメイトの罵倒と近所の人の白い目だったな。家には『人殺し』や『ドロボー』の張り紙が貼られて面白半分で窓を石で割られて人殺しなんて罵られてお婆ちゃんやお母さんに慰めて貰ったな

 

『大丈夫、お母さんやお婆ちゃんは響が生きていてくれて嬉しいから』

 

丁度、その時にお父さんが失踪して家族は私とお母さんとお婆ちゃんだけだったな。そう言えばあの時にお父さんは逃げたと思ったんだっけ

この時、私ってこれ以上の不幸は無いって思ってたな。頑張ってリハビリして元気になれば、みんな喜んでくれるって思ってたのに…

 

『傘が無い…濡れて帰るしかないか』

 

!これってあの時の!?駄目、一人で帰っちゃ駄目!

 

『私もついてないな、でもこんなのへいき、へっちゃら!」

 

あいつ等は私が孤立して一人になるのを待っていた!だから一人は駄目!!

 

『誰か居るんですか!?』

 

これ以上の不幸は無いって思っていた。でもそうじゃ無かった!世界征服を狙う秘密結社が私を拉致する機会を狙っていた!だから…早く…

 

『蜘蛛の…オバケ…』

『ウオオオォォォォォ!』

 

逃げてぇ!!

 

 

 

 

そこで、響は目を覚ました。そこは何時か見た本部の医務室の天井で横を見れば未来が書いたらしいメッセージカードがあり内容は『早く元気になってね』と書かれていた。

 

「私…なにしてるんだろ…」

 

響はソッと視線を天井に向けて呟く。ショッカーを倒すと決めたのに死神博士が自分を改造人間にした張本人と聞いて頭に血が昇り力を暴走させ翼やクリス、弦十郎に迷惑をかけた。それを考えると響には後悔しかなかった。上手くすればウェル博士も死神博士も捕まえる事が出来たのでは?

 

「強く…なりたいな…」

 

響はただベッドの上で呟く。

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、リディアン音楽院にて響は翼とクリスの前に立ち頭を下げていた。

 

「ご迷惑おかけしてすいませんでした」

「お…おう…」

「…」

 

響の謝罪を受けて複雑そうな二人。

 

「お…思ったより元気そうだな」

「体調は万全なのか?」

「はい」

 

二人の質問に答える響。その目は泳いでる事が答えだった。翼は響の頬を触りクリスは響の頭や目を開かせる。

 

「ちょ、二人共!?」

 

突然の行動に驚く響。それでも翼やクリスの表情は真面目だった。

 

 

 

 

 

 

二人が突然このような行動をしたのには理由があった。それは響が医務室へと運ばれ弦十郎が各省庁との連絡を終え、翼やクリスが本部の指令室に来た時だった。

 

「何も分かんねえってどういう事だよ!?」

 

クリスの怒鳴り声が本部に響く。その原因は弦十郎の言葉だった。

 

「どんなに怒鳴ろうと結果は同じだ。我々の機器では響くんの検査ぐらいしか出来ない」

 

去り際の死神博士の言葉に不安視したクリスが結果はどうかと聞いたが本部の機器で響の体を調べる事が出来ずにいたのだ。

 

「だからって…」

「…何も分からなかったんですか?」

 

翼の言葉にも弦十郎は目を閉じて頷くしかない。その直後に本部のモニターに何か映し出される。それはまるでロボットの内部にも見える。

 

「何だよ…これ…」

「…響くんだ」

「!これがかよ!?」

 

クリスが驚愕の声を出す。響が改造人間だとはクリスも知っていはいたし体の中に機械も見た事もある。しかし、ここまで機械を取り付けられて改造されいたとは思ってもいなかった。

翼もこれには頷く。事前に知っていなければクリスと同じ反応をしたかも知れない。

 

「我々の技術も進歩はしている。それでも未だにショッカーに後れを取っているのが現状なんだ」

 

弦十郎が悔しそうに言う。子供の響を救う事すら出来ない自分を情けないと思っている。ガングニールの刺さった心臓の様子すら分からないのだ。

 

「死神博士がハッタリを言った可能性は?」

「…無いとは言い切れん。だがあの場で言う理由が分からん。だが、もし死神博士の言葉が正しかったら響くんの命は…」

「!立花が…死ぬ!?」

「あいつが…何でだよ!?」

 

死神博士の言葉が嘘か真実かは弦十郎達には分からない。それでも万が一真実だった場合、自分達はどうすればいいのか?響抜きでショッカーと戦えるのか?

 

「何より響くんは聖遺物との融合体でもある。心臓のガングニールがどこまで影響してるのか想像も出来ん!」

「「…」」

 

弦十郎の言葉に声も出ない翼とクリス。そして、弦十郎は言葉を続ける。

 

「念の為、響くんを戦闘にはもう出さん。しかし、FISやショッカーが月の落下を本当に阻止するのかは疑問だ。何よりショッカーにとって人類が混乱するのは持ってこいだろう。果たして響くん無しで何処まで戦えるのか?」

 

拳を握りしめて悔しそうに言う弦十郎。現在の二課の戦力は響を欠けば翼とクリス、弦十郎と緒川しか居ない。戦力が一人減りショッカーは未だにどの位、怪人が居るのか不明。何より倒しても再生怪人といて蘇り戦力が増え圧倒的に二課が不利であった。それでも響を戦わせないと言う弦十郎に翼もクリスも頷く。

 

「例え、それでも立花をこれ以上戦わせる訳にはいきません。降りかかる怪人達は全て防人が払ってみせます!」

「アタシが居るのも忘れるなよ!」

 

翼の決心にクリスも賛同する。二人の胸にはこれ以上響を戦わせたくないという思いだった。

 

 

 

 

 

 

「二人共今日はおかしいですよ!一体何があったんですか!?」

 

二人が響を触り続ける事で様子がおかしい事に気付いた響がそう言って二人と距離を取る。クリスが言い辛そうにしていたが、翼は一旦目を瞑った後に見開き口を開ける。

 

「立花、お前には今後戦うのを禁ずる」

「…!?」

 

突然の翼の宣言に響は驚く。クリスの方を見ると顔を伏せて響と視線が合わない。その姿から翼の独断ではないと知る。

 

「…師匠から何か言われたんですか?」

「…手強い相手を前にして一々暴走してる半人前を戦力に数えるなと言われたんだ」

「本当なんですか?」

「そうだ。だからもう戦場には立つな、そして二度と…ギアを纏うな」

 

そう言って翼は響の肩を押そうとしたが、途中で止まり最後には響の肩に優しく振れた。

 

「クリスちゃんも同じ?」

「…何でアタシに聞くんだよ!?」

「だって、クリスちゃん私と目を合わせてくれないもん」

 

その言葉にクリスはカッと目を見開いて響の方を見る。

 

「アタシは!…アタシ等は…お前に死んでほしくないんだよ!!分かれよ馬鹿!!」

 

そう言って響の両肩を触って訴えるクリス。その目には涙が溢れ響も何があったのか察した。

 

「…翼さん駄目ですよ、クリスちゃん顔に出やすいからこういうのには不向きなんですから」

 

響の言葉に翼は静かに頷きクリスも響の肩を触ったまま涙を流す。そして、響の目にも涙が出てきた。

響は暫くの間、二課に行く事を禁じられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、カ・ディンギル跡地では姿を消した筈の死神博士とウェル博士が居り周辺では戦闘員が何かを捜索していた。

 

「いいですか!?何としてでも見つけなさい!この辺りに転がったのは確かなんですから!」

 

ウェル博士の檄が飛ぶ。それ程、探し物が重要な物のようだ。

 

「ウェルよ、本当にあんなものが必要か?」

 

死神博士が疑問の混じった声でそう聞く。ウェル博士とは対照的に探し物にそこまでの価値を見出してはいなかった。

 

「必要です!僕らにはアレが!」

 

ウェル博士の剣幕に疑問が消えない死神博士だがそこまで言った以上利用価値はあるのだろうと判断する。

っとその時、

 

「イーッ!発見しました!」

 

一人の戦闘員の報告にウェル博士は坂を転げ落ちて確認に行く。其処には赤く鼓動する物体を握っていた。そしてそれを渡されたウェルはご満悦だった。

 

「やったぞ、これが…()()()()()()()()があればまだ取返しがつく。…やったー!!

 

ウェル博士のはしゃぎっぷりに周りの戦闘員はドン引きし、死神博士も苦笑いをする。兎に角、ネフィリムがショッカーに渡ってしまった事は事実であった。

 

 

 

 




原作との相違点はクリスも響の様子に気付いた事ですね。
尤も、改造人間にされた事で響の現状は二課には半信半疑ですけど。
そして、原作では翼だけでしたがクリスも加わって響を説得しました。

JASRACの数日間のメンテが近い。それが気がかり。


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46話 私が私である内に

 

 

 

 

りんごは浮かんだお空に… りんごは落っこちた地べたに…

 

マリアが一人、歌を口ずさむ。まだ幼い頃、祖母に歌って貰った思い出の歌だ。もうその歌はマリアしか歌わない。

 

星が生まれて歌が生まれて ルルアメルは笑った 常しえと

 

「…歌ですか」

 

一人、歌っていたマリアは突然の声にベッドの方を見る。ショッカー科学陣の処置で目を覚ましたナスターシャ教授が声をかけたのだ。

 

「マム!?」

 

意識の戻ったナスターシャ教授に駆け寄るマリア。尚、ショッカー科学陣は処置を終えた後にさっさと部屋を後にしていた。

 

「体は大丈夫なの?マム!」

「ええ何とか、…優しい子ね、マリア」

「え?」

 

目を覚ましたマムのいきなりの発言に固まるマリア。その姿を見て少しだけ笑みを浮かべるナスターシャ教授。

 

━━━本当に優しい子。マリアだけじゃない調も切歌も…私は…私達は優しい子達に十字架を背負ませようとしている。…私達は間違っているのかも知れませんね。ドクターウェル

 

「調と切歌たちは?」

「あの二人ならドクターを迎えに行かされたわ」

「行かされた?…成程、地獄大使の命令ですか」

 

その言葉に頷くマリア。ナスターシャ教授が目覚める少し前に地獄大使が調と切歌に死神博士の迎えに行けと言われ渋々従った。

それを聞いたナスターシャ教授は備え付けの通信機で二人に連絡する。

通信機が繋がるとナスターシャ教授はすかさず「私です」と言う。

 

『も…もしかしてマムデスか!?』

『具合はもういいの?』

 

顔も見えず声だけだが切歌の驚きようが分かる。逆に調は何時も通りの反応のようだ。

 

「ええ、体はなんとか。ショッカーに助けられたのは皮肉ですけど」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「良かった」

「うん。で…でねマム、私達が外に居る理由デスけど…」

『分かっています。地獄大使の命令ですね?』

「はい…」

 

荒れた歩道を歩き周囲の店はボロボロの商店街を歩いていた二人は一旦立ち止まりナスターシャ教授と話をする。

 

「取り合えず死神博士と一緒に居るドクターも探してるけど連絡が取れなくて…」

『分かりました。兎に角ドクターたちと合流次第連絡を、ランデブーポイントは後で送ります』

「了解デス!」

 

切歌の返事で通信が終わると同時に溜息をつく。

 

「マム、元気そうで良かったデス」

「うん…本当に良かった。じゃあ急いでドクターたちを見つけよう」

 

調の言葉に切歌が頷くが直後に切歌の腹から空腹音が聞こえ顔を赤くする。この辺で何か食べるかと言う話になったが急いでウェル博士たちを探すと決め二人は商店街を駆けていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

丁度、リディアン音楽院と商店街との狭間の階段付近で数人の人影が居た。

 

「うら若き乙女が食べ過ぎじゃない?」

「でも、ふらわーは美味しいから」

 

その人影は立花響を始めとした小日向未来に何時もの友人の三人だった。響が暇になったと聞いてお好み焼き屋のふらわーで女子会をやる事になった。

 

「立花さんも本当に大丈夫ですか?」

 

詩織が響に気を遣ってそう聞く。一応三人も響が物を食べられない事は知ってるからだ。

 

「うん、皆が食べてる姿を見るのも好きだし」

「そう言ってくれると嬉しいですけど」

 

そう言って笑顔を見せる響と談笑する詩織。尤も未来にはその笑顔が無理してるように見えた。

 

━━━翼さんやクリスと喧嘩でもしたのかな?

 

事情のよく分からない未来はどうすれば響が笑顔になってくれるか考える。創世や詩織に弓美も響の元気の無さに気付いてふらわーに誘ったのだ。

 

「ねえ、響。暫くはお仕事ないんでしょ?」

「え?…うん」

「じゃあ今度〇曜日にスカイタワーに遊びに行こうよ」

 

未来が考えた作戦、それは一緒に遊びに行く事だった。未来の誘いにキョトンとする響。

 

「一緒に?」

「うん、前から行きたかったんだ」

「じゃあ、皆も一緒に…」

 

未来の誘いに皆で行こうかと言い掛けた響だったが、

 

「ごめん、その日予定がある」

「その日アニメの劇場版がテレビで初登場するから実況版で盛り上がる予定で…ごめんね」

「その日、両親と一緒に過ごす予定で」

 

未来の誘いに響は創世たちを誘うが三人ともに断られた。弓美の理由だけ生々しいのは気のせいか?三人の返答に困惑する響は未来を見て頷くしかなかった。

響に気付かれないよう三人が未来にアピールして未来は笑顔のまま顔を引き攣らせる。こうして遊びに行く事がきまった響たちは階段おりきって道路近くまで出た途端、三台の黒い車がスピードを出して突っ切っていく。響の目には乗っているのは二課の職員の黒服たちが捉えられた。

 

「何、この車!?」

「随分スピードを出してますけど…」

 

幾ら他に車が居ないとはいえ普通のスピードではない。その車が曲がって見えなくなる。その瞬間爆発音と煙が発生する。

 

「!?」

「響!」

 

只事じゃなしと判断した響は爆発した現場に行く。未来も三人組も一緒に付いて行く。

 

 

 

 

 

そして、其処で見た物は破壊された三台の車に灰となった黒服たち。

 

「愚か者ものどもが、我等を本気で止めたくば装者を連れてくればよいものを」

 

ソロモンの杖を持った死神博士に無数のノイズ。

 

「あの先生、出来ればもう移動した方が…」

 

何かを布で包んで大事そうに持ってるウェル博士に何人かの戦闘員が居た。

響は死神博士を睨みつける。

 

「死神…博士!」

 

「ふん、貴様か。そう言えばここはリディアンから少々近かったな。最早、死にかけの貴様などどうでもいいと思っていたが…ついでだお前たちも死ね!」

 

その途端、死神博士が出したノイズが響達へと向かい、未来や創世たちが短い悲鳴を出すがその前を響が塞ぐ。

 

Balwisyall nescell gungnir tron

 

聖詠を口にしてシンフォギアを纏うとするがその前に迫るノイズを蹴りと拳で撃破する。

 

「響!」

 

「人の身でノイズに触れたばかりか破壊した!?」

「落ち着け、私がそういう風に改造した」

 

慌てるウェルにノイズが敗れるのを想定していた死神博士。響と死神博士の間に火花が散った気がする。

 

「この拳も!命も!シンフォギアだ!」

 

━━━翼さん、クリスちゃん…ごめん

 

シンフォギアを纏った響は心の中で翼たちに謝罪して死神博士を再び睨みつける。

 

 

 

 

 

 

 

「情報部、追跡班との連絡が途絶!」

「ノイズの出現パターンも検知、恐らくは…」

 

特異災害対策機動部二課本部でもソロモンの杖杖から出されたノイズを検知していた。そしてそれを聞いた弦十郎は奥歯を噛みしめる。また部下が殺されたのだ。

 

「翼とクリスくんを現場にまわすんだ!ソロモンの杖を確保するんだ!」

 

弦十郎の命令が飛ぶ。その時、モニターにオレンジ色の文様が浮かぶ。

 

「ノイズと異なる高出力エネルギーを感知。間違いなくシンフォギアです!」

「これって…」

 

二人のオペレーターの報告後にモニターには『GUNGNIR』の文字が流れる。それを見て弦十郎は息を飲んだ。

 

「…響くん」

 

それと同時におのれの無力さを思い知る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「死神博士、貴方を倒す!」

 

「ふん!ほざけ、死にぞこない!かかれぇ」

 

響の死神博士打倒の宣言を聞くが鼻で笑う死神博士は更にノイズを出して戦闘員と共に響に襲わせる。

 

ぎゅっと握った拳 1000パーのThunder

解放全開…321 ゼロッ!

 

歌いながら次々と襲い掛かる戦闘員もノイズも次々と打ちのめしていく響。ナイフや刺突剣を持った戦闘員をアッパーや肘打ちで倒し、ノイズも蹴りや踵落しで倒していく。

 

━━━凄い、力が溢れてくる

 

最短で 真っ直ぐに 一直線

伝えるためBurst it 届け

 

響自身も力が溢れて来る事に戸惑うが今はショッカーを退けるのが先決だと戦いに集中する。挟み撃ちにしようとした戦闘員を両拳で迎撃し腕のギアを引っ張り多数のノイズを殴り抜ける。

 

 

「響…」

「凄い」

「さっき立花さん、死神博士って言いましたよね?」

「それって、ショッカーの大幹部じゃ!?」

 

響の戦いを車の影に隠れて見ていた未来たちはその戦いぶりに驚く。数は圧倒的にショッカーが上回ってるが響は単独で次々と倒していく。その姿はかっこよくも見えたが未来は気が気でなかった。

 

 

 

「せ…先生、立花響の快進撃が止まりません!」

「ふむ…能力が上がっている?…成程、最後に燃え尽きようというのか」

「ど…どういう意味ですか!?」

「貴様も聞いた事があろう?蝋燭は燃え尽きる瞬間が一番輝くと」

 

その言葉を聞きウェル博士はハッとした顔をする。死神博士は響が既に限界を通り越してる事に気付いていたのだ。

 

「ならば望みどおりにしてやろう」

 

この場を立花響の処刑場にする事を決めた死神博士は邪悪な笑みを浮かべる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

響け響け(ハートよ) 熱く歌う(ハートよ)

へいき(へっちゃら) 覚悟したから

 

ノイズも戦闘員も次々と撃破していく響。だが、次第に響の呼吸が荒くなっていく。

 

━━━胸が苦しい!一体私の体に何が…「アララララララッ!!」!?

 

響は不気味な声と殺気にその場を急いで離れる。その直後に響の居た場所に細長い物が叩きつけられてバチバチとした音を出す。

 

「怪人!?」

 

響の目の前に大きな口に鋭い牙が生え片方に髭の様な物が生えた魚っぽい怪人が現れた。大きい赤い目が響の姿を捕らえている。

 

「アンデスに住むデンキナマズを使った改造人間、ナマズギラーだ。この怪人を倒せるのなら倒して見ろ!」

「死ねぇ!立花響!アララララララ!!」

 

胸の苦しさに加え新たなる怪人が響を襲う。

 

 

 

 

 

 

 

「また怪人が出たわ!」

「一体、ショッカーにはどの位怪人が居るのよ!」

「頑張って響!」

 

転がる車の影で響がショッカー怪人との戦闘を見守る未来たち。殆どの戦闘員やノイズは響に倒され半数以下だがまだ要る。下手に動くより隠れて居た方が良いかと考えさっきから車の影に居たのだ。

幸運にも戦闘員もノイズも未来たちに気付いてないのか響に注目していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

ナマズギラーがもう一本の髭を取り鞭のようにして響に振り回す。当然、避ける響だがその背後にあった転がった車に鞭が当たると爆発して炎があがる。

 

「爆発した!?」

 

「俺の鞭は10万ボルトの電流が流れている。下手に当たれば貴様も無事ではすまん!死ねぇ!」

 

響に自分の能力を説明し終えたナマズギラーは両手の鞭で響を攻撃する。響は上手く躱していくが特異災害の職員が乗っていた車や路上駐車していた車に接触して次々と爆発していく。煙で見えにくくなるがナマズギラーは構わず鞭で響を攻撃していく。

 

「やるではないか、立花響。ならばナマズギラー、あの車を破壊しろ!!」

 

響とナマズギラーの戦いを見ていた死神博士がナマズギラーに車の一つを破壊するよう命令する。その命令に響を他所に命令された車のほうに行くナマズギラー。

 

「突然何を…!」

 

死神博士の突然の命令に訳が分からなかった響だが、車の方に視線を向けあるものを見つけた。未来達だ。

 

「アララララララ!!」

 

「駄目!!」

 

━━━死神博士の狙いは未来たち!?やらせない!!

 

未来達が車の影に隠れてる事は死神博士にはとっくに分かっていた。しかし、この四人は立花響の最大の弱点になるとあえて放置していたに過ぎない。四人が生きようが死のうがショッカーにとって何の関係もない。

 

 

 

そして、死神博士の目論見通り車を破壊しようとしたナマズギラーの電磁鞭に響は盾になって防ぐ。

 

「ああああああああああああああああああ!!!!」

 

電磁鞭の電流が容赦なく響に流される。その事で響の口から断末魔のような悲鳴が漏れる。しかし、ナマズギラーは響の悲鳴に何の関心もなく響の体に電磁鞭を連打した後に響の首に電磁鞭を巻き付ける。

 

「捕らえたぞ、死ねぇ!!」

 

響の首に電磁鞭を巻き付け捕らえたナマズギラーはそのまま電磁鞭に10万ボルトの電流を流す。更なる悲鳴を上げ体から煙を出す響。

 

「響!?」

「駄目、未来!私達が行っても足手まといだよ!」

「離して!響が!」

「落ち着いて、小日向さん。…まさか、私達を利用して立花さんを捕らえるなんて…」

「こんなのアニメの中の話でいいのに!!」

 

未来が響を助けようと飛び出そうとするが創世や詩織に止められる。本当は三人も未来の様に助けに行きたいが下手をすれば余計に響の重しになる。

 

「響!…響!!」

 

「…未…来…」

 

10万ボルトの電流の中、響の意識は段々と遠のいていく。それでも未来の声で気力を振り絞って意識を保とうとする。

 

「アララララララッ!!貴様を殺した後は直ぐにその小娘どもも後を追わせてやる!安心して死ねぇ!!」

「いや、それより立花響に搭載している原子炉を破壊してこの辺り一帯を放射能汚染させた方が面白いか?」

 

響を抹殺した後は死神博士らの姿を見た未来たちも排除する予定である。ショッカーとしては当然の事である。そして、死神博士は更にろくでもない事を考えていた。しかし、その二人の言葉が響の意識を一気に戻す事になった。

 

━━━未来たちを殺す!?街を放射能で汚染させる!?そんなの許さない…許さない…許さない!!

 

「そんな事させるもんか!!」

 

「アラッ!?」

「なんと!」

 

ヒーローになんて なりたくない

想いを貫け…321 ゼロッ!

 

自分が倒れれば未来たちが危ないと考えた響は歌を再開させナマズギラーの電磁鞭を握り引っ張る。

 

「何をしたいのか知らんが死ねぇ!」

 

そんなものがいらない 世界へと

変える為にBurst it 届け

 

更に電磁鞭の電流を強めるが響は歯を食いしばり電磁鞭を引っ張る力を上げる。しばらく綱引き状態となったがとうとう響の力に耐えられなくたったナマズギラーが引っ張られ響の方に飛んでしまう。

 

「負けるもんか!?」

 

「この胸には希望―ゆめ―が宿ってる」

運命―さだめ―じゃなく 私の道―ロード―

 

この時を待っていた響はギアを開いていた腕で顎を殴り空中へと飛ばす。

 

「お前達なんかに…!!」

 

空中に殴り飛ばしたナマズギラーに追撃する為、腰のブースターに火が付き空中を飛ぶ。既にもう片方のギアは引っ張られ何時でも殴れる状態だった。

 

「負けてなるもんかッ!!!」

 

信じたい(守りたい)願え(強く)行け

 

一気にナマズギラーの体にもう一本の腕で胴体を殴り抜けギアが閉じる。直後にナマズギラーの体に衝撃が走り体にもヒビが入る。

直後に大爆発を起こしナマズギラーの破片が降る中、響はなんとか着地する。

 

「響!」

「やったー!」

「でも…」

「ええ」

 

響の勝利に喜ぶ未来たち。

 

「ハア…ハア…」

 

しかし、ナマズギラーを倒したが、体からは未だに煙が上がる。それを見て笑みを浮かべる死神博士。

 

「その状態でナマズギラーを倒したのは褒めてやる。しかし、余計に貴様の寿命を縮めたな!」

 

「「「!?」」」

「…響?」

 

死神博士の言葉に愕然とする創世たち、未来は響の名を呼ぶが響が反応しなかった。今の響はまさに風前の灯火と言えた。胸のガングニールにナマズギラーとの激闘。響は何時倒れてもおかしくはなかった。

 

「…死なない…私は死なない!お前達を倒すまでは!」

 

響はまるで死神博士に返答するようにそう叫ぶと再び腰のブースターを吹かし拳を突き出し死神博士に迫る。そのまま響の腰が当たるかと思えた瞬間、黒い物が響の拳の邪魔をする。

 

「盾!?」

 

「違う、ノコギリの平面」

 

「…調ちゃんに切歌ちゃん」

 

ユニコルノスの時に自分達の助太刀をしてくれた二人が今度は死神博士たちの見方をする調と切歌の姿を見て二人の名を呟く響。響の目は信じられないものを見た反応だった。

 

「私のシュルシャガナは見た目は怖いけど凡庸性が高い。勿論、防御性能も」

「デスけど、調の足では踏ん張りが効きませんから私が支えてるんデスけどね。でも…」

 

響に向かってドヤ顔で説明する二人だが、何となく響に違和感を覚えていた。

 

「何デスか?あの煙」

「それに思ったより拳の威力が弱い…」

 

以前ほどの力強さを響から感じられない事に戸惑う。丁度その時、上空から透明な何かがやって来る。FISのエアキャリアだ。

 

「ふん、やっと迎えに来たか。ノロマめ」

 

エアキャリアが此方に向かってる事に気付いた死神博士が毒づく。その言葉に調と切歌がイラっとした反応をするが死神博士はそれを無視する。

 

 

ナマズギラーを倒した響だが新たに調と切歌が現れた。響の運命はいかに!?

 

 

 

 

 

 

 




原作では何時の間にか逃げていた未来たちですけど今回は死神博士がいたので簡単に逃げられなかった設定です。
アニメでこの辺りを見返すとナスターシャ教授が突然改心してるようにしか見えない。

響は既に限界を通り越してます。次回は少し原作と離れるかも


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47話 最悪の結末

 

 

 

「状況はどうなっている!?」

 

特異災害対策機動部二課仮説本部にて弦十郎の声が響く。

 

「響ちゃんが怪人を撃破!ですが…」

「これは…」

 

モニターには響の身体情報が映るが体温が上昇している。通常ではあり得ない程の温度だ。更にモニターに響の状況が映し出される。

 

「翼とクリスくんたちは!?」

「二人共現場へ急行してますがまだ時間が」

 

響が戦う現場にはクリスはヘリで、翼はバイクで移動していたが響達の下にはまだ幾分かの時間が必要だった。

 

「響くん…無茶はするな…」

 

今しばらく響一人に任せるしかない現状に弦十郎は机を叩くしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

「ハア…ハア…ウッ!」

 

ナマズギラーとの死闘を終えた響だが、10万ボルトの電流に胸のガングニールがより輝き手で押さえてるが溜まらず片膝を地面に付ける。その様子は蹲ってるようにも見える。

 

「…どうしたの?」

「様子がおかしいデスけど…今の内に逃げるチャンスデス」

 

理由は分からないが強敵の響がこの状態なら楽に逃げれると踏んだ二人だった、しかし、

 

「待てぇ、丁度いい。絶唱を使って立花響を殺せ」

 

「「!?」」

 

死神博士が待ったをかけた。二人に絶唱を使えと言う死神博士の言葉を当初は理解出来なかった二人だが、数秒もせずに理解する。切歌は顔を赤くして怒鳴る。

 

「ふざけるな!どうして私達が!!」

「…あの様子なら絶唱を使うまでもないと思うけど…」

 

「なに、貴様らの絶唱のデータも取っておきたいだけだ。これは命令だ、やれ!」

 

二人の抗議も死神博士はアッサリと却下し絶唱を使えと言う。其処まで重要でもないがデータ取りの為にやれと言われた二人は納得出来る訳もない。取り付く島もないがまだ抗議を続けようとした二人だが、

 

「お二人にプレゼントです」

「え?」

「こんな時にプレゼントって何考えてるデスか!?」

 

突然のウェル博士の言葉に戸惑うが手渡された物を見て目を見開く。

 

「これって…」

「LiNKER…」

 

それは緑色の液体の入った拳銃型の注射器だった。その中身は自分達の生命線でもあるLiNKERだ。手渡された二人はウェル博士の顔をジッと見る。ウェル博士の目がこれを使って絶唱を使えと言ってるように見えた。

 

「効果時間にはまだ余裕があるデスよ!」

「だからこその連続投与です。適合係数を上げれば絶唱による負荷もある程度は抑えられます」

「それはそうだけど…」

「そこまでして殺さないといけないデスか!?」

 

LiNKERを渡され絶唱の負荷はどうにでもなる。それでも二人は死神博士の命令を不服にしていた。立花響は既に苦しんで膝をじめんにつけている。それにも関わらず殺せと命令された。

調も切歌も当然人を殺すには抵抗があった。

 

 

 

「まだか?ならこれを使うか?」

 

ウェル博士と調たちの会話に業を煮やした死神博士が懐からある物を取り出しウェル博士に投げ渡す。

 

「これは?」

 

受け取ったウェル博士がそれを見る。それは自分が投げた拳銃型注射器と同じ容器をしていたが中身はどす黒い液体らしきものが入っていた。

 

「LiNKERとかいうオモチャを解析して私が作り上げた物だ。そうだな敢えて名前を付けるならば『SHOCKER』でどうだ?」

 

「…SHOCKER」

「どれだけ自己顕示欲が強いんデスか!?」

「…因みに性能は?」

「計算上、貴様らのオモチャの数十倍の出力は確保できる事は()()()()()()()()()()()()()()。ただし副作用は…ククク」

 

死神博士が不気味に笑う姿に背中から寒気が走る調と切歌。死神博士が作り上げたSHOCKERは確かに強力ではあるだろう。しかし、完全に装者を使い潰す前提の物だ。

 

「先生、ありがたいですがこのような物は必要ありません。僕にも研究者のプライドがありますので」

「…ほう」

 

ウェル博士が死神博士に使用を断る。これには調も切歌もホッとするがウェル博士二人の耳元で囁く。

 

「二人共、これ以上文句を言ってはいけません」

「でも…」

「デス!?」

 

SHOCKERの使用を断りホッとした調と切歌だがこれとそれは別だとしてウェル博士に文句を言おうとしたが、

 

「マリアを助けたかったらここは従いなさい」

 

この一言に二人は一瞬息を飲む。

 

「なんで…」

「そこでマリアの名前が出るんデスか!?」

「簡単ですよ、ショッカーはマリアを最終的に改造人間にするのが目的です。君達が失態を重ねて行けばショッカーはマリアを労せずして手に入れる口実を与えてしまう。僕はそれを阻止したいんです」

「「!?」」

 

その言葉に二人は驚き、反射的に切歌がウェル博士の顔を殴りつける。殴られたウェル博士は尻もちをつき眼鏡を地面に落とし口の端から血を流す。その様子を見た死神博士だが戦闘員にノートパソコンを持たせてデータ収集の準備に入る。

 

「最初から…最初からそれが目的デスか!?この外道!」

「…否定はしませんよ。全ては僕の見積もりの甘さが招いた結果ですからね」

「地獄大使がマリアの血を求めたのは?」

「恐らく、マリアを手に入れる準備段階でしょうね。君達が命令無視や失態を重ねていけば、より要求が重くなる筈ですから」

 

白衣の袖で血をふき取り眼鏡をかけ直すウェル博士。その言葉には今一覇気が無く目も泳いでる。その様子を見ていた調が何かに頷く。

 

「切ちゃん、使おうLiNKER」

「調!?でも…」

「ドクターの事は許せないけど今はマリアを守るのが先決」

「わ、分かったデス」

 

調の説得に切歌も首を縦に振るしかなく調と切歌はお互いの首に注射器を当てLiNKERを流し込む。そうして響の方に視線を戻した。響は響で何とか立ち上がろうとはしていた。

 

「やろう、切ちゃん」

「…絶唱デスか」

「気休めかも知れませんが適合ケースが上がれば上がるほど、ギアからのバックファイアーの軽減は過去の臨床データで証明されてます。なら、LiNKERを投与した今なら絶唱のバックファイアーも十分軽減出来ます!」

「…本当に気休めデスね」

 

切歌と調が不安そうな顔をした事で気休めを言うウェル博士

。色々と言いたいことはある二人だが今は死神博士の命令通り絶唱を使うしかない。そして、絶唱を口にする。

 

Gatrandis babel ziggurat edenal

Gatrandis babel ziggurat edenal

 

「!?」

 

胸を押さえつつ何とか立ち上がった響だが聞き覚えのある歌を耳にし目を見開く。そこで調と切歌が歌ってる事に気付いたのだ。

 

「これは…絶唱!?」

 

「やっと歌い始めたか。ウェルめ躾を怠るからこうなるのだ」

 

響はこの歌が絶唱だと知って驚愕し死神博士は戦闘員に持たせているノートパソコンを操作し調と切歌の絶唱のデータを取る。

 

Emustolronzen fine el baral zizzl

Emustolronzen fine el baral zizzl

 

「ナスターシャ教授…僕達は確実に地獄に落ちますね」

 

二人の絶唱を歌う姿を見るウェル博士がポツリ呟く。

絶唱を聞く響の脳裏に嘗ての天羽奏の最後の姿が蘇る。適合値の低さをLiNKERで補ってたが最後には文字通り体がボロボロになり死体すら残さなかった。ツヴァイウイングの惨劇で起こった悲劇は響は忘れた事はない。

 

Gatrandis babel ziggurat edenal

Gatrandis babel ziggurat edenal

 

「だ…駄目だよ!LiNKER頼り絶唱は装者の命をボロボロにしちゃうんだ!」

 

「女神ザババの神器の絶唱二段。さぞ素晴らしいデータが取れるだろう」

 

響の悲痛の叫びも死神博士は意に介さずノートパソコンの画面に釘付けとなる。死神博士にとって調と切歌の命がどうなろうと知った事ではない。

 

Emustolronzen fine el zizzl

Emustolronzen fine el zizzl

 

二人が絶唱を歌い終わると共に目を見開く。

 

「シュルシャガナの絶唱は無限軌道から繰り出される果てしない斬撃。これを使えば幾らあなたでも…」

 

足や手から大きなノコギリが回転して出て来る。これが調の絶唱だ。

 

「続き、刃の一閃で対象の魂を両断するのがイガリマの絶唱。そこに物質的な防御手段などありえない」

 

手に持つ大鎌が更に巨大化し鋭利になる。これが切歌の絶唱だ。

 

「恨んで貰って結構デス!」

「私達はあなたよりマリアを選んだ」

 

調と切歌は響とマリアを天秤にかけマリアを選んだ。例え響を殺してでもマリアをショッカーから守ると誓ってるのだ。それが時間稼ぎにしかならなくても…

二人の絶唱がお目見えになり死神博士もこれに邪悪な笑みを浮かべる。

 

Gatrandis babel ziggurat edenal

 

「え?」

「なんだと?」

 

突然もう一つの絶唱のフレーズが聞こえて来る。ウェル博士だけでなくノートパソコンの画面を見ていた死神博士も歌の出所に視線を向ける。

 

Emustolronzen fine el baral zizzl

 

視線の先には響が居て絶唱を歌っていたのだ。これを見て調も切歌も歯を食いしばる。

 

「面白い!絶唱に絶唱をぶつけようというのか!?やって見せろ!」

 

死神博士は、響が調と切歌の絶唱に絶唱をぶつけて相殺しようとしてると睨んだ。これでより多くのデータを取れると喜ぶ死神博士だが、

 

「…違う」

 

響の目的は別にある事に気付いたウェル博士が呟く。確信は無い、それでも報告書などで呼んだ響の性格上、ただ絶唱を使った訳ではないと考えた。

 

Gatrandis babel ziggurat edenal

 

「?」

「エネルギーが!?」

 

異変を感じたのは既に絶唱を発動していた調と切歌だった。絶唱で唱えたエネルギーが吸い取られるような感覚がしたのだ。

 

Emustolronzen fine el zizzl

 

そして、響いが完全に絶唱を歌い切るとそれはより顕著になる。

 

「エネルギーレベルが絶唱発動まで高まらない?」

「如何言う事デスか!?」

 

「何だ!?何が起こった!?」

 

二人の姿が絶唱を唱える前までに戻る。ウェル博士は言葉も無く茫然とし死神博士が慌てるようにパソコンを操作する。そして一つの結論に到達する。

 

「まさか、立花響が…!?」

 

何かに感づいた死神博士が再び響の方を見ると先程よりもより胸の輝きが増し温度の所為か響の周囲の空気が歪み始める。

 

「セット!ハーモニクス!」

 

響の言葉の後に衝撃波が駆け回る。胸のオレンジ色の光から技かな黒い光も漏れ響が苦しむ。既に響の周りの空気は熱され足の周囲が燃え上がる。

 

「二人に…絶唱は使わせない!」

 

そいう言うと、響は会場でのギルガラスの戦いの時に見せた両腕を合わせて両腕についていたギアを右腕に集中させ一つとする。そして、一気に拳を上に突き出す。直後、響の拳から虹色の竜巻が出て上空へと昇る。

 

「間違いない!立花響め、あの二匹の絶唱のエネルギーを取り込んだな!!」

 

響の行動を見てそう確信する死神博士。その目はまるで新しいオモチャを見つけたような目だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれって…」

「あの時の…」

「皆さん、今の内に」

 

響が出した虹色の竜巻は未来たちも見ていた。誰もがその竜巻を見る中、詩織がチャンスとばかりにこの場の後にするよう言う。確かにあの目立つ竜巻がある以上逃げるチャンスではある。

弓美や創世が頷く中、未来は心配そうに虹色の竜巻出す響の方を見ていた。

 

「ねえ、皆。死神博士の言っていた事…本当なのかな?」

「言っていた事?…響の寿命が縮まったって事?」

「ただのハッタリ。…って言えれば良いんですけどね」

「こればっかりじゃ私達には分からないよ」

 

未来の脳裏に死神博士が言っていた「余計に貴様の寿命を縮めたな」の言葉が引っ掛かった。未来の胸にこのままでは本気で響とのお別れになると思うとこの場から離れる事が出来なかった。

 

そして、その少女たちを見つめる複数の戦闘員が居る事に気付かなかった。

 

 

 

 

 

 

そして、その光景は上空に待機しているエアキャリアに乗っていたマリアとマムも目撃する。響の映るモニターをみて驚愕するマリア。

 

「吹き荒れる破壊のエネルギーを無理矢理…」

「繋ぎ繋がる事で絶唱をコントロール出来るあの子にとって、これくらい造作もないという事ですか。ですが、それをショッカーに見せてしまって吉と出るか凶と出るか」

「マム?」

 

ナスターシャ教授の深刻そうな表情を見たマリアがマムと呟く。マリアには何故そこでショッカーの名が出たのか気になったのだ。

その時、エアキャリアの計器に何か反応をした。レーダーに青い物と赤い物が映ったのだ。

 

「この反応は」

「不味いですね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

調や切歌の絶唱のエネルギーを全て放出した響は息を荒げる。それは先程よりも深刻であった。

その直後だ、

 

「アッ!?」

 

掲げていた腕が爆発し響が再び地面に膝を付けた。更には体から幾つもの火花が散りバチバチ音もする。

 

━━━胸、だけじゃない!?……頭が割れそうに痛い!変な警告音も…聞こえる。…「エラー」って文字と「オーバーヒート」って文字が交互に出て来る。お願い…もう少しだけ…動いて…私の体…

 

響は既に限界を超えていた、ただでさえ胸のガングニールで熱暴走していたのに加えナマズギラーの電撃を浴び、止めに調と切歌の絶唱を空へと打ち上げたのだ。響の体は何時負荷で爆発しても不思議ではない。

腕の爆発もギア部分が爆発しただけだが腕の人工皮膚が剥げて中から金属片が見え血が垂れている。更に胸からオレンジ色に輝く結晶も生えてきていた。

 

「ククク…苦しそうではないか、立花響!」

 

「死…神…博士…」

 

響の苦しむさまを見て笑う死神博士の言葉に響は何とか顔を上げ視線を送る。正直、響は今直ぐ倒れたい衝動にかられている。指一本動かす事すら辛い。

 

「最早、貴様に価値はないと思っていたが訂正しよう。さっきの「ハーモニクス」とやらを見て興味が湧いた。味方だけでなく敵の絶唱も操れるとはな。ショッカーに戻れ、立花響。戻ればその体も直してやろう」

 

「「!?」」

 

死神博士の言葉に調と切歌が驚く。よくは分からないが響もショッカーに関わていたという情報を手に入れる。

 

「…誰が…あんた達の…下に…なんか…」

 

当然、響は拒否する。響としても体の限界は分かっているつもりだ。このままでは取り返しのつかない事になるかも知れない。それでも響はショッカーに戻る気などサラサラ無かった。

しかし、拒否された死神博士は笑顔を崩さずに居る。

 

「そうか、断るか。ならこれならどうかな?」

 

「何度…言われよう…と「キャアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」こと…!?」

 

響が断ると言い掛けた時だった。聞いた事ある声の悲鳴が背後から聞こえてきた。響は言うことを聞かない体を何とか動かし後ろを見る。そこには、

 

「イーッ!」

「大人しくしろ!」

 

「離して…離して!?」

「汚い手で触らないで!」

 

未来や創世に詩織、弓美の全員が戦闘員に捕まっていた。弓美や創世が暴れるが戦闘員には今一効果がなく戦闘員の武器が未来たちに向けられる。

 

「み…みんな!?」

 

「見ての通り人質だ。ありきたりな手だが貴様には有効であろう?」

 

「!?」

 

その言葉に響は死神博士に怒りの視線を送る。しかし、殺気もろくにない視線では死神博士には何の効果もない。

 

「さぁ、立花響。友を見捨てて私の命令に逆らうか、友を助け私と共にショッカーに来るか選ぶがいい」

 

「グっ…」

 

響は先程のように即答出来なかった。自分の身を犠牲にする事は出来るが友達を…親友を見捨てる事など響には出来なかった。それは死神博士も見抜いている。響はどこまでいこうと甘い少女でしかない。

仮に断る事が出来ても今の響は満足に動くことが出来ない。未来や創世達を始末した後に無理矢理連れて行く事も出来る。

 

何故、死神博士は最初からそうしないのか?答えは簡単、それでは面白くないからだ。響にショッカーに逆らった事を後悔させ心を蹂躙する。それが死神博士の目的でもあった。

 

「さあ、選ぶがいい」

 

「私…は…私は…」

 

死神博士が不気味な笑顔で響に選択を強要する。その姿に調も切歌も軽蔑の眼差しを送るが大して気にもしない死神博士。響が出した結論は…

 

「戻り…ます…」

 

「何だと?聞こえんなぁ」

 

「ショッカーに…戻ります…戻らせてくだ…さい!だから…未来や皆には…手を出さない…で下さい!!」

 

言う事を聞かない体で死神博士に土下座の様な姿勢をする響は息も絶え絶えで懇願する。響は未来たち…友を選んだ。ショッカーが約束を守るかは分からない。それでも響には未来たちが少しでも長く生きて欲しかった。

 

「フフフ…フッハハハハハハハハハハハハハハッ!!聞いたかウェルよ、あれだけ我等に逆らっていた立花響も私の前にとうとう跪いたぞ!」

 

「…邪悪過ぎるデス」

「…悪趣味」

 

死神博士のやり方に調も切歌も、そしてウェル博士ですらドン引きしている。調も切歌もFIS時代にここまでの外道は見た事が無い。

 

「さて、連れていく事にあたってその熱を冷ましてやろう。トドギラー!」

「ブルルルルッ!!」

 

名前を呼んだ直後に一体の怪人が死神博士の横から現れる。一見セイウチに見えなくもない怪人が響の傍に行く。

 

「喰らえ、冷凍シュート!」

 

ある程度、近づいたトドギラーは口から雹を吐き出し響に浴びせる。最初は熱した鉄板に水を掛けたような音と水蒸気が上がる。しかし、それも徐々に治まり響の熱が下がりだす。

 

━━━ごめんね、未来…約束…守れそうに…な…

 

「切ちゃん…」

「心なしか寒いデス」

 

トドギラーの冷凍シュートの影響は調や切歌にも届いたようだ。息を吐くと白くなっている。

そして、響からの水蒸気が治まり体からの火花も治まるとトドギラーも冷凍シュートを止めて響の体を持ち上げる。既に響の意識は飛んでいて抵抗も出来なかった。

 

「終わりました、死神博士」

「よくやったぞ、トドギラー。貴様はエアキャリアに立花響を運び込め」

「ハッ!ところであの人質どもはどうするので?」

「殺せ、もう用はない」

 

『!?』

 

死神博士の言葉に誰もが絶句する。未来たちを捕らえたのは響の心を折る為に利用したに過ぎない、それが達成された以上無理に生かしとく理由は無い。それが死神博士の…ショッカーの考えだった。

そして、死神博士の命令を受けたトドギラーは一足先にエアキャリアから伸びたフックを使いエアキャリアの内部に乗り込む。

 

「待って!?」

「約束を破るつもりデスか!?」

 

流石に、これには文句を言う調と切歌。いくら何でも非道という言葉が二人の脳裏に過る。一時的にショッカーと手を組んでるがこんな事は納得できない。

 

「約束?そんなもの守って、何がショッカーか。どこまでも甘い小娘どもだ」

 

「「!」」

 

死神博士の言葉に二人が背筋がゾクッとする。ショッカーにとって約束など大して価値も無い。価値があるのは如何にして相手を利用しつくすか?それだけである。

戦闘員に未来たちの抹殺を指示しようとした死神博士だが、それより先にナスターシャ教授から通信が入る。

 

『此方に向かう二つの反応を感知、恐らく天羽々斬とイチイバルです。急ぎ撤退を』

 

「チッ…まあ良かろう、収穫はあった。戦闘員たち、その小娘どもを始末しておけ」

 

舌打ちをしつつ死神博士は戦闘員い命令を下した後、フックで上空に待機していたエアキャリアに乗り込む。それを見ていた調と切歌も渋々だがウェル博士を抱えてエアキャリアに乗り込み、エアキャリアは未来たちの前で姿を消した。

 

「響!?響!?」

 

目の前で響を連れ去られた未来が響の名を叫び戦闘員の拘束を暴れる。

 

「離して…離して!」

 

「殺せ!」

「イーッ!」

 

死神博士の命令を受けた戦闘員が刺突剣を片手に未来の前に来る。もう間もなく装者の翼やクリスが現場に到着してしまう。その前に未来たちを抹殺するつもりだった。

 

「よくも…よくも響を!」

「イーッ!?」

 

しかし、戦闘員たちの目的は叶わなかった。未来は拘束している戦闘員の足を蹴り拘束を解くと目の前に居た戦闘員に拳を浴びせる。

 

「イーッ!?」

 

未来の拳を受けた戦闘員は引き飛び痙攣した後に緑色の液体となり消滅した。それを見ていた戦闘員は創世や詩織の拘束を解き未来に襲い掛かる。

 

「小日向さん!」

 

詩織の声に未来は振り返り迫る戦闘員の一人に回し蹴りを食らわせ更に他の戦闘員にも拳と背中の体当たりで倒していく。その姿はどこか響と似ていた。

 

「凄い…」

「凄いよ、ヒナ。あれだけの戦闘員を倒すなんて」

「…凄くなんてないよ」

 

創世の言葉を否定する未来。その目は悲しみに満ちていた。

 

「響を助けたくてずっとあの人の下で特訓していたのに。…それなのに私は肝心なところで動けなかった」

 

未来は響がトカゲロンに負けた後、ずっと弦十郎に鍛えて貰っていた。一時はゾル大佐を倒して中断もしていたがショッカーの再始動で再び特訓していたのだ。弦十郎も未来の腕を褒めていたが戦闘員に捕まった時に足が竦んでしまった。

 

「何が響を助けるよ!何も出来なかった…なにも…」

 

「ヒナ…」

 

未来の絞りだす声に創世も詩織も弓美も何も言えなかった。人質にされたのは自分達も同じだ。未来に何かいう権利などない。未来は一人泣き続ける。

 

 

 

 

 

「悪い、遅れた!ショッカーは!?あいつは何処に居るんだ!?」

「立花は?立花は無事か!?」

 

それから間もなくクリスと翼が到着したが周りには戦闘の痕跡はあるがショッカーや響の姿が見つからない事に焦る。そして、未来たちに事の顛末を聞き二人の顔色が悪くなる。

 

「チクショウ!間に合わなかった…チクショウ!!」

「立花…」

 

響は連れ去られショッカーも撤退した。この日の戦いは特異災害対策機動部二課の大敗北と記録される事となる。

 

 

 

 




攫われるのは未来ではない、響だ。…原作で未来が攫われる展開はまだ先だけど…

原作では響を見てパニクったウェル博士と調と切歌だけだった+既に避難していたので人質にはなりませんでしたが極悪度の高いショッカーが見逃さずに未来たちを人質にして響を屈服させました。

ウェル博士が改心したようにも見えますけど目的の為にショッカーに近づいたら予想してたよりやばくて焦りだす。そんな感じです。

響から生えてきたあの結晶って何でしょうね?劇中、響が言っているようにカサブタでいいのか?弦十郎も体組織としか言って無さそうだし。…ガングニールの成分とか無いんだろうか?



SHOCKER

ウェル博士が手土産として持ってきたLiNKERを解析してショッカーが作り上げた劇物。
LiNKERに比べ装者の適合値と能力を爆発的に上げるだけでなく、適性の有無に関係なくシンフォギアを使わせることが出来る。更には性別すら関係なくシンフォギア装者に仕立て上げれる事も可能。
半面、LiNKERとは違い副作用が比べ物にならない、適合率の有無に関わらず注入すれば一時間後に確実に死ぬ。


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48話 英雄と悪

あつい


 

 

 

「響くんが…攫われた…だと」

「はい…未来ちゃんたちの目の前で…」

 

響がショッカーに再び拉致された情報は直ぐに特異災害対策機動部二課にも伝えられた。

死神博士とは完全に遭遇戦だった事もあり翼とクリスの遅れが致命的だった。その結果、響を失った特異災害対策機動部二課では重苦しい空気が流れる。

 

「我々には、響くんが無事であると願うしか出来んのか」

 

ショッカーに完全に負けた事よりも響を守り切れなかった事を悔やむ弦十郎の声が空しく指令室に響く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とある山中、地獄大使と死神博士が乗ったエアキャリアが森のある浅い谷の部分に止めていた。

 

「全く、アジトの格納庫に空きが無いとはな。取り合えずワシは首領に報告してくる」

 

地獄大使がそう言ってエアキャリアから降りてショッカーの秘密基地に向かう。その姿に切歌が舌を出して居たが誰も止めずにいた。

 

「それで、ドクターは?」

 

気が済んだ切歌がドクターの居場所を聞く。まだまだ聞きたいことがあったからだ。

 

「ドクターなら死神博士と医務室に行きました。…捕らえた立花響で何かするようですが…」

「あの人を!?」

 

ナスターシャ教授の言葉に珍しく調が声を荒立てる。その反応に驚く切歌とマリア。

 

「ど…どうしたの?調」

「ビックリしたデス」

「切ちゃん、私達はあの人に助けられたんだよ。絶唱を使ったのに体が何ともないのは…」

「それは…そうですけど…」

 

調の言葉に切歌も同意する。理由は分からないが響が自分達を助けたのは事実だ。それを見ていたナスターシャ教授が何か言おうとした時、医務室の扉が開きウェル博士が出てきた。

 

「ドクター!あの人は?」

「無事デスか?流石に助けて貰って酷い事は…ヒっ!?」

 

出てきたウェル博士に響が無事か問い詰めようとした調と切歌だが、ウェル博士の顔色を見て思わず押し黙る。ほんの僅かな時間でウェル博士の顔に皺が出来目が充血しつつあった。

 

「…あ、皆さん。此処で休んでたんですか?僕も少しだけ休憩を…ウェ!?」

 

マリア達の顔を見たウェル博士だったが、途中で嘔吐き急いでトイレへと入る。直後に嘔吐の声が聞こえてきた。

 

「一体何が…」

 

ウェル博士の反応に不気味さを感じるマリア。直後に調が医務室へと向かう。

 

「ちょ!?」

「待ってほしいデス、調!」

「待ちなさい、あなた達!」

 

調のいきなりの行動に驚くマリアだが、切歌が追いかけるとマリアも追いかけナスターシャ教授が止めようとし医務室の方へ向かう。

 

 

 

 

 

 

 

調が扉を開け中を見る。中は、死神博士が機械らしきものを弄る姿しかない。医務室の中を見回しても響が見当たらなかった。

 

「マネキン?」

 

ベッドの上には一見、マネキン人形の物らしき頭部が宙づりにされ幾つものコードが繋がれていた。よく見ればガラス管の中にクリスタルの様な物が生えた肉の塊が脈をうっている。そのマネキンらしき頭部と目があった気がして調の背筋に汗が流れる。

 

「人口筋肉の筋量が増大しているが、やはり追加で手術をされた跡が無い。まさか、鍛えただけであそこまで強くなったのか?心臓はもう限界に近いな。ウェル、戻って来たのなら手伝え」

 

ベッドの上に散らばる機械やピンク入りの肉の様な物を触ったりガラス管を覗き込む死神博士。医務室の扉を開けたのをウェル博士と勘違いしている。

 

「内蔵していた機器も妙な結晶が詰まって壊れかけが多い。血液から取り込んだのか?後で換えの血液と機器を取り寄せんと。…結晶には僅かながらの聖遺物の反応か、何かに利用できるかも知れんな。それにこれならばS()H()()()にも使えよう…ウェル、まだか!?」

 

死神博士が何をしてるのかは、知らない調だが宙づりにされている頭部を見て嫌な予感を感じていた。このまま部屋を出ようかとも考えた調だがそれよりも早く、医務室の扉が開きマリアと切歌が入って来た。

 

「無事!?調」

「変態爺に何かされてないデスか!?」

 

「五月蠅いぞ、何だ?…何だ、貴様らか。ウェルはまだ戻らんのか、あの腰抜けが」

 

マリアや切歌の声に振り向いた死神博士だが、ウェル博士がまだ戻って来てない事に罵倒しつつ作業を再開する。入って来たマリアも切歌もベッドの上や宙づりにされている頭部を見てギョッとする。

 

「?あの人がいない?」

 

切歌も医務室に響の姿が無い事に気付く。マリアも気になったのか死神博士に響の居所を聞こうとした時だった。

 

「!何か喋ってる?」

 

宙づりされている頭部が自分達に向け口を動かし何か喋ってる事に気付く調。その時、マリアたちはそれが喋れない事に気付く。

 

「…死神博士、アレは何を言ってるのかしら?」

 

怖くもあったが好奇心に負けたマリアが死神博士に聞く。

 

「ん?ああ、五月蠅かったから人口声帯を切っていた。ほれ」

 

死神博士が手元にあったスイッチの一つを押す。直後にマネキンの頭部と思っていたものから声がし出す。

 

『見ないで…お願い…私を見ないで…』

 

「「「!?」」」

 

マリア達の背筋に寒気が走る、宙づりにされた頭部が喋ったのにも驚いたがその声に聞き覚えがあったのだ

 

「この声…」

「…まさか」

「死神博士、あなた達が捕らえた融合症例第一号は…どこに?」

 

マリアの言葉に死神博士が手を止める。

 

「おかしな事を聞く、()()()()()()()()()()()

 

『お願いです…見ないでください…()()()()()()()()()()()()()()…お願い…』

 

 

 

 

 

 

 

死神博士と()の声を聞いた後、マリアと調、切歌たちはミーティングルームに戻っていた。医務室からの帰りの記憶が無かったが今はどうでも良かった。そんな三人の様子を黙って見守るナスターシャ教授。

 

「…あの人…人間じゃなかったの?」

「あれが…改造人間って奴デスか」

「そんな事、言ってはいけませんよ。二人共」

 

放心していた調と切歌が響の姿を見て改めて感想を言う。人間でない事に驚いた二人だが改造人間なら、何故ショッカーと敵対していたのか疑問に思った。そして、窘めるように二人に注意するナスターシャ教授。

 

「マムは知っていたの?融合症例第一号…立花響のことを」

 

ナスターシャ教授の対応を見ていたマリアがそう切り出す。最初は沈黙していたナスターシャ教授だったが、意を決した様に「はい、報告書で…ですが」と答えた。

 

「!聞かせて」

「私もデス!」

 

マリアと切歌がそう言った。調も口には出さないが目が聞きたそうにしていた。それを見て一息つくナスターシャ教授。

 

━━━どうするべきか、この子達にはこんな惨い話を聞かせて良いんでしょうか?ですが、このままショッカーに利用されるくらいなら…

 

「分かりました…全ての始まりは二年前の…」

 

そこで、ナスターシャ教授は自分の知るうる限りの響の情報を話す。その身に起きた悲劇とショッカーの狂気を知っている事の全てを話した。

 

 

 

 

 

「…酷い!」

 

最初に口を開いたのは調だった。調は当初、立花響を偽善者だと思っていし英雄と呼ばれてる響に嫉妬心もあった。しかし、ナスターシャ教授から聞かされた響の悲劇に目から涙が出そうになる。

 

「あの人にそんな事が…」

「ショッカー…」

 

そして、それはマリアと切歌も同意見であった。マリアも切歌も許せなかった。人としても女としてもショッカーの行いを知らなかったとは言えそれに加担した自分達を。そして、マリアは会場での悲劇での怪人の虐殺も思い出していた。

 

「マム、あの人を助ける事は?」

「お願いデス!マム」

 

マリア達の胸に響を助けたいという思いが突き動かす。このままショッカーに利用されるだけなどあんまりだ。

その言葉にナスターシャ教授は押し黙る。気軽に言える事ではないからだ。何より響を助けるという事はショッカーに離反するという事だ。

 

━━━優しい子達ね、私達はこの優しい子達に一体何をさせようとしていたのか。所詮、テロリストの真似事をしても迫り来る災厄に何も抗えず…やはりショッカーと手を組んだのが間違いだったともっと早く気付いていれば…ウェル博士曰く、手を切ろうとすればショッカーは真っ先にマリアを捕らえ私や調と切歌も殺され…いえ、最悪実験動物のようにされFIS時代の時より過酷な実験をやらされる可能性が、ならば私は…

 

「なりません」

「マム!」

「しつこい!この話はここで終了です!」

 

━━━例え、この子達に恨まれても私はこの子達を守ります。それが立花響を犠牲にしてでも…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あいつの行方が掴めないってどういう事だよ!」

「…調査部が現在全力で捜索しているが…結果は芳しくない。大型のヘリを整備できる場所など限られてる筈なのだが」

「恐らくはショッカーのアジトで整備されてる可能性が」

 

翼の言葉に弦十郎が頷く。特異災害対策機動部二課では調査部がFISのエアキャリアの足取りを追っていたが影も形も掴めてなかった。恐らくはショッカーが手を貸して行方を掴ませないようにしてる事は予想に難しくない。これでFISとショッカーが手を組んでる事が証明された。特異災害対策機動部二課には全くありがたくも無い情報だったが、

 

「チッ…こんな時にショッカーが攻めてきたら戦闘員を締め上げて、あいつの居場所を聞き出すのに…」

 

クリスの言葉に翼も同意するように首を縦に振る。彼女達は兎に角、情報が欲しかった。

その様子に弦十郎は溜息をつく。

 

━━━やはり言えんな、上の連中が響くんの捜索を打ち切ろうとしてる事を…

 

弦十郎の上、即ち日本政府は響の捜索を打ち切ろうとしていた。理由は様々で野党に予選の突き上げをくらい旗色が悪いらしい。内閣情報官である身内の話では与党にも野党にも怪しい人物がおりそれが響の捜索の打ち切りを叫んでいるようだ。特異災害対策機動部二課もショッカーを表ざたにしたくない政治家たちもまた多い。恐らく近日中には捜索が打ち切りになるだろうと呼んでいた。

 

特異災害対策機動部二課仮説本部は未だに混乱の渦にあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

雨が降る中、山中に隠しているエアキャリアのミーティングルームにマリア達の他にウェル博士と地獄大使、そして複数の戦闘員が居る。ウェル博士の顔色は未だに悪く、マリア達の目つきは完全に敵を見る目だったが地獄大使にはどうでもよく放置する。

 

「さて、本題に入る事にしよう」

 

地獄大使がそう言うと真ん中にあったモニターが立ち上がり映像が映る。それは先日、ウェル博士たちが回収した赤く点滅する物だった。

 

「これは、ネフィリムの…」

「…苦労して持ち帰った覚醒心臓です。必要量の聖遺物を与えてようやく本来の出力を発揮できるようになりました」

 

マリアの言葉に気分が悪そうなウェル博士が答える。必要量の聖遺物と聞いてネフィリムに食われたユニコルノスの断末魔を思い出し顔を青くする調と切歌。そんな二人の反応を無視して地獄大使が言葉を続ける。

 

「この心臓と貴様が5年前に手に入れた例の物があればフロンティアへの道が開く」

 

地獄大使の視線がマリアに向かって「例の物」という言葉にマリアが分からないという反応をする。

 

「とぼけるつもりか?フィーネである貴様が皆神山の発掘チームから聖遺物を強奪してる事は我々の調べでも分かってるぞ」

 

「え…ええ、そうだったわね」

 

その言葉を聞いてマリアが相槌を打つ。しかし、その反応に地獄大使は訝しげにマリアを見る。

 

「マリアはまだ記憶の再生が完了してないのです。いずれにしろ聖遺物の扱いは当面私達に任せてください。ですから話はこちらでお願いします」

 

「ふん、まあ良かろう。兎に角、例の聖遺物とネフィリムの心臓があればフロンティアが動き出すのだろう。今はそれだけで十分よ」

 

「そして、フロンティアが封印されたポイントも先だって確認済みです」

 

ナスターシャ教授の言葉に地獄大使は笑みを浮かべる。

 

『それは素晴らしい、後はフロンティアを手に入れるだけだ』

 

突如、ミーティングルームにその場に居ない者の声が響く。マリアたちが周囲を見渡すが戦闘員が立ってるだけで発言したようすもない。その時、モニターにネフィリムの心臓からショッカーの鷲のマークが映る。

 

「これは首領」

 

地獄大使の発言にマリア達はモニターに注目した瞬間、エアキャリアのミーティングルームの電気が消え赤い光に照らされる。マリアは驚愕し、調と切歌がお互い抱き合う。更にモニターのスピーカーから声がしている筈だが、マリア達にはまるで直ぐ傍で声がしてる気がしていた。

 

ショッカー首領、ショッカー組織においても謎の多い存在として知られている。マリアたちの予想だにしない大物が通信をしてきたのだ。これにはナスターシャ教授は愚か、ウェル博士にも緊張が走る。

 

『フロンティアを手に入れ際すれば最早、隠れて動く必要もなくなる!何としてでもフロンティアを確保するのだ!そして、邪魔する者は全てこの世から抹殺するのだ!!』

 

「「「イーッ!!」」」

 

地獄大使だけでなくミーティングルームの壁付近に立っていた戦闘員たちも一斉に声を出す。その迫力のマリアも調たちも恐怖する。…しかしマリアたちは気付かない、ショッカー首領の声を聞いてからナスターシャ教授とウェル博士の目つきが鋭くなっていたことを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

響が攫われて幾日か、リディアン音楽院では変わらず授業が続く。未来が響の席を見るが当然、響は其処には居ない。学院では響は諸事情により休み扱いにしている。響の席を見るのは未来だけではない、創世や詩織、弓美がたまに響の席を見て先生に注意を受けている。

 

「響…」

 

響の名を呟く未来。思い出すのは昨日の事、仮説本部でだ。

 

『響の捜索が中止!?』

『そうだ…』

 

本部に行っては響の捜索の進展があったか聞く未来だったが、突然の捜索中止を宣言された。弦十郎の済まなそうな表情を見てある程度は察した未来。特異災害対策機動部二課は政府の機関だ。政治家が介入してきたと未来は感じていた。

 

『クソったれが!!』

 

クリスが本部に置いている台を蹴りつける。クリス事態も納得できていない。

 

『…大々的に調査部が動かせなくなったが、今は緒川に任せるしかない…』

 

弦十郎の悔しそうな顔に未来はどうしていいか分からなかった。結局、未来は昨日を境に本部へは行かなくなった。

 

「響…私…どうしたら…」

 

未来は響の居ない席を触りそう呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

エアキャリアを止めている近くに大きな池があり、マリアはナスターシャ教授の乗る車椅子を押して散歩をしていた。

 

「調と切歌は?」

「さっき食料を買いに行ったわ」

 

ナスターシャ教授の質問に答えるマリア。一応、食料はショッカーからも支給されてはいたが、ショッカーから支給された食料が信用できず調と切歌を近くにある大型スーパーに買いに行かせたのだ。尤も、その二人は道草をくっていたが。

 

「そうですか」

「マム、これまでの事でよく分かった。私の覚悟の甘さ、決意の軽さ、その所為でショッカーに利用されて…このままだと…」

 

其処まで言ったマリアはナスターシャ教授の前に回り込む。そして、ナスターシャ教授の顔をはっきりと見て口を開く。

 

「マム、聞いて!わたし…」

「その必要はありません」

 

意を決したマリアが口を開くがナスターシャ教授が止める。マリアの目で何となく分かったのだ。

 

「あなたにこれ以上、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「マム!どうして!?」

 

ナスターシャ教授の言葉にマリアが声を荒げる。それだけ、ナスターシャ教授の言葉が信じられなかった。

 

「あなたは、マリア・カデンツァヴナ・イヴ。フィーネの魂など宿してはいない、ただの優しいマリアなのです」

「マム…」

 

「やはりそうでしたか」

 

二人だけの空間に男の声が聞こえ振り向くと其処には、

 

「ドクター!?違う、これは…」

 

ウェル博士が木の陰から出て来る。その目は何処か怒っているようにも見える。ウェル博士の存在にマリアが慌てて何か言おうとしているが、

 

「ウェル博士、死神博士はどうしました?」

「先生なら、立花響をアジトに持って行き調整するそうです。…ああ、安心して下さい。この辺りに監視カメラも戦闘員も配置されず盗聴器もありません」

 

立花響の名を聞き歯ぎしりするマリア。ナスターシャ教授にも止められ助けられない自分の不甲斐なさを呪う。

 

「そうですか」

「…結局、フィーネの魂はどの器にも宿らなかったんですね」

 

その言葉にナスターシャ教授は「そうです」と呟く。マリアがフィーネという情報は真赤な嘘であった。全てはウェル博士を引き込み、自分達に注目を集め世界の危機を伝える為だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、アジトでは死神博士がショッカーのエンブレムの前に立つ。直後に鷲のエンブレムの胸の部分が光り声がし出す。

 

『死神博士よ、立花響の再改造は順調か?』

「順調の一言です。既に脳改造も終了し、何時でも実戦に出せるかと」

 

その報告に首領の声は実に嬉しそうだ。死神博士は響の再改造を行いその際、脳も完全に改造してショッカーの忠実な人形にしてしまった。

 

「更に、例のSH計画もより質の良い物が揃うかと」

『見事だ、死神博士!これでショッカーが世界を支配する日も近い』

 

死神博士の報告に満足する首領。邪魔者であった響をショッカーの兵隊にして特異災害対策機動部二課の戦力を減らし、フロンティアを手に入れる。ショッカーの目的である世界征服がすぐそこにまできていた。

 

「だが、懸念が一つあるぞ死神博士」

「ん?」

 

しかし、そこで待ったをかけたのは地獄大使だった。地獄大使は死神博士と同じショッカーの大幹部だ。死神博士だけが手柄を上げるのは面白くない。

 

「あのウェルという小僧。本当に信用できるのか、裏切りの可能性はないのか?」

 

地獄大使はウェル博士を今一信用していなかった。ライバルである死神博士の教え子というのもあるが、調査させた結果、ウェル博士は病的な英雄願望がある事に気付き警戒していたのだ。

 

「フフフ…心配はいらん、腕は私が保障する。それに奴は臆病者だ、口では英雄になりたいと言ってるが行動できる気質はない」

 

死神博士はハッキリとそう言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ナスターシャ教授、マリアにはまだ新生フィーネを演じていてもらいます」

「!?何故ですか!」

「それがマリアや僕達の身を守ってるからですよ」

「身を守ってる?」

 

ウェル博士の言葉にナスターシャ教授は疑問の声を出す。フィーネの名が身を守るという意味が今一分からない。それを見ていたウェル博士は溜息をつき言葉を続ける。

 

「ショッカーがマリアにフィーネの魂が無いと知れば直ぐにでもマリアを捕らえて改造人間にします。フィーネの魂はショッカーも欲しがってるので完全に覚醒するのを待っているんです」

「私を改造人間に!?」

 

その言葉にマリアは自分を抱きしめ震える。脳裏には医務室で見たバラバラにされた響の姿が過る。自分もあんな風にされるのではと恐怖を感じていたのだ。

 

「ショッカーにとって、まだ『フィーネ』にはそれだけの価値があるんです。そしてそれが僕達の生命線でもある」

「そう…ですか」

 

ウェル博士の言葉を聞いて納得するナスターシャ教授。今はまだショッカーとの敵対は望むものではない。ここは暫くマリアにフィーネを演じさせるしかないと判断する。

 

()()()ドクター、あなたの目的は一体…」

 

しかし、マリアはウェル博士の言葉に引っ掛かりがありその疑問を口にする。

 

「丁度いいですね、ドクターウェル。貴方の目的を彼女にも教えたらどうですか」

「…まあいいですか。他言無用でお願いしますよ、僕の目的はショッカーを表舞台に引きずり出し先生…死神博士を倒す事です」

 

 

 

 

 




死神博士の響の再改造シーンはSPIRITSの四巻の村雨良と三影英介(タイガーロイド)の改造シーンがモデルですね。

次回は英雄願望の塊であるウェル博士が何故ショッカーと一緒に行動してるのかという話ですね。


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49話 英雄になりたかった男

 

 

何時からだろうか?

        僕が英雄に憧れる様になったのは?

 

母に寝物語を聞かされた時?

         消防士である父が救助者を助けようとして死んだ時?

      単純にジャパニメーションやアメコミを見た時だろうか?

 

おぼろげな記憶の中、僕は何のために英雄に憧れたのかは、分からない。それでも気付いた時には漠然とした英雄願望が僕の心にあった。

子供の頃はまだ良かった。子供の僕が英雄になると言ってもクラスメイトや大人たちは英雄に憧れる少年として見られた。しかし、それも年を経る内に痛い奴扱いされ出した。そうなったら二つのパターンしかない、虐められるか無視されるかだ。

 

僕は運が良いのか悪いのか分からないが無視の方だった。基本的には誰も僕には関わりたく無かったんだろう。僕の英雄発言は悉く無視され居ない者扱いされた。だけど、僕の頭は良い方だ。僕を仲間外れにする馬鹿たちをこれで見返してきた。

 

だから、僕は頭の悪い人間は嫌いだしそれでいいと思っていた。転機が訪れたのは僕がとある名門大学に入学した時だった。入学試験で僕と同じ満点をとった奴が居たんだ。最初は面白く無かったけど、そいつはやけに僕に絡んでくる。面倒くさい奴だと思っていたが付き合っていく内に友人と呼べる関係になるのに時間は掛からなかった。僕とそいつが組めば怖いものなしと言えた。たぶん、僕の初めての友人といえた。

 

しかし、僕は知らなかった。僕の通ていた大学は裏ではショッカーの幹部養成所も兼ねていた事を。

 

 

 

 

 

 

 

 

日の暮れた闇の空に透明な何かが飛ぶ。姿を消したFISのエアキャリアだ。中にはマリア達の他に死神博士も乗っている。向かっているのはナスターシャ教授が確認したフロンティアのあるポイントへと向かって海上を進んでいる。

 

エアキャリアを操作しているマリアは先程のウェル博士とのやり取りを思い出す。

 

 

 

「ショッカーを表舞台に引きずり出す?」

 

ウェル博士の言葉を繰り返すマリア。その目は完全にウェル博士を怪しんでいた。

 

「信じられないのは当然ですね」

 

ナスターシャ教授の言葉に頷くマリア。元はと言えば自分達がショッカーと手を組む原因を作ったのはウェル博士なのだから。そんな博士の口からショッカーや先生である死神博士を倒すと言ったのだ、信じられる訳が無い。

 

「…まあ疑うのも仕方がないですね。僕が君達をショッカーに連れて行った…実質、ショッカーに売り飛ばしたんですからね。ですがそれにも理由があるんですよ。…これを」

 

眼鏡を触るウェル博士は懐から何かを取り出しマリアに投げ渡す。

 

「これは…携帯端末?」

 

それは何処にでもあるような記録や映像を取る携帯の端末だった。よくは分からないがマリアがスイッチを入れると其処には幾つもの文字と人物の写真が写っている。

 

「これは…!?」

「…予想より随分と大物が多いですね」

 

端末に映る人物たちはマリアですら知る大物が多い。政治家、研究者、財閥家、軍人、独裁者、犯罪者と多種に渡る。その中には世界経済に関わる者も多い。

 

「ドクター!?これって…」

 

多岐にわたる人物の写真や名前を見続けたマリアはウェル博士に聞く。額から出る脂汗にマリアも何となく察したんだろう。

 

「お気づきの通り、ショッカーの協力者ですよ」

 

端末の情報にはショッカーの協力者の名簿であった。資金の提供者から脅迫、賄賂、人質、洗脳など様々な状態でショッカーに協力させている。これを見て、マリアはショッカーの強大さを改めて思い知る事になる。

 

「これだけの人間が…」

「僕の調べた限り、それだけでも三分の一程度ですよ。あと少し、時間を稼げば協力者の殆どを白日の下に晒す事が出来ます」

 

ウェル博士はショッカーを白日の下に晒す為に、先ずはショッカーに協力する人間達を探ったのだ。勿論、幾ら死神博士の弟子とはいえ新人であるウェル博士がショッカーのメインコンピューターへのアクセスの権限など渡される訳が無い。だからこそ、前々からナスターシャ教授に誘われていたフロンティアをエサにしたのだ。死神博士や首領からの信用を得られたウェル博士は少しずつであるがショッカーのコンピューターにアクセスし協力者の情報を得ていたのだ。

 

「しかし、ドクターウェル。これだけの人間だけでも世論は混乱する可能性が高いのにまだ調べるのですか?」

 

只でさえ、端末の情報だけでも大物が多い。それらを一気に晒せば世界は大混乱に陥るのではと、ナスターシャ教授が懸念していた。それだけ、経済にも政治にも精通してる者が多かったのだ。

 

「でしょうね、しかしこのままショッカーを野放しにすることも出来ないのは事実です。何よりショッカーに協力した者は軒並み退場して貰わないと。…でないとフロンティアを手に入れたら…あなたたち殺されますよ」

 

その言葉に息を飲むマリア。ナスターシャ教授も分かってはいる。ショッカーが目的を達成した時、自分達の身の安全の保障など何処にも無い。フィーネの魂を宿したと思っている内はマリアは安全かも知れないが、調や切歌は適合値も低くショッカーにとっても価値は無いに等しい。そして、自分も殺される。

 

━━━いえ、ショッカーは逆らう科学者の脳髄を取り出し知識を無理矢理搾り取ると聞いてます。恐らく私も…

 

ナスターシャ教授自身は十分生きたつもりだ。それこそ、月の落下を止めれるならこの命惜しくないと考える程に…しかし、ショッカーにマリア達を預けて死ぬつもりなど無い。

何かを決意するナスターシャ教授を見てマリアは疑問に思っていた。

 

回想が終わり、マリアがエアキャリアのモニターを見る。目的地までも少しだった。

 

━━━結局、私はもう少しフィーネを演じる事になった。だけど、どうしてあの時、マムは私にフィーネを演じる必要は無いと言ったんだろう。ネフィリムと神獣鏡が揃ったのに…それにドクターを本当に信用して良いのだろうか?

 

マリアの胸には未だにウェル博士への疑念があった。FISに居た時でも臆病ではあったが英雄願望の塊でもあったドクターが本当にショッカーと敵対するのか疑問であった。

 

 

 

 

 

一方、そのウェル博士はエアキャリアの片付けられた医務室で調や切歌の診断をしていた。ベッドの上に横たわる切歌の体を幾つもの光りが通る。傍にあるモニターでウェル博士と死神博士が数値の確認をする。

 

「オーバードーズによる数値も安定してますね。もう大丈夫でしょう」

 

ウェル博士の言葉に横たわっていた切歌がベッドに座りなおす。LiNKERを使った代償といえる、マリアや調、切歌の適合値は低く、LiNKERで底上げしてるのが現状だ。しかし、そのLiNKERも安全という訳ではない。ウェル博士の改良で大分安全にはなっているがそれでもLiNKERは、装者にとっても負担が大きいのだ。ウェル博士にはその為の治療や維持と管理が仕事でもある。

 

「よかった、これで私達も戦えるね」

「…はいデス」

 

調の治療も終え二人でまた戦える事に喜ぶ。しかし、切歌の反応がよくなかった、まるで心ここにあらずの状態だった。

 

━━━あの力は一体。…あれではまるであたしが…

 

切歌が何を考えてるのか、それは少し前の事だった。大型スーパーで食料を買った二人は解体途中で放置された工事現場で昼食を取っていた時に、不運にも廃材や鉄筋が自分達に落ちてきたのだが、調を庇った切歌が腕を翳してるとピンク色に輝く膜の様な物が自分達を覆い鉄筋や廃材から身を守ったのだ。

切歌はその力が何なのかが分からず悩んでいたのだ。そして脳裏にとある人物が浮かび切歌の呼吸が乱れる。これにより切歌は一人悩み続ける事になる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、特異災害対策機動部二課のトレーニングルームでは三人の人影があった。翼にクリス、弦十郎だ。響が連れ去られて以来、三人はトレーニングルームでひたすら訓練をしていた。

 

「ハア…ハア…おっさん、もう一丁!」

「クリスくん、詰め込み過ぎだ。少し休め!」

「まだまだ…こんなんじゃ怪人の一体さえ倒せねえ!こんなんじゃ、アイツを取り戻す事だって…」

 

肩で息を切らすクリスを見て弦十郎が休むよう言う。それは翼にも言える事だった。

現在トレーニングルームではシンフォギアを纏った翼とクリスが弦十郎との組み手を数時間もしていた。

響が攫われて以来、翼は全ての仕事をキャンセルしてクリスと共にトレーニングルームでひたすら己を鍛え続けていた。弦十郎自身もショッカーの怪人が強くなってる事は分かっているし、翼やクリスの気持ちは痛い程分かる。

 

「翼、お前もだ。少し休め」

「いえ、全ては不甲斐ない剣である私の所為です。私がもっと強ければ立花が攫われる前に助ける事だって…」

「そんなもの結果論でしかない!」

 

翼とクリスは来る日も来る日も特訓に明け暮れていた。流石に学院には行っているが戻れば寝る間も惜しんでトレーニングした事で弦十郎が強制的に眠らせた事もである。

 

━━━今はまだ、ショッカーもノイズも現れて居ないが…こんな調子で戦えるのか?響くん抜きで…

 

二人を気絶させた弦十郎の脳裏にそんな考えが過る。二人が確実に強くなってるのは弦十郎も認める。しかし、それ以上に二人のメンタルはボロボロと言えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

エアキャリアがとあるポイントでホバリングする。計器には大陸なような物が映り音を出すが海上にはそれらしいものは見えない。

 

「この辺りにあるのか?」

「はい…マリア、お願いします」

 

死神博士の言葉に答えるとナスターシャ教授はエアキャリアの操縦席に乗るマリアに指示を出す。マリアが手元のスイッチを入れるとエアキャリアから何かが発射され上の部分から回転翼が生えて飛んで固定し下の方からパラボラアンテナのような物が出来る。

 

「シャトルナイト、展開を確認」

「ステルスカット、神獣鏡のエネルギーを収束」

 

直後に、飛んでいるエアキャリアのステルスが解かれてその姿を現す。そして、展開したパラボラアンテナの位置にエアキャリアを移動を調節する。

 

「ふむ、これが長野県でフィーネが強奪した神獣鏡(シェンショウジン)という聖遺物か」

 

「はい、長野県皆神山から出土した神獣鏡とは鏡の聖遺物」

 

死神博士の言葉に返答するナスターシャ教授。そして、神獣鏡の説明を続ける。

 

「その特性は光を屈折させて、周囲の景色に溶け込む鏡面めいたいと古来より伝えられる魔を祓う力。聖遺物由来のエネルギーを中和する神獣鏡の力を以てしてフロンティアに施された封印を解除します」

 

エアキャリアから球体の様な物が出る。その中心には穴らしき物があり、その穴は展開してるアンテナに向かっている。そして、引き金に手をかけるナスターシャ教授。

 

「フフフ…魔を祓う力をショッカーが利用している。考えただけで面白くならんか?」

 

「それは皮肉?」

「…面白くない」

「デース」

 

死神博士の言葉に嫌々反応するマリア達。そんな、マリア達の反応に不気味な笑みを浮かべる死神博士。エアキャリアのコックピットの温度が下がったような気がしたウェル博士がナスターシャ教授には無い掛ける。

 

「…フロンティアの封印を解けるという事はその存在を露にする事。まだ準備が終わってないのでは?」

「心配は無用です。リムーバーレイ・ディスチャージ」

 

神獣鏡の設置している箇所が輝きを増し、直後にナスターシャ教授が引き金を引く。瞬間、エアキャリアの球体から紫色の光りが飛び出し、アンテナに当たると跳ね返り海中に吸い込まれるように撃ち込まれる。海中でも減退しない光はそのまま海の底へと向かう。

 

「これで、フロンティアに施された封印が解けるのだな」

「はい、その筈です」

 

紫色の光は海底に置かれてる棘のような物に当たり直後に海底から夥しい量の泡が出る。海上でも水しぶきが激しく上がる。…それだけだった。やがて海面の水しぶきも治まり辺りにエアキャリヤのホバリング音以外の音が消える。

 

「…何も出ないな」

「封印が解けなかったという事でしょうか?」

 

マリアとナスターシャ教授は予想通りといった顔をし、調と切歌は少し驚いていた。

 

「出力不足です。いくら神獣鏡の力と言えど、機械的に増幅した程度ではフロンティアに施された封印を解くまでには至らない」

「あなた、知っていましたね!聖遺物の権威である貴女がこの地を調査しといて何も知らないとは考えられない。この実験は今の我々ではフロンティアの封印解放するには程遠いという事実を知らせる為ですね!」

 

ナスターシャ教授の言葉と態度にウェル博士が怒気に満ちた声を翳して訴える。横目でその様子を見ていた死神博士は泡の吹き出した海面に目をやる。それを確認していたナスターシャ教授が笑みを浮かべると怒気に満ちていた顔のウェル博士も口の端を吊り上げる。

 

ナスターシャ教授とウェル博士のやり取りは全て芝居だった。死神博士の前でわざと不仲を演じてそれぞれが別に動くように見せかける。フロンティアの封印もウェル博士には予め知らされていた。これで、死神博士にナスターシャ教授とウェル博士は仲違いしてると思わせたのだ。

 

「地獄大使、そちらは如何だ?」

 

海上を眺めていた死神博士は懐から通信機を取り出し話しかける。マリアもナスターシャ教授もウェル博士ですらアジトに居る地獄大使に話しかけたのだろうと考えた。

 

「此方でも確認した。ギリザメスやシオマネキングを出して調査させている」

 

通信機からの返事にマリア達が驚くと同時に海面が浮上し何かが出て来る。それは外の夕闇にも負けない黒の細長い楕円形の人工物で細長い二本の大砲を装備した物体。

 

「潜…水艦…」

「ショッカーはあんな物まで…」

 

それは、ショッカーのマークが入っている潜水艦だ。何時の間にかエアキャリヤは潜水艦につけられていたのだ。恐らく、死神博士が何かしていたと分かるがナスターシャ教授にもウェル博士にもそのカラクリが分からない。

 

その数分後、再び死神博士の通信機から声がした。

 

「あったぞ。シオマネキングが海底に受信装置らしき物を見つけた。それから海底調査をして巨大な何かが沈んでる事も分かったぞ。だが、海底での発掘は骨が折れる。この大きさでは以前の海底でのウラニウム鉱脈の時の様にはいかんそうだ」

 

「ウラニウム鉱脈?」

 

通信機からの言葉にマリアは思わず呟く。ショッカーには海底でも活動出来る怪人が何人も居る。その怪人達に調査をさせたのだろうとマリアも考える。だが、どちらにしても怪人達だけではフロンティアの封印を解く事は出来ない。額に汗を掻きつつナスターシャ教授とウェル博士は内心ホッとしている。

 

「そのような方法を使わなくても手はある」

 

地獄大使の通信に返答する死神博士はエアキャリアに取り付けられていた神獣鏡を取り出す。ペンダント状になっている神獣鏡を眺め言葉を続けた。

 

「要は機械的ではなく装者を用意すればいいだけの話だ。適合値など私が作り上げたSHOCKERを使えばどうにでもなる。…それこそ、この場に居る小娘どもを使うのも有りだ」

 

調と切歌は死神博士の冷たい眼差し背筋を震わせる。マリアもナスターシャ教授、ウェル博士も額に汗が流れる。死神博士がその気になって強硬手段にでれば誰も止めれるとは思えなかった。尤も、死神博士にまだその気はなかった。

 

「まあ、いい。調査も終えたし、ポイントも記録した。ワシはアジトに戻り首領に報告してくる。」

「分かった、ならば我々も一旦戻る事にしよう」

 

通信を終えた死神博士はマリアに戻る様伝える。地獄大使の潜水艦が沈み、再びその場はホバリング音がするだけになる。それを確認したマリアもその場を後にする。結局、マリアたちはショッカーにフロンティアの場所を教えてしまっただけだった。

しかし、死神博士を見ていたナスターシャ教授はある事を決める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時間が過ぎ、日が昇る。

特異災害対策機動部二課仮説本部では弦十郎にある報告が耳に入る。

 

「米国政府の月軌道が嘘だった!?」

「はい、NASAが発表している月の公転軌道には僅かながら差異がある事を確認しました」

「誤差は非常に小さい物ですが間違いありません。そして、この数値のズレが齎すものは…」

 

特異災害対策機動部二課や日本政府の所有する全てのスーパーコンピューターを動かして計算させた数値が知らされる。その内容はFISのウェル博士が言った通りであった。

モニターには地球を回る月の公転軌道が映し出されており赤い線が地球へと伸びている。

 

「ルナアタックの破損により月の公転軌道のズレは、今後数百年の間は問題ないと言う米国政府の公式見解を揺るがす事になったな」

 

『僕達の目的は月の落下にて損なわれる無辜の命を可能な限り救い出す事だ』

 

あの時、ウェル博士の言葉が脳裏に過る。FISは兎も角、ショッカーが本当に人々を助けるかは疑問だ。

 

「遠くない未来に落ちて来るからこそFISは動いていたのか。…なら、ショッカーは…」

 

ショッカーの目的は別にあるのではと考える弦十郎。

 

━━━考えろ、考えるんだ。あのショッカーが目的にしているのは…ネフィリム?死神博士自身が暴走する響くんに押されて落胆していたから違うか?ならば…

 

「フロンティア…?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、スカイタワーのとある階のエレベーターが止まって開く。その中から車椅子に乗るナスターシャ教授と車椅子を押すマリアが出て来る。二人の他に人影は無い。地獄大使はフロンティアの封印されてる海域の報告の為に本部へと向かい、死神博士は響の調整でエアキャリヤを離れていた。護衛兼見張りの戦闘員が何体か居たが上手く誤魔化してスカイタワーに来ていたのだ。

 

「マム、この階?」

「そうです」

 

エレベーターを降りたマリアは車椅子を押し、ナスターシャ教授が指定する部屋へと移動する。その間にマリアの脳裏にナスターシャ教授のあの言葉が蘇る。

 

『あなたにこれ以上、新生フィーネを演じて貰う必要はありません』

 

「…マム、あの言葉は…」

「今更だと怒りますか?…全ては私の責任です、優しいあなたにテロリストの真似事をさせて…虐殺者の汚名を被せて…挙句の果てにショッカーと手を組んだ。それでも…私達がなすべきことは月が齎す災厄の被害をいかに抑えるか。…違いますか」

「つまり今の私達やショッカーじゃ世界は救えない?」

「ショカーの技術は確かに凄まじいの一言です。しかし、あの思想は私達にとっても…人類にとっても危険です」

 

二人が喋りながらある一室の部屋の扉の前に立つ。此処が最終目的地だった。扉が自動で開きマリアは車椅子を押して中に入る。

 

「!?」

 

入った直後にマリアは息を飲む。其処には黒服とサングラスをつけた男たちが何人も立っていた。一瞬、特異災害対策機動部二課の職員かとも思ったがよく見ればアメリカ政府のエージェントたちだった。

 

「マム、これは!?」

「米国政府のエージェントです。講和と取引をする為に私の古い友人に連絡して来て貰いました」

「古い友人?」

「通常の職員ではショッカーの息がかかってる可能性があります。安心して下さい、私の古い友人は政府の高官ですが正義感の強い人でショッカーに脅されても絶対に屈しない信念の強い人です。その人が厳選したエージェントたちと取引をします」

「ショッカーを裏切るの?」

「一応、ドクターウェルには通達しています。何より、このままではマリアが会場での虐殺者のままになってしまいます。…仮にショッカーに気付かれても最悪、私の独断でマリアを巻き込んだというストーリーになっていますから…では取引を始めましょう」

 

そう言ってナスターシャ教授は車椅子を動かし机に陣取った。

 

 

 

 

 




ウェル博士の過去を勝手に捏造。ウェル博士の過去やバックボーンってろくに語られてないよね?アメリカだと警察より消防士が英雄視されるそうなので父親の仕事に。

一応、特訓で翼もクリスも強くなってます。…ただメンタルが…

スカイタワーに水族館があるのかと思ったら響が思いっきりスカイタワーって言ってた。

ところで、仮面ライダーアマゾンのギギの腕輪とガガの腕輪ってシンフォギア世界でも完全聖遺物扱いされますかね?劇中オーパーツって言われてるし。


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50話 死神博士、恐怖の罠

 

 

 

薄暗い屋内、幾つもの魚の遊泳を見ていた未来。水槽を見て行き交う人々の中、ただ一人だけ未来は立ち止まり、泳ぐ魚を見続けていた。その内、一匹のマンボウが未来の方に近づく。

 

「あなたも一人?」

 

ガラス越しにマンボウに触れようとするが当然触る事は出来ない。未来は現在、一人でスカイタワー設置された水族館に来ていた。

 

━━━本当なら此処には響と一緒に来る筈だったのに…

 

響が攫われてから数日、今日は以前に響に言っていた遊びに行く日でもあった。特異災害対策機動部二課に行く事が無くなったが引き籠りになる気もない。結局、未来は響と遊びに行こうとしていた場所を一人で回る事にした。

 

「響…今…何処に居るの…」

 

一年半、行方不明になりやっと会えたと思ったらまた目の前から消えてしまった。それが未来にとってショックだった。気付いた時にはマンボウも別の場所を泳いでいる。後ろ髪を引かれつつ未来はその場を後にする。

 

 

 

 

 

 

 

エアキャリアを止めている、とある森林地帯。そこの木の陰に切歌が座り込み何かを考えていた。

 

━━━リインカーネイション…もしも私にフィーネの魂が宿ってるなら…私の魂は消えてしまうデスか?

 

切歌は以前に工事現場で起きた不思議な力の原因を考えていた。結論は全て自分がフィーネの器なのでは?という物だった。

そこまで考えた切歌はそこでハッとする。

 

━━━でもおかしいデス。私がフィーネの器ならマリアは?

 

ナスターシャ教授やマリア曰く、フィーネの器はマリアの筈だ。その事に疑問に思う切歌だったが、他に理由らしい理由は考えられない。

 

「切ちゃん、ご飯の支度が出来たよ」

 

その時、昼食の用意を終えた調がエプロンを身に着けて切歌を呼びに来た。

 

「あ…ありがとうデス。今日のご飯は?」

「298円とオニギリ」

「ご馳走デス!」

 

調が来たことで戸惑う切歌だったが調にご飯の内容を聞き嬉しそうに立ち上がる。ただそんな気分も自分達を見張る戦闘員の姿が見え少し萎える。

 

「ドクターは?さっきから見当たらないけど」

「知らないデス。アイツの顔なんて見たくもないデス!ご飯ご飯♪」

 

ウェル博士の姿が無い事に気付いた調が切歌に聞くが切歌も知らなかった。戦闘員ならウェル博士の行方を知ってるかも知れないが、一人で戦闘員に喋る気にはならず調は切歌の後を追う。

 

「…?」

 

嬉しそうに移動する切歌を見て僅かな違和感を感じる調。何処か無理してるようにも見えて少し気になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これに異端技術とショッカーの情報が?」

「はい、私達が掴んだショッカーの情報です」

 

米国政府のエージェントがマリアから手渡された情報チップを見る。

 

「取扱いに注意してください。それから…!?」

 

ナスターシャ教授が喋ってる途中にエージェントは手渡されたチップを床に落とし踏みつぶす。チップは破壊され、外枠が壊れ中身が露になる。

 

「マム!?」

「…何のつもりですか?私の友人があなた方の上司だと知っての事ですか?」

 

いきなりの行動に二人が唖然とするがエージェントたちは懐から拳銃を抜きマリアたちに着きつける。

 

「お芝居はそこまでだ。ナスターシャ教授にマリア・カデンツァヴナ・イヴ、お前達を国家反逆罪で逮捕する!何よりこれは上司の命令でもある!」

 

「「!?」」

 

ナスターシャ教授もマリアもエージェントの言葉が理解出来なかった。

 

「どういう事ですか!?私達はただ…」

「まだとぼける気か?我々はとっくにお前達がショッカーに組してるのは知っている!今回の会合も我々を始末する為に来たのだろうが、そうはいかん!!」

「誤解よ、私達は!」

 

マリアが弁解しようとするが、黒服のエージェントの一人が一枚の紙をテーブルに乗せマリア達の方に流す。その紙が手元に来たマリアとナスターシャ教授が覗き込む。瞬間、息を飲む。

 

それは一枚の写真であり、死神博士と怪人、そしてマリア達が映っている物だった。

 

「この写真は!?」

「我が国の諜報部を舐めるな!ショッカーの大幹部と目される男と改造人間にお前達が映っているのが最大の証拠だ!」

「違います!私達は…」

「問答無用!抵抗するなら射殺する!」

 

エージェントたちの怒気で本気だと気付くマリアは咄嗟にガングニールのペンダントを握る。最早一触即発の空気だった。

 

━━━何故…こんな事に…まさか、死神博士がすでに手を!?

 

そこまで考えた時だった。ふと外で何かが飛んでいる気配を感じて外を見る。そこには、

 

「ノイズ!?」

 

まるで渡り鳥の群れの様にノイズが飛び交っていた。その内に何体かが窓をすり抜けエージェントたちに襲い掛かる。

 

「うわああああああ!!」

「ナスターシャ教授め、やはり罠だったのか!!」

 

エージェントたち怒号と悲鳴が木霊する。ナスターシャ教授は唖然としているマリアに「逃げますよ」と言ってその部屋から脱出する。

 

━━━あの場でのノイズなどと…やはり死神博士が…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「出し抜くつもりが逆に出し抜かれる。実に滑稽だと思わんか?ウェル」

「は…はい…」

 

スカイタワーのよく見えるカフェテリア。客は二人の男性しか居なが其処からならノイズが飛び交うスカイタワーが観察できる。

その二人の人物こそ死神博士とウェル博士の二人だった。死神博士前にウェル博士の顔色が悪い。

 

「ナスターシャ教授め、貴様の古い友人はとっくに我々の手の者と入れ替わっている事に気付かんとはな」

 

注文したコーヒーを啜った後に呟く。ナスターシャ教授の言っていた古い友人は既に殺されショッカーの息のかかった者に変装させていたのだ。今回の事もナスターシャ教授の連絡を工作員が死神博士やショッカー本部に伝えたのが原因でもある。

 

「だが、まあいい。丁度、邪魔な連中も処理しようとしていたのだ。手間が省けたと思う事にしよう」

 

そして、ナスターシャ教授の行動を死神博士は逆に利用した。ショッカーの動きを邪魔しようとする米国政府の犬どもをマリア達の下に集めさて互いに潰し合わせようとしたのだ。目論見通り、策は成功した。マリアが嫌がろうが米国政府のエージェントたちはマリア達を捕縛するか射殺する流れになっている。そして、よりマリア達に疑いを持つようノイズも投入したのだ。

 

「し、しかし先生、このままではナスターシャ教授は愚かマリアまで炭素の塊になってしまいます」

「この程度で生き残れんようでは結果は同じよ。それにサンプルも手に入れている、問題ない」

 

死神博士がノイズを出したのはマリアたちを助ける為ではない。別段、マリアがにノイズに殺され炭素化しても構わない。調も切歌もそれで逆らう様なら殺害してシンフォギアのペンダントを手に入れてしまえばいい。何しろフロンティアの場所は既に掴んだ以上、生かして置く価値はない。

 

地獄大使がマリアの血液を大量に取り、必要とあればそこからクローンを作ればいい。それこそ立花響のように。それにショッカーには炭素化した人間を復活させる「スーパーXアルファー液」もある。既に目ぼしい人間の炭素も十分集め復活させている。唯一困るのはマリアの中のフィーネの魂が別の器に移動するくらいだ。

 

死神博士の冷酷な言葉にウェル博士の顔色は更に悪くなる。

 

 

 

 

 

 

 

「うわああああああ!!」

 

また一人、エージェントがノイズに炭素にされる。マリア達を拘束しようとしていたエージェントたちの大部分は既に炭素化されてしまった。

そこまで見ていたマリアはようやく聖詠を口にする。

 

Granzizel bilfen gungnir zizzl

 

この胸に宿った 信念の火は

誰も消す事は出来やしない 永劫のブレイズ

 

ガングニールを纏ったマリアが次々とノイズを倒していく。丁度、最後のエージェントを襲おうとしていたノイズも倒しその場でのノイズは殲滅した。

 

「早く逃げなさい!」

 

助かったエージェントにナスターシャ教授が声をかける。このノイズの襲撃は間違いなくショッカーに自分達の行動が気付かれてると考え生き残ったエージェントに逃げるよう言う。しかし、生き残ったエージェントはサングラス越しにマリアたちを睨みつける。

 

いま例えこの身を焼き尽くそうと

信ず我が道の為なら 天になってもいい

 

「ふざけるな!どうせ俺も殺す気だろ!騙されないぞ!」

 

そう言って、マリアとナスターシャ教授に発砲するエージェント。マリアは咄嗟にマントでナスターシャ教授を庇う。銃弾はマリアのマントに弾かれ二人は無事だった。

 

「あなた…いい加減に…」

 

血を抜かれた影響かよろめくマリアだったが直後にエージェントの上からノイズが降りてきて最後のエージェントも炭素になる。エージェントたちは全滅した。

 

「マリア、直ぐに逃げますよ、ノイズが飛んでる以上第二派が来る可能性が高い」

 

ナスターシャ教授の言葉に頷くマリア。自動ロックされたドアをガングニールで突き破る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その衝撃はスカイタワーの展望デッキにも伝わる。

 

「何?」

 

丁度、展望デッキに居た未来が呟く。他の観光客も一旦足を止めて何事かと伺う。その時、空を飛び交う何かに気付く。渡り鳥でも飛んでるのかと思ったが、

 

「ノイズだッ!!」

「逃げろ。シェルターに避難しろ!」

 

誰かがノイズだと言うと展望デッキに居た観光客が一斉に逃げ出す。そんな中、未来はノイズを見て考え事をしていた。

 

━━━ノイズ!?もしかしてソロモンの杖の?ならショッカーが近くに…!

 

そこまで考えた未来は移動を開始する。スカイタワーの職員が誘導する階段とは別の場所から降りる未来。

 

「響…待ってて!」

 

目的は立花響を見つける事だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、マリアはナスターシャ教授の車椅子を押して移動していたが瓦礫に何度も足を取られマリアは途中でナスターシャ教授を肩に担いで移動する。

 

涙などいらない 無双の一振りよ

覚悟を今構えたら 誇りと契れ

 

道中、邪魔なノイズをガングニールの槍で次々と倒していくマリア。その活躍によりスカイタワーの各所から爆発が起こる。

 

 

 

 

その光景を茫然と見つめるウェル博士。各所から火の手が上がりスカイタワーの惨めな姿をしていく。更に飛行ノイズまで突撃して爆発する。

 

「フム、派手にやっているようだな。ならば選手交代といくか」

「…交代?」

「アメリカのネズミどもが武装して入り込んだ。ネズミ同士潰し合わせる、効率的だろ?」

 

死神博士は策略でマリアたちとアメリカ政府のエージェントを嵌めたのだ。エージェントたちに偽の情報を送りマリアたちと敵対させて潰し合わせる。どちらが勝とうと死神博士には痛くも痒くもない。

ウェル博士はただ黙ってスカイタワーを見守る事しか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

誰(た)が為にこの声 鳴り渡るのか?

そして誰(た)が為にこの詩―うた―は 在ればいいか?

 

エレベーターから次々と武装したエージェントが現れマリア達に銃弾の雨を降らせる。マリアたちもマントでガードしつつ、槍や足で武装したエージェントの意識を奪う。

 

「マリア、待ち伏せされてる可能性があります。上の階から逃げましょう」

 

もう何も失うものかと決めた…

想いを重ねた奇跡よ 運命―さだめ―を蹴散らせ

 

担いでいたナスターシャ教授の言葉にマリアは頷くと階段へと続くドアを蹴破って階段を昇っていく。

その道中にも何度か、武装した米軍と交戦するが銃弾の殆どはマントに弾かれてマリア達は無事だった。

 

鼓動打つ命達 戦うその背に

独奏―カデンツァ―の あるがまま 束ねよ愛を

 

しかし、そこで思わぬトラブルがマリアを襲う。米国政府のエージェントの銃弾にノイズから逃げていた一般人が巻き込まれる。

 

「うわ!?」

 

銃弾を背中から喰らった一般人は倒れ込む。これには米国政府のエージェントも「しまった!」や「shit!?」と呟き銃撃を一旦停止する。彼らとてワザとではなかった。銃撃の最中に一般人がマリアの方に逃げて流れ弾が命中してしまったのだ。一般人を巻き込む気など彼らにはなかった。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だがどういう訳か一般人の観光客が訪れ巻き込まれたのだ。

 

巻き込まれ射殺された一般人を見るマリア。その顔はとても驚愕してる表情だった。

 

「マリア…」

 

その姿を心配そうに見るナスターシャ教授。思わずマリアの名を呟くが、マリアの口から「……せいだ」と聞こえた。

その時、他の場所からこの階にきたエージェントが合流する。

 

「何をしている、撃つんだ!」

「し…しかし、我々は一般人を…」

「それがどうした!?あの女を放置すればアメリカも…世界も危ないんだぞ!!」

 

その言葉が効いたのかエージェントたちは再びマリアに向け銃弾を撃ち続ける。だが、その悉くはマントに弾かれマリアの体に届かない。

 

「全ては、フィーネを背負えなかった私の所為だ!!」

 

叫ぶように言うとマリアはエージェントたちに飛び掛かる。

其処からは最早一方的であった。マントや蹴り、ガングニールの槍で次々とエージェントを倒していく。しかし、その顔にはエージェントの出した血がクッキリと残っており、マリアの目から流れる涙と一緒に流れる。そして、マリアはナスターシャ教授を抱え更に上に行く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ネズミが上へと逃げるか?だが直ぐに他のネズミも追っていくぞ。…チッ、思いのほか早いな」

 

マリアの動きを監視していた死神博士が舌打ちをする。

 

「先生、何が早いんですか?」

 

スカイタワー爆発を見ていたウェル博士がそう聞く。それに対して死神博士はただ「下を見ろ」と言うだけだった。言われた通り下の方を見るウェル博士。そこで見たのは、

 

 

 

 

 

 

 

 

時間は少し巻き戻る。

スカイタワーの出入口にショッカー戦闘員が集まる。目的はマリアが仕留め損ねた米国政府のエージェントの抹殺。そこに二体の怪人が姿を現し戦闘員に命令する。

 

「キイィィィッ!用意は済んだのか?」

「コカカカカカッ!要は邪魔する人間どもを殺せばいいんだろ!さっさと行こうぜ!」

 

一体は、廃工場の時にアメリカの特殊部隊を抹殺したドクモンド。もう一体はヘルメットの様な顔をしつつ緑色のカビを纏った怪人だ。

それぞれが、スカイタワーに入ろうとした時、「イーッ!?」と言う戦闘員の悲鳴が聞こえると共に自分達の背後に倒れる。戦闘員がドクモンドたちに手を伸ばすが直後に力尽き緑色の液体になり消滅した。

 

「チッ、敵襲か!?」

「お前達も散らばって敵を探せ!」

 

敵襲と判断した二体の怪人は周囲を見回すがノイズが出た影響で人っ子一人居ない。仕方なく戦闘員をバラけさせて探そうとしたが、

 

「ノイズが出たって急いで来て正解だったな」

「ああ、それに怪人も二体居る。これならアイツの情報だって…」

 

二人の少女の声に戦闘員や怪人が改めて周りを見回す。

 

「外灯だ、外灯の上に!」

 

戦闘員の一人が指を指す。他の戦闘員と怪人が見ると二本の外灯の上に二人の少女を見つける。それは紛れもなく風鳴翼と雪音クリスだった。

 

「貴様は、特異災害対策機動部二課の装者か!?」

 

「お前らに名乗る気はねえ!」

「立花の居場所を吐いて貰うぞ!」

 

「ええい、小娘どもを殺せッ!!」

 

 

外灯から降りると同時に戦闘員達が翼とクリスに襲い掛かる。

 

 

 

 

 

 

 

 

スカイタワーの前に居た戦闘員達を次々と倒す翼とクリス。その様子に舌打ちする死神博士。ウェル博士は翼たちの戦いに自然と拳を握る。

 

「忌々しい小娘どもだ!この短期間で更に力を上げている」

 

ノートパソコンを広げデータを翼とクリスのデータを取る死神博士。戦闘員は新型が多かったが次々と倒されドクモンドと()()()()()も翼とクリスの相手をする。

 

━━━この力量では強化怪人でも危ういか…ならば、アレを試すことにしよう

 

死神博士はデータを取ると同時にある所に連絡を送る。

 

 

 

 

 

 

 

「ハアッ!!」

 

「イーッ!?」

 

翼の剣が戦闘員を切り捨てる。既に何体もの戦闘員を切った剣は未だに輝いていた。

 

「死ねッ!小娘」

 

そこで、カビビンガが自身のカビを千切り翼に投げつける。咄嗟に剣で弾くが、弾いた部分からカビが広がりだす。

 

「なにッ!?」

 

「驚いたか!?俺の殺人カビは人体でなくても浸食し広げる事が出来る。例えそれが聖遺物でもな!」

 

カビビンガは文字通りカビの改造人間だ。それもショッカーが開発した殺人カビと呼ばれるカビであり、人間以外のもカビが繁殖するよう改良を受けている。

 

「なら!」

 

剣に広がるカビを見ていた翼は剣をアームドギアの柄に戻し、別のギアの剣を握る。一瞬驚くカビビンガだがまた体からカビを引き千切り翼に投げつける。しかし、今度は剣で受けたり弾く事もせず脚のブースターで全てのカビを避ける。

 

「何だと、これならどうだ!」

 

カビが全て避けられるのならと隠し持っていた手裏剣を翼に投げつける。その行動に驚く翼だが手裏剣を全て避けてカビビンガへと迫る。手には既に別のアームドギアの剣を握っていた。

 

「初見で避けただと!?」

 

「お前の手裏剣など緒川さんと比べれば児戯に等しい!」

 

特異災害対策機動部二課のエージェントである緒川の教えを受けた翼にはカビビンガの手裏剣など止まって見える。咄嗟にカビビンガが剣を抜こうとしたが、

 

「遅い!」

 

それをよりも早く翼の剣がカビビンガを切り裂いた。剣にはカビビンガを切った拍子に付いたカビがあったがカビビンガが爆発すると付いていたカビも消滅した。

 

 

 

 

 

 

 

 

同じ頃、クリスが戦ってるドクモンドは得意の穴掘りで身を隠しクリスに攻撃を仕掛ける。

 

「コイツ、コンクリートも関係なしかよ!?」

 

「俺にとってコンクリートなど、少々固い土も同然よ」

 

何時の間にかクリスの周りに幾つもの穴が開き、そこからドクモンドが口から糸を飛ばして来る。この糸でクリスを捕らえ穴の中に引きずり込もうとしていた。

 

「これじゃモグラ叩きだ!…待てよ」

 

穴に一々隠れて此方を攻撃してくるドクモンドに苦戦していた時、クリスの頭に一計が思い浮かぶ。

 

「これなら…」

 

 

 

 

「俺の攻撃で披露した頃を見計らって足元から出て俺の穴に引きずり込んでやる」

 

ドクモンドの狙いは穴から穴に移動しつつクリスに攻撃して疲れさせてから足元に穴を作って襲いかかるつもりであった。

 

━━━穴に引きずり込めれば此方のもの。あの小娘の柔らかそうな肉を食ってやるぜ!

 

穴に引きずり込まれ命乞いをするクリスの肉を食い千切り悲鳴を想像するドクモンドだったがそこである音に気付く。シューと言う何か燃えるような音が聞こえる。

 

「苦し紛れに火でも放ったか?」

 

並みの火ではドクモンドを殺すどころか火傷すら負わない。酸欠狙いでも問題ない、酸素の薄い地面の中を活動できるように改造されてるのだ。多少、呼吸が出来なくても活動は出来る。

 

「…音が近づいている?…!?」

 

音が徐々に大きくなってる事に気付いたドクモンドは自分の掘った穴を見続ける。直後に後方に火の明かりがついた何かが自分の方に迫っていた。

 

「小型ミサイルだと!?」

 

 

 

 

 

 

「追尾式だ、馬鹿」

 

地上ではクリスが腰部のアーマーを展開して幾つもの小型ミサイルをドクモンドの掘った穴に撃ち込んでいく。

 

「幾つもの穴から出れるって事は全部繋がってるって事だろ?なら戦りようは幾らでもある」

 

直後に地面が吹き飛ぶと共にドクモンドの悲鳴が聞こえた。

 

「アタシ等の勝ちだ」

 

クリスが横目に翼がカビビンガを切り捨てた姿を捉える。今回は翼たちの勝利といえた。

 

「雪音、そっちは片付いたか」

「ああ、アイツの居場所を聞けなかったな」

「それは仕方ない、戦闘員がまだ居る。アレに尋問してみよう」

 

クリスが怪人に響の事を聞けなかったが翼が残った戦闘員に尋問しようとする。多数の戦闘員と怪人を失ったが、まだ多数の戦闘員が翼たちの前に立ち塞がる。ショッカーが何の目的でスカイタワーに来たのかは知らないが響の情報が得られえると思った。

 

『そんなに会いたければ会わせてやろう!』

 

突如、翼とクリスの通信機から不気味な老人の声がする。

 

「死神博士!?」

 

翼が一瞬で声の主を言い当てる。忘れたくても忘れられない響を攫った元凶だ。

直後に自分たちの背後に轟音が響く。何かが上から降って来たのだ。

翼とクリスが振り向く。最初は土埃でろくに見えなかったが風邪が吹き土埃が消える。

 

「「!?」」

 

翼とクリスが息を飲む。そこにはショッカーに攫われた筈の立花響が制服姿で立っていた。

 

「お前…無事だったのかよ!」

 

クリスが響に近寄ろうとするが翼が手で制止する。クリスは気付かなかったが翼は響の様子がおかしい事に気付く。制止されたクリスが翼を睨みつけたりするが、

 

「目標、風鳴翼及び雪音クリスを確認…殲滅します」

 

響の淡々とした口調にクリスは目を見開く。嫌な予感が当たった翼も直ぐに言葉も出てこない。

 

「変身」

 

その間にも響はシンフォギアを纏う。歌えるようになった後からは全く言わなくなっていた「変身」と言ってシンフォギアを纏う。

 

 

「「!?」」

 

 

翼とクリスは響の姿に息を飲む。

響のシンフォギアは何時も通りと言えた。オレンジ色を主体とした響のシンフォギア。

 

 

違いがあるとすれば響の腰に金色に輝くショッカーベルトがある事だろう。

 

 

 

 




死神博士が上手だったもよう。
原作とは違い、アメリカのエージェントたちは正義感が強く死神博士に利用された設定です。

歌を邪魔されたマリアが今度はちゃんと歌えたもよう。

ドクモンドとカビビンガがアッサリ倒されましたがその分、翼たちがパワーアップしてることで。公式ではカビビンガが一番弱い怪人らしいです。

そして、翼たちの前に予想だにしない敵が…


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51話 悪の歌を唄う少女

 

 

 

聖遺物怪人

 

聖遺物の確保に失敗し続けたショッカーが立花響を捕らえ、その体を調べた結果、発案され改造された響のショッカーでの通称。

 

怪人作りの名人の異名を持つ死神博士の英知を集めて作られた改造人間だ。動植物の能力は移植されなかったが完成度は高く、死神博士の最高傑作と言われている。

 

そして、翼とクリスの前に立つ響こそショッカーの聖遺物怪人の完成形といえた。

 

「お…おい、そんな変なベルトをするなんてお前らしくないぞ」

「待てッ!雪音!」

 

響の姿を見て唖然としていたが、アームドギアのボーガンを消して響に近寄るクリス。翼の静止も無視してドンドン響に近寄る。

 

「本当はショッカーから逃げてきたんだろ?そうだろ!」

 

響が此処に現れたのはショッカーから逃げ出して自分達と合流。脱出を悟られないよう腰にショッカーベルトを付けてるだけだと思いたかった。クリスの言葉を聞き翼の目に涙が流れる。翼もそうだったらどれだけ良かったかと思うほどに響の心配をしていた。

 

そして、気付く。響の僅かな動きが、

 

「何とか言えよ…な「雪音!」あ!?」

 

響に近づいていったクリスだが翼が咄嗟にクリスを抱き抱え地面に伏せる。

突然の行動に驚くクリスだが直後に自分の居た場所に強烈な風が走る。見ると響の拳がクリスの顔があった場所を殴り抜き、その風圧により周辺のビルの一つが崩れた。

 

「嘘…だろ…」

「しっかりしろ、雪音!今の立花は敵だ!」

「アイツは…敵じゃ…」

 

茫然とするクリスに両肩を持って揺さぶる翼。クリスが響は敵じゃないと言おうとしたが、響が一切の躊躇もせずクリスを殺しに来た。即ち、

 

「立花は…脳改造されたんだ!!」

 

翼の悲痛な声にクリスは愕然とする。響が一切の躊躇いも無くクリスを攻撃したのだ。クリスだって分かってはいる、響が殺意を込めて自分を攻撃する筈がない事ぐらい。以前、響が言っていた脳改造の話が本当な直す術は…存在しない。

 

「やるしか…ないのかよ…」

 

拳を避けた翼とクリスに目線を向ける響。意を決したように剣を構える翼にボーガンを向けるクリス。二人共、辛そうな表情であった。

 

『そうだ、殺し合え!殺し合うがいい!!』

 

翼たちの通信機には死神博士の歓喜の声が響く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

突如発生した響と翼&クリスの戦闘だが翼たちが早々に苦戦を強いられる。

攻撃が効かないのだ。勿論、翼もクリスも響を攻撃するのを躊躇ってるのもある。だが、それ以上に響の耐久が圧倒的だった。

 

金属が圧し折れる音と共に翼が手元の剣を見る。刃が完全に折れていた。

クリスはボーガンやガトリングで響を攻撃するが響は回避行動も取らず真っ直ぐに歩く。勿論、矢や弾丸は命中するが響は怯みもしない。

 

「全然効かねえ!?」

「耐久力が今までの怪人の比じゃないぞ!」

 

『聖遺物怪人を今までの怪人と一緒にするでない!私の最高傑作なのだ!』

 

クリスと翼の言葉に死神博士が自慢げに言う。耳障りに思いつつ翼とクリスが響に集中攻撃をする。しかし、回避行動もしてない筈の響は幾つか攻撃をした後に逆立ちをし足を回転させる。

 

「あれは、私の!?」

 

それは、翼の逆羅刹に似ていた。尤も脚部にブレードは無く蹴りの一種でしかないが、ガードした腕に鋭い痛みが走り距離を取る翼。

 

「おい、今の技は!?」

 

『驚いたか!?聖遺物怪人には今までの貴様らの戦闘データも入れ一部を自分の物にしている!更に!』

 

逆立ちをしていた響は立ち上がると両腕を自分の前に持って行きポーズをとる。

 

「!?」

「ボクシングだと!?」

 

それはどう見てもボクシングのファイティングポーズだった。既に足先をジャンプさせステップも踏んでいる。

 

『驚くのはそれだけではない、今はそれだけだが、聖遺物怪人には様々な格闘術をインストールすれば自在に使いこなすことが出来るよう調整されている。私の最高傑作との戦闘を十分楽しめ!』

 

通信が切れると舌打ちをする翼とクリス。響が戦わらされてるのもそうだが、完全に物扱いする死神博士に腹が立っていた。

 

「気を付けろ雪音、アレをもう立花と思うな!」

「本気を出さなきゃ駄目って事かよ…チクショーッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

颯(はやて)を射る如き刃 麗しきは千の花

宵に煌めいた残月 哀しみよ浄土に還りなさい…永久(とわ)に

 

挨拶無用のガトリング

ゴミ箱行きへのデスパーリィー

One, Two, Three 目障りだ

 

二人は歌う。歌いながら響と戦う。あわよくばこの歌で響が元に戻ればと思っても居た。

しかし、二人の歌を聞こうが響は変わらない。喜びも悲しみもない、目にはハイライトも無く戦う為に死神博士に作られた存在。

 

慟哭に吠え立つ修羅 いっそ徒然と雫を拭って

思い出も誇りも 一振りの雷鳴へと

 

ドタマに風穴欲しいなら

キチンと並びなAdios

One, Two, Three 消え失せろ

 

翼が前衛を、クリスが後衛を務め響と戦う。多少、翼の剣が響を傷つけるようにはなったが次の瞬間には回復して逆に翼の顔と腹部に響のパンチを受ける。僅かに体を逸らして致命傷を避けているが翼の口から血が飛び出る。

 

去りなさい!無想に猛る炎

神楽の風に 滅し散華(さんげ)せよ

闇を裂け 酔狂のいろは唄よ 凛と愛を翳して

 

撃鉄に込めた想い

あったけぇ絆の為

ガラじゃねえ台詞

 

それでも必死に歌を唄い戦う翼とクリス。全ては響を取り戻す為だ。

 

 

 

 

 

 

「フフフ…素晴らしいデータだ」

 

そして、ノートパソコンを弄る死神博士もご満悦な表情を浮かべる。今まで翼やクリスの戦闘データを取って来たが今回の戦闘では満足いく成果と言える。そんな、死神博士をよそにウェル博士はただガラス越しに翼たちの戦闘を見守っていた。

 

「聖遺物怪人にもまだ余裕があるな。…なら」

 

途中、響の体の状況を確認した死神博士が別のデータも得ようとする。

 

 

 

 

 

 

 

 

『聖遺物怪人よ、歌う事を許可する。…歌え』

 

「「!?」」

 

死神博士が響に歌えと命令を出す。その通信を聞いていた翼とクリスは驚愕した。歌う事を警戒して響と一旦距離を取る二人。只でさえ苦戦してるのに響に歌えと命令が出るとは思わなかったのだ。何より歌込みの響の強さはよく知っているからだ。

 

風が吹く 見よショッカー

嵐が荒れる 力よショッカー

 

「「!?」」

 

響くの口から何時もの歌ではない歌が唄われ翼とクリスは凍り付く。響は今までショッカーと言うフレーズで歌ったことなど一度も無い。即ち、

 

「ショッカーの歌かよ…」

「立花…」

 

二人は響の口から流れるショッカーの歌に絶望する。もう、響は元に戻る事が出来ないのではと考えてしまう。

 

世界は征服 偉大なショッカー

怪人あやつる 恐怖だショッカー

 

「…そんな歌、歌うんじゃねえ!!」

「立花、お前にそんな歌は似合わないぞ!!」

 

響の歌を阻止する為に翼とクリスが響に躍りかかる。それ程までに響の口からショッカーの歌を聞きたくもなく歌わせたくもなかった。

 

「わがよ誰(たれ)ぞ常ならむ」と 全霊にていざ葬(ほふ)る

迷いを断ち切る術など 覚悟を牙へと変えるしか…知らない

 

Hyaha! Go to hell!! さぁスーパー懺悔タイム

地獄の底で閻魔様に 土下座して来い

Hyaha! Go to hell!! もう後悔はしない

 

邪魔な相手は ゆるさんぞ

出撃 それゆけ 怪人軍

 

しかし、翼の剣が響に圧し折られ、クリスの腹部に響の蹴りが入る。翼とクリスが響と距離を取ると共に歌う声が大きくなったことに気付く。見れば、残っていた戦闘員達も響に続いて歌っていた。

 

「ちくしょう!」

 

その光景を見て悔しそうに呟くクリス。まるで本当に響がショッカーに入ったような錯覚さえする。

 

運命(さだめ)の悲劇の過去を 強く…強くなればいつか斬れると

何故か…何故か…何故か? 涙など要らぬのに

 

守るべき場所が出来たから…

もう逃げない!

 

人呼んで 悪魔のショッカー

人呼んで 悪魔のショッカー

 

翼とクリスの攻撃も歌う響の力は圧倒的だった、天ノ逆鱗も拳に砕かれ影縫いも力技で突破し翼の纏うギアの一部を破壊。飛んでくるクリスの小型ミサイルどころか大型ミサイルを全て破壊しガトリング砲の一つも粉砕する。極めつけは翼に放った拳だ。顎にカスッただけで翼の脳が揺れて腰に力が入らず座り込んでしまう。

 

「おい!」

 

翼に駆け寄るクリスだが、体を引っ張ろうにもクリスの身体能力では遅すぎる。既に目の前には響が左腕の拳を振り上げていた。

翼を庇う姿勢を解かずクリスは目を瞑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「フフフ…素晴らしい!最早、特異災害対策機動部二課の装者など相手にもならん」

 

ノートパソコンで響の身体データ及び戦闘データを収集していた死神博士が満足そうに言う。歌を唄った響の力は死神博士の想定以上の成果を上げている。

後は、邪魔者である特異災害の装者を抹殺してフロンティアを手に入れるだけであった。

 

死神博士とは違い、窓の外から戦いを見守っていたウェル博士は翼とクリスのピンチに歯噛みする。ウェル博士としては今、翼やクリスに死んで貰っては困る。しかし、止めようにも此処からでは不可能に近く死神博士に頼もうにも理由を聞かれる。

 

━━━…駄目だ!二人を生かすのにショッカーの利になる事が一つもない!

 

最悪、翼とクリスを改造人間にススメる手はある。しかし、響の様に本当に改造されてショッカーの戦力になってしまえばマリアたちでも止められない。

人間の範疇を逸脱している風鳴弦十郎なら止めれるかも知れないが三人の改造人間にされた装者にどこまで抗えるか。ついでに行ってしまえばウェル博士も弦十郎は甘い性格であることを知っている。

 

━━━何か手は…アレは!?

 

ふと、響達の戦いの場に何かを見つけるウェル博士。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ショッカーの世界征服の為の礎になれ」

 

響の言葉とは思えない冷酷な言動にクリスは翼を抱きしめながら覚悟を決めた。しかし、何時まで経っても響の拳が来ない。

クリスが目を開けると、

 

「止めて、響!クリスや翼さんにそんな事しちゃいけない!!」

「…未来?」

 

クリスの目には響の左腕に抱き着く未来が必死に止めていた。響は煩わしそうに左腕を振り払い未来を引き離そうとするが未来は頑なに響の左腕を離さない

 

「お願い、何時もの優しい響に戻って!!」

 

「離せ、誰だお前は?目標ではないようだが」

 

響の冷たい言葉に未来はショックを受ける。分かってはいた、優しい響が翼とクリスに手を上げるどころか殺そうとまでしているのだ。ショッカーに何かされたのは目に見えている。

それでも未来は諦めない。何時かは優しい響に戻ると信じて。

 

『何をしている、聖遺物怪人。その小娘も殺せ』

 

何時までも翼とクリスに止めを刺さない事に業を煮やした死神博士が響に命令する。その命令は響に左腕を掴んでいた未来にも聞こえた。

 

「あなたが…あなたがこんな酷い事をしたんですか!?」

 

未来の独白が口から漏れる。聞いてるとも思えなかったし敵が答えてくれるとも思っていなかった。ほぼ八つ当たりに近い独り言であった。

 

『どうした、聖遺物怪人。さっさとその小娘を始末して特異災害の装者も殺せ!』

 

案の定、未来の言葉を無視した死神博士の命令が飛ぶ。それに答える様に響は開いていた右腕で未来の首を絞めて持ち上げる。

 

「う…グぐッ…」

 

未来の口から苦しそうな悲鳴が漏れる。その所為で握っていた左腕から手を放してしまう。

 

「止めろッ!未来はお前の親友なんだぞ!!!」

 

今にも未来の首を圧し折りそう響にクリスが絶叫する。そんな姿はクリスは絶対に見たくなかった。

しかし、そんなクリスを響は横目で見る。

 

「私に親友はいない。私は聖遺物怪人。ショッカーの改造人間だ」

 

そう言い終えると響は空いた左手で未来の頭に狙いをつける。右手で首を絞めて左手で止めを刺そうとする。クリスが止めるよう必死に叫ぶが響は止まる気はない。そのまま右手で拳を握り未来に撃ち込もうとしていた。

これにはクリスも未来も目を瞑る。

 

「ひび…き…」

 

未来は悔しそうに親友である響の名を呟き、涙が流れる。

 

━━━響に殺されるのなら…それでもいいか…

 

響に殺される覚悟をする未来。直後に首の自由と地面に落下する感覚がした。尻もちをついて「痛ッ!?」と呟く未来。打ち付けた尻を押さえ瞼を開くと、

 

「アアああああああああアアア…ッ!!!!????」

 

「響!?」

 

未来の目に飛び込んできたのは頭を両手で押さえ片目から涙を溢れさせてる響の姿だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何が起こった!?この脳波の乱れは何だ!?」

 

響の突然の異常はノートパソコンで確認していた死神博士にも伝えられる。今まで正常だった脳波が突如乱れ、制御しようとする死神博士。しかし、響の脳波の乱れは収まる事はない。

 

「馬鹿な!?私の脳改造は完璧ではなかったというのか!?」

 

怪人作りの名人である死神博士にとって正に想定外と言える。

更に、ノートパソコンを弄って原因を調べていた死神博士にパソコンからの警告音が響く。調べると響の心臓に関するデータが波のようにきていた。体温も上昇しつつある。

 

「チッ、心臓がもう限界だと!?まだ一曲歌い切っておらんぞ。…仕方ない、撤退だ!」

 

見れば、スカイタワーの展望台付近も爆発し、マリアに仕込んでいた発信機もスカイタワーから離れている。死神博士は潮時だと判断する。

撤退を決めた死神博士は荷物を片付け席を立ちあがる。想定外の事態に薄ら笑いを浮かべていたウェル博士も表情を戻して死神博士の後を追う。

 

 

 

 

 

 

 

「あああああああアアア!!痛い…頭が痛い!?未…来…逃げ…て…!?」

 

響は未だに両手で頭を押さえて苦しんでいる。遂には立ってられないのか地面に蹲り始める。その声には未来に逃げろと訴える。

 

「響!?」

 

しかし、響の苦しそうな訴えも響を心配した未来が駆け寄ろうとするが立ち塞がるように戦闘員が阻止する。以前の未来なら腰が引けてたかも知れないが、今の未来は違った。

 

「私と響の邪魔をするな!!」

 

今の未来は戦闘員に怖気づく少女ではない。響程ではないが拳と蹴りで相手をする。時には戦闘員を投げて他の戦闘員に当てる器用さも見せつける。

しかし、幾ら戦えるとは言え多勢に無勢である事には変わらない。未来の背後から襲い掛かろうとする戦闘員だが、

 

「蒼ノ一閃!!」

 

大きな青い斬撃がその戦闘員に直撃する。未来が振り返ると其処には、アームドギアを握った翼とクリスが戦闘員に攻撃をしている。

 

「クリス!翼さん!」

 

心強い味方が復帰した事で安心する未来だったが、今まで空を飛んでいたノイズが突如攻撃し出す。

 

「危ない!?」

 

咄嗟に翼が未来の前に出て来るノイズを片っ端から切り捨てていく。ノイズが動き出した以上、未来も迂闊に動けなくなる。そうしてる内に怪人…ムササビードルが蹲る響を回収しジャンプして逃げていく。

 

「響…響!!」

 

回収される響を見て、未来は絶唱を上げる。クリスが咄嗟にムササビードルを撃とうとしたが、ノイズに阻止され内心苛立つ。

 

━━━よくも…よくもアイツを利用してくれたな、ショッカー!絶対許さねえ!アイツを奪うばかりかアタシ等の何もかも狂わせていく。アタシの居場所も!ノイズが鬱陶しい、ショッカーにソロモンの杖が渡っちまった所為かよ。ならアタシが悪いのか?アタシがソロモンの杖を起動させちまったから…何だ、全部アタシの所為か…

 

クリスと翼の活躍でその場に居たノイズは全滅した。

 

 

 

その少し後、スカイタワーの現場に警察及び、特異災害対策機動部二課の弦十郎たちも来ていた。

 

「米国政府が?」

 

緒川からの報告に弦十郎が眉を顰める。自分達の国で好き勝手に動かれたのだ、面白い訳が無い。

 

「はい、生き残りからの報告ですが、FISのマリアさんとナスターシャ教授の逮捕が目的のようでした」

「他人の国で好き勝手ばかり!!」

 

生き残ったエージェントたちの話を纏めた緒川の報告に毒づく弦十郎が車の屋根を叩く。こんな弦十郎珍しいと思う緒川。

 

 

 

 

 

その頃、特異災害対策機動部二課の車両の後部座席に乗っていた未来は考え事をしていた。

 

━━━どうして、私は響の手を離しちゃったんだろ…絶対に離しちゃいけなかったのに…

 

未来は響の左手を離した事を悔やんでいた。首を絞められ苦しかったとはいえ、大好きな親友の手を離した結果、響を取り戻す事が出来なかった。

 

「暖かい物、どうぞ」

 

考え事をしていた未来の様子を見兼ねたあおいがホットココアを差し出す。少し躊躇った未来だが受け取り少しずつ飲んでいく。

 

「…ありがとうございます」

「いいえ」

 

少し遅れて礼を言う未来に返事をするあおい。少しの沈黙が場を支配する。

どの位の時間が過ぎただろうか。沈黙していた未来の頬に水滴が流れると同時に嗚咽が混じる。

 

「未来ちゃん!?」

「…響は…私の太陽だったんです…とても温かくて…優しくて…でも…さっき会った響は違ってた…翼さんとクリスを…殺そうとして……どうしてこんな事に…」

 

未来の言葉にあおいは答える事は出来なかった。全ての元凶はショッカーで間違いはない、それでも特異災害対策機動部二課が響を守り切れなかったのは事実だ。

 

「…寮まで送るわ」

 

あおいはそれだけしか言えなかった。しかし、未来は首を横に振る。

 

「…一人で帰れます。今は…一人になりたいんです」

 

未来の言葉にあおいはそれ以上何か言う事が出来ず、車から降りた未来は一人その場を後にする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一人、帰る未来。辺りは夕方になり嘗ては賑わっていた商店街もノイズの襲撃やルナアタックの影響により今では数えるほどしか店は営業していない。未来たちのよく通っていたふらわーもその一つだ。

響との記憶が蘇りそうになり一筋の涙を流す未来。

 

「響…もう会えないのかな…」

 

未来の脳裏にショッカーに脳改造された響の姿が蘇る。未来にとってそれはショックな姿であった。しかし、心の何処かで響に会えた嬉しさもあった。

 

━━━私、あんな姿になった響に会えて嬉しかったんだ。…最低だ

 

喜んではいけない筈なのに響いに会えた事が嬉しかった自分自身に自己険悪を感じる未来。寮まであと少しの距離だと歩く未来だが、視界の端に何かを捉えると未来は路地裏に入って行った。

 

━━━あの姿は間違いない!

 

その姿は未来も嫌と言うほど見てきた姿だ。

路地裏を暫く進むと声が聞こえる。息を乱していた未来が聞き耳をたてる。

 

「死神博士の作戦は半分が成功したか、特異災害の装者を始末出来なかったのは残念だ」

「地獄大使、我々のどのように動きますか?」

「この付近に新しくアジトを造る。ワシはその下見よ」

 

未来が見たのは路地裏を徘徊していたショッカー戦闘員だ。未来は知らなかったが地獄大使はこの付近に新たなるアジトを造り、其処から特異災害対策機動部二課への牽制攻撃などを計画していた。

聞き耳を立てていた未来は息を整えて地獄大使たちの前に出る。

 

「イーッ!?」

「ん?貴様、聞いていたな!我々の姿を見たからには死んで貰うぞ!!」

 

未来の存在に気付いた戦闘員は直ぐに未来を取り囲む。地獄大使が始末するよう言おうとしたが未来が両手を上げて降参のポーズをとる。これに面食らう戦闘員達に地獄大使。

 

「お願いです、私を改造人間にして下さい!!」

 

少女の突然の言葉に戦闘員が停止し、地獄大使も未来を睨みつける。

 

━━━ごめん響、それに皆、それでも私は響と一緒に居たい

 

 

 

 




原作と比べ響と未来の立場が逆になってます。

そして、響が悪魔のショッカーを歌いました。シンフォギアと仮面ライダーのクロスでやりたかったネタでもあります。

そして、ショッカーの歌の中で一番有名な曲「悪魔のショッカー」。悪役ソングの中で個人的には名曲だと思う。


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52話 反撃の準備

 

 

 

日も大分傾きかけた山中。隠れるように着地しているエアキャリア。

何人もの戦闘員が周囲を見張る中、エアキャリアから悲鳴が響く。

 

「アアアアアアアアアアアアアーーーーーーーーッ!!!」

「マム!?」

 

悲鳴の主はナスターシャ教授であり、戻って来た時に戦闘員に拘束されて、死神博士の帰還の後に特殊な電気椅子に座らされ拷問されていた。

 

「よくも我々を謀ろうとしたな、ナスターシャ教授。その報いは受けて貰う!」

 

死神博士の言葉に電気椅子の装置を維持ていた白の戦闘員がスイッチを押すとナスターシャ教授の口から再び悲鳴が響き出す。

 

「マム、止めて!マムが死んじゃう!!」

「止めて欲しいデス!!」

 

マリアの傍に居た調と切歌がマムが死んでしまうと必死に訴えかける。だが、それで止まる死神博士ではない。既にマリア、調と切歌のシンフォギアのペンダントを取り上げられている。シンフォギアを纏って助ける事も出来ない。

 

「なら、お前達が代わりに受けるか?」

 

死神博士が不気味な笑顔で変わるか?と聞いてくる。死神博士やショッカーにとってこれは罰であり調や切歌が肩代わりするのならナスターシャ教授への拷問も止めてやろうと提案する。別段、死神博士はナスターシャ教授を殺す気はない。悪の組織であるショッカーが舐められる訳にはいかず死ぬ寸前まで痛めつけるのが目的だ。その過程でマリア達を恐怖で縛る上げる意味もある。まあ最悪死んでも問題ないと言うのがショッカーの見解でもあったが。

 

一瞬、黙り込む調と切歌だが、互いに顔を見合った後に首を縦に振る。

「私たちが…」「受けるデ…「いえ、私が引き受けるわ」ス…マリア!?」

 

覚悟を決めた調と切歌だが、マリアの言葉に息を飲む。

 

「マリア!」

 

切歌がマリアの名を叫ぶ。突然の事で理解が追い付かないがマリアが自分達の代わりになろうとしてる事に気付き止めようとする。そこで気付いたマリアの足と手が少しだけ震えてる事を。

 

「大丈夫…大丈夫だから…」

「マリア…」

 

調と切歌は確信した。マリアも怖がってる事を、そしてマリアがナスターシャ教授の座る電気椅子に近づく。マリアは隠し持っていたもう一つのシンフォギアのペンダントを握って「セレナ…」と呟く。

 

「なり…ません…マリア!」

 

だが、そこで電気椅子に座っていたナスターシャ教授が待ったをかける。拷問の所為か息も耐え耐えだが、

 

「マム…」

「全ては…私の責任…です。…私が…マリアを…騙して…米国…政府に…マリアの…身柄と…フロンティアの…情報を…売ろうと…」

「そんな!?」

「嘘デス!そんな事を!」

 

ナスターシャ教授の言葉に調と切歌が反応する。その言葉は調や切歌にとって裏切りに等しい言動だった。

いい加減、待つのにも飽きた死神博士が「まだか?」と聞こうとした時、白い白衣を着た戦闘員が死神博士に近づき耳打ちをする。

 

「なに?チッ…今日の所はこれで許してやろう。次は無いと思え!…ウェル、付いて来い」

「は、はい!」

 

戦闘員の報告を聞いた死神博士は、ウェル博士を連れてエアキャリアの医務室へと入って行く。

それを見送ったマリア達は急ぎナスターシャ教授に駆け寄る。

 

「マム!」

「しっかりして!」

「大丈夫デスか!?」

 

電気椅子から動かされたナスターシャ教授は取り合えずミーティングルームのソファーに寝かされる。調も切歌もナスターシャ教授に色々聞きたいことはあったが気を失っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

医務室へと入ったウェル博士は直ぐに顔を顰めてしまう。医務室のベッドでは響が再びバラバラにされ複数人のショッカー科学陣に調られている。響の目は虚ろで何を見てるのか判断が難しい。

死神博士の姿を確認した科学陣の一人が右手を掲げ「イーッ!」と言った後に響の体を再調査した報告書を渡す。

 

「…何も分からんだと?」

 

報告書の内容を呼んだ死神博士だが、あの時の響の不調が調査されても分からないと書いていた。死神博士の行った脳改造は完璧と言え響が記憶を取り戻した訳でもない。

 

「ふむ…幾ら私の最高傑作でも、ああまで不安定では実戦で何処まで使えるか、それに心臓も限界が近いか…いや待てよ」

 

何か閃いたのか死神博士が不気味な笑顔を見せる。それを見て嫌な予感がするウェル博士だが、目の前でナスターシャ教授が電気椅子で拷問されたのを見て聞く勇気は無かった。

そして、死神博士が独り言で「動力炉を…ベルトと…連動させて…」と聞き確信する。

その時、別の戦闘員が医務室へと入り報告をする。

 

「イーッ!地獄大使が帰還しました!」

「そうか」

「地獄大使が死神博士に見て欲しい物があるそうです。急いで来てください!」

「見て欲しい物だと?」

 

別段、地獄大使の帰還報告などどうでもいいと思っていたが、地獄大使がわざわざ自分に見せようとしてるのだ。何か珍し物でも見つけたのか興味が湧いた死神博士は地獄大使の居る格納庫へ後で向かう事にする。当然、ウェル博士も連れてだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うう…此処は…」

 

ナスターシャ教授が目を覚ます。ショッカーが用意した電気椅子ではない、エアキャリアに備え付けられてるソファーだ。

 

「マム!」

「マム、良かった目が覚めたのね!」

 

意識が戻った事に気付いたマリアや切歌がナスターシャ教授の傍に寄り抱き着いたりする。マリア達の元気な姿を見て安心するが、ナスターシャ教授はハッとした顔をする。

 

「あなた達、まさか私に代わって…」

「違うわ、マム。白い戦闘員の報告を聞いた死神博士がマムの拷問を止めたの」

「そうデス!でも『次はない』とも言ってたデス」

 

それを聞いてホッとするナスターシャ教授。見た所、マリア達に体に拷問を受けた後はない。本当に良かったと安心する。

 

「それでね…マム、さっき言ってた事は…」

 

その時、調がナスターシャ教授に聞きたいことがあり、それは切歌も一緒であった。

 

「そうですね…あなた達にも話した方がいいでしょう。ですがその前に」

 

マリアに車椅子を持ってこさせ何かを取り出すナスターシャ教授。それは一見タマゴに見えるが机に置いた途端、上の部分が開きアンテナの様な物が出て来る。

 

「マム…これは?」

「ウェル博士が作った妨害電波を発する装置です。微弱ではありますけど盗聴器の類は動かなくなるそうです」

 

ナスターシャ教授の回答に調も切歌も「へー」という顔をする。内心、「あの博士もたまには役に立つ」と思ったりもした。

 

そして、ナスターシャ教授の口から真実が語られる。

ショッカーを裏切って米国政府に力を借りようとした事を、死神博士が既に手を打っていた事を、…そして、

 

「マリアはフィーネじゃなかった!?」

「じゃあ、マリアは…」

「ええ、フィーネではありません。全てはウェル博士を此方に引き込む為でした。…まあ余計な物もついてきましたけど…」

 

ナスターシャ教授は自分の浅はかな行動を恥じる。尤も、元FISの職員であったウェル博士がショッカーの死神博士の弟子だとは予測不可能ともいえるが。

 

━━━マリアがフィーネでないとしたら…やっぱり…

 

切歌の不安が的中したのか更なる不安感が切歌を襲う。

 

 

 

 

 

 

 

 

火も完全に暮れても人々の活動は変わらない。とあるファミレスでも人は賑わっている。

そのファミレスの席でナポリタンを食べる少女。けして上品とは言えない食べ方をしてるのはクリスだった。

 

「…こんな時によく食べれるな」

 

そんなクリスの姿に呆れてる少女…翼。クリスの食べっぷりに若干引いている。

 

「何か頼めよ、奢るぞ」

「…夜の9時以降は食べない様にしている」

「そんなだから、そんななんだよ」

 

クリスの言葉にカッとなる翼だがクリスの胸が目に入ると言葉を飲み込む。直後に溜息をつく。

 

「お前こそ、こんな時によく食べれる。…本当に」

「腹が減っては戦は出来ぬって言うだろ。いざって時に力が出せなきゃショッカーを倒す事も出来ねえ」

 

そう言い終えるとクリスはナポリタンを平らげ店員を呼ぶとメニューから更にオーダーする。笑顔で注文を聞く男性店員だが翼は見逃さなかった。男性店員の笑顔が引き攣っていたのを。

 

「呼び出したのはお前と一緒に飯を食いたかったからだ。オッサンとの特訓の時にも一緒に食べる機会なんて無かったからな。腹を割って話し合うとか連携を強める必要もあるだろ?」

「…連携か、なあ雪音」

「何だよ?」

「私達は本当にショッカーに勝てると思うか?」

 

その言葉にクリスはコーヒーの入ってるカップを落として割ってしまう。直ぐに店員が来て破片を片付けたり零れたコーヒーをふき取る。

そして、店員が去ってから翼は言葉を続ける。

 

「立花が完全に敵に回った。恐らく、マリアたちFISもショッカーに協力している。対して私達の戦力は少ない。正直勝ち目は…」

「らしくねえな」

「!?」

 

翼の弱気にクリスがハッキリ言う。勝ち目が薄いのはクリスにだって分かっている。

 

「何時ものアンタなら「防人としての使命を果たす」とか言うくせに…」

「!仕方ないだろ!敵は…ショッカーは未だに多くの怪人を保有している!それに加えて立花も敵になった、一体一なら負ける気はしないが複数の怪人では…」

 

翼もクリスも今回の戦いで強化改造された怪人を倒している。しかし、それは自分達を舐めていた油断していた怪人と奇襲攻撃でどうにかなったに過ぎない。複数の怪人が油断もせずに相手するのなら話は違ってくる。

 

「…アタシはどんな手を使ってでもショッカーをぶっ潰す」

 

翼の話を聞いていたクリスが唐突にそう宣言する。しかしそれがどこか頼もしくも見えた。翼がその内容を聞こうとした時、クリスの注文した料理が届く。話の腰を折られた翼はクリスが食べ終わるのを待つ事にした。

尤も、クリスが食べ終わった直後に特異災害対策機動部二課から未来が寮に戻ってない報告を聞く事になるが、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「地獄大使よ、私に見せたい物とは何だ?」

「…随分と待たされたワシには何も言う事はないのか?」

 

響の調査、調整、組み立てを終えた死神博士やっと地獄大使の居る格納庫に来た。日が暮れるまで待っていた地獄大使が睨みつける。それに死神博士は薄ら笑いを浮かべるだけで地獄大使と暫く睨み合う。一触即発の空気にウェル博士の足が震える。

 

「まあいい、貴様に見せたいのは其処の檻にいる」

 

地獄大使の言葉に死神博士とウェル博士が地獄大使前にある檻を見る。檻の大きさは一メートル半程の大きさで大型の動物も収容出来、天井と床以外はビーム状の柵が囲んでいる。そして内部には一人の少女が膝を抱えて座っていた。

 

「小日向…未来!?」

 

少女の姿を確認したウェル博士が少女の名を呟く。

未来が何故、檻に入れられてるのか?改造人間を志願した未来を地獄大使が怪しみ戦闘員に身体検査を行わせた後に死神博士に見せる為、檻に入れられてエアキャリアの格納庫まで運ばれたのだ。

 

「何だ?この小娘は」

「改造人間に志願した小娘だ。どうにも不気味な娘でな…貴様の意見も聞きたかった」

 

そう言って、地獄大使は小日向未来の情報を纏めた資料を手渡す。軽い身辺調査に尋問した内容が書かれている。

 

「…身体能力は悪くはない。だがそれだけだな、思想も極めて普通の小娘だ。つまらん」

 

ショッカーが望むのは頭脳明晰、身体能力の優れた人間だ。或いはショッカーの好む性格が凶悪な犯罪者が理想と言える。確かに未来は身体能力は高い方だが死神博士が望む程ではない。

 

「…あなたが…」

 

「ん?」

 

檻の中に居た未来が資料に目を通していた死神博士に話しかける。尤も、死神博士は未来を見ず資料を読み続けている。

 

「あなたが死神博士ですか?」

「いかにも」

「…響を改造人間にしたのも…」

「この私だ」

 

未来の質問に気軽に答える。その姿は全く悪びれた様子もない。それどころか薄ら笑いを浮かべる姿は実に不気味と言えた。

しかし、死神博士の返答を聞いた未来は血相を変えて死神博士に訴える。

 

「響を…響を元に戻して!!」

「…お前はドロの上に落とした水を元に戻す事は出来るのか?」

 

未来は死神博士なら響を元に人間に戻せるのでは?と考えた。ショッカーの大幹部だ、例え出来ても、元の人間に戻す気など無い事も薄々分かってはいる。それでも、響を改造人間にした死神博士に訴えたかった。

そして、死神博士の回答は不可能と言う言葉だった。その気もない。

 

「!?」

 

「…成程、立花響の友人か。態々友人の為に危険を冒すとは、本当に愚かな小娘だ」

 

死神博士にとって未来の行動は愚の骨頂と言えた。たかが友人一人忘れていれば今まで通りの生活が出来た筈だ。それなのに友人である立花響を忘れるどころかショッカーに入ってまで一緒に居たいと思ってる事に小日向未来を愚かだと笑う。

 

「あなた達は…あなた達は悪魔よ!!」

 

「今更気付いたか?」

「我等はショッカー軍団、人呼んで悪魔のショッカーよ!」

 

未来の言葉に死神博士も地獄大使も笑って言う。今更、小娘一人に罵られようとどうとも思わない。それどころか未来の改造人間の案を考える死神博士。

 

「貴様の改造人間の能力を考えねばならんな。だが、先ずはその立花響への想いをショッカーに書き変えてやろう。そうすれば貴様のその想い全てショッカーに置き換えられるのだ」

 

「私の想いを!?…嫌…そんなの嫌!!」

 

此処に来て初めて未来はショッカーに恐怖を感じていた。以前、キノコモルグに捕まってアジトに連れてこられた時も恐怖を感じていたが、今の恐怖はその時を超えている。自分が自分でなくなる、それが此処まで怖いとは未来も予想すら出来なかった。

 

「さて、移植する動植物は何にすべきか?」

「いっその事、作った怪人と同じ動植物を移植して比べて見るのはどうだ?」

 

未来の叫びも気にせず、死神博士と地獄大使は格納庫を後にする。その場には檻に入れられた未来とウェル博士だけが残る。

 

「響…響!!」

 

未来は今更ながら己の選択を後悔した。地獄大使に改造人間を志願したのは響に会う為だ。例え二課を人類を裏切る事になっても構わないと覚悟していた。想定外だったのはショッカーは未来の響への想いすら利用しようとしていた事だ。

 

━━━よく考えれば分かる事だ。ショッカーは響の記憶も性格も変えて都合の良い人形にしていた。私がそうならないという保証なんて何処にも無かった。ごめん…響…ごめんね、みんな!!

 

未来は檻の中で泣き続ける。己の選択がどれだけ馬鹿げていた事かやっと理解したのだ。今更、後悔してもし足りない。恐らくこの場での一番の解決法は未来が自殺する方法だろ。…駄目だ、ショッカーはクローン技術にも優れている。それに必要なら未来を蘇生させることも可能だろ。

 

ひたすら、一人泣く未来の様子を見ていたウェル博士はある決断をする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、エアキャリアのミーティングルームでは未だにマリア達が話をしていた。日も暮れたのに電気も点けない事で通りかかる戦闘員は「何してんだ?」と言った表情で通り過ぎる。尚、その度にマリア達はショッカーに気付かれぬよう日常会話などに切り替えて話していた。

 

「マムは、フロンティアに関する情報を米国政府に共由して協力を仰ごうとしたのよ」

「…それだけではありません。このままショッカーに利用されたままではマリア達の命の保障はありません。ですから私の古い友人にショッカーの息のかかってないエージェントたちと共同で動こうとしましたが…」

「…戦闘になったの?」

 

調の言葉にナスターシャ教授が頷く。調も切歌やっぱりかと思った。そもそも自分達が立ち上がったのも米国政府と経営者たちだけ助かろうとしていたからだ。例えそれがナスターシャ教授の友人でも同じだったかと落胆する。

 

「彼女は…私の友人とは数年前に会ったきりですが…昔から正義感が強く公私混同しない人でした。それが今回に限りあの様な事を…何かあったとしか思えません」

「マム…」

 

ナスターシャ教授の友が自分達を切り捨てた可能性はある。しかし、ナスターシャ教授自身は今でもその友を信じていた。

 

「既に殺されてます」

 

「「「「!?」」」」

 

突然の声にマリア達が振り向くと格納庫へのドアからウェル博士がミーティングルームへと入って来た。

 

「ドクターウェル。殺されたとは…」

「先生が話してました。『古い友人はとっくに我々の手の者と入れ替わってる』と」

「…なんて事を」

 

友人はとっくに殺されていた。ショッカーの事だ生かして閉じ込めてる可能性は低い。

ナスターシャ教授の目から涙が一筋流れる。

 

「マム」

「…マム」

 

その様子に、ナスターシャ教授の心配をするマリアたち。古い友人が殺されたのだ、何と言って慰めればいいか分からない。

 

「悲しんでるところ申し訳ありませんが…聞いて欲しい事があります」

「聞いて欲しい事?」

 

友人が殺された事を話してナスターシャ教授を悲しませたウェル博士に好感は抱けないが真面目な顔に調が反応する。

そして、ウェル博士の口から語られる話にマリア達は耳を傾ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「小日向未来を装者にするだと?」

 

未来の改造手術の準備に入ろうとしていた死神博士の耳にウェル博士の提案が入る。死神博士の前にはアリやらバッタといった昆虫類が並んでいる。

 

「はい、彼女には少しですが神獣鏡の適性があると思われます。上手くいけばそれでフロンティアの封印も解けるかと。その為にはあの少女を改造人間にするのは反対です」

 

そう言って、ウェル博士は手元の資料を死神博士に渡す。資料には未来と神獣鏡の適合値やマリア達の差が書かれている。

死神博士としては改造した装者が怪人の能力にどう影響が出るか知りたいとも思ったが、

 

「面白い、やってみろ」

 

目を通した死神博士が許可する。今はそれよりフロンティアの封印を解く事を選んだ。この時点で未来は改造人間にはならず装者となる。本人の与り知らぬ所で決められた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




原作よりウェル博士はマリア達と仲は悪くありません。でもやっぱり調や切歌からは嫌われています。

死神博士が響を使って何か企んでいます。

翼もクリスとそこそこ仲がいいです。未来、ショッカーの外道さに自分の行いを後悔。


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53話 調の離反 切歌の決意

Dアニメに赤ずきんチャチャが出てきた。…懐かしい


 

 

 

「未来が行方不明ってどういう事だよ!?」

 

特異災害対策機動部二課仮設本部にクリスの声が響く。その声からして機嫌が悪そうだ。

 

「…そのままの意味だ、寮にも未だに戻っていないらしい」

 

弦十郎が申し訳なさそうに言う。特異災害対策機動部二課が未来に用があって寮に連絡したのだが出ず、職員を行かせたことで寮に戻ってない事が判明したのだ。

 

「何故、今まで気づかなかったんですか?」

「一つはスカイタワーでの戦闘の後処理に戸惑った事だ。もう一つは…」

「私の所為です」

 

友里あおいの言葉に翼とクリスの視線が向かう。オペレーター仲間の藤尭朔也が心配そうに見ている。

 

「私が…私が未来ちゃんが自力で帰った事を指令に報告していれば…」

 

未来が車から降りて自力で帰った事を、あおいは弦十郎に報告してなかった。現場の処理に生き残った米国政府のエージェントたちの聞き取り調査などやる事が多く後回しになったのだ。報告していれば二課のエージェントが未来の安全を確保して寮に帰す予定であった。

 

「だからって…」

 

クリスが何か言おうとするが口から出てこない。響の姿を見て未来は一人になりたかった事は容易に想像がつく。そして、あおいも特異災害対策機動部二課の職員だ、仕事が立て込んでいる。

それが理解できるクリスは誰も責められなかった。

 

「雪音…」

「クリスくん…」

 

その様子に翼と弦十郎がクリスの名を呟く。未来の行方は緒川を入れた調査部にさせているが手掛かりが殆どない。

内心、ショッカーが関わってるのではと考える弦十郎。その時、

 

「ん?指令、外部から妙な通信が…これは!?」

 

藤尭朔也のオペレーター席が妙な通信を入り、調べた朔也が一瞬言葉を失う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「響…私、どうすれば良かったのかな?」

 

エアキャリアの格納庫、檻の中に入れられた未来は何度目かの独り言を言う。もう直ぐ、死神博士が自分を改造人間にするかも知れない。そう考えただけで未来の心は壊れそうになっていた。

 

━━━私、もう直ぐ人間じゃなくなるんだ。…響もこんな気持ちだったのかな?でも響と同じになれるのなら…

 

その時、格納庫の扉が開き二人の人間が入って来る。未来が目線だけ動かすと一人は死神博士に付き添っていた白髪の人ことウェル博士。もう一人は、薄いピンク色をした世界的有名人。

 

「マリア・カデンツァヴナ・イヴ…さん」

「マリアで良いわよ。あなたが小日向未来さん?」

「…はい」

 

未来の目の前には歌姫と呼ばれ日本では虐殺の姫と呼ばれるようになったマリアが目の前にいる。会場での事件の真相を知る未来は虐殺はショッカーの仕業だと分かってはいる。それでも彼女がショッカーに協力している理由が分からなかった。

マリアが未来を値踏みする様に見ている事に気付く。

 

「…何ですか?」

「…何でも無いわ。ただ、あなたの姿を見てセレナを思い出しただけよ」

「セレナ?」

 

マリアの口から知らない名前が出て未来は軽く混乱する。

 

「セレナはマリアの妹ですよ、六年前にとある事情で亡くなった」

 

横からウェル博士がセレナについての説明をする。そして、自分に近づいて来る事で身を固める未来。

 

━━━もしかして、もう改造手術!?

 

死神博士の助手をしていたウェル博士がわざわざ来たのだ。とうとう改造手術の時間になったのかと未来は恐怖を感じていた。そんな未来にウェル博士はニコリと笑って見せる。

 

「安心してください、小日向未来さん」

「?」

「あなたは改造人間への手術は中止になりました」

「!本当ですか!?」

 

ウェル博士の言葉に驚く未来。自分自身が改造されるのは決定事項だと諦めていた。口では響と同じになれると言って納得しようとしていたが、やはり心のどこかで拒否感があったのだろう。

 

「…喜ぶのは早いかと」

「え?」

 

そんな未来の喜びにウェル博士が待ったをかける。

 

「ドクター、本当にやるの?」

「…当然です。少なくとも神獣鏡は君達より適性が高いんです」

 

マリアとウェル博士のやり取りに未来は不安を感じていた。何より、これ以外でショッカーを出し抜く案は無い。

 

「小日向未来さん、あなたに提案があります」

「提案?」

「上手くいけば立花響の記憶を戻せるかも知れません」

「!?」

 

ウェル博士の言葉に未来は目を丸くする。それは何よりも未来が望んでいた言葉だった。

 

「詳しく…聞かせて下さい!」

 

未来は藁にも縋る思いでウェル博士の言葉を聞く。そして、その直後に未来は装者としての調整を受ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

少しだけ時間が経ち、調と切歌が自分達の干していた洗濯物を取り込む。一応、ショッカーアジトにも洗濯機と乾燥機があったが、マリア達は警戒して自分達で処理していた。

そんな中、切歌は洗濯物に手をかけて止まっていた。

 

━━━マリアがフィーネで無いなら…きっと私の中に…

 

思い出すのは廃棄された工事現場での一件だ。廃材が落ちてくる中、調を守ろうとした切歌の翳した手からバリアが出て自身と調を守った事だ。あの一件以来、切歌は自分こそがフィーネの魂を宿してるのではと疑っていた。そして、マリアとナスターシャ教授の告白でそれは確信へと変わる。

 

「…怖いデスよ」

「?何か言った?切ちゃん」

「い…言って無いデス!!」

 

思わず呟いた声を傍で洗濯物を取り込んでいた調が切歌に聞く。聞かれた切歌は慌てて首を横に振る。

その態度に、やや不信感はあるが調は自分から口を開く。

 

「ドクターやマムは本気であの人を装者にする気かな?」

「あの人?…あの捕まってる人デスか」

「私達とは殆ど関係ないのに装者にするなんて…」

「仕方ないデス、放っておけばショッカーのあのイカレ爺が化け物に改造しちゃうデス」

 

調は未来が装者になるのは否定的であった。聞いた話では自分から改造人間に志願したそうだが、それは友であり親友の立花響の傍に居たかったからだ。もし、自分が未来の立場でマリアや切歌が響のようになっていたら恐らく未来と同じ行動を取る可能性が高い。

 

「マリアやマムは何時までショッカーに従うんだろ。マリア、変わっちゃったのかな?昔の優しいマリアならショッカーに従ったままじゃない筈なのに」

「………」

「私はマリアだからお手伝いがしたかった。フィーネでもショッカーの為なんかじゃない」

「…それはそうデス」

「身寄りのなくて泣いてばかりた私達に優しくしてくれたマリア。弱い人の味方だったマリア、なのに…」

 

調が思い出すのはショッカーの非道の数々。会場での虐殺にリディアン音楽院での虐殺未遂。味方をネフィリムに食べさせに戦闘時での民間人の人質、英雄と言われた立花響への過去の所業に捕らえた小日向未来の改造人間への手術未遂。

 

「ショッカーは強いのは私だって知ってるけど…」

 

調も切歌も一度、ショッカー怪人と戦った事がある。その時は手も足も出せずナスターシャ教授の命令で撤退したが、あのまま戦っていたらどうなっていたか。

調の心にはマリアへの落胆、ショッカーに対する恐怖が占めていた。

 

「ショッカーも確かに怖いデスけど、私は別の物が怖いデス」

 

調の話を聞いていた切歌が話題を変える。調もそれに反応し切歌の方を見る。

 

「マリアがフィーネでないなら、その魂の器として集められた私達がフィーネになってしまうかも知れないデスよ。…調は怖くないデスか?」

「よく…分からないよ」

 

切歌の言葉に調は、良い返事が出来なかった。元よりフィーネに揺り潰されるという事が想像しずらく現実とも思えない。何より目の前には悪辣なショッカーが蠢いているのだ。

 

「それだけ…デスか」

「切ちゃん?」

 

期待通りの言葉を聞けなかった切歌は手に幾つの洗濯物を持ってエアキャリアへと駆けていく。切歌の様子がおかしい事に気付いている調はただ「切ちゃん…」としか言えなかった。

 

 

 

 

そして、エアキャリアは再び、あの海域へと飛ぶ。

 

 

 

「マムの具合は如何なんデス」

 

「疲労で倒れた程度だ、元より電撃を受けて平常でいられてる以上、見た目より図太いようだ」

 

飛行中に、切歌が医務室で横になるナスターシャ教授の様子を聞くと死神博士が軽く答える。内心、その電撃の所為で倒れたんじゃないのか?とも思っていた切歌と調が死神博士を睨みつける。

 

「それでも病状が進行している。ショッカーの技術でもこれ以上は…」

「そんな」

 

マリアの言葉に調が悲しそうに言う。

 

ショッカーの…死神博士の腕でナスターシャ教授の病はだいぶ軽くなっていた、それでも完治には程遠く、死神博士も完治させる気など欠片も無い。確かに聖遺物に関する知識は目を見張るものがあるがそれだけだ。

年の割には体力があるとはいえ、改造手術に耐えられる程かと言えば疑問である。

 

「つまり、のんびり構えて居られないという事ですよ」

 

「そうだな、月が落下する前にフロンティアの封印を解かなくてはな」

 

ウェル博士と死神博士の言葉を黙って聞く調と切歌。その目は完全に胡散臭い物を見る目だった。

その時、エアキャリアのセンサーに何か反応する。

マリアがモニターに映すとそれは巨大な軍艦だった。

 

「これは!?」

「米国の哨戒艦艇デスか!」

 

それは間違いなく米軍海軍に所属する艦艇であった。

 

「ふむ、連中にしては時間を守ってるようだな。運の悪い連中だ、先ずはアレを血祭りに上げ世界に我々の存在をアピールするのも面白そうだ」

 

「秘密結社のあなた達がアピール?」

 

死神博士の言葉にマリアが反応する。ショッカーの目的が今一掴めない。

 

「そんなの弱者を踏みにじる強者のやり方!」

 

調にしては強い口調で死神博士に訴える。しかし、死神博士は不気味な笑みを浮かべ「だからどうした?」と言い放つ。

 

「誰も貴様らの意見など聞いていない!」

 

直後に、死神博士は無線で潜水艦でエアキャリアに付いて来ている地獄大使に連絡を取る。

 

 

 

 

 

 

 

 

同じころ、近くの海域で特異災害対策機動部二課の仮説本部である潜水艦に警告音が響く。

 

「ノイズのパターンを検知!!」

「米国所属艦艇より応援の要請!!…更に米国艦艇よりノイズではない未知の怪物が出現したそうです!!」

 

オペレーターコンビの報告が終わると司令部のモニターに現場の映像が流れる。映像には一隻の艦艇に数隻の黒い潜水艦が映りそこからショッカー戦闘員が艦艇の乗り込んでいる。

 

「あの妙な通信に載っていた海域に近い!あの海域にショッカーの目的の物がある筈だ!…しかしショッカーはあんなに潜水艦を持っているのか…」

 

少し前に特異災害対策機動部二課に妙な通信が来た。内容は〇〇の海域にショッカーの目的の物がある。罠の可能性も考えたが弦十郎はあえて乗ってみる事にしたのだ。準備に時間はかかったが現にショッカーは動いている。上空からの映像でしかないが既に怪人もいるようだ。

 

「応援の準備にあたります。行くぞ、雪音!」

「ああ、絶対アイツを取り戻すぞ!」

 

翼とクリスが出撃の為に指令室を後にする。残った指令室の職員及び司令官の弦十郎はモニターで見守る事しか出来ない。

 

 

 

 

 

 

 

 

米海軍の艦艇のデッキはまさに地獄だった。

 

「撃てぇ!撃てぇーーー!!」

「何だ、あの化け物は!?弾丸が効きやしねえ!!」

 

ノイズも確かに脅威と言えば脅威だった。ノイズ特有の位相差障壁で此方の攻撃は素通りする。反面、ノイズと現れた怪物…怪人は軍人たちの銃の弾丸は命中する。しかし、その悉くが怪人に傷一つ付けられなかった。

 

「退けっ!喰らえ化け物め!」

 

其処へ一人の兵士が銃を撃つ兵士達を掻き分け、大きな砲身を向ける。格納庫から対戦車砲を持ってきたのだ。

狙いを付ける兵士はカブトムシの怪人に向けて対戦車砲…RPGを撃つ。

RPGは真っ直ぐ怪人に当たり爆発し、その際に生じた風が兵士達の頬を撫でる。

 

「どうだ、化け物!」

「アメリカ軍を舐めるなよ!」

 

攻撃の通らないノイズなら兎も角、攻撃が当たるなら倒せると考えてRPGを撃った。これなら怪物も「何かしたか?ゴミども」

 

『!?』

 

ギッギッギッギッギッと言う不気味な声がすると共に場k初して出来た煙から、体の骨格が黒で胸や顔の辺りが赤いカブトムシの怪人、カブトロングが出て来る。

RPGが直撃したその体には傷一つなかった。

 

ギッギッギッギッギッ

         ヒッヒッヒッヒッ

                 ホホホホホホ

 

カブトロングが不気味に笑い、他の怪人達も奇妙な声を出す。

 

其処からは最早、蹂躙だった。ノイズが兵隊を炭化させ船艇の下層部にも侵入し機関士や乗組員も襲い、怪人達も蹂躙する。

 

左手の電磁ばさみで次々と兵士を切り刻むカブトロング。空を飛び上から殺人レントゲンで白骨化させるフクロウ男。口から溶解液と火炎を使い分けて吐く軟体生物の様な見た目をした怪人、ナメクジラ。捕まえた兵士の血を左腕から吸い取りミイラにしていく、不気味な怪人ヒルゲリラ。触手のある頭部から竜巻を起こして何人もの兵士を頭部の口へと飲み込み食い殺す赤い怪人、イソギンチャック。口から火炎を吐き左手のカッターで兵士を切り捨て海へと捨てる、前に翼と戦ったギリザメス。

 

甲板は兵士の血や炭、白骨が散らばり肉片やミイラまである地獄の様な光景が広がる。

 

 

 

 

 

「クッ…」

 

エアキャリアを操縦するマリアは唇を噛みしめ血を流す。映像では船の中や海に飛び込んで逃げようとする兵士も居るが悉くがノイズや怪人に殺されていく。

 

「いいぞ、皆殺しにしろ!我等に逆らうものは皆殺してしまえ」

 

逆に死神博士は満足そうにしていた。何か思うのであればせいぜい「怪人に適合できる者も居るかも知れんな…もったいない」くらいである。

映像ではカブトロングが一人の命乞いする兵士を持ち上げ力任せに体を引き千切る。

 

「!こんな事を…こんな事を許していいの?マリア!」

 

遂に我慢できなくなった調がマリアに訴える。マリアはそれを聞く事しか出来なかった。

 

「弱い人達を守る為に私達は立ち上がったんじゃないの!?」

 

マリアはただ調の言葉を聞くだけだった。何も言えず唇を噛み血を流し悔しそうな表情をする。しかし、調にはそれで十分だった、調はエアキャリアの出入口を開ける。

 

「何してるデスか!?」

「マリアが苦しんでいるなら私が助けてあげるんだ」

 

マリアの沈黙に調は何かを悟り、切歌の言葉に答えると調はそのまま上空を飛ぶエアキャリアから飛び出し下降する。普通ならこのままでは船の甲板か海上に叩きつけられお陀仏だが、

 

Various shul shagana tron

 

調は落ちながら聖詠を口にする。シンフォギアを纏った調はそのまま甲板へと落下する。

 

首をかしげて 指からするり 落ちてく愛をみたの

拾い集めて 積み上げたなら お月さまに届くの…?

 

調は歌う。ノイズや怪人に殺された兵士達の弔いの為に、自分達の行動で余計な死者を出した後悔と共に、そして、調は頭部のツインテール部分のユニットから小型の丸鋸を一斉に打ち出す。

 

α式・百輪廻

 

小型の丸鋸は正確にノイズや戦闘員を打ち抜き、次々と倒していく。

 

 

 

 

「あの小娘、またか…各怪人に通達する。月読調を殺せ!我等を二度も裏切った事を後悔させるのだ!!」

 

「ま…待って…」

 

調が再びショッカーに逆らったことを確認した死神博士は、艦艇に居る怪人達に調の抹殺命令を出す。マリアが止めようと声を出すが死神博士の威圧に押し黙ってしまう。

 

「このままじゃ…」

 

艦艇には六体の怪人が居る。このままでは調が嬲り殺しにされると感じた切歌が自分も動こうとしたが、

 

「まあ待ちなさい。あなたに渡しとく物があります」

 

今にも飛び出しそうだった切歌の肩に触り呼び止めるウェル博士。一瞬ムッとする切歌だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

DNAを教育してく エラー混じりのリアリズム

人形のようにお辞儀するだけ モノクロの牢獄

 

次々とノイズを片付ける調は足元の鋸で高速移動する。その際にすれ違うノイズや戦闘員も切り捨てていく。そして、一際ノイズの多い場所に行くとツインテールのユニットに大型の丸鋸にするとその場で回転する。

 

だからそんな…世界は…

伐り刻んであげましょう

 

調が回転する事に周囲に居たノイズは文字通り調の巨大丸鋸に切り刻まれ炭と化していく。このままノイズを殲滅出来る。そう思ったが、

 

「何を切り刻むんだ?」

 

「!?」

 

体ごと回転させていた丸鋸が止められた。止めたのはカブトロングだ。カブトロングは左手の電磁ばさみのみで調の丸鋸を止めている。調が何とか巨大丸鋸を動かそうとするがビクともしない。

 

「ふん!」

 

「しまっ!?」

 

それどころか、カブトロングの電磁ばさみに逆に切られてしまった。だが、これでカブトロングの拘束から自由になった調が距離を取ろうとしたが、移動先に火炎が降り注ぎ動きを封じられる・

 

ゴワーオオオオウ

         アーエアエアエ

                 ガブガブー

 

調が周囲を見回すと米兵を片付けた怪人達が自分を取り囲んでいた。

 

「死神博士からお前の抹殺命令が出た。俺の電磁ばさみでお前の首をねじ切ってやる」

「いや、俺の殺人レントゲンで骨だけにして飾るのはどうだ?」

「溶けて死ぬか焼け死ぬか好きな方を選べ」

「血を寄こせ!ミイラたちの仲間にしてやる!」

「俺に食わせろ!小娘の血と肉は絶品だ!」

「どうでもいい。切り刻んで海に捨ててやる」

 

一部の怪人が調の始末の仕方で軽い口論をする。そのまま共倒れしてくれないかと思う調だが、怪人達は直ぐにある提案をして調べに襲い掛かる。

 

「「「「「なら早い者勝ちだ!!!」」」」」

 

六体の怪人が一斉に迫る。ナメクジラの溶解液を避け、イソギンチャックの触手を丸鋸で切り、ギリザメスの鼻先で残った巨大丸鋸で火花を上げるが直後に破壊される。

調もやられるだけではない。ノイズに攻撃したようにツインテールのユニットから小さな丸鋸を幾つも打ち出す。しかし、ノイズとは違い、怪人の体には当たるが少し傷つける程度だ。その傷も即座に治ってしまう。

 

━━━力の差があり過ぎる!私じゃ倒せない!

 

「いい加減死ねぇ!殺人レントゲン!」

 

「!?」

 

空を飛んでいたフクロウ男の目が光る。調は咄嗟にツインテールのユニットから再び巨大丸鋸を出して自分の体を隠す。直後に爆発を起こして調の体が甲板の壁に叩きつけられる。

 

「アガッ!」

 

背中を強打した調は一時的呼吸困難に陥る。調の咄嗟の行動は正解と言えた。あのままでは回避は間に合わず調は白骨化して殺されていただろう。

調は正常に呼吸する為にその場をジッとしていた。数秒程で何とか呼吸困難も治ったが調の前にカブトロングが左手を振り上げていた。

 

「此処までのようだな小娘…死ねぇ!!」

 

「…切…ちゃん…」

 

調の目に自分に向け電磁ばさみを振り下ろすカブトロングの姿が映り死を覚悟した。心残りのマリアやナスターシャ教授、そして切歌の姿が脳裏に過り、大好きな親友の名を呟く。

 

 

「待つデス!!」

 

 

直後に少女の声と共にカブトロングの前に一本の緑色の大鎌が突き刺さる。

調とカブトロングらが投げられた咆哮を見るとシンフォギアを纏った切歌が降り立つ。

 

「何のつもりだ小娘、お前も裏切るつもりか?」

 

カブトロングが左腕の電磁ばさみを切歌に付きつける。他の怪人達も切歌の返答次第で即座に殺す気である。しかし、切歌はそんな怪人達を無視して調へと近づく。

 

「もう大丈夫デス、調」

「切ちゃん…ありが…」

 

切歌に手を借りて立ち上がった調がありがとうと言い掛けた時、切歌は調の首筋に銃型の注射器を打ち込み中の液体を調の体に入れる。

 

「切…ちゃん?」

 

注射を打たれた調は体がふら付く、直後に足元に展開していた移動用の鋸も収納され纏っていたシンフォギアも解かれる。

 

「ギアが…」

「例え、私と調が戦っても怪人には勝てない、二人共殺されるのが関の山デス。私、調には生きていて欲しいデス。例え、私が消えても調には…」

 

シンフォギアを纏えなくなり驚く調に切歌が悲しい表情で言う。

 

「切ちゃん?」

「私が消えても調が生きていてくれたら、私と調の想いでは残るデス。だから、調には此処で戦線離脱して貰うデス」

 

切歌が言い終える直後に艦艇の横の海から轟音と水柱が上がり海中から何かが飛び出してくる。

 

「ミサイルだと!?」

「違う、あれは」

 

突然の事に慌てる怪人達。形状からミサイルかと思われたが開くと中から翼とクリスが飛び出す。

 

「喰らいやがれぇ!!」

 

既に小型ミサイルを展開していたクリスが一斉に怪人に向け撃つ放つ。小型ミサイルは正確に怪人に降り注ぎ爆発するがあまり威力が無い。

 

「大した威力はないぞ」

「…違うこれは煙幕だ!」

 

クリスの目的は小型ミサイルで攻撃する事ではない。小型ミサイルに煙幕を仕込み視界を奪ったのだ。

 

「とったぞ!」

「なにっ!?」

 

そして、視界を奪われたナメクジラに翼が一気に切りかかる。完全な不意打ちにナメクジラは一刀両断され爆発する。

 

「やったの?」

「そうみたいデス。ドクターの言う通りになったデス」

 

切歌は飛び出す前のウェル博士とのやり取りを思い出す。

 

 

 

 

『これは…LiNKER?』

『Anti LiNKERです。適合係数を下げる効果があります。これを打てばあの子の適合値も下がり一時的にシンフォギアを纏えなくなります』

『シンフォギアを纏えないって、それじゃ怪人たちに嬲り殺しにされるデス!』

 

ウェル博士の言葉に切歌は睨みつけるように言う。

 

━━━やっぱり、ドクターは信用できないデス!

 

『良いから聞きなさい。もう直ぐ、特異災害がこの海域までやって来る筈です。その時に月読調を保護させなさい』

『保護!?』

『ええ、保護です。残念ですが死神博士は、もう月読調を生かしとく気はありません。無理に連れ戻してもよくて処刑、下手すれば改造人間の素体にされるかも知れません』

『そんな…』

『…何でしたら君も特異災害に降るのもありですよ。あそこは人がいいですからね、あなた達も保護してくれるでしょう。Anti LiNKERを打ち込んだ月読調も暫くは戦えなくなる筈ですから。我々の事は心配する必要はありません』

『私まで抜けたらマムとマリアは…』

『責任は問われるでしょうが今はその時ではありませんよ。フロンティアの封印が解かれればそれどころではありませんから。マリアもナスターシャ教授も覚悟の上です』

 

 

 

 

━━━ドクターの真意は分かりませんけど、私が思ってるより悪い奴じゃなさそうデス。調を任せるのは癪デスけどこのままショッカーに利用されるよりはマシです

 

「それでも私はマリアたちについていくデス」

 

まだ煙幕が残り視界の悪い中、切歌は一人決意する。最悪でも調が生きられる世界の為に

 

 

 

 

 



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54話 狂気! シンフォギア装者殲滅作戦





 

 

 

「ちっ、特異災害どもめ案外素早い!」

 

エアキャリア内の死神博士も翼とクリスの存在に気付き舌打ちをする。艦艇の上はクリスのミサイルで煙幕が舞い視界を封じられる。

 

「…彼女達が来てくれたのね」

 

翼とクリスの姿を見てマリアはホッとする。少なくとも調の生き残る可能性が上がったのだ。

 

「煙幕か、そんな小手先が怪人達に通用すると思っているのか!?」

 

 

 

 

 

 

 

「アーエアエアエ!!こんな煙幕吹き飛ばしてやる!!」

 

イソギンチャックが頭部から竜巻を起こしてクリスの煙幕を吹き飛ばす。翼とクリスの姿は丸見えとなった。

 

「煙幕が!?」

「竜巻を出せるのかよ、あの怪人!」

 

煙幕が吹き飛ばされたクリスはもう一度小型ミサイルを展開し煙幕を張ろうとしたが、

 

「させるか!」

「殺人レントゲン!!」

 

「!?」

 

フクロウ男の殺人レントゲン回避の為に小型ミサイルの展開を止めその場から移動するがヒルゲリラの右手の鞭がクリスの足を捕らえる。

 

「しまった!?」

「雪音!」

 

クリスがヒルゲリラの鞭に捕まった事を直ぐに察した翼が援護しようとするが、

 

「させるか!」

「ガーブガブー!」

 

殺気を感じた翼は直ぐに剣を構える。直後に二体の怪人の刃が襲い、翼が剣で防ぐ。一体はカブトロングにもう一体は、

 

「お前はギリザメス!」

「此処であったが百年目!今度こそ、その首を首領に捧げてやる!」

 

廃病院の時に戦ったギリザメスだ。左腕のカッターで翼に斬りかかっていた。二体の怪人の力に翼は押される。何とか弾いて距離を取り剣を構える。

 

翼もクリスも実力は上がっているが複数の強化怪人を相手にするのは厳しいと言わざる得ない。苦戦は免れなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヒッヒッヒッヒッ捕らえたぞ、小娘!お前の若くて生きのいい血をたっぷり吸わせてもらおうかぁ!」

 

クリスの足を鞭で捕らえたヒルゲリラが鞭を引っ張ってクリスに近づく。

 

「吸血タイプの怪人かよ、…!?」

 

特異災害対策機動部二課にて怪人のデータを見た事があり其処には吸血タイプの蝙蝠男のデータもありそれかとも思ったが、クリスは甲板にある幾つもの干からびたミイラを見つけた。

 

「…おい、ここいらのミイラはお前が作ったのか?」

 

「そうだ、殆どが不味い血だった、男の血は不味くて仕方ない。奴隷人間にする価値も無い。その点、お前は若い女だ。その血はさぞ美味いだろうよ」

 

クリスの質問に答えるヒルゲリラ。その声は陽気で悪びれた様子は全くない。故に気付かない、クリスの声に含まれた怒気に。

 

「そうかよ、クソったれ!!」

 

両手からボーガンを出しガトリング砲に変えると、クリスは素早く銃口をヒルゲリラとフクロウ男に向け一気に撃つ。あまりの素早さにヒルゲリラもフクロウ男も対応が出来なかった。

 

「「なに!?」」

 

ガトリング砲の弾丸は真っ直ぐヒルゲリラとフクロウ男に吸い込まれるように当たる。それでもノイズなら倒せるが今のショッカー怪人には力不足と言えた。

 

「こんな豆鉄砲で俺達を倒せると思ったか!?」

 

「勘違いするんじゃねえぇ!!」

 

自分達の体にガトリング砲が効かない事に強気になるヒルゲリラとフクロウ男だったが、次の瞬間にはクリスは二つの大型ミサイルを展開して撃ちだす。

 

MEGA DETH FUGA

 

二つの大型ミサイルはヒルゲリラとフクロウ男へと迫る。空を飛ぶフクロウ男は羽ばたき何とか大型ミサイルを撒こうとしているがフクロウ男を追跡する大型ミサイル。

ヒルゲリラは早々に躱すのを諦め腕をクロスさせガードする。その際にクリスの足に巻き付いた鞭も戻している。

直後に、轟音と衝撃がヒルゲリラを襲う。しかし、大型ミサイルの直撃を受けてもヒルゲリラにはそこまでのダメージはなかった。

 

「多少のダメージは認めてやるが、俺を倒せる程ではないな」

 

クリスの大型ミサイルを耐えきったヒルゲリラは勝利を確信する。ミサイルの爆発で生じた煙で視界が悪いが煙幕の時程ではない。現に海の潮風が吹き煙を吹き飛ばしクリスの姿も見えた。

 

「!?」

 

そして、クリスの姿を見て驚愕するヒルゲリラ。クリスはアームドギアをスナイパーライフルに変形させ甲板に座り銃を構える。その姿は狙撃手のようであった。

 

「その醜い土手っ腹に風穴を開けてやら!」

 

RED HOT BLAZE

 

とっくに頭部のバイザーで狙いをつけていたクリスは煙が晴れると一気にトリガーを引き、スナイパーライフルの弾丸をヒルゲリラに撃ち込む。

今までの比ではない衝撃をヒルゲリラは感じると腹部に違和感を感じた。ヒルゲリラの腹部はクリスに撃ち抜かれ反対側が見える大きな穴が開いていた。

 

「ば…馬鹿なぁ!!」

 

信じられないと言った声で叫ぶとヒルゲリラは倒れ爆発四散する。

 

「ええい、しつこい!殺人レントゲン!」

 

丁度その頃、空で大型ミサイルと追いかけっこをしていたフクロウ男が殺人レントゲンで大型ミサイルを破壊する。大型ミサイルから自由になったフクロウ男はその時にヒルゲリラが倒された事を知った。

 

 

 

 

 

 

 

カブトロングとギリザメスの鍔迫り合いは翼がやや不利であった。カブトロングもギリザメスも翼に比べれば剣の腕は皆無と言える。問題は二体とも人間を超える力と二対一の数の差である。

カブトロングの電磁ばさみとギリザメスの鋭利な左手のカッターが翼の剣と打ちあう度火花を上げる。

 

「まどろっこしい、死ねぇ!!」

 

いい加減、何度もの鍔迫り合いにも飽きたギリザメスが口から火炎を吐き出す。咄嗟に避けるカブトロングだが、翼はギリザメスの吐いた火炎に飲み込まれる。

 

「死んだか?」

「これだけの炎だ、人間ならお陀仏よ」

 

炎と煙で翼の死体も確認できてないがこの炎では助からないだろうと判断したカブトロングとギリザメス。

未だに、クリスを仕留めきれていないヒルゲリラが目に入り加勢してやりろうと思った。その時だった、

 

去りなさい!無想に猛る炎

神楽の風に 滅し散華(さんげ)せよ

 

「ん?」

「何だ?」

 

炎の方から何かが聞こえて来る。最初はただ燃えてる音かとも思ったがどうにも違う。

 

闇を裂け 酔狂のいろは唄よ 凛と愛を翳して

いざ往かん…心に満ちた決意 真なる勇気胸に問いて

 

「歌だと!?あの小娘まだ生きてるのか!?」

「それどころかこの炎の中で歌うだと!?」

 

その音の正体が歌だという事に気付いたカブトロングとギリザメスは驚愕する。この炎の中で生きてるどころか歌っても居るのだ。

そして、その隙を翼は見逃さない。

 

嗚呼絆に すべてを賭した閃光の剣よ

四の五の言わずに 否、世の飛沫と果てよ

 

翼は一気に炎から飛び出し何時の間にか二つの剣を連結させた剣を回転させギリザメスの吐いた炎を纏わせ一気にカブトロングに迫る。咄嗟にカブトロングも左手の電磁ばさみで翼の首を切り落とそうとする。

翼が一気に動き、翼とカブトロングが交差し行違う。

 

「……人間ごときに!」

 

風輪火斬

 

暫しの沈黙の後に左手の電磁ばさみが壊れカブトロングが倒れると共に爆発する。

それは丁度、クリスがヒルゲリラを倒すのと同時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヒルゲリラとカブトロングまで倒れたか。…役立たずどもめ!」

 

自慢の怪人が次々と倒されて死神博士も怒りの表情を浮かべる。甲板にいた怪人の半分は倒された、さすがにこれ以上の損害はフロンティアを手に入れる際の支障になりかねないと判断した死神博士は通信機に向けて言う。

 

「聖遺物怪人を出せ!此処を奴等の墓場にしてやる!!ウェル、あの小娘は使えるようになったか!?」

 

「…最終調整に少し手間取ってます。あと少しで使えるかと」

 

ウェル博士の返答に「早く済ませろ」と言う死神博士。既に聖遺物怪人こと立花響の体は最終調整も終え何時でも戦いに出せる。

 

「本来なら東京で使う予定だったが…だが特異災害対策機動部二課が何をしようと最後に勝つのはショッカーだ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヒルゲリラがやられた!?」

「カブトロングもだと!?」

 

その頃、甲板で戦っていたフクロウ男とギリザメスが共に戦っていた怪人が敗れて驚き、それぞれ距離を取る。二体の怪人は最初の頃より警戒し出す。

 

「…すごい」

「…デス」

 

切歌に注射された調は自力で立つのも、しんどく甲板に座り傍には切歌も居る。最早、怪人達は調と切歌に構ってる余裕はなく翼とクリスに視線を向ける。その事に少しホッとする切歌。

 

その時、一つの水柱が上がると共に何かが飛び出し甲板に着地する。翼やクリスに調と切歌どころか怪人達もこれには驚く。そして、そこにいたのは、

 

「アイツ…」

「立花!」

 

それは紛れもなく、あの日スカイタワーで戦った立花響だった。ご丁寧に攫われた時の制服の姿のまま再び、翼たちの前に立ち塞がり翼やクリスを睨みつける。その目は相変わらず光の無い濁った瞳だった。

 

「変身」

 

響が一言呟くと体が光りシンフォギアを纏い。響の周りの空気は熱し歪んで見え、そして腰には相変わらず金色に輝くショッカーベルトを巻いている。

 

「アタシ等の前で堂々と変身かよ」

「挑発と言ったところだろう」

 

翼とクリスの視線はもう他の怪人には向いていない。今は聖遺物怪人になってしまった響へと集中する。

 

「目標、風鳴翼・雪音クリスを確認。抹殺シマス」

 

「「!?」」

 

翼とクリスは響の声を聞いて冷や汗を出す。スカイタワーで聞いた時より機械的な喋り方になっていた。既に響は何度も死神博士に脳を弄られ完全に自己意識が消えかけている。

 

「待ってろよ、必ずアタシ等がお前を元に戻してやるから!!」

 

こうして、翼とクリスは再び響との戦闘に入る…かに思えた。

 

 

 

 

 

Rei shen shou jing rei zizzl

 

 

 

 

 

一つの歌が聞こえると共に艦艇の上に強烈な光りが輝く。直後に艦艇の甲板に何かが着地する。

 

「敵の援軍か!?」

「お次は何だよ!?」

 

突然の事に驚く翼とクリス。やがて着地した煙が消えると其処には見覚えのある影が、

 

「馬鹿な!?」

「未来!?」

 

クリスが叫ぶ様に名前を言う。それは紛れもなく行方不明になっていた小日向未来だった。ショッカーに攫われていた可能性があった為、覚悟はしていた。

 

体には紫と白、足には厳ついギアが付けられ胸元には翼たちと同じシンフォギアのペンダント。頭部には未来の顔を覆うように大きなバイザーがつけられている。それは未来が自分達の知らないシンフォギアを纏っている。そして、それは完全に想定外だった。

 

 

 

「さあ、行きなさい小日向未来。その力であなたの望みを叶えるのです。出来るだけドラマティックに…ね」

 

エアキャリアに設置されてるモニターを見てウェル博士はメガネのズレを直して、そう呟く。出来る事は全てやった、後は小日向未来次第と言える。

 

「ウェルめ、間に合ったではないか。聖遺物怪人にもう一匹、特異災害対策機動部二課のシンフォギア装者と裏切者を殺せ!」

 

「了解」

「…」

 

死神博士の命令に返答する響だが未来の方は黙って翼とクリスの方に向かう。一瞬違和感を感じた死神博士だが今は、特異災害対策機動部二課のシンフォギア装者を抹殺を優先する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「響くんだけでなく、未来くんもだと!?」

 

翼やクリスを送り込んだ海域へと向かっていた特異災害対策機動部二課の仮説本部の潜水艦内の指令室にて米艦艇での戦闘を見守っていた弦十郎が驚愕の声を出す。オペレーターコンビや緒川も目を背けたい気持ちだ。

 

映像には響と未来の攻撃に翼とクリスは回避しつつ反撃しているが見ただけで苦戦してるのが分かる。

未来の遠距離攻撃にクリスが相手をしようとするが、そのクリスの前に響が立ち塞がる。結果、遠距離が得意でない翼が未来の相手となる。

 

未来の放つレーザーに翼は近づく事も出来なく、残った怪人達が翼やクリスの戦いの邪魔をする。

 

「ん?」

 

その時、弦十郎に違和感が走る。未来の放ったレーザーが翼に奇襲しようとしていたイソギンチャクの怪人の触手を焼く。傍目には翼を攻撃してるように見えるが弦十郎にはまるで翼の援護をしてるように見えた。

更に、気になるのは未来の挙動だ。翼にレーザーを撃ちつつ響の方を気にしてるように見える。尤も、シンフォギアのバイザーで未来の目は見えず弦十郎の勘でしかないが。

 

「まさか…未来くんは…」

 

一つの可能性を考える弦十郎。それは紛れもなく奇跡のような考えなのは弦十郎も分かってはいる。

 

「!此方に向け強制通信です!映像を回します!」

 

あおいが外部からの強制通信を報告すると、司令部のモニターにあの老人が映る。その老人は弦十郎たち共因縁深い相手。

 

「死神博士!」

 

『わざわざ、こんな海域までご苦労だな。得意災害どもめ、此処が貴様らの墓場となるのだ』

 

死神博士の笑い声が指令部に響く。弦十郎も他の職員も歯を食いしばる。イニシアチブは完全にショッカーが握っていた。このままではショッカーの目的が達成されてしまう。

 

『ついでだ、貴様らに面白い物を見せてやろう!』

 

死神博士がそう言い終えると指令室のモニターに人型の体のデータと少しずつ減っていく数字が映し出される。弦十郎たちはその映ってる人型に覚えがあった。

 

「これって…」

「まさか!」

「響くんか!?」

 

『その通り』

 

それは以前、二課でも見た事がある響の体の内部のデータだった。尤も、二課の奴よりも詳細にデータが乗っており心臓の様子まで分かる。所々、変わってる部分もあるが間違いなかった。

 

「何故こんな物を俺達に見せる!」

 

『なぁに、立花響を返してやろうと思っただけだ』

 

「「「!?」」」

 

死神博士の予想外の答えに一部の職員が喜ぶが弦十郎は何か裏がある事に気付く。それが何か考えるが、

 

「これは!?」

 

オペレーターコンビの朔也が何かに気付く。弦十郎が「どうした!?」と言うと朔也は映し出された画像の一部を拡大する。それを見て額に汗を掻く朔也。

 

「間違いありません、響ちゃんに取り付けられているベルトに繋がれた線が響ちゃんの原子炉に繋がれています!そして、ベルトには核分裂を促す仕掛けがあります!」

 

「!?」

 

朔也の言葉に皆が言葉を失い死神博士が再び笑い出す。死神博士はとんでもない仕掛けを響に施していた。

 

「貴様、響くんの体を核爆弾にしたのか!?」

 

『正解だ、風鳴弦十郎。その威力はヒロシマ型原爆の185倍だ』

 

その言葉に誰かが「ツングースカ級…」だと呟く。指令部に戦慄が走る。これでは下手に響を助ける事も出来ない。

 

「な…何故だ、死神博士!響くんはお前の最高傑作ではないのか!?」

 

『? 何を言っておる。最高傑作などまた作ればいいだけよ、それにアレの代わりは幾らでもいる』

 

弦十郎のセリフに当たり前のように返答する死神博士。科学者である死神博士は立花響を超える更なる怪人を作る気であった。そして、その答えに改めて戦慄する弦十郎たち。

 

『どうだ?題してシンフォギア装者殲滅作戦よ。ついでに裏切者も始末できるというものだ』

 

「此処で爆発させたら貴様らとてただでは済まんぞ!!」

 

『ほう、我々の心配をしてくれるとはな。だが安心しろ、エアキャリアには対ショック用の技術も盛り込んでいる。ある程度まで離れれば衝撃波など問題ない』

 

死神博士はこの日の為にエアキャリアにちょっとした仕掛けを施していた。ショッカーの改造により以前の物より頑丈に出来ており近くで核爆発が起きようと姿勢に問題が出ないようにしていた。勿論、マリアたちへの許可も知らせる事も一切なかった。

 

『さて、最後に一つだけ教えてやろう。この核爆発は聖遺物怪人、立花響を殺せば解除される。逆に無理にベルトを取ろうとしたり時間が過ぎれば…ククク』

 

不気味に笑う死神博士を見て特異災害対策機動部二課は死神博士が何をさせたいのか分かった。翼やクリスに響を殺させようとしていたのだ。ベルトを取ろうとすれば響が命がけで守り表示されてる時間が過ぎれば翼やクリス諸共核爆発する。

 

尤も、死神博士としてはどちらでも構わない。倒せず時間になって共に消滅するも良し、倒して翼やクリスがトラウマを抱えるも良し、逆に響から逃げて見殺しにするのもありだった。小日向未来の方も核爆発する寸前に回収すればいい。

 

翼やクリスのデータを見た限り響を見殺しにしても心に深いダメージを受ける。

死神博士としても聖遺物怪人(立花響)を失うのは痛いと言えば痛いが特異災害の装者にトラウマを植え付けられるのなら安い物である。何より響の心臓も限界が近い、改造手術で誤魔化してはいたがそれも限界と言えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、その死神博士の言葉は甲板で戦う翼やクリスの耳にも入る。

 

「外道め!」

「聞いただろう!アイツはお前を切り捨てる気でいるぞ!!」

 

翼が吐き捨てるように言い、クリスは響に死神博士が使い捨てにする気でいる事を訴える。響に少しでも人としての心が残ってるのなら響の動きに迷いが出て、それが隙となり響を取り戻すチャンスが出来ると思ったからだ。

 

「それがドウシタ?私ハしょっかーノ改造人間、ショッカーが勝利するのナラこの命などどうなっても構ワン」

 

しかし、通信を聞いていたのにも関わらず響には全く動揺がなかった。まるで自身の命などどうでも良さそうにしている姿にクリスはショックを受ける。

 

「そこまで…そこまで頭の中を弄られてるのかよ!?」

「正気に戻れ、立花!!」

 

翼とクリスの悲痛な叫びが甲板に木霊する。しかし、それを聞いても響の眉は微動だにもしなかった。その様子に翼とクリスに悲しみが襲う。そしてそれは隙となった。

 

「残念だったな、聖遺物怪人の代わりに俺がお前らを殺してやるぅ!!」

 

イソギンチャックがその隙を逃さずクリスへと飛び掛かる。接近戦が翼ほど得意ではないクリスには今の状態での怪人との接近戦は不利でしかない。

反応が遅れたクリスは反撃する事も躱す事も出来ずに自分に飛び掛かるイソギンチャックの姿を見ることしか出来なかった。

 

 

 

 

 

「…それがあなた達のやり方なんだね」

 

だが突如発生した紫色のレーザーがイソギンチャックを飲み込む。

 

「「!?」」

 

「何だと!?」

 

驚く翼とクリス、レーザーに呑まれたイソギンチャックも驚きの声を上げた後に大爆発を起こして倒される。レーザーの出所を見ると足の部分から出したギアが未来の前で丸くなり其処からレーザーを出したようだ。

これにはギリザメスにフクロウ男、調と切歌も驚く。

 

「何のつもりだ小娘!敵はシンフォギア装者だろう!!」

 

ギリザメスが未来に怒鳴りつける。誤射にしてもイソギンチャックだけをレーザに当てるなど信じられなかった。その時、未来のシンフォギアのバイザーが開く。

 

「いいえ、敵はあなた達よ!翼さん、クリス、私も戦う!そして響を取り戻してみせる!!」

 

未来の目は何処までも力強く、真っ直ぐに響の方を向いていた。

 

 

 

 




まさかの響が核爆弾化。52話で死神博士が言っていた内容が一応伏線のつもりです。

自分は核に関する知識はたいしてないのでかなり適当です。

でも、デストロンの時代にはカメバズーカの体内に原子爆弾をしまえてたしこれくらい出来るでしょう。…たぶん

死神博士は、この機会に調を抹殺しようとしてます。切歌の存在は知ってますが戻ってこれないようなら知らね、というスタンスです。


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55話 少女の歌には、血が流れる。 悪の歌には、何が流れる?  前編

寒暖の差で風邪ひいた。頭が痛いと集中出来なくて困る。


 

 

 

「ウェル、如何言う事だ!?小日向未来の洗脳はどうなっている!?」

 

未来の突然の離反に死神博士が激怒する。その対象は当然、小日向未来の調整をしていたウェル博士に向かった。

 

「ああ何てことだ!?神獣鏡に影響しないよう最低限の洗脳が仇になってしまうなんて、先生が急かしたりするから!」

 

大袈裟に嘆くウェル博士に死神博士は苦虫を嚙み潰したようような表情を見せる。確かに死神博士はウェル博士を急かしたりしたが、こうも簡単に洗脳が解けて裏切ってくるとは考えて居なかった。

 

この時、ウェル博士は死神博士に気付かれないようマリアに向けてウインクしてマリアもそれに向けて静かに親指を立てた。

 

「ええい、やむを得ない。聖遺物怪人、小日向未来を殺せ!」

 

死神博士は、響に未来を殺すよう命令を出した。死神博士が企てた計画が音を立てて崩れ出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

「小日向!」

「未来、お前操られてないのかよ!」

「詳しい話は後でする!今は!」

 

未来が翼やクリスの下に行き、響の方を見る。響の方もギリザメスやフクロウ男が集まり未来たちと対峙する。

 

「死神博士カラの命令を確認・小日向未来の抹殺に入りマス」

 

「三対三、数はイーブンか」

「…待てッ!この気配は!」

 

「「イーッ!!」」

 

数が互角なら勝機はあると感じるクリスだが、妙な気配に気付いた翼は周りを警戒し出す。直後に何処からともなく戦闘員が現れ未来たちを囲う。そして一気に戦闘員達が襲い掛かる。

 

「こいつ等、まだこんなに居やがるのかよ!」

「潜水艦から次々と出てきてる!」

 

クリスがアームドギアをガトリング砲にして戦闘員を撃ちまくるがノイズ並みに現れる戦闘員に辟易する。同じく、扇を出して円状にしレーザーを出して戦う未来がショッカーの潜水艦から次々と戦闘員が出て来るのを確認する。その様子に響やギリザメス等は高みの見物をしていた。

 

「あいつ等、アタシ等を消耗させる気か!」

「だが、これでは切が無いぞ!」

 

今の翼たちには戦闘員はそこまで脅威ではない。しかし数で圧倒的にこられると消耗は避けられない。

その時、米艦艇に横づけされていた潜水艦の一つが轟音と共に爆発炎上する。

 

「イーッ!?」

 

爆発に巻き込まれた戦闘員が火達磨になり其処らを転げまわる。中に海に落ちる者まで居た。

 

「爆発だと!?事故か!」

「違ウ、アメリカのイージス艦を確認。潜水艦はアレにヤラレタようです」

 

フクロウ男の疑問に答える響。見れば炎上して沈む潜水艦の煙から何隻ものイージス艦が見える。

 

「本部から通達、アメリカの海軍が私達に協力してくれるようだ!」

「助っ人か、ありがてえ!」

 

翼の言葉にクリスは嬉しそうにする。世界最強と言われるアメリカ軍の協力があればノイズは兎も角、ショッカー軍団に対抗は十分できると言えた。現にもう一隻の潜水艦が爆発して沈んでいく。

 

 

 

 

 

 

 

 

「おのれ、ムシケラどもが!」

 

アメリカ軍の援軍に死神博士はエアキャリアのドアロックを開け持っていたソロモンの杖を掲げ光を出しイージス艦や護衛艦に当てる。そこから大量のノイズが現れた。

 

「ノイズだ!!」

「撃てぇ!撃てぇ!」

 

米海軍も突然現れたノイズに銃撃するが位相差障壁の前に銃弾は通り過ぎるだけ、兵士達は次々と炭化していく。

 

「このソロモンの杖がある限り人間どもに勝ち目などないわ!!」

 

船の地獄絵図に死神博士は、ソロモンの杖を見て笑みを浮かべる。潜水艦が何隻かやられたのは痛いが代わりに多数の米兵を抹殺出来た事に満足する。その光景に奥歯を噛みしめるマリアとウェル博士。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、艦艇に居た翼たちも死神博士の出したノイズに気付く。その中には飛行型のノイズも確認できる。

 

「ノイズを出したのか!?」

「! アタシが行く!」

「クリス!」

 

ノイズを確認したクリスは翼や未来の返事も待たず飛び出す。

 

━━━ソロモンの杖がバビロニアの宝物庫は開けっ放しって事か!

 

クリスがジャンプし両腕にガトリング砲と腰の小型ミサイルを展開して回転して全方位のノイズに向けて引き金を撃つ。次々とノイズを殲滅する姿を翼に見せる。

 

「ノイズは雪音に任せる、私と小日向は、「翼さん、あれ!」!?」

 

クリスがノイズの掃討を担当するなら自分と未来が響の相手をしようとしたが、未来が突然指を指して声を出す。翼が見ると、調と切歌に武器を持った戦闘員と何時の間にか響の下から離れたギリザメスとフクロウ男が迫る。

切歌は調を守ろうとするが手に持っている大鎌、イガリマで戦闘員や怪人を追い払うだけで、戦ってるようには見えなかった。

 

「クッ…」

「…行ってください、翼さん」

 

何かしらの事情があるのだろうと感じた翼だが、自分が助けに行けばその間に未来は一人で響の相手をする事になる。怪人以上の強さを持つ響に未来一人ではと心配していた翼に未来は調たちを助けに行くよう言う。

 

「小日向…」

「あの二人とは碌に話してないけど、悪い子じゃない筈です」

 

未来がFISの中で喋ったのはマリアとウェル博士だけだった。それでもマリアの様子から調と切歌は悪い子ではないと判断する。未来の言葉に少し考えた翼は首を縦に振ると調たちの下へ行く。

 

 

 

 

 

 

 

 

「大人しくその小娘を寄こせ!」

「我等、ショッカーを二度も裏切った。許すわけにはいかん!」

 

ギリザメスとフクロウ男が調と切歌の前後を固める。更には複数の戦闘員とノイズまで居る。数の上では切歌が圧倒的に不利であった。ついでに言えば調もシンフォギアが使えない状態だ。

 

「…切ちゃん」

 

「それとも何だ?お前も裏切るのか?それならそれで俺達が処分するだけだ」

 

ギリザメスの嫌らしい声に切歌は一瞬震える。このままでは自分達は殺されマリアやナスターシャ教授の身が危険だと感じた。

その疑いを晴らすには持っている大鎌…イガリマで調を斬りかかるしかないが、切歌はそんな事は死んでもごめんだ。

 

「どうすれば…」

 

「ああもういい!二人纏めて死ねぇ!!」

 

切歌の煮え切らない態度に左腕のカッターを振り上げたギリザメスは切歌と調に飛び掛かる。もうこの際切歌が裏切ってるかどうかなどどうだっていい。

 

━━━どうせ居ても大して役に立たないシンフォギアの装者だ、それにフロンティアを手に入れた後は死神博士の教え子以外は…

 

ギリザメスの左腕を切歌のイガリマで止めようとするが、怪人の力に押し負け弾かれる。辛うじて手放さなかったが切歌の目の前までギリザメスのカッターが迫る。恐怖に切歌が目を瞑ってしまう。だがその直後に金属音のような音が聞こえた。特に体に衝撃が来なかったので目を開けてみる。

 

「え?」

 

切歌の目が信じられない光景があった。

 

「グっ…邪魔をするか!?風鳴翼!!」

 

「当たり…前だ!!」

 

ギリザメスの左腕を翼の剣で弾き何度目かの鍔迫り合いが起こる。戦闘員が翼に飛び掛かろうとするが足でアッサリ蹴り飛ばされる。

 

「ええい、殺人レント「上に注意しなくていいのか?」ゲ…なにッ!?」

 

翼を殺そうと目から殺人レントゲンを出そうとしたフクロウ男だったが翼の言葉で迂闊に空を見た。翼の言葉をハッタリだと思っていたが空から無数の剣が降って来る。

 

千ノ落涙

 

「剣だと!?」

 

フクロウ男の声にギリザメスや戦闘員も空の方を見る。自分達に向かって振って来る無数の剣が同時に突き刺さる。

 

「ええい、こんな物!!」

 

無数の剣はギリザメスやフクロウ男に刺さるが強化された怪人にはあまり効果はない。しかし、戦闘員やノイズは怪人程の耐久力は無く次々と倒される。そして、調と切歌を取り囲んでいた戦闘員とノイズは全滅した。

その様子に息を飲む切歌。LiNKERも無しでここまで出来るのだ、羨ましいと思う反面恐怖も感じる。

 

「雑魚を蹴散らした程度で図に乗るな!!」

「足手まといを抱えてどこまで戦える!」

 

戦闘員やノイズが全滅したが、今の調はシンフォギアを纏う事は出来ない。即ち戦えないという事だ。翼がチラッと調の方を見る。切歌に守られているが怪人達の猛攻を受ければ一溜まりもない。何より、切歌自身が怪人達への攻撃を躊躇っている。

 

━━━怪人一体ならどうにでもなる。だが、二体ではあの子を守り切れない

 

今の翼なら怪人一体なら調を守りながらも戦える。しかし、二体では難しいと言えた。

 

その時、海上からまた水飛沫が上がり誰かが飛び出す。

 

「またか!?」

「次は何だ!?」

 

何度目かの乱入者に怪人は苛立ちもしつつ見ると、茶髪の背広を着た青年が何時の間にか調をお姫様抱っこしている。

 

「早い!?」

 

青年が一瞬で調を抱えてる事に驚く怪人。飛び掛かろうとするが青年はまたも一瞬で翼の横に移動する。

 

「緒川さん!」

「人命救助は僕達に任せて、翼さんは怪人達の撃破を!」

「お願いします!」

 

調を保護した緒川はそのまま艦艇から離れ仮説本部の潜水艦委戻ろうとする。が、ギリザメスが易々と見逃す気はなく追うが、

 

「逃がすか!って海の上を走ってるだと!?負けるか!!」

 

調を抱えて海の上を走る緒川を追うギリザメス。緒川も早いがギリザメスの泳ぐ速度も速かった。

 

━━━調も無事に逃げられたデス。これで…

 

調が緒川に連れられて逃げていくのを確認した切歌は、ある決心をしイガリマを逃げる。

 

「これで後顧の憂いは消えた。後は…「ハアッ!」!?」

 

緒川に調を任した翼がフクロウ男に剣を向けようとするが、突然の背後からの声にもう一本の剣を出すと衝撃が来る。怪人に警戒しつつそっちを向くと大鎌のイガリマを握った切歌が斬りかかっていた。

 

「何のつもりだ!?」

「悪いデスけど少し付き合って貰うデス!」

 

翼と戸惑いの声に切歌は短く答えてイガリマを振り回す。調を生かしマリアを守る為の切歌の決意。まだショッカーを裏切る訳にはいかず翼を攻撃しフクロウ男が困惑する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クリスも翼もこの場を離れ、響と向き合う未来。暫し顔を見た後に未来が切り出す。

 

「響、一緒に帰ろ。響の居るべき場所は其処じゃないよ」

 

ショッカー…死神博士に操られている以上、説得は無意味かも知れない。それでも未来は今の響と話したかった。

 

「創世や詩織、弓美たちも心配してるよ。私と一緒に帰ろ!」

「帰ル?何を言ってイル、私が戻らねばならない場所ナンテもう無い。私はお前を殺シタ後に最後ノ任務をハタサナケレバならない…」

 

未来の説得も空しく、響は死神博士が下した最後の任務を行なおうとする。即ち自身の心臓のガングニールを暴走させて大暴れして最後に胸の核動力炉を暴走させて核爆発させ翼とクリス、そして裏切者を亡き者にする計画だ。響の脳裏に自身の死など考えて居ない。

 

「そんな事ない!皆が待っている、指令も緒川さんもオペレーターの人達も待ってる!翼さんもクリスも…私も響が帰って来るのを待っている!」

「コレ以上の問答はスル気はない。お前達ガ死二ふろんてぃあヲ手に入レレバしょっかーノ世界征服は確実な物二ナル。邪魔はさせん」

「ショッカーが世界を!そんなの私嫌だ!そんな世界間違ってる!」

 

ショッカーの理想を否定する未来。何より未来が望む世界は響と一緒に笑っていける温かい世界だ。ショッカーが支配する世界など願い下げだ。

 

━━━絶対に響を元に戻して見せる。その為にも…お願い神獣鏡。私に力を貸して!

 

未来はシンフォギアを纏う前のウェル博士とのやり取りを思い出す。

 

 

 

 

『しんしょうじん?』

『神獣鏡ですよ。フィーネが奪った聖遺物です』

 

檻の中に居る私に神獣鏡のギアのペンダントを渡すウェル博士。それをマジマジと見る翼さんやクリスの持つペンダントとそんなに変わらない。暫く観察した後にウェル博士に返す

 

『本当にそれで響を元に戻せるんですか?』

『残念ですが改造された体は望みが薄いですが、彼女の脳なら戻せる確率があります。神獣鏡には『魔を祓う』と言う伝説もあります。ようはアナタの心次第としか』

『私の心…』

 

『シンフォギアの特性は装者の心の強さにも比例する言われてます。それに僅かながらのデータで神獣鏡には聖遺物由来の力を分解できるそうですからね』

『聖遺物の分解?』

 

聖遺物の分解という言葉に私は疑問を感じる。なぜ、今その話を自分にしたのか解らないのだ。いや、心当たりが一つあった

 

『ん?その様子では、二課に教えられてないのか?二課もまだ掴めてないのか?…まあこの最どちらでもいいでしょう。よく聞きなさい、小日向未来。立花響の心臓にはガングニールの欠片が刺さっているのは知っていますね』

『は、はい!』

『それが立花響のシンフォギアの力の源ではあるんですが、我々が調べたところ、その聖遺物が暴走して立花響の命を脅かしています。電気ナマズ怪人との闘い…覚えていますか?』

 

その言葉に私は頷く。忘れもしない、自分達が人質になり響が攫われた時だ。確かに、あの時の響はどこかおかしかった気がする

 

『体内にあるガングニールが浸食と増殖を繰り返して力を与えてはいますが、それも長くは続きません。立花響の体内にある装置にまで浸食し機能不全にさせているんです。それこそ先生…死神博士が匙を投げるくらいには』

 

そして、そんな響を使って死神博士が何か企んでる事も聞く。私の脳裏に響の死が過るが先程のウェル博士の言葉を思い出す

 

『聖遺物の分解って事は!』

『ええ、神獣鏡なら心臓のガングニールを取り除き、立花響を助ける事が出来るかも知れません。残念ですが神獣鏡のシンフォギアの実験データは碌に無いので絶対とは言えません。まさに雲をつかむ話でしょ』

 

絶対に響が助かると言う可能性はかなり低い。それでも私の心に決意に満ちていた

 

『やります!私をシンフォギア装者にして下さい!!』

 

私の決意に今まで黙っていたマリアさんが複雑そうな目をし、ウェル博士を眼鏡のレンズを光らせ表情を悟られないようしてるようだ

私の決意にウェル博士は持てる技術の限り未来の体を神獣鏡に合わせる。液体の満ちたガラスの中に下着で入る。正直ちょっと恥ずかしかったけど、これも響を助ける為だ。頭に何か取り付けられ意識が混濁する私にウェル博士は話しかけつつ作業に没頭する

 

『君には、以前僕らが開発した脳へのダイレクトフィードバックを使い可能な限り戦闘のサポートを行います。どう動けばいいかは装置が判断してくれます。…これが英雄のやる事なんですかね…』

 

最後の言葉らへんだけ弱気な言葉だった。きっと自分のやっている事に後悔してるのだろう、ウェル博士はよく英雄になりたがっていたし

 

『少なくとも私にとってはアナタは英雄です。響を助けれる力をくれたんですから』

 

あの後、意識を失った私は目を覚ました直後にお礼と今の話をした。最初は何の話か分からない表情をしたけど直ぐに思い当たったようだ

 

『…聞いてたんですか…ほぼ独り言だったんですが。なら頭部の装置はなるべく守りなさい。それが君の生命線です、ダイレクトフィードバックに従えば立花響とは互角に戦える筈です。…何でしたら旗色が悪くなったら逃げても構いません。特異災害の装者が来てる以上、司令部である潜水艦も近くにある筈ですから』

 

その会話の直後に私はエアキャリアから降りて聖詠を口にして神獣鏡を使った。ウェル博士はああ言ってたけど私も引く訳にはいかない

 

「絶対、響を元に戻して見せる!」

 

響の前で決意を口にする。操られてる響は不思議そうな顔をしていた

 

 

 

 

 




タイトルで歌と書いてますけど歌うのは後編ですね。

原作でのウェル博士の悪行も死神博士が率先してやってるので、ウェル博士が善よりになってます。

正直。未来が何を歌うか迷ってますね。原作通り歪鏡・シェンショウジンにするか、XDでグレ響に歌った永愛プロミスにするか。

そして。原作アニメでは何時の間にか集まってノイズの餌食になったり装者の足場の価値しかなかったアメリカの海軍の軍艦ですが少しだけ活躍。尚…


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56話 少女の歌には、血が流れる。 悪の歌には、何が流れる? 中編

 

 

 

「米海軍、被害甚大!既に第一~四艦の人員が全滅!」

「クリスちゃんが頑張ってますけど、ソロモンの杖から出るノイズの方が早いようです!」

 

特異災害対策機動部二課の仮説本部には、米海軍の被害報告が次々と入る。幾つかのショッカーの潜水艦を沈めたがそれ以上の人員の命が散ってしまった。

 

クリスが必死にノイズを殲滅しているが死神博士がソロモンの杖から呼び出すノイズの数は多く手古摺っていた。

 

被害報告が耳に入る度に弦十郎の顔に青筋が浮かぶ。ショッカーの所為で死ななくていい者が次々と殺されている。

 

「響ちゃんの限界時間は既に五分を切ってます!」

 

更には、響の残りの時間が気がかりでもあった。死神博士の送って来たデータが何処まで正しいかは分からないが響の限界は近い事は理解していた。

 

その時、

 

『指令、要救助者の確保完了しました!』

「緒川か!?よくやってくれた!」

 

理由は分からないがショッカーはマリア達の仲間である月読調を排除しようとしていた。翼が守っていたがあのままでは自由に戦えないとして緒川に調の保護を命じたのだ。上手くいけば調の口から情報も得られると考えて居た。

 

『ですが、少々問題が…』

「どうした?」

『僕が本部に戻ってる途中に余計なお客が…』

 

緒川がそこまで言った時だった。指令部に激震が走る。各所からサイレン音が響き職員も慌てる。

 

「何の揺れだ!?」

「…本部の甲板に怪人を確認!これは…ギリザメスです!」

 

あおいの報告に司令部の職員たちは冷や汗を流す。ギリザメス、忘れもしない廃病院の戦いでお披露目した潜水艦の仮説本部に大打撃を与えた怪人だ。補修はしたがまたギリザメスが暴れたら今度こそ海の藻屑になるかも知れない。

そんな不安を抱えた職員たちを見て弦十郎は意を決した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ガーブ!この潜水艦を奴等の棺桶にしてやる!」

 

ギリザメスが仮説本部の潜水艦の甲板に上り左腕のカッターで装甲を引き裂き内部にある電気系統のケーブルを嚙み千切る。その際、電流がギリザメスを襲うが気にせず装甲を引っぺがして仮説本部の潜水艦を破壊する。

 

緒川が調を中に入れて匿ってる事は知っている。ならば今度こそ、この潜水艦を破壊して海に沈め特異災害対策機動部二課と裏切者の摩擦がギリザメスの目的であった。

 

「裏切者だけでなく、邪魔な特異災害も始末できるとはな、まさに一石二鳥とはこの事だ!」

 

「そうは問屋が卸すか!ギリザメス」

 

突然背後からの衝撃にギリザメスがよろけながらも振り返る。そこにはショッカーの宿敵がいた。

 

「風鳴弦十郎、貴様が来たか!海の上で俺に勝てると思うか!?」

 

「やってみなければわからんだろう!」

 

現状、翼もクリスも居ない段階で特異災害で怪人と戦えるのは弦十郎だけであろう。緒川は要救助者を連れて戻ったばかりであり、攻撃力自体弦十郎の方が上だ。他の職員では怪人には勝てない。潜水艦を潜航させようにもサメの怪人であるギリザメスが海の中で潜水艦に纏わりつき攻撃されれば逃げ場などほぼ無い。

 

特異災害の仮説本部の潜水艦の上で弦十郎とギリザメスの死闘が起こる。

 

 

 

 

 

 

 

 

閃光…始マル世界 漆黒…終ワル世界

殲滅…帰ル場所ヲ 陽ダマル場所ヲ

 

風が吹く 見よショッカー

嵐が荒れる 力よショッカー

 

二人の少女が歌う。一人は親友を思い、もう一人は洗脳されて無理矢理従わされている。

未来が響に神獣鏡のレーザーを撃つが響は僅かな動きで悉く回避する。

 

流星…アノ日は遠ク 追憶…全テガ遠ク

返シテ…返シテ… 残響ガ温モル歌

 

世界は征服 威大なショッカー

怪人あやつる 恐怖だショッカー

 

━━━当たらない!なら!

 

レーザーが響に当たらない。いくら、ウェル博士等が開発したダイレクトフィードバックがあっても未来と比べれば響は今までノイズや怪人達と戦った歴戦の戦士といえた。操られてるとは言え素人同然の未来が早々攻撃を当てれる訳が無い。そこで未来は両腕付近にある帯を鞭のように動かし響の牽制をする。

 

指をすり抜ける キミの左手

私だってキミを 守りたいんだ…!

 

邪魔な相手は ゆるさんぞ

出撃 それゆけ 怪人軍

 

「無駄ダ」

「!?」

 

未来が鞭じょうにしていた帯を響が掴み取り無理矢理引っ張る。態勢を崩した未来は響の方に引っ張られる。その時、ダイレクトフィードバックに腕でガードしろとの指示で胸の部分を腕でクロスさせガードする。直後に未来の腕に衝撃と激痛がくる。

 

あの懐かしのメモリア 二人を紡ぐメロディーを

過去も今日も…そう、そして未来も!

 

人呼んで 悪魔のショッカー

人呼んで 悪魔のショッカー

 

衝撃は未来自身にも襲い、未来の体は甲板の壁に減り込む。

 

━━━響のパンチ!?ダイレクトフィードバックの指示で咄嗟にガードしてなきゃ危なかった

 

響に殴られた腕の痛みに未来はソッと腕を撫でる。骨から悲鳴が出てるくらいの痛みが未来を襲う。シンフォギアを纏ってなかったら、今頃両腕が粉砕されてただろうし、ガードしていなければ未来の胸の部分に攻撃がまともに入り意識を失ってたかも知れない。

未来の目には響が拳を繰り出した後の姿が見えた。仕留めきれなかったと判断した響は未来へと近づく。

 

 

 

 

 

 

 

 

「苦戦してるわね」

 

その頃、エアキャリアでは響と未来の戦いを見守っているマリアがそう呟く。ウェル博士は静かだが額から汗が流れ落ちる。

舐めていた訳ではない。怪人作りの名人と言われていた死神博士が最高傑作と言い放った聖遺物怪人。その力はスカイタワーで見た時よりも上がっている。

 

「神獣鏡のシンフォギアを以てしても苦戦してますか」

「マム!?」

 

その時、体調不良で寝ていたナスターシャ教授がマリアの乗るパイロット席の横から出て来る。

 

「あれは…神獣鏡は人の心を惑わせる力がある。やはり彼女には荷が重かったのでは?」

「…仕方ないでしょう。僕達に打てる手は少ない、それにアナタも承知していたでしょう」

 

現在、死神博士はノイズを出す為コックピット席には居ない。その為、ナスターシャ教授とウェル博士は打倒ショッカーの話をしている。

響の強さはウェル博士の想定以上と言えた。今はダイレクトフィードバックで戦えては居るが後何時まで持つかは…

 

「しかし、リディアン音楽院に通う生徒はシンフォギアの適合が見込まれた装者候補と言えますがLiNKERを使ったからってここまで戦えるとは…」

「いえ、LiNKERはそこまで便利な道具ではありませんよ。LiNKERを使ってホイホイ、シンフォギアに適合なんて出来ません。出来て居たら僕らも特異災害対策機動部二課もこんなに苦労はしていません」

「ならば、何故小日向未来は?」

「強いて言うなら……ですね」

「愛ですか…愛?」

 

ウェル博士の口から『愛』と言う言葉に引っ掛かるナスターシャ教授。エアキャリアを操縦しているマリアも口には出さないが視線をウェル博士に何度も向ける。マッドサイエンティストの部類に入るウェル博士の口から愛という言葉に反応してしまった。

 

「LiNKERが小日向未来の心にある級友を救いたいと言う思いを神獣鏡に繋げたんでしょう。麗しい、これを愛と呼ばず何を愛と呼ぶんですか!?」

「ハ、ハア…私としてはその愛がLOVEかLIKEかが気になりますがね…」

 

ナスターシャ教授としてはその愛が友への愛かどうかが気になった。同性同士が惹かれ合うのもそこまで珍しくはなくなった昨今だがナスターシャ教授としては普通の恋愛が常識と言えた。

 

━━━まあ、愛に関しては家の調と切歌も怪しいと言えば怪しいのですが…

 

 

 

 

「愛など下らん、そんな物で我等ショッカーに勝てるものか」

 

コックピットの扉が開くと同時に死神博士とノートパソコンを持つ戦闘員が入る。途中でウェル博士たちの会話を聞いたのか、その第一声にマリアもナスターシャ教授も振り向く。外には十分な数のノイズをばら撒いて来たのだろう。

 

「先生…」

 

「戦況は互角と言ったとこか、どれ少しテコ入れをしてやろう」

 

そう言うと、死神博士は戦闘員にノートパソコンを起動させキーボードを操作する。死神博士の邪悪な笑みにウェル博士は嫌な嫌な予感がしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ガーブガブッ!どうした?俺を倒すんじゃなかったのか!?」

 

ギリザメスの言葉が響が弦十郎の目にはギリザメスの姿が映らず浮上している潜水艦の周りの海面にはサメのヒレが猛スピードで移動していた。

そして、潜水艦の甲板には肩で息を切らす傷だらけの弦十郎の姿がある。元々赤かった弦十郎のシャツも血で更に赤く、ズボンにも垂れてきていた。

 

『指令、戻ってください!このままでは嬲り殺しにされる!』

「ハア、ハア…駄目だ。今、戻る訳にはいかない」

 

通信でオペレーターのあおいが指令室に戻る様訴えるがギリザメスを野放しに出来ない弦十郎は断る。

その時、

 

「また隙を見せたな!」

「グっ!」

 

弦十郎の死角の海面からギリザメスが飛び出すと共に弦十郎の体を左腕のカッターで切り裂き、再び海に直水し、また海面を泳ぐ。この戦法に弦十郎は苦戦を強いられていた。

弦十郎は、ギリザメスのヒット&アウェイの戦法に苦しんでいた。体は既に傷だらけだ、そこまで深い傷はないがギリザメスに何時、海に引きずり込まれるか分かったものではない。少しでも隙を見せれば左腕のカッターや鼻先のドリルに幾つもの鋭利な牙を持つ口が弦十郎の体を傷つける。

 

迂闊に潜水艦に戻ればギリザメスは躊躇いも無く潜水艦を破壊しようとするし、弦十郎が海に潜るのはもっと駄目だ。サメの改造人間であるギリザメスに水中戦を挑もうなど命知らずもいいところだ。海に潜れば一瞬で殺されるだろう。

 

━━━何か切っ掛けだ。ギリザメスが焦る何かが起きなければ俺に勝ち目はない

 

周りが海の完全な不利な戦いの弦十郎はひたすら耐える。ギリザメスが勝負を焦る何かが起きるまで致命傷を受ける訳にはいかなかった。それは奇跡にも等しい事だとは弦十郎も分かってはいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私は絶対譲らない もう遠くには行かせない

こんなに好きだよ ねえ…大好きだよ

 

稲妻走る 光るショッカー

雷ひびく 起きよショッカー

 

未来は扇を円状にして響に細いレーザーを幾つも撃つがそれも殆ど躱される。逆に響の回し蹴りが未来の扇に当たり弾かれ手を離してしまう。

 

「ツ…」

 

蹴られた手を押さえて一旦距離を取る未来。それならばと海面を飛び、丸い鏡を小型機のように飛ばしつつレーザーで牽制する。

 

屈折…壊レタ愛 慟哭…傷ンダ愛

終焉…Lalala 歌ヲ Lalalala…歌ヲ

 

世界は征服 威大なショッカー

悪魔の使い 恐怖だショッカー

 

その時、丸い鏡から出したレーザーが響の腕と足に当たる。当たった部分のシンフォギアが泡立ち砕ける。

 

━━━やったー!神獣鏡が効いているんだ!

 

その様子に未来は心の中で喜ぶ。これで少しずつ響のシンフォギアを剥ぎ、最後に響の心臓のガングニールを対処する気であった。

 

━━━これなら響を助ける事も…!?

 

しかし、そんな未来の目論見も容易く崩れてしまう。神獣鏡のレーザーが当たった箇所のシンフォギアが再生してレーザーの当たる前に戻ったのだ。

 

「そんな…」

 

これには、思わず未来も声に出してしまう。

 

『フッハハハ、当てが外れたようだな小日向未来!』

 

「!?死神博士!」

 

未来の通信機に死神博士の声が強制的に流れ込む。その事に未来は奥歯を噛みしめる。

 

『大方、神獣鏡のレーザーを当てれば聖遺物怪人を戻せると考えてるようだが無駄だ。聖遺物怪人にはネフシュタンの鎧のデータを使い、再生力も付いているのだ。尤も、ネフシュタンの時より遥かに燃費は悪いがな』

 

「!?」

 

死神博士の言葉に未来は響の方をジッと見る。先程まで平然としていた響の息が乱れ体の熱も上がったように感じた。

 

━━━響の時間が縮まってる!?これじゃ神獣鏡の力が使えない!

 

下手にレーザーを撃って響に当てても再生するなら意味がない。それに加えて響の核爆発へのタイムリミットが縮まっては意味が無い。

 

━━━どうやって響を助ければ…

 

『最後に良いものを見せてやろう』

 

未来が考え事をしてる時に死神博士が最後にそう言って通信が切れた。直後に、響が胸を押さえて苦しむ。

 

「アアア…ああアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」

 

「ひ…響!?」

 

響の断末魔に未来が近寄ろうとした時に異変に気付く。響の胸を中心に黒い物が溢れ出て響の体を包み込んだのだ。未来は知らないが、それはカ・ディンギル跡地での戦いの時の響の暴走に酷似していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハア…ハア…」

 

死神博士の出したノイズを粗方殲滅したクリスがイージス艦の一つに飛び降りる。大量のノイズとの戦いの疲労を回復する為だ。その時、クリスはある物を目にする。

 

「これって…」

 

それは炭化した兵士の持ち物だった。最初はドッグタグかとも思ったがそれにしてはカラフルに思えた。

ペンダントだ。それも中が開き自分の娘らしき少女と撮っていた姿は実に幸せそうだった。

 

「…ショッカーめ…いや、これもアタシが背負わなきゃならない十字架だ」

 

兵士達はショッカーの犠牲者と言えるがそもそもソロモンの杖を起動させてしまったのはクリスだ。その責任を感じていた。

 

 

 

「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」

 

 

 

 

「何だよ…今の声!?」

 

その時、クリスの耳に聞き覚えのある断末魔の声が聞こえた。胸騒ぎのしたクリスは急ぎ声の発生源へと急ぐ。

 

「響…響…!」

「おい、何が起きてるんだ!?…これってあの時の…」

 

声の発生源はアッサリと見つかった。座り込み胸を押さえた響が獣のような咆哮を上げていた。熱で響に近づけない未来が必死に響の名を叫び、クリスとしても響の発する熱に「熱い」と呟く。その時、響は体が黒く染まっていく事に気付く。それはまさに、あの夜の再現と言えた。

 

━━━あれって!?

 

『ほう、雪音クリス。貴様も来たか』

 

「この声…クソ爺!!」

 

クリスの通信機からも死神博士の声がする。その声にクリスは怒鳴るように声を出す。クリスにとっては死神博士はこの戦いの元凶と言えたからだ。

 

「アイツに何をした!?言え!」

 

『見て分からんか?あの夜の再現よ』

 

その言葉を聞いてクリスは確信する。死神博士は響をワザと暴走させたのだ。

 

『ウアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!』

 

完全に暴走したのか、黒く目だけが赤くなった響が未来に突撃する。響の体から殺気が漏れ、その腕は槍の様な形状になっていた。

 

「響!」

「危ない!」

 

クリスが咄嗟に未来の体を抱いて伏せる。直後に何かが通り過ぎる気配と衝撃が来た。

 

「「!?」」

 

後ろを見たクリスと未来は息を飲む。そこにあったイージス艦が真っ二つに折れて沈んでいき、暴走した響が咆哮を上げる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ククク…フッハハハハ!!」

 

エアキャリアのコックピットでは死神博士が笑い声を上げる。

反面、マリアやナスターシャ教授、ウェル博士は顔色を青くさせる程の衝撃だった。

 

「死神博士!彼女に何を!」

 

マリアが一人笑う死神博士に話しかける。その顔は相変わらず驚愕している表情だった。

 

「見ての通り暴走させたのよ、これで確実にあの小娘どもは死ぬ。…おっと、例の小型機を打ち上げて置け。上手くいけば神獣鏡の力を利用できるかも知れん」

 

響の胸のガングニールをワザと暴走させた事を話す死神博士。その事にマリアは悔しそうにも悲しそうにも見える表情をする。

それでも、マリアはエアキャリアのコックピットにあるスイッチを押して幾つもの小型機を出す。それは夜の海に出した神獣鏡のレーザーを曲げたアンテナの様な物だった。神獣鏡のレーザーを出す未来の流れ弾を使い、それでフロンティアの封印を解く腹積もりである。

 

「ゴホッ、ゴホッ…!」

「マム!」

 

マリアが小型機をばら撒いた直後にナスターシャ教授が咳き込み押さえていた手に血がべっとりと付く。更には口の端からも血を流している。

 

「フン、私は手を離せん、ウェル…貴様が処置しろ、貴様の腕なら十分できよう」

「! 分かりました」

 

ナスターシャ教授の治療をウェル博士に押し付ける死神博士。ウェル博士はナスターシャ教授と共にコックピット席の下層部に移動する。それを見送った死神博士は、再びノートパソコンに集中しマリアは外やモニターに注目し、エアキャリアを操縦する。

 

「あ…そうそう…」

 

何かを思い出したのか死神博士は、切っていた通信機の電源を入れる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ウアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」

 

「響!」

「何なんだよ、一体…」

 

暴走し咆哮を上げる響は暴れ続ける。その姿に未来もクリスも息を飲む。響は戦艦をノイズを戦闘員を破壊し尽くす。

まるで目に見える物全てを破壊し尽くすように。

 

『フフフ…素晴らしかろう。これが我が最高傑作!聖遺物怪人・響だ!』

 

「死神博士!?」

「また、お前かよクソ爺!しつこいぞ!」

 

何度目かの死神博士の強制通信に嫌気がさすクリスに未来。今は暴れる響に集中したかった。

 

『なに、これが最後の通信だ。聖遺物怪人・響にはある一つの仕掛けをしてある』

 

「仕掛けだと!?」

「これ以上、響に何を!?」

 

最初は、死神博士の通信を無視しようとしたクリスだが「仕掛け」と言う言葉に引っ掛かりをおぼえた。それは未来も同じようだった。二人は目線を響に向けつつ死神博士の通信に集中する。

 

『聖遺物怪人が暴走する時に記憶の一部が蘇るようにしていただけだ』

 

「記憶を!?」

「…内容は?」

 

死神博士の言葉に一瞬喜ぶ未来だが、クリスは疑いを持っていた。

 

━━━死神博士は腐れ外道だ。きっと何か別の企みを持っている筈だ

 

今までの死神博士の所業に、きっとまだ何か隠している筈だと考えるクリス。そして、それは正しかった。

 

『ククク…蘇った記憶は立花響が迫害されてる記憶だけだ』

 

「「!?」」

 

その答えにクリスと未来は戦慄する。見ると響は暴れながらも目から涙を流して破壊活動をしていた。

 

『オ前達が…お前達ガ、私ヲ受け入れないのナラ…こんな世界…消エテしまエエエええええええええええええ!!!』

 

響の脳内の記憶はツヴァイウイングの悲劇の後の自分に何かがあった事しか無かった。

 

顔も名前も知らない同じ年の男女に罵られ、嫌がらせをされ自宅に石を投げ込まれおばあちゃんに抱き着いていた記憶。

最早、理由すら思い出せない。あるのは悲しみと理不尽に対するドス黒い怒り。その二つに支配された響は暴れ続ける。

 

「お前…お前!!」

「こんな酷い事を!」

 

『立花響に残された時間はあと少し、それまでに立花響を倒せなければ死ぬぞ。せいぜいどちらかが死ぬまで戦い続けるがいい!フッハハハハ!!』

 

未来とクリスの罵倒にも何処吹く風。死神博士は高笑いを上げて通信を切った。だが、これでクリスは確信する。死神博士は自分達に大して最大限の嫌がらせをしている事に。

 

 

 




ネフシュタンの鎧のデータは今までの戦闘記録とルナアタックの決戦時にゾル大佐が捕獲したフィーネの着ていたネフシュタンの鎧からもデータを取り本部に送っていた設定です。今回、死神博士が再現し少しだけ響に組み込まれてましたが怪人との相性が悪い設定です。

ギリザメスの戦法に苦戦を強いられる弦十郎に響に苦戦する未来。そこへクリスが援軍に、

そして、響を暴走させる死神博士。原作のウェル博士以上の悪行を行なうショッカー軍団。
果たして未来は響を救う事が出来るのか?


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57話 少女の歌には、血が流れる。 悪の歌には、何が流れる? 後編

行きつけの本屋が来月、閉店する。…悲しい。


 

 

 

『ウアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!』

 

咆哮を上げた響が二隻目のイージス艦を破壊する。その際にも死神博士の出したノイズを駆逐しながらだ。今の響に敵も味方もない、あるのは胸のガングニールの破壊衝動と辛い記憶だけだ。

 

響は暴れ続ける。最早何が憎いのかすら本人にも分からない。あるのは植え付けられた憎悪と破壊衝動だけだった。二隻目のイージスを破壊して沈めた後に響は一番大きな米軍の哨戒艦艇が目に入る。破壊衝動の赴くまま、それも破壊しようとした。

 

「待ちやがれ!」

「響!」

 

そんな響の前に立つ二人の少女。クリスと未来だった。尤も、響の記憶には残っていない。

 

『フウー!フウー!』

 

獣のような息遣いをする響、最早獣の威嚇音に近かった。その体から発する殺気に未来は愚かクリスすら冷や汗をかく。もう目の前の響は自分達の知っている響とは到底言えなかった。

それでも。未来とクリスは必死に響に話しかける。

 

「いい加減帰って来いよ馬鹿!何時までクソ爺に操られてる気だ!」

「響、学院に帰ろうよ。皆が響の帰りを待ってるんだよ。だから…一緒に帰ろ!!」

 

二人の声を聞き何か懐かしさを感じた響だが、死神博士の度重なる脳改造によりクリスと未来の記憶も消えてしまって居た。今の響には二人の声は届かない。

 

『ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!』

 

獣のような咆哮を上げる響は、両手を槍のように変形させてクリスと未来に突撃する。その行動に咄嗟に未来を横に付き飛ばした後に、クリスは未来の反対方向に移動すると両手からアームドギアのボーガンを出して響に攻撃する。

 

「馬鹿野郎ーーーー!!」

 

クリスは次々とボーガンの矢を響に撃ち込み、遂にはガトリング砲に変形させて小型ミサイルまで出す。しかし、暴走する響はクリスの攻撃を受けても怯みもせず、クリスを殺そうと攻撃する。

 

その光景を黙って見ていた未来。ダイレクトフィードバックは未来に撤退の指示をしていた。響が暴走している時点でダイレクトフィードバックは未来が響に勝ち目がないと判断してだ。このまま特異災害対策機動部二課の仮説本部の潜水艦に逃げるよう指示も出す。

しかし、未来はそれを無視する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クリスは必死に響を攻撃する。全ては未来が安全に逃げれるようにだ。クリスとしては未来をこれ以上戦いの場に出したくなく、響とも戦わせたくなんてない。

 

━━━最悪、アタシがこいつを殺す!

 

これ以上、響をショッカーの意のままにさせたくないクリスは最悪、響の殺害も視野に入れる。何より響の体内の原子炉の核爆発も防ぎたかった。

 

━━━これはアタシにしか出来ない事なんだ!

 

クリスは響の説得を諦めてはいない。時間が許すギリギリまで声を出すつもりだ。だが、不可能だった場合は全力を以て響を殺す気でいた。例え、友達の未来に恨まれて、遺族に石を投げられてもクリスは自分が響を殺すつもりだ。

 

━━━アタシの手は、もう血で汚れて居るんだ。今更一人増えたって構わねえ!

 

『ウアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!』

 

「人の言葉も忘れちまったのかよ!」

 

ひたすら獣のような咆哮を出す響にクリスは目から一筋の涙を流す。もう、言葉すら通じない。そう考えるとクリスはとても悲しかった。

そして、そのまま響に大型ミサイルを撃ち込む。爆音と煙で視界が遮られる中、クリスは両腕のガトリング砲で響の居た場所付近に弾丸を撃ちまくる。

 

「少しでも、未来が逃げる時間を!」

 

クリスもこの攻撃で響を倒せるとは思っていない。未来を逃がす為に敢えて響に派手に攻撃して注意を引いたのだ。

 

━━━未来が無事に安全圏まで逃げれば最悪絶唱を使ってでも…『ウアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!』

 

未来を逃がそうとしていたクリスだったが、ガトリング砲の雨の中、響は咆哮を上げてクリスに飛び掛かる。その際に何発物ガトリング砲の弾に当たり黒くなったシンフォギアが宙を舞い、それでも響は止まらず黒く巨大化した手がクリスに迫る。

 

「クリス、後ろに飛んで!」

「!?」

 

突然の未来の声にクリスが後方へと飛ぶ。直後に暴走した響は鮮やかな紫の光線に飲み込まれる。

 

「これは…!」

 

その光線を見たクリスが光線の出所を見る。そこには両足のアーマーを円状に展開して今までの物より極太のレーザーを出して居る未来がいる。

 

流星

 

「グっ…私の撃てる最大限の光線だよ!これで元に戻って…『ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!』!そんな…」

 

未来は己の撃てる最大限の光線をダイレクトフィードバックの助けも借り撃ったが光りに呑まれた響。レーザーが直撃した、これで…と考えた未来だが、響がは咆哮を上げると共に光線を一瞬だけ掻き消しそこから脱出する。響の体は相変わらずドス黒く変色し目が赤いままだった。

 

━━━ウェル博士の言っていたことが間違っていたの?

 

ウェル博士の情報と違う事に愕然とする未来。さっきまで響の拳の装甲や足の部分のシンフォギアは分解できた筈なのにと考えてると、歯をむき出し威嚇する響は未来を完全に捉えて一気に未来へと飛び掛かる。未来にはその光景がとてもスローに見えた。

そして、響の腕が未来へと迫る。それを見続ける未来に諦めの文字が浮かぶ。

 

「させるか!!」

 

しかし、未来を守った者が居た。クリスだ。飛び掛かろうとした響にクリスは体当たりをして着地点をずらし未来を守った。体当たりされた響も態勢を立て直して獣のように四つん這いに着地する。

 

「何してんだよ、馬鹿!早く逃げろ、アタシが囮になるから!!」

 

響を警戒しつつ未来に叫ぶ様に言うクリス。しかし、未来は床に座り込み神獣鏡のシンフォギアを撫でながら言う。

 

「神獣鏡の光も効かないなら…もう響を元に戻せる手段が…」

 

未来にとって神獣鏡は響を戻す一条の光だった。ショッカーに脳改造された響を取り戻す為に、それこそ藁にも縋る思いでウェル博士の調整を受けた。しかし、その神獣鏡でも戻せないなら…

 

「よくは分かんねえけど、光線はアイツに当たってなかったぞ」

「!?」

 

クリスの言葉に未来は顔を上げる。そして、クリスは響に警戒しつつ言葉を続ける。

 

「あの光線はアイツのドス黒いシンフォギアに当たると共に消滅していたんだ。あの光線はアイツには届いてない」

 

クリスは見ていた。未来の放った光線が響を飲み込むが、未来の放った光線は響の黒いシンフォギアから出た黒い靄の様なものが掻き消したのだ。言うなればオーラーのようなものだ。

その話を聞いて愕然とする未来。

 

━━━私じゃ響に届かないの!?

 

いくら神獣鏡の光りがシンフォギアを分解しても届かなければ意味が無い。実質、響を戻せる手段はもうなかった。

 

『ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!』

 

「チッ、もう来やがった!コッチだ、コッチに来やがれ!!」

 

クリスは咆哮する響に何発か当てて挑発する。響はその挑発に乗りクリスを追う。去り際にクリスは未来に逃げろと言ってその場を離れる。未来は、それを黙って見る事しか出来なかった。

 

━━━もう、時間も無い。私じゃ響を助けられないの?…響が死んじゃう!そんなの嫌だ!でも私にはもう………!

 

「一つだけあった…」

 

響を助けられないと感じた未来は絶望しかけたが脳裏に今までの響達の戦いを思い出し一つの可能性に行きついた。しかし、それは危険な物だと未来も知っている。知っているからこそ未来は己の命を賭ける事にした。

 

『ウアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!』

 

「さっきより早えッ!?」

 

クリスは焦る。未来を逃がす為、暴走する響の牽制をしていたが戦う内にクリスの動きを覚えたのか響の攻撃に対応が遅れていた。更に、疲労してるとはいえ響の動きも段々と早くなっている。

 

そして、次の瞬間には響はクリスの最後に回り鎗上の腕を振るう。間一髪で避けるクリスだが持っていたガトリング砲の片方を破壊される。

そして、響の更なる追撃に目を瞑った。

 

 

 

 

 

 

Gatrandis babel ziggurat edenal

 

 

 

 

 

「「「「!?」」」」

 

 

突如、クリスの耳に聞き覚えのある歌詞が聞こえる。暴走していた響も歌の方が気になったのか、クリスを握り潰そうとした手を止めていた。

そして、それはクリスだけではない。戦闘を見ていた者達は皆、耳を疑っていたのだ。それは紛れもなく絶唱だったからだ。

 

 

 

Emustolronzen fine el baral zizzl

 

 

 

 

「!?止めろ!!未来、それを歌うな!!」

 

クリスの目は絶唱を歌う者をアッサリ見つけた。未来だった。

絶唱を歌う未来を止めようとするクリス。だが、未来は構わず歌い続ける。

 

 

Gatrandis babel ziggurat edenal

 

 

「止めなさい、小日向未来!それを歌ってはいけない!!」

 

「ここにきて絶唱か!面白い、素人も同然の小娘が絶唱を歌えばどうにかなると思ってるのか!?」

 

エアキャリアを操縦していたマリアの声とモニタリングしていた死神博士が楽しそうに言う。死神博士にとっては未来の行動など悪あがきにしか見えなかった。

 

『止めるんです、小日向未来! それは…神獣鏡は君に絶唱を使えるように調整はされてない!! いくらLiNKERを使ってるとは言え、このままでは君の命が!』

 

未来の通信機にウェル博士の声が木霊する。ナスターシャ教授の治療を終えて、モニターで未来の様子を見ていたウェル博士は、未来の絶唱を止めようとしたのだ。

 

━━━ごめんなさい、ウェル博士。それでも私は響を救いたい!例えこの命がどうなろうと!!…お願い、私に答えて神獣鏡!!

 

Emustolronzen fine el zizzl

 

未来はウェル博士に心で謝罪して、絶唱を歌い切る。直後に未来の体にエネルギーが波のように押し寄せてくる。直後に未来は強烈な光りに包まれる。

 

 

 

 

 

 

 

「未来ぅぅぅぅぅぅぅッ!!」

 

「自滅しおったか、あの小娘!」

 

クリスが未来の名前を叫び、死神博士は未来が自滅したと判断して笑いだす。

マリアは目を逸らし、ウェル博士は奥歯を噛みしめる。

徐々に光りが治まっていく中、誰もが未来の生存を諦めかけた。が、

 

「…え?」

 

「なん…だと…」

 

クリスが目を疑い、死神博士は言葉も出なかった。率直に言えば未来は無事だった。それどころか、神獣鏡のシンフォギアが少し変わていた。頭部付近にあったバイザーが消え、紫の色もだいぶ明るくなり腕付近にあった帯も白くなっている。それは…

 

「まさか…エクスドライブだと!?」

 

死神博士が驚愕の声を出す。『エクスドライブ』旧リディアン音楽院でのゾル大佐との決戦のおりに姿を見せた響たちの奇跡。ゾル大佐が敗れた事でショッカーとしても注目はしていたが、

 

「馬鹿な、エクスドライブは相当な量のフォニックゲインが必要な筈!いくら、雪音クリスや風鳴翼が歌っていたとは言えエクスドライブになれる程では無かった筈だ!それこそ絶唱を使おうとも…まさか、あの小娘!?」

 

ノートパソコンで未来のエクスドライブの原因を探ろうとした死神博士だが、悉くがエラーや詳細不明という文字しかでず、嫌な予感が死神博士の脳裏に過る。

 

「あの小娘、この土壇場で奇跡を起こしたというのか!?」

 

「…奇跡」

 

死神博士の驚愕する声にマリアも反応する。未来は姿が眩しく羨ましくもあった。

 

「おのれ、こうなれば!ギリザメス、フクロウ男、小日向未来を殺せ!」

 

エクスドライブを覚醒した未来を危険視した死神博士が残った怪人に未来を抹殺するよう命令を送る。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの光は?」

 

未来の光は仮説本部の甲板で戦っている弦十郎の目にも入る。直後に指令室から未来が絶唱を使ってエクスドライブした事が伝えられる。

 

「未来くんが…俺達は何処まで無力だ」

 

未来が絶唱を使った事に落ちこむ弦十郎。未来だけではない、翼もクリスも、そして響も成人もしてない子供たちに無理させていると後悔する。そして、それを待ってたとばかりにギリザメスが弦十郎の背後の海面から飛び出し弦十郎に飛び掛かる。

 

「死神博士の命令でお前にかかりっきりという訳にはいかなくなった。俺の自慢の鼻でお前の心臓を貫いてやる!!」

 

死神博士から小日向未来への抹殺命令にギリザメスは、さっさと弦十郎を始末しようと背中から不意打ち

し自慢の鼻のドリルで弦十郎の心臓を貫こうと飛び出した。

 

『指令えええええええ!!!』

 

それに気付いたオペレーターが指令と大声をかけると同時にギリザメスの影と弦十郎の影が重なる。その影は弦十郎の体を突き破ったように見えた。

 

「な…なんだと?」

 

驚愕した声が上がる、しかしそれは弦十郎の物ではなかった。逆だった、驚愕の声を発したのはギリザメスだった。

 

「待っていたぞ、この時を」

 

驚愕するギリザメスに弦十郎は淡々と言った。二人の姿は一見、ギリザメスの鼻が弦十郎の体を貫いたように見えたが正面から見ればよく分かった。

ギリザメスの頭は弦十郎の脇で捕らえていた。ギリザメスが鼻で体を貫こうとした瞬間に僅かに体をズラしてギリザメスの鼻を脇に通させそのまま捕らえただけだ。

 

「お前が俺に止めを刺そうとした瞬間が、お前の最大の油断となった」

 

「ほざけっ!こんな拘束、直ぐに解いてやるわ!!」

 

ギリザメスが力ずくで弦十郎の拘束を解こうとするがビクともしない。ならばと、左腕のカッターで弦十郎を切り刻もうとした。

 

「ハア!」

 

だが、力を溜めて精神を手中していた弦十郎はありったけの力を腕に込め一気にギリザメスの顔面に一撃を入れる。その一撃はギリザメスの鼻のドリルを粉砕し、重い一撃がギリザメスに入る。

 

「ギャアアアアアアアア!!」

 

鼻を折られたギリザメスが断末魔を上げる。拳の一撃で弦十郎の拘束から抜けたギリザメスは酔っ払いの様な動きで後ろに下がっていく。

 

「俺の…俺の鼻が!!」

 

自慢の鼻のドリルが粉砕されたギリザメスが立ち往生する。逃げる事も継戦するただフラフラとしていた。そして、それを見逃す弦十郎ではない。

 

「そこだ!!」

 

隙だらけのギリザメスに弦十郎が飛びまわし蹴りを入れた。蹴りは見事にギリザメスの首に入り「ゴキッ」と言う音がした。蹴りを入れられたギリザメスは抵抗することも出来ず海へと投げ出される。泳ごうとするギリザメスだが、手足をジタバタさせるだけで海へと沈む。そして、突き出した手も完全に沈むと爆散して海水をぶちまけた。

 

爆発の巻き込まれた海水を浴びた弦十郎は一息をつく。ギリザメスを撃破した。その事で指令室はお祭り騒ぎとなった。

 

「傷が海水で沁みる…」

 

地味に傷の痛みに悩む弦十郎は足を引きずりつつ仮説本部の医療室へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「しつこい!」

「デース!」

 

甲板で二人の少女が剣と大鎌で戦う。剣と大鎌が交差する度に火花を上げる、翼と切歌は未だに戦っていた。そこへ、翼の背後に回ったフクロウ男が殺人レントゲンを出そうとした。

 

「殺人レントゲ…またか!」

 

翼を狙って殺人レントゲンを出そうとしたが寸前の時に翼が大鎌を蹴り切歌と場所を入れ替える。死神博士に暁切歌も殺せと言われてない以上、勝手に殺す事はフクロウ男には出来ない。

 

「あの小娘め、邪魔ばかりしおって!」

 

既に何度も殺人レントゲンの邪魔をされたフクロウ男は切歌に苛立つ。まるで風鳴翼を守ってるような行動だがと考えた時、未来のエクスドライブの光りが飛び込んでくる。

 

「何だ、今の光は!?」

「デース…」

 

強烈な閃光に翼も切歌も攻めるのを止め、光りが出た方に注目する。此処からでは未来の様子が見えない以上、何が起きたのか分からなかった。指令室に聞こうにも甲板で暴れたギリザメスが数新施設の一部を破壊して、現在復旧作業の真っただ中だ。

 

「…大鎌の小娘、貴様は風鳴翼の相手をしておけ!俺はシンフォギアをエクスドライブさせた小日向未来を殺しに行く!」

 

死神博士からの指令を貰ったフクロウ男が切歌に翼の相手をするよう言う。その言葉に翼は「小日向がエクスドライブを!」と驚く。

 

「あの小娘の骨を貴様への土産にしてやるよ!」

 

そう言って、フクロウ男は高笑いして、その場から離れ光の出所に高速飛行していく。

 

「待てぇ!」

 

翼が呼び止めようとするが、当然フクロウ男が従う訳が無い。その時、翼の目にある物が映る。それは戦闘機を飛ばす為のカタパルトだった。

 

「これだ!」

 

直ぐに、翼はカタパルトの上に乗り剣を突き立てるとカタパルトが高速移動し翼はそれを利用して大ジャンプしてフクロウ男を追う。

 

「…正気デスか?あの人」

 

一人残された切歌がそう呟いた。

 

 

 

 

 

 

空を飛ぶフクロウ男。目標の小日向未来を殺す為に移動しもう少しで未来の姿を確認できると思った矢先に背後から殺気を感じて身をひるがえそうとした。

 

「ハア!」

 

青い影がフクロウ男に迫り、ギリギリで剣を避ける。

 

「風鳴翼!?貴様、どうやって!」

 

その影が翼だったことに驚くフクロウ男。報告では旧リディアン音楽院で飛行怪人と戦闘したとの記録があったが、それも巨大な剣を出して、それを足場にしたに過ぎない。なのになぜこの空に翼が飛んでいたのかフクロウ男には予測も出来なかった。

 

「こうなれば貴様を先に白骨にしてやる!殺人レント…」

 

「遅い!」

 

フクロウ男が翼に向け殺人レントゲンを撃とうとしたが、それよりも早く翼は足のブレードを展開して回転してフクロウ男の目を切りつける。切り付けられた目の痛みに思わずフクロウ男は両手で目を押さえた。

これで、もうフクロウ男は殺人レントゲンを使えなくなった。

 

「止めだ!」

 

勝機と見た翼は持っていた剣を大型にして一気にフクロウ男に青い斬撃を叩き込む。

 

蒼ノ一閃

 

目を切り付けられ対応も出来なかったフクロウ男は翼の蒼ノ一閃をまともに喰らい、海に叩き落される。暫くの沈黙の後に爆発した事で翼はフクロウ男を倒したと判断して甲板に降りる。

 

 

 

 

 

 

ショッカーの怪人達は全滅した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(暁光)…苦しむキミの明日(あす)を (永愛)…嘆く過去の涙を

照らし乾かすような 存在になりたい (I believe you)

 

「アイツ…やりやがった…」

 

未来の様子にクリスは安堵する。それどころか絶唱を使ってエクスドライブするなんて本当に初心者かと疑う程だ。

 

例えどの世界の 違うキミに出会ったとしても

待ってるいつでも必ず (I love you)

 

「…良い歌だ」

 

未来の歌に聴き惚れるクリス。未来の光を浴びてると心なしか疲労も消えたように感じる。

そして、対照的に響は未来を警戒する。暴走している響にとってエクスドライブ化した未来の光りが不快で心地よかった。

 

『何ダ、コノ光…不愉快気持チイイ反吐ガ出ルアタタカイ…

 

不愉快な気持ちにも安心できるような気持ちにもなり響は心がバラバラになりつつ、懐かしむ思いも強くなる。

 

「絶対譲らない!」と

再びキミに歌う

 

━━━不愉快な歌(優しい歌)ダ…分からナイ…アノ光りガ怖イ!マトモニ浴びレバ私ガ消エルかも…

 

響の胸や脳裏に未来に対する安心感とも不安感ともいえる感情が入り混じる。命令では小日向未来を殺すよう指示されてるが頭のどこかでそれを拒否している。そんな感じだった。

 

守られるのではなく

守る為に歌う (信じて)

 

「響、今あなたを縛る鎖を解いてあげるから!」

 

未来が力強く行って響に向き合う。反対に響は少し怯えていた。

 

『イヤだ…ソノ光りハ嫌ダ!ソノ光ハ私ヲ消光ダ』

「…大丈夫だよ、響。これはあなたを悪夢から戻す光りだから」

 

目に見えて怯える響に未来は優しく語りかける。まるで、泣いている幼い迷子の少女をあやすように。

 

『悪夢?』

「そう、それから私の想いとみんなの想いもぶつける」

 

(聖煌)…もう二度と泣かせない

(響信)…すべてを抱きしめたい

 

未来は確信に近い思いを感じていた。この力なら響の心臓のガングニールを取り除くことが出来ると。

 

『!?』

 

「あっ、待てコラ!」

 

しかし、響は未来から逃げるように移動する。脚部のジャッキを使って無理矢理空へと逃げる。追いかけようとしたクリスを未来が止める。

 

「大丈夫だよ、クリス。神獣鏡なら追いかけれる!」

 

そう言って、未来は響の後を追いかける。

そして、未来はアッサリと響に追いつく。響のガングニールは足のジャッキと腰のブースターで無理矢理飛ぶのに対して未来の神獣鏡は飛行も出来るタイプだ。空での追いかけっこでどちらが有利か語るまでもない。

 

「ちょっと痛いかも知れないけど…我慢してね、響!」

 

未来は扇を出して円形にする。それが丁度丸い鏡のようになると足のギアからパーツが飛び出しそれが未来の前で円形となる。更に鏡のようにした扇が幾つにも分身して未来の円形を囲むように周囲に展開される。

直後に、そこから先程よりも威力が高そうなレーザーが撃たれた。

 

暁光

 

どんなキミだっていい わたしには最愛 (I trust you)

 

未来のレーザーは今度こそ響を飲み込む。一瞬、目を瞑る響だが、痛みが殆どない事に戸惑う。それと同時に、脳裏に焼き付いていた迫害された記憶に変化が生じた。

 

━━━ソウだ…確か二私ハミンナに生き残った事ヲ責メラレタ…だケド私ノ味方をシテクレタ人もイタ。何で忘れてタンダロウ

 

死神博士に消された記憶が一部蘇る。それでも、まだ全てを思い出してはいなかった。

 

未来のレーザーが治まると響の体を纏っていた黒い影が消え去り海面へと落ちていく。

 

「やった!?」

 

響の体を纏っていた黒い靄みたいなものが消えてる事に喜ぶ未来。しかし、

 

『まだです!』

「!ウェル博士?」

 

通信機からウェル博士の声が響く。

 

『まだ、立花響の心臓にあるガングニールは消えていません!これではどちらにしろ!』

「なら…!」

 

ウェル博士の説明と響が未だにガングニールのシンフォギアを纏ってる事でウェル博士の言葉に頷く。もう一度響に暁光を撃とうとした未来だが胸の痛みと共に食道から鉄の味がする液体が流れて吐き出す。

 

「これは…血?」

 

思わず咳き込み手に付いた液体を見て未来が呟く。

小日向未来は血を吐いていた。無理に絶唱を歌った代償で未来の体に限界が来ていたのだ。絶唱を使いエクスドライブを起動させ無理矢理動かしたツケが回って来た事を未来は感じてた。

 

「お願い、もう一発だけ!」

 

何とか、響に向けて撃とうとするが先程とは違いギアの動きは鈍く、展開していた扇の鏡も元の扇に戻ってしまう。

 

━━━駄目だ、もう撃てない!これじゃ響を助けることも…!

 

自力ではもう撃てない事に途方に暮れる未来。最早、響を助ける手段がもう無いかに思われた。その時、未来の目はエアキャリアから射出された小型ユニットが目に入る。

小型ユニットは、未来の出したレーザーを反射させ海面に向けて射出されようとしていた。

 

「あれだ!」

 

未来は最後の賭けにでる。神獣鏡のシンフォギアを動かして海面に落ちる響をキャッチする。響の放出する熱で未来の顔を歪めるが構わず未来は響を抱えてレーザーの通る地点に飛び込む。

 

「帰って来て、響ィィィーーーーーーーッ!!!」

 

未来の絶叫と共に小型ユニットからの神獣鏡のレーザーが二人を飲み込む。レーザーは二人のシンフォギアを破壊して海面へと到達して海中を進む。

 

 

 

 

 

「ヌ!?」

 

ノートパソコンを弄っていた死神博士が思わず叫ぶ。響をコントロールしていたノートパソコンがエラーという文字を起こすと爆発して停止したのだ。

 

直後に、海中から強烈な光りが溢れる。神獣鏡のレーザーではない。神獣鏡によってフロンティアの封印が解けた。

 

「ええい、シンフォギア装者殲滅作戦は失敗した!心臓のガングニールが取り外されベルトの意味もなくなった!立花響も特異災害対策機動部二課に取り戻されたようだが、まあいい。心臓のガングニールを失った立花響はもうシンフォギアを纏えん!改造人間だろうと、アレはシンフォギアを纏って始めて真価を発揮出来るよう設計してある。地獄大使に連絡しろ、フロンティアの封印は解かれたとな!」

 

死神博士の命令に戦闘員は「イーッ」と返事をするとコックピットから出る。不機嫌そうな死神博士も何か用事があるのかコックピットを後にしてマリアが一人残される。

 

「…良かった」

 

一人残されたマリアがボソッと呟いた。それは偽ざる本音でもあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…何だろ?体がユラユラしてるみたい。まるで昔、お母さんと一緒にお風呂に入って湯船に浮んで遊んでた頃を思い出す。…でも冷たいしお湯じゃないからプールかな?でも、潮の香もするから海?あれ、私何時海に来てたんだろ?

 

「…ここは…」

「響、良かった目が覚めたんだね!」

 

この声と匂いは未来だ。あれ?私って未来と一緒に海に来てたんだっけ……違う…わたしは…

 

「…ごめんね、未来。手間を掛けさせたみたいだね、全部思い出したよ」

 

私は、あの時ショッカーに捕まって死神博士に脳改造されて翼さんやクリスちゃんを襲ったんだ。それで、海の上で未来とも戦わされた…自分が情けない

 

「本当に悪夢…みたいだったよ」

「大丈夫…だよ、響…悪夢は終わったの」

 

その言葉を聞いて私は安心した。意識を戻して少ししてから体が痛い、人工筋肉を無理矢理動かした所為かも…駄目だ…意識が…

 

 

 

響が気を失う。この時、響は気付かなかった。霞む目と逆光で未来の顔がよく見えなかったのだ。見て居れば悲鳴の一つでも上げただろう。未来は口や目から出血していた。まるで、クリスと初めて戦い翼が絶唱を使った後と瓜二つだった。

意識が途切れそうになる未来は、その度に必死に意識を保っていた。ここで意識を失えば二人共海に沈んでしまう。

 

その時、モーター音の音が近づき未来が振り向くと緒川がゴムボートで此方に近づくのがわかった。それを確認した後、未来の意識は途切れ緒川が急いで二人を回収した。

 

 

 

 




未来、まさかの絶唱&エクスドライブ。

以前のあとがきで歪鏡・シェンショウジンと永愛プロミスの話をしても誰もアドバイスをくれなかったので二曲とも歌わせました。

その所為で話が長くなった。

響の脳改造も未来の神獣鏡で正気に戻りました。
尚、XD版と違い、響のS2CAのサポートも無かったので、未来は翼と同じく緊急手術。ですがLiNKERで絶唱をある程度軽減できてはいるので一期翼ほどではありません。


兎に角、響の奪還。


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58話 ショッカー大要塞、その名は『フロンティア』

YouTubeで最新の仮面ライダーリバイスを見ました。

クウガ以来だけど戦闘が派手になったな…そして、展開が早い。総集編かと思った。


 

 

 

「アイツも元に戻ったようだな」

 

緒川が響と未来をゴムボートに乗せて特異災害対策機動部二課の仮設本部の潜水艦に戻るのを見守るクリス。二人が無事に緒川に保護されたり響の記憶が戻った様子に安心した表情をして、前々から考えて居た事を行動に移す為に翼の下へと行く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「う…ここは…」

「目が覚めたか」

 

未来と響が緒川に回収され少しの時が過ぎる。響が目を覚ますと直後に横からの声に顔を向ける。其処には弦十郎の姿が映る。周囲を見渡すと此処は特異災害対策機動部二課の仮設本部にある医務室の一つだろ。

 

「し…師匠、…!その怪我!?痛っ!」

 

弦十郎の腕や体に無数の包帯に気付く響。慌てて飛び起きるが響の体にも無数の痛みが走る。

 

「もう少し、横になっていろ響くん。俺の方は大丈夫だ、ギリザメスとの戦いで負った怪我だ」

「…ギリザメス」

 

響の脳裏に、廃病院で翼と戦っていたギリザメスの姿が過る。チラッとだが翼とマリアの戦いを横目で見た響はギリザメスの実力は相当高いと考える。弦十郎のようすを見る限りギリザメスに勝ったんだろう。

 

「…ごめんなさい、師匠。私がショッカーに操られた所為で…」

 

響の口から謝罪の言葉が漏れる。響が攫われ脳改造されショッカーに操られてしまったのだ、響は自分を許せないでいる。翼やクリス、未来にも襲い掛かり殺そうとしていた記憶が朧げながら覚えている。未来を殴った感触も未だに残っていた。

あの時、死神博士から未来やみんなを守る為だったとは言え、ショッカーに捕まって翼とクリスを倒す尖兵にされてしまったのだ。響の心に後悔しかない。

 

「少し考えれば分かる事だったのに…ショッカーが師匠や翼さん達を邪魔な存在だと認識してる事を知っていたのに!私が壊した戦艦にも多数の人が乗っていた筈なのに…私は!!」

 

響は自分が情けなくて仕方が無かった。未来や友達を思う心をショッカーに利用され翼やクリス達を殺す為に戦わされた。その事が悔しくて…悲しくて響の目から涙が溢れる。

 

━━━特訓して強くなった筈だった、でも結果は…

 

「私の所為で…私の所為で…!」

 

自己険悪に陥り泣きじゃくる響の頭に暖かい物が置かれた気がした。横を見ると、弦十郎が響の頭を撫でていた。

 

「そう自分を責めるな。響くんの破壊した艦艇はノイズで乗員が既に全滅していたそうだ。特異災害にあるセンサーでも、あの時には生存者は居なかったそうだ。たぶん、俺が響くんの立場なら同じことをしていたと思う」

「師匠が…ですか?」

 

響は頭を撫でて来る弦十郎の顔を見る。その表情は今までより優しく見えた。

 

「俺だって聖人君子じゃない。今まで生きていた中で後悔も色々してきた」

 

━━━そうだろ、早瀬

 

弦十郎は嘗て自分の手で倒した早瀬五郎を思い出す。親友であり良きライバルで弦十郎に嫉妬してショッカーに自ら入った男を弦十郎は、早瀬五郎を手に掛けた事を未だに後悔していた。

 

━━━それにしても、「乗員は全滅していた」か、よくそんな事が言えるもんだ

 

弦十郎は、真実を響に言えないでいた。確かに艦艇はノイズに襲われ壊滅状態だったが本当に全滅したのかは不明であった。特異災害のセンサーも万能ではない。上手くノイズから隠れられた物も居たのかも知れない。仮に犠牲者が出ても響はショッカーに操られてただけだ。響が悪い訳ではない。

 

こればかりは、響に言うことは出来なかったのだ。弦十郎や特異災害の一部の職員以外は知らない事であり弦十郎たちはこの事を墓場まで持って行く気であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「指令、響ちゃんは…って良かった目覚めたのね!」

 

弦十郎が響の頭を撫でて暫くの沈黙の後にオペレーターの友里あおいが入って来た。そして、響の意識が戻ってる事に気付いて嬉しそうに近づく。

 

「え…えーと、ご迷惑をおかけしました!」

 

あおいに向けて頭を下げる響。それを見てあおいは笑顔になるが、直ぐに表情を引き締め弦十郎に持ってきた書類などを渡す。

 

「響ちゃんの体ですが、心臓がちゃんと見えてます、あの特殊な金属はショッカーが外したみたいです」

 

そう言って、あおいは医務室のモニターを付けて映像を出す。それは以前に見た響の体内と同じ感じがした。違うのは心臓の様子がハッキリ映っていた事だ。

 

「幾つかの体内の装置が変更されてるけど心臓を蝕んでいたと思われるガングニールは完全に除去されてるわ。あの子の…小日向未来さんの使った神獣鏡のお蔭だと思うけど」

 

モニターに映る心臓は完全に健康体に見えた。それこそ周囲にある機械を無視すれば健康な人間の体の中だと思うほどに。

 

「未来…そうだ、未来!お礼を言わないと、師匠、あおいさん!未来は何処に?」

 

自分をショッカーから救い出し、心臓も元に戻った事に喜ぶ響は弦十郎たちに未来の居場所を聞く。しかし、帰って来たのは響と視線をズラス弦十郎とあおいだった。

 

「…え?」

 

その反応に響は思わず呟く。そして、嫌な予感が頭に過った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シューコー…シューコー…

 

ベッドの上に人工呼吸器で呼吸する少女が横たわる。服は響と同じ入院服で腕には点滴が繋がり目を瞑って眠っているようだった。

 

「…これは…」

 

自分が居た病室から別の病室に移動した響はベッドの上で横になる少女を見て呟く。それは、紛れもなく…

 

「どうして…未来が…」

 

小日向未来だった。

 

あの後、緒川に保護された未来は緊急手術となり、響の目覚める寸前まで手術をされ人口呼吸器を付けられ安静にさせられていた。

 

「未来くんは響くんを助ける為に絶唱を使ったんだ」

「体内にあるLiNKERである程度までは軽減されたから翼ちゃんの時に比べれば軽症って言えるんだけど…」

 

その言葉を聞いて愕然とする響。未来の顔をソッと覗き込む、同時にまた目から涙が溢れる。

 

「私の所為だ…私の所為で未来が…」

 

響の呟きに何も言えない弦十郎とあおい。未来が無茶したのは確かに響の為だ、響を思って絶唱まで歌った以上弦十郎たちは何も言えないでいる。

 

 

 

 

その時、泣いている響の頬に暖かい手が触れてきた。また、弦十郎かあおいが慰めてるのかと思ったが、

 

「…泣か…ないで…響…」

「未来!?」

 

その手は未来の手だった、手術の影響でまだ痺れているが響の声で起きたのだ。

 

「未来くん…」

「良かった」

 

弦十郎もあおいも未来の意識が戻った事に喜ぶ。尤も、手術を終えて間もない為、未来の体には全身麻酔でろくに動けなかったが。

 

 

「未来…ごめんね。私の所為で…」

「謝らない…で、響。私…が響を助けた…いと思って…無茶した所為だ…から…」

「でも…でも…」

「私は…響をショッカー…から助けれて…満足してる…」

 

未来が笑顔を浮かべると響も泣きながら笑う。

その後、もう少し響と未来が久しぶりの会話をした後に未来の意識が途切れ眠りだす。まだ、手術が終わってそんなに時間が経っていないので当たり前である。

 

「未来…」

 

響が眠り未来の手をソッと触れる。死神博士の再改造手術の影響でまたもや力の制御が出来ない響はなるべく未来を傷つけないよう、少しだけ触れた。

 

 

 

 

 

 

 

「立花が意識を戻したと言うのは本当ですか!?」

 

すると、医務室の扉が開き翼が慌てて入って来る。あおいが口元に指を立てて翼を窘めた。

 

「済まない、立花が意識を取り戻したと聞いて…」

「翼さん、ごめんなさい」

 

響が翼に謝罪の言葉を口にする。操られていたとは言え翼を攻撃したのは事実だからだ。

その点、翼も承知している。

 

「謝る必要はない、全てはショッカーの所為だからな」

 

そう言って、翼は響の頭を撫でる。響はショッカーの卑劣な作戦で利用されていたに過ぎない。

 

「それから叔父様、指令室に戻ってください。斯波田事務次官より緊急連絡が来たそうです」

「分かった」

 

翼の言葉に弦十郎は急ぎ指令室へと向かう。

 

「緊急連絡って何でしょうね?」

「正直予想も出来ないわ。ショッカーがまた企んでるのかも」

 

響の言葉にそう返答する翼。正直、ショッカーの計画は想像以上の物が多い、規模も残虐性も。下手に予想するのは得策とは言えなかった。

 

「それにしても、ショッカーは遂にフロンティアを起動させたわ。恐らくこれまで以上の戦いになるかも…」

「ショッカーの企みなど私と雪音で払ってみせます。心配など無用です」

 

あおいの言葉に、そう言い切る翼。響はその言葉に反応する。

 

「私も戦います!」

「立花…お前は駄目だ」

「!? どうしてですか!」

 

響が自分も戦うと言ったが翼が許さなかった。その理由を聞こうとする響。

 

「お前の心臓にはガングニールは、もう無いんだ。シンフォギアを纏えないお前を戦いには出さん!」

「だ…大丈夫です!私、改造人間だからシンフォギアが無くったって戦えます!だから…!」

 

氾濫する響だったが、頬に痛みと共に体が動かなくなる。翼が響の頬をビンタした後に抱きしめたのだ。

 

「分かってくれ、もうお前を危険に晒したくはないんだ。…頼む」

「翼さん…」

 

響としてはここまで弱弱しい翼を見た事がない。翼の態度に最初は混乱した響だが、直ぐに納得もした。

 

━━━確かにシンフォギアの無い私じゃ戦闘員を相手にするので手一杯だ。前にも変身出来ない体で怪人と戦ってもビクともしなかった

 

響の脳裏に、嘗て旧リディアン音楽院で怪人軍団と戦った記憶が蘇る。大幹部であるゾル大佐が引き攣れた再生怪人たちに手も足も出なかった記憶が。

 

━━━私だけじゃなくてクリスちゃんも翼さんに説得してくれれば…駄目かな、クリスちゃん優しいし。…あれ?そう言えば…

 

そこで、響は仲間のクリスを思い出す。何時もはツンツンとしてるけど本当は優しい少女が来ない事に疑問に思う。

 

「あの翼さん、クリスちゃんは?」

「雪音か、アイツなら…」

 

響の質問に答える翼。それは海に浮かぶ響たちが緒川に保護されて間もなくの頃だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あれは、私がショッカーの怪人フクロウ男を倒した後だった。私を追ってFISの大鎌のギアを持った少女と鍔迫り合いが起きようとした時に海に異変が起きた。最初は岩が浮上してきたのかと思ていたが、真っ直ぐな石柱に自然で作られる訳が無い見事な円形の巨大な岩で作られた人工物が浮上したんだ

 

『これが…』

『フロンティア…デース』

 

海中から現れた想像よりも巨大な人工物に圧倒されていた。そんな私に雪音が近づいてきて銃を向けてきた

 

「え、銃をですか?」

「そうだ」

 

『何のつもりだ、雪音!』

『…これからやる行動を見逃してほしいだけさ』

 

そう言って、私に銃を向けたまま雪音はFISの装者と話し出した

 

『アタシはお前らに降伏する。だから、アタシも一緒にフロンティアに連れて行け』

 

「えええぇぇぇぇぇ!!」

「立花、うるさい。まだ終わってない」

「ごめんなさい!」

 

まあ、確かにあの時は私も立花と同じ反応だった。雪音がショッカーに本気で投降する気だったら叩斬ってやろうかとも思ったが、FISの装者が喋り出した

 

『仲間を裏切って私達に着く気デスか?信じられないデス』

『これが証明書だ。……なんてな、お前アタシに協力しろよ』

『協力?』

『お前、ショッカーに忠誠を誓ってる訳じゃないんだろ?アタシの目的はソロモンの杖と死神博士のクソ野郎だ』

『………』

『アタシの策が成功すればお前の仲間たちを助けられるかも知れないぜ』

『…分かったデス』

 

FISの装者が返事をして一緒にヘリに飛ぼうとしてる所を私は止めようとしたが、

 

『アンタはアタシがしくじった時頼む。悪いな』

 

取り付く島もなく雪音はFISのヘリに乗り込んだ

 

 

「じゃあ、クリスちゃんは…」

「上手く潜入できてるといいが」

 

クリスの身を案じる翼と響。それだけ、クリスは危険を冒していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時間は少し戻る。

 

「暁切歌よ、なんだそれは?」

 

クリスを連れ帰った切歌に死神博士の第一声はこれだった。調の始末もせず敵の特異災害の装者である雪音クリスを連れてきたのだ。戦闘員が警戒態勢を取る。

 

「仲間を裏切って私達についた装者デス」

「雪音クリスだ、力を叩き潰せるのは更に大きな力だけ。アタシはこれ以上犠牲を出したくねえ」

 

そう言って、クリスは死神博士の前にギアのペンダントを差し出す。少し考えた死神博士は、戦闘員にペンダントを受け取らせ自分の手に握る。

 

「ふむ、本物のようだな。よかろう、貴様の事は認めてやろう」

 

ペンダントが本物のだと納得したクリスが入るのを認めた。

 

━━━相変わらず不気味な爺だ。あの値踏みするような目つき、今までの連中と違い過ぎる

 

クリスは死神博士の異質さを不気味に思う。両親が死んでから碌な目にあってないクリスは男の目つきに敏感になっている。ただでさえ発育の良い体だ、男達のスケベな視線を感じた事など一度や二度ではない。

しかし、死神博士の目はそれとは明らかに違う。一言で言えば不気味と言えた。

 

「…そうそう、暁切歌よ。医務室でウェルがお前を呼んでいたぞ」

 

「ドクターが、デスか?」

 

クリスにギアを返した死神博士が切歌にそう言った。その言葉で切歌は、医務室へと向かう。

それを見ていた死神博士の口の端が吊り上がる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シンフォギアから普段着に戻った切歌は、医務室の前に居る。調を助ける前のやり取りで切歌はウェル博士の事を少しは見直していた。それでも悪感情の方がまだ強いが、

 

「ドクター?居ないですか?」

 

医務室へと来た切歌は部屋の中を見回す。ウェル博士どころか誰一人見当たらない。

 

「おかしいデスね…!」

 

切歌が中に入る辺りを見回していると扉が閉まりロックされる。直ぐに扉に駆け寄るが切歌の力では開かない。

 

「何が…「イーッ!」戦闘員!?」

 

いきなりの事で茫然としてると明かりが消え不気味な青い光が差し何処からともなく戦闘員が現れた。

 

「一体何のつもりデスか!?」

 

既に周囲を取り囲まれた切歌が戦闘員に語り掛ける。しかし、戦闘員たちは切歌の言葉に答えようとはしない。こうなればシンフォギアを纏ってこの場を切り抜けようとしたが、

 

「クォーッ、クォーッ」

 

突然、上から不気味な声に切歌が上を見る。そこには鳥のような嘴をした細長い二本の角を持った胴体が茶色がかった怪物が天井に張り付いている。

 

「怪人!?しまっ!」

 

切歌が突然の怪人に驚いた隙に複数の戦闘員が切歌を取り押さえる。その際、切歌のギアのペンダントが奪われた。

 

「離せ!離すデス!!」

 

切歌が拘束を解こうと暴れるが戦闘員の前ではビクともしない。成人男性以上の力を持つ戦闘員にシンフォギアを纏ってない切歌では、まさに大人と子供の差がある。その後、医務室のベッドへと強制的に寝かされた切歌は隙を見て逃げようとしていたが、手足を鉄の鎖で繋がれてしまう。

 

「何で…こんな…」

 

「愚かな小娘め、貴様の裏切り行為などとっくに死神博士に気付かれるわ!」

 

怪人の言葉に切歌は息を飲む。死神博士は、翼がフクロウ男との戦いで切歌が悉くフクロウ男の殺人レントゲンを邪魔していると確信していた。仮に裏切ってなくてもフロンティアの封印が解けた以上、マリアたちは用済みである。

 

━━━私の裏切りがバレていたのならあの銃使いの方も…

 

「本来なら処刑されるところだが、それでは面白くもないと死神博士が言うのでな。お前には我等、ショッカーの奴隷となり特異災害の装者どもを始末して貰う」

 

「誰がお前達なんかに!」

 

バレた以上、もうショッカーに従う気の無い切歌。これではマリアを助けるどころか足を引っ張ってしまうと感じた切歌は自分の舌を噛み千切って自害を覚悟した。しかし、切歌の口に布が押し込まれそれは不可能となる。

 

「ン゛ーーー!!」

 

「言っただろ、簡単に死なれては面白くないと。おい!」

「イーッ!」

 

怪人が呼ぶと白い科学者の服を着た戦闘員が何かを持って近づいてくる。切歌の目には小さなゴミのようなものが見えた。

 

「これは受信カプセルだ。これより、この受信機のカプセルをお前の鼓膜付近に設置する。これには俺の出す電波を感知してお前に強制的に命令を下す。逆らう事など出来んぞ」

 

「!?ン゛ー!!」

 

怪人の言葉を聞いて暴れようとする切歌。戦闘員が切歌の耳を上向きにしようとするが切歌の抵抗で上手くいかない。力を入れ過ぎて切歌の首の骨が折れてしまえば元も子もない事は戦闘員も分かっておりあまり力は入れられない。

 

「ええい、大人しくしろ!!」

 

見かねた怪人が苦戦する戦闘員に代わり、切歌の頬に拳を入れる。怪人の拳をくらった切歌の体から力が抜けグッタリとする。その間に白服の戦闘員が急いでピンセットでカプセルを切歌の鼓膜に設置する。

 

設置が完了した後に、怪人の二本の角から赤い光を出すと切歌が絶叫を上げる。繋がれた鎖からの金属音の音で切歌の苦しみは並ではない。

 

「うわあああああああああああああああああああああ!!」

 

「苦しめ、苦しむがいい。この部屋は防音になっている以上助けなど来んわ。クォーッ!」

 

━━━調…マリア…助けて…

 

心の中で助けを求める切歌。しかし、怪人の言う通り助けは来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、時間は戻り死神博士やマリアは浮上したフロンティアに上陸した。エアキャリアから出たマリアとクリスが周囲を見渡す。

 

「ここが…」

「フロンティア…」

 

「観光でも、しに来たのか?さっさと進め」

 

そんな、二人に死神博士が一喝する。マリアもクリスも渋々歩き出す。道中、洞窟のような入り口を見つけ中に入る。暗い中、舗装された通路だった事で人が作った事がわかる。

 

複数の銃を持った戦闘員と死神博士、マリアたちのクリスが歩く。そして死神博士の傍にはフードを目深く被った人物も何時の間にか居た。今は、念の為にとクリスは先頭で戦闘員が銃で威嚇しながら歩いている。

 

「切歌、大丈夫なの?」

 

歩いてる途中にマリアが切歌に声をかける。切歌に何時もの元気がない事や目の付近に青い斑点のようなものが出来て心配だったのだ。

 

「心配…いらない…デス。何時も…どうり…デス」

 

「そ、そう」

 

心配いらないと言う切歌にマリアはそれだけしか言えなかった。マリアも暗がりで切歌の状態もよく見えてないが、それ以上に精神的に一杯一杯だ。そんなやり取りを見て死神博士は不気味に目を光らせる。

 

「もっと、早く歩け!」

 

銃を持った戦闘員が先頭を歩かされてるクリスに銃口を押し当てる。

 

「痛ぇな、分かってるよ!」

 

「雪音クリスよ、変な動きをすれば戦闘員の放つ銃弾が容赦なく貴様の体を貫く。許可なく歌う素振りを見せても殺す!」

 

前を歩くクリスに死神博士が冷酷に言い放つ。その言葉は全くクリスを信頼してない事が伺える。

 

━━━クソッ、やっぱ直ぐには信用しねえか。当たり前と言えば当たり前だけど。…それにしても…

 

クリスは先頭を歩きつつ、横目で後方の死神博士の方を見る。視線は死神博士の横にいたフードを目深く被った人物だ。

 

━━━アイツ、何時から付いて来てたんだ?正体は?新しい怪人か?体つきからして女か?

 

正体不明の人物を警戒するクリスだが、露骨すぎると考え軽愚痴を言って誤魔化す。

 

「チッ、信用しねえな」

 

「当たり前だ。裏切者は何度でも裏切る、貴様はフィーネを裏切って特異災害対策機動部二課についたのだからな。…ああ、すまんな。お前が無能だったからフィーネがお前を切ったのだったな」

 

それだけ言って死神博士が笑い出す。暗い通路の中、死神博士の笑い声が木霊する。

奥歯を噛みしめたクリスが横目で死神博士を睨みつけマリアたちも死神博士に冷たい視線を飛ばす。

 

 

 

 

 

 

少し歩いたマリアたちは一際広い場所で、細い通路の奥に巨大な丸い球体のようなものが安置されている。

 

「ここがジェネレータールームです」

 

ナスターシャ教授の言葉に一同が巨大な球体に目を向ける。それは一見、巨大なオブジェにも見える。

 

「付いて来い、ウェル」

「はい」

 

そのオブジェに死神博士とウェル博士が近づいていく。そのオブジェの下もまで行くとウェル博士は厳重に閉まっていたケースを開け赤く光る物体…ネフィリムの心臓を取りだす。

 

「これです」

「ウム」

 

ウェル博士から渡されたネフィリムの心臓を受け取る死神博士はそのオブジェクトにネフィリムの心臓を張り付けた。ネフィリムの心臓は付けられた瞬間、千切れていた管がまるで血管のようにオブジェに張り付き、オブジェ自体が黄色く輝く。

そして、更に輝きが増すと共に周囲にあったクリスタルも光り出しエネルギーを供給してるように見える。

 

「これが、ネフィリムの心臓の力?」

 

マリアが驚きつつそう言う。

 

「心臓だけとなっても、聖遺物を喰らい取り込む性質は変わりませんか…卑しいですね」

「なぁに、我々には相応しい力よ」

 

ウェル博士が呟き、死神博士が答える。輝くフロンティアのジェネレーターを薄ら笑いを上げる死神博士を軽蔑の視線を送るウェル博士。

エネルギーが遅れられてフロンティアの外は植物が咲き始める。その事に気付いたのか、ナスターシャ教授が「エネルギーがフロンティアに行き渡った」と報告する。

 

「それでは、我々はブリッジに向かうとしよう。ナスターシャ、貴様は制御室での管理だ」

 

「…了解しました」

 

死神博士やウェル博士らはブリッジに向かい、ナスターシャ教授は戦闘員と共に制御室へと向かう。

 

「どうした貴様も付いて来い」

 

死神博士の言葉にクリスが振り向く、クリスの目には死神博士がフードを目深く被った人物に話していた。会話の内容からしてフードの人物もフロンティアのジェネレーターの光を見ていたのだろう。

 

「…はい」

 

「!?」

 

フードの人物の声を聞いたクリスは一瞬体が固まった。

 

━━━今の声…まさかな…

 

クリスにとってその声は聞き覚えのある声だったのだ。

 

「アイツ…な訳無いよな」

 

クリスがボソッと言う。その声はどこか不安に満ちていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、特異災害対策機動部二課の仮設本部の指令室では弦十郎が緊急連絡をしてきた斯波田事務次官と話をしていた。そして、その内容は弦十郎としても信じられないものだった。

 

「…事務次官、もう一度言ってください!その情報は確かなんですか!?」

『そうだ。今日の早朝に奴さんからの緊急連絡だ、アメリカの艦隊の一部が命令無視で行方をくらませた。更にロシア、中国、ヨーロッパの艦隊の一部が失踪した』

「…その艦隊がこの海域に来ると言うのですか?」

『絶対とは言い切れねえ、何しに来るのかも分からねえが嫌な予感がしやがる』

 

そう言って、斯波田事務次官はソバを啜る。アメリカを始め各国の海軍が勝手に行動する、ショッカーがフロンティアを手に入れた事と関係あるのか考える弦十郎。

 

『それから未確認だが、どうもその軍艦には無数の核弾頭が積んであるそうだ』

「!?」

 

最後の、斯波田事務次官の爆弾発言に言葉を失う弦十郎たちだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フロンティアの天辺付近にある階層、エレベーターの様な物に乗って死神博士とウェル博士、そしてマリアが降り立つ。此処がフロンティアのブリッジのようだ。巨大な紫色のクリスタルのような物の中に、濃い青色をし変な模様のある球体の下まで歩いていく。

 

「ウェル、例の物を」

 

死神博士が「例の物」と手を出す。ウェル博士は懐から拳銃型の注射器を出した。その中にはある液体が入っていた。

 

「それは?」

「LiNKERですよ、ただしネフィリムの細胞を混ぜた特別性です」

 

マリアの質問に答えるウェル博士。それを受け取った死神博士は左腕の裾を捲り上げる。

 

「今更ですが先生、本当に僕が打たなくて良かったんですか?」

「構わん、私の体でネフィリムの力を実験するのも面白い」

 

元々は、この注射はウェル博士が自分自身に打とうとしていたが、そこに待ったをかけたのが死神博士だ。死神博士自身は己の体でネフィリムの実験と言っているが真相は果たして。

 

そして、死神博士が注射器を腕に付けて一気にトリガーを引くと一気に中身の液体が腕の中へと入る。直後に死神博士の腕が肥大化し裾の一部と白い手袋が破れる。その腕はネフィリムと同じ灰色をし二つの角のような棘が生え二の腕の方には赤くひかっていた。

 

マリアは不気味な物を見るような目をし、ウェル博士は小さく笑みを浮かべていた。

 

「フム、ではさっそく」

 

変化した腕を軽く開いたり閉じたりした後に変な模様の球体に触れる。瞬間、球体が光ると共に球体の周りにあった紫色のクリスタルからオレンジ色の光が出る。

 

「…鳥之石楠船神」

 

「とりの…なに?」

 

死神博士の呟きに反応したマリアが何を言ったのか尋ねる。ウェル博士も眼鏡を弄って聞きたそうだった。

 

「フロンティアの本来の名だ。嘗て、カストディアンどもが使っていた星間飛行船。首領の言っていた通りだった!」

 

何が可笑しいのか死神博士が笑いだす。マリアもウェル博士もその姿は不気味に感じていた。その時、死神博士は空いた手から通信機を取り出す。

 

「潜水艦隊、準備はどうだ?」

『イーッ!人工重力装置GXの取り付け完了しました。フロンティアのエネルギー供給問題なし!そちらで制御可能です!』

 

「人工重力…」

「装置GX…?」

 

聞かされてなかったのか、マリアとウェル博士は通信機からの人工重力装置GXの言葉に反応した。尤も、二人の反応を無視した死神博士は更に笑い声を上げる。

 

「では、飛ばす事にしよう」

 

死神博士の言葉に黙って見ていたマリアとウェル博士だったが直後にフロンティア全体が巨大な揺れが起きる。モニターとなっているオレンジ色に光るクリスタルには少しづつだがフロンティア自体が海面から飛び出している光景が映る。

 

『死神博士、一体何をしてるのですか!?』

 

制御室に居たナスターシャ教授が何をしてるのかと連絡してくるが死神博士はその質問を無視する。

その時、オレンジ色を出すクリスタルの一つに海を渡り此方に近づく艦隊の映像が出る。

 

「地獄大使め、予定通りだ。聞こえるか私の声が!」

 

艦隊の映像を確認した死神博士はブリッジからナスターシャ教授やクリスに聞こえるよう通信を繋げる。

 

「これより、フロンティアを改め『ショッカー大要塞フロンティア』と名付ける!最早、我々に敵は居ないのだ!フッハハハハハハハハハハハハハ!!」

 

ショッカーの目的。

それは、嘗てカストディアンが使っていた星間飛行船『フロンティア』を稼働させ巨大な飛行要塞として使用する計画だった。

怪人製造プラントや核ミサイルの発射所を設置して一大拠点にする予定である。

 

響たちはこの恐ろしい計画を阻止する事が出来るのか?

 

 

 

 




未来は無茶した為、暫く医務室から出られません。
響がアメリカの海軍を手に掛けたかは不明です。

そして、切歌に迫るショッカーの魔の手。一体、何ノドンの仕業なんだ?
絵面が完璧に犯罪ですが原作の仮面ライダーのショッカーも同じような事をしてるので。

人工重力装置GXですが詳細なデータが分からなかったので地球の地軸を弄れるのなら物体を浮かす事も出来るんじゃないかと思って使いました。

首領は一応、フロンティアの真の名を知っている設定です。

クリスが気にするフード姿の正体は!?


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59話 裏切られた約束!? ショッカー真の目的!

最近、パソコンの挙動がおかしい。
5年過ぎてるし、寿命が近いのかも知れない。
コロナが終わるまではもってほしいけど…


 

 

 

死神博士がフロンティアを飛ばす少し前、

 

「『助けてほしい』そう言ったのか?」

「はい、ショッカーに騙され利用されている仲間たちを止めてほしいと」

 

指令室のモニターに営倉のベッドに腰掛けている月読調の姿が映る。

調から話を聞いた緒川が調が言った「助けてほしい」と言う言葉を弦十郎に伝え、調のから預かったシュルシャガナのギアのペンダントも弦十郎に渡す。

 

「彼らはやはりショッカーに利用されてるのか」

「彼女からの情報だと、…気になるのはウェル博士が死神博士の事を『先生』と言っていたそうですけど」

「先生?」

 

緒川の言葉に驚く弦十郎。あの死神博士を先生と呼ぶウェル博士、二人の関係が師弟関係なのかと考える。更に、緒川は調から自分達とショッカーを会わせたのはウェル博士だという情報も得る。

 

「そうなると、ウェル博士はショッカー側と思った方が妥当か」

 

弦十郎はウェル博士を重要参考人として捕縛、マリアたちの保護を目的にする。可能なら、死神博士も捕縛したいがショッカーの大幹部だ、一筋縄ではいかないとも考えて居た。

その時、指令室の扉が開き、響と翼とあおいが入る。因みに響の服は入院服から攫われ元に戻った時の制服だが、洗濯が間に合わなかったのか磯臭い。

 

「響くん、まだ寝てないと駄目だろ!」

「ごめんなさい、師匠。でも死神博士が近くに居るのに寝てられないんです」

 

弦十郎が動く響に注意する。それに謝る響だがショッカーの大幹部、死神博士が近くに居る事に居ても立っても居られなく翼やあおいの説教も聞きつつ指令室に来たのだ。

 

「それにクリスちゃんが無事かどうかも分からないし…最悪、改造手術をされてる可能性も」

「確かにクリスくんの安否は不明だが、改造手術はされていないと思う。手術をやるには時間が足りないからな」

 

ショッカーがフロンティアに潜入して、まだそんなに時間は経っていない。改造手術はとにかく時間が掛かる。響の体を見れば一目瞭然だろう。しかし、時間を与えれば与える程、ショッカーがフロンティアでなにをするのか分かった物ではない。

 

「指令、事務次官の言っていたアメリカの艦隊を補足しました!」

「まだ、遠くですが反対の海域にロシアと中国の艦隊も補足しました」

 

弦十郎と響が話をした直後にオペレーターコンビが特異災害対策機動部二課の仮設本部の潜水艦に取り付けられているセンサーにアメリカやロシア、中国の艦隊の影を捕らえる。二つのモニターに幾つもの艦隊が映る。映像には真っ直ぐフロンティアへと向かっている。

 

「事務次官の不安が的中したのか、しかし何のために?」

 

ショッカーやフロンティアの危険性に気付いて攻撃しに来たのなら特異災害としても有り難い。領海侵犯云々の話はあるがそれは政治家の仕事だ。

フロンティアの奪取なら、最悪他国の漁夫の利を覚悟しなければならない。だが、それなら斯波田事務次官に動きがアッサリバレてる事が気になる。

そして、最悪は……

 

「フロンティアになるべく接近しろ。いざとなったら俺と翼でクリスくんを救出しに行く!」

 

最悪を想定した弦十郎がフロンティアへと接近するよう言う。

だが、その直後に特異災害の仮設本部の潜水艦が激しく揺れる。海流が突如、乱れたのだ。

 

「うお!?」

「一体、何が!?」

「フロンティア下層部より重力異常!広範囲に渡って海平が隆起!我々の直下からも迫ってきます!」

 

オペレーターの藤尭朔也の報告の直後に特異災害の潜水艦は浮き上がるフロンティアに激突した再び激しい揺れが起きる。

 

 

 

 

外から、見ていた艦の人間も驚く。巨大な建造物のフロンティアがその下にある岩盤ごと宙に浮いてるさまを見たのだ。

 

「あれが…フロンティア」

「なんて…大きさだ…」

 

波で揺れる艦艇にしがみ付いてフロンティアを茫然と見る兵士達。予想以上の光景に息を飲む、噂には聞いていたがこの目で見るとやはり圧巻される。

その時、船のブリッジの扉が開き誰かが入って来る。

 

「どうやら、無事にフロンティアは起動したようだな」

「こ、これは地獄大使!わざわざこちらに?」

 

艦長と思しき船員が地獄大使に敬礼をする。それに倣い他のクルーも地獄大使に敬礼する。

横目でその様子を見た地獄大使は視線をフロンティアに戻す。

 

「他の艦隊も到着したようだな、死神博士に通信を繋げろ」

「はっ!」

 

地獄大使の命令に通信士が通信機を動かす。間も無く、通信機から老人の声が響き出した。

 

『地獄大使か?』

「そうだ、予定通り合流しに来たぞ。我々をフロンティアに上げろ」

 

地獄大使の言葉に返事をしなかった死神博士だが、フロンティアの力を使い地獄大使の乗る艦艇や他の艦隊を宙へと上げる。それは中国やロシアから来た艦隊も同様であった。その船はドンドン持ち上げられフロンティアへと載せられた。

 

 

 

 

 

「死神博士、あの艦隊は?」

 

その様子を見ていたマリアが死神博士に聞く。彼女たちの計画ではこのような事想定されていない。

 

「あれは、世界中に散っていた工作員と怪人の補充の為に合流した部隊だ。後、我々の息のかかった連中もいる」

 

フロンティアへと集まって来た艦隊は世界中に散っていたショッカーの工作員たちだった。中には催眠術で操られてる兵士もいるが、ショッカーに魂を売り渡した者達も乗っている。身体的に改造人間候補としてショッカーが連れてきているのだ。

そして、死神博士が艦艇事フロンティアに招いた理由は他にもある。

 

 

 

 

『急げ、急げ!』

()()()()()()()()の設置を急げ!』

 

連れてこられた兵士たちが急ぎ行動する。引き上げられた艦艇を解体し一部を土台として機関銃の様な物を設置していた。

 

「デンジャーライト」嘗て、白川保と言う名の天才物理学者が作ってしまった殺人光線を撃てる兵器だ。それを奪取したショッカーが航空機や飛行型ノイズを撃墜して制空権を手に入れる計画を立てていたがとある事情により頓挫していた。

 

そのデンジャーライトが航空機迎撃用としてフロンティアの周りに設置されていくのだ。設置が完了すれば航空機は勿論、戦闘機も近づく事が出来ない。

 

「なるべく急げ!早々に戦闘機が来れば面倒だぞ!…ん?」

 

作業に入っている戦闘員や兵士に檄を飛ばす地獄大使だったが、その視界にある物を捕らえた。

 

 

 

 

 

「ふむ、フロンティアのエネルギーは十分と言ったとこか」

『死神博士、面倒な客人だ』

 

ネフィリムと一体化した左腕でフロンティアを制御していた死神博士に地獄大使からの連絡が入る。

 

「客人だと?」

 

地獄大使の言葉に死神博士は、フロンティアを操作して、地獄大使の言っていたポイントの映像を映す。そこには、特異災害対策機動部二課の仮設本部の潜水艦がある。

 

「チッ、浮上する時について来たか。目障りな連中め!」

 

特異災害対策機動部二課の姿を確認した死神博士は、舌打ちをすると直ぐに戦闘員達に出撃命令を下す。さらにソロモンの杖からもノイズを出した。

 

「彼女たちも来たのね」

「こちらとしては有難いですよ」

 

特異災害対策機動部二課の潜水艦がフロンティアに乗っかってるのを見て、マリアとウェル博士が呟く。マリアが若干嬉しそうな表情をし、ウェル博士も少しだけ笑みを浮かべる。その言葉が耳に入らなかった死神博士は、迎撃部隊をだした事で一息つく。

 

「さて、では最後の目的を遂行するか」

 

「え、もう?」

「ナスターシャ教授の作業が終了するまで待つべきでは?」

『もう少しだけ待って貰えれば…』

 

死神博士の言葉にマリアが鳩が豆鉄砲を食ったよう表情をし、ウェル博士も制御室に居るナスターシャ教授を待つべきだと言った。

しかし、

 

「その必要はない、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

『!?』

「え?」

「…先生?」

 

予想だにしなかった死神博士の言葉にマリアもウェル博士も思わず固まってしまう。ナスターシャ教授は言葉すら出ない、その様子を横目で見た死神博士が不気味な笑みを浮かべる。

 

「ウェルに小娘、まさか私の目的がフロンティアを手に入れるだけだと思ってるのか?」

 

「…違うの?」

「!マリア!直ぐに先生を止め…」

『待ちなさい、死神博士!』

 

通信機の向こうからナスターシャ教授の止める声がし、何かに気付いたウェル博士がマリアに何か言おうとするが、

 

「私の真の目的は…これだ!!」

 

死神博士がネフィリムと一体となった左腕を丸い球体の操作盤に叩きつける。

直後に、フロンティアの最上部にある、二つの巨大な輪っかに、その間に挟まれた石柱のようなオブジェクトが光り輝き、二つの巨大な輪っかから火花が飛び出る。そして、二つの輪っかと石柱の天辺から光り輝く者が飛び出て来る。

 

その光りは空中を昇り糸のように絡み合い雲を消し去り一本のロープのようになり宇宙にまで飛び出す。しかし、その紐上の光は止まらずそのまま進み月にまで到達した。そして、光りは巨大な手のような形をし、月を鷲掴みにした。

 

「予想通りだ!落ちろ!」

 

その光りの手は、鷲掴みにした月を引っ張った後に消滅した。その影響か、ゆっくり地球に向かっていた月の速度が爆発的に上がる。

 

「死神博士、あなたは一体なにを!?」

 

「月を引っ張った、あと少しで月が地球に落下する。これで労をせず人類の抹殺が出来ると言う物だ」

 

『「「!?」」』

 

死神博士の言葉にマリアもナスターシャ教授もウェル博士も息を飲む。それは自分達の目的の間反対だったからだ。

 

「落下を早めたと言うの!?救世の準備は何も出来て居ないのに!」

 

マリアが急いでフロンティアを動かそうとするがうんともすんとも言わない。その状況に焦るマリア。

 

「せ…先生、落下を早めたとはどういう事ですか!?計画では僕達が月の落下を阻止して民衆にショッカーの存在をアピールする筈では…」

 

ウェル博士が汗を掻きながらも死神博士に説明を求めた。本来の計画では自分達で月の落下を阻止してショッカーが地球の英雄となり表舞台に立つと聞いていたのだ。

 

「ウェル、そんな与太話まだ信じて居たのか?」

 

「与太…話?」

 

「全てはフロンティアを手に入れ月を地球に落とす為のペテンよ。貴様たちは我々の掌の上で踊っていたに過ぎん!」

 

その言葉にウェル博士は愕然として床に膝を付ける。

ウェル博士は思い違いをしていた、死神博士やショッカーは人類文明やインフラを無傷で手に入れたいと思っていたのだ。ウェル博士の考えでは月の落下を阻止した英雄となり表舞台に現れて裏で暗躍しつつ民衆の信用を得ようすると考えて居たのだ。

 

そこで、自分達がショッカーの悪事を暴露して政府や特異災害対策機動部二課がショッカーを潰してショッカーの悪事を暴露した自分が英雄になるという発想だった。

 

━━━騙された!また僕は…僕達は死神博士に騙された!まさか、こうも簡単に人類も人類文明も見切るなんて、あれの効果が出るまで、まだ時間が掛かるのに!

 

「ふざけないでっ!このままだと人類が絶滅しちゃう!!」

 

「たわけが、それが目的だ!邪魔なムシケラどもを根絶やしにすれば世界はショッカーの物よ!」

 

何より、ウェル博士の計算外は、既にショッカーが人類に見切りを付けて居た事だ。全人類を改造人間にして世界征服を目的としているショッカーが人類を根絶やしにしようとは考えてもいなかった。確かに全ての人類を根絶やしにしてショッカーの改造人間だけが残れば理論上、全ての人間は改造人間と言える。屁理屈以下だが。

 

「どうして…どうして私の操作を受け付けないの!?」

 

必死に動かそうとするマリアだが、やはりフロンティアの操作盤はうんともすんともいわない。その事に焦るマリア。

 

「…無駄です、マリア。恐らく、死神博士がネフィリムと一体化した腕で操作権を独占したのでしょう」

 

「正解だ、ウェル。現状、フロンティアを操作出来るのは私一人だ」

 

ウェル博士の言葉に死神博士も認める。そもそもショッカーは、フロンティアを独占するのも目的である。一々、他者に操作されては堪った物ではない。

 

「なら、ドクター!あの注射器を私にも!あれさえあれば私でもフロンティアを操れる筈よ」

「…ないんです」

「え?」

 

それならば、ウェル博士にもう一本の注射器を要求するマリア。自らの腕に打ち込み死神博士からフロンティアの操作権を奪う事を思いつくがウェル博士の答えは無常であった。

 

「もう一本なんて…ないんです。あれ一本作る為に調整が難航して一つだけです。いまから作るにしてもネフィリムの細胞は…それに時間も足りません」

 

あの一本の液体を作るのに所持していったネフィリムの細胞を使い切ってしまった。フロンティアのジェネレーターとなっている心臓から細胞を採取できても月の落下までのに間に合うかは微妙だった。

 

「な…なら、死神博士が協力して「断る」…!」

「何故、月を落とそうとする私が貴様らに協力すると思う?お前達の協力関係は終わった、フロンティアを手に入れた時点でな!人類は滅ぶ、もう直ぐな!」

 

死神博士の言葉にマリアは絶望をする。

 

━━━ショッカーが月の落下の阻止の手伝いが全て嘘だった!私は…私は何のためにフィーネの名前で…!

 

「私を…私達を騙したのか!死神博士!!…ウグッ!」

 

逆上したマリアが死神博士に掴みかかろうとするが、片腕で首を持ち上げられるマリア。死神博士の右腕がマリアの首を持ち上げ締めていたのだ。

 

「騙した?それはお互い様であろう、フィーネの名を騙った貴様がな!」

 

「「!?」」

 

ショッカーは既に、マリアがフィーネの名を騙る偽物だと気付いていた。放置していたのはフロンティアを手に入れ月を地球に落下させるためだ。その為に敢えてマリアたちは泳がされていたのだ。

 

死神博士は腕の力を強めマリアの首を更に締め上げる。息苦しさと首の圧力に命の危険を感じたマリアが必死の抵抗が効いたのか、単純に死神博士が飽きたのかマリアの首から圧力が消え床へと倒れる。

 

「ゴホッ、ゲホゲホッ!!」

「マリア、大丈夫ですか気を確かに!怪我はありませんか!?」

 

倒れながら咳き込むマリアを介抱するウェル博士。何とか、マリアの体を支え背中を摩ったりする。

 

「本来なら我々を謀った罪で殺してやるところだが、無事にフロンティアを手にれる事が出来た功績でプラマイゼロにしてやろう。せいぜい人類が絶滅した後の身の振り方でも考えるのだな。ショッカーに逆らい無駄に死ぬか、ショッカーに忠誠を誓うかだ。ナスターシャ教授、貴様もだ!」

 

『私は…私は何のために…セレナ…セレナ!」

『…』

 

死神博士の言葉にマリアは泣き出しナスターシャ教授は、沈黙する。完全にしてやられた、ナスターシャ教授とウェル博士の脳裏にその言葉が浮かぶ。マリアを支えるウェル博士が睨みつけるが死神博士はそれを意にも介さず笑い声を上げながらフロンティアのブリッジから出ていく。

 

一旦、地獄大使との合流と首領にフロンティアを手に入れた事を報告する為だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、特異災害対策機動部二課の潜水艦内部では特異災害の潜水艦がフロンティアに乗り上げた事を知り、翼がフロンティアに行く事になる。翼がライダースーツを着てヘルメットを持っている。そして、翼の前に弦十郎と響、緒川が翼を見守っていた。

 

「行けるか?翼」

「無論です」

 

弦十郎と翼の僅かな会話だが、その短い会話で全てが詰まっていた。翼はこれより単独でフロンティアの建造物に入り、クリスと合流して死神博士の撃破に動こうとしていた。先程、観測したフロンティアのエネルギーが月を引き寄せた為、あまり時間はない。

 

「翼さん、やっぱり私も…」

「安心しろ、立花。私や雪音が必ずショッカーを撃破してみせる」

 

響は一緒に付いて行きたかったが、翼はそれを拒む。既に何度もこのやり取りをしているが翼は決して折れなかった。

 

その時だった、突如警報が鳴り響き指令室の部屋も赤い光で照らされる。

 

「戦闘員のバイク部隊を確認!こちらに迫ってます!」

 

あおいの報告と共に指令室のモニターに映像が映る。其処には何十台もの戦闘員の乗るバイクが特異災害の潜水艦へと迫って来ていた。死神博士の出した部隊だ。

 

「戦闘員だけなら俺達もいける。行くぞ、緒川!」

「はい!」

 

弦十郎の声に返事をする緒川、翼の邪魔となる戦闘員を自分達で相手をする気でいた。

しかし、

 

「待ってください、戦闘員のバイクにノイズの反応を確認!」

「なんだと!?」

 

朔也が報告と共にモニターにノイズを移す。その映像には戦闘員の背後にノイズがバイクに乗っていたのだ。これでは弦十郎たちでは相手を出来ない。

 

「ここは私に任せてください!」

 

それを確認した翼が急いで格納庫へと急ぐ。そして、格納庫に着いた翼はバイクに乗るとハッチが開き外へと飛び出す。

 

Imyuteus amenohabakiri tron

 

バイクに乗ったまま聖詠を口にしてバイクに乗ったままシンフォギアを纏う。そして、その前には戦闘員のバイク部隊が迫る。

 

「風鳴翼だ、殺せ!!」

「「「イーッ!!」」」

 

戦闘員の一人がバイクに乗る翼を発見して他の戦闘員にも伝える。数は圧倒的に戦闘員が多かったが翼は怯みもせずバイクの速度を上げ戦闘員のバイク部隊に突っ込んで行く。

その時、翼の足元から鋭い刃が出てバイクの尖端にドッキングする。

 

先に仕掛けたのは戦闘員の後ろに乗っていたノイズだった。体を細めて翼に突っ込んで行く。しかし、次の瞬間にはノイズが切り裂かれていた。

それは、戦闘員のバイク部隊も同じであった。

 

一つ目の太刀 稲光より 最速なる風の如く

二つめの太刀 無の境地なれば 林の如し

 

翼のバイクに接触した戦闘員のバイクは戦闘員諸共切り裂かれて爆発。棒等を投げて翼の走行を邪魔しようとするが剣を持った翼に叩き落され逆に切り捨てられる。

 

百鬼夜行を恐るるは

己が未熟の水鏡

 

ならばと、バイクを捨てて翼に飛び掛かろうとするが戦闘員の殆どが翼の剣に切り裂かれていく。翼の横に付けた戦闘員のバイク部隊も同じ運命を辿る。

 

我がやらずて誰がやる

目覚めよ…蒼き破邪なる無双

 

翼のバイクに蹴りをいれようとする戦闘員の頭が宙を舞う。バイク部隊の戦闘員達は翼に触るどころかバイクに触れる事すら出来ず壊滅していく。戦闘員の誰も翼を止めれる者はいなかった。

 

 

その様子は、特異災害対策機動部二課の潜水艦にある指令室でも見られていた。戦闘員のバイク部隊が次々と爆発四散していくのを確認していた。

 

「流石、翼さんです」

「戦闘員のバイク部隊は壊滅!これでしばらくは安全かと…」

 

オペレーターコンビの報告に一同はホッと胸をなでおろす。怪人が居なかったとはいえ戦闘員の大部隊を片付けたのだ。少しだけ時間を稼げたと言える。

 

「しかし、此方の装者は翼さんとクリスさんの二人。クリスさんに至ってはショッカーに潜入したまま連絡がありません。この先、どう立ち回るか…」

 

特異災害対策機動部二課の戦力は風鳴翼と雪音クリスだけだ。弦十郎や緒川もいるが今回みたいにノイズを出されると厳しいと言わざるおえない。対してショッカーの戦力は未知数と言える、あの持ち上げられた艦艇に乗っていたのは間違いなくショッカーの部隊か息がかかってる者達だ。戦力が圧倒的に不足している。

 

「いえ、シンフォギア装者はもう一人います」

「ギアのない響くんを戦いには出さんぞ」

 

響が装者がもう一人いる発言をすると弦十郎がすかさず釘をさす。弦十郎もまた翼と同じく響を戦いに出したくないのだ。

 

「戦うのは私じゃありません」

「?」

 

響の説明を聞いて弦十郎が難色を示す。その内容は、

 

「それで、捕虜の私を戦わせるの?どこまで本気?」

「全部!」

 

営倉から出された調が手枷を外され弦十郎や響の前に立ってそう言った。そして、響が返した言葉に少しだけ眉を細める。

響の案、それは艦艇で緒川が保護して捕虜にした調の戦力化であった。正直、弦十郎も提案した響もあまり納得は出来てないがショッカーとの戦いは猫の手も借りたいのが本音だった。

 

「前の私なら、そんな態度のアナタを「正しさを振りかざす偽善者」って言うかも」

 

響から視線を外した調がそう呟く。最初の響の事情を知らなかった時、調は響をただの偽善者だと思ていた。しかし、響が捕まり死神博士による再改造手術を目の当たりにして、ナスターシャ教授から聞かされた響の運命に調の響への価値観は完全に逆転した。

ある意味、自分たち以上の過酷な人生に調は響に一目置いている。

 

「私、自分が正しいなんて思ったことはないよ。前に大きな怪我をして…リハビリを頑張って元気になればお母さんもお父さんも喜んでくれるって思ってた、でも家に帰った私に待ってたのは世間のバッシングとお母さんたちの暗い顔だった。…挙句に世界征服を企んでいる悪の秘密結社に狙われて…それでも私は自分の気持ちを偽りたくない。偽ってしまったらもう誰も私の手を繋いでくれないから…」

「手を?」

「だから私は、調ちゃんにもやりたい事をやりとげて欲しい。それはきっと私達も同じだと思うから」

「…私のやりたい事はマリアや切ちゃんを助ける事、その為ならショッカーの打倒にも協力する」

 

そう言い終えた調は響の手を取る。少し驚く響だが調の体温を感じ瞳から涙が出る。

 

「それにしても、元敵だった私にギアを返すなんて正気とは思えないわね」

「敵とか味方とか今はどうでもいい。子供のやりたい事を支えてやれない大人なんてかっこ悪いからな、それにこれ以上ショッカーに好き勝手させる訳にはいかないんだ」

 

調の言葉に弦十郎がそう返し握っているギアを調に渡す。その瞳はどこまでも真っ直ぐだった。

 

「こいつは可能性だ、俺はその可能性に賭けたい」

()()()()()()()()()()()

「甘いのは分かっている、それが俺の性分だ。…ん?」

 

調との会話で弦十郎が違和感を感じる、まるで長い事一緒に仕事をしてきたような感覚だった。その直後に案内と言う名目で響が共に格納庫へ向かい調がシンフォギアを纏い巨大な丸鋸をリングにして出撃する。

更に、

 

「反応がもう一つ…バイクに乗った響ちゃんです!」

「何だと!?」

 

映像にはシンフォギアのギアで移動する調と翼の予備のヘルメットを被った響がゾル大佐に廃棄予定の基地に誘い出された際に持って帰ったあのバイクに乗っていた。

 

「何をしている、響くんに戦わせる気はないと言った筈だ!それに免許もまだ取ってないだろ!」

『ごめんなさい、師匠。それでも私は死神博士と決着をつけたいの!それにマリアさんも助けたい』

「気持ちは分からんでもないが戻るんだ!ギアの無い響くんでは…」

 

何とか呼び戻そうとする弦十郎だが、何台ものバイクが現れ響達を取り囲む。戦闘員のバイク部隊だ、翼と戦った戦闘員とは別の部隊の様である。

 

「戦闘員が出現!さっきの部隊の別動隊と思われます!」

『師匠、ごめんなさい!通信を切ります!』

「待つんだ、響くん!響くん!!」

「戦闘員部隊、二人に襲い掛かりました!!」

 

通信が途切れるとあおいの言葉で映像を見る弦十郎。映像には響と調に襲い掛かる戦闘員の姿が映る。調は器用に体を動かし頭部のユニットで小型の丸鋸を出して迎撃して、響もバイクに乗りながらも横蹴りで戦闘員のバイクを薙ぎ倒していく。

 

「なんて数の戦闘員だ!」

「下手すればノイズより多いわね」

 

響達を襲う戦闘員の数を見て思わず呟くオペレーターコンビ。さっきまで翼の活躍で壊滅した戦闘員達がいたのに、また響や調に大勢の戦闘員が襲い掛かっているのだ。特異災害対策機動部二課も慣れてきていたが戦闘員の数の多さに未だに驚く。

 

「…こういう無理無茶無謀は俺の役目だったろうに」

「帰ってきたらお灸ですか?」

「説教だ、拳骨入りのな!」

 

その言葉に一同は響に同情する。いくら響が改造人間でも弦十郎の拳骨は相当答えると感じた。

 

「翼に連絡だ」

「はい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふん、戦闘員どもとノイズだけでは、やはり役に立たんか」

「やはり何体かの怪人達も同伴させるべきだったな」

 

フロンティアのとある階層。戦闘員や兵士が動き回る中、死神博士と地獄大使が話をしている。作戦通りに事が運んでるのかの確認であったが死神博士は予想だにしない報告を聞く。

 

「本部と通信が繋がらん?」

「各支部ともだ、どうやらフロンティアの力の影響で長距離との通信が出来んのだろう。ワシが連絡できたのは近くだったからだろうな」

「ふむ、フロンティアに内蔵されている通信機を後で試してみるか」

 

現状、首領に報告できないと知った死神博士と地獄大使だが、そこまで重要視はしていなかった。フロンティアを手に入れたのだ、首領を此処に迎えてフロンティアをショッカー本部にするのもアリだろうと考える。

 

その時、戦闘員の一人が死神博士と地獄大使に近づく。

 

「イーッ!テレビ局のヘリが近づいています!」

「ほう、地殻変動を感じて取材にも来たのか?怪人に始末させろ、多少姿を見せても構わん」

 

その言葉に戦闘員は、「イーッ」と答えその場を後にする。

 

「テレビ局はこの際どうでもよかろう、問題は風鳴翼だ」

「それも問題はない」

 

地獄大使に言葉にそう返す死神博士。その後ろから誰かが来る、二人の戦闘員と、

 

「とっとと歩け!」

「離せよ!」

 

戦闘員に肩を小突かれ前に行くよう促されるクリスだった。それを見て地獄大使も何気に気付いたようでゆっくりと頷く。

 

「小娘、早速仕事だ。ここに近づく風鳴翼を殺せ、首を持ち帰り我等に見せろ」

 

「!?」

 

死神博士に任務を言い渡されたクリスは思わず絶句する。仲間の翼を殺して首を持ってこいと言われたのだ。下手に逆らう事も許されない。

少し間をおいてクリスが頷く。

 

「…分かった、代わりにアタシの頼みを聞いてくれよ」

 

「ふん、良かろう。聞くだけ聞いてやろう」

 

クリスの頼みを聞く死神博士。その表情はどこまでも邪悪であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「未来、今日も来なかったね」

「無事だといいんだけど…」

「まさか、立花さんと同じように…」

「滅多なことを言わないでよ、詩織」

 

丁度その頃、学校帰りの安藤創世と寺島詩織、板場弓美が歩道を歩く。会話の内容は未来の行方不明の話であった。詩織が嫌の予感がしたのか冨吉な事を言って創世が窘める。

 

『臨時ニュースです!臨時ニュースです!』

 

その時、街頭の大型モニターからニュースの知らせを聞く。創世達は愚か他の道行く人々も街頭の大型モニターに注目する。

 

「なんだ?なんだ?」

「どこかでノイズでも出たの?」

 

人々は皆興味本位で立ち止まり口々にどんなニュースか話していく。そんな中、創世たちだけ固唾を吞んで見守っていた。

 

『現場の○○さん、何が起こったか教えてください!』

『はい、現場の○○です!』

 

モニターにはスタジオで話をするニュースキャスターからヘリの乗っているレポーターに代わる。

 

『現在、我々は大規模な地殻変動の起きた海域にて我々は信じられない物を見ました。ご覧ください!』

 

レポーターがそう言い終えるとカメラがヘリの窓から外を撮る。そのカメラは確実にフロンティアを捕らえていた。

 

『巨大な島が浮かんでるのです!政府は未だ発表がありませんがアレは何なのでしょうか!?』

 

映像には確かにフロンティアがデカデカと映る。その様子に誰もが息を飲む、中には特撮と疑う者までいた。

 

『我々も出来るだけ近寄って…『何か来たぞ!』!何かが近づいて来たようです!」

 

カメラマンの声だろうか?レポーターの声とは別の声がし何かが近づいて来たことを話す。そして、カメラにはその姿がしっかりと映っていた。

 

『何でしょうかアレは!蝶?…いえ、まるで蛾のような生物です、でも大きい?まるで人間並みの…』

 

レポーターの報告はそこまでだった。蛾のような生物、怪人ドクガンダーのロケット弾がヘリへと降り注ぎ取材班のヘリが撃墜されカメラの映像も途切れる。

映像には花畑の映像が映りテスト放送と書かれている。

 

「何だよ、アレ」

「怖~い化け物?」

「特撮だろ、特撮。俺詳しいんだ」

 

映像を見ていた人達は本物かどうか話、中には特撮だと言って「こんな物に騙されるかよ」と言って呑気にしていたが、創世たちの額に汗が流れる。

 

「ねえ、あれって…」

「チラッとしか見えなかったけど、アレって旧リディアンでビッキー達が戦った…」

「怪人、ドクガンダー…本物でしょうか」

「海の上でショッカーが何か企んでるのかな。響や未来が無事だといいんだけど」

 

モニターを見て創世たちは響達の無事を願う。ショッカーを打倒して無事に帰ったら一緒に遊びに行こうと誓った。

 

 

 

 

 




響、まさかの無免許運転。非常時だし大丈夫か?

ショッカーなら喜んで月を地球に落とすと思う。
ウェル博士、痛恨のミス。原作のウェル博士とは違い、ショッカーは完全に人類の抹殺が目的です。

ショッカーも随分と戦力を集結させました。世界中に散らして潜入させていた部下や工作員や信奉者を集めてフロンティアを大要塞にしようとしてます。
裏を返せば、これに失敗すればショッカーの弱体化は避けられません。

デンジャーライトは仮面ライダーの劇中で、旅客機を落として制空権を得ると言ってますからきっと対空能力が高いんでしょう。


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60話 装者VS装者 仕組まれた戦い

死神博士が仕組んだから嘘は言って無い。


 

 

 

「私は…私はこんな事の為にフィーネを名乗ったんじゃない!…セレナ、私はどうしたら!」

 

死神博士の居ないフロンティアのブリッジ。ウェル博士に介抱されたマリアが肘と膝を地面につけて四つん這いになって床を叩く。マリアの力では叩く床も傷一つ出来ず、痛みがマリアに跳ね返るが今のマリアにはどうでも良かった。

 

ショッカーに…死神博士に騙されフロンティアへと連れてきて月を落とす事に加担させられたのだ。悔しくて仕方がない。

そして、ウェル博士もまた、マリアの様子を見て水晶の柱の様な物に背中を預けて座り込んでいた。

 

「何か…何か手を…考えろッ僕!」

 

片手で頭を押さえて、何か逆転の目は無いか考えて居た。しかし、フロンティアのシステムは死神博士が握り殆どのシステムはウェル博士やマリアじゃ動かせない。

 

「いっそシステムを破壊するか?駄目だ!それこそ月を止める手立てがなくなる!」

 

ショッカーに利用されるのなら、いっそフロンティアをシステム事破壊すべきかと考えたウェル博士はかぶりを振る。シンフォギアを纏ったマリアや自分がどこまで破壊できるか不明であるし、何よりフロンティアは月が落ちるのを止める最後の手立てでもある。簡単には諦められない。

 

 

 

 

 

『何時までウジウジしてるつもりですか!?』

 

マリアは泣きながら床を叩き、ウェル博士はああでもないこうでもないと考えて居ると通信機からナスターシャ教授の声がする。

 

「…でも、マム!私達は完全に騙されたのよ!」

「お恥ずかしい話です、アナタにショッカーの手を借りると提案した僕が完全に掌の上で踊らされたんですから」

 

ナスターシャ教授の叱咤にもマリアもウェル博士も落ち込み続ける。それだけ死神博士にしてやられたショックが大きかった。

 

『…なら、ずっとそこで落ち込みショッカーの企み通りになるのを見続けるつもりですか?ショッカーの野望を止めないのですか?』

 

「そんな訳…ないじゃない!…でも」

「フロンティアの操作権のない僕らに何が出来るって言うんですか!」

 

教授の言葉に奥歯を噛みしめたマリアが顔を上げて、ウェル博士もそれに続く。現状、何も出来ないとナスターシャ教授に訴えるウェル博士。英雄に憧れた自分が悪に操られていた事が悔しくて仕方なかった。

 

『落ち着きなさい、この短時間に死神博士がフロンティアのシステムを全て掌握したとは考えにくい。何か取りこぼしがある筈です』

 

その言葉にマリアがハッとした顔をする。確かに死神博士が操作していたのは短時間だった、それに月を落とす事に力を入れていた。なら

 

「成程、死神博士が取りこぼしたシステムを使って月の落下を防ぐ方法を探すのですか…分の悪い賭けですね」

『元々が分の悪い賭けですよ、他に方法が思いつかなかった以上は。此方でも月の落下を防ぎ方法を探します。だから二人共』

「…ええ、諦めないわ。マム」

 

ウェル博士の言葉にそう返すナスターシャ教授。マリアも頷き片っ端から操作盤やモニターになっている水晶に触れていく。一旦、通信を切りナスターシャ教授もフロンティアのシステムを調べる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「立花とあの装者が一緒に!?止めなかったんですか!」

 

フロンティアを走り回っていた翼は本部からの通信で立ち止まり弦十郎からの報告に怒鳴るような声を上げる。改造人間とはいえ、響は病み上がりもいいところだ。

 

「気付いた時にはバイクに乗って飛び出した!?全く、想像の斜め上をいく!」

 

響きには安静にして仮設本部に居て欲しかったがバイクにまで乗って行ったことに驚きつつ腹も立てる。

 

「…了解です、直ぐに合流します!」

 

合流したら拳骨の一つでも食らわせてやろうかと考えた翼が通信を切る。思わずため息をつく翼はフロンティアを大分進んでいたが響との合流の為引き返そうとする。

 

「ノイズや戦闘員に深追いしすぎたか。…!」

 

「イーッ」「イーッ!」

 

今まさにバイクで引き返そうとした翼の前にまたもや戦闘員達が現れる。武器を持った戦闘員が翼の行く手を阻んでいる。

 

「また戦闘員か、いい加減数が多い…ッ!!」

 

戦闘員に注目していた翼だが、嫌な予感がし咄嗟にバイクから飛び降りる。直後に翼のバイクが赤い矢のような物が降り注ぎ爆発する。

 

「この攻撃は…」

 

翼が攻撃してきた大岩の上を見る。其処にはボーガンタイプのアームドギアを戻したクリスがいた。

 

「雪音、お前が来たか」

「悪いが、その首貰うぜ」

 

戦闘員に注意しつつ翼がクリスに話しかけクリスも答える。そして、戦闘員が一斉に翼へと飛び掛かる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同じ頃、調と響の二人は翼が進んでいた場所とは少しズレている場所へと向かっていた。

 

「あそこにマリアさん達が?」

「分からない…だけどそんな気がする」

 

バイクに乗りヘルメットを被った響の問いに調が答える。しかし、調の曖昧な言葉に響は思わず「気がする?」と呟く。直後に自分達の前の地面が爆発して響はバイクを止め調もギアを解除して地面に立つ。

 

「攻撃!?」

「…!あそこ!」

 

調の声に響は遺跡のような建物を見る。其処には、

 

「クォーッ、クォーッ!わざわざ死にに来るとはな、裏切者どもめ。此処を貴様たちの墓場にしてやる!」

 

鋭い嘴をした二本の角を持つ翼の生えた怪人がいる。

 

「ショッカーの怪人?」

 

「俺の名はプラノドン、地獄に行っても忘れん事だな!!」

 

そう言い終えるとプラノドンは口から響と調に向けてロケット弾を撃ち込む。調はギアを使ってロケット弾を撃ち落とし響も辛うじて避ける。

 

「先ずは挨拶代わりだ、そしてお前達の為に用意した物がある。見ろ!」

 

プラノドンがその場から動く。その時に響と調がプラノドンの背後にもう一人いた事に気付いた。

 

「切歌ちゃん!?」

「切ちゃん!?」

 

二人の口からその人物の名前が出る。それは紛れもなく暁切歌だった。フードを被り首に巻いているマフラーが風になびく。

 

…Zeios igalima raizen tron

 

聖詠を口にしイガリマのシンフォギアを纏う切歌。相変わらず目の周りが紫色で顔色が悪い。

 

「切ちゃん!」

 

調の声に切歌の眉が少し動くがそれだけだった。切歌は武器であるアームドギアの大鎌を握り構える。

 

「…調…ショッカーに…戻るデス。…今なら…まだ…」

「ショッカーのやり方じゃ何も残らない、もっと酷い事にだって!それは切ちゃんだって分かってるでしょ!」

「それは…ウッ!?」

 

調と会話をしていた切歌が突如頭を押さえて苦しむ。

 

「何を流暢に喋っている?戦え、戦って裏切り者の立花響と月読調を殺せ!!」

「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!」

 

傍に居たプラノドンが角を赤く光らせ切歌に命令をする。苦しむ切歌を見て明らかに異常な事が起きてると察する調と響。

 

「切ちゃん!?」

「プラノドン!切歌ちゃんに何をした!!」

 

「聞きたいか?死ぬ前に教えてやろう、この小娘には俺の電波を受信する装置を埋め込んだ!今の小娘は俺の操り人形だ!」

 

響の問いに自慢げに言うプラノドン。終いには大笑いをしてプラノドンの笑い声が辺りに響く。

 

「さあ、殺し合え!殺し合って地獄に落ちろ!!」

 

「そんな…切ちゃん」

「卑怯だよプラノドン!」

 

「馬鹿が!戦いなど勝てばいいんだよ!」

 

切歌が操り人形だと教えられて調は愕然として響は卑怯だと訴えるがプラノドンには何処吹く風だった。

操られた切歌が大鎌を振ろ翳して襲ってくる。調も響も何とか避けるが隙を付いてプラノドンが口からロケット弾を撃ち込む。連射も可能なプラノドンのロケット弾と操られた切歌の攻撃に翻弄される二人だった。

 

「くっ、如何すれば!?」

「アナタはマリアを助けに行って!切ちゃんと怪人の相手は私がする」

 

操られた切歌にどう戦えばいいか悩む響に先に行くよう促す調。その言葉に響は調の顔を見る。

 

「一人で戦うなんて無茶だよ!ここは…」

戦場(いくさば)で我儘言わないっ!」

「いくさば?…いや、我儘言ってるのは調ちゃんじゃ…」

「それに大丈夫…操られてる所為か切ちゃんの動きが何時もより散漫。怪人さえ何とかすれば切ちゃんも十分助けられる」

 

調の言葉に響は「なら二人で」と言うが調は首を横に振る。

 

「今、マリアを助けられるのはアナタだけ。…お願い、私とシンフォギアを繋ぐLiNKERもまだ余裕がある。だから()()()()()()()()()

「…了子さん…うん、分かった」

 

調の言葉に嘗てのフィーネとの最後のやりとりを思い出す。真剣な目で響にお願いと言う調の言葉に響も頷かざるえなかった。その間にもプラノドンのロケット弾が降り注ぎ切歌もアームドギアの大鎌を振る。

 

「調ちゃん、無理しちゃ駄目だからね。マリアさん達には調ちゃんも必要なんだから」

「!」

 

響の言葉に少しだけ驚く調。表情には少しだけ笑み浮かべてる。

一瞬の隙を付いた響はプラノドンのロケット弾の爆風で倒れたバイクを起こしてエンジンを吹かす。バイクのエンジン音が響くと同時に響は先へと進む。目標はフロンティアで一番高い塔だ。

 

「簡単に行かせるか!!」

 

その行動を見逃す気はなく、バイクで移動する響を追おうと空へと羽ばたくプラノドンだが小さな赤い丸鋸が行く手を阻む。

 

「チッ!小娘、貴様!!」

 

「アナタの相手は私。切ちゃんを操った事…絶対許さない」

 

「ほざけ!そんなに死にたいなら先ず貴様を血祭りにあげてやる!」

 

プラノドンの注意を惹く為に敢えて挑発する調。尚、本気で許す気はない。そして、挑発にのるプラノドンは切歌と共に調へと襲い掛かる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翼のクリスの戦いは一進一退であった。クリスがアームドギアを二丁拳銃にして翼へと撃ち、翼も剣で弾を弾いて最小限の動きでクリスの間合いを取る。

その間にも戦闘員は二人の攻撃の流れ弾などが当たり消耗していく。

 

「戦況は五分か、あの小娘手を抜いてるな」

 

翼とクリスの戦いを棒付きの双眼鏡で眺める死神博士が呟く。傍には新しいノートパソコンを持った戦闘員が居り死神博士がノートパソコンのキーを押す。ノートパソコンのモニターには雪音クリスと書かれた文字と女性の体と思しき図形にメーターの様な物まで書かれている。

 

「これではデータ取りにもならんなぁ…なら奴を向かわせるか」

 

ノートパソコンに映ってるのはクリスの身体及び戦闘でのデータであった。クリスが出撃前に死神博士がクリスに首にチョーカーの様な物を取り付けている。クリスには逃走した時の爆弾と言っていたがもう一つの目的があった。

それこそが戦闘データの収集である。データは響が捕まった時にタップリと取っていたが響とクリスの差異を見る為、それに戦闘データはいくらあっても困らないからだ。

とは言えクリスが手を抜いてる事は死神博士にとって面白くない。

それゆえに発破をかける事にした

 

「スゥノーオオオ!!」

 

「「!?」」

 

翼とクリスの睨み合いの最中に突如、不気味な声がし翼は殺気を感じてその場から動く。

直後に、翼の居た場所に大岩が降って来た。一瞬でも移動が遅れたら翼は潰されていただろう。

 

「クッ…何のつもりだクソ爺!!」

 

それを見たクリスは背後に向かって叫ぶ様に怒鳴る。尤も怒鳴られた本人…死神博士は笑みを浮かべている。

 

「死神博士!?それに、また知らない怪人?」

 

翼もクリスの叫びで始めて死神博士が其処に居た事をしった。更に死神博士の横には白い毛むくじゃらで頭部や顔部分に毛が無い黒い肌の怪人が居る。

 

「なに、ただの助っ人よ。このヒマラヤで捕まえ改造した雪男、スノーマンがお前の助っ人だ」

「スゥノーオオオ、風鳴翼!此処で死ねぇ!!」

 

死神博士にスノーマンと言われた怪人がジャンプして翼たちの前に降りる。翼もクリスもスノーマンを不気味さに声を失う。

助っ人とは言ったがスノーマンにはクリスが不審な真似をした場合殺せとも言われている。

 

「雪男だぁ?」

「ショッカーにはこんな物まで居るのか!」

 

スノーマンが大岩を持ち上げ翼へと投げつける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「特異災害の装者だけじゃなく、仲の良かった調と切歌まで!どうしてっ!?」

 

フロンティアのブリッジに調と切歌、翼とクリスの戦いの映像が流れる。その様子に愕然とするマリア。

 

「…見たところ、切歌くんは操られ雪音クリスに至っては強制されてるようですね。どちらが倒れてもショッカーの懐は痛まないということですか」

 

ウェル博士も忌々しそうに調と切歌の戦いの様子を見る。どちらも怪人がサポートしているがあわよくば二人共消そうとしてるのだろうと察した。

 

「私の所為だ…こんな物を見る為に戦って来たんじゃないのに!」

 

マリアの目から涙が零れる。切歌は洗脳され仲の良かった調と殺し合いをさせられ、クリスは強制的に戦わされる。マリアはこんな物を見たかった訳ではなかった。

ウェル博士は、それを視界の端で見つつフロンティアの操作盤や水晶を触り続ける。マリアを慰める暇があれば少しでもフロンティアのシステムを探ろうとしていた。

 

『マリア、ドクター』

 

その時、通信機からナスターシャ教授の声がし、マリアが顔を上げウェル博士も操作盤を触るのを停止する。

 

「マム!?」

「ナスターシャ教授、何か進展でも?」

『今、其処に居るのは二人だけですか?それなら聞きなさい。フロンティアの情報を解析して月の落下を止められる手立てを見つけました』

「え?」

「やはり、死神博士は全てのシステムを掌握してなかったのですね。それでナスターシャ教授、その方法とは?」

 

ナスターシャ教授の報告にマリアが驚き、ウェル博士も自然と笑みを浮かべる。

 

『最後に残された希望…それはアナタの歌です。マリア』

「私の…」

「歌…ですか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

響は直走る。途中、戦闘員の妨害が何度起きようとノイズが邪魔をしようと響はバイクを走らせる。

 

「退けぇ!!」

 

「イーッ!?」

 

響の邪魔をしようとした戦闘員が響の蹴りに沈む。妨害されようとスピードを緩めない響は目標のフロンティアの中心部である塔に近づきつつあった。その途中に戦闘員の投げナイフが響の被っていた翼の予備のヘルメットの一部が砕かれて響は頭部は半分近くヘルメットから出ていた。

 

「胸の歌がある限りィィィィィ!!」

 

それでも、響は次々と戦闘員やノイズを蹴散らし進む。全ては死神博士との決着と調との約束、マリアを助ける為に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アタシの弾丸を弾くアイツ。アイツとは何度も模擬戦をしているから想定通りの動きだ。このまま死神博士(クソ爺)の目を誤魔化し続ければ、

 

「スゥノーオオオ!!」

 

「クッ」

「チッ」

 

そう思った矢先に雄叫びを上げるスノーマンの姿にアイツは怯み、アタシは舌打ちをする。急いでその場を離れると思った通り大岩が降って来た

 

「何故、ショッカーに組した。雪音」

「……」

「その沈黙が答えか!」

 

アイツの言葉に黙ってる事しか出来ないアタシだ。いきなり言われても正直ちょっと困る。取り合えずコッチは首元に赤い光を点滅させるチョーカーのような物を見せつつ動く。アイツもそれに気づいてある程度察しがついたようだ。それでもクソ爺に気取られないようアイツは芝居交じりで話す。アタシの視界の外に居るスノーマンの所為で会話は肝が冷えるが

 

その後もアタシがジャンプしつつアイツを銃撃しアイツも負けずに接近戦を仕掛け剣と銃が火花を上げる。そこに再び大岩を投げ込むスノーマンにアタシ等二人は同時に避ける

 

「スノーマンめ」

「悪いが、アタシの十字架を誰かにおわす訳にはいかないんだよ!?」

 

正直これは本音だ。アタシは罪を償わなきゃいけない。その為にも死神博士からソロモンの杖を取り戻す。

でも、その前にアタシとアイツは戦いつつスノーマンを間に入れて戦う。これで不慮の事故という事でスノーマン自身を攻撃する為だ。あわよくばこれでスノーマンを倒せれば御の字だ

 

「なにっ!?」

 

その攻撃にスノーマンは驚きつつ攻撃が命中する。アタシの銃弾やアイツの斬撃が直撃するけどスノーマンの体には傷一つ付かない!?攻撃が全て命中したのに…硬い?違う、柔らかい!?

 

「その程度の攻撃が効くと思うなぁぁ!!」

 

「!?」

 

攻撃されたスノーマンが一切怯まずにアイツを剣の刃越しに殴り飛ばした。予想はしていたが強い怪人だ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私の丸鋸と切ちゃんのイガリマの大鎌が衝突する。激しい火花越しに切ちゃんの顔が見えた。

 

「正気に戻って切ちゃん!あんな怪人に負けないで!!」

「しら…べ…」

 

私の声に切ちゃんも僅かに声を出す。息も絶え絶えで良く見ると汗が凄い、それ程までプラノドンの電波は強力なんだ

 

「説得など無駄だ、死ねぇ!!」

 

またプラノドンが私に向け口からロケット弾を撃ってくる。切ちゃんの大鎌を弾いて何とか避けるけど正直辛い。あの娘には切ちゃんの動きが散漫て言ったけど、プラノドンがその部分をカバーして隙が少ない

 

「どうすれば…!」

 

私がどうすれば切ちゃんを相手にしつつプラノドンを倒せるか考えて居た時、プラノドンの放ったロケット弾が切ちゃんの方に向いて進んでいた!プラノドンがとくに気にしてない事からワザと切ちゃんの方に撃ったと理解した時、私は居ても立っても居られず切ちゃんの方に飛び出していた

 

「切ちゃん!?」

「え?」

 

私が咄嗟に切ちゃんに飛び掛かって地面に押し倒す。このままロケット弾をやり過ごせるかと思ったが、私達の近くで爆発し足に激痛が走った

 

「ああああああああああ!!!」

「し…調…!」

 

私の悲鳴に切ちゃんが声をかけてくれる。それが嬉しかったが物理的な痛みで正直それどころではない。足の方を見ると左足のシンフォギアが砕かれて生身の足にロケット弾の破片が刺さっている。これじゃあ移動もままならない

 

「クォーッ、クォーッ!やはり庇ったな、お前達の様なタイプはこの手に限るぜ!」

 

痛みに悶える私にプラノドンが嬉しそうに言い放つ。やっぱり、私を狙って切ちゃんを攻撃したんだ。…許せない!

 

「調…私を殺して…デス…」

「切ちゃん?」

 

私が痛み意識が朦朧とする中、切ちゃんが突然何か言いだした。…殺して?

 

「…私を…殺して…このままショッカーに…操られるなんて…嫌デス…」

「そんな事言わないで!私、切ちゃんが居なくなるなんて…嫌だよ!」

「…どっちにしろ…時間の問題…デス。私が私である内に…お願い…デス」

「切ちゃんが切ちゃんである内に?どういう事?」

「…私の中に…フィーネの魂が…覚醒しようとしてる…ようなんデス。施設に…集められた…レセプターチルドレン…でしたから…こうなる可能性は…あったデス」

 

切ちゃんが苦しそうに言っている姿を見て、私は全てに合点がいった。あの時、切ちゃんが不安そうに居ていた事や何かを伝えようとして途中でやめた事を

 

「だとしたら、私は尚の事、切ちゃんを救ってみせる」

「…調…」

「塗りつぶされないよう、ショッカーの魔の手から大好きな切ちゃんを守る為に!」

「…私だって…調の事が…大好…アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」

 

私と話してる途中で切ちゃんが両手で頭を押さえて苦しみ出す!私は咄嗟にプラノドンの方を見ると予想通り二本の角から赤い光が点滅している。

 

「プラノドン!!」

 

「くだらん話は止めろと言った筈だ!だが、良い情報を聞いた。フィーネの魂はその小娘に入っているのだな、貴様を始末した後はその小娘の頭を切り開いて脳髄を取り出してやる!!」

 

プラノドンの口から恐ろしい言葉が出る!切ちゃんの脳髄を取り出す!?そんな事させない、切ちゃんは私が助けるんだ!

 

「そんな事、やらせるもんか!!」

 

「片足がそんな様で何が出来る?空も飛べん人間風情が!!」

 

確かに、私の片足は負傷して動きが鈍くなってはいる。でも、私のシュルシャガナにはこういう使い方もある!

 

私は素早く頭部のパーツから大型の回転ノコギリを取り出して私の体の上下に配置させる。途端に私の足は地面から離れて宙を飛ぶ

 

「なにっ!?」

 

「これなら足の負傷も関係ない。お前を倒せる!」

 

「ええい!小娘が生意気な、地獄に送ってやる!!」

 

私が宙を飛んだことに驚くプラノドンは口からのロケット弾を牽制として私に撃ってくる。絶対に負ける訳にはいかない!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

調や翼が激戦を行なってる頃、フロンティアのブリッジではマリアとウェル博士がナスターシャ教授の作戦を聞き終える。

 

「私の歌で何をすると言うの?マム」

『目的は月の遺跡を起動させる為です』

「月?」

『月は、地球人類から相互理解を剥奪する為、カストディアンが設置した監視装置』

「嘗て、フィーネが言っていたバラルの呪詛ですか」

 

ウェル博士の言葉にナスターシャ教授は頷くと更に話し続ける。

 

『ルナアタックで一部不全となった月機能を再起動出来れば…』

「月を公転軌道に戻す事が出来る。ということですか?」

『そうです…!』

 

突如、ナスターシャ教授の声から咳き込む声と何かを吐き出す音が響く。マリアだけでなくウェル博士も焦る。

 

「マム!」

「待っていてください、ナスターシャ教授。直ぐにそちらに『なりません!』!」

 

十中八九、病でナスターシャ教授が吐血したと気付いたウェル博士が治療する為に制御室へと行こうとするがナスターシャ教授が待ったをかける。

 

『私の事はいいです、それよりもドクターはマリアの補佐を』

「マム!そんな事言わないで!」

『自分の体です、自分が一番知っています。アナタの歌で…世界を救いなさい、マリア!』

「ナスターシャ教授…」

「マム…分かったわ」

 

 

 

 

「準備は完了です。もう直ぐ全世界にこの映像は流れますよ、そっちの準備はいいですか?」

「ええ、何時でもいいわ。これでも世界の歌姫って言われたから」

「映像が流れるまで後5秒です。何で僕はADみたいな事してるんでしょ?」

 

ナスターシャ教授の言葉通り、マリアはこれから世界に歌を広める為に皆の前に出る。ウェル博士は、ADみたいな扱いに若干不満だがマリアのサポートにはいる。

そして、ウェル博士の指が三本から二本になり一本となって全ての指を曲げた。

 

 

「私はマリア・カデンツァヴナ・イヴ。月の落下の被害を最小限にする為にフィーネを騙った者だ」

 

 

 

マリアの映像が全世界へと流れる。全ては月の落下を止め人類を…世界を救うために。

 

 

 

 

 

 

 




原作とは違い無理矢理戦わされる切歌。
百合の間に挟まるプラノドン…許せねえ。

因みに、切歌のセリフの殆どは演出です。仮面ライダーの劇中では、エミと滝が受信機を耳に入れられて命令させられてましたが、エミはそのまま、滝は一度逆らいましたが切歌のようにはなりませんでした。


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61話 暴露 世界がショッカーを知る時

もし、世界で有名な人が人類を皆殺しにする悪の秘密結社が存在すると言って信じられるだろうか?

自分は、たぶん無理だ。


 

 

 

フロンティアにて、翼とクリス、調と切歌の戦いが起き死神博士が高みの見物を決め込んでる頃、

 

 

 

 

「世話のかかる弟子だ、まったく」

「ですが切っ掛けが出来ましたね」

 

口では文句を言う弦十郎だが、緒川の発言に否定するでもなく微笑む。

現在、二人は特異災害の潜水艦の格納庫の中にしまっていたジープに乗り込んでいる。これより、響を追跡しつつフロンティアへと潜入してウェル博士の捕縛、ショッカーの企みを潰すのが目的だ。ノイズの殆どは翼や響が倒してほぼ居ない状態だと判断しての行動だった。

 

いよいよ、緒川がジープのエンジンをかけようとした時、指令室の方から通信が入る。

 

『指令』

「何だ?戦闘員がまた来たのか?」

『違います、出撃の前にこれを』

 

オペレーターの朔也がそう言うと弦十郎の持つ小型のデバイスに映像を送る。その映像にはマリアの姿が映っていた。

 

【私は、マリア・カデンツァヴナ・イヴ。月の落下の被害を最小限に抑える為、フィーネの名を騙った者だ】

 

「これは?」

『フロンティアから発信されてる映像情報です。世界各地に中継されています』

「こんな物を流してショッカーは何を狙ってるんでしょうね」

 

緒川の言葉に弦十郎は、映像に映るマリアを見続ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【三カ月前、ルナアタックの影響により月が欠け月の破片が落下すると事件が起きた。これは解決したが問題はその後だった、ルナアタックの影響で月が落下する事実を米国国家安全保障局並びパヴァリア光明結社によって隠蔽されてきた。それは一部の特権階級や政治家にとって、とても発表していいものでは無かったから。私達は月の落下の被害を最小限にする為に動いていた】

 

 

 

マリアの話す真実に誰もが茫然として息を飲む。世界の誰もがマリアの話に耳を傾ける中、日本は、

 

「ふざけるな!会場で虐殺しやがって!!」

「あの子を返して、あの子はアナタのファンだったのよ!!」

「月が落ちるのと会場の虐殺に何の関係がある!」

 

大型モニターに映るマリアに向けて罵声が飛び交う。彼らにとってマリアは会場で数万の観客を殺し合わせた戦犯であり犯罪者であった。そんなマリアの言葉にイラつく民衆たち。その中には会場で死んだ観客の遺族も居たのだろう。

そもそも本当に月が落ちて来るのかも信じがたかった。

 

「!」

「止めなよ、弓美」

 

その様子に弓美が声を荒げようとするが創世が待ったをかける。

 

「でも、このままじゃマリアが」

「今、私達が何を言っても皆聞いてくれないよ。下手すればアンタがリンチに合うんだよ!」

 

創世の言葉に及び腰になる弓美。見れば感情の高ぶった民衆がマリアに罵倒だけでなく石やゴミを投げる姿まで見える。モニターの映像だけでもこれだ、もし弓美がマリアの弁護をすればどうなるかは火を見るよりも明らかだろう。

 

「私達、結局何も出来ないんだね」

「皆さん、ショッカーの事を知らないから」

 

弓美の呟きに詩織が同意する。自分達はショッカーの怪人や戦闘員が人を襲うところを目撃して知っている。その際に響に起きた悲劇も聞いた、それを伝えられない弓美はもどかしさを感じていた。

 

【そして、もう一つ伝えなければいけない】

 

「え?」

 

その時、マリアがもう一つ伝える事があると言って弓美や創世はモニターに注目する。

 

【この事件の陰には人類抹殺を目的として私達を騙してフロンティアへと入り込み月の落下の速度を速めた者が居る。その者たちは人類を根絶やしにして自分達こそが地球の支配者になる野望を持った世界的犯罪組織…世界征服を企む秘密結社、彼らの作り出した改造人間…またの名を怪人と言ってその者たちを使い暗躍して世界の内戦やテロを操って勢力を広げた】

 

マリアのその言葉に世界中で見ていた民衆は愚か罵詈雑言を吐いていた民衆たちも思わず黙ってしまう。詩織や弓美たちはこの時点で何を言うのか察しが付く。

 

「成程、あの人なら…」

「私達じゃダメだったけど」

「世界の歌姫って言われたマリアなら」

 

ただの女子高生である創世や詩織、弓美が幾ら訴えようと所詮は女子高生の戯言だと思い込み本気にする大人など皆無だ。しかし、世界の歌姫のマリアが訴えれば信じる者も出るのではないかと考えた。

尚、特異災害が言わないのも同じような理由でもある。後、ショッカーが破れかぶれのテロも警戒していた。

 

【その者達は第二次世界大戦の敗北によって倒れたドイツ第三帝国ナチスとも深い繋がりを持っていて、怪人には動植物の能力を移植され人間以上の力を与えられた化け物たち。それがこの世界の裏で暗躍していた組織…その名はショッカー】

 

マリアが世間にショッカーを暴露する。一般人にとってショッカーなど聞いた事も無い、せいぜい物好きがネット上の都市伝説扱いされている古い単語だった。尤も、一部の権力者や知識人はマリアの言葉に口にしていた酒を噴き出す程の衝撃を受ける。

 

これには創世たちもニッコリ。ショッカーの存在を表沙汰で取り扱う、それも世界的な歌姫が言えば自分達以上に影響が出る。

 

 

 

 

「…何が、ショッカーだ!」

「ナチスなんてもう100年も前の話だろ!ナチスはフリー素材だからって何してもいいと思うなよ!!」

「今時、欧州連合の映画にだって、そんなコテコテな奴はないぞ!!」

「ただの都市伝説にマジレスなんてするな!!」

「自分の罪を架空の組織の所為にするな!」

 

「マリアさんの言葉でも駄目ですか」

「実際に怪人を見たら分かるのに」

 

しかし、暫しの沈黙の後に人々からの罵声が復活する。当然だ、せいぜいネットの噂レベルの話が一気に重要なワードになったのだ。マリアが苦し紛れに責任逃れをしてるようにしか映らなかった。これには創世や詩織も歯がゆく思う。

 

「本当にショッカーが存在するのなら見せて見ろ!」

 

男にの一人が手に持っていたビール缶をモニターのマリアに向けて投げる。男は、あの会場で家族を失っていた。当日は家族一緒に行く予定だったが、急な仕事が入り男の家族だけ会場に行き全滅した。それからだ、男が仕事を止め酒に逃げたのは。

男にとってマリアは家族の仇だった。自分の大事な家族を殺した犯人、それがマリアだ。っと思っていた。

 

【俺の名は怪鳥人ギルガラス!この会場の人間どもは俺のデッドマンガスで殺人鬼となったのだ!】

 

「え?」

「何だ、ありゃ?」

「カラスの化け物?」

 

「詩織、あれって…」

「あの時の怪人」

「あの会場の映像だね」

 

そこで突然、マリアの人型のカラスが映り声が響く。その光景に見物人は目が点となるが、創世たちはこの映像があの日の会場の様子だという事が分かった。

 

 

 

 

 

 

 

「ドクター、この映像は!?」

「あの会場で僕が撮った映像ですよ、いざという時にアナタの無実の証明する為に撮って置いた物です。これであの会場の悲劇はアナタの所為ではない事が分かる筈です!尤も、急遽映像の一部を弄って怪人とアナタ以外が映らないようにしましたけど」

 

この映像にはマリアも驚いた。ウェル博士が会場付近に居たのは知っていたがまさか、こんな映像まで撮っていたとは露ほども思て居なかった。

そして、マリアはウェル博士の返答を聞いて大きく深呼吸をする。

 

 

 

 

 

【この映像はあの日、会場で何が起こっていたのか記録した映像だ。これでショッカーの恐ろしさも分かるだろ】

 

人々はその映像を見て息を飲む。デッドマンガスという煙を吸ったり浴びた人間が殺人鬼となって殺し合い、マリアはギルガラスという怪人と戦闘に入る。その直後にライブを移していた大型モニターに左を向いた鷲と地球のマークが不気味に映る。

 

「ショッカーのシンボル!」

「相変わらずおどろおどろしいですね」

 

ショッカーのエンブレムを見て背筋に冷や汗をかく創世と詩織。逆に弓美はまだちょっとカッコイイなぁとも思っていたが口に出さない。

民衆の多くもショッカーのマークを目にして静まり返る。映像越しとはいえそれだけ圧倒する迫力があった。

 

 

 

【貴様たちも殺人鬼になるがいい!】

【この煙を浴びればお前達も殺人鬼となるのだ!憎しみあい、いがみ合って地獄に落ちろ!!】

【俺のデッドマンガスを浴びた者は解毒剤がない限り元に戻る事はない】

【聞けぇ!殺人鬼どもよ、この俺ギルガラスが命じる!外の連中を殺しに行けぇ!!】

【貴様らを片付けた後は人類皆殺し作戦が発動するのだ!俺のデッドマンガスを世界中にばら撒く、手始めに先ずは日本東京だ!邪魔はさせん!!】

 

 

あの時の会場でのギルガラスの発言が木霊する度に人々の目が驚愕する。創世達もギルガラスの発言には驚愕する程だ。

 

「あの時、観客がおかしくなったのは、あの怪人の煙の所為だったんだ…」

「人類皆殺し作戦…」

「あの怪人、恐ろしい作戦を企んでいたんだね。ビッキーたちがギルガラスを倒してくれて助かったよ」

 

創世たちも響から大まかな情報を知っているが大部分は特異災害対策機動部二課に止められて細部までは知らなかった。ギルガラスの人類皆殺し作戦もまたそうだった。

 

 

 

「こ…こんな映像信じられるか!」

「どうせCGとか使って作ったんだろう!」

 

しかし、この映像を見ても未だにマリアを非難する声が上がる。尤も、それも当初に比べて減ってはいた。

 

「俺…あの映像信じるよ」

 

そんな折にマリアに抗議していた男の一人がそう言った。その言葉に他の抗議の声を上げていた仲間が驚きの表情をする。

 

「正気か!?あんなのが存在する訳ねえだろ!」

「どうせ、責任逃れのでっち上げだ!」

 

周りに居た仲間が「正気に戻れ!」や「騙されるな!」と訴える。その言葉に男は首を横に振る。

 

「あの会場で殺し合いして捕まった奴に俺の親友がいたんだ。ソイツはさ、ガキの頃から弱虫で…虫も殺せねえような腰抜けだったんだ。その所為でよくパシリ扱いされてたけど…それがあの会場でマリアの歌を聞くんだって嬉しそうに言っててさ、ニュースを見て言ったらアイツが逮捕されて病院に送られったって見た時はビックリしたんだ」

 

「「………」」

 

「あのカラスの改造人間?怪人?が言っていたデッドマンガスってのが本物だったら、アイツが殺人鬼になったのも納得できるんだ」

 

男の独白にその場の空気が変わった。会場に居た人間が突然殺人鬼となったのだ、マリアの言うショッカーが実在し今回の事件にも絡んでいればと考えればマリアの発言も納得が出来る。

 

 

 

 

そして、映像はマリアへと戻る。

 

「ギルガラスは特異災害の手によって倒されたが、ショッカーにはギルガラス以外にも多数の怪人が居る。信じられないのも無理はない、全てを偽りショッカーに騙された私の言葉がどれ程届くか自信はない。それでも歌が力になるという言葉は信じてほしい」

 

Croitzal ronzell gungnir zizzl

 

目を瞑ったマリアは世界中に流れる映像の中で聖詠を口にして堂々とガングニールのシンフォギアを纏う。それを見守る観衆は言葉もでない。

 

「私一人の力じゃ落下する月を受け止めきれない!だから助けて欲しい、皆の歌を届けてほしい!」

 

この胸に宿った 信念の火は

誰も消す事は出来やしない 永劫のブレイズ

 

マリアは歌う、マリアの歌を媒介にして人々からの祈りによってフォニックゲインを集めて月の遺跡を再起動させる為に。

 

いま例えこの身を焼き尽くそうと

信ず我が道の為なら 天になってもいい

 

━━━セレナに救われたこの命で誰かの命を救って見せる。それはきっとセレナも認めてくれる筈、あの子の死にも報いられる!

 

 

 

マリアは歌う。弦十郎と緒川はマリアの歌場所の発信源に向かい、響も戦闘員の妨害にもめげずほぼ垂直の壁をバイクで昇る。その後方では大きな爆発が起こる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翼とクリスの戦いは五分と言えた。クリスの撃ちだす弾丸を悉く大型化した剣で弾き一進一退の攻防戦となっている。

 

「スゥノーオオオ!!」

 

最も、それはスノーマンの横やりが無ければの話だ。翼めがけて大岩を投げ飛ばしクリスと翼は回避行動を取る。

 

「あの野郎、アタシ事やりやがって!」

「耐久力も攻撃力も今までの比ではないな…」

 

スノーマンが自分事攻撃してきた事に焦り、スノーマンのスペックが今までの怪人より更に上がってる事を知る翼。

そして、それを冷めた目で見る死神博士。

 

『何時まで遊んでいる?さっさと風鳴翼を始末しろ』

 

「!」

 

クリスの首にしているチョーカーから死神博士の声が響く。何時までもグダグダと戦うクリスにしびれを切らした。その言葉にクリスは舌打ちする。

 

「アタシごと攻撃させといてよく言えるなぁ!!」

 

『このオモチャが欲しいのならもっと頑張ることだな』

 

クリスは抗議の声を出すが完全に無視する死神博士。

 

━━━クソッ!ソロモンの杖をショッカーに渡したままじゃダメなんだ!人を殺せる力を人が持ってちゃいけないんだ。何よりも人類抹殺を企むショッカーには猶更!

 

クリスが苦虫を嚙み潰したような表情をして翼もそれを見てクリスの現状を感じ取る。

 

━━━やはり、あの首輪が雪音を従わせてるのか。ミイラとりがミイラになってどうする!

 

クリスの様子に苛立つ翼は剣を更に大型化させスノーマンへと蹴り込む。

 

「スゥノーオオオ!こんな物が効くと思うな!」

 

しかし、翼の剣はスノーマンの両腕で止める。真剣白刃取りのような格好でスノーマンが力を入れると剣先にヒビが入る。

 

「悪いが、貴様程度で止まってはいられんのでな!雪音ぇ!!」

 

そんな状態の剣の柄を蹴り込み脚部のブースターで更に勢いを付ける翼。その瞬間に翼はクリスを呼ぶと同時にクルスに目線を送る、その意味に気付いたのかクリスは首を縦に頷く。次は翼とスノーマンの一進一退の攻防があるが、翼が更に脚部のブースターの出力を上げる。

 

「お…抑えきれん!?」

 

遂に、力負けしたスノーマンが翼の剣の下敷きとなる。と、同時にクリスは腰部のアーマーから小型ミサイルを一斉に発射して翼へと向ける。

 

MEGA DETH PARTY

 

翼へと向かう小型ミサイルは途中まで翼へと迫るがスノーマンの爆発により次々と誘爆して翼もクリスも巻き込む。

 

 

ピーーーーーーーーー

 

「なに!雪音クリスの生命反応が消えた?」

 

戦闘員に持たせてたノートパソコンの画面に映るクリスの情報にクリスの反応が消滅して生死不明と出て来る。それを見た死神博士は、クリスと翼の戦っていた場所を見る。その場所は未だに煙が蔓延して視界が悪いが確かに人影は見当たらない。

 

「共倒れしたのか?…まぁ、それも目的ではあったが…」

 

今一腑に落ちない死神博士。クリスの首輪には発信機と生命反応を感知するシステムもあった。それらが機能しないのならクリスが死んだと考えられる。

 

「ええい、碌にデータが取れなかったではないか。役立たずめ!」

 

思ったよりも戦闘データの収集が出来ずご立腹の死神博士はクリスを罵倒する。元々クリスを生かしとく気は無かった死神博士だがこんなにアッサリと亡くなる事は想定せず。クリスを罵倒してその場を去る。

 

 

 

 

 

 

 

「どうした!?さっきまでの勢いは何処にいった、小娘!!」

 

「クッ!」

 

その頃、調はアームドギアを縦にして内部に乗り込み高速移動をしてプラノドンのロケット弾から逃げていた。何故、空を飛んでプラノドンと戦っていた調が地面に居るのかは、単純にプラノドンとの空中戦に敗北して叩き落されたのだ。

それからは、調はシュルシャガナで高速移動してプラノドンに反撃するが空中を自在に飛び回るプラノドンには調の攻撃が殆ど当たらない。小型の丸鋸を連続で放つα式・百輪廻なら当てられるがプラノドンを倒せる程ではない。更には、

 

「調…!」

 

「!?」

 

切歌の声に調は咄嗟に横に移動する。直後に切歌の大鎌が調の通っていた場所に大鎌の刃が突き刺さる。

プラノドンの攻撃と切歌を使った波状攻撃や時には切歌を盾にして調は大いに苦戦させる。

 

「ハアハア…」

「しら…べ…」

 

調の体には容赦なく疲労が溜まっていく只でさえ調の片足は負傷している。切歌が悲しげな表情して調の心配するがそのことが調の心の消耗にもなっている。調は身体的にも精神的にも追い込まれてきていた。

 

「クォーッ!ネズミみたいに逃げ回りよって、だが小娘には相応しいぞ!このまま何もなせず何も得られず死んでいけぇー!」

 

隙ありとばかりにプラノドンが調に再度ロケット弾を撃ちこむ。また回避しようとする調だったが左足の激痛に行動が遅れてしまう。回避が間に合わないと感じた調は少しでもダメージを減らそうと目を瞑ってガードする。

 

「…?」

 

ガードした調だったが爆発音はするが衝撃が来ない事に不思議に思い目を開ける。すると、自分の前にピンクの色をした壁のような物が現れた。

 

「バリアだと!?それもシンフォギアの能力か!?」

 

突然、調の前に現れロケット弾を防がれたプラノドンは驚愕の声を出す。そして、切歌も調のバリアを見て驚きの目をした。

 

「まさか…調だったんデスか」

 

切歌の脳内に工事の中断されていた現場で道草を食っていた時の事を思い出す。鉄筋が自分達に降り注いだ時に切歌が調を庇った際に助けった力。それは切歌が出したのではなく気絶していた調が出していたと気付いた。

 

「全部…私の…勘違い…消えてなくなりたいデス…」

 

完全な独り相撲だった事に切歌は、今までの事が馬鹿らしくなる。勘違いで自分が消える事に恐怖し、調に八つ当たりしてプラノドンに利用される隙を作ってしまった。

切歌は今すぐにでもイガリマで自分の喉を切り落としたい程の羞恥心を感じているがプラノドンに支配された体は微動にしない。

 

「バリアを持っていたとはな、ならばこれならどうだ!!」

 

そう言い切ると、プラノドンは空中から調べに向けて翼をはためかす。プラノドンの起こした風は直ぐに調にも届くが調にはその行動の意味が分からなかった。しかし、その風は直ぐに強風となりやがては突風となる。風邪をやり過ごそうとした調だがとうとう体ごと吹き飛ばされた大岩に強打する。

 

「ガハッ!」

「調!!」

 

大岩に背中を強打した調は血を吐き、切歌は調の名を叫ぶ。切歌は直ぐにでも調を助けに行きたかったが切歌の体を支配してるのはプラノドンだ。やはり切歌は自由に動けない。

 

「どうやら此処までのようだな。どうせだ、絶唱を使って葬ってやれ!」

 

「!お前は…一体どこまで…」

 

プラノドンが切歌に絶唱を使って調を始末しろと命令をする。切歌は心の底からプラノドンへの怒りが沸くが切歌の耳の鼓膜に取り付けられた受信機からの電波が切歌を襲う。

 

「ああああああああああああああああああああ!!!」

「止めて…私から…大好きな…切ちゃんを…奪わないで…」

 

切歌の悲鳴に意識が途切れかけた調が弱弱しく訴える。

 

「安心しろ、お前を始末したら直ぐにその小娘も殺してやる。尤も脳髄を取り出すがな!さあ、絶唱を歌え!」

 

しかし、そんな少女の訴えにもプラノドンは冷酷に言い放つと調の意識が完全に途切れた。

 

 

 

 

 

 

━━━私、どうしたんだろ?もしかして死んじゃったのかな?

 

プラノドンとの戦いで意識を失った調はまるで水の中でひたすら沈んでいくような感覚に自分が死んだのではと錯覚した。その直後に調の横に人の気配が感じる。

 

「切…ちゃん?」

 

調は、その人影から一切の敵意がない事で切歌かと思って声を出す。

 

「残念だけど違うわ」

 

その人影は調の言葉を否定する。確かに声からして切歌ではなかったが女性の声だとは分かった。

 

「じゃ…誰?」

「どうだっていいじゃない、そんな事」

「どうでもよくない、私の友達が泣いている。ショッカーの所為で泣かされている」

 

女性の声はぶっきらぼうな物だったが調のショッカーの発言に女性が反応する。

 

「そうね。あいつ等はアナタを始末した後はイガリマの装者の脳髄を取り出す気だわ。数千年も悪者をやっていた私でもドン引きね。…誰の魂も塗りつぶすことなく大人しくしていようと思ってたけどそうも言ってられないわね」

「塗りつぶす?もしかして、アナタがフィー…」

「今はどうでもいいわ、そんな事。ショッカーの怪人はカ・ディンギルの時よりも更に力を上げている。恐らく私がアナタを塗りつぶして表に出ても勝てるかは分からない。でも一つだけ方法がある」

「手伝ってくれるの?どうして」

 

調の質問に女性は先程よりも友好的に話す。

 

「ショッカーは私にとっても敵だ。あのまま好き勝手暴れられては不愉快なのよね。それにあの子に言付けを頼みたいのよ」

「言付け?」

「それは後で言うわ。私の作戦を聞きなさい」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふむ、此処は鍾乳洞のような場所だな」

「足元にお気をつけて下さい、死神博士」

 

現在、死神博士と戦闘員はフロンティアにある鍾乳洞のような場所に来ていた。ブリッジに戻る途中だがフロンティアを完全なショッカー要塞にする為の視察でもある。

 

「この辺りには怪人の生産プラントを設置するか。…ん?」

 

辺りを見回していた死神博士だが、そこに誰かが居る事に気付く。最初はフロンティアを要塞として改造している兵士達の総司令をしている地獄大使かとも思ったがシルエットは完全に女だった。目が慣れてその姿を確認できた時、死神博士は僅かに驚いた。

 

「…雪音クリス、生きていたのか」

 

そのシルエットの正体はシンフォギアを纏ったクリスだった。そして、地面にはシンフォギアの姿から私服の姿に戻った翼が倒れ込んでいる。

 

「約束通り、二課所属の装者は片付けた。だから、ソロモンの杖を私に」

 

頭のパーツが砕けたクリスだが、それにも構わず死神博士にソロモンの杖を要求する。それに対し死神博士はクリスと倒れている翼の姿を見て指を鳴らす。

 

「イーッ」

 

それが合図だったのかクリスの周りに次々と戦闘員が現れる。

 

「約束破りかよ、さすが悪党だな」

 

突然現れた戦闘員にクリスは慌てなかった。寧ろ予定通りといった反応でもある。元々、クリスとしても死神博士が約束を守るとは思っていなかった。

 

「勘違いするな、お前はまだ仕事を果たしていない」

 

「なんだと?」

 

臨戦態勢をとろうとしたクリスだが死神博士の言葉が引っ掛かる。周囲を警戒しつつクリスは口を開く。

 

「『果たしてない』ってどういう事だ?見ての通り二課の所属している装者を倒したんだぞ」

 

「それでは足りんと言っている。アレを渡してやれ」

「イーッ」

 

死神博士に何か渡すよう言われた戦闘員はクリスの足元にそれを投げる。それは小刀程度のナイフであった。

 

「なんだよ、これ」

 

「それはショッカーが開発した特殊ナイフだ。人間の骨も容易く切り裂く事が出来る、それで風鳴翼の首を切り落とせ!」

 

「!?」

 

「何を驚く、最初に言った筈だ。風鳴翼の首を持ち帰れとな」

 

確かに、出撃前にクリスは死神博士に翼の首を持ち帰れと言われたが、それは比喩的な表現だと思っていた。しかし、死神博士は本気で翼の首を切り落とせと言って来た。

死神博士と地面に刺さるナイフとで交互に見るクリス。心なしかクリスの息遣いが荒れている。

 

「どうした?これが欲しいのだろ」

 

そう言って、死神博士はソロモンの杖を取り出してクリスに見せる。それはまるで意地の悪い子供が自慢のオモチャを見せつけるような感じだった。

 

「ほぉ~れ、ほぉ~れ。ソロモンの杖が欲しいのだろ?風鳴翼の首を持ってくれば約束通りくれてやろう。ショッカーにとってもうこれには大して価値がないからな」

 

その言葉にクリスは地面に刺さるナイフを手に取り翼の方を見る。翼は倒れたまま微動だにしない。

 

「…悪いな先輩」

 

クリスがそう呟くとナイフを死神博士の方に投げつける。そのまま死神博士に刺さるかと思えたナイフは戦闘員が盾となり死神博士は無事だった。

 

「やはりな」

 

死神博士が想定通りだという反応をし周囲にいた戦闘員がクリスへと襲い掛かる。

 

「見ろ、やっぱり失敗したじゃないか」

「アタシが、悪かったよ先輩」

 

先程まで地面に倒れていた翼が起き上がりクリスの死角から襲い掛かる戦闘員の顎に掌底を当てる。クリスはクリスでアームドギアのボーガンで戦闘員の相手をする。

 

「やはり死んだふりであったか」

 

そう言って、死神博士は十体前後のノイズを出す。直後に翼は聖詠を口にしてシンフォギアを纏う。

 

「今更、ノイズでどうにかなると思うか!?」

 

翼の言葉に死神博士は、笑みを浮かべる。

 

「ならば、冥土の土産に面白いものを見せてやる!」

 

そう言って、死神博士は懐から黒い棒のような物を取り出す。その棒は先端が先細り逆側には黒い宝石のようなものが取り付けられショッカーのエンブレムである鷲のマークが付けられていた。どう見ても普通の杖にしか見えなかったが、

 

「それが面白い物?ただの杖じゃねえか!」

「杖?…!まさか」

 

クリスの発言に翼の脳裏に嫌な予感が走る。それは信じたくない光景だ、悪夢の再現になるのかも知れない。

 

「一人が気付いたか、見るがよい!ショッカーの杖の力を!」

 

死神博士が杖の先端部分を持ち地面に向けて振る。直後に杖からドス黒いビームのような物が出て地面へと当たる。

 

「…なんて事だ!」

「…嘘だろ、おい…」

 

翼とクリスは信じられない物を見る。その杖の黒い光から出てきたのは間違いなくノイズだった。

それも普通のノイズではない、他のノイズより黒く腰にはショッカーのベルトが巻いてある。

 

「これがただのノイズと思わん事だな!」

 

死神博士の宣言が終わるとショッカーのベルトを巻いたノイズがソロモンの杖から出たノイズへと取り付く。最初に同士討ちかと思ったクリスたちだったが直に変化が分かった。

 

ウオッォォォォォォォォォ

ギエエエエェェェェェェェ

ケケケケケケケケケケケケ

 

「ノイズが怪人になった!?」

 

ソロモンの杖から出たノイズと黒い杖から出たノイズが合わさり怪人となった。目の前には蜘蛛男やかまきり男にサラセニアンと言った怪人が現れる。

 

「驚いたかね?これぞソロモンの杖のデータからショッカーが開発した『ショッカーの杖』と『ショッカーノイズ』の力よ!」

 

「ショッカーノイズだぁ!?」

「どこまでも自己顕示欲が高いな、ショッカー!」

 

死神博士から、杖とノイズの名を聞いて呆れつつも臨戦態勢を取る翼とクリス。

 

「それにしても信じられねえ、ソロモンの杖は完全な異端技術の筈なのに…」

 

ソロモンの杖は完全聖遺物。それを真似たショッカーに恐怖を感じるクリス。翼も口には出さないがショッカーの脅威度が上がったと感じる。急ぎ本部に連絡したい衝動に駆られる。

 

「フフフ、先史文明期の人間が作れた物を、何故ショッカーが作れないと思った。何よりサンプルがあるのだ」

 

そう言って、手元にあるソロモンの杖を見せつける死神博士。

 

ショッカーはソロモンの杖を参考にショッカーの杖を作り出し新たなるノイズ、ショッカーノイズを作り出した。果たして翼とクリスはショッカーの攻勢を止める事が出来るのか?

 

 

 

 




マリアの発言により世界はショッカーの存在に気付きました。

仮面ライダーの原作でも本当に秘密にする気があるのか疑問の秘密結社ですが(目撃者がいたとはいえ白昼堂々、怪人の姿で街中を探し回ったフクロウ男。山奥にあったとはいえ村人を虐殺していたら滝が来たり仮面ライダーも来たりで最終的に多数の村人が生き残ったユーレイ村。その姿のまま車を運転する戦闘員)殆どの戦力をフロンティアへと向けていた為、マリアの放送を止めれず、フロンティアで作業していたショッカーの部隊もテレビもラジオもつけていなかった為発覚が遅れました。


それでは、また新しい設定でも

「ショッカーの杖」

死神博士がウェル博士から譲渡されたソロモンの杖を解析して作り上げた。
バビロニアの宝物庫ならぬショッカーの宝物庫という次元を作り出しそこでショッカーノイズを作り出す。
一度に10~30体のノイズを呼び出せる。尚、最後まで呼び出すと命令権は喪失し、無差別に人を襲う。量産可能。

「ショッカーノイズ」

死神博士等、ショッカー科学陣がソロモンの杖から呼び出したノイズの解析して作り上げた新しいノイズ。

能力は従来のノイズと違い、人間やノイズ、または別の動植物に結合してショッカーの怪人となる。元に戻す方法は存在しない。ショッカーベルトを巻いている事から人型しか存在しない。

流石の死神博士も位相差障壁の再現には失敗してるがいずれはいずれは位相差障壁を持つ完全なショッカーノイズを作り出す事を目標にしている。

命令権は杖を使った者にあるが、最終的な命令権はショッカー首領が握っている。
現在は、蜘蛛男からエイキングまでの怪人しか作れない。





後に、死神博士はフロンティアの確保に失敗した場合、量産したショッカーの杖をブラックマーケットに流す計画を立てていた。


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62話 撃槍

シン・仮面ライダーのPVを見ました。

原作リスペクトが多く面白そうだった。ただ怪人は初代の方が好きかな。蜘蛛男(仮)以外の怪人の造形がどうなるかちょっと楽しみ。


 

 

 

絶対に譲れない 夢が吠え叫ぶよ

正義の為に悪を貫け

 

マリアは、必死に歌う。死神博士が月の落下を加速させた為、人々の歌を束ねて月遺跡を動かす為に。

 

「ナスターシャ教授、まだ出力は上がらないんですか?月遺跡の様子は?」

『月遺跡は未だに沈黙。フォニックゲインの出力が予定地にならない…』

 

歌い続けるマリアの疲労にウェル博士は焦りナスターシャ教授に月遺跡がまだ動かないのか聞く。ナスターシャ教授の方も予想より手間取っている。予定していたフォニックゲインが集まらないのだ。

 

伝説に記そう 一瞬から永久―とわ―まで

覚悟は笑顔と共に 心のままに

誇りと契れ

 

そして、とうとうマリアの歌が終わった。疲労を隠せないマリアは息を荒げ床に膝を付ける。

チラッとウェル博士の方を見るが、ウェル博士は首を横に振ったのを見て奥歯を噛みしめ目から涙が溢れる。

 

「私の歌は誰の命も救えないの!?…セレナ!」

 

 

 

 

 

そのマリアの様子は全世界へと流れる。突然、月が落ちて来ると言ったりアメリカ政府が出て来たり都市伝説となっているショッカーの名が出たりと、見る人が見ればマリアの新曲のPVだと思われるだろうがマリアの涙声に誰しもが本気ではないかと思い始める。

 

「あの人、ビッキー達と同じだね」

「うん。誰かを助けるために歌っているね」

「あの人が言うように、このままだと世界はショッカーの物に…」

 

創世や弓美もマリアの様子を見続ける。彼女たちにはそれしか出来ないのだ。

 

 

 

 

 

 

「マリア…」

 

マリアが無く姿を見続けるウェル博士はどうしていいか分からなかった。マリアと違い自分は歌手ではなく科学者だ。何より年頃の女性を慰められる程、ウェル博士に人生経験がある訳ではない。

 

『マリア。もう一度月遺跡の再起動を!』

「無理よ、私の歌で世界を救うなんて!…最初から無理だったのよ!」

 

月遺跡の再起動に失敗したナスターシャ教授だが、もう一度マリアに歌うよう指示を出す。しかし、自分の歌が通じない事に心の折れたマリアはそれを拒否する。一度歌ったのに月遺跡はうんともすんとも言わなかった、もう一度歌っても無駄だとマリアは思っている。

 

『マリア、月の落下を食い止める為にはアナタの歌が…』

「待って下さい、ナスターシャ教授。マリアも消耗が激しい、少し休ませた方が…」

 

歌わせようとするナスターシャ教授の言葉にウェル博士が割って入ろうとする。今のマリアは歌を唄ってかなり消耗している。少し休憩を取るべきだと言おうとしたが背後のエレベーターが起動し誰かが上がって来る。

 

「「!?」」

 

死神博士が戻って来たのかと思う身構えるが昇って来たのは別人だった。

 

「さっきから騒がしいと思って来てみたが何だ?」

「此処でカラオケでもしていたのか?」

「それとも、男と女のお楽しみって奴か?どうなんだ?おい」

 

エレベーターから降りてきたのは三人の軍人だった。それぞれ三人の制服は違うが胸には幾つもの勲章が付けられていた。階級が高いのは明白である。

 

 

 

 

 

「何だよ…何が怪人だ。思いっきり人間じゃねえか!」

「あれは、アメリカの将校服と中国の将校服に…ロシアの軍服だな」

 

その様子を見ていた民衆の中に現れたのは人間だと言い、ミリタリー好きな民衆が制服で所属している国家を言い当てる。この事に民衆の目はマリアを疑い出す。

 

改造人間や怪人と言っていたが出てきたのは軍人、それも将校だ。どう見ても人外には見えない。その事にマリアを見守っていた民衆にも動揺が走る。

 

「やっぱり、これって新曲のPVじゃねえのか?」

「なら、さっきの話は全部出鱈目?」

「でも、さっきの歌良いよな。リリースされたら欲しいよ」

「これは一体どういう事だよ!ギルガラスって怪人も全部出鱈目なのか!?」

「あれもショッカーなの?人間じゃん」

 

民衆たちの騒めきが辺りを支配する。モニターの声も十分大きいが民衆の混乱の声もまた大きい。次第にマリアへの視線が厳しくなる。

 

「…不味いね」

「空気がまた変わった」

「マリアさんの涙で信じかけてたのに」

 

マリアの必死の訴えとギルガラスの映像で見守っていた民衆だが、人間の…それも軍のお偉いさんが出てきた事でマリアの発言が一気に嘘臭く見えてしまい、再びマリアに会場での虐殺したのではと疑い出す。

 

全ては、新曲を売り出す為に目立つことをして話題を独占する為にやったかも知れない。普通ならば虐殺してのPRなどありえない。しかし、日本以外の国ならどうか?

日本は経済的に成功してる上にノイズの被害も皆無とは言えないが少ない。それにノイズへの対抗する武器もある。日本を取り巻く諸外国が面白く思わないのは明白と言えた。

現に、マリアの人気は外国では変わらない程高いままだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「世界的な歌手なんだろ?何か歌えよ」

「スタイルもいいな、ストリップとかやれよ」

「生憎、おひねりは無いがな」

 

ブリッジまで昇った三人は口々にそう言ってマリア達に近づく。下卑た笑いをして近づかれてマリアは一瞬怯むが直に目線を真っ直ぐにして口を開く。

 

「あなた達、それでも軍人なの!?守るべき国も民も見捨ててショッカーに降るなんて…恥を知りなさい!」

 

マリアの言葉がブリッジに響く。歌で心が折れている以上虚勢を張ってる事はウェル博士にも分かる。

国を守るべき軍人が、その仕事を放棄してショッカーに組してる事がマリアには許せなかった。しかし、そんなマリアの言葉を聞いて三人の軍人たちは笑い出す。

 

「ククク…面白い事を言う小娘だ。俺達が人間だと思って居やがる」

「歌手なんか止めて芸人にでもなればいい」

「最もショッカーの支配する世界には芸人なんか不要だがな!」

 

「あなた達は…一体…」

 

三人の雰囲気にマリアが後ずさりしようとするが背後にはフロンティアの操作盤があって不可能だった。

 

「そうだな、もはやこんな格好をする意味もあるまい」

「見せてやろう、我等の正体を!」

 

そう言って軍人たちは被っていた帽子を取り顔の前を隠す。直後に明るかったブリッジに一瞬だけ薄暗い緑色と赤色の光が照らされる。直後に三人の軍人たちの姿が変わった。

 

アーブルッ!アーブルッ!

ブルッブルルルルルッ!

イギィー!
      

 

 

 

 

 

 

「キャアアアアアアアアアアアアア!!」

「人間が化け物になった!?」

「あれが怪人!?マリアが言っていたショッカーは実在するのか!?」

 

モニターでマリア達を見ていた民衆たちに悲鳴が出る。先程まで人間だった軍人たちが一瞬にして人外へと変貌したのだ。何の前触れもなく怪人となった事でマリアが真実を言っているのではと感じる民衆たち。

 

「私達の知らない怪人だ…」

 

静かに見守っていた創世が呟く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一人は岩石のような体に後頭部から伸びたホースが口へと到達している怪人。もう一人は緑と黒が目立つ目が昆虫の複眼となっている体の所々から毛が生えた怪人。そしてもう一人はマリアも見た覚えのある目が赤い両生類のような怪人…

 

「ザンジオー!?お前は融合症例第一号に敗れたんじゃ…」

 

「改造人間は死なん!壊れた個所を修理すれば何度でも蘇る!」

 

それは、紛れもなく、あの夜カ・ディンギル跡地で戦い暴走した響に倒された怪人、ザンジオーだった。

その姿にマリアは愚か、ウェル博士も額に汗を掻く。改造人間に死は無いという事に驚愕する。そして、ザンジオーの他に二体の怪人に目を向けるウェル博士。

 

「…あなた方は…」

 

「ゴースター!」

「ハエ男!」

 

ウェル博士の質問に答える怪人が自身の名を言う。岩のような怪人がゴースターで虫の複眼がハエ男と名乗る。その時、ウェル博士の目に脱ぎ捨てられた軍服に目がいく。

 

「一つ質問をしたいんですが…見た所、その服に付いていう勲章は本物ですね。それを授与された人は何処に?」

「!」

 

ウェル博士の質問にマリアもハッとする。マリアは知らないが確かに勲章が本物なら授与した本人が居る筈だ。わざわざ、怪人が勲章を授与する程、潜入していたとも思えない。

 

「とっくの昔に魚のエサだ」

「我等としては、階級の高い人間は都合が良かったぞ」

「兵士を洗脳するのにも役に立ったわ」

 

聞かれた事を簡単に喋る怪人達。

こうも怪人が人間に紛れて行動できる事にショックを受けるマリアとウェル博士。同時に各国の軍でも大きな衝撃がはしる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ギイィィィィィィッ!!」

「ウオッォォォォォォォォォッ!!」

 

「この野郎!」

「慌てるな、雪音!冷静に対処すれば問題ない!」

 

フロンティアにある洞窟のような場所で翼と雪音は怪人とノイズを相手に大立ち回りする。蜘蛛男や蝙蝠男が一斉に襲い掛かるがクリスの銃撃と翼の剣の前に次々と倒れていく。ノイズも同様に倒すさまは二人の成長が伺える。

 

「ふむ…やはりショッカーノイズから生み出された怪人の力は想定以下だな。見た所、初期に作られた怪人に毛が生えた程度か。それに知能も獣以下か。これでは再生怪人の方がまだ使える」

 

死神博士の目は駆け引きの連携も無く真っ直ぐ翼やクリスに突っ込んで行ったり仲間諸共火炎で焼き殺そうとする姿だ。

 

「これでは魂の無い人形もいいとこだ。数だけ揃える目的なら、それも良かろうが…」

 

怪人達が次々と敗れていくさまを見る死神博士がそうぼやく。まんおじして翼とクリスに見せたショッカーノイズだが、そこから生み出される怪人の力が想定より低く低脳な事に落胆している。本来ならばギリザメス級の怪人がわんさか生み出される予定であった。

 

「まぁいい…今は、質より量という事で目を瞑るが…だが改良の余地はある。っという事か…ん?」

 

その時、懐に入れていた通信機から呼び出し音が響く。

 

「何か用か?」

『死神博士か?ワシだ、地獄大使だ。急ぎフロンティアのブリッジに戻れ!』

「緊急事態か?」

『侵入者だ!特異災害の司令官と忍者が乗り込んできた!戦闘員や洗脳した兵士に相手をさせてるが、神出鬼没に攻めて来る。ブリッジで誘導を頼みたい』

 

 

 

 

 

フロンティアのとある通路

 

「撃てぇ!撃てぇ!」

 

戦闘員やアメリカ、中国、ロシアとわずさまざまな軍服を着ていた軍人たちがマシンガンを乱射する。彼らの目標は通路の奥に居る弦十郎と緒川だった。

 

「俺が出る、緒川!」

「はい!」

 

一瞬、射撃が止まったのを見計らい弦十郎が通路に出て来る。直ぐに兵士や戦闘員が発砲しようとするが、

 

「ハアッ!」

 

弦十郎が床を一気に踏み抜く。直後に弦十郎を中心とした衝撃波が放たれ兵士や戦闘員に襲い掛かる。大多数の戦闘員や兵士はこれで倒れるがこれに耐えるタフな者も居る。そういう時は、

 

「はい、お疲れ様!」

 

背後に回った緒川に当て身をされ意識を奪われる。この方法で弦十郎と緒川はフロンティアの奥へとドンドン来ていた。更には、

 

「う…此処は?俺は訓練途中で…」

「指令、どうやらこの兵士も洗脳されてたようです」

「…またか」

 

洗脳が解けた兵士を介抱しつつ状況説明などして特異災害の潜水艦へと誘導していた。取り合えず、制服を着ている軍人たちは生きて捕らえ洗脳されてない者は洗脳されていた兵士に簀巻きにされた運ばれる。

弦十郎の暴れっぷりに地獄大使と怪人達は通路を潰され行動を著しく制限されていた。

 

 

 

 

「特異災害どもめ、もうそこまで来ていたか。分かった」

 

そう言って、死神博士は地獄大使からの通信を切る。死神博士が翼とクリスを始末しようと更にソロモンの杖からノイズを大量に出して新しいショッカーの杖からショッカーノイズを出そうとした時だった。

 

「先輩伏せてろ、アーマーパージだ!!」

「!」

 

いい加減、戦闘員や怪人の多さに辟易したクリスがアーマーパージと言う。言葉の意味に直ぐに気付いた翼が急ぎ地面に伏せる。直後に、クリスの纏っていたシンフォギアは一気に砕けて破片が四方八方に飛ぶ。

 

「ギエエエエェェェェェェェ!?」

「グワアアアアアアアアアアア!?」

「イーッ!?」

 

クリスのパージした破片は次々と怪人も戦闘員も貫ぬいて倒す。周りを取り囲んでいた怪人達の半分は倒して爆発を起こす。死神博士にも破片が飛ぶが、持っていたソロモンの杖で叩き落し事なきを得るが、クリスのパージと怪人の爆煙の所為で視界が悪くなる。

 

「…この煙に乗じて逃げたか?」

 

戦闘員と怪人も多数倒されたが未だに多くの怪人が居るのがこの洞窟だ。形勢不利とみて逃げてもおかしくないと考える死神博士だが、突然目の前の煙から裸のクリスが飛び込んでくる。

 

「なっ!?」

 

「ソロモンの杖を返せぇ!!」

 

クリスの予想外の行動に驚く死神博士。その隙にクリスがソロモンの杖を握って奪おうとするが死神博士も黙ったまま渡す気はなくソロモンの杖を引っ張り合う。

 

「ええい!破廉恥な小娘が!最近の若者は恥じらいというものが無いのか!?」

 

「そんな事より、ソロモンの杖を渡せ!」

 

裸のクリスの思い切った行動に驚く死神博士。胸も全て丸出しな娘の行動に破廉恥とまで言う。

 

その光景に戦闘員は愚か獣並みの思考しか持たない怪人達も茫然とする。傍目から見れば裸の少女と老人が杖の取り合いをしてるのだ。どう動けばいいのか分からず混乱している。そしてそれを見逃す翼ではない。

 

「ソロモンの杖はお前達が持っていちゃいけないんだ!だから、返せぇ!」

 

「…そんなに欲しければくれてやる!」

 

クリスの必死さに死神博士は手を離し腹に蹴りを入れる。正直ソロモンの杖はまだ利用価値があるが、このままでは特異災害に何処まで攻め来られるか分かったものではなく、今は急いでブリッジに戻る事を選んだ。

 

「うわっ!ゴホゴホッ…」

 

蹴られたクリスも地面に倒れ咳込みつつソロモンの杖は離さず握っていた。そんなクリスに何体かのノイズが迫る。

 

「させるかぁ!」

 

しかし、一体のノイズもクリスに触れる事が出来ず、翼の剣に切り裂かれた。更には怪人達も動き出すが悉く翼に切り捨てられる。その間に死神博士は洞窟から姿を消した。

 

ノイズと怪人が殆ど倒されたのを確認したクリスはペンダントを握る手を上に翳す。その途端、素っ裸だったクリスの周囲に光が集まり服を形成してクリスはリディアン音楽院の制服姿へとなる。

 

「やったな、雪音。ソロモンの杖を確保したな」

「…ありがとう、先輩」

 

まるで自分の事のように喜ぶ翼にクリスは顔を赤くして礼を言う。周囲を見た所、残っていた戦闘員も怪人も全て翼が倒したようだ。

 

「一人で勝手な事をして…ごめんなさい」

「気に病むな、私も一人では何も出来ない事を思い出した。何より、こんな殊勝な雪音を見れただけ良好だ」

 

クリスの謝罪に翼がそう返す。恥ずかしがり顔を更に赤くするクリスは話題を誤魔化す為に口を開く。

 

「それよりも、死神博士が逃げちまったけど追わないのか?」

「…いや、今は立花との合流を急ごう。本部にもショッカーの杖とショッカーノイズの事を伝えなければ」

 

翼の発言にクリスが頷く。ショッカーの新たなる力はそれだけ厄介とも言えたのだ。二人は急ぎ洞窟の出口へと向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

Gatrandis babel ziggurat edenal

Emustolronzen fine el baral zizzl

 

切歌が絶唱を歌う。必死に拒んできたがプラノドンの何度目かの電波や暴力により憔悴した切歌に最早、プラノドンに逆らう気概はもう無かった。その証拠に切歌は体だけでなく顔にも打撲の痕が痛々しく残っている。せめてもの抵抗か切歌の目から涙が溢れている。

 

「馬鹿め、素直に絶唱を歌って居ればこんな目にあわなかったものを!手間を掛けさせやがって!」

 

切歌に無理矢理、言う事を聞かせたプラノドン。尤も、切歌に暴力を振るってストレスの発散もしていたので±ゼロと言ったとこだ。

 

「切…ちゃん…」

「!?」

 

倒れていた調が意識を取り戻し立ち上がる。ふらつきつつも真っ直ぐ切歌の方を見る。その姿に一瞬だけ切歌が絶唱を言い淀む。

 

Gatrandis babel ziggurat edenal

 

「ちっ、意識を取り戻したか。あのまま眠ていれば楽になったものを」

 

意識を取り戻した調にプラノドンが毒ずく。その言葉に怒りを覚えるが切歌の意識は調べに集中している。

 

Emustolronzen fine el zizzl

 

そうしてる内に、切歌は絶唱を歌い切る。直後に切歌の体に緑色のオーラが纏う。

 

「…絶唱によって…繰り出される…イガリマの刃…は相手の魂を刈り…取る!そこに…防御手段なんて…存在しない。…だから…逃げて…調…」

「嫌だ、私は逃げない!絶対に切ちゃんを助けてみせる」

 

「やれるものならやって見ろ!!」

 

イガリマを巨大化させ、その柄の部分に乗った切歌がまるで魔女の箒のように動かし調に迫る。すれ違いざまにイガリマの鎌の部分が調を切り裂こうとするが、間一髪で調は避ける事に成功する。

それからは、切歌の攻撃を避け続ける。避ける事に集中してるのか、調はろくに反撃をしない。

 

「所詮は口だけか!体力が尽きた時が貴様の最後だ!」

 

切歌から少し離れた場所で空を飛ぶプラノドンがそう宣言する。悔しそうな表情をする調だが、脳裏に気絶していた時の女性の会話を思い出す。

 

『兎に角、あの緑の娘の攻撃を躱し続けなさい』

『切ちゃんの攻撃を?』

『そうだ。プラノドンは好戦的ではあるが慎重に動いている。常に安全圏から緑の娘を命令してな、無様に逃げ回って奴の油断を誘え…恐らくチャンスは一度だ』

 

女性の言葉通り反撃を一切せず調は逃げ回る。しかし、調は体力がある方とは言えず徐々に切歌の攻撃を捌き切れずにいる。

そして、遂に…

 

「調!?」

 

切歌の悲鳴と背中からの衝撃により調は悟った。切歌のイガリマが自身の背中を貫いた事を。

 

「やったぁ!死んだ、死んだぞぉ!!」

 

その光景はプラノドンの目にも入る。切歌がイガリマを手放して調を抱きしめ咽び泣くがプラノドンにはどうだっていい。邪魔な小娘が死んだ以上、切歌も抵抗できないようう痛めつけて死神博士に持って行くだけだ。フィーネがいるという脳髄さえ無事ならショッカーの野望も十分叶う。

 

そして、地面に直地したプラノドンはゆっくり調を抱きしめた切歌へと近づく。

 

「調…調…」

 

「泣きわめくな、何れはお前も同じ場所に逝くんだ。悲しむ必要は…「逝くのはお前だ!」!?」

 

今まさに、切歌を押さえようとプラノドンの耳に調の声が響くと同時に巨大な丸鋸が自分へと迫るのが見えた。反射的に何とか避けて後方にジャンプする。頭上に大型の丸鋸が通り過ぎて肝が冷えたのもそうだが、直後にプラノドンは信じられない物を見た。

 

「調…」

 

「馬鹿な、何故貴様が生きている!?小娘の大鎌の刃は確かに貴様の背中に突き刺さったのだぞ…なのに何故生きている!?」

 

其処には、切歌のイガリマで死んだと思われた調が立ち上がってプラノドンを睨んでいた。これもまた。女性の策である。

 

 

 

『そして体力が尽きかけた時に敢えて刺されろ。そうすればプラノドンもお前を殺したと思い、ノコノコと近づいてくる。そこで攻撃するんだ』

『でも、切ちゃんのイガリマを直接喰らえば、私は…』

『…私に考えがある。…兎に角、本気であの娘を救いたいのなら私の言う通りにしろ』

 

 

 

「…フィーネのお蔭だよ」

 

「フィーネだと!?フィーネの新しい器はそっちの小娘ではなかったのか!?」

 

調の呟きにプラノドンが反応する。今まで切歌がフィーネの受け皿だと思っていたが、どういう訳か調がフィーネと言いプラノドンは混乱するが、

 

「まあいい、こうなれば二匹とも捕らえて本部に連れて行く!その小娘を捕らえろ!」

 

この際、どっちがフィーネの器か分からないプラノドンは二人共捕らえようと切歌に命令を出す。しかし、

 

「…?どうした俺の命令を聞け!」

 

プラノドンが幾ら命じても切歌は動かず、痺れを切らしたプラノドンは電波を出して強制的に従わせようとした。しかし、切歌はゆっくりと立ち上がって首を振って肩を鳴らす。どう見ても操れてるようには見えなかった。

 

「何故だ、何故操れん!…!」

 

未だに受信装置は切歌の鼓膜に設置され、操れる筈。なのに切歌は命令しに従う素振りが見えない、そして、プラノドンはある物を目撃する。それは白と灰色をした真ん中部分に赤い物が付いた二本の飾り、プラノドンは急ぎ、自身の頭部を触り、ある筈の二本の角が無い事に気付く。

 

「俺の角を!何時の間に!?…まさかさっきの攻撃は!」

 

「そう。あれはアナタの首を狙った物じゃない。切ちゃんを操る角を狙っただけ」

「…感謝するデス、調。やっと五月蝿いのが消えて体も自由になりました」

 

調の中に居たフィーネはプラノドンのカラクリを見抜いていた。プラノドンの角が発する電波が切歌を操っている。だから、プラノドンの角を切り落せば弱体化、あるいは無効に出来るのではと呼んでいた。

 

「おのれぇ!許さん、許さんぞ小娘ども!こうなれば二匹とも殺してやる!!」

 

「それは」

「こっちの台詞デス!」

 

「!?」

 

調と切歌の声にプラノドンが目を見開く。二人の気迫が今まで以上に高まっていた。

 

「調を…」

「切ちゃんを…」

「傷つけた事を…」

「操った事を…」

 

「「絶対に許さない!!」デス!!」

 

━━━これが、小娘の気迫だと言うのか!?

 

二人の気迫に負けたプラノドンは、咄嗟に空中へ逃れようと飛ぶ。空中戦なら空を飛ぶ自分に軍配があるしもしもの時は撤退も容易になると考えたからだ。

 

「簡単に飛ばせると思うデスか!」

 

切歌がイガリマを振るい射出した鎖がプラノドンに巻き付き鎖の端がアンカーとなって地面に刺さる。

 

「これでは飛べん!?」

 

今度はプラノドンが体の自由を奪われた。なんとか振り解こうと藻掻くが、更に日本のアンカーが自身の両脇に刺さり、プラノドンが切歌の方を見る。其処には大型化したイガリマの刃があり、切歌はその刃の背後にいる。それはまさにプラノドンの目から見てもギロチンと言えた。

 

「これで終わりデス!」

 

そう言った直後に切歌の両肩にあるシンフォギアがブースターとなり加速し、切歌の足元の刃も加速する。

 

断殺・邪刃ウォttKKK

 

「こんな…こんな筈が!!クォーッ!!」

 

次の瞬間には、切歌のイガリマの刃がプラノドンに直撃。プラノドンの胴体が真っ二つとなる。

 

「これはオマケ、持って行け!」

 

γ式・卍火車

 

切歌のイガリマに切り裂かれた勢いで宙を飛ぶプラノドンの上半身に調がヘッドギアから出した巨大な二枚の回転ノコギリを放つ。巨大な回転ノコギリはそのままプラノドンの上半身に到達すると巨大な爆発が起こり、残された下半身も爆散する。

 

「終わったよ…フィーネ」

 

調が自身の体の中に居た女性に終わったと報告する。しかし、返事はない。もう女性の魂は調の体には無かったからだ。

 

 

 

 

それは、切歌の大鎌が調の背中に突き刺さった直後だった。

 

『魂を両断する一撃ってやっぱり並みじゃないわね』

 

そう言って、女性は己の手を見る。その手は光が漏れると同時に女性の体からも漏れて徐々に体が崩れていく。調はそれを見て直感した、イガリマの一撃でもうフィーネは転生が出来ない事を。

 

『私を庇ったの?どうして』

『…私は十分生きてきた。良くも悪くも長く生きてきたわ、もう十分かと思っただけよ。そうそう、あの子に伝言…と言うより遺言を頼むわ。“今日を生きるあなた達で何とかなさい、亡霊には何も出来ない。私が言うのもアレだけど悪党どもに負けるな”って』

『あの子…立花…響…』

『いつか未来に人と人が繋がれる…そんな未来の為に…』

 

徐々に体が薄れていき、やがては女性の姿が消え調は目を覚ましたのだ。

 

 

 

「きっと…きっと伝えるよ」

 

女性とのやり取りを思い出した調は決意を固める。

 

「調!」

「切…ちゃん…」

 

その時、シンフォギアの姿から普段着に戻った切歌が調に抱き着く。その目からは涙が溢れていた。

 

「良かった…良かったデス!調…」

「切ちゃん…ただいま」

 

切歌の涙声に調がそう返事する。プラノドンに操られ戦わされて絶唱を歌わされっとやりたい放題されたがプラノドンを倒して、やっと自由になったのだ。暫く、二人で抱き合ってると調が口を開く。

 

「ショッカーの好きにさせる訳にはいかない、一緒にマリアを助けに行こう」

「…うん。今度こそ調と一緒に皆を助けるデスよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふむ…ソロモンの杖をもう少し手元に置きたかったが…まあいいだろう。アレのデータはとりつくした」

 

フロンティアのエレベーターに乗る死神博士が一人呟く。雪音クリスにソロモンの杖を奪われたがフロンティアがある限り取り返しは幾らでもきく。フロンティアを完全に要塞化すれば世界征服も目前と言える。だからこそ、特異災害の邪魔は目障りであった。

 

そして、フロンティアのブリッジに着いて目にしたのは、シンフォギアを纏ったマリアと怪人の姿に戻ったゴースターとハエ男、ザンジオーたちだった。

 

「お前達、持ち場を離れて何をしている?」

「し、死神博士!」

 

先程まで、マリア達に威張り散らし下品な言葉ばかり言っていた怪人達が一斉に直立不動する。それを見ていたマリアもウェル博士は唖然とする。そしてモニターで見ていた民衆も死神博士の不気味さに身の毛がよだつ。

 

「ち…違うんです、死神博士。この娘がブリッジで歌っていたので様子を見に来ただけです!」

 

ハエ男が死神博士にそう言った。それに頷くゴースターとザンジオー。怪人達としても死神博士の機嫌を損ねたくはない。老体ではあるが怪人作りの名人の名は伊達ではない。万が一の時は再生手術で蘇りパワーアップの出来る以上、ショッカー大幹部の死神博士の機嫌は大事であった。

 

「歌だと?」

 

その報告を聞いた死神博士はマリアとウェル博士の顔を交互に見る。

 

━━━何が目的で歌った?我等、ショッカーの策に騙され絶望したからか?いや、小娘の目は完全には死んでいない。何かあるのは確かだが…まあいい、今は特異災害の動きを掴むのが先だ

 

マリアたちの目的が分からず一旦棚上げした死神博士は、そのまま操作盤の方に近づく。進路上の怪人は当然避け、マリアも死神博士の不気味さに道を譲る。そうして死神博士は楽々と操作盤の前に移動できた。

 

『待ちなさい、死神博士!』

 

「…ん?」

 

このまま死神博士がフロンティアの操作盤を弄るかと思われた時、フロンティアの通信機から待ったの声がする。ナスターシャ教授だ。

 

『お聞きなさい、死神博士。フロンティアの機能を使って集束したフォニックゲインを月へと照射しバラルの呪詛を司る遺跡を再起動出来れば月を元の機動を戻せるのです!』

 

「フォニックゲイン…成程、だからマリアが歌っていたのか。そのような機能は動かさせはせん、第一誰が月を落とすのを加速させたと思っている」

 

ナスターシャ教授の説明にマリアが歌っていた理由が分かった。当然、月を落とすのが目的の死神博士がそのような事を許す訳が無い。

 

「それよりも、その言い分。ショッカーに忠誠を誓う気はないのだな?」

 

『当たり前です。我々が動いてたのは世界を救う為、断じてショッカーの為などではない!』

 

「そうか…ならばもういい。死ねぇ」

 

ナスターシャ教授の返事を聞いた死神博士は操作盤の一部を押す。直後にナスターシャ教授のいるエリアが揺れ出し火を噴いて空へと昇る。それはまるでロケットのように。

 

「マム!」

「ナスターシャ教授!」

 

その光景を見ていたマリアとウェル博士がナスターシャ教授の名を叫ぶ。

 

「ショッカーに逆らう者は必要ではない、本来なら怪人を向かわせ殺してやるが…貴様の今までの功績を称えその遺跡を棺としてやろう。宇宙で孤独に死ぬがいい!」

 

そう言い終えると死神博士は笑い出す。

元々、ショッカーにとって、ナスターシャ教授はフロンティアに来た時点で用済みであった。しかし、ナスターシャ教授の頭脳には様々な聖遺物のデータがある以上簡単に始末するのは勿体無いと言えた。だからこそショッカーに忠誠を誓うのなら生かしておいても良いかと思っていたが本人が拒絶した以上、切り捨てただけだ。

 

「…有史以来、数多の英雄が人類支配を成しえなかったのは人の数が多すぎたから。支配する為には管理できるまで人を減らす気ですか?」

 

ナスターシャ教授の居る遺跡が宇宙に飛ぶのを横目にウェル博士は、死神博士に質問をする。ショッカーの目的の世界征服に人間がどこまで生き残れるか知りたかったからだ。

 

「自惚れるな、ウェル。我等の支配する世界に人間など不要だ、だからこそ月を落とし生き残った者も殲滅する。そうやって地球はショッカーの物となるのだ、英雄すら必要ではない」

 

ウェル博士の質問に死神博士の答えは冷酷であった。

最早、ショッカーは人間を必要とはしていない。今までの活動で様々な人種の細胞のサンプルを取っており必要になればクローンで増やす方向にいっていた。ショッカーは完全に人類を見切っていた。

 

「そんな事はどうでもいい!!よくもマムを!!」

 

そんな中、マリアは死神博士を睨みつけアームドギアの槍を取り出し突きつける。その目は完全に怒りに支配されていた。

 

「その反応、貴様もショッカーに逆らうか?マリア・カデンツァヴナ・イヴ」

 

「そうだ!」

「待つんです、マリア!」

 

激情にかられたマリアが槍で死神博士に突撃する。ゴースターを始めとした怪人も臨戦態勢を取り不利と悟ったウェル博士が止まる様言うがマリアにその気はない。例え差し支えても死神博士を倒す気だった。

 

 

 

 

 

「ちょっとまった!!」

 

 

 

 

「「「!?」」」

 

突然の声と共にブリッジのガラスがぶち割れ何かが中に飛び込んできた。それは間違いなくバイクだった。

 

「ブルルルル!?」

 

そのバイクが勢いよく飛び込んできたハエ男にぶち当たると共に壁へと接触事故を起こして、マリアと死神博士の間に誰かが降りる。

 

「むっ!?」

 

「お前は融合症例第一号!」

「違う、私の名前は立花響!マリアさんを助けに来たの!!」

 

それは間違いなく立花響だった。一部が砕けヘルメットの役割が果たせなくなったヘルメットを投げ捨て死神博士を睨みつける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




改造人間は死なん(二回目)。尚、ショッカー墓場。

怪人達、モニターに映ってる事に気付かずに人間体からの返信&死神博士の蛮行。
原作でも、ウェル博士は気付いて無さそうだったので。

ショッカーノイズから生み出された怪人はスピリッツのバダンの再生怪人のようなタイプですね。いわゆる人間の魂がない怪人です。


そして、調と切歌がプラノドンと決着。
原作でいう十二話も終わってもう直ぐ原作の「G」での最終回に近い。

ところで、アニメを見返して気付いたんですけど、もしかしてイガリマってフィーネやシェム・ハの天敵じゃない?魂を刈れるなら転生者にとってこれ程怖い物はない。


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63話 正義を信じる心

先日、二回目のワクチンを打ちました。
…ヤバい


 

 

 

フロンティアのブリッジにて響の登場はモニターで見ていた民衆をも驚かせる。

 

「ビッキーだ!」

「ショッカーなんかやっつけちゃえ!」

 

創世や弓美も響の登場に拳を握らせ応援する。その声は見守っていた他の民衆にも聞こえた。

 

「おい、あの娘って…」

「確か、三カ月くらい前まで女性とお婆さんが駅前とかでビラ配りしていた時のビラに書かれてた娘じゃないか?」

「行方不明だったっけ?」

「ああ、そう言えばやってたな。ある日から見なくなってたから忘れてたよ」

「その行方不明になっていた子が何であんな場所に居るのよ」

 

家族のビラ配りの際に響の姿を覚えていた者や、忘れていた者まで何故響がマリアの居る場所に居るのか分からない。結局、彼らは響達の動向を見守るしかない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「立花響よ、此処へは何しに来た?まさか、ショッカーに戻りたくなったのか?」

 

「それこそまさかよ、死神博士」

 

突然ガラスをぶち破って現れた響に死神博士が邪悪な笑顔で言い、響も即座に否定する。死神博士も別段本気にしてはいない。しかし、心臓のガングニールを喪失してシンフォギアを纏えない響が何故此処に来たのか気になっただけだ。

 

「其処を退けぇ、融合症例第一号!」

「違う!私は立花響16歳!融合症例なんて名前じゃない!私はマリアさんを助ける為に此処に来たの!」

 

マリアの融合症例の言葉に反論して自身の名前と年齢を言う響。しかし、その事は頭に血が昇ってるマリアにはどうでも良かった。

 

「助けなんてどうでもいい!!マムはその男に殺されたんだ!だから私もそいつを殺す!」

 

マリアの悲痛な叫びに響も少し納得してしまう。ショッカーによって大事な人を奪われた。それは響も同じだったからだ。

 

「ナスターシャはまだ死んでいないぞ」

 

「「!?」」

 

その時、死神博士がやけに鮮明に聞こえた。その言葉はマリアを驚かすには十分であった。

 

「今はまだ遺跡内にも空気があり重力もナスターシャなら十分耐えられよう。…だがそれだけだ、やがては空気も無くなりフロンティアから供給されたエネルギーも切れ明かりも消えた暗闇の中徐々に酸欠となり死んでいく」

 

「!」

 

その言葉にマリアが死神博士を殺意を込めた視線で睨みつけ唇を嚙みしめる。響は気付く、これは死神博士の挑発でもある事に。

 

「空気が減っていく中、精神はどの位持つかな?酸欠で死ぬか発狂して死ぬか興味が湧かんか?死ぬ間際に何を考えるだろうな?きっとお前の無能さ加減に人選を誤ったと後悔して死んでいくだろう…マヌケにはお似合いだ。何しろ全ては無駄だったのだからな。フッハハハハ!!」

 

「…殺す!」

「マリアさん!」

「止めなさい、マリア!」

 

マリアは激怒した。自信が無能呼ばわりされるのはまだいい、敬愛し尊敬するナスターシャ教授の頑張りをすべて否定され踏み躙った死神博士を許す事は出来なかった。

止めようとしていた響を突き飛ばしウェル博士の制止も振り切ってガングニールの槍で死神博士に突撃するマリア。

 

━━━罠だろうがもう知ったこっちゃない!!刺し違えてでもこの男を殺してやる!!

 

最早、マリアは自身の生存を考えてはいない。最悪、自分が死んでも死神博士を倒す気で突撃する。それを見ても歪んだ笑みを止めない死神博士。

 

「ゴースター!」

「アーブルッ!」

 

死神博士が一言怪人の名を呼ぶとゴースターが死神博士の盾となりマリアの鎗を受ける。

 

「なにっ!?」

 

金属の音の後にマリアは槍を持った腕に痛みを感じる。ガングニールの鎗はゴースターの体に弾かれマリアの態勢が崩れる。ゴースターはそれを見逃さずにマリアの体に拳を食らわせる。

 

ゴースターの拳の威力に吹き飛ばされるマリアだが、地面に足を引きずりつつも威力を殺す。何とか背後にあった水晶の柱にぶつかる事を防いだが、マリアの口から血を吐き出す。

 

「ゴホッ、ゴホッ!」

「マリアさん、しっかりして下さい!」

 

血を吐くマリアの姿を見て駆け寄る響。

 

「大丈夫、血を吐いただけよ「火炎弾!」!?」

 

大丈夫と言ったマリアだが、ゴースターの声と殺気に咄嗟に自分に駆け寄って来た響を突き飛ばし、その場を転がるように移動する。直後、マリアの居た場所と背後のクリスタルのような柱に燃え盛る火炎のほうな物がぶち当たりその場に火が付き僅かに光る赤い液体の様な物まで流れる。

 

「熱ッ!なにこれ!」

「…溶岩です!」

 

赤く燃える液体は溶岩であり水晶のような柱に掛かると炎を上げると同時に熱で溶けだす。それを見て背筋に冷や汗を流すマリア。

 

「正解だ。ゴースターはマグマの改造人間。骨も髪の毛一本も残らず燃え尽きるがいい!」

「火炎弾!」

 

「マグマって、もう動植物でもないわよ!!」

 

死神博士がゴースターの正体について語る。溶岩から作られた改造人間ということでゴースターはマリアや響に向かって溶岩の混じった火炎弾を吐き出す。辛うじて避けるマリアは、もう動植物でなく無機物の改造人間に文句を言いつつ動き回る。

ゴースターの火炎弾は、ろくにマリアや響に直撃しない、どれもギリギリで躱せる攻撃ばかりだった。ゴースターはまるで獲物を嬲るかのように火炎弾を撃ち続ける。

 

「気を付けなさい、マリア!溶岩を直接かぶれば幾らシンフォギアでも持つかは不明です、仮に持ったとしても中身のアナタは…」

 

水晶の柱の陰に隠れたウェル博士がマリアに気を付けるようアドバイスを送る。しかし、溶岩に触れた際の注意は言い淀んでしまう。少し考えれば分かる事だ、生身の人間が溶岩の熱に耐えられる訳がない。もし、ゴースターの火炎弾が直撃すれば…マリアは死ぬ。

 

「構わない!世界を守れないのなら、私の生きる意味なんて…」

 

世界を救うために今まで頑張って来た。しかし、ショッカーによって全てを台無しにされ自分達を引っ張ってくれていたナスターシャ教授も、ショッカーの手によりもう直ぐ死ぬ。

 

せめて、ナスターシャ教授の仇をとろうとしたがゴースターの耐久力に手も足も出ず逆に追い詰められる。マリアの心に絶望という文字が浮かぶ。

 

「意味なんて…後から探せばいいじゃないですか」

「お前…」

 

そんな、マリアに響は肩を叩いてそう言った。響もマリアの気持ちは分かるつもりだ、どことなく響はマリアを自分と重ねる。

 

「このままショッカーの好きにはさせない。だから…生きるのを諦めないで!」

 

嘗て、もう一人のガングニールの装者だった少女の言葉を口にする響。その言葉は響にとっても大事な思いの一つだった。

 

「フフフ…面白い、この状況をどう覆す気だ?立花響。最早、貴様に価値はない。此処で廃棄してやる!」

 

その言葉を聞いていた死神博士は不気味な笑みを浮かべる。そして、響の斜め向かいには、それぞれ反対側にゴースターとザンジオーがにじり寄る。

再改造された響だが、その改造は心臓のガングニールありきの物で今の響には戦闘員やノイズなら兎も角、怪人の相手は不可能と言えた。

 

「マリアさんの…借りますね」

「…え?」

 

その響の言葉はマリアには理解が出来なかった。

 

━━━借りるって何を?

 

マリアがそう思った時、響は目を閉じ口を開く。

 

Balwisyall nescell…

 

「聖詠!?」

 

「自棄にでもなったか!聖遺物もない貴様が聖詠を歌っても意味はあるまい!もういい、殺せ!」

「アーブルッ!」

「イギィ!」

 

響が聖詠を歌う事に驚くマリアと嘲笑する死神博士。そして、命令により響に飛び掛かるゴースターとザンジオー。最早、心臓にガングニールの無い響がもうシンフォギアを纏えない。その筈であった。

 

…gungnir tron!

 

響が聖詠を歌い終えた時、奇跡が起こる。

マリアの掴んでいた槍が光の粒子となり消え、続いてマリアの纏うシンフォギアも粒子として拡散。そして、響を中心に光りの粒子が集まる。

 

「なに!?」

「グワア!?」

「なにが起こったと言う!!」

 

その粒子に弾き飛ばされるように怪人が吹き飛ぶ。突然の事に、死神博士も何が起こったのか分からない。そして、その光りの粒子はドンドンと広がり、ブリッジを通り過ぎ調や切歌に翼やクリスにも届く。弦十郎と緒川と緒川も、フロンティアに来ている特異災害の潜水艦内部に居るスタッフも見ている。

更には、その光りはモニターで見守る民衆にも見届けられる。

 

「こんな事ありえない!融合者は適合者ではない筈。これはアナタの歌?胸の歌がして見せた事?ドクター、あの子の歌ってなんなの!?」

「…一言で言うなら奇跡ですね…」

 

響のようすに狼狽するマリアは同じく響の様子を見ていたウェル博士に聞く。ウェル博士も説明できず奇跡と言う他なかった。

 

 

 

 

「響ちゃんのあれは一体…」

 

特異災害の潜水艦、指令室のオペレーターの一人である、あおいがそう呟く。他の者もモニターの映像に釘付けで誰も答えようとはしない。いや、答えられないのだ。

 

「何時のも響です」

 

そんな中、一人だけ答えた者がいた。あおいが振り向くと其処には松葉杖で歩いてくる少女。頭や体中に包帯の巻かれた小日向未来だった。

 

「未来ちゃん!?寝てなきゃ駄目じゃない」

「ごめんなさい、でも響達が戦ってると思うと…私も見守りたいんです!」

 

病室を抜け出して指令室まで来た未来にあおいが りつけるが未来の気持ちも分かる。恐らく病室に戻れと言っても無駄だと確信する程に。

 

「しょうがない。私の席に座りなさい、無茶しちゃ駄目だからね」

「!…はい!」

 

あおいの言葉に喜ぶ未来はオペレーター席に座るとあおいと一緒に響達の様子を見守る。

 

 

 

 

暫く響を取り囲んでいた光りの粒子だったが、少しづつ中心に居る響へと集まり形となる。腕、足、頭部の耳当てとなり何時の間にかインナーを着て最後にはシンフォギアの姿となる。

 

「撃槍・ガングニールだあああああああああああ!!!!」

 

響の絶叫がフロンティアのブリッジに響く。響は再びガングニールのシンフォギアを纏う。マリアを…世界を守る為、死神博士との決着を付ける為。

 

 

 

 

 

「ガングニールに適合した?」

「それも、マリアより適性が高いようですね」

 

響がガングニールのシンフォギアを纏った事に驚くマリアとウェル博士。マリアもシンフォギアの姿から普段着の姿に戻る。しかしいくら、ガングニールの欠片が心臓にあったからと言ってこんなにアッサリ、ガングニールに適合出来た事が解せない。

 

パチッ、パチッ、パチッ…

 

そんな中、乾いた拍手のような音が聞こえマリア達が振り向くと死神博士が拍手をしている。

 

「死神博士…」

 

「…素晴らしい、それ用に改造していたとはいえ、他人の展開しているシンフォギアを奪いそれを纏うとはな。心臓にあったがゆえ適性が高くなったのか?元々適正があったのかは知らんが。…立花響、前言撤回しようショッカーに戻れ!貴様にはまだ無限の可能性がある、今なら幹部の席も用意しよう」

 

響がマリアのガングニールを纏ったのを見て、死神博士は嘗てゾル大佐が言ったように響にショッカーに戻る様言う。心臓のガングニールを失い、もうシンフォギアを纏えないと思っていたが、響の予想外の行動と結果にショッカーに呼び戻そうとする。

しかし、響は首を横に振った。

 

「断る。私はもうショッカーの好きにはされない、マリアさんを助けて人類(みんな)を助ける!」

 

ハッキリと死神博士の誘いを拒絶する響。尤も、断られることを想定していたのか死神博士の表情は変わらなかった。

 

「人類?ムシケラ共を助けて何になる!?何よりショッカーの支配する世界にムシケラなど不要だ!」

 

「ムシケラなんかじゃない!皆、今日を生きてる!ノイズの蔓延る世界でも必死に生きてる人たちなんだ!そんな人たちを貴方達が好きにしていい理由はない!」

 

人類をムシケラと言う死神博士に反発する響。元来、響は趣味が人助けと言うくらい善人よりな少女だった。それが、例えショッカーに拉致され改造人間にされようとその気質は変わる事はなく、だからこそ死神博士は響を再改造するさい脳改造も行いショッカーの操り人形にしようとしていたのだ。

 

「必死に生きてる?そうだな、日々の日常を生きてお前達を必死に迫害していたな」

 

「!?」

「…迫害?」

「………」

 

しかし、死神博士の「迫害」の言葉に目を見開く響とどういう意味か分からないマリア、そして何かに気付いたウェル博士。

 

()()()()()()()()()()()だったか?ただ、会場で生き残ったと言うだけで世間から悪者扱い。いやぁ、人間とは素晴らしいな。日々虐げられる日々は楽しかったか?中には迫害のあまり自殺した者も居るらしい。気を付けた方がいいぞ」

 

ツヴァイウイングの悲劇。それは二年前に起きた風鳴翼と天羽奏のライブで起きた悲劇だった。突然のノイズの襲撃にパニックになった観客が大勢死ぬ事件となったが問題はノイズで死んだ人間ではなかった。パニックの起きた会場では誰もが我先にと逃げ出そうとして将棋倒しになったり倒れた人間を踏みつけて逃げ出そうとした為にノイズの被害以上に観客が死んでしまったのだ。

 

その所為で、この事件をマスコミが報じた事で世間では生存者のバッシングが行われ響もその被害にあってしまう。そして、この件で響は孤立し親友である未来が休んでた日にショッカーに拉致されたのだ。

 

ショッカーでも少し調べれば直ぐわかる内容だった。家には嫌がらせの張り紙や投石、学校でも一部の生徒以外響を邪魔者扱いし、極めつけはマスコミの張り付きである。正直、家を放火されてないだけマシに思える。

孤立している響を攫うのには絶好のタイミングでもあった。

 

「…ど、どうせあのバッシングもアナタたちが仕掛けたんでしょ!?」

 

「残念だが我々は何の関与もしていない。人間どもが勝手にお前達を叩き迫害しただけだ。まぁ、信じる信じないは貴様の勝手だがな」

 

響は、あのバッシングがタイミングよく起こった為、ショッカーが何か細工したのかと思ったが死神博士はそれを否定する。正直、響にはそれが嘘か本当かは分からない。

 

「…それでも私は信じる!何時か人と人が繋がる事を信じて!人は言葉よりも深く繋がれる、それを邪魔するあなた達を私は許さない!」

 

「ふん、これ以上言っても無駄か。トドギラー!」

「ブルルルルルルッ!!」

 

言葉で言っても無駄だと判断した死神博士は、一言怪人の名を呼ぶと上から一体の怪人が降って来る。その怪人は響も見覚えのある…ある意味忘れる事の出来ない怪人だった。

 

「トドギラー…」

 

響の脳裏に自分が捕まった時の記憶が蘇り響の体がこわばる。

 

「トドギラー、立花響を氷漬けにしろ!」

「俺の冷凍シュートと再び凍らせてやる!プルルルッ!」

 

トドギラーが口から幾つもの細かい雹を吐き出し響を氷漬けにしようとする。だが、響も一度見た以上簡単に当たる気などなくトドギラーの冷凍シュートを避ける。

上手く避けた響だが背後からの殺気に咄嗟に横に避ける。直後に夥しい火炎が響の居た場所を通り過ぎる。振り向くとザンジオーの口から炎が飛び出す。

 

「立花響。あの時の借り、返してやるぞ!」

 

あの時の借り。即ちカ・ディンギル跡地での敗北を取り返そうとし、響に襲い掛かる。二人の怪人に襲われる響、しかしトドギラーとザンジオーの攻撃は響にはかすりもしない。

 

━━━体が軽い!?怪人達の動きも分かる。…死神博士の再改造の所為か…

 

力もスピードも上がってる事に内心複雑な響だが、今は怪人との戦いに集中する。トドギラーの拳を受け流し、ザンジオーの蹴りを避けカウンターを決める。

 

「イケる。…!」

 

響が二体の怪人と十分戦えると判断するが、マリアの方を横目で見る。其処には自分の戦いを見ているマリアに背後から近づくゴースターを発見する。既にゴースターは拳を振り上げていた。

 

「危ないッ!」

「!?」

 

二体の怪人の攻撃を避けて響はマリアの方に蹴りを放つ。バキッという衝撃音にマリアが振り返ると響の蹴りとゴースターの拳が拮抗していた。

 

「アーブルッ!」

「クッ…マリアさんをやらせない!」

 

ゴースターが拳に更に力を入れたが、響はもう片方の足でゴースターの顔面を蹴る。その衝撃にゴースターが顔を押さえつつ後ずさりする。

 

「ほう、成程…怪人どもマリアを狙え!ソイツが立花響の弱点だ!」

 

「!?」

 

響の行動を見てマリアが響の弱点だと判断する死神博士。今のマリアにはガングニールのシンフォギアを纏ってない以上、怪人と戦う事は出来ないと踏んだ指示だ。

 

そしてその指示は響には実に効果的だった。人助けが趣味の響なら自身より誰かを助ける為に全力で動く。マリアを絶え間なく攻撃すればマリアを守る為に響は怪人の攻撃からマリアを庇い反撃する事も出来ず最後は…。

 

そして、響は死神博士の予想通りマリアを守る為に動き続ける、ザンジオー、ゴースター、トドギラーの攻撃からマリアを守る。上手く攻撃を躱しているが怪人達の攻撃を全て躱し事が出来ずに居た。その攻撃は躱せばマリアに当たるように調整され響が受け止めるしかない。

 

「アグッ!」

 

「いいぞ、嬲り殺しにして動けなくしろ!」

 

怪人達の攻撃で悲鳴を上げる響。その姿を見て自分の無力さに打ちひしがれるマリア。見てる事しか出来ないウェル博士。

 

「…僕に戦う力が無いのが悔やまれますね」

「私にもっと力があれば…セレナ」

 

ろくに体を鍛えてない、寧ろ運動は不得意なデスクワーク派のウェル博士と響にガングニールのシンフォギアを渡したマリアでは怪人と戦うのは無謀と言えた。一応、懐には妹の形見がありそれを握るが、

 

「フフフ…所詮、貴様たちなど我等ショッカーの敵ではないわ。大人しく地獄にでも「そこまでだ、死神博士!」ゆく…もう来たか!」

 

突然の声に皆が一斉に声の出所に目を向ける。其処には、

 

「…師匠!」

「響くん、よく頑張った!だが、後で説教だ!」

「響さん、そのシンフォギアは!?」

「ごめんなさい、師匠!これはマリアさんのガングニールが私の歌に答えてくれて…!」

 

エレベーターで此処まで来た弦十郎と緒川が急いで響達の下へ向かう。途中、弦十郎の説教と言う言葉に顔を青くするが緒川の質問に答える響。それを忌々しそうに睨む死神博士。

 

「五月蝿いドブネズミどもがまた来よったか。…ハエ男、何時まで遊んでいる!追加のドブネズミは、お前が相手をせい!」

「ブルーッ!」

 

死神博士の声に響のバイクの下敷きになっていたハエ男が飛び出し、弦十郎と緒川の前に立ち塞がる。それと同時に無数の戦闘員が弦十郎と緒川の前に立ち塞がる。エレベーターとブリッジまでのには細い橋がかかり両側には深い穴が広がる。これでは、弦十郎たちも戦闘員を無視する事は出来ない。

 

響きには三体の怪人。弦十郎と緒川の相手はハエ男と多数の戦闘員がする。

 

 

 

 

 

 

 

「死ねッ!」

 

ハエ男が弦十郎に口から白い泡状の液体を吐き出す。それが危険な物だと直感した弦十郎は避けると再びハエ男が白い泡状の液体を吐き出す。

 

「指令!これを!」

 

「イーッ!?」

 

ハエ男の攻撃に気付いた緒川が捕らえていた戦闘員を弦十郎の方に押し出す。そして、押し出された戦闘員にハエ男の泡が当たると、その戦闘員は爆発して消滅した。それと同時に緒川が囲んでいた戦闘員を倒しては穴へと落ちていく。

 

「緒川、気を付けろ。あの泡に触れたら死ぬぞ!」

 

弦十郎と緒川がハエ男と戦闘員たちとの激闘が行われてる最中、死神博士はイラついていた。

 

「騒がしい、これでは落ち着いて操作する事も出来ん。仕方ない」

 

ブリッジの操作盤のある反対方向にある短い階段を下りて床にネフィリムと一体になった左手を付けると自動的に穴が開く。その穴は死神博士が通れる十分な穴だった。

 

「!…待てぇ、死神博士!逃げるのか!」

 

その様子に気付いた弦十郎の声に他の者も死神博士に視線を飛ばす。

 

「愚か者が、私は貴様たち程暇ではないのだ」

 

視線を無視するように死神博士は、そう言って穴の中へと入る。直後に死神博士の開けた穴も塞がった。

 

 

 

 

 

━━━死神博士が逃げた!?でもこれなら…!

 

死神博士がこの場を離れた事を確認した響は殴りかかるザンジオーの腕を取りブリッジの外に投げ捨てる。ブリッジのガラスを突き破りザンジオーは外へと放り出された。

 

「!?」

「なんのつもりだ!立花響!」

 

響の突然の行動に驚くゴースターとトドギラー。響の行動が読めず動きが散漫になる。そして、その隙を響は見逃さなかった。

響が、トドギラーに中国拳法の鉄山靠を食らわせまたもやブリッジの外に追い出す。それを確認した響はトドギラーの近くに居たゴースターも同じように投げ飛ばそうとする。

 

「重ッ!」

 

ゴースターの体重に少し顔を顰める。ゴースターの体重は優に200キロを超える、普通ならば人間一人が持ち上げるのは相当苦労するが響なら余裕であった。ゴースターを投げ飛ばす事に成功した響も移動しようとする。そう、響の狙いは戦う場所を変えてマリア達の危険を減らす事が目的だった。

 

「師匠、怪人達を外に放り投げました!これから私も出て怪人達を倒してきます!」

「そうか、分かった!」

 

ハエ男と戦う弦十郎の耳に響の声が聞こえ、それを了承する。確かにこのまま此処で戦えば響は十分に力を出せないだろうと考えられた。

 

そして、響がそのまま割れたガラスからフロンティアの外へと飛び出そうとした時、

 

「待ちなさい!」

「?」

 

響を呼び止める声が聞こえ振り向くと其処にはマリアが居た。声の主はマリアだった。

出来れば、直ぐにでも怪人の追撃に行きたかった響だが、マリアの表情がまるで迷子で不安になってる子供のように見えて放置出来なかった。

 

「何ですか?」

「どうして…どうしてアナタは戦えるの?あいつ等の戦力を知ってるでしょ!」

 

マリアの口から弱音と響たちへの疑問が湧き出る。死神博士に裏切られ利用され歌っても月の落下の阻止は不可能だった。更にはシンフォギアを纏った槍の一撃もゴースターに弾かれ意味が無かった、マリアの心が折れるのも無理はない。

 

「……」

「あいつ等は月を落として人類の抹殺を企んでるのよ!それに怪人達は死ぬことが無いんでしょ!?…勝てる訳が無いわよ…」

「…それでも戦わなきゃいけないんです」

「え?」

「私もショッカーに拉致されて体を改造されて人間じゃなくなった…それでも私はこうして生きている。この命がある限りショッカーと戦い続けるって」

「……」

「それに調ちゃんにお願いされたから、マリアさんを助けてって。…ああ、勘違いしないでください。調ちゃんのお願いがなくても、私はマリアさんを助けに言ってますから」

「…そう、調が…」

「本当は諦めたら楽になるかも知れない。脳改造されて私が私じゃなくなって今の私が消えればショッカーを怖がる事はないかも知れない。でもそれじゃダメなんです!だから、行ってきます」

 

響の決意を聞いたマリアは響から視線を外す事は出来なかった。

そんな、響は石柱を足場にしてフロンティアのブリッジから出ていく。外に投げ飛ばした怪人達の追撃の為に、

 

 

 

 

 

 

 

「ええい、ゴースターどもの役立たずめ!こうなれば俺がマリアを殺してやる!!」

 

「そんな事…」

「俺達がさせるものか!」

 

響がゴースター達を外に投げ出した事にハエ男が代わりにマリアを殺しに行こうとするが、戦闘員の包囲網を破った弦十郎がハエ男に接近する。

しかし、その行動はハエ男に読まれていた。

 

「やっと近くまで来たな!喰らえぇ!」

 

自分の近くにまで接近した弦十郎にハエ男は口から白い泡状の液体を吐き出す。マリアを殺す発言も自分の吐き出す液体を避け続ける弦十郎への罠であった。少女たちの命を大事に思う弦十郎ならばハエ男の発言を聞けばいの一番で飛び出してくる。後はこっちに来る弦十郎に白い泡状の液体を吐き出すだけだった。

 

「指令!」

 

少し離れた緒川が気付いたのか、懐から拳銃を取り出しハエ男に向けて何発も発砲する。しかし、弾丸の悉くがハエ男の体に弾かれる。

 

「馬鹿め、そんな豆鉄砲で俺を倒せるか!?死ねぇ!」

 

「ぬっ!」

 

弦十郎の目にハエ男の口から白い液体が飛び出すのが見えた。弦十郎は反射神経のまま飛び上がり空中を回転して何とかハエ男の爆発性の泡を避ける。目標を失った泡は地面に接触すると小さな爆発を起こした。

そして、飛び上がった弦十郎はハエ男の背後に着地するが無茶な体勢で飛んだ為、体のバランスを崩し直ぐには立ち上がれない。

 

「今の咄嗟の行動は褒めてやる!だが、貴様の死ぬ時間が少し伸びただけだ!!…?」

 

体勢の崩した弦十郎に止めを刺そうと振り返ろうとするが体が動かなかった。ハエ男がいくら動こうと藻掻くが指一本動かす事が出来ない。その時、ハエ男の目に自分に銃を撃った緒川の顔が見える。その顔はしてやったりとした表情をしていた。

 

「貴様か、忍者もどき!俺の体に何をした!?」

 

「知りたいのなら自分の足元を見る事ですね」

 

緒川の言葉に「足元だと?」と言い視線を下に向ける。足元には緒川が撃った弾丸が拉げて落ちてるだけ。…いや、一つだけおかしいのがあった、一発の銃弾だけがハエ男の陰の中に打ち込まれてる。

 

「まさかこれは!?」

 

「そう影縫いです」

 

あの時、緒川が拳銃でハエ男を撃った時一発だけハエ男の体に当たらずハエ男の影に軌道を変えて打ち込んでいた。ハエ男は知らない間にとっくに動きを封じられていた。

 

「馬鹿な、影縫いは風鳴翼の専用の技ではないのか!?」

 

「リサーチが足りませんね。元々、翼さんの影縫いは僕が教えたものです」

 

緒川のその言葉にハエ男が罵声を浴びせ何とか動こうとする。しかし、

 

「悪いが此処でお前は終わりだ!」

 

後ろからの声と背中からの衝撃、そして腹部の違和感によりハエ男が自分の腹を見る。そこには一本の腕がコードや肉片と共に生えていた。

 

「おのれ…風鳴弦十郎…!」

 

「こっちもお前に構ってる余裕はない。ついでに言えばお前よりギリザメスの方が強敵だった!…さらばだ」

 

「貴様…!」

 

腕の持ち主は弦十郎で背中から腕を貫通させていた。勝負はあった、腕を引き抜かれたハエ男は緒川の影縫いが解けたのか体から力が抜け橋の横の穴へと落下し直ぐに爆発音が響きた。

 

戦闘員も殆ど撃破した事で弦十郎たちは勝利したが、死神博士を取り逃がしてしまった。

 

 

 

 

 




シンフォギアGの13話を見返して気付いた。あっ、ガラスなんて無いや。
ブリッジのガラスの部分はオリジナルということで。

響達の大立ち回りはバッチリモニターに映ってます。

それにしても、響ってモニターで思いっきり自己紹介してるんだよね、よく平凡に学校に行ってたな。マスコミや野次馬が押し寄せそうなのに。
GXだと響の親父がモニター見て響に似てるなって言ってるけど声が出ず歌だけ流れてた?それだと、マリアが演説していたし…。



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64話 フロンティアの決戦! VS怪人大軍団

 

 

 

「何をしている!?さっさと通路の復旧を急がせろ!洗脳した兵士どもには核ミサイル発射場の準備をさせるのだ!」

 

薄暗いフロンティアの一角にて男の怒号が飛び交う。地獄大使が戦闘員や兵士たちに命令を飛ばしてたのだ。

弦十郎が暴れまわって通路の大部分が倒壊し戦闘員に復旧作業を急がせる、このままでは基地としての役割も果たせないのだ。そして、洗脳された兵士には移動可能なミサイルの発射台の建設をさせている。月が落ちる前に世界中の主要都市に核を撃ち込みより大混乱を起こそうとしていた。

 

主要国から奪った核ミサイルを運び込み、いよいよミサイル発射所を建設と言う時に弦十郎が暴れまわり通路が遮断、部品の調達も現場の指示も出来ず予定が遅れに遅れていた。その事に地獄大使の声を自然と荒立つ。

 

「このままでは核ミサイルの移動もままならん!」

 

苛立った地獄大使は手に持つ鞭で地面を叩く。

 

━━━本来ならば既にフロンティア内に核ミサイルの発射場なぞとっくに出来てる筈が、裏切り者と特機部二どもの所為で遅延に遅延を重ねた!本当なら今頃は死神博士が月の落下を早めると同時に主要都市に核を撃ち込む人間どもを大混乱に陥れ地球は我等ショッカーの物となる筈が!!

 

「地獄大使、死神博士よりご連絡が!」

「…む?」

 

工期の遅れにイラついていた地獄大使の下に通信機を持った戦闘員が現れる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「地獄大使か?ミサイル発射場の建設は進んどるか?」

『遅れに遅れている、風鳴弦十郎が暴れた所為で各通路が崩れ核ミサイルの搬入すら出来ん状態だ!』

 

明かりは壁の上部の流れるようなオレンジ色しかない薄暗い通路の中を黒いマントを揺らして歩く死神博士。ブリッジを離れた死神博士は、フロンティアのとある場所に移動している最中に地獄大使に連絡をしたのだ。

 

『それよりも、そっちはどうなっている?特機部二どもの動きは掴めたか?』

「慌てる出ない。特機部二どもは現在地はブリッジだ、怪人どもが相手をしている。私はとある場所でフロンティアの操作をする」

 

そう言って、死神博士は通信機を切る。直後にネフィリムと一体になった左手で壁を叩く。

 

「…?」

 

その時、死神博士は自身の左腕に僅かだが違和感を感じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

怪人、ハエ男を倒し死神博士がブリッジから逃亡した事に一息つく弦十郎たちだったがそれも束の間。フロンティア全体に揺れが起こり思わず立ち止まる。

 

「なッ!?」

「これは!?」

 

突然の揺れに一瞬焦る二人は通信機から、あおいの声がする。

 

『指令、緊急事態です!重力場が異常感知!フロンティアが上昇してます!』

「馬鹿な!?フロンティアを操作出来るブリッジには死神博士が居ないんだぞ!なのに何故動く!?」

 

死神博士が操作権を持ってるとは言えブリッジの操作盤も触れずに動かす事に納得できない弦十郎だが、

 

「簡単ですよ、今の先せ…死神博士の左腕はネフィリムと一体になっています。そして、フロンティアの動力はネフィリムの心臓です。死神博士は壁や床に触れるだけでフロンティアを制御できます」

「ウェル博士!?」

 

弦十郎たちの視線の先には眼鏡を弄るウェル博士が居り状況の説明をする。

曰く、フロンティアを止めるには死神博士を倒すか動力にネフィリムの心臓を破壊する以外無いらしい。

 

「死神博士の行きそうな場所は恐らくネフィリムの心臓があるジェネレーター付近。あそこはそれなりに広く指揮するにも最適と言えます。それにいざとなった時にはネフィリムの心臓も回収できる。…僕なら案内できます」

「僕達に味方すると言うんですか?」

「ウェル博士、その言葉信じていいのか?」

 

弦十郎と緒川が疑いの目を向ける。調査ではウェル博士は死神博士の弟子という情報がある。その弟子が師匠を裏切り案内するとまで言ってるのだ。簡単に信用は出来なかった。

 

「僕は人類を絶滅させようとするショッカーを許容できない。ですが僕には証明する術はない、ただ信じてくれとしか言いようがありません。…何より英雄を志す僕が彼女達に任せっきりで背中に隠れてるなんて我慢が出来ません!」

「………」

「…ドクター」

 

ウェル博士の言葉を聞いた弦十郎は黙ったままウェル博士の目を睨みつけるように見る。緒川は万が一ウェル博士が変な行動をした場合直ぐに鎮圧できるよう準備をし、マリアはウェル博士の方を見つめる。胡散臭い人物ではあるが森の中でナスターシャ教授と話した時以来の真面目な姿を見る。…若干目が泳いで脚が震えていたが、

 

「…分かった、今は信じよう」

 

ウェル博士の決意に信用する弦十郎。その様子に緒川も警戒を解き、死神博士が潜った穴のあった場所に来る。

 

「ふう~、なら直ぐに死神博士を追いましょう!遠回りにはなりますがエレベーターを降りて追った方が「それには及ばん」…はっ?」

 

ウェル博士の提案を拒否する弦十郎。視線を向けると弦十郎が床に向けて拳を上げそのまま振り下ろす。轟音と共にブリッジ付近の床に亀裂が入り何人かが通れそうな穴を開ける。

 

「これで直ぐに追えるだろう!」

「…報告書で読みましたけど、アナタは本当に人間ですか?改造人間だと言われても驚きませんよ」

 

素手でフロンティアのブリッジの床を砕いた事にマリアは唖然としウェル博士は胡散臭そうな目を目を向ける。緒川は相変わらず余裕綽々な表情だった。

 

「だから、俺はただの人間だと言ってるだろう!映画見て飯食って寝れば誰でも出来る。…ほら行くぞ」

「それは多分アナタだけ…ってここから行くんですか!?僕はあなた達と違ってデスクワーク派なんです、デリケートなんですよ!!」

 

まさか。穴を作って飛び込むと言う発想にウェル博士の口から文句が出る。確かに一刻も早く死神博士を追わなければならないが底の見えない穴に入るのには抵抗があった。暫く、ウェル博士の言葉を聞いていた弦十郎は強硬手段に出る。

 

「ちょっ!?待って!僕はエレベーターで行きます途中で落ち合うのは?…あれ?何で僕が担がれてるんですか?ちょっと?」

「悪いが合流する為の時間も惜しい。それに通路の一部は俺が崩して本気で迷路のようになっている。だからこうして来て貰うぞ」

 

何時までも嫌がるウェル博士に業を煮やした弦十郎はウェル博士を肩に担いで俵のように持ち上げる。

実際、弦十郎が言う通り通路の多くは途中の戦闘で破壊してしまい、通行が不可能な場所が多い。一応、弦十郎が本気を出せば瓦礫で塞がろうが拳で壁とかも破壊できるかも知れないが一々立ち止まって瓦礫や壁を破壊する時間も惜しい。

その事に、このまま床に開けた穴に飛び込むことに気付いたウェル博士は汗をかいて弦十郎の顔を見つめる。そして、弦十郎が本気だという事に気付く。

 

「い…嫌だ!僕はあんた達みたいな脳筋ゴリラじゃないんですぅ!!文明人の科学者なんですよぉ!!」

「安心しろ、ウェル博士。俺達も文明人だ」

「…発想が原始人だって言ってんだよ!!」

「行くぞ」

「はい」

「人の話を聞けええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ……」

 

ウェル博士の文句を無視して弦十郎は緒川と少し話した後に穴に飛び込む。そして辺りにはウェル博士の声がドップラー効果で残りマリアが苦笑いしながら見送った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ブリッジを飛び出した響は宙に浮く瓦礫を足場にして投げ飛ばした怪人達の姿を探す。しかし、幾ら探そうと怪人は影も見つからない。

 

━━━怪人達の姿が見えない!?この辺りに飛ばした筈なのに…まさか、マリアさんの方に向かった?

 

響の脳裏に嫌な予感が走る。怪人達と入れ違いしているとなればマリアや弦十郎たちが危険だと判断して一旦戻ろうかと考えた時だった、

 

「あ!」

 

誰かを見つけた響は瓦礫から飛び降り、その人物たちの前に降り立つ。

 

「翼さん!クリスちゃん!」

 

「立花!」

 

その人物とは風鳴翼と雪音クリスだった。洞窟から外に出た二人は早速、響と合流した。二人共響の姿を見て少し驚いている。響の姿を見てホッとするクリスと複雑な表情をする翼。

 

「お前、そのシンフォギアは?」

「マリアさんのガングニールが私の歌に答えてくれて…」

 

未来の神獣鏡に響のガングニールが分解したのを知っているクリスが、今響が纏うガングニールの事を聞き響もそれに答える。その最中に響の目にクリスが手に持つソロモンの杖に気が付く。

 

「やったね、クリスちゃん!死神博士から取り戻したんだね!」

「あ、ああ…なんとかな」

 

ソロモンの杖を握る手に触れ自分の事のように喜ぶ響にクリスも反応する。クリスもショッカーに奪われた物を取り戻した事に嬉しくなる響。

 

「立花…」

「はい!」

 

その時、響は翼に呼ばれて返事をすると共に何かを引っ叩く音と頬に衝撃を感じた。響が茫然としクリスは少し驚いた表情をする。翼が響にビンタをしたのだ。

 

「翼…さん…」

「何故、叩かれたか分かるか?」

「その…私が勝手な事をしたから…」

 

響の脳裏に出撃前の翼とのやり取りを思い出す。ガングニールを失った自分の身を案じ戦いに出るなと説得されたのだ。しかし、響はその説得も空しく戦場へと来てしまった。響がまたシンフォギアを纏えるのは朗報と言えるが翼は響の行いを許してはいない。

 

「それもある。だが、私が立花を叩いたのは叔父様や他の職員の想いも無視したからだ」

「想い…」

「私やお前だけが戦う訳じゃない。指令たちのサポートもあって私達がいるんだ。皆の想いを背負ってる、それを忘れるな」

「はい…」

 

翼の言葉に響の目から涙が出る。もう、響は一人ではない。共にショッカーと戦い背中を預けられる存在が居る。翼の言葉に響は心の底から感謝する。

そして、その様子を見るクリスの目には翼が響の目に入らないよう引っ叩いた手を振りながら響を抱きしめる。やっぱり手は痛かったようだ。

 

「フ…」

 

その様子が少し可笑しかったクリスは噴き出す。そんなクリスを見て翼と響も笑みを浮かべる、響が拉致されて以来久しぶりに空気が緩んだように感じる。そして、この空気は響達だけ待っていた物では無い。

 

「火炎弾!!」

 

「「「!」」」

 

声と殺気に響達は即座にその場を離れる。直後、三人の居た場所に火球が降り注ぎ溶岩が付着する。

 

「アッチィ!何だこりゃ!?」

「まさか、溶岩か!?」

「ゴースター、隠れているなら出てこい!!」

 

翼もクリスも飛んできた火球にドロドロに溶けた溶岩が含まれてる事に驚く。そんな中、響は溶岩の含んだ火球が飛んできた丘の方に向けて「出て来る」よう言い放つ。怪人達は隙を付いて自分事翼とクリスの抹殺を企んでいたのだ。

 

「チッ、外れたか」

「惜しい惜しい」

 

奇襲攻撃が失敗し居場所を特定された事で、響の言葉通りに丘から姿を現す。怪人達が姿を現した事で臨戦態勢を取る翼とクリス。

 

「あれが…」

「立花の追っていた怪人か」

 

丘から出てきた怪人を見て息を飲む翼とクリス。体が岩の様うなゴースターに鰭脚類と同じような牙を持つトドギラー。そして、もう一体の方にも気付く。

 

「ザンジオー…」

「再生怪人かよ…」

 

カ・ディンギル跡地で戦い暴走した響が撃破したザンジオーの姿を見て舌打ちをするクリス。

 

『フフフ…人の庭を動き回るドブネズミの駆除には相応しかろう』

 

「!死神博士!?」

 

突如、響達の耳に死神博士の声が響く。目的地に着いた死神博士は即席の操作盤を作り響達に話しかけていたのだ。

 

「アタシ等の駆除だぁ!?寝言は寝てから言え!」

「幾ら、新しい怪人を出そうと私達は負けない!」

 

『ほう?ならばもっと数を出す事にしよう』

 

死神博士が、そう言い切った直後に周囲のあっちこっちから不気味な声が響き嫌な気配を増えていく。

 

シュシュシュシュ…

          ミミーン…

                   アララララララララ…

 

「…なあこれって…」

「…またか」

「…久しぶりだな…」

 

何処か覚えのある泣き声に翼とクリスは目頭を押さえ、響に至っては苦笑いしている。そうこうしてる内にゴースターたち以外の影が躍り出る。それは、響達の予想通り過去に倒した怪人達だった。

 

「カメストーン!」「ガマギラー!」「サボテグロン!」「蜘蛛男!」「ザンブロンゾ!」「セラセニアン!」「ユニコルノス!」「ギルガラス!」「カビビンガ!」「アルマジロング!」「アリキメデス!」「エジプタス!」「トリカブト!」「エイキング!」「ムカデラス!」「モグラング!」「アリガバリ!」「ドクダリアン!」「クラゲダール!」「ドクガンダー!」「アマゾニア!」「ムササビードル!」「キノコモルグ!」「ベアーコンガー!」「地獄サンダー!」「ドクモンド!」「トカゲロン!」「ヤモゲラス!」「ヒトデンジャー!」「カニバブラー!」「ピラザウルス!」「かまきり男!」「蜂女!」「カメレオン!」「コブラ男!」「ゲバコンドル!」「さそり男!」「蝙蝠男!」「ナマズギラー!」「セミミンガ!」「サイギャング!」「毒トカゲ男!」

 

『如何に貴様たちが奇跡を起こそうが、これだけの大軍団を相手に、万に一つの勝ち目もあるまい』

 

翼もクリスも、そして響も自分達を取り囲むように出てきた怪人達に圧倒され死神博士の笑い声が木霊する。響達は数の上では完璧に不利と言えた。

 

「性懲りもなく再生怪人を出して…」

「また再生怪人かよ…前より数が増えてやがる…」

「私達も十分鍛えている。再生怪人なんかに負けるものか!」

 

洞窟でショッカーノイズが変化した怪人達と戦った翼とクリスは、正直また再生怪人との戦いかと辟易していたが、自分達の命を狙ってくる以上相手にしない訳にはいかない。溜息の一つも出し怪人たちを睨みつける。

 

「強がりも止すんだなぁ!裏切者と特機部二の装者もこれまでだ!」

「この浮上したフロンティアがお前達の墓場だ!かかれぇ!!」

 

ゴースターの声に取り囲んでいた怪人達が一斉に翼やクリス、響に襲い掛かる。翼もクリスも手にはアームドギアを持ち、響も拳を構えた。

此処に、響達と怪人達の激戦が起こる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ブリッジで一人になったマリアは静かに短い階段を下りる。しかし、その姿はどこか元気がない。

 

「…私では何も出来やしない。セレナのことも…セレナの死を無駄な事にしてしまう…」

 

響達がショッカーの怪人達と戦いナスターシャ教授とは連絡が取れず、頭がいいだけと思っていたウェル博士もここに来てショッカーを離反する事を選んだ。なのに自分は未だに亡き妹にたいしてメソメソしている事に嫌気がさしている。

でも戦おうにも今まで使っていたガングニールの聖遺物は響の下にありどうしようもない。

 

「セレナ…私はどうしたら…」

 

どうすればいいか分からない。それがマリアの心でり気持ちでもあった。今まではナスターシャ教授が道標を作りマリアがそれに沿って行動していた。そのナスターシャ教授いなくなればマリアは何処を進めばいいのか分からない。脳裏には今まで亡くなった妹…セレナに何度も相談している。しかし、マリアの脳裏のセレナは何も言ってはくれない。今回もそうだと思いつつマリアはセレナに話しかける。

 

『…マリア姉さん』

「!?」

 

その時、マリアの耳に懐かしい声が聞こ目の前の宙を見る。奇跡か必然か、夢か幻か、マリアの目の前に自分より年下の少女の幻影が見えた。

 

「セレ…ナ…」

 

マリアはその少女を覚えている。それは6年前に死んだ妹…セレナだった。

 

『マリア姉さんのやりたい事は何?』

「…ショッカーを倒したい。歌で皆を助けて月の落下を防ぎたい」

 

それは、紛れもないマリアの本音だ。誰の為でもない自分の考えで人類を助けたと思っている。

そんな、マリアにセレナの幻影はゆっくり近づくマリアの手を取る。

 

『生まれたままの感情を隠さないで。隠して居たら、それこそあいつ等の思う壺よ』

「セレナ…あなたもショッカーを…」

 

「ショッカーを知ってるのか?」その疑問がマリアには湧き聞きたそうにするが、その様子にセレナは微笑み目を閉じゆっくり口を開く。

 

りんごは浮かんだお空に… 

 

セレナが歌う。それは大好きだった祖母が良く歌っていたわらべ歌。マリアの大事な思い出。

 

りんごは落っこちた地べたに…

 

だから、セレナに続いてマリアも歌う。セレナが何のために歌ってるのかはマリアには分からない。もしかして、マリアの精神が限界でただの幻覚かも知れない。或いはショッカーの罠の可能性もある。

 

星が生まれて歌が生まれて

ルルアメルは笑った

 

だが、マリアは歌う。セレナに導かれるように歌う姿にモニターの向こう側の人々も目を閉じ祈るように手を組む。その時、歌うマリアの体の周りがオレンジ色の粒子が周り徐々に上へと昇る。

 

 

 

 

 

 

 

 

常しえと

星がキスして歌が眠って

 

その歌声はナスターシャ教授が居る死神博士が宇宙に放り出した遺跡にも流れる。

フロンティアのエネルギーが流れ続け中は明るいが至る所に打ち上げた衝撃で壁や天井が崩れている。その一つが揺れると同時に何かが飛び出してくる。

 

「世界中のフォニックゲインがフロンティアを経由して此処に集束している。これなら…」

 

それは、車椅子が変形して体の動きを補助されたナスターシャ教授だった。眼帯の部分から流血しているが生きている。

 

かえるとこはどこでしょう…?

かえるとこはどこでしょう…?

 

「これだけのフォニックゲインを照射すれば月の遺跡を再起動させ公転軌道に戻す事もできる」

 

まだ希望はある。そう感じたナスターシャ教授は直ぐに行動に移す。

 

 

 

 

 

『マリア!聞こえますか?マリア!』

「りんごは…マム!?」

 

ナスターシャ教授からの突然の通信にマリアは歌うのを止めブリッジの操作盤に目を向ける。セレナも何時の間にか消えていた。

 

『アナタの歌に世界は共鳴しています。これだけフォニックゲインが高まれば月の遺跡を稼働させるには十分です。月は私が責任を持って止めます。止めてみせます!』

「でも、マム!月を止めたとしてもマムは…」

『…覚悟の上です。さあ、行きなさいマリア。もうアナタを縛る者は何もない、それが例えショッカーだろうと。最後までアナタの歌を聞かせて、マリア』

 

ナスターシャ教授の言葉にマリアは覚悟のうえで話、命をかけて月の落下を止めようとする教授に何度目かの涙が流られる。マリアも出来る事なら、まだナスターシャ教授と居たかった、調や切歌と一緒に平和な世界を歩きたかった。

しかし、ナスターシャ教授の覚悟を考えマリアは泣き顔のまま笑みを浮かべる。

 

「…OKマム、聞かせてあげる。世界最高のステージを!!」

 

ナスターシャ教授との最後のやり取りで、マリアの決意は決意した。セレナの為でもない、自分の為でもない。世界を守る為にマリアは戦う事を選ぶ。

 

━━━思い出した、あの怪人の姿を…

 

それと同時に、カ・ディンギル跡地での違和感の正体に気付いたマリアは奥歯を噛みしめる。

 

 

 

 

 

 

 




映画の怪人達が名乗る場面、自分は好きです。

原作と違いウェル博士が味方になりました。

フロンティア内部で弦十郎たちが暴れた所為で地獄大使の作戦が遅れています。

原作だとネフィリムとの連戦でしたがショッカーが居るので響達は更に連戦します。


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65話 翼とクリス 危機一髪!? ゴースターの灼熱地獄

自分の書いた小説を読み返すと偶にもっと上手い人が書いていたらどうなるだろうと想像する作者です。もっと小説が上手くなりたい…


 

 

 

「イーッ」

 

「邪魔だ!」

 

薄暗い通路。ウェル博士を脇に抱えた弦十郎の蹴りが戦闘員に炸裂し蹴り倒す。直ぐ近くには並走する緒川が別の戦闘員を倒していた。

穴に飛び込んだ直後、ウェル博士の案内で進む中、警備をしている戦闘員と何度も戦いうち倒している。

邪魔する戦闘員を倒した弦十郎たちは再び死神博士が居ると思われるジェネレーターの方に向かって走る。

 

「…ちょっと気持ち悪くなってきました…」

「大丈夫か?」

 

ずっと弦十郎の脇の下で揺れていたウェル博士の顔色が悪い。無理に弦十郎が連れてきたことで酔ったのかも知れない。

 

「全く、鍛え方が足りんぞ。ウェル博士」

「…アナタが異常だと僕は信じたい…」

 

途中で、脇の下から背中に負ぶられるウェル博士に鍛え方が足りんと苦言を言う弦十郎。少し顔色が戻ったウェル博士がそれに対して反論する。

 

それから暫く通路を走り続ける弦十郎たち。暫しの沈黙が辺りに流れるが、

 

「それでウェル博士、ショッカーの内情はどの位探れましたか?」

 

沈黙を破ったのは弦十郎に並走する緒川だった。特異災害対策起動部二課のエージェントであり情報を扱う者としてウェル博士の掴んだ情報に興味があるのだ。

 

「…ある程度としか言いようがありませんね。暫く、ショッカーのアジトにいましたがそれで全貌が分かるほどの自由な時間はありませんでした」

 

マリアたちが身を寄せたアジトでは常に戦闘員の監視が付いており中々自由に出来ず、聖遺物の研究と言ってショッカーのメインコンピューターを使った時もあったが、周りにはショッカー科学陣が居ての作業だ。それでショッカーの全貌を明かそうとすれば当然時間がかかる。

 

「そうですか…」

 

その言葉に緒川はガッカリした表情をする。今までショッカーに好き勝手され、やっとこっちがイニシアチブを握れるかと思ったが、ウェル博士の言葉を聞いて望みが薄いと感じたのだ。

 

「…とはいえ、全く成果が無い訳ではないんですよ」

「え?」

 

弦十郎の背中に負ぶられながら、したり顔をするウェル博士。

 

「ショッカーの日本でのアジトや海外にあるアジトの情報にショッカーに協力する政治家や権力者の情報が手に入ってます」

 

そう言って、懐からデータチップを取り出し緒川に見せる。一見、何の変哲もないデータチップだが、その中身の価値に緒川も息を飲む。

 

「協力者?ウェル博士、ショッカーに協力者がいるのか?」

 

ウェル博士と緒川のやり取りを聞いていた弦十郎が口を開く。人類抹殺を企み世界征服をしようという組織に協力する者がいることに疑念を感じたのだ。

 

「ええ、いますよ。献金と賄賂や脅迫…洗脳や始末して入れ替わりとかで世界中にショッカーの協力者がいます。あのナスターシャ教授の友人もそうでした。…僕が調べたところアメリカの上院も下院の議会の半分近くがショッカーの手の者となっているようです」

「アメリカ議会の…」

「半分もだと!?」

 

ウェル博士の言葉は弦十郎と緒川にとっても衝撃的だった。世界でも名高いアメリカの頭脳が半分近くも乗っ取られてる事に。そして、その情報は確実に世界が混乱するという事だ。

ショッカーの命協力に身震いした弦十郎たちは秒で上の政治家連中に投げる事を決断する。

 

「…ウェル博士、一つ聞きたい」

「何ですか?」

「ウェル博士は見たのか?ショッカーの首領を…」

 

衝撃的な話を聞いた弦十郎は以前から気になっていた事を聞く。

ショッカーの首領。嘗て、特異災害はゾル大佐が首領格だと睨んでいたがゾル大佐は大幹部の一人だった。その後、地獄大使や死神博士と言った大幹部が姿を現すがショッカーの首領だけは未だに姿を見た事はない。ショッカー壊滅の為にも首領の情報は喉から手が出る程欲しい情報であった。

 

「…残念ですが僕も首領の姿を見た事はありません。何時もショッカーのシンボルである鷲のエンブレムから命令を発するだけでした」

「そうか…」

 

ウェル博士も一度として首領の姿を見た事が無い。恐らく、地獄大使や死神博士といった大幹部ならば会ったことがあるかも知れない程度だ。

弦十郎たちに未だ姿を見せない首領に恐怖を感じつつ警備する戦闘員を蹴散らして奥へと進む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハッ!」

 

「グバアアアアアアアア!!」

 

翼の剣が蝙蝠男の胸を切り裂く。足元には既に何体もの怪人が倒れている。翼の背後ではクリスがアームドギアをガトリング砲にして怪人達を牽制する。隙を見たドクガンダーやアマゾニアが指先からミサイルを出すが悉くはクリスが撃ち落とす。

 

そして、やや離れた場所には響が数体の怪人の相手をしている。

 

「ヤーッ!」

 

「ちっ、以前よりも攻撃力が上がっている!?」

 

響の拳を受け後ろに退るアリガバリ。その様子にゲバコンドルが飛び掛かるが響は問題なく対処して蹴り飛ばす。

 

「ならば、これを受けて見ろ!必殺シュート!」

 

「そんなのもう効くもんかぁ!」

 

背後から響に向けて大岩を蹴り込むトカゲロンだが、響は直ぐに振り返って大岩を殴って破壊する。その際、土煙が上がるが響は腰のブースターで一気に駆けトカゲロンを殴り抜く。

 

「つ…強い!?」

 

響の拳がアッサリ貫通したトカゲロンは断末魔をあげ爆発する。爆煙が納まった後には響しか居なかった。

 

 

 

 

 

 

「アイツも強くなったな」

「嘗て、苦戦した相手にも勝てる様になったか。良い事だ」

 

響がトカゲロンを圧倒して倒したのを見てホッとする翼とクリス。チラッとだが動きを見た感想は本当に問題ないようだった。これなら共に戦えると判断する翼。

 

「余所見してる場合かい!」

 

背後からの女の声に翼は咄嗟に振り向く。振り向いた先には自分に迫る刺突剣が見え手に持ってるアームドギアの剣で受け止める。

激しい金属音と火花が散る。翼の目に改めて刺突剣を握る怪人が目に入る。

 

「蜂女!?」

 

「久しぶりだね、風鳴翼。あの時の借りを返させて貰うよ」

 

再生怪人として復活した蜂女は翼にリベンジする事を狙っていた。蝙蝠男との共同作戦で敗れ、カ・ディンギル攻防戦でも翼の捨て身の絶唱のエネルギーにより消滅して二度も煮え湯を飲まされた。

 

「私に二度も土を付けた貴様を今度こそ殺してやる!」

 

「ふざけるな!お前達の所為でどれだけの人が死んだと思っている!!」

 

最初に蜂女と戦い勝った後、結局特異災害はウイルスに感染した犠牲者を助けられなかった。その事を苦にした響は未だ思い出しては落ちこむし自身のファンであった娘も死んだ翼も辛かった。

だからこそ、これ以上ショッカーの犠牲が出ない様にする為に戦うのだ。

 

「知らないね、ムシケラが何匹死のうが私には関係ない!」

 

「!…貴様!」

 

そして、蜂女の返答は翼を怒らすには十分であった。冷静さを失った翼はクリスから離れ蜂女との鍔迫り合いを行す。

 

「お…おい!」

 

翼の行動にクリスが驚く。やり取りを聞いていた為、翼の怒りも理解していたが自分の前では比較的冷静だった翼が感情で動いてる事に呆れる。

見れば、蜂女との鍔迫り合いに夢中になている翼に何人もの怪人が近寄る。どうやら蜂女に夢中な翼に不意打ちしようとしてる事に気付く。

 

「ああ、もう!」

 

それゆえにクリスも動く。

 

 

 

 

 

翼と蜂女の鍔迫り合いは徐々に翼が主導権を握る。蜂女の刺突剣が翼の剣に押され、ほぼ防戦一方となる。

 

「どうした、蜂女。あの時の借りを返すんじゃなかったのか?」

 

「ちっ、調子に乗る出ないよ人間如きが!」

 

蜂女の苦戦は翼の剣の腕前に押されてる事だった。挑発して翼を激昂させるまでは良かったが感情に流されようと翼は防人として鍛えられ戦ってきた。再生怪人に早々負ける事はない。

 

「これで終わりだ!蜂女!」

 

「その言葉そっくり返してやるよ!!」

 

ゆえに蜂女は待った。翼が自身に止めを刺す瞬間を、蜂女の読み通り翼は蜂女に止めを刺そうと大きく振りかぶる。それを待っていた蜂女は刺突剣で翼の剣の軌道をズラシ空振りさせた上に剣を弾き飛ばす。

 

「なっ!?」

 

「死にな!風鳴翼!!」

 

剣を弾き飛ばされた事に驚く翼に蜂女は逆に止めを刺そうと刺突剣を翼に突き出す。勝った。蜂女の脳裏に翼に勝利した自分を想像する。ゆえに見逃した、風鳴翼の笑みを。

 

「甘い!」

 

「!?」

 

蜂女の刺突剣が迫る中、翼はその場で逆立ちして蜂女の刺突剣を躱す。それだけではない、脚部のブレードを展開して逆立ちしたまま回転し足のブレードで蜂女を切り裂いた。

 

逆羅刹

 

「また…しても!」

 

逆羅刹で切り裂かれた蜂女は口惜しいとばかりに悪態付き倒れて溶けてゆく。その様子に一息つく翼。蜂女の腕は過去に戦った以上に伸びておりクリスとの訓練をしてなければ危うかったと感じる。

しかし、安心するのは早いと目の前の怪人に向け剣を向ける。その時、

 

「ウオオオオオオオ!!」

「とったぞぉぉぉぉ!!」

 

突如背後からの声に翼が振り向く。目の前には蜘蛛男とさそり男が自分へと迫って来ていた。

その時になって始めて翼は自分がクリスと離れていた事に気付く。だが、問題はない。直ぐに翼が剣を構える。が、

 

「痛っ!?」

 

脚に…太腿に鈍い痛みが走り思わず翼が自身の太腿に目を向ける。そこには一部の肉が抉られて血が湧き出ていた。

 

━━━いつの間に!?…蜂女の剣か!

 

翼の予想通り、翼は逆立ちして蜂女の刺突剣を回避したが完璧にとはいかなかった。翼が逆立ちするのを見て蜂女は僅かに刺突剣を動かして翼の太腿の肉を抉ったのだ。

蜂女の置き土産に気付いた翼は唇を噛みしめると同時に己の不甲斐なさに憤る。蜂女を舐めていたつもりは無かったが、何処か油断していた自分に腹が立つ。

幸い、派手に血が出ているが大事な血管は傷ついてないので直ぐに戦えはするが、翼が傷を見ている間にも蜘蛛男とさそり男が迫る。このまま構えを中途半端に崩した翼に攻撃するかと思えたが、

 

「やらせるかよ!!」

 

クリスの声と共に銃弾の雨が蜘蛛男とさそり男に降り注ぐ。さそり男はとっさに防御するが蜘蛛男は反応に遅れまともに銃弾の雨を浴びて爆散する。

 

「ちっ!」

 

蜘蛛男が敗れた事で一旦その場から逃げ出そうとするさそり男だが、銃弾が止んだ事で視界をクリスに向ける。其処には幾つもの小型ミサイルが自分へと向かっていた。

さそり男は断滅魔の悲鳴を上げる事も無く小型ミサイルの爆炎に消える。

 

ミサイルの爆風が翼の頬を撫でる。見ると、クリスが得意げな顔をして自分の前に降り立った。

 

「どうした?先輩。後輩にいいところ見せてくれよ」

「雪音…助かった、礼を言う」

 

クリスの軽口に翼は頭を下げて礼を言う。嫌味のつもりで言ったクリスの目がちょっと泳いだ後にゴホンと咳をする。

 

「…少しは反省しろよ。蜂女との因縁は終わったんだろ?」

「ああ…正直因縁って程でもないが、それより立花と大分距離が開いてしまった。合流した方がいい「させるか…」!?」

「!?」

 

この場を移動して響と合流しようと提案しようとした翼だが不気味な声がそれを阻む。周囲を見渡し何人もの怪人が自分達を取り囲んでおりその者の声かとも思ったが、

 

「蜂女の役割はお前達を此処に連れて来る事よ」

 

また声が聞こえた。どの怪人も笑い口が動いていたのでどの怪人が喋ったのか分からない。そもそも怪人は口自体動かさず喋る者がいるので判断しずらかったが、不意打ちを警戒して翼とクリスが背中合わせしてお互いの死角をカバーしあう。

 

━━━よし、これならどの怪人が動こうと…「アーブルッ!」な!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ウワアアアアアアアアア!!」

 

「え?クリスちゃん!?」

 

怪人達との戦闘の最中にクリスの悲鳴が響く。響が声のした方を見る。其処には、

 

「アーブルッ!捕らえたぞ。風鳴翼と裏切者の雪音クリスを捕らえた!」

 

「離せ!」

「ゴツゴツしやがって!」

 

クリスと翼を捕らえたゴースターが居た。二人の真横の地面から飛び出し不意打ち気味に捕らえることに成功した、翼とクリスの腰の部分に手をまわしてガッチリと捕らえられている。翼とクリスが暴れるがゴースターにはビクともしない。

 

「翼さん!クリスちゃん!…!」

 

響が急いで二人の救援に動こうとしたが、右腕と首に蔓や鎖が絡まり動きを封じる。

 

「ヒィーア!」

「風鳴翼や雪音クリスの救援に行こうとしても無駄だ。立花響!」

 

蔓はドクダリアン、鎖はかまきり男が操って響の動きを止めていた。これでは響も容易に動けない。

 

 

 

 

 

響が囚われた頃、翼とクリスは拘束されてない両手で何とかゴースターの拘束から脱出しようと足掻く。

 

「離せ!」

「この野郎!」

 

最初は素手でゴースターの体を殴りつけたりしたが、直にアームドギアを手に持ってゴースターを攻撃する。翼が剣を打ち込み、クリスがボーガンから拳銃タイプにし、果てにはガトリング砲に変えてゼロ距離から全弾ゴースターに撃ち込む。

 

「…固い!」

「なんて野郎だ…」

 

しかし、翼とクリスが目にしたのは、自分達の攻撃にビクともせず腰に回された腕も一向に怯みもしない。

 

「見たか!これが5000℃の高熱にも耐える俺の体だ!まとめて死ねぇ!」

 

「うわああ!!」

「あぐっ!!」

 

ゴースターは自慢するように言って翼とクリスの腰に回してる腕に力を入れる。ゴースターの力ならば二人纏めて背骨を砕くのも容易である。二人の口から悲鳴が上がった。

 

「翼さん、クリスちゃん!」

 

二人の悲鳴を聞いた響は足に力を入れる。僅かではあるが響は少しだけ進むことが出来た。

 

「ヒィーア!?」

「何だと!?」

 

驚いたのは響を捕らえていたドクダリアンとかまきり男だった。想定よりも響の力が上がっている、再改造されたとはいえ、それは自分達と同じこと。力はほぼ互角の筈だ。

しかし、幾ら響が動けても現状、亀の歩むスピード並みでは意味が無い。何より翼たちとは大分距離が開いている。

 

━━━これじゃ間に合わない!どうすれば…

 

『待て、ゴースター』

 

怪人に捕まりスピードが出ない事で焦る響だが、突如死神博士からゴースターに命令が出る。その言葉に従うようにゴースターは翼とクリスを抱く腕の力を抜く。

翼とクリスも途中まで悲鳴を上げていたが痛みと圧迫感が和らいだ事で何が起こったのか耳を傾ける。

 

「どうしました?死神博士」

『そのまま背骨を圧し折って始末も出来るが、それでは面白くも無い。ゴースター、貴様の体温でその小娘たちを焼き殺せ!』

 

「「!?」」

「!翼さん、クリスちゃん、逃げてぇぇ!!」

 

翼とクリスには意味が分からなかったが、響はゴースターが溶岩の改造人間だということを思い出し二人に逃げるよう訴える。尤も、逃げれるのなら二人共とっくに逃げてはいる。

 

「アーブルッ!!」

 

ゴースターは返事をする代わりに一声鳴く。そして、翼とクリスはゴースターの温度が上昇してる事に気付く。

 

「熱ちい!?」

「何だ、この熱は!?」

 

『ゴースターはマグマの改造人間。体温を上昇させるなど簡単に出来る。お前達は何℃耐えられるかな?』

 

翼の質問に答えたのは通信越しの死神博士であった。その言葉に翼とクリスは再びアームドギアでゴースターを攻撃する。

二人にの脳裏に急いでゴースターの腕から脱出しなければと強く思う。死神博士は翼とクリスを嬲り殺しにする気だと気付いたからだ。

 

「ちくしょう…離しやがれ!!」

「…これなら」

 

ドンドン上昇していくゴースターの熱にクリスが再びガトリング砲でゴースターをゼロ距離で撃ち、小型ミサイルも撃とうとしたが、小型ミサイルを展開しようにも腰はゴースターの腕が邪魔をして展開も出来ない。

ならばと、翼はカ・ディンギル攻防戦でのフィーネを思い出す。ピラザウルスにベアハッグされ何度も背骨や尾骨を砕かれたフィーネが隙を付いてピラザウルスの目を攻撃して脱出した事を。翼も同じようにアームドギアの剣でゴースターの目を突き刺そうとした。

 

しかし、ガキィンという音と共に剣が弾かれてしまう。

 

「!馬鹿な!?」

 

通常の生き物なら目は弱点と言える。どんな猛獣も視覚を頼りにしており目を負傷するのは極力避ける筈、事実フィーネもピラザウルスの目を潰して脱出した。

しかし、ゴースターの目は予想を遥かに超える程の硬度を誇っていた。

 

「言った筈だ、俺は5000℃の高熱に耐えるとな、それに溶岩の中も自在に移動できる。当然、目も専用に改造されている!」

『フフフ…そう言う事だ、死ぬがいい!!』

 

「アアアアアアアア!!」

「グッグ…アアアアアアアア!!」

 

死神博士が喋った直後にゴースターの温度は更に高まる。翼やクリスが熱さのあまり汗が流れゴースターの表面に落ちるが瞬時にして蒸発する。辛うじてシンフォギアのバリアフィールドで守られてはいるが、とんでもない温度が翼とクリスに襲い掛かる。

 

「翼さん…クリスちゃん…」

 

「残念だね、立花響。お前は見てる事しか出来ないのさ」

「大人しく、あの二匹が死ぬのを見届けるがいい!」

 

翼とクリスが苦しむ姿を見て二人の名を呟く響。そんな響にドクダリアンとかまきり男の言葉に怒りが募る。

 

「こんな…こんな物!!」

 

歯を食いしばる響の目に右腕に絡まるドクダリアンの蔓が目に入り、それをを掴み引っ張る。

 

「ヒィーア!?」

 

ただの悪あがきと思っていたドクダリアンだが、響の力に徐々に引っ張られていく。最初は地面を踏み込んで耐えていたドクダリアンだが遂には響の力に負けて蔓ごと振り回される。

 

「なっ!?」

 

響は振り回したドクダリアンをかまきり男へとぶつける。ドクダリアンはかまきり男の持っていた鎌に、かまきり男はドクダリアンが当たった衝撃と鎌で爆発しそれに巻き込まれる。直後、響の右腕と首に巻き付いていた蔓と鎖が緩み響はそれを取り外した。

 

「翼さん!クリスちゃん!」

 

自由を取り戻した響が二人を助けようとゴースターの方に向かおうとし一歩大きく踏み出す。

 

 

 

 

 

「冷凍シュート!」

 

しかし、そんな響の体に幾つもの雹の塊が当たり足元が凍り付き動くことが出来なくなる。

 

「冷たっ!?これって!」

 

「ほう、人間ならば即座に凍り付き冷凍人間になる俺の冷凍シュートを受けて足先だけか。前よりも耐久力が上がっているか」

 

「…トドギラー」

 

響が冷たさと自分の足が凍り付いた事に驚いていると横から声がして振り向く。そこには嘗て自分を凍らせたトドギラーが不気味な表情で近づいてくる。

 

━━━足を凍らされた!…なら

 

脚が動かないのなら手で動こうと、体勢を横にした響は這ってでもゴースターに近づこうとする。凍った事で脚部のジャッキは動かないが腰のブースターもある。ある程度近づきブースターでゴースターに体当たりすれば翼とクリスを助けられると考える響だが、

 

「冷凍シュート!」

 

「!?」

 

それをショッカーが見逃す程、甘くはない。トドギラーの冷凍シュートが響の両腕を、ブースターを、頭意外全ての場所に冷凍シュートが放たれ、響は完全に氷漬けになってしまう。

 

「どうだ?これで動けまい」

『貴様は其処で二匹の羽虫が死ぬのを見ればいい。そして絶望を果てに己の無力さを思い知れ!』

 

「つ…翼さん…クリス…ちゃん…」

 

トドギラーの放った冷凍シュートにより猛烈な寒さを感じる響だが、今はそれよりも翼とクリスの二人が苦しむ姿を見る方がよっぽど辛かった。死神博士は、二人が死ぬのを響に見せつけた後に更なる改造を施そうと考えて居た。それでまた正気に戻ろうが二人を助けられなかった自責の念により響の心は圧し潰され廃人になる。死神博士は、そう予想していた。

 

 

 

「あ…ああ…」

「う…」

 

ゴースターに焼かれた翼とクリスの動きが次第に鈍くなりぐったりしてきた。汗も出た瞬間から蒸発する事で二人の周りの温度の高さが分かる。間違いなく二人は熱中症になっているようだ。

 

『もう叫ぶことも出来んか?ならば、ゴースター止めを刺してやれ!!』

「アーブルッ!」

 

「止めて…止めて!!」

 

死神博士の命令に響の悲痛な叫びが木霊する。このままでは翼もクリスも殺される、助けに行きたい響だが体は完全に凍り付き動くこともできない。

このまま、ゴースターに二人共焼き殺されるかと思われた。その時、

 

 

 

 

 

 

「ちょっと待った!デス!!」

 

「「『!?』」」

 

少女の声と共にワイヤのような物がゴースター首の部分にかかり、肩のイガリマを断頭台の刃にした切歌が肩のブースターで一気に加速させゴースターの背中を切りつけようとする。

刃は見事にゴースターへと命中した。しかし、

 

「!思った以上に硬いデス!?」

 

ゴースターの体には火花が上がるだけでそれ以上斬り込む事は出来ない。それでもゴースターはその衝撃により翼とクリスを放してしまう。

 

「切歌ちゃん…」

 

『暁切歌だと!?プラノドンめ、しくじったか!』

 

思わぬ援護に響は切歌の名前を呟き、死神博士はプラノドンが敗北した事を悟る。更に、

 

「ぬっ!?何だこれは!?」

 

夥しい数の小さな丸鋸がトドギラーに襲い掛かる。振り返ったトドギラーの目にはもう一人の装者が頭部ユニットから幾つもの小さな丸鋸を出し攻撃していた。

 

「ちっ、裏切者の小娘か!お前程度のシンフォギアじゃ俺を倒せんぞ!!」

 

「…そう、私一人じゃアナタを倒せない。…だから目標はアナタじゃない…」

 

「?…!?」

 

調の言葉に一瞬、意味が分からなかったトドギラーだが、直ぐにその意味に気が付き急いで氷漬けの響に目を向ける。

 

「…ありがとう調ちゃん」

 

トドギラーが目を向けると調の攻撃で響の動きを阻害していた氷が砕かれ、響は自由を取り戻す。調の目的は最初からトドギラーではなく、その後ろに居た氷漬けにされた響だった。射線上に居た為、調の攻撃がトドギラーに届き、トドギラーが自分への攻撃だと勘違いしたのだ。

 

「オノレェ!!」

 

一杯食わされたと思ったトドギラーが再び響に冷凍シュートを放ち動きを止めようとした。しかし、響はそれよりも早く、腰のブースターを吹かしてトドギラーに迫る。

 

そして、そのままトドギラーの口に拳を食らわせ、更に響がトドギラーに回し蹴りをする。丁度、足のジャッキも一気に撃ち込まれ響の蹴りの威力が何倍にも増す。

 

「グワアアアアアアアア!!」

 

響の蹴りの威力に吹き飛ばされ岩肌に何度もバウンドしたトドギラーは遂に爆散する。

 

 

 

 

 

「小娘め、よくも邪魔をしよって!」

 

「そんな攻撃が当たるかデス!」

 

翼とクリスの止めを邪魔されたゴースターは目標を切歌に変えて幾つもの火炎弾を撃ち込む。最初はマグマに驚いた切歌だが、素早さをいかしゴースターへのヒット&ウェイで一撃離脱を繰り返す。正直、切歌の攻撃はゴースターには対して効いてはいないが、切歌にはこれで十分であった。

 

 

 

「二人共しっかり、水よ」

「…ありがてえ…」

 

ゴースターから解放された翼とクリスの下に近づく者がいた。その者は倒れていたクリスと翼にペットボトルに入った水を渡す。

 

「一気に飲むのは駄目よ。少しづつ飲みなさい」

「…あいよ」

「…礼を言う、マリア」

 

言われた通り、少しづつ水を飲む二人。翼は水をくれたマリアに礼を言う。切歌がゴースターの注意を引いてる間にマリアが翼とクリスに駆け寄り介抱した。シンフォギアのおかげでそこまでではないが大分水分を失っていた二人にはありがたいと言える。

 

ミミーン

      アララララララララ

               ケケケケケケ

 

しかし、何時までも注意を引ける訳ではない。翼やクリスに止めを刺そうと別の怪人が取り囲む。

 

「人気者ね、あなた達。どういう訳か倒された怪人までいるわね」

「気を付けろ、こいつ等は大体アタシ達が一度倒した奴等が殆どだ」

「死んだ怪人を再生怪人として蘇らされた化け物どもだ」

 

翼の言葉にマリアは「再生怪人」と呟く。マリアの脳裏にザンジオーの「改造人間は死なん!」という言葉が蘇る。

 

「マリア、お前は逃げろ」

「シンフォギアもないんじゃこいつ等とは戦えないぜ」

 

翼とクリスはマリアを守るように怪人達を睨みつける。マリアのガングニールは響が使い今のマリアは丸腰だ。二人共、ゴースターとの戦いで体力がそこまで戻ってはいない。マリアを守りながら戦うのは厳しかった。

 

「いえ、私も戦う」

「マリア!?」

 

マリアの発言に翼が驚く。何とか止めようと考えた翼だが、マリアの目には力が宿ってることに気付く。

 

『ほう…貴様のような小娘が戦うと言うのか』

 

「!死神博士!!」

 

通信機から死神博士の声が響きマリアは死神博士の名を呼んだ。その声はマリアを明らかに侮辱している。

 

『ガングニールもない役立たずが、我等ショッカーに歯向かうとはな。後悔して死ぬがいい!!』

 

「マリア、逃げろ!」

「…私はもう逃げない!」

 

翼の逃げろの言葉にマリアはハッキリと逃げないと言う。マリアに何があったのかは知らないが気合だけで怪人を相手にするのは無謀と言えるがマリアの目にはその覚悟が見えた。

 

「私はもう逃げないし迷わない!だってマムが命がけで月の落下の阻止をして、ドクターは特異災害の司令官と一緒に死神博士を追っている!!」

「!アイツが!?」

 

マリアの言葉に反応したのはクリスだった。少しだけFISやショッカーに入っていた時に見たが、ただの死神博士の腰巾着と思っていたからだ。少しだけウェル博士の事を見直すクリスだが、怪人達が刻一刻と近づいてきている。

 

『意気込みだけは買ってやろう、だがシンフォギアもない貴様に怪人達を相手に出来るか?フッハハハハ…』

 

「シンフォギアなら…ある!」

 

『ハハハ…なに!?』

 

勝利を確信していた死神博士だったが、マリアの言葉に息を飲む。そして、マリアは懐からシンフォギアのペンダントを翳した。それはマリアの妹セレナの形見でもある。

 

Seilien coffin airget-lamh tron

 

マリアが聖詠を口にする。瞬間、その場に光が満ちる。

 

 

 

 

 

 




ゴースターが強敵ですが、仮面ライダーの原作でもライダーの二人がかりで倒したから。
死神博士が余計な命令を出さなければ翼とクリスは死んでました。

メキシコだけでなくアメリカも何気にショッカーに乗っ取られかけてます。というか日本以外だいたいヤバい。…原作通りです。仮面ライダー本編だと日本の制圧が特に遅れてるそうですから。

因みに汗を掻いたら水分補給と塩分を摂取した方がいいらしいです。完全に時期外れだけど…

マリアって死神博士に小娘呼ばわりされてるけど21だったような。死神博士からすれば小娘か。


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66話 マリアの過去

NHKの仮面ライダーを楽しみにしていたんですが放送はBSPだった。…おのれNHK。
YouTubeで流してくれないものか。

YouTubeと言えば、現在仮面ライダーリバイスを9話まで公式が流してます。11月8日には終わってしまうので見たい人は早めに見たほうがいいかも。


 

 

 

━━━マリア・カデンツァヴナ・イヴは、シンフォギアを二つ持っていたと言うのか!?

 

ガングニールのシンフォギアを立花響に譲渡して丸腰だと思っていた死神博士が驚愕する。映し出された映像にはマリアが聖詠を歌い光がマリアを照らす。

 

━━━まさか、別のガングニールも持っていたと言うのか!?しかし、聖詠が違う気がするが…ええい、分からん!!

 

「怪人ども、今直ぐマリアを殺せ!」

 

マリアの未知の力を恐れた死神博士が怪人たちに抹殺命令を下す。その命令に取り囲んでいた怪人達が一斉に襲い掛かる。

 

 

 

 

 

 

 

 

死神博士の命に無数の醜悪な怪人がマリアへと飛び掛かるが誰一人、マリアへと到達は出来なかった。幾つもの弾丸がコブラ男へと降り注ぎ青い斬撃がヤモゲラスを両断する。

 

「オラオラ、死にたい奴は掛かってこい!」

「…マリアがシンフォギアを纏うと聞いて…死神博士は何を恐れている?」

 

クリスが両腕からガトリング砲を出して小型ミサイルも展開し、翼も斬撃を飛ばして怪人達を牽制する。急に怪人達が血相を変えてマリアを襲いだした事に違和感を感じる翼。

最初は、十分怪人の迎撃をしていたクリスと翼だが、やはりゴースターに捕まった時の消耗が残っており次第に怪人達の牽制も厳しくなる。

 

「今だ、弾丸スクリューボール!!」

 

「あっ!?」

「しまった!」

 

翼とクリスの消耗にチャンスと見たアルマジロングが体を丸めて弾丸スクリューボールで二人の攻撃を掻い潜りマリアへと接近、このまま弾丸スクリューボールでマリアを抹殺する気でいた。

 

「逃げろ、マリア!」

 

「この距離では避けられんだろ、死ねぇーーーー!!」

 

シンフォギアを纏う前にアルマジロングの弾丸スクリューボールを受ければ並の人間は助かる事はない。その事を知っている翼がマリアに逃げろと訴える。しかし、翼も内心分かっている。この距離から逃げようともアルマジロングの弾丸スクリューボールのスピードからは逃げられない。

 

 

 

 

 

 

「…ありがとう、風鳴翼。でもその必要はないわ!」

 

だが、次の瞬間には光ってる影から長細いジグザグ移動する鞭のようなものがアルマジロングの弾丸スクリューボールを弾き飛ばす。

 

「なにッ!?」

 

予想だにしない攻撃に体を丸めていたアルマジロングは弾丸スクリューボール状態を解き人型へと戻る。丁度、マリアも光ってる状態からシンフォギアを纏う姿へとなる。

 

「ガングニールではない!?貴様、そのシンフォギアは何だ!?」

 

マリアの姿を見て驚愕するアルマジロング。他の怪人たちは愚か翼とクリスも内心驚いていた。マリアの姿はガングニールの時の黒を主体ににした姿ではなく、全体的に白銀のように白く首元と胸から腹部にかけての黒しかなく太腿やヘソの辺りには薄い水色をし、左腕には肩当てと籠手の様な物がついていた。

 

 

 

 

 

「ガングニールではない別のシンフォギア!?マリア・カデンツァヴナ・イヴは、別のシンフォギアの適性があったのか!?」

 

マリアがガングニールではない別のギアを纏う事に驚く死神博士。死神博士は何時の間にか装者の適性のあるギアは一つが限界だと思い込んでいた。

 

「装者が適合できるギアは複数あるのか」

 

映像には複数の怪人に左腕の籠手から出した短剣を蛇腹剣にし、次々と襲い掛かる怪人を薙ぎ倒す。これに翼とクリスも援護し怪人を押し返す事に成功する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ゴースター、私が相手だ!」

 

「ちっ、邪魔をしおって!こうなれば貴様から先にマグマで焼き尽くしてやる!」

 

切歌と追いかけっこしていたゴースターは、徐々に切歌を追い詰めていく。元々体力の違いもあるが、改造人間であるゴースターは切歌を遥かに超える体力とスタミナがある。反面、切歌はまだ体の出来上がってない子供だ。どちらが有利かなど赤子でもわかる。

ヒット&ウェイでゴースターを翻弄した切歌に直ぐに限界が訪れあわやと言う時に響がゴースターにタックルして切歌は難を逃れる。そして、そのまま響はゴースターとの戦闘に入る。

 

「はああああああ!!」

 

響の拳がゴースターに命中する。それと同時に拳のジャッキも一気に閉じて衝撃がゴースターに襲い掛かる。

 

「アーブルッ!そんな攻撃で俺を倒せると思うな!!」

 

しかし、響の一撃を受けたゴースターは少しだけ後ずさるだけで全くの無傷だった。

 

━━━硬い!?翼さんやクリスちゃんが苦労した訳だ!

 

響が改めてゴースターの強度に驚愕する。嘗てのトカゲロン以上の耐久力だ。

 

━━━でも、今の私なら倒せる!その為にも!

 

響が己の両腕に付いているギアを力いっぱい引っ張る。響は今までの戦闘の経験でガングニールの力は腕のバンカーのようなパーツが圧縮されて、それが力になる事を知っている。だから、響は可能な限り引っ張り肩の方まで上がる。

 

「何をする気か知らんが死ねぇぇーーー!!」

 

響の行動を不審に思いつつもゴースターは、響に向けて火炎弾を放つ。今度の響はそれを避けなかった。

ゴースターの火炎弾は響に直撃する。火炎とマグマが響を襲う。

 

「ざまあみろ!何が俺を相手にするだ、お前は灰になって燃え尽き「まだだー!!」ろ…!?」

 

ゴースターは信じられない物を見た。響が火炎弾で燃えてるにも関わらず腰のブースターで加速しゴースターに接近してるのだ。

 

「馬鹿な!?幾ら改造人間でも俺の火炎弾をまともに浴びたんだぞ!!」

 

「知った事かあーーーー!!」

 

驚愕するゴースターを他所に響は拳を構えたままブースターを更に加速させとうとうゴースターに接近、その胴体に両手で同時にパンチする。更には両腕の肩まで上げたギアが一気に押し出されゴースターは、響の両腕から凄まじいエネルギーをまともに喰らう。

 

「死神博士に再改造されたとはいえこれ程とは!だが、忘れるな立花響!お前は俺達と同じ同類だということを!人並みの生活など…ギャアアアアアアアアアアアアアア!!!!」

 

最後に響に呪いの言葉をぶつけたゴースターだが目や口から火を噴くと同時に体中にヒビが広がり爆発する。爆炎や衝撃がその場の響に襲うが体の火をゴースターの爆風で消えただけである。

 

「…化け物」

 

響は一言口にして自分の手を見る。ゴースターの火炎弾により焼けた肌やガングニールのギアが再生していく。その速度は再改造前のよりも早かった。

 

━━━…私、本当に人間じゃなくなったんだな…

 

響としても分かってるつもりだった。死神博士に改造されショッカーを逃げ出して特異災害対策機動部二課に保護され体を調べられて怪人やノイズと戦い、未来を助け出した時は掌も再生して戦い続けてゾル大佐を倒した。その後、ショッカーに捕まり死神博士に再改造されても、響は自分に出来る事をして来た。

それでも、マグマをまともに受けてほぼ無傷は響にとってもショックだったのだ。

 

━━━ゴースターの言う通り、私は、もう化け物かも知れない。…でも

「今は、あなた達を倒すことを優先する!」

 

体に付いた冷えたマグマを取り払い、響が背後を振り向く。セミミンガとカメストーンが響に迫っていたのだ。響と怪人達の死闘はまだ続く。

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴースターから逃れた切歌は、調と無事合流に成功する。だが、同時に怪人達が切歌と調に迫る。

 

「先ずはこいつ等を先に始末してやる!」

「立花響に比べればこいつ等の力など雑魚も同然だ!」

 

そう言って、ムカデラスとサボテグロンが調と切歌を見て嘲笑う。しかし、何時までも笑ってはいられない。マリアが新たなシンフォギアを使い、強豪怪人であるゴースターが立花響に敗れた。とっとと二人を始末して味方と合流する気でいるのだ。

 

「切ちゃん」

「私達も舐められたものデース」

 

互いの手を握り合う調と切歌が怪人達を睨みつけ、切歌はイガリマを握り調は頭部ユニットの大きな丸鋸を展開する。

 

「何を悪足掻きしている!?」

「雑魚は雑魚らしく死ねぇぇ!!」

 

調と切歌の行動を悪足掻きと断じて二人を殺そうとサボテグロンはサボテン棒を、ムカデラスは肩付近の足先を取り外して手裏剣のように投げる。しかし、攻撃が命中する事無くサボテン棒はイガリマに弾かれムカデラスの手裏剣は丸鋸に弾かれる。

 

「「!?」」

 

「私達も見くびられたものデス」

「確かに、私達は立花響と比べれば弱い…」

 

そう言って、二人は手をつないだまま動き出す。まるで二人で踊るような動きに怪人達が翻弄され攻撃の殆どが外れる。

 

「私達は半人前。それでも…」

「一人では弱くても!」

「切ちゃんと」

「調と」

「「一緒なら一人前」デス!!」

 

調の大型の丸鋸がムカデラスを切り刻み、切歌の大鎌がサボテン棒で防御するサボテグロンを両断して撃破する。二人の踊るような攻撃は更に続き他の怪人たちも次々と撃破していく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「馬鹿な!マリア・カデンツァヴナ・イヴだけでなくあんな小娘どもに怪人どもが撃破されてるだと!?」

 

フロンティア内部のジェネレーター付近で高みの見物をしていた死神博士が信じられない様に言う。

予定では、風鳴翼たちを抹殺し立花響を連れ戻すのに十分な戦力の筈だった。いくら、マリアたちが加わり反撃しようと、シンフォギアの能力も経験も翼たちに比べれば低いマリアなど敵ではない筈だった。

 

「不味い…このままでは全滅だ」

 

見れば、立花響がセミミンガとカメストーンを撃破し、マリアの方は翼とクリスの援護でサイギャングとアルマジロングが撃破されている。全滅するまでそんなにかかりそうにない。

 

「これでは、フロンティアの放棄も視野にいれねばならん。…認めるものか!!」

 

ショッカーは、フロンティアの占領に大兵力を使ってしまった。各国に潜り込んでいた工作員に洗脳した兵士を動かした大作戦なのだ。失敗したでは済まない。

切り札はまだある。…あるが、失敗の許されない死神博士は何か無いかとフロンティアのシステムを調べ、良い物を見つけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

響達はマリアたちと合流し、凄まじい速さで怪人達を倒していく。セミミンガとカメストーンを倒した響はナマズギラーと毒トカゲ男も殴り倒し、調と切歌の踊るような動きで怪人達を翻弄してアリガバリとザンブロンゾを倒して、マリアも翼たちと共同でトリカブトやベアーコンガーを倒していく。

 

「止めろ!なんとしても奴等の息の根を止めるんだ!!」

 

ゴースターもトドギラーも敗れ残ったザンジオーが隊長として生き残った怪人に命令を下す。元より逃げ帰る事は許されない。

しかし、残った怪人達も勢いのある響達を止められなかった。響に調と切歌にマリアに次々と倒され残った怪人はザンジオー一人となる。

 

「残ったのはお前一人だな、ザンジオー!」

「謝ったって許さないデース!」

 

マリアや翼、響と切歌といった装者が完全にザンジオーを囲んでいる。完全に形勢逆転されてしまった。

 

「ほざけっ!ただでは死なん、ショッカーの恐ろしさを味合わせてやる!」

 

しかし、この程度でザンジオーが弱音を吐くことはない。ショッカーの為ならば命など惜しくもないと思わされてるのだ。

 

「待って、みんな」

 

一触即発の空気の中、待ったをかけた人物がいた。マリアだ。

 

「マリア?」

「どうしたんデスか?マリア」

「…ソイツに聞きたい事があるの」

 

調と切歌の言葉にマリアがそう返してマリアはザンジオー睨みつつ一歩前へ出る。

 

「なんの用だ、裏切者め」

 

「一つ聞きたい。6年前にFISの施設を襲撃したのはお前か?」

 

「6年前?」

「…!それって!?」

 

翼やクリスに響が6年前と聞いて顔を見合わせ、調と切歌は何かを思い出したようだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

6年前、私はFISの施設に居て其処で完全聖遺物の実験を妹と見学していたわ。完全聖遺物、ネフィリムの実験が終わればマリアと妹のセレナのシンフォギアの起動実験が行われる筈だった

 

「起動したネフィリムの出力は安定してるとは言えません。ネフィリムの実験はここまでにした方が…」

「…議会を説得するのに時間と金もかかったんだ。このまま実験中止など認められるものか!?」

 

昔、体も健康だったマムが上司…所長にそう言ってたけど、彼らも簡単には諦められなかった。この研究をする為に莫大なお金と時間が掛かり、ここで中止すればまた同じような実験が何時出来るか分からなかったからだ

 

「しかし、このままでは十中八九ネフィリムが暴走を起こすのは明白です!そうなれば、この施設どころか職員にも被害が」

「…やむを得んか」

 

それでも、マムの説得で署長もネフィリムの起動実験を中止するようだ、元より下手にやって責任問題にしたくなかったのかも知れない。このままネフィリムも元の状態に戻される筈だった

その直後に、轟音と地響きが施設を襲った。非常灯がつき警報が鳴り響く中、各所から火の手が上がると共に人の悲鳴が聞こえだした

 

「何事です!ネフィリムが暴走したのですか!?」

「…違います!襲撃です、NブロックにSブロック…正面玄関からも武装勢力に襲撃されてます!!」

「なんですって!?」

 

突然の事にマムは実験中のネフィリムが暴走したのかと疑うが帰って来た答えはマムの予想を外した。仮にも合衆国の施設でのテロリストの襲撃に研究者たちも慌てだす。この施設には警備員が何人もいたが悉くが殺されたらしい

監視カメラの映像には非常灯の中、銃を乱射する警備員を殺害する顔をペイントした黒タイツの人間と異形の化け物のような怪物が映る。私もセレナも茫然とする中、マムと所長、そして私達の耳には凶報しか入らない

 

「第四ゲートを突破!警備員が全滅!!」

「レセプターチルドレンの居る区画で火の手が!消火システムが作動しません!!」

「敵の一団が此方に接近!隔壁を降ろします。…駄目です、隔壁が破壊されました!!」

 

「一体…何が…」

「全職員の避難を!マリア、セレナ、私達も避難します!」

 

突然の事に茫然とする所長と全職員に避難を促すマムは私とセレナの手を取った。この施設を放棄するのかは、分からなかったけど避難するのは賛成だった

 

でも…

 

「●●●■■■■■■■■■■■■■■■■ーーーー!!」

 

襲撃により中途半端に停止していたネフィリムが突如咆哮を上げ、施設に体当たりし始める。何人かの職員がネフィリムを止めようとするが、

 

「駄目です!ネフィリムが停止しません!」

「それどころか、施設からエネルギーを奪って成長しています!」

 

ネフィリムは完全に暴走していた

暴れるネフィリムと謎の襲撃者の所為で指令室はパニックになっていた。せめてネフィリムだけでも止めないと…

 

「姉さん、マム、私…歌うよ」

「!?セレナ!」

「待ちなさい、セレナ!歌うとは…まさか!?」

 

混乱した指令室でセレナの歌う発言。間違いなくセレナは絶唱を歌う気だった

 

「私の絶唱でネフィリムを起動する前に戻せるかも知れないの」

「無茶よ!仮にしれでネフィリムを止められても襲撃者も居るんだよ!」

 

そう。仮にセレナの絶唱でネフィリムを止められても黒ずくめの襲撃者が問題だった。彼らの目的が分からない以上、下手に動くのは…

 

「それでも、暴走したネフィリムを外に出すよりはマシ。姉さんもいるし、FISの人達もいる。最悪、ネフィリムを戻した後、この施設から脱出すればいい。だから、何とかなる!」

「セレナ…」

「ギアの力は私が望んだ物じゃないけど、この力で皆を守りたいの」

 

非常灯と警報が鳴る中、セレナは明るく言うが、私の目はセレナが震えている事に気付いた。セレナも怖いのだ、適合値を上げるLiNKERもまだ完成していない。後天的適合者である私やセレナが絶唱を歌えばただでは済まない

 

「…覚悟は固いようですね、セレナ」

「マム…」

 

セレナと私のやり取りを見守っていたマムが私達に話しかける。他の職員もどうにかネフィリムや襲撃者の動きを止めようとするけど上手くいってないようだ。その時、この指令室の外のネフィリムの実験をしているラボの入り口が爆破され、何人もの人影が入り込む

 

「奴等、もう此処まで!?」

 

所長の声に私達は、ガラス越しで襲撃者の姿を見る。監視カメラでも映っていた顔をペイントした黒ずくめの男達だ。ん?奥からもう一人来た。非常灯の所為で分かりにくいがあの化け物だ

 

「これが、FISの完全聖遺物か。有難く我々が貰う事にしよう。やれ!」

 

その化け物が隊長各だったようで顔にペイントをしていた黒ずくめ兵士達に命令をしたわ。ネフィリムもその男達の存在に気付いて目標を変えたわ

黒ずくめの男たちが縄の様な物を出してネフィリムに投げたり背負っている火炎放射で攻撃するけどネフィリムには大して効かず逆に縄を掴まれ振り回されたわ。その振り回された黒ずくめの男は別の男達に次々と薙ぎ払われて最後には指令室の窓ガラスに投げられてガラスが砕けると共に何人もの科学者が割れたガラスで負傷する

 

「ちっ、思いのほかやる!変われ俺がやる!」

 

部下たちの体たらくに隊長各の化け物がそう言ってネフィリムに飛び掛かる。黒ずくめの男達に比べ化け物は強く、ネフィリムも苦戦していたわ。遠い上に非常灯で見え難いが化け物の繰り出すパンチやキックでネフィリムを仰け反らせ口から吐く火炎にネフィリムも悲鳴のような咆哮を上げる

 

「今なら!」

「セレナ!」

「待ちなさい、マリア!」

 

ネフィリムと化け物の戦いにチャンスを見出したセレナは、私から離れて行く。思わずセレナの名を呼んで私も付いて行こうとしたがマムに止められた

セレナは、指令室の割れたガラスから飛び出してシンフォギアを纏いネフィリムと化け物の前に立った

 

「なんだ?邪魔をするのなら貴様も死ねぇ!!」

 

Gatrandis babel ziggurat edenal

Emustolronzen fine el baral zizzl

 

セレナの絶唱が辺りに響く。私の居た指令室にも澄んだ歌声が聞こえマムたちが何か作業をしている

 

「こんな所で歌うだと?恐怖で頭でもおかしくなったのか!?」

 

絶唱を知らないのか化け物は、セレナの歌を馬鹿にして嘲笑う。知っていれば死に物狂いで止める筈だ。…その声を聞いていた私もとても悲しかった

 

Gatrandis babel ziggurat edenal

Emustolronzen fine el zizzl

 

「もういいか?ならば死ねぇ!」

 

絶唱を歌い終わったセレナは最後まで笑っていた。そして、セレナが両手を広げると共に光と衝撃波が私達を襲った

 

「何だ、このエネルギーは!?ギャアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」

 

最後に化け物の声が聞こえて来たけど私にはどうでも良かった。直ぐに立ち上がった私は直ぐにセレナの下に走っる。頭では解ってるけど心が納得しない

 

現場には、もうネフィリムも化け物も居なくなっていた。遠目から見た限り黒ずくめの男達も隊長各の化け物が倒された事で逃げたようだ。今は、それより!

 

絶唱の影響で施設の一部が崩落する中、セレナは直ぐ見つかった。絶唱を歌った場所から動かずに祖母がよく歌ってくれていたリンゴの唄を口ずさんでいる

 

「…セレナ!」

「……よかった」

 

セレナが振り向いた時、私は思わず息を飲んだ。目や口からの流血、セレナの時間は長くないと私は直感した

 

「誰か!誰かセレナを助けて!!」

 

それでも、まだ病院や医務室に運べば助かるかも知れない!その望みに私は指令室に向かって叫んだ。でも、

 

「急いで救援を呼べぇ!!」

「駄目だ!外との連絡がつかない!」

「医務室が完全に潰されてる!なるべく姿勢を低くして避難するんだ!!」

 

指令室では既にパニックに陥っていた。当然だ、襲撃にセレナの絶唱であらゆる機器にダメージが入り、各所から火の手が上がっている。換気システムで一酸化炭素中毒にならず有毒ガスも吸わずにすんでいるが、何時までもこの場にはいられない

 

「お願い助けて!私の妹なの!!」

 

それでも、妹を助けたかった私は必死に助けを呼んだ。でも、殆どの職員は負傷してそんな余裕はない。中には足を引きずってる者も居て誰も助ける余裕なんかない

 

「待ってて、セレナ!」

「危ない、マリア!!」

 

助けを期待出来なくなった私は、もう自分で助けに行こうとした時、地響きと共にマムが私を押し倒した。直後に私やセレナに無数の瓦礫が振る。マムが庇ってくれて私は平気だったけど、

 

「セレナーーー!!!」

 

振って来た瓦礫はセレナを圧し潰すには十分だった。無数の瓦礫がセレナに降り注ぐ中、私はセレナを名を叫んで意識を手放してしまう

そして、意識を取り戻した後には、セレナの形見であるギア、アガートラームだけが残った

 

 

 

 

 

「…マリアにそんな過去が…」

「…セレナが突然いなくなったのはそれが原因デスか…」

 

マリアの話を聞いていた翼の呟きと切歌の声にマリアは静かに頷き、ザンジオーを睨みつける。

 

「当時は薄暗くてよく見えなかったけど、火を吐いた時に薄っすらと姿が見えた。ザンジオー、6年前に施設を襲ったのはお前か!?」

 

マリアとしても、ハッキリとザンジオー本人とは言えない。薄暗く遠目でしか見ておらず、何より6年間の記憶だ。マリアとしてもセレナが死んだ事を思い出したくもないがこの際、ハッキリとさせたかった。セレナの死にショッカーが関わってるのか。何より今にして思えば黒ずくめの男達は戦闘員と酷似している。

 

「…フフフッ、あの時の小娘の片割れがお前だったか」

 

そして、ザンジオーの返事はマリアの予想通りだった。

 

「その言葉、やっぱりお前だったのね。セレナの絶唱から逃げられたの?」

 

「死んださ、一度な。あの小娘の所為で俺は組織での評価がガタ落ちだ!」

 

事実、ザンジオーはセレナの絶唱のエネルギーで消滅し絶命した。しかし、ショッカーはザンジオーを再生させて再び使役していたのだ。

尤も、小娘であるシンフォギアに敗れた事でエリート怪人と呼ばれた評価はガタ落ちとなり一時は大幹部候補と呼ばれていたが一般怪人扱いとなった。

 

「お前の評判なんかどうだっていい!何故お前達は施設を襲った!」

 

マリアの声に怒りが混じる。当然だ、ザンジオーたちが襲撃しなければネフィリムは暴走せずセレナが死ぬことはなかったかも知れないのだ。

 

「知りたいか?知りたいならば教えてやる!俺達の目的は三つあったのさ!」

 

マリアの憤怒をよそにザンジオーの口からは楽しそうに語る。評価がガタ落ちとなったが肉親を亡くしたマリアの様子が実に面白く口も軽くなった。

 

「三つだと」

「それはなんだ?」

 

「一つは、FISの保有し実験してるという完全聖遺物の奪取。二つ目はフィーネの確保。そして、三つめは…レセプターチルドレンの抹殺だ!」

 

「!レセプターチルドレンを!?」

「なんでさ!?」

 

一つ目と二つ目の目的は翼たちにも予想がついていた。しかし、三つめは予想外であり思わずクリスが「なんでさ!?」と言う。

 

「レセプターチルドレンは、フィーネの受け皿だという情報は知っているだろう。その受け皿が減れば必然的にフィーネの居場所が絞れるというものだ!」

 

「「「!?」」」

 

ショッカーの長年の目的はフィーネの確保にある。しかし、フィーネは頭脳も技術も高く簡単には捕まらず下手に殺せば何時何処で復活するのかも不明だった。だからこそ、フィーネの受け皿というレセプターチルドレンを排除して少しでも絞り込みをするつもりであった。

事実、アリアの居た施設に居たレセプターチルドレンは、マリアを除き全滅しており別のFISの施設に居た調と切歌は助かった。

 

「…それだけの目的で…」

 

「全てはショッカーがフィーネを確保が目的だ!邪魔をするのならば貴様らは死ね!「死ぬのはお前だ」…!?」

 

マリアに向かって毒づくザンジオーだが、横からの声に一瞬黙る。翼が一気に近づき剣で切ったのだ。

切られたザンジオーはそのまま倒れて爆発する。

 

「すまんな、マリア。本来ならお前が決着をつけたかっただろうが」

「…いいのよ、これでスッキリしたわ…」

 

翼の謝罪にマリアはそう答えるだけだった。

ザンジオーの燃える様子を黙って見ていたマリアの目から一筋の涙が流れる。

 

 

 

 




ザンジオー「実は俺は三人目だった」

と言う訳でマリアが言っていた怪人はザンジオーでした。
原作は、FISでの事故でしたがこの世界ではショッカーの襲撃によりネフィリムが暴走しました。襲撃された事により職員たちもセレナを罵る暇はありませんでした。

カ・ディンギル跡地で戦ったザンジオーは再生怪人です。


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67話 星が音楽となった…かの日

YouTubeにて、初代仮面ライダーの映画『仮面ライダーVSショッカー』が公式から無料公開されてます。何日までと書かれてないので何時まで無料公開するのだろうか?

今更ですけど、新しい方の映画、ディケイドのオールライダーやレッツゴー仮面ライダーも一年前から配信していたんですね。……レッツゴーのDVD先日買ったのに……


 

 

最後の怪人、ザンジオーが爆散したことでこの場での戦いは終了したと言っていい。翼とクリスが辺りを警戒して見回すが増援は無さそうだった。

 

「ショッカーの戦力はもう無い…のか?」

 

怪人どころか戦闘員も出てこない事に翼は訝しげに呟く。ショッカーがフロンティアを手に入れたい以上は、もっと戦力を出すと思っていた。

 

「…マリア…」

「大丈夫デスか?」

 

そんな空気の中、調と切歌はマリアへと近づく。セレナは調と切歌にとっても大事な友達だった。そのセレナの死にショッカーが関わっていた以上、マリアの心境が心配だった。

 

「…平気よ、今はショッカーを…死神博士を倒さないと」

「………」

「…そうですか、それは良かったデス…」

 

そう言って、マリアは二人に強気な態度を見せる。尤も、マリアとの付き合いが長い二人にはマリアの空元気だという事に気付いている。それでも知らないふりしてマリアの空元気に付き合う二人。

そんな、三人のやり取りを見守る事しか出来ない響とクリスだが、翼たちの通信機に発信音の後に指令の弦十郎の声が響く。

 

『本部の解析にて高出量のエネルギー地点が判明した。ウェル博士の言葉が正しければ、其処が炉心があるジェネレータールームだ。そして、そのジェネレータールームに死神博士が居る』

『ちょっと待って下さい!その言葉だと僕の言っていたことを信じてなかったような発言じゃないですか!!』

『ウェル博士、言葉の綾です言葉の!』

『何が綾ですか!?そんなんだから日本人は分かりにくいとか言われるんですよ!!』

『そんな事、僕に言われても…』

          ギャースカ ギャースカ

『いい加減にしろ、お前ら!!…とにかく装者たちは本部からの情報に従って急行せよ!』

 

通信の最中にウェル博士の文句と緒川の窘める声が口論となり遂には弦十郎の雷で終息した事で苦笑いの翼たちだが、弦十郎の命令に了解と言って通信を切る。

 

「行くぞ!この場に槍という、そして剣を携えてるのは私達だけだ!」

「分かってる、イカレたクソ爺に引導を渡してやる!」

 

翼の言葉にクリスも片手で拳を握って掌に打ち付けて翼に賛同する。声には出さないが響も頷き、死神博士の居る場所に向かう事に反論はない。

そのまま三人で指定された場所に行こうとしたが、

 

「ちょっと待つデース!」

 

切歌の待ったに響達が振り向く。其処にはマリアと調、切歌も行く気満々の姿だった。

 

「私達も行くわ。ショッカーと決着をつけなきゃね」

「マリア…分かった、共に行こう」

 

マリア達の決意に翼も納得して共に行く事になった。それぞれが顔を見合い少しだけ表情が柔らかくなり移動しようとした。

 

『その必要はない、其処がお前達の墓場となるのだ!!』

 

死神博士の声が通信機を介さず響達の耳元に聞こえた。恐らく、フロンティアの技術を使ったのだろう。

 

「死神博士!」

「観念するデース!」

「お前の自慢の怪人軍団はアタシ等が全部倒したぞ!!」

 

『確かに怪人達を倒したのは見事と言っておこう。だから、貴様たちには此奴の相手をしてもらおう』

 

そう言った直後に響達の前の地面が脈動するように動き出す。また、地面から怪人が飛び出すのかと警戒するが、装者たちは信じられない物を見た。

地面がドンドンとせり上がりそれが形となり黒く変色していく。

 

『見せてやろう!これがフロンティアを吸収し同化したネフィリムの力をな!』

 

「で…でかい!」

 

せり上がった土くれは更に大きくなり目の部分が黄色く光り、目の下の頬の部分には赤い三本の盛り上がったスジのような物が見える。そして全長は怪人に比べ十数倍以上の大きさに達し腰には巨大なショッカーベルトが巻かれている。

 

「うへ~」

「相変わらず自己顕示欲が高けえ…」

 

『●●▼▲■■■ーーーーー!!』

 

切歌とクリスが呆れた声を出すが、怪獣と化したネフィリムが雄叫びを上げると共に背中から何かが撃ち出され、まるでミサイルのような軌道を描き響や翼たちに襲い掛かる。

当然、響達も指を咥えて眺めてはいなく直ぐに全員がその場を離れると目標を失ったミサイルは誰も居ない地面へと着弾。爆散する。

 

「あれが自立型完全聖遺物なのか!?」

「怪人より厄介じゃねえか!?」

 

翼の驚愕の声と共にクリスもネフィリムの厄介さに舌を巻く。何よりも大きさが違い過ぎる上に大量のミサイルと威力にも驚く。破壊力だけでもショッカー怪人がよく出す指のミサイルより威力が高いように見えた。

 

更に、ネフィリムは地面に着地した調と切歌に向け火炎を吐き出す。これもまたゴースターが出した火炎弾を超える大きさである。

 

「デース!?」

「…これは厄介…」

 

間一髪回避した二人だがどちらも余裕が無い。当然だ、怪人達との戦いからの連戦だ。体力の低い二人には辛くもある。

 

『いいぞ、ネフィリム!暴食と言われたその力をもっと見せろ!我等、ショッカーの邪魔をする小娘どもを聖遺物ごと喰らい尽くせ!!』

 

死神博士の命令を聞いたのか、ネフィリムは更なる雄叫びを上げる。それはまさに獲物を狩るハンターのようにも見えた。

 

「やらせない!!」

 

響達もただ見てるだけでなく、クリスがガトリング砲と小型ミサイルで攻撃し、翼と響もジャンプしてネフィリムに飛び掛かる。

 

「ハアッー!」

「このッ!」

 

翼が剣を大型化して切り付けたり響がネフィリムの胸元に拳を当てる。が、ビクともしない。

 

「チッ、あの時より硬くなってやがる!!」

 

クリスの記憶にカ・ディンギル跡地で戦ったネフィリムを思い出す。あれも十分化け物だったが今のネフィリムに比べれば子供だましにしか思えなかった。

そんな事を考えるクリスにネフィリムは口から火炎を吐き出し、腕を鞭上にして翼と響に攻撃する。

 

辛うじて避けるが連戦もあって翼たちは苦戦する。

 

「何時までも好き勝手…」

「やらせないデース!」

 

その時、鞭上に伸ばしたネフィリムの腕に細長い物が絡みその細長い物を手繰り、切歌が断頭台にしたイガリマで腕を切り落とす。そして、シュルシャガナを非常Σ式・禁月輪の状態で高速移動してネフィリムの胴体を切りつける。

切り付けられたネフィリムから濃い緑色をした液体がながれ断末魔を上げる。

 

「私達がいるのを…」

「忘れて貰っては困るデース」

「調ちゃんに切歌ちゃん!ありがとう、助かったよ!」

 

響達の攻撃により隙を伺っていた調と切歌が響達のピンチに乗り込んでくる。助けられた響の礼に切歌が「フフーン」と鼻を高くするが、

 

「切ちゃん…」

「…分かってるデス。此奴は思ったよりも厄介デース」

 

調の声に切歌が振り返る。そこには調が切り付けた傷どころか、切歌が切り落とした腕すら再生させるネフィリムの姿だった。再生速度は響をも凌駕している。

 

『フッハハハハ!いいぞ、予想以上の性能だ!これならば、邪魔な装者を片付けた後は、月が落ちるまでコイツを地上で暴れさせるのも面白かろう!!』

 

死神博士の燥ぐ声が装者達の耳にも届く。クリスや響が奥歯を噛みしめてネフィリムを睨みつける。自分達が倒されたらアレが地上に解き放たれてしまう。それだけは避けねばならない。

 

「不味いぞ、オイ!」

「早く倒さないと!」

「倒すったって…」

 

死神博士の言葉に焦りだすクリスと響。何とか倒そうとクリスがガトリング砲とミサイルを出し、響も再び拳で攻撃するが、今度はネフィリムの咆哮で吹き飛ばされる。

 

「雪音!立花!」

「!…強い!」

「質量でも厄介だってのに」

 

吹き飛ばされ倒れたクリスと響に駆け寄る翼。今の状態では打つ手がないと考えそうすればいいかと考えて居ると、

 

「みんな、諦めないで!私達にはまだ歌がある!」

「!…マリア!」

「マリアさん!」

 

激励の言葉に皆が一斉に振り向くとフロンティアの影響で浮かんでいる大岩にマリアが立って翼たちの方を見ていた。皆には、その目がやけに力強く感じる。

 

「マリア、何か策でも?」

「…一つだけあるわ。みんな、此処に来て!」

 

マリアに策があると聞いた翼たちは互いに顔を見合った後にマリアの方へと向かう。それよりも早く調と切歌はマリアの居る場所に到着していた。

 

「マリア…」

「マリアさん」

「…私だって諦めない。だって、マムが命がけで月の落下を止めようとしてるのだから」

 

そう言って、マリアは月を見る。響達も釣られて月が昇る空を見つめる。

 

『何をする気か知らんが、散らばらず集まってくれて助かる。まとめて灰となれぇ!!』

 

死神博士の指示通り、ネフィリムは今まで以上の火球をマリア達に向け吐き出す。吐き出された火球は真っ直ぐマリア達の方に向かい、マリア達もその火球に気付く。

そして、マリアの居る場所は火球ごと爆発四散する。

 

『…フッハハハハ、直撃だ。アレでは幾らシンフォギアだろうと一溜まりもあるまい、仮に生き残るとすれば我が最高傑作の立花響くらいだがそれでも無事では済まんだろ。さて、直ぐにネフィリムを地上に送り込むとするか。いや、その前に地獄大使にでも……!』

 

勝利を確信し悦に浸る死神博士だが、耳に妙な音楽が聞こえて来た。

 

Seilien coffin airget-lamh tron

 

『聖詠だと!?まさか!』

 

死神博士が再びモニターに目を向ける。モニターにはネフィリムの火炎が直撃して煙で舞う中、人影が見える。そして、煙が一気に晴れ其処に居るのは無傷の六人だった。

 

『馬鹿な!いくら、シンフォギアでもあの攻撃で無傷だと!カ・ディンギル跡地でのネフィリムとは比べ物にならないんだぞ!』

 

響達が無事な事に驚愕する死神博士。「一体謎?」と思いながら見ているとマリアの体が光ってる事に気付く。

 

『さっきの聖詠といい…なるほど、一度シンフォギアを解いて再び聖詠を歌い装着時のエネルギーでバリアを張ったのか!?小細工をしおって!』

 

種が分かればこちらの物と死神博士は、もう一度ネフィリムに火炎を吐かせることにした。

 

━━━調が居る。切歌が居る。翼たちも、マムにドクター…セレナも居る。みんなが居るのら、これ位の奇跡…

「安いもの!!」

 

託す魂よ

繋ぐ魂よ

 

天を羽撃つヒカリ

弓に番えよう

 

響達は歌う。絶望的な状況でも響達はまだ歌うのだ。

 

『まだ歌うか!今更、歌なんかでどうにかなると思うなぁぁ!!』

 

ネフィリムの口から再び火炎が吐き出される。それもさっきよりも大きい。

 

「セット、ハーモニクス!!」

 

その時、響がマリアの前に出る。その体はマリアに負けない以上の光が溢れている。

 

「S2CAを力に変えて!!」

 

そして、以前に見せた両腕のギアを片腕に集め一つとして拳を握り腕のパーツを変形させる。そして一気に響は火炎を殴りつけると火炎は一気に拡散消滅する。

 

「!?」

 

響が周りに仲間が居たとはいえ単身でネフィリムの火炎球を無力化した事に驚く死神博士。

そんな死神博士をよそに歌は続く。

 

何億の愛を重ね

我らは時を重ねて

 

「悪を倒すのに理由なんていらない。共に戦おう」

「?……!…」

 

翼が調べに抜けて手を差し出す。最初は翼の言葉を理解出来なかった調だがゆっくりと頷き翼との手を握る。

 

原初の鼓動の歌へと

我らは今還る

 

「アタシも助けるつもりが助けられるなんてな。情けねえ」

「それはお互いさまデスよ」

 

クリスはソロモンの杖とショッカーから助けようとした切歌たちに逆に助けられた事を自分で自虐にしつつ笑みを浮かべ切歌も少しだけ笑みを浮かべて二人の手は握り合う。

 

「調ちゃん…切歌ちゃん…」

 

調と切歌が翼とクリスの手を握ったのを見て嬉しくなる響。響も出来れば皆と手を繋ぎたかったが死神博士の再改造により、せっかく弦十郎との特訓で手加減して手を握れるようになったのに、また最初からやり直しである。今は諦めるしかない。

 

紡ぐ魂よ

腕に包まれて

 

そう思っていた時、響の両掌に暖かく柔らかい物が触れた。

 

「え?」

 

響が左右を見ると調と切歌が響の両手に触れて繋いでいる。二人の顔は響に向けた笑顔だった。

 

「調ちゃん、切歌ちゃん」

「何を黄昏ているデスか?」

 

太陽のように強く

 

「…私はアナタの事を誤解していた。アナタの苦しみを辛さを。…だから見せて。アナタの光を…」

 

月のように優しく

 

「…うん」

 

調と切歌の言葉に響はゆっくり頷く。響の脳裏に嘗て翼とクリスで共闘したノイズとの戦いを思い出す。その時も自分が躊躇する中、翼とクリスに手を握られた事を。

 

沸き立つ未来

物語の終わりへ

 

━━━繋いだ手だけが紡ぐもの

 

響と調と切歌の様子を見たマリアの頭の中に言葉が生まれる。彼女達は決して一人ではないのだ。

 

そしてまた咲くのだろう

 

そこまで歌った時だった。マリア達の体から出る輝きは更に増す。

 

『絶唱か!だが、無駄な事だ!6匹程度の絶唱では、このネフィリムを倒す事など出来ん!』

 

死神博士はそう言った瞬間、ネフィリムの赤い筋から幾つもの光線マリア達に降り注ぐ。光線は辛うじてマリア達の絶唱のエネルギーで防げているがマリア達のシンフォギアが悲鳴を上げる。ギアやインナーが裂け始めたのだ。このままではシンフォギアが解けて生身になってしまう。

それでも響達は歌い続ける。

 

奇跡はやがて歴史へと

誇り煌めくだろう

 

『終わるのはお前達たちだ、あの世でショッカーが世界を征服する姿を見届けるがいい!!』

 

「そんな事、させない!それに六人だけじゃない、私が束ねるこの歌は…70億の絶唱ぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

響の叫びのような声と共に天空に六本の光の線が交差する。それはまるで紐のように絡み合う。

 

『馬鹿な、この力は!?』

 

光りはそれぞれ、オレンジ、青、赤、白、緑、ピンクとなりその光りの中から、響達が出る。その姿は力は歌う前より上がっていた。

 

『エクスドライブ!?またも奇跡を起こしたと言うのか!?』

 

何億の愛を重ね

我らは時を重ねて

 

響達のシンフォギアがエクスドライブモードになっている事に驚愕する死神博士。小日向未来の時も驚いたが、今回はそれ以上であった。響や翼、クリスだけでなくマリアに調、切歌までもエクスドライブモードになっていたのだ。

 

「死神博士、アナタには分からないだろうけど。これが響き合う皆の歌声がくれた、シンフォギアだあぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

奇跡はやがて歴史へと

誇り煌めくだろう

 

六本の光は集まりやがては一つとなり、まるで矢のごとくネフィリムに突貫し貫く。直後、その場に七色に光る竜巻が宇宙にまで昇る。ほんの僅かではあるが、見る者がいれば、美しいと言える光景でもあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ネフィリムが消滅した。

 

「おのれぇ!おのれぇぇ!!!」

 

響達のエクスドライブモードにネフィリムは敗北した。モニターには響達がエクスドライブのまま飛んでいる姿が映り、死神博士の口からひたすら呪詛が飛び出る。

 

━━━何処だ!?何処で形勢が不利となった!こんな筈では無かった、本来ならば特異災害対策機動部二課を殲滅してフロンティアを手に入れ、要塞化した後に洗脳した兵士どもを改造人間にし、更に怪人の製造プラントを作ってフロンティアを怪人製造工場としても機能させる筈が…

 

「…いや、まだ月がある!」

 

月さえ落下してしまえば、例えフロンティアを手に入れられなくても逆転の目はある。死神博士がそう考えた時、ノートパソコンを持った戦闘員が急いで死神博士の下へ来る。

 

「どうした?」

「一大事です。これをご覧ください!」

 

そう言って、戦闘員が開いたノートパソコンを見せる。と同時に死神博士も気付く。

落下する筈の月が地球から遠ざかり軌道に戻りつつあった。

 

「…ナスターシャめぇ!!」

 

どうやったかは、分からなかったが死神博士は直ぐにこれをナスターシャ教授が何かしたのだと感づく。

 

━━━こんな事ならば、ナスターシャを直接殺しとけば良かった!月の落下が阻止されフロンティアの奪取も失敗したとあっては、首領になんと言えば。これもそれも立花響が、特異災害対策機動部二課に奪還されたのがケチの付きはじめだ。…待て、あの時立花響は何と言っていた?70億?全人類を集めた総数だが、何時の間に人間どもが結託したのだ?…分からん、分からんが…

 

「ムシケラどもが…こうなれば」

 

立花響が全人類の力を借りたと推測した死神博士は、ある作戦を実行する為に地獄大使に通信を繋ぐ。

 

『死神博士か?一体どうなっている!?怪人どもに洗脳させた兵士どもが正気に戻ったぞ!これでは作戦の続行は不可能だ!』

 

死神博士の耳に通信向こうの地獄大使の文句が入る。

ムカデラスや蜂女といった人間を操れる怪人達が響や翼に撃破された事によって操られていた兵士たちが正気に戻り逃走や反乱などが起こっていた。

鎮圧に乗り出した地獄大使が一部の反乱を潰したが別の場所でも起こっており移動もし辛いフロンティア内部で組織の立て直しを図っている。

 

「地獄大使、作戦は失敗した。フロンティアを放棄する」

『何だと!?ふざけるな!ここまで来てそれか!?』

 

死神博士の言葉に地獄大使が罵倒気味に反論する。この作戦はショッカーでも重要視されており、かなりの戦力を注ぎ込んだ。それが失敗したと諦めてしまえばその全てが無駄になる。暫く、ショッカーも動けなくなる可能性が高い。何よりこの作戦は死神博士が主導して行われたのだ。失敗では死神博士の首だけでは足りないと言っていい。

 

「だから責任をとろう。地獄大使、お前は脱出しろ。私はアレを使い、例の作戦を強行する」

『!…アレに例の作戦だと!?…本気なのだな』

 

文句を言っていた地獄大使だったが、例の作戦と聞き死神博士の声色で本気だと気付く。それならば、死神博士が脱出しろと言う言葉も納得できる。例の作戦だとこちらも巻き込まれる可能性が高いからだ。

結局、死神博士はそう言った後に通信を切る。

地獄大使は、恐らくフロンティアを浮かせた時に付けた人工重力装置GXの潜水艦に乗って逃げるだろうと判断する。

 

 

 

「見つけたぞ、死神博士!」

 

「?」

 

通信を終え行動しようとしていた死神博士の耳に男の声が聞こえジェネレータールームの入り口を守っていた戦闘員が吹き飛んでくる。吹き飛ばされた先には、特異災害対策機動部二課の司令官の風鳴弦十郎にそのエージェントの緒川慎次。そして、弦十郎に背中でおんぶされているウェル博士も居た。

 

「ふん、貴様らか」

 

「その様子では、響くんたちがやってくれたようだ」

「あなた達が手にするには世界は大きすぎたようですね」

 

ウェル博士を降ろした弦十郎は緒川と共に死神博士に近づく。途中、細い橋のような場所を通るが弦十郎達の前に戦闘員が立ち塞がる。

 

「まだ、こんなに戦闘員が!?」

「死神博士、神妙にしろ!」

 

「愚か者め、まだ私には切り札があるのだよ」

 

「!」

 

戦闘員達に弦十郎と緒川を相手にさせてる隙に死神博士は、再び操作盤に触れようとしたが、緒川が一歩早く拳銃を取り出して発砲する。銃弾は戦闘員の隙間を縫い死神博士の影に当たる。

直後に、死神博士の動きが鈍った。

 

「ほう…これが影縫いという奴か」

 

「これでアナタは動けません。大人しく観念して投降して下さい」

 

戦闘員の相手をしつつ緒川が死神博士に降伏するよう言う。特異災害対策機動部二課としても悪の大幹部だからといって命を奪うのは躊躇いがあるようだ。何より特異災害対策機動部二課としてもウェル博士以外からもショッカーの情報を欲しがったからだ。

 

「温いな、その銃弾で私の頭を撃ち抜いていれば勝ったかもしれんものを。風鳴翼が何度も使った影縫いなど、とっくに対策できてるわ!」

 

「そんな!?」

 

緒川の影縫いが効いている筈だが、死神博士は緒川に見せつけるように腕を動かして見せる。ショッカーの改造人間は風鳴翼の影縫いに何度も苦しめられており、その対策は急務と言えた。そして、遂に先日死神博士は影縫いの対策を構築し初めて使ったのだ。

ぶっつけ本番になったが自身の体で実験は成功。後は生きて帰りこの情報や技術を他の怪人に備えるだけだ。

 

戦闘員がいる内に再び、死神博士が操作盤に触れようとする。もう緒川でも止める事は出来ず、弦十郎も数いる戦闘員に手古摺っている。このまま、死神博士が操作盤に触れるかと思われた。その時だった、

 

「?」

 

ネフィリムと一体になった左手から何かが落ちた。別に何かを持っていた訳でもくっ付いていた訳でもない。何かが落ちた。死神博士の目からの映像にはそれは細長く少し曲がっており爪のようなものが見える。

死神博士が自身の左手を見る。小指が無くなっていた。

 

「なっ!?」

 

死神博士が今日何度目かの驚愕するが今までよりも驚きが大きい。小指が無くなっていただけではない、他の指や手事態も炭化してきている。まるでノイズに触れたかのように。

 

「やっと効いて来たようですね。先生」

 

心の中で狼狽する死神博士の耳に聞き覚えのある声が聞こえ視線を向ける。

 

「ウェル、貴様か!」

 

視線の先には眼鏡を弄るウェル博士が佇んでいる。…足は相変わらず震えていたが、

 

 

 

 

 

 




今回は原作通りネフィリムとの決戦でした。
シンフォギア劇中のネフィリムと大差はありません。せいぜい、ネフィリムに金色のショッカーベルトが巻かれているだけです。

そして、とうとうウェル博士の反撃。


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68話 死神博士の切り札

 

 

 

「撤収だ、撤収するぞ!動ける戦闘員達に直ぐに潜水艦に乗り込むよう言えっ!」

 

フロンティアのとある大空洞に男の声が響き渡る。ショッカーの大幹部、地獄大使の声だった。その声に戦闘員達は急いで移動したり短距離通信で別の場所に居る戦闘員にも地獄大使の命令を伝えている。

 

「アビ~。しかし、宜しかったので?地獄大使」

 

其処で、地獄大使に話しかける怪人が居た。その怪人は青と白い斑点のある左腕に鋭い鋏を持ったアワビの裏のような顔をしている。

 

「…何が言いたい?シオマネキング」

 

各員に撤収の命令を出して居た地獄大使だったが、シオマネキングと呼ばれた怪人の質問に機嫌が下がる。それを何となく察したシオマネキングは、恐る恐る質問を続ける。

 

「いえ!死神博士を助けに行かなくてよろしいので?フロンティアの破棄が決定したのなら瓦礫を退かさず壁を破壊して進めばいいのでは?それに死神博士の連れて来た怪人が全滅していたとしても我々が居ますが」

 

イィ~チ!

      ブゥゥーヨオーン!

                  ブリュリュリュリュ!

 

シオマネキングの言葉に呼応するように他の怪人達も声を上げる。地獄大使が命じれば直ぐにでも死神博士の応援に行く気でいる。

 

「…止めて置け」

「は…」

 

しかし、地獄大使の答えはNOだった。シオマネキングは内心、二人の仲はやはり悪いのかとも考える。

 

「ワシが死神博士の立場なら、頼んでもいない救援など断固として拒否する。自身の失態は自身の働きで返さねば大幹部の名折れよ」

 

地獄大使と死神博士は、両名ともショッカーの大幹部であり互いにライバル視し牽制したりしている。それでも死神博士の実力は認めており、頼んでも居ない救援など出す気はなかった。

 

「死神博士が例の作戦を発動させればワシ達にも被害が出る。急ぎ此処から離れるぞ」

 

何より、死神博士の作戦の巻き沿いは願い下げだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

死神博士の左手の指がまた一本、炭化し床に落ちる。今にきて左腕の痛みに右手で抑える死神博士。

突然苦しむ死神博士に浮足立つ戦闘員たちと迎撃する弦十郎と緒川。そして、そんな死神博士を見てドヤ顔するウェル博士。

 

「な…何が起こったんですか?」

 

戦闘員を倒しつつ緒川がウェル博士の居る方を見て、そう聞いた。眼鏡を光らせたウェル博士は自慢げに口を開く。

 

「フッ、皆さんは生物の細胞に自殺する細胞があるのはご存じですか?」

「知らんッ!!」

「「「………」」」

 

話が終わってしまった。これには、死神博士も苦笑い。

答えたのは弦十郎だが、彼自身も戦闘員の相手をしていて気が回らなかった所為もある。このまま話が終わってしまうかと思われた時、

 

「…自殺する細胞といえば…アポトーシスか!」

 

溜息をついた死神博士が弦十郎たちの代わりに答える。裏切ったとはいえ、今まで死神博士が目を付けた若い科学者の中でもトップクラスの能力があるウェル博士がどのような手段をもちいたかは興味がある。

 

「そうです。それをネフィリムの細胞を組み込みLiNKERに仕掛けていたんですよ」

「完全聖遺物の細胞にアポトーシスって…無茶苦茶だ!」

「そう。確かに一見無茶に見えますが僕の生化学とナスターシャ教授の聖遺物の知識によって出来た奇跡とでも言いましょう!」

 

ウェル博士の仕掛けは、ある意味シンプルであった。LiNKERに仕組んだネフィリムの細胞にアポトーシスを仕掛け時間が経てば自壊するようにしていた。研究者でありナスターシャ教授やウェル博士を見下している死神博士なら、ネフィリムの力を見る為にも自身に注射すると考えての行動だった。

万が一にもナスターシャ教授やウェル博士に注射させフロンティアを操縦しろと言われた時は、フロンティアの持つあらゆる機能を使って死神博士を排除するつもりでもあった。

生化学の権威でもあるウェル博士と聖遺物の豊富な知識を持つナスターシャ教授の協力により出来た代物だ。

 

「あの時に、もう仕掛けていたか!腰抜けの貴様がよく行動出来たな、恩を仇で返しおって!!」

 

「…恩ですって?ふざけないで下さい。アナタの戯れで殺された大学での皆の仇とってみせてるだけです」

 

死神博士に反論するウェル博士の表情はどこか悲しげにも見える緒川たち。どうやら報告にあったウェル博士の通っていた大学でも何がか起こっていたと感付く。

 

「大学の皆?あのクズどもの死がお前の糧となったようだな。しかし私の弟子にしては腑抜けた事を、やはり互いに憎しみ合わせ殺し合いでもさせるべきだったか」

 

「悠長な事を言っている場合ですか?その腕では、もうネフィリムの力を使いフロンティアの操作も不可能な筈!いずれ炭化も腕から昇り体中を蝕む、アナタの命も尽きる!終わりです」

 

ウェル博士の言う通り、死神博士の左手の炭化はドンドン進み中指も床へと崩れ落ちる。このまま炭化すればやがては、死神博士の体まで炭化し命を落とす。

しかし、ウェル博士の話を聞いていた死神博士の表情はウェル博士を睨みつけていた直後に口元に笑みを浮かべる。

 

「終わりだと?ククク…すこしはやるようになったと思えば…まだまだケツが青いな、ウェル」

 

「!?」

 

「一見、私を倒すには良いアイデアだったかも知れんが、これには欠点がある。それは、私を殺すには時間が掛かるという事だ。そして、私にはそれだけの時間があるのなら…十分ということだ!!」

 

死神博士は、崩れる左手から右手を離し、その右手で操作盤に触れ凄まじいスピードで命令を打ち込んでいく。

 

「なっ、死神博士はネフィリムの力がなくても操作出来たのか!?」

 

「舐めるな!私が改造手術だけの男だと思っていたのか!?」

 

最後の戦闘員を殴り飛ばした弦十郎が驚きの声を出す。今まで、弦十郎たちもウェル博士、下手をすればマリアやナスターシャ教授すら、死神博士は腕のネフィリムを介してでしかフロンティアを操作出来ないと思っていた。それが、目の前で崩される。

僅かな時間だったが死神博士は、フロンティアのシステムを解析し終わりネフィリムの力が無くても手動で動かせる。ネフィリムを使っていたのは楽だったから程度だ。

そして、ほんの僅か一秒ほど死神博士が操作盤を弄ると、フロンティアをエネルギー炉が一際輝く。

 

「!?」

「何をした、死神博士!!」

 

「なに、簡単な命令よ。ネフィリムの心臓にジェネレーターを食い尽くせと言っただけだぁ!…左腕が面倒だ、来い一号!私の左腕を切り落とせ!!」

 

炭化しボロボロになっていく左腕を横に広げ誰かに命令する。突然の事で固まる弦十郎たちだが、ふと上から気配がして弦十郎と緒川が上を見る。そこには、ローブを深くかぶった人影が下へと落ちてきており手足もろくに見えないが、しかしローブの横から手が伸び、死神博士の左腕を切り落とす。死神博士の着ていた白いタキシードの一部が宙を舞う。

 

「自分の腕を切り落とした!?」

「まだそんな手を!」

 

緒川とウェル博士の驚愕する声を出す。その時、弦十郎の目にはその手には指の部分が黒く常ね辺りが白い、手の甲に黄色い物が付いているように見えた。

 

「ヌグッ!…久しぶりだ、この痛みも…」

「…大丈夫でしょうか?」

 

痛みを感じる死神博士に左腕を切り落としたローブを被った人物が話しかける。しかし、死神博士はそれを無視して右腕で懐を弄る。

 

「あれは…一体…」

「…此処に来て新しい怪人でしょうか…」

 

新たに出てきて、死神博士の命令通り左腕を切り落とした謎の人物を警戒しつつ死神博士の出方を見る。

 

切られた腕は床へと落ちると、残った指が痙攣を起こしたように動いた後、炭化して消えてしまう。

そして、死神博士は懐のケースから注射器などを取り出し切られた腕を応急処置して弦十郎たちを睨みつけ口元を歪める。その表情は明らかに笑みでもあった。

死神博士の不気味な笑顔にジェネレーターに付けられたネフィリムの心臓の赤い光が不気味に広がる。

 

「…!そんな場合じゃなかった!フロンティアのジェネレーターだけでも膨大なエネルギーがあるんです!下手をすれば、そのエネルギーでネフィリムの心臓は暴走を開始し、そこから放たれるエネルギーは一兆度に匹敵するんですよ!」

「一兆度だと!?」

 

「知っているとも、そんなこと」

 

ウェル博士と死神博士の言葉を聞いて直ぐに弦十郎が動く。一気に死神博士の下に近づく拳を振るう。

咄嗟に死神博士は避け、弦十郎の拳は死神博士が動かしていた操作盤を砕く。それを見た直後、ウェル博士が口をあんぐりとさせる。

 

弦十郎が操作盤を破壊し、ジェネレーターを見る。相も変わらずネフィリムの心臓がジェネレーターを侵食している。

 

「止まらんか」

「壊してどうにかなる状況ではなさそうですね」

 

操作盤を壊しても止まらない事に険しい顔をする弦十郎と緒川。

 

「いきなり何しとんじゃ!おまぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

「「!?」」

 

そんな二人に背後から怒鳴る声がする。振り返るとウェル博士が鬼の形相で二人に近づく。

 

「ウ…ウェル博士!?」

「な…御用でしょうか?」

 

あまりのウェル博士の剣幕にビビる二人。弦十郎は思わず敬語を使って喋る。

 

「なにいきなり壊してんだ!僕が操作すれば止められたかも知れないのに!!」

「…いや、壊した方が早いかと思って…つい…」

「つい。じゃねえぇ!!お前はテレビのリモコンを壊したら、ついているテレビも消えると思ってるのか!?これだから脳みそ筋肉は嫌なんだよ!!こっちが親切丁寧に教えてるのに『そんな説明は聞いていない』とか『何でもっと早く教えてくれなかった!』とか言いやがってよ!こっちは猿でも分かるよう説明したんだよ!書類や取扱説明書にもデカデカと書かれてる注意事項を何で守れない!あまつさえ読んでないんだよ!!そう言えば、ナスターシャ教授も最近、マリアが脳筋じみてるって悩んでたなぁ。そんなに僕らを悩ませて楽しいですか?ねえ、ねえ」

「お、落ち着いて下さい、ウェル博士!指令も悪気があった訳じゃないんです!」

「悪気が無ければ何してもいいのか!?」

 

相当ストレスが溜まっていたのか、ウェル博士の口からドンドン愚痴が出る。どうやら軍に居た時から脳筋には悩まされていたようだ。

弦十郎に文句を言い続け終いにはウェル博士の体から黒いモヤのよいうな物が見え、緒川がなんとか宥めようとして弦十郎も思わず汗だくとなり正座をしかける。そして、ウェル博士も遂には弦十郎をお前呼ばわりする。

ウェル博士がこれだけ文句を言うのも仕方ない面がある。死神博士が右手で動かした以上、弦十郎が破壊した操作盤をウェル博士なら動かせたかも知れないからだ。

あくまでも可能性があるだけだが、試す前に操作盤を破壊されてはどうしようもない。

 

「フッハハハハ!随分といい仲間を持ったではないか!ウェル」

 

「こんなゴリラ、仲間じゃねえぇぇ!!」

 

そんなやり取りを見て笑い出す死神博士。その口から皮肉とも言える言葉が出てウェル博士がマジギレの答えをし、それを聞いた弦十郎が少し落ち込む。それを慰める緒川とカオスな事になっている。

 

 

 

 

「遊びもここまでよ、ネフィリムの心臓がジェネレーターを食い尽くしたぞ」

 

死神博士の言葉を聞いて一斉にジェネレーターを見る弦十郎と緒川、そしてウェル博士。死神博士の言葉通りネフィリムの心臓がジェネレーターを食い尽くして落下し死神博士がそれを右手で取る。

ネフィリムの心臓は、より禍々しく赤く輝き何時暴走してもおかしくない。しかし、死神博士はそれを平然と持つ。

 

「死神博士、それを使って何を企む!」

 

「そうだな、先ずは地上にいる羽虫どもを駆除する事にしよう」

 

弦十郎の言葉に死神博士がそう返す。地上にいる羽虫、十中八九地上にいる響達の事だろう。

 

「翼達に何をするつもりだ!!」

「彼女達の下には行かせません!!」

 

弦十郎も緒川も死神博士をミスミス響達の下に行かせる気はない。片腕を失おうが死神博士には未だに不気味な自信が見える。

 

「お前達は一号と遊べばいい」

 

しかし、死神博士を止めようとした弦十郎たちの前に誰かが立ち塞がる。それは、死神博士の左腕を手刀で切り落としたローブを着込んだ者だ。ジェネレーターが消え薄暗いが体つきからして女性だと思われるが、ショッカーに組する以上、戦わない理由もない。

 

「悪いが其処を退いて貰うぞ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

弦十郎たちが戦いに入るのを見た死神博士は、足元で何度か床を小突くと死神博士の居る足場が浮き出す。即席のエレベーターとなった床で上へと昇る。

禍々しく赤く輝くネフィリムの心臓を見て邪悪な笑みを浮かべていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、地上では怪人や新たなネフィリムが出てこないか警戒をする装者たち。

その時、翼の通信機に弦十郎から連絡が来る。

 

「はい、こちら翼……なんですって!」

「どうした!?」

 

翼の声にクリスが反応する。響やマリアたちも口には出さないが翼に注目し視線を向ける。

 

「注意しろ、あの男が来る!」

「あの男…死神博士!?」

 

響達の目前の地面に突如穴が開く。そこから姿を現したのは死神博士だった。

それぞれが警戒し距離を取って飛ぶ。そんな響達を見て笑う死神博士。

 

「へっ、ケツに火がついて等々大幹部のお出ましか!」

 

先ず、クリスが強気な発言をする。しかし、額には冷や汗が投がれている。相も変わらず外が黒く中が赤いマントを羽織り、白いタキシードが嫌に似合う。

 

「貴様たちの所為でフロンティアを手に入れる事を断念したのだ。その罪、命を持って償って貰おう」

 

「ふざけないで、あなた達の目的で何人の人間が不幸になったの思ってるの!」

「…償うのはアナタ」

「神妙にするデス!!」

 

死神博士の発言にマリアたちが反論する。FIS以上の悪どいやり方にマリアたちも腹を立てている。何よりナスターシャ教授が宇宙に言った元凶とも言えるのだ。

何より、妹セレナの死もショッカーの襲撃の所為だった。マリアも米国のエージェントたちもショッカーに弄ばれていた。その借りを返す。そう誓うマリア。

 

「フッハハハハ、ショッカーの偉大な目的の前にムシケラどもがどうなろうと知った事ではないわ!寧ろ、利用された事を喜んで死ねばいい!」

 

「「「!?」」」

 

マリアたちは、まだ死神博士に言葉が通じると思っていた。しかし、死神博士の人を人とも思わない発言に自分達とショッカーの価値観は違うと悟る。口には出さないが翼と響も死神博士の態度に奥歯を噛みしめる。

 

「偉大な目的?世界征服がそんなに大事なの!?」

「それで負け続けたお前が言う事かよ、クソ爺!アタシ等と戦う気になったのか?」

「一人で私達全員を相手にするつもりか!」

 

響達が死神博士を前にかまえに入る。響は拳を、翼は剣を、クリスはボーガン、マリアも切歌に調も臨戦態勢を取る。ここで死神博士を逃がすつもりはない、装者たちは死神博士を捕らえるか倒す事を目標にしている

 

「勘違いするな、小娘。私自ら相手をする前にお前達に相応しい者達を用意してるのだ」

 

そう言って死神博士は、バッと右手を上に振りかざす。瞬間、死神博士の周りからローブを着込んだ人影が六人も出て来る。翼たちは知らないがその姿は、弦十郎たちの前に立ち塞がった者と瓜二つだった。

 

「やっぱり、まだ怪人が居たか!」

「懲りない連中だ」

「…でも、数は私達と同じ」

「今更、どんな怪人が来たって私達が負ける訳がないデース!」

 

切歌の自信満々の声に頷く装者たち。数多の怪人を倒しシンフォギアもエクスドライブモードになっている。どんな怪人が来たって勝つ自信がある。

しかし、それを聞いていた死神博士はフッと笑い出す。

 

「ならば見せてやろう、お前達が相手をする怪人をな!」

 

瞬間、六人の人物たちは身に纏っているローブを剥ぎ姿を現す。

 

「どのような怪人だろうと、私達は負けな……え?」

 

ローブを脱ぎ姿を現した者を見て声を詰まらせるマリア。

 

 

 

 

 

 

 

同時刻、弦十郎と緒川はジェネレーターあった広間でローブを着ている者と戦っていた。

 

「ハッ!」

 

弦十郎がローブの人物に拳を打ち込むが避けられ足払いされ、緒川の拳銃が撃ち込まれるが当たっても大したダメージはない。

 

「これなら!」

 

ならばと、弦十郎は敢えて背中を見せてそのままの勢いで鉄山靠を繰り出す。これにはローブの人物も反応が遅れ弦十郎の攻撃が当たるかに思えた。

 

「なにっ!?」

 

直後に弦十郎は驚く事になった。ローブの人物も弦十郎と同じ技、()()()を繰り出し弦十郎の技を相殺した。

 

━━━この動き、まるで!

 

双方の鉄山靠がぶつかり合い衝撃波が生まれると同時に互いが距離をとる。弦十郎にはローブの人物に思い当たりが出来るが、その考えを否定するように頭を振る。

 

━━━そんな筈はない、彼女は…

 

それをチャンスと思えたのかローブの人物が弦十郎を攻撃しようと動こうとしたが、一発の銃声が聞こえたと同時に動きが鈍る。

緒川がローブの人物に対して影縫いを使ったのだ。

 

「やれやれ、やっと動きを封じれました。先ずは正体を見せて貰いますよ」

 

今なら十分捕縛出来る。そう判断した緒川がローブの人物から纏っているローブを剥いだ。

 

「なっ!?」

「!?」

 

ローブの下から出てきた人物を見て弦十郎と緒川は驚愕の声を上げ、ウェル博士は顔を歪める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場所は戻り、翼やマリアたちのいる地上。ローブを脱いだ者達を見て皆が息を飲む。

 

「…馬鹿な」

 

翼が呟き、

 

「どういう事だよ…」

 

クリスが目を見開き、

 

「嘘…」

 

マリアが茫然として、

 

「なんデスか、これは…」

 

切歌が頭を混乱させ

 

「…悪趣味」

 

調が吐き捨てるように言う。

そして、響はただ何も言えず体を震わせ歯を噛みしめる。その表情は絶望に満ちていた。

 

━━━どうして…どうしてこんな事が…

 

「ククク…驚いたか、これぞ響計画の派生から生まれたSH計画『SHOCKER HIBIKI(ショッカー響)製造計画』。その集大成!ショッカー響、2号~7号だ!!」

 

響や翼たちの前に立花響と同じシンフォギアを纏い腰にショッカーベルトを巻いた六人の響達がいる。首にはそれぞれ白、緑、青、紫、桃、橙色のマフラーをしていて風が吹くたびマフラーが揺れていた。

 

 

 

 

 




弦十郎が原作と同じ行動をしたら、まともな方のウェル博士にキレられる話。まあ、原作でも一切の躊躇いなく破壊したし…。
GXもウェル博士が止めてなきゃマリアが壊してた可能性大。

ウェル博士が一杯食わせましたが左腕を切り落として無効。アポトーシスに関してはかなり適当。医療知識のない人間ではこれが限界。

そして、とうとうショッカーライダーのシンフォギア版、死神博士の最大の悪意、ショッカー響が登場。
これもまたシンフォギアと仮面ライダーのクロス物でやりたかったネタです。

恐らく、シンフォギア小説でも初であろう八人の響。奇しくも仮面ライダー原作の「8人の仮面ライダー」のタイトルと同じ数。マジで偶然です。
シンフォギアの小説全部読んだ訳でもないけど…ついでに言うと見た目と声だけが響ですけど。
イメージとしては、まんまグレ響こと並行世界の響がショッカーベルトを巻いてる感じです。

仮面ライダーの本編だとショッカーライダーが出るのはゲルショッカーからですが、漫画の「新仮面ライダーSPIRITS」ですと仮面ライダー二号が作られた時には何人かのショッカーライダーがいるのでそちらを採用。

尚、本物のショッカーライダーは本郷猛や一文字隼人のクローンではない。


最後に、死神博士が言っていたSH計画の詳細でも、


SH計画
ショッカーが響計画の派生で誕生した計画。
神出鬼没のノイズに対抗する為に、ガングニールのシンフォギアが使える立花響を量産しようと企てられたがクローンからのガングニールの出来が今一だった事を受けて誕生したのがSH計画である。
目的は、より高性能な立花響を作り各支部でのノイズ対策として用いられる事であった。

常態の良い響のクローンを選別してオリジナルの響からのデータを使い完成させる予定でもあったが、響がショッカーから逃げた事で頓挫、そのまま計画は凍結されたが響がエクスドライブでゾル大佐を倒した事で再び計画が復活する。

今までの響の戦闘データや再び捕らえられた響の身体データから生み出されたのが現在フロンティアに居る1号~7号のショッカー響である。尚、一号には首に赤いマフラーが巻かれている。



因みに、ショッカー響のマフラーは劇中のショッカーライダーと並行世界の響がモデルです。


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69話 偽物の響!? その名はショッカー響

今回、ちょっとややこしいのでどの装者がショッカー響を相手にしてるのか。


一号 赤いマフラー → 弦十郎たち
二号 白いマフラー → 響
三号 緑のマフラー → 翼
四号 青のマフラー → クリス
五号 紫のマフラー → マリア
六号 桃のマフラー → 切歌
七号 橙のマフラー → 調


 

 

 

響達の前に現れた六人の響達の情報は直ぐに本部へとも伝えられる。

 

「響ちゃんが7人!?どういう事!」

「それも身に纏っているガングニールも本物だ!」

 

オペレーターである藤尭朔也と友里あおいも、これには驚愕する。凶悪で醜悪な怪人がまた現れるかと思っていたが、出てきたのは二課所属のショッカーから奪還された立花響と同じ姿の少女だ。

立花響の顔は美少女とも言える顔立ちだが六人も揃うと威圧感を感じる。

 

いきなりの事でもデータを集めようと藤尭朔也はデスクで色々操作し友里あおいも未来に席を譲っているが己の職務を全うしようと動く。

 

「ちょっと待って、何か反応が…月の落下の影響で隕石が近いの?一応響ちゃん達に連絡を…消えた?大気圏に燃え尽きたのかしら?」

 

月の落下が阻止された情報は司令部にも上がっている。しかし、あおいは月が接近した影響か幾つかの月の破片が隕石となり地球に近づいてる事に気付く。念の為に響達に注意させようと思った、あおいだがセンサーから隕石らしき物体が消滅した事で響たちの様子を見る事にした。

 

「…響」

 

そして、モニターを見る未来は現場にいる親友の事が気がかりだった。しかし、モニター向こうでは死神博士が呼び寄せた響達がマリアや翼たちに襲い掛かる。

 

 

 

 

 

 

 

「ショッカー響!?完成していたんですか!!」

「知ってるんですか!?ウェル博士!」

 

脱がされたローブから現れた赤いマフラーをしたショッカーベルトを巻いている響の顔を見てウェル博士が驚愕の声を上げ、緒川がそれに反応する。

対峙する弦十郎は、目の前の響から視線を外さないがウェル博士の言葉を聞いていた。

 

「向こうの資料で呼んだ憶えがあります。立花響を改造人間にし摘出した臓器や血液、肉体からクローンを作るのが『響計画』。そして、その派生から生み出されたのは『SH計画』。言うなれば改造人間立花響の量産計画。眉唾でしたが目の前で見せられては…」

「響くんを量産だと!?」

 

ウェル博士の言葉に弦十郎も声を荒げる。

 

━━━年端も無い少女を拉致監禁だけでなくクローンを作って弄ぶ。ショッカーめ、許さん!!

 

そして、弦十郎は目の前のショッカー響を倒すのではなく保護しようと考える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ショッカー響は、元々立花響の量産体として造られた。目的も各支部に出現したノイズの排除であり、そこまで強い怪人と言う訳ではない。ましてや今の響達は数多の戦いを潜り抜け、エクスドライブを使い戦う、まともに戦えばショッカー響に勝ち目はない。

 

しかし

 

「うわあああああ!!」

「雪音!?うわあああ!!」

 

クリスが悲鳴と共に地面に叩きつけられる。その様子に気を取られた翼の背後をショッカー響三号の蹴りが入る。

他でも腹に蹴りを入れられるマリア、イガリマでショッカー響六号の首を狙おうとするもショッカー響の顔を見て動きが止まり顔面に拳を喰らう切歌、頭部のユニットから丸鋸を出して戦うが丸鋸の攻撃で飛び散る血を見て吐きそうになる調。

 

響に至っては、

 

「こんな戦い止めてよ!アナタはショッカーに操られてるだけで私と同じ立花響でしょ!」

 

「………」

 

戦いつつショッカー響二号の説得を試みる。目の前の白いマフラーをしたショッカー響がどうしても自分と重ねてしまったからだ。

 

「ククク…予想通りだ」

 

そして、その姿を見てほくそ笑む死神博士。全ては死神博士の予想通りと言えた。

 

━━━シンフォギアを纏おうと所詮は小娘。懸念であった防人の家系の風鳴翼すらあの様だ

 

死神博士としては、ショッカー響にはあまり期待はしていなかった。実験用として先行量産型として調整も終わらない内に実戦投入され怪人としての強さも上級にはいかなくせいぜい中級の上程度、更には響達はいまエクスドライブモードに入り上級怪人でも手を焼く強さだ。本当なら占領したフロンティア内で最終調整する予定であった。

そこで、死神博士は響達の甘さを利用した。

 

━━━場数を踏もうが所詮は小娘だ。仲間である立花響と同じ顔を攻撃するの躊躇うのは当然か

 

以前の翼やクリス、マリア達ならショッカー響を攻撃するのを躊躇なのしなかっただろう。しかし、共に過ごし戦う事で連帯感が生まれ仲間として認め背中を任せる。

 

━━━それが貴様たちの弱点よ!仲間を思うが故に足元を掬われる。説得しようにもショッカー響の思考は世界中から選ばれた重犯罪者の思考をブレンドした物だ。オリジナルの立花響とはそもそも価値観も合わん

 

ショッカーではほぼありえない弱点である。故に死神博士はこれを狙っていた。

 

戦況は、説得を続けようとする響にショッカー響が両手を響に向けて指から無数のロケット弾を撃ち込む。

エクスドライブのおかげであまりダメージは無いが腕をクロスして防御する響。

 

「後は私の頭部に埋め込んだ装置の力を使えば、万に一つの勝ち目もあるまい」

 

そう言って、死神博士は空を見上げる。空から赤い物が降って来るのを確認し勝利を確信した。

 

 

 

 

 

 

「この、いい加減にしやがれ!!」

 

ショッカー響の猛攻を受けるクリスはアームドギアのボーガンを取り出しショッカー響に向ける。心苦しく感じるクリスだが引き金に指をかけた。

 

「…今度はそのボーガンで私を撃つの?()()()()()()

 

「!?…グハッ!」

 

初めて聞くショッカー響の声にクリスは思わずアームドギアを引っ込めてしまう。それを確認したショッカー響はオリジナルの立花響が決してしないような笑みを浮かべるとクリスの腹に拳を入れる。

 

「雪音!?ぐっ!」

 

クリスの蹴られる姿を見てしまい注意がそれた翼にショッカー響が襲い掛かる。

 

「よそ見していていいんですか?翼さん」

 

「くっ、その姿で私の名を呼ぶな!!」

 

ショッカー響に名前を呼ばれた翼がアームドギアの剣を取り出し一気に振り抜こうとする。そして、どういう訳かショッカー響は回避も防御も行わなかった。

 

「今度こそ、その剣で私を切るんですね。翼さん!」

 

「!?」

 

翼の脳裏に嘗て、響を邪険にしていた時の記憶が蘇る。

 

『これから一緒に戦えるようがんばります!』

『歌えないアナタが?』

 

『でも、そうね。戦いましょうか。私とあなたが』

『え!?…どう…して…』

 

「ハッ!」

 

正気に戻り視線を戻した時には視線に入ったのはショッカー響の足の裏だった。隙を付いたショッカー響が翼の顔を蹴ったのだ。

 

クリスと翼は響の姿や声を使い翻弄され、マリアたちも似たようなものだった。

 

「優しいマリアさんはもう戦ったら駄目ですよ」

 

「な…何を言って…」

 

「マリアさんのやってきた事なんて所詮無駄なんですよ。世界は必ずショッカーが支配するんですから」

 

「そんな事、私がさせるものか!」

 

「そう言って、また手を血で汚すんですか?気付いてます?マリアさんの手は血で汚れ切ってる事を」

 

「!?」

 

 

 

 

 

 

「マリアさんの足を引っ張ってる事を分かってるの?切歌ちゃん」

 

「!?なんデスか突然!」

 

「本当は分かってるんでしょ?お薬を使って適合値を上げなきゃ碌に戦えない役立たず。恥ずかしくないの?」

 

「お前に言われる筋合いはないデス!!」

 

「後、切歌ちゃんってデスデスうるさいね。キャラ作り?」

 

「それを言ったら戦争デスッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

「アナタって裏切ってばっかだね、調ちゃん。次はどこで寝返るの?」

 

「………」

 

「黙秘するんだ、もしかして図星だった?またショッカーに入る?それともパヴァリア光明結社にでも…」

 

「よく回る舌。悪趣味極まりない!」

 

 

 

ショッカー響の言葉に踊らされるマリアたち。これが並みの怪人ならばこのような事を言えばエクスドライブモードのシンフォギアに瞬く間に倒されるだろう。しかし、なまじ心を通わせた響の姿に顔、声といった、まるっきり響と瓜二つの少女に武器を使うのを躊躇われる。

完全に死神博士の術中に嵌っていた。

 

 

 

 

そして、更に、

 

「クッ、好き勝手しやがって…なんの音だ?」

 

先程からやられっぱなしのクリスが先に気付く、空から何かが降って来る音がしてショッカー響を警戒しつつ視線を音の方に向ける。それは、赤く燃える隕石だった。

 

「なっ!?」

 

咄嗟に避けるクリス。隕石はクリスを掠めてフロンティアに命中し爆発した。

 

「何だよ、これ!?…!」

 

あまりの事にクリスが空を見ると、更に赤く光る幾つもの点が近づく。気付けば自分以外にも翼や響にマリアたちにと隕石が落ちていく。

 

「うわああああああああ!!」

「きゃあああああああああ!!」

 

避ける者もいるが中には直撃する者も居る。エクスドライブのシンフォギアで何とか負傷せずにいられるが何時までも持つとは考えられない。降り注ぐ隕石を何とか回避する装者たち、クリスも隕石を回避する中、ショッカー響四号が襲い掛かる。

 

「何だって、こんな隕石が!?」

「この状況で都合がよすぎる、それに隕石は私達にだけ降り注いでいる!」

「ショッカーは隕石すら操れるの!?」

 

マリアの混乱に翼は隕石が自分達にのみに降り注ぎショッカー響たちや死神博士には全く振って来ない。直ぐに、この隕石がショッカーの仕業だと確信する翼と驚愕するマリア。

 

種は割れた。しかし、翼や響達が不利なのは変わることない事実だった。翼たちは隕石を気にしながらショッカー響と戦いを強いられている。

 

 

 

 

 

「翼さんもクリスちゃんもマリアさんたちも苦戦している。…私と同じ姿だから?」

 

響も降り注ぐ隕石を拳で破壊してショッカー響二号と戦いつつ説得を試みたが効果があるようには見えない。

 

「フフフ…もう直ぐ、皆死ぬのに無駄な抵抗を止めたら?」

 

「!?」

 

焦る響を嘲笑うかのようにショッカー響二号が嫌味を言って微笑む。今まで響の言葉を無視して沈黙していたからか、突然喋った事に響がビックリした。

 

「無駄なんだよ、全部。大人しくすればアッサリ殺してくれるのに…何で抵抗するの?抵抗すれば抵抗するだけ苦しむだけ」

 

「そんな事ない!確かに怪人も多いし死神博士いがいにも大幹部の地獄大使がいる。でも…」

 

ショッカー響二号の言葉に反論する響。ショッカー響の言葉は響にとって許せないものだった。即ち、大人しくショッカーに殺されろと言っているようなものだ。

 

「ショッカーの目的は世界征服、その為には邪魔な人間を排除しなきゃならない。だから、死神博士は隕石を利用する事を思いついた」

 

「…隕石を」

 

「そう、隕石を流れ星にして世界を破壊し尽くす。その為に私達は生み出された。皆死ぬよ、風鳴翼も雪音クリスもアンタの母親と婆さんも…後、小日向未来って奴もね」

 

「!?」

 

それまで、ショッカー響の言葉を聞いていた響の頭にプチンッという音が聞こえた気がした。次の瞬間には羽を使い一気にショッカー響に迫ると、その顔に拳をぶち込む。

 

「なっ!?」

 

殴られたショッカー響は意味が分からなかった。エクスドライブとの差を埋める為に装者の心理を揺さぶり満足に戦えなくして()()()()()()()()隕石を利用して装者を一掃する作戦であったが何故自分が殴り飛ばされたのか?

分からないままショッカー響は浮遊する岩石にぶち当たり体がめり込む。そして、殴った本人である響は拳を震わせ涙を流す。

 

「…よく分かったよ、アナタは…お前は私じゃない!姿形だけそっくりに作られた只の偽物だ!翼さん!!クリスちゃん!!マリアさん!!切歌ちゃん!!調ちゃん!!」

「「「「「!?」」」」」

 

響の叫ぶ様に皆の名を呼ぶ。一瞬、ショッカー響がまた何か仕掛けたかと考えるが悲痛な叫びに近い声に視線だけ響に向ける。

 

「そいつ等は、私に似てるのは姿と声だけです!…だから倒しても問題ありません!戦いにくかったら私が代わりに…」

 

響はただ許せなかった。前々から皆と一緒に見たかった流れ星をあろうことか兵器にしたショッカーや死神博士。響が守りたい者達の名を使い皆殺しにすると言われ、何より親友である小日向未来の名を聞いた響の堪忍袋の緒が切れた。それこそ、翼たちが戦い難いのなら自分が代わりにショッカー響全員と戦う覚悟をするくらい怒りと悲しみが溢れる。

 

その響の悲痛な言葉と涙に翼たちは息を飲んだ直後に響の方に顔を向ける。

チャンスと思ったショッカー響たちが一斉に死角から襲い掛かる。しかし、ショッカー響の攻撃は悉く装者たちに防がれた。

 

「!?動きが変わりよった!?」

 

その動きを見た死神博士が思わず呟く。先程までならショッカー響の攻撃は確実に装者たちに致命傷を負わせる筈だった。だが、今ではショッカー響の姿も見ずに迎撃した。

 

「相変わらずだな、立花」

「アタシも焼きが回ってたな、アイツと同じ姿だから…どこか本物と同じだと期待しちまった」

「もう迷わないと決めたのに…恥ずかしくなるわね」

「私もデス」

「私達も心のどっかで、あの偽物を本物に重ねていたみたいね」

 

互いに顔を見合わせ笑いショッカー響の方に視線を見せると同時に攻撃した拳や足を撥ね退ける。吹き飛ばされたショッカー響が何とか体勢を立て直し翼たちを睨みつける。その目には憎悪が燃えていた。

 

「舐めるなぁぁぁ!!!」

 

ショッカー響達が一斉に手を翼たちの方へ向けると指から幾つものロケット弾が撃ち込まれ翼たちに命中して爆発する。攻めの手を緩めなかったショッカー響達は更にロケット弾を撃ちだし攻撃を続ける。

爆発で起こる煙で完全に翼たちの姿が見えなくなるがショッカー響たちは撃ち続ける。暫く経ってショッカー響達が撃つのを止め腕を引っ込める。並みの怪人ならば木っ端みじんになる程の爆発力だ。

 

「それで終わりか?」

 

『!?』

 

しかし、煙が晴れた後に居たのは無傷の翼たちだ。ショッカー響達の攻撃は確実に当たっていたがエクスドライブモードの翼たちを倒せる程の威力はなかった。

死神博士は、ショッカー響たちの動揺を感じていた。

 

━━━完全に形勢が逆転したか、通常時なら兎も角エクスドライブモード相手ではこの程度か。ならば!

 

「ショッカー響たちよ、今こそ『SHOCKER』を使えっ!」

『了解!』

 

死神博士の命令にショッカー響達が一斉に首のマフラーに手を入れる。

 

「ショッカーがショッカーを使う?何言ってんだ?」

「切ちゃん」

「…まさか」

 

突然の死神博士の発言にクリスが意味不明だと呟き翼も響もマリアも同意するが心当たりのある調と切歌が互いの顔を見る。そして、それは十中八九当たっていた。

ショッカー響達は首に取り付けられていた装置を使い自身にショッカーが開発したショッカー版LiNKERことSHOCKERを注入したのだ。

直後に、ショッカー響達に変化が訪れる。オリジナルの立花響と同じ姿だったシンフォギアがドス黒くなり顔もシンフォギアと同様に黒く変化し目が赤くなる。

 

「暴走か!?」

 

翼とクリスは肉眼で見た事がある。カ・ディンギル跡地での戦いで感情が暴走した響がシンフォギアを暴走させた姿を、身の前の光景と瓜二つだった。

 

「…あれが…」

 

響のその姿を見て翼の「暴走」発言に反応して呟く。客観的な視点で暴走する姿を見る響。

 

「暴走であって暴走ではない。SHOCKERを打ち込んだ事でショッカー響達のシンフォギアの力は数十倍に跳ね上がる。これならばエクスドライブとも十分戦えよう!」

 

ショッカーが急務としていたのは特異災害対策機動部二課の他にエクスドライブの解明もあった。ゾル大佐が最後に送ったデータでエクスドライブモードはいずれ自分達の障害になると判断したショッカーは響のクローン体で実験を行い遂に新型のLiNKERこと『SHOCKER』を完成させることに成功した。安全性は皆無といえるが問題はない、特異災害対策機動部二課や装者たちを抹殺出来れば後はどうにでもなるとの判断だ。

 

一見、ショッカー響達もカ・ディンギル跡地での響のように暴走してるように見えるが死神博士の命令通り動くことが出来、戦闘力も飛躍的に上昇している。

両腕を槍のような形態にしたショッカー響たちが一斉に翼やクリスに襲い掛かる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同じ頃、フロンティアのジェネレーターがあった場所でも弦十郎とショッカー響の死闘が起こていた。

 

「ちっ、人間のクセに!」

 

「人間だからこそ強くなれるんだ!」

 

ショッカー響一号のロケット弾を気合で撥ね退け肉弾戦に持ち込む弦十郎。赤いマフラーを靡かせ相手をするショッカー響。

ウェル博士の護衛として緒川は参戦しなかったが、戦いは徐々に弦十郎が押しているのが分かる。

 

「凄い戦いだ…」

「ショッカーが、風鳴弦十郎を狙った訳が分かりますね…」

 

腰のバーニアと脚部のジョッキを駆使して空中を飛ぶショッカー響に対して弦十郎は壁に向けてジャンプして対抗する。一見無茶にも見えるが弦十郎は、これで十分対応していた。

堪った物ではないのはショッカー響だった。データで弦十郎の強さは知っていたがここまで人間離れしてるとは思っていなかった。

 

「貴様、やはり改造人間だろぉ!我々を欺きよって」

 

「だから、俺は人間だ!!」

 

遂には、ショッカー響にも人間かどうか疑われ反論する弦十郎。それだけ、弦十郎の身体能力は異常と言えた。そして、遂に弦十郎の拳がショッカー響に届き出す。

 

「なっ!?」

 

「悪いがこのまま押し通るぞ!!」

 

弦十郎の拳が早すぎて分裂してるように見えたと同時に無数の拳の衝撃がショッカー響を襲う。頬、顎、腹、胸、などが弦十郎の拳に殴られショッカー響は碌にガードも出来ない。

 

「これで止めだ!!」

 

最後に弦十郎はより力を込めた拳をショッカー響に叩き込む。短い悲鳴を上げたショッカー響は拳の勢いでジェネレータールームの壁に激突、そのまま壁が砕けると共に瓦礫と共に落ちた。

 

「やったー!」

「た…倒したんですか!?」

 

その様子を見て純粋に喜ぶ緒川と改めて弦十郎の身体能力に驚くウェル博士。ウェル博士も弦十郎の身体能力はある程度把握しているがショッカー響を圧倒した事は純粋に驚く。

 

地面に着地した弦十郎はよっくりと崩れた壁に近づく。目的はショッカー響の保護である。

 

━━━あれだけ攻撃したんだ、気絶してくれればそのまま保護出来る。あんな娘に戦いを強要させてはいけない!

 

弦十郎は、良くも悪くも大人であった。未成年を戦力にしてノイズと戦わせているが出来る事なら子供は子供で過ごしてほしいと思っている。それは。雪音クリスや姪の風鳴翼にショッカーに拉致され改造人間にされた立花響にも出来れば戦わずに青春を送ってほしい。

そして、その考えは目の前のショッカー響にも思っていた。正直、ショッカー響を保護出来るか分からない、政治家たちがどう扱うかも分からないし、ショッカーの技術を欲しがる者だって居るかも知れない。無責任かも知れないと考える弦十郎だが、目の前の少女()を放置出来る性分ではないのが弦十郎だった。

 

━━━我ながら不器用だな、俺は…「痛い…痛いよ…」!!

 

涙交じりの少女の声に思わず立ち止まる弦十郎。その時、目の前の瓦礫が動き、誰かが出て来る。ショッカー響一号だ。

 

「痛いよ…此処は何処?お父さん、お母さん…帰りたいよ…」

 

先程までの機械的な声ではない。まるで幼い子供が泣きじゃくるような声だ。その声に弦十郎の足は駆けだす。

 

━━━ショッカーの呪縛が解けたのか!?

 

子供が泣いているのを、大人として見過ごせない弦十郎は急いでショッカー響の下に辿り着く。その目には涙を流して不安そうに弦十郎を見ていた。

 

「…アナタは誰?」

「俺は特異災害対策機動部二課の指令をしてる者だ。君を保護したい」

「保護?お家に帰れるの?」

「ああ。…直ぐにとはいかないだろうが必ず」

「…ありがとう!」

 

弦十郎の言葉にショッカー響が抱き着く。右腕の方に抱き着いて引っ張る事で子供らしいと思い頭を撫でた。

 

「…指令、良かったですね。ね、ウェル博士」

 

二人の様子を見ていた緒川がそう呟き笑みを浮かべてウェル博士の方を見る。しかし、ウェル博士の顔色は真っ白だった。

 

「ウェル博士?」

「何をしてるのです!直ぐにショッカー響から離れなさい!!」

 

何かに気付いたのかウェル博士は急いでショッカー響を引き離せと言う。その言葉に顔をポカンとさせる弦十郎と緒川。

 

「大丈夫だ、ウェル博士。この子はショッカーの呪縛から解かれたんだ」

「きっと指令との戦いで響さん本来の人格が戻ったんですよ」

 

二人はウェル博士が心配し過ぎだと判断した。今まで近くでショッカーを観察していたウェル博士が本来の人格に戻ったショッカー響を罠だと思った。そう考えて居た。

しかし、

 

「馬鹿ですかあなた達!ショッカーがそんな甘い訳ないでしょう、それにショッカー響に埋め込まれた意思はショッカーが選りすぐった重犯罪者の思考です!立花響の人格など欠片も無いんです!」

 

「「!?」」

 

ウェル博士の言葉に緒川は汗を掻き、弦十郎は未だに右腕にしがみ付くショッカー響に目を向ける。ショッカー響は未だに体を震わせている、最初は泣いてるのかとも思ったが違う。()()()()()

 

「き…君…」

 

そっと左手でショッカー響の頭を再び触ろうとした時、しがみ付いていたショッカー響が顔を上げて弦十郎の顔を見る。その目にはハイライトが無く不気味に見えた。

 

「ありがとう…チョロくて…」

 

ショッカー響がそう呟いた直後、辺りに強烈な閃光と衝撃波に熱波が暴れた。

 

 

爆発の音が静まり辺りには打って変わって静寂に包まれた。熱と衝撃波も消えていくが爆発の影響で煙が辺りを舞う。

 

「指令っ!!」

 

緒川が急いで爆発した中心部に急ぐ。ショッカー響が爆発した…いや自爆したのだ。威力からして並みの爆発ではない、並みの人間ならそれこそ木端微塵に吹き飛んでいてもおかしくはない。

指令なら大丈夫だと心の中で思っていても緒川は安心できず弦十郎の姿を探した。

 

「指令っ!」

 

弦十郎はアッサリ見つかった。爆発の影響かトレードマークでもあった赤いシャツは破れネクタイも千切れて無くなっている。体中にも火傷の痕があり爆発の凄まじさが物語る。だが、緒川が何よりも注目したのは…

 

「指令…右腕が…右腕が!!」

 

弦十郎の右腕が二の腕部分から完全に無くなっていた。ショッカー響の自爆により消し飛んだのだ。

 

「指令っ!」

 

急いで駆け寄る緒川、必死に千切れた弦十郎の右腕の傷口を押さえて千切れた弦十郎の右腕を探すが何処にも見当たらない。緒川の手には生暖かい液体の感触がし、それでも傷口の出血を抑えようと必死だった。

 

「何してるんですか!?」

 

そこへ怒鳴り声が聞こえて振り向くとウェル博士が血相を変えて近づいてくる。

 

「ウェル博士!指令の…指令の右腕が!!」

「見れば分かります!アナタは取り合えずそのネクタイを取りなさい!…助けたいんだろ!!」

「は…はい!」

 

緒川は言われた通りに抑えるのを止め自身のネクタイを取りウェル博士に差し出す。緒川から差し出されたネクタイを弦十郎の右腕部分を縛るウェル博士。その後、ウェル博士が持っていた医療器具で応急処置をするが此処では限界があるとして急いで特異災害対策機動部二課の仮設本部である潜水艦へと戻る事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん?ジェネレータールームに配置していた一号の信号が途切れた?」

 

地上に居た死神博士のセンサーがショッカー響一号の反応が消えた事を知らせた。

 

━━━敗れたか?一人か二人くらいは殺してるといいのだが…いや、今はそれより…

 

一号の信号が消えた原因を考えた死神博士だが、直ぐに視線を戻す。視線の先には地面に倒れるショッカー響たちだった。

 

「うわああああああああっ!!」

 

「その動きはとっくに見切ってるんだよ!」

 

黒染めとなったショッカー響がクリスに襲い掛かるが、攻撃を避けたクリスがガトリング砲を出してショッカー響の胸をゼロ距離で撃つ。無数の弾丸がショッカー響を撃ち抜き倒れる。そして、それが最後のショッカー響でもあった。

 

「よし、これでラストだ!」

 

クリスに撃ち抜かれたショッカー響が動くことは無かった。直後、倒れていたショッカー響たちの体が爆発四散する。

 

「無事倒せたか、しかし…」

「どうにも落ち着かないわね」

 

翼とマリアが喋る。彼女たちもまたショッカー響を倒していたがその表情は優れなかった。やはり仲間と同じ姿をした少女を切るのは心にくるものがある。

 

「解せんな、出力だけならエクスドライブモードと同等な筈だが…」

 

そんな中、ショッカー響がアッサリ全滅した事に今一納得できない死神博士。計算上ならばSHOCKERを使えばエクスドライブモードの装者とも十分戦える筈であった。

 

「いくら出力が上がっても歌の無いシンフォギアではその程度だ!」

「歌を軽視し続けるお前らには分かんねえだろうな!」

 

SHOCKERを注入し戦うショッカー響たちは歌わず翼たちは歌い続け戦った。それでだけであった。それだけだったが勝敗を見事に分けた。

 

「ふむ…フォニックゲインのエネルギーをもう少し有効に使うべきだったか?今後の課題だな」

 

「お前に今後なんてあると思ってるデスか!死神博士」

「アナタが行くのは牢獄、覚悟して」

 

今後のショッカー響の運用と改造を考える死神博士だが、マリアと翼たちに周囲を囲まれる。最早、死神博士は逃げられないと考える装者たちだが、死神博士は不気味に笑う。

 

「フフフ…死ぬのは貴様らだ。私自らが相手をしてやろう」

 

右手で器用に自身のマントを外す死神博士。今まさに悪魔の正体を見せようとしていた。

 

 

 

 

 




精神攻撃は基本(ドヤ)

ショッカー響がアッサリ倒されましたけど翼たちがエクスドライブモードを使ってますから。そもそもエクスドライブの戦闘は大規模な奴が多い。

そして、弦十郎が大変な事に。
弦十郎はXVでも外道と化した訃堂にすら情けをかけましたからね、少女のフリをするショッカー響の罠にかかったということで。

「もっと早く教えろよウェル博士」と思うかも知れませんがウェル博士も弦十郎がショッカー響を保護しようとしてるのは知らないので。もし保護すると言って居ればショッカー響の思考の話をして諦めさせてました。


最後にショッカー響の設定でも、

ショッカー響

シンフォギアのショッカーライダー。
響計画の派生であるSH計画によって生み出された。見た目は完全に立花響の姿をしてるが頭脳はショッカー選び抜いた犯罪者たちの思考がブレンドされ、ショッカー好みの性格をしている。

本来は、ノイズとの戦闘を想定して作られたが、他にも潜入、暗殺、破壊活動などの多岐にわたる知識を持たされ戦闘能力もオリジナルの立花響と遜色ない出来である。

別の計画としてはショッカー響が一般人を襲いオリジナルの立花響と特異災害対策機動部二課の評判を貶める事も想定されている。強力な自爆装置も内蔵されており下手に捕獲しようとするのは危険。

尚、一体のショッカー響を作るのに十体以上の立花響のクローンを磨り潰す為、コストはあまりよくない。


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70話 死神博士の正体!? 恐怖の流れ星作戦!!

G編、いよいよラストバトル


 

 

 

「フッハハハハ…フッハハハハ!!」

 

死神博士の口から笑い声が出る。部下の怪人たちは全滅し、切り札と思われたショッカー響も壊滅しもう死神博士の手駒はない筈だった。

響や翼たちも思わず汗が流れる。笑う死神博士の迫力に装者の誰もが動けなくなる。

 

「…ゴクッ!」

 

翼も無意識に息を飲む。装者の誰もが死神博士に注目している。

そして、死神博士は取り外した黒赤のマントを自身の前に持ち響からの視界から一時姿を消す。直後、死神博士の居た場所に白い怪人が現れる。

 

「ギィーッ!装者ども今度はイカデビルが相手をしてやる!」

 

その姿は、軟体動物門頭足類のような頭部をし、上半身からはイカの足のような触手が何本も生え全体的に白い。本当にイカのような怪人だった。

 

「死神博士が!」

「…怪人になった!?」

「死神博士も怪人だったの!?」

 

死神博士がイカデビルに変身したのを見て度肝を抜かれるマリアと切歌、調。反対に響達は落ち着いていた。

 

「死神博士もゾル大佐と同じ…」

「改造人間だったのか」

「それがお前の正体か、クソ爺!」

 

ゾル大佐が黄金狼男になったことで、まさかとは思っていたが死神博士も改造人間だったことに納得する翼と響。クリスの発言に笑う死神博士。

 

「そうだとも!これがこの俺、イカデビル様の姿だぁ!!」

 

「死神博士と随分と性格が異なるわね」

「…口調まで変わってる」

 

死神博士の性格が変わった事に少し驚くマリアたち。その時、切歌がイカデビルの左腕がない事に気付く。

 

「マリア、イカデビルの左腕が!」

「左腕が無い?切り落とされた感じだけど」

「きっと地下で師匠がやったんですよ!」

 

既に死神博士が左腕を失ってる事に気付き、地下で先に戦った弦十郎と緒川がやったと考える響。真相は分からないが死神博士を倒すチャンスだと考える。

 

「腕一本失った状態で戦うつもりか!クソ爺」

 

「慌てるな、最後にもう一つ。お前達に見せてやろう!」

 

クリスの言葉に反論したイカデビルは右腕にある物を掴む。それは一見岩のように見えて中心部から赤い光が脈動するように光る。

 

「あれは…」

「何なの?」

 

翼と響はイカデビルが握る得体の知れない物体に警戒する。一方、マリアやクリスたちにはそれに見覚えがあった。

 

「ネフィリムの…」

「心臓だと…」

 

ネフィリムの心臓。ウェル博士がフロンティアを起動させる為に回収した完全聖遺物。前に見た時よりも赤い光が禍々しくなっていた。

 

「そんな物どうするつもりデスか!?」

「…あのエネルギー量…下手に扱えば私達どころかこの星も危険…」

「人質のつもりか、クソ爺!!」

 

マリア達の発言に翼と響も息を飲む。下手に攻撃すれば地球自体も危ないという事だ。それでは攻撃すら出来なくなる。

 

「舐めるな、そんなつまらん戦い方はせん。何より、俺様ならこのエネルギーを有効に使える!」

 

そう言うとイカデビルは右手に持ったネフィリムの心臓を腰のショッカーベルトに付ける。直後、ネフィリムの心臓から幾つもの管が血管のように張り巡らせる。

 

「自分の体に!?」

 

「ネフィリムよ、その力を俺様に寄こせぇぇ!!」

 

ネフィリムの心臓の赤い光と禍々しい黒が白いイカデビルの体を侵食する。途中、切り落とされた左腕部分にも染まっていき左腕ごと再生する。更には、周辺の土が盛りあがりイカデビルの体を包み始める。翼や響にはそれが最初に出てきたネフィリムの姿が蘇る。

 

「死神博士がネフィリムに取り込まれた!?」

「…違う、逆だ!ネフィリムの力を死神博士が取り込んだんだ!!」

 

先程のネフィリムの倍近い大きさの土塊から巨大化したイカデビルが出て来る。白かったイカデビルの体は所々黒くなり赤い光も漏れ出す。

 

「フッハハハハ!素晴らしい、ネフィリムの力は予想通り馴染むぞぉ!!俺の頭脳ならばネフィリムの力を操るなど造作もない!」

 

巨大化したイカデビルが笑い流暢に喋る。その様子に響達の顔色が優れない。

 

「一体どうなってんだよ!?」

「死神博士がネフィリムの心臓を取り込んだ…」

 

「そうだ!立花響のデータとユニコルノスのデータにより聖遺物と怪人の融合を考えていた!ナスターシャ教授とウェルのデータは実に役立った、これこそが聖遺物合体怪人、ネフィリム・イカデビル!!」

 

「合体聖遺物怪人…」

「ネフィリム…」

「イカデビル…」

「欲張りセットもいいとこデス!」

 

死神博士は、以前から聖遺物と怪人の融合も研究していた。動植物の能力の他にも聖遺物の能力も持たせ戦力にするのはショッカーも見過ごせなかった。

だからこそ、立花響のデータと立花響とは違うパターンでユニコルノスを作った。そして、聖遺物の権威のナスターシャ教授とネフィリムの心臓を持ち込んだウェル博士により死神博士の研究は加速した。

エネルギーを蓄えたネフィリムの心臓を心臓を取り込む事により、今のイカデビルの力は本来の何十倍にも跳ね上がっている。後は、立花響や風鳴翼らを始末してこの力を首領に見せて世界征服を進めるだけだ。

 

「そして、お前達は思い知るだろう。イカデビルの本当の恐ろしさをな!」

 

そう言うと、巨大化したイカデビルの体に付いたイカの足の触手が一斉に響達へと襲い掛かる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

丁度その頃、フロンティアの施設から一台のジープが走り出す。運転席には緒川が乗り、荷台には右腕のあった場所に包帯が巻かれた意識のない弦十郎と、その弦十郎の容態を確認しているウェル博士が乗っている。そして、隅には響の乗って来たバイクも固定されている。

 

「ウェル博士、指令の容態は!?」

「流石、ショッカーに狙われただけはありますよ。普通ならショック状態に落ちいてもおかしくないのに安定しています。…ですが、急いでください。こういうのは早めに治療した方がいいんですから」

 

ウェル博士の言葉を聞いて、緒川がスピードを上げる。特に舗装もされてないフロンティアの道だが緒川のドライビングテクニックによりあまり揺れは感じない。

その時、遠くの方で爆発が起こる。

 

「マリアたちが無事だといいのですが…」

 

怪人達が全滅しショッカー響たちと戦ってるのか?それともショッカー響を倒して死神博士と戦ってるのだろうか?と心配するウェル博士。

電波状況の悪い現状、向こうの様子が分からない。弦十郎たちが持っていた通信機もショッカー響の自爆により壊れてしまっている。

 

「ふ~…!」

 

思わず溜息をつくウェル博士だったが、背後からの落下音にビクっとなる。振り向けばフロンティアの力で浮いていた岩石が落ちて来たようだった。よく見れば周りの浮いていた岩石も次々と落ちている事に気付く。緒川が上手く岩石の浮いていない道を選んでる為に自分達の振ってこないのだ。

 

「フロンティアの最後と言ったとこでしょうか…」

 

フロンティアは完全聖遺物言える建造物だ。それが崩壊する事に感慨深くなるウェル博士だが、このままショッカーに使われるよりはマシと考えを変える。

その時、大きな影自分達を包み光が途切れる。上を見たウェル博士の目に入ったのは赤く焼ける岩石の塊だった。

 

「うひゃああああああああああああああああああああっ!!!」

 

みっともなく悲鳴を上げてしまうが、突然目の前に岩石が落ちてくれば悲鳴の一つもあげるだろう。

直後に、緒川はジープのハンドルを切る。今まで安定していたジープに凄まじい負荷がかかり荷台にいたウェル博士と弦十郎にも襲い掛かる。弦十郎は一応固定されていたがウェル博士は頭も体もあっちこっちぶつける結果となった。

緒川のドリフトで赤く燃える岩石を避け切り緒川が「ふ~」と息を吐く。

 

「……ちょっと僕はデスクワーク派でデリケートだって言ったでしょ…」

「すいません。僕もできるだけ頭上に瓦礫が無いルートを選んだんですけど…さっきの奴は突然現れて…」

 

あっちこっちぶつかったウェル博士が緒川に文句を言う。緒川もこれには平謝りだ。

「まるで隕石のようだ」と発言する緒川。その言葉に体をぶつけたウェル博士は改めて周囲を見渡す。

周りは相変わらず宙に浮く瓦礫が落ち、周囲には地割れが起きる。その時、ウェル博士の目はある物を捕らえた。

 

「空から何か振ってきてますね」

「流れ星でしょうか?流星群には時期が違う筈ですけど…」

 

空から幾つもの光り筋が見えたのだ。まるで流星群のごとく、空の彼方に落ちていく。

 

━━━落ちる岩石…隕石…流星群…流れ星!?まさか

 

「急いで本部に向かってください。もっと早く!」

「これでも急いでいるんです!」

 

ショッカーにいた時、データを漁ってるときにある作戦を思い出すウェル博士。杞憂であって欲しいがそれを確かめる為にも急いで特異災害対策機動部二課の仮設本部である潜水艦へと向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フロンティアの真下の海域。海面から何かがぶつかる音がした直後に海中にて黒い細長い建造物がゆっくりと潜航する。

 

「地獄大使、我々の潜水艦は無事海中に到着しました!」

 

戦闘員の報告に「うむ」と答える地獄大使。この潜水艦こそフロンティアの底に人工重力装置GXを取り付けた潜水艦隊の一隻だった。

フロンティアは既に高高度を超える高さを飛んでおり通常の潜水艦では、この高さから落ちれば一溜まりもない。しかし、地獄大使の乗る潜水艦はショッカーの技術の結晶であり無事高高度からのバンジーを成功させ潜航する。

 

「各潜水艦も無事に着水。それぞれ海底のアジトを目指します」

「それはいいが、今回の戦いで大分怪人を磨り潰した。暫くは戦力の回復を図らねば…」

 

戦闘員は兎も角、多くの怪人が撃破され各国の軍や政府に潜入していた人員も使いショッカーの戦力も大分目減りしている。だから地獄大使は暫く水面下を潜り戦力の回復を考える。

 

そう考えて居た時、潜水艦の真横に衝撃がはしる。

 

「フッ、始まったか」

 

衝撃に一部の戦闘員が慌てる中、地獄大使が死神博士の計画が始まった事を悟り笑みを浮かべる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

緒川の運転で弦十郎たちは無事潜水艦へと到着した。しかしどうにも様子がおかしい。人集りが出来潜水艦の開いてる格納庫付近で何かやり合っていた。

 

「頼むよ、保護してくれ!」

「だからそれは我々の一存では…」

 

良く見れば皆軍服を着ているが結構バラバラでそれぞれ違う国の軍人のようだ。オペレーターの藤尭朔也が軍人たちの応対をしている。そこへ、緒川の運転するジープが割り込み軍人たちが道を開けた。

 

「ただいま戻りました!指令を急いで医務室に!!」

「指令が!分かりました!」

 

弦十郎が負傷し片手を失った情報は直ぐに仮設本部にも知らされ誰もが信じられないと驚く。

通信で特異災害対策機動部二課のエージェントを呼び弦十郎が慎重に運ばれようとしていた時に緒川が周囲の軍人たちを改めて見回す。

 

「藤尭さん、この軍人たちは?」

「それが…よく分からないんですよ。突然やって来て保護してくれの一点張りで…」

「俺達だって分かんねんだよ!気付いた時にはこの変な島で妙な物を作ってたりしてよ、聞けば日にちも随分と過ぎてるんだ!」

 

軍人たちにしても意味が分からなかった。よく訓練で活動しているが今回は何時の間にかフロンティアで働きよく分からない建造物を作り帰る手段も無い。

藤尭朔也も緒川もどういうことか意味が分からなかったが話を聞いていたウェル博士はある一つの結論に辿り着く。

 

「恐らく洗脳されてたようですね」

「洗脳!?」

「それ本当ですか、ウェル博士!」

「怪人の中には人間を洗脳する者もいるそうです。ほぼ間違いないかと」

 

ウェル博士も全てとはいかないがある程度の怪人の能力は見聞きしている。恐らく、ウェル博士が持っているデータチップにもその怪人のデータがあるかも知れない。

そして、その答えに困ってるのは緒川と藤尭朔也でもある。本当に軍人たちが洗脳されていれば助ける必要があるが特異災害対策機動部二課の仮設本部である潜水艦は日本政府の肝いりで最新鋭の潜水艦だ。

おいそれと他国の軍人を入れるのには躊躇いがある。が、

 

「…入れてやれ」

 

その言葉に皆が一斉に振り向くと担架に乗せられた弦十郎が何とか上半身を起こそうとしている。

 

「指令、傷に障ります!」

「俺の事はいい…それよりも此処は間も無く崩壊する。…ここで彼らを助けなければ皆死んでしまう」

 

緒川の言葉にも弦十郎は軍人たちを助けろと言う。確かにフロンティア自体、崩壊の一途をたどり宙に浮く岩石が落ち切り崩落も起きている。落ちれば下は海だろうが真っ逆さま、高度も高すぎるゆえに助からない。

 

「でも…」

 

だからと言っても緒川としても即答できない。緒川は特異災害対策機動部二課のエージェントであり情報を取り扱う事も多い以上簡単には「はい」とは言えない。

 

「全ての責任は俺がとる。だから彼らも助けるんだ」

「指令は右腕を失ってもそう言うんですね。…分かりました」

 

結局、弦十郎に押し切られその場に居た軍人の全員が特異災害対策機動部二課の潜水艦へと保護された。尤も百人近い数の所為で骨が折れ藤尭朔也が押し合いへし合いが起きぬよう誘導し弦十郎は医務室へと運ばれる。

 

「あれ?ウェル博士は?」

「アンタらと一緒に居た眼鏡の科学者ならとっくに潜水艦へと乗ったぞ」

「何時の間に!?」

 

その時になってようやく緒川がウェル博士が居ない事に気付く周囲を見渡していると軍人の一人が弦十郎と緒川がやり取りしてる間に潜水艦に乗った事を聞き大声を上げて驚く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「響…」

「ネフィリム・イカデビル…なんて禍々しい姿。…さっきのネフィリムよりも大きい」

 

藤尭朔也が席を外した司令部ではモニターを見る誰もが息を飲んだ。死神博士が正体であるイカデビルへと変わりネフィリムの心臓を取り込み巨大化し響達と戦っているのだ。

 

『この野郎!!』

『クリスちゃん、援護を!』

 

クリスのエクスドライブのイチイバルを巨大な弾薬庫にして幾つもの弾丸やレーザーをイカデビルに撃ち込み、その隙に響が拳を巨大化させ羽で一気に加速して拳を放つ。

しかし、拳は命中するがイカデビルの体には傷一つ存在しない。勿論、クリスの攻撃も一緒だった。

逆に火球と触手が響達に反撃する。

 

「響…クリス…」

 

イカデビルに返り討ちにされて二人の名を呼ぶ未来。翼もマリアも必死に攻撃していたが、響達と似たような結果だった。エクスドライブのシンフォギアすら圧倒する姿に誰もが絶望を感じていた。

その時、指令室のドアが開く。藤尭朔也が帰って来たのかと後ろを振り向くと其処には友里あおいの予想だにしない人物だった。

 

「ウェル博士!?」

 

あおいの言葉に未来も振り返る。其処には確かに弦十郎と緒川が確保に行ったウェル博士。

 

「失礼、少しその席を借りますよ」

 

挨拶もソコソコにウェル博士はそう言ってあおいが止める間も無く藤尭朔也のオペレーター席に座りコードを弄りだす。そして懐に入れていたデータチップを差し込む。その途端、モニターにショッカーのマークと共に様々な資料が映りだす。印の付けられた日本や世界地図、怪人の能力データや作戦の内容など多岐に渡る。

 

「怪人の製造法?」

「何これ…アイス計画…液体火薬…F作戦…大蔵省金保管所襲撃結果報告書…奥山村壊滅作戦…ウェル博士、このデータは一体…」

「僕がショッカーのアジトで手に入れたデータですよ。全体の大部分をコピー出来ましたが…全てとは言い切れません」

 

ウェル博士の言葉は、あおいにとっても衝撃だった。このデータの中には有名な物が多々あり子供の頃騒ぎになったり、警察も迷宮入りにせざるおえなかった事件ばかりなのだ。それは未来も同じであった、テレビの特番でミステリーとされていた内容ばかりなのだ。そのミステリーも全てショッカーが行っていたのなら納得も出来る。

その場に居た職員の誰もが息を飲む中、ウェル博士だけ更にデータを漁っている。それはショッカーが企てたり予定している作戦内容だった。

 

「海底地震作戦…違う。火山噴火作戦…これも違う。五〇七計画…違う。人口地震作戦…違う。人類皆殺し作戦…これは装者たちに阻止されましたね。世界暗黒作戦…違う。流れ星作戦…これだ!!」

 

幾つもの資料を読み漁っていたウェル博士が目的の物を見つけ熟読し目を血走らせる。あおいも未来もウェル博士に続いて読み顔を青ざめた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハア…ハア…」

 

マリアが肩で息をする。巨大化したネフィリム・イカデビルに苦戦してるのもある。だがそれだけではない、怪人軍団に巨大化したネフィリム、ショッカー響など連戦続きだ。そのどれもが激戦というレベルでマリアも響達も消耗している。

既に響が何度目かの突撃をするが効果はない。

 

「固すぎデス!」

「マリア…どうすれば…」

 

イカデビルの腕に弾き飛ばされても何とか体勢を立て直してマリアの近くによる切歌と調。エクスドライブでも勝ち目が見えない事に弱気になりマリアに相談する。

尤も、聞かれたマリアもそれを知りたいのだが、

 

『マリア、聞こえますか!マリア!!』

 

その時、通信機から聞き覚えのある声がし耳を傾ける。

 

「ドクター!?」

 

その声はウェル博士の物だ。特異災害対策機動部二課の通信機を使って話しかけている。しかし、慌てていたのか、その通信はマリアだけでなく翼や響たちにも届いていた。

 

『マリア、聞こえているのならいいんです!マリア、急いでネフィリム・イカデビルを倒してください!!』

「…それが出来れば苦労はない」

「好き勝手言ってくれえるデス」

 

ウェル博士の「イカデビルを倒せ」と言う言葉に切歌と調は腹を立てた。助言なら兎も角、ただ倒せと言われて倒せれば苦労はない。言葉には出さないが翼とクリスもウェル博士の言葉に腹を立て響は苦笑いを浮かべる。

 

「ドクター、そうしたいのは山々だけど…『いいから早くッ!このままでは世界は本気で終わってしまう!!』!?…どういう事?」

 

珍しくウェル博士が恥も外聞も無く喚くようにマリアに訴えた言葉に思わず聞き返す。何より、月の落下を防いだ筈だ。

 

『死神博士は、既に流れ星作戦を決行していたんです!』

「流れ星作戦?」

「クソ爺にしちゃメルヘンチックな名前だな」

「流れ星…」

 

流れ星作戦と言う名に、翼もクリスも顔を見合わせる。名前だけ聞けばどういった作戦かは分からないが響だけ嫌な予感がしている。

 

『よく聞きなさい!流れ星作戦というのは隕石誘導装置を使って流れ星化した隕石を地球に落下させ地上に居る全ての生命体を根絶やしにする恐ろしい作戦です!!』

「「「「「「!?」」」」」」

 

ウェル博士の言葉を聞いて、その場に居た装者全員が息を飲み黙り込む。それ程、ウェル博士の言葉が信じられなかったからだ。

 

 

 

 

 

 

 

ウェル博士が、マリアたちに通信する少し前、

ビルの大型モニターの前に集まっていた群衆は未だにモニターの方を見ている。

 

「続報とかないかな?」

「立花さん、無事だといいんだけど」

「きっと無事だよ。ビッキーたち」

 

そこには当然、響の同級生で友人の創世と詩織、弓美もいる。本当はとっとと移動したかったが、またモニターに響やマリアが映るかもとその場で待っていたのだ。

その考えは道行く群衆も同じで未だにその場で祈るような者もいた。

 

直後、少し離れたビルが爆発炎上する。それと同時に警報が鳴り響く。

 

「なに!?何が起こったの!?」

「皆さん、空を!」

 

詩織の言葉に創世と詩織、言葉につられて周りの人間も上を向く。空から幾つもの赤い火球が降り注ぎビルや家に直撃する。

 

街は一瞬でパニックに陥った。

 

 

 

 

 

 

『皆、ウェル博士の言葉は本当よ!』

 

「未来?」

 

割り込むように小日向未来が通信して直ぐにあおいへと変わる。その声はウェル博士よりも焦ってるようだ。

 

『さっき回復した通信によると既にアメリカ、中国、ユーラシア大陸とアフリカにも隕石が降り注いでいるの!このままじゃ本当に地上の生命体は根絶やしにされる!』

『現在、政府も一般市民をシェルターに避難させてますがノイズ用のシェルターでは長く持ちません!一刻も早く誘導装置の破壊か、イカデビルを倒すしかありません!』

 

あおいと兵士の誘導も終えた藤尭朔也もまた血相を変えて翼たちに報告する。

既に世界中に隕石が降り注ぎ日本だけでなく各国もパニックに陥っている。金持ちも貧乏人も関係なく隕石は平等に降り注ぎ次々と人々が殺されている。

 

「!」

「立花!?」

「おい、待てよ!」

 

逸早く響がイカデビルへと飛び出し翼もクリスもそれに続く。出来る事ならマリアも駆けだしたかったが、ウェル博士にまだ質問がある。

 

「ドクター…時間は?」

『およそ30分が限界でしょう。…これだけの隕石が30分以上地球に降り注げば人類が生きてようが隕石の影響で空に舞う塵の所為で()()()()()()()()()()()()()()()

 

嘗て地球で繁栄していたとされる恐竜が絶滅した原因とされる氷河期、それが人類に待ち受けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

上昇し続けるフロンティアはとうとう大気圏を抜け宇宙へと到達する。これ以上留まるのは危険だと判断した特異災害対策機動部二課も仮設本部である潜水艦に搭載されてるミサイルを使い下の岩盤を破壊、下の海に着水を試みる。本来なら司令部や重要な場所だけ搭載された上層部を守る為に下層部を切り離したかったが保護した軍人が多すぎそれも出来ない。結局、上層部に付けられたパラシュートで少しでも衝撃を逃がすしかなかった。

 

そして。フロンティア付近に残った響と翼が必死にイカデビルに攻撃を加えている。

 

「死神博士、誘導装置は何処だ!?」

 

「フフフ…気付いたようだな。見てみろ此処からなら世界が終わる姿も見えよう」

 

響の言葉にもイカデビルは笑いながら言う。確かにこの場所なら宇宙から降る隕石が地球に落ちていくのも見える。

 

「させるかよ!」

 

地球に飛ぶ隕石を破壊するクリス。しかし、一つ二つ壊しても次から次へと隕石は地球へと接近する。

 

「無駄だ、隕石は幾らでも宇宙を漂う。それにお前達が作った隕石もまだ大量にあるぞ!」

 

「私達が…」

「作った隕石…」

「!月の欠片かよ!」

 

イカデビルの言葉に愕然とする響と翼にクリス。イカデビルが落としてる隕石を自分達が作ってしまった事にショックを受けている。

 

「お前達に礼を言おう。これだけの隕石があれば人類の殲滅など楽に出来る!!」

 

響の目に隕石が大気圏に突入して大地に当たるのを目撃する。落ちると共に砂ぼこりが起き響の脳内に人々の悲鳴が幻聴として流れた。そして、それは翼とクリスも一緒だった。

 

「私達の所為…」

「我々が月の欠片を砕いたから…」

「ショッカーに利用されたのかよ…」

 

イカデビルの言葉に心に悲鳴が上がる。自分達は世界を、人類を守る為に戦って来たのにその所為で人類が滅ぼうとしている。その事実が三人の重しとなっていた。三人の目元から涙が零れる。

 

「その通りだ!お前達が頑張れば頑張る程状況は悪くなっている。だから…大人しく死ねぇ!!」

 

好機とみたイカデビルが尖らせた触手を出して一気に三人の下に向かわせる。串刺しにして止めを刺すつもりであった。

 

━━━私達って一体…

━━━我々の戦いは無駄だったのか?

━━━アタシたちの戦いで余計に被害が…

 

自分達の戦った結果、隕石を大量に作り出した事を知り戦意がグラつく。イカデビルの言葉で心の折れ掛けた響も翼もクリスも回避行動も防御もせず迫りくる触手を見る。

そのまま触手が翼たちの胸に突き刺さるかに思えたが、

 

「翼たちは!」

「やらせない!」

「デース!!」

 

「ぬっ!?」

 

剣を持ったマリアにイガリマをシンフォギアのパーツを合体させロボットのように操る調、巨大化したイガリマでイカデビルの触手を切り裂く。

翼たちを守り切ったマリアは直ぐに振り返り翼とクリス、響に平手打ちする。

 

「敵の言葉に乗せられるな!」

 

マリアの一喝が翼たちの耳に入る。

 

「マリア…」

「マリアさん、でも…」

「…アタシ達が戦ったから隕石が大量に出来たのは本当なんだ…」

「なら、あのまま月の欠片が地球に落ちてきても良かったの?」

「「「…」」」

 

クリスの泣き言にマリアが反論し三人は黙ってしまう。確かに隕石が月の欠片のままだったら被害がとんでもないことになっていただろう事は想像に難しくない。マリアに叩かれた頬が熱く感じる三人。

 

「今更、過去を悔いてもどうにもならない。それは私もあなた達も同じことよ!それでも、このままじゃ月の落下を命を賭けて止めたマムが浮かばれない!!お願い…私と一緒に…戦って…一緒に死神博士を…倒して…」

「マリア…」

 

三人を説得するマリアは感極まり涙を流す。ナスターシャ教授が命を賭けて月を止めたのに地球は今大ピンチだ。恐らく自分だけではネフィリム・イカデビルを倒す事は不可能だと判断して翼たちに改めて共闘を願い出る。

 

「フッハハハハ!この俺様を倒すだと!?馬鹿も休み休み言うんだな…そうだついでに月も落としてしまうか!ネフィリムのエネルギーを使えば誘導装置の出力も上がり月を隕石ように操れるだろう!」

 

「死神博士っ!」

 

この期に及んでまだ月を落とす事を画策するイカデビルの言葉にマリアが反応する。ただのハッタリか、本当に月を落とすのかはマリア達には知る由もないが無視できるほどマリアにも余裕がない。

その時、イカデビルの顔に青い斬撃が飛び込んでくる。

 

「ぬ?」

 

「やれやれ、防人が戦いを躊躇うとはな。やはり私もまだ未熟か」

「翼さんだけじゃないですよ。私も死神博士の口車に乗せられてました」

 

マリアの叱責に改めて戦う事を決めた翼と響、そしてクリスも、

 

「ようは隕石を操れねえようにすればいいんだろ。…ならよ!」

 

クリスが取り返したソロモンの杖を起動させる。

 

「バビロニア、フルオートだああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

ソロモンの杖から水色の光を放つ。その光りはレーザーのように動きイカデビルの横をすり抜ける。

 

「ふん、今更ノイズを出して挟み撃ちにでもする気か!?ネフィリムの力を取り込んだ俺様にノイズ程度が相手になると思ってるのか!?」

 

「勘違いすんじゃねえ、アタシの目的はお前の後ろだ!」

 

「後ろだと!?」

 

クリスの言葉にイカデビルも背後を見る。ソロモンの杖からの光に地球ではない別の空間が映る。

 

「バビロニアの宝物庫だと!」

 

「エクスドライブの出力で無理矢理開けてるのか!」

 

イカデビルが驚愕の声を出し翼がクリスが無理矢理力を使ってる事を知る。

イカデビルにはその空間に見覚えがあった。ショッカーノイズを作る為に何度か足を運んだ異次元空間、またの名をバビロニアの宝物庫。

クリスはエクスドライブの力を使いソロモンの杖でバビロニアの宝物庫のゲートを開けたのだ。

 

「そうか!ゲートの向こう、バビロニアの宝物庫にイカデビルを格納できれば!」

「隕石を操る事も出来ない!」

「デース!!」

 

マリアたちもクリスの目的を理解して異次元空間であるバビロニアの宝物庫にイカデビルを送り込めば隕石の操作も出来ず流れ星作戦を阻止出来ると考えた。

 

「人を殺すだけじゃねえって、やって見せろよ!ソロモオオオオォォォォォォンッ!!」

 

クリスの言葉に答えるようにソロモンの杖の力は更に高ぶり完全にバビロニアの宝物庫のゲートが開く。

 

「ヌッ!?引っ張られてるだと!!」

 

イカデビルの体が徐々にだがバビロニアの宝物庫に引っ張られる。抵抗するイカデビルはソロモンの杖を持つクリスを攻撃してソロモンの杖を弾き手に入れようとするが、それよりも早くマリアが掴む。

 

「死神博士、アナタに明日は渡さない!!」

 

クリスに代わり今度はマリアがソロモンの杖の力を使う。バビロニアの宝物庫のゲートが更に広くなりイカデビルを引っ張る力が強くなる。乗っていたフロンティアの残骸もとうに吸われイカデビルも吸われかける。

 

「こうなれば!!」

 

イカデビルの手がマリアへと迫り避けるマリアだが、死角からのイカデビルの触手に捕まる。振り解こうとするが両手を塞がれたマリアの力では触手を切ることも出来ない。そのまま引っ張られていくイカデビルとマリア。

 

「「マリア」」

 

翼たちと一緒に居た調と切歌がマリアの名を叫ぶ。

 

「来ては駄目!私が格納後、ゲートを閉じる。イカデビルは私が!」

 

「愚か者が!貴様を片付けた後、再びこの世界に戻るだけよ!バビロニアの宝物庫など既にショッカーが支配している!!」

 

「!?」

 

マリアは自信を犠牲にしてでもイカデビルをバビロニアの宝物庫に閉じ込めようとした。しかし、イカデビルの言葉に背筋が凍る。ショッカーは既にバビロニアの宝物庫に入り込み、ノイズの全てを掌握している。

マリアを殺した後は、残ったソロモンの杖で外に出ればいいだけだ。

 

「結局、私は罪を償う事も出来ないの?全ての命を守る事も…」

「なら、マリアの命は私達が守ろう」

 

共にバビロニアの宝物庫に飛び込められる事を覚悟するマリアの独り言に誰かがそう返す。目を開けて見ると其処には翼の姿が、更にクリスや調に切歌も集まった。

 

「あなた達…」

「どっちにしろ、あのクソ爺ならバビロニアの宝物庫に閉じ込めようと出て来そうだからな」

「決着は向こうで付ける。あれを見ろ」

 

翼に促されイカデビルの方を見るマリア。そこにはオレンジ色に光り輝く者が、

 

「立花響、貴様!」

 

「死神博士!絶対にアナタを倒す!」

 

 

 

 

 

 

 

 

=NGシーン=

 

「装者ども、これを見ろ!」

 

「干したイカと…」

「ビール?」

 

「イカとビール…イカ…ビール。イカデビル!!」

 

「「「「「……」」」」」

「どうすんだよ、この空気…」

 

 

 

 




イカデビルの所為原作以上の大被害がシンフォギア世界を襲う。
死神博士が変身後、性格が変わってるように見えますが原作通りです。

次回決着。



それでは設定でも、


ネフィリム・イカデビル

死神博士ことイカデビルがネフィリムの心臓を取り込んだ事によりネフィリムの力を手に入れたイカデビル。
大きさはネフィリム以上ネフィリム・ノヴァ以下。
ネフィリムの心臓がフロンティアのジェネレーターを喰らった姿を見て思いついた。
前々から聖遺物と怪人の融合を考えて居た死神博士は響のデータとユニコルノスデータを使い怪人とネフィリムの融合を企んでいた。死神博士の頭脳によりネフィリムの飢餓感を抑え制御している。
能力はイカデビルとネフィリムの良いとこどり。隕石誘導装置もパワーアップし月も落とせる…らしい。





FISの実験での暴走時に施設のエネルギーが吸われてると言ってたので、その逆も出来るかなと思いました。


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71話 この世界には歌がある

これにてG編終了。

活動報告にG編以降の予定を載せているので良ければ見て言って下さい。


 

 

 

薄暗い広い場所。何十人もの人間がひしめき合いながらも身を寄せ合う。

子供も青年も中年も年寄りも関係なく不安に押しつぶされようとしている。周囲からは断続的な衝撃音と揺れが起き、その度に誰かの悲鳴が木霊する。

 

「南無阿弥陀仏…南無阿弥陀仏…」

「この世の終わりだ、人類は今日滅びるんだ!」

 

周囲の人間もお経を唱え者や終末論を口にする者など、皆不安で仕方がない。此処はシェルターで彼らは突然の隕石の落下により最寄りのシェルターに避難していた。

そしてその中には創世達もおり、此処に身を寄せていた。

 

「ヒィ!?」

 

隕石が落下し轟音が聞こえた事により弓美が両手で耳を抑える。既にこの行動は何度も繰り返している。

 

「また落ちましたね」

「今回ばかりはビッキーたちでも駄目かも知れないね…」

 

詩織の言葉に創世は元気なく返す。いきなりの隕石群の落下によりこれは自然現象ではないと気付いた創世は直ぐにショッカーの仕業だと推測する。

これだけの大破壊、自分達の家族が無事か心配で仕方ない。

 

「響…助けてよ、響!翼さんでもクリスでもいいから!」

 

耳を抑える弓美が響達に助けを求める。その様子を見て詩織も創世も響達の無事を祈る。

 

「私達、守られてばかりだね…」

「もどかしいですね」

 

自分達の無力さに嫌気がさす創世たち。少しでも響たちの助けをしたいが、如何にもできない事がもどかしい。

 

「…静かになりましたね」

 

そして、何時の間にか断続的に続いてた落下音も衝撃も来ない事に気付く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「地球に迫っていた月の破片の隕石群が停止!」

「離れていた隕石も月の輪へと戻っていきます!」

 

響がネフィリム・イカデビルを殴り飛ばして共にバビロニアの宝物庫に入り、翼やクリスたちもこれに続いて突入してゲートが閉じる。

特異災害対策機動部二課仮設本部でもイカデビルがバビロニアの宝物庫に消えた事で隕石群の停止を確認。これ以上の隕石の落下がない事でホッとする司令部。

その中には、響の事を心配する未来が居る。

 

「ウェル博士!響は…皆は無事ですよね!?死神博士を倒して無事に帰って来ますよね!?」

「……」

 

未来の言葉にウェル博士は即答出来なかった。死神博士の変身体、イカデビルは入手した資料のカタログスペックを見ても相当高い上にネフィリムの力をも取り込んだ。数に勝りエクスドライブのシンフォギア装者でも厳しいと言わざる追えない。

 

「ウェル博士!」

「…気休めにもなりませんが…僕達に出来るのは祈る事だけでしょうね」

 

弱気なウェル博士の態度に未来も察したのか、目を瞑って手を握りひたすら祈る事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハアアアアッ!」

 

響が腕のギアを引っ張り目の前の大型ノイズに拳を振るう。翼も大型化した脚部の件でノイズを切り裂き、クリスは格納庫のような物を背負い弾丸やレーザーなどで一気にノイズの群れを殲滅する。

 

そして、マリアを救う為に調がパーツから作り出したロボットの様な物でマリアを捕らえる触手を巨大な丸鋸で切ろうとして、護衛には切歌がノイズや触手を打ち払う。

 

「調、まだデスか!?」

「あと少しで…!」

 

シュルシャガナのギアで作った大きな丸鋸でマリアに絡まる触手の切断をしていた調だったが、ある違和感を感じて切断を中断し搭乗していたオートマタから飛び出す。

 

「調、どうしたデスか?」

「何か気持ち悪い物を感じて…見て」

 

そう言って、調は先程までイカデビルの触手を切断していた丸鋸を見せる。一見、普通の丸鋸にも見えたが切歌も気付く。その丸鋸に付着した金色の粘膜らしき物が徐々に広がっている。まるで、増殖するアメーバにも見えた。

 

「気持ち悪い!」

 

調がその丸鋸を切り離すと同時に切歌のイガリマが切り裂く。アメーバらしき物体は切り裂かれた丸鋸と共に消失する。

 

「うあぁ!」

「マリア!?」

 

その時、触手に捕まっているマリアの口から悲鳴が出る。イカデビルが触手の力を強めたのかと思いマリアに近づく二人。

 

「来ては駄目!」

「「!?」」

 

マリアの声を出すが、それよりも一瞬早くマリアを捕らえていた触手が枝分かれするように分裂して調と切歌の体に巻き付く。抵抗しようとする調と切歌だが、咄嗟に丸鋸が出せず、切歌に至っては触手を弾いていたイガリマを逆に弾かれてしまう。

 

「調ちゃん、切歌ちゃん!?」

 

ノイズを蹴散らしていた響も直ぐに二人がマリアと共に捕らわれた事を知る。そして、響の言葉で翼とクリスにも伝わった。

 

「マヌケがぁ!こうもアッサリ引っ掛かるとはな!」

 

「死神博士!」

 

マリアだけでなく調と切歌も捕らえたイカデビルの声に響が反応する。

 

「何をしようと無駄だという事がまだ分からんか!?ネフィリムを取り込んだ俺様の力はお前達のエクスドライブの力を上回る。お前達が俺様に勝てる可能性は0だ!」

 

「だとしてもっ!!」

「お前の好き勝手にさせるかよ!」

 

イカデビルが更に響達へと触手を出し、響達はこれを迎撃。途中、ノイズの邪魔も入るが翼とクリスが響の援護をする。

 

「それとも俺様を倒して英雄にでもなるつもりか!?人間どもがお前達に感謝するか?」

 

「舐めて貰っては困る!」

「英雄願望なんて、あの眼鏡で十分だ!」

「私は…私達は英雄になりたい訳じゃない。私達はただ、世界を守りたいだけだ!!」

 

響の宣言に首を縦に振る翼とクリス。ショッカーが世界を狙うのなら自分達が戦い倒すだけだ。

 

「ぬかせぇぇぇ!!!」

 

イカデビルの体から棘のような物が生え、一斉にミサイルのように火を噴き響達へと迫る。それはネフィリムと戦った時に出した生体ミサイルと同じだった。

翼もクリスも響も辺りを飛び回りミサイルを回避する。ノイズや黄金で出来た人工物に当たりミサイルは次々と爆発する。ならばとイカデビルは幾つもの火球を作り響達に放つ。しかし、これもまた避けられる。

 

「ちっ、ドブネズミどもが!!ならこれならどうだ!?」

 

ミサイルも火球も当たらないと見たイカデビルはマリア達を捕らえている触手を見せる。

 

「「「うわああああああああ!!」」」

 

捕らえられていたマリアたちが悲鳴を上げる。よく見れば三人の体を縛っている触手から白や緑、ピンクの靄のようなものが流れイカデビルへと流れている。

 

「マリア!?」

「調ちゃん!切歌ちゃん!」

「何だよ、アレ!まさか、エネルギー食ってるのか!?」

 

「その通りだ!ネフィリムはあらゆるエネルギーを取り込む。どうやらネフィリムは小娘たちの事を気に入ったようだな!」

 

そう言うと、マリアたちを捕らえる触手の根元が移動する。腕から胴体、ショッカーベルトの上部分まで移動すると其処で止まる。直後、イカデビルの腹部からネフィリムの顔が出てきて触手が口の中へと納まる。それは、カ・ディンギル跡地で戦ったネフィリムの頭部だった。

そして、マリアたちが囚われてる触手がゆっくりと引っ張られてる。このままではマリアたちがネフィリムの口の中へと入ってしまう。

 

「何をする気だ!死神博士!」

 

「知れたこと、裏切者どもの処刑も兼ねて聖遺物…シンフォギアごとネフィリムに喰わせる!果たしてお前達如きが止められるか?」

 

イカデビルの言葉に背筋を寒くする翼たち。マリアを捕らえた触手はゆっくりとイカデビルの胴体に作られたネフィリムの口へと戻っていく。このままでは本当にマリア達が食べられてしまう。

それをゲーム感覚でやるイカデビルに三人は鋭い視線を飛ばす。

 

「外道がッ!」

 

最早なりふり構ってられない。響も翼もクリスもノイズを無視して全力でイカデビルを攻撃する。

翼の斬撃やアームドギアを巨大化させた剣もクリスのレーザーやミサイル。響の拳がイカデビルの顔面を殴り抜ける。

 

「気が済んだか?」

 

「なにっ!?」

「うわああああああ!!??」

 

しかし、翼とクリスの攻撃は胴体のネフィリムの口へと入り無効にして、響もイカデビルに近づく過ぎた事で体からオレンジ色に光るシンフォギアのエネルギーを吸われた。

自分達の攻撃がネフィリムに食べられた事に驚愕する翼とクリス。響も力を吸い取られながらも何とか距離を取り翼たちの近くへと来た。

 

「言った筈だ、ネフィリムはあらゆるエネルギーを喰らう。それはお前たちのシンフォギアとて例外ではない。さあ、俺様に喰われて死ねぇ!!」

 

「…迂闊に攻撃すれば…」

「アタシ等の攻撃が食われるのかよ!」

「攻撃できないってこと?」

 

イカデビルの言葉に絶望する響達。嘘か本当かは分からないが戦闘は進む。

 

 

 

 

 

それからは一方的なイカデビルの攻撃だった。火球や生体ミサイル、触手で翼やクリスそして響を一方的に攻撃する。マリア達を気にする翼達だがノイズの攻勢も無視できずにいる。

 

「ちくしょう…これじゃ嬲り殺しだ。…ん?」

 

襲い掛かるノイズを迎撃しつつイカデビルの攻撃を避けたクリスの目にイカデビルのある様子を捉えた。近くに寄って来たノイズを触手が捕らえて捕食し、バビロニアの宝物庫内にある放電している浮かんだ球体も喰らっていた。

 

「ちっ、ネフィリムめ…予想を超える暴食ぶりだ」

 

━━━死神博士の奴、完全にネフィリムをコントロール出来ていない!?それにアイツが火球やミサイルを出してるのも…

 

イカデビルの呟きが聞こえたクリスにある考えが浮かぶ。

 

━━━ネフィリムが幾らでもあらゆるエネルギーを吸収できてもクソ爺が制御できるのには限界があるのか?…ん、あれは…

 

その時、クリスは視界の端である物を見つけた。それはイカデビルと共にバビロニアの宝物庫に吸い込まれたフロンティアだった。

 

「そういやクソ爺と一緒に吸われてたか。…待てよ、あそこには…!」

 

クリスの脳内にあるアイデアが浮かぶ。正直、博打覚悟になるがクリスの予想が正しければイカデビルへの逆転の目になる。

 

「二人共、此処は任せた!直ぐに戻る。…アタシに考えがある!」

「雪音!?」

「クリスちゃん!?」

 

翼と響が止める間も無く、クリスは背負っていた火薬庫のようなギアを弾丸にしてイカデビルへと攻撃する。その攻撃の殆どがイカデビルの胴体にあるネフィリムの口へと入った。

 

「フッハハハハ!逃げ出したか!!まぁいい、雪音クリスは貴様らを片付けた後にゆっくりと料理してしてやる!」

 

クリスが自分から離れて行く事に逃げ出したと考えたイカデビルは勝利を確信した。後は裏切者と特異災害対策機動部二課の装者である風鳴翼を始末した後に雪音クリスも殺せば、最早ショッカーの邪魔者は存在しなくなると考え響や翼へと攻撃を集中させる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、戦線から離れたクリスはバビロニアの宝物庫の空間に浮かぶフロンティアへと降下し内部に入る。

 

「アタシの記憶が確かなら、此処には()()が運ばれていた筈だ」

 

ショッカーに潜入してフロンティアの中を少しだけ歩いた程度だが、クリスの記憶には戦闘員や兵士たちがある物を運んでいた事を憶えていた。幾つのか通路を通り、邪魔な瓦礫はイチイバルの弾丸で吹き飛ばし通路の奥に行く。

 

「…またか」

 

道中、思わずクリスが口にした。クリスの目に銃を握った兵士の死体が数人浮かんでいた。銃は撃った後があり兵士同士で戦ったのか戦闘員と戦ったのかは不明だが戦闘の痕がハッキリと残っている。

兵士の物であろうドックタグが目の前で流れてきて掴むクリス。

 

「悪いな、本当ならあんた達も地上に返した方が良いんだろうけど…今そんな余裕無いんだ」

 

申し訳なさそうに言うクリスは最後に兵士達を一瞥して更に奥に進む。そして、一際大きな空洞に着くとクリスは目つきを鋭くした。

 

「あったぞ。これだけあればあのクソ爺も…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まだ諦めんか、しつこい小娘どもだ!!」

 

イカデビルが鬱陶しそうに言う。マリアたちは捕まり雪音クリスは逃げ出し残ったのは翼と響だけ。身体的にも疲労が強くなる筈だが未だにイカデビルの攻撃を避け諦めてもいなかった。

 

「ええぃ!既に雪音クリスも逃げ出して後はお前達だけだぞ!いい加減諦めて楽になるがいい!!」

 

「クリスちゃんは「戻る」って言った!」

「後輩がそう言ったんだ、先輩である私が信じて待つだけだ!」

 

イカデビルが執拗にクリスが逃げたと言って響と翼の戦意を挫こうとするが、二人はクリスが戻るのを信じている。何か閃き、それがイカデビル打倒に繋がると信じていた。

そして、それが面白くないイカデビル。ショッカーを裏切った立花響とショッカーの邪魔者である特異災害対策機動部二課の装者、風鳴翼を何としても絶望に突き落としたかったが二人は決して諦めなかった。

 

「待たせたなっ!!」

 

「!?」

 

「来たか!」

「クリスちゃん!」

 

如何にして響と翼を絶望に突き落とせるか考えて居たイカデビルの耳に少女の声が聞こえる。

まさかと思いつつ視線を向けた先には大型ミサイルを展開し終えたクリスが立っていた。

 

「雪音クリスッ!?貴様、逃げたのではなかったのか!?」

 

「誰が何時「逃げた」って言った!?喰らいやがれぇぇぇぇ!!!」

 

クリスが一斉に大型ミサイルを撃ち込む。ミサイルは真っ直ぐイカデビルの方へと向かってくるがイカデビルは微動だにしない。

 

「愚か者が!不意打ちで打ち込むつもりだったのか知らんが大声で位置を知らせるとはな!ネフィリムを取り込んだ俺様には無駄だという事を教えてやる!!」

 

イカデビルはクリスの攻撃が無駄だと思わせる為、敢えて無防備に立ち腹部のネフィリムをクリスのミサイルの方向を向ける。案の定、クリスのミサイルはネフィリムの口へと入り咀嚼される。

 

「ああ、クリスちゃんの攻撃が!」

「やはりあのネフィリムを何とかしない限り死神博士は倒せないのか?」

 

クリスのミサイルが咀嚼されるのを見て顔を歪める響と翼。クリスも黙っているが額から汗が流れた。

 

「フフフ…無駄だと言った筈だ!ネフィリムはあらゆるエネルギーを…!」

 

余裕を見せていたイカデビルだったが、背中辺りから爆発を起こす。

 

「イカデビルが…」

「爆発した!?」

 

イカデビルの突如の爆発に驚く響と翼。対照的にクリスが唇の端を吊り上げ笑みを浮かべた。

しかし、イカデビルはその事を気にしている余裕は無い。

 

「このエネルギー量、シンフォギアではない!シンフォギアに此処までエネルギーはない、このミサイルは……・雪音クリス!貴様!」

 

「気付いたようだなクソ爺!」

 

今まで余裕の声だったイカデビルから焦りの声が響く。反対にクリスはしてやったりという表情をしていた。

 

「雪音!」

「クリスちゃん、今のミサイルは?」

「ショッカーがフロンティアに持ち込んでいた、核ミサイルだ」

「!?」

 

クリスの回答に驚き息を飲む響と翼。クリスはショッカーがフロンティアに核ミサイルを持ち込んでいた事を思い出しそれを利用した。あらゆるエネルギーを吸収出来るのなら当然核爆発も吸収できるだろうと考えたが正直博打も良いところであった。

失敗すれば核爆発で響以外は全滅していただろう。

 

「…無茶をするな…雪音…」

「悪いな先輩、言ってる暇が無かったのと言ったら反対されると思ったからな」

 

呆れたように言う翼にクリスは乾いた笑いをして返答する。下手をすれば自分たち諸共、核の爆発に飲み込まれたかも知れないのだ。正直、クリスも核ミサイルを使うのには躊躇いがあったが今はイカデビルを倒す事を優先させた。

 

「でも、核ミサイルを食べてどうして死神博士の体が爆発したの?」

「…簡単に言えば今のクソ爺の体はパンパンの風船だったんだ」

「風船?…そうか!死神博士はエネルギーを取り込み過ぎたのか!?」

 

クリスは、どうにもイカデビルの火球や生体ミサイルを出すのを怪しんでいた。確かに、翼や響、クリスを攻撃するのには飛び道具は最適と言えたが、偶に装者の居ない明後日の方向にも火球や生体ミサイルを撃っていた。

その攻撃は大体ノイズに当たっていたから邪魔なノイズを片付けてるのかとも思ったが、イカデビル曰くショッカーは既にバビロニアの宝物庫を掌握していてノイズにも命令を出せる。それなら手足のように動かせるノイズを攻撃するのはおかしいと感じたクリスは発想を変えた。

 

━━━クソ爺は、アタシ達を攻撃する為に火球やミサイルを出してる訳じゃない?エネルギーを消費する為に出してる!?

 

クリスの考えはただの憶測にしか過ぎない。それでもエネルギーを取り込んだネフィリムにイカデビルの反応。試してみる価値があると判断してクリスは実行に移したのだ。

そして、賭けはクルスの勝ちだった。

 

「クソ爺!いくらお前でもネフィリムの喰らったエネルギーを管理するのは無茶だったようだな!」

 

「おのれ…おのれ…貴様だけは確実に殺してやるぞ!雪音クリス!!」

 

イカデビルの反応は翼と響達も納得する程の鬼気迫っていた。それはクリスの仮説が正しかった事でもある。

 

「誰がアレだけだって言った?まだまだ大量にあるんだよ!」

 

激昂するイカデビルにクリスは口の端を浮かべらえせ更に大型ミサイルを展開する。

 

「貴様!まさか、その全てが!?」

 

「全弾持って行きやがれぇ!!」

 

クリスの展開したミサイルが全て自分達が持ち込んだ核ミサイルだと気付いたイカデビル。そこまでスピードはないが避けようとするが、

 

「!?体の自由が効かん!?」

 

自信の体の動きがおかしい事に気付いたイカデビル。ふと腹部のネフィリムを見ると涎を垂らしながらクリスの放ったミサイル群を見て口を開く。

その様子にイカデビルは全てを悟った。

 

「や…止めろ!ネフィリム、それ以上エネルギーを取り込んでは制御が追い付かん!止めろ…止めろと言っている!!」

 

今までイカデビルは取り込んだネフィリムを制御し翼や響達を圧倒していた。この調子ならばシンフォギア装者の殲滅も楽だと考えたイカデビルは敢えて響達の恐怖心を煽る為に腹部にネフィリムの顔を浮かび上がらせマリア達を食わせようとしたがそれが裏目に出た。

核のエネルギーを気に入ったのか、単に高エネルギーが好物なのかネフィリムはイカデビルの操作を受け付けずクリスの放ったミサイル群を注目し口を開けた。

そして、全てのミサイルは誘導されてるかの如くネフィリムの口へと入り咀嚼する。

 

「ま…不味い!これだけのエネルギーを操作が!……しまった、誘導装置が!!」

 

イカデビルの体から次々と爆発が起こる。その中でも、イカデビルの頭部からの火花が上がり爆発と共にイカデビルの口から「誘導装置」という言葉が出た。

 

「何だ!?」

「死神博士の口から誘導装置って言葉が」

「誘導装置?もしかして隕石誘導装置か!?」

 

クリスの読み通りイカデビルはネフィリムが喰らったエネルギーを操作に手間取り優先的にエネルギーを送っていた隕石誘導装置にエネルギーが一気に流れ込みオーバーフローを起こして爆発。これでは、もうイカデビルは隕石の誘導を行なえない。

更には、

 

「触手が緩んだ?今よ、二人共!」

 

イカデビルがネフィリムを制御しようと集中しマリア達が囚われた触手も止まり力が抜ける。それを見逃さなかったマリアが調と切歌に声をかけイカデビルの触手から逃れる事に成功した。

マリアの闘争にイカデビルも気付いたが今はそれどころではない。途中までネフィリムの制御に成功していたが暴食を甘く見ていた結果でもある。

 

「マリア…」

「マリアさん!」

 

触手を脱出したマリアは調と切歌を連れて翼たちに合流する。

 

「隕石誘導装置が破壊された以上、もう死神博士は隕石を落とせない」

「見て、死神博士の体が!」

 

調の声にマリアも響もイカデビルを見る。イカデビルの体は小さな爆発を繰り返し白と黒が主だった体に赤い色が広がりだしマグマを思わせる光も出てきた。

 

「…凄まじいエネルギーだ」

「ここが宝物庫で良かった。宇宙だったら地球へのダメージが計り知れない」

「あれではもう死神博士もネフィリムの操作など不可能だろ。脱出しよう」

 

エネルギーを取り込み過ぎて自己崩壊するイカデビルをしり目に響達はバビロニアの宝物庫からの脱出を図る。

 

「でも、脱出するってどうやって…」

「忘れたのか?鍵はアンタが持ってるじゃねえか」

「鍵?」

 

どうやって脱出するのか聞いたマリアにクリスがそう返す。そして、マリアの視線は触手に捕まっても手放さなかったソロモンの杖に向かう。

 

「外から開くなら、中から開ける事も出来る筈だ」

「……セレナァァッ!!」

 

翼の言葉に頷くマリアは、今は亡き妹の名を呼びソロモンの杖を起動させ薄緑色の光を出す。ソロモンの杖から出た光がバビロニアの宝物庫の空間に当たると別の場所が映る。そこは丁度、海岸の様で砂浜が見えた。

 

「よっしゃー!」

「脱出デス!」

「イカデビルが爆発する前に!」

 

クリスが喜びの声を上げ調と切歌がマリアと一緒に空間の裂け目へと急ぐ。翼も足に付けていた大きな刃を切り離し響もそれに続く。

このまま、皆で脱出出来るかと思えたがそれよりも早く大きな物体が響達の横をすり抜ける。

 

「逃がさん…逃がさんぞ!お前達だけは!!」

 

「死神博士っ!?」

「あれだけ爆発してまだ邪魔をするデスか!」

 

その正体はイカデビルだった。巨体をいかしたイカデビルは、響達の道を塞ぎ脱出の通せんぼを行なう。

 

「退け、死神博士!もうお前に構ってる余裕はない!」

 

「聞けぇ、シンフォギア装者ども!もう直ぐ俺は死ぬぅ!だが、ただでは死なん!お前達も道連れにしてやる!お前達さえ死ねば残った地獄大使が必ず世界を支配する!!」

 

幾つもの核ミサイルを喰らったネフィリムのエネルギーは完全に死神博士の想定外だった。最早、制御も困難で何時爆発するかも分からない。

ならば最低限の使命を果たす為、死を覚悟した死神博士は地獄大使に全てを任せる為にもこの場で響達を始末する気でいた。

巨体の為か、死を覚悟した所為か、翼とクリスも今まで以上の気迫がイカデビルから漂って来てる気がする。

 

「ゾル大佐と同じこと言いやがってッ!!」

「なんて、気迫!」

「これじゃ逃げられない。…なら!」

「手を繋ぐとしましょうか」

 

誰の提案かその場に居た六人の装者たちは次々と手を繋いでいく。その際、マリアは持っていた剣を宙へと投げる。切歌と調が、翼とクリスが調とマリアが次々と手を繋いでいく。

 

「ほらよ…」

「アナタも早く」

「え…と…」

 

クリスとマリアに急かされる響。マリアとクリスが手を差し出すが響は躊躇してしまう。

 

「あの時、カ・ディンギルでの戦闘前を思い出せ!」

「…怖いのなら手に力を入れずそのままでいなさい。握るのは私達がやるから」

「……はいっ!」

 

クリスとマリアの説得に頷く響。クリスとマリアと手を繋いだ響はマリアと繋いでる手をゆっくりと動かす。

 

「「最速でっ!最短でっ!真っ直ぐにっ!!」」

 

二人の声に反応したのかマリアの投げた剣が光り粒子へと変化する。そして、その粒子はマリア達に降り注ぐと装者たちはスウッとその場から浮き上がる。

 

「何をする気か知らんが…死ねっ!!」

 

イカデビルから大量の触手が放たれ更には周りに居たノイズ達も一斉に響達へと殺到する。先程よりも多いと言えたがマリアたちは真っ直ぐイカデビルへと接近する。

その際、響とマリアの腕や足、胸の部分のギアが外れ、それらが変形合体し大きな金色の腕と銀色の腕になる。そして二つの腕は装者たちを包み込むように合わさり回転してイカデビルへと迫る。

 

「何だ?何をする気だ!小娘ども!」

 

「私達は!」

「一直線に!」

「「行くだけだあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」」

 

響達はただ真っ直ぐ進む。イカデビルもノイズも弾き一直線に、そしてそのまま回転する金と銀の腕はイカデビルへと到達。それでも止まらずイカデビルのショッカーベルトを削る。

 

「な…何故だ!?なぜ半世紀も生きていない小娘どもに敗れるっ!?俺の計画に抜かりは無かった筈っ!?俺は…俺はショッカーの大幹部、死神博士だぞ!!」

 

フロンティアを手に入れ世界を征服する。途中まで成功していた筈だった。特異災害対策機動部二課やFISなどショッカーの力の前には無力だった筈だった。

しかし、蓋を開けて見れば特異災害対策機動部二課に連戦連敗。幾つかの目的は果たしたが怪人の悉くが戦死し大幹部の一人であったゾル大佐も敗れた。

そのデータにより怪人達もより強化した筈が結果は……

 

「まだ分かんねえのか!」

 

装者の一人の声にイカデビルが現実へと戻る、声の主はクリスだった。そして他の装者も喋り出す。

 

「死神博士、お前は確かに天才だっただろう」

「でも、アナタは一人で私達も戦った」

「それが敗因」

「私達を倒すには足りなかったデース!」

「私達は一人じゃないっ!!!」

 

「グワアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアっ!!!!!」

 

更に回転を強めた響達は等々イカデビルのショッカーベルトを破壊し体を貫通させる。

 

Vi†aliza†ion

 

イカデビルの体を貫通した響達はそのままバビロニアの宝物庫に出来た空間の穴から外に出て砂浜へと落ちる。その際、マリアが持っていたソロモンの杖が手から離れて浜辺に突き刺さる。

 

「杖が…直ぐにゲートを閉じなければイカデビルの爆発が…」

 

ソロモン杖でゲートを閉じなければイカデビルの爆発で地球がどうなるか分かった物ではない。何よりも今のイカデビルは10発以上の核エネルギーも追加している。

ソロモンの杖を取ろうにもマリアたちは既にクタクタであった。

 

「誰か…ソロモンの杖を…」

「そうしたいのは山々デース」

 

調も切歌も既に動けないでいる。イカデビルを倒す為に体力の殆どを使ってしまったのだ。翼もクリスも意識はあるが動き回れる程でもない。

 

「なら…私が…」

 

マリアや翼より体力が少しだけある響が立ちあがってソロモンの杖の方に向かうが体力の消費は響も同じだ。歩みが遅く恐らくイカデビルが爆発する方が早いだろう。

 

「避けろっ!立花ッ!!」

「え?」

 

突如、翼の声に驚き振り向いた響だったが直後に体に何かが巻き付く。それは、マリアが捕まった時にも見たイカデビルの触手だった。

 

「逃がさん…貴様だけは…決して…逃がしはしない」

 

「死神博士!!」

 

見れば、ゲート向こうから一本の触手が伸びイカデビルの顔が此方を覗いている。そして、触手は響の体を引っ張る。この時、全員が気付いた、イカデビルは立花響だけでも葬ろうとしてる事を。

 

「しつこいぞ、クソ爺…!」

「何とか彼女を助けないと…」

 

倒れている装者が何とかしようとするがエネルギーを使い果たし立ち上がる事も出来ない。このままでは響だけイカデビルの爆発に巻き込まれてしまう。

 

「!…どうやら私達が動く必要はなさそうだな…」

「なに言って…ってそうだな」

 

文句を言おうとしたクリスだが翼の視線の先を見て同意する。響がピンチなのに何を言ってるのかと思ったマリアも翼とクリスの視線の先を見る。其処には先に不時着していたボコボコになって浜に打ち上げられていた特異災害対策機動部二課仮設本部の潜水艦と砂埃を上げ此方に接近してくる影が、

 

「なに…アレ…」

「我々の心強い味方だ」

「アイツの師匠だよ」

 

翼とクリスの返答に頭の上に?が浮かぶが、その人物…風鳴弦十郎は徐々に自分達へと近づき、浜辺に突き刺さっていたソロモンの杖を片手で引き抜く。

 

「響くんに手を出すなああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

男の野太い声と共に持っていたソロモンの杖をバビロニアの宝物庫の穴へと槍投げのように投げ、ソロモンの杖は回転しながら凄まじい速度で飛び、響を捕らえていた触手を引き千切りイカデビルに目に刺さる。

それが引き金となったか、空間が閉じると共にイカデビルの体から強烈な光りと熱波が出て周囲に居たノイズが跡形もなく消えていく。

 

バビロニアの宝物庫のゲートが消えた直後に空が一瞬だけ真っ暗になった後、元の薄暗い空へと戻った。

暫く、警戒する翼達だったが数分が過ぎるとそれぞれが顔を見合わせる。

 

 

 

長かったフロンティア争奪戦は終了したのだ。響達が死神博士を倒した事で。

 

 

 

 

 

 

 

 

少しだけ時間が過ぎ、日本政府のヘリや洗脳されていた軍のヘリが特異災害対策機動部二課の潜水艦へと来る。あの後、倒れた弦十郎は再び医務室に戻され浜辺に居た響達には松葉杖移動した未来が話しかける。

 

「死神博士を倒せたの?」

「うん、なんとか…」

「とんでもねえ被害が出ちまったようだがな」

 

未来の言葉に響が頷きクリスが視線を海から陸地に移す。山には幾つもの小さなクレーターが出来、街の方でも赤い光と共にサイレンが鳴りっぱなしである。出来れば自分達も救助活動などしたかった響達だがイカデビルとの激戦での疲労と連絡で生き残ってる救助者の大部分は救助完了の報告を聞いてこの場にいた。

 

「太陽が見えないデース」

「この時間帯なら奇麗な夕日が見える筈なんだが…雲にしてはおかしい色だな」

「あれは、隕石の影響で出来た塵の集合体ですよ」

 

時刻はまだ夕方の時間だが薄暗く太陽も見えない事に不審に思う切歌と翼の聞き覚えのある声が聞こえ振り向く。

 

「…ドクター」

「お疲れ様です、皆さん」

 

ウェル博士が響たちの下に近づく。その表情は疲れてるようだが、どこかスッキリしてるようにも見える。

 

「死神博士の流れ星作戦の所為で多数の隕石が地球に落とされた影響ですよ。数日は太陽を見る事は出来ないかも知れませんね」

「…ウェル博士、流れ星作戦の犠牲者は?」

「少なくとも現時点で数千万人が殺されたそうです、恐らくもっと増えるかと。それに数年は異常気象に注意した方が良いですね。ですが、悪い情報ばかりではありません。月の軌道が元に戻り完全に月の落下は防げるそうです」

「月が!」

「マムのお蔭よ!それでドクター、マムは!?」

 

月の落下を完全に防いだ報告を聞いて喜ぶマリアと切歌に調。ウェル博士にマムがどうなったか聞くマリアだったがウェル博士は目を伏せ静かに首を横に振る。

 

「残念ですがナスターシャ教授との連絡は完全に途絶えました。…恐らく…」

「…そう」

 

ウェル博士の報告を聞いてもマリアは慌てる様子は無かった。何となくそんな気はしていた。宇宙に放り出されても自分達の事を気遣い叱咤激励するマムにマリアはまだただただ感謝しかなかった。

 

「ありがとう、お母さん」

 

その後、響は借りていたガングニールのネックレスをマリアに返そうとするが、それをマリアが拒否する。暫く見つめ合った後に響は持っていたガングニールのネックレスを握る。

そして、マリアはゆっくりと空を見上げる。

 

「月の遺跡を再起動させてしまった…」

「バラルの呪詛か」

「人類の相互理解がとうのいたのかよ」

「それだけではありませんよ。世界は流れ星作戦の影響で傷つき、ショッカーの存在も表沙汰になった。恐らくはこれから時代が荒れるでしょうね」

 

バラルの呪詛にショッカー。人類の相互理解もそうだが、半ば伝説の存在だった秘密結社ショッカーが表に引きずり出されたことでショッカーがどう行動するか分からない。

下手をすれば、以前に了子が言っていた掌サイズの核を使い自爆テロを行うかも知れない。何より、死神博士の流れ星作戦により世界はボロボロにされてしまった。完全に復興するには最低でも年単位は必要だ。

 

「…平気、へっちゃら…」

 

その場に居た者全てが明るい未来を想像するのも厳しい中、一人が呟く。その声に皆の視線が集まったのは響だった。

 

「…だったらいいんですけどね。でも多分大丈夫だと思います、ショッカーの改造人間を作っていた中心人物の死神博士を倒したし、残りの大幹部は地獄大使と首領だけです。それにこの世界には歌があるんですよ!」

「響」

 

響の言葉にそれぞれ互いの顔を見て微笑む一同。

 

「歌デスか」

「何時か未来に人と人が繋がれる。今日を生きるあなた達で何とかしなさい、亡霊には何もできない。私が言うのもアレだけど悪党どもに負けるな」

「調ちゃん、それって…」

「確かに伝えたよ」

 

調の言葉に一瞬キョトンとなる響だが何か察したのか静かに頷いた。そして、最後にマリアが響に話しかける。

 

「立花響、色々あったが君に会えて良かった。また会おう」

「マリアさん…はい!」

 

その後、緒川に連れられてマリア、切歌と調、ウェル博士がヘリへと連れられ翼たちと別れる事になった。

こうして後に「ショッカー事変」と呼ばれる騒動は一旦幕を引いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

二日後、世界は未だに混迷の中に居たが日本のリディアン音楽院は逸早く開校し少数だが生徒も居る。未来もその一人だった。

 

「ふぅ~、寒ッ!」

 

季節外れのマフラーに手袋。吐く息が白くなっている。時期的には夏服に代わる頃であったが、空を覆い隠す塵が太陽光を遮断して世界全体が文字通り冷え込んでいた。

だが幸いにも気象庁の予想では一週間も過ぎれば塵も落ち着き太陽も見える様になるだろうと言っていた事でそこまで落胆はしない未来。医者の言葉ではあと少しで松葉杖も手放せ普通に歩けると診断された未来の足は校門を潜る。

そして、二人の人物を見つけた。

 

「翼さん、クリス」

「ああ、小日向か。丁度いい、聞いてくれ雪音がアレ以来私の事を先輩と呼んでくれないんだ」

「おい、未来を巻き込むのかよ!」

 

翼とクリスの口喧嘩に未来は乾いた笑いを受けつつふと空を見上げる。未だに塵が空を覆い隠しているが少しずつ太陽の光が見えてきた気がした。

 

「ん?どうした小日向」

「ああ、響が今どうしてるか気になって」

「アイツか…」

 

この場には小日向未来、風鳴翼、雪音クリスしかおらず立花響の姿が何処にも居ない。彼女は現在、

 

 

 

 

 

 

 

 

「…それで、どうしてアナタが此処に居るのかしら?立花響」

「そんなの私が知りたいよ!!」

 

ジト目で見てくるマリアに響はそう返事をする事しか出来なかった。

 

響は現在、マリア達と同じ独房に入れられていた。マリアたちと別れた後、報告の為に仮設本部の潜水艦に入って指令室で説明した後に響は拘束されあれよあれよとマリアたちの居る牢獄に収監された。その際に翼とクリスが抗議するがショッカーが響の体に何か仕掛けてないかの調査と響のデータを取る為だ、現状響の体を見れるのはウェル博士だけだと言われ渋々矛を収める。

服装もマリアと同じ拘束具だが響だけは両腕が固定されている。

 

「ああ、彼女はショッカーに再改造されましたからね。僕が何度か見て安全だと判明するまでは拘束しとく気のようですよ」

 

同じ独房に入れられていたウェル博士がマリアの質問に答える。尚、彼だけは拘束具ではなくいつも通りの科学者の服だったので切歌と調が白い視線を送っている。序でに言えば男女という事で寝る時も別の部屋へと連れてかれるが。

 

「そんなのあんまりだ!私も学園に行きたいよ、未来ッ~~~~~~~~!!!!!」

 

響の絶叫が独房に木霊した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

=???=

 

「この愚か物がッ!!」

 

薄暗い大きな部屋、そんな部屋に点滅する光の先には地獄大使が膝をつき頭を垂れている。そして、光りを発してるのはショッカーのエンブレムである鷲のレリーフからだ。

 

「死神博士を死なせたばかりかフロンティアを手に入れる事も出来ず、あまつさえショッカー存在を暴露されるとはな!!」

 

ショッカーにとって死神博士の死は確かに痛くはあったが、それ以上にダメージがあったのは世間に存在がバラされた事だ。ウェル博士が裏切った以上、恐らくもう間もなく日本にある幾つものアジトに警察や公安が踏み込んでくる。怪人で迎撃しようにもフロンティアの戦いで大部分が消耗して今は戦力の立て直しをしなければならない。しかし、そんな時間はないだろうと首領も予測する。

 

尤も、怒鳴られた地獄大使もそれは寝耳に水であったが、

 

「かくなる上は、以前に凍結したスーパー破壊光線砲を起動させ日本を焦土に致します。世界は未だに死神博士の流れ星作戦により立ち上がれません。日本さえ消してしまえばまだ立て直せます」

 

 

 

 

 

 

響達の活躍により死神博士は倒れた。しかし、ショッカーは新たなる作戦を実行に移す。立花響は地獄大使の野望を止められるのか?戦え立花響、ショッカーが壊滅するその時まで。

 

 

 

 

 

G編 完

 

 

 

 




G編 完 

原作では「フロンティア事変」と言われてますがこの世界では「ショッカー事変」となってます。死神博士が働き過ぎたんや。

仮面ライダーの流れ星の威力を見る限りそこまで威力はなさそうでしたが数が数だったので死傷者は軽く数億人はいくかと。

因みに死神博士が腹部にネフィリムの顔を作らなかったり地獄大使に協力を要請していたら負けていたのは響たちの方です。
力を吸収する敵には王道な戦いでした。

そして、未来の代わりに槍投げをしたのは片手になった弦十郎でした。未来は松葉杖で原作みたいに走れないからね。暫くは松葉杖を手放せないでしょう。

そして、即再開するマリアと響。現状、響の体を見れるのはウェル博士しか居ないから当然かと。


新しい章に入る前に、また絶唱しないシンフォギアやCMネタ、マリアが演説していた時の掲示板とかやりたいですね。それからシンフォギアGの公式ページにある「フロンティア事変、その顛末」を弄って「ショッカー事変、その顛末」とかもやりたいですね。


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番外編 マリア演説での掲示板の様子

内容としてはタイトル通りマリアが演説して実況していた連中のスレの動きです


 

 

 

【歌姫】 虐殺者 マリア・カデンツァヴナ・イヴを断罪するスレ パート129【可愛い】

 

 

1:名無しのノイズ

さあ、お前ら話し合え

 

 

2:名無しのノイズ

暇人乙

 

 

3:名無しのノイズ

今更話し合う必要あるか?

 

 

4:名無しのノイズ

マリアが行動を起こさないからすっかり過疎っちまったな

 

 

5:名無しのノイズ

最初は酷かったよな。マリアへの暴言とか

 

 

6:名無しのノイズ

kwsk

 

 

7:名無しのノイズ

ググれカス

 

 

8:名無しのノイズ

お前こそカス

 

 

9:名無しのノイズ

真昼間からネットやってんじぇねえよニートども乙

 

 

10:名無しのノイズ

俺夜勤でーす

 

 

11:名無しのノイズ

仕事クビになった……

 

 

12:名無しのノイズ

働いたら負けかなと思ってる。…てか>>11マジ?

 

 

13:名無しのノイズ

以降、>>11を慰める会

 

 

250:名無しのノイズ

お前らニュースだ!!

 

 

254:名無しのノイズ

どうした?今は11を慰める会で忙しいんだけど

 

 

258:名無しのノイズ

テレビ見てみろ!マリアが何喋ってる!

 

 

259:名無しのノイズ

何?逮捕されたの?

 

 

260:名無しのノイズ

月の落下がどうのって言ってる

 

 

261:名無しのノイズ

 

 

262:名無しのノイズ

変な宗教にでも目覚めたか?

 

 

263:名無しのノイズ

おい、マリアの映像が全局に流れてるぞ!テレ〇東京もだ!

 

 

265:名無しのノイズ

>>263

マジかよ!二年前のツヴァイウイングの時もマリアの時もアニメ放送をしていた剛のテレビ東〇がっ!!!

 

 

267:名無しのノイズ

なに、日本終わった?

 

 

 

 

 

540:名無しのノイズ

お前ら落ち着け!マリアがまだ話してるだろうが!

 

 

541:名無しのノイズ

よくもまあ、テレビ東〇の話でここまで書き込んだな

 

 

542:名無しのノイズ

テレビ東〇はもういい!俺ん家にテレビが無いから誰か実況を頼む!できるだけkwsk

 

 

543:名無しのノイズ

テレビが無いなら街中のモニターがあるビル群でも行けよ。俺は駅前のビルの大型モニターで実況してる

 

 

544:名無しのノイズ

すまん、ウチ田舎。NH〇の集金がうざかったからテレビを目の前で壊したんだ

 

 

545:名無しのノイズ

…ご愁傷様

 

 

546:名無しのノイズ

動画サイトでも普通に流れてるぞ

 

 

547:名無しのノイズ

>>544の為に俺が実況してやるよ

え~と、三カ月前のルナアタックの影響で月がヤバい。このままじゃ落ちて来るけど米国の偉い人とヴァファリンって会社が隠蔽していたらしい

 

 

548:名無しのノイズ

>>546サンクス

>>547実況ありがとう

でもヴァファリン?頭痛薬の会社?

 

 

549:名無しのノイズ

米国のお偉いさんに頭痛薬の会社。意味わかんねえな

 

 

 

550:名無しのノイズ

ヴァファリンじゃなくてパヴァリア光明結社な

 

 

551:名無しのノイズ

知ってるのかライデン!

 

 

552:名無しのノイズ

誰が自称盲目な戦士だ。

オカルト板じゃ結構名前が出る秘密結社だ

 

 

553:名無しのノイズ

有名な秘密結社って矛盾してね?

 

 

554:名無しのノイズ

ちょっと待て!マリアがもう一つ伝えなきゃいけない事があるんだってよ

 

 

555:名無しのノイズ

なに?正直、ヴァファリンでお腹いっぱいなんだけど

ところで動画サイト見れないだけど

 

 

556:名無しのノイズ

人が一杯だと締め出されるからな。しょうがねえ実況してやんよ!

 

 

557:名無しのノイズ

あざーす

 

 

558:名無しのノイズ

なんかパヴァリア光明結社以外にも世界的犯罪組織がいるらしい

 

 

559:名無しのノイズ

中二?

 

 

560:名無しのノイズ

マリアの言葉をそのまま伝えるなら、その組織は人類抹殺を目的にして世界征服する為に改造人間って化け物をを使役してるらしい

 

 

561:名無しのノイズ

その話どこかで見たような…

 

 

562:名無しのノイズ

奇遇だな、俺もオカルト板で見たぞ

 

 

 

563:名無しのノイズ

ナチスとも関わっている組織、ショッカーだってよ

 

 

564:名無しのノイズ

そうそうショッカーだ。オカルト板でよく名前が出て来るんだよ

 

 

565:名無しのノイズ

なにショッカーって?

教えてエロい人

 

 

566:名無しのノイズ

エロくはないが特別に教えてしんぜよ。

ショッカーとは、掲示板でよくでる架空の組織だ。曰く、世界征服を目的にして活動する危険な団体で怪人と呼ばれる兵士を使役して暗殺や破壊工作をさせてるそうだ

 

 

567:名無しのノイズ

日本や世界の未解決事件には必ずといっていい程名前が出て来るんだよな

オカルト版じゃ有名な話

 

 

568:名無しのノイズ

こわっ、戸締りしとこ

 

 

569:名無しのノイズ

でも架空の組織じゃないの?

 

 

570:名無しのノイズ

架空じゃなかったら怖すぎる

 

 

571:名無しのノイズ

架空の組織の所為にするなんてマリア最低。でもネットが広がる前からショッカーの噂は都市伝説だった筈だけど。

…ちょっと待って、映像に変なのが出てきた!!

 

 

572:名無しのノイズ

変なの?

 

 

573:名無しのノイズ

人間大のカラスがマリアと戦っとる!

 

 

574:名無しのノイズ

マジだ。カラスつええ!!

 

 

575:名無しのノイズ

デッドマンガスとか殺人鬼とか物騒な事を言ってるぞ!!

 

 

576:名無しのノイズ

人類皆殺し作戦だってよ!デッドマンガスを世界中に流すんだって、ヤバべえよ俺らも殺人鬼にされちゃうよ~~~!!!

 

577:名無しのノイズ

うわ、俺も見てえ!誰かうPしてくれ!

 

578:名無しのノイズ

これマジもんか?

 

 

579:名無しのノイズ

良くできてるけど作り物じゃね?今時の特撮もこれぐらいの事が出来そうだし…

 

 

580:名無しのノイズ

あ、映像がマリアに戻った

 

 

581:名無しのノイズ

ちょっと待って、マリアが変身した!

 

 

582:名無しのノイズ

待って、マリアが変身したってなに?

 

 

583:名無しのノイズ

文字通りなんか黒いのに変身したんだよ。ライブ時の映像と同じだわ

あ、歌い出した

 

 

584:名無しのノイズ

歌!?俺も聞きてえ誰か誰かうPしてくれ

 

 

 

 

 

 

 

 

660:名無しのノイズ

いや~いい曲でしたな

 

 

661:名無しのノイズ

何か本人落ち込んでるけど…

 

 

662:名無しのノイズ

結局誰もうpしてくれなかった

 

 

663:名無しのノイズ

ニコニ〇かYouTub〇でそのうちされるさ

 

 

664:名無しのノイズ

>>663の優しさに目がしみるぜ

 

 

665:名無しのノイズ

全員地獄に落ちろ!!!!!!!!

 

 

666:名無しのノイズ

さて、>>665をからかうのはここまでにしてマリア、どうしたんだろうか?

 

 

667:名無しのノイズ

セレナって言ったな。誰だ?

 

 

668:名無しのノイズ

訳分かんね。さっきの歌ちょー良かったのに

 

 

669:名無しのノイズ

くそー!マジで見てえよーーー!!

 

 

670:名無しのノイズ

待って、何かお婆ちゃん的な声がしたぞ

 

 

671:名無しのノイズ

男の声もしたぞ!スタジオ収録でもしてんのか!?

 

 

672:名無しのノイズ

という事はやっぱこれはPVか?

 

 

673:名無しのノイズ

この後、ドドンと曲名と発売日が出て来るぜ

 

 

674:名無しのノイズ

それだとしょっくだな……でも欲しい

 

 

675:名無しのノイズ

待てよ、誰か来たぞ

 

 

676:名無しのノイズ

見たところ軍人っぽいけど

 

 

677:名無しのノイズ

ミリタリー板の方だとアメリカ、ロシア、中国の左官の軍服らしいぜ

何か知らんが盛り上がってた

 

 

678:名無しのノイズ

スポンサーがその三国なのか?

 

 

679:名無しのノイズ

PVにしちゃおかしくね?マリアにストリップやれって言ってるけど!!

 

 

680:名無しのノイズ

なに、マリア歌手止めてそっちの道行くの!?

 

 

681:名無しのノイズ

それに対してマリアがキレたっぽい。恥を知れってよ

 

 

682:名無しのノイズ

軍人たちもおかしい感じだな。自分達が人間じゃない風に言ってる

 

 

683:名無しのノイズ

軍人たちの口からもショッカーって言葉が出たわ。…はっ?

 

 

684:名無しのノイズ

ええ~~~

 

 

685:名無しのノイズ

おい、お前ら何があったんだよ?書き込みが止まってるぞ

 

 

686:名無しのノイズ

軍人たちが怪物になった

 

 

687:名無しのノイズ

冗談だろ。ノイズが変装していたのか?

それともドラゴンとか吸血鬼にでもなったのか?

 

 

688:名無しのノイズ

背中に付いてるホースが口に入った岩石みたいな奴とゴキブリが白くなったような奴、あとデカいハエ

 

 

689:名無しのノイズ

ほんの一瞬で人間が化け物になった。繋ぎとかもなさそうだし本物かもしれない

ノイズには見えないわ。喋ってるし

 

 

690:名無しのノイズ

おい、オカルト板が滅茶苦茶盛り上がってるぞ!!

 

 

691:名無しのノイズ

他の板なんか知るか!それより何だよアレは

 

 

692:名無しのノイズ

マリアが言うには白いゴキブリはザンジオーっていうらしい

 

 

693:名無しのノイズ

どうやらアレがマリアの言っていた改造人間らしい

 

 

694:名無しのノイズ

軍服の持ち主は既に消されてるような発言だな

 

 

695:名無しのノイズ

都市伝説板の秘密結社ショッカーってスレもすげえ伸びてるぞ

 

 

696:名無しのノイズ

だから他の板の話はいいって!次は怪しい爺さんが来たよ

 

 

697:名無しのノイズ

死神博士って名前らしい

 

 

698:名無しのノイズ

すげえ名前だな…

 

 

699:名無しのノイズ

化け物どもが死神博士って爺さんにへこへこしてるぞ

 

 

670:名無しのノイズ

どうやら月の加速が早まったのはこの爺さんの所為らしい

 

 

671:名無しのノイズ

え?事故?ボケてやったの?

 

 

672:名無しのノイズ

言葉を聞く限り明らかに故意だわ

 

 

673:名無しのノイズ

何か打ち上がった!

 

 

674:名無しのノイズ

何とか教授って人があの爺さんの邪魔をしたから遺跡事宇宙に飛ばされたらしい

 

 

675:名無しのノイズ

そんなに気軽に宇宙行けるもんだっけ!?遺跡って名前のロケットか!?

 

 

676:名無しのノイズ

爺さん、人類は必要ないってよ。人類の扱い悪いな

 

 

677:名無しのノイズ

あ、マリアがキレた!

 

 

678:名無しのノイズ

あの遺跡にいたのはマリアの大事な人だったっぽい

 

 

679:名無しのノイズ

え?もしかして恋人?ショック~

 

 

680:名無しのノイズ

声は女性だったからそれはないと思うが…

 

 

681:名無しのノイズ

ヤバい、化け物がマリアに飛び掛かりそうだ。逃げてマリア!!

 

 

682:名無しのノイズ

ここ、マリアを応援するスレだっけ?

 

 

683:名無しのノイズ

マリアに関してるから大丈夫だろ!というかこれが事実だったらマリアは冤罪だ。ヤッター!

 

 

684:名無しのノイズ

何かが突っ込んできた!バイクが怪人にぶち当たったぞ

 

 

685:名無しのノイズ

女の子だ!女の子だぞ!!

 

 

686:名無しのノイズ

名前は、たちばなひびきちゃんだってよ。たぶん芸名だと思うけど可愛いな

 

 

687:名無しのノイズ

ん?たちばなひびき?

 

 

688:名無しのノイズ

あれ?あの娘って行方不明になって家族がビラ配りしていた子じゃなかったっけ

 

 

689:名無しのノイズ

ああ、俺っちも憶えてるわ。今は消えちまったけど一年ぐらい前に失踪者ってことでネットでも情報の呼びかけがあったな。

 

690:名無しのノイズ

たちばなひびきちゃん、16歳だってよ。JKだJK!!

 

 

691:名無しのノイズ

通報すました

 

 

692:名無しのノイズ

>>690

興奮し過ぎ!

 

693:名無しのノイズ

マリアはマムって人の敵討ちがしたいようだな

 

694:名無しのノイズ

あの爺さん、えげつないな…

 

 

695:名無しのノイズ

実況よろ

 

 

696:名無しのノイズ

打ち上げた奴はまだ生きているがエネルギーが消えれば明かりも消えて空気も無くなりジワジワと死ぬんだとよ

 

696:名無しのノイズ

本当にえげつな、マフィアと同じくらいか?

 

697:名無しのノイズ

岩石の化け物が動き出してマリアを殴った!

 

698:名無しのノイズ

普通に痛そうなんだけど、全く加減されてるようには見えねえ

 

699:名無しのノイズ

まさか、本当にマジもん!?

 

700:名無しのノイズ

あの化け物、溶岩も吐き出せるのかよ!

 

701:名無しのノイズ

マジで!本当に化け物じゃないか

 

702:名無しのノイズ

よし、皆でマリアを応援だ!!

 

 

405:名無しのノイズ

応援だけで新スレ以降するって…

 

411:名無しのノイズ

400超えてから言うなよ。てか今気付いたけど断罪スレのままじゃん

 

412:名無しのノイズ

急いで建てる為にコピペでもしたんだろ。マリアのファンサイトもすげえ勢いで消費してるし…

 

それはどうでもいいがあの怪物マジで強いぞ。マリアの鎗が弾かれたもん

 

413:名無しのノイズ

助っ人に来た子が何かするっぽい。歌?

 

414:名無しのノイズ

応援歌?

 

415:名無しのノイズ

ふぁ!?マリアが光に包まれたかと思えば歌った子が変身した!

 

416:名無しのノイズ

ちょっとだけ裸が見えた!!

 

417:名無しのノイズ

通報!!!

 

418:名無しのノイズ

ガングニールって言った?

 

419:名無しのノイズ

神話の武器だっけ?

 

420:名無しのノイズ

神話スレが盛り上がりそう

 

421:名無しのノイズ

何か爺さんがひびきちゃんにショッカーに戻れって言ってるけど

 

422:名無しのノイズ

あの娘、脱走者なの?

 

423:名無しのノイズ

其処らへんは分からんがどうもひびきちゃんはツヴァイウイングの悲劇の生き残りらしい

 

424:名無しのノイズ

え、アレの?

 

425:名無しのノイズ

ツヴァイウイングの悲劇か、

当時は酷かったな。生き残ったからって叩かれて

 

426:名無しのノイズ

確か、犠牲者の三分の一がノイズによるものだったけど残りは逃げた時の将棋倒しや子供や女性が踏みつけらたんだっけ

 

427:名無しのノイズ

職場でもノイズが現れた時用に避難訓練もしてるけど咄嗟で動けるかと言われるとな

 

428:名無しのノイズ

周りからの迫害で自殺者や失踪者が多く出た噂があったな。何故かどこも報道しなかったけど

 

429:名無しのノイズ

内の職場にもいたわ。厳密に言うなら、そいつじゃなくて家族だけどな。本当はそいつも一緒で家族と一緒にライブを見るって楽しみにしてたけど、緊急の仕事が入ってそいつだけ難を逃れた。居づらくなって職場を辞めちまったんだよな…

 

430:名無しのノイズ

それ以上はツヴァイウイングの悲劇スレでやれよ。板違いだぞ

 

431:名無しのノイズ

あの爺さんの口ぶりからしてあの娘も迫害されてたようだな

 

 

 

903:名無しのノイズ

すごっかったな…

 

904:名無しのノイズ

戦闘も凄かったけど、今のマリアの歌も俺は好きだな

 

905:名無しのノイズ

リンゴの唄かな?

 

906:名無しのノイズ

民謡っぽい歌詞だな。ずっと聞いてられそうな感じがするな

 

907:名無しのノイズ

!皆聞いてくれ!俺もマリアの歌を口ずさんでいたら体から光の粒子みたいなものが出てきた

 

908:名無しのノイズ

うそ乙。…ってなにこれ俺も出てきた!!

 

909:名無しのノイズ

なにこれコワッ!!

 

 

 

その後、スレは光の粒子やショッカーについての考察で盛り上がるが死神博士が流れ星作戦を決行したでその後の書き込みは無くなってしまった。

 

 

 

 

 




あまり意味はないですけど、ネット内で噂になっていたショッカーとかの話をしたかった。
後、頭痛薬に間違えられる結社とか。もう誰かネタにしてるかもしれませんが。

後ツヴァイウイングの悲劇後の迫害の話とか


ところで、終盤のマリアを見守っていた人達から出た粒子らしきものは普通の人間にも見えるんだろうか?


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絶唱しないシンフォギアG その1

 

 

 

 

 

=響の居ないリディアン音楽院=

 

 

 

 

昼休み、昼食を終えた未来は次の授業の準備をする。

 

「ヒナ~、ニュースニュース」

「え、また?」

 

創世に呼ばれた未来は、手渡しされた雑誌の表紙を見た後に便せんされてるページを広げる。中には未来の予想通り秘密結社ショッカーの情報と目元を隠してるが大型モニターに映っていた響の写真が載っている。

未来の傍で覗いていた詩織が書かれてる内容を読む。

 

「なになに『悪の組織に立ち向かう少女を激写!世界的犯罪組織ショッカーとは!?』ですか」

「私達が幾ら訴えても信じなかった癖にね」

「あはははは……証拠ももってない私達が言ってたのとマリアさんに暴露された方じゃ圧倒的に後者を信じるよ」

 

乾いた笑いをしつつ、一通り目を通した未来は雑誌を創世に返す。内容は殆どが憶測だった。「歴代の首相の中にショッカーの信奉者が!?」とか「ショッカーと戦う謎の少女!その正体は!?」とか眉唾な物ばかりだ。

響の方も政府が用意した影武者でカバーストーリーも出来上がっている。

だからこそ、リディアン音楽院にマスコミは一人も来ていなかった。

 

「それは分かるけど…」

「私はそれより板場さんの方が気になりますね」

 

詩織が板場とは弓美の事であり詩織の視線が動く。その言葉に創世と未来も視線を動かした先には、

 

 

 

「マリアが宣戦布告してノイズを出した直後にショッカーの怪人が襲撃してきて、会場は大パニック。私達は混乱する会場を逃げ出そうとしたけどショッカーの怪人はそんな私達に目を付けた!」

 

「そ…それで弓美さんたちはどうしたんですか!?」

 

「怪人の猛攻でピンチに陥ったけどそこで響が怪人の顔面にパンチ!そこで私達は会場を離れる事に成功したの!!」

 

「「「「すご~い!!」」」」

 

 

 

何人かの同級生や下級生に会場での話をしていた。それもかなり盛っていた。

 

「あの子ったら調子に乗っちゃって…」

「私達普通に逃げられた筈なんですけど…」

「板場さんは、前にショッカーの事を話しても誰も相手にしなかったらしいし、その所為かも…」

 

創世と詩織が弓美の言動に頭を抱える。一応、装者の事は機密扱いなのだがうっかり響の名が出ている事に未来は止めるべきか悩む。取り合えず、後で緒川に報告しようと決める未来。

 

ふと、窓の外を見れば未だに空は暗く雪がちらつく。学校が再開して二日経つが未だに日本も世界も寒い。それでも少しづつクラスメイトは登校する。まるで自分は無事だという事を報告する為に。

現在、クラスの数は少ないがこれから徐々に元に戻るかもしれない。マスコミも健在で復興が始まっても居ない内からもう雑誌を出版しショッカーのゴシップを出して居る。

 

「…人間って逞しいね。響」

 

未来は、未だに学園に戻らない親友の名を呟く。その声が聞こえた創世と詩織も返事はしなかったが思いは一つだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

=マリアたちの様子=

 

 

 

 

「いただきます」

「いただきますデース」

 

調と切歌がそう言って目の間のご飯を食べる。時刻は既に昼時、彼女達は現在小さなテーブルを囲んで食事をしている。そんな二人を横目に同じご飯を食べるマリア。因みにウェル博士は偉い人の下へ行って留守であった。

 

「…なんかもうスッカリ馴染んでるね」

 

その様子を見ていた響は苦笑いしながらも三人を見ていた。響が入れられ既に二日経つが腕は相変わらず拘束されている。

翼やクリスに未来も気にはなるが今はマリアたちの元気な姿を見て安心する響。

 

「…アナタは食べないの?」

 

そこでふと、調が響に質問する。声には出さないが切歌もマリアも響の方を見る。

響が此処に連れられて二日、三人とも響が物を食べてる様子がなかった事に気付く。

 

「…私は後で食べるよ。この腕の拘束だと食べられないし」

「……」

 

響の答えに何となく察するマリア、響の力ならその程度の拘束など意味が無い筈。なのに響が甘んじて拘束される理由を考えるマリア。反面、切歌と調がジト目で響を見る。

少し考えた調がスプーンを一掬いして響の前に出す。

 

「調ちゃん?」

「…食べられないなら食べさせてあげる。アーン」

 

調は響が自力で食べられないのなら食べさせてあげようと親切心で響の口に料理の乗ったスプーンを突き出した。その様子にマリアが驚き、切歌は響に羨望の視線を向ける。

 

「駄目だよ、調ちゃん。調ちゃんのご飯が減っちゃう、調ちゃんは育ち盛りなんだから」

「…大丈夫、後で切ちゃんから貰う」

「え!?」

 

調からの強奪宣言に切歌は目を丸くする。それを見て「調に取られた分は私があげようかしら」と考えるマリア。断れる雰囲気じゃなくなった響は仕方なく口を開けて調が付き出したスプーンを口に入れる。

口の中に固形物が入る。触感からして米だと思うが味を感じれない舌ではその正体が分からない。結局、何度か噛んで飲み込むしかなかった。

 

「美味しい?」

「…うん、とっても」

 

嘘だ。調に気を遣っているが響は匂いは感じるが味は一切しない。ショッカーがそういう風に改造したからだ。

気付かれぬよう響の言葉に調が微笑み切歌が頬を膨らませる。それを見て勘違いかとホッとするマリアだった。

 

「…戻りました。後、調くんあまり意地悪をしないように」

 

其処へ扉を開けて戻ったウェル博士が一言言う。すると、切歌も調もウェル博士の方を見てジト目で睨む。

 

「あ、どうも…」

「…お帰りなさいドクター。外での用事はもう終わったの?」

 

調と切歌の反応に響が挨拶をしてマリアがお帰りと言う。その反応にウェル博士は、空いてる席に座り数枚の書類をテーブルの上に乗せた。

 

「日本政府の上層部やアメリカ政府の高官と話してきました。予想通り世界中が大混乱のようですね」

 

ウェル博士の言葉にジト目で睨んでいた調と切歌も直ぐに真面目な顔をし、マリアと響もウェル博士を見つめる。

その後、聞かされたのはアメリカを始めとした幾つもの国家が死神博士の流れ星作戦による被害とショッカーが暴かれた事による混乱だった。

日本にも多数の隕石が落下したが大国であり領土も日本以上の国は特に被害が出ていた。アメリカもその一つだ。

 

「アメリカ政府は日本政府にマリアたちの身柄を引き渡すよう要請してるようです」

「…そう」

「マリア…」

 

ウェル博士の報告を聞いて落ち込むマリア。全世界に対しての宣戦布告、何よりアメリカ政府にとっての『不都合な真実』を知っている自分達はアメリカ政府にとって都合が悪いのだろうと考えるマリア。恐らくは口封じも兼ねて裁判と言う茶番をして死刑にするだろうと考える。

マリアの落ち込みに響は訳が分からなかったが、何となく察した調と切歌がマリアの心配をする。

 

「…たぶん勘違いしてると思いますが、あなた達はアメリカ本土では英雄ですよ。文字通り」

「え?」

「はい?」

 

悲壮感漂う空気を壊したのもウェル博士の言葉であった。

 

「恐らく、マリアはアメリカ政府が僕達を死刑にしようとしてると思ってるでしょうが、アメリカにそんな元気はありません」

 

アメリカにはマリアを死刑にする事は出来なかった。アメリカ全土に隕石が落下しアメリカ国民に多大な犠牲が出て、更にはマリアを死刑にしたがる政治家も生き残ったネットの情報からショッカーとの繋がりが証拠と共に暴露されてしまい逮捕者や市民にリンチにされる者が続出、アメリカの機能は大幅に低下してしまった。隕石のパニック、ショッカーの存在の暴露、政治不安が重なり、寒い中アメリカでは暴動が起き、政府の支援もないなか犯罪組織ショッカーと戦ったマリアを英雄視する者が大量に出た。

 

「…っと言う訳で、アメリカはマリアを裁く事なんて出来ません。いや~何処が流した情報でしょうかね~」

「うへ~」

「ドクター…あなたは…」

 

白々しいウェル博士の態度に調と切歌が顔を引き攣らせマリアも片手で頭を押さえる。今一要領が掴めない響はただウェル博士とマリアの会話を聞くだけだった。

 

「ああ、そうそう。僕が日本政府上層部と話す時に同席していた脳筋の頬が腫れてましたね」

「脳筋?」

 

ウェル博士の言葉に誰だろうと考える響だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

=風鳴家=

 

ウェル博士がマリアたちの居る独房に帰る前、古いながらも立派な屋敷ともいえる日本家屋に数人の人間が集まっていた。

その上座に居る白い長髪の老人が正座をし、その正面に弦十郎が座っている。

 

「…報告は以上です」

「そうか」

 

その老人こそ風鳴一族の長にして弦十郎の父であり翼の祖父、風鳴訃堂だった。

この場には、弦十郎の他にも翼に緒川、眼鏡をかけた初老の男こと弦十郎の兄であり翼の父『風鳴八紘』も座り訃堂のようすを見ていた。

 

弦十郎が何故、訃堂たちに現状を説明した理由はフロンティアの激戦の報告と響の釈放を要請する為である。第二次大戦中諜報機関、通称『風鳴機関』を組織していた訃堂なら政治家たちに働きかけ響の釈放も出来ると考えてだ。

 

「それで腕を一本失ったのか?」

「…はい」

 

訃堂の言葉に弦十郎はもう無くなってしまった右腕をなぞる様に触る。右腕を無くして数日もしないが弦十郎は何とか日常に馴染もうとしている。ショッカー響の自爆により右腕は完全に吹き飛び探す時間も無くウェル博士の応急処置により命は助かったが右腕を失った。たまに幻痛が起きるのが弦十郎の悩みでもある。

 

「この…馬鹿者がっ!!!!!!」

「グッ!?」

 

直後、訃堂の怒鳴り声と共に頬に強い衝撃を受ける弦十郎。

 

「指令!?」

「叔父さま!」

 

緒川と翼の声がすると共に体に浮遊感を感じ、強い衝撃が弦十郎の体を襲う。

弦十郎に何があったのかと言えば、訃堂に殴られたのだ。しかも思いっきり。

しかし、その威力は尋常ではなく屋敷の壁という壁が破壊され弦十郎が吹っ飛ばされていく。やっと止まったかと思えば冷たい水の中に落ちてしまう。

 

「ゴホッ!ゴホッ!…池!?」

 

訃堂の拳の威力は強く、弦十郎は外の池にまで吹っ飛ばされてしまう。

季節は初夏に変わろうかという時期だが、隕石の影響で外の気温は雪が降る程の低温であり、これには弦十郎も堪える。急ぎ池から出て這いつくばってると誰かの気配を感じた。

 

「立て、立てと言っておる!!」

「親父…」

 

弦十郎が顔を上げると顔に青筋を浮かべた護国の鬼がいる。見ただけでも分かる、怒っていた。

 

「待て、オヤジ!!」

「叔父様!!」

 

弦十郎で出来た穴から翼や八紘が走って出て来る。正直玄関に行くよりもこの方が早かった。

尤も、訃堂は気にせず弦十郎を無理矢理立たせる。

 

「お前は何処まで未熟なのだ!!敵の策略に嵌り腕一本、剰え最終決戦では医務室のベッドで寝をって!仮にも日本の護国を司る風鳴の一族か!!特異災害対策機動部二課の司令官か!!」

「…申し訳ありません、響くんと同じ顔でしたので保護しようと…」

「その甘さがショッカーにつけこまれたのだと何故分からん!!強くなったのは肉体だけであったか!」

 

そう言って、訃堂は手を力強く握り振りかぶる。翼も緒川もその拳で弦十郎を殺すのではと錯覚する程の気迫を感じた。

 

「落ち着いて下さい!!」

「御爺様、それ以上は叔父様が死んでしまいます!!」

 

緒川と翼が訃堂の説得を行う。しかし、訃堂は目線を緒川や翼に視線を向けただけで拳を下ろさなかった。

 

「そこまでにしておけ、オヤジ。弦を殺したい訳ではないんだろ」

 

必死で止めていた緒川と翼の耳にもう一人の声が聞こえた。弦十郎の兄であり翼の父である八紘だ。

 

「お父様…」

「ショッカーとの戦いはまだまだ続く、弦も戦力としては大事だ」

 

八紘の説得が効いたのか訃堂は振り上げていた拳を下ろし、弦十郎の右腕を触る。一瞬、傷口を握る気かと思った弦十郎だったが訃堂の顔を見て唖然とする。

訃堂の顔から何かが流れ地面に落ちる。

 

「…儂もお前も護国の為に生きている、必要とあらばこの命も投げ出さねばならん。それだけは忘れるな」

「…はい」

「…無くした腕は…痛むか?」

 

訃堂の言葉に弦十郎は首を横に振る。今は訃堂に殴られた頬の方が何倍も痛みを感じていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

=偉い人達の会議=

 

「っと言う訳で、我々は響くんの身柄を渡して欲しいのですが」

 

訃堂とのやりとりから少し時間が経ち、弦十郎は政府の重鎮たちのいる会議の場で響の身柄を渡すよう要求し、訃堂に書かせた許可書も見せる。

眼鏡をかけた政治家の一人がその書類に目を通す。

 

「信じられんな…あの鬼が許可を出すとは…」

「国の為なら民間人すら犠牲にする男が…何か変わったのかね?」

 

そう言って、別の政治家が弦十郎の顔を見る。その顔は訃堂に殴られた所が腫れている。

訃堂の性格をある程度知っている者なら、この許可書は信じられない物だった。訃堂は典型的で最も過激な国粋主義者だ。国を守る名目の為ならそれこそ自国の国民は愚か自身の血族すら生贄にしかねない危険な男だ。

それ故に、訃堂の考えに共鳴し忠誠を誓う者達も居るのだが、

 

「あの鬼の事だから、立花響の体を調べ上げ国民全てを改造人間にするのかとも思ったが…」

「…或いは自身を改造し、未来永劫自身の手で日本を守るかと思ったが私は…」

「容易に想像がつくのが恐ろしいな」

 

政治家達からボロクソの評価だが、それ以上に国粋派には真の防人扱いされてるのが厄介である。聞いている弦十郎が苦笑いをし、オブザーバー扱いで呼ばれたウェル博士がげんなりした顔をしている。

 

「あの鬼の事は置いといて、いまは立花響を釈放するかどうかだろ。先生も待っているぜ」

 

その評価を中断させたのは斯波田事務次官だった。珍しくソバも食べずにいたので他の政治家も面を食らっている。

 

「そ…そうでしたな、早速会議をしましょう」

 

寂しくなった頭をハンカチで触りながら手元にある資料を見る。資料の内容は日本及び海外での隕石の大まかな被害と響達と死神博士の死闘のデータにウェル博士が入手したショッカーの作戦や技術の内容である。

 

「日本に比べて海外の被害が大きいな」

「暴動も起こっている。恐らくその被害も入れてるのでしょう」

「やはり…ショッカーと繋がっていた政治家や官僚、資本家が軒並み捕まったのも大きいだろう。まあこちらも何人かの政治家が死んではいるが…」

 

生き残ったネットの情報で世界の財政界の重鎮たちが軒並み逮捕されたのも大きいと言えば大きい。しかし、そればかりではない。中には国の経済を支えていた政治家や官僚も軒並み潰された事で各国の治安が崩壊しつつある。辛うじて国の体制は保っているが復活には時間がかかる。

当然、日本も無傷では済まなく何人かの政治家が死んで政界はパニックになっている。それでも他国と比べれば幾分かマシではある。

 

「だが、これでショッカーの実体も表に出て改造人間を作っていた中心人物、死神博士も倒し弱体化は余儀なくされる筈だ」

「…問題は、奴らが手段を択ばずテロに走る事なんだが」

 

政治家たちとしてはショッカーが弱体化するのは望ましい。寧ろ国際的犯罪組織である以上壊滅して欲しいのが本音だ。だが、自棄になって掌サイズの核爆弾でテロをやられては堪った物ではないのも事実だ。

 

「それから国連から非公式だが連絡が来た」

「国連?国連の連中が何を言って来たんですか?」

「特異災害対策機動部二課を解体して国連直轄にしたいそうだ。これなら日本国内だけでなく海外でも活動してもいいと言って来てる」

 

海外、特に国連とパイプを持つ政治家の一人が語る。世界に日本のシンフォギアの情報が流れた以上、国連としても放置は出来ない。何より、ショッカーの情報の所為で国連も繋がっていた職員が次々と逮捕されたのだ。ショッカーが暴露され二日三日経つが世界どころか国連すらボロボロであった。

 

「内政干渉という事で断れませんか?シンフォギアは日本の金で作った物だ。簡単に外国に流すなど…」

「いえ、向こうはシンフォギアを取り上げる気はないそうだ。まぁそんな元気はないでしょうね。彼らとしては世界を跨ぐ世界的犯罪組織ショッカーも何とかしたいそうです」

「…要は、体のいい番犬ではないか!!」

 

世界征服を狙うショッカーは日本だけでなく世界中に支部を持つ。日本の特異災害対策機動部二課はシンフォギアの力でショッカーの怪人と戦って来た。(一部例外あり)

だからこそ、世界ではショッカーを二つの見かたをしている。

 

即ち、現代兵器で倒せるか否かだ。ノイズには位相差障壁が存在し余程の大火力でもないと現代兵器でノイズを倒すのは不可能に近い。現れたら逃げるか生贄の人間を特攻させる以外、ある程度の時間経過でしかノイズの相手は不可能。日本の場合は、櫻井理論と了子が作ったシンフォギアのおかげでノイズを倒す事には成功している。

 

ならば、怪人はどうか?ノイズと違い、怪人は銃弾や爆弾は当たる、しかしノイズ以上の耐久性あるのも確かだ。少なくとも日本が公開したショッカーの怪人のデータにはそう記載されている。

そして、国連はショッカーに対して軍をぶつけるよりも日本のシンフォギアを方を選んだのだ。

尤も、それを聞いた政治家達はご立腹でもあったが、

 

「断るべきだ!これで受けては日本は世界の笑いものだ!」

「然り!自国は自国の人間が守るべきだ。第一、装者の殆どは未成年だぞ!」

 

「待て、そう決めるのは早い。下手に断れば国連での日本の立場が悪くなるかも知れん」

「…上手くいけば日本の発言力も高まる。という事ですか」

 

会議では、ほぼ半々の政治家が国連の申し出を受ける派と断る派に分かれた。

反対派は、一々日本から出て世界各国に派遣されては響たちの身体共にどう転ぶか分からない。何よりマリア以外は未成年だ。何より外国に派遣してる間に日本が被害を受けるのは堪った物ではない。

賛成派は、これが日本の名声に繋がると考えたからだ。国際上、日本は未だに他国に舐められてる事が多く、先のスカイタワーでの米国政府の独断がいい例だろう。独立国である筈の日本内部でこの様なことをされては本当にいい笑いものである。

 

「風鳴指令、君はどうなのだね!?」

 

反対派と賛成派の意見がぶつかり合う中、弦十郎にも飛び火する。見れば他の政治家も弦十郎に視線を向け集中している。

 

「じ…自分ですか?」

 

その光景に若干だがたじろぐ弦十郎。

 

「そうだな、我々がとやかく言っても仕方あるまい」

「特異災害対策機動部二課の指令である君の意見も聞きたいものだ」

 

それぞれの政治家の視線が『分かってるな?』という意志が感じて溜息を出し真っ直ぐ見つめる。

 

「自分は…受けるべきだと進言します。活動範囲が広がれば響くんたちが動きやすくなるのは確かですから」

 

その言葉に賛成派は胸をなでおろし、反対派は苦虫を嚙み潰したような表情をする。彼らの予想では護国の鬼である訃堂の意をくみ反対するものと思っていた。反対に賛成派の方はホッと胸を撫でおろす。

 

「俺としちゃ、先生の意見も聞きてえな」

 

その時、賛成派であった斯波田事務次官がオブザーバー役のウェル博士にも聞く。つまらなそうに見ていたウェル博士が「僕?」という反応をする。

 

「事務次官、それは越権行為では?」

「彼はあくまでもショッカーの内部事情を知るオブザーバーの筈ですが」

 

斯波田事務次官の言葉に反対派の政治家たちが反論する。只でさえ反対派が不利なのだ、これ以上の賛成派の有利は面白くも無い。

尤も、そんな反応をしても斯波田事務次官や他の賛成派の議員は無視したが、

 

「そうですね。僕としては賛成です」

「ほう…何でか教えてくれるか?」

「そこの脳筋…風鳴指令が言っていた活動範囲もそうですが…皆さん、今回のフロンティアが動いた場所がアメリカ本土の中心や中国の国内でしたら特異災害対策機動部二課は動けましたか?」

「…無理だな。フロンティアが浮上したのは海の上で比較的日本から近かったおかげでもある」

 

特異災害対策機動部二課は当然、日本の組織であり海外で動く権利なぞある訳が無い。

ウェル博士の言う通り、フロンティアがアメリカや中国、ロシア…或いは地球の裏側で日本の手が届かなければ当然、特異災害対策機動部二課が動ける訳が無い。

もし、ノイズの相手を出来る特異災害対策機動部二課が動かなければショッカーの野望も止めれたか怪しいのが事実だ。そして、ショッカーの野望が叶う時は人類が死滅する可能性が高い。

 

「ええ、ただの日本の一組織では不可能。()()()()もし国連なら?」

「…国連ならある程度は当事国の反対も無視出来る。ってことだな?」

 

斯波田事務次官や他の政治家もウェル博士の言いたい事が分かった。海外で活動するには特異災害対策機動部二課では不可能に近いが国連の一組織になればその無茶も出来る。

何しろ相手は神出鬼没のノイズに世界中で暗躍するショッカーだ。その程度の自由は握っておきたかった。

そして、それを聞いていた反対派の議員も賛成に傾きかけ、後はウェル博士に対する質問がある位だった。

その内容も、

 

「ショッカーの怪人はまだ要るのか?」

「マリア達の戦う映像を見た限り、僕の記憶では数体の怪人が姿を見せていません。それに彼らは死んだ怪人を蘇らせ再生怪人としても使役してるんです。考えるだけ無駄でしょう」

 

「ショッカーの元締めを本当に知らないのか?」

「残念ながら、首領を名乗る者は何時も鷲のレリーフから部下や大幹部に指示を送ってました。僕らがショッカーに居る間は影も形も見る事が出来なかった」

 

「立花響の体に何か細工はされてないのか?」

「…本格的に調べたいのならそれ用の検査機とか用意して下さい。恐らく、立花響の体を見れるのはショッカー以外では僕しかいないでしょうね。あとで要望書でも書いておきますよ」

 

こうして、大まかなウェル博士の質問が終わり、響も近日中に釈放する事となる。弦十郎とウェル博士や議員もその場を解散しようとした。

直後に、一人の議員の携帯が鳴る。死神博士の流れ星作戦で電波状況は果てしなく悪いが、完全に使えないでもなく太陽が顔を出せば元通りに使えることで持ち続けてるものが多い。

 

「何だ?…ノイズが酷くて聞こえんぞ!…中国…独断…ショッカー?…!」

 

電波状況の悪い中での報告に携帯に耳を傾ける議員の顔に汗が流れる。そして電話を終えた議員は真っ直ぐに弦十郎や斯波田事務次官に目線を送る。

 

「皆さん、今しがた入った情報です。中国が中国内にあるショッカーのアジトに解放軍を送り制圧する気のようです。ご丁寧にカメラを持ち込み、全世界同時中継するつもりですよ」

 

 

 

 

 




政治が難しい。
参考にしようにもシンフォギアや仮面ライダーに政治家の話すシーンは少ない。
斯波田事務次官と弦十郎が話した印象ぐらいしかない。

携帯とテレビは普通に使えます。ただし、流れ星作戦の所為で携帯はノイズ。テレビも画面が途切れることが多くなりますが。

原作だとマリアを死刑にしようとしたり、GXでは脅迫した米国政府ですがこの世界ではそんな元気はありません。普通にマリアに泣きついて来ます。


恐らく、今年の投下はこれで終わりだと思います。
来年もよろしくお願いします。21年 12月26日


…寒い


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絶唱しないシンフォギアG その2

 

 

 

「中国が軍を使ってショッカーと戦う!?」

「…向こうも随分と動いたわね」

 

ウェル博士の口から中国がショッカーのアジトを制圧しようとしてる事を聞いた響は驚きマリアも少し考えて言葉を発する。

何も言わないが調と切歌も大丈夫なのかという顔をしている。

 

「そう聞きました…尤も僕は時間でしたので結果とかは知らないんですが…」

 

会議の終えた直後にウェル博士はマリア達の居る独房に戻され結果は知らない。知らないがおおよその見当はつく。

 

━━━初期のシンフォギアでも戦車や戦闘機を圧倒したと聞きます。そして、ショッカーもシンフォギア装者との戦闘経てより力が増している。となれば…

 

結果は知らないと言っていたウェル博士だったが、シンフォギアと怪人の能力を把握すれば結果は見えていた。しかし、それを響達に伝える気はない。マリアは兎も角、響が聞けばいらぬ心労を与えてしまうかもしれない。現に響は中国軍がショッカーと戦うと聞いて目に見えてソワソワしだす。

 

━━━今後の事を考えれば僕が立花響の主治医みたいのもの。患者にいらぬ心配をさせるのはいけませんね

 

 

 

 

 

 

 

 

=特異災害対策機動部二課司令部の反応=

 

特異災害対策機動部二課の通路を走る三人の影がいる。一人は初期から所属している風鳴翼、もう一人はルナアタック後に正式加入した雪音クリス。そして最後の一人は響の親友であり神獣鏡のギアを纏い響の奪還に尽力した小日向未来だった。

 

「指令、状況は!?」

「…オッサン、あの…情報は本当か…よ!」

 

指令室に到着して扉を開けると翼が第一声を上げ、息も耐え耐えなクリスが喋る。

丁度、下校の自国で特異災害対策機動部二課へと戻ろうとしていた二人に司令部からの連絡が来て近くを通りかかった未来にも聞こえ三人は急いで仮設本部の潜水艦へと来たのだ。

 

「来たか、今ちょうど向こうさんが演説をしている」

 

翼やクリス達より先に戻った弦十郎が三人のほうを見た直後に視線を動かす。その視線を手繰った先にはモニターに映る髭の生えた偉そうなアジア系軍人がインタビューを受けている。

 

『我が国にとっても犯罪組織ショッカーを野放しには出来ません。世界がこんな状況だからこそ我々はショッカーの打倒を目指しているのです』

 

インタビューでは、模範的な軍人として答える中国の将軍らしき人物だが、特異災害対策機動部二課の面々の視線は冷たかった。

 

「…いけしゃあしゃあとよくもまあ」

「アメリカが直ぐに動けない以上、ショッカーを潰して世界情勢のイニシアチブを握りたいんでしょう」

「それだけではないでしょう。恐らく、中国はショッカーの技術も手に入れる気でしょう。ノイズとの戦闘やあの国の思想を考えればおかしくはないかと」

 

口々に中国の文句にクリスは面を食らう。仮には人類の守護を担う組織としては辛辣だった。見れば翼の視線もどこか冷たかった。未来もクリスのように周囲を伺っている。

そこで、クリスは翼に話しかける。

 

「…何で皆そんなに冷たいんだ。ショッカーと敵対してるならアタシ等にとって味方だろ?」

「あの国とは特異災害対策機動部二課発足初期に結構やりあったんだ。主に櫻井理論の時にな…」

「何より、あの国はここ数年パッとしなかったからな。強引な手段も何度やったか」

 

クリスの言葉に弦十郎も反応して答える。二年前に日本に帰ったクリスは知らないが特異災害対策機動部二課や公安は、水面下で中国と戦っていた。理由は翼の言った櫻井理論だ。

まだ公表されてなかった櫻井理論が何処からか中国に漏れ、水面下で中国は日本に櫻井了子の身柄を要求して日本政府は当然拒否。諦めなかった中国は工作員を送り櫻井了子をスカウト(拉致)しようとして日本に潜入させては防人である風鳴家や公安が撃退する。ショッカーと戦う前に特異災害対策機動部二課はアメリカや他国に気付かれぬよう中国の工作員との攻防が起きていた。

最終的には、キレた訃堂が護国挺身刀・群蜘蛛で中国の工作船数隻をぶった切って乗員を撫で斬りにして大人しくさせた。

時は、ツヴァイウイングの悲劇が起こる一年前まで中国がちょっかいを出していた。

 

その時以来、特異災害対策機動部二課は中国を敵視している。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

=中国軍=

 

中国のとある省。ノイズの出現により一部が廃墟となった都市区画、本来ならホームレスや裏社会の人間が拠点にする場所に何人もの軍服を着た兵士達が行き来している。一部が封鎖されてるが野次馬好きの群衆が入っては叩き出されその様子を撮るマスコミも多くいた。

その内の一つに布で作られた簡易テントの司令部だ。

 

「総員、配備を完了しました。何時でも突入できます!」

「五分後に突入だ、マスコミに映像を撮らせろよ」

「ハッ!」

 

立派な軍服を着て幾つもの勲章を付けた初老の男の命令に若い軍人は返事をして仮設本部のテントから出る。それを確認して将軍らしき男は椅子にふんぞり返る。

 

「これが成功すれば我が国の国際的優位が高まる。小日本なんぞに負けるものか!」

 

ノイズに悩まされてるのは中国も同じだ。しかし、多少の人民が犠牲になろうが圧倒的多数の民族が生き残れば中国の勝ちだ。共産党の幹部が犠牲になれば席が空くというものよ。ノイズ被害がそれなりにあるが世界一の人口を誇る国家は伊達ではない。

 

そんな時に、数年前に日本に送っていた工作員が櫻井理論と呼ばれるノイズ対策を伝えられた。調べて見れば聖遺物と呼ばれるガラクタで女子供に鎧を纏わせノイズと戦えるそうだ。素晴らしい、直ぐに主席は日本に対してアメリカにバレぬよう桜井了子の身柄を要求したが日本が突っぱね、中国は多数の工作員を送る事になる。

 

櫻井了子を巡る攻防は暫く続き、日本の防人の当主と呼ばれる爺さんに工作船がぶった切られる事で大人しくせざる追えなかった。あれ以上やればアメリカ出て来る事が予想されたからだ。

 

「ショッカーというのが今一分からんが、我が国に連中のアジトがあるなら好都合。ノイズと十分戦える技術に日本が恐れる兵器、それらが手に入れば今度こそ小日本を叩き潰してやる!」

 

中国もまた、死神博士の流れ星作戦で打撃を受けたが、アメリカに比べれば微々たるものだ。寧ろ増え過ぎた人民を減らしてくれてありがたいと言える。だからこそ、どの国より早く立ち上がり国際情勢の流れを掴む事が急務と言えた。

国連経由で日本からのショッカーとの協力者も潰し、後顧の憂いを断ち後は中国内部にあるショッカーのアジトを接収して技術をそっくり手に入れるだけだ。

 

「新しい主席も我らの一族で、後は人民の不満を日本に押し付けるだけよ」

 

恐らく、ショッカーの技術を手に入れた中国は何れ日本やアメリカとも戦う事になる。そうなれば技術と人口の差で圧し潰せばいいだけだ。改造手術と呼ばれる技術は是非とも中国としても欲しかった。

その為に、軍でも精鋭といえる部隊をショッカーにぶつける。念の為に近くの基地には戦車や戦闘機も待機している。

 

将軍は、まだ突入もしていない内から勝利を確信して秘蔵の酒を飲む。その酒はやけに上手く…将軍の口にした最後の飲み物となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

=軍隊VSショッカー=

 

何人もの重武装した軍人が建物の壁に張り付き、その時を待つ。そして間もなく隊長からのゴーサインにカモフラージュされていた扉を蹴破り中へと入る。

 

「ゴーッ!ゴーッ!ゴーッ!」

 

「俺ら中国の兵士なのに何で英語で合図するんだ?」

「作者が中国語の合図を知らないだけだろ」

 

メタ発言をしつつ兵士達は中へと侵入し奥へと進む。警戒しつつも銃を片手に地下一階から二階、三階と進んでいく。途中に古臭い機械や真新しい装置などを発見しては後続の部隊を呼び調査の名目で運んでいく。

そして、彼らは敵にも出会わず最奥の広間へと足を運ぶ。

 

「うへ~」

「これがショッカーのシンボルか、カルト宗教真っ青だな」

 

兵士達の目に両翼を開き左を向く鷲と鷲の下に描かれてる地球が書かれている。紛れもなくショッカーのシンボルだ。

 

「ところでよ、黒いタイツをはいた戦闘員ってのは何時でるんだ?」

「見た目が化け物だっていう改造人間も居ないぞ。本当に実在してるのか?」

 

周囲を探索している兵士達から次々と愚痴が出る。作戦を説明された時は国連経由の日本の情報で戦闘員と怪人のことを聞いていたが、アジトに突入しても人っ子一人居やしなかった。まさしくアジトはもぬけの殻だ。

 

「…逃げたか、日本に担がれたかな?」

「俺達の戦力を知る為に日本が騙したってか?あの日本が国連巻き込んでそれはないんじゃないか?」

「なら逃げたでいいか。将軍に何て言う?」

「敵は我が国の戦力を見て逃げ出しました。でいいんじゃねえ?」

 

最深部に到着した兵士たちは口々に喋る。気合を入れて制圧したアジトがもぬけの殻だった事で緊張の糸が解けたのだ。この任務についた以上特別ボーナスを保証されているので楽に終わるのなら文句はない。

隕石の影響で被災した家族のいる兵士としてもボーナスは死活問題だ。

後は、制圧したアジト内を探索して目ぼしい物を地上に持って行けばいい。兵士達はそう考えてた。

 

 

 

最深部の天井に潜む黒い影が舌なめずりをしてるのを無視すればの話だが、

 

 

 

 

 

 

 

アジトを制圧したという報告を聞いてウキウキの将軍だったが、数分後に凶報が伝えられる。

 

『援軍をッ!援軍をッ!!ノイズが…ノイズが!!』

『見たことないノイズが現れて交戦中!仲間が、仲間が化け物に!!』

 

簡易司令部に幾つもの無線が飛び交うがどれもが悲痛な叫びだった。先程までアジトの制圧を報告され楽観視していた将軍も額に汗が流れる。

 

「突入部隊の半数が音信不通!救援要請多数!!」

「敵アジトの一部が崩落し部隊が分断されてます!」

 

突然現れたノイズにアジトの各所で爆発が起き通路が分断されては部隊も浮足立つ。完全に罠に嵌められたのだ。その事を理解した将軍は頭をかき乱す。

 

「やられた!!ショッカーめ、アジトを囮に我々の戦力を削ぎ落そうというのか!!?全軍に撤退命令を出せ!!」

「りょ…了解!」

「……入口通路の見張りより緊急!バイクに乗った何かが来ます!!」

 

通信兵の報告の直後に、アジトの出入口の扉が爆発し破壊され、バイクに乗った人影が現れる。その人影は、ネコ科のような風貌に頭部には斑模様、腹部にはショッカーベルトに上半身の左肩部分には鎧の様な物をつけている。

 

「ば…化け物だ!撃てぇぇぇ!!!」

 

アジトの見張りをしていた部隊の体長が即座に撃つよう命令して十数人の兵士の持つライフルが一斉に火を吹く。

普通の人間ならばこれだけの銃弾を受ければ原形も保てず無残の姿となるが、その怪物にはどこ吹く風。次々と弾切れになる兵士の目に恐怖が宿る。

 

「ゆけ…」

 

それを確認した怪物は懐から黒い宝石の様な物が付いた杖を取り出して振る。直後に杖からドス黒いビームが兵士達の目の前の地面へと当たる。

 

「ノ…ノイズだ!!」

 

そのドス黒いビーム後から黒い人型ノイズが次々と現れる。突然の事に兵士達は弾切れの武器を放り出して逃げたり弾を込めようと悪戦苦闘したりする。その間にも怪物の出したノイズは次々と兵士に接触した。

 

「ウワアアアアアアアアア……ウオオオオオオオオ!!」

「死にたくねえ……ケケケケケケケケケケケケッ!!」

 

本来、ノイズに接触した者は例外なく炭素化して死亡してしまう。人間のみを殺す為に造られたノイズの目的だからだ。しかし、取り付かれた兵士たちは炭化せず、嘗て響達が倒した蜘蛛男やセラセニアンに変化し元仲間であった兵士達に襲い掛かる。

 

「あ…相棒が化け物になりやがった!!」

「来るな…来るなぁぁぁ!!!」

 

パニックになった兵士の銃撃音に再び場は混乱する。それでも蜘蛛男の毒バリが何人もの兵士を溶かし、セラセニアンの鞭が兵士の体を引き千切る。

耳をすませばこの場だけではない。他の場所でも銃撃音と悲鳴が聞こえる。

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうした!?何がおこった!?」

「へ…兵たちが化け物と交戦!!」

「他の報告ではノイズに取り付かれた物が怪物になったそうです!!」

 

簡易指令室の方でも自国の兵士が化け物…怪人になって味方を攻撃し出す事を報告される。テレビを見れば現地に居る記者が化け物を映し襲われてる姿も確認できた。

 

「一体…これは…」

 

将軍としても訳が分からなかった。その理由は国連から提供された情報に偏りがあり翼やクリスが目撃したショッカーの杖とショッカーノイズの情報が防がれてたからだ。何しろ、二人が目撃してから日にちも立たず国連の情報部の混乱に流れ星作戦で各国の都市にダメージが深く、その間に中国はショッカーの技術を得る為に強行したのだ。

 

「す…直ぐに増援を送れ!戦車やヘリであの化け物どもを殺せ!マスコミもこれ以上好きにさせるな!」

「現場が混乱しておりこちらの命令が届きません!」

「増援が到着!戦闘に入りました!」

 

現場に到着した部隊は直ぐに怪人に向かって銃撃が開始。戦車砲も怪人に向かって砲撃する。一部の怪人は戦車の砲撃により倒されるが一部の怪人が戦車や歩兵に向かう。

 

「走れッ、稲妻!!」

 

エイキングの言葉と共に周囲から稲妻が飛び、歩兵部隊や戦車に襲い掛かる。電流を浴びた兵士たちは断末魔の叫びを上げると共に灰となり、戦車も次々と爆散していく。

その様子を見ていた武装ヘリも何とか仲間の援護をしようとするが大岩のような物が接近し幾つものヘリが墜落する。

 

「ヴアッ、ウアーッ!!」

「ミミミミミクァー、ウォーッ」

 

ヘリの殆どを撃墜した大岩は地面に転がると人型へと変わる。その正体はアルマジロングだった。すると、何処からともなくトカゲロンが現れ、人間の言葉を喋らず会話のような物をすると、再びアルマジロングは体を丸めてトカゲロンがそれを蹴りだす。

さっきのヘリの撃墜もこの方法を用いていた。

 

まさに現場は大混乱であり次々に簡易司令部に凶報が舞い込み撤退の指示を願う兵士も続出する。中には黙って逃げ出す者も出た。

 

その様子を廃ビルと廃ビルの間で観察する怪人が居る。先程、兵士達の射撃を受けながらもショッカーノイズを出したネコ科のような怪人だ。

 

「デモンストレーションとしては成功か…」

 

怪人はそう呟き、ノイズを出した杖を見る。杖はまるで経年劣化したかのようにボロボロとなり遂には砕け散る。その時、怪人の背後からバイク音が響き振り向くと黒ずくめの戦闘員がやって来る。

 

「C地区にノイズをばら撒き怪人を多数出現させました!」

「D地区も同じく。軍隊は怪人への対処で精一杯です!」

「将軍たちの始末は完了しました」

 

戦闘員が口々に作戦の完了を報告する。中国の作戦はショッカーに筒抜けであった。本来ならば将軍や主要人物の暗殺をして此方の手の者と入れ替えるが、死神博士が死んだ上に怪人も軒並み倒された事でショッカーにそんな余裕はない。

 

故に、地獄大使は今回の事でショッカーの杖のデモンストレーションに中国を利用した。何より派手好きな将軍が現地にマスコミを連れて来たのも地獄大使にとってありがたいと言えた。知られた以上、秘密結社に意味はない。

軍隊をも圧倒する怪人の姿を見れば当然欲しがる俗物も出て来る。最早、秘密に出来ないのなら表立って行動して目立ち、より世界に恐怖を与える事も辞さない。

今は少数でも、何れはショッカーの杖を量産してブラックマーケットに流し誰もが怪人を使役すれば、最終的にショッカーが世界を握る事になる。

 

「よし、後はノイズの怪人モドキに任せて撤退する。目標は地獄大使の居る日本だ!!」

 

戦闘員達の報告聞いた怪人がバイクを吹かし飛び出すと戦闘員もそれに続く。

彼らにとって、ショッカーノイズから怪人になった者達は捨て駒でしかない。人間の魂もない彼らは本能に従い人間を襲う獣レベルでしかない。杖があればある程度は操れるが無くなった途端、杖の持ち主にすら襲い掛かる程の獰猛さだ。それらを無条件で操れるのは首領しかいない。

兵士を襲う怪人達は獲物が居なくなれば人間の居る方へと向かいまた襲う。

 

この日、中国のとある省は怪人によってとんでもない被害を出す事になる。

 

 

 

 

 

 

=様子を見ていた特異災害対策機動部二課=

 

「…酷い」

 

モニターには逃げ惑う兵士に襲い掛かる怪人の姿が映る。獣のような動きをする怪人は次々と兵士の生きたまま焼き殺したり、溶かしたりしている。その様子を見ていた職員の何人かは嘔吐している。

時間にして30分も経っていないが、怪人による虐殺劇が起きている。

 

「おい、このまま見てるだけかよ!?アタシ等が行った方が…」

「…無理だ」

「俺達に中国まで出動する権利はない。中国政府が日本政府に助けを求めれば別だが…」

 

口で言ってても、それはあり得ないと弦十郎も考える。

只でさえ、ショッカーのアジトの占領に失敗した上に、日本に助けを求めるのは中華のプライドや面子が許さない。例え、多くの兵や人民が死のうと日本に助けを乞う訳にはいかないのが中国の実情である。

 

「こんな時に、国連直轄なら確かに動けるかも知れんが…」

「アタシ等は見てる事しか出来ないのかよ!」

 

弦十郎の呟きにクリスは悔しそうに吐き捨てる。

結局、この騒動は中国の無差別爆撃により何とか鎮圧したが巻き込まれた人民や国連に問題視され中国の発言力は弱まる結果としかならなかった。

そして、世界中の国家がショッカーの怪人に恐怖する事となる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

=ウェル博士による響の体の説明講座=

 

「…この様に立花響は動植物の能力は有しず人間としての能力のみ上げられたと言う訳です。次に立花響に付けられてるプラスチック繊維製消化器官。通常胃がある場所に付けらてる装置ですね、計算上この装置のお蔭で立花響はあらゆる物を消化吸収する事が出来ます。毒キノコも毒虫だろうとね、それこそ日本人が好きなフグも丸ごといけます」

 

特異災害対策機動部二課が国連の直轄されるのが決まり二日。中国の失態もあり国連が特異災害対策機動部二課に期待する動きも活発な中、ウェル博士が特異災害対策機動部二課の職員や装者を集めていた。

ウェル博士の背後には大型のモニターがあり、ロボットのようなものが映し出される。

 

これこそ、響の体の中であり特異災害対策機動部二課でもお手上げ状態で見守るしか無かったが、国連の直轄となる前にウェル博士が響の体についての勉強会を開く。要は響についての理解の共有である。

これには、特異災害対策機動部二課専属の医者や科学者も挙って参加している。翼やクリスだけでなく本来来る必要のない未来もこれに参加している。

 

そして、始まるのは科学者や医者の質問攻めであった。

 

「ウェル博士、立花響の目の奥にある装置は?」

「これは、Cアイ。別名キャット・アイとも呼ばれてる超小型の複眼ですね。これを立花響の水晶体と繋ぐ事により猫の目のごとく真っ暗な場所も昼間のように見えたり赤外線も見る事が出来るらしいですね。更に立花響の視力は常人も超える4~5に相当するそうです」

 

「ウェル博士、立花響の頭部付近にある小さなでっぱりは?」

「Oシグナルと呼ばれているアンテナのようなものです。理論上、数百キロ先のあらゆる電波を受信出来るそうで特異災害対策機動部二課との通信もこれで感知してやり取りをしています」

 

「立花響の骨格はどのような素材が…」

「所謂、特殊金属というやつですね。ショッカーが開発した剛性と柔軟性を併せ持つ軽合金製の人口骨により体を作り通常の人間の数十倍の力を出せる人工筋肉によって戦闘を可能にしています」

 

モニターには響と怪人の戦う場面が映り、響が複数の戦闘員を倒す場面で止まる。

更に響の外骨格がズームで映りメーターのようなものまで出て来る。今まで調査しようにもお手上げ状態だった響の体の事がウェル博士により次々と明らかになる。

 

「…革新的だ…」

「ショッカーはこんな技術まで…」

「この技術が有れば、義手や義足の完成度もより発展するぞ」

 

ウェル博士の説明に改めて自分達以上の技術を持つショッカーに驚く科学者や医者たち。

翼やクリスたちにはチンプンカンプンな内容であったが、技術の分かる科学者や医者にしてみれば響の体はまさに異端技術の塊であった。言うなれば響の体はショッカーの技術の塊なのだ。

 

しかし、そんな状況を面白く思わない人物がいる。響の親友、小日向未来だ。

未来はまるで、響を見世物にしてる気がして席から立ちあがりウェル博士に一つの質問をする。

 

「ウェル博士!」

「…何ですか?小日向未来さん」

「響を…響を元に戻す方法は無いんですか!?」

 

未来の質問に誰もが押し黙る。彼等としても立花響の体を戻せるのなら人間の体に戻してやりたい気持ちはある。しかし、科学者や医者どころか医療関係に疎い筈の弦十郎や翼にクリスも奥歯を噛みしめている。

 

「…ハッキリ言いましょう。不可能です」

 

ウェル博士はハッキリとした口調で不可能だと返事をする。未来も何となく分かってはいたが、ウェル博士にハッキリ言われ膝から崩れ落ちるように椅子へと座る。

 

「これを見なさい。主要な臓器は全て取り除かれ、あるのは心臓と脳だけだ。その脳に至っても幾つのか電子頭脳を取り付ける為に一部分が切り取られている。人間…いえ、生き物としての大事な部分が無くなり機械に置き換えられている。心臓に至っては立花響の能力を維持する為に少しですが強化されてます。君が神獣鏡で響くんの脳改造を解いたのも奇跡レベルなんですよ」

 

改造人間である響の体は、死神博士にそうとう弄られていた。それこそ元に戻るのは不可能な程に。

幾ら、ウェル博士が生化学や生改造学に精通していようとこればかりは最早どうしようもなかった。それを聞いた未来は口元を押さえ咽び泣きクリスが傍に座り介抱する。

 

結局この日はこれで終わりとなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え~と、久しぶり皆」

「やっと来たか、立花」

「…まったく遅えよ」

 

翌日、マリアたちの独房から出された響は特異災害対策機動部二課仮設本部の潜水艦へと護送され弦十郎たちの前に居る。響と別れてから時間にすれば一週間も経っていないが久しぶりに響の顔を見られてホッとする翼とクリス。

尤も、響の復学にはもう少し時間が掛かるが、

その時、響の目が何時も通りの赤いシャツにネクタイを胸のポケットに入れた弦十郎の姿を見るが右の裾から腕が出てない事に気付く。二日程の入院で即指令室に来たことで他の職員も心配はしていた。

 

「師匠…その腕…」

「…油断しただけだ。気にするな」

 

そこで、初めて響は弦十郎が右腕を喪失してる事に気付いた。ソロモンの杖を投げた時は薄暗かった上に倒れた弦十郎が直ぐに医務室へと運ばれたからだ。余談ではあるが、翼とクリスも弦十郎が右腕を無くした事に最初は信じられない態度だった。

弦十郎の言葉に響は返事も出来ずただ頷くだけだった。

 

「…ただいま。未来」

「…お帰り、響」

 

翼とクリスと少し話し弦十郎ともやり取りした響は奥に居る未来に声をかける。お互い久しぶりな気持ちで会った事で二人に笑みが浮かぶが未来は先日のウェル博士の言葉に顔を伏せる。

 

「未来?」

 

「響くんが復帰する事になるが早速仕事だ」

 

未来の様子に響が声をかけるがそれを断つように弦十郎が喋る。響は未来を気にしつつも弦十郎の方を見直す。丁度、大型モニターに日本の地図が映り幾つかのポイントに矢印のような物が映っている。

 

「我々が間も無く国連直轄となり任務に入る事になるが、先に後顧の憂いを断たねばならん。現在、警察や公安が総動員してショッカーのアジトを制圧する予定となっている。俺達も怪人や最優先目標を叩く為に遊撃隊として同行する。残念だが響くんと翼にクリスくんはバラバラに動いて貰うことになる」

 

モニターに映る全ての矢印。そこにあるのはウェル博士が掴んだショッカーのアジトだ。政府はもう直ぐ国連直轄となる特異災害対策機動部二課を再編成する前に日本中にあるショッカーアジトを叩く気でいる。

 

とは言え、日本政府も中国の二の舞は御免である。だからこそ、響の釈放を急ぎ装者も同行しての制圧を目指している。本当なら監房に居るマリアたちにも手伝ってもらいたいのが日本政府の本音でもある。

 

「一斉に攻撃するつもりですか!?」

「無茶だ、アタシ等が居れば怪人とも十分戦えるけど、二十個以上のアジトの一斉攻撃なんて…」

 

中国の失態や怪人の強さを知っている翼とクリスが止めるよう言うが、日本政府には急がねばならない理由があった。

 

「…無茶は承知だ。だが、時間が無いんだ…これを見てくれ」

 

そう言って、翼とクリス、響は弦十郎から何枚かの書類を渡され目を通す。

 

「何だよコレ…毒ガス製造工場…ウラン貯蔵基地…ミサイル製造工場!?」

「…コパルト120による放射能爆弾!?…指令、これは!」

「ウェル博士が持ってきたデータチップを解析して出て来た情報だ。追い詰められたショッカーがなりふり構わず使えば大惨事だ」

 

ウェル博士が奪取したショッカーのデータで日本にあるショッカーアジトの場所はだいたい分かった。しかし、それと同時にショッカーが準備している恐ろしい作戦も政府は掴み先手を打とうとしていたのだ。

 

これらを見せられた翼やクリスに響は作戦を断る手立てはなかった。

 

 

 

 

 

 

 




特異災害対策機動部二課にとって中国は改造人間を作ってないショッカーみたいなものと思ってます。
シンフォギアは米帝やバルベルデ以外、あまり海外の話をしないので中国は完全に想像でしかありません。…北と合体してる気がするのは気のせいか?

仮面ライダーSPIRITSの9巻でも言われてますが飛び道具は威嚇にしかならず怪人を倒すには徹甲弾クラスか、SPIRITSでも書かれていた怪人用の装備が無いと辛いです。

中国の失敗を見ても日本政府は制圧作戦を実行します。ウェル博士の情報でのんびりしてられなく、一つ一つ攻略していたら時間が足りないので。その所為で翼たちは酷使されるのが決定。

響の体のスペックも一部判明。零した水が元に戻らないように響の体も…


次回から、シンフォギアXDの翳り裂く閃光編に入ります。


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戦姫絶唱シンフォギアXD 翳り裂く閃光編  二人の響VS地獄大使
72話 もう一人の自分?


新年早々風邪ひいた。喉にくる奴だったので声が渋くなっていた感想。

XDのレベル60越えのノイズが硬い…ボスはもっと硬い。


 

 

 

フロンティアでの死神博士との死闘、ショッカーの存在を世間にばらされ早や一週間。

流れ星作戦により破壊された街も少しづつだが復興に向けて動きつつある。そんな人々に気付かれぬよう動く政府の人間達。

幾つもの自衛隊の輸送トラックが道を走る。大体の人間は何処かの復興の手伝いにでも行ってるのだろうと疑問にも思わなかった。

 

 

 

 

「突入!!」

 

「イーッ!?」

 

絶妙にカモフラージュされた入り口を爆破して警官隊や自衛隊が雪崩れ込む。驚いた戦闘員が武器を持ち応戦するが狭い通路と人海戦術により押しつぶされ拘束されたり射殺され体が溶けていく。

 

現在、警察や公安に自衛隊はウェル博士の提供された情報により次々とショッカーのアジトを強襲して鎮圧している。危険な毒ガスに生物兵器、一般人の拉致など行うショッカーを政府が無視する事も出来ず、小さなアジトから次々と責めて陥落させている。

 

通常なら、そのアジトの防衛をしている怪人が相手をする処だが今は地獄大使による再編成の真っ最中であり、多くのアジトには怪人が居らず戦闘員だけの場合が多い。

戦闘員だけならば、警官隊や公安だけでも何とか鎮圧が出来る。中には脅迫する為に拉致された政治家や科学者の家族もいたが救出されている。

 

「〇〇博士、貴方を拘束します」

「政府がやっと動いてくれたか。しかし、私の娘が奴等に…」

「既に確保出来てます。貴方が無理矢理働かされていた事も、ご同行願います」

「…分かった」

 

多くの科学者は騙されていたり家族を人質にされ仕方なくショッカーに協力していた者達も多い。彼らは人質が救われた事を知れば喜んで投降していた。また、ノイズの出現により死んだとみなされていた民間人も多数保護する事になり一時期週刊誌を賑わすことになる。日本政府は順調にショッカーのアジトを次々と潰していた。

 

尤も、そんなアジトばかりではない。

 

 

 

 

「死ねぇ!殺人リング!!」

 

「うわあああ!?」

 

何人かの突入部隊が首にリングが巻かれ絞めつけられ倒れていく。彼らは必死に自身の首を絞めつける物を取ろうとするが次々と力尽きていく。彼らは不運にも怪人が居るアジトを強襲したのだ。そして、運の悪い事に怪人と交戦に入る。

 

地獄大使は、重要度の低いアジトには戦闘員しか配置しなかったが重要な物が保管されてるアジトには腕利きの怪人を配置させ防衛を任せていた。柿沼の奥地に作られたアジトもその一つだ。

 

「撃てぇ!撃てぇぇぇ!!」

 

自衛隊が距離を撮とって怪人に向けて銃で一斉射撃を行う。しかし、怪人は中国で見たようにいくら銃弾を浴びてもビクともしなかった。

その事に、全身魚のエラのような跡があり腹部の一部に何か細い物が蠢いている怪人が不敵に笑う。

 

「わざわざ柿沼のアジトをよく嗅ぎつけたな、人間ども!だがこのアジトはミミズ男である俺様が守っているのだ!大方、コバルト120で造ったコバルトミサイルでも嗅ぎつけたのだろうがお前達如きでは止める事は不可能だと知れぃ!!」

 

「コバルト120が此処に!?直ぐに装者を呼べ」

「了解!」

 

ミミズ男の発するコバルト120。従来の物より10倍の威力を持ち爆発時に放射能も通常の物より遥かに多い爆弾。ウェル博士の情報により日本政府が最優先で確保及び破棄を目指している危険物でもある。

 

「既にミサイルの製造は完了した。後は世界中に打ち上げるだけよ!」

 

死神博士が死亡した事により、なりふり構わなくなったショッカーは今まで凍結していた様々な作戦を動かす事を決定した。ミミズ男の言うコバルト120もその一つである。ミミズ男はコバルト120を使った核ミサイルを世界中に撃ち出して地球を放射能まみれにし人類を皆殺しにする「放射能作戦」の指揮もとっていた。

 

「何としても止めるんだ!」

「銃身が焼き付くまで撃ち尽くせぇぇ!!」

 

「アブアブアブッ!!」

 

ミミズ男によるショッカーの作戦を聞いた自衛隊はなんとか止めようと、弾丸を補充してまたミミズ男に撃ち込む。それだけではなく携帯用のバズーカなども撃ち込み爆発が起きる。

幾つもの爆発が起き、煙でミミズ男の姿が見えなくなる。その事で一旦撃つのを止める自衛隊だが誰も銃を下ろしていないし誰もが汗を流し煙を睨みつける。

 

「こそばゆいぞ人間ども!ミサイルの発射の邪魔などさせん!殺人リング!」

 

まだ燻ってる煙から怪人の声がすると共に何かが煙から飛び出す。それは一見紐のようにも見えたがそれは正確に自衛隊の下に飛び首にまで接近するとリングのようになって巻き付くと一気に締め付ける。

 

「グワッ!?」

「おい、しっかりしろ!!」

 

首を絞められた自衛隊や警官は藻掻くように暴れ、無事だった者が壁にしている場所から手を伸ばしてミミズ男の見えない位置まで移動させて仲間の首を絞めつけてる物を外そうとする。

しかし、どんなに力を入れても紐は取れずナイフも使って千切ろうとするがナイフが欠けてしまう。

 

「何なんだ、これは!!」

「…外れない!!」

 

どんなに引っ張ろうが引き千切ろうがビクともしないリング。遂には首を絞められた自衛隊や警官が泡を吹き顔を青白くさせ息を引き取る。

 

「死んだ。殺されたぞ!」

「並みの銃弾じゃ傷一つつかねえ!」

 

「お前達も間も無く、そいつ等の後を追わせてやる。安心して死ねぇ!!」

 

そう言って、ミミズ男は物陰に隠れている自衛隊や警官を始末する為に彼らの隠れている物陰へと迫る。彼らも黙って殺される気はなく残った銃弾を浴びせ足止めを試みるが怯みもせず迫るミミズ男。

そして、とうとう隠れていた自衛隊や警官隊の前に立つミミズ男。

 

「気が済んだか?死ねぇ!」

 

今まさに、残った警官隊や自衛隊員を殺そうと鞭のような左手を振りかざすミミズ男。自衛隊がもう駄目かと諦めかけたその時、

 

「させるか!!」

 

少女の声と共に幾つもの弾幕がミミズ男を襲う。また警官隊や自衛隊の攻撃かと思ったミミズ男だがその弾丸は今までの物より遥かに威力が高い。そしてその弾丸は自衛隊や警官隊には一切当たらず全てがミミズ男へと命中する。その事に驚き警官隊や自衛隊と距離を取るミミズ男。

そして、警官隊とミミズ男の間に着地する一人の少女。両腕には二門のガトリング砲を持っている。

 

「待たせた、後はアタシに任せな!」

 

「貴様、裏切者の装者の一人。雪音クリスか!その首、ミミズ男が貰い受ける!!」

 

自衛隊の要請にクリスが救援に訪れミミズ男と対峙する。怪人の相手を出来るのは現状、シンフォギア装者の翼や響たちくらいしかいない。しかし、特異災害対策機動部二課はマリアたちを助っ人に出来ず三人だけで事に当たっている。だからこそ、仮設本部が潜水艦と言う点を利用し日本海付近を潜水して自衛隊や警官隊が相手に出来ない怪人が居る場合要請されれば直ぐにでも駆け付けるよう準備をしていた。

 

三人とも戦闘が終われば直ぐに他からの救援要請が来る為あまり休めないが、日本からショッカーを追い出す為に頑張っている。

 

尤も、戦ってるのは彼女たちだけではない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

日本一の高さを誇る富士山。冬になれば見事な白化粧を見せ心を癒してくれる山。

まさに日本の宝と言うべき富士山にもショッカーがアジトを造り世界征服の為の準備をしていた。しかし、そのアジトに襲撃する者がいる。

 

「イーッ!」

 

人影と交差した戦闘員の首が落ちると共に体も崩れ落ち緑の泡となって消滅する。既に何人もの戦闘員が敗れたが、未だに多くの戦闘員が一人の人物を囲み続ける。

 

「全員だ!全員でかかれぇ!!相手はたった一人の爺だぞ!!」

 

隊長らしき戦闘員が支持をして取り囲んでいた戦闘員が飛び掛かるが、老人は次々と持っていた刀で迎撃をして戦闘員は指一本老人に触れる事も出来ず緑色の泡となり消滅する。

 

「…美しき富士にこのような罰当たりな物を作りをって、貴様たちの首だけでは足りぬとしれぇ!」

 

「ほざけぇ!くたばり損ないの爺が、死ねぇ!!」

 

戦闘員が必死に老人へと迫り攻撃するが、老人は本当に老人なのかと疑うレベルの動きで回避し逆に攻撃してくる戦闘員を次々と切り捨てる。縦や横に切られた戦闘員は断末魔を上げ倒れて緑色の泡となる。

 

「イーッ!?」

 

最後の戦闘員が悲鳴を上げ倒れる。そのまま泡となって消え、老人が暫く警戒をするが増援は来そうにない。その時、何人かの黒服が現れ老人の下へと急ぐ。

 

「お怪我はありませんか!?」

「こんな雑魚どもに後れをとる程耄碌はしとらん。こんな施設、破壊して瓦礫に埋めてしまえ」

 

言葉遣いからして黒服たちは老人の部下のようだ。

黒服たちの言葉にそう返事をした老人はその場を後にする。

 

「…ふん、ついでに愚息の腕の仇も取れたろう」

 

老人…風鳴訃堂は、通路を歩き自宅へと戻る。

短期間の内にショッカーのアジトの全てを制圧など特異災害対策機動部二課の装者では到底足りない人手だった。ショッカーとしても黙って制圧される気などないのは明白だ。それゆえに護国の防人である風鳴の当主、風鳴訃堂にまでショッカーアジトの制圧を要請される事になった。

 

しかし、特異災害対策機動部二課を国連に派遣させる事を聞いた訃堂はこれに難色を示す。訃堂にとってこの行為は大切に育てた組織を国連に売り渡したかの如く所業である。関わった政治家を文字通り切り捨ててやろうかとご立腹だった。

そこで、政府は風鳴弦十郎や翼たちの説得、ショッカーが日本の富士にアジトを造っていた事を教えて説得し富士の巨大な要塞のみ手伝う事を了承した。

 

こうしてショッカーは日本にあるアジトは次々と陥落していく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「指令、富士にあったショッカーアジトが陥落!」

「やってくれたか、親父…」

 

日本海側を潜航する特異災害対策機動部二課仮設本部の潜水艦の指令室より次々と情報が舞う。○○アジトの陥落や○○アジトに怪人出現など引っ切り無しだ。

指令室では、装者の中継地点としての役目がある。何しろウェル博士が入手した情報では北海道から九州までのアジトが確認され日本政府はそれらを一斉に摘発し、自衛隊や警官隊を送り込んだのだ。その結果、どのアジトに怪人がいるのか不明なのだ。其処で潜水艦として特異災害対策機動部二課仮設本部に白羽の矢が立つ。自衛隊や警官隊の要請があれば直ぐに駆け付けれるように日本海側を潜航しているのだ。

 

「クリスちゃんより入電!…ミミズ男の撃破に成功!爆弾処理班が放射能爆弾を積んだミサイルの解体に入りました!」

 

あおいの報告に指令室内は沸き立つ。弦十郎も安堵の表情をしている。

 

「懸念されていた物の一つが片付いたな」

 

放射能爆弾は日本政府でも最も危険視されていた兵器だ。世界を十分に放射能で満たされては人間どころか殆どの生き物は生きれる訳が無い。だからこそ、重要な攻略といえたのだ。

それからも、指令室には次々と「攻略完了」の報告が舞い込む。しかし、中には自爆装置が作動した事により攻略を中止して退避する事になるアジトもあった。

 

「報告にあった半分近くのアジトは陥落したか」

「順調といえますが、やはり犠牲は出てますね」

「…大幹部の地獄大使の行方も分かっていません」

 

一見、順調のように見えるが自衛隊や警官隊の犠牲が出ている。怪人が殺したのもそうだが、戦闘員との戦闘やアジト内にある罠による犠牲も多い。そして、なによりショッカー最後の大幹部である地獄大使の行方がまったく掴めないのだ。

出来る事なら特異災害対策機動部二課としても地獄大使の捕縛或いは逮捕しておきたいのが本音である。

 

「…基地の攻略に参加していた自衛隊から緊急入電!」

 

その時、一本の通信が入りオペレーターの朔也から報告が入りモニターに作戦に参加していた自衛隊の隊員が映る。

 

「何かあったのか!…まさか怪人か!?」

『いえ、怪人ならオレンジ色のシンフォギアを使っていた少女が倒しました。問題は制圧した後です』

 

この部隊には怪人が出た事で響が派遣され、アジトの守備をしていた怪人を倒す事に成功し制圧した。そこまでは良かったのだがアジトの通信機が鳴ったのだ。

 

 

 

 

『こちら、地獄大使配下。これよりスーパー破壊光線砲による攻撃により日本を壊滅させる。繰り返す、これよりスーパー破壊光線砲による攻撃により日本を壊滅させる。衝撃にそなえよ!衝撃にそなえよ!』

「スーパー破壊光線砲!?そんな物使わないで!」

『…その声、立花響か。如何やら其処も制圧したようだが、まぁいい。ショッカーの開発したスーパー破壊光線砲の威力を教えてやる』

 

 

 

 

「…途中で地獄大使の声に代わって、その言葉を聞いて響くんが飛び出したのか!?」

『はい…ご丁寧に通信機から地図も出て居ました』

 

要は地獄大使の通信を聞いた響が、その作戦を阻止する為に地獄大使の居るアジトに向かった。それも自衛隊が止める間も無くだ。響の勝手な行動に自衛隊の一人が特異災害対策機動部二課の指令室に報告して判明した。

 

「響くんめ…」

「相変わらず思いっきりの良い子ですね」

 

響の勝手な行いに頭を抱える弦十郎にあおいが思わず呟く。正義感があるのはいいが独断で動かれるのは困るし政府上層部も嫌がる。

 

「それにしてもスーパー破壊光線砲か…」

「…一見、子供の考えたようなネーミングですけど」

「相手はショッカー、ただのハッタリでもないかと」

 

スーパー破壊光線砲という大層な名に呆れつつも寒気を感じる一同。名前はシンプルだが中身は恐ろしい物が多いのもまたショッカーだ。

 

「翼とクリスくんにも連絡を」

 

兎に角、手の空いたクリスと帰還中の翼に響の援護を命令しようとした時、異変が起こる。

 

「!?指令、東京を中心に関東で震度四の地震が発生!」

「こんな時に地震だと!?」

「震源地は…東京湾です!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい、何だよありゃ!?」

「でけえのが浮かんできたぞ!!」

 

東京湾近郊。魚を釣りに来ていたり偶々観光で訪れていた人間達が地震により動かないでいたが突如海面から巨大な何かが出て来ると共に声を出して持っていたカメラで映像を撮る。

それは、大岩と言うにはあまりにも大きく、コンクリートで造られた団地上の建造物。そして一際目を引くのは山のような大きさの岩に象られた巨大な鷲の彫刻。

 

「すげぇ!何だよあれ!」

「もしかして古代遺跡とか!」

 

道の建造物に興奮冷めやらない人々。遠くの方でパトカーのサイレンが聞こえてくるが彼らにはどうでもよく手に持つ携帯のカメラでその建造物を映してネットに拡散している。

その時、建造物の外周から明かりが見えると共に彼らは炎の中に消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ウジ虫どもの排除は済んだか?」

「イーッ!設置した大砲で砲撃しました!生存者はなし!」

 

戦闘員の報告を聞いて笑みを浮かべる地獄大使。野次馬をしていた人間達を排除した事に地獄大使は満足気である。

此処こそ、東京湾に現れた巨大な建造物の内部であり、ショッカーの最大のアジトでもある。

 

「スーパー破壊光線砲のエネルギーチャージは!?」

「既に90%突破!何時でも撃てます!!」

「よし、砲撃準備!!」

 

作業をしていた戦闘員の報告を聞いた地獄大使の掛け声にアジトの地表付近にある団地が幾つも罅割れ崩れていく。土煙の舞う中、巨大な影が現れる。煙が晴れていく内にそれが巨大な砲身だということが分かる。

そして、その方針は東京に向けられている。

戦闘員達が最終チェックをし忙しなく移動する。砲身の先も徐々にではあるが光りだし発射の準備が整いつつある。

 

その時、一筋の光が東京から出てアジトに接近する。

 

「来たか、大砲で撃ち落とせ!!」

 

アジトの外周部分に取り付けられた大砲が一斉に光りに向かって撃ち出される。しかし撃ち出された弾は悉くが避けられて偶に爆発するが光りを撃ち落とす事は出来なかった。

 

「イーッ!?」

 

その光りはアジトの表面に辿り着くと武装した戦闘員を何人も蹴散らしやっと動きを止める。その光りの人物こそ立花響だった。

 

「間に合った?スーパー破壊光線砲は…あれかも!」

 

周囲を探る響は直ぐにスーパー破壊光線砲の砲身を見つけ壊そうとシンフォギアを掲げるが、

 

『止めて置け、立花響!』

「地獄大使!?止める訳ない、あんなのを東京に撃ち込ませはしない!」

『スーパー破壊光線砲のエネルギーはカ・ディンギルの比ではない。破壊すれば東京は丸ごと吹き飛ぶ!』

「!?」

 

地獄大使の強制通信に固まる響。ハッタリかも知れないが無理に破壊すれば東京は跡形もなく吹き飛ぶ。せっかく復興しかけている街の人間が大勢死んでしまう。そう考えただけで響の体が震えてしまう。

 

『分かったようだな。貴様は其処でスーパー破壊光線砲の威力を指を咥えて見えるがいい!!』

 

地獄大使の笑い声とともに通信が切れる。

既にスーパー破壊光線砲の発射は秒読みに入った。破壊も出来ない、方向転換も響一人では出来そうにない。響の頭に絶望という言葉が浮かび上がる。

 

━━━無理にスーパー破壊光線砲を破壊しても東京が…。翼さんやクリスちゃんが着く頃には多分もう撃たれてる。私一人で止めないと、でもどうすれば…カ・ディンギル?…そうだ、クリスちゃんの時みたいに!

 

一つのアイデアが浮かんだ響は腰のブースターと足のジャッキを使い無理矢理飛ぶと砲身の前に行く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「衛星のからの映像出ました!」

 

同じ頃、特異災害対策機動部二課の指令室でも東京湾の異変の情報が舞い込み現在の東京湾の様子を衛星からの映像で知る事になる。

 

「!これは……」

 

モニターを見た弦十郎は思わず呟き、他の職員も絶句する。

映像には東京湾に小島並みの大きさの陸が浮かび地表にある団地のような建物が崩落して、そこから巨大な砲身が飛び出し東京に向けられている。

 

「…確認しましたが、ウェル博士が入手したデータにこんな要塞は存在しません!」

「ウェル博士も把握していないアジトか!?」

 

幾ら、ウェル博士でもショッカーのトップクラスのデータを入手する事は出来なかった。その証拠にショッカーの本拠地の場所も入手する事は出来ていない。つまりは、あの東京湾の要塞もショッカーのトップシークレットということだ。

 

「…高エネルギーを探知!」

「これは…カ・ディンギルに匹敵するエネルギーです!」

「カ・ディンギルだと!?あれが、スーパー破壊光線砲なのか!?」

 

嘗て、フィーネが月を穿つ為に造った兵器。それと同等に武器が東京に向けられている。阻止しようにも自分達は日本海側に居て止めることなど実質不可能。翼やクリスを向かわせようにも仮設本部に帰る途中。現場へと単身向かった響しか居ない。

 

「…ガングニールの反応確認!響ちゃんが砲身の前に移動しました!」

 

その時、カメラが響が腰のブースターと足のジャッキを使って無理矢理飛ぶのを確認する。

 

「響くん?何をするつもりだ?」

 

その様子を見ていた弦十郎が思わず呟く。彼らから見てもスーパー破壊光線砲のチャージは完了し何時でも発射できる。そんな砲身の前に響は立ち塞がったのだ。

 

 

 

Gatrandis babel ziggurat edenal

 

 

 

「!響ちゃん!?」

「絶唱を使ってスーパー破壊光線砲の砲撃を止める気!?」

「無茶だ、響くん!幾ら絶唱でも響くん一人では…!」

 

響が歌っているのは間違いなく絶唱だった。

絶唱の歌が指令室にも流れ響の狙いに気付いた弦十郎たちが叫ぶ様にいう。幾ら絶唱とはいえ響一人の絶唱ではあのエネルギーを受け切るのは不可能に近い。カ・ディンギルの時でさえクリスが命がけの絶唱で月への直撃を防ぐのが精一杯だった。

 

 

 

Emustolronzen fine el baral zizzl

 

 

 

 

「貴様一人の絶唱で防げると思うか!?無駄な抵抗をしおって!まぁいい、絶唱諸共この世から消え失せろ!!」

 

アジト内にある指令室にて響が絶唱を歌ってる事に気付き響諸共日本を焼き払おうとする地獄大使。

砲身の先から光りが溢れ出し響へと迫る。

 

 

 

Gatrandis babel ziggurat edenal

 

 

 

 

━━━ごめんなさい、師匠。無茶だって事は分かっている、それでも私は守りたい…皆を。あの時、クリスちゃんも命懸けで月の破壊を止めたんだ。私だって!!

 

響の脳裏にカ・ディンギル攻防戦でのクリスの行動を思い出す。自分の出したミサイルに乗って大気圏付近でカ・ディンギルの射線で絶唱を歌い月への砲撃を逸らしたあの動きを。

他者の絶唱を束ねる事が出来る響も今回は一人。それでも、あの時のクリスの行動を真似してスーパー破壊光線砲の一撃を止めようと響は試みる。

 

 

 

 

 

Gatrandis babel ziggurat edenal

 

 

 

 

絶唱を歌い切った響のシンフォギアにエネルギーが高まる。

両手の籠手部分を右手に集約して一つの形にした響はスーパー破壊光線砲の砲身を睨みつけ、間もなく膨大なエネルギーが地震へと津波のようにせまる。

 

「これが私の…ガングニールだあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

その膨大なエネルギーを殴りつける響。スーパー破壊光線砲から撃たれた膨大なエネルギーは拡散して線香花火のように散らばり、響も腰のブースターを吹かし押し出されないようにしてる。

 

「ちっ、スーパー破壊光線砲すら止めると言うのか!?出力を最大に上げろ!」

「し、しかしこれ以上となると二度目を撃つのに時間が掛かります!!」

「構わん!今は立花響の排除を優先させろ!!」

 

地獄大使の命令に操作していた戦闘員はスーパー破壊光線砲の出力を最大に上げる。それと同時に周りにある計器類が悲鳴を上げるが地獄大使はそれを無視する。

その甲斐あってスーパー破壊光線砲のエネルギーは更に上がり、その威力により響も押され出す。

 

「ぐっ……負けない…絶対に……生きる事を諦めない!!」

 

嘗ての恩人の言葉を口にした響は自身のシンフォギアが輝くと同時に押されていたスーパー破壊光線砲の砲撃に耐え逆に前へと進む。

 

「何だと、これだけのエネルギーで消し飛ばんとは…まさかエクスドライブ!?」

「…立花響から探知したエネルギーを照合したところエクスドライブにはなっておりません!」

 

本来なら、単独の立花響なら消し炭になる程のエネルギーを受け切る響に地獄大使は「エクスドライブ」かと警戒するが戦闘員の報告により響はエクスドライブではない事を知る。それでも単身、スーパー破壊光線砲の砲撃を拳で拡散し続ける響の始末を考える地獄大使。

 

「緊急事態です、地獄大使!!」

 

その時、エネルギーの計器を見ていた戦闘員が慌てて地獄大使に報告する。

本来なら、響の始末を考えて居た地獄大使だったが慌てる戦闘員の様子に只事でないと判断して戦闘員の下へ赴く。

 

「何事だ?」

「アジト周辺の空間に歪みが発生しています!恐らくはスーパー破壊光線砲のエネルギーと立花響のエネルギーがぶつかった所為かと!」

「何だと?ノイズでも出て来るというのか?」

 

フロンティアの戦いの後にノイズが出て来る事が皆無となる。死神博士に投げつけられたソロモンの杖でバビロニアの宝物庫が閉じた所為と思われる。日本政府もその情報を得て今回のアジトの一斉検挙に乗り出したのだ。

 

「いえ、これはまるで…」

 

そこまで戦闘員が言った時だった。アジト内にある警報が鳴り響き、響を中心とした虹色に輝くエネルギーが辺りを包みだす。それは壁の向こうだろうと四方を囲まれていようとお構いなくアジトまでも飲み込み中に居た地獄大使や戦闘員も含め、全てを虹色のエネルギーが包み込む。

 

そして、光りが治まると

 

「き…消えた?」

「響くんは!?響くんの反応は!?」

「わ…分かりません。完全にロストしました…」

 

モニターには巨大なショッカーアジトも、響も影も形も消え海しかなかった。

後に、自衛隊や海上警備隊が東京湾を探したが響の姿は何処にも発見出来なかった。それどころかあれ程巨大なショッカーアジトの痕跡すら消えてしまっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はあ~海を見ても空しいだけか」

 

深夜、少女が海岸沿いで海を見ている。暗い中、灰色のパーカーを来た少女は気晴らしに夜の海を見に来ていた。単なる暇潰しでしかなかったが、

 

━━━あの妙な揺れ、ノイズが出たのかと思ったけど一匹も見ないし警報も鳴らない。外れかな…

 

少女は一人でノイズと戦ている。自分から全てを奪ったノイズが憎くて仕方なかった。その所為で政府の機関に睨まれているが、まだ一触即発という空気ではないのが少女としてはありがたい。

 

「…寮に戻ろ」

 

暫く、暗い海を見ていた少女が踵を返そうとする。幸い、翌日は休日で学園は休みの為、寝坊と心配はないが、生活のリズムを崩すのはよくないと考える少女。そのまま自分の寮に戻ろうとした時、視界の隅に何かを見つけた。

 

「え…」

 

一瞬、見間違いかとも考えた少女だが胸の鼓動により海岸へと降りて浜を走る。そして、視界の隅にとらえていた物をハッキリと見る。

 

「これって…」

 

その正体は、浜に打ち上げられていた立花響だった。ショッカーとのスーパー破壊光線砲との攻防で力尽き海に落ち浜辺に打ち上げられたのだ。

月明かりが浜辺を照らし響の傍に寄った少女にも明かりが当たり、少女の姿がハッキリと見える様になると深くかぶっていたフードを取る少女。その目には驚愕の色が見え隠れする。

 

「…()()

 

倒れてる響を見てそう呟く()。その頭上には真ん丸な月が見下ろすように闇夜に輝いていた。

 

 

 

 

 

 

 




結論、響先走る。

ミミズ男の殺人リングは仮面ライダーも苦戦したので死人が多いです。
怪人達が現れるとこき使われる装者たち。
尚、ショッカーにとって翼以外は全員裏切者扱いです。

東京湾に現れたアジトですが、新仮面ライダースピリッツ9巻にも出て来る首領が放棄して沈めたというショッカー最大のアジトです。
漫画で見る限り軍艦島をイメージしてもらえれば。


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73話 曇りし太陽と忍び寄る悪

シンフォギアXDのギャラルホルン編をやっていたら仮面ライダーSPIRITSとのクロス物を考えました。とあるシーンがSPIRITSのシーンと似てる感じがしていけるかと。

フィーネ「私達は『BADAN』神に愛されし者」

その場合、石屋がヤマアラシロイドに。一番似合いそう…


 

 

 

━━━…何してるんだろ、私

 

とある部屋、一人の灰色のパーカーを着た少女が頭を抱え自分の行動に疑問を持つ。その少女の視線の先には部屋にあるソファーの上で寝ている少女…響が映る。

 

━━━もう人助けなんてしないつもりだったのに…それにしても重かったなこの子

 

浜辺に打ち上げられていた顔の似た少女。放置する事も出来ず寮に連れ帰りソファーに寝かせた直後に自己嫌悪に陥っている。とある理由により、もう他人を拒否するようになった少女だが自分と同じ姿同じ顔の少女を見て放置も出来ず自分の住んでる寮まで運んだのだ。その際、少女の重さに舌打ちしつつ奥の手を使い運んだ。

まぁ、それはそれとして自分より体重が重い事に優越感もあるが今の少女には関係ない。

 

「取り合えず目を覚まさせたら何者か聞かないと。どうして私と同じ姿同じ顔とか」

 

自分に姉妹がいたという話は聞いた事ないと考える少女。寝てる響の正体が気になる少女は起こそうと響に触れようとした時。

 

ウ~~~~~~~~~

          ~~~~~~~~~~

                    ~~~~~~~~~~~

 

「ノイズ!?」

 

突然の警報に手を引っ込める少女。ノイズの現れた警報に少女は響を放置して部屋を出る。

残ったのは未だに意識の戻らない響だけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

街の繁華街。日が暮れたが時間的にはまだ一般人が行き来しててもおかしくない。しかし、街中にいるのは人間ではなく人間には見えないカラフルな古代兵器。ノイズだ。

警報も鳴り一般人の殆どが逃げていたが何人かの人影が走りノイズに接近する。

 

「ハアーーーー!!」

 

掛け声と共に一筋の光がノイズを貫通する。灰となり消滅するノイズの傍らには青いシンフォギアを纏った女性、風鳴翼がアームドギアの剣を構える。翼の存在に気付いた別のノイズが襲い掛かろうと接近するが何発もの銃撃の音と共に穴だらけになり灰となって消滅する。

 

「大丈夫か?」

 

ガトリング砲を抱えていた雪音クリスがボーガンタイプに戻し翼に駆け寄る。

 

「済まない助かった」

 

礼を言う翼だったが、何処か不自然である。翼の反応がまるで今日初めて会った人物に対する言葉遣いのようにも見える。その時、翼たちの背後に誰かが近づく。

 

「こっちの掃除は終わったわ。そっちは?」

 

現れたのはマリアだった。現在、翼とクリスとマリアが現れたノイズに対処している。

 

「こっちもだいたい終わった」

「こっちもだが、さっき本部より2ブロック先の老人介護施設の避難が遅れてる情報がはいった」

 

翼の言葉に少し考えるクリスとマリア。先に口を開いたのはクリスだった。

 

「じーちゃんばーちゃんに急げって言っても無理か」

「ようするに此処でノイズを全滅させればいいんでしょ」

 

クリスとマリアが視線を向けた先には未だに多くのノイズが此方に迫ってきている。

 

「済まないが頼めるか?」

「水臭い事を言わない。それに…」

「こんなの日常茶飯事だしな!」

 

クリスは腰のギアから複数のミサイルを出し此方に迫るノイズを次々と灰にする。それが合図かのようにマリアも籠手部分から剣を取り出しノイズを攻撃する。

 

「…日常茶飯事?」

 

クリスの言葉に引っ掛かりを憶えながらも今はノイズの殲滅を優先する翼。三人の攻撃にノイズ達は次々と蹴散らされ最後の一体も倒される。

 

「特に危なげもなく終わったわね」

「付け焼き刃とはいえ、アタシたちと先輩のコンビネーションでもいけるな…」

「先輩?」

「…こっちの話だ、忘れてくれ」

 

クリスの先輩発言に首を掲げる翼。その反応にクリスは忘れてくれと言う。

しこりは残るが翼は改めてマリアとクリスを見つめ視線を合わす。

 

「今回は助かった、私一人では突破されていた可能性が高い。特異災害対策機動部二課を代表して礼を言う」

「礼には及ばないわ」

「そうそう」

 

何処か他人行儀で話す翼だがマリアもクリスも気にしない。

マリアの言葉に相槌をするクリス。そんな二人を見てちょっとだけ笑顔になる翼。

その時、翼の通信機に通信が入る。

 

「はい翼です。…なんですって!」

「何か問題?」

 

通信を聞いた翼の声が荒ぶる事にマリアが聞く。良く見れば表情も切羽詰まってる。

 

「件の介護施設付近に新たなノイズが現れた」

「はあっ!まだ来る奴が居るのかよ!!」

「急ぎましょッ!!」

 

翼の言葉にクリスが文句を言い、マリアが急いで向かうよう提案する。口には出さないがマリアの提案に頷く翼。三人は急いで2ブロック先の介護施設へと急ぐ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、介護施設ではノイズが闊歩し人間を炭化させようと行動している。

何人もの介護士が老人を避難させていた為、施設に残っている老人は少なかったが全員が逃げれた訳ではない。現に今一人の介護士が老人の肩を担いでノイズから距離を取ろうとしている。乱暴なやりかただが四の五の言ってられないのも現実だった。

 

「お婆ちゃん、もう直ぐですからッ!!」

「わ…わたしの事は置いて逃げなさいッ!」

「そんな事言わないでください」

 

老人を励ます介護士だが状況は良くない。先に逃げたワンボックスカーには運べるだけの老人を詰め込み安全な場所へと退避して今動かせる車もない。同僚たちも老人たちを介助しつつこの場を離れ残っているのは介護士の自分とお婆ちゃん一人だ。

後は自分達の避難さえ終われば老人たちを全員逃がせたが現実はそう甘くない。まるで自分達が介護施設から出て来るのを待っていたかのように出現したノイズ。

後ろや左右には何体ものノイズが自分達を狙って来る。

 

その時、介護士の前に地面からノイズが現れ囲まれてしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「此処からじゃ届かないっ!!」

「ちっ、ならアタシがこの距離で当ててやる!」

 

その様子は、介護施設に急いでいた翼やクリスも目撃する。今からアームドギアを展開しノイズに斬りかかろうにも距離があり過ぎる。ならばと自身のアームドギアをスナイパーライフルにしたクリスが介護士の邪魔になっているノイズを排除しようとスコープを見た。

 

「!…待ってっ!」

 

何かに気付いたマリアがストップをかける。クリスが「どうした?」と聞こうとした瞬間、何体ものノイズが宙を舞った。

それを見て表情を硬くする翼。

 

通常兵器では相手をするのが不可能に近いノイズがまた一体、打撃を受け灰となっていく。ノイズを攻撃した人物は次のノイズに取り掛かる。

 

「あいつは…」

 

その人物を見て言葉も出ないクリス。その者はオレンジ色のシンフォギアを纏い拳や蹴りでノイズを倒してく。

 

「立花、響…」

 

マリアが良く知っている人物の名を口にする。時には敵対し最後には共に共通の敵を倒した少女。立花響と同じ顔をした少女がシンフォギアを纏いノイズを殲滅している。

尤も、マリアの記憶よりも目つきが鋭く薄黄色のマフラーをして口元を隠していたが。

 

「また、あいつか…」

「またってどういう事だ?仲間じゃないのか?」

「詮索は後にしなさいっ!私達も加勢しましょう!」

 

翼の呟きに反応したクリスが意味を聞こうとするがまだまだ数のいるノイズの殲滅を優先したマリアが中断させる。それに「おうっ」と返事をして駆けだすクリスに表情を固めている翼もそれに続く。

 

 

 

 

 

 

翼やマリア、クリスと響の活躍によりノイズが凄い勢いで灰となり消滅している。

そして最後のノイズが灰になる姿を見つめる響。

 

「いいタイミングで来てくれたな」

「…!」

 

犠牲を出さず無事にノイズを殲滅した事でクリスなりに労おうと近づくが、それに対して響は敵を見るような目をしてクリスを睨みつける。

 

「?なに怖い顔してるんだよ」

 

この時になってクリスが響の様子がおかしい事に気付く。彼女の知る響ならこうして声をかければマシンガントークをしつつ自分の事を話して友達になろうとする筈だ。

しかし、目の前の響には敵意しか感じない。

 

「何処か怪我でもしたか?」

 

響らしくない反応に更に近づき響の体に触れようとした瞬間、響の手が振り払うようにクリスの手を払う。

 

「痛ッ!…なにすんだよッ!」

 

その事で思わず抗議の声を上げるクリス。あの人畜無害を絵にしたような響が自分の手を払った事が信じられなかったのだ。

クリスの様子を一瞥だけして響はさっさとその場を離れる。

クリスもマリアもそれを見届けるしかなかった。

 

「…無視して行ったわね」

「何なんだよ、アイツらしくねえじゃねえか!」

 

自分の知ってる響とは間反対の行動をする響にクリスは悔しそうに言う。それと同時に昔の自分にも似てると思うクリス。

様子を見ていた翼が口を開く。

 

「彼女を知っているのか?」

「ああ…知ってるといや知ってる。こっちで知り合いって訳でもねえけど」

「こっち?」

「それにしても、あいつどうしたんだ?アタシの知ってる方は虫の居所が悪くても、あんな反応しない奴なのにな」

「そうなのか?私が出会った頃には既にああだったが」

「そうなの?まるで別人ね」

 

三人が響の事で話し合う。翼はまるで二人が前々から響の事を知っているようすに深く聞こうとするが一部をはぐらかす。その時、翼の通信機から呼び出し音がして翼がとる。

 

「すまないが、我々の本部まで同行してもらえるだろうか。自己紹介が遅れたな、私は風鳴翼。特異災害対策機動部二課の所属だ」

 

通信にはクリスとマリアを本部に連れて来る命令だった。二人に自己紹介する翼だが帰って来た反応は、

 

「よく知ってるわ。私はマリア・カデンツァヴナ・イヴ」

「アタシは雪音クリス。こっちじゃまだ二課なんだな」

 

自分の事や特異災害対策機動部二課の事も知っている事に驚く翼。二人の所属を怪しむが詳しい事は本部で話すと言い三人が本部に向かおうとした。

 

「…殺気!」

「はぁ!?急に何を!!」

 

突然、翼がクリスを押し倒す。突然の事で驚きつつも顔を赤くするクリスだが、直後に自分達の居た場所に何かが通り過ぎると共に自分達の横にあった車が爆発炎上する。

 

「攻撃!?何処から!」

「あのビルの上だ!」

「まだノイズが残ってたのか!」

 

マリアが何処からの攻撃に焦り翼は即座にビルの屋上から攻撃された事に気付く。そして、押し倒されたクリスは翼が退くと過ぎるアームドギアを構えてビルの屋上を見る。

しかし、彼女たちの目に入ったのは、

 

「ギュアーッ!偵察に来て見ればシンフォギア装者が三匹も居るとはな!戦闘後なら都合がいい、今度こそ地獄に送ってやる!!」

 

水色の体をした虫のような赤い触覚を生やし両目には巨大な昆虫の複眼、両腕の脇の下からは薄い黄色の模様が書かれている翼をし腰には銀色のベルトをした怪物が翼やクリスを見下ろしている。

 

「何だありゃ!?ノイズじゃねえぞッ!!」

「…翼、この世界にはあんな生物も居るのかしら?」

「馬鹿な事を言うなッ!私もあんな化け物は初めて見る!…ん?この世界?」

 

怪物…ドクガンダーを見た面々は驚愕の声を出す。

マリアの言葉に引っ掛かりを感じる翼。何度となく戦った筈の怪人の筈がまるで始めてみたように反応する三人。それに気づかないドクガンダーは言葉を続ける。

 

「我らの邪魔をする特異災害対策機動部二課め!今度こそ殺してやるぞぉ!!特にそこの二匹はな!」

 

そう言ってドクガンダーはクリスとマリアに指さしする。

 

「アタシか!?」

「私も?」

 

「我らを裏切った雪音クリス及びマリア・カデンツァヴナ・イヴ!裏切りの代償として死ねぇ!!」

 

突然の名指しに茫然とするクリスとマリア。翼の視線が冷たくなるがドクガンダーは構わず両指をクリスたちに向けてミサイルを放つ。

 

「ミサイル!?」

「嘘でしょ!?」

 

クリスもマリアも翼も慌てて退避するとさっきまで居た地面に幾つものミサイルが命中して爆発する。

 

「裏切りと言っていたぞ!お前達の知り合いじゃないのか!?」

「あんな化け物に知り合いなんて居ねえぇ!!」

「口論してる場合じゃないわよ!!」

 

一旦躱した翼は同じく躱したクリスに掴みかかり知り合いじゃないのかと聞くがクリスも知らないの一点張りだった。そこにドクガンダーの追撃に気付いたマリアが口論を止めさせ左手の籠手から短剣を取り出し蛇腹状にして迫るミサイルを切り落とす。

着られたミサイルは次々と爆発して爆風と爆煙が辺りを包む。

 

「ゲホゲホッ!…威力だけならアタシの小型ミサイルを超えてるぞ」

「でもこれでハッキリしたわ。アレはやっぱりノイズなんかじゃない」

「…まあ、言葉を喋る時点でノイズではなさそうだが」

 

煙が治まると三人は無傷でビルの屋上にいるドクガンダーを睨みつける。ノイズではない謎の敵、どう対処するか決めあぐねる。

 

「イーッ!」

 

「!?」

「なんだ!?」

 

三人がまた驚く。煙が晴れると何時の間にか骨のマークが入った全身黒タイツと黒いマスクをした男たちが槍や剣を持ち取り囲んでいる。ドクガンダーの部下のショッカー戦闘員だ。

 

「…ねえ、翼。この人達って特異災害対策機動部二課の黒服?」

「公務員がこんな恰好するか!内の職員は黒いスーツを着ている!」

 

一瞬、この黒タイツが特異災害対策機動部二課の格好のなのかと思い聞くマリアに即訂正する翼。忘れられそうになるが特異災害対策機動部二課は政府の機関だ。黒服とはいえこんな全身タイツを着て仕事をする訳が無い。

翼もクリスもノイズではない未知の敵に戸惑ってるようにも見える。

 

「これだけの戦闘員を相手にお前達は耐えられるか?大人しくあの世に逝けぇ!」

 

「…お前達が知り合いか知り合いじゃなかろうが、これだけの殺気だ。蹴散らすしかない!」

「そのようね」

「…蛇にもこんな連中いなかったぞ」

 

翼とマリアがお互いに背を向け剣を取り、クリスもアームドギアを展開して戦闘員に向ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

建物の屋上をジャンプして移動する少女は背後からの爆発音に立ち止まり後方を見る。

視界にはさっきまで自分がノイズを倒していた付近で煙が上がっている。

 

「戦闘?…私には関係ない…」

 

脳裏に自分に親しげに話しかけたクリスの姿が思い浮かぶが頭を振る。

サイレンも鳴っていない以上ノイズはもう居ない。ノイズが居ないのなら自分が戦う必要はないと考える少女は移動を再開して自分そっくりの響が居る寮へと戻る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翼とクリス、マリアは戦闘員と戦う。しかし、その戦闘はどうにもクリスたちも不慣れな動きだった。

翼は剣の柄やアームドギアの胸の部分で戦闘員を殴打し、マリアも似たような動きで戦闘員と戦い、クリスに至ってはワザと外しつつ弾丸を撃つ。

相手はノイズではなく人間だと思い戦っているのだ。

それをビルの屋上から見るドクガンダーは違和感を感じている。

 

━━━妙だな、あの小娘ども戦闘員に手加減しているのか?先日まで殺し合い、戦闘員だろうと小娘にしては容赦なく殺していた筈だが、…奇妙と言えばこの街もそうだ。死神博士の流れ星作戦によってこの街も打撃を受けた筈だが…

 

翼やクリスの注意しつつドクガンダーは街の様子を見る。

街は流れ星作戦が起こったとは思えない程の喧騒としている。ここより離れた場所には人間達も相も変らぬ日常を送ってるようだ。

 

 

 

 

 

 

そもそも、何故ドクガンダーが街に偵察に出ていたのか?それは約一時間前に遡る

 

「アジトの様子はまだ分からんのか!?」

「か、各所の浸水は治まりました!しかし、一部の故障によりアジトの機能が50%まで低下!」

「各支部との連絡が途絶えています!…本部とも通信が途絶!」

 

アジト内に居る地獄大使は各所の戦闘員に指示を出す。

響との戦闘により謎の光に包まれたかと思いや浮上した筈のアジトが海の中に戻り各所から浸水の報告が入る。それに対応してる間にアジトの状態を調べさせれば戦闘の余波なのかアジトの機能は半分にまで下がっている。

状況がどうなってるのか確かめる為に各支部との連絡を試みたがその悉くが音信を途絶えている。

 

「…馬鹿な、支部は日本だけでなく世界中にあるのだぞ!それらが一斉に途絶えるなどありえん!通信機の故障の可能性がある。直ぐに調べろ!」

「イーッ!」

 

地獄大使の命令に技術持ちの戦闘員が直ぐに通信機を調べる。その間、地獄大使は椅子に座り何が起こったのか考える。

 

━━━光が治まったと思えば海の中だと?立花響の仕業か?兎に角、作戦は失敗した!スーパー破壊光線砲の一撃は東京に届かんかったか。あそこは無理してでも怪人達を出して立花響を抹殺するべきだったか?首領になんとお詫びすれば…本部との通信を急がなければ…

 

作戦を立て直しを考えてる地獄大使は先ずは首領に報告せねばと考える。それと同時にスーパー破壊光線砲の状態を見なければならない。状態次第では第2射を撃つのも辞さない。

その時、丁度スーパー破壊光線砲の整備をしていた戦闘員が戻って来る。

 

「地獄大使、スーパー破壊光線砲の収容完了しました」

「よし、状態はどうなっている?」

「シャフトの一部に歪みが発生、更に動力部にも異常が起きてます。再発射には時間がかかるかと」

 

肝心のスーパー破壊光線砲も問題が山積みだった。響との戦闘で無茶をし砲身のシャフトが歪み、動力部にも損傷が起こり一部が破棄レベル。最後は海水に浸かった為、それようの整備もしなければならない。

要するに短時間での発射は不可能だ。

 

「ちっ、スーパー破壊光線砲が使えなければ日本を焦土に出来んぞ。日本政府の動きは如何だ!?」

 

言うなれば、スーパー破壊光線砲は地獄大使の切り札だ。それが使えないとなると世界征服のプランを変えねばならない。だが、その前に政府の動きを警戒する地獄大使。立花響がどうなったか分からないが、まだ装者は翼とクリスがいる。それらが出て来るなら怪人軍団を使い、自身も前線指揮するつもりだった。

 

「…それがなんの反応もありません」

 

しかし、帰って来た報告は地獄大使にとっても肩透かしだった。生き残ったアジトのカメラが東京の様子を見ているが警官隊や自衛隊の船が一隻も居ない。

 

「如何言う事だ?」

 

東京湾のあまりの静けさに不審な物を感じる地獄大使。日本政府に潜ませていたネズミも悉くが逮捕されたり自首したりして、最早パイプがなく政府の行動が分かりづらくなったが日本政府が中途半端にショッカーを放置するとも考えられない。

兎に角、情報が不足していた。

 

「…本部との連絡はまだ取れんのか!?」

「駄目です!どのチャンネルも応答ありません!故障ではない筈なのですが…」

 

通信機を担当していた戦闘員は未だに通信機のチェックを行った後、本部への連絡をしていたが呼び出し音どころか何の反応もない事を報告する。

 

━━━まさか、本部が陥落した?…あえりえん!本部の場所は幹部級の者にしか知らされていない。それこそ、あの人間(ウェル博士)が触っていたコンピュータ内部には存在しない

 

「仕方ない、ワシは一旦本部へ戻る。怪人達には街へ偵察に出せ」

「イーッ!」

 

通信が繋がらない以上、自身が本部へ赴き首領への報告に行く事を決めた地獄大使。また、街中の警察や自衛隊の動きを掴むために何人かの怪人を偵察に出す事を決める。

 

 

 

 

そして、偵察に出た怪人達。ドクガンダーもその一人でありノイズとの戦闘を終えた翼やクリスを発見した。

 

「このっ」

 

クリスがボーガンのアームドギアを戦闘員に撃つ。しかし、それは戦闘員に当てる為でなく手に持っている剣や槍を狙ってだ。クリスの狙いは正確で放った矢は狙い通り戦闘員の持つ武器を弾く。

翼もマリアも同じように戦闘員の武器を狙った。翼の剣が戦闘員の鎗を切り裂きマリアの短剣が蛇腹状に動き何人もの戦闘員の武器を弾く。

 

「イーッ!」

 

「「「!?」」」

 

武器を失えば戦闘が治まり逃げていくと考えて居た翼たちだが戦闘員は武器を失おうと素手でクリス達に襲かかる。

 

「ちくしょう、どうなってんだ!?」

「気を付けて!この男達、素手での戦闘にも長けてる!」

「…止むを得ん!」

 

戦闘員の集団近接戦闘に苦戦した翼はアームドギアでの剣の柄や鞘を使い思い一撃を入れる。先程とは違い力を籠め気絶する程の威力だ。マリアやクリスも翼の行動に倣いマリアは蛇腹状の短剣と格闘、クリスは腕や足を撃ち抜き戦意を削ごうとした。

 

「何だと!?」

「嘘だろ、オイ!」

 

しかし、翼たちが見たのは倒れた戦闘員が即座に立ち上がり、手足を撃ち抜かれた戦闘員も何事もないように迫って来る。明らかに普通に人間ではない反応に翼どころかクリスやマリアも冷や汗を流す。

 

「馬鹿め、戦闘員とはいえ改造人間の端くれにそんな攻撃が通用するかぁ!!随分と腑抜けになったな、特異災害対策機動部二課が!!」

 

その様子を嘲笑い言い放つドクガンダー。何度となく戦った筈の装者たちの驚く姿が痛快だった。

ノイズとは全く違う敵に苦戦を強いられる翼たち。これが彼女達にとって初めて遭遇した怪人と戦闘員だった。

 

 

 

 

 




全然忍んでない悪(笑。
しつこいようですが、ショッカーにとって翼以外の装者は全員裏切者扱いです。未来も含めて。

怪人を知らないクリスとマリアが初めての戦い。

時系列が分かりにくいですが、このクリスとマリアは世界蛇を倒した設定です。

ほぼ初対面の怪物に「死ね」やら「裏切者」と言われたクリスとマリアの気持ちはいかに…


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74話 増える悪夢

シンフォギアXDにて素材集めて上限突破させた響がボスでもないノイズにボコボコにされた。…ワロタ。…ワロタ…


 

 

 

「う…うう…うわ…あああ!!」

 

薄暗い部屋の中、少女の短い呻き声がする。時間は既に深夜で多くの人間は眠りについている。そして、声を出した少女もベッドに横になって寝ている。少女は悪夢にうなされているのだ。

掛け布団が引っぺがされ来ているパジャマの胸元を掴み苦しそうに息を漏らす。

 

「しっかりして、私は此処にいるから」

 

ベッドの傍らには寝ている少女の心配をし片手を握るもう一人の少女の姿がある。

少女の呻き声に起こされ心配してるのだ。

 

「私は…一人…いやだよ…助けてよ…みん…な…」

 

しかし、そんなもう一人の少女の心配も空しくベッドで眠る少女の悪夢は続く。その時、窓から月明かりが漏れ少女たちを一瞬だけ照らした。

 

「何時もみたいに「へいきへっちゃら」だって言ってよ響!」

 

月明かりが一瞬だけ照らした人物。それは紛れもなく小日向未来と立花響の二人であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「此処が我々の特異災害対策機動部二課の指令室だ」

「へぇ~此処が」

「少しだけ懐かしいな…」

 

翼に案内されたクリスとマリアが辺りを見回す。

マリアは知らないが、クリスは指令室を見てちょっとだけ里帰りした気分になっている。

 

「ようこそ、君達がそうか…。よく来てくれた」

 

そんな、クリスとマリアを歓迎する弦十郎。その弦十郎には右手がちゃんと付いていた。

ドクガンダーと戦闘員との戦いをしていた翼とクリスたちが何故特異災害対策機動部二課の指令室に居るのか?思わぬ乱入者が現れドクガンダーたちが撤退したからだ。

 

「早速だが、君達は一体何者なんだ?敵とは思えないんだが…」

「それは…」

「それについては私が説明するわ」

 

弦十郎の言葉にクリスがどう説明するか悩むと、それを見ていたマリアが代わりに説明し出す。

 

マリアの口から出て来た言葉は、自分達はこの世界の人間ではなく完全聖遺物『ギャラルホルン』と呼ばれる装置により平行世界から渡って来たシンフォギア装者だと説明する。

 

「ギャラルホルン…そんな物が…」

「ええ。ギャラルホルンがアラートを発したということは、この世界に何らかの危機が訪れてると思われるのだけど…」

「アタシ達はその解決の為に来たんだよ」

 

マリア達の言葉は弦十郎や翼にとっても信じられない事だった。

平行世界。理論上は存在すると言われてるが誰もそれを証明出来た者は居ない。近年では創作物の中でしか聞かない言葉だ。それが彼女達は本当に平行世界から来たのだとすれば大事である。

 

「…危機というのはあの怪物たちの事か?」

「いえ、残念だけどあの喋る怪物については私達も始めて見るわ。寧ろ、私達が懸念してるのはカルマノイズ。あの黒いノイズよ」

「カルマ…ノイズ」

 

翼たちとドクガンダーの戦いに乱入したのは黒いノイズことカルマノイズだった。

 

カルマノイズ。

一見、黒いだけのノイズかと思われるが通常のノイズとは比べ物にならない性能があり段違いの強さがあり、歴戦の装者でも苦戦は免れない。特に能力が危なく通常のノイズは本体と人間が結合して灰となり消滅するがカルマノイズは何度でも人間を炭素分解出来、回復能力も桁違いだ。

マリアやクリス達が大本を叩いたが平行世界には未だにカルマノイズがうろついている。

 

 

 

 

 

 

そして、ドクガンダーとの戦いにもカルマノイズが現れたのだ。

 

 

『黒いノイズ?俺達の知る黒いノイズに獣型もタコ型も居ない!やってしまえ、戦闘員!』

『『『イーッ!!』』』

 

『馬鹿ッ!そいつは!?』

 

クリスやマリアの歌が発するフォニックゲインにつられて黒いノイズが現れる。

突然のノイズの乱入にドクガンダーは、数人の戦闘員を差し向ける。クリスが止めようとするが戦闘員はそのまま黒いノイズことカルマノイズに触れて炭化してしまう。

 

『何だと!?今更、ノイズ如きが!』

 

『待って、ノイズに普通の攻撃なんて…!?」

 

戦闘員がアッサリ炭化した事に驚いたドクガンダーはクリスたちからカルマノイズに向けて手を向け指からロケット弾を放つ。その様子にマリアが止めようとする。

ノイズには位相差障壁が存在し通常の兵器では傷一つ付けられない。この事はマリアたちだけでなく人類の常識とも言えた。

しかし、マリアの目の前でその常識が覆される。

 

ドクガンダーの放ったロケット弾は、カルマノイズに命中し爆発したのだ。

ノイズの中には一応通常兵器も効くノイズも居るがそれだって別の器官に力を送ってる上結果的にそうなっているだけだ。カルマノイズにそのような器官は無く通常のノイズと同様に通常兵器は効かない筈だがドクガンダーのロケット弾はすり抜ける事無く命中し爆発したのだ。

尤も、カルマノイズを倒せる程でもなく、与えたダメージも即座に回復されてしまう。

 

 

 

 

『これでは鼬ごっこか!仕方ない、退くぞ!』

 

それでも暫くカルマノイズと戦えていたドクガンダーだったが、キリがないと撤退を指示。戦闘員が引き揚げ自身もビル群に姿を消す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの毒蛾野郎が引き揚げるとカルマノイズも直ぐに姿を消したから良かったけど…」

「カルマノイズにも攻撃を当てた化け物たちは何者なのかしら?」

 

ドクガンダーが逃げ出しカルマノイズもアッサリ退いた事で戦闘が今度こそ終わり、クリスとマリアは翼の案内でこの世界の特異災害対策機動部二課の指令室にまで案内された。

 

「…失礼かもしれないが本当に心当たりが無いのか?聞けば君達は此処だけでなく様々な世界で戦ったそうだが…」

「そうね、心当たりは幾つかあるけど、あの毒蛾男は本当に知らないのよね」

 

弦十郎の質問に答えるマリアに頷くクリス。これまでマリアやクリスは文字通り様々な世界で敵と戦い勝ってきた。しかし、あんな喋る怪物は初めての相手と言えた。

 

「もしや…」

「何か分かったのか!?」

 

その時、翼の脳裏に一つの考えが浮かびその反応にクリスが気付く。

 

「いや…これは推論でしかないが、あの怪物たちも別の世界に居て君達とよく似た同一人物?と戦っていたんじゃないのか?最初は手を組んでいたが、何らかの理由で内部で争いが起こって分裂したのかも」

「それが妥当かしら?」

「…あり得ないって言えないのが並行世界の怖いところだからな。その場合、並行世界のアタシは何したんだ?」

 

クリスが並行世界とはいえ、あんな連中と組んでたのかと心配し、マリアも口には出さないが頷いたりする。特異災害対策機動部二課の指令室のモニターにはドクガンダーや戦闘員の姿が映り、それと共にカルマノイズの姿も映し出される。

 

「これが…カルマノイズ…」

「この強力な反応、先日の奴だろうか?」

「知っているの?」

 

映像を見た翼の言葉にマリアが反応する。

 

「ああ、ほんの数日前の話なんだが…」

 

翼の口から語られる内容は以下の通りだった。

何時も通りノイズを殲滅し終えた頃に本部の弦十郎から強力なノイズの反応を感知して、指示された場所に到着したがその時にはノイズは影も形も無くった。

そして其処に居たのは立花響だけであった。翼の呼び掛けようとしたが響は走って逃走してしまいそれ以来だった。

 

「つまり、貴方達はカルマノイズを見ていないのね」

「そうだ。だがガングニール装者が倒した風にも見えなかったが…」

「十中八九無理だろうな。アタシの知っているカルマノイズならエクスドライブじぇねえとキツイ相手だ」

 

指令室で四人は話し合う。

カルマノイズの能力を話して顔を引き攣らせたり、カルマノイズの原因を叩いた話もする。

 

「それだけ強力なノイズが居るとは…」

「ウロボロスか…。だが、その組織は君達が叩き潰したのだろ?ならもうカルマノイズは増えないんじゃ…」

 

「その筈だと思うけどカルマノイズがどの位、並行世界に流れ着いたのかは不明なのよね」

「増えない分マシなんだけどな…」

 

クリスとマリアの話を聞いて背筋を寒くする弦十郎と翼。

それだけのノイズが大量に現れては勝ち目などない。

 

「兎に角、この世界の立花響に事情聴取したいわね」

「アイツの居場所は分かるか?」

「残念だがわからん。ギアを纏ってるなら分かるが普段の行動はまったく掴めていない」

「私も何度か話そうとするが取り付く島がないありさまだ」

 

クリスがこの世界の響の居所を聞くが特異災害対策機動部二課情報網に引っ掛からずまったく足取りが掴めていない。その事に溜息を漏らすマリア。

 

「しゃーねえ、後で学園の周りを探してみるか」

「その前に一旦戻りましょ」

 

クリスの言葉にマリアは一旦元の世界に帰る事を提案する。

 

「何でだよ!?」

「単純にカルマノイズだけならこのまま留まるのもアリだけど」

 

そう言うとマリアは視線をモニターに移しクリスもそれを追う。

視線の先には先程自分達を襲撃した蛾の怪物と黒ずくめの男達が映っている。

 

「アレの報告もしておいた方がいいでしょうね。指から出すロケット弾の火力…ノイズにも有効だったし」

「ちっ、ここに来てトンボ返りかよ!」

 

マリアの言葉にクリスが渋い顔をする。クリスはとある理由によりこの世界の異変を解決する為に来た。

カルマノイズだけだったらこのまま活動をしていたクリスとマリア。

 

しかし、自分達を裏切者と言い襲い掛かった異形の者達。ノイズの類ではないが、今後も襲い掛かって来るようならデータを持ち帰り対策しなければならない。

 

「…その怪物たちだが妙な反応があった」

「妙な反応?」

 

弦十郎の言葉にクリスがそう呟く。弦十郎がオペレーターに指示を飛ばすとモニターの大画面にドクガンダーがアップで映りメーターまで出る。其処に書かれていたのは、

 

「何だと…」

「…嘘だろ」

 

翼が目を疑いクリスが何度も確認しマリアが絶句する。

ドクガンダーの体からある聖遺物の反応が微弱ながら流れていた。モニターにはハッキリ『GUNGNIR』と書かれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

暗闇の夜が終わり明るい太陽が顔を出す。太陽が昇り夜の間、動かずにいた鳥たちが活動し出して鳴き声を出す。それにつられるように寝ていた人々も起き出し活動を始めていく。

 

「う…うう…」

 

カーテンの僅かな隙間から差し込む光りが顔に当たって反応しソファーで横になっている少女も起き出す。

 

「…あれ?ここは…」

 

背伸びをして辺りを見回し目が点となる少女…響。

 

━━━私は確か、地獄大使のスーパー破壊光線砲の砲撃を止める為に絶唱を歌って…?

 

響の脳裏に浮上したショッカー要塞島での戦いを思い出すが途中で記憶が無くなっている。この時になって響は自分が気絶してしまった事に気付いたのだ。

 

「私は…そうか、師匠や翼さんが回収してくれたのかな?」

 

そう言って周りを見る響だが直に違和感を感じた。

 

━━━でも此処は医務室とかじゃないし…師匠か誰かが運んでくれたのかな?

「でも…此処誰の部屋だろ」

 

響は部屋を見渡し違和感を感じていた。構造的には今、自分と未来が住んでる寮に近いがやたらと物が無い。ハッキリ言って殺風景な部屋だ。

一応、自分が寝ていたソファーとテーブルがあるがそれくらいだ。

 

「クリスちゃんの家は確か仏壇とか買ったって聞いたし、翼さんの部屋でもなさそうだしな…それにしても生活臭が無いのが気になるけど…」

 

響の記憶には片付けが苦手な翼の姿が過るが流石にこんな殺風景な部屋ではないだろうと判断する。

よく見れば、テーブルの上に埃が積もり床も幾つのかゴミと埃がある。

本当に誰の家か悩んでると部屋の扉が開く。

 

「あ、やっと…目覚めた」

「…え!?」

 

響は入って来た家主らしき人物を見て絶句する。髪型、髪の色、顔や背丈が自分とそっくりだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ああー…眠、あの後帰ってすぐ寝たのにな…

それにしても、ノイズを倒した後に話しかけてきた銀髪の娘は誰だろ?いやに親しげだったけど…

……どうでもいいか。どうせ私は独りなんだ、気にしたって仕方ない。あの娘も私がツヴァイウイングの生き残りだって知れば直ぐに居なくなる。未来みたいに…未来って誰だっけ?

何か違和感を感じたけどいいか、どうせ誰も私を助けてなんてくれないし…

そう言えば、あの子起きたかな?

私の脳裏に海岸で拾った私そっくりの女の子。ソイツを寝かせているソファーのある部屋に行こう

 

「あ、やっと…目覚めた」

「…え!?」

 

部屋に入ると予想通り目覚めたそっくりさんが私を見て驚いている。当然か、いきなり自分そっくりの人間が現れたんだから。さてと、さっさとコイツが何者か聞かないと「何が目的だ!ショッカー!!」ウ!?…へ?

 

いきなりの衝撃に私は思わず目が点となった。仮にも助けた子に首元を掴まれて壁に押し付けられた

これが有名な壁ドンだろうか?なんて考えてる場合じゃない!何なのコイツ!

 

「私を回収して拘束もしないなんてね、お前達の次の狙いは何だ!」

 

私こそ「何だ」と聞きたいんだけど、もしかしてこの子何か勘違いしてる

よく分からないけど

やっぱり人助けなんてするもんじゃないな

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ああ…またこの夢か、嫌だな…夢だって分かってても胸に来るもん。早く目を覚まして未来の顔を見たいな…

あれ?何時も見る夢と違う気が……何だろ、何時もと違う気がする。体が寒くも無いのに震える

 

『立花響!貴様の心臓のガングニール、我々が有効に使わせてもらおう!!」

 

突然の不気味な声に私の足も竦みだす。知っている?初めて聞く声なのに私はこの声を恐れている!…!?いきなり明かりが点いて目の前には巨大な鳥とその下に地球みたいなマークが!

まただ、初めて見る筈なのに怖い!ノイズに襲い掛かられた時だってこんなに怖くなかったのに!

 

『立花響、貴様の心臓のガングニールは我々が貰おう!』

『貴様は改造人間として我らの為に働くのだ!』

 

また目の間に誰かが!軍人風の男と白いタキシードを着たお爺さん。…駄目だ怖い!了子さんの時やマリアさんにキャロルちゃんの時でさえこんなに怖くなかったのに!!

逃げなきゃ!!

 

ウオオオォォォォォ!!

                ケッケケケケケケ!!

                            ギエェーーーーー!!

    ミミーン!!    

                 シュシュシュシュシュシュ!!

 

駄目だ!化け物が私を取り囲んでいる!そうだ、歌わないと!シンフォギアならコイツ等とも戦える!戦わないと…戦って勝たないと…歌えない!どうして!!?

 

「死ね、立花響!!」

「貴様を片付けてから世界を征服するのだ!」

 

いや、来ないで!お願いだから私に近寄らないで!!

!?私の手がおかしい!まるで鉄のような色をしている!

 

『お前はもう人間ではない、俺達と同じ改造人間となったのだ!』

 

イヤーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!   

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうか、だから予定より早く戻ったのか」

「ノイズではない妙な敵ですか」

「ええ、そいつ等があたし達を見て裏切者と言ってたの」

 

並行世界から戻ったマリアとクリスは早速並行世界で起こった事を弦十郎たちに報告する。

最初は予定よりも早く戻って来た二人に驚いた弦十郎たちだがマリアの緊急の報告によりそれも納得する。

指令室のモニターにはマリアたちに襲い掛かって来た者達の映像が映っている。

 

「…オバケ?」

「人間とは思えないデス」

 

予定より早く戻ったマリアを迎えに来た調と切歌も怪物の映像を見て不気味そうに呟く。

 

「一体、何者なんでしょうか?」

「分かりませんがこれは恐らく人の手で造られた物のようです。でも錬金術ではない…?」

「分かるの?エルフナインちゃん」

 

指令室のオペレーター席に座る藤尭朔也の言葉に答える金髪の後ろに三つ編みをした少女。その少女の言葉に友里あおいが聞く。

 

「…恐らくは人間と別の生物を合体させた怪物だと思います。錬金術でも似たような物はあったと思いますし…でもボクが気になるのは…」

「あの怪物からガングニールの反応がしたという事か?」

「はい」

 

金髪の少女の返答に一同は改めてモニターに映る怪物、ドクガンダーと戦闘員を見る。

データを見る限り響のガングニールに比べれば微々たる反応だったがマリアの報告ではカルマノイズを相手にするには十分と言える。

明らかに向こうの特異災害対策機動部二課を敵視してマリアやクリスを裏切者と言った。

警戒するに越した事はないと思うが、

 

「ここに来て未知の敵が現れるとはな…」

「ただでさえ、並行世界のノイズが出現して人手が足りないんですが…」

 

この世界のノイズはバビロニアの宝物庫に蓋をした事で通常のノイズが現れる事は無くなったが完全聖遺物『ギャラルホルン』の力で平行世界のノイズが流れ込んでしまう事が多くなった。

その所為で、マリアや響達は並行世界の異変を解決しなければならなくなり常にノイズと戦い続けていた。其処に来て新たな敵と言うのは彼らとしても対応しなければならない。

 

「………」

「どうかしたのか?先輩」

 

そんな話をしてる中、翼が言葉を発さずモニターに映る怪物を睨みつけている。

そんな翼が気になったのかクリスが話しかける。

 

「…気を付けろ、雪音にマリア。あれは悪意の塊だ」

「え?」

「悪意?」

 

その言葉にクリスとマリアが反応する。二人は翼の顔を見てそれが冗談でもないと気付く。

 

「これは防人としての勘だが…下手をすればあれは、カルマノイズより危険だ」

「…そんなに?」

 

マリアの言葉に頷く翼。確かにこの怪物は物理攻撃でカルマノイズと戦った、最もカルマノイズの再生力で仕留めれず撤退したがそれでもノイズに攻撃を命中させた事は事実だ。

 

「それに、この怪物や黒づくめの男達からガングニールの反応がしたのが引っ掛かる」

「マリアの時みたいに予備でもあったんじゃないか?」

「私が持っていたガングニールはFISから持ち出した物だけど、憶えてる限り他にガングニールは無かったわね」

 

ガングニール。その聖遺物を持っているのは彼女たちが知る中ではガングニールの走者は其処に居るマリアに今は亡き天羽奏。そして現在が、ガングニールの装者である自分達の仲間、立花響だけだ。

 

「そう言えばアイツが居ねえけど、どうしたんだ?」

「アイツ?…ああ、立花か。立花は…」

 

ガングニールの話で思い出したクリスは現在のガングニールの装者、立花響の事を聞く。

クリスの質問に一瞬、口を濁らせえた翼だが、意を決しクリスとマリアに響の現状を話す。

 

 

 

 

 

 

 

「はあ!?また倒れた!」

 

クリスの口から驚きの声が出る。マリアもこれには驚き周りを見るが皆が皆視線を下に向ける。どうやら冗談ではなく本当のようだ。

そもそもクリスとマリアが並行世界に行く前に立花響の不調があった。同室の小日向未来が言うには悪夢にうなされ碌に睡眠が取れてないと言い。訓練中もクリスの攻撃を躱しきれず直撃して医務室に運ばれたのだ。

 

「今は小日向が付き添っているが…」

「アイツ、本当に大丈夫なのかよ」

 

響の事で責任を感じていたクリスが呟く。自分の所為でまた響が倒れたのではと心配になったのだ。

 

 

 

 

 

「…あははは、私なら大丈夫だよクリスちゃん」

 

その時、良く知る声がクリスの耳に入り指令室の出入口の方を見ると未来と一緒に響がやって来た。

響の姿を見た瞬間、安堵と共に響への心配が込み上げる。

 

「お前大丈夫なのかよ!?」

「平気…平気へっちゃらだから。…ありがとう未来」

 

響が兵器と言うが若干ふら付き未来が支え礼を言う。明らかに無理してるのは一目瞭然だった。

未来にも寝てるよう言われた響だが、予定より早く戻ったクリスとマリアの出迎えを優先し指令室まで来たのだ。

 

「二人が即戻ったって聞いて…それで何か問題でも…!」

「キャ!?響!」

 

クリスとマリアの顔を見た後にモニターに目を移した響は虚ろな目をカッと見開き、未来の手を振り解いてモニターに近づいた。

 

「おい!」

「響くん!?」

 

突然の響の反応に弦十郎もクリスも目を見開いて驚くが響はそれに関せずモニターを凝視する。

 

「すいません!アレを拡大にして貰えますか!」

「え、はい…」

 

響がオペレーター席に座る藤尭朔也に怪物の画像を拡大をして貰うよう頼む。響の剣幕に只事でないと判断した藤尭朔也が怪物の顔を拡大する。しかし、

 

「違います!拡大にして欲しいのは腹部のベルトです!」

「え!?ベルト?」

 

響の言葉に怪物の顔のアップの画像から腹部の方に移動してアップする。怪物のベルトには鳥とその下に地球のマークの銀色のベルトが巻かれていた。

 

「?…あのベルトがどうかしたの?」

「ただの趣味の悪いベルトだろ」

 

マリアとクリスがベルトを見て、そう反応する。彼女達にすれば珍しいベルトだがその程度の価値しかない。それは、弦十郎を始めとした職員や装者にとっても一緒だった。

 

「あのベルトがどうかしたの?響」

 

見かねた未来が響にそう聞く。響とは一緒に住んでいるがあんなマークは未来も見た事が無い。だから響に聞くのだ。

 

「改造…人間…」

 

響は顔を青くし冷や汗をながしただ一言、呟いた。

 

 

 

 




響は並行世界の響をショッカー響と勘違いしてます。
因みに目覚めた響は起きたばかりで本調子ではありません。本調子ですとこちらの世界の響が壁のシミになってます。

ゲームと違い直ぐに元の世界に戻ったクリスとマリア。

クリスって旧リディアン音楽院地下の本部に着た事ありましたっけ?ゲームだとクリスが里帰りとか考えてましたが、クリスが正式に仲間になった頃は地下本部はカ・ディンギルで潰されてなかったっけ?

劇中でも行方不明扱いの響ですが、メモリーカードの前日譚によると普通にリディアン音楽院に通い寮に住んでるようです。
それに未来もお小遣いが溜まったら定期的に探しに来ていたようです。……特異災害対策機動部二課って一体…。

XD本編の響の悪夢が追加しました。

因みに自分はXDのギャラルホルン編が終わってないので細部とかはまだ知らない。


さて、この中で一番不幸などれでしょう?

ショッカーと戦っていたら訳も分からず並行世界に来て知っている翼たちだと思えば、ほぼソックリな赤の他人の本編響。

海岸で助けた娘に訳も分からず胸倉を掴まれ壁に押し付けられた上に悪の組織に命が狙われる事が確定したグレ響こと平行世界響。

二人分の悪夢を見る羽目になりマジで命の危機に瀕することになるXD響。

作者には分かりません。


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75話 邪悪な組織

響同士での会話が書いてる作者もややこしいのでXDでもやっていた並行世界の響の名をカタカナに変更。


 

 

 

「一体これは如何言う事だ!?」

 

とある山中、本部に向かっていた地獄大使が思わず叫ぶ様に言う。

目の前には洞穴があるがそれだけであり何もなかった。

 

「今、戻りました地獄大使!」

「…それで結果は?」

 

周辺を探索させていた戦闘員たちが戻り地獄大使が質問する。

この時、地獄大使は嫌な予感を感じており戦闘員の口が開くのを待っていた。

 

「…残念ですが、何処もかしこも木や岩ばかりで…」

「怪人の待機場所や戦闘員製造工場も消えていました」

 

そして予想通りの戦闘員の報告に地獄大使は落胆する。

 

━━━どういう事だ!?100歩譲って制圧されたや放棄されたのなら分かる。しかし、放置どころかアジトや本部のあった形跡すら残っていない。放棄するにしても形跡すら残さず出来るか?爆弾を使った形跡すらないぞ!!

 

地獄大使の目の前にはただの洞窟がある。本来その場所こそショッカーの本部があり首領や親衛隊の戦闘員も常駐してる筈だった。

しかし、地獄大使の目には岩石や木しかなく人工物があったようにも見えない。人の手が明らかに入っていなかった。

 

「本部は何処に消えた!首領や工場は!一体何処に消えた!」

「じ、自分に言われても分かりません!!お…お助けを!」

 

地獄大使が戦闘員の首を握り締め宙に浮かす。戦闘員が必死に知らないと言い命乞いをする。

暫くそうしていた地獄大使だったが徐に戦闘員を解放して洞穴から出る。

 

「何がどうなっている!?首領は今はいずこに…!」

 

考えすぎて頭が痛くなった地獄大使は天を見上げる。今日は丁度雲一つなく月が奇麗に見えた。そう()()()()()()()

 

「アジトに戻るぞ!急げ!」

「「「イーッ!!」」」

 

ある物を見た地獄大使は連れて来た戦闘員を引き連れ東京湾にあるアジトにとんぼ返りする。突然の事に戦闘員が戸惑う中、地獄大使一人は何か考えて居るような顔だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、都内某所。学園が生徒の為に用意している寮。

その一室では異様な光景が広がっている。生活感が皆無に近く部屋では外からの日差しが差し込む二人の人物の影が見える。

 

一人は険しい表情で何かを睨みつける少女。その視線の先にはもう一人の少女が居た。

だが二人の様子はおかしかった。二人の顔はあまりにも似ていて他人どころか近しい人間すら双子と間違うほど似ていた。

しかし彼女達は決して双子などではない。その証拠なのか、片方の少女がもう片方の少女の胸倉を掴み壁に押し付け随分と乱暴に扱う。

 

「言えッ!お前達の次の目的は何だ!?」

「…目的なんて無い。…放して…」

 

少女の問いにその少女はそう答える。

少女…響の問いに響に似た少女は「知らない」の一点張りで問答が出来てるようにも見えない。

その態度に響の脳裏にも徐々にだが違和感を感じていた。

 

━━━おかしい、この子以外の気配が未だにしない。何時もなら戦闘員や怪人が私を襲ってくる筈なのに…

 

響の知るショッカーならば戦闘員が目の前の少女…ショッカー響の援護、またはショッカー響諸共自分を殺しに来ると読んでいた響だったが待てども気配は少女しかせず警戒してる響の周りには誰も現れない。

 

━━━捨て駒?私がこの子に夢中になってる間に何か仕掛けている?或いは私を殺す為にこの子に強力な爆弾でも仕掛けている?でもそれなら私が気を失ってる間に仕掛けてる筈…

 

どうにも腑に落ちない響は、だんだん少女を敵と思えなくなり少しづつだが壁に押し付けていた体を床へと下ろす。その間にも警戒はしていたが、やはり怪人どころか戦闘員の一人も現れない。

 

「…ん?」

 

丁度、床に下した響は偶然にも少女の首元に触れ違和感を感じた。

 

━━━柔らかい!?

 

「え!?ちょっとなに!!」

 

少女の首が予想よりも柔らかい事に気付くと自分に似た少女の首や顔、足や手に触れ更には服を引っぺがして腹部や胸の辺りも触れる。

 

「ちょやめ!!アンタ、そっちの趣味!?」

「ごめん!ちょっとだけ我慢して!」

 

少女のあらぬ誤解を受けつつも響は少女の体を弄るのを止めない。細心の注意をして響が少女の体を握る潰さないよう慎重に触る。

 

━━━柔らかい、体の中に機械が埋め込まれてる感じがしない!それに胸の傷以外どこにも手術をした痕が無い。胸の傷?私と同じ場所に同じような傷?…この子はもしかして…

 

 

響は確かめたかった、腹部や胸部に埋め込まれている骨とは違う感触を。しかしいくら調べようと響の両手は少女の体から骨以上の硬いものなど発見できなかった。

腹部や胸、背中を見た響の脳裏に一つの確信が生まれる。

 

「もしかしなくても…アナタ、人間?」

「…それ以外に何に見える!!」

 

響の問いに少女は怒りの顔をして言う。その目つきは完全に変態を見る目をしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ごめんなさい…」

 

響が自分に似た少女に向けて土下座をして謝る。

いくら同性とは言え、響の行動はやり過ぎた。ほぼ赤の他人に服を脱がされ体中を弄られたのだ、警察を呼ばれてもおかしくはない。

 

「まったく、なんなのアンタ!いきなり壁に押し付けて服を脱がして体中を触って!常識無さ過ぎじゃない!」

「…おっしゃる通りです…」

 

それから暫く少女の文句が続く。やれ「変態」だの「助けるんじゃなかった」のと口から飛び出す罵詈雑言。響はただ黙ってそれを聞き続けた、だって自分が悪いと思ってるから。

そうして、暫く少女の文句が続くと疲れたのか肩から息をしている。

 

「それで?アンタは誰?」

「あ、名乗ってなかった?私の名前は立花響16歳、誕生日は9月13日で血液型はO型。身長は155㎝体重は…聞かないで…」

「…誰がそこまで言えって言った?」

 

聞いていない事まで言う響に少女は呆れて言う。体重は何となくわかる。

それでも少女にとって響の自己紹介は聞き捨てならなかった。

 

「顔だけでなく名前や年齢まで同じ…。アンタ本当に何者?」

「何者と言われても…って、名前も同じ?」

 

少女の問いに響は言い淀んだ直後に少女の「名前も同じ」と言う言葉に驚く。

 

「私も立花響。よろしくね、偽物さん」

「え?偽物!?」

 

自分を同じ立花響だと言う少女に響は目を見開いて驚く。少女の堂々とした態度からも嘘をついてるようには見えない。

 

━━━同じ顔で同姓同名なのかな?立花の姓とか珍しく無いって未来も言っていた気がするし…

 

「…その態度だと私の名を騙ってる訳でもなさそうね。偶に居るのあの事件の生き残りのフリをして政府からお金を騙し盗ろうとする馬鹿が」

「そ…そんなことしないよ!!」

 

響の否定にも目の前の少女…ヒビキは「どうだか?」と言った態度をする。その態度に少しムッとする響。

でも助けられた事実は変わらないのもそうだった。

 

「改めて助けてくれてありがとう」

「お礼はいいよ、それよりアンタ海岸付近で並み被ってたけど何かあったの?」

「ええ~と、何と言うか…」

 

ヒビキの質問に響は如何答えようか迷う。一応、ショッカーのアジトの制圧作戦は機密扱いで外部に漏らさぬよう弦十郎にも釘を刺されている。それだけショッカーの動きを警戒していた。

 

それ故に、響はショッカーのアジトの制圧をボカシて戦っていたことをヒビキに説明する。

マリアの暴露以来、ショッカーの名は全国どころか全世界に広がってるのでこれで十分だと考えて居た。

 

「ハァッ!?…ショッカー?…怪人?何それ?」

「…え!?」

 

だからこそヒビキの反応は予想外だった。

マリアに暴露されてからのショッカーの名などニュースに連日報道され雑誌でも特集が組まれるほどの過熱ぶりを知る響からすればヒビキの言葉は信じられないものだった。

 

「何?作り話?」

「作り話なんかじゃないよ!マリアさんがテレビで暴露して追い詰められた死神博士が隕石を…」

 

響が必死に説明する。秘密結社ショッカーの存在や人間を改造して怪人軍団を作り世界征服しようと暗躍し自分達、特異災害対策機動部二課がそれを阻止してる事を。

機密扱いになっている部分はなるべく伏せているが響は隠し事が下手な方で知らずに喋ってもいた。

 

「ルナアタックにフロンティア?そもそもマリアって誰?隕石が落ちて大パニック?悪いけど聞いた事ない」

「そんな筈は…」

 

それでもヒビキの発言に響は思わず頭を抱えてしまう。試しに部屋に備え付けられていたテレビを点けてニュース番組を一通り見たがショッカーどころか世界中に降り注いだ隕石のニュースすら無かった。

 

「…どういう事…もしかして…」

 

響は狐につままれた気がして茫然とする。まるで自分だけがショッカーと戦っていた気がして孤独感が襲ってくる。さっきから特異災害対策機動部二課に居る師匠である風鳴弦十郎に連絡を取ろうとしているが通信も出来ない。

その事が余計響を不安にかきたてる。

その時に響は自分そっくりのこの子の胸の傷を思い出す。自分と同じような顔に傷…しかし確信はなかった。

 

「これで決まり…ショッカーなんて組織はアンタの妄想。…付き合い切れないからもう出て行って…」

「………」

 

ヒビキの口から出ていくように言われた。

冷たいようだが、流石にこれ以上の関わりはヒビキとしてもゴメンである。

しかし、響が茫然とする姿に溜息を漏らす。

 

━━━…まるで捨てられた犬みたい。私も昔はこんな表情とかしたのかな?

 

ヒビキとて、元からこの性格だった訳ではない。

あの悲劇から生き延びたが待っていたのは生存者へのバッシングと迫害がヒビキたち家族を襲った。

誰もがヒビキを加害者のように言い、自宅に石を投げられ父も仕事で差別を受け病んでしまい家族はボロボロになって、大事だった親友の未来も親の都合とはいえ引っ越しヒビキは本当に独りになってしまった。それからだヒビキが極力、人と関わるのを止めたのは。

 

━━━どうせ、この子も私がツヴァイウイングの悲劇の生き残りだって知れば…やっぱり私は独りでいい。独りなら私に期待する事も絶望する事もない

 

ヴ~~~~~~~~~

          ~~~~~~~~~~

 

「!警戒警報!?」

「ノイズ!!アンタは私が戻るまでに出て言ってよ!」

「え!?」

 

ヒビキが心の中で決心を改めていた時に警報が鳴り響く。響は久しぶりに聞く警報に驚き、ヒビキはノイズと言って部屋を出る。その際に響に部屋を出ていくよう警告して。

尤も警告された響はキョトンとしていたが、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「来てもらって早々悪いわね!」

「…私達も慣れてるから気にしないで!」

 

ノイズが現れたポイントには既に翼と並行世界から来ていたマリアとクリスがノイズを倒している。

自分達の世界での指令である弦十郎に報告を終えた二人はまたこの世界へと来たのだが、来て早々にタイピングよくノイズが出現して現場で翼と合流した。

二人が来た事で負担の減った翼の活躍もありノイズは次々と駆逐されていく。

そんな中、クリスは別の事を考えて居た。

元の世界での響が呟いた発言が気になっていたのだ。

 

 

 

『改造人間?お前なにか知ってるのか』

『…分からない…でも夢で見たり聞いたの。横を向いた巨大な鳥が地球を踏みつけてるようなマークが彼らの象徴みたい。…正直、今まで戦った人達よりドス黒い何かを感じる』

『お前がそんな風に言うなんて珍しいな』

 

この響の発言はクリスにとっても意外なものだった。

響は元々争いごとが苦手で人と競う事すら避ける事がある。そんな甘い響がここまでの事を言うのだ。

 

『クリスちゃん…マリアさん、気を付けて。下手すればコイツ等は世界蛇より危険かもしれない…』

 

 

 

「人がいいアイツがああまで言うんだ。アタシも気を付けないとな」

 

響の言葉を思い出し身を引き締めるクリス。クリスの知る限り響は話し合いを大事にする娘で嘗て敵対していた自分やフィーネにマリアたちの説得もしたのだ。

そんな響が気を付けてと言った以上、クリスもそれなりの行動をするつもりだった。

 

「オラオラ、ノイズ如きがアタシに勝てると思うな!!」

「随分と張り切っているな…」

「この世界に来る前に少しあったのよ」

 

クリスの大暴れに翼は圧巻として見て、マリアはクリスの戦い方に半ば呆れている。

そんな、クリスの活躍もあり百以上いた筈のノイズも僅かな時間で片手で数える程になっていた。

 

「よし、あと少し!」

「やはり数が多いと楽でいい」

「ウチの翼に聞かせたい台詞ね」

 

普段一人で戦っている翼が思わず本音を呟き、それを聞いたマリアが苦笑いをする。その間にもクリスが残ったノイズに標準を向けようとした。

 

 

 

 

「キーリー!」

 

 

 

 

「「「!?」」」

 

突然不気味な声が聞こえると共に電撃のような物がノイズ達に襲い掛かりノイズたちはアッサリと消し炭となる。

茫然とする翼とクリス達だったが、またもや不気味な声が聞こえて来た。

 

「ドクガンダーの言う通りシンフォギア装者が三匹か、他の奴等は居ないようだが。まあいい、俺が始末してやる!!」

 

「新手!?」

「…ビルの上だ!」

「またかよ!」

 

翼が声の主を見つけ指の差したビルの屋上を見る。クリスたちにとって既視感ある気がしたがビルの屋上で自分達を見下ろしてる者を見つける。

それもまた人の様には見えず体には黄色いまだら模様のような物があり頭には二本の触覚が生え、その触覚の間から電気らしきものがバチバチと流れ左手には鋏を持つ口から鋭い顎を出した虫のような顔をした怪物。

 

「あの蛾野郎じゃねえ!?」

 

「俺の名はカミキリキッド!地獄に行っても忘れんことだな!!」

 

怪物…カミキリキッドが名乗ると共に自分達の周りに何かが飛び降りる。戦闘員たちだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハアッ!」

 

翼たちの居る繁華街から少し離れた路地裏。ヒビキがノイズを拳で倒し灰となる。

ヒビキは路地裏で数体のノイズに気付き、先ず此処を片付けていた。

そして、今の攻撃で路地裏に居たノイズは全滅する。

 

「…向こうにもノイズが…」

 

ノイズに対する憎しみがあるヒビキは繁華街に居るノイズも倒そうと移動しようとするが、

 

「イーッ!」「イーッ!」

 

「?何…アンタたち…」

 

突然、黒タイツの覆面男…ショッカー戦闘員に囲まれるヒビキ。どの戦闘員も剣やナイフを持ちヒビキを睨みつけている。

最初は強引なナンパの類かと思ったが男達からは言い知れない気迫の様な物を感じ響の背中に冷や汗が流れる。

この時、ヒビキが感じていたのは殺気だった。

 

「退いて!私はノイズに用がある」

 

「ミミーン!そんな事知るか、我々が用があるのは貴様の方だ!立花響!!」

 

何かが背後に落ちる音と共に不気味な声がして振り向くヒビキ。其処には口の先が尖り両方の目が飛び出してるような化け物が居る。

明らかに人間でない風貌に響が息を飲んだ。

 

「ノイズじゃない!?」

 

「このセミミンガ様を忘れたか?此処で会ったが百年目、今度こそ地獄に送ってくれる!」

 

鎌状になっている左腕を振り上げると共にヒビキの周囲を囲っていた戦闘員が襲い掛かる。

 

 

 

 

 




別の場所で戦うヒビキとクリス達が同時に襲われる話。

響がこの世界の立花響の体を調べる為に服を引ん剝きました。下手すれば警察ものです。
本編響は原作の一年半前に拉致され改造人間にされた為に原作に比べて背は若干小さ目です。今後も成長する事はないです。

ヒビキの事をなんとなく似てる子だと思ってましたが胸の傷を見て響の疑問は大きくなってます。

そして、この世界の響にもショッカーの魔の手が。尚、怪人達は未だにこの世界が並行世界だと気付いていません。
「天気がやたらいいな」や「復興早くね?」と疑問には思ってます。


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76話 助けて

シンフォギアXDでストーリー解放チケットで過去のストーリーを読もうとしたら数日もしない内に復刻版で登場しました。

損した気分がする今日この頃…


 

 

 

二か所のショッカーの同時攻撃。

そのどれもがショッカーの有利に進む。

 

翼やクリスたちの方はアームドギアを展開して戦闘員の戦闘に入るがクリスの弾幕や翼の剣にマリアの蛇腹剣の一撃を受けて倒れても即座に立ち上がる。

 

「あの夜同様、人間とは思えん動きだ…」

「手加減して勝てるとは思えないわね」

「ちくしょう…やり辛えぇ、ノイズみたいにぶっ倒すしかないのか!?」

 

三人は死角をカバーしあい戦闘員の包囲網で戦い続けるがノイズとは別の意味の厄介さで攻めあぐねている。

翼は主にノイズと、クリスやマリアもノイズ以外に戦った事がある。時には人間とも…。

しかし、そんなクリスとマリアも戦闘員は戦い辛い相手だった。

人間タイプは武器が落とされたり壊されれば逃げる事も多いが戦闘員は逃げる素振りも見せずに、それどころか戦意も衰えず自分達へと襲い掛かる。

 

「キーリーッ!どうした装者ども、情報よりも随分と腑抜けにではないか!今更我々に怖気づいたか!?」

 

「好き勝手言いやがって…」

「アンドロイドや怨霊ならまだやりやすいんだけど…」

「…お前達の世界は随分と物騒だな」

 

そんな三人の様子にカミキリキッドは、余裕の声を出しクリスが舌打ちをしマリアの言葉に若干引く翼。

 

報告で聞いた怪人達を倒した装者とは思えない程の苦戦を見せている。頭の中ではこんな奴等がショッカーの誇る大幹部、ゾル大佐や死神博士を倒したのかと疑問を浮かべるカミキリキッド。

 

━━━報告よりも動きにキレが無いな。戦闘員に対して手加減している?余裕の表れか?今更、戦闘員に情けでもかけているのか?どちらにせよ、これではつまらんなぁ

 

「もういい、お前達が本気を出さんのなら別の手がある!」

 

戦闘員に情けをかけてると判断したカミキリキッドは右手を振り上げる。

その姿に今まで翼やクリスたちに攻撃を仕掛けていた戦闘員が距離をあける。

 

「何だ?」

 

「イヤーッ!離して!」「助けてくれッ!」

「「「!?」」」

 

戦闘員が突然引いた事に疑問を感じていた翼とクリスたちだったが突然の悲鳴に前方の方を見る。

目の前には黒づくめ…戦闘員が何人もの人間を縛り上げ連れてきていた。見た感じ背広を着たサラリーマンや主婦らしき人物で明らかに一般市民なのは確実だった。

ノイズの出現で避難してる最中に戦闘員に捕らわれたのだ。

 

「その人達をどうするつもりだ!」

「人質のつもり!?」

「汚ねえぞ!?」

 

人質と判断した翼たちがカミキリキッドに非難の声を出す。この時、クリスとマリアの脳裏にはどうやって人質を助けるか考える。

 

 

「慌てるな!お前達が戦えるよう手伝ってやる!」

 

そんな非難も気にせずカミキリキッドは何処からか取り出した一本の杖を捕らえた人達に向ける。

その杖は黒く持ち手の尖端に黒い宝石と鷲の飾りが付けられている。

 

「久しぶりに見せてやろう、ショッカーの杖の力をなぁ!」

 

「ショッカーの杖!?」

 

カミキリキッドの言葉に訳が分からないとオウム返しする翼。クリスもマリアも同じだったのかカミキリキッドの出方を伺う二人。

そして、直後に杖からどす黒いビームの様な物が放たれ捕まってる人達の前に着弾する。

 

「い…イヤーーーーーッ!!」

「の、ノイズだーーーー!!」

 

「あの杖からノイズを出した!?それも黒い!?」

「ソロモンの杖みたいな事をしやがって!」

 

捕まってる人達の悲鳴にクリスもマリアも茫然とした。黒い光から出たのは紛れもなくノイズ。それもやたら黒いノイズだった。クリスの脳裏に自分の過ちで起動させた完全聖遺物を思い出す。

 

「!まさか、カルマノイズ!?」

「…いや、昨日の夜に見た奴じゃない。昨日の奴はあんなベルトなんてしていない」

「どっちにしろ、ノイズをあの人たちに近寄らせる訳には…!?」

 

クリスがいち早く、アームドギアで黒いノイズを撃破しようとするが射線を戦闘員が塞ぐ。戦闘員の姿に引き金を引くのが遅れたクリス。咄嗟の事で動くのが遅れた翼とマリア。

その間にも、ベルトをしたノイズが捕まってる人達へと接触する。

 

「イヤー!死にたくない!」

「来るな…来るな!」

 

「し、しまった!」

 

ノイズに接触された人達も翼やクリスにマリアまで最悪な最後を考える。ノイズに接触された人間は炭化して絶命してしまう。それが先史文明期に造られたノイズの役割だ。

しかし、翼たちの目には予想だにしない光景が映り込む。

 

ウオオオォォォォォッ!!

シュシュシュシュシュシュ!!

フワフワフワフアフ!!

 

黒いノイズに接触された人達は怪物に変わってしまった。独りは三つの複眼を持ち口から牙が生え体中に毛が生え、もう一人は赤い甲虫のような姿に赤いハサミのような左手、最後の一人は体中から昆虫の足が生えたように見える。まるで、ビルの屋上で自分達を見下すカミキリキッドと同じような姿だ。

 

クリスとマリア、翼たちは知らなかったがその姿は蜘蛛男、さそり男、ムカデラスだった。

 

「人間が怪物に変わった!?」

「…おいっ!あの人たちに何をした!!」

 

完全に予想外な事に目を見開く翼たちだが、クリス逸早く立ち直り屋上に居るカミキリキッドに声を荒げる。少なくとも黒いノイズの所為なのは明らかだからだ。

 

「忘れたか、雪音クリス!ソロモンの杖を元にして作られたショッカーの杖。そしてショッカーノイズをな!」

 

「ソロモンの杖だと!?」

「ショッカーの杖!?ショッカーノイズ!?」

「…これでハッキリした!アイツ等は私達の事を知っている!」

「…だからって一般人を簡単に犠牲にするのかよ!?」

 

カミキリキッドの「ソロモンの杖」という言葉にマリアは敵が完全に自分達を熟知していると判断する。そして、クリスはカミキリキッドがアッサリと一般人を犠牲にしたことにはらわたが煮えくりかえる。

 

「ムシケラ程度の人間どもがなんだって?噂に聞くシンフォギア装者の実力見せて貰おうか!かかれぇー!」

 

カミキリキッドの声に怪人となった元一般人たちがクリスたちに襲い掛かる。

それを苦々しい顔をしたクリスとマリアはアームドギアを怪人達に向ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クリス達とほぼ同じころ、シンフォギアを纏ったヒビキが一人路地裏を走っていた。

 

「ハア…ハア…アっ!?」

 

息を乱しつつ走っていたが途中に放置されていたゴミ箱に足を引っかけ転んでしまう。

転んだ拍子に擦り傷が出来るがヒビキは構わずその場を後にする。

 

「追えぇ!逃がすな!」

「「「イーッ!」」」

 

背後からは自分を殺そうとする化け物に黒づくめの男達の声がする。

 

━━━嫌だ!あんな奴等、私は知らない!怖いよ!

 

その声にヒビキの背筋に氷が入ったように寒気がした。

 

セミミンガや戦闘員に襲われたヒビキは隙を見て路地裏に逃げ込んだ。

ヒビキの脳裏にはセミミンガや戦闘員の殺気を思い出し鳥肌が立つ。

 

━━━どうして!?ノイズと戦えるのになんで!?

 

ヒビキは今まで多くのノイズを倒して来た。それこそ復讐心と憎悪でノイズを恨んでおり多くのノイズを倒し特異災害対策機動部二課からも注目されていた。

そんな自分がセミミンガたちから逃げてる事に内心疑問に思っている。

 

━━━…そうか、アイツ等がノイズじゃない。ノイズがあんな気配なんて出さない!

 

そして、ヒビキは答えに辿り着く。

ノイズは言葉を話さない。殺気も出さない。ただ粛々と人間を殺すだけだった。それがノイズだ。

しかし、セミミンガたちは違う。言葉も喋るし殺気も出す。

ノイズ以外戦った事のないヒビキが恐れるのも仕方ないと言えた。

 

━━━早く何処かに隠れないと…「あっ…」

 

その時、何度目かの躓きよりヒビキが転んでしまう。何度目かの痛みに涙目になる。

痛みの所為もあるが、ヒビキは自分が情けないとも思った。何時の間にか姿が戻ったのか、ほぼ一張羅の灰色のフードパーカーも汚れてしまう。

 

「…何で私…逃げたんだろ…」

 

ヒビキは自身が血相を変えて逃げ出した事に疑問を感じる。

ヒビキは自身が死ぬことも覚悟していた。それこそ初めてシンフォギアを纏ったあの時から、

 

 

 

「アナタ、大丈夫!?」

「へ?」

 

あの時の事を思い出しかけた響は女性の声に現実に引き戻される見ると制服を着た婦人警官が駆け寄って来たのだ。恐らくはノイズから逃げ遅れた人が居ないか見回っていたのだろう。

眼鏡をかけ短髪のようだがヒビキから見ても奇麗な女性でもあった。

 

「この近くにノイズが出現してるの!アナタも急いで避難しなさい!」

「え…あの…」

「急ぎなさい!政府機関の特異災害対策機動部二課がノイズの相手をしてるけど何時襲われるか分からないのよ!」

 

ヒビキとしては単独でもノイズは平気だったが、事情を知らない府警にはヒビキも一般人と変わらない。だから保護しようとしていた。

ここでヒビキは迷ってしまった。ノイズではない突然現れた怪物に自身の命が狙われている事を話し保護してもらうべきか。

 

ミミミミ~ン

 

「!?」

「何かしら?不気味な声ね」

 

その時だった。ヒビキたちの耳に不気味な声が響く。それは間違いなくヒビキの前に現れた怪物の声だった。

 

「あの…!?」

「キャ!?」

 

声が響いた以上近くにいる。そう判断したヒビキが急いで婦人警官に一緒に逃げようと言おうとした。

しかし、婦人警官の悲鳴と共にヒビキは目を丸くした。

 

「愚かな人間め~。我らの邪魔をするのならお前も死ねッ!」

 

「ば…化け物!?」

 

既にセミミンガは響達の前に現れ迫って来る。婦警は一瞬驚くが直に拳銃を握り締めてセミミンガに銃口を向ける。

 

「アナタは逃げなさい!」

「!?」

 

婦人警官はヒビキに逃げるよう言うと、セミミンガに拳銃を発砲する。

拳銃の弾はセミミンガの胴体や頭に当たるが僅かな火花が上がるだけで傷一つない。

 

「ノイズじゃない!?なら…」

 

弾が素通りせず当たるのを確認した婦警はそのままセミミンガに向けて発砲する。

しかし、いくら弾が当たるとはいえセミミンガの体には傷一つつかない。

そしてとうとうセミミンガが婦人警官の真ん前にまで接近すると持っていた拳銃を弾き飛ばす。

 

「キャアア!?」

 

「そんな豆鉄砲で怪人を倒せると思うな!」

 

拳銃が無くなった婦警だが次に警棒を取り出して牽制しようとするが、セミミンガはアッサリと警棒も弾き婦警を捕まえる。

 

「は、放しなさい!」

 

「愚かな人間よ、死ねぇ!!」

 

なんとか抵抗する婦警だったがセミミンガは自身の鋭いストロー上の口を婦警の首元に突き刺すと共に婦警の体液を吸い取る。

 

「あ…あ…」

「…逃げなさい…早く…逃げ…て…」

 

何かを吸い取る音と共に婦人警官の声も徐々に弱くなる。

そして、ヒビキは見ていた。婦人警官の体が風船のように萎んでいき眼鏡が地面に落ち最後には服しか残こらなくなる。

婦人警官は目の前で殺された。セミの姿に似た怪物に殺された。

 

━━━酷い!これならまだノイズに殺された方がマシだ!

 

ノイズは人間に取り付き炭化させて殺す。その際に犠牲者の炭が残るが目の前で殺された婦警は炭すら残らず衣服だけとなった。それならまだ炭として残るノイズの方がマシに見える。

 

「次はお前が死ぬ番だ!」

 

最早、中身の無い婦人警官の制服を投げ捨てたセミミンガは座り込んでいるヒビキに視線を向ける。

その制服はビルとビルの隙間風に流されヒビキの前に落ちる。そして、その制服にソっと手を触れるとまだ暖かかった。間違いなくさっきまで生きていた人が来ていた服だと確信するヒビキ。

 

「…私の所為で…死んだの…?」

 

目の前で殺されたとはいえヒビキには未だに現実とは思えなかった。

自分に似た娘を海岸で拾い、ノイズではない怪物に襲われたのだ。まるで未だに自分は布団の中で寝ているのではと錯覚すらしてる気分だった。

 

「そうだ、お前が警官に会わなければコイツも生きていた。この人間を殺したのはお前も同然だ!」

 

ヒビキの呟きにセミミンガは言い放ち婦警が付けていた眼鏡を踏みつける。

完全な責任転換だがヒビキが少しでも苦しむのならセミミンガは構わないと考えて居た。

 

━━━そうか、やっぱり私の所為なんだ。私がこの人を殺しちゃったんだ……なんだ、結局私はあの時と何も変わっていない

 

ヒビキの脳裏に数カ月前の出来事が浮かぶ。

嘗てのヒビキはツヴァイウイングのライブへと行き歌を楽しんでいたがノイズの襲撃が起こり生き残ったが犠牲になった遺族やノイズと関係ない死亡事故により世間に叩かれてしまう。

仲の良かった友人たちもヒビキから離れ家も誹謗中傷の張り紙や投石に家族は疲弊しバラバラになってしまう。

そんな、ある日だった。

街中を歩いていた時にノイズが出現して全てを諦めノイズに殺されようとした時だった。

 

()()()()()()()()()()して他の避難している人を追ったのだ。

死を覚悟していたヒビキにとってこれは屈辱でしかなくノイズに対する怒りを感じた時に胸の傷跡が光ると共に歌を口に出しシンフォギアを纏ったのだ。

それからと言うものヒビキはひたすらノイズを倒し続けていた。自信の復讐心を満たす為、一人でも戦い続けた。

 

━━━結局私の所為で人が死んだんだ。こんなの望んでないのに…私に関わった所為で…

 

「お前達、立花響を立ち上がらせろ!トドメは俺が刺す!」

「「イーッ!」」

 

セミミンガは何時の間にか合流した戦闘員達に立花響を立ち上がらせるよう命じる。

命じられた戦闘員は二人がかりでヒビキの両腕を押さえ立ち上がらせた。ヒビキは特に抵抗らしい抵抗はしなかった。

 

━━━私はもう過ぐ殺されるんだ。…そうだこれでいいんだ、あの時…あの鎧を纏った時だって死ぬことを覚悟していたじゃないか…今ようやくそれが叶うだけだ

 

「随分と呆気ない、貴様の首はこのセミミンガ様が頂いた!」

 

ろくに抵抗らしい抵抗をしないヒビキに勝利を確信したセミミンガは戦闘員に立たされてる響の髪を右手で引っ張り顔を上げさせる。ヒビキの顔はセミミンガから見ても絶望していた。

セミミンガはそれを見て満足そうに頷く。

 

━━━結局、誰も私の事を助けてくれなかったな。……違う!少なくともあの婦警さんは私を助けようとしていた。「逃げて」って私に言ってくれた。…でもその所為で婦警さんは…私の巻き添えに…本当ならもうこれ以上私が巻き込む訳にはいかない。私がここで死ねば解決するんだ…でも…それでも…

 

止めを刺そうと鎌状になった左腕を振り上げるセミミンガ。

 

「死ねぇぇぇ!!!!!!」

 

「…誰か助けて…」

 

ヒビキは決して死にたい訳ではなかった。

本来、ヒビキの性格は明るく人懐っこい物怖じしない元気な娘だった。

それが、ツヴァイウイングの悲劇で生き残ったが故、言われない迫害の被害者でもある。今まで居た友人たちもヒビキの下を去り親友の小日向未来も親の都合で遠くに引っ越してしまった。

それからだ、明るかったヒビキが他人を寄せ付け無くなり、自分がこんな目に合った原因のノイズと戦って来た。

それまでだったらヒビキもノイズと刺し違えても良いと考えて居たがノイズじゃないセミミンガたちが自身の命を奪おうとしている事でヒビキの口から「助けて」と呟かれた。

 

その声は余りにも小さく誰の耳にも届かない。このままセミミンガの左腕が少女の体を貫通するかと思えた。

その時だ!

 

「その子に手を出すなあああぁぁぁぁぁ!!!」

 

「グバアアアアアアアア!?」

 

自身と同じ声と打撃音が辺りに響く。

ヒビキの目の前で自分を殺そうとしていたセミミンガの顔に自分と同じ顔、同じシンフォギアを纏った少女の蹴りが炸裂した。その少女は間違いなく自分と同じ名を名乗った立花響だ。

 

響の蹴りで吹き飛ぶセミミンガだが、直ぐに態勢を立て直すとビルの側面を飛び壁との激突を回避する。

 

「何も…の!?」

 

再び邪魔が入った事でセミミンガが邪魔者を確認しようとした時、驚愕の声が上がる。

同時にヒビキを捕らえ拘束していた戦闘員達も混乱していた。

 

「立花響が二匹だと!?どうなっているんだ!!」

 

二人の立花響。

この日、ショッカーは響が二人いる事が知られた。

 

 

 

 

 

 




セミミンガの食事は完全にDBのセルですね。体液を吸い尽くすと服だけになるものそのまま。映像を見た感じ本当に服しか残ってなさそうです。
それを目の前で見せられたヒビキ…トラウマものです。

ヒビキが逃げたのはセミミンガや戦闘員の殺気に怯えたという事で。
機械的に人間を殺すノイズが殺気を出すとは思えませんし。
初めての純粋な殺気に怯えた設定です。


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77話 怪人

ヤバい!ネットサーフィンしてたらパソコンの電源が突然消えた。買って5年以上、保証も切れたし…寿命が近いかも…


 

 

 

「ウオオオォォォォォ!!」

 

「蜘蛛の姿にその能力かよ!」

 

クリスが蜘蛛男と戦う。

蜘蛛男の蹴りを躱してアームドギアのボーガンで反撃するが蜘蛛男の糸により回避されてしまう。

得意な距離に持って行こうとするクリスだが、蜘蛛男の不気味な動きと糸の所為で碌に距離をとる事が出来ずに苦戦を強いられる。

 

 

 

 

「シュシュシュシュ!!」

 

「ノイズよりもずっと強い!?」

 

翼の剣とさそり男の左手の電磁バサミがぶつかり火花を上げる。

互いの武器が弾かれると共にさそり男が回し蹴りを繰り出すが咄嗟にバク転して回避する翼。

さそり男の蹴りを躱した翼は改めて剣を握り直し、さそり男の方を見る。

翼が剣を構え、さそり男が電磁バサミをギラつかせる。

そして、再び剣と電磁バサミが火花を上げる。

 

 

 

 

「フワフワフワフアフ!!」

 

「こんな物!」

 

一方、マリアの方もムカデラスの生えてる足を手裏剣のように投げる攻撃を短剣で弾き飛ばしている。

クリスや翼に比べマリアは善戦している。

 

「こいつはそこまで強くない?なら!」

 

マリアはムカデラスの戦闘力があの二体よりも低いと考え短期決着を狙い何本目かの足の手裏剣を弾くと一気に接近する。

 

「覚悟っ!!」

 

その時、ムカデラスは腕をクロスさせ両方の親指を内側に向ける。

 

「頭脳破壊電波!!」

 

「!? アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」

 

飛び掛かろうとしていたマリアは体勢を崩し地面に倒れる。突然の頭の激痛に悲鳴を上げ両手で押さえるが痛みが和らぐことはない。むしろドンドン酷くなっている。

 

「おい!」

「マリア!?」

 

マリアの苦しそうな悲鳴に気付いたクリスと翼が駆け寄ろうとするが、それぞれ蜘蛛男とさそり男が間に入る。

これでは、怪人を無視してマリアに辿り着くのは不可能と言えた。

 

「フッハハハハハハ!いいぞ、ムカデラス!そのままマリアをぶち殺せっ!!」

 

そんな状況にビルの屋上で高みの見物をしているカミキリキッドの声が響く。

その声にイラつきカミキリキッドを睨みつけるクリスと翼。

 

「マリアに何をした!答えろ!」

 

尋常ではないマリアの悲鳴にクリスが叫ぶ様に言う。

 

「忘れたか、雪音クリス!!マリア・カデンツァヴナ・イヴの頭はムカデラスの頭脳破壊電波の影響を受けているのだ!」

 

「頭脳破壊…」

「電波だぁ?…」

 

安直なネーミングだと思う二人だがマリアの苦しみようを見るとハッタリとも思えず奥歯を噛みしめる。

 

「そうだ、頭脳破壊電波だ!前にも立花響やフィーネを苦しませた悪魔の兵器よ!」

「フワフワフワフアフッ!!!」

 

カミキリキッドの声にムカデラスが笑い声を上げる。目の前で苦しむマリアが面白いのだろうか?

 

「アイツの名前にフィーネだと!?」

「馬鹿なっ!?シンフォギアにはバリアフィールドが搭載されてるんだぞ!!」

 

「馬鹿はお前達だ!一体何度我々がお前達と戦ってきたと思っている!?幾らシンフォギアの性能が上がろうとショッカーの技術はそれを追い越す!!」

 

「…ショッカー?」

「それがお前達の組織名かよ!」

 

ここに来て、翼とクリスはやっとカミキリキッドたちがショッカーという組織の者だと分かった。

尤も、クリスの記憶にショッカーと言う名前に覚えはないが、

 

「まだ惚ける気か、シンフォギア装者ども!!もういい、ムカデラス!貴様の頭脳破壊電波でマリア・カデンツァヴナ・イヴの脳細胞をぐちゃぐちゃにしてやれぇ!!」

「フワフワフワフアフ!」

 

カミキリキッドの指令にムカデラスが鳴き声を上げると腕をクロスさせたままマリアへと近づく。

近づくにつれマリアの悲鳴も一際大きくなる。

 

「マリアっーー!!」

「止めろ、マリアに何の恨みがある!!」

 

翼がマリアの名を叫びクリスが止めるよう言うが効果はないようだ。

しかし、クリスの声に反応したのかカミキリキッドの視線がクリスに向かう。この時、クリスはカミキリキッドの殺意を感じ身震いした。

 

「恨みだと!?この娘がフロンティアで我々の存在を暴露したのだぞ!」

 

「フロンティア!?」

━━━あいつ等、フロンティアにも行っていたのか!?

「暴露されただと?」

 

「そうだ!どうやったかは知らんがマリアが我らショッカーの存在をフロンティアで表沙汰にしたことで秘密結社であったショッカーが人間どもに知られてしまったのだ!!」

 

カミキリキッドの声は今までと違い怒気に塗れていた。

その怒りに翼はおろかクリスすらたじろぐ程だ。

 

「貴様らに分かるか!?ひ弱で下賤な人間どもに我らの存在をバラされた気持ちが!我らは選ばれし民!いずれは人間どもにとって代わり地球の支配者となる存在だ!それをマリア・カデンツァヴナ・イヴの所為で無茶苦茶だ!だからマリアの首は何としても取る!やれ、ムカデラス!!」

 

カミキリキッドの声に頷くムカデラス。更に腕をクロスさせたままマリアへと近づく。

 

 

 

 

 

 

 

「…それだけ…聞けれ…ば…結構よ…!」

 

「フワッ!?」

 

しかし次の瞬間、白い鞭上の物がムカデラスを体を切り裂く。切り裂かれたムカデラスは断末魔を上げる事無くそのまま爆発してしまう。

 

「なんだと!?」

 

「マリア!!」

 

クリスが思わず顔をほころばせる。

視線の先には短剣を蛇腹状にしたマリアが息を乱し片膝を付きながらも構えていた。

 

「ええい!頭脳破壊電波の威力が今一だったか!?」

 

「…シンフォギアを舐めないでちょうだい。私達は負ける訳にはいかないのよ!」

 

舌打ちをするカミキリキッドにマリアがそう言い放つ。

翼は気付かなかったがクリスは何となく察している。マリアの顔に大量の汗が流れてるのを見て頭脳破壊電波が相当な威力をもっていた事を。

恐らくマリアはカミキリキッドから少しでも情報を得ようとワザとムカデラスの頭脳破壊電波を受けていたのだろう。シンフォギアンのバリアフィールドである程度軽減できても辛かった事が伺える。

 

「…二人共、アイツ等の殺気は本物よ、手加減して勝てる相手じゃないわ!」

「…そうらしいな」

「ノイズみたいに倒さないと駄目って事か…」

 

「…む?」

 

マリアの声に翼とクリスは改めてアームドギアの剣やボーガンを握る。その目は当初よりもハッキリとしておりカミキリキッドも雰囲気が変わった事に気付く。

少なくとも、自身の命を狙う相手を倒すしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ…あんた…」

「ちゃんと聞いたよ、アナタが「助けて」って言った言葉を…」

 

セミミンガから助けられたヒビキは響が自分と同じ鎧…シンフォギアを纏ってる事に驚きつつも安堵の表情をする。目の前で人が殺されたのを見て緊張していたが僅かな安心感を覚える。

響が視線をセミミンガの方に向ける。

 

「セミミンガ、性懲りもなく悪事を働いてるのね!」

 

「黙れ、立花響!何故、二匹に増えてるのかは知らんが構わん!二匹とも此処で死ねぇ!!」

 

セミミンガが言い終えると共に今までヒビキを担いでいた戦闘員が手を離して響に向かう。それと共に次々と路地裏から戦闘員が現れ響に迫る。

 

「今更、戦闘員なんかに!」

 

響の拳が一人の戦闘員を殴り飛ばす。

それからは一方的な戦いだった。四方八方から迫る戦闘員を文字通り投げ飛ばし殴って蹴り飛ばす。

 

「…す…凄い…」

 

これには、地面に座り込んでいるヒビキも思わず見入る。次々と殺気を丸出しにしている戦闘員が響に倒されていく。地面や壁に倒れていく戦闘員の姿にヒビキも唖然とする。

 

「ええい、役立たずどもめ!こうなれば!」

 

二桁以上の戦闘員を倒した響はチラっとセミミンガに視線を送るとセミミンガは自身の体を揺らしている。

 

「アイツ…何をする気?」

 

その様子はヒビキも気付いたが何をしてるのかは分からなかった。だが響はセミミンガが鳴くと共に空気のピり付く感じやヒビキの背後にある路地の窓がガタガタと揺れ割れる様子に嫌な予感を感じていた。

 

「ミミーンッ!これでまとめて殺してやる!」

 

「!? 急いでシンフォギアを纏って!」

「え?」

 

Balwisyall nescell gungnir tron

 

セミミンガが何をしてくるか気付いた響は急ぎ地面に座っているヒビキにシンフォギアを纏うよう言う。

ヒビキも突然言われた事に茫然とするが戸惑いながらも聖詠を口にする。

直後だった。

 

「ミーン!ミッミッミミ゛ミ゛ミ゛ミ゛ミ゛ミ゛ミ゛ミ゛ミ゛ミ゛ミ゛ミ゛ミ゛ミ゛ミ゛ミ゛ミ゛ミ゛喰らうがいい、これが本物の殺人音波だぁ!!」

 

セミミンガの発する凄まじい音波と衝撃波が響達を襲う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ウオオオォォォォォ!!」

「シュシュシュシュシュシュ!!」

 

「隙ありッ!」

「そこだぁぁぁぁ!!!」

 

翼の剣が蜘蛛男を切り裂き、クリスの弾丸とミサイルがさそり男に降り注ぐ。

マリアも蛇腹剣上にした短剣で何人もの戦闘員を倒していく。

尤も、人間に一番近い戦闘員は暫らくすれば立ち上がるダメージしか与えられてないが、

 

「やはり雑魚では相手にならんか…ん?」

 

人間を使って怪人にした部下たちが死のうが平然とするカミキリキッド。所詮は翼やクリスたちの当て馬としてしか期待してないので当然と言えば当然である。

その様子を見ていたカミキリキッドの下にセミの鳴き声と何かが崩れる音が聞こえて来た。

見ると此処からやや離れた場所の古い団地が音を立てて崩れている。

 

「なんだ?この音!?」

「此処から離れた場所にある廃墟の一つが崩れてるようだが…」

「この異様なセミの鳴き声は何なのよ!」

 

翼やマリアたちの耳にもセミの声らしき物が響き、思わず手で耳を塞ぐ。

クリス達の傍にあるビルの窓ガラスにもヒビが入りマリアは何事かと焦っている。

 

「セミミンガめ、向こうでやり合ってるようだな」

 

「ど…如何言う事だ!?」

 

カミキリキッドの呟きを逃さなかったクリスが叫ぶ様に言う。

 

「知れたこと、俺の仲間が別のシンフォギア装者を襲っているのよ!立花響か、それともFISの小娘どもかは知らんがな!!」

 

「「!?」」

 

━━━調や切歌は一緒に来ていない!似たような子が襲われてる可能性は高いけど…

━━━一番はやっぱりアイツだろうなッ!

 

自分達以外のシンフォギア装者。十中八九この世界の立花響だと感付くマリアとクリス。

しかし、この世界の立花響は自分達の仲間ではない。

 

「ふざけんな!アイツは関係ないだろ!」

「この世界の立花響は私達とは関係ないの!」

 

「ふん、そんな世迷言で俺たちをかく乱しようと言うか。舐められたものだな!いいだろう、次は俺が相手をしてやる!!キーリー!」

 

クリスたちが仲間を庇っていると判断したカミキリキッドはそう言ってビルの屋上から飛び降り翼やクリス達の前に立つ。

その姿に、マリアたちは先程の蜘蛛男やさそり男よりも強い寒気を覚える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

セミミンガが殺人音波を発した場所。

響達の背後にあった廃ビルが崩れ辺りに土埃が舞う。

 

「ミーンッ!見たか、これが俺様の殺人音波の威力だ。お前達、立花響の死体を確認して来い!」

「「「イーッ!」」」

 

前の時より殺人音波の威力も上げられ、響はそれを躱すことなく直撃した。いくらシンフォギア装者や改造人間だろうと死んだ筈と考えたセミミンガは自分の配下である戦闘員に確認に行かせる。

土埃が舞う中、戦闘員は響の死を確認する為に向かう。待っているセミミンガは朗報を待つだけだった。

しかし、聞こえて来たのは戦闘員の断末魔と打撃音だった。

 

「しくじったか!?」

 

響はまだ生きていると知ったセミミンガだが、直後に土煙から誰かが出て来る。…響だ。

響の拳と蹴りがセミミンガに迫る。辛うじて防ぐが響の反撃が激しさを増す。

 

「貴様…何故生きている!?俺の殺人音波は直撃した筈だ!」

 

「気合いだ!!」

 

「!?」

 

予想外の響の言葉に一瞬思考が追い付かないセミミンガ。そんな理由で殺人音波を無効にされた事に信じられなかった。

そして、そんなセミミンガの隙を響は見逃さなかった。

セミミンガの顔面や体に次々と拳が入る。

 

「!調子に乗るな!!」

 

響の追撃を背中の羽で飛んで躱すセミミンガ。丁度真下に響が居る形となる。

 

「もう一度、殺人音波で…!?」

 

セミミンガが今度こそと真下の響に殺人音波を当てようと動くが、セミミンガの目は自分よりも早く腰のブースターを使って空を飛び自分に迫る響の姿だ。

 

「ハアアアア!!!」

 

何時の間にか腕のギアも引っ張られており響の拳がセミミンガの腹部に到達すると同時にギアも圧縮しエネルギーがセミミンガの体を貫く。

 

「ま…またしてもーーーー!!!」

 

響の拳にセミミンガは耐えられず一瞬で体中にヒビが入り一気に爆散する。

その様子に僅かに居たセミミンガ配下の戦闘員も撤退する。

 

「ハア…ハア…痛ッ」

 

それを響は乾いた眼で見ている。セミミンガを倒したが響も無傷とは言えなかった。殺人音波の影響か体中に擦り傷があり顔に至っては額の人工皮膚が捲れ上がり金属が見える。

尤も数秒もせずに響の傷は全て回復するのだが。

 

本当なら今すぐにでも逃げる戦闘員を追撃した方が良いのだろうが、セミミンガとの戦闘の消耗や逃げる相手を追撃するには響の精神は未熟。翼やクリスならば攻撃するかも知れないが基本的には響が逃げる戦闘員を追う事は少ない。

何より、

 

「…良かった、生きてる…」

 

土煙が治まった場所に視線を向けた響は胸を撫でおろす。

視線の先にはシンフォギアを纏ったまま気絶している響の姿が。響は気絶してる響の体を持ち上げてその場を離れる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「キーリーッ!どうしたシンフォギア装者ども!?お前達の実力はその程度か!!」

 

「強いッ!?」

「蜘蛛やサソリよりも遥かに強いだと!?」

 

翼、クリスにマリアはカミキリキッドに苦戦を強いられていた。

ある程度消耗していたのも原因だが、カミキリキッドの実力はクリス達の想像を超えていた。

口から火炎を吐き、角からの破壊光線がシンフォギア装者達を襲う。

反撃しようにも、翼の剣やクリスのミサイルはカミキリキッドの左手のハサミに潰され生半可な攻撃ではカミキリキッドに傷一つつけられない。

不利と感じたクリスが大型ミサイルでカミキリキッドを攻撃するもそれすら大してダメージを与えられた様に見えない。

 

「固ぇ!」

 

「そんなへなちょこな攻撃で俺様を倒せると思うな!」

 

クリスの攻撃にカミキリキッドはお返しにと角からの破壊光線を撃つ。辛うじて避けるクリスだが破壊光線で生じた爆発の威力に倒れる。

 

「雪音!?」

「クリス!?」

 

「よそ見してる暇があるのか!?お前達も死ねぇ!!!」

 

カミキリキッドは口から夥しい程の火炎を吐く。辛うじて回避した翼とマリアだが、背後にあったビルにその火が移り火災となる。それどころかビルの鉄筋やアスファルトの一部が溶けだしている。

 

「コンクリートが炎で溶けた!?どれだけ高温なのよ!」

「あれだけの炎だとシンフォギアが持たないぞ!」

 

「キーリー!貴様らの骨も残さずこの世から消えてしまえ!!」

 

翼やマリアがカミキリキッドの吐く火炎に恐れた事に気を良くし更に火炎を吐きかける。何とか回避していた二人だが炎の勢いに逃げ場が無くなっていく。

 

「…調子に乗りやがって」

「雪音、大丈夫か!?」

「…こうなったら全員で一斉に飛び掛かるしかないわね」

 

何とか復帰したクリスだがカミキリキッドとの戦いははっきり言って不利と言えた。下手すればカルマノイズすら超える程の戦闘力にノイズには無い柔軟な思考は厄介極まりなかった。

そこでマリアは一つの案を出し翼とクリスも首を縦に振る。

翼やクリスは燃え盛る炎の中、上手くばらけてカミキリキッドを取り囲むように移動する。

 

「今よ!」

 

マリアの掛け声にクリスがカミキリキッドにアームドギアをガトリング砲に変えてや小型ミサイルと共に撃って目隠しして、その間にマリアと翼がアームドギアを持って一気に近寄る。

 

「しゃらくせぇぇぇぇ!!!」

 

「「「うわああああああ!!」」」

 

カミキリキッドの声と共に突如強烈な電流が翼やマリアたちを襲う。クリスも例外ではなく焼かれるような衝撃に片膝を付く。

何が起こったのか分からないクリスが改めてカミキリキッドの方を見ると翼もマリアも倒れており体から薄い煙のような物が立ち上っている。

幸い、辺りを燃やしていた炎は消えていたがクリスの頭に疑問は尽きない。

 

「…まさか…アイツ…電撃も使えるのか…」

 

「ほう、聡いではないか!いかにも、俺は電撃をも操れる」

 

クリスが辿り着いた答えにカミキリキッドもお墨付きを与える。電撃が直居檄した以上、大ダメージは避けられないと判断したからだ。

カミキリキッドの予想ではもうシンフォギア装者に戦える力は残ってないと思っていた。

しかし、思わずカミキリキッドも舌打ちをする。翼やマリアが立ち上がろうとしていたのだ。

 

「…強い」

「力量だけならカルマノイズも上回る…クリス!」

「…やるしかないか」

 

マリアとクリスが互いの顔を見合い頷く。マリアとクリスにはまだ切り札があるのだ。

そして、それに気づくカミキリキッドだが余裕を見せる。

 

「キーリーッ!しつこい女どもだ、エクスドライブでもない限り俺を倒すのは不可能だと知れ!」

 

「…エクスドライブも知ってるのか!?」

「でもお生憎さま、()()をまだ知らないようね」

 

マリアがそう言い切るとマリアとクリスは胸元にあるシンフォギアのペンダントに手を伸ばす。

見守る翼に何を仕掛けて来るのか興味があるカミキリキッド。だが、その時、カミキリキッドに内蔵されている通信機から一つの命令が下る。

 

「「抜…「撤退命令だと!?」けん…?」」

 

今まさにペンダントの出っ張り部分を押し込もうとした瞬間、カミキリキッドの怒鳴り声に二人が固まる。

尤も、カミキリキッドはお構いなく通信を続けていた。

 

「何故だ!?あと少しで風鳴翼、雪音クリス、マリア・カデンツァヴナ・イヴの抹殺が完了するのだぞ!?地獄大使の命令?チッ、仕方あるまい!!」

 

通信の終えたカミキリキッドは改めてクリスとマリアに視線を向ける。

 

「命拾いしたな!次に会った時が貴様たちの命日だ!!」

 

そう言い終えると、カミキリキッドはジャンプしてビルの上を駆けあがりそのまま姿を消す。

何時の間にか戦闘員も撤退しており、その場には翼やマリアたちしか居ない。

またもやショッカーは撤退した。その事にホッと胸を撫でおろすが翼もクリスも直ぐに楽観視出来ずにいた。

 

その後、特異災害対策機動部二課の職員が来た事で、クリスとマリアは現場を任せ響が襲われたであろう路地裏に向かう。

しかし、其処には既に現場検証を行っている警察と特異災害対策機動部二課の職員のみで響の姿は何処にも無かった。

 

 

 

 

 

 




マリアはショッカーを表沙汰にした事で滅茶苦茶恨まれてます。
ある意味、響以上に命を狙われてます。
そして、カミキリキッドは翼やクリスが惚けてると判断して機密情報をバンバン言ってます。既に相手が知ってると思ってるからしょうがないね。

因みに、この作品のカミキリキッドはTV版に映画版、ゲームの「正義の系譜」の全てのいいとこどりしてるため滅茶苦茶強いです。

今回のセミミンガはTV版の攻撃ですね。
ショッカータワーではゲームの「正義の系譜」のように広範囲に衝撃波を発してましたが、今回は仮面ライダー原作のように前方の響に集中させてます。設定では集中して発する方が威力が高いです。

原作の仮面ライダーも何故か殺人音波が効いてません。


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78話 極めて近く 限りなく遠い世界

パソコンがマジヤバい…


 

 

 

━━━…此処は、何処だろ?

 

ヒビキが目覚めると体を起こし辺りを見回す。その際、掛けられていた毛布が横にずり落ちた。

ずり落ちた毛布に一瞬視線を向けるが直に部屋の中も見渡す。

 

「私の…部屋…?」

 

此処が寮の自分の部屋だと気付くがヒビキは違和感を感じていた。

何時の間にか自分が寝ていた事に不思議に思い、傍にあった時計を覗き込む。

 

「深夜…な訳ないか…」

 

カーテンで仕切ってる窓からは太陽の光が入り時間が夕方だと確信するヒビキ。

いくら何でもこんな時間まで寝てる筈もなく、服装も外に出かけるようのパーカーのままだった。汚れた後付きなのがちょっと泣けてくる。

 

「おかしい…何時もはろくに眠れてない筈なのに…!」

━━━思い出した!

 

寝ぼけた頭のヒビキだがやっと思い出した。

セミの化け物や黒づくめの男達が自分を殺そうとして、同じ顔と同じ名前を持つ自分と瓜二つの少女に助けられたことを。

ヒビキは居ても経ってもいられなくベッドから起き上がり部屋を出る。目的の場所は響を寝かせていた部屋だ。

 

 

 

 

 

引き戸を音を立てて開ける。

其処には予想通り目的の少女、立花響が居た。居たのだが…

 

「なに散らかしてるの?」

「あ、ごめん!もう直ぐ終わるから」

 

響が新聞や情報雑誌を広げてそれぞれに目を通している。あまりにも真剣な姿で見ているので声が欠け辛く感じ、床に落ちている雑誌を手に取って広げて見た。

 

「こんなの…私買ってないけど…日付は…一週間前?」

「…アナタを運んでる途中にゴミ捨て場で見つけて…」

 

響の返答を聞いて初めて雑誌から据えた匂いがしてる事に気付いたヒビキは手に持っていた雑誌を投げ捨てた。

 

「…最悪」

 

響の予想外の行動にヒビキはそう呟いた。

 

 

 

 

 

「…それで?何を調べてるの」

 

あの後、手が二チャッと感じたヒビキは手洗いをした後に再び部屋に来て雑誌や新聞を広げている響に質問する。響は視線を向けず調べ物をしたままだが、質問に答えるように口を開く。

 

「ちょっと気になる事があって…ねえ、今日って何月何日?」

「今日?確か×月〇日だけど…」

「…やっぱり」

 

ヒビキの言葉に一人納得する響。

気になったのか、ヒビキは一人納得している響に質問する。

 

「やっぱりって?」

「テレビの時は気付かなかったけど、私の記憶が確かなら今月はまだ●月なの」

「三カ月前?」

 

響の最後の記憶はショッカーアジトに単身乗り込みスーパー破壊光線砲を絶唱で相殺した日だった。

しかし、目を開けて見ればそこは三カ月も時が過ぎた東京。

自分と同じ顔同じ姿同じシンフォギアを持ったタチバナヒビキに隕石やショッカーとの戦いでボロボロになった筈の街がきれいに元通りになり、それどころか世界中に降り注いだ筈の隕石も無くなりショッカーの存在すら雑誌や新聞から消えている。

 

「ねえ…」

「なに?」

「アナタはあのセミミンガ…怪人を見たのはアレが初めて?」

「………」

 

未だにセミミンガに恐怖してるのかヒビキ黙ったままで静かに頷いた。

そして、響はその様子うを見てある一つの結論にいく。

 

「やっぱりこれって…」

「何か分かったの?」

「うん…今はまだ憶測だけど…」

 

響の口から出た言葉はヒビキの予想を超えた物だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

薄暗い大部屋。

壁には左を向いた鷲が地球の上に描かれたマークが描かれ、その場に何人もの人影が蠢いている。

骨のマークが付けられた黒タイツ黒マスクの戦闘員も多く居るがそれ以上に目立つのは人外の者達だ。

その中には嘗て響達に倒された物まで居る。

 

「ふん、集まってるようだな」

 

そんな中、一人の声が聞こえ、それぞれが上を見ると一人の男がモニター近くに立っている。

 

「地獄大使、ご命令により戻りました」

 

アブルルルルッ!

               キィーリィーッ!

                                ニィーチッ!

 

人外の一人…怪人がそう言うとそれぞれの怪人も鳴き声などを上げ、地獄大使がそれを見つめ居ていた。

 

「しかし、地獄大使。何故我らを呼び戻した?」

「偵察の途中だったんだが」

「本部と連絡はついたのか?」

 

怪人達から口々に地獄大使への質問が飛ぶ。

その様子に地獄大使は持っていた鞭を地面に叩きつける。

 

「落ち着けッ!先ずはこれを見るがいい」

 

そう言って地獄大使はモニターに指をさす。モニターには洞口や林の様子が映り丸で自然を紹介する番組を見てる気分になった。

その映像を見て嫌な予感を感じる怪人達も続々と出始まる。

 

「ワシの記憶が確かなら此処に本部があり首領を始めとした親衛隊も居る筈だが…ワシがついた頃には本部の影も形も無い。放棄したにしては人工物があった形跡すら見つからん」

「…つまりどういう事だ!?」

「落ち着けと言っておろう!各支部との連絡不能、消えた本部、何時の間にか復興した街。極めつけはこれだ!!」

 

地獄大使の言葉と共にモニターにアル物が映る。

 

「…月?」

「ただの()()ではないか」

 

モニターに映ったのは真ん丸とした月だった。見る人間が見れば見事な満月と言えるが怪人達にそんな風流を感じる気はない。月の映像が流れたからといってどうしたという反応だった。

その時、一人の怪人が何かに気付く。

 

「…待てぇ!おかしいぞ」

「何がだ?」

「月が欠けていない!!」

 

そう。モニターの映像は()()()()()()()()()()()()()()()()()()

ルナ・アタック。約数カ月前に起きたフィーネの造り上げたカ・ディンギルの砲撃により月は欠け欠片が隕石群となり月の周りを回っている筈であった。

しかし、映像の月は欠けた様子もなく満月のままであった。

 

「地獄大使、これは一体…」

「ワシも空を見上げるまで気付かんかった。間違いなく月が欠ける事も無い本物の満月だ」

 

地獄大使の言葉にその場に居た怪人や戦闘員がざわつく。

欠けていた筈の月が元に戻っている。人間が何かした訳ではない筈だ。ならシンフォギア装者が?と考える怪人たち。

その怪人達の様子に地獄大使は再び口を開く。

 

「優秀な頭脳を持つショッカー科学陣により調べさせたが、現状二つの可能性が考えられるそうだ」

「二つ?それは一体…」

「一つはルナアタックが起きる前の世界に来た可能性だ、所謂タイムスリップと言う奴だ。フィーネがカ・ディンギルを撃つ前ならば月も元に戻っていると言う事だ」

 

その答えに怪人や戦闘員の一部が納得する。何らかの要素でタイムスリップしたのなら、その可能性も高いと考える。

恐らく、原因はスーパー破壊光線砲と立花響が歌った絶唱がぶつかった時に発生した虹色の光だろう。

しかし、一部の怪人は違うと直感する。

 

「尤も過去に来た可能性は低い。それなら本部はあの場所にある筈だからな。余程の事が無い限り本部を他に移す事も無いしワシの記憶にそんな物はない。それに、捕らえた現地人を尋問したところ過去どころか三カ月も過ぎている」

 

過去ではなく未来。

三カ月の間、全員が気絶していた筈はなく、基地の損害も最低限で済んでいる。

それに世界にショッカーの存在を知られた以上放置されたとは考えられない。

 

「そして二つ目は科学陣が最も有力視している。それは…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「並行世界?」

「うん、前に未…親友と見に行った映画でそういう話をしてる話を思い出したの」

 

それは、響がショッカー拉致される数カ月前に見た映画の話だった。

その映画では事故によりもう一つの世界である並行世界に流れ着いた主人公が亡き妻と会い元の世界に帰るかの選択を迫られる内容だった。そこでは元の世界で起こった大事件は発生せず別の事件となり時が流れているのだ。

主人公は、最初は並行世界に戸惑った様子がまんま自分のように感じられる響は此処が並行世界だと考えたのだ。

 

尤も、言われたヒビキは響を可哀そうな目で見ていたが、

 

「並行世界なんて…ドラマや映画じゃないんだから…」

「…私も最初は有り得ないと思った。ショッカーや今までの戦闘がただの夢でアナタはただ私に似ている同姓同名のそっくりさんだと思おうともした。…でもアナタも見たでしょ、ショッカーの改造人間セミミンガや戦闘員を」

「…それは」

 

『このセミミンガ様を忘れたか?此処で会ったが百年目、今度こそ地獄に送ってくれる!』

『愚かな人間よ、死ねぇ!!』

『随分と呆気ない、貴様の首はこのセミミンガ様が頂いた!』

 

あの時のセミミンガとのやり取りを思い出しヒビキは身をすくめて抱きしめる様に両手で自分の体を抱く。

少なくともセミミンガはヒビキの事を敵視し殺意すらあった。

その恐怖や逃げる時に足が縺れて倒れた時の痛みを思い出し夢ではないと確信する。

 

「最後に傷」

「…傷?…!?」

 

ヒビキにそう言うと、響は来てる服の襟部分を引っ張りある物を見せる。

それは、ツヴァイウイングのライブの時に受けた傷であり天羽奏のシンフォギア、ガングニールが砕けた時に刺さった破片だった。

傷を見せられたヒビキは、無意識に自分の胸部分の中央をさする。

全く同じ傷跡がヒビキの胸にもあるのだ。

 

「この傷は翼さんや奏さん、ツヴァイウイングのライブの時に負った傷だよ」

「!? 私と同じライブ!?」

「全く同じかは分からない。でも奏さんが守って砕けたガングニールの破片が刺さったのは私だけの筈だよ。アナタは?」

「…あの時、私以外に近くで負傷した人はいない」

 

そう。()()()()()()()

天羽奏が守ったのは一人であり、それは立花響だ。他の人間はノイズに殺されたか、ノイズから逃れる為パニックになり出入口や非常口に向かったかだ。

響もヒビキも自分の周りに怪我した人が居た記憶はない。尤も、緊急事態だったため確かかと問われれば苦しいが。

二人が全く同じ傷がある現実は変わらないのは確かだ。

 

並行世界。ヒビキとしてもにわかには信じがたい事だが現に自分と同じ立花響が目の前に居る。

 

━━━並行世界なんて信じられない!でも、私そっくりの娘に怪人と呼ばれる怪物たち。…それじゃ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「全部、アンタの所為だ…」

 

ヒビキの呟きに今まで何とか笑っていた響も笑みが消える。

そんな響の変化に気付かないか気付いても無視してるのかは不明だがヒビキの口から次々と響に対する怨嗟に近い言葉が出る。

 

「アンタがあいつ等…ショッカーって組織とこの世界に来た所為で私も命が狙われる事になったんだ!!関係ない筈の私が……皆アンタの所為で!!」

 

ヒビキの人生はツヴァイウイングのライブで壊れたと言っていい。

生き残った事でバッシングされ、生存者という事で嘗ては仲の良かった筈のクラスメイトからも迫害。近所でも嫌がらせをしてくる者が現れ家族はノイローゼになってしまった。

 

それでもヒビキは生きていた。一度はノイズに殺されてもいいと考える程には追い詰められてはいたが、ガングニールのシンフォギアを手に入れてからはノイズと戦って来た。

殆どはノイズに対する復讐心で戦って来たのだろうが、少なからずヒビキが救って来た人が居るのも事実だ。

 

そんな日々を過ごしていたヒビキがある日、突然命を狙われることになったのだ。

 

「何で私までアンタのとばっちり受けないといけないの!?殺し合うなら他所でやってよ!」

「………」

 

ヒビキの言葉に響は何の反論もしない。

何となくだがヒビキの気持ちも分からなくない響。突然、悪の結社に命を狙われ理不尽に襲われたのだ、突然拉致され改造人間にされた響も同じような感覚だったかも知れない。

 

━━━私だって来たくて来た訳じゃないんだけどなぁ…

 

響も決して並行世界に着たい訳ではなかった。ショッカーのスーパー破壊光線砲から日本を守る為に絶唱を歌い気付いた時にはこの世界に着てしまった。ここでも響は選択する事すら出来なかった。

 

その後も、ヒビキの文句は続くが、

 

「! …ごめん、少し頭を冷やしてくる」

 

言い過ぎたと思ったのか急に冷静になったヒビキが部屋を後にする。

ふと溜息をついた響も散らばった古新聞や雑誌を集めて縛りゴミ捨て場に捨てに行く事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

特異災害対策機動部二課。

私立リディアン音楽院高等科地下に作られた対ノイズの為に結成された政府機関。

その指令室にて、メディカルチェックを終了した翼、クリス、マリアが司令官である風鳴弦十郎と話している。

 

「体の調子はもういいのか?」

「ええ、シンフォギアのお蔭で少し火傷した程度よ」

 

マリアの発言に翼とクリスも首を縦に振り弦十郎始めとした職員たちもホッと胸を撫でおろす。

カミキリキッドの放つ火炎や電撃を受けてもシンフォギアのバリアフィールドの性能は高く装者の体を守っていた。尤も火炎が直撃していればバリアフィールドが持ったかは不明だが。

 

「だが、これでハッキリした。あのカミキリムシはアタシ等の事を知っている!」

「フロンティアにエクスドライブまで知っていたわね」

「私にはそれが何だか分からんが、連中はそんな事おかまいなしか」

「…困ったものだ。敵は君達に恨み骨髄で下手なノイズを遥かに超える強さに残酷さ」

 

そう言って、弦十郎はモニターに映し出されてる映像を見る。

指令室のモニターにカミキリキッドの姿と多数の戦闘員に彼らが「ショッカーノイズ」というノイズの姿も映っており、最後にはショッカーノイズが取り付いた人達の姿も映る。

 

「…クソ…」

 

クリスが思わず顔を顰めた。ノイズと戦ってる以上、人が死ぬのを見るのは初めてではないが慣れる物では無い。更に言えばこの様にして殺されるのは初めて見た。

 

「ショッカーノイズ…」

「一般人を巻き込むことを躊躇いもしないか。悪辣過ぎる!」

「組織の名はショッカーか、何か分かったか?」

 

ショッカーの名を呟いた弦十郎オペレーター席に座ってるこの世界の藤尭朔也と友里あおいに何か情報が掴めたか聞く。

 

「…駄目です。該当する物が何一つありません」

「…こちらもです、国際的犯罪組織の線を洗いましたが…」

「そうか。…君達はどうだ?」

 

帰って来た言葉に弦十郎は肩を落とす。アレだけ堂々としていたのだ、こっちの世界で行動していれば何かしらの情報が掴めるかと思ったが結果は何も無し。

そこで、弦十郎は並行世界から来たクリスとマリアに聞いてみた。

 

「…知らねえ」

「同じく、ショッカーなんて組織は初めて聞いたわ」

 

結果は同じではあったが。

 

その様子を見ていたマリアが続けて口を開く。

 

「連中は私達だけじゃなくて二課に所属していない立花響も狙っているわ」

「!そうだ、アイツは無事なのかカミキリムシの奴が仲間が襲ってるって言っていたぞ!」

「…正直、何も掴めていないのが現状だ。破壊された廃ビルを調査している警察官の報告では行方不明になった婦警の制服しか見つからんかったようだ」

 

その報告にクリスはヤキモキしつつ街中を探すべきかと考えた。

その時、オペレーター席に座っていた友里あおいがある報告をする。

 

「その事なんですが妙な反応が…」

「妙な反応…」

「はい、実は翼さん達が戦ってる時にガングニールが三回起動したらしく…」

 

そう言うと、あおいはコンソールを弄りモニターに映る地図に二つの点を付ける。

一つは間違いなく崩れたビルのある路地裏だった。そして、もう二つは場所が違うが路地裏から少し離れた所にある。

 

「三回?」

「アイツ、三回もシンフォギアを起動させたのか?」

「それが、ノイズが少数ですが路地付近にも出現していて立花響さんはそれを相手にしていた可能性が…」

 

特異災害対策機動部二課の予想ではノイズを相手にしていた響がノイズを倒してシンフォギアを解除した直後にショッカーの襲撃を受けて再びシンフォギアを纏たのではと予想する。

 

「それでも…三回?」

「正直、怪物たちからもガングニールの反応がしてるので確かとは言えませんが、特に強い反応がこれでして…」

「結局、何も分からないと言う事か…」

 

弦十郎の言葉に皆が溜息をつく。ノイズや変わってしまった立花響に新たなる敵ショッカーの存在は特異災害対策機動部二課やクリスとマリアに重く圧し掛かる。

クリスとマリアもノイズ以外と戦って来たがカミキリキッドの強さや残虐性はトップクラスと言っていい。

 

「アイツの情報はまだ集まんないのか?」

「アイツ?…ああ、立花響くんの情報か。すまない、何しろ昨日の今日だからな」

 

特異災害対策機動部二課としても、立花響の消息や背後関係などを洗っていたが時間が短い事もあり碌に情報が無い。

済まなそうな表情をする弦十郎を見て何度目かの溜息をつくクリスにマリアは言う。

 

「これは一回戻って本部に報告した方が良いわね」

「また、トンボ返りか!」

「ある程度、敵の情報を手に入れたのよ。本部に報告するなり救援を送ってもらった方が良いわ。切り札はなるべく残して置きたいし…」

 

マリアの言葉にクリスは反論できずにいる。

強敵のカルマノイズもそうだがカミキリキッドの戦闘はかなり危なくほぼ圧倒されていた。

自分達も切り札があるとはいえ多く選択できる事は悪い事ではない。

 

二人が、また自分達の世界に戻る事を決意する。

直後だった。

 

ヴ~~~~~~~~~~~~~!!!

 

特異災害対策機動部二課本部に突如サイレンの様な物が流れ職員たちが慌ただしくコンソールを弄る。

 

「何事だ!?」

「が…外部からハッキング!!何者かが本部のシステムに入り込んでいます!!」

「モ…モニターとスピーカーが乗っ取られました。映像来ます!!」

 

非常灯の明かりが飛び交う指令室にクリスやマリア、それどころか翼ですら何が起こったのか分からずオペレーターの二人の報告の直後、指令室のモニターに突如虫の様な触覚を生やした被り物らしき物をしている男性が映る。

 

「「「………」」」

「な…何者だ?」

 

皆が唖然とする中、弦十郎だけが何者だと聞いた。

それを見ていた男は口の端を引きつらせる。

 

 

 

 

『初めましてと言うべきか?ワシの名は地獄大使。ショッカーの大幹部よ』

 

 

 

 

 




やっと響とショッカーが此処が並行世界ではと気付くました。

響の部屋ですが、無印を見る限り二段ベッドでドアといったしきりが無さそうですね。XD見ても、ヒビキの部屋は使いまわしされてる絵だし未来が居ないのでドアがある部屋ということで。

そして、地獄大使は何のために特異災害対策機動部二課にコンタクトを取ったか。


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79話 宣戦布告

 

 

 

路地裏。

一人の少女…ヒビキが当てもなく彷徨う。

ヒビキは彷徨い歩いてる途中、何度も足を止めては溜息をついている。

 

━━━私、あの人たちみたいな事を言っちゃったな…

 

ヒビキは先程、響に言った言葉を後悔していた。

あの言葉は嘗てヒビキが散々言われた言葉でもあるからだ。

 

『何で、アンタみたいな得意な事も無い癖に〇〇くんは死んだんだ!!』

『お前が殺したんだろ!!』

『この悪魔!返してよ○○くんを返してよ!!』

 

嘗て言われた悪意ある言葉を首を左右に振って忘れようとするヒビキ。

しかし、幾ら忘れようとしても忘れる事など出来ない。

 

ツヴァイウイングの悲劇はそれだけ世間にショックを与えたのだ。

これが、ただノイズに殺されただけならマシだった。しかし、ある雑誌が死者の三分の一がノイズの被害で後の死者は逃げる時のパニックにより発生した事を掲載した事で世間は生き残った者を叩き始めた。

ヒビキもそれの被害者だった。

 

「…何であんな事言っちゃったんだろ…あの娘の所為じゃない筈なのに。戻ったら謝ろうかな…」

 

今更ながら響への文句に後悔するヒビキ。

嘗て、自分に言われた呪詛を響に言ってしまった事を悔やんでいる。

「戻って謝った方が良い」頭では理解しているがどうにも寮に戻る気がしなかった。

 

そうこうしてる内に、ヒビキの頬に何かが当たった。

 

「冷たっ!…雨?」

 

頬に付いた水滴が雨と気付くヒビキ。それと同時に空から次々と水が降って来てやがては雨となる。

雨で体が濡れるがヒビキは構わずそのまま路地裏を歩いていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ショッカーの!?」

「大幹部!?」

「地獄大使!?」

 

丁度その頃、特異災害対策機動部二課指令室では全員が思わず息を飲んだ。

謎の敵勢力とされたショッカーが向こうから通信して来たのだ。これには翼やクリスどころか指令の弦十郎すら予想だにしてなかった。

 

「ショ…ショッカーの大幹部が俺達に何の用だ?」

 

『なに、今日はショッカーを代表して挨拶しに来ただけよ。何しろ連日不幸な行違いで戦闘が起こったからなぁ』

 

「不幸な行き違いだと!?」

 

弦十郎の質問に地獄大使が笑って答える。

その態度に翼が声を荒げクリスやマリアも睨みつけるようにモニターに映る地獄大使を凝視する。

 

「ふざけるなぁ!お前達の所為で何人の無関係の人間が死んだと思ってる!!」

 

地獄大使のあまりの態度にクリスも激怒して声を荒げる。

ショッカーは勘違いとはいえ此方を攻撃した。それだけならばまだいい、クリスが許せないのはその戦いに無関係な人間を巻き込んだこと事だ。

 

『ムシケラ程度の価値しかない人間など知った事か!!それより、雪音クリス!ワシは特異災害対策機動部二課の司令官と話してるのだ、邪魔をするでない!風鳴弦十郎よ、部下の躾がなってないようだな』

 

「なっ!?」

 

地獄大使の答えにクリスは驚く。同時に翼やマリアも目を見開いて地獄大使を見ていた。

人間を堂々とムシケラと呼び悪びれもせず言い訳もしない地獄大使の姿に恐怖を感じたのだ。

特にクリスとマリアは数多くの敵と戦って来た。それでも、人間を此処までムシケラ扱いする者は初めてと言えた。

 

「彼女たちは俺の部下じゃなく協力者だ!それで終わりか、貴様のような輩の事だ。他に目的があるのだろ!!」

 

『フフフ…やはり分かるか、まぁいい。ワシ等の目的は協力だ。気付いてると思うが我々はどうも別の世界から来てしまったようでな。無駄な戦闘を避け帰りたいのが本音だ』

 

「協力だと!?」

「やはり、並行世界から来たのか!?」

 

地獄大使の言葉に面を食らう弦十郎にクリスたち。

あれだけ攻撃を仕掛けてきておいて堂々と協力を要請する地獄大使の面の皮の厚さに感心すらする。

しかし、地獄大使の言葉をそのまま鵜呑みにする気はない。その理由は地獄大使が先ほど言った「ムシケラ程度の価値しかない人間」と言う言葉だ。

それだけでも地獄大使の危険さが分かった。

 

『後、シンフォギア装者の立花響を引き渡せ。大人しく我々に協力し立花響を引き渡せばこの世界の人間には今後手を出さないと約束してやる』

 

「「「「!?」」」」

 

弦十郎やクリス達に思わぬ情報が入る。ショッカーが立花響を引き渡せと要請してきたのだ。

 

「何でアイツが!?」

「立花響があなた達になんの関係が!?」

 

クリスだけでなくマリアも思わず叫ぶ様に言う。

別の世界の勢力であるショッカーが立花響の身柄を要求して来たのだ。聞かずにはいられない。

翼や弦十郎も口には出さないが額に汗を浮かべて地獄大使の返答を待つ。

 

『そんな事、貴様らが知る必要はない!さあ、答えろ風鳴弦十郎。我々に協力するのか?しないのか?』

 

流石の地獄大使もそこまで教える気はない。早急に弦十郎にイエスかノーかを付きつける。

 

「その前に一つ聞かせて貰う。お前達が元の世界に戻り何をしようとしている?」

 

額に汗を流しつつ弦十郎は地獄大使に聞きたい事を聞いた。それは、元の世界に戻りたがる地獄大使たちが何を目指してるかが気になった。

わざわざ、シンフォギア装者とはいえ立花響という少女を名指しで渡すよう言って来たのだから。

 

『我らの目的か、良いだろう特別に教えてやろう。我らの目的は世界征服。地球にいる人類を抹殺し世界を我らの物にする!』

 

「世界征服…」

「人類抹殺…?」

「…要はプリル教会みたいな事か!」

 

地獄大使の言葉に思わず呟くクリスとマリア。

今の時代に世界征服という言葉自体聞く事になるとは思わず茫然とし、それは翼や弦十郎も同然であった。

ただの誇大妄想と切って捨てるのは簡単だがカミキリキッドの実力にノイズを一から作り出した技術がある以上、放置するのも危険と言える。

そして、クリスは嘗て戦った敵勢力の一つを思い出した。

 

「決めた、答えは…ノーだ!」

 

暫しの沈黙の後、弦十郎は声を振り絞り答える。答えはノー、ショッカーの要求を突っぱねたのだ。

その言葉にクリスとマリアの表情も和らぎ翼も心なしかホッとしていた。

 

『ほう、東京に住まう1000万以上のムシケラ共より小娘一人選ぶか』

 

尤も、弦十郎の答えを予想してたのか地獄大使は表情一つ変える事はなく言いのける。

 

「立花響くんは特異災害対策機動部二課の人間ではない、俺達がどうこう言う権利なんて無い!それに貴様たちが約束を守るとは到底思えん!」

「よく言った、オッサン!」

 

弦十郎の言葉にクリスも喝采するように相槌する。

世界征服を公言する以上、相当の戦力があるかも知れないが、たった一人の少女を生贄にする事など弦十郎には出来ない。何より人間をムシケラ扱いする事も許せない。

ついでに言えば、地獄大使が約束を守るとも到底思えなかった。

 

『ふむ、断るか。ならば仕方ない、多くのムシケラ共も死ぬことになろう。尤も、貴様たちがそれを見る事が叶わんがな!』

 

「何だと!?」

「どういう意味だ!」

 

地獄大使の意味深な発言に翼とクリスが反応する。

 

『簡単な話だ、其処が貴様たちの墓場ということだ!!』

 

「キャアアアアアアアアアア!!!」

「あおいさん!?」

 

突如、指令室に響いた友里あおいの悲鳴にモニターから視線を移すと友里あおいが苦しそうに宙に浮いている。あおいの様子を見る限り透明な何かが首を締め上げてるようだ。

 

「一体、なにが!?」

「気を付けて、天井に何かいる!!」

 

誰もが何が起きたのか理解出来ない中、天井から這いずり音が聞こえてくる事に気付いたマリアが皆に呼び掛ける。

しかし、天井には何も居ない様に見える。

 

「…何も見えないぞ!」

「いや、確かに妙な気配を感じる!」

 

クリスが何も見えないと訴えるが翼は天井を這いずり回る気配を感じ取った。

弦十郎や別の職員も天井を見る。しかし、何か居るようには見えなかった。が、

 

「ウウーウクッウクッウクッ!!気付いたようだな、忌々しいシンフォギア装者どもめ~」

 

突如、不気味な鳴き声と声に一同が驚く。そうこうしてる内にその声の主が姿を見せた。

 

「は…爬虫類?」

「いきなり姿を現した!?」

 

弦十郎たちが見た物は、全身が緑がかり胸元が赤っぽい爬虫類特有の目をした男が天井に張り付き口元から伸ばした舌であおいの首を絞めて持ち上げていた。

 

「化け物!?」

「クリス!翼!敵はもう侵入していたわ!!」

 

Seilien coffin airget-lamh tron

Killter Ichaival tron

Imyuteus amenohabakiri tron

 

敵に気付いたマリアが聖詠を歌いシンフォギアを纏う。その声に茫然としていたクリスと翼も聖詠を歌いシンフォギアを纏い、天井に張り付く怪人を睨みつける。

 

『カメレオン、そいつ等の始末を任せるぞ!!』

 

そう言い終えると共に地獄大使からの通信が切れモニターが元に戻る。

シンフォギアを纏った翼とマリアが剣を構え職員たちも銃を握って天井に張り付く死神カメレオンに向ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの…立花さんだよね」

「?…あ、アンタは…」

 

雨の降る路地裏。傘も差さず当てもなく彷徨っていたヒビキに話しかける者がいた。

その声に反応したヒビキが顔を上げ相手を見る。其処には同じ年の制服を着た少女が居る。

ヒビキはその顔を少しだけ覚えていた。以前に自分と同じクラスだと言っていた少女の片割れだ。

視線を動かすと自分に話しかける少女の後ろにもう一人が傘を差している。

 

「良かった、元気そう。あの雨の日から風邪ひいてないか心配してたんだよ」

「…そう」

 

クラスメイトだと言う少女の第一印象は「お節介」だと思うヒビキ。

いくら冷たくあしらっても自分を心配してくる少女はお構いなく自分に声をかけてくる。

ツヴァイウイングの悲劇以来、人付き合いが苦手になったヒビキは学園でも友人を作れてない。そんな自分に話しかける少女はヒビキには有難くもお節介なクラスメイトでもある。

 

その後、建物の影に移動して雨をやり過ごしつつクラスメイトの少女と少しだけ語り合う。

何時ものヒビキなら「そう…」としか短い単語しか言わない上に「アンタには関係ない」と突っぱねるが、連日の疲労からクラスメイトの少女と少しだけ話したのだ。

尤も、内容は「雨が多いね」の世間話から隣のクラスの女生徒に彼氏が出来たなのど話くらいだ。

それでもヒビキにとって大事な日常でもありちょっとだけ息抜きとなった。

 

 

 

 

 

その時、

 

「あ~君達、ちょっといいかね?」

 

「はい?」

 

突然、自分達に呼び掛ける男の声がして振り向く。

其処には黒いサングラスを付けたコートを着た白人男性と思わしき人物と二人の警官が立っている。

 

「あの…どちら様で…」

 

「失礼、私はこういうものだ」

 

少女の問いにサングラスの男は懐から手帳のようなものを見せる。その手帳には、

 

「FBI!?」

 

FBIとデカデカと書かれている。この場に居る誰もが本物かと疑うが傍に二人の警官もいることで信じざる追えない。

 

「実は、ある凶悪犯を追っていてね。君達にも聞きたい事があるんだよ」

 

「わ…わかりました」

 

FBIを名乗る男の言葉に納得した少女はもう一人の少女と共に幾つかの質問に答えた後、解放される。本当ならヒビキの質問が終わるまで待っていたかったが、時間も時間だったので二人は返されることに。

ヒビキに話していた少女が後ろ髪を引かれつつその場を後にする。

 

「次は私ですか…」

 

「ええ、少し歩きながら話しましょうか」

 

あれだけ振っていた雨も小降りとなりヒビキのパーカーでも歩くことが出来る事で、FBIを名乗る男と二人の警官と共に路地を歩きつつ質問に答えていく。

それにしてもと、流暢な日本語を喋る外国人だと思うヒビキ。

質問に次々答えていくヒビキだがふと疑問がわく。

 

「あの…アナタが言う凶悪犯ってのはどんな?」

 

「ん?そうだな、とある組織を裏切り同胞であり兄弟でもある筈の者達を倒し組織に泥を塗った小娘だ」

 

━━━誰だろう?

 

此処の所、テレビも点けてないヒビキには聞いた事もない。全く心当たりも無いから知らないと言ってその場を離れようとした時だった。

 

「君は知ってるんじゃないかな?()()()()()

 

「!?どうして私の名を!…痛ッ!?」

 

名乗っても居ないのにサングラスの男に名前を言い当てられたヒビキは動揺するが、それも束の間。サングラスの男に触れられた肩に痛みが走り、肩に置かれた手を振り払う。

そして、ヒビキの目は捉えていた。

男の手が緑色になり棘が生えていたのだ。

 

「その手…アンタ、本当にFBI?」

 

「FBIか、フフフ…フッハハハハハハハハハハ!キケケケッ、キキキキキッ!!

 

サングラスの男は笑いほんの一瞬にして口元は赤く緑色の体になる。

サングラスの男の正体は魔人サボテグロンだったのだ。

 

「怪人!?」

 

「その反応、どうやらこの世界の立花響のようだな。まぁいい、ショッカーに逆らう愚か者は全て地上から抹殺する!」

「イーッ!」「イーッ!」

 

サボテグロンが正体を現すと後ろに居た警官二人も戦闘員へと変わりヒビキに襲い掛かる。

 

 

 

 

ショッカーによる特異災害対策機動部二課本部とヒビキの同時攻撃。響達は無事に怪人を打倒出来るのか!?

 

 

 

 

 

 

 

 




ショッカーが再び動き出す話。

因みに、地獄大使は弦十郎が頷こうが断ろうがどちらでもいいスタンスです。
そもそも、特異災害対策機動部二課に通信を行ったのも自分達が本当に並行世界に来てしまったかの確認も含んでいますから。

地獄大使は設定上、大規模破壊作戦や大量殺戮を好む為、カルマノイズ以上の強敵になりそうです。

サボテグロンの変装は、原作仮面ライダーの滝を欺いたFBIの姿だと思ってください。


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80話 改造人間

 

 

 

「うわああああああ!!」

 

特異災害対策機動部二課本部の指令室に男の悲鳴が木霊する。翼やマリアと共に死神カメレオンと戦っていた黒服の一人が死神カメレオンの舌に胸を貫かれたのだ。

黒服の一人の悲鳴が木霊する中、何発もの銃声が響く。

尤も、姿を現した死神カメレオンの体は再び消えてしまった。

 

「撃てぇ、撃てぇ!!」

「止めろ!弾が跳弾して余計危険だ!!」

 

本部に侵入した死神カメレオンを排除しようと警備部の人間や黒服たちが拳銃を撃つが弦十郎が本部の内部という事で止めに入る。

弦十郎の言った通り、銃弾が壁に当たり跳弾となって辺りに散らばる。

 

死神カメレオンが本部に姿を見せて数分も経っていないが特異災害対策機動部二課は苦戦を強いられていた。拳銃程度の火器では死神カメレオンの体に傷一つ付ける事も出来ない。

しかし、場所が地下深くの、それも指令室という事でこれ以上の火力を持ち込む事も出来ない。

それゆえに、

 

「こんにゃろおおお!!」

 

クリスがアームドギアをガトリング砲に変えて腰のパーツから小型ミサイルのポッドを出すが、

 

「止めなさい、クリス!アナタの火力じゃ指令室が崩壊して皆生き埋めになってしまう!!」

「!?」

 

マリアの言葉にクリスが攻撃を中止する。

クリスのシンフォギアの特性は火力による制圧であり、ガトリング砲や小型ミサイル、または大型ミサイルなどの遠距離武器で敵を倒して来た。

しかし、その火力故にクリスのアームドギアと地下深くの指令室とは最も相性が悪いと言えた。

結局、クリスはアームドギアをボーガンに戻して死神カメレオンを牽制する事しか出来ない。クリスは完全に自身の火力を封じられた。

 

ならば、翼とマリアはというと、

 

「ハアアアアっ!!」

「貰ったぁ!!」

 

翼とマリアが剣を片手に死神カメレオンへと斬りかかる。特に避けたり防御する仕草を見せなかった死神カメレオン。このまま二人の剣が死神カメレオンに当たるかと思えたその時、死神カメレオンが一瞬にして消えて二人の攻撃が素通りする。

 

「クソっ!」

「またテレポート!?」

 

翼とマリアの口から愚痴が零れる。死神カメレオンは一瞬にして姿を消したのは一度や二度ではない。

指令室での戦いにより翼やマリアの攻撃は悉く死神カメレオンに避けられてしまって居る。

死神カメレオンのテレポートに苦戦している。

 

アァッアッアッアッ!

 

「!? ッグ!!」

 

背後から不気味な声に咄嗟にジャンプした翼だが、何かが素通りした時に肩から出血する。

間違いなく死神カメレオンの舌だ。

 

「翼!」

「心配するな、ただのかすり傷だ」

 

マリアの心配する声に翼がそう答える。

尤も、翼だけでなくマリアやクリスの体にも翼と同じ幾つもの傷がついている。

 

「アァッアッアッアッ…見たか、これぞショッカーによって強化されたカメレオンの能力よ」

 

「カメレオンはテレポートしねぇえええええ!!!」

「カメレオンって実際には体を保護色にして背景に溶け込んでるだけの筈よ!」

 

死神カメレオンの発言に思わずツッコムクリス。マリアも実際のカメレオンの生態を話して死神カメレオンのような能力でない事を指摘する。

 

「浅はかな人間らしい愚かな発想だ、実に貧困だな」

 

尤も、死神カメレオンも透明のままそう返答する。

 

「チッ!」

「好き勝手言ってぇ…」

 

死神カメレオンの言葉に舌打ちするクリスとマリア。相手の姿が見えない以上お互いの死角をカバーし合う。

その時、クリスの視界に拳銃を持った弦十郎の姿が映る。

 

「オッサンは素手で戦えないのか?」

「無理言うな!俺の腕っぷしは最低限の護身術程度だ!」

 

その言葉にクリスは内心舌打ちをして改めて警戒する。

 

「それが人間の限界と言う奴だ。偉大なるショッカーは人間の常識を遥かに上回る。やはり、地球は人間なぞより我らショッカーが手に入れるに相応しい。ついでにいい情報も得た、風鳴弦十郎は戦力にならんようだな」

 

「へっ、大口叩きやがって!」

「どっかの異星人を思い出すわね」

「…世の中、悪の栄えた試しは無いって言葉を知らないのか?」

 

クリスが唾棄する様に言い、マリアは嘗て戦った敵を思い出し翼が辺りを見回して強気な発言をする。

とはいえ、姿も捕らえられない敵を相手にしてるのだ。ここまで戦い辛い相手も珍しいと感じる二人。

 

「ギャアアアアアアアアアアアアアア!!」

 

再び指令室内に悲鳴が木霊し皆が声の発生源に目を向ける。

そして、クリス達が見たのは銃を構えていた黒服の頭を背後から掴み握り潰す死神カメレオンの姿だ。

その光景にクリスやマリアだけでなく指令室に居る全ての職員が奥歯を噛み締める。

 

「この世界もショッカーが貰い受ける。だが、ショッカーが支配する世界にシンフォギア装者などもういらん。この場に居る者、須らく皆殺しだ!」

 

━━━もういらん?

「やれるもんならやってみろぉぉぉぉ!!」

 

死神カメレオンの言葉に引っ掛かりを覚えるマリアだが、応急処置をした翼がアームドギアの剣を片手に死神カメレオンに斬りかかり、クリスもボーガンで援護する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

小雨が降る路地裏。

 

「カハッ!?」

 

ガングニールのシンフォギアを纏ったヒビキが路地の壁に叩きつけられゆっくりと地面に落ちる。

ヒビキの周りはまさに荒れ放題といえる位激しく所々ヒビ割れている。

そんなヒビキの下に近づく者がいる。

 

「ヒッヒッヒッイッヒッヒッヒ…やはり俺達と戦って来たオリジナルより弱いな」

 

下卑た笑い声をしてサボテグロンがヒビキを見下す。

セミミンガの時の様に逃げはしなかったヒビキだが、やはりノイズと怪人との違いに戸惑いサボテグロンの武器であるサボテン棒に滅多打ちにされてしまった。

ノイズとだけ戦って来たヒビキが怪人と戦う事などほぼ初めての上にサボテグロンを始めとした怪人達はシンフォギア装者との戦いに慣れ切り、怪人と碌に戦った事が無い装者など敵でもない。

何とか睨みつけるヒビキだがサボテグロンには何の効果も無い。

 

「私が…アンタたちの追ってる…立花響じゃないって…知ってる癖に…」

 

口の中が切れたのか端から血を垂らしつつサボテグロンに話しかける。

 

「どからどうした?「自分は関係ないから助けて下さい」か?出来ん相談だ!言った筈だ、我らショッカーに逆らった者は何者であろうと地上から抹殺する!とな。これは決定事項だ、ついでにオリジナルの立花響も必ず見つけ出して殺す!」

 

「ど…どうしてそこまで…」

 

ヒビキには信じられなかった。人殺しになんの躊躇いもないのもそうだが、サボテグロンから溢れる程の殺意に背筋が寒くなる。

戦闘はノイズしか経験がないヒビキでも恐れる程の殺気に思わず声を出したのだ。

 

「知りたいのなら後で地獄に来るオリジナルから聞くのだな。それでは死んで貰うぞ」

 

「アグッ!?」

 

ヒビキが苦しそうな短い悲鳴を上げる。

サボテグロンがヒビキを無理矢理立たせる為、髪を掴み持ち上げたのだ。

激痛とサボテグロンの力に立ち上がらされたヒビキは痛みに耐えきれずサボテグロンの腕を振り解こうともがく。しかし、怪人であるサボテグロンの力の前にビクともしない。

 

「弱々しい抵抗だ。お前が本当に立花響か疑う程にな、…待てよ、アッサリ殺しても面白味が無いか?」

 

何かを思いついたサボテグロンは髪を持ち上げてる腕を振り、ヒビキを地面へと投げる。その際、ヒビキの頭部から「ブチィブチィ」と言う音が聞こえ宙に何本ものヒビキの髪が舞う。

 

「痛っ!…一体何を…」

 

「ちょっとしたゲームをしようじゃないか。内容はそうだな…俺から逃げ切ればお前の勝ち。逆に俺のサボテン棒に殺されればお前の負け。言わゆるハンティングゲームと言ったとこだ、シンプルだろ?」

 

サボテグロンの発言にヒビキはまたも背筋を寒くする。サボテグロンが自分を直ぐに殺さず嬲るつもりなのを理解したからだ。

事実、サボテグロンは姿形が似ているヒビキに憂さ晴らしするつもりだった。少しずつ追い詰め手足を失ったヒビキを最後に殺し、その死体をオリジナルである自分達がこの世界に来た元凶と思われるオリジナルの響に見せつけるのだ。

 

「それ、逃げて見ろ。ドブネズミのようにみっともなくな!」

 

 

 

 

 

 

怪人が私に逃げろって言ってくる。たぶん、言葉通り私を徹底的に追い詰めて殺す気だ

…死にたくない…セミの怪人の時もそうだったけど、私がこんなに生きたがりだとは思わなかったな

それにしても、向こうの私はとんでもない奴等に命を狙われてるみたい。…正直逃げたい

でも!

 

「ほう?逃げず俺と戦おうと言うのか」

 

私は拳を握り構える様にサボテン男に向き合う。その事にサボテン男は私に感心したようだ。

正直怖い!ノイズとの闘いじゃこんな殺意なんて感じなかった。だとしても!

 

「私は…もう逃げない!お前達からこの世界を守る!」

 

今までこんな世界に価値があるとは思わなかった。ツヴァイウイングのライブ事件の後から世間は生き残った私達を叩き友達も離れて家族もバラバラになった

そして、自棄になった私は極力他者との関係を断ってきた。それに関しては後悔はないつもりだ

でも、お節介なクラスメイトに私を助けようとした婦警さん。…そして赤い銀髪の娘に並行世界から来たという私…

今なら、分かる気がする。この世界も捨てたもんじゃないって事が。だから…

 

「お前達にこの世界を渡すもんか!!」

 

「フフフ…さっきより目に力が入ったか。いいぞ、そう奴は好きだ。貴様が覚悟を決めたのなら改めて名乗ろう、俺の名はサボテグロン」

 

サボテン怪人が名乗った。ほぼそのまんまだなと言うのが私の感想だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、私はサボテグロンと改めて戦う事になった。が、

 

「アグッ!? グブッ!? エグッ!?」

 

「どうした!どうした!拳も動きも遅い!ド素人丸出しの動きだぞ!」

 

幾ら戦う事を決心したとはいえ、相手はノイズじゃない怪人だ。ノイズなら蹴散らせる拳も蹴りも全て避けられたり防がれたりして逆にカウンターを決められてしまう。ハッキリ言って滅多打ちにされた

セミの怪人で分かっていたけど、コイツ等ノイズより遥かに強い!改めて向こうの私はよくこんな相手と戦えるなと他人事のように考えてしまう

ノイズなら基本的には単純な攻撃や体を伸ばして突進する事が殆どだが、サボテグロンは違う。フェイントを混ぜた棍棒の攻撃に足払いや棍棒を持っていない方の腕での手刀や拳

ノイズしか戦ってこなかった私じゃ手も足も出ない

 

「そして、また隙が出来る!」

 

「!?」

 

私が必死に動いてる隙を狙ってサボテグロンの棍棒がお腹に!?ゴリッって音が!?

 

「アガ…アア…ゲボ…!」

 

…苦しい…息が…

 

「気合があろうが…所詮この程度か。オリジナルに比べ遥かに弱いな」

 

倒れている私を見下すサボテグロン。その目は「期待外れ」と書かれている。やっぱり私じゃ無理なのかな?心を奮い立たせても強くなんてなれない…

でも、そんなの関係ない。私がやらなきゃ…またあの娘…もう一人の私にだけ戦わせるのは駄目だ!

 

「ふん…俺のサボテン棒を受けてまだ立ち上がるか」

 

息を整えて私が立ち上がるとサボテグロンはまたも感心したような声を出した。正直、観察されてる気分がして仕方がない。正直、横になったままになりたいけど…そんなの許されない!

ここで立ち上がれなかったら私は私じゃなくなる!私だって戦え『キィィィッ!』…!?

 

突然背後から不気味な鳴き声と何かを砕く音がして振り向こうとしたけど、とてつもない力が私の体を押さえ付けた!

 

「何のつもりだ、ドクモンド!この立花響は俺の獲物だぞ!!」

「黙れっ、サボテグロン!こういうのは早い者勝ちだ!俺の掘った穴に引きずり込んで食い殺してやる!!」

 

サボテグロンの仲間!?新手が現れるなんて!?

私が何とかドクモンドと言われた奴の拘束を解こうと暴れる

 

「このっ!」

 

「それが抵抗のつもりか?片腹痛いわ!」

 

私の足がドクモンドの体を蹴るが体勢の所為か大してダメージになっていない。それどころか私の体は少しずつ何時の間にか開けられた穴に引きずり込まれる!

そして、私はドクモンドの姿を見た

それは巨大な緑色の目をし首元には黒い体毛を生やして蜘蛛のような牙を持っている

 

「キィィィッ!それにしても立花響と本当にそっくりだな。実に美味そうじゃないか!」

 

「美味そう!?」

 

コイツ、私を食べる気!?「食い殺してやる」は比喩でも何でも無かった!?

 

「知ってるか!?サボテグロン。若い女の血肉は格別に美味いそうだ!」

「チッ…グルメ評論家気取りか?人食いが」

 

文句を言っていてもサボテグロンがドクモンドを追い払おうとしない!?そうか、仲間だから基本争わないだけか!

つまり、ドクモンドが私を食い殺すのは確定!?

 

「嫌だ…嫌だ!こんな化け物に食べられたくない!!死にたくない!!」

 

食い殺される!そう考えた時の私の口から声が出ていた

生きたい!それが今の私の想いだ!ノイズに殺されるのは覚悟していた筈なのに化け物に食い殺されるのは嫌だ!

でも、いくら抵抗してもドクモンドの拘束を解く事が出来ずに逆に穴に引きずり込まれ既に腰まで埋まってしまった!

駄目だ、逃げ出せない。これじゃあの娘…もう一人の私に謝れない

 

『全部、アンタの所為だ…』

『殺し合うなら他所でやってよ!』

 

脳裏に私がもう一人の私に言った暴言が木霊してくる。走馬灯ってやつかな?

私の人生ってやっぱり碌でもなかったな…

 

「ゴメン…ね…」

 

今更謝っても許されない。それは頭でも分かってはいる…それでも私はもう一人の私への謝罪の声が漏れた

せめて…生きて謝罪したかった…

 

「誰に対する謝罪かは知らんが年貢の納め時と言う奴だ!それでは頂くとしよう」

 

とうとう首元まで引きずり込まれて私の頭にドクモンドの手が触れる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「生きる事を諦めないで!!!」

 

「キィィィッ!?」

 

あの娘の声と共に私を押さえ付けていた力が無くなった!?後ろを見ると空中に吹き飛ぶドクモンドの姿が…それに…

 

「フウッ、間に合った!」

 

私と同じ姿をし同じ鎧を纏っているもう一人の私が…

 

「…何で…助けたの…」

 

あれだけ酷い事を言ったのに…アンタの事情はそれなりに知っていたのに…

 

「…私さあ、皆からお人好しだとか言われて…前にショッカーに捕まった親友…友達二人にも同じような事を言われた気がするけど…これは私がやりたい事なの!」

「…やりたい事?」

「ショッカーやノイズに襲われてる人が居たら一分一秒でも早く助けたい。最速で!最短で!真っ直ぐに!」

 

そう言ってもう一人の私は拳を突き出す。私にはそれが眩しく見えた

それにさっきの言葉「生きる事を諦めないで!」…。私も静かに頷き立ち上がる

 

「ヒッヒッヒッイッヒッヒッヒッ!オリジナルも来たようだな、面白くなりそうだ!!」

「キィィィッ!よくも俺の食事の邪魔をしたな!殺してやるぅ!!」

 

もう一人の私の姿を見つけたサボテグロンが笑いながら近づき、私を食べるのを邪魔されたドクモンドが激昂した声を出して近づいてくる

…ハッキリ言って状況は絶望的だ。でもどうしてだろう?

背中が暖かいとさっきまでの絶望が嘘のようだ

 

「コイツ等は私が引き受けるからアナタが逃げて!」

「…嫌だ」

「!?」

 

もう一人の私が私に逃げてと言うが断った。断った瞬間、もう一人の私の顔の表情が面白かったのは内緒だ

 

「…私も戦う!」

 

それが私の返事だった

 

 

 

 

 




対戦ゲームだと檄弱な死神カメレオンですが、場所によってはとんでもなく凶悪です。あまり出番は無いですが壁抜けも出来ます。
戦う場所が指令室という事でクリスの火力が封じられました。劇中だと深淵の竜宮も壊してるから仕方ないね。

サボテグロンは劇中だと仮面ライダーとの戦いを楽しみにしていたので今回は少々武人肌になってます。
そして、ショッカーは自分達と同じ改造人間となった立花響の方をオリジナルと呼んでます。立花響と呼ぶとややこしいからだと思われます。
この世界の立花響がドクモンドに文字通り食われそうになりました。アイツ、劇中でも二人ほど貪り食ってるらしいです。

ピンチのヒビキをまたも救う響。ある意味鉄板だろうか。
怪人と戦う響の発言を聞いてこの世界のヒビキも戦う事を決意。
尚、怪人戦は素人のためまだ弱いです。


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81話 二人の響 歌えっ! 「誰かのため」の唄

パソコンがクソ重くなったり強制終了が怖くて少しずつしか書けない。つまり時間が掛かる

後、今回長いです。


 

 

 

 

暗いまどろみの中、周りが騒がしい事に気付く。はて?目覚ましかなと思った時に人の悲鳴が聞こえて私は慌てて目を覚ました。…あれ?肩が痛い

 

「…うっ、私は一体…痛っ!?」

「あおいさん!?無茶しちゃ駄目だ!」

 

何時の間にか寝てたのか疑問に思った私が体を起こそうとした時、肩に激痛を感じる

その時、横から仕事仲間である朔也くんの声に一瞬だけ驚いた。何時の間に彼の横に?

 

「朔也くん!?私一体どうして…!?」

 

まさか、オペレーター仲間の朔也くんにお持ち帰りされたと考えた自分を殴りたくなった。傍から人の悲鳴と共に翼ちゃんの声が響いた

周囲が指令室という事で自分がどうなってたのか思い出したのだ

 

「私、急に首元を絞められて宙吊りにされて…」

「…後で雪音さんにお礼を言った方がいいですよ。彼女がカメレオン男の舌を撃ち抜かなかったら死んでたらしいからね」

 

そうだった、私は寝てたわけじゃない。首を絞められて気絶したんだ!

首元を触る私に拳銃を持った朔也くんが並行世界の装者である雪音さんが助けたと教えてくれた

 

 

死神カメレオンの舌に捕らわれた友里あおいだったが、死神カメレオンが絞殺す前にクリスが咄嗟にアームドギアのボーガンで舌を撃ち抜き友里あおいを解放したのだ。

尤も、落下した友里あおいは肩を痛めて、撃ち抜かれた死神カメレオンの舌は直ぐに回復してしまったが。

 

 

「嫌だわ…首にまだ舌の感触が残ってるわ」

「…災難でしたね」

 

私の言葉に朔也くんが愛想笑いをしている

朔也くんの表情から状況はよくないようだ

私達は物陰に隠れながら上の指令席付近で戦う翼さん達の様子を伺う。既に何人ものエージェントの死体が横たわっている

 

「如何した?シンフォギア装者たち、カカッテこい!」

 

「とんでもねえトリッキーな動きだ!!」

「性根の腐ったオートスコアラーと同じくらい厄介ね!」

 

カメレオン男の挑発に翼さんや雪音さんが攻撃するがカメレオン男はアッサリと姿を消して攻撃を躱して別の場所に現れたり透明なまま舌での攻撃に彼女達は苦戦を強いられている

何よりカメレオン男は地面だけでなく壁や天井に張り付いて不意打ちしてくるのでクリスちゃんやマリアちゃんも苦戦している

 

「またか、あのカメレオン野郎」

「あの消える能力を突破しないと私達には勝ち目がないわね」

 

そう、あの姿を消す能力さえどうにか出来れば…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

路地裏。二人のそっくりな少女が互いの背後を牽制するように背中を合わせる。

彼女たちの視線の先には明らかに人外が二体佇んでおり少女たちを睨みつけている。

サボテグロンとドクモンドだ。

すると、サボテグロンが右手を上がる。

 

「イーッ!」「イーッ!」

 

瞬間、何処からともなく無数の戦闘員が現れ響達を取り囲んだ。

 

「また黒い奴等が!?」

「まだこれだけ戦闘員が居るなんて…」

 

「キィィィッ!戦闘員など幾らでも増やせるわ!」

「立花響!オリジナル諸共葬り去り、この世界をショッカーの物としてやるぅ!」

 

無数の戦闘員の数を見て驚く響達にドクモンドとサボテグロンがそう宣言した。

その時、響はサボテグロンの発言に引っ掛かりを覚える。

 

「待って、サボテグロン。『この世界』って言った?」

 

「言ったがどうした?まさか、まだ此処がお前が住んでいた世界と別だという事に気付いていないのか?」

 

「違うっ!此処が私達の世界じゃないと気付いたなら私達が今戦う理由は無い筈!それにこの世界の人達は関係ない……」

 

響はショッカーが此処が別の世界だと気付いたのなら休戦出来るのではと思いついた。

ほぼ自分一人の響に比べれば、どの位の規模か不明だがショッカーにも数の限界はある筈。それなら、一時的でもショッカーと休戦して元の世界に帰る方法を調べられるのではと考えた。

例え、憎むべき敵と言えど下手に別の世界で被害を出すよりマシだと判断してだ。

しかし、

 

「関係ないからどうした?我らショッカーがおてて繋いでランランランと協力すると本気で思ってるのか!?」

 

「それでも関係ない人達を巻き込むのは…」

 

「キィィィッ!なら今まで死んだ人間は我らと関りがあったと言うのか?」

 

「それは…」

 

この世界で暴れないよう何とか説得しようとする響だがドクモンドの言葉にぐうの音も出ない。

ショッカーは関係あろうが無かろうが邪魔だと判断すれば直ぐに殺人を犯す国際的犯罪組織だ。それどころか兵器の人体実験の為にも一般人を殺す。

この世界で同じことをするのは目に見えている。

 

「ヒッヒッヒッイッヒッヒッヒ、ついでに言えば優秀なショッカー科学陣が元の世界に戻る方法を見つける筈だ。例え時間が掛かろうと、この世界を手土産にすれば首領もお喜びになる」

 

「…首領?」

「…こいつ等を束ねるトップ。何時もエンブレム越しで命令を下す正体不明の存在、私も声だけで姿を見たことは無い。やっぱり説得は無理か…」

 

サボテグロンの首領と言う言葉にヒビキがオウム返しすると響が現状分かってる情報をヒビキへと流す。

それと同時に休戦は不可能だと悟る。

 

「そう言う事だ、かかれえぇぇぇぇぇぇ!!!」

「「「「イーッ!!」」」」

 

サボテグロンの掛け声に今まで響達を取り囲んでいた戦闘員が次々と押し寄せる。

その手には刺突剣やナイフを持ち明らかに二人を殺すつもりだった。

 

「イーッ!」

 

「このぉぉぉ!」

 

戦闘員のナイフを躱した響が御返しに掌底を叩き込み刺突剣を持って突撃する戦闘員にはカウンターの拳を浴びせたり、刺突剣を持つ腕を捕らえて別の戦闘員に投げ捨てたりする。最早、戦闘員との戦闘には慣れた響だ。数が多くても遅れはとらない。

しかし、

 

「イーッ!」

 

「ハアアアア!…!」

 

ヒビキは響と同じように戦闘員に対して反撃しようと拳を振ろうとしたが戦闘員の顔の寸前で止めてしまう。

僅かな躊躇いに戦闘員は刺突剣でヒビキの首元を切り裂こうとする。

 

「! 痛っ!?」

 

咄嗟に避けるヒビキだが、全てを避け切れず肩に僅かな切り傷が出来る。

痛みに動揺したのか。ヒビキの動きが止まり、チャンスとばかりに複数の戦闘員がナイフや刺突剣を握りヒビキへと群がる。

 

「しまっ!」

「危ない!」

 

目の前に刺突剣が迫っていたヒビキだが、背後から何か投げられえた。響が咄嗟に掴んでいた戦闘員を投げたのだ。

ヒビキへと殺到していた戦闘員達も投げられた戦闘員にぶつかり倒れた。

 

「大丈夫?」

「私…戦闘員を倒そうと思ったのに…人を殴ると考えると…」

 

響が心配そうにヒビキに話しかけるとヒビキの口から次々と弱音が漏れ自身の手を震わせて見る。

ヒビキは今までノイズと戦って来た。その中には当然人間型のノイズも居り倒したりしてきたが、ヒビキは戦闘員と目が合った瞬間、体が硬直した。

 

『人殺し!!』

 

嘗て、ツヴァイウイングの悲劇から生き延びたヒビキに浴びせられた罵声。

それが、脳裏に蘇り戦闘員を倒すのを躊躇ったのだ。

 

「…見て」

 

そのヒビキの様子に響が倒れた戦闘員の方を見るよう言う。

響の言葉にヒビキは言われた通りに倒れた戦闘員を見る。

 

「!?」

 

そして言葉を失った。倒れた戦闘員が緑色の泡を出して消滅していくのだ。最後には緑色の泡すら無くなりその場には何もなくなる。戦闘員が居た形跡すら

 

「…如何して…」

 

ノイズでも倒せば炭化して残るのに戦闘員は影も形も残らず消滅した。

その事がヒビキには信じられなく思わず呟く。

 

「戦闘員も怪人ももう人間だと考えない方がいい。それにこれがショッカーのやり方だよ、倒した戦闘員が秘密を漏らさないように…」

 

マリアの暴露によりショッカーが表舞台に引きずり出されたが戦闘員や怪人は秘密結社の頃から変わらなかった。戦闘員の大多数は敗北すると緑色の泡になって消滅するか怪人のように爆発四散する。

何方にしろ、痕跡はほぼ残らず灰となって残るノイズが可愛く思える。

だからこそ、響を始めとした特異災害対策機動部二課は戦闘員や怪人を人間として見ないことにした。戦闘員も怪人もショッカーの犠牲者とも言えるが、そうでもなければ弦十郎は兎も角、未成年の響達に元人間である怪人との戦闘は残酷過ぎた。

 

「浸っていていいのか?戦いはまだ思っていないぞ!」

 

「「!?」」

 

突如、上からサボテグロンの声をがして上を向くとサボテン棒を振りかぶったサボテグロンがジャンプし自分達に迫る。

そのまま、サボテグロンが響たちの前まで来ると同時に落下と共にサボテン棒を地面へと殴りつけた。

瞬間、響達の前のアスファルトが砕けると共に凄まじい量の土埃と地面の破片が響達を襲う。

 

「うわああああああ!!」

「サボテグロンの攻撃力が上がっている!?」

 

「ショッカーの強化改造を舐めて貰っては困る!」

 

以前に戦った時よりもサボテグロンの攻撃力が上がってる事に驚く響。

死神博士亡き後、ショッカー科学陣は更なる怪人の強化を図っており死神博士より遅いが着々と強化改造手術の腕を上げている。

その成果によりサボテグロンもまたパワーアップしているのだ。

 

「キィィィッ!お前の相手は俺だ!!」

 

「…人食い蜘蛛!」

 

「いけない!?」

 

「慌てるな、お前の相手は俺がしてやるぞ。オリジナル!」

 

サボテグロンの攻撃により響とヒビキは分断されてしまう。

響はサボテグロンが、ヒビキはドクモンドが立ち塞がる。ヒビキを助けに行こうとする響、立ち塞がるサボテグロン。ヒビキは一人ドクモンドと戦う事になる。

 

 

 

 

「キィィィッ!!死ねぇぇぇぇ!!」

 

「簡単に死ぬもんかああぁぁぁぁ!!」

 

ドクモンドと戦闘を行うヒビキは何とかドクモンドの猛攻を防ぎ切る。

尤も、攻撃してる余裕は無いので防戦一方だったが、まともな怪人との戦いは初めてのヒビキにとってこれは快挙に等しい。

 

「これならどうだ!?」

 

「糸?…!?」

 

ならばとドクモンドは口から糸を吐き手で振り回しヒビキの首のマフラーごと巻き付ける。

ドクモンドの力にヒビキは苦戦を強いられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「つくづく愚かな奴だ!」

 

サボテグロンと戦う響。ヒビキと時とは違いサボテン棒を巧みに躱してほぼ互角に戦う。

ヒビキとは違い拳や蹴りで反撃するが、サボテン棒が響の攻撃を弾く。

ならばと一旦距離を取ろうとする響だったが、

 

「おっと、足元には気を付けろよ」

 

「?」

 

サボテグロンの妙な忠告に疑問に思う響だが片足が地面と違う感触を踏んだ。見るとそこにはアスファルトではなく場違いな丸いサボテンが置かれていた。

 

「何でサボテン…!?」

 

疑問をそのまま口にした響だが、次の瞬間には踏んだサボテンが爆発を起こした。

同時に響の足に凄まじい痛みが襲う。煙が治まり足先を見ると足を覆っていたシンフォギアのブーツ事吹き飛んでおり人工皮膚もボロボロになり足の機械が目に入る。

 

「!?」

 

自分の足を確認した響が激痛も無視して急ぎドクモンドと戦うヒビキに目を向ける。

視線の先に居るヒビキが爆発に驚いてるようだが距離もあり戦闘中ということで響の足には気付かなかった。

その事にホッとする響だったが、

 

「…今のは…」

 

メキシコの花。嘗て俺がメキシコ中のダムを破壊した時に使った爆弾よ」

 

サボテンが爆発した事に茫然とした響の言葉に反応したのは当然、サボテグロンである。

メキシコの花、それはサボテグロンの武器の一つであり、手で放り投げる小型の物から地面に設置する大型のものまである。そのどれもが普通のサボテンにしか見えない爆弾である。

嘗て、サボテグロンはサボテン型爆弾…またの名をメキシコの花を使いメキシコを占領する事に成功したのだ。

 

「メキシコの花…!」

 

「ヒッヒッヒッイッヒッヒッヒ、それにしても見事な物だ。俺が喋ってる最中にももう再生している」

 

爆発の時とは別の痛みを感じた響にサボテグロンは笑いながら言い放つ。

一瞬何のことか分からなかった響だが自身の足を見て納得した。片足の吹き飛んだ人工皮膚が再生を始めると共にシンフォギアのブーツまで再生していた。

響の体はシンフォギア運用前提で改造されている。

だから響のシンフォギアが破損すれば自動でシンフォギアごと修復されるのだ。

 

「俺の爆弾の爆発をまともに浴びて片足で済んだだけとはな、通常の人間なら体の半分は吹き飛ぶぞ。流石は今は亡き死神博士の最高傑作だ!」

 

「!」

 

言い終えると同時にサボテグロンは手に持つサボテン棒で座り込んでいる響の体に一気に振り抜く。

殴り飛ばされる響だが幾度の怪人との戦闘に即座に態勢を立て直して着地しようとした。

 

「ああ、言い忘れていたがこの路地には俺が設置したメキシコの花はまだまだあるぞ」

 

「なっ!? !」

 

サボテグロンの言葉に絶句する響だが着地した瞬間、背後から轟音と共に熱と衝撃波が襲う。

響は既にサボテグロンの術中に嵌っている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「?何、爆発が連続して起きている」

 

ドクモンドの糸に首を絡められたヒビキは路地裏に響く爆音を事が気になった。

首に巻かれているマフラーによりどくドクモンドの糸のダメージを軽減出来ていたからだ。

 

「知りたいなら教えてやる、あれは嘗てメキシコを恐怖のどん底に陥れた爆弾よ。それにしてもサボテグロンめ、随分と豪快にやる」

 

「爆弾!? あんた達そんな物まで!」

 

爆弾と聞いたヒビキは顔色を変えてドクモンドに非難するように言う。

余りにも堂々とした悪事にヒビキも黙ってはいられなかった。それに爆弾を使う怪人の相手をするもう一人の自分の事が心配でもあったが、

 

「他人を心配する余裕があるか、貴様も死ねぇぇぇ!!」

 

瞬間、先程まで地面で踏ん張っていたヒビキの足に浮遊感が襲う。

ドクモンドが首に絡まる糸を引っ張り振り回してヒビキを宙へと浮かばせた。そして、一気にヒビキを地面へと叩きつける。

 

「アガッ!?」

 

「キィィィッ!!」

 

その衝撃にヒビキの周りのアスファルトが陥没し口からも血を吐いた。

そして、それを確認したドクモンドはまた糸を使い響の体を振り回し何度もヒビキを地面へと叩きつける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハア…ハア…ハア…」

 

幾つものメキシコの花の爆発をまともに受けた響。

その体は酷いもので、両腕や両足、腰のシンフォギアも破壊され響の顔の半分も爆発した炎を受け皮膚が剥げてしまい金属の骨が見えてしまって居る。

それでも、響の体は即座に回復を始め手足の皮膚やシンフォギアも再生していく。

再生した手を握り何とかまだ戦えると判断する響だが、

 

「仕掛けていた俺のメキシコの花、全ての爆発を受けて死なんか…なら俺が直接殺す!」

 

「ウッ…!?」

 

煙が晴れた瞬間、サボテグロンがサボテン棒を持っていない方の腕で響の喉を締め付けると共に壁に押さえつける。

その際、響の背後の壁にヒビが入り衝撃の凄まじさが分かる。

何とかサボテグロンの腕を振り解こうとする響。

 

「無駄だ、仮に俺の腕を脱出して俺達を倒せたとしても()()()()()()()()が我らショッカーに勝てると本気で思ってるのか?」

 

「一人…ぼっち…」

 

「気付いてるのだろ?この世界にお前を知っていて味方をする者など一人も居ない。特異災害対策機動部二課の風鳴翼も雪音クリスもマリア・カデンツァヴナ・イヴもお前を知らないのだからな!!」

 

━━━得意災害にクリスちゃんとマリアさんが!?

 

サボテグロンの発言に初めて響は特異災害対策機動部二課の存在と翼やクリスたちの事を知る。

経緯は分からないが自分が居なくてもクリスやマリアが特異災害対策機動部二課に入ってる事を嬉しく思う反面、響の表情が曇る。

 

━━━そうか、この世界にも師匠が…

 

響としては、出来ればこの世界の特異災害対策機動部二課に合流して共にショッカーと戦いたい気持ちがある。

しかし、その為には…

 

「合流出来る訳ないよな、その体は俺達と同じなのだからな!調べれば直ぐに分かる事だ」

 

「クッ!」

 

響の不安を的中させるサボテグロン。

上手く特異災害対策機動部二課に保護されれば良いが立花響が二人いる。自分が別の世界の立花響だと説明して信じて貰えるのか?

身体検査などもすれば響の体が普通の人間でない事もバレてしまう。

元の世界では受け入れられたが、果たしてこの世界の特異災害対策機動部二課が改造人間である響を受け入れてくれる保障は何処にも無い。

最悪、この世界の特異災害対策機動部二課が敵に回り自分をショッカーの一味として処分されるかもしれない。

 

━━━それは…嫌だな…

 

『お前もショッカーの怪人だったのかよ!?』

『最低! もう二度と私に話しかけてこないで!化け物!!』

 

響の脳裏に嘗てクリスと未来に言われた言葉が蘇る。今は和解出来たが響にとってあの言葉はトラウマに近く二度と聞きたくない。

翼やクリス、マリアか弦十郎が響を殺す可能性もある。

元の世界に戻りたい響だが直ぐに合流出来る訳が無かった。

 

「お前が元の世界に戻れる訳が無い、だから…全てを諦めて死ねぇ!!」

 

「私は…諦めない!!」

 

今まさにサボテグロンがサボテン棒で響の頭をかち割ろうとした瞬間、響から眩い光と共にサボテグロンが弾かれ距離を取る。

 

「ぬっ!?」

 

咄嗟に響の首を絞めていた手に視線を向けるサボテグロン。見れば手に電気の様な物が走り動きがやや鈍い。

 

 

何故 どうして? 広い世界の中で

運命は この場所に 私を導いたの?

繋ぐ手と手 戸惑う私のため

 

「ちっ、馬鹿の一つ覚えみたいにまた歌うか!もういい、やれぇ!戦闘員ども!!」

「「「「「「イーッ!!」」」」」」

 

サボテグロンの声に何処に居たのか再び何処からともなく現れる戦闘員達は命令通り歌う響に襲い掛かる。

 

受け取った優しさ きっと忘れない

その場しのぎの笑顔で 傍観してるより

 

数に勝る戦闘員が一斉に響に襲い掛かる。しかし、響は先程よりもキレのいい動きで次々と戦闘員を返り討ちにしていく。

剣で斬りかかろうとした戦闘員は胸に掌底を食らわせ、拳で襲おうとする戦闘員はクロスカウンター、背後から来た戦闘員は飛びまわし蹴り。

 

「さっきよりも動きが良くなってるだと!?」

 

これにはサボテグロンも驚く程動きが良かった。

 

本当の気持ちで 向かい合う自分でいたいよ

きっと どこまでも行ける 見えない 未来へも飛べる

 

響はそのまま複数体の戦闘員を殴りつける。器用にほぼ同時に複数の戦闘員の顔面にパンチを入れていく。

ならばと、上から飛び掛かる戦闘員もいたが、腰のブースターで飛び上がりアッサリ戦闘員の背後をつくと先程まで殴っていた戦闘員諸共拳で貫く。

これで、サボテグロンが連れて来た戦闘員は壊滅する。

 

この気持ちと 君の気持ち 重なればきっと

We are one一緒にいるから Hold your hand心はいつでも

今を生き抜く為に 私たちは 出会ったのかもしれない

私ト云ウ 音響キ ソノ先ニ 微笑みをSing out with us

 

「ほざけぇ!笑うのは我らショッカーだけで十分だぁ!!」

 

戦闘員が全滅したサボテグロンが響の脳天目掛けサボテン棒を叩き込もうとする。

響も直ぐに反応し、負けじと拳で立ち向かう。

サボテン棒と拳がぶつかり合い激しい火花が起こり響の額に汗が流れる。

 

「諦めてしまえば楽になるぞぉぉ!!小娘っ!」

 

「…アナタの言う通り諦めたら楽になるかもしれない。…でも諦めたら私はもう皆に顔を合わせられない!!」

 

急ぎたくて いつだって不器用で

遠い憧れに まだまだ近づけない

でも1つだけ 分かってきたことはね

「誰かのためになら 人は強くなる」

 

響は思い出す。ショッカーに拉致される前の事を

幸せだった頃の家族を、親友である小日向未来との日常を

改造人間になった後の特異災害対策機動部二課に入ってからの日々を

 

「だから…諦めるもんかあああああああああああああああああああ!!!!」

 

「!?」

 

響の拳がサボテグロンのサボテン棒を弾き飛ばすと腰のブースターで勢いをつけて一気に顔面を殴り抜く。

今まで以上の拳の威力に吹き飛ばされるサボテグロン。

その行先は…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ガハッ!」

 

ヒビキの体がビルの壁に叩きつけられる。既に体中傷だらけで口からも血が垂れている。

首に巻かれているマフラーもドクモンドの糸の所為か血で赤く滲んでいる。

 

「キィィィッ!そろそろ抵抗する力も無くしただろう。苦しかろう、今直ぐ食い殺してやる!」

 

そう言うと、ドクモンドは糸を引っ張る。途端、ヒビキの体は叩きつけられた壁から引き剝がされゆっくりとドクモンドの方に引っ張られる。

 

最早、ヒビキに抵抗するだけの力は無い。

 

 

 

 

━━━ああ…私死んじゃうのかな。…裏切られるのが怖くて他人を遠ざけてたけど…こんな最後か。お父さんもお母さんも今何してるんだろ。お婆ちゃんも元気かな?…最後に会ったのって何時だっけ?

 

 

殺されそうだと言うのにまるで他人事のように思考が巡るヒビキ。ドクモンドの戦いで糸で拘束され地面に壁に叩きつけられていたのだ。疲労と痛みにヒビキは衰弱している。

このまま、ドクモンドの手に掛かるかと思われた時

 

~♪

━━━音…が…く…?

 

ヒビキの耳に軽快な音楽が聞こえて来る。

誰かが近くで歌ってるのかと思い、今の自分との雲泥の差に羨ましくもあるが、ヒビキは不思議とその音楽を聴いて胸に暖かい物を感じた。

 

「さて…それでは食事にして ドガッ!! 何だぁ!?」

 

ドクモンドの声が何かがぶつかる音がして途切れ自分を引っ張る力も消える。

何か起こったのかとヒビキは体力の消耗した体でドクモンドの方に視線を向ける。

その視線の先には

 

「立花響め!想定以上に力を上げてるのか!?」

「キィィィッ!何のつもりだサボテグロン!」

 

吹き飛ばされたサボテグロンがドクモンドに衝突して糸の力が弱まったのだ。

ぶつかって来たサボテグロンにドクモンドが文句を言うが、サボテグロンはその言葉を無視してヒビキの居る方とは別の方を見る。

そこに丁度、腰のブースターで降り立つ響が見えた。

 

「まだ、始末してなかったのか!」

「…その言葉、ソックリそのまま返すぞ」

 

ドクモンドとサボテグロンが響に向き合い戦闘態勢を取る。

そして、響から漏れる音楽と歌がヒビキの耳にハッキリと届く。

 

今の私のすべてで 放つ歌声で

君の悲しみを 僅かでも消すこと出来たら…

その手 握っていたいよ 永遠、それよりも長く

 

「ここは任せて休んでて」

「…何で…歌ってるの」

 

響がヒビキに休んでる様言うが、ヒビキは響から出る音楽と歌に引かれていた。

サボテグロンを警戒しつつ響は口を開いた。

 

「シンフォギアは装者の心次第で強くなる。胸の奥から湧きだす歌をうたうと勇気が出るの」

「勇…気…」

「少し前にね、ある人に言われたの『胸の歌を信じなさい』って。だから私は胸の歌を信じて戦う」

 

━━━胸の…歌…

 

失くさないで 崩れないで…彼方には希望

We are one信じていたもの Hold your hand闇が隠しても

光を忘れぬよう 私たちは 出会ったのかもしれない

私ト云ウ 音響キ ソノ先ニ 優しさをSing out with us

 

「ごちゃごちゃ喧しいぃ!死ねぇ!!」

「キィィィッ!!」

 

響が言い終えると同時にサボテグロンとドクモンドが飛び掛かる。

響は単身でサボテグロンとドクモンドの相手をする。

 

君と紡ぐ 絆こそ 道標(みちしるべ) 迷い捨てて 強くなる

その場しのぎの笑顔で 傍観してるより

本当の気持ちで 向かい合う自分でいたいよ

 

歌う響の動きは素人目のヒビキでも唸る程の動きを見せる。

サボテグロンの拳や何時の間にか握っていたサボテン棒を避け、糸で拘束しようとするドクモンドを躱してカウンターに顔面に拳を叩き込む。

 

「キィィィッ!」

「ヒッヒッヒッイッヒッヒッヒッ!」

 

「!?」

 

しかし、徐々に響が押され出す。サボテグロンは前の時より更に強化改造されている。

それに加えて、響はドクモンドと戦ったことは無い。再生怪人の時も別の装者が倒している。それ故に初めて戦うドクモンドの動きとサボテグロンとの戦いが徐々に押され出す。

その結果

 

「隙ありぃぃぃ!!」

 

「!? しま…」

 

ドクモンドの動きに釣られ一瞬の隙が出来、それを見逃さなかったサボテグロンが響の腹部にサボテン棒がめり込む。

地面を引きずりつつ倒れる事は無かったが口から血を吐く響。そして、歌も止まってしまった。

 

━━━マズいっ!早く歌わないと!

 

きっと…どこ…カヒュ…

 

急いで続きを歌おうとする響だがその口からは酷い呼吸音が聞こえる。

恐らくはサボテン棒の攻撃で体の一部にダメージが入ったのかもしれない。回復するには少し時間が掛かる。

 

「シンフォギア、敗れたり!!」

「シンフォギアの弱点は歌えなければ性能を発揮出来ん。ならば、やりようは幾らでもある!」

 

ショッカーとしても今までの戦いでシンフォギアの性能はある程度は知っている。

幾ら、強くてもシンフォギア装者はただの小娘、歌えなくすれば戦力は著しく下がる。

サボテグロンとドクモンドが勝利を確信した。

 

 

 

 

きっと どこまでも行ける

見えない 未来へも飛べる

この気持ちと 君の気持ち

 

「「!?」」

 

だからこそ、背後から聞こえて来た歌に驚く。

そして、それは響もだった。三人の視点が移動する。移動した先には

 

「もう一人の立花響が歌っているだと!?」

「馬鹿な、あの小娘は俺との戦いで心が折れた筈だ!!」

 

怪人達の驚愕する声が出る。

目の前でドクモンドにズタボロにされたこの世界の立花響が歌い立ち上がったのだ。

 

「もう一人の…私…」

「…歌うのは久しぶりだな…でも不思議、体の痛みが軽減されてる。これなら私も!」

「うん!」

 

重なればきっと

We are one一緒にいるから

 

歌うヒビキの姿を見て、響もまた歌の続きを歌う。

二人の声が響き合いハーモニーとなり二人の傷の痛みが消えていく。

 

「この期に及んでまだ歌うか!」

「キィィィッ!所詮は死にぞこない、止めを刺してやる!!」

 

歌う二人の響の姿に舌打ちするサボテグロン。

だが、所詮は無駄な足掻きと判断して二人に襲い掛かる。

 

Hold your hand心はいつでも

今を生き抜く為に

 

「キィィィッ!?」

「なんだとぉ!?」

 

それ故に、サボテグロンとドクモンドは驚愕する。響達の攻撃が早さも強さも上がっていた。

サボテン棒をギリギリで躱して肘打ちにドクモンドの蹴りを避け裏拳を浴びせられる。

 

私たちは 出会ったのかもしれない

 

サボテグロンとドクモンドに二人の蹴りが同時に命中する。

その威力に体が宙に浮くが、怪人達が別の所に注目していた。

 

「一体何だ!?今のは完全に体の動きが合っているぞ!?」

「まさか、歌と共に動きまでシンクロしてるのか!?」

 

態勢を立て直したドクモンドとサボテグロン。二体が驚いたのは響と並行世界のヒビキが同じ動き同じタイミングで蹴りを放った事だ。

自分達の知っている立花響なら兎も角、怪人戦は素人の筈のヒビキが此処までの動きが出来る事が理解出来なかった。

 

私ト云ウ 音響キ ソノ先ニ

微笑みをSing out with us

 

初めて一緒に歌う筈の二人は一フレーズも外すことなく背中と背中をくっつけポーズまでとる。

 

「! 調子に乗るな小娘如きがぁぁ!!」

 

響達の行動にサボテグロンは隠し持っていた最後のサボテン爆弾…メキシコの花を投げつける。

投げられたメキシコの花はそのまま響達に迫り爆発を起こす。

 

サボテグロンとしてはこの爆弾で響かヒビキが負傷すればと考えて居た。

生身であるヒビキに爆弾が直撃すれば死ぬ可能性が高く、またはヒビキを響が庇えば響も無事では済まない。

どちらにせよアドバンテージが握れると判断していた。

 

「これだけの爆発だ、奴等もただではすまい」

 

ドクモンドもこれには賞賛の声を出しサボテグロンも煙が晴れるのを待つ。

 

♪~

 

「音楽だと!?」

 

何処からともなく音楽が聞こえて来る。それも立花響たちが歌っていた曲の物だと確信した。

そして、煙が晴れると案の定響達の姿が其処には無い。

 

「あの爆発で無事だと言うのか!」

「何処だ!?何処にいる!?」

 

響達が居ない事に慌てて周囲を見回すが音楽が聞こえるが姿は何処にも見えない。

 

「! 上だ!!」

 

サボテグロンの声にドクモンドが上を見る。空には完全に太陽が昇り切り太陽から黒い粒の様な物が見えた。

 

優しさをSing out with us

 

「これが!」

「私達の!」

「「ガングニールだあああああああああああああああ!!」」

 

二人は太陽を背にして腰のブースターで加速し足を突き出す。その姿はまさに上空から下に居る怪人へと迫る一撃となる。

そして、響達の蹴りは怪人達の胸に直撃する。

 

「キィィィッ!!!」

「ヒィィィッ!!!」

 

ドクモンドとサボテグロンがそれぞれの悲鳴を上げ響たちの蹴りに吹き飛ばされ地面を転がる。

反面、攻撃した響達は体力を消耗したのか二人共肩で息をしている。二人共、最早体力の限界でもあるのは明白だった。

 

正直これ以上戦えない。それが二人の考えであり転がる怪人がもう立ち上がらない事を祈る事しか出来ない。

だが、蹴りを喰らったドクモンドの姿を見て生唾を飲み込む二人。しかし、どうにも様子がおかしい。

 

「キィィィッ…雪音クリスだけでなく…こんな素人同然の小娘ごときに…」

 

ふらつき悪態をつくドクモンドは自分の掘った穴に倒れ込み爆発する。爆発した時に発生した風が頬を撫でて響はやっと一息つく。

 

「…倒せた…」

「…本当に?」

 

響の言葉にヒビキが呟く。あれだけ協力で残忍なドクモンドが本当に死んだのか疑わしいからだ。自分達を油断させまた背後から奇襲するのではと戦々恐々だった。

 

そして、サボテグロンもまたふらつきつつも立ち上がる。

 

「ヒッヒッヒッイッヒッヒッヒ…見事だ、立花響。…だが残念だが此処で俺を倒しても変わらん!既に地獄大使は世界征服の為に動き出しているのだ!」

 

「地獄大使?」

「…地獄大使までこの世界に…」

 

「…良い事を教えてやる、地獄大使が居る限り俺達は何度でも蘇る!コノ意味…いずれ貴様らも思い知る…!」

 

そこまで言うと、サボテグロンはゆっくりと倒れドクモンドのように爆散する。

最後まで悪態をつく姿はヒビキは唖然とする。そんな中、

 

 

 

「おい、爆発音が聞こえたぞ!」

「警察呼べ、警察!」

「何だ、テロか!?」

 

 

 

「あ、不味い」

 

響達の戦闘音や怪人の爆発音を聞いた一般人たちが騒ぎ出す。

特異災害対策機動部二課が来るかも知れない事に響は撤退を提案し、これ以上の面倒事はゴメンなヒビキもそれにのる。

響達が撤退した後、警察が来て謎の爆音事件としてテレビを賑わせる事になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

響達が決着を付けた頃、特異災害対策機動部二課指令室では、何人もの呼吸音がする。

 

「ハア…ハア…」

「…ハア…」

 

呼吸音の主は風鳴翼やマリアである。傍にはボーガンのアームドギアを掲げるクリスも居る。

そして、彼女たちの目の前には、

 

「並行世界の装者がこの程度の腕か、大した事なし!」

 

無傷の死神カメレオンが指令の席の上に立ち装者たちを見下している。

死神カメレオンとは対照的に翼とマリアの体には幾つもの傷が作られ血が滴り落ちる。ほぼ三対一の戦いでここまでの差をつけられたのだ。死神カメレオンが見下すのも仕方がない。

既に死神カメレオンに反論する程の体力も消耗した翼とマリアは何とか睨み付けクリスは歯嚙みする。

 

「そろそろ止めを刺してやる!」

 

そう言うと、死神カメレオンは再び姿を消しマリア達が身を固める。

下の階で見守っていた朔也とあおいも何か力になれないかと考える。

 

「カメレオン男がまた消えた!」

「このままじゃ嬲り殺しよ。何か手は…?」

 

これ以上の戦えば装者たちが殺されると焦るあおいの目にある物が映る。

それは、死神カメレオンの舌で胸を貫かれたエージェントの死体だ。正確には死体じゃない、死体から流れた血がピチャッという音を発したのだ。

血が滴った訳ではない。まるで誰かが踏んだように感じたのだ。

 

「気のせい?…!」

 

あおいが血に注目した時、気付いた。翼やエージェントの物でない地を踏んだ後を。

 

━━━あの足跡は雪音さん達じゃない、かと言ってウチの職員の物でもない。…ならあの足跡は…!

 

一つの可能性が浮かんだあおいは急ぎ、空いている指令室の席に着きコンソールを弄る。

この時、この席の職員は何事かという顔をしたが、時間の惜しいあおいはそれを無視した。

 

「あおいさん!?どうしたんです?」

 

あおいの突然の行動に驚きつつ、本人に聞く朔也。

 

「カメレオン男は消えてはいるけどこの世から完全に消えた訳じゃない。ならやりようはある!」

 

喋りながら答えるあおいは、コンソールのキーを恐ろしい速さでタイピングする。それは一つの賭けでもあった。

 

翼とマリアがお互いの死角をカバーしあい、少し離れた所で壁を背にしてボーガンを構えるクリス。

姿を消す相手を警戒してるが、死神カメレオンは縦横無尽に壁や天井にも表れる。

しかし今回の死神カメレオンはマリア達の真横に移動していた。

 

━━━これだけの至近距離だ、避けられまい!

 

今まさに舌でマリアの頭を狙おうとした時、体に何かが落ちて来た。

 

━━━何だ?…水?

 

落ちてきた物に触れた死神カメレオンはそれが水滴だと理解する。

 

「うわ!?冷てえ!」

「何で水滴が…」

 

その水滴はシンフォギア装者の彼女達も気付き疑問に思う。

外なら天気が変わりにわか雨も振ろうが此処は地下の特異災害対策機動部二課指令室だ。雨が降る訳が無い。

 

 

 

 

ジリリリリリリリリリ!!

 

 

 

そう疑問に思った時、指令室内にけたたましい警報が鳴り響く。

 

「何だよこれ!警報か!?」

「新しい敵でも来たの!?」

「落ち着け、二人共!これは火災警報だ!」

 

突然の警報に慌てるクリスとマリアだが、長く特異災害対策機動部二課に勤めている翼が火災警報だと知らせる。

途端、天井から夥しい量の水が降り注ぐ。

 

「うわ!?」

「この水はスプリンクラーの?」

 

スプリンクラー設備から出る水に打たれる装者たち。それだけでなく、指令室のコンピューターにも水がかかり一部が停止する。

 

「でも…スプリンクラーが?…!」

 

スプリンクラーの水でびしょ濡れになる翼だがある事に気付き。アームドギアの剣を一気に振るった。

 

 

 

 

「アウッ!?」

 

瞬間、斬撃音と短い悲鳴が漏れる。その事に反応したのはクリスとマリアだが、下の階に居るあおい達もそうだ。

 

「やっぱりね」

「やっぱりって?」

「あのカメレオン男は姿を消せたけど本当に消えてたわけじゃない。居所さえわかれば皆で倒せるわ」

「なるほど、そういう事か」

「指令!」

 

あおいの言葉と翼たちの方を見て理解する朔也。スプリンクラーの水が降り注ぎ誰もがびしょ濡れになる。それは姿を消す死神カメレオンも例外ではない。

透明な体に水が流れハッキリと姿が見えた。

あおいは、血の流れた床を姿の消した死神カメレオンが踏んだことに気付き指令室のシステムを弄りスプリンクラーを作動させたのだ。何時の間にか装者たちの邪魔にならないよう移動した弦十郎もあおい達のほうに合流している。

尤も、スプリンクラーの水の所為で、指令室の一部の機械が壊れたりしてデータが吹っ飛んだが命には代えられない。

 

 

「よくは分からないけど…」

「これなら十分戦える!」

 

翼が死神カメレオンに一撃を与えた事にクリスとマリアも気付き、改めて武器を構える。

未だ、スプリンクラーの水は治まることなく死神カメレオンの姿を翼たちに見せている。

 

「何故俺の姿が…水か!?」

 

「遅えんだよ!!」

 

翼の一撃を食らいクリスやマリアの視線に死神カメレオンはやっと自分が補足されている事に気付く。

クリスが遅いと言い放つと共に持っていたアームドギアをガトリング砲に変えて無数の弾丸を撃つ。咄嗟にガードする死神カメレオンだが、クリスの猛攻に押される。更に、

 

「私達が居るのを…」

「忘れて貰っては困る!!」

 

どの位置に居るのか分かればこちらの物と翼とマリアも攻撃に加わる。

翼の剣とマリアの短剣、クリスの援護が死神カメレオンに次々と命中していく。姿を消す能力を打ち破られた死神カメレオンが数に勝る翼たちに最早勝ち目はない。

 

「仕方ない、撤退する!」

 

今度は自分が壁を背にした死神カメレオンが撤退しようと壁に体を付ける。途端に死神カメレオンの体が壁の中へと吸い込まれるように入って行く。

 

「奴は壁抜けまで出来るのかよ!?」

「その能力で此処に潜入したのか!」

「ここは任せて!」

 

ここにきて死神カメレオンの新たな能力に驚く翼とクリスだが、いち早くマリアが反応して短剣を蛇腹モードにして死神カメレオンに投げつけるように振るう。

蛇腹じょうになった剣はそのまま死神カメレオンの体を見きつける。

 

「なっ!?小娘如きの力で俺を引きずり出そうというのか!」

 

「その通り!」

 

マリアが死神カメレオンの体に巻きついた剣を引っ張る。だが、マリアが幾ら力を入れても死神カメレオンはドンドン壁の中へと入って行く。マリアだけでは力が足りないのは明白だった。

 

「コイツ…予想以上に力がある…!」

「私も手伝おう!」

 

見かねた翼もマリアの蛇腹剣を引っ張る。翼が加わった途端、死神カメレオンの壁の中への移動が止まった。

 

「た…たかが二人程度で俺と同じ力だと!?さては貴様らゴリラの生まれ変わりか!?」

 

「…なん」

「…だって?」

 

死神カメレオンの言葉に翼とマリアの額に青筋が浮かぶ。

同時に死神カメレオンを引っ張る力が強まった。この時、死神カメレオンは己の発言を後悔する事になる。

 

「「誰がゴリラだぁぁぁぁぁぁ!!!」」

 

二人の息が合わさり蛇腹剣を思いっきり引っ張り死神カメレオンの体が壁から引きずり出され宙へと舞う。

 

「クリス!」

「待ってたぜ!!」

「待ってた?…ブッ!?」

 

死神カメレオンを引きずり出したマリアはクリスに声をかけた。クリスの発言に疑問を感じた翼もクリスの方を見ると思わず噴き出した。

クリスが何時の間にかシンフォギアから大型ミサイルを出してたのだ。

そして、クリスは躊躇う事無く宙を舞う死神カメレオンに標準を合わせ大型ミサイルを撃ち込んだ。

 

ミサイルは正確に死神カメレオンに当たるとそのまま壁へと直進していく。

 

「馬鹿め、俺を倒そうとこのミサイルでは地下ごと吹き飛ぶ!そうなればお前らも無事ではあるまい、この勝負我々の勝利だあ!!」

 

尖端に当たりミサイルに運ばれる死神カメレオンが勝利を確信すると同時に壁に激突する。

クリスの出したミサイルは大型でショッカーの記録でも大型のノイズを一撃で破壊できる代物だ。それが地下で爆発すれば結果は目に見える。職員は全滅し装者もただでは済まないだろう。

 

その筈が…

 

「な…なぜ爆発しない!」

 

ミサイルは指令室の壁に激突し死神カメレオンの半身を押しつぶしたがそれだけだった。壁に減り込むだけで爆発が一切しない。

 

「バ~カ、アタシが出したミサイルだ。爆発するかどうかはアタシが決めれるんだよ」

 

クリスは今まで多くの敵と戦い大型ミサイルを出すのも一度や二度ではない。時にはミサイルの上に立ち移動代わりに使う事もあり爆発の有無はクリスの設定次第なのだ。

これには大量の汗を流した翼や特異災害対策機動部二課の面々もホッとしている。序でにスプリンクラーの水も止まっていた。

 

「おのれ…忌々しいシンフォギア装者どもめ…だが覚えておくがいい…ショッカーには俺を超える怪人軍団がまだまだ居る事をな」

 

「おい、その話をもっと詳しく…ゲッ!?」

 

死神カメレオンからもっと情報が引き出せないかとクリスがミサイルの上に立って近づくが、彼女が目にしたのは体が溶けて行く死神カメレオンだった。あまりの不気味な光景に茫然としてると死神カメレオンの体は完全に溶けきり消滅する。

 

 

 

 

 

その日、特異災害対策機動部二課は敵が指令室に侵入し交戦、多くの職員が殺される中並行世界のシンフォギア装者の手助けにより撃退という報告が上にされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

薄暗い部屋の中、地獄大使が何かを睨んでいる。視線の先には世界地図が映っていた。

 

「世界征服を目指すには先ず何処から手を付けるべきか。世界の盟主気取りのアメリカを責めるか、暗黒大陸となった欧州にすべきか。…いや、やはり先ずは世界の先駆けとして日本か…」

 

地獄大使は世界征服のプランを考えて居た。東アジア方面で暗躍していた地獄大使だが、首領への手土産の為にもこの世界での世界征服を考えねばならなかった。

もし、ここに策略家のゾル大佐やマッドサイエンティストの死神博士が居ればもう少し楽になった可能性はあるが無い者を強請っても仕方がない。

その時、戦闘員が血相を変えて報告してくる。

 

「イーッ、立花響の抹殺に行ったサボテグロン並びドクモンドが戦死しました!」

「そうか」

 

戦闘員の報告に地獄大使は短く答える。地獄大使もそこまで期待はしていない、せいぜい立花響にプレッシャーを与えればと考えて居た。

 

「カメレオンからの報告がない事を考えれば返り討ちにされたか?まあいい、最低限の仕事はした」

 

あわよくば特異災害対策機動部二課の者を皆殺しに出来ればと考えたが、早々上手くはいかない。それでも死神カメレオンは最低限の働きはしたと褒める。

 

「本拠地が襲撃された以上、今まで以上の警備に人を残さねばならん。即ち特異災害対策機動部二課の動きが鈍くなるということよ」

 

地獄大使としては死神カメレオンが特異災害対策機動部二課を全滅させようが正直、どちらでも良かった。

失敗しても、一度襲撃されたのだ二度三度あるかもしれないと考えれば警備を強化するか何処かに本拠地を移すかで人手は取られる。即ち特異災害対策機動部二課の動きは鈍化する可能性が高くなる。

そうなれば、ショッカーが断然有利になると考えほくそ笑む地獄大使。

 

直後に地獄大使の脳裏に引っ掛かる物を覚える。

 

━━━それにしても妙だな、ワシが態々連絡したとはいえ、特異災害の者達は並行世界の事を疑わんかった。まるで、前にもそんな事があったような反応だ

 

やはり、並行世界から来たのか!?

お前達が元の世界に戻り何をしようとしている?

…要はプリル教会みたいな事か!

 

連絡した時の弦十郎やシンフォギア装者たちの反応を思い出すが如何にも引っ掛かりの正体が掴めない。

結局、地獄大使は特異災害対策機動部二課や装者たちの監視を強めるよう言い放つ。

更に地獄大使は付け加える様に言う。

 

「総員に通達だ、悪魔祭りの生贄を集めろ!」

 

 

 

 

 

 

その日より、日本だけでなく世界中で人間の行方不明事件が爆発的に増える。

 

 

 

 

 

 




「諦めない」というフレーズで響に「knock_outッ!」を歌わせようとしましたが楽曲コードが見当たらず断念。なら無印で歌って無かった「私ト云ウ 音響キ ソノ先ニ」の歌詞にしました。
JAやNexで検索しても見つからない時はフリーにならないかな…

サボテグロン及び死神カメレオンとの決着を目指してたら思った以上に伸びた。

仮面ライダーの劇中だと倒した戦闘員は爆発したりそのまま消えたりする事が多いですがこの作品ですと緑色の泡となって消滅します。その方がインパクトがありそうなんで。

ヒビキことグレ響はまだ響が改造人間だとは知りません。
個人的な意見ですがグレ響が戦いながら歌ってるイメージがない。

響が特異災害対策機動部二課とクリスとマリアの存在を知りました。
尚、響はクリスとマリアがこの世界の人間だと思ってます。ギャラルホルン知らないからしょうがないね。

そして、やっとサボテグロンがメキシコの花を使いました。やっぱりサボテグロンといえばメキシコの花ですね。…自爆はしなかったけど。

響が何だか遊戯っぽくなってる。その内「相棒」と言い出す?


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82話 秘密結社ショッカー

 

 

 

薄暗い部屋。敢えて電気が消されている。

その証拠に幾つもの機械音と人工の光が蠢きパソコンのキーを打ち込む音もする。

そしてその部屋には幾つもの呼吸音が聞こえ何人もの人間が居る事がわかる。

 

「…敵の組織名はショッカーか…」

 

其処に野太い男の声が響く。

声の主は風鳴弦十郎だが、居るのか彼だけではない。

翼は勿論、マリアにクリス、調に切歌、響と未来も勢揃いしている。

彼女たちの目はクリスやマリアが持ち帰った記録をモニターに映し出られ皆がそれに釘付けだった。

 

そのモニターには人間ではない怪物や被り物をつけた男が映っている。

カミキリキッド、死神カメレオン、そしてショッカーの大幹部地獄大使の姿だ。

 

「ええ、彼らが言うには並行世界から来たって」

「やはり並行世界か…」

「つまり並行世界の並行世界から来た敵か」

「…ややこしいデス」

 

マリアがそう付け加え切歌の表情が呆れているようだった。

死神カメレオンとの戦いの後、特異災害対策機動部二課で応急処置を受けたマリアとクリスは急ぎ自分達の世界へ戻り仲間や上司に何があったか報告したのだ。

 

そこで、マリアやクリスが撮った記録を皆で見る事になる。

最初は面白がって見物に来た調と切歌だったが場面が進むごとにマリアの手に抱き着き瞳を泳がせていた。

翼も未来も予想以上のショッカーの強さと残忍さに口元を押さえたりしてモニターに釘付けである。金髪の少女らしき人物も興味深そうに注目している。

唯一、立花響だけは最初から険しい顔つきでモニター見ていた。

 

場面が進むごとにそれぞれの装者や弦十郎が驚きの声を上げる。

 

 

 

「今度は蛾のような化け物じゃない!?」

「名前のフシからしてコウチュウ目カミキリムシ科に分類されるカミキリムシが元になってるようですね」

「ただのノイズとは言えアッサリ蹴散らすとは…実力は相当か?」

 

ドクガンダーではない別の怪人、カミキリキッドと名乗り更に別の怪人がいる事を示唆される弦十郎たち。

向こうの翼やクリス達がほぼ片付けたとはいえ、電撃のようなものを出して少数だがノイズの殲滅を行なったことに改めて驚く弦十郎と翼。

更に映像は続いていく。

 

 

 

「ショッカーの杖にショッカーノイズだと!?」

「あの人たち、先史文明期の技術を物にしてる?」

 

通常のノイズでも錬金術で作られたアルカ・ノイズでもなく、ましてやカルマ・ノイズでもない全く新しいノイズに驚く。何より、取り付かれれば死ぬのではなく、怪人と呼ばれる怪物となり使役されるのだ、脅威でしかない。

 

 

 

「人間に対するあそこまで敵意とは…」

「今まで戦った敵の中でもトップクラスの危険度だ」

 

カミキリキッドの関係ない人間に対する発言に眉を顰める弦十郎と翼。

完全聖遺物『ギャラルホルン』が稼働してからだいぶ経ち彼女達も大勢の敵と戦ったが此処までの人間に対する悪意は相当な物であった。

 

 

 

 

「怪物は兎も角、黒い連中は何者だ?」

「カミキリムシは戦闘員って呼んでたけど…」

「…文字通り戦闘をする為の要員と言う奴か。武器を失っても戦意が衰えないとは…」

「コイツ等もロボット兵とかデスか?」

「いや、動きが完全に生き物だ。恐らくは人間だと思うが…」

 

モニターに武器を失おうと反撃を喰らおうと翼たちに襲い掛かるショッカー戦闘員の姿にそれぞれが意見を出す。

倒れても倒れてもカミキリキッドの命令に逆らわず戦闘を続けるのだ。命の無いロボット兵とは訳が違う。だからこそ、クリスもマリアも戦い辛い相手と言えた。

 

 

 

 

 

 

「頭脳破壊電波!?」

「そんな!?シンフォギアのバリアフィールドは極めて性能が高いのに!」

「…でも、マリアのあの苦しみよう、ハッタリなんかじゃない!」

「ええ、正直あれをまた喰らいたいとは思わないわね」

「フィーネを苦しませた兵器と言うのもハッタリじゃなさそうですね」

「それだけじゃなく、蜘蛛や蟹っぽいのも強いデス!」

「…下手なノイズよりずっと強い」

 

ムカデの怪人の頭脳破壊電波に苦しめられるマリアの姿に一同驚愕する。

結果的にマリアがムカデの怪人を倒したがモニターには辛い表情をするマリアに心配そうにする調と切歌も蜘蛛男やさそり男の戦闘力を見て強い事を確信する。

 

 

 

何より、弦十郎を驚かせたのはマリアへの憎しみだった。

 

「随分と恨まれてるな、マリア」

「濡れ衣よ!…でもフロンティアの事を知っていて私が暴露したって事は…あれね」

「ああ、たぶんフロンティアのシステムを使って民衆に訴えた時に暴露したんだろ」

「それって板場さんたちが見たって言う?」

「うん。たぶん、ショッカーの居る世界のマリアさんがショッカーの存在を暴露したんだと思う」

「…たく、裏で暗躍してる組織はこんなのばっかりかよ」

 

カミキリキッドのマリアに対する怨嗟の声に引きながらもモニターを見る。

蛾の怪人の裏切り発言にこの時、裏切ったのかと予想する弦十郎や翼。

 

 

 

 

 

 

「奴は向こうの立花の命を狙ってるのか!?」

「………」

「どっちかと言うと私達の命も狙ってるみたい」

「虫にストーカーされるなんて嫌デス」

「どうやら、連中は元の世界での俺達と相当やり合ってるようだな」

「そんな事言ってる場合ですか!?急いで向こうの響を保護しないと!」

「向こうで居場所が特定出来れば…」

 

遠くのビルが崩れ驚くクリス達にカミキリキッドが言い放った言葉の内容にそれぞれ反応するが響は黙って見てるだけで、未来が向こうの響の保護を訴える。

しかし、向こうの特異災害対策機動部二課も響の行方を掴んでない為、ショッカーより先に見つけねばならないが怪人の襲撃に今回は会えずじまいとなった。

 

 

 

 

 

続けて映像を見ると誰もが息を飲む。カミキリキッドの強さが予想以上だったのだ。それこそ、先に戦った蜘蛛男やさそり男にムカデラスと比べられない程に。

破壊光線だけでなく火炎を吐き炎がビルやアスファルトを溶かして、力自体も人間を圧倒している。現に数に有利な筈の三人の装者は完全に押されていた。

更に純粋に体のみでクリスやマリアの攻撃を受け付けない防御力も目を見張るものがある。

 

「マリア達が一方的に押されてる!?」

「あの虫、どんだけ強いんですか!」

「似たような攻撃をする奴は居たが…」

「複数同時でこれだけ押されるとは…」

「アタシの弾丸もミサイルもハサミで潰された」

「あの怪物、相当強かったわ」

 

翼は並行世界の装者だが、クリスとマリアは今まで多くの激戦を戦い抜いた猛者でもある。

その二人が居てもカミキリキッドへの対応は後手に回りいい様にされていた。

 

「でも、二人には…」

()()()()()があるデス!」

「ボクの計算ではイグナイトならあの怪物も倒せる筈です」

 

押される三人を見ても、装者たちの顔色は明るかった。

切歌のイグナイト発言に金髪の少女が付け加えるように言うとそれぞれが顔を見合し頷く。

イグナイトは彼女達の切り札の一つである。

その証拠にモニターのクリスとマリアも自身のシンフォギアのペンダントに手を掛けた。

だが、次の瞬間にはカミキリキッドが撤退する映像だった。

 

「…退いたか」

「きっとマリアたちの迫力に恐れを出したデス!」

「でも、撤退命令とか言っていたけど…」

「この時にショッカーの内部でも何かあったんだろ」

 

マリアとクリスがイグナイトを使う前にカミキリキッドが撤退した事に残念がる切歌たち。

次の映像には特異災害対策機動部二課地下本部に通されるシーンである。

 

「はえぇ、潜水艦の前はこうなってたデスか」

「…懐かしいな、世界は変わろうと本部の内部は変わってないな」

 

ほんの少しの映像だが弦十郎を始めとした最初の特異災害対策機動部二課メンバーである翼も懐かしい物をみた気分になる。

 

「はあ?そんなもんデスか?」

「ああ、チビッ子は居なかったし知らないのも当然か」

「…クリス先輩、タマに意地悪」

 

旧本部の事を知らない切歌にクリスがそう返し調が頬を膨らませる。

その姿を見て口元がにやける響と未来。すこしだけ空気が和らいだ。

しかし、モニターの次のシーンで指令室の空気が緊張する。

 

「地獄大使!?」

「名前はふざけてるけど…モニター越しでも凄い迫力…」

「へ…変な被り物をした変な強面なオッサンデス」

「…違うよ切ちゃん、あの目や雰囲気…普通の人じゃない」

「ああ…少なくともあの身のこなし…ただ立ってるだけとはいえ只者ではない。それにしても大幹部自ら連絡するとは…」

 

切歌が強がりを言うが調が即座に訂正し弦十郎が地獄大使をただのコスプレ野郎ではないと感じた。

言葉には出さないが翼も地獄大使の姿を見て汗が一筋流れ、響も奥歯を噛み締める。響には分かった、目の前の男は今までの敵以上に話し合いが通じない事を。

そして地獄大使の声にも聞き覚えがあったのだ。

 

「夢の声と同じ…」

「…響」

 

そんな響を心配そうに見る未来。

そして、地獄大使の要求に更に憤る装者たち。

 

「…酷い!人をムシケラ扱い」

「今まで色々な悪党と戦ってきましたデスけど、ここまで悪い奴も珍しいデス!」

「最終目標は世界征服もアタシ等の嫌いなタイプだ」

「向こうの俺もアイツ等に手を貸すのは反対したか、ならばよし!」

「恐らくだが、例え連中に立花を引き渡しても約束を守るとは思えんな」

「同感ね」

 

ほんのわずかな時間だが、地獄大使の言葉と思想に辟易する一同。

他人をムシケラ扱いし巻き込もうと知った事ではない。

もし、彼女達に嫌いな物ランキングがあれば間違いなく上位を狙えるだろう。

 

 

 

 

 

こうして、地獄大使と向こうの特異災害対策機動部二課は交渉が頓挫し物別れとなる。

しかし、あおいの悲鳴に装者たちはビクッっと反応した。

 

「向こうのあおいさんが!?」

「既に敵が侵入している!?」

「…ショッカーは最初から交渉が頓挫するのを呼んでいたのか?」

「うぇ~、カエルみたいで気持ち悪い」

 

天井にぶら下がり舌を出してあおいの首を絞めて持ち上げる姿に引く装者がチラホラ居り、オペレーター席に座るこの世界の友里あおいも無意識に自身の首元を触る。

ショッカーの奇襲攻撃に驚いてしまう一同。

クリスが咄嗟にアームドギアを取り出して死神カメレオンの舌を撃ち抜きあおいを救出して指令室が安堵するが、それも直ぐに静まり返る。

たった一人の怪人に職員はおろか装者である翼やクリス、マリアも苦戦させられていた。

更には、死神カメレオンの舌が職員の胸を貫く度に同じ顔の職員が凍り付く。

 

「たった一人にここまで殺られるか!」

「動きがトリッキー過ぎデス!!」

「場所が場所だからマリア達がイグナイトを使えない!」

 

場所が地下である以上、クリスは火力を封じられマリアも自由に戦えない。向こうの翼もノイズとしか戦って来ておらず圧倒的に経験がない。

そして、問題は死神カメレオンの能力だ。

 

「ガリィ並みに器用な化け物ですね」

「ええ…戦いにくさは性根の腐った人形並みだったわ」

 

死神カメレオンの姿を消す能力に翻弄されていた。

いかに、歴戦を戦い抜いたクリスとマリアでも完全な奇襲攻撃に消える能力、力を発揮するには最悪な場所とあり、死神カメレオンの攻撃に傷を増やす。

人が殺される映像に装者たちが眉を顰める。

 

「…また殺されたデス!」

「アイツ等、アタシ等だけじゃなくて向こうの職員も皆殺しにしようとしてたんだ…」

「戦ってる時は必死で気付かなかったけど…酷いわね」

「…人って殺されるとああなるんだ。…ウッ!」

「いかん!子供が見て良い物ではない!」

 

クリスやマリア、向こうの翼だけが戦っていた訳ではない。

特異災害対策機動部二課には銃を持つ職員やエージェントが居り彼女達の為に援護しようとするが死神カメレオンが次々と殺していく。

舌で胸や頭を貫き、首の骨を折られるか引き千切られる。

今までノイズに殺された人達しか見た事がない装者にはショックが大きく調が口元を押さえる。

彼女達とて目の前で人が殺される事は多々あった。しかし、そのどれもが死体がそのまま残る事は無く大体が炭か死体事消えるか錬金術師が作ったアルカ・ノイズによって赤い煙のように消えてしまう位だ。

 

調の反応に弦十郎が装者たちの多くは未成年だと思い出し映像を切ろうとする。

 

「待ってください、師匠!」

「響くん!?」

 

響が弦十郎に待ったをかけた。

その目は弦十郎が見ても力強さを感じる程である。

 

「映像はこのままで、私達は…少なくとも私はこの先の映像を見ないといけない」

「響!?」

 

響の発言に未来も思わず響の名を叫ぶ。

未成年の少女には…成人していても人が殺される映像など見せてはいけない。

大人である弦十郎もそう判断してる。が、響の目から見える覚悟に弦十郎は頷く。

 

「…本気か?ノイズとは違い人間の死体が映ってるんだぞ」

「此処で目を逸らしたら私は多分後悔すると思うんです。奴等…ショッカーとの戦い方を少しでも知りたい」

「…そうね、私も連中と戦う為に見ておきましょ」

「…ならアタシもだ」

 

全員が全員、向こうの世界へ行ける訳が無い。防衛の為に何人かは残っていないといけない。

それでもこれから、先ショッカーとは何度となく戦う事を装者たちは確信する。ショッカーの目的に最終目標。何より、ショッカーの大幹部である地獄大使は自分達を抹殺しようとしたのだ。

 

「調、切歌…席を外しなさい」

「ああ、チビッ子には刺激が強すぎる」

「…嫌デス!」

「切ちゃんと同じ」

 

マリアとクリスが調と切歌に退席するよう言う。人間が何人も死ぬ映像を見て正直顔色も良くない。

自分達より更に年下の二人に残酷な映像を見せるのは酷だと判断してだ。

しかし、マリアやクリスの言葉に逆らう調と切歌にマリアの目が見開かれ二人を見る。

その事に弦十郎が溜息を付き頭を掻いた。

 

「…仕方ない、本当は俺達が無理にでも止めるべきだろうが…敵の情報を得る為だ。ただし、気分が悪くなったら直ぐに言うんだぞ」

「…!はい!」

 

響達の意志に根負けした弦十郎。

敵であるショッカーの情報を少しでも得たいのは弦十郎も同じだ。また、皆の視線がモニターに集まる。

 

 

 

「…こうしてるともどかしいデス」

「姿を消す能力。単純だけでやられると対策し辛い」

「こういう時は周り事吹っ飛ばせば楽なんだけどなぁ…」

「地下指令室が完全に仇になってるわね」

 

地下の決して広いとは言えない場所。

下手に火力を使えず逆に敵は縦横無尽の攻撃により職員とエージェントは殺され翼やマリア達に傷が増えていく。

響達も、このままではジリ貧かと思ったその時、モニターに異変が起こる。

 

「…天井から何か振って来た?」

「あれ水デスよ」

「水?そうか、スプリンクラーか!」

「見てぇ!カメレオン男の姿が!」

 

未来の声と共にモニター向こうの水が死神カメレオンの体を伝い流れ透明ながら姿を現す。

 

「そうか、カメレオン男は実際に消えてる訳じゃなく…」

「姿だけ決していた訳デスね!」

「重要な施設には基本的にはスプリンクラーが設置されている。地獄大使め、向こうの特異災害対策機動部二課を侮ったようだな」

「これも、向こうの友里あおいさんのお蔭よ」

「え?」

 

マリアの言葉にあおいが素っ頓狂な声を出した。

死神カメレオンの位置が特定された後は、翼やマリアにクリスの攻撃が次々と命中する。

数の差からいっても既に死神カメレオンに勝機が無いのは誰からも分かる。

 

「よし!そのままいくデス!」

「頑張って翼さんマリアさんクリス!」

「あ、カメレオン男が壁の中に体を入れた!?」

「そんな能力まであるのか!?」

「あっ、マリアさんが短剣をあの伸びる奴に変えてカメレオン男に巻き付けた!」

「アレって蛇腹って言うらしいよ、響」

「おお、マリアと翼が伸びた短剣を引っ張ってカメレオン男を引きずり出そうとしてるぞ!」

「…でも、中々引っ張り出せない」

「頑張るデス、マリア!…おお、二人がゴリラの力でカメレオン男を引きずり出したデス!「切歌、後でちょっとお話しましょうね♪」「そうだな、私も同行しよう」何故!?」

 

切歌の自爆を他所にモニターには宙を舞うカメレオン男にクリスが大型ミサイルを撃った。

 

「ちょ!?クリスちゃん!」

「あんなの撃ったら危ないんじゃ!」

「まあ、見てろって」

 

地下という狭い空間だろうと構わず大型ミサイルを撃った事で響や未来が目を見開きクリスに何か言おうとしたがクリスは自信満々な態度に頷くとモニターを見る。

映像には丁度、死神カメレオンが大型ミサイルに接触し、そのまま壁に挟まれ減り込む。

 

「爆発しないデス!?」

「雪音、あのミサイルは…」

「アタシが出したミサイルだぞ、爆発するかしないかはアタシが選べるんだよ」

「初めて聞いた!!」

「…まぁ、クリスの出したミサイルに乗る事が多いから…ね」

 

クリスの口から語られる衝撃の事実に響が絶叫しマリアがボソッと口にした。

緊急時、クリスの出すミサイルに乗って移動する事も多く、クリスがそういう細工をしていてもおかしくはないかと考える弦十郎たち。

 

「それは兎も角、カメレオン男を倒したか」

「そうですね、イグナイトを使用しなくても怪物を倒せました!」

「…倒せはしたんだ」

 

調と金髪の少女の声で本部を襲った死神カメレオンは倒された。

しかし、倒した本人であるクリスの顔はあまり喜んでいない。

その理由が直ぐに分かった。翼達はモニターの映像を見て絶句し、響は奥歯を噛み締め手を力強く握り締める。

 

「と…溶けてる?」

 

誰かの声が指令室で木霊した気がする一同。

クリスが倒した死神カメレオンに近づいた時、死神カメレオンの体は溶けて行き水の様に液体となり見るみるうちに体が崩れ最後には死神カメレオンの居た痕跡すら消えてしまった。

また、死神カメレオンが姿を消したのかと思いアームドギアを展開する翼たちだが、何時まで経っても攻撃が来ず死神カメレオンを倒したと判断した。

 

「あの爬虫類を倒した、で間違いないのか?」

「多分そうだと思う。一応カメレオン男の溶けた液体を持って帰ったけど…何か分かった?エルフナイン」

「…それが全く、分析した結果動物のDNAしか見つかりませんでした」

 

マリアが金髪の少女…エルフナインに回収した体液を渡していた。

それを元にして分析したエルフナインだが大した情報を得る事は出来なかった。

 

「あのカメレオン男もそうデスけど…まだ仲間が居るみたいデス」

「うん、自分より強い怪人軍団がまだ居るって」

「怪人…」

「それが敵の構成員の名か、怪しい人物と書いて怪人ならこれ以上合う名前はないだろう」

「それで、指令。増員をお願い出来るかしら?」

「アタシ等だけじゃ少し厳しいそうなんだ」

 

映像を全て見終わった指令室では、電気が付き周りが明るくなる。

そして、マリアとクリスが向こうの世界での活動で人手を出して欲しいと言う。

ただのノイズだけならまだいい。ショッカーと言う世界征服を企む組織が出た以上、向こうの翼だけでは荷が重くこの先の戦いで勝てるか不明だった。

その事は弦十郎とて理解している。しかし、弦十郎もおいそれとは頷けない理由があった。

 

「…正直、増員は難しい。ノイズの出現が予想以上で、協力者に過ぎない未来くんすら無理に出て貰っているのが現状だ」

「…そう」

「…暫くはアタシ等だけか」

 

完全聖遺物ギャラルホルンが起動しシンフォギア装者は並行世界に行ける様になった。一見、良い事の様に思えるが問題がある。

並行世界のノイズが無尽蔵に現れるようになったのだ。

シンフォギアでなければノイズとの戦闘は絶望的であり、元々特異災害対策機動部二課も対ノイズを想定し組織され国連に移籍し名前を変えても本質は変わらぬままであった。

人類守護。それが響たちの使命とも言える。

 

だからこそ、自分達の世界を放置する事は出来ない。それはマリアやクリスだけでなく皆、分かってることである。

 

「…師匠、なら私が」

「響!?」

 

出せる戦力が無いと言おうとした弦十郎だったが、其処に響が自ら名乗り出て傍に居た未来が驚く。

未来だけではない、周りに居た装者達も目を見開いていた。

 

「無茶だ、響くんは病み上がりですらないんだぞ!」

 

弦十郎の声が指令室に木霊して何人かの装者が首を縦に振る。

響が再び倒れ数日も経っていない上に映像を見続け疲れたのか調や切歌並みに顔色が悪い。

 

「平気…へっちゃら…です」

「何処がだよ!?」

「指令の言う通り無茶をするな、立花!」

「でも…」

「…暫くは様子見だ、ノイズの出現が落ち着いた頃を見計らって援軍を送る。悪いが二人は少し休んだ後また言ってくれるか?」

「ええ」

「任せとけ」

 

体調の戻らない響の強がりに弦十郎はこの話を打ち切る。

フラつく響は未来が医務室へと運びクリスとマリアは仮眠室で休む事にする。切歌と調もマリア達に付いて行った。

皆の様子を見続けた弦十郎は思わず溜息を付く。

 

「…辛いものだ」

「やはり戦力は回せそうにないんですか?」

「ない袖は振れぬとはよく言うものだ。本当に俺が若い頃はもっと色々出来ると思っていたが…」

 

弦十郎としても、出来れば困ってる人々を助け世界征服を企むショッカーを潰したいとも思ってる。

しかし、その為に自分達の世界を危機に晒す事も出来ない。

結局、自分は安全な場所で年端も行かない少女たちに命令する事しか出来ない事を苦々しく思わざるえなかった。

 

 

 

 

 

 

そして、翼も指令室を出た後に暫しの沈黙が辺りを支配する。

 

 

「それにしても、秘密結社ショッカーか。データは?」

「駄目ですね、何も引っ掛かりません」

「此方も同じく」

 

沈黙を破ったのは弦十郎だ。

組織の名前を知り弦十郎は改めてオペレーターの藤尭朔也と友里あおいに何か分かったか聞いたが帰って来た答えは弦十郎の期待通りではない。

二人が幾ら探ろうと、ショッカーという存在や怪人など全く出てこない。せいぜい、パヴァリア光明結社のノーブルレッドがそれに近いがショッカーのように此処まで人外の姿をしていない。

エージェント達にも調査はさせているが、存在自体してないようで自分達の世界には存在しないとしてホッとする弦十郎と上層部。

 

「指令、戻りました!」

 

丁度、その時調査部に所属してる緒川が戻って来る。

緒川には別の方法で色々調べて貰っていた。

 

「調査した結果ですが、ショッカーという秘密結社は確認できず、地獄大使を名乗る男の正体も不明でした」

「…そうか、なら俺達の世界には居ないと考えていいか」

 

緒川の報告にホッと胸を撫でおろす弦十郎。

弦十郎の心配は自分達の世界にもショッカーと呼ばれる秘密結社が存在する可能性だった。

もし自分達の世界にもショッカーが存在するのなら無視する事はできない。そう考えた弦十郎はオペレーター達や緒川に調べさせていた。

その結果、ショッカーの影も形もない事に安堵し並行世界に集中できる。尤も、秘密結社である以上あまり油断も出来ないが

 

「ボクやキャロルの記憶にもショッカーと言う言葉は聞いた事ありません」

 

暫く考え事をしていたエルフナインもショッカーと言う組織を聞いた事ないと発言し弦十郎は目の前の事に集中する事にする。即ち、並行世界の問題だった。

 

━━━…だが少々気になる。カメレオン男が言っていた「シンフォギア装者などもういらん」とはどういう意味だ。…まさか、ショッカーにもシンフォギアを使う少女が居るのか!?

 

戦闘中に死神カメレオンが発した言葉が気になる弦十郎。

答えが出ないまま弦十郎は報告者や上層部に今回の事を説明しに行った。

 

この日、特異災害対策機動部二課改め国連直轄Squad of Nexus Guardians…縮めて「S.O.N.G」は並行世界に存在する組織、秘密結社ショッカーを知る。しかし、現状彼らに出来る事は何もない。

引き続きクリスとマリアが対処に当たるが現状増援を出すのは難しくノイズの出現が治まって来てからと考えられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「痛っ!?沁みる!!」

「動かないで傷の手当てが出来ない」

 

少女の悲鳴が漏れると共に少女と同じ声がジッとしているよう言い、少女は断続的な短い悲鳴を漏らす。

此処は、とある学院の寮であり戻って来たばかりの二人の少女は怪我をしてる方の少女に常備薬の傷薬を塗っていた。

二人の正体はサボテグロンとドクモンドと戦った並行世界の響とこの世界のヒビキだ。

 

帰宅後、響がヒビキの体の傷に気付き部屋に設置されていた常備薬を使い傷の手当てをする。

最初は抵抗していたヒビキもドクモンドに地面に叩きつけられた痛みがぶり返して結局折れることになる。

内出血したのか、背中の一部が青くなってるが其処まで重症ではないと判断して響は簡単に包帯も巻いていく。

 

「ねえ…」

「ん?何?」

「…ショッカーの事を教えて」

 

包帯を巻いてる途中にヒビキは響に語りだす。沈黙に耐えられなかったのか単純に知りたいだけかヒビキの口から「ショッカーを教えて欲しい」と言われ響は言葉を詰まらせる。

 

「………」

「お願い…今回の事で私も連中に狙われるのが確定した…少しでも情報が欲しい」

「…分かった。でも私も全部知ってる訳じゃないけど…」

 

ヒビキの覚悟に響は頷きゆっくりと自分とショッカーの因縁を話す。尤も、自分が拉致され改造人間にされたのは伏せてるが、

響の口から出て来るショッカーの情報にヒビキは度肝を抜かれる。殆どが予想以上だったからだ

 

「地獄大使や首領だけじゃなくてゾル大佐に死神博士って言う大幹部まで居て…。全ての人間を改造人間にして世界を手に入れようとしていて邪魔な奴等は皆殺し…」

「私の居た世界でも暴れまわってた。奴等の所為で殺された人は百や千じゃ済まかったよ」

 

ヒビキの予想以上に凶悪な組織であるショッカー。それでも響が向こうで勝ち続けた事に関心もしている。

 

「私の世界に居た翼さんやクリスちゃんが一緒に戦ってくれて凶悪な怪人軍団も撃破出来たんだ」

「…ふぅーん」

 

ヒビキの脳裏に翼と言う人物は特異災害対策機動部二課の風鳴翼だと考えたがクリスと言う名前に心当たりはない。

暫くは別世界の自分と共闘すると考えるヒビキ。

 

「…ねえ、もう一人の私」

「…なに?」

「特異災害対策機動部二課に行く気はない?」

「…嫌」

 

暫く黙っていたヒビキだったが、口から出た言葉は拒絶だった。

 

「…悪いけど私はまだ、他人を信用できない。それに前に風鳴翼さんの言葉を無視して…今は会わせる顔がない」

「そう」

 

他人への不信感により他者を拒絶するヒビキ。本人も本当は特異災害対策機動部二課に合流出来れば心強い味方になるかもとは思うが、まだ他者を信用する事は出来ない。

尤も、話を振った響も内心ホッとしていた。

もしヒビキが乗り気で特異災害対策機動部二課に行けば言い出しっぺの自分も行かなければならず、体の秘密を知られる可能性が高い。

そうなれば、自分を人間扱いしてくれるか不明だ。

 

━━━変に同情されるのも嫌だな…

 

だがそれ以上に他者が自分を可哀そうな物を見るような視線は嫌だった。

ショッカーから逃げ出し特異災害対策機動部二課に保護された時も疑いの目を向けられた事もあるが、それ以上に同情の視線があった。

多分悪気は無いのだろうが同情するような視線だけは響は慣れなかった。内心、元の世界に帰りたいと思いつつ自身の胸元に触れる。

 

結局、響はショッカーの説明をしてその日を終えた。自分が拉致され改造人間にされた事を隠していたのは心が痛かったが何れはヒビキにも打ち明けるつもりだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

日本、某所

普段は車が行き交う高速道路。だが、現在は別の物が走っている。人だ。

老若男女問わず、皆何かから必死に逃げ出そうとして、自衛隊や警察が避難民が行く方とは逆方向に銃などを撃っている。

銃を撃つ先に居たのはノイズだ。

 

「皆さん、こっちに避難してください!!」

 

自衛隊の人間が拡声器を持って人々を避難誘導している。彼らは突如出現したノイズから避難していたのだ。

此処が東京ならばノイズと戦えるシンフォギア装者の風鳴翼が来てくれるが、あいにく此処は都内ではない。

ノイズは人類を脅かす認定特異災害。つまり災害であり何処で出現するのかは分からない。

それは、当然シンフォギア装者の手の届かない場所にも出現する。そうなれば一般人は逃げ警察や自衛隊がノイズの相手をするしかない。

 

「バスが来たぞ!!」

 

警察官の一人がそう叫んだ。

避難民たちや別の警官が見ると何台ものバスが此方に近づいてくる。

 

「やった、バスだ!政府が俺達を助けに来てくれたんだ!」

 

背広を着て外回りしていたと思しきサラリーマンが歓喜の声を出す。一般人にとってノイズは死、そのものであり恐怖は並みではなかった。

正直、バスの速度でノイズから逃げ切れるかは疑問ではあるが走るよりはマシと言えた。

 

そして、バスに合流した一般人たちは次々と乗車してその場を離れて行く。

 

「我々が時間を稼ぎます。その間に!」

「…分かりました」

 

自衛隊の一人が運転手にそう言うと、その場を後にしバスの扉が閉まる。

そして、ゆっくりと発信してその場を後にした。

 

この時誰もが気付かなかった。バスの運転手たちが邪悪な笑みを浮かべていたのを。

 

その後、自衛隊と警官隊の活躍で多数の殉教者を出しながらもノイズの撃退に成功した。

それは良かったのだが問題もある。

百人近い避難民を乗せた何台ものバスが行方不明になった。そして、警察が調べると政府どころか何処のバス会社もバスを出した記録が無かった。

 

 

 

 

 

 

 




何だか総集編みたいな流れに。
XD世界でのS.O.N.G関係者に怪人達を見た反応が書きたかった。
そして、いずれは本編の響の悲劇もS.O.N.G関係者が知る事に…。
尚、直ぐには援軍を増やせない模様。

響達の方はまだ積極的に特異災害対策機動部二課に接触しません。

シンフォギアって基本死体は残りませんよね。せいぜい、ガリィに吸い殺された連中やノーブルレッドのミラアルクが翼を挑発する為に少女や訃堂が撃った八紘ぐらいか。

XD本編は何処まで終わらせるべきか?
いっそ、XV全て終わらせといてゲルショッカー編でキャロルやパヴァリア光明結社の事を伝えて対策しようとするけどデストロンやGOD機関が出現しておじゃんの方が面白いか?


特異災害対策機動部二課時代にノイズが地方とかに出ていた場合どうしてたんだろうか?
S.O.N.Gなら潜水艦が本部ごと移動できるし装者をミサイルで撃ち出せるけど、東京の地下でそんな事出来るか?
と思ったら、一話でヘリ使ってた。でも、未来曰く直ぐ近くだったらしいけど。


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83話 私達の街を狙う黒い影

 

 

 

そこまで広い通路と言えない廊下。

そんな廊下にも何人もの人間が行き来し、何か作業をしている。

 

「オーラーイ!オーラーイ!」

「誰かレンチを取ってくれ!!」

「隔壁は其処じゃない!もう少し奥の方だ!」

 

あちらこちらで溶接や配線の接続をし、果てには大きな鉄の塊を一定場所に設置などもしていた。

彼らは、破壊された施設の修理と警備強化をしているのだ。その証拠に隔壁が幾つも設置されている。

 

「…忙しそうだな」

「しょうがないわ、敵に侵入を許したんだから」

 

そんな作業を横目に二人の人間が奥を歩いている。

クリスとマリアだ。元の世界で報告を終え休んだ後にまた、この世界に来ていた。

途中何度か、足止めを食らう中、予定より大幅に遅れて指令室へと来た。

 

「…あ、お二人さん、こんにちは…」

「…マリアさん、雪音さんいらっしゃい」

 

「え…ええ」

 

指令室に入った直後にオペレーター席に座る藤尭朔也と友里あおいがいらっしゃいと歓迎する。

尤も、二人の顔を見たクリスとマリアは絶句していた。何故なら、

 

「…凄いクマだな」

 

藤尭朔也と友里あおいも目の下にハッキリとしたクマが出来、目も血走っている。

恐らく、死神カメレオンの襲撃から碌に寝ていないのが分かる。

 

「ははは…スプリンクラーの所為で殆どのデータが吹き飛んで…」

「その復旧に手古摺ってるのよ。後先考えずスプリンクラーなんて使わない方が良いわね…」

 

特異災害対策機動部二課のパソコン類の殆どが水を被った。その結果、三分の一のコンピューターが壊れ七割近いデータも吹き飛んだ。

通信システムは勿論、職員のデータや食堂のデータに重要機密など様々だが一番痛いのは聖遺物の実験データや聖遺物に関するデータだ。

幸い、聖遺物の殆どは別の場所に保管されてるがやはり実験データが飛んだのは痛い。

 

藤尭朔也も友里あおいも手元にあるエナジードリンクを飲んでクリスとマリアを見る。若干引き気味のクリスとマリア。

 

「さっき通信システムの復旧がやっと終わってね…」

「…吹き飛んだデータのサルベージにどの位時間が掛かるかしら…」

「あ…はい」

 

二人の迫力に押され思わず返事をするクリス。マリアも汗を掻きつつ指令室の様子を見る。

其処には藤尭朔也や友里あおいの様にデータを打ち込む職員や、死神カメレオンとの戦闘で壊された機器の取り換えなどもしている。

忙しそうにしてる彼らを見ても何もできない二人は苦笑するしかない。

 

「戻った、ん?もう来てたのか」

「お、オッサンとアンタか」

 

二人が復旧中の指令室を見ていると指令室のドアが開き返事が聞こえる。

振り向くと司令官である風鳴弦十郎と翼が一緒に入って来た。

 

「あら、その恰好…」

 

マリアが珍しい物を見た風に口を開く。マリアの視線の先には何時もの腕まくりした赤シャツではなくちゃんとした黒スーツを着ている。

 

「ん?これか、上の連中の説明と殺された職員の家族に会ってたんだ」

「殺された…」

 

死神カメレオンとの戦闘に十人以上の職員やエージェントが殺された。

仕事上、ノイズの事件も扱う為に殉職は其処まで珍しい事ではない。しかし、未知の怪物と目される怪人に殺されたのだ。

守秘義務はあるが最低限の説明の為に弦十郎が遺族に頭を下げに行っていた。

 

「そう、遺族に…」

「尤も家族を殺された生き残りがノイズを殺す手伝いをする為に回された人員も多いんだがな…」

「そんな事、初めて知ったぞ!」

「君達の世界はどうかは知らないが特異災害対策機動部二課はあまり表沙汰に出来る組織ではないのは知っているだろう。その関係上、家族が居ない天涯孤独な職員やエージェントも多いんだ」

 

特異災害対策機動部二課とて、要は公務員である。基本的な仕事は政府の代わりにノイズを倒したり聖遺物の実験などを行っている。

決して安全とは言えないが人類守護の為の組織であり、政治家の顔色も窺わねばならない。

そして、其処で働く以上ノイズや聖遺物関係で殉職する事も珍しくはない。

大体が家族の居ない職員だが家族が残ってる場合は政府が支援する事も多い。

 

『何を呑気に話しておるのか、それでも特異災害対策機動部二課の司令官か!愚息よ!』

「「「「!?」」」」

 

弦十郎の説明を聞いていた一同だが突然通信機に老人の声が響き皆がモニターに目を移す。

瞬間、モニターに着物を着た白髪の長髪をし顎髭を蓄えた老人が映る。

 

「チッ!」

「風鳴…訃堂…」

「御祖父様!!」

 

クリスとマリアは通信相手の正体に露骨に顔を顰め翼が大きな声で御祖父様と呼ぶ。

弦十郎も突然の通信に目が点となり、その反応に訃堂の機嫌は増々悪くなった。

 

「な…何故、アナタが…」

『護国の砦たる特異災害対策機動部二課の指令室に敵を招き、剰え怪しげな小娘どもに撃退させるとは…やはり、お前に司令官をやらすのは間違いだったか!!』

 

訃堂の言葉にクリスとマリアは内心舌打ちをし、弦十郎は汗を掻き訃堂の文句を聞く。

 

「ま、待ってください!御祖父様!そもそも、指令室に侵入した敵を倒した二人をその様に言うのは…」

果敢無き哉(はかなきかな)!今回の出来事もそうだが、その小娘たちが来てから明らかにおかしかろう!並行世界から来たなどと、噓八百の可能性もあろうがっ!!」

「何だと!!」

 

翼が弁明しようとした時、訃堂はクリスとマリアに視線を向けて言い放ちクリスが文句を言う。

 

「もう一回行ってみろ!クソ爺!!」

『何度でも言ってやる!貴様らが並行世界から来た言うペテンを吐き、特異災害対策機動部二課を潰し日本を薄汚いアメリカの影響下に置こうとしてるのではないのか!?そもそも、ショッカーとやらもお前達が手引きしていたのではないか!?』

「御祖父様!!」

 

訃堂の言葉に思わず翼が激高の言葉が出る。

翼としては、並行世界から来て自分達の手助けをしてくれてる客人にその言い方は無いと思ってだ。

しかし、

 

━━━風鳴訃堂の考えも尤もね…

 

マリアは内心、訃堂の考えも理解出来ていた。

翼が一人、ノイズと戦ってる時に所属不明のシンフォギア装者が二人も現れ「自分達は並行世界から来た」と言い、ノイズ退治の協力をしてくれるのだ。

ありがたいが怪しい事この上ない。

更に、同時期に同じく並行世界から来たと言う秘密結社ショッカーが現れたのだ。

疑うなと言うのが無理である。

 

『今回の損失から出た人員は風鳴機関から出してやる。ありがたいと思うんだな』

「風鳴機関!しかし、それは…」

「爺さんの手駒かよ」

「要は私達の監視ってところね」

 

訃堂の人員を出すと言う言葉に眉を顰める一同。

風鳴機関の者、即ち風鳴訃堂の息のかかった人間と言う事だ。

出来れば拒否したい弦十郎だったが、大量に死人が出た以上、急ぎ人材の補充をしなければならず、また訃堂がわざわざ出してやると言っている以上即戦力の可能性も高く結局弦十郎に断る術は無かった。

 

『まったく、鍛錬もせず頭ばかりの愚息め!いい加減、ガラクタ作りは止めて一から鍛えろ!!』

「ガラクタッ!?ガラクタとは何ですか!!」

 

「また始まった…」

 

いよいよ話を終わりに差し掛かった頃に訃堂の口からガラクタと言う言葉が弦十郎に火をつけた。

通信越しでの二人の口論が始まり翼が呆れた目をする。

その事に目が点となるクリスと翼。

 

「おい、何だよ…」

「ガラクタがどうのって聞こえたけど…」

「…あれでも叔父様は、技術者で発明家でな、趣味が機械いじりや発明で特許を幾つもとっているんだ。御祖父様はそれが気に入らないようで…」

 

『ガラクタをガラクタと言って何が悪い!?悔しければ護国の役に立つ物を作ってみろ!』

「作ってもアナタが認めないんでしょうが!!」

 

「成程…」

「ハア…」

 

翼の説明を聞いて同じく溜息を付くクリスとマリア。

訃堂としては風鳴の家に生まれた以上、護国の為に尽くし体を鍛えて強くなって欲しかった。

対して弦十郎は、最低限鍛えただけで頭脳を生かし様々な発明をして護国の役に立とうとしたが、訃堂は弦十郎の発明品を悉くガラクタ扱いにして両者の仲はかなり悪かった。

 

クリスもマリアも翼と同じく呆れた目で二人の口論を見守った。下手に介入して仲が更に拗れる可能性もそうだが、翼曰く両者ともそこまで相手を憎んではいないそうだ。

 

━━━ぜってぇ嘘だろ

━━━少なくとも風鳴訃堂は本気で罵ってないかしら?

 

元の世界での訃堂の行いややらかしを知っている二人は信じてはいなかったが。

その後、訃堂と弦十郎の口論を冷めた目で見ていたクリスとマリア。

訃堂もやっと気が済んだのか別の話題を出す。

 

「避難民が行方不明?」

『そうだ、生き残った自衛隊員が言うには避難用のバスが来て民間人全てが乗ったそうだが、何処にもバスから降りた者が見つからんず、それどころか、そのバス自体誰が寄越したのかも不明よ』

 

訃堂が話した内容、それは昨日起こった不可思議な事件。

数台のバスが百人近い住民を乗せ行方不明となったのだ。これには特異災害対策機動部二課も寝耳に水である。

 

「そんな話初めて知りました!」

『通信機も壊されてたのだ、当たり前だ』

 

翼の言葉に訃堂が言い捨てる。特異災害対策機動部二課の通信機が無事ならば弦十郎たちの耳にも入っていた可能性が高い情報だ。

 

「…で?何でその事をアタシ等に聞かせた?」

『ふん!ワシとしては護国と関係もない少数の民間人が行方不明になろうが死のうがどうでもいい。…だが、その裏に世界征服を目論むショッカーと言う連中が居るのなら面白くない。それだけだ』

 

そう言い捨てると訃堂は通信を切り静寂な空気が指令室に流れる。

 

「…ちっ、本当に護国以外どうでもいいんだな」

「そうでもなさそうよ、少なくともあの老人にはショッカーは邪魔な存在のようね」

 

舌打ちするクリスにマリアがそう返事する。

何しろ目的の為には万を超える民間人を犠牲にする事だって躊躇わない訃堂()だ。

そんな男がわざわざ通信で教えて来た以上、放置する事も出来ない。

 

「それにしてもバスだと?大胆な連中だ」

「連れ去った人々に何をするつもりだ」

「分かんねえけど…きっと碌な事じゃないぜ」

 

ノイズが一般人を攫う筈がなく、人を赤い煙に変えるアルカ・ノイズもこの世界には無い。

そうなれば、必然的に人々を攫ったのはショッカーの可能性が高い。

 

翼やマリア達が話をしてる途中、突如指令室に警報が鳴り響く。

 

「ノイズが出現!場所は…〇〇高速付近です!」

「おい、その場所って…」

「ええ、避難民たちが行方不明になったのも高速道路よ。場所は昨日より幾分か東京に近いわ」

「また、多数の避難民が高速道路を伝って避難してるようです!」

「この程度の距離ならヘリで十分間に合う。ショッカーが出て来るかも知れん、君達も出てくれるか?」

 

弦十郎の言葉に頷くクリスとマリア。

その直後に翼たちは弦十郎の用意した特異災害対策機動部二課のヘリに乗り込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同じ頃

昼間という事で人通りの多い街中。

仕事の為の外出だったり、用事があって歩く者。または学生なども多くが通行している。

そんな、街中に二人の影が動く。

 

「…あんなお店会ったかなぁ?」

「そんなにキョロキョロしてるとお上りさんみたいだけど…」

 

言わずと知れた二人の響だ。

ヒビキの方は何時もの灰色のパーカーにフードを目深く被り、響はこの世界に来た時の服装で歩いている。

因みに、響の服装は元の世界で未来やクリスと買った普段着だ。

部屋に籠ってばかりでは気が滅入ると響に言われ渋々外に出たヒビキ。出たのは良いが人通りの多い街中を歩きながらキョロキョロする響にヒビキが注意した。

 

「あ…ごめん」

 

心無しに燥いでいた響もその言葉に何とか落ち着く。その様子に溜息を付いたヒビキは響に疑問をぶつける。

 

「街の様子なんて大して違いは無いでしょ。アンタの世界では違ったの?」

「それは…」

 

ヒビキにとって、東京の街は見慣れてる上に今は2040年代だ。昔より色々便利にはなっただろうが響が珍しがる程でも無いと思っていた。

一方、響の方は街中を誰かと歩く事自体数える程しかなく、何より…

 

「今は隕石の所為で街もボロボロに…」

「…あの話…本当だったの」

 

死神博士との戦いで強行された流れ星作戦。

その影響で隕石が世界中に落とされ、当然日本も無傷では済まなかった。

地獄大使の居る基地へ移動中にチラッと見えたが街の悉くが廃墟となりその傍らには住む家を失った人々が政府の配給品に群がる光景を見ていた。

それでも、海外と比べれば日本は大分マシだと聞いている。

 

「………」

「………」

 

響の話を聞いてから二人は喋らず歩き続ける。何となく空気が重い感じもしていた。

 

━━━困ったなぁ…話が途切れちゃったよ。昔の私なら結構喋れてた筈なんだけど…あれ?この辺って…

 

「ねえ、もう一人の私」

「…なに?」

「お腹空かない?」

 

 

 

 

 

 

 

「あったあった、やっぱりこの世界でもあるんだね」

 

ヒビキの手を引っ張った響は商店街の方を歩き目的の店に到着する。

その店の名は、

 

「ふらわー?」

 

よく未来や創世たちと行っていたお好み焼き屋「ふらわー」だった。

響は街中を歩いてる時にふらわーの道順を思い出しヒビキを連れて一緒に来たのだ。響としては、正直同じ場所にふらわーがあるかどうかは半信半疑だった。

そこでもし、ふらわーが存在しなかったらそれはそれでヒビキに謝罪しただろう。

 

「うん!私が居た世界じゃ友達も絶賛していて美味しいんだって」

「? そう、でも残念だけど私はお腹なんて空いて…グウウウウゥゥゥゥゥ…」

 

響の言葉に若干引っ掛かりを覚えるヒビキだが今はそんなに気になれず、体よく断ろうとした時、丁度匂いに当てられたのかヒビキの腹部から合図が出てヒビキは何も言えなくなる。

響はこの事を見越していた。部屋に居る時もヒビキは簡単な軽食を摂るだけで済ましてしまい、響はまるで無理なダイエットをしてる様に見えて心配だった。

結局、ヒビキは響に腕を引っ張られ中へと入った。

 

「いらっしゃい!あら、初めて見る顔ね。奥の席にどうぞ」

 

ふらわーの中は響の記憶通りのおばちゃんが元気にお好み焼きを焼いておりサラリーマンや学生が一人ずつ居た。

 

「おばちゃん、豚玉一つ下さい!」

「あいよ!」

 

響の声におばちゃんは元気そうに返事をする。

二人が席に座るとジューと言う焼き音と香ばしい匂いがしてきてヒビキも思わず生唾を飲み込む。

そして、数分もしない内に二人の前に大きめのお好み焼きが運ばれる。

 

「はいよ、豚玉一丁!」

「…大きい」

「…相変わらず美味しそう、切ってあげるね」

 

そう言って、響は備え付けられていたヘラを使い丁寧に豚玉を切り分けヒビキの前に持って行く。

豚玉を目の前にしたヒビキは箸を掴んで切り分けられた豚玉を持ち上げ目の前に掲げた。

 

「いただきます…!」

 

あの事件以来、家を離れたヒビキが久しぶりに「いただきます」と言った事を思い出すと共に口に入れた豚玉に衝撃を受ける。

熱い!確かに豚玉の熱さにヒビキの口の中は火事のように熱い。がそれ以上に

 

「…美味しい」

 

久しく味わってなかった旨味にヒビキは夢中となった。家を出て寮に暮らして以来、ヒビキは腹いっぱい食べる事がなかった。

腹に入れてもツヴァイウイングの悲劇後の悪夢に何度も吐いてしまい、それ以来ヒビキは簡単な携帯食などで少しだけ腹に入れてるだけだった。

 

だからこそ久しく忘れていた美味しいという情報にヒビキは人目を憚らず目の前の豚玉を食らい尽くす。

直後に響が切り分けた豚玉を渡してそれも貪り喰らう。その際にソースや食べかすが服に散らかるがお構いなしで響も少し驚いていた。

その様子はふらわーのおばちゃんも舌を巻く程だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

高速道路。

道沿いには友里あおいが言った通りノイズから逃げる多数の避難民が移動している。

その避難民を誘導するのは特異災害対策機動部の黒服たちと多数の自衛隊員だ。

 

「急げ急げ!ノイズの数は少ないとは言えこっちに迫って来てるぞ」

「少しでも時間を稼げ!」

 

避難する人達を誘導しつつ持ってる銃を撃つ自衛隊員たち。

尤も、ノイズの位相差障壁の前に銃弾は通り過ぎるだけだ。それでも自衛隊員たちは僅かでも時間稼ぎの為に撃ち続けていく。

このままノイズに接触され炭化するかと覚悟した時だった。

上空からヘリの飛ぶ音が聞こえると共に青い幾つもの剣がノイズを貫いていく。

 

「特異災害対策機動部だ!彼女が来てくれたぞ!」

 

自衛隊員から歓喜の言葉が響いた。

 

 

 

 

「報告通りならノイズの数は多くはない。私一人でも問題は無い、お前達は避難民の方に」

「ああ」

「了解よ」

 

ヘリの中で翼はノイズは自分だけで対処すると言いクリスとマリアは万が一にと避難民の護衛をする事になりそれぞれがヘリを飛び出す。

 

「この程度の数なら!」

 

ヘリから飛び出す翼はそのままノイズの方に飛び、次々とノイズを切り捨てていく。

クリスとマリアの目から見ても本当に一人だ大丈夫そうだと判断した。

 

「おお、流石先輩だ」

「…感心してる場合じゃないわよ」

 

マリアの目に避難民の方に向かって行くバス群を捉えた。

念の為、特異災害対策機動部二課の本部に連絡しようとするが、

 

「繋がんない?修理は終わった筈じゃ…」

「…間違いない、妨害電波よ」

 

幾ら通信しようと繋がらない。その事にマリアが妨害電波と予想すると同時に現れたバスの正体も分かった。

何しろ、あのバス群が現れてから通信が不可能になったのだ。

そして、バスの一台がマリアたちの前に止まった。

 

「こちら、政府から派遣されました。急いでバスに乗って避難しますよ」

「それはありがたい」

「やったぁ!助かるぞ俺達」

 

バスから降りた運転手の言葉に自衛隊員と避難民が喜ぶ。ノイズから逃げる為に自分達の町を捨てたり避難民の保護や護衛をしていた自衛隊員も肩の荷が下りたと思ったのだ。

このまま避難民たちがバスに乗ろうとした。が、

 

「待って貰おうかしら」

 

マリア達が呼び止め黒服が避難民たちを抑える。

今まで、共にノイズを牽制した黒服たちの行動に自衛隊員も避難民たちも目が点となる。

 

「何か問題でも」

「ちょっと聞きたい事があっただけよ。あなた達、誰の要請で来たのかしら?」

「可笑しな事を聞きますね、〇〇大臣ですよ」

「なら命令書も持ってるわよね。見せて貰えるかしら」

「………」

 

バスの運転手から聞いた政治家はマリアも知っている相手だった。ならばと、命令書を見せろと迫る。

その言葉に運転手は黙秘した。

 

「どうしたのかしら、見せて貰えるわよね。本当にそんな要請がされていたら」

「マリア!」

 

すると、他のバスに移動していたクリスが大声を出してマリアの名を呼ぶ。

その手にはバスの運転手と同じ格好をした案山子が引っ張られていた。

 

「他の運転手は存在しない!ソイツ以外は全て人形だ!」

「…これは如何言う事かしら」

 

クリスとマリアの行動に混乱する避難民たち。それとは別に運転手に銃を向ける黒服たち。

マリアとしては、バスの関係者をハッキリさせる為にクリスに別のバスを調べてもらっれ居たが一人以外全部が人形だとは思わなかった。

 

「フフフ…ハッハハハハハハハハ…ウルルルルルルル!!」

 

突然、笑い出した運転手は被っていた帽子を取り外しゆっくりと顔の前に持ってくる。

瞬間、運転手の姿から緑色の肌に白く大きく飛び出した目玉、首元に蛇が巻かれた怪人が現れた。

 

「蛇!?」

「ば、化け物だ!!」

「撃てぇぇぇ!!」

 

正体を現した怪人を見てパニックになる避難民たち。対照的に怪人の姿になった運転手に銃弾を浴びせる自衛隊員と黒服たち。

直後、マリアは嫌な予感を感じ飛び上がった。瞬間、白い煙が黒服や自衛隊員を飲み込んだ。

 

「「「「うわああああああああああああ!!」」」」

「!?」

 

白い煙を浴びた者達は次々と倒れていく。

マリアやクリスが助けようとするが、

 

「なっ!?」

「溶けてる!?」

 

煙を浴びた者の体が崩れまるで燃える発泡スチロールのように溶けてしまう。

あまりの事態に茫然とするクリスとマリア。

 

「攫えんのならばもういらん。この海蛇男様が貴様ら諸共地獄に送ってやるぅ!!」

 

自らを海蛇男と名乗った怪人が白い目でマリアたちを睨みつける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ごちそうさま」

 

結局、響が切り分けた豚玉を全て平らげたヒビキは水を飲んでやっと落ち着いた。

久しぶりに感じる満腹感に満たされるヒビキはグッと伸びをする。

 

「アンタ凄い食べっぷりだね、見ていて気持ちよかったよ。何だったらもう幾つか焼いてあげようか?サービスするよ」

「…いえ、もうお腹いっぱいで…ありがとうございます」

 

ヒビキの食べっぷりにお好み焼きを焼いていたおばちゃんも気分が良くヒビキにお代わりをするか聞いて来た。

尤も、今まで小食で過ごしていたヒビキの胃は一杯一杯で丁寧に断る。

自分と居た時は目が座り不満顔だった表情が今は満足感に満たされ見ていた響は少しだけ笑い来てよかったと思う。

 

「ふら、口の端にソースが付いてるよ。…口に端どころじゃないけどね…」

「ありがとう。うわ、手や袖とかにも付いてる」

 

がっついた事でソースで口元や手を汚したヒビキに響が御手拭きを渡し拭き取ると改めて自身の服にソースが飛び散ってる事に気付く。

ふう、と息を吐いたヒビキが熱さの所為か食べた事によって発生した汗を拭う為、フードから顔を出した。

 

「あら?アンタたち似てるね。双子かい?」

 

フードを外したヒビキの顔を見てそう聞いたおばちゃん。

当然だ。響とヒビキは同じ顔で同じ背丈だ。事情が分からない人が見れば双子と勘違いする程に。

 

「い、いえ違います。その…親戚です、親戚」

 

おばちゃんの反応に響がそう言い切る。

此処は双子という事にしておけば角も立たないと思うが万が一ヒビキをよく知る人物に知られれば面倒な事になると判断して親戚という事にした。

 

「親戚?へえ、親戚でもそんなに似てるんだね」

 

響の言葉に納得したのか、おばちゃんは二人を何度か見た後にそれ以上追及せず厨房に戻って行った。

それを見届けた二人はホッと胸を撫でおろす。

少し焦った響は自分の傍にある水を一口飲み、ヒビキの方は頼むつもりか暇潰しか注文のデザートを覗き込んでいる。

このまま時間が過ぎるかと思われた時だった。

 

『…番組の途中ですが、ここで臨時ノイズ情報をお伝えします。現在ノイズが出現したのは○○高速付近。繰り返します、現在ノイズが出現したのは○○高速付近です。皆さまノイズにご注意してください!』

 

「「!」」

「あれ、○○高速ってそこそこ近いじゃない。大丈夫かしら」

 

店内に設置されていたラジオからノイズに関する情報が流れて来た。サイレンが鳴ってない以上、この辺りでは無いが響とヒビキはお互いの顔を見合わせ頷き合う。

 

「おばちゃん、お愛想!」

 

二人は急ぎ支払いを済ませてノイズの居る○○高速へと行こうとする。

もしかすれば、特異災害対策機動部二課の翼たちと鉢合わせするかも知れないがその時はその時だ。

助けを求める人が居る限り無視する気など響にはない。そして、ノイズへの復讐も諦めていないヒビキ。

 

「あら、此方の方の会計をやっちゃうから」

 

しかし、運が悪くサラリーマン風の男性が先に支払いをしていた。

出鼻を挫かれた二人は割り込む訳もいかず並ぶしかない。見れば先に居た学生も既に支払いを済ませてるようで、もう店内にはいなかった。

 

「はい、丁度。ありがとうございました。」

「ごちそうさん」

 

サラリーマンは直ぐに支払いを終え店の引き戸に手をかけ響達の番となった。

このまま急いで支払いを済まそうとしたが、

 

「ギャアアアアアアアアアアアアアア!!」

 

「「「!?」」」

 

突如男の悲鳴に響たちもおばちゃんも入り口の方を見た。

途端、引き戸が倒れ先程会計を済ませたサラリーマンが倒れる。更には、

 

「ちょ、お客さん大丈夫かい!?」

「何アレ?トゲ?」

 

サラリーマンの背中には先端部分が白く灰色をした巨大な槍のような物が突き刺さっている。

おばちゃんが介抱しようと近づいたが、

 

「ヒっ!?」

「!?」

「なっ!」

 

響たちもおばちゃんも今度こそ言葉を失った。

倒れたサラリーマンが着ていた背広ごと溶け白い煙を噴き出すと骨だけが残った。目の前の人間が理科室にある骨格標本のようになりおばちゃんたちは愚か響たちも唖然とする。

 

「け、警察!」

「ねえ…これって」

「うん」

 

目の前で人が骨になった事でおばちゃんは慌てて警察に電話しようとし、響とヒビキも互いの目を見合わせ頷いた。

━━━間違いないショッカーだ

響がそう確信した直後、

 

「で、電話が通じない!?どうして…!」

「電気がおかしい!」

 

ふらわーの店内の明かりが消え不気味な光りが点滅する。

慌てるおばちゃんに不気味な光りに足が震えるヒビキ。そんな中、響はジッとその場に佇む。

 

━━━これは間違いなくショッカーの仕業だ。次は何をしてくる?…!

「危ない!」

「!?」

 

神経を研ぎ澄ませていた響は咄嗟にヒビキの手を掴み引っ張る。直後にヒビキの居た場所に天井や壁、床から幾つもの大きなトゲが通り過ぎる。もし、響に引っ張られなければヒビキの体中に突き刺さるところだった。

 

「これって…」

「い…一体何が起こってるんだい!ノイズでも現れたのかい!?」

 

自分が狙われ助けられた事に茫然とするヒビキに自分の店や天井から見た事がないトゲが生えた事にパニックになるおばちゃん。

 

「アイヤヤヤヤヤヤヤ!どうだ、立花響。俺様の針の味は?」

 

「!?」

「何だい、この不気味な声!」

 

突然聞こえて来た不気味な声にパニックになったおばちゃんがフライパンとお玉を持って右往左往し、ヒビキも不安そうな表情をする。

それと同時に四方八方から針が飛び出す。

 

「既に殺人ビールスの準備は完了した。東京どくろ作戦の前に景気づけに死んで貰う!」

 

「殺人ビールスに東京どくろ作戦!?一体それは…」

 

主犯格と思われる声に反応した響は質問しようとするが、声は答える事がなく次々と壁から針が飛び出す。

更に、飛び出した針は宙を舞い響たちに迫る。

 

「針だけ動かせる!?なら!」

「え?」

「ちょっと!?」

 

もうこの場は危険と判断した響はヒビキとおばちゃんを抱えて走る。

走る先にはサラリーマンが倒れた時に倒れた引き戸のある出入口だ。

そのまま空いてる方に向かった響だが、あと少しというところで何本もの針が飛ばされた事に気付き、咄嗟に響は破られていないもう一つの引き戸に自分の体をぶち当てて扉を粉砕する。

その際、ヒビキとおばちゃんには残骸が当たらないよう響の体で守った。

扉を破った響は二人を抱えたまま勢いのまま外に飛び出し周辺を見る。

 

「ほう?俺の針の包囲網を破るとはな」

 

「お前がショッカーの新しい改造人間か!」

「さっきから何なの?…ヒっ!化け物!」

 

響の目の前には体中に鋭い針が生え目の近くに赤い飾りの様な物が付いた不気味な存在…怪人がいる。

 

「その通り、俺の名はハリネズラス!貴様らを地獄に送る者だ!!」

 

怪人…ハリネズラスが名乗ると同時にふらわーの店舗が爆発を起こし火が店を包み込む。

茫然とするおばちゃんにヒビキ。

ヒビキを元気づけようとしていた時に最悪なタイミングでのショッカーの襲撃に響は自分の迂闊さに奥歯を噛み締める。何よりショッカーが堂々と人目のある商店街で真昼間から自分達を襲って来たのが完全に予想出来なかった。

 

━━━人目を避けようとするショッカーがどうして!

 

響は知らない。既に特異災害対策機動部二課とショッカーが二度の戦闘が起こり本部に強襲された事を。

響はしらない。地獄大使が堂々と特異災害対策機動部二課に宣戦布告し人目を忍んでも意味が無いと判断した事を。

 

今、高速沿いと商店街で二つの戦いが起ころうとしていた。

 

 

 

 

 




劇中でも怪人が本性を現す時、よく帽子を顔の前に翳す姿、自分は好きです。
またもや、ショッカー怪人の同時攻撃。そして、おばちゃんにとばっちり。

何だかグレ響のトラウマが増えてる気が…
ゲームでもグレ響の飯事情とかやってないと思うし。LOST SONG編は飛ばし飛ばしだったから少し分からない。
グレ響がテレビ版響のように食べる姿が想像が出来んかった。

そして、今回訃堂が登場。
ゲームの翳り裂く閃光だと出番も無かったのですが本部が襲われた事で通信してきました。家族仲は…

海蛇男が乗っていなかった他のバスですが海蛇男が操ってました。
劇中でも無人トラックや無人ヘリ(燃料ナシ)を操っていたし出来るでしょう。

次回予告
海蛇男「よくも俺様の邪魔をしてくれたな、シンフォギア装者どもめ。だがお前たちなど俺様のガスでシンフォギアごと溶かしてやる。そして俺の見せる幻影に苦しむがいい!
次回「驚異の幻影攻撃!?海蛇男のプリズム・アイ」諸君、次こそがシンフォギア装者の最後だ!」


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84話 驚異の幻影攻撃!? 海蛇男のプリズム・アイ

一気に熱くなってパソコンが更に重くなった!


 

 

 

 

「海蛇男が雪音クリス及びマリア・カデンツァヴナ・イヴとの戦闘に入りました!」

「ハリネズラスが予定通り立花響二人に襲撃を行ないました!」

 

薄暗い部屋の中で戦闘員が幾つもの装置を操作する。

二つのモニターにはクリスとマリア、二人の立花響が映し出される。その両方ともただならぬ雰囲気が漏れている。

 

「フッ…予想より特異災害対策機動部二課の動きが早かったが…まぁ良かろう。生贄を調達する方法など腐るほどある。それにシンフォギア装者を片付ければ問題あるまい」

 

新しく造られたアジトにて、地獄大使は響達とクリス達の戦いを見物する。

どの怪人も更なる強化改造を受けた強豪だ。シンフォギア装者の小娘どもの抹殺など朝飯前だろうと判断する地獄大使。

 

「何より海蛇男には()()がある。小娘どもに敗れる道理はない」

 

そう言って地獄大使は横に目を向ける。其処には黒いガトリング砲にも見える装置が尖端の三つの光を交互に照らしている。

 

「時代が進み、より改良が加えられたプリズム・アイ。その力を身をもって思い知るがいい!」

 

地獄大使の表情からその装置への絶対の自信が伺える。

 

モニター内にて響達とクリスたちが動き出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ウルルルルルルル!死ねぃ、シンフォギア装者め!」

 

海蛇男の口から白いガスを噴き出す。そのガスは真っ直ぐマリア達へと向かうがマリアとクリスは何とか回避する。

 

「気を付けて、クリス!此奴のガスは人間を完全に溶かすわ!!」

「チラッと見えたから知ってる!!」

 

マリアの忠告にクリスはそう返事するとアームドギアを取り出しガトリング砲にして海蛇男に撃ち込む。

クリスのガトリング砲の弾は寸分狂わず全弾、海蛇男に命中する。しかし、

 

「どうした?今ので攻撃したつもりか?」

 

海蛇男の体には傷一つ付かなかった。

 

「嘘だろ、オイ!」

「耐久力は大型ノイズも超えているの!?」

 

先に戦った死神カメレオンもクリスのガトリングに多少のダメージはあったが、目の前の海蛇男には目立った傷も無くダメージすらない。

攻撃したクリスは勿論、海蛇男の耐久力に驚きを隠せないマリア。

 

「運転手が化け物になって女の子と戦い出したぞ!!」

「何がどうなってるのよ!」

「あの化け物、新しいノイズか!?」

 

突如、起こった戦闘に半ばパニックになる避難民たち。安全な場所にバスで送迎されると思えば変わった少女が運転手に問い詰め運転手が化け物になり取り囲んでいた自衛隊や黒服を白いガスで完全に溶かしてしまったのだ。まるでノイズのように、…いや、炭として残るノイズと比べても何も残さず溶かされ消滅した事で海蛇男への恐怖が勝る。

 

「彼女達の援護をするんだ!!」

「クソッ!誰か戦車砲でも持ってこい!」

 

混乱する彼らは右往左往するばかりで腰が抜けた者も多数いた。生き残った黒服や自衛隊員も何とかクリス達の援護をしようとするが手持ちの重火器では火力が足りないのかノイズ以上に効き目が薄い。

 

そして、それに気付くクリス。

 

「何してんだお前ら!早く逃げろ!」

「…悪いけどあなた達を守って戦えるほど相手は甘くないわ!…あなた達も!」

「「「ハイッ!!!」」」

 

クリスとマリアの声に避難民はやっと逃げ出す事を思い出す這ってでもこの場を離れようとする。

また、黒服や自衛隊員もマリアの気迫に援護を止め、避難民の誘導を図る。

そんな中、

 

 

 

 

 

「動け!動けよ!」

「まだかよ!」

「エンジンが掛かってるのに何で動かねえんだよ!!」

 

無人化したバスに何人もの人間が乗り込み運転席に男が座り動かそうとするがクラッチを上げようがペダルを踏もうがビクともしない。

彼らは、海蛇男が持ってきていたバスに乗って避難しようとしていたのだ。

 

「アイツ等…済まねえ、マリア!」

「…時間稼ぎ位してやるわよ!」

 

クリスが海蛇男との戦闘を一時離脱する事にマリアは即座にクリスの目的が分かり頷く。

戦闘を離れたクリスは急ぎバスの方に向かい開いている出入口に向かって叫ぶ。

 

「お前ら早く逃げろよ!!」

 

クリスの声がバスの中に響くと同時に何人もの目線がクリスに向かう。

その目は怯えや焦り怒りも含んでいるがクリスは動じる事無く口を開く。

 

「このバスはショッカーが用意した物だ!危ないから急いで離れろ!」

「お…お袋が足を挫いて歩けねえんだよ!!」

「家は爺さんの持病で…」

 

バスに乗った避難民が次々とバスに乗った理由を話す。大体が逃げる途中、足を挫いたり体力の低い爺婆だったり子供を担いだ女性が多かった。

そう言われたクリスは周囲を見回した。

すると、このバスの様に少数の人間が別のバスを使って逃げようと乗り込んでいたのだ。

これにはクリスも頭を抱えた。

 

「いいから逃げろ!歩けないなら這ってでも進め!その方が早い!」

「は、はい!」

 

クリスの迫力にバスに乗っていた者達もそう返事をするしかなかった。自衛隊や黒服もバスに乗り込み負傷した避難民の手助けをして、全員がバスを降りようとする。が、

 

ガシャコン!

 

「おい、何してるんだよ!!」

「し…知らない!勝手に閉まったんだ!」

 

バスのドアが閉じ誰も外に出る事は出来なかった。クリスが力任せに引っ張るがドアはビクともしない。

それどころか、閉じ込められた避難民もドアを抉じ開け様とするが何人もの大の男が襲うが引っ張ろうがビクともせず、ならばとバスの窓を開けて逃げようとするが、どの窓も開くことは無かった。

ならばと自衛隊員が銃を使って窓ガラスを破ろうとするが、叩きつけようがヒビ一つ入らず、銃を撃てば跳弾して負傷する始末である。避難を誘導していた自衛隊や黒服もバスの扉に力を入れるが、やはりビクともしない。

 

「一体、どうなって…「馬鹿め、まんまと網の中に入るとはな!」!」

 

にっちもさっちもいかず如何すればいいか考えて居たクリスの耳にあの怪人の声が聞こえ振り向く。

其処には、マリアを軽くいなしつつ横目で此方を見ていた海蛇男が笑っていた。

 

「てめー…何をしやがった!!」

 

「ウルルルルルルル!そのバスは元々、人間どもを捕獲する為に作られた。当然、逃亡できない様に設計されている。後はだ!」

 

海蛇男が拳でマリアの腹に一撃を加える。衝撃によりマリアは腹を押さえて後ずさる。

そして、バスの方を見て指を鳴らした。

 

「何だ!?エアコンから白い煙が出てるぞ!」

「く…苦しい!」

 

「なっ!?」

 

すると、バスの内部にあるエアコンからガスが出てドンドン充満していく。避難民も自衛隊も黒服も苦しそうに窓を開けようとするが、やはり開く気配はしなかった。

直ぐに海蛇男を睨みつけるクリス。

 

「何をするつもりだ、お前!」

 

「言った筈だ、攫えんのならいらんとな。お前達は人間どもが死んでいくのを見物するがいい!!」

 

「「!?」」

 

その言葉に呆気に取られるクリスとマリア。

避難民たちを攫う事が目的だったが、自分達が阻止した事でアッサリと皆殺しに目的を変更したのだ。

人間をムシケラ扱いするショッカーらしいと言えばらしいが。

 

「そんな事、させるかよ!」

 

クリスは直ぐにアームドギアをガトリング砲にしてバスのドア部分を撃つ。

自衛隊や黒服も急ぎ退避した後、クリスの弾丸はドアに直撃する。しかし、

 

「!」

「無傷ですって!?」

 

クリスのガトリングの直撃を受けたドアは傷一つなく、避難民や自衛隊と黒服を閉じ込めて居る。

 

「無駄な事を!そのバスはショッカーがより改造を施し並みの装甲車すら圧倒できる堅牢さなのだ!貴様の豆鉄砲なんか効くものか!」

 

「!ならっ!」

 

CUT IN CUT OUT

 

ガトリング砲が駄目なら腰から小型ミサイルポッドを出して一斉にドアに向かってミサイルを発射する。

正直、生身の人間が閉じ込められた場所に撃つには躊躇われるが、このままでは毒ガスで死ぬ以上、クリスに選ぶ余裕もない。

ミサイルがバスのドア部分に直撃し爆発音と爆炎が上がる。これ程の爆発ならとクリスは考えたが、

 

「…」

「…マジかよ」

 

クリスとマリアの目は少し煤けたバスの開閉ドアが映るだけで閉じたままだった。

クリスの火力も通用しない事に絶望を覚えるマリア。そうこうしてる内にバスに乗っていた避難民たちは次々と倒れ、自衛隊員が持っていたガスマスクを子供に当てたまま死に、子供の方もマスクがボロボロと崩れ…

バスの中に居た人間達は全滅し、先の自衛隊や黒服と同じ運命を辿った。

窓側からしか見えなかったマリア達だが茫然と見るしか出来ず立ちすくんでいる。

 

「ウルルルルルルル!見たか!これぞショッカーの技術の結晶よ、貴様たち程度ではバスの一台すら破壊出来んのだ!!」

 

海蛇男の言葉にクリスとマリアが奥歯を噛み締める。

民間人をここまでアッサリ殺すショッカーもそうだったが、クリスの攻撃が悉く意味をなさなかった事にショックでもある。だが、何よりのショックだったのは目の前の人間を救えなかった自分達の無力さもあった。。

 

「…ちくしょう」

「…クリス、今は生き残った人達の事を考えなさい」

 

せめて、自衛隊や黒服が誘導して足でこの場を離れようとしている生き残りが無事に逃げ出せる事を願うしかない。

そう考えたマリアだが、避難民の誘導先に爆発が起きた。

何人もの人間が宙を舞い、阿鼻叫喚の悲鳴がクリスとマリアの耳にも入る。

 

「!一体何が…」

「見て、クリス!」

 

突然の事に茫然とするクリスだが、マリアの声に反応してマリアの言った方を見る。

 

「お前は…蛾野郎!」

 

「ドクガンダーだ、いい機会だ雪音クリス。お前を殺してやる!!」

「待て、ドクガンダー。二匹とも俺の獲物だぞ!」

「早い者勝ちだ!」

 

海蛇男の抗議にドクガンダーはそう言い放ち宙を飛んでいた。

 

その直後にバスの上に飛び降りたドクガンダーを見つけたが、問答無用でクリスを攻撃する。指からのロケット弾を何とか避けるクリスは、反撃でガトリング砲を撃つ。

 

「クッ…海蛇男だけでも苦戦してるのに!」

 

たった一人の怪人にも手古摺っている現状、ドクガンダーの参戦は二人にとってかなり厳しいと言える。

現にクリスはドクガンダーの空中からのロケット弾を避けるので一杯一杯になりつつある。

こうなれば、自分達の切り札を切るべきかと考えたマリアは胸元のシンフォギアのコアを握る。

 

「チッ!ドクガンダーめ、人の獲物を横取りするとはな。こうなれば早々に決着をつけてやろう!マリア・カデンツァヴナ・イヴ、俺の力を見せてやる!!」

 

だが、それよりも早く海蛇男は首に巻いている蛇をマリアの目線に合わせ光らせた。

 

 

 

 

 

 

 

「どうした?雪音クリス。自慢の火力は如何した!?」

 

「クソっ!ちょこまかと…」

 

ドクガンダーを相手にしているクリスは苦戦を強いられていた。

クリスとて今まで多くの空を飛びノイズや並行世界の敵と戦って来た。ドクガンダーの飛行速度はそれほど早いというものでもない。だが、ドクガンダーは今までクリスが体験した事のない攻撃や動きでクリスを惑わせていた。

 

大型ミサイルを撃ってもドクガンダーのロケット弾で相殺され、ガトリング砲の弾は避けられ小型のミサイルもドクガンダーを倒せる程の威力はない。

クリスが一旦、マリアと合流するべきかと考えた。

 

「キャアアアアアアアア!!」

「! マリア!」

 

マリアの悲鳴が聞こえ、クリスが声のした方を見る。

其処には海蛇男の前で頭を押さえて蹲っている。急いでマリアの救援に行こうとする。

 

「ウルルルルルルル!!雪音クリスか。丁度いい、お前も俺様のプリズム・アイの威力を見せてやる!!」

 

「なっ!」

 

次の瞬間にはクリスの目が海蛇男の首に巻いている蛇の目の光を見てしまった。

直後にクリスの視界は周りの風景が居分を中心に回転し出し速度が上がっていく。

 

「な…何だこれは!?」

 

いきなりの事にクリスが焦る。何とか態勢を維持しようとするがクリスの足元はフラつき三半規管が悲鳴を上げ明後日の方向にガトリング砲を撃ってしまう。クリスは完全に自分の場所すら把握出来ずにいる。

 

「見たか?これがショッカーが開発していたプリズム・アイだ。もうお前達は逃げる事も出来ん!」

 

プリズム・アイ。

ショッカーが開発した装置であり、風景を操り人間を混乱させる物である。首に巻いている蛇の目の光を見せ海蛇男はクリスとマリアの死角を奪いまるで自分が高速回転してるかの如く風景を見せ三半規管を狂わせ二人に眩暈を起こさせたのだ。

ショッカーはこの装置を使い世界を大混乱にさせる計画を立てていた。

 

「目が…」

「クソ…方向感覚が狂う…」

 

とうとうクリスも立っていられなく腰を地面に付けて周りの風景を見ない様にした。目に入る木や山が頭の中で回転するので苦肉の策でしかなかった。

だが、これでは恰好の的にしかならない。

 

そこへ途中で獲物に逃げられたドクガンダーが海蛇男の横に立つ。

 

「よくやった、海蛇男。これで労せずシンフォギア装者を抹殺出来る」

 

そう言い終えるとドクガンダーは両腕の指をクリスとマリアに向ける。今なら楽に二人を殺せると判断したからだ。二人の絶体絶命かと思われたその時、

 

「待て、ドクガンダー」

「…何だ、まだ獲物を横取りするなと言うつもりか?」

 

ドクガンダーの片手を抑える海蛇男。

止めを邪魔されたドクガンダーが愚痴っぽくそう言う。一応、ショッカー内でも仲間殺しはご法度ではあるが、組織を裏切った場合は当てはまらない。

ドクガンダーから一触即発の緊迫感が出た時、海蛇男が続きを喋る。

 

「そうじゃない。俺にいいアイデアがある、それにアッサリ殺しては面白くなかろう」

「いいアイデア?」

「俺のプリズム・アイの更なる能力を見せてやる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「遅くなってしまったが二人は無事か!?」

 

ノイズの殲滅にやっと終わった翼が急ぎクリスとマリアの下に戻っている。

報告通りノイズの数は其処まで多くは無かったが一人で相手をするには時間が掛かる程ではあった。つくづく、翼は並行世界から来たクリスとマリアの有難みを痛感する。

 

━━━奏が生きていてくれていたら…よそう、今は一刻でもノイズを打倒しショッカーを殲滅する事を優先しよう

 

翼の脳裏に嘗てのパートナーであり、心強いシンフォギア装者だった赤毛の少女を思い出す。

彼女が死んで落ちこんだりもしたが今までは吹っ切れていたと思っていた。

しかし、並行世界から来たというクリスとマリアの共闘で翼が嘗ての相棒を懐かしむには十分過ぎた。

 

翼の前方で爆発が何度も起こり戦闘の激しさを実感し急いで現場に行く。

 

━━━あの爆発!余程の相手か、あのカミキリキッドでも出たのか!?

 

少し離れているが本部との連絡は未だに取れず現状どうなってるのかも分からない。

そんな翼だが協力者を放置して撤退など考えても居ない。翼の脳裏に「常在戦場」という言葉が過る。

 

 

 

 

 

 

 

そして、現場に付いた翼だが

 

「なっ!」

 

現場を見た翼は絶句した。何故なら

 

「ハアアアアアア!」

「この野郎っ!!」

 

()()()がガトリング砲を撃ち()()()がそれを避けつつ蛇腹状にした短剣を振り()()()のガトリング砲の一門に巻き付けた後に破壊。

直後にアームドギアを再び握った()()()がボーガンで牽制した後に近づいて来た()()()の腹に蹴りを入れる。

 

翼の目には仲間同士である筈のクリスとマリアが互い同士で戦っていたのだ。

 

「この海蛇野郎っ!!」

「海蛇男!覚悟!」

 

更に二人の言葉に翼は混乱を加速させる。

お互いの事を海蛇男と呼び倒そうとしていたのだ。

 

━━━どちらかが裏切った訳ではない!?一体これは…!

 

其処で翼はバスの上に立ちクリスとマリアの戦いを文字通り高みの見物をしている海蛇男とドクガンダーの存在に気付いた。

 

━━━あれは、確かドクガンダー? 奴まで来てるとは…。二人が争ってる原因は奴等の所為か!?

 

「見たか? これが俺のプリズム・アイの更なる能力よ」

「仲間同士での殺し合いか、面白い」

 

クリスとマリアの戦いは海蛇男の仕業である。

より改良されたプリズム・アイの光を見てしまった二人の目には互いの姿が認識出来ないのだ。

 

━━━海蛇男の蛇が異様に伸びる!? これも能力か! マリアが蛾野郎の足止めをしてる内にアタシが…

 

━━━海蛇男に飛び道具が!? クリスがドクガンダーを倒すまで私が足止めを…

 

二人は目の前で戦う相手を海蛇男と思わされ、殺し合う。完全にショッカーの術中に嵌っていた。

クリスが腰パーツから幾つもの小型ミサイルを吐き出しマリアは蛇腹状の剣で叩き落す。

翼の目から見ても徐々に疲労が二人の体に溜まって来てるのが分かる。

 

「くっ!卑劣な!」

 

飛び上がった翼が足のブースターで加速し回転するとバスの上に乗っている高みの見物をする海蛇男に剣を振り下ろす。

 

「ふん、風鳴翼か。貴様の相手はもう少し後にしてやる。それともお前も幻影を見たいか?」

 

「!?」

 

しかし、海蛇男は翼の剣を難なく受け止めると一瞬だけ翼に視線を向けた後に首に巻いている蛇が剣を伝い翼の腕に絡みつく。

蛇は舌をチロチロ出した後にシャーと言う威嚇までして翼の額に汗が流れる。

そして、それを詰まらなそうに見るドクガンダー。

この時、翼は海蛇男が自分に歯牙にもかけない態度に悔しさを滲ませる。

 

━━━駄目だ! 私では海蛇男を倒せる程の腕はない。 あの二人の協力が無ければ…!

 

ある決心をした翼は海蛇男に捕まれた剣のアームドギアを解除し拘束から逃れると、そのままクリスとマリアの方に行く。

クリスとマリアは相変わらず互いに戦いミサイルや蛇腹状の剣が飛び交う。

 

「止めろっ!!」

「…アンタかアタシと一緒に海蛇野郎倒してくれるか!?」

「翼、アナタの力を私に貸てくれるかしら。それともクリスの方に援護に行ってくれる?」

 

二人を止めようと間に入る翼だが、二人の声に唇を噛みしめる。

何とか説得を試みようとした翼だが、クリスとマリアの目は尋常ではなく下手に止める事も不可能と悟ってしまう。

それでも、この世界では付き合いの短い二人だが何とか説得しようとする。

 

「二人共、止めるんだぁ! お前達は海蛇男の術中に…「させるかぁ!!」!?」

 

二人を説得しようとした翼だがそれよりも早く海蛇男が行動を起こした。

翼たちに向けて首に巻いてる蛇の顔を向けさせ目を光らせた。

二人を止める事に夢中になっていた翼はたまたま背中を向けていたがクリスとマリアの目には蛇が放つ光を見てしまう。

 

「一体何を…!」

 

一瞬、何をしたのか解らなかった翼だがクリスとマリアから漂う戦意に気付く。二人の翼を見る目が敵を見てる時の目になっていた。

 

「ドクガンダー!」

「翼に化けていたの!?」

「! ちがっ…」

 

クリスとマリアの口からドクガンダーの名前が出てパニックになる翼。

海蛇男は一瞬にして翼の姿をドクガンダーの幻影にしてしまったのだ。

 

「そら、互いに殺し合え! 殺し合って地獄に行くがいい!」

 

クリスの弾丸とミサイルが翼とマリアに発射され、マリアは蛇腹状の短剣で落としたりする中、クリスと翼にも攻撃を仕掛け、翼は避ける事に集中している。

経験の差か避けるので精一杯の翼だが頭の中ではこの状況の打開方を考えて居る。

 

━━━ 一時撤退するべきだろうか!? 駄目だ、私が離れてしまえば二人の殺し合いが再開してしまう。そうなればショッカーの思う壺だ。だが、この二人を正気に戻す方法なんて…

 

二人の幻影を解く方法。恐らくは元凶を叩くのが一番だと考える翼。しかし、直ぐに頭を振るう。

 

━━━私の渾身の一撃すら片手で防いだ海蛇男を私一人で倒せるのか? …無理だ、勝てる姿が想像できん

 

正直、翼には最早打つ手はない。海蛇男の力量を考えればクリスとマリアの協力は絶対と言えた。

翼が、何とかクリス達の攻撃を避けて打開策を考える。

 

「ええい、まどろっこしい! もういい面倒だ!」

 

だが、それよりも早く潰し合いを見るのに飽きた海蛇男が別の手に出る。

 

「走れ、スピードを上げてシンフォギア装者を轢き殺せっ!!」

 

その声と共に海蛇男の乗るバス以外のエンジンが掛かり無人のまま走行する。

誰も乗っていないのに自動で動くバスに翼は冷や汗を流した。

 

「そのバス…お前が動かしていたのか!?」

 

「その通りだ、貴様らはバスに潰されてしまえ!!」

 

数台のバスが自分に迫って来る事を確認する翼。海蛇男のいう通りスピードが上がり轢き殺そうと迫って来る。

辛うじて避けた後にアームドギアの剣を握り迎撃しようとするが剣が悉く弾かれてしまう。

 

「何だ、この硬さは!?」

 

「どうだ、ショッカーが改造した装甲バスは? 強度だけならば戦艦以上と言われている!」

 

海蛇男の言う通り翼のアームドギアではバスを破壊する事は出来ずにいる。ならばと、減速させようとタイヤを狙って攻撃するが、パンクもせずに走り回る結果だけ残った。

 

「ハア…ハア…」

 

何とかバスを避け続ける翼だが、段々と息が上がって来ており体力の限界が近い事が伺える。

それでも戦う姿勢を崩さない翼に海蛇男も感心の声を出す。

 

「貴様だけでよく頑張ったが此処までのようだな。それよりも他の二匹は放置していいのか?」

 

「!?」

 

海蛇男の言葉に翼は咄嗟にクリス達の方を見る。

其処には相変わらずクリスとマリアが戦っていたが二人に迫るバスを見つける。その時になって翼はやっと海蛇男が遊びで自分達の相手をしていた事に気付いた。

気付いたが、翼はそんな事をお構いなしにクリスとマリア達の下に行き、

 

「!」

「なっ!」

 

丁度、接近戦をしていた二人の体を押して回避させる事に成功した。

尤も、

 

「うわああ!」

 

翼は無傷に済まずバスの掠った肩に傷が出来、僅かながらの血が流れた。

その血は、丁度クリスとマリアの顔に掛かり二人の動きが止まる。

その姿に海蛇男が拍手する。

 

「素晴らしい、狂った仲間を身を挺して守るか。 実に愚かなお前達らしい行動だ、では今度こそ死んで貰おうか!」

 

海蛇男が再びバスを動かして動けない翼たちを殺そうとするが、一発の銃声が聞こえると共に海蛇男の頭に何かが当たった。

 

「? 豆鉄砲か…!」

 

自分を攻撃したのが銃だと気付いた海蛇男が翼たちの方を凝視する。見たいのは翼ではない、長距離用のアームドギアを持つ聖遺物イチイバルのシンフォギア装者

 

「ちっ、不意打ちでも効かないか」

「迂闊だったわね、幻影使いと戦うのは初めてじゃないのに…」

 

クリスが銃の形態に変化させたアームドギアを握っている。そして、マリアは負傷した翼はガードレールまで運び傷の応急手当をする。

 

「プリズム・アイの効果が切れたか」

「…結局こうなるのかよ」

 

海蛇男が自身のプリズム・アイの効果が切れた事に気付く、ドクガンダーが呆れた声を出す。

幻影が切れたのなら止めは自分達で刺せばいい。クリスとマリアは同士討ちでの消耗もある、今ならば楽勝だと考えて居た。

だからこそ気付かない、クリスとマリアが本気で怒っている事を

 

「アタシも不甲斐ないな、あんな蛇野郎の術中に嵌るなんて…」

「そうね、ならそろそろ私達の反撃の時ね…」

「ま…待て、二人だけであいつ等には勝てない。 私も…」

 

二人が海蛇男とドクガンダーと戦う事に気付いた翼が自分も参加しようとする。マリアの応急手当で出血は止まったがやはり痛みは続いていたのか、翼の額から汗が流れる。

 

「アンタは其処で休んでろよ」

「心配しないでいいわ。 見せてあげる、私達の切り札の一つを!」

 

翼に「休んでいろ」と言った後に二人は胸元にあるシンフォギアの赤いペンダントを握る。

その目には今までにない程の決意を感じて翼は見る事しか出来ない。

 

「フフフッ…死にぞこないが、消耗した貴様らが俺達に勝てるか?」

「プリズム・アイの幻影で殺すのも良いが、俺様のガスで骨も残さず溶かしてやる」

 

「へっ言ってろ」

「あなた達に見せてあげる、私達の本当の力を!」

 

そう言うと、二人は握っていた胸元のペンダントを外し上に掲げカチっとペンダントの出っ張りを押す。

 

「「イグナイトモジュール! 抜剣!!」」

 

今、二人の反撃が始まる。

 

 

 

 

 

 




あまり視点を変えすぎるとごちゃごちゃしそうだったので、今回は海蛇男がメインで。ドクガンダーの乱入がありましたが。
海蛇男の決着後、響のほうをやる予定です。

仮面ライダーの劇中だと相手の目に風景を回転させてましたが時代が進んだ事で人物を違う人物に見せかける事も出来る設定です。

幻影を使う敵ってシンフォギアだとガリィくらいしか思い浮かばない。
そして、ショッカーには相手を洗脳できる怪人が一杯いる。

ところで、響達ってゴキブリや蛇とか平気なんですかね?劇中だとそういうエピソードは無かったと思うし。そして、怪人の中でも見た目のインパクト絶大のシラキュラスにどう反応するか?


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85話 イグナイト

 

 

 

「翼たちとの連絡はまだ取れないのか!?」

「長距離、中距離並びあらゆる無線が無力化されてます!」

 

 

死神カメレオンとの戦闘により被害の出た特異災害対策機動部二課本部。およそ一日で復活した機器や新たに補充された人員により運用されてるが翼たちの音信不通により弦十郎たちの焦りの声が木霊する。

 

ノイズからの避難民行方不明事件。前日に起きた失踪事件はショッカーの仕業だと考えた弦十郎がヘリで三人を送ったまでは良かったが、全ての通信網が遮断され翼達との連絡が不可能になったのは予想外であった。

それどころか、装者だけでなく現場に送られた黒服や避難民の護衛をしている自衛隊員とも連絡が不可能になり、ノイズではなくショッカーが関わってると直感する弦十郎。

どちらにせよ、これでは特異災害対策機動部二課は翼達との連絡が取り合えず連携するのは不可能と言える。

 

更には、

 

「指令、都内の商店街で事件が起きました!ノイズの反応はありませんが…おそらく、犠牲者も既に出ているそうです!」

 

警察から特異災害対策機動部二課に商店街での騒ぎの報告が入る。

しかし、商店街に設置されている監視カメラは悉くが破壊され、街中で宙を飛ぶ巨大な針が人を襲うという情報まで飛び交い半ばパニックになっている。

一応、新しく入ったエージェントを送ったが、そのどれもが音信不通となってしまい碌に情報が入って来ない。

 

「商店街にも怪人が現れたというのか…」

 

ショッカーの二方面作戦。人員の乏しい特異災害対策機動部二課には厳しいと言えた。

怪人を相手に出来るのは現状、シンフォギア装者しかいない。

しかし、二課に所属している翼は高速沿いに行き、協力者であるクリスとマリアも同行している。連絡も取れない現状放置せざる得ない。

 

「あの二人が言う、並行世界の俺なら…」

 

最低限の護身しか出来ない弦十郎が悔しそうに拳を机に叩きつける。

二人から聞いた並行世界の弦十郎の力に最初は本当に人間かとドン引きもしたが、それだけの力があればノイズとは違い攻撃の通る怪人なら戦えると言えるが、今は一刻も早く事態を収拾しなければならない。

 

「! 指令!」

「どうした!? 別の場所に怪人でも出たのか!」

「違います! 高速沿いで未知のエネルギー反応を確認!」

「未知のエネルギー!? まさか、ショッカーか!」

 

オペレーターコンビの突然の報告に弦十郎は慌てて聞く。未知の敵組織、今の時代に世界征服を狙うショッカーが何か行動を起こしたのでは。と考えたからだ。

尤も、返事は弦十郎の予想外のものであった。

 

「いえ…これはどちらかと言うとシンフォギアのエネルギーに酷似しています!」

「シンフォギアのだと? 現場はどうなっているんだ…」

 

本部の大型モニターには翼やクリス、マリアのシンフォギアの画像が映し出され赤い光が点滅している。

弦十郎たちは、ただそれを見守る事しか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「イグナイト…? あの二人は何をするつもりなんだ」

 

バスでの掠り傷によりガードレール側に運ばれ様子を見る事しか出来ない翼は、クリスとマリアが何をしてるのか分からなかった。

それでも、あれだけの自信を見せた以上、翼は心無しに二人に期待している。

 

「装者め、何をする気だ?」

「フン、どうせ悪足掻きよ」

 

そしてそれは、海蛇男とドクガンダーも一緒である。通常のシンフォギアでは歯が立たず、エクスドライブするにはフォニックゲインも足りない。まさに絶体絶命と言えた。

だからこそクリスとマリアが何をしようと無駄な足搔きと判断して高みの見物を決め込んだ。

 

 

二人がペンダント状のギアのスイッチを押した直後に宙に舞うとギアが変形し、まるで花が開く如く三方向に吐出した飾りが出ると下部分にレーザーの尖った者が付き出される。

 

「変形した?」

「まさか、あれを武器にするのか?」

 

その光景に少しだけ驚く海蛇男とドクガンダー。報告にもないギアの初めての変形に戸惑ってるのだ。

尤も、それは翼も一緒である。

しかし次の光景に皆が一瞬にして黙る事となる。

 

次の瞬間、吐出したレーザーの様な物を出してるギアがクリスとマリアに接近、その胸元に突き刺さり貫通したのだ。

 

「なっ!?」

 

「自爆しただと!?」

 

翼は息を飲み、海蛇男とドクガンダーはクリスとマリアの自爆と考えた。

その際に黒いモヤが装者の体を覆って苦しそうにしてる様子からも確信できていた。

 

「何をするのかと思えばただの自爆か! 驚かせやがって!」

「何を狙ってたか知らんがそんなに死にたいのなら手伝ってやろう!」

 

海蛇男がそう言った直後に二台のバスが再び動き出しスピードを上げ二人に接近する。謎の自傷行為に少し気になったが勝敗が見えた事で海蛇男はクリスとマリアのトドメをさす気でいた。

 

そのバスは通常の物とは比べ物にならない程のスピードを出し直撃すれば即死すら免れない程の威力と言えた。

翼が気付いた時には遅く、止める間も無く二台の無人バスがクリスとマリアに接触。大爆発を起こす。

バスの燃料にも引火したのか夥しい炎が辺りを燃やす。

 

「いいぞ、燃えろ! 死体の処理も楽になる!」

「…待てぇ」

 

クリスとマリアの居た場所が燃え上がるのを見てはしゃぐドクガンダーだったが、海蛇男が制止する言動をとった。

 

「どうした?」

「何故バスが爆発した。 あのバスは特注で頑丈さに置いては戦車以上だぞ」

 

海蛇男の使っていたバスは、乗せた人間が逃げ出せないよう兎に角、頑丈に作られており、その証拠に先程のクリスの攻撃では傷一つ付かなかった。

そのバスの二台とも爆散するなどあり得ない筈だった。ましてや小娘二人程度轢いた位で…

 

「だからこそバスが爆発するなどありえ…!?」

「何だ!? …!?」

 

そう伝えようとしていた海蛇男の額とドクガンダーの額に凄まじい威力の何かが当たり天井に乗っていたバスから降りた。その一撃は先程クリスが撃った物とは思えない程の威力だ。

 

「一体何が起こった!?」そう考えた海蛇男だったが、炎の燃える音と共に何かが聞こえて来た。

 

「これは…音楽? …!」

「歌の曲だと!?」

 

それは紛れもなく音楽の曲であり、発生源は目の前の炎からだった。

 

 

 

鉛玉の大バーゲン 馬鹿に付けるナンチャラはねえ

ドンパチ感謝祭さあ躍れ ロデオの時間さBaby

 

真の強さとは何か?探し彷徨う

誇ること?契ること?まだ見えず

 

やがては、炎の中から歌が聞こえ、海蛇男やドクガンダーどころか翼の耳にも入る。

 

「二人共、無事か!」

 

「馬鹿なっ! 自爆したのではなかったのか!?」

「あの妙な光りの刃は確実に装者の胸に突き刺さり貫通したのだぞ!?」

 

翼が歓喜の声を上げる中、反対に困惑した声が海蛇男とドクガンダーの口から出る。

確かに見たのだ。あの二人の装者がギアを空中に投げ三つの細長い物を出して変形し下部分からビーム状の棘のような物がでて二人の装者の胸元に突き刺さったのだ。

 

完全な自爆。或いは自傷行為。

 

それが海蛇男たちの判断であり、トドメとしてバスに轢き殺させようとした。

それが、バスが爆発し炎の中から装者の歌が聞こえて来たのだ。 予想外にも程がある。

 

世の中への文句をたれたけりゃ 的ーマトーから卒業しな

神様、仏様、あ・た・し様が「許さねえ」ってんだ

 

想い出の微笑みに問いかけ続けた

まだ残る手の熱を忘れはしない

 

戸惑う海蛇男たちを他所に歌は続き、二人の影が炎から出て来る。

その二人は、周りが燃えていようと構わず歩き、足元の火を踏んで出て来た事で二人の人物が分かる。

 

「二人共、その恰好は!?」

 

「黒いシンフォギアだと!?」

 

その二人は間違いなくクリスとマリアである。ただ、先程とは違い赤かったり白銀だったシンフォギアが黒くなっていた事だ。

炎の煤がついた訳ではない。それは紛れもなく黒いシンフォギアだった。

予想外の姿に焦る海蛇男とドクガンダー。

 

「その姿は何だ!? 答えろシンフォギア装者!」

 

「…やっぱり、お前らはこの状態を知らねえようだな」

「これはシンフォギアの持つ決戦仕様の一つ。 これであなた達を倒せるわ」

 

海蛇男の問いにアッサリ答えるマリア。クリスは逆に怪人達がイグナイトを把握してない事を確信した。

見る事しか出来ない翼も息を飲んでクリスとマリアを見続ける。体から溢れ出す自信に希望も出て来た。

そして、睨み合うクリスと海蛇男。

 

傷ごとエグって 涙を誤魔化して

生きた背中でも(Trust neart)

 

惑い迷い苦しむことで

罪を抉(えぐ)り隠し逃げずに

 

「どうせ、ただのハッタリだろ!! 死ねぇ!!」

 

僅かな静寂を破ったのは海蛇男の横に居たドクガンダーだった。能力で宙を飛びクリスとマリアの頭上をとったドクガンダーは、そのまま手の指先を二人に向けて指からロケット弾を放つ。

避難民たちを襲ったロケット弾の雨が二人に降り注ぎ爆発が何度も起こる。

ドクガンダーのロケット弾によりクリスとマリアの居た場所に幾つもの爆炎が上がり、海蛇男が冷静に状況の判断に移っている。

 

━━━ドクガンダーのロケット弾は確実に装者たちに命中している。 再生されたドクガンダーのロケット弾は更に威力が増しジープどころか戦車もひっくり返す威力だ。 …だと言うのに!

 

支える事 笑い合う事 上手ク出来ルンデスカ?

 

あるがままの自分の声で

勇気を問え決意を撃て

それがわたしの聖剣翳せ!

 

「…なぜまだ歌が聞こえる?」

 

ドクガンダーは再生されるときに強化も行われ元の世界で戦った時より強くなっている。

そのドクガンダーのロケット弾を受けている筈のシンフォギア装者の歌声に全くのブレが無い事に海蛇男に嫌な感じがし、もう暫く様子見に徹する事にする。

それと同時に海蛇男はある違和感を感じていた。

 

━━━? 何だ、ドクガンダーのロケット弾の爆発するタイミングが早い気が……!

 

海蛇男は気付いた。

ドクガンダーの繰り出すロケット弾がクリス達の下へ到達せず手前で爆発している事に。

そして、その原因は、

 

「雪音クリスだと? …いや、あの小娘ならこのような芸当も出来るか!」

 

煙からチラッとガトリング砲とミサイルを撃つクリスの姿が見えた。

黒いシンフォギアの姿となったクリスが両手のガトリング砲と腰のミサイルを出しドクガンダーのロケット弾を全て撃ち落としていたのだ。

爆発する煙で見えなかっただけだ。

 

そして、その事はドクガンダーも気付く。

 

━━━おのれぇ! 生意気な人間風情が! これでは最初に戦った時の再現ではないか!

 

ドクガンダーの脳裏に最初に戦った光景が蘇る。完全聖遺物、「ネフシュタンの鎧」を奪おうとして返り討ちにされた屈辱を。

倒されたが再改造され蘇り強化もされている筈の自分の攻撃が全て撃ち落とされてる事にドクガンダーの思考は完全にクリスに釘付けになる。

何より目の前の雪音クリスは自分と戦った事のある雪音クリスではなく、怪人と戦った事も無い並行世界の住人だ。ならば、負ける筈がない。

故にドクガンダーは気付くのが遅れた。クリスの傍に居たマリアの姿がない事に。

 

━━━ぬっ? もう一匹は何処に…!

 

なれねえ敬語でも どしゃぶる弾丸でも

ブチ込んでやるから(Trus heart)

 

弱くてもいい涙を流してもいいさ

絶対負けない歌それが心にあるのなら

 

マリアがその場に居ない事に気付いたドクガンダーの耳に歌が聞こえる。

一人は、目の前にいるクリスが歌っているがもう一人…マリアの歌が聞こえて来たのは…

 

「上だと!?」

 

宙を飛ぶ自分より更に高い空。そこから歌声が聞こえドクガンダーが上を見上げる。

其処には、左腕のアーマーに接続したアームドギアを大剣のようにし、ブースターで自分に迫るマリアの姿だ。

 

「貴様、何時の間に!?」

 

「遅いっ!」

 

クリスへの攻撃を中止してマリアに腕を向けようとするドクガンダーだったが、それよりも早くマリアの大剣がドクガンダーの胴に当たる。

そして一気にマリアの大剣がドクガンダーの体を通過して地面に着地する。

 

SERE†NADE

 

「ば…馬鹿な…!」

 

何時の間にか自分の頭上をとっていたマリアにも驚くドクガンダーだったが、自身の体を切り裂いた攻撃にも驚く。マリアの攻撃力が想定以上だったのだ。

 

「こいつはオマケだ、持って行け!」

 

先程までドクガンダーとの撃ち合いをしていたクリスが腰からミサイルポッドを出し更には背中から大型ミサイル二機を出しドクガンダーに一斉に撃ち込む。

 

MEGA DETH FUGA

 

「!? あの大きさのミサイルをチャージや絶唱抜きで出しただと!」

 

この攻撃には海蛇男も驚きの声を出す。報告ではあの大きさのミサイルを出すには暫くのチャージか絶唱でも歌はなければ出せないと聞いていたのだ。

 

クリスから撃たれた多数のミサイルは切り裂かれたドクガンダーに命中し爆散する。幾つかの破片が降り注いだ後、晴れた煙の中にはもう誰も居なかった。

 

ドクガンダーは敗れた。

 

 

 

「フフフ…見事と言ってやろう、シンフォギア装者どもよ」

 

「へっ、仲間がやられてて随分と余裕だな!」

「海蛇男、次はアナタの番よ!」

 

仲間である筈のドクガンダーが倒されたのを見た筈の海蛇男は、余裕綽々の態度を見せ、クリスとマリアは臨戦態勢のまま海蛇男と対峙する。

マリアが大剣化した剣を構え、クリスも新しく腰からミサイルポッドと両手にガトリング砲を構えている。

 

「フン…ドクガンダーを倒した程度で調子に乗るなよ!」

 

そんな状態にも関わらず海蛇男が上に手を掲げた。瞬間、

 

「イーッ!」「イーッ!」「イーッ!」

 

「チッ!」

「まだこれだけの手下が!?」

 

クリスとマリアの周りに無数の戦闘員が現れる。数だけならば完全にクリス達を圧倒している。

 

「貴様等の事は報告で知っている、そして弱点もなぁ!! 戦闘員も殺せん甘っちょろい小娘如きがぁ!」

 

海蛇男は、クリスとマリア達が碌に戦闘員を殺せてない情報を得ていた。

理由は不明だが、この世界の翼やクリス、マリアといったシンフォギ装者は戦闘員と戦う時にトドメを刺す事がないと報告で読んだ。

甘いのかどうかは知らないがそれならばチャンスだと考えた海蛇男は十数人の戦闘員たちを繰り出したのだ。殺さないのなら何度でも立ち上がり命令通り戦う戦闘員で消耗させいずれは…と企んだ。

尤も、

 

「「「イーッ!?」」」

 

戦闘員の断末魔と爆発音に海蛇男のプランは崩壊した。

 

クリスの腰から出たミサイルポッドから出た小型ミサイルが多数の戦闘員に撃ち放たれ爆発したのだ。

これには海蛇男も声に出さないが心底驚き、

 

「!?」

「…クリス」

 

翼やマリアもクリスの方を凝視する。

マリアは知っている。雪音クリスがある意味、自分以上に優しい性格だという事を。

その証拠にクリスは口元を押さえ何とか海蛇男たちを睨んでいる。

 

喉元から酸っぱい物を無理矢理抑えたクリスはマリア達の方を見ず独り言のように呟く。

 

「悪いな、マリア。 だけどアタシはアイツ等を許せねえ、アイツ等を放置すれば、またバスの中の惨劇を繰り返す。 …だからアタシが止める! アタシの手は既に血で汚れてんだぁ!!」

 

クリスの脳裏に先程のバスの中の惨劇を思い出す。

バスで逃げようとして乗り込み、飛び込められ毒ガスで殺された避難民を、避難させようとした黒服や自衛隊員を。子供すら手に掛けたショッカーにクリスの怒りは燃えていた。

 

━━━今まで、アタシは色んな奴と戦って来た。 自分勝手な奴、何かを守ろうとした奴、中には外道な奴だって居た。 だがコイツ等はアタシが見て来た奴等の中でもトップクラスに外道だ! 生かしちゃおけねえ!

 

この時、クリスの脳裏に響の言葉が思い浮かぶ。

 

━━━アイツが行っていた通り世界蛇(ウロボロス)みたいな連中だ! なら徹底的に叩いてやる!

 

決意したクリスは両腕のガトリング砲で次々と戦闘員を薙ぎ倒していく。

甘い覚悟では人間にしか見えない戦闘員を殺すのは、どうしても躊躇うがクリスは心を燃やす。

それだけの覚悟をしても僅かに隙が生じたのか、死角から戦闘員が襲い掛かる。

 

「イーッ!」

「! しまっ…」

 

下手に攻撃を喰らえば姿勢が崩れ立て直してる間に戦闘員の波状攻撃が来るかもしれない。

圧倒的数の差はノイズとの戦いで慣れてはいる。しかし、相手はノイズではなく戦闘員と呼ばれる部隊。ノイズとは違う戦法も取るので油断は出来ない。

そして、戦闘員の攻撃を覚悟し目を瞑った。

 

「イーッ!?」

 

しかしクリスの耳には戦闘員の悲鳴と何時までも衝撃が来ない間だった。

瞼を開くと、

 

「…マリア」

 

自分に襲い掛かった戦闘員を切り捨てたマリアの姿が、更には大剣から蛇腹状にして振り回し何体もの戦闘員を薙ぎ払う。

 

「勝手が過ぎるわ! 私達は仲間でしょっ!!」

「で…でも…アタシの手はもう血で…」

 

勝手な行動をしたクリスにマリアが激怒する。その迫力にクリスは縮こまり自らの手が血で汚れていると言う。

尤も、マリアはそんなクリスの手を取った。

 

「血で汚れてるのは私も同じよ。フロンティア事変の時に私はアメリカの追手を傷つけた、アナタだけじゃないの。だから一人で苦しまないで!」

「! …うん。 !」

 

マリアの言葉にクリスの涙腺から涙が零れる。改めて仲間の良さを実感したクリスだったが視界の端に目が行き驚愕した。

 

「おい!見ろ!」

「え?」

 

これにはマリアにも声をかけクリスが視線を誘導する。誘導した先には先程マリアが倒して戦闘員が横たわっていた。だが、

 

「! 溶けてる?」

「…結局、人間じゃないってことか!」

 

倒した戦闘員が緑色の泡を出し消滅していく。この光景にクリス達は戦闘員が人間でないと理解したのだ。

そうと分かればもう遠慮はしないとばかりにクリスの銃弾やマリアの蛇腹状の剣が次々と戦闘員を倒していく。

 

これに一番戸惑ったのは海蛇男だ。

 

━━━どうなっている!? 報告とまるで違うではないか! 何が戦闘員を殺す事が出来ないだ!? それにあの黒いシンフォギアは一体何だ!?

 

海蛇男は知らない。

クリスの目の前で堂々と何人もの人間を殺し子供まで手に掛けたのを見せてキレさせたのを。

イグナイトのデータなど碌に無いショッカーにとってそれは間違いなく脅威となる力。

更に戦闘員を人間と思い手加減していた事を、ショッカーの非道な作戦を目の当たりにしたクリスとマリアが覚悟を決めた事に。

 

「ええい、役立たずどもがぁ!! これならどうだ!」

 

敗れていく戦闘員に業を煮やした海蛇男は残ったバスを動かしクリス達に突貫させる。

猛スピードで動くバスにクリスたちも黙って見てるだけでなく小型ミサイルや蛇腹状の剣で反撃する。

 

「チッ、硬てえ! 当たり所が悪いのかよ!」

「イグナイトでも傷つけるのが精一杯なの!?」

 

先程とは違い、バスに傷が入るがそれだけあり先の二台のバスは当たり所が良かっただけのようだ。

イグナイトの攻撃でも碌に通らず辛うじて避けるクリスとマリア。

 

「それだけで終わると思うなぁ!!」

 

海蛇男の首に巻いている蛇の目が光り二人の視界に向けて放つ。プリズム・アイの力で再びクリスとマリアの視覚を弄り三半規管にダメージを与え、その隙に殺す気でいたのだ。

だが、寸前の所で何とか視線を逸らし光りを見ない事に成功するクリスとマリア。

 

「光さえ見なければぁ!!」

「アイツの能力も意味がねえ!」

 

「確かにその通りだ。 だが何時まで視線を逸らせる? 見る事もせずに俺に勝てるつもりか?」

 

海蛇男の言葉に歯ぎしりするクリスとマリア。

確かにプリズム・アイの光を見なければ三半規管は無事だが、盲目状態で戦える程二人は器用ではない。

クリスなら弾をばら撒いてれば幾つかの攻撃は当たるだろうが、疎らな攻撃で倒せる程海蛇男も甘くはない。目を瞑って戦うのは論外と言える。

 

「クソッ!」

「相手を見ずに倒せる訳が…!」

 

マリアが咄嗟にクリスの体ごと転がる。直後に猛スピードのバスが通過し図体に似合わないドリフトをする。

何とか体勢を立て直して海蛇男のプリズム・アイを視界に入れない様にする。

 

「あの光を何とかしないと…」

「…ようはあの海蛇野郎の出す光りより早く動けば」

「でも、そんな方法どうやって? …!」

 

一つだけ方法を思い出す。嘗て錬金術師と戦った時に披露した合体技を。

マリアの表情で気付いたクリスはゆっくりと首を縦に振る。

 

 

 

 

 

「ん? 何だ?」

 

最早、自分の姿すら見る事の出来なくなったシンフォギア装者を嬲り殺しにしようとしていた海蛇男だったが、マリアがまるでクリス前に立ったのだ。

 

1000の傷ってのは1000を超える

逃げなかった

過去の証─あかし─なんだよな?

戻らない時計があるから

その先にある世界へ

行けるんでしょう?

 

「歌の続き? …違う、これはデュエット曲? 何をしようと貴様らが死ぬことは変わらん!」

 

クリスとマリアのデュエット曲が聞こえるも、始末する為に一台のバスを猛スピードで走らす。

幾ら、歴戦のシンフォギア装者でもこの大きさのバスが猛スピードで直撃すれば一溜まりもない。

それ故に、海蛇男はクリス達のシンフォギアの異変に気付くのが遅れた。

 

誰もが昔を背に戦い進んでゆく

 

クリスの腰のパーツが伸びマリアに直結する。更にクリスの後ろ腰のユニットが広がり変形していく。

 

後悔がない人などいない

その罪握り前を向くことが

 

そして、広がり終えると其処から一気にクリスのブースターが巨大化する。

直後にマリアの大剣が一気に前に伸び機首のようになる。

 

「何だと!?」

 

この時になってやっと海蛇男もクリス達のシンフォギアの変形に気付く声を荒げる。

本来、シンフォギアの装甲は動きやすさ優先か足先や腕の先、肩、胸部、頭部、臀部部分が主で後は丸出しかインナーが主と言える。

偶に変形したり自身より大きいミサイルや大量の小型ミサイルが出るかそれだけだ。

そんな、シンフォギアが二人いるとはいえ、合体し車並みの大きさになったのは海蛇男の予想できる範疇を超えている。

 

「こんな変形聞いてないぞ、どこまでも出鱈目な力だ! だが、元が元だ!所詮は虚仮威し(こけおどし)よ!」

 

「こけおどしかどうか…」

「見せてあげるわ!!」

 

変形が終わると共にエンジンが火を吹き一瞬で赤い光の筋となる。

 

Change †he Future

 

欺瞞(ぎまん)や嘘を穿(うが)つ武器となる

「過去は変わらない

でも未来は変えられる!」

 

海蛇男の目でも捉える事の出来ない赤い光。通り過ぎたバスが縦や横に切り裂かれ爆発し、戦闘員も次々と轢かれていく。

 

「は…早い!」

 

想像以上の速さに海蛇男も何とかプリズム・アイの光を当てようとするがクリス達のスピードに追い付けない。

全てのバスが潰され戦闘員も壊滅状態の海蛇男に最早打つ手はない。

 

そして、赤い光が自分へと迫る。

チャンスと感じた海蛇男がプリズム・アイの光を当てようとするが、凄まじい衝撃と共に体の自由が効かなくなり落ちる感覚が自身を襲う。

 

歌が焼けて

唸─ハウ─る二重奏─デュオリズム─

 

あの一瞬にして、クリス達は海蛇男に体当たりをして、その威力により空中に放り投げたのだ。

そこから更にクリス達は何度も海蛇男に体当たりをしてダメージを与え、体の節々にヒビが入る。

別段、クリス達が海蛇男を嬲り殺しにしようとしてる訳ではない。海蛇男の体がそれだけ硬かったのだ。

 

「おのれぇぇぇ!!」

 

「取り付かれた!?」

 

だが、海蛇男の黙ってやられてる訳ではない。正面からの体当たりに先っぽに捕まる事に成功する。海蛇男の声は完全に今までにない程の怒気が混ざっておりクリスやマリアの背中に冷や汗が流れる。

 

共に重なった消えない痛みに

 

「歌とともに消えてしまえぇぇぇ!!」

 

プリズム・アイの光を出す蛇は既に首から上が千切れており最早出す事は出来ない。だが、人間を丸ごと溶かせるガスはまだ出せる。

海蛇男はその白いガスをクリスとマリアに吹き付けた。

必然的に風上の位置に居る海蛇男の出すガスがマリアとクリスを包み込む。

 

腕を…突き出し…て…ッ!?

…弾丸に…込め…てッ!

 

煙をまともに浴びた二人の歌に異変が起こる。先程より明らかに苦しそうなのだ。

それどころか、自身のシンフォギアやガスを浴びたシンフォギアが溶けてるのを目撃する。幸い、二人が歌い続けて直ぐに回復はしたが、

 

━━━シンフォギアが! まさかアルカノイズみたいな解剖器官が!?

━━━…違う! 純粋に能力だけで溶かしてる!

━━━ある意味、そっちの方が厄介じゃねえか!!

 

海蛇男のガスに更なる驚愕する二人だが時間をかけてはいられない。今はまだシンフォギアのバリアフィールドで守られてるが何時まで持つかは不明だ。

 

クリス達は変形させたシンフォギアのエンジンを更に加速させる。

尖端に捕まる海蛇男を連れとんでもない加速を行ない縦横無尽に飛ばしまくる。

 

その勢いに先端部分が海蛇男の胴体へと刺さり徐々に奥へと減り込んでいく。

それでも、海蛇男は白いガスを吐き続ける。

クリス達が勝つか、海蛇男が勝つのか?それは…

 

「ウルルルルルルル!!」

 

明日に生き吠えろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!

 

クリス達の叫びの様な歌。

直後、海蛇男の胴体が真っ二つとなり、クリスとマリアのシンフォギアが通り過ぎる。

直後に、二つの爆発が空中で起きた。

 

その爆発を眺める様に着地するクリスとマリアだが、即座に膝を付いた。

 

「ハア…ハア…ハア…」

「ハア…私達のフォニックゲインが恐ろしい程下がってる。 もう少しあのガスを浴びて居たら…ゾッとするわね」

 

イグナイトを使っても海蛇男とは苦戦した。その事実にクリスはマリアの報告を聞いて「ウヘェ~」と言う顔をする。

 

「どうやら、海蛇男を倒したようだな。 色々聞きたい事はあるが私達の勝利だ」

 

其処へ、マリア達が強制的に休ませていた翼が合流する。だが、翼の言葉に今一の反応をするクリスとマリア。

その先の視線には、

 

「パパ~、ママ~!」

「誰かウチの子を知りませんか!!」

「誰か手を貸してくれぇ! 目が見えないんだ!」

「死ぬなぁ! 誰か医者を呼んでくれ!!」

 

親と逸れた子供に逆に子供と逸れた親、ミサイルの破片が刺さったのか盲目で動けなくなった青年、仲間を必死に介抱するが心拍数が弱くなっていき医者を探している自衛隊員。

全て、ドクガンダーのミサイル攻撃で起きた悲劇だ。

幸い、サイレンの音が近づいておりもう間もなく救出されるだろうと考えるマリアたち。

 

「これが…勝利って言えるのかよ」

「…犠牲を出した時点で私達の負けよ」

「…そうだな」

 

二人の気持ちが分かった翼はそれ以上語る事はなかった。

直後、特異災害対策機動部二課からの通信が届く。

 

 

 

 

 




原作だとガスではなく煙らしいですね。
今回の戦いはマリアはガリィ戦、クリスはカリオストロ戦を参考にしました。
一応、クリスとマリアのイグナイトなら強化怪人とも戦える設定です。

海蛇男が余計な事をしたため、クリスとマリアは覚悟完了しました。


次回は二人の響VSハリネズラスです。


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86話 地獄大使の野望 東京ドクロ作戦!

少し前にある動画を見て、シンフォギアXDのイベント「決意と愛の旋律」のストーリーを使ったクロス物を思いつきました。

もしも、あの世界のナスターシャ教授の背後にあの上院議員がいたら。



「せこく儲けている柔なインテリだの、セレブだの、草食系だの、
 ノイズだの、シンフォギアだの、防人だの、カストディアンだの、
 わけの分からん奴等を全部ぶん殴ってやるっ!!」

「あの人、ノイズを素手で殴り飛ばしたデス!?」
「…政治家って何かしらね」
「マ…マリア、こっち来た! あの人、ダッシュでこっち来てる!!」


あの上院議員ならマリア達だろうと弦十郎たちも上院議員を舐めんじゃねえキック出来るだろう。…たぶん。
訃堂に「なまくらが」とか言ってほしい。
FISで集められた子供って戦争孤児やストリートチルドレンに誘拐が主だとか言うし元ネタとも合いそう。


 

 

 

クリスとマリアが高速沿いで海蛇男と戦ってる頃、

 

 

 

商店街付近では人を襲う巨大な針が暴れている。

 

ウ~~~~~~~~~~

           ~~~~~~~~~~~~~

 

「誰か助けてくれ!」

「新手のノイズか!?」

 

響の耳には街中で響くサイレンと人々の悲鳴が木霊し他の店舗にも火の手が上がる。

目の前のハリネズラスを警戒しつつ周囲に視線を向けると逃げ惑う人々とそれを追う宙を浮く針が目に入る。

 

商店街は既にパニックに陥っている。

既に響の腕から出たヒビキも口を開けて固まりふらわーのおばちゃんも何が起こっているのか分からない。

 

「ショッカーの改造人間…この騒ぎはお前の仕業か!」

 

「そうだとも、改めて教えてやる。 俺の名はハリネズラス! この街では既に東京ドクロ作戦が開始されているのだ!!」

 

おばちゃんを守りつつ怪人…ハリネズラスとの会話に入る響。そしてハリネズラスはアッサリとこの現状は自分達の仕業だと白状する。

尤も、響の耳には気になる単語が入る。

 

「東京ドクロ作戦? さっきも聞いたけどそれって一体…」

 

「知りたければ教えてやる! 俺の針には人間を一瞬で骨にする殺人ビールスが含まれており俺が操り人間どもに襲わせる。 今はこの街だけだが直に東京中に広がり関東、東日本と広まりやがては日本全体へと広げるのだ! 最も最終的には世界中の人間が殺人ビールスの前に骨となり世界は我々の物となるのだ! 先ずは手始めに東京を骨で埋め尽くしてやるっ!!」

 

ハリネズラスの言葉に響どころか唖然としていたヒビキも正気に戻る。それ程までにハリネズラスの言葉は強烈だった。

このままでは街どころか東京中に針が広がり日本全体に広がってしまう。そう考えた響は即座に行動に移す。

 

「わたし!」

「!?」

 

響は直ぐにおばちゃんをヒビキに引き渡す。突然の事に戸惑うヒビキだが、響の目を見て何をしたいのか気付く。

 

「おばちゃんを安全な場所に、私はハリネズラスを倒す!」

「…うん!」

 

二人で戦うのが理想だが戦えないおばちゃんを避難させるのも重要と言えた。

ハリネズラスの力量が不明故に怪人との戦闘に慣れた響が相手をするのも理解出来た。

 

「簡単に逃がすと思うなぁ!!」

 

しかし、敵もさる者。ハリネズラスが声を荒げると共に四方八方から戦闘員が現れ退路を塞ぐ。

おばちゃんの存在が響達の足を引っ張ると考えたハリネズラス。逃がさず三人纏めて始末するつもりだ。

 

Balwisyall nescell gungnir tron×2

 

響とヒビキが同時に聖詠を口にしてシンフォギアを纏う。

目が点となるおばちゃんを他所に戦闘員が動き出す。

 

「イーッ!」

 

「邪魔はさせない!」

 

ヒビキを守る様に次々と襲い掛かる戦闘員を薙ぎ倒す響。

そして、ほんの隙を付いておばちゃんを抱えて離脱するヒビキ。何人かの戦闘員が追おうとするが響がそれを許さない。

 

「フン、逃したか。 まぁいい、此処が貴様の死に場所だ!」

 

「一般人を巻き込むアンタたちを絶対に許さない!」

 

早々にヒビキを追うのを諦めたハリネズラスは目標を響に変えて戦闘員を一斉に向かわせる。

響も非道な行いを平然と進めるハリネズラスたちに怒りの炎に燃え迎撃に入る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、おばちゃんの避難を任されたヒビキはおばちゃんを抱えたままビルの屋上からジャンプし別のビルの屋上に着地して、またジャンプと繰り返す。

下の道路には幾つもの白骨死体が転がり宙を飛ぶ針が移動して民家や建物に炎が纏う。

ある意味、ノイズ被害以上混沌となっている。

たまに警察や黒服が取り残された市民を誘導して避難させており何度か手伝うべきかと考えた。

 

「あ…あんた達…」

 

その時、抱えているおばちゃんがヒビキに話しかける。

ヒビキも移動中という事で返事はしなかったがおばちゃんの言葉に耳を傾ける。

 

「あんた達は何に襲われてるんだい? あれは明らかにノイズじゃないよ」

「………」

 

おばちゃんの言葉に答える事が出来ないヒビキ。 秘密結社ショッカーの事を教えれば下手をすればおばちゃんがショッカーに狙われる。

何より、おばちゃんの店が襲われたのは自分達が居た所為かも知れない。嘗ての迫害された記憶が蘇りヒビキの口を閉ざしていた。

尤も、そのヒビキの反応にある程度察する事の出来たおばちゃんもそれ以上の追及はしなかった。

 

そうしてる内に、ヒビキは道路上でアスファルトがせり上がり通路となって何人かの武装した警察官と中へ入る一般人たちが居る事に気付く。

対ノイズ用のシェルターだ。

 

「あそこなら」

 

シェルターに気付いたヒビキはビルの屋上から飛び降り警官たちの前に着地する。

 

「何だ!?」

「待てぇ!」

 

突然の事に着地したヒビキに銃を向ける警官だが、年配の警察官が抑える。

とりあえず撃ってこなかった事でヒビキは見張りの警官たちの方に近づいて行った。

 

「すいません、この人の保護をお願いします」

「…わかりました」

 

抱えていたおばちゃんに視線を向けた警官が快く応じて腰の抜けたおばちゃんの手を引っ張りシェルターに入る。

すると、残っていた上司の警官がヒビキに敬礼する。

 

「その姿…特異災害対策機動部二課の人ですね。 現在、街で暴れているあの針は何でしょうか? 新手のノイズとか?」

「え…? いや、私は…」

 

ヒビキのシンフォギアを見て特異災害対策機動部二課の者だと勘違いされる。

真実を言う訳にもいかず、特異災害対策機動部二課とも違うヒビキは返答に困った。無視してその場を離れるのがいいが、ヒビキの人の好さが邪魔をする。

どう返答するか迷ったヒビキだが、

 

「巡査長! こちらに接近する針を確認!」

「! 迎撃しろ!!」

 

見張りをしていた警官がシェルターに接近する何本もの宙に浮く針を確認し、報告する。

その報告を聞いた巡査長は直ぐに発砲の許可を出し宙に浮く針に撃つ。

 

幸い、宙に浮く針は何発かの拳銃の弾でも迎撃出来るがいかんせん数が多い。

必然的に弾切れを起こす警官が続出した。

 

「巡査長っ! 弾が!!」

「予備の弾は!?」

「既に尽きていて先程補給を要請したばかりです!」

 

部下の言葉に巡査長は絶望する。 弾切れイコール自分達の死だ。

もはやこれまでと覚悟した時、

 

「私が行くっ! あなた達はシェルターに」

 

この場を離れるチャンスと考えたヒビキが針の群れに向かう。 ヒビキは迫る針の横に回ってチョップなどをして叩き落し、数を減らす。

偶に迎撃しきれない針がヒビキを刺そうとするが、上手くシンフォギアに当てて弾き向かって来ていた針を全滅させる。

その光景に驚く警官たちを尻目にヒビキがそのままフェードアウトし響の方へと戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「イーッ!」「イーッ」

 

「このっ! ハアアァァっ!」

 

響が戦闘員の剣を躱してカウンターに顔面に拳をいれる。しかし、直後に別の戦闘員に取り押さえられてしまう。

 

「しまった!」

 

戦闘員にアッサリ捕縛された響だが決して油断していた訳ではない。

響はとある事情により戦闘員への集中力が落ちていたのだ。

 

「よくやった、くらえ!」

 

その原因は丁度、捕縛された響に向けて体に生えた針を投げたハリネズラスだ。

響が戦闘員に手中すれば針を投げつけて集中力を乱し、何時もなら十分蹴散らせる戦闘員に苦戦を強いられていた。

 

「! ヤッアア!!」

 

「イーッ!?」

 

避けるのが間に合わないと判断した響は羽交い絞めにしてた戦闘員を咄嗟に盾にする。盾にされた戦闘員はそのまま針が突き刺さると一声鳴いて倒れ骨になってしまう。

一瞬、口元がが歪み吐き気を押さえた響。

 

「咄嗟に戦闘員を縦にしたか、随分と甘さを捨てたな。 立花響!!」

 

ハリネズラスの声にハッとする響。別段、ハリネズラスは戦闘員を盾にしたことを責めてる訳ではない。

甘っちょろい小娘である立花響が敵を使って攻撃を防いだ非情さを褒めたのだ。尤も、殆どが嫌がらせだが。

 

「それはそれとしてソロソロ死んで貰う!」

 

そう言うとハリネズラスは左手の鋭い爪を響に突き立てようとする。響も針を警戒しつつ爪を避けてハリネズラスの顔に拳をいれる。

 

「アイヤヤヤヤヤヤヤ」

 

「!?」

 

響の拳を食らったハリネズラスだが口から不気味な鳴き声と共にハリネズラスの右手に顔面を掴まれ後ろの壁に叩きつけられる。

衝撃によりヒビが入った事で力の凄まじさが分かる。普通の人間なら一発で頭蓋骨を粉砕されている。

 

「貴様を片付ければ残ったもう一人の立花響と特異災害対策機動部二課の三匹だけよ」

 

「…もう一人の私や翼さん達をやらせるもんかああぁぁぁぁぁッ!!!」

 

ハリネズラスの言葉にそう反論すると響は両腕を使いハリネズラスの手から逃れようとする。

 

「フンッ!!」

 

「!?」

 

だがそれよりも早く、ハリネズラスは右腕をそのままにして駆けだし響の頭を壁に当てながら走り出す。

響の顔は壁との摩擦で熱くなり顔の人工皮膚が捲れ上がり押さえつけられていた壁は響が通った後は罅割れ凹み赤い液体が付着する。

そして、少し行った先でハリネズラスが押さえつけていた壁が粉砕すると同時に先の壁にまで叩きつける。

解放された響だが、壁にぶつかる衝撃により倒れて直ぐには立ち上がれない。

同時に響は顔の半分に強烈な熱を感じて触れると熱く硬い物に触れる。響の顔の半分の人工皮膚が剥がれてしまったのだ。

 

「辛い思いをして戦おうが、此処はお前には関係ない世界だろうに、相変わらず理解出来ん思考だ」

 

「…お前達…何かに…理解…されなくたって…いい。 他人を…喜んで…犠牲に…するショッカー…を野放しに何て…出来ない…」

 

顔の痛みに涙が出そうな響だったが、ハリネズラスの呆れ交じりの言葉に反論する。

その間にも響の顔の人工皮膚は回復し元の顔へと戻る。

 

「…言うではないか、小娘。 そんなに他人が大事ならもう教えたのか? その体の秘密を!」

 

「!?」

 

ハリネズラスの言葉に顔を歪める響。

その言葉の意味は…

 

「その体の中には俺達と同じ物が入ってるのだからな。 もう一人の立花響には教えてやったのか? 自分がもう人間じゃない事に」

 

自分の胸元に手をやる響。

 

元の世界の立花響は改造人間である

世界制覇を企むショッカーにより拉致され有無を言わさず改造された哀れな少女だ。

響が人間だった頃の物は心臓と脳の一部しかない。

 

「あ…あんた達には関係ないッ!!」

 

激高した響が言い返す。その様子に直ぐにピンときたハリネズラスは陽気に口調で言う。

 

「そうか、まだ知らないのか。 教えなくていいのか?」

 

「………」

 

ハリネズラスの言葉に響は答えない。完全におちょくってる事に気付いていたからだ。

響が答える気が無いと判断したハリネズラスは一言「つまらん」と言い針を剣のように振り回し響を攻撃する。

響の拳とハリネズラスの持つ針が交差し火花をあげる。まるでフェンシングの剣のように振るう針を拳でいなして当たらないようにするが、動揺してるのか響の肩に突き刺さる。

 

「グッ!?」

 

痛みを感じると共に「しまった!?」と思いハリネズラスの針を抜くと一旦距離を取る。

瞬間、体に熱の様な物を感じるが数秒もせずに落ち着く。

 

「…ふん、やはり戦闘員とは違い完全な改造人間に殺人ビールスは今一だったようだな」

 

響の様子を見てハリネズラスがそう漏らす。普通の人間なら針が刺されば数秒もせずに殺人ビールスが人体を犯し骨にして絶命させるが人間ではない改造人間には効果が薄いようだ。それでも戦闘員を骨にする事は出来る。

この結果に少しだけホッとする響。

 

━━━私の体に殺人ウイルスは効かない? なら戦いようは幾らでもある!

 

態勢を立て直した響はハリネズラスに突撃する。少し驚いたハリネズラスだが、直ぐに手に持つ左手の鋭く長い爪で迎え撃つ。

その対応は響の想定通りだった。

 

━━━ハリネズラスの左腕は爪が長すぎて針を掴んで投げるのに向いていない。 なら右腕を潰せばもう針を投げる事は出来ない! ハリネズラスもそこまで強い怪人じゃない!

 

少し戦ってみて響はハリネズラスの戦闘方を知る。ハリネズラスは基本的に体に生えてる針を抜いて投げている。片手が長い爪である以上、針を投げる右手を封じる事が出来ればハリネズラスは大きく弱体化すると読んだ。

 

それからは、響の猛攻がハリネズラスを襲う。

響の両手の拳とハリネズラスの針と左腕の爪に火花が散る。傍目には完全に五分の戦いであるが徐々にハリネズラスが押されていく。

 

「この力!?」

 

「ハアアア!!」

 

一瞬の隙をつき響の蹴りがハリネズラスの右手を蹴り握っていた針が弾かれる。

 

━━━今だ!

 

武器の針を手放し左手の爪で攻撃するには響が近すぎる。チャンスと考えた響は腕のギアを開き一気にハリネズラスの体に打ち込もうとする。

 

「……馬鹿め!」

 

「!…!?」

 

響は油断していた訳ではない。ハリネズラスの相手に集中し戦闘を見守っていた戦闘員にも注意を払っていた。それでも、ハリネズラスの言葉の直後に背中に何かが突き刺さる感覚の後に衝撃と熱波が響の背中を襲ったのだ。

響が地面に倒れる。背中には激痛と共に煙が出ている。

 

━━━この感覚…トカゲロンとの最初の戦いを…思い出すな…でも…一体何が…!?

 

まるで他人事の様に考える響はやっとハリネズラスや戦闘員意外に注意を向ける。

そして、響の目に映ったのは宙に浮く針だった。

 

「アイヤヤヤヤヤヤヤ! 忘れたか立花響、俺は自由に針を操る能力がある事を!」

 

この時になって、響の脳裏におばちゃんの店「ふらわー」で起こった事を思い出す。

天井や壁だけでなく床からも針が出て襲って来てた事を。

 

「ついでに教えてやる、俺の針には殺人ビールスはそうだが突き刺さった瞬間、爆発する爆弾針もあるのだ!」

 

「…爆弾針?」

 

ハリネズラスの言葉で全てを悟る響。背中の爆発も爆弾針が原因だ。響は自分のミスを悔しがる。

思えば針はふらわーの店内を縦横無尽に飛んでいた。即ち、操ってる事は目に見えていた。

ハリネズラスがただ針を投げつけているだけではない。ふらわーへの襲撃におばちゃんの避難、ハリネズラスの長髪でその事がすっぽりと頭から抜け落ちていた。

 

「そらぁ!」

 

「がっ!?」

 

背中に大ダメージを受けた響が立ち上がろうとするが頭を踏みつけられる。

ハリネズラスの足が響の頭をタバコの火を消すかのように捻られた。

 

「今までショッカーの計画を邪魔してくれた礼だ。 その頭を踏みつぶしてやる!!」

 

ハリネズラスの足に力が加わり響は自分の頭部に今までにない圧力を感じていた。

ただの人間なら耐えられない程の圧力が響を襲う。

何とか脱出しようとする響だが背中の負傷に回復する力を取られ、満足に力を発揮出来ない。

ハリネズラスのブーツの感触を感じる響。

このまま、ハリネズラスの足が響の頭を踏み砕くかに思えた。その時、

 

「イーッ!?」

「!」

 

一体の戦闘員がハリネズラスの方に飛んでき、驚いたハリネズラスは飛んできた戦闘員を叩き落すがその拍子に何歩か後ろに下がる。

 

「グッ…」

「立てる?」

 

頭への圧力が下がった響の耳に聞きなれた声が聞こえ振り向く。

そこには、おばちゃんの避難を終えた立花ヒビキが居た。ハリネズラスに戦闘員を投げたのはヒビキだった。

 

「わたし? ありが…!」

 

助けて貰ったお礼を言おうとした響だが、直ぐに自分の背中を確認する。爆弾針の影響で背中のギアや人工皮膚が剥げたのを見られた可能性があったからだ。

直後に響はホッとする。背中は見た目だけなら煤がついてるだけに見えた。まだ痛みはあるが表面上は治っている事に響は安堵する。

 

「?」

「ごめん、何でもない」

 

そんな響の行動に疑問を感じるヒビキだったが、響の言葉で視線を戻す。何より其処には、

 

「チッ! もう戻って来たか!」

 

自分達を狙う(怪人)が居るのだから。

二人の響とハリネズラスの睨み合いが発生する。

 

そして、二人の響の視線が合い頷く。途端、軽快な音楽が聞こえて来る。

 

「アイヤヤヤヤヤヤヤ!! 歌で俺の相手をするつもりか!」

 

「お前を倒さない限り犠牲者は増え続ける。だから…」

「速攻で倒す!」

 

今こうしてる間にもハリネズラスの針が人を襲い殺している。それを止める為にも目の前のハリネズラスを何としてでも倒さねばならない。

 

「簡単にはやらせん!」

「イーッ!」「イーッ!」

 

しかし、ハリネズラスもショッカーの改造人間。二人を返り討ちにしようと部下の戦闘員を全員出す。

周囲に何人もの戦闘員が現れたが、二人の響達の表情は変わらない。

 

胸に残るあの日の衝撃

辛く刺さった数々の痛み

(Tears roll down)

 

二人が同時に歌う。戦闘員も飛び掛かりナイフや槍で攻撃しようとするが、響の拳が、ヒビキの蹴りが戦闘員を蹴散らしていく。

 

「アイヤヤヤヤヤヤヤ! 喰らえ!」

 

ハリネズラスも黙ってる訳がなく、体に生えた針を響達に投げつける。

 

「二度と繰り返さない」

誓った拳はまた固くなる

 

しかし、その針を響は拳でアッサリと叩き落す。

ハリネズラスが舌打ちをし、またもや針を投げるがそれも叩き落す。

同時に剣を握った戦闘員を投げ飛ばし何人もの戦闘員を巻き込んだ。

 

「チカラには意味がある」

ガッと蹴って踏み溜め込む

 

「イーッ!」

 

最後の戦闘員がヒビキの拳を食らい地面に転がる。これでハリネズラスが連れて来た戦闘員は全滅した。

 

「馬鹿な、弱った立花響とただの人間如きに!」

 

戦闘員が全滅したからか、狼狽するハリネズラス。そして、その隙を見逃さなかった響はヒビキと視線を会わせ頷く。

 

笑顔の為に

Ready(Ready)

 

二人の響の腰のブースターが火を吹き、一気にハリネズラスに接近し拳をハリネズラスの体にぶち当てる。

 

「舐めるな!」

 

ハリネズラスも反撃に左腕の爪を振るう。爪の先がヒビキの頬を掠るがヒビキは怯みもせず拳を振るう。

響も負けずとハリネズラスの体に何発もの拳を当てていく。

 

Fight now(Fight now)

愛で握れ

 

二人の響の猛攻にハリネズラスは段々押されていき、遂には

 

「なっ!? 俺の爪が!!」

 

二人の響の拳を爪でガードしたハリネズラスだが、それにより左手の爪が砕け散る。慌てて体の針を抜こうとするが、

 

(Knock out!)「諦めない」って言葉

(Knock out!)君にも伝えたいんだ

守りきる手が 明日(あす)を創る

 

だが、それよりも早く慌てていた為防御が疎かになったハリネズラスの腹に二人の響の拳が命中し同時に開いていたギアも閉じ、凄まじい衝撃を与えられて吹き飛ぶハリネズラス。

 

「アイヤヤヤヤヤヤヤ!!!!?」

 

吹き飛んだハリネズラスは何度も地面を転がり、立ち上がろうとするが既に体はフラついている。

最早、ハリネズラスの敗北は目に見えていた。

 

「やったの?」

「うん、終わったよ」

 

ヒビキの問いに答える響。尤もその表情は嬉しい訳でもなく疲労を感じている。

怪人を倒したが街は大混乱に陥り何人の人間が殺されたか分からない。

 

「「終わった」だと、ほざけ!」

 

「「!」」

 

響の声が聞こえたのかハリネズラスの怒号に驚く二人。二つのガングニールの力の前に既にハリネズラス死に体だが、その目には未だ狂気を感じている。

 

「ショッカーには、まだまだ強力な怪人軍団が控えている!貴様らの居る所に必ず現れ周りの人間も巻き込んでやる!それをゆめゆめ忘れるな、立花響!…アイヤヤヤヤヤヤヤ…」

 

ハリネズラスが最後に鳴き声を上げると地面に倒れて爆発する。

響達は知らないが、この直後に人々を襲っていた針は地面に落ちると次々と爆散して消滅していった。

 

「…?」

 

その場を去ろうとしたヒビキだが、もう一人の響は突っ立って何かを見ている。視線を追った先には燃え続けるふらわーがある。

声をかけるべきか悩んだヒビキだが、遠くの方で消防車や救急車、パトカーのサイレンが聞こえてきたのに気付く。

 

「行くよ」

「…うん」

 

警察が来たら自分達が残っていれば間違いなく事情聴取されるだろうと考えたヒビキは響に声をかける。

響もそれに反応して頷きその場を後にした。直後に何台もの消防車が到着し燃え盛るふらわーやビルや家屋に目掛け消火活動に入る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「海蛇男、ハリネズラス、共に倒されました」

「殺人ビールスもハリネズラスとともに消滅しました!」

「…そんな物見れば分かる!!」

 

一方、アジトで響達やマリアたちを監視していた室内に地獄大使の怒号が響く。

東京ドクロ作戦が失敗し、悪魔祭りの生贄を集める計画もシンフォギア装者に阻まれおじゃんとなった。

地獄大使が立てた作戦が悉く失敗し頭に血が昇る。だが、それと同時に地獄大使の脳内は一つの疑問が出来ていた。

 

━━━立花響は兎も角、雪音クリスにマリア・カデンツァヴナ・イヴのあの力は何だ? 特異災害対策機動部二課の新兵器か?

 

海蛇男との戦いで見せた黒いシンフォギア。それがどうにも地獄大使は引っ掛かっていた。

 

━━━あれだけの力だ。 小娘たちが使うのも分かる…ならば何故、風鳴翼は使わなかった? 可能性としては、雪音クリス及びマリア・カデンツァヴナ・イヴは特異災害対策機動部二課の人間ではなく何処か別の組織から出向してる場合だ。 それならばあの二匹は何処の組織だ? FISか結社辺りか?

或いは、あの力を使うには別の能力が必要で風鳴翼にはそれが無かった? だが、映像で見た風鳴翼の表情は初めて見たような感じだった。

それとも……

 

暫く一人で考えて居た地獄大使だったが、カッと目を見開き戦闘員に向かって言い放つ。

 

「雪音クリス及びマリア・カデンツァヴナ・イヴを徹底的にマークしろ! どんな情報でも良い、あの二匹の正体を探れ!!」

 

「「「「イーッ!!」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戦いから翌日。

殆どの火は消化され街に平穏が戻りつつあった。野ざらしになっていた白骨も殆どが片付けられている。

 

「此処なの?」

「ああ…」

 

そして、燃え盛ったふらわーの前に二人の女性が立つ。

クリスとマリアだった。

海蛇男を倒した後に特異災害対策機動部二課に戻った三人に聞かされたのはショッカーの商店街への襲撃だった。幸い、特異災害対策機動部二課に所属していないシンフォギア装者が怪人を倒して解決させたが多数の被害が出たのは事実だった。

消火作業や救助の邪魔になると判断したクリスとマリアは、それらが終わってから街へと繰り出し商店街へと来たのだ。

商店街に入った二人は絶句しながらも足を進めてふらわーの前へと来た。

火事の影響でふらわーは完全に燃え尽き残骸しかない。

 

「…ショッカーめ!」

「私は並行世界だけど何度か食べたわね」

 

その光景にクリスは悔しそうに手を叩き、マリアも目伏せて喋る。

クリスとしてはフィーネに追われた後に未来がふらわーのおばちゃんの家に運ばれた後に何度か食べたりしてるし、マリアも並行世界で活動する時世話になった事もある。

そんな、ふらわーが…。

 

「あら、誰だい? 其処にいるのは」

 

「「!」」

 

横からの突然の声に二人が振り向く。そこには避難を終えたおばちゃんが居たのだ。

自宅兼店でもあったのでお店の時と姿のままだった。

 

「もしかして、お客さんかい? なら悪いね、見た通り店がこんなありさまで」

 

おばちゃんが申し訳なさそうに言う姿にクリスは何も言えないでいる。それを見かねたマリアが代わりに口を開く。

 

「店もそうですけど、周りも酷いですね」

 

ふらわーだけが燃えた訳ではない。ハリネズラスの爆弾針で燃えた家屋もまた多い。

おばちゃんは燃え尽きた店で何か残ってないかと来ていたのだ。

 

「そうなんだよ。 一応保険や政府が復興資金を出すって言ってるから店の再建はできそうだけど。 暫くは実家に戻る事になりそうだよ。 …ここだけの話、ノイズじゃない化け物が人間を殺してね。黄色い娘たちが倒してくれたみたい」

「ノイズじゃない化け物…」

「…黄色いって事はアイツか」

 

おばちゃん言葉にマリアはショッカーが動いた事を察し、クリスはこの世界の響が動いた事を悟った。

そのクリスの反応におばちゃんが気付く。

 

「あら、もしかして知り合いかい? ならあの娘たちに言付けを頼まれてくれないかい?」

「言付け?」

「店が再建出来たらまた来なさい。 頼むわね」

「あ…ああ…」

 

おばちゃんに頼まれた言付けにクリスが思わず返事をする。

クリスもマリアも未だにこの世界の立花響とは最初以外ろくに接触出来ていなかった。

 

 

 

 

 

 

 




KNOCK_OUTッ!の楽曲コードやっと分かった。「ッ!」いらねえのかよ!!

ハリネズラスとの戦闘がアッサリめですが、海蛇男と違ってハリネズラスは体に付いた針を投げるだけ。地味です。
もう少しギミックがあれば良かったのですが…再生怪人を乱入させるとワンパターンになるしな…

イグナイトを使った事で地獄大使がクリスとマリアを怪しんでます。

TV本編では途中で出なくなったふらわーのおばちゃんですが、ショッカーの所為で暫く東京を後にします。


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87話 悪魔の祭り

 

 

 

深夜

商店街の襲撃から数日たったある日、とある路地にて黒いスーツの制服を着た男が歩いている。

彼は、特異災害対策機動部二課のエージェントであり、ある少女を調べていた。

 

「やはり、手掛かりは無しか。いったん戻ろう」

 

 

キィ~リィ~

キィ~リィ~

キィ~リィ~!

 

 

「?」

 

黒服が戻ろうとした時、何処からともなく不気味な声と共に辺りには何時の間にか白い霧のような物が発生している。

 

「だ、誰だ!?」

 

目の前の白い霧の中に人影が見えた黒服は懐に入れた銃に手をかけて聞く。

外灯の光だけで見えにくかったが、徐々に霧が消えていき姿を見る。

 

「カ…カミキリキッド!?」

 

黒服の男が慌てて銃を向ける。

ソイツは間違いなく、数日前にクリスや翼たちを襲撃した改造人間「カミキリキッド」だ。

 

「キィーリィー…ほう? 俺の名を知っているか。特機部二の者だな、丁度いい。 俺の新しい能力テストの実験台にした後にお前も悪魔祭りの生贄にしてやろう!」

 

そう宣言した直後にカミキリキッドは口から白い粉を吐き出し、黒服の体にかかる。

一瞬、何なのか分からなかった黒服だが、直後に体が痺れ意識が遠のき倒れてしまう。

 

「実験は成功だ」

 

その結果を見たカミキリキッドは満足そうに言うと倒れた黒服を肩に担ぎ闇に消える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だああああああああっ!!! 全然会えねええええぇぇぇ!!!」

 

海蛇男との戦いから数日。

クリスの絶叫にも近い声が特異災害対策機動部二課の指令室に響き渡る。

指令室に居た職員はクリスの絶叫にビビったり唖然とし、司令官である弦十郎も何を言って良いか分からない。

 

傍に居たマリアはあおいに入れて貰ったココアを飲んでいる。

指令室にあるソファーに凭れながらもクリスは言葉を続ける。

 

「アイツを探そうとすれば行く先々で怪人が襲撃して来やがって!」

「…この数日の間にコブラ男にゲバコンドル、ヒトデンジャーにピラザウルス」

「特にナメクジ野郎はキツかった…」

 

クリスとマリアはこの数日、この世界の立花響と接触して話をしようとしていたが外に出ればショッカー怪人が次々と襲い掛かり戦って倒して来た。

二人共、速攻で決着をつける為に初っ端からイグナイトも使用し怪人達を撃退し続けていた。

 

「あれの名はナメクジラよ、自分から名乗ってたでしょ」

「アイツ等の名前なんかどうでもいいだろ。襲って来たのを返り討ちにしたけどな」

 

敵の名前を一々覚える気のないクリスは「ハアァー」と溜息を付く。

戦闘員も倒すのに抵抗が無くなってきたが、それでもノイズを倒すように今一割り切れてもいない。

少しづつではあるがクリスのストレスが溜まって来ている。

今直ぐ、ソファーで横になろうかと考えるクリスに弦十郎が口を開く。

 

「すまんな、立花響くんの行方は此方でも探っているんだが…」

「どうやら、リディアン音楽院に通ってた、までは突き止めたんですが…最近休みがちで…。寮にも帰ってない日があるとか」

 

「それは予想していたけど、音楽院ってすぐ上じゃない!」

「…何か此処の諜報能力低いよな」

 

弦十郎たちの報告にマリアもクリスも唖然とする。どうにも元の世界に比べて動きが遅いとしか思えない事ばかりだった。何より、特異災害対策機動部二課はリディアン音楽院の地下に本部が作られている。

「S・O・N・Gって優秀だったんだな」と改めて思うクリス。何しろ特異災害対策機動部二課の目と鼻の先であるリディアン音楽院に響が通ってた情報が今出て来た事に遅すぎると感じてしまって居た。

 

「それについては言い訳のしようがないな」

「仕方ないですよ。エージェントが悉く行方不明になってるんですから…」

「今日も何人もの黒服が消息を絶って…」

 

マリアとクリス達の反応に弦十郎は溜息を漏らした。

兎に角、今の特異災害対策機動部二課の情報網はズタズタにされていた。ショッカーが本部に襲撃したのも大きいが政府や訃堂が新しく出した人員も悉くが行方不明になり連携も引き継ぎすら不可能に近い。十中八九ショッカーの仕業と見ている。

その所為で特異災害対策機動部二課の動きは完全に制限されてしまった。

 

「それはそれとして、まだ彼女の情報は手に入らないの?」

「その事についてだが幾つかの情報を手に入れた。名前が分かってる以上、彼女の実家にも情報を提供して貰った」

「…家まで行ったのかよ」

 

弦十郎たちが最終手段まで使った事に呆れるクリス。まあ、名前が割れている以上、実家を探すのも難しい事ではないのだろう。

そうして、弦十郎は手に入れた響に関する調査報告書に目を通す。

直後に、弦十郎の眉間に皺が寄る。

 

「…そうか、彼女はアレに巻き込まれていたのか」

「アレ?」

「何だよ、もったいぶるなよ」

 

クリスとマリアの言葉に弦十郎はゆっくりと話し出す。

 

「実は二年前にとあるライブの最中に事件が起きた」

「もしかして、ツヴァイウイングのライブのノイズ襲撃事件?」

「知っていたか、並行世界でも起きたのか。…それは兎も角、知っているなら話は早い」

 

その後、弦十郎から聞かされる響の過去は壮絶と言えた。

ライブを生き残った響だったが、週刊誌がノイズでの死亡よりも避難する際のパニックによる死者が多い事が報道され、犠牲となった遺族が生き残った者達を叩き始めた。

響も例に漏れず非難や中傷、差別を食らう事になった。

何より当時の響の通う中学校で人気者だった男子が死んでいた事でそれが加速した。響の机にはツヴァイウイングのライブ生き残りをバッシングする記事のある雑誌が置かれクラスメイトも誰も近付かず、遠巻きで響の蔭口を言う。

 

だが、まだ家族が響の心の拠り所で耐えられた。しかし、それも時間の問題だった。

中傷は響だけでなく家族にまで及び、父親はノイローゼになり母親とお婆ちゃんも徐々に元気が無くなって行った。

 

「…家族以外、誰も傍に居なかった彼女にとって絶望しかなかっただろうな」

「アイツにそんな過去が…」

「でもそれなら、私達の世界の立花響も同じ風になってないとおかしくない?あの娘とこっちの娘と何が違うのかしら?」

 

恐らくはマリア達の世界の立花響も同じ目に合っている。なのに、何故この世界の立花響だけ荒んでしまったのか?

それがマリアには引っ掛かった。

そこでクリスは弦十郎の説明を思い出す。

 

「ちょっと待てよ、おっさん。家族以外ってアイツは如何したんだよ?」

「アイツ?それは誰の事だ」

 

クリスのアイツ発言に訳が分からないといった反応をする弦十郎。代わりにマリアがクリスが誰を言いたいのか理解した。

 

「小日向未来ね」

「小日向? …いや、彼女の近辺にそのような人物は居ないんだが」

「!?」

 

マリアの発言で提出された資料を何度も読む弦十郎。しかし、資料には小日向未来という名前は見つからなかった。

それを聞いたクリスも弦十郎が持つ資料を奪い取り目を通す。

しかし、クリスも小日向未来という名前を発見できなかった。

 

 

 

 

 

 

 

「一体、如何言う事なんだよ!!」

 

指令室を出て通路を歩くクリスが怒鳴る様に言う。

偶々、通路を歩いていた職員がビックリしてクリスを見た後にそそくさとその場を後にする。

 

「落ち着きなさい、クリス」

 

隣でクリスと共に通路を歩いていたマリアが制止するよう言う。

マリアからしても今のクリスが冷静とはとても思えないからだ。

 

「これが落ち着いていられるかよ!何時も一緒だった筈にアイツらが一緒に居ないなんて…」

「此処は並行世界よ。考えられることは幾つもあるわ」

 

マリアの言う通り此処は自分達にとっては並行世界の一つ。

クリスとて何度も並行世界に行ってるので分かっては居る。

 

例えば

ツヴァイウイングのライブの事件の時に天羽奏でなく風鳴翼が絶唱を歌い亡くなった世界。装者が居らず自衛隊が頑張り何故かウェル博士が日本に居る世界。闇落ちし一切の情すら無くなったナスターシャ教授が居た世界。或いは装者である自分達が存在しないが別の力でノイズに対抗している世界。マリアの妹であるセレナが代わりに生き残った世界。両方生き残ったがマリアに呪いが掛かった世界。マリアに出会う事がなかった月読調と暁切歌の居る世界。

 

それこそ無数に体験してきた。

 

「…一応聞いておくけど何だよ」

「先ず一つは、小日向未来が最初から居ない可能性ね。これなら立花響の傍に小日向未来が居ないのも納得できる。

もう一つは何らかの理由で小日向未来が立花響から離れた可能性。でも、これなら小日向未来を見つけて会わせればいいだけかも知れない。

そして、最悪なのは二年前のツヴァイウイングのライブに一緒に行っていたパターンよ」

「一緒に?…!」

「気付いたようね、一緒に行ってノイズの襲撃に巻き込まれ亡くなってる可能性もあるわ。それなら、ノイズに対する攻撃性も納得できるし」

「未来が…死んでるってのかよ!」

 

クリスはマリアの言葉を否定したかった。

しかし、響のあそこまでのノイズへの攻撃性に納得してしまう部分もある。何より誰かが代わりに亡くなってるなど並行世界ではよくあった事だ。

だがそれでも、クリスは数少ない友人が死んでるなどと認めたくはない。

 

「…なあ、本当に未来は死んだと思うのか?」

「正直、私も分からないわ。指令が探すと言う以上、様子をみるけど…」

 

小日向未来は特異災害対策機動部二課のエージェントたちが捜索する事になった。

自分達では取り付く島がないが、小日向未来なら立花響も言う事を聞いてくれるかもしれない。

問題は…

 

「アイツ等に見つけれるのか?」

「…ノーコメントで」

 

響が目と鼻の先のリディアン音楽院の在校生だと今さっき知った特異災害対策機動部二課だ。

ハッキリ言ってクリスもマリアもこの世界の特異災害対策機動部二課の腕を怪しんでいる。

更には、組織力が不明ながらも無視出来ない凶悪な怪人軍団がいる秘密結社ショッカーも無視出来ない。もし、小日向未来の存在をショッカーに知られればどうなるかは想像に難しくない。

 

「…なあ、こんな状況で本当にまた戻るのか?」

「仕方ないでしょ、現状報告に新しい怪人のデータとか渡した方がいいでしょうし」

 

今現在、クリスとマリアが通路を歩いてるのは元の世界に戻る為に公園の奥の方に行く為だ。

此方の世界の弦十郎たちには知らせて許可を貰っている。

そのまま、直通のエレベーターに乗って学園内から出る二人。

 

 

「…ターゲット確認」

「了解、追跡を開始せよ」

 

つけて来る怪しい男達も引き連れて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

日本の何処かの海岸地帯。

其処には大きな洞窟があり幾つもの真ん中が赤い白い十字架が突き刺さっている。

イタズラとかではない。その証拠にショッカーの戦闘員が何人も警備し巡回している、

そして、その奥では地獄大使が恐ろしい事をしているのだ。

 

「偉大なるショッカーの首領よ! どうか世界を越え、その無限なる悪魔の御力で今ひとたび改造人間に復活のエネルギーをお与えくだされ…」

 

決して明るいと言えない部屋に地獄大使が膝を付き腕を胸元でクロスさせている。

地獄大使だけではない。周囲には無数の戦闘員やカミキリキッドも地獄たちの動きを真似ている。

そして、彼らの前には人間の頭蓋骨で作られた十字架が佇んでいる

極めつけは骸骨で作られた十字架の前に石で作られた台があり冒頭に述べて黒服が寝かされているのだ。

 

此処はショッカーの墓場だ。

十字架の下には、この世界での響やクリス達が倒した怪人達の死体がある。

そして、ショッカーの墓場では地獄大使による悪魔祭りが行われている。

 

地獄大使が何度目かの祈りを捧げると室内にも関わらず雷鳴が響き白い煙が噴き出し強烈な光りと暗闇が交互する。

そして、

 

ウルルルルルルル!!

ヒッヒヒッヒッヒッヒヒッヒヒッ!!

 

台の上に寝かされた黒服が消え、台の裏側から海蛇男とサボテグロンが現れた。

これこそがショッカーの怪人を蘇らせる地獄大使の策である。

 

「海蛇男とサボテグロンだけか…」

 

しかし地獄大使は蘇った怪人達を見て溜息を漏らした。

 

━━━本来なら悪魔祭りで蘇る怪人は五体。 しかし首領の御力もなくワシの呪術だけでは二体が限界か…

 

本来は、地獄大使の悪魔祭りで蘇る怪人は五体である。しかし、それは首領の無限の悪魔の力もあって出来る事である。

首領の手の届かない平行世界では地獄大使の呪術しかなく、復活した怪人も五体から二体に減ったのだ。

 

「…まあその分、数で補うだけよ。次の生贄を準備しろ!」

 

蘇った怪人に命令を出すと地獄大使は次の生贄を連れて来るよう言う。

今日中に響やクリス達に撃破された怪人達を復活させるつもりなのだ。

 

「イーッ、地獄大使、緊急の報告があります!」

「…うむ」

 

戦闘員が別の人間を連れてこようとした時、一人の戦闘員が入って来て報告する。

少し考えた地獄大使は悪魔祭りを取り止め、その戦闘員と共に指令室に向かう。

 

 

 

 

 

 

「ほう、またしても公園の奥で消えたと言うのか?」

 

指令室に着いた直後にクリスやマリアを追跡していた戦闘員からの報告を受けていた。

尤も、その内容は二人を途中で見失ったで終わるのだが。

 

ここ数日、地獄大使は徹底的にクリスとマリアの情報を洗い出し外に出れば何人もの戦闘員に追跡させていた。

結果は、必ずと言っていい程公園の奥で二人の姿が消えまかれている。だが、地獄大使が引っ掛かったのは毎回公園の奥で消えている事だ。

 

「イーッ! これが二匹の小娘が消えた奥の情報です」

「見て欲しいのは、ある一枚なのですが…」

 

そう言って戦闘員が封筒を渡す。

既に何度となくこの付近で戦闘員が撒かれた事で現場の情報を欲した地獄大使に写真だけでも撮って来るよう命じられていた。

 

地獄大使が中身を見ると、それは公園奥で取られた写真だった。それは何の変哲もない公園の風景としか言えず小さな川と古く小さい橋のような物も写っている。

そして、地獄大使が一枚の写真をガン見する。

それは橋近くの原っぱ辺りだ。一見すればそれはただの風景写真にも思える。が、

 

「僅かだが空間が歪んでるな」

 

ほんの僅か、何も知らない素人が見ればただの風景写真とスルーする事は確実だったが地獄大使の目はほんの少しだけ空間の歪みを見逃さなかった。

 

「イーッ! 我々の所有するあらゆるセンサーを使いましたが何の反応もありませんでした!」

「…となると、我々の知らない未知の技術か」

 

この付近に何かあると感ず居ていたがショッカーの技術では観測出来ないとは予想していなかった。

其処で地獄大使は少し前に入手した情報の載っている書類に手を伸ばす。

 

「…ギャラルホルン…か」

 

書類にはハッキリと「ギャラルホルン」と書かれた文字がある。

それが何を意味してるかは地獄大使も知らない。敢えて語るのなら北欧神話に出て来る角笛程度だ。

しかし、神話の角笛を特異災害対策機動部二課の本部にいるクリスやマリアの口からはギャラルホルンと言う言葉が何度も出てるのは確かであった。

 

「いろいろ確かめねばなるまい。…ゴキブリ男を呼べぃ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

先程まで青空が広がっていた空だが、急速に雲行きが悪くなりポツポツと水滴が地面へと落ちる。

 

「やべっ!振って来た!」

「今日の天気予報、一日中晴れだったのに!!」

 

街中では傘を持っていない人は急ぎ会社か家に戻り、それ以外は雨宿り出来る場所を探す。

その様子を遠くから見ていたヒビキは思わず溜息を漏らす。

此処は、打ち捨てられたビルの廃墟。バブルだったかノイズだったかで会社が潰れ建て掛けていた放置されていたビル群の一つにヒビキはいた。

 

「…暫く寮の方には戻れないかな…」

 

ヒビキが何故、寮ではなく廃墟の方に居るのか?

それは、特異災害対策機動部二課の黒服がヒビキの住む寮内を家探ししていたからだ。

特異災害対策機動部二課が自分達を捕らえに来たと判断したヒビキは、よく子供の頃秘密基地にして遊んだ廃墟のビルの中に入ったのだ。

 

「…〇〇には男の子くさいって、よく言われたな。 …?」

 

ふと、ヒビキは昔親友に言われた言葉を思い出す。しかし、それが誰だったのか思い出せない。

 

「たっだいまあああ!!!」

「!?」

 

丁度その時、暫く此処に住むための物資を調達しに行っていた響が大声を出して戻って来た。

その両手には大き目のビニール袋がパンパンとなっている。響は廃墟で籠城する為にも補給物資を買いに行っていたのだ。

雨の所為で響の服は少し濡れていたが、響はそんな事もお構いなく袋から次々と戦利品を出す。

 

「これ、丁度スーパーで割引していて…こっちはパン屋のお姉さんの手伝いをしたら分けて貰って…これは偶々お爺さんがぎっくり腰になってたのを助けた時に…」

 

中身はパンとか乾物だったりお酒の御供とかが殆どだったが冷蔵庫の無い廃墟には寧ろ有難くもある。

何時まで居るのか分からないが日持ちする食料は本当に理にかなってる。

それに此処ならショッカーの襲撃も他者を巻き込む可能性は少ない。不満があるとすればノイズの出現した情報を得るのが難しいくらいだ。

 

あと他の悩みは

 

「…着替えかな」

 

ヒビキとて年頃の娘だ。何日も同じ服に下着などゴメンである。

最悪、母の居る実家に戻る事も視野に入れなければならない。

その時、ヒビキはまだ戦利品の説明をしている響が目に入る。

 

━━━無理に明るく振舞ってるな…

 

ヒビキは響がワザとらしく無理矢理明るく振舞ってる事に気付いている。

理由はよくは分からない。それどころか響は自分に内緒にしている事もあるだろうと予測する。

尤も、知られたくない事なんて自分も持っている以上、お互いさまと言える。

 

結局、その日は廃墟が完全に暗くなりヒビキは放置されていたベッドで横になる。とはいえ、遠くのビルのネオンが部屋内を照らす事もあるので其処までは暗くはない。

少し匂うが贅沢は言えない。この時、ヒビキは失念していた。交代制にしようと言い忘れヒビキは朝まで寝てしまったが起きた時は響が元気そうだった。

 

 

 

ヒビキは響に対して深く追求はしなかった。それが吉と出るか凶と出るかはまだヒビキは知らない。

 

 

 

 

 

 

 




言うなれば嵐の前の静けさといったとこです。
尚、クリスたちだけでなく、響達にも戦闘員が襲い掛かってました。

改造人間は死なん!(大嘘
怪人が減れば人間を復活エネルギーにして何度でも蘇ります。防ぐ手段は本編見た限り蘇った怪人達を全て倒す事。…たぶん
尤も、その悪魔祭りすら完全ではありません。
本編だと五体でしたが、首領の力が届かなかったので二体しか復活しません。まぁ、地獄大使は、その分数で補えばいいだけと考えてますが。


政府の組織だから名前が割れてる以上、実家特定されるよね。

ショッカーの襲撃の所為で原作以上に遅れた響の情報。
結果、特異災害対策機動部二課が原作以上に無能になるか自分達の失態を隠す為、情報を出さない腹黒になるかの二択。結果無能に。
尚、原作以上に人材不足な模様。

果たして、クリスとマリアはゴキブリは平気なのか?


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88話 仕組まれた遭遇戦

たまたまYouTubeで「仮面ライダーBLACK SUN」のPVを見たんですが民衆が怪人に対してデモしてるようですけど。どういう状況?
自然発生?悪の組織から解放された改造人間?ゴルゴムやクライシス帝国は?

謎が多いです。


 

 

 

「コブラにコンドル、ヒトデにナメクジか…」

「やはりショッカーは動物の能力を利用しているみたいですね」

 

S・O・N・Gの指令室。

並行世界から戻ったクリスとマリアの持ち帰った情報を確認する弦十郎たち。指令室にはクリスとマリアを始めとした仲間たちが集まり共にモニターを見ている。

 

モニターには炎吐き右手の蛇から人間すら溶かすガスを出すコブラ男。脇の下に被膜があり、それで空を自在に飛び、クリスとマリアの血を求めたゲバコンドル。赤い体に頭だけでなく手足が伸びやたら頑丈だったヒトデンジャー。体を液体化させクリスたちを奇襲し口から溶解液と火炎を吐くナメクジラの姿が写る。

 

「正直、ノイズより厄介だったわね」

「まあイグナイトなら余裕だったけどな」

 

映像には通常のシンフォギアで苦戦する二人とイグナイトを使って逆転する二人の姿が流れている。

どれもが強力と言え一対一ではイグナイトでも苦戦する程だった。

 

「し…信じられません! どの怪人も強さだけなら嘗てのキャロルの人形に匹敵しています」

「オートスコアラーだと!?」

「性根の腐った人形レベル…」

「…イグナイトを使うレベルだな」

 

友里あおいの報告に弦十郎は嘗て響達が戦った錬金術師の人形を思い出し、マリアも自身が撃破した人形を思い出す。

その人形たちの強さを思い出すと同時にある種の納得もする。

 

「…駄目です。 ピラザウルスと呼ばれる怪人だけどの生物とも一致しません!」

「こっちも同じです。 僕の知識内でもアレに関する正体は不明です」

 

クリスとマリアを襲った怪人の内最後の一体に関するデータを解析していた藤尭朔也と金髪の少女らしき人物が正体が不明と報告する。

直後に、モニターにピラザウルスの姿が大きく写し出される。

モニターには頭部の赤いトサカに蜘蛛の巣のような目の部分、人間で言う耳元付近まで裂けた口内から五本の牙が飛び出した姿がハッキリ写っている。

 

「見た目からして爬虫類のようにも見えるが…」

「案外恐竜の生き残りかもな」

 

大体の怪人の元になった生物は分かった。しかし、ピラザウルスだけは不明で見た目から爬虫類という事しか分からない。

そして、それぞれにモニターに目をやるとクリスとマリアがピラザウルスと戦ってる映像になる。

映像はクリスの一斉射撃を直撃しようと一切怯まずクリスに反撃している姿だ。

 

「体の丈夫さもそうだが、動きが俊敏だな」

「あの動き…プロレスに似てる気が…」

 

映像のピラザウルスがクリスに一気に肉薄すると逃げようとするクリスの体を掴み腰の部分をガッチリ掴む。

暴れるクリスだがピラザウルスの手からは逃れられずにジタバタする。

 

「え!?」

「ちょ!? もしかしてエッチな事をしようとしてるデスか!?」

「チゲーよ、馬鹿!!」

 

ピラザウルスの動きに勘違いしたのか調と切歌が顔を赤くして顔を手で覆う。尤も、指の間からガッツリと見ていたが。

そして切歌の言葉にクリスは顔を赤くして否定する。

 

「これはサバ折りか!?」

「完全にプロレスラーの戦いですね」

「その分、対人戦闘では無類の強さだ。 防人として放置は出来んな」

 

ピラザウルスの動きを見て冷や汗を流す翼。自信が戦う姿を想像しては何度も舌打ちをする。

映像は、サバ折りされるクリスが悲鳴を上げてるとイグナイトを纏ったマリアがピラザウルスに攻撃しクリスの救助を行っている。

解放されたクリスもマリアのようにイグナイトを纏いピラザウルスと戦闘に入り勝利する。

 

「あの時は肝が冷えた、腰や背骨がメキメキいってたからな…」

「シンフォギアごと粉砕するなんて…この怪人は凄まじい力ですね」

 

クリスの言葉に金髪の少女らしき人物は若干顔を青ざめている。弦十郎やS・O・N・G職員たちも自然の自分の腰の部分を振れる。

ピラザウルスを倒した映像が終わりモニターは再びそれぞれの怪人の顔が写る。

すると、大人しく映像を見ていた未来がクリスに視線を向ける

 

「それでクリス、向こうの響に会えたの?」

「…いや」

「探そうとする度に怪人の奇襲を受けて…戦闘後も探せる状態じゃなかったわ」

 

未来の質問にクリスは短く答えるとマリアが説明する。

クリスとマリアはヒビキを探す旅にショッカーの奇襲を受けていたのだ。

 

「それではショッカーは二人が響くんに会うのを妨害しているようだな」

 

 

 

 

 

 

「…たぶんその通りだと思います」

「…響?」

 

弦十郎の言葉に響が頷いた。皆が響に視線を向ける中、響はジッとモニターに写る怪人を見ている。

その目は未来すら見た事がないような鋭い目つきだ。

 

「…想像だけどショッカーは向こうの私がクリスちゃんとマリアさんと会うのを嫌がってる。 …と思う」

「立花と雪音を各個撃破するのが目的か? 戦術の基本ではあるが…」

 

ショッカーが何の目的で並行世界の響とクリスたちの合流を邪魔してるかは分からない。

それでも、クリスとマリアが響と合流するのを阻止しようとするならクリスたちも退く気はない。

 

「ショッカーにとって、私達が合流するのが目障りなら…」

「余計に向こうの馬鹿に会わないとな!」

 

マリアが喋りクリスが手を叩いて言い終える。その顔は二人共決意に満ちていた。

この位の妨害は二人にとっても打倒ショッカーに燃えている。

 

「なら私も!」

「響!?」

 

クリスの言葉に反応した響が自分も行くと言う。それに驚く未来だが、他の仲間も心配そうに響の方を見る。

 

「お前…悪夢は大丈夫なのか?」

「へいき…へっちゃら! 最近殆ど見なくなったし!」

「待つんだ、響くん。 せめて今度の健康診断を受けた後に結論を出した方がいい」

 

クリスの言葉に響が元気そうに返事をする。直後に弦十郎が健診後まで待つよう言った。

響の顔色は依存よりだいぶ良くなり響の言う通り元気になりつつある。それでも、また突然倒れるのではと皆が心配しているのだ。

響もその事には気付いており弦十郎の言葉に頷くしかなかった。

 

そして、報告を終えたクリスとマリアは一晩S・O・N・Gの本部が用意した部屋で仮眠とかした後に並行世界へと戻る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場所は戻り並行世界の深夜

明かりも無く虫の音色が聞こえて来る廃ビル。

その一室に朽ちかけたベッドで横になる少女。…ヒビキだ。

暗闇の中寝てるのだが、其処に誰かがヒビキに近寄りベッドの傍にまで来る。

 

「…うん、ちゃんと眠ってるね」

 

ヒビキの顔を覗き見る影。正体はもう一人の響だった。

戦闘員との戦闘やこの廃墟に移動して疲れたのかヒビキはぐっすり眠っている。そして、ヒビキが寝てる事を確認した響がベッドから離れる。

暗くて見えないがベッドの下には空き缶や割れたガラスが幾つもあり普通に歩けば物音が響くのだが、響は器用に全てを避けて離れてる椅子に座る。

改造人間である響にはこの明かりの無い部屋も昼間の様に見えるのだ。

 

「…こういう時…退屈だな…」

 

寝る事が出来ない響は寝静まった夜が最も退屈な時間でもある。何時もなら適当な本を読んだりして暇を潰すが生憎、此処は廃ビル。

本どころか紙切れぐらいしかない。探せばエロ本の一つでも落ちてるかも知れないが響は一応年頃の少女だ。出来れば見たくもない。

 

カラン…

 

暇潰しに悩んでいる響の耳に遠くで誰かが空き缶を蹴る音が僅かながらする。何てことない音でしかない。

しかし、響は少しだけ目をつむり何かに集中するとヒビキを起こさないよう部屋を出る。

 

 

 

「急げ!爆薬を仕込め!」

「イーッ!」

 

ビルの一階。

最早、壁も天井もボロボロになり調度品の殆ども風や雨の吹込みで腐っているのが殆どだ。

ホームレスすら殆ど近寄らない朽ちかけたビルの内部に黒ずくめの男たちが蠢いている。

ショッカー戦闘員だ。彼らは片手に懐中電灯を持ち、壁や柱の傍に時限爆弾をセットしている。

上階で休む二人の響を抹殺する為に動いている。

 

「イーッ!?」

 

もう少しで全ての準備が完了するかに思われた時、一人の戦闘員が叫ぶと共に床を転がる。

戦闘員が持っていた懐中電灯も転がり辺りを回転する。そして、回転が止まった懐中電灯の先には

 

「上にはあの子が眠ってる。 悪いけど速攻で終わらせるよ!」

 

シンフォギアを纏った響が居り、気付いた戦闘員も爆弾をセットするのを中断し響を取り囲む。

響にとって戦闘員だけなら敵ではない。上で眠ってるヒビキの為にも静かに、それでいて速やかに戦闘員を排除していく。

しかし、響は戦闘員と戦う上で周りを見渡したりヒビキが寝てる部屋に意識を向けたりし戦闘に今一集中していない。

 

━━━ここ最近、差し向けて来るのは戦闘員ばかり…怪人がまったく出てこない…

 

響が最後に怪人を見たのは数日前のハリネズラス以来だ。戦闘員が襲ってくるがショッカーは不気味な沈黙を保っている。

何とか戦闘員に情報を聞き出そうともしたが、響の性格が災いし取り逃がしたりもしている。

 

━━━別動隊が上に行った気配もない。 ショッカーは狙いは何?

 

地獄大使が何を狙ってるのかは分からない以上、響は警戒しつつ戦闘員を全滅させセットされた爆弾を特異災害対策機動部二課に引き渡す為、保管しヒビキの寝てる部屋に戻る。

結局、その日も響は戦闘員の相手だけをした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「本当に此処んとこ行ったり来たりだな」

「文句を言わない」

 

一夜明け、誰も居なかった公園の外れに二人の人影が現れる。クリスとマリアだ。

仮眠室で休んだ後、完全聖遺物ギャラルホルンを使って並行世界に戻って来たのだ。

ここ最近、並行世界の移動にクリスの口から愚痴が漏れマリアが反応するが、マリアの口からも溜息が漏れる。

マリアとて、だいぶ疲労を感じてはいる。ただでさえ、世界を越えて並行世界に仕事に来ているのだ。疲れない訳が無い。それでも、マリアやクリスたちは多くの事件を解決してきた。

本当はもう少し人手は欲しいが元の世界でのノイズの掃討もしなければならず向こうも正直忙しいといえる。

 

「ふう、早く解決しないと…!」

 

二度目の溜息をついたマリアだが、林の方を見ると視線を固める。

 

「おい、どうし…「シッ!」!」

 

マリアの様子に気付いたクリスが声を掛けるがマリアがクリスの口を塞ぎ静かにするようジェスチャーをする。

何事かと考えたクリスだが、マリアの指差す方を見て納得した。

林の中を戦闘員が移動してる事に気付いた。

 

━━━まさか、ギャラルホルンで移動したのを見られたか!?

━━━それにしては様子がおかしいわ

 

クリスは自分達がギャラルホルンを使ってるのを見られたかと思ったが、マリアが違うと反応している。

その反応にクリスの視線はマリアに向く。

 

━━━私達が並行世界を渡って来たのを目撃すればいの一番で司令官である地獄大使に伝える筈。 それなのに悠長に歩いての移動に見たところ、通信機の類も持っていない。 なら… 

━━━なら?

━━━戦闘員は私達の存在に気付いていない。 後を追いましょう

 

 

 

 

 

 

 

 

 

林の中を移動するクリスとマリア。

偶に木の根や石ころに足をとられながらも戦闘員の尾行を続けている。

湿気の蒸し暑さの所為か単純に疲労かクリスの額に汗が流れ落ちた時、戦闘員は林を出て草原みたいな場所を歩く。

急ぎ、二人は気の影に隠れ様子を窺った。見たところ広場の大きさは十数メートルくらいで林の中にポツンと存在してるような場所である。その場所に何人もの戦闘員が動き何か作業をしている。

そして、戦闘員が持っている物に気付く二人。

 

「…風船?」

「それにしちゃ大きい、…もしかしてアドバルーン?」

 

それは嘗てデパートでも飾られ広告としていた気球、アドバルーンだ。

二人共見た事は無かったがクリスは以前、テレビで見た番組を思い出した。

問題はショッカーがアドバルーンを使って何を企んでるかだが、二人には分からない。念の為にとこの世界の特異災害対策機動部二課にも報告しもう直ぐ翼も合流する事になっている。

 

 

 

 

レブレブレブレブレブァ

 

 

「「!?」」

 

直後に不気味な鳴き声が辺りに響き、クリスとマリアに緊張が走る。

そして、奥の林から誰かが出て来た。

 

「…ゲッ!」

「…ウワァァ…」

 

クリスもマリアも思わず声が出てしまう。その表情はゲンナリしており今までにない程、相手にしたいとは到底思えなかった。

何しろそいつは…

 

「急ぎアドバルーンを膨らませろ!」

「イーッ!」

 

黒光りした体にまるで油に触れたかのようにヌメリ

 

「此処からなら街に風が吹いており俺のばい菌をばら撒くのにうってつけだ!」

 

頭に二本の触覚が動き、胸部からは元の虫の足が四本生えている

 

「ショッカーの造り上げたこの細菌は触れた者を老人に変える。 これで東京を老人だらけにし日本を混乱させるのだ!!」

 

大抵の家には生息する衛生害虫、その名は

 

「…ゴキブリの改造人間か」

「ショッカーの作り出しそうな怪人らしいわね」

 

巨大な人の大きさ並みの二本足で立つゴキブリだった。

今まで多くの敵と戦って来たクリスとマリアも巨大なゴキブリと戦うのは抵抗がある。しかし、ゴキブリ男の言葉は無視できない内容でもあった。

 

「人間を老人に変える細菌だと!?」

「そんなの使われたら東京は大パニックよ! 行くわよ、クリス」

 

マリアの言葉にクリスは静かに頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ん? 何だあれは!!」

 

大きなアドバルーンを準備していた戦闘員。その中の一人が空から何かが降ってくる事に気付き声を出す。

その声には他の戦闘員にゴキブリ型の怪人も気付き空を見上げると幾つもの何かが此方に迫る。

 

「…あれはミサイルだ!!

 

飛んでくるのがミサイルだと気付いた戦闘員は急ぎその場を離れる。作業を中断させた戦闘員に怒鳴ろうとしたゴキブリ型怪人だがミサイルの接近に舌打ちをすると自分も急ぎ離れる。

直後、戦闘員が準備していたアドバルーンに幾つものミサイルが命中し爆発炎上する。更には逃げ遅れた戦闘員も巻き込んだ。

 

「アドバルーンが!? これでは計画は…「オジャンって事だろ!」!?」

 

自身の計画が潰えた事に驚くゴキブリ型怪人の言葉に女性の声が響き振り向く。

その先にはシンフォギアの腰のパーツが開き小型ミサイルを出したクリスとマリアがいる。

 

「お前達は雪音クリスにマリア・カデンツァヴナ・イヴ!! 何故、貴様らが!?」

 

「へっ! 自分達の運の悪さを恨むんだな!!」

 

ゴキブリ型怪人にそう言い返すクリス。そのままクリスとマリアが戦闘員及びゴキブリ型怪人との戦闘に入る。

 

「舐めるなッ!! このゴキブリ男の能力でお前達を老人にしてやる!!」

 

「…そのまんまのネーミングかよ」

 

その後の戦闘はクリス有利に進む。突然の奇襲攻撃で戦闘員が浮足立ち指示を送るゴキブリ男も突然の攻撃に慌ててる内にクリスのミサイルやガトリング砲で戦闘員を薙ぎ払われ幾つものミサイルがゴキブリ男を襲う。

対するゴキブリ男もジャンプを多用しクリスを翻弄するが細菌を吐ける程の接近が出来ずにいる。

 

「おのれぇぇ~!! 小癪な小娘風情がッ!!」

 

「へっ、今まで奇襲されたお返しはしっかりするぜ!!」

 

完全な遭遇戦。今までの御返しと奇襲され続けた鬱憤を晴らすクリス。 最早イグナイトすら使わずにゴキブリ男を圧倒している。

クリスの様子にマリアも戦闘員の相手をしつつ頭の中で何かが引っ掛かっていた。

 

━━━私達が有利の戦いだけど…何か引っかかるわね

━━━ギャラルホルンでこの世界に戻れば()()戦闘員を目撃し、追跡すれば()()ショッカーの作戦準備をしており、私達がそれを阻止。()()奇襲された怪人は慌てクリスや私達が有利になる

 

偶々、自分達が転移して偶然敵に遭遇して戦闘。今までも少なからずはあったような気もするが、今回はどうにも引っ掛かっているマリア。

言い知れぬ不安を抱えながらもマリアは戦闘員を倒していく。

 

「コイツで止めだぁ!!」

 

一切、ゴキブリ男を近づけさせずクリスの射撃が奇麗に決まり膝が地面に付くゴキブリ男。

その隙を見逃さずクリスは腰のパーツから小型ミサイルを撃ち出しゴキブリ男に迫る。

最早、逃げる事も出来なくなったゴキブリ男の目にミサイルが一斉に殺到し爆発した。

 

「よっしゃー!」

「よし、後は戦闘員だけ…!」

 

ゴキブリ男がクリスのミサイルで敗れた事でマリアも残った戦闘員を掃討しようとした時、マリアは思わず息を飲んだ。

 

「「「ア゛ァァァーーーー!!」」」

 

戦闘員達が突然倒れ断末魔を上げ虫のような動きで苦しみ出す。

あまりの事にマリアは愚かクリスすら言葉も出せない。

やがて、断末魔を上げていた戦闘員達は動かなくなり、その体は溶けて消えてしまった。

 

戦いは終わった。静寂な空気が流れ現場には焦げた地面と幾つかショッカーの荷物が残される。

 

「済まない、遅くなった!」

 

クリスとマリアの間に流れた静寂な空気に翼の声が響く。見ればシンフォギアを纏った翼と一台のヘリが上空を飛んでいる。

 

「それで怪人は!」

「…アタシが倒した」

 

クリスの言葉を一瞬信じられなかった翼だがマリアが首を縦に振る姿に翼は真実だと感づく。

翼がクリスに労いの言葉をかけ特異災害対策機動部二課に連絡をして現場に残されたショッカーの荷物を受け取りに黒服たちも来る。

黒服たちが軽い現場検証を行ってる傍らに翼がクリスの怪人の事を聞く。

彼らに暫くぶりの和やかなムードが漂う中、マリアは一人考える。

 

━━━ショッカーが私達を無視して人類抹殺に走った? 分からない…これって本当に偶発的な戦闘なの?

 

どうにも腑に落ちないマリアは頭の中で自働問答し続けるが答えは結局出てこなかった。

 

その後、シンフォギアを解いた姿に戻った三人は一旦、特異災害対策機動部二課に戻る事になった。

しかし、彼女らは気付かない。クリスとマリアが出て来た公園の隅に地面を掘り返したような跡があるのを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「フフフ…読み通りだったと言う訳か!」

 

新造されたショッカーアジト。機械の不気味な光源にモニターの映像の光で地獄大使の顔が怪しく照らす。

その目にはモニターに映し出されるクリスとマリアが現れる瞬間の映像だ。

 

「歪みが開き其処から雪音クリスにマリア・カデンツァヴナ・イヴが現れた。 読み通りあの二匹もこの世界の出身では無かったようだな」

 

おおよその見当を付けていた地獄大使。クリスとマリアがこの世界ではない並行世界の住人だと当たりはつけていたが確証がなかった。

そこで、地獄大使は見張りをあの場に置き決定的瞬間を捉える事にした。

 

しかし、地獄大使には一つ懸念があった。あの空間の歪み、即ち並行世界の出入り口を別の場所に移動できるのではないか?もし、此方の監視に気付けば別の場所に出入り口を設置できるのでは?

下手に移動されては面倒だと判断した地獄大使はある策を思いついた。

 

移動した先で偶発的にショッカーが作戦の準備を行い自分達がそれを発見。そのまま戦闘になり怪人を倒す。上手くいけばただの偶然として片付けるだろう。と考えゴキブリ男に作戦を実行するよう言ったのだ。

 

「それで調査は?」

「イーッ! 相変わらず我々のセンサーでは何の反応もありません!」

 

並行世界の出入口になっていると分かれば徹底的に調査させた地獄大使だが、科学陣の報告に肩を落とす。

自分達の持っている機器がまるで役に立たず調査すら出来ていない現状だった。

 

━━━あらゆるセンサーが反応が無かっただと!? となると、あの歪みはシンフォギア或いは聖遺物でないと反応しないというのか!

 

ショッカーはある程度科学力もオカルトの類といった魔法科学も精通している。

しかし、未だに聖遺物に関しての技術は遅れている

ソロモンの杖を模範し「ショッカーの杖」を作ったり聖遺物を元に怪人を作った死神博士もフロンティアで死んだ。

フィーネ、またはフロンティアを確保出来ていればと地獄大使が悔やむ。

 

「…待てよ、我々が知らねどもあの小娘どもなら…その為には…」

 

まだ手がある。

そう考えた地獄大使は近い内に打って出る為の策をねる。

 

 

 

 

 

 




アドバルーンってあんまり見ないよね。

地獄大使の暗躍回です。
ゴキブリ男は捨て駒ですね。クリスやマリアの意識を向かわせる為の囮です。
何しろゴキブリ男の能力は細菌を吐くのとジャンプを多用する位であんまり強くないんですよね。
もし、クリス達が戦闘員を見つけなかったり後を追わなかったら?
勿論、ゴキブリ男が作戦を実行し街を恐怖と混乱に陥らせました。

地獄大使はかなり慎重に動いてます。ですが、クリスとマリアが並行世界を移動してる事に気付き次は大胆に動くかと。
そして何気にピラザウルスに殺されかけたクリス。


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89話 毒蝶の誘い

パソコンやっと取り替えた。

起動時にパスワード入力がウザい。モニターから音声が聞こえたのには地味に感動した。


 

 

 

特異災害対策起動部二課指令室。

 

何時ものように職員が目の前のパソコンを操作しモニターにクリスとマリアにショッカー戦闘員とゴキブリ男の映像が流れる。

何人かの職員がモニターに映るゴキブリ男を見ないようにしてる中、クリスとマリアは指令室に備え付けてあるソファーに座ってボーっとしていた。

来て早々戦闘になったのだ。一日が経ったとは言え疲労が残っていた。

 

丁度、指令室の扉から司令官である源十郎が入ってきた。

 

「二人とも、来て早々ご苦労だった」

 

源十郎の口から労いの言葉が出る。

しかし、二人はその言葉を聞いても首を動かすだけである。

 

「…報告は終わったの?」

「ああ、今しがたな。現場に残された細菌も焼却処分が決まった」

 

特異災害対策起動部は現場に残された荷物の中でショッカーが街中にばら撒こうした細菌を見つけ直ぐに調査させていた。それでも処分するのはいささか早い決断とクリスは考えてた。

 

「いいのか? あれ回収して一日しか経ってないぞ」

「…実験の際、テストに使ったラットが瞬時に老化して死んだ。 それどころか他の予備のラットに研究員にも感染して全滅した。 それで上がもしも細菌が外部に漏れたら手に負えないと判断したんだ」

 

源十郎の言う通り調査を行っていた研究機関が細菌の感染を起こした。想像以上の感染力に国のお偉いさんは全てを処分する決定を下す。漏れた研究機関も火炎放射で徹底的に消毒される事が決定される。生き残った研究員も感染してる疑いから隔離され一週間ほど監視される。

源十郎の報告を聞いてクリスもマリアも思わず息をのむ。

 

「そんなに危ない物が…」

「ああ…結果的に研究機関の一つがマヒした状態だ」

 

マリアの言葉に答える源十郎。

ゴキブリ男の声である程度は知ってはいたがそこまでの物とは思っておらずクリスとマリアは言葉も出ない。

それもシンフォギア装者であるクリスやマリア、翼を狙ってではなく東京の大都市に無差別にばら撒こうとしたのだ。

 

「…そんなの、もうテロじゃねえか!」

「元々、世界征服や人類抹殺なんて言っていたから…」

「ある意味テロリスト以上よ」

 

嘗て、とある国で両親を失った事を思い出したのかクリスが叫ぶように独白する。

それに反応したのは特異災害対策起動部二課の職員である藤尭朔也と友里あおいだった。

一瞬、指令室の空気が重くなり沈黙が暫く続いた。人を老化させる細菌をばら撒く作戦を阻止されたショッカーが次にどう動くかが分からないのだ。

誰もが予想しなかったこれだけの細菌を用意したのだ、次は更なる恐ろしい作戦を実行してくるかも知れない。

誰もが脳裏にその事が過ったのだ。

 

 

 

「ん? 連絡?」

 

一つの連絡が藤尭朔也の下に送られる。そして、それが沈黙を破るきっかけとなった。

 

「…! 指令、エージェントの報告で立花響さんを見つけたそうです!!」

 

「「「「「!?」」」」」

 

誰しもがその言葉を聞いて藤尭朔也の方を向き、クリスやマリアに至っては立ち上がってすらいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふう…」

 

日がだいぶ沈みかけた時間帯。

学園近くの公園にあるベンチで一人の少女が座っている。この世界の立花響だ。

彼女の両脇にはパンパンになった紙袋がある。

 

「これだけあれば当分持つかな」

 

そう言って紙袋を撫でるヒビキ。つい先ほどヒビキは、寮に戻って着替えなどを持ち出したのだ。

廃ビルで寝泊まりして一日だが、やはりヒビキも年頃の娘。どうしても着替えが欲しかったのだ。特異災害対策起動部に連行される可能性はあったが、隙を見て寮に戻り数少ない着替えを紙袋に詰めてきた。

 

「…下着とか触られてないよね」

 

特異災害対策起動部の人間が自分の部屋に入ったのは知っているが何を触られ調べられたかは分からない。下手すれば自分の下着も入念に調べられたかもしれない。

一応下着の位置は変わってなかったが念のため、後で洗おうと誓うヒビキ。その時、自分に近寄る気配を感じる。

 

「!」

 

視線を紙袋から正面に移す。

正面には何時の間にか銀髪の少女と薄いピンクの長髪の女性が自分の前に仁王立ちしている。一瞬誰だと言おうとしたヒビキだが、銀髪の少女の顔に僅かながら覚えがある。

エージェントの報告を聞いて急いできたクリスとマリアだ。

 

「…あんた…」

 

「よう、覚えていてくれたか?」

 

正直忘れかけていた。しかしその娘は間違いなく自分がノイズと戦闘中に割り込んだ少女だ。

ヒビキは念のためにと警戒しつつ相手を見る。すろと、銀髪の少女の横にいた薄いピンク色の髪をした女性が口を開いた。

 

「あなたが立花響さん…よね?」

 

「そう、だけど…誰?」

 

「そう身構えないで、私達も装者よ。 前に一緒にノイズと戦ったでしょう?」

 

「………」

 

ヒビキは答える事はなかったが、あの時銀髪の少女の他にもこの女性もいた気がする。

最もあの戦いからだいぶ時間が経つ上に厄介な連中の所為で記憶が曖昧になっているが。

 

「…それで? 何の用?」

 

「その…良ければ一緒に特異災害対策起動部に行かないかしら」

 

ヒビキの質問にマリアは一瞬躊躇い言葉を濁して二課へと誘う。

本当ならショッカーに狙われてるのか?とか、妙なノイズを見たのか?とか色々聞きたかったが、もしショッカーの存在を知らなければ自分たちが怪しく見られると思ったのだ。

 

「…イヤ」

 

そしてヒビキの答えはシンプルだった。その目は冷たく、マリアどころかクリスすらそんな目をしてるとは到底信じられなかった。

 

「おい!「待って」…」

 

ヒビキの様子に思わず声を荒げるクリスだが、マリアが落ち着くよう言うと再びヒビキに語り掛ける。

 

「その…どうして嫌なのかしら。 もしかして翼が嫌い?」

 

「……そうじゃないけど…あんた達もあいつ等の仲間じゃないの?」

 

その言葉に二人は理解する。ヒビキは自分たちを特異災害対策起動部二課とは思わずショッカー()として見ている事を。

 

「待てよ、アタシ等はあいつ等とは関係ねえ! むしろアタシ等だって襲われて…」

 

「やっぱりあいつ等の事を知っていたんだ!」

 

クリスが弁明しようとするが、それよりも早くヒビキは紙袋を握りベンチから立ち上がって走り出す。

二人が呆然としてる間にヒビキの姿はアッサリ見えなくなった。

 

「取り付く島もなかったわね…」

「あ…ああ」

━━━…オッサンに聞いていたけど、あいつでもあんな暗い顔するんだな…

 

何とかヒビキと接触した二人だがヒビキにアッサリ逃げられ溜息の一つもつく。

一旦、特異災害対策起動部二課本部に戻ろうかと考えた時、

 

「あの~すいません」

 

「「!」」

 

女性の声に突然呼ばれた二人が振り向く。そこには何時の間にかおかっぱ頭の二十代位の女性が立っていた。

この女性がクリスとマリアに話しかけてきたのだ。

 

「な…何か?」

 

「いえ、二人が響ちゃんの知り合いみたいで…思わず」

 

「響ちゃん!? あんたアイツの知り合いなのか!?」

 

女性の発言にクリスが食いついた。ヒビキを説得する力になるかと思ったからだ。

その後、ヒビキの事を聞く二人だが、

 

「詳しい話なら私の屋敷にどうぞ、特異災害対策起動部二課のお二人さん」

 

「!?」

「あ…ああ」

 

立ち話もなんだと、女性は二人を自分の住み屋敷へと案内する。

ふと、クリスが立ち止まりヒビキが走っていった方向に目をやる。其処にはもうヒビキの姿は見えなくなっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

走る。私は走る。まるで何かから逃げ出すように逃げている

暫く走ったからか、息をするのが厳しい上に汗も掻いて気持ちが悪い

気付けば私が寝泊まりしている廃ビルが目の前にあり、振り返ると誰も居らず周りには私だけのようだ

……これでいい、あの二人がショッカーと関係してるかは分からないけど今は誰かと一緒に居たくはない!

 

「…どうせみんな独り、誰も辛い時に助けてなんてくれない」

 

みんな私から離れていった。クラスの仲の良かった子や友人だった子、仲の良かった近所の人達さえ私たちを邪魔もの扱いした

そして未来も…?

 

━━━わたし…今誰の事を考えてたんだろう…

 

とても大事な温かいモノだったような…

 

「あ、お帰り!」

 

何時の間にか私は泊まっている廃ビルの部屋に到着していた。見れば自分と同じ顔同じ声をした少女…もう一人のワタシが声を掛けている

返事をしようとした私だが…

 

「何してるの?」

「え?掃除」

 

もう一人のワタシが何処からか手に入れた大きなゴミ袋に床に散乱していたゴミを片っ端から入れていたようだ。中身の無いお菓子の袋に空き缶空き瓶、壁や天井から剥がれたコンクリートに虫の死骸

取り敢えずは部屋を少しでも快適にする為だろうけど

 

「…箒が見つからなくて掃き掃除までは出来なかった」

「……アンタを見てると自分の悩みが馬鹿々々しくなる」

 

どうせみんな独り、誰も辛い時に助けてなんてくれない。 …でも何でだろう? この子を見てるだけで不思議と胸が温かくなる。 もしかしてもう一人のワタシと一緒に居ればもう一度他人を信用出来るかも

 

「布団も少しだけ干すことが出来たから今夜はグッスリ眠れるかも」

「…それはありがたいんだけど…よく見ると鳥の糞がついてるんだけど…」

 

…やっぱり気の所為かも知れない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

公園から其処まで離れてない距離に古い屋敷が見える。

クリスが何処となくフィーネの住んでいた屋敷を思い出しつつ二人は女性の案内で内部に通される。

 

「さあ、ごゆっくり」

 

「それで早速だけど…」

「立花響の事を教えてくれるかしら」

 

部屋に通された二人はソファーに座りつつヒビキの事を聞こうとする。部屋の中には骨董品の鎧に剣や槍の等身大模型に壁には無数の蝶の標本。不気味なことこのうえない雰囲気に二人はさっさとヒビキの情報を聞いて帰ろうとしていた。

しかし、そんなこと知ってか知らずか女性は笑みを浮かべて「お茶を入れてくる」と言って部屋を出て行ってしまう。

 

「クリス…気づいてる?」

「ああ…それにしても不気味な場所だ」

 

マリアの語り掛けにクリスが頷くと改めて部屋を見回す。

鎧武者の甲冑に西洋の鎧に蝶の標本。それだが不気味に見えて仕方なかった。

 

「珍しいでしょ、アマゾンの奥地にいる毒蝶もあるのよ」

 

その時、二つの紅茶の入ったティーカップを乗せたトレイを持った女性が入ってきてそう言い放つ。

二人は大して興味も湧かないが「へぇ~」と返事をする。

 

「さあ、どうぞ」

 

「その前にあいつの事を聞かせろよ」

「…そうね」

 

目の前に置かれた紅茶を一瞥したクリスがそう言ってマリアも続く。

二人とも出された紅茶には指一本触れようともしない。

 

「積もる話もありますが、先ずは紅茶を。 とある国での最高級品ですのよ」

 

「そんなに進めるのならあなたが飲めば」

 

マリアの言葉に笑みを浮かべていた女性の顔が一瞬で真顔になる。

更に、マリアの代わりにクリスが続ける。

 

「いい加減正体を現したらどうだ!」

 

「正体? はて、何のことやら…」

 

しかし、クリスの言葉に惚ける女性。その姿にイラっとくるクリス。

だが、ここでマリアが決定的な事を言う。

 

「あなた、どうして私たちが特異災害対策起動部二課の者だって知っているの?」

 

「いや、さっき立花響と話してる時に『一緒に特異災害対策起動部二課に行かないかしら』の言葉を聞いていたから…」

 

女性が何気なく話すがマリアもクリスもお互いの顔を見て頷く。

 

「ねえ、クリス。 私、()()なんて言ったかしら?」

「いいや、言ってねえ」

 

「……」

 

マリアの問いとクリスの答えに女性の顔の笑みが消える。

 

「何故アナタが二課の存在を知っているのかしら?」

 

「そ…それは…ニュースで見て…」

 

「残念だが、ニュースで取り扱われるのは特異災害対策起動部()()の方だ。 二課は政府間でも極秘扱いなんだよ!」

 

S・O・N・Gの前、即ち特異災害対策起動部は政府機関でありノイズが現れた場合の避難誘導に被害状況の処理などをしており、報道からも一般人に伝えられる特異災害対策起動部のイメージでもある。それが一課だ。

対する二課はシンフォギアの所持上、世間に公表できない部分がありこれが後に国連の組織となる。報道では絶対に一般人に漏れることはない。

 

「だと言うのに、アナタは二課の存在を知っていた。 正体を現しなさい!!」

 

「…フフフ…ホッホッホッホホホホホホホホッ!!」

 

マリアの発言に追い込まれた女性だが一転し笑い声を上げだす。

その様子にクリスもマリアも黙って見詰めつつペンダントのギアに触れている。

 

「抜かったね、二課が世間に秘密にされてるのを忘れていたよ」

 

「ま…待ちなさい!」

 

マリアの制止を無視して女性はそれだけ言うと部屋を出て扉を閉める。

その迫力にマリアとクリスは唖然としていた。

 

「何なの? あの迫力…」

「怪人と対峙した時くらいの迫力だ」

 

瞬間、部屋の電気が消え外の明かり入った時、二人は息をのむ。

部屋の中が先ほどまでとは違い、誇りまみれで甲冑や西洋騎士の鎧にクモの巣が幾つも出来ており、まるで何年も放置されていたようにも見える。

 

「何だよ!?これ」

「私たちは幻覚を見せられていたの!? 兎に角、外に!!」

 

マリアが逃げた女性を追おうとし、クリスもそれに続く。

扉を開ける二人だが、またもや二人は息をのんだ。扉の外には女性が仁王立ちしている。しかも、目元には薄い青い線が走り、口元は血のように赤い口紅が身も元まで走っており口が裂けてるようにも見えた。

 

「!? アナタは!」

 

「驚いても遅い! イイヒヒヒヒヒヒッ!!」

 

不気味な鳴き声を出した女性が手をクロスさせると一瞬にして昆虫のような触覚に左肩には巨大な蝶の羽のような物が生え虫特有の顎、腰にはショッカーベルト。女は一瞬にして怪人へとなった。

 

「怪人!?」

「怪しいとは思ってたが女の怪人か!!」

 

「ショッカーはアマゾンの毒蝶に私の命を注ぎ、改造人間ギリーラを作ったのだ。 死ねぇ!!」

 

「!?」

 

嫌な予感を感じたマリアはクリスの手を引っ張り急ぎ扉とは逆方向に進むと紅茶の入れられたカップの置かれたテーブルを蹴り上げ盾のようにする。

直後、ギリーラが口から何かを吐き出すと盾にされたテーブルに突き刺さり針部分が貫通し二人の頬を掠める。

 

「この屋敷諸共死ねがいいぃ、小娘!!」

 

 

 

 

 

 

 




敢えてショッカーの罠に飛び込むクリスとマリア。

ちなみに紅茶の中は睡眠薬が入っており、地獄大使は二人を捕獲しようとしてました。理由は当然、ギャラルホルンの情報です。

滝と九条みわ(ギリーラの人間体の名前)とのやり取りを再現しようと試みた結果。

やっとクリスとこの世界のヒビキが再開し会話しました。
原作だとEV5-3のイベントです。




次回予告
クリス「ショッカーめ!アタシ等を罠に嵌めた気でいただろうが最初からわかってたんだよ!お前たちの目的が何かは知らねえけどアタシとマリアで阻止してやる!! …何打!?息が…次回『毒蝶の罠』 アタシたちの歌が封じられる!?」


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90話 毒蝶の罠

二度目の台風が過ぎて涼しくなったと思ったら昼と夜の寒暖差!
体調にはお気をつけて(何連敗中

シンフォギアXDのあしたのヒカリの最終章、敵が思った以上に外道だった。


 

 

 

屋敷に居るクリスとマリアの様子はアジトに居る地獄大使にも映像が送られており、地獄大使はクリスとマリアに出された紅茶を「飲め! 飲むんだ!!」と映像越しに飲むよう念じていたが、それよりもマリアが女性の正体を暴いた。

 

「イーッ! 地獄大使、ギリーラの正体がバレました!」

「見ればわかる! …仕方ない、両方無傷で捕えたかったがな…。 ギリーラには最悪殺しても構わんと伝えろ!」

「よ…よろしいのですか? 大事な情報源のはずですが…」

「構わん。 死体があれば何度でも蘇る」

 

直後、地獄大使はギリーラに例の作戦でいくことが伝えられた。それはクリスとマリアの命を奪うことにもなり指示を聞いた戦闘員が心配しだす。

最も、ショッカーは死者を蘇らせる技術は既に持っている。最悪、死体さえあれば問題なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、特異災害対策起動部二課本部では職員が忙しなく連絡を取り合い、司令官である源十郎は冷や汗を流しながらその様子を見守っていた。

 

少し前、立花響に会いに行ったマリアから連絡があり、とある屋敷までの道中女性の事を調べていたが、屋敷に入った直後に音信が取れなくなり屋敷の調査もさせていたのだ。

 

「指令、分かりました!」

「僕の方もです!」

 

コンソールで調べていた友里あおいに藤尭朔也がそれぞれ源十郎の方に視線を向ける。

視線を向けられた源十郎は静かに首を縦に振ると二人が報告する

 

「あの屋敷は元々とある財閥の別荘だったそうですが、二十年前ノイズの襲撃により一家が全滅。 多数の執事と女中も巻き込み被害も甚大だったそうです。 ノイズの襲撃事件後、屋敷は売りに出されたそうですが一家全滅が噂になり買い手はつかず解体しようにも資金不足が理由で頓挫していたらしく今まで放置されていたようです」

「それが最近ある女性が屋敷を買ったと不動産側のデータにアクセスして分かりました。 これがその女性のデータです」

「こいつは…!」

 

藤尭朔也が報告と共にモニターにある人物の顔写真が写り源十郎も思わず沈黙する。

その女性はまんま、クリス達に話しかけてきた女性だ。それと共に女性が書いたと思われる書類なども映し出される。

 

「名前は九条みわ、とある会社の常務だそうですが、…そんな会社存在しません。 恐らく書類に書かれている情報全てデタラメの可能性があります」

「不動産の記録では現金一括払いで売られ真偽の確かめすらしてなかったそうです」

「なら、最初から屋敷は二人を引き寄せる為のものか! 翼、急ぐんだ!」

 

屋敷事態、仕組まれている事に焦りを感じた源十郎は翼の持つ通信機に急ぐよう要請する。

ショッカーが何を企んでるかは知らないが妙な胸騒ぎを感じる源十郎。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

屋敷

放置され二十年。住む者も居らずメンテナンスする者も居ない朽ちかけた屋敷。

そんな屋敷の一室の窓ガラスが破れ二人の人影が飛び出して着地する。

クリスとマリアだ。

二人とも既にシンフォギアを纏い臨戦態勢のまま屋敷を睨みつける。直後、二人の飛び出した屋敷は爆発を起こし火に包まれる。

 

「イイヒヒヒヒヒヒヒヒッ!! 中々の判断力だね、だがこの周辺は私の領域だよ」

 

燃え盛る屋敷から既に空中に飛んでいるギリーラが得意気に言い放ちソッと手を上げる。

瞬間、クリスとマリアの降り立った周辺に戦闘員が現れる。

 

「ちっ! またかよ!」

「もうお約束ね!」

 

またもや多数の戦闘員に取り囲までる二人だが、そこは既に慣れた物。二人とも直ぐにアームドギアを持ち襲い来る戦闘員の迎撃に入る。

そして、戦場に音楽が流れる。

 

鉛玉の大バーゲン 馬鹿に付けるナンチャラはねえ

ドンパチ感謝祭さあ躍れ ロデオの時間さBaby

 

真の強さとは何か?探し彷徨う

誇ること?契ること?まだ見えず

 

アームドギアをガトリング砲にしたクリスの射撃に何人もの戦闘員が倒れていき、短剣を蛇腹モードにしたマリアも鞭状の短剣を振り回し襲い来る戦闘員を叩き伏せる。

何人もの戦闘員が倒れていく中、次々と新手である戦闘員がクリスとマリアに襲い掛かる。

 

世の中へと文句をたれたけりゃ 的―マト―から卒業しな

神様、仏様、あ・た・し・様が「許せねえ」ってんだ

 

思い出の微笑みに問いかけ続けた

まだ残る手の熱を忘れはしない

 

時にはクリスは腰のパーツからミサイルポッドを出して小型ミサイルを一斉発射して多数の戦闘員を消し飛ばし、マリアも蛇腹の剣から逃れた戦闘員を脚でキックしたり、戦闘員の頭を太ももで挟み投げ飛ばしてもいる。

 

「相変わらずコイツ等、ノイズ並みに多いな!」

「愚痴を言っても減らないわよ!」

 

正直、数ばかりの戦闘員との戦いに辟易してるクリスが愚痴を言うがマリアも内心同意見でもある。

それでも互いの死角を注意しながらも戦闘員を次々と倒している。

 

傷ごとエグって 涙を誤魔化して

生きた背中でも(Trust heart)

 

惑い迷い苦しむことで

罪を抉(えぐ)り隠し逃げず

 

愚痴を言いながらも二人は歌い確実に戦闘員を減らしている。

その様子を空から窺うギリーラ。

 

「イイヒヒヒヒヒヒヒヒッ! いいぞ、もっと歌え! その歌がお前たち自身の鎮魂歌(レクイエム)となるのだ!!」

 

ギリーラは歌い続けるクリスとマリアを見てほくそ笑む。全ては予定通りと言えた。

不吉な事を呟くギリーラは二人の頭上を飛び回り口から吹き矢を吐き出す。狙いは地上で歌いながら戦うクリスだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

支える事 笑い合う事 上手ク出来ルンデス力?

なれねえ敬語でも どしゃぶる弾丸でも

 

「イーッ!?」

 

アタシのミサイルが戦闘員に直撃した。これでだいぶ数を減らした筈だ。

マリアの方は!

 

あるがままの自分の声で

勇気を問え 決意を撃て

 

よし、マリアの方も短剣で戦闘員を纏めて薙ぎ払ってる。それにしてもノイズ並みに多いな、戦闘員。人間みたいに見えるからか戦りづらいったらあらしねえ!

…殺気!

 

 

 

「イッ!?」

 

マリアの無事を確かめたクリスだったが、自分への殺気に咄嗟に身を低くする。直後に自分の頭上を何かが通り過ぎ取り囲んでいた戦闘員の首筋に当たる。

当たった戦闘員は短く悲鳴を上げると直後に倒れてしまう。

 

 

 

 

「あれは…吹き矢?「イイヒヒヒヒヒヒヒヒッ!!」!?」

 

自分を襲った物の正体に気付いたクリスだったが、上から不気味な笑い声に反応する。クリスだけでなく戦闘員の相手をしつつマリアも視線を上に向けた。

上には案の定不気味な声を上げるギリーラがいる。

 

「毒蝶女!」

「ギリーラ! 何をしている!」

 

「頭上がガラ空きだよ、小娘ども!」

 

それだけ言うとギリーラは更に口から吹き矢を吐き出しクリスとマリアを狙う。

クリスもマリアも何とか吹き矢を避けて戦闘員の相手をするが如何せん頭上にも注意を払わねばならない事に二人の集中力は乱れつつある。素早く動く為にクリスはアームドギアをガトリング砲からボーガンタイプに戻す。

しかし、クリスもマリアもギリーラに苦戦を強いられている。何より今までで戦い慣れている飛行型ノイズは槍の用に細くなり突撃しカウンターも狙えた。

 

「調子に乗んじゃねえ!」

 

ブチ込んでやるから(Trust heart)

繋いだ手だけが妨いだ

 

それが私の聖剣翳せ!

弱くてもいい涙を流してもいいさ

 

遂に我慢し切れなくなったクリスがアームドギアをガトリング砲に変えて空にいるギリーラに弾丸のシャワーを撃ちこむ。これが飛行型のノイズならクリスの弾丸で穴だらけにされるが、

 

「そんな豆鉄砲が当たるかい!」

 

クリスの放つ弾丸を余裕で避けるギリーラ。飛行型のノイズとは違い、ただ人間を殺すだけの兵器ではない。人類抹殺を目的に造られた改造人間なのだ。

ならばとマリアも短剣を蛇腹状にしてクリスの援護に入る。

 

笑顔達を守る 強さを教えろ

近距離も速距離もねぇ こんなもんはバチンと当たりゃ

満塁ホームランさあ祈れ カッコ付けさせろBaby

 

絶対負けない歌それが心にあるのなら

運命(さだめ)も過去も嘆きも記憶も愛も

ぐっと握って今足掻き(もが)きそして立つ

 

しかし、二人の攻撃はギリーラには当たらず吹き矢を避けるだけで精一杯でもあった。クリスの弾丸もミサイルもすべて避け、マリアの蛇腹も寸前のところで回避される。

ほぼ一進一退の状況に二人は焦りだす。

 

「私たちの攻撃も当たらない!?」

「空を飛ぶ奴はこれだから嫌なんだよ!! マリア、抜剣だ!」

「え…ええ。 (何かしら? 何時もより息苦しいような…)」

 

このままでは埒が明かないと判断したクリスがマリアにイグナイトを使うよう提案し、違和感を感じつつもマリアも頷く。

二人は一旦、ギリーラへの攻撃を止め海蛇男たちの時のようにペンダントをかざす。

 

「「イグナイトモジュール! 抜け…!?」」

 

今まさにイグナイトを使おうとしたクリスとマリアだったが、体に異変が起こる。

今まで感じたことがない程の息苦しさ、肺が悲鳴を上げ喉が焼け付くほどの痛みに襲われる。

 

「な…なにが…」

「…ガハッ!」

 

二人とも突然の事に混乱し、更には視覚すらおぼつか無くなり地面に倒れこんだ。

 

━━━一体何が!? またフォニックゲインを強制的に減らされた? …違う! フォニックゲインの減退で肉体にここまでのダメージがくることなんてない! 

 

シンフォギアは装者となる使い手の少女が歌うことによりフォニックゲインと呼ばれるエネルギーを増幅させ鎧にして戦闘力も上げてきた。

だからこそ、シンフォギアの知識がある者はエネルギー元であるフォニックゲインを弱らせる手を幾つも使われながらも彼女たちは勝利し続けていた。

だからこそ、マリアも最初はフォニックゲインの減退を疑ったが今までの奴とは明らかに違和感がありマリアはそれに引っかかっていた。

 

━━━フォニックゲインじゃないとすると他に何が…何かしらコレ

 

その時、マリアは目がかすみながらも左手の篭手に何かが付いている事に気づき右手の指でそれにふれる。

一見、それは粉上の物も見える。

 

━━━これは…埃? …違う、昔セレナと一緒に捕まえた蝶の鱗粉に似ている。 …蝶?

 

その時、マリアはギリーラが言っていた言葉を思い出す。

 

『ショッカーはアマゾンの毒蝶に私の命を注ぎ、改造人間ギリーラを作ったのだ』

 

 

 

 

 

「ギリーラ!? ウッ…ゴホッ!!」

「マリ…ア! ウグッ!?」

 

あの言葉を思い出したマリアが声を荒げるようにギリーラの名を叫ぶが直後に喉から熱いものが押し寄せ手で押さえるが我慢できず咳が出ると共に血を吐き出す。

その様子にマリアの名を呼ぶクリスだが直後にマリアのように吐血してしまう。

ある程度状況を察したマリアと今一状況が掴めないクリスはもう戦いどころではない。歌が完全に途切れた為か纏っていたシンフォギアも解け私服姿に戻ってしまう。

 

「イイヒヒヒヒヒヒヒヒッ! やっと効いたようだね」

 

その様子を見て地上に降りるギリーラ。その声は喜びに打ち震えてるようである。

 

「グッ…ギリーラ」

「て…テメェ…何をしやがった…!」

 

突然の体の異変にマリアは兎も角、ギリーラが何かした事に気付いたクリスもギリーラを睨みつける。

その間にも、二人は何度も咳をし口元から血を吐き出す。

しかし、聞かれたギリーラは答えようともせず二人の苦しむ眺めている。

クリスが大声で怒鳴ろとする。が、

 

「ギリー…ラは…毒を…使ったのよ」

「ど…毒だって…ゴホッ」

 

クリスの質問に答えたのはマリアだった。

それを聞いたギリーラは笑い声を上げる。

 

「イイヒヒヒヒヒヒヒヒッ! 気付いたようだね、マリア・カデンツァヴナ・イヴ。 私は毒蝶の改造人間だよ」

 

「毒蝶…なら…あの吹き矢か…」

「…違うわ。 …あの吹き矢は…あなたも私…も完ぺ…きに避け切ってかす…り傷すら無かった。 …鱗粉を撒い…ていたのね」

 

ギリーラの吐く吹き矢はクリスもマリアも完璧に躱し掠り傷一つも無い。だと言うのに二人はギリーラの毒に侵されている。そして、自身のシンフォギアの左手の篭手に付いていた鱗粉。

それが答えだとマリアは見抜いた。

 

「お察しの通り、お前たちの頭上で吹き矢で攻撃したのは私の毒鱗粉を振りまくのを気付かせない為! お前たちは歌いながら私の鱗粉を吸っていたのさ!」

 

「冗談だろ…シンフォギア…にはバリア…フィールドが…あるんだぞ…」

 

シンフォギアはノイズと戦う為に、炭素化を防ぎために僅かながらのバリアーコーティング機能が備わっている。

このバリアのお陰でノイズの炭素化は愚か宇宙でも短時間ながら活動でき極寒の地でも戦えるのだ。

だからこそ、ギリーラの毒がシンフォギアのバリアフィールドを突破した事が信じられなかったのだ。

 

「馬鹿めッ! 我々が何度シンフォギア装者と戦ってきたと思う!? 貴様らのバリアなど突破する事など容易いわ!!」

 

並行世界出身のクリスとマリアは知らないが、ショッカーは元の世界での立花響を始めシンフォギア装者との死闘を何度もしてきた。

その過程には「頭脳破壊電波」を始め様々な怪人の能力がシンフォギア装者を苦しめてきた。

そして、ショッカーはシンフォギア装者の歌に注目していた。

 

最も、クリスとマリアに言わせれば「そんなこと知ったこっちゃない!!」と返すだろうが。

 

そして、ギリーラは倒れてるクリスの頭の髪を引っ張り自分と目線を合わせるようにする。

肺は勿論、頭皮の激痛にクリスは顔を歪める。

 

「グッ…!!」

 

「それにしても装者も頑丈だね。 私の毒鱗粉を吸って即死しないなんてね。 …まぁいい、お前たちを片付けた後は毒水計画が開始される。 とっとと死んでもらうよ!」

 

マリアが聞いても分かる位、ギリーラの声は喜びに満ちている。

だが、それよりもマリアたちの耳に聞き逃せない言葉があった。

 

「毒水…計画…?」

「また…くだら…ない作…戦でも…考えてるの…か…」

 

二人は口から血を吐く咳をしながらもギリーラに計画を聞く。内心ではショッカーの次なる作戦を知るチャンスだとも考えている。

何より時間が経てば自分たちを犯す毒が弱まる可能性もあった。

 

「イイヒヒヒヒヒヒヒヒッ! 知りたいのかい? 何時もならお前たちが知る必要はないと言ってやるところだが、冥土の土産に教えてやるよ。日本中にある貯水池に私の鱗粉を混ぜカプセルを入れて大勢の人間どもの毒殺するのさ! そして、我々はその混乱に乗じて日本を制圧する。 それが地獄大使の経てた毒水計画だ! ついでに言えば、同時期にある市販されてる飲料水にも私の鱗粉が混ぜられた物にすり替える」

 

「「!?」」

 

ギリーラの言葉を聞いて絶句する二人。

ショッカーは飲料水に毒を混ぜて多くの人間を殺そうと計画していたのだ。

何とか止めようとするが、ギリーラの毒で動くことも出来ない。

 

話し終えたギリーラはクリスの髪を放し右手を上げて合図を送ると周囲を取り囲んでいた戦闘員が寄ってくる。

戦闘員たちの手には刺突剣が握られて、

 

「!」

「…それで…何を…する気だ…?」

 

「無論、戦闘員の剣でお前たちを串刺しにする為に決まってるだろ! これで我々に盾突く特異災害対策起動部二課の戦力も減るってもんさ」

 

ギリーラの宣言にマリアが周囲の戦闘員に目を配る。

戦闘員たちの表情は覆面で見えないが目には殺気が籠っている。本気で串刺しにする気だ。

 

「痛っ…!」

「ゴホッ!!」

 

このままでは本当に串刺しになると判断したクリスとマリアは何とか動こうとする。しかし、ギリーラの毒に侵された体では満足に動くことも出来ない。

毒も弱まるどころか体の一部が痙攣し始める。

 

「放置しても私の毒で死ぬだろうが…殺せっ!!」

「「「「イーッ!!」」」」

 

ギリーラの言葉で戦闘員が刺突剣でクリスとマリアを滅多刺しにしようと突き立てる。

このままクリスとマリアは殺されてしまうのか?

 

 

        思い出も誇り…

 

 

クリスの顔の横を刺突剣が突き刺さる。

地面が抉れ、刺突剣が本物だと思わせる。無論、戦闘員はワザとクリスの横を刺したが慈悲などではない。

寧ろ、逆だった。じわじわと恐怖を与えて殺す気なのだ。

クリスもこの行為に目から涙が出てくる。

 

 

                         去りなさい!

 

「!?」

 

体の自由がきかないのはマリアも同じ。別の戦闘員がマリアの目の前で刺突剣の輝きを見せる。

それもまたマリアの恐怖心を引き出す為だ。全てはショッカーに逆らった事を後悔させるため。

しかし、マリアはクリスと違い顔に笑みを浮かべている。

 

「クリス…来たみた…いよ…」

 

「? 何を言って…!?」

 

苦しそうなマリアの発言にギリーラの頭には?が浮かぶが直後に背中に衝撃と激痛が走る。

それだけではない、上から無数の細長いものが次々と降り注ぎ戦闘員を貫いていく。

しかし、地面に倒れるクリスとマリアには一本たりとも当たることはなかった。

 

神楽の風に 滅し散華(さんげ)せよ

闇を裂け 酔狂のいろは唄よ 凛と愛を翳して

 

「この歌は!?」

 

ギリーラも今更になって聞こえてきた歌に驚きクリスとマリアを交互に見る。

無論、二人ともまだ歌える程回復など出来ていない。

ハッとしたギリーラは攻撃の来た空部分を見る。其処には青い光が流れ星の如く、此方に迫る。

 

「お前は…風鳴翼!!」

 

「私が居るのを忘れたか!?」

 

その光の正体はこの世界の風鳴翼だった。

先のギリーラの感じた痛みも戦闘員を壊滅させたのも翼の「千ノ落涙」の効果だ。

 

「はっ、今更貴様が来たところで!!」

 

ギリーラの声に即座に戦闘員が翼の進行を阻もうと剣を持って立ちふさがる。

しかし、翼は脚部のブレードを開きブースターで更に加速する。

翼と戦闘員が交差した瞬間、翼は体を回転させ脚のブレードで次々と戦闘員を倒し、クリスとマリアの傍に寄ると二人を抱えギリーラから距離をとる。

 

「かざ…なりつば…さ…」

「…すまない、遅れた!」

「…遅…ぜ…せん…」

 

二人の様子に翼が一瞥するとギリーラを睨みつける。

更にはアームドギアを剣にして構える。

 

「気を…つけな…さい。 相手は…毒を使…う…私達も…それに…やられた…ゴホっ!」

「毒だと!? マリアは休んで少しでも体力を回復するんだ!」

 

マリアが翼にギリーラが毒を使うと忠告するが、直後にマリアの口から夥しい量の血を吹き出す。

それはクリスも一緒で翼は一刻も早くギリーラを倒そうと決める。

 

「はっ! お前も私の毒の餌食になりに来たか! 知っているよ、お前の実力はそっちの二匹に比べればカスレベルだとね!」

 

ショッカーはこの世界の風鳴翼の戦闘データから雪音クリスやマリア・カデンツァヴナ・イヴに比べ弱いと判断していた。

事実、様々な並行世界で戦ってきたクリスとマリアに比べればこの世界の翼はノイズとしか戦っておらずショッカーから脅威とはみなされなかった。

だからこそ、ショッカーは翼を無視してクリスとマリア、或いは本部を直接狙ったのだ。

 

「確かに私は二人と比べれば未熟だ。 これまでにも多くの命を取り零してきた。 それでも防人として並行世界の同じ志を持つ友として、お前たちを倒す!」

 

「そうかいっ!! お前も私の毒の虜になるんだね!」

 

直後にギリーラは口から吹き矢を出して翼に向かわせる。

しかし、翼も伊達や酔狂でシンフォギア装者でも防人でやってる訳ではない。自身に迫る吹き矢を直ぐに叩き落す。

だが、その吹き矢は一本だけでなく何本も翼目掛け飛んでくる。

 

「そらそらそらっ! これだけの吹き矢、全てを落とせるか!?」

 

「クッ!」

 

何時のも翼ならギリーラの吹き矢程度なら難なく全てアームドギアの剣で叩き落していただろう。

翼の背後に毒で動けないクリスとマリアが居なければ。

偶に二人を狙ったように吹き矢が飛んでくる事で翼の精神は消耗していく。

そして、遂に翼の肩や太ももに吹き矢が突き刺さる。

 

「つば…さ…!」

「オイ…」

 

「イイヒヒヒヒヒヒヒヒッ! 決まったね、後は私の毒鱗粉でトドメをさしてやる!」

 

吹き矢の付けられた毒に翼も侵されてしまう。更に毒を追加しようとギリーラは自身の毒鱗粉も翼に振りかける。

即座に体に痺れを感じ息苦しさと軽い痙攣が翼を襲う。しかし、翼の脳裏にギリーラのある言葉が響く。

 

━━━奴は今、毒鱗粉と言ったな。 …ならあの技なら…

 

何を思ったか、翼は剣の構えを崩さずそっと目を閉じる。

 

(諸行無常 Ya, Ya-ha-ye 是生滅走)

(生滅滅已 Ya, Ya-ha-ye 寂滅為楽)

(アメノハバキリYae- Ya-ha-ye-ie)

 

「この…歌は…」

 

翼から音楽が聞こえ聞いたことあるフレーズにマリアが反応し、クリスも声を出さないが反応している。

 

「はっ! そんなに歌いたいのならあの世でコンサートでも開くんだね!!」

 

ギリーラも翼が歌おうとしてる事に気付くが既に翼の体は毒に侵されている。

ただの悪足掻きと判断する。

 

一つ目の太刀 稲光より 最速なる風の如く

二つめの太刀 無の境地なれば 林の如し

 

歌い始めると共に翼は太腿部分のシンフォギアのパーツから何かが飛び出し剣を持っていない方の手で握る。

それは即座に剣の形となり翼が二本の剣を持つ。そして目をカッと見開く。

 

百鬼夜行を恐るるは

己が未熟の水鏡

 

翼は二本の剣の柄の部分を連結させ一本の剣にしてしまう。

そして、その剣を回転させ刃に炎が灯る。

 

「火っ!? 火だと!?」

 

それに狼狽したのはギリーラだ。その反応に翼は勿論クリスとマリアも気付く。

 

「アイツ…火が…」

「怖い…ようね…翼ぁぁ!」

 

「分かっている!」

 

我がやらずて誰がやる

目覚めよ…蒼き破邪なる無双

 

脚部のブースターが火が付き翼の動きが加速する。

その間にも翼の回転する剣の火が大きくなる。翼に撒かれた毒鱗粉も燃え盛大に火力が上がっていく。

 

「ちっ! 戦闘員も出し尽くしてもういないが構わん! 空から貴様たちが死ぬのを見てやるっ!! …!?」

 

幾千、幾万、幾億の命

すべてを握りしめ振り翳す

 

ギリーラが何時ものようにジャンプしようと力を籠めるがどういう訳か一向に宙に浮けずにいる。

自身の体に何が起こったのか分からないギリーラが左肩についている羽に目を向ける。

 

「!?」

 

そして驚愕する。自慢の美しい羽根に幾つもの穴が開いているのだ。

 

━━━いつの間にッ!? まさか雪音クリスの弾が当たったのか!? いや、雪音クリスの弾丸は全て避け切った、でもそれならこの穴は何時…!

 

そこでギリーラの脳裏に先ほどの翼の攻撃が蘇る。

翼の出した千ノ落涙はギリーラの羽も貫通していたのだ。

 

その背も凍りつく断破の一閃

散る覚悟はあるか?

 

「風鳴翼ッ!! 貴様ッ!!」

 

最早、空を飛ぶ事すら出来なくなったギリーラはありったけの憎しみを翼にぶつける。

そして、翼の燃える剣がギリーラを切り捨て炎が覆う。

 

風輪火斬

 

ギリーラは断末魔すら上げることなくバラバラになり燃え尽き、その場には翼の荒い息遣いだけが聞こえる。

額から汗を流し肩で息をする翼。先ほどよりは体が軽く感じている。

 

「お疲れ…翼…」

 

背後から声が聞こえ翼が振り向くと私服姿のマリアとクリスがヨロヨロと歩きながらも翼を労いに来る。

 

「二人とも…あまり動かない方が…」

「アナタがギリーラを…倒した事で毒の威力が…弱くなってるみたい…」

「さっきよりは体も…楽になったしな…疲労感が半端じゃないけど…」

 

翼の言葉に答えた二人だが顔色は悪く無理してるのは翼でも理解出来る。

まだ敵地だという事もあり、翼が警戒してる中遠くの方でサイレンとヘリの羽の音が聞こえ翼はホッと胸を撫でおろす。

 

その後、到着した消防士が燃える屋敷の消火作業を始め、現場に来たエージェントたちと救急隊員が負傷した三人を救急車に乗せ病院へ連れていく。

 

翼の活躍でギリーラの撃破に成功した。

マリアとクリスはこのまま地獄大使の野望を阻止出来るのか!?

 

 

 

 

 




何気にクリスたちを亡き者にしかけたギリーラ。強豪怪人ですね。見下していた翼がトドメ、驕るのはダメですね。

ギリーラの毒は本郷曰く口に入れると痙攣して即死するらしいです。
無印やXVだと響たちは宇宙でも歌ってましたけど…
設定によるとギリーラの飛行速度はジェット機と同じらしいです。ジャンプした仮面ライダーに追いつかれた上にキックで撃破されましたけど。

尚、毒水計画は劇中だと本郷や滝に聞かれた時は喋る気なかったけど捕まってたおやっさんが先に聞いていたらしく、本郷たちに速攻でバレました。
ついでに言えばギリーラの鱗粉を混ぜた水は泥水のような色をしてます。

そういえばシンフォギアに毒使いとか居ましたっけ?
シンフォギアのメタとしてフォニックゲイン減退はあったけど。シンフォギアのバリアってどの位の性能だろうか。
Anti LiNKERは途中で出なくなったし。XDは知らん。


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91話 悪魔の計画!? 怪人ジャガーマン

雨の所為か一気に冷えてきた。


 

 

 

翼がギリーラを倒して早二日。

 

東京のとある動物園・

 

「…よし、残ってる客はいないな」

「そのようですね」

 

閉園時間も過ぎ、二人の警備員が一緒に動物園内を見て回る。

目的は当然、閉園時間を過ぎても残っている客を帰す為だ。滅多にはいないが夜の動物の姿を見たいマニアが隠れている場合がある。または親とはぐれた子供も見つかる場合がある。

他にも希少な動物を狙った悪質なものまでいると聞き園長も警備は厳重にしている。

 

「それにしても聞いたか? また東京でノイズが暴れたらしいぞ」

「らしいですね。 特異災害対策起動部が速やかに市民の避難させて犠牲者はほぼいないらしいですけど」

 

仕事中に彼らは談笑をしつつ動物園内を警備して回る。

最初は私語も最小限にして警備していた彼らも時が経つにつれ慣れていき今では仕事中でも談笑してしまう。別に彼らが不真面目ではない。

人間良くも悪くも慣れる生き物なのだ。

 

「それにしても 最近多いよな。 一昔前ならノイズに襲われるのなんて交通事故より低いなんて言われてたのに…」

「先輩…聞いた話なんですけど、どうもノイズじゃないって噂なんですよ」

「…聞いたってどうせネットの情報だろう」

 

後輩の言葉に先輩の警備員が呆れて言う。

短い付き合いだが、後輩は俗に言うネットの陰謀論とかが大好きだった。

仕事の最中、何度も聞かされ耳にタコが出来るんじゃないかと思う程だ。

 

「今度は本当なんですよ先輩! 僕が見つけた情報だとノイズではない未知の化け物なんですよ!」

「…ノイズとあんまり変わんない気がするけどな…」

 

ノイズのは人型に近いのもあれば這い蹲って移動する四足歩行がたや母艦のように小型のノイズを吐き出す大型、空を飛ぶ飛行型に目撃例は少ないが増殖するタイプまでいる。

そのどれもが近くにいる人間を機械的に殺すのだ。

 

「それが全然違うんですよ! 市街地にノイズが出た時に隠れていた奴が目撃した情報ですけど火炎や電撃を出す人間大の虫のような奴に高速じゃ喋る蛇人間とか体中に針を生やした化け物だとか二日前に燃えた幽霊屋敷に人間大の蛾とか!」

「分かった分かった。 …でもそういう情報って国家機密なんたらに引っかかんないのか?」

「ああ、国家特別機密事項なんて守ってる奴なんて少数派ですよ。 個人なら兎も角、集団ともなれば管理なんて出来る訳がない穴だらけの法律ですよ」

「へーそうかー(棒」

 

ネットの眉唾な情報を喋る後輩に先輩は完全に聞き流している。後輩も大体いつもの事であるので構わず喋り続け園内の警備は順調に進んでいく。

今日も何事もなく仕事が終われば飲みに行こうと考えていた先輩だったが、

 

「先輩! 先輩!」

「…何だよ?」

 

急に後輩が肩を叩いてきた現実に戻ると後輩がある場所を指さす。

其処は動物園内にある虎のいる場所だが警備員の先輩も異変に直ぐ気付く。

マスクをし、白い帽子を深く被ったコート姿の男が居るのだ。

二人は急ぎ、虎の前にいる男に話しかける。

 

「お客さん、もう閉園時間だよ」

「この動物園は夜営業はしてないの。 出口まで送ってやるから」

 

二人が話しかけるがマスクをした男は横目で見た後に虎に視線を戻す。

 

「放っといてくれ、俺はまだコイツと話が終っておらんのだ」

 

男はそう言って目の前に指を突き出す。

二人の警備員もそれに反応して男の指先の注目すると、指の先には展示されている虎の姿が。

 

「虎と話してるって! ヤバいっすよ、先輩! 電波って奴です」

「おいっ!お前は黙ってろ。 お客さん虎と話すなんて馬鹿な事言っちゃ…」

 

客の男性を馬鹿にするような発言をする後輩に先輩が窘めつつ客である男性に話を続けようとする。営業時間が終了した以上、とっとと出て行って欲しかったのだ。

すると、男性は警備員たちの方を向き帽子を手に取りゆっくりと下ろしていき、顔を通過した。

 

「ヒョォォォォォォォォォォォォッ!!」

 

「「うわあああああ!!」」

 

帽子が顔を通り過ぎ男の顔を見た二人の警備員が悲鳴上げる。

男は一瞬にして姿を変え、毛むくじゃらの鋭い牙を持つ肉食獣の姿となった。

 

「せ…先輩! ほ、本当に居たでしょ!? 化け物が!」

「何でちょっと嬉しそうなんだよ、お前! 逃げるぞ!!」

 

肉食獣と化した男を前に警備員の二人は急ぎ逃げ出す。詰め所に戻り警察や特異災害対策起動部に通報する気だった。

肉食獣の顔になった男は走り去る警備員を見ている。

 

 

 

 

 

 

無事に詰め所に戻った二人。

後輩が備え付けられている電話をかけ、先輩が同僚の警備員に緊急事態だと話す。

 

「血相を変えてどうした? ライオンでも逃げたのか?」

「それよりもっと凄えもんだよ! 豹みてえな動物の顔をした化けもんだ!」

「ハッハハハハハハ…俺も見たよ」

「え?何時どこでだ!?」

「毎日毎日鏡の中でな!」

 

同僚に話しかける先輩だが、その同僚の様子が何か変だと気付く。

同時にもう日暮れも近いのに詰め所の電気は消えており中が薄暗い。

そして、同僚が此方を向き僅かな外の光で顔が照らされると同時に警備員が腰を抜かす。

 

「こんな顔じゃなかったかい?」

 

「うわああああ!!」

「先輩、ダメです。電話が通じない…うわああああ!!」

 

電話で警察に連絡しようとしていた後輩が戻ってくるが電話が通じないと言うと先輩の目線の先にいる先程見た豹の顔をした男に気付き、悲鳴を上げる。

 

「既にこの園に居る人間どもは始末した! お前たちも死ねぃ!」

 

腰を抜かす二人の警備員にそう言い放つと豹の顔をした男が襲い掛かる。

 

数分もせず、体に赤いシミが出来た豹の顔をした男が小走りで園内を移動する。

 

「聞けぇ!動物どもよ、この園に居た人間どもは俺が始末した! 俺と共に暴れたい奴だけ着いてこい! 今こそ霊長類と驕った人間どもに野生の血を見せてやろうではないかぁ!!」

 

その宣言に動物たちは呼応する様に雄たけびを上げ檻を揺らしたりする。その行動はまるで興奮してるかのようだ。

直後に何台もの大型トラックが動物園内に侵入し戦闘員が何人も降りていく。

 

 

 

ショッカーの作り出した人間豹「ジャガーマン」。

世界征服を狙うショッカーが動物を使って何を狙うか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「地獄大使、ジャガーマンが動物園の占領を完了しました」

「動物園に到着した大型トラックの荷台に多数の肉食獣を乗せるそうです」

 

大きなテーブルに東京の地図を広げてる地獄大使の耳に戦闘員の報告が次々と入る。

そして、それを聞いていた地獄大使の口は吊り上がる。

 

「予定通りよ、トラックの荷台に乗せた動物どもを東京の街に放ちパニックを起こさせ、シンフォギア装者を釣り出す。 これぞアニマルパニック作戦」

「ケッケケケケケケケケケケ、それだけじゃないだろう 地獄大使」

 

地獄大使の言葉が終ると共に扉が開き、一体の怪人が入る。

頭部に二本の縦に生えたサイギャングだ。

 

「貴様の方は準備万端か?」

「おう、俺の鍛えた殺人ライダー軍団の連携は完璧よ」

 

殺人オートバイ部隊。

元々、バイクを多用する事が多いショッカー。地獄大使が改めて組織しバイクを得意とした怪人を隊長にした殺人軍団。

それ+のジャガーマンが率いる狂暴化した動物。

 

「フフフ…更に予測ではアレも来る。 更には別動隊としてカミキリキッドが立花響どもを仕留める。 今度こそシンフォギア装者たちの最後よ」

 

幾つもの目印が書かれた東京の地図に更に大きな円が書かれる。

その地図を見て地獄大使は大いに笑う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから一日が経ち

 

「ふぅ~やっと退院出来た」

「そうね」

 

特異災害対策起動部二課指令室に二人の女性の声が響く。クリスとマリアだ。

二人はギリーラとの戦いの後に体の毒を抜く為に特異災害対策起動部かかりつけの病院で治療を受けていたのだ。

その様子を見てホッとする特異災害対策起動部二課職員。

 

「ご苦労だったな、二人とも」

 

指令の源十郎の第一声が二人の耳に入る。

ギリーラの毒を受けたと聞いて気が気でなかったのだ。

 

「毒蝶の改造人間、恐ろしい相手ですね」

「歌う装者にとって毒の鱗粉を振りまく敵なんて…」

 

オペレーター席に座る藤尭朔也と友里あおいもモニターの映像を見てそう呟く。

モニターの映像には二人と戦うギリーラの姿がハッキリと映る。

配下の戦闘員で消耗させ本人は吹き矢で攻撃するが同時に毒の鱗粉を歌う装者に吸わせていたのだ。

 

「…正直死ぬかと思ったわ」

「今まで毒を使う奴となんてやりあった事はないからな…」

 

相手をしていたクリスとマリアもそう反応する。

空を飛び毒の吹き矢を吐き、毒の鱗粉を撒いてくる敵など彼女たちも初めてであった。

一瞬だが二人はあの時、死を覚悟した程に。

 

「アレは対シンフォギア装者用に用意された怪人かも知れんな」

「…可能性は…あるか」

 

モニターに映るギリーラの姿を見て呟くのはクリスやマリアより一早く退院した翼だ。

毒の吹き矢を受けたが吸い込んだ鱗粉はほぼ皆無だった為、毒の成分を調べ即座に血清を打たれた。

半面クリスとマリアは肺に毒鱗粉がついている事で肺洗浄して滅茶苦茶苦しむハメになっていた。

そして、翼の考えに賛同する源十郎。

 

相手は機械的に人間を殺すノイズではない。

意思があり、人類を抹殺しようとする悪の組織だ。敵対しているシンフォギアの弱点など当然ついてくるだろう。

 

「あんなのがまた来たらたまったもんじゃぞ」

「出来れば二度と戦いたい相手じゃないけど…」

 

今まで多数の怪人を倒した事で自信があった二人だが、ギリーラの毒を諸に受けてそれも揺らいでしまっている。歌っている時に知らずに毒を吸い込んでいたのだ。歌の力で戦うシンフォギアには最悪の相手と言える。

今回は翼が倒したが、またギリーラのような能力を持った敵と戦いになれば不利なのは自分たちかも知れないのだ。

 

「その事について提案があるんだが」

「提案?」

 

そんな二人を見かねて源十郎がある提案をする。

 

 

 

 

 

 

 

「おっさん、訓練室で何するつもりだよ?」

 

クリスとマリア、翼は指令室から本部にある訓練室へと移動していた。

訓練室とは文字通り装者やエージェントが戦闘や連携の訓練やする場所である。

 

「今からノイズとの戦闘訓練でもやるのかしら?」

「いや、二人に見せたいのは別の物だ」

 

マリアの問いに源十郎はそう答えると懐からリモコンを取り出しスイッチを入れる。

直後にクリス達の前の映像が乱れ何かが形作られていく。

 

「なっ!?」

「これって!」

「お…おじさま!?」

 

その正体を見てクリスとマリアは愚か翼すら度肝を抜かれた。

飛び出した白い目に首に巻かれた蛇、腰にはもう見飽きている忌々しいマークのベルト。

海蛇男の姿がある。

 

「安心しろ、本物じゃない。 この前君たちが戦ったデータを元にしてシミュレータで調整してみたんだ」

 

あっけらかんとした源十郎の言葉に呆然とする二人。

 

「お…おっさんが調整したのか!?」

「そ、そうだが…」

 

予想以上に驚くクリスの反応に源十郎も思わず眉を顰める。

内心「不器用だと思われてた」かと心配になるほどだ。

 

「驚いたわね。 風鳴訃堂との喧嘩の時に技術者だって聞いていたけどこんな事も出来たのね」

「…それはあまり言わないで欲しいんだが」

 

マリアの指摘に少しだけ顔を赤くする源十郎。

協力者とは言え他人に家族喧嘩を見られて少し恥ずかしくもあった。

 

それから後に、再現できたのは海蛇男だけでなく戦闘員にドクガンダーに死神カメレオンまで見せてくる。

更には、

 

「此奴は…」

「こうやって見ると嫌な相手ね」

 

先日、戦ったギリーラの姿まである。

源十郎は二人が入院中に映像や記録からギリーラのデータを入手し訓練室のシミュレータで再現させていた。

 

「流石に毒までは再現できなかったが、繰り返し戦う事で対策も講じる事も出来る筈だ」

「ノイズ以外にも戦闘員や怪人の再現もするなんてな…」

「流石技術者ね、データとか貰えるかしら? 私たちの世界でも万が一の時に訓練は必要だと思うけど」

「護身術程度しか出来ない俺にはこれしかないからな。 俺の好きなSF映画みたいに強くなれるスーツや武器が作れれば…なんて思うこともあるがな」

 

マリアの言葉に苦笑いする源十郎はそう答える。

年端もいかない翼を戦わせ、更には並行世界から来た少女も戦ってるというのに自分たちは安全な場所から指示を送るだけ。己の無力さを呪わない訳がない。

データは後で渡すと言って乾いた笑い声を上げる源十郎を見て複雑な気分になるクリスとマリア。

 

「やっぱ違和感凄いな…」

「私たちの世界の指令と比べてどっちがいいとかは言わない方がいいわね」

 

自分たちの世界の源十郎は技術はなくても腕っぷしが立つ。それこそ、シンフォギア纏った自分たちを圧倒する程に。

どっちが良いかなど一概には言えないがこの世界の源十郎も自分なりに世界を守ろうとしている事に安堵する。

 

その後、源十郎との会話をするクリス達の下に指令室からの呼び出しを受け全員が指令室に向かう。

 

「どうしたんだ?」

「あ、指令…妙なニュースなんですが…」

 

指令室に戻った源十郎の第一声に藤尭朔也が反応しスイッチを入れる。すると、モニターにはニュース映像が流れる。

 

『本日未明、○○動物園にて警備員並び動物園スタッフが殺害されてるのが発見されました。開園時間になってもスタッフが出てこず、近隣住民が動物が何時も以上に騒いでる事で警察に通報し発見されました。

警察の発表ではスタッフも警備員も動物に食いちぎられた跡が…』

 

「どういうこと…」

「○○動物園なんて此処からそんなに遠くないぞ」

 

モニターから流れるニュースに皆が呆然としている。動物園である以上はある程度のニュースは慣れてはいるがスタッフも警備員も全員が殺害されたというのは初めて聞いた。

それも、殺し方からしてノイズではないのも明らかだ。

 

「ニュースではまだ発表されてませんが、登録されていた大型や肉食の動物の大部分が行方不明らしいです」

「…指令、警察より監視カメラの映像が送られてきました。 再生させます」

 

友里あおいが警察からデータが送られた事を報告しモニターに映し出す。

其処には大型トラックの荷台に入る動物たちの姿と

 

「ショッカー戦闘員!?」

「やっぱり奴らも絡んでいたか!」

 

動物の載った荷台を閉めトラックに乗り込む戦闘員の姿が写っている。

警察もこの映像を見て特異災害対策起動部二課に回したのだ。

 

「アイツら、動物を連れて何するつもりだ!」

「どうせ碌な事じゃないわ!」

「同感だ、このトラックの追跡は出来るか!?」

 

「通行した道路の監視カメラのデータで追跡可能です!! …これは!?」

「指令、ショッカーのトラックは永田町で停止してます!!」

 

「永田町だと!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

永田町

道路には幾つものトラックが止められ中には交差点のど真ん中にも停まり通行の妨げになっている。

 

「おい、何だよこれ!?」

「こっちは急いでるんだけど!」

「早くしてくれないか? 私は政治家だぞ! 国会に遅れてしまう!」

 

突然、大型トラックが交差点で停止した事で他の車のドライバーが怒鳴り声を上げクラクションを鳴らす。それは連鎖し十数台の車が煩く鳴らされる。

自転車やバイクは何とか通行するが車はどうやっても通る事が出来ないよう停められている。

時間も経てば警察が来てレッカー車で運ばれるだろう。…()()()()()()()()()()()

 

 

 

小高いビルの屋上

辺りを見回せる程の絶景の中に明らかな異物が居る。一人は動物園を襲撃したジャガーマン。もう一人は不気味な笑みを見せる地獄大使だ。

 

「…時間だ、作戦を開始させろ!」

「了解! ヒョォォォォォォォォォォォォッ!!」

 

 

 

 

 

その日、永田町に不気味な鳴き声が響くと同時に阿鼻叫喚の地獄絵図が作り上げられる。

 

 

 

 

 

 

 




肺って洗浄出来たっけ?まぁ、無理でも劇中は2040年代だから肺が洗浄できるシステムが出来たということで。

訓練室で怪人や戦闘員と戦えるようになりました。一見、同じ怪人と戦っても意味ないかとマリアたちは考えてます。…尚、再生怪人。

次回、翳り裂く閃光編の中盤である永田町での戦いです。
未来が出てきてませんが、原作ゲームと違い既に神獣鏡のギアは既に持っていてある程度の戦闘も経験してます。後、まだXD響が倒れてないのも原因です。

ある意味、矛盾の塊ジャガーマン。
原作では動物園限定(街中では犬猫が人を襲っていた)のアニマルパニック作戦でしたが今回は動物たちを連れ永田町に。
目的はシンフォギア装者を釣ると共に日本の頭脳である政治家を殺し、日本を大混乱させる為です。


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92話 永田町の決戦! 地獄大使の秘策

 

 

 

ピー!ピー!

「はい、退いてね! 近すぎると動かせないよ!!」

 

混乱する交差点にて一台のパトカーがサイレンを鳴らし乗っている警官も支給されているホイッスルを鳴らして近づく。混乱状態の道路だが一般人の車は渋々パトカーの前を開け進み降りると二人の警官が出てくる。

目的は道を塞ぐ大型トラックを撤去及び下調べだ。

 

「一体どこの馬鹿だ? こんな所にトラックを放置するのは!?」

「おい、このトラック先日に運送業の会社から盗難届が出た奴だぞ」

「盗難車か、ますます何でこんな所に放置してるんだ?」

 

その大型トラックは盗難車ある事を知った警官が軽く調べる。

運転席には誰も居らず鍵も刺したままだ。これならレッカー車を呼ばなくても動かせるなと考えた警官だが、相棒であるもう一人の警官に呼ばれる。

呼ばれて行ったのはトラックの荷台の扉だ。

 

「どうした?」

「荷台から変な音が聞こえるんだよ」

「音?」

 

相棒の言葉に警官が荷台に耳を近づけると何かが移動する音と幾つもの呼吸音が聞こえる。

これには互いの顔を見て呆然とする警官。

 

「おい、まだかよ!」

「早くしてよ! 仕事に遅れちゃう!」

「私は膝が悪いんだぞ!」

 

警官たちの反応に周りで見ていたドライバー達から野次が飛ぶ。彼らとしてはさっさとトラックを退けて移動したいのだ。

車を置いて歩くという手もあるが、それでは自分の車が通行の邪魔をしレッカーで運ばれ罰金を取られる可能性がある。

 

「まさか人が乗ってるのか? 誘拐か密入国者?」

「念の為、本部に応援を頼む。 俺は開けて確かめる」

 

一人が無線で連絡、もう一人が荷台の扉を調べ鍵がかかってない事を確認しゆっくりと荷台の扉を開ける。

もし誘拐された人間ならパニックにならないように、密入国者でも同様と言える。

そして、扉を開けた瞬間黒い影のようなものが飛び出すと同時に()()()()()()()()()()

 

こうして交差点及び永田町の長い一日が始まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

警官がトラックの荷台を開ける少し前、

 

廃ビルの壁が何かにぶつかり崩れる。

其処には黒い人型が横たわり間もなく緑色の泡を出し消滅する。壁は内部から壊れ、その先にはシンフォギアを纏った響が拳を前に突き出している。

 

「ハア…今日はやたら多いな…」

「偶に襲ってきてもここまで数じゃなかったのに」

 

響の言葉に答えたのはこの世界の立花響だ。現在、二人は拠点としている廃ビルでショッカー戦闘員の襲撃を受けている。

何時ものチョッカイや様子見ではない。響が夜中に相手をしている戦闘員の数倍の数がおり、自分たちを囲っている。

既に響とヒビキも何人もの戦闘員を倒してるが一向に減った様子がない。

 

「キィ~リィ~! 流石は、我らの邪魔もの立花響! しかし、此処がお前たちの墓場となるのだぁ!!」

 

「「!?」」

 

廃ビルの入口から不気味な鳴き声と共に戦闘員の者ではない気配が近づく。

警戒を強める二人の目には、新たなる怪人が現れた。

 

「…虫?」

「私の知らない怪人か…」

 

「そう言えばお前は俺の事を知らんかったな、カミキリキッド! 貴様らを地獄に送る改造人間の名だぁ!!」

 

響たちへ名乗ったカミキリキッドは「キーリー!」と鳴き声を上げると火炎を吐き二人を攻撃する。

元々警戒していた為難なく躱した二人の響だが、周囲には戦闘員にカミキリキッドの炎が朽ち果てたソファーやテーブルに燃え移り周囲は火事となる。

熱気や煙が充満しつつある廃ビルの中で響たちは戦いを強いられていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

東京の上空、一機のヘリが猛スピードで進む。行き先は永田町。

特異災害対策起動部二課が用意したヘリで内部には翼及びクリスとマリアも乗っている。

 

「はあ!? 動物が解き放たれた!?」

 

本部からの緊急通信を聞いたクリスが怒鳴るように聞く。

マリアも翼も言葉には出さなかったが驚愕している様子である。

 

『そうだ。 奴らは動物…それもライオンや熊といった肉食獣やサイやカバをトラックに荷台に入れて街中に解き放ったんだ!』

『トラックを調べていた警官が荷台に載っていた熊に襲撃され死亡! 同時に各地に止めていたトラックからも動物たちが飛び出して一般人を襲撃! 現場は混乱してるわ!』

 

源十郎と友里あおいの報告にクリスもマリアも絶句する。

その間にも下から幾つものパトカーと救急車のサイレンが聞こえてくる。

 

『更に厄介な事が二つ残っている!』

 

そんな重苦しい空気の中、源十郎の口から更に情報が飛び出しクリスとマリアどころか翼すら頭を抱える。

 

「や…厄介な事とは?」

『要人や官僚の避難が済んでないのが一つだ。 今日、国会には多くの政治家が来ていて彼らの避難させなければならない。 運が悪いことに現場では要人も少ないながらも巻き込まれたようだ。 そしてもう一つは「記憶の遺跡」だ!』

「記憶の遺跡?」

「何だよそりゃ?」

 

初めて耳にする言葉にクリスとマリアがそれが何かを聞く。内心、凄まじく嫌な予感がしてるが。

 

『永田町地下には聖遺物を保管する「記憶の遺跡」があるんだ。 あそこには多数の聖遺物と完全聖遺物が保管されている!』

「何だと!?」

「深淵の竜宮みたいなのがまだあったの!?」

『…竜宮も知っていたか。 全ての異端技術を一か所に纏めるわけにはいかんのだ。 万が一の為に幾つかの異端技術を分散して保管しているんだ』

 

日本政府は少なくない量の聖遺物を所有している。 物がモノだけに博物館に置く訳にもいかず、また纏めて奪取されるのを防ぐ為、或いは研究目的で深淵の竜宮や記憶の遺跡以外にも日本各地の政府機関で聖遺物を保管している。

そしてその内の一つが永田町地下に存在する記憶の遺跡なのだ。

 

「それじゃあ、ショッカーの目的は記憶の遺跡の聖遺物!?」

『正直分からん! 何しろ政治家や官僚でも記憶の遺跡を知る者は少ない、だから注意して戦ってくれ!』

 

源十郎の言葉にマリアもクリスも溜息を漏らす。

知ってるのか知らないのかは分からないが地下に注意しつつ戦わなければならない事で既に疲労を感じていた。

 

 

 

 

 

 

現場に辿り着いたクリスとマリア、そして翼だが現場を見て絶句する。

先ず目に入ったのは、何か大きいものに踏まれ潰れた乗用車と流れる血。その傍には腹を食い尽くされた銃を持った男と頭が穴だらけになった虎の死骸。

 

「ウッ!?」

「オエッ!」

 

これには幾つもの並行世界で戦ってきたクリスとマリアを思わずえづき口を手で塞ぐ。

ノイズの殺され炭化する人間を見てきた。アルカノイズに分解され赤い煙になった人間も見てきた。

時には、結社の元関係者が起こした事件により殺された者もいるが、ここまで惨い死体を見たことは無かった。

 

遠くの方で銃声と獣の咆哮、人々の悲鳴が聞こえ急いで先に向かう。

 

 

 

 

 

 

「撃てぇ! 撃てぇ!」

「民間人の避難を急がせろっ!!」

「マズイ! 来たぞぉ!!」

 

パオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォッ!!!!

 

 

警官が必死に民間人を逃がし、暴れる動物に向け拳銃を発砲する。牽制になればいいが、中には手負いになった事で狂暴性が跳ね上がることもある。しかし、素手で大型の動物を止めれる訳もなく中には急いで自衛隊の派遣も要請されている。

 

そんな中、凄まじい咆哮と共に停まっているいる何台もの乗用車が吹き飛ばされ自分たちの方へ向かう巨大な影が迫る。

 

「ゾウだ…暴れゾウだぁ!!」

 

特徴である長い鼻で次々と車も警官も民間人も薙ぎ倒し、それでも止まることのない巨体。

動物園の名物にもなっていた像が拳銃の銃弾に怯みもせず次々と民間人も警官も踏み潰していく。

 

 

 

 

 

 

 

 

それを小高いビルの屋上で眺める地獄大使。その顔には笑みを浮かべ笑い声まで上げている。

 

「ふふふ…まさに順調と言ったとこか。 国会の方はどうだ?」

「イーッ! 別動隊が突入し警備員や何人かの政治家を殺害しましたが現在議会の広間で立て籠もってます!」

 

地獄大使は永田町の街を責めると同時に国会での答弁のために集まった政治家たちの皆殺しも目的である。

あわよくば政治家や官僚を殺し、日本を大混乱にさせる手も考えている。

しかし、戦闘員の報告は地獄大使とって面倒の一言であった。

 

「ちっ、戦闘員だけで済ますには時間が掛かり過ぎるか。 ならばサイギャングを向かわせるのが…いや、時間切れか」

 

いっその事、待機させているサイギャングに議事堂を責めろと言うべきか悩む地獄大使の目にある物が映りその考えも断念する。

丁度、ゾウが暴れてる場所の爆発が起き、何か巨大な物が倒れる音がした。

地獄大使の目にはクリスが腰部分から小型ミサイルを撃ち、ゾウが息絶え倒れた姿だ。

 

「予定より少々早いがサイギャングに作戦開始を伝えろ」

「イーッ!」

 

 

 

 

 

 

 

一方、ゾウに向かいミサイルを撃ったクリス達は、

 

「…今まで色々な敵を撃ってきたが、ゾウは初めてだ…胸糞悪い」

「仕方ないわ。ショッカーの命令を聞いて暴れる以上、私たちにとっても敵よ!」

 

マリアは短剣を蛇腹状態にして振り回しハイエナや鷲、カラスなどを叩き落していく。

少し離れた場所でも翼が暴れるゴリラを剣の錆にし、次の暴れる動物の相手をする。

 

「ゴリラって優しい動物って聞いた筈なんだが…」

「ショッカーの所為で狂暴化してるんでしょ。 手加減が出来る相手とも思えないわ」

 

本来なら動物園を逃げ出した動物は捕獲される事が多い。

しかし、今回の場合は多くの人間が巻き込まれ死者が続出し、政治家の多くも巻き込まれた事で特異災害対策起動部二課には動物の始末が命令され源十郎はそれを三人に告げていた。

報告では間もなく到着する自衛隊にも動物の射殺命令が下りその準備に入っている。

 

「クマの鎮圧も終わった。 次に…?」

 

クマを一刀両断した翼がクリスとマリアに声を掛け、別の所で暴れる動物の下へ行こうとしたが、翼の耳にある音が聞こえてくる。

そして、その音が自分たちに近づいている事に気付く。

 

「どうした?」

「バイクのエンジン音が近づいている…」

「生き残りか、自衛隊の先遣隊かしら」

 

翼の報告を聞いてクリスもマリアも翼の向いている目線の先を見る。

丁度、T字路になっており、クリスとマリアの耳にもバイクのエンジン音が聞こえ此方に向かってる事に気付く。

一般人が移動してるのなら自分たちが来た所から移動すれば逃げ出せるよう出来るし、自衛隊の先遣隊なら現場の指示を出す必要がある。

そう思っていたのだが、

 

「なっ!?」

「チッ!」

 

姿を見た時に、翼は驚愕しクリスは舌打ちをする。

少し考えれば不自然が多かった。バイクのエンジン音は一つではなく複数、来た方向は永田町の中心部の方、民間人にしては多すぎるし、自衛隊なら来た方向が不自然。

即ち、

 

「戦闘員よ!!」

 

黒いタイツにマスク、骨の印が入ったショッカー戦闘員。

そして、それを率いるのは

 

「掛かれぇぇ!!」

 

サイギャングだ。

サイギャング並び、多数の戦闘員がバイクに乗りクリスやマリア、翼を襲撃する。

 

 

 

 

 

 

 

 

「マリアさん達がショッカー戦闘員の襲撃を受けました!」

「やはり来たか!」

 

特異災害対策起動部二課本部でもクリスたちがショッカー戦闘員の襲撃を受けた事は直ぐに知らされた。

司令部には各所からの被害報告、自衛隊からの報告等が集まり非常に忙しいと言えた。

特異災害対策起動部二課の職員も鎮圧に乗り出しているが此方もショッカーの襲撃を受け苦戦している。

 

「これだけの行動を起こした以上、奴らの狙いは一体…」

 

そんな中、源十郎はこのような行動を起こしたショッカーの狙いが何かを考えている。

今までは街を襲撃したりはしたが、ノイズの直後もあり目撃者は少ない上、政府も並行世界から来たという悪の秘密結社などまともに取り合わなかった。

 

「それがある意味、ショッカーの隠れ蓑になっていたがこれで表に出る気なのか?」

 

これだけの行動、更には多数の政治家や官僚が巻き込まれてるのだ。これでショッカーのことは無視できなくなる。

だが、それはショッカーにも言える事だった。

闇に隠れ人を襲い、更には多数の民間人を浚った事もある奴らが何故、永田町で行動を起こしたのか?

 

「…記憶の遺跡目的だろうか?」

 

ショッカーの目的が読めない源十郎の額に一筋の汗が流れる。

ショッカーが記憶の遺跡の情報を知っていれば手に入れようとするのも分かる。だがその場合、ショッカーは何処で情報を手に入れたのか疑問に思う源十郎。

どちらにせよ、源十郎たちはモニター向こうのクリスたちを見守るしかない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クリス達の居る現場では、戦闘がより激しくなっていた。

ショッカー戦闘員のバイク部隊の機動力に翼は愚か、歴戦のクリスとマリアすら苦戦させている。

クリスがガトリング砲で迎撃するが、狙いの半分も当たらず散開したバイク部隊に中々命中せず、偶に戦闘員やバイクに命中して爆発する事もある。

マリアは、蛇腹剣で牽制するがバイクの機動力や爆音に集中出来ずバイクの突撃の前に消耗を重ねる。

翼も短刀を雨のように降らす千ノ落涙無想三刃ですれ違いざまに脚のブレードで戦闘員を切り捨てる。が、

 

「ケッケケケケケケケケケケッ!! どうしたシンフォギア装者ども、俺たちの世界のお前たちはもっと強かったぞ!」

 

「自慢して言える事か!?」

 

バイクに乗る怪人 サイギャングの言葉に思わずツッコんでしまうクリス。

一見、ふざけてる様に聞こえるがその体にはクリスの銃弾もマリアの蛇腹も翼の剣も何も通用しない。

サイギャングの体の硬度の前にクリスたちは完全に攻めあぐねている。

 

「あの二本角、とんでもなく固いぞ!」

「今のままなら勝てない。 …なら!」

 

マリアとクリスの視線が合い頷き合う。

考えてることは同じと感じ二人は胸元のギアを握り上に突き出す。

 

「「イグナイトモジュール! 抜剣!!」」

 

直後、クリスとマリアのシンフォギアが黒くなっていく。イグナイトを使ったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「雪音クリス及びマリア・カデンツァヴナ・イヴ、共にイグナイトを使用しました!」

 

サイギャングとクリス達の戦いを見張っていた戦闘員が地獄大使に報告する。

戦況は此方が押している状況でのイグナイト。形勢逆転かと思ったが、

 

「そうか、()()()()()!」

 

イグナイトの情報を聞いて地獄大使は笑みを浮かべ呟く。

そして、地獄大使は懐から懐中時計を取り出し時刻を見る。直後、「もう間もなく」と言った。

その顔には勝利を確信したように笑う表情にも見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イグナイトを纏ってからのクリスとマリアの前にバイクに乗った戦闘員も狂暴化した動物も次々と倒れていく。

攻撃力の上がったガトリング砲やミサイルで次々とバイクに乗る戦闘員を吹き飛ばし動物も牽制するクリス。

蛇腹状にした短剣を振り新体操のような動きで戦闘員を倒すマリア。

そんな二人を傍らで見守りながらもアームドギアを剣にして、戦う翼。

尚、それでも、

 

「多少攻撃力が上がったところで、俺を倒せる程ではないなぁ!!」

 

「冗談だろ!」

 

イグナイトで攻撃力が上がったにも関わらず、サイギャングの体に傷一つ付かない。

クリスの銃弾もマリアの蛇腹剣も先程とまるで変わらなかった。

その事に焦るクリスとマリア。

更に悪いことは重なり、特異災害対策起動部二課本部から緊急通信が入る。

 

『緊急事態だ!』

「こっちもだよ!」

「…何事ですか」

 

クリスの文句とも言える発言を無視したマリアが何事か聞く。

源十郎の声色からして本当に緊急の知らせだと考えたマリア。

 

『ノイズの反応だっ! それも大規模の!』

「「「!?」」」

 

直後に街中に二足歩行型や四足歩行型、タコ型のノイズが出現する。

更にビルの一角が崩れ大型のノイズまで現れ空には何時の間にか飛行型のノイズが飛び回っている。

 

「こんな時にノイズかよ!」

「でもこれはチャンスよ、ノイズは私達だけじゃなくショッカーにも襲い掛かる」

 

ノイズはバラルの呪詛により相互理解出来なくなった先史文明期の人類が同じ人類を殺すために造られた兵器。

最早、ノイズを造った者は居ないというのに律儀に命令を守り未だに人類を殺している。

それは、ショッカー組織でも変わらず戦闘員や怪人を襲い掛かる。その光景をクリスたちは何度か見ていた。半面、クリスたちもノイズの百や二百、今更どうという事はない。

このままショッカー、ノイズとの混戦に入るかと思われた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ノイズが出た、やれぃ! ジャガーマン」

「お任せを」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「聞けぇーい、ノイズどもぉぉ!!」

 

バイクで迫る戦闘員、乱入してきたノイズを相手にしていたクリスたち三人の耳に野太い男の声が響き何事かと声のした方を見る。

其処には、牙を生やし毛むくじゃらの獣のような顔をし左肩に鎧のような物を付けた怪人が居る。

それだけではない、

 

「地獄大使!?」

 

その怪人の横には、あの日特異災害対策起動部二課本部に通信してきた男 地獄大使も居たのだ。

 

「部下がやられて尻に火でも付いたか、クソ野郎ッ!!」

 

クリスの挑発とも言える罵声が飛ぶ。しかし、地獄大使の目がクリスに向いただけで完全に無視する。

更に、怪人が言葉を続ける。

 

「この俺、ジャガーマンが命じる! 俺たちの命令通りに動きシンフォギア装者どもを殺せぇ!!」

 

怪人…ジャガーマンの声が永田町に響き、当然クリスたちの耳にも入る。故に分からなかった。

ジャガーマンと名乗る怪人がノイズに命令したことが。

 

ソロモンの杖もない。錬金術師が造ったアルカノイズでもない、通常のノイズだ。

それが命令を聞くとは到底信じられない。

しかし、一早くマリアが周辺のノイズを見て冷や汗を流す。

 

「何…これ…」

 

ノイズがイヤに大人しいと感じ周りを見渡すと人型も四足歩行型も大型も飛行型も、全てのノイズがまるでジャガーマンを見てるような反応だった。

 

━━━普通のノイズでも大きい音には反応するし近くの人間を襲う傾向があるわ。 でも全てのノイズがジャガーマンの話を聞いているみたい。 …!

 

「さあ、ノイズども! 我らショッカーの忠実な下僕となりシンフォギア装者を殺せぇ!」

 

マリアは咄嗟にクリスを突き飛ばし、翼の手を引っ張った。

直後も、二人の居た場所に幾つもの細長いものが通り過ぎ地面を抉る。

 

「ノイズが!?」

「アタシ等()()狙ってるのか!」

「そのようだっ! …!」

 

一早く立ち上がった翼が迫るノイズを一体切り捨てる。だが、ノイズの陰で見えない場所から戦闘員のバイクが翼の腕に当たる。その威力により剣を手放してしまうが翼は即座に新しい剣を造り構える。

 

クリスも即座にアームドギアを取り出しガトリング砲に変えて戦闘員を牽制するが背後からノイズが攻撃し背中に衝撃を感じる。更に目の前が暗くなったと事に視線を向けるとライオンが唸り声を出し飛び掛かる。

 

マリアも蛇腹剣で戦闘員と動物を牽制するが、地面からタコ型のノイズが現れ奇襲される。

 

「一体何がどうなってんだ!? 何でノイズがアイツ等の命令を…」

 

ガトリング状態のアームドギアにライオンが噛み付き、クリスが抑え込まれ愚痴のように呟く。

自分たちの周りには戦闘員に動物、そしてノイズが犇めき合い愚痴の一つも言いたくなる。

 

 

 

「驚いたか? シンフォギア装者ども、これぞショッカーの技術力よ」

 

翼とマリアが互いの背中を守りあい、クリスが噛み付くライオンの鼻先を蹴り上げライオンを怯ませボーガンタイプも戻し迫るノイズを撃ち炭にした後に聞き覚えのある声が聞こえてくる。

声のした方を見ると地獄大使がこちらを見て笑っている。

 

「一体どうやってノイズを…」

「教えろクソ爺!」

 

「相も変わらず品の無い小娘だ。 …まあ良かろう、地獄への土産に教えてやる。ジャガーマンには動物を自在に操る改造声帯を取り付けてあるが、それに少々手を加えてな。 ソロモンの杖を参考に改造声帯から特殊な波長を出しノイズも同時に操れるようになったのだ」

 

「「「!?」」」

 

地獄大使の言葉に驚く三人。

ソロモンの杖もそうだが、それを解析してノイズを完全に操ってるのだと言うのだ。驚愕でしかない。

 

「さあ、既にお前たちの退路は存在しない。 このショッカー包囲網、抜けれるものなら抜けてみろぉ!!」

 

その言葉にクリスやマリア、翼が周囲を見る。

地面には未だに動物が自分たちを威嚇しバイクに乗った戦闘員もエンジンを吹かす。

空には飛行型のノイズや鷲やカラスが此方を伺っている。

 

「カラス供もお前たちの死肉を突きたいそうだ、大人しく死ねぃ!!」

 

ジャガーマンの言葉に空を飛ぶ鳥も自分たちの敵だと判断する。

逃げ場は何処にもない。そう確信した三人は奥歯をかみしめるが、諦めてはいない。

 

「なら…」

    「押し通る」  

          「のみぃ!!」

 

状況は絶望的。周りの動物も戦闘員もノイズも全てが敵で自分たちの命を狙っている。

それでも彼女たちは諦めなかった。

特にクリスとマリアは数多の敵を打ち倒し仲間と共に生き残ってきた。

 

バイクと迫りくる戦闘員を切り捨てる翼とマリア。その頭上から飛行型ノイズが爪楊枝のように細くなり突撃するがクリスの弾丸が貫く。

三人は何とか連携して戦うが敵もさる者。大型の獣の陰に隠れノイズの奇襲攻撃に戦闘員とノイズの同時攻撃。更には大型ノイズに載った戦闘員と動物の同時攻撃に苦しめられる。更にサイギャングのパワー。

 

「連携攻撃!?」

「即席の部隊じゃないのかよ!」

 

この連携にはクリスもマリアも驚愕する。

数多の世界で戦ってきた二人も、此処までの連携には舌を巻く。

 

状況は劣勢とも言えるクリスたち。

それでも諦めずに戦い歌う。ショッカーに負ける訳にはいかないのは本部に地獄大使の通信からでも分かっている。地獄大使にこの世界を渡すわけにはいかない。世界征服を企む悪の組織に負ける事は許されない。

 

だからこそ三人は歌い続ける。歌い続け少しづつフォニックゲインも高まっていく。

故に三人の通信に凶報が入る。

 

『三人とも気をつけろ!  高出力のエネルギー反応が観測された!』

 

「高出力?」

「!?」

「こんな時にかよ!?」

 

源十郎からの報告に頭を傾ける翼だが、クリスとマリアは即座にエネルギーの正体に気付く。

何しろ、この場には三人の装者が歌って戦いフォニックゲインも高まっている。

 

 

 

「ん?何だあれは」

 

異変に気付いたのは地獄大使だ。全体の指揮をしていた為視野は広く偶然見つける。

地獄大使の視線の先には黒い靄のようなものが集まりやがて形となる。

そして其処には、ブドウのような頭部をしたノイズが現れる。最も通常のノイズとは違い黒かったが、

 

「最悪ね…」

 

マリアの言葉にクリスの額から汗が流れる。

カルマノイズが現れたのだ。

 

 

 

 

 

 




記憶の遺跡。本編だと聞いたことがありませんが一応XD世界にもあるという事で。
一応、翳り裂く閃光世界にも深淵の竜宮がある設定です。

劇中だと怪獣モドキが起動して後出しになった記憶の遺跡ですが、ショッカーという組織の存在によりクリスたちも事前に情報を入手。役に立ったかどうかは別問題ですが。

地獄大使の真の目的は、ノイズが大規模に出る予定の永田町にクリス達を誘い出し包囲して殲滅する為です。動物園から連れてきた動物もその為の駒でしかありません。
ジャガーマンが動物やノイズを操ってますが、実際に指揮をしてるのは地獄大使です。

地獄大使の指揮能力は高く、新仮面ライダーSPIRITSの10巻でも歴戦の戦士である本郷が怪人たちの連携に驚き真っ先に司令塔である地獄大使を先に倒そうとする程です。

そして、クリス達が歌いまくった事でフォニックゲインが上昇しカルマノイズが出現。


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93話 カルマ怪人!? ショッカー包囲網を突破せよ

記憶の遺跡ですが、アニメを見返してて無印の5話で思いっきり言っていた…OTL

ソシャゲのオリジナル設定だと思ってた。


自分はまだ見てませんが、配信された仮面ライダーBLACK SUNがどうも政治とかで賛否両論のようですね。
やはり政治が絡むと面倒ですね。
初代仮面ライダーも政治家とかは出てきますがショッカーやゲルショッカーのターゲットで政策とかは語られないんですよね。
そっちの方が良かったのかも…


 

 

 

 

永田町にカルマノイズが出る数分前、

 

 

 

本来、人が居ない筈の廃ビル内から煙が出て炎が見える。

近くに人間が居れば火事だと消防に連絡されるだろう。事実、遠くから煙を確認した通行人が既に連絡してある。

そんな、ビル内から煙と共に二つの陰が飛び出す。

 

「ゴホッ! ゴホッ! …」

「大丈夫?」

 

煙から出てきた娘の一人が咳き込み、もう一人がその背中を摩る。

二人の顔には火事の影響か煤だらけである。

その二人こそ立花響の二人だった。

 

さっきから咳き込んでいるヒビキに響がそっと背中を撫でている。

燃え盛る廃ビルの一室。多数の戦闘員との戦闘にカミキリキッドの攻撃に生身のヒビキには相当な負担だった。

ヒビキの限界を悟った響が急いでヒビキを抱えて外に出て簡単な介抱をしているのだ。

 

「逃げ足だけは一人前か、キィ~リィ~ッ!!」

 

だが、ヒビキの回復を待ってくれる程敵も甘くはない。

煙と共に炎が見える中、カミキリキッドは平然と出てきて二本の触覚の間に電流が走る。

体には煤が付いているが、ダメージらしいダメージがまるで無い。

 

介抱する響も咳き込むヒビキもカミキリキッドを睨みつけつつ汗が流れる。

 

「…強い」

 

カミキリキッドの力量は響の想像以上だった。二人の響の拳を受けてもビクともしない上に口からの火炎に左腕のハサミに翻弄されていた。

更には、

 

「死ねぇぇーーーーー!!」

 

「「うわあッ!?」」

 

カミキリキッドの発する電撃が二人の響を襲う。

炎に電撃、破壊光線といった変幻自在の攻撃の前に響は苦戦を強いられていたのだ。

 

「どうだ!? 俺の実力は?連れてきた戦闘員が壊滅したが直ぐに新しいのが来る! お前たちは袋の鼠だ」

 

響とヒビキは協力してカミキリキッド配下の戦闘員を全滅させたが、怪人のカミキリキッドの前に膝をついてしまう。

その時、響たちの耳にサイレンらしき音が聞こえてきた。

 

「これって…」

「ノイズの警報!?」

 

それは響も何度も聞いたノイズの警報だ。距離がある所為かかすかな音しか聞こえてこないが、

 

「キィ~リィ~ッ! 予定通りノイズが現れたか、これで特異災害対策起動部二課の装者は全滅だ!!」

 

「!? 全滅…どういうこと! 答えてカミキリキッド!!」

 

カミキリキッドの口走った言葉に響が反応する。響としては聞き逃せない内容だからだ。

 

「全ては地獄大使の策よ、お前たちを俺が仕留めると共に永田町で風鳴翼や雪音クリスといった装者どもを誘き寄せ出現するノイズを手駒にし叩き潰す。 それが作戦だ!!」

 

「ノイズを手駒!?」

「ソロモンの杖は無い筈、どうしてノイズを手駒に…」

 

カミキリキッドのノイズを手駒に出来る発言にヒビキが反応し、もう一人の響がソロモンの杖もないのにノイズを操ろうとするショッカーの執念に奥歯をかみしめる。

 

━━━カミキリキッドの言ってる事が正しかったら翼さんたちが危ない!

 

カミキリキッドの言葉が嘘やハッタリとも思えなかった響の脳裏に焦りが出てくる。

翼もクリスもマリアも響の知っている人物ではない。それは分かっていた。

だからと言って、見す見す見捨てるほど響も非情になりきれない。それどころか今直ぐにでも助けに行きたいくらいだ。

でも、目の前のカミキリキッドを…ヒビキを放置して行くことなど…

っと考えていると、ヒビキを介抱していた手に温かみを感じ見ると、ヒビキがソッと触っている。

 

「…行きたいんでしょ」

「もう一人のワタシ…」

 

響と少なくない日数過ごしたヒビキ。何となくだが気持ちは分かってきている。

響と過ごすうちに懐かしい感覚もある。嘗て人助けが趣味と言えた少女の心に温かさも戻ってきたようだ。

ヒビキと共にこの場を離れクリスたちを助けに行く。そう決める響。

しかし、クリスたちを助けに行くには、目の前のカミキリキッドが邪魔といえた。自分たちを殺す目的がある以上、むざむざ見逃す気などないだろう。

そう考えていた響の耳にある音が聞こえ、ヒビキに耳打ちする。

 

「私が合図をしたら真っ直ぐ走って…」

「? うん…」

 

言葉の意味は今一理解してないヒビキだが、響の真っ直ぐな目を見て頷く。

それを見て響はカミキリキッドを睨みつけるように見る。

 

「キィ~リィ~ッ!! 何をする気か知らんが此処がお前たちの墓場となる…死ねぇ!!」

 

目の前でコソコソ話をする響たちに業を煮やしたカミキリキッドは火炎を吐き止めを刺そおうとする。

だが、それと同時にカミキリキッドの背後からエンジン音らしきものが聞こえてきた。

 

「今だぁ!」

 

「!?」

 

響の口から合図が出た。取り敢えずヒビキは言われた通りに真っ直ぐ走り出しカミキリキッドの吐く火炎の真横を抜ける。

そして合図した響もジャンプしてカミキリキッドの上を取り拳を握りもう片方の手で握っていた土をカミキリキッドの顔にぶん投げる。

 

「目隠しか!? 古典的な手をッ!!」

 

直ぐに火炎を吐くのを止め防御姿勢に入るカミキリキッド。改造人間である以上、一時的目が見えなくても戦えるが立花響が連携して攻撃してくればダメージは避けられない。

少しでもダメージを減らし反撃すれば二人の響は容易く倒せると考えてだ。

だからこそ、カミキリキッドは響への対応が遅れた。

 

響の狙いは、

 

「とりゃあああッ!!」

 

「イーッ!?」

 

カミキリキッドではなく、

 

「乗って!」

 

「なにぃー!!」

 

カミキリキッドが増援で呼び出した戦闘員のバイクだった。

 

響に促されヒビキが響の後ろに乗る。それと同時にエンジンを吹かす響。

バイクに乗るために蹴飛ばされた戦闘員は緑の泡となり別の戦闘員も突然の事に呆然として響を見つけていた。

 

「立花響ッ! 貴様ーーー!!」

 

ただ一人、カミキリキッドが響の名を叫ぶように言い、響が視線をカミキリキッドに向ける。

 

「カミキリキッドッ! 悪いけどお前の相手をしてる暇はないの!」

 

それだけ言うと響は更にバイクのエンジンを吹かし一瞬にしてバイクを反転させるとそのまま走り出す。

バイクのエンジン音が響く中、カミキリキッドは、急いで追い、いきなりの事で戦闘員は呆然と見るしかなかった。

 

「ちょ!? 早い! アンタ、今更だけど免許持ってるの!?」

「…ノーコメントで」

「…イヤアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!?!?!?!?」

 

バイクが猛スピードを出し中、ヒビキの悲鳴がドップラー効果で遠ざかる。それを視線だけで追う戦闘員たち。

 

「何をしている、追えぇぇ!! それでもショッカーの一員かぁ!!」

 

そんな呆然とする戦闘員たちにカミキリキッドが怒号の声を出す。

その声に即座に反応した戦闘員のバイクが次々と響たちの乗るバイクを追跡する。

同時にカミキリキッドも部下の戦闘員が乗るバイクの後ろに乗り込み後を追う。

 

「キィ~リィ~ッ! どうやら奴ら永田町に向かってるようだ。地獄大使の下ならば纏めて始末出来ると言うものよ。 ただ死ぬ場所が変わっただけだ!」

 

響たちに逃げられたカミキリキッドだが、響たちの進路上行き先は地獄大使が指揮をする永田町だ。

あそこならば入り込めば出るのは不可能に近い包囲網を敷いている。わざわざ其処に飛び込むと言うのだ。

どちらにせよ、二人の立花響が死ぬのは変わらない。

 

カミキリキッドを乗せたバイクが何台も駆け出し燃える廃ビルには誰も居なくなる。

その直後にサイレンが聞こえ、消防車が廃ビルの消火活動に入る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、永田町では突然現れた黒いノイズに皆が意識を向く。

ほんの僅かだが、この時ばかりは戦闘員も動物もノイズすら停止し、黒いノイズに注目していた。

そんな中、クリスとマリアはイグナイトを解き通常のシンフォギアの姿へと戻る。

 

「どうした? いきなり元に戻ったが…」

「…制限時間が近いのもあるが…」

「アレの近くでイグナイトの状態は不味いのよ」

 

急に元に戻った二人に翼が戻った理由を聞くと二人の口から黒いノイズの情報を知らされる。

 

イグナイト。それは元々魔剣ダインスレイフを、人為的に暴走を引き起こして、それを力に変えている。

その結果、シンフォギアは更に強くなったがある特定の敵、カルマノイズには相性が非常に悪かった。

カルマノイズには「呪い」と言われる人間に破壊衝動を植え付ける、それがイグナイトと致命的に相性が悪かったのだ。

 

「…なるほど」

 

理由を聞いた翼は納得し改めて突然現れたカルマノイズを見る。

そのノイズは現れた時と変わらる格好でただ立っていた。

 

 

 

 

 

 

 

「小娘どもがイグナイトとかいうのを解いた? それは兎も角、あの黒いノイズは…」

 

同じ頃、ビルの屋上で観察していた地獄大使は突然現れたノイズに注目している。

突然現れたノイズを遠目で確認する。

 

━━━ベルトをしてない以上、ワシ等のノイズでもなさそうだ。 ブドウみたいなタイプは見たことあるが黒いのは初めてだな。 …まぁ構わん、ノイズならば…

 

突然現れたカルマノイズを見て悩む地獄大使。

見た目は自分たちの造り上げたショッカーノイズにも見えたが、ショッカーノイズ特有の腰の部分にショッカーのマークが入ったベルトがない以上、別のノイズだと判断する。

他のノイズと出現したタイミングが気にはなるが、

 

「ジャガーマンに命令させればすむだけよ」

 

たかが黒いノイズが一体現れようがジャガーマンが操れば済むと考える地獄大使。

しかし、その考えは直ぐに覆されてしまう。

 

 

 

 

「おい、そこの黒いノイズ! お前も俺の配下となりシンフォギア装者を殺せ!」

 

地獄大使の意思を察したのかジャガーマンがカルマノイズに命令を出す。

どういう訳かイグナイトを解いたクリスとマリア。戦力が激減した今ならチャンスとも思った。

黒いノイズも配下にし、総攻撃を企てている。

しかし、カルマノイズはジャガーマンの命令を無視してただ立ち尽くしている。

言う事を聞かないノイズに腹を立てたジャガーマンが近づいていく。

 

「聞こえないのか!? 俺の命令に従えと言ったんだぁ!! ……こっちを見たらどうだ!」

 

「馬鹿ぁ! ソイツに近づくんじゃねえ!!」

 

クリスの制止を無視して、ノイズに近づいて怒鳴るがカルマノイズはジャガーマンに全く反応せず、遂には力尽くでノイズに言う事を聞かせようとした時、カルマノイズの体が現れた時のように霧状となる。

 

「なっ!?」

 

驚くジャガーマンだが、その霧は意思があるのかジャガーマンの周囲を取り囲み体の中に入り込んでるようにも見える。

 

「何が起こって…グガッ! ヒョォォォォォォォォォォォォッ!!!!!!!!」

 

「「「「!?」」」」

 

ジャガーマンの咆哮にクリス達は愚か、偵察していたサイギャングと地獄大使すら驚く。

絶叫にも近い咆哮の為か一部の動物がその場を逃げるように離れ、停止していたノイズたちも動く。…尤も、

 

「イーッ!?」

 

バイクに乗った戦闘員に向かって突撃し共に炭化したが。

それどころか、動物も他のノイズも次々と戦闘員に襲い掛かり先ほど見せた連携も見られない。

 

「何をしている、ジャガーマン! 俺の部下を襲ってんじゃねえぇ!!」

 

これにはサイギャングも怒りの声を跳ね上がる。

突然の襲撃に裏切りかと思う程に、

何時の間にかジャガーマンを包んでいた黒い霧も消え姿が見えるがその姿にサイギャングたちは一瞬言葉を失う。

 

「黒い怪人…」

 

その姿は先程よりも体が黒く筋肉が肥大してるのか体格が倍近くなり左肩の鎧がギチギチとなっているジャガーマンだった。

黒くなったジャガーマンが息を吐き赤くなった目でクリスやサイギャングたちを見回す。

 

「不思議なモンだ、今なラ何デも出来そうな気分ダぜ! 取り敢えズ、オ前ら暴れナ!!」

 

ジャガーマンの一声に残っていた動物もノイズも戦闘員やサイギャング、翼たちに襲い掛かる。

其処にはもう、クリスたちを苦しめていた連携など何処にもなかった。

 

 

 

 

 

「アレが…」

「ええ、カルマノイズが発する破壊衝動よ」

「本来なら現れただけで周りの人間が暴徒化するんだが、世界蛇みたいに操れなかったようだな」

 

襲い来る動物やノイズを蹴散らしつつクリス達が話す。

怪人にカルマノイズが取り付いたのは想定外だが、自分たちを苦しめていた連携が出来なくなった事は大きい。

一気に怪人たちを叩くチャンスだろう。

 

「!」

 

その時、翼の近くに何かが転がってきた。

見ると、戦闘員のバイクでノイズに襲われ炭化しただろうと考えた翼はある決心をする。

 

「二人とも、私は二本角の相手をする。二人はジャガーマンの相手を頼めるか?」

 

転がったバイクを起こした翼が二人にそう声をかける。

今この場にはジャガーマンとサイギャングの二体の怪人が居る。

見たところ、翼は敵のバイクに乗ってサイギャングと戦うのだろうと判断する。元の世界での翼のバイクセンスを知っている二人は首を縦に振る。

 

「しゃーねえ!」

「私たちは私たちでジャガーマンを相手にするわ」

 

こうしてそれぞれが、どの怪人を相手にするか決まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ええい! 何がどうなっている!?」

 

バイクに乗ったサイギャングは混沌としつつある永田町で疾走する。

途中、空から飛行型ノイズが突撃してくるが固い皮膚のサイギャングには通じず逆にサイギャングの力で粉砕される。

ジャガーマンの突然の暴走から既に何体ものノイズと動物を蹴散らしているサイギャングだが、どうするか悩む。

 

「あのバカを止めるべきか? …それとも小娘どもを優先するべきか。 …そもそも、これも作戦の一部なのか?」

 

ジャガーマンを止めるにしてもクリス達の抹殺にせよ、地獄大使の作戦はまだ続いてるのかすらサイギャングには不明だった。

バイクを停め思考するサイギャングだったが別のバイクのエンジン音に気付く。

部下の戦闘員が何か伝えに来たのかと思いエンジン音のする方を見る。

 

「…チっ、シンフォギア装者の風鳴翼か!」

 

「二本角、お前の相手は私だ!!」

 

エンジン音の正体は片手にアームドギアの剣を握った翼だった。

バイクで真っ直ぐ突っ込んでくる翼の姿にサイギャングも己のバイクのエンジン音を吹かした。

二台のバイクが交差し金属音らしき物が聞こえる。翼の剣がサイギャングを切り裂こうとした。が、

 

「痛っ!? なんて硬さだ…」

 

剣を持っている方の腕に凄まじい衝撃を感じる。剣を見れば刃が欠けている事に気付きサイギャングの体の固さに気付く翼。

見た目以上に体が頑丈だと判断する。

 

「ケッケケケケケケケケケケッ!! 貴様程度の小娘が俺を倒せると思わん事だな!」

 

そう言うとサイギャングはバイクのアクセルを吹かし翼の横を走りぬき、直ぐに翼もバイクで後を追う。

サイギャングのスピードに翼もじょじょにバイクのアクセルを引き出力を上げる。

 

「クッ、何だこのじゃじゃ馬は!?」

 

バイクの速度を上げてる内にハンドルがいう事を聞かなくなり途中で停止した。

シンフォギア装者の中でもバイクの第一人者と言える翼をもってしてもショッカーのバイクの操縦に四苦八苦している。そもそもショッカーのバイクは改造人間が乗る事を想定して普通の物より遥かに出力が高い。

 

「ケッケケケケケケケケケケッ! バイクに振り回されてるようじゃ俺には勝てねえぞ! 此処まで追ってこい!」

 

ショッカーのバイクに苦戦する翼を見て笑うサイギャングは挑発するように言うとバイクの速度を上げビルの壁に向かう。

そのままでは激突するかと思われた時、翼は信じられない物を見た。

 

「!?」

 

「ショッカーのバイクの性能はこういう事も出来るのだ!」

 

翼が見たのは壁に激突したサイギャングではなく、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

サイギャングが走る壁が斜めってる訳ではない。ちゃんとしたビルの90度の壁をサイギャングのバイクが駆け上がっているのだ。

奥歯を噛み締め決心した翼がバイクを吹かしサイギャングを追う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

幾つものミサイルがジャガーマンへと降り注ぎ次々と命中していく。

小型ミサイルを撃ったクリスは更にアームドギアのガトリング砲を二丁持ち弾丸を幾つも撃ち込んでいく。

 

「やった?」

「…だといいが」

 

クリスの弾丸で発生した土煙でジャガーマンの姿は見えない。

一旦、撃つのを中断したクリスにマリアが聞くが曖昧な答えと言えた。

正直アルカノイズを取り込んだ(取り込まれた?)ジャガーマンがどの位の強さか読めないのだ。

 

「何ヲ撃ったンダ? ゴミども」

 

「「!?」」

 

もう過ぎ煙が完全に晴れるかと思われた時、クリスとマリアの背後から声がし振り向く。

其処には無傷のジャガーマンが放置された車の上に乗っていた。

 

「何時の間に…」

「まったく見えなかったぞ!」

 

「お前たち程度が俺のすみーどを見抜けるワケが無いだロ!!」

 

そう言った瞬間、ジャガーマンの姿が消えクリスとマリアの前に現れる。

 

「早っ…」

「しまッ…」

 

「ヒョォォォォォォォォォォォォッ!!」

 

ジャガーマンの俊敏な動きに対応が遅れたクリスとマリア。

その隙を見逃さなかったジャガーマンの爪がクリスとマリアの体を引き裂いた。体を守っていたシンフォギアの装甲も殆どが砕かれインナー姿にされた。

 

「ゴポッ!」

「カハッ!」

 

切り裂かれた二人は宙を舞い地面へと激突する。二人の体には早くも傷だらけになり頭から出血している。

そして、攻撃したジャガーマンの両手には二人の血が付いている。

クリスとマリアのシンフォギアも砕かれインナーも傷や血が広がって見るも無残な姿となる。

 

「クッソッ…!」

「…カルマノイズを…凌駕する…わね…ゴホッ」

 

カルマノイズとは幾度も戦い続けた二人だが、今回はかなりピンチだった。

嘗て、カルマノイズを造った世界蛇…ウロボロスとも戦い勝利した。しかし、それは仲間たちが居たお陰でもある。

この場に居るのはこの世界の響を残せばサイギャングと戦う翼しか居らず、クリスとマリアの仲間は元の世界に居る。

今から助けを呼ぶ手段も無ければ、そんな暇もない。

二人は、ただでさえ包囲され少なからず消耗し目の前のカルマノイズに取り付かれたジャガーマンがいる。

 

「フン…生娘は旨いト昔から言うが…イマイチだナ」

 

「ゲッ…」

 

視線をジャガーマンに向けていたクリスが顔を顰め声を漏らす。

マリアも何とか視線を向けクリスの気持ちが分かった。

二人を切り裂いた時に手に付いた血を舐めしゃぶっているのだ。

 

「さて食前酒ハ楽しンダ、残っタ血はスープ悲鳴は前菜メインは当然ニク。食後には目玉をシャブリながら骨ヲ嚙み砕いてヤロウ」

 

手の血を舐め切ったジャガーマンは改めて地面に倒れるクリスとマリアを見る。その目は完全に獲物を捕らえた猛獣の目で二人に血と共に汗が流れる。

このままでは食い殺される。二人は何とか立ち上がろうとするが、ジャガーマンに切り裂かれた傷の痛みや血が滑り満足に立つことも出来ない。

 

「食い殺されるなんて…真っ平だぞ!!」

「奇遇ね…こっちもよ!!」

 

それでも二人は多くの戦いを経験した歴戦の戦士と言える。気合で何とか立ち上がる、が傷の影響で反応が遅れ気味となり息も荒い。

元より俊敏なジャガーマンから逃げるのすら不可能に近い。

負傷により逃げることも出来ない二人にジャガーマンがニヤつき近づくと鋭い爪を伸ばした腕を振りかぶる。

何もできない事に絶望し目を瞑るクリスとマリア。

 

「死ネェぇェぇェぇ!!」

 

ジャガーマンの声が響くと共に鈍い音が辺りに響く。

 

「「……? …!?」」

 

しかし、何時までも衝撃がない事に不思議に思い目を開いた二人は驚いた。

よく知っているオレンジ色と白のシンフォギア姿。

 

「キ、貴様ハ立花響!」

 

響がジャガーマンの頬に拳をめり込ませていた。

 

 

 

 

 

 

 




響とクリス達がとうとう出会った話。

劇中でもグレ響にカルマノイズが取り付いたので怪人にも取り付くでしょう。
設定的には、破壊衝動でやや暴走気味。力量は13体の強化改造人間程に高まってます。


因みに響たちはノーヘルでした。ついでに戦闘員もノーヘルでした。劇中だと道交法が変わったのか戦闘員も途中でヘルメット被りだしたけど…
響、二回目の無免許運転。

バイクの性能は仮面ライダーのサイクロン号に匹敵します。
シンフォギア装者の中でもバイクに長けている翼をもってしてもショッカーのバイクには四苦八苦してます。極めることが出来れば超高層のビルでも平気で登れます。

…翳り裂く閃光で翼がバイクに乗ってたっけ?


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94話   響の葛藤と防人の意地

突然思いついた。

ドラッグオンドラグーン3とシンフォギアのクロスで装者たちがウタウタイとなり一人難を逃れた調が嘗ての仲間を殺しに行く物語。

約束されたバッドエンド。



どっちも歌が重要だから十分クロス出来るとは思う。
ハッピーエンドの未来が全く見えないが…

そして最後は通称「新宿地獄阿波おどり」、回るのは…未来かな?


 

 

 

警察が封鎖した永田町の道路。

道路には人や動物の死体が放置され虫がたかる。

その傍を一台のバイクが通過してビックリした虫が散る。

そのバイクこそ警察の検問所を突破したした二人の響が乗るバイクだ。

 

「うえ…酷い…」

 

死体や血の匂いに思わず吐き気を覚えるヒビキ。

ノイズと戦いだし逃げ遅れた人間の炭化した姿を幾つも見てきたヒビキもここまで酷い現場は初めてであった。

 

「…これがショッカーのやり方だよ、アイツ等を野放しにしたらもっと犠牲が増える」

 

一般人を巻き込むことを何とも思ってないショッカーが暴れたのだ。それも街中だ、一般人も多く巻き込まれた。

そのショッカーが世界征服を成し遂げればどうなるか?碌な未来はないとヒビキも察する。

ショッカーのやり方にノイズ以上の険悪感を抱くヒビキだが、バイクが徐々にスピードを落とし停まった。

 

「何? …ああ」

 

如何して停まったか聞こうとしたヒビキだが、進路上にいる物を納得する。

ノイズだ。

見れば前方に多数のノイズが歩いてこっちに気付いた。

 

「…急いでるのに」

「バイクに乗ったままじゃ戦い難い!」

 

そう言って、ヒビキは響の後ろからジャンプすると共にノイズに向かって拳を振った。

何体ものノイズが吹っ飛ぶと同時に炭化し崩れ去るが地面や空から次々と新手のノイズが現れる。

流石にヒビキだけに戦わせる訳にはいかず響もバイクのアクセルを一気にかけ猛スピードでノイズに体当たりさせて爆発に生じた煙の中で一体斃した後にヒビキの背中を守るように戦う。

 

「そこ!(誰かに背中を守られるなんて何時以来だろう…)」

「そっちもっ!(こうやって戦ってるとクリスちゃんや翼さんと戦った頃を思い出す)」

 

二人の響の前に次々とノイズを叩き潰し少しずつ前進していく。

 

ヒョォォォォォォォォォォォォッ!!

「!」

 

その時、響の耳に何かが聞こえてきた。

遠くからでも分かる怪人の不気味な鳴き声だ。

その声を聞いて響の胸に虫の知らせのようなものを感じた。

 

「ごめん、先に行く!」

 

響はそう言ってノイズを殴っりつけたヒビキに言うと止める暇もなくビルの間を飛び屋上からジャンプして奥へといった。

ヒビキも残り少ないノイズを叩き潰して後を追う。

 

 

 

 

 

 

 

 

ビルの屋上から屋上にジャンプして移動する響。

目立つため飛行型のノイズが何度と襲い来るが今の響を倒せる訳もなく返り討ちにされ炭化していく。

灰が宙を舞う中、響の目がクリスとマリアを捕らえた。

黒い怪人が血だらけの二人にトドメを刺そうしていたのだ。

 

「間に合えええええぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

 

それを見た響は腰のブースターを一気に吹かせ、猛スピードで黒い怪人へと迫る。

そして、ギアのパーツを引っ張っていた腕で怪人の横っ面を殴る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え…」

「…おいおい」

 

二人は目の前の光景に一瞬声を失っている。

カルマノイズに取り付かれたジャガーマンの頬に立花響の拳が減り込んでいたのだ。

 

「ハアアアアアア!」

 

響が気合の声を上げると減り込んでいた方のギアのパーツが一気に引っ込みその力にジャガーマンが吹っ飛びビルの壁のコンクリートを砕き瓦礫に埋め尽くされる。

 

「ハア…ハア…」

 

ジャガーマンを殴った手を摩る。

咄嗟だったとはいえ不意打ちでジャガーマンに一撃を入れた響だったが、拳から伝わった威力に手の甲が痛み出す。

 

「あー…」

「助けられたわね、礼を言うわ」

 

「……」

 

戦闘の最中に思ってもいない人物に会ったことでクリスは咄嗟に言葉が出なかった代わりにマリアが対応する。

しかし、響は二人を横目で見ると直ぐに視線を外し背中をむけた。

 

(…目線も向けねえのかよ)

(これは相当拗れてるわね。彼女らしくもない)

 

何時もの立花響なら例え顔見知りでなくても返事をして友達になろうとする筈だと考える二人。それだけ響とは付き合いが長い。

だからこそ、先日源十郎から聞いた迫害の事件が尾を引っ張ってると考えていた。

 

尤も響はと言えば、

 

━━━ああ、本物のクリスちゃんとマリアさんだ! マリアさんが特異災害対策起動部二課に入ってるのは驚いたけど二人とも久しぶりに見たな。 …二人といっぱい話したい、手を握って欲しい!! でもダメだ、それはこの世界の立花響の居場所…私があの娘の居場所を盗っちゃいけない。 下手に話せばこの世界のクリスちゃんたちが混乱しちゃう

 

響としてもクリスやマリアと話がしたかった。

ヒビキと二人、ずっと心細くショッカーと戦い続け何時元の世界に帰れるかも分からない。っと言うか帰れるかも不明だ。

寂しさを誤魔化したく自分を知らない二人と話したかったが、其処はこの世界の自分の居場所だと思った。

下手に二人と仲良くなればこの世界の立花響の居場所を奪うのではと考えてしまう。

 

響は唇を噛み締め二人の言葉を無視して、その反応にクリスとマリアは互いの顔を見合う。

そして、クリスが頷いた。

 

「おい!」

 

クリスが響に話しかける。クリスの心には嘗ての響とのやり取りを思い出し、ある事を響に行おうとしていた。

そして、声を掛けたクリスに横目で見る響。

 

「アタシは…「ヒョォォォォォォォォォォォォッ!!」!?」

 

クリスが響に何か言おうとした時、瓦礫が爆発するように粉砕すると同時にあの怪人…ジャガーマンの鳴き声が響く。

クリスも響も視線を向けると相変わらず黒く変色していたジャガーマンの無傷の姿がある。

 

「ジャガーマン!?」

 

「不意打チ程度でこノ俺ヲ倒セルか!! 立花響、ツイデにお前モ殺シテやるルルルレウル!!!」

 

マリアがジャガーマンの名を言い、三人纏めて片付けようとするジャガーマン。最後に語尾がオカシクなったがクリス達がそれを気にする程の余裕はない。

ジャガーマンが飛び掛かり、響が相手をする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ビルの屋上の一つ。

本来聞こえない筈のエンジン音が二つ聞こえると共に金属同士が打ち合うような音が響く。

バイクに乗った翼がアームドギアの剣で同じくバイクに乗ったサイギャングの体を切りつけようとする度に金属音が屋上に響いていたのだ。

 

「ハア…ハア…固すぎる!」

 

「そんな(なまくら)で俺を倒すことが不可能だとまだ気付かんか! いい加減死んでもらうぞ!!」

 

何度、アームドギアの剣を打ち込もうとサイギャングの体には傷一つつかない。

それどころか、あまりの固さに打ち込んでいた翼の手から血が滲む。

っと、今度はこっちの番とばかりにバイクのスピードを上げ翼に接近し拳を振るう。

 

「!」

 

咄嗟に避ける翼だがサイギャングは追撃とばかりに口から火炎を吐き出す。

バイクごと回避しきれないと判断した翼は素早くバイクを放棄してジャンプし空席となったバイクが炎に飲み込まれ数舜もせず爆発した。

 

バイクの爆風に身を固める翼。少し離れていただけでもかなりの衝撃波が翼を襲った。

 

━━━! とんでもない衝撃波だ、だがこれなら至近距離で受けた二本角も…!

 

爆発の大きさにサイギャングも少なからずダメージを負ったのではと考えた翼だが煙から出てきたのは煤が付いているが無傷のサイギャングだ。

バイクの爆発を至近距離で受けようがサイギャングの鉄より硬い体には意味がないようだ。

 

アームドギアの剣を改めて構える翼も額には冷や汗がながれる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「風鳴翼はサイギャングに任せてよかろう。 ジャガーマンの方も立花響が助っ人に来たが大したことはないようだな」

 

別のビルの屋上からシンフォギア装者たちの戦いを監視していた地獄大使がそう言うが目線は黒くなったジャガーマンに向かう。

謎のノイズによって黒く変色し此方の命令も聞かず動物とノイズを暴れさせた。

本来なら処刑ものだが、シンフォギア装者を抹殺することで目を瞑ってもいいい。能力が上がっているのが気にはなるがそれ以上に、

 

「ジャガーマンが接触したノイズが原因だろうが…あれは何だ? 普通のノイズにあんなことは出来んはずだ。 噂に聞く錬金術師どもが造ったというノイズか?」

 

ジャガーマンを暴走させた黒いノイズの正体を考える地獄大使。

元の世界でも、とある錬金術師が新しいノイズを造ろうとしている噂は知ってはいた。

 

「考えても仕方あるまい、今は小娘どもの排除を「ハアアアアアアッ」…チっ!」

 

少しだけ考え事をしていた地獄大使の耳に少女の声が聞こえ、持っていた鞭で上をガードする。直後にオレンジ色に光るものがぶつかる。

 

「立花響が一匹いた以上、もう一匹いるか」

 

「お前が親玉だろ、わたしが倒す!」

 

その光の正体は響を追って来た、この世界の立花響だ。

響の後を追っていたヒビキは道中のノイズを蹴散らしながらも響を追い、途中でビルの上から見ている怪しい連中を見つけた。

恰好や戦闘員への振る舞いからショッカーの偉い奴と判断したヒビキは先制攻撃を仕掛けたのだ。

 

「たった一匹で仕掛けるか…舐めるなよ!」

 

しかし、ヒビキの奇襲もアッサリ防いだ地獄大使は鞭を一気に振りヒビキの攻撃を完全に弾き飛ばす。

弾き飛ばされたヒビキは屋上から落ちそうになりながらもブースターや脚のジョッキで体勢を立て直し地獄大使の居る反対側の方に着地する。

 

「…強い!」

 

「この地獄大使、伊達や酔狂でショッカーの大幹部になった訳ではないわ!」

 

鞭で攻撃を防がれアッサリと弾かれ唖然とするヒビキに鞭を振りかざし名を名乗る地獄大使。

互いに睨み合う中、ヒビキが地獄大使に飛び掛かる。

 

こちらでも戦いが行われようとしていた。

 

 

 

 

 

ショッカー戦闘員も動物もノイズも暴れる地獄と化した永田町。最早、逃げる影すら見えない。

特に激しい戦いが起こっているのは主に三か所。

 

一つは、ジャガーマンが暴れる道路付近。響の合流で戦力は増したがパワーアップしたジャガーマンの俊敏さに苦戦、砕かれたシンフォギアを再び纏ったクリスとマリアも響の援護をし、何とか互角の戦いをしている。

 

二つ目は、近くのビルの屋上。バイクを捨てた翼の剣劇が次々にサイギャングの体に叩き込まれる。手数だけなら翼が優勢にも見えるがサイギャングの体にはやはり傷一つついていない。

半面、翼の方もだいぶ体力を消費したのか息が荒くなる。

 

三つ目は、少し離れたビルの屋上。こちらは一方的と言えた。

ヒビキが何度も拳を振るうが地獄大使の巧みな鞭捌きにより悉くが弾かれ素通りされる。

反対にヒビキの体には何度も鞭が振るわれ一部が肉を裂く。頬が血が宙を飛ぶ、腕からも血を流す。

他の二か所より遥かに苦戦するヒビキ。

 

そのどれもがショッカーの有利に戦いが進む。

逆に響たちは、ジャガーマンの俊敏さ、サイギャングの頑丈さ、地獄大使に押され大苦戦する。

このまま、響たちはショッカーの前に敗れてしまうのか?

 

その時、一つの戦場で動きがあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうした? それでお終いか?」

 

「ハア…ハア…」

 

翼が剣を地面に突き立て体重を預け息を整えようとしている。

あれから翼は何度も技を繰り出すがサイギャングの体には傷すらつかない。

サイギャングに攻撃事態は避け切れているが何度も剣を振り技を出したことで翼の体力は著しく消耗している。

疲労は既に脚に来ており翼の回避も徐々に落ちていた。このままではサイギャングに捕まるのも時間の問題と言える。

 

「…クッ!」

 

翼が何度目かの剣を降らす千ノ落涙を繰り出す。

 

「ふん、そんなへなちょこな技で俺を倒せるか!」

 

尤も、サイギャングは回避行動もせずに千ノ落涙から降ってくる剣を受ける。剣の悉くがサイギャングに命中するが、翼の剣は悉く地面に落ちていく。

サイギャングの皮膚にはこの技すら通じない。

だが、翼はサイギャングのほんの僅かな動きを見逃さなかった。

 

━━━やはり、二本角は僅かだが頭部の角を防御した、最初は偶然かと思ったが…もしそうなら奴の弱点は…

 

ほんの僅かな希望。それを掴みかけた翼はサイギャングにアームドギアで造った短剣を投げる。

 

「はっ、何をするかと思えば…!?」

 

最初はただの悪足掻きと舐めていたサイギャングも投げられた短剣の軌道に咄嗟に手で払った。

その行動こそ翼が確信するには十分だった。

次に翼はもう一本の剣を投げると共にアームドギアの剣を握りジャンプする。

 

「ええい、まだ逆らうか!」

 

「そこだああ!!」

 

投げられた剣を叩き起こし、ジャンプして宙に居る翼に炎を吐き出そうとしたサイギャング。

しかし、その手には握っていた剣が無いことに気付く。

 

━━━むっ? 剣を捨てた? まあいい、これでシンフォギア装者も始末できる。 …ん?

 

今まさに、翼に火炎を吐き出そうとしたサイギャングだったが、視界に何かが飛んでくるのが見えた。

それは間違いなく翼が握っていた剣だ。

 

「なっ!? しまった!」

 

飛んでいた翼に注意がいっていたからか、何時の間にか翼が投げた剣に気付くのが遅れ叩き落す動作が遅くなった。

翼の投げた剣はサイギャングの額部分に生えた太い角に当たる。

ガキンィっという音と共に剣が地面へと落ち、サイギャングの角にはやはり傷一つつかない。

しかし、

 

「ギャアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!!」

 

無傷の筈のサイギャングの口から断末魔の声が上がる。

それどころか、剣の当たった角を抑えてだ。

 

「やはり、その角が弱点か! 二本角!!」

 

「風鳴…翼!! 貴様…!!」

 

翼は、サイギャングが自身の攻撃時、碌に防御せず堅牢な体で受け止めていたが、何故か角に当たる攻撃だけは頑なに腕とかを使って防いでいた事が引っかかっていた。

最初は気のせいかとも考えていたが、先程の攻撃で確信へと変わった。

 

「ケッケケケケケケケケケケッ!! 俺の弱点を見破ったのは見事と誉めてやろう! だが、お前の攻撃では俺を倒すことは出来ん!! こんなふうにな!」

 

「グッ!」

 

翼に弱点を見破られたサイギャングだが、着地した翼に蹴りを放ちそう言い切る。

直ぐに態勢を立て直した翼も反撃に短剣をサイギャングに角に向けて投げ自身も剣で切りに行く。

しかし、短剣は躱され剣も片手で防ぐサイギャング。そのまま翼の顔に拳を打ち込むが、翼も持っていた剣を直ぐに手放し」逆立ちして脚のブレードを広げ改めてサイギャングの体を切りつけると同時に角に蹴りも入れる。

 

「グアッ!?」

 

尤も、サイギャングは少し怯むだけで直ぐに翼への攻撃を再開する。

確かに、サイギャングの額の大きな角は弱点ではあった。しかし、翼の攻撃では其処をついてもサイギャングを倒せる程の力はない。

 

「持久戦にでも持ち込むのか? 言っておくが改造人間の俺は体力もスタミナも全て人間を上回っている。 小娘であるお前が勝てるものなぞ存在しない!!」

 

改造された怪人と翼を比べれば体力は圧倒的に怪人の方が優れている。

弱点である角を攻撃されようがそれは変わらない。その事実は翼も何となくだが分かっている。

 

━━━長期戦は私が不利か、予想通りとはいえ…。 私だけでは二本角の体に傷つけることすら出来ん、やはり私だけで怪人を相手にするのは不可能なのか?

 

翼は並行世界から来たというクリスとマリアと共に戦い二人の力量を見て知らず知らず対抗心を持っていた。

防人の家系として生まれ子供らしいこともせずに防人として戦いの訓練する日々だった。ノイズとはずっと一人で相手をし間に合わぬ命を取りこぼした事も一度や二度ではない。

嘗ての相棒のシンフォギアを響が纏ってはいるが、やっている事はノイズ相手の辻斬りみたいなものだ。

このままでは責任感で潰れるかも知れない、っという時にクリスとマリアが協力してくれたのだ。

短い間だが二人の戦いを間近で見てきた翼だからこそ二人をライバル視していた。

サイギャングの相手を引き受けたのもそれが原因かもしれない。

 

そうこうしてる内にサイギャングはまたもや口から火炎を吐き出す。

今度は、翼を狙わず屋上を火の海にしてるのだ。

 

━━━くっ、またもや火炎か! 多少の炎ならシンフォギアでも問題ないがこれだけの炎だ、歌うための呼吸が…

 

翼も歌う以上、空気が必要で当然呼吸している。そして炎は空気…酸素を燃焼して燃えている。

サイギャングの狙いは翼の歌を完全に無効にし、シンフォギアの無力化だった。

 

「ケッケケケケケケケケケケッ!! これだけの炎の中、歌えるものなら歌ってみろ!」

 

サイギャングはそう言い放つと更に周りに火炎を吐き火の勢いを強める。

翼の周りは完全に炎に囲まれてしまった。

 

━━━これだけの火災を起こすとは、この場を離れ別の屋上で態勢を立て直すべきか? ダメだ、奴の事だ直ぐに追って来た同じように屋上に火炎を吐き此処みたいにするだけだ。 これだけの火炎、シンフォギアでも何時までもつか…待てよ、火炎だ!

 

一つだけサイギャングを倒せる方法を思いつくが翼にとっても賭けに等しい策だ。

それでもこのまま焼き殺されるよりはマシと翼はサイギャングに向け持っていた剣を放つ。

 

「馬鹿の一つ覚えのようにまた角か! 何度も同じ手を食うと思うな! …!」

 

翼の行動をまた額の角を狙ったものと考えたサイギャングは両腕で角のガードをする。これならば角に接触せず攻撃も防げる。

しかし、翼の投げた剣は角ではなく火炎を吐いていたサイギャングに口に命中する。

 

「? 大方俺の口を塞ごうとしたようだが残念だったな。 こんな剣、俺の炎で溶かして「ハアアアアアアッ!!」!?」

 

サイギャングは完全に判断ミスをしていた。

口に当たった剣を直ぐに退かすのではなく火炎で溶かそうとしたのだ。そんなサイギャングの耳と目に届いたのは翼の掛け声と脚のブレードを展開してブースターで此方に迫る姿だった。

翼の脚はまるで天ノ逆鱗の時のように蹴り抜く態勢をとり、その目標はサイギャングの口に当たった剣だ。

 

「!?」

 

サイギャングも翼の意図に気付き両腕で剣を引き抜こうとしたが、それよりも早く翼の蹴りが剣に到達し柄の部分に翼の蹴りが炸裂する。

 

剣を引き抜こうとするサイギャング。バーニアで蹴り貫こうとする翼。

少しずつであるが、剣はゆっくりとサイギャングの口の中へと入っていく。軍配は翼に傾いた。

 

━━━いかん! 炎が逆流する!!

 

吐き出そうとしていた火炎が行き場を無くしサイギャングの体の中へと戻る。その火炎はサイギャングの体内の燃料に引火するのに時間はかからないだろう。

だが、それよりも早く翼の蹴りで屋上から転落したのはサイギャングだ。

屋上を火の海にする為にサイギャングは端によりすぎていた。

 

蹴り落とされたサイギャングの体は等々燃料に引火したのか爆発を起こし強烈な衝撃波がビル街に広がり、直ぐに収まった。

火炎を吐いていたサイギャングが消えた事で屋上の火も消えていき翼もホッと胸を撫でおろした。

 

「…疲れた、二人は無事だといいが」

 

サイギャングを倒した翼だが、休んでる場合ではない。疲労に鞭うつがジャガーマンと戦っている二人の下に行く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




今回は翼とサイギャングの決着とヒビキが初めて地獄大使の顔を見る感じですね。

作中だと、サイギャングが炎の中で「歌えるか?」っと言ってますけどGX1話だとマンションの火事の中で堂々と響が歌ってるんですよね。バックドラフトとか大丈夫だったんだろうか?

サイギャングの角は劇中でもライダーにチョップされ悲鳴を上げる程の弱点。
尤も、仮面ライダー並みの力がない翼にとってそれでも辛い相手ですが、


響はこの世界のヒビキの居場所を盗らない為にクリスたちと視線を合わしません。
其処は自分の居場所ではない事は分かっている為。
後、自分の体の秘密を知られるのを恐れています。

たぶん、何のしがらみがなければヒビキを引っ張ってクリスたちと仲良くなるかも。


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95話 勝利 そして誤解と擦れ違い


先日、YouTubeで「五人ライダー対キングダーク」をやってました。犬に吠えられて正体を現す怪人には笑えた。

もしかして、VS地獄大使や仮面ライダーV3の映画もやってたの?
もしやってたら見逃した~(泣


 

 

 

翼がサイギャングを破る少し前

 

「ヒョォォォォォォォォォォォォッ!!」

 

ジャガーマンの右腕が響を目掛け放たれ、響も黙って受ける気はないと腰のバーニアで辛うじて避ける。

獲物を失ったジャガーマンの腕はそのままアスファルトを叩きつけアスファルトを切り裂く。

 

「ハアアアアアアッ!!」

 

 

っと反撃とばかりに響もガントレットのギアを引っ張った腕でジャガーマンの腹部を殴りギアが戻る衝撃も合わせる。

響の渾身の一撃を受けたジャガーマンだが、地面を少し強制移動しただけで大したダメージは無さそうだ。

だがそこへ、幾つものミサイル降り注ぎジャガーマンへと命中する。

クリスが腰のパーツを広げ小型ミサイルの雨を降らし響の援護を行ったのだ。

 

━━━クリスちゃん…ありがとう…

 

心の中でクリスに礼を言う響は腕のパーツを引っ張りまた渾身の一撃の準備をした。

ジャガーマンの体力でクリスの小型ミサイルは倒せる程の威力はない。

何とかジャガーマンを疲弊させ一気にトドメを刺すしかないと響は考えていた。

その所為で煙が晴れ響の目は疑うような物をみた。

 

「よっしゃー!」

「上手くジャガーマンの防御を貫いたようね」

 

クリスとマリアの歓声を上げる。

ジャガーマンの両腕が吹き飛び傷口から血のような赤い液体と機械の金属部分が丸出しとなった。

響は知らないが、歴戦の戦いの中で並行世界のクリスのミサイルは小型だろうと威力が増しているのだ。

そのミサイルが直撃したことで叩き落そうとしたジャガーマンの腕が吹き飛んだ。

 

━━━クリスちゃんの攻撃が効いたんだ、なら今度こそ!

 

理由はよく分からない響だが千載一遇のチャンスとばかりに腰のブースターで一気にジャガーマンに迫ろうとする。

腕を構えトドメの一撃を放つ。それが響の目的だった。

 

しかし、ジャガーマンの目に赤い光が宿ると共に息を一気に吸い込む。

 

ヒョォォォォォォォォォォォォッ!!!

 

ジャガーマンの今までにない雄叫びにクリスとマリアが耳を塞ぎ、雄叫びの衝撃波が迫る響の壁となる。

咆哮の衝撃により体がピリピリと痺れる響が目にしたのは、雄叫びを上げたジャガーマンの腕が再生していく姿だ。

両腕の傷口から鉄やコードが延びそれが腕の形になると人工筋肉が覆いかぶさり即座に黒い皮膚となった。

 

「早いっ!」

 

響とて今まで多くの怪人を相手にしてきたがジャガーマン程の回復能力を持った怪人など見たこともない。

何より欠損していた両腕が即座に再生したのは驚愕とも言えた。

 

「取り付いてもあの再生能力かよ」

「カルマノイズはこれだから…私たちで再生能力を上回る程のダメージを与えるわよ!」

 

尤も、カルマノイズと何度となく戦ってきたクリスとマリアは何となくだが予想はしていた。

カルマノイズの厄介さは呪いと再生能力だと認識している二人は戸惑う響をよそにジャガーマンへの攻撃に参加する。

 

 

 

 

 

「ふむ…ジャガーマンにあそこまでの回復能力は無かった筈だが、あの黒いノイズ…興味深いなぁ」

 

ビルの屋上でジャガーマンの回復速度を見ていた地獄大使が呟いた。

その手には血で滴る鞭を握り視線を戻し同意を求めるように「そうは思わんか?」と言う。

視線の先には息を荒げ体中から血を流すヒビキの姿が、

 

「ハア…ハア…そんなこと私が知るか…」

 

地獄大使の問いにハッキリ答えるヒビキ。強がってはいるがヒビキの脳は体中の悲鳴を聞いていた。

 

━━━想像よりも強い…舐めていたつもりは無かったけど、戦った怪人を超えている…

 

地獄大使の鞭の前にヒビキは防戦一方だった。

防御が間に合わなかった場所には痛々しいミミズ腫れや皮膚が裂け出血。片腕のシンフォギアのガントレットパーツに至っては破壊されている。

首に巻いているマフラーにも響の血が付き所々赤黒く染まっている。

 

「ふん、どうやらシンフォギア装者に愛想は無いようだ。 まぁいい、お前の躯を晒して立花響への見せしめにするもの面白かろう!」

 

「!」

 

地獄大使がそう言い終わると同時に手にしてる鞭を振る。

脚部のジョッキを使ってジャンプして躱すヒビキだが、自分の居た場所に鞭が当たったコンクリートにヒビがはいったのを見て背筋を寒くする。

躱された地獄大使も直ぐに鞭を移動させるために振るいヒビキの追撃に入る。

 

「フハハハハハ! どうした!? ワシの知る立花響はもっと素早く動けるぞ!」

 

挑発混じりの言葉にヒビキは気にする暇がない。

縦横無尽に動く鞭はヒビキにとって厄介過ぎた。移動しようとした先に鞭が打たれ、足を止めれば脚部や腰に鞭が当たり凄まじい痛みがヒビキを襲う。

 

打たれる度にヒビキの悲鳴が漏れ、地獄大使の表情は残忍に笑う。

地獄大使にとってヒビキは敵ではなく獲物扱いだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

響たちとジャガーマンが戦う交差点付近では三人の歌が流れ一見、ハーモニーにも聞こえるがそれぞれが別の歌を歌い攻撃している。

 

何故 どうして? 広い世界の中で

運命は この場所に 私を導いたの?

 

疑問…? 愚問! 衝動インスパイア

6感フルで感じてみな

 

真の強さとは何か?探し彷徨う

誇ること?契ること? まだ見えず

 

それぞれの歌を歌い、ジャガーマンと戦う。響が接近戦、クリスが援護射撃の中長距離、マリアがオールラウンダー的なポジションで近接や距離を取る戦い方をしている。

響の拳で、クリスが銃撃でジャガーマンの体に当てるが、大したダメージも無いのか、ジャガーマンの俊敏な動きに翻弄される響。

 

今もジャガーマンの爪を両腕のガントレットでガードするが勢いが消えず吹き飛ばされる。

 

繋ぐ手と手 戸惑う私のため

受け取った優しさ きっと忘れない

 

尤も、数多の怪人と戦ってきた響だ。

空中で態勢を立て直すと叩きつけられる筈のビルの壁に足をつけた直後に蹴り上げるようにし、更に脚のジャッキを動かしジャガーマンの方に戻り、拳を当てていく。

 

「上手い戦い方ね」

 

マリアの言葉にクリスも頷く。

戦闘スタイルは自分たちの知る響の徒手空拳とほぼ同じだが対ノイズよりも対人と言える動きだった。

 

絶ッ! Understand? コンマ3秒も

背を向けたらDie

 

想い出の微笑みに問いかけ続けた

まだ残る手の熱を忘れはしない

 

クリスもマリアも響に負けじと歌い、クリスはガトリング砲で援護を、マリアもアガートラームの左腕の籠手を変形させ砲身のようにして響の援護にはいる。

響との接近戦をやるジャガーマンの体にクリスのガトリング砲の弾丸が当たり、マリアの砲撃も受ける。

体が欠けようが吹き飛ぼうが即座に再生するジャガーマンだが、クリスとマリアが鬱陶しいと感じるのに時間はかからなかった。

 

「先二うるサイハエどもヲ潰すかァ」

 

「え? …!?」

 

ジャガーマンの呟きを聞いた響は「何のことか」一瞬わからなかったが、次の瞬間には自身の脚をジャガーマンんが握っていた。

ジャッキを動かし腰のブースターも使って何とか移動しようとする響だがジャガーマンの握力の前にピクリとも移動できない。

 

「その為にハお前がガ邪魔ダアァァァァァァ!!」

 

そう言い放つジャガーマンの腕が響ごと引っ張り、響を地面へと叩きつける。

 

「カハァ!?」

 

腹部や胸に強い衝撃と激痛を感じた響の口から唾液が飛び出しそれと共に咳き込む。

更にジャガーマンはそのまま響の足を放さず左右や前後の地面に叩きつけ、最後にはハンマー投げのように響を振り回して放置されたバスに投げられた。投げられた響は受け身を取れずバスに命中し穴をあける。

その様子に冷や汗を流すクリスとマリア。

 

「まだあれだけの力が…」

「あの馬鹿、大丈夫かよ!?」

 

ジャガーマンの力がまだある事に驚くマリアと響の心配をするクリス。

クリスの隙を見つけたジャガーマンはそのまま飛び掛かる。

 

「クリス!」

「!?」

 

「食い殺シテやるゾ、小娘!!」

 

ジャガーマンが大きく口を上げ鋭い牙が光りクリスに襲い掛かる。

ガキィン!っという音が響き、マリアがクリスの方を見る。

 

「ガギッギギギギギ…」

 

「舐めんじゃねえぞ、怪人野郎!」

 

其処には片手に持っていたガトリング砲に付けられた二本の銃身の内一本を咥えたジャガーマンとアームドギアのガトリング砲を盾にしたクリスだ。

何てことは無い、クリスは持っていたガトリング砲の銃身を咄嗟に盾にしジャガーマンに咥えさせたのだ。尤も、ジャガーマンの力に対抗するのは難しく押し倒される形で片足でもガトリング砲を支えていたが、

 

それを見てホッとするマリアだが、ジャガーマンが咥えている砲身にヒビが入っていく。ジャガーマンの顎の力にアームドギアの強度が負けているのだ。

 

「「!?」」

 

「こんナモのが盾二ナルと本気で思ッタか!? マヌけ!」

 

遂には砲身が砕けジャガーマンの牙がクリスの胸元まで迫る。

 

「マヌケはテメェだ!!」

 

既に展開していた腰部アーマーから出したミサイルポッドから小型ミサイルを一斉発射。

ジャガーマンを中心に大爆発を起こし、逃げる余裕の無かったクリスが地面を転がりマリアが受け止める。

 

「無茶するわね、相変わらず」

「へへへ…見たか? あいつのマヌケ面…」

 

爆発が近かったとはいえ、シンフォギアのまま転がった事でクリスの体には擦り傷程度しかない。先程ジャガーマンの爪にやられた傷も大分回復している。

とはいえ、痛みがクリスに襲いちょっと涙目になっている。

 

「何か凄い爆発がしたようだが…」

「翼!?」

 

背後から声が聞こえ振り向くとサイギャングと戦う為離れた風鳴翼が自分たちの方に近づいていたのだ。

近づくにつれ翼の体は煤だらけで一部のシンフォギアの装甲にヒビが入ってるのを見て、向こうも激戦だった事を悟る。

 

「そっちは倒せたみたいだな」

「正直ギリギリだった」

 

クリスの言葉に溜息を洩らしつつそう言う。

少なくとも怪人は一体倒した。それが分かっただけでもクリスとマリアの闘志が蘇る。

そうこうしてる内にクリスのミサイルで発生した土煙が治まってきてジャガーマンの影が見えた。

 

「!」

「顎が吹き飛んでる!」

「それだけじゃない、顔や頭の半分も消えている!」

 

煙から出てきたのは下顎が消え、顔と頭の半分しかないジャガーマンの姿だった。

普通に考えれば怪人といえどこの姿になれば致命傷であり死んでいてもおかしくはない。

しかし、ジャガーマンはそんな姿でも息をしており、体の黒さに反して舌がやたら赤くなって伸びている。

 

「やったか?」

 

翼の言葉が聞こえたのか、ジャガーマンの残った半分の顔についている目が赤く光り此方をみたような不気味さを感じる。

そして、

 

「ウソ…」

「マジかよ…」

 

マリアもクリスも絶句する。

クリスのミサイルが全弾命中し顔の半分と下顎の欠けたジャガーマンが回復していくのだ。

腕の時と同じ、傷口から金属片が伸び筋肉に包まれていく。

そして、アっという間にジャガーマンの姿はミサイルを受ける前の状態に戻った。

 

「あんな状態でも回復するのかよ!? こいつ、何時になったら倒れるんだ!!」

「…怪人と融合したカルマノイズがここまで厄介なんて…こっちも体力が尽きそう」

 

ここまでやってもジャガーマンを倒せない事に二人は苦虫を嚙み潰したような顔をする。

クリスとマリアも今まで多くのカルマノイズを倒してきた。しかし、怪人と融合した目の前のジャガーマンの耐久力も回復力も今までの比ではない。結構な時間戦い続けてきた二人も限界が近いのだ。

 

「…2人とも、いいだろうか?」

 

そんな二人の様子に翼は意を決したように二人に声を掛ける。

 

「どうした?」

「何か閃いたのかしら?」

 

二人とも目の前のジャガーマンを警戒しつつ翼の言葉に耳を傾ける。

もしかすればこの状況を打開できるのではとも期待していた。

 

「ああ…私のとっておきだ。 少しでいい、時間を稼いでくれ」

「「…」」

 

翼の言葉で何となくだが察した二人は首を縦に振った。

 

「無茶するなよ、先輩」

「私も無茶は許さないわよ?」

 

翼にそう言うとクリスもマリアもアームドギアを片手にジャガーマンへの攻撃を再開する。既に再生し終わってたジャガーマンも二人を迎撃する為に動き出した。

その戦いを見守った翼は考えてることをボソッと口に出す。

 

「カルマノイズは生半可な攻撃では倒せず再生してしまう、怪人に融合し奴はとくに…ならば!」

 

翼には一つだけカルマノイズが取り付いたジャガーマンを倒す手を思いついていた。

だが、それをクリスやマリアに使わせるわけにはいかない。戦力的にもクリスとマリアでなく低い自分が使うべきだとも考えている。

その方法とは、

 

Gatrandis babel ziggurat edenal

 

それは即ち…絶唱だった。

 

「クッ…やっぱり…」

「あの怪人は絶唱クラスのエネルギーでないと倒せないわね」

 

絶唱。それはシンフォギア装者にとって切り札と言える。

しかし、装者にもダメージがくる諸刃の剣。

故にクリスは翼の心配をし、マリアもそれでないとジャガーマンに勝つのは不可能だと考える。

 

「こんな時にアイツがS2CAを使えれば…」

 

クリスの目は大破したバスに向かう。

他者と手を繋ぐ事を特性とも言える響なら皆が絶唱を歌ってもダメージを極限まで抑える事が出来る。

それさえ出来ればカルマノイズが取り付いたジャガーマンにも勝てるだろう。

 

「無いものねだりしても仕方ないわ。 私たちも目も合わせない子が出来る事じゃない」

「…分かってる」

 

だがそれは、自分たちの世界の立花響の話だ。

この世界の響は迫害され他者を信じられなくなっている。そんな娘にS2CAは使えないと判断した。

 

 

 

 

 

その頃、バスに投げ出された響は、

 

「ウッ…此処は…そうか…私…意識が…」

 

ジャガーマンにバスに投げられた衝撃か少しの間、意識を失ってた響。

状況はどうなったのか確認しようとした時、

 

Emustolronzen fine el baral zizzl

 

「!? 絶唱! この声…翼さん!?」

 

絶唱を歌う声が響の耳に届く。

更にはバスの隙間から絶唱を歌う翼の姿も確認でき、クリスとマリアがジャガーマンと戦っている。っと言うよりかは足止めをしていた。

 

「…そうか、絶唱でないとあの怪人を倒せないと思ったんだ」

 

確かに黒い怪人(ジャガーマン)は強い。それこそ響も大幹部のゾル大佐や死神博士の時のように苦戦している。

怪人との戦闘に慣れていない特異災害起動部二課の翼なら倒すために絶唱を選ぶだろう。

 

Gatrandis babel ziggurat edenal

 

━━━! 考えてる場合じゃない、私のS2CAがない状態で翼さんが絶唱を使ったら…!

 

この時、響はまだ味方になる前のクリスと遭遇した戦闘を思い出した。

一触即発の空気の中、ショッカーの改造人間が襲撃し劣勢を覆す為に怪人たちの中心で絶唱を使った翼の事を。

 

━━━絶唱を歌ったら翼さんが! そんなのダメだ、こうなったら私がS2CAを使って翼さんのダメージを肩代わりするしか…!

 

響は翼の絶唱のダメージを肩代わりする事を選んだ。

例え、戦いの後に「あの力は何だ!?」とクリスやマリアに連行され特異災害本部に連れてかれ自分の体の秘密や並行世界の事がバレてしまうかも知れない。

だが、響は自分の体の秘密より見知った顔の誰かが苦しんだり倒れたりするのはもっと嫌だった。

 

腹を括った響が急ぎ翼の下に向かおうとする。だが、直後に自身の体に違和感を感じた、いや違和感は足の部分だ。

 

━━━足に何か引っかかっている? もしかして、拉げた車体に足が挟まってるのかな? …!?

 

そう考えた響は自分の足の方に目を向ける。足が挟まってるだけなら強く引っ張れば抜く事が出来る。

しかし、響の視界に入ったのは想定外の物だった。

椅子の一部か立っている時に持つ棒かは不明だが、曲がった金属の太い棒が太ももを貫通していたのだ。

 

「アグッ!」

 

この時になって響は自身の太ももに焼けるような激痛と異物感を感じた。

響の太ももは運が悪く、バスに突っ込んだ時に破壊した金属の棒が太ももを貫通していた。更に運が悪いのか特殊合金である骨に当たらず人工筋肉やコードが密集している場所でもあった。

もし骨に当たっていれば金属の棒は貫通せず、軽傷だった。

 

響は直ぐに動けなかった。

 

 

 

Emustolronzen fine el zizzl

 

絶唱を歌い終えた翼。途端、翼の内側から莫大なエネルギーが溢れる。

 

「はああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーー!!」

 

そして、手に持ったアームドギアの剣を大型にして、エネルギーを剣に集中させ一気にジャガーマン方に向け切り裂くように動く。直後に剣から光の玉のような物が出てジャガーマンの方に向かった。

 

「…今よ、クリス!」

「おう!」

 

翼の動きに気付いたマリアがクリスに合図して二人は急ぎジャガーマンから離れた。

 

「!?」

 

二人の動きに気付いたジャガーマンだが、翼の絶唱に気付いた時には遅く、翼の放った絶唱のエネルギーを乗せた斬撃はジャガーマンを包み込んだ。

 

「ヒョォォォォォォォォォォォォッ!?」

 

エネルギーに包まれジャガーマンは抵抗すれ出来ず吹き飛び放置されていたタンクローリーに接触、盛大に爆発した。

 

「…これが…防人の…歌だ…」

「翼!?」

 

絶唱を放った翼も口から血を吐き、地面へと倒れかけたところをマリアが抱きとめる。

翼は既に気を失っていた。

 

「大丈夫か!?」

 

心配そうにマリアに近づくクリス。その目はマリアに抱きとめられた翼に向いている。

翼の状態は口から血を吐いていて、如何見ても大丈夫とは言えない。

 

「取り敢えずは本部にヘリを要請したわ。 直ぐに来るとは思うけど…」

 

やはり響抜きの絶唱は危険極まりない。その事を改めて自覚する二人。

そんな二人の耳に誰かが近づく足音が聞こえ振り向いた。

 

「お前…」

「…何か用かしら?」

 

二人の目にはちょっと足を引きずった響が居た。

 

あの後、金属の棒を抜いた響は見た目だけでも回復したが片足には未だに激痛が走っている。

そんな状態でもクリスたちに近づいたのは翼の容態を知りたい為だ。

 

「その…翼さんの様子は…」

「…少し無茶したから入院は確定ね」

「そう…ですか」

 

翼の様子が気になっていたのかとクリスとマリアも、やはり世界は違えども響は響だと思った。

お節介で愚直で他人と関わりたがるお人よしの大食漢。

過去の迫害が無ければ…或いは傍に日向が居ればこの世界の立花響も自分たちの知る立花響と変わらない娘かもしれない。

 

「あの…さっきはすみませんでした。 失礼なことをして…」

 

二人が響に少しだけ笑みを浮かべると響の口から謝罪の言葉が出る。

失礼な事とは恐らく、声を掛けた自分たちを無視した事だろう。

一方、響の方も良心の呵責やこの世界の響の印象の悪化を避けたい思惑がある。

そして、何よりクリスとマリアとどうしても話したくなったのだ。

 

「失礼? ああさっきの事ね」

「気にすんなよ、目の前に敵がいたんだ」

 

クリスやマリアも先程の事は気にしていない。…と言えばウソになる。

それでも理由が理由だけに二人も理解していた。

 

 

 

 

「ヒョォォォォォォォォォォォォッ!!!!!!!!!!」

 

 

 

 

「「「!?」」」

 

一瞬和やかな空気が流れるが、そんな空気をぶち壊すようにけたたましい雄叫びが辺りに響く。

三人の視線が一方向へと動く。それは燃え盛るタンクローリーの残骸だ。

 

「うそ…」

「…」

「マジかよ!」

 

三者三様の反応をするクリスたち。

彼女たちの視線は燃え盛る炎と夥しい煙から出てくる人影を捉えていた。

ジャガーマンだ。

 

「絶唱でも倒せないのか!?」

「こうなったら私が…」

「…! 待ちなさい! 様子がおかしい!」

 

翼の絶唱でも倒せないのかと絶望する翼。自分が率先して殴りかかろうとする響。

そんな二人を制止したマリアは何かに気付いた。

 

「ぬあアあAAAAAAAAA!! どウした、ノイZU! もっト俺に力WO寄越セ!! 回復が追イ付いていNAIぞ!! 逃げヨウとSUるな!!」

 

「?」

「なあ、これって」

「ええ」

 

ジャガーマンが一人悶える姿に響はポカンとしていたが、クリスとマリアは察しがついた。

翼の絶唱のダメージで取り付いたカルマノイズに限界が来たのだ。

その証拠にジャガーマンの体は黒い霧のように爆ぜ、黒い靄がジャガーマンから逃げ出そうとしてるように見える。

 

「立てぇっ、野獣どもぉっ! ノイズどもぉッ! 怒り狂い、この『ジャガーマン』を助けに来いっ! ぎゃあぁぁぁぁぁぁあああっ!!」

 

取り付いたカルマノイズも力尽き、万事休すのジャガーマンの口から自分の操る動物やノイズを呼び寄せようとするが、周囲には既にジャガーマンとの戦闘の余波で動物もノイズももういない。

そして、ジャガーマンの悲鳴にも似た断末魔を上げ倒れると共に大爆発を起こす。

 

「うお!?」

「なんて風圧!?」

 

爆発の衝撃波が離れていたクリスとマリアにも吹き周囲のビルや店のガラスが割れる。爆発の衝撃波がそれだけ強かったのだ。

衝撃波が治まりクリスたちがジャガーマンの居た場所を見るとタンクローリーの燃料で燃えていた炎すら消し飛んでいる。

 

「…やったわね」

「最後まで喧しい奴だった」

 

カルマノイズに取り付かれたジャガーマンを倒した。その事でクリスもマリアも安堵する。

 

「………」

 

それを見届けた響は静かにこの場を離れようとする。

誤解を生まないようクリスたちを避け結果的に絶唱を使わせてしまった翼に合わせる顔がないと思ってだ。

 

「待てよ!」

 

そんな響に待ったをかけた娘が居る。

クリスだ。

 

「…何?」

 

さっさと立ち去ればいいものを、響の良心が邪魔をし立ち止まる。

響に待ったをかけたクリスも背を向ける響を見つつ脳裏にはこの世界に来る直前の記憶が蘇る。

それは、エルフナインとのやり取りだ。

 

 

 

『並行世界に行く前に少しいいですか?』

 

ある程度報告を終えたクリスとマリアが並行世界に行こうとした時、仲間であるエルフナインが呼び止める。

 

『どうかした?』

 

それに反応したのはマリアだった。

クリスも「どうかしたのか?」という反応で様子を窺う。

 

『向こうの響さんと接触する時に実は試して欲しい事があって』

『なんだ?』

『向こうの指令からの報告で、向こうの響さんは孤立無援の孤独感にいると思います』

『ええ、それこそショッカーという組織に狙われている』

『ですから…独りじゃないって教えてあげてほしいんです。 幾つか不明な点がありますけど、向こうの響さんの感情が流れてる以上、こちらの響さんの感情が流れてる可能性があります。 それならばきっとクリスさんたちの思いが伝わると思うんです』

『ああ、わかった』

 

 

 

エルフナインとのやり取りでクリスは響に色々救われた事を思い出し口を開く。

 

「あたしは雪音クリス。 18歳。 誕生日は12月28日で血液型はA型だ。 好きな物はあんぱんだ!」

「へ?」

 

クリスの突然の自己紹介に呆然とする響。思った反応と違い過ぎるからだ。

すると、クリスの傍にいたマリアも口を開く。

 

「わたしはマリア・カデンツァヴナ・イヴ。 23歳よ。 …こうしてると昔の事を思い出すわね」

「昔を思い出すのは年をとった証拠だってな」

「あら? お子様には言われたくないわね」

「お子様だぁ?」

 

マリアとクリスがいきなり口論しだす。尤も二人とも笑ってる以上、本気ではないだろう。

 

「…ぷっ!」

 

そんなやり取りを見ていた響は思わず吹き出す。まるで翼とクリスが初めて協力した戦いを思い出したのだ。

目的は同じはずなのに喧嘩して何時の間にか仲良くなる。

二人の口喧嘩を見て思い出し思わず口が滑る。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()() …あっ」

 

口を滑らせた事に気付いた響は自分の口を手で塞ぎ後ろを向く。

やっちゃったと思いつつ、もしかして気付いてないかなと期待して横目で二人の方を見た。

 

「クリスちゃん?」

「…立花響、あなた…もしかして…」

 

完全に聞かれてた。

クリスとマリアの視線が先ほどの温かいモノから少し冷たいものになったのを感じる響。

 

━━━わたしの馬鹿! クリスちゃんが初対面のわたしに挨拶しただけなのに…これじゃこの世界のワタシが常識がないうえに馴れ馴れしい女の子になっちゃう!!

 

下手すればこの世界の立花響の人間関係が完全に終わってしまう懸念を抱く響。

一方、

 

(なあ、こいつ初対面のアタシにクリスちゃんて…)

(私の事も、マリアさんってアッサリ言っていたし…まるで今までも一緒に戦ってきたような空気を出してるわね)

(ああ…試してみるか)

「なあ、お前もこの世界に来てたのか?」

「!?」

 

クリスの言葉に衝撃を受ける響。

 

━━━この世界? もしかしてクリスちゃん()!なら…

 

クリスの言葉に反応した響が口を開こうとした。

 

 

ズカァ!!

 

 

しかし、直後に彼女体の傍の廃車状になった車に何かが落ちた。

三人がそれぞれ落ちたものに目をやる。と、

 

「なっ!?」

「…どういうこと?」

 

クリスとマリアは目が点となり言葉も出ず、響に至っては、

 

「もう一人のわたしっ!!」

 

そう言って落ちた物…響の傍に近寄る。

落ちてきた物とは、この世界の立花響だった。

その姿は、シンフォギアを纏っていたが殆どがボロボロでインナーの一部すら裂かれている。体や頬にも血が付着しており負傷しているのは火を見るよりも明らかだった。

 

「一体なにが…」

 

「サイギャングもジャガーマンも役に立たんとはな、こうなればワシ自らがお前たちに引導を渡してやろう」

 

クリスが何が起きてるのか考えようとした時、不気味な声が聞こえた。

三人がヒビキが投げられた方に振り向いた先には地獄大使と数多の戦闘員が此方に近づいてくる。何時の間にかビルの屋上から移動していたのだ。

 

「地獄大使ッ!!」

「とうとう自ら出てきたわね」

「へッ…部下がやられ過ぎて我慢できなくなったか!?」

 

響が地獄大使の名を言い、クリスとマリアも目の前に現れたに臨戦態勢をとる。

尤も、ジャガーマンとの激戦と負傷で二人の体力の限界も近い。

そんな状態で地獄大使と戦えるか不安に思う。

だが、そんな二人の耳に最悪の音が聞こえた。

 

「バイクのエンジン音?」

「…またかよ」

 

突然聞こえてきたバイクのエンジン音、それも最近聞いたばかりの音だ。

半ばゲンナリするクリスとマリアが視線を動かして音のする方角を目にする。

 

「カミキリキッド!?」

 

バイクに乗った者の正体に気付いた響がそう口にする。

地獄大使の反対方向にはカミキリキッドを始めとした戦闘員のバイク部隊がやっと合流した。

 

「キィーリィー! やっと追いついたぞ!」

「ふむ、丁度いいタイミングだな」

 

カミキリキッドの到着に邪悪な笑みを浮かべる地獄大使。このまま挟み撃ちにする魂胆だ。

まさに前門の虎後門の狼と言える。

クリスとマリアは疲労、響は負傷したヒビキを庇いつつ戦わねばならない。

響たちの圧倒的な不利な空気に僅かながらの静けさを感じるほどだ。

そして、その静けさを破ったのはマリアたちの無線だった。

 

『緊急事態だ! 急ぎその場から離れるんだ!!』

「そうしたいのは山々だけど…」

「この包囲、簡単に逃げられそうにないな…」

 

無線から源十郎の撤退指示が出る。二人もそうしたいが、先のショッカー包囲網よりマシだが逃げ難いよう戦闘員が配置されている。

遠くから銃声が聞こえる事から自衛隊が到着しただろうが、何処まで戦えるかは…

そう考えていたが、

 

『地下の記憶の遺跡から高エネルギー反応があった! 完全聖遺物が起動してそっちに向かっている!!』

「「はあ!?」」

 

てっきりショッカーから逃げるよう言っていると思っていた二人は思わず大声を出してしまう。

二人にとってこの場で完全聖遺物など寝耳に水だったからだ。

直後にクリス達の周辺が激しく揺れる。

 

「え? 地震!?」

「うわあ!!」

 

事情の知らない響はこの揺れを地震かと思い、クリスも激しい揺れに驚く。

 

「キーリー!?」

「何だ? 人工地震作戦は実行していない筈だが」

 

一方、地獄大使たちも突然の揺れに戸惑う。人工的に地震を起こさせる技術も保留しているのであまり慌ててはいないが、

それぞれが揺れに反応する中、クリスと響の間のアスファルトにヒビが入り一瞬膨らんだと思ったら何かが出てくる。

それは、全身がほぼ紫の両腕が突起のように細長く所々赤く光る4~5メートルはあろうかという怪物のような完全聖遺物。

 

これが記憶の遺跡に保管されていた自立起動型の完全聖遺物、ゴライアスであった。

 

 

 

 

 

 

 




ジャガーマンが絶唱を食らう場面は無印4話を参考にしました。
翼がクリスを吹き飛ばしたアレです。

ジャガーマンと言えば最後の断末魔。
ショッカー怪人ってあまり断末魔を言わないからジャガーマンはある意味新鮮に感じました。
シンフォギアのクロスでもジャガーマンを出したら絶対言わせたいと思ってました。

原作のXDの翳り裂く閃光より時間が経ってる設定なのでクリスもマリアもXD軸より一歳年をとってます。
響は響でクリスの「この世界」発言で年齢に気付いてません。

そして原作ではグレ響こと並行世界の響に自己紹介をしたクリスですが、こちらでは本編響に、そして響はうっかり口を滑らせる。

翳り裂く閃光での強敵というかお邪魔キャラといえばいいのかゴライアスが登場。…ショッカーの目の前で、


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96話 思い違い そして暗躍

シンフォギアXDの復刻版「BAYONET CHARGE」をやりました。
アナザー世界の翼やクリスもいい性格していて面白かったけど、
ボス各であるドゥームズデイがガンダムUCのモビルアーマーに見えて仕方ない。

たぶん、別の場所でも言われてるとは思うけど…


 

 

 

特異災害対策起動部二課本部。

 

幾つもの人工の光が室内を照らし、何人もの人間が仕事をしている。

 

「…出ました。 やはり記録上、立花響が双子の可能性は低いです」

「こちらも…エージェントたちが立花響の両親に話を聞いたところ立花響は一人っ子で生まれた病院でも記録上、立花響に双子は存在しません」

 

オペレーター席に座っている藤尭朔也と友里あおいがそれぞれ報告する。

それを聞いて、顎に手を付け何か考える源十郎。

その視線の先には車に減り込んだ状態の響と駆けつけ介抱する響が映っている。

 

特異災害対策起動部二課本部では二人目の響が何者なのか?何故、両方からガングニールの反応がするのか、っと言うかガングニールのシンフォギアを纏っているのか?色々謎であったのだ。

確かに、少し前からガングニールの反応が二重で反応していたが故障か本人である立花響が二度変身していたと思っていた。

 

「立花響は二人いた?」

 

立花響が二人いたのなら、ガングニールの反応が二重だったのも納得できる。

しかし、一人は本物の立花響だとしてもう一人の正体が掴めない。ヒントになるかと響の両親に話を聞きに行ったり生まれた病院にも行ったが何も出なかった。

 

 

 

「イタタタ…戻ったぞ」

「翼の手術もおわったわ、やっぱり暫くは入院するそうよ。 そっちは進展があったかしら?」

 

源十郎が思考に耽っている時、丁度指令室の扉が開き二人の少女が入る。

クリスとマリアだ。

病院に一泊して傷の手当てをしていた二人の体には露出している肌に包帯が巻かれ戦いの傷が分かる。

何よりジャガーマンの爪で抉られもした傷は縫っている部分もある。

絶唱を使った翼が手術後に入院するのを見届けた二人は本部に顔を出したのだ。

本当なら身内の源十郎も病院に行くべきだろうが後処理や調査で指令室から動くことが出来なかった。

 

「全く無い。 双子の線も洗ったが両親、病院ともに記録なし。 プロなら兎も角、素人がここまでの痕跡を消せるとは思えん。 まるである日パッと現れたようだ」

 

マリアの質問に返答する源十郎。

クリスとマリアが病院に運ばれた後、特異災害対策起動は徹底的に立花響の情報を集めていた。

生まれた病院、両親、幼稚園時代の先生、小学校でのクラスメイトや担任にもあたったが手がかり一つすらない。

本当にある日パッと世界に現れたのではと疑う程だ。

 

「その事についてなんだけどよ…」

 

すると、指令室に備え付けられている死神カメレオン戦後に取り替えたソファーに座ったクリスが口を開く。

 

「アイツってあたし等の世界の馬鹿じゃねえか?」

「元の世界の?」

 

クリスの予想は元の世界、即ちクリスとマリアの世界の響が来ていたのではと思ったのだ。

マリアと源十郎もクリスに視線を向けつつ話を聞く。

 

「ほら、あの馬鹿アタシ等と一緒のこの世界来たがってたからな。 元の世界のオッサンが根負けして送り出したかもしれねえし、アイツならこの世界の馬鹿の心の壁も超えそうだしな」

 

元々、クリス達の世界の響もこの世界に来たがっていた。

ショッカーを危険視し、向こうの立花響も心配していたのだ。援軍に来てても不思議ではない。

だからこそクリスは、元の世界の立花響が此方に来てこの世界の立花響に会いに行ったのではと思った。

 

「…あの子の性格上その可能性はあるけど…」

 

成程。確かに響の性格ならその可能性はある。

あるが、マリアには幾つか引っかかりを覚えていた。

 

「…違うって言いたそうだな」

「ええ、それだと幾つか腑に落ちないのよ」

 

そう言ってマリアはクリスの反対側のソファーに座りクリスの方を見る。

 

「先ず第一に、あの立花響が私たちの世界の立花響だとして、最初に私たちが話しかけた時の態度。第二に翼が絶唱を歌う時にS2CAを提案しなかった事よ」

 

クリスに比べマリアは響との付き合いは短い(正直、クリスもとんとんと言えるが)。それでも供に戦い修羅場を潜ってきたからこそ響の人となりは知っている。

響は一言で表すなら「お節介焼きの善人」だ。目の前で困っている者を助けようとする。

その響が自分たちに視線も合わさず、翼の絶唱を無視した事がどうしても解せなかった。

 

「…アタシもそこらへんが引っかかってるんだよな、アイツらしくないと言えばアイツらしくないけど。 …もしかしてアタシ等を脅かそうと考えてたとか?」

「脅かす? 私たちより後に来て、この世界の立花響と共に私たちの前に現れる。 確かに驚きはするけど…」

 

翼の絶唱を無視する理由にはならない。マリアはそう考えていた。何より響の性格上、脅かすより驚かされそうだとも思っていた。

クリスとマリアがああでもないこうでもないと話す内に時間が経つ。

 

「取り敢えず一旦、元の世界に戻った方がいいだろ。 向こうのおっさんに聞けば答えも出るし、あのデカブツの報告もしないとな」

「そうね…精神的リンクもどうなるか…」

 

クリスの言葉にマリアもショッカーとの戦闘で突然現れ暴れた完全聖遺物 ゴライアスの事を思い出す。

 

 

 

 

一日前

 

 

■■■■■■■■■■■■ッ!!!!!

 

突然地面を抉り現れた紫の怪獣のような化け物が咆哮を上げ、クリスたちを睨むように視線を向ける。

思わぬ事態に生唾を飲むクリスに額から汗を流すマリア。

その時、指令室の源十郎からまたも通信が入る。

 

『それの正式名称はゴライアス…記憶の遺跡に保管されていた自立稼働型の完全聖遺物だっ!』

「これが…」

「完全聖遺物だあっ!!」

 

並行世界を渡り幾つもの聖遺物を見てきたクリスもマリアも戦闘中に乱入してくる聖遺物など珍しと言えた。

そして、

 

「聞いたな、完全聖遺物とやらが出てきたぞ。 行けぇ、お前たち!!」

「「「「イーッ!!」」」」

 

源十郎の通信を傍受していた地獄大使も完全聖遺物「ゴライアス」を確保しようと戦闘員をけしかける。

今は、手負いのシンフォギア装者よりも突然現れた完全聖遺物を優先する。

尤も、それが合図になったのかゴライアスは両腕を振り回しクリスたちや戦闘員を攻撃する。

 

「うぐっ!?」

「━━ぐあっ!」

「ぐっ!?」

 

クリスとマリアはゴライアスの振り回す腕に吹き飛ばされ響も倒れ意識を失ってるヒビキを庇い攻撃を受けた。

尤も、

 

「「「イーッ!!!!????」」」

 

ゴライアスの捕獲を狙っていた戦闘員はより近いゴライアスの攻撃を受け一部の戦闘員は上半身が消し飛び、原形が残っている者も緑の泡となって消えていった。

 

「チっ、戦闘員では歯が立たんか」

 

戦闘員をアッサリ蹴散らしたゴライアスに舌打ちをする地獄大使。

そして、視線を反対側に居たカミキリキッドに向かう。

 

「カミキリキッド、貴様の力であの完全聖遺物を止めろ! 出来なければ貴様は死刑だ! 今までの失態を帳消しにしたければやれ!」

「キーリー!?」

 

突然の死刑宣言に驚くカミキリキッド。

何度となくシンフォギア装者の殺害に失敗している以上、地獄大使としては当たり前の判断といえる。

カミキリキッドとしては、最初に取り逃がすことになったのは地獄大使の帰還命令の所為だが、ショッカーの大幹部である地獄大使に逆らうことは出来ない。

 

「まあいい、俺様の電撃を食らうがいい!」

 

地獄大使の命を受けたカミキリキッドが頭部の二本の角から電撃を出しゴライアスに放つ。

 

「なんて電撃だ…」

「アタシ等の時より威力がでかい」

 

以前、カミキリキッドと戦ったクリスとマリアも思わず生唾を飲む。

嘗て自分たちにも放たれた電撃だがゴライアスに放たれてる電撃の方が自分たちが受けた物より威力が高い。

これを見て、二人は自分たちが相手をしていた時、カミキリキッドが本気でなかった事に気付く。

 

「俺様の電撃はどうだ!? ついでにこれも食らいな!」

 

電撃を放った後にカミキリキッドは口から夥しい量の火炎を吐き、ゴライアスを飲み込む。

マリアが倒れた翼をいち早く抱えた為、翼は無事だったがゴライアスの姿は完全に炎に飲み込まれ見えない。

 

「やったか!?」

 

これだけの攻撃、いくら完全聖遺物でも無事では済まないと考える地獄大使とカミキリキッド。

勝利を確信していたが、

 

「…まだ動いてるだと…」

 

クリスとマリアの目は見ていた。炎の中から動く巨体を。

夥しい炎に包まれてもゴライアスの額の宝石の様な物はボーと光、カミキリキッドの方を向いていた。

そして、両腕を体の前に出し、エネルギーを一瞬で溜めるとカミキリキッドに撃ち放つ。

 

「キッ!?」

 

突然の事にカミキリキッドは反応すれ出来ず、放たれたエネルギーに飲まれる。

それどころか、背後にいた戦闘員もバイクも飲み込み、進路上にある車やビルも飲み込まれた。

 

「…なんて事を…」

「ウソだろ…」

 

クリスもマリアもこれには絶句する。衝撃波の風が自分たちにも流れたが、その直後には戦闘員もカミキリキッドやバイク、ビルすら消し飛んでいる道路だったものだ。

 

「…素晴らしい性能だ…だが撤退だ! 手持ちの戦力を削り過ぎた、議事堂に攻め込んでいる戦闘員も撤退させろ!」

 

文字通り、カミキリキッドが消し飛んだ事で地獄大使はゴライアスの捕獲を断念し撤退命令を出す。

クリスやマリア、響にも目もくれず撤退するさまは見事と言えるだろう。

 

「…アイツ等、アッサリ撤退したな…」

「連れてた怪人が全滅したみたいね、引き際を見誤るよりはマシかもしれないけど…」

 

クリスとマリアは撤退する地獄大使たちを見て思わず呟く。

目の前にはカミキリキッドを一撃で葬った怪物 ゴライアスが顔を此方に向けている。

体を包んでいた炎もカミキリキッドが死んだ事でアッサリ消えて、その巨体をクリス達に見せる。

 

「…動けそう?」

「連戦で正直キツイ…カルマノイズに取り付かれた怪人との戦いで体力を消耗した…」

「オマケに火力だけならカルマノイズを超えると来たわね…」

 

先のカミキリキッドへの一撃でゴライアスの火力を知った二人に絶望の文字が頭に過る。

今まで多くの敵と戦ってきた彼女たちでも厳しい状況といえた。

 

「こんなもん保管していた奴は何処のどいつだ!」

「そうね…責任者を見つけて一言言ってやりたいわ…」

 

口では悪態をつく二人だが、正直体力の限界だ。これ以上の戦闘は不可能に近い。

ショッカーが相手にしてる内に撤退しとけばっと考えた時、

 

ゴライアスは一声鳴くと二人への睨むのを止め、目の前の地面を掘る。

 

「何だ?」

「掘った地面に潜っていく?」

 

二人にはゴライアスの行動は不明だった。自分たちへのトドメをさすチャンスを無視して地面を掘り中に入っていくのだ。

結局、二人はゴライアスが完全に潜り地面の中に入るのを見る事しか出来なかった。

そして、日が暮れる空には何機ものヘリが近づき、後処理の人員が交代で来たのだった。

 

 

 

 

 

回想は終わり、場所は本部に戻る。

 

「あのデカブツで助かったといえば助かったんだが…」

「それで? 結局あれは何だったの?」

 

そう言ってソファーに座るマリアの視線が源十郎に向く。

別段、源十郎としても隠すほどの物ではないのでマリアの問いに答える。

 

「先の通信でも言ったが、あれはゴライアスといって、永田町地下『記憶の遺跡』で保管されていた、自立稼働型の完全聖遺物だ」

「ゴライアス…確か旧約聖書の『第一サムエル記』にある、英雄ダビデと戦い倒されたゴリアテだったかしら」

「そうだ、米国より研究の為譲りうけて、先日に永田町に移送したばかりのものだ…」

「それが、アタシたちや先輩のフォニックゲインで起動したのか」

「俺の記憶だとあれはもっと小さかったんだが、地表での戦いで生じたフォニックゲインで成長したんだろ。…まさか地表での戦いが記憶の遺跡にまで影響を及ぼしてるとは…」

「私たちの歌の影響もそうだけど…最終的なトリガーは翼の絶唱ね。 こんなの計算できる訳ないわよ」

 

っとはいえ、特異災害対策起動二課やクリスとマリアにとっては面倒な事になった。

ただでさえ、ショッカーや二人の響に加え暴走している完全聖遺物まで出てきたのだ。

二人にとっても頭が痛い。

 

「おまけにあの馬鹿も何時の間にか姿を消しやがって…」

「まるで、私たちとの接触を避けてるみたい。 …本当に私たちの世界の立花響かしら?」

 

ゴライアスが去った後、クリスとマリアは二人の響と接触しようとしたが、ゴライアスが去ったゴタゴタの隙にその場から消えていた。

マリアはその部分も引っかかっているのだ。

 

「それを確かめる為にも、一旦戻るわ。 もしあたし等の世界のアイツならとっちめてやる。 後カルマノイズが取り付いた怪人のデータも渡しときたいしな」

 

そう言って、クリスは片手をグーにして手を叩く。

理由はどうあれ、自分たちの世界の響なら一発殴るつもりだ。

 

「そう…私は残っておくわ」

「…先輩が入院している以上、しゃあねえか」

 

マリアの言葉にクリスも納得している。

ノイズに対抗できるのは自分たちシンフォギア装者だ。その装者であるこの世界の翼が戦線離脱してる以上、誰かが残ってノイズを相手にしなければならない。

気がかりがあるとすれば、

 

「連中には気をつけろよ…」

「ええ…」

 

ノイズでもない、完全聖遺物のゴライアスでもない。

世界征服を狙う悪の組織 ショッカーに注意しろと言うクリス。機械的に人類を殺すノイズやただ稼働している完全聖遺物と違いショッカーは悪辣と言えるからだ。

 

その後、源十郎がゴライアスに関するデータをクリスに渡し、クリスは一旦戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…黙って離れちゃったけど…クリスちゃんたち怒るかな…」

 

とある荒れた廊下を歩く響。

彼女は現在、前とは別の廃ビルの廊下を歩いていた。手には水の張った桶を軽々と持ち傍らには、乾いた布も持っている。

クリス達から離れた響は、負傷したヒビキを連れ元の廃ビルに戻ろうとしたが、その廃ビルは消防団や警察が現場検証などして入れず、別の廃ビルに入りヒビキの看病をしていた。

本当なら特異災害対策起動部二課職員に訳を話して保護なり治療して貰った方が良いのだろう。それは響も理解してる。

 

━━━あの子はまだ他人を受け入れない。 本人が納得してくれなきゃ…

 

ヒビキは未だに他人を拒絶している。此処で無理に特異災害対策起動部二課に保護されても暴れて逃げ出す可能性がある。響はそれを避けたかった。

 

そうして、響はヒビキの寝る部屋に入る。

廃ビルに放置されていたマットになるべく汚れていないシーツをかけた不格好な物だが床に直で寝かせるよりマシだと思っておこう。

 

ヒビキの傍らに桶を置いた響は布を水に浸して片手で絞る。

そして、ヒビキの顔や体を拭いていく。

 

「傷は多いけど、折れてないのは良かった」

 

響は自身のセンサーでヒビキの体を調べ骨折はない事にホッとする。

そして、ヒビキの体の血をふき取り濡れた布をヒビキの額に置く。

 

「う…ううん…此処は…?」

 

丁度、ヒビキも意識を取り戻し起き上がろうとするヒビキ。

直後に体中に痛みを感じて動きを止めるが。

 

「無理しないで、今はゆっくり寝ていた方がいいよ」

「…アンタか…わたし途中で意識を…」

 

響が居る事に気付き周囲を見回してやっと自分の状況を思い出す。

更に、地獄大使相手に手も足も出なかった事も思い出した。

 

「わたしって…あんなに弱かったんだ…」

「もう一人のわたし?」

「アイツは…あの変な被り物した男の力に手も足も出なかった…」

 

ヒビキの悔しそうな口ぶりに響はそっとヒビキの頭を撫でる。

変な被り物の男とは恐らく地獄大使だろうと考える響。

 

「しょうがないよ、ショッカーの大幹部はそれだけ手強い。 私たちも二人の大幹部を倒すのに大苦戦したから」

「…あんなのがまだ二人も居たなんて…教えてアンタはどうやってそいつ等を倒したの?」

「…わたし一人の力じゃないよ」

 

地獄大使に手も足も出なかったヒビキにとって響の他にも大幹部が二人いて倒した話に興味が出た。

少し悩んだ響は大雑把だがゾル大佐や死神博士との戦いと決着の話をした。

 

「…仲間…か…」

「うん、わたしだけじゃダメだった。 でも仲間が居れば…背中を預けられる人がいれば戦える」

 

ヒビキとてそれは分かっている。地獄大使や怪人はノイズとは比べ物にならない程の強敵だ。

自分ひとりでは勝てない事も。

しかし、友達や仲間を作ろうにも響の過去のトラウマが邪魔をする。

 

「ねえ、アナタさえ良かったら特異災害対策起動部に行かない? 翼さんが退院していたらきっと迎え入れて貰えると思うけど…」

 

だからこそ、響のこの言葉がヒビキにとって魅力があった。

これからもショッカーに命を狙われ怪人が送り込まれるだろう、特異災害対策起動部に所属すれば風鳴翼や銃使いの装者や剣を蛇状にして戦う装者と共に迎撃出来る。

 

「…少し…考えさせて…」

 

だからこそ、ヒビキは即座に拒否出来なかった。

少ないながらも個人で戦ってきたヒビキは並行世界から来たと言うもう一人の響と出会い共に戦う事への思いもあり複雑な心境となっている。

尤も、提案した響はヒビキの心境に気付かずある事を考えていた。

 

━━━あの時、クリスちゃんは「この世界」って言っていたよね。 もしかしてあのクリスちゃんは私の世界のクリスちゃん? もしかして私の援軍として近くに来ていて、あの光に巻き込まれた? なら悪い事しちゃったかな? …でもクリスちゃんてあんぱん好きだったっけ?

 

響はクリスの「この世界」という言葉にもしかして雪音クリスも自分と同じくあの光に呑まれてこの世界に来たのではと考えた。

それならば、自分にいきなり自己紹介したり戦闘時でも此方の動きを読むように援護攻撃も納得できる。

 

━━━クリスちゃんが特異災害対策起動部二課に協力してるなら、私の事も説明してくれてるかも

 

ある程度、響の体の事情を知っているクリスなら特異災害対策起動部二課で響の事を話して受け入れもして貰えるかもしれない。

そうなれば、自身の体の事も触れられないかも。と響は考えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの完全聖遺物、ゴライアスという名か。 出力は申し分ない、ぜひ手に入れたいものだ」

 

モニターに映し出されるゴライアスのエネルギー砲を見て感心する地獄大使。

此処は、この世界に移動したショッカーの大要塞だ。

復旧も大分進み、要塞としての機能も復活。後はスーパー破壊光線砲の方だが、

 

「スーパー破壊光線砲の修理はまだ終わらんか?」

「イーッ! フレームの交換は完了し整備も終えました、しかし動力部の損傷はどうしようもありません!」

 

地獄大使の切り札と言えるスーパー破壊光線砲の復旧は進んでいたが動力部の復旧だけはどうしても進まなかった。

動力部の部品はやや特殊でショッカー本部でしか生産できない物だ。ショッカー本部の存在しないこの世界では困難と言えた。

一応、代わりの動力のあてはある地獄大使だが、どうしたものかと考える。

 

「イーッ! 報告、雪音クリスが例の歪みを使い戻ったようです。 尚、マリア・カデンツァヴナ・イヴは特異災害対策起動部二課に残り別行動を行ってます!!」

 

戦闘員の報告を聞いた地獄大使の口の端は吊り上がった。

そして、地獄大使たちは動き出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「イーッ!」

 

「相変わらずノイズ並みに現れるわね、コイツ等」

 

クリスが一人戻り数時間、マリアは廃工場の跡地でショッカー戦闘員を蹴散らしている。

元はノイズの反応がしてマリアが出撃したが、ノイズを蹴散らした直後に戦闘員が出てきたのだ。

 

「怪人が出ないのは有難いけど…妙ね」

 

数人の戦闘員を倒したマリアはどうにも違和感を感じていた。

昨日の今日でショッカーが動いてるかは分からないが、

 

「翼は入院、クリスは帰還して私一人…用心し過ぎたかしら」

 

出てきた戦闘員を全滅させたマリア。周囲を警戒しながらも本部に終わったことを告げようとするが、

 

「こちら、マリア。 ノイズと戦闘員は片付けたわ」

『………』

 

マリアが通信機に報告するが帰ってくるのは無機質なノイズ音だけだ。

ノイズとの戦闘直後からマリアは本部と通信できずにいた。

 

「通信は相変わらずね、通信機の故障か妨害電波の類か…「きゃあああああっ!!」!?」

 

考え事をしていたマリアの耳に子供の悲鳴が聞こえる。

廃工場の内部から聞こえてきたようだ。

 

「誰か助けてーーーーっ!!」

 

「!?」

 

取り敢えず、考えるのを中止したマリアは悲鳴の聞こえてきた工場に入り周囲を見る。

すると薄暗い中、何人もの戦闘員が少女を取り囲み刺突剣を構えていたのだ。

 

「止めなさいっ!!」

 

急いで少女の救出へと向かうマリア。

此処では短剣を蛇腹にせず次々と戦闘員を切り倒していく。

 

「イーッ!?」

 

そして、最後の戦闘員を倒して周囲を見渡す。

もう戦闘員の影は見えずマリアがホッと胸を撫でおろす。

戦闘員がもう居ない事を確認したマリアが蹲っている少女に声を掛ける。

 

「安心して、もう悪い人たちは居ないわ」

「おかあさん…おかあさん…」

 

マリアが安心するよう声をかけるが少女はしきりにお母さんと呼ぶ事しかできない。

どうしたものかと考えたマリアだが、少女の姿に嘗ての妹であるセレナの姿がダブりマリアはシンフォギアの姿から私服に戻る。

 

「ほら…大丈夫だから…!?」

 

私服姿に戻ったマリアは少女の頭を撫でようとして触った時、違和感に気付き少女の体を強引に持ち上げる。

少女の体はマリアが持ち上げるとグタッとしてまるで力が入っていない。

 

「これは…人形!?」

 

そう、少女はただの人形だったのだ。懐にはボイスレコーダーが仕込まれ、薄暗い廃工場の内部もあり、あたかも少女が喋っていたとマリアを謀っていたのだ。

 

ギィィィラァァァァァ!!!

 

少女が人形だと気付いたマリアの背後に不気味な声と何かが着地する音がした。

振り返ったマリアが見たものは、巨大な頭部をした巨大な二つの目と不気味に点滅する額の玉のようなものをもった怪人だった。

 

「怪人!? Seilien coffin airget-lamh…

 

「遅いわ、殺人音波!!」

 

怪人が居る事を知ったマリアは急いで起動聖詠を言おうとしたがそれよりも早く、怪人側が仕掛けマリアが両手で頭を抑え悲鳴を上げる。

 

「殺人音波とは文字通り人間を殺せる音波だ。 だが、お前は殺さんぞマリア・カデンツァヴナ・イヴ。 お前には聞きたいことがあるのでな。 …さあ立ち上がれマリア・カデンツァヴナ・イヴよ!」

 

怪人の声に反応するかのようにマリアがソッと立ち上がる。

その目には先程の力強さが感じられない。

 

「はい…ええと…」

 

「俺様の名はギラーコオロギ、これからは俺を「ギラーコオロギさま」と呼べ!」

 

「はい…ギラーコオロギさま…」

 

「ギィィィラァァァァァ!」

 

マリアの信じられない独り言に怪人は一鳴きすると二人の姿は廃工場から消えた。

通信ができない事に不審に思った特異災害対策起動部が廃工場を探索するがマリアの姿は何処にも無く、古びた人形が落ちているだけだった。

 

 

 

 

 




カミキリキッドは犠牲になったのだ、完全聖遺物のゴライアスの性能を見せる犠牲に。

響の姿が二人いた事で特異災害は響は双子の線を洗い、クリスは自分たちの世界の響が来てこの世界の響と接触したのではと疑い、マリアはクリスの考えに腑に疑問に思ってます。

そして、響の方はクリスは自分の世界のクリスで自分と同じく巻き込まれ特異災害に保護されたのではと思ってます。っていうか別の並行世界の可能性なんて欠片も考えてません。

尚、現在真相を知ってるのはショッカーだけです。


そして、とうとうショッカーの洗脳攻撃がマリアを襲う。
基本的にシンフォギアって洗脳してきたのはGのウェルくらいでしょうか?
XVの翼は暗示に近かったかと。

今年は後、一回ほど更新できそう。


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97話 ショッカーの魔の手 恐怖の死のツメ

 

 

 

並行世界、S.O.N.G.本部

 

「カルマノイズと怪人が融合だと!?」

「ああ、アタシ等の目の前でな」

 

クリスは並行世界の本部に戻った後、源十郎の居る指令室に来て先の戦いの報告をしていた。

そしてその中にはジャガーマンに取り付くカルマノイズも報告し、同時にモニターにもその時の映像が流れている。

 

「信じられません、カルマノイズの再生力が通常時の倍近い! それに俊敏さは元のカルマノイズを圧倒している!?」

 

モニターに映るカルマ化した怪人を見てオペレーター席を借りてコンソールを打ち込むエルフナインが思わず呟く。その他にもクリスとマリアを圧倒するジャガーマンの姿に冷や汗を流している。

更にはモニターには紫色の巨獣も映る。

 

「これが…」

「完全聖遺物…」

「ゴライアス…か…」

 

これにはエルフナインは勿論、オペレーターコンビや源十郎も唖然とする。

それほどまでに、完全聖遺物ゴライアスの姿は圧倒的でもあった。

何より、攻撃してきたカミキリキッドの攻撃にアッサリとエネルギー砲で対抗しカミキリキッドが文字通り消滅したのだ。

 

「火力はかなり高いですね」

「真正面から受ければシンフォギアといえども耐えきれるか?」

「あの馬鹿なら耐えられそうだけどな。 早々、そういやあの馬鹿の事だけど…」

 

そこでクリスは響の事を聞こうとして口を開く。

 

「あの馬鹿をアタシ等の下に寄越した…とか無いよな?」

「? 響くんの事か、彼女はリハビリも兼ねて先程出現したノイズを対峙しに行ったが…「たっだいま~!!」ほら戻ってきた」

 

源十郎が話してる途中に指令室の扉が開き響と未来が入ってきた。

それを見て少し驚いたクリスだが、

 

「っとなると、アイツはやっぱり違うのか」

「アイツ?」

「あ、クリスちゃんお帰り~! 何の話?」

 

クリスが話してる内容に興味を持った響が話しかける。

少し考えたクリスは友里あおいにある映像を出してくれと頼む。

 

「なっ!?」

「えっ!?」

「響と響!?」

「わたしが二人!?」

 

モニターには傷だらけの横たわる響と守るように響の体を支える響の姿が映っている。

一人は、ほぼこの世界の立花響と同じシンフォギアを纏い。もう一人はボロボロのインナーの姿だがインナーからでも分かる、この響もこの世界と同じガングニールのシンフォギアを纏う響だ。

 

「向こうのワタシって双子!?」

「いや、向こうのオッサンたちが調べても双子だった記録はなかったそうだ。 それこそ両親や生まれた病院に行って調べてきたらしい」

 

クリスの返答に残念そうにする響。響も一人っ子ということで弟や妹が欲しい時はあったのだろう。

そして、皆がまたモニターに目線を向ける。

 

「じゃあ…このもう一人のワタシは…誰?」

「双子でもない、だからといって赤の他人にしては似すぎてる」

「それが分かれば苦労はしないんだがなぁ~、アタシも報告が終わり次第マリアと合流しないとな」

 

そう言うとクリスはギャラルホルンのある元倉庫へと向かいこの場はお開きする。

源十郎たちはモニターの映像からカルマノイズと怪人の融合から完全聖遺物のデータ取り、響と未来は休憩の為談話室へと向かった。

 

「一瞬、ワタシが双子かと思ったんだけどな…未来、お姉ちゃんって言われるの憧れない?」

「響は偶に弟か妹が居ればって言ってたよね。 私も響の弟か妹がいれば見たい気はするけど…」

 

未来は響と幼馴染であり腐れ縁だ、響が兄弟を欲しがった話なんて耳にタコが出来るほど聞いたこともある。

聞かされる度、未来はどう反応していいか分からず苦笑いを浮かべる事が多かったが。

確かに響に弟か妹が居れば見てみたい気持ちはある。しかし、そうなった場合、響といれる時間が減るのではと懸念に思う。 痛し痒しという奴だ。

 

「でも響そっくりの弟か…いいかも 響と義理の姉妹か…(ボソッ」

「何が?」

 

未来の最後の言葉が聞こえなかった響は聞き返そうとするが、未来は「な~んでも♪」と言って先に進んでいった。

その姿に頭に?が生えた響だが直ぐに未来の後を追う。

 

 

 

 

 

 

 

 

=???=

 

薄暗い部屋、お世辞にも清潔とは言い辛い部屋の中で何人もの人間が蠢いている。

その者たちの顔は黒いマスクを被っておりショッカーの戦闘員だということが分かる。

だが、その中には白いマスクを被った戦闘員、いやショッカーの科学陣が居り目の前に妙な機械が見えそのどれもが不気味に点滅している。

 

その機械は妙としか言えず両手や両足部分には固定する金属片があり、頭部に位置する場所には頭をスッポリ被える金属のお椀らしきものがある。

 

そして、その機械に誰かが座らされてる事だ。

 

「あ…ア…ああ…」

 

「さあ、答えろ()()()()()()()()()()()()()()よ。 お前が何処からきて何をしに来たのか?」

 

顔の上半分は見えないが、座らされているのはマリアだった。マリアの頭を覆う金属片からもマリアの髪の色である薄ピンクのが垂れている。

 

ギラーコオロギに洗脳されたマリアはショッカーのアジトの一つに連れて行かれ尋問とは名ばかりの拷問のような事をされていたのだ。

 

「ワタシは…わたし達は…並行世界に…異変を感じて…それを…解決する…為に…」

 

マリアの口から返答への答えが出るが、その声からして随分と憔悴している。

既に同じ質問を何回も聞かれ精神が摩耗しているからだ。それと同時に何度も自己紹介をさせられ軽いゲシュタルト崩壊を起こしつつもマリアの口から出る言葉はしっかり書類に書かれる。

 

 

 

 

 

「それで、これがマリアの答えた言葉か」

「イーッ!」

 

マリアの口から出た情報は直ぐに地獄大使へと送られた。

何枚かの書類に目を通し口の端を吊り上げる。

 

「こちらの所有してるマリアの細胞とも100%一致とはな、面白い! ギャラルホルン、北欧神話の笛が…度々名は聞いていた並行世界に渡る装置となるか。 実験の結果は? 」

「イーッ! 何体かの怪人が試しましたが、例の歪みに変化はありませんでした!」

 

マリアの口からギャラルホルンの情報を引き出したショッカー科学陣は試しに、響から作り出したショッカーガングニールを埋め込んだ怪人を使いギャラルホルンのの門を開けようと試みたが怪人たちではうんともすんとも言わなかった。

 

「怪人たちでは反応すらしないか、ギャラルホルンが起動するのはシンフォギア装者だけか…単純に聖遺物としての力が足りんのか…」

 

自分たちではギャラルホルンの門が反応しない事を疑問に思う地獄大使。

いくらガングニールの聖遺物を手に入れたとて、オリジナルの響に比べれば脆弱のモドキだ。それだけではギャラルホルンが起動しないだけかもしれない。

 

「こうなればマリアを改造人間にして脳改造を施して向こうに送った方がいいか…動物園でイキのいいミーアキャットを手に入れていたな…それで…」

「イーッ! 報告、見張っていた戦闘員より雪音クリスが並行世界より来たとの事です!!」

「チッ! 想定よりも早いっ!!」

 

戦闘員の報告より想定よりも早くクリスが戻ってきた事に歯噛みする地獄大使。

戻った以上、クリスがマリアが行方不明になっている事には直ぐに気付く。そうなれば必然的にクリスの来た並行世界にもマリアが行方不明だという情報が伝わってしまう。

そうなれば、仮にマリアを脳改造して潜入させても怪しまれ作戦は失敗、マリアが拘束されるかも知れない。

 

「マリアを改造人間にするのには最低一週間はいる。 改造する余裕はないか…ん?」

 

クリスの想定外の早期の行動に策を練る地獄大使だが、ふと部屋の外の通路から運ばれる物を見る。

そして、ある作戦を思いついた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はあっ!? 昨日からマリアが行方不明だと!」

 

元の世界から再び並行世界に戻ったクリスだが、戻って最初に聞かされたのはクリスと別行動をとったマリアが行方不明になった情報だった。

 

「突然無線が繋がらず、戻ってこない事でエージェントたちを向かわせたが廃工場には影も形も無かったんだ…」

「…クソッ!」

 

源十郎の言葉にクリスは指令室の壁を殴る。

油断はしていたつもりはない、それでもほんの僅かな時間、別行動をしてる間にショッカーにしてやられた。

 

「どうする…一旦また戻って応援を呼ぶか…アタシはどうすれば…」

 

マリアが行方不明、翼は入院しこの世界の特異災害対策起動部二課の戦力は激減した。

未だに響の行方も掴めてない以上、戦力不足だと考え元の世界に戻って応援を頼むべきかと考えるクリス。

ここまで関わった以上、この世界の特異災害対策起動部二課を捨てる気になれず、何よりマリアの捜索もしなければならない。

 

「…! 指令、繁華街付近で暴動が起きました! 止めに入った警官も暴動に参加して手に負えないそうです! 更に、周辺には怪物が飛んだという情報も…」

「!? アタシが行く!」

 

特異災害対策起動部二課に突如、緊急の通信が起こり友里あおいが対応すると、ビルの繁華街で暴動がおこったという報告が入る。

そして、目撃されたという化け物の話を聞いたクリスは現場に急行した。

 

━━━化け物の正体は十中八九ショッカーの怪人だ! ふん捕まえてマリアの居場所を吐かせる!!

 

マリアの行方不明にはショッカーが関わってると見たクリスは目撃された怪物を捕獲するつもりでいた。

ショッカーが何を企んでるかは知らないが、今はマリアの奪還を優先する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クリスがマリアの行方不明を知る数分前、

 

繁華街では何時も通りの日常が過ぎていた。

特に大型交差点では時間帯もあり多くの学生やサラリーマンが行きかっている。

 

「ねえ聞いた」

「何々?」

 

「まじよ、アイツ二股しててよ」

「マジィ? 超サイテー」

 

「昨日のアニメが永田町の事件で潰れて鬱…」

「アンタ、アニメ以外見たら…」

 

それぞれがそれぞれ別の話をし交差点を行き交う。

先日に起きた永田町の事件も彼らからしたら他人事、ただでさえノイズという国連で認定された特異災害が起きる世界だ。冷たいと思うかも知れないが、自分たちの実に降りかからねばいいと日常を過ごしている。

 

そんな誰もが往来する交差点だが、今日は如何にも様子が違った。

 

「うおおお!!」

「何だよ!?」

 

一部の人間の悲鳴に誰もが声のした方を見る。

すると、赤信号で止まる車の群から無理やり車と車の間を通り、交差点に迫るバスが来た。

 

「暴走バス!?」

「ヤバい、避けろ避けろ!」

「凄い、アニメみたい!!」

「そんなこと言ってる場合!?」

 

通行人は右往左往しながらも何とか逃げ出しバスに轢かれた者は居ない。何より交差点に突っ込んできた時点でバスも速度を落とし徐行に近いスピードでもあった。

一時的にパニックになっていた通行人たちもバスが止まったことに安堵すると共に沸々と怒りの感情が沸き上がる。

 

「運転手、出てこい!!」

「何処の会社だ!」

「危うく轢かれかけたぞ!」

「怪我しちまったじゃねえか!!」

 

バスを取り囲み口々に文句を言ったりバスを叩いたりする通行人たち。

交差点は完全にパニックのような騒がしさになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちょっと、何が如何なってるのよ!」

 

一方、バスに乗っていた乗客たちも困惑していた。

バスに乗りなれた客は何時も通りの走行だと思い、滅多に乗らない客も突然の暴走のような運転に度肝を抜かれている。

 

「おい、テメエどういうつもりだ! 目的地も全然違うじゃねえか!」

 

すると、ガラの悪い男が席から立ち上がり運転席に座る運転手に向かって歩く。

男としては何時も通り、パチンコをした後にラーメンを食べに行く予定だったが今回の事で腹が立っていた。

 

「…お前たちの終着点は此処だ」

 

「あっ!? 何だとテメエッ!」

 

しかし、思いもよらない言葉が運転手からもたらされた事に男も意味が分からない。

そのまま運転手に掴みかかろうとした時、

 

「お前たちには俺の死のツメで騒動を起こして貰う。 ギィィィラァァァァァ!!」

 

立ち上がり乗客たちに不気味な笑みを見せた運転手の姿が一気に変わりマリアを浚ったギラーコオロギになる。

 

「うわあああああああ!!」

「きゃあああああっ!!」

「化け物だ!?」

 

これにはガラの悪い男どころか他の乗客たちも悲鳴を上げる。

正体を現したギラーコオロギの視線が尻もちをついたガラの悪い男に向かう。

 

「ギィィィラァァァァァッ!! お前でいいか…」

 

「や…止めろ! 来るな!!」

 

ギラーコオロギの特徴的な赤い爪をした手が男に向かい、興奮した男は護身用として持っていた折り畳み式のナイフを取り出し脅すが、ナイフ程度でビビる程ショッカーの怪人は甘くない。

ならばとギラーコオロギの腕に突き刺そうとするが、腕に当たった瞬間、ナイフが折れ曲がる。

 

「ひゃっ!?」

 

「そんな安物のナイフで俺さまを倒せる訳ないだろう! ギィィィラァァァァァッ!!」

 

ギラーコオロギは男に見せつけるように自身の血のように赤い爪を見せ、その爪を男の首に突き立てる。

 

「うわあああああああっ!!」

 

爪を突き立てられた男は悲鳴を上げると共に倒れグッタリとする。

他の乗客は一瞬に何が起こったのか理解出来なかったが口々に悲鳴を上げる。

 

「いやああああああああああっ!!」

「人殺しっ!」

「誰か助けてくれっ!!」

 

「黙って見ていろ! もうすぐ面白いものが見れるぞ」

 

半ばパニックになる乗客たちだがギラーコオロギは涼しそうに言う。

そして、間もなく男は立ち上がるが、その両手にはギラーコオロギと同じ赤い爪が生え目元は薄い紫色をしていた。

 

「おい君、大丈夫か…!?」

 

「ギーッ!」

 

青年の一人が倒れていた男に近づき大丈夫か聞いたが帰ってきたのは鳴き声に近い声と首に鋭い痛みだった。

ガラの悪い男が赤い爪で青年に首を刺したのだ。

 

「ギィィィラァァァァァッ!! これでもう俺様が手を下す事は無い」

 

ギラーコオロギが笑いながら言うと、青年も倒れた後に手から赤い爪を出して他の乗客を襲う。

それはまさにゾンビ映画のようにも見えた。

 

 

 

 

 

バスを取り囲む群衆。

遂には空き缶や石が投げられ、群衆のボルテージが上がっている。

 

「早く出て来いっ!!」

「何時までも止まってんじゃねえよっ!!」

「走行の邪魔よっ!」

 

遂には通行人だけでなく車のドライバーたちも出てきて文句を言う。信号が変わってもバスが邪魔をいてる上に轢かれかけて通行人も道路に出ているためだ。

一部の通行人が警察に通報するが、先の永田町の事件で殉職者を出した事で警察も直ぐに現場に来られず、その場を仕切る者は誰もない。

だからこそ、その後のパニックは大きくなった。

 

ガシャンッ! という音と共にバスのドアが開き乗客が降りていく。

 

「運転手は何処だ!?」

「オイあんた、バスの運転手はまだ中か!」

 

取り囲んでいた群衆の何人かが乗客たちに近づき運転手の行方を聞く。あれだけの危険運転をしたのだ、警察に引き渡す前に一発殴らなければ気が済まなかった。

しかし、質問された乗客たちは返事をせず、顔色がお世辞にも良いとは言えない表情で見ていた。

 

「? 大丈夫? 救急車でも「ギーッ!」 !?」

 

流石に乗客の顔色に気付いた女性の一人が救急車を呼ぶかと聞こうとしたがそれよりも早く乗客は女性に赤い爪を突き立てる。

それを皮切りに降りてきた乗客が一斉に野次馬たちに爪を突き立てる。

 

結果は更なるパニックに陥る。

赤い爪を突き立てられた人間は倒れたり苦しんだ後に赤い爪が生え別の人間を襲いだす。

 

「ギーッ!」「ギーッ!」「ギーッッ!」

 

赤い爪をした人間はネズミ算の如く増えていく。

交差点は逃げ惑う人と追う赤い爪の人で混沌として被害は徐々に広がっていく。

 

「ギィィィラァァァァァッ!! これで俺の任務は完了した。 早く、雪音クリスや立花響と戦いたいものだ!」

 

パニックとなった交差点の見てそう言いのけるギラーコオロギ。

用は済んだとばかりにその場でジャンプして背中の羽でこの場を離れる。

 

その後、警官隊が騒ぎを鎮静化させようとしたが赤い爪の前に次々と仲間となり、自衛隊やクリス、少し離れた場所では響たちが暴徒化した赤い爪の市民たちを鎮圧する事になる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

並行世界、 S.O.N.G.本部

 

『…っという訳でノイズの殲滅は完了しました。 本部に戻ります』

『こっちも終わったデス』

 

通信機から二人の少女の声がする。翼と切歌だ。

二人とも別の場所で現れたノイズの殲滅を任務とし丁度終わったところだった。

指令である源十郎もその報告を受け頷くと通信が切れる。

 

「ノイズの出現頻度はそれなりに上がっているな…」

「やはり、並行世界の影響が…」

 

完全聖遺物 ギャラルホルンの力で並行世界と行き来出来るがその分、並行世界のノイズが此方に来るようになった。いい加減、慣れたS.O.N.G.の職員やシンフォギア装者たちだが、あまり気が休まらない。

一名を除き、未成年を酷使している現状に不満が無いわけではない。

しかし、それでも世界を守るためには仕方ないと割り切る大人たちがせめてものサポートとして立ち回っている。

 

「ん? 指令、ギャラルホルンに反応です!」

「何だと?」

 

その時、オペレーターの藤尭朔也がギャラルホルンが起動した事を伝える。

それを聞いて少し考える源十郎。

 

「そう言えば幾つかの世界での定時連絡の時期だな、それかも知れん」

 

既に幾つもの世界に渡った結果、現地のシンフォギア装者とも繋がり定期的にお互いがそれぞれの世界に行き「何か問題が起こってないか?」という連絡をし合っている。

だから、もしかして向こうの装者が来たのかもと思い油断した。

 

 

 

 

 

「此処が…わたし…たちの…世界です…」

「そうか、ご苦労」

 

その頃、ギャラルホルンを安置している元倉庫に二人の人影がある。

二人ともシンフォギアを纏い、一人はアガートラームのギアを纏ってマリア。もう一人はガングニールのギアを纏った響だ。

尤も、マリアの目は虚ろで響の腹部には鷲と地球のレリーフが彫られた奇妙な金色のベルトをしていたが。

 

その日、S.O.N.G.本部に侵入者が現れた。

 

 

 

 

 

 




S.O.N.G.本部にショッカー響が侵入する話。
クリスへの囮兼足止めの為にギラーコオロギが死のツメで陽動しています。

因みにギラーコオロギ自体、劇中でも「早く仮面ライダーと戦わせてくれ」と言う程好戦的です。

そして、並行世界の東京の交差点で死のツメによるパニック。
原作設定どおり三日立つと感染者は死にます。



たぶん今年度最後の投下と思います。
読んでくださった皆さん、良いお年を。


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98話 激突! S.O.N.G.VSショッカー

新年あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。

今回の話で98話。
原作の仮面ライダーならゲルショッカー首領と決着をつけ新シリーズに移行しますが、この小説では地獄大使との決着もマダ。
今年はゲルショッカーとの決着とかいければいいんですが…


 

 

 

「ギーッ!」

         「ギーッ!」

 

手から赤い爪を生やした人間が闊歩する。

この辺りは数分前まで平和で通行人も行き来して賑わてる商店街付近だが、今は赤い爪を生やした人間が居るだけである。

 

赤い爪に引っかかれたり爪を突き立てられた者も赤い爪を生やし仲間になり普通の人間を襲うようになる。

パニックが起これば一般人は右往左往の混乱に陥り何処に逃げていいかも分からない。

逃げる最中に誰かを押しのけ踏みつける事もあったが、悉くが赤い爪の餌食となり、仲間になって他者を襲う。

まさにゾンビ映画の世界とも言えた。

 

「ハア…ハア…お姉ちゃん、こっち!」

「ハアハアハア…」

 

そんな中、人影の消えた道路を駆ける人影が居る。

どちらも女性で一人はまだあどけなさがある。二人は姉妹で今日は買い物に来ていて偶然巻き込まれたのだ。

他にも友人たちはいたが、赤い爪に次々と感染して他者を襲い自分たちは何とか逃げていたのだ。

 

後ろからは何人もの赤い爪を生やした人間たちが追い、ならばと曲がり角で撒こうとする姉妹。

しかし、

 

「ハア…ハア…ウソ…」

「ハア…沢山いる…」

 

曲がり角で曲がった二人の目の前には何人もの赤い爪を生やした人間が佇んでいた。

そして、二人に気付くと「ギーッ!」という声を発して一斉に近寄ってい行く。

反対方向を振り向くが其処にはもう赤い爪を生やした人間がやって来ている。

逃げ場は…無くなった。

 

「ギーッ!」「イーッ!」「ギーッ!」

 

最早逃げ場はない。自分たちもアレの仲間に去れる姉妹がそう思った時、

 

「オラァァ!!」

 

突然女性の声が聞こえると同時に目の前に赤い鎧のような物を身に纏った銀髪の少女が降りてくると手に持っていたライフルのような物を振るい目の前の赤い爪を生やした人間を殴り倒す。

 

「ギーッ!」

 

「ノイズ並みに数だけは多い!」

 

少女は文句を言いつつもライフル銃を振り回して次々と赤い爪の人間たちを殴り倒す。

頭や顎、鳩尾が殆どで殴られた人間は意識を失って気絶していく。その少女こそシンフォギア装者の雪音クリスだった。

本来のクリスの戦闘ならガトリング砲を撃ちまくればアッサリと鎮圧出来る。

だが流石のクリスも一般人に重火器は使えず気絶させるだけならライフル銃で殴るのが手っ取り早い。

警官隊は全滅したが赤い爪に注意すれば其処まで脅威ではない。

 

現に自衛隊も網などを使って感染者を捉えて両腕を後ろで縛れば簡単に無力化される。

 

「くそっ、この騒ぎを起こした怪人は何処だ!?」

 

感染者の一人を殴り倒したクリスがあっちこっち見回すが怪人どころか戦闘員の姿すら見えない。

クリスは警戒しつつも赤い爪に感染した暴徒の鎮圧を進めていく。

 

 

 

 

 

 

 

同時刻、

あの人影の無い公園の奥。

普段ならだれも立ち寄らない公園の奥、それが今では何人もの人影が蠢いている。

その殆どがショッカー戦闘員であり幾つもの機械がセットされ中心部にはクリス達が使っていたギャラルホルンで出来た空間の歪みがある。

 

「ショッカー響とマリアはギャラルホルンで無事に移動したようだが…何か分かったか?」

「イーッ! 残念ですが我々が用意した発信機は途中で途切れました。 ショッカー響には幾つのか発信機も取り付けていますが…」

「新しく製造した通信機も途中で途切れました」

 

その報告を聞いて舌打ちをする地獄大使。

ショッカー響を洗脳したマリアの案内で行かせたが、ショッカー響には色々仕掛けをしており、並行世界に行く用の実験を行っていた。

発信機も通信機もショッカーが新しく造り上げ理論上地球の裏側だろうが一寸の狂いもない性能を持たせ嵐や津波でも壊れにくい物だ。

それらを使いショッカーはこっち側でもギャラルホルンのデータを得ようとしていたが…

 

「ちっ、こうなればショッカー響が戻るまで動けんか…「ギィィィラァァァァァ…」…来たか」

 

戦闘員たちの報告を聞いて愚痴る地獄大使の耳に鳴き声が聞こえると同時に自分の横に何かが着地した音がする。

目線を向けなくても分かる、自分の部下であるギラーコオロギだ。

 

「地獄大使、言われた通り街中に俺の死のツメをばら撒いてきた」

「ご苦労…」

 

ギラーコオロギの報告に乾いた返事をする地獄大使。

 

死のツメ、それは本来日本や世界の都市部に感染させパニックになった隙に主要都市を制圧する作戦に使う筈だった。しかし、時代が進み通信網の発達に医療の発達も合わせ死のツメのパンデミックでの混乱は早期に抑えられる可能性が高くなり作戦自体凍結していた。

 

今回推し進めたのも雪音クリスや特異災害対策起動部二課を釘付けするのが目的だ。時間が稼げればそれで十分なのだ。

 

━━━仮に早期に鎮圧されようが構わん。 感染者どもは感染して三日で死ぬ

 

ギラーコオロギの死のツメは感染源であるギラーコオロギが死ねば綺麗さっぱり消える。だが裏を返せばギラーコオロギが死なない限り死のツメに感染した人間が治る事は無い。

それこそワクチンを作ろうが感染したものが死ぬのが早い。

どちらにせよ、そうなれば日本を混乱に落とせると考える地獄大使。

 

「仕事は果たした、早くシンフォギア装者の立花響や雪音クリスと戦わせてくれ!」

 

闘争本能が刺激されたのか、シンフォギア装者との戦いを望むギラーコオロギ。

それが頼もしくもある反面、面倒だと考える地獄大使は口を開く。

 

「暫し待て、ショッカー響が戻り次第マリアを殺害した後に雪音クリスと戦え!」

 

地獄大使の考えは至ってシンプル、各個撃破だ。

嘗て、響や翼たちを纏めて始末しようとしてショッカーは行動していたが、その悉くが敗北し大幹部二人も失ってしまった。

ならば各個撃破を狙うのは当たり前と言えた。

用が済んだマリアを殺害後、雪音クリスや二人の立花響を抹殺し、世界を手にする。

それもまた地獄大使のプランの一つであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これがギャラルホルン…か?」

「は…い…」

 

並行世界のS・O・N・G本部に侵入した響は元聖遺物安置室の中心部で光る巻貝のような物を見上げマリアにそう聞く。

その間にも、ショッカー響はギャラルホルンを舐め回すように観察する。

直後に倉庫の扉が開く音がし、マリアとショッカー響が出入り口の方に目を向ける。

 

「フア…誰か居るのかと思ったら、マリアさんですか。 クリスさんと入れ違いになったみたいですね」

 

金髪の少女…エルフナインが大きく口を開け欠伸をしていた。

クリスの報告後、根を詰めていたエルフナインは指令や同僚たちに諭され仮眠室でさっきまで寝ていた。だが、ギャラルホルンを安置している元倉庫内に気配を感じて見に来ていたのだ。

さっきまで熟睡しかけていたエルフナインは目をショボショボとさせながらマリアの姿を確認した。

 

「このガキが?」

「エルフ…ナイン…よ」

 

「あれ響さん?」

 

ショッカー響とマリアが何かを話し、エルフナインも響の存在に気付いた。

寝惚けてる所為か、立花響もギャラルホルンで移動したのかとも考えるエルフナイン。何しろ、完全聖遺物ギャラルホルンが稼働してからは響も翼も並行世界へ移動しては問題を解決したり定期報告などでも移動する。

だから、響がギャラルホルンの傍にいるのも納得できてしまっていた。

そんなエルフナインの反応をよそにショッカー響がマリアに視線で合図を送り、マリアが頷くとショッカー響は元倉庫を後にする。

そして、マリアがエルフナインに話しかけた。

 

「エルフナイン…ちょっと頼まれごとがるんだけど…」

「頼み、ですか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ギャラルホルンの情報全部ですって!? 無茶です!!」

 

マリアの頼みごとの内容を聞いたエルフナインはキャラに似合わない程の声量で叫ぶように言う。

何しろ、マリアの口から出た内容はS・O・N・Gが保管しているギャラルホルンの全データ。即ちトップシークレットを超える内容だったのだ。

 

「無理は…承知している…わ。 でも…どうして…も必要な…の…」

 

マリアは話を続ける。

自分たちが完全聖遺物ギャラルホルンを使って並行世界に行き来してるのがショッカーにバレ、ショッカーはS・O・N・Gに逆襲する為に並行世界でギャラルホルンを探している。

それに気づいた特異災害対策起動部二課だが、先手を打とうにもギャラルホルンを所持してる訳でもなく何処にあるのか分かってる訳でもない。

だからこそ、ギャラルホルンを所持しているS・O・N・Gの所有しているデータが欲しかったのだ。

 

「ショッカーがギャラルホルンを!? …でも勝手にギャラルホルンの情報を渡すのは…」

 

いくらマリアの頼みと言えど、エルフナインは簡単にはギャラルホルンのデータを渡さなかった。

独断と言うのもあるが、如何にもマリアの言動に違和感も感じてたからだ。

その時、エルフナインの持つ通信機に連絡がいく。

 

『エルフナインくん、聞こえるか?』

 

「あれ、指令ですか?」

 

通信機からは上司である風鳴源十郎の声がし返事をする。

 

『既にマリアくんから聞いてるだろうが、ギャラルホルンのデータを渡して欲しい』

 

「えっ!? 良いんですか?」

 

源十郎の言葉に思わずエルフナインも「良いのか!?」と反応する。

これまでも、響たちが赴いた並行世界は幾つもありギャラルホルンの事も話してはいた。…話をしてはいたがギャラルホルンのデータを外に持ち出すことは殆どなく、今回は異例中の異例とも言えた。

 

「本当にギャラルホルンのデータを渡して良いんですか?」

 

『ああ、万が一にもショッカーがギャラルホルンを手に入れれば厄介な事になる。 直ぐには使えなくてもショッカーの科学力を舐める訳にはいかない』

 

「…わかりました」

 

指令の許可が出た以上、エルフナインとしても断る気はない。

それだけ、エルフナインもショッカーの科学力には警戒していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それでは、ギャラルホルンの方を急いで頼む。 …あまり時間があるとは言えんからな」

 

通路の途中、ギャラルホルンを安置している元倉庫から其処まで離れていない通路の途中で源十郎の声がするが、其処には源十郎の姿など何処にも見えない。

それどころかS.O.N.G.関係者の一人すら居ない。居るのはマリアと別行動として先に元倉庫から出たショッカー響だった。

そして、ショッカー響は壁側に設置されてる配電盤に腕を突き刺していた。

 

「纏めたデータはマリアくんに渡しといてくれ。 …これで良し、後は時間を十分稼がねばな」

 

源十郎の声から響の声に戻ったショッカー響は配電盤に差し込んでいた腕を戻す。

マリアに目配せした後、ショッカー響は配電盤のある通路まで行き腕を突き刺したのだ。目的はS.O.N.G.本部の通信網の掌握、エルフナインに通信したのもこの手である。

これでS.O.N.G.は中からも外からも通信が不可能にされてしまった。S.O.N.G.本部は巨大な密室となったのだ。

マリアからエルフナインの情報を握ったショッカーは当初はエルフナインの拉致を模索したがギャラルホルンを経由しなければならない事で頓挫。ならばエルフナインを騙す事にした。

 

ショッカー響はショッカーの造り上げた改造人間だ。声を変えること自体其処まで難しくはない。

後は他の任務を行うだけだった。

 

「あれ? 今指令の声がした筈だけど…」

 

ショッカー響が丁度配電盤の蓋をした時、通路の奥から声がした。視線を向けた先にはS.O.N.G.の制服を着た若い男性が書類を片手で持っていた。

 

「響ちゃん、風鳴指令此処に居なかった?」

 

若い男は丁度、書類を指令の居る指令室まで行こうとしていたが、途中で指令の声が聞こえ、これ幸いとばかりに来たのだ。

来たは良いが、指令である風鳴源十郎の姿は何処にも見えず丁度、シンフォギアを纏っていた響を見つけ声を掻けた。

面倒くさそうに男を見るショッカー響。

 

「ああ、ごめん。 この書類をどうしても指令に届けなきゃ「面倒だ、死ねっ」!」

 

男の運がなくとんでもない間違いをしていた。

一つは、目の前の響はS.O.N.G.に所属する立花響では無かった。それどころか、世界的犯罪組織の一員である改造人間だった。何よりショッカー響にはS.O.N.G.でのもう一つの使命がある。

 

「あが…あがが…」

 

「さて、少しでもS.O.N.G.の戦力を削がなければな…」

 

職員の喉を手刀で貫いたショッカー響は眉すら動かそずそう言った。

 

ショッカー響の使命。それは、S.O.N.G.への敵情視察兼この世界のシンフォギア装者の調査と戦力を削る事だ。

 

「ふう、やる事が多い」

 

職員を一人殺害したショッカー響はそう呟き溜息をつくとその場を後にする。

直後にショッカー響の通路からは悲鳴が木霊する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハア…ハア…一体何が如何なってるデスか!?」

「ハア…切ちゃん、急いで指令室に行かないと!」

 

S.O.N.G.本部の通路内、二人の少女が通路を走っている。その足元には赤い液体が滴り二人は口元を抑えていた。

少し前にS.O.N.G.本部の潜水艦へと戻ったこの世界の暁切歌と月読調だが、艦内に戻った直後に直ぐに異変に気付いた。最初は何かしらの事故かと思い、本部の指令室に居る風鳴源十郎に連絡を取ろうとしたが、通信が繋がらず仕方なしに通路を走って指令室に向かっていたのだ。

その途中には、無残に殺されたS.O.N.G.の職員が何人も見つけてしまう。

 

「ハア…どうして警報が鳴らないデスか!?」

「…分からない…分からないよ切ちゃん」

 

途中に通路に設置してある、緊急警報を鳴らす装置を押してみたが、うんともすんとも言わなかった。

こんな事、二人にとってもあり得なかった。

確かにS.O.N.G.本部は何度か敵組織に侵入されてきたが、その度に警報が鳴り大人たちが対応しシンフォギア装者が動いていた。

しかし、今回は警報も鳴らず通信も繋がらない。終いには職員たちの死体、二人にも何かが起きてる事が容易に想像できた。

 

あと少しで指令室に着く。丁度その時に前方で見知った姿、同僚を目撃した。

 

「あ、響さん! 大変デースッ!!」

 

シンフォギアを纏った立花響の姿だ。

尤も、切歌と調は気付いていない。響の手元が血で真っ赤になっていたのを。

 

「!?…?」

 

調は調で響の姿が目に入った時、胸元がドクンっ!と言い違和感を感じていた。

この違和感を無視した事を後に調は後悔する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…暁切歌、月読調。 これより脅威度の確認を行う」

 

S.O.N.G.の職員を処理しつつ指令室に向かっていたショッカー響はこっちに近づいてくる切歌と調の姿を見てそう呟く。ショッカー響には平行世界の装者、クリスとマリア以外の戦闘力も試す任務もあった。

 

「響さん、今本部で何が…!」

「!?」

 

だからこそ、無邪気に近寄る切歌の側頭部に蹴りを放った。

側頭部に突然の蹴りを食らった切歌は通路の壁に叩きつけられ一瞬意識が飛ぶ。寧ろ気絶していた方がマシだったかも知れない。

 

「切ちゃんッ!?」

 

調の悲鳴にも近い声に切歌の意識は何とか戻したが、その視界には自分に迫る拳が見えた。

 

 

 

 

 

 

 

調には何が起こったのか分からなかった。自分たちは確かに響に話しかけた筈だが目の前で切歌の顔を響が殴り、可愛かった切歌の顔が血が飛び散り腫れ上がっていく。

 

「止めてっ!!」

 

思わず調は切歌を殴り続けるショッカー響の腰に抱き着き止めるよう懇願する。その時、ショッカー響の腹部のベルトにも触る。

 

「どうして! どうして、響さんが切ちゃんを…!」

 

調には訳が分からなかった。強くて明るくて時々馬鹿だけで誰よりも他者を重んじる優しい響の存在は調にとっても切歌にとっても光のような存在。ある意味、マリア並みに大事な相手であった。

そんな響が切歌の顔に容赦のない拳を振るっているのだ。悪夢なら一刻も早く冷めて欲しい。

 

だが、直後に切歌の顔を殴っていた手を止め後ろに抱き着いた調の髪を引っ張る。

 

「痛っ! …!?」

 

頭部の痛みもそうだったが、腹部に激痛を感じた調。

ショッカー響の拳が調の腹部に減り込んでいたのだ。

痛みと衝撃に調の口からは唾液と共に少量の血が飛び出る。

少女にとって余りにも無慈悲な一撃。調はその一撃で意識が刈り取られ、気を失う寸前に響の表情が見えた。

その目には、まるで興味のない物を見つめるような目だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「戦闘終了か、あまりに呆気ない。 この姿の所為か?」

 

切歌と調を片付けたショッカー響だが、碌に戦闘データを得られなかった事に不服を感じていた。

与えられた任務を失敗するのはショッカーでは許されない。気を失っているが二人はまだ息をして事を確認する。

尤も、ショッカー響は二人に対して最早興味はない。この程度の力ならショッカーの脅威には到底及ばないと判断した。

これならばS.O.N.G.の壊滅も容易いと考えるショッカー響。

 

「とはいえ、私一人でムシケラ共の殲滅は骨が折れるか?」

 

他のシンフォギア装者の力量も分からない。この二人は雑魚だったとしても並行世界に来たマリアとクリスは侮れない力量だった。もしてや、本部にはショッカーでも要注意人物の司令官の風鳴源十郎とエージェントの緒川慎次がマリアの尋問通りなら居る。

 

早期に指令室を抑えねばショッカーが任入した事がバレるかも知れない。

 

「早期にあの二匹の無力化は必要不可欠、しかしその間にシンフォギア装者やムシケラが逃げる可能性がある。 …か」

 

ショッカーとしては、邪魔者であるS.O.N.G.関係者を皆殺しにしたかった。

エルフナインの監視兼データの受け取り役のマリアは下手に動かす訳にもいかず、かと言って自分一人では少々手間だと考える。

 

「…そう言えば、地獄大使よりあれを持たされていたな」

 

そこで何かを思い出したショッカー響は自身のインナーを引っ張り何かを取り出す。

それは一見、石ころにも見えたが、それを殴られて流血している切歌、ついでに調たちと接触する前に殺した職員たちの血溜まりに投げ入れる。

 

転がった石だが大きくなると共に血溜まりの血液が減り、切歌に付けた石も大きくなり…やがて、

 

「「ウオァッウオァッ!」」

 

不気味な鳴き声を上げ、それを見ていたショッカー響は顔に似合わぬ邪悪な笑みを浮かべる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

指令室

 

今日も今日で何時も通り仕事をする職員たち。

司令官である源十郎もモニターを見つつ職員たちの様子も窺い緒川もその傍にいた。

誰もが今日も何時も通りだと思っていたのだ。強いて違和感があるとすれば何時もより少し静かだということだ。

 

「…やっぱりおかしい!」

 

そんな中、オペレーター席に居た友里あおいの呟きが一際大きく聞こえる。

 

「どうした?」

「それが、外部との通信が途切れてるようで…響ちゃんたちの通信が入らないんです」

 

オペレーターは仕事上、外部との通信をやり取りし日本政府や国連での緊急連絡など受け取っている。

時には平行世界からのノイズや新たなる聖遺物の情報まで、

 

「…上手く偽装されてる! 指令、本部の通信網が誰かに握られてます!」

「何だとっ!?」

 

友里あおいの言葉で自らも調べた藤尭朔也も同じ結論に達し源十郎に伝える。

今までの平穏な一瞬にして崩れ、源十郎や緒川も慌てだす。

 

「直ぐに原因を探るんだ! 装者たちへの連絡も急げ!」

「「「はいっ!!」」」

 

源十郎の指示に一斉に返事をする職員たち。

急げ原因究明をしようとするが難航し緒川も原因を探ろうと指令室を後にしようとした。が、

 

「アレ? 響さん?」

 

丁度、扉を開けた先に響の姿を確認した緒川だが、彼女の片手に目線が行くと息を飲み込む。

 

「ひび…き…さん…」

 

ツインテールの片方を握られて引きずられたグッタリした調の姿が

直ぐに緒川は響に何をしてるんか問いただそうとしたが

 

ドドンッ

 

銃声に近い音と衝撃により緒川の体は指令室に飛び、緒川の目にはもう片方の手を此方に向け指先から少量の煙が出ている響の姿だった。

 

銃声に近い音は指令室にも響き何事かと出入り口の方を見た源十郎は倒れる緒川の姿を見る。

 

「緒川ッ!!」

「きゃあああああっ!!」

 

何が起きたのかは分からない、突然の事だ。

誰かが銃を抜いたのかと考えた源十郎だが、緒川の倒れた先には響しか居ない。

 

「響くん?」

 

立花響はリハビリがてら小日向未来と共にノイズを倒しに行ってもう直ぐ戻る筈ではある。

だが、若干早すぎる気がした瞬間、響は此方に手を向ける僅かな光と先程の銃声のような物が響いた。

直後に源十郎の肩に衝撃と激痛が走る。

 

「痛っ!? 一体何が…!?」

 

痛みの起きた己の肩に触れた源十郎。その痛みや傷から銃のようなもので撃たれたと理解した。

すぐさま周囲を警戒する源十郎だが、銃を持っている職員は皆素手であり目の前には指から煙が出た響。

 

「!?」

 

そして源十郎も直ぐに気付いた。

響がもう片方の手で黒い束…ツインテールの片方を引っ張り調を引きずってるのを。

 

「ひ…響くん…君は…」

 

源十郎の声に響…ショッカー響は口の端を吊り上げる。

 

「…来いっ!」

 

ショッカー響はただ一言だけそう言った。

直後に、

 

「ウオァッウオァッ!」

「ウオァッウオァッ!」

 

「うわあああああああっ!?」

「何だ!?」

 

指令室の壁や床を突き破り幾つもの鱗に覆われた触覚の生えた怪物、吸血三葉虫の改造人間ザンブロンゾが現れる。

 

 

 

〇月×日

S.O.N.G.本部はショッカー響と怪人たちの侵入を侵入を許した。

 

 

 

 

 

 




科学者の拉致をやるショッカーは当然エルフナインを狙いますよね。

ショッカー響が使ったのは吸血三葉虫の化石を血溜まりに投げ怪人に戻しました。
一応、荷物扱いで運用できるのか実験も兼ねてます。
S.O.N.G.本部にザンブロンゾが何体か放たれてます。

尚、切歌も調もまだ死んではいません。

後、ショッカー響の補足を

今回登場したショッカー響ですが、再生怪人として蘇った訳ではなく新しく生産されたタイプです。
何故、再生ではないのかと言うとショッカー響はザンブロンゾやエイキングと同じ量産前提で造られた怪人です。

今まで、出なかったのは並行世界に来たゴタゴタと調整に手間取ってた設定です。


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99話 卑劣! 悪魔のショッカー響

 

 

 

 

━━━急がなければ! 何か嫌な予感がする!

 

ノイズの殲滅を終えた翼が迎えのヘリも待たずシンフォギアを纏ったままバイクで駆けていく。

発端は本部との音信不通だけだが、翼に流れる防人としての勘か、胸騒ぎを感じて本部が停泊している港へ急いだ。

 

猛スピードで飛ばしたお陰か、数分もせず港に着き本部に入る翼だが一瞬にして眉を顰めた。

壁にも床にも血が飛び散り何人ものS.O.N.G.の職員が倒れているのだ。

 

「やはり襲撃を受けていたか」

 

通信が途絶えていた事である程度予想していたが、ショックが隠し切れなかった。

今までも何度か本部が襲撃され犠牲が出たが翼は未だに慣れることが出来ない。

その時、通路奥から銃声が聞こえ翼が急ぎその場に移動する。

 

 

 

 

 

「撃てぇ! 撃てぇぇ!!」

 

何人かの黒服が拳銃で必死に撃ち続ける。一体のザンブロンゾに撃ち込んでいるのだ。

拳銃の弾は確実に目標に当たる。が、目標は弾丸が当たってるにも関わらず平然と何かを握ると黒服へと投げつける。

 

「ぎゃああああっ!!」

 

投げつけられた物が直撃した黒服は悲鳴を上げ倒れると同時に床に夥しい血が流れていく。

その様子に拳銃を構えつつも震える黒服たち。

 

「ウオァッウオァッ!! そんな豆鉄砲で俺を倒せるか、死ねっ!!」

 

「うわあああああああっ!!!!」

 

ザンブロンゾがそう言い放つと口から赤い液体を吐き出し黒服たちへと浴びせる。

赤い液体を被った黒服は悲鳴を上げ床でのたうち回るが直ぐに力尽き体が溶けていく。

 

「うわっ!」

「溶けただと!?」

 

仲間の職員が赤い液体を掛けられただけで、体が溶け消滅したのを見て愕然とする黒服たち。

しかし、そんな黒服たちを気に掛ける程ザンブロンゾも甘くはない。

即座に体と腕部分に付いている鱗を引き千切り立ち尽くす黒服へと投げつける。

 

「お前たちも死ねッ!!」

 

ザンブロンゾの投げた鱗は手裏剣の様に黒服たちに迫り胸元や頭部へと突き刺さる。

短い悲鳴を上げ倒れる仲間を見て、震えだす黒服。最早残ってるのは彼一人だった。

 

「あ…ああ…」

 

「後で倒れた奴らの血は飲むとして…貴様も消えろッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うわあああああああッ!!」

 

丁度、翼が通路の曲がり角を曲がった時、今までにない程の悲鳴が聞こえ、現場に到着した。

 

「!?」

 

直後に翼の目に体が溶けていく黒服の姿を見て思わず口元を抑え込む。

翼とて、S.O.N.G.結成前の特異災害対策起動部二課の最古参だ。今までも多くの人の死を見届けた。

しかし、その何れもノイズのより炭化かアルカノイズによる赤い煙になるぐらいだ。唯一の例外(ノーブルレッド)もあるが翼にとって人が死ぬ光景は嫌でも慣れてきた。

それでも人が目の前で溶けていく姿に翼は久方ぶりに喉から酸っぱい物を感じた。

 

「ウオァッウオァッ、貴様はこの世界の風鳴翼か! 丁度いい、此処で死んでもらう!」

 

「くっ、化け物め!」

 

翼の存在に気付いたザンブロンゾが吠える様に言い、翼もアームドギアの剣を握り睨み合う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハア…ハア…」

「急いで、未来!」

 

同じ頃、別の出入り口で本部に戻った響と未来もまた通路を走っている。

その道中には何人もの黒服や職員が倒れており、響たちもまた指令室で現状を聞こうと急いでいた。

 

「ハア…? !? 響、アソコを見て!」

「え? …切歌ちゃん!」

 

急いで指令室に向かう中、未来が響の名を呼んで指を刺し、響もそれに反応して其処を見ると、倒れている暁切歌を見つけた。

二人は指令室に向かうのを一旦中止して倒れている切歌の下に行く。

 

「切歌ちゃん!?」

「…酷い!!」

 

切歌の様子が見える様になった所で響は奥歯を噛み締め手をギュッと握り、未来は口元を両手で抑えた。

見ただけでも分かる。切歌の顔は普段の人懐っこく可愛らしい顔が所々腫れ上がり痣まで出来ている。一目で何者かに殴られた事が伺える。

 

「一体誰が切歌ちゃんを…」

「しっかりして…え、何か言ってる?」

 

未来が切歌の体を抱き必死に呼びかける中、切歌の口がパクパクと開き何か言っている事に気付いた未来はソッと耳を近付ける。

 

「ひ…びき…さん…どうして…お願…い…止めて…」

「?」

 

切歌の口から響の名が出たが未来にはチンプンカンプンだった。

これではまるで、響が切歌を殴ったみたいだと思い、その事を響に話すべきか迷う。

 

「ウオァッウオァッ! 死に損ないの小娘の始末しようと来てみれば…」

「この世界の立花響を見つけるとはな」

 

「「!?」」

 

突如、不気味な鳴き声と声に二人が通路の先の方を見る。

其処には体中に鱗の様な物があり、頭部からは二本の触覚らしき物、口元には鋭い牙、そして二体の腹部には響の記憶にもあるあのベルトがあった。

 

「そのベルト…ショッカーの!?」

 

「そうだとも、俺たちは偉大なるショッカーの改造人間…」

「ザンブロンゾだぁ!!」

 

響たちの前に二体のザンブロンゾが現れる。

この二体もショッカー響が持ってきた化石から怪人となりS.O.N.G.の職員或いは関係者の抹殺に用いられていた。

二体は同じ肝心のザンブロンゾだが、片方の身長は2mぐらいまでなっている。

 

「何で…此処にショッカーが…」

「…そんなのはどうでもいい、切歌ちゃんをこんな目に合わせたのはアンタたち?」

 

未来は突然S.O.N.G.本部に現れたショッカーに驚くが、響は静かながらも響くような声で聞く。

 

「そうでもあり違うとも言える」

「だがお前たちが知る必要はない! その小娘もろとも地獄に送ってやる!」

 

響の質問も明確に答えず二人に迫る。

尤も、響にとってはその解答だけで十分と言えた。響が胸元のペンダントを握ると未来も一緒に握る。

 

「Balwisyall nescell gungnir tron」

「Rei shen shou jing rei zizzl」

 

二人の口から起動聖詠が流れると同時に響はオレンジと白を主体としたシンフォギアを、未来は紫と白のシンフォギアを纏う。

 

「立花響だけでなく、小日向未来までもシンフォギア装者になってるだと!?」

「落ち着け、どっちにせよ立花響と関係を持つものは皆殺しだ!」

 

未来がシンフォギアを纏った事に驚愕もするが、関係ないとばかりにもう一体が言い戦闘が始まる。

怒りに燃える響に未来は若干心配しながらも響のフォローに入る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ん? どうやらシンフォギア装者が戻ったようだな」

 

指令室に侵入したショッカー響は放ったザンブロンゾたちからシンフォギア装者と接触した情報を受け取っていた。

この世界のシンフォギア装者の力がどの程度かは分からないが、ザンブロンゾたちもまたより強化されている。簡単に負けるとも思えないショッカー響。

その時、鈍い音が響き視線を向けると

 

「グフッ!?」

 

「どうした? 風鳴源十郎、反撃せんのか?」

 

ザンブロンゾがそう言うと源十郎の腹に一撃を入れ鈍い音が響く。さっきの音もこれが原因だった。

現在、指令室では肩を負傷した源十郎にザンブロンゾの一体が何度も蹴りやパンチを食らわせている。

簡単に言うなら源十郎はザンブロンゾのサンドバックになっていたのだ。

 

「いいぞ、やっちまえぇぇ!!」

 

「…酷い」

 

負傷した緒川を拘束兼吸血しているザンブロンゾからの歓声が飛び、逆に見る事しか出来ないS.O.N.G.職員は目を背けたり「酷い」と呟いてしまう。

尤も、そんな職員の声を聞いても源十郎を殴ているザンブロンゾは気にもしない。

 

「さあ、立て! この程度で俺たちが受けた屈辱が晴らせると思うな!」

 

「屈…辱…だと…?」

 

何度もザンブロンゾに殴られた頬は晴れ唇が切れて出血もしている源十郎はザンブロンゾの言葉にオウム返しする。

少なくとも源十郎は目の前の怪人、ザンブロンゾとは縁もゆかり筈だった。

 

「貴様は知らんだろうが、元居た世界では貴様が邪魔した所為で俺は雪音クリスの抹殺に失敗したのだ! その罪、償ってもらうぞっ!!」

 

ザンブロンゾは嘗て、雪音クリス及び風鳴源十郎をあと一歩まで追い詰め、逆転された事を忘れたことはなかった。

例え、再生怪人として蘇ろうとチャンスがあればこの恨みを晴らしたくて仕方ない程に。それが並行世界の別人だろうと、

 

「そんな、それじゃ自業自得だ!」

「ただの八つ当たりじゃない!」

 

聞いていた職員の内、オペレーターの藤尭朔也と友里あおいが声を荒げる。

ザンブロンゾのやり方は完全な八つ当たりだと反論するが言われたザンブロンゾにどうでも良かった。

 

「八つ当たり上等! どっちにせよショッカーに逆らう者は地上より抹殺するだけだ! だから、それまでの間…楽しませろや!!」

 

「グワアアアアッ!!??」

 

そう言い放ちザンブロンゾは源十郎の撃たれた肩部分を踏みつけ、源十郎も思わず悲鳴を上げる。

響に撃たれた後、碌に治療もしていない肩からは出血も激しく鋭い痛みが源十郎を襲う。

 

「指令っ!!」

 

その光景に職員の一人が指令と叫ぶ。

職員にとって風鳴源十郎は司令官としても人としても特別と言えた。自ら陣頭指揮をとり人類の敵、ノイズと戦いシンフォギア装者である少女たちとノイズを打ち破り、それどころか世界の危機になる度、共に戦い世界を守ってきた。

それはギャラルホルンが起動し並行世界に繋がっても変わらなかった。

そんな人間がザンブロンゾに一方的に嬲られてる事が信じられなかったのだ。

 

「あまり遊びすぎるな、ザンブロンゾ。 前はそうやって煮え湯を飲まされたのを忘れるな」

「チっ、了解!」

 

源十郎を嬲り続けるザンブロンゾに注意する者がいた。

指令の席で座っているショッカー響だ。調は近くの床に無造作に荷物のように置かれている。

舌打ちをするザンブロンゾだが、文句も言わずに返事すると源十郎の頭を踏む。少しずつ足に力を入れ源十郎の頭を踏み潰す気だ。

 

頭に強烈な圧力を感じる源十郎。だがそれよりも気になることがあった。

 

「ま…待ってくれ、君は一体…何故…響くんと同じ姿を…」

 

「ウオァッウオァッ、もう直ぐ死ぬ奴が何を言ってるんだ? …!」

 

今まさに風前の灯火と言える源十郎。

にも拘わらず妙な質問に疑問を感じるザンブロンゾだが、源十郎の目を見て気付いた。

源十郎の目には自分は映らず、ショッカー響に向かっていたのだ。

 

「同じ姿? 当然だ、私は立花響だからな(少なくともDNAレベルは)」

 

「馬鹿な! 響くんがショッカーの手に落ちたと言うのか!?」

 

「手に落ちた? 勘違いして貰っては困るな、私は生まれた時からショッカーの一員だ」

 

指令の席に座っているショッカー響は源十郎に適当な相槌のように自分を語る。

困った事にショッカー響の言葉にはほぼ嘘がないことだ。…真実も言ってはいないのだが…

 

「生まれた時から!?」

「じゃあ、カルマノイズとジャガーマンの戦いの時は…全部芝居だったのか!?」

 

「?」

 

友里あおいと藤尭朔也の言葉に指令室の空気は一変する。

向こうの世界での二人目の響が味方かと思っていたが、敵の可能性が出てきたのだ。

そんな空気が変わった指令室だが、ショッカー響は気付かなかったが、

 

「質問は終わりか? ならとっとと死ねぇ!!」

 

「ぐわっ!?」

 

源十郎たちとの問答に飽きたザンブロンゾは源十郎の頭を踏む足の力を強め一気に潰そうとした。

途端、指令室の扉が轟音と共に破壊され何かが中に飛び込んできた。

 

「「「「「!?」」」」」

 

「…ほう」

「なんだと!?」

「馬鹿な!」

 

ショッカー響が感心したような声に対しザンブロンゾは二体とも驚愕の声を出した。

指令室に入った物はザンブロンゾだ。それも、ショッカー響がS.O.N.G.職員の皆殺しを命じた一体。

それが、体中ボコボコに凹まされ鱗も殆どがひび割れている。

倒れたザンブロンゾの体はやがて消えていき石の様なものが残った。

 

「一体誰が!」

「決まっている、シンフォギア装者だろ。 なあ…」

 

狼狽えるザンブロンゾの言葉にショッカー響がそう返すとぶち破られた指令室の扉の方を見る。

其処には、肩で息を切らしの響がシンフォギアの姿でいた。

 

「師匠、、みんなぁ助けに来ましたっ!!」

 

響の声が指令室に響く。

先程までの空気とは打って変わり緊張感がだいぶ軟らんだ。

 

「貴様ッ!!」

「この世界の立花響かっ!」

 

反対に仲間を倒された二体のザンブロンゾからは怨嗟の混じった怒号が響く。

ショッカーの裏切り者であり宿敵とも言える相手と瓜二つの姿故か、

 

「予定より少し早いが…まぁいい。 相手をしてやれ」

 

そんな中、響の姿を見ても薄ら笑いを浮かべているショッカー響は二体のザンブロンゾに命令を下す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

切歌ちゃんは未来が医務室に連れて行った

後は、わたしがこいつ等を倒すだけだ。 …でも

何で私の姿をしていて、そのベルトをしているの?

 

「余所見とは余裕だな、立花響ッ!!」

「死んで貰うぞッ!」

 

三葉虫の怪物…いや怪人、ザンブロンゾの一体が私に迫りもう一体が援護しようと体の鱗を剥ぎ取って手裏剣のように投げてくる!

やっぱり、緒川さんに比べると精度も早さも劣る。だけど、もう一体のザンブロンゾの接近戦がそれをカバーしている

 

「死ねやぁぁぁ!!」

 

接近戦を挑んでくるザンブロンゾの拳を避けつつ後方支援している奴の鱗を叩き落してカウンターも決める

態勢を崩しかけるが、直ぐにコッチに襲い掛かってくる

ノイズなら、あの一撃で倒せるのに!

こうなったら、さっきの個体を倒したように連続で殴るしかない!

 

「オラオラオラオラーッ!!」

 

「なっ! なにっ!!」

 

私の拳を繰り出す内に幾つものパンチがザンブロンゾに命中して悲鳴を上げている。よし! アダムさんほど固くない

 

「ええい、何をしている!?」

 

仲間を殴られ続けて焦った後方支援していたザンブロンゾが私に向かって鱗を投げつけてきた

…今がチャンス!

ガングニールの引っ張っていた部分が一気に元に戻ると同時に、

 

「カミナリを握りつぶすようにッ!」

 

何だか懐かしい言葉が私の口から出ると背中のブースターが一気に加速し私の拳はザンブロンゾに撃ち込まれたまま移動する

目標は後方支援していたもう一体のザンブロンゾだ!

 

「いけぇぇぇぇぇぇ!!!!」

 

「ば…馬鹿なッ!!!」

 

私は一気に連打していた拳に力を入れ殴ったザンブロンゾを弾丸の様に殴り飛ばし後方に居たザンブロンゾを巻き込む

巻き込まれたザンブロンゾは勢いを殺せず共に吹き飛び壁に叩きつけられ倒れた

立ち上がるかと警戒する私だけど、ザンブロンゾの体が消えた事で倒したと判断した

 

「ザンブロンゾ程度ではこれが限界か、良いデータを得たよ」

 

わたしと同じ姿、声の少女がそう言い放つと同時に師匠の席から立ち上がった

…来る!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ザンブロンゾが倒され負傷していた源十郎と緒川が離れた場所にまで運ばれ手当てを受ける、職員たちの間には安堵の空気を感じる。

尤も、その空気も直ぐに吹き飛ばされてしまう。

指令室で響とショッカー響が相対して互いの拳がぶつかり合う。

遠目どころか近くてもどっちが味方の響か分からない程のソックリ具合。唯一、ショッカーのベルトだけが響を見分ける手段だった。

打ち合う互いの拳から火花が出る。

 

「どうして、ショッカーに味方するの!? アナタも立花響なら分かるでしょ!!」

 

「だから如何した? 誰の為に戦おうと私の勝手な筈だ」

 

響の説得にもショッカー響には届かない。元よりショッカー響の思考は元の響とは比べられない程の邪悪だ。恐らくは自分勝手なナルシストすら呆れる程に、

しかし、その事実を知らない響は説得を続ける。

 

「そんなのダメだよ! その手は皆と手を繋ぐ為に…」

 

「繋ぐ? 必要ない。 ショッカーは選ばれし民、ただの人間とは格が違う」

 

響は目の前の自分ソックリな少女の言葉が信じられなかった。

その言葉には他者を何処までも見下してる事がハッキリ分かる。

下手をすれば今まで戦ってきた敵より傲慢かも知れない。

 

「だとしてもっ! …グッ!」

 

「お前との問答も本気を出せん戦いも飽きた。 此処で死ぬといい」

 

ショッカーが誰に選ばれたなど響は知らない。それでも言葉を続けようとした時、ショッカー響の左腕が響の喉元を握られ持ち上げられる。

喉への圧迫感や痛みが響を襲う。

 

「響くん!?」

 

部下の職員から手当てを受けている源十郎の声が響く。

喉の圧迫感の所為でフォニックゲインを生み出す歌もこれでは。

響は苦しそうにショッカー響の腕を外そうとするがビクともしない。

 

「このままお前の首を圧し折って殺すのは簡単だ。 だがそれでは面白みがない、そうだろう?」

 

この時、苦しむ響の目はショッカー響の顔をハッキリ見ていた。

自分と同じとは思えない邪悪な笑みを。

ショッカー響は、空いている右腕を見守ってるS.O.N.G.職員たちに向ける。

何をするのか?響も職員たちも誰も分からなかったが直ぐに答えが出た。

銃声と共にショッカー響の右腕から煙が出ると共に何人もの職員が倒れていく。

そして、その中には、

 

「藤尭さん、しっかりっ!!」

「い…いやああああああああああ!!」

「藤尭…」

 

友里あおいを守ろうとして咄嗟に盾になった藤尭朔也が胸から血を流し倒れていく。

その光景を目にして、呆然と藤尭と呼ぶ源十郎。

 

「あ…ああ…」

 

呆然としてるのは源十郎だけではない。響もまた藤尭朔也が撃たれたのを目撃したのだ。

自分と同じ顔をした少女は何の躊躇いもなく人を殺したのだ。

 

「ほう、仲間を守ったか。 下等な人間にしてはよくやる」

 

「どうして…どうやって…」

 

「ん? さっきの攻撃か、私のガントレットには仕掛けがあってな…ショッカーがガングニールをそのまま運用すると思ってるのか?」

 

そう言ってショッカー響は右腕を見せつける。

右腕のガングニールのガントレットには響も見たことがない物が取り付けられている。

 

ショッカーはオリジナルである立花響のガングニールを超える為、様々な兵器実験を行っている。

指から弾丸やミサイルが撃てる者からガングニールのガントレットを改造し従来の響が使うガントレットから弾丸を撃ち込む者まで、

緒川と源十郎もこれに撃たれた。

 

「どうして…こんな事を…」

 

「お前に現実を見せる為だ、お前たち如きが我らショッカーに本気で勝てると思ったか? 身の程をわきまえろ、お前は何一つ守る事など出来ん!」

 

「!」

 

この時にようやく響も悟った。

目の前の自分ソックリな少女は嘗てのアダム以上に人でなしだと。

しかし気付いた時には遅く、必死に手を振り解こうにも響自身信じられない程の力で首を掴まれている。

このまま本当に首を圧し折られるかと思った時、

 

「させるかよっ!」

 

「!?」

 

女性の声と何かを切り付ける音がした直後に響は床に尻もちをつく。

 

「ゴホッ!ゴホッ! …!?」

 

やっとまともに呼吸が出来た響は咳き込み何が起こったのか状況を確認しようと目を開けた。

其処には左腕部分を抑えているソックリさんと自分の目の前に落ちている左手、そしてすぐ近くには赤い髪をなびかせ自分と同じシンフォギアを纏った女性。

 

「か…奏さん!」

「よう、助けに来たよ響」

 

自分と同じガングニールのシンフォギアを纏った天羽奏が槍を持っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 




ショッカー響の襲撃で本部もとんでもない被害が出ています。特に人的被害が…

持ち込まれたザンブロンゾはそこまで強くありません。
頑張れば一人でも倒せます。手裏剣のように飛ばす鱗と口から吐き出す赤い液体に注意ですが、
源十郎がザンブロンゾのサンドバックになっていたのは動くと月読調を殺すと脅された為です。

響は響で場所が本部だったので全力を出せませんでした。場所が違えばもう少し善戦したかも。

響とショッカー響の会話は、「LOST SONG編」の冒頭の響とグレ響とのやり取りのオマージュです。

グレ響と違いショッカー響は完全な悪ですが…

響のピンチに並行世界から天羽奏が助っ人に。


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100話 助っ人

先日、奥の方の親知らずが疼くので歯医者に行きました。
過去にも二本程、抜いていて楽勝かと思ってたがその歯は横向きだった…

……道路工事される地面の気持ちがよくわかった(泣

冬にやるんじゃなかった…


 

 

 

 

天羽奏が指令室に来る少し前、

 

元倉庫にて、マリアとショッカー響が移動した後ギャラルホルンが再び光と誰かが出てきた。

 

「ふぅ、偶にはアタシが定期報告に来ても良いだろう…なっ!」

 

そう言ってグッと背伸びをした女性こそ天羽奏その人であった。

本来、天羽奏は既に亡くなっているが並行世界の一つには。奏が生き延びた世界があり、翼や響と交流を持っていたのだ。

今回、奏が来たのは定時報告の為だ。

 

「翼の奴、アタシがいきなり来たと知ればビックリするだろうな。 ぷっ!」

 

奏はまるでいたずらを考えた子供のように吹き出す。

天羽奏の生きてる世界では翼が逆に亡くなっている。

だからこそ、この世界の翼をよくからかってもいるのだが。

奏が指令室に行こうと足を進めようとした。

 

丁度、その時ギャラルホルンが再び起動する。

 

「何だ?」

 

突然の事に振り替える奏。

一瞬、ギャラルホルンが暴走したかと思ったがギャラルホルンが開いたゲートを見て何となくだが納得した。

自分と同じタイミングでギャラルホルンを使ったシンフォギア装者が居たことを。

 

「何だってオレが連絡係をやらなきゃいけねえんだ? 行くんだったらクリスも来てくれりゃ良かったのに…ん?」

 

そのゲートからは短めな青い髪をし、内側が青く外側が白いマントを羽織った少女が出てくる。

そして、その少女は天羽奏の存在に気付いた。

 

「オレ以外にも来てたのか」

「よう、久しぶりだな」

 

自分以外に先客が居たことに気付く少女に奏は気さくに話しかける。

違う世界のシンフォギア装者とはいえ、何度か顔を合わせており一度並行世界の大事件の時は共に戦ってもいた。

 

「アンタか、もしかして定時連絡か」

「そんなとこさ、それでどうだい? そっちは?」

「特に問題はないな…」

 

滅多に合わないシンフォギア装者同士、色々会話をする。

 

「なあ、ちょっとおかしくねえか?」

「…ああ、これだけ時間が経っても誰も来ないなんてな…」

 

会話も進んだが、二人は違和感を感じていた。

奏はギャラルホルンが起動すればS・O・N・Gの誰かが気付き誰かが迎えに来る。或いはシンフォギアの反応で誰が来たか分かり通信する筈。

少女は単純にS・O・N・G本部の空気の悪さに気付いた。

 

試しに二人がギャラルホルンを安置している元倉庫から出てみた。

 

「「!?」」

 

そして、二人は気付いた通路からはむせ返る程の血の匂い。その原因と思える壁や床には飛び散っている血液。

事故か何かが起こっている、詳しい事は分からないが二人は行動する事にする。

 

「アタシが指令室に行くっ!」

「ならオレは、無事な職員を見つけて事情を聞いてみる」

 

奏の提案に少女は頷き二人は反対方向に進む。

こうして、奏は指令室に来たのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時間は戻り、指令室にはアームドギアであるガングニールの槍を構える奏がショッカー響を睨む。

ショッカー響も切り落とされた腕を抑えて奏を見ている。

 

━━━天羽奏だと!? 馬鹿な、この世界でも死んでいるのでは無かったのか! 死を偽装?それとも並行世界の人間か? それよりも腕の再生が遅い!私に取り付けられた模範されたネフシュタンの鎧のデータでは、腕の再生も出来んか… まあいい、どっちにせよ邪魔者は殺せばいいだけの話だ

 

天羽奏が何故生きてるのかは分からない、腕の再生も今一だが邪魔をするならば殺すと睨みつけるショッカー響。

 

「奏さん、ありがとうございます!」

「らしくないな、油断でもしたか?」

 

一方、響の方は自分を助けた奏に礼を言い、奏も警戒しつつも響の言葉に答える。

奏の問いに響は目を伏せてしまう。

 

「あの子は…ワタシと同じだと「違うな」おも…!」

 

響が目の前のショッカー響を自分と同じ人間だと言おうとした時、奏はハッキリと否定する。

奏の否定に響が疑問に思うと、

 

「アタシが切った腕をよく見てみな」

「? …!」

 

言われた通りに奏が切り落とした腕に視線を向ける響。

最初はただの腕だと思っていたが、傷口から火花が上がっている事に気付いた。

人間じゃない。少なくとも腕は機械化されているようだ。

 

「うそっ… まさかミーナさんみたいに…」

「或いは響ソックリのロボットか自動人形って事だろ! 正体を現しな!!」

 

腕の中の機械を見て嘗ての戦友を思い出す響に正体見破ったりと言った奏が槍を向ける。

 

「ロボット?自動人形? そんな低俗な物と一緒にするな、私はショッカーの改造人間だ」

 

「ショッカー?」

「改造人間…アナタが…」

 

ショッカー響の言葉に聞いたことない組織名に戸惑う奏に目の前のソックリな少女が改造人間だと知る響。

そんな二人を見て薄ら笑いを浮かべるショッカー響。

 

「それ以上、貴様らが知る必要なない。 死ねぇ!」

 

切り落とされた腕を抑えていたショッカー響は戸惑う二人に向け駆け出し手刀を放つ。

指令室での第二戦が開始されたのだ。

 

奏も加わって響もショッカー響との戦いが楽になるかと思われた。

が、蓋を開けてみれば響どころか奏すら苦戦を強いられている。

 

響の拳を受け止めると同時にショッカー響は足技で奏の槍を防御し、時に反撃する。

 

「なっ!? それは翼の…」

 

今も、ショッカー響は片手で逆立ちして両脚を回転させ響と奏の攻撃を防ぎ、逆に二人の頬に切り傷をつける。

それでも態勢を立て直す響と奏。

 

 

 

 

 

 

「今のは翼の!」

 

一方、響たちの戦闘からなるべく離れた場所で戦闘を見守る源十郎や職員たち。

更にもう少し離れた場所ではショッカー響に撃たれた職員たちの手当てをしている者たちも居る。

友里あおいもその一人だ。

 

「指令、勝てますよね? 響ちゃんも奏さんも居るなら勝てますよね!」

「向こうは一人に対してこっちは響ちゃんと奏さんの二人だ。 きっと勝てるよ!」

 

同じく響たちの様子を見守っていた女性の職員が源十郎に聞くと、他に控えていた別の男性職員が勝てると断言している。

当然だ、響も奏も今まで多くの敵や組織を倒してきた精鋭だ。きっと今回の敵も何とかしてくれる。

 

「…いや…ハッキリ言って不利と言っていい」

「「!?」」

 

だからこそ源十郎の諦めにも似た言葉に驚愕した。

響も奏も共に並行世界の最大の敵である「ウロボロス」を倒し並行世界を救った英雄だ。

そんな二人でも源十郎はハッキリと不利だと言ったのだ。

 

「見ろ、一見奏くんと響くんが有利に見えるが片手だけで響くんの拳を逸らして奏くんの動きを阻害している。反対に奏くんの槍もそうだ」

「た…確かに…」

 

一見二人の連携をしてる動きに見えるが、ショッカー響の片腕だけで響の拳の軌道をズラし奏の動きを制限して奏の攻撃も同様に響の動きを抑制している。

 

「奴は…改造人間と名乗った少女は完全に二人の動きを読んでいる。 何よりあの少女の戦い方は完全に対人だ」

 

基本的にシンフォギア装者の敵はノイズであり、本来人間同士ではない。

だからこそ偶に錬金術師や人型ロボット、或いは大型ロボットに未知の兵器との戦闘に戸惑う事もあるにはある。

それでも、響や奏の基本的な戦い方は対ノイズ戦に近い。

 

反面、ショッカー響の相手は特異災害対策起動部二課のシンフォギア装者だ。

その為にショッカー響には対人格闘術や殺人術がインプットされ、さながら殺人マシーンと言える。

現に二人で攻めてる筈の響と奏は勝手の違うショッカー響の戦いに大苦戦している。

 

「こ…こいつ…」

「強い…」

 

それは戦っている奏と響も実感していた。

ノイズとは別次元の強さに自分そっくり、或いは共に戦った仲間と瓜二つな顔は奏でも一瞬躊躇う。

だがそれだけでも無かった。

 

「何よりあの二人は本気を出せていない。 …いや出せないと言った方がいいか」

 

源十郎は分かっていた。

二人が本気を出せないことを。

 

理由はいくつか考えられるが最大の要因は此処が指令室という事だ。

奏も響もシンフォギアを最大出力にすれば大規模な攻撃力を得られるが、その分周りの被害も大きくなる。

此処はS・O・N・G本部の司令部だ。周りには重要な機材が多数に逃げ送れた職員も多数いる。

 

反面、ショッカーにとって此処は敵地だ。

いくら被害が出ようが、何人の死者が出ようがショッカーには痛くもかゆくもない。

二人は実力を発揮出来ぬままショッカー響と戦い続ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、指令室から離れた通路では青い長髪の女性…風鳴翼がザンブロンゾの投げた鱗の手裏剣を叩き落す。

しかし、その中の一本が翼の顔付近を通過すると翼の頬に一筋の傷が出来、血が零れる。

 

「ウオァッウオァッ! よくやったと褒めてやるが、そんな状態で何時まで戦えるかな?」

 

「ハア…ハア…貴様…」

 

翼の様子にザンブロンゾが笑い混じりの鳴き声を上げ、何処までも翼を馬鹿にするように言う。

反面、翼は床に剣を突き立て肩で息をする。

その体にはザンブロンゾに付けられた無数の傷が痛々しく見える。

反対にザンブロンゾの体には傷一つない、剥がした鱗も即座に再生してしまう。

翼はザンブロンゾに対して碌に反撃が出来なかった。その理由は…

 

「どうした? 反撃せんのか? 最も反撃すればこの娘の命はないがな」

 

「つ…つばさしゃ~んっ!!」

 

挑発する言葉を吐くザンブロンゾだが、その横から女性の声が聞こえる。

良く見れば、ザンブロンゾの脇付近にS・O・N・Gの女性職員を抱えていたのだ。

 

彼女は運悪く避難してる最中に翼とザンブロンゾが対峙してる所に出てしまい、これ幸いとザンブロンゾに人質にされてしまったのだ。

 

それからは、一方的にザンブロンゾが翼に攻撃し、辛うじて翼が防御していたがそれも限界に来ている。

反撃をしようにも、切りかかればザンブロンゾは何の躊躇いも無く女性職員を殺すか盾にするだろうと翼も予想する。

 

「人質など…恥ずかし気もなく!」

 

「恥ずかしい?殺し合いに綺麗も汚いもあるか!? 我々はショッカー!人呼んで悪魔の軍団よ!」

 

翼の言葉に悪びれもしないザンブロンゾ。

ザンブロンゾの捕らえている人質を見て奥歯を噛み締める翼。

 

翼は嘗て、化け物になった(ノーブルレッド)少女との戦いを思い出す。

自らを「弱く不完全」と言いきった少女は、翼の前にライブに来ていた少女を盾にし目の前で殺した。

それを思い出すと今でも腸が煮えくり返しそうだった。

またあの時の事を繰り返したくない翼は黙ってザンブロンゾを睨みつける。

 

「どうだ? 人間如きが我らに逆らうからこうなるのだ。 お前を始末した後はこの娘も殺す! S・O・N・Gに関係する者は皆殺しだ!!」

 

 

 

 

 

「へ~ならオレも殺すのかい?」

 

 

「「!?」」

 

 

 

 

 

ザンブロンゾの宣言後に少女の声にザンブロンゾどころか翼すら驚く。その声が翼と瓜二つだった事に翼が何か仕掛けるかと身構えるザンブロンゾだが、

 

「オラァッ!!」

 

「うぎゃあああああああっ!!」

 

次の瞬間、声と共にザンブロンゾは背中を切り付けられた痛みを感じ人質にしていた女性職員を手放してしまう。

 

「早く逃げろっ!」

「は、はい!!」

 

その隙を見逃さなかった翼は素早く動き、ザンブロンゾと距離のある通路に行くと女性職員に逃げろと言い、女性職員も急いでこの場を離れる。

そして、視線をザンブロンゾの方に戻した時、声の主が誰だかわかった。

 

「堂々と人質とは、汚ねえ奴だな」

 

「き…貴様、何者だっ!! よくも俺の邪魔をしてくれたな!!」

 

サーフボードを片手に白いマントの少女がザンブロンゾに汚いと言い、ザンブロンゾも作戦の邪魔をされご立腹だ。直ぐにでも襲いかねない迫力ある。

尤も、翼にはその少女に見覚えがある。

 

「なっ!? お前は…」

「よう、オレッ! 何か面倒な事が起きてるな。 取り敢えずコイツをぶっ倒すぞ!」

 

少女の正体は並行世界の風鳴翼だった。

以前、とある事件で並行世界に渡った際、激突し共闘した並行世界の自分。

そのもう一人の風鳴翼が偶々来ていたのだ。

 

「オレ? ま、まさか並行世界の風鳴翼だと言うのか!?」

 

「そういうこった、テメーのような悪党はオレがたたっ切ってやるぜ!」

「もはや憂いはない、防人の剣の切れ味を知れっ!!」

 

もう一人の風鳴翼の存在に狼狽するザンブロンゾ、反対にやる気に満ちたもう一人の風鳴翼と今まで好き勝手やってきた怒りに燃える防人の風鳴翼の二人が同時にザンブロンゾへと迫る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

━━━! ザンブロンゾの反応がまた消えた!? 不味い、連れてきた怪人は全滅した!

 

指令室にて奏と響の相手をしていたショッカー響が最後のザンブロンゾの反応が消えた事に驚く。

ザンブロンゾでは荷が重かったと判断すると同時に遊び過ぎた事に気付くショッカー響。

 

「今だっ!」

 

ショッカー響の僅かな隙を見つけた奏がアームドギアの槍で突っ込む。

しかし、奏の槍に手ごたえはなく目の前にいたショッカー響も消えている。

 

「奏さん、向こう!」

 

奏の一撃を叩き込もうとしていた場面を見ていた響が壁の方に指さす。

その方向には直立する壁に垂直で立っているショッカー響が居た。

 

「なっ!? 壁に立ってるだと!」

 

「このようなこと、ショッカーの技術の前では児戯にも等しい」

 

ショッカー響のブーツは何処でだろうと立てるようストッパーが付けられており、例え壁や天井だろうが自身の体を支える杭を打ち出している。

証拠にショッカー響の足元の壁にはヒビが入っている。

 

「さて、遊びもここまででいいだろう。 そろそろお前たちに死をくれてやる」

 

そういうと、ショッカー響は残った腕のギアが奏たちに向ける。

咄嗟に響の前に立って槍を前に突き出す奏。どうやら槍でショッカー響の弾丸を防ぐ気のようだ。

 

「はっ、お前の豆鉄砲でアタシのガングニールに通用するか試してみるかい!?」

 

「それもいいが先ずは…コイツからだ!」

 

「「!!」」

 

奏の挑発の混じった言葉に、対して興味のないショッカー響が腕を向けた先を見た響と奏は言葉を失った。

その先には気を失い此処まで運ばれた調が横たわっている。

 

「調ちゃん!!」

「お前、子供を殺す気かい!!」

 

響が調の名を叫び、奏が激高した声を出す。

尤も、奏の声を聞いても眉一つ動かさないショッカー響。

 

「最弱だろうと敵の数は減らすのが正しい。 寂しがる必要はない、お前たちも直ぐに逝く」

 

「止めてぇぇぇぇぇ!!!」

 

ショッカー響の冷酷な言葉に響が叫び後を上げると同時にショッカー響の腕から火が噴いた。

発射された無数の弾丸が意識を失っている月読調に殺到する。

その光景に響も奏もシンフォギアのブースターを使い調を助けに行こうとした。

 

「遅いっ!」

 

今から奏や響がブースターを使おうが間に合わない。

現にあと一歩というところで響と奏の目前で調に弾丸が降り注ぐ。

 

━━━先ずは一匹、そう言えば倒れた暁切歌の始末に向かったザンブロンゾたちは成功したか? まぁいいだろう、一人二人消していけば小娘どもも尻込みして我らを恐れよう。 …? 妙だな、血の匂いがしない…肉片は飛んでいる…違う!

 

「木片だと!?」

 

調に炸裂し肉片が飛んでいたと思っていたショッカー響だが、それがただの木片である事に気付く。

 

「…ちょっとギリギリでしたね」

「緒川さん!?」

「緒川!?」

 

響たちの背後から聞き覚えのある声がして振り向くと、響と源十郎がその人物の名を呼んだ。

其処には倒れ介抱されている筈の緒川慎次とお暇様抱っこしている月読調の姿がある。

 

「馬鹿なっ!? 四肢を撃ち抜かれた筈だぞ!」

 

「ええ、ですから動くのは最小限にしてたんですけどね。 …お陰で調さんを助けるのに間に合いました」

 

ショッカー響の言葉に、緒川はそう返す。

尤も、両肩と両膝モモからは出血をし、額に脂汗を流しているが、

 

━━━欲を出し過ぎた! 出会い頭に四肢ではなく、頭を撃ち抜くべきだったか!

 

指令室に侵入した時、ショッカー響は緒川と源十郎を殺すチャンスがあった。

だが、ショッカーの優れた人間を欲しがる欲求まで刷り込まれていたので、捕獲を優先し四肢や肩を撃ち抜くだけに留めてしまったのだ。

 

自身の失態を悟ったショッカー響は奥歯を噛み締める。

保護された調も奥の方に運び込まれ追撃するにも奏と響が邪魔をしている。

 

「これで状況は逆転したなっ!」

「アナタのような人は許さない!!」

 

調が無事と分かった奏と響は改めてショッカー響を睨みつけ奏は槍を、響は拳を振るわせる。

その姿に舌打ちをしたショッカー響だが、

 

「通信? …そうか」

 

一つの通信が入ると、口元の端を吊り上げ片腕のギアを少し動かした後に、腕先を奏たちに向ける。

そして、ガングニールに付いているガントレットから火が噴くと、発射された弾丸が奏と響に迫ってくる。

 

「そんなものがっ!!」

 

直後に奏が響の前に立って、アームドギアの槍を回転させ弾丸を弾いてく。

尤も、弾かれた弾丸は四方八方に飛び、モニターや天井、オペレーター席のコンピューターにも命中してしまうが幸い、これによるケガ人は出ていない。

 

そうして、数秒もせずにショッカー響の弾丸は止まり、奏も回転させていた槍を止める。

 

「どうした? そんなへっぽこ弾でアタシたちを倒すつもりかい? ノイズの攻撃の方がまだ威力があるよ!」

 

「…へっぽこ弾かどうかは、お前の槍を見て判断するんだな」

 

「何だって? それは「奏さん!?槍が…」…!?」

 

ショッカー響の言葉と響の驚愕する声に奏も槍を見る。

そして冷や汗を流した。

 

「アタシの槍が溶ける? …違う、腐食している!?」

 

奏の槍の刃や柄の部分がシュウウゥゥゥゥという音と共に煙を上げボロボロと崩れていく。

その槍の様子に響は嘗てのライブ会場を思い出す。余力のない奏が絶唱を放ち命を落とす直前にも槍は形を保てる崩れる様子を。

 

「ショッカーが開発した「korrosion(コローンジョン)弾」 その弾丸はあらゆる金属を数秒で腐食させる。例え、それが聖遺物だろうと」

 

ショッカー響の言葉に奏は舌打ち、響は呆然とする。

その言葉が正しければ、その弾丸はアームドギアの弱点にもなる。人類の文明には金属は必要不可欠、それは聖遺物も例外ではない。

 

「さて、そろそろお暇させて貰おう。 最低限の任務はもう果たした」

 

そう言い終えると壁に張り付いていたショッカー響は床へと着地し、出入り口に向かう。

 

「待ちなっ!」

「逃がさないっ!」

 

「私に構っている暇はあるのか?」

 

そんなショッカー響の前に奏と響が立ち塞がるが、ショッカー響は余裕の表情でそう言い切る。

言葉の意味が今一飲み込めない二人は頭に?が浮かびあがる。だが、直後に指令室のモニターが爆発を起こす。

 

「きゃあああああっ!!」

「天井が落ちてくるぞっ!!」

 

職員たちの悲鳴に二人が改めて指令室の中を見る。

モニターだけでなく各所に火の手が上がり、天井も崩れ床に至っては海水が染み込んでくる。

 

「どうしてこんな…」

 

響には信じられなかった。数々の任務で移動できる潜水艦の本部が此処までのダメージを受けるなんて…何より皆との思い出もある響の大事な場所でもあるのだ。

 

「忘れたか? 天羽奏が私の放った弾丸を槍で散らした事を。 あの弾丸は全てkorrosion弾だ」

 

「…!」

 

ショッカー響の言葉を聞いて全てを悟った奏。

あの時、奏はショッカー響の弾丸を防いでいたが、ショッカー響の本当の目的は奏を利用して弾丸をまき散らす事だった。

各所にkorrosion弾が命中した司令部は最早、役には立たない。

 

その時、源十郎たちの真上に巨大が瓦礫が落ちてくる事に気付く。

 

「旦那っ!」「師匠っ!」

 

指令達は職員を救うためにショッカー響を素通りして源十郎の下へ行く。

それを横目で見て薄ら笑いを浮かべ指令室を後にするショッカー響。

 

 

 

 

 

突然の爆発、崩壊していく指令室に蹲って叫ぶしかない職員たち。

その頭上の天井も崩壊して幾つもの瓦礫が落下する様子もまるで他人事に思える職員。

 

「危ないっ!」

 

黄色い光のような物が通り過ぎると共に瓦礫は木っ端みじんとなり小さい小粒の石が目の前に落ちる。

他にも黄色い光と赤っぽい光が落ちてくる瓦礫を粉砕し、その光は源十郎の下まで辿り着く。

 

「ハァー! ん?お前たちもこっちに来たのか?」

 

丁度、瓦礫の一つを震脚で吹き飛ばした源十郎。指令室に更にダメージがいった。

 

「だ…旦那は平気そうだな…」

「アハハ…」

 

咄嗟の事で忘れていたが源十郎は下手な装者を遥かに超える程強い。

多分、自分たちが行かなくても源十郎が解決しただろうなと考える二人。

 

「聞くんだ、二人とも。 この本部は放棄する、君たちは生き残った職員を救出しつつ偽物の響くんを追ってくれ」

「「はい!(よ!)」

 

源十郎は潜水艦である本部の放棄を決定する。

怪人に襲われ多数の殉職者を出し、ショッカー響が指令室で暴れ崩壊寸前。最早、本部としての機能すら危ういと感じていたのだ。

源十郎の言葉に返事をした二人は急いで出入り口に向かいショッカー響を追う。

 

それを見届けた源十郎は生き残った職員に避難指示を出し、何人ものケガ人を背負い、指令室を後にする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おいおい、どうなってんだよ此処?」

「この揺れ…まさか本部が沈んでるのか!?」

 

その頃、指令室の通路を急いでいた二人の翼も本部の異変を感じていていた。

幾つもの爆音が聞こえ、何処からか海水が流れて船体も徐々に傾いている。

 

「こりゃ急いだ方が…ん?誰か来るぞ」

 

平行世界の翼が自分たちの向かう先から誰かが来ている事に気付く。

それを聞いて、ホッとする翼。職員なら現状を教えてもらい仲間の装者なら協力することも出来ると判断してだ。

そして、もう間もなく翼たちの前に誰かが飛び出してくる。

 

「あれは…」

「立花か、丁度いい!」

 

腰のブースターを使い、本部の通路を進む響だった。

翼は響だと安心するが並行世界の翼は違和感を感じた。

 

「アイツ…あんなベルトしてたか? …!?」

 

違和感の正体は響がしている趣味の悪いベルト。並行世界で会った時はあんなベルトをしていないし、するような性格でもない。

何より、片方の腕が見えなかった。そう思った時、響から漂う殺気に気付いた。

 

「立花、指令室で何が「危ねえっ!」!?」

 

平行世界の翼が咄嗟に翼の腕を引っ張る。

直後、さっきまで翼の首付近の場所に幾つもの弾丸が通り過ぎ壁が粉々になる。

 

「チッ!」

 

翼を仕留めそこなったショッカー響は舌打ちして、呆然とする翼と平行世界の翼を横目で見て通路を去っていく。

暫しの沈黙の後に、翼はスイッチの入った玩具のように動き出す。

 

「た…立花がどうして…」

「さあな、情報が少なすぎる。 指令室にいるオッサンに聞いた方がいいかもな」

 

平行世界の翼の提案を聞いて頷くしかない翼。

その後、指令室へと向かい奏と響と鉢合わせして余計混乱するのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ギャラルホルンのデータを纏めました。 向こうの指令に渡してください」

「…ええ…分かったわ」

 

其処頃、エルフナインの居る研究室では向こうの特異災害対策起動部二課の指令に要請されたギャラルホルンの調べたり判明しておる情報の詰まったコンピューターチップをマリアへと渡している。

コンピューターチップをマリアに渡したエルフナインはグッと伸びをした。

直後、何処からか轟音が聞こえ少しずつだが床が傾いているのにエルフナインも気付く。

 

「な、何ですか?この揺れ!」

「…私が…見てくる…から…エルフナインは…此処に…いなさい…」

 

突然の事に慌てるエルフナインにマリアはそう言って部屋を後にする。

一人残されたエルフナインだが、聞こえる轟音に船体の軋む音や揺れに不安になってくる。

 

「…これからマリアさんたちはまた並行世界に行くんですから見送りしますか…」

 

一人がちょっとだけ寂しくなったエルフナインは適当な理由をつけ部屋を出る。

目的は、マリアが向かったと思われるギャラルホルンが安置されている元倉庫へと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…これが…記録…チップ…です…」

「ご苦労、ふむショッカーの技術でも十分解析できるチップだ」

 

マリアから渡されたコンピューターチップを軽く眺めるショッカー響。

場所は、ギャラルホルンが安置されている元倉庫で落ち合う。

最低限の任務を終えたショッカー響はこれで戻る事になる。出来ればこの世界の立花響や風鳴翼の抹殺も目論んでいたが、そちらは失敗に終わった。

 

━━━邪魔者の排除には失敗したが、このチップさえあれば十分だ。

 

シンフォギア装者の排除はあくまでもオマケのようなものだ。本命は地獄大使も欲しがるギャラルホルンのデータ。

それさえあれば、装者たちの抹殺失敗も許される。

チップをしまったショッカー響はギャラルホルンの方に向かいマリアもそれに続く。

 

「待てぇぇぇぇぇ!!!!」

 

倉庫の入り口が粉砕されると共に誰かが待ったの声を出す。

ショッカー響が振り向いた先には肩で息をする響と翼と並行世界の翼が居る。

 

「事情は立花から聞いた、よくも我らを謀ったな!」

「こうして見ると本当にそっくりだな、大人しくしてもらおか!」

「ハア…ハア…これだけ好きに暴れたんです、大人しくして下さい。 ってマリアさん!?何でマリアさんが…」

 

響が大人しくするよう要請するが、ショッカー響の横にマリアの姿を見つけて慌てふためく。

その後、響や翼も説得するがマリアの様子が如何にもおかしい事に気付きだす三人。

 

「マリアの様子がおかしい!」

「マリアさんに何をしたの!?」

 

「なに、ギラーコオロギの殺人音波で洗脳しただけよ」

 

翼と響の問いにアッサリ答えるショッカー響。

寝返ったと思われるよりは洗脳され無理やり働かされてる方がより戦い難いと思ったからだ。

 

「洗脳!?」

「殺人音波!?」

「…随分と大層な名前だな」

 

物騒な名前に思わず汗が浮かぶ並行世界の翼。だが、洗脳されてるのなら取り戻すことも出来ると判断して響たちは臨戦態勢を取る。

 

そのまま激突するかに見えたその時、

 

「ノイズだと!?」

「こんな時に!?」

 

響たちの前や通路上にノイズが何体も湧いてくる。

ギャラルホルンの影響でバビロニアの宝物庫に蓋をしようがこの世界に湧き出るノイズ。放置する訳にもいかない。

今回は、響たちの最悪のタイミングで現れた。

 

「ふん、こいつ等に任せて行くぞ」

「…はい」

 

「まっ…!」

 

此方に迫るノイズを撃ち抜いたショッカー響は、マリアにそういうと共にギャラルホルンが開けたゲートに潜る。

響が、マリアの名をと言おうとしたが、もう二人の姿は倉庫には無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




設定上、響と奏が本気を出せばショッカー響を倒せます。場所が悪い、場所が。
平行世界からアナザー翼も登場。

シンフォギアの素材って何だろうか?金属はあるとは思うんだけど…

新仮面ライダーSPIRTS、2巻からkorrosion《コローンジョン》弾が登場。金属で造られた聖遺物の天敵かも…でも、たぶん二度と出ないかも…漫画にも出てこないし。

好き勝手暴れたショッカー響も撤退。響たちは運悪く本部にノイズが出現。
これはショッカーが何かした訳ではなく偶然です。


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101話 操られたマリア ギラーコオロギを倒せっ!

予定より投下が遅れた。

本格的に親知らずを抜いて一週間ぐらい凹んでた+痛み止めを飲む程でもないズキズキした痛みで集中力が削がれていた。

麻酔を何本も打っても顎の骨にダイレクトにくる衝撃はどうしようもないうえに歯を砕く音に恐怖。
全身麻酔して治療する人の気持ちがわかった…


 

 

 

「ほらよっ!」

 

クリスがライフル銃の銃身で男の鳩尾に一撃入れる。

一撃を受けた男はゆっくりとだが地面に座り込んで一息入れた。

 

「ふぅ~、これで何人目だよ」

 

その様子を確認した後にクリスは愚痴を零した。

マリアや主犯と思われる怪人を探しつつ赤いツメをした人間を次々とぶん殴っては拘束しての繰り返しだったのだ。

何人もの人間をぶん殴ったクリスは内心、バルベルデで兵士を相手にした方が楽だとも考える。兵士たちは武器さえ奪えば逃げ出すから。

 

操られてるとはいえ、一般人を殴る事に多少の罪悪感を感じるクリス。

 

その後、地面に蹲っている赤いツメの一般人を自衛隊に引き渡した。

直後、

 

『聞こえるか、クリスくん!』

 

特異災害対策起動部二課の本部から源十郎の通信が入る。

 

「聞こえてる、他の所でも赤いツメをした奴が暴れてるのか?」

『いや、今のところは大丈夫だ。 だがセンサーがマリアくんのアガートラームの反応を捉えた!更に…』

「!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「?」

 

路地裏付近で赤いツメをした老人を手を拘束する響はふと何かを感じたのか空を見上げる。

この世界の空は相変わらず晴れていれば見事な青空が広がっている。

 

「こっちは終わったよ…どうしたの?」

 

丁度そこへ、別の路地裏で赤いツメをした人間たちを拘束したヒビキが戻る。

そして上の空になっている響に声をかけた。内心、サボってるのかな?と思いつつ。

 

「あ、何でもないよ…うん、なんでもない」

 

ヒビキに指摘された響は急ぎ取り繕う。

別に大したことは無い。ただ一瞬だけ胸騒ぎがしただけだ。

 

「そう…でも本当に大丈夫? シンフォギアを纏わなくて…」

 

響の様子にヒビキはそう聞いた。

赤いツメの集団を鎮圧する為にヒビキはシンフォギアを纏ったが、響は普段着のまま行動していたのだ。

 

「うん、大丈夫。 シンフォギアの状態で捕縛するのは…」

 

ギラーコオロギの死のツメを見て響の脳裏にあの時の様子が蘇る。

公園付近で蜂女と蝙蝠男と戦い、コウモリビールスに感染した被害者たち。別にシンフォギアを纏って取り押さえようとした訳ではない。しかし、蝙蝠男を倒し治療不可能になり見殺しにしてしまった事を未だに響は引きずっていたのだ。

ある意味、響のトラウマでもある。

 

響の様子にヒビキは「…そう」と短く言うとそれ以上は何も言わず赤いツメをした人間たちの捕縛に向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

本来、人影が殆ど居ない公園の奥。

何人もの戦闘員が闊歩し、見たこともない機械を設置し中央には一見何も無いように見えるが歪みかけた空間が存在している。

そして、その近くには中心人物である地獄大使と怪人ギラーコオロギも居り今か今かと何かを待っているようだった。

 

「…! 空間の歪みに反応ありっ!」

 

パソコンを弄り何かを調べていた白いショッカー戦闘員が報告すると歪んでいた空間が開くと二人の人影が現れる。

ショッカー響とマリアだ。

 

「戻りました、地獄大使」

 

ショッカー響の報告に地獄大使は薄ら笑いを浮かべる。

平行世界から無事にショッカー響が戻った。即ち、ショッカー響ならギャラルホルンを使えるという事だ。

早速、地獄大使はショッカー響に戦果の報告を刺せる。

 

「ギャラルホルンのデータの奪取に成功しました。 S・O・N・G本部にも多大なダメージを与えましたが、シンフォギア装者並び風鳴源十郎とエージェント忍者の始末に失敗しました」

「ふむ…そうか」

 

ショッカー響からの装者たちの殺害に失敗した報告を聞く地獄大使だが、渡されたデータチップを眺め生返事をしただけだ。

元々、地獄大使はショッカー響に装者の皆殺しを期待してはいなかった。

あくまでもショッカーの恐ろしさを伝えれば十分だと判断してだ。更に一度襲撃された以上、警戒を強くして動きが鈍る可能性もある。

 

ショッカー響が並行世界に渡れた情報さえ手に入れれば後はやりようは幾らでもある。

それこそ、製造したショッカー響の体内に原子爆弾を仕掛ける事も。

 

「各自撤退準備だっ!もう此処に用はない」

 

用は済ませたとばかりに地獄大使は戦闘員たちに撤退を指示する。

そして、後処理をする為にマリアへと視線を配る。

 

「ギラーコオロギ、マリアを殺せっ!連れ帰るのも改造人間にするのも面倒だ、何より立花響のようになられても困る」

「ギィィィィラァァァァァッ!!」

 

地獄大使に呼ばれたギラーコオロギが鳴き声を発しマリアへと近寄る。

そのまま、ギラーコオロギの手がマリアに近づく。

 

 

 

 

 

「「「「イーッ!?」」」」

 

しかし、近くで撤退準備をしていた戦闘員たちの悲鳴と爆発が起き、地獄大使もギラーコオロギも其方に視線を向ける。

爆発した場所には何体もの戦闘員が倒れ機材の一部は炎上。夥しい煙が出る。

 

「…此処に居やがったか」

 

すると、煙の中から少女の声が聞こえると共に誰かが出てくる。その声には怒りと混乱が混じっているようだ。

そしてその正体にいち早く気付く地獄大使。

 

「チっ、予想より早いではないか。雪音クリス!」

 

目を見開き奥歯を嚙み締める雪音クリスだった。

あの爆発の正体はクリスの出して乗っていたミサイルだ。

特異災害対策起動部二課の本部にマリアの居場所を聞いた直後に文字通りミサイルで飛んできた。

 

「…オッサンからは、アガートラームだけじゃなくてガングニールの反応までしたって聞いて来てみれば…一体何なんだよ、マリアにそこの馬鹿っ! 何でそいつ等と一緒に居るんだよ!!」

 

クリスの声は明らかに怒声であり、キッとマリアとショッカー響を睨みつける。

行方不明になったマリアと正体の掴めないもう一人の響、或いはこの世界のヒビキかもしれない。正直、クリスにはどの世界の響かは分からないがショッカーと敵対してると思っていた。

だが、その二人はシンフォギアを纏い地獄大使の命令を聞いている。これではまるで部下ではないか。

 

「? 何を言っているか今一分からんが、ついでだ! ギラーコオロギ、マリアの処分も兼ねて雪音クリスも殺せっ!」

「ギィィィィラァァァァァッ!!」

 

地獄大使の命令に待ってましたとばかりに鳴き声を上げるギラーコオロギ。

尤も、クリスには聞き捨て言葉があった。

 

()()()()()()? どういうことだ!」

 

「文字通り貴様とマリア・カデンツァヴナ・イヴは此処で死ぬのだッ!!」

 

問答無用とばかりにクリスはギラーコオロギとの戦闘に入る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クリスとギラーコオロギとの戦闘は完全にクリスが押されていた。

ギラーコオロギの能力である殺人音波や死のツメもそうなのだが、一番の苦戦は…

 

「マリア、その位置なら雪音クリスの死角をつけるぞ!」

「…そこ…」

 

マリアがアガートラームでクリスを攻撃していたからだ。

 

「マリア…何があったんだ…」

 

フロンティアの時に敵対し、最終的には協力した元FISの装者、マリア。それ以来良き同僚として何度も背中を預けた心強い仲間だ。

そんな、マリアが敵として戦う事に焦りを見せるクリス。

 

更に引っかかるのは、

 

━━━マリアの奴、何時も通りの切れが全くない? それにマリアの目…何処かで…

 

マリアの攻撃が何時もよりも鈍く感じているのだ。それなりの時間、マリアと共に戦った仲間なら直ぐに見抜ける程に。

力のないマリアの目もクリスは何処か見たことがある気がしたのだ。

 

━━━…そうだ、あの目は確かフロンティアの時に見た未来と同じ…!

 

「マリアに何しやがった、地獄野郎ッ!!」

 

嘗て、未来が操られ戦わされていた時の事を思い出したクリスは自分たちの戦闘を見て笑っている地獄大使に怒号が出る。クリスの勘でしかないが、今のマリアはあの時の未来と同じだと感じた。

 

「気付いたか、お前の考えてる通りマリア・カデンツァヴナ・イヴはギラーコオロギの殺人音波で操っている。 操られた仲間をお前は殺せるか?」

 

「!?」

 

クリスの読み通り、マリアは操られている。

どちらにせよ、クリスを始めシンフォギア装者たちにはこの上なく効果的だったと言わざるえない。

動きが鈍いマリアだが、ギラーコオロギの相手をしつつマリアの攻撃を捌くのは厳しくもあった。

 

現に今もマリアの蛇腹化した剣がクリスの足に絡みつき動きを阻害させ、その隙にギラーコオロギの拳がクリスの腹に命中する。

ギラーコオロギの拳でクリスは地面に叩き落されてしまう。

 

「仲間が足を引っ張る感想はどうだ?雪音クリス! ギィィィィラァァァァァッ!!」

 

防戦一方のクリスにギラーコオロギの声が突き刺さる。

地面から何とか立ち上がるクリスだが、口からは血を垂らしペッと吐き捨てる。

 

「手前等らしいセコイやり方だな!」

 

「ほざけ、戦いなど最終的に勝てばいいのだ。 さて、此処はギラーコオロギに任せて我々は戻るぞ」

 

クリスの発言に地獄大使が返す。

そして、クリスの始末をギラーコオロギに任せ自分たちはアジトに戻ろうとしている。

 

「待てよ、マリアを操ってるって事はそっちの馬鹿も操ってるんだろ! その馬鹿を返せっ!!」

 

マリアが操られてるのなら、地獄大使の傍に居る響も操られていると踏んだクリスが叫ぶように返せと言う。

だが、

 

「返せ? 何を言っている、私は一度たりとも洗脳された憶えはない」

 

「!?」

 

ショッカー響の言葉にクリスは、ただただ頭に?が浮かぶ。

そうこうしてる内に地獄大使とショッカー響はクリスの視界からアッサリと消えた。

 

「…目の光がマリアと違う?一体何がどうなってんだよっ!?」

 

マリアと違い、ショッカー響の目は操られてる感じではなかった。

なら、どうしてショッカーの大幹部である地獄大使と共に居るのかクリスには分からない。

分からないが、

 

「今はコオロギ野郎からマリアを取り戻すのが先か」

 

「面白い、やってみろっ! ギィィィィラァァァァァッ!!」

 

今は目の前のギラーコオロギを倒すことを優先する。

ギラーコオロギもクリスとの戦いに心躍らせマリアを操って攻撃に入る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クッソ! マリアが操られてるなんて予想外だ!

味方のアイツともう一度戦う事になるなんてっ!

 

「さっきまでの威勢はどうした? ギィィィィラァァァァァッ!!」

 

「う、うるせえ! 本番はここからだ!」

 

コオロギ野郎の声にアタシは何とか返答するけど正直分が悪い

操られたマリアの蛇みたいな剣がアタシの足や手に絡まう度にコオロギ野郎の攻撃がアタシに迫る

今もコオロギ野郎の腕がアタシに迫るのを小型ミサイルで牽制するのがやっとだ。…ん?あの赤いツメは…

 

「俺のツメでお前も俺様の奴隷にしてやろうか?」

 

「そのツメ…街中で暴れている奴等を操ってるのもお前か!?」

 

「その通りだ、この俺の死のツメに感染した者を自由に操れる。尤も、感染すれば三日後に死ぬがな!」

 

「!?」

 

コオロギ野郎めっ!何処まで他人の命をもてあそべば気が済むんだ!

それに三日後で死ぬっ!?ハッタリの可能性もあるけどこいつ等ならやりかねない!早く倒してマリアを開放しなくちゃっ!!

負けられない!こいつ等には絶対負けられない戦いなのに…

 

「ギィィィィラァァァァァッ!! 動きが鈍ってるぞ、雪音クリス!」

 

アイツの拳がアタシの顔面に直撃しちまった!街中の暴徒化した奴らを止めるのにぶっ続け歌っていた所為で疲れてるのか!?

口の中が鉄臭い味がして吐き出すと血が飛び出てくるっ!

 

「…女相手に随分と容赦ねえな」

 

「ショッカーにフェミニストを求めるか!? 安心しろ男だろうが女だろうがショッカーに逆らう者は皆殺しだ! ギィィィィラァァァァァッ!!」

 

不気味な面で笑いやがって…しかも完全に開き直ってら! まあ、アタシ等を殺そうとしている敵にあんな事言っても無駄か…

何とかしてコオロギ野郎を倒したいが…「…捕まえた」しまった!?

 

「マリア!?」

 

「いいぞ、そのまま雪音クリスを抑えていろっ!! ギィィィィラァァァァァッ!!」

 

油断した!正面のコオロギ野郎に注意がいっていた内にマリアが回り込んで羽交い締めするなんて!

不味い、コオロギ野郎の額の玉が点滅しだした!

 

「死ねっ! 殺人音波ッ!!」

 

「ウワアアアアアアアアアアアアアアっ!!!!」

「アアアアアアアアアアアアアアアアっ!!!!」

 

コオロギ野郎の出す殺人音波がアタシたちに直接来る!その所為でアタシだけでなくマリアも羽交い絞めにしながら悲鳴を出してやがる。そうか、どっちにしろショッカーはマリアも始末する気だった…

この音波じゃ、シンフォギアが持っても中身(アタシ)が持たねえ!ギアの出力を上げねえと…!

上がらねえ!?寧ろギアの出力が下がってる!?

 

「テメー、Anti LiNKERを使いやがったな!」

 

この感覚…覚えがある。まだマリアたちFISと敵対していた時の廃病院で戦った時と同じだ!

アイツ等、何処かでAnti LiNKERを手に入れたな…

 

「Anti LiNKER~? あんな玩具と一緒にするな!」

 

「!?」

 

Anti LiNKERじゃない?じゃあ何なんだよ!?

 

「冥土の旅路に教えてやる。 貴様ら装者どもとの戦闘データで俺の殺人音波には、お前たちのフォニックゲインを散らし適合率を強制的に下げる能力が付けられたのだ。 言うなれば俺は殺人音波は、シンフォギアキラーと言える!」

 

「シ…シンフォギアキラー!?」

 

 

ギラーコオロギの殺人音波は対シンフォギア用に調整され装者が歌って作り出したフォニックゲインを散らし、適合率も低下してしまう。こうなれば装者も無理に戦おうとすればシンフォギアのバックファイヤーに苦しむ悪魔の兵器なのだ。

ショッカーのギラーコオロギの殺人音波を使いシンフォギア装者の皆殺しを計画していたのだ。

 

 

クッ…なんて連中だ。アタシ等を殺す事のみを目的にしやがって、だがこのままじゃアタシもマリアも危ない。どうすれば…「うわああああ、やめてくれっ!!」…!?

おいおい、戦闘員まで巻き込まれてるぞ…

 

 

クリスが目撃したのは自分たちが逃げ出さないよう牽制していたギラーコオロギの配下の戦闘員が頭を押さえてウロウロしていた姿だ。

 

 

「あっ、しまった!? 戦闘員を下がらせるのを忘れていた! まあいい、お前たちの代わりなど幾らでも居る。 雪音クリス共々死ぬがいい!」

 

 

アイツ、部下ごとアタシ等を始末する気かよ!?

こんな奴に負けたら世界は本当に…

 

「は…放せ、マ…マリア…」

「アアアアアアアアアアアアアアアア…」

 

アタシが幾ら声を掻けてもマリアの口からは弱い悲鳴しか出ていない

マリアもアタシも限界が近い…ここまでなのかよ!

 

「さあ死ぬがいい! 貴様らを片付ければ空いた大幹部の席が俺様の物になるのだ!!」

 

 

 

 

ギラーコオロギの殺人音波にクリスも死を覚悟した。既に戦闘員たちもギラーコオロギの殺人音波に耐えられず倒れていく。

このまま、マリアもクリスも殺人音波の前に死ぬかと想われた時、

 

「な、何だ!?」

 

突然自身の立つ地面が揺れだし、慌てたギラーコオロギは殺人音波を停止させた。

殺人音波が途切れた事で解放されたクリスはホッと胸を撫でおろし、クリスを拘束していたマリアは気を失い倒れる。

 

それが来たのは偶然とも言えた。

ギラーコオロギの殺人音波がクリスのフォニックゲインを散らし、そのフォニックゲインに引き寄せられたのか

 

「何故、コイツが此処に来る!?」

 

「ハア…ハア…!」

 

少し前、翼の絶唱に反応して保管場所の記憶の遺跡に安置していた完全聖遺物、ゴライアスがギラーコオロギとクリスの前に姿を現したのだ。

 

「ええい、完全聖遺物が出てくるとは聞いていないぞ! こうなればコイツを停止させ持ち帰れば地獄大使の良い土産になる。そうすれば俺様の大幹部の席は確実なものとなるのだ!! ギィィィィラァァァァァッ!!」

 

最早、ギラーコオロギの目はクリス達の方ではなく突然現れたゴライアスに向いている。

ジャンプしてゴライアスに飛び掛かるギラーコオロギを見て一息つくクリス。

 

「食らえぇ、殺人音波!!」

 

ギラーコオロギの放つ殺人音波にゴライアスも爆発を起こし怯む。

それをチャンスと思ったギラーコオロギは追撃していく。

 

 

 

「あのコオロギ野郎、殺人音波を出す度に額の玉が光ってるな…あれが装置なのか」

 

ギラーコオロギとゴライアスの戦闘を見ていたクリスはギラーコオロギの殺人音波の仕組みを見定める。

シンフォギアキラーとして造られたギラーコオロギは強敵だ。倒すための手を考えるクリスは一つの考えに行きつく。

 

 

 

 

 

 

突如現れたゴライアスは攻撃してきたギラーコオロギに反撃を集中させている。

巨体の体で腕を振り回しギラーコオロギを叩き落そうとするが、ギリギリで躱すギラーコオロギは、反撃に殺人音波を当てていく。

 

「ギィィィィラァァァァァッ!! 報告で聞いたほどではないな、カミキリキッドめ、こんなでかいだけの木偶の坊に負けたのか!」

 

先のギラーコオロギの殺人音波の直撃を受けた所為かゴライアスの動きは初めてクリスたちと遭遇した程の動きではなくギラーコオロギはゴライアスの攻撃を次々避けていく。

これにはゴライアスも先のカミキリキッドを葬ったエネルギー砲を撃ち出すが、ギラーコオロギの先制攻撃の直撃を食らった所為か、カミキリキッドの時より威力がない。

そして何より、ギラーコオロギの目はカミキリキッドの目と違い大きな複眼でゴライアスの動きが遅く単調に見えるのだ。

 

「これならば楽に持ち帰る事も「コオロギ野郎!!」でき…プルっ!?」

 

ショッカーでも注目されているゴライアス。それが自分が捕獲し持ち帰る事を画策するギラーコオロギの耳にクリスの声が聞こえ振り向く。

そして、視線の先にはアームドギアをライフル状にしたクリスが自分目掛け振り下ろしていた。

 

「はっ! 死にかけた癖に俺様に攻撃だと、避けるまでもないわ!!」

 

先程までギラーコオロギの殺人音波に苦しんでいたクリスの攻撃など怖くもなんともない。

それ故にギラーコオロギは失念していた。自身の弱点を

 

「オラァァァァッ!!」

 

REDHOT BLAZE

 

「! ぎゃああああああああああああああっ!! 俺様の発信装置がっ!!!」

 

クリスの狙いは一つ、ギラーコオロギの額の玉だった。

ゴライアスが現れてから、ギラーコオロギは自分たちを無視してゴライアスの攻撃し、クリスはジッとその様子を見続けていた。

そして、確信した。ギラーコオロギの額の玉こそ殺人音波を発生させる装置だと。

ハッキリ言ってクリスの行動は賭けに近かった。

もし殺人音波発生装置でなければ反撃として再び殺人音波を放たれ殺されたかも知れないし、ギラーコオロギが警戒して攻撃を避けたり防御すればクリスは反撃を受けていた。

ギラーコオロギが人間を舐めてる事を知っていたクリスの行動だが結果はクリスの勝利だった。

 

クリスの一撃を受けたギラーコオロギの額の玉が火花を上げる。

どうやら、殺人音波発生装置を破壊出来たようだ。

 

「おっ…おのれぇ、雪音クリス! 殺してやる…殺してやるぞっ!!」

 

完全な不意打ちに怒りが爆発したギラーコオロギの口から殺意に溢れた言葉がでる。

殺人音波が止められようが、まだ死のツメとシンフォギア装者を超える力は健在だ。

しかし、クリスはそんな様子のギラーコオロギを見て不敵に笑う。

 

「アタシに目を向けるのはいいけど、上にも注意しな」

 

「なにっ…しまっ!」

 

クリスの言葉にギラーコオロギが上を向くと尖った紫色の柱のような物が迫る。ゴライアスの腕と分かるのに時間はかからなかった。

回避するには間に合わないとギラーコオロギは両腕でゴライアスの腕を止めようとする。

 

「こ…こんな…こんな物…」

 

「コイツはオマケだっ! 持っていけっ!」

 

何とかゴライアスの腕を止めるギラーコオロギだが、ゴライアスは全体重を腕に集中させギラーコオロギの足が地面に陥没し、チャンスとばかりにクリスは動けないギラーコオロギに腰のパーツから小型ミサイルを発射する。

 

「!?」

 

クリスの撃った小型ミサイルは寸分変わらずギラーコオロギに殺到し爆発、それと同時にゴライアスの腕が完全に地面へと減り込んでいく。

直後、爆発音とゴライアスの手元から大量の煙が噴き出しギラーコオロギを倒したとクリスは悟った。

 

「後は…」

 

クリスは目の前のゴライアスに目を向ける。

ギラーコオロギとの戦いで損傷してはいたが、クリスもずっとシンフォギアを纏って動き続けていたのだ。

正直クリスも辛いが目の前のゴライアスが暴れるのなら止めるつもりでいた。

 

「…またか」

 

クリスが構えるが、何を思ったかゴライアスは穴を掘り巨体の体が沈んでいく。

ゴライアスが撤退してる事に気付いたクリスだが、阻もうとはしない。体力の限界もそうだが、下手に攻撃して気を失ってるマリアが巻き込まれるのを嫌ったからだ。

 

太陽が沈み、西日の光がクリスを照らす中。ゴライアスの姿は完全に消えてしまった。

決着はついた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…何かしら、機械音が一定で聞こえてくる。瞼が重い、もう少し寝ていたいけどそろそろ起きないと

 

「う~ん…?」

 

あれ?此処は家じゃないわね。もしかして医務室?でもS・O・N・Gの医務室と違うような気が…

 

「お、やっと目覚めたか」

 

傍で聞き覚えのある声がして振り向くと椅子に座ったクリスの姿が見える。顔には幾つもバンドエイドが貼ってあったけど

 

「クリス!? 此処は…」

「此処は特異災害対策起動部二課の医務室だ。覚えてるか?お前は操られていたんだ」

 

操られた?誰に?ノイズ?ショッカー…思い出した、私はギラーコオロギの音波にで気を失って…

 

「思い出したか、お前はコオロギ野郎の殺人音波に操られていたんだ。…街中じゃ奴の死のツメで別の手段で操られていた連中も居たがコオロギ野郎が倒れた事で殆どが意識を戻ったってオッサンが言ってた」

 

そう、私はギラーコオロギの殺人音波に操られて奴らのアジトに連れてかれて尋問された筈

でも内容が今一思い出せない。確かその後は…ギャラルホルン!?

 

「クリスッ!急いで戻るわよ!」

「えっ?もう少し寝ておかなくていいのか?無理はするなよ」

「全部は思い出せないけど、ショッカーは私を使ってS・O・N・Gの本部に行っていたの!皆が心配だわ」

「何だって!?」

 

 

 

 

 

 

 

 




クリスがギラーコオロギの玉を潰す話。

ショッカーは男女平等ですよ(棒。

クリスが無事にマリアを救出しましたが、マリアの口から元の世界がショッカーに襲われた事を知る。
原作だと本郷の親友が洗脳されて、ギラーコオロギが倒れた後に出て苦笑いとかしていたのでどの位覚えてるかは不明。
マリアの場合は薄っすら覚えてる感じです。

ギラーコオロギが戦闘員を巻き込んだのは原作通りです。尤も、最初はギラーコオロギも戦闘員に避難する言ったんですが、全く避難せず全員死にました。そして、仮面ライダーに逃げられました。

ギラーコオロギの殺人音波の設定ですが、設定的にまさにシンフォギア装者を狙い撃ちにしたような能力です。
理論上、エクスドライブ状態でも殺人音波を真面に食らえば強制的に解除される程強力です。
ギラーコオロギに付けられただけで、多分二度と出てくる事は無いでしょう。ショッカーは基本的にライダーに敗れた能力や技術はあんまり出てこない。


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102話 響の秘密がバレた!?

最近知ったこと、
amazonで中古の漫画を頼もうとしたら代引き出来ない事。
19年に終わった漫画の新品が無かった…


 

 

 

 

とある日本の港。

 

何台ものクレーン車が何かを吊り上げ、何人もの作業員が行き来している。クレーン車の吊るす先には、傾いた潜水艦がある。

その内の一台のクレーン車が巨大な巻貝のような物を吊り上げる。

 

「オーライ、オーライ!」

「気を付けて運んでくれ、あれは完全聖遺物だからな」

「了解です」

 

作業をしている作業員に赤髪の男…風鳴源十郎が注意するよう促す。

此処は、クリスやマリアの世界であり、現在源十郎指揮の下、完全聖遺物「ギャラルホルン」をクレーン車で廃棄の決まった元本部の潜水艦から出されているのだ。

 

ショッカー響とノイズの襲撃から翌日、本部は再建不能と判断した源十郎は日本政府や国連にある程度の情報を開示して新しい潜水艦を求めたのだ。

響たちを始めとした装者も警戒のため、政府が用意したホテルで寝泊まりした。

 

現在は旧本部での使える物や仕舞っていた聖遺物の移送、無事なデータファイルの移動などをしていた。

新しい本部が何時出来るかは、まだ分からないが何時までも海に沈みかけた潜水艦に保存する訳にもいかず、日本政府の施設に一時的置かれるようになった。

政治家である兄を失った源十郎が手配したが、改めて惜しい人を亡くした事を痛感する。

尤も、国連各国も日本政府が所有する異端技術を目の届く場所に置きたいので要請を断る事は無かったが。

 

そして、ギャラルホルンがクレーン車で吊り上げられ移動しようとした。時だった、

 

「え? 何か光ってるぞ!」

「事故か!?」

「! 不味い、ギャラルホルンが起動した!」

 

突然のギャラルホルンの起動にパニックになる現場。

またショッカーの可能性がある以上、源十郎は翼に連絡を入れが来るにしても少しだけ時間が掛かる。

その間にもショッカーの使いなら自信が時間稼ぎをすることも厭わない源十郎。

 

「へっ?床がない!」

「きゃあああああっ!!」

 

銃を持った黒服も集まり源十郎たちが見守る中、ギャラルホルンから二人の人影が出てきた直後に、悲鳴を上げ海に落ちた。

ポカンとなる黒服や作業員たちだが源十郎は悲鳴の持ち主に心当たりがあった。

 

「叔父様っ! ギャラルホルンが起動したと言うのは本当ですか!?」

「あ…ああ…」

 

丁度、源十郎が連絡した翼もシンフォギアを纏ってこちらに来る。

翼の言葉に源十郎が力なく返事をして海の方を見た。

 

「ブハッ! 何で海に落ちてんだよっ! アタシら」

「知らないわよっ! アッ指令、色々聞きたいけど引き上げてくれるかしら…」

 

「あ…ああ…」

 

海面から顔を出しパニックになるクリスと丘の上に源十郎たちが居るのに気付いたマリア。

その後、二人は無事に海から引き上げられたが直後に本部であった潜水艦が大破して本部としての機能が喪失した事に驚愕する事になる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場所は特異災害対策起動部二課のある並行世界に戻る。

人里離れた山中、ほぼ人の手が入ってない森の中に洞窟があり二人の戦闘員が入り口を見張っていた。

そう、此処はショッカーのアジトの一つだ。

 

「現在、ショッカー響が入手したデータチップを調べています」

「ショッカー響が向こうで見た情報をモニターに出します」

 

アジトの中枢、丸い改造手術用のベッドの上にショッカー響が寝かされ頭部に幾つものコードが繋がっている。

これで、ショッカー響が見聞きした情報をモニターで見れるのだ。

 

「映像を見せろ」

 

地獄大使の合図によりモニターに並行世界のS・O・N・G本部での戦闘映像やギャラルホルンの映像も流れる。

 

「あの貝のような物がギャラルホルンか?」

「そのようです、外見からでも得られる情報はありますね」

「北欧神話では角笛だが、ほら貝のように吹くのか?」

 

その後もショッカー響が通してみた映像が流れていく。

源十郎と緒川を早々に戦線離脱させ丁度戻ってきた並行世界の立花響と遭遇、そのまま戦闘に入る。

 

「ふむ、場所の所為で向こうの世界の立花響の実力は出ないか…」

「仕方ありません、何よりの第一目標は達成しました」

 

ショッカー響が向こうの世界の立花響を圧倒してるが地獄大使はやや不満であった。

場所が場所だけに向こうの立花響の力量が読めずショッカー響に圧倒されてるからだ。

出来れば自分たちの知る立花響と比較し、より強力なショッカー響の製造も考えていた。

 

「天羽奏だと!? あの女は死んだのではなかったのか」

「…どうやら、本人の反応からして別の並行世界の人間の様です」

「恐らくは、天羽奏が生きてる世界でもあるんでしょう」

「まあ、生きていようが所詮雑魚は雑魚よ」

 

自分たちの世界でもこの世界でも死んでいる天羽奏の存在に少しだけ驚く地獄大使。

だが、それだけだ。所詮はノイズに敗れ絶唱を歌い死んだ小娘。それが地獄大使の評価だった。

 

「S・O・N・G、どれほどの物かと思えば襲るるに足らず。 作戦は継続させろ」

「「イーッ!」」

 

響と奏を見ただけでS・O・N・Gの戦力を評価した地獄大使は構わず作戦の継続を命令する。

本部に大打撃を受けた事でS・O・N・Gの動きも鈍くなるとおもったからだ。

何より、モニター越しの響と奏の戦力なら十分蹴散らせる。そう判断した。

 

「それから、立花響どもにも再生怪人どもを向かわせろ。特異災害だけでなく、あの小娘どもの抹殺もしなければならん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、名指しされた響たちはと言うと、

 

「今日は此処にしようか?」

「………」

 

響の言葉にヒビキは返事をしなかったが頷いた。

其処は、ノイズが出たことで放棄されたマンションの一室だ。

ハッキリ言って綺麗とは言い難いが、二人とも今日は此処で泊まる気だった。

 

廃ビルが襲撃され燃えて以降、響たちはなるべく人のいない場所で寝泊まりしていた。

何時、ショッカーが襲ってくるか分からない以上、少しでも巻き込まれる可能性を減らす為に人気のない場所を転々としている。

部屋の中に入った二人は、適当に片付けた床に腰掛け響は持ってきた荷物を確認する。

燃え残った廃ビルから回収した所為か、響の鼻に煙のような匂いを感じる。

 

「タオルが特に煙の臭いがするから洗ってくるね」

 

そういうと響はヒビキの返答を待たず大きめのタオルを持っていき部屋を出る。

響の足音が遠ざかるとヒビキは自身の胸元を押さえた。

 

「? 心臓が痛い?」

 

ここ最近、胸部に違和感を感じていたヒビキは今日にいたっては鈍い痛みになってる事に気付く。

もう一人の自分である響に相談すべきか考えるヒビキだが結局、響が戻った後も言えず夜が更けていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、再び並行世界に戻り海から引き上げられたクリスはシャワーを浴び簡単な服を着てタオルで頭を拭いて椅子に座る。

場所は、港の近くの政府が所有する施設を借り、体育館並みの広さに幾つもの機械が置かれ、奥の方にはギャラルホルンが安置されている。

クリス達は丁度、偉い人間と話す源十郎に近い席に座っていた。

 

「ふう、さっぱりした」

「そうね…」

 

塩水のベトベト感が無くなった事でクリスは喜んだが、マリアの表情は浮かなかった。

シャワーを浴びる前に何か言われたようだがそれが原因かと考えるクリス。

 

「早速だが、君たちの報告を聞いておく前にクリス君が留守の間に起きた事を話そう」

「…本部が沈みかけた理由か」

 

その後、源十郎の口からクリスが死のツメに感染した人々を鎮圧している間の事を話す。

内容は至ってシンプル、クリスやマリアが使ったギャラルホルンを後でショッカーが利用し襲撃を受けた。

その報告にクリスは口を開け唖然とし、マリアも奥歯を噛み締める。

 

「アイツ等、街中で一般人に赤いツメでパンデミックを起こしたのもアタシを引き付ける為か」

「ええ、その間に洗脳した私に案内をさせて本部に侵入…完全にしてやられたわ…」

 

自身が洗脳されていた事実を知っているマリアが淡々と呟く。

既に特異災害対策起動部二課にも自信が洗脳されていた事は報告済みで、本部では暴れなかった事もありそれ以上の追及は無かったが、何か思い出したら随時報告するよう言われた。

 

「それで、奴らがマリアを操ってまでこっちに来た理由は?」

「…十中八九ギャラルホルンのデータだろう。エルフナインくんがそう証言している」

 

ノイズ掃討後、響たちと合流したエルフナインはギャラルホルンのデータをマリアに渡したと言い、響たちは目を見開く程驚くが詳しい話は本部から脱出後、源十郎が尋問役をやり全てを知った。

エルフナインの話では通信で源十郎も許可を出したと言っていたが、当人である源十郎には当然覚えがない。ショッカーが何か工作した可能性がある。

 

「なあ…」

「いい加減、オレたちにも教えろよ」

 

そんな事を考えていると、背後から聞き覚えのある声がして振り向くと、並行世界の天羽奏と風鳴翼が立っていた。

二人とも今はシンフォギアの姿ではなく普段着に戻っている。

ノイズの襲撃後、事情を聞こうとしたが後処理が多かった為、今までS・O・N・Gが用意した宿泊施設で一晩泊まったのだ。

 

「ア…アナタたちっ!?」

「アンタ等も来てたのかよ!」

「よう、相変わらず此処の世界はゴタゴタしてるな」

「何時もこんななのか?」

 

平行世界の奏と翼の存在に気付き顔色が明るくなるクリスとマリア。

平行世界のシンフォギア装者とは、時に敵対し分かりあって共闘した事もある。この二人もそうだった。

本部での戦いが終わった後も、この世界に留まり手伝いなどしていたが、いい加減、現れた怪物やもう一人の立花響の事が聞きたかったのだ。

奏としても翼としても恩を返すチャンスだと思い協力する気でいる。

 

少し考えた源十郎が口を開く。

 

「…そうだな、奴らがギャラルホルンのデータを手に入れた以上、最早君たちの世界も他人事とは言えんだろう。 話そう、我々が手に入れた秘密結社ショッカーの情報を…」

 

ショッカーが本当にギャラルホルンのデータを手に入れたのなら、この世界だけでなく他の世界にも影響が出るかも知れない。

何より、隠しててもあまり意味がない事で二人にも、現状S・O・N・Gが掴んだショッカーの情報を開示する。

 

 

 

 

 

「…世界征服…」

「…真面目な反応すれば馬鹿丸出しだろうが…改造人間か…」

 

奏も翼もショッカーの目的を聞いて絶句している。

世界征服を企んだ組織は幾つか知っているが改造人間と呼ばれる怪人の姿と能力に声も出ない。

仮説本部のモニターにもクリス達が怪人たちと戦う姿に固唾を飲んで見ていた。

 

「…こいつ等、ノイズどころか下手なカルマノイズより強いな」

「いや、下手すれば世界蛇の幹部クラスじゃないか?」

 

「力だけじゃないわ。 奴らの能力はノイズ以上よ」

「…単純に姿を消す奴や、稲妻や炎を吐く奴…兎に角防御力だけでも大型ノイズ並みの奴もわんさかいやがる…」

 

クリスの補足を聞いて冷や汗を流す奏と翼。

丁度、モニターにはクリスの一斉射撃を食らったにも関わらず、全く動じない巨大なヒトデのような怪人が映る。

 

「ヒトデンジャー…奴自身が言うには山の巨大ヒトデの化石から蘇った怪人らしい」

「…それって聖遺物じゃないか?」

「ヒトデの化石だしどうかしらね」

「それにしてもお喋りなんだな…怪人って奴等は…」

 

モニターには、自分の名を名乗ると共に作戦の一部を口にする怪人の姿が映る。

呆れつつも強力な怪人に複雑な物を感じる二人。

 

「…取り敢えず、これが我々が入手してきたショッカーに関するデータだ。だが…最後にこれも見て欲しい、クリスくんたちもだ」

「ん? アタシ等も?」

 

奏と翼にデータチップを渡した源十郎だが、最後に皆に見て欲しいとある映像を出す。

平行世界の奏と翼だけでなく、自分たちにも見るよう言われたクリスとマリアの頭には❓マークが出るが、映像を見た瞬間、そんな考えも消える程の衝撃を受ける。

 

「なっ!?」

「…これは…」

「…何がどうなってんだ!?」

「…改めて見ても信じられないね…」

 

その映像を見た瞬間、クリスが唖然とし翼も口を開けたまま呆然としていた。

このメンバーの中で唯一その存在を見た奏だが今でも信じられないと思わず口にする。そして、マリアは片手で頭を押さえて何か考えている。

その映像には、

 

「これが…今回、本部を襲った偽物の立花響くんだと思われる」

 

S・O・N・G本部指令室を襲撃したショッカー響と戦う立花響の姿だ。

さらに映像には指令室への襲撃、怪人を使役し源十郎を甚振る姿、響が突入後怪人を倒した後に戦闘と奏の乱入など結構な時間映っている。

 

「オッサンッ! これって…」

「本物の立花響なのか!?」

 

クリスと翼は信じられないと言った表情で源十郎に聞く。

直ぐには即答できない源十郎だが、その態度だけで二人は察することが出来た。

 

「…私の記憶にも幾つか立花響の姿が見えるけど…ハッキリとは分からないわね」

 

自身の記憶を思い出そうとするマリアだが、ギラーコオロギの殺人音波の影響か記憶は霞がかかってるように真っ白で見えず、響のシンフォギア姿しか浮かばない。

 

「問題はそれだけではありません」

 

「エルフナインッ!」

 

話を聞いていたのか、仮説本部の別の扉が開くと小さな白衣を着たエルフナインが先ほどの言葉を呟く。

 

「これも見て欲しいです」

 

そう言うとエルフナインは仮説本部のパネルを弄りモニターに何か映し出す。

それは、クリスやマリアだけでなく、並行世界出身の翼や奏すら見覚えのある物。っというかある人物の一部。

 

「あれって…」

「…腕よね」

「あのガントレットって立花響の物じゃ」

「アタシが切り落とした偽物の腕だな」

 

台の上に乗せられた片腕、それも偽物の響の腕が置かれていた。

奏が切断し、襲って来た響が撤退後、自身も撤退しようとしていた源十郎が回収していたのだ。

 

「あの馬鹿の偽物? まさか、地獄野郎と一緒に居たのも…」

 

クリスはマリアを助ける前の響とのやり取りを思い出す。

そいつは確か洗脳ではなく自分の意思でショッカーに居ると言っていた。

偽物だったなら腑に落ちる。

 

「現在、科学者と調査部が全力を持って調べてるが未知の技術や謎の金属が使われてる事しか分かっていない。アメリカの最新鋭の頭脳を持つ科学者たちですらお手上げ状態だ」

「ボクの方もダメです。 錬金術では到底作ることが不可能な事しか分かりませんでした」

 

S・O・N・Gはショッカー響の襲撃後、切り落とされた腕を調べたが中に機械と人工的に造られた筋肉位しか分からなかった。

ならば、ツテのある日本政府や国連経由でアメリカに協力を要請したが、アメリカの科学者すら見たこともない技術としか分からない。

 

「…まるで聖遺物扱いね」

「あの腕自体が異端技術ってか? 冗談キツイぜ」

「…ショッカーの技術はそれだけ先を行ってるって事だろう」

 

その後、奏と翼は源十郎から渡されたデータチップを片手に元の世界へと戻る。

これからの行動はどうなるかは分からないが世界蛇の時のようにお互いに協力するかも知れない。

 

 

 

 

 

 

 

「そう言えば他の皆はどうしたのかしら?」

「先輩はアタシらが海に落ちた時に来たな、他の奴はまた海外か?」

 

奏と翼が並行世界に戻って一息つく一行。

少々慌ただしかったが、何時もなら顔を出し少女たちが来ない事を疑問に思ったマリアが口にする。

その言葉に一瞬、目を逸らす源十郎とエルフナインだが、二人の目線が合うとお互い頷き合う。

 

「実は…」

 

源十郎の返答にクリスとマリアは何度目かの唖然とした表情した。

 

 

 

 

 

 

「調っ!切歌っ!」

 

源十郎の返答を聞いたマリアが勢いよく扉を開ける。

マリアの目には白いベッドに横たわる月読調と暁切歌が患者用の服を着ていた。

調と切歌は政府御用達の病院に入院しておりマリアが急いで来たのだ。

 

「…マリア」

「え? マリアが来たデスか?」

 

扉を勢いよく開けたマリアに視線を向けた調がマリアと言い、切歌がそれに反応する。

二人の姿を見たマリアは絶句する。

調は、まだ頭に少し包帯を巻いただけで済んでいるが切歌の方は酷かった。

顔全体が包帯に覆われ瞼付近も見えない状態だった。

 

「!」

 

それを見てマリアは唇を噛み締める。

源十郎から聞いた情報では、調は内臓の一部にダメージを受け暫く安静にするよう言われ、切歌に至っては頭蓋骨の一部にヒビが入り何本かの歯が折れ眼球は破裂寸前だったという。

話だけで聞くのと現実で目にするのでは、やはりショックが大きい。

幸いにも再生治療により歯は復活するが切歌は今までにない程のダメージを食らってたのだ。

 

「アナタたち…その怪我…」

「アハハ…面目ないデス」

「…響さんの偽物にしてやられた…」

 

マリアの発言に切歌は乾いた笑い声を出し、ベッドに座りなおした調も顔を伏せてしまう。

本物だと思っていた。っというか立花響の偽物が本部に来るなど想定すらしていない。

一戦を交える事もなくボコられて気絶させられ人質にまでされた。それが二人には悔しくもある。

そんな二人に何と言えばいいか分からないマリア。

沈黙が病室を覆う中、マリアが入ったドアがもう一度開く。

 

「ごめん、調ちゃん切歌ちゃん。買い物をしてたら遅れちゃった。 あ。マリアさんも来てたんだぁ!」

「もう、響が試食コーナーで何度も食べるから」

「だって未来~」

 

ドアから買い物袋を持った響と未来が入ってきた。二人も当然お見舞いに来たのだ。

 

「「!?」」

「…?」

 

響はなるべく明るい声で二人に声を掛ける。突然の本部襲撃に不意打ちで殴られ病院行き。

辛くない筈がないと響でもそれなりに気を使い、そんな不器用な親友をサポートしようと未来も響のノリに乗る。

しかし、マリアは見ていた。立花響の声を聞いた瞬間、調と切歌の体が強張ったのを、まるで何かに警戒するように。

その後も、響が「あの食べ物が美味しい」とか「治ったら久しぶりに皆で遊ぼう」と言うが病室の空気は重いままだった。

そろそろマリアが止めようかと思った時。

 

「あ、もうこんな時間か…ごめんね二人とも、これから未来と約束があるから…」

 

時計を見た響が時間だと言い買った荷物をマリアに渡して、未来の手を引っ張って病室から出る。

その瞬間、病室の中の空気がシーンと静まり返る。

マリアが内心「本当に嵐みたいな娘ね」と呆れていると、

 

「ごめんデス、マリア」

「へ?」

 

突然の切歌の謝罪が耳に入る。

包帯で顔を覆ってるが済まなそうな顔をしている事にマリアが気付いた。

 

「響さんは悪くないって分かってるつもりデス…」

「…でも、響さんの姿をした敵の拳が私と切ちゃんに迫る夢を見て…」

 

二人は気を失ってる時、夢を見た。

それは嘗て、特異災害対策起動部二課と対立しマリアが世界に向けて宣戦布告したライブ会場で響と戦う夢だ。

現実ではマムが増殖分裂タイプのノイズを投入したことでうやむやになったが、夢の中では違った。

響の拳が無慈悲に切歌を襲い何度もパンチを繰り広げた後に、調の腹部に重い一撃を入れるのだ。

その度に飛び起きた調は自分の腹部を触り、切歌は必死に調とマリアの名の呼ぶ。

 

「それだけじゃなくて、あの襲撃以来、響さんの姿と声を聞くだけで体が硬直するの…」

「…ワタシもデス…」

「アナタたち…」

 

二人の言葉を聞いてマリアは確信する。二人は響に対して恐怖してるのだ。

マリアは二人の頭を撫でるとこれ以上、何も言えなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…おい、このままでいいのかよ!?」

 

病室のドアの横の壁に背中を置いたクリスが呟く。何となく源十郎から二人の容態を聞いたクリスはマリアを先に行かせ自分は後で行く気だった。

そして丁度、クリスがマリアに遅れて病室の前に行くと響が病室から出てきたのだ。

その呟きは同じく、壁を背にしている響にだ。

 

「…しょうがないよ、調ちゃんも切歌ちゃんも今は私の姿を見たくないみたいだし…アハハ…」

 

響が苦笑いでそう言った。その表情を見たクリスは今日、何度目かの奥歯を噛み締める。

響の声には何時もの元気がなく落ち込んでいる。

 

━━━元気しか取り柄がないコイツがここまで落ち込むなんて…

 

思えば、今回の襲撃はS・O・N・G本部の襲撃は大打撃を受けていた。

完全な奇襲攻撃により職員は大勢殺され調と切歌も大怪我。更には、長年オペレーターとして自分たちを支えた藤尭朔也が友里あおいを庇い死亡。

今までも、並行世界からの襲撃はあったがここまでの被害は初めてだった。

 

拳を強く握りしめたクリスは決意する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…だからってこんな直ぐ戻る必要ある? 私は兎も角アナタはいい加減休んだ方が…」

「そんな余裕あるかよ」

 

クリスは病室で調と切歌に少しだけ会い怪我の状態を見た後にまた並行世界へ戻ろうとし、マリアが心配そうに忠告するがクリスは断固として頷かなかった。

本来なら止める筈の源十郎すらクリスの気迫に押され止めれずマリアも共に来た。

マリアは操られていた事もありまだ余裕があるがギラーコオロギの死のツメに操られた民衆の鎮圧にギラーコオロギとの戦いの後に本来の世界に戻って休む暇もなく特異災害対策起動部二課のある世界に戻る。

オーバーワークも良いところだがクリスには止まる暇なんかない。

 

先輩と慕う二人の後輩を傷つけ、馬鹿と言いつつ親友だと認めている同僚にあんな顔をさせ、自分の居場所を汚された事でクリスの怒りは今まで以上に膨らんでいる。

 

「何としても偽物には焼き入れねえとな…」

 

クリスの目は憤怒に染まっている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「急に戻ってきたと思ったらガングニール反応? どういう事だ」

 

「悪いがオッサン、守秘義務があるんだ。 あの赤いツメの時、ガングニールの反応は幾つあった?」

 

唐突に特異災害対策起動部二課に戻ったクリスとマリアに源十郎が喜びの混じった挨拶するがクリスは、けんもほろろにガングニールの反応を聞いてきた。

戸惑う源十郎たちだが、クリスの声に反応して調べ出す。

 

「出ました。 約数時間前にガングニールの反応が一つだけ出ています」

 

少しだけ時間が経ち、こちらの世界の藤尭朔也がそう返答する。

藤尭朔也の元気な姿に思うところがあるが、クリスはその報告を聞いてある考えに至る。

 

「…やっぱりアイツか…」

「アイツって二人目の立花響?」

 

マリアの問いに頷くクリス。

クリスの考えでは、もう一人の立花響はスパイでこの世界の立花響を利用し世界征服を進めているのではといった話だ。

だからこそ、先の赤いツメの騒動でもこの世界のヒビキと別行動して洗脳されたマリアと行動していたのでは、と考えた。

 

「…随分と回りくどい作戦ね」

「アイツ等が回りくどいのは今更だろ」

 

毒水計画や先の赤いツメの騒動などでショッカーが回りくどい事をするのは今更だと言うクリス。

確かにそう思うマリアだが、心の中で何かが引っかかる感覚がした。

 

「! 何だ!?」

「ショッカーか!?」

 

クリスが一人納得しマリアが何かを考えていた時に特異災害対策起動部二課司令部が突然暗くなる。

またショッカーかと身構えるクリスとマリアだが、暗いだけで何も起こらず数秒後には司令部の電力が回復し灯りがつく。

 

「停電?」

「地震でも起きたのか?それともどっかで雷でも落ちたか?」

 

灯りが付いた事で落ち着き作業に戻る職員たち。

クリスとマリアも警戒を解くが突然の停電に懐疑的になる。

 

「現在調査中だ、変電所にも連絡する。その間に君たちは少し休んだ方がいい、特にクリスくんはな」

 

ここで源十郎はクリスとマリアに休むよう言う。

マリアもそうだが、クリスは連日戦闘続きでかなり消耗している。クリスの疲労に気付いた源十郎はクリスに特に休むよう言う。

不服そうな顔をするクリスだがマリアにも促され休憩する事になる。

ただし、ガングニールの反応がしたら直ぐに教えるよう言った。

 

 

 

それから数時間後、

 

 

 

 

 

「市内の監視カメラに怪人の姿を捉えましたっ!!何かを追ってるようです!」

「…! 怪人たちの前方からガングニールの反応が二つ確認っ!!」

 

サイレンが司令部に響き、源十郎の耳に怪人が出現した事を知らされる。

クリスとマリアがお互いに視線の向け頷く。どちらにせよ、怪人が出た以上放置など出来ない。

クリスとしては怪人たちを撃破後、二人の響を捕まえ尋問する気であった。

 

「二人とも気をつけろっ! さっきの停電で変電所で確認したところ東京都十日分の電力が一気に消えたそうだっ!」

 

源十郎の忠告にクリスとマリアも頷く。

消えた電力も気になるが、今は現れた怪人の対処が先だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

元繁華街

ノイズの襲撃後、復興されることなく打ち捨てられた場所。

最早、ホームレスすら近寄らない場所で何人もの人影が蠢き打撃音が響く。

 

「イーッ!」

 

「しつこいっ!」

 

剣を握って襲い来る戦闘員を殴り飛ばすヒビキ。

人気が無いので巻き込む可能性は低いが何人もの戦闘員が自分たちへと迫る光景はヒビキとしても何度目か数えるのが馬鹿らしくなる。

 

「がんばってっ! 戦闘員だけなら苦戦はしないよっ!」

 

響の激にヒビキは内心心強く感じつつあった。

ツヴァイウィングのライブ以降、孤独感に苦しめられていたがもう一人の自分が現れた事で孤独だった感情も徐々に薄まっている。

嘗ての自分、人助け体質で周りに流されやすいと言われた少女に戻りつつあるのかも知れない。

ヒビキは響と同じようにガングニールの腕で戦闘員を殴り飛ばす。

 

「ふん、やはり戦闘員では歯が立たんか! ならば俺たちが相手をしてやるっ!」

 

ヒビキが物思いにふけていた時、何処からともなく声が聞こえ戦闘員とは違う気配を感じた。

そして、廃墟となった建物に上に目を向けると…居た。

 

「かまきり男っ!」「カニバブラーッ!」「地獄サンダーッ!」「ガマギラーッ!」「アルマジロングッ!」

 

それぞれの屋根に五体の怪人が出現し名乗りを上げる。

 

「新しい怪人が五人!?」

「違う…あれは…」

 

五人の怪人を初めて見るヒビキは新戦力化と警戒する。

尤も、響は元の世界でも嫌と言う程見てきた連中だ。

 

「死ねぇ! 立花響っ!」

 

地獄サンダーの掛け声と共に怪人たちが一斉に響たちに襲い掛かる。

 

 

 

 

「積年の恨み、思い知れぇ!!ケケケケッ」

 

「そんな逆恨み!」

 

戦闘員と同じ剣を持った地獄サンダーの突きが響を襲う。

戦闘員の時より鋭く重い一撃に響も何とか防いではいる。直後に響の腕に鎖が絡まる、ガマギラーの鎖鎌だ。

 

「再生怪人だからといって舐められては困るぞっ!立花響!」

 

「くっ、こんな鎖!」

 

ガマギラーの鎖鎌の鎖を引き千切ろうろうとする響だが、鎖は響の予想より頑丈だった。

ならばっと、響は鎖を引っ張りガマギラーを引き寄せようとする。

 

「そうは問屋が卸すか!」

 

響の目的を邪魔するように地獄サンダーが響の足元を砂にし、足の踏ん張りを効かなくする。

足元が一気に不安定になった響は力を入れた足で砂を滑り尻もちをつく。

それを好機と見たガマギラーと地獄サンダーが響に飛び掛かる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「貴様がどの立花響か知らんが、ついでだ! 死ねぇ!!」

 

「そんな適当な理由で!!」

 

カニバブラーの左腕のハサミがヒビキの胸元まで迫り、辛うじて避けるヒビキ。

その際、ヒビキの胸元のインナーが小さく裂かれた。

裂かれたヒビキは自身の胸元を触りインナーだけ皮膚はギリギリ無事なのを確かめる。

 

「まだまだっ!」

 

自身の攻撃を避けられたカニバブラーは追撃に口から泡を吐き出しヒビキに放つ。

咄嗟に、その場をジャンプして避けたヒビキの目に泡が付着した地面が煙を上げ溶けだすのを見る。

背筋に冷や汗が流れるが、今はそれを気にしてる余裕はない。

 

一本の鎖鎌が刃を向け自分に迫ったのだ。

 

「くっ!」

 

咄嗟にガードして鎌の刃から首を守るが、代わりに腕のシンフォギアの籠手に鎌が刺さる。

幸い腕は無事だが、この態勢では抜く事も出来ないうえにジャッキを引っ張る事も出来ない。

 

「今だ、死ねぇ! 弾丸スクリューボール!!」

「アルマジロングの野郎、抜け駆けか!」

 

動きが阻害され、ヒビキのシンフォギアの能力も一部使えなくなった事で好機と見たアルマジロングが体を丸め銃で放たれた弾丸のように真っ直ぐヒビキへと迫る。

鎖の所為で防御も出来ないヒビキがその態勢で弾丸スクリューボールの直撃を受ければ命はない。

 

「ワタシ!? 邪魔をするなっ!」

 

直ぐにヒビキのピンチに気付いた響が飛び掛かるガマギラーと地獄サンダーを蹴ると同時に足のジャッキを使い一気にヒビキの下へ向かう。

その際、響の腕に絡まった鎖に蹴り飛ばされたガマギラーも一緒に移動する。

 

 

 

 

 

━━━あ、私…此処で死ぬんだ…

 

自分に迫る弾丸スクリューボールを見てヒビキはまるで他人事のように考える。

度重なるショッカーの襲撃に逃亡生活、疲れていたのかも知れない。

ヒビキの心に諦めの文字が浮かぶ。

 

━━━あのライブ以来、良いことなんて一つも無かったな…生き残った事で非難されて親友も何も言わずに居なくなったし…ノイズと戦っていたら変な組織に狙われて…私の人生って何だったんだろう…

 

ヒビキの脳裏には、全ての始まりと言えるツヴァイウィングのライブ会場の悲劇にクラスメイトからの冷たい視線、追い詰められる家族、知らない内に消えた親友、改造人間と言う化け物に命を狙われた事などなどが走馬灯のように見える。

歌に感動した記憶も今は遠い昔。

 

━━━でも、昔…誰かに諦めちゃいけないって言われた気が…たしか生き…

「生きるのを諦めないでっ!!」

…え?

 

ヒビキが走馬灯を見ていた時、横から強い力を感じ其処に視線を向けると自分と同じ顔…並行世界の立花響が自分の体を押し弾丸スクリューボールの射線から外れた。

しかし、代わりに響が弾丸スクリューボールの射線に入ってしまう。

 

「!?」

 

「なにっ!?」

 

直後に響は腕に絡まった鎖を引っ張り、ガマギラーの体を弾丸スクリューボールの射線上に持っていく。

驚くガマギラーだが、響は自分を盾代わりにしたことに気付く。

 

「止まれ、アルマジロング!」

「急に止まれるか! 立花響諸共死ねぃ!」

 

ガマギラーが制止するよう言うが、勢いの付いている弾丸スクリューボールが簡単に止まることは出来ない。

何より、仲間を庇った立花響を倒すチャンスだと考えそのまま突っ込む。

ガマギラーの体が拉げ抉られバラバラになった直後に本命の響に弾丸スクリューボールが直撃する。

何とか支えようとする響だが、回転する弾丸スクリューボールに押され遂には背後にあったシャッターのされた店舗に諸共突っ込む。

 

「もう一人のわたしっ!?」

 

その衝撃に土埃が舞う中、ヒビキの声が木霊する。

それと同時に腕を縛っていた鎖が緩み、ヒビキは鎌を引き抜くと鎖を持って腰のブースターに火を入れる。

 

「何だとっ!」

 

次に驚いたのはかまきり男だ。

弾丸スクリューボールの威力の余波でヒビキを縛っていた鎖が緩むとヒビキが腰のブースターで突進してきたのだ。

直ぐに左腕の鎌で迎撃しようとするが、ヒビキの拳が一早くかまきり男の顔面に命中する。

 

「吹っ飛べぇぇぇ!!」

 

「ギェギェッーーーーーーーーー!!」

 

ヒビキの拳が一気にかまきり男の顔面を振る抜くと、地面を何度もバウンドするかまきり男。数秒もせずに爆散した。

それを確認したヒビキは急ぎ、大穴の開いたシャッターまで戻る。

煙は相変わらずであり他の怪人の姿も煙で見えない。

それでも、ヒビキは弾丸スクリューボールで吹き飛んだ響を探そうと近づいた時、

 

「ヴアッ、ウアーッ!?」

 

「!?」

 

鳴き声と共にヒビキの横をすり抜けるようにアルマジロング飛び、外に転がる。

最初はヒビキもアルマジロングが移動したのかと思ったが、アルマジロングは立ち上がることなくそのまま爆散する姿を見て違うと確信した。

 

「アイタタタ…ちょっと油断したかな…」

 

すると、奥の方から声がするし振り向く。

店内の照明は完全に消えており暗かったがヒビキの目が慣れてくると響が元気そうに歩いているのが分かった。

一瞬、足を引き摺ってるようにも見えたが今は普通に歩いている。

 

「え…あ…大丈夫?」

 

色々言いたいことがあったヒビキだが、響の姿を見て結局「大丈夫?」としか聞けなかった。

その問いに響は頷くとヒビキは胸を撫でおろす。

とはいえ、まだ怪人がいる以上、油断はできないと二人は急いで外に出る。

外は土煙がだいぶ治まっってきたがまだ油断はできない。

ヒビキは怪人の事について聞こうとし響の方に振る向く。

だが、その時ヒビキの目に響の肩に出来た傷が目に入る。弾丸スクリューボールで突っ込んだ時に何処かにぶつけたのか肩の皮膚が完全に抉れていた。

そして、その抉れた部分から見えたのは銀色に輝く金属だった。

 

「!?」

 

これにはヒビキも言葉を無くす。その金属片はヒビキも見覚えがある、ショッカーの怪人との死闘に撃破するとよく見る物だ。

何故、そんな物が響の体にと半ばパニックになり呼吸が荒くなるヒビキ。

そんなヒビキの様子に如何したのかと視線を追った響も辿り着いた先で体が硬直する。

傷はゆっくりと回復し塞がってきているが未だに金属片が見えるのだ。

 

咄嗟に傷口を手で隠した響だが、完全に見てしまったヒビキどう説明するか悩む。

途端、妙な音がして振り返ると幾つものミサイルが響に向かって飛んできた。

 

咄嗟にガードしてミサイルの爆発をやり過ごす響。その際、ヒビキも爆風から庇った。

ショッカーのミサイル攻撃かと思い反撃の準備をする響だが、その目には…

 

「…よう、やっと化けの皮が剥がれたな。 クソ野郎ッ!」

 

憤怒の目をしたクリスがアームドギアを自分に向けている姿だった。

 

 

 

 

 

 




ヒビキ、またもや「生きる事を諦めないで!」と言われる。鉄板だね。

クリスは、後輩であり妹分である調と切歌がやられ、本部に大ダメージ、顔見知りの職員が何人も殺されたので冷静とは言えません。
ついでに言えば、遠目ですが響の傷が見られたのも大きいです。

他の並行世界にもショッカーの存在が知られました。対ウロボロスのように他の世界も協力するか?

響と調たちの間に若干の溝が出来ました。暫くすれば埋まるかと…

次回は、お互い勘違いしている響とクリスが…


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103話 響VSクリス!? 誤解の果てに…

とうとう「シン・仮面ライダー」が公開されましたね。
お陰で、YouTubeで「仮面ライダーVS地獄大使」が見れました。

映画の方は見に行くかは悩み中。
結構、賛否両論が激しいみたいで…トンネルの戦闘とかよく見えないとか。
懐に余裕がないと辛い。


 

 

 

 

 

「ク…クリスちゃん?」

 

響の頭はパニックになっている。

ヒビキに体の中の金属片を見られ、()()()()()()()()クリスが敵意を剝き出しにしているのだ。

そして響は気付く、クリスの目があの時の公園で傷口を見た後に似ている事を。

 

「その面で『クリスちゃん』なんて呼ぶんじゃねえ、偽物野郎っ!」

 

響のクリスちゃん呼びに腹を立てたクリスは響に向けアームドギアを向けると一瞬にしてガトリング砲に変え撃ち放つ。

 

「!?」

 

驚く響だが、クリスの放つガトリング砲の弾を避ける。

ならばと、クリスも回避する響を狙い撃つ。

 

「なんのつもり、クリスちゃん!こんなの嫌だよ!」

 

自分を狙う弾丸やミサイルを回避しつつクリスを説得しようとする響。

仲間であり自身の事情をしる筈の少女が敵意剥き出しなのが腑に落ちないのだ。

もし自分に非があったなら謝るつもりだ。

しかし、帰ってきた言葉は、

 

「ハッ! 随分とアイツを真似てるな、だけどそう何度もアタシたちを騙せると思うな!」

「騙す?騙すって何を…」

 

クリスへの問いを口にする響。

しかし、クリスは問答無用とばかりにガトリング砲と小型ミサイルの雨を降らす。

爆炎が響を包み込む。

 

 

 

 

 

 

 

 

「な…なんでこんな事…止めなきゃ…」

「動かない方がいいわよ」

 

響の傷口やクリスの突然の攻撃に唖然としていたヒビキだが、何度目の爆音に意識が戻ると二人を止めようと動こうとした。

だが、背後から女性の声が聞こえ振り向くと何時か公園で話しかけていた女性がいる。

マリアだ。

 

「アンタ…あの時の…」

「下手に止めようとするとアナタも危ないわ。 あの娘、完全に頭に血が上ってる」

 

マリアの言葉にヒビキはクリス達の方に視線を戻す。

相も変わらず数えきれない弾丸とミサイルが響に降り注ぐが、響はギリギリで何とか躱していく。

ヒビキの目では気付かなかったが、ミサイルの後に弾丸やボーガンを放ったり、大型ミサイルも展開して撃ちつつ即座にアームドギアを狙撃銃にして狙い撃ったりもしていた。

流石の響もクリスの攻撃を全て避けれず幾つかの弾丸が掠れる。

その擦れた個所から金属が覗きヒビキは如何すればいいのか分からなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クリスの弾丸が響の頬を掠め一筋の傷を作る。

傷口からは赤い血が流れると供の即座に傷が消えてしまう。

 

「掠り傷とはいえ、もう傷が消えちまうなんてな…」

「クリスちゃん…もう止めようよ。 私たちが争ってもショッカーしか喜ばないよ」

 

掠り傷ばかりで本命は悉くよけられたクリスは嫌味の一つも飛ばす。元々もクリスの体力はそこまで高くはない、それは自覚していたが今日は改めてそう思っていた。

しかし、クリスの嫌味に響は「止めよう」の一点張りだ。その証拠にクリスの攻撃に一切反撃せず回避と防御が殆ど、同士討ちすれば喜ぶのはショッカーだけだと理解している。

 

「はっ、S・O・N・Gの本部を襲撃しておいてよく言える、偽物野郎!」

「ソ…ソング? 歌が如何かしたの!?」

 

クリスは本部を襲撃した事を責めるが響には訳が分からない。

響の所属は未だに特異災害対策起動部二課でS・O・N・Gという組織は未だに影も形もない。

序に言うなら、響はこの世界に来る前の元の世界の情勢すら知らない。ある日、ショッカー基地の壊滅の為にマリアたちのいる牢から出されたのだ。

 

尤も、その響の態度が芝居にしか見えなくなっているクリスには逆効果でもある。

埒が明かないと判断したクリスはシンフォギアのギアであるペンダントを握る。

 

「クリスちゃん!?」

「コイツで一気に片付けてやる。 イグナイトモジュール! 抜剣っ!!」

 

クリスが胸元のペンダントを出っ張りを押し込み宙に掲げる。

そして、クリスの手を離れたペンダントは空中へと舞い三方向に開くとクリスの胸に突き刺さる。

 

「クリスちゃん!!」

 

シンフォギアのペンダントがクリスの胸に突き刺さるのを見て思わずクリスの名を叫ぶ響。

響にはクリスが謎の自傷行為をしたようにしか見えなかった。

しかし、

 

「黒い…シンフォギア…?」

 

目の前のクリスは倒れるどころか見傷であり、纏っていた赤い色のシンフォギアが黒く染まっている事に唖然とする。

少なくとも響にはシンフォギアの形態などエクスドライブ位しか知らないのだ。

 

「はっ、仲間から教えてもらってないのか。 これはシンフォギアの決戦ブースターだ!」

「決戦ブースター?」

━━━…知らない。 わたし、そんなの知らない…私がこの世界に来た後に開発されたの?

 

響の脳内はクリスの見たこともないシンフォギアでパニックになっている。

イグナイトなんて言葉、響も初耳だ。自分がマリアたちと同じ牢に入れられてる間に開発されたのかも知れないが…師匠である風鳴源十郎からは何一つ聞いていない。

なら、響がこの世界に来てる間に開発されたのかも知れないが、その力を自分に向ける事の意味が分からなかった。

 

「イグナイトの力、見せてやるよぉ!!」

 

そんな響の思考を無視してクリスはイグナイトの力を使い響への攻撃を再開させる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

鉛玉の大バーゲン 馬鹿に付けるナンチャラはねえ

ドンパチ感謝祭さあ躍れ ロデオの時間さBaby

 

「一体どういう事だ?」

 

クリスの歌声が廃墟化した街に響く中、路地裏にて戦いを観察する者が二人いた。

ヒビキやマリアではない。一人は全身が赤っぽく左腕には巨大なハサミを持ち、口の両端に触覚を持ち頭部にも二本の角らしきものがある。

 

世の中へと文句をたれたけりゃ 的―マト―から卒業しな

神様、仏様、あ・た・し・様が「許せねえ」ってんだ

 

 

クリスの弾丸が響の腕のガングニールのパーツを抉る。

先程よりもクリスの弾丸が早いことに響が避け辛そうに回避しているがさっきよりも掠る弾の方が多くなってきている。

 

「雪音クリスが立花響と戦うか、面白いではないか」

「そうだな、理由は今一分からんが潰し合うのなら万々歳だ」

 

響たちを襲って来た再生怪人のカニバブラーと地獄サンダーだ。そして苦戦する響を嘲笑する。

響がアルマジロングの弾丸スクリューボールを受けて出来た土埃に紛れ襲おうと隠れてる内にクリスが響を攻撃しだすのを目撃していたのだ。

 

傷ごとエグって 涙を誤魔化して

生きた背中でも(Trust heart)

支える事 笑い合う事 上手ク出来ルンデス力?

 

「理由など如何でもいい、上手くすれば二匹とも始末するチャンスだ」

「ああ、雪音クリスが立花響にトドメを刺す瞬間襲うぞ」

 

チャンスが来るまで二体は路地裏から二人の戦いを見物する。

時が来た瞬間がシンフォギア装者の最後だとばかりに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハア…ハア…」

 

クリスの攻撃を避け続ける響の息が乱れている。

最初のイグナイトは驚いたが攻撃の殆どはクリスの時とさほど変わらず弾速と破壊力が増してるだけだ。

 

━━━それでも普通に辛いな…

 

イグナイト状態のクリスの攻撃を避けること自体は難しくはない。

だが、クリスが殺意の籠った攻撃は響には辛くもあった。

それにクリスのミサイルの爆風や弾丸を躱すことで体力も使ったのか響は瓦礫の上に座り込む。

 

「ちょこまか逃げやがって、ネズミか? …なんで反撃しねえんだよ」

「クリスちゃん…お願い私の話を聞いて…クリスちゃんは誤解しているよ…」

 

座り込んだ響にボーガンを構えつつ近づくクリス。

一方的に攻撃されてる響だが、それでもクリスを説得しようとしていた。

 

「…誤解だとっ!アタシの後輩のちび助、二人とも怪我させといてよく言えるな!」

「ちび助…?」

 

響の記憶にクリスの後輩など知らない。

当然だ、この時期のクリスの後輩となる月読調と暁切歌は響が居た時は牢に入れられている元FISの肩書しかない。

だからこそ響にはチンプンカンプンだった。

 

尤も、その響の反応にクリスは呆れるように溜息が漏れる。

 

「もういい、お前にはアタシの全力をぶつけてやるよ!」

 

そう言い放ったクリスは纏っていたイグナイトを解きインナー姿になる。

クリスがシンフォギアを解いた事で話し合えるかと期待した響だが、クリスのはその気はない。

そのまま右手でガッツポーズのように構えた。

 

 

 

 

「今だっ!!」

        「雪音クリス、覚悟ぉーーーー!!」

 

 

 

 

突然の声と共に地面から何かが飛び出してきた。

カニバブラーと地獄サンダーだ。地獄サンダーが砂にした地面に潜り近づきチャンスを待っていた。

クリスがシンフォギアを解いた事で抹殺するチャンスだと考えたのだ。

 

「クリスちゃん!!」

 

怪人がクリスを狙ってる事に響がクリスの名を叫ぶ。

しかし、響の声を無視してクリスはガッツポーズしていた腕を上にあげる。

 

「アマルガム!!」

 

クリスが一言放つ。

瞬間、クリスの周囲が金色に輝き、怪人たちの攻撃を弾く。

 

「なにっ!?バリアだと!」

「シンフォギアの新しい能力か! 舐めるなぁ!!」

 

攻撃が防がれた怪人たちだが、そのままクリス目掛け泡を吐いたり拳やハサミを叩きこむ。

しかし、怪人たちが何度攻撃してもバリアは破れずクリスの腕から金色の巨大な何かが出てきた。

 

「金色の…花?」

 

響の目はクリスの掲げた腕からクリスの何倍もある金色の花に注がれた。イグナイトの時と同じ響の知らない能力だ。

 

アマルガム。それは錬金術とシンフォギアの融合。

ある戦いの後にシンフォギアに組み込まれた決戦機能。

 

鼻をくすぐるGunpowder & Smoke

ジャララ飛び交うEmpty gun cartridges

 

金色の花が一気に散ると共にクリスの周囲に居た怪人たちが吹き飛び、その場にはクリスだけが立つ。

吹き飛ばされた怪人たちは瓦礫へと衝突するが、直ぐに立ち上がる。

クリスの姿は気程までと違い、明るい色で胸元のギアが蝶の形にも見え、今まで見た中でも随分と軽装に見える。

 

そして、その片手には大きな弓が握られている。

 

紅いヒールに見惚れて

うっかり風穴欲しいヤツは

挙手をしな

 

クリスは目だけを動かして怪人の姿を見た後、弓を上に掲げ一本の矢を撃った。

その矢はクリス達の上空に達すると、まるで宇宙に飛んだ人口衛星のように止まり先端がアンテナの如く開く。

その開いた先端から赤い網のような物が出てクリスの周囲…響や怪人たちを内側に閉じ込める様に蓋をする。

 

「何だっこりゃ!? バリアのつもりか!」

「なら失敗したな、雪音クリス! 敵がバリア内部に入り込んでるんだ!」

 

響はクリスの展開したバリアみたいの物をジッと見つめ、怪人たちはクリスを馬鹿にするように口を開く。

バリアを展開するには広すぎるうえに敵が内部に入り込んでいる。バリアにもよるが、これでは自分が逃げられずに詰む。

 

血を流したって 傷になったって

時と云う名の風と 仲間と云う絆の場所が

痛みを消して カサブタにする

 

怪人の声を無視して歌うクリスはもう一本の矢を弓に装填して撃つ。

撃たれた弓は怪人たちに迫るかと思いきや横をアッサリと素通りした。

 

「?」

「はっ、ノーコンもいいとこだな! 雪音クリス!!」

 

自分たちに射られるどころか明後日の方向にいった矢に怪人たちは薄ら笑いを浮かべ、そのままクリスに突進していく。

最早、クリスの周囲にバリアはない。一気にトドメを刺すつもりだ。

 

━━━クリスちゃんが外した?クリスちゃんらしくない。 …一体…!?

 

クリスの矢が盛大に外れ響の後ろの方に飛んで行った事に響はクリスらしくないと考える。

クリスの射撃の腕は自分たち以上だ。下手すれば狙いも付けずにあたる事もある。

そんな、クリスが怪人たちに当てられない事が信じられなかったが、直後に響は目にする。

 

クリスが放ち自分の真横を飛んで行った矢が戻ってきたのだ。

 

…あったけえ

 

「死ねぇーーーー!! …がっ!?」

「何だとぉ!?」

 

飛び掛かった地獄サンダーだが、突然背後から自身の胸を貫かれる。

カニバブラーと貫かれた地獄サンダーも最初は立花響が「何かしたのでは?」と考えたが地獄サンダーの貫いた物が先ほどクリスが放った矢だということに気付く。

地獄サンダーがそこまで認識した直後に爆散。

 

「雪音クリスの矢が何故っ!? 二発しか撃っていない筈…!?」

 

そこでカニバブラーは目撃した。

地獄サンダーを仕留めた矢が消えることなく進み、クリスの出す赤い網のような壁に当たった瞬間、別方向に飛んでい行くのを。

 

「跳弾だと!?雪音クリス、貴様まさかっ!!」

 

クリスが広域にバリアを展開したのも自分たち諸共バリア内に入れたのも全てはこの攻撃の為の伏線。

カニバブラーの声にクリスは何も答える気は無かった。

 

∀∀デ・レ・メタリカ

 

その後、クリスの矢を避け続けようとしたカニバブラーだったが、クリスの矢が通過する度に体が削られ最後には回避し切れず直撃して爆散した。

 

 

 

 

 

 

「後はお前だけだ」

 

怪人を倒したクリスは地面に座り込む響に近づき弓を構える。弓には当然矢が装填され何時でも撃つことが出来る。

クリスが怪人を倒したこと自体、響は不思議とは思わない。

この世界に来る前もクリスはショッカーのアジトで怪人を倒したと聞いても居た。

しかし、そんなクリスが自分を敵視してる事が納得いかない。

何より、

 

「クリスちゃん、そのシンフォギアに黒いシンフォギアは一体…」

 

自分の見たこともない二つのシンフォギア。

その正体が気になったのだ。

決戦ブースターと聞いたイグナイトも何時の間に出来たのだと考える響。

 

「はっ、あの馬鹿の姿を真似てもイグナイトもアマルガムも知らないならしょうがねえな。テメーみたいな出来損ないがシンフォギアを纏うこと自体、間違いなんだ」

「…そんな言い方…酷いよ…」

 

嘗ては、クリスとも対立した響だが和解し一緒にショッカーと戦ってきた。

共に戦ってきた筈の彼女の口からは聞きたくもない罵倒が飛んでくる。

 

「私たち、今までずっと一緒にショッカーと戦ってきた筈なのに…」

「…そういう()()か? そうやって今度はアタシを殴り倒すつもりか」

 

響の説得もクリスには届かない。当然だ、クリスがショッカーと接触したのはこの世界に来てからだ。

この時点で響の言う「ずっと一緒」が信用できない言葉だった。

そして何より、

 

「残念だがあの馬鹿はアタシ等の世界で元気いっぱいなんだよ。ついでに言えばアイツの体は、お前と違って完全な人間の体なんだ。 何を企んでるかは知らねえけどお前たちの計画は初めから破綻してたんだ!」

「!?」

 

クリスの発言に響の顔をから表情が消える。

 

━━━どういうこと…。クリスちゃんの言葉が正しいなら、クリスちゃんの世界にはもう私がいるの?それも生身の体の。 所々にクリスちゃんの認識と差異を感じる。 SONG…イグナイト…アマルガム…もしかしてクリスちゃんたちは私の知ってるクリスちゃんたちじゃない?

 

響が自身の勘違いに気付く。

同時に響の体から力が抜け目線も地面に向かってしまう。

 

「………」

 

クリスのは聞き取れないが響の口から何かブツブツと言い出す。

眉を顰めるクリスだが、抵抗しないなら一気に弓を引き締め矢を放とうとした。

 

 

「何かようかよ」

 

今まさに響にトドメを刺そうとしたクリスだが、背後の気配と弱弱しい殺気に動きを止め口にする。

クリスの背後には拳を突き出しているヒビキが居た。

 

「勝負はもうついてる、トドメを刺す事なんて…」

「…お前は知らねえだろうが、ウチの二人のチビがコイツにやられたんだ」

 

響がもう抵抗する意思がないのはヒビキにも伝わりクリスを止める為に近づく拳を向けた。

しかし、ヒビキの説得も頭に血が上ってるクリスにはあまり効果は無い。

本部の襲撃と打撃、口では憎まれ口などを言いながらも大事な後輩を傷つけ、馬鹿とからかいながらも誰よりも信用してる少女の姿をした敵を許す気はない。

一瞬、ヒビキとクリスの間に一触即発の空気が流れる。

 

「…そこまでにしなさい、クリス」

 

其処で声を掛けてきたのはマリアだった。

 

「抵抗しないなら特異災害対策起動部二課の本部に連れて行って尋問するべきよ。少なくともその子は何か知っていると思うし」

「…お前はいいのかよ? あのちびっ子は…」

「ええ、私の妹ぶんでもある。だけどアナタが怒ってくれたから冷静でいれれたわ」

「…チッ」

 

マリアの返答にクリスは舌打ちする。

だが、マリアの説得を効いたのか弓矢を仕舞い、シンフォギアも元の状態に戻した。

後は、マリアと協力してヒビキを保護して共に本部に連れて行くだけ()()()

 

 

クリスのイグナイトとアマルガムのエネルギーに引かれたのか、地面を潜り何かが迫る。

 

 

「…なあ、マリア。嫌な予感がするんだけど」

「奇遇ね、ワタシもよ」

 

軽く地響きが聞こえてきたクリスがマリアに軽口を言い、マリアも同じ考えだと返答した。

直後、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「またコイツか!?」

「アナタの歌に引かれたのかしらね」

 

朽ちかけたアスファルトを破り現れたのはゴライアス。

クリスのフォニックゲインに引かれたんだろうと考えたマリアもアームドギアを握りゴライアスへの攻撃に備える。

 

その後、日が暮れるまでゴライアスの相手をしたクリス達はゴライアス撤退後、二人の立花響の姿が消えていた事で逃げられたことに気付いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クリス達のいた場所から少し離れた朽ちかけのアパート。

ノイズの出現に放棄され大家すら居なくなったアパートの一室が乱暴に開かれ誰かが入ってくる。

 

「ハア…ハア…相変わらず重い!」

 

肩に響を抱えたヒビキが息を切らしている。

ゴライアスの乱入に隙を見て蹲る響を担いで逃走したのだ。

無事に部屋に入った後は担いでいたヒビキを放置され変色した畳の上に落とす。正直、埃だらけだったが気にしてる余裕は無かった。

 

「…全部うそだったの?」

 

ヒビキも座って暫く息を整えた後に口にする。響を連れて逃げたのは幾つか疑問があったからだ。

響の傷口から金属が見えクリス達の襲撃、もう何が何だか分からないヒビキは響が口にしていた情報が全て嘘なのか気になっていた。ただどうしても腑に落ちない事も多々ある事が気になる。

だからこそ、響はクリス達がゴライアスの相手に集中してる間に響を担いで逃げたのだ。

 

しかし、響はそれに答えず倒れていた体を動かして座り込む。

 

「並行世界から来たのも、ショッカーに命を狙われてるのも全部ウソ?」

「………チガウ…」

「ワタシに近づいたのも…ワタシがターゲットだったから?」

「……ちがう…」

「ずっと私の傍に居たのも、私を信用させて特異災害と合流させない為?」

 

「違う違う違う違う…違う!!」

 

ヒビキの問いに悲鳴にも似た声で答える響。その目からはポロポロと涙が出ている。

 

「私は! …私たちはずっとショッカーと戦い続けて…でも…私はショッカーの…スーパー破壊光線砲を止める為に…絶唱で…!」

「…なら、その体は? 如何して言ってくれなかったの?」

 

「…如何説明すれば良かったの!? あいつ等に拉致されて無理やり改造手術されて人間じゃ無くなったって言えば良かったの!!」

 

「!?」

「私だって…好きで人間を辞めた訳じゃないよ!この傷だって未だに消えない改造手術の傷だし…」

 

泣き叫ぶように言った響はシャツを脱いで胸元の傷をヒビキに見せる。

それを見たヒビキは手で口元を押さえる。以前は襟を引っ張ってツヴァイウィングライブの時についた傷だけを見せたが、今度はシャツを脱いだ事で胸の全体の傷を視認できた。

 

━━━これじゃ誰にも言えないわけだ、私だってきっと同じ目にあえばこの子と同じだと思うし…

 

響の事情を聞いて納得するヒビキ。自身も同じことにあえばきっと誰にも相談など出来ないだろうとも考える。

 

「…帰りたい…帰りたいよ…。クリスちゃんもマリアさんも私の知ってるクリスちゃんとマリアさんじゃなかった! 元の世界に帰りたいよ、翼さん、クリスちゃん、師匠、お母さん…お祖母ちゃん…お父さん…未来」

 

響は涙をポロポロ流して帰りたいと訴える。

その姿は一緒にショッカーと戦った勇敢な少女とは到底思えない。

 

━━━そうか…どこかで見た記憶があると思ったら迷子になって泣きじゃくる子供だ…

 

その姿にデジャブを感じたヒビキは、ツヴァイウィングのライブの前に親友と街に遊びに行ったときに迷子の少女に会ったのを思い出す。

親とはぐれ、親友と二人で話そうとしても警戒して声も出さず目から涙をポロポロ流した少女。

結局、親を見つけるのに時間がかかり遊ぶ時間が消えて二人で笑い合った時を。

 

結局その日は泣きじゃくる響の背中を見て休む事にするヒビキ。

今の自分では下手な慰めすら出来ないと判断して声をかけなかった。

何よりも戦ったり響を担いで移動などして疲労も溜まっていた。

意識を失う直前に外から雨音が聞こえてきたような気がし意識が途切れる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヒビキが意識を失う少し前、

クリス達のいた並行世界では、本部の新調の為暫くの休みを貰った装者である響と未来は丁度ウィンドウショッピングを楽しんでいた。

 

「ねえ、未来。このアクセサリークリスちゃんに似合わない?」

「え、クリスには子供っぽくない?」

「そうかな?」

 

久しぶりに二人の時間を楽しむ響と未来。

並行世界の危機にノイズの出現。謎の組織ショッカーなど問題は山積みと言える現状休みの時はリフレッシュも仕事の内とも言えた。

 

「!」

「次はあそこ行こう、響。…どうしたの?」

 

楽しく遊んでいた響の表情が悪くなった事に気付いた未来が急ぎ響に近づく。

しかし、響の息はドンドン激しくなり遂には、

 

「ウワアアアアアアアアアアアアアアッ!!」

「響!響っ!!」

 

大声を上げ倒れてしまい未来が必死に響の体を揺する。

その内、誰かが呼んだ救急車のサイレンが辺りに響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

平行世界で響と未来が右往左往して一日が経ち、廃墟となったアパートでは、

 

「…ファ~、壁を背にしていたのに結構眠ったな」

 

横になっらなかった所為か体から疲労が抜けていないとと内心愚痴るヒビキ。

外からは未だに雨音がするので雨だろうと判断した。

 

「…あれ?」

 

昨日から放置していた響も泣き止んだかと思って視線を向けた時に気付く。

 

 

 

 

其処には誰も居なかった。

 

 

 

 

 

 

 




ゴライアスの便利さ。劇中のゲームでも動きが変わらなかったような…

クリスがここにきて全力で響を倒そうとしてる為、イグナイトもアマルガムも使用。…ガチです。

読者の中には、「クリス、何してんだ!」という人も居るでしょうが、クリスの視点からすれば、本部襲撃に調と切歌が重症、普段は馬鹿扱いしているが誰より親友だと思っている人物に化けてる。の三アウトもいいとこです。

とうとう響から弱音が漏れましたが、響の心情は「希望を与えられ奪われた」状態と言えます。
トカゲロンに負けた時以上の絶望を感じてます。

そして、並行世界(XD)の響に精神リンクの洗礼が…


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104話 ヒビ割れる絆 ショッカーの大進撃

前回のあらすじ

ギャグマンガ日和のOP風

響「頼れる仲間は本当は知らない人~♪ 顔もシンフォギアも同じだけど本当は知らない人~♪ …泣きたい」


 

 

 

………此処は何処?

暗くてジメジメしている…周りを見ても誰も居ない…寂しいな…

あっ、クリスちゃん! おおい、クリスちゃん! …消えちゃった…

マリアさん!? マリアさん、此処は一体何処…消えた? 

 

それからも師匠に翼さん、調ちゃんや切歌ちゃんの姿が見えて大声で呼んでみたけどみんな無反応で直ぐに消えちゃう…如何して!? 如何してみんな消えちゃうの!?

 

『それはお前が化け物だからだ』

 

クリスちゃんの声?私が化け物って如何いう事!?私は普通の人間だよ

 

『いいえ、立花響。 お前はショッカーの怪人と同じ化け物だ』

『…人間に化けてるなんて…卑怯』

『二度と私と調に近づかないで下さい!』

『悪いが俺は化け物を弟子にした覚えはない』

 

消えた筈のマリアさんや調ちゃん、切歌ちゃん、師匠まで私を責める

嫌だ…嫌だよ!如何してみんな私をそんな目で見るの?私は人間の立花響だよ!

 

『ねえ、響』

 

あっ、未来!? 未来なら私が人間だって分かるよね!!

 

『響、自分の手とかちゃんと見た方がいいよ』

 

手? 私の手が如何したってナニコレ?

私の手が見たことない金属の塊が!!手だけじゃない、足もお腹も背中も胸も顔も金属の感触が…

 

『ほら響って化け物なんだよ』

 

嫌ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

幾つもの機械音が響くと同時に人口の呼吸音が聞こえる。

部屋の中は明るく、ベッドの上には響が眠っており腕には幾つもの点滴が打たれている。

此処は、S・O・N・Gが特異災害対策起動部二課の時代にお世話になった病院であり何人もの医者が響の診察をしていた。

 

商店街で突然倒れた響が救急車で運ばれ手当てを受けていたのだ。

 

「それで、先生。 響くんの様子は…」

「…分かりません、ここまでの急速な衰弱なんて本来はありえない。 もしかして依然読ませてもらった精神リンクの可能性もあります」

 

響が倒れた報告を聞いた源十郎が響の治療を行っていた医者に状態を聞くが、あまり役に立つとは言えなかった。

医者からすれば、響は謎の衰弱しており原因も不明。

 

「精神リンクだと、まさかここまでだとは…」

 

医者から「精神リンクが原因だは?」と言われた源十郎は奥歯を噛み締める。

過去には別の事件で翼やクリスが精神リンクの影響を受けた事があるが此処まででは無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それは恐らく、響さんの精神が翼さんやクリスさん以上に影響されてるようです」

「あの二人以上…」

 

日本政府から間借りしている仮説本部に戻った源十郎は報告を聞き調べていたエルフナインからそう聞いた。

エルフナイン曰く、響の精神は翼やクリス以上に繋がりやすい可能性だ。

 

「…つまり、向こうの響くんに何かあったと言うのか?」

 

響がこれまでにない程の精神にダメージを受けたのだ。向こうの世界で何かが起きたと考える方が正解だろう。

向こうで何があったかはまだ分からないが源十郎は嫌な予感を感じていた。

 

 

 

 

「あの…私を向こうに行かせてください!!響を助けたいんです!」

 

 

 

今まで二人の会話を聞いていた少女、小日向未来が声を大にして訴えた。

響が倒れてから離れたがらなかった未来だが、響の精神に影響が出たのなら自分が助けに行きたいと訴える。

 

「未来くん、確かに向こうの状況次第では援軍も必要かも知れんが…」

「戦闘経験が浅い未来さんだけでは厳しですね」

 

S・O・N・Gの中で小日向未来だけは未だに経験が浅く、未熟な装者と言えた。

幾ら向こうにクリスとマリアが派遣されてるとはいえ、未来一人だけで行かせられないとも思った。

しかし、

 

「今は翼しか居ないのがな…」

 

響が衰弱して倒れ、調と切歌は未だに入院。となれば、残った風鳴翼だがそうするとS・O・N・Gで戦える装者が居なくなりノイズが出た時に対応が出来なくなる。

せめて調か切歌が復帰するまで待って欲しいのが源十郎の本音であるが、そうなると響の容態は深刻になる可能性が高い。

少数精鋭の辛いところでもある。

 

「せめて誰か一人だけでもつけられれば…」

 

 

 

 

 

「なら、アタシが一緒に行こうか?」

「キミは…!」

 

悩む源十郎の耳にある女性の声が聞こえ振り向くと心強い彼女の姿がある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よく分らんが、都合よく装者どもが分断してくれたようだ」

 

とあるショッカーアジトにて、廃墟とした商店街で響とクリスの戦闘記録を見ていた地獄大使。

クリスの一方的な攻撃に翻弄される響の姿を笑いながら見ている。

響に向かわせた再生怪人は全滅したが、悪魔祭りがある限り何度でも蘇る。

それよりもクリスの力に注目する地獄大使。

 

「だが、あれは一体何だ? イグナイトは兎も角、あの金色の花が出た後のシンフォギアは? 一見エクスドライブにも見えるが…」

「しかしエクスドライブ程のエネルギーは検出されてません、恐らく別物かと…」

「…アマルガムと呼称されるシンフォギアより、結社で使われる錬金の反応あり」

 

地獄大使の呟きに解析していたショッカー科学陣から報告があがる。

 

「錬金術だと? まさか向こうの世界では結社と組んでいるというのか? それだと少々面倒だな。 まあ此処で考えても詮無きことか、今は一刻も早くシンフォギア装者の抹殺しなければ…装者どもの動きは?」

「イーッ! 雪音クリス及びマリア・カデンツァヴナ・イヴは風鳴翼の見舞いに病院に行ってます。立花響はもう一人の方と外れ雨の中、歩き回っているようです」

 

クリスとマリアは現在、翼のお見舞いに病院に居り、響も単独行動をしている情報を掴んだ。

 

「そうなれば、特異災害対策起動部二課本部もガラ空きか、良し!行け、お前たちの出番だ!!」

 

ブリュリュリュリュッ!!

               ブゥゥーヨンッ!!

  ビリュリュリュッ!!                  

 

地獄大使の命に雄叫びのように声を荒げる怪人たち。

ショッカーの魔の手が装者たちにふりかかる。     

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「報告は聞いている。あの立花響は偽物だと判断したのか」

「…ああ」

 

翼の問いにクリスが短く返答する。

此処は翼の病室…ではなく病院の屋上へと続く階段付近だ。

晴れていれば病院の屋上で日光浴しながら話すのもありだったが天気はあいにくの雨。

とある理由で病室で話す気にならなかったのでこの場所になったのだ。

 

「それで、偽物と思われる立花響を捕まえようとした時に…」

「ゴライアスが出たんだろ?一応報告で聞いている」

 

不機嫌そうにクリスが答えた後にマリアが続けて言い二人の不運に苦笑いを浮かべる翼。

 

「それにしても、その立花響は本当に偽物だったのか?」

「…それについちゃ間違いないと思う。傷を負った時に傷口から金属が見えた。あれは怪人たちと同じ金属だ」

「私もそれは目撃したわ…」

「…その割にはマリアは複雑そうな顔をしているな」

 

偽物だとは思っているクリスだが、マリアは引っかかるものを覚え何か悩んでいる。

短い付き合いながらもマリアの表情で気付いた翼がそう言うと、

 

「…いくつか腑に落ちない点があるのよ。確かに私はショッカーの用意した立花響と元の世界に戻った時、ショッカーに良いように利用された。 …そこら辺記憶が曖昧だけど…」

「らしいな」

「まだ記憶が戻んねえのか?」

 

あの日、ギラーコオロギの殺人音波で操られたマリアだが、操られてる間の記憶が非常に曖昧であり尋問を受けたショッカーアジトの場所すら覚えてはいない。

それでも、響に似た娘が地獄大使と会話している記憶はあった。

 

「僅かだけど、ショッカーに捕まっていた時に立花響の姿は記憶があるけど…違和感を感じるのよね」

「違和感?」

「さっきクリスが戦っていた時の立花響を見て気付いたのよ。 あの時の立花響は地獄大使と何か話していたんだけど、普段の立花響と比べて機械的?な喋り方だったと思う」

「機械的? そりゃあの偽物の中には本物の機械が埋め込まれてるんだろ、今までの怪人も見たことない装置が詰め込まれてたしな」

 

マリアの「機械的」と言う発言にクリスはそう返答する。

クリスとマリアも改造人間と戦う前にロボット兵などとも戦っている。尤も、強さは雲泥の差と言えるが。

響の体から金属片が見えた以上、あの立花響は響のデータから造られたロボットの類だとクリスは考えていた。

 

「…残念だが私はもう一人の立花響と話した事がないから何とも言えないが、不自然なのは確かだな」

「ええ、私たちの目を誤魔化す為にショッカーの怪人と戦っていたにすれば、目的が不明ね。もう一人の立花響を殺すにしても浚うにしても、時間がかかり過ぎている」

 

自分たちがゴライアスの相手をしてる間に態々連れて行ったんだ。好感度稼ぎにしては、おそらくこれ以上ないレベルだろう。

なら、何故いつまでも一緒に行動してるという疑問が湧いてくる。

 

「そりゃ…ショッカーがあの馬鹿を使って何かをやらせる…為? あの馬鹿に向けている殺意もカモフラージュ…にちゃあ高すぎる気がするな」

「どっちにしろ情報が無さすぎるのよね」

 

此処にきてクリスとマリアは自分たちが持つショッカーの情報が致命的に足りない事に気付く。

ショッカーの最終目標は世界征服だが、あるとすればそれだけだ。

何処に基地があり、次の狙いは何か? 地獄大使以外にも大幹部は存在するのか? っといった情報すら無いのだ。

 

「あら?もうこんな時間?」

 

翼と色々話し込んでいたマリアがふと時計を見る。

翼の面会に来た時の時間から2~3時間が過ぎている。

 

「もうそんなに経ったのか、二人もそろそろ本部に戻るのか?」

 

なんてことない翼の質問だったが、二人は目を逸らして何も言わない。

だからと言って帰るそぶりすらない事で、翼の脳内にある考えが浮かぶ。

 

「戻れない、或いは戻りたくないと言うのか? …もしかして本部に来ているのか、お爺さまが…」

 

クリスもマリアも翼の質問に返答せず頷くだけだった。

 

 

 

 

事の起こりはクリスが響と戦った翌日、

外が雨という事で指令室に備えられたソファーでのんびり過ごしていると風鳴一族の長にして護国の鬼、風鳴訃堂の怒鳴り声が二人の耳に入る。

 

『このたわけどもが、ワシの送った人員を消費させるだけでなく、ショッカー一味の立花響を逃がしたそうだなっ!!!』

 

指令室に訃堂の怒鳴り声が響き渡る。

その報告は源十郎のレポートがまだ提出されておらず上の人間は知らない筈だが、恐らくは訃堂のシンパである誰かが流したのだろうと深く考えるのを諦める源十郎。

 

「ま、待ってください。あの立花響くんがショッカーの一員だというのはまだ確証を得てません。それにショッカーの怪人たちも手強く装者意外が相手ですと消耗は避けられず…」

『風鳴の血を引く男が言い訳をするなっ!!どうやら本当にワシの教育が悪かったようだな、今日は直々にそっちに行って一から鍛えてやるわっ!!!』

 

源十郎が何とか訃堂の怒りを鎮めようと訃堂に説得するが、余計に怒らせただけでモニターには訃堂の怒りの顔がアップされ途切れる。

それを見ていた職員の中に「うわあ~」という声も聞こえた。

 

その後、巻き込まれるのは勘弁だとしてクリスとマリアは訃堂が到着する前に避難。

翼の見舞いに来ていたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ま、まぁ私もあと少しで退院出来る。その時にでも立花響と話をしてみたいな。 後の話は病室でしないか?」

 

取り敢えず本部に訃堂が来たことは考えない事にして二人にそう呼びかける翼。

尤も、翼の提案にクリスとマリアがジト目になる。

 

「あの部屋かよ…」

「翼…あんたは掃除って言葉知ってるかしら?」

「何だ?二人とも、慣れれば快適なんだぞ!」

 

二人は知っている、翼の病室は物が溢れ散らかっている事を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同時刻、

私立リディアン音楽院にて、体操服を着て通路を歩く三人の生徒が居た。

その顔はどれもが見知った顔をしており、この世界の安藤創世、寺島詩織、板場弓美の三人だった。

 

「うわ~、雨が酷くなってるよ」

「こんな時に体育って嫌よね…」

「フフフ…場所は体育館ですから」

 

時間的余裕があるのか三人はのんびりと歩きながら喋る。普段から下らない話やファッション、時にはアニメの話で盛り上がったり引かれたりしている。

 

「そう言えばさ、ウチのクラスの子がまた休んでるとか」

「最後に見たのは何時でしたっけ?」

「確か…二週間位前じゃない? 確かあの時はテレビで「電光刑事バン」の復刻スペシャルで憶えていたし」

「…その子、進級出来るの?」

 

詩織と弓美の言葉に苦笑いした顔をしてそう言う創世。

何故か、教師たちがあまり問題にしていないが、一般的に考えれば其処まで不登校だと心配になってくる。

 

「ん?あれって…」

 

不登校の生徒の話をしていた三人の内、弓美が窓の外を見て呟いた。

外は相変わらず雨が降っている。

 

「どうしたんですか?」

「なに、犬でも見つけた?それとも電光刑事バン?」

「アンタ、あたしの事何だと思ってる? そうじゃなくて、あれ!」

 

弓美が窓の外に向かって指を刺す。

雨の所為で見え難かったので創世と詩織が窓に寄りかかったやっと弓美が見た物に気付いた。

 

「え?」

「お坊さん?」

 

それは、雨の中錫杖を突き三度笠を被った坊さんが着る袈裟のような物を着た三人組だった。

 

「きっとあれよ、虚無僧って奴」

「…いえ、虚無僧とは深編笠という顔を完全に覆った編み笠のような物を被っていて尺八を吹いている人の事です。あれはどっちかと言うと怪僧かと」

「で?その怪僧がなんでうちの学園に?一応先生に知らせてくる」

 

弓美と詩織が虚無僧やら怪僧とか話し、創世は怪しい人物が学園に入ってきた事を教師に知らせる為に廊下を走る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シトシトと雨が降り注ぐ街。

空は昼間にも関わらず雨雲によって太陽光は遮断され薄暗くなっている。

こんな日は余程の事情が無い限り、外を歩き回る者は皆無と言える。特に廃墟付近には…いや一人だけ居た。

雨の中、傘も刺さずカッパの類も来ていない少女の影。響だ。

クリス達と敵対したショックで一晩中泣いていた響は一人になりたくてヒビキに黙って雨が降る廃墟を歩いていた。

 

━━━…如何してこんなことになっちゃったんだろ?

 

靴には既に大量の雨水が入り体も雨で濡れた服が体に張り付くが、響はそれを無視する。

頭の中では、如何してクリス達と敵対したのか、如何して戦っても辛いままなのか様々な事に悩んでいた。

 

━━━クリスちゃんやマリアさんは私の知っているクリスちゃんとマリアさんじゃなかった。 もう一人の私にも体の事を知られてしまった。 結局、私はあの頃と何も変わってないのかな…

 

響は思い出す。

嘗て、ショッカーのアジトから逃げ出し戦闘員の追っ手を躱しつつ過ごした響を、数日もしない内に師匠である風鳴源十郎に保護され特異災害対策起動部二課に入った事を。

 

━━━今更気付いたって、特異災害対策起動部二課に入れるわけ無いよね…体の事を知られた以上、もう一人のワタシとも一緒に居られない…久しぶりだな、独りって…

 

思い出すのは嘗ての雨の日。

未来が風邪で休み傘を隠され濡れて帰ろうとしたあの日だった。

 

━━━そっくりだな、あの時と…でもあの時はまだ生身の人間だったんだよな…それに比べて今のわたしは…

 

 

 

「あれ~、可愛い子発見♪」

 

物思いに耽っていた響の耳に男の声が聞こえた。

視線を向けた先には傘も刺さず派手な色をしたパーカーを着た男が二人いる。

一人は、パーカーから見える茶髪で鼻や耳には幾つものピアスをしており、もう一人の男は響を値踏みするように見て風船ガムを噛んでいて片手にはバットが握られている。

 

「彼女~、一緒にお茶しない。おススメの店があるんだよ!」

 

茶髪の男が響をナンパする。

響は知らないが、彼等はこの一帯の廃墟にチームを持つ半グレ集団の一員だ。

殺し以外の犯罪は一通りやっており警察もマークしている要注意集団としても知られている。

響をナンパしたのも上手く連れ込み集団で襲う為だ。

 

「しない」

 

男のナンパを響は拒否する。

響の心境もそうだが、男たちの雰囲気がかなり怪しいと響も感じてた。

例え、並行世界の人のいい響でもこのナンパは断るだろう。

そのまま響は二人の男の前から去ろうとするが、

 

「待てよ、このアマが」

 

バットを持っていた男が響の腕を掴む。男にとって茶髪の仲間のナンパが成功しようが失敗しようが如何でもいい。

断るなら無理やりにでも自分たちの拠点に連れて行く。

今回は男はそうしようとしていた。

 

「あってっちゃん、もう力づく?」

「お前のは手間がかかるんだろうが、さて一緒に行こうぜ」

「…放してください」

「お、結構上玉じゃねえか。 裏にでも流しても儲けが出そうだな」

「離して!」

 

男が下種な事を言って薄ら笑いを浮かべた時、響は少し力を入れ腕を振る。

パシッっという音と共に男の腕が離れた。

 

「あ~あ、折れちまったじゃねえか。治療代出して貰わないとな」

 

しかし、男はヘラヘラした顔をしてそう言う。

当然ながら普段の男なら骨折どころか傷一つない。相手にイチャモンをつけ金を奪ったり強引に連れて行く男の常とう手段の一つだ。

だが、それは普通の人間での話だ。

 

「てっちゃん!てっちゃん!!」

「何だ、五月蝿ねえな」

「手…てっちゃんの手が!」

「手が如何し…はっ?」

 

慌てる相棒の言葉に男が手の方を見る。響の腕を掴んでいた腕の関節が曲がってはいけない方向に曲がっている。

男は直ぐに理解出来なかったが、折れた腕に急速に痛みが走り、これが現実だと知る。

 

「イ、イデェよ、俺の…俺の腕が!!」

「ば、バケモンだ! 早く逃げようてっちゃん!!」

 

居れた腕を押さえ涙と涎で叫ぶ男を茶髪の男が誘導するように移動させる。

もうナンパとか拉致とか如何でもいい、この痛みを消す方が先だと響を無視して茶髪の男は手を振っただけで相棒の骨を折った響に恐怖心を抱き、一刻も早く離れて行った。

 

因みに余談であるが男たちのグループはショッカーにも狙われ怪人の素体として拉致されていたりする。

 

その場に静寂な空気が戻り雨音しか聞こえなくなった。

響は男を振り払った手を見て溜息をつく。

 

「…化け物…か、改めて言われると傷つくな…」

 

男の手を振り払った自分の手を見る響。

そこまで力を入れたつもりはない、寧ろ目の前を飛ぶ羽虫を振り払うようにしたつもりであったが、それだけでも大の男の骨が折れてしまった。

 

「あはは…今日は…力加減が上手くいかないな…」

 

試しに響は地面に落ちているアスファルトの破片を持ってみると一瞬で粉々に砕け散った。

響自身も其処まで力を入れていたつもりはない。恐らく、響の感情で力の制御が上手くいっていないのだろう。

 

━━━こんなんだからクリスちゃんも私の事を偽物扱いしたんだもんね。 何で私だけこんな目に合うんだろう

 

響の心には幾つもの思いが渦巻く。

本人も知らない内に、それは徐々に大きく育っていく。

 

━━━私は一度だってこんな力、望んだことなんてない。 機械の体なんて欲しくなんてなかった、それなのにクリスちゃんたちには敵視され、もう一人のワタシにも…

 

独り雨の中で立ち尽くす響。

その時、瓦礫の一部が落ちる音がして目線を向ける。

 

━━━そうだ…全部全部…全部全部全部全部全部全部…

 

「お前たちの所為だ…」

 

何時の間にか響を取り囲むように居る戦闘員たち。

その手には短剣や槍が握られ今に響を襲う腹積もりだったのだ。

 

響は直ぐに聖詠を口にしシンフォギアを纏う。

その顔は天気の所為か酷く黒く見え響の表情も見えない程だった。

 

 

 

 

 

 

そして、同時刻、

 

 

 

「本当に立ち寄らないのか?お茶位は出すぞ」

「いや、いいって!」

「退院した時にでも頂くわ」

 

翼が自分の病室の前で二人にお茶でもと言うが、二人は頑なにそれを拒否しその場を後にする。

残念な気持ちの翼だが、病室に戻ると自身の着替えを踏んで少し慌てる。

 

「いかんな、防人として早く退院しなければ…」

 

思わず独り言を言う翼。

本来なら、この独り言に反応する者は病室内には居ない筈だが、

 

「退院出来るといいなっ、風鳴翼!!ブリュリュリュリュッ!」

 

「!?」

 

突然、不気味な声と共に病室の電気が消えてしまう。

外は未だに雨が降り、昼間と言えど部屋の中は暗かった。

 

翼が咄嗟にシンフォギアのギアであるペンダントを握ろうとしたが、

 

「!? しまった」

 

入院中ともあり今日は偶々外していた。

キッと部屋の中を睨む翼だが、後ろ手でドアを開こうとしたが、

 

━━━くっ、ダメか!

 

既に病室の扉は開くことなく翼の力でも無理だろう。

 

薄暗い部屋の中で不気味な影が動き出す。

 

「ブリュリュリュリュッ! 探し物はこれかな? 風鳴翼!」

 

「姿を見せたらどうだ?ショッカーの怪人め」

 

不気味な影の手からシンフォギアのギアであるペンダントの影が写る。

シンフォギア装者の命ともいえるペンダントを盗られた翼は額から汗が流れながらも敵の姿を確認しよとする。

 

「見たいか?風鳴翼。 丁度いい、この病院で無事なのは貴様たち装者だけだ!」

 

ベッド脇から黒い影が飛び出し翼へと迫る。

 

「しまっ!?」

 

飛び出した怪人に首根っこを掴まれた翼は首筋に鋭い痛みを感じると共に意識が途切れる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「此処が特異災害対策起動部二課の入り口だな、行くぞ」

 

私立リディアン音楽院のある通路。

三人の僧たちの前に見える扉。特異災害対策起動部二課の本部に繋がるエレベーターだ。

私立リディアン音楽院に堂々と侵入し、アッサリとエレベータ前に来たのだ。

 

「待ちたまえ、君たち!」

 

その時、通路奥から警備員が来た。

創世達が教師に教えた後に教員たちが警備員を送ったのだ。目的は当然、学園の関係者でもない者を追い出す為。最終的には警察に連れて行く事も視野に入れている。

 

「ダメだよ、此処は学院の関係者以外立ち入り禁止だ」

「直ぐに退去してもらう。ごねるなら警察に通報しますんで」

 

「警察ですか……ふっふっふっふっふっ!」

 

警備員たちの退去命令に僧の一人が笑いだすと共に被っている三度笠で自信の顔を覆う。

そして、ほんの一瞬の内に三度笠を取っ払う。

 

「やれるもんならやってみろ! ブゥゥーヨンッ!!」

 

三度笠を取っ払った僧の顔が巨大な赤い複眼と鋭利な口をした怪人になった。

 

 

 

 

 

 

 




祝、前回の話で感想が初の二桁!

響に無印の頃のように再び暴走の兆候あり。理由は多分、情緒の不安定。
向こうの世界に行きたい未来に同行をしようかと言ったのは誰なのか?

今回のショッカーはクリスと翼の居る病院、装者が留守の特異災害対策起動部二課の本部、孤立した響の居る場所。と三か所の同時攻撃です。

海蛇男の回のように一か所ずつやるつもりです。


次回予告
マリア「私たちが病院を出ようとした時、出入り口が何時の間にかシャッターが下りて入院患者やお見舞いに来ていた人たちが突然私たちを襲いだす。
ダメよ、クリス! イグナイトやアマルガムを使えば一般人を巻き込んじゃう! 翼、アナタの力を…翼?
次回「吸血人間になった翼」ご期待ください」


ps
シン・仮面ライダーの賛が多いので今度見に行ってみます。
…映画代、もう少し安くならないかな…


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105話 吸血人間になった翼

シン・仮面ライダー、観てきました。
やはり、劇場で見るのは大迫力ですね。

キックが原作より威力が高そうとか、〇〇男や○○女が○○オーグに変わってたり、サソリが一番キャラ立ってるんじゃねえかとか色々語ってみたいですがネタバレなんで黙っておきます。

ただ前評判で聞いていたトンネル戦は見辛かった。
バイク戦はまだ良いんだけど、降りて戦うとどうしても暗い…


 

 

 

二人の女性が通路を歩く。

翼の見舞いに来ていたクリスとマリアだ。

 

「今日はやけに薄暗いな…」

「外が雨だから仕方ないわ、時間つぶしにファミレスにでも行く?」

 

二人が何気ない会話をする。

翼も退院が近いようで安心し、まだ本部に戻るのは早いかなと思い食事の誘いをするマリア。

そしてそのまま待合室へと入ったが、

 

「ん?」

 

その時、クリスが違和感を感じて立ち止まる。

マリアも何かに感づいたようだ。

 

「妙だな」

「ええ、時間が時間とはいえ待合室に誰も居ない」

「受付も人っ子一人見当たらねえ」

 

最初に来た時は、お見舞いだったり検診だったりでそれなりの数がおり子供が暇を持て余して騒ぐほどだったが、今は一人も見かけない。

時間帯の所為だとも思ったが、受付まで空っぽだったのが不自然に感じていた。

 

極めつけは、

 

「…チッ」

「シャッターが下りてるわね…」

 

病院の出入り口であるドアの全てにシャッターが下りており、クリスがシャッターをガタガタと揺らす。

 

「この時間でもうシャッターなんて早すぎだろ!」

 

最後に起こったクリスが思いっきり腕でシャッターを殴ると大きな音が木霊の様に響く。

薄暗い待合室に響くさまはホラー映画のワンシーンにも見える。

 

 

 

 

 

「どうしました?」

 

「「!?」」

 

突然背後から声を掛けられた二人が振り向くと懐中電灯を持った女性看護師が居る。

一応、周りに気を張っていたマリアとクリスの背後から声をかけ目の前に居るにも関わらず気配が微妙な感じの看護婦を見てクリスとマリアが視線を合わせる。

 

「私たち、今帰るところで…」

「…玄関がシャッターで閉ってて立往生してんだよ」

 

取り敢えずは事情を話してみる二人。

予定より早く閉ったとか万に一つの可能性もある。

何より此処は病院だ、戦闘になれば被害がどれだけ出るか分からない。

 

「そうですか、それは災難ですね」

 

「…え、それだけ?」

「此処を開ける気は無いのかよ!?」

 

アッサリとした看護師の言葉に二人が唖然としている。

そんな二人の様子を他所に看護師がクリスとマリアに向け口を開く。

 

「ところで…アナタたちの血をください」

 

「…は?」

「え? 血?」

 

看護師の言葉に二人は今度は別の意味で唖然とする。

閉じ込められた上に血まで要求されたのだ。

 

「ようは献血しろって事か?」

「なら、私たちは無理ね。 次に献血できるのは再来月あたりだから」

 

看護師の血の要求を献血の意味で捉える二人。

マリアが今は献血は出来ないと看護師に説明するが、

 

「血を…ください!」

 

「おい!?」

 

看護師が何時の間にか手に持っていたメスでクリスに襲い掛かる。

間一髪避けたクリスだが、看護師が追撃しようとしてマリアが羽交い絞めにする。

 

「止めなさい、自分が何をしてるのか分かってるの!?」

 

「血を…血を…!」

 

マリアが必死に制止の言葉を発するが看護婦は暴れるだけで言う事を全く聞こうとしない。口元からは何時の間にか黄ばんだ犬歯が延び、出来の悪いドラキュラ映画にも見える。

直後に、クリスが看護師の鳩尾に一撃入れ気絶させる。

 

「ナイスよ、クリス」

「突然暴れやがって、これもショッカーの仕業か? …?」

 

看護師を気絶させ無力化して一安心かと思った二人だが、周囲に気配を感じ暗い方向に目をやる。

 

「血をくれ~」

     「オレにも血をくれ~」

              「私も…」

                      「血吸うたろか?」

 

暗闇から次々と人が姿を現す。

だが、その人々の目は普通じゃないうえに手にはバットや鉈といった武器まで握っている。そのどれもが看護師と同じく犬歯が延びていた。

更には、

 

「ちっ、患者も医者も全員アタシ等を襲うつもりかよ!」

 

襲ってくる人間たちの服装は白衣の物から入院服、手術中の服装までありそのどれもがクリスとマリアを狙っているのだ。

 

『気に行って貰えたかな?シンフォギア装者どもよ』

 

「「!?」」

 

突然、病院内に野太い男の声は響く。

どうやら病院に設置されている放送を利用しているようだと気付きクリスとマリアの視線は病院に設置されてるスピーカーに向く。

 

「アナタはいったい誰かしら? 名乗ってもらいたいけれど…」

「アタシ等を閉じ込めた連中か!」

 

『ブリュリュリュリュッ!! その通りだ、お前たちは俺が揃えた吸血人間どもに殺されるのがお似合いだ!』

 

そう言い切ると共に武器を持った人々がクリスとマリアに雪崩れ込む。

 

Killter Ichaival tron

Seilien coffin airget-lamh tron

 

しかし、クリスもマリアもボーとしてる訳がない。

二人とも、素早く聖詠を歌うとシンフォギアを纏いその場から一気に離れる。

 

「どうする? 此処で戦うのは不利よ。私たちの火力ならあんなシャッターも抉じ開けれるけど…」

「いや、クソったれのショッカーの事だ。 アタシ等が病院から逃げ出せばアイツ等は元よりこの病院ごと潰すのがオチだ」

「…ありえるわね」

 

マリアが病院の出入り口を破壊し外で戦う案を出そうとした時、クリスが即座に反対する。

その理由を聞いてマリアも納得した。ショッカーの事だ、自分たちが有利になるためなら何でもする。

それこそ病院に爆弾を仕掛けてる可能性だってある。

 

「敵の能力が分からない以上、私たちが不利ね。 こうなったら翼も回収しないと…」

「先輩か、まだ本調子じゃなさそうだけど孤立させとく訳にもいかないな」

 

ここでマリアたちは翼と合流する事を決めた。

絶唱を使い一時は重体にまでなっていたが、今は普通に立ち上がる事も出来る事は先のお見舞いで分かっている。

だが、病み上がりである以上は単身でショッカーの相手も難しいと思い二人は急ぎ翼の病室まで急ぐ。

 

 

 

 

 

 

 

途中、吸血人間と化した患者たちを気絶させ事無きをえ、二人は翼の病室の前に立つ。

扉を開ける前にクリスとマリアが互いの顔を見て頷く。

 

「先輩!」

「翼っ!」

 

それぞれが翼を呼ぶ。

当人である翼は病院服のまま立っており窓を見ていた。

そして、二人の声に反応して振り向く。

その目は自分たちどころか、何処か明後日の方向を見ているようでクリスもマリアも即座に違和感を感じる。

そして、口元には下の人間たちと同じ犬歯が異様に延びている。

 

「翼…あなた…」

 

「…Imyuteus amenohabakiri tron」

 

マリアが何か翼に言おうとした瞬間だった。

翼が聖詠を口にしてシンフォギアを纏う。

しかし、翼が持つ剣はクリスとマリアに向けられている。

 

「雪音、マリア、お前たちの血を全て寄越せ…」

 

「!?」

「嫌な予感が的中かよ!」

 

翼の声にマリアは絶句し、クリスは舌打ちをする。

少し目を離した隙に翼が操られている事を悟ったのだ。

 

「ブリュリュリュリュッ!! 如何だ!?シンフォギア装者ども、仲間同士で殺し合うがいい!!」

 

待合室で聞いた不気味な声が再び聞こえる。

今度は、スピーカー越しではなく部屋の内部から響いている事に気付く二人。

 

「翼を操るなんて…卑怯な!」

「いい加減姿を見せろっ!ゲス野郎!」

 

クリスが未だに姿を現さない敵を罵る。

今まで多くの敵と戦ってきたクリスにとってもショッカーの自分たちの弱点を熟知している事が苛立つ。

二人が見回すがシンフォギアを纏う翼しか目に写らない。

 

「そこまで、俺の姿が見たいか? 良いだろう、冥土への土産に見せてやるっ!」

 

その声が聞こえると同時に翼の肩を何者かが掴む。翼の細い体から伸びる腕に二人が絶句する。

尤も掴まれた翼は一切反応しなかったが、クリスが睨みつける。

その指は血のように赤く手の甲には土色をして虫の関節にも見える。

 

そして、翼の陰から姿を現していき途中で雷の光で怪人の姿を目撃するクリスとマリア。

 

「!?」

「…今まで見たどんな敵よりも醜悪さだ」

 

姿を見たマリアは口元を押さえ、クリスが扱き下ろすように言う。

当然だ。怪人の姿は左側に虫の卵のような物が無数に付いており、頭部の左側もそうなっている。口元からは足なのか牙なのか分からない物が生え、左腕には注射器のような巨大な針がある。

そして、頭部や左目の部分から昆虫のハサミのような物が飛び出しそれがカチカチと音を鳴らしている。

 

クリスやマリアが戦ってきた中ではトップクラスの醜悪さだ。

 

「吸血シラキュラス! それが俺の名だっ!」

 

怪人…シラキュラスが名乗り終えると共に翼が剣を持ってクリス達に迫る。

 

 

 

 

 

 

 

 

病室の入り口が破壊され、破壊に生じた煙から三つの何かが飛び出る。

クリスとマリア、そして翼だ。

翼の剣がマリアに振り下ろされ短剣で受け止めるが、マリアの想像以上の力が襲う。

 

「くっ! 翼、正気に戻りなさい!これじゃシェム・ハが復活した時の二の舞よ!! …って、それはこの世界の翼じゃなかったわね…」

「並行世界はこれだからややっこしいんだよ! アタシも何か言わねえと…あんな奴の命令何て聞くことねえ!」

 

翼の剣を受け止めつつマリアとクリスは翼の説得を行う。

二人とも嘗てのシェム・ハの復活の際の翼の暗示を思い出したからだ。尤も、即座に目の前の翼ではない事を思い出す。

しかし、二人の説得が聞こえようが翼の表情は何一つ変わらないままマリアとクリスに剣を振るう。

 

「ブリュリュリュリュッ!! 説得など無駄だ、俺に血を吸われた奴は吸血人間となり俺の意のままに操れるのだからな!!」

 

「血を吸われた、だぁ!」

「翼を元に戻しなさいっ!!」

 

シラキュラスの言葉に激怒するクリスに元に戻すよう訴えるマリア。

二人の視線がシラキュラスを睨みつける。

 

「誰が元に戻すか! 貴様たちは吸血人間となった人間どもに殺されるのだ!!」

 

「「!?」」

 

シラキュラスがそう言い終えると共にクリスとマリアの背後から複数の気配を感じ振り返る。

翼と同じ牙を生やした患者や看護婦たちが自分たちに迫る姿が見える。

 

「お前たちの弱点はよく知っている、守る筈の人間どもの手で死んでいけッ!!」

 

 

 

シラキュラスの計画、それは自身が吸血した人間を操りクリスとマリアの排除であった。

敵には容赦せず多くの怪人たちを倒してきた二人、しかしただの操られた一般人なら守るべき対象なのがシンフォギア装者だ。

故に、シラキュラスは戦闘員を出さず戦闘力の劣る吸血人間を戦わせることにした。

そして、この策はクリスとマリアに突き刺さった。

 

 

 

鉄パイプを持った患者がマリアに振り下ろすが、間一髪で避け当て身を繰り出し気絶させる。

しかし、その間にも手術用の服を着た医者がマリアの背中にメスを突き立てる。

 

「キャアっ!?」

「マリア!」

 

幸い、メスはシンフォギアの鎧に弾かれるがマリアの体のバランスが崩れる。

それを見て、マリアの下に行こうとしたクリスだが足元に重みを感じて視線を向ける。

 

「なっ!?」

「お姉ちゃん…血をちょうだい、…ねえ、血をちょうだい…」

 

重みを感じたクリスの足に10歳にも満たない女の子が何時の間にか足にしがみつかれていた。恰好から見て見舞客だろうか。

灯りが無ければ軽くホラーな事になっている。

 

「頼むから離してくれ、なあ」

 

クリスは足にしがみつく少女を穏便に離すよう言うが、少女の目は虚ろでクリスの声が聞こえてるかも怪しい。仕方なく、クリス自身が少女の手を触り、しがみつく手を離させる。

横目でマリアの様子を見ると、態勢を立て直して吸血人間と化した患者や看護師に当て身を繰り出して何人か気絶させていた。

その様子にホッとするが、通路の奥からまた吸血人間となった警備員や患者の姿が見え辟易するクリス。

 

━━━今までも一般人が巻き込まれる事はあったが、ここまでやるかよ!

 

クリスもマリアもギャラルホルンで並行世界に行き随分と戦ってきている。

その中には、一般人が巻き込まれ敵になった事もある。原因が聖遺物だったり錬金術だったりと様々だがその殆どは解決してきた。

大体の一般人が偶発的に巻き込まれた物が殆どだが、目の前の醜悪な怪人は堂々と巻き込んでいる。

それは嘗ての怪物と呼ばれたノーブルレッドのように。

 

「死ねッ! 雪音クリス!!」

 

「!?」

 

少女の手を解いた直後、声と共に殺気を感じたクリスがその場をジャンプして移動する。

直後に、クリスの居た場所に巨大な針が突き刺さる。

シラキュラスの左腕だ。

廊下の固い床だろうと平然と好き刺さる針に冷や汗を流すクリス。

 

「てめ~…」

 

「如何した?雪音クリス、例のイグナイトやアマルガムとやらを使わんのか? 最も使えばコイツ等も巻き込まれるかもな、ブリュリュリュリュッ!!」

 

シラキュラスの言葉に舌打ちをし奥歯を噛み締めるクリス。

言われるまでもなくクリスとしてはイグナイトやアマルガムを使いたい。

しかし、その為には病院の通路は狭く、何よりシラキュラスに操られてる人々が居る。

イグナイトもアマルガムも威力は絶大だが、操られてる人々を避けて攻撃は不可能に近い。

 

シラキュラスもそれを予想して言ったのだ。

此処ではクリスもマリアも本領を発揮出来ない。

 

「力を発揮出来んなら大人しく死ぬがいいぃぃ!!」

 

「!」

 

言い終えると共にシラキュラスの口から赤い液体が放たれる。

咄嗟ではあったが、クリスはその赤い液体を警戒して廊下を回転して回避し赤い液体は廊下の壁に降り注ぐ。

 

「そんな…なんて威力の溶解液…」

「…あんなにアッサリ溶けるのかよ?」

 

直後に赤い液体のかかった壁が発泡スチロールのように溶けだす。

もし、まともに浴びればクリスは骨もシンフォギアも残さずこの世から消えてしまうだろう。

溶けていく壁を見て間一髪で避けたクリスどころかマリアすら背筋に冷や汗が流れる。

 

「素早さだけは一人前だな、だが死ぬ時間が少し伸びただけだ。 あの世に逝っても寂しくはないぞ、直ぐに風鳴源十郎どもも後を追う!」

 

「おっさんがッ!?」「指令がッ!?」

 

シラキュラスの言葉に驚愕する二人。シラキュラス…ショッカーは自分たちが留守の間に特異災害対策起動部二課を陥落させようというのだ。

その間にも吸血人間となった翼がアームドギアの剣を振りかざす。

 

 

 

 

 

 

 

 

廊下から待合室に続く通路から爆発が起き、爆風の中からクリスとマリアが飛び出す。

此処は大型の病院で吹き抜け式の待合室もかなりの広さだ。ここならまだ戦いやすいと思いこの場所に来た。

しかし、そんな二人に吸血人間と化した患者たちが襲い掛かる。

 

「くそっ、戦闘員の方がまだ戦いやすい!」

「文句を言っても始まらないわ、今少しでも気絶させるのよ!」

「あの気持ち悪い怪人め! 嫌な手を!」

 

ノイズの様に倒す訳にもいかず、兵士のように武器を手放せば逃げる事もない。

操られた人間を相手にするにはそれだけ装者といえど…イヤ、年端もいかない少女たちだからこそ難しいと言えた。

仮に、この場に源十郎が居ればシンフォギア装者の妨げになる吸血人間たちの排除を自分たちで行うだろう。少しでもシンフォギア装者である少女たちの負担を減らす為に。

 

だが、この場に無事なのはクリスとマリアしか居ない。

マリアが当て身、クリスがアームドギアをスナイパーライフルにして吸血人間の急所に当て少しずつだが、クリスとマリアの周囲に次々と倒れていく人たちが増える。

このまま全員が気絶するかと思った時、

 

ピチャ、「ん?」

 

丁度、襲い掛かる吸血人間を気絶させたクリスのライフルに液体が零れる。

最初は自身か吸血人間の汗が飛んだのかと思った。が、

 

「!?」

 

水滴のかかった()()()()()()()()()()のを見たクリスが二回部分を見た。

其処には、手摺の上に乗り自分たちに向け広範囲に赤い液体…溶解液をバラ撒いている。

 

「マリア、上ッ!!」

「!?」

 

「シンフォギア諸共消えてしまえええぇぇぇぇぇッ!!!」

 

溶解液を広範囲…雨の様に降らすシラキュラス。

触れればシンフォギアすら溶かしてしまう溶解液を浴びればクリスもマリアも命はない。

避けようにも、雨の様に降る溶解液を全て避けるのは現実的ではない。

 

「させないッ!」

 

クリスがもうダメかと諦めの文字が浮かんだ時にマリアは蛇腹剣を取り出し回転させる。

降りかかる赤い溶解液が次々とマリアの蛇腹剣に弾かれているが、マリアのシンフォギアであるアガートラームの剣が僅かだが溶けだす。

剣を回転させ溶解液を弾いてる以上は当然と言えた。

 

その間にも、シラキュラスの溶解液は待合室の壁、床、椅子、カウンター、売店に付着しては一部が溶ける。

そして、それはクリスとマリアが気絶させた被害者も同然であった。

 

子供も老人も、男だろうが女だろうが気絶した彼らは叫び声も上げずシラキュラスの溶解液に触れ骨も残さず溶けていく。

その光景にクリスもマリアも奥歯を噛み締める。

 

「チィ! まだ生きてるか!」

 

溶解液を撒き終えたのか、クリス達が無事なのを見て舌打ちをするシラキュラス。

そんな、シラキュラスを睨みつけるクリスとマリア。

 

「シラミ野郎、よくも関係ない奴らを!」

「アナタのような外道、絶対許せない!」

 

関係ない筈の一般人を巻き込んだ事を許せない二人。

ショッカーのやり方に怒りに燃えている。

 

「ほざけっ! 俺に注目するのは構わんが頭上には注意しろよ」

 

「「!?」」

 

シラキュラスの言葉の直後に上から殺気を感じた二人が上を見る。

其処には巨大な剣を今こそ蹴りだそうとする翼の姿が、

 

「なっ!?」

「ウソだろ!?」

 

それは紛れもない翼の天ノ逆鱗だ。

何度となく翼と共闘していた二人が見間違う筈がない。直撃を受ければ自分たちも持たない。

そう判断した二人は急ぎ回避しようと動く。

 

「…ア…アア…」

「!」

 

だが、回避中のクリスの耳に声が聞こえた。

振り返ったクリスが見たのは、溶けかけた椅子の下に子供を見つける。

恐らく、クリス達に返り討ちにされ偶然椅子の下にいてシラキュラスの溶解液の難を逃れたのだろう。

 

「くっ!」

「クリス!?」

 

避難する筈のクリスが元の場所に戻った事でマリアがクリスの名を叫ぶ。

クリスは椅子の下にいた子供を抱えると急いでマリアの下へ行く。

しかし、あと少しのところで翼の天ノ逆鱗が床に減り込み崩れると共にクリスの足場も崩壊する。

 

「悪い、マリア」

 

咄嗟にクリスが抱えていた子供を投げ渡し崩壊する床に呑まれていく。

威力が出過ぎたのか技を放った筈の翼すら瓦礫に呑まれ見えなくなる。

 

「…クリス…翼…」

 

マリアが二人の名を呟く。

広かった待合室は並べられた椅子も全てが吹き飛び瓦礫になっている。

腐っても二人ともシンフォギア装者だ。生きて帰ると信じているが瓦礫からは誰も出てこない。

 

「ふん、一匹仕留め損ねたか! まぁいい、処分する予定の風鳴翼の処理出来たと思えばな!」

 

何時の間にか降りてきたのか、一階に移動しているシラキュラス。

その口からは、操っている翼も始末出来たと喜ぶ言葉が出る。

それを聞いた、マリアは抱えてる子供を壁の端に寝かせシラキュラスの方に振り替える。

シラキュラスは相も変わらず口から生える爪を動かし左目や頭から出たハサミが小刻みに鳴る。

 

「シラキュラス…お前だけは倒す!」

 

「出来るか!? 残ったのはお前ひとりだ!!」

 

マリアが蛇腹剣を短剣に戻して構え、シラキュラスも警戒するように腕の注射器を向ける。

マリアとシラキュラスの対決が始まる。

 

 

 

 

 

 

 




マリアの次は翼が操られる話。
クリスと翼は無事なのか!?

クリスもマリアも今までの敵より悪辣な手を使うショッカー怪人に手を焼いてます。
後、シラキュラスはただでさえ強いです。

クリスがシラキュラスの容姿をボロクソ言ってますが、シラキュラスの容姿はそれだけインパクトがあります。
蓮コラとか平気な人は是非見て欲しいです。


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106話 恐るべき死の吸血魔 がんばれ!マリア

 

 

 

病院内、最早待合室の機能を失ったホール。床には瓦礫が散乱し椅子の破片も転がっている。

その中で幾つもの金属音が響き、火花が飛び散る。

 

マリアの短剣とシラキュラスの注射器がぶつかり合い発生した火花だ。

戦いはシラキュラスの溶解液と力に苦しむマリアが明らかに押されている。

 

「ならっ!」

 

短剣を蛇腹状態にしたマリアは、その剣を操り鞭状にしてシラキュラスを攻撃し体に巻き付け動きを止めようとする。

拘束さえ出来れば、瓦礫に埋まったクリス達の捜索をと、考えている。

マリアの目論見は上手くいき、蛇腹剣がシラキュラスの体に巻き付く。

 

━━━よし、これなら

 

自身のシンフォギア、アガートラームがシラキュラスを捕らえた事に安堵するマリア。

だが、

 

「こんな物で俺を捕らえたと思ったか!?」

 

アッサリと体に巻き付いた蛇腹剣を弾き返し、拘束を解く。

それどころか、弾かれた蛇腹剣を握り一気に引っ張るシラキュラス。

 

「なっ!」

 

予想外な事とシラキュラスの力の前にマリアの体はなすすべなく足が床から離れシラキュラスの方に引っ張られる。

そして、シラキュラスの方に引っ張られたマリアはそのまま右腕で首を掴まれる。

 

「如何にシンフォギア装者と言えど、所詮は女だ。 人間を超えた改造人間の力に敵うと思うな!」

 

「ぐっ、舐めないでもらえるかしら? そんな女にアンタたちの仲間は大勢やられてるのよ…」

 

シラキュラスの言葉にマリアは苦しそうにも笑ってそう答える。

鳴いて許しを請うかと思っていたシラキュラスもこれには驚く。

 

「女性軽視なんて今時古臭いのよ、さっさと手を離して貰えるかしら?」

 

「ふん、随分と肝が据わっている。ならば!」

 

何を思ったかシラキュラスはマリアは床に叩きつける。

叩きつけられたマリアは口から血を吐き、マリアの周りの床にはヒビが入る。

 

「な…なにを…」

 

「お前のような奴は直ぐに殺しては面白くない。 自分だけ助けてくださいと命乞いしろ!」

 

シラキュラスの言葉に「そんなこと…」と言おうとしたマリアだったが直後に腹部に痛みと圧迫を感じ言葉が出なかった。

見れば、シラキュラスの足に吐いてある黒いブーツがマリアの腹部にあった。

 

「どの位耐えられる?女!」

 

それからというもの、シラキュラスは何度もマリアの体を踏みつける。

踏みつけられる度にマリアの口から血が飛び散り、シンフォギアの装甲にヒビが入り水色のインナーにも亀裂が入る。

辛うじてマリアのシンフォギアアガートラームがマリアを守っている。

もし、シンフォギアが無く生身で受ければマリアの腹部は破裂し内臓が飛び散っていただろう。

 

「そらそらッ! 命乞いしろ、自分だけ助けてくださいと言ってみろ!!」

 

最早勝負は決した、そう判断したシラキュラスはひたすらマリアを甚振る。

仲間を殺られたのもあるが、シンフォギア装者のプライドを圧し折り涙と鼻水を垂らし命乞いさせたい欲望が芽生えたのだ。

何よりも、シンフォギア装者に命乞いさせればショッカーでも一目置かれ地獄大使に次ぐ大幹部になれるかもしれない。

 

そして、何度目かのシラキュラスの踏みつけがマリアを襲うが寸での所でシラキュラスの片足を払い脱出、一瞬態勢を崩したシラキュラスも直ぐに立て直す。

 

「ちっ、まだ心が折れんか…」

 

「私の…信じる…正義…の為にも!」

 

心が折れなかった事にシラキュラスは残念に思うが、そろそろ始末するかと切り替える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くっ、強い!?」

 

「このシラキュラス、搦め手だけと思うなッ!!」

 

マリアがシラキュラスの腕から脱し、またもや短剣と注射針が激突する。マリアの短剣を弾いてシラキュラスの針がマリアの顔に迫る。

 

すんでのところでシラキュラスの注射器を回避したマリアだが、シラキュラスの右腕がマリアの長髪を掴み壁に叩きつける。

壁に背中を強打し血を吐くマリアだが、腹部にシラキュラスの足が押し付けられた。

 

「ゴフッ!」

 

「もう命乞いなど如何でもいい、俺の注射針でお前を刺し殺してやるッ!! お前が死ねばこの世界の特異災害対策起動部二課に協力するシンフォギア装者は全滅だ! 貴様の世界のS・O・N・Gも直ぐに滅ぶ!俺たちの天下がくるのだ!!」

 

シラキュラスの力がマリアの想像を超えていた。

単純な強さもそうだが、溶解液と血を吸った人間を操る能力に大苦戦を強いられ遂に追い詰められる。

強さもそうだが、残忍性すら今までの敵対組織を上回る存在にマリアは肝を冷やす。

 

何とか脱出したいマリアだが、体力は消耗しシンフォギアもボロボロの状態では難しい。

覚悟を決めるかと考えたマリアの耳に瓦礫を踏む音が聞こえた。

 

「…翼?」

 

もしやクリスが援護に来てくれたかと期待したマリアの目に埃だらけの翼の姿が映る。

その手にはアームドギアの剣が握られ、まだ戦う気かも知れない。

 

「ん? 何だ、まだ生きてたのか。 まぁいい、この小娘を始末した後処理すれば済む」

 

チラ見で翼の存在を確認したシラキュラスは、最早翼に興味はない。

後で始末する為にその場で待機しろと言い、マリアに向け左腕の注射器を向ける。

マリアを刺し殺す気だ。

一気にトドメを刺そうとするシラキュラスの左腕がマリアの目にはやけにユックリに見えた。

 

━━━私はここまでなの? ゴメンね、セレナ、マム…調や切歌を最後まで守れなくて…

 

マリアが死を覚悟した時、シラキュラスの背中から爆発が起こり、突然の衝撃により腕の力が弱まりマリアはシラキュラスの腕から脱出する。

突然の事に驚きマリアが目を白黒させる中、シラキュラスが悲鳴を上げ剣を構えた翼が確認できる。

 

シラキュラスの背中を攻撃したのは翼だった。

よく見れば翼の口にはあの牙が消えている。

 

「か…風鳴翼っ!! 貴様、自分が何をしたのか分かってるのか!?」

 

「…私が何をしたかと?当然分かっている」

 

━━━操られてる翼がシラキュラスに逆らってる!?ッというか喋った!?

 

マリアの驚きも何のその、翼は更に言葉を続ける。

 

「よくも防人の私を操ってくれたな! あまつさえ友を攻撃させたな!!」

 

「き、貴様…まさか正気に戻ったと言うのか!?」

 

翼の敵意がシラキュラスに行き、言葉を発した事により正気に戻った事に気付く。

その姿にシラキュラスはパニックになる。

 

「馬鹿な、吸血人間と化した人間が自力で戻るなどありえん! いったいどうやって!」

 

 

 

 

 

 

「おっと、間に合ったな」

「ク…クリス?」

 

翼が正気に戻ったのならと、シラキュラスは右腕で人質にしようとマリアの首を掴もうとしたが、すんでのところでクリスがマリアの手を引き移動しシラキュラスの右腕が空ぶる。

クリスが無事な姿を見てホッとするマリア。

 

「雪音クリス!? 貴様まで生きていたのか! しかしどうやって…」

「これな~んだ?」

 

マリアを盾にしようとしたが、クリスの姿も確認したシラキュラスが更に慌てる様に言うとクリスは何処からか取り出した瓶を笑いながら見せる。

マリアから見てもクリスの笑顔は輝いているように見えた。

クリスが揺らす度に瓶の中身の青い液体が揺れラベルにはご丁寧に「解毒剤」と書かれている。

 

「ク…クリス、まさかそれを?」

「まぁ、アタシも怪しいとは思ったけどな…」

 

「そっそれは吸血人間の解毒剤!?何故貴様がソレを!」

 

どう見ても罠にしか見えない解毒剤にマリアは呆れた顔をしてクリスを見る。

尤も、シラキュラスの今まで以上の慌てように中身は本物のようだ。

 

 

 

 

 

 

クリスと翼がマリアと合流する少し前、翼が天ノ逆鱗で乗員の待合室の床を粉砕した時まで遡る。

 

「イツ…ツツ…此処は?」

 

翼の天ノ逆鱗で瓦礫に呑まれたクリスが意識を戻した時に周囲を見渡す。

病院の地下施設なのかタイル張りされた部屋で電灯がチカチカと点滅を繰り返す。

ふと横を見れば共に落ちたのかシンフォギア姿の翼が気を失っている。

 

「落ちた衝撃で気絶したのか?それよりマリアは無事か?」

 

何処か破損したのか室内灯が点滅を繰り返し、正直目に良くない室内だがクリスが他にも視線を送る。

マリアの姿は見つからず共に落ちていない事にホッとするクリスだが、予想外の物が見つかった。

 

「戦闘員? それにしちゃ白いが…」

 

何時のも戦闘員とは違い白い恰好をした戦闘員が倒れていたのだ。クリスは知らないがショッカー科学陣の一人だ。

恐らくは地下をぶち破った際に瓦礫に頭をぶつけたのかも知れない。

そして、クリスは棚も一緒に見つける。

 

「此処にショッカー戦闘員が居るなら何かあるかも知れねえな…解毒剤?」

 

棚にある幾つかの瓶を見ていく内にクリスは解毒剤と書かれた瓶を見つける。

中には毒々しいまでの青い液体が並々と入っている。

 

「…本物か?」

 

もしかすればショッカーの罠の可能性もある。

如何するべきか悩むクリスの耳に翼の声が聞こえ横目で見ると目覚める寸前だと気付く。

 

「………よし!」

 

このまま目覚め暴れられるならと意を決したクリスは解毒剤と書かれた瓶の蓋を開ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…っとそんな感じだ」

「一か八かにも程があるわよ!」

 

クリスの説明にマリアはやはり呆れた顔をする。

一歩間違っていれば…解毒剤がただの毒物だったら翼の命は無かっただろう事は想像に難しくない。っというか、ショッカーならやりかねない。

此処は馬鹿正直に解毒剤の名を書いた戦闘員に感謝でもしとくかと思うマリア。

 

「馬鹿な、確かに病院地下には我々の保管庫が置かれていたがノーマルのシンフォギア装者の技で其処まで行ける物か!?」

 

ラキュラスの言葉通り、この病院の地下にはショッカーの基地が造られ其処にシラキュラスの解毒剤が保管されていた。

しかし、普通の病院の通路では辿り着けず、隠し扉と隠し階段を経由しなければ辿り着けない。

 

その筈だったが、計算を狂わせたのは皮肉にもシラキュラスの溶解液だった。

あの雨の様に降らせた溶解液で床の耐久力は大幅に下がり、通常では風鳴翼の天ノ逆鱗でも此処まで来ることは不可能だった場所がクリスが辿り着いたのだ。

 

シラキュラスに操られていた翼が解放され三対一の戦況になるクリスたち。

しかし、シラキュラスの攻撃に三人は押され出す。

 

「元に戻ったなら仕方ない!お前も死ねっ風鳴翼!!」

 

翼の剣劇を受けようが構わず突っ込んでいくシラキュラスの左腕の注射器が翼の頬を掠める。

その注射器に何かが巻き付く、マリアの蛇腹剣だ。

 

「翼、一旦距離を!」

「分かった!」

 

「馬鹿の一つ覚えみたいにまたコレか、小娘がッ!!」

 

シラキュラスは先程と同じく蛇腹剣を掴みマリアを体ごと引っ張うとする。

だが、直後に自身の真横から殺気を感じたシラキュラス。

見ると、剣を片手に翼が突撃して来る。

マリアが距離を取れと言ったのはブラフだった。

 

「チィ!」

 

マリアの蛇腹剣を引っ張るのを断念したシラキュラスは右腕で翼の剣を受け止める。

アッサリと自身の剣を握られた翼は眉を顰めた。

 

「捕らえたぞ、風鳴翼! 今直ぐお前の血を…グワーッ!?」

 

そのまま注射器を翼に向けるシラキュラスだが、直後に背中から爆発が起こると共に悲鳴を上げ右腕が緩む事で翼が脱出する。

翼が、煙を上げるシラキュラスの背を見た後に攻撃した者を見る。

腰の小型ミサイルポッドが開いたクリスが居る。

 

「よっしゃ、効いた!!」

「奴の弱点は背中よ、背中を狙え!」

 

今まで、攻撃の殆どが効かなかったシラキュラスにダメージが入った事で弱点を看破したマリアはクリスと翼にシラキュラスの背中を狙うよう指示を出す。

その後、三対一という数の利を生かすマリアたちにシラキュラスへのダメージが加速する。

 

マリアに背を向ければ蛇腹剣が飛び、クリスに背を向ければミサイルや弾丸が降ってきて、翼だと斬撃が来る。かと言って壁を背にすればクリスもマリアも翼も遠距離攻撃でシラキュラスの体力を削っていく。

当初の余裕は何処に行ったのか、シラキュラスの口から焦りが漏れ出す。

 

「き…貴様ら、羽虫みたいに!」

 

「あら? さっきまでの威勢は如何したのかしら?」

「何時も数で来るお前たちに言われたくない」

「もう、負け犬の遠吠え以下だな、シラミ野郎!」

 

三人の動きは、ハッキリ言って急増のチームワーク程度の動きだ。

それでも、シラキュラスを翻弄しダメージを与えるには十分と言えた。

 

「ええい、こうなれば!」

 

自身の不利を感じたシラキュラス右腕を上げる。

直後に何人もの戦闘員が二階から降りてきてクリス達に迫る。

 

「いまさら戦闘員か!」

「でも、それは悪手だったわね!」

 

「何ッ!?」

 

シラキュラスの判断は確かに悪手であった。

これがまだ、シラキュラスが血を吸った吸血人間ならばマリアたちも慎重に動き隙も付けた。

だが、戦闘員ではマリアたちの動きに隙が無く次々と倒れていく。

更には、

 

「くらいなっ!」

 

クリスが小型ミサイルで戦闘員ごとシラキュラスにミサイルを撃ち込む。

戦闘員の陰でミサイルの発見が遅れたシラキュラスに防ぐことも避ける事も間に合わない。

 

それはクリスの攻撃だけでなく、マリアの戦闘員を搔い潜りシラキュラスに迫る蛇腹剣や吹き飛んだ戦闘員を盾にしシラキュラスに見えないよう斬撃を叩きこむ翼。

 

「ぐっ、こうなれば!」

 

「逃がすか!」

 

戦闘員が壊滅すると同時にシラキュラスはジャンプして壁を蹴り、吹き抜けの階を上る。

クリス達も逃がすまいと後を追う。

シラキュラスの通る通路に弾丸や青い斬撃が放たれ病室のドアや病院の付属品が壊れていく。

内心、翼が院内の人に詫びを言うが今はシラキュラス打倒を優先していた。

 

 

 

 

扉が強引に開かれドアが破損する。

そんな事お構いなしに」シラキュラスが外へと出てきた。

病院の屋上だが、空には未だに雨が降り雨粒がシラキュラスの体を揺らしていく。

シラキュラスの目的はただ一つ、屋上に隠された爆弾の起爆スイッチだ。

病院は爆破しシンフォギア装者を巻き込む、例え生き残ろうが爆破した混乱で一旦撤退し機会を待つつもりだ。

 

━━━クッソッ! 万が一にも装者たちに見つからないよう屋上に置いていたのが仇になった!

 

「起爆スイッチ! あれさえ押せば…」

 

「其処までだ!」

 

屋上を移動しようとしていたシラキュラスの耳にマリアたちの声が聞こえる。

丁度、マリアとクリスと翼が屋上に来たのだ。

 

「しつこい連中だ!」

 

「しつこくて結構!」

「外道を許す訳にはいかん!」

「関係ねえ奴らを巻き込んだ事、忘れてねえからな!」

 

最早、起爆スイッチを探す暇もない。

シラキュラスは再びクリスとマリア、翼との戦闘に入る。

 

戦闘はほぼ一階での焼き直しといえた。

三人の連携にシラキュラスの体には幾つもの傷を負い、特に背中を中心で攻撃される。

 

「に…人間如きが…」

 

「まだ言うか!」

「その人間にアナタは敗れるのよ!」

「人を舐めるなよッ!!」

 

未だに人間を下に見るシラキュラスの声に三人が反論する。

人を操り、翼を操り、自分たちに襲わせ多くの被害者を殺害したシラキュラス。それが彼女たちには許せなかった。

 

「ほざけっ! 世界は我らショッカーの物だ、ウジ虫にも劣る人間如きが…」

 

「…此処まで性根の腐った奴は初めてだ」

「…もう喋らないで」

「お前と語る舌なんて持たん!」

 

シラキュラスの最後の声に三人は静かにキレていた。

自分勝手な言動、他人の命に何の興味もない、必要ならどんな汚い手でも使う。

クリスの脳内には話し合いが好きな少女も即殴り飛ばすだろうと結論付ける程の極悪さ。

 

その後、一瞬の隙を見逃さなかった翼がシラキュラスの片腕を切り落とし、クリスも続いてミサイルを撃ち込む。

ミサイルはシラキュラスに直撃し、吹き飛ばされたシラキュラスは宙に舞いそのまま屋上から落下していく。

 

 

 

リュ

リュ

リュ

リュ

!!

 

鳴き声が小さくなると共に外から何かが落下した音がしクリス達が様子を見る。

丁度、地面に激突したシラキュラスが口から赤い泡を吐き、それが自身の体に触れていく。

シラキュラスの体が液状化していく。

 

「溶けてる?」

「自身の溶解液で溶けてるわね、皮肉なものね」

「気持ち悪い奴は最後まで気持ち悪かったな」

 

自身の溶解液が暴走してるのか、単に機密保持の為に仕込まれていたのかは分からないがシラキュラスの体が完全に液状化し爆炎を上げ黒い煙が空へと舞う。

暫く、その様子を眺めていたクリス達だがサイレンの音が近づいてくる事に気付く。

 

「パトカーと救急車?」

「アタシらが呼んだんだよ」

「シラキュラスの洗脳から解かれた時に連絡を入れた。やっと来てくれたようだな」

 

クリスと翼が事前に呼んでいる事を知ったマリアが安堵する。

 

到着した警官隊と救助隊は封鎖されていた病院の出入り口を抉じ開け突入。

操っていたシラキュラスが倒れた事で昏睡している被害者の救助、別の病院への移送が始まる。

持っていた解毒剤を後で救助隊に渡すかと考えるクリス。

現物がある以上、量産もそう難しくないだろうと考えている。

 

「兎に角、終わったわね」

 

そう言ってマリアが空を見る。

相変わらずの雨で雨粒が体を濡らすが、シラキュラスとの戦闘で火照った体には丁度良かった。

見れば、薄暗い雨雲から太陽の光が漏れている。恐らく、もう直ぐ晴れていくだろうと考えていた。

 

ズズズズッ…!!

 

「「「!?」」」

 

突然の轟音に三人が音のした方を見る。

視線の先には水の混じった砂埃が天高く待っている。

 

「アレって…」

「学園の方かよ!」

 

その場所こそ、私立リディアン音楽院があり特異災害対策起動部二課本部のある方だった。

 

「だが、何故あの場所が…」

「! シラミ野郎がオッサンたちも後を追うって言ったやつ!」

「あれは、私たちを片付けた後で自身が行くわけじゃなく、もう別の奴が行っていた!?」

 

クリスもマリアもシラキュラスとの戦闘の時に「源十郎たちも後を追う」とは聞いていた。

だが、それは自分たちを殺した後にシラキュラス自身が特異災害対策起動部二課に行くのだと思っていた。

だからこそ、二人はシラキュラスを倒した事で安堵していたのだ。

 

「クッ…!」

「うっ」

「如何した、二人とも!」

 

別の怪人が本部を襲ってる事を知ったクリスとマリアだが、直ぐに本部に向かおうとした時に眩暈を起こして床へとへたり込む。

その様子に翼が心配そうに声を掛ける。

 

「こんな時に疲労かよ…」

「シラキュラス相手に力を使い過ぎたかしら…」

 

クリスとマリアはイグナイトもアマルガムも使えない中、シラキュラスとの激闘により疲労困憊。

特に、一般人を盾にした吸血人間の所為で精神的疲労も大きかった。

これが戦っている最中なら良かったのだが、シラキュラスを倒した事で一気に緊張の紐が緩み疲労が一気に押し寄せた。

暫く、二人は戦力にならない。

そんな二人の様子に翼は一人頷く。

 

「私が行こう、二人は休んでてくれ」

「…それしか無さそうだな」

「悪いわね、翼。 少し休んだら追いつくから…無茶はダメよ」

 

二人の返事を聞いた翼は手摺から乗り出し下へと降りる。途中壁を蹴って落下しつつ移動し学園へと急ぐ。

屋上で休むクリスとマリアは翼の姿を黙って見ていた。

頬に当たる雨粒がやけに冷たく感じていた。

 

 

 

 

 




次、本部襲撃編。

話の都合上、病院の地下に解毒薬を安置。
原作のように別の廃病院だと話が作りにくかった…
物語を早くする為に解毒剤にもラベルを貼りました。原作の様に白戦闘員が持って逃げると原作とほぼ同じになると思って。

怪人図鑑によれば、シラキュラスの弱点は背中らしいです。
因みに、弱点を突かなかったら三人がかりでも危険な相手です。


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107話 二度目の襲撃! 二課本部の攻防

戦姫絶唱シンフォギアXDの新イベントで奏の世界のキャロルもXD本編の世界を移動。
やっぱり、シンフォギアでなくても聖遺物の力を使えばギャラルホルンを移動できるんだろうか?


 

 

 

クリス達が病院でシラキュラスと戦う少し前。

 

クリスとマリアが利用しているギャラルホルンの出入り口がある公園の奥。

丁度、ギャラルホルンの力で歪んだ空間が開く。

其処から二人の女性が出てきた。

 

「此処がもう一人の翼のいる世界か」

「…みたいですね」

 

一人は小日向未来だ。

もう一人のシンフォギア装者と共に来ている。

未来も、もう一人も自分たちが何時も通りの公園の奥の方に居る事に気付く。

 

「ある意味、お約束だね」

「そうですね…」

 

赤い髪の女性の言葉に未来は上の空になっている。

未来の頭には自分の世界の立花響を直したいという思いしかない。

出来れば今すぐにでもこの世界の響の下に行き、精神リンクの原因を取り除きたいのが本音だ。

 

「あの…私、ちょっと別行動していいですか?」

 

だからこそ、未来は自分と一緒に女性にそう打ち明ける。

クリスとマリアの報告で、この世界の特異災害対策起動部二課は未だにこの世界の響の居場所が分かっていない。

一刻も早く響を直したい未来にとってこの世界の特異災害対策起動部二課本部に行くより自分で探した方がマシだと思った。

 

「そうか…なら、本部への挨拶はアタシだけで行くよ」

「! よろしくお願いします!!」

 

もう一人の女性がアッサリ了承すると未来は頭を下げその場を離れる。

目標は街で其処で響を探すつもりだ。

 

「…風邪引かないと良いんだけどね」

 

行かせたは良いがこの雨の中、傘を差さずに街中を探すのは如何かと心配する女性。

尤も、いざとなればコンビニで傘でも買うだろうと考え自身も特異災害対策起動部二課本部のある学院へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「貴様は護国を何だと思っとる!!」

「護国も大事ですが人も大事でしょ!!」

 

特異災害対策起動部二課本部のとある部屋にて二人の男の怒号が響き渡る。

ライオンのような鬣の髪形をした男と白い長髪をし白い顎髭を生やした老人だ。

風鳴源十郎とその父、風鳴訃堂だ。

 

「国無くして何が民か!?先代の護国に命をささげた者達に情けないと思われるぞ!!」

「だからと言って、全ての人間がアナタみたいになれる訳じゃないんですよ。平和に生きる者まで巻き込むのは納得が出来ない!!」

 

二人が怒鳴り合う内容は大体が護国関係だ。

国を守り多少なら民の犠牲も無視する風鳴訃堂。若さ故か出来るだけの命や未成年を守りたい風鳴源十郎。

これまでにも何度も双方の意見はぶつかり合い、時には拳も飛び交うことも珍しくもない。

 

源十郎が此処まで反発するのは訃堂が生粋の国粋主義者だからだ。

それも筋金入りで国の為なら国内に住む国民がどうなろうと知ったことではない事もだ。

 

「そんなことで、外国(そとくに)から国が守れるか!? 東夷の犬どもから日ノ本を守れるのか!?」

「アナタの言ってる事は理解できると思ってます! ですが、もう鬼畜米英の時代じゃないのも事実です!国際化…グローバルに動かなければ、それこそ彼らの付け入る隙になるのも理解して欲しい!」

 

そう言って、訃堂の向かい側に座る源十郎が机をたたく。

これまでにもお互い、この討論はしてきたが決着がつくことはなかった。

そして、今回もまた、

 

「…失礼、呼び出しです!」

 

背広のポケットにしまっていた装置が音を出すと源十郎がソレを止め、訃堂を残しその場を後にする。

源十郎が一組織の長、それなりに仕事があり呼び出されることも多い。

去っていく源十郎の背を見送る訃堂。仕事がひと段落すれば、また口喧嘩になるだろう。

 

「…失ってからでは遅いのだぞ」

 

訃堂は淡々とそう呟き、用意されていたお茶を飲む。

お茶自体、既にぬるくなっていたが訃堂にはあまり問題なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「全く、あの人の頑固さには困る!」

「お…お疲れ様です」

 

指令室に戻った源十郎が愚痴を零し、友里あおいが苦笑いを浮かべる。

訃堂の相手を源十郎がしてホッとする一同だが、暫くすれば訃堂自らが地獄の訓練をする事に溜息も漏れる。

エージェント達はまだいい。問題は技術班やオペレーターたちも強制な事だ。

 

「この後の訓練を考えると頭が痛くなりますよ」

「まぁ、最低限鍛えたほうが良いのは確かですけど…」

 

この後の訓練に溜息を漏らす藤尭朔也に苦笑いで返答する友里あおい。

友里あおいは指令室で死神カメレオンに襲われ、ある程度の護身は必要だとは思っていた。

尤も、訃堂に鍛えられても如何にかなるかは不明だが。

 

その後、源十郎が皆に一通りの現状報告を聞いて訃堂の待機している部屋に嫌々戻ろうとした時だった。

 

「地震?」

 

指令室自体が少し揺れ、誰かが「地震?」と呟く。

元から日本は自身大国だ、地下深くにある特異災害対策起動部二課本部も耐震技術を集め造られている。簡単には崩壊しない。

だからこそ、直後に警報が鳴りだした時、皆が一瞬唖然とした。

 

「如何した、何があたった!!」

「確認します! …保安部より入電! 学院からのエレベータから怪物が侵入したそうです!!」

「怪物だとぉ!?」

 

━━━神出鬼没のノイズならノイズと伝えられる筈。なら…!

 

「ショッカーか!」

 

敵の正体を寸時に見抜く源十郎。指令室に残り各員に指示を出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

特異災害対策起動部二課本部内は一瞬にして誰もが慌ただしく動く。

重武装して向かう者、書類や物品を持って逆方向に行く者。

その誰もが慌てていた。

 

「撃てぇ、撃てぇ!」

 

重武装した男たち…いや、何人かの女性が混じっていた。

特異災害対策起動部二課の制服なり黒服たちが着るスーツを着てる者たちが一斉に銃撃している。

拳銃を始め自動小銃まで撃ち込み、辺りには硝煙が舞う。

弾が切れたのか、誰かが止めるよう指示したのか分からないが銃撃が止み目の前には煙が漂う。

 

「これだけ撃てば…「シュシュシュッ…」!?」

 

黒服の誰かが安堵の声を漏らした時、その場にいた全員の耳に不気味な声が聞こえる。

途端に、マガジンを入れ替えようとするが、

 

 

 

 

 

「そんな豆鉄砲が俺たちに効くと思うなっ!」

 

 

 

 

硝煙の煙から赤い人影が飛び出すと近くいた黒服の首が宙に舞う。

上半身が赤く黒いズボンをはいた男…さそり男の左腕のハサミで切ったのだ。

 

「……うわああああああああああ!!」

 

切られた首が床を転がり足元を通り過ぎる。

途端に、ショットガンを持っていた職員がさそり男に向け発砲する。

その時、足元に何かが当たり横目で確認すると、

 

「サソリ?」

 

床には何時の間にか無数の赤く目が光るサソリがうろついており尻尾を此方に向けてるように感じた。

職員が「何でこんな所にサソリが…」と考えた瞬間、サソリの尾から赤い液体が噴出する。

 

「うわああああああああああ!」

「何だコレは!?」

 

サソリに気付いた職員は勿論、さそり男に注意がいっていた職員や黒服にも赤い液体を被る。

それだけではない、サソリの液体に触れた者たちが一斉に苦しみ始める。

そして、最後には体が完全に溶けて赤い液体となり床に染み込むように消えていった。

 

「ショッカーが開発した人食いサソリの威力は如何だった? シュシュシュッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、別の通路では武器を握った黒服たちが急いで現場へと向かっていた。

再び、ショッカーに奇襲されたが前回の教訓で訓練もしてきた者たちも多い。

 

「ウアッウアッ! 俺の獲物はお前たちか?」

 

「「「!?」」」

 

突然、別人の声が聞こえると同時に飛行機が空を飛ぶような音が響く。

何事かと職員たちが辺りを見回す。

 

「おい、あれは何だ!?」

 

一人の職員が気付き指を刺し、他の職員も其処を見る。

彼らが見たのは天井スレスレを飛行する青身がかった体をした平べったい者が直地する。

エイキングだ。

皆が一斉にエイキングに銃を向けるが、

 

「遅いッ、死ね! 走れイナズマッ!!」

 

エイキングが尻尾のような左腕を掲げそう言った瞬間、職員たちに電流が走る。

 

「「「「うわああああああああああっ!!!」」」」

 

その電流は凄まじく、天井のライトが粉砕され持っていた弾薬が暴発して煙に包まれる。

そして、煙が晴れた後には武器の残骸と灰となった職員たち()()()物が通路に散らばっている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「急げっ! 急いで隔壁を下ろすんだ!」

「だが、まだ他の職員の避難は終わっていないぞ!」

 

さそり男やエイキングが暴れている通路からやや離れた別の通路で何人かの武装した職員が話し合っている。

内容は、先日取り付けた隔壁を下ろす話だ。

 

「この通路以外にも回り道する為の通路もある。 翼さん達が戻るまで指令室を死守しなければならないんだ!」

「確かに助っ人のシンフォギア装者も留守の間に攻められてるからな…」

 

隔壁を下ろす派の説得により渋々納得する職員。

分厚い鉄の塊が降りてきて無事、通路を封鎖して別の場所に行こうとした。

 

「?」

「ん? 如何した?」

 

一人の職員が立ち止まり、つられて別の職員も立ち止まりどうかしたのか聞く。

聞かれた職員はソッと唇の前に人差し指をして耳を澄ます。

 

「…やっぱり、隔壁から音がする」

「音?」

 

その言葉に他の職員たちが一斉に隔壁の方を見る。

其処には通路を塞ぐ鉄で造られた隔壁しかない。

 

「オイ、気のせいじゃ…」

 

別の職員がそう言いかけた時だった。

隔壁の向こう側から鈍い音が聞こえた。それも一度や二度ではない、何度も鈍い音が響き心なしか近づいてきてるような気さえしていた。

 

「お…おい、あれ!」

 

その時、別の一人の職員が気付き隔壁のように指を刺した。

最初は分からなかったが気付いた者たちは一斉に血の気が引く。隔壁に少しずつだがヒビが入り一部がモチのように膨らんでいる。

何者かが隔壁を向こう側から殴っているのだ。

 

それから数秒もせず分厚い鉄の筈の隔壁がぶち破られ誰かの姿が見える。

ソレは両目の部分に赤い巨大な複眼があり顔の真ん中には針のような突起物。

そして、黄色と黒のハチの尾の様な物が巻き付いた人外。

 

「ブゥゥーヨンッ! この程度でショッカーの足を止める事など出来んッ!!」

 

「「「う、うわああああああああああッ!!!」」」

 

正体は分からないが敵だという事だけはわかる。

分厚い鉄の壁を破ってきた事で恐慌状態になった職員たちは一斉に銃撃を放つ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、指令室では警報が鳴り響く中、職員が慌ただしくコンソールに向かい指令である源十郎は各所からの報告を聞いていた。

 

「第四,第五ブロックの音信途絶! 警備隊6班より援護要請!」

「各通路に設置された隔壁も次々と突破!」

 

その報告も殆どが凶報ばかりで状況は絶望的と言えた。

予算を使った分厚い鉄の隔壁すら時間稼ぎにもならない。

 

「あの二人への通信は!?」

「…ダメです、繋がりません!」

 

一縷の望みでもあるクリスとマリアへの通信も繋がらない。

恐らくは、ショッカーが妨害電波でも出してるのだろう。

 

「…こうなれば戦うしかないか…」

 

怪人の足は止まらず、外部への通信も妨害された事で源十郎は設置されている拳銃を取り出す。

源十郎が拳銃を握るとオペレーターの二人や他の職員も銃を握りしめる。

正直、射撃訓練でしか撃ったものが殆どでる。

 

━━━こんなことなら親父の言う通り、もっと格闘訓練なりやっておけば良かったか?

 

今更になって、源十郎は訃堂の口を酸っぱくして言っていた「鍛えろ」の言葉が圧し掛かる。

何より死神カメレオンのの襲撃で対策した筈の本部がこうも易々と侵入され蹂躙されているのだ。分厚い隔壁すら足止めにもならない。

 

そんな事を考えていると、指令室の扉が崩壊して誰かが入ってくる。

 

「あ…ああ…」

 

源十郎たちが銃を構えるが煙の中から声がすると同時に黒服の姿が見えた。

一瞬、安堵の声が漏れるが煙が引いていく事に緊張感が強まり額や背中から汗が噴き出る。

黒服の傍に誰か居る。それも自分たちの知らない奴が、…そして明らかに人ではない。

 

「ブゥゥーヨンッ! 後は此処の連中を始末するだけよ!」

 

「怪人!?」

 

煙が晴れ完全に姿が見えると共に異形の姿と首根っこを掴まれ傷だらけの黒服の姿が見える。

同時に誰かが怪人と呟き源十郎は奥歯を噛み締める。

 

「人質のつもりか!?」

 

もし黒服を人質にしてるのなら厄介だ。

自分たちの職業上、ショッカーに下る訳にはいかない。かと言って見捨てれば指揮にも関わり翼たちのメンタルにも響く。

 

「人質? 勘違いするな、これは見せしめだ。 ブゥゥーヨンッ!」

 

源十郎にそう返答する怪人は首根っこを掴んでいた黒服の首に自身の針状の口に突き刺した。

悲鳴が上がる中、虫の息だった黒服が苦しそうに怪人の口から赤い物が見える。

 

「血を吸ってるのか!?」

「いやああああッ!!」

 

「その通りだ、だが面白いのは此処からだ!」

 

そう言うと、怪人は血を吸っていた黒服を床に投げ捨てる。

倒れた黒服の顔は完全に青白くなり一目で死んでる事が分かる。

だが、これが見せしめかと思った源十郎たちの目に信じられない光景が広がる。

倒れた黒服の姿が一瞬にして骨だけになり目の前には白い煙を吹き出した裸の骸骨が横たわる。

 

「うわああああああああああッ!!」

「きゃああああああああッ!!」

 

「見たか、お前たちもこうなるのだ! ブゥゥーヨンッ!」

 

黒服の末路を見た職員たちが悲鳴を上げる中、怪人は冷淡に告げる。

しかし、源十郎も黙って見てる訳が無く持っていた銃を怪人に向け発砲する。

 

「銃を持ってる者は俺に続け!」

 

他の職員にも発破をかけ数人の職員が源十郎に続いて怪人に向け発砲する。

しかし、怪人は弾丸を弾きながらゆっくりと源十郎たちの方に向かっていった。

 

「最後に教えてやる、俺の名はモスキラス! 地獄に行っても忘れるなッ!!」

 

銃撃もなんのその、名乗りを上げた怪人…モスキラスは元黒服だった骸骨を踏み潰して源十郎たちに迫る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

特異災害対策起動部二課本部のとある通路。

息を切らして走る女性職員が負傷した肩を庇いつつ走る。

通路には黒焦げになった灰や真新しい血の跡が広がり凄惨な事になっている。

 

           ウアッウアッ!

 

「ひッ!?」

 

女性の背後からの声にビクッとなる。

急いで持ち場に戻ろうとした時、目の前に現れ仲間を殺した悪魔のような奴と同じ声だ。

そう考えた時、女性が血で足を滑らせ倒れる。

転んだ事により負傷した肩の痛みに耐える女性。それでも何とか立ち上がろうとするが、

 

「如何した? もうドブネズミのように逃げないのか?」

 

「!?」

 

背後からの声に女性がゆっくりと振り向く。

出来れば気の所為であってほしいと望むが目に写った物を見て溜息の一つも漏れる。

ソイツはさっき自分の同僚たちを殺した怪物…エイキングだ。

 

エイキングの姿に思わず舌打ちする女性。

生憎持っていた武器はエイキングの電撃で壊れてしまい丸腰だ。

それでもただ殺されるよりわと女性が構える。

 

「ほう? その怪我でまだ戦うか。 ただの腰抜けではないようだな」

 

「…女だからって舐めないでよ」

 

本当は逃げたい。命乞いしてでも助かりたいのが女性職員の本音だ。

だが目の前の相手は決して自分たちを見逃すような奴じゃない。

それに、同じ女性である風鳴翼が今までノイズを相手に戦ってきた事が彼女を支えていた。

 

━━━翼さんやあの二人もずっと戦ってたんだ。 ……私だって!

 

「その割には足元が震えているぞ、お前も早く地獄に行けッ!!」

 

そう言って、エイキングが左腕を掲げようとした。

 

 

 

 

 

 

「貴様か、此処を襲った化け物とは」

 

 

 

 

「!?」

 

今まさにエイキングが「走れ、イナズマ」と言いかけた時、

突然の背後からの声にエイキングが振り返ると着物を着た老人が佇んでいる。

 

「何だ、貴様ッ! 死にぞこないの爺が、お前も死にたいか!」

 

何時の間にか背後を取られたエイキングだが、相手が老人と知るや強気に出る。

そして、真っ先に老人を殺そうと左腕を掲げる。

 

「走れッイナズマッ!!」

 

無数の電流が老人へと向かう。

今まで多くの特異災害対策起動部二課職員を葬ってきた電撃だ。

老人が受ければ数秒と持たないとエイキングは考えていた。

 

しかし、老人は胸元から一本の小刀を出し自身の頭上に投げる。

瞬間、老人に迫っていた電撃が小刀へと殺到する。

 

「なにっ!? 小刀を避雷針にしたのか!?」

 

なんて事は無い、老人はエイキングの言う通り小刀を簡易的な避雷針にしてエイキングの電撃を躱したのだ。

雨の日に雷が高い木やビルの避雷針に落ちる事と同じだ。

いきなりの事で唖然とするエイキングだが、伊達に何人も殺してきた訳ではない。

イナズマが効かないのならば、素手で殺してやろうと視線を老人に戻した時、既に老人の姿が見えなくなると同時に自身の視界がズレていた。

 

「ふん、噂に聞くショッカーの改造人間もこの程度か」

 

老人が刀を振って鞘に戻してエイキングの背後を歩く。

エイキングは老人の一閃で切られたのだ。悲鳴もなく爆発するエイキングの姿を見て腰が抜けたように床へと座る女性職員。

 

「ふむ、状況は如何なっている?」

「は、はい! 現在、本部は敵の奇襲を受け混乱。各所で職員が奮闘していたようですが殆どが死んだようで…指令が現在、指令室で抵抗しているようです」

 

座り込む女性職員への心配する素振りすらなく老人…風鳴訃堂の問いにハキハキと答える女性職員。

その言葉で訃堂も初めて襲撃した怪人が一体ではない事に気付く。

 

「…貴様は生き残りを集め外部に連絡を入れろ、ワシの名を言えば風鳴機関から増援が来る」

「はい…え?」

「いいから急がんかッ!敵は待ってはくれんぞッ!」

 

訃堂の声に職員女性は「ハイっ!」と言って慌ただしくその場を離れる。

無様な歩き方に溜息を漏らす訃堂。

 

「……ワシも焼きが回ったか?」

 

訃堂としては、女性職員を見捨てるつもりだった。

無様に逃げ戦おうともしない者は訃堂の理想の護国足りえる者ではない。

女性が無様に命乞いをすれば即座に見捨てる気であった。

しかし、女性は恐怖しながらも立ち向かう事を選んだ。それが訃堂が動いたきっかけだ。

 

「…指令室に急ぐか」

 

女性の報告で怪人が指令室に居ると判断した訃堂は刀を片手に急ぎ向かう。

その駆け抜ける姿は道を知ってるかのような動きだった。

 

 

 

 

 

 

 




シンフォギアの世界のアメリカは余計な事をする事である意味有名です。

本部を襲った怪人は原作でも仮面ライダー二人と戦ったモスキラスです。シラキュラスとは吸血繋がりですね。
ショッカーの本気度が伺える。

そして、再生怪人はエイキングとさそり男。…源十郎ヤバいかな?
そして、何度も出てきたさそり男にとうとう人食いサソリが、相変わらず人を食ってないけど。

訃堂は訃堂で大口叩くだけあって普通に強いです。油断した再生怪人なら瞬殺です。
力量は原作並みに近い設定です。


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108話 不器用な親子

やっと吉井ダン先生のシンフォギアの漫画を揃えた。

原作通りとはいえ原作通りだけど、打ち切りみたいな終わり方だな…


 

 

 

何発もの銃声が響く指令室。

その場にいる全ての人間が一点に向け銃撃している。

指令室の空気は完全に煙に汚染され何人もの人間が咳き込むが未だに銃を撃ち続ける。

やがて弾が尽きたのか少しずつ銃声が減り最後に源十郎が撃っていた銃からカチカチと言う引き金音しかしなくなった。

 

何人かの息遣いと機械音が聞こえる室内で不思議な静寂さ辺りを支配して。

敵はノイズの様に弾を素通り出来ない。幾つもの弾丸が当たり人間なら原形すら溜めてない程の銃撃だった。

誰もが息を呑む中、指令室の煙が晴れていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ~…終わったか?」

 

そんな中、標的だったモスキラスは五体満足どころか傷一つ追っていない。

誰もが絶望する中、源十郎は一人打開策を考えていた。

 

━━━やはり普通の拳銃は勿論、小銃も駄目か!徹甲弾の申請を却下されたのは痛いな…

 

本来なら特異災害対策起動部二課は武装を小銃だけでなく威力の高い徹甲弾も申請していたが、日本政府が却下したのだ。

元々銃に対する拒否感もあるが、紛失や犯罪組織に横流しされる可能性がある、ということで拒否された。

勿論、特異災害対策起動部二課は政府の機関、国の決定には従わねばならない。

 

━━━徹甲弾ならまだ有効かも知れんかったものを!

 

この時ばかりは、源十郎も自分たちの申請を却下した政府役人を恨まざるえなかった。

 

「さて…嬲り殺しと行こうか!」

 

特異災害対策起動部二課職員たちの銃撃が止むや、次は自分の番だとモスキラスが動き出す。

モスキラスの姿が一瞬消えたように見えた源十郎の前にモスキラスの顔が映りこむ。

直後、首への圧迫感と脚が浮遊してる感覚が襲った。

源十郎の首はモスキラスに握られ宙に浮かされていたのだ。

 

「ぐわッ!?」

「指令ッ!」

 

「先ずは一人目だ、風鳴源十郎の首を圧し折ってやるッ!!」

 

先ずは源十郎を亡き者にしようとするモスキラス。

自分たちの世界より弱い源十郎は改造人間にする魅力もない。聞けば特許も取ってる発明家らしいが調べてもショッカーの興味を引く物はない。

利用価値もない邪魔者など抹殺するに限る。

 

源十郎の首を絞めてるのを見ていた職員も何とかしようとする者もいた。

銃に弾を補充してモスキラスの腕を撃つもの、その辺で拾った棒で殴りかかる者。

しかし、銃弾はモスキラスに効かず殴りかかっていた職員も羽虫を追い張るように弾かれてしまう。

 

「虫けら共がお前たちの処刑はコイツの後だ、それまで待っているんだな!」

 

ただ一言、そう言った。

源十郎の首を絞めてる方の腕の力を上げるモスキラス。

最初はモスキラスの腕を握り足で何とか反撃していた源十郎の抵抗もドンドン弱くなる。

このままモスキラスに首の骨を折られるかと思われたその時、

 

「待て、モスキラス」

 

モスキラスに待ったをかける言葉が聞こえた。

指令室の出入り口の方に目を向けたモスキラス。其処に居たのは、

 

「何だ、さそり男。まさか風鳴源十郎を殺すなと言うのか?」

 

モスキラスを止めたのは別の通路で人間狩りをしていた、さそり男だ。

源十郎の始末を邪魔したさそり男にモスキラスが「何故、邪魔をする」と聞く。

内容次第では処刑もあり、だからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

銃声後、静まり返っていた指令室。

その室内では何かを殴る鈍い音と男の短い悲鳴のような物が響いている。

 

「グハッ!」

 

「シュシュシュシュシュッ!どうした風鳴源十郎! 俺の世界のお前はもっと強いぞッ!!」

 

源十郎の腹を殴り床に蹲ると後頭部を踏みつけるさそり男。

さそり男の目はじつに楽しそうにし、源十郎の頭をタバコの火を消すようにこすりつけ、何度も頭部を踏みつけ源十郎の額が床に打ち付けられる。

 

「指令ッ!」

「止めてッ!!」

 

その姿に職員たちは大声を出すが、皆動けないでいる。

何しろ彼らの近くには赤いサソリ…さそり男の使役する人食いサソリが尻尾を向けていたのだ。源十郎が逆らったり逃げだそうとすれば即座に職員を殺す気だ。

事実、さそり男は見せしめとして職員の一人に人食いサソリの毒液を浴びさせ目の前で殺した。

それを見た時点で源十郎が逃走も抵抗も止めた。

 

 

 

 

「苦しめ、苦しむがいい! 並行世界と言うだけで此処まで違うとはなッ、風鳴源十郎!!」

 

「何故…そこまで俺を…」

 

源十郎には分からなかった。

さそり男は自分を憎み、嬲っている。それは理解出来たが、源十郎は此処まで恨まれてる事が不思議で仕方なかった。

まだ、特異災害対策起動部二課指令になる前、公安で働いていた事が犯人逮捕とかはせず、後方支援で味方をサポートをしていた自分が何故恨まれてるのか分からないのだ。

 

━━━こんな仕事だ、職員の遺族から恨まれる事はあるが、此処までの憎しみは感じたことがない。だが、この怪人に恨まれる理由など、 …待て、さそり男はさっき何て言って俺を嬲っていた。 確か「並行世界というだけで」 !

 

だが、分かったところでどうしようもない。

平行世界の自分ならさそり男にも反撃できるだろうが人質にされた部下の職員たちが如何なるかは…

 

━━━それに、さそり男を何とかしたとしても…

 

再度、頭を踏みつけられた源十郎の目に此方の様子を見ているモスキラスの姿が写る。

さそり男が風鳴源十郎の殺害に待ったをかけた時、モスキラスとの空気が殺気に塗れていたが、

 

『殺すなら俺に殺させろ! 奴には屈辱を受けているッ!』

 

なんて事は無い、自分で源十郎を殺させるよう頼み込んだのだ。

それだけ、さそり男の源十郎への恨みが凄かったのだろう。尤も、それを聞いたモスキラスは少し笑った後二つ返事をした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さそり男め、はしゃぎ過ぎだ。 だがまぁいい、今頃は病院で雪音クリスも風鳴翼もマリアも死んでいるだろう。…そして、立花響も」

 

目の前で源十郎が一方的にサンドバックにされる姿を見てモスキラスは呆れつつも待機する。

多少時間が掛かろうが問題はない。自分以外に地獄大使が送り込んだ強化改造人間がシンフォギア装者を殺し、特異災害対策起動部二課本部に対する援軍など存在しない。

日本政府が気付く可能性もあるが警官隊や自衛隊程度、ショッカーの敵ではない。

 

━━━とは言えだ

 

「さそり男、遊びもそろそろにしろッ! この後は地獄大使が進めている作戦に参加する時間が無くなるぞッ!」

「チっ、そう言えばそうだった」

 

源十郎の始末を譲ったモスキラスだが、流石に時間が経ち過ぎた事でさそり男に警告すると共にこの後の予定も思い出させる。

それに対し、さそり男も舌打ちをするがモスキラスの言葉に納得し倒れている源十郎の赤い髪を引っ張って無理やり目線を上げ左腕の電磁バサミを源十郎の首へと持っていく。

一気に源十郎の首を文字通り切り落とそうと言うのだ。

 

「名残惜しいが、此処までだな源十郎! 死ねぇ!!」

 

「ぐっ…すまない…みんな…」

 

絶体絶命のピンチに源十郎は打つ手がない事に死を覚悟した。

そして、源十郎の首がさそり男の電磁バサミで切られるかと思った時、

 

 

 

 

「…愚息とは言え、他人の息子に何をしてる!?」

 

 

 

「!?」

「なにっ!?」

 

突如、指令室の出入り口から声がしたかと思えばモスキラスの目の前に何かが一瞬で通り過ぎ、さそり男の右腕に喪失感が走り、源十郎は首を掴まれたまま床に尻もちをつく。

 

「うおおおおおおおッ!俺の腕が!?」

 

「一体何が…!」

 

右腕が喪失した事でさそり男の声が木霊し、解放された源十郎もさそり男の右腕を外して状況を確認する。

さっきまで自分を殺そうとしていた、さそり男が切られた右腕を押さえこっちを見ていたモスキラスはゆっくりと近づいてい来る。

 

━━━さそり男の右腕が見事に切断されている。 こんな事、翼でも無理だ! 唯一出来るとすれば…

 

「親父…」

「やっと気づきをったか、愚息め」

 

源十郎が「親父」と呟いた直後に背後から声が聞こえた。

振り向くと、其処には先程まで護国の定義の言い合いをしていた老人、自分の父であり風鳴家の当主風鳴風鳴訃堂が刀を握り近づく。

 

「まったく、いいようにやられおって。だから体を鍛えろと言ったのだ」

「うぅ…」

 

風鳴訃堂が源十郎の方を見ず、そう言い捨てる。

源十郎も源十郎で自身の不甲斐なさを思い知り言い返すことも出来ない。

 

「このっ、このクソ爺が!!よくも俺の右腕を切りやがったな!!」

 

一方、訃堂に右腕を切り落とされた、さそり男はやっとパニックが治まったのか電磁バサミの左腕で右腕を押さえつつ怒気の混じった声を出す。

源十郎も視線を戻せばさそり男が訃堂を睨みつけている。

驚いた事に訃堂に切り落とされた右腕も再生を始めている。恐らく数分もせずに右腕が生え変わるだろう。

 

「ほう? ショッカーの化け物もしぶといようだな、ほれかかってこい」

 

「殺す…殺すッ!!」

 

怒気と殺気の混じった、さそり男に訃堂は右手の人差し指でこっちにこいと挑発する。

人間…それも年寄りに挑発されたさそり男は誘いにのり電磁バサミで切りかかる。

 

 

 

 

「よく見ておけ…愚息」

「え?」

 

源十郎の耳に訃堂の声が聞こえると共に、訃堂も刀を鞘から抜きさそり男に向かう。

直後、訃堂の刀とさそり男の電磁バサミが火花を上げる。

 

「死にかけの老人風情がッ!!」

 

「ふん、お前の目にはワシは死にかけの老人か」

 

一気に刀を振り、さそり男の電磁バサミを体ごと弾く訃堂。

弾かれたさそり男は着地して態勢を立て直すと同時に来ていた着物の上半身を脱ぐ訃堂の姿が。

 

「とくと見るがいい、護国の為に鍛え上げられたこの体をなッ!!」

 

「!?」

「…人間にしてはよく鍛えられてる」

 

訃堂の肉体にさそり男もモスキラスも驚く。

情報では、訃堂の年齢は百を超えてるとみられ普通の老人なら骨と皮だけの肉体の筈だ。

だが、訃堂の体は若々しく筋肉も十分にありすぎる。正直、顔を見なければ三十台と言われれば納得する程だ。

もし死神博士が、訃堂の体を見れば改造人間の素体にしたい程だろう。

 

「よく見ておくがいい、愚息よ! これが護国に身を捧げた漢の体よッ!!」

 

「更に筋肉が膨張した?」

「老い耄れ風情がッ!!」

 

訃堂が刀を構えると同時に肉体の筋肉が膨張する。

それをハッタリと思ったのかさそり男は訃堂に飛び掛かると同時に電磁バサミで首を切り落とそうとする。

 

訃堂の刀がさそり男の電磁バサミを弾くと同時に蹴りをさそり男に繰り出す。お返しにさそり男も再生した右手で訃堂の顔にパンチし、電磁バサミで追撃もする。

辛うじて避けた訃堂は片手だけで臨・兵・闘・者・皆・陣・列・在・前の九字護身法を組むと一瞬目が赤くなる。

 

「!?」

 

「これぞ、護国の剣よッ!!」

 

一瞬にしてさそり男を素通りしたように刀を振るう。

少し遅れて、さそり男の体は吹き飛び、左腕の電磁バサミもバラバラになると空中で爆発四散し他の職員を見張っていた人食いサソリの活動も停止して崩れさる。

護国の鬼は未だに衰えてはいない。

 

「ふぅぅぅ…」

 

さそり男を切り捨てた訃堂の口から息が漏れる。これ程動いたのは久しぶりだからだ。

額から汗が流れる中、訃堂の目はモスキラスに向かう。

 

「年の割には素晴らしい腕前だと認めてやろう、風鳴訃堂。 そうだ、お前もショッカーに入る気はないか? お前ほどの達人なら改造人間の素体にも十分だろう。 何よりショッカーの科学技術で若返る事すら可能だぞ」

 

仲間のさそり男が敗れたと言うのに、モスキラスは訃堂の腕前を褒め更にはショッカーに誘う。

源十郎はそんな訃堂に不安そうに視線を向けていた。

 

━━━親父は護国の為なら手段を選ばない人だ。自身が永遠に若くなれば俺たちや翼すら不要だと考えるかも知れん

 

源十郎の脳裏に訃堂の裏切りという言葉が過る。

自分たちも翼も日本を守るために育てた。人間が永遠と生きられるわけがないからだ、だがショッカーの科学技術で幾らでも若返るのなら自分に代わる者なぞ必要ない。

永遠に自分が護国をすればいいだけだ。

 

「親父…!」

「…若返りか、確かに魅力的よ。愚息どもに翼もまだ半人前もいいとこだ。第一どいつもこいつも不甲斐ない上にワシの言う事を聞こうともしない…」

 

チラッと源十郎の方を見た後に訃堂の口からいろいろ零れる。

「やれ、息子どもは気合が足りない」だの「翼が男であったならば」と愚痴が殆どだ。

 

「アイツが先立ってからは碌な事がない。 息子どももトンだ腑抜けばかりでワシの期待をとことん下回る、それにつけて上の方は何時まで経っても子づくりもせん…」

 

訃堂の口からは自分たちの文句しか出ない。これには源十郎も他の固まってる職員もどんな表情をしていいか分からず、思ったより好感触だと判断したモスキラスも訃堂の愚痴が終るのを待つ。

 

「果敢無き哉…とは言え貴様らの事はまるで信用出来んのも事実。…となれば、その科学技術もお前たちを叩きのめして奪ってくれるわ!」

 

暫く愚痴っていた訃堂だったが、持っていた刀をモスキラスに付き付けそう言い放つ。

どの位の技術か分からないが、訃堂はショッカーの科学技術を手に入れるつもりでいた。

 

「そうか、交渉は決裂か。 …なら死ぬしかないな、爺ィィィィッ!!!」

 

「やってみろ、青二才がァァァッ!!!」

 

モスキラスの拳と訃堂の刀がぶつかり火花を上げる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ショッカーの怪人たちに襲撃された特異災害対策起動部二課本部。

夥しい血と灰が通路に放置される中、誰かの足音が響く。

 

「ハア、ハア…挨拶に来てみれば派手にやられてるな!これじゃS・O・N・G本部と同じじゃねえかっ!」

 

未来と別れた赤髪の女性だ。

本来なら、この世界の特異災害対策起動部二課に挨拶する程度だった筈が、中に入れば血塗れの惨劇の真っ最中。

 

「ノイズが相手なら此処まで血が飛び散らない。なら…旦那がヤバいッ!!」

 

十中八九ショッカーの襲撃だと判断した女性が目的は恐らく本部に居る人間の皆殺しだと考えダッシュで指令室へと急ぐ。

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、訃堂とモスキラスの戦う指令室では、

 

「うおおおおおおおっ!!!」

 

「温いぞ、クソ爺ッ!!」

 

訃堂の繰り出す斬撃を幾つも受けるモスキラスだが、その体には少しだけ傷つけるだけであり、逆にモスキラスの拳が訃堂の胴体に刺さる。

血を吐く訃堂、拳の勢いで後方に足をつけながらも吹き飛ばされる。

 

「ゴホッ!」

「親父っ!?」

 

源十郎は信じられなかった。さそり男を倒し護国の鬼と言われた風鳴訃堂も剣が全く通用しない。

 

「サソリの男を倒したのに…何で」

 

「俺をさそり男と一緒にするなっ!奴は再生された怪人だが、俺は強化改造を施された強化改造人間だッ!!」

 

指令室に居る一人の職員の呟きにモスキラスは、そう言い放つ。

正直、源十郎たちには再生やら強化とかは分からないがモスキラスがさそり男を超える実力者だという事が分かった。

 

「再生だろうと強化だろうと、貴様たちの好きにはさせんッ!」

 

血を吐いていた訃堂が再び刀を構えモスキラスへと切りかかる。

尤も、切りかかれたモスキラスは訃堂が振るった刀の刃を片手で握り、残った腕で訃堂の顔面を殴りぬく。

 

「ガフッ!!」

「親父!」

 

殴られた訃堂は持っていた刀を手放してしまい、そのまま吹き飛ばされた。

そして、その訃堂を源十郎が盾となり受け止める。もし、そのままならオペレーターたちの席にぶつかっていただろう。

源十郎が訃堂の顔を見ると殴られた場所か頭からも血が流れだす。

 

「年の割には大したものだと褒めてやろう、風鳴訃堂。だがこの程度で俺を倒せると思わん事だ!!」

 

そう言うと、モスキラスは掴んでいた訃堂不動の刀を刃ごと握りつぶす。

モスキラスの下には訃堂の刀の柄と刃だった金属片が散らばった。

 

「親父の刀が!」

「くっ、(なまくら)ではこの程度か…!」

 

訃堂の命にも等しい愛刀が砕けたと言うのに、訃堂の口から(なまくら)という言葉が出た事に驚く源十郎。

 

「なまくら? 何言ってんだ、アレは親父の命にも等しい…」

(なまくら)とワシの命にも等しい群蜘蛛の違いも分からんのか!馬鹿者!!」

 

源十郎は、幼いころから父である訃堂に護国の話と共に訃堂の愛刀である命と豪語する護国挺身刀・群蜘蛛。

風鳴家の宝刀で訃堂の全てと言っても過言ではない。

そんな訃堂が群蜘蛛を持たずにナマクラの刀を持ってきていたのだ。

 

「何故だ、親父! 群蜘蛛はアンタにとって…」

「…我が命にも等しき群蜘蛛を何時も持ち歩いていると思うでない…何より、お前たちに会うだけで、何故群蜘蛛をもっていかなければならん」

 

群蜘蛛は訃堂にとっても命であり切り札でもある。

そんな、群蜘蛛を持たず自分たちに会いに来たという事は、まるで…

 

「コイツは驚いたッ!護国の鬼と呼ばれ恐れられた男が家族との繋がりを切れんようだな!」

 

「………」

 

モスキラスが源十郎が頭の片隅で考えていた事を代弁するかの様に口から出る。

その言葉に訃堂が奥歯を噛み締めるような表情をし、源十郎にはそれが真実のようにも見える。

しかし、

 

━━━そんな事、ありえるのか?

 

源十郎とて、訃堂の下で十何年も過ごしてきた。結論から言えば、家庭での訃堂は最低の一言だ。

家族を顧みず護国にこだわり外国を敵視し、国民も蔑ろにしてきた。

大を救うためには小を切り捨てる。とも言うが、源十郎には訃堂は人間を見ていないのではと疑惑も持っていた。

百歳を超えているらしい訃堂の年齢は家族である筈の源十郎すら正確には知らず、上の兄も恐らく知らないだろう。第二次世界大戦を生き抜いた訃堂が何を見たのかは源十郎たちにも分からない。

 

そんな護国の鬼であり、度が過ぎる国粋主義者の訃堂が家族が大事などとは到底思えなかったのだ。

 

「親父…本当に…」

「…言う出ない…護国の為に全てを捧げた筈のワシが今更…家族など…」

 

源十郎が何か言おうとした時、訃堂が遮るようにそう言った。

その背中は何処か小さくも見えた。

 

「ブゥゥーヨオーンッ!! こいつはお笑いだ、死ぬ間際になって今更家族が大事だと抜かすとはなッ!!お前の人生、お笑いだな風鳴訃堂っ!!」

 

「…!」

 

訃堂の今までの人生をあざけ笑うモスキラス。

ショッカー組織に置いても訃堂の存在は邪魔でありターゲットの一つでもある。そんな男が家族に、いまさらこだわる。笑わずにはいられなかった。

 

「訃堂、お前の人生は全て無駄だったな! ブゥゥーヨオーンッ!『笑うな…』ん?」

 

「国の為に尽くした漢を…俺の親父を笑うなッ!」

「源…」

 

モスキラスの侮辱の声に源十郎が反発し声を荒げる。

子供の頃は尊敬し年を重ねるにつれて反発し擦れ違いが多くなった。それでも源十郎にとって訃堂は憧れであり何時かは超えたいと思う目標だった。

 

「親父…俺は護国についての事や国が如何とかは未だに分からん。 正直、親父をぶん殴りたいと思ったことも何度もある。それでもアンタは俺や兄貴にとってたった一人の父親だ!父親を守りたいと思って何が悪いッ!!」

「………」

 

「麗しい親子愛だな、感動した。ならば二人仲良くあの世に逝けぇ!!」

 

源十郎が訃堂を庇う発言にモスキラスはそう言い捨て飛び掛かる。

モスキラスにとって二人に親子愛があろうが、なかろうが関係ない。纏めて抹殺する気だ。

 

 

 

「よく言った、旦那ッ!!」

 

「!?」

 

そのまま飛び掛かり源十郎と訃堂の両名を殺そうとしたモスキラスだが、突然女性の声と自分に何か投げつけられた事に気付き、飛び掛かりを中止して咄嗟に後ろにさがる。

直後、モスキラスが居た場所に何かが突き刺さった。

 

「これは…槍?」

 

モスキラスの目の前には大き目な槍が突き刺さる。

先端が黄色く、所々白い柄に近い部分がは赤い大きな宝石のようにも見える。

 

「あ…あの槍は…」

 

そして、その槍を見て驚いたのが一人。

風鳴源十郎だ。

嘗て、翼とユニットを組みライブ中にノイズの襲撃を受けて絶唱を歌って亡くなった娘の所有する()()()()()()()()

 

「旦那も爺さんもよくやった。後は、アタシに任せなッ!」

 

「ブヨッ!?」

 

源十郎が懐かしんでいるとさっきと同じ女性の声が聞こえ、モスキラスに誰かが蹴りを放つ。

いきなり攻撃されたモスキラスだが、伊達に強化改造人間になった訳ではない。即座にガードし反撃で拳を振るうが、モスキラスの拳が空を切る。

 

「き…君はッ!」

「悪いが旦那、つもる話や聞きたい事が山ほどあるかもだけど、今やアイツを倒すのが先決だ」

 

その女性は何時の間にか刺さった槍を抜き、源十郎の前に立っている。

女性を見た訃堂もまた目を見開き驚いてるようにも見える。

そして、女性の正体にモスキラスも気付いた。

 

「き、貴様…!」

 

「それにしても、また鉄火場に遭遇するなんてね。運が良いんだか悪いんだか」

 

女性は前にもS・O・N・G本部で同じような体験をしていた。

尤も、その時は自分の知る立花響と瓜二つの少女だったが。

 

 

 

 

 

 

 

「なぜ、お前が此処に居る!天羽奏! この世界でもお前は死んでる筈だッ!!」

 

 

 

 

 

 

源十郎と訃堂を救ったのは、嘗て亡くなった筈の天羽奏である。ショッカーも調査の際、天羽奏が死んでるのを確認している。

尤も、この天羽奏はこの世界の人間ではない。

 

「死んだ筈の小娘が何故生きている。…そうか、貴様も平行世界の…」

 

「平行世界はお互いさまだろ」

 

床に突き刺さった槍を抜いて構える奏。

その反応で目の前の天羽奏が並行世界の者だということに確信を持つモスキラス。何より、ショッカー響の記憶データから天羽奏の姿は確認されている。

 

だが、天羽奏がこの世界だろうが並行世界の出身だろうが関係ない。ショッカーの邪魔をする者は地上から抹殺するのが改造人間の役割だ。

 

「平行世界の装者が増えたところでッ! この場で死ぬムシケラが一匹増えた程度よ!!」

 

そう言い放ったモスキラスは槍を構える奏に突進する。

そのまま拳を振るい、蹴りも繰り出すが悉くが奏の槍に捌かれる。

一見、奏がモスキラスの攻撃を捌いて有利に見えるが、

 

━━━攻撃が重いっ!何度も受ければアタシの手がヤバい、何より此処は戦いづらい

 

奏が加勢に来たとは言え、場所は相も変わらず地下の特異災害対策起動部二課本部だ。

下手にシンフォギアの技を使おうものなら本部が崩壊して全員生き埋めになるかも知れない。

上手く、外に誘導したいが相手はノイズや暴れる無人兵器とかではなく悪辣な手を使うショッカーの怪人だ。喜んで此処を戦場にしようとするだろう。

 

━━━アタシが移動すればコイツは嬉々として旦那と爺さんたちを殺す。なら、無理矢理にでもコイツを外に放り出す。でもどうやって…!

 

「旦那、悪いがぶち抜かせて貰うぜ!」

 

モスキラスを外に追い出したい奏の頭にあるアイデアが浮かび源十郎たちにそう言った。

そして、そのまま槍を構えてモスキラスに突撃する。

 

「自棄でも起こしたか、死ねぇぇぇ!!」

 

理由が分からないが突撃して来るのならと、モスキラスは腕を伸ばして反撃の準備に入る。

突撃時に首を掴み一気に自分に引き寄せたら口の針で一気に血を始めとした体液を飲み干して殺してやろうと企んだ。

そして、奏が十分近づいた時に首を掴もうとし、

モスキラスの腕は宙を掴んだ。

 

「なにっ!?」

 

目前まで迫っていた奏の姿が消えたように見え、モスキラスの腕は誰も居ない場所を掴んだのだ。

 

「アタシは此処だあぁぁぁぁぁ!!」

 

「!?」

 

奏の声が舌から聞こえ、目線を下げた先には奏が滑り込むようにモスキラスの体の下にまで来ていた。

あの時、奏はスライディングするかのように床を滑りモスキラスの腕を回避し目を掻い潜ったのだ。

そして、奏が持つガングニールの槍はモスキラスに向に向けている。

 

「食らいやがれぇぇーーー!!」

 

奏がそう言い放つと同時に槍に取り付けられているブースターから火が噴き、モスキラスの体に当たると体ごと上へと昇っていく。

そして、モスキラスの体は本部指令室の天井にぶち当たる。

 

「グッ、こんな物がッ!!」

 

尤も、奏のガングニールの槍で刺された形になったモスキラスだが、槍は完全に突き刺さってはいない。

モスキラスの体は奏の想像以上に頑丈でモスキラスの動きを拘束しか出来なかった。。

一応、モスキラスを浮かせられていたが、抵抗が激しくなればこの拘束も解除されていまう。

 

「ぶち抜けぇ! ガングニールゥゥゥッ!!」

 

奏が言った途端、槍からは更に火を噴き、更には奏の腰のブースターからも火が噴く。

瞬間、モスキラスの後ろの天井にヒビが入り少しずつ崩れていく。

刹那モスキラスの後ろの天井を砕き奏ごと中に入り、その上の階の天井もぶち抜いていく。

 

「何だとッ!!」

 

「うおおおおおおおおおおおおッ!!!!!」

 

驚愕するモスキラスの声と奏の叫びが上の階に響いていく。

更には、槍の刺さらなかったモスキラスの体に奏の槍が少しずつ減り込んでいる。

 

 

 

そして、数秒もせずに私立リディアン音楽院の校庭から轟音と水にぬれた土埃が舞う。

 

 

 

 

 

 

 

 




偶には人間臭い訃堂がいてもいいんじゃないかな。

訃堂のバックボーンが語られてない以上、好きなように捏造出来る。
特に翳り裂く閃光編だと影も形もないので、結果的に今回のような設定に。

そして、未来と一緒に来たのは並行世界の天羽奏でした。
因みに、奏がモスキラスごと天井をぶち抜いて外に出た土埃こそ病院の屋上で翼たちが見たものです。

訃堂の刀が愛刀の群蜘蛛ならモスキラスともっと互角に戦いました。


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109話 伝説の復活!? ツヴァイウィングVSモスキラス

何時の間にかアマゾンプライムに加入していた。
代引きだと買えない商品を買う為にカード登録した所為かも。

仮面ライダーの映画が多いので得した気分。


 

 

 

 

 

「…え~~~、この様に音楽の歴史は人と常にあり…」

 

私立リディアン音楽院のとある教室。

今日も今日とて教室では授業が行われている。

そして、生徒の中には体育の徐行を終えた板場たちもいた。

 

「…ねえ、アレどうなったかな?」

「アレ?」

「もしかして、あの三人のお坊さん?」

「うん」

 

丁度、上の段差に居た弓美が下の席に居た二人に話しかける。

内容は、さっき見た雨の中を歩く三人の坊さんの怪僧たちだ。如何にもそれが弓美には気になっていた。

 

「一応、先生には伝えたけど…」

「普通なら、もう追い出されてるか捕まってるか。ですね」

 

創世も詩織も当たり障りのない答えを口にする。

どちらにせよ不審者なら警備員や教師が何とかすると思ったからだ。

そう、()()()()

 

「フフフ…甘いわね、あんた達」

 

しかし、其処で弓美は指を振って否定する。

序に弓美の口から「チッ、チッ、チッ!」と指を振るオマケつき。

その反応に創世も詩織も内心ムカっとした。

 

「じゃあ、どうなったっていうの?」

「さっき教師や警備員が走って行くのを見たわ、きっとあの怪僧たちは悪の組織の一員で応援に行ったのよ!」

「…まさか~」

「板場さん、テレビの見過ぎですよ~」

 

 

 

 

 

 

 

 

「アンタたちッ!何時まで喋ってるのかしら?」

「「「!?」」」

 

突然の声にビクッと反応する三人。

後ろに気を配ってた創世と詩織が前の方を見、弓美も視線を少し上げる。

其処には青筋をたてた大人の女性が目の前に居る。先生だ。

 

「先生の話も聞かないなんて優秀ね、アナタたち。板場弓美さん、教科書の67ページから全部読みなさい」

「は、はい!…え、全部!?」

 

先生の言葉の意味に気付いた弓美が愕然として下の席の親友(創世、詩織)に目線を向けるが教科書に顔をうずめている。

涙目になって、言われた通りに教科書を読む。

 

「…嘗て、皇帝ネロも市民からの膨大な税金で建てた………」

 

教室の弓美の音読が響く。

そして、外は相も変わらず雨であった。

 

カタカタカタカタ

 

「?」

 

そのまま時間が過ぎるかと思われた時、詩織の耳に妙な音が聞こえてきた。

先生に気を付けつつ、何処から音がするのか探ると、

 

「鉛筆?」

 

彼女の鉛筆がカタカタと揺れているのだ。

 

「え?なにっ!」

 

隣の創世の声に振り向くと、彼女の視線の先には消しゴムがカタカタと揺れてるのだ。

更には他の席の生徒も何かが揺れ出してるのか声を次々と上げる。

 

「静粛に!まだ授業中よ!」

 

教師が収めようとするが、混乱が徐々に大きくなる。

そして、遂には

 

「其処で皇帝ネロが見たのは、筋肉ムキムキマッチョマンの変態だった。「さあ、ネロ選べ!死か自由かだ!」そしてネロの出した答えはズズズッ!!!って、なに地震ッ!!」

 

教科書を読んでいた弓美すら驚く轟音と揺れに生徒たちはパニックを起こす。

 

「見て、外が!」

 

その内の一人の生徒が窓の外を指差して叫ぶように言う。

他の生徒や教師も見ると、外の校庭のグランドから水交じりの土が舞い散る様子だった。

 

 

 

 

 

 

 

その頃、土埃が舞う空中ではガングニールの槍を掴んでいる奏と腹部を槍で刺されたモスキラスが自由落下している。

 

「! 何時までもそんな槍で刺してんじぁねえ!!」

 

「!?」

 

空中に飛び出たモスキラスは、刺されたガングニールの槍を掴み体を振り回す。

突然の事と振り回した事で発生した遠心力で奏は槍を離してしまい、地上に下り立つ。

そして、楓の前にゆっくりとモスキラスも下り立つ。

 

「ゆ…許さんぞ、小娘ッ! お前だけは嬲り殺しにした後に骨にして街にバラ撒いてやる!!」

 

怒気の籠った声を発し、腹部に刺さったガングニールの槍を掴んで取り出す。

引き抜かれた際、モスキラスの腹部から緑色の血が流れる。

 

「…大口の割には随分と傷を負ってるじゃないかい。…!」

 

モスキラスの様子に軽口を叩く奏だがその額には雨の混じった汗が流れる。

奏が目を見開いたのは、ガングニールの槍で傷ついたモスキラスの腹部が再生し、元に戻ったからだ。

 

━━━あっさりと回復しやがった! 再生能力じたいノイズで慣れていたつもりだけど…

 

奏自身ノイズと数えきれない程戦っている。ノイズは基本的に致命傷を負わなければ切られようが撃たれようが再生するが、目の前の相手もそうだと気付く。

奏の頬に冷たい水滴が落ちると、真っ直ぐと視線を向ける。

 

まだ土煙が舞う中、一人の女性と異形の怪物は互いに睨み合い…同時に踏み込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「う…うう…皆、無事か!」

 

一方その頃、奏が天井を突き破った特異災害対策起動部二課本部の司令部では電灯が点滅する中源十郎の声が響く。

その声に反応したのか何人もの人影が動いたり立ち上がったりする。

 

「…本部は放棄だ、生きている者は速やかに脱出するんだ!」

 

人影を確認し周囲の様子を見た源十郎は特異災害対策起動部二課本部の放棄を決定する。

元より、死神カメレオンに侵入され防備を固めたがソレも無駄に終わった。

何より多くの職員が殺され生き残りがどれ位いるかも分からない。

最早、本部としての機能があるかすら怪しい地下施設を使い続ける事も難しい。ところどころ天井が崩れ瓦礫が降っている事でその考えは確信に変わる。

恐らく、一時間もせずこの指令室は瓦礫で埋まってしまう。

 

源十郎の宣言に生き残った職員は次々と本部の出入り口から出ていく。

念のためにと指令室に置いてあるエレベーターのスイッチを押してみるがうんともすんとも言わない以上、出入り口から出て怪談を昇るしかない。

 

「親父…動けるか?肩を貸すぞ」

 

無事に職員たちが指令室から出ていくのを見守っていた源十郎は次は自分たちだと訃堂に腕を伸ばす。

源十郎の腕を見て少し考えた訃堂は差し出された手を握り源十郎の肩を借りる。その様子に源十郎は表情には出さないが内心驚いていた。

 

「…ワシがお前の指示を聞いて驚いてるな、愚息よ」

「あっ!いえ…」

 

尤も、訃堂にはバレていた。

 

「ただの気まぐれよ…気にするな」

「…はい」

「丁度、海上自衛隊が開発し建造した新型潜水艦があるから次はそれを本部にするといい。上の愚息にも手を回すよう伝えておいてやる」

「はい…え?」

 

訃堂の口から次の本部の話に驚くと共に兄貴に無茶ぶりが来そうな気がして心配になる源十郎。

そして、二人が出た指令室に幾つものが瓦礫が降り注ぎ煙を上げた。

まるで二人が出るのを待っていたようなタイピングだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

まぼろし? 夢? 優しい手に包まれ

眠りつくような 優しい日々も今は

 

奏は歌い、モスキラスにアームドギアであるガングニールの槍でモスキラスを攻撃する。

尤も、モスキラスは奏の振るう槍を片手で防ぐ。

 

「どうした? 貴様のガングニールなぞ毛ほども効かんぞぉ! ブゥゥーヨオーンッ!!」

 

儚く消え まるで魔法が解かれ

すべての日常が 奇跡だと知った

 

━━━強いっ! アタシのガングニールの槍がまるで歯が立たない。 前の響の偽物の時もそうだったけど、コイツら…並みじゃない!

 

奏は改めてショッカーの強さを思い知る。

ノイズと比べ物にならない強さ、今まで戦ったどの連中とも違う悪辣さ、奏も此処にきて改めて理解する。

 

曇りなき青い空を 見上げ嘆くより

風に逆らって…輝いた未来へ帰ろう

 

━━━だからって諦めてたまるか!

 

「うん?」

 

奏が自分との接近戦を止め、一旦距離を取る行動を見て何か仕掛けると考える。

モスキラスの予想は当たったようで奏が大きくジャンプすると持っていたガングニールの槍を自分に投げつける姿が見えた。

 

「投擲程度で如何にかなると思ったか!?…!」

 

きっと どこまでも行ける 見えない 翼に気付けば

悲しみには とどまらずに 高く舞い上がれ

 

奏の行動を()()()()()だと考えていたモスキラスだが、奏の投げた槍が無数に複製すると全ての槍が自分へと迫る。

 

STARDUST∞FOTON

 

本来、この技は数に勝るノイズへの対抗策として奏が編み出した技だ。

普通なら広範囲に槍をばら撒きノイズを駆逐するが、範囲を絞る事も出来、その時の火力は大型ノイズも沈める程だ。

 

We are one 乗り遅れないで

時は 止まってくれない

 

現に槍の集中攻撃を食らったモスキラスの周囲は攻撃の反動で爆発を起こし爆風が雨を一時的に消し去り、煙が辺りを包む。

しかし、消し飛ばされた雨はアッサリと戻り、煙を洗い流すように降る。

 

「面白い大道芸だな、少し驚いたぞ」

 

「チっ!」

 

煙が晴れた場所には無傷のモスキラスが軽口を叩き仁王立ちしている。

その姿に歌ている最中の奏も思わず舌打ちをした。

 

今を生き抜く為に 私たちは 出会ったのかもしれない

 

━━━予想していたとはいえ、無傷かい。 少し自信を無くすね…

 

奏とて自身の能力は分かっていた。響たちよりシンフォギアの適合率が低く未だに改良されてきたとはいえLiNKER頼りの体だ。

それに比べて、並行世界の翼や響たちは適合率も高く戦闘能力も高い。

 

━━━あいつ等よりアタシが弱いのは分かっている。…だからって諦めてたまるかぁ!!

 

君ト云ウ 音奏デ 尽キルマデ

止まらずに Sing out with us

 

奏が槍の穂先をモスキラスに向けると、槍の穂先が回転を始めそれが徐々に早くなっていく。

そして、回転が最大級になった時、ガングニールの槍の先から竜巻が起こりモスキラスへと迫る。

 

━━━コイツならッ! …!

 

「今度は扇風機の大道芸か?涼しくて気持ちいいぞ!ブゥゥーヨオーンッ!!」

 

穂先が回転した事で竜巻を形成したガングニールの槍だが、モスキラスはその竜巻を受けて平然と奏の下に近寄っていく。

これには奏もショックを隠し切れない。この竜巻はノイズどころか大型ノイズすら沈める程の威力があるのだから。

 

━━━冗談だろ…LiNKERだってまだ余裕がある筈なのに…

 

そう考えていた奏だったが、モスキラスはその隙を見逃さず一気に奏に近づく。

驚いた奏が咄嗟に槍を振るおうとするが、モスキラスの腕が奏の腹部に減り込む。

血を吐く奏。

 

「グハッ!」

 

「これ以上、貴様との遊びは付き合いきれん。死ねぇ、天羽奏!」

 

それからは一方的だった。

モスキラスは女と言えど容赦せず顔面や腹部を殴り、下半身にも蹴りを入れていく。

奏のシンフォギアの鎧も徐々に悲鳴を上げ、ヒビが入っていく。

特に奏を苦しめたのはモスキラスの空中殺法だ。縦横無尽に飛び回るモスキラスの動きに奏は目で追うのがやっとだったのだ。

 

そして、何度目かのモスキラスの拳にとうとう地面に倒れる奏。

 

「ふん、お前との戦いも飽きた。そろそろお前の体液を全て吸い尽くしてやるっ!!」

 

そう言うと、モスキラスは奏の頭部を掴んで無理やり立たせると自身の注射器のような口を奏の首に近付ける。

そのまま一気に口の針を突き立てようとした瞬間、

 

「!?」

 

殺気のような物を感じたモスキラスは掴んでいた奏の頭部を放し咄嗟に後ろにジャンプする。

直後、モスキラスの居た場所のに幾つもの短刀が降り注ぐ。

上手い具合に奏を避けて、降り注いだ事にモスキラスの少し感心してしまう。

 

「これは、風鳴翼の千ノ落涙!? まさかっ!」

 

 

 

 

「大丈夫か!」

 

記録で見た事があるモスキラスが考えると共にグランドの外から誰かが文字通り飛んでくる。

モスキラスの目に青色の長髪が映り予想は確信に変わる。

 

 

 

 

 

 

 

 

病院の屋上で本部のあるリディアン音楽院の方から巨大な土煙を見た風鳴翼は、体力を消耗したクリスとマリアが休んでる内に現場に確認に来た。

そして、現場であるリディアン音楽院の校庭で戦闘音が聞こえ遠目からシンフォギア装者が怪人と戦ってる事を理解する。

 

━━━やはり此処でも戦闘が起こっている。 戦っているのは…あのシンフォギアはガングニール? なら立花響か!

 

 

土煙でよく見えないが、シンフォギアの形状や色から戦ってる装者を立花響だと考えた翼。

だが、軽く周囲を確認したが立花響は一人しか確認出来ない。

 

━━━報告では、響は二人で活動していたらしいけど…もう一人の気配が無い。単独行動か?

 

先の永田町の戦いでは響の姿を見る事の無かった翼。

響が二人いる情報も後から聞かされただけだだが、もう一人の響の姿を探すが影も形もない。

単独行動かと考えた翼の目に倒れた装者にトドメを刺そうとしているモスキラスの姿を見て思考を打ち切り、アームドギアの剣を取り出し前方の宙に向ける。

そして、幾つもの短剣がモスキラスの方に振っていく。

 

千ノ落涙

 

生憎、攻撃を察したモスキラスには当たらなかったが装者を手放して距離を取ったのを見て、翼が急いで倒れた装者の方に向かう。

 

「大丈夫か!」

 

モスキラスが離れた隙にガングニールの装者の下に辿り着いた翼。

そして、此処でやっと翼はガングニールの装者が立花響では無いことに気付いた。

 

 

 

 

 

 

 

━━━おかしい…立花響にしては髪が長すぎる上に体も育ち過ぎている。それにこの髪の色…まさか!

 

「…かな…で?」

 

確かにシンフォギア自体はガングニールで立花響が使っていた物だ。

しかし、記憶にある立花響に比べ体は成長しており髪も長い。更に、翼にはその髪の色に見覚えがあった。

そして思わず嘗ての相棒だった少女の名を口にする。

 

「…ああ、この世界の翼か?助かったぜ…」

 

翼の声に反応し奏が笑顔を見せる。

顔はモスキラスに殴られた箇所が腫れ口の端からも血が流れてるが、その笑顔は間違いなく翼の記憶の天羽奏のものだった。

 

「やっぱり奏!?アナタはあの時…そうか、並行世界から…」

 

━━━そうだ、マリアと雪音が言っていた可能性の一つ。奏が生きている世界もあったんだ!

 

翼はマリアやクリスから並行世界の事を聞いても元相棒である天羽奏の生存してる世界の事は考えなかった。

いや、考えても仕方ないと思っていた。

仮にその世界に天羽奏が生きていようが、その天羽奏は翼の知る天羽奏ではない。ただのそっくりな人間に過ぎない。

 

現に目の前の天羽奏もただのソックリさん。

━━━その筈…その筈だったのに!

 

頭では理解していても心の中では目の前の奏と思う存分語り合いたい思いが溢れ出る。

 

「…ごめん…ごめんね、奏。もうとっくに吹っ切ったつもりだったのに…こうしてアナタとまた会えたのが嬉しくて…」

「アタシも最初はそうだったさ、最初に並行世界の翼や響たちと会った時はビックリして…意固地になって足も引っ張ったりしたけどな」

 

奏の前で子供の様に泣く翼に奏は体を起こしてソッと頭を撫でる様に触る。

その温かさに翼は生前の天羽奏とのやり取りを思い出す。

ツヴァイウィングの大きなライブに緊張する自分を慰め勇気を与え、戦場で散った奏の事を。

「相変わらず泣き虫だな、翼は。マリアたちの報告じゃ装者としての責務を果たしてるって聞いていたけど…」

「…我武者羅に戦っていただけだ、奏が居なくなってから一人で…もう一人のガングニールの装者は私の話も聞こうともしないし勝手にノイズを蹴散らして…」

「詳しいことは後だ、先ずは目の前のアイツを倒すぞ」

 

奏の言葉に翼が頷くと奏の視線の先を目で追った。

 

「風鳴翼、貴様が此処に居るという事はシラキュラスはしくじったと言う事か!」

 

視線の先には自分たちを見下ろすモスキラスが居る。

本来なら恐ろしさの一つも感じる筈が、嘗ての相棒が傍にいるというだけで心や体が軽く感じる。

 

「ならば、俺の手で始末するだけよッ!この世界の貴様と天羽奏なら十分殺せるわ!!ブゥゥーヨオーンッ!!」

 

「…言ってくれるね」

「並行世界の人間とはいえ、私と奏のコンビを舐めるな!怪人!!」

 

 

 

 

何処までも飛んでゆける

両翼が揃えば

やっと繋いだこの手は

絶対離さない

…離さない!

 

「いかにシンフォギアとはいえ、最早歌で如何にかなるものかッ!死ぬがいい、ブゥゥーヨオーンッ!!」

 

二人が歌いだす姿にモスキラスは馬鹿にすると二人を殺そうと一気に近づく。

先の奏との戦闘、今までの翼の戦闘データから力もスピードも自分が圧倒的に上回ってる事をモスキラスは確信していた。

平行世界のクリスとマリアが居ない以上、自分が負ける訳がないと思っても居る。

 

 

惨劇と痛みの

癒えない記憶は

 

夢でも呻くほど

胸を刺すように

 

「!?」

 

そのまま奏を殴ろうとして拳を繰り出すが、寸前で躱され驚愕するモスキラス。

ならばと、傍にいた翼に蹴りを放つがこれも躱され反撃に翼の剣が叩き込まれる。

 

「グハっ! 馬鹿な!!」

 

翼の流れるような動きに驚きつつも、即座に翼に反撃しようとするが今度は奏の槍が阻害する。

 

互いの思い出の

写真は微笑みあって

 

今日の二人だけの一瞬を

表すかのように

重なる

 

それからも、モスキラスの猛攻は続くが奏と翼は互いを庇い合い全ての攻撃をアームドギアの槍や剣でガードし反対に二人の攻撃がモスキラスに入る。

見る人間が見れば、翼と奏の動きは踊ってるようにも見えただろう。

 

「ありえん…ッ!ありえんぞ!! 俺は雪音クリスやマリア・カデンツァヴナ・イヴのイグナイトに対抗する為に強化改造されたんだぞ!お前たちのようなゴミに何故押されるぅ!!」

 

モスキラスを始めとした強化改造人間は、海蛇男との戦いでクリス達が見せたイグナイトに対抗する為に強化されていた。

計算上、イグナイトのクリスとマリアを殺せる力量の筈がシンフォギア装者としても弱い方の奏と並行世界の翼の力に押されてるのが納得がいかないのだ。

 

色の違う砂時計

「何故…?」と空を仰ぐ

時は二度と戻らない

 

「確かにマリアたちに比べれば私たちは弱い」

「アタシもそれは認めてやるよ!」

「だが、人間を舐めるな! 改造人間!!」

 

モスキラスの言葉に火が付いたのか、翼と奏の攻撃が徐々に激しくなる。

最初は余裕で対応していたモスキラスも槍や剣に対する反応が遅れ攻撃が直撃するようになる。

 

変わらぬ過去

囚われるのはもうやめて

 

「馬鹿な…こんな馬鹿な事が…」

 

本来ならシンフォギア装者が留守の間に風鳴源十郎始めとした特異災害対策起動部二課本部の人間たちを抹殺するのが任務だ。

戦闘能力もない源十郎なら楽に殺せる楽な任務だった筈だ。

それが、次々と邪魔者が現れ並行世界の天羽奏まで現れ計画は頓挫した。

 

平行世界のクリスやマリアと違い格下の筈の翼にまで押される始末だ。

 

「お前たち如きが…俺は南米アマゾンで悪魔と恐れられた怪人だぞ! 俺様に…ショッカーに逆らうなど、身の程知らずめッ!!」

 

歌が濁りを許さない

両翼だけのムジーク

空が羽撃きを待つよ

逆光の先へと

 

「知ったことかぁ!!」

「アタシ等は未来に行く為にもお前たちが邪魔なだけだ!!」

 

モスキラスの声に二人がそう返すと同時にアームドギアの槍と剣がモスキラスの腹部に直撃する。

本来ならどうという事はない筈の攻撃だが、その時ばかりはモスキラスにもダメージが入り腹部を押さえる。

そしてその隙を二人は見逃さなかった。

 

剣を持った翼と槍を握った奏が対照的なポーズを取る。

途端に二人のアームドギアに力が高まっていく。

 

「これが…」

「アタシ等の…」

「「歌だあああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

双星ノ鉄槌-DIASTER BLAST-

 

モスキラスは見ていた。

奏と翼のアームドギアから凄まじいエネルギーが生み出され、雨を吹き飛ばし暴風のようになりなりながら自分を飲み込むのを。

 

 

 

 

 

翼と奏の攻撃の後は静けさが戻り、雨音が響き渡る。

二人の視線の先には二人の合体技が直撃したモスキラスが横たわっている。

まだ生きてるかもと警戒する二人だが、暫くしてもモスキラスの体は動くことは無い、それどころかモスキラスから赤い液体が流れていく。

直後にモスキラスの体は崩れ溶けていき、最後には雨に打たれる赤い液体が残るが、その液体も雨でやがて消えてしまった。

 

「終わった…のか?」

「…たぶん」

 

翼と奏は互いに目を合わせると共にゆっくりと握ていたアームドギアを地面に下ろす。

そして、二人の顔から笑顔が出ると共に二人の手が握られた。

言葉も出ない。二人は暫く笑い合っていた。

 

 

 

 

 

 

「おーい、生きてるか!?」

 

少ししてからだろうか、二人の耳に声が聞こえ振り向くとシンフォギアを纏ったクリスとマリアが近づいていた。

少しだけ休憩して急いで来たのだろう。中継した筈のクリスが息を切らしていた。

 

「ハア…ハア…」

「おいおい、それじゃ休憩した意味がないだろう」

 

そんなクリスに奏が呆れたように言う。

 

「その様子なら怪人を倒したようね、でも此処でゆっくりしていて良いの?生徒に見つかれば大騒ぎよ」

「その点なら心配ない、既に教師と職員たちが全生徒の避難を完了させている」

 

マリアの心配に翼はそう返した。

現に、創世たちもあの後、避難する為に学院に設置されているシェルターに避難していたのだ。

 

「…あれ、アンタもこっちに来ていたのか」

「よう、未来と一緒にな…」

 

幾つか会話をし終わった頃、クリスが改めて天羽奏の存在に気付き奏も返事をする。

そして、ついでの様に小日向未来も来ている事を知らせた。

 

「未来も来てるのかよ、アイツは何処に居るんだ?」

「慌てなさんな、あの子とは別行動でアタシがこの世界の本部に来たのもそれを知らせる為だ。…お、丁度連絡だ」

 

奏の言葉を聞き周囲に未来が居るのかと辺りを見回すクリス。

そんなクリスに奏が軽く別行動してると言い終えると同時に奏の通信機が鳴り相手が未来だと知るとスイッチを入れた。

 

「未来、そっちは『奏さん!!』…未来?」

『響が…響が!』

 

気軽に通信のスイッチを入れた奏の耳に未来の叫びにも近い声が聞こえ、それはクリス達にも伝わった。

 

クリスや奏たちが戦っていたころに何があったのか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

NGシーン

 

「ごめん…ごめんね、奏。たまにアナタの名前を楓って呼んでしまうの」

「ギルティ」

 

 

 

 

 




ツヴァイウィングって伝説だったっけ?
無印一話の翼の反応から、そんなに数はこなしてない気が…

それでも漫画版の未来や奏の反応から結構ライブをしてる感じですが…

双星ノ鉄槌-DIASTER BLAST-は漫画で出た技で、翼と奏が協力してアームドギアから膨大なエネルギーを出してる感じです。

翳り裂く閃光編の翼は原作初期の翼と違い奏のかの字も言いませんけど、もしも会ったらこうなるんじゃないかな~、と思ってます。

この世界の特異災害対策起動部二課本部も潜水艦になります。訃堂がごり押しします。


次回、響と未来達の場面。


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110話 エレキボタルの地獄の舞 ターゲットは…

急に熱くなってきた…夏だな…


 

 

 

病院や特異災害対策起動部二課本部で戦闘が起こってる頃、雨の降りしきる街を一人の少女が駆けていく。

傘も刺さずにカッパすら来ていない少女の体は既に雨で濡れ切っており水分を吸った衣服が重くのしかかる。

 

「…失敗したかな、ここまで雨が酷いなんて」

 

雨の中走る少女…奏と同じくギャラルホルンで並行世界から移動した未来が少し後悔している。

雨の様子から直ぐに止むかと思っていたが、雨の勢いは変わらなかった。

 

━━━早く響を助けたかったから奏さんとは別行動してるけど…響は何処に居るんだろ? 響が好きだった場所かな

 

未来としても全く当てがない訳ではない。元の世界の響を熟知しているので響の好きな場所とかには心当たりがあったのだ。

尤も、並行世界の響にどの程度あてはまるかは分からなかったが、

 

「とは言っても…このお店…無くなってる…」

 

未来の目の前には火事で焼け落ちた店がある。響とよく言った思い出の店だが、この様子では到底開店してるとは思えない。

その後も、未来は響との思い出の場所を巡るが別の店だったり廃墟になっていたりと悉くが未来の期待を裏切る。

 

「この公園も荒れてる…私たちの世界と違い過ぎる…」

 

未来が最後に辿り着いたのは小さいころ、響と遊んだ小さな公園だった。

自分たちの世界なら小さいながらも近所の子供たちが遊びに来る遊具もある公園だが、未来の素人目からしても錆びだらけの放置された遊具に雑草が生えまくっている。

恐らくは近所の住民にすら忘れられた公園なのだろう。

 

━━━どうしよう…私の当てが殆ど無くなちゃった…これじゃ響を助けるなんて…ん?

 

「あれって?」

 

思いつく場所が全てダメだった未来が溜息を漏らすと視線の端に人影が写る。

フードを着込み横顔が僅かしか見えなかったが、未来は自然と、その人影の下に走っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「此処にも居ないか…」

 

灰色のフードを被った少女…ヒビキは狭い路地を見てそう呟く。

今朝方、響の姿が消えた後ずっと雨の中を探していたのだ。

それこそ、廃ビルの部屋という部屋、廃墟化した店の内部や人家、放置されたゴミ箱の中すら一通り目を通した。

 

「何処に行ったの?さっさと戻ってこい…」

 

響が部屋から消えた後、ヒビキはずっと雨の中を探し続けていた。

確かに、響の体の事は聞いたし疑いもしたが、あれだけ泣き叫んでいた姿を思い出して頭を振るう。

 

「あの涙が嘘だなんて…とても思えないよ」

 

響が居なくなる前に流した涙。それを思い出したヒビキは足に力を入れ歩く。

同情した、という気持ちがないは嘘にはなる。それでも泣いてる娘を放置出来ないのもヒビキだった。

 

━━━服が雨を吸って重いな…こんな雨の中、何処をほっつき歩いているんだか!「あの…」!?

 

独り言を考えていたヒビキだったが、雨音と共に女性の声に気付く。

その声に何処か懐かしい気分になったヒビキが振り返ると自分と同じ年齢の少女が自分と同じく傘も刺さずに立っていたのだ。

 

そしてヒビキは少女の顔を見て息を呑む。

 

━━━胸が…痛い…?

 

更に胸が…心臓が激しく鼓動する。ヒビキとしても少女の顔は何処かで見た記憶もあるが不思議と思い出せない。

それでも自身の呼吸が乱れ心臓が騒ぐことで焦りが見えるヒビキ。

 

「やっぱり、アナタはこの世界の響なんだね!」

「…え?」

 

そして少女の口から思わぬ言葉が出てヒビキが反応する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…つまりアンタも並行世界から来たの?」

「うん、私の名前は小日向未来。友達を…親友を助ける為に来たの」

 

二人は雨から逃れる為、廃墟となった店の中で服の端を絞りつつ雨宿りをしてる。

序とばかりに未来がヒビキに自己紹介をし目的も話した。

 

━━━小日向未来…やっぱり…でもそれより…

 

「親友…」

「うん、精神リンク…病気で倒れたみたいで…」

 

未来はヒビキに精神リンクの説明をする。

精神リンクとは、並行世界の同一人物の精神が作用し此方の世界の人間に悪影響がでる物だ。

未来の世界の翼もクリスも精神リンクで不調に陥ったことがあり、遂には響も倒れてしまった。

 

「…それで、そっちの世界の私が倒れた?」

「…うん、だから私は響を助けたくてこの世界に…あれ?」

 

自分の世界の響を助ける為に並行世界へ来た未来だが、この世界の響を助けるプランを考えてはいなかった。

精神リンクとは、言うなれば精神が激しく不安定になれば起こりえる現象だと聞いた。

なら、この世界の響の精神を安定させればいい。

しかし、此処で未来は目の前の立花響と会話して違和感を感じていた。

未来の目から見ても、目の前の響はちゃんと自分と会話できるうえに普通に精神が安定しているように見える。

表情は少し寂しそうに見えるが、自分たちの世界の響に悪影響を与える程には見えない。

 

「…たぶん、その精神リンクはワタシじゃない…」

「え?」

 

そして、ヒビキの口からも否定の言葉が出る。

 

 

 

 

 

 

「アンタも知っているでしょ、もう一人のワタシを…」

「う…うん、クリスとマリアさんから聞いてるよ…」

 

未来の脳裏には本部で見た二人の響の姿を思い出す。

ジャガーマンと呼ばれる怪人がカルマノイズと融合し苦戦しつつ翼が絶唱を歌い倒した後にクリス達と話す響と大幹部地獄大使の攻撃を食らって吹き飛ばされた響の姿を。

そして本部を襲った響そっくりの敵の姿も思い出す。

 

S・O・N・Gの本部が襲撃されることなど一度や二度ではない、それでも残忍に機械的ではなく意思を持って人間を殺し、藤尭朔也を手にかけた敵を響だとは思いたくない未来。

直では見ていないが記録映像で此方の世界の響と響が戦ってる姿も確認している。

 

「ワタシさぁ、今まで生きてきて自分程呪われた人間なんて居ないと思ってたの」

「ひ、響は呪われて何て…」

「その慰めも懐かしく感じるけど続けるよ、ワタシさぁ特に性格の所為か貧乏クジを引くことが多くて、前は人助けが趣味だったの」

 

響の独白に未来は声は出さないが「知っている」と心の中で同意する。

必ずしも報われたりお礼を言われたりはしないが、響の人助けは未来が一番近くで見続けている。

 

「助けたまでは良いんだけど、『余計なお世話』とか言われたり、途中で助けた人が悪い人で危うく警察のお世話になりかけた時があるんだ」

 

ヒビキは、ツヴァイウィングのライブの事件が起こる前は並行世界の響と同じ人助けが趣味と言えた。

道に迷ってる人が居れば道を教えたり交番に連れて行き、落とし物で困っている者が居れば一緒に探し、猫が高い場所で立ち往生すれば昇って助けたりなどしていた。

しかし、その悉くが上手く行っていた訳ではない。

時には案内してる筈が余計に迷わせたり、探し物を踏んで壊したり、立ち往生してるかと思った猫が響が近づくとアッサリと地上に降りたりなど失敗も多い。

それでもめげずに日常を過ごしていたヒビキに起こったのがツヴァイウィングのライブ事件だった。

 

あの事件以来、仲の良かった友人たちは離れ、ヒビキに助けられた人たちにも石を投げられた事で人間不信に陥り、遂には家族にも…

 

「ワタシね、ワタシ以上に呪われた人間なんて居ないと思ってた。でも、その子は…もう一人のワタシは、わたし以上に…」

「…その子も…並行世界の響?」

「…うん」

 

未来の言葉にヒビキはゆっくりと頷く。

 

「詳しくは言わない。 もう一人のワタシの事情は他人が気安く喋っていい内容じゃないから」

 

尤も、ヒビキも響の事情を詳しく説明しなかった。

未来としてもそれは正しいと思い頷く。響と似てるが似てるだけ、辛い過去を無理に聞き出すほど未来としても無作法ではないつもりだ。

 

「アナタが言うには、響の精神リンクはもう一人の…「静かに…」!」

 

未来がそう呟いた時、響が何かに気付いたのか、静かにするよう言う。

ヒビキの言葉に未来も即座に口を閉ざし僅かに時間が流れる。

 

「…雨音で聞こえなかったけど戦闘音が聞こえる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…お前たちの中にも赤い血を流す奴がいるんだね」

 

降り注ぐ雨の中、地面も壁もボロボロとなった廃墟地帯で一人の少女が佇んでいる。

雨の所為で髪がぐっしょり濡れているが、間違いなくシンフォギアを纏った響だった。

そして、響の周りには沢山の黒タイツ…戦闘員が横たわっている。序に言えば響は息絶えた戦闘員の足を引き摺っていた。

心なしか響の体に黒いオーラのような物が漂う

 

問題は殆どの戦闘員は巨大な力に潰されたように拉げ、中には腕や頭が付いていない戦闘員の死体もある。

見る人間が見れば響らしくないと言うだろう。

 

「ええい、殺せ!殺せ! 立花響を殺すのだ!!」

 

戦闘員の一人がそう大声を出すと、響の前に居た数人の戦闘員が武器を片手に突っ込む。

しかし、響は自分に突っ込んでくる戦闘員に向け引き摺っていた戦闘員の体を引っ張り一気に投げつける。

 

「イッ!?」

 

一体の戦闘員が響の投げた戦闘員に命中し吹き飛ばされ、注意の削がれた別の戦闘員に響が逆に突っ込むと共に拳を入れる。

しかし、その力は普段より強く戦闘員の体を貫通した。

 

「お前たちの所為だ…お前たちの所為だ…お前たちの所為でッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!?」

「何…コレ…」

 

戦闘音の聞こえた現場に来た未来とヒビキだが、見た光景に言葉を失う。

ただでさえ荒れていた道路の至る場所が陥没し戦闘員の死体が転がり、壁にも減り込んだ戦闘員や壁をぶち破って倒れている戦闘員もいた。

そして、倒れている戦闘員の殆どが死んでいる。

 

「この人たちって…確か…」

「戦闘員…ショッカーの兵隊どもだよ…」

 

未来の声にヒビキが答える。

未来としても倒れた男たち…戦闘員の事は知ってる。クリス達が戻る度に記録として見ていたからだ。

黒タイツに黒マスク、数もノイズ並みに出て死を恐れず戦い死ねば緑色の泡や液体になって消える。

 

この戦闘員たちも何者かと戦った事は想像に難しくない。

そして、その何者かは恐らく…

 

「まさか、響が!?」

「たぶん…でもこの戦い方…あの子らしくない…」

 

ヒビキの言葉に黙って同意する未来。

世界は違えども、モニター越しでヒビキを庇う姿から自分の知ってる響とそう変わらないと考えていた。

引き千切られたり、頭を踏み潰すようには到底見えない。

 

ピー!ピー!ピー!…ガガッ

 

「「!?」」

 

唖然とする二人の耳に機械音が聞こえる。

音のした方を見てみると小さいながらも黒い長方形の箱の様な物が見える。

 

「なに?」

「静かに…これって通信機?」

 

ヒビキが音のする黒い物を取るとソレには小さなアンテナも付けられ、簡易的なボタンも付けられた質素な通信機だ。

ご丁寧に裏にはショッカーのシンボルである翼を広げた鷲のワーク入りだ。

 

「…凄い自己顕示欲」

「分かりやすくていいんだけどね…」

 

ショッカーの自己顕示欲に苦笑いを浮かべる二人。

その時、通信機から赤い光が付くと声が聞こえだす。

 

『此方、第三戦闘員部隊! 既に半分の戦闘員が敗れた、壊滅は間もなく!』

『増援まで持ちこたえろ、計画の遂行が第一だ!』

『もうダメだ、残った戦闘員も片手で数える『うがあああああああああっ!!!』ブチィ!

 

回線が途切れた直後、通信機から砂嵐のような音が聞こえる。

ヒビキと未来は互いの顔を見合う。二人とも雨に濡れているが汗も混じって流れる。

 

「今の声って…響?」

「…分からない…あの子に声にちゃぁ獣のようにも聞こえたけど…」

 

通信機から聞こえた響の声に信じられないという反応をするヒビキ。

逆に未来は一つの可能性を考えていた。

 

━━━似てる…カ・ディンギルを巡る戦いでクリスが落とされた時の響の暴走に…!

 

そう考えた未来はヒビキが握っていた通信機を手にすると備え付けられている幾つかのボタンを押す。

いきなりの事にヒビキが反応できない。そして、幾つかのボタンを押した時に、また声が聞こえてきた。

 

『立花響、第五戦闘員部隊を突破! 雑木林まで後少し』

『ビリュリュリュリュリュリュッ! 計画は順調だ、もう間もなく立花響は俺のワナに飛び込む』

 

「「!?」」

 

通信機から戦闘員とは違う声質と言葉の内容に息を呑む二人。

響は順調に戦闘員たちを倒しているがソレ自体が罠だった。

二人は急ぎ、響が向かったと思われる雑木林の方に向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「イーッ!?」

 

一体の戦闘員が木にぶつかり貫通する。

その所為で幹の太かった木が圧し折れ、地面へと倒れていく。

 

そして、戦闘員を殴り飛ばした少女…響がただそれを見ていた。

 

「ハア…ハア…やっと全滅したかな…うっ!」

 

今まで響は数えるのも馬鹿らしい数の戦闘員を薙ぎ倒してきた。

今日だけでも、今まで戦った戦闘員の総数を超えるんじゃないかと言う程に、

そして、数時間は雨の中で戦い続けた響の足が縺れ雨に濡れた地面に尻もちをついてしまう。

戦闘員ばかりとは言え、絶え間なく現れては響に休む時間も与えず四方八方から現れては攻撃を仕掛けられていたのだ。

 

「ちょっとだけ…仰向けになろうかな。 雨だけど…この体なら問題ないよね…」

 

疲労がピークになったのか、周囲を見回して戦闘員の気配が無い事を確認した響がそのまま体を倒して地面に大の字になる。暴れた所為か響の体に纏っていた黒い物も若干薄れている。

雨が降り、通常ならびしょ濡れになるうえに風が吹いて体温を奪い風を引くかも知れないが、今の響にはこれが気持ちよかった。

 

ショッカーの改造手術により、響の体は改造人間にされ殆どが機械や金属で構成される体が風邪を引くことは無い。

その事実に便利だとは思うが、反面悲しくもあった響。

 

━━━もうクリスちゃんにもマリアさんにも、もう一人のワタシにも頼れない。 一人で戦わなきゃ!

 

響が戦闘員たちと戦ってたのは襲って来たからのもあるが、ショッカーの戦力を削る為でもある。

 

自分の体の秘密を知られた以上、もう共に戦う事は出来ないと考え響は一人でショッカーと戦う事を選んだのだ。

 

━━━その為には、奴等のアジトを見つけないと…いっそ戦闘員を捕獲くして吐かせようかな。…でもアイツ等喋れない奴も多いからな…

 

響を始めとした元の世界の装者たちも大勢の戦闘員を倒し時には捕らえる事もあった。

しかし、尋問しようにも殆どの戦闘員は「イーッ」としか言えないようにされ普通に喋る事すら不可能な者も多かった。

 

尤も、使い捨て前提の戦闘員程度が知ってる情報も何処まであるかは…

 

━━━如何にか怪人…または喋れる戦闘員を捕らえたいけど…

 

如何にかショッカーの怪人、或いは戦闘員の捕縛を考える響は雨が降る中、目を閉じて考える。

改造手術の影響で睡眠は取れないが体を休ませることは出来るとして偶にやる。

 

だからこそ、響は気付くのが遅れた。

昼間と言えど薄暗い雑木林の中、更に雨の日で夜並みに暗い筈の森に緑色で光る二つの球体がまるで自分を観察している事に。

 

 

 

 

 

 

「ん?」

 

目を閉じ集中していた響も周囲の違和感に気付き、体を起こした。

すると、響の目の前に白や赤、青といった光が点滅している。

 

「…蛍? この東京で?それに大きいような…」

 

光の正体を蛍と考えた響。

尤も、直ぐに違和感に気付く。此処は大都会の東京だ、幾分か緑はあるが蛍は繊細な虫と聞く。都会っ子の響は自然の蛍など映像記録でしか見たことがない。

だがそれでも違和感には直ぐに気付く。記憶の中の蛍の映像と比べ、虫の光にしてはやけに大きいと感じていた。

 

「ビリュリュリュリュリュリュッ!! 一人で随分と寂しそうだな、立花響!」

 

「!?」

 

突然の第三者の声に響は直ぐに立ち上がり臨戦態勢に入るが、目に入るのは蛍のような光くらいだ。

気配はするが姿は何処にも見えない。

 

━━━灯り一つ無い中でも昼間のように見える筈なのに!

「私の目でも見えない?」

 

「残念だがお前は既に…俺の術中に居るんだよぉ!!」

 

姿の見えない敵がそう言い放った瞬間、響の足元からも幾つもの光が飛びあがる。

 

「!?」

 

咄嗟に手で払いのけようとする響だが、振っても振っても光の元は少し散るだけで、また直ぐに集まる。

響の行動は完全に鼬ごっこと言えた。

 

「如何だ、ショッカーが生み出した蛍は光は? 綺麗だと思わんか?」

 

「な、何を言って…!」

 

蛍を散らそうとする響の目に一際大きい緑色の光が出ると共に誰かが現れた。

首元に赤い膨らみのような物が首を包み、虫のような口元にナマズのような髭。目も大きく頭部には不気味な赤い瘤のような物が幾つもある。

 

「光れ、飛び回れ、踊り狂え!!地獄の舞で立花響に催眠術をかけてやるッ!!」

 

「さ…催眠術!?」

 

普通の人間ならともかく、響はショッカーに改造された改造人間だ。

今更、催眠術なんてと思う響だったが、自身の視界が徐々に黒く狭まってる事に気付く。

 

「そ…そんな!」

 

「改造人間ならば催眠術に掛からんと思ったか?マヌケ! この俺、エレキボタルさまのエレキ催眠は改造人間をも支配する性能なのだッ!!如何だ、エレキ催眠の威力は!? 苦しかろう! ビリュリュリュリュリュリュッ!!」

 

響の困惑の声に怪人…エレキボタルはそう言い放ち笑い声のような鳴き声を発する。

そうこうしてる内に響の視界は完全に閉ざされたが、それでも響はエレキボタルの声を頼りに拳を振るう。

 

「こんな催眠なんかで!」

 

「ふん、見えなければ攻撃など当たらんわ! 本来ならアッサリと殺してやるが…面白い事を考えた」

 

響の両腕をアッサリと抑えたエレキボタルは、楽しそうに響に語りだす。

なんとか、エレキボタルの拘束から逃れようとする響だが、戦闘員との連投の疲れで思うように力が出せない。

 

「面白い…こと?」

 

「俺のエレキ催眠でもう一人の立花響と殺し合わせてやるッ!」

 

エレキボタルの返答に響はハッとした表情をすると今まで以上に拘束から逃れようとあがく。

響を操り、もう一人の邪魔者であるこの世界の立花響と潰し合わせる。

力量的には改造人間の立花響が生き残るだろが、その時は始末するなり催眠状態で操り続けるのもありだとエレキボタルが判断した。

 

「誰がそんな…ッ!」

 

「逆らおうとしても無駄だ、もう俺の地獄の舞からは逃れられんッ!!」

 

エレキボタルがそう言い終えた途端、響の視界はゆっくりと戻るが響の目にはエレキボタルの姿が万華鏡のように幾つも見えた。

響の目が徐々に力を無くし目の下が青くなっていく。

 

「俺のエレキ催眠で人形になってしまえ! 立花響ッ!!」

 

━━━頭がッ!! もう一人のワタシ…逃げて…

 

やがて響の意識は闇に閉ざされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

それから間もなく、街の方から二人の人影が雑木林に近づく。

雨の中、傘も刺さずに濡れているがヒビキと未来の二人だ。

 

「たぶんこの辺りだと思うけど…」

「もう一人の響は何処に…居た」

 

周囲は戦闘の後か、地面が陥没していたり木が圧し折れていたりなど凄まじかった。

そして、周囲を見回していると雑木林の草むらで人影を見つける。

誰よりも響を傍で見続けて来た未来はその姿を見て響だと確信する。響がシンフォギアを纏う時のインナーの姿だったからだ。

 

「響ッ!」

「無事か!」

 

未来とヒビキが響の下へ走り寄る。

しかし、二人は直ぐに違和感に気付く。雨が降ってるとはいえ、響は雑木林の中をただ立っているだけで微動だにせず、纏っているインナーから黒い靄のような物が見えた。

 

━━━あの黒い奴、前にも……!

「響ッ!!」

 

その黒い靄に見覚えのあった未来は響の名を叫ぶ。

未来は少なくとも二度ほど、近い状態を目撃していた。一つは、まだ響がシンフォギアを纏って間もないフィーネこと櫻井了子と戦ったかディンギルの攻防戦。

もう一つは、記録映像で見た小型のネフィリムに腕を食われた時だ。源十郎に無理を言って見せてもらい危うく吐きそうになった未来のトラウマの一つになっている。

 

どっちも映像越しだったが、その事が頭を過った未来は響の名を叫ぶように呼んだ。

 

呼ばれた響は未来の声が届いたのかゆっくりと振り向く。

自身の声に反応した未来とヒビキが一瞬安堵するが、即座に背筋が凍り付く。

 

振り返った響の顔は響のままだったが、目に力は無く、目の下には紫の色がついている。

 

「…誰だ、お前たちは?」

 

そして、響の第一声に未来もヒビキも奥歯を噛み締める。

響の口はそれこそ他人と喋るように、未来からすれば初対面の人間にもグイグイいく響とは思えない冷たい声だった。

 

見る人間が見ればすぐに気付いただろう。

今の響は死神博士の脳改造を受けた時と瓜二つだと

 

「誰って、ワタシだよ! この世界のもう一人の立花響だ!」

「私は…未来、小日向未来…だよ」

 

ヒビキは必死に自分の事を教え、未来は消極的ながらも自分の名前を言う。

昨日まで会っていた響はともかく、この世界に自分と同じ小日向未来が存在してるのか未来には判断できなかったからだ。

 

 

 

 

 

「いくら叫ぼうが無駄だッ! ビリュリュリュリュリュリュッ!」

 

二人の必死の言葉を嘲笑うように野太い声が響くと同時に雑木林から幾つもの光が飛び出してくる。

その光が一つになり人のような形となり声の主が出てくる。

 

「怪人!?」

 

「俺の名はエレキボタル! この立花響は俺のエレキ催眠にかかったのだッ!!ビリュリュリュリュリュリュッ…」

 

怪人エレキボタルが名乗りを上げ不気味な鳴き声も上げる。

ヒビキと未来は黙ってエレキボタルを見るしか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 




っという訳で三人目の刺客はエレキボタルです。
何話か前に東京都十日分の電力が消えたのが伏線のつもりです。

シンフォギアの原作だと、ノーブルレッドのミラアルクの『不浄なる視線』を弾いた響ですが今回はXVの翼以上に精神がボロボロ状態なためアッサリとかかりました。

尤も、ショッカーの洗脳、催眠能力はノーブルレッドより高いです。

蛍の方は、原作の仮面ライダーでも被害者の女性が「あんな大きい蛍は見た事ない…」と言っている以上、ショッカーが生み出した蛍ということで。

仮面ライダーはシンフォギアより遥かに洗脳、催眠能力持ちが多いです。そして、容赦なく使います。

ショッカーが響を再び手中に収めようとする動機は次の話にでも、


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111話 響VS響!? 未来が聞くショッカーの恐るべき計画!

熱い!
雨の時は涼しかったけど7月に入ってから30度越え。
35度超えてからは、クーラー入れても30度下まわんねえ!

そして案の定、投下速度が完全に遅れている!
今年中に地獄大使と決着がつけれるのか?

後、Amazonプライムビデオでシン仮面ライダーが配信されました。…早くね?


 

 

 

未来が二人目の響と接触した頃、

クリスや未来達が居る本来の世界のS・O・N・G本部の医務室にて、

 

「ウワアアアアアアアアアアアアアアッ!!」

 

「患者が暴れ出した! 急いで抑えるんだ!!」

 

何人もの看護師がベッドで寝ている少女を抑え込む。

絵面的に見れば集団で少女を襲ってるように見えるが別段彼らは犯罪者ではなく、医療に携わる病院関係者だ。

彼らはベッドで暴れる患者を落ち着かせようとしている。

 

普通ならある程度の数が居ればベッドで暴れる患者を抑え込める。

問題があるとすれば、暴れる患者が立花響ということだ。

 

「ウアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!」

 

「何て力…うわあああ!!」

 

響の腕を押さえていた男の看護師が逆に響に掴まれ投げられた。

更には足を押さえていた別の男性看護師にも響の足が股間を直撃し悶絶する。

 

まだ成人前の少女とはいえ立花響はシンフォギア装者だ。

今までも数えきれないほどのノイズを屠り源十郎の特訓も受けてきた。

最早、普通の少女とは言えない程の力だ。

 

「響くん! 冷静になるんだッ!!」

「暴れるんじゃない、立花っ!!」

 

それ故に、司令官でありながら響の居る医務室に来ていた源十郎と待機時間で見舞いに来ていた翼が響を抑え込む。

並ではない彼等なら何とか響の暴れる動きも制御出来る。

現に、源十郎と翼の制止で響の体も大人しくなる。

 

「に…逃げて、未来! 今の私は…ワタシじゃないッ!」

 

それでもうなされる様に口を開く響の言葉に二人は気にしつつも何度か暴れる響を抑え込む事に集中する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

東京の何処かにある雑木林。

本来なら、晴れていようが人が寄り付く場所でない所で大きな爆発が起こる。

その爆発で起きた煙から二人の人影が出る。ヒビキと未来だ。

やがて煙が晴れると爆発の起きた中心部には拳を地面に付けた響が居る。

 

「いいぞ、立花響! その力であの二匹を始末しろ!」

「…了解」

 

すると、響の横に降りて来たエレキボタルが楽しそうにヒビキと未来の抹殺を指示する。

機械的に答える響を見て二人は口を開いた。

 

「もう一人のワタシ、そんな奴の命令に従っちゃダメだッ!!」

「お願い、目を覚まして…!」

 

二人が響を説得するが響はそれを無視して腰のブースターで一気に二人に近づき再び拳を叩きつける。

辛うじて避ける二人だが、響が催眠術で操られてる事で攻めるに攻められない。

 

「くっ、知った顔が完全に敵になるなんて…」

「如何すれば…そうだ!」

 

苦虫を嚙み潰した表情のヒビキと自分のアームドギアである扇みたいの物を見て妙案を思いつく未来。

 

「私のシンフォギアなら響の催眠が解けるかも」

「本当!」

「私のシンフォギアは神獣鏡(シェンショウジン)っていう聖遺物なんだけど、この神獣鏡には魔を払うって言い伝えがあるの」

「ならそれを使えば?」

「…響に掛けられた催眠が解けると思う。それにコレには聖遺物を分解する能力もあるの、最悪響を止める事は出来る筈」

 

未来の提案にヒビキは静かに頷く。

聖遺物が分解されるのは正直困るが、あのまま響がエレキボタルを始めとしたショッカーが良いように利用する事を考えて判断した。

 

そうと決まればと二人は一旦距離を取り、ヒビキは響の行動を鈍らせるために目の前に立ちはだかり、未来は神獣鏡のレーザーを当てる為に展開。

 

「!?」

 

「悪いけどワタシに付き合ってもらうよ!」

 

急に自分の前に来たヒビキに拳を繰り出す響。

ヒビキは拳を受け止めるが、思った以上に大きな音と手のシンフォギアが砕かれ、一旦距離を取る。

 

━━━なに、この威力…何発も受けられない…

 

ヒビキは、響の拳を受け止めた手を見てゾっとした。

籠手部分のシンフォギアの一部が破壊され、インナースーツの一部も破れ肌が剥き出しになる。

そして、その肌の部分も青紫になり内出血していた。

 

━━━痛いッ…折れてはいないけど。あの子…もう一人の私は全力でも無かった筈なのに…

 

ヒビキはシンフォギアに感謝すべきだった。

もし、あの時、シンフォギアを纏わず響のパンチを受けようものなら、ヒビキの片腕は簡単に捥げていただろう。

改めてヒビキは並行世界の自分である響を恐ろしくもあり頼もしくも見えた。

 

とにかく、一瞬だが響の動きは止まった。

既に、足のアーマーを円状に展開しチャージも終えた未来が響に狙いをつけている。

 

「響、これで元に…「させるかぁ!!」!?」

 

今まさに響に流星を放とうとした瞬間、未来の目の前にエレキボタルが飛んでき、掴みかかる。

 

「アナタはエレキボタル!? 邪魔をしないでッ!!」

 

「小日向未来、お前のシンフォギアの能力はある程度は知っている! お前がどの世界の小日向未来かは知らんがショッカーに逆らうのなら貴様も死ねぇ!!」

 

━━━もう一人のヒビキの援護も出来ない!!

 

エレキボタルは、未来を放置する気は無かった。

立花響のかけがえのないパートナー、それがショッカーの小日向未来の評価だ。

小日向未来を殺害し立花響に見せつければ大きな絶望を与える事も可能だろう。

 

ショッカーにとって小日向未来の価値はその程度だった。

こうして未来とヒビキの連携は断ち切られ、未来はエレキボタル、ヒビキは催眠状態の響の相手を強いられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くっ、エレキボタルが想定より早く動くなんて…」

 

「…余所見してる暇…ある?」

 

未来がエレキボタルに襲われたのを見て思わず舌打ちするヒビキ。

エレキボタルは当分、高みの見物を決め込むと思っていたのだ。

 

そんな焦りに催眠状態になった響が再びヒビキの懐に潜り込む。

同時にヒビキの目に何かが飛んでくる。

殺気を感じ、辛うじて顔を逸らし避けたが顔のあった場所には響の掌底がある。もし殺気に気付かなければ響の掌底はヒビキの顎を砕き、首まで捥げていただろう。

 

「くっ、目を覚ましてもう一人の私!催眠術なんかに負けないで!」

 

冷や汗を流しつつヒビキは響への説得を続ける。

未来はエレキボタルの相手で援護どころではないが、攻撃を避け続けるだけならヒビキ一人でも出来る。

 

━━━何しろ、ワタシは目の前のもう一人の私と一緒に戦って来たんだ。攻撃の動きも見ている!

 

事実、響の放つ蹴りをギリギリで躱すヒビキ。

これも時間がある時に響との特訓を(ヒビキはイヤイヤながら)やっていたお陰だろう。

 

これで避ける事に集中すれば、響の攻撃も早々当たらないと確信したヒビキは更に響に向け説得する。

 

「聞いて、もう一人の私! このままショッカーに従えばきっと後悔する!」

 

「………」

 

ヒビキの必死の説得にも響は無言で返す。

その後も何度か話会おうとするヒビキだが、響の反応は全て無言だった。

 

「ワタシの話を聞いて、お願いだから何か言ってよ! …何とか言えぇぇぇ!!!」

 

響の反応にイライラしたのか、自分だけ攻撃せず避けに徹したストレスからか、遂にヒビキの拳が響の頬に入り一気に振りぬく。

ヒビキの拳は響の頬に見事に命中し、足元を引き摺って距離が開く。

 

「いくら操られてるからって、ワタシの声を無視する「…その調子だよ、もう一人の私」な…!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヒビキが響の相手をしてる一方、未来もまたエレキボタルの強襲を受けていた。

 

「やらせないッ!」

 

「貴様も死んでもらうぞ、小日向未来ッ!!」

 

空中で近づこうとするエレキボタルに未来は幾つもの小さな鏡を操り、光を出して牽制しようとするが、エレキボタルの空中移動に次々と避けられる。

 

「多少は飛べるようだが、俺に比べればゴミも同然よ! 食らえ、エレキファイヤー!!」

 

未来の飛び方を見て鼻で笑うエレキボタル。

反撃とばかりに頭の赤い瘤を掴むと、取り外して未来へと投げる。

 

「?」

 

未来はエレキボタルが何を投げたのかは分からなかったが、攻撃である以上迎撃しようと鏡の一つを向かわせる。

鏡からレーザーを出し撃ち落とすのが未来の狙いだが、目の前で赤い瘤が爆ぜると供に夥しい炎が出てきて未来の鏡の飲み込んだ。

 

「!? 嘘ッ!」

 

そして、未来は見ていた。自身の操ってる鏡がアッサリと溶け燃えカスすら残さず消えた。

咄嗟に未来は体を捻って炎を回避する。

 

「…クッ!?」

 

辛うじてエレキファイヤーを避け切った未来だが、シンフォギア越しでも感じる程の灼熱を感じた。

恐らくシンフォギアを纏った状態でもあの炎ではただでは済まないと直感する未来。

その背中に冷や汗が流れる。

 

「ビリュリュリュリュリュリュッ! よく避けたな小日向未来、だが次は避け切れるか!?」

 

そんな未来にエレキボタルは追撃を掛けようと更に頭の瘤を取り外し両手に持つ。

容赦ないエレキボタルのエレキファイヤーに未来は辛うじて避け続ける。

これが、戦闘に長けた翼やマリアなら避けつつ反撃も試みるが、未来はシンフォギアを纏って戦うようになったのはS・O・N・Gのメンバーの中でもダントツに遅く、その分戦闘経験も薄い。

避けつつ反撃など夢の夢であった。

 

「随分と辛そうだな、小日向未来! そろそろトドメを刺してやる!寂しがる必要はない、雪音クリスを始めとした特異災害対策起動部二課本部の連中も既に地獄に居る!序にS・O・N・Gの源十郎たちも後を追う!!」

 

「…! この世界の特異災害やS・O・N・Gを!? うそっ!!」

 

エレキボタルの放った言葉に未来はおのれの耳を疑った。

この場で、自身がエレキボタルと戦っている以上、本部に居る筈のクリスや源十郎たちが死ぬなど信じられないのだ。

試しに、一緒に来た天羽奏に通信を入れてみるが繋がらない。

 

そして、その未来の反応に気をよくしたのかエレキボタルは更に語る。

 

「死ぬ前に教えてやろうっ! この雑木林付近以外にも風鳴翼が入院している病院、特異災害対策起動部二課本部も同時に我らショッカーの襲撃が行われている! 其処には俺のように、より強化された怪人が向かい雪音クリスを始めとした装者や特異災害本部に居る風鳴源十郎の抹殺に動いているのだ!」

 

「ここ以外にも…でもS・O・N・Gは? 別の世界にあるS・O・N・G本部は?」

 

エレキボタルの言葉に脅迫しつつも未来は話を続ける。

正直、クリスや本部に言った奏が心配だったが、今までの自分の知る敵と比べ異様にお喋りな怪人に、上手くいけば此方の知らないショッカーの情報も引っ張れると思ったのだ。

 

「あなた達はギャラルホルンを使えるの?」

 

「…確かに我々ショッカーの怪人にギャラルホルンは反応しない、だが…」

 

そこまで言ったエレキボタルの視線が下に向いてる事に気付いた未来は、警戒しつつもエレキボタルの視線を追う。

そして、視線の先にはヒビキと戦う響の姿が、

 

「響!?如何して響を見ているの!?」

 

「俺たちは確かにギャラルホルンを使えん、だが裏切り者の立花響なら別だ。 アレに仕掛けられた物はまだ生きている、ギャラルホルンで渡った先で原子炉を暴走させればS・O・N・Gなどアッと言う間に壊滅よ」

 

「!?原子炉! それと響に何の関係が!?」

 

未来の質問を無視し、話を続けるエレキボタル。

尤も、その内容にも驚愕するが、

響が改造人間にされてる事を知らない未来には聖遺物でもない原子炉という言葉が大いに引っかかった。

 

ショッカーの狙い、それは改造手術された立花響の内部にあるエネルギー炉である原子炉だ。

響の力の源であり、シンフォギアの能力の底上げにもなっている原子炉、それを暴走させ核爆発を起こしギャラルホルンの先にいるS・O・N・G本部の壊滅を狙っているのだ。

 

「おっと、これ以上は話さんぞ。知りたければ後から地獄に行く仲間たちから聞けぇ! 死ねィ、小日向未来!」

 

未来の質問を遮り攻撃を再開するエレキボタル。

爆ぜると火炎が噴き出すエレキボタルの赤い瘤に翻弄される未来。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もう一人のワタシ…意識が…!?」

 

その頃、響に反撃の拳を振ったヒビキが、目の前の響が正気に戻ったのかと期待したが目前に響の拳が迫っていた。

両腕でガードし、なんとか攻撃を凌いだヒビキはカッと響を睨みつける。

 

「もう一人のワタシ、如何して…!」

 

「如何して攻撃するの?」そう聞こうとしたヒビキだが、響の目がまだおかしい事に気付く。

 

「…ごめん…意識が…一部戻った…けど…まだ頭が…ボーとして…体が言う事…聞かないの…」

 

響の言う通り、こうして話してる間にも響の攻撃が再開され、ヒビキは回避に集中する。

意識が一部戻った所為か、響の攻撃の精度は下がりヒビキも回避に少し余裕が出たが未だに響が操られているのが問題だ。

 

「クッ…如何すれば、もう一人のワタシの催眠を解けるの?」

 

自分の拳の攻撃で強い衝撃を与え響の意識が一部戻ったがそれだけだ。

ならもっと強い衝撃を与えるべきかと考えるヒビキだが、

 

━━━いっそ術者を倒す方が早いか?

 

響の攻撃を回避しつつ、ヒビキは上の方をチラチラと見る。

視線の先には未来と戦う…いや、一方的に嬲っているエレキボタルの姿が映る。

 

━━━操られてるなら操ってる術者を倒せば解放されるかも知れない。 昔見たアニメとかでもやっていたな…

 

エレキボタルを倒せば響の催眠が解け解放されるかも知れない。

しかし、

 

━━━同じ空を飛んでいるあの子が苦戦している…もう一人のワタシを放置して戦えるかな…

 

ヒビキのガングニールのシンフォギアも腰のブースターと脚部のジャッキを使えば空中戦も出来ると言えば出来る。

しかし、それは無理矢理空を飛ぶのと一緒で空中に特化した敵には分が悪い。

何より拳で戦うヒビキにとって、踏ん張る為には地面に足をつけ力まねばならない。

 

━━━それに…

 

ヒビキの視界が響へと戻る。

催眠で操られている以上、自分が飛べば響も同じく飛び妨害するだろうと予想するヒビキ。

何時もと比べ、攻撃が大味になっているが慣れない空中戦でエレキボタルと挟み撃ちにされればそれこそ目も当てられない。

 

「…どうすれば…」

 

響と戦い続けるのは論外だ、かと言って無視していい存在でもない。

何より、未来が一方的に苦戦している。エレキボタルの投げる赤い瘤を迎撃する度にアームドギアと思しき小さな鏡が消滅し炎の熱が未来の体を焼いている。

 

状況が好転しようのない事で思わず呟くヒビキ。

このままでは、自分が響に殺されるか自分が響を倒すしかない。

 

「ねえ…もう一人の…私…」

「!?」

 

まさにヒビキが究極の選択を突き付けられ悩んでる時、目の前の響が口を開く。

その間にも攻撃があったが、ギリギリで躱すヒビキ。

 

「ワタシを…殺して…」

「! 冗談言わないでよ!」

 

響の声にヒビキは絶叫に近い声で返す。

何しろ、響の言葉はヒビキには到底予想できる物では無かったからだ。

 

「何で、「殺して」なんて!」

「…エレキボタルは…たぶん…ワザと…私の意思に…軽い…催眠をかけ…た。こうしてアナタが…私と…戦うことを…躊躇する…よう見込んで…」

 

エレキボタル…と言うより地獄大使の目的の一つは裏切り者の立花響の抹殺だ。

それも死ぬ直前にショッカーに逆らった事を後悔させる為に最大の絶望を与える事も睨んでいる。

 

その絶望こそ、響の味方殺しだ。

 

「アイツ等…は、私にアナタたちを…殺させる為…に意識までは…完全には…奪わなかった。 全ては私に絶望を…与える為に…」

「そんな…」

 

響の言葉にヒビキは口元をおさえる。

そんな。と思う反面、一般人を平気で巻き込み破壊活動をするショッカーならありうるとヒビキも考える。

 

「お願い…もう一人の…わたし…このまま…あいつ等の…思い通りになるのは…イヤだよ…」

 

響の弱弱しくも必死の訴え。

その言葉にヒビキは唇を噛むと同時に共感している。

もしも立場が逆で自分が操られていれば、自分は恐らく響に「殺してくれ」と頼む可能性が高い。

 

「そんなこと、出来る訳ないでしょ!!」

 

だからと言って、響の声に答える事も出来ない。

ヒビキもまた、元はただの一般人で短いながらも共に戦った響を殺すどころか、戦うのだって嫌だ。

そんな自分が響を殺すなど想像もしたくない。

 

「…お願い…体が…言う事を…聞かないの…このままじゃ…」

 

一見、響は泣きながらヒビキを攻撃し矛盾してるようにも見える。

だがそれは、エレキボタルの催眠の強力さヒビキは思い知る。

 

━━━ショッカーは何処まで非道な事を考えてるの? 何とかもう一人のワタシを救うには……!

 

何か思いついたヒビキは一旦、響と距離を取ると構えていた腕を下ろし更にはシンフォギアの一部も解きインナーの無防備姿になる。

 

「もう…一人のワタシ…何を…」

「生半可な事じゃエレキボタルの催眠は解けない、ならショック療法を試してみる」

 

そう言うと、ヒビキは己の両腕を広げまるで飛び込む子供を抱きしめる前の母親の恰好みたいになる。

 

「一体…」

「私はあなたに賭ける、私の頭じゃエレキボタルの催眠を破る方法はこれだけしかない!」

「!?」

 

ヒビキは敢えて響に自身の身を晒し響の意思に賭けた。

失敗すれば自身の胸は響に貫かれ死ぬだろうと、考えるがヒビキはそれでも良いと考えてしまった。

 

 

 

 

━━━アンタを失う位なら、この命も惜しくないって思えるなんて…この責任どうしてくれるの?

 

 

 

 

最初は、自分にソックリだからと連れ帰った。

別段、心配だとか興味があったとかではない。ただ、何となく連れ帰っただけだ。

目覚めたばかりの時に拘束されムカついたが、共に暮らし共に戦っている内に妙な友情が芽生えた気がする。

まるで、二年分の寂しさを埋めている気分だった。

 

『生きるのを諦めないで!』

        『私は胸の歌を信じて戦う』

                『ねえ、もう一人のワタシ…』

 

平行世界の自分とは言え、こうも人の心にズケズケと…絶対にアンタを取り戻す!

 

 

 

 

 

ヒビキが覚悟を決め目をカッと見開くと共に響の拳が真っ直ぐ自分へと迫るのを目撃する。

直後、鈍い音が響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「キャアッ!」

 

空を飛びエレキボタルの対処をしていた未来だったが、背中から地面へと落ちる。

幸い、纏っていた神獣鏡のシンフォギアのお陰で落下ダメージは少なかったが、エレキボタルのエレキファイヤーに苦しめられ幾つかの火傷を負っていた。

 

しかし、ダメージが少ないからと安心も出来ない。

減少した落下ダメージとはいえ背中の衝撃で一瞬、息が出来なくなった未来。顔や鼻にも雨粒が降り注ぎ苦しさもひとしおだ。

 

これがもし、戦闘経験の豊富な翼や響なら無理をしてでも立ち上がるだろうが、経験の少ない未来はそう上手くもいかない。

 

「アグッ!?」

 

やっと落ち着いてきた未来だが、腹部に衝撃を感じた未来は息を整えて様子を見ると、自分の腹部を脚で踏みつけるエレキボタルがいる。

未来が倒れている間にエレキボタルも地上に降り未来への追撃を行ったのだ。

 

「ホタルの…怪人…」

 

「エレキボタルだ! ビリュリュリュリュリュリュッ!そろそろ遊びもお終いだ小日向未来、立花響の方も決着はついたようだしな」

 

そう言うとエレキボタルは視線を別に向け、未来もそれを追ってエレキボタルの向いた視線に目を向ける。

 

「ひ…響!?」

 

未来は信じられない物を見た。

二人の響の居た場所に、一人しか立っていない。

 

いや、二人は居るにはいるが拳を突き出す響とアッパー状態で()()()()()()()()()もう一人だった。

正確に言うのなら、立花響の拳はもう一人の立花響の胸に入りアッパー状態で浮いているのだ。

首のマフラーから拳を受けたのがこの世界の立花響だと直感する未来。

地面には降りしきる雨と共に赤い液体が地面へと染み渡る。

 

━━━嘘だよね?響が響を殺すなんて…いくら催眠術で操られていても…でも目の前の響は…

「響ーーーーーーーッ!!」

 

降り注ぐ雨の中、未来の絶叫が辺りに響く。

しかし、未来の叫びに反応する者は居なかった。

 

「…ビリュリュリュリュリュリュッ! やった!やったぞ!!」

 

いや、一人だけいた。未来の腹部を踏み続けるエレキボタルだ。

エレキボタルの口から歓喜の声が上がる。

 

「邪魔だったこの世界の立花響を始末した。 今頃は病院を襲っているシラキュラスと二課本部を襲っているモスキラスが残りの装者や風鳴源十郎たちの始末をしている頃だ! 後はお前だけだ、小日向未来! お前を始末した後は原子爆弾化した立花響ををギャラルホルンで送り付ければS・O・N・Gは全滅し我らの邪魔をする者は居なくなる!! この世界は我らの物よ!!」

 

声を荒げ喜ぶエレキボタルを見て背中に寒気を感じる未来。

未来もまた、響たちに遅れたがシンフォギアを纏い共に戦って来た。その過程にもS・O・N・Gと敵対する組織や錬金術師も色々と見てきたが、エレキボタルのように此処までの殺意を向けられたのは初めてだ。

 

「さて、そろそろ貴様も死んで貰おうか」

 

未来が唖然とする中、エレキボタルは淡々と言うと再び頭の赤い瘤を取り外し未来に見せつける。

 

「安心しろ、俺のエレキファイヤーは人間の骨すら焼き尽くす。お前が此処に居た痕跡など何一つ残らん、神獣鏡のシンフォギアはもったいないが我らの物にならんのなら消すまでよ」

 

それを聞いて未来の顔から雨粒と共に汗が流れ落ちる。

クリスやマリア、本部に向かった天羽奏が簡単に敗れるとは思っていないがエレキボタルの自信を見て不安になる。

 

何とかアームドギアの鏡も動かしエレキボタルの足から脱出しようと藻掻く未来。

しかし、鏡は悉く叩き落され神獣鏡の鞭も大して効かず、それどころかエレキボタルの踏みつける力が増し腹部への圧力に未来が目を見開き苦しむ。

 

「抵抗は無意味だッ!! 死ねっ!!」

 

今まさにエレキボタルが足元の小日向未来にエレキファイヤーをぶつけようと振りかぶる。

シンフォギア越しでも灼熱の熱さを感じた未来だ、もう助からないと言う言葉が脳裏に過る。

 

━━━…ごめん、響…わたし…あなたを…助けられなかった…

 

自信が死ねば元の世界の立花響を助けられない。それどころかもう会えない事にも絶望を覚える未来。

 

「ヌッ!?」

 

「…え?」

 

だからだろう。エレキボタルの腕に何かがぶつかると共に持っていた赤い瘤も弾かれ未来の離れた場所に落下し炎を上げ、未来はそれに遅れながらも気付いた。

直後に自分の真横から『ガサッ』と言う音がし目線を向けるとコブシ大の石が落ちている。

エレキボタルの手に命中したのはこの石だった。

 

「た…たかが()()()に…誰だ!」

 

突然の横槍にキレたエレキボタルは怒鳴り声を上げ石の飛んできた方向に振り向く。

そこには、

 

「た、立花響だと!?」

 

「!?」

 

エレキボタルの声に未来も反応し振り向くと雨で濡れた響が拳を握っている。

その目からは未来が見ても起こっているのが分かった。

 

「もう一人のワタシが命を賭けて私を正気に戻してくれた。 私を…他人を操るアナタを…絶対ゆるさない!!」

 

「馬鹿な、そんな事で催眠が解けたというのか!?」

 

響は怒りのまま拳を握り腰のブースターで一気に加速しエレキボタルの顔面を殴ろうとする。

しかし、エレキボタルも直ぐにガードし響の拳を防ぐが勢いは殺せず吹き飛び未来の上から足が退いた。

 

「ゴホッ!ゴホッ!」

「…しっかり、まだ戦える?」

 

エレキボタルから解放された未来が咳き込んでいると聞き覚えのある声がすると共に背中を摩られる。

声の主を見ると、其処には響の拳を打ち込まれたヒビキが居る。

響がしていないマフラーをしている以上間違いないだろう。

 

「響も…無事だったんだね!」

「…うん…まあ…」

 

ヒビキも無事な事に喜ぶ未来だが、ヒビキの様子は何処かおかしかった。

雨に濡れてる所為で分かりにくいが汗が幾つも流れ呼吸も少し荒い。

 

「!? この世界の立花響も生きているだと!た…謀ったなッ!!」

 

「もう、お前の好きにはさせない。エレキボタルッ!!」

 

ヒビキの決死の覚悟によりエレキ催眠から逃れた響の反撃が始まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ヒビキの響に対する思いが重いかんじですが、たぶん原作通りかと。
未来が居ないと響はグレます。


響がエレキボタルの催眠で軽い催眠をかけたって言ってますけど、地獄大使の狙いでもあります。
ショッカーを裏切り苦汁をなめさせられた恨みもあります。
もし、地獄大使がこんな思惑を考えてなければ未来とヒビキは亡き者にされました。


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112話 希望と絶望と

新しいVSイベント
グレ響が水着になってますが結構食い込んでると思う今日この頃。


 

 

 

「ハアアアッ!!」

「ヤアアアッ!!」

 

二人の人影が飛び掛かる。

目標は、人外の姿ショッカーの改造人間エレキボタルだ。

 

二人の拳が同時に撃ち込まれ、蹴りもほぼ一緒のタイミングで放たれる。

その動きはぴったり合わさり、エレキボタルが居なければ踊っているようにも見える。

 

「す…凄い、二人の響が一人に見える…」

 

エレキボタルから距離のあった未来がその様子に舌を巻く。

二人いる筈なのに攻撃する姿は、未来の目からは一人に見える程のコンビネーションだからだ。

 

「ビリュリュリュリュリュリュッ! その程度で如何にかなると思うなっ!!」

 

しかし、エレキボタルも強化されたショッカーの改造人間。

今までの響たちが戦った怪人を上回る力を持っている。

 

「えッ!?」

「なッ!?」

 

繰り出された響の拳を捕らえ、更に蹴りを放った響の足を握り二人を宙に持ち上げ一気に叩きつける。

予想以上のエレキボタルの力に二人は抵抗する事も出来ず互いの体がぶつかり合い雨で濡れる地面に落下。

 

「あの攻撃でも平気なの!?」

 

響たちのラッシュを受けても平然と反撃するエレキボタルの姿に未来は驚愕する。

未来の記憶では響の攻撃は多かれ少なかれ相手を押すことが多かったからだ。

 

「く、強い!?」

「私たちの攻撃が効かないなんて!?」

 

頭を振りつつ体制を起こしエレキボタルを睨む付けるヒビキ。

響も即座に起き上がるがエレキボタルの力に驚愕している。

 

「ビリュリュリュリュリュリュッ! 如何だ、俺の力は! 俺の体内エネルギーは東京都十日分の電力なのだ、つまりお前たちは東京都十日分の電力を敵にまわしている!!」

 

響たちは知らないが、以前に風鳴源十郎たちの下に東京都の膨大な電力が不自然に消えた報告が入っている。

その原因こそ、エレキボタルの所為だ。

地獄大使は、幾つの発電所から電線を引きエレキボタルに流してパワーを上げていたのだ。

 

「東京都十日分の…」

「電力…」

「…いや、単位が分かりづらい!」

 

エレキボタルの言葉に三人は絶句していたが、微妙に力の差が分かり辛い事にヒビキが叫ぶように言う。

そんな三人の反応にも構わずエレキボタルは次の手を使う。

 

「…? 光?」

 

最初に異変に気付いたのは響たちと距離のあった未来だ。

響たちの周りに小さい光が集まってくる。

そして、それは響たちも気付く。

 

「なに、これ? ホタル?こんな雨の中で?デカッ!?」

「ホタル!? エレキボタル!」

 

雨の中、不自然に集まりだすホタル。

響はホタルと聞いてエレキボタルを睨みつける。

 

「お前たちに地獄の舞をもう一度見せてやろう、今度は半端は無しだ!」

 

「!? このホタルを見ちゃダメ!!」

「!」

 

雨の中周囲を飛び回るホタルに響はもう一人のヒビキに見るなと言うが、体が既に言う事を聞かなくなっていた。

そして、響もまた体の動きが鈍い事を感じている。

 

「無駄だ、俺の催眠からは逃げられん! 光れ、飛び回れ!!踊り狂え! 地獄の舞でお前たちに再び催眠術で操ってやる!!」

 

最初のホタルの光で体の自由を奪い、ゆっくりとホタルの光で催眠術にかけていく。それがエレキボタルの地獄の舞だ。

 

エレキボタルは響を再び支配下に置く為に再度催眠を掛けようとする。

地獄大使からは、催眠に失敗した場合、速やかに響を殺せと命令されていたがエレキボタルは敢えて無視する。

 

━━━上手く二人の立花響を操る事が出来れば大幹部の座も夢ではない! これならシラキュラスとモスキラスを出し抜ける…

 

今頃は病院や特異災害対策起動部二課本部にシラキュラスとモスキラスが邪魔者たちの始末をしていると考えたエレキボタルは手柄を上げようと考えていた。

響は勿論、この世界のヒビキもシンフォギア装者だ、利用価値は十分あるといえた。

 

ホタルの光に二人の目から光が消えていく。

勝利を確信したエレキボタルだったが、薄紫の光が通り過ぎる。

 

「なっ!?」

 

その光により、エレキボタルの操っていたホタルが何匹も消滅していく。

しかも光は次々と通過し、その度にホタルが消えていく。

光の来た方に目を向けたエレキボタル、其処にはアームドギアの小さな鏡を幾つも操っている、

 

「小日向未来だとッ!?」

 

「私の存在を忘れてたわね!!」

 

光の正体、それは未来が出したレーザーだった。

エレキボタルは未来の始末は簡単にできると後回しにし、響たちの催眠を優先していたがフリーハンドになった未来は堂々と響たちの援護を行う。

 

未来のレーザは続き、響たちを避けエレキボタルの操るホタルを撃ち抜いていき、エレキボタルの体にも命中する。

ホタルの数も減った事で、催眠状態だった二人の響も正気を取り戻す。

 

「未来、ありがとう!」

「…ありがとう」

 

未来のレーザに気付いた響は礼を言い、ヒビキもそれに続く。

エレキボタルの催眠から逃れた二人は再び、拳と蹴りを繰り出し攻撃する。

 

「馬鹿の一つ覚えかぁ! そんな攻撃が俺様に当たる訳が…!?」

 

先程と同じく、二人の響の攻撃を受け止めたり躱したりし反撃しようとするエレキボタル。

しかし、次の瞬間、反撃しようとした腕にレーザーが命中し攻撃するタイピングが狂う。

その隙を響は見逃さずエレキボタルにカウンターをぶち込む。

 

「グワーッ!?おのれ、小日向未来!!」

 

「ありがとう、未来!」

 

響のカウンターで片膝をついたエレキボタルが未来を睨みつける様に視線を向ける。未来のシンフォギアは対シンフォギアの側面が近く怪人に対してそこまで有効とは言えない。

それでも、エレキボタルへの嫌がらせには十分と言えた。

 

エレキボタルを警戒しつつ目線だけを未来に向け礼を言う響。ヒビキも口には出さないが未来に目線を向けている。

 

「響、私がエレキボタルの攻撃タイミングをズラすわ!響たちは攻撃に手中してぇ!!」

 

それからというもの、エレキボタルの攻撃は悉く未来のレーザーに妨害され響たちへの攻撃が外され、逆に響たちの反撃を受け続ける。

最初は響の拳も傷一つ無かったエレキボタルの体だが、連続して受けてる内にその体にもヒビが入り漏電してるのか火花が散る。

 

「クッ、たかだか人間どもが! 調子に乗りおってぇ!!」

 

何度目かの響の拳を顔面に食らったエレキボタルが呪詛のように言うと、羽を広げ空を飛ぶ。

響が打ち込もうとした拳も空振り、三人が空を見上げる。

 

「もういいッ!!もう沢山だ、エレキ催眠で操るのは止めだ!! 骨も残らずこの世から消えてしまえッ!!」

 

未来の援護により形勢が覆されたエレキボタルが怒気の籠った声でそう言うと、頭の瘤を次々と取り外し地上の響たちに投げつける。

 

「!?」

 

咄嗟に避けた響だが、自分の居た場所に夥しい量の火炎が吹き荒れる。

 

━━━なんて、炎! これじゃ普通の人は本当に骨すら残らない!

 

操られヒビキとの戦いを強いられていた響も初めてエレキファイヤーを見て理解する。

自分なら耐えられるかもしれないが、もう一人の響と未来では、シンフォギアを纏っていても数秒と持たない事も。

エレキボタルの言ってる事はハッタリでもなんでもない。

 

「クッ…」

 

「させるか!!」

 

響が咄嗟に腰のブースターを吹かしと飛び上がろうとするが、それを見逃すほどエレキボタルも甘くない。

即座に、飛び上がろうとした響に向けエレキファイヤーを投げつけ飛ぶのを妨害する。

そして、それはヒビキと未来も同然だった。

特に未来は、響たち以上に飛べる為エレキボタルも警戒し、飛ぶ素振りをすれば幾つものエレキファイヤーを未来に投げつけている。

 

「…! 不味い、逃げ場が…」

 

エレキボタルのエレキファイヤーを逃げ回っていたヒビキは、既に周りが火の海だという事に気付く。

これでは逃げるどころか、歌う事すら不可能になっていく。

 

「ビリュリュリュリュリュリュッ! 既に逃げ場なぞあるまい、お前たちは既に袋の鼠よ!!」

 

逃げ回る響たちを見下ろしていたエレキボタルが楽しそうに笑いながら言う。

周りの炎により温度も上昇し、未来やヒビキも汗が止まらない。このままでは焼け死ぬか脱水症状で倒れてしまう。

 

━━━逃げ場が何処にもない、いっそ私が地面に大穴を開ければ…いや、それじゃエレキボタルが逃げるか街中であの赤い球をばら撒くかも。 でも未来ももう一人のワタシも限界が…そうだ!

 

「もう一人のワタシ、私の手に乗って!」

「え?」

 

熱さで朦朧とする意識の中で響の突然の言葉に一気に現実に戻るヒビキ。

既に辺りは火の海で逃げ場も碌にない中、響がふざけて言っているとも思えない。

二人の視線が交差し、ヒビキは静かに頷く。

 

「…勝算は?」

「正直五分五分かな」

 

響の返事に頷くと差し出されてる響の組んだ両手に自身の脚を乗せるヒビキ。

何となく響の目的に気付いた未来は固唾をのみ見守り、響は腕に一気に力を入れる。

 

 

 

 

 

 

「ジワジワと炎で炙られる気分はどうだ? そろそろトドメを…ん?」

 

響たちの動きを監視し、飛ぶのを邪魔し続けたエレキボタルは勝利を確信していた。

響のブースターでは、空を飛ぶのに不慣れで動きも読みやすく、未来も響のガングニールに比べれば空を飛ぶのは得意と言えるが上から監視してしまえば完全に抑えられる。

最早、逆転は不可能と考えているエレキボタルの視界に響が何かしているのを確認した。

 

━━━立花響め、折り重なり何をしている? もしや、熱に根負けして熱さから逃れようとパートナーを踏んだか?

「いいぞ、人間の愚かしさを見せろ! むしろ殺し合え!!…!?」

 

一瞬、響たちが仲たがいをして自分だけ助かろうとしてるのでは?っと考えたエレキボタルだったが、直ぐにそんな考えは捨てる。

 

「いっけぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!」

「うおおおおおおおおおおおおおッ!!!!」

 

ヒビキがおのれの手に足をつけ体重をかけた事を確認した響は一気にヒビキを乗せたまま両腕に力を籠め上えと突き上げる。

改造された響の筋力もそうだが、その勢いで飛び上がると()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

━━━なるほど、折り重なっていたのはコレを狙ってか。 このスピードでは俺のエレキファイヤーの迎撃は間に合わん

「だが甘い!」

 

「!?」

 

ヒビキの拳があと少しまでエレキボタルに接近するが、すんでの所でエレキボタルの体が僅かに捻りヒビキの拳を避ける。

避けられたヒビキは勢いのまま上空に飛んでいく。

 

「当てが外れたな、立花響ッ! それともこの世界の立花響を逃がしたつもりか? なら甘い、お前たちを始末した後に見つけ出して殺してや…!」

 

ヒビキがそのまま上空に飛んでいくのを確認したエレキボタルが響を見下す発言をする。

攻撃に失敗し、逆転の可能性は最早無い、と判断したエレキボタルは響の悔しそうな顔を見たくもあった。

しかし、エレキボタルの目論見は外れ、響と未来の予想外な行動を目にする。

 

響が腰のブースターを吹かし飛ぶと、未来もそれに続くように宙に浮く。

 

「ビリュリュリュリュリュリュッ! やぶれかぶれか、自棄になって死にに来たか!!」

 

エレキボタルが飛んでくる響と未来に狙いをつけ、エレキファイヤーを投げつける。

ヒビキの時は、響自身が発射台となり投げつける暇は無かったが、一から飛んでくる響と未来の速度ならエレキボタルも十分に迎撃が出来た。

 

響たちに放たれたエレキファイヤーが真っ直ぐと落ちていき、接触するかに思えた。

だが、未来も見てるだけでなく響の援護に幾つものレーザーを打ち込む。

幾つかのエレキファイヤーが響に届く前に消滅するが、未来の援護も全てを落とせる程の腕前はない。

未来が撃ち漏らしたエレキファイヤーが響に接触しシンフォギアが燃えるが、響はそれに構わず、むしろ腰のブースターを加速させエレキボタルに接近する。

 

━━━馬鹿め、幾ら加速させようがそんなスピードでは俺を捕らえる事は出来ん。その炎がやがて貴様を包み熱暴走で自滅するのがオチよ。…何だ?

 

最早、自分の勝利は揺らぎないと確信するエレキボタルの聴覚に何かが聞こえた。

それは空気を切り付ける様な音で徐々に自分に近づいてる気がした。

思わず音のする方に首を上げると、

 

「!?」

 

エレキボタルの視界に予想外の物が映る。

上空へと消えたと思ったもう一人の立花響が腰のブースターを使い落下して来る。

当然ながら、そのスピードは上空に加速して来る立花響たちより早い。

 

「あの小娘、逃げたのでは無かったのか!? …!まさか、この俺を挟み撃ちにするつもりか!」

 

エレキボタルは此処に来て、やっと響たちの目的を知った。

この世界の立花響を打ち上げ、エレキボタルの上を取り自分たちも空を飛び打ち上げられた立花響と挟撃する。それがエレキボタルの読みだった。

 

━━━ビリュリュリュリュリュリュッ、残念だったな立花響め。地上での戦いならその作戦も成功したかも知れんが俺は空を飛べるホタルの改造人間。お前たちなぞより空を飛ぶのは得意だ!

 

地上なら兎も角、空中ならエレキボタルの方が圧倒的に有利だろう。

響たちのシンフォギアは本来は空中での戦闘を想定していない。

唯一、自由に飛び回れる小日向未来も響たちに比べれば素人同然でエレキボタルと戦えるレベルとは言えない。

 

『勝った!』と言う言葉がエレキボタルの脳裏に浮かぶ。

 

━━━待てよ、ギリギリまで待って寸前で躱せば同士討ちになるではないか

 

ナイスアイデアとばかりにエレキボタルは内心で自信を絶賛する。

故意では無いとはいえ、味方同士が殺し合うかも知れないと考えるとエレキボタルはギリギリまで響の攻撃を待つことにした。

ギリギリでも響の拳を躱せると判断したエレキボタルは上空のヒビキに注意しつつ、タイミングを計る。

 

 

 

 

 

ほんの僅かな一瞬、数秒にも満たない筈の時が響たちやエレキボタルにはその何倍にも感じられた。

いよいよ、響の拳がエレキボタルの目の前まで来る。

 

━━━よし、この辺り「今だ、未来!!」で…!?

 

エレキボタルが回避に動こうとした瞬間、未来の操るアームドギアから一筋の光が出る。

その光は早く、響を追い越し真っ直ぐエレキボタルに迫る。

この時、エレキボタルは油断をしていた。直前の戦闘でも未来の神獣鏡が発するレーザーを幾つも受けたが、怪人である自分には殆どダメージが入らなかった。

今回もダメージは無い、っと油断した。

 

未来の放ったレーザーはエレキボタルに達し顔面に命中した。

 

「!? ギャアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァッ!!!」

 

「!?」

「やっぱり!」

 

ほんの刹那、目の前の光景に未来は驚き、響は狙い通りという顔をする。

今まで未来の攻撃を受けても傷一つ出来なかった筈のエレキボタルが両目を抑え悲鳴を上げたのだ。

 

何故、今まで平気だった未来のレーザーが効いたのか?

それはエレキボタルの目が巨大な複眼だったからだ。

複眼は人間の目とは違い、あまり首や体を動かす必要が無く、視界も広く高速に動くものも追いやすい。

その分、眼から得た配列情報の処理に手間取ることが多い。

虫は本能で動き、虫型の改造人間はそれ用の脳改造も行われている。

 

当然、エレキボタルも同様だったが未来のレーザーが顔面…正確には眼に直撃したのが大きい。

何よりタイミングが戦闘の最中だったのが更に大きい。

平時ならば強烈な光を食らおうが、即座に脳が配列処理を行い効果も薄くなるが、戦闘+飛行中+響の同士討ちを企んでいた事で、エレキボタルの配列処理が遅れ未来のレーザーの光を処理出来なかった。

 

響は以前に、眠れず昆虫の本よ読んだ時に複眼の情報を得ていたのだ。

 

そして、これが響たちに残された最後のチャンスでもある。

体勢を崩したエレキボタルに響は腰のブースターの火力も上げ更に加速。

ガラ空きになったエレキボタルの腹部に拳を一気に叩きこむ。

凄まじい衝撃にエレキボタルが更に悲鳴を上げると、丁度上空から落下していたヒビキも拳を叩きこむ。

其処は丁度、響の拳で突きあがってる場所だ。

 

「た…立花響! き…貴様…」

 

「アンタたちの悪癖なんてお見通しよ!」

 

既に何度もショッカーの怪人と戦って来た響だ。

その過程で響は怪人たちの悪い癖に気付いている。即ち、油断だ。

響の前に現れる怪人の多くは人間や自分を舐めて、嬲る殺しにしようとする癖がある。

今回のエレキボタルもそうだ、自身がもう一人の立花響と戦っている間に未来を殺しもせず追い詰め、催眠が解けた後も、炎で甚振っている。

響は、エレキボタルがその癖を出すと予想して、未来に合図と共に眼にレーザーを撃ち込むよう話していたのだ。

 

「私たちは絶対に…お前たちに負けないぃ!!」

 

そう言うと響のガングニールのガントレット引っ張っていたパーツが一気に元に戻る。

それは、同時に背中に打ち込んだ響も同様だ。

腹と背中から一気に大量のエネルギーを喰らわされたエレキボタルは、体中に電気が逆流する。

 

「ビリュリュリュリュリュリュッ!!!」

 

断末魔の悲鳴を上げるエレキボタル。

直後、大爆発を起こしヒビキはその爆発で発生した爆風に乗って離れる事に成功したが、響の方は爆発力が予想以上だったのか離れるのが遅れエレキボタルの爆風を直で喰らってしまう。

 

「うわあッ!?」

 

エレキボタルの爆発を直で受けた響が宙に投げ出される。

響は爆風と妙な浮遊感を感じるが同時に脳内は冷静でもあった。

 

━━━しまったな…エレキボタルの爆風を受けるなんて、このままじゃ地面に激突しちゃうな…ワタシの体なら十分耐えられるかな…あれ?

 

地面への衝突し目を瞑り覚悟した響だったが、先の浮遊感とは別の浮遊感と背中に温かいモノが触れている事に気付く。

ゆっくりと目を開け、響が見たのは

 

「未来…」

「良かった…間に合った…」

 

エレキボタルの爆発で吹き飛ばされた響を助けたのは未来だった。

落下する響を受け止めた未来はゆっくりと地上に降りる。

燃えていた地上も、エレキボタルを倒した為か、単純に雨の為かは分からないがあれだけ燃えていた炎も次々と消えていく。

未来は内心抱える響を「なんか重いな…」と思いつつ地上に到着し、響は未来の腕から離れ自力で立ち上がる。

丁度、エレキボタルの爆風で離脱していたヒビキも近くで着地した。

 

「「………」」

「やったね、響! 皆であの怪物を倒したんだよ!」

 

暫しの沈黙が辺りを支配する中、未来が二人の響の腕を取って喜ぶ。

かなりの強敵だったエレキボタルを撃破し、未来がその事に喜ぶ姿に響は自分の世界の未来の姿を思い出す。

もうこの世界に来てどの位過ぎたのか分からないが、未来の元気な姿に響は嬉しかった。

 

━━━未来にクリスちゃん、翼さんに会いたいな…

 

フロンティアの異変が世間から自分を守るためにマリアたちと一緒に幽閉され、碌に連絡も取れなかった事もあり久しぶりに自分の世界の未来たちに会いたくなった響。

しかし、戻る方法も見つかってない現状、どうやったら戻れるかなど分かる訳が無い。

 

━━━ワタシ、元の世界に戻れるかな…諦めちゃダメだ!絶対に戻るんだ、例え他の世界から来たかも知れないクリスちゃん達に土下座して「ドサッ」でも…え?

 

一人、思考に入っていた響の耳に何かが倒れる音がして見ると、地面に倒れるもう一人の自分と慌てている未来が映る。

 

「もう一人のワタシ!」

「と…突然倒れて…」

 

響も慌ててヒビキの体に触れると驚いた未来がヒビキが突然倒れた事を教える。

一体何事かと思いヒビキの体を起こす。

 

その時、ヒビキの口から何かが滴った。

最初は雨粒が口に入ったかと思っていたが滴った物が赤い事に気付く。

 

「!?」

 

更には、響はヒビキに不自然さを覚えた。何時もは首の付近を撒いてるだけのマフラーが何時もより下の方にも撒かれ胸部付近まで隠している。

そして、僅かだがマフラーが赤く変色していた。

 

「! まさかッ!?」

 

嫌な予感が頭に過った響は胸元を隠していたマフラーをどけ…絶望した。

ヒビキは胸からも出血し胸の中心が凹んでいた。その大きさは響の拳とみったりだった。

 

「! この怪我って…」

「…私の…拳だ…寸前で…止まったと…思っていたのに…」

 

ヒビキの傷を見て口元に手をやる未来と自分のしたことに絶望した響。

あの時、響はヒビキの命賭けの説得で正気に戻した、それは事実だ。しかし、寸前までいった響の拳の勢いを止めれるものではない。

何より、響は改造人間でありガングニールの力を増幅させる能力がある。これのお陰で響は今まで多くの怪人とゾル大佐と死神博士も倒してきたが今回はその力が仇となった。

響が寸前で拳を止めようがヒビキへの攻撃が完全に無くなったりはしない。拳を寸止めしようが、響の拳が発生させた衝撃波が響の胸を襲ったのだ。

ヒビキはその事を黙っていたのはエレキボタルの存在と響に罪悪感を与えない為だったが、戦闘が終わった事で緊張の糸が切れヒビキは気絶した。

 

尤も、響が寸止めしなければシンフォギアごと胸を貫かれていただろう。

 

「響…」

「私の…私の所為だ…私の所為で…また…」

「響!?」

 

未来が響に声を掛けるが響はうわ言の様に「自分の所為だ」と言う。

それからは、未来が幾ら喋りかけても響は一切反応せずブツブツ言うだけだった。

こんな響の姿を見たことが無い未来は、もうどうしていいか分からず通じる様になった通信機のスイッチを慌てて入れる。

 

『未来、そっちは…』

「奏さん!!」

 

通信が繋がり奏が未来の現状を聞こうとしたが、慌てている未来はそれを聞いている余裕がない。

そして、未来の様子がただ事ではない事が奏にも伝わる。

 

「響が…響が!」

『…落ち着いて話しな未来…』

 

奏が落ち着くよう言い、未来と二人の響に起きた事を説明する。

その後、間もなく特異災害対策起動部二課が送ったヘリが三人を回収し別系統の病院に運ばれる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…作戦が失敗しただと!?」

 

一方、ショッカーのアジトにて吉報を待っていた地獄大使の耳に入ったのは送った怪人が返り討ちにされた凶報だった。

戦闘員が続けて報告する。

 

「シラキュラス並びにモスキラス、エレキボタルが全て撃破されました」

「全滅!?あれだけの強化改造を施した怪人が全滅だと!」

 

線t老員の報告を聞いた地獄大使は奥歯を噛み締め鞭を振る。

鞭は誰も居ない場所に振り下ろされると共に小さな爆発が起こる。

流石の地獄大使も部下に当たり散らす程愚かではなかった。

 

「役立たず共が! …まぁいい、ショッカー墓場がある限り怪人どもは何度でも蘇る」

 

強化された怪人が倒されるのは、地獄大使としても確かに痛いには痛いがショッカー墓場による悪魔祭りを行えば倒された怪人たちは復活する。

生贄となる人間が居る限り怪人たちが尽きる事はない。

 

「連敗しようが最後に勝てば問題ない。 最後に笑うは我らショッカーよッ!」

「イーーーッ! 地獄大使、一大事です!」

 

何れは数でシンフォギア装者を圧殺する事を想像し笑みを浮かべる地獄大使の耳に血相を変えた(マスク越しだが)戦闘員が急いで部屋に入ってくる。

 

「…どうした?」

「そ、それがっ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同時刻

とある海岸沿いに近い交番では、

 

「先輩、最近失踪者が多いらしいですよ」

「失踪者? おおかた家出かノイズにやられたんじゃねえのか?」

 

若い警官が年配の警官が雑談をしている。

ここ最近、失踪者や行方不明者の数が激増しているが年配の警官は家出かノイズだと言う。

昔から、ノイズが出現する度に誰かが炭化するのが彼らの歩んだ歴史だ。

特異災害対策起動部二課がノイズを退治しようがそれは変わらない。

故に、彼らにとっても他人の命は安いとも言えた。

 

「ノイズと言えば、噂ですけど妙なベルトをした新種のノイズが確認されたとか…」

「…どうせガセだろ、昔から出現不明なノイズの話なんてたたあるからな。人間だけを炭化するノイズとか、人間にそっくりノイズとか…」

 

警官二人がノイズ談義をしていた時だ。

突然、交番のガラス戸が音を立てて開くと共に黒い影が入った。

それもドサッと倒れる様に

 

「お、おいアンタ大丈夫か! …よく見りゃヒデエ傷じゃねえか、救急車!」

「は、はい!」

 

突然の事だたが年配の警官が倒れた男に近づき様子を見ると所々傷だらけの上に来ていた黒いスーツもボロボロになっている。

年配の警官は若い警官に直ぐに救急車を呼ぶよう言い、若い警官も言われた通り交番に備え付けられていた電話を取ろうとした。

 

「ま、待ってくれ!」

 

だがそれを、止めたのは傷だらけの黒服だ。

黒服は息も耐え耐えながらも言葉を続ける。

 

「す…直ぐに、特異災害対策起動部二課司令官の風鳴源十郎に連絡をとってくれ!」

「特異災害!?」

「あんた特起部二の関係者かよ」

 

二人の警官が特異災害と聞いて驚いたような表情をする。

世間では特異災害は一課しか知られてないが公務員である彼らは二課の存在を知っている。

尤も、秘密が多い事で政府関係者からも特起部二呼ばわりされているが

 

「何でもいい、早く風鳴源十郎指令に繋げてくれ! 急いで報告しないといけないんだ!」

 

黒服の血相を変えた言葉に救急車を呼ぼうとした若い警官も政府筋に繋げる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




未来が通信で言っていた響は二人ともでした。


原作だと、エレキボタルはおやっさんの何時の間にか用意した簡易アースにより弱体化されライダーに倒されましたが今回は三人もいたのでゴリ押しです。
空を自由に飛び回るエレキボタルに大苦戦。

それで倒した結果、ヒビキは重症、響のメンタルがズタボロになりました。

因みにエレキボタルですが、70年代より進んでいる2040年代の東京都(シンフォギアの時代設定はその位)の電力なのでよりパワーアップしてました。

複眼うんぬんの話は適当です。
ネットで調べて、光を配列処理しているという情報から適当に設定しました。

そして、盤石なはずのショッカーに異変が、


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113話 立花響は語らない

ジョ〇ョは関係ない


 

 

 

ボロボロになった黒服が警察に保護される数日前、

ギラーコオロギが死のツメを使い騒動を起こした現場から少し離れた場所にて

 

「昨日の騒ぎは凄かったのう」

「通行人が未知のウイルスに感染した奴だろ?」

「オレが聞いた話じゃ宇宙人に洗脳されてたんじゃないのか?」

 

とある建物の一室にてソファーに座っている強面の男と壁を背もたれにしている男たちが談笑している。

内容は、東京の中心で赤いツメ化した人々の暴動だった。

現場から距離があり被害を免れた男たちは雑誌の飛ばし記事の事で盛り上がる。所詮は他人事だ。

 

「お~随分楽しそうに話すの~」

 

「オジキ!」

「組長!」

 

談笑している最中、着物を着た年配の男性が入ってくると、今まで談笑していた男たちが一斉に年配の男性に頭を下げる。

そう、此処はヤのつく自由業の事務所だ。

彼らの多くは顔に傷を持っている強面ばかりだ。

 

皆がオジキと呼ばれる男性にお辞儀している間に、部屋の内部にある一際立派な机と椅子に座る。

 

「ふぅ~、…ん? 誰や、ワシの机にバラを刺した奴は?」

「は?バラですかい?」

 

オジキの言葉に組員がオジキの机を見る。

机には、細い花瓶と一本の真っ赤なバラが生けてある。

 

「…あんなのあったか?」

「いや…気付かんかった」

 

組員の誰もが知らない赤いバラ、それなりに目立つものが誰も知らない内に生けてあるのだ。

勿論、この場に居ない組員の誰かが用意したのかも知れないが、オジキが口に出すまで誰も気づかない事に背筋に汗が流れる。

 

「まぁええわ、仕事の話をしようか?」

「あ…はい」

 

組員たちの空気を察したのかオジキはそうそう話を絶ち自分たちのシノギの話をする。

 

「昨日の騒動で政府の人間が被害者の救済に動いとるらしいが、どうにも間に合っていないそうや。そこで家の組が炊き出しをしてやろう思うとるんじゃが…」

「おお、いいっすね~」

 

彼等自身、職業柄一般人が怖がる職業故、自分たちの株を上げる事に反対は無い。

オジキの提案に乗った組員たちは早速動こうとするが、

 

 

 

 

『悪いがその仕事はキャンセルだ、お前たちにはやって貰う事がある! バァァァーーーーーラァァーーーーーッ!』

 

「「「!?」」」

 

組員たちがドアから出ようとした時、何処からともなく不気味な女の声が聞こえると共に明るかった部屋の電気が点滅しだす。

一瞬、組員もオジキも誰かの悪戯とも思ったが部屋の中に女は居ない。

多少の後ろ暗い事をしている組員たちは震えあがった。

 

「…! おい、あのバラを見てみろッ!!」

 

一人の組員がオジキの机に生けられていたバラを指差す。

皆が視線をバラに向ける、するとバラからは煙が出ていた。

直後、バラから大量の煙が出て見えなくなると、巨大な人影に変わっている。

 

「お前たちは今日からショッカーの僕となるのだ、バァァァーーーーーラァァーーーーーッ!!」

 

「ば…化け物だぁ!!」

 

煙から姿を現した者それは、頭部が巨大な赤いバラで体には赤いバラの蔦らしき物に絡まれている五体満足の体。

それを見た組員が化け物と言って懐に入れていた拳銃を取り出して発砲する。

何発もの銃声が響き、流れ弾が窓に当たりガラスが砕け外に飛び散る。

やがて、全ての銃弾を撃ち尽くした組員は弾切れにも関わらず拳銃のトリガーをカチカチ鳴らす。

何しろ、目の前には

 

「そんな豆鉄砲が私に効くか!」

 

銃弾が直撃した筈の化け物には傷一つついていない。

銃を撃っていた組員はおろか、呆然と見守っていた組員も愕然とし震えだす。

 

「逃げるぞ、早く開けろ!」

「ドアが開かねえんだよ!!」

 

銃が効かない、ノイズとは違う別の恐怖にかられた組員たちは逃げようとしてドアに集まるが何時もは簡単に開くドアがビクともしない。

終いにはドアを蹴破ろうと蹴りを繰り出す。

 

「なんで開かないんだよッ!!」

 

大の男の蹴りを受けようがドアはビクともしなかった。

 

「遊びは終わりだ、お前たちにはショッカーの為に働いてもらう。喰らえっ!」

 

その様子を見ていたバラの怪人がそう言って腕を振る。

振った瞬間に腕から何か飛び出ると組員たちは胸に痛みを感じ見ると、

 

「バ、バラ…」

「なんで、バラが手裏剣のように…」

 

組員たちが見たのは自分の胸に突き刺さる赤いバラだった。

バラが突き刺さった組員たちが次々と倒れていく、傍目には死んだようにも見えるが

 

「起きろ、立ち上がれ! お前たちには仕事がある、バァァァーーーーーラァァーーーーーッ!!」

 

バラの怪人の言葉に呼応するように胸に赤いバラが刺さった組員たちが立ち上がる。

しかし、皆の顔は青く手からは植物の様な棘が生えていた。

 

 

後に、近隣住民に通報され警察が室内に入るが中はもぬけの殻だったそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時間は戻り、

翼が入院した病院とは別の病院。

手術室の上の電光が消えると一人の手術用の服を着た医者が出てくる。

 

「先生…立花響くんの容態は…」

 

医者が出てくるのを見つけた赤いスーツの男がベンチから立ち上がり医者に近寄りそう聞いた。

特異災害対策起動部二課司令官の風鳴源十郎だ。

本部を襲撃された後始末も早々に源十郎がヒビキの緊急搬送を聞かされ取る物も取らず駆けつけたのだ。

この病院もまた翼が入院していた病院と同じく政府との繋がりが強く、政府機関である特異災害対策起動部二課も利用出来たのだ。

 

その後、執刀した医師からヒビキの容態を聞き額に汗が流れると同時に静かだった廊下を駆ける音がする。

 

「ハア…ハア…」

「ハア…」

「ゼェー…ゼェー…」

 

足音の正体はクリスとマリア、未来だった。

クリスとマリアは奏と合流後に病院での戦闘の後始末や戦闘の内容報告で、未来も状況説明や怪人の説明などで病院に遅れて来たのだ。

急いだのだろう、未来やマリアに比べクリスは息も耐え耐えだった。

 

「あまり病院内で走るな…」

「相変わらずクリスはスタミナが足りないな」

 

すると、クリス達の後を追ったのか翼と奏も歩いて来ていた。

翼は呆れつつも、奏はクリスと何度か合同で訓練したり一緒に戦ったりでクリスのスタミナ不足を知っていた。

 

「う…うるへぇ~」

 

未だに肩で息をし汗だくのクリスも文句を言うが、疲れからか呂律が回っていない。

そんなクリスたちの様子に源十郎も苦笑いを浮かべる。

 

その後、クリスの息がやっと落ち着いた頃、それを待っていた源十郎が「ゴホンッ」と咳をする。

 

「響くんの状況だが峠は越えたそうだ」

 

「「「「「!」」」」」

 

源十郎の声に皆が安堵する。

戦闘が終わった直後に未来からの通信で響が危険な状態にあると聞いてクリス達は気が気でなかった。

それに、未来も目の前でヒビキが口から血を垂らし胸の一部が凹んでいので落ち着きがなく、クリスがそれを気にしていた。

 

皆の表情に笑顔が戻ってくる、が

 

「だが、一つ問題が起きたそうだ…」

『!?』

 

源十郎の一言に一同の額に嫌な汗をかく。

源十郎の表情からも事の重大さが伺える事からクリスは生唾を飲みこんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これを見てくれ」

 

その後、別室へと移動した源十郎は医者が手渡したシャーレを皆に見せる。

シャーレの中には黒い石のような物とそれに水晶のように生えた金色の鉱物のような物だ。

 

「なんだこりゃ?」

「何処かで取れた鉱石にも見えるわね」

「指令、これは?」

 

シャーレの中のを見てクリスとマリアが反応し、翼が源十郎にこれが何かを聞く。

皆、響の状態の話を聞きに来てこの石の様な物を見せられ困惑している。彼女たちには目の前の石と響がどうしても結びつかない。

 

「それは、手術中に立花響くんの心臓付近から採取した体組織の一部だ」

『!?』

 

クリスたちはまたも絶句した。

このよく分からない物が響の体内から出た物だと言う。

 

「実は、立花響くんが峠を越えたのは手術ではなく、聖遺物のガングニールが再生させたんだ…」

「アイツの体、どうなってんだよ…」

 

思わずクリスがそう漏らす。

 

源十郎が医者から聞いた話ではヒビキの肋骨は完全に砕け幾つかが肺を突き破り命の危機だったそうだが、手術中に奇跡が起きた。

執刀し、砕けた肋骨を取り除いている最中にヒビキの体が光り出し砕かれた肋骨や肺は再生、それどころか手術の為に開いた胸すら綺麗に再生し、ヒビキの胸には以前に付いた手術後しか残らなかった。

 

源十郎の話を聞いて不安がるクリスたち。すると、源十郎は一枚の大きな写真を取り出し光る台に乗せる。

それはレントゲン写真で写っている体つきから女性の物だろう。

しかし、そのレントゲンに映っているのは心臓を中心に黒い何かが広がっているようなレントゲン写真だ。

 

「そのレントゲンは…」

「響くんの物だ、過去に彼女はガングニールの欠片で負傷し手術したが、心臓付近の全てのガングニールの破片を回収しきれなかった」

「まさか、ガングニールの破片が心臓が融合?」

「そう言えば、立花響は融合症例第一号だったわね!」

 

源十郎の言葉に翼が二年前の会場の事件を思い出し、マリアも過去に響を呼ぶ際に情が移らないよう呼んだ異名を思い出す。

ヒビキの心臓は聖遺物であるガングニールに侵食されている。それは、ヒビキにとって危険でもあった。

 

「身に纏うシンフォギアとして、エネルギー化と再構成を繰り返してきた結果、体内の浸食が進んだのかも知れん」

「生体と聖遺物が解け合って…立花はどうなるんですか?」

「このままでは遠からず死に至るだろう…」

 

翼の質問に源十郎はそう返すしか無かった。

ヒビキの症例は類を見ない程希少で前例もない、救う方法があるなら自分も知りたいと思う源十郎だ。

そして、拳を握った翼は奥歯を噛み締める事しかできない。

 

「何より、これ以上の融合状態が進行してしまえば、果たしてそれを人間と言っていいのか…ん?」

 

レントゲンを見つめ独白するように言う源十郎だが、其処で違和感を覚えた。

翼以外の反応が無いのもそうだが、先程マリアが言った言葉に引っかかりを覚えたのだ。

 

━━━今、マリアくんは何を言った?()()()()()()()()()…確かそう言った筈だ…!

 

「マリアくん!」

 

源十郎は視線をレントゲンからマリアたちの方に目を向ける。

この現象を自分たち以上に知ってると思ったからだ。

そして、源十郎の目にはクリスとマリアがハイタッチしている姿が映る。

 

「思ったより大した事ないじゃねえか」

「ええ、そうね」

「良かった…」

 

よく見れば、クリスとマリア以外も喜んでいたりホッと胸を撫でおろす仕草をしている。

翼もこれには唖然とせざるを得ない、短いながらも彼女たちが一人の少女が死ぬかも知れないと聞いて喜んでいるとは到底信じられなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「聖遺物を分解する聖遺物だと!?」

 

あの後、翼と源十郎が喜んでいるクリス達と軽い口論になり、そこでマリアが喜んだ理由を説明する。

その説明で源十郎が大声を出した。

 

「声、デケぇよ!」

「…相変わらずだな、旦那」

 

ほぼ、源十郎の真ん前にいたクリスが耳を押さえ、奏は平行世界だろうが変わらない源十郎の反応に苦笑い。

 

クリス達が喜んだ理由はヒビキの浸食するガングニールを取り除ける方法があるからだ。

それこそ、未来のシンフォギアである神獣鏡だ。

未来のシンフォギアである神獣鏡ならヒビキの体内にある聖遺物を取り除ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それじゃあ、始めます」

 

場所を移し、未来が居るのは手術室であり目の前には手術で寝かされているヒビキがシーツをかけられ横たわる。

既にシンフォギアを纏った未来がアームドギアである鏡を出しヒビキに向け放つ。

 

「た、体内のガングニールが消滅していきます!」

「響ちゃんの状態には問題ありません」

 

未来の行動をモニターしていたオペレーターの藤尭朔也と友里あおいが報告する。

現在彼らの居る場所は、急遽用意された指揮車である。現在、新型潜水艦の譲渡の交渉段階だ。

 

未来の神獣鏡をモニタリングしつつヒビキの体調を見ていた職員たちが次々と報告し、数分もせずヒビキの体内にあったガングニールは残らず除去された。

 

「…この目で見ても信じられんが、これで立花響くんは救われたな」

「そうだけど…これで立花響の戦力化も期待出来ないわね」

「………」

 

源十郎がヒビキが健康になった事を喜ぶが、マリアがヒビキの戦力を惜しがる。

口には出さないが翼も内心では同意見でもあった。

 

パートナーである奏を失ってから翼は一人でノイズと戦い続けた。動けるシンフォギア装者が自身しか居ない、そう思っていた。

そんな時にパートナーである奏のシンフォギアを纏うヒビキがノイズを倒している情報が入る。

翼としては思うところもあったが、何度か話をしようとするが取り付く島もなく去られてばかりだったが、偶然か故意かは不明だがヒビキに助けられた人たちも多くいる。

 

不愛想だがどこか頼りになる、それが翼のヒビキのイメージだ。

そんなヒビキがもうシンフォギアを纏えないと思うと残念だと思う。

クリス達も何時までもこの世界には居てくれない、何時かは自分の世界に戻ってしまうだろう。

そうなれば、翼はまた一人でノイズと戦う事になる。そんなこと考えて翼は思わず溜息を漏らす。

 

「ガングニールについては問題ない。この世界の奏くんのガングニールの破片を回収してギアに再構成できる。もし、立花響くんがガングニールを求めるならそれを渡そうと思う」

 

源十郎の言葉に翼も顔を上げ少しだけ微笑む。

源十郎としても、ヒビキの戦力は喉から手が出る程魅力があり、放置は出来ない問題である。

何より、聖遺物と融合していたヒビキの存在は遅かれ早かれ諸外国(特にアメリカ)が知る可能性が高く、彼等からすればヒビキの存在は金のなる木、或いは聖遺物を知る為のカギになるかも知れないと考え狙われるかも知れない。

 

いくら特異災害対策起動部二課は政府機関とはいえ、24時間365日ずっとヒビキを護衛できるかと言えば不可能に近い。

それならば、まだ自衛が出来るガングニールのギアを渡すのも手ではある。

 

「…どっちにしろ、あの子が選ぶしかなさそうね」

「そうだな…アタシとしちゃもう一人の方が問題だろ」

 

ヒビキがシンフォギアを纏い特異災害対策起動部二課に入るかは分からないが、取り敢えず一旦話を区切るマリア。

そして、クリスが言うもう一人は、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『名前は?』

『…立花響…です』

『年齢は?』

『…16歳です』

『君とショッカーの関係は?』

『…敵です』

『君はこの世界の人間か?』

『…違います』

『どうやってこの世界に?』

『………』

『君のその体は何だ?』

『………』

 

 

「見ての通り、これ以上は黙秘を続けている」

 

未来のヒビキの治療が終わると一同は場所を移動し、モニターである映像を見る。

負傷したヒビキとは別の立花響の尋問映像だ。

名前や年齢、ショッカーとの敵対関係までは話すがそれ以上は決して語ろうとしない響の姿に少なからずショックを受けるクリスとマリアたち。

 

「これが響かよ!?」

「あの響があんな弱々しく見えるなんて…」

「…立花響を知っている者が見れば信じられないわね」

「………」

 

尋問される響を見て奏や未来たちは口々に映像に映る響の感想を言い合う。

尋問される響は、彼女たちの記憶の響と比べ元気もなく今にも泣きそうな顔をしている。

何時も馬鹿みたいに元気の塊で人の気も知らずにポジティブな事を言い、他者との手を繋ぎたがる少女だとは到底思えない程だ。

 

「一応、監視の為に一室に籠っているがベッドも利用せず壁を背にして座っているんだ。我々の用意した食事もとっていない」

 

「「「「!?」」」」

 

━━━食べる事が大好きなあの響がご飯を食べない!?

━━━絶対偽物だ!…偽物だろ?

━━━いえ、天変地異の前触れよ!!

 

この日、クリス達が何より驚いた。

 

 

 

 

未来たちにとって響は自他共に認める程のご飯好き。クリスは嘗て響と敵対していた時に「好きなものはご飯&ご飯!」と自己紹介で言っていた事を思い出し、モニターに映る響を唖然と見る。

 

「それから、君たちが見たと言う金属だが此方が用意した金属探知機には何の反応もなかった」

「反応が無い?」

 

響が特異災害対策起動部二課に保護された時に軽くだが金属探知機で響の体を調べたが何の反応もなく、クリスの見たと言う肌の下の金属片は見間違いではないかと疑われ出す。

 

「…アタシはちゃんと見たんだよ、抉れたアイツの肩から金属の様な物を!」

 

クリスとしてもハッキリと見たことを伝える。

血に濡れていたが、あんな金属片を見間違うようなクリスではない。

その事を、知っているマリアと未来が少し考える。

 

「…考えられるのは、其方が用意した金属探知機が故障していたか性能不足、あるいは…」

「私たちの知らない金属が響の中にある?」

 

金属探知機にすら潜り抜ける未知の金属、技術力のあるショッカーなら十分考えられる。

 

「響の体の中とか調べなかったのか?」

 

そこへ、奏が源十郎にそう質問する。

特異災害対策起動部二課はれっきとした政府の組織だ。それ用の機材も直ぐに揃えれると思ったからだ。

 

「…本人が嫌がったんだ、俺としても子供を無理矢理調べるのはな…」

「…旦那らしいな」

 

源十郎としても、響の体の秘密は知りたくもある。

発明家としても技術者としても機械の体は魅力的だ、しかし響の嫌がる姿を見て諦めざるえなかった。

少女の泣き顔を見てまで強行する程、外道にもなれない。それが風鳴源十郎という男だ。

 

「おっさんらしいは一旦置いといて、未来…お前から見てアイツをどう思う?」

 

平行世界だろうが変わらない源十郎の姿に安心しつつ未来にモニターに映る響の事を聞くクリス。

クリスとしては、立花響の姿をした偽物を倒したくもあるが、モニターに映る響の姿を見て本当にS・O・N・G本部を襲い後輩である調と切歌を負傷させたとは到底思えない。

 

「そうね、私たち以上に立花響と共にいたアナタの意見を聞かせて」

「私は…あの子も本物の響だと思う」

 

クリスに続きマリアも未来に意見を求める。

少し考えた未来の口からはあの響も本物だと告げる。

 

「…根拠は?」

「根拠って程でもないけど、エレキボタルとの戦いで私たちと命を懸けて共闘したし、この世界の響が負傷して一番ショックも受けていた。…あれはお芝居とは思えなかった」

 

未来は二人の響と共闘したエレキボタルとの戦いを思い返す。

自分たち三人がかりでも苦戦した相手だ、映像に映る響が本当に襲撃者だったなら、自分の味方なぞせずエレキボタルと組んで自分たちを殺しに来る筈。

未来としても、モニター向こうの響の表情が父親が失踪した時以来、久しぶりに見た気もする。

 

「…っとなると、あの立花響はショッカーの居た世界の立花響かしら? ショッカーの事をハッキリと『敵』って言ってるし…」

「だけどそうなると、アタシたちの世界の本部を襲ってお子ちゃま二人を負傷させて地獄大使と一緒にいたアイツは誰だよ?」

 

未来の答えにマリアがもう一人の響の正体を推測するがクリスが待ったをかける。

自分たちの世界のS・O・N・G本部を襲撃しクリスがハッキリと響の姿も見ている。

声も本人の物と言え、クリスにはアレが偽物とは到底思えなかった。

 

最初は、映像の響が自分たちやこの世界の立花響を油断させるために偽物を造ったのではと考えたが、未来の言う通りエレキボタルと戦う意味は無い。

それどころか、あの響がエレキボタルに加勢していれば未来とこの世界の響は死んでいるだろう。

 

━━━いったいどういう事だ?これじゃこの世界にもう一人のアイツが居るみたいだ。アイツならそこら辺知っているかも…ダメだな、聞いても素直に答えるとは思えねえ…まるで昔のアタシだな…

 

映像で見た以上、響が素直に喋るとも思えないクリス。

そして、泣きそうな響の顔を見て嘗ての自分を思い出す。両親が死んで軍人たちに浚われ競売にかけられた事を、その後何をされたのかも…

恐らく、自分や未来でも喋らないだろうと判断するクリス。

 

━━━アイツは本当にショッカーの居る世界のアイツか?でもそうなるとあの馬鹿は誰だ?…試してみるか

 

「なあ、オッサン」

「ん?」

 

映像に映る響が何者なのか悩んだクリスは一つ賭けをしてみる事にした。

そこで、指令である源十郎に声を掛けある物を用意してもらうよう頼む。

 

 

 

 

 




戦闘はありませんでしたが、翳り裂く閃光編の響の問題の大部分を解決。
この作品ですと、大問題のショッカーがまだ健在ですが…

原作でも響は腕を食いちぎられながらも再生してますから砕かれた肋骨も再生しました。
…暴走はしませんでしたが…

シンフォギアの原作だと響から取れた石は源十郎は翼にしか見せてないので、当然クリスもマリアも知りません。
源十郎があの後、写真や映像に残してクリス達に見せた可能性も低いので。愚者の石の件で見た可能性はありますが…
前よりは冷静になったクリスですが如何しても、ショッカー響の存在に引っかかっています。響が素直に話せば信じるかも…

そして、ショッカーは何を企むか?

次回は響の心情とクリスの賭け。


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114話 不器用なクリス

たぶん今年で一番ビックリした事、
腰の調子が悪くて病院で見てもらったところ、レントゲンで背骨が折れた後があったこと。
背骨って折れても回復するんだ…(汗


 

 

 

暗い部屋。

特異災害対策起動部二課が響に用意した客室の一つ。

大きめのベッドや幾つかの本が置いてあり特異災害対策起動部二課としても見張りを置きつつ響を客人扱いする事で部屋に居たが、響は電気も付けずベッドや椅子も使わずに床に座り込んでいる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…師匠たちに尋問されて、もう5時間か…時間が正確に分かるのも考え物だな

師匠たちが…違うか、並行世界の師匠たちにこの部屋を用意されてもな…ワタシとしては牢屋でもいいんだけど…

もう一人の私…大丈夫かな?職員の人からは緊急手術だって言ってたけど…

…ダメだ、一人でいるとネガティブな事ばかり考えちゃう。まるで改造されたばかりの頃のショッカー基地を思い出すな…

 

ショッカー基地に幽閉されて間もない頃はまだ希望もあった

きっと政府の人達や警察の人達が気付いて助けてくれる、この体も元に戻ると思っていた。

だけど、時間が経つことにワタシの希望は消えていった

 

『ウワアアアアァァァァァァッ!!!!???』

 

『如何だ、立花響。これでも我らの為に働かんというのか?』

 

ワタシに最初に待っていたのは理不尽な暴力だった

最初は躾として、ショッカーの命令に口答えする度に殴られたり鞭でぶたれたりして、最後らへんでは電気ショックを受けさせられた

 

『だ…誰が…お前たちの…命令なんかに…!』

 

『! 小娘風情が!!』

 

でもワタシの体には拷問は効かなかった

改造手術により体の耐久力は人間の時の比じゃない、拷問でワタシの体が傷ついても即座に回復させていく。それが良い事なのか悪い事なのかは分からなかったけど

だけど痛みだけはどうしようもなかったな…

 

それからもショッカーの怪人や白い服の戦闘員たちは飽きることなくワタシに暴行を加えて行ったがある日突然無くなった

 

『ギャアアアアアアアアアアアアッ!!!!』

『止めてェェェェェェェェェ!!!』

 

ワタシへの暴行で心が折れないと判断したショッカーの行動は早かった

ワタシの目の前で他者を殺し始めた

毒殺に始まり、火炎、雷、水、ノイズと次々とワタシの目の前で他人を殺していくショッカーの怪人と戦闘員たち

 

更には、

 

『止めて…止めてください!!』

 

『すまない、君を殺さないと我々は解放されないんだ!』

『お願い死んでッ!どうして死んでくれないの!!』

 

捕まえた一般人に武器を持たせワタシを攻撃させてきた

ショッカーが反乱を警戒して殆どが木の棒とかだったけど、ワタシを殺せる程の威力は無い

遂には木の棒が折れて攻撃していた人達も息を上げる

終ったと思った瞬間、水風船が割れたような音とヌルッとした生温かい水分が自分にかかる

目の前には、首の無くなった人たちの死体が…

 

『どうして…どうしてこんな酷い事を!』

 

その水分が目の前の人達の血だと分かったワタシは何度目かの涙を流す

幾ら何でもひどすぎる

 

『何を言っている、全てお前の所為だろ。立花響』

『お前が我らに協力していればこいつ等も死なずに済んだものを』

 

ワタシの涙の訴えもあいつ等には効果が無かった。それどころかサボテグロンは笑いながら死んだ人を踏みにじる

それからもワタシの目の前で老若男女問わず人が殺されていく

わざわざ、ワタシを拘束して兵器の実験も見せつけられワタシの心は疲弊しきっていた

 

『立花響、貴様には失望したぞ』

 

だけど、そんな日々も首領の一声で終了した

直後に、ワタシの脳改造の決定がきかされたのだ

 

 

 

 

 

 

嫌な事を思い出しちゃったな…

こうした暗い部屋で一人でいると何時も思い出しちゃう

 

「クリスちゃん…翼さん…未来…」

 

思わずワタシの口からクリスちゃんたちの名前が出る

この世界ではない、ワタシの世界のクリスちゃんたちの名前だ

ショッカーとの戦いは激戦で苦しいけど、クリスちゃんも翼さんも協力して怪人たちを倒し大幹部のゾル大佐と死神博士を倒した

 

「…これからは一人で頑張らないと…大丈夫、残りは地獄大使だけ…」

 

ワタシは、もう他者を頼っちゃいけない

頼った結果、エレキボタルの催眠で操られてこの世界のもう一人のワタシを傷つけた

クリスちゃんもマリアさんもワタシの事を敵として見てるけど仕方ない。その結果、この世界で死んでも仕方ない

ワタシが地獄大使を倒せば、元の世界の敵は首領ただ一人。クリスちゃんや翼さんには苦労をかけるかも知れないけど…

 

死ぬかも知れないと考えると怖くないと言えばウソになる。だけど、クリスちゃんやマリアさんがこの世界の私のように大怪我を追うのは我慢できない

隙を見て特異災害対策起動部二課から抜け出さな「おい」いと…!

 

突然、ワタシ以外の声に顔を上げるとクリスちゃんが目の前にいる。いつの間に!

見たところ一人みたいだけど、でもシンフォギアを纏ってる…もしかしてワタシを殺しに来たのかな?

クリスちゃんに殺されるなら…良いかな?出来れば地獄大使を倒した後にして欲しいけど

 

「ちょっとツラ、貸せ」

「…え?」

 

死ぬの覚悟していたワタシの耳に予想外な言葉が聞こえた

 

 

 

 

 

 

 

 

「クリスちゃん…此処は?」

「おい、始めてくれ」

 

クリスに連れられ響はある場所へとやて来た。

外からじゃ分からなかったが、内部は体育館並みの広さで壁や床が白で覆われ響としても無機質と感じる部屋だ。

響がクリスに此処が何処なのか聞こうとするが、クリスは響の言葉を無視して通信機で合図を送る。

 

「?……!?」

 

クリスの反応に疑問符を浮かべていた響だが、背後から気配を感じ振り向く。

其処には、黒いタイツと黒いマスクをし骨のマークを付けた男たちがいる。

 

「ショッカー戦闘員!」

「チッ、もうこんな所にまで来やがったか!おい、手伝え!」

 

突然現れたショッカー戦闘員に驚く響だが、クリスが即座にアームドギアを構えボーガンで何体かの戦闘員を射抜く。

 

「クリスちゃん…うん!Balwisyall nescell gungnir tron…」

 

何故、クリスが自分を此処に連れ出したのかは不明だがクリスの要請に頷いた響は聖詠を歌いシンフォギアを纏いクリスの加勢をする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お、シンフォギアを纏って戦闘員を殴り飛ばしてら」

「…此処までは順調ね」

 

戦闘員と戦うクリスと響の様子を見ている奏とマリアが呟く。

二人は、クリスと響の居るエリアの三階部分に相当する高さでカモフラージュされた窓から様子を見ていた。

 

「ふむ…戦闘員はもういいだろう、怪人たちを出すんだ」

「はい」

 

クリスと響の戦闘を見ていたのは、奏とマリアだけではない。

司令官である源十郎と特異災害の職員が何人かおり、翼と未来も此処に居る。

そして、マリアを始めとした奏、未来、翼はシンフォギアを纏っている。

 

ショッカー戦闘員は本物のショッカー戦闘員ではない。

今までクリス達が戦い特異災害対策起動部二課がデータを集めた質量のあるホログラムだ。

全ては、特異災害対策起動部二課が作った偽物だ。クリスが源十郎に頼み用意した施設だ。

 

「それにしてもクリスも無茶を考える」

「自分を囮にしてあの響が攻撃して来るか検証するなんてね」

 

クリスの策は、響を連れ出しこの訓練室でショッカーの襲撃を受けた芝居をすることだ。

もし響が敵でクリスを攻撃するようなら即座に訓練は中止し、シンフォギアを纏ったマリアたちが止めに入る。

クリスはこの方法で響のスタンスを確認したかった。

 

「…それにしても雪音にしてはやけに回りくどい事をするな」

「仕方ないわ、私たちの仕事上敵か味方か不明な事が多いから」

 

翼の呟きに答えたのはマリアだ。

クリスやマリア、未来を始めとしたS・O・N・Gはよく平行世界へ任務に行くが、現地での知識は乏しく相手が敵なのか組むべき味方なのか分からない事が多い。

 

調査をしようにも、ギャラルホルンは基本的にはシンフォギア装者しか起動させれず緒川を始めとした調査部ではどうしようもない。

その結果、クリスもマリアも派遣先の敵組織に利用された事が一度や二度ではない。

 

「…ウロボロスには本当にしてやられたわね」

「うろぼろす?」

 

マリアの呟いたウロボロスという言葉に翼がオウム返しする。

尤も、マリアはウロボロスの説明もせず「忘れて」と言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ケッケケケケケッ!」

 

「サイギャング!?」

 

何体もの戦闘員を殴り飛ばした響の前に縦に二本の角を持つ灰色の怪人、サイギャングが立ち塞がる。

横目でクリスの方を見ると、ドクガンダーとミサイルの撃ち合いをしている。

ならばと響は一気にサイギャングに腰のブースターで一気に近づく。

 

「今更お前なんかに!」

 

火炎を吐くサイギャングをものともせず、響の拳がサイギャングの顔を捉え一気に拳を振りぬく。

角を粉砕され顔面を打ち抜かれたサイギャングは悲鳴を上げる事もなく消滅。

 

「?」

 

それを見ていた響は違和感を覚える。

 

━━━戦闘員の時もそうだったけど、こんな消え方見たことないな。ショッカーが別の何かを仕掛けた?

 

戦闘員も怪人も光如く消え、何時もは見ぢり色の泡や液体になる戦闘員や爆発する怪人らしくない。

違和感を持ちつつも響は各個撃破に動く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

━━━アタシを攻撃する素振りも無いな…アイツは味方って考えた方がいいのか?

 

ホログラムで作られた戦闘員をボーガンで射抜きつつ響の方に視線を向けるクリス。

響の表情から此処が訓練室だとはバレていないと思うクリスは更に生成された、かまきり男と対峙する。

 

━━━万が一の為にマリアには控えて貰っているが、もしアイツが本性を現して襲い掛かっても問題は無い筈。アタシも怪人との戦いには慣れて来たしな…

 

クリスがふと、視線を響をズラすと同時にかまきり男の頭をボーガンで撃ち抜く。

目線の先は、一見壁にしか見えないが源十郎の技術でそう見えてるだけで、ガラスが貼られ此方の様子をモニターさせている。

もし、響が暴れ出しクリスを攻撃しようがマリアたちがガラスを破り響を拘束する手筈になっている。

 

━━━とはいえ、取り敢えずは信用しても「クリスちゃん!!」…!

 

突然の響の切羽詰まった呼び声に目線を戻すと此方に向かって拳を振るう響の姿が、

咄嗟に、クリスも響に向けてボーガンを向けトリガーを引こうとした。

 

━━━やっぱりコイツ…ん?

 

響が此処に来て自分を攻撃してきたのかと疑ったクリスだが、響の目を見て……引き金を引く。

 

一際大きい銃声が室内に響く。

少し移動していた響の髪が元の位置に戻る。

 

 

 

 

「キィィィリィィィッ!!」

 

同時に頭を撃ち抜かれたカミキリキッドの断末魔の悲鳴が響く。

クリスは響に撃った訳ではなく、響の背後に立ち不意打ちの一撃を喰らわせようとしたカミキリキッドを撃ったのだ。

そして響の拳もまた、

 

「ウルル…ルル…ル…」

 

クリスを背後から襲おうとした海蛇男の顔面に拳を入れている。

響がクリスの名を呼んだ時、余所見をしていたクリスの死角から来ていた海蛇男に気付いた。

クリスを守る為に響はクリスに拳を振るう様に見えたのだ。

 

━━━コイツ、アタシを助けようと?こりゃ未来の言っていた事がガシャン…へ?

 

クリスの耳にある意味聞きなれた音がしてよく見ると、響のガントレットのパーツが今まさに元の位置へと戻ろうとしていた。

拳のエネルギーを海蛇男にぶつける為に

 

「ちょッ!?」

 

咄嗟にクリスが止めうようとしたが、直後に金属が打ち合う音と衝撃波、ガングニールの蒸気がクリスを襲う。

 

「あ…頭が…」

「ご…ごめんクリスちゃん、見たことない怪人だったから…って、え?」

 

音自体はクリスが付けている頭部の装置で何とか防げたが、衝撃波と蒸気はどうしようもない。

シンフォギアのお陰でダメージは最小限だが、少しふらつくクリス。

そんなクリスの様子に謝罪する響だが、自分たちを取り囲んでいた怪人や戦闘員が一斉に消えていく。

 

「アレ?アレ?」

「これで納得したかしら、クリス」

 

戸惑う響の耳に此処に居ない筈の声が聞こえ上を見る。

其処には響視点で何時の間にか設置されていたガラス張りがある、向こう側でマリアや翼たちが突っ立っている。

 

「え、マリアさん!?それに翼さんに奏さん…未来?」

「…取り敢えずはな」

 

ショッカーの襲撃だと思い、マリアたちも別の場所で戦っているのかと思っていたが全員が上の階に居り自分たちを見ていたのだ。

響にはチンプンカンプンだったが、その後のマリアたちに説明され始めて自分が騙された事を知る。

 

「訓練って、酷いよクリスちゃん!」

「あまりクリスを責めないであげて響、私たち結構味方の振りで騙されることが多いから」

 

未来の説得に響は渋々クリスを責めるのを止めた。

考えてみれば、自分もショッカーとの関係は敵対してるだけの情報しか渡していない。

 

━━━やっぱりワタシの体の事を伝えた方がいいかな?皆の様子を見る限りもうショッカーとは敵対済みっぽいし…うん!

 

「ねえ…「済まない、皆急いで指揮車まで来てくれ!」聞いて…」

 

寂しさもあったが、並行世界の装者であるクリス達に協力する為、自分の事情を話そうとした響だが、訓練直後緊急報告を受けたに源十郎の声にかき消されてしまう。

運の悪さに内心、「やっぱり自分は呪われているかも…」と考えてしまう響だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「指令、一体どうしたんですか?」

「ああ、みんな揃ったようだな、これを見て欲しい」

 

指揮車に移動したマリアが源十郎に何か分かったのか聞くとモニターに二つの映像が映し出される。

一つは、海辺近くに造られたと思わしき古びた工場ともう一つは、何処かの海岸で撮ったような海岸付近に出来た洞窟のようだ。

 

「また随分古い工場だな」

「まるで廃墟ですね」

 

工場を見た奏と未来がそう反応する。

二人がそう反応するのも仕方ない、映像に映る工場は彼方此方が錆びだらけで碌に手入れもされていないのが伺えるうえに窓も所々割れている。

最早打ち捨てられてるのは誰の目から見ても明らかだろう。

 

「正解だ、この工場は十年前に不渡りとノイズの出現で閉鎖された場所だ。近年では廃墟マニアや肝試しする若者ぐらいしか足を延ばす者はいなかったんだが…これを見て欲しい」

 

そう言うと、源十郎の声にモニターにもう一つの映像が映る。

先程と変わらない廃工場の絵だが、

 

「トラック?」

「それも一台は二台じゃないわね」

 

次に見せられた映像には廃工場を出入りする大型トラックが映る。

更には内部で働いてる人物も見えるが、奇妙な事に誰もが胸に赤いバラをつけている事だ。

 

「みんな胸に赤いバラを刺してるわね」

「おしゃれ…じゃなさそう」

「仲間の証ってやつか?」

「この者たちは皆、指定暴力団のグループだ。最初は取引にでも来てるのかとも思ったんだが…」

 

源十郎たちも最初に聞いた時は暴力団が何か取引でもするのかと思っていたがとある事情により自分たちがこの件を担当する事になる。

 

「! 止めてください、あのトラックをアップにして!」

「キミ、言う通りにしてくれ」

「は…はい」

 

一見、廃工場を再稼働させる為に来たのかと思っていた一同だが未来がある事に気付く。

源十郎もそれに賛同し、映像を操作している職員に命令する。

直後、一台のトラックが大きく映し出された。尤も、かなり離れた場所から撮ったのか映像は粗目ではある。

それでも、特異災害対策起動部二課にある装置は最新式もあり荒かろうが鮮明にも出来る。

 

未来の言う通り映し出されたトラックを拡大して点のようにしか見えなかった物が鮮明に見える。

誰もが汚れた後かと思っていた物はシンボルのような物だと分かった。

 

「横を向いた鳥のマーク?」

「何処かでみたような…」

                   「ショッカー…」

 

クリスもマリアもそのマークのに見覚えがる気がしたが思い出せない。それは、奏や翼、未来もそうだった。

そんな中、誰かが「ショッカー」と呟き皆が一斉に声の主の方を振り返る。

その先に居たのは響だった。

 

「それはショッカーがつけるマークです」

「! 思い出した! 戦闘員や怪人どもも腰に付けているベルトと同じだ!」

「ええ、私も」

「ショッカーか、やはり…」

 

続いてクリスとマリアも頷き翼もゆっくりと頷く。

そして、源十郎はもう一つである洞窟の方も拡大させる。

 

「洞窟? 何か入り口付近にあるけど…」

「あれ十字架じゃねえか!?」

「それに戦闘員もいる」

 

洞窟の入り口付近には幾つもの十字架が立てられており何人もの戦闘員が巡回している。

それだけ見ても、ショッカーにとってこの洞窟は重要なものだと推測出来た。

しかし、そこからが分からない。

 

「先日、行方不明になっていたウチの調査部のエージェントが警察に保護された。彼が言うには奴らが無関係な人間を何人も浚いこの洞窟に運んでるそうだ」

 

保護されたエージェントの報告でショッカーが誰彼構わず浚い洞窟に運んでいる事が分かった。

牢屋も複数あり、自分たちの方でも他にも数人のエージェントが拘束されている。

自分は、仲間のエージェントが騒ぎを起こし隙をついて逃げるのに成功したそうだ。

 

「…報告では、不定期気味に檻の人間が連れて行かれるそうだ。そして戻された者は一人も居ないと言う」

「ショッカーはそれだけの人間を浚って如何するつもりかしら?」

「奴らの事だ、どうせ碌な事じゃねえだろ」

 

浚われ連れて行かれた人間がどうなったかは分からないが、ショッカーの事でどうせ碌でもない事をしてるのは間違いないと言うクリス。

それは、その場にいる全員も頷く。

ショッカーの目的はこの世界を手に入れる事だ。その為なら他人の命など如何でもいいのが悪の組織であるショッカーだ。

 

「問題なのは、この洞窟は廃工場の真下にあるんだ。どっちを先に攻めてもその間にショッカーも迎撃態勢に入るだろう。…いや、エージェントが逃げた事で既に迎撃態勢に入ってるかも知れんが…」

「要は二か所の同時攻撃ね、丁度、装者も6人いるし二手に分かれた方が良いわね」

 

ショッカーに時間を与える訳にはいかない以上、洞窟と廃工場を両方攻める事になる。

幸い、シンフォギア装者も6人いる事で人手もある。その中には当然響も入っていた。

その所為か、クリスは面白く思わない表情をし、それに気づいた奏が響の肩に腕を回す。

 

「か、奏さん!?」

「響、同じガングニールのシンフォギア同士組もうぜ! ほら、翼も」

「奏!」

 

突然の事に驚く響に組もうと言い、翼にも腕を引っ張り抱き着く。

驚いて目が点となる響と、突然の奏の行動に顔を赤くしつつ溜息をつく翼。

 

「なら。決定ね」

 

奏の狙いに気付いたマリアがそう締めくくる。少し、クリスたちを見回した源十郎は何も言えなかった。

その後の決定により、海岸付近の洞窟はクリスとマリア、未来の三人。上の廃工場の制圧は奏と翼、そして響が決定した。

 

 

 

 

 

 

 

 




クリスの賭けは、響と二人で移動中にショッカーの襲撃と見せかけ響の態度を見るでした。
もし、響がショッカーの回し者でクリスを背後から攻撃すればマリアたちが即座に響を取り押さえるプランでした。

未来の証言を聞いてない訳では無いんですが、マリアも言っているように並行世界で何度か騙されてる(ベアトリーチェ曰く、勘違いらしい)ので簡単に警戒は解けてません。
それでも、今回の事で多少の信頼は得ました。

皆さんの中には「いや、響に謝れよクリス」と言う方もいますが、クリスが自主的に謝る理由が無いんですよね。
響の事は一応味方だと考え直しましたが、響の中にある金属やS・O・N・G本部を襲った響の正体も分かってないので。
響が正直に話せば良いと思いますが、響にとってショッカーに拉致されてる間は正しく思い出したくもないトラウマで、出来れば誰にも話したいとは思ってません。3話の源十郎たちに語った事すら響は内心嫌々でした。

次回は、ショッカーとの戦いが再び。


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115話 アジト強襲 地獄大使の罠

「俺の背骨が折れた…」
「人間には215本の骨があるのよ、一本ぐらい…え?」
MRI撮った結果…寝返りがキツイしコルセットがうざい

115話始まります


 

 

 

朽ちかけた工場から何台ものトラックが行き来する。

見る人間が見れば工場が再稼働したか、朽ちかけた工場の解体でもするのかと思うだろうが、工場の周辺はノイズ被害により放置された家屋しかない。

そんなところに一台の車から6人の少女が降りる。

 

「此処からは歩いて行動した方が良いわね」

「そうだな、ならアタシたちはこのまま工場付近まで行ってみる」

「私たちも海岸付近で洞窟に向かう」

 

マリアの声に奏と未来が答える。

乗用車ではこれ以上目立つため徒歩で向かう事にした。

見た限り、戦闘員が見張ってるという事はないが何処で見られてるかは不明だ。

 

そして、その場を移動する少女たちだが彼女たちは気付かない。

少女たちの動向を覗くように地面からカメラらしき物が延びていた事を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「フフフ…特異災害対策起動部二課どもめ、やはり来おったな」

 

クリスや響たちの目標であるアジト。

その内部では、指令室にて地獄大使がモニターを見ていた。モニターには二手に分かれるクリスたちの姿が映っている。

 

響たちは既に地獄大使に補足されていたのだ。

 

「む、立花響は洞窟の方には来んのか」

 

モニターには、クリス達が海岸付近に回り奏と響が少しずつ廃工場に近づく行動が映る。

立花響が洞窟に来ると考えていた地獄大使は当てが外れたと考える。

 

「まぁ良い、洞窟だろうと廃工場だろうと小娘どもが死ぬ事には変わらん」

 

そう言うと、地獄大使の表情は不気味に笑みを浮かべる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「早くこの荷物を片付けろ!」

「オーライ、オーライ!」

 

廃工場の内部はある意味、男たちが忙しく動いていた。

用意されたトラックに荷物を運ぶ者や廃工場に来たトラックから荷物を取り出す者まで厳つい顔をした男たちが文句も言わず働く。

一見、ただの労働者にも見えるが、何人かの戦闘員が指示する姿にただ事ではない事が伺える。

 

そして、一台のトラックが廃工場に侵入し停まる。

その途端、別の男たちがトラックの荷台から幾つもの木箱を持っていく。

 

「うへ~、連中嫌な顔をもしないで黙々と働いてるぞ」

「信じられないな…アイツ等の中には全国指名手配されてる組員も居る」

「…でも、どの人も目が虚ろですね」

 

トラックの荷台の天井で様子を見ていた奏たちがそう反応する。

彼女たちは少しずつ近づいていた途中、廃工場へと向かうトラックに気付きシンフォギアを纏いトラックの荷台の天井に着地したのだ。

内部では、予想通り戦闘員が男たちに指示を出しており、どの男たちも目が虚ろであった。

 

「あの目、やっぱ操られてるようだね」

「そうなると、斬るのは躊躇われるか…」

 

響の報告に奏も確認し翼が斬るのを躊躇う。

もし、この男たちがショッカーに組みし悪事を働いていたのなら奏も翼も躊躇はしなかっただろうが、仮にも二人は人類守護を根差す特異災害対策起動部二課の一員だ。

操られているだけなら助ける必要がある。仮にそれが反社側の人間だとしても。

 

「理想は戦闘員以外、全員気絶ですね…「侵入者だ、殺せ!!」!? もうバレた!」

「しょうがない!」

 

偶々トラック近くで作業していた男にヒソヒソ話が聞かれ三人の存在がバレる。

バレた以上は仕方ないとトラックの天井から降りる三人。

 

「立花響だと!? 直ぐに殺せぇ!!」

 

響の姿を確認した戦闘員が男たちに殺すよう指示をする。

すると、今まで作業していた男たちもその辺に置いてあったスコップやピッケルなどを持って響たちに向かっていく。

 

「殺せ」

「殺せ殺せ」

「殺せ殺せ殺せ」

 

「うわぁぁ…見事なまでに操られてるね」

「芝居でもなさそうだ」

「なら、やるしかないですね」

 

スコップやピッケルを握り「殺せ」と繰り返す男たちの姿に奏は苦笑いし、翼はアームドギアの剣を構え響が拳を握りしめる。

直後、奏たちは男たちの群れに突っ込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

海岸付近の洞窟付近。

立てられた十字架の間を歩き巡回する戦闘員たちが居たが、次の瞬間に一人の戦闘員が悲鳴を上げる間もなく倒れる。

付近の岩陰からクリス達が顔を出した。

 

「見張りは片付いたな、入るぞ」

「ええ…」

「…この十字架、不気味ですね」

 

見張りの戦闘員を片付けたクリス達は慎重に洞窟の入口へと向かう。

道中、未来が洞窟前に設置されている十字架を見て不気味だと呟く。

クリスもマリアも口には出さないが同意し、洞窟の中へと潜入する。

その時、マリアの頬に水滴がつく。

 

「冷たッ!?」

「雨か?」

 

クリスが空を見上げるとポツポツと雨粒が落ちてくる。

 

「そう言えば今朝の天気予報で台風が近づいてるらしいよ」

「なら、早く片付けた方が良いわね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…思ったよりは明るいわね」

「真っ暗よりはマシだけどな」

「内部は見事に人工物ですね」

 

洞窟の中に入ったマリアとクリスが感想を言い合う。

目立たない様にか洞窟の内部は灯りがセットされているが最低限の光しかなく思いのほか進み辛い。

それでも、未来の言う通り洞窟の入り口とは比べ内部の通路は完全に整備されていた為、躓くことはなかった。

 

「なあ」

「ん?」

「何?クリス」

 

思ったより静かなうえに戦闘員の妨害もない事でクリスが二人に声を掛ける。

 

「マリアと未来はあの馬鹿とソックリな奴を信用するのか?」

「なに、またその話?」

「クリス…いい加減認めてよ」

 

あの馬鹿とは当然響の事だ。

未だに疑ってるのかとマリアは呆れ気味になり、未来も内心頑固だなと思いつつクリスを窘める。

クリスとて最低限の信用はしているが、どうしても気になる事があった。

 

「だったら、アタシ等の世界の本部を襲撃したアイツは誰だよ?それにアタシは地獄大使の野郎と一緒にあの馬鹿が居たのも見てんだぞ」

「それは…」

 

クリスの言葉にマリアも未来も何も言い返せない。

映像でしか見てないが、映っていた響は自分たちの知っている立花響と瓜二つだ。

それこそ、この世界の二人の響も自分たちの知る立花響そのものだと言える。

 

「…きっとアレは響の偽物だよ!響は優しい子なんだよ、クリスだって知ってるでしょ!」

「私もそれに同意ね、ショッカーの怪人には人間に化けれる奴が居たわ。それこそ立花響に化けていた可能性がある」

 

マリアたちの声にクリスも納得はする。

監視カメラの映像や記録からは、余りにも自分たちの知る響とは思えない残虐な手や容赦がまるでない。

偽物と言えばクリスだって頷く。が、

 

「なら、どうやってギャラルホルンを起動させたんだ? マリアだけじゃアイツも行けない筈だし、シンフォギアだって本物のガングニールだって話だぞ」

「それは…」

 

クリスの問いにマリアは答えられなかった。

ギャラルホルンで並行世界に移動出来るのは何もシンフォギアだけではない、聖遺物に精通していればある程度は通れる。その点を考えれば本部を襲った響は聖遺物やシンフォギアに精通している人物が化けている可能性もあった。

しかし、エルフナインが調べたところ本部を襲った響のシンフォギアは本物だという結論が出ている。

 

「考えられるのは、ショッカーも聖遺物に対する技術を持っているか…程度ね」

「…まるで、もう一人の響がこの世界に居るみたいな違和感が…」

 

マリアと未来の呟きが洞窟内で消える。

クリスとしても此処で言い合っても解決しない事は分かってはいた。

結局は、地獄大使を確保するか、何かを知っている響が言わない限り、クリスたちが知る事は無い。

 

答えの無い会話をしていると、クリス達が感じていた圧迫感が薄れていた。

恐らくは狭い通路から少し広めの通路にでも出たのかとマリアが考えると、

 

「冷てぇ!?」

 

先頭を歩いていたクリスの悲鳴が聞こえると共に水の音がした。

 

「水…この辺りには海水が溜まっているのね。滑らないよう気を付けて」

 

急に自分の足が濡れたクリスはビックリして冷たいと言い、マリアが水に指を湿らせた後、感触と匂いで海の水だという事が分かる。

他の二人に足元に気を付けるよう言うと、海水の中を歩くマリア。

 

ガシャーン!!

「「「!?」」」

 

水の中を少し進んだ三人の耳に何かが落下した音がして振り向くと自分たちの通った通路が塞がっている。

「閉じ込められた!」そう感じた三人だが、周囲から幾つもの水しぶきが立つ。

 

「イーッ!」

 

「戦闘員!? 水の中に潜んでたの!」

「何でもアリだな、コイツら!!」

 

水の中から飛び出してきた戦闘員に直ぐに臨戦態勢をとるクリス達。

薄暗い中、黒いタイツの戦闘員の奇襲を受けるクリスたちだが、今更戦闘員に苦戦をするクリスとマリアでは無く次々と蹴散らしていく。

 

「やるな、次は俺様が相手をしてやる。 アビィィィィィィッ!!」

 

ある程度戦闘員を倒したクリス達の耳に男の声が聞こえると一際大きい水しぶきが上がり、明らかに戦闘員ではない者が出た。

青い体に左腕に巨大なハサミを付けた怪人が現れる。

 

「戦闘員と同じく水の中に潜んでた!?」

「見た目からしても海中の生物かもね」

 

「俺の名はシオマネキング、ショッカー強化改造人間の一人だ! アビィィィィィィッ!!」

 

「ご丁寧にどうも!」

「本当にコイツら自己紹介が多いな!」

 

シオマネキングが自身の名を言いクリスとマリアへと襲い掛かる。

当然、迎撃するクリス達だが彼女たちは気付かない。天井付近の換気口から赤い煙が出ているのを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同時刻、クリスがシオマネキングと対峙した頃、

廃工場の方では、

 

「ハアアアッ!」

 

「イーッ!?」

 

響の拳が戦闘員を殴り飛ばす。

壁にぶち当たった戦闘員はそのまま倒れ緑色の泡となって消えてしまった。

 

「響、そっちは終わったか?」

 

丁度、操られたヤクザたちをしばき倒した奏が響に声を掛ける。

奏の声に響が周囲を見渡す。戦闘員はすべて倒され操られていた人達も気絶し、暴れないよう縛られていた。

敵の姿は何処にも見えない事で響が「はい!」と返事をする。

 

その後、怪人に警戒する響と手掛かりを探す為、周囲を探索する奏と翼。

その時。奏が放置されている幾つかの木箱に目を向ける。

 

「翼、こっちに来てみろ!」

「!?」

 

ようやく倒れた男たちの全員を縛り上げた翼の耳に奏の呼び声が聞こえる。

 

「どうした、奏」

「コイツを見てみろ」

「これは!?」

 

奏は開けた木箱を翼に見せ、中身を見た翼は思わず絶句する。

中には、おがくずと共に黒く輝く金属…拳銃や様々な重火器が安置されていたのだ。

翼も手を突っ込み何かを握って取ると、それは箱に入った銃の弾丸だった。

 

「武器密輸!」

「それだけでもねえな」

 

そう言うと奏は武器が入っていた木箱に手を突っ込み奥の方へ何かを掴んで引っこ抜き翼に見せる。

それは袋に入った白い粉状の物。

 

「まさかそれは…」

「調べねえと分かんねえけど、おおかた麻薬だろうな」

「…後で叔父様に確認してみる」

 

奏の言葉を聞いて翼は冷や汗をかく。

防人とはいえ翼は若く知識も薄いが、公安で働いていた源十郎に見せれば直ぐにわかるだろう。

武器密輸に麻薬の密輸、単純に男たちが取引でもしたのかとも考えるが、この場に居る男たちは完全に操られている。

仮に事情聴取をしようが、操られている間の記憶があるか怪しい。

 

「翼さん、奏さん!」

 

その時、周囲を警戒していた響が二人の名を呼ぶ。

一旦、武器や白い粉を木箱に戻し、二人は響の方へ向かう。

そう離れてない場所に響は居り、その前には木箱ではない紙で包まれてる幾つもの荷物が置かれている。

その内の一つが破かれて中身が見えかけていた。

 

「立花響、何か見つけたのか?」

「…これを」

 

何か見つけたのか響に翼が聞くと握っていた物を翼に手渡す。

一見、少し重いが手触りからして武器の類ではないと直ぐに分かり見ると、翼の額から汗が流れる。

 

「どうした翼、…札束? 奴らの資金か?」

 

翼の手には万札の札束が握られている。軽く翼が札を何枚か抜き取りそれが一枚のダミーではない事を確認する。

何処からこれだけの大金を持ってきたのか不思議に思う奏。

 

「よく見ろ、奏。()()()()()()()()

「番号?」

 

翼に言われ、奏は改めてお札に刻まれている番号に目を通す。

お札には偽造防止の番号が刻まれ透かすと薄っすらとお札に描かれている人物が写る。余談ではあるが日本の紙幣は偽造防止技術は世界一らしい。

 

「どれも番号が全て同じ…偽札かよ!?」

「ただのコピー札でもない、かなり巧妙な偽札だ。下手に世間に出まわれば発覚は困難だぞ」

 

翼の言葉に奏も額に汗を浮かべる。

ノイズ憎しで特異災害対策起動部二課に入ったが、腐っても特異災害対策起動部二課は行政機関。その手の話は幾らでも聞いてきた。

序に言えば、偽札が包まれていた紙の荷物は十や二十は軽く超えている。

 

偽札もそうだが、武器や麻薬も放置は出来ない。これらが一斉に国内に出回れば日本は大混乱に陥る。

奏の反応を見て直ぐにでも源十郎たちに知らせようとした翼だったが、

 

「ギャアアアアアアアアアアアアッ!?」

 

「「「!?」」」

 

静寂だった現場に男の野太い悲鳴に三人が一斉に振り返る。

場所は、翼が拘束した男たちに居る場所だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「止めろ、止めてくれ!」

 

「バラランガが操った人間が正気に戻ったか、だが構わんお前も死ねぇ!!」

 

響たちに取り押さえられた時に落ちたのか、胸から赤いバラが抜けた男は目の前の怪人に命乞いをする。

尤も、他人の命など欠片も気にしない怪人には命乞いなど意味がないとばかりに右腕の白い触手が男の首に巻き付く。

悲鳴を上げる間もなく、電流が男を焼き尽くす。数秒もせずに男は黒い灰となってしまった。

 

「間に合ったか!?」

「ダメだ、全滅している!」

 

丁度そこへ、男の悲鳴を聞きつけた奏たちが駆け付けたが、其処には翼たちの捕らえた男たちの焼死体しかなく、傍には嘴の様な物が飛び出し体中には白い骨のような模様と左腕の骨の様なハサミをした怪人が居る。

 

「お前がやったのかぁ!」

「ワタシの知らない怪人…」

 

「その通り、俺の名はシードラゴン! 此処が貴様らの墓場だ、イィィィィ∹ーーーーーチィッ!!!」

 

翼が剣を向け言うと、怪人シードラゴンが雄叫び声を上げ左腕のハサミを向ける。

同時に奏も腕のパーツを合わせ槍を出し、響も拳を構える。

 

「二人とも落ち着けよ、相手は一人だ「ニィィィィーーーーーーーーーチィ!!」…!?」

 

シードラゴンを見て翼と響に声を掛ける奏だが突然の殺気に後退する。

直後に、奏の居た場所が轟音が響きコンクリートの床が砕ける。

 

「新手か! …なッ!?」

「同じ怪人…「タァァーーーーーツッ!!」!?」

 

奏も響も襲撃してきた相手を見て驚いた。

奏の前には目の前に居たシードラゴンと瓜二つの怪人が存在したのだ。いや、左腕だけ微妙に違ってはいたが…

そして、驚く響に上から雄叫びが聞こえると共に殺気を感じ自分の頭の上を腕でクロスするようにガードする。

直後、衝撃が響の腕を襲った。

 

「さ…三体目!?」

 

何とか、腕を振り弾き飛ばすが着地した怪人の姿を見て思わず口に出す響。

響の言う通り、襲い掛かって来たのは奏の時と同じシードラゴンの姿が、三体のシードラゴンに囲まれる響たち。

 

「囲まれたか!」

「落ち着け、翼!囲まれたとはいえ数はイーブンだ、勝ち目は十分…」

 

「愚か者が、何時俺たちが三体だけだと言った!? 貴様には聞こえんのか?この声がな!!」

 

奏の言葉を遮ってシードラゴンの一人がそう言い放つと共に奏たちの耳に何かが聞こえてくる。

 

アフアフアフアフ       ブルルルルル

         オオオーゥ

                       ボアボアボアゥ

 

「うわああ…」

「辺り一面から声がする!」

 

廃工場内で聞こえる不気味な声に響は察しがついたのか頭を抱え、翼と奏が周囲を見渡す。

次の瞬間には、何処からともなく人影が現れ、奏たちに殺気をぶつける。

 

 

 

 

 

「プラノ…

 

 

 

~~~怪人たちの名乗り 以下省略~~~

 

 

 

 

 

…ゲ男!!」

「どうだ、これだけの怪人軍団の前に同じことがほざけるか!?」

 

奏や翼、響が周りを見渡す。

何十という怪人が自分たちを取り囲み蟻の這い出る隙間もない。即ち、逃げるのは不可能と言っていい。

奏たちも死角をカバーしあいつつ何時でも戦えるよう体勢を取る。

これには奏や翼は愚か、響すら額に汗を浮かばせる。

 

「かかれぇぇーーーーーーっ!!!」

 

シードラゴンの掛け声に怪人たちが一気に響たちへと迫る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同じ頃、

 

挨拶無用のガトリング

ゴミ箱行きへのデスパーリィー

One, Two, Three 目障りだ

 

クリスの歌が洞窟内に響き、アームドギアであるボーガンを使いシオマネキングに撃ち込む。

傍らにはマリアと未来もクリスの援護を行い伸ばした蛇腹剣や小さな鏡からレーザーを出す。

 

「アビィィィィィィッ! そんなへなちょこな攻撃が俺に通用するか!!」

 

ミサイルの雨あられを喰らったが、煙の中からそう言い放ちシオマネキングが出てくる。

クリスたちの攻撃は全てシオマネキングに直撃するが、その体には傷一つない。

 

ドタマに風穴欲しいなら

キチンと並びなAdios

One, Two, Three 消え失せろ

 

それでも諦めず、アームドギアをガトリング砲に変えたクリスが一斉射撃をシオマネキングに撃ち込む。

更にマリアも蛇腹剣を短刀に戻しクリスの前に出てシオマネキングを翻弄する。

だが、それでもシオマネキングがダメージを受けたようには見えない。

 

━━━まるで効いてねえ…強化改造人間てのも伊達じゃねえって事か? それにしても体力が何時も以上に持ってかれてる気が…

 

ふと、クリスはマリアと未来を交互に見た。

二人はクリスと同様、息を切らして汗を流し、まるで長時間戦ったかのように疲労している。

 

━━━やっぱおかしい、マリアも未来もいつも以上に疲労している。 それに心なしか何時もの様な攻撃が出来てねえ気が…待てよ、前にもアタシは同じ経験をした気が……!

 

その時、クリスに電流が走る。

目の前にシオマネキングが居るのも関わらず、クリスは周囲の壁を見渡し天井にも目を向けた。

 

━━━やっぱり!

 

「マリア、未来、気をつけろ!Anti LiNKERだ!」

「「!?」」

 

天井の通風孔から赤い煙を見つけたクリスがマリアも未来にAnti LiNKERが使われている事を叫びマリアも未来もも驚いた。

何時もより疲労が強く、アームドギアの攻撃が何時も以上に下がっている気はしていたが、ショッカーがAnti LiNKERを持っているなど夢にも思っていなかった。

それは、クリスも同様である。

 

『ようやく気付いたようだな、雪音クリス』

 

「「「!?」」」

 

その時、何処からともなく地獄大使が響く。

ふと、壁の角の方に目をやると何時の間にか出ていた拡声器らしき物が設置されている。

地獄大使の声もその拡声器からしていた。

 

『だが一つ間違ってるぞ、雪音クリス!』

 

「…間違ってる?」

 

『それは、我らショッカーが改良を施したAnti LiNKERを超えたAnti LiNKER、名付けて「アンドロガス」よ!』

 

「アンドロガス?それは一体…!」

 

地獄大使からアンドロガスの情報を聞いてAnti LiNKERとどう違うのか聞こうとした瞬間だった。

クリスやマリア、未来のシンフォギアが粒子となって散っていく。

そして、

 

「アビィィィィィィッ…ほう、ピンクか」

 

「な!?」

「いやああああああああああああああああああああああ!!」

 

マリアは絶句し、クリスは驚愕の声を出して未来に至っては悲鳴を上げ手で胸元を隠しつつ身をかがめてしまう。

何故なら、彼女たちは一糸まとわぬ全裸になっているのだ。いや、ペンダントであるシンフォギアのギアだけネックレスとして残っていた。

未来に遅れて、クリスもマリアも胸元を手で隠す。

 

『実験は成功だ。これでシンフォギア装者はただの小娘よ』

 

アンドロガス

それは、Anti LiNKERに目を付けたショッカーが更なる改良を加えた新型のAnti LiNKERだ。

シンフォギアを纏っていようと、少しでもアンドロガスを吸えば性能は減退し、やがては纏っているシンフォギアも消え全裸の女が残る。

武装解除しつつ、目障りなシンフォギア装者を始末する為に造られたのだ。

 

『シンフォギアを失った貴様らは最早戦えまい、大人しくするのだな』

「こうなれば、お前たちはただの女だ。アビィィィィィィッ!!」

 

シンフォギアを失い、戦う力を無くしたクリス達を見て勝利の雄たけびを上げるシオマネキング。

目の前に居るのは戦う力を無くした裸の女でしかない。そう思っていたのだ。

 

「クッ、女だからって舐めて貰っちゃ困るわ!!」

 

「!?」

 

そんな態度の腹を立てたのか、それとも自信があったのかマリアは羞恥心を捨てて裸でシオマネキングに殴りかかる。

不意打ちもあり、油断していたシオマネキングは、顔や体にパンチや蹴りを受ける。

尤も、シオマネキングは微動だにせず、マリアの髪を掴み壁に叩きつける。

 

「がっ!?」

「マリア!」

「マリアさん!!」

 

マリアがアッサリ制圧されたことにクリスと未来がマリアの名を叫び、クリスが加勢しようと動くが、

 

「イーッ!!」

「イーッ!」

 

「クッ…まだ戦闘員が」

 

戦闘員に囲まれ二人とも身動きが取れなくなる。

そうしてる間にも、シオマネキングの左腕のハサミがマリアの首に触れる。

 

「そんなに死にたいのなら殺してやる!先に地獄に行けぇ!アビィィィィィィッ!!」

 

そのまま、シオマネキングのハサミがマリアの首を切断しようと開きゆっくりと閉じていく。

マリアがシオマネキングがゆっくりと自分を殺そうとしてる事に気付き、頭部の痛みも無視して両手でシオマネキングのハサミを押さえようとするが、女の力ではどうしようもない。

遂には、ハサミで切ったのかマリアの両腕から血が流れる。

このままシオマネキングのハサミがマリアの首に食い込む。

「マリアァァァッ!!!」

「マリアさぁぁぁぁんッ!!」

 

 

 

 

『待て、シオマネキング』

 

 

 

 

 

しかし、其処で待ったをかけた者がいた。

地獄大使だ。

首に食い込むハサミの感触が薄れゴホゴホと咳をするマリアに歯を食いしばるクリスと涙目になっている未来。

三人は、地獄大使の声のする拡声器に注目する。

親切心や心を入れ替えたとは到底思えないが地獄大使の次の言葉を待った。

 

『気が変わった、その三人を悪魔祭りの生贄にする。連れて来るのだ!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ショッカーって様々な作戦や暗躍をしてますが偽札とかには手を出してませんでしたよね?

怪人たちの名乗りもしつこいかと思い省略しました。響は響で再生怪人の相手はウンザリしてます。

罠の方ですが、洞窟を進めばアンドロガス。廃工場は怪人軍団の待ち伏せとなっています。

本編だとG編以降、姿を消したAnti LiNKERですが、ショッカーなら喜んで使うだろうなと思います。(XDは知らん)

ギアを破壊されない限り、シンフォギアが解けると着ていた服装に戻りますが、アンドロガスは元に戻る衣服の再生すら阻害して装者を素っ裸にします。

本編のショッカーですと、裸にひん剥いた記憶は無いんですけど、何故か似合ってる気がする。

裸のマリアたちの前にシオマネキングと、絵面は最悪ですが、

最後に、原作から改変されたアンドロガスの設定でも



アンドロガス

原作では改造人間の肉体組織を破壊する毒ガスだった。

この作品では、ウェル博士から渡されたAnti LiNKERを元にショッカーが開発を進めた対シンフォギア装者用毒ガス兵器。
吸い込む事によりシンフォギア装者が歌う事で発生するフォニックゲインを分解し最後にはシンフォギアも纏う事は不可能になる。服の再構成も阻害し装者を丸裸にして無力化させる。
更に吸い続ける事で歌おうが長時間のフォニックゲインを生み出す事は出来ずシンフォギアも纏う事は出来ない。
今はまだ無理だが、何れはシンフォギア装者の肉体組織も破壊出来るよう改良する事を地獄大使は考えている。



共通点は赤しかなさそう。

因みに、特異災害対策起動部二課やシンフォギア装者が廃工場を見逃していれば、密輸された武器や麻薬、偽札をバラ撒いて日本は大混乱に陥りました。


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116話 あ、マリアたちが生贄に! 蘇る怪人たち

この度、シンフォギアXDで仮面ライダー555がコラボしました。
珍しくギャラルホルンとか異世界系のクロスではなく同一世界の設定っぽいです。

感想は色々ありますが、いっそ仮面ライダーSPIRITSともコラボしないかな。
響たちと戦うデルザー軍団を見たい。


 

 

 

まぼろし? 夢? 優しい手に包まれ

眠りつくような 優しい日々も今は

 

奏の槍が戦闘員を切り捨て、ジャンプすると槍をぶん投げる。

ぶん投げられた槍は翼を襲っていたサラセニアンの横っ腹を貫きサラセニアンはアッサリとこと切れ溶けて消える。

 

「奏、ありがとう!」

 

助けられ礼を言う翼に奏が頷く。

歌ってる故に喋れないのもそうだが、同時に喋ってる余裕もない。

 

儚く消え まるで魔法が解かれ

すべての日常が 奇跡だと知った

 

「死ねぇーーーツ!!」

 

刺突剣を持った蜂女が奏に襲い掛かる。

寸前で、槍を引き抜いた事で迎撃に成功するが、蜂女の剣さばきに肩の肉が少し抉られた。

 

「奏ッ!」

 

奏が傷つけられた事で翼が加勢に入る。

翼の剣が奏を猛追していた蜂女の刺突剣とぶつかり火花を上げる。

 

「ハッ、お前が並行世界の風鳴翼だろうが知った事か! 死ねぃ!」

 

「今度は私に恨みのある怪人か!?」

 

蜂女の怨念の籠った声に翼も、何となくだが並行世界の自分に恨みを持っている事がわかる。

同時に、クリスとマリアに出会った時のドクガンダーの言葉に戸惑っていた気持ちも何となく分かった。

横目で見れば奏の方も刺突剣を持ったキノコモルグとドクモンドの両方を相手している。

直ぐにでも加勢したいが、

 

「つ…強い!」

 

蜂女の刺突剣の腕に翼も苦戦する。

ノイズを相手にしていた時とは比べ物にならない程の剣の実力者だと考える翼。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「オオオーゥ!! 死ねぇ、立花響!!」

 

「!?」

 

一方、翼と奏からそんなに離れていない距離で遠距離攻撃してくるアマゾニアを倒した響の耳に不気味な鳴き声と殺気を感じ振り返る響。

其処には、自分を殺そうと右腕の剣を振り下ろすモグラングの姿が、

回避が間に合わないと感じた響は、咄嗟に左腕でモグラングの剣を止める。

 

「チッ、これならどうだ!」

 

攻撃が止められたモグラングだが、ならばとシャベル状の左腕を響に振り下ろす。

響も残った右腕でモグラングのシャベル状の腕を受け止め握る。これで響はモグラングの動きを封じるが、

 

「調子に乗るな小娘ッ!俺の力で潰してやる!!」

 

「ウグッ!?」

 

両腕を掴まれた響にモグラングは渾身の力で響を圧し潰そうとする。

その証拠に、響の立っているコンクリートにヒビが入り足元が砕ける。

普通の人間ならばとっくの昔にコンクリートの染みになっている。

だが、響は額に汗を浮かばせ耐えていた。

 

━━━前に再生された時より力が上がっている。早く決着をつけないと…痛っ!?

 

攻撃を止める事に成功した響だが、モグラングの予想以上のパワーに長くは持たないと焦る。

だが、次の瞬間には背中への痛みに集中力が乱れかける。

 

「アララララララララ、俺の電磁鞭で死ねぃ、立花響!」

 

「ナマズギラー…」

 

響が背後に目を向けると、其処には嬉々として電磁鞭を振り下ろすナマズギラーの姿が映る。

直後に、響の背中に再び衝撃と電撃が襲う。

 

「アグッ!」

 

「終わりだ、立花響。元の世界の仲間にも会えず死んで行け!!」

 

━━━ワタシが死ぬ?元の世界にも帰れず…未来やクリスちゃん達にも会えず…死ぬ? …イヤだ…そんなの嫌だ!!

 

「ヌッ!?」

 

モグラングは自身の異変を感じた。響が掴んでいる両腕が奇妙な音がすると共に響の腕の力が強まる。

危機感を感じたモグラングが響から距離を取ろうとするが、響に掴まれた腕がビクともしない。

よく見れば、響が掴んでいる腕部分からヒビが入っている。

 

「は、放せ!放せぇ!!小娘が!!」

 

「負けない…お前たちなんかに…!」

 

モグラングの怒号に反応もしない響だが、モグラングの腕が悲鳴を上げる。

ヒビが大きくなり、遂には右腕の手首が握りつぶされ左腕のシャベル部分が砕ける。

 

「負けるかああああああぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーッ!!!!!」

 

両腕を破壊されたモグラングは最後に自分に迫る響の拳だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アビィィィィィィッ、とっとと歩け!」

「歩くスピードが遅いぞ!」

 

「痛っ!!」

「おい、未来に手を出すなぁ!!」

 

一方、その頃

地獄大使の罠によりシンフォギアから裸になってしまったマリアたちは手を縛られシオマネキングが先導する形で歩かされていた。

彼女たちは先の戦闘から羽織る物すら貰えず歩かされ後ろで鞭を持った戦闘員が見張っている。

遅れてるのか暇つぶしか、鞭を持った戦闘員は定期的に最後尾の未来の背中を叩きその度にクリスが未来を庇う。

尤も、繋がれている以上物理的に庇う事も出来ず口しか出せない。

 

━━━小日向未来の消耗が思ったよりも激しいわね、だいぶ歩かされてる上に裸同然の状態じゃ無理がないわね。幸い、アンドロガスが出た場所からだいぶ距離が離れたしギアも奪われてはいない。今なら…

 

Seilien coffin airget-lamh tron

 

Killter Ichaival tron

 

マリアが再びシンフォギアを纏う為聖詠を歌い、クリスもそれに続く。

裸にはされたが、シンフォギアの要であるギアはペンダントとしてまだマリアたちの胸元にある。

このままシンフォギアを起動させようとするが、

 

「…なっ」

「ウソだろ…」

 

しかし、聖詠を歌ったはずのマリアとクリスはシンフォギアを纏うどころか裸のままだった。

これには未来も唖然とした表情で二人を見る。

 

「聖詠を歌ったのにどうして…」

 

「アビィィィィィィッ! 馬鹿め、我らが何も考えずギアをお前たちから取り上げなかったと思う!?」

 

戸惑うマリアたちにシオマネキングが馬鹿にするように言い放つ。

その言葉に、視線がシオマネキングに向かう。その人外の顔は何処までも不気味であり心なしか笑みを浮かべてるようにも見えた。

 

「アンドロガスは暫く体内に残りフォニックゲインの生成阻害する。お前たちは暫く変身できんのだ」

 

「なんだって…」

「そんな…」

 

シオマネキングの言葉にクリスも未来も絶句する。

今までもクリス達S・O・N・Gは様々な敵と戦ってきたが此処までシンフォギアをメタる敵はそうはいない。

それだけショッカーも本気だという事だ。

 

「あら、つまり時間が経てばシンフォギアも纏えるってことね」

 

だが、マリアだけは冷静にシオマネキングに言い返す。

シオマネキングの言葉が本当なら、もう二度とシンフォギアを纏えないという訳ではない。

時間さえ絶てば自ずとシンフォギアを纏える筈だ。

 

「アビィィィィィィッ…そんな時間があればいいな。そら、着いたぞ地獄大使がお待ちだ」

 

目的地に着いた事をシオマネキングがマリアたちに教える。

目の前には薄暗い中、不気味に佇む扉がありゆっくりと開く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これはこれは、暫くぶりだな雪音クリスにマリア・カデンツァヴナ・イヴ。そして初めましてかな?小日向未来」

 

「「「!?」」」

 

扉を開けた先には、地獄大使がようこそと出迎える。

だが、その姿の割に地獄大使から受ける圧を感じる3人。

マリアとクリスは改めて地獄大使を見て背中に鳥肌が立ち未来に至っては自然と涙が流れる。

未来と違い経験豊富な筈のクリスとマリアすら言葉を詰まらせ何も言えず地獄大使を睨む事しか出来ない。

 

━━━コイツ…ここまで気迫が…

━━━ウロボロスのメンバーと比べても勝るとも劣らないわね

 

「わざわざショッカー墓場にようこそ。同時に此処がお前たちの墓場になる」

 

「へっ、どの怪人もそう大口叩いてアタシ等に倒されたんだ」

「アナタの望み通りになると思わない事ね、地獄大使」

 

何とか、地獄大使の気迫を跳ね除けそう言い切るクリスとマリア。

それに対し、地獄大使は口の端を吊り上げクリスの頬に鞭を押し付ける。

 

「ふん、並行世界の人間とは言え貴様たちは変わらんな。だが、その減らず口ももう直ぐ言えんようになる。それに…」

 

地獄大使がカギ爪状の左腕でクリスのペンダント状のギアを引き千切る。

それに合わせたかのようにマリアと未来のギアも戦闘員に引き千切られ地獄大使に渡された。

 

「返して!」

 

未来が返すよう言うが、当然地獄大使は無視する。

 

「これで、もうお前たちはシンフォギアを使えん。お前たちの運命はショッカー墓場の生贄になるしかない」

 

「イケニエ…?」

「どういう意味だ?」

 

クリスの言葉に地獄大使は何も言わずスッと左腕のカギ爪状の腕で何かを指し示す。

クリス達が刺された方に視線を向け…ゾっとした。

幾つもの骸骨が組み込まれ中心部には不気味な目玉が点滅する十字架があったのだ。

そして、十字架の前には人一人が眠れる台がある。

 

「祭壇か?」

「もはや、邪教の類ね」

 

思わずマリアが呟く。

ロボットやら宇宙人やら巨大な蛇と言った物は見て来たクリスもマリアも此処まで不気味で禍々しい物は見たことがない。

何より悪趣味だとしか言いようがない。

 

「こ…こんなの怖くない! きっと響や翼さんが直ぐに来てくれる!」

 

不気味な圧に押されながらも未来は声を振り絞る。まるで自分に言い聞かせてるようにも見えた。

クリスもマリアも口には出さなかったが、廃工場を制圧すればこっちに加勢に来ると読んでいる。

尤も、それを聞いた地獄大使は鼻で笑う。

 

「ならば、上の立花響どもの様子でも見てみるか」

 

そう言うと、地獄大使は裸で縛っているマリアたちを引き連れ用意していたモニターの前に連れて来る。

そして、モニターのスイッチを入れると、上の廃工場で戦う響たちのようすが映った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、地上の廃工場内では響、奏、翼が並み居る怪人たちとの死闘が続いている。

奏の槍がハエ男をぶん殴り、翼の剣が蜂女の刺突剣を弾き飛ばし、響の肘鉄がナマズギラーに食らわせ、パンチがセミミンガを殴り飛ばす。

 

「ちっ、何をしている!囲め、囲めぇ!!」

「相手はたったの三匹だぞ!」

 

シードラゴンの一人がそう言い放ち、毒トカゲ男もそれに続く。

だいぶ、奏と翼の息も上がっているが怪人たちも当初の三分の一が既に倒されている。

奏と翼が互いの死角をカバーし、響がひたすら拳で怪人を殴り飛ばす。

決して、チームワークが良いとは言えないがそれでも再生怪人を倒すには十分であった。

 

「アイツ、アタシ等のサポートが無くてもやるな」

「随分と戦い慣れている?」

 

一見、響の戦い方はかなり荒っぽく見えるが、奏や翼たちの目では怪人相手にうまく立ち回り攻撃を避け反撃でダメージを与えている。

数は未だに怪人たちが圧倒しているが、着実に響たちの方に傾いている。

 

「クオォォォォ!!」

 

「危ない!」

 

「勝てる」そう感じていた奏と翼の耳に一際大きい不気味な鳴き声が聞こえる。

奏の「危ない」と言う声に翼も何かが自分たちに迫っている事に気付き、二人は咄嗟に横に飛ぶように避ける。

直後、奏と翼が居た場所で爆発が起こった。

 

「翼、無事か!?」

「なんとか、今のはいったい…」

 

「クォーーーッ、俺のロケット弾を避けたか。生意気な!」

 

「「!?」」

 

声のした方に二人が視線を向けるとプラノドンが二人を睨んでいる。

翼も目撃した自分たちに迫る物はプラノドンの放ったロケット弾だったのだ。

二人は直ぐに態勢を立て直しプラノドンに身構える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よし、地上の戦いは先輩たちが押してる!」

「これなら響たちも直ぐに此処に来れるかも!」

 

モニターで廃工場内の戦いを見たクリスと未来がそう反応する。

マリアも口には出してないが、地上は響たちが有利に戦いを進めているように見えホッと胸を撫でおろす。

そして、同じくモニターに目を通している地獄大使に視線を向ける。

 

「ご自慢の怪人たちも次々に敗れているようだけど、大丈夫かしら?」

 

「…確かに怪人たちが倒され減っているな、()()()()()()()()()

 

マリアとしては嫌味の一つでしかなかった。

少しでも、地獄大使が苦虫を噛み潰した表情し怒鳴りつけるかと思っていたが、マリアの予想に反し地獄大使は笑っていた。

それがマリアには不気味な事に思えるぐらいに。

 

「おい、直ぐに残った生贄を連れて来い!シンフォギア装者にも自身の末路を見せてやる」

「イーッ!」

 

地獄大使の命令に戦闘員が返事をし、間もなく二人の戦闘員が一人の男を連れて来る。

その男もまた、ボロボロになった黒い制服を着た男だった。

 

「おい、アレって…」

「特異災害対策起動部二課の職員…」

 

マリアたちの脳裏に源十郎が言っていた行方不明になったエージェント達の話を思い出す。

現に戦闘員に連れられている黒服もエージェントであり、仲間を逃がすために騒動を起こし半殺しにされたのだ。

 

そして、黒服は戦闘員によって骸骨で出来た十字架の前に置かれた祭壇に寝かされる。

 

「何をするつもり!」

 

「今から見ておるがいい、悪魔祭りをな!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「祭壇の悪魔の霊を生贄に移したまえ、カイダンメカケエトセトラカイダンメカケエトセトラカイダンメカケエトセトラカイダンメカケエトセトラオンキリバサラオンバッタ、オンキリバサラオンバッタ…エロイムサイムエロイムサイム…ジョゲムジュゲムゴウコウノスリキレカイジャリスイギョスイギョウザ!」

 

縛られたマリアたちは一部始終見ていた、否。見せられていた。

地獄大使を始めとした戦闘員もシオマネキングも地面に膝をついた後に両手で円を描くように振い不気味な呪文を言い続ける。

直後に、室内にも関わらず雷鳴と雷光が辺りに響き未来が思わず「キャッ!?」と言ってしまうがそれを気にした者は一人もいない。クリスもマリアも地獄大使の呪文に釘付けだ。

そしてマリアたちが気付いた時には祭壇で寝かされていた黒服は跡形もなく消え、代わりに骨で造り上げられていた十字架付近に人影がいる。

 

「ウルルルルルルッ!!」

「ブリュリュリュルリュッ!!」

 

「なっ!?」

「ウソだろ…」

 

マリアもクリスも何度目かの絶句し目見開いた。

何故なら、其処に居たのは自分たちが倒した筈の怪人、海蛇男とシラキュラスだったのだ。

 

「そんな…」

 

これには未来も絶望した声を漏らす。

映像やクリスに聞いた限り苦戦しつつやっと倒した怪人が目の前にいるのだ。

同じ怪人を用意したにしろ、あれだけ強い怪人を隠している理由はないと考えたクリスとマリアの脳裏に嫌な答えが浮かぶ。

 

「見たか?これが怪人復活の儀。悪魔祭りだ」

 

最悪な事に、その答えは正解であったことだ。

 

「…怪人復活の儀」

「悪魔祭りってそういう意味!?」

 

此処に来てマリアたちは地獄大使がバスごと人間を浚っていた理由が分かった。

生贄の確保。それだけだったのだ。

 

「…テメェー、怪人たちを蘇らせるのにいったい何人の関係ない人間を生贄にしやがった!」

 

「ふっ、それに答えてやる義理がワシにあるのか?雪音クリス。貴様らの命ももう直ぐ悪魔祭りに捧げ上の立花響を始めとした三匹も生贄にする、そうすれば倒された怪人たちは全て蘇るのだ!」

 

「怪人が…」

「…全て…」

 

クリスの怒号もなんのそのと返事をする地獄大使。

尤も、地獄大使の返答に言葉を失う二人。

自分たちの命を使って怪人が全て蘇れば、最早対抗する術はない。

一応、風鳴訃堂がいるが幾ら強くても数が居ては何れは圧し潰される。この世界にキャロルや結社が居るかどうかも分からない以上、何としても地獄大使の悪魔祭りを止めなければならない。

 

━━━…だけど

━━━…どうすれば…

 

だが、止めようにもギアを奪われクリスもマリアも未来も生身でしかない。ついでに言うと裸だ。

これではどうしようもない。

 

「だが先ずは確保した生贄どもを先に使う、海蛇男、シラキュラス、お前たちは上で戦う怪人どもに混ざれ!次の生贄を用意しろ!」

「イーッ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ギェェェェェェェェェ!?」

 

響が拳を連打し、耐えきれなくなったヤモゲラスが悲鳴を上げ倒れ爆発する。

翼も剣でキノコモルグを両断し、奏も槍でドクダリアンの一つ目を貫いた。

 

「ハア…ハア…後どの位だ!」

「ハア…見える範囲なら10体程度…」

「もう少しで怪人たちも全滅です」

 

響たちの反撃で次々と敗れる再生怪人たち。

奏も翼も息が上がってきているが、既に怪人たちも数える程度。

このままいけば勝てると思った三人。

 

「!? 避けろっ!」

「「!?」」

 

そんな中、何かに気付いた翼が怒号を上げその場からジャンプする。奏も響も翼につられその場を離れる。

直後、翼たちの居た場所に赤い液体が付着し床のコンクリートが音を立てて溶けていく。

 

「新手かい!」

「…何だと!?」

「翼さん?」

 

周囲の怪人を警戒しつつ、赤い液体が降って来た場所に目をやる。

廃工場の天井付近の鉄骨に何者かが乗っており、ソイツが赤い液体の犯人だと睨んだ奏と響。

尤も、翼はその人影を見て顔を青くし背筋が凍った。それを見て翼を呼びかける響。

何故ならば、

 

「何故、貴様が其処に居る!?シラキュラス!!」

 

あの顔や体につく丸いブツブツ、頭部からは腕のようなハサミが生え左腕に注射器のような針を持った怪人。

あの病院で倒した筈のシラキュラスが目の前に立っているのだ。

それだけではない、

 

「…マジかよ」

「…ッ」

 

奏も思わず声を出し、響も苦虫を噛み潰した表情で舌打ちをする。

シラキュラスの横にいた人影が目に入ったのだ。

 

「ビリュリュリュリュリュッ、久しいな立花響!!」

「ブゥゥーーーヨォォォォンーーーーッ!地獄の底から蘇ったぞ!!」

 

廃工場に設置された伝統に照らされ人影の正体が見えた。

其処に居たのはシラキュラス同様、倒した筈のエレキボタルとモスキラスだった。

 

「…なんの悪夢だよ」

「悪夢なら冷めて欲しいな…」

 

倒した敵がまた目前に現れる。

響は慣れている方だが、翼と奏は初めての体験故動揺が隠し切れない。

しかし、響としても腑に落ちない事がある。

 

「エレキボタル、この短時間でどうやって再生した!」

 

響がエレキボタルを撃破して、そんなに時間は経っていない。

過去にも、再生怪人が軍団で来た時も倒したばかりの怪人は再生が間に合わず来なかった事もある。

にも拘わらず、倒したばかりエレキボタルが目の前に居るのが不思議だったのだ。

 

「知りたいか!立花響!!」

「地獄への手土産に教えてやる!俺たちは地下のショッカー墓場から蘇ったのだ!!」

 

「ショッカー墓場…?」

 

「そうだ、そして地獄大使の悪魔祭りで人間どもを生贄にし俺たちは復活した!」

 

モスキラスの言葉に翼が「生贄!?」と叫ぶ。

同時に今まで捕まった人間はこの為に浚われたのだと確信する響たち。

 

「言っておくが、地下で地獄大使が悪魔祭りを行う限り俺たちは何度でも蘇るぞ!」

 

キィィィリィィィ       アララララララララ

             フワフワフワ

                           ケケケケケケケケケ

 

響たちの耳にまたもや不気味な声が響いてくる。

同時にシラキュラスがそう宣言すると物陰から次々と人影が現れる。

そして、姿を確認すると共に翼たちは眼を見広げる。

 

「カミキリキッドにサイギャング、ギリーラ!」

「それだけじゃねえ、さっき倒した蜂女にサラセニアン、毒トカゲ男までいるぞ…」

「倒した怪人がこんなに早く…」

 

数が減り形勢が逆転したかと思っていた三人はまったくそんな事が無かった事を噛み締める。

有利どころか、寧ろ数は殺気よりも増えつつある。

 

「…一時撤退も視野に入れるべきか」

「ダメだ、マリアたちが洞窟に入っている以上下手に離脱は出来ない」

「…それに今度の敵は捕まったマリアさんたちになるかも知れません」

 

あまりの不利に翼が撤退を口にする。

しかし以前にも拉致したマリアを洗脳しクリスと戦わせた事があるショッカーだ。

奏と響の言う事に頷く翼、此処が正念場だと足に力を入れアームドギアの剣を力強く握る。

翼に続くように奏も槍を改めて構え、響も拳を握る力を強める。

 

「馬鹿め、仮に貴様らが我らを倒したところで」

「地獄大使の悪魔祭りで直ぐに蘇る!何度だろうとなっ」

「お前たちが勝つ可能性何て存在しない!」

 

響たちを再び取り囲む怪人たち。

翼や奏たちの抵抗の意思を見せると三体のシードラゴンが響たちの勝ち目がないと言う。

そして、再び怪人軍団が響たちの飛び掛かった。

 

 

 

 

 

 

 

 




今回の地獄大使の狙いは響たちの徹底的な消耗戦です。
響は改造人間ゆえスタミナは普通の人間を遥かに超えてますが、奏と翼は鍛えてるとはいえ普通の人間で消耗戦は辛いです。特に奏は、

その為にも地獄大使には未だに多くの浚った人間をストックしてます。
因みに、響たちが怪人を倒すより地獄大使の悪魔祭りで復活させる怪人の方が多い設定です。

え、何でマリアや響たちを生贄にすれば怪人が全て蘇るかですって?知らない、だって原作で首領が言ってたんだもん。

地獄大使の悪魔祭りの呪文はかなり適当。何度聞いても聞き取りにくい。

因みにマリアたちは毛布も貰えず裸で縛られてます。絵面が酷い…


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117話 装者絶体絶命 歌え、逆転の唄

 

 

 

 

「…翼さん達が突入してもう二時間ですね」

「ああ…」

 

特異災害対策起動部二課の本部になりつつある潜水艦内。

その指令室にてオペレーター席に座る友里あおいと黙ってモニターを睨む風鳴源十郎が短い会話をする。

もう直ぐ、この潜水艦が特異災害対策起動部二課の司令部になり活動する事になるので他の部署では職員が忙しなく動いているが、司令部は機械音だけで静かなままだった。

 

「…翼たちからの連絡は?」

「…以前ありません。妨害電波の所為で連絡が取れません」

 

源十郎が翼と連絡が取れないかと聞くが、藤尭朔也がそう返答する。

 

妨害電波。これにより特異災害対策起動部二課の動きはだいぶ縛られていた。

通信がとれない以上、源十郎たちも翼たちに指示が出来ず全ては翼たちの判断に任せるしかなかった。

 

「…ノイズの時もそうだったが、何も出来んことが此処まで歯がゆいとは」

「ショッカーが現れてからは特にそうですね」

「現状は翼さん達に任せるしかありませんからね…」

 

ノイズを相手にしていた時もそうだったが未成年を戦わせざるえない事に源十郎たちは悔しさを感じずにはいられなかった。

特に、ショッカーとの戦いは妨害電波を出し本部とシンフォギア装者たちとの連携が断ち切られたのだ。

これでは、助言も出来ない上に現場判断で翼たちの重荷を背負わせてしまう。

 

「せめて、奴等の妨害電波を無効化出来れば…」

「…難しいだろうな、俺も色々手を打ってるが奴等の妨害電波を解析しきれん」

「…台風も本格的に近づいてます、無事に帰ってきてほしいですね」

 

外は既に台風の影響で風が強くなり海岸付近の波も段々と高くなっていく。

状況が分からないが、源十郎たちは皆の無事を祈ることしか出来ない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハアアアアアアアアアアアアッ!!」

 

「ホホーーーッ!!」

 

響がフクロウ男の翼を引き千切り、地面へと落とし何度も胴体に拳を打ち込む。

その後も、地面に倒れたフクロウ男の腹部に何度も拳を打ち付け、コンクリートの地面にヒビが入る。

 

「調子の乗るな、立花響!アーブルッ!」

 

「!?」

 

声と殺気に気付いた響は、フクロウ男を殴ると共に拳の威力でその場から離れる。

直後に、自分の殴っていたフクロウ男に赤い火球が突っ込んできて爆発する。

着地した響が火球が来た方向を見ると、

 

「ゴースター…」

 

「ゥウオーッ!立花響、必ず殺す」

 

復讐に燃えるゴースターが響に向け火球を放つ。

勿論、黙って受ける響ではなく、直ぐに回避し拳をゴースターに放つが、

 

「アーブルッ!」

 

「か、固い!」

 

響の拳はアッサリと弾かれ、殴った手を押さえる響。相も変わらずとんでもない強度のゴースター体だ、並みの攻撃ではビクともしない。

一旦距離をとった響、如何するべきか思考するが周りに居た怪人たちはそんな響に関係ないと攻撃を仕掛ける。

 

 

 

 

 

 

翼も奏も苦戦を強いられている。

二人とも今まで多くのノイズを殲滅し一対多の戦いは慣れている方だ。

しかし、基本的に突っ込んでくるノイズに比べ怪人は自己の判断で手を変え品を変え様々な戦術を使て来る。

 

「ヤーーーッ!」

 

 トラックの屋根を飛び回る翼が巨大化させた剣でヒトデンジャーを切りかかるが、ヒトデンジャーの強度も並ではない。

アッサリと剣が弾かれるが、それを見越していた翼は弾かれた勢いでヒトデンジャーの顔面に蹴りを入れヒトデンジャーをトラックの屋根から蹴落とす。

 

「フゥ…!?」

 

「弾丸スクリューボールッ!!」

 

 ヒトデンジャーとの戦闘で一息つこうとした翼だが殺気を感じると共に剣を構えた直後、丸い物が翼に突っ込んでくる。正体はアルマジロングの弾丸スクリューボールだ。

 とっさに反応した翼は巨大化させた剣で受けるが、

 

「クッ…!」

 

思った以上の威力に歯を食いしばる翼。

 それでも何とか押し返そうとし、剣とアルマジロングの弾丸スクリューボールの接触部分に火花が散る。そして、とうとう翼が耐え切れずバランスを崩しトラックの天井から足を踏み外した。

 

「翼っ!」

 

「余所見をしてる暇があるか?天羽奏!」

 

トラックの天井から落ちる翼を助けに行こうとする奏だが、その隙を怪人たちは見逃すほど甘くはない。

 鞭のような物が奏の首に巻き付き、驚いた奏はうっかりガングニールの槍を離し掛けてしまう。

視線の先にはシードラゴンの一体が右腕の鞭を首に巻き付けていたのだ。

 

「邪魔をすんじゃ…!?」

 

 奏はシードラゴンを目視し「邪魔をするな」と言おうとした直後、とんでもない衝撃が自身の体に走る。

直ぐには気付かなかったが、奏は自分が高圧電流を喰らっている事を知る。

 

「俺様の電流は12000ボルト、そのシンフォギアと生身はどの位耐えられる!?イィィチィィィッ!!」

 

「うああああああああああああああああああああああああああああああああッ!!!!!」

 

シードラゴンの電流に奏が悲鳴を上げる。

 奏の体にはまさに暴力と言えるほどの電流が走り、シンフォギア一部からも煙が出る。

 

「奏!」

「奏さん!!」

 

翼も響も奏の悲鳴に気付き援護しようと動くが、

 

「なっ!?」

「えっ!?」

 

「馬鹿め、隙だらけだぞ! ニィィィチィィ!」

「お前たち実に分かりやすいな、タァァーーーーーツッ!!」

 

シードラゴンの一体が奏の腕に鞭を絡め、翼と同じ響の首にもう一体のシードラゴンの鞭が絡む。

 二人が直ぐに鞭を離そうと手を伸ばす。が、

 

「うわああああああああああああああああああああああ!!!」

「ああああああああああああああああああああああああ!!!」

 

振り解くよりも早く絡まった鞭から膨大な電力が流れ二人の体。

 12000ボルトの電流に、奏は愚か響すら悲鳴を上げる。廃工場内には三人の女性の悲鳴が響き渡り周りにいる怪人もその姿を見て薄ら笑いを上げる。

まるで、響たちの苦しむ姿を楽しむように。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「響ーーーーーーッ!!」

「…惨い事を」

 

ショッカーの用意したモニターで響たちが電流で苦しむ姿を見て響の名を叫ぶ未来。

 モニターには、響や翼、奏たちが複数の怪人と戦う姿が映る。

クリス達とて、今まで多くのノイズやロボットなどと戦ってきたが、それらに比べれば怪人たちの攻撃はかなりの物だと思う。

火や雷、あらゆる物を溶かす溶解液などが飛び交う地獄のような光景だ。

 

「いいぞ、もっと苦しませろ!地獄の様な苦しみを与えるのだ、そうすればより質の良い復活エネルギーとなる!」

 

「て…てめぇ…」

 

そして、そんな響たちの姿を笑って喜ぶ地獄大使。

その様子にクリスは血が滲むくらい唇を噛み締め地獄大使を睨みつける。

 ショッカーにアッサリと囚われ、シンフォギアも無効化され素っ裸で縛られてるのだ。己の不甲斐なさと地獄大使のやり方がひたすら気に入らなかった。

クリスの視線に気付いた地獄大使はゆっくりとクリス達の方に視線を向ける。

 

「ワシが憎いか?雪音クリス。ならばもっと憎め、その憎しみもまた、質の良い復活エネルギーの元になるのだ。おっと、そう言えば怪人がまた減っていたな。おい、次の生贄を連れて来い!」

「イーッ!」

 

クリスの殺気を込めた視線も地獄大使とってはそよ風程度でしかなく、不気味にニヤと笑って見せる。

そして、戦闘員に更に生贄を連れて来るよう命じる。

 

それから間もなく二人の戦闘員が扉を開け中へと入る。

二人の戦闘員の間には一人の若い女性が連れられていた。拷問でも受けたのか、来ていた服はボロボロで一部が露出していた。

 

「嫌…助けて…助けて…」

 

「大人しくしろッ!!」

 

連れられた女性は抵抗のつもりか足を動かさず二人の戦闘員に引き摺られる。

しかし、戦闘員は女性の髪も掴み面倒な荷物だという風に引き摺った為、女性の足から血が流れる。尤も、戦闘員は一切気にしなかった。

 

「酷い…」

 

戦闘員たちの女性の扱いに未来が思わず呟いた。

これまで何人もの人間が悪魔祭りの生贄にされるのを見てきたが、まだマリアやクリス、未来が慣れるとは到底思えない。

 

「待ちなさい!」

 

女性をぞんざいに扱うショッカーのやり方に腹を立てつつも、女性を助けられないかと声を出すマリア。

 しかし、戦闘員はマリアの声を無視して女性を祭壇へ運んでいく。

既に何度も制止する声を上げるクリスにマリア、未来だが地獄大使がそれを一度として飲んだりもせず、戦闘員もマリアたちの声を全く意に介さず女性を祭壇の上に乗せた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「うああああああああああああああああああああああああああああああああッ!!」」」

 

「苦しめ、苦しむがいい!」

 

その頃、廃工場内では未だに奏や翼、響の絶叫が響き渡る。

遂には、翼のシンフォギアからも煙が出て来た。

 

「お、風鳴翼のシンフォギアも壊れてきてるか」

「シンフォギアさえ無ければ、あいつ等を自由にしても良いんだろ。肉を食わせろ!久しぶりの若い女の肉だ!」

「俺は血だ、血を吸わせろ!」

「落ち着け、悪魔祭りの生贄の為に生かして連れて行くんだ。…死なない程度にしろよ」

 

怪人たちが、苦しむ響たちを見て雑談する。

シードラゴンの電撃で、奏も響たちも動けずただ苦しむしかない。こうなってはお終いだと判断したのだ。

 

「これでシンフォギア装者は全滅だ、この世界は我らの物になる!」

 

怪人の一体がそう宣言した。他の怪人たちもそれに異論はなくそれぞれが笑い声を上げ、中には他の怪人とハイタッチする者もいる。

地下には、マリア、クリス、未来を捕獲。地上の廃工場では、響、奏、翼がもう直ぐ無力化される。

怪人たちは勝利を確信した。

 

「そ…なこ…さ…い…」

 

「ニィィィチィィ、動けなくなったところで解放してやる!有難く思え」

 

シードラゴンの一体がそう言うと、締め付けている鞭の力を入れる。

中途半端に抜け出せないようにだ。

 

「ぜ…たい…誰も…い…」

 

「これで小娘どもも…ん?」

 

響の首に鞭を巻き付けたシードラゴンが違和感を覚える。

少しずつだが、響の腕の力が上がっている気がした。そしてその力は徐々に強くなっている気がする。

 

「な…なんだ、立花響にまだこれ程の力が…「絶対、誰も死なせるもんかあああああぁぁぁぁぁ!!!!」!?」

 

響の首を絞め電撃を流していたシードラゴンだったが、今までにない程の力に一気に引っ張らっれる。

これには怪人たちも行動が遅れた。直ぐに響を取り押さえようと怪人たちが近づくが、

 

「グワーッ!」

「何だ!?グワーッ」

「立花響め、シードラゴンを振り回して俺たちに当てて来た!?」

「見ろ、シードラゴンが子供の玩具みたいになっているぞ!!」」

 

突然の真横からの衝撃に吹き飛ばされた。

一瞬、何が起こったのか理解が遅れたが一体の怪人が響が振り回しているシードラゴンの所為だと気付いた。

そう、響はシードラゴンの鞭を握りハンマー投げの如く、振り回して自分に迫る怪人たちを迎撃したのだ。

 

「なんて女だ!」

 

響の行動に度肝を抜いた怪人の一体がそう叫ぶ。

未だにシードラゴンの電流を受けながらも響は、シードラゴンの鞭を掴んでシードラゴンそのものを振り回し怪人たちを攻撃、牽制する事に成功したのだ。

 

「え、遠距離攻撃が出来る奴は立花響を狙え!」

「ギュアー!」

「イヒッヒッイヒッ!」

 

響の逆襲に慌てた怪人が遠距離攻撃が出来る怪人が対応しろと言い、ドクガンダーとアマゾニアが両手を響に向けミサイルを放つ。

そのまま、ミサイルは一直線に響に進み命中するかと思われたが、響は振り回していたシードラゴンで全てのミサイルを叩き落す。

 

「ギュアー!?」

「何だと!?」

 

これには今までも響たちと戦っていた怪人たちも驚いた。

ほぼ殴る事でしか戦う事の無かった立花響が此処まで起用に立ち回り自分たちを翻弄している。その事実が怪人たちの動きを鈍らせた。

 

「…今だ!」

 

怪人たちの動揺に気付いた響は、ハンマー投げの如く引っ張り回しているシードラゴンを更に力を入れて振り回しある一点を見た。

 視線の先は、奏と翼に電撃攻撃している二体のシードラゴンだ。

 

「二人から、離れろーーーーーーーーッ!!!!」

 

そう言い放ち、響は振り回していたシードラゴンを二体のシードラゴンに向け投げつける。

 

「なっ!?」

「にっ!?」

 

 後ろが騒がしいとは思ってはいたが、先ずは目の前のシンフォギア装者を相手にしていた二体のシードラゴンにとって、響の行動は完全に予想外だった。

 電撃の所為で床に四つん這いになっていた奏と翼は、床に近い事で難を逃れたが、普通に立っていた二体のシードラゴンは振り回されたシードラゴンが直撃し、吹き飛ばされ奏や翼を捕らえていた鞭が外れる。

 

「ゴホっ!」

「ハア…ハア…」

 

シードラゴンの鞭から逃れた奏が咳き込みつつ息を整え立ち上がる仕草を見せる。しかし、翼は息が乱れ意識も混濁している。それでも生きてはいた。

 その様子に心配しつつもホッとした響は振り回していたシードラゴンの鞭を手放す。

 響が解放したシードラゴンはそのままの勢いで廃工場内の止めていたトラックに直撃し爆発四散した

更には、シードラゴンの爆発に停まっていたトラックにも引火し爆発、廃工場内に黒煙が発生し視界を悪くする。

 

「いかん、火を消せッ!」

「これではシンフォギア装者を見つけ辛い!!」

 

 トラックが燃えた事に慌てて消火を指示する怪人たち。

別段、火事程度の炎や煙ではビクともしない体だが、煙の所為であまりにも視界が悪くなってるのが問題だ。

 煙の所為で同士討ちになるかも知れない上に、視界に頼らない怪人が抜け駆けして響たちを倒されるのも困る。再生怪人であるうえで手柄は何よりも重要なのだ。何より、この廃工場内には可燃性の物がまだある、密輸した武器弾薬だ。

 

 怪人たちが慌ててる姿を横目に響は未だに咳き込んでいる翼と奏の方に向かう。

 

「翼さん、奏さん、大丈夫ですか!?」

「ゴホッ!ゴホッ!」

「ハア…響かい、すまない助かった…」

 

響の声に翼が咳き込み、奏が息を整えて反応し礼を言う。

 翼と奏の反応を見て、怪人たちや周囲を見回した響は二人の腰を掴んでその場を離れる。

 

「ちょ…響!」

「我慢して下さい、少しでも身を隠せる場所に」

 

 響の突然の行動に驚く奏だが、響の返答に納得もする。

今は怪人たちが混乱しているがそれが治まれば、また攻撃が再開する。少しでも回復はしといた方がいいのは奏も分かってはいた。

 

丁度、奏と翼は怪人たちからは見え難いトラックの陰に下ろされる。

奏が一息つくと咳き込んでいた翼もやっと息を整えているところだった。

 その様子に安心したのか、響は陰になっているトラックの天井に上った。

 

「…何処に行く気だい?」

「怪人たちの相手をします、二人はまだ休んでいてください」

 

奏の質問に響は淡々とそう答え、奏が止める間もなく腰のブースターを動かし怪人たちの方に向かう。

 戦闘員が消火作業でトラックの鎮火に成功し、怪人たちが安堵すると同時に怪人の一体が吹き飛ばされた。

 

「立花響っ!」

「丁度いい、探す手間が省けたぞ!」

 

仲間が目の前で殴り飛ばされたが、響の姿を見つけた怪人たちは嬉々として響を取り囲む。

 取り囲まれる響は、ゆっくりと拳を握る、脳裏には翼と奏が回復する前での時間稼ぎだけだ。

 

「負けない、お前たちなんかに!来いぃ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…此処は…奏?」

「起きたかい、翼」

 

シードラゴンの電撃で軽く意識が飛んでいた翼が正気に戻り辺りを見回す。

そこで、トラックの陰から何かを覗いている奏に気付く。

 

「私たちは一体…!」

 

一瞬自分たちが何をしていたのかと考えた翼だが、即座にアームドギアである剣を持つ。

 そんな翼に奏はヤレヤレといった表情で

 

「落ち着け、翼」

 

と言う。

その言葉に強張っていた翼の表情もだいぶ崩れ構えていた剣もおろす。

 

「…立花は?」

 

そこでやっとこの場に立花響が居ない事に気付いて奏に聞く。

すると、奏はソッとトラックの陰から指を刺す。そして翼が陰から様子を見ると、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

奏と翼の視線の先には、

 

「ハアアアアアアアアアアアアッ!!」

 

「ケケケケケケケケケッ!?」

「ギュワー!?」

 

響の拳がサイギャングとドクガンダーを捉え殴る抜き、後ろから迫っていたハエ男に蹴りを入れる。

 しかし、撃破するまでには至らず別の怪人が響へと攻撃する。

 

「クッ、踏ん張りが足りない!」

 

何時もの響なら腕のガングニールのパーツを引っ張り威力を上げるが、次々に迫る怪人たちを前にそんな暇はない。

 結果、響は普通に拳と脚のジャッキで威力が少し上がった蹴りで対応するしかない。

翼と奏で協力していれば、まだガングニールのパーツを引っ張る暇は見つけれたが文句を言う暇すらない。

 何とか隙を見つけガングニールのパーツを引っ張ろうと片手に手をかける。

 

「痛っ!」

 

突然の腕の痛みに見ると、片手のガングニールのパーツを引っ張ろうとした方の腕のガングニールを突き破り一本の鎌が突き刺さっている。

その鎌には鎖が付けられその先には、

 

「ギェギェッギェー! どうだ?立花響」

 

「…かまきり男」

 

かつて何度となく倒し怪人かまきり男の鎖鎌だった。

かまきり男に気付いた響は素早く笠利を一気に引っ張り、かまきり男を自分に近づかせた後に一気に腹部に一撃をいれ撃破する。

 かまきり男が爆発した直後に痛みに視線を振るわせつつ、鎖鎌の鎖を引き千切って突き刺さった鎌を引き抜く。引き抜かれた鎌には響の赤い人造血液がベッタリとついている。

 傷は直ぐに回復し貫かれたガングニールも元に戻るが、響には鈍い痛み残っている気がした。

そして、その鎌は自分を狙っていた怪人に向け投げる。

 

「そんな物が効くと思ったか、立花響!」

 

しかし、その怪人はゴースターだった為、鎌はあっさり弾かれ床に落ちる。

 金属音が響くと共に再び怪人たちが響に迫る。

 

 

 

 

 

 

 

 

「不味い、直ぐに行こう!」

「…待て」

 

一人戦う響の姿に翼が加勢に出ようとするが、奏が翼の腕を引っ張り阻止する。

 

「何故だ、奏!このままじゃ立花が…」

「あれを見てみろ」

 

そう言うと、奏は響の居る方途は別の方を指差す。

 一体何だと思いつつ奏が呼び刺した方を見てみると、

 

「シードラゴンに…かまきり男!?」

「ついさっき響が倒した、かまきり男がもう復活したんだ」

 

視線の先に響がいまさっき倒した筈のかまきり男が戦線に戻っている。ご丁寧に鎖鎌も健在だ。

 さすがの翼もこれには早すぎると内心思った。

 

「今、響と合流してチマチマ倒しても無駄だな。奴らはアタシたちの想定以上に復活が早い」

「なら、猶更立花の援護を…」

「鼬ごっこだ、倒しても倒しても復活する以上…先に倒れるのはアタシたちだ」

 

 本の僅かな間で怪人が復活し戦線へと戻る。カラクリは今一分からないが、たった三人で無限の兵力と化した怪人たちの相手など出来る訳が無い。

これが、ただのノイズならまだ戦いようはあるだろうが、ノイズを遥かに超える力量と狡猾な怪人たちだ。                 いずれは圧し潰される。

 

「…ならどうすれば」

「一体一体倒しても無駄なら纏めて倒すしかない」

 

少しずつ倒しても駄目なら、いっそ一度に倒せばまだ希望があるかも知れない。

 翼もこの奏の言葉に納得する。しかし、

 

「でも、奏…私にはそれだけの広範囲と怪人を倒せる程の攻撃法はない」

「ああ、アタシも流石には無理だ。だが当てはある」

 

翼からすれば、ノイズと違い耐久力も瞬発力もある怪人を倒せる程の広範囲攻撃は無くそれは奏も同じだ。

 だが、奏には過去に響たちのS・O・N・Gと何度となく共闘した事であの事を思い出す。

しかし、それは天羽奏にとっても一種の賭けと言えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハア…ハア…」

 

響が肩で息をしながら拳を握る。

 既に何体もの怪人を殴り飛ばし倒したりもしているが、未だに響は怪人たちに取り囲まれている。

既に体はボロボロで、シンフォギアは所々ヒビが入りインナーも破れ、頭のアンテナのような物も一本折れている。頭からも負傷したのか、傷が消えていても血が響の顔についている。

 

「どうした?立花響。抵抗せんのか?」

「此処までのようだな、立花響!」

 

響を取り囲むサボテグロンとアルマジロングがそう口を開く。

 いくら響が怪人との戦いに慣れているとはいえ、流石に単身でここまでの数の差での戦闘は響としても初めてであり、終わりが見えない怪人たちとの戦いに響は疲弊してきている。

怪人たちもそれに気づいており、甚振るように響へ攻撃してきている。

 

━━━ヤバいな…限界が近い

 

響自身も改造された体とは言え、たった一人で此処までの怪人の相手に最早スタミナは残っていない。

 そこまで時間も経ってない以上、翼も奏もまだ疲労の回復も終わってないだろうと考える。

 

「そろそろ死ねぇ、立花響!」

 

「!?」

 

トドメを刺そうと、響の背後にいたハリネズラスとアルマジロングが襲い掛かる。

 疲労から対応が遅れた響は反応が遅れ、怪人たちの攻撃を喰らう事を覚悟する。

 

「アヤヤーーーッ!?」

「ヴアッ!?」

 

だが、響が目を瞑り覚悟をしても何時までも衝撃が来ない。

それどころか、怪人の悲鳴らしき物が響き、ソッと目を開けると、

 

「悪い、遅くなった響」

「お陰で十分休息を得られた」

 

アママジロングの腹部に槍が突き刺さり、ハリネズラスの方も何本も剣が突き刺さる。

 両方の柄にはそれぞれの持ち主である女性が立っている。

 

「奏さん!翼さん!」

 

 響の声が驚きと共に嬉しさが混じる。

そこには、奏と翼が復帰したのだ。

ハリネズラスとアルマジロングが爆発すると二人の髪が揺れる。

 

「ちっ、あと少しで立花響を始末出来たものを!」

「もう命令など知った事か、嬲り殺しにしてやるっ!」

 

あと少しで響を無効化で来た筈が、奏と翼の復帰で失敗し、激怒した怪人たちは地獄大使の生け捕りの命令を無視して響たちを本気で殺しにいく。

 響たちも四方八方からの攻撃に回避しつつ、拳や蹴りを打ち込むが疲労の所為か怪人を怯ませるのがせいぜいだった。

 

━━━これじゃ、さっきと同じだどうす「響…」れば!

 

どうすればこの状況を打開できるか考えようとした響に奏が話しかける。

 なんとか攻撃をかわし奏に視線を送る響。何か提案があるのかと期待もする。

 

「響、お前…S2CAを使えるかい?」

 

S2CA

それは、響が他者である仲間のシンフォギア装者と触れ合う事により放てる彼女たちの切り札。

絶唱を歌う事により威力を上げシンフォギア装者が受けるバックファイヤーを響が軽減して放つ威力は多大なエネルギーを出し相手に多大なダメージを与える。

 

「はいっ!」

 

奏の質問に響は元気よく頷く。

確かにこの状況ならS2CA有効そうとも言える。

 

「よし、翼!」

「ああ!」

 

響の返事を確認して奏が翼を呼ぶ。翼もガマギラーの鎖鎌との接近戦の最中に呼ばれ返事をしてガマギラーに蹴りを入れ怯んだ隙に奏の近くに行く。

必然的に、奏、響、翼の順となった。

 

「奏…本気で絶唱を歌う気?正直今の私でもバックファイヤーで死にかけたが…」

「だからってこのままじゃどっちにしろ嬲り殺しだ。アタシと響を信じな、失敗したら仲良くあの世逝きだけどね。響、ぶっつけ本番だが頼む」

「…はい」

 

絶唱を歌う事で不安がっている翼だが奏が無理矢理笑顔を作ってるのを見て結審する。

周囲には再び怪人たちが集まって来てるが、奏と翼は響の肩に手を当て目を瞑る。

 

「何をする気だ?貴様ら!」

「大人しく諦めれば直ぐに楽にしてやる!」

 

 

 

 

 

Gatrandis babel ziggurat edenal

 

 

 

 

「「「「!?」」」」

 

下卑た笑いをして響たちに近づいていた怪人たちがピタリと動きが止まった。

怪人の誰しもが響たちが何をしようとしてるのか予測出来なかったのだ。

 

 

 

 

「絶唱だと!?いかん、止めろ!!」

 

響たちの歌う絶唱にいち早く気付いたのは地下の地獄大使だ。

 絶唱で何をするかは今一分からんが、マリアのライブ会場の時のように竜巻の様なエネルギーを出されてはかなわんと、廃工場内にいる怪人たちに響たちを止めるよう指示を送る。

 

 

 

Emustolronzen fine el baral zizzl…「! 避けて!」

 

絶唱の半分を歌い終わった時、響が避けるよう言うと、奏も翼も閉じていた目を開ける。

其処に殺気を巻き散らした怪人たちが自分たちに迫る姿が。

 

響の肩にやっていた手も放しアームドギアを握り、怪人たちの迎撃に移る。

 

「アイツ等、絶唱を歌わせない気か…そらそうだわ」

「そんなこと言ってる場合!?」

 

態々目の前で歌ったのだ。

当然止めに来るだろうと笑ってしまう奏に文句を言う翼。

それを見ていた響は余裕が無い筈なのに奏みたいに笑顔になってしまう。苦しい筈なのに体力も限界の筈だが、一人じゃないと思えば響の体から力が出てくる気になる。

 

「ケケケケケケケケケッ!」

 

「クッ!」

 

とはいえ状況が良くなるわけではない。サボテグロンのサボテン棒をギリギリで躱す響。

翼の方も再び蜂女が刺突剣で挑み、奏はエイキングの稲妻をガードする。

 

「痛ッ…」

━━━向こうも簡単には歌わせないか、当然ちゃ当然だがこのままじゃジリ損なのもたしかだ。どうにか…

 

エイキングの稲妻をやり過ごした奏は絶唱を歌う為の起死回生の策を考える。

 翼や響の方も見てみるが、どっちも複数の怪人を相手に防戦一方で少しずつだが距離も開けられてる。

 

「このままじゃ完全に分断され…あれは?」

 

視線を戻し目の前の怪人を相手にしようとした時、途中で奏の視線はある物を捉えた。

 

━━━あれは、消火されたトラック?そう言えば奴らはアレでアタシ等の相手を中断したね…なら!

 

視界には響によって破壊されたトラックが映り、奏は怪人たちを牽制する方法を思いつく。

迫る怪人をジャンプして避け、序に頭部を踏んでより高く飛ぶと持っていたガングニールの槍を下へと投げつける。

投げつけられた槍は幾つにも分裂し、そのまま地面に落下していく。

 

STARDUST∞FOTON

 

「ヌッ! …?」

「なんだ?何処を狙ってやがる?」

 

奏の攻撃に一瞬身構える怪人たち、だが槍は怪人たちの頭上を飛び越える。

 てっきり自分たちを攻撃する為の行動かと思たが肩透かしだった事で奏を馬鹿にする怪人。

 

「ただのハッタリか!それとももう狙いも付けられない程疲弊したか?」

「…! 違う、あの女の狙いは!」

 

最初はそれに洗っていた怪人だったが、奏の槍が通り過ぎ落下するであろう場所に目を向けた怪人の一体が奏の狙いに気付いた。

落下地点には、物資を運ぶために用意された幾つもの大型トラック。

 奏の複製した槍は寸分狂わずトラックに直撃する。直後、全てのトラックが爆発炎上。

中には燃料を運んでいたトラックもあり、大きな爆発を起こした。

 

「イーッ!?」

「誰か火を消してくれ!!」

 

炎に呑まれる戦闘員。中には転げ回って火を消そうとする者もいる。

戦闘員だけではない、戦っていた怪人たちにも火の手は襲う。

 

「くッ、これでは見えん!」

「天羽奏め、これが狙いか!」

 

しかし、殆どの怪人は炎に呑まれようがへっちゃらだ。

 改造手術で生命力も耐久力も人間を圧倒している怪人たち、ゴースターのようにはいかないが多少のマグマにだって耐えられる。

だが、そんな怪人ばかりではない。

 

「ウヒィーーーーーーーーーッ!!!!!!!」

「ヒィーアッ! 誰か助けてくれっ!!!!!!!」

 

「おい、クラゲダールとドクダリアンが火に呑まれてるぞ」

「あの馬鹿、あっちこっちに移動して火をつけてやがる!」

 

火を苦手とする怪人たちが慌てふためき、火を消そうと走り回る。

どれもが火を弱点とする怪人で仕方ないにも思えるが、火を広げる以上邪魔な存在でしかない。

 

「ええい、、五月蝿い!! 火炎弾!」

「ギャアアアアアアアアアアッ!!!」

 

五月蝿く走り回る事で業を煮やしたゴースターが火炎弾でドクダリアンを始末する。

 仲間である筈だが、作戦の邪魔となった以上ドクダリアンは最早役には立たないと判断されたのだ。

他にもクラゲーダールが別の怪人に始末された。

 

 

Gatrandis babel ziggurat edenal

 

「また絶唱だと!?」

「! 立花響どもは何処だ!!」

 

突如、廃工場内で響いてくる絶唱の歌声に怪人たちは響たちの姿を探す。

当然さっきまで響たちが怪人と戦っていた場所には居ない。

 

Emustolronzen fine el baral zizzl

 

「黒煙でろくに周りが見えん!」

「ガソリンと燃える焦げ臭さの所為で匂いも分からん!」

 

トラックというトラックが爆発炎上し発生した黒煙が廃工場内を満たし、燃え盛る炎で発生したガスの所為で匂いに敏感な怪人も響たちの存在をおえない。

 

Gatrandis babel ziggurat edenal

 

「早く火を消せ!」

「消火剤も戦闘員も使い切った!地獄大使に消火剤を持った戦闘員を要請しろ!」

「…ダメだ、さっきの爆発で通信機がイカレた!直接、地獄大使に報告するしかない!」

 

 火を消すための消火剤はさっきで使い切り、戦闘員もトラックの爆発に巻き込まれ全滅に近い。

怪人たちも普通の火事なら兎も角、トラックの燃料や別系統の燃料に引火した大規模な火災は簡単には消火出来ない。

 

Emustolronzen fine el zizzl

 

「…! 居たぞぉ! 立花響と天羽奏、風鳴翼だ!」

 

丁度、響たちが絶唱を歌い終えた直後怪人の一体に見つかり、全員が一斉に響の方に振り向く。

 途端響たちを中心に巨大なエネルギーの波が押し寄せ、その影響により燃えているトラックが次々と火が消えていく。

 

「S2CAトライバースト!」

 

本来、絶唱を歌えば歌ったシンフォギア装者に負荷がかかる。しかし、S2CAは中心となる響に負荷が集中する。

シンフォギア装者にとって諸刃の刃ではあるが、威力も絶大だ。

 

「ええい、殺せ!殺すんだ!」

「立花響の首をとれ!」

 

まだ間に合うと判断した怪人たちが血相を変え響たちに迫る。

既に廃工場内には様々な色に光る空間となっており、一部の残骸が消滅する。

 

「私たちの勝ちだああああああああああ!!!!」

 

既に腕を合わせガントレットを一つにした響は一番前にいるゴースターに向けアッパーを入れる。

 ゴースターが悲鳴を上げる間もなく体は崩壊し、響のアッパーは一気に上に上がる。

すると、エネルギーは虹色の竜巻状になり全ての怪人がエネルギーに呑まれ上空へと送られる。

 

「ウオオオオオオッ!」

「ビリュリュリュリュリュッ!」

 

蜘蛛男がエレキボタルが次々と爆発していく。

彼等だけではない、響の生み出したエネルギーの竜巻に呑まれた怪人は軒並み爆散していく。

 やがて、竜巻は廃工場の天井を突き破り雨雲を裂き更に昇っていく。

 

「馬鹿な…こんな馬鹿な事が、イィィチィィィ!」

「圧倒的に俺たちが有利だった筈が、ニィィィチィィ!」

「何故負けた!?何故…タァァーーーーーツッ!!」

 

シードラゴン三体のエネルギーの竜巻の威力にバラバラとなり最後は爆発した。

そして、間もなく虹色の竜巻は消え廃工場だった場所には響たちしか立っていなかった。

一粒の雨水が響の頬に当たる。

 

 

 

再生怪人は全滅した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




響が並行世界で並行世界の奏と翼でS2CAをする話。現状、ショッカー墓場を打ち破るには再生された怪人、全て倒すくらいですかね。原作でも本郷が怪人を全滅させたらなんか爆発したし。

思いっきり高熱の火事の場で絶唱を歌ってますが、響はGX冒頭で火事の中歌ってたので大丈夫でしょう。

奏は、何度となく並行世界の響のS2CAを見た設定です。
尚、並行世界の奏と翼はS2CAぶっつけ本番。翼に至っては奏に軽く説明しただけ。


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118話 ショッカー墓場崩壊 奪われた完全聖遺物

戦姫絶唱シンフォギアXD UNLIMITEDがとうとう24年1月31日にサービス終了が決定。
6年以上継続していたから覚悟はしてたけど…(自分は2年ぐらい前に始めた)

ソーシャルゲームはこれがあるから課金し辛い。
…お好み焼きやコーヒー、ご飯とアンパンがめっちゃ余った……(どれもスタミナ回復アイテム系)
正直、もう数年続いて欲しかった。




劇場版の制作も決定らしいですが新しい敵が出るんでしょうか?シェム・ハも倒した響たちに危機感が出るんだろうか?
いっそゲームのギャラルホルンで出たシナリオを映画にして欲しいですね。片翼の奏者や翳り裂く閃光とか
…終わるまでに何年かかるやら


 

 

 

「どうした!?一体何があった!」

「イーッ! どうやら地上を映すカメラが壊れたようです!」

 

さっきまで響たちの断末魔が映っていたモニター前で、地獄大使と戦闘員が言い合っている。

 映っている映像は、砂嵐となって廃工場内で何が起きたのか不明となっている。

奏が、トラックを纏めて破壊する際、地下の伸びていたカメラも壊していたのだ。

ついでに、トラックが大量に爆発した事でこの地下でも地響きと共に一部の石が落ちてくる。

 

「今どき砂嵐なんて珍しいね」

「今はそれを行ってる場合じゃねえだろ、未来」

 

地獄大使たちの慌てる姿を見て余裕が出たのか、未来の言葉に返答するクリス。

 窘めながらも状況が動いた事を感じたクリスは視線をマリアへと向ける。

 

「さっき、先ずかだけど翼たちのフォーメーションはS2CAを使おうとしてるわね」

「だな、アタシ等の時もかなり特訓していたのに使えるのか?」

「今はそれに賭けるしかないわ。翼たちの奇跡を信じましょう」

 

マリアもクリスも響たちがS2CAを使おうとしていたのは察する。

 彼女たちの知るS2CA、あれだけの怪人軍団を倒すにはうってつけの火力と言える。半面、自分たちの時でも相当訓練を積んで成功しないままぶっつけ本番で使った技だ。

 奏や並行世界の翼が簡単に成功できる気がしない。

 

「イーッ!一大事です、地獄大使!」

「どうした!?」

 

地上の様子が確認できなくなった事で慌てている地獄大使の下に別の場所にいた何人かの戦闘員が緊急報告に来る。

 

「廃工場内より膨大なフォニックゲインを確認!」

「再生した怪人たちの生命反応が途絶えました!」

「フォニックゲインを調べたところ、嘗てマリアのコンサート会場で使われたS2CAの可能性が大!」

「…なんということだ」

 

再生怪人軍団が全滅した。

 悪魔祭りを行ない死んだ怪人たちを蘇らせ、対シンフォギア装者用に用意した地獄大使のとっておきの軍団が全滅したのだ。

 死神博士の報告は聞いていたが、まさか此処までとはと地獄大使は内心苛立つ。

 

そして、その情報はクリス達にも筒抜けだった。

 

「アイツ等やったのかよ!」

「勝負ありのようね」

「良かった、響」

 

地上の響たちの活躍で蘇った怪人軍団が全滅し喜ぶクリスと未来。

 マリアも地獄大使の切り札が潰れた事を確信し、地獄大使たちにゆさぶりをかける。

 

「ええい、黙れ!あまり無駄口を叩くなら俺の電磁バサミでその無駄にでかい胸の肉を切り落とすぞ!アビィィィィッ!」

 

「やれるもんならやってみやがれっ!カニ野郎!」

 

マリアたちの発言にシオマネキングが脅しにくるがクリスも「やってみろ!」と挑発する。

 クリス達の目の前で電磁バサミをチョキチョキしだすシオマネキング。

地獄大使が命令すれば即座に切り落とす気だ。

 

「ええい、そんな事はどうでもいい!急ぎ、次の生贄を連れて来い!」

「それが…生贄たちを運ぶ途中、落石により一部が逃走してます」

 

爆発の影響はこの部屋だけではない。

 生贄として捕らえられた牢獄にも落石が起こり、檻を開けた戦闘員に直撃し、その間に生贄が逃走を図っている。檻そのものにも落石の影響で檻としての機能すら消失した。

それどころか通路も幾つか落石で寸断され、戦闘員の作業を邪魔している。

 

「なっ!? これでは間に合わなくなる。仕方ない、マリアたちを生贄にしろ!!」

 

「「「!?」」」

 

切羽詰まった地獄大使は捉え此処に連れているマリア、クリス、未来を生贄にするよう言う。

 いきなりの方針転換に度肝を抜かれたマリアたちだが、戦闘員が乱暴にマリアの髪を掴み祭壇に引っ張る。

 

「痛いわね!」

 

マリアも簡単に生贄になんてなるもんかと抵抗を試みるが、縛られてる以上足で踏ん張る事しか出来ず、ズルズルと祭壇の方に近づく。

遂にはナイフを持った戦闘員がマリアを運ぶのを手伝うよう地獄大使に命令され、マリアに近づく。

 戦闘員二体では、シンフォギアも纏ってない女の力では碌に抵抗できないと感じたマリアが奥歯を噛み締め悔しそうに顔を歪める。

未来とクリスがマリアの名を叫ぶ。

 

「不味い、時間が!」

 

だが、その場で一番焦っていたのは間違いなくこの男。地獄大使だった。

 地獄大使がそう言い放った直後だ。

 

ドカ~~~ン!!!

 

骸骨で作られた十字架が爆発し粉々となり、爆発の影響で祭壇にも火の手があがる。

爆発の影響により髑髏の十字架の破片が辺りに飛び散る。地獄大使は咄嗟にマントを翻し破片をやり過ごすが、マントで隠れているが奥歯を噛み締めている。

 

「キャアアアア!?」

 

「イーッ!?」

 

頭蓋骨の十字架の爆発に巻き込まれたのは、マリアを運んでいた戦闘員だった。

急な爆発で、爆風をもろに浴びた戦闘員はもう一人の戦闘員とマリアを巻き込む形で倒れてしまう。

 

「痛たぁぁ…!」

 

 戦闘員が盾になり、吹き飛ぶ瓦礫には当たらなかったマリアだが、爆発の勢いまでは如何にもならず地面に倒れる。裸で倒れた事で痛みがマリアに走るが、指先に固い物が当たり見る。

倒れこむマリアの前に戦闘員が持っていたナイフが転がっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さ…祭壇が…急いで消火しろ!」

「「イーッ!」」

 

祭壇の爆発で発生した火を消せと命令する地獄大使。こんな地下で煙に巻かれるのは自分としてもごめんだと考える。

だがそれ以上に、悪魔祭りの祭壇が壊れた事に怒りを感じている。

 

━━━祭壇で蘇った怪人たちが全滅した事で、祭壇に集めていた悪霊の力が暴走したか!これでは悪魔祭りで怪人の復活は不可能!ならば、捕らえたマリアたちを始末するか?いや…待てよ、奴ならば…

 

「バラランガ、バラランガは居るか!?」

「…私をお呼びですか?地獄大使」

 

祭壇を失った以上、最早マリアたちを悪魔祭りの生贄にするのは不可能。

 ならば、この場で消すべきかと考えた地獄大使だが、悪魔の知恵が浮かび配下の怪人を呼びつける。

すると、物陰から人影が出て来た。

 

「女性?」

「気を付けろ、未来。怪人の中には人間に化けれる奴がいる」

 

物陰から現れた女性は白いワンピースに白い手袋をし、ウエーブがかった長髪の女性だった。

 一見綺麗でもあるが血のように真っ赤な唇の女性は一本のバラを持って薄ら笑いをしているのが不気味である。

 特に此処は海岸の洞窟深くのショッカーアジトなのだ。

 

「フフフ…バァァァラァァーーーッ!!」

 

「か、怪人!?」

「やっぱりか!」

 

薄ら笑いを上げた女性がバラを目の前に持つとその姿は朧げになる次の瞬間にはバラの頭部をもった怪人となったのだ。

 

「バラランガ、お前のバラで雪音クリス、小日向未来を操れ!上の立花響たちと同士討ちをさせるのだ!…迂闊にバラを取れば即死する罠をつけてな」

 

「「!?」」

 

地獄大使の命令にクリスと未来は絶句する。

 バラランガと呼ばれる怪人が人間を操る能力があるのもそうだが、地獄大使が何の躊躇いもなく自分たちを操って上の響たちと殺しあわせる事にもだ。

 

「お任せを、このバラを胸に突き刺し操ってやろう」

 

地獄大使の命令を聞いたバラランガの腕に二本のバラを持っている。

 未来もクリスも思わず息を呑むとバラランガは二本のバラを二人に投げる。

二本のバラがまるで手裏剣の様に二人に真っ直ぐと進んだ。

 

「そんな事させないわ」

 

「!?」

「イーッ!?」

 

しかし、二本のバラが未来とクリスに刺さる直前、二人までの間に戦闘員が投げ出され二人の体の代わりに戦闘員にバラが突き刺さる。

 予想外の事にバラランガも地獄大使も絶句する。

地獄大使が戦闘員が投げ出された方を見ると、裸のマリアが。その手には取り上げた筈のギアを握っている。

 

Seilien coffin airget-lamh tron

 

マリアが聖詠を口にすると、持っていたギアが光る。

 裸だったマリアの体にアガートラームのシンフォギアを纏うと、左腕の籠手から短剣を取り出し蛇腹剣にして、クリスと未来を縛っている縄を切り裂く。

 

「二人とも、これを!」

 

更にマリアは解放された二人に自分のとは別のギアを投げる。

祭壇の爆発に巻き込まれた戦闘員がマリアたちから回収していた物を奪い返したのだ。

 

「しまった!?」

 

事に気付いた地獄大使の声が響くと同時にマリアからギアを受け取ったクリスと未来は即座に聖詠を歌う。

 

Killter Ichaival tron

Rei shen shou jing rei zizzl

 

聖詠により裸だった二人もシンフォギアを纏う。

その様子を見た地獄大使は歯噛みしながら血管を浮かせている。

 

「形勢逆転だな!」

「動けない裸の私たちを好き放題しようとした罪…」

「絶対許さないんだから!」

 

「ええい、殺せ! こうなったら全員殺せぇ!!」

 

アームドギアであるボーガンを地獄大使に向け、三人はそう言い放つ。

対する地獄大使も残った戦闘員を呼び出し、バラランガやシオマネキングに始末するよう命じる。

 ギアを取り戻しシンフォギアを纏ったクリスたち、地獄大使並び二体の怪人と複数の戦闘員が取り囲む。

睨み合いが続き一触即発の空気、誰が先に動くか、と思われた時だった。

 

カタカタカタカタ…

 

「…?」

 

ガタッ

 

「何だ?地震か」

 

クリス達も地獄大使たちも何かがおかしい事に気付く。

落ちていた小石が小刻みに揺れ、爆発が治まったにも関わらず壁や天井の一部が落下してるのだ。

誰もが最初は、何処かで爆発でも起きたのかとも思っていたが、クリスとマリアは内心嫌な予感を感じる。

 

「…なあ、これって…」

「ええ、()()…だわ」

「何か知ってるの?」

 

何となく、この状況にデジャヴを感じる二人と未体験の未来。

クリスとマリアの反応に未来が何か知ってるのか聞く。

 言うかどうか迷っている内に地面がひび割れ地面から何かが飛び出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハア…ハア…ハア…」

「S2CA…奏から聞いていたが此処までの力が…って、大丈夫か?立花」

 

 響のS2CAで天井どころか壁すら崩壊し、最早廃工場かどうかすら言えなくなった地上で、呼吸が荒い響とS2CAの力を見た翼が唖然とするが、響の呼吸の乱れに直ぐに響の背中をさする。

翼から見ても響の消耗はかなりのものだった。

 

「…無理もないね、あれだけの怪人軍団の攻撃で体力を持ってかれてたんだ」

「ハア…ワタシは…平気で…すゴホッ、それより…地下の未来たちを…助けないと…」

 

奏がただでさえ消耗していた響を気遣うが響は急ぎ地下に行こうと言う。

 響の言う通り、地下でマリアたちと合流すべきだとは二人とも思っている。響のS2CAでこの場に居た怪人たちは全滅したが、何時また怪人たちが復活するかは分からない。

ならば、復活した怪人たちが通ったルートを見つけ出し一気に攻める必要がある。

 

だが、

 

「馬鹿、そんな体力で連戦なんて出来るか!?」

「それにアイツ等が通った出入り口がまだ分からん、それを見つけるまでは休んでおけ」

 

 二人は、別段マリアたちとの合流は拒否しない。それでも、響の消耗と再生怪人が出て来た出入り口を見つける前では休めと言う。

響としては一刻も早くマリアやクリス、未来と合流したかったが自身の体力も消耗してる事は分かってはいたので渋々納得する。

 

「よし、お前は少し休憩を…ん?」

「奏?」

 

響を休憩させ、その間に地下への出入り口を探そうと考えた奏だが妙な物音に気付く。

もしや、怪人かと考えアームドギアである槍を手に音のしたほうに向かう。翼には聞こえなかったのか奏の行く方に付いていく。

 

「奏、一体どうし「しっ!」?」

 

翼が奏に何に気付いたのか聞こうとしたが、奏は人差し指を唇につけて静かにするよう言う。

奏の行動に翼が戸惑う。

 

…誰か…ませんか…

 

「!?」

 

そんな時に翼にも聞こえた。ほんの僅かだが、誰かの声が。

翼が耳を澄ますと廃工場の端の床の一部から声がしている事に気付く。

 

「翼、手伝え!カモフラージュされた出入り口がある!」

「わ、分かった!」

 

奏が声の場所を特定したのか、アームドギアである槍を床に突き立てる。

 床自体割るのなら技の一つでも出せばいいだどうが、助けを求めている人間の声が気になった。

奏の槍と翼の剣が何度も床に突き立てられ床の一部が崩壊すると、人間の手が伸びる。

 

「助かった!」

「早く出してよ!」

「此処は地上か!?」

 

割れた床から何人もの人間が這い出して来る。

それを見ていた奏と翼は確信した、この場所こそ復活した怪人たちが来た通路だと。

そして、目の前の人間たちは恐らくショッカーに拉致されていた人達だと。

 

「お前ら、早く逃げな!外には黒服の特異災害の職員が居る、保護してくれるぞ!」

 

「あ、ありがてえ」

 

奏は這い出て来た人間たちに早く逃げるよう言う。

中がどうなっているか分からない以上、民間人は急ぎ避難させる必要があるうえ、マリアたちの合流の為にも自分たちが保護して連れて行く訳にもいけない。

 

奏の言葉に穴から這い出て来た人間たちは急ぎ廃墟化した廃工場から外に出ていく。

老若男女問わず、足を引き摺る者や衰弱した者に肩を貸して移動する者も様々だ。

響も、その人たちを見届ける。出来る事なら、特異災害の職員まで護衛とかしたいとか思ってはいたが今は一刻を争う。

 響もその事を理解し、奏たちの方に合流した。

最後の一人まで這い出た穴を見る三人。お互いの視線が合うとゆっくりと首を上下させる。

穴に突入しようとした。

 

瞬間、廃工場の真ん中付近の床が爆ぜた。

 

「何だ!?」

「怪人!?」

 

突然背後からの轟音と煙に三人は直ぐに臨戦態勢をとる。

自分たちが出入り口を見つけた事を嗅ぎ付けたショッカーが不意打ちの可能性があったからだ。

しかし、三人の目には予想外の物が映る。

 

「こんな時にめんどくせぇぇ!!」

「そうも言ってられないでしょ!」

 

土埃の中から出てくるクリスに、意識のない未来を背負うマリア。

 

「バァァァラァァ、余計なものが来たね!」

「アビィィィィィィッ!何で完全聖遺物が此処に」

「大方、立花響どもの絶唱で寄って来たんだろ、構わん始末しろ!」

 

バラの怪人バラランガ、シオマネキングに地獄大使まで出てくる。

そしてその中心部には、

 

「うわッ、デカい!」

「何だ、あの怪物!?」

 

 ◆

 ◆

 ◆

 ◆

 ◆

 ◆

 ◆

 ◆

 ◆

 ‼

  」

 

 

永田町や人気の少ない公園で暴れたゴライアスが雄叫びを上げ初めて見た響と奏が驚く。

立花響たちの戦いは三つ巴となる。

 

 

 

 

 

 

 

 

「こいつがゴライアスだと、報告で聞いた以上だな」

「こんなのがいるなんて初めて聞くんだけど!」

 

ゴライアスの攻撃を避ける響と奏は翼からゴライアスの情報を聞く。

一応、報告で聞いていた奏は直ぐに慣れたが、響はゴタゴタしていた事もあってゴライアスの事は初めて聞いた。

 

「あの…マリアさん、未来はどうしたんですか?」

「…ゴライアスが現れた時に石がこの子の頭に直撃したのよ。ご丁寧に頭部のシンフォギアを避けて生身にね」

 

マリアの報告を聞いて響は背負われてる未来を見る。丁度、未来は眼を回しながら気絶していた。

 

「クッソ、未来が気絶してるとあのデカブツを止めるのも一苦労だ」

「ええ、そうね」

 

ゴライアスが現れたのに未来が気絶している事がクリス達には痛かった。

未来の持つ神獣鏡なら聖遺物であるゴライアスも簡単に鎮圧できると踏んでいたからだ。しかし、装者である未来が気絶していればその力も発揮できない。

 

更に厄介なのは、

 

「アビィィィィィィッ、俺の存在を忘れるな!」

 

シオマネキングがクリスとマリアを襲う為、ゴライアスに集中できないのだ。

尤も、ゴライアスはシオマネキングだろうが、シンフォギア装者だろうと容赦なく襲うが、数の多い新フィギア装者が必然的にターゲットになってしまう。

 

「…地獄大使とバラの怪人は何処に?」

 

崩壊した廃工場が混沌としてきたが、マリアが何時の間にか姿を消した地獄大使とバラランガが気掛かりだった。

 

 

 

 

 

「…まさか、完全聖遺物ゴライアスが出て来るとはな。だが丁度いい、バラランガ!」

「バァァァラァァ!」

「準備をしておけ」

 

大きな瓦礫に身を隠し響たちがゴライアスと対峙するのを見て地獄大使はバラランガの方に視線を向け邪悪な笑みを浮かべる。

バラランガの手には今までの赤いバラとは別の黒いバラが握られる。

 

 

 

 

 

「死ねぇ、シンフォギア装者ども!」

 

シオマネキングがクリスに向け口から泡を吹き出す。

クリスも歴戦のシンフォギア装者だ、泡とはいえショッカーが作り出した兵器だ。

泡如きとはいえ、クリスは体を捻らせ回避する。そして、クリスの居なくなった場所に泡が降り注ぎ…着火した。

 

「あの泡は可燃性か!」

 

「次はお前たちが燃えるのだ、アビィィィィッ!!」

 

クリスの反応にそう言い切ったシオマネキングは他のシンフォギア装者たちにも泡を吹きかける。

それぞれが避ける中、未来を背負ったマリアの足先が泡に触れてしまう。

 

「くっ!」

「マリアさん!」

 

足先が発火した事でマリアが顔をしかめ、響がマリアの心配をする。

誰も口にしないが、気絶した未来を背負ってた事で反応が遅れたようだ。

 

「マリア、小日向は私が」

「ええ、お願い…」

 

隙を見て翼がマリアの傍に行き、未来を受け取り火を消した。

大してかかってない、シンフォギアで守られてた事で大事はないが少しの火傷を負ったマリアの動きは良いとは言えない。

誰もが、マリアの負傷を感じていた中、ゴライアスの腕がマリアの体を通り過ぎる。

 どうやらゴライアスもマリアの負傷を感じたのか、マリアへの集中攻撃する。

必然的に、響たちはマリアを守る為に集まり…地獄大使がチャンスを見つけた。

 

「今だ、バラランガ!」

 

「バァァァラァァッ!!」

 

「バラランガ?」

 

地獄大使の掛け声にバラランガは、瓦礫を飛び回りゴライアスに接触。そのまま持っていた黒いバラを突き刺す。

シンフォギア装者の攻撃を物ともしない装甲がバラの茎を貫通させ、突き刺した切り口から根の様な物がゴライアスの中に蔓延る。

ゴライアスはまるで壊れたブリキの人形の様な挙動をし、やがては停止し目の明かりも消える。

響たちは何が起こったのか分からなかったが、

 

「さあ、ゴライアスよ!ワシの命令を聞け!」

 

 

 ◆

 ◆

 ◆

 ◆

 ◆

 ◆

 ◆

 ◆

 ◆

 ‼

  」

 

『!?』

 

響たちは驚愕した、先程まで響たちも怪人たちも攻撃していたゴライアスが地獄大使の声に答えるように雄たけびを上げ響たち飲み狙いだす。

それどころか、シオマネキングやバラランガ、地獄大使を狙った攻撃を腕を伸ばして守るようにもなった。

 

「地獄大使、ゴライアスに何をしたの!」

 

溜まらずマリアが地獄大使に何をしたのか聞く。

バラランガが黒いバラをゴライアスに刺したのは見えてはいたが、確信を得る為にも地獄大使に説明を求める。

 

「いいだろう、教えてやる。バラランガの刺した黒いバラは自立型聖遺物を操る為に造ったショッカーの特別製のバラだ。人間を操れるバラと一緒にされては困る」

 

「聖遺物を操るバラ!?」

 

ショッカーは嘗て、フロンティアやネフィリムといった聖遺物用に無機物を操る力を模索していた。

バラランガの黒いバラもその一つだ。今のゴライアスは黒いバラでショッカーの操り人形と化している。

 

「さて、後はこのデカブツをアジトに持ち帰るだけよ」

「バァァァラァァッ!」

 

驚きつつもゴライアスとシオマネキングの攻撃を躱し続ける響たちを無視し地獄大使がバラランガに合図を送る。

すると、今まで響たちを攻撃していたゴライアスが地面を掘りだし地中に潜っていく。

 

「テメェら、何処に行く気だ!」

 

「無論アジトよ、シオマネキング!その小娘どもの相手をしてやれ!」

「アビィィィィィィッ!」

 

クリスの問いにアッサリ答える地獄大使は時間稼ぎにシオマネキングが相手するよう言う。

止めようとする響たちだが、シオマネキングの妨害に誰もが足止めを食う。

散ってシオマネキングを無視してゴライアスに直接行こうとすれば、足の負傷したマリアを狙うシオマネキングの行動に舌打ちをしつつ無視も出来ない。

 

結局は、全員でシオマネキングを相手する事になる。

 

 

 

「…これでっ!」

 

「アビィィィィィィッ!?」

 

響の拳がシオマネキングの胴体に入り、衝撃波がシオマネキングを貫く。

クリスの銃弾やミサイルを撃ち込まれ、翼の剣と電磁バサミを打ち合い奏の槍を片手で防ぎ隙を作り響が腕のパーツを引っ張り一気に突撃したのだ。

 

「…この俺が敗れるか、まあいい時間は稼いだ…アビィィィィッ!!」

 

シオマネキングは最後にそう言って倒れ爆発した。

爆風がそれぞれの頬を掠め、爆煙が治まった時には巨大な穴だけが残りゴライアスや地獄大使は完全に消えていた。

残ったのは疲労の残ったシンフォギア装者である響たちだけだった。

 

 

 

 

 

 

 




奏が何気にMVP。
冒頭でも書いているけど、奏が目くらましの為にトラックを大量に破壊した時に地上の様子を観察できるカメラも破壊し、地獄大使の対応が遅れショッカー墓場が爆発した設定です。

突然、ショッカー墓場の十字架が爆発しましたが原作通りです。
本郷が再生怪人たちを全滅させ、その回の怪人カミキリキッドも倒した直後に何の説明もなく爆発しました。
捕まった立花のおやっさんや本郷が何か細工した様子もなく、地獄大使の反応もないので悪霊の力うんぬんはオリジナルです。

当然バラランガの黒いバラもオリジナルです。原作では赤しかでません。後、簡単に抜ける…
関係ないけど、バラランガの人間体の名前はバラ子らしいです。

聞かれればだいたい答えてくれる悪の組織。その名はショッカー。
シオマネキング、根性の時間稼ぎ。尚、普通に強いもよう。

ショッカー墓場を失った地獄大使ですが、地獄大使にはまだ切り札と奥の手が残っています。
ショッカーに奪われたゴライアスはどうなるか。


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119話 地獄から逃げてきた少女

XDが終るということで、とりあえずチケットで開ける回想は全て開いた。
時間があるときにでも読もうかな。

コラボの回想は無理だろうか?


 

 

 

「地獄大使がゴライアスを手に入れただと!?」

「はい、突然の事で私たちも対応が遅れました」

 

廃工場と洞窟のショッカーアジトを叩き潰した後、負傷したマリアの代わりにクリスと翼が源十郎に報告する。

 報告の内容は源十郎たちにとっても頭が痛い事であった。

 

浚われた人達の救助とショッカーのアジトを潰せたのは良いが、人間を生贄にする悪魔祭りに完全聖遺物ゴライアスを奪われたのだ。

源十郎たちどころか政府の役人すら頭が痛い。

 

「それでマリアくんは?」

「脚の火傷で医務室だ、見た限り軽傷だと思うが…」

「本人はいいって拒否してましたが念のために」

 

シオマネキングの発火する泡で足を火傷したマリアは医務室で診て貰ってる。

シンフォギアで守られたお陰で其処まで酷くはないが、ショッカーとの戦闘はまだ続く以上、翼とクリスが無理矢理連れて行った。

 

負傷した未来もメディカルチェックを受け、奏と響がそれにつき合い、マリアの代わりにクリスが翼と一緒に源十郎たちに報告している。

 特異災害の方でも保護した人たちの治療や事情聴取に今後の生活の相談…etc.、何よりショッカーに関する情報の国家特別機密事項など様々だ。

 ただでさえ、ショッカーのテロ行為で政界は激震が走ってる。

 

「ショッカーが生きた人間を生贄にして怪人たちを蘇らせていたなんて…」

「恐ろしい連中ね」

「だが、悪魔祭りの中心である祭壇は破壊したんだ。もう奴等に倒された怪人を蘇らせる事は出来んだろう」

「だといいんですが…」

「だが、フォニックゲインを分解するアンドロガスか」

「…装者にとっても痛いですね」

 

何はともあれ、ショッカーの戦力増強を阻止出来たのは大きい。しかし、シンフォギア装者の弱点といえるアンドロガスが気掛かりだ。

 このまま一気に壊滅させ地獄大使も捕縛したいのが特異災害の目的でもある。

 

「押収した重火器ですが、製造されたのはアメリカ、中国、ロシアと幅広いですね」

「問題は連中が何処で手に入れたかだ、此方の世界に来た時に一緒に来たか…それともこの世界で手に入れたか?」

「………」

 

特異災害対策機動部としては、この武器はショッカーが元居た世界の物が良かった。もし、自分たちの世界で手に入れたとすれば入手経路や資金を洗い出す必要がある。

金で手に入れたとすればまだいいが、もし別の物…改造人間を売り込んでいれば厄介な事になる。

 特にアメリカは、聖遺物の独占を目的にしてる節がありシンフォギアを所有する特異災害としても無視は出来ない存在だ。

 源十郎たちの答えのない会話にクリスが欠伸をかみ殺す。

その時、指令室が揺れ少し傾いた。

 

「おっと!?」

「大丈夫か?雪音」

 

揺れた事で少しフラついたクリスの翼が大丈夫かと聞く。

直ぐに態勢を立て直したクリスはバツが悪そうな顔をし苦笑いを浮かべる。

 

「…外が荒れてるようですね」

「台風が直撃してるのに海の上ですからね」

「お役所仕事の典型だ、諦めろ」

 

揺れた理由は簡単だ。

現在、源十郎始めとした特異災害対策起動部二課は新しく本部になった新型の潜水艦に乗っているのだ。しかも、整備と作業の為に海中ではなく海上だ。

 

「整備や本部の移転の為とは言え、ドッグで出来なかったんですかね?」

「諦めろ、自衛隊や海上保安庁の船が先取りしている」

「…私たち恨まれてますね」

 

風鳴訃堂のゴリ押しで地下から潜水艦に本部を移した特異災害。

 自衛隊の最新鋭を回してもらったが、横からかっさらったが故に自衛隊は当然おもしろくない。

結果、最終的な調整は台風が直撃する中やらざるおえなかった。

 

その光景を苦笑いしながら眺めるクリスは自分たちの時は如何だったか思い出しながら指令室を後にし、用意された部屋に向かう。

 

外は相変わらず雨と風が激しかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハア…ハア…」

 

台風の強風で雨粒が降り注ぐ中、一人走る少女が居た。

一刻も早く! 何かから逃げてるのか、わき目も振らずに前進を続ける。視界の悪さと泥の所為で何度か転んだのか服には泥が付いている。

その時、一筋の光が自分の背中を照らした。

 

「!?」

 

「居たぞぉ!」

「脱走者だ、捕まえろ!!」

 

見つかった! 少女はそう思って転びそうな体でも無理矢理移動を続ける。

その直後には、少女の通った道を黒いタイツを来た男たち…戦闘員が追いかける。

少女は逃げてる内に目の前の道が消える。それどころか地面すらなく、下は台風で荒れ狂う海だ。

 

「ひッ!」

 

「追い詰めたぞ!」

「捕まえろ!」

 

少女が暗い荒れ狂う海を見て足元の地面の一部が落ちると短い帆名を上げ、追いついた戦闘員が少女との距離をジリジリと詰めていく。

 

「鬼ごっこはお終いか?お嬢ちゃん」

 

「!?」

 

その時、戦闘員ではない男の声が聞こえた。雨も降り風も強い中、ハッキリと聞こえ振り向くと戦闘員ではない別の男が地面を見ている。

その男は薄茶色のスーツを着ていて夜なのにも関わらずサングラスを付けている。

 

「もう逃げ場はねえ、大人しく捕まりな」

 

「…!」

 

「飛び込んだッ!?」

 

暫く、男と海を交互に見ていた少女だったが、意を決したのか少女は荒れ狂う海に飛び込んだ。

少女が荒れ狂う海に飛び込むとは思っていなかった戦闘が崖の下を見るが激しく動く波しか見えなず少女の姿は何処にも見えない。

 

「馬鹿な、小娘だ。オイ、戻るぞ」

「し…しかし…」

「他の村人どもの監視もある。それに地獄大使にも報告しなきゃならねえんだ」

 

サングラスの男にそう言われ戦闘員も大人しく戻る事にした。

その場には、台風の雨風と荒れ狂う海しかなくなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日。

台風が過ぎ去り、空には久しぶりの太陽が昇る。

海岸には台風の影響か幾つもの流木が流れつきちょっとゴミゴミしていた。

そんな海岸を彼女たちは歩いていた。

 

「昨日は台風だったのに今日は凄い晴れてるね」

「…そうだね」

「流木だけじゃなくてプラスチック製のゴミもあるね」

「…そうだね」

 

未来と響が砂浜を歩いていた。

落石で軽い脳震盪でアッサリと目覚めた未来は気分転換の為、響を誘って海岸付近を歩いている。

しかし、幾つか未来が話題を振るが響の食い付きが悪く沈黙する時間が増えつつある。

 そんな響の反応にも関わらず未来は何気ない日常の話を振っている。

 

そして、未来達の後には、

 

「未来の奴、はしゃいでるな」

「そういう年頃なんでしょ」

「いや、アタシたちと変わんねえだろ」

 

護衛役のクリスとリハビリも兼ねたマリアが付いて来ていた。

 火傷した事でマリアの片足には包帯が巻かれ少し歩き辛そうに見える。

 

「…大丈夫なのか?」

「シンフォギアのお陰でね、みんな大げさなのよ」

 

幸いマリアの足はシンフォギア越しだった為火傷も大した事は無いのだが念のためにと包帯が巻かれている。

その包帯がマリアの足の動きを阻害してもいる。

 

「それで、アナタはあの子を信頼する気にはなったの?」

「…信用はしてるさ」

 

ふと、マリアの視線が響に行きクリスに「信頼した」か聞き、クリスも苦笑いしつつ「信用」と言った。

 ショッカー墓場で捕まった時、モニター越しだが響が怪人軍団相手に奮闘し翼と奏の手助けをしているのはクリスも目撃した。

クリスとしても、もう一人の響の功績を無視してるつもりはない。自分たちの世界の響に比べれば少し暗いが戦闘能力自体、自分の知る立花響と遜色はない。

 本来なら、クリスとしても元の世界の響並みに信頼してもいいのだが、

 

「やっぱり、あの子の体が気になる?」

「…それもあるんだが、アイツとショッカーの関係がな。ただ敵対してる感じでもない気が…」

 

クリスが気になってる事は、当然S・O・N・G本部を襲撃し後輩である月読調と暁切歌の二人を負傷させた地獄大使と一緒に居た響の正体だ。

 もし、目の前にいる響が本当の響なら地獄大使と一緒に居た立花響は誰なのか?

クリスとマリアもそれとなく響に聞いてみたが、響は泣きそうな目で言葉を詰まらせるので結局聞けずにいる。自分たちが無理矢理にでも教えろっと言えば、恐らくは話すだろうがクリスもマリアも其処までの事は出来ずにいる。

 

そして、もう一つ気になる事はショッカーの響に対しての殺意だ。

 勿論、ショッカーは自分たちにも殺気を向けているが響に対しては特に強く感じている。

 

「アイツもそうだが、ショッカーの殺意は並々ならねえもんを感じた。それこそアタシ等以上だ、同じ世界で戦い続けていたにしても…」

「いくら何でも殺意が高すぎる?立花響の性格を考えれば無理もないと思うけど…」

 

マリアは嘗ての人形(人でなし)と戦っていた響を思い出す。身を挺して日本や自分たちを守ってくれた錬金術師の三人、そんな彼女たちを侮辱した人形(人でなし)に立花響は初めて話し合いを拒否し、人形(人でなし)を倒した。

 

響の性格なら人形(人でなし)以上の人でなしのショッカーに容赦しないと思っている。

その言葉にクリスも納得する。

それでも、クリスの中には何か引っかかりが残る。

 

「あら?如何したのかしら?」

 

物思いに更けているクリスの耳にマリアの声が聞こえ前を向く。

すると、響が屈んでいて未来が自分たちを呼んでいる姿が見える。

何か起きたのかとマリアとクリスは視線が合うと響と未来の下に走って行く。

 

「おい、どうした!?」

「た…大変なの!」

 

クリスの声に未来はただ「大変だ」と伝えるだけで要領を得ない。

そこで屈んでいる響に視線を向けると、息を呑むと共に二人は納得した。

響の手元には自分たちより一回り年下の少女が横たわっており、響が介抱している。

 

「大丈夫!?しっかりして、意識を戻して!」

「直ぐに救急車を呼んでくる!」

 

響が少女に必死に呼びかける。だが、響の声に少女が反応せずマリアが変わるよう言う。

 

そして、マリアは少女の首に触って脈を図り両手で胸を圧し少女の口に息を吹き込む。体が海水に濡れている以上海でおぼれたと判断した。

暫くそれを続けていると少女は咳をすると同時に海水を吐き出す。

そして、薄っすらだが少女が目を開ける。

 

「しっかりしなさい!救急車が直ぐに来てくれるわ」

「生きぬことを諦めないで!」

 

マリアと響が檄を飛ばす。

その時、少女の口が動いてる事に気付いたマリアが耳を近付ける。

 

「助…けて…じごく…島…ショッカーに…ワタシたち…の島を…助けて…」

 

「「!?」」

 

か細い少女の声だが確かに聞こえた。

ショッカーの名を、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

海岸に打ち上げられた少女が救急車で運ばれた後、マリアたちは特異災害対策機動部二課本部の潜水艦に戻った。

 

「じごく島…出ました。東京から約600キロ離れた太平洋側にある島の名前です」

「島民の総数は約1000人前後、一応東京都にはなりますが、一週間に一回のフェリー以外なく交通の分があまりにも悪い島で年々過疎化が進んでいますね」

 

モニターには地図と島の写真が写る。

少女の言葉を調べる為にも「じごく島」という場所を調べてもらった。

 

「大戦時には小さいが海軍基地にもなっていたと聞く。そこがショッカーに狙われるとは…」

「それにしても『地獄島』ってえらい名前だな…」

「…元は江戸時代に重罪を犯した犯罪者を隔離していた島らしい、一度送られれば脱出不能の孤島で囚人たちから地獄のような島だったから名付けられたと聞く」

 

島の由来にクリスはウヘェとした表情をする。

だが、交通の便は悪く何かしていても本土に届く可能性は低い。

 

「…ショッカーが狙うにはうってつけですね」

「奴等、あの島で何をしてるんでしょう?」

「さっき、じごく島に向けて自衛隊のヘリが飛んだ。そのヘリからの映像がもう直ぐ来る」

 

源十郎がそう言った直後にオペレターの友里あおいから自衛隊のヘリより連絡が来てモニターには自衛隊のヘリから見える島の様子が映る。

 

「…何だと!?」

「写真の島と全然違うぞ!」

 

その映像を見て源十郎もクリスも信じられなかった。

写真に写っていた小高い山も田園風景も綺麗に無くなり、コンクリートで作られた巨大な道路が見え、端の方では、何人かの老人と中年が何か作業をし背後で戦闘員が鞭を振るっている。

明らかに強制労働をさせている。

これにはクリスもマリアも顔を歪め、眼には怒りが込められる。

 

「あの道路の様な物は…滑走路か!?」

「アイツ等、飛行機でも集める気か?」

 

島民に無理矢理作らせていた物は滑走路だと見抜いた源十郎。それに反応しクリスが飛行機と口にする。

すると友里あおいが源十郎たちに視線を向け何かを報告する。

 

「…あのつい先日、島の近くで妙な機影を捉えたようなんですが」

 

そう言うと、友里あおいがコンソールを操作しモニターに写真を出す。衛星から撮ったのか島の近くをのようだ。

 

「これがその機影です」

 

友里あおいは、更に写真を拡大すると米粒大だった物が飛行機の機影だということが分かった。

しかし、其処まで突き止めたがショッカーの目的は未だに不明だった。

 

その後、更に島の中央に向かおうとしたヘリだが赤い光が照らされると同時に映像が途絶えた。

 

「…機影が消滅、撃墜されたようです」

 

藤尭朔也が一言、そう言った。

 

 

 

 

 

「こんな大規模な工事、政府が気付かなかったのかしら?」

「…何分東京都とは言え辺境に近い上に、都内でショッカーとの大規模戦で何処も人手不足で」

「公務員の殉職率も高く、今じゃ新人や引退した人たちまで呼び出す始末だ…」

 

日本の公務員の殉職率は高かった。特に自衛隊と特異災害の人員が。

ただでさえ、通常兵器が効かないノイズの上に世界的犯罪組織のショッカーが人目もはばからず活動し多くの人間が死んでいる。

 いくら公務員とはいえ、此処までの死者を出されては日本のマンパワーでは底をつく。

結果、主要都市といった重要な場所以外の扱いが難しくなった。

じごく島もその結果と言える。

 

「そこまで死人が出てるのね」

「恥ずかしながらな、ノイズだけでも厄介だったがショッカーの大規模テロで政府は完全に首が回らなくなったんだ」

「だったら一刻も早く、島からショッカーを追い出さないとな」

 

クリスの言葉に源十郎も頷く。

善は急げとばかりに、源十郎はじごく島へ行くことを決めた。

最初はスピード重視のヘリでシンフォギア装者の翼たちを行かせようかとも考えたが自衛隊のヘリを撃墜した赤い光を警戒し、本部を動かす事を決意する。

 

「…私も…行く…」

『!?』

 

いざ、じごく島に行く事を決めた時、指令室の扉から声が聞こえ、全員が振り返る。

 其処には、響に肩を抱かれたこの世界の立花響が、

尤も、顔色はお世辞にも良いとは言えず入院患者用のパジャマ越しからでも分かる包帯が巻かれている。

 

「『私も行く』ってその状態でか!?」

「ハッキリ言って無茶ね、アナタの心臓にあったガングニールだって消滅したのよ」

「君は、負傷して一週間も経ってないんだぞ!」

 

慌てるクリスとハッキリ拒否するマリアとどう反応していいか分からない未来。負傷してそんなに時間が過ぎてないと説得する源十郎。

 島一つがショッカーの手に落ちてる以上、戦力は多い方がいい。

しかし、源十郎が言ったようにこの世界のヒビキは響との戦闘で負傷し手術をしたのだ。病み上がり以前の問題だ。

 

「大丈夫…最近の医学って進んでるんでしょ? それにガングニールも特異災害で保管されてる物を使えば問題ない」

 

そう言って笑うヒビキだが、額には汗が浮かび上がり無理してる事が伺える。

これには、肩を抱いて補佐している響も心配する。

 

「お願い!私の居る世界で好き勝手するショッカーをこれ以上野放しにはしたくない。アイツ等の所為で人が死ぬなんて間違っている!」

 

「…ふう、なら条件だ。もう一人の響くんも共に行動しろ…未来くん、君も念のために付いて行ってくれるか?」

「ハイッ!」

 

源十郎の声に未来が即答する。

ヒビキの決意が固いと知った源十郎は息を吐き出すと条件付きでヒビキを加える事にした。これ以上拒否すれば勝手に出る可能性も否定できない。

 ならばせめてと、ヒビキがリラックスできるようにと響と未来を付けさせた。報告ではヒビキと響は暫く共に過ごし、未来はこの世界でも親友だという。それなら瓜二つの小日向未来の方が馴染めると考えた。

逆に、クリスとマリア、翼と奏ではまだ打ち解けてないと考える。特に、ショッカーが現れる前の翼への塩対応を見る限り。

この二人ならばフォロー出来ると一緒に行動させることにした。

 

特異災害対策機動部二課本部の潜水艦の初任務として、じごく島に進路を取る。

 

 

 

 

 

 

 

 




ピロリロリン、じごく牧場はじごく島に進化した。
響たちがショッカーの次なる作戦を止める話。

仮面ライダーを知っている人なら気付くと思いますが、次はイモリゲス回のオマージュです。それからもう一つ仮面ライダーのシナリオを組み入れる為、牧場から島に規模が大きくなりました。
劇中だと、男以外始末されましたが響たちとの戦闘と人手不足で女子供や老人も強制労働させられてます。

劇中だと、地獄大使が超音速機と言うだけで戦闘機か爆撃機かは不明。
調べると、超音速機は偵察機まである模様。
…何処から手に入れようとしたんだ?地獄大使は。

果たして島民たちはぶじだろうか?

未来、何気にW響達成。どれも別の世界の響だが…


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120話 地獄のじごく

たぶん、今年最後の投下。
今年は色々ありました、親知らずを抜こうとしたら横向きで苦労したり、転んで背骨が折れたり…

皆さん、良いお年を


 

 

 

 

台風が過ぎ去り穏やかな風と波が行き交う海。

魚が泳ぎ、その魚を狙う鳥が自由に飛び回り、イルカが海面をはねた。

そんな海に海面から潜望鏡が延びる。

 

「じごく島への距離、凡そ○○」

「モニターでも確認!」

 

特異災害対策機動部二課の職員の報告に藤尭朔也も報告する。

モニターには潜望鏡で覗いたであろう、島の姿が映る。

本来なら、古い港に幾つもの漁船があり閑散としているであろう場所が、新しくコンクリートで造られた壁の様な物が見える。

 

「完全に要塞化されてるわね」

「ここまで用意周到な奴なんて初めてだな」

 

月面や遺跡など敵の本拠地に行ったことは多数あるクリスとマリア。

それでも短期間で島を要塞のようにした敵にはあった事が無い。

 

「とりあえず、何処か陸地の近いところに停泊を…」

 

源十郎がそう口を開いた時だった。

 

轟音と共に船体が揺れ海面から水しぶきが噴き出す。

直後、黒煙が海面から昇る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大小さまざまな機器が並ぶ薄暗い部屋。

そんな部屋の中には、数人の戦闘員とバラランガ、サングラスをかけた男。そして地獄大使が居る。

更にもう一人、誰かが居るが陰になっており見えない。

彼らの中心には一台の機械が置いており、その機械から島の全体像が映っている。

 

「地上の工事も一先ず終わった。これだけの滑走路なら超音速機をいくら発進させても問題あるまい」

 

地獄大使がそう言うと、台の装置を触れる。

直後に、機械から出ている島の全体像が切り替わり、蓋を開ける様に地下の全体像を映す。

 

「予定されていた、超音速機も想定通り集まった。訓練が終わり次第、日本中に爆弾の雨を降らし今度こそ日本を征服するのだ!」

 

滑走路の下は強大な格納庫になっており、既に幾つもの飛行機が整備されている。

地獄大使の作戦、それは秘密裏に集めた超音速爆撃機で日本中に爆弾を投下し日本国民の虐殺及び政府機関の抹殺が目的だった。

多少の生き残りが出ようがこれで日本征服が出来る。

 

「シンフォギア装者も、音速で動く戦闘機や爆撃機では手も足も出まい」

 

怪人たちを倒し、幾度も自分たちの作戦を阻止してきた響を始めとしたシンフォギア装者たち。

しかし、今回の作戦はシンフォギア装者を相手にせず一般人を狙う。

 阻止したくとも、空を音速で飛ぶ戦闘機や爆撃機を相手にできるとは思っていない地獄大使。

短時間ぐらいなら、飛ぶ事も出来るだろうが音速を超える戦闘機に追いつける程ではない。雪音クリスの遠距離攻撃も音速を超えるスピードでは無力だろうし、経験の浅い小日向未来では神獣鏡では当てるのも難しい筈だ。

 

「それでも止めようというなら、疲弊させ怪人たちに始末させるだけよ」

 

響たちの事だ、一般人への攻撃が始まれば何が何でも阻止しようと動く事は予想できる。

 ならば、響たちに無駄な抵抗をさせ疲弊したところを怪人たちに襲撃させればいい。

 

「更に、その地下には…」

「地獄大使、報告です!」

 

続きを離そうとした地獄大使。

だがその時、一人の戦闘員が入ってきて緊急の報告をする。

 

「何事だ?」

「島の周りに張り巡らした機雷が反応しました。潜水艦が近づいてます!」

 

戦闘員から侵入者が現れた報告だ。

 

「この辺りの海は海上自衛隊の訓練域からも離れている。ならば、自衛隊が偶然来た訳でもない…先のヘリの撃墜を考えれば特異災害対策機動部二課か、案外早かったな。貴様ら持ち場に付け!予定変更しこの島を小娘どもの墓場にしてやれ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

突然の事に立っていた者たちは床へと転び、座っていた者たちも椅子から転げ落ちそうになる。

響は倒れかかったヒビキと未来を助け出している。

 

「何が起こった!?」

「き…機雷です!巧妙に隠蔽されている物が多数!」

 

源十郎の声に友里あおいが答える。

海中には幾つもの機雷が設置しており決まった海路を進まねば爆発してしまう。

 

「船底部分にダメージを確認!幸い航行に支障はありませんが何度も受けては持たないかと!」

「…これでは近付けん!」

 

 島の周りにはショッカーが設置した機雷が幾つもあり、ショッカーの信号を受信する装置か抜けれる海路を進まない限り爆発し海の藻屑になる。

今回は、最新鋭の潜水艦であった為、強度もあって軽傷ですんだが無理に進めば轟沈は避けられない。

 

「一旦退いて態勢を立て直すべきか?」

「…島の人達を置いていくの?」

 

源十郎としては、一旦退く事も考える。機雷の爆発でショッカーにも此方の存在がバレた可能性がある以上、奇襲などもう出来ない。

 此処は退いて海上自衛隊と協力して機雷を撤去し改めて攻める必要がある。

しかし、ヒビキの言う通りそれは島の村民を見捨てる事になる。

自分たちが島の事を知ったと思うショッカーが果たして村人たちを生かしておく保証がどこにある。

 

「…おい、アタシにいい考えがある」

 

悩んでいる源十郎の耳にクリスの言葉が聞こえる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、島の方では何人もの戦闘員がバイクに乗り封鎖している港へと向かっている。

背中にはバズーカを背負い、海中の潜水艦を撃つのが目的だ。

 

「…! 待て、何だあれは!?」

 

その時、一人の戦闘員が何かが空を飛んで此方に近づいてる物がある事に気付きバイクを停める。

それに続き他の戦闘員もバイクを停止させ、飛んでくる物の正体を探る。

 

「ミサイル?」

「ミサイルの一発や二発、どうという事は無い。行くぞ」

 

その正体は直ぐに分かった。弾頭が赤いミサイルだ。

特異災害対策機動部二課の発射したミサイルだろうと判断した戦闘員はミサイルを無視し港に行く事にした。

基地は島の地下深くでミサイル程度で如何にかなるものではない。

大方、特異災害対策機動部二課の悪足掻きだと判断した。

 

()()()()()()()()()()()()

 

戦闘員たちは気付かない、ミサイルの中心部がパカっと開くと同時にそこから4人の人影が飛び出した事を。

 

 

桜吹雪の静音(Silent beat)…

 

 

「音楽と歌だと!?」

 

ミサイルを無視して行こうとした戦闘員たちの耳に音楽と歌声が聞こえ、慌ててもう一度ミサイルの方を見る。

視線を向けた先には自分たちに迫る銃弾の雨あられが、

 

ギャンギャンと沸き散らした イカれた群れスズメ

どの世界に首突っ込んでも 標的(まと)のオンパレードだ

 

歌い主であるクリスの弾丸は正確に戦闘員やバイクに命中し爆発を起こす。

それに反応したのか他の戦闘員も海岸ではなくクリス達のいる方に向かう。

 

「よし、敵はアタシ等に夢中だ!」

「このまま囮として突っ込むぞ!!」

 

礼儀作法がなっちゃいねぇ(Go to hell!)

ド派手花火でShall We Dance?(Go to hell!)

 

 見れば、戦闘員の乗ったバイクや銃座の付いたバギーまでこっちに迫ってきている。

しかし、それらを見てもクリス達は臆することなく迫る戦闘員たちの群れに突っ込んでいく。多少の銃弾ならシンフォギアが防いでくれる上に似たような事もクリスとマリアはバルベルデでやってきた。

 

「響たちの為にももっと目立っていくぞ!!」

 

奏の掛け声を合図に一斉に迫る戦闘員たちに向かう。

直後、バイクやバギーが宙に飛び爆発し戦闘員たちの悲鳴が木霊する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

コンクリートで壁の造られた港。

その外側に何人かの黒服たちがモーターボートに乗って港の壁付近に居る。

 

「…予定時刻になりました。戦闘員の影は無し」

『此方でも確認した、マリアくんたちは見事に囮になっているようだ』

「クリスたちがやってくっれたね」

「これで私たちは捕まっている人たちを助けに行ける」

 

黒服と源十郎の会話の後に未来とヒビキも言葉を続ける。

二人だけではない、響も喋っていないがコンクリートの壁の前で拳を当てている。

 

そう、彼女たちは別動隊だ。

島の人間である島民たちが捕まってると思しき古い教会へ助けに行くのだ。

実は、自衛隊のヘリが撃墜する寸前に戦闘員が島民たちを島の端にある古い教会へと運んでるのを目撃していた。

 響たちはその島民たちの救出が目的だ。

その為にクリスとマリア、翼と奏がワザと目立ち戦闘員たちの目を釘付けにしている。

 

『よし、作戦開始だ響くん』

「はいっ!」

 

源十郎の通信を聞いた響は腕のガングニールのパーツを引いて腕を振りかぶり一気に拳をコンクリートに叩きつける。

同時に、引っ張ったパーツが元に戻りエネルギーが一気にコンクリートを貫く。轟音と共に粉砕されるコンクリート、尤も島の中心部ではクリスの歌声と爆発音が響き戦闘員たちはそれに引きつけられている

響の目の前にあったコンクリートは見事に粉砕され人間が通るには十分の穴が開く。

 

「…お見事」

「凄いよ、響!」

 

ヒビキと未来が称賛する。黒服たちも口にはしないが何人かが小さめの拍手をする。

 

『道は開いたな、港から海道沿いの道を行けば協会に行ける筈だ』

 

通信機からの源十郎の声に響たちが頷くと黒服と共に穴をあけたコンクリートを進む。

クリス達に遅れ響たちも島に上陸した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Let's bang! 繋いだ手と手の信頼は(忘れはしない)

強弓紡ぐ弦(つる)のように 絶対切れない代物(しろもん)だ!

 

クリスのボーガンの矢が戦闘員を次々と薙ぎ倒す。

そして、見える範囲で戦闘員が居なくなると少し呼吸を置いて歌うのを止める。

辺りにはバイクやバギーの残骸が散らばり幾つも燃えている。

ガソリンが燃える匂いにクリスが一回だけ咳をする。

 

「喉は大事にしておけ、煙は喉へのダメージは大きんだ」

 

すると、クリスと少し離れて戦闘員の相手をしていた翼がそう言ってクリスの下に向かっていた。

翼の傍にはマリアも居り、そっちでも戦闘員の相手をしていたようだ。

 

「あいよ、そっちは?」

「出て来た戦闘員は軒並み倒したわ…怪人は一体も出てきてないわね」

 

マリアの報告にクリスも眉を顰める。

三桁近い戦闘員を蹴散らしたが、怪人が出てこないのはクリスも感じていた。

そうなると考えられるのは、ショッカーの怪人は壊滅状態か…

 

「恐らくは島に作った基地で待ち受けてるだろうな」

「待ち伏せか…厄介だな」

 

翼の言葉にクリスも頷く。

何時造り出したのか分からないが、こんな短期間に大規模な滑走路を造ったのだ。内部にも巨大基地が造られてる可能性はおおいにある。

地の利は完全にショッカーにある以上、待ち伏せだけでもシンフォギア装者には厳しかった。

 

 

 

 

「おい…戦闘員から基地の出入り口を聞きだした!」

 

その時、翼やマリアと別行動をしつつ戦闘員の相手をしていた奏が遅れて戻ってくる。

奏の口にした言葉にクリスたちも注目する。

 

「聞き出したって、どうやって?」

「戦闘員同士の会話を聞いたんだ。出入口は少なくとも二つ、一つは戦闘員や怪人が出入りする通常の出入り口、もう一つは資材搬入用の運搬用のエレベーターがある」

 

奏は偶々、戦闘員同士の会話を聞いていた。

クリスが暴れた事で資材を時間予定変更でエレベーターに下ろすよう赤い服の戦闘員が黒い戦闘員に指示していたのを見つけた。

 後をつけ搬入口も分かっている。大きさも何人も乗れそうだった。

 

「奴等の話だと、エレベーターの方は下層まで行けるそうだ」

『そうか、なら二手に分かれた方がいいな』

「そうね。…ん?」

 

二人に分け、二カ所から入り込むのは構わない。

各個撃破される可能性があるが、洞窟のようにアンドロガスで一網打尽にされれば目の当てられない。

ならば、通信機の源十郎の言う通りに二手に分かれるのがいいだろう。万が一の時は外に響たちがいる。

 だが、マリアは別の事に反応した。

 

「指令の声が通信機から聞こえた気が…」

「ああ…アタシも聞いた」

『…報告が遅れたか、奴等の妨害電波に引っかからない通信機を開発したんだ』

 

ショッカーの妨害電波で、特異災害対策機動部二課はシンフォギア装者である翼やクリス達と連絡が絶たれ連携を取る事は出来なかった。

 その結果、装者は何かしらのアクシデントを本部連絡することが出来ず指示を貰えず自分たちで判断せざるを得ない、本部も装者の見聞きした情報を戻って来た時でしか調査も出来なず後手後手の対応しか出来なかった。

その状況を打破する為、源十郎は政府と共に打開策を考え新型の通信機を作り出した。

 

『取り敢えず、何時まで奴等に通用するかは不明だが地下深くでも連絡が取れる。響くんたちももう直ぐ教会に着く』

「なら、急いで地下に降りた方が良いわね」

 

マリアの言葉にクリスたちも頷く。

 時間を与えれば態勢を立て直したショッカーがどう出るか分からない。

なら、時間を与えず敵の拠点を叩いた方が良い。

クリス達は二組に分かれ出入り口、二カ所に潜り込む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

放置され雑草が伸びきる畑に、ボロボロになった家屋。

その隙間を通る黒服たちに交じる響たち。

戦闘員がクリス達に向かったようだが、警邏している戦闘員が居る可能性がある以上、慎重に教会へと進んでいる。

黒服たちも響たちも緊張した空気で移動する。

 

「…ぷっ!」

 

そんな空気をぶち壊したのはヒビキだった。

何かを思い出して噴き出したようで、響も一瞬たじろぐ。

 

「…響?」

「どうしたの、もう一人のワタシ」

「ごめん…昔の事をも思い出して…」

 

未来と響の質問にヒビキは顔を赤らめて謝罪し理由を言う。

 

「昔?」

「…うん、私がまだ幼稚園ぐらいの時に親友…この世界の()()と街を探検した時があったんだ」

 

ヒビキが長らく忘れていた…いや、封印していた記憶、それがこの世界の小日向未来の記憶と思い出だった。

 エレキボタルの策で重傷を負い意識が戻るまでに見た夢に出ていた。

自分でも何故思い出せなかったのか不思議なくらいだったが、今なら分かるように気がするヒビキ。

 

「…ツヴァイウィングの事件の後に、世間のバッシングで家族まで巻き込んで…辛かったけど、丁度その時に未来のお父さんの仕事の関係で引っ越しちゃったんだ…」

 

「…そうか」

「…この世界にも私が居たんだね」

 

響は、ヒビキの独白を聞いて今までの行動に納得する。

自分にとっても未来は心の支えだ。その彼女が居なくなりバッシングが続いた結果、ヒビキは一人でノイズと戦うようになった。

もし、響も未来が居なくなり嘗てのバッシングや迫害を受ければヒビキのようになった可能性がある。

 

━━━だけど、ワタシはショッカーに拉致されちゃったけどな…未来を巻き込まないだけ良かったかな?

 

ある意味、この世界のヒビキ以上に不幸になってる事に気付いてない響。

緊張感に包まれた空気が少し軽くなった気がすると同時に教会が見えて来た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「此処が…」

「見張りも居ないね…」

 

少し離れたブロック塀に身を隠しつつ教会の様子を窺う響たち。

見た目だけでも相当古い教会だったが、逃走防止用か窓には木の板が打ち付けられ、ご丁寧にステンドグラス部分にも木の板が貼られている。

しかし、それだけの事をしておいて見張りの戦闘員は一人も居なかった。

 

「たぶん、クリスたちも方に行ったんだよ」

「…あれだけ派手に暴れれば行くかな?」

 

未来もヒビキも戦闘員がクリスの方に援軍に言ったと推測する。

それでも、油断せず黒服たちが教会の周囲を取り囲んで戦闘員の影が無いか探し、扉にも黒服が罠が無いか調べる。

 まるで昔見たスパイ映画みたいだと思いながらも響たちも扉の前に陣取る。

 

「…罠の類はありません」

 

黒服の報告に響たちは互いの顔を見合い、教会の扉を開く。

中は予想通り光も碌にない真っ暗であったが、扉から入る僅かな光が奥に届き何人かが座っている事に気付く。古い服やパジャマのままだったりで島民たちだと推測する。

 

「…あの、私たちは特異災害対策機動部です!皆さんを助けに来ました!」

 

未来が島民らしき陰にそう言った。

黙ったままでは、ショッカーの一味だと勘違いされ下手に騒ぎかねないからだ。

 しかし、未来の声が教会内に響くが座っている島民たちは反応するどころか、身じろぎ一つしない。

その反応に未来とヒビキは互いに視線を合わせ頷くと座らされる居る島民に近づく。

響は念のためにと黒服たちと周囲を警戒する。

 

━━━暗いけど私の目には明るく見える、見たところ島の人間しか居なさそうだし周囲を警戒した方がいいかな。島の人達は少なからず気配がするから無事だと思うけど…でも気配が少ない気が…

 

「あの…私たち特異災害対策機動部の人間で…」

「…大丈夫…ですか…・怪我してるなら…」

 

未来とヒビキがそれぞれの座っている島民に触れようとした時、島民の体は力なく倒れた。

 

「キャアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!」

 

「未来!?」

 

未来の悲鳴が教会内に木霊し響が声の主である未来達に近づく。

響が駆けつけると未来は尻もちをついて震えている。

 

「如何したの、未来!」

「人が…人が…」

 

響の声に未来は倒れた人に指を刺しうわ言のように繰り返し、ヒビキの方に視線を映せば未来と同じように床に尻もちをついて唖然としている。

二人の反応に訝しんだ響が倒れた島民の様子を見ようと近づき…愕然とした。

 

「と…溶けてる!?」

 

倒れた人の顔、腕や足が茶色い液体状になり流れていく。

其処から白い骨が見える以上人の体が溶けてると分かった。

 

「人が…人が…オエェ!?」

「未来!?」

 

あまりのショックの所為か、それとも人間が解けるのを間近で見た所為か未来の喉元か酸っぱい物がこみ上げ出撃前に食べていた食事諸共吐き出してしまう。

 慌てつもゆっくりと未来の背中を撫でる響がヒビキにも視線を繰ると未来と同じように吐き戻し嗚咽も混じる。

 

無理もない、ヒビキは目の前で人が殺され戦闘員が解けて消滅するのを目撃したが、人間がハッキリと溶けていく様など見た事もないだろう。

見れば、教会内を調べていた黒服たちも吐きはせずとも顔色が悪い。

響も改めて座らされている人たちを見回し、殆どの人間の顔の部分が溶けてて茶色の液体化している事に気付く。

 

━━━島の人達は全滅していた、恐らく生き残っている人は殆どいない。…あれ?でもこの気配は…

 

「ゥニイィィィィィッ!! 少し遅かったな立花響!!」

 

「「「!?」」」

 

響が気配が奇妙だと気付いた直後、教会内に不気味な声が響き、座らされていた元島民たちの方が煙を上げ誰かが飛び出す。

暗くて見え難いが頭部が黒い針だらけの顔に黄色い中身、左腕にハサミを持った怪人がいた。

 

「お前がやったのか!? ショッカーの改造人間!」

 

「俺の名はウニドグマ、此処に居る人間どもは俺の幼体の餌として使用したんだ!!」

 

怪人…ウニドグマは響にハッキリと言う。

その姿は以前の怪人と同じく悪びれた様子もない。

 

━━━こいつ等、また関係ない人たちを! まって!? 幼体って言った?なら…「ギャアアアアアアアアアア!?」!?

「「!?」」

 

黒服の悲鳴が聞こえ、響たちが悲鳴の聞こえた方を向く。

其処には、火達磨になっている黒服と、

 

「ウニ…ドグマ…!?」

 

炎を噴いたであろうもう一体のウニドグマが居る。

それを皮切りに、暗い教会内、壁や床から別のウニドグマが這い出て来る。

耳をすませば、外から銃声や悲鳴が聞こえる事から別のウニドグマも居る模様だ。

 

「同じ怪人が何体も…」

 

「驚いたかぁ!俺の幼体『ウニドグマの卵』に人間の細胞を餌にすれば、第二第三の俺が完成する。地獄大使の用意した超音速機で日本を大混乱にした後は俺が残った人間どもを食い尽くす!日本中に俺様が溢れるのだ!!」

 

ウニドグマが語る地獄大使の恐るべき作戦。

それは、ウニドグマを使い日本をウニドグマ巣にする事だった。

響たちは、この恐るべき作戦を阻止する事は出来るのか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ヒビキもこの世界の未来との思い出を思い出しました。
ショッカーに狙われる可能性が爆増しました。

クリス達が乗っていたミサイルは、シンフォギアGの調たちお捕らえようとした時の物です。
全体像が見えない。

ヒビキも未来もとうとうゲロインになってしまいました。
何しろ本編の映像も今まで以上にグロいです。

戦闘員に鞭を使われた島民も働けなくなったり、工事が終了すれば用済みとしてウニドグマの幼体のエサにされました。


前にもう一つのシナリオと言うのがウニドグマ回の大滝村です。
この村は少年以外、ショッカーに皆殺しにされたというヤバい村です。
因みに映像は本部にも流れてるので職員の何人かは吐いてる可能性あり。

ウニドグマの言う通り、日本をウニドグマの巣にするのが地獄大使の策の一つです。


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121話 じごく島の戦い

基地の内部のモデルはPS2の正義の系譜の基地内部です。
鍵探さないと…


「オエェッ…」

 

響たちのモニターをしていた職員の一人がゲロを吐く。

職員もモニター越しとは言え、茶色の液体化していく人間を見て耐え切れなくなった。

 

「しっかりしろ…ウプッ!」

 

隣に居た職員が励まそうとするが、その職員もまた人間が溶ける姿を見て吐き気を催す。

彼等とて、今まで対ノイズを想定して働いてる特異災害対策機動部二課の職員だ。しかし、ノイズとは違う殺し方に耐性などないも同然ではある。

 

指令室で見守る源十郎もその職員を責めはしない。

 

「…捕まっていた島民は全滅したのか?」

「分かりません、ですがあの教会の大きさでは全ての島民を収容できるとは思えません」

「…もしかしたら生き残ってる島民が島のアジトに囚われているかも」

 

じごく島の住民の数は約千人、教会の大きさでは詰め込んでも2~3百人が限界だ。

なら残った住民は何処に行ったか?ショッカーがじごく島に造ったアジトが怪しいとみる。

 

「…ショッカーアジトに侵入した翼たちに伝えるか」

 

 

 

 

 

 

 

 

=クリス 翼=

 

一方、ジャンケンでチームが決まったクリスと翼は早速出入り口から内部に侵入している。

偽装の為か、入り口付近には受付の様な物があり幾つかの椅子がある。

一瞬、病院の時の記憶が蘇る二人に本部の潜水艦から通信が入る。

 

「こちら、翼。内部の侵入に成功した」

『そうか、響くんたちが教会に入ったんだが…』

 

翼が施設の内部に侵入した事を告げると源十郎が教会での出来事を話す。

周囲を警戒していたクリスだが、通信機から漏れ聞こえる声を聞いてる内に顔を歪ませその辺の椅子を蹴り上げた。

蹴られた椅子は音を立てて少し移動する。

 

「…結局、全滅かよ!!」

「しかも自分が増える為に食っていただと、醜悪極まりない!」

 

二人の声はどれも怒声に近かった。若干、椅子を蹴り上げた足が痛いが怒りの感情で誤魔化すクリス。

この場所が敵地である為、一応声を絞っていたが持ち合い室には十分伝わる程だ。

その音が合図になったのか、四方八方から戦闘員が姿を現しクリスと翼を囲う。

 

「丁度いい」

「お前たちに聞きたいことがある!」

 

この時の二人は戦闘員にとっても不憫と言えるほどの蹂躙を受ける。

 

 

 

 

 

 

「なんじゃこりゃ…」

「飛行機か?」

 

襲い掛かる戦闘員を蹴散らし探索する内に幾つかの扉を潜り階段を下りて目にしたのはとんでもない広さの格納庫と整備されている飛行機群だ。

其処には骨董品レベルの物から最新式の物まであり博物館のようにも思えた。

 

『その飛行機は恐らくウニドグマの言っていた超音速機だろう。君たちシンフォギア装者を無視して日本を大混乱にする為に地獄大使が用意したそうだ』

 

通信機の源十郎から、ウニドグマの話していた内容を教えられる二人。

 

「なら、こんな物ぶっ壊した方がいいな!」

「待て、雪音!」

 

此処に集められた飛行機が地獄大使の作戦に必要なら破壊しようとし、アームドギアをガトリング砲に変えるクリス。

しかし、それに待ったをかけたのは翼だった。

 

「…何だよ」

「本部の見解が正しければまだ島民が囚われている筈だ。下手に破壊すれば巻き込むことになる!」

 

特異災害対策機動部二課はまだ島民が囚われている可能性を考えた。

もし、まだ囚われているのなら基地自体の爆発や破壊じたい悪手でしかない。

翼の声を聞いたクリスは大人しくアームドギアを引っ込める。

 

 

 

 

「ネズミがもう此処まで来ていたか」

 

「「!?」」

 

丁度その時、二人の背後から声がし振り返る。視線の先には背広を着た真っ黒なサングラスをし葉巻を加えた男が居る。

一見すればただのゴロツキにしか見えないがクリスはアームドギアのボーガンを構え、翼も剣を握る。

 

「まったく、役に立たん戦闘員どもだ」

 

「その口ぶり…」

「お前、怪人だな」

 

男の口ぶりから正体が怪人だと確信する二人。

そんな二人の様子に男は葉巻を吐き捨てると口を開く。

 

「ところで知っているかな?お嬢ちゃんたち。南米メキシコ奥地には巨大な牛をも一刺しで殺す毒アブがいることを」

 

「どんな危険生物だ…」

「その口ぶりからして、お前の正体は…」

 

「ふふふ…人呼んでアブゴメス!」

 

男の姿が一瞬にして変化する。

青い体に巨大な緑色の複眼に白い口の突起物、頭部に生える羽がより不気味に動く。

正体を現したアブゴメスにクリスと翼は巨大な虫の顔に背中から汗が流れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

=マリア 奏=

 

その頃、資材搬入用のエレベーターから基地の最深部付近に降りたマリアと奏が慎重に通路を歩く。

クリス達が暴れてるのか偶に戦闘員の集団が通るが気付かれずに済んでいる。

 

「…機械が多いわね」

「連中の科学力は並みじゃねえな」

 

道中、通路や部屋の中に置かれている機械が目に入り思わずマリアが呟き奏がそう返す。

どれもこれもマリアたちが見たことない機械が多く用途不明な物ばかりだ。

何かの拍子で存在がバレる可能性がある以上、下手に触る事も出来ない。

 

「囚われてる人は何処に居るのかしら?」

「分かるまで下手に暴れる事も出来ないな…」

 

教会での出来事はエレベーターの中で源十郎から聞いている。

本当に島民たちが囚われているなら助けに行きべきだ。

そう思ったからこそ、二人は慎重に進んでいる。時に警備をしている戦闘員を尋問しようとしたりするが殆どの戦闘員は喋ることが出来ず殴り倒すだけになる。

 

「何だ、こりゃ?」

 

アジト内のある一室に入った二人、周りを見渡し奏の口から何度目かの声を出す。

其処にあるのは、人一人ぐらい入れる金属で造られた円柱のような物が幾つも置かれている。

金属の円柱にはガラスも取り付けられておる中を覗けるようだが温度差の所為か殆どのガラスが曇っていた。

 

「曇ってるな…! 中に人が!」

「こっちにも!」

 

奏が何気なくガラスを触って曇りを取ると中に人間が居る事に気付く。

同時にマリアも覗いてみると円柱の金属の中に人を発見する。

一瞬、囚われてる島民たちかと考えた二人は他の円柱の金属を知らべる。

そして、全ての円柱の中に人が居るのを確認した。が、

 

「お…同じ顔?」

「見事なまでに全員同じね」

 

人間は確かに居た、しかしそのどれもが同じ顔、同じ髪型の同一人物にしか見えないのだ。

 

「三つ子とか五つ子とかそういうレベルじゃないぞ」

「…なるほど、カラクリが分かって来た気がするわ」

 

奏は金属の円柱の中の人間が全部一緒にしか見えず混乱するがマリアは引っかかっていた物の正体が見えて来た気がした。

取り敢えず、他の場所も探そうと足を一歩踏むと、

 

 

 

 

「其処に誰か居るのかい?」

 

施設の奥から白衣を纏った初老がかった男がマリアたちのいた場所に踏み入る。

マリアと奏は声を出さず互いの目を見て男の拘束を行なった。

直後、男の野太い悲鳴が辺りに響く。

 

 

 

 

 

「つまり君たちは政府の役人なんだな!」

「え、ええ…そうよ」

「特異災害対策機動部二課だ」

 

取り敢えず男を無力化した後に尋問をしていたマリアだったが、男の様子がどうにもおかしい。

男の目には希望が見えてるような反応だったうえに上記のセリフだ。

男のテンションにマリアがついていけず奏は自分たちが特異災害の政府機関だと話す。

 

「そうか…やっと政府が僕たちの存在を…!」

「…その様子だと、お前はショッカーの人間じゃないのか?」

 

奏の質問に男はソッと首を縦に振る。

 

「僕はこの島の開業医だ、ショッカーの連中が島を制圧した後に医療の知識があるからって無理矢理協力させられていたんだ。僕の家族も人質にされて逆らう事すら許されない…」

 

男は開業医の医者だった。医者であることでショッカーに強制的に従わせられ雑用の仕事をさせられていた。

逆らえば妻子を殺すと脅されるオマケつきだ。

 

「アナタ…本当にこの島の医者なの?」

「本当だ、僕の名は池田邦夫。政府筋なら私の事が分かる筈だ」

「…聞いてるか、旦那」

 

 男は捕まっていた島の開業医の医者を名乗ってはいたが、ショッカーは人間に化けれるうえに何度か騙される経験をしたマリアは簡単には信用していない。

そこで、奏が本部に連絡し男の言っている事が本当か聞きだした。

 

『…ああ、池田邦夫の名は医者としても登録されてる。それに姿も完全に彼だろう、信用して大丈夫だと思うが…』

 

本部は即座に池田邦夫の名を調べ本当にじごく島に赴任している医者だと確認した。

その事を奏やマリアにも伝えると奏は警戒を解くが、マリアはまだ完全に信用してはいない顔をしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…一月前に、何時も通り皆が島で暮らしていると海と空からヘリと船が島に来たんだ。過疎化も進んで静かな島だったから、皆何事だって言って見に行ったんだ、勿論僕もね。

でも、島に降りて来た連中は黒い覆面と全身黒タイツの連中と頭に被り物をしたオッサンだったんだ。島はアッサリと制圧されて抵抗した駐在さんは殺されたんだ。島にあった電波塔も制圧されて外部との連絡も絶たれて…」

「一月前って言うと、ドクガンダーが私たちを最初に襲って来た時ね」

「それからは奴等の言いなりか」

「その通りだ」

 

 現在、この島の医者だと言う池田邦夫に基地内部の案内をして貰ている。

無理矢理とは言え、このアジト内で働かされていた池田邦夫はマリアたちより基地の内部を詳しいだろうと案内をしてもらっている。

 尤も、池田邦夫曰くショッカー科学陣の雑用がメインだったようだが。

 

 池田邦夫曰く、島を占領されたのは一か月前であり丁度、ショッカーがこの世界に来た位の時だとマリアは考えていた。

 

━━━あの頃はドクガンダーも私たちが自分たちの世界のシンフォギア装者だと勘違いしていたけど、それから間もなく島一つを占領?そしてアジトの建設…早すぎるわ

 

マリアは改めてショッカーの行動の速さに血の気が引く。

別段、この一か月間ショッカーが大人しかった訳でもないと言うのにアジトを片手まで造っていたのだ。

 

「それで、アンタはショッカーの何を手伝わされていたんだ?」

「…ある特定の人間のクローンです」

「「!?」」

 

奏の問いに池田が答えると二人は一瞬声を出せなくなった。

錬金術師とて人工生命体のホムンクルスを造る事はあるが、人間をクローンしている事には慣れてない二人。

 

「まるでSF映画ね」

「…地獄大使が言うには、『適合する人間は滅多に居ない。居ないのなら作り出せばいい、クローンで改造人間の素体を増やす』って言っていた」

「素体…」

「…名前からしてやっぱり怪人は人間が材料なのかよ!」

 

地獄大使の目的は分かった。

何となくだが、改造人間の素体に人間を使う事に少しショックを受けるマリアと奏。そうと分かればこの施設を無傷で残すなどありえないと考えるが、

 

「今直ぐ破壊してしまいたいけど、人質が居る可能性があるのよね」

「アンタ、人質が囚われてる場所が分かるか?」

 

流石の二人も罪のない一般人諸共消し炭にする程腐ってもいない。

しかし、このままでは基地の破壊も出来ないので池田邦夫に人質が囚われてる場所を聞いた。

 

「牢獄の様な場所があるのは知っているが具体的には…メインコンピューターにアクセスできる端末を操作すれば分かるかも知れん」

「その場所は何処に?」

「あっちに開けた場所にある機械だ」

 

 

 

池田邦夫の案内である区画に来た奏とマリア。其処には確かに簡易的な端末とモニターがあった、だがそれよりも二人の目を引いたのは巨大な金属のタンクだ。。

それも複数だ。

 

「なにこれ?」

「随分と大きいけど」

 

二人が疑問を口にしてる内に池田はその場にあった機械の端末を起動させ操作しだす。

モニターには幾つもの英語と日本語が浮かび、池田が呼んでいく。

 

「あ、データがある。ええと…アン…ドロ…ガス?」

「「!?」」

 

池田が操作している機械のモニターの文字を読んだ直後、マリアと奏は息を呑んだ。

ショッカーが開発した対シンフォギア用毒ガス、アンドロガスがタンク内で造られているのだ。

 

「これら全部がアンドロガス!?」

「どんだけの量を造ってんだよ!!」

 

歌で生み出し、シンフォギア装者の力でもあるフォニックゲインを分解させるアンドロガスを生産する事は眼に見えている。

 しかし、想像以上の生産にマリアはおろか奏すら背筋に冷や汗が流れる。

 

「こうなったらこのタンクを破壊するしか…」

「待てぇ、此処で壊したらこの辺り一帯にアンドロガスが流れるぞ!」

 

このまま、タンク内のアンドロガスをショッカーが確保すれば自分たちシンフォギア装者の苦戦は免れない。シンフォギアを纏っていないシンフォギア装者などただの少女でしかない。

だからこそ、マリアはタンクを破壊しようとするが奏が寸前の所で止める。

この場でアンドロガスが漏れれば、この場に居る自分たちがシンフォギアを使えなくなる。普通に外ならあまり問題ないだろうが、此処は敵地のど真ん中だ。

アンドロガスが漏れてる以上、源十郎もクリス達に救援に行けとも言えない。

シンフォギアを纏ってないマリアと奏では脱出するのも楽ではない。

 

「あの…このガスが厄介でしたら無力化出来るみたいですけど…」

「「…へっ!?」」

 

大量のアンドロガスを前に頭を抱えていたマリアと奏の口から変な声が出る。二人の様子に思わず丁寧語で喋った池田に二人の視線が刺さる。

一瞬、池田が何を言ってるか分からなかったが、数秒もせずに二人の思考は元に戻る。

 

「む…無力化ってどうやって…」

「正確に言うならアンドロガスは完成してません。今は最終工程付近まできていますが、今のガスは非常に危ういバランスなんですよ。ちょっとした電流が流れるだけでも性質が変化してただの煙になるよ」

 

端末で調べた事を語る池田。

池田の調べた通り、アンドロガスは完全には完成していない。

洞窟でのマリアたちを無力化した事で量産が決まったが、そこまで時間は経っていないのだ。

 

「つまり、今ならガスの無力化が出来るって事ね!」

「直ぐに出来るか!?」

「このシステムなら……出来ますね」

 

その後、池田は端末のキーを操作しアンドロガスの無力化を行う。

その間数分、マリアたちにとって何時間も経ってるような感覚が襲う。

イライラしてきたマリアが口を開く。

 

「まだかかるのかしら?」

「あと少しだ……よし、後は決定キーを押せば「そこまでだっ!」!?」

 

あと少しでアンドロガスを無力化できる時、三人の耳に不気味な子をが聞こえた。

マリアと奏が臨戦態勢で辺りを見回すが、自分たち以外誰も居ない。

 

━━━声は何処から聞こえた!?機器が邪魔で周りを見渡せないが、せいぜい床に赤い液体が流れてるだ…け…?

 

「おい、マリア。あんな所に赤い液体何て漏れていたか?」

「…いえ、気付かなかったけど…」

 

奏は床に赤い液体が散っているのを見つけたが、此処に来た時にあんな液体があった記憶が無くマリアに聞くがマリアも同じ返答をする。

マリアも奏も周囲をよく観察していたとは思ていないが、特に水気もない場所で赤い液体が水たまりのようになっていれば多少は覚えている。

そんなことを考えていると赤い液体が白い爆発すると共に白い煙を出した。

白い煙からは、爬虫類のような顔をし薄い黄色の色をした体に顔や左半身に緑や青のブツブツを付けた怪物が居る。

 

「キケケケケケケケッ!!」

 

「ば、化け物!?」

「出たな、ショッカー怪人!」

 

赤い液体から怪人が出現した事で池田は腰を抜かし、マリアと奏はアームドギアを取り出し構える。

しかし、マリアたちの目前に戦闘員が現れ、池田と距離を離される。

 

「俺の名はイモリゲス! もう少し、お前たちを泳がしたかったがな! アンドロガスを台無しにされてはたまらん。キケケケケケケケッ!!」

 

怪人イモリゲスはそう言うと口から舌を伸ばし腰を抜かしていた池田邦夫の首に巻き付ける。

舌の締め付けに苦しむ池田は巻き付いたイモリゲスの舌を引きはがそうとするが、ビクともしない。

 

「待って!?」

「何をする気だ!?」

 

戦闘員と戦いつつイモリゲスを止めようとするマリアと奏。

それでも、マリアたちと池田の距離はそれなりにあった。

 

「池田、お前の役目は終わった!もう用はない、ショッカーは用のない奴は殺す!!島で唯一残ったが、貴様も死ねぃ!!」

 

「島で唯一? 待ってくれ、僕の女房と孫たちは!?」

 

「とっくに海の藻屑よ!島の住人で残ったのはお前だけだ!!」

 

島に居た住民は既に全滅していた。予測はしていたが、怪人がハッキリと言ってる以上、無視する事は出来ない。何より、住民がまだ生きていればショッカーは間違いなく人質にしてくる。

 

「そ…そんな、僕は…何の為に…」

 

「残念だったな、池田!安心しろあの世で直ぐに会わせてやる!!」

 

イモリゲスがそう言い放った時、池田の体から煙が出て叫び声が木霊する。

何とか、邪魔する戦闘員を倒して池田を助けようとするマリアと奏だが足元に何かが突き刺さった。

 

「バラ…?」

「っという事は…」

 

嫌の予感を感じた二人だが、突き刺さったバラから煙が出ると其処からバラの怪人、バラランガが現れる。

 

「バァァァラァァァァッ!!此処であったが百年目という奴だな、シンフォギア装者ども!」

 

「お前に構ってる暇はねえっ!!」

「そこを退きなさい、バラランガ!」

 

バラランガまで現れ二人は池田を助けに行く事が出来なくなった。

そうこうしてる内に、池田の体はイモリゲスの舌で白い灰のようになってしまう。

 

「見たかっ!俺の性能をな、お前たちも直ぐにこうなる!!」

 

人一人殺したイモリゲスは悪びれる事無く、マリアたちにそう宣言する。

同調するように、バラランガも鳴き声を上げ、マリアと奏は奥歯を噛み締める

 

 

 

 

 

 

 




響にたちに続いてクリス達も怪人戦に入る話。

初期仮面ライダーから、ウニドグマ回の少年「池田邦夫」が大人になり島の医者として登場。
…サプライズになるんだろうかこれ?(知ってる人いる?)

クローンとホムンクルスって違うんだろうか?科学と錬金術の違い?キャロルは自分の細胞からホムンクルスを造ったのか、造ったホムンクルスを自分と同じようにしたのか?…謎です。

じごく島のアジトにはクローン人間を大量生産し怪人の素体にするのと、アンドロガスを大量に生み出す為に造られた側面があります。言うなれば、正義の系譜でのゾル大佐の目的です。
つまり、此処を失えば地獄大使とって大打撃もいいところです。

原作でもそうですが、地獄大使はどうやって超音速機を手に入れるのだろうか?


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122話 激戦の島

新仮面ライダースピリッツの最新刊にてデルザー軍団復活っ!!
単行本派なのでどう活躍するか楽しみです。




 

 

 

「翼さん達が怪人と戦闘に入りました!」

「奏さんの方でも怪人たちの襲撃!」

 

海上で留まっている特異災害対策機動部二課本部である潜水艦の指令室では、アジト内に潜入していたクリス達が怪人と遭遇し戦闘に入った事を知らせる。

 

「怪人たちのデータは?」

「…ありません、初めて見る怪人のようです!」

 

源十郎が怪人のデータがあるかと聞く。データがあればまだ戦い方への助言なり、弱点を教える事も出来ると思ったからだ。

しかし、帰って来たのはデータなし。つまり見たことない新しい怪人だという事だ。

更には、

 

「…!翼さんたちとの通信が途絶!続いて奏さん、響さんとの通信にもノイズが!!」

「地獄大使め、もう対応してきたか!?」

 

源十郎や日本政府が用意した対妨害電波用の通信が途切れていく。

即ち、ショッカーがこの通信にも対応してる。

 

「…想定以上の速度だ、後は翼たちに任せるしかない」

 

自分たちの想定を超えるショッカーの対応に歯噛みしつつ響や翼たちに頼むしかない源十郎たち。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「妨害電波により、特異災害対策機動部二課との通信を遮断に成功しました」

「ふふふ…特機部二め、我らを舐めていたな」

 

島にあるアジトの一室、幾つもの機械が並ぶ中ヘッドホンをした戦闘員が特異災害対策機動部二課の電波を妨害し、シンフォギア装者との連携を絶ち、地獄大使が口の端を吊り上げる。

目の前のモニターには、外にある特異災害対策機動部二課の潜水艦が映り、他にもウニドグマたちと戦う響たちの姿にイモリゲスやアブゴメスの姿まで映っている。

 

「…念のために()()()()()()()、万が一の時はこの島ごとシンフォギア装者を葬り去る」

 

地獄大使の言葉にその場にいた戦闘員が「イーッ!」と返事をすると、それぞれが持ち場に戻る。

その様子を見た後に地獄大使がモニターに目を戻す。

 

「しかしアブゴメスめ、調子に乗り過ぎだ」

 

さっきとは打って変わって、目が据わりそう言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

=クリス 翼=

 

巨大な格納庫に置かれていた飛行機群。

その内の一機が爆発し、爆炎が舞う。煙の中から二つの人影が出て来た。

クリスと翼だ。

 

「ゴホッ!ゴホッ!」

「チクショウ…」

 

「如何した?シンフォギア装者ども、逃げてばかりではつまらんぞ!」

 

咳き込む翼に歯を食いしばるクリス。そんな二人に冷酷な声が響く。

燃え盛る飛行機の上を頭部の羽で飛ぶアブゴメスだ。

二人は、飛んでるアブゴメスを睨みつける。

 

「テメェー、正気か!?」

 

クリスの怒号が響くがアブゴメスはクリスの声を無視して両手の指をクリス達に向ける。

 

「また撃ってくる!?避けろぉ!!!」

 

翼が一早く反応してその場を移動し、クリスも続いてその場を飛びのく。

直後、クリス達の居た場所にロケット弾がいくつも降り注ぐ。

それどころか、停めている飛行機の一機にもあたり爆発が起きた。

 

「この飛行機群はお前たちの物では無かったのか!?」

 

「そんな物よりお前たちを首の方が価値がある!仮に飛行機が全滅してもお前たちの首さえあれば十分おつりがくる!!」

 

アブゴメスは自分たちのアジト内にある飛行機を躊躇いもなく破壊している。

予想外の行動に対応の遅れたクリス達はアブゴメスのロケット弾に苦戦する。

遠距離戦ならクリスも引けを取らないが、ここにクリスの火力まで加えては基地内の被害は余計酷くなり下の階にいるマリアたちや、捕らえられてると思しき島民が危ないと考える。

 

何より、アブゴメスと違い長時間飛ぶ事の出来ないクリスと翼には飛行機が燃える炎と煙は厄介の一言だった。

 

「アブ野郎め、これ見よがしに飛び回りやがって…」

「…シンフォギアでも短時間は飛べるが、あんな風にはな」

 

上を取られたクリスと翼も自分たちの不利を噛み締める。

シンフォギアも無理すれば飛べるがアブゴメスのようにはいかない。或いはエクスドライブを使えればと考えるクリス。

 

「…飛びたいと思ったのは久しぶりだ」

「私も同意見だ。場所が悪すぎる、移動して通路に誘導しよう」

 

クリスの呟きに賛同する翼。

しかし、無いものねだりをしても仕方ないと翼は格納庫の出入り口を指差す。

この格納庫は天井も高く、このまま空を飛べるアブゴメスとの戦いは不利だと思い、まだ狭い通路での戦闘が良いと思いクリスの提案する。

クリスも、己の不利を悟っており翼と共に格納庫の奥にある通路を目指す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

=マリア 奏=

 

基地の最深部でも激しい金属音と連続した爆発音が響き煙が舞う。

基地に搭載されたファンにより煙は取り除かれ、其処には煤の付いたマリアがアームドギアの短剣を握る。

 

「しつこい女め、大人しくその命をショッカーに捧げろ!」

 

「お断りよ!」

 

イモリゲスが舌を伸ばし、マリアの首に巻き付けようとするがマリアも簡単には引っかからない。

寸前で回避して、短剣を蛇腹にしてイモリゲスに反撃する。

しかし、イモリゲスはマリアの短剣を握り動きを止める。

歴戦のマリアといえど、怪人との力比べは不利でしかない。イモリゲスは握った蛇腹剣を振り回し、マリアを天井や床に叩きつける。

 

 

 

 

 

 

 

少し離れた場所ではアームドギアを握った奏が何かを殴る。それはバラの花だった。

 

「バァァァラァァァァッ!!お前も此処で死ね、天羽奏!」

 

「そう簡単にくたばるか!」

 

バラランガが再び奏に向けバラを手裏剣の様に投げつける。

奏も、投げられたバラを捌きつつ隙をついて一気に槍でバラランガに突っ込む。

 

「なっ!?」

 

だが、刺さる寸前でバラランガが片手で奏の槍を制止する。それどころか、バラランガが握っていくいく内にヒビまで入る。

 

「バァァァラァァァァ、そんな槍で私を倒せるとは思わんことだ!バァァァラァァァァッ!!」

 

そう言うと、バラランガがお返しとばかりにもう一方の片手に持っていたバラを奏に突き刺す。

肩の辺りに鋭い痛みがはしった奏の口から「あぐっ!?」という声が漏れる。

奏の目には、インナーを突き破り、自分の肩に突き刺さるバラが目にはいる。

 

「バァァァラァァァァ、このバラで操ってやってもいいが…地獄大使からは確実に消せと言われている!悪いが死んで貰うぞ!バァァァラァァァァッ!!」

 

バラランガはそう言うと、奏に突き刺しているバラに更に力を入れ奏の肉の中に入っていく。

奏の肩からは血が噴き出しバラに血が付きより一層赤くなる。

 

「うわあああああああッ!!」

「天羽奏!?」

 

たまらず奏が悲鳴を上げ、その悲鳴が木霊し、マリアの耳にもはいる。奏の名を呼ぶマリアだが、助けに行こうとするとイモリゲスが邪魔をする。

 

「何処へ行くつもりだ、貴様は此処で死ぬのだ」

 

「其処を退きなさい、イモリゲス!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

=響 ヒビキ 未来=

 

「ドグマファイヤーーーッ!!」

 

ウニドグマが夥しいい炎を吐き、響たちに向け放つ。

溶けていた死体も一瞬にして灰にする炎を辛うじて避ける響たち。

ウニドグマの吐いた火炎は教会内にも広がり、アッサリと教会全体が火事となる。

木で作られた椅子やドアは燃えて、天井も火の粉が降ってくる。

 

「このままだと建物が持たない、外に出よう!」

 

響がヒビキと未来にそう言った。

燃え盛る炎で視界はよくなったが、ウニドグマの炎に包まれてはシンフォギアといえど持たない可能性がある。

三人はそれぞれ、教会の壁やドアをぶち破って外に出るが、慌てていた為三人の距離が離れてしまう。

何より運が悪い事に、三人とも別方向の壁を破った為バラバラになって外に出た。

そして、外には黒服たちを始末していた別のウニドグマたちが居た。

 

「教会から逃げ出したぞ、殺せぇぇーーーー!!」

「「「「ゥウウニィィィーーーーー!!」」」

 

「外にもこんなに!?」

「気を付けて、後ろからも来る!!」

 

響の声にヒビキと未来が教会の方を見る。

燃え盛り崩れていく古びた教会だが、炎の中から何体ものウニドグマが平然と出てくる。

響たちはバラバラの状態で完全にウニドグマたちに取り囲まれた。

 

「かかれぇぇーーーーーッ!!」

 

ウニドグマの一体が合図すると響たちを取り囲んでいたウニドグマが一斉に響たちへ飛び掛かる。

 

 

 

 

 

 

 

「死ねぇーーーッ!!」

 

「…させない!」

 

ヒビキがウニドグマの一体の左腕を回避し、カウンターでウニドグマの腹部に蹴りを入れる。

直後に別のウニドグマが火炎を吐くがヒビキはジャンプしてこれを回避し、真後ろにいたウニドグマに肘鉄を入れる。

 

「ウニィィィィッ!?」

 

肘鉄を喰らったウニドグマは少しよろめくが倒せる程のダメージではなく直ぐに態勢を立て直そうとした。

直後に、

 

「ハアアアアアアアアッ!!」

 

ヒビキの拳が頭部の針を砕き一気にウニドグマの顔面を打ち抜く。

拳をまともに食らったウニドグマは今度こそ倒れ爆発した。

 

 

 

 

 

 

 

 

未来は複数のウニドグマたちの拳を避ける。

 

「こんなの響の拳に比べれば!」

 

何時も間近で並行世界とはいえ響の戦い見て来た未来だ。

自分の知る響の拳に比べれば、ウニドグマの拳はある程度は見切る事が出来る。

 

だからといって複数の場所から飛ぶ拳、全てを捌けるかは別だ。

脚に、腕に、腹部に、未来の死角から次々と繰り出される拳。幸い、シンフォギアのお陰でウニドグマの左腕のハサミや拳の威力を軽減しているが、未来の纏うシンフォギアも無敵ではない。

所々ヒビが入り、防御に使っていた帯の一本が千切れる。

 

こうなったら一旦、上空に逃げて体勢を立て直そうと飛び上がるが、

 

「逃がすか!ドグマファイヤー!!」

 

何体ものウニドグマが吐く火炎の所為で思うように上に行けず、それどころか脚を掴まれ引きずり降ろされる。

それでも諦めず、未来は鏡を操りビームなどで対抗するが、小さな鏡のビームではウニドグマを怯ませても倒せる程の威力は無い。

そこで未来は背中のパーツを連結させ、今までより極太のビームを放つ。

未来の出した巨大なビームはウニドグマの一体の飲み込み爆発を起こす。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

響の方は、ヒビキや未来以上の数のウニドグマを相手にしていた。

一体のウニドグマを相手にしてる途中、別のウニドグマが響の背後を取り背中から押さえつけ、前に居たウニドグマの拳やハサミ状の腕で攻撃される。

何発かの拳を受け、顔に切り傷を付けた響だが攻撃していたウニドグマの脇腹に蹴りを入れ、更に背後に居たウニドグマの拘束を無理矢理とって前に居るウニドグマに投げつけた。

 

「ええい、囲め囲め!」

「何としてでも立花響を殺せっ!!」

 

「お前たちに何か絶対に…負けるもんかあああああ!!」

 

響が腰のブースターで一気に加速する。

その前には、響を攻撃していた二体のウニドグマが居り一気に響が加速した拳を振るう。

傍目には、響がウニドグマと交差したようにしか見えないが、直後に二体のウニドグマから短い悲鳴が上がり爆発する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ウニドグマどもめ、不甲斐ない!」

 

アジトの一室、地獄大使は響たちが戦闘するモニターを見て吐き捨てるように言う。

予定通り、用済みの島の住人を喰らい数を増やしたウニドグマだが、宿敵の立花響だけでなく、この世界の立花響と並行世界の小日向未来にまで敗れている事が不満であった。

 

「ウニドグマたちの能力が予定より落ちているようです」

「…長時間、陸上に居て海に潜らなかった弊害かと」

「………誰だ、ウニドグマをあそこに配置したのは?」

 

地獄大使がポツリと呟くが、傍にいた戦闘員たちの心は一つとなっている。

そんなおり、クリスやマリアを監視していた戦闘員たちから動きがある事を報告される。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

=クリス 翼=

 

「な、何だ!此処は!!」

 

格納庫から扉を潜って別の場所に来たクリスと翼。

 格納庫から出たまでは良かったが、其処は二人の思い描いた狭い通路ではなく、逆の鉄で作られた通路兼橋で周囲には格納庫以上の巨大な空間が広がっている。

ある意味、格納庫以上に広大でもある。

 

「何かを保存する場所にも見えるが…」

「…底が見えねえ」

 

クリスが橋の下を見て生唾を飲む。

それなりに明るい筈の場所だが、クリスの視点からでも底が見えず暗くなってるる様に見えた。

 

「そこが貴様たちの墓場か?シンフォギア装者ども!」

 

「!?」

「もう来やがったか!?」

 

上から声がし見ると相も変わらず頭部の羽で飛ぶアブゴメスが指を向けて居る。

そのまま指からロケット弾を撃とうかと考えたアブゴメスだが、何を考えたのかクリス達のいる橋に降りた。

 

「橋を破壊してお前たちを落として殺すのもいいが、それでは面白くない。俺様の力を見せてやる!」

 

「変なところでアタシらを舐めてるな、こいつ等…」

「だが有難い!」

 

鼻をくすぐるGunpowder & Smoke

ジャララ飛び交うEmpty gun cartridges

 

地上に降りたアブゴメスにアームドギアのボーガンと剣を持つクリスと翼。

最初に口火を切ったのはクリスだった。アブゴメスに向け何発ものボーガンの矢を打ち込む。

赤い光の矢は寸分狂わずアブゴメスに命中した。しかし、クリスの矢にアブゴメスは意にも介さず直進し翼たちに迫る。

 

「そんなへなちょこのボーガン程度で俺を倒せるか!?」

 

「ちっ!」

 

紅いヒールに見惚れて

うっかり風穴欲しいヤツは

挙手をしな

 

ボーガンが効かないとみるや、クリスはアームドギアをガトリング砲に変えて撃とうとするが、アブゴメスが派手に動き、自分たちの乗る鉄の橋が大きく揺れる。

その所為で、クリスは狙いを付けられず明後日の方向を撃ってしまう。

ならばと、翼は剣を振りアブゴメスを斬ろうとするが、アブゴメスの腕に食い込むだけで切る事が叶わない。

 

血を流したって 傷になったって

時と云う名の風と 仲間と云う絆の場所が

 

仮に鉄の橋が崩れても自分だけは飛べると、アブゴメスの動きに躊躇いが無い。

翼の顔に拳が入り、クリスの腹を蹴る。橋の上では一方的な戦いが繰り広げられている。

 

「如何した!シンフォギア装者どもっ!!そんな実力で怪人たちを倒してきたと言うのか!?」

 

「コイツ…自分が飛べるからって…」

 

アブゴメスと違い、クリス達は落ちるときは真っ逆さま。

これなら、まだ格納庫で戦った方がマシだと考える翼。

 

痛みを消して カサブタにする

…あったけえ

 

「さて、そろそろフィナーレと行こうじゃないか」

 

「うわっ!?」

「な…何をする気だ、アブゴメス!」

 

アブゴメスは自身の拳で叩きのめしたクリスを持ち上げる。クリスも抵抗するがアブゴメスの力の前には無力に等しい。

そのような行動を見て何をする気かと言う翼。尤も、予想はついているが、

 

「当然、此処から落としてやるのよ!いくらシンフォギアでもこの高さから落とされては潰れたトマトのようになるだろうがな!」

 

「「!?」」

 

アブゴメスの回答にクリスと翼は眼を見開く。

ある意味決着がついたようなものなのにアブゴメスはクリスを完全に殺す気だった。

翼が何とか立ち上がって止めようとするが、アブゴメスの拳が顎に入ったようで、上手く体を制御できない。

そんな翼の反応を無視してアブゴメスはクリスを持ち上げ橋の手摺の前にする。

 

「さあ、地獄に落ちろ!雪音クリスゥゥゥーーーーー!!!」

 

アブゴメスはそう言うと何の躊躇いもなくクリスを橋から叩き落す。

 

「雪音ぇぇぇぇーーーーッ!」

 

やっと立ち上がった翼だがクリスが落とされた事で手摺から身を乗り出すように下を向いてクリスの名を叫ぶ。

しかし、クリスの返答はない。

 

「そ…そんな…!」

 

クリスの姿すら見えなくなった事に愕然とする翼。

直後に、頭部に痛みを感じると共に引っ張られる。

 

現在-いま-を120パーで生きて行きゃいい

そうすりゃちったぁマシな過去に

 

「悲しむ必要はない、貴様も直ぐにあの世に逝くぅ!そうだな…お前は俺の毒で殺してやる!!」

 

「下郎め…」

 

アブゴメスは翼の恐怖心を駆り立てる為、口の毒針を見せつける。

既に、アブゴメスの毒針からは雫が出て床へと落ち、網目状の橋から落ちていく。

その姿に翼は恐怖心と怒りが胸からこみあげてくる。

 

未来はいつだってこの手にある

(Fire!)疑問?愚問だッ!(Fire!)挨拶無用

 

「終わりだ、風鳴翼!この歌がお前のレクイエム…待てっ!?」

 

そのまま翼の首に毒針を突き刺そうとしたアブゴメスだが、何かに気付き動きを止めた。

アブゴメスが何に反応したか分からない翼。

 

「何故、叩き落した雪音クリスの歌がまだ聞こえる!?小娘は真っ逆さまに落ちた筈だ!!」

 

雪音クリスは橋から叩き落して殺した筈、そう思っていたアブゴメスにクリスの歌がまだ聞こえているのだ。

直後、背後から強風と轟音が聞こえ踏むいた。其処には、

 

「(Fire!)全身凶器の…♪」

 

「何だと!?」

 

アブゴメスが見たのは、肩にミサイルを付けて宙を浮いているのだ。

更には、アームドギアをスナイパーライフルにしアブゴメスに狙いをつけている。

 

「ミサイルを発射せず接続したまま飛んだというのか!?しつこい小娘だっ!」

 

クリスがシンフォギアで作り出したミサイルを発射せず、接続したまま浮き戻ってきたことに驚愕するアブゴメス。そう言えばとアブゴメスの脳裏にシンフォギアの能力の中に短時間だけだが飛行も出来るという情報を思い出す。

チラッと翼の姿を見て人質にしようと手を伸ばした。

 

「鉛玉を …… 喰らいやがれ!!」

 

しかし、その動きを読んでいたクリスは一気にスナイパーライフルを撃つ。

翼に触れようとしたアブゴメスの腕が宙に飛んだ。

 

「ヴルルルルルッ!!俺の腕がっ!?ここは退く!」

 

予想外の攻撃により片腕を喪失したアブゴメスは慌てて頭の羽を動かし逃げようと飛ぶ。

しかし、クリスがソレを見逃す気など欠片もない。

 

「こいつは土産だ、持って帰れぇ!!」

 

クリスが浮力にしていたミサイルを切り離し橋に着地する。

反対に切り離した二つのミサイルは撤退する空中のアブゴメスへと向かう。

 

アブゴメスの失敗は橋から逃げ出した事だ。

橋に居座れば、翼を気にしてクリスはミサイルを別の方向に撃って橋に着地し第二ラウンドだったのが、アブゴメスが飛んだことで自分たちに影響がないと判断したクリス。

 

「腕が…ッ!小娘め、次に会った時が…!ミサイルが!!」

 

腕が千切れ撤退し、クリスへのリベンジが燃えたアブゴメスだが、クリスの肩にあったミサイルが自分を追っている事に気付き飛行速度を上げる。

しかし、ミサイルの方が早くアブゴメスとの距離がドンドンと縮まってゆく。

 

「だ…ダメだ!間に合わ…!」

 

次の瞬間、ミサイルはアブゴメスを捉え爆発。衝撃と爆炎がアブゴメスを襲った。

 

 

 

 

 

 

「…やったのか?」

「たぶん…」

 

翼とクリスが橋の上でミサイルの爆発を目撃し翼が呟く。

クリスも手ごたえはあるが怪人の耐久度は無視できず自信もない。

それでも爆発した煙が引きアブゴメスが居た場所には、もう何もないという事で二人はやっと胸を撫でおろした。

 

「疲れた…」

「アタシもだ…」

 

同時に緊張も糸も切れたのか二人は橋に座り込んだ。

格納庫で襲われ、場所を変えようとして余計に不利な橋の上での戦いだ。疲れもする。

暫く沈黙が続くが、

 

「此処で休むのも危険だな、マリアたちも心配だ。奥に行こう」

「…あいよ」

 

橋の上で休み続けるのも危険だと判断した翼がクリスに奥に行こうと言いクリスも頷く。

アジトに侵入した自分たちに怪人が来たのだ。より奥の方に侵入したと思うマリアたちの方にも当然送られているだろうと救援に行く。

尤も、その前に少し休んで体力の回復を狙うが、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




公式でのウニドグマの弱点の一つは「長時間、陸上で活動できない」…。
お前、よく自分の卵を墓場に持ってきて隠してたな。
恐らくは地獄大使のうっかり。

先ずはアブゴメスとの決着。
クリスはXVの3話と6話の再現ですね。

次回辺りでじごく島の戦いも終わりそう。


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123話 沈む島 潰える野望

最近、ネットの繋がりが不安定な気がする。


 

 

 

=マリア 奏=

 

ショッカーの基地に改造されたじごく島。

 

島内部に造られたアジトの下層部分。

幾つもの機械が置かれた場所で、金属音と打撃音が響く。

 

「いい加減死んで貰うぞ、マリア・カデンツァヴナ・イヴ!!」

 

「クッ!?」

 

飛び掛かるイモリゲスがマリアにすれ違いざまにマリアの腕を引っかき傷を付ける。

腕に纏っているシンフォギアとインナーが破かれ宙を舞い、マリアの腕から鮮血が漏れる。

マリアとて、ただ攻撃を受けるだけではなく短剣を蛇腹状にして鞭のように使うが悉くがイモリゲスの腕が防ぐ。生身に見えるのに金属音と火花が上がる事でマリアも眉を顰めている。

 

傷口を押さえつつ、再び反撃しようと蛇腹剣を持って振り返るマリアだが、イモリゲスの居る場所には誰も居ない。

 

「! また!?」

 

咄嗟に自身の脚元に赤い水たまりのような物を見つけると同時に赤い水たまりから腕が延びマリアの頬をかすめる。

マリアは、イモリゲスの液状化能力に苦戦していた。

少しでも視線を逃れれば、イモリゲスは赤い液体に変化しマリアの足元や頭上に移動し不意打ちの攻撃を繰り出している。

そして、マリアのアガートラームの短剣も液体化する事により回避している。

 

「どうだ、俺様の性能が分かったか?」

 

イモリゲスに振り回されるマリアの姿を見て言い捨てる。

マリアも、今までとはまるで違う戦いに対応しきれない。

マリアはハッキリ言って苦戦している。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マリアたちから少し離れ、ビーカーやフラスコが幾つも置かれた机、何かの実験中とも思われるが、其処に衝撃が走る。

 

「イタタタタ…」

 

衝撃の下である奏は「痛い」と呟き起き上がろうとした。

足元には先程まで置かれていたビーカーやフラスコがガラス片となり液体も流れる。

 

「バァァァラァァァァッ!!そろそろ死ねぃ!」

 

「そう簡単にくたばってたまるかっ!!」

 

バラランガが奏に向け、自身の棘を投げつける。奏も、投げられた棘をアームドギアの槍で叩き落すが、一瞬ふらついた。

棘の匂いが奏の鼻に届いたのだ。その匂いに奏は一つの結論に辿った。

 

「!…テメェー、棘に麻薬の類を仕込んでるな!」

 

「気付いたか、天羽奏!大量に吸えばシンフォギア装者もどうなるかな?バァァァラァァァァッ!!」

 

経験上、棘の匂いが麻薬だと感じた奏が、バラランガにそう言うとアッサリと認める。

バラランガの能力や様子から、長時間吸い続ければ危ないと感じた奏は切り札の一つを切る。

 

「テメェーに見せてやるよ、アタシの切り札の一つをな!」

 

「如何あがいても無駄だとまだ分からんようだな、バァァァラァァァァッ!!」

 

奏の言葉を負け惜しみと捉えたバラランガが勝利を確信して、奏えと飛び掛かる。

目的はバラランガ自身に生えている棘で串刺しにし、棘の麻薬で奏の体を麻痺させるためだ。

その間、奏は眼を閉じ神経を集中させ息を整える。

 

「はあああああああああああッ!!」

 

そして一気に息を吐くと同時に気合を上げ、声を出す。

途端、奏の体を中心に炎の渦が立ち上る。そして、炎が治まると奏の纏うシンフォギアが変化していた。

響と同じ、白と薄オレンジのシンプルなシンフォギアが燃えるようなオレンジ色のマントにインナーや籠手部分が紫…一見、夜空の色にも見えるようなシンフォギアだ。

 

「炎だと!?炎を操れるのは風鳴翼だけじゃないのかい!?それにそのシンフォギアは一体…」

 

「やっぱり、お前たちはアタシのブリーシンガメンギアを知らないんだな!教えてやるよ、炎を使うのが翼だけじゃないってね!!」

 

奏のブリーシンガメンギア。

嘗て、この世界ではない風鳴翼と共に巻き込まれ解決した事件があった。

ブリーシンガメンギアもその事件で奏が手に入れた力の一つで奏の切り札の一つだ。

その力をバラランガに見せつける。

 

変わったのはシンフォギアだけではない。持っている槍も両側が刃になり、その刃が三つに分かれバラランガへと迫る。

 

「な、何だい!これは!?」

 

奏の放った槍の欠片がバラランガの周囲を回りだし速度がドンドン上がっていく。

更に奏も槍を回転させバラランガの体を切り刻んでいきやがて炎の竜巻が奏を中心に現れバラランガを包み込んだ。

 

SUNFLAME∞CREMATION

 

「こんな馬鹿なああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ………」

 

断末魔を上げるバラランガだったがやがて悲鳴も消え、奏の周囲に幾つもの塵が落ちていく。

ふと、奏が足元を見るとバラの花びらが落ちており、それを拾い上げた。

 

「奏姐さんを甘く見るからだ…」

 

そう言って、奏は持っている花びらをフッと息を吹きかける。

バラの花びらが明後日の方向に飛んでいきやがて見えなくなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「な、何だ?天羽奏のあのシンフォギアは!?」

 

マリアと戦っていたイモリゲスも視界の端で炎の竜巻を作りバラランガを撃破した様子を見て言葉を失う。

情報では、イグナイトやアマルガムの力を持っているのはマリアとクリスだけ(小日向未来は未確認)で天羽奏は更に別の並行世界の住人である筈。

そのシンフォギア装者が全く未知のシンフォギアを見せたのだ。

 

「余所見してる場合!?」

 

そして、マリアもイモリゲスの隙を見逃さなかった。

蛇腹状にしたアガートラームの短剣で逆にイモリゲスの首を絞める。

 

「クッ、マリア・カデンツァヴナ・イヴめ!!」

 

イモリゲスも首に巻き付くアガートラームを振り解こうとするが上手くいかない。

ならば、再び液状化して逃れようとするが

 

「おっと、簡単には逃がさねえよ」

 

「天羽奏!!」

 

バラランガを倒した奏がイモリゲスの近くに着地する。

このままマリアのアガートラームか奏のガングニールの槍でトドメ。かと思われた。

突如、爆発と共にマリアたちの居るフロアが轟音を立てて揺れる。

 

「キャア!」

「何だ!?」

 

突然の事にマリアが悲鳴を上げ、奏が何事かと辺りを見回す。

直後に、アンドロガスの入っているタンクが次々と落下していく。

それどころか、ゆっくりとだがフロア自体が下に移動してる様にも見えた。

 

「天羽奏!貴様、バラランガを倒す際この部屋を支えていた装置も破壊したな!!」

 

現在、マリアたちが戦っている場所は実験を目的としたフロアだ。

下に用がある場合、フロアごと移動できるよう作られている。奏はバラランガとの戦闘の際にフロアを動かす装置を破壊し、制御を失ったフロアが重力にさkらえない上に戦闘の衝撃で下に沈んでいるのだ。

その証拠に、フロアの落下するスピードが少しずつ上がってきている。

 

「マジで落ちてるぞ!マリア、逃げるぞ!!」

「ええっ!…!」

 

落下するフロアから脱出しようとする奏。マリアも続こうとするが蛇腹状になった短剣を戻そうとするが、何かが引っ張る。

イモリゲスだ。

 

「せっかくだ、このアジトの最下層まで案内してやる!」

 

「マリア!?」

 

マリアの脱出を阻むイモリゲス。マリアが藻掻くが、怪人であるイモリゲスの力になすすべない。ならアガートラームの蛇腹剣を手放そうとしたが、その動きを読んだのかイモリゲスの舌が再びマリアの首に巻き付く。そして、マリアはフロアごと地下に落ちていく。。

そんなマリアに気付いた奏がマリアを追いフロアと共に最下層へと向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

=響 ヒビキ 未来=

 

一方、島の地上ではもう誰も住んでいない家屋の壁がぶち破れ誰かが中に入る。

ヒビキだ。

倒れていたヒビキが身を起こし、口から血を吐き出す。

 

「ゥニィィィィィッ!まだ死なんか、立花響!!」

「俺たちの世界同様しつこい小娘だ!」

 

ヒビキが開けた壁の穴から声がすると、壁から腕が生える様に出てきて穴を広げ、二体のウニドグマが現れる。

ヒビキを追って来たのだ。

若干、ふらつきつつも拳を構えるヒビキ。

確かに、目の前の怪人は強いと言えるが倒せない相手ではない。

その時、天井からビームが撃ち込まれウニドグマたちの体勢を崩す。その隙を見逃さずヒビキのシンフォギアの腰のブースターが火を起こし加速する。

 

 

 

 

 

 

 

「ハア…ハア…」

 

その頃、ヒビキが突っ込んだ廃屋に神獣鏡のビームを打ち込んだ未来は神獣鏡のシンフォギアの力で空に浮いていた。

ウニドグマを撃破した時に一瞬の隙を見つけ、空へと舞うのだ。

未来の想像通り、ウニドグマたちは未来を追って空を飛ぶ事は出来ない。未来が安全圏で攻撃できる。

しかし、未来のシンフォギアは空を飛べるがその分、威力も低くなってしまう。

 

「…! また避けられた」

 

更には、ウニドグマも戦闘員と別格であり未来が小さな鏡で撃ったビームを悉く避けていく。

ウニドグマを倒すには『流星』クラスの威力が必要だ。

尤も、未来の飛行も無駄とは言えない。

 

 

 

 

 

 

「グッ、小日向未来め!またか!」

 

「今だ!!」

 

未来の攻撃を背中で受けたウニドグマが体勢を崩し地面に膝をつく。

響はそれを見逃さず、そのウニドグマに蹴りを入れた後に後ろを向き背中をぶつける。

鉄山靠を受けたウニドグマは断末魔を上げる事無く爆発した。

 

未来は、遠くからウニドグマを倒せないと知ると響やヒビキの援護をし、二人を助けていた。

未来の援護を忌々しく見るウニドグマたち、せめて空を飛べる怪人も居ればと自分たちが思うとは思わなかったが、無いものは無い。

 

「おのれっ!またしても!」

「早く、小日向未来を殺せぇ!」

 

未来の援護はウニドグマたちにとっても無視し辛い物だった。

鏡を操ってのビームなら、ウニドグマの体に何発当たろうが倒すほどの威力は無い。しかし、完全に無視をすれば流星で焼いてくる。

現にヒビキの方も体勢を崩したウニドグマに打ち勝っている。

 

空を飛ぶ怪人が居れば小日向未来と戦うことが出来るが、残った怪人で飛べるのはアブゴメス一人。

そのアブゴメスも、侵入した雪音クリスたちと内部で戦っている。

 

「…なら、降りてくる理由を作るだけだ」

 

一体のウニドグマが不気味に呟く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よし、響がウニドグマをまた倒した」

 

空を飛び、ウニドグマの攻撃が届かない場所まで行き響たちの援護をしている未来。

安全圏からの援護で響たちがウニドグマの数を減らしている事を確認して隙をついてウニドグマに鏡のビームを喰らわせる。

隙があれば、背中のユニットを開放して流星も撃ちたいが、ウニドグマたちもそこまでマヌケではない。

未来が流星を撃つ態勢を取れば、ウニドグマたちは響との戦いを中止させ回避行動に移る。

時には、響を盾にするように移動するので未来としても簡単には撃てない。

それでも、着実にウニドグマの数を減らしていたが。

 

━━━よし、次はあのウニドグマを…!?

 

響の援護として次のウニドグマを狙おうとした時、未来の耳に声が聞こえた。

響ともヒビキとも違う、当然ウニドグマでもない少女の声。

一瞬、クリスやマリアたちが戻ったのかとも考えたが、それにしては幼い気がする。

未来が声の方に視線を向けると、暗い茂みの方に少女と思しき影が見えた。

 

「生き残り!?響たちは…気付いてない!」

 

未来が響たちの方を見るが、響は複数のウニドグマを相手をしヒビキも廃屋から出てウニドグマと戦うが完全に死角になっている。

響たちに急いで生き残りが居ると伝えるか迷う未来。伝えれば響たちも気付くだろうが当然ウニドグマたちも気付く。

下手に知られればウニドグマは躊躇いなく少女を人質にして自分たちに降伏を迫る筈だ。

 

「響たちが行けないなら、私が…!」

「え、未来?」

 

もう自分が少女を保護するしかないと考えた未来が視線を戻した時、少女の傍に近寄るウニドグマの姿を見つけ急いで降下する。

突然の行動に未来の名を呼ぶ響。

 

未来の行動は早く、ウニドグマが到達するよりも早く少女の傍まで降りる事に成功した。

 

「此処は危険よ、急いで…! マネキンにテープレコーダー!?」

 

未来が少女に話しかけ避難を呼びかけるが、微動だにしない少女。

その時、風が吹くと共に髪が揺れて目元まで見た時に気付いた。少女はマネキンで足元には少女の声がするテープレコーダーが置いてある。

 

「馬鹿め、まんまと罠に嵌ったな!」

 

「しまっ…!?」

 

少女の正体がマネキンだと知った未来の耳にウニドグマの声が響く。

咄嗟に、空へと逃げようとした未来だが足元の土が捲れ未来の両足を何者かが握る。ウニドグマが何時の間にか地面に潜り未来を抑えたのだ。

それどころか、少女に近づいていたように見せかけの為にもう一体のウニドグマが合流する。

 

「ウニィィィィ!貴様等の事だ、こんな罠に簡単に引っかかる!」

「つまらん人間どもなど守ろうとするからこうなるのだ!」

 

二体のウニドグマが未来の行動を嘲笑う。

ショッカーにとって、未来の行動は意味はなく弱く愚かな人間を守るなど無駄な行動でしかない。

今回も、視界が悪いとはいえ空中で響たちの援護をしていればいいものを、人間一人の為に不意にしたのだ。

こうして、宙を舞う鳥は捕まってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

=マリア 奏=

 

島のアジトに造られた中心部の巨大な空洞。

本来は、フロアそのものをエレベーターのように上下させる為に造られた空洞だが、遠くから鈍い金属音が聞こえるとドンドン大きくなり次の瞬間には何かが落下していく。

同時に、その落下する物を追う薄紫の光も通り過ぎる。

 

「クッソ、距離が中々縮まらねえ…」

 

思わず声を出したのは、落下する物を追う奏だった。

空洞に設置されていた灯りが一瞬、奏の顔を照らす。見る人間が見ればその表情は実に焦っていた。

当然だ、突如崩落したフロアが落下し未だに其処が見えない大穴を落ち続けている。マリアも一緒に。

 

━━━ここ、どんだけ深く掘られてんだよ!落下してそれなりに経つぞ! …何だ?明かりが見えるが…まさか!?

 

底の方に明かりが見えた奏だが、漂う空気と色により一層焦りだす。

直後に、落下していたフロアが轟音と共に止まった。

 

「キャアッ!?」

 

止まった衝撃にマリアは悲鳴を上げた。

衝撃で体が床に叩きつけられたのだ。マリアを逃がさないようにしていたイモリゲスも何時の間にか姿が消えている。

 

「マリアっ!」

「だ、大丈夫よ…」

 

悲鳴を上げたマリアを抱き寄せる奏に安心するよう言うマリア。

とんでもない浮遊感の後の衝撃だがシンフォギアが守ってくれた事で大した怪我もない。

 

「一体どの位落ちたの?…熱っ!?」

 

一体、自分たちがどの位落ちていたのか疑問に思ったと同時に周囲の熱気に気付き見渡した。

遥かに深い場所に落ちた筈なのに周囲は赤く光りとんでもない熱気が周囲を包む。

下の方には赤い光の源であるドロドロした物が流れ、水が湧きたつようにあぶくを作る。

 

「…溶岩!?」

「やっぱり溶岩だよな」

 

下のドロドロ赤く光る液体が溶岩だと驚くマリア。

奏も信じられないとばかりに反応する。島の地下にアジトが造られたのは知ったがマグマが噴き出す地層まで掘っていたのは完全に予想外だ。

その時、マリアたちの立っている足場がまた一段下がる。徐々にマグマの熱気も強くなってきた。

 

「不味い、このままじゃ溶岩に溶かされるわ!」

「あっちに足場がある、其処に行こう!」

 

自分たちの乗るフロアの残骸がマグマの中に沈んでいく事に焦る二人。

っと、奏は溶岩の上に造られた足場を見つけ其処に移動しようと言う。

奏の提案に乗ったマリアは奏と共に乗っている足場を離れ設置されている方に飛び乗った。

直後に、マリアたちの居た足場は薬品がマグマに呑まれたのか爆発を起こし火の海となる。

フロアにあった薬品も、クローン人間が入った鉄製のカプセルもアンドロガスのタンクも全て燃えていく。

 

「危なかった…」

「でも此処って…」

 

マグマに沈んでいく元フロアを見てゾッとするマリアと奏。

シンフォギア越しにも感じる熱、落ちれば自分たちもただでは済まないと感じる。

 

「ようこそ、マリア・カデンツァヴナ・イヴに天羽奏。我らのアジトの最下層へようこそ!!」

 

熱気に包まれた空間に突如、自分たちを呼ぶ声に振り向く。その先には

 

「…そこに居やがったか」

「イモリゲス…」

 

二人の視線の先にはマリアを拘束し此処に連れて来たイモリゲスの姿がある。

ただでさえ醜い容姿のイモリゲスがニヤリと笑っているようにも見えた。

 

「此処は地獄の一丁目、このアジトのエネルギーを取り出す場所だがお前たちの墓場でもある!」

 

「こんな場所まで掘りぬいてるなんてねっ!」

「テメーの顔も見飽きてんだ、いい加減決着といこうぜ!イモリゲス!」

 

二人はアームドギアである短剣と槍持ちイモリゲスに言い切る。

シンフォギア越しとはいえ、あまりの熱さに二人は一刻も早くこの場から移動したいのもあったが。

 

対するイモリゲスも余裕の姿勢を見せると片手を上げる。

直後に二人を取り囲むように戦闘員が現れた。

 

「…またか、ノイズみたいに現れやがってっ!」

「いい加減尽きないのかしらね」

 

アジトに潜入する前も、潜入した後も多くの戦闘員と戦ったマリアと奏だがいい加減戦闘員との戦いにウンザリしている。

ノイズと違い、人間に見えるからか二人にとって、まだノイズの方が戦いやすく感じている。

 

「ケッケケケケ、こいつ等をただの戦闘員と思うな!」

 

しかし、二人の反応にイモリゲスは笑いながらそう言いのける。

よく見れば、戦闘員たちは何かを背負っている事に気付いた。

それが何か分からなかったが、戦闘員が一斉にマリアと奏を攻撃しだす。

勿論、マリアも奏もやられる気はなくアームドギアで反撃、その内の一体の戦闘員が反撃の勢いで溶岩にダイブした。

 

直後、今までにない程の爆発が起き爆風によってマグマが散りマリアたちに降り注ぐ。

 

「熱っち!?」

「…何なの、今の爆発は!?

 

幸い、飛び散った溶岩はシンフォギアに当たっただけだが、その際の熱に奏が「熱い」と口にし、マリアが爆発した事に驚く。

今までの戦闘員は倒された場合、緑色の液体となり消滅していた。それが突然爆発したのだ。

 

「どうだ、コパルト爆弾を背負った戦闘員の爆発は?果たして何時まで耐えられるかな」

 

「コパルト…」

「爆弾だぁ!?」

 

イモリゲスが指揮する戦闘員たちが爆弾を背負う。

通常の場合ならそこまで脅威ではないだろうが、周辺がマグマだらけのこの場所では厄介の一言だ。

迂闊にマグマに落とせば爆発し溶岩が飛沫として自分たちを襲う。かと言ってマグマに落とさなくても爆発知れば自分たちの乗る足場が崩壊し何れは溶岩にドボン。

 

だが、それ以上にマリアには気掛かりな事があった。

 

「…天羽奏、気を付けなさい」

「?」

「コパルトって言葉は核物質の意味もある恐らく…」

「まさか…反応兵器(核兵器)か!!?」

 

マリアの口から聞いた言葉は奏も信じられないといった反応だった。

偶にとち狂ったアメリカが使う事があったがショッカーも反応兵器を作り運用しているのだ。自身の想定しているショッカーの危険度が更に上がる。

 

「ケッケケケケ、その通りだ!本来なら爆撃機に積まれ日本に投下し焼け野原にする為に使う予定だったが…お前たちのシンフォギアはどの位、放射能に耐えられる!?」

 

イモリゲスが笑いながら言い戦闘員に戦うよう指示をした。

 

シンフォギアには、バリアフィールドがありノイズや戦いで体を守ってるが放射能に対する耐性は不明確でもある。

このまま爆弾を爆発させれば濃度が上がりシンフォギアの強度では持たなくなるかも知れない。

対して、ショッカーは世界中を放射能で汚染させる計画も立てていた。放射能への耐性などシンフォギアと比べ物にならない。

 

そして、一斉に飛び掛かる戦闘員だがマリアと奏がアームドギアを振り回した直後に戦闘員たちが倒れる。

背負っているコパルト爆弾は静かに沈黙している。

 

「爆発しない!?」

 

「ようは背中の爆弾に気を付ければいいだけだろ」

「時限式でもなさそうだし、とっとと片付けさせてもらうわ」

 

戦闘員を倒しても背中の爆弾は爆発しない。爆発する条件は戦闘員を溶岩に落とすか爆弾に衝撃が入った時だと気付いた二人は背負っていた戦闘員だけを倒し、ふんぞり返っていたイモリゲスに一気に近づき攻撃をする。

 

マリアと奏の攻撃を受けるイモリゲスだが、イモリゲスも強化された改造人間だ。簡単には沈まない。

振り回される槍や短剣を巧みに避け、時に受け止めカウンターにパンチとキックが二人を襲う。

時には、液体化し攻撃事態を避け背後に回り首を絞めたりもした。

 

「いい加減死ねっ!」

 

「また舌か!」

 

戦いに焦ったのかイモリゲスが奏に向け舌を伸ばし首を捉えようとしたが、奏は即座に反応しアームドギアの槍で舌を突き刺し床に突き刺す。

槍の痛みと溶岩の熱さにイモリゲスが悲鳴を上げるが、奏はイモリゲスの舌を食い止めるだけで必死だ。

だからこそ、少し距離のあったマリアが、短剣を十字に切り左腕の籠手を巨大な爪化させ左腕自体を包み込む。

そして、一気にイモリゲスの方に付きだすとマリアの左腕から十字状のエネルギーが飛び出しイモリゲスへと殺到する。

 

DIVINE†CALIBER

 

「なっ!」

 

マリアの攻撃を見た奏は槍を引き抜きその場を離れ、舌が自由になったイモリゲスはマリアの攻撃に気付いたが避け切れず十字状のエネルギーが直撃し爆発した。

 

「…やったか?」

「手ごたえはあったわね」

 

避難した奏がマリアに聞くとそう返事を返す。

イモリゲス自体かなりの強敵だったのは二人とも認めている。だからこそ、マリアの技で完全に倒したか分からないのだ。

やがて爆発した煙が消え視界が戻る。視界の先にはイモリゲスの姿も見えず周囲に赤い液体もない。

 

「…倒した!」

「シンドイ…」

 

イモリゲスを倒した事に喜ぶが直後に疲労感が二人を襲う。

ノイズとは比べ物にならない程の力と悪辣さだ、この手の戦いに経験豊富なマリアも疲労が隠せない。

何より、こう暑くてはろくに休めないだろう。

とっととこの場から離れようかと考えた二人の耳に何かが聞こえて来た。

 

「何だ?」

「何かが転がり様な…」

 

二人が音のした方を見ると、戦闘員が背負っていた爆弾が外れ転がる。転がる先は…溶岩だった。

 

「「あッ…」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くっそっ!此処はどの辺りだよ」

「気を付けろ、雪音。このアジトは想像より広いぞ」

 

無機質な通路を走る二人の少女、アブゴメスを倒したクリスと翼だ。

二人は現在、幾つかの階段を下りて通路を走り随分と奥の方に来ていた。

目的は、更に深部に行ったと思われるマリアたちとの合流及び可能なら地獄大使の捕縛だ。

 

そうして通路を急ぐ二人だが、遠くの方で爆破音らしき物が聞こえた直後にアジトの内部全体が揺れた。

 

「な、なんだ!?」

「何かが爆発したようだが…」

 

突然揺れた事で、クリスと翼は転ばない様に止まってバランスを取る。

その間にも、通路の明かりが非常灯に変わり警告のブザーまで鳴る。

 

『警告、警告、最深部のエネルギー炉で事故発生!繰り返す最深部…』

 

「どうやらこの事態はショッカーも予想外のようだな」

「とはいえ、こんな事態でマリアたちと合流…」

 

非常灯や警告音、一部の一室からは火が噴き出し翼は好機と見たが、こんな状態で合流できるのかと心配したクリス。

だが、その直後にクリスの直前の床が突然変形し鋭い物が飛び出した。

 

「できっ!?」

「え、クリス?」

 

その床から飛び出してきたのは槍を大型にして下の天井を貫いて上に昇っていた奏とマリアだ。

クリスは、危うく奏の槍で串刺しになりかけた事で背中から冷や汗を流す。

兎に角、クリス達はマリアたちと合流した。

 

その直後、アジト全体が爆発を繰り返しクリスもマリアたちと共に来た道を引き返し逃げている。

 

「はあっ、核爆弾が爆発した!?」

「あくまでも核物質を使った爆弾よ」

 

マリアたちの説明によると、先ず溶岩に爆弾が爆発しその爆発で残った爆弾も連鎖反応を起こしたように次々と爆発し、その影響かアジトの最下層の溶岩が溢れ出し量が爆発的に増大した。

更にはmその溶岩地帯でエネルギーを取り出していた装置も暴走して各所で爆発。

幸い、他の通路に逃げる事に成功したマリアたちだが、爆発の影響に通路の一部が崩れ後ろからは溶岩が迫る状態になった。

そこで、奏が自身のガングニールの槍を大型にして上に突撃、マリアもそれに続いて難を逃れクリス達と再会した。

 

「要はこのアジトはもう使えないって事だな」

「そういう事!」

 

翼の問いにマリアが答える。

これだけの損害だ、超音速機のある格納庫もエネルギーを取り出していた最下層も使用不能。最早このアジトの運用は不可能だと言えた。

そして、翼たちももうこのアジトに長居する理由もない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クリスとマリアが再開する少し前。

 

「抵抗を止めろっ!!」

 

「「!?」」

 

ウニドグマたちと戦っていた二人の響の耳に大声が届く。

何事かと、声の主であるウニドグマの方を見てヒビキは息を呑んだ。

 

「未来…」

 

其処には、ウニドグマに後ろ手で腕を抑えられ拘束された未来の姿がある。

捕まった。そう判断した響が未来を助けようと動こうとするが未来を捕らえたウニドグマがそれを見逃す訳程抜けていない。

 

「動くな、立花響ッ!それ以上動けば小日向未来の首を圧し折るぞッ!!」

 

そう言うと、ウニドグマは左腕の針を未来の首に向ける。

ウニドグマの声に響は汗を流して奥歯を噛み締めた。下手に動けばウニドグマは躊躇いなく未来の首に針を突き刺すか左腕で未来の首を圧し折る。

脅しだけですます程、ショッカーも優しくはない。

ふと響がヒビキの方を見るとヒビキも目が泳ぎ拳が震えている。

 

━━━下手に動けない、動けば未来が…

 

響にとって親友の未来は大切な存在だ。そして誰よりも救いたい人だ。

それこそ自分の全てを掛けても、勿論捕まっている未来は自分の世界の未来ではない。

それは分かっているが、響の性格もあり動くことが出来ない。

 

未来が人質にされた以上、響とヒビキは掴んでいたウニドグマを放し拳も下した。

 

「ひ…響…」

 

その様子に未来は響の名を口にする。ショッカーの怪人であるウニドグマを言う通りにするのを悔しいと思ったからだ。

対照的にウニドグマはそんな響の様子に笑い声を上げつつ腹が立っていた。

 

「随分と俺の数を減らしやがって、貴様らを使ってウニドグマの卵を成長させてやる!」

 

始めは優に二桁を超えていたウニドグマも今では片手で数える手殿。

それに切れたウニドグマはそう言うと、近くに居た二体のウニドグマが響を拘束する。

ウニドグマの手洗い扱いに悲鳴を漏らす響たち。憂さ晴らしも兼ねておりウニドグマから暴力も飛んでくる。

 

「響ッ!!」

 

「騒ぐな、お前も直ぐにウニドグマの卵のエサに…!」

 

ウニドグマがそう言いかけた瞬間、地面が否、島全体が揺れると共に地響きが聞こえた。

そして、未来を人質にしているウニドグマの居る地面が隆起しウニドグマがバランスを崩す。そして隆起した地面から何かが飛び出した。

 

「よっしゃー!脱出したぞぉー!」

 

「クリスちゃん!?」

 

それは大型ミサイルに乗ったクリスだ。更にはマリア、奏、翼も大型ミサイルに乗っている。

 

クリス達は各所で爆発するアジトから脱出する為、マリアたちと合流した時と同じ天井を突き破る事にした。

クリスの乗るミサイルも天井を破壊してクリスがアームドギアで出した物に乗った物だ。

 

「!」

 

「ウニィ!?」

 

兎に角、未来がウニドグマの腕から抜けた事で響は動きを抑えていたウニドグマを倒し、そのまま別のウニドグマに拳を繰り出す。

見ればヒビキも響と同じ反応しウニドグマを倒している。

 

残ったウニドグマは後二体。

 

「立花響ッ! 貴様-っ!!」

 

「この島の人達の仇、取らせてもらう!」

 

未来を人質にしていたウニドグマから怨嗟の声がするが、響はそう言うと拳を握りしめ右腕のガントレットのパーツを引っ張る。

そして腰のブースターが火を噴き一気に加速する。

 

「カミナリを握りつぶすようにッ!!!」

 

「ウニィーーーーーーーーーーーッ!!!!」

 

態勢を立て直そうとしたウニドグマだが、それよりも早く響の拳がウニドグマを貫く。

響の拳の勢いにウニドグマは崖下に落ち荒れ狂う海へと落下、そして数秒と立たずに爆発し海面が盛り上がる。

海の飛沫が響に少しかかった響はヒビキの方を見ると、丁度ウニドグマが爆発してる光景だった。

この島で増えたウニドグマは響たちが全滅させた。

 

 

 

 

 

「おい、大丈夫か…って」

「そっちも決着がついたようね」

 

脱出する為のミサイルから降りたクリスたちが響たちを援護しようと着たが、目の前には肩で息を切らすヒビキと未来の肩を抱えている響が居る。

彼女たちの様子から怪人たちとの戦いに勝利したと判断するマリア。

 

「はい、…なんとか」

「でも島の人たちが…」

 

救助目的だった島民たちは全滅した。

仮にアジトに囚われていようとあの爆発では生存は薄い。誰もが口をつぐむ中島全体に巨大な揺れが装者たちを襲う。

 

「何、この揺れ!?」

「まさか、アジトの爆発が島全体に!?」

 

今までにない揺れにヒビキと未来は焦り、マリアと翼がアジトの爆発が原因だと感じた。

直後に回復した通信機から源十郎の怒号が響く。

 

『島全体が吹き飛ぶエネルギーが観測された!急いで戻れぇ!!』

 

アジトの再可能の爆発が溶岩を刺激し、更にアジト内にあった火薬や燃料も溶岩に飲み込まれより高ぶっていた。

最早猶予はない。響たちは急いで本部である特異災害の潜水艦に戻り潜航する。

 

そして間もなく島全体が爆発し大気を震わせ島その物が海の中へと沈んでいく。

その光景を唖然と見続けた特異災害。

 

後に政府はじごく島が噴火し沈んだとし島民は全滅した公式発表する。

 

 

 

 

 




※地獄大使はとうに逃げ出してます。

ウニドグマはあまり強い印象がない。
その理由は、首領の「仮面ライダーは来ぬ!」発言とこのシーンの直前のやる気がなくアッサリ帰ったガニコウモルの所為だと思う。
その後も、村に入る滝を覗き見て居たり…首領は知ってたんだろうか?

バラランガもイモリゲスも破れ残りは地獄大使、ただ一人か?

島が沈みましたが仮面ライダーの続編のV3だと島一つが爆散してるし平気平気。ハリフグアパッチ回。

シンフォギアには溶岩への少しある設定です。


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124話 地獄の使いが動くとき

 

 

 

『…先日未明、太平洋側600キロにあったじごく島が消滅しました。政府発表によりますと、じごく島付近の海底火山が噴火しその影響によるものと言われています。尚、じごく島に在住していた島民千人の行方は未だに分かっておりません。じごく島は嘗て世界大戦時での海軍基地としても使用され……嘗ては罪人を島送りに……米軍との戦いの様相でじごく島と……それでは次のニュースです』

 

テレビにより島一つが消滅した事が一般人に知らされる。

反応はまさに様々であり、身内を無くした者、故郷を無くした者、親類が居なくなった者と居るが大多数の人間は無関心でもあった。

 

田舎に特定災害ノイズが出れば、その田舎は全滅する事が多々あり人々の関心は消え、ある意味当たり前の反応になっている。

 

 

 

 

 

 

 

 

=???=

 

「シャフトの交換急げ!」

「誰かレンチ持ってないか!?」

 

男たちの声が響く人口の光が支配する大きな部屋。

そこかしこで、戦闘員が慌ただしく動き幾つのも火花…溶接している。

此処はショッカーのアジトであり巨大な格納庫として使用している。

戦闘員たちが何か大きい物を溶接したりしている。

 

「ジェネレーターの接続を急げ!」

「メインは最後に回せッ!」

 

其処には幾つものケーブルが繋がれ手足を取り除かれたゴライアスがあり戦闘員がそのゴライアスに取り付いて作業している。

 

 

 

 

 

 

 

「ええいっ!忌々しいシンフォギア装者共がッ!!」

 

薄暗い部屋の中、何かを破壊する音が響く。

同時に男の怒号も聞こえていた。地獄大使が心血を注ぎ最大基地にする予定であった、じごく島のアジトを失ったのだ。

予定していた計画が全て水の泡になり直属の配下であった強化怪人も全滅。それどころか世界征服の計画すらままならなくなっている。

 

「イーッ、こうなれば海外に行かせた再生怪人たちや工作員を呼び戻しますか!」

 

戦闘員の一人がそう提案する。

現在、地獄大使はある目的で復活させた再生怪人や工作員を中国や欧州、アメリカに行かせている。

目的は、有能な科学者の拉致や有力者と思しき人物の下調べなのだ。

有力者や権力者のゆすりや集り、時には身内を拉致して強制的にショッカーに協力させる。

ショッカーは昔からこの手で勢力を拡大してきた。

今回も地獄大使はその手を使おうとしていたが為に再生怪人を海外に送っていた。

 

「…いや、ワシの強化怪人すら敗北した以上、再生怪人を呼び戻したところで立花響を始めとしたシンフォギア装者に勝てるとは思えん。それに奴等には別の命令を送る」

 

少しでも戦力を増やすべきだと言う戦闘員の提案に地獄大使は否定する。

自身の子飼いでも強化されていた改造人間が負けたのだ。多少の強化をした再生怪人では響たちを倒せないと判断した。

そんな再生怪人でも地獄大使は別の利用法を思いつく。

 

「いっそ、世界征服を諦めショッカー科学陣にはアメリカや中国に亡命させるべきか?奴等ならば改造人間の技術は魅力的な筈だが…」

 

そう言ってモニターのスイッチを入れる地獄大使。

アメリカも中国や欧州も、科学の力でノイズを倒す改造手術や脳改造の技術は欲しい筈。特にアメリカは先史文明時代の技術を終わらせ神秘からの独立をしようと躍起になっている。

調子の乗ったアメリカなら日本に対して嫌がらせもすると読んだ地獄大使。

その時、何人かの戦闘員が部屋に入った。

 

「イーッ、格納庫より接続工事が完了したとの報告が入りました!」

「化学班より調査結果が報告されました。お受け取り下さい」

「調査部より例の情報を得られました!」

「例の調整が完了しました」

 

報告をしていた戦闘員がそれぞれ地獄大使に書類らしき物を渡す。

パラパラとめくる地獄大使だが、次第にいかめしかった表情に口の端が吊り上がる。

 

「ふむ…どうやらまだツキは此方にありそうだ」

 

先程までの怒りは何処にいったのか、地獄大使は笑い声を上げる。

その姿はまさに人外に見える程の気迫があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

少し時間が経った特異災害の本部である潜水艦内部。

じごく島の戦いから丸一日経ち、激戦を終え休息なり治療を受けていた響たちが指令室に集まる。

 

「今回はよくやってくれた、ショッカーの大規模アジトは無事消滅した。改めて礼を言わせてくれ」

 

源十郎がヒビキやクリスたちの前でそう言って頭を下げる。

共に戦い大分経つが、響やマリアたちは別の世界のシンフォギア装者でありヒビキに至っては正式に特異災害に入った訳では無い。

だからこそ、源十郎は協力者である響たちに礼を言っていたのだ。

 

「でも島の人たちが…」

「ええ、助けられなかったわね」

 

未来としては島の住民が既にショッカーに殺されていた事を心の中で引き摺っている。

それに同調するようマリアも言うが、未来とは違い既に割り切って表情をしている。

マリアたちも助けれるのなら民間人だろうが軍人だろうが助けるが間に合わない事も多い。

だからといって何時までも引き摺る装者たちではない。

直ぐに打倒地獄大使に向け顔を引き締める。

 

「あれだけのアジトを失ったんだ、あのオッサンのケツに火でも付いたんじゃねえか」

「お、言えてるな」

 

場の空気を察したのか、クリスと奏が明るく言う。

少しだけ指令室の空気が良くなるが、響としては懸念もあった。

 

━━━あのアジトを失った地獄大使は次にどう動くだろう?手持ちの強化怪人も減ったし力を入れていたアジトも失った。私たちもどの位、地獄大使を追い詰めている。

 

自分と同じ地獄大使はこの世界の出身ではない。手持ちの戦力も何れは尽きると考える響。

その場合、自分とは違い現地勢力の協力が無い地獄大使が如何出るかを考えていた。

そんな響の様子にヒビキが気付く。

 

「…なに?如何したの?」

「あ、…うん、何でもないよ。…何でも」

 

ヒビキが心配で響に軽く肘を当て「如何したの」か聞くが響は一瞬思考して「何でもない」と言う。

地獄大使の次の行動など考えても無駄だと思ったのだ。どちらにせよ、ショッカーが世界征服を諦める事はない。

 

「ショッカーが今後、如何出るかは分からないが注意しておいた方がいいだろう。そうそう、響くんに伝えなければならんことがある」

 

「「え?」」

 

源十郎の最後の言葉に響とヒビキが少し驚いた声を出す。

そして、互いの顔を見合わせ「どっち?」と声が揃う。

その反応にクリスとマリアだけでなく未来も奏も噴き出した。

 

「お前ら、双子かよ!」

「反応がソックリすぎるっ!!」

 

特にクリスと奏が爆笑し、未来が微笑ましく見守った。

内心「響が双子だったらこんな反応するかな?」と考える。

そして、その反応に響は乾いた笑いを出しヒビキに至っては目付きが更に悪くなり不機嫌になる。

 

「……スマンスマン、俺が伝えたかったのはこの世界のヒビキくんだ」

「…私?」

 

ヒビキの反応に源十郎が頷き口を開こうとした。

 

「…!指令、エージェント達から緊急連絡がッ!!」

「何だと!?」

 

友里あおいが緊急連絡が入ったと源十郎。

インカムを受け取った源十郎暫くの間黙って報告を聞いている。その内に顔色が優れなくなる。

そして、報告を聞き終えた源十郎は響たちに視線を合わせる。

 

「…良い情報と悪い情報が入った。どっちから聞きたい?」

 

突然の事でヒビキは辺りを見回す。

源十郎の言葉が分からなかった訳ではない。言葉の意味が一瞬分からなかったのだ。

クリス達の表情は何とも言えないといった感じで響の方を向くと、響はゆっくりと頷く。

意を決したヒビキは口を開く。

 

「い…良い情報から…」

「…昨日、君たちが休んでる最中にエージェントがある少女と会い保護した」

「…保護?…誰」

「……この世界の小日向未来くんだ」

「!?」

 

『未来に会える!?』

 

ヒビキの脳裏にその言葉と小日向未来との思い出がよみがえった。

ツヴァイウィングのライブの悲劇の後、親の仕事の都合で引っ越しせざる終えず碌のお別れすら言えなかった思い出。

一時は憎み忘れようとしたが別世界の未来と触れ合ううちに記憶が蘇る。

 

「良かったじゃねえか、未来に会えるぞ!」

 

そう言って、ヒビキの肩を叩いたのはクリスだった。

クリスとしては理由は知らないが、親友である筈のヒビキと未来が離れ離れになっているのはどうにも納得できない。

何より、元の世界の二人を知っている以上、出来れば一緒に居た方が良いと考える。

そしてそれは、クリスだけでなく状況の分からない翼以外皆そう思っている。

 

「…うん」

 

ふと響の方を見たヒビキ。響は何も言わず笑みを浮かべて首を縦に振る。

『また未来と会える』そう考えるとヒビキの胸に温かいモノが溢れてくる気さえする。

しかし

 

「…悪い情報は?」

 

それ以上に圧し掛かるのは源十郎の言っていた悪い情報だ。

未来が保護されたのが良い情報なら悪い情報は? とヒビキも知らず知らずの内に額に汗が浮き出る。

そして源十郎の口が重く開く。

 

「…ついさっき連絡が来た、小日向くんを保護していたエージェント達が全滅して小日向くんが消えた」

 

「「「「「「!?」」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

=源十郎が連絡を受ける数分前=

 

とある都内のホテル。

その内部のとある一室に一人の少女が椅子に座っている。

黒い髪に大き目のリボンで後ろ髪を結んでいる少女…小日向未来である。

 

「あの…何時になったら響に会えるんですか?」

「すいません、上の指示でアナタの保護を最優先しているんで…」

 

既に何度か質問したのだろう、未来の質問に答える黒服の女性。

 

未来はやっとお小遣いが溜まって、嘗て自分が引っ越した街に戻った。目的は大事な幼馴染兼親友の立花響を探す為だ。

実は未来は、これまでにも街に来ており響を探していたが結果はお小遣いがなくなっての時間切れ。

これまでにも相当な小遣いを使っている未来。それでも未来の頭には諦めの文字が浮かばなかった。

今回も未来は響を探す為に来たのだが

 

「失礼、小日向未来さんですね?」

「は…はい」

「日本政府機関特異災害です。立花響の事についてご同行願います」

「響っ!?わ、わかりました!」

 

政府機関の人間である黒服から響の名を聞いた未来。

居ても立っても居られず未来は黒服に促されるまま政府御用達のホテルに来た。

響に会えるという願いが叶うと思ったが一晩待っても響は来ず、それどころか時間が経つごとに不安が増してくる。

 

━━━よく考えれば何で政府が響の事を?響何かやっちゃった?

 

未来には政府機関と響の繋がりなど分からない。

だからこそ、未来は響が法に触れるような事をしたのではと不安になっていた。

響の性格を知っている未来だが、重苦しい空気を纏う特異災害の黒服の雰囲気で嫌な予感が次々と湧き出る。

 

その時、未来の居るホテルの一室の電気が消えた。

 

「…停電?あ、ついた」

 

停電何て珍しいなと思っていた未来だが、数秒もせず電灯が再びつく。

しかし、またもや消えつくを繰り返す。

同時に未来の護衛役だった黒服たちもお互いの顔を見合い拳銃を手にする。

突然、頃福たちが銃を取り出した事に驚く未来だが、妙な音がしている事に気付く。

箱の中に砂を入れ振り回してるような音。

 

━━━あれ、この音って前にテレビで聞いたような。…確かある毒蛇の…」

 

そこまで考えた時だ。

 

「ガラァァァァァァーーーーーーーーーーッ!!!」

 

「「「「「「!?」」」」」」

 

突如、目の前の床を突き破り何かが飛び出してきた。

電気が点滅してる事で詳細までは分からないが、明らかに人間のシルエットではない。

 

「小日向未来を逃がせッ!急いで増援を呼べ、他の奴は私に続いて撃てぇーっ!!」

 

隊長と思しき黒服の女性が叫ぶように言うと、一人の黒服の女性が椅子から転げ落ちた未来の腕を引っ張る。

直後に、未来の背後から乾いた破裂音…銃声が響く。

未来には訳が分からない、政府の人間に任意同行され付いた先のホテルで待機してるとノイズでもない化け物が乱入し銃声が響いている。

過去に、響と見た映画を思い出すが今はそれどころではない。

 

「此処に隠れてください!」

「隠れてって、此処クローゼットじゃ…」

 

廊下を出て階段から未来を逃がそうとしていた黒服の女性だが、廊下や階段には既に戦闘員が陣取り脱出は不可能と判断した。

隙を見て、別の部屋に入った黒服の女性はその部屋にあるクローゼットに未来を隠す。

 

「良いですか、何があっても出てきちゃダメよ。これが終れば立花さんに会えるから」

「響…」

 

響に会えると考えた未来だがその間にクローゼットが閉まる。

その後、数発の銃声が響き静かになった。状況の分からない未来はそのままクローゼット内に座り込む。

政府関係者にホテルに連れられ怪物が現れ避難先がクローゼット内部、もう未来には訳が分からなかった。

一つ確かなのは未来が響に会いたいという思うだけだ。

 

━━━響…会いたい…会いたいよ、響!

 

会って話がしたい、触れ合いたいし抱き着きたい。未来にとって響の割合は大きい。それこそ異性に恋する少女のように。

 

「…音が消えた?」

 

聞こえていた銃声が消え静寂がクローゼット内を支配する。

騒ぎが治まったにしては、黒服の女性が来ない。

未来が立ち上がってクローゼットの扉に手をかける。女性には出てきちゃいけないと言われたが不安な未来にはそれよりも此処から出たいという感情が大きくなる。

そして、ゆっくりと扉を開こうとした瞬間、扉が勢いよく開け放たれた。

 

「小日向未来、俺と一緒に来てもらおう。ガラァァァァァァ」

 

目の前には血を流し倒れた黒服の女性と蛇の化け物がいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場所と時間が戻り特異災害の指令室。

 

「これが、小日向くんが浚われた様子だ」

 

指令室のモニターに当時のホテルの内部が映る。

未来を護衛していた部屋に怪人が現れ、護衛の黒服たちが銃で応戦するが一人また一人と殺されていく。

 

「…ヒデェ」

「片手で引き裂いてる…」

「噛み付かれた即死した?毒持ちか」

 

映像は悲惨の一言だ。ホテルの監視カメラと黒服たちに持たせていた小型カメラの映像には男だろうが女だろうが怪人は受けようがお構いなしで淡々と黒服たちを殺害する。

そして、とうとう未来の隠れているクローゼットまで来ると黒服の女性が銃を撃つがアッサリと首を圧し折られ殺されてしまう。そして、怪人がクローゼットの扉に手を掛けた所で映像はストップした。此処までしか映像のデータが無かったのだ。

 

思わず口元を押さえるクリス達。やはり、ノイズとは違う殺し方に改めて恐怖する。

中でも未来と親友だったヒビキの顔色が悪い。

 

「…未来は…未来は何処に!?」

「特異災害のエージェントが救援に着いた時にはもう…恐らく怪人に連れ去られたようだ」

 

黒服たちの死体は引き千切られたり吹くしか残ってなかったりしているが殆どがそのまま残されており小日向未来の死体及び服は残ってはいない。

服ごと溶かされた可能性もあるが、ショッカーが未来の存在を知っていれば十中八九連れ去ったと考えている。

 

「ショッカーなら間違いなく小日向未来を拉致するわね」

「アタシ等に対する切り札って奴か?アイツ等らしいやり方だ」

 

ショッカーなら、此方にも関係のある小日向未来は最高の獲物と言える。

人質にするもよし、目の前で殺すもよし、死体を見せつけるだけでも、装者の心を揺さぶれる。

現に

 

「未来が…どうして、未来が…私の所為?」

 

既にこの世界のヒビキの精神が不安定になっている。このままで冷静に戦えるとは思えない程の動揺だ。

 

「…!来ました、ショッカーからの強制通信です!!」

 

『!?』

 

そんなヒビキを嘲笑うかのようにオペレーター席に座っている藤尭朔也がショッカーからの通信を報告。

その報告にクリス達にとっても予想通りでありジッとモニターを睨みつける。

直後、特異災害対策機動二課本部のモニターに地獄大使がデカデカと映る。

 

『これはこれは、ご機嫌いかがかね。特異災害どもよ』

 

「地獄大使!」

「コイツが…」

 

噂でしか知らない奏が源十郎たちの反応でモニターに映る男が地獄大使だと知る。

モニター越しとはいえ、画面越しに出る迫力を奏も感じ取り額に一筋に汗が流れる。

追い詰められてる筈の地獄大使が薄ら笑いを浮かべてる事で皆の考えが一致する。

 

「未来を…未来を返せッ!!」

 

モニターに映る地獄大使を睨んでいたヒビキが叫ぶように言う。

聞く人間が聞けばその様子は親とはぐれた幼子に見えただろう。

 

『フフフ、その様子なら既に知っているようだな。ならばこれを見ろッ!!』

 

「「「!?」」」

 

ヒビキの様子に薄ら笑いをしていた地獄大使は更に顔を歪め己を映すカメラを横にずらした。

そして、響たちが息を呑む。其処には青い十字架に縛られ気絶した小日向未来が拘束されている。

僅かに胸が動いてる様子から生きてはいるようだ。

 

「未来ッ!!」

「この野郎、未来をどうするつもりだ!」

 

『ハッハハハハハハッ!貴様らのその姿が見たかった!安心しろ、まだこの世界の小日向未来は生きている。返してほしくば、立花響ッ!ワシ等と貴様の因縁の場所に来るがよい!』

 

「因縁の場所?」

 

地獄大使の言葉に響は考える。

廃墟のビルや商店街や永田町に海沿いにあった海岸、消滅したじごく島を除いても地獄大使を始めとしたショッカーとの因縁は何処にでもある。

その内のどれかだと思った響。尤も、地獄大使はそれを見透かしていたようだ。

 

『どうやら勘違いしてるようだな。なら、これなら?』

 

モニター越しの地獄大使が合図を送る。

直後に、特異災害対策機動二課本部の指令室が揺れる。

 

「何だよ、この揺れ!?」

「か、海流が強制的に乱れています!…!指令、東京を中心に震度4の地震が!」

「震源地は…東京湾です!!」

「なんだとっ!?」

「東京湾!?地獄大使、まさか!」

 

揺れてるのは指令室だけではない、東京全体にも地震が襲い窓ガラスが割れ一般人はパニックになる。

そして、東京湾という言葉に反応する響。思えばこの揺れもあの時と同じと考える。

 

『フフフ…そのまさかよ!』

 

 

 

 

 

 

 

 

揺れ続ける東京湾地帯。

何人かの釣り人が周りを見て不安げになっていると

 

「おい、何だアレは!」

 

一人に釣り人が水中に何かの影がある事に気付く。

他の釣り人も覗く中、影はドンドン大きくなり海面から出る。そして、誰もが圧倒する巨大な島と建造物が現れたのだ。

 

「あ……大波だ、気を付けろ!!」

 

呆然とする中、島が浮上した影響で出来た波が大きく釣り人達は道具を放棄してその場を離れる。

波の影響で釣り人の道具が流された現場は不思議な静寂さに満たされている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「島が…浮上しただと…」

「…フロンティアかよ!」

 

一方、指令室のモニターでも東京湾に浮上した島を見て源十郎やクリスが反応する。

クリスに至っては嘗てマリアと敵対していた時に出現し戦いの地になった場所でもある。

そして、その島に見覚えのあった響は口を開く。

 

「地獄大使はアジトごと来ていた…」

 

『やっと気づいたか、マヌケ!』

 

響は、今までの地獄大使の戦力に納得した。

あの時、スーパー破壊光線砲を止める為に絶唱を唄いスーパー破壊光線砲をエネルギーと絶唱のエネルギーがぶつかり並行世界に転移した。

響は一人だったが、地獄大使はアジトごと並行世界に流されていた。

 

『ついでに見せてやろう。スーパー破壊光線砲を威力をなっ!!』

 

「ふ、浮上した島より高エネルギー反応!…ゴライアスのパターンと一致します!」

「何だとっ!?」

 

 

 

 

 

 

既に廃墟の団地からセットされたスーパー破壊光線砲の砲身先に光が纏う。

直後に、砲身から極太のレーザーらしき物が撃たれ港に命中する。

文字通り、港は蒸発したがそれだけではない。港に発射されたレーザーはそのまま直進する。

人も街を川を山をも飲み込んだレーザーは日本を横断するように蹂躙し遂には海外をも飲み込み地表を焼いて空に…宇宙に消えた。

 

 

 

 

 

「被害状況は!?」

「待って下さい、衛星との回線が不安定で…」

「指令、国会との連絡がつきません!」

 

指令室は慌ただしく職員が動く。

スーパー破壊光線砲には当たってはいないが、被害状況が分からないのだ。

それどころか、外との通信すら繋がらない事で一部の職員がパニックになる。

シンフォギア装者たちも冷静とは言い切れない。

マリアもクリスも奏すら口が塞がらず唖然とし未来と翼は口元を押さえヒビキはこの世界の未来を気にする。

響だけが奥歯を噛み締め拳を強く握った。

 

「…!衛星の回線が復旧しました。モニターに出します!」

「「「「「「!?」」」」」」

「カ・ディンギル並みじゃねえか…」

 

衛星との回線が戻り、衛星軌道上から撮られた日本が映り、装者は愚か源十郎を始めとした職員たちは息を呑んだ。

東京が、いや日本が真っ二つになっていた。

ショッカーのスーパー破壊光線砲のレーザーが進路上にあった全ての物を焼き東京を貫通し埼玉、群馬、長野、新潟をも貫通し外国まで伸びている。

 

その威力にクリスは自分の世界にあったフィーネが造った兵器「カ・ディンギル」を思い出した。

 

「なんて威力だよ…」

 

奏が思わず呟く。マリア達は反応しないが内心、奏の言葉に納得する。

今までも、聖遺物や錬金術、或いは未知の技術など見たことあるが、化学でのここまでの被害はクリス達とてあまり経験が無かった。

 

『見たか、これがショッカーのスーパー破壊光線砲の威力だ。今より2時間後、小日向未来を処刑して再びスーパー破壊光線砲を撃つ。目標は…富士だ!』

 

「富士山だと!?」

 

地獄大使は日本を壊滅させる為、次の目標は富士山だと敢えて教える。

富士山は日本一高い山で休火山でもある。もし富士山の地下に棒材なエネルギーを加えれば噴火する可能性は高く。もし噴火すれば日本が大変な事になる。

 

そして、地獄大使は勝利を確信したのか高笑いして通信を切った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「一時間後に無差別爆撃ですって!?」

「未来を見捨てる気かよ!」

 

地獄大使の通信から一時間。

最初はパニックになっていた職員たちも冷静さを取り戻し、政府との通信も回復した。

マリアや響たちが未来の救出作戦を考えていた時、源十郎の口から予想だにしない言葉を聞く。

 

「…これより一時間後に東京湾に出現した人工島の無差別爆撃が決まった」

 

冷静さを取り戻した政府は、関係閣僚を集め急ぎ会議する。

突然の攻撃で被害は甚大で巻き込まれた政府関係者もいる。シンフォギアを知る官僚たちが出したのは航空自衛隊が全力を持って爆撃を行い東京湾に現れた島の殲滅だ。

無論、源十郎たち特異災害対策機動部二課から小日向未来が人質になっている報告を聞いてはいるが、このままでは富士山を打ち抜かれ日本が壊滅するかもしれない。

政治家としても一人の少女よりも日本本土と多数の国民を守る事を選ぶ。

 

しかし、それを聞いたクリス達は激怒する。

 

「オッサン、正気かよ!未来を見捨てるのか!?」

「見損なったぜ旦那!」

「俺だって救いたいが…」

 

クリスと奏が源十郎の裾を掴み抗議する。源十郎とて、見捨てたいわけではない。

本来なら未来を救いにショッカーの浮上したアジトに乗り込みたいが、地獄大使が待ち伏せをしている可能性が高い上に政府の上層部も無駄に犠牲を出すべきではないと爆撃の指示をしたのだ。

 

クリス達が言い争う姿を見て、マリアは敢えて何も言わなかった。ショッカーのスーパー破壊光線砲の威力、日本の政治家が慌てるのも分かると考えている。

それは響も一緒だ。このままではこの世界の未来が殺されると考えたら胸に痛みを感じる。

如何するべきか話そうともう一人に自分が居た方を見た。

 

「…アレ?」

 

さっきまで居たヒビキの姿が何処にもなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハアッ…ハアッ…」

 

ヒビキは一人、特異災害対策機動二課本部の通路を走る。

目的は、この本部の潜水艦の出口だ。

 

「未来ッ、未来ッ…未来ッ!」

 

ヒビキの口から幼馴染であり大切な親友の名が出る。

ヒビキは源十郎が未来を見捨て無差別爆撃をすると聞いた時に部屋を出ていた。

 

━━━アイツ等は未来を見捨てる気だ!嫌だ、そんなの嫌だ!未来が本当に居なくなるなんて…認めない!!

 

「私だけでも助けに行くんだ!!」

 

誰も未来を助けないなら自分が助けると言うヒビキ。

全ては自分の日向を守る為にだ。

 

「!?」

 

しかし、そんな決意をしたヒビキの動きが止まる。片腕を何者かに掴まれたからだ。

振り返った先には居たのは…自分と同じ顔、同じ声の響だった。

ヒビキが居ない事に気付き抜け出したのだ。

 

「…なに?邪魔しないで!」

「何処に行く気?」

 

ヒビキの問いに響は淡々と答える。

それに苛立ったのか、ヒビキは響の手を振り払おうとするがビクともしない。

 

「…離して」

「何処に行く気?」

「離して」

「何処に行く気?」

「離してッ!!」

 

ヒビキが大声で話せと言う。特異災害対策機動二課本部の通路にヒビキの声が響き渡る。

それでも、響は手を放さず真っ直ぐヒビキを見ていた。

 

「何処に行くって?決まってる、未来を助けに行くっ!!」

「一人で?無茶だよ、地獄大使がああまで誘った以上何かあるよ」

「そう言って未来を見捨てるの?政治家たちみたいに」

「!?」

 

未来を見捨てると聞いて響は顔を歪ませる。

響だって未来を見捨てる気なんて無い。無いがクリスと源十郎が討論してる横でヒビキが動いたので一旦止めてるだけだ。

 

「私が未来を助ける!皆が行かなくても私だけでも未来を助けに行くんだ!!」

 

ヒビキの言う事は痛い程分かる。

響も週刊誌のゴシップで迫害された時、家族や未来が心の拠り所であり何ならショッカーに拉致されていた間も未来に会いたいと思っていた程だ。

それ故に響の回答も決まっていた。

 

「私も行く。私も加勢してアナタと未来を助ける」

「助ける?私を助けるって言った?」

 

だが、響の「助ける」と言う言葉にヒビキは変な反応をした。

 

「誰も……誰も、私を助けてくれなかった。

私が本当に助けて欲しかった時には助けてくれなかった!助けてくれるって言ったのに!

…何で…なんで今更私の前に来たの!?なんでもっと早く助けてくれなかったの!?」

 

ヒビキの脳裏に迫害され家族も巻き込んだ光景を思い出す。

世間からは石を投げられ、マスコミからは生き残った事について根掘り葉掘り聞かれ、クラスメイトだった娘たちもヒビキを無視したり目の前で陰口を叩いたり。

何より辛かったのは、親の仕事の都合で別れの言葉すら言えなかった未来だ。未来が近くにいてくれたら耐えられた。

 

響もヒビキの事情はそこまで詳しくはない。それでも狼狽するヒビキをソッと抱きしめる事は出来る。

ヒビキは泣いた。今までにない程、それこそ響が帰りたいと弱音を零した時のように。

やがてヒビキの鳴き声が小さくなり

 

「…お願い…助けて」

「うん!!」

 

ヒビキのか細い願いを響は頷いた。

いや、響だけではない。

 

「そうと決めらりゃ行こうぜ」

「ええ、地獄大使が何を狙てるのか気になるしね」

 

響の背後に源十郎との会話が終ったクリス達が居る。

クリスがマリアが奏が未来が翼がそれぞれシンフォギアを纏い響たちに笑顔を向ける。

地獄大使との最後の決戦がせまる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




地獄大使が最終決戦場として再び、東京湾にあるアジトを浮上。
スーパー破壊光線砲を発射。スーパー破壊光線砲と言うぐらいだしこの位の威力はあって欲しい。
劇中だと一発も撃たずに滝に破壊されたような?YouTubeの「仮面ライダー対じごく大使」を見たのは随分前で記憶が…

案の定、今度はこの世界の未来を人質にする地獄大使。

スーパー破壊光線砲の動力には鹵獲されたゴライアスを使ってます。
ゴライアスの性質上、真昼間にアジトが浮上しました。


久々の次回予告

地獄大使「立花響を始めとしたシンフォギア装者ども、いよいよ最後に戦いだ。今度こそ、此処が貴様らの墓場だ。しかし、ワシが相手をする前にお前たちに紹介する者がいる。次回「ショッカーの新たなる戦士!?」楽しみに待っているがいい、フッハハハハハ」


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125話 ショッカーの新たなる戦士!?

 

 

 

…ここは…何処?

頭がボーっとして手を動かそうとしても動けない?縛られてるの?何で?

 

「もう間もなく予定時間です」

 

人の声が聞こえる?

 

「フフフ、間もなく立花響を始めシンフォギア装者が来るだろう。準備にとりかかれ」

 

「響っ!?」

 

私の頭は響の名前で一気に覚醒して目を開けた

最初に飛び込んだのは、変なコスプレをしたおじさんと黒ずくめの男たち

黒服の人達じゃない!?

 

「これはこれは、もう目を覚ましたか小日向未来」

 

おじさんが私に話しかけるけど私はそれどころじゃない!

十字架のような物で私は縛り付けられている

 

「此処は何処!?何で縛られてるのっ!?アナタたちは一体ッ…」

 

「我らはショッカーだ、なに覚える必要はない。お前は間もなく死ぬ事になっている、小日向未来」

 

「!?」

 

この人たちの目は本気だ、ハッタリでも何でもない!

死ぬ!?私が死ぬの?いや、響とまだ再開もしてないのに

 

「イヤッ!誰か…響、響ッ!!」

 

こんな所で死にたくない私は何とか逃れようとするが腕の拘束はビクともせず、口からは自然と親友の名が出る

一般人でしかない筈の響の名を叫ぶと、頬に鋭い痛みが走った!

 

 

「痛っ!?」

 

「少し静かにしろ、小日向未来。五体満足で立花響と会いたいのならばな」

 

コスプレをしたおじさんは何時の間にか手にしていた鞭を地面に打ち付ける。たぶんあの鞭を振るったんだ

頬がジンジンする上にヌルッとした液体が頬を伝う。泣きそうになった私は眼から涙をこぼすだけで精一杯だ

やっぱりおじさんたちは脅しではなく本気で私を殺す気だ、この人たちはやると言ったらやる

 

「ふん、やっと静かになったか」

 

私が声を押し殺してると、おじさんの機嫌が良くなった。それは良いんだけどこの十字架から解放して欲しい

あれ、黒ずくめの人がおじさんに近づいている

 

「アジトのソナーに反応がありました。地獄大使」

「…来たか」

 

おじさんが気味の悪い笑みを浮かべてる。響……会いたいよ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『もう間もなく、浮上したアジトに到着します。皆、出撃の準備をお願いします』

 

艦内のアナウンスでもう直ぐ目的地に着く事が知らされる。

シンフォギア装者たちの待機場所にも流れ、響たちはお互いの顔を見合わせる。

敵の胸元に行く所為か、緊張感のある空気が辺りを支配している。本来なら、馬鹿で元気の響がその空気を打ち壊すことが多いのがクリスたちの世界の立花響だ。

しかし、その響の二人も口を閉ざしている。

 

「…いやお前ら、何か喋ろよ」

「…え~…」

「それは理不尽だよクリスちゃん…」

 

そんな空気に耐えられなくなったのか、クリスが二人の響に無茶ぶりをしてヒビキは嫌そうな顔をし、響は「アハハ…」と愛想笑いを浮かべる。それに釣られたのか未来と奏からも乾いた笑い声がした。

兎に角、重かった空気もクリスの一声でだいぶマシになった。

すると響の方を見ていたマリアが口を開く。

 

「そこの立花響」

「「え?」」

 

マリアが響の名を呼ぶ。当然ではあるが、二人とも響と言う名前なので二人ともマリアの声に反応し視線を向けた。

その事に苦笑いするマリアだが直ぐに表情を戻す。

 

「この世界に来た立花響に聞きたいことがあるんだけど」

「は、はい!」

「アナタは元の世界に戻る方法を見つけている?」

「………いいえ」

 

マリアの質問に響は即答出来なかった。ショッカーの所為とは言え響がこの世界に来たのは完全な事故だ。

戻れる算段など一つも無い。最悪、この世界を放浪する旅にでも行こうかと考えてる程度だ。

尤も、マリアにとってその解答は予想通りと言ったとこだった。

 

「なら、私たちの世界にでも来る?ギャラルホルンを経由すればアナタを元の世界に返せるかも知れない」

「!?」

 

マリアの言葉に響は眼を見開いた。

ギャラルホルンというのは知らないが元の世界に帰れるかもしれない期待が響に宿る。

 

「その……考えてもいいですか?」

「ええ」

 

とはいえ響は即返事をすることはしなかった。

マリアの言う「ギャラルホルン」という物も知らないし、マリアの口ぶりから100%帰れるとも限らない。期待して裏切られるのは響としてもゴメンだ。

それに、この世界の未来とこの世界の自分も合わせてやりたいと思う。

 

そんな響を尻目で見るクリス。するとマリアが近づく。

 

「あの子が私たちの世界に来るのは反対?」

「…アタシだって信用はするさ、マリアの情報からアタシ等の世界に来た奴の目星もついたしな。…正直信じられねえけど」

「奇遇ね、私もよ」

 

二人がそう言って話し終えると同時に待機場所のスピーカーから声が出る。

 

『…ショッカーのアジトに到着したわ。分かってると思うけど指令が不在の今、一応私が指示を出します。指令が時間稼ぎをしてる間に地獄大使を倒すか小日向未来の救出が目的よ』

 

声の主は友里あおいだ。

友里あおいの言葉通り、指令である風鳴源十郎は本部に居ない。航空自衛隊の無差別爆撃の遅延の為に政治家関係閣僚を必死に止めていた。

 

 

 

 

 

 

「なんのつもりだ、風鳴源十郎っ!!」

「申し訳ないが暫く俺の相手をして欲しいんで」

「正気か!?今すぐにでもショッカーの兵器を無力化させねばならんのだぞ!!」

「せめて、少女一人助けるまで待って欲しいだけだ!」

 

「みんな、大変じゃな~(ズルズル)」

「こんな時にもソバを食うなっ!」

 

「…ショッカーは富士を噴火させるつもりだぞ、少女一人と一億の国民を天秤にかける気か!?」

「装者たちを信じて欲しいとしか…」

「越権行為だぞ!!」

「覚悟の上です!処分はいかようにも!」

「ふん、やはりケツの青い愚息よ」

 

「…親父」

「おい、誰だ!風鳴訃堂を呼んだ奴は!?」

「小娘一人の為に国を危険にさらす気か?」

「…俺は彼女たちの可能性に賭けているだけだ!」

「この…愚か者があああぁぁぁぁぁぁっ!!」

「こんな所で暴れるな!」

「ちくわ大明神」

 

『おい、誰だ今の?』

「使い古されてるが、お約束と言う奴か(ズルズル)」

「ああ、通信機がっ!?」

 

某、偉い人たちが居た一室にて…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

嘗て、響との戦いの場所となったショッカーの最大のアジトにして現在の地獄大使たちの最後の砦。

スーパー破壊光線砲のセットする屋上部分に腕組みをし目を瞑る地獄大使。

一筋の風が地獄大使を過ぎ去る。風の影響で地獄大使のマントがはためいた。

その時、アジトの外周の海が水柱を上げ何かが飛び出す。

 

「来をったようだな」

 

地獄大使がゆっくりと瞼を開くとアジトの上を真っ直ぐ飛びミサイルのような物。

その中部からは、蓋のような物が外れると何かが飛び出した。

その飛び出した物は地獄大使の目前で着地する。

響を始めとしたシンフォギア装者だ。

 

そして、シンフォギア装者の乗り捨てたミサイルのような物がスーパー破壊光線砲へと向かう。

着弾するかに思えたが、その手前で爆散した。それを見て舌打ちするクリス。

 

「ちっ、ドサクサで破壊は無理か」

「着弾する前に爆発したわね」

 

「舐めるな、貴様らの行動などお見通しよ。残念だがスーパー破壊光線砲は特殊な電磁シールドで守られている。破壊したければ絶唱クラスの攻撃を用意するのだな」

 

地獄大使はシンフォギア装者がスーパー破壊光線砲の破壊を狙っている事は百も承知だ。

小日向未来の救出と共に地獄大使の切り札であるスーパー破壊光線砲が特異災害対策機動二課の目標だと考えた地獄大使は、スーパー破壊光線砲自体を守る電磁フィールドを使った。

 

計算上、電磁フィールドを破るにはシンフォギアでは絶唱クラスの歌の力が必要であり、それ以外となるとスーパー破壊光線砲を発射する瞬間を狙うしかない。

 

「それはそれとして、ようこそシンフォギア装者諸君。よくぞ我がショッカー、最後のアジトに」

 

「…最後のアジト?」

 

響たちを前に地獄大使は堂々とした振る舞いを見せる。

少し戸惑ったマリアが地獄大使の言う「最後のアジト」の言葉をオウム返しする。

 

「その通り最後のアジトだ、立花響との戦闘でどういう訳か並行世界に渡った我らの領土にして最後の砦。そしてお前たちの墓場だ」

 

「はっ、何度もアタシ等の墓場を用意してくれてありがとよ」

「…そんなことより未来を返せ!」

 

地獄大使の言葉を皮肉で返すクリス。

そんなの知らないとばかりにヒビキが未来を返せと訴える。それを見て口の端を吊り上げる地獄大使。

 

「慌てるな小娘、いま小日向未来に合わせてやる!」

 

地獄大使が言い終えると同時に地獄大使の背後の地面が開き何かが地下から出てくる。

それは、白い十字架のような物とそれに両手を広げ縛られて頬にガーゼがされている未来が現れる。

未来の左右には槍を持った戦闘員が居るオマケつきだ。

 

「未来ーーーーーーっ!!」

「響ーーーーーーっ!!…!」

 

ヒビキと未来が互いの名を呼び合ったが未来が目を見開いた。

この場にヒビキが居たのは良かったと言えば良かったのだがもう一人の響とシンフォギアを纏ったもう一人の自分が何故か居たのだ。

ただでさえショッカーに捕まって混乱していた未来の頭は更に混乱する。

 

━━━なんで私と響がもう一人居るの?偽物?私と響は実は双子だった?それとも昔流行った都市伝説の…

 

「ドッペルゲンガ…」

「あ、未来が気絶した!?」

「たぶん何か勘違いしたな…」

 

ショッカーに捕まった混乱とヒビキに会えた嬉しさ、もう一人の響と未来の姿を見たパニックで未来は眼を回して気絶。

ヒビキが未来の心配をしクリス達は苦笑いする。頬にガーゼはしてあるがどうやら無事だと判断する。

響も苦笑いしていた表情を戻し地獄大使を睨みつけつつ周りを警戒する。

 

━━━ゾル大佐の時も死神博士の時も此処で再生怪人たちが出て来た。地獄大使も恐らく…

 

「何してんだ?」

 

響が周囲を警戒し視線を別々の方向に向ける仕草にクリスが気付き思わず聞く。

傍から見れば落ち着きのない子供にも見える。

クリスの言葉につられ皆の視線が響に突き刺さる。

 

「ふん、再生怪人どもを警戒してるのか?残念だが再生怪人は品切れでな、だが代わりにショッカーの戦士を用意した」

 

「!?避けて!!」

『!?』

 

地獄大使が響の警戒してる原因を言い当てると右手をスッと上げる。

直後、上から自分たちに向ける殺気に気付いた響は皆に避けるよう言った。

その直後に自分たちを狙う何者かに気付いたクリス達は一斉に離れ、さっきまで居た場所に衝撃音と爆音が響いた。

 

「奇襲か!?」

「舐めたマネしやがって!」

 

翼と奏が直ぐに態勢を立て直し、アームドギアを取り出して下手人の居る煙に突撃する。

それぞれがアームドギアを振るうとガキィッ!という金属音が響く。

クリス達が見守る中、一陣の風が煙を吹き飛ばし襲撃者の正体が分かった。

 

「なっ!」

「…にっ!」

 

「やっぱり…」

「嫌な予感が的中か…信じたくなかったぜ!」

 

奏と翼は襲撃者の正体に驚愕して言葉を詰まらせ、クリスとマリアは最悪の内の予測の内の一つに当たり額から汗を流す。

 

「…私?」

「何で響が…」

 

ヒビキと未来も反応するが何処か様子がおかしい。響に至っては、煙から出た人物を睨み奥歯を噛み締めた。

襲撃者は響と同じ顔、姿をし腹部にはショッカーベルトを巻いたショッカー響だった。

奏も翼も襲撃者の正体を知って一旦距離を取る。

 

「どうして響が…」

「…クローンね」

「…知っていたんですか?」

 

未来の呟きに答えたのはマリアだ。その事に響は「知ってる」事に内心驚く。

その後、マリアはじごく島の地下で何人ものクローンされた人間を見て来た事を響に伝える。

その間にも、ショッカー響の周りにもう三体のショッカー響が現れる。

 

「覚悟はしていたつもりだが…結構くるものがあるな…」

「一体何が如何なってるんだ!?」

 

クリスはショッカーに利用される響の姿を見て複雑な思いを抱き、事情の分からない翼は混乱している。

ヒビキは呆然とし未来はまるで悪夢を見てるかのような表情をしていた。

 

「おい、おっさん!その偽響どもはなんだ!?」

 

奏からは、地獄大使に向けショッカー響の正体を聞く。

前にS・O・N・G本部で戦った事のある奏だが、四体も現れた以上、ただのソックリさんだとは思えない。

 

「ほう、まだ立花響から聞いていないのか?まあいい、教えてやる!この者達は立花響の細胞から造り出したクローン聖遺物怪人、ショッカー響だ!」

 

地獄大使が堂々と言いのける。

皆が一堂に唖然とするのもなんのその、ヒビキと未来は顔を青くし奏も翼も汚い物を睨みつける様な目をしクリスとマリアの怒りが上がる。

 

「まだショッカー響が残ってるなんて…」

 

「勘違いするな、立花響!死神博士が使ったのは、言わば先行量産型というやつだ。死神博士亡き後は、調整に手間取ったがな」

 

ショッカー響は、フロンティアの戦いで全て倒したと思っていた響。主導していた死神博士も倒れショッカー響は全滅したと思っていた。

しかし、ショッカーはショッカー響を諦めていなかった。聖遺物の研究もそうだが、特異災害対策機動二課や響への嫌がらせも目的とし死神博士が倒れた後に地獄大使が引き継いだ。

 

「ショッカー響だけでないぞ、ショッカー響と共に調整していたアレもやっと完成した。お前たちで性能を試してやる!」

 

地獄大使がそう言い終えた瞬間、ショッカー響たちの前に黒い渦のような物が降って来た。

黒いドリルのように回転していたがやがて止まり、ドリル部分が布のように柔らかくなって引っ込んでいく。

其処に居たのは、

 

「ウソ…」

「…マジかよ…」

 

マリアとクリスは今度こそ絶句。翼や奏すら声を出せずヒビキと未来は訳が分からないといった表情。

響は眼を見開き信じられない物を見た反応をする。

 

目の前に居るのは、黒っぽい鎧みたいなシンフォギアを纏い肩や耳に深紅の飾りを付け()()()()()()には頭部に付けたシンフォギアのパーツがあり腹部には金色に輝くショッカーベルト。

 

「紹介しよう、ショッカー響と同じくマリア・カデンツァヴナ・イヴの細胞から生み出したショッカーの新たなる戦士、『ショッカーマリア』だ!!」

 

それは、嘗てフロンティアの戦いの時に最初の戦いで会場で纏ったガングニールのシンフォギアを纏ったマリア・カデンツァヴナ・イヴ、そのものであった。

 

 

 

 

 

 




源十郎が時間稼ぎしてる内にショッカー最後のアジトで決着をつけようという話。
風鳴親子の所為で「議会が躍る、されど進まず」状態に。

そして、ショッカー響に続きショッカーマリアが登場。響の二番煎じみたいに感じるかも知れませんが響と同じくガングニールのシンフォギアを纏えるという事でショッカー造られた設定です。
言うなれば、響とマリアは一号二号みたいな感じにしたかった。

ショッカーって偶に謎バリアがありますよね。

一応、Gの時のカ・ディンギル跡地での戦いでマリアの血が抜かれたが伏線のつもりです。

この世界の未来はショッカーでもお馴染みの十字架に括りつけられてます。お約束です。

ショッカーマリアの見た目は完全にガングニールを纏ったマリアです。本物との見分けは腹部の黄金のショッカーベルトですね。




それでは設定を

ショッカーマリア

本来なら響と同じ改造人間としての資質もない外れ扱いだったが、響と同じガングニールを扱える事と調と切歌の一度目の裏切りによりマリアからサンプルとしての血や細胞を入手。これをきっかけに研究が開始される。
ある程度は形になったが、響と比べマリアのガングニール適性が低い事、研究を主導していた死神博士が死亡した事で研究が頓挫し地獄大使の派閥が取り込んだ。

一応、完成はしたが響に比べてもコストがバカ高くなり死神博士が亡くなった事で通常のLiNKERしか扱えないでショッカーマリアの地位はかなり低い。
コスト面や強化面からみても割高ではあるが、地獄大使は特異災害対策機動二課の嫌がらせの為に完成品をぶつけた。
強さ自体は、ショッカー響より高性能の人工筋肉と特殊合金を使い性能は高め。


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改造人間 立花響のシンフォギア IF もしも立花響がショッカーに忠誠を誓ったら
改造人間 立花響のシンフォギアIF 1話 「だから、私はショッカーに忠誠を誓った」


ジャスラックのホームページがゴールデンウィークが終わるまでメンテで次の話が投稿出来ないので以前に言っていたIF話でも。


 

 

 

私は呪われている

比喩じゃなく本気だ。ツヴァイウイングのライブに行ってノイズの襲撃に巻き込まれ生き残った。その結果待っていたのは世間のバッシングだった

10万人の熱気に包まれた会場はノイズの襲撃により阿鼻叫喚に陥り12874人の被害を出した。しかし、ノイズに殺されたのは三分の一で残りは逃げ出す時の混乱で発生したものだった。週刊誌の根も葉もない情報に世間は私達を叩き始めた。国が被災者や遺族にお金を出したのも不味かったかも知れない

 

「ねえ、立花さん国からお金貰ったんでしょ?ちょっと恵んでよ」

「立花さんってあの会場で生き残ったんでしょ?何人殺したの?」

「人殺し!お前なんかが生きてて何で〇〇くんが!」

 

元は仲の良かったクラスメイトすらこんなんだ。机の暴言の落書きに教科書を破かれたりトイレに行けば上からの水。私は完全に虐められるようになってしまった。先生も相談してもろくに止めようともしない。家には「盗人」とか「人殺し」の張り紙を張られ窓も石をぶつけられ何度も割られる。当然辛かったけど私にはまだ家族と親友の小日向未来が居る。こんな事でへこたれやしない

 

『生きるのを諦めるな!!』

「へいき、へっちゃら!」

 

あのライブの時に私を助けてくれた人の言葉を思い出し私はお父さんの座右の銘を口にする。暫くすれば何時もの日常に戻る。…そう信じてた…信じていた

 

 

 

そうあの日までは、

ある日の夜、寝ていた私はトイレの為に階段を下りていた

 

「もう限界なんだ…」

 

電気の着いた居間からお父さんの声がした。何処か悲痛に満ちていた事に気になった私は聞き耳を立ててしまった。中にはお父さんとお母さんにお婆ちゃんが居るみたい

 

「あなた…」

「会社じゃ厄介者、同僚たちも僕を煙たがっている。アイツが…響が生きてるからって取引も取り消しだ!こんな事なら響もあの会場で」

「洸さん、そんな事を言ってはいけないよ」

「じゃあ、如何言えば!?近隣住民も僕らを邪魔者扱いしてるのは知ってるんだぞ!!」

 

お父さんの怒鳴り声に私は部屋に帰った。トイレに行きたい事も忘れ私は布団の中で震えていた

 

「大丈夫…大丈夫…暫くしたらお父さんも何時もの優しいお父さんに戻る…」

 

時間が経てば何時もの家族に戻れる。私は本気でそう考えていた。けどそれは最悪な形で裏切られた

 

「お母さん?お婆ちゃん?」

 

数日後、私は目を覚まして一階に降りた。何時もなら朝ごはんの準備をしているお母さんやテレビを見ているお婆ちゃんが居る筈だけど今日は珍しくいない。買い物かと考えて居たらテーブルの上に紙が置いていた。誰かの書置きだった

 

「!?」

 

何処に買い物に行ったのかと紙に目を通した私の心臓が止まりかけた

 

『限界です、探さないでください』

 

それは紛れもなくお母さんの字だった。家の中を探すと政府からの見舞金の入った通帳が無くなっており食料もそんなにない。私は家族に捨てられた

 

 

 

 

 

 

 

「そう、そんな事が」

「ごめんね、未来。…突然来ちゃって」

 

家族が居なくなった私は街中を必死で探し回った。無駄な事だと分かっていても探さずには居られなかった。多分、お父さんもお母さんも、もうこの街には居ない。警察に頼ろうかとも思ったが見つかった所で如何接すればいいのか分からない。街中を彷徨っていた私の足は自然と未来の家に来ていた。

そして、未来に全部話した。家族も居なくなった私にはもう未来しかいない。たった一人の親友に私は頼りたかった。一緒に居れば勇気が湧いてくる、私の陽だまり

 

「取り合えず、この話は内密にした方がいいね」

「うん、分かった」

「大丈夫だよ、響。私もついてるんだから」

 

未来が私を抱きしめてくれる。未来の暖かさが私にはありがたかった。未来さえ居てくれれば私は前に進める。そう思っていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一週間後、私は何とか日常を過ごしていた。お父さんもお母さんもお婆ちゃんも誰も連絡してくれ無いけど私はまだ元気だよ。学校では相変わらずだし家にも投石がくるけど、へこたれるもんか。一応、家に置いてあったお金と私の僅かな貯金で生活してるけど節約すれば一月は生きていけると思う。早くアルバイトを探さないと…未来ならアルバイトの情報とか知っているかな?もう直ぐ、学校も終わるし近くのスーパーで特売品を買わないと。あ、その前に未来に呼ばれてたんだ、場所は屋上だっけ?

 

 

 

 

 

「アグッ!?」

 

屋上に着いた途端、私は後ろから押され地面に倒される。見ると私を虐めてるグループが居る。如何して此処に!?

 

「アハハ、コイツびっくりしてるよ」

「うける~!」

「本当によく学校に来れるよね」

 

屋上の地面に倒れた私を見てイジメグループが笑う。悔しくて悲しい、このグループの中には私の友達も居たのに!

 

「気が済んだ?私はあんた達に「アンタ、親に見捨てられたんでしょ」かま…!?」

 

グループのリーダー格の娘の言葉に私は固まった。その話は未来にしかしてない筈なのに!?私は言葉も出ず茫然としてしまった。私の頭は疑問が駆け回ってパンク寸前だ

 

「如何して知ってるかって顔をしてるね。これを見なよ」

 

グループリーダーが一冊の雑誌を私に投げ渡す。その雑誌は今日発売の有名なゴシップ系の雑誌だ。私もライブに行く前に何度か読んだ事がある。表紙には…!「天誅!!人の命を奪った少女の末路」と載っていた。イジメグループがニヤニヤする中、私は恐る恐るページを開き絶望した

 

内容は私が両親に捨てられてお金を持ち逃げされただの、行きづりのオジサンやホームレスに体を売ってご飯を貰ってるだの酷い内容だった。極め付けは私の顔写真がそのまま載っていた事だ。これじゃあもう外を歩けない。…それにこの写真は未来と一緒に撮った…

 

「如何して…如何して…こんな…」

 

「ん~~、まだ分かんないかな」

 

大人が頭の悪い子供に勉強を教えるようにリーダー格の娘が私に視線を合わせ残酷な言葉を口にする

 

「あんたは、()()()()()()()()()。その雑誌を作っている会社にね」

 

…理解出来なかった。違う私が理解を拒んだ。未来が私を売った?…ありえない、ありえない、ありえない、ありえない、ありえない、ありえないアリエナイアリエナイアリエナイアリエナイアリエナイアリエナイアリエナイアリエナイアリエナイアリエナイアリエナイアリエナイアリエナイアリエナイアリエナイアリエナイアリエナイアリエナイアリエナイアリエナイ…ありえない!!

きっと、こいつ等が未来を脅して聞き出したんだ!そうだ、そうに決まってる!!

 

「嘘だ!未来と私は親友なんだ!適当な事を言うな!!」

 

私の怒りの声にグループは心底つまらなそうに見ていた。人が怒ってるのにその態度はなんなんだ!絶対に許「小日向、アンタの勝ちよ」さな…え?

 

「やったー、私の勝ち!約束通りケーキ奢ってね♪」

「はいはい、まさかコイツがここまでアンタを信じるなんてね」

 

突然、現れた未来がイジメグループのリーダーとハイタッチしている。意味が分からない、如何して未来がイジメグループと仲良くしてるの?何で私以上に仲良くしてるの?

 

「…未来」

 

「あ、響、私を信じてくれてありがとう♪おかげで賭けに勝ったよ」

 

「…賭け?」

 

「うん、みんなと一つ賭けをしてたんだ。雑誌を見せられた響が最後まで私を信じていてくれるか。をね」

「あたし等は、小日向が裏切ったって泣き叫ぶと思ったのにね。大損だよ」

 

私の中の何かが音を立てて崩れていく気がする。とても大事なものが…

 

「私、響と友達ごっこしてるから、ある程度性格を把握してるもん」

 

「友達…()()()?私達、親友だよね…未来」

 

嘘だよね、未来。周りに合わせて言ってるだけだよね?未来と私は昔からの親友だよね

 

「親友?何それ。鈍いな響、雑誌に載ってる情報は私が売ったのに」

 

「!…そんな、未来が内密にしろって」

 

「それはね、出回った情報なんて大して価値は無いの。知ってる人は少なければ少ない程高く買い取ってくれるんだよ。ほら見て響、雑誌社からこんなに謝礼を貰ったんだよ。いやぁ、今月厳しかったから助かるよ」

 

「…私達、親友だよね…」

 

「うん、楽しかったよ。響との友情ごっこ」

 

「友情ごっこ?」

 

「うん。友情ごっこ。良い暇潰しになったし…あ、でももう私に話し掛けないでね。響は有名人になったんだから」

 

未来の目は…本気だった。本気で私とは友情ごっこって言っていた。未来と親友だと思っていたのは…自分だけだった。響の中に何かが完全に壊れてしまった

 

「やべ、雨降りそうだ。小日向、そんな奴に構ってないでもう行くぞ」

「はいはい~、ねえついでに駅前のカフェも奢ってよ」

「ええ!?あそこ高いんだよ…」

 

未来はもう私に目もくれずイジメグループと楽しそうに屋上から出て行った。私は雑誌を持ったまま茫然としていた。その内、雨がぱらつき徐々に本降りになっていく。体が濡れて来るが今の私には如何でもいい。未来は私とは友達ごっこだと言っていた。親友でも何でもなかった。未来が私の相手をしていたのはただの暇潰し。それなのに私は未来を親友だとのぼせあがっていただけだ

 

「…お父さんもお母さんもお婆ちゃんも…未来も…皆、私から離れていった。違う、ゴミのように捨てられた…嫌だよ…こんなのってあんまりだよ…私が何したっていうの…私が信じていたもの全て私を裏切った…ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!

 

激しい雨に雷が鳴り響き私の慟哭が搔き消される。構うもんかもう如何でもいい、私の大事な物なんて何処にも無い。激しい憎悪が私から滲みだす。許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない……お父さんもお母さんもお婆ちゃんも未来も全てが!

 

「でも…もう如何でもいいかな」

 

私の口元が何時の間にか笑っていた。なんだか本当に笑えそう。笑った後は何時の間にか布団に入っていて今までの事が全て夢だったらと私は自分の頬を抓る

 

「痛い…アハ…アハハハ…あははははははハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハはっははっはっはっはハはっはっはハハハハハはっは!!」

 

現実だ。夢なんかじゃない現実だ!私はひたすら笑い声を出し続ける。何も面白くないのに…むしろ泣きたいくらいなのに…私壊れちゃったのかなそれならそれでもいいかな、私はもう誰にも必要とされてないし。復讐とかも面倒だ

 

『生きるのを諦めるな!!』

 

うるさい。私はもう誰からも必要とされてないんだ。家族は私を捨てて行方を晦ませて、未来はお金で私を売った。もう私には何もない

 

「このまま死んじゃえば「うおおおおおおおお」?」

 

変な声がして振り返ると大きな蜘蛛が居た。幻覚かな?それとも化け物?ノイズの新種?もうどうでもいいや。私は意識を手放した。出来れば来世はもう少しまともな人生がいいな

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

でも私は死ななかった。死なせて貰えなかった。今、私は丸い台の上に縛り付けられている。周りは薄暗くよく見えない。体の方をみるとシーツが被せてあるが感覚からして裸だろう。もしかして、あの記事を鵜吞みにした奴が私を攫ったんだろうか?処女のまま乱暴にされたくはないけど…もうどうでもいいかな。最後に男の人の役に立てるならこの体がどうなろうと…

 

『目が覚めたか立花響。ようこそ我がショッカーに来てくれた』

 

何処からともなく男の声がする。姿は見えない…それから気になるのは、

 

「…ショッカー?」

 

会社の名前かな?そういう企画ものがあるって昔、酔っぱらったお父さんが言っていたような

 

「これより君は「あの~」改…ん?」

 

話してる最中だけど私は如何しても言わなきゃいけない事がある

 

「私…初めてなんです。だから優しくしてくれると嬉しいんですけど」

 

「…何か勘違いしとるな貴様」

 

声の主が呆れたように言う。エッチな事を覚悟したのに…。その後、顔にペイントされた科学者と外が黒く中が赤いマントをした白髪交じりのお爺さんがショッカーの説明をしてくれた

 

ショッカー、それは世界のあらゆる所に網が貼られる悪の組織だ。

ショッカーの狙いは世界各国の人間を改造し、その意のままに動かして世界征服を計画する恐るべき団体なのである。

 

「世界…征服…」

 

まるで昔のアニメみたいだなと思いつつも実感がわかない。でも世界征服か

 

『人殺し!お前なんかが生きてて何で〇〇くんが!』

『限界です、探さないでください』

『楽しかったよ、響との友情ごっこ』

 

…こんな世界無くなってしまえばいいんだ!

 

『世界は改造人間が動かしその改造人間を支配するのが私だ。世界は私の意のままになる。そしてお前はショッカーに選ばれたのだ』

 

選ばれた?…私、必要とされてるんだ。…皆から捨てられた私は誰か…ショッカーに必要とされてるんだ

 

「これより、お前は改造人間となりショッカーの一員になって貰う。拒否しても「なります」無…なんだと?」

 

途中で顔をペイントした科学者の人が喋ってたけど私は思わず口にした

 

「私もショッカーの一員になります!いえ、入れてください!」

 

私の決意を聞いた人達は沈黙するけど白髪交じりのお爺さんが笑みを浮かべて私に近づいて来た

 

「面白い、お前は改造人間になって何がしたい?」

 

私のやりたい事?そんな事決まっている!

 

「復讐したい奴らが…いるんです。その為だったら私の全部を貴方達に差し出します!」

「そうか、なら喜ぶがいい!貴様はこの私、死神博士自らが改造手術をしてやろう!」

 

白髪交じりのお爺さん…死神博士が高笑いをする。それにしても改造人間か、どうせもう外を出歩けないんだ。こんな世界を破壊してショッカーの物にしてやる!

 

『フフフ…面白い娘だ。私の事は首領と呼ぶがいい。活躍次第では貴様を大幹部にしてやろう。ただし失敗すれば死だ!』

 

死か…どうでもいいや。そんな事より、ショッカーの役に立てば私は私でいられるんだ。あははははハハハハハハハハハハハハハハハ!!

 

 

 

 

その日、一人の少女は悪魔たちに魂を売り渡した。そして世界は動き出す。

 

 

 

 




この世界の未来は普通に性格が悪いです。

原作との相違点は父親だけでなく母親とお婆ちゃんも失踪。未来が真ゲス化。響が悪に堕ちるのも仕方ない。グレ響より酷い事に。


ジャスラックが動くまで本編が進まない。ジャスラックと違ってNTはデータが見つからないしか出てこなくて上手く動かせん。

此方の感想もお待ちしてます。


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IF 2話 私はショッカーに忠誠を誓う

 

 

 

響がショッカーで改造手術を受け一週間後、死神博士の改造手術も終わり響はショッカーの訓練所へと来ていた。

 

ヒィヒィヒィヒィ、お前が立花響か?俺はお前の担当教官のサボテグロンだ。首領にお前を戦えるよう仕込めと言われている」

 

響の前に全身緑の口元が赤いショッカーのベルトをしている怪人が訓練所に先に居た。名前からしてサボテンの怪人だろうと考えた響はサボテグロンに頭を下げる。

 

「よろしくお願いします!」

「…カラ元気でないといいがな」

 

元気よく挨拶する響にサボテグロンは訝しげに喋る。

 

━━━この娘、本当に脳改造を受けてないのか?聞いた話では拉致された後にショッカーに入りたいと言ったらしいが…

 

サボテグロンは響が積極的にショッカーに入った事を怪しんでいた。脳改造も受けずにショッカーの為に働けるのか疑問もあった。

 

━━━…まあいい、首領も死神博士も認めた以上俺がとやかく言うことではない。仮にショッカーを裏切っても俺の所為では「ところで教官」ない…

 

思考に耽っていたサボテグロンに響が話しかける。

 

「何だ?」

「私はもう()()()じゃありません。今の私はショッカーの改造人間…聖遺物怪人・響です!

 

全てを失った響はもう立花の苗字を使う気はなかった。自分を捨てた家族や親友だと思っていた女と一緒に居た(自分)はもう死んだ。今此処に居るのはショッカーに身も心も捧げた聖遺物怪人の名を与えられた少女、響だった。

 

「ほう~」

 

内心サボテグロンは驚いていた。

 

━━━小便臭いガキかと思えば、気合はいっちょまえか…いいだろう

 

「いいだろう、徹底的に鍛えてやる」

「はい!!」

 

サボテグロンの言葉に響は笑顔で返事をする。そしてサボテグロンの戦闘訓練が始まった。

 

「遅いぞ!そんな動きで敵を殺せるか!」

「はい!」

 

サボテグロン自らが組み手をしたり、

 

「ヤー!」

「イーッ!」

「もっと腰を入れろ!そしてもっと周りを見ろ!」

 

複数の戦闘員と戦わせたり

 

「ハア、ハア…」

「ペースが落ちてるぞ!もっと体力をつけろ!」

 

ひたすら訓練所の中を走らせたり響を鍛えに鍛えていた。そうして、その訓練を何度も繰り返していく内に想定よりもドンドン力を上げている響にサボテグロンも驚く。

 

━━━この娘、最初は改造された体に振り回されていた筈が今では大分力を制御している。それも予想以上に速い、慣れたのか?流石は死神博士の最高傑作ではある

 

 

 

 

ショッカーの怪人にはかつてナチス・ドイツで研究されていたと言われる動植物の能力を移植手術もちいた技術を使っていた。サボテグロンならサボテン、蜘蛛男は蜘蛛と、そんな中、響は動植物の能力は移植されず人間としての能力のみ上昇させていた。全ては響の心臓にあるガングニールの欠片の為だ。

 

聖遺物ガングニール。聖遺物とは世界各地で神話や伝承で登場する超常の超常の性能を秘めていると言われる武具だ。現在では製造不可能と言われいる異端技術(ブラックアート)でショッカーでもおいそれとは作れない。その聖遺物だけがショッカーの邪魔となるノイズと呼ばれる特異災害に対抗できる。

 

ノイズ。人類共通の脅威と言われ有史以来から確認されてると言われる者たち。人間のみを襲い触れた人間諸共炭素化する能力を持つ。更に位相差障壁が更に厄介であった。これによってノイズは世界をまたぎ物理干渉を無効にし人間の持つ兵器では傷一つ付ける事が出来ない。一部例外もあるが、それはおいそれとは使えない手だった。

 

そして、ショッカーにとってもノイズは面倒くさい相手だった。これまで何度も作戦中にノイズが乱入しては失敗を繰り返し、ショッカーもノイズ対策をしなければならなくなった。

しかし、聖遺物の確保に失敗したショッカーは別の形でアプローチするしかなかった。そう改造手術だ。ショッカーの持てる技術をより高め怪人をさらに強くし、ノイズに対抗しようとした。その結果はノイズの位相差障壁一時的無効に出来る技術を得たがそれだけだった。強い怪人も2~3体のノイズを倒したら灰になって消滅する。基本的に群れで現れるノイズにはこれは致命的だった。何より割に合わない。それなら戦闘員を大量に作り突撃させた方がマシだった。

 

やはり、聖遺物の確保は急務と思われた矢先に一つ情報が送られてくる。聖遺物の欠片が立花響の心臓にある事が。首領は直ぐに立花響の確保を命令して蜘蛛男が雨の中、学校の屋上で泣いていた立花響を確保し、アジトへと連れ込み徹底的に響の体を調査を行った。その結果、ショッカーにとって興味深い事が分かった。立花響の心臓の聖遺物が融合を始めている事を。本来なら心臓だけを取られ聖遺物の欠片を研究しようとしていたショッカーにある考えが浮かんだ。それが、立花響の改造手術だ。

 

ショッカーとしては、改造人間として狙う人間は優秀な頭脳と強靭な肉体を持った者が理想で立花響はどちらにも該当するとは言い難かった。それ故に、当初ショッカーは響に期待もしていなかった。怪人にしその後に脳改造して洗脳すればいいかと思ってた程だ。しかし、事前の情報と違い響は自らショッカーに入りたいと言い出したのだ。ショッカーとしては、立花響が改造人間としてどの位役に立つかは未知数だが、同時に心臓の聖遺物の調査も出来ると考え響を洗脳せずにいたのだ。

 

 

 

 

「ふう~、今日の所は此処までだ」

「ハア…ハア…ありがとうございました」

 

━━━模擬戦でも俺が押され出している。一月経ったとはいえ想定外だ。最早、俺では訓練相手にもならんか…死神博士に要請してみるか

 

サボテグロンが響を鍛えだして一月、今日の訓練が終わったと言って響を休ませる。響の体にはサボテグロンが付けた傷が幾つもあったが10秒もせずに全てが治ってしまった。己の限界を悟ったサボテグロンが死神博士にある要請を出す事を決めた。そして、響はシンフォギアと呼ばれる姿から通常の服装に戻る。今の響はショッカーから支給されたジャージを着ていた。運動により汗だくの響は戦闘員が用意した水を貰う。

 

「…ありがとう」

「イーッ」

 

響に礼を言われた戦闘員は一声鳴いてその場を去って行った。気付けばサボテグロンも既に移動してこの場に居なかった。一人休憩する響。

 

「今日の訓練は終わったのかい?響」

 

そんな響に声を掛けてきた者が居た。視線を向けた先には青いタイツを着て胸には幾つもの黒と黄色のリングが書かれ目が複眼になってる女性怪人。

 

「蜂女さん、はい今日の分は終了です」

 

響が笑顔で答える。響にとって蜂女はこのアジトで一番仲の良い怪人だった。ショッカーには女性の怪人は少なく響も同性という事もあり、何より自分より先輩という事もあってよく目をかけてもらっていた。

 

「他の怪人に虐められてないよね?もし居たら私に言いな、とっちめてやるから」

 

響と接する内に姉御肌になった蜂女がそう言った。ショッカーは良くも悪くも実力主義と言える。世間では男女平等と叫ばれる中、ショッカーには関係ない。実力さえあれば幹部や大幹部となるが一番偉いのが首領という事は変わりない。

 

「フフフ…」

「笑う事ないじゃない」

 

蜂女の言葉に思わず笑ってしまった響。その反応に少し不機嫌になる蜂女。響はショッカーのアジトが居心地が良く感じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アジトのとある一室。戦闘員はおろか怪人でも入室を許されない部屋で死神博士が立っていた。死神博士の前にはショッカーのシンボルである地球の上に鷲のマークがある。そして鷲の胸が緑色に光り首領が喋る。

 

『死神博士、聖遺物怪人の方は順調か?』

「お喜び下さい、首領。立花響の力は想定以上に高まってます。現在の時点で初期の怪人達を上回りつつあり、実践投入はそう遠くないかと」

『ほう、如何やらショッカーに入りたいと言ったのは本気のようだな』

「それから、首領。サボテグロンより報告です。「もう俺に教える事は何もない。代わりの教官を派遣してくれ」だそうです」

『そんなにか、ならば中東よりあの男を呼び出す。奴ならば、聖遺物怪人の力をより伸ばせる筈だ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「と言う訳、今日よりお前の教官となったゾル大佐だ。大佐と呼んで構わんぞ」

「は、はい!」

 

数日後に響は軍服を着てアイパッチをした男、ゾル大佐の前に立っていた。サボテグロンから近々、別の教官が来ると聞いていたが人間の姿で来た事に驚いた。

 

「首領はお前に期待してるようだ。せいぜい励むのだな」

「首領が?…はい!」

 

ゾル大佐の言葉に響はより気合を入れる。その日から響の訓練はより実践的になった。戦闘員の代わりに複数の怪人と戦い、武器の適性を見られたり簡易な爆弾の作り方や潜入工作のやり方、そして、ゾル大佐得意の変装術など色々仕込まれた。

そして、半年の時が過ぎる。

 

「あの~大佐、次は何を?」

 

響が椅子に座って聞く。現在、響の前には学校にあるような黒板が置かれゾル大佐が黒板の前に立っている。

 

「何を?決まっている、座学だ。戦闘訓練は十分やった、貴様も幹部を目指すのなら勉強しろ」

「勉強…私、別に幹部になりたい訳じゃ「向上心の無い者をショッカーに必要だと思うか?」…やります」

 

勉強が苦手な響。まさか悪の組織で勉強させられるとは思わなかった。内容は主に戦術や戦略、部下の戦闘員をどう動かすか、人間の効率的な殺し方に拷問の仕方に心理学。敵地に潜入した後の破壊工作等々…結果は、

 

「…落第点だな」

「…久しぶりの勉強だったんで…」

 

響は座学が苦手だと知ったゾル大佐は今後の事を考える。

 

━━━座学は諦めるべきか?優秀な副官をつければ幹部としてもやっていけると思うが…戦闘は悪くはない。戦闘能力のみ伸ばすか

 

「…久しぶりなら仕方あるまい。よくやったぞ響」

「あっ…」

 

褒めるゾル大佐は響の頭を撫でる。元軍人であるゾル大佐は飴と鞭を響に与える。響のやる気を保つ為に。

 

━━━脳改造していれば、この様な手間の必要ないのだがな…

 

内心面倒に思いつつもゾル大佐は己の職務を全うする。一方、撫でられた響はゾル大佐の武骨な手の感触に懐かしさを感じた。

 

━━━この感覚…昔同じことをされた…優しかったお父さん…!

 

響の脳裏に嘗ての父親との思い出が蘇り頭を振る。いきなりの事にゾル大佐も思わず手を離した。

 

━━━何だいきなり、親しげにし過ぎたか?小娘の扱いなんか分からんぞ!

 

「…大佐!」

「何だ?」

「…お父さんと呼んでいいですか?」

「駄目だ」

 

響が顔を赤くして願うがゾル大佐は拒否する。並みの男なら響の可愛さでいけるだろうが、ゾル大佐はショッカーの大幹部。下手に部下達に見られれば威厳が台無しになると考えた。しかし、断られた響が目に見えてテンションが落ちてる事に気付く。まるで叱られた犬のようだ。

 

━━━そんなに落ち込む事か?このままでは訓練への影響も出るか……そう言えばこのアジトに到着した時にある報告を受けていたな…

 

ゾル大佐はアジトに到着し響と会う前に戦闘員からある報告を受けていた事を思い出しニヤリと笑う。

 

「だが、そうだな…テストをして合格すれば考えてやっていいぞ」

「本当ですか!?」

 

思わぬ返事に響はゾル大佐に迫る。逆にゾル大佐はちょっと引いた。響の頭には座学のテストの可能性が丸ごと抜けていた。ゾル大佐は響と共に訓練所を後にし戦闘員に例の三人を部屋に連れて来るよう命じる。

 

 

そして、部屋に到着して中に入るとそれなりの広めの部屋に三脚の椅子に三人の人間が縛られて座らされていた。体つきから男一人女二人その内の一人は年がいっている事が何となく分かった。どの人間も頭にずた袋を被せられ誰かは分からない。

 

「あの、大佐これって…」

「お前の為に準備した物だ。これを付けろ」

 

そう言って、ゾル大佐は響に戦闘員のかぶる覆面を渡す。理由が今一分からない響だが命令である以上、覆面を被る。被り終えた事を確認したゾル大佐は戦闘員にずた袋を取れと命令し戦闘員はその通りにやった。

 

「!?」

 

響は息を飲む、ずた袋から出た顔はあの時消えた響の家族たちだった。ショッカーにとって政府が力も貸してない失踪した者を探すなど造作もない。お父さん、お母さん、お婆ちゃんの三人は口に布の猿轡をされ「ン゛~~~」と何か言っている。

 

「それも取ってやれ」

 

ゾル大佐の命令でやっと三人の猿轡が外される。

 

「一体なんだよ!?」

「此処は何処なんですか!?」

「家に帰しておくれ!」

 

三人は口々に喋る。怒ってるようで内心は不安だらけの父親。何処に連れてこられたのか不安で仕方ない母親。純粋に家に帰りたいと訴えるお婆ちゃん。そんな三人をゾル大佐はにやつきながら喋る。

 

「ようこそショッカーに、君たちに来て貰ったのは他でもない。お前達の娘について聞きたい事があってな」

 

三人は響と聞いた瞬間、嫌な顔をする。

 

「む、娘?俺達に娘なんていないよな?なあ母さん」

「…そうよ。私達に子供なんて居ないわ」

 

父親と母親は響の存在を否定してお婆ちゃんも頷く。それを間近で聞く響は何を思うか?

 

「ほう、つまり貴様らには娘は居ないという事だな?」

 

「そ…そうだ!」

 

娘である響の完全否定。此処まではゾル大佐の想定通りだ。

 

━━━立花響の再調査で判明した事だが、…やはり人間の絆などこの程度よ。さて、仕上げに入るか

 

「らしいぞ、もういい覆面を取れ」

 

ゾル大佐の言葉に響は戦闘員の覆面を取る。

 

「響!?」

「なんでお前が!?」

 

まるで幽霊を見たような反応する三人にゾル大佐は響に一本のナイフを投げ渡す。

 

「これは…」

「お前がトドメを刺せ。そしてショッカーに対する忠誠を見せてみろ」

 

響はまだ人を殺した事が無い。本当にショッカーに忠誠を誓ってるか親殺しをさせようと考えたのだ。

暫く、ナイフを見ていた響はゆっくりと三人に近づく。

 

「止めて、響!」

「止めなさい!」

「待つんだ、響。お前だけを残したとは言え、僕達は親子じゃないか!」

 

さっきまでと違い、響を娘として説得する三人。それを聞いて黙って近づく響に楽しそうに観察するゾル大佐と戦闘員たち。そして、響は父親の前に立つ。

 

「ねえ、何で私だけ置いてったの?」

 

「悪かった!仕方なかったんだ!でも一部に響の顔写真が流出していて響だけ顔が割れていたんだ!それを母さん達に相談したらお前だけを置いていく事になって…」

「あなた!」

「洸さん!」

 

家族が響を捨てた理由、それは響の顔写真がネットに流出していたのだ。ご丁寧にツヴァイウイングのライブの悲劇の生き残りの情報付きで。これでは新天地に行っても響を連れて行けない。仮に連れて行っても暫く家から出す事も出来ない。もう今の生活に耐えられなかった家族はアッサリと響を見捨てる事を決め数日掛けて貴重品を移し夜中の内に出て行ったのだ。

 

それをただ聞いていた響は持っていたナイフで父親の縄を切る。

 

「響、分かってくれたんだな」

 

縄を切られた父親が自由になった手で響を抱きしめる。それをつまらなそうに見るゾル大佐。

 

━━━ふん、やはり身内を庇ったか。小娘ではこの程度だろう、後で脳改造を「アガッ!?」申請…

 

考え事をしていたゾル大佐の耳に呻き声が聞こえ視線を戻す。戻した先には娘に抱き着く父親とその父親の腹部を刺している娘が居た。それも一度ではない、何度も何度もナイフを腹に突き立てる。遂に床に倒れた父親は腹を押さえ苦しそうにして響を見つめる。

 

「いやああああああああああああああ!!」

「響…」

 

母親が叫びお婆ちゃんは絶句し、父親が響の名を呟く。

 

「もう遅いよ。私ねショッカーに入ったの。ショッカーの改造人間として世界を征服して首領に褒めてもらうの。だから、さようならお父さん

 

床に倒れた父親の頭を思いっきり踏みつける。改造人間である響の踏みつけに頭蓋骨は粉砕され辺りに血や脳漿が飛び散る。それを満足そうに眺めるゾル大佐。頭を潰された父親の体は虫の様に痙攣する。

 

「あ、悪魔!お前は悪魔だ!よくも洸さんを!」

「南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏…」

 

夫を殺された母親が響を罵り、お婆ちゃんは念仏を唱える。それを冷めた目で見る響は二人も殺害した。

 

 

 

 

部屋の中は三人の血で赤く染まり中央に響が帰り血で濡れている。

 

「やった、やったんだ!私をゴミの様に捨てた奴等を殺してやったんだ!!あははははハハハハハっははははははっはっははははははっはっはっははっはっはははははははッはッははッはは!!」

「ハハハ、よくやったぞ。これでお前はショッカー軍団の一員だ」

 

響の狂気じみた笑い声にゾル大佐の拍手がなる。三人の死体を片付ける戦闘員はなるべく見ないように早急に行動する。

 

響は気付かない、見開く両目から大量の涙が出てる事を。ゾル大佐も指摘しない、響の心が壊れようがショッカーには何の関係も無い。心が壊れて使えなくなればそれこそ脳改造すれば問題ないとさえ考えている。

 

今日、一人の少女は悪魔となった。

 

 

 

 




パラリラリラ~
響はレベルが上がった。
力が上がった。素早さが上がった。体力が上がった。知能が少し上がった。器用さが上がった。論理感が下がった。人としての何かが下がった。狂気を覚えた。ショッカーへの忠誠度が上がった。ショッカーへの依存が爆上がりした。情緒が不安定になり始めた。

ゾル大佐の信用度が上がった。
死神博士の信用度が上がった。
首領の信用度が上がった。
怪人達の信用度が上がった。
現場に居た戦闘員は若干引いた。


本編では敵対する怪人も此方では響に親切だったりします。


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IF 3話 私達はショッカー

 

 

 

あたし等が何したって言うんだ。囚人みたいな鉄球を足に付けられて、檻に入れられて外には覆面や顔をペイントした全身タイツの男たちが見張っている。檻の中にはあたし等のクラスメイト達ばかりだ。先公は隙をみて男達に立ち向かおうとして化け物に殺された。あんなバスに乗ったのがあたし等の運の尽きだ

 

 

2週間前、あたし等は校外学習の名目でバスに乗っていた。如何にも急に決まった学習らしくて先公も寝耳に水だったようで前日に慌てていた。面倒くさいしサボろうとしたが出席するだけでも結構な単位が貰えるらしくクラスメイト全員が参加。勉強を名目にしてるけど中にはあたし等みたいな単位目的の不良もそこそこいた。バスの中では駄弁ったりトランプしたり窓の外を眺めたりしていて偶に先公が注意したりしてそれなりに楽しくやっていた

 

「あれ?」

 

最初に異変に気付いたのは窓の外を眺めていた陰キャの男子だ。…正直名前も覚えてないけど、そいつが初めに気付いた

 

「ねえ、これ道違ってない!?」

 

最初は何の事だか分からなかった。あたし等は学習する場所には初めて行くから道なんか知らない。でもあたし等以外にその場所を知っている連中は違った

 

「本当だ、こんな道知らないぞ!」

「あそこに行くのにこんな道通らないよ!」

「運転手さん、道が違うよ!」

 

先公が運転手に道が違うと訴えるが運転手はシカトしてその進む。この時点であたし等は嫌な予感を感じていた

 

「おい、聞いてるのかよ!」

 

「フハハハハ、間違っては居ない。お前達が行き着く先は地獄なのだ」

 

不良の男子生徒の声にやっと運転手がやっと口を開いたけど地獄!あの運転手、なに考えてんだ!?バスが古いトンネルの中でやっと止まった。まさか此処が地獄なんて言わねえよな?

 

「ヴェ、ヴァヴァー、お前達をこれより地獄に招待してやろう」

「きゃあ!!」

「ば、化け物だ!!」

 

運転手があたし達の前に立って帽子を取った瞬間、其処には頭がキノコで顔がキノコの裏みたいな怪物になった!皆、窓から逃げようとするけどどの窓も開かない。不良が足で窓を蹴破ろうとするがビクともしない。そしてキノコ男の口から煙みたいな物を出し吸い込んでいった皆が次々と倒れる

 

「安心しろ、貴様たちを運んだ後はバスの中に灰をぶちまける。これで世間はお前達が死んだと思うだろう。」

 

キノコ男の言葉が聞こえたけどあたしの意識も直ぐになくなった

 

 

 

 

そして、あたし等は何処か分からない場所の施設で強制労働をさせられていた。確かに此処は地獄だった、荷物運びや穴掘りの過酷な労働に休憩も食事もろくに与えられず2週間近く経ち、あたし等は限界が近かった。如何やら向こうもそれに気付いたようだ

 

『ショッカー組織の中にあって、君たちは選ばれた改造人間にもなれず、また戦闘員、技術員など適応しない人間たちとして死刑囚になった!』

 

赤い光の点滅と共にあたし等を死刑囚って言いやがって…でもこいつ等ならやりかねえ。先公もあたし等の目の前で殺された。…死にたくないよ…

 

『だが、偉大なる支配者ショッカーは、君たちに最後のチャンスを与えるだろう。これより諸君を監房から移動させる。そこで我々が指定する相手を殺せ。それが出来た時、諸君等を解放し今後一切危害を加えない事を約束しよう』

 

あたし等に何か殺させようってか?くそ!こんな時、あの人殺しが居りゃそいつに押し付けてやったのに!

 

「出ろ!」

 

黒タイツ野郎が檻を開けて出るよう促す。一人、また一人と檻から出て男たちの後に付いて行く。逃げるチャンスは無いかと探っては見たが似たような通路ばかりで慣れてないと完全に迷う造りだ。あたし等はあいつ等に従うしかない

そして、あたし等はある部屋に連れてこられた。体育館並みの広さの部屋の中心にポツンと誰かが立っている。後ろを向いてるけど体の形から女だとは分かる。それにしてもあの恰好ってコスプレ?あのキノコ男よりかはマシだけど

 

「イーッ!準備完了しました!」

「そう」

 

黒い男の報告を聞いて女がこっちに振り向いた。そして私達は唖然とした

 

「おい、あれって」

「響?」

「立花じゃんか」

 

あの屋上でのやり取りの後に失踪した立花響だった。なんでアイツが此処に?

 

「おいおい、何だよ。なんでお前が此処に居るんだ!?」

 

あたしの頭が混乱してるとクラスきっての不良の奴が人殺しに近づく。アイツって確か、人殺しが失踪した後に体育倉庫で襲う計画を立ててたのにとか大声で言ってた奴じゃん

 

「お前が俺らを此処に連れて来…」

 

不良が力なく倒れる。あの人殺しが拳を突き出してたけど何が起こったのかアタシ達には分からなかった

 

「ヒィ!?」

 

一人のクラスメイトが悲鳴を出す。視線を動かすと悲鳴を上げたクラスメイトの前に不良の首が転がってる!

 

「人殺し!]

 

誰かの叫びであたし達はパニックになった。それにも関わらずあの人殺しは平然の顔をしている

 

「…よく見たら私の元クラスメイトみたいだね。散々私のことを人殺しって言っておいて今更言うかな?」

 

アイツ、今あたし達の事に気付いた!ゆっくりと近づいてくる!嫌だ、嫌だ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

囚人どもが蜘蛛の子を散らすように逃げる。逃げ場など何処にもないというに。既に扉も閉められ脱出は不可能。一人、また一人と響に殺されていく

 

「だが、これでは訓練にならんな。やはり武器を持たせるべきだったか」

 

ただ逃げる相手だけでは訓練にはならん。武器を持たせ抵抗出来るようにするべきだったか。それにしても以前に攫った連中が響のクラスメイトとはな、偶然かそれとも必然か

 

 

ショッカーが響のクラスメイトを攫ったのはほぼ偶然だった。適当な学校のクラスに校外学習で誘い出しバス諸共捕獲する作戦は過去にも何度かやっている。残ったバスに灰を撒いておけば世間はノイズに殺されたと思い警察も捜査を打ち切る。

 

 

そうこうしてる内に残りは一人。後の人間は響に八つ裂きにされていた。響には人体を溶かす液体もガスも無く火炎や吹雪を出せもしない。純粋な力のみが響に与えられたものだった。部屋の中には引き千切られた人体や握り潰した人体がそこら辺に転がる。見れば最後の一人の女が残り、響はその女の首を握り落ち上げる。そのまま首を圧し折るのかと思ったが何か喋っている。興味の出た俺はその声を聞いてみた

 

 

 

「ねえ、未来は何処に居るの?」

「助けて…助けて、殺さないで!」

「聞こえてないの?私は未来は何処だって聞いてるの!?」

「こ。小日向は一月前に親の仕事の都合で引っ越した!何処に引っ越したかは私も知らないんだ!お願!…」

 

 

 

聞きたい情報を聞いて響はかつてクラスメイトだった女の首を圧し折り持ち上げていた女を捨てた。しかし、小日向未来か。人間を止めてもこだわるとはな、まだまだ小娘といったところか

 

「お父さん、終わったよ」

 

小娘の声に振り向くと響が笑みを浮かべている。訓練所から何時の間にか簡易指令室に移動していた。改めて訓練所を見ると戦闘員が訓練所に散らばった血肉の清掃にはいる

 

「ふん、よくやったぞ響」

「うん。……」

 

俺の誉め言葉の後に何かを期待してる顔をしている。やれやれと思いつつ俺は手を伸ばし響の頭を撫でる。…撫で心地いいな、コイツの頭

 

「ん」

 

幸せそうな顔をしおって、本当に犬みたいな奴だ。…それにしても、何時の間にかお父さんと呼ばれてるな俺。まぁ、ショッカーの為だ、父親の役も演じよう。……それにしても、この小娘、ドブ川が腐ったような目をしおって…ショッカーに相応しい人材になってきたではないか

 

「ゾル大佐、ボスがお呼びです!」

「分かった、直ぐに行こう」

 

頭を撫でてる最中に戦闘員が俺を呼びに来た。ボスとは即ち首領の事だ。止め時を見失ってた俺としてはありがたい。…頭を撫でるのを止めた小娘が不服そうなのは無視しておく。…報告に来た戦闘員を睨むな!

 

「響、お前は死神博士の下で定期健診だろ。遅れるなよ」

「…はーい」

 

響が不服そうに返事をした

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アジトの指令室に入ったゾル大佐は鷲のエンブレムの前に立つ。

 

「首領、お呼びでしょうか?」

『来たかゾル大佐。早速だが、聖遺物怪人の訓練は順調か?』

「まあまあと言ったとこでしょう。後一年ほど貰えれば立派な怪人として運用出来るかと」

『一年か、いいだろう。それまで待とうではないか。ノイズとの戦闘は如何だ?』

「それもほぼ完璧かと、以前装置が大型ノイズを呼び出しあわやノイズが暴れて基地が半壊するかと思われましたが聖遺物怪人が片付け難を逃れました」

 

一週間程前、アジトにて響のノイズ戦闘訓練が行われていた。ショッカーの開発したノイズを呼び出す装置により一日に一体だけノイズを呼べる。それにて響は定期的にノイズと戦いショッカーはデータを得ていた。そして一週間前、同じようにノイズを呼び出し響と戦わせようとしたが呼び出したのは大型のノイズ。それも分裂するタイプにより状況は一変する。ショッカーは過去に大型ノイズの分裂体と遭遇し大損害を出した。そのノイズとの同型が出た事で一部の科学陣と怪人が慌てるが、響がノイズを倒し事なきをえた。尚、戦闘の際、装置が破壊され修理に時間が掛かっている。

 

ゾル大佐の言葉を聞いた首領は満足したように通信が切れた。

 

 

 

 

それから、一年近くが過ぎた。

 

映像に青い髪の女性が映る。そして、その周囲には無数のノイズが居る。普通なら絶望的な状況だが女性は響と似たシンフォギアを纏い次々とノイズを倒す。不利と感じたのかノイズは一か所に固まり文字通り一つとなり女性を襲うが女性は巨大な剣を作り一気にノイズを真っ二つにし決着が付いた。

 

「これが、特異災害対策機動部二課のシンフォギア使いだ。何か質問はあるか」

「あの~、この人って風鳴翼さんですよね?」

「ああ、知っていたか」

 

モニターから流れる映像を見ていた響がゾル大佐に質問する。風鳴翼、ツヴァイウイングの片翼であり昔は響の憧れでもあった。そんな彼女がノイズと戦ってる事に困惑する響。

 

「…そう言えば、お前はあのライブに行っていたんだったな」

「…はい」

 

ゾル大佐の言う「あのライブ」とは恐らくツヴァイウイングの惨劇のことだろうと考える響。あの惨劇の所為で響は全てを失ったのだ。その反応を見て何かを考えて居たゾル大佐はおもむろに口を開く。

 

「…あのライブの事で少し面白い事が分かった」

 

そう言うと、ゾル大佐は手に持っていた書類の一枚を響に渡した。それを呼んだ響は信じられない物を見た反応をする。

 

「…これは…本当なんですか?」

「半分本当で半分憶測といったとこだ。我々の調査と協力者の情報で大まかな事は分かった。近い内に風鳴翼の襲撃が決まったぞ。目的は風鳴翼の拉致、或いは殺害だ。喜べお前の初任務だ」

「私の初任務…はい!」

 

一年半近くを戦闘訓練に費やした響がやっとショッカーの役に立てると喜ぶ。更にゾル大佐は響にある物を渡した。

 

「お父さん、これって」

「お前のベルトだ。お前の腰の後ろのシンフォギアの邪魔にならないよう作られた特注品よ。付けてみろ」

「はい!」

 

まるで誕生日プレゼントを貰った子供の様にはしゃぐ響は早速変身してショッカーベルトを付ける。響は銀色に輝くショッカーベルトを巻いてポーズを取ったりする。

 

「お父さん、似合う?」

「ああ、似合う似合う。一度付ければ変身した後もずっと付けてられるぞ」

「ありがとう、お父さん!」

 

歓喜のあまりゾル大佐に抱き着こうとしたが、寸前でゾル大佐は響の頭を押さえ止める事に成功する。ショッカーベルトには裏切り防止の爆弾が取り付けられている。当然、響も知っているが裏切る気のない響にとって、それは嬉しいプレゼントであった。

 

「近い内に出撃する事になる。準備はしておけ」

「うん!」

 

ゾル大佐の言葉に響は元気よく頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

一週間後、風鳴翼は自然公園で一体のノイズと戦った。ノイズにしては珍しく単体だが、翼はアッサリと倒した。暫くの間、周囲を警戒したが後続のノイズは現れず本部から帰還するよう言われ帰ろうとしたが、

 

「何だ?もう帰るのか?」

「!?」

 

突然、若い娘の声に翼が林の方に振り向く。其処から白い鎧を身にまとった少女が出てきた。

 

「ネフシュタンの…鎧!?」

「へえ~、アンタ、この鎧の出自知ってんだ」

「…2年前、私の不始末で奪われた物を忘れるか!何より、私の不手際で奪われた命を忘れるものか!」

 

翼が言い切ると同時に剣を構える。

 

「面白れえ、配置した覚えのない場所にノイズの反応がしたから来てみれば!」

 

白い鎧の少女も構え一触即発の空気となる。

 

「あれ~、何か一人増えてるんだけど?」

 

何時二人が戦うか分からない空気の中、能天気の混じった少女の声がした。

 

「「!?」」

 

これには白い鎧の少女も驚き、二人は声した方を見る。明るい栗のような色した少女…響がこっちを見ていた。

 

「一般人か!?」

「此処は危険だ!直ぐに下がりなさい!」

 

白い鎧の娘が驚き、翼が此処から去るよう言う。

 

「ねえ、お父さん。こういう時はどうすればいいの?…うん…うん…」

 

しかし、翼の言葉も気にせず響は何かを呟いている。まるで電話で確認してるような…

 

 

「おい、関係ないお前は引っ込んでろ!こっちはいまから…」

 

「戦うんでしょ?私も混ぜてよ。お父さんもアナタの持つ完全聖遺物ってのが欲しいらしいの」

 

響はまるで新しい玩具を欲しがるような態度を見せる。訳の分からない乱入者に二人は苛立ちを隠せないでいる。そんな反応に響は笑みを浮かべ更に言葉を続ける。

 

「それに、私ね関係あるの。変身!」

 

響の体から光が溢れる。

 

 

 

 

 

 

 

「ノイズの反応とは異なる高出量エネルギー検知!」

「波形の照合!…まさかこれって…アウフヴァッヘン波形!?歌ってもいないのに!?」

 

特異災害対策機動部二課と呼ばれる場所にて職員たちが慌てていた。長年探していたネフシュタンの鎧を纏う少女に謎のシンフォギア装者の反応を持つ少女の乱入。

 

そして、本部のモニターに「GUNGNIR」の文字が浮かぶ。

 

「ガングニールだと!!」

 

本部の司令官である風鳴弦十郎の声が響き渡る。そして、弦十郎は即座に現場に行く事を決めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「嘘だろ、おい!」

「あれは…間違いなく奏のガングニール!!何故、お前が!」

 

本部でも混乱したが現場は更に混沌とする。歌も歌わずにシンフォギアを纏う事に驚く白い鎧の少女にそのシンフォギアは嘗てのパートナーの物だった翼。違いがあるとすれば響の腰に巻き付けた見たことないベルトくらいだ。翼は響に剣を向ける。

 

「じゃあ、皆も手伝ってね」

 

「みんな?何を言って「「「イーッ!!」」」る!?何だこいつ等!!」

 

響の言葉に反応するように白い鎧の少女や翼の周りに戦闘員が大量に出現した。翼たちは完全に囲まれている。

 

「何なんだ…お前達は一体何者なんだ!?」

 

「私達?私達はショッカー。世界を支配するもの」

 

翼の問いに答える響。黒影はとうとう表に出てきた。

 

 

 

 

 

 




とうとう翼たちにもショッカーの魔の手が。
この世界の響はシンフォギアを纏うとショッカーベルトもつけます。

冒頭の運転手や首領の発言は大体原作通りです。流石に怪人が違うのとセリフも少し変えてますが。

やっとジャスラックのホームページが使えるようになったので本編の方は明日あたり投下します。


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