数百年生きる妖怪がVtuberになった件 (鬼怒藍落)
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前日譚

 執筆中の画面見たら結構前に書いて投稿しなかった妖怪×Vtuber物という闇鍋作品があったので供養として出させて貰います。


 ――――『妖怪』

 人間の理解を超える奇怪で異常な現象や、あるいはそれらを起こす、不可思議な力を持つ非日常的・非科学的な存在のこと。

 (あやかし)、または物ノ怪(もののけ)魔物(まもの)とも呼ばれる常識で図ることの出来ない化物達。

 

 ――鬼などと呼ばれる超人的な力を持つ者もいれば、天狗と呼ばれる自然的な力を操る者もいるし物にとりつきそれを動かす者もいる。

 ぬらりひょん、だいだらぼっちに付喪神、河童に九尾にエトセトラ。

 

 少し調べれば出てくる者に、とてもマイナーな妖怪達……それは何度も日本人の心をざわつかせ、恐怖を与え数多の娯楽を提供してきた。

 こんな妖怪がいればいい、こんな妖怪がいたら怖い、こんな妖怪がいれば面白い。そんな感情から作られ生まれてくるそれらの中に、伝説的な妖怪が居るのだが、今宵はそのモノを紹介させて頂こう。

 

 その妖怪の名を浮世鴉(うきよからす)

 そう呼ばれる妖怪は、数多くの歴史の中で暗躍し人々を恐怖に落とし、ある地域では絶対的な神として信仰されていた。

 ありとあらゆる物を演じて、物語を綴るとされる大妖怪。

 

 曰く……その妖怪は人畜無害な青年である。

 曰く……その妖は絶世の美女である。

 曰く……その物ノ怪は、とても歳をとった老人である。

 曰く……その魔物は、つねに何処かで物語を語っている。

 曰く……その化物は安倍清明にも勝利したと。

 曰く……その神は――曰く……曰く……曰く……老若男女その全てに化け、その姿をついぞ明かさなかったその妖怪は、時代の流れと共に名を消していき、ついには自然とその名は語られることがなくなった。

 

 語られなくなって以降、江戸時代まではまだ残っていた名も自然と興味を示されなくなり、気付けばその力は弱まって、その妖怪・浮世鴉は消えたとされた。

 

 だけどもし、その妖怪が現代で生きていたら? 

 それはきっととても面白い話だろう……だからそうここで紹介させて貰おうか―――。

 

 そう今から紹介するのが、紛れもない浮世鴉の素顔。

 何世紀もの間その顔を一切明かすことがなかった妖怪の真の姿である!

 

                  

 

「あぁぁぁぁぁぁぁ! まっ――ちょ!? ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛!」 

 

 電気の消えた和室に届く叫び声とその後に続くコントローラーを投げる音。

 声の主は灰色の髪をした143㎝ぐらいの少年。

 そいつというか俺はその声のせいで、対戦相手である少女に恨めしそうに睨まれていまい、何かを言おうとしたのだが、その前に先手を打たれてしまう。

 

「鴉様五月蠅いです、静かにしてください」

「だって雫!? こんなの無効だろ!? 即死技ってなんだよまじで!」

 

 ゲーム画面に表示された『死』という文字。

 これがもし足掻いた上で表示されてたのならいいのだが、これが出てきたのは対戦が始まってほんの数秒。

 

「本当に五月蠅いですよ。あと文句とか言わないでください、勝ちは勝ちです」

 

 無表情ながらも親指を突き上げて煽ってくる同居人。

 いつも口喧嘩には勝てないので、戦略的撤退を選ぶのだが、やっぱりこうなんか言いたくはなる。

 

「……いやぁ、文句はないんだけどさぁ――でもなんか違うじゃん」

「知りません、これで今日は焼肉ですね」

「寿司が……回転寿司が」

 

 このゲームの発端、それは今日の晩ご飯はどうするかというくだらないモノだけど、今日は凄い回転寿司に行きたい気分だったし、なんとしても負けたくなかったのに、何故こいつは即死技なんて。

 

「じゃあ約束ですよ、では私は学校に行ってきますね」

「あー……もう朝なのか、夜はいいとして昼食はどうするんだ? 今日俺作ってないぞ」

「ふっこんな事もあろうかと私は昨日から準備していたんで……あと昼食もつくってあるので勝手に食べといてくださいね」

「あー了解、いってらー」

 

 テレビとゲーム機の電源を落としてカーテンを開けてみれば数日は当たっていなかった太陽光が俺の視界に攻撃してくる。それを鬱陶しく感じながらも、最低限の光を浴びるために伸びをして再びこの場を暗室へ。

 パソコンをつければ無駄に高かったPCモニターが目を刺激するように光っていて、この暗室を照らし始める。

 

 

  

  

#太郎丸45世                                     
一般鴉A     今日 7:54   
おはようなのじゃー  
太郎丸45世  今日 7:56   
おはようでござる鴉氏、いい天気ですなぁ
一般鴉A     今日 7:57   
引きこもりに向かって朝日の話はNGじゃろ、心が死ぬぞ儂
太郎丸45世  今日 7:57   
はは、確かに我も死にたくなってきましたぞ? それはそうと鴉氏Vtuberってご存じでござるか?

 

 ぶいちゅーばー? 何だそれは? 新しい楽器の一種か? 

 ネッ友である太郎丸さんに伝えられたその見知らぬ単語。それに妙に惹かれた俺は、ちょっと詳しく彼に聞いてみることにした。

 

 

#太郎丸45世                                     
一般鴉A     今日 7:58   
楽器の一種っぽいがなんじゃそれは? 儂けっこう演奏できるがそんなの初めて聞いたぞ
太郎丸45世  今日 8:02
……我、Vtuberを楽器と間違える人類初めて見ましたぞ、しかもチューバはtubaですし……もしや鴉氏英語苦手でござるな

一般鴉A     今日 8:03   
五月蠅いのう、どうでもいいじゃろうそれは。ともかくはよう教えてくれ
太郎丸45世  今日 8:05
……まってくだされすぐ布教用のリンクを持ってくるでござる
奴良瓢鮎CH
【本人切り抜き】面白瓢鮎図【妖ぷろ/奴良瓢鮎】
一般鴉A     今日 8:09   
これをみれば良いのか?
太郎丸45世  今日 8:11
yesでござるもっと見たければ言ってくだされ、我のおすすめをいくらでも送るでござるから。絶対鴉氏もはまると思いますぞ!
一般鴉A     今日 8:13   

そうかそこまで言うのなら見てやろうではないか! つまらないと思わせたら呪ってやるのじゃ! ではちょっと見てくるのでまた夜ぐらいにな

 

 そこまで会話したところで俺は動画のタイトルをクリックしてからタブを閉じ、彼がおすすめしたという動画を見てみる事にした。だけど気になるとはいえそこまで期待は出来ない、だって期待してつまらなかったら最悪だからだ。精々俺を楽しませてくれればいい、そんな思いのまま俺はその動画を視聴し始めたのだが……。

 

「我が名はニュースリー、ゆくぞ――ダークボール!」

「ギャはハハハハ!」

 

 その切り抜き動画という物の中にあった昔同居人とやったゲームのキャラの物真似で吹き出してゲラゲラ笑い。またある時は、そのVtuberの過去のライブのリアルタイムのコメントを流しながら一緒に盛り上がったり、気付けば別の切り抜き動画を探してから視聴するという事をやっていた。

 

 そして同居人が帰ってくる頃には…………。

 

「しゃー! 妖ぷろのくじ一等当たったぞぉぉしかも推しのだ勝った儂の勝ちー!」

 

 馬鹿みたいに嵌まってしまって、帰ってきた雫からはやばい奴をみるような目で見られてしまっていた。だけどそれは気にしない、それどころか今日行く予定の焼肉屋がVtuberとコラボしていることを知り、余計にテンションが上がってあんなに食べたかった回転寿司の事も忘れてしまっていた。

 それに数万使ってしまったが、推しのフィギュアを当てれたので今の気分は最高潮。昔とても強い陰陽師と戦ったとき以上の興奮だ。

 

 

 そしてそんな事があってから一年後、見事に沼に堕ちて使った金額はもう思い出したくないほどに……そして今日の推しの配信が終わった時。

 

「……Vtuberになろう」

 

 同居人が完全に寝静まった深夜二時、人知れず俺はそんな事を決意した。

 そうと決まったらそして丁度良く、俺が推しているVtuber事務所の妖ぷろが、なんと男女一名ずつを3期生として募集していたのだ。

 今しかない。そう思った俺は昔買ったカメラを押し入れから取り出して、オーディションに必要である何か妖怪を演じた動画を送ることにした。

 演じながらやれば何をやっても構わない、だけどただ一つ何か輝けるものを見せて欲しい。そんな専用サイトに上がったそれを見て、久しぶりに勝負を挑まれたと感じた俺は、全盛期の頃の自分を全力で使ってみることにした。

 

 

 俺は……いや、儂は演じる妖怪だ。

 全てを演じて何かを語る言霊使い。ある時は他の妖怪の姿を借りて、ヒトリの生を演じきった生粋の役者。歌も踊りも必要に応じて身に付けた、ありとあらゆる生き様を魅せる妖魔。

 それが儂だ。

 

 そう決め過去を思い出した俺がオーディション用に撮ったのは、自分の過去に使っていた名乗りと、一時期本気を注いでいた三味線を使った妖ぷろメドレー及びその歌動画。和と洋を組み合わせて作られた妖ぷろの曲達をアレンジし混ぜながら、与えられた三分間に全力をかけた。

 

 

 そしてそれに昔描かれた絵を貼り付け気合いを入れて編集し、HPへとその動画を送る。

 そして今からは連絡が来るまでの待ちの時間。

 その期間は過去類をみないくらいに時間が長く感じてしまった。数世紀を生きている自分にとって、1日というのは凄い速さで過ぎ去るはずなのにこの時ばかりは、本当に時間が遅く流れ、暇潰しになるはずのゲームにも一切手が付かない。

 

 そしてそんな生活が一ヶ月ほど続いたとき。

 俺の元にある一件のメールが……。

 

 




数話は書くけどその続きは気が向いたら書く……たぶん。


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【質問】面接の時の服装はスーツであるべきなのか

 

 休日の午後三時頃、突如として届いた一件のメール。

 普段届かないメールという時点で期待していたのだが、まだはっきりと希望のメールなのかは分からない。開くのが怖い、ただの一次審査だというのに、どうしてこんなにもドキドキするのだろうか。

 いや分かってる緊張してるからだ。

 一度の深呼吸、そしてメールを開き俺はその結果を確認する。

 

 夜神楽紡(よかぐらつむぐ)様 

 こんにちはVTuber事務所『妖ぷろ』の採用担当です。

 この度は弊社のオーディションに動画をご提出していただき、誠にありがとうございました。

 動画選考の結果夜神楽紡様には、ぜひ次の面接に進んでいただきたいと考えております。

 面接に進んでいただける場合は、メールにてご返信いただければ、面接日時を追ってご連絡いたします。

それでは、引き続き何卒よろしくお願い致します。

 何かご不明な点などございましたら、お気軽にお問合せください。何卒宜しくお願い致します。                       

           採用担当      

 

 一度瞬きをしてから、ゆっくりと再度深呼吸。

 自分の目を疑いたくないが、その文字はどうしても信じることが出来ない――だって信じたら叫ぶからだ。そしてもう一度深呼吸してメールを再確認。

 

「ッ―――よっしゃー!」

 

 確認の為に、頬を抓ってみれば実際に痛みを感じることが出来てこれが夢じゃないという事を確認することが出来た。本当に嬉しくてまた叫びそうになるが、だけどこれ以上は喜べない。だってこれは一次審査、まだ二次審査が残っているし、実際にVTuberになれるかは別だからだ。

 一端落ち着こう、とりあえず次は面接なのだ。

 今の俺の髪は全く切っていないせいで伸び放題、それに気が楽だからという理由でずっと元の姿になっているから、俺の見た目は少年でしかない。こんな姿で面接を受ければたぶん面接に落ちるから、大人バージョンでやらないといけない。

 

「ともかくよかったな……」

「鴉様何をそんなに喜んでいるのですか? ソシャゲで何かいいキャラでも当たったのですか?」

「普段お前が俺の事をどう思っているか分かったよ雫――いや違う違う、雫受かった一次審査受かったぞ!」

「はぁ……そうですか」

 

 俺の嬉しそうな声とは対照的に心底どうでも良さそうな声の雫。

 むしろそれが何かともいいたげな彼女は、すぐに興味を失うどころか最初から持ってないような態度でこう伝えてきた。

 

「まあ良かったです。ここ一ヵ月間ずっと慌てていたようですし、これでやっと落ち着いてくれそうですから」

「ほんとお前毒吐くよな、中学生まではもうちょっと優しかっただろ……」

「そうですか……私は昔からこんな感じですよ? とにかくまだ何かあるようですし頑張ってくださいね――受かったら焼肉行きましょう。では私はこれで」

 

 そんな風にちょっと素直じゃないが応援された俺は、焼肉のためにも絶対に受かる事を決めて、出来るだけ丁寧な文章で、妖ぷろ本社へと行く日時を伝えることにした。

 

 

 そして一週間後の面接当日。俺はどういう訳か、メイド服を着て妖ぷろ本社のソファーに腰を下ろしていた。そうメイド服だ。それも少し和風で和菓子をメインに扱うような喫茶店の制服のようなやつ。

 …………いや、言い訳をさせて欲しい。

 俺だって最初はスーツをちゃんと着てたんだ。

 それもこの日のために用意した結構いいやつ。だけどなんの因果かこの場に向かう時に、そのスーツは水溜まりの水をかけられたことでビショビショに、偶然通りかかった人に助けて貰うも選ばれたのはメイド服。断ろうとも時間がなく、もう向かうしかなくて――――。

 

「あぁやばいなすっごい浮いてるぞ……コレ」

 

 確かに俺は髪を整えたといえ髪はまだ長いし容姿もかなり中性的。

 助けてくれた人間が女性だと思ってもしかたないが、どうして選んだのがメイド服なのだろうか? たぶんこの謎はこれからも続く生の中で一生解けないだろうし、解く気とかも起きないだろう。

 一応秋葉に本社があるからこの中に入るまでは、あぁコスプレしてる人なんだな程度にしか思われなかっただろうが、ここは別しかも面接の日に性別不詳メイド服着た奴とか浮きまくってる。

 

「夜神楽紡さん、前の方の面接が終わりましたのでどうぞお入りください」

 

 とても落ち着くような声でそう知らされ、来てしまった面接時間。

 もう戻れないという現実に一度深く息を吐いて、面接室の扉を四回ノックする。

 あぁもうこうなったら、出来るだけこの格好をツッコまれないように、出来るだけ取り繕おうじゃないか。問題はない、メイドのマナーなど昔に取得済みだ。本職のメイド以上に演じきってやる。

 

「夜神楽紡と申します。本日はよろしくお願いしますお嬢様」

 

 開幕一番、何処に出ても問題ないようなメイドのような雰囲気を出しながら、角度等に気を付けて俺は丁寧にお辞儀をしてから相手の反応を待つ事にした。

 

「……本日面接を担当させていただく、語部八雲です。どうぞおかけになってください」

 

 目の前に居るのはとても長い金髪の女性、どこか胡散臭い雰囲気を纏う彼女は一瞬俺の格好に戸惑ったようだが、すぐに表情を戻し椅子に座ることを許可してくれた。

 最悪メイド服を見られた瞬間に帰らされるとか思ったが、この様子だときっと場を乗り切ったんだろう。

 それからは何処かで聞いた面接のように今までの経歴や一つ一つされる質問に失礼にならないように答えていく。相手がどんな心情で聞いているのかは分からないが、表情を曇らせたりはしていないので希望はまだまだある筈だ。

 

「それでこれはちょっと今までの質問とは変わってくるのですが、何故……メイド服なのですか?」

「そうですね、本来ならここにはスーツで来ていたのですが、とある事情でダメにしてしまいまして……親切な方に助けられこの服をいただき、もう時間もなかったのでこの服装でやってきた感じです」

「ッはは、いや……そうはならんやろ――んんッ、続いての質問です。事前に送って貰った履歴書には男性と書かれていたのですが今の声は?」

「はい、メイドをやる以上元の声では失礼だと思いまして……それならいっそ、女性の声で面接に臨もうかと」

「阿呆だ……阿呆がいる――メイド服の時点で思ったけど、阿呆すぎるでしょ」

 

 失礼な、俺はもう全力でメイドを演じているんだぞ?

 これならツッコミどころは……いやツッコミどころしかないだろう。

 今まで緊張で色々ごちゃごちゃになってた思考だったが、今思えば自分はなんという格好をしているのだろうか? 黒を基調とした和風なメイド服、それを着こなす性別不詳。演じる態度は完璧で、どんな質問にも動じずまるで本物のメイドがいるような錯覚を覚えさせる相手。うん阿呆としか思えないわこれ。この人何も悪くねぇ。

 

「アハハハ、君いいね……本当に阿呆で面白いよ。私としてはもう合格でいいんだけどさ、最後に最初送ってくれた動画の声でちょっとあの自己紹介してくれない? 色々演劇部とかでやってたらしいしいけるでしょ?」

 

 演劇部とは怪しまれないように人間に用意した仮の経歴だが、俺としては実際生きている限り演劇部的な事はあるし、嘘ではないのでいくらでもこの偽の過去を使えるのだ。

 という事はここからが本番。

 本来の自分、浮世鴉であった頃の自分の名乗りをまた使えばいいだけだ。

 

「分かりました八雲お嬢様……ふぅ――儂の名は浮世鴉! 噂より生まれ、噂によって姿を変える、全てを演じる渡り鳥。人間よ主らに儂の生を魅せてやろう――と、こんな感じです」

「うんいいよ、合格でいい。でもよかったね君、あそこまで徹底したメイドの演技に、変わった時の本物の妖怪がいると思わせるような圧。本来なら用意してたキャラを使わず応募した阿呆の事は面接だけ受けさせて落とすつもりだったんだけど、君が面白かったら採用しようと思ってね――良かったね、私を楽しませることが出来てさ」

 

 そんな今更すぎる真実を告げられた俺は、え? 応募されてるキャラとかあったのかってなってしまい、自分に対して阿呆すぎるだろうとツッコミを入れてしまう程に動揺してしまった。

 

「え、あ……まじ? それで合格でいいのか?」

「マジのマジで合格だよ――――でさ、早速なんだけど、やるのはさっきの浮世鴉ってのでいい?」

「あぁ、それで全然構わないというか、むしろそれを頼みたいのだが」

「ならあの元々オーディション動画で使ってた絵を参考にこれから発注する感じでいいね」

「えっと、それで頼む」

「あ、契約書とかは後日送るから。そうそう、やめたかったらやっぱりやめるでもいいよ、デザインの発注するのは君がこの会社の仲間になってからやるからさ」

「そう簡単に辞めるとか辞めないとかいいのか? そういうのは社長とかと相談して」

「大丈夫私が社長だから――改めてコレ名刺ね」

 

 渡された名刺は百鬼夜行をモチーフにされたようで、所々に妖怪が描かれていてその中には【妖ぷろ】社長という肩書きがあった……え、つまり? 俺はずっと所属する事務所の社長にメイド状態で接してたと? ……阿呆じゃん。

 ちょっとというか、かなり恥ずかしくなった俺に目の前の彼女は笑いかける。

 そして、

 

「まぁ君ならどうせ来るだろうから、先に言わせて貰うね。ようこそ浮世鴉、君も今日から妖ぷろ夜行の一員さ!」

 

 俺の事を祝福するようにそう宣言して、この手を取ってきた。

 

「よろしく……お願いします」

 

 



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人間達との初の面接

 妖ぷろ面接があってから丁度一週間が経過して、浮世鴉の設定画が完成したらしい。

 出来るのがかなり早いと思い絵師の方、所謂母上に凄いですねとメッセージを送ってみたら、ビビッときたから頑張ったというのを伝えられ、そして送られた画像の細かい拘りをこれでもかと説明してきてこの大妖怪を圧倒させた。

 

「あー凄いな――いや、それにしても……この絵師は何者じゃ?」

 

 あまりにも熱量を感じさせる文のせいで気にも止めてなかったが、俺が参考にと送った画像は一応大人状態で、化けた姿の筈だったのに、完成し送られてきたのはあまりに本来の子供のような姿に近く……というか何処かで俺の姿を見たかのような再現度の絵。

 それのせいで、自然と元の口調に戻ってしまったがそれは仕方ないだろう。

 勝手に子鴉状態の俺を書かれたのだが、それ以外の衣装などは完璧すぎるほどに希望通りで、この絵を描いた方の凄さが覗える。

 

「それに俺が伝え忘れた他の能面の事を何も言わずに書いてるし……最早怖いぞ?」

 

 予想を遙かに超え、伝えられた設定だけで浮世鴉を完全に再現するその手腕。

 人間にはやっぱり凄い奴が沢山居るなと思いながら、改めてイラストを確認する。

 何枚か送られてきたイラストに写るのは、黒を基調とした華などの刺繍が施されている鮮やかな着物。背中から灰色の羽が四枚生えていて、腰には喜怒哀楽を表す四つの面。喜である黒式尉から始まり、楽である片目のひょっとこ。そして手には鴉を模した天狗面、少年の見た目からは想像できぬほどに妖しく笑っていて、これこそが妖怪という事を瞬時に理解させるようなイラスト。

 

「設定というより、過去の姿を話していただけだったがよくもまぁ、ここまでやるよな。ほんと凄いわ――でもなんでショタ……」

 

 とりあえず、確認したら連絡をくれと言われてたので既に開いていたタブを再度開き、絵師の方に連絡を入れる。

 

 

 

#雪椿                                       
浮世鴉     今日 12:54   
絵を見せて貰ったが凄いのう、お主  
雪椿  今日 12:55   
希望通り? 
浮世鴉     今日 12:57   
希望通りどころか、予想超えておったぞ、まあ一つ聞きたいことがあるのじゃが
雪椿  今日 12:57   
ショタ化させた事でしょ、それは趣味
浮世鴉     今日 12:58   
……業が深いぞ  
雪椿  今日 12:58   
それは貴方の送った設定がショタ化させるのに最適だったのが悪い、ので私は悪くない

 

 とても速く入力されていく文章にはツッコめないような圧があり、なんか論破したみたいな雰囲気が流れ、この絵師の方の鋼の意志みたいのも感じてしまう。

 とりあえず次やることと言えば【妖ぷろ】の方に、イラストを確認したと言うことを伝えそれに対しての返信を待つ事にした。

 

「返信早いな……えっと? 3期生のメンバーが全員決まったので、一度全員で打ち合わせでもしましょうと?」

 

 そっか、俺以外のライバーも決まったのか……そう思い妖ぷろのHPを確認する。同期になるだろう二人の姿を確認する。仲間になるはずのライバー達は、今回は七本の尾を持つ狐の少女と鵺をモデルにしたであろう青年。これが新しい仲間だと思うと自然と笑みが浮かび、これからのライバー生活が楽しみになってくる。

 

「日程は……一週間後の日曜日か……服装は基本的に自由――浮世鴉は、メイド服………………え?」

 

 見間違いではなくそう書かれていて、ここの会社大丈夫かと思ったが、メイド服を着た男を採用するような会社だ。正気なんてきっとないだろう。という事はまた俺はメイドを演じるのか…………やるのかぁ。

 

「一応ちゃんと保管はしてるが、また着るのはちょっと抵抗があるな――でも同期にインパクトは残せるだろうし……うんやろう」

 

 そしてメイドを演じる為に色々インプットする一週間を俺は過ごして、またもや秋葉原の町中をメイド服で歩いて行き、前と同じように本社に入る。流石に二度目となると驚く人はすくないようだが、やっぱり何人かは驚いているな。正直妖怪として驚かせるのは好きなのだが、なんか男として負けた気がするのは何でだろうか?

 

「本当にメイド服で来られたのですね……あ、初めましてこの度浮世鴉殿のマネージャーをさせて頂く、日祀社(ひまつりやしろ)と申します」

「社様ですね……こちらこそ浮世鴉と申す者です、これから今後ともよろしくお願いします」

 

 待ち合わせの部屋にやってきたのは、とても大人しそうな印象を相手に持たせるような、なんというか一緒にいて落ち着くような男だった。気質がとても穏やかなその男は、一度礼をしてから名刺を渡してくる。

 

「あのこれは本当に気になったので聞きたいのですが、その声はどうやって出しているのですか?」

「あ、これは普通に出している感じです。出そうと思ったら割と色々な声は出せるので、今は女性を意識した声で頑張らせて頂いてます」

「その特技凄いですね、今度でいいのですがどこまでの種類の声を出せるのか聞いてみたいです」

「お望みとあらば、いつでもやりますよ――今の私はメイド、ご主人様方の命は出来るだけ叶えたいので……あ、そういえばまだ同期の方は来られない感じですか?」

 

 一応待ち合わせより十分前には来たのだが、同期らしき奴らにはまだ会っていない。

 早く仲間と顔を合わせたいので、さっきからちょっとそわそわしてるからそれを収めるためにも早く会いたいなと、そう思い聞いてみれば社さんはとても丁寧に答えてくれた。

 

「鵺モデルの源鶫(みなもとのつぐみ)さんは、浮世鴉様が来た五分前にやってきまして、今は別室でマネージャーの方と打ち合わせをしています。そしてもう一人の七尾玲那(ななおれいな)さんは待ち合わせより三時間ほど早く来られまして、今は別室で担当マネージャーと仲を深めている感じですね」

 

 という事は自分が一番遅かったのか、みんな気合いの入りようが違うな。

 正直、一番早かった自信があったのだが……まだまだ精進しなければ、次集まることがあったら四時間前ぐらいにここにこよう。

 

「それと今から会議室で顔合わせを行うのですが、何か気になる事は他にありますか?」

「いえ特にはありません」

「では行きますか」

 

 そうやって社さんに連れられて、会議室に向かってみればそこには一組の男女が待っていた。

 女性の方は大和撫子といった風な、青みがかった黒髪の人間でどこか同居人である雫と同じ雰囲気を纏っていた。男性の方は……なんというか、雫に前にあったら警戒しろと言われてた感じの金髪の男。

 完全にその顔に髪色が合っていると言えるようなイケメンで、なんとも今時の若者というイメージを持たせるような人間だった。

 

「え? メイド?」

「……何か違和感が」

 

 二人の反応は至極真っ当なものだろう、だって会議室に現れるはずなのはマネージャーと一緒に現れる最後の同期の筈なのに、現れたのはまさかまさかのメイド。まぁそれは驚くよな。

 

「初めまして同期の皆様……私は浮世鴉、この度貴方とライバーをやらせていただく妖です」

「え、あ? 同期の方……なのか? いや、え、メイド服なんで? 男って聞いてたけど違うのか」

「鶫様、私は見ての通り男ですよ?」

「見ての通りって……無理ですよ声も女性ですし」

「ならこれで大丈夫だな、ほら声ちゃんと男だろ?」

 

 メイド服のままで普段の声を出してみるとぎょっとした顔をする金髪の青年。

 もう一度試しに女性の声を出してみれば何度か瞬きして、どうにも信じられないような表情を浮かべている。

 

「詐欺だ。こんな男がいるわけない――あぁ一瞬推しそうになったのに」

「まあこんな現実もあるって感じで、改めてよろしく浮世鴉こと夜神楽紡だ。そっちは……あ、同年代っぽいしタメ口でいいぞ?」

「あ、はいわかり……分かった。俺は源鶫をやらせてもらう事になった鴨川糀(かもがわこうじ)。好きなVtuberは二期生の九十又仙魈様だよろしくな!」

「仙魈推しかやるなお前、俺は無難とか安直とか言われるかもしれないが瓢鮎様推しだ。ついでにこの想いは負ける気がしない」

 

 お互いの推しを言い合って牽制をし、睨み合うこと数秒間。 

 目の前の相手からは推しの為なら何でもやるという意気込みが感じられ、一瞬で同士であることを理解したとき、気がつけば俺達は握手をしていた。

 

「頑張ろうな盟友」

「そうだな盟友」

 

 金髪の青年と灰色の髪のメイドが握手するという、異質な光景がほんの数分で出来上がったがこれはきっと妖ぷろという架け橋があったからこその出来事だろう。

 今日俺はここに新たな友を得た。

 

「仲良くなるの速くないですか? まあそれはいいことなので何も言いませんが……それと霞様? 震えていますが何か言いたいことでも?」

「あるわ、男って馬鹿なのかしら……何故山主法眼(やまぬしほうげん)さんの名前を出さないのかしら?」

 

 心底馬鹿にしたような声でそう言ったかと思えば、自分の意志こそ絶対と言った風に瓢鮎様と同期である天狗モデルのVtuberの名前を出してきた。

 最初は何で盛り上がってるのか分からないとでも思っていたが、違かったのか……つまりこいつも同士?

 

「そんな仲間を見るような目で見ないでくれないかしら、認めはするけど別の推しの時点でライバルみたいなものよ」

「そういう道もあるな……とにかくこれからは仲間なんだ仲良くしようぜ?」

「そうね……よろしく頼むわ」

 

 そんな事もあって始まった打ち合わせ、最初にちょっと騒いでしまったがそれからは何の問題もなく会議が進んでいき、お互いのキャラを共有するためにプロジェクターで俺達が声を当てるキャラ達が設定と共に映された。

 

 浮世鴉の説明は大体こんな感じ。 

【長い時を生きる一種しか存在しない大妖怪。噂と共に名と姿を変えて生き続けていたが、あまりにも長く生きていたせいで楽しむと言うことを忘れてしまい、自堕落に生きていたがこの妖ぷろ百鬼の存在を知り娯楽を求め満を持して参戦した】

 それでお試しの台詞には「儂の名は浮世鴉、主ら待たせたな」という物が用意されており、そこを押せば声が流れるようにもなっている。ちなみにその音声は事前に送ったもので、何故か雫監修の元で何度も録り直したのはいい思い出だ。

 

 それが暫く映された後、次は源鶫の設定へと画面が変わりそこには、猿の面を頭に着けている鎧を着込んで弓を背負った獣人の青年の姿と、そのプロフィールが表示される。

【過去からやってきてしまったまだ年若い鵺、戻ろうとしていたものの現代の娯楽、主にゲームにハマってしまって、現代に永住する事を決意した変わった妖怪】

 紹介台詞は「僕に人間風情が勝てるとでも思ってるのですか?」

 本人の性格とはあってる気がしないが、ここに来た時点でその演技力は認められている筈なので、心配することはない。

 

 そして最後である七尾玲那のイラストとプロフィール。

【由緒正しき陰陽師の家系に代々勤めていた式神の末裔。普段は女子高生をしているが、その生まれもあってか、気に入った相手に仕えようとしてしまうクールだけどちょっと抜けている狐の妖怪】

 そして台詞は「七尾玲那……まだ九尾には成れてない若輩者だけど、見守ってくれると嬉しいわ」 

 

 今映されたこれらが俺達のプロフィール一覧のようだ。

 俺より後に紹介された二人は既に公式HPに記載されているのだが、俺はサプライズ枠なので配信を始めるようになってから載せられるらしい。

 

 そしてそれを確認した事で詳しい配信日などを決めていく事になり、最終的には打ち合わせの結果、二週間後の月曜日に糀の配信を最初に行うことになった。

 そしてその二日後である水曜日に霞さん、そして金曜日に俺といった感じでやる事になった。

 

「じゃあ今日は解散ですね。また何か用事がありましたらお呼びするかもしれませんので、これからもどうかよろしくお願いします」

 

 それに対して全員でよろしくお願いしますと礼をして解散する事になったのだが、帰りの電車に乗る直前、仲間になったとはいえほぼ初対面である霞さんがちょっと来て欲しいと頼んできたのだ。

 この後の用事などは特になかった俺はその誘いを受けることにして着いていったのだが、辿り着いたのはなんか不思議なかなり豪華な神社。

 こんな所で何の用なのだろうかと思った瞬間、どこからかお祓い棒を取り出した彼女はそれを俺に向けてきて、

 

「ねえ一つ聞かせてくれないかしら? 貴方……妖怪でしょ?」

 

 そんな事を敵意を持った目で聞いてきた。

 

 

 



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【悲報】ライバー同期が天敵だった件について【ワロス】

 妖怪にとっての凶器であるお祓い棒を向けられながら、そう聞かれる俺。

 変化は完璧だったはずだがこんな風に確信を持っているって事は、きっとこいつに何を言い訳しようが逃げられない。それに今気付いたが、この神社は妖怪を閉じ込める事に特化した結界が張られており入る事は出来るが出ることは困難。

 例えば何の話だ? とかいう感じですぐに出ようとしたとしても、人間に変化してる今の俺だとこの結界を抜けられないので、その時点で妖怪とバレると……つまり詰んでるという事か。

 

「答えない? まぁもう、その沈黙が答えみたいになってるとは思うのだけどね……とりあえず正体を現しなさい」

「…………バレてるし詰んでるから、それは別に構わないぞ。だけどその前に一つ頼ませてくれ」

「何かしら……命乞い?」

「いや違うぞ。流石にこの格好で真面目になるのはきついから、なんか男物の服を貸してくれないか?」

 

 命を狙われる時にこんな事は言いたくなかったのだが、今の俺の格好はメイド服なのだ。どう足掻こうとも、こんな格好で真面目になれる訳がなく、どう頑張ってもなんか残念感が漂ってしまう。

 お祓い棒を向けてくる女子高生程の年齢の女性と向かい合うように、性別がよく分からないメイド服の男がいる状態。そんなのツッコミどころしかないし、どれだけシリアスな雰囲気を出しても混沌しか広がらない。

 

「………………私が貴方の頼みを聞く必要はないわよね、でもそうね、仕切り直しましょう」

「そうしてもらえると助かる……なんか悪いな」

 

 とてもしまらないが一度仕切り直すことになったので、俺は彼女の後を付いていき今いる神社から少し離れた一軒家に案内され、そこで暫く使われていなかった様子の男物の服を借りて居間に通される。

 

「で、再開しないのか?」

「なんか毒が抜けたからもういいわ……それに貴方が人を襲うような妖怪ではないことは、なんとなく分かるもの」

 

 どこでそう判断したのか分からないが、さっきまでの敵意をこいつから感じないし今の言葉は信じていいな多分。

 

「そうか、襲っているかもしれないだろ?」

「襲うタイミングならいくらでもあったのに襲わないって事はそんな度胸ないでしょう? それにどうせこれから長く関わるだろうし、貴方ぐらいの妖怪なら祓うことぐらいは容易だから見張ってればいいもの……じゃあそういう事だから、もう帰っていいわよ」

「了解、そうだこの服洗って返した方がいいか?」

「そうね、今度会社に集まるときにでも返してちょうだい」

 

 了解とそう言ってから、俺は今いる一軒家から出ることを許可され結界から脱出した。正直戦うかもしれないと思ったから、少し身構えていたが……まぁなんとかなったので良かっただろう。

 この神社から出る直前一応最後に何かしないか監視しに来たであろう霞さんが来たので、俺はそのタイミングで気になっていた事を聞くことにした。

 

「そういえば、お前は何者だ。俺が妖怪って分かる事はなんか変な力を持ってるだろ?」

蘆屋霞(あしやかすみ)……ただの陰陽師よ、これからよろしくお願いするわね妖怪さん」

 

 

 そんな事から約二週間ぐらい経った後の水曜日。

 ここ二週間は配信する為に細かい機材を揃えたり配信用に色々作ったりと気が重かったが、なんとか初配信までに揃えられたので今は少し気が軽い。

 

「蘆屋……蘆屋……どっかで聞いた事あるんだよなぁ――どこだったか」

 

 それで話は変わってしまうが、俺は今先週あった陰陽師の名字に心当たりがあったので、それを思い出す為にちょっと昔の品を整理していた。なんか一時期、戦った陰陽師の名を記録するみたいな暇つぶしをしていたし、きっと心当たりがあるのなら手合わせした奴なのだろう。

 そう思って色々探してみたのだが……。

 

「ないかぁ……でもなんか記録した覚えあるんだよなぁ……なんだっけ?」

 

 まあ今は気にしても仕方ない。覚えていないという事は、どうでもいいことだろうし今は迫ってきた配信に向けて少しでも心構えをしておかないといけないし、この件は落ち着いてから片付けよう。

 

「まあ多分それは一番いいだろうしな……うん、これ一人で片付けるのか」

 

 荒らしすぎた倉庫を見渡してもう一度溜息を吐く。

 綺麗に片付けられていた倉庫は今や見るも無惨に散らかっていて、俺が今いる場所とちょっとした周り以外に床が見えず、小規模のガラクタ地獄が生まれていた。古い本や奥にしまっていた小物なども引っ張り出していたせいで、散らばった物の量は半端なくてこれを片付けきるのは骨が折れそう。

 

「雫には頼めないし……あぁ頑張るかぁ」

 

 今日はあの陰陽師の配信があるから、出来れば夜八時までには終わらせたいんだよな。

 だけどこの量を今から五時間で片付けられる気がしないし……もう面倒くさいし、これ明日やるか。前回というか今週の月曜日にあった盟友の配信にもちょっと忙しかったせいで遅れしまったし、もう遅れないためにも今日は十分前から待機しておく事にしよう。

 

「…………やべぇ、あと三十分で太郎丸45さんとの約束の時間じゃん」

 

 配信までに少しでもゲームの腕を上げるために、最近はずっと太郎丸さんに付き合って貰ってるんだよな。自分が手伝って貰っている手前、これにも遅れる訳には行かないし速く部屋に戻らなければ。

 

 部屋に戻ってパソコンを起動し、メッセージアプリのアイコンをタップしてそれを開く。

 そしてホーム画面から圧倒的な圧を放つ天狗の面のアイコンをタップした俺は、慣れた手つきで彼に向かってメッセージを送ることにした。

 

 

#太郎丸45世                                     
一般鴉A     今日 12:51   
儂参上!  
太郎丸45世  今日 13:01   
おはようでござる鴉氏、相変わらず元気ですなぁ
一般鴉A     今日 13:04   
主とのゲームは楽しいからのう。それに今日はスマブラの練習じゃろう? 新キャラも追加されたばかりじゃしテンションあがるに決まってるのじゃ! 
太郎丸45世  今日 13:07   
まあそれもそうでござるな、追加されたキャラは我の推しでもありますしその気持ちは正直分かりすぎますなぁ
一般鴉A     今日 13:09   
じゃあ、早速やるぞ、ゲーム機を持てぇ! あ、パス-ワードはいつものでな
太郎丸45世  今日 13:10
おkでは殺るでござるか!

 

 

 ちょっと最後のメッセージは怖かったが、ここからはいつも通りのゲームの時間。

 ロビーを作ってからメインキャラである魔王を選び、彼が入ってくるのを待つ。そして彼がリングに上がった途端に試合を開始する。どうせさっきの流れからして今回は新キャラを練習すると思っているだろうが、そうしてしまえば俺の思うつぼ、この本気の魔王で潰してやる!

 

「ふはは、昨日のようには行かんぞ太郎丸ゥ!? 待って、新キャラじゃないんか!?」

 

 始まった瞬間に画面に映ったのは世界的に人気な配管工のゲームの主人公の弟。

 俺はこいつの即死コンボが本当に苦手で、どのキャラでも抜け出すことが出来ないのだ。だけど違う、俺は昨日ずっとレートに潜って腕を磨いたんだ。

 

「かかってこい太郎丸ゥ! あ、待ってやっぱり即死コンとか避けられ――――」

 

 だけど哀れ、俺の野望は掃除機によって砕かれて気付けば蹴って踏まれるの繰り返し。そして最終的には空に弾き飛ばされて、俺の魔王は空の星……いや、まだだ。

 まだ負けてない俺の残機はまだ残ってるんだ即死コンボさえ気を付ければきっとやられることはない!

 

「だから俺は諦めないぞ、太郎丸!」

 

 そんな風に覚醒系主人公を真似るように叫んでみたのだが、即死コンボなんて関係なくボコボコにされて敗北へ。その後何度もキャラを変えて再戦するも、今度は新キャラによって何体ものキャラを弾き飛ばされる。

 そしてそれが四時間ほど続いた頃、俺は真っ白に燃え尽きながら通信を切り、彼に向かってまた今度というメッセと適当に作った絵文字を送りつけ、不貞腐れながら動画配信サイトを開き心を癒やすために推しの切り抜きを見ることに……。

 

「あ……もう始まるのか」

 

 そうやってサイトを開いたタイミングでスマホに設定していたアラームが鳴り見て見れば、配信開始十分前。元々十分前には待機していると決めていたし、速く待機しなければな。

 そう決めて俺は部屋の扉とカーテンを閉め、この部屋の鍵を閉じ何が何でも邪魔されないように配慮し、動画をクリックした。

 

                     

 

 

 

 

 

 

 

▶ ▶❘                                 CC ⚙ ろ わ だ 

【初配信】 待たせたわね……私よ    【妖ぷろ】

5.396 人が視聴中・10分後にライブ配信開始          い32 う2 へ共有ほ保存 …


【妖ぷろ】七尾玲那 Ch

チャンネル登録者数 564人

                         

 

 サムネにはリアルの姿からは想像できないようなどや顔の七尾玲那が映っていて、見てるだけで清々しいほどに煽られた気分になってくる。だけどその吸引力は凄いのか、既に配信には五千人を越える視聴者が集まっており、彼女がかなり期待されていることが理解出来た。

 先日のあった源の配信もかなり頭に残るような謎のOPから始まって、最終的にそのトーク力で同接二万を達成するという偉業をなしたのだ。その時から【妖ぷろ】三期生への期待は高まっており、そんな背景のせいで今日の彼女はとても期待されているのだろう。

 そう思いながらヘッドホンをつけ、出来るだけちゃんと聞けるように音を上げていく。

 

 だけど配信が始まった時、しばらくの間黒い背景しか表示されず。あまりにも無音だったことからコメントで事故か? 大丈夫ですか? 等のコメントが流れた瞬間突如として赤い文字が画面に現れて――――。

 

                     

 

  

                最終鬼畜全部私

         七尾玲那全力で歌います。

 

       

 

▶ ▶❘                                 CC ⚙ ろ わ だ 

【初配信】 待たせたわね……私よ    【妖ぷろ】

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【妖ぷろ】七尾玲那 Ch

チャンネル登録者数 564人

 

[!?!?!?]

[正気かこの狐!?]

[流石に草]

[聞こえないから音上げたら鼓膜ないなったわ、何も聞こえねぇ]

 

 コメント欄を見てみるが最後のやつには心の底から同意してしまった。だって俺は、あまりの高音に初っぱな鼓膜に破壊的なダメージを与えられたからだ。それから暫く、彼女の声のみで構成されたその歌と曲が流れ続ける。

 一人で七役こなす彼女は瞬く間にSNSのトレンドを掻っ攫い、ちょっとページを更新すれば阿呆みたいな速度で増えていき、それに合わせるように登録者が増えていった。

 そして同接が四万を越えた頃に歌が終わり、彼女が姿を現した。

 

「皆待たせたわね、私よ!」

 

 



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VTuber生活始動
【初配信】儂、参上である!


 

【VTuber】三期生二人組について語るスレ:その2【妖プロ】

1:名無しの小妖

新スレ立てたわ、語るぞ

2:名無しの小妖

初配信で謎の歌を披露して唐突に酒猫語りする鵺VS全部自分の声であれを歌うPP信者式神……ファイ!

3:名無しの小妖

やばい字面だけで妖ぷろすぎる。

4:名無しの小妖

昨日寝落ちたんだけど、結局七尾様の勝ちでおk? 色々デカいし

5:名無しの小妖

個人的には鶫の方。やばいネタが切れた→推しについて語る! からの熱量に自分も推してたんじゃないかと思わされたから。

6:名無しの小妖

あれは凄かったよな、ガチ恋勢みたいな事言ってたら無理だったけど純粋にファンって感じがして好印象。 

7:名無しの小妖

陽キャだこいつ低評価、みたいにしようとしたらアレだからな、気付いたら二つのボタンに色がついてた(小並感)

8:名無しの小妖

おい七尾様派のお前らなんかないか? 今のままだとこっちが優勢だぞ。 

9:名無しの小妖

皆忘れてないか? 七尾様はあの配信の中でアレを歌った動画を流し、中学時代の人生を晒しあげ、挙げ句今日のカンペを見せながらPPの良さについて時間いっぱい語り続けたんだぞ?

10:名無しの小妖

それで届いたマシュマロ食えなかったんだっけ? 

11:名無しの小妖怪

そうそう、二人とも何かを歌う、語る。みたいで初配信の流れは同じだったけど、方向性が違うから自分はどっちも推す予定。

12:名無しの小妖怪

ちょい話変わるけど、七尾様最後金曜日を楽しみに待てとかいってたけど、なんかあんの?

13:名無しの小妖

そういえば鶫君も言ってね、サラッとだったから忘れてた

14:名無しの小妖

今HP見て見たけど何もないぞ? 

15:名無しの小妖

じゃあ、なんかコラボでもやるんでない? そのぐらいしか思いつかないし

16:名無しの小妖

妖ぷろだし案外、サプライズで何か来るかもよ? 

17:名無しの小妖

流石にないない、だって今回のオーディション落ちたやつ結構多いらしいしな。それに何か来たとしても、面白くない奴とかだったらアンチとか落ちた奴らがなんか騒ぐだろ。 

18:名無しの小妖

そんな危ない橋渡る必要ないし、ないやろ 

19:名無しの小妖

ないかぁ、ちょっと楽しみにしてたんだけど 

 

     ・

     ・

     ・

     ・

 

 

212:名無しの小妖

で、瓢鮎様が言った訳よ、「人生ってのは信じて足掻き続ければ結果は出る。少し立ち止まっても、また歩けば可能性は広がるんだぜ」ってさ。俺はあの言葉に救われて、夢を叶えたんだ。

213:名無しの小妖

感動的だな、流石総大将は違うぜ! 

214:名無しの小妖

ここ三期生スレだからスレチじゃんって言おうとしたんだが、あまりに良い言葉なせいでツッコむの忘れちゃったじゃん

215:名無しの小妖

待て、その言葉ガチャ配信で六人の諭吉が召されたときの言葉だろ 

216:名無しの小妖

えぇ……。 

217:名無しの小妖

で、その後出ずに台パンして配信終了END。 

218:名無しの小妖

周年の確定チケで推しを手に入れた後、無料ですり抜けたときの光景はマジ笑ったわ 

219:名無しの小妖

流石総大将 

220:名無しの小妖

おいなんかHP更新されるぞ!? 三期生のページになんか黒い毛玉が!

221:名無しの小妖

嘘だろそれURL間違えてるんじゃないか? 

222:名無しの小妖

HP時定期確認民から言わせて貰うが、本当だぞマジで黒い塊が急に現れた 

223:名無しの小妖

そんな民がいるのか(困惑) 

224:名無しの小妖

二十人ぐらい居るらしい。妖ぷろは不定期にHPにネタ仕込むから、それを確認する為だけにずっと開いていて統率とりながら決めた時間にページを更新する猛者達だ。 

225:名無しの小妖

なんだそれ怖すぎる。

226:名無しの小妖

一種の怪異じゃん 

227:名無しの小妖

こわいな家に鍵かけてくるわ 

228:名無しの小妖

鍵かけ忘れ兄貴はちゃんとしめて 

229:名無しの小妖

姉貴だぞ、間違えるな 

230:名無しの小妖

脱線しすぎだ。とりあえず追加情報はよ 

231:名無しの小妖

塊触ったら変なチャンネルに飛んだぞ 

232:名無しの小妖

ほんとだ……『正体不明Ch』?

232:名無しの小妖

いつの間に出来てたんだこんなの……しかも今日配信あるっぽいし、

233:名無しの小妖

俺はみるがどうする? 

234:名無しの小妖

声も分からないしビジュアルも分からないからアーカイブで見るわ。 

235:名無しの小妖

気になるし見る 

236:名無しの小妖

同じく 

237:名無しの小妖

じゃあ、ここで実況でもするか 

238:名無しの小妖

そうするか、酒買ってくる 

239:名無しの小妖

じゃあそれまで考察でもしようず

 

 

                    β

 

 配信前夜の木曜日、掲示板で仲間達の事が語られているスレがあったからずっと見ていたのだが、スレの住人達は深夜二時……つまり丑三つ時に更新されたHPを確認したようだ。

 自分のチャンネルページを見てみれば、好奇心故か既にちょくちょくとチャンネル登録者が増えていくので、掴みは上手くいったって事が確認できる。

 作っておいたSNSのアカウントもページが更新された数秒後に公式からフォローされ、準備は万端。

 配信自体は今から約十九時間後の二十一時から始まるようになっており、それまでは今まで準備してきた物が問題なく動くか確認する。 

 そして俺は作り込んだ台本を再度読み込んで、少しでも完璧な配信をする為に長い時間を潰すことにした――――。

 

                     

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

▶ ▶❘                                 CC ⚙ ろ わ だ 

【初配信】 正体不明 ここに見参!!    【妖ぷろ】

9.396 人が視聴中・8分後にライブ配信開始          い47 う6 へ共有ほ保存 …


【妖ぷろ】正体不明 Ch

チャンネル登録者数 964人

 

 

 

 

 気がつけば俺の初配信まで十分をきっていた。

 待機してるとされる視聴者はまだ何もしていないのに一万人に近く、果てしないプレッシャーが襲いかかってくるが、そこは昔を思い出しながら心を落ち着かせ、口調を治す。

 

「俺……私……僕……我……ワタクシ……儂!」

 

 ちょっと特殊な変え方だがよくこうしてるので問題ない。

 そして残り五分になった事で今まで目を通してこなかったコメントに目をやってみれば、少し否定的なコメントが流れているものの、大体は俺を心待ちにしてくれている者達が沢山で、それらの為に頑張らないと、という風にやる気が湧いてくる。

 

[めっちゃ気になる]

[そもそも性別はどっちなんだ?]

[どっちでもいい、俺はどっちでも……だけどショタかロリのどっちかであってくれ]

[大胸筋が大きければそれでいい]

 

 なんかコメントから邪な物を感じるが、それは最早恒例行事なので気にしない。

 ただ今は全力で何より本気で過去に戻ればいいだけだからだ。

 

「よし、やるかのう……浮世鴉、出陣じゃ」

 


 

 妖魔蔓延る平安時代  

 玉藻前、酒呑童子、崇徳上皇これらの三大悪妖怪は有名だが、皆様は歴史の流れによって消されたある大妖をご存じだろうか?

 暗く閉ざされた神社の中から現れるのは、仮面を被った性別不詳正体不明。

 灯籠もなく、周りの全てが闇に閉ざされているというのにその誰かの周りだけが怪しく光っており、目を逸らそうにもそれから目をそらすことが出来ない。

 

[アニメ!?]

[なんだこの声!? 普通に金が取れるレベルだぞ!?]

[声優かと思ったけど、こんな声聞いた事ない」

 

 配信が始まったときに流れ始めるのは、和を意識して作られたようなアニメ風のプロローグ。

 自分が使える妖怪としての能力を全て使って作り上げたそれは、問題なく視聴者に様々なインパクトを与えているようだ。  

 

 

 異質なほどに静かな空間で歩き続ける男の姿は胡散臭く、姿が何度もブレてみえる。  

 少年少女、男性に女性、更には長い年月を生きた老人……姿は変わらないはずなのに一挙一動から様々な人間の姿を思い浮かばせるそれは、どうにも気持ち悪いのに、何故か目を離せない。

  

「それでは皆々様、今宵語るはとある妖の不思議な噂――闇夜を渡る浮世鴉の物語」 

 

 物語を伝える語り部のように、それの言葉はとても聞きやすく頭に入ってくる。 

 ゆっくりと静かに告げるような言葉は、静寂に満たされたこの空間の中でとてもよく通り、聞き逃すことを許さない。 

 

「曰く……その妖怪は人畜無害な青年である」 

 

 そう一言喋れば仮面が消えそこに写るのは、何の特徴を持たない青年が、 

 

「曰く……その妖は絶世の美女である」 

 

 別の言葉を語り姿を騙れば、次にその場に写るのは見るモノ全てを魅了し跪かせるような美女が、 

 

「曰く……その物ノ怪は、とても歳をとった老人である」 

 

 またまた姿を騙れば、そこに写るのは仙人のような出で立ちの老人――――曰く曰くと語る度に姿を変えて何かを騙リ続ける何者か。 

 

「様々な姿で伝えられたその妖怪の正体は終ぞ明かされることなく、謎に包まれたまま消えていきました。全てを演じるからこそ、誰にも素顔を明かさない――ですが、今宵集まった皆様にはその素顔をお見せしましょう」 

 

 加速していくコメント達。培った知識により作られたこのアニメは、これでもかという程に好奇心を刺激して、絶対にこの配信から逃がさない。

 何がくるんだ? どんな姿なんだ? 

 といった風な、溢れる興味が抑えられないような反応をするコメント達に、俺は画面前で笑みを浮かべる。

 そしてそのタイミングで画面に映る誰かの仮面が外れ、闇に溶けるようにその姿を消した。

 そのせいで一瞬で[え?]や[は?]などでコメント欄が埋まったとき、神社の灯籠が灯り始めて――――。 

 

「浮世鴉、ここに見参! 人間よ儂の姿を目に焼き付けよ!」 

 

 そして境内に置かれた全ての灯籠が灯り、月を背にして大妖怪が現れた。

 

 

 



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浮世鴉のパーフェクト配信

凄い凝ってた
これショタか? ショタだよな? そうだと言ってくれ
何気に儂口調初じゃん
幼女じゃないっぽいけど、ずっと儂口調のキャラ待ってた感謝しかない。
一瞬でショタ判定するのなんなん?
五万人いくぞこれ
                     

                     

                    

                     

 

▶ ▶❘ ・ライブ                            CC ⚙ ろ わ だ 

【初配信】 正体不明 ここに見参!!    【妖ぷろ】

47.396 人が視聴中・0分前にライブ配信開始          い824 う19 へ共有ほ保存 …


【妖ぷろ】正体不明 Ch

チャンネル登録者数 7649人

                         

                              

      

 

 目の前の画面にはこれからの配信への期待や、今流れた動画に対するコメント、全部拾いたかったがこの量は流石の儂にも処理することは出来なかった。だけどそれは、それだけのコメントが流れるほどに注目を集めているという事。かなり久しい儂の妖怪としての本能を満たせるこの行為に興奮で叫びそうになるが、今は何より大事な初配信。叫ぶのはあとじゃ。

 

「改めて大妖怪、浮世鴉じゃ。今宵は儂のはいしん? に来てくれてとても嬉しいぞ!」

 

 配信画面に表示されたキャラクターがちゃんと動くように、出来るだけ表情を出してアバターを笑わせる。久しぶりにこういう風に大人数の前で喋るが、この調子なら問題なく喋り続ける事が出来るだろう。

 それに時間が用意されてたおかげで、昔の感覚に戻っている。思考も引っ張られるだろうから、余程の事がない限り今の素を出す事などない筈だ。

 

[まじで性別は何なんだ。ロリなのか?ショタなのか?]

[ショタロリ兄貴は落ち着いて]

[こんばんはー!]

[今は少年に近いけど、さっきの語りの部分的に……わかんね]

[性別:鴉でいいんじゃね?]

[それだ]

[羽ピコピコしてるの可愛い]

[めっちゃ欲望感じる絵だし、凄い可愛い]

 

 

「儂……一応、男のこ(おのこ)じゃぞ? 可愛いとは言われるのは恥ずかしいのじゃ」

 

 正直に言ってしまえば、このアバターは実際の俺の妖怪の姿とほぼ変わらないので、こうやって褒められると素直に照れてしまうのう。それに、アバターとはいえこの姿を大勢の人間達に見せたことなどなかったし、本当の姿を褒められるのは慣れてない。

 

 

[おーけー推すわ]

[顔を背けたら羽で少し顔を隠した?]

[相変わらずの妖ぷろクオリティ、七尾様も尻尾で顔隠してたしこの謎技術なんなんだ]

[よしショタ、俺の勝ち。なんで負けたか明日までに考えておいてください]

[誰もあんたと勝負してないぞ]

[こんばんはー! 今来ました!]

[これはなんだ? 本当に男なのか]

 

 

 母上は少年に対して並々ならぬ拘りがあるようなので、そこは否定しなければ。でなければ母上に合わせる顔がないというもの。

 

「どこをどうみたら儂が女の子(めのこ)に見えるのじゃ? もしや人間というのは性の区別をつけられぬのか?」

 

 かろうじて残っている現代の素的に思うが、昔の俺はよく人を煽ってたなぁ……今思うと、結構な糞餓鬼だった気がするぞ? 今の言葉を思いながらしみじみとそう感じてしまう。

 今の煽りをネタと認識してくれればいいが五万人近くの人が居るのだ、どんな反応になるかは分からない。のでこれはちょっとした賭けだが、どのぐらいまでならセーフとなるかの確認は大事なので最初のうちに確認しておかなければ。

 

 

[おーけー喧嘩なら買うぞ?]

[この煽り顔どっかでみたことあるなぁ……そそるわ]

[相変わらずの妖ぷろクオリティ、煽るときの顔がどれも凄い]

[ショタ……ショタガキ? 分からせ――]

[↑それ以上はいけない]

[めっちゃ煽るじゃん]

[煽り顔可愛い、虐めたい]

 

 

 うん反応はいいというか……何というか、やばいコメント多くないかのう?

 もっと、煽りは良くないとかぁ、煽ってんじゃねぇとか……想像してたのじゃが、素直に怖いぞ? 目に映ったコメントが悪かったかもしれぬが、結構どれもこんな感じのようで……。

 

「の、のう主ら……煽ったのは悪かったから、ちょいと落ち着かないか?」

 

 自然とそんな風に震えた声が出てしまい、想定してた配信から早速逸れてしまった。

 想像の中では、儂状態の自分の威厳でどんどん視聴者を取り込む! みたいなのを考えてたのに。

 

[クソザコ鴉……]

[あまりにも、弱い]

[お労しや鴉殿]

[お、これはポンの気配を感じるぞ?]

 

「話が進まぬではないか! もうよい、自己紹介させて貰うのじゃ!」

 

 このままでは配信が進まないと思い、強引に流れを変えようとしたのだが、流れコメントが加速していき、自己紹介しようとするの偉いとか書かれる始末。

 儂を褒めるコメントでも拾って、悦に浸ろうと考えてたのに何故こんな扱いに……。

 

「儂は先程名乗ったとおり浮世鴉。昔は語り鴉とも呼ばれていたが、主らが思った名前で呼びたい名前で構わぬ、今の名も数ある名の一つしかないのでな」

 

 

[じゃあウッキーで!]

 

 

「それはやめい猿ではないか!?」

 

 

[天才がいる]

 

 それだけはいけない。

 何が何でも阻止しなければ、妖怪の威厳とかが地に落ちてしまう。だがそんな思考とは裏腹に、コメント欄は今のウッキーに賛同する声が多く、ツッコミたい気持ちを抑えることが出来なくなってきた。

 

「分かっておると思うが、ウッキーは絶対に止めるのじゃぞ? 儂泣くぞ?」

 

 

[めっちゃ困惑してて草]

[面白いけどやめとくか、本人嫌そうだし……じゃあ他の呼び方だと]

[総大将、胡瓜大戦、狂天狗、酒猫、ぽん童子、PP妖狐……ここから考えられるのは?]

[ショタだし……今の所は子鴉?]

[それでいいか? まあそれ呼びやすいしいいか」

 

 

「じゃあ、そうするかのう。儂について今後SNSで呟くときは#浮世鴉、それか#子鴉で呟いて欲しいのじゃ! それならば、主らの声を聞きやすいし、これからの配信の参考にさせて貰うぞい」

 

[大妖怪なのに子鴉とはこれいかに]

[まあ本人が嬉しそうだし、いいんじゃない?」

[どや顔と羽ピコ可愛い」

 

 元々コレに関しては視聴者に決めて貰う予定だったし、子鴉は大妖怪での自分的には首を傾げてしまうが、ウッキーよりは幾万倍かマシなので、一先ずこれでよいじゃろ。

 

「で次の話じゃ。ファンアートの件になるのじゃが、一般イラストは#浮世鴉の古神社……ないとは思うがあっち系のは#浮夜鴉といった感じじゃな!」

 

[ないとは思うね……俺達の事を舐めているのか?]

[その喧嘩……買ったよ?]

[覚悟しろよ?]

[雪椿:ふぅん、それは母に対する挑戦? もう沢山書いてるよ?]

[雪椿先生!?]

[何でこの方が!?]

 

 最初伝える予定だった事を伝え少しに達成感を感じながらコメントを見てみれば、結構有名な絵師の方や、自分のこの体を描いてくれた母上の名前がそこにはあった。

 

 

「母上!? 息子に対してそれは酷ではないか!? 愛しい息子ではないのか!?」

 

 

[雪椿:可愛い我が子ほど虐めたい気持ち……あるよね]

[流石ショタ物ばかり書く伝道者、発言に凄みがある!]

[既に四作も投稿されてて草]

[この女、一切迷いがねぇ……しょうがない後に続くぞお前達!]

 

 

「分かったぞ、この状況が混沌というものじゃな。総大将様の所でよく見てたのじゃが、いざ直面すると凄いのう!」

 

 少し混乱してしまうが、そういえばこの流れは儂の推しである奴良瓢鮎様……つまり総大将様の所でよくみていたな、VTuberになると決めたときこの流れを作ってみたいと思っていたし、ちょっと感動してしまうな。

 

[凄い笑顔だ]

[もしかして、総大将推しなのか?]

[浮世鴉は百鬼夜行に既に入っていただと]

[なんだ同士じゃないか、存分に大将について語り合おう]

[つまり私達は既に兄妹……母さん、私に妖怪の兄妹が出来たよ、願い叶ったよ]

[奴良様の義兄弟達が急に現れたぞ!]

 

 

「そうじゃぞ! 儂がこうやってVirtual界に参加した理由は総大将様がいたからじゃ! それで今の儂がいるのは総大将様がいたからと言ってもいい!」

 

 ちょっと興奮しすぎてしまったが、その名前が出たからにはこうなるのは仕方ない。だって今の俺があるのは彼女がいるからで、何よりこうやって同じ舞台に立っているのだ。こんなの興奮しない訳がない。

 

 

[三期生、妖ぷろ好きが多すぎる気がする]

[気がするじゃなくて実際そうだぞ、皆に推しがいて同士っぽい]

[奴良瓢鮎:お? つまりオレの百鬼に加わるって事だよな!]

[総大将!?]  

[奴良様だ!]

 

 

「――ッ!?!? くは、は、さっきまでのは嘘じゃよ? 儂ほどの大妖怪が簡単に誰かの下につく訳ないじゃろう?」

 

 

[奴良瓢鮎:……加わってくれないの?]

 

 

「あ、加わるのじゃ……いや加わらせて欲しいのじゃ!」

 

 今の言葉はずるい。

 だってこの言葉は、使われば確実に切り抜かれる程の破壊力を持っている最終兵器。普段のオレっ娘からは考えられないような可愛さを持っているその台詞は、例え文字だろうと耐えられる筈がなく、反射的にそんな事を言ってしまった。

 

[奴良瓢鮎:はい勝ちー]

[即堕ち鴉]

[何度も見たよこの光景]

[雪椿:儂口調のクソザコ即堕ちショタ鴉+オレッ娘ぬらりひょんね……閃いたよ」

[言い出しっぺの法則って知ってます?]

[雪椿:次売るのそれにするから欲しい人来てね?]

 

「母上!?」

 

 そんな魂からの叫びの後も続いていく配信。それはあっという間に一時間を経過させ、気がつけばあと五分で用意されていた時間がなくなるという所まで来てしまった。

 もう立てていた予定は、全部やり尽くしたし……思い残すこともない。

 

「じゃあそろそろ配信を終わらせようかのう、視聴者の人間様及び同胞よ今宵は儂の配信に来てくれてありがとうなのじゃー! 儂は妖怪じゃから問題ないが、皆様方は体調に気を付けてはやく寝るのじゃよ?」

 

[お疲れー!]

[鴉様もゆっくり休んでね]

[初配信良かった!]

[凄いぞ同接六万で登録者も四万!]

[これもう妖ぷろの伝説に残るだろ]

[見所沢山だったし切り抜き師頼むぞ!]

[あれ、忘れてるだけかもしれないが、俺らの呼び方決めてなくない?]

 

 

「のじゃ!?」

 

 だがそのコメントを見たのは少し遅く、儂がもう配信を閉じたあとに知って、そしてそんな間抜けな声と共に勢いよく立ち上がれば、そのせいで壁に貼ってあったチェック表が床に落ちてくる。

 

 

OPを流す☑自己紹介☑儂の呼び名を決める☑FAタグ決め☑ 視聴者の呼び方決める□

 

 

 壁から落ちてきたチェック表には見事に最後の部分に印が入っておらず、それに気付いてしまったことで昔の状態を維持するのを忘れてしまう。

 

「アァァァァァ! マジやっちまった! 馬鹿かよ、てか昔に引っ張られるとはいえこれは戻りすぎ!」

 

 さっきまで演じてた昔の自分を思い出し恥ずか死しそうになりながらも、とりあえず俺はSNSでどんなふうに思われているか確認してみることにした。

 確認するのは今日の配信の感想、軽く目を通してみれば好意的な物が多く安心できた……だけど次の行動がいけなかった。

 軽い好奇心で俺がやってしまったのは、今のトレンド確認。結構人も来ていたし、そこにのってるんじゃないか? とかいう軽い気持ちでそれを見れば、そこには予想もしない文字達が―――。

 

日本のトレンド


1.トレンド

#浮世鴉


2.トレンド

#即堕ち鴉


3.トレンド

#総大将大勝利


4.トレンド

#浮夜鴉


5.トレンド

#妖ぷろ三期生


6.トレンド

#ポンコツ鴉

 

 SNSのトレンドに入っていたのは全部自分に関係あるタグ。

 一つ目と五つ目は全然いいのだが、その他の四つがマジでツッコミどころしかない。配信前から想定していたトレンドとはあまりにもかけ離れたその惨状。

 だけど、これも妖ぷろかと思った俺は、少し痛くなってきた頭を休めるために今日は寝ることにした。



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初配信から一夜が過ぎて【掲示板多め】

 

【VTuber】三妖について語るスレ:その1【妖プロ:三期生】

 

1:名無しの小妖

もう立てるしかないと思い、このスレを立てました後悔なんてしません      

 

2:名無しの小妖

このスレを待っていた。

早速語ろうか

 

3:名無しの小妖

>>1 話題だから来たけど、どんな妖怪達なの? 

 

4:名無しの小妖

ちょっと待ってね、まとめたのあったはずだから

 

5:名無しの小妖

あの三妖をまとめたのか……

 

6:名無しの小妖

え、そんなにやばい子達なの?

 

7:名無しの小妖

やばいというか……何というか 

 

8:名無しの小妖

>>6 個性の大暴走集団

 

9:名無しの小妖

>>6 妖ぷろの特異点

 

10:名無しの小妖

>>6 性癖欲張りセット

 

11:名無しの小妖

>>8 >>9 >>10 えぇ、怖い。

 

12:名無しの小妖

>>3 あったから貼るね。

鵺の子が僕口調の陽キャイケメン酒猫語りで、狐の娘がクール系ポンコツPP信者式神で、最後の浮世鴉様が性癖マシマシ、即堕ち系ポンコツ儂ショタ。最後の子鴉様は出来る事は凄いのになんかすごい残念で可愛いよ、アーカイブで見れるOP自分で作ったってドヤ顔してたし。

 

13:名無しの小妖

鴉様に対する熱量段違いで草

 

14:名無しの小妖

だってあんなの可愛いじゃん、マジのショタ。

 

15:名無しの小妖

一応本人は千歳らしいぞ、コメントへ答えとしてぽろっと言ってた。

 

16:名無しの小妖

あぁあれね。

 

17:名無しの小妖

「コメント:そういえば鴉様は何歳なんですか?」

        ↓

「聞いて驚かぬほうがいいぞ、千歳じゃ!」

        ↓

「コメント:嘘つくのやめてもらっていいですか?」

        ↓

「嘘じゃないぞ! 儂はすっごい爺さんじゃ!」

 

18:名無しの小妖

つまりショタ爺……閃いた。

 

19:名無しの小妖

やめて差し上げろw子鴉様朝四時頃に「何故夜鴉の方の絵が多いのじゃ?」ってガチ困惑してたからさ

 

20:名無しの小妖

 これか

  ↓

 

浮世鴉【妖ぷろ所属】@ukiyo_youpuro

#浮夜鴉

Σ(oдΟ;)おかしいぞ、なんで夜鴉のFAの方が多いのじゃ!?

21:名無しの小妖

 脳内再生されたわ

 

22:名無しの小妖

>>20 こんな時間なのに吹いただろふざけるな

 

23:名無しの小妖

そういえばチャンネル名変わってたよな子鴉様。

 

24:名無しの小妖

そうなんだ見てくる。

 

25:名無しの小妖

へぇーやっぱり凝ってるな

 

26:名無しの小妖

変わってた

 

27:名無しの小妖

初配信の奴のタイトルも変わってるしまじでリアルタイムで視聴できて良かったわ。

 

28:名無しの小妖

それ、あの驚きは正体不明 Chがなかったら味わえなかった。

29:名無しの小妖

ここ三期生スレだし、そろそろ二人の話題にも入ろうぜ、うずうずしてるんだ

30:名無しの小妖

つぐみんについて語らなければそろそろ禁断症状ががが

31:名無しの小妖

七尾様の全部私を聞かなければ、聞かなければ

32:名無しの小妖

なんか患ってるやつ多すぎないか(困惑)

33:名無しの小妖

そうだ七尾様の初配信で鼓膜なくなったままなんだけど、どこで買えるか知ってる?

34:名無しの小妖 >>33

鼓膜なくなった兄貴じゃん、新しいのならコンビニに売ってるぞ

 

     ・

     ・

     ・

     ・

 

329:名無しの小妖

つまり……双子の姉に七尾様を置いて、義弟につぐみんで、一番上に鴉様を置くのが最強なんだよ……なんの話だったっけ、これ?

330:名無しの小妖

あの三人の中なら誰が一番伸びそうって話題になって、なんか家族にするならどのポジションにするかに変わった感じ

331:名無しの小妖

そうだったわ、個人的にはやっぱりつぐみんだな、前世を知ってるがかなりゲームが上手いしトーク力が凄い

332:名無しの小妖

へぇー二人には前世ないっぽいけど、つぐみんにはあるんだ。

333:名無しの小妖 >>331

申し訳ないが前世関係の話はNG >>332さんも調べるのは別にいいけどこのスレで騒ぐような事はしないようにね 

 

334:名無しの小妖 >>333

すまんやで、元々推しだったから興奮してしまった。

335:名無しの小妖

気にするな、次から気をつければいいぞ

336:名無しの小妖

>>335 私もすまない

337:名無しの小妖

解決したし、話戻すけど自分はやっぱり子鴉様が一番強いって感じ

338:名無しの小妖

ワイトもそう思うけど異論は認めます

339:名無しの小妖

七尾様こそ至高だろ、あの破滅曲を女性が歌いきったんだぞ!?

340:名無しの小妖

それは分かるかもしれない。あれは強いし、腹抱えるほど笑った。

341:名無しの小妖

難しいな、まあまだ皆一回しか配信してないし、これからだろ 

342:名無しの小妖

これ凄い偏見なんだけど、鴉様ホラーゲーム苦手そうだよね。

343:名無しの小妖

ないだろ、あそこまで徹底したRPでホラー苦手とかだったら、推してしまう。

344:名無しの小妖

そうだ鴉様関連なんだけど、結局視聴者の呼び方ってどうするんだろうね?

345:名無しの小妖

つぐみんは、子分だったよな確か、で七尾様は子狐

346:名無しの小妖

じゃあ俺達は親鴉?

347:名無しの小妖

つまり私は、やっと親に子供を見せれるの?

348:名無しの小妖

闇が深そう(小並感)

349:名無しの小妖

私の母親にならないか?

350:名無しの小妖

>>349 カエレ!

351:名無しの小妖

話戻すけど、俺らの呼び方は気になるね

352:名無しの小妖

確かに、今日配信するって九時頃に呟いてたし決まるかな?

 

 

                β

 

 

 昨日の俺の配信の反応を確かめる為に今度はSNSではなく掲示板を確かめてみたのだが、予想に反して昨日の最後のやらかしはそれほど言及されている訳では無さそうだ。

 昨日は気にしすぎたまま寝たのだが、この反応だとあんなに気にしなくてもよかったのか。

 今日はとりあえず、昨日決められなかったことを決めるための枠を取ったが、それだけじゃ味気ないだろうしちょっと三味線でも披露してみるか? あの二人が楽器を出来るかは分からないが、どちらにせよまだやってないだろうし、演奏してみるか。

 それに二人が楽器を出来るなら、それをきっかけとしたコラボ配信が出来るだろうし、視聴者達に色んな楽しみを提供できる筈。

 

「そうと決まれば、ちょっと練習でもしておくか」

 

 ついでに今日は質問募集でもしてみるかと思い、とりあえずSNSでマシュマロというものを使う事にして俺は配信予定の二十時までに体を温めることに。

 

「そうだ雫ー? 明日オフコラボするから一日家空けるぞー」

 

 三味線を倉庫から持ってきて、部屋に戻って練習しているときにふと目に入った予定表。

 そこには明日の予定にある三期生コラボ! という文字がでかでかと書かれていて、今更だが同居人に伝えることを忘れていたと思い出し、今昼食を作ってくれている雫に聞こえる程度の声でそう伝えた。

 

「かなり急ですね、ですが把握しました。何か必要な物あったら言ってくださいね、お弁当とか作りますよ?」

「流石にそれは悪いからいいぞ、それに昼は皆で食べる予定だし、明日はゆっくり休んでくれ。あ、そうそう集まるのは秋葉原だからなんか土産でもいるか? 遠慮せずに言ってくれよな」

「そうですね、ならお言葉に甘えて秋葉原にある限定メロンパンでも」

「それ朝六時から並ばないといけないやつじゃ……つまり、並べと?」

「遠慮なくって言いましたよね鴉様?」

 

 遠慮するなとは言ったが、流石に遠慮しなさすぎるだろう。

 だけど、初のコラボの日ということもあり、テンションの上がっている俺だ。そのぐらいは受け入れてやるほどに気前がいい。

 

「まあいいか、基本的に日曜日は一緒に過ごすみたいな事になってたし、今回のは急だったからな。まあ任せろ、他の限定品も何個か買ってきてやる」

「……お願いしますね、忘れたらご飯抜きにしますよ?」

「分かったって、あと今日も配信するから良ければ見てくれよ」

「まあ気が向いたら、見ますよ」

「絶対見ろよな、せっかく崇めてる神が頑張ってるんだからさ!」

 

 そうやって上がっている気分のまま、ちょっと調子に乗ってみたのだが、それに対する返答はかなり冷たい雫の視線だった。

 

「神とかいうなら普段から、それらしい振る舞いをして欲しいのですが」

「なんか今日当たり強いなお前、それに神ムーブなら配信でしてるからセーフ」

「はぁ……そうですか。それと配信するのはいいのですが、今日の晩ご飯はちゃんと作ってくださいね」

「分かってるって、流石にやるからさ」

「はいはい、ではそろそろお米も炊けるので私は戻りますね。練習も程々にしてください」

 

 分かってるよと伝え、俺はそのままご飯が居間に運ばれるまで時間いっぱい練習する事にした。食事も終えある程度準備を終わらせ、配信までの残り時間で結構届いていたマシュマロを確認しておく。

 

 

                     

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

▶ ▶❘                                 CC ⚙ ろ わ だ 

【雑談?】 浮世鴉洋菓子を食べたりする+おまけもあるよ    【妖ぷろ】

7.396 人が視聴中・5分後にライブ配信開始          い142 う13 へ共有ほ保存 …


【妖ぷろ】浮世鴉 Ch

チャンネル登録者数 46298人

 

「……え、なんでこんなに増えてんの?」

 

 改めて昨日増えた登録者の方々に戦慄しながらも、俺はまた昔に戻るために少しルーティンをこなして儂状態に俺は変わる。そして配信をスタートさせ、

 

「人間達よこんばんわじゃ、今宵も儂の配信に来てくれて感謝するぞ?」

 

[こんばんわ]

[まだ強い(確信)]

[切り抜きと様子が違うぞ]

[安心しろ、すぐにこの鴉は堕ちる]

 

「まって儂の切り抜き上がってんの!?」

 

[こんばんわー今来ましたまた即堕ちしたんですか?]

[この鴉弱い(確信)]

[切り抜き通りだ安心した]

[即堕ち鴉RTA、今回の記録32秒]

 

 いくらなんでも速くないか?

 と思い手元のスマホで調べれば開いたサイトには、九個ほどの切り抜きが……そして三つほどは即堕ち鴉というタイトル。

 なんか不名誉な渾名がついている気がするのじゃが、一度ネットで付けられた渾名は簡単には外れないので、今はとにかくそのイメージを払拭するための配信を行わなければ!

 コメントをみればある「これがポンコツ即堕ちムーブ」とか、「草」の文字群とかはもう目に入らない。ということで早速視聴者の呼び名を決めるぞい。

 

「今回は配信直前に募集したマシュマロを食したり、昨日出来なかった視聴者様方の呼び方や配信タグを決める配信じゃ。あとは#浮世鴉の古神社に送られたFAとかの紹介をする感じになるかのう?」

 

[親鴉はどうですか? 私の子になってください!]

[名前的に俺らが親ですよね]

[いま見たけど、あっち系に比べてファンアート少なくない?]

 

「確かに親鴉というあんもあるのじゃが、マシュマロに結構良い候補があってのう。儂としては格好いいしそれがいいのじゃが……まあ色々言うても進まないし、表示するぞ。ついでに前回のまとめもちょっとな」

 

 

                     

 

 

                 配信タグ:#子鴉劇場

                 FA:#浮世鴉の古神社

                 あっち系FA:##浮夜鴉

                 ファンネーム:#マヨイビト      

 

 

 

 

▶ ▶❘                                 CC ⚙ ろ わ だ 

【雑談?】 浮世鴉洋菓子を食べたりする+おまけもあるよ    【妖ぷろ】

9.396 人が視聴中・5分後にライブ配信開始          い251 う23 へ共有ほ保存 …


【妖ぷろ】浮世鴉 Ch

チャンネル登録者数 46301人

 

 

「どうじゃかなり洒落てるじゃろ? 特にマシュマロで送られてきてビビッときた迷い人など最強って感じがせんか?」

 

 配信までのマシュマロ整理で、見た瞬間これだと確信できるようなファンネーム。 

 それに奇しくもこの名は、儂が生まれたてで、まだあまり何かを演じることが出来なかった頃の住処に迷い込んだ者達に拙い芸を見せていた事を思い出させるような物で、もうこれしかないと思ってしまったのだ。

 

「主ら視聴者というか観客様は、儂の神社の迷い込んだマヨイビト。やってきた者、迷い込んだ者は拒まずを信条とするこの劇場。らしい名と思うのだが、どうかのう?」

 

 ちょっと心配だったが、コメント欄の反応は上々。

 いまきたばかりの初見様方も、その名を気に入ってくれたようで、「初見です迷い込んでしまいました!」みたいな、ノリのいい言葉を残してくれる。

 それにちょっと顔が緩んでしまい、だらしない声が漏れそうになる。

 

「ふふふ、ならこれで良いな? 主らは今日からマヨイビトじゃ!」

 

[嬉しいんだろうな、めっちゃ羽動いてる]

[だからこの謎技術は何なんだ?]

[鴉様のせいで一日一回ドヤ顔を摂取しなければいけない体になってしまったのですが、詫びとして毎日配信してください]

 

「それは儂の責任なのか……まぁよい、これからは届いたマシュマロを食べていくぞい、一つ目はこれっじゃ!」

 

 そして満を持してから画面に一個目のマシュマロを表示する。

 

 

          

 

          初めまして鴉様!

       今日は雨ですが良い天気ですね。

  鴉様は私達の総大将が推しという事と伺ったのですが、

   そのきっかけになった出来事や動画とかはあるのですか?

 

                       

           マシュマロ

         

                       

   

 

 

[それ聞きたいな]

[今日日本はどこも雨降ってないらしいが、この人はどこにいるんだ?]

[この妖怪百鬼夜行に入ってたのか]

 

「総大将様の百鬼に入るきっかけは、友人様からVTuberの存在を知っての、その時に送って貰った本人切り抜きが本当に面白くて、一日でハマッてしまって気付けば百鬼夜行の一員になってた感じじゃ!」

 

[自分もそんな感じ]

[やっぱりあの切り抜き強いよね、あれから入った人ってよく聞くし]

 

「そうじゃな、かなり多いと聞くのう。さぁさぁ、この枠の時間も限られとるし、じゃんじゃんマシュマロを食べていくぞい」

 

 

 

 

 

 

 

 



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【雑談?】 浮世鴉洋菓子を食べたりする+おまけもあるよ【妖ぷろ】

          

鴉様こんばんはー

私はショタ爺にお姉ちゃんと呼ばれないと爆散する呪いを持ってしまってるのですが  

「お姉ちゃんなんで働かないの?」と罵ってくれませんか?

そうしたら私の呪いも解けると、公園で黄昏れた老人が言ってたのです。 

どうか私の呪いを解くのと欲望の為に、罵ってくださいお願いします!               

         

                   マシュマロ

         

                       

 

 このマシュマロは本来なら読む予定のなかったモノで、リストから弾いたモノだった。

 なのに、俺が今日読む予定のリストに紛れ込んでいたので仕方なく拾ったのだが、

 

「…………なんじゃこのマロ、呪物か?」

 

 読んで改めて感じるナニカの圧にそんな一言を溢してしまったのだ。

 

 

[呪物は草]

[わんちゃん特級呪霊]

[お願いします!]

[本人か?]

[呪霊降臨]

 

 

「これ、リストから弾いたのに何故か紛れこんでいたのじゃ。怖いからやるが、どうしてなのだろうな……ン゛ン゛――「お姉ちゃんなんで働かないの?」」

 

 今何してるんだろうかと少し悟を開きそうになりながらも、やりきった儂はコメント欄に目を通す。これで成仏すればいいなと、なんか変な思考になってしまうのはきっと仕方ないだろう。

 

[これで成仏ありがとうございます!]

[ちゃんと成仏するんだぞ……]

[こうしてこの世から呪霊が祓われたと]

[おかしい人を亡くした]

[源鶫:僕にもなんか言ってくれませんか?]

[つぐみんじゃん]

 

 成仏したのを確認すれば、次に目に入ったのは盟友の名前。

 あと一時間で配信だというのに、この鵺は何故こんな所にいるのだろうか? 突如現れた盟友に少し戸惑いながらも、コメント欄的に何か言わないとまずいので、頭を回転させながら言葉を選ぶ。

 

「鶫……主は配信があるじゃろう? 今日はせっかくのゲーム配信をやるのじゃから、準備を怠らず、ちゃんと視聴者を楽しませるのじゃ、応援しとるぞ」

 

 コメントだけでは何が望まれているかは分からないが、とりあえず無難そうなその言葉を選んでみた。さっきの望まれた罵倒は、あのマシュマロという下地があったから出来たこと、こういう流れになった場合もある程度は許されるかもしれないが、今のように言葉をちゃんと選ばなければならないというのは色んなVTuberを見た上での儂の持論なのだが、結構これは大事だろうな。

 

[源鶫:ママ?]

[追加属性ママ]

[即堕ち系有能ポンコツ儂ショタ+ママ]

[閃きすぎる?]

[雪椿:解釈一致、捗るね]

[源鶫:母上様、盟友をどうか僕のママに]

 

 掲示板でチラッと見た程度だが、儂に付けられた属性なんか増えておらぬか?

 しかも現在進行形で新しい属性が付けられたし……何でじゃろうな、想定していた属性今は有能しかカスっておらぬぞ?

 最初VTuberになった儂は、演技が上手いなんでも出来る有能鴉という感じの名をネットに轟かせようとしていたのに、今では性癖の宝物殿とはな……世の中不思議じゃ。

 そう思いながらも、それから約三十分ほどの間届いたマシュマロを処理しながら、雑談を盛り上げ続ける。そしてあと二つほどで用意していたマシュマロがなくなるといった時、儂は一回話題を変えることにした。

 

「そういえば、明日三期生の仲間達でコラボがあるのじゃ……本当は、もうちょっと早く伝える予定だったのじゃが、今の今まで忘れててのう、すまぬな」

 

 

[そうなんだ見ないと]

[忘れず伝えただけで偉い]

[流石有能]

[まだ今日はやらかさないね、風邪でも引いた?]

[グギが、ガガが……ギ、三期生、コラボ?]

[なんかバグってる人いない?]

 

 

 忘れたと言うがそれは嘘だ。

 ある程度時間を潰してから、そのあと出来るだけ人を集め一番頭に入りそうなタイミングでその話題を入れさえすれば、少なくとも記憶には残るだろうという思考からなる嘘。

 最初にこの告知をしても、マシュマロを消化しているうちに記憶から薄れるかもしれない。せっかくの三期生の初コラボを視聴者の記憶に少しでも残すため、こういう努力は欠かしちゃいけないのだ。

 

「であと残ってるマシュマロは、好きな食べ物はなんですかじゃな!」

 

 あとこれは不思議なのだが、なんかいくつかのマシュマロに使っているシャンプーはなんですか等の質問が来ていたのだが、あれは何だったのじゃろう。それに回答してる時に「あっ」みたいな何かを察するようなコメントで溢れていてかなり気になるのに、結構考えてみても理由分からなかったんじゃよな。

 

「好きな食べ物……一番は寿司じゃな、だけど焼肉も好きじゃぞ? 肉も魚もどっちも美味しいし、何より満たされるからな! あ、甘味などだと大福とかの和菓子系じゃ。ところでこし餡は最強の存在だとおもうのじゃが、みんなはどっち派じゃ?」

 

 

[戦争を始めよう]

[よろしいならばクリークだ]

[なんだぁてめぇ]

[過激派の粒あん勢が沸いてきたな]

[グギが、ガガが……ギ、センソウダ]

[やっぱりなんかバグってる人いない?]

 

「ん? 儂とやるのか? よいぞ、存分に死合おうではないか……じゃがその前に開戦の前の音楽じゃな、マシュマロも食した事だし、今から食後の運動といこうかのう!」

 

 事務所の先輩ライバーに少し前にメッセージで聞いた機材は事前に揃えてある。

 事前動作もバッチリで、これならきっと問題はなし。

 

「という事でこれから始まるのは、儂こと浮世鴉の生三味線演奏じゃ、こんな時間だからこそマヨイビトの眠気を吹っ飛ばすような、熱いモノを聞かせてやるぞ!」

 

 毎度の如くヘリを爆破or墜落させる会社のモンスターを狩る系のゲーム。 

 その中でも一番気に入っている、忍者モチーフのモンスターのBGMの三味線アレンジ。

 何が何でも最初の演奏ライブでやりたかったこの曲。

 

「さぁさぁ、マヨイビトの皆々様よ。他の音など聞こえぬほどに迅竜の音色に酔いしれるがよい!」 

 

 ベベンと弦を鳴らし、一瞬間を空け演奏スタート。

 何よりも視聴者である観客を楽しませるために、儂は今日も自分の技術を惜しみなく使い、今日の雑談枠を終わらせた。

 

「明日のコラボの通知もしたし、明日の朝には仲間達でやる予定の鉄道ゲームも揃う……よし完璧だな」

 

 配信モードの俺を止めて、ゆっくりする為に普段の口調へと自分を戻す。

 明日はちょっと前に発売した双六鉄道ゲームをやる予定で、細かい告知などは七尾と盟友がこの後の配信でやってくれるので、そこは気負わなくて良いだろう。

 

「……そういえば、双六ゲームなのは分かるがルールをよく知らないな。それにちょっと特殊なルールでやるって糀が言ってたような……まあでもあいつの事だし、鬼畜なルールとかは用意しないよな」

 

 

 

 



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三期生コラボ編
三期生コラボ合流編 ~限定パンを添えて~


「……鴉様荷物届いてましたよ、玄関に置いときましたがすぐ起きてください」

「ア゛ア゛ア゛ア゛ァァァァァ? アァァァァァー…………眠い」

 

 開け放たれるカーテンの音と、射し込んでくる朝の日差し。

 あまりの日差しに目をやられ、殻に戻るカタツムリのように布団に引き籠もる。

 今日は7月28日でもうすぐ八月になり夏も本格的に始まりそうだが、クーラーを付けっぱなしで寝たせいでかなり寒い。そんな中で暖かさを提供してくれるお布団は最強で、出なきゃいけないはずなのに、どうしても出ることが出来ない。

 

「暖かくなったら出る……から、放置してくれ」

 

 とても眠いせいで出てくる掠れすぎた声、こんな状況ならこの襲撃者も逃がしてくれると思ったのに……。

 

「布団を取るなぁ、あ動けない……寒い、羽出さなきゃ」

 

 人の心がないのかそいつは俺を守っていてくれた布団を剥ぎ取って、あろうことかそれを畳んで箪笥の中に入れてしまった。その事で寒さから身を守ってくれる盾が失われた俺は、あまりにも動くのが怠かったせいで、久しく出してなかった羽で身を包むようにして、この場を乗り切ることにした。

 全身を守るように、全部羽で包んだ今の俺に死角はなし。これより先は一切の寒さを通さない、そんな意気込みで、同居人が去るのを待つ事にする。

 

「今日はコラボがあるんですよね? 起きないと遅れますよ」

「えぁ? コラボ……コラボ――コラボじゃん!? ちょっ、今何時だ雫!?」

 

 だけど雫のその言葉で一瞬にして今日の予定を思い出し、羽を消して瞬時に飛び起き変化する。こんな風に一気に飛び起きて姿が変わったりしたのなら、少しは驚きはしそうなモノだが、慣れているのか雫の奴は全く動じずに、俺の質問に答えてくれた。

 

「5時半ですね、ちなみに今から向かえばパン屋にも間に合いますよ」

「そういえばメロンパンも買うのか……起こしてくれて助かったぞ雫今すぐ行ってくる!」

 

 先に向かうのはパン屋でそのあとは妖ぷろの本社。

 箪笥の中に収納されている服から、今日着ていく服を選び急いで玄関へ。

 少しごちゃごちゃした服を急ぎながらなんとか着終える。

 忘れそうになっていた届いたばかりのゲーム、それを鞄にしまって準備は完了。さあ行くぞとなった時、ふと顔を逸らして鏡を見れば、そこにはメイド服を着こなす165㎝程の男の姿が……。

 鏡の中の男と目が合って数秒、思考が停止し、変な息が漏れてしまう。

 

「すぅー……変な癖ついてた」

 

 本社に行った回数は二度だけだが、その二回の服装はメイド服。

 慣れたくなかったが、その二回の出来事で妖ぷろ本社に向かう=メイド服を着るみたいのが染みついていたようだ。

 

「気づけて良かったわ、流石に男の姿でこれ以上尊厳はなくしたくないからな」

 

 すぐに部屋に戻って別の服に着替えた俺は、有り得ないだろうがメイド服のままじゃないかを確認し、ちゃんと男の物の服に着替えている事を認識した事で家から飛び出し秋葉原に向かう。

 

 

 

<13 + 【妖ぷろ三期生】

明日はよろしくお願いします! 23:38

こちらこそよろしくね、コラボ成功させましょう。 23:40

 
既読2

23:45

よろしく頼む二人とも、楽しみだな

 
既読2

5:32

あ、ちょっとパン屋で買い物あるから早めに向かう

そういえば二人とも希望あるか?

あそこのならクリームパンお願い、お金は返すわ 5:44

カレーパン頼んでも良いですか? 5:46

 
既読2

5:58

了解

> メッセージを入力     

 

「久しぶりに空飛んでるんだが、暖かくて良かったな……寒いと羽動かないし」

 

 時間がなかったので、空を飛んで秋葉原がある東京へと向かっていく。

 空を飛んでいる間は姿も隠しているし、余程のことがない限り事故らないので、歩きスマホならぬ飛びスマホをしながら時間を潰していれば、あっという間に目的のパン屋の近くに。

 人目のつかない所に降りた俺は、結構並んでしまっている列の最後尾に並ぶことにして、開店までの暇な時間をゲームなどでもして潰すことにした。

 

「朝なのにやっぱり多いなぁ、まあここのパンどれも美味いし仕方ないか」

 

 そんな独り言を呟いて、ハマっているソシャゲの日課をこなしているうちにいつの間にか店は開き、列がどんどん進んでいく。前の人がパンを買い終わり、俺の番になったことで注文を始める。

 

「クリームパンとカレーパン、メロンパンとチョココロネを一つずつください」

 

 頼んだ三つは頼まれた物で、最後の一つは完全に俺用の物。

 ちょっとパンを買うにしては高かったが、それだけの価値は全然ある。あとはこれが冷めないうちに結界にでも閉じ込めて保存でもしておくか。

 渡す予定の三つを作った結界にしまった俺は、妖ぷろ本社に顔を出しゲーム専用に用意された部屋で二人が来る12時まで時間を潰すことにする。

 この部屋は最新のゲームから過去のゲームまで多種多様に揃っているので、遊ぶには事欠かないだろう。

 そこで俺はPS4を起動して、前から興味があったがやっていなかったダークファンタジーゲームのリマスター版に自分用のデータを作って、ゲームスタート。

 こういうゲームは久しぶりだが、どんな感じなんだろうな? かなり楽しみだ。

 

 

 ――――――

 ――――

 ―― 

                

YOU DIED

 

「あぁぁぁぁクソガァ!? あのガーゴイル許さねぇ、そもそもッハァ!?」

 

 画面にデカデカと表示されここ短時間で見慣れてしまったその朱殷色の文字。

 操作キャラが死んだときに表示されるその文字は、こっちを煽るような音と共に何度も現れて、俺の神経をこれでもかと逆撫でしてくる。もうなんなんだあの二体のボスは、まじでふざけるな。

 あぁ軽い気持ちで始めたゲームでここまで発狂するとは思わなかった。こんな事になるのなら別ゲーでもと思ったが、負けっぱなしは癪だし許せないのでコンティニューして再度挑戦だ。

 せめて二人が来る前に絶対にこいつだけは殺す、俺の数多の屍の仇を取るために俺は絶対に諦めない。強そうなツヴァイヘンダーも少し強化したし、今度こそぶっ殺す。

 

「紡さん? 大丈夫ですか?」

「あとにしてくれ、ちょっと取り込み中だ」

 

 二体目の体力をギリギリまで削り、あと一歩って所で火炎放射で殺された時、最近配信でよく聞いている声が聞こえた気がしたが、今はそれに構ってられない。

 声をかけてくれた人には悪いのだが、今はちょっと待ってて欲しい。 

 

「アドバイスなんですけど、このボスならロングソードに松脂塗って斬りまくれば倒せますよ?」

 

 言ったあと失礼だったなと思い、すぐ謝ろうとしたがそれより先にその人がこのボスの攻略に関するアドバイスしてくれた。

 

「え、マジ? ちょっと試すわ――――しゃぁ! 勝ったやった大勝利ー! 西洋の化物風情が儂に刃向かうからこうなるんじゃぞ! クハハ、二度と姿を見せるなよ阿呆」

 

 あまりにも喜びすぎて、過去モードが出てしまったが……そういえば後ろには誰かいるんだよな……というか、そもそも誰が来たんだ? そう思って後ろを振り返ればそこには同期の糀の姿があった。

 

「……あー糀おはよう? カレーパンいるか?」

「貰いますね、それとクリアおめでとうございます」

「ありがとな、あとすまない気付かなかった」

「え、全然大丈夫ですよ? 自分も初めてやったときは苦戦しましたし、やってる時とか熱中しすぎた思い出ありますから、むしろ推しのライバーのゲーム姿を見れてご馳走様って感じですよ」

「やめろ、照れる」

 

 聞き慣れた口調。

 初対面の時は早く仲良くなりたかったから、タメ口でいいぞって俺が言ってしまったために、ああ喋っただけで、本来は誰に対してもこういう喋り方なのだそうだ。

 あの時は悪い事したなとちょっと思いながら、鞄の中に仕込んだ結界から俺はバレないようにカレーパンを取り手渡して、ちょうど昼飯時という事もあって妖ぷろの社員食堂に移動する事にした。

 

「呼んできたのね、おはよう紡さん」

「そっちも来てたんだな蘆屋、ほらこれクリームパン」

「ほんとに買ったのね、はいこれお金」

 

 既に食堂には蘆屋もいたようで、俺達の姿を見るやすぐに声をかけてくる。

 そしてそのまま三人で机を囲むように座り、そのまま食事を始める。皆がパンを食べるなか、燃費があんまり良くない俺は、事前に雫によって作られ鞄に入れてくれていた弁当を俺は食べることにする。

 

「あ、その弁当手作りですか?」

「だな、同居人……というか妹みたいな奴に作って貰った。少し食うか? あいつの卵焼きと竜田揚げ美味いんだよ」

「食べます食べます……美味しいですねこれ! 今度その妹さんにレシピ貰ってもいいですか?」

 

 雫の飯を褒めてくれる盟友の言葉に自然と頬が緩む、気分も乗ったし、今度あいつにレシピでも聞いてみようか。

 

「確かに美味しいわね、その妹さんに美味しいって伝えておいてくれないかしら?」

「勝手に食うなよ、欲しいなら言ってくれれば渡したからさ」

「なんかそういうの恥ずかしいもの」

「勝手に奪う方が恥ずかしくないか?」

「…………盲点だったわ」

 

 

 

                     

 

 

 

 

 

 

 

▶ ▶❘                                 CC ⚙ ろ わ だ 
【三期生コラボ】第一回三妖大戦~逆桃鉄編~【罰ゲームあり】

55.396 人が視聴中・0分前にライブ配信開始         い546 う34 へ共有ほ保存 …


【公式】妖ぷろ ☑

チャンネル登録者数 38.6万人

 

 

 妖ぷろの定期企画である同期のライバーを集めてやるマルチゲーム大会。

 この企画に参加してる時点で嬉しいし、何より仲間達との初めてのコラボ。こんなの絶対成功させるしかない。

 

「マヨイビトの皆様方、こんにちわじゃー! 妖ぷろ三期生所属の浮世鴉、今日は告知通りに仲間達とコラボをしてゆくぞ!」

「初見の方それと子狐達、どうぞよろしくね。今日は妖ぷろの本社に皆で集まっているわ」

「ヒョーヒョーという鳴き声からこんにちわ、妖ぷろ三期生所属源鶫っです! 今日は盟友とママと一緒にゲームをやっていきます!」

 

 

[コラボって同期企画か]

[待ってた]

[逆桃鉄はセンスある]

[この三人の初見だけど、一番こいつらに愛されてる自信ある]

[どこから沸いてくるんだその自信]

[このキメラ、サラッと同期をママ扱いしてるぞ?]

[閃いた]

[↑通報した]

 

 

 コラボ配信と言うこともあって、コメント欄には普段みない方々の名前がある。

 俺達の視聴者層もバラバラでその三人が集まったからという事もあるが、この恒例の企画で初めて見るっていう方もいるし、マヨイビトを増やすためにも今日はどんどん印象に残ることをしよう。

 

「いやぁ、こうして集まると見事に画面が妖怪だらけですね」

「だけど狐と鵺と鴉で結構バラバラね」

「別にいいじゃろ? 儂らはこの妖ぷろ百鬼の一員、色んな奴らがいたほうが面白いじゃろうて」

「それもそうね、沢山妖怪がいる方が確かに面白いわ」

 

[いい話や]

[流石鴉様、なんか言うことに凄みがある]

[諭される七尾様……いぃ]

[カエレ、変態]

[帰らされても第二第三の私がそこら中に……]

[新種の妖怪か?]

[妖ぷろスカウト、待ってます」

[来ないよ]

 

「まぁまぁ、そんな妖怪も受け入れるのがここじゃし、儂は今の分身する妖怪も歓迎するぞ? というより、この配信に来てくれてる時点でもう妖ぷろの仲間じゃし、これからはその増える術を誇って生きるがよい」

 

 

[僕これから妖怪名乗るよ]

[ままぁ]

[鴉ママ……]

[流石性癖の宝物殿、優しい]

[初見だけど私のママになってくれないですか? むしろ貴方が子でもかまいません!]

[無敵じゃん今の人]

[性癖の宝物殿ってなんだ]

[それはこの鴉様が即堕ち系有能ポンコツ儂ショタママだからだよ]

[属性の大渋滞じゃん、推すわ」

[そうして今日も鴉の神社にマヨイビトが来ると……でもこの妖怪、俺のママだからな?]

 

「そこの鴉民間違えないでくださいね、ママは皆のママで、僕が第一子です」

「……そもそも儂、誰の母親にもなった覚えないのじゃ――それと鶫、進めないと叱るからのう?」

 

 

[ママじゃないの?」

[いや今の言葉をよく思い出せ、少し流されて口調が優しくなってるぞ?」

[鴉ママ……叱って]

 

 

 怖いのじゃ、産んだ覚えのない子達が沢山。

 しかも儂、男じゃし……。

 

「叱られたくもありますが、そろそろ進めないと怒られてしまうので、今日の企画を説明させていただきます!」

 

 デデン! そんな効果音と共に画面に表示される今日の企画進行表。

 七尾が全力でPPを使って作ったそうだが、かなり凝っている。パッと見で何をするか分かるし、目に優しい。これなら視聴者達にも伝わりやすいだろうな。

 

 

「これを作ったのは勿論私よ、感謝しなさい二人とも」

「凄いのう七尾は、助かるぞい」

「……いきなり褒めないでくれないかしら、照れるわ」

「くはは、顔を背けるでない……見れぬではないか」

「てぇてぇ……この二人いいですね」

 

[あれ、俺達がいるぞ?]

[てぇてぇ]

[クール系ポンコツ狐×ショタ爺……閃いた」

[凄いなぁここは閃きの倉庫だぁ]

[ありだなこの二人]

[照れてる七尾様可愛い]

 

 

 七尾が作ってくれたものの中には、今日やるゲームの簡単な説明や、ちょっとした小ネタなどが鏤められている。陰陽師なのに、現代に適応してて凄いなとそう思いながら、確認していると少し気になる事があったので二人に聞いて見ることにした。

 

「少し聞いてもよいか? さっきから出てる逆桃鉄とはどういう意味じゃ?」

「あぁ、そういえば説明し忘れてましたね、桃鉄は本来お金を稼ぐゲームなんです……が、今回はその逆! 借金マスや貧乏神に多種多様なカード、ありとあらゆる手段を使って所持金を減らし、一番所持金が少なかった妖怪が勝ちというルールなんです!」

「ほぇ……ゲーム内の借金で競うのか……それ悲しくないかのう?」

「だって面白いじゃないですか! 普段なら喜べる青マスで少ないお金を望むとか! そして何より、僕はこの逆桃鉄を皆でやってみたかった!」

 

 世の中には色んなゲームの遊び方をする人間達が居るんだなぁと、頭に過るRTAや縛りプレイを思い出してそうしみじみと感じてしまう。

 

「そうか初のコラボじゃし、やりたいことをやるのはよいな。では早速楽しんでやっていこうかのう!」

 

 

 




 いつも評価・感想・ここすき等本当にありがとうございます!
 届いている感想や一言付き評価など毎回見させていただいていますし、何よりモチベーションに繋がるので、いつも助かってます。
 これからも執筆頑張らせていただきますので、どうかお付き合いください!


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【三期生コラボ】第一回三妖大戦~逆桃鉄編~【罰ゲームあり】その1

 ネットで対戦                     部屋番号 ××××××
         

 

つぐみん鉄人   

七尾社長     

浮世社長     

 

 

▶ ▶❘                                 CC ⚙ ろ わ だ 
【三期生コラボ】第一回三妖大戦~逆桃鉄編~【罰ゲームあり】

61.483 人が視聴中・8分前にライブ配信開始         い846 う38 へ共有ほ保存 …


【公式】妖ぷろ ☑

チャンネル登録者数 38.6万人

 

[え、鉄人?]

[草]

[見間違いかと思ったら違うわ]

[こわ]

[一人だけ圧が違う]

 

 配信画面に映る儂らの名前とその役職。

 始めたばかりである儂と七尾の役職は勿論社長、鶫の事だから少しプレイして役職は別のやつになっている事は予想はしていた。

 だけど……ツッコませて欲しいのじゃ。

 

「なあ鶫よ……事前にこのゲームについてちょいとだけ調べたのだ……その役職、かなりやばいやつだった気がするのじゃ……気のせいか?」

 

 このゲームが発売されたのは今から丁度十日前。儂ら三期生は配信の準備があったしそのあたりは忙しく、この役職を取る時間などはないはずじゃ。

 それにそもそも鶫が買って、届いたと連絡されたのは五日前だったと覚えておるし……どれだけやったんじゃ、こやつ。

 

「あ、これですか? それなら、皆で遊ぶ前に久しぶりに練習しようかなーと思ってやったら思いの他ハマってしまいまして、気付いたら配信以外はずっとこれをプレイする生活になってたんですよね」

「そういえば、主のディスコでの返信やけに早いと思ってたのじゃが、もしやずっと起きてたというわけはないだろうな?」

「あーッと……そうですねー、いくら僕でもそんなに命賭けませんよ、ちゃんと九時間ぐらい寝ました!」

 

 画面に表示される鶫のアバター。それは糀の表情と喋るのに合わせて、左右に視線を彷徨わせている。

 これはどう考えても、ここ数日間の睡眠時間の合計とかいうオチじゃろうな……それなのに朝からああやって自分を維持できるのか――若いってすごいなぁ。

 

[それ合計九時間ぐらいってオチじゃない?]

[あ、それを察してか鴉様の目が死んでる]

[やっぱり妖ぷろ]

[そういえばこの妖怪昨日も別ゲー耐久してなかった?]

[朝の五時までやってたよね]

[人間じゃな……妖怪だったわ]

 

 そういえば今日の五時頃に儂はLINEを送ったが、それの返信もはやかった気がするな。

 早起きだなと思っていたがただ耐久していただけだと……なんじゃろうな、最近の人間の耐久力ってあがってるんじゃな――勉強になるのう。

 

「ねえ二人とも枠は二時間半あるけど、どのぐらいかかるのか分からないのだから速く設定終わらせるわよ」

「そうじゃな七尾。このままだと頭痛くなってくる気がするから、速く進めるとするか。それで一回確認させて欲しいのじゃが、今回のルールは総資産が一番少ない奴が勝者ということでいいのか?」

「そうですね。それでちょっとした縛りとして貧乏神が憑いている方はカードの使用を禁止するって感じですかね」

 

 ……貧乏神?

 そのような者がこのゲームにはおるのか、名前からして敵な気がするが……今回は貧しければ勝ちというルールのはずじゃし、つまりそのキャラはお助けキャラに変わるということじゃな。

 それでルール的に、その貧乏神を取り合う事になる感じなるのかのう?

 

[面白そう]

[その縛り賢い]

[自分も今度やってみようかな]

[なんで使用禁止なの?]

 

 コメントを見る限り、このルールはかなり面白くなるらしい。初めての桃鉄だし、楽しみたいので期待が持ててくる。

 それに儂も気になっていたカード使用禁止についてを聞くコメントもあったし、鶫の性格なら答えてくれるだろうからちょっと聞き耳を立てるか。

 

「使用禁止の理由としては、このルールだと必然的に貧乏神を取り合うことになるからですね。貧乏神を持っている時に移動系のカードを使われてしまうと、勝負にならない可能性が出てきてしまうので今日は縛らせて貰った感じです」

 

 そうやって大体のルール説明を終えてゲームスタート。順番はコンピューターによって決められて、儂が一番で三番手に鶫で決まった。 

 一番というのは気分がいいから、この気分のままどんどん借金しよう。

 

「じゃあやっていきましょうか。そうだ言い忘れてたのですが、今回は逆桃鉄という事で貧乏神がいないと楽しめないので、最初に目的地の駅に行く方を決めさせて貰います」

「確かにそれは決めないとダメね」

「なんでじゃ? 貧乏神はランダムで来るという感じではないのか?」

「初心者のママや分からない方の為に説明しますが、貧乏神は最初に決められた駅に誰かが辿り着かないと出てこないんですよ。今回のゲーム期間は四年なのですが、それだと結構早く終わってしまうので少しでも速く貧乏神のトリガーを引く方が必要なんです」

 

 そうなのか結構難しいのう、二人の反応……というか表情を見る限り、あまり目的地に行きたくない風に思えるな。

 どうしてその表情を浮かべているのか分からなかったから、それを知るために説明書を見ることにした。それで分かったのだが、目的地に最初に辿り着いたプレイヤーはどうやら援助金を貰えるらしい。

 確かに今からやるルールだと、かなりのマイナス要素。

 どのぐらい貰えるかは分からぬが、喜んで受け取る物ではないな……だけど、

 

「じゃあその役目儂に任せてくれぬか? 初めてじゃし、ちょっと一番に辿り着いてみたいのじゃ」

 

 調べた限り辿り着けば何かアニメーションが流れるらしいので、それを見たかった儂は率先してその役目を担うことにした。

 

[子供っぽい所もあるんだ]

[短時間で性癖がまた追加されてる]

[一番に着きたいんだねわかるよ]

[子鴉様可愛い]

 

 

「いいんですか?」

「なら決まりね、じゃあやっていきましょう」

「そうじゃな! ――なぜ、初手に一千万も金を渡されるのじゃ? ……金銭感覚、早速壊れそうなんじゃが」

 

 そしてゲームが始まったのだが、最初に流れたオープニングで急に一千万円を手渡され反射的にそう言ってしまった。なんだろう、今まで儂は人生ゲームという物やったことないのじゃが、ここまで金が回るゲームなのか。

 

「あれママは人生ゲームやった事ない感じですか?」

「そうじゃな。遊ぶ相手もおらぬし、機会もあまりなかったのでやったことがないのじゃ――それと自然にママ呼びするのはやめい」

「いやぁ、こうやってサラッとゴリ押せば許されると思ったんですがダメでしたね!」

「まぁ、もう今更じゃし……別に好きに呼ぶが良い、過去にそのように呼ばれたこともあるし気にしても意味がないからの」

 

[許された!?]

[じゃあ遠慮なく、ママァ!]

[我が子]

[お爺ちゃん]

[性癖過多ァ!]

 

「なんか一気に呼び名増え取るし、何より最後のは煽りか!? もうよい、目的地は長野の松本じゃしッ早速向かうのじゃ!」

 

 一気に増えた呼び名達。

 それは止まることを知らず、コメント欄が一気に加速する。  

 人間達の闇を見たような気がして、ちょっと震えながら儂は早速サイコロを回してみた。

 

 

「二じゃな……よし、マスに止まったぞ?」

 

 二マス進んで止まったのは青いマス。

 確かルールではこのマスに止まればお金を貰えるようだが、このルールだと外れじゃのう。幸先悪いが、大丈夫か?

 

「ん? なんかイベントが……」

 

 えっとなんじゃ? 

 「浮世社長、今月の営業成績が倍になったという報告が来ておりますぞ? 何倍になったか確認してみましょう!」イベントで突如として告げられたその文字。

 急にルーレットが回り出し、止めてみればそこには四倍の文字が……。

 

 

[あっ]

[この鴉……持ってやがる]

[ママァ!?]

[普通だったら、めっちゃ運がいいのに]

[鴉の子可哀想]

 

 

 最終的に最初当てた820万は、今の阿呆みたいなイベントのせいで四倍に。そして画面に表示されている千万に今の四千万が一気に追加され、一ターンで儂は大金持ちに――――これ、現実だったらなぁ。

 

「ははっ、酷くないかのう……これ」

「哀れね、じゃあ私の番よ……で、どこに向かうのだったかしら」

「松本ですね」

「長野県にあるのよね……あれ長野ってどこだったかしら……」

「え? 七尾さん?」

「は?」

「………………へー真ん中にあるのね、九州にあると思ってたわ」

 

 え、マジで言ってるのかこやつ……。

 というか、主リアルの方で陰陽師じゃろ、あれってかなり頭使うと記憶してたのじゃが……大丈夫なのか? しかしあの結界を張れる時点でかなり実力はある筈なのじゃが……もしや天才肌の人間か?

 

「幸先いいわね、早速赤マスよ。400万程度だけど誰かさんよりはいいわね」

 

[ジャブ入れたぞこの女]

[(横を見ながら)誰かさん]

[あっ(察し)]

[長野県に対するツッコミなくて草]

[え? 長野県は九州地方にあるんだよ知らないの?]

 

 流れていくコメントと進んでいくゲーム画面。

 次の番の鶫が止まったのは赤いマス。そこで彼は八百万円を手放して一気に一位に躍り出た。始まったばかりだが、現在は鶫が一位で俺が最下位。

 この後にある援助金などの事も考えるとこれから出来るだけ儂は赤マスに止まらなければならないな。

 

 

 

「何故……じゃ? 何故どれだけやろうとも、赤マスに止まれないのじゃ?」

 

 約十分後、九月頃に目的地に着いた儂は楽しみだったムービーを見ながら、生気のない目でそう言った。何故だろうか? 二人が順調に借金を背負う中、儂は今貰った援助金のせいで3億円を持つ大金持ちになっていた。

 

[悲惨すぎて草]

[流石に草]

[あそこまでプラスイベントを回収するのは才能でしょ」

 

 

「……本当に哀れね、でもここからが本番なのだから頑張りなさい?」

「うぅ、ありがとうのう七尾ぉ……」

 

 通常ルールだったら勝っている筈のこの状態、なんで儂は所持金が多いのにこんな惨めな思いをしなければならぬのじゃ? 

 じゃが、七尾の言ったとおりこれからが本番。目的地が遠ければ貧乏神が仲間になる。

 そうだこれで勝負が決まると言ってもいい、さぁ次は何処じゃ?

 負けたくないと思う儂の前の画面は進んでいく。目的地を決めるルーレットが遅く感じる程に集中し、そして選ばれたのは鹿児島。

 

「やった、儂の勝ちじゃ!」

 

 一番遠い事でやってくる最高の神。今まで不運だった事もあってかやっと来てくれた救世主は、尻を振りながら煽るように現れた。普段なら叫んでそうだが、今回ばかりは何よりも代えがたい仲間であり、ずっと一緒に過ごしたとすら思えてくる。

 

「ふふふ、主は儂を裏切るなよ……これからずっと一緒じゃぁ」

「なんかママが闇堕ちしてませんか?」

「さっきまで酷かったもの、仕方ないわよ」

 

 

[また堕ちてるよこの鴉]

[ヤンデレ堕ちした鴉を見守る保護者とその息子]

[雪椿:どうしよう、私の子供のせいでネタに困らない]

[さらに保護者増えてない?]

[先生大丈夫? 薄い本が辞書みたいなってない?]

[今度はヤンデレ物か]

[息を吐くように属性増えるじゃん」

[性癖を司るアルセウスかな?]

[それ、あと十種類以上増えるやつ]

 

 

「あっ母上母上! 儂に仲間が出来たぞ!」

 

 ちらっと目を通したコメント欄には母の姿があり、仲間が出来た喜びから儂は仲間になってくれた貧乏神を紹介する事にした。

 

 

[てぇ……てぇ?]

[雪椿:今日も我が子が可愛い]

[めっちゃ笑顔で貧乏神と一緒にやってくる鴉様を幻視した]

[貧乏神いらない]

[急に貧乏神がいなくなって悲しむ鴉様が見たい]

[それで、三期生達に泣きついて欲しい]

[↑同士よ]

[主とはいい酒が飲めそうだ]

 

 

 それに記憶通りなら今は九月で赤マスでの借金も増えていたはず。

 何ターンかかるか分からないが、キングにこの貧乏神が変身してくれたら更に儂の勝利が近づくというものじゃ。ふふ、笑いが漏れてしまうな。

 

「ふふふ、さぁここから反撃じゃ。妖狐と鵺が鴉に勝てないという事を教えてやるかのう!」

 

 



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【三期生コラボ】第一回三妖大戦~逆桃鉄編~【罰ゲームあり】その2

今回は中編になります!


 

 目的地に辿り着いて仲間も増えた儂は絶好調。

 宣戦布告も済ませたし、これからが儂のターン。貧乏神がいるかぎり儂の勝利は揺るがないし、取られても取り返せるように、コメントでおすすめされた急行系のカードは沢山買ってある。

 所持金が増えて絶望ばかりしていたが、そのおかげでカードも揃えられたししばらくは安心していいだろう。

  

 一位:七尾……-2億6000万 

 

 二位: 鶫……-1億2000万

 

 三位: 儂…… 3億2000万

 

 現在は三億円の所持金のせいで圧倒的に最下位、だけどここからはもう何も怖くない。貧乏神と名乗るくらいだし、きっと事ある事に所持金を減らしてくれて現在一位の七尾に追いつく筈だ。

 

 

「待っておるのじゃ二人とも、すぐに儂は借金まみれになってやるのでな!」

「望むところですよ! 僕だって十億ぐらい借金してやります!」

「この言葉……リアルの方で言ってたらヤバいわよね――三マス、また赤マスだわ」

 

[燃える男と冷徹狐]

[この狐赤マスにしかいけないな]

[今の所見所沢山だね]

 

 そして次の鶫は貧乏神を盗むためか儂の元に手に入れていた急行系のカードで近づいてきた。あと十数マスで追い抜かされて奪われるらしいが、連続で六等を出せば追いつかれることはない筈だ。

 貧乏神が憑いている時はカードが使えないので、運頼みしか出来ないがなんとかなると信じてサイコロを回していこう。

 

「あ、また二マスか……なんか儂偶数しか出ておらぬな」

 

 二マスで止まれるマスは青マスのみでまた金が増えるが、貧乏神がいるので怖くない。

 だから儂はどれだけ所持金が増えようと構わないので、適当にボタンを押して甘んじて4000万円を受け取ったのだがそこで異変が――。

 

「おや? なんか 変だぞ??????」

 

 

[え、まじ?]

[流石に早くない?]

[運バグってるだろこの鴉!?]

[いや、変わらないやろ]

 

 

 唐突に始まる見知らぬイベント。

 無駄にいい声つきで再生され、それを見てか加速し沸き立つコメント。

 あまりにも早く流れるコメント欄を見てみると、かなり騒いでいる視聴者達の姿が見えた。分からないまま進行していくそのイベントの情報はこの様子だとそこを見ても手に入りそうにはない。

 まぁ、とりあえず鶫に聞いてみれば分かるだろう。

 

「なぁ鶫、このイベントはなん――――」

「ま……、まさか! 貧乏神が伝説のキングボンビーに変身しようとしているのでは!?」

 

 なんじゃとそう言おうとした時に間違えてボタンを押してしまい、イベントが進み台詞が流れて儂の言葉が遮られる。

 

「え、いや本当に早くないですか?」

「この妖怪……吉か凶しか引けないのかしら」

「あのー主ら? 儂に分かるように説明してほしいのじゃが……なんかこれはいいイベントなのか? 進化イベントみたいじゃが」

「これ終わったら説明しますよママ、今はともかく最高神の誕生を見ましょうか」

 

 スリー、トゥー、ワンと、盛大に祝われながら変わっていく貧乏神の顔。 

 憎たらしい煽り顔から、赤ん坊の顔、そして頭に「び」という文字が書かれた天冠を装備している化粧する範囲を間違えただろう紫髪の何かに変わっていき――GO! という声が流れたと思えば画面いっぱいに最後の奴の顔が出てきた。

 

「キ~~~ング・ボンビー!」

 

 そいつは大声でそんな事を喋ったかと思えば、「なに、来月まで待ちきれない? いいだろう、嬉しいことを言ってくれるではないか、貴様の望みを叶えてやろう!」と、ナレーションと同じかの英語三文字の吸血鬼と同じ声で言い放つ。

 

「しかも即発動!? ママ、大丈夫ですか? 明日死にますよこれ!」

 

[この鴉麻雀強そうだね]

[役満耐久配信でもしたらすぐ終わりそう]

[バグりすぎだろ……]

[まだイベントは決まってないし、それ次第……]

 

 当事者の儂が一番ついて行けてない状況で、画面には竜巻が起こり始めて何やらまたキング・ボンビーという奴が喋り初めて、なんか儂のカードが全部消し飛ばされた――――え?

 

「え? 儂の……カード? なんで? え?」

 

 キング・ボンビーは、浮世社長のすべてのカードを捨ててしまったw。

 実際は草など生えてないが、その文字を幻視してしまうような出来事。あまりの事に思考が停止してしまい、数秒間の間頭の中にハテナマークだけが浮かび続ける。

 

「え、儂が貯めたカード……なくなったの?」

 

[目が死んだ]

[この鴉麻雀強そうだね(笑)]

[役満耐久配信でもしたら永遠に終わらなそう]

[今来たけどなんで鴉様絶望してるの?]

[それはね、鴉様はお金が増え続ける中で健気に急行系カードを集めていたからだよ]

[なんで集めてたの?]

[それはね、貧乏神がまだいない時にいつ現れても仲間にするからって意気込んでたからだよ]

[鴉様、ゲームに愛されすぎだろ]

 

 

 どういう事なのだろう? 

 儂って、一応千年ぐらい生きる中で沢山おみくじ引いて、生涯大吉しか引けてない超運がいい妖怪の筈なのに、なんだこの仕打ちは? これ攻め込めばいいのか、儂の確率バグってるから治してって運営に問い合わせした方がいいのか?

 

「あーママ、生きてます?」

「……ダメね、帰ってこれないわこれ」

「あはは、儂は……まだいけるぞ? だって、カードなくなっただけだし取られなければいいだけ……」

 

 諦めない。儂は諦めない、ここで諦めたらもう立ち直れない。

 もうこれは一対一対一対一の、儂以外の者は全部敵のデスゲーム。鶫も七尾も貧乏神も、全部利用して勝てばいい。

 

「よし次は七尾の番じゃな! そのマスなら儂の仲間は取れないじゃろう! 精々チマチマとこっちに来てみるが良いぞ!」

「そうなの? じゃあ遠慮なくいくわ」

「え? いや、儂から31マス離れとるし、無理じゃないか? えっと無謀じゃぞ流石に」

 

 確か七尾は絶好調状態というやつで、現在三個サイコロを振れるがそれでは最高18マスしか進まないので、ここに辿り着くのは不可能だ。

 

 

「忘れてないかしら? 私はちょっと前にスーパーカード駅であるものを手に入れたのよ」

「スーパーカード駅? 確かになにか貰ってたのう……確かリニアカードだったか?」

「そう私が手に入れたのはリニアカード――そしてその効果は八個のサイコロを同時に振れるというもの」

 

 

[遊戯王みたいな展開で草]

[いやでも流石にきついだろ]

[行けるんじゃない?]

[この配信で一回も4以上を出せない七尾様だぞ]

[無理だろ]

 

 

 確かにそれなら可能性があるだろうが、コメント欄を見ての通り七尾はさっきからずっと4以上の目を出してないのだ。そんな状態でこのマス差を埋めることなど出来る筈がない。

 

「私はね、持っている妖怪なの……覚悟はいいかしら? これが私の実力よ」

 

 その言葉が吐き捨てられ、画面に八個のサイコロの目が表示される。

 1・4の目が一つ、3・5・6の目が全て二つずつ――その合計は33、ギリギリで俺を抜かした七尾は、貧乏神を奪ってそのまま赤マスに辿り着いた。

 俺の後ろからキング・ボンビーが離れた直後、画面には津波のような演出。

 

「あ、運がいいわね……二人とも、旅行に行ってくるわ」

「沖縄方面に行きましょ? そっちの方がいいですよね、ママ頼むから祈ってください、じゃなきゃ僕ら負けてしまいます!」

「え、このイベントどっかに飛ばされる系なのか?」

「そうです! それで沖縄方面かハワイ方面に飛ばされるのですが、今ハワイに行かれると、絶対に追いつけないので阻止しないとやばいんです!」

「まじなのかそれは!? つまり沖縄方面ならまだ取り返せる? ――キングよ、沖縄に! 沖縄に狐を!」

  

 

[どっちだこれ!?]

[沖縄方面だったら那覇で、ハワイならグアム]

[めっちゃ気になるぞこれ]

[勝負が決まると言っても過言ではない]

 

 運命の分かれ道。

 七尾がボタンを押していき、テキストが進んでいく。

 そしてその結果は那覇で、なんとかグアムは免れた。

 

「しゃぁぁぁ! 儂らの勝ちー!」

「やりましたね、ママ……まだ僕らに希望はありますよ!」

 

 横にいる鶫とハイタッチ。

 そのままアイコンタクトで何をしてでも七尾を蹴落とすという事を決めたので、一先ずここからは共闘だ。

 

 

[宣戦布告を忘れるチョロ鴉]

[鵺鴉可愛い]

[はしゃぐ小学生のそれ]

[てぇてぇ]

 

  

「盟友、僕が屯田兵カードをカード駅で手に入れます! だから次のターンは北海道に向かってください!」

「了解じゃ盟友、狐を討伐するとするか!」

「貴方たち? これ対戦ゲームよね、なんで共闘しようとしてるのかしら?」

 

 

[これは熱いわ]

[激アツ展開]

[まだこれ始まって三十分だぞ?]

[切り抜き所多すぎて迷うな]

 

「あぁ! 三マス越えた! でも、これなら戻れます! 盟友は僕を信じて前へ!」

「その意志受け取ったのじゃ! ここは急行系のカードで一気に! ……そういえば儂、カードないのじゃ」

 

 ちょっと悲しい現実を思い出しながら、無難に5マス進んで青マスに止まり所持金を増やしながら北海道に近づいていく。

 

「共闘して私を倒す感じなのね、分かったその勝負受けて立つわ――だけど、私の勝ちは揺るがないの。ほら、仲間が増えたでしょ?」

 

 七尾が儂らの挑戦を受けた直後、悪魔が現れた演出が始まり、リトルデビルというのが三匹、デビルが九匹キングデビルが二匹……合計14匹の小さい奴らが七尾の画面に現れて彼女の画面を埋め尽くした。

 そしてその悪魔達の効果なのか、彼女の借金が一瞬で膨らんで借金の額が六億に到達した。

 

「ッ――まだ希望はあります。たいらのまさカードさえ手に入れれば全員の所持金を無くす事が出来るんです! そしたら仕切り直し、まだ一年目も終わってませんしあの借金魔王は討伐できる!」

「鶫さん? 今すっごい不名誉な渾名を付けられた気がするのだけど……気のせいかしら?」

「すぅー……気のせいですね。あ……そうだ良い感じに盛り上がってるところで、今日僕達に届いていたマシュマロでも食べましょう?」

「鶫よいくらなんでもその話題の変え方は無理があるぞ」

「そうね、もっと精進しなさい」

 

[鴉様に裏切られる息子]

[そして手を取る魔王]

[鴉様の手の平回りすぎ問題]

[私のマシュマロ読まれるかな]

 

 

「ほら、マシュマロ読み希望してる方いますよ!? 早速食べましょう!」

「まあ別にいいぞ、交流は大事じゃしな」

 

          

三妖の皆様こんにちわ

前に僕達のつぐみんが三期生の間で打ち合わせがあったと言っていたのですが  

その時のお互いに対する第一印象とかありませんか?

出来る範囲でいいので、どうか教えてください!            

         

                   マシュマロ

         

                       

 

「こういう感じでやるのね……それにしても第一印象? そんなのアレしかないわ」

「ですよね! 僕もこのマシュマロ見たときに、もうこれは食べるしかないって思ったんですよ!」

 

 画面の端にマシュマロを写すようにして、三人でそのマシュマロについて触れる事にした。

 最初に二人が触れてくれてその話題に付いていこうとしたのだが、妙に答えが一致してそうな二人に首を傾げてしまった。

 

「主ら、なんで儂を見ながら笑っておるのじゃ? ――あぁ、儂のことを話す感じという事か?」

「ですね、それで打ち合わせの時は凄かったなぁって事を思い出した感じですよ」

「そうね、貴方に会ったときは衝撃を受けたもの」

 

[分かってない鴉様と優しい声の妖狐と鵺]

[なにかやばい格好でもしてたのかな?]

[気になる気になる]

 

 

「コメント欄にも気になってる方もいますし、ここで第一印象を言うのですが! なんで妖ぷろにメイドがいるんだ!? って感じでした!」

「まっ、鶫ィ!? なぜその話をここで出すのじゃ!?」

 

 ちょっと溜めて視聴者へと告げられたその言葉。

 あまりの不意打ちに片手で強めに机を叩いてしまって、バンッといういい音がゲーム部屋に響いていく。

 

 

[いい台パンだね! 95点]

[え?]

[流石に草]

[嘘じゃないそれ]

[でも反応がマジだぞ」

[その打ち合わせって仮装パーティー?]

[今度はメイド属性]

[雪椿:!?!?!?!?]

[母上大混乱]

 

「あの打ち合わせの後で聞いたのだけど、浮世社長は運営の方達にメイド服を指定されたようよ。私も正気なの? と思ったけど、とても似合ってたし目の保養にもなったわ。多分少し視力回復したと思うの」

「もしかして今度は儂が裏切られた? それにその秘密墓まで持って行くつもりだったんじゃが、なんでここで暴露されるのじゃ? ……え?」

「次は鴉さんからの私達への印象ね、どうだったかしら?」

「おーけー、無視されるんじゃなこれ……もうなんでも来て良いぞ? 儂の最大の秘密が暴露された以上、恐れるモノなどないからのう――で、儂からの印象としては。鶫に対しては話すまでは陽キャで、その後は盟友。七尾は格好いい感じの女性じゃな」

 

 もうなんか吹っ切れた。

 これ以上属性は増えないだろうし、何が来てもいい。

 コメント欄には「ご主人様」とそう呼んで欲しい視聴者様も現れているし、もう何も失う事のない。

 そして儂はこれからの配信でメイド口調も使おうかなと現実を逃避し、乾いた笑いを漏らしながら、二人との初対面の話をした。

 

 

 

[話題が妖ぷろすぎるわ]

[運営もやばいけどそれを着ていく鴉様もやばい]

[だけどグッジョブ]

[二人に対しては解釈一致]

[鴉様の話題、ビックバン級の衝撃なんだけど……」

[これからメイド服のFA増えそうだな]

[即堕ち系有能ポンコツ儂ショタママメイド]

[雪椿:描かなきゃ、私の命に代えてもこの子を後世に残さなきゃ]

[キメラ大好き:手伝おうじゃないか!]

[つぐみんのママじゃん!]

[そしてここに、子鴉様同人誌化計画が始まったのであった]

[参加するわ]

 

 

 ある一通のマシュマロから広がった混沌。

 それはこの配信をより一層盛り上げて、それを機にしてさらに逆桃鉄は進む。そして一年が経過したことにより一度画面が切り替わった。

 

         

収益額  一年

一位浮世社長                       6億7000千万円    

2位つぐみん鉄人                   -4億5600千万円    

三位七尾社長                     -9億7600千万円  

 

  

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【三期生コラボ】第一回三妖大戦~逆桃鉄編~【罰ゲームあり】

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次回のその3で、長かったコラボ編は終わりです! 
三妖のコラボ回、どうか最後までお付き合いください!


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【三期生コラボ】第一回三妖大戦~逆桃鉄編~【罰ゲームあり】その3

コラボ回後編! 
後書きにちょっとしたアンケートあるのでよければどうぞ。


         

収益額  一年

一位浮世社長                       6億7000千万円    

二位つぐみん鉄人                   -4億5600千万円    

三位七尾社長                     -9億7600千万円  

 

  

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【三期生コラボ】第一回三妖大戦~逆桃鉄編~【罰ゲームあり】

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 一年経過した現在のゲーム内での順位はこんな感じだ。

 儂らがいまやっている逆桃鉄だとそれが反転するので、今回の配信でのルールだと儂が最下位……何をやっても増える所持金、それについて考えると頭が痛くなってしまうが、まだ一年目が終わっただけであと二年残っている。

 双六というモノは元来最後まで何が起こるか分からないし、そしてランダム要素を加えただろうこのゲームの事ならそれは尚更。あと三年の間に逆転のチャンスはまだまだある――そして何より……。

 

「よし、僕のターンですね……ふふふ、やっと手に入れたこれを僕は使わせていただきます! お願いします!」

 

 使われるのは貧乏神を奪うための光になるかもしれない屯田兵カード。

 効果を見る限りこのカードは誰か一人を選択して北海道に飛ばし、そのまま一ターンを奪う最強カードの一つ。

 

「まあいいわ、今更奪われても問題ないもの……でも狐の恨みは恐ろしいのよ、覚えておきなさい」

「それ僕に言います? 七つの尾の妖狐程度が、鵺を祟れるとか思って欲しくないですね!」

 

 そんな言い合いの後に画面が進み、海外旅行を楽しんでいた七尾はそのカードによって飛ばされて、北海道の江差に辿り着いた。この攻撃を行う為に五巡もしてしまったし、七尾の借金が十億に達しそうになっているが、これでやっと喉元に噛みつくことが出来る。

 

 

 

[やっぱり熱いぞ、この配信]

[平安時代を代表する鵺と、式神の狐……この戦いどうなるんだ?]

[普通ならぶっちぎりで一位の筈なのに蚊帳の外の鴉様]

[もう、僕は鴉様がいじめられるの見たくないよw]

[「わぁー、十二月になったし赤マスの量が増えるのじゃ! ……なんじゃサンタかこやつ……え、儂に三億? この爺さん気前いい――――滅べ聖人! 二度と儂の前に姿を表すな阿呆!」]

[あれはもう……バグ]

[かつてあれほど妖怪を煽るサンタがいただろうか?]

[ぼん鴉、金を減らして、ドヤ顔だ]

[そしたらすぐに、お金がふえて、表情曇らせ、泣き顔だ]

[俳句と都都逸が混ざった!?]

 

 

 このカードが使われるまで、コメント欄に目を通す機械と化していた儂。偶然見てしまったコメントで12月に現れた髭の悪魔の事を思い出してしまい、さらに精神にダメージが与えられる。

 だけどやっと繋いでくれた鶫のバトン、それを儂が落とすわけにはいかないので、奪うために5の目が出るのを祈ってボタンを押す。

 

「1じゃな……まだ無理か」

 

 

[そしてここで参戦する鴉]

[浮世鴉参戦!]

[そろそろ貧乏神に戻る気がする……」

 

「出目は二……また赤マスね、それにこれは奪われるわ」

「よし! これなら奪えます! 僕は観光してるので、盟友任せましたよ!」

 

 カードを手に入れるまでに順調に借金を重ねていた鶫。そんな彼は駅に止まる度に、その駅がある県の特産品等を語るという事をさっきからしていた。

 盟友の借金が増えるのを見ながら、謎の知識が増えていくという状況にはツッコみたかったが、我慢した儂を誰か褒めて欲しい……あ、鶫が上野に止まった。

 

「あ、上野ですね――またこれ食べ物の話になってしまうのですが、ここらへんにとても美味しいとんかつ屋があるそうなんですよね! ちょっと気になって調べたのですが、写真だけで美味しそうだったんですよ」

「そうなのか? ……そうじゃ、今から儂がキング・ボンビーを奪うから、成功したらそのとんかつ屋で宴でも開くのはどうじゃ?」

「いいですね! 勿論奪われた方が、奢るという事で七尾さんは首でも洗っててください!」

「それ私にメリットあるのかしら、流石に不公平よ」

「あ、そうですね。ならママが奪えなかったら二万円分はうまい棒でちゃんと返します」

 

 

[そんなにうまい棒はいらない]

[いやいいことだろそれは]

[いや待って欲しい、この鵺サラッと二万円分奢られようとしてないか?]

[神経が図太すぎる……]

 

 

「あ……奪えなかったのじゃ。一足りないのう。すまぬ鶫、あと儂にもうまい棒くれると助かる」

「……出目的に同じマスね。盗られたわ……勝手に決められた事だけど、今度そのお店には行きましょう? あと鶫さん、私に送るうまい棒の中に一本でも納豆味が入ってたら祟るわよ」

「アッハイ、二人に送らせていただきます。調子乗ってすいません!」

 

 儂が提案した事だが乗った鶫が悪いし、儂に矛先が向くのは面倒くさい。だから擁護せず今回は七尾側に回り、うまい棒を沢山手に入れることにした。

 それと七尾が同じマスに来たことにより、儂に今度はキング・ボンビーが取り憑いてくれたようだ。

 

「いいこと尽くめじゃな!」

 

 

[提案した本人に一切罰がないのは笑う]

[十分罰されたからじゃない?]

[多分な、今までのが酷すぎた分きっと二人は優しくなってるんだろう]

 

 

 だけど奪った直後にキング・ボンビーは、元の憎たらしい貧乏神へと戻ってしまう。

 それがちょっと残念だったが。ここから逃げ切れば勝てるかもしれない。そんな希望を持ちながら儂は、少しでもターンを回して借金を増やしていく作戦でこれから頑張ることにした。

 

「そういえば主ら、すごい今更じゃがタイトルの罰ゲームとは何じゃ? 桃鉄に関係あるような事なのか?」

「あ、それなら最下位の方にホラゲーをやってもらう感じになりますね。安直ですが、それが無難ですしね」

「ほらー? ……げーむ?」

「発音が完全にいまお爺ちゃんだったわね」

「あれもしかして、ママはホラゲ駄目な感じですか?」

「いや、ホラゲ……ゾンビが出たり殺人鬼に追いかけられるのは大丈夫じゃ……ただのう、幽霊が――苦手、なのじゃ」

 

 

 演技でもなんでもなく儂は幽霊が苦手だ。

 理由としては触れないし、急に出てくるし、何より祓う力とかないので凄い悪戯されるからだ。むかし恐山に遊びに行った時とか、本当に怖くて大妖怪の威厳とか全部吹っ飛ぶほどに騒いでしまった思い出もある。

 

 

[NEW:幽霊苦手]

[そしてまた属性が追加されたのであった]

[ちゃんちゃん」

[絶対勝ってくれつぐみん! 俺は鴉様のホラゲ実況が見たいんだ!]

[泣き顔鴉様が見たい!]

[負けたら絶対に許さない]

[つぐみん? 分かってるよね?]

 

 やばい、儂の負けが凄い望まれている。

 というか現在進行形で、儂が最下位じゃし本当になんとかせんと死ぬ。逃げなければ、そしてすぐにキング・ボンビーになって貰ってグアムに飛んで、そこでデビルカードを沢山貰うんじゃ。

 

「あれ、僕に対する圧が酷い気がするのですが……まあ僕が負けるわけないので、応援しててくださいね、もし負けたらマリアナ海溝に沈めて貰っても構いませんよ!」

「ふふ、その借金で私に勝てると思ってるの? 5億も差があるうえにデビル達が私の背後にいるのよ? ほら、また1億失ったわ」

 

 適当にマスを進む七尾は、少しマスを進むごとに1億近くの借金を手に入れる。

 その効果は強すぎるがまだまだ希望はあるので、つぎの鶫のターンを見て見よう。

 

「秋葉原ですか……それならケバブですね! そうだ終わったら皆で食べましょう? 凄い美味しいケバブ屋知ってます! まあ僕ケバブ食べたことないんですが……」

「じゃあなんで知ってるのよ……まあいいわよ、行きましょう」

「おーけーじゃ、儂もケバブ食べたことないので楽しみじゃな」

「ですよね! 食べたことない食べ物って食べたくなりますよね! あ、そろそろゲーム内の僕もケバブ食べたっぽいですし、次はママのターンです」

 

 

[これが陽キャか……]

[仲いいなこの三人]

[大丈夫? ゲームの中のつぐみん無銭飲食してない?]

[食い逃げダイナミック]

 

 

「はい、ですから速く次の番が回ってこないと無銭飲食で捕まるのでお願いします二人とも!」

「それ進めない方が世のためじゃない?」

「大人しく捕まるのじゃ鶫」

「……あれ?」

 

 

         

収益額  一年

一位浮世社長                      14億3500千万円    

二位つぐみん鉄人                -12億6300千万円   

三位七尾社長                   -64億8400千万円   

 

  

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 3年目の総資産の発表。

 そこに映っているあまりにも堂々とした14億の文字。

 2年目は色々あったな……所持金を減らすために視聴者達に教えられた「隠し金山パーク」を購入したらイベントが起こって、6億3千万円を貰ったり……せっかくキング・ボンビーに貰ったデビルカードをアカベゴンとかいう化物に捨てられたり、貧乏神がヒヨコになったり、そのヒヨコが赤マスを青マスに変え続けたり……。

 

「……なぁ、主ら? 儂ってなんじゃ? 儂だけ普通の桃鉄やっておるのか?」

「………………私達の仲間よ」

「そして僕のママですね!」

「主ら……こんな儂でも仲間だと思ってくれるのか?」

「ええ! 僕達はずっと仲間ですよ!」

「そうね、私も仲間よ……だから強く生きなさい」

 

 慰めてくれる仲間達の言葉、それは今の儂にはとても刺さって、自然と涙ぐんでしまった。ふっ、儂はいい仲間を持ったのじゃな。

 

 

[三期生てぇてぇ]

[皮肉かな?]

[いい話だなー]

[頑張れ鴉様]

 

「そうか……ならその借金を儂に与えてくれぬか? 仲間じゃろ?」

「それは無理ね」

「これ、真剣勝負ですよ?」

「絶対に蹴落としてやるから覚えとれ」

「望むところね」

「負けませんよ?」

 

 よし決別じゃ、ねじ伏せる。

 覚悟しろ阿呆共。

 

 

[流石に草]

[裏切りの先発組]

[知ってた]

[ギャグかな?]

 

 

 そうしてそのまま勝負は続いていき、儂に取り憑いた状態での貧乏神による変身。またキングになってくれればいいが、それは運なのでどうしようもないだろう。ただ今はそれを信じて画面を見守るだけ。

 2年目の間に貧乏神は、儂に憑いてたときにピヨピー、鶫に憑いた時にはミサイルボンビーへと変身していて、今からの変身が最初と合わせて4度目となる。

 頼むからキングへと変わってくれ!

 

 

「しっ! よし、これでいけるのう。あとはさっき願った理想を実現するだけで最下位は免れる! そしてそのまま勝利へと向かうのじゃ!」

「ちなみに盟友……その理想とはなんですかね?」

「え、かなり慎ましやかな理想じゃよ? ただ……グアムに飛んで、そこでデビルカードを沢山貰ってコメントで見たボンビラス星に向かうというとても慎ましやかで矮小なそんな望みじゃ……そのぐらい願わせてはくれないか?」

「強欲の化身ね、そんな事起こったら死ぬわよ?」

「まぁまぁ、今までのを考えるとあるかもしれませんね諦めないでください!」

 

 

[強欲の化身すぎてやばい]

[ドン引きされてて草]

[つぐみんそれフォローなってないよ]

[すぐにキング盗られそう(小並感)]

 

 

壱兆円 
 

 

「なんじゃ?」

「は?」

「まじ……ですか?」

 

 上から降ってくるその文字。

 初めて見る演出に驚いていると、過去類を見ないほどにコメント欄が加速して、大変な事になっているのが見えた。

 

[やりやがったこの鴉]

[望んだ以上のモノ手に入れてて草]

[初めて見た]

[草]

[笑]

[やってるわまじでw]

 

 

「浮世社長? 一兆円という言葉は美しいと思わないかね? 長き年月を積み上げて手に入れるそんな至高の大金――命を賭して、何代という年月を使い、手に入れる事が出来るかもしれない莫大な富……だが私は思うのだそれを失った時の輝きは手に入れた時よりも強いモノだと!」

「え、つまり!? マジか、マジなのか!?」

「兆と書いて兆しと読む――さぁ貴様へと破滅の兆しを見せてやろうではないか! 私が捨ててやろう、貴様の一兆円をなぁ!」

 

 浮世社長は一兆円を奪われた。

 少し短いそのテキスト、それを見た瞬間今までの苦労が報われるような気がして……自然と儂はこの最高神に感謝を捧げていた。

 

「感謝なのじゃ、主を認めよう……貧乏神の王よ」

「僕、今日歴史的瞬間をみたかもしれません。ママ貴方がナンバーワンです」

「これは、もう負けねせめてホラゲーをやらない為にこのまま頑張りましょう……でもおめでとう、この負けに悔いはないわ」

 

 

[完全に決まったな]

[これは伝説の回]

[絶対に視聴者増えるだろうなこれ」

[おめでとう]

[おめでとう]

[エヴァかな?]

 

 もうこれからは消化試合、最高の仲間と共に儂はこれから借金まみれで観光しよう。

 そうだこのキング・ボンビーというかけがえのない友と一緒に、食い逃げして勝利の美酒を楽しもうか……やったぞ雫、ホラゲーから逃れたのじゃ。

 そしてそれからも、儂以外の二人が熱い戦いを繰り広げ最下位争いをするなかで儂は旅立った王を見送り、とても穏やかな観光を最後の時まで堪能しよう。

 

「あと2ターン、長かった試合も終わるのじゃな。最後まで楽しもうか……あれ、なんじゃ? またイベントじゃ……運命の女神?」

 

 

[あっ]

[やめてあげて、本当にやめてあげて!]

[もう駄目だ腹筋がマジで死ぬ」

[おめでとうw]

[もう、休め……十分やっただろ鴉様は]

[黙祷]

 

 

「なんじゃ視聴者様よ? なぜ、そんな反応を? 運命というからには悪いこともあるんじゃろう? なぜ、そんなお通夜ムードになっとるんだ? いや、あの……主らもなにか喋って、くれぬか? 鶫? 七尾?」

 

 何故かあれほど勝利を祝ってくれたコメント欄と、白熱した戦いを披露していた儂の仲間達がそんな悲しい反応をしてきた。これはどういう事だろう、ここから先のテキストを読むためにボタンを押さないといけないのに、どうしても指が動かない。

 だけど枠的に進めなきゃいけないので、震えながらボタンを押すことにした。

 どうやら、運命の女神が浮世社長の上に微笑むようだぞ……なんだろう、もう嫌な予感しかしない。

 

「私は運命の女神! 浮世社長、今までの戦いを見ていましたがお困りのようですね! しかも! いつも持ち金がマイナスで、手の打ちようがないと思っていらっしゃいますね! だからここは私の力を使って、持ち金をゼロ……つまりリセットしてあげましょう!」

 

 

[あっ……もう、やめてあげて]

[煽っているよこの女神]

[このルールにおける邪神じゃん……クトゥルフに出れるだろうこれ」

[黙祷……よく、やったよ]

[過去一目が死んでるように見える]

[何も言えないな、これ]

 

 

「………………」

「あの……盟友? 鴉さん? ママ?」

「……………………………………」

 

 言葉が、出なかった。

 

「あの鴉さん? 本当に大丈夫? 表情筋が完全に凍ってるわよ?」

「………………のじゃ? あぁ、なんですか私の子供達ではないですか。何かありました? 私に何か用事でも……そうですか……今日は友達とゲームをしてきたんですね」

「あの盟友? 凄くいい穏やかな女性の声で急にそんな事を言われるとかなり怖いのですが、あれ……バグりました?」

「鶫さん……そっとしてあげましょう? もう、彼は戻って来れないの」

 

 こんな事ってあるんじゃな。

 凄い勉強になったのじゃ、1日の中で何度も大吉と凶を引き続ける事もあるのだなと……あぁ、なんて波乱万丈なゲームなのだろうな、桃鉄は……。

 最後のターン、二人は最後も赤マスに止まり……全てを失った儂は、最後の最後に「たいらのまさカード」を手に入れて、持ち金ゼロで勝負を終えた。

 

 

 

         

収益額  一年

一位浮世社長        0円

二位つぐみん鉄人                -34億8100千万円   

三位七尾社長                   -94億9200千万円   

 

  

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【三期生コラボ】第一回三妖大戦~逆桃鉄編~【罰ゲームあり】

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アンケートは金曜日まで募集してます。
最終的にどっちも書くのですが、この二つだったらどっちが先に見たいかなと気になっただけなので気軽に投票してください。


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掲示板と切り抜き師+α

 アンケートめっちゃ接戦でしたが、九票の差で三つ目の選択肢である掲示板回と雫回を混ぜることになりました!
 今回も浮世鴉がやるホラーゲームのアンケートをやらせて貰うので気軽にお選びください。
 あと今回めっちゃ長くなっちゃった。


 

【VTuber】妖ぷろついて語るスレ:その×××

 

1:名無しの小妖

はいはい新スレ立てたーよ。

↓テンプレーね

VTuber事務所の妖ぷろに所属する妖怪の方々に関するスレです

テンプレは>>4まで。

特定のVTuberの方に対する過度な叩きはやめよね。

荒らしはスルー推奨。

・次スレは>>950が宣言して立てる事。

・もし>>950が立てられない場合は番号で指定するか、立てられる方が宣言してあげてね。

 

2:名無しの小妖

■公式サイト

・妖ぷろ

ここから

・夜行

こっち本社

■公式ツイッター

・妖ぷろ百鬼夜行

公式アカウント

・妖ぷろ一期生

奴良瓢鮎

依童神虎

山主法眼

・妖ぷろ二期生

九十又仙魈

阿久良椛

・妖ぷろ三期生

源鶫

七尾玲那

浮世鴉

■妖ぷろ非公式wiki

妖ぷろ百鬼道

 

Q.配信スケジュールが知りたいです!

A.百鬼道にまとめてくれてる有能妖怪がいるからそこがおすすめ。

 

Q.実況したい! 配信を皆と楽しみたい!

A.実況板はここ

公式コラボの時とか盛り上がるよ、一緒に楽しもう。

 

所謂魂とか前世とか呼ばれる方達に関する話題はNG。

僕達は妖怪を見に来たのだから、人間の話題はあまり出さないでね。

 

 

3:名無しの小妖

スレ立ておつ! 

 

4:名無しの小妖

待機所見る限り今日は公式コラボっぽいね、実況板盛り上がりそう!

 

 

 

 

 

473:名無しの小妖

今頃実況板ヤバいほどに盛り上がってそうだね

 

474:名無しの小妖

わかるわ

笑いすぎたからここに避難したけど、あの配信は神回すぎるから

475:名無しの小妖

実況板に人行ってるからいつもより盛り上がってないけど、戻ってきたらヤバそう(小並感)

 

476:名無しの小妖

過去一感想言い合いたいよ

もう抑えきれる自信がない……なにより鴉様のメイド服の話題がッ!

 

477:名無しの小妖 >>476

落ち着こう、ここにいるみんなだって抑えてるんだ

あと二十分で終わる

だから我慢しよう!

 

478:名無しの小妖

とりあえず今は一期生や二期生の話題でも

ねえ! 昨日の依童(よりわらし)様やばくない!? 農業ゲームで胡瓜作って珍しく笑ったんだよ!

 

479:名無しの小妖

わかる。普段冷静なのにゲームで胡瓜が育ったり、実家から新しい胡瓜が送られて来たときにすっごい嬉しそうに感情出すから本当に見てて飽きない。

480:名無しの小妖

半年間クールキャラを貫いてたのに、配信中に宅配受け取ってそれが実家からの仕送りだと知ったときの落差が面白すぎる。

なんで胡瓜一本で、あそこまで純粋に笑えるんだよ可愛いかよ

 

481:名無しの小妖

子供の頃から胡瓜と育ってきたらしいからね、きっと胡瓜を家族に見立ててるんだよ

 

482:名無しの小妖

その家族を晩酌配信で山程食べる河童ぇ

 

483:名無しの小妖

 

484:名無しの小妖

それは作ってくれた親河童と育ってくれた胡瓜への感謝だからセーフ

 

485:名無しの小妖

食べない方が勿体ないからね

 

486:名無しの小妖

一期生と言えば最近総大将も凄い可愛いよね

 

487:名無しの小妖

あ、分かる。

普段はオレッ娘でカッコ可愛いのに、三期生が仲間になってからお酒飲むことも増えたし強かったはずなのによく酔ってるんだよ!

あれだけ酒猫と勝負して勝ち越してる総大将が、10%程度の酒で酔ってるんだよ? さらに鴉様の話題が少しでも出たら饒舌になるし……駄目だ尊死する

 

488:名無しの小妖

総大将マヨイビトだったのか

 

489:名無しの小妖

ということは互いに推し?

 

490:名無しの小妖

てぇてぇ……

 

491:名無しの小妖

残りの一期生の狂天狗だけど……いつも通りだったね

 

492:名無しの小妖

うん、いつも通りガチャで発狂してFPSで無双してた

 

493:名無しの小妖

あの天狗マジで天井以外当たらないよな

 

494:名無しの小妖

そしてその腹いせにボコボコにされる眷属達

 

495:名無しの小妖

三天井爆死からのスマブラ五百人抜きは記憶に新しいわ

 

496:名無しの小妖 >>495

ウッアタマガ……あのトラウマが、

やめて僕のタイツのお姉さんを蹂躙しないで……コワイテングコワイ

 

497:名無しの小妖 >>496

やだいやだ天狗が来るやめて、皆飛ばされる何人もの仲間達が……片翼の天使に

 

498:名無しの小妖

挙げ句の果てに目隠しして十人抜き

あの天狗マジで何者なんだ

 

499:名無しの小妖

七体一の状況で50%もいかず全員を飛ばす偉業の切り抜きはずっと再生数伸びてるよね

 

500:名無しの小妖

昨日のFPS……確か、仲間二人回線落ちてたのに一位とったからね。

 

501:名無しの小妖 >>496 >>497

トラウマ発症中の方達には触れないスタイル好き

ちなみに私もやられた……私のゴリラが……ゴリラ達が……

 

502:名無しの小妖 >>501

触れたら狂天狗にトラウマ持ってる人達が沢山出てくるからね

多分一瞬でスレ埋まるから

 

503:名無しの小妖

そうだね、あの天狗は魔王すぎるからね

ちょうど話題変えれそうだし、ここからは二期生について話す?

 

504:名無しの小妖

二期生どっちも女性でキャラ濃いよね、どっちも好き

 

505:名無しの小妖

じゃあ、今回は椛様からいかない?

 

506:名無しの小妖

椛さんの最近の配信だと……ASMRと寝落ち用の朗読、

 

507:名無しの小妖

あとはリスナー参加型の麻雀かな?

 

508:名無しの小妖

ぽん童子……

 

509:名無しの小妖

あれ最初に言った奴まじで天才だと思う

 

510:名無しの小妖

異様にポンしまくるポンコツ鬼。

 

511:名無しの小妖

鬼だからね相手から奪うのは仕方ないよ。

 

512:名無しの小妖

ASMR用の炭酸水を喉渇いたから飲んじゃった話好き

 

513:名無しの小妖

作られたポンじゃなくて、ガチもんのポンなのが更に好き

 

514:名無しの小妖

分かる

さらに天然すぎて普段ボケの酒猫がツッコミに回るしかないの本当にすこ

 

515:名無しの小妖

酒猫といえばあれだよね、二時間で十五本以上の酒を飲み干したあの配信

 

516:名無しの小妖

3D配信的にかなり小さい筈なのにどこにあの量の酒が入ってるんだろうか?

 

517:名無しの小妖

食べ物も忘れるな、満漢全席を完食する大食らいだぞ

 

518:名無しの小妖

仙魈(せんしょう)ちゃんはあれだよね、本当に純粋にゲームを楽しんで遊ぶから大好き

 

519:名無しの小妖

私もあの無邪気な笑顔に救われた。

あの娘の配信は初めてゲームをやった時の事を思い出せるから本当に見てて一緒に笑える。

 

520:名無しの小妖

お、配信終わって十分経ったしそろそろ帰ってくるかな?

 

521:名無しの小妖

やっとか、もう待ちきれないぜ!

 

522:名無しの小妖

実況板組帰還! ただいまより感想会を始めるが構わないか!

 

 

 

 

 

745:名無しの小妖

もうあれだ鴉様が最高すぎたよな今回!

 

746:名無しの小妖

だよね、本当にやばかった

なんであそこまで配信とゲームに愛されてるんだ?

 

747:名無しの小妖

即堕ち系有能不憫ポンコツホラゲ苦手ヤンデレ儂ショタママメイド好き

 

748:名無しの小妖

もう属性が次郎系ラーメンなんだけど……

 

749:名無しの小妖

まじで18個の属性手に入れそうだな

一瞬だけ見えた性癖を司るアルセウスが天才すぎる

 

750:名無しの小妖 >>747

幽霊が苦手なんだ二度と間違えるな

 

751:名無しの小妖

あ、鴉様ガチ勢だ

そうだったね、妖怪とか人間は怖くないって言ってたから幽霊だけか苦手なの

 

752:名無しの小妖

本人には言えないけど、バグったの最高だった

 

753:名無しの小妖

同意しすぎて銅像なるわ

またバグらないかな、あれ聞いた時目覚めちゃったんだよ

 

754:名無しの小妖

その性癖は自分が引き受けるので寝ていてくれ……

あのママは強すぎるから戻れなくなるぞ

 

755:名無しの小妖

それでも構わない! 

推すって決めたんだよ!

 

756:名無しの小妖

じゃあ、一緒に行こうか

一緒に……おぎゃろう

 

757:名無しの小妖 >>756

あぁ!

 

758:名無しの小妖

こうして、鴉様の子供が増えたとさ

ちゃんちゃん

 

759:名無しの小妖

不思議なんだけどさ、鴉の声帯変幻自在すぎるよね

あとどのぐらい引き出しあるんだろう?

 

760:名無しの小妖

無限じゃね? 

どんな声でも真似れるっていってたし

 

761:名無しの小妖

かもね

 

762:名無しの小妖

話戻すけど、鴉様の運ヤバいよね

 

763:名無しの小妖

七尾様の言ったとおり、大吉と凶しか引かなかったしね

 

764:名無しの小妖

どうやったら一度の配信で一兆の借金手に入れてそれを無くせるんだよ……

 

765:名無しの小妖

きっと天賦の才だよ

 

766:名無しの小妖

脱線するけど、今母上爆速で絵を描きまくってるらしい。

 

767:名無しの小妖

今回三つも属性増えたからね。

きっとヤンデレ鴉様・メイド鴉様・ママ鴉様・怯える鴉様を量産してるんじゃない?

 

768:名無しの小妖

ショタの絵に関しては右に出る者いないからね、自分の性癖を満たせるのは自分だけを完全に体現してる人だし

 

769:名無しの小妖

明らかに鴉様を描き始めてから呟く数も増えたし、何よりキャスでの早口が磨きかかってた

 

770:名無しの小妖

よしちょうど770とったし、次は七尾様の話題だな!

 

771:名無しの小妖

借金魔王か……

 

772:名無しの小妖

あの妖狐はなぜあそこまで赤マスを踏めるのだ?

 

773:名無しの小妖

あれも才能、どこいっても赤マス集まってる場所に行けるっていう才能

 

774:名無しの小妖

最後の雑談で、初めて双六で勝てたっていってたよね。

配信終わるまでずっとママ化してた鴉様が慰めてた

 

775:名無しの小妖

最下位なのに勝者の子供を褒めるママの鏡

 

776:名無しの小妖

「私初めて双六に勝ったわ。いつも振り出しに戻るか、何故か爆死してたのに……なんか勝負に勝ったのに負けた気がするわね」

「そう卑屈にならないでくださいね、きっと今までのは今日友達に勝つための布石だったのですよ?」

「あの、ママ……僕にも何か」

「そうですね、二位おめでとうございます。この後ちゃんと一緒にご飯食べましょうね鶫。私の奢りですよ」

「ママァ!」

 

777:名無しの小妖

首を傾げる七尾様とオギャる鵺。

完全にママと化した鴉様……うん、最後までお腹いっぱい!

 

778:名無しの小妖

いまちょいと鴉様の切り抜きで検索してみたけど、凄い量あって草

 

779:名無しの小妖

でも勢い増すのはこれからだぞ?

多分あの鴉様を推しすぎてるあのチャンネルが漫画動画あげるからな!

 

780:名無しの小妖

突如として現れてマヨイビト達の巣となったあれ

 

781:名無しの小妖

既に10本以上切り抜きを上げてるのに休むことを知らないやべーの

 

782:名無しの小妖

鴉様が出た動画ってまだ4本なんだよね……

 

783:名無しの小妖

しかも雪椿先生監修の動画だからな、クオリティが段違い

 

784:名無しの小妖

あぁ、楽しみすぎる!

 

 

 

 

 

                     

 

 

 

 

 

 

 

 

 

▶ ▶❘                                 CC ⚙ ろ わ だ 

【切り抜き】 鴉様物語:洋菓子堪能編   【マヨイビト】

46398 回視聴・20××/07/27

い3.2万 う357 へ共有ほ保存 …


マヨイビトの隠れ神社 Ch

チャンネル登録者数 9768人

 

「如月先輩、進捗どうですか?」

 

 自分が一日前に出した動画を再度視聴しながら、妖ぷろのスレッドを見てた私は氷風呂で休んでる二つ年上の先輩に声をかけた。

 

「んー……そうだね、確認頼んでもいい? 四つほど新しいの描けたから」

「ありがとうございます……氷追加しますね」

「ありがと、優しいね」

 

 だらーっと、風呂を楽しみながら自分の氷で作った分身でペンタブを手渡してきた先輩。

 そんな彼女が新しく描いた彼の姿を確認して、不満な点を7カ所ほど見つけた私はそれを伝えてから、今日の昼頃までやっていた公式チャンネルの動画を切り抜いて編集を始めた。

 

「そういえばさ、私も彼の絵を描くときはかなり拘ってるけど、やっぱり段違いだね。言われたらそっちの方がいいって思う箇所すぐ見つけてくれる」

「それほどでもないですよ? ただ昔から見てますから違和感を見つけられるだけです」

 

 神様状態の彼のヤンデレモード部分を今回は投稿する事に決めた時、如月先輩が声をかけてきたので、そんな風に淡々と私は返事をした。

 ただずっと見てきたから、些細な違いに気づけるだけなのだ。

 私と同じ時間を彼と過ごしたヒトがいれば、多分気付く違いだったし、誇れることではない。

 

「というか私は言い過ぎではありませんか? 先輩の絵ですし、私が口出す必要ないと思います」

「駄目だね、私ってちゃんとやらないと気が済まないの。妥協したくないんだ……特に彼に関することはね、その為に君が必要だから手伝って貰ってるんだよ? 雫ちゃん」

「……そういう事なら、これからも手伝わせていただきます」

「うん任せるね」

 

 それなら期待に応えなければいけませんね。

 如月氷華(きさらぎひょうか)先輩……というか雪椿先生には漫画風の動画の作り方を教えて貰っていますし、その恩は返さないといけませんから。

 

 

「ふふっ、楽しそうですね神様」

「どうしたの雫ちゃん?」

「……なんでもありませんよ、如月先輩」

「そうなの? あ、アイス貰える……糖分欲しい」

「了解しましたちょっと持ってきますね」

 

 いけない、彼の楽しむ姿を見てたせいで気が緩んでいたみたいです。

 今日の配信での彼の楽しみながら仲間と遊ぶ姿や、スレッドやコメント欄で彼によって感情を動かされた人達……それを思い出してしまったせいでどうにも今日は自分を抑えれそうにない。

 普段使わないようにしている表情筋が、凄い働いてしまってる。

 

「まぁ、鴉様が帰ってくるのは深夜でしょうし……それまでに落ち着けばいい話ですね」

 

 メッセージには「打ち上げあるから遅くなる」と来ていましたし、今日は先輩と二人きりで作業だろう。それなら見られる心配もないので、今日ぐらいは笑ってみてもいいですよね?

 

「アイス……バニラ味のこれですね」

 

 氷菓子専用の冷蔵庫の中から常備されているアイスを取り出して、とても冷え込んでいる部屋に私は戻ることにした。中に戻れば氷風呂のおかげで回復した先輩が先程の2倍の速度で作業していたので、私は邪魔にならないように彼女の近くにアイスを置いておく。

 

「音声の編集はしましたし、あと今日は描くのを進めますか……あ、このシーンいいですね」

 

 編集した音声を何度か聞き返しながら、拘りたい場面を頭の中で選んでおく。

 今回の切り抜きでは貧乏神に病む鴉様の所に力を入れないといけないし、目のハイライトの勉強もしなければいけませんね。

 願望になってしまいますが、私だったら暗いジト目で見られたいですし、そこは手が抜けません。それにそれが終わったら三日後に出すつもりでいる予定の、メイド服の話を出されて机を叩くやつも作らないといけませんし――――。

 

「あぁ、やりたいことが多すぎますね。明日は学校で時間ないのに」

 

 それもこれも、鴉様が頑張るのが悪い。

 数年ぶりにやる気を出して頑張ってる姿見せられたらこっちも頑張っちゃうじゃないですか……本当に酷い神様ですよね。

 

 

「あ、明日の朝ご飯の仕込み……忘れてましたね」

 

 午後9時頃、一通りの作業を終えて先輩で涼んでいるとそんな事を思い出す。

 明日は和食を作る予定だったが、ちょっと拘りすぎちゃって作る時間がなくなってしまった。

 …………今から作るとなると寝坊してしまうかもしれませんが、まぁ寝坊したらしたで仕方ないです。

 

「きっと次はホラーゲームの配信ですし、普段見せない面が見れるはず……そう思うとやる気が湧いてきましたよ」

 

 今度の配信の事を思い出してそんな事を口に出し、やる気を出してご飯を作る事にする。

 

「そっか、次ホラーゲームだね……さっき怯える浮世君の絵描いたけど見る?」

「見ます! あっ、見せてください」

 

 立ち上がってみれば、独り言に反応した先輩がそんな事を言ってきた。

 普段絶対に私には見せないような姿だが、この先輩にかかれば絵として完全に再現されてしまう。圧倒的画力から描かれるのは、まるでそこに本物がいるような絵。そんな鴉様の絵なんて見たいに決まってるので、時間がないのにちょっと私は声をあらげてしまった。

 そんな私を微笑ましそうに見ながら、彼女は完成した絵をパソコンに送ってくれたので、すぐに私は保存した。

 

「はいはい――――そういえば何やるんだろうね? 私的には雪女が出ると嬉しいな、実質コラボだし」

「それじゃあ多分怖がりませんよ? あのヒトは幽霊以外なら基本大丈夫ですから……むしろ妖怪や都市伝説が出てきてしまえば凄く解説します」

「そうなんだ……じゃあ尚更出てこないかな、私の種族を解説されるのってなんか興奮するから」

「……先輩のお母様もそうですが、何故性癖を拗らせてる雪女の方が多いのですか?」

「……種族的にかな? 雪女って基本拗らせてるから……というか拗らせた原因雫ちゃんだからね?」

「…………覚えてないですね」

 

 ……私は覚えていない。

 先輩が鴉様の存在を知った時に写真を見せる事になって、間違えて子鴉状態の彼を見せた事など覚えていない。それから今まで描いていたイケメンキャラを全部捨てて、ショタに走った彼女の事なんて一切記憶にない。

 

「そんな事を掘り返すより、今は先の話でもしませんか? ほらSNSのアンケートでやるホラーゲーム受け付けてますよ」

「露骨に話変えたね、まあいいけど――へぇ、なんでこの三つ選んだんだろうね」

「多分鶫さんのチョイスでしょう……私は勿論一番下を選びます」

「私もそうする――楽しみだね」

 

 二十二時に更新された彼の呟きのアンケート。

 とても怖がる姿が見たかった私は、一切の迷いも持たず三つ目を選び今日は彼女と一緒に寝ることにした。




 一応今回選ぶホラゲーでの鴉様のビビり度を小・中・強で設定しておいたのでお好きなの選んでくださいね。選ばれたビビり度によって鴉様の反応が変わります。
 あ、選ばれなかったのはまた数話後ぐらいに書くので、そこは安心してください。
 募集期間は土曜の23:59分まで、決まったら日~月の間に投稿します。
 追記:完全に自分のミスで幻想乙女のおかしな隠れ家が、幻想乙女とになっていました本当にすいません。修正前の結果は保存していますので、引き続き投票ください。


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鴉様のホラーゲーム配信編
【配信準備】とある水曜日の子鴉様


 今回のホラーゲームアンケートに参加してくれた皆様本当にありがとうございます!
 アンケートはまだ途中ですが、三択目の『クロエのレクイエム』に予想以上に票が集まり、抜かされる事はないと判断したので、ちょっと早いですが今回は投稿させていただきます。
 
 


 前回の黒歴史桃鉄から約三日後の水曜日。

 その黒歴史桃鉄のせいで罰ゲームを受けることになった儂は、気が進まなかったが盟友から三つほどのホラーゲームを勧めて貰った。

 ――だが……いざプレイするとなると、タイトル画面やそこで流れる曲だけでやる気が失せてしまうという事件が発生してしまったのだ。このままでは罰ゲームを完遂できない、流石にやるって言っておいてやらないのは大妖怪浮世鴉的にNO。

 ならアンケートでもしてマヨイビト達に、三つの中で怖くないゲームを選んで貰おう! きっと、優しい視聴者達なら怖くないゲームを選んでくれる筈だから……と、そんな天才的な考えでツイッターの方でアンケートを実施したのだが――――。

 

 

浮世鴉【妖ぷろ所属】@ukiyo_youpuro

罰ゲームようのホラーゲーム募集じゃ!

この三つから選ぶがよい、ちなみに配信は水曜日にやるぞい。

Ib:21%

幻想乙女のおかしな隠れ家:12%

クロエのレクイエム:65%

 

 アンケートの結果……選ばれたのは鶫曰くこの中で一番怖い作品だった。

 僅差でそうなったんだろうなと、少し現実逃避をしてしまったのだが……現実は非情であり、優しい方は結構少なかった――というか、儂の事を叫ばせたいマヨイビト多過ぎじゃね?

 リプ欄とかかるい地獄のようになってたんじゃが……というかママ化楽しみですって呟き多過ぎじゃ。

 エゴサしたら、いっぱい出てきたし、なんか六百件はあったぞ? それにママ化という言葉めっちゃパワー感じるし、まじで分からん。

 

 

<16 + 【妖ぷろ三期生】

ママ、ホラゲー決まりましたね 11:19

結構怖い感じらしいけど大丈夫かしら? 11:23

 
既読2

11:32

……やるけど多分、俺終わる頃には白くなってると思う

 
既読2

11:34

というかあれだな、今ツイッターで見たけどやばいタグあったわ。

#認知しろ鴉

……それ流行らせたの鶫さんよ 11:36

え、七尾さんですよ? 11:37

 
既読2

11:39

今見たら同じタイミングで呟いてたよな? 戦争するか?

> メッセージを入力     

 

 びびった事をすぐ誤魔化すように会話のネタを探してみれば、見つけたのはやばいタグ。

 それをちょっと話題に出してみれば、意外なところで見つかった犯人達――二人の発想力とバズらせ能力の高さにビビりながら、発端となった呟きを見ることにしたのだが、それを見た瞬間に笑ってしまった。

 

 

源鶫【妖ぷろ三期】@tugumin_youpuro

あの急に思いついたのですが、ママに認知して欲しいのでこのタグを流行らせたいです!

#認知して鴉       

七尾玲那【PP信者】@youkopp_youpuro

返信先:@tugumin_youpuroさん

悪乗りが過ぎるわよ

#認知して鴉   

奴良瓢鮎@グッズ発売中@taisyou_youpuro

返信先:@youkopp_youpuroさん@tugumin_youpuroさん

オレも流行らせたい

#認知しろ鴉  

 

 

 何気にこの遊びに参加してる推しの姿に尊死しかけるもなんとか理性を俺は保ちながら、今日20:30分からの配信の準備の為に、ゲームをダウンロードしておくことにした。

 初見でやりたいから動作確認は出来ないが、そこは帰ってきた雫にでも頼めばなんとかなるだろう。

 ダウンロードが終わったから、その後はサムネ作り。今回やるのは音楽要素が結構入るらしいので、ちょっと凝ってみたい、だから妥協せずに時間をかけて作ろうとこれからの予定を決めて作業を始める。

 

 それで暫く作っていると、急にメッセージアプリに通知が来た。

 こんな平日の昼間になんだろうと思っていれば、相手は絵師であり母上でもある雪椿先生。

 

 

#雪椿                                       
雪椿     今日 14:32   
ちょっと今日のサムネ用の絵を作ったよ、いる? 
浮世鴉  今日 14:34  
タイミング最高じゃな、やっぱり母上は神じゃのう 
雪椿     今日 14:36   
もっと褒めていいよ、お礼はメイド服のコスプレ写真で
浮世鴉  今日 14:38  
いまうまい棒余ってるし、それでよいか?
雪椿     今日 14:40   
……麩菓子がいい、あとアイス  
浮世鴉  今日 14:45   
うまい棒が……負けた? まあ麩菓子も沢山余ってるから、今度送らせて貰うのじゃ

 

 そういえば今回のサムネ用の儂どうしようか?

 洋風のゲームだし、ちょっと衣装を変えたイラストでもあればいいな、そう思ったタイミングで彼女から送られた来たのはバイオリン奏者風の衣装の儂。

 普段より大きくなった羽で体を隠すようにしていて、その羽の中で不敵に笑い演奏しているそのイラスト、それはいつもの彼女の絵で感じさせてくる生きているような錯覚をこちらに与えてくる。

 

「マジで完璧だな、先生は……これでもかって程に最高のタイミングで俺の欲しいイラストをくれる」

 

 送って貰ったイラストをサムネイルに貼り付けて今日の配信の予約を俺は終わらせて一息つく。

 ホラーゲームはまだ怖いが、母上にここまでやって貰ったし、マヨイビト達に望まれている以上本気でやらなければ俺ではない。

 

「よし、今日も全力で頑張るぞ」

 

 

 

 

                    

クロエ

レクイエム

 

 

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【ホラーゲーム】ほらーげーむはいしん……【ビビリ鴉】

12.396 人が視聴中・0分前にライブ配信開始          い298 う26 へ共有ほ保存 …


【妖ぷろ】浮世鴉 Ch

チャンネル登録者数 64535人

 

 

「マヨイビトの皆様方、こんにちわじゃ………………妖ぷろ三期生所属の浮世鴉じゃよ――――はぁ帰りたい」

 

 配信を始めたのはいいが、配信前にプレイした雫の「このゲーム鴉様苦手な部類のやつですね」という一言のせいで、儂のテンションは過去一で下がっていた。

 一番最初の画面を見た限り絵が凄い好みだし、流れるBGMもピアノ風の音楽で凄い聞き惚れてしまう。このゲームがホラーじゃなかったら今頃、すごくテンションが高くなってただろうが、やっぱり事前情報のせいでまだあまり儂は乗れていなかった。

 

 

[テンションひっくいな]

[開幕ハイライト消えてるのは草]

[こんばんはー! 公式コラボからの初見です]

[多分家で配信してるし、もう帰ってるだろ]

[やさぐれ鴉]

[またFA増えるじゃん]

 

 

「ということであれじゃな、今日は『クロエのレクイエム』というアドベンチャー系のホラーゲームを実況していくぞい……クリアまでやるつもりじゃから、結構長時間の配信になってしまうが何卒よろしく頼むのじゃ」

 

[長時間配信助かる]

[今日は何回落ちるんだろう?]

[10回以上に花京院の魂を賭ける!]

[また魂賭けられてるよ……]

[まじで声が死んでて草なんだ]

[また切り抜き増えるじゃん!]

[しかも長時間だから、きっと沢山切り抜きどころあるだろうからなぁ]

[取れだ鴉だからね、きっと今回も笑わせてくれる]

 

 そんなことを言ったあと、この配信の軽い注意事項を二・三個程伝えて儂はゲームをスタートすることにした。

 今日のコメント欄も盛り上がっていて、マヨイビトの好意的な反応に勇気づけられていく……が、やっぱり俺の怖がる姿を望むコメントが多い、それにちょっとネタバレっぽい危ういコメントもチラホラと――――。

 

「あ、そうじゃそうじゃ。今日の配信ではネタバレになるようなコメントはしないで欲しいのじゃ、せっかくやる初めてのフリーホラーゲームじゃから、苦手とはいえ楽しみたいからのう」

 

 そうやって一度釘を刺しておく。

 やっぱりこの配信を機に今からやる『クロエのレクイエム』を知るマヨイビト達もいるだろうから、極力そういうのは避けて欲しいからだ。

 堪えられない方もいるかもしれんが、謎解きのヒントでも貰うなどして、そういう場面で発散させるようにすればなんとかなると……信じておく事にして、ゲームスタート。

 

 

[おっショタじゃーん]

[久しぶりのショタ兄貴]

[始まったばかりだけど雰囲気あるじゃん]

[この時間に子供が一人って事は家出かな?]

 

 真っ暗な夜道の中に金髪の少年が立っていた。

 街灯は見えるが壊れているのかそれは灯っておらず、普段あまり人が通らない場所なのだろなとそんな事を思わせるような不気味な小道。

 

 とりあえず儂は主人公の顔を確認する為にメニューを開けば、そこには高級そうな服を着ている淡い水色の瞳を持つ少年が。age12――つまりこの子は今十二歳。

 常識的に考えてこんな時間に外にいるという事は、ちょっとした好奇心による夜遊び……もしくはコメント欄で言われている通りに家出だろう。

 

 画面メニューにはアイテム・装備・ゲーム終了の三つのコマンドが用意されていて、試しに装備を開いてみればそこには五つの項目があった。

 右手左手、頭に体あと一つはアクセサリー。

 

「……今の装備品はミシェルの服のみ――あれ? なんか外れたのじゃ」

 

 

[この鴉ショタの服を脱がしたぞ!?]

[金髪ショタと黒髪ショタ爺]

[はい切り抜き]

[配信開始一分で、十二歳の子供を剥ぎ取る妖怪がいるらしい]

[でもショタ同士だから犯罪臭はあんまりしない]

[【速報】浮世鴉金髪ショタの服を剥ぎ取る]

 

 

「マヨイビトよ? 儂が早速ヤバイ奴みたいになってるんじゃが……あれじゃよ? 偶然……偶然触ったら脱げただけで、儂悪くない、浮世鴉悪くない」

 

 なんか誤操作のせいで変態扱いされておるのじゃが……なんでだ? 

 儂、そんなやばい妖怪じゃなくてもっと格好よくて強い妖怪なのじゃが?

 

[またまたー]

[素直になれって]

[ほら言ってみ、脱がしたかったんだろ?]

[私も脱がすと思うので、気にしないでください]

[子鴉様のキャストオフ、待ってます]

[【速報】浮世鴉、罪の意識無し――ほら、自分も脱いで誠意見せろって]

 

 

「なんじゃこの流れ、地獄か? というか、儂を脱がせたいだけじゃろこの流れ――というか、儂が女の時ならわかるが、今は少年じゃぞ?」

 

 ゲームを進めるために夜道を歩かせながら、そうやって会話を続けていく。

 まだ配信始めて一週間ぐらいなのに集まるマヨイビト達は濃いなと思いながら、そう言ってみたのだが、今の言葉のせいでなんか予想もしなかった反応がちらほら見えるようになってきた。

 

 

[“今”は?]

[サラッと凄いこと言ってない?]

[ちょっと詳しく]

[雪椿:続けなさい]

[戻れ鴉ッ! それ以上はまた増えるぞ!]

[上のやつ気にしなくていいから続けて続けて?]

 

「母上もおるしいうが、まえ言ったとおり儂には決まった性別がないのでな、演じれば変わるし語れば騙れる。じゃから、せめてそういう時は、別の性……の時、に――あ、ちょま今の無しじゃ! 忘れろ、今すぐ忘れるのじゃ! ちょっと、あの……え? 儂ロリになりたくない!」

 

 

 道を進んでいくと画面が暗転して、御者と会話するミシェル少年。 

 心配する御者の方に金持ちムーブをかます少年を見ながら、儂は自然と会話を続けていく。その中で失言に気付いた時にはもう遅く……なんかやばい速度で、コメントが加速していた。

 

 

[よし、やろう]

[堕ちろォ! ロリにィィィ!]

[はい切り抜き]

[雪椿:命令だよ、やって]

[めっちゃ急に視聴者増えたな]

[それだけ望まれてるんだよ――つまり、分かってるよね?]

[ハーリーハーリー! ほら、あくしろよ?]

 

「…………儂、人間様達怖い」

 

 本当に怖い

 あまりの怖さに、自然と少女の声を出してしまい、さっきの倍以上に速度が上がってる。

 まだあれじゃぞ? 配信始まって五分も経っておらぬし――このゲームのメインであろう館に着いたみたいなのに、何故誰もそれに触れないのじゃ? というか…………これ気のせいだと思いたいのじゃが、マヨイビト達の方が怖くないかのう――――。

 

 

[URYYY!]

[NEW:ロリ属性]

[ロリババアじゃない? 千歳だし]

[雪椿:ロリもいいかもしれないね]

[即堕ち系有能不憫ポンコツホラゲ苦手ヤンデレ儂ショタロリ爺婆ママメイド]

[僕はね、属性過多が見たかったんだ]

[見たかったって、諦めたのかよ!]

[いや、もういいんだよ――――見れたからさ、安心して逝けるんだ]

 

 始まってしまったホラゲー配信。

 それは開始数分から不穏な空気を漂わせていて、この先の事を考えると不安になってしまう。あぁ、願わくば……あまり怖くありませんように、でも怖くても構いません――――だって現在進行形で、マヨイビト達の方が怖いから……。

 

 




 前回のアンケートで選ばれなかった二つの作品は、どちらも今後の配信でプレイさせる予定なので、どうか気長にお待ちください。順番的には、二位のIbを先にやりその次に幻想乙女を鴉様がプレイしていく感じです。
 では次回からのホラゲー配信をどうか楽しんでいってください。


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【ホラーゲーム】ほらーげーむはいしん……【ビビリ鴉】その1

 なんとか今日中に書き終わったどー!
 ホラゲー配信その1です! ちゃんとゲーム配信風になっているか心配ですが、どうぞお楽しみください!


 まったくのホラー要素がないのに、マヨイビト達の方が怖いという謎の状況で始まったこの配信。とりあえず怖がってても仕方ないし、周りを見ながら儂は一度状況を整理することにした。

 儂が操作している金髪の少年――ミシェル。

 この子が御者に連れてこられてやってきたのは、石造りであろう洋館。庭……というより少しの傾斜に作られた階段の横のスペースには、黄色と白色の花が植えられているが、いくつか枯れていて手入れされているようには見えない。

 

「雰囲気あるのぉ…………なぁ人間様、これ幽霊でるぅ――よなぁ」

 

 

[既にびびってくさ]

[これはタイトル通りビビリ鴉]

[このゲーム知らないけど、出ない気がします!]

[この配信で何回ロリ鴉になりますか!?]

[確かにそれは気になる]

[もはや全部ロリ声でよくね?]

[それだ!]

 

 

「ふっ莫迦者共が、そんな醜態を儂が晒すわけないだろう? それに童女の声など儂は出さぬ」

 

 何を莫迦なと、そんな声を儂が男の状態で出すわけがない。

 だって……ほら、あれじゃん? 今の儂って大妖怪状態に戻ってやってる訳だしぃ、そんな童女のように怖がって叫び――それも人間を怖がるなんてありえない。

 そんな事を考えて、ちょっと虚勢を張りながらそう言ってみるが……コメント欄の反応はなんかおかしかった。

 

[え、さっきのは??]

[あの……既に晒しましたよね?]

[もう切り抜き上がってるんだよ!]

[雪椿:もう描き始めてるよ]

[キメラ大好き:私も手伝ってる]

[源鶫:僕はそれを待ってます!]

[三期生とママ達は仲がいいなぁ(白目)]

 

 

 ――うん、やっぱり怖い。

 人間達じゃなくて、自分の母上と盟友とその母親がなんか混じってるのも怖い。

 ごめん、ホラーより今はマジでこっちの方が怖い、それどころかホラーゲームのBGMが好きすぎてそれが癒やしになりかけてる。

 

「…………まぁ、そんな事よりこの曲めっちゃよくないか? 普通に購入して自室で聞きたいぐらいなんじゃが!」

 

 タイトルは分からないが、初めて聞く感じの曲。

 このゲームのタイトルそのままの曲かもしれないから、きっとオリジナルなのだが、儂はこの初めて聴いた曲がかなり好みだった。

 少し止まって一度よく聞く事にしていると、この曲で儂は色々な事を感じる事が出来た。

 

 最初は悲しさや静けさ? でいいのか分からんが……そういうモノをこっちに与えてくように感じて、一人で曲を奏でている感じがするのだが、途中から少し変わっていくのだ。暗い雰囲気なのは変わらないが、少し曲を弾いてて楽しくなってきた……もしくは誰かが来てくれたのか、僅かに嬉しい、みたいな感情を感じれる。

 

 それ……つまり演奏者の感情に合わせて曲も少し速くなり、来てくれた誰かにもっと自分の曲を聴かせたいのかどんどん走り出す。そして、同じリズムを繰り返して、次はどんな風に引いてこんな音を聞いて欲しい! みたいな感情豊かな曲で、とても楽しそうに奏でているのを表しているようなBGM。

 最後に一度最初に戻って、また少し速くなるのはこの曲が二人で演奏するモノだろうから……というのが儂の勝手な意見。

 途中で遅くなる理由は、一緒に演奏している誰かがもう一人を宥めて、「ゆっくりね」みたいな事を言ってからで、速くなるのはやっぱり抑えられないのを汲んで「しょうがないなぁ」みたいに合わせたから――ってのだったら儂はめっちゃ好き。

 

「で、それで走り出したのがピアノを演奏していて、宥めるのがバイオリンだったら尚良しじゃな! そっちの方がエモいからのう」

 

 思ったことを出来るだけ伝わりやすいように語りながら儂は最後にそう締めくくる。

 やっぱり誰かが作ったモノを聞くのはいいな。演者である儂は同時に観客でもあるから、こうやっていいものを聞くのは気分が上がる。

 

[感受性化物過ぎるでしょこの妖怪]

[ほら、あれじゃね? 自分が設定的に演者だからこういうのは分からないと務まらないでしょ]

[早口なのに聞きやすくて納得させられてしまった(戦慄)]

[あ……ありのまま今起こった事を話すぜ。

俺は鴉様にロリ声を出させようとして、コメントをしていたのだが

気付いたら鴉様の早口に聞き惚れていた。

何を言ってるかわかねぇが(ry]

[はいはい、ポルナレフポルナレフ]

[実際鴉様の声凄い聞き易いからね、仕方ない]

[これ三味線でやって欲しい]

 

「三味線でこれを引くのは、儂的に違うのう」

 

 この曲は西洋の曲っぽい感じだし、無理に合わせて三味線に引くのはなんか違う。

 だから儂がこの曲を演奏するのなら、たぶんきっとフルートでやるだろう。それならば、儂が語ったピアノとバイオリンを邪魔する事はせずに、中に混じることが出来る。

 

「やるならばフルート……そっちの方が儂もやってて楽しいじゃろうからな」

 

 

[やって欲しい]

[やって]

[というかフルートも出来るのか]

[まじで何でも出来るなこの鴉]

[これは有能]

[だけど即堕ちするから、帳消し]

[この配信でまた属性更新して欲しい]

[いま14個だからね、ちゃんとアルセウスに近づいてる]

 

 

「……よいぞ、よいぞ。この配信が終わる頃に儂のメンタル残ってたらな」

 

 よし話題が結構ずれたおかげで、ロリを求むコメントも減ってきたし、これで怖くない。

 やっと落ち着いたのを見て安心しながら、儂は館の中に入ることにした。かなり錆び付いているのか、すこし耳障りな扉の開閉音が聞こえる。

 館に入ってみれば、そこには暗闇が広がっていて、ゲーム的には近づかなければ一定の範囲しか見ることが出来ない。

 少し進めばここに来るまでにも聞こえた猫の声が聞こえてきた。

 

「また猫じゃな、結構意味ありそうじゃし、気にかけとくか」

 

 それに意識を向けながらも、気になっていた散らばっている紙の元まで移動して、それを調べる事にした。その紙を調べればチュートリアルを見ることが出来たので、まだ何も分かってない儂は迷いなくそれを見ることにする。

 

 簡潔にこのチュートリアルをまとめると。

 基本的にアイテムを使うには、右or左または両手に装備しないと使えないという事。

 ただ例外もあるそうで、持ってるだけで使える鍵や、読み物などのメニューから使用しないといけないアイテムもあるらしい。あと気になっていた右上の五つのハートは主人公であるミシェルの精神安定度のようで、ゼロになったらやばいっぽい。

 回復してくれる場所もあるようなので、とにかくいまはそれを先に確保したいな。

 

「あとは、操作説明か……それはDL時の説明書に書いてあったから大丈夫じゃな――じゃあ、探索していくかのう。今の所幽霊は出ないようじゃし、案外すぐ終わるかもしれんな。とにかくセーブポイントを探すとするか」

 

 

[幽霊はあんまりでないよー]

[怖くないよー]

[若干声震えてるの好き]

[これは堕ちる未来が見える]

[あわよくばロリボ叫べ]

[左の机の開いてる本セーブポイントだよ]

[↑有能]

[これは優しいマヨイビト]

 

 

「優しいマヨイビトちゃんといたんじゃな、もしやIbに投票してくれた方の一人か?」

 

 

[違います第四の選択肢にPTを提案したモノです]

[ド鬼畜生で草]

[悪意しかない]

[わんちゃんアーク]

[これは訓練された鴉民]

[次それやる?]

 

 

 あぁ、知らないゲームだから気になってしまい、実況動画見てしまったあのホラゲーをリプ欄に送ってきてくれた鴉民か――――。

 

「お主絶対許さん!? 主のせいで二日ほど廊下歩けなかったんじゃぞ!」

 

 

[いや草]

[Twitterで怯えてたのそれのせいか]

[「ワシロウカコワイ」「レイゾウコアケラレナイ」]

[あの呟きこれのせいかw]

[すまんかった]

[でも後悔は?]

[していない!!]

 

「はーん、儂キレたぞ? 覚悟しておれ、枕元に立ってやる! 毎晩鴉の幻影を見て苦しむがいい」

 

 儂の一時期流行った怨念を纏った鴉姿で枕元に立ってやる。

 怖いぞあれ、一時期そのせいで陰陽師に討伐隊組まれるほどの被害を出したからな、数百人を不眠症に落としいれた時の力を見せてやる。

 そんな事を言った後で、一回セーブを挟んでから、あまり出来ていなかった探索とコメント欄をみる事にする。

 

[むしろ来てね]

[待ってる]

[逆に行くわ]

[雪椿:この子、今私の横で寝てるよ]

[じゃあどうやって実況してるんだよ]

[雪椿:あぁ、幻影?]

 

 

「……母上、あまり遊ばないでくれると助かるのう」

 

 そう言いながら儂は一階の探索を終えた。

 今は入る事が出来ない四つの部屋以外は一通り見ることが出来たので、二階にいくまえに一度整理する事にした。

 とりあえず気になるのは、階段に飾られている絵とそれを悲しそうな顔で見守っている像。

 あとは燃やせばいいだろう蜘蛛の巣……とかか?

 

「え、この燭台の火力たかくないかのう?」

 

 火を付けるんだろうなとおもって、実際にその選択肢が出てきたから燃やしてみれば……なんか一瞬のうちに燃え広がり、階段を覆っていた蜘蛛の巣が一瞬で灰になってしまった。

 

「えぇ……怖い――こんな火力のある燭台をミシェル君持ってるんでしょ? 最強すぎないか?」

 

 

[呪具じゃない?]

[これもしや最強アイテムじゃない?]

[そして燃える対象を選べる能力付き]

[このゲーム初見ですがネタバレします、そのアイテム最強]

[草]

[使えるミシェル君も強い]

 

 

 

「じゃあとりあえず、またセーブじゃな。二階に何があるか分からぬし、やっぱりそれが安定じゃろ」

 

 ちゃんとセーブを忘れずにしてから、満を持して二階へ移動。

 階段を登った瞬間に変わるBGM――流れ始めたのはベートーヴェンが作曲した。【ピアノソナタ第八番「悲愴」第2楽章】ベートーヴェンの作曲家としての名を広めたこの曲、現代でも多くの者達に親しまれてるし、儂も好きな一作。

 このゲームの雰囲気はまだ掴めていないが、かなりピアノ曲を押しているような気がするし、今感じているモノ的に、ちょっと演奏したくてうずうずするな。

 

「このゲーム、既に最高ではないか……ホラーとクラシックはやっぱり合うんじゃな……まぁ、まだホラー要素に出会ってないからだと思うが」

 

 そうやって少しでも飽きさせないように喋るようにしながら、また探索を続けていくと儂が操作するミシェルは大きなピアノを見つけれた。

 それでピアノの近くには、少女がいてドット絵の動き的に、今流れているこの曲はこの子が演奏しているようだ。

 その少女に話しかける前に、一応他の部屋を探索するために確認するも、鍵がかかっているのかカチャカチャと音が鳴るだけ……この様子を見るに、少女に話しかけなければ先には進まなそうだ。

 話しかけて分かった事を簡単にまとめると大体こんな感じ。

 

1:この少女の名はクロエで、主人公ミシェルの事を知ってる。

 

2:クロエはこの館の住民であるが、出て行きたい。

 

3:出たいのに出れない理由は、この館が何らかの理由で呪われているから。

 

4:呪いの種類は不明だが、もうミシェルは巻き込まれている。

 >>4 つまりミシェルも今この館から出ることは出来ない?

  

 以下勝手な考察。

 

・知っているが、館に来たばかりの少年に助けを求めるという事は焦っている――つまり時間がなく、期限のようなものがある。

 現時点では呪いの効果は不明……だけど少女クロエの表情から、彼女に関係あることだと予想。

 

 

「大体こんな感じでよいか? ……ひとまず、このゲームを楽しみたいからまとめたが、これ見やすいかのう?」

 

 かなりストーリーも作り込まれてるだろうし気になるから、儂は別のアプリを使ってこういう風にちょっとまとめてみることにした。こうやってやれば、マヨイビト達とも交流できるだろうし、一緒にこの配信を作っているって感じがして楽しそうだからだ。

 

 

[いいね]

[あと楽譜を探しても急だしなんかあるんじゃない?]

[そうだね、足そうよ]

[ミシェル君もなんか答えるのに間があったし、クロエの事知ってるんじゃない?]

[でも初対面ぽいよ?]

[じゃあ、過去に同じ名前の子となんかあったのか?]

 

 

「おっ、今のコメント良いのう……追加しておくのじゃ」

 

 次やることは貰った鍵でも使って一階の部屋を開けること、アイテム名は「一階西客室の鍵」だし左の方に丁度鍵が閉まっている部屋があったから早速向かうことにする。

 入ってみた客室は意外と……というよりかなり広かった。

 豪華そうな鏡に置かれた西洋人形、ちょっと壁がひび割れているがそれ以外の手入れはされており、いつ人が来てもいいようになっている。長い机に四つのベッド、既に見慣れた彫像――ほかに違和感のある場所はなく、何かあるならひび割れているあの壁だろう。

 

「よし、予想通りじゃな。東客室の鍵手に入れたぞ!」

 

 

[いいね]

[めちゃ嬉しそう]

[相変わらずよく動く羽]

[いい笑顔]

 

 

「よしよしサクサクいくぞ、東部屋もさっきと同じ作りじゃな……西洋人形あるし、ベッドの数も同じ――なんか赤いが、そこには目を瞑って……あ、鋏じゃな」

 

 儂は趣味で市松人形や日本人形を集めているが、何故か西洋人形苦手なんじゃよな。

 普通に怖い、そのせいでさっきの部屋にあった人形を調べれなかったし……でも色々見た限り、何もないっぽいし――これ、人形調べないと駄目か?

 

「アンケートじゃ、調べた方がいいかこの人形? 儂の勘がめっちゃ警告してるのじゃが……」

 

 試しに聞いて見れば、コメント欄は行けという言葉で埋まり尽くし逆に逃げれない状況に……もう逃げられないので、意を決して調べてみれば――流れてきたのはこんな台詞。

 

 

目がないの……

 わたしの目……

 目がほしいの……

 

 目をくれる?

  あげる

   あげない

 

 よし、帰ろう。

 儂、今すぐ帰りたい――え、何この人形怖い。喋るのはいいとして、なんで目を要求してくるの? 儂泣くぞ? 今すぐ噎び泣きながら家に帰るぞ?

 

「…………こっ、こんなの――渡すわけないじゃ――はくしゅッッ、アッヤベ!?」

 

wwwwww

やったな?

は?

くっさ

自分が一番驚いてるの笑う

【速報】浮世鴉ショタの目を人形に捧げる

はいライン越え

鴉様の目も死んでて草 

くしゃみ助かる

そのくしゃみのせいで金髪ショタが死んだんだぞ!

ガチで怯えてるの草なんだ

人形怖いを繰り返してるw

あーあ

これは切り抜き

wwwwwwwww

くりぬきRTA記録二十分

雪椿:また家の子のハイライト消えた絵描かなきゃ、多分人形と一緒に描く

源鶫:待ってます!

 

 




 ホラゲー回は全部長くなってしまいそうですが、予定ではあと3~4話で終わる筈です。この話を書く為に久しぶりに『クロエのレクイエム』をプレイさせていただきましたが、やっぱり面白いですよね。
 そして評価・お気に入り登録・感想等本当にありがとうございます! いつも励みになっているので、これからもどうかよろしくお願いします。
 
 追記:期限は5~6日程のアンケートをさせて貰います。
 内容としては、今後出る予定の別のVTuberグループの募集です、候補は三つなんですが、かなり迷ってまして……ならいっそ皆さんの意見を参考にという感じでやらせて貰います。
 それで候補なんですが、異世界物でよく出てくる魔王や勇者等がモチーフのグールプ、創作物の英雄譚や御伽噺モチーフのグループ、学校モチーフの生徒会長や女子高生・男子高生がいるグールプの三つです。
 この箱が見たいってのに投票してくれると幸いです。


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【ホラーゲーム】ほらーげーむはいしん……【ビビリ鴉】その2

 
 ホラゲー配信その2、このペースだとあと三話で終わりそうですし、毎日投稿頑張らせていただきます!
 そして前回評価してくれた方や誤字報告をしてくれた読者様にここで感謝を。


 ミシェル君の眼球消失事件でメンタルをやられ、コメント欄が盛り上がってから数分後。

 現在のミシェル君は、クロエに助けられたのか二階の部屋で目を覚ましたようだ。殺してしまったかと思ったが、生きていた彼に安堵してなんとか儂は戻ってくる事が出来た。

 

「ふぅ……よし、ミシェル無事じゃな――まったく目が欲しいなら百々目鬼でも屋敷に招けばいいものを」

 

 あの事件のせいでなんか色々言ってしまったが、もう思い出したくない。だって、あれを思い出したら自分でも大妖怪って言えないようになるからだ。

 

 

[これは四期生に百々目鬼来るな]

[種族だけで濃い]

[あれでしょ? 動くと全部の目が動くんでしょ?]

[怖い]

[招けばいいというものを(震え声)]

[取り乱しまくってたなぁ(小並感)]

[流石ビビり鴉]

[騒いでて可愛かった]

[この配信であと何回ロリ鴉になりますか!?]

[「待って儂やった? ゲームオーバー? ごめんミシェル、儂を許して」]

[これをロリ声でやってたのすこなんだ]

[ふむ、取り乱すとママやロリになるのね……閃いた]

 

 

「閃かないで? 儂は今男、ロリならない」

 

 片言になりながらクロエと会話をして精神を安定させる。

 そのまま連続で話しかけてみれば歌うクロエが見ることが出来て、リアルの儂の方の精神も回復される感じがし――――。

 

クロエの目を取りますか?

  とる  

   とらない?  

 

「ミシェル!? その選択肢はやばいのじゃ落ち着けぇ!?」

 

[鴉様が落ち着いて]

[バイオレンスミシェル君]

[この主人公取って取られて忙しそうだな]

[試そう]

[これハートの数で選択肢変わったりしたりするのかと思ったけど、全回してるし関係ないか]

[歌ってる幼女の瞳を狙うショタ]

[↑(物理)]

 

 

 クロエが歌っている姿を見て和んでいたときに突如現れたその選択肢。

 あまりの衝撃に変な風に叫んでしまい、コメント欄には草が溢れた。一応これが見間違えじゃないか確認する為に、もう一度画面をみるが、その選択肢は変わらずそこにあり……幻覚と言うことは一切なかった。

 

「まあここは取らない一択じゃな、儂は子供を傷つける趣味はない」

 

 子供って大事だからね、大人より感情豊かだから演じてて楽しいから本当に見ててこっちも楽しい。

 今のクロエのように楽しそうに歌うのを見るのも好きだし、演じた後に興奮してこっちに駆け寄ってくる姿も愛らしい。

 そういえば昔の雫はそんな感じだったなと、そんな事を思い出し軽い現実逃避をしながら儂はとりあえず触れたくなかったもう一つの下手にある人形の元に行くことにした。

 同じ人形なら、代わりの目の場所ぐらい知ってそうだし……そうであって欲しいと儂が願っているからだ。

 

「よし部屋に戻ってきたが、変わっているところあるな……これは、花束か?」

 

 このドット絵ではちゃんとした花の種類は分からないが、赤いし薔薇の花束だった場合その意味は真実の愛を誓うみたいなものがあったはずだ。メッセージには「愛するジュリエッタに捧ぐ」と書いてあるし、儂の予想ではこれはきっと薔薇じゃろう。

 

「そういえば昔外国に行ったことがあるんじゃがな? そこで知り合った者に黒い薔薇を貰ったのじゃ、珍しかったから今も飾っておいてるのだが、不思議なことに三年ぐらい枯れないのじゃよ、凄くないかのう?」

 

 そうやって話題を広げながら前この部屋に来たときに取り忘れていた棚のアイテム「はけ」を手に入れてコメント欄に目を通す。

 

[へぇ、どういう経緯で貰ったんだろ]

[薔薇貰えるほどに関係深められるのか]

[コミュ力やばいもんね、鴉様]

[あれ? 黒い薔薇の花言葉ってなんか怖くなかったっけ?]

[不吉なだけだったと思うけど]

[今調べてみたけど、怖く――――]

[あれコメント途切れてない?]

 

 

 なんかコメント欄が騒がしかったが、それは今は無視。ちょっと不思議だったが、今はゲームを進みたいし横にある人形を調べてみよう。

 何か聞けると思って調べてみたら、流れたテキストは人形が置かれてあるとだけ……間違っている? それなら別の部屋で代わりの目でも見つけた方がいいのか? 

 

人形の目を取りますか?

  とる  

   とらない?  

 

 読み進めて出てきたのは、さっきクロエの時に出たのと似たようなメッセージ。

 

「この少年、判断能力凄くないかのう……儂、この人形の目を取る発想なかった」

 

 

[やっぱりバイオレンスミシェル君]

[戸惑うぐらいするかと思ったけど、凄い判断速いよね]

[ミシェル、別の部屋の人形が目を欲してる時お前はどうする?]

[もう一つの部屋の人形の目を奪います!]

[判断が速い!?]

[コメント欄治ったね]

[鱗滝さんいて草]

 

 

「これ、目を取って大丈夫か? ……呪われないか? この館既に呪われてるけど、ミシェルに対する呪い余計に強くなったりしないか? というか、儂に呪い来ないよね? あれだよ、夜中に西洋人形出てきたら儂泣くよ?」

 

 

[これ日本人形見せた時の反応も知りたいな]

[これはマジでクソザコ鴉]

[早口で怖がるの可愛い]

[泣き顔鴉様……既にいっぱいあるけどまた増えるね]

[雪椿:この続きを見ないと私の絵完成しないと思う]

[言われてるぞ、進め鴉様]

[最近威厳ないなー(棒)]

[でも可愛いからいいよね]

[分かる]

 

 

 ……確かにこれ儂の勘的に取らないと進まないってのは分かるけど、儂の理性がこれやめた方がいいって言ってるんじゃよな……でも、取らなければ進まなそうなの事実だし――――。

 

「えぇい! こうなったらやってやるぞ! すまぬ人形、恨むなら儂の母上とマヨイビトを恨んでくれると助かるのじゃ、これ儂の意志じゃないから……だからどうか、怖いのやめて夢に出るから…………あれー? この人形紅かったっけ? 儂の目がおかしいのカ? さっきまでピンクじゃったぞ?」

 

 おかしいな、幻覚だな。

 その後の恨めしそうに泣いてるなんて文も見えないし、これはきっと儂の西洋人形が怖いという思いから生まれてしまった幻覚で、啜り泣く声なんて聞こえない。

 

「よし、逃げるか――偉い人間も三十六計逃げるに如かずとかいう言葉残していたし、色々考えて怖がるよりも逃げるのが一番じゃ!」

 

 

[浮世鴉、人形が目を取られて泣いてる時お前はどうする?]

[逃げる!]

[はい雑魚鴉]

[ざーこっざーこっ]

[ナンだぁ? てめぇ……]

[この流れ草]

[ドヤ顔で敗走を選ぶクソザコ鴉]

[イキリ鴉全集みたいなのあったけど、今回の配信でまた増えそうだね]

[まだ六回目の配信なのに、切り抜き動画の数が多いの草なんだ]

 

 

「キャヒッ――!? よし逃げる儂逃げる! というか、やだ絶対これ何か起きるやつじゃ」

 

 コメント欄もなんかおかしくて怖いが、それよりも今はこの人形から儂は離れたかったので、すぐにミシェル君をこの場から離れさせたのだが、その瞬間人形の首がその手に落ちてきた。

 瞬時に出口へと逃走。

 何よりも速く、全盛期に逃げたときよりも俊敏に指を動かして部屋から逃げてみせる――――。

 

人形:

かえして…………

わたしの……目……返して……

 

 

 人形が恨めしげに啜り泣く部屋を出ようとした時、おどろおどろしいような……泣き声が混じったような、そんな聞くのも重い言葉がミシェルの頭には流れてきた。  

 聞いてはいけないと耳を塞ごうにも、金縛りにでもあっているのか……思うように体が動かなくて、何より息が詰まってきてしまう。  

 

 

「逃げる……つもり?」  

 

 

 地獄の底から捻りだしたような、そんな低くて低くて――這い寄ってくるかのような小さなそんな声。  

 振り返ってはいけない。それは駄目だと思うのに、徐々に徐々に這い上がってくる虫のような感覚が、気持ち悪いほどに襲ってきて――――。  

 

 

目を返せ!  

 

 

 突如目を覆われたミシェルに対して、頭を割らんばかりの声量のそんな言葉が、血の通ってない冷たい掌と一緒に少年を襲った。

 

 

 そんな上のような文章が浮かんでしまった儂――――詳細に、何よりも自分がその状況を実際に体験したような錯覚さえ覚えてしまった儂は、もうなんか言葉に出来ないほどに怖くなって…………。

 

「キャァァァァァ!?」

 

 あまりにも綺麗で透き通るような少女の声でそんな事を叫んでしまった。

 もうなにこれ? 怖い。やばい怖くて、かなり怖い。すっごい怖くて、意味が分からない。語彙力を無くすほどに怖いとしか思えないこの状況。部屋から出れたが、儂とミシェルに対する精神的なダメージが半端ない。

 

 

[これは良い悲鳴、100点]

[超聞きやすくて、お手本のような悲鳴]

[これは幼女]

[これは紛れもなくロリ]

[とてもいい悲鳴だね、感動的だ]

[演出怖い]

[怖さと突然の悲鳴に椅子から転げ落ちたわ]

[雪椿:ありがとう、人形ちゃん。ちゃんと怖く描くからね――だからまた私の子供を怖がらせて、期待してる]

[漫画でも描いてるのか母上は……]

[雪椿:そうだね、いま六ページ目]

 

「もうやだぁ、儂おうち帰るぅ……人形嫌いぃ……」

 

 あまりの恐怖に大妖怪状態から、童女になった儂は全力で玄関の扉を選択するが、開いてくれる気配はない。

 ガチャガチャガチャ……と無駄に音だけが鳴り響き、無理だと気付くのに約二分。

 その後はあんまり記憶にないが、儂はなんとかもう一体の人形に目を渡し楽譜を貰う事が出来たらしい。

 手に入れた楽譜は「ピアノソナタ第十四番 月光」、今の儂が心を保てている理由でもあるこれを手に入れた事で、すぐにセーブしてこれをクロエに渡しに行く事にしたのだが……。

 

「あれ……クロエ? なんで、ピアノ弾いてないの?」

 

[まじで幼女化してて草]

[めっちゃ声可愛い]

[紛れもない幼女……]

[下手な幼女より可愛いの意味分からない]

[口調もロリ化]

[まじで性別不詳系鴉]

[今できるのが、ロリ、ママ、ショタ、イケボ?]

[同期曰く、あとはイケオジとメイドだね……多分執事も行ける]

[ソースは?]

[願望]

[なら信じるわ]

 

「儂ロリじゃないよー?」

 

 

 とりあえずこの娘に話を聞いてみれば、ピアノを弾くのが疲れたみたいで、子供らしくきっぱりと弾くのを止めたようなのだ。そんなクロエは気分のままに「らららー」と歌を歌い出し、儂の傷つきまくった心を癒やしてくれる。

 とにかくもっと癒やされるために、月光が聞きたかった儂はミシェルに楽譜を装備させて、ピアノをこの子に弾いて貰う事にした。

 

 始まった演奏は普通に上手いといった印象を感じるものだった。

 子供がピアノを弾いている微笑ましい光景に心を安らぎながら、ゲームを進めていれば急にクロエが演奏を止めてきた。

 そしてムッとした顔で「……違うの」と、そんな台詞。

 普通に上手かったし、儂は楽しかったからどうして不満なのだろうかとおもってみれば、その疑問に対してクロエはすぐに答えてくれた。

 どうやら、クロエがミシェルに演奏して欲しかったのはピアノではなく、なにか別の楽器だったらしい。そしてそれにミシェルは心当たりがあるようだが、それは使いたくないのか表情を曇らせたと……。

 ……でも、クロエにはやっぱり弱いようで、渋々といった感じだが断る気はないようだ。

 

「とりあえず、ミシェルの演奏で落ち着けたな……さぁ別の楽器を探すとするかのう!」

 

 

[チッ]

[戻ったか]

[バイバイロリ鴉、そしてお帰りショタ鴉]

[どっちも好き]

[定期的にロリ配信しないかな?]

[ほんと?]

[本当だよ、だって鴉様だぜ?]

[そうだわ]

 

 なんか変な期待を込められながらも、儂は手に入れたばかりの鍵を使って一階の図書室にやってきた。

 左側にあったその部屋には沢山の本が保管されていて、一つ読んでみればかなり詳しくピアノの曲に対する事が記されていた。あとは、このゲームに関係ありそうな鎮魂歌(レクイエム)について書かれた本と、思い出したくもない誰かを殺した奴の独白。

 

「で……特に気になるのは、これじゃな」

 

 「アラン・アルデンヌ」という男をまとめた本。

 さっきまで読んだ本は、一つを除いて現実にある曲に関する物だった。だが、現実ではきいた事のない「アラン・アルデンヌ」というこのゲームの住人っぽい男の記述。 

 しかも、儂が嫌う子供への暴力という行為の噂……とりあえず、これをメモっておくか。

 

 

 

1:この少女の名はクロエで、主人公ミシェルの事を知ってる。

 

2:クロエはこの館の住民であるが、出て行きたい。

 

3:出たいのに出れない理由は、この館が何らかの理由で呪われているから。

 

4:呪いの種類は不明だが、もうミシェルは巻き込まれている。

 >>4 つまりミシェルも今この館から出ることは出来ない?

 

5:呪いのせいか既に屋敷からミシェルは出られない。

 

6:ミシェルの反応から、クロエが弾いて欲しい楽器は使えるようだがあまり良い感情は無しと判断。

 

7:関係ありそうな本は、「アラン・アルデンヌ」に関する物と、誰かの独白?

  

 以下勝手な考察。

 

・知っているが、館に来たばかりの少年に助けを求めるという事は焦っている――つまり時間がなく、期限のようなものがある。

 現時点では呪いの効果は不明……だけど少女クロエの表情から、彼女に関係あることだと予想。

 

 新たにメモを更新してから、これ以上の収穫はないと判断して儂は広間に戻ることにした。

 楽器を探さないといけないが、この部屋にはないし他の部屋も鍵がかかっているし、現時点で行く事は出来ないだろう。一応鍵らしき物がないかこの部屋を全て探索してみたが、手に入ったアイテムは「羽ペンとインク」という物のみ。

 

「ここにあるって事は何かには使うのじゃろうが、使えるような所あったかのう…………また探索じゃな……主らどこに楽器あると思う? あと怪しいところで、儂が見てなさそうな所ってあるかのう?」

 

 

[分からん]

[結構調べてたし、見落とし無さそうだよね]

[いまいけそうな部屋だと、あれじゃない? 彫像が守ってるとこ]

[えっと、それってあの泣いてる彫像?]

[そうそう、あれなんか絵を見て泣いているぽいし、何かすればいいんじゃない?]

[とりあえず、やってみる鴉様?]

[絵から調べようよ]

 

「それしかない感じかのう? ……まぁやってみるか、他は見たしあそこぐらいじゃろうし」

 

 絵となると、階段に飾ってあった一組の男女の絵だ。

 男性が花束を渡して、それを女性が受け取っているというのを描いた絵。確かにその下には彫像がいて、それを見て泣いているっぽかったし……。

 

「とりあず手に入れたばっかりの羽ペンとさっきのはけでも装備して色々触ってみるとするか」

 

 そして広間にある絵を調べてみたら、花束を受け取っている女性には何も反応しなかったが、男性の方を調べると絵を塗りつぶすという選択肢が出てきたのだ。

 

「だからミシェル判断速いぞ?」

 

 幸せを壊すのは嫌だったが、このゲームの事だからそれしか正解はなさそう……だから儂は、それを選んでみたのだが、どうやら身長が足りなくて塗りつぶす事が出来ないようだ。

 

「あーこれ正解じゃなぁ……下の方にあった椅子でも使えば良いのか?」

 

 少し悪感情が出てしまったがクリアするためにも、儂は椅子を動かしそれの上にミシェルを立たせ、はけで絵を塗りつぶさせた。

 

「……すまぬのう」

 

 瞬間画面が暗転、女性の悲鳴が館に響き渡ったが変化はなかった。

 その事実に罪悪感を感じながらも、彫像を調べてみれば晴れやかに微笑んでいるといったテキストが流れてきて、この彫像のさっきまでの顔は嫉妬から来ていたものだったと理解した。

 

「よし、部屋に入るぞ……守っていたし流石にここにはなにかあるじゃろ」

 

 

[ちょっとつらそうだね]

[この鴉優しいからね]

[感情移入でもしてるんじゃない?]

[あって欲しいね、あの男性犠牲にしたんだし]

 

 

「――――ッ入って早々、驚かせにくるか……くはは、よっぽどこの部屋に隠したい物があるとみえるな」

 

 部屋に入った瞬間に落ちてきたシャンデリア、画面越しにも異様な雰囲気を漂わせてくるこの場所にはきっと何かがある。それに、机に用意されていた「逃げろ」という文字……絶対に何かがあるのは確定しているだろう。

 妙にボロボロなこの部屋、何かが暴れたのかステンドグラスも割れていて、箪笥なんかは壊されている。

 

「きな臭いのう――セーブしておくか」

 

 ちょっとびびってしまい、広間に戻ってセーブしてからこの部屋の奥にあった箱を儂は開けることにした。

 

 

 異変が起こったのはそれからすぐだった。

 箱を開けて手に入れたヴァイオリン、それをミシェルが持った時彼の鼓動が速くなったのだ。

 

 操作が不可能になり、勝手に歩き出すミシェル。

 そんな彼を見ながらも、儂の頭にはこの状況に合ったような文が生み出されていく。

 

 

 ギィーと古ぼけた扉が開く音、そしてそこから現れたのは……。

 夥しい量の返り血を浴びて、そのきっかけであろう血塗れのナイフを持った――クロエに、とてもよく似た少女が立っていた。

 

 




 
 そういえば前回実施したアンケート凄い接戦で驚いています。
 登場予定の箱のVTuberの方々は、皆かなり濃く設定を練っていますので、少しでも気になった箱にお気軽に投票してください。


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【ホラーゲーム】ほらーげーむはいしん……【ビビリ鴉】その3

 今更だけど、かなりこの章長くなりそう。
 


「なっ誰じゃこいっ―――――はっ!?」

 

 突如現れたクロエ似の少女。

 あまりにも夥しい量の血を纏った彼女、それは思考が固まってしまい操作するのを忘れていた儂と、そのせいで動けないミシェルに一瞬で近づいて――――。

 

 

 

 

 

 

GAME OV ER

 

 

 

 

▶ ▶❘                                 CC ⚙ ろ わ だ 

【ホラーゲーム】ほらーげーむはいしん……【ビビリ鴉】

4.2106 人が視聴中・35分前にライブ配信開始        い1178 う46 へ共有ほ保存 …


【妖ぷろ】浮世鴉 Ch

チャンネル登録者数 65372人

 

「………………そうか、ハートって精神力だから残ってても、物理ダメージだと一瞬で死ぬのかのう……」

 

 ゲームを始めて三十五分。

 これから先大事そうな事を教えて貰ったことに感謝しながら、儂は死んだ目になりコンテニューしてやり直すことにした。

 

 

[冷静なの装ってるけど、めちゃくちゃ声震えてるの可愛い]

[ショタでも可愛いのずるい]

[ロリでショタで爺な婆……この四つ抜き出しても強いのやばい]

[あと十個持ってるからね属性]

[初見殺しかな?]

[あの娘足速すぎでしょ]

[オリンピック目指せるわ]

[それよりみてみろ、鴉様放心してるぞ?]

[人間に負ける大妖怪の図]

[この鴉は今日はロリ多めだから負けていいの法則、あると思います]

[ロリは負けるものだもんね]

 

 

「つ、つまり? ロリじゃない儂はもう負けぬという事じゃな、見ているがよいあのクロエっぽい娘から逃げ切ってやるのじゃ!」

 

 あのイベントはきっとダッシュに割り振られているボタンをずっと押して、逃げるルートをミスらなければ追いつかれることはないはずだ。だって、ミシェル君走るとあれぐらい速かったし、一瞬だけだが相手が走ってくるのには間があった。

 なら走り出しが速ければ、きっと追いつかれない。

 

[あ、またイキッた]

[負けたな(確信)]

[即堕ち鴉が勝てるわけないだろ!]

[俺は鴉様がまた負けるのに、花京院の魂を賭けるぜ!]

[誰も信じてないの草]

[聞きたいんだけど、この鴉がイキッて勝ったの見たことある?]

[ないです]

[ね?]

 

 おかしいなぁ……どうして誰も儂が逃げ切れないと思ってるんだろう?

 いや、流石に分かれば逃げ切れるぞ? というか血塗れの子供はあまりみたくないから、出来るだけ速く先に進みたいし頑張るから、逃げられない訳はないのじゃ。

 

「ということでかかってくるのじゃクロエっぽいの! 儂が操るミシェルの俊足に恐れ戦くがよい!」

 

 ヴァイオリンを取った事でさっきと同じように操作が出来なくなるが、儂はダッシュボタンを左手で押すのを止めない。既に頭にある逃走経路をなぞるために、十字キーに既に指は待機させてある。

 勝負は一瞬――それもあの一枚絵が映し出されたら始まる。

 

「今じゃ!」

 

 上を押し続けて、ドアの位置まで来たら即左を押してそのまま広間に直行。

 本当にギリギリだったが、なんとかミシェルは逃げられたようだ――だけど、まだ諦めない彼女がドアを何度も叩いてくる。

 

「ミシェル儂は画面見ないから、そのドアを押さえるのじゃ! あれじゃからな? ドア破られたら儂泣くぞ? そして貴様を呪うぞ?」

 

 

[雑魚くて草]

[知ってるか? この鴉一応有能で色々出来るんだぜ?]

[ホラゲーで怖がって、十二歳のショタに全て任せる千歳児がいるらしい]

[へぇーそんなのいるんだ(棒)]

[見てみたいね!]

[それが今なら見れるんですよ!]

[どこで!?]

[ここの浮世鴉チャンネルで! しかもチャンネル登録すれば、リアルタイムでクソザコ鴉が見れるぅ!]

[チャンネル登録しなきゃ]

[というか呪おうとするなよ鴉様]

 

 

「いやだって血塗れの人間とか怖くない? 妖怪がいくら血に塗れてても怖くないが……人間となるとかなり怖いと思うのじゃ…………」

 

 昔にあったことある数多くの戦闘狂とか、人間妖怪関係なく色んな者達の血で染まっていて、儂がビビり散らかした思い出あるからなぁ…………うん、忘れよう。それのせいで余計に怖がるのは嫌じゃし――――だからそんな事は置いといてとりあえず……。

 

「はい儂の勝ちー! そしてミシェルの力を舐めたクロエっぽいのの負けじゃな!」

 

 探していた楽器も見つかり、敵からも逃げ切れた。つまり目的達成した儂らの勝ちで、もう暫く怖い思いはしなくて済むはずだ。

 そうやって考えれば、自然と笑みが浮かんでしまうというもので……マヨイビト達には見えないだろうが、ちょっとガッツポーズをした。

 

 

[ミシェル君しか頑張ってないような……]

[気のせい気のせい]

[喜んでて可愛いからいいよ]

[そうそう、可愛いは正義だから大丈夫]

[すっごい笑顔でいいね]

[満面の笑みを浮かべてるんだから、俺らマヨイビトは喜んでればいいんだよ]

[あの……その笑みを浮かべてる後ろでミシェル君超疲労してるんですけど]

[気にしたら負け]

[汗だくショタ好きだからいい]

[一画面で二つ楽しめるでしょ? なら大丈夫]

[こわい]

[これが訓練された鴉民達か(戦慄)]

 

 

「とりあえず、早速ミシェル君とクロエに「月光」を弾いて貰うとするかのう。子供達の演奏楽しみじゃなー!」

 

 さっきまで怖かったから、こういうシーンは本当に癒やしである。

 ……普通にホラーゲーム楽しいのう。色んなシーンが実際に自分でプレイして見れるというのは、予想以上に新鮮で、今まで自主的にやってこなかったからかこそ、初プレイで本当に遊んでてのめり込むことが出来る。

 

 

[うっきうきで草]

[可愛いかよ]

[感情豊かで見てて飽きないね]

[全部新鮮な反応で見てて愉悦を感じる]

[もっとロリ化して?]

[それに結構ペースがいいから、こっちも楽しい]

[とても生きた反応で、このゲームを楽しんでるんだなぁって感じがする]

[鴉様かなり子供好きそうだね]

[あれじゃない? 表情を出しやすい子供相手だと演じてて楽しいとかじゃない?]

[子供と一緒のFA増えて欲しいな]

[めちゃくちゃ笑顔の鴉様だろうなぁ]

 

 

 待ちに待った二人の演奏。

 ちゃんとヴァイオリンと楽譜をミシェルに装備させ、二人に演奏させてみれば綺麗な月光を聞く事が出来た。今までのホラー要素から解放されるような感覚を感じていると、急に画面が褪せたような物に変わってしまう。

 それに違和感を感じているとミシェルが姿を消して、クロエだけがその色褪せた世界に残された。

 

「回想……演出的にそうじゃろうな……よし、ここからはメモタイムかのう?」

 

 とりあえずここは大事そうだし、メモのアプリを再度起動させて回想をじっくりと見ることにする。

 回想の中のクロエは初めて会ったときと同じようにピアノを弾いているが、心なしか楽しそうには見えなかった。

 

「……父か――というか此奴がアランという者か」

 

 書庫で見た名前の男。

 まだ性格は分からないが、火の無い所に煙は立たぬというし……此奴はかなり灰色のイメージを儂に抱かせてくる。それに、ミシェルと喋っている時の彼女とは対極的な父への態度…………。

 

「この男……黒っぽいのう」

 

 そんな事を言っていれば、過去のクロエを操作できるようになったみたいだ。

 過去の屋敷をみれば色々ヒントがあるかもしれないと思ってみたがそれは許されていなかったのか、何処に行こうとも「こっちじゃない」と止められて……自由に動くことが出来なかった。

 

「じゃあ父の部屋か……嫌な予感が止まらぬな」

 

 全ての部屋を周り終え、残ったのが三階への道だけになったので、その階段を上ったのだが……その直後、儂は冷水を浴びたような衝撃に襲われた。

 見てしまった光景に目を背けるが、進めなければこのゲームをクリアすることは出来ないので、少しずつだが儂はテキストを送っていく。

 

「ッ――――覚えておれよアラン」

 

 真っ暗な画面に響くとても重い打撃音。

 身勝手で自分勝手な事を語るアランという男。

 一方的な愛を娘に求めて、同意を得させるために……何度も何度も、振るわれる暴力。

 そして、クロエの様子と受け答えから……肯定しなければ殺されるという事を子供に理解させる程にこれが繰り返されているのが分かってしまうような、とても短いシーン。

 異常な父に逆らえない。

 そんな事を一瞬でプレイヤーに理解させるこのゲームの表現力は凄い物があり、気付けばそのシーンに引き込まされていた。

 

「こんな愛は……嫌じゃな」

 

 

[モデルの作り込みのせいで、鴉様の表情と気持ちが分かってつらい]

[本当につらそうに見てたね]

[あの父親許さねぇ]

[一回音が響く度に目を背ける鴉様をみるの嫌だった]

[本当に子供が好きなんだろうな……]

[しばらく引きずりそうだな]

[事案……捕まれ親父]

[…………]

[鴉様が純粋過ぎてつらい]

 

 

 回想が終われば元の色に戻り、そこには曇った表情のミシェルと楽しそうに演奏するクロエの姿があった。あれだけつらそうにピアノを弾いていた彼女が、こんな嬉しそうに弾いているのを見て、余計にあの男が許せなくなる。

 そしてまた場面が切り替われば、ずっと暗かった広間に色が灯るシーンが映し出され、今までなかったアイテムの事を知る事が出来た。

 

「…………よかったのう、クロエ」

 

 心の底から言っているであろうミシェルへの賞賛には、彼女の全てが籠もっているような感じがしてしまう。これが聴きたかったと、目の前の演者の演奏が聴けて嬉しいと……そんな事を感じる事が出来る。

 というか、今聴いて分かったが……この「月光」という曲はヴァイオリン用じゃないのによくミシェル弾けたのう……。

 

「そうか、アレンジしたのか――――この少年凄くね? 儂もちょっとやってみたい、というかこの二人と一緒に演奏したいぞ」

 

 あとまだ足りないという台詞的に、楽譜を探して二人の演奏を聴いていけばゲームも進むらしいし……これから先が凄い楽しみじゃな。

 だって子供の演奏を聴いてストーリーに魅入っていれば、きっとすぐ終わるから……まだまだホラー要素はあるだろうけど、そこには千歩か万歩譲って遠目で見れば行けるだろうしここからもサクサク進めていくか。

 

 

[頑張れ鴉様]

[ミシェル君めっちゃ有能じゃん]

[演奏していけば呪い解ける感じかな?]

[色んな鴉様が見れて楽しいです!]

[色んな……]

[イキリ、ロリ、ショタ、子供好き、純粋]

[本当にいっぱい見れるね]

 

 

 とりあえずなにか関係ありそうだが、人間の病みを感じる分が流れた事でちょっと泣きかけたが……それ以外は絶好調。呪いが解かれたっぽい一階にあるアイテムを取って、そのアイテムを使って開けられる二階南使用人室へと向かう。

 

「使用人の部屋とかアイテム沢山ありそうじゃし? ささっと楽譜を見つけ――――」

 

誰かに見られている気がする…………。

 

「やめて? 急に来るのずるいよ?」

 

 一瞬固まったと思ったら出てきたテキストと流れた不吉な音楽に、すぐに童女化。

 激しく動く心臓が悲鳴を上げるが、まずはヒントになりそうな落ちている紙を見ることにしよう。

 

 

 

あなたのうしろ

 

 

「――――!? ふっ…………いないではないか、まったくさっき「逃げろ」と助けてくれたから許すが、あまり妖怪を驚かせるでないぞ?」

 

 

[あの進めてください]

[うんうん、何もないから進めようね]

[怖くないんでしょ? 何もないって確認したでしょ? ほら進めよ?]

[めっちゃ早口で喋るじゃん]

 

 

 持っている燭台のおかげで視野が広いからこそ言うが、今のミシェルの後ろには扉しかないしそれは画面に映ってるので、後ろに何かがいると言うことは有り得ない。はぁ、このメモ……さっきは助けてくれたし、きっとツンデレってやつじゃろうな! うん、そうに違いない。それにコメント欄がなんか言ってるが、儂は怖がってないから進むことぐらい出来るんだよなぁ。

 

「ん? ……儂のどこが怖がっているように見えるのじゃ? ほら進めたぞ――――なんだただの目目連ではないか――それなら家にいるし怖くないのう」

 

 結局進んでみれば、出てきたのは赤い目だけの画面。

 昔からこの神社にもいる目目連のようなその背景、それは今の儂の部屋の状況とあまり変わらないので怖いという事がなかった。

 儂は趣味で付喪神系の妖怪を集めているし、目目連にはこの家を自由に動いていいという許可も出している。配信中にもたまにこっちを見てくるし、この程度だったら今更だ。

 

[これを怖がらないのは草]

[沸点分からねぇ]

[妖怪ぽいからでしょ、言ってたとおり目目連も似たような感じだし]

[いや違うな。鴉様ガチ勢的に言わせて貰うとこれは、妖怪を想像している事で怖さを紛らわせているんだよ]

[↑めっちゃ早口で言ってそう]

[でもわかる]

 

 

「はっ、そんな訳ないじゃろう? 儂が似たような妖怪を知っているのに怖がるだと? ……片腹痛いわ……え、これ……人間の目じゃと……………………すぅー……よし探索するか」

 

 コメント欄に溢れる草とかは気にせずに、部屋を探索してみればなんとさっきとは内容が変わっていたメモが落ちていたのだ。変わったメモには今後の謎解きに関係ありそうな事と、ABCDEという五人のメイドの特徴が記されていた。

 

 それを今は記録してミシェルに拾わせ進めば、急になんか重い物でも落ちてきたのか、ガシャリという音がなり、先程までメモがあった場所に熊のぬいぐるみが落ちていた。

 

「ひっ――熊? なんじゃ熊か、これはあれか? 仲間にする的なイベントじゃな……よし――あれ、これ重くて持てないのか? でも何か入ってると…………あぁ、これまたバイオレンスミシェル君のターンじゃな」

 

 このゲーム的に何をするか分かってしまったので、儂は鋏を装備して熊の腹を子供に切り裂かせた。

 その中から出てきたのは、クロエの母親の部屋の鍵――その部屋にいかなければ進まなそうだが、その前に回復する必要があったのでクロエと会話して、セーブしてから母親の部屋に足を運んだ。

 

 

「………………なぁ主ら、これはつらいな……どっちが悪いんじゃろうな」

 

 

 入ってしまった母親の異常な部屋を探索してから十分後、暫く無言だった儂は探索し終えてからそんな言葉を漏らしてしまった。

 

[強いて言うならアラン]

[クロエちゃんはなにも悪くない]

[母親もきっとあの父親がいなければ狂わなかった]

[本当に許せない]

 

 今儂はクロエの母親が残した日記を読み終え、その感想をマヨイビト達と共有することにしていた。

 日記に記されていたのは、母親の悲しい日記。

 「娘が狂っている」という一文で始まった――とてもまともな人間が書いたようには見えない、そんな日記。

 それを書いている時に彼女の母親がおかしかったのか、既に狂ってる状態で書かれたのかと聞かれればきっと後者だろうと感じられるその文章とも言えない何かは、最低限理解出来てしまうからこそ読むのがつらかった。

 母親がより狂っていく過程が書かれたこの日記はクロエには見せられないだろう……いやみせてはいけない。

 

「……状況が悪いのか、あの男が何かしたのかは分からぬが……まぁあれじゃな、嫉妬や老いへの恐怖は怖いな」

 

 

 長く死ぬことが出来ない儂だからこそ言える台詞。

 ずっと一緒に過ごしたかった者達と離れていく恐怖、残される悲しみや喪失感……自分だけが成長しないせいで、向けられる不老への嫉妬、そして先に逝ってごめんという誰かの罪悪感……演じる度に関わって、全力で笑わせて……その度に何度も看取る長い生…………。

 ゲームでそれを思い出すのは、きっとこのゲームに儂がのめり込んでいるからだろうな。

 

 

「とりあえず謎解きはパパッと終わらせたが、次はクロエの部屋じゃな……きっとそこなら楽譜はあるだろう」

 

 まだ鍵がかかっていた部屋に向かえば、その部屋はとても暗かった。

 玩具が沢山置いてある楽しそうな子供部屋、燭台を持とうとも視野が広がらないその部屋が明るくなるには、どうやら薪がいるようで……。

 

「ということは、あれじゃな……この部屋の人形達か」

 

 一瞬の叫び声と共に、流れる台詞。

 痛い、熱い、誰か……助けて――――そんな言葉を無視して、儂はテキストを進めていく。喋る人形とぬいぐるみ……ミシェルが聞く幻聴かもしれないという想像すらしてしまうのは、このホラーゲームの独特の雰囲気があるからだろう。

 

 

[淡々とゲームする鴉様なんか怖いね]

[さっきまで感情豊かだったのに、声に一切感情がない]

[怒ってるんだろうな……]

[ここまで感情移入してゲームするの酒猫ぐらいだわ]

[あの娘もホラゲーやって凄い泣いたり怒ったりとかしてたよね]

 

 

「…………すまぬ、ちょっとあの日記に当てられてた。とりあえず、クロエ可愛いのう……猫の名付けが安直なのもいいのじゃ」

 

 薪を燃やして始まったクロエと猫のイベントシーン。

 それを見終えて心が癒やされた儂は、クロエに存在をまったく認知されない影に話を聞いて見ることにした。

 その影……ともだち曰く、閉じ込められていたお礼になにかクロエに関する「思い出の品」を持ってくればどうやら、彼女の記憶を見せてくれるらしい。

 

「ここまでの流れ的にそれは必要じゃろうが……儂的には結構クル――でもあれじゃ、探すとするかのう、儂とて先が気になるしな」

 

 まずは頭に浮かぶ「思い出の品」。

 最初のだろうし、この部屋にあるだろうと予想して探索してみたら案の定それっぽい物があった。

 

「ビンゴ……じゃな」

 

 

[うわ、これはつらい]

[感情が籠もってない言葉だから、余計に引き込まれるし怖いな]

[クロエちゃん……]

[これが昔あってもつらいし、なくてもつらい]

[鴉様、頑張ってクリアしてくれ……ハッピーエンドが見たいんだ]

 

 

 手に入ったのは、クロエが書いたであろう――とても仲良さそうに描かれた一家の絵。

 彼女の願望か、本当にそんな時期があったのか…………それは儂には分からないが、これをみせれば少しは分かるだろう。

 そんな事を考えなら、儂は「ともだち」にその絵を見せることにした。

 

 

 




 次回はちょっと息抜きをかねての番外編。
 七尾様かつぐみんのどちらかの話になりますので、どうかお楽しみください。


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番外編:【同時視聴】ママの配信を見守る息子+鳩達【妖ぷろ/3期生】

 ということで生き抜きかねての番外つぐみん回。
 鴉様が配信してるときにつぐみんが何をしてるか? みたいな回なので、安心して見れるはず……。


つぐみん配信始めるって!

ママの配信って鴉様の?

そうっぽい、概要欄みると許可取ってるらしい。

新鮮な息子の反応楽しみ

七尾様今日も勉強配信してたって!

酒猫また飲んでるよ!

ぽっぽ、ママが配信始めたよ。

狂天狗が、また眷属達の心を折ってるよ

依童様がまた晩酌してるよ

クソマロ送りつけときますた!

ポン童子が、昨日シャンプーぶちまけて機材壊してたよ

鳩多いなw

それ確か50万ぐらいのやつ……

                     

▶ ▶❘                                 CC ⚙ ろ わ だ 

【同時視聴】ママの配信を見守る息子+鳩達【妖ぷろ/3期生】

5.396 人が視聴中・0分前にライブ配信開始        い175 う12 へ共有ほ保存 …


【妖ぷろ/三期生】源 鶫 Ch

チャンネル登録者数 46383人

 

 配信のコメントが流れ始めたのを確認してから、盟友の画面を映して最終動作確認を済ませる。

 そして声を出すために一度深呼吸してから、同期の二人が考えてくれたいつもの挨拶を皆の前で披露する。

 

「ヒョーヒョーという鳴き声からこんにちわ、妖ぷろ三期生所属源鶫っです! 今日はあれですね、待ちに待ったママのホラゲー配信! ちゃんと許可を取ったので、いっぱいママの反応を楽しみましょう!」

 

 久しぶりに出来た新たな仲間。 

 そんな彼は今頃自分が勧めたホラーゲームの配信を始めてくれたようで、僕もそのおかげか安心してこの枠を開くことが出来た。

 同時視聴というのを責めるコメントもあるが、それはこれを企画してくれた盟友に悪いので無視だ。告知はしてないけど、自分の視聴者がこっちにも流れて欲しいという彼の善意からの企画。

 それに、このタイトルなら他の方々の視聴者も来るんじゃないかと予想してくれていたが、成功したのかコメント欄には見慣れない名前がチラホラ見える。

 

 

[鳩配信って事はなんでもいっておーけー?]

[いいんじゃない概要欄にもあるし……]

[じゃあ早速、昨日総大将がまた爆死してました!]

[フェス中に100連爆死]

[虹2つ]

[今度狂天狗バトルロイヤル開くって!]

[参加するの?]

 

 早速始まる鳩行為、普段は嫌われる物かもしれないけど……この配信はそういう趣旨なので、もっと盛り上がってくれても構わない。

 そんな訳で僕は所々コメントを拾いながら、盟友の配信に触れる事にした。画面の向こうの盟友のモデルはこれでもかというぐらいに消沈してて、いつもの覇気を感じなかった。

 

「あ、ママが死んでますね……いやぁ、あれですよね自分が勧めたホラゲーをやってくれるのは嬉しいですよね! 見てるだけで、やりたくなります! まあ僕は基本見る専なんで自分ではやりませんけど……」

 

 

[早速つぐみ構文出てるじゃん]

[お前のせいでママ元気ないんだけど……]

[よくやったつぐみん]

[あ、依童様がきゅうり味のビール作り出してる]

[なんだそれ……]

[なんだよそれ、酔ってんのか]

[今見たけど、きゅうりすりおろしてビールに入れてた]

[草]

 

 

「いや、何してるんですか先輩……ちょっと味が気になりますよね! 胡瓜だったらそのまま食べたいですけど」

 

 やっぱり妖ぷろの先輩は濃いなと思いながら僕は自分の感想を述べて、前日に盟友から貰った日本酒を開けて、彼の配信に意識を集中させる。

 どうやら彼は今、主人公の服を剥いだみたいでそのせいでコメント欄が盛り上がってた。

 

「悲報、ママがショタの服を剥ぐ……うーん、このワードパワー強いですね」

 

 

[これは草]

[報道被害受けそう]

[事実なんだよなぁ]

[あ、今度僕誕生日です]

[おめでとう]

[ぽん童子も誕生日もうすぐだよね]

[初見です! 僕らのママの第一子の活躍を見に来ました]

[速報、鴉様ロリ化!]

 

 コメント欄にも目を通してみれば、そこには信じられないようなコメントが一つ。

 少しの遅延のせいでそうなっているのは分かるが、推しの姿だしそれは自分の目で知りたかった。とりあえず、いつも面白い盟友のコメント欄にも目を通せば、やっぱり面白いコメントがちらほらあったのでそれも拾ってみる。

 

「あれ、なんかコメント欄に腐りきった正義の味方いませんか?」

 

 いつも思うけど、あそこのコメント欄はどうしてあれほどネタが溢れるんだろうか? 

 そう思ってみたが、結構答えは簡単そうだ。多分だが、盟友の事を見ててもあまり飽きないからだろう。

 

 

[本当だw]

[天才……吹いたわ]

[そのコメント好き]

[MADでよく見る正義の味方じゃん]

[あのやばい電動MADか]

[速報:狂天狗マリカ三十回連続一位]

[やばくて草]

[速報、鴉様人間に恐怖する]

 

 

「姉さんなにや――――やっぱり! 狂天狗さんは凄いですね! 尊敬します!」

 

 そんな中、急に入った姉の所業に普段の口調で答えそうになってしまったが、すぐに大声でそれをかき消すことにした。

 

 

[姉さん?]

[そうか、そういえば絵師同じじゃん!]

[あれ、確かリアルでも――]

[そういう鳩はやめようねー]

[コメント流そう]

[誤魔化すために大声になりまくってて草]

[尊敬してる感じがしねぇ]

[速報、鴉様やっぱりクソザコ]

 

 

 あの姉はゲームになると本当に自重しないな……そのせいで、何度僕がボコられたか――思い出したらちょっとムカつくが、VTuberになることを勧めてくれたのは今でも感謝してるのであまり文句は言えない。

 

[九十又仙魈:つぐにゃんも一緒に酒飲もー!]

[猫様!?]

[あれ今配信中じゃない?]

[きた恒例行事酒凸だ!]

[そして数多の男が燃えてきたと……]

[酒猫ちゃんには悪気ないんだけど、一部の人達がね]

[あとアンチ]

 

「ちょっあ……あの仙魈さん! えっとファンです! 酒は自分あんまり飲めないので、コカコーラで乾杯しましょう」

 

 酔ったら多分大変な事になると分かってるので、ここはコーラで我慢。

 勿体ない気がするが、まだ推しと関わるのは申し訳ないので、もっと胸を張ってVTuberをやれていると言えるようになったら、こっちから絡ませて貰おう。

 まあでも……推しが急に来ると、取り乱しますね。

 椅子から落ちそうになってしまいましたし……。

 

 

[九十又仙魈:わかったーじゃあ私もコーラ飲むー、勝負しよー?]

[飲むの止めないの流石猫様]

[あの……いま既に八本開けてますよね?]

[九十又仙魈:知ってる-? 胃袋って限界ないのにゃん!]

[取って付けたような語尾、さてはまだ酔ってないな]

[胃袋って無限なんだ……]

[多分猫様だけ]

 

 

「あれ、僕この流れ死にません? 誰も心配してくれないのおかしくないですか?」

 

 やばい、推しであるこの方と楽しく飲むのはいいけれど……流石に死ぬ。

 あれですよね、この勝負わんちゃんどころか、胃が糖分に殺されるやつじゃないですか?

 思い出されるのは、今まで何度も見てきた彼女の配信……酒が消え、山盛りどころか三箱分のポテチが消え、最終的に三十分で食された満漢全席……そんな相手に今から自分が挑むという事実は予想以上に、自分の精神にクルものがあった。 

 

 

[九十又仙魈:もみにゃんは生きてたよ?]

[あの二期生の大食いズと一緒にしないであげて……]

[グッパイ……つぐみんb]

[また来世]

[平安時代に帰る前に、糖分で討伐される大妖怪]

[推しと最後に絡めて幸せじゃん……よかったね!]

[殺意マシマシ猫]

[なお善意しかないという……]

[いやぁ、つぐみんが親指立てながらコーラの海に沈む光景は涙無しでは語れなかったぜ]

 

 

「あれー誰も僕の安否心配してくれる方いないんですが? ……皆僕の子分ですよね?」

 

[私一升瓶]

[僕眷属]

[自分は総大将の義兄弟]

[某、鬼の餌]

[拙者も眷属]

[雪椿:私はマヨイビト]

[ワタクシ道満は子狐ですね]

[我は川魚]

 

 

「僕の子分が一人も居ない件について小一時間ほど問いただしたいんですが……あとやっぱりウチの箱のリスナーの呼び方狂ってますね」

 

 三期生の僕らの呼び方は比較的まともだけど、二期生の方々のリスナーの呼び方ヤバいですよね……まあ、僕も一升瓶の一つなんであんまり言えませんが、改めて並べられるとカオスな光景だと思ってしまいます。

 

「それに二個ほど食べ物的な方々いますし、妖ぷろってもしかして宴会会場ですか?」

 

 ふと思ったことをコーラを飲みながら喋れば、予想以上にこの説を支持するコメントが見ることが出来た。

 

 

[あってる気がする]

[これ真理では?]

[餌があり、魚が用意されていて、沢山の一升瓶と義兄弟にマヨイビト……それに子狐に眷属と]

[妖ぷろ、宴会説実証]

[眷属である俺らを忘れるな]

[鴉様、人間にキレる]

[そして、またクソザコ扱いされる]

[いつもやろ]

 

 

「あ、ちょっと通知来たので確認します…………おっ、狂天狗さんのバトルロワイヤルの開始時間発表されましたよ!」

 

 配信中になんだと思えば、阿呆姉という名前の者からの通知が二件。

 

#阿呆姉                                     
阿呆姉     今日 21:15   
私の話題はあまり出すな、滅ぼすぞ莫迦弟  
あのヒトにはサプライズするつもりだから、少しでも……あとは言わんでも察しろ。

あと返信はするな

 

 やはり横暴な姉にちょっと笑いながら、不器用な彼女らしい言い方に盟友の影響は凄いなと改めて思ってしまう。了解と心の中で返事をして、僕はさっき見えた鳩の方に反応する。

 

「あ、そろそろ第一の恐怖ポイントですね……きっと叫ぶママが見れるはずです!」

 

 彼の配信はいまちょうど人形のシーンへと変わっており、かなり恐れながら人形を調べている盟友の姿あった。絶対にいいえを選ぶといいながら、くしゃみをしてしまう彼――その瞬間、まだ「あげる」を選択していたようで、誤ってそれを押してしまったようだ。

 

「くしゃみ……いいですね! ショタのくしゃみですよ? これできっと何人かの方は救われたでしょう!」

 

 まあその課程で、金髪ショタである主人公君の目が消失してしまいましたが……それはコラテラルダメージ的なやつなので問題はない。

 

「あっママがロリママになりましたね…………? え、あれ……ロリママ? え? ――あ、雪椿さんがコメントしてますし便乗しますか!」

 

 

[朗報ママ完全ロリ化]

[鶫君超ガチ混乱]

[そして流れるように同意するの笑う]

[妖ぷろは仲いいなぁ]

[速報ロリママは存在する]

[まさか長年学会で議論されていたロリママ問題が、ショタのおかげで解決するとは思ってなかった]

 

 

 そしてママは混乱をしまくったままロリ化を極めて、声質口調なども完全に幼女みたいな物に変わった。リアルで見たときも思いましたが、紡さんの演じ分けは本当に人間やめてるように感じます。

 ……あのママ化した時だって雰囲気そのものが変わってましたし、本当に尊敬してしまうほどに演じてるキャラが生きてるんですよね。

 

「ロリママショタ爺……そういえば、これラーメンっぽいですよね。『大将! ロリママショタ爺一つ!』ってやっても違和感ない気がします」

 

 

[なんだその店]

[行ってみたい]

[看板メニューは鴉様]

[速報:酒猫寝落ち]

[悲報:つぐみん勝利]

[いま慌ててぽん童子様が配信切ったよ]

[あの二人家近いらしいからね]

 

「閃いてしまいますね……というか、勝ったんですか僕!?」

 

 やばいこれは妖ぷろの歴史に名を残せるかもしれない。

 だって、あの仙魈さんに勝ったのは総大将様ぐらいじゃありませんか? これは盟友に自慢できますね、ふふふ……これなら楽しく話せます。

 喜ぶ僕とは別にネタだろうが、ちょっと不穏なコメントが流れるが……すぐにそれは収まって、おめでとう? みたいなコメントが流れ始めた。

 

「いやぁ、これはもうあれですよ! 妖ぷろで大食い大飲み企画をやるしかありませんね、あの方に勝った僕はシードで最終戦だけやるかんじで」

 

 

[調子に乗るな一杯しか飲んでないだろ!]

[これはライン越えたわ]

[お前は逆に全員と戦え]

[今度こそ死んだわつぐみん]

[黙祷]

[鴉様ロリ化終了]

[悲しい]

 

 

「あーやばいこれは失言デッキが埋まってしまいますね……しかし僕はつよい鵺ですから、こういうときには最強のカードを切れるんですよ……また盟友をママ化させるという最強の切り札をね」

 

 あのヒトとのゲームはやってて凄い楽しいし、また罰ゲームありでの企画をやるのも楽しそうだ。今度は二人を対象にして罰ゲームをやるのも良さそうだし、それを考えると……どんどんやる気になってくる。

 

 

[また罰ゲームありの企画やるんだ]

[これは応援しなきゃな!]

[負けたら分かってるよな?]

[勝ったら許してやろう]

[あれだね、一・二期生とのコラボも見たいね]

[そういえば、もうすぐ二期生の3D配信あるよね]

[勿論つぐみんもみるでしょ?]

 

 

「勿論ですとも! 既に予定は空けてますし、何よりその日の配信は休みにしましたからね!」

 

 盟友と一緒に配信を見るという約束もしたし、これから先が楽しみだ。

 姉から誘われて、気紛れで始まったVTuber生活……まだ始まったばかりだけど、それは思った以上に楽しくて、かつてのゲーム生活を思い出してしまう。

 

「じゃあ、どんどん鳩の方来てくださいね! まだまだ配信は続きますよ!」

 

 




 まだまだアンケートはやっていますので、見たい箱に投票してくださいねー。
 いまは異世界バーチャルズと世界書庫がめっちゃ接戦です! こんなに投票してくれるとは思ってなかったんで凄い嬉しいです。
 あと話変わりますが、昨日この小説が日刊ランキングの五位に載ったんですよ! これも皆様のお気に入りや評価感想などのおかげですので、これからもよろしくお願いします! 次回はまたホラゲー配信回、残り三話で終わらせる予定ですのでどうかお待ちください。


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【ホラーゲーム】ほらーげーむはいしん……【ビビリ鴉】その4

 あと三話で終わる予定だったのが、書きたいネタがどんどん浮かぶせいで分からなくなってきた。
 追記:ここから先は、ゲーム実況ライブ風に進めているので、ガチで長いのでダイジェスト回に飛んで貰っても一応大丈夫な筈です。
https://syosetu.org/novel/250637/23.html


 クロエの「ともだち」に家族の絵を渡したことで見れた回想。

 それは儂が想像していた暖かい家族の光景なんてものではなく、とても冷たい父親とまだ何もされていなかったであろう頃のクロエの思い出だった。

 過去の「ともだち」と楽しそうに話して、無邪気に家族の絵を描いて喜ぶ少女――と、それを一瞥し、娘に対して持ってはいけない欲を既に持っていただろう父親。

 これを見せられて出てくる感情といえば、とても単純なもので――――。

 

「ムカつくなぁ……ここまで回想で出てくるのだから、流石に出るよな? アラン……」

 

 

[おこ鴉]

[キレてるね]

[これで出なかったらどこで恨みを晴らせるんだ]

[絶対出ろよアラン]

[俺らが相手だ]

[源鶫:僕も参加します!]

[七尾玲那:私もいくわ]

[てぇてぇ……]

[三期生はやっぱり仲いいな]

 

 

「主らがいれば心強いな。そして絶対にアランを見つけるぞ、マヨイビト達よ」

 

 同士は募ったのであとは、儂らの怒りを開放する相手を見つけるだけの事……そんな風にゲームの世界に入り込み、どんどん先へと進めていく。

 

「そういえば主ら、今手に入った「小さな鍵」は何処で使えばいいかのう? それらしいのが見つからぬのじゃ」

 

 格好つけたのは置いといて、とにかく今は探索しないといけないので分からないときは出来るだけ聞く事に。小さな鍵という事は小箱とかを開けるのに使いそうだが、棚とか全部調べても開けられそうなアイテムは手に入らなかった。

 

 

[全部みた?]

[見てたはず……]

[箪笥とか棚とか書庫とかも全部見たけどなかったね]

[なにか見落としたんじゃない?]

[それか結構後で使うのかな]

[おもちゃ箱って見た?]

[それはなくない? デカいし]

[一応見てみれば?]

 

 

「そうか玩具箱か、それなら調べてなかったのう…………あ、空いたのじゃ助かったぞ主ら!」

 

 

[いいって事よ]

[もっと喜んでどうぞ]

[やっぱり笑ってる方がいいわ鴉様は]

[で、感謝の品は?]

[鴉様の羽欲しい]

[写真でいいよ]

[拙者メイド服希望]

[自分はゴスロリがいい!]

 

 

 

「怖いぞ主ら、儂はコスプレせんからな……で、手に入ったのは「小太鼓」? 何に使えばいいじゃ……これ?」

 

 相変わらずのノリのコメント欄に癒やされながら、とりあえず新しく手に入れたアイテムを右手に装備して、左手には安定の燭台を持つ。

 再度クロエの部屋を探索し尽くして、もう何もないと分かったので、クロエが待っている二階の広間に足を運ぶ。それでそこには、さっき現れた二匹の猫がいて、その子達と仲良く遊んでいるようなクロエがいた。とりあえず一度話を聞き、もはや慣れたセーブ作業を行う。

 

「……説明を見る限り、この小太鼓人間用ではなさそうじゃな……そういえば、まだ燃やしていなかった兵隊の人形がいたような気がするのう。気になったし試してみるかの」

 

 正解じゃないかもしれないが、儂の勘はこれは当たっていると言っている。

 この数多くの物達が付喪神化しているこの音楽屋敷なら、きっと太鼓を渡せば演奏してくれる玩具もいるはずだ。いや、きっといる――だって、頭取れて襲ってくる西洋人形がいるぐらいだし……。

 

「とりあえず、当たって砕けろの精神じゃな、セーブはしたし多分死なぬであろう――――よしよしじゃ、兵隊の人形が演奏を始めたぞ。しかも怖くない!」

 

 

[草]

[人形可愛い]

[反応が子供]

[時間が経つごとに弱くなる鴉]

[終わった頃にはきっとロリだろうな]

[それお前の願望だろ……]

[拙者メイド服のロリ希望]

[私はサムネイル洋服を着た鴉様みたい]

 

 

 

 軽快に響く太鼓の音。

 今まで出会った人形達の中で一番いい奴というか、怖くない味方ポジションの人形は癒やしにしかならなかった。コメント欄も人形の賞賛コメで溢れていて、それのせいか儂はこの木で作られたであろう兵隊人形が欲しくなってしまった。

 

「今度知り合いに此奴を模した人形でも作って貰うかのう、家に欲しいのじゃ」

 

 

[人形君家にくるってま?]

[家にこれあったら怖そう]

[判断速すぎ]

[好感度一瞬で上がるの草]

[西洋人形に怖がってロリ化して兵隊人形を欲しがるショタ]

[相変わらずコメントのパワーも強い]

[多分こんなコメントをさせる鴉様が一番強い]

[だけどすぐ堕ちるから結局鴉様は弱い]

 

 

 

「は? 儂強いぞ? ずっと思ってたんじゃが、ここらで儂の力を一度見せなければならないと思うのじゃ――というわけでな、儂はもうこの配信ではビビらんぞ!」

 

 そうだ最近はずっと儂が弱いみたいな風潮があるが、本当の儂はまじで何でも出来る妖怪じゃ。

 つまりこれから情けない姿を見せなければ、儂に対する弱いみたいなのはなくなる筈なのだ。そしてそれはこのホラゲーという苦手な物だからこそ達成できる物なので、儂は今立てた誓いを絶対に果たさなければいけない。

 

「そして人形のおかげでトロイメライの楽譜もゲットじゃな!」

 

 暫く人形の演奏を聴いていると突如現れた目当ての楽譜。

 トロイメライとは、ロベルト・シューマンが作曲したピアノ楽集「子供の情景」その七曲目に当たる夢という意味を持つ曲だ。かなり優しい曲調のトロイメライは、昔外国に遊びに行ったと時に出会った子供にせがまれた思い出があり、今も完璧に弾くことが出来る曲の一つだ。

 そういえば、あの子ずっと俺の演奏ばっかり聞いてたなぁ……酷いときは一日中ピアノを弾かされたし、部屋から出してくれないこともあった。

 今となってはそのおかげで上達出来たからいい思い出なのだが、こうやってホラーゲームから思い出すのなんか面白いな。

 

「とにかく二人のトロイメライ楽しみじゃ。ホラー要素の後の癒やし要素、しかも気に入ってる二人の演奏! 待ちきれないのう」

 

 

[俺も楽しみ]

[待ちきれなくて椅子に座って足揺らす鴉様が想像できるわ]

[このコメントでまたFAと増えるぞ?]

[既に三百件ぐらいあるよね]

[FAをリツイートしてたら友達出来ました! ありがとう鴉様!]

[ちなみにどんな絵がきっかけ?]

[「人形怖い」と言いながらカリスマガードする鴉様]

[それは草]

 

 

「そうか儂のおかげで友が出来たのか! それはよかったのう……あれ、まっとくれ?」

 

 上機嫌でコメントを拾いながらピアノがある部屋に戻ってみれば、なんかピアノの足が壊れていたのだ…………なんで壊れとるの?

 

 

[すっごい一瞬で表情が変わったの草なんだ]

[笑顔→困惑→理解→魂抜ける]

[↑草]

[まじでその通りに表情変わってて草]

[さっきまでの笑顔が嘘のように……]

[とりあえずクロエちゃんの話聞いてみよう]

 

 

「そうじゃな、それをしなけば話が進まん。それに怪我してないかとかも心配じゃからな」

 

 さっきまでピアノを弾いていたかもしれないし、その時に壊れたのなら怪我があるかもしれないから一度話を聞かなければならない。もしも怪我してたらこの屋敷から、応急処置できるような物を探さなければならなくなるので、出来るだけ早く話を聞こう。

 

 そして話を聞いてみれば、クロエはかなり取り乱していてそれをミシェルが宥めるようなシーンが流れた。その慌てるクロエの様子的に、やっぱりこの屋敷の呪いを解く鍵は音楽のようで、このままじゃ大変らしい。

 話を聞き続けてみれば、一応三階にあるホールにピアノがあるようだが……呪いが強いのか何なのか、クロエは上の部屋には行けないようだ。

 

「つまり……そこにアランいるのか? 呪いの元凶きっとあの父親じゃろうし……よし、ミシェル燭台持って突撃するぞ!」

 

 

[今更だけどミシェル君に容赦なくなくない?]

[わかる]

[違うな、ミシェル君を信頼してるんだよこれは]

[貴方は、よく現れる鴉ガチ勢!?]

[解説してくれ]

[鴉ガチ勢:よしチャンネル名変えたから解説するぞ……]

 

 

 なんかコメント欄が一つのチャンネルのせいで盛り上がってる気がするが、今はイベントに集中したいので後で拾うことにして、ボタンを押すことにした。

 話を進めていくと黒い毛並みを持つ猫のノワールが、急に三階へと向かう階段の方に移動して、右側の階段の前で待機していた白い毛並みの猫のブランと一緒に一度鳴いた。

 

……嫌な感じが消えた

 

 するとそんなテキストが流れて、少しの演出が入った。

 そしてその後のミシェル曰くこれなら上に行けるらしいのだ。

 それが終わり、操作できるようになったので、三階へと向かってみればそのホールのど真ん中にはアイテムが落ちていた。

 

「よし、ちゃんとピアノもあるし、なんか鍵も手に入ったぞ!」

 

 ホールで今拾ったのは「二階北使用人室の鍵」、この鍵を使えばまだ入る事が出来なかった二階の部屋の中も探索できるし、横にピアノもあるのですぐに演奏を聴くことが出来る。

 まだ配信も五十分かそこらぐらいだろうし、勘だけど多分かなり順調だろう。

 

「ピアノを調べればイベントは進むだろうし、ひとまずセーブじゃな」

 

 このゲームはいつやばい選択肢を与えてくるか分からないので、こうやってこまめにセーブしなければ安心できない。ちゃんと新しくセーブしたのを確認して、ピアノに触れればイベントが始まったのだが……。

 

「…………鍵盤が足りぬようじゃな」

 

 クロエが弾こうとしたとことでミシェルが気付いたようなのだが、どうやらいくつかの鍵盤がこのピアノから抜けてるらしい。流石にそれでは演奏する事なんて出来ないので、クロエはミシェルに一緒に探してと頼むことにしたようだ。

 

「本当にミシェルはクロエに弱いのう……やはりこの二人は初対面ではないのか?」

 

 鍵盤を探すのを最初渋っていた様子のミシェルだったが、クロエの泣き落としにやられてすぐに白旗を上げた。やっぱり何かこの反応はおかしい気がするのじゃ、時々入る赤文字のテキストも、あれはミシェルの口調のようじゃし……うーん、分からぬのう。

 

 分からないまま考えても意味が無いので、とにかく儂は今手に入れたばかりの鍵が使える部屋に行くことにしたのだが、そこの部屋は最初の使用人部屋と同じ目目連部屋だった。

 入った直後に始まったメイドの回想のような物と、急に現れた目目連のせいで悲鳴を上げかけてしまったが、それはなんとか堪えたのでセーフ。

 

 

[あれいまひって?]

[堪えてたしセウト]

[いや駄目でしょ]

[まだ許してあげよう]

[そうだね、ちゃんと叫んだ時に煽ればいい]

[鴉様可哀想w]

 

 儂の反応を怪しむようなコメントを意図的に無視しながら、部屋を探索してみれば狂った母親の殺人と、被害者であるメイドの特徴が書かれたメモが机の上に置いてあった。

 自分がズタズタにしたぬいぐるみを見られただけで、凶行に及ぶ母親はもうきっと完全に狂っていたんだろうな。そんな事を考えてちょっと悲しくなりながら、儂はそのまま部屋の探索を続けてみたのだが、特にめぼしいものはなくて、何かあったとすればこの部屋から南の使用人部屋に行く事が出来たという事だけだった。

 

 南の部屋にはさっきのメモに関係ある謎解き要素がいくつかあったのだが、ネタバレにならない範囲でのヒントコメントのおかげでサクサク進むことが出来て、儂はピアノの鍵盤を手に入れることが出来た。

 通ったことはないから分からないが、学び舎の先生というのはあんな感じなんだろうな。生徒にヒントを与えてくれて、答えに導いていくのは意外と新鮮だった。

 

「ナイスじゃぞ主ら、よく儂にネタバレ無しで伝えられたのう」

 

 

[褒めてママ]

[僕達頑張ったよね?]

[だからご褒美はあれで!]

[ママ化ママ化!]

[ハーリーハーリー]

[やらなくてもいいよ? ロリ化すればチャラだから]

 

 

 ……儂はそこまで鈍感ではないから分かるが、これはあの桃鉄配信での最後の儂を望まれているのだろう。

 分からなかった謎解きを手伝って貰った手前、断るのは忍びなくやらなければならない気がしてきた――――だけど、今の儂はさっき驚きすぎて童女になったりしたが……まだ男だし、やるのはちょっと大妖怪の威厳的にぃ――――はぁぁぁぁぁ……やるかぁ。

 

「んんッ――――はぁー…………私の子供達、助けてくれてありがとうございます。そのおかげで私はこの部屋の謎解きを終えることが出来たので、感謝しかありません。本当に貴方たちは偉いですね」

 

 うん……儂何やってるんだろ?

 流石に男でママになるのはもう負けた気がするので、瞬時に女性に化けた儂は、冷静になってそんな事を考えた。

 というかもう分からん、儂の目指していたVTuber道って何じゃっけ? あとさ、儂、なんか配信始めてから流されやすくなってる気がしてきた……ん? なんだ目目連よ、そんな今更じゃん見たいな目で儂を見てどうしたのじゃ?

 え、喧嘩するか? ――配信後覚えとけよ?

 なんか悟りかけてる儂の後ろの壁に宿る目目連がなにか訴えてきたので、念話でも使ってそんな事を伝えてからコメント欄を見てみれば、そこには大混乱の嵐が広がっていた。

 当たり前だがこの配信が初見の方や途中から来た方もいるだろうし、そんな方達が急に声が180°変わった儂を見て混乱するのは仕方ないだろう。

 

「しばらくはこのままやらせて頂きますが、あんまり危ないコメントはしないでくださ――キャッ」

 

 一刻も早く進めて丁度良いところで男に戻ろうと思い、喋りながら今いる部屋から出ようとしたのだが……どうやらこの部屋から出られなくなってしまったらしい。

 

「あの待ってください? あれです、流石にこの部屋にいる間は母親でいようと思った矢先にいうのはなんですが、もしかしてあれですか? ずっと私は女性でいろという悪魔の悪戯ですか? というか、なんで開かないんです!?」

 

 混乱しまくって色々口走りながら、先の情報を知るためにテキストを進めていると鍵が開かないというイベントが急に始まって、どこからかこんな声が……。

 

女性の声:

これで邪魔者はいなくなった。

あとはあの子だけ

 

「知りませんよ! 私にとっての今の邪魔者は貴方ですから、はやく開けてください! キレますよ私!?」

 

 

[落ち着いてママ]

[慌てても敬語なの凄いな、一切ブレない]

[すでにお腹いっぱいなんだけど]

[性癖過多は別腹だよ?]

[涙目で草]

[まってショタボイスがロリボイスになってママボイスになるの意味分からないんだけど!]

[脳内で勝手にママ化した鴉やロリ化した鴉が浮かんでたけど冷静に見ればモデル変わってないんだよな……]

[鴉様の演技……もはや演技っていえないよね。化物過ぎる]

 

「とりあえず謎解けばいいんですか!? はぁー……やってやりますよ、お望み通り解いてあげます」

 

 キレてて気付かなかったが、先程までなかった何かが机の上に置かれたようだ。

 今出てきたという事はきっとこれに何かすればいいと思うのですが、一体私は何をすればいいのでしょう? 

 そんな事を考えながら調べてみれば、画面にはクロエが書いた家族の絵が表示された――そして、思い出されるのはさっきのあとはあの子だけという言葉。

 狂った母親、そういう奴の思考は何が何でもそれを消せればいいという物が多い……あたって欲しくないけれど、この絵にやればいい事を私は直感で理解してしまった。

 

「まあいいですよ? 貴方がそういう考えなら私はクロエの母になるだけですので、というか莫迦ですか? あんな美少女の母親でいる事の何が不満なんですか? あーあ、私が貰いますー」

 

 

[なんだこのママ超可愛い]

[ママ鴉完全降臨]

[遂にママに正式? な子が出来る]

[もう全てが草まみれ]

[キャラ崩壊で草]

[でもあれだよ、原因は俺らだぞ多分……]

[情緒の敗北]

[そっか鴉様は求められたからやってるだけなんだ]

[チョロすぎるわ]

[つまり俺達が望めばドS指揮官に?]

[やばい奴出てきてるの笑う]

[雪椿:もう私は……止まらないよ、うちの子がいる限り止まらないからね……だからマヨイビト達も、止まら……ないで、ね(ガクッ)]

[何やってるんだよ先生ぇ!]

 

 

 大事に大事に切り取るように、ミシェルへと念を押しながら鋏を使わせる。

 少しでも傷つけたら滅ぼすという意志を込め、ボタンを押してゲームを進める。その後やはり正解だったようで、普通に部屋から出た私は鍵盤をミシェルの両手に装備させて全速力でピアノの元に向かってすぐに調べる。

 

「ほらほら行きますよトロイメライ! 子供達の演奏ですからね、皆ちゃんとヘッドフォンで聴いてください!」

 

 振り切れてしまったテンションは最早止まる場所を知らなくて、もうそれでいいかとなりながら私は子供達の演奏を聴くことにする。

 演奏が終わればきっと回想が始まるので、多分そこに合わせれば男に戻っても違和感はないだろう。というか、男に戻れるタイミングは絶対に来て欲しいなと、心の底から切に切に願ってから私はゲームを進めていくことにした。

 

 




 あとこれは誤字じゃないので先に書いておきますが、地の文での一人称の変化は故意ですので、安心してください。
 それとアンケートは今日の23:59分までにする事にしたので、それまでに投票お願いします。
 ではまた次のホラゲー回をお待ちください、感想・評価は受け付けておりますので気軽に送ってくださいね。
 追記:アンケート時間の変更
 23:59→23:30分まで。


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【ホラーゲーム】ほらーげーむはいしん……【ビビリ鴉】その5

 今回の話は過去最長です。


「…………急遽募集じゃ、アランに対する怒りは何処へ向ければいい?」

 

 三つ目の回想。

 内容を簡単にまとめると、まだ母親が狂ってなくて「ともだち達」と話す事が出来た頃の物と……そして、父親であるアランが事に及んだ時の話。

 この回想を見るのに必要なトロイメライは夢という意味を持つ曲で、収録されているのは子供の情景。

 このゲームでは【子供の情景】を大人が昔を振り返る曲と表していた――つまりその事から考えると、クロエは大人という事になる。明らかに見た目が子供で、精神も幼い彼女が大人だなんてありえないが、あの父親に大人にされたという解釈が今までの回想と【子供の情景】から出来てしまうのだ。

 今回の回想はまさしく夢。

 楽しかった「ともだち達」と話せた頃の幸せな夢と、子供から大人にされた悪夢――そんな事を儂はこの回想と曲を聴いて思ってしまった。

 

[戻ったね]

[ふざけるシーンじゃないもんね]

[あの父親に対するヘイトが既にヤバイ]

[でも仕方ないだろ]

[トロイメライ選んだ作者凄いな]

[選曲が完璧]

[怒る義理の親]

[いまミシェルと笑っているクロエが幸せそうで嬉しい]

[疑ってたけど「ともだち」いい奴だったんだな]

 

 

「クロエは何も悪くないのにな……何が子供なのだから自分の物だ? ふざけるのも大概にしろ。逆らえない? そんな簡単に言葉で呪いをかけるな儂が祟るぞ」

 

 回想の後半の父親の身勝手すぎる言葉。

 思い出すだけでムカついてしまうそれに溢れる文句が止まらない。

 本当に他人の感情を動かすのが上手い綺麗なストーリー。それは、儂をこの世界に縛り付けて、疲れた・飽きたという感情を持たせてくれなかった。

 

「二階も明るくなったようじゃな、この分だとあと一曲で終わりか?」

 

 この館で残ってる場所なんて三階だけだし、プレイ時間的にもあと一曲見つけて演奏すればアランと直接対決するような感じになるのか?

 そんな事を考えている時にもイベントは進んでいき、またいつものように赤い文字が流れ始める。

 その文はもう疑う余地もなくミシェルの独白で、最後にとても気になる事を一つ残していった――それは「クロエは僕が殺した」という言葉で、さらなる謎を儂らに与えてきた。

 

[ここまでの赤文字演出見てると思うけどミシェル君ヤンデレ?]

[ヤンデレ金髪ショタ]

[というか、ミシェル君はやっぱり別のクロエとなんかあったの確定?]

[あそこまで我が儘言われても受け入れるのは、重ねてるからかな?]

[そのクロエがよっぽど大切だった感じか]

[クロエは気付いているのか分からないけど、ミシェルにならいいかみたいに思ってるって感じ?]

[愛してたけど殺してしまったのヤンデレ感すごいね]

 

 

 進むコメント欄の考察。

 それを見ながら儂はメモアプリに記録していき、この世界を心の底から楽しんでいく。ストーリーの考察、キャラの関係性を考え、実際にプレイして謎を解いていく。

 アドベンチャー系のゲームにホラー要素を加えるとこんなにハマるものなのだなと、そんな事を思いながら儂は気になっていた事を口にした。

 

 

「そういえば主ら、今アイテムにはどこで使うのか分からない物が三つあるのじゃが……これ、使う場所あるのか? このクロエの絵と、人形達なんじゃが……」

 

 今持っているアイテムでどこで使えばいいのか分からないのは三つ……一つはミシェルに切り抜かせたクロエの絵、そして残り二つは汚れた人形達。

 クロエの絵はまだどこかで使えそうな気配があるが、汚れた人形達はどこで使えばいいのか分からない。だからこういう時は皆で考えようと、そうやって聞いて見ることにした。

 

 

[そういえばそんなアイテム拾ってた]

[多分クロエの物だし、部屋でなんかするじゃない?]

[クロエに見せるとか?]

[色々試してみようよ気になるし]

[ハンカチとか取って、綺麗にしてから渡すとかかな?]

[絵もクロエに見せてみない? ミシェルが持ってきてくれたって感じで喜ぶと思う]

[怒る義理の親]

[いまミシェルと笑っているクロエが幸せそうで嬉しい]

[疑ってたけど「ともだち」いい奴だったんだな]

 

 

「感謝じゃ、とりあえず近い所からやっておくか……おっ、クロエに絵を見せたら画用紙が欲しいと言われたぞ? つまり正解って事じゃよな……ふはは、儂らの勝ちじゃ」

 

 クロエに絵を装備しながら話かければ、会話イベントが発生し何かを思いついたクロエが画用紙が欲しいと伝えてきた。つまりこの先どこかで画用紙が手に入れば、クロエに渡せばいいという事か。

 じゃあ次の謎である人形でも何か出来そうじゃな……コメント欄の言葉に従えば、やっぱりクロエの部屋でなにかする感じでいいはずだ。

 ということで明るくなった二階ではもう燭台も必要ないから、儂はミシェルの両手に汚れた人形を装備させて全速力でクロエの部屋に向かわせた。

 

「……汚れた人形を両手に装備して、本気で走る金髪の少年ってかなりシュールじゃな」

 

 

[草]

[操作してるのママだぞ]

[確かにシュール]

[想像したら吹いたわ]

[鴉様もやって?]

[本当にやったら、まじで子供扱いするけどやって]

[あと今更だけどさ、さっきビビってたよね?]

[確かにママ化した衝撃で忘れてたけど、あの時取り乱しまくってたじゃん]

[ママモードの時はビビってないぞ?]

[そうだよ、あれはキレてただけビビってはない]

[見直してみたけど、キレてたし「キャ」って驚いてた]

[あぁ、あの可愛い悲鳴……あ、ビビってんじゃん]

 

 

「あんまり思い出したくはないが、あの時はビビって……たわ――あれ儂負けた?」

 

 

[やっぱり弱い]

[即堕ちしてないけど、堕ちたね]

[……ママが堕ちる?]

[閃いた!]

[い つ も の]

[最早閃かないのが失礼までもある]

[でさ鴉様……負けたんだから分かってるよね?]

[ロリ? ママ? メイド?]

[固定? 配信?]

[全部のせもありだよ?]

[初見なんだけど、ここの視聴者の団結力化物じゃん]

[源鶫:ママ! ここは今度コラボしてその時ロリママメイド固定配信しましょう! 僕の母さんがロリママメイド状態の盟友を描いてくれたらしいですから!]

[キメラ大好き:yes、椿ちゃん監修だぜ!]

[超楽しみ!]

[ここまで言われてるんだからやるよね?]

 

 

 ……あれれー? 

 おかしいな、儂の知らぬうちにいつの間にか罰ゲームがある事になって、その罰も勝手に決まってたぞ? しかもその罰の為に既に絵が用意されてすっごい期待されていると……怖いなぁ、逃げ場がない。

 そしてそんな時一件の通知が、ディスコへと送れてきた。

 相手はしかもマネージャーの社さん。

 

 

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源鶫 

太郎丸45世

雪椿

七尾玲那〇

 

 

 

 

 

 

 


浮世鴉 お せ

#XXXX

   ─────20XX年7月31日─────  

21:40 日祀社 社長からロリママメイドコラボ期待してるという伝言を預かってきました

21:40 浮世鴉 え?

21:42 日祀社 来週ある一・二期生合同の料理企画に参加する感じなのですが、行けますよね

21:42 浮世鴉 社さん待って? 儂ついてけない

      いやほんと

      え?

21:43 日祀社 配信で告知も頼みます

21:44 浮世鴉 社さん……やるからには全部食う覚悟で行きますからね

21:45 日祀社 私が貴方に持ってくる企画は全部実力を買ってるからこそ

      その程度理解していますよ 

 

 

日祀社へメッセージを送信  GIF  へ  

 

 期待されたらやるしかない。

 演技を望まれてしまえば、何があっても答えなければ浮世鴉の名が廃る。ならばやるしかないけれど、こんなポンポンと決まるのは予想外……しかも憧れている先輩方とのコラボだ。手なんか抜けないし、今の配信も全力でやらなければならない。

 

 

[ディスコ?]

[配信中に見るって事はマネさんかな?]

[つぐみんとかに悪乗りが過ぎたって謝られたんじゃない?]

[でもそんな表情じゃないぞ鴉様]

[一回溜息を吐いてのマジ顔か……なんか覚悟決めたな]

 

 

「いま儂のマネージャーから言われたんじゃがな、今度の料理企画があるじゃろ? それで儂はロリママメイド状態で参加する事になったのじゃ……自分でもやばいと思う文字の羅列じゃが、全力でやるのでどうか見てくれると助かるぞ、マヨイビト達よ」

 

 

[妖ぷろやっぱりやばい]

[見るしかネェ]

[その為にも今日の配信全部見るぞ!]

[頑張れ鴉様!]

[格好いいけど、やるのロリママメイドなんだよね]

[草]

 

 

 そんな事もあってちょっとゲームが止まってしまったが、ここから先は先程までよりサクサクと、何より皆を更に楽しませるように頑張ろう。

 とにかく人形を持って色々調べるために二階に来てみれば、新しく「三階楽屋の鍵」を手に入れることが出来たしクロエの部屋を探しまくったらなんと椅子に人形を置くことが出来て、その人形から鈴を手渡されたのだ。

 

「よし新アイテムも更にゲット、どこかで使うじゃろうし、幸先がよいぞ! ……次はあれじゃな、早速楽屋に向かうとするか」

 

 ちゃんとセーブをしてから三階に戻って、施錠されている部屋を調べれば右側の部屋が空いてくれた。部屋に入った直後、血の滴る音が鳴ったかと思えばすぐに時計の音が鳴り響いた。

 気になって時計を調べてみれば、今は午前の三時のようで、ミシェル君がこの館に来て三時間が丁度経過したようなのだ。

 

「……気になるのは、机の上の手紙か……また謎解きじゃな」

 

 手紙にはチャロが殺されたという事と、犯人に制裁を加えて欲しいという内容が記されていて、一緒に見取り図が同封されていた。制裁を加えるには机の上に置いてある金槌を使うのだろうが、この見取り図だけでは犯人が分からない。

 

「色々探索じゃな…………………………十分はかかったぞ、ムズかったのじゃ」

 

 配信が始まって丁度一時間半が経過した頃に儂はこの謎を解き終わった。

 色々な情報を教えてくれたホールの観客には感謝しているが、ああいう系の謎解きは苦手だった所為で何回も話を聞く必要があり、ちょっと聞き飽きたのは内緒。

 まあそんな事は置いておいて、儂はこの事件の犯人に金槌で制裁を加え謎を解いてみた。すると、その残骸から遂に元凶だろうと予想してる父親の部屋の鍵を手に入れることが出来たのだ。

 

「ッ――お前の部屋を待っていたぞアラン、そこに何があろうとぶっ壊してやるからな……ふふふ、待っておれ、儂らの怒りを思い知らせてやる――いなくてもよいぞ? 貴様の物を壊して発散するかのう!」

 

 

[対面するか?]

[流石にいないじゃない?]

[でも八つ当たりは出来そう]

[よし、やろう]

[私達の怒りを思い知れ]

[過去一やばいもの置いてありそう]

[ビビり鴉期待]

[じゃあ男鴉希望]

[そういえば男鴉見てないね]

[このショタがそのまま成長した姿みたい]

[ギルガメッシュみたいになるのにかけるわ]

[それもあり!]

 

 

「それならいつか見せてやろう! 儂が男だということを教えてやるぞ?」

 

 なんかちょっと危ない台詞になった気がしたが、それは無視してクソ親父の部屋に急行する。

 そして入った瞬間に、この部屋に関するテキストが表示された。

 

床にはべっとりと、赤黒い染みがついている 

 

 部屋は紫色に染まっていて、床やベッドには大量の血……気持ち悪くなりながらも探索すれば、机の上には――「愛しい娘の成長記録」と描かれたアルバム。

 

「……どこまで腐っているのじゃ、あの父……男は」

 

 もうあいつを父親と呼ぶことは出来ない。

 もうあの男は化物だ。こんな事人間が出来る訳がない、怒りと憎悪……無垢な子供を欲の為に汚し続ける外道に、慈悲はいらない。

 会ったら潰す。そんな事を決意して、ボタンを押してみればこれを読むかの選択肢が出てきた。

 

「ゲーム的には、これ読まなければ進まぬよな……一度セーブしてくるか」

 

 

[本物の呪物出てきた]

[あの父親呪霊だよ……人間じゃない]

[許さねぇ、僕達の兄妹を……]

[ママの子供を!]

[もう父とか呼んではいけない]

[過去一やばいもの置いてありそう]

[読むしかないだろうけど、嫌な予感しかしない]

 

 

 準備を終えて忘れていた部屋の探索を進めることにしたら、下の方にある本棚から画用紙を手に入れることが出来た。とりあえず、これは後で使うとして今は、あの本を読むことにするか…………。

 

 

 

クロエによく似た少女が悲痛な表情を浮かべている。
 

 

 調べたら出てきたのはそんな表示。

 

 

「………………続き読むぞ」

 

 気持ち悪い。

 そんな感情と大量の怒りが湧いてくる。

 

 

クロエによく似た少女の写真が大量に乗っている。
 

 

 

「はぁ…………予想通りか……それに、これかなりやばい物じゃな。これ以上進めるとやばいのが分かるぞ――待て、何か変じゃ……ミシェル? どうした?」

 

 

 ………………汚らわしい。

 

 突如赤くなっていく画面に、そんな赤黒い文字。

 儂の特性のせいか、強すぎるミシェルの感情を直に受けてしまい、儂も同じような感情を持ってしまい、クロエに対する悪感情が湧いてくるが、それを理性で止める。

 このままではいけない、何かがまずいと思った儂は今のミシェルの感情を、能力を使い演じることで理解する事にした。そうすれば、この状態を抜け出せる術が見つかるかもしれないから。

 そして、分かった事は現在ミシェルはクロエの事を理性がなくなるレベルで汚らわしいモノと思っていて殺したくて仕方ないようだ。

 理解し自分でも感じる事で、状況の解決を図るというのは裏技に近いが……少しでも速く抜け出したいので仕方ない。

 

 殺したくて仕方ないという感情はクロエに関するモノ全てに今向けられている。

 ならばそれを逆手に取って――――。

 

「主ら、それもこのゲームをプレイ済みの者達よ……これクロエに話しかけると駄目じゃよな」

 

 

[正解]

[予想できちゃうか]

[ママが殺すシーン見たくないから言うけど、そう]

[それ以上は言わぬぞ]

[鴉様のモデルが凄いつらそうな表情浮かべてる……]

 

 

 答えは聞いた。

 ならば今やることは一つ、クロエに関係するモノを壊す。

 

 クロエの部屋に向かって何かを調べてみれば、調べたモノをミシェルが金槌で壊し始めた。

 …………ビンゴ、これじゃな。

 そしてそのまま調べて壊すを繰り返せば、正解を引いたようでミシェルが正気に戻ったような演出が始まった。きっかけは、最後に壊した物から出てきたクロエの日記。それを読ませたとき、ミシェルは正気に戻ってくれたのか、冷静にその日記を読むことにしたようだ。

 

 

 儂は日記には感謝したが、書かれている内容自体はあまりよくないモノで覚えていたくないモノだった。

 だけどその中身には覚えていないといけないような事も書かれていた。

 その日記の中にはクロエは時々記憶を無くしてしまい、戻ったときには何かを壊してしまうという事と、人を殺したいと思ってしまうという事――――そして、強すぎる憎悪は呪いへと変わり自我を持つという事が拙い言葉で残されていたのだ。

 最後の方に書かれていたのは、儂ら妖怪なら何よりも知っていることで……そのせいでこれまでのゲームの内容から、この屋敷を呪ったのはクロエだという事を理解してしまった。

 

「……そしてミシェルは、自分がクロエをどう見てたか知ったのか――ふぅ、かなりストーリーが進んできたな」

 

 ミシェルの「クロエは人間だ」という台詞から、彼が大事にしていたクロエは人間ではなく、動物とかだろう。それでずっとミシェルはそのクロエ(動物)とクロエを重ねていた……とかいう感じで、重ねてた相手が他人にどんな風に汚されたかを知ったことで、あんな状態になったと。

 

「もう一度あれを見るようじゃが……いまのミシェルなら狂わないじゃろうな」

 

 そんな事をミシェルに画面越しから伝えて、あの男の部屋に戻り再度あのアルバムを確認する。

 正気のミシェルは、それで狂うことがなくむしろクロエへの行為に怒りと悲しみを覚えているようだ――――その事実に人間の成長を感じた儂は、なんでか嬉しくなってしまう。

 

「……………………あの男も一応は父親としての時期があったんじゃな」

 

 アルバムの最後に入ってたという、一枚の家族写真……そこには、仲良さそうに並ぶ幼いクロエと若い両親が映っていたようだ。

 抜き取ることが出来たその写真の後ろには、「ピアノの後ろ」というヒントが記されていた。

 そのヒントを頼りに、この部屋にあるピアノの後ろを調べてみれば、そこには工具が落ちていたようだ。 

 

「工具が使えそうな場所は、あれじゃなホールの一番奥の扉」

 

 あそこの扉のドアノブは壊れているというテキストが一回調べたときに出てきたが、今手に入れた工具があればきっと開けられるはずだ。

 そう考えてホールに戻ってみれば、案の定工具を使うことが出来てドアノブを外すことが出来た。

 それで、この扉を開けるには何やら差し込める持ち手のあるような物が必要らしいのだ。

 

「そんなアイテムあったかのう? ……一応全部調べられそうな所は見たが、なかったぞ?」

 

[なんかあったっけ?]

[棒とか探すのかな?]

[でもそれじゃ壊れるくない?]

[じゃあ、なんだハサミでも入れてみる?]

[あの今まで活躍してくれたハサミをか]

[ハサミならやってくれる]

 

 

「燭台に続く最強アイテムの鋏を使うのか……それならいけそうじゃな」

 

 そういう事で鋏を装備して扉を調べてみれば、ドアノブの変わりになるようで、扉を開けることが出来たのだ。やっぱり最強な鋏に改めて感謝して、今度数十年は放置していた鋏の付喪神と久しぶりに話してみようとそんな事を儂は決めた。

 

「とりあえずセーブ。どんな部屋が待ってるか知らんが、今まで出てきたのはクロエと付喪神達だけじゃし、また似たような者達が待ってる気がするのう。西洋人形は止めて欲しいが、兵隊人形だったら優しいだろうし、大歓迎じゃ」

 

 色々と想像を膨らませながら、部屋に入ればそこには……なんか、すごく、たましいっぽいのがふたつあった。

 

「………………すぅぅぅー……帰るか」

 

 

[判断はっや]

[ざっこ]

[大歓迎じゃw]

[ほら話しかけろよ]

[はーりーあっぷ]

[色的にメイドの魂?]

 

 いたのは青い魂と、オレンジ色の魂。

 どう考えても人魂っぽいそれはなんかせっせと働いていて、とても邪魔できるような雰囲気ではなかった。それを極力邪魔しないようにしながら何より、魂から目を背けながら軽くこの部屋を探索してみれば、この部屋がキッチンっていう事が理解出来た。

 

「…………そうか、この館のメイドか……話を聞いてみるが、驚かせたら逃げるぞ儂」

 

[ビビりまくってるじゃーん!]

[人間の幽霊を見た瞬間にクソザコ化する大妖怪]

[口調は強いのに言ってる事が弱い]

[またロリ化するんだな]

[待ってるで]

 

「あれ……意外とこのメイド礼儀正しいのじゃ、しかも晩餐会に招待してくれると……もしや、此奴らは癒やしポイントか?」

 

 一人目の青い魂に話しかけてみれば、とても丁寧に主人公の名を呼んだり食事に誘ったりと礼儀正しく挨拶してくれたので、味方かもしれないという希望が持てた。

 だからもう一人のメイドも安全じゃないかという思いで話しかけてみたのだが、もう一人の方は正気を失っているのか、言ってることがやばかった。

 

 そうやって各メイドに別々の印象を持ちながら、この部屋の探索を終えたので部屋から出たのだがその瞬間操作できなくなってしまったのだ。

 

[晩餐会始まったね]

[二人の食事会ちゃんとみようね]

[あーあ]

[グッパイ……鴉様?]

[え、普通の晩餐会じゃないの?]

 

 始まったイベントは晩餐会。

 あの礼儀正しく常識モってそうなメイドがいるぐらいだし、きっと出てくる食べ物はまともな物だろう。なんかコメントがおかしい気がするが、きっと大丈夫。

 ……まあちょっと、ミシェルの表情が曇ってて、テンションおかしくなってるのもきっと見間違い――――。

 

 

 あまり音の立つことのない静かな晩餐会  

 服装からして礼儀作法は一通り学んでいたであろうミシェルは、テーブルマナーに従って綺麗に食事を進めていく。  

 

 

「あはは……この臓器のステーキ……最高だ!」  

 

 

 狂ったように……否、狂っているのかとても無邪気に笑いながら食べるのは……。  

 無理矢理切り取られて成形されたような、不気味に整った肉の塊。それを心底美味しそうに食べるミシェルは、冷や汗を流しながらも笑うことをやめない。  

 

 

「フフ、ウフフ……お粗末様ですわ……」  

 

 

 狂ったメイドは愛おしそうに、食事を進める子供を見て嗤い――壊れる子供に狙いを定めた。

 

 

 

 

 

 

GAME OV ER

 

 

 

 

▶ ▶❘                                 CC ⚙ ろ わ だ 

【ホラーゲーム】ほらーげーむはいしん……【ビビリ鴉】

6.2106 人が視聴中・95分前にライブ配信開始        い3298 う67 へ共有ほ保存 …


【妖ぷろ】浮世鴉 Ch

チャンネル登録者数 66284人

 

「ハッわっ、のじゃぁぁ!? あのメイド女ァ!?」

 

[はいガメオベラ]

[安定のロリ化]

[迷言「メイド女ァ!?」]

[のじゃロリもいいよね!]

[ミシェル君何食べてるんだよ……こっわ]

[メイドを信じるな]

[メイドに騙される鴉様の絵はまだかな?]

[ロリママメイドがメイドに騙されるのか……]

 

 




 そうだアンケートに投票してくれた349人の方ありがとうございました!
 結果発表をここでさせて貰います。
 異世界バーチャルズ(129)・世界書庫(129)・V高校(91)という結果になったのですが、票数が同じのが生まれてしまったため、票数が同じ箱を両方登場させることにしました。
 想定していたよりも票数が集まったため、全部出すのもありかなーって考えたのですが、今の自分の力量じゃ三箱分のキャラを扱うのは難しいと判断したので、今回はV高校参戦を見送らせて頂きます。
 ですが、書けると自分が思えるようになったら異世界バーチャルズと世界書庫の後にV高校のメンバーを登場させるつもりですのでこれからもよろしくお願いします。
 


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【ホラーゲーム】ほらーげーむはいしん……【ビビリ鴉】その6


 そうだ他のVの箱のキャラが固まってきたので、軽く紹介を。
 一先ず練ったのは六キャラなのですが、今回は異世界バーチャルズと世界書庫から一人ずつ紹介させて貰います。
 一人が種族が吸血鬼の魔王で、もう一人がマッチョな裸の王様です。


 回復はしていたが、キッチンにあった猫の死体を見たせいでライフが4だったミシェル君は、とっても血生臭い晩餐会のせいでやられてしまった。完全に儂のミスなのだが、部屋から出ただけでライフ4を失うとか分からないので許して欲しい。

 コメント欄に流れる「草」や儂を茶化すように攻めるコメント、何故かロリ化を希望するマヨイビト達のコメントに目が死にながらも儂はコンテニューして工具でドアを開ける前まで戻ってきた。

 

「……そういえば、画用紙使い忘れとったな。これクロエの絵と画用紙装備して話しかければいい感じか?」

 

 

[チッ、ロリ化からのリターンが速くなってるな]

[今度は定期的にママになれ]

[確かに使ってなかったね]

[さっきのロリ鴉メイドに対する恨みしか言ってなかったの草なんだ]

[犯人はメイドA]

[あのシーン的にミシェル君次の料理にされる気がするんだけど……]

[あ、↑のコメント見たのかまたハイライト消えた]

 

「儂のせいじゃないからあれ、メイドが悪い……だって部屋から出た瞬間に即死に近いイベント起きるとか分からんじゃろ……」

 

 とりあえずミスを帳消し……というか有耶無耶にしたいので、画用紙に用意されているイベントでも発生させて記憶から消させよう。

 そんな邪な事を考えながらミシェルに話しかけさせれば、最初「切り抜いた絵」を持って話しかけた時と同じ台詞が流れて、そのまま画用紙を渡せば何かを思いついていたクロエが少しどこかに行ったようだ。

 そして数秒間の間が空いたかと思えば、戻ってきたクロエが「できたの!」「見て見て!」と何かを渡してきてくれた。

 

「しゃー、私の娘は最カワですね! 何この娘天使じゃないですかー! ミシェルももっと嬉しいとか言ってくださいよ、というかこのシーン永久に保存した方がよくないですか? ――――すまんかった。なんか儂の別側面的なものが……」

 

 ……渡されたのは、さっきの「切り抜いた絵」を画用紙に貼り付けてそれに合わせるようにミシェルが書かれた「お守り」というアイテム。これを見た途端、さっき演じたママ鴉がなんか反射的に出てきてしまったが……正直これは仕方ないと思う。

 儂の能力の中には、その場で最適な人格と役作りをして保存するみたいなのがあるのだが……そのナニカを演じてた時の儂の感情を揺さぶるような事が起これば、その役を反射的にこうやって出してしまうことがあるのだ。

 普段は理性でそれを出さないようにしているが、今回のホラーゲームのようにのめり込み過ぎちゃうと、自制が出来なくなる時があり、今回の配信中のように驚くと視聴者に望まれたロリとか、娘が可愛かったらママになったりしてしまうのだ。

 

 

[これが噂のママ鴉か]

[はしゃぐママ可愛いな]

[二重人格レベルで変わるなこの妖怪]

[クロエが可愛いから仕方ないね]

[この美少女にやばい事した男がいるってマ?]

[許してはならない]

[制裁を加えなければ]

[完全に父と呼ばれなくなって……可哀――そうなんて思わないわ」

 

 

「とりあえず、晩餐会を攻略しなければ先に進めそうにはないようじゃし……もう一度メイド達に会いに行くとするかのう」

 

 前と同じように工具と鋏を使って部屋に侵入した儂は、晩餐会の招待を受けてさっき見てなかった。机の上のメモ帳を確認した。多分この紙にナニカ書かれているだろうし、きっと攻略のヒントだろうからだ。

 

1.指と歯のオードブル

 

2.髪の毛のサラダ

 

3.心臓のエキス

 

4.目玉のマリネ

 

5.血液のシャーベット

 

6.臓器のステーキ

 

7.脂肪の塊

 

8.体液ティー

 

「…………え? これが晩餐会のメニューか?」

 

 書かれていたのは多分この後の晩餐会のメニュー表。

 まともなモノが一つとなく、なんかグロい物しかない上に全て人間に関係あるものだろうこのメニューは、儂の思考を凍らせるには十分だった。

 このメニューを見て「……なんだこれ?」と戦慄しているミシェル君が画面に映るが、心の底から同意しか出来なくて、この料理を出そうとしているメイド達の頭を本気で心配してしまう。

 

 

[最初の四つのセンスやばいな]

[目に見えて目が死んでるの草]

[唖然としてるね鴉様]

[脂肪の塊ってもはや悪口じゃね?]

[そうかさっきのミシェル君これ食べたのか……]

[ひぇッ]

[;;……怖い]

[じ・じ・じ・ぜ・じ・ぞ・ぞ・こ・わ]

[なんかレジスチルいない?]

[レジスチル草]

[レ ジ ス チ ル の レ ク イ エ ム]

[お茶吹いたわ]

 

 

「なんか防御と特防やばいポケモンがコメント欄にいるんじゃが……それより、これあれじゃな、万能アイテムその3の羽ペンとインクの出番じゃな、今までの謎解き的に書き換えれば勝てるのじゃ」

 

 確かキッチンに置かれていた本棚に前菜から始まりコーヒー・紅茶で終わるメモがあった気がするから、多分その順番通りに書き換えればきっとメニューが変わってくれる。

 母親の謎解きの時や、最初の絵を塗りつぶした時……他にも色々助けてくれたこの「羽ペンとインク」ならきっとやってくれる筈だと……そんな事を願いながら実際に使ってみれば、書き換えることが出来るようなので、儂はさっきの本に書かれたとおりにメニューを書き換えた。

 

「これで正解か? ……出ても問題は、なさそうじゃな今度はイベントが始まらぬ」

 

 部屋から出たことでセーブをし、とりあえず儂はミシェルを席に座らせる。

 昔メイドもやったことあるし、晩餐会に招かれた事もある儂はテーブルマナーも暗記済み。

 近づくと椅子が引かれたのでそれに左から座り、主役であるクロエの事を待ち、彼女が座りナプキンを広げるのを見てからミシェルに広げさせる。

 

 そして始まった晩餐会は、先程の地獄と違い円満に進んでいき三品目の魚料理――ムニエルが運ばれてきた。その魚の中に入っている骨をナイフで取らせた儂は、そのままテキストを進めさせた。 

 魚を食べた直後、腹痛を訴えてくるミシェル。一・二品目には何もなかったしクロエの様子も描写されてないことから、ミシェルの魚にだけ何かがあるという事が分かった。

 

「……何か仕込んだな、席を立たせるのが目的か?」

 

 意図は分からぬが、一応正気らしいメイドDが運んできた物だし何か考えがあるのだろう。

 そしてこの屋敷の事だテーブルマナーを守らなければきっと何かが起こる……そんな事を勘で悟った儂は、最後までマナーをミシェルに守らせて、このイベントを終わらせた。

 

「やっぱり何か仕込んでおったな……それにしても、この屋敷にまだまともっぽい奴が残ってたとは意外じゃな……ただしメイドA貴様は駄目じゃ」

 

 イベントの後、キッチンに戻されたミシェルに謝ってきた青い魂であるメイドD。

 どうやら、ミシェルにクロエを救う資格があるのか確かめたかったようだ。やり方はちょっと不思議だったが、口調からもクロエの事がずっと心配だったと伝わるし、こいつはいい幽霊だな。

 他にもメイドDからは現在のクロエに関する情報と「カプリース24番の楽譜」を貰う事が出来たし、このメイドDは「ともだち」「兵隊人形」と並ぶ癒やしキャラと認識していいだろう。

 

 

[人間の中にもいいやついたんだな]

[メイドDいい娘]

[安らかに眠ってくれ]

[絶対鴉様がクロエを救ってくれるよ]

[二人に任せるんだ]

[鴉様の声も優しいね]

[最後草]

[まあ喜々としてやばいの作ってたしね]

 

 

「救うからな、任せておれメイドD……儂が約束してやろう」

 

 そういえば手に入った「カプリース24番」は、確か24の奇想曲と呼ばれているヴァイオリンの独奏曲だったよな? 今までがピアノの曲だったのに対して、急に来るヴァイオリンの曲……まさか、ここでミシェルの過去が見れるとでもいうのか? 

 気になるぞ、まじで気になる今まで分からなかったミシェルの過去が知れぬかもしれないというのは予想以上にテンションがあがる。

 

 ヴァイオリンと楽譜を装備して、ライフを回復させるためにクロエに話しかければ、演奏するかどうかの選択肢が現れたので、すぐさまそれを選び「カプリース24番」をミシェルに演奏させる。そして始まったのは今までとは違うミシェルと、その後ろでピアノを弾くミシェル似の少年が出てくる回想だった。

 

 その回想の中では完璧にカプリース24番を演奏するミシェルの姿と、それに様々な感想を浮かべる観客達が描写された。観客達から出てくる「天才少年」というミシェルに対しての呼び名と、観客の口から漏れるピエールという少年がいない方がいいという最悪の野次……。

 …………このいま少ししか見てない回想で分かったのは、ミシェルの演奏は本物の天才である事、観客に色々言われているピエールというのは、ミシェルの弟だという事、そしてその弟の伴奏じゃなければ演奏しないという拘りをミシェルが持っていたということ。

 

「続きを見ていくが、ここからこの屋敷に来るのに繋がるのは嫌な予感がするな……」

 

 回想の演奏会が終わるやいなや、シーンはミシェルとピエールのものへと変わった。

 そして回想の中のミシェルの様子を見るに、この頃からミシェルはあまりヴァイオリンを弾きたくないかんじらしい。それでも、弾いているときは楽しんでたり集中しているのか周りの事に意識を向けることはないようだ。

 

「なんかメイドが出てきたが、儂この作品のメイドにあまりいい思い出ないんじゃよな……出てきたばっかりで悪いが、嫌な予感しかしないのじゃ」

 

 メイドAとか、メイドAとか、メイドAとか……とりあえずこの三つを筆頭に儂的にこのゲームのメイドにはいい思い出がない。なんかミシェルに惚れているのか、尊敬しているのか分からないが顔を赤らめているメイドは……どういう訳か厄介事の気配しか感じられないのだ。

 

 

[全部メイドAが全部悪い]

[このゲームのメイドヤバイ奴か、可哀想な目にあう子しかいないからね]

[このメイド可愛い]

[僕の性癖に刺さります]

[私的にはメイド服のショタの方が刺さります]

[個人的にもそっちが刺さる。具体的には儂ショタ爺のメイド服]

[個人指してて草]

[いや草]

[キメラ大好き:残念だったな、次のメイド服の時はロリの絵だ]

[そうだったわ]

[それでも構わない]

 

 

「…………続き見るが、ピエールはかなり真面目っぽいな」

 

 操作できるようになったので、別の部屋に向かってみればそこには既に練習していたピエールの姿があった。やる気のないミシェルとは違って、暗くなって練習が終わった後も続けて練習するピエールにはかなり好感が持てる。

 

「じゃが、この子供からは嫉妬が感じられるのう……まぁこの様子を見るに無理もないか」

 

 すぐに練習していた曲を演奏できるミシェルを褒めているようだが、台詞の間が表情的にミシェルへの嫉妬が隠せていない。皮肉を込めて喋っている部分もあり、兄にあまり良い感情を持っていないのが分かる。

 それをミシェルは気付いている節はあるが、わざと気付いてないように振る舞ったり、自分にそんな事はないという事を言い聞かせるような台詞もあった。

 あとメイドは13歳らしくあまりミシェル達と歳が変わらないらしい、そのあとミシェルを操作して部屋に戻らせれば、遅くまで勉強するピエールの姿があって、彼は嫉妬するだけではなく向上心があるという事が分かった。

 

「ピエール頑張ってるのう……こういう子供は好きじゃな」

 

 

[まだ普通の回想]

[ちょっと不穏だけど、まだ平和]

[メイドやっぱり可愛い]

[ピエール君には頑張って欲しい]

[ここからどうして屋敷に行くんだろう?]

[嫌な予感しかしない]

 

 

 それで回想を見ていくと、なんかメイドがストーカーまがいの事をしていたり、ピエール君が頑張ったり、ミシェル君が親にキレたりとか色々あったが、まだクロエに関係ありそうな物はなかったので少しサクサク進めていった。

 

「ピエールはあのメイドのシャルロットの事を気にかけているが、逆にミシェルは嫌ってるって感じか……あの様子だとメイドの方はマジでミシェルに惚れているっぽいし……三角関係かぁ……ドロドロしとるし苦手じゃそういうの」

 

 

[え、鴉様も三角関係でしょ?]

[そうだっけ?]

[ほら、雪椿母上の息子でつぐみんのママという三角形]

[成る程な]

[カオスだなぁ]

[マジで草]

[ショタ二人とロリメイドの三角関係………………?]

 

 

「その発想だけはまじでなかったんじゃが……いつも思うが、コメント欄に天才おるよな」

 

 そして場面はかなり進んで不穏な空気の練習部屋へと変わった。

 綺麗だったその部屋の絨毯は切り裂かれていて、ピエールの様子も何かがおかしい。ミシェルもピアノの音が変な事に気づいたようだし、それを心配して話しかけたりもしたのだが――――。

 暗い表情のピエールが「ぼくのピアノに触るな!!」とキレてしまい、ミシェルに突っかかり始めたのだ。

 今までの不満を全て吐き出すように、自分を蔑むような言い方のままミシェルに毒を吐き、今までのミシェルの行為に対しての愚痴や怒りを全部ぶつける。

 自分が努力して頑張ってるのに、褒められるのはいつも練習しない怠け者である兄。

 どれだけやろうと、練習しようと、愛されようとも見向きもされない――誰もが自分を見てくれなくて、視線を集めるのは目の上の瘤のような実の兄。そいつは全部欲しいものを奪うのに、簡単にそれを捨てようとするのが我慢ならなくて一番許せないと――――許せない、妬ましい、ふざけるな……お前なんか生まれなければよかったと、死んでしまえと……。

 

「気持ちは分かるが……その言葉は呪いになるぞ人間、その言葉は家族に対しては絶対に残してはならぬ」

 

 

 



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【ホラーゲーム】ほらーげーむはいしん……【ビビリ鴉】その7

「お前なんか……死んでしまえ

 

 そんな無責任な呪いの言葉。

 それを受けたミシェルは自棄になったというより、悲しみながらその場から離れることになり……儂の操作で別の部屋へと移動させられた。

 やってきたのは暖炉が大きな部屋で、その中で暖炉を調べればやってきたのはあのメイド。さっきまでの二人の会話を聞いていたのか、彼女はミシェルの気持ちを一切考えずに慰めの言葉をかけていく。 

 彼女がかけた言葉は、とても身勝手なもので「ピエールの事など気にしなくていい」、「あの人はいつもミシェルの悪口ばかりで、僻みっぽいんだと思います」と……そして最後に才能のことで妬まれ、仲良くしたい弟にあんなことを言わせてしまったミシェルに対して、最悪のタイミングでの「才能は消えたりしません」…………と。

 

「慰めはいいんじゃがな……タイミングってものがあるんじゃよメイドよ……」

 

 

[なんで誰もミシェル君の事を気にかけてくれないんだよ]

[あれでしょ? 天才だからっていう風潮]

[「天才ならなんでも出来るだろ?」「天才だからこっちの気持ちが分からないだろう」とかいうあれか]

[ミシェル君はただ一緒に演奏したいだけだったんだろうなぁ]

[ピエール君の気持ち分かるけど、ミシェル君ずっとみてた私的にちょっと嫌な感じ]

[シャルロット空気読んでくれ]

[メイドォ……]

 

 続いて流れるのはミシェルの独白。

 そこで分かった事は一つ。ミシェルが欲しかったのは、弟と二人で何も考えずに楽しく演奏できていた楽しかった日々で、栄光・名声・賞賛なんてモノ――少しも欲しくなくて、ただ弟という家族と一緒に何かが出来ればそれでよかったんだろうに……。

 

「ずっと我慢してたのは、ミシェルも同じ……子供だから仕方ないが、もうちょっと言葉を交わせればきっと喧嘩は起きなかったんだろうな」

 

 今までのミシェルを見る限り、この子はあまり言葉で伝えるのが苦手なのだ。

 言葉にしなければ分からないと言われることもあるかもしれないが、天才という眼鏡をかけて誰も彼を見ようとしなかったのが一番最悪だ。

 ヴァイオリンのせいにして暴れるミシェルは、暖炉へとそれを放り投げようとしたのだが……その直前にどこかから猫が鳴き、彼の事を止めたのだ。

 

「そうか……この猫がクロエ、か」

 

 

[やっと登場したクロエ!]

[猫だったのか]

[可愛いな]

[猫に慰められるミシェル君も可愛い]

[それを見てほっこりしてる鴉様も可愛い]

[でも、確かこの猫をミシェルは……]

[嫌な予感しかしない]

[怖いな]

 

 続いて流れる回想は……猫クロエと、ミシェルの短い日々。

 ピエールと喧嘩中の彼を癒してくれる黒い野良猫は、確実にミシェルを癒やしてくれて順調に彼を救ってくれていたはずだった。

 だけど、ある時メイドのシャルロットに見つかってから秘密の共有者となり少し経った頃……嫌な予感がミシェルに過り…………。

 その日、目覚めたミシェルは廊下で狼狽えるシャルロットに話しかけ、どこにもいないクロエの場所を問いただした。混乱するミシェルは強い口調で、クロエを殺してしまったかどうかを聞き、その剣幕に怯えながらもシャルロットは答えていく。

 

「山に逃がしたのか……豊かな山ではなさそうじゃな」

 

 恐る恐るといった感じでの答え。

 赤文字での強調……それから考えるにシャルロットは殺したも同然だと考えていると思っていいだろう。

 シャルロットの背景も今までの回想で分かっているし、仕方ないというのも理解出来るが……そんな事を考える脳は今の混乱したミシェルにはないだろう。

 続くミシェルの台詞での回答に、やはり豊かではない寂れた山だという事もわかり……どうしようもなく、何も出来ないもどかしさに儂は襲われた。

 

「そして犯人はピエールか…………だけどそれを伝えるのは悪手じゃ」

 

 いまのミシェル視点では、一番の裏切り者は教えないと約束してくれたシャルロット。

 だけど、彼女は悪くないということもまだ理解出来ていたのか……それを彼は言葉には出来なくて、「もう全部どうでもいいや」と諦めることしか出来なかったようだ。

 

「……ミシェル、つらいな……それにピエールは顔が暗いし、シャルもアウトな感じか」

 

 次に向かう必要があったのは、父親の部屋。

 その父親はアランとは全然違うが、子供をモノだと思っているのは同じようで、まったくミシェルを見ようとしない。子供を脅して思い通りにするなど、あってはならないこと……そして最後に、彼に聞かせるつもりはないだろうが、かなりの声量で「今のうちに使っておかなければならないというのに……」という、絶対に親が子に言ってはいけない言葉を残した。

 その後のミシェルの独白は見るのも辛いもので、子供に利用価値があるだけだからと悟らせるのは本当に……心の底から怒りが湧いてしまう。

 子供は誰かの物じゃない。

 儂は子を持った事がないから、親の義務を説くつもりはないし、説けるような妖怪ではないが……親というのは、子供が好きに生きて笑って死ねるように、その道を敷いていく者だと儂は思っている。

 

「このゲームの親は、どうして――いやでも仕方ない……とは思えないな」

 

 

[ブッkillyou]

[親共まとめてレクイエムしたい]

[スタンドかな?]

[ディアボロより酷い目にあわせたる]

[無限にヤレ]

[待ってこの後のシャルロットの会話とか嫌な予感しかしないんだけど!?]

[分かる嫌な予感しかしない]

[これ以上地雷は踏まないでくれ]

 

 

「あー……狂信者か? このメイドは……ミシェルの才に魅入れられている感じか」

 

 それとも恋しているからこそ、彼を絶対視して他の者を貶す事で彼の事を守ろうとしているのかのどっちかか……どちらもでいいが、少しでもミシェルを見て欲しいのじゃ。

 身勝手すぎる彼女の言い分に、遂にミシェルは抑えきれなくなったのか……彼女を突き飛ばしてしまった。

 突き飛ばした時の「ふざけるな、お前に何が分かるんだ!?」というもので、今までの全ての不満が爆発したような言葉だった。

 

「待て!? なんじゃ今の音は!?」

 

 台詞を読み進めていたら突如として、一度どこかで聞いた事があるようなシャンデリアが落ちる音がゲーム内に響きだした。

 そして驚きのままボタンを押してしまい、出てきたのは血塗れのシャルロットの一枚絵。

 どうみても即死……生き残っている気配は微塵も感じる事が出来ず。事故だが彼女をミシェルは殺してしまったらしい。

 

「やばい、今のミシェルにそれはヤバいのじゃ!?」

 

 続いて流れる独白は、自分を責めるようなものだったのに……次第に赤い文字へとシフトして、この状況を肯定するかのような内容と「僕は悪くない」という自己防衛。

 その後ミシェルが、白い野良猫を殺しているようなシーンが映され、赤文字独白での何も知らないような態度を貫いて、誰も罰してくれなかった事を知ってしまった。

 

「この二人は、似ているな……だからここまで惹かれ合っているのか」

 

[改めて凄いゲームだよこれ]

[ミシェルにも非があるけど、一番悪いのは親だよね]

[どっちも親が悪いし、音楽に関係あるの凄いね]

[回想長かったけど見れて良かったわ]

[ミシェル君ずっとつらかったんだろうな]

[これ親が揉み消したりしたのかな? やりそうだし]

 

 

 演奏が終わり、クロエとの会話が始まった。

 その中でもう少しで呪いが解けるという事を儂は知り、改めてこのゲームを絶対に終わらせるという事を決意する。そしてセーブ本の横に現れた「二階通路の鍵」を入手して、そのまま二階で唯一開けることが出来なかったあの扉へ向かうことにした。

 

「よし……開けたが……なんで血塗れのぬいぐるみが出迎えてくるのじゃ?」

 

 早速のホラー要素にちょっと心を折られながらも先に進み、下へ続く鉄の梯子を降りていきその先にあったセーブ本を使ってから一通りこの部屋を探索することにした。

 

「うーん、何もないようじゃな……奥にある左側の部屋が空いているようじゃし、先にそっちに向かうか」

 

[そういえば鴉様一回も鏡の前に立ってないよね]

[え、鏡に何かあるの?]

[このゲームちょっと調べてそれしか知らないけど なんか鏡に隠し要素あるらしいよ]

[気になる]

[鴉様見てよ、気になるからさ]

[あれ……なんかめっちゃ顔を逸らして口笛吹き始めたよ鴉様]

[草]

 

 

 やばい、ずっと意図的に鏡の前に立ってこなかった事がバレたかもしれない。

 いやだって、無理じゃろ? 鏡と言えば日本でもホラーの定番要素。もしも見ている時に何かあるとか考えてしまえば高確率で心臓が止まる自信があるぞ儂。

 しかもこのゲームの事だ絶対に何かあるだろうから、今までずっと見てこなかったのに……。

 

「え、主ら……儂は何度も鏡の前に立ったぞ? 忘れたのか……あーあ、忘れてもうたかー、仕方ないのうこれからはちゃんと覚えておくんじゃぞ? まあこの鏡はどうせ! 何もないだろうし、見る必要もないだろうから、スルーして別の部屋に行くかのう!」

 

 

[ギアスを持って命じる――鏡の前に立て]

[立って]

[そうかそうか、忘れたよ……立って?]

[見ろ]

[何もないんでしょ? 見れるよね?]

[紛れもなく雑魚い]

[自白してるようなものじゃん]

 

 

「いやまって、マジでここ嫌な予感するの……だから次出てきたら見るから……ね? お願い、別の部屋行かせてよ、マヨイビト達」

 

 嫌な予感がするし、もうプライドとか知らない。

 ここは全力でロリになってでも、乗り切ってこの場を生き残る。

 絶対に言いくるめて、儂はホラーを絶対に見ないようにするのだ。

 

 

[この鴉ロリを使いこなし始めた……だと]

[そういう事なら仕方ない]

[許してあげるよ]

[許してあげるから頑張ってね]

[みんなロリに弱すぎるでしょ]

[俺らも雑魚じゃん]

[このロリに頼まれたら許すしかなくない?]

[分かるわ、このロリは反則]

 

 

「許された感じじゃな……じゃあ部屋にはいるが、早速鍵が落ちておるし幸先がいい感じじゃな」

 

 そうやって拾うことが出来たのは「地下一階東物置の鍵」、入っただけで鍵が手に入るとは、本当に終盤という感じな気がするのじゃ。 

 手に入ったことで早速それを使う為にテキストを進めようとしたのだが……その瞬間、何故か置かれていた電話が鳴り始めたのだ。

 

「…………儂知らない……電話の音なんて聞いてないし、動く受話器なんて見えないのじゃ」

 

 

[ロリ化するのはっや]

[本当に雑魚いなぁ]

[ホラー要素から逃れるためにこの部屋に来たのに……すぐに襲われるのは流石鴉様としか言うしかない]

[まじでどんなゲームにも愛されるの草なんだ]

[ガチ怯え]

[心臓弱すぎない?]

 

「え、あのさ……この電話出るしかない感じかのう? 怖いのじゃが……でも出るしかないっぽいんじゃが……」

 

 心構えも出来ぬままその電話を調べてみれば、赤文字で「ペンを用意したか?」と聞かれたので、一度用意してないを選んで装備してからもう一度それを調べる事にした。

 そしたら七桁の数字が出てきたのでそれをメモっているような描写の後で、万能アイテムでこれまで数多くの謎を解いてきた「羽ペンとインク」がここで退場してしまった。

 

「これは今手に入れた鍵で入れる部屋で謎を解く感じかのう…………なんか関係ありそうなメモとピアノがあるし――また謎解きじゃな」

 

 とりあえず奥にあったセーブ本を使い、セーブをしてから色々この部屋の探索を開始しする。

 部屋の中には謎解きのヒントになりそうな本と――――クロエが残したような日記のような物があったのだ。

 その日記の中には、「私」と「呪い」が分離して猫に姿を変えたという事が書かれていて、その白い猫を殺す必要があり、その猫を倒すには「小さな鈴」が必要で、それを黒い猫に装備させる必要があるというのだ。

 

「まて、黒い猫は多分ノワールの事じゃよな……それにミシェルは今「小さな鈴」を持っている」

 

 一度部屋からミシェルを出して、外にいるノワールを鈴を持った状態で調べてみると、正解だったのかノワールの首に鈴を着けることが出来た。

 これがどういう風に作用するのかは分からぬが、きっと何かの布石であろう。

 その後に部屋に戻って七桁の数字の謎をピアノで解き、そのまま出されたピアノ付喪神からの八個の質問を儂は攻略した。

 

「ちょっとやさぐれていたが、癒やしキャラであったなこいつは……頑張るから見守ってくれると助かるのじゃ」

 

 

[ピアノさんに敬礼]

[鍵もくれたし応援してくれたし……こんなの惚れる]

[鴉様ならクリアしてくれるよ、だから待っててね」

[呪いは絶対に終わらせる]

[キメラ大好き:ピアノ姐さんの擬人化書いてくる]

[それは草]

 

 

 彼女に貰った「地下一階南物置の鍵」。

 それを使うのはこの下にあった部屋だろう。

 何があるか分からないが、どういう訳か今まで活躍してくれていた直感がこの部屋がヤバいと告げているのだ。今まで生きていた中でも数多く働いてくれた儂の直感、それを信じない訳にはいかないので、儂は三つほどのファイルにセーブしてから、その部屋に入ったのだが……。

 

「白黒じゃと? それに何故ここにクロエがおるのだ?」

 

 入った部屋はとても広く豪華だったが、何故かこの部屋だけ白黒だったのだ。

 それに、ここにいる筈がないクロエがいて、どうしようもなく不気味な気配を感じてしまう。それに何故かこの部屋には二つセーブポイントが用意されていて……下の方には白髪の少女がぽつりと立っている。

 

「ここで直接対決か? でもそれにしては大人しいし、何か様子が変じゃ……最初会った時の様子を見るに、問答無用で襲ってくるような状態だったし……なんなのだ此奴は……」

 

 念の為にまたセーブ。

 そして話しかければ画面が暗転して――――。

 

 

 

 

 

 

 

 

「また……会えましたね……ミシェル坊ちゃま……」  

 

 

 

 

 

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【ホラーゲーム】ほらーげーむはいしん……【ビビリ鴉】

5.8196 人が視聴中・125分前にライブ配信開始        い4452 う89 へ共有ほ保存 …


【妖ぷろ】浮世鴉 Ch

チャンネル登録者数 66492人

 

 

 白髪クロエが瞬時にあのメイドに変わり、最初に襲われたときのように一瞬ミシェルが固まった。

 

「なっ……何故ここにあのメイドがおるのじゃ!? とにかく逃げるぞミシェル!」

 

 突如始まるこのイベントはもう既に経験しているので、逃げられないという事はない。

 ただすぐに走り出せばやられないと分かっているので、すぐにダッシュキーを押して儂はミシェルをこの部屋から逃げさせた。

 ――――だけど、儂的には逃げた後の方が心配じゃ……だって、ミシェルにとってシャルロットは地雷のような物、しかも自分が殺してしまったと理解している相手であり、もう二度と会うことがなかっただろう罪の証。

 

「これは……向き合わなければならないというイベントか?」

 

 今道しるべが無い以上、あの部屋に戻るぐらいの選択肢しか儂は思いつかなかったので、いつものようにセーブをしてからあの部屋に戻ってみることにした。

 そして戻ってみれば、そこにはあの時の回想で死んでいたときと同じ状態で横たわっているシャルロットがおり、勝手にイベントが進行し始めたのだ。

 

「待て……このメイド死んでもミシェルに憑いていたのか?」

 

 え……なにそれ、怖すぎない?

 ……シャルロットの怒濤の台詞。

 「逃げるなんて無理ですよ?」と囁くように告げるシャルロット。

 「ずーっとずーっと何処までも、坊ちゃまを追いかけますから!」と主人を愛し、褒めて貰いたいように言葉をかけてくる狂信者。

 

 怖い、今すぐやめたい……悪意――いやこの重たい好意が嫌だ。

 いや違う、ここまで病的な好意など儂にとっては見ているだけで毒になる。

 怖い、異常なまでの想いが痛い。創作物と分かっていても、このキャラが感じている感情を嫌にでも理解してしまう。

 このメイドの異常性をよりプレイヤーに理解させるような、巨大で真っ赤な瞳――それを見てるだけで、身が竦み……ボタンを押す手が進んでくれない。

 だけど、マヨイビト達に先を見せるために頑張って進めれば、メイドの彼女はミシェルの過去の罪をとても得意げに暴露して、そしてとても丁寧に……自分の正体を嗤いながら告げた。

 

私はミシェル坊ちゃまの呪いですわ

 



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【非公式切り抜き】ホラゲ配信ダイジェスト版【マヨイビト】

 急遽作ったホラゲ配信のダイジェスト編のような物。
 その1から7をまとめたやつです。
 


                     

 

 

 

 

 

 

 

 

 

▶ ▶❘  0.00/12:36                         CC ⚙ ろ わ だ 

【切り抜き】ホラゲ配信ダイジェスト版【マヨイビト】

46398 回視聴・20××/07/27

い4.2万 う357 へ共有ほ保存 …


マヨイビトの隠れ神社 Ch

チャンネル登録者数 15748人

 

 

 始まった切り抜きの最初のシーン。

 それは最初ゲームが始まった途端、主人公の金髪ショタの服を剥ぐ鴉様の姿だった。

 それを指摘されて自爆した鴉様がその後ロリ化したり、ホラーゲームより人間に幼女の声で怖がる印象的なシーンが一切違和感のない漫画風に描かれていたのだ。

 

 

「雰囲気あるのぉ…………なぁ人間様、これ幽霊でるぅ――よなぁ」

 

 次に流れたのは第一ロリ化が終わり館に辿り着いてビビり散らかしている鴉様の姿。

 それを漫画風に作られたこの動画では、パソコンを見つめる青い顔をした鴉様の絵が描かれていて、恐る恐るゲームをプレイしている。

 

 その後すぐに視聴者にイキり醜態などは晒さないという鴉様だったが、すぐにゲームの主人公の目が取られた事でロリ化する。

 

「待って儂やった? ゲームオーバー? ごめんミシェル、儂を許して」

 

 幼い少女の声でそう語る鴉様は可愛らしい幼女姿で画面にいて、申し訳なさそうな表情で画面内から出た風のミシェルに謝ったり、威厳なんか捨て去ったように土下座をしている。

 

「キャァァァァァ!?」

 

 その幼女姿に繋げるように、第二ロリ化。

 そこではミシェルではなく、鴉様がホラーゲームを探索している風に描かれて、怯える鴉様が西洋人形に目を覆われ、悲鳴を上げながら逃げたりと。

 

「もうやだぁ、儂おうち帰るぅ……人形嫌いぃ……」

 

 もはや初配信の時の威厳はあるのだろうか?

 そんな疑問が湧いてしまうようなそんなシーン……これは本当にクソザコロリ鴉と呼ばれても仕方ない。

 

「んんッ――――はぁー…………私の子供達、助けてくれてありがとうございます。そのおかげで私はこの部屋の謎解きを終えることが出来たので、感謝しかありません。本当に貴方たちは偉いですね」

 

 艶めかしい声を出したかと思えば、一気に女性らしい声になり、姿も大人の女性に変わった鴉様。

 彼女は、にっこりと優しい笑顔を浮かべながらマヨイビト達の頭を撫でたりしていて、その様子はまさしくママといった感じだろう。

 

 取り乱すママ鴉が、クロエの事を自分の娘だと言い張るように、彼女を抱きかかえている。

 

 

「――あれ儂負けた?」

 

 その後は前に仕掛けていた勝負に負けたことに気付いて、なんでか今度の配信でメイド服のロリママをやることになった。

 

「鈴ゲット!」

 

 視聴者であるマヨイビト達に助けられて鈴を手に入れた。

 

 

 その後は大歓迎とイキリだし、意気揚々とキッチンに向かう鴉様が一瞬で表情を変える短い漫画が流れたり、台パンしながらメイドにキレる鴉様の姿が高クオリティ。

 

 

「気持ちは分かるが……その言葉は呪いになるぞ人間、その言葉は家族に対しては絶対に残してはならぬ」

 

 ミシェルの弟ピエールに向かって威厳満々でそう告げる鴉様。

 背中に生える巨大な羽を広げた彼は、画面に向けて悲しそうな目でそう告げていて、配信中の彼の表情を思い出させるような一コマだった。

 

 





 長いという意見が凄かったので、1から7の見所? をまとめた物を投稿させて貰います。この次がホラゲ回のラストです。


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【ホラーゲーム】ほらーげーむはいしん……【ビビリ鴉】その8(終)

 長かったホラー回もラスト。
 どうか最後まで見届けてください。


私はミシェル坊ちゃまの呪いですわ

 

 そんな言葉を残した「呪い」はそれを最後に姿を隠しそれのおかげか部屋に色が灯る。

 そんな部屋で立ち尽くし戸惑い表情を曇らせるミシェルは、今何をすればいいか分からない感じだが、自分の罪と向き合っているのか、クロエに話しかけられた時自分の今までを振り返るように言葉を続けていった。

 

「だけど今は、おいて置くと……覚悟でも決めたのか、ミシェル」

 

 クロエと会話を終えたミシェルは、改めて呪いを解くために楽譜を探すことにしたようだ。

 シャルロットが守っていた下の扉に入ってみれば、そこにあったのは何もない通路。警戒しながら進んでみるも、仕掛けはなかったようで、難なく次の部屋……中庭らしき場所に辿り着くことが出来た。

 

 

[覚悟決めたショタは強いよね]

[次の曲は何だろう?]

[二人とも呪われてたんだね]

[そんな所まで共通点があったのか……]

[もうすぐ終わりそう]

[すでに楽譜があるし、これを弾いたらラストにいくのかな?]

[雰囲気が変わった?]

 

 

 ちょっと遅延しているコメント欄に目を通し、楽譜を拾わせまた装備させる。

 手に入ったのは「夜想曲20番」ショパンの遺作のこの曲は、夜が明けるときに演奏される事の多い曲。今までの曲と関係し続けたこのゲームの事を考えると、ここでこの曲を持ってくるのには意味があるだろう。

 長かった夜を想う曲、つまりこれまでのゲーム内の時間で言うとクロエと過ごした長かった夜が明けるという意味でも込められていると儂は思うのじゃ。

 

 深呼吸して、クロエに話しかける。

 

夜想20をヴァイオリンで弾きますか?

  弾く 

   弾かない   

 

 始まるのは最後の回想。

 それは過去の屋敷の出来事で、なんとミシェルがこの屋敷に一度来ていたとプレイヤーに知らせるものだった。つまり、クロエとは覚えていなかっただけで初対面ではなかったと……めっちゃ熱くない? この展開……。

 その回想の中で、一度だけだがアランからクロエを救うミシェルの姿が描かれていて……やはりミシェルが素直じゃないけど、優しい事を理解させられる。

 自分も一杯一杯だった筈なのに……かける言葉は優しい彼は……儂から見てもそんな性格だと思うが、それを失って欲しくないと思うのはきっと儂のエゴだろう。

 

「クロエは共感覚でもあるようじゃな、ミシェルの演奏に込められた感情の中身が分かるらしいし」

 

 悲しみに満ちた音色だけど、やはり優しいミシェルの音は他人に寄り添うようなものらしい。それに救われたからか、クロエはミシェルと彼の演奏を気に入ったんだろう。

 …………終わらせよう、この館の悪夢を。

 どんな結末が待ってようとも、儂はこれを終わらせて二人の結末を見届ける。

 

 

[どの回想でも株を下げる父親ェ]

[この時だけだったんだ救われたの……]

[つらい、だけどミシェルよくやった]

[最後の回想だし、もうちょっと続きそう]

[あれもう嫌な予感しかしないんだけど]

[アランガァ!]

[助けを求めるクロエちゃんを見るのつらい]

 

 ……そして回想は進んでいき、アランとクロエのシーンへと変わった。

 なにやら曲を作っている様子のアランと、それを無表情で見つめるクロエ。珍しく上機嫌な父親がお前の為に作ったと言い、告げたタイトルは「クロエのレクイエム」。

 ――死者の安息を願う曲に生者の名を付けるなんて、正気の沙汰ではない。

 クロエが感じた回想の中の殺されてしまうかもしれないという恐怖心は理解が出来るし、何より呪いが育っている状況でのその勘違いは、呪いを羽化させるのに十分だった。

 殺されてしまうかもしれないという恐怖と、生き残りたいという欲、それを餌に急激に成長した呪いはここで彼女を食い尽くしたようだ。

 

「つまりこういうことじゃな……あの白髪クロエは意志を持った呪いで、今まで話してたのはクロエの自我か……」

 

 そしてそんな中で、唯一救ってくれたミシェルに助けを求め続けていたと。

 とても怖かっただろう。ずっと耐えてて、父親に殺されると思って行動したら呪いに体を奪われて、見てるだけで何も出来なくなってしまう。子供がそんな恐怖に耐えられると思わないし、その時の感情を想像できると思えるほど儂は傲ってはいない。

 響く最後の歓声。その後の会話でクロエが悪戯っ子のようにミシェルと会っていたという事を告げて、予想が付いている自分の正体をミシェルに告げた。

 その後自嘲するような事や、自分が館に彼を呼んだことも伝えてきたが……もうそれを気にするミシェルではないだろう。

 

「……君を救いたいか――救うぞ、ミシェル」

 

[覚悟完了]

[だけど、救う方法なんてあるのか?]

[いま思いついたけど、真っ当な手段じゃ救えないよね]

 

 

 覚悟を済ませたミシェルは彼女から銀のナイフを手渡された。

 クロエ曰く「ほんとのクロエ」を救うには殺すしか方法がないようで、放置すれば夜明けと共に死ぬが悪霊になってしまうからその前に、「ほんとのクロエ」を救って欲しいそうなのだ。

 

「ッ――これしかないと、いうのか? ミシェルには酷だぞ、だが彼女の願いを叶えないわけにはいかない……と」

 

 

[最後はどうすれば、つらすぎる]

[元凶もいるのか……あいつだろうな]

[悩むね……]

[クロエの意志を汲むか、それを無視して生かそうとするか]

[殺さなかったら悪霊化するのか]

[本人だからこそ分かるんだうね]

[これを決めるのは多分プレイヤーである鴉様か……」

 

 

 夜明けが近づいた事で、生霊であるクロエが消えた。

 本当にこれが最後の場面、ここから先は……何があっても目を逸らさない。儂も覚悟を決めて、彼女を救うことにしよう。

 

「最後のヒント的に、この木の後ろに梯子があるのか」

 

 梯子を見つけてそれを降りれば、そこには死体が転がる地下室があり、異様で血生臭い雰囲気が周りを支配していた。そんな地下室を進もうとすると、猫の鳴き声と鈴の音が聞こえてきて……この地下室にノワールが降りてきた。

 

「五時を告げる音か……夜明けは近い、ミシェルナイフは持ったぞ……儂はもう何をするかは決めたのじゃ」

 

 死体がある道を進んでいけば、その奥には何かを求めている頭蓋骨が置かれていて、それに三つのアイテムを食べさせると、きっと最後のアイテムであろう「隠し部屋の鍵」を手に入れることが出来た。

 

「…………ここに彼奴もいるだろうな――金槌でも持っとくか」

 

[殺意が高い!]

[でも分かるから殴れ]

[俺達の全ての怒りを込めてやるんだ]

[トリコのラスボス戦かな?]

[一応あれはラスボスだし、アランと一緒にするのはやめよう]

[急に出てきたスペースタイパンに負けるラスボス……]

[アラン・じじ・たおす・からす・がん・ばれ]

[ほらレジスチルも応援してるよ]

 

 

 

 クロエの最後の言葉にあった呪いの元凶……つまり彼女が呪いを孕んだ理由であるアイツもここにいるだろう。どういう風に戦うか分からないので、ひとまず武器になりそうなナイフと金槌をミシェルに持たせて、儂は次の部屋に入った。

 

 

 その部屋は窓もないのに風でも吹いているのかシャンデリアが揺れ床に何本ものワインが割れていたりしていて、かなり不気味な様相を呈している。

 

「気になるのはあのピアノじゃな…………このゲームのピアノになにかないわけはないじゃろうし」

 

 最後にもう一度深呼吸して、ピアノを調べればゲームの最初に流れていたあの曲が流れ始める。

 最初儂が気に入ったあの曲、それが演奏者もいないのに流れ始めたかと思ったら、不気味な男の笑い声が部屋に響いて、砂嵐のような音と共に――あの男、アランが姿を表した。

 

 

「ついに来たかアラン、ぶん殴ってやるから速く用事を済ませろ」

 

 とても丁寧な紳士風にミシェルに挨拶を済ます彼は、一見まともな男。

 自身をクロエの呪いとかいうこの男は、一切の罪の意識もなくミシェルに笑いかけ、何よりこれからよろしくといった風に言葉を伝えてきた。

 

「そしてすぐに本性を現したか、人間」

 

 ミシェルを餌にするという宣言をした彼。

 その後すぐに逃げるとき特有の間が発生して、すぐに操作ができるようになった。

 呪い退治……その方法は、きっと簡単なものだろう。

 

「呪いは想いが籠もっている物にこそ宿る。クロエの呪いだというのなら、こいつの本体は……」

 

 部屋を一周回るようにして、アランを撒いてピアノを調べれば案の定ミシェルもこれを壊すという思考になったようで、決意を改めて固めたようだ。

 

 

[壊せ!]

[金槌あるだろう? ならそれで殴れ殴れ]

[俺達の怒りを全部込めて君がやるんだミシェル]

[アラン足速すぎでしょ、まじで怖い]

[高速でショタに忍び寄る生え際後退男……]

[事案……]

[アランその紙も全部毟ってやるよ]

[三回殴れば倒れるよ]

 

 

 一回ピアノに近づいたときにもうパターンは組むことが出来た。

 それならばもう負ける要素はない。少しでも最短距離であのピアノを破壊する。

 一回殴るごとに、悲鳴を上げていくピアノ。

 何度も何度も怒りと憎悪と殺意を込めて、儂はそれを徹底的にミシェルに破壊させる。

 

「――――しっ! 儂らの勝ちじゃー! 二度と蘇るなアラン! 貴様は地獄に落ちるだろうな!」

 

 最後の戦友である金槌はピアノを壊した事で、力を使い果たして壊れてしまった。

 それに軽く黙祷を捧げながら、儂はずっと儂と共にあってくれたヴァイオリンを左手に装備して最後の部屋に向かうことにした。

 

 覚悟を決めた儂とミシェルは、もう何にも邪魔されない。 

 右手には銀のナイフ。

 そして左手にヴァイオリン……この先何があるか分からないが、古来より呪いを解く方法が一つある――出来れば儂が思いついた方法を試せるような事があればいいが……。

 

「よし、会いに行くとするかのう」

 

 

[ラスト!]

[絶対に見届けるぞ]

[頑張れ、鴉様]

[声が覚悟決まってる]

[殺すしかないのかな?]

[きっと救う道が……]

 

 

 部屋に入れば何度目か分からない自動イベントが始まり、クロエのアップ絵が表示された。 

 今や呪いに全てを奪われたクロエの本体。彼女はミシェル……というより、生きる者全てに殺意を向けているかの形相で、こちらを睨んでいて今にも向かってきそうだ。

 

「ッ衝突!? ここで選択肢じゃと!?」 

 

武器をクロエに……

  振り下ろす 

   振り下ろさない   

 

 その選択肢が出てきたとき、一度演じていたミシェルの気持ちが流れ込んできたような気がした。

 このまま武器を振り落としてよいのか、本当にクロエを殺してしまっていいのか? そんな言葉が湧いて出てきて、痛いほどにミシェルの葛藤を理解してしまった儂は、下の選択肢を選んだ。

 

 

クロエを……

  つきとばす 

   だきしめる   

 

 続けざまにやってくるその選択肢。

 もう殺す事を止めた儂らの選択は、この中だと一つしかない。

 少しのラグもないようにその文字が見えた瞬間に、儂は下を選び……彼女をミシェルに抱きしめさせた。

 

「そうだよなぁ、主がクロエを殺せるわけがない!」

 

 この選択でどうなるか、それは傍観者である儂からするともう見守ることしか出来ない。

 抱きしめたことで、腕の中で暴れるクロエ。それにお守りを破かれて守ってくれる物が何一つなくなり、クロエが止めを刺そうとしたとき…………。

 

「猫……か?」

 

 聞こえるのはノワールの声と渡した鈴の音。

 それが聞こえたとき、急にクロエが地面に倒れて、画面には消えていくノワールと亡くなったブランの姿が映し出された。

 

「そういえば、呪いは猫に姿を変えていたのであったな……つまり、呪いの本体はブランだったと」

 

 それを倒すにはノワールの力と鈴が必要で、今までの鈴のイベントをこなしておかなければきっとこのシーンはなかったかもしれない。

 

「マヨイビト達、よく儂らを助けてくれたな。心の底から感謝するのじゃ」

 

 本体は倒された事で、目覚めるクロエ。

 見た目が呪いの時の状態と変わらないが、これは何日も飲まず食わずで過ごした弊害だろうから、戻ったと思っていいだろう。

 

 シーンが進み、正気を取り戻したクロエに朝日を見せるシーン。

 二人の会話が交わされていき、それを見た儂は言葉を出すことも忘れて魅入ってしまう。

 涙を堪え、見届けると誓った儂は……言葉を飲み込み、彼女に黙祷を捧げる。

 

 

 

「夜が終わるな……お休みじゃ、クロエ。どうか安らかに」

 

 最後に操作が可能になったので、最後にクロエに話しかけ、このゲームを終わらせようとした――その時だった。

 ミシェルが彼女に、今までヴァイオリンをやってきて良かったという言葉を残し……あの父親が最後に作り、一瞬だけしかミシェルは聞いていないだろうあの曲を演奏し始めたのだ。

 

 

[お疲れ様!]

[ミシェル君イケメン過ぎるだろ!]

[ここでクロエのレクイエムは鳥肌]

[いいもの見れたわありがとう鴉様]

[彼女の為に最高の演奏を聴かせるんだミシェル君!]

[TrueEND?]

[源鶫:お疲れ様ですママ!]

 

 

「粋じゃな――――ならば儂もそれに答えるとするか、主らちょっと席を空けるぞ」

 

 

[何するの?]

[エンディングみないの?]

[なんか鴉様がまたやらかすのか?]

[なんだろう、すっごいやる気を感じたよ今]

 

 

 

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浮世鴉 お せ

#XXXX

   ─────20XX年7月31日─────  

22:30 浮世鴉 つぐみ今通話かけるぞ

22:30 源鶫 ……なにかやるんですよね

21:31 浮世鴉 主のピアノを借りたい、いけるな?

22:32 源鶫 当然、僕を誰だと思ってるんですか?

22:32 浮世鴉 やる曲はクロエのレクイエム、全力で奏でるぞ盟友!

 

 

 

 

源鶫へメッセージを送信  GIF  へ  

 

 とても短いやり取りだけど察してくれた盟友に心の中で感謝してから儂は通話をかけて、儂の隣に鶫のモデルを表示させた。

 

 

[え、つぐみんなんで?]

[いま配信中だよね!?]

[突発コラボ?]

[え、なんで急に?]

[あれじゃないこのゲームを教えてくれた感謝をここで伝える感じ……]

[なんかピアノの音聞こえない? つぐみんの方から]

 

 

「ヒョーヒョーという鳴き声からこんばんはマヨイビトの皆様、今宵ママに呼ばれて参上した第一子、源鶫でございます。この場に来てくれた皆々様には、この配信の締めとして、少しの夜会に参加して貰いましょう」

 

 エスパーかと思うほどに、今儂が言って欲しかった言葉を視聴者に告げた鶫。

 それに改めて儂の仲間は強いという事を理解し、彼に一言だけ言葉を伝える。

 

「さぁ、鶫……俺が合わせてやるから、全力でピアノ弾きやがれ!」

 

 ここから先は俺の時間。

 全身全霊全力全開の魂を演奏をマヨイビト達に届けよう。

 今からやることは儂では力不足、だからこそ……この状況に合うだろう、俺に戻り……クロエとミシェルに曲を捧げる。

 

「行きますよ盟友、少しでもずれたら怒りますからね?」

「はっ、そっちこそ俺に喰われるなよ? 大妖怪!」

 

 

[まじで何が始まるんだ?]

[イケボ鴉降臨]

[ショタボがガチ過ぎるイケボになった!?]

[画面に映るのは可愛いショタなのに、めっちゃイケメンな鴉の幻覚見えるんだけど]

[草……とか言ってる場合じゃねぇ!]

 

 

「弾く曲は一つ」

「ですね、それしかない」

 

 鶫のことだ。好きなゲームの曲は完璧に弾くことが出来るだろう。

 だってこいつ、何気にピアノ天才らしいからな……ならば心配なのは俺だが、一度聞いた曲ならば儂は間違える事はない。それに儂はミシェルの過去を見たことで、完璧のあの少年の演奏技術を模倣することが出来る。

 

「じゃあいくぞ……」

 

 深呼吸そして、

 

『クロエのレクイエム!』

 

 彼のピアノに合わせるように、俺は最後の「クロエのレクイエム」を即興で演奏し始めた。

 

 




 
 ホラゲー配信回見てくれて本当にありがとうございました。
 最後のシーンを描きたいが為に、長くなってしまいましたがここまで付き合ってくれた皆様本当に感謝いたします。
 
 


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二期生コラボ編:ポンコツ鬼姫と酒好き猫妖怪+胡瓜
【日曜日】急なコラボは先輩から【掲示板あり】


今回から二期生達とのコラボ編です。
プロロ的な感じで掲示板を多めにさせてもらいました!


 

【VTuber】妖ぷろついて語るスレ:その×××

 

 

36:名無しの小妖 

そういえばつぐみんの鳩配信凄かったね、妖ぷろの鳩たちが集まってた

37:名無しの小妖

「いや、何してるんですか先輩……ちょっと味が気になりますよね! 胡瓜だったらそのまま食べたいですけど」

これ草だった 

 

38:名無しの小妖 >>37

先輩の奇行を肯定したかと思ったら否定するの好き

 

39:名無しの小妖

つぐみん構文じゃん

 

40:名無しの小妖

肯定してから否定したり、なんか斜めから変な事を後に付け足すアレね

 

41:名無しの小妖

有名なのなんだっけ?

 

42:名無しの小妖

ありすぎて分からねぇ

 

43:名無しの小妖

あれ、つぐみんって配信初めて二週間ぐらいだし、まだ配信六回しかしてないよね?

 

44:名無しの小妖

それなのに4分近い構文切り抜きがあがるのがつぐみんなんだよ

 

45:名無しの小妖 >>41

切り抜きからだけど狂天狗とのコラボDBDの時「先輩なに慌ててるんですか? そういう妖怪から先に死ぬ――――待って!? 後ろいるぅ!? 待って先に逃げて止まってんじゃねぇ、捕まるうぅぅ!?」

 

46:名無しの小妖

 

47:名無しの小妖

雑魚鵺

 

48:名無しの小妖

三期生みんな雑魚い

 

49:名無しの小妖 >>45

その後の狂天狗の反応がこれ→「我を煽るからそんな事になるんでござる――待って、トラップなんでここにあるんだよクソがァ! 巫山戯てんじゃねぇぞ、ここはないだろぶっ殺してやる!」

 

50:名無しの小妖

つぐみんと一緒だとキャラ保てない狂天狗好き

 

51:名無しの小妖

は? いつもこんな感じでしょ法眼様は?

妖ぷろエアプか?

 

52:名無しの小妖

妖ぷろエアプとは……

 

53:名無しの小妖

 

54:名無しの小妖

なんとかござるキャラを定着させようとするも熱くなってお口悪くなるの好き

 

55:名無しの小妖

ござるの時は可愛いよね、狂化されるとカッコ良くなるけど

 

56:名無しの小妖

ござる→「やはり女性キャラは可愛いでござるなぁ、見てる我が癒やされでござるよ」

狂化→「お前、今我を笑ったか? 名前覚えてからな、絶対に殺してやるから覚悟しろ人間」

 

57:名無しの小妖

二重人格定期

 

58:名無しの小妖

鴉様レベル

 

59:名無しの小妖

鴉様のは演技だぞ、だからあそこまで違和感がないんだ

 

60:名無しの小妖

狂天狗は、一瞬マジで誰? ってなるけど、鴉様のは雰囲気まで画面越しに伝わるから、あぁそういえば女じゃんってなるんだよね、公式的にはショタなのに

 

61:名無しの小妖

即堕ち系有能不憫ポンコツホラゲ苦手ヤンデレ大食いイケメン儂ショタロリ爺婆ママメイドだからね、矛盾を越えた何かだから仕方ないよ

 

62:名無しの小妖

また属性増えてるよ

 

63:名無しの小妖

本当に草

 

64:名無しの小妖

今16個だし、あと二つで完成するのかアルセウスが……。

 

65:名無しの小妖

今の鴉様の渾名なんだっけ?

 

66:名無しの小妖

クソザコ鴉と>>61のやつと、性癖を司るアルセウス……あと日本版ニャル?

 

67:名無しの小妖

最後の草、なんでそんな渾名が……

 

68:名無しの小妖

最後の初めて聞いた

 

69:名無しの小妖

わかるどこから?

 

70:名無しの小妖 >>67 >>68 >>69

すまん自分が呼んでる名前、なんか凄い変わるしニャル様的なサムシング感じたから

 

71:名無しの小妖

そう言われれば分かるかも、設定もニャル様と似てるしね

 

72:名無しの小妖

確かに……なんでも演じられる数多の名と貌を持つ妖怪だしね

 

73:名無しの小妖

まあ鴉様カルマ値を善にふりすぎてる感あるから邪神にはなれないけどね

 

74:名無しの小妖

ちょっと遅れちゃったけど、丁度いいし鴉様のホラゲーが配信の話題でもするか 

 

75:名無しの小妖

賛成

 

 

 

 

 

184:名無しの小妖

改めて思うけど、鴉様の声の引き出しやばすぎるよね

 

185:名無しの小妖

ほんとにな、どうやったらショタボ、ロリボ、ママボ、イケボを全部出すことが出来るんだよ

 

186:名無しの小妖

さらに全部別種の声、ロリだったら完全にロリだし、ショタは生意気、ママはお淑やかで、イケボは私が死んだ

 

187:名無しの小妖

死んだは草

 

188:名無しの小妖 >>186

男だけどそれは分かるわ、まじで意味不明な程に格好いい声だった

惚れたもん

 

189:名無しの小妖

なぜママ鴉の話題が少ないんだ?

 

190:名無しの小妖

そうだそうだ。もっとあそこはピックしていいだろ!

 

191:名無しの小妖

可愛いママとか最高じゃありませんか?

  

192:名無しの小妖

あのママ鴉に罵って欲しい

 

193:名無しの小妖

え、既に罵ってくれたじゃん? 

 

194:名無しの小妖

邪魔者のくだり?

 

195:名無しの小妖

そうそれだよ!

 

196:名無しの小妖 >>189 >>190 >>191 >>192 >>193 >>195

今回も存分にオギャれたな同士達よ(後方腕組み黒幕)

 

197:名無しの小妖

こっわ、なんかママ鴉の子供達増えてない? 

 

198:名無しの小妖

前回のスレだとまだ3人ぐらいだったよね

 

199:名無しの小妖  >>196

七人岬じゃん巻き込まれないようにしないと

 

200:名無しの小妖

天才

 

201:名無しの小妖

ママ鴉七人岬……いいね採用、でも最終的には万人岬にする予定だから遠慮なく言ってね、待ってる♡

 

202:名無しの小妖

怖い

 

203:名無しの小妖

妖ぷろの視聴者の中から定期的に怪異生まれるよね

 

204:名無しの小妖

そんなにいたっけ?

 

205:名無しの小妖

いっぱいいる。

 

206:名無しの小妖

そんなに認知されてるって事はまとめあるの?

 

207:名無しの小妖

あるぞ持ってきてやるよ

 

208:名無しの小妖

見ない方がいい気が……

 

209:名無しの小妖

怖い

 

210:名無しの小妖

一先ず自分が知ってるのは、分身する妖怪と何故か酒猫の感想で飲んでる酒を毎回当てる奴……あとは、なんだっけ?

あ、あれだ河童大戦のお絵かき配信で先にパス当てる集団の怪異

 

 

 

 

 

523:名無しの小妖

そうだ酒猫ちゃん、つぐみんに負けて拗ねてたね

 

524:名無しの小妖

 

九十又仙魈【妖ぷろ所属/二期生】@nyan.nyan_youpuro

(´・ω・`)

大将にゃんと以外に負けるなんて予想外にゃ……でも、まだ三期生の狐が……

 

525:名無しの小妖

なんで鴉様忘れてるの?

 

526:名無しの小妖

そういえば忘れられてる?

 

527:名無しの小妖

違うよ、過去の呟きでだけど、あの鴉には負けない自信があるらしい

 

528:名無しの小妖

 

九十又仙魈【妖ぷろ所属/二期生】@nyan.nyan_youpuro

#子鴉劇場

( ー̀ωー́ )この鴉に負ける未来だけはみえないにゃん!

 

529:名無しの小妖

 

530:名無しの小妖

既に弱者と認識されてるの笑うんだ

 

531:名無しの小妖

二期生もやっぱりいいよね、濃い

 

532:名無しの小妖

妖ぷろはまだ少ないからか、皆仲いいよね!

 

533:名無しの小妖

不仲説が流れてるのは……狂天狗とつぐみん?

 

534:名無しの小妖

あれはちょっと仕方ない

 

535:名無しの小妖

まあね、あの二人はね

 

536:名無しの小妖

そうだそうだいつか忘れちゃったから聞くんだけど、お料理コラボっていつだっけ? 

ロリママメイドの鴉様出るんでしょ?

 

537:名無しの小妖

大型コラボのあれでしょ? それなら八月十二日

 

538:名無しの小妖

九日後か

 

539:名無しの小妖

メンバーが確か料理する側で鴉様? とポン童子・胡瓜大戦にPP妖狐で審査員がつぐみんと酒猫だったはず

 

540:名無しの小妖

総大将がいないのは仕方ないとして、狂天狗はどうしたの?

 

541:名無しの小妖

あれでしょ……なんもなかった

 

542:名無しの小妖

体調悪いのかな?

 

543:名無しの小妖

耐久配信三日間やる化物だぞ? それはないだろ……ないよね?

 

544:名無しの小妖

まあ彼女の事だし、なんか用事でもあったんでしょ

 

545:名無しの小妖

だろうね、結構忙しいらしいから

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 ホラゲー配信から約四日。

 あの時の配信では色々な……事件というか、黒歴史を作ってしまったりしたが……配信自体は好評で、最後の夜会のおかげか、浮世鴉チャンネルの登録者がもうすぐ七万人に行きそうなのだ。

 同期の二人も伸びは順調なようで、鶫が一番最初に七万人突破して、七尾も今は俺と同じぐらいの登録者がいる。

 そんな訳で昨日の夜秋葉原に集まったりもして、前の桃鉄配信で話題に出たケバブ屋にでも行ったりと、VTuber生活を始めてから俺の止まっていた時が動いているような感じに充実した毎日を多分送れている感じなのだ。 

 

 

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阿久良椛
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浮世鴉 お せ

#XXXX

   ─────20XX年8月4日─────  

09:05 阿久良椛 あの突然なのだが、今度妾とコラボ配信してくれぬか?

無理だったら断ってくれてもよいのだが……出来れば汝と配信してみたいのだ

09:13 浮世鴉 別に構わぬぞ?

09:15 阿久良椛 え? いいんですか! ……じゃなくてよいのか?

09:17 浮世鴉 あ、普通に話してくれて大丈夫ですよ先輩。

とにかくコラボとなると流石に社さんに話は通す必要あると思いますが

俺は全然その誘い受けさせて貰います。

09:19 阿久良椛 浮世鴉さん、ありがとうございます。

09:13 浮世鴉 こちらこそお誘い頂きありがとうございます

そういえば、配信内容はもう決まっている感じですか?

09:24 阿久良椛  配信は私の枠で人気なASMRを二人で一緒にやりまして

視聴者の皆様に聞いて貰うという感じを予定してます

09:25 浮世鴉 自分の強みと椛さんの強みを活かした配信をやる感じですね。

09:27 阿久良椛  そうなりますね。一度貴方の声を聴いてみたのですが、

本当に声の幅が広くて憧れてしまいまして

そして総大将さんが推している貴方とですね

一緒に配信してみたいと思ってたので誘わせて貰いました

09:25 浮世鴉 了解しました……期待に応えれるように、日祀さんに頼ませて貰います

 


阿久良椛へメッセージを送信  GIF  へ  

 

 

 そんな時に送られてきた二期生の先輩からのディスコード。

 内容としては自分とASMRコラボをしたいという感じで、自分としてはすぐに受けたかったが、流石に俺の性別男の時に女性のVTuberの方とコラボするのは燃えるかもしれないので、そこは慎重になるしかなかったのだ。

 一応これから社さんの方に確認を取るつもりなのだが、二期生の女性組はどっちも男性人気が高く、ガチ恋勢と呼ばれる方達がいるので、正直なところ……コラボできる気がしないのだ。

 期待された以上、自分に出来ることはやってコラボはしたいのだが……そこらへんは神のみぞ知る……というか【妖ぷろ】次第なのでどうなるか分からない。

 

「昔だったらなぁ、妖怪って知ってる奴らが多かったから自由に性別変えれるし楽だったけど……」

 

 現代では気軽に女性にならないので、そこらへんが本当にやりづらい。

 法律とかがちゃんとしたーってのは分かるけど、妖怪の身としては馴染みづらい感じがあるんだよなぁ……今もまだ生きてる妖怪も、今の時代ではあまり人を驚かせないし、食べること出来ないから色々苦労してるって聞くし――――。

 

「まあそれでも抑えきれない奴がいるから、陰陽師とかもまだ稼げてるんだと思うが……なんか世知辛いよな」

 

 怪異などが廃れていったからこそ、恐怖の対象などであった俺らが娯楽として扱われるようになったりもしてるし、やっぱり時代はどんどん変わっていくッて事を理解してしまう。

 

 少ししんみりと色々考えてしまったが……今はとにかく社さんと連絡を取らないといけないし、ちょっと気合い入れて説得でもしようか……。

 

 そんな風に意気込んで俺は、十二時頃に社さんにDMを送ることにした。

 

 




 第四章突入、この章では二期生二人と絡んでいく章となります。


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【雑談コラボ】鬼と鴉の真珠麿配信【浮世鴉/阿久良椛】

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日祀社
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浮世鴉 お せ

#XXXX

   ─────20XX年8月4日─────  

13:20 浮世鴉 椛先輩にコラボ誘われたんですが、受けても大丈夫ですかね?

13:40 日祀社 椛さんとのコラボですか? 私の一存では決められませんが、

      彼女のマネージャーが許可も出してるでしょうしいいですよ

13:40 浮世鴉 本当ですか社さん!

13:44 日祀社 はい、嘘をつく必要ないですし、そもそも三期生と二期生の交流を深めよう 

      という話は進めてましたからね

      本当は料理企画をきっかけに一・二期生との交流を

      始めさせようという感じだったのですが

      そういう事なら都合がいいです

13:46 浮世鴉 了解です。先輩にこの後伝えておきます

13:48 日祀社 そういえば内容はASMRという事ですが、その前に一度雑談

      コラボ的なのをやってもらえませんか?

      一応急にコラボするより、雑談コラボなどで慣らしてからの

      方がいいでしょうし……どうですかね?

13:52 浮世鴉 ですね、自分もまだ動画だけでしか彼女を知りませんし、本コラボの

      前に一度通話で打ち合わせでも思ってましたし、

      そんな感じでやらせてもらいます

13:56 日祀社 了解しました。では本コラボの調整は彼女のマネージャーである甲山さんも

      交えて近々やりましょう

 

日祀社へメッセージを送信  GIF  へ  

 

 

 期待に応えるためにも説得する気で始めた社さんとのDM。

 渋る気配すら一切なく進んでいったこの会話は、驚くほどスムーズに進んでいってしまって、気づけば本コラボの前に雑談コラボをすることになってしまった。

 というかあれじゃない? 決めるの早くない? 俺的には、一度会議でもとか思ってたのに、なんでだろう? いや、いいことなんだけどさ……なんか拍子抜けというか意気込んでたのが無駄になったというか――――。

 

「まあいいか、決まったんだし」

 

 とりあえず今は先輩に連絡してさっきあったことを伝えよう。

 先にやる雑談コラボの内容もそこで決めなければいけないし、今日はこれから忙しくなりそうだな――――まぁ、やるのはどうせ数日後だろうしゆっくり決めるとするか。

 

 

浮世鴉【妖ぷろ所属】@ukiyo_youpuro

先輩とコラボすることになったのじゃ! 真珠麿(マシュマロ)も募集するのでどんどん送ってくれると嬉しいぞ! 

#浮世童子

#子鴉劇場

#鬼と人の宴


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こ149  り2.8万 ♡ 2.7万

 

 

              ◇       ◇   

 

 

この二人のコラボとか予想外

ちゃんとマシュマロ送ったぞ!

読まれるといいなぁ

浮世童子楽しみ!

俺この時の為にさっき電気屋で高いヘッドフォン買ってきた

雑談だぞこれ

二人の声を同時に聞けるとか、死ぬぞ私

九十又仙魈:もみにゃん頑張ってー!

源鶫:ママ頑張ってください!

保護者と息子もよく見てる

怪異マロどのぐらいかな

怪異マロ待ってる!

                     

▶ ▶❘                                 CC ⚙ ろ わ だ 

【雑談コラボ】鬼と鴉の真珠麿配信【浮世鴉/阿久良椛】

45.396 人が視聴中・0分前にライブ配信開始       い486 う43 へ共有ほ保存 …


【妖ぷろ】浮世鴉 Ch

チャンネル登録者数 68392人

 

「今宵も妾の元に来てくれて助かるぞ?」

「マヨイビトの皆様方、こんこんばんはじゃー! 妖ぷろ三期生所属の浮世鴉、今日は告知通りに椛先輩とコラボしていくのじゃー!」

 

 それから約一日後の月曜の夜。

 凄まじい速度で雑談コラボをすることになった儂は、未だ状況を理解できぬままで始まったコラボ配信の枠にいて、もうすでに彼女とディスコを繋げていた。

 一応は動揺を隠しながら喋っているが、いつボロが出るか分からないので何処までも頭を冷静に……いや、やばい緊張するわ。

 俺って総大将から入った勢だけど、箱推しだし……憧れている一人との一対一のコラボとかやばいレベルで、緊張してしまうというか……何を喋っていいか分からなくなる。

 昔だったら遠慮なく、話すぞーって感じだったけど……数百年間ぐらい憧れた人間と会話することなんてなかったから、正直心配すぎるのだ。

 

 

[コラボの時間じゃぁ! 酒を飲むぞ!]

[なんか少し鴉様緊張してる?]

[ないでしょいつも通り]

[画面にロリとショタがいる……でも実質ロリは二人なんだよね]

[ショタロリ爺婆って冷静に考えたらやばくない?]

[今更でしょ気にしたら、無量空処喰らったみたいになるよ]

[性癖過多に襲われて処理しきれなくなるのか]

[領域展開:性癖過剰浮世鴉]

[効果相手はあまりの属性の多さに果てる]

[こわ]

[コラボのきっかけってなにー?]

[気になる気になる]

 

 

「コラボのきっかけか? それは妾がこの妖怪と話してみたいっていうのがあったのと……あれだな、あとは今度浮世鴉殿とASMRをやる事になったので、その前に一度交流をという感じなのだ」

 

 

[ASMR……だと?]

[大丈夫それ死人でない?]

[鴉様のチャンネルはまだスパチャ投げれないからどうか椛様の方でオナシャス!]

[それはやばい、この二人のASMRとか死ねる自信あるわ]

[ありがとう、ありがとう]

[俺……今まで生きててよかった]

[ありがと母さん、そして妖ぷろ]

[もう何も怖くない]

[期待しかできない]

 

 

 流れるいつも通りの様子のコメントと、この先のコラボも期待してくれる好意的なコメント。

 それは俺の緊張をかなりほぐしてくれて、そのおかげか幾分か余裕が出来てきた。それに椛先輩も、こっちが緊張しているのを分かってるのか、ゆっくりと喋ってくれているし――――いつまでも、日和ってる場合じゃないなこれは。

 

「そうじゃな、とても喜ばしい事に先輩の方から誘いがあったので、その前に一度雑談コラボでもと、儂が提案した感じじゃ……主な内容としては、昨日から募集している真珠麿を二人でも食べていき、あとはかるーく妖プロについて駄弁っていくつもりなのじゃ」

 

 

[そういえば椛様がコラボ誘うの珍しいね]

[というか初じゃない?]

[気になったんだろうなぁ]

[鴉様もよく受けた]

[男性コラボは、あれだね大型いがいなかったもんね]

[ポンコツ二人が合わさった時……世界が……]

[きっと萌え死ぬんだろうなぁ]

[すでに可愛い、鴉様超ウッキウキじゃん]

[羽がパタパタしてるのが見える見える]

[椛様も心なしか嬉しそうだ]

 

 

「ではでは、さっそくじゃが……届いた真珠麿でも食べるとするかのう。なんとマヨイビトと鬼の餌? ……の方達のおかげで数百件の洋菓子が届いたのじゃ! 虫歯になりそうな量ではあるが、出来るだけ多く返すつもりなので、安心して欲しいのう」

「それになんと今夜返すマシュマロは、質の良いものを妾の第一の配下と浮世鴉のマネさんで選ばせてもらったんだぞ! 楽しみにするのだ」

 

 画面に映る妖怪二匹。

 コラボ的には、ウチの枠でやってるから配信画面を切り替えるなどは儂がやらないといけない。なんか変な物が映らないかとかで怖いが、さっきまでの緊張していた儂はもういないので失敗などはしない。

 だって儂、強いから。

 

「という訳で一通目じゃな!」

 

 

          

鴉様は二度目ですが、椛様は初めましてー

私は前回鴉様のおかげで成仏できた呪霊なのですが  

ヘブンにいるときに、二人がコラボすると聞きまして帰ってきてしまったのです

このまま現世に留まってしまうと、怒られて地獄に落ちてしまうので 

どうか私を昇天させるようなセリフをどうか言ってくれませんか? 

あ、煽ってる感じがあれば最&高です!             

  

     

 マシュマロ

 

「え……なにこのマロ、なんで混じってるの?」

 

 もはや体に染み付いてしまった怖いとロリ化する何かの病。

 それが一瞬で発動する程の恐怖体験。だってこんなの怖いじゃん、儂はお互いの第一印象はなんですか? というマロを表示したはずなのに……なんで選んでる時に来てなかったマロが来てるの? え、マジでこれ送った人妖怪じゃない? 儂に恐怖与えるとか相当だぞ……。

 

「これが噂に聞いていたロリ化か全然印象が変わるのだな……だがどうしたの……このマロ、なんだ?」

 

 椛先輩が紛れ込ませたのかと思ったが、この反応を見るに違うらしい。

 DMにも社さんからこのマロ選んでないですって急に来たし……ガチの呪じゃんこれ。

 

 

[|∀・)+ジロジロ(。-∀-) ニヒ]

[え、なにこの二人の反応]

[これは恐怖した時に現れるロリ鴉!?]

[早速ロリが見れて嬉しいけど、なんか怖い]

[ホラゲより怖がってない?]

[さりげなく送ったヒト? が来てるけど、なんだ? 何が起こってる?]

[より厄介になって帰ってきてるの草]

[そういえば前回も鴉様何故か混じってたっていってたけど……今回も?]

[正解( *• ̀ω•́ )b グッ☆]

[こわ]

[ガチもんの特級呪霊]

 

 

「なあ椛先輩やらなきゃ、駄目じゃよな……これ」

「そうだなやらなければ、命の危機を感じるのだ」

 

 だけど……罵った感じってなんだ?

 儂はあまり思いつかんし、何より選択肢を間違えたら終わるような感じがする。どうする? 何が正解なんだ? 儂らはどんな事を言えば――――。

 ピコンッ! 

 そんな風に悩んでいた時に、送られてきた一件のメッセージ。

 それは、いつも放送に来てくれる母上からで……内容としては、一個の台詞。

 続くメッセージには「椛ちゃんにも送ったよ頑張ってねb」とあり、送られてきた特級呪具に感謝をしながらも、結局性癖大戦になってることにめまいを覚えた。

 

「よしやるぞ、浮世鴉即興だが合わせてみるのだ!」

「儂を誰だと思っている? 妖怪の中で史上最強の演者じゃぞ? その程度造作もないわ」

 

 タイミングは俺が勝手に合わせるので始めてくださいと、それを高速で打ち込んで送り一度深呼吸する事で、儂を切り替える。

 

「お前様? なんでサボってるのだ? ――――あぁ、そういえばそういう人間だったな貴様は」

「クハハ、姉様よ……そう言うでない、彼奴は彼奴なりに頑張っておるのじゃぞ? 可哀そうではないか……だがまぁ、そんな風に怠惰に過ごすとならば仕方ないかのう」

 

 演じるのは、鬼の姉弟。

 シチュエーション的には怠惰な人間を煽る的な感じなのだが、台詞は母上が送ってきた奴。たった数秒でここまでの業の深いものを送ってくる母上もかなりやばい気がするが、今は助かったので後は反応をみるしかない。

 

 

[(´Д`).∴カハッ……最高、でぇす……もう悔いはありません]

[予想以上に破壊力やばいんだけど]

[働いてきます]

[まじでこれは、ずるい]

[ありがとう特級呪霊:性羅(せいら)]

[名前がついてて草]

[性を網羅するという意味を込めました♡]

[まさか呪霊に感謝することになるとは(戦慄)]

[また来いよ]

[怖いからこなくてもいいよ]

 

 

 よ、よし……反応は上々じゃな。

 なんか色々やばい方々がいっぱい出てきたけど、なんとか儂らはこの難題を乗り切ったようじゃ。

 正直この部分だけでも、打ち上げして酔いつぶれたいと思いたくなってくるが……まだまだマシュマロはあるので気が抜けない。

 

「ふっ、もう妾達は友だな……浮世鴉」

「そうじゃな、儂らはもう親友じゃ」

 

 

[呪霊によって生まれる友情]

[そこから芽生える恋心]

[イエーイ!]

[やったぁ!]

[きっかけが地獄]

[それな]

 

 

 それから少し時間が飛んで十二件目のマシュマロを儂らは返し終わった。

 最初の奴以外は、選んだ通りだったので、特に返信に困ることがなく……配信自体も順調に進んでいた。

 

「では次は先輩が選んでくれた十三件目のマロなのじゃ!」

 

          

幼女二人組である浮世童子様方に質問です!

好きな男性のタイプを教えてください!

  

                

 マシュマロ

 

「なあ親友よ、儂ロリじゃないぞ?」

「あれだな、また紛れ込んだ感じなのだ!」

「あの先輩目が泳ぎまくってるのじゃ、これは故意じゃろ」

「知らないのぞ?」

 

 

[草]

[目が泳ぎまくってる]

[こんな椛様初めて見た]

[可愛い]

[鴉様の表情草]

[あと好みのタイプは聞きたいね]

[俺だね]

[帰れよ]

[雪椿:ウチのこの好みは私だよ]

[母 上 降 臨 !]

 

 

「妾は優しくて頼りになる男性が好みだな、出来ればリードしてくれると嬉しいぞ!」

 

[ごめん、俺だわ」

[は? 何言ってるんだ俺だぞ?]

[妄言吐きが多いな、我だって]

[え、何言ってるの? お前ら、俺だけど]

[女子っぽい]

[可愛い]

[で、鴉様の男性のタイプは?]

[おらあくしろよ!]

[あの……鴉様は男では?]

[え? 矛盾の塊の鴉様はイケメンでショタ爺で、クソ可愛いロリ婆ママメイドなんだよ? ――実質両性]

[草]

 

 

「あの、儂男じゃよー? おかしいのう、こないだも初見です! 可愛い女性ですねってコメントをみたばかりじゃし……何かがおかしいのじゃ」

「またまたー……親友はロリではないかー?」

「味方が敵なの笑えないのじゃ……」

 

 一応儂には性別ないが、五百年以上は男でいるので……一応好みのタイプは女性の方に偏っている。

 確かに一時期は女性となっていたし、生き様の格好いい男はいたが、やっぱり惚れるのはそれでも女性の方が多いな。

 

「とにかく好みの異性は! 生き様が格好良くて一緒に生きたいと、心から想える者じゃな……こいつとだったら生きていける。そして、一緒に過ごして悔いがないと思える者が好きじゃ……」

 

 

[なんかいいね]

[凄い妖怪っぽい]

[鴉様……俺とかどうです?]

[ンンン、ワタクシとかどうですかぁ?]

[帰れリンボ!]

[台無しや]

 

 

「なんか恥ずかしいしこの話題は終わりじゃ、次行くぞー!」

「妾とかありだぞ、浮世鴉?」

「え? まって急に告られたの儂?」

 

 耳元で囁くような声で、そう告げられて急にばっくんばっくんと鳴る心臓。

 とても頭に響くようなゾクゾクしてしまうそんな声に柄にもなく儂は照れてしまう。

 

「ふふふ、冗談だぞ?」

「リスナーの皆様ー! この鬼悪女じゃぞー!」

 

 

[なんかいつもと違う椛様だ]

[ちょう新鮮]

[鴉様草]

[揶揄い上手の鬼姫様]

[アニメ化はよ]

[むしろ言い出しっぺのあんたが作ってくれ]

 

 

「あぁもう恥ずかしいし次のマロじゃ! そしてちょっとしたサプライズじゃな!」

「ふふ、愛い奴だな浮世鴉は……さてやるのだな、あれを」

 

 

 

          

お二人は和楽器が得意という事なのですが

即興で千本桜を一緒に演奏するとかできませんか?

  

                

 マシュマロ

 

 もはや定番となりつつある配信最後の演奏会。

 こういうマロが来たらやろうという相談を先輩としていたが、予想通りに来てくれて儂としては本当に助かった。しかも曲も指定されていたので、練習時間が生まれよりクオリティの高いものを届けられるので、意気込むは倍以上。

 

「妾は笛が得意じゃからな、寝落ち配信でもよく使うし……三味線とはよく合うと思うぞ」

「それに千本桜は先輩の持ち曲でもあるのでな、最高の音を主らに届けると約束しよう!」

 

 そんな風に言葉を合わせて、それから千本桜を演奏する事になった。

 それから残っている配信でマシュマロを消費したり、総大将様がお互いに推しだったこともあって枠をオーバーする程に語り合ったりとかなり濃い配信になったが、時間という物を過ぎるので、いつのまにか終わりの挨拶まで来ていた。

 

「じゃあこの辺で終わりにするのだ。次は金曜夜のASMRで会おうではないか人の子よ!」

「儂的には初めて挑戦するASMRだが、絶対にいいものを聴かせるのでどうか楽しみにしてほしいのじゃ! そうじゃ、忘れていたが概要欄の方に先輩のチャンネルのリンクを貼っているのでまだ登録してないマヨイビト達はどうか忘れずにな!」

 

 

 

おつー

お疲れー

楽しかった!

ASMR楽しみ

有給取らないきゃ

最高級のヘッドフォン買わなきゃ

源鶫:僕はベッドも新調してそれで聞きますよママ!

雪椿:私もいくからね、楽しみにしてる

金曜日まで待ちきれない

七万人突破してるじゃん!

おめでとう鴉様!

椛様も二十五万人いった!

すっご

めでたい

                     

▶ ▶❘                                 CC ⚙ ろ わ だ 

【雑談コラボ】鬼と鴉の真珠麿配信【浮世鴉/阿久良椛】

165.396 人が視聴中・200分前にライブ配信開始    い8.5万 う1647 へ共有ほ保存 …


【妖ぷろ】浮世鴉 Ch

チャンネル登録者数 71332人

 

 

 

 

 

 

 




 この次はASMR回用の、打ち合わせ的な話を予定しています。
 だから二話あとが本番開始かな? 
 そして毎度ながらお気に入り・評価・一言付き評価・感想・誤字報告などありがとうございます。
 あと感想は返せていませんが、毎回拝見して励みにしているのでどしどし送ってください。作者が超喜びます。


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鬼のお嬢は清楚枠?

 打ち合わせ回です!


 雑談配信から約二日程たった後の水曜日。

 朝学校に行く雫を見送ってから、儂は今日の打ち合わせの準備を進めながら椛先輩のASMRをずっと聴いていた。

 昨日の夜から暇があったら聞くようにしているあまりにも質の高いその音声動画の数々に、何度か寝落ちしかけたり、子供に退化しかけたりと色々あったが、彼女のASMR動画を打ち合わせが始まる午後五時までに聴き終えることが出来たのだ。

 代償としてかなり耳が敏感になり、扇風機の風が当たるたびにひやっとしてしまうようになったが、それ以外は問題なく、準備も終わったのであとは時間までゆっくりするだけ……とそう思いながら、もう夏だしアイスでも食べながら待つ事に――――。

 

「ッいひっ…………座敷童か……最近見てなかったけど急に悪戯してくるんじゃないぞ」

「はーい! じゃあまた遊びに行ってくるー!」

 

 甘味を食べようとぼけっとしていた時に、急に耳に吹きかけられるのは少し生暖かい風。

 変な反応をしながら飛び上がってしまい、犯人を捜してみれば俺の真後ろに角を持ったおかっぱの童女がいた。

 急な悪戯を叱ればすぐにそうやって返事をした後で、彼女は部屋にあった毬をもってまた外に飛び出してしまった。

 半月ほど姿を現していなかったこの妖怪は、こんな風に偶に悪戯をするために帰って事があるで慣れてはいるが……今の耳にはやって欲しくなかったなぁ。

 

「というか…………やばい、まじで暇じゃな――とりあずエゴサでもするかのう……」

 

 Vtuber生活が始まって一番変わったかもしれない日課になったエゴサーチ。

 次の配信の為になるし、配信の感想が楽しみなこともあって、もはや完全に日常の一部になったその行為。

 そういえばよくエゴサする有名人の話を聞くことがあったし、その時はへー時代の流れを感じるな―と……ぐらいにしか思ってなかったのに、今ではまさか自分がエゴサすることになるとは……なんか凄い。

 

雪椿【鴉の母親】@新刊ネットで発売中(豊作)@yukitubaki@syota

椛さんとうちの子がコラボした時の奴絵で再現したよ

可愛いでしょ 

#浮夜鴉

#丑三つ時の絵巻物


6956件のリツイート12893件のいいね


こ449  り6千 ♡ 1.2万

 

 とりあえず……といった感じで、自分が用意したハッシュタグで検索してみれば、見慣れた名前の方がなんか月曜日の配信の一つのシーンを漫画にしていた。

 先輩の要素を感じられる鬼にされた俺が、顔にマと書かれた人間に囁いているという感じの漫画なのだが、それには昨日やった台詞のみではなく……その続きが描かれていて、なかなかの業を感じるような仕上がりとなっていたのだ。

 そしてそのツイートのかなりのコメント数に何が書いてあるか気になって、そのままリプ欄を開いてみれば、そこにはこんな風な光景が広がっていた。

 

      

雪椿【鴉の母親】@新刊ネットで発売中(豊作)@yukitubaki@syota

椛さんとうちの子がコラボした時の奴絵で再現したよ

可愛いでしょ 

#浮夜鴉

#丑三つ時の絵巻物


6956件のリツイート12893件のいいね


こ449  り6千 ♡ 1.2 

阿久良椛【妖ぷろ二期生】@tugumin_youpuro

返信先:@yukitubaki@syotaさん

妾にあとでくれると助かるのだ!

源鶫【妖ぷろ三期】@tugumin_youpuro

返信先:@yukitubaki@syotaさん

最高です! もっち二人のやつを描いてください!

#浮夜鴉       

九十又仙魈【妖ぷろ所属/二期生】@nyan.nyan_youpuro

返信先:@yukitubaki@syotaさん

金は河童が出すから にゃーに送るにゃ! 

#丑三つ時の絵巻物

#胡瓜畑   

依童神虎@胡瓜栽培中@ilove_cucumber

返信先:@nyan.nyan_youpuroさん

なんか俺、巻き込まれてるんだが……仕方ないこうななったら……猫、お前に胡瓜味のビール飲ませるぞ?

九十又仙魈【妖ぷろ所属/二期生】@nyan.nyan_youpuro

返信先:@ilove_cucumberさん

そんな毒物飲みたくにゃいな! スピリタス流し込んでやるにゃんよ!   

 

 リプ欄にあったのは、二期生組と同じ男性ライバーである依童さんのやり取り。

 この三人がこんな風にリプ欄に集まる光景はなかなか見れないので、俺は無性に感動してしまった。俺からの話題で、こんな風に推し達のやり取りが見れるのは最高なのだが……胡瓜味のビールってなんなんだろう。こういうやり取りは見てて楽しいし嬉しいのだが、なんというか胡瓜味のビールが意味不明すぎて、なんか混乱してしまう。

 

「……あ、切り抜きあがってる――ちょっと見てみよう」

 

 気になってしまったので依童神虎さんの名前で切り抜き動画を調べてみれば、そこには丸々一本の胡瓜がビールの中に沈んでいる一層目立つサムネの動画があった。

 なにか開いてはいけないような圧を感じながらも、それを開くことにして視聴してみれば……べろんべろんに酔った様子の神虎先輩が胡瓜を擦り下ろす音と、それがビールに入っていく音が流れてきた。

 それを飲みながら、「あ? 胡瓜は万能なんだぞ!?」と叫ぶ先輩が印象的で、たった数分の動画なのに、グランドクロス級の衝撃に儂の頭は襲われた。

 

「……俺ビール苦手だけど、なんかこれなら飲める気がしてきたな……胡瓜って万能らしいし」

 

 そしてあまりの胡瓜に対する熱弁に……どういう訳か、これもしかしたら美味しいのではないか? という結構やばめな思考に陥りかけたりしてしまった……というかそんな言葉が無意識に出てしまった。

 やっぱり胡瓜大戦の名は伊達じゃないなと、ちょっとよくわからない戦慄を覚えならが時間を潰していると……いつの間にか、切り抜き動画を見続けていたせいで集合時間が迫っていた。

 

「あれ、まだ明るくないか……今、夏じゃん」

 

 今は八月、つまり夏真っ盛りで日が暮れるのが遅い。

 そのせいで時間の感覚がおかしくなっていたのか、今の時刻は午後の四時。

 全然日が昇っているが待ち合わせの時間はもうすぐで……正直にいうと今から全力で空飛んで、本社にいかないと間に合わない感じだ。

 そんなこんなで私服に急いで着替えた俺は、メイド服ではないことをちゃんと確認してから妖ぷろの本社がある秋葉原へと飛ぶことにした。

 

<24 + 【ASMRコラボ】

先に本社で待たせてもらいますね 15:30

社畜

集合場所は二階の社員食堂です夜神楽さん 15:50

 
既読2

16:05

今出ました。すぐに向かいます! (`・ω・́)ゝ

奴隷

浮世鴉殿、間に合いますか? 16:11

 
既読2

16:14

今aあと三十分あれば多分着きますので安心を

> メッセージを入力     

 

「よし間に合ったぁ!」

 

 急いでいたせいで途中で人間にばれかけたりしたが、なんとか俺は五時前に秋葉原の妖ぷろ本社の上空にやってくることが出来たのだ。

 とりあえず近場の公園にでも人にばれないように降りた俺は、空を飛んでいる時についたゴミなどを払い妖ぷろ本社に足を踏み入れて、二階の社員食堂に向かうことにした。

 

「あの……浮世鴉さんであっていますか?」

 

 食堂に向かう途中、遅れたし何か飲み物でも買っておこうと思った俺が自販機前にいると、誰かが声をかけてきた。聞きなれないはずだが、何故か染み付いたようなそんな声……なんでだ? と思ったが、この少しぞくぞくする様な声には心当たりがあった。

 

「そうですが……貴方は椛先輩ですかね?」

 

 

 声をかけてきたのは、七尾と同じ大和撫子を体現したようだが、彼女にはない清楚な雰囲気を纏う濡鴉の髪をした女性。雰囲気以外は七尾に似てる彼女は、何故かこの場で着物を着ていて、場違いなはずなのにこれが当たり前であるような印象を持たせてきた。

 身長は俺より10㎝程小さく、見上げるようにこちらをみて頷く目の前の女性。

 半信半疑で訊いてみたがこの様子だとあっているようだな。

 

「あ、すいませんこういう時は私からですよね……妖プロ二期生の阿久良椛――改め早良理沙(さわらりさ)と申します」

「丁寧にありがとうございます。妖ぷろ三期生、浮世鴉こと夜神楽紡です。今日はよろしくお願いします先輩」

 

 互いに自己紹介を済ませたので、話題を続けようと俺は何か話そうかと思ったが……なんというか、上手く言葉が出なかった。

 こうなった理由としては、椛先輩が配信時とかなり違う様子だったからっていう単純なもの。普段の元気で活発な様子の配信姿からは想像できない程に清楚な雰囲気を纏う女性……それだけなら問題なかったが、昔どこかで会ったことがある様な感じが彼女からはしてしまい、どうにもなんか話しづらかった。

 

「あの……とりあえず食堂行きませんか?」

「そうですね、皆様待っていますし行きましょう。あ、私飲み物半分持ちますよ」

 

 そう言ってとても自然に腕の中にある飲み物を抜き取った彼女は、先に食堂へと向かってしまった。そんな彼女に何か言いようのないやり辛さを感じながらも、今は考えても仕方ないという風にちょっと逃げた俺は、彼女の後に続くことにした。

 

「お嬢様、その方が?」

「ですね、浮世鴉である夜神楽さんです。あの夜神楽さん、彼女は私のマネージャーの――」

「お嬢様流石にこういうのはボクから……初めまして浮世鴉殿、ボクは早良お嬢様の侍女、稗田甲山(ひえだこうざん)という者です。以後お見知りおきを……」

 

 社員食堂でそんな風に自己紹介してくれたのは、三白眼の長身の女性。

 175㎝はあろう彼女は、少しこちらを威圧するような感じで睨んできて、緊張のせいもあり失礼かもしれないが、なんというか蛇に睨まれた鴉みたいな状況だぁ……とそんな事を思ってしまったのだ。

 

「私の紹介は別に大丈夫ですねよね、夜神楽さん」

「ですね、もう何度も顔を合わせてますし大丈夫です社さん」

 

 話しかけてくれた社さんに正直助かったと思いながら、俺はマネージャーの二人組に買ったばかりの麦茶を渡して、第二会議室に移動することにした。

 

「それでは配信の内容を決めていくのですが、理沙さんはどういう内容でASMRを流していく感じだったのですか?」

 

 少し会議室で交流し場が温まってきた所で社さんが先輩にそんな事を聞いた。

 

「あ、そうですね……えーと、確か台本を作ってきたので……ちょっと待ってください」

 

 社さんに声をかけられた早良先輩は、ずっと持っていた大きい巾着袋からかなり分厚い四冊の本を取り出して、俺ら三人に一冊ずつ配ってくれた。

 あの本がよっつも入っているって事は結構重いと思うんだが……よく平然とした様子でいられたな。

 そんなちょっと場違いな事を考えながら俺はその分厚い台本を受け取った。

 

 

「説明させていただきますね。今回は浮世鴉さんの声の幅を活かした配信がしたかったのと……前回の配信で氷華さんに送ってもらった漫画を参考にした形で台本を作らせて貰いました。どうぞ目を通してみてください」

 

 そう言われたことで台本を開いてみたのだが……それにはこれでもか! というほどにびっしりと文字が並んでいたのだ。

 具体的に言えば、どこで何をするか、そして何の道具を使うか、このセリフのあとは何秒間を開けて喋るか、等々事細かに次にやる配信の詳細が書かれていた。

 

「シチュエーション的には、コラボを誘った時点で一応三つほど考えていたんです。ですが、あの雑談コラボで一緒にやった鬼の姉弟が忘れらなくてですね、ちょっと頑張って考えてみたんですよね」

 

 目を通してから俺は、頭の中でこの台本の中身を演じる自分を何度か想像する。

 四千文字はかるく書かれてであろうこの台本。かなりの拘りと熱を感じるこの一つの作品は、今まで彼女がやってきたASMRの経験を全て活かしたような物で、並々ならぬ想いを感じることが出来た。

 この中に詰め込まれた好きという感情。これが見たいという執念に近いナニカ。圧倒的な想像力から生み出されたコレを見るだけで想像できるような、拘りに拘った彼女の台本――――。

 それはどうしようもなく、演者である儂を刺激してきて……何よりこれに込められた癒したいという感情が、儂を本気にさせてくる。

 

「ちょっと拘りすぎちゃったのですが、夜神楽さんと社さんこれで大丈夫でしょうか? それと何か気になることがあったり、ここはこっちの方がやりやすいみたいな台詞があったら修正しますので、遠慮なく仰ってください。あ、甲山も遠慮なく言ってね」

「お嬢様、ボク的には問題は一切あるようには感じませんね……正直に言わせていただきますと、この場でこれを聴きたいと思うくらいには気に入りました」

「私はそうですね、いいとは思います。二人の視聴者層に刺さるような内容ですし、何より初めてASMR配信をする夜神楽さんにも分かりやすいように作られているので、私からはいう事がありません」

「よかったです! えっと、夜神楽さんはどうですか?」

 

 頭の中で演じていたせいで少し反応が遅れてしまったが彼女に送る言葉はもう決まっている。

 

「問題ありません、この内容で行きましょう。弟役というのはあまり演じたことがありませんが、完璧以上にあなたの弟になってみせます。多分演じればいい弟は、義理でいいですよね?」

 

 書き忘れていたのかは分からないが、この台本に並んだ台詞と注釈にある細かい拘りを見るに……今回儂が演じるのは僕口調の義弟系の鬼。

 

「はい義理の弟で頼みます……でもよく裏設定的に気づきましたね、これは正直私の嗜好を入れた感じで気づかれるとは思いませんでしたので、ちょっと驚いてしまいました」

「正直俺の願望もあったのですが、あっていたのならよかったです。それで改めて言わせてもらうんですが、この内容で配信しましょう。絶対にこれで行きたいです……正直なところ、ASMRをやった事がないので心配ですが、そこは何とかやらせていただきます。任せてください」

 

 今回のシチュエーション。

 それは鬼の姉弟が森に迷い込んできた人間に病んでしまうという、ちょと尖った内容でちょっと人を選びそうな感じがあるが……正直それは気にしてはいられないだろう。

 だって、期待された故に他人に用意された一級の作品の一役を任せられたという事が他の事をどうでもよくしてくれているからだ。

 推しに期待されている。

 浮世鴉の力を見てくれてか、重大な役を任せてくれている。

 そんな事を考えると、自然に体に力が入り……気づけば笑みを浮かべていた。

 

「やりましょう椛先輩……金曜日、視聴者方を沼らせる為に貴方の期待に応えてみせます」

「はいやりましょう――違うな、やるぞ親友。人の子らを妾等の虜にして骨抜きにするのだ」

 

 ここ数日で何度もきいた彼女の別の声。

 配信状態に切り替わった彼女は、俺の笑みに返答としてか挑戦的な笑みを浮かべてきた。

 配信内でやる内容が思ったより早く決まったことでかなり時間が余った打ち合わせ。もう予定もなくなったから帰っていいことになったので、早く帰って練習しようと少しワクワクしながら俺は会議室から出ようとしたのだが……。 

 

「ではそのためにも今日から特訓ですね、この後時間ありますか? 忙しくなければ私の家に招待しようと思っていたのですが……」

 

 部屋から出るタイミングで、急に彼女がそんな事を伝えてきたのだ。

 

 

「――――え? あ、いいですよ」

 

 色々な事を断りなれていないせいか、反射的にその誘いを受けてしまったが……これはどういう状況なのだろうか? え、つまり……なんだこれ、なんで俺は推しライバーの家に誘われてるの? なんか色々ぶっ飛んでいないか、この状況。

 

 もう俺はどこからツッコんでいいか分からないぞ? 

 そんな言葉が頭に浮かび、反射的に口に出しそうになったがそれを寸前で止める。

 もう一度行くと言った以上、彼女の家に行くという事から逃げられなくなった俺は……頭痛と胃痛を感じながらそこで考えることを止めた。

 




 毎度ながらお気に入り・評価・一言付き評価・感想・誤字報告などありがとうございます。


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鬼屋敷IN浮世鴉

すまないASMR回はちょっとこの話を入れたかったので次回になってしまいました。


「ではそのためにも今日から特訓ですね、この後時間ありますか? 忙しくなければ私の家に招待しようと思っていたのですが……」

 

 その言葉にいいですよと反射的に答えてから約三十分後の午後18時。

 先輩である早良理沙さんと、稗田甲山さんに連れられるまま秋葉原の三番ホームから電車に乗った俺は、なんでこうなったんだろうと切実に思いながらも東京駅にやってきていた。

 着物が似合う美人な女性である先輩は、何故か誰にも気にされる様子はない。まあ途中で綺麗な洋服ですねと変なナンパにあったりしたが、それ以外は誰も先輩の格好に違和感を持ってない様子だったのだ。

 そうか、あまりにも似合ってるから感覚が麻痺するんだな……と、疲れすぎて意味わからない思考になっているが、これは許されるだろう。

 

「そういえば先輩の家って何処ですかね、結構遠いってことは分かるんですが」

 

 最初は流されたままだったが、流石に目的地を知らないままでいるのは駄目な気がしたので、東京駅に着いた時にどこに行くかを着てみたら、こんな言葉が返ってきた。

 

「目的地ですか? それなら……瑜伽山(ゆがさん)の蓮台寺ですね」

「……瑜伽山って岡山にありますよね先輩」

 

 俺の記憶が確かなら、瑜伽山は岡山県の倉敷市にあったはずだ。

 電車で行くとなると十時間はかかるだろうし、正気なのだろうかこの先輩は? 家に誘うという事は、霞の時みたいに近いパターンを想定していたのに、流石に岡山県は予想外。

 

「そうですね」

「あの……今から行くんですか?」

「はい、正確に言えば今から私の家がある蓮台寺の近くに向かいます」

 

 断る気はないが、流石に冗談な気がしたのでそう聞いたが、彼女の声はいたって真剣で冗談の気配は一切感じない。

 

「……なにで?」

「新幹線ですね。あ、すみませんこれを渡し忘れてました」

 

 移動手段を聞いてみれば簡単に新幹線と告げられて、一緒に指定席特急券を手渡してきた。

 何だこれは? と一瞬思考を止めながらそれを見てみれば……書かれていたのは東京・18:09発→岡山・21:23着という文字。

 これはつまりあれか? 今日の打ち合わせの後俺の事を家に誘うつもりだったのか? これもしかしてやばい?

 ……もしかして、蘆屋と同じで陰陽師なのかこの先輩は……滅っされるのこれ? 儂の存在ごと消されるパターン? 鴉がホイホイ罠にかかった感じか?

 

「えっと……マジですか?」

「大マジですね」

 

 ここまでの流れは冗談なのか? そんな希望を込めてそう聞けば、視線を俺に合わせながらそんな言葉を無慈悲に俺に突きつけてきた。

 

 ……拝啓、きっと今頃家でアイスを食べているであろう雫へ。

 お前の神社の神は、今日は帰ることは出来ません。

 追記:食事当番サボるわすまん。

 

 そんな手紙なのかメールなのか分からない文章が、その言葉の後で湧いて出てきたので雫にこの文章送るかーとそんな風に現実逃避をし、乗車券用意してもらったしもうなんか楽しもうという思考まで落ちていった。 

 

 

 

 

 

 

 

浮世鴉乗車中
 
浮世鴉乗車中
            
浮世鴉乗車中

 
Now Loading……
 

 

「あー死ぬぅ、儂あれじゃん……そういえば新幹線ダメじゃん」

 

 岡山に着いた頃、乗り物酔いしてしまった儂はベンチで休ませてもらっていた

 基本空飛んで移動している儂は、短い時間なら大丈夫だが新幹線のような長い間拘束される乗り物に乗るとかなり酔ってしまうのだ。

 ぐったりとする俺を心配そうに見てくる先輩、そんな彼女からは根っからの善人オーラを感じることが出来るが、元凶は先輩じゃんという思考になるほどに酔いにやられてしまっていた。

 その酔いは本当に酷く、何故か人間の筈の彼女の姿がぶれてしまうほどに酷かった。なんでだろうな、すっごく清楚なはずの彼女が、今は鬼に見える。いや、配信では鬼なんだけど……あぁなんかよくわからなくなってきた。

 そういえば、昔の知り合いにいつも唐突に無茶振りしてくる鬼がいたなぁ……先輩と違って男だったけど、一見するとかなり女性っぽかったし、容姿的にも似てるから意外と共通点あるかもしれない。

 体調を崩しているせいか、昔の事を思い出した俺の頭にはその鬼がやった数多くの悪行が浮かんできていた。

 ――人間と遊びたいです! とか言ったかと思ったら、俺の首根っこを掴んでいくつかの村に突撃したり。

 ――○○って美味しいらしいんですよね、とか急に呟いたかと思えば……一緒に食べたいです浮世鴉! と言い見つけるまで拘束してきたり。

 ――人間と戦ってみたいんですが、手伝ってくれませんか親友とか言って、神に協力させて自由の限りを尽くしてその尻拭いを俺にさせたり――さらには、なんとなくですが種族変えますね、隠れん坊しましょうよ! とか言い出して七十五匹の白狐になったり…………挙句の果てに人間と結婚します! と言いだして、俺の住処に突撃してきて秋の山で芸をさせたりしてきた元人間のあの妖怪。

 

「いや、先輩はここまでじゃないか……流石に失礼だわ」

 

 先輩と甲山さんが飲み物を買ってきてくれている間、悪友との記憶を思い出していたが、流石に一緒にするのは違うなと思いそんな一言を口に出した。

 確かに先輩は急に岡山に連れてくるような人だけど、あの莫迦と一緒にするのは違うだろ。

 

「紡さん、もう体調は大丈夫ですか? これ酔い止めです」

「浮世鴉殿、お茶ですどうぞ」

 

 そうやって少し過去の苦いといより、もう会えない奴の事を思い出しているとお茶と酔い止めを買ってきた二人が戻ってきた。それを受け取った俺は、すぐにそれを飲むようにして、まだまだ長い電車旅に備えることに……。

 

「そういえば先輩、先輩の名前って自分で決めたんですよね。何か由来とかありますか?」

「あ、ありますよ聞きますか?」

 

 瑜伽山へと向かう為に岡山から出ている電車に乗って児島に向かっている途中で俺はそんな事を聞いてみた。

 こないだ知ったのだが妖ぷろのライバーには用意される名前はあるが、演者が別の名前を提案してもいいらしくて、社さん曰く理沙先輩は自分で名前を持ってきた人らしいのだ。

 あの台本を作るぐらいだし、阿久良椛という名前にも意味がある様な気がしたから聞いてみたのだが、やっぱり何か由来があったらしい。

 

「是非聞きたいです」

「阿久良の姓に関しては、阿久良王という大好きな鬼の妖怪からとった大事な物でして、椛……は、昔から何故か記憶に残っていたからですかね。子供の頃からあの花の事が気になって、自分で育てる程に好きになってしまった物で、その二つを混ぜた感じなんです」

「阿久良王……ですか? 自分もあの莫――妖怪は好きですよ」

「本当ですか!」

 

 あの莫迦……と言いそうになってしまったが、今の好きという言葉は俺の本心だ。

 なんだかんだ長い間一緒に過ごしたあいつの事は気に入っているし、何より退屈じゃなかったからだ。

 

「はい、悪行の限りを尽くしたって書かれている文献もありますが、俺の家にあの阿保――阿久良王は、自由気ままに生きた悦を貪る妖怪だという記述がありまして、それに書かれているその生き様が面白くて気に入っているんですよね」

 

 癖で阿保と言いそうになってしまったが、なんとか堪えながら俺は自分で書いたあいつの本の事を少し話題に出した。あいつは楽しみたいからって理由で何もやっていないのに悪役を演じる事が多く、そのせいで今残っている話は大体負の感情を抱くものばかりになっているが、本当のあいつを知っていた俺はせめて俺ぐらいはあいつの本来の姿を残しておこうと、あいつの記録を家に置いてあるのだ。

 一応あいつにも渡した覚えはあるが、その時は恥ずかしいからやめてくださいよって珍しくキレられたなぁ……そんな感傷に浸りながら、先輩にはいつかそれを見せてもいいかもしれないという事を、ちょっと楽しみにしながら考える。

 

「阿久良王の事、本当にお好きなんですね紡さんは……あ、そうだ。私も糀さんみたいに盟友って呼んでもいいですか? あの桃鉄配信での二人の雰囲気が好きで、自分も呼ばれてみたいなと思っていたんですよね」

「全然いいですよ先輩、自由に呼んでください」

「なら盟友! ……ふふ、なんかいいですね」

「よかったですねお嬢様、雪さん以外での初めての友達ですよ」

「あのー、甲山? その言い方だと私とあなたは友達じゃないってなるんですけど……私達幼馴染ですよね? あと私流石にもうちょっと友達いますからね、ほらあの……ウチの家の近くの狐さん達とか」

「ボクは侍女なので……それと、墓穴掘ってますよお嬢様」

 

 電車の中で漫才のようなやり取りをする二人を見ながら、最初合った時の違和感が消えてて自然に話せていたことに気づき、何よりあの莫迦を好きって言ってくれたこのヒトとこうやって一緒に入れてよかったなとそう思うことが出来た。

 

「すいませんお嬢様そして浮世鴉殿、タクシーの予約をしますのでしばらく黙ります」

「あ、お願いね甲山私スマホ使うの苦手だからやってくれるのはありがたいわ」

「ありがとうございます稗田さん……それと自分は夜神楽か紡でいいですよ?」

「いえ、そんなの恐れ多いので出来ません、ボクを殺す気ですか? ……失礼しましたなんでもありません」

 

 なんかちょっと俺に対する反応が変な稗田さんを見ながら、もしかして結構配信を気に入ってくれてるんかな? という思考に落ち着いた俺は、特に気にしないことにして残り少しの乗車時間を楽しむことにした。

 

 

                   ◇◇◇

 

「紡さん、長い間お疲れさまでした。到着です」

 

 電車から降りた後、蓮台寺の近くの山までタクシーで送られて降りた直後に先輩が労いの言葉をかけてきた。それに軽く頷いてから、タクシーの中で伝えられた家は山頂付近にあるとい言葉を思い出して、もうひと頑張りしなければと意気込むことにした。

 

 そして山に登って十分後

 そういえば、この山……なんでか分からないが、自然と力が湧いてくるぞ? なんというか、近くにいるだけなのに普段より動きやすい気がするし……それが妙に気になって、一部変化を解除して辺りを探ってみればここは現代では珍しい妖力がかなり溢れている場所になっているという事を知れた。

 でも、なんでだ? 普通こういう場所は人間には毒だから、住めるはずなんてないだろうに……でも山の頂上付近に馬鹿みたいに巨大な屋敷が経っていることから住んでるのは間違いないっぽいし――――。

 というか、なんだあの屋敷……デカ過ぎんだろ、何円ぐらいかかってるんだ? というか、着物を見た時と侍女がいる時に少し思ったが、先輩ってマジのお嬢様か。

 

「先輩、息苦しいとかないんですか?」

「え? そんなのないですよ、むしろこの近くの方が私的には過ごしやすいです」

「そうですか……ならいいんですが」

 

 うーん、おかしいな。

 山の中を先導してくれる稗田さんも元気そうだし、俺の知識が間違っていたのか? 

 ちょっとそんな事にもやもやしながら歩き続けると、ふいに山の中から視線を感じたのだ。それが気になって足を止めてみてみれば、山の中にはこの暗闇の中でも見つけることが出来る程に綺麗な白い毛並みの狐たちが俺の事を見ていた。

 ……この山のせいで感覚が鋭くなっているのはあるが、流石にここまで露骨な視線だと気になりもする。

 というか、岡山にこんな狐がいた覚えないんだが、なんか最近で生態系でも変わったのか? あまりの多さにそう思ってしまったが、よく観察してみればその狐達は全部妖狐で明らかにおかしかった。

 

 進むたびに増える狐。

 なのに、それに気づいているのかいないのか一切気にしていない素振りで進む女性二人。

 それに最初思っていた滅されるという言葉が再び出てきたが、この状況だと何かが違う。

 山の頂上が近づいてくることで薄くなっていく空気、それを感じながらも増える視線に落ち着けないでいると、山頂にいつの間にかついたのか途中に見えた豪華すぎる屋敷がそこにはあった。 

 

 

「あ、着きましたね山頂です――稗田山を閉じて大丈夫ですよ」

「はい、お嬢様。責任もって閉じさせてもらいます」

「え、先輩方? 閉じるって何――」

 

 何をですか? 

 そう言葉を続けようとしたのだが、その言葉はあまりにも予想外な出来事のせいで遮られた。何かが山を包み込んだのだ。夜の帳が降りるように、何か薄い膜のような物が山を囲みだしてより一層この場所に妖気がたまるようになった。

 それにより、回復されたかのような急に力が溢れすぎる感覚に俺は襲われ――気づけば、なんか元の妖怪姿に戻っていた。

 

「――えっちょ、のじゃ!?」

 

 力が戻りすぎたせいで妖怪の姿が出てくるという経験したことのない状況に、混乱することしか儂は出来なくなる。最近では配信で使っているから戻ることが多くなったこの姿だが、強制的に変えられると驚くことしかできない。

 

「え……あれじゃ、先輩方これは手じなぁ!?」

 

 流石に無理があると思った言い訳をしてしまったが、それ以上の事が目の前で起こっていた。

 あれなのだ。なんか先輩に見慣れない角と、狐の尻尾のような物が生えていたのだ。何を言っているか分からないのじゃが、それを言っている儂が一番分からない。

 

「先輩? あれ、人間じゃ……」

「え、私は人間じゃありませんよ。えっと気づいてなかったんですか?」

 

 いや気づけるわけないだろ、だってそんな要素一切なかったじゃん……いや待ってくれよ、そういえば先輩が着物なのに、誰も気にしなかったのってもしかして、別の服装に見せてたのか? 

 それだったらあの着物を着ていたはずなのに、洋服を褒めた謎の男の反応も納得できる?

 

「気づいてなかったのなら改めて、鬼と狐の半妖……早良理沙です。これからよろしくお願いしますね、大妖怪浮世鴉様」




次回から本当に二話予定のASMR回が始まります。
ずれた事でおまけも次回はいる感じです。


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【ASMR】浮世童子の迷い家【二・三期生コラボ】前鬼

凝ったせいで時間かかってしまったけど投稿です!
やっと始まるASMR回の前半、どうかお楽しみください。


「…………」

「…………」

 

 屋敷の中で居間に通されたのはいいが、数十分はこの場に沈黙が続いていた。

 久しぶりに本来の姿で長時間いることで、口調は元に戻っているが、人前で話のが久しぶりすぎてどうしても言葉が出ないのだ。

 あと、大妖怪って呼ばれていたのに全く彼女が鬼と気づけなかったガバのせいで……恥ずかしくて口が開けない。

 

「粗茶ですが……どうぞ浮世鴉殿」

「あ、ありがとうなのじゃ……」

 

 とりあえずお茶を飲むのを機に、一度心を落ち着かせることにする。

 ……あ、美味しいこのお茶玉露じゃな。

 

「ありがとね甲山……そういえばですね盟友、今の口調が素ですか?」

「……ちょっと違うのう。儂はその時の姿に合わせて口調が変わるから、明確な自分の口調などはない。まあ、今のが本来の姿じゃから、素と言われれば素じゃな」

「あれ、それで気づいたんですがあのホラゲ配信の時って……実際にロリとかに?」

「そう……じゃなぁ、実際に童女になったり女性になったりって感じじゃな」

 

 頭の回転早すぎるじゃろこの妖怪。

 正直知られたくなかった秘密だったのに、なんでこんなあっさりとバレるんだ? あまりに綺麗に答えに辿り着いたせいで、すぐに肯定しちゃったよ。

 いや、そもそも妖怪ってなんでバレた? 一応外や人と会う時は人間に徹底して扮しているのに……いや、それでも陰陽師である蘆屋にはバレたんだけどさ、あれ以来より力入れてたのになんで?

 

「なんでバレたみたいな事考えてますよね?」

「主、もしかして三種類ぐらいの妖怪の力持っておらぬか? 覚とか混じってないよな?」

「いえ、単に私の特性みたいなものですね、完全には分かりませんが大体何を考えているか分かります」

「この時代にそれが出来るのは凄いのう先輩……で、聞きたいことがあるのじゃが、儂に何の用がある? 結界のようなものまで張って、この姿に戻したからには何かあるじゃろ。そしてなぜ儂が妖怪だと分かった」

 

 流石にここまで連れてきて、何もないですよー……なんて事はありえない。

 結界は単に隠すようなものだが、この山を儂がいる状態で隠すのは違和感あるし、きっと何か目的がある。それに年齢的にも現代で生まれた鬼が儂の正体に辿り着けるとは思えないし、わんちゃん敵。

 

「用……ですか? それなら最初に言った通りASMRの特訓ですよ。それ以外はちょっと話してみたいなと思ったぐらいで、話しやすいように姿を戻しただけです。流石に妖怪同士で話してる時に姿を偽る意味はないでしょうし……」

「え、それだけか? もっとこう、貴様の力を取り込んでやるー! とか、浮世鴉の首獲ったりー! ……とか、ぐへへ滅してやるぞ、これで名を上げるぞぐへへ……とか――監禁して見世物にしようぜ! 的な危ない思考は一切ないのか」

 

 他にもなんか色々何かされると考えてたのに、何なのじゃ普通に特訓するのか?

 本当にそれだけ? しかも姿に関しては善意しか感じないし……杞憂だった感じかこれ。 

 

 

「えっと、私そんなことしませんよ。そもそも憧れている浮世鴉様を害する気とかないですし……え、というかそんなイメージあります? 私」

「お嬢様、失礼ながら……ボク的にも、浮世鴉殿を監禁して永久に一緒にいよう的な事を考えていると思っていました……というかボクの記憶があの莫迦の血族ならやるでしょと言っています」

「あれれ、おかしいですね。侍女に裏切られたんですけど……それに甲山? 私の先祖の事馬鹿っていいました? いいましたよね。それに貴方は嬉々として浮世鴉様を招くの賛成してたじゃないですか!」

「気のせいですよ? ボケました?」

 

 急に毒を吐き、何故か儂よりの意見になっている稗田さんに軽く疑問符を浮かべながら、今この漫才のようなやり取りの中にあった聞き捨てならない言葉の数々に儂の頭は大混乱。

 

「……待っとくれ、三つほど聞きたいことがあるのじゃ」

「構いませんよ、なんでも聞いてください」

「えっと先祖って阿久良の事か?」

「はい、阿久良王ですね」

 

 ……そういわれて改めて彼女を見れば、どことなく面影あるというかあいつの姿にそっくりだ。

 綺麗な白銀の角に、三又に分かれた金の狐の尾。どんな場所にも馴染めそうな圧倒的な雰囲気。妖怪に戻ったことで、妖しさが増し小柄なのに色気を感じさせるような容姿。

 どれに注目しても、あの莫迦……阿久良王を想起させるその姿。

 今の先祖って言葉はこれを見るかぎり信じることしかできない。

 

「二つ目なのじゃが、稗田さんも普通の人間ではないよな」

「はいそうですね、……彼女は代々私の家に仕えていた稗田の記憶を全部受け継いでいる特殊な人間でして、その記憶のおかげかこの妖霊地でも難なく過ごせるのですよ」

「……三つ目、儂の正体に気付けたのは?」

 

 最後の質問。

 正直これが一番気になるし、今後ばれないようにするためにも聞いておかなければならない。

 今後、それを対策すれば陰陽師などにばれる心配がなくなるだろうからだ。

 

「えっとぉ……それは、ですね。単に私の家には貴方の名前と今の姿が残っていましたし、妖怪専用の掲示板で古参妖怪の方々が浮世鴉がVtuberになったと騒がれていましたし――何より、配信時の姿がアレンジされてるとはいえ、絵そのままだったので……今の時代で貴方を知ってるのは余程長く生きた妖怪か、本物ぐらい……と思って会ってみたら案の定って感じです」

「えぇ……それ儂のガバじゃん」

 

 というか何? 

 妖怪専用の掲示板とかあるの? 馴染みすぎじゃないか?

 それに儂の名が消えたのって江戸時代ぐらいじゃし、それ以前に知ってるやつとか絶対知り合いか一度戦ったことがあるやつだろ。え、それだと儂がただの阿保じゃない? めっちゃ儂残ってるよー! って叫ぶ感じのやばい妖怪じゃん。

 そもそも、妖怪の掲示板に儂招かれておらぬぞ? なんなのじゃ……はぶられてるとかだったら泣くぞ儂。

 ともかく理由は分かったし、ばれた理由も理解できた。だけど、新たに知った事が余計な頭痛を与えてくる。今度教えてもらえないかとりあえず聞くとして、いや違うのじゃ。

 

「……とりあえず悪意はなさそうじゃし、もう聞くことは無いのじゃが……今から特訓する感じか?」

「ですね、時間もないですし私の知識を叩き込むつもりです。阿久良王様の記述通りなら出来ると思うのですが、無理そうだったら言ってください」

「まあそこらへんは大丈夫じゃな……そしてこれは質問というより最後に確認なのじゃが、あの莫迦は……阿久良は、なんか儂に言葉とか残してないか?」

 

 こいつが阿久良の子孫であるのは確定として、そういう事ならこれを聞いておかなければいけない。

 親友、もしも自分の子孫とか子供に会ったのなら、伝言残しておくんで聞いてくださいと……死ぬ間近にあいつがいってたし、何か残してるだろう。

 

「言葉ですか……ありましたっけ? そういえば、なにか子供の時に教えられたような気が…………なんでしたっけ甲山? あ、確か「棚のお菓子は食べないで」……だったようなぁ」

 

 だけど、彼女は伝えられているようだが、覚えていないようですぐに首を傾げてしまった。

 それでも精一杯そんな事を伝えてきてくれたが、それだけはないと思える言葉で……いつもの配信内の天然部分が出てきたような感じだ。

 

 

「「隠れん坊はまだ続いてますよ」ですよお嬢様。そして今の言葉はよくつまみ食いをしていたあなたに向むけた貴方のお母様の言葉です」

「……そうでした。浮世鴉様にあったら伝えて欲しいと代々残されてるんですよね。隠れん坊って阿久良王様と遊んでたりしたんですか浮世鴉様?」

 

 子孫ではない稗田さんに言葉を伝えられたが、その言葉の意味はいまいち分からない。

 昔やった地獄みたいな隠れん坊は、頑張って五年ぐらいかけて終わらせたことだけは覚えているし……でもあいつの事だから何か隠してるんだろう。

 

「……まあ、それだけ聞ければいいのじゃ。ではさっそく特訓でもするかのう。精々儂に叩き込んでみせるのじゃよ、阿久良の子孫よ」

「そういうからにはかなりスパルタに行きますからね、大妖怪といえど音を上げさせるつもりでやらせてもらいます」

「望むところじゃ、視聴者達に届ける以上――下手な物などやるわけにはいかないからのう……稗田よ、なぜ急に絵を描きだした?」

「え、ボクの事は気にせず続けてください。できれば空気とでも思っていただければ」

 

 格好つけてそう言ったが、何故かその瞬間スケッチブックを取り出した彼女にツッコンだ事で締まらなかったが、これからの特訓を頑張らせていただくのじゃ。

 

 

 

 

 

 

 

 

浮世鴉特訓中
 
浮世鴉特訓中
            
浮世鴉特訓中

 
Now Loading……
 

 

『久しぶりじゃ……老いたのう、阿久良』

 

 月明かりに照らされながらも綺麗に目立つ赤や黄に彩られた秋の山。

 そんな場所で、儂は数十年ぶりに会う悪友に声をかけた。

 それに対して、湖の近くにいるそいつは妖酒を嗜みながら言葉を返す訳でもなく、老いを感じさせぬ綺麗な笑顔を浮かべてくる。

 かつてあれほどまでに纏っていた覇気は感じず、尾も色あせたこの男。

 だけど、こいつは変わってなくて……どうにも死ぬ気配を感じれない。

 

『その様子じゃとあまり変わっておらぬな。その笑み何かいいことでもあったか?』

『いいことだらけですよ親友、最期に貴方に会えたんですから』

『最期の時ぐらい家族と過ごせばいいというのに、なぜ儂なんかを呼んだんじゃ……まあ、それはよい。それで儂に何をさせたい? 悪友の頼みぐらいは聞いてやるぞ』

『なんでもいいですか?』

『よいぞ、流石に長く生きたいという願いは叶えられぬが、儂に出来る事なら何でも言うがよい』

『ははっ天下の浮世鴉になんでもですか……そんな贅沢、死にかけの老人には勿体ないですよ』

 

 冗談っぽく、昔と変わらず茶化すようにそう笑い――そして「乾杯しましょう?」と言いながら、盃に酒を注いで手渡してくる。

 

『ぬかせ、勿体ないなんて事はないぞ、むしろそれでは足りぬぐらいじゃ。貴様という大妖怪の最期を看取れるなど日本広しと言えど、儂ぐらいじゃろう』

『そう……ですか、なら最後はいつものように――遊びましょうよ親友。私は妖怪らしく、何より鬼の大将らしく最後は戦って死にたい』

 

 もう動くのも辛いはずの体で立ち上がり、もう一回笑いかけてくる莫迦な友。

 それに答えない訳はいかないので、儂は酒を飲み干してから立ち上がった。

 

 

『そうか。ならゆくぞ……阿久良王。気を抜けば楽しむ間もなく死ぬと思え、言い訳はさせぬからな』

『御冗談を、寧ろ死なないでくださいよ親友。こんな老いぼれに負ければ恥です』

『ははっよく吠えるのう、ではな』

『はい、最後の遊びを始めましょう』

 

 本当に最後であろう力で、全盛期の姿に戻った阿久良王。

 いつまで持つか分からないが、きっとこの姿から戻った時が彼の最期。

 だから制限時間はそれまでか、死ぬまでで……いやそれを考える必要はないか。

 

『さぁ親友笑いましょう!』

『死合うぞ、儂の古き友よ』

 

【挿絵表示】

 

 

 そして湖を背に笑いかけた儂は、彼の最後を彩る為に今宵は命を懸けることにした。

 

 

 ―――――――― 

 ――――――

 ……… 

 ……

 

 

 そんな古い夢を見て、目が覚めたら次の日……金曜日の午後七時だった。

 昨日のASMR特訓それは日が昇るまで続き、阿保かと言いたいほどのスパルタ教育を終えたのはいいが、昨日の出来事は多分数百年は忘れないだろう。

 寝る直前まで鬼怖いと思う経験とかきっとこの先はないだろうし、何より自分が鬼だったと思うレベルに台本を詠み込んだせいで、儂はなんだ? 儂は誰だ? みたいにどっかのポケモンのようになってしまった……あんな風に何度も台本を読むというのは懐かしかったが、しばらくはごめんなのじゃ。

 

 配信開始はこれから四時間後の十一時。

 それまでに最後の確認をする感じになるのだが、ひとまず今は何故か用意されていた晩飯でも食べて一休みでもするかのう。

 

 

 

「準備は出来た。コンディションはばっちりじゃし、出す音も暗記済み……恐れることは何もなく、儂は今から鬼となる」

 

 自己暗示するかのようにそう唱えてから、儂の要素を残したまま姿を阿久良王に近づける。

 四枚あった羽は消え、代わりに生えるは五つの白い狐の尾。

 純白の角を携えて、これから戦に臨むとしよう。

 

「今の儂の名は……そうじゃな、あの名を借りるか……浮世童子――そうしよう」

 

 口調は吾でいこうとそう決めて、この屋敷にある配信部屋に向かうことにした。

 

「浮世鴉殿……あのその姿は?」

「あぁこれか? ここなら偽る必要ないし、配信に合わせて姿を変えた感じだな。よいだろう、この姿は?」

「最高ですね、写真に保存してもいいですか? あとボクがお嬢様に着せたかった服がいくつかあるので、それを着てもらってもいいですか? いいですね」

「お前様、キャラ崩壊しまくってるぞ? 吾的には結構衝撃なのだが」

「こっちがボクの素です、気にしないでください。それと最後に伝言なのですが、最後の仕上げをするので気を抜かないでくださいね……らしいです」

「了解したぞ、では行ってくるからな甲山」

 

 この姿だと慣れ慣れしくなる……覚えておくか。

 とりあえず台本をもとに今の吾を作ったが、まあ違和感はなし。

 

「配信まで残り二時間、クハハッ椛に会いにいくとするか!」

 

 

ついにこの時が……

今日まで仕事頑張ったぞ

前回のから五万ぐらいのヘッドフォンに変えたわ

ゆくぞ性癖コンビ、声の貯蔵は十分か

もう私は自分を押さえられる気がしない

始まるぞー!٩(ˊᗜˋ*)و

50000円

既にサムネがやばすぎる。

開幕赤スパは草

二人の声を同時に聞けるとか、死ぬな私

雪椿:息子のASMRが聞けると知って、全部の作業終わらせてきたよ

妖描鬼:お嬢頑張ってください、ゆっきーの子に負けないように

50000円

本当になまだ始まってないんだぞ投げるには早いだろ

ようかき先生じゃん、久しぶり

これは、まさかの二人だ。

50000円

オマエモナー

ショタの人とロリの人だ

一つの分野の伝道師が揃ってしまったな、これは戦争が起こる

シチュボなのか

というか概要欄見たけど生で撮るのか

やば

楽しみだね

                     

▶ ▶❘                                 CC ⚙ ろ わ だ 

【ASMR】浮世童子の迷い家【二・三期生コラボ】

155,396 人が視聴中・0分前にライブ配信開始      い986 う53 へ共有ほ保存 …


【妖ぷろ二期生】 阿久良椛

チャンネル登録者数 268392人

 

 初めて見るレベルの人の集まり方。

 それがASMRの配信ってことも驚きだが、あまりのコメントの多さにラグっているのも衝撃だ。

 しかも、儂の配信ではまだ見ることのできないスパチャの嵐。既に赤い文字が何個も流れていて、金銭感覚がバグってしまいそうだ。もしやここはリアル桃鉄か? 

 そう思いながらも吾はこの状況に動じず挨拶するまで台本を詠み込んでいる椛に視線を送る。

 彼女から感じるのは、圧倒的な熱意。

 それに当てられたせいか、最初の驚きはすぐに消えてくれた。

 台本通りにやるならばはじめは吾からで……それに合わせるように姉様が入ってくれるようだ。

 タイミングなどは合わせる必要はなく、ただ練習通りにやればきっと楽しませることが出来るはずだ……。

 

 ――――さぁ、始めるか。

 

「姉様……姉様よ。人間様が起きたようだぞ?」 

「ん……そうだなぁ……弟よ、この人間の為に水でも持ってきてくれぬか?」 

 

 ずっと起きるのを心待ちにしていた人間が目を覚ましたことで、吾はそれを嬉々として姉へと告げることにしたのだが……。

 それに対して姉様は、誰よりも興味を持っているはずなのに、少し素っ気ない態度でそんな事を頼んできてたのだ――姉様の気質的にそれは仕方ないが、こういう時はもうちょっと素を出してほしいとそんな事を思いながら吾は頼まれた通りに水を取りに行く。

 

 配信では演技などと違って、音のみで伝えないといけないのでここで儂は少し歩くような音を出しながら近くにあった水をASMR用のマイクの傍で注いでいく。

 

「さて人の子よ、主は今どうしてここに居るのか……と混乱しているようじゃな」

 

 水を注ぎ人間にそれを置いたことを表現する為に、ことッという音を意識してだしながら次のセリフを待つ事にする。

 待ちながら彼女の変わった気配に感心するも、今は気を抜いてられないのですぐにその思考を追いやった。

 

「まあ無理もないだろう、目覚めたら二匹の鬼が目の前にいるのだから……な」

 

 揶揄うように笑いながら、姉様は人間様に視線を合わせて少し声を漏らした。

 値踏みするように体を観察するその様は、獲物を品定めする様な感覚を覚えさせ、混乱する人間により恐怖を与えてしまう。

 

「姉様よ、あまり人間様を揶揄うでない。怖がらせる意味はないであろう?」

「冗談……冗談だからそう怒るな、ちょっとした姉の悪戯だろうに」

 

 長々と話を続ける姉様を咎めながら、吾は人間様の不安を無くすために優しく声をかけることにした。

 

「吾の姉様がすまないな……とりあえず、混乱してるだろうが、ここは安全だから少し話を聞いてくれるか?」

 

 落ち着かせるためにワザと優しくゆっくりとした声を出して、少し間を開けてから言葉を続けていく。

 

「頷いた……という事はよいのだな。とりあえずここは迷い家、寝ている人間様が迷い込んでしまうちょっとした休憩所のような場所だ」

 

 囁くようにゆっくりと……マイクの傍でこの場所の事を視聴者へと告げていった。

 




 そして今回は少し前に知り合いに依頼させてもらった挿絵を作中で乗せさせていただきました! あれが鴉様の妖怪での基本姿なのですが、めっちゃ可愛いですよね。
 一応ここにおまけとして、もう一度載せさせていただきます。
 
【挿絵表示】

 そしてもう一つ、背景なしバージョンの鴉様もどうぞ。
 
【挿絵表示】

 そして毎度の事ながらお気に入り・評価・一言付き評価・感想・誤字報告などありがとうございます! 毎回励みになりますし、面白い感想には笑わせてもらってるので、毎話本当に楽しんで書くことが出来るので読者様方にはもう足を向けて寝られない! って感じです。


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【ASMR】浮世童子の迷い家【二・三期生コラボ】後鬼

めっちゃ頑張ったASMR回の後編。
どうかお楽しみください!


 今回吾が演じるのは、迷い家に身を置く鬼の義弟。

 今回の視聴者様方の設定は吾の視聴者ネームであるマヨイビトを元に考えて作られた物で、これならばきっと違和感なく聞く事が出来るだろうという先輩の好意から出来たものだ。

 吾と演じる為に作られた台本は数千文字はあったが、もう暗記していて間違える事はない。

 ただまだ慣れてないこともあってマイクの使い方の知識が足りないが、そこは関しては今の役を演じながら椛先輩の技術を真似れば形にはなるだろう。

 

「人の子よ、その顔は訳が分からない……とそんな感じだな、だが安心しろ妾が説明してやるのだ!」 

「寝起きの人間様にはそのてんしょん? は酷だぞ姉様。興奮するのは分かるが、落ち着いた方がよい」

「むー、弟よ。さっきから落ち着け落ち着けと、最愛の姉にそれは酷いではないか」

 

 久しぶりの迷い人に興奮する姉様、その気持ちは理解出来るが焦ってしまっても意味が無いので、まずは彼女を落ち着かせる。だけど、今の姉様は落ち着けないようで、呆れからか吾は溜息を溢してしまった。

 

 不機嫌な様子を表すために、駄々を込めるような地団駄を踏む先輩の姿を確認してから……十分な間を開けてからの溜息。そして、実際に火をおこしてると思わせるように石を叩く音を入れ、その後ぱちぱとと燃える炎のBGMを流し始める。

 

「ん? どうした吾らの顔を見て目をぱちくりとさせているが? …………なに? あぁ、鬼というのは冗談だと思っていただと。ふっクハハ、すまないな。吾ら鬼は夜目が利くから忘れておった。そうだそうだ人間様は暗闇の中では顔を判別できぬのか」

 

 どうやら、吾も迷い人が来たことが嬉しくて少し抜けてしまっていたらしい。

 それがちょっと恥ずかしくて、頬をかりかりと掻いてしまう。これでは姉様の事を笑えない、そう思いながらも、

 

「では改めて、吾は浮世という名の鬼じゃ……で、そこの姉様の名は椛だな」

「むぅ? 扱いが雑ではないか……愛しい姉だぞ? もっと労れ」

「はいはい……とりあえずだ。人間何か聞きたいことがあるというなら何でも聞くがよい。吾らにとってお前様は客人、大体の質問には答えてやろう……ん、帰り方? それに関しては簡単だぞ、お前様が目覚めれば夢であるこの迷い家からは帰れる」

 

 台詞の感覚を意識しながらの説明。

 次にやることは少し時間があるので、このタイミングで視聴者であるマヨイビトと鬼の餌の方達の反応を見てみれば、コメントが少ないが……それは正直想定通り。

 完全にこの世界に没頭させるほどに、どこまでもどこまでも練られた台本。

 実際に隣にいるように感じさせるための近い吐息、台詞同士の間、聞いている者の集中が切れそうになる大体のタイミングに合わせての囁き声、その場に最適なBGM。自分が楽しみ、聞く人を飽きさせない為に研究されたこれはコメントの隙を作らない。

 

「大体そんな感じだ人の子よ……だからそう汝が起きるまで、妾ら鬼の姉弟が貴様を持て成してやろう」

 

 傲慢不遜に姉らしく、待ちに待った客人にそう告げる彼女。

 そんな姉の為に吾は立ち上がって、出来る限りの持て成しをする為に別室にある道具を取りに行く。

 立ち上がると畳敷きの床から音が鳴り、暫く続くのは吾の足音。

 トタトタという軽い音を響かせながら吾は人間様から遠ざかる。その後で別室に入るために襖を開ければその特有の擦れる音が屋敷に静かに響いた。

 

 今いるこの屋敷には、使う予定の三つの部屋の至る所にマイクを仕掛けてある。

 移動の音すらリアルにするための椛先輩の拘りらしいのだが、その拘りのために使われるのは高価な機材なので、近くを通ったりする時は細心の注意を払わなければいけないから、正直移動の時は落ち着けない。

 だって壊したらやばいし…………。

 

 いつ客人が来ても良いように、別室に用意されている梵天付きの耳掻きや綿棒などの道具。その他洗髪剤や酒などの水物。それを全部抱えるように持ってから、吾はゆっくりと姉様達が待つ部屋に戻ることにした。

 

「んっ……難しいな……つっぅ……どうしよう転んでしまったのだ。姉様助けてくれぬか?」

「まったく仕方ない弟だ。ちょいと待てすぐ妾がいくぞ……ぬ?」

 

 両手が塞がっているから足で襖を開けようとしたのだが、開けた瞬間にバランスを崩して、部屋に道具や水物の音が響き渡る。

 それを見られた事が恥ずかしく、声がちょっと高くなってしまい……それが余計に吾の顔を赤くした。

 

 何度も何度も練習させられた道具の落とし方。

 どんな風に落とせば何処に行くかは、もう大体コントロールできるようになったし、音に関してはそれを拾うために音量を調節されたマイクの側でやるから邪魔な音にはならないだろ。

 

「……ん、なんだお前様? ……拾うのを手伝って、くれる? クハハッ、優しいなぁ人間様」

 

 一個ずつ人間様と一緒に道具を拾っていくと、炎の音しかしないこの部屋に静かな水音と道具を拾う音が響く。

 

 

「…………っと、拾えたな。すまないな汝を癒やすために用意した道具を癒やしたいお前様に拾わせるなど、この屋敷の主失格だ」

 

 声を落として自嘲気味にそう言って、こっちの感情を視聴者に伝える事を意識する。

 自分を責めているような雰囲気を出し、その後の状況に少しの違和感も感じさせないようにする。

 

 

「まあ浮世よ、この人間は気にしなくてもいいと言っとるしそこまで責めるな、どうせすぐにそんな事を気にしなくなる」

「そうだが……まぁそうだな姉様、とりあえず今は人間様を持て成そう――先に吾から耳掻きをするが、頭を預けてはくれぬか?」

 

 メインで使っているダミーヘッドマイクを正座した自分の膝に乗せ、実際に耳掻きをしているように昨日のスパルタ訓練を思い出しながら、労るように続けていく。

 その間は、椛先輩も配信をヘッドフォンで聴いているようでその様子は吾の審査をしているようだ。

 カリカリ……という削るような優しい音。   

 吾の膝の上で休む人間様、それを見て抑えられない欲が沸いて出てきてしまうが……それを空いている方の手で足を抓ることで自重する。 

 

「くふふ、良い表情だな……そんなに気持ちよいか? よいよい、目が覚めても忘れないような持て成しをしてやろう」 

「………………そろそろ変われ浮世、妾は暇だぞ!」 

 

 待ちきれず暇を訴えて声を上げる姉様。 

 最初の頃は、面倒くさくて何もしなかった姉様の成長……それが面白くて、小さく笑いが漏れてしまう。 

 

 

 その後は、持ってきた耳掻きの梵天部分を使ったり、耳掻きが終わった瞬間に待ちきれなくなった姉様が強引に人間様を引き寄せる音などを入れたりと、実際にこの場に自分がいるような感覚を音を使って頭に刻み込ませる。

 この場が帰る場所だと錯覚させるように脳に刻み込んで、この迷い家こそが帰る場所だと催眠をかけるように囁き続ける。

 

「眠そうだが、大丈夫か? ……くはっ、余程気持ちよかったと見える」

 

 姉様の膝に頭を預けて、寝ぼけたようにうつらうつらとした様子の人間様。

 それを見て、そろそろだと……待ちに待った時が来てくれて、

 

「姉様、人間様を預けてくれ――あと果物を頼めるか?」

 

 少し急かすような言い方で最愛の姉に、この屋敷の庭で採れる果物達を取ってきて貰うことにした。

 

「なあ人間様、少し吾らの身の上話を聞いてくれぬか?」

  

 返答を待たぬまま、眠くなるような優しい声で吾は姉と自分の話を続けていく。

 

「吾ら姉弟はな、この屋敷から出ることが出来ぬのだ。気付いたらここにいて、呪われているのか敷地内から出ようとすれば痛みを感じてしまう。何かを育てることは出来るから自給自足は出来るのだが、何百年も同じ毎日を繰り返す日々……」

 

 この設定を理解させるように、寂しいという感情を込めるようにして、過去を振り返るように自分を語る。今演じている鬼の感情を考え、自分が体験したかのように、痛みなどを想起させて演じていく。

 

「退屈で退屈で、生きているという感覚が薄くなるこの迷い家――でもな、そんな日々の中で今の人間様のように迷い込んでくれる者がいるのだ。退屈を癒やしてくれる救世主のような人間が……数十年に一度、な」

「――どうじゃ人間は? ……今回は早いな、もう完全に惚けきっているようだ」

 

 襖の音が聞こえてきたので後ろを見れば、葡萄と柘榴を摘んできた姉様がそこにはいた。それを吾は受け取って――意識が希薄になっている人間の口の中に潰して酒で流し込んでから、吾も一粒葡萄を食べる。

 

 実際に事前に用意された葡萄を音を出すのを意識しながら食べていき、最後の仕上げに取りかかることにした。

 

「そして少し話は変わるが人間様は黄泉戸喫……という言葉を知っているか?」

 

 鬼の酒を流し込まれたことで、きっと酔ってしまった人間様は……きっと今の吾の言葉を理解は出来ないだろう。

 だけどそれでいい、だってもうやることは終わったのだから……。

 

「もう寝てしまったな、宴の準備をするぞ浮世」

「そうだな、盛大な宴を開こうか――ではな、人間様これから一緒に過ごそうな。生きている間はずっと一緒だぞ?」

 

 何も考えられないだろう人間様に、最後に掠れたような聞こえづらい声でそう伝え、酔いの中に沈む新しい玩具に、吾は嗤いかけた。

 

あれ、俺達詰んだ?

意識を薄くさせて黄泉戸喫させる鬼二人がいるらしい

私迷い家で一生過ごすわ

あれ? なんで、自分の家に帰ってるんだ

岸君になりそう

50000円

生収録でこれは化物

50000円

買うから早く出してくれ、最近聞いた中で一番よかった

9000円

購入代、今すぐ販売して送って

雪椿:創作意欲って言うのはね……子供が可愛いと無限に沸いて出るんだよ?

50000円

赤スパがやばすぎてやばい(語彙死)

腐りきった正義の味方:あぁ、また安心した。

50000円

好き

臨場感ありすぎて、終わった瞬間に自分がどこにいるか分からなくなった

なんで今自分の家にいるんだろう?

鬼の姉弟は最高すぎた

よかった

                     

▶ ▶❘                                 CC ⚙ ろ わ だ 

【ASMR】浮世童子の迷い家【二・三期生コラボ】

155,396 人が視聴中・57分前にライブ配信開始     い3.2万 う143 へ共有ほ保存 …


【妖ぷろ二期生】 阿久良椛

チャンネル登録者数 274579人

 

「ということで儂らのASMRどうじゃったか人間さ……マヨイビトよ」

「かなり力を入れて妾達は頑張って見たが、楽しんでくれたら嬉しいのだ」

 

[本当によかった]

[心臓の鼓動止まらん]

[雪椿:このネタを漫画に起こそうと思ってるけどいい?]

[妖描鬼:今回だけですがゆっきーと手を組んでいいと思いました]

50000円

このコラボはまじでアーカイブに残して欲しい

[椛様の最高額更新してない?]

[伝説になるわ]

[鴉様の今回の属性追加はなんだろ]

 

 

 コメント欄をみてみれば、上のほうには数多くのスパチャの記録が残っていた。

 それに戦慄しながらも、どうにか平静を保ち今回の配信を締めるために一度やってみたかったことを二人でやることにした。

 

「じゃあこれからは、スパチャ読みに入るぞ」

「儂は初めてじゃから、綺麗に返せるか分からぬが、どれだけかかっても全部読むのでもう少し付き合っとくれ」

 

 日付が変わり、それから四十分は面白いスパチャの数々を読み続け、長かったASMRをなんとか終えることが出来た。

 

「盟友お疲れ様じゃな!」

「ですね、本当にお疲れ様です!」

 

 配信閉じた直後にハイタッチ。

 初めてだったが全力で楽しめたこの配信で得た者は沢山あり、やって良かったと心の底から思うことが出来た。そしてそれを噛みしめるようにして、お疲れ様も兼ねて儂は屋敷にいる二人に食事を振る舞うことにした。

 




 そして、今回の後書きには前回に引き続き挿絵を入れさせて貰います。
 今回のはなんと、三期生の獣系妖怪二人組――鴉様を書いてくれた方とは別の方の作品ですが、この二人もいいですね!
 源鶫

【挿絵表示】

 七尾玲那

【挿絵表示】

 
 それでは次回は掲示板回です。
 どうか楽しみにしててくださいね。
 最後に評価をくれた方や、感想をくれた方々、毎度の事ながら執筆の糧にさせて貰っているので、どんどん送ってやってください。作者がゲッタンします。


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【速報】懐かしい黒い塊出現【古参妖怪大集合】

 二日ぶりですね。
 今回は予告通りに掲示板回です。
 執筆時間過去最長のナニカですが、どうぞお楽しみください。


 

 

 

【速報】懐かしい黒い塊出現【古参妖怪大集合】

 

 

1:NN最近の巨人漫画に似たの出てきた巨大な怨霊

とりあえず、今絶賛混乱中ですが自分が立てました。

 

2:NN首塚から出れない生首

スレ立ては助かるが、それよりどうやってお前はパソコンを使ってるんだ餓者髑髏。

お前の指じゃパソコンどころじゃないだろ

 

3:NN最近の巨人漫画に似たの出てきた巨大な怨霊

部下

小さい

思考接続

 

4:NN首塚から出れない生首

成る程な理解したわ

 

5:NN最近の巨人漫画に似たの出てきた巨大な怨霊

それはいいのですが、あんたこそ確か生首ですよねどうやってるんです? 

どういうカラクリか知りませんがどう足掻いてもホラーですよね、貴方のパソコンやってる姿って。

 

6:NN首塚から出られない生首

気合い、それと気合い

気合いがあれば生首だけでも動けることを証明したおれだし別に良いだろ。

 

7:NN生涯水の中byあの尼許さない

あたしも水の中でパソコン使ってるからヒトの事言えないけど、首だけ操作は意味分からない

 

8:NN日本版デュラハン(首がないのは馬)

話がずれとるぞ、タイトルで分かるが要件を早く伝えろ阿呆共。

蹴り殺しに行ってやろうか、特に首だけの鬼

 

9:NN首塚から出られない生首

それおれサッカーボールになるやつぅ

というか乗ったけど、おれ小さくなったけど体はもう戻ってるからな

 

10:NN神出鬼没な幼女

本当にちっちゃくなったよね、しーちゃん

 

11:NN目足一つで腕二つ

皆でサッカーやるのか?

 

12:NN石の中のアイドル狐

あの本題に入りませんか? (ワタクシ)明日はライブがあるので速く知りたいです

 

13:NN古い町に程置いてある像のモチーフ

封印したはずの狐が、現代でアイドルやってること知ったらあの半妖発狂しそうだのう

 

14:NN石の中のアイドル狐

発狂してくれるなら見てみたいですね、あの小僧マジ許せません。

推しの劇それで見れませんでしたし……あっ思い出したらムカついてきたので明後日神社に凸しにいきます。

 

15:NN属性もりもり童子

あのぉ、私なんでここに呼ばれたんですか?

明らかに場違いなのですが…………

 

16:NN二千六百歳児

阿久っちの子孫なら大歓迎

むしろあの馬鹿の話題に呼ばない方が失礼っすよ

 

17:NN属性もりもり童子

あ、そういう事なら謹んで参加させて貰います。

 

18:NN石鎚山法起坊

カカッ、やはりあの鴉は生きていたか!

今から菓子折でも持って遊びにでも

 

19:NN妻が可愛すぎて常に瀕死の元鬼

やめてあげてくださいよ、あのヒトの胃が死にますよ。

というか、法起坊様名前はせめて変えてください。

 

20:NN石鎚山法起坊

我、ぱそこん苦手

 

21:NN自分がヤンデレって風潮を消したい

法起坊様がパソコン苦手ってなんか可愛いですね

 

22:NN麦飯は良いぞ

本人は全く可愛くないがな。

でもきっと麦飯食えば可愛く……すまないお前はならん

 

23:NN属性もりもり童子

大天狗の方々がいるの怖すぎるんですけど、あれ私死にますこれ?

 

24:NNたぶんおそらく付喪神な達磨で木魚

このスレ陰陽師がみたら発狂しそうじゃな

 

25:NN拙者人化&女体化させられすぎじゃね?

おい流石に本題入れ、それと嘘だったら餓者は喰う

 

26:NN最近の巨人漫画に似たの出てきた巨大な怨霊

はい食べられたくないので、本題はいります。

まあタイトルの通りなんですが、めっちゃくちゃ見たことある黒い塊が妖ぷろのHPに現れました

 

27:NN首塚から出れない生首

…………そういえばお前部下の骸骨使ってHPを定期的に確認するってのやってたな

で、それは本物なのか? 

 

28:NN生涯水の中byあの尼許さない

今見たけどあのヒトの事を覚えてるのは古参妖怪であるあたし達か、存在を知らされた者……それか本人ぐらいだし、例え誰かの想像や偶然知った何者かがあのヒトを騙る――それもあのあの会社でやるなんて自殺行為……

だから個人的には本物

 

29:NN石の中のアイドル狐

妖ぷろといえばもりもり童子さんも所属していますよね、私と一度コラボして貰いましたし、結構記憶に新しいです。あとは、あの方も――そういえばあのヒトの話題が出てるのに来ないなんてバグりましたかあの娘?

 

30:NN最近の巨人漫画に似たの出てきた巨大な怨霊 >>27

鮎さんなら最近ずっと、「無理死ぬ、待って死ぬ……え、尊い」という言葉を繰り返してるだけでバグってます。

多分彼の事を知ってだと思うんですが、今来ても限界化してるだけなので呼んでません。

その反応的には9割は本物だと思います。

 

31:NN妻が可愛すぎて常に瀕死の元鬼

あっしもHP見て見たんですが、本当に彼っぽいですね。アレンジされてますが昔描いた画の特徴が残ってます

 

32:NN自分がヤンデレって風潮を消したい

子供でも本人でもまたあのヒトの姿を見れるのはいいですね

私も安珍様と見る予定です

 

33:NN神出鬼没な幼女

いいね、それ今度清ちゃんの所遊びに行くから一緒に見よーよ

 

34:NN自分がヤンデレって風潮を消したい

いいですよー、安珍様も喜んでくれます

 

35:NN属性もりもり童子

>>29さんはこういう方だと言うことは知ってますが、他の皆様フリーダムすぎません?

私の大妖怪の方々に対するイメージが

 

36:NN鎚山法起坊

我は暇だし、ねっとぐらいしか巫山戯ないのでせーふ

そして>>22麦飯貴様我に喧嘩売ってるという事でよいのだな?

 

37:NN首塚から出れない生首

おれは死んでるからセフセフ、どうせ創作されまくっておれのイメージとかもう混沌極めてるし今更だ

 

38:NNたぶんおそらく付喪神な達磨で木魚

拙僧は基本、寝てないので常に深夜テンションみたいなものじゃからなぁ……あれだこれが最早デフォルト。

 

39:NN神出鬼没な幼女

私はいつもこんなかんじー

 

40:NN生涯水の中byあの尼許さない

あたしは結構前からこんな感じ、あの尼に肉食われたときからなんか吹っ切れた。

 

41:NN自分がヤンデレって風潮を消したい

私は……いつも通りですね。

安珍様観察日記を付けて、家事してたまにネットって感じです。

 

42:NN麦飯は良いぞ

すまんな、(やつがれ)の麦飯でも貴様は変えれないと思ってしまったのだ。

あともりもり童子殿、僕は真面目だぞ

 

43:NN目足一つで腕二つ

ことあるごとに麦飯(仮)を勧めてくる天狗ボソ

 

44:NN拙者人化&女体化させられすぎじゃね?

正直一番ヤバイ

 

45:NN石の中のアイドル狐

私も本体はずっと石の中ですし、アイドルやってるのも暇つぶしですから大体適当にやってますね。

まあ娯楽を楽しむときは全力でやるから、手を抜いた事なんてないのですが

 

46:NN妻が可愛すぎて常に瀕死の元鬼

あれあっしもフリーダム枠に入ってます?

 

47:NN二千六百歳児

夜中に奥さんの話を聞かされ己に朝を迎えさせる貴方がどの口で言ってます?

 

48:NN最近の水瓶って可愛いの多い

わっちの莫迦がすまぬ、いつも付き合ってくれて感謝なのだ蛟殿

 

49:NN最近の巨人漫画に似たの出てきた巨大な怨霊

やっぱり皆さん現代に馴染みすぎというか自由ですよね

自分のようにもっと妖怪らしくしてくださいよ

 

50:NN首塚から出られない生首

お前だけは言うな、鳥取砂丘住処にして骨の宮殿作って現代満喫しまくってるお前が言うな

陰陽師スレ勝手に覗いたときとか、死ぬほど荒れてたぞ

 

51:NN最近の巨人漫画に似たの出てきた巨大な怨霊

いやぁ、あの時は大変でしたねぇ。

流石に30人くらいに攻め込まれたときは自分の過去の仲間呼ぶ必要ありましたし……何より修羅道みたいな光景広がってましたから

 

52:NN日本版デュラハン(首がないのは馬)

余も参加したが、大体貴様のせいだ餓者。

そしてこのまま先に進まないなら余が進行するぞ

 

53:NN石の中のアイドル狐

お願いします

餓者と生首さんのせいでいつまで経っても進みませんので……

 

54:NN最近の巨人漫画に似たの出てきた巨大な怨霊

自分常識枠なのですが…………?

 

55:NN首塚から出られない生首

おれの扱い酷くない? 

あと狐、お前だけには宥められたくないからな、鴉の事一時期ストーカーしてるの忘れてないぞ

 

56:NN石の中のアイドル狐

それの何が可笑しいですか?

いつ遊びに行っても歓迎してくれましたし、許されてますからね私

莫迦二人とは違うんですよー

ざーこざーこ

 

57:NN生涯水の中byあの尼許さない

あんたら三莫迦はあんまり変わらないわよ

で、結局あのライブは見るの?

 

58:NN二千六百歳児

己は見ますね、絶対見てて楽しいでしょうし

 

59:NN神出鬼没な幼女

清ちゃんと見るから視聴は確定

 

60:NN自分がヤンデレって風潮を消したい

私は約束しちゃいましたしみますね

 

61:NN麦飯は良いぞ

僕は勿論見るぞ

それと法起坊さっきから千里眼で鴉の場所を探るな邪魔するこっちの身にもなれ

 

62:NN鎚山法起坊

えーよいではないか、爺の暇つぶしぐらい許せ

 

63:NN妻が可愛すぎて常に瀕死の元鬼

そうだ天狗勢は集まって法起坊様を抑える感じで見ますか

多分凸ると思うので>>62様なら

 

64:NN弟子とは良いものだ

(われ)もそれに行ってもよいか?

法起坊を止めるなら力になるぞ

 

65:NN拙者人化&女体化させられすぎじゃね?

鞍馬がいるなら天狗勢は安心して良いだろ、流石に法起坊でも大天狗三体は無理だろうからな

 

66:NN目足一つで腕二つ

大天狗大戦勃発(小並感)

 

67:NNたぶんおそらく付喪神な達磨で木魚

おい一本の、その想像はやめい

現実になるぞ

 

68:NN生涯水の中byあの尼許さない

ほんとに天狗勢は戦うの止めなさいよ

九大天狗のうちの四体が戦うのは被害がデカすぎるわ

一個の県とか軽く滅ぶわよ

 

69:NN属性もりもり童子

え……それは本当ですか?

私そんな光景想像できないのですが……

 

70:NN首塚から出れない生首

大天狗勢は全員バグってるからな

もりもり童子さんの為にまとめるがまじでこいつら頭可笑しい

 石鎚山法起坊・妖怪と呼ばれた者に絶対優位に立ち、霊と呼ばれる者達を一瞬で祓うことが出来る神通力極め済み

 妻が可愛すぎて常に瀕死の元鬼・陰陽道の陽を極めていて剛・火・夏を得意とする怪力莫迦。本人は太陽とあんまり関係ないはずなのに、太郎の炎とやり合える。

 麦飯は良いぞ・煩悩や魔に対する力を持つ剣を持っているのに、自分には刃物が効かないという能力持ち。こいつが加勢した戦は九十九割負けることがなくなるし呪詛や祟りに遭わなくなる

 弟子とは良いものだ・剣術極めた化物、一呼吸で山ぐらいなら両断するバグ。老いないし魔王とか呼ばれてるし、弟子を軒並みバグらせる怪異。

 

71:NN石の中のアイドル狐

いやぁ、本当に頭悪いですよねこの方達。

なんで私達あの時代で生きれたんでしょう?

 

72:NN首塚から出られない生首

お前がマジで言うな、命弄んで地獄を作ったお前が言うな

お前の本体封じてある地とか一時期近づくだけで魂抜かれる場所になってたの覚えてるからな

 

73:NN最近の巨人漫画に似たの出てきた巨大な怨霊

自分もおまいうって言われそうですが、皆やってることヤバいですよね

でもまあ、こんな自分たちが今仲良くやれてるのって多分あのヒトのおかげですよね。

 

74:NN日本版デュラハン(首がないのは馬)

だろうな、余達が関われたのはあの鴉が縁を繋いでくれたからだ

で、とりあえず余もみるが、ほかの奴らもどうせ見るだろう?

あと一つ誓いを立てよ、無闇にあの鴉に会いに行かぬとな(特に九尾)

 

75:NN石の中のアイドル狐

名指しですか!? 

いや流石に行きませんって……私もライブで忙しいですし、眷属を監視に出すぐらいしかしませんよ

 

76:NN首塚から出られない生首

全力で阻止するぞお前ら、こいつはヤバイ

 

77:NN自分がヤンデレって風潮を消したい

とりあえず百匹ぐらい蛇を護衛に出しときますね

まあ今あの方が住んでる場所知らないのですが……

 

78:NN首塚から出られない生首

それならウチから近いから教えるわ

あと蛇を護衛に用意しておくって伝えとく

 

79:NN石の中のアイドル狐

は? おいなぁ莫迦鬼、祟り殺しますよ?

 

80:NN首塚から出られない生首

え、なんでだ?

変な事は言ってないだろ?

 

81:NN生涯水の中byあの尼許さない

…………バイバイ酒呑、また眠りなさい

 

82:NN最近の巨人漫画に似たの出てきた巨大な怨霊

骨、拾っときますねw

 

83:NN妻が可愛すぎて常に瀕死の元鬼

酒呑さん、あっしは何も言いませんよ

 

84:NN拙者人化&女体化させられすぎじゃね?

あーあ、黙祷しとくわ

 

85:NN二千六百歳児

ぐっぱい酒呑地獄に行ってください

 

86:NN石鎚山法起坊

おっ? 酒呑の小娘は生きてたの知っていたのか

 

87:NN首塚から出られない生首

いやさ、あいつ死ねない事知ってるだろ?

あと京都付近の妖怪なら知ってるだろ流石に……あいつ今京都にいるし、そもそも鞍馬と土蜘蛛は十年周期のアイツの祭に一緒に行ってるよな?

 

88:NN拙者人化&女体化させられすぎじゃね?

お前マジで黙れ、本当に黙ってくれ

 

89:NN弟子とは良いものだ

もう一回首を刎ねられるの経験するか?

 

90:NN最近の巨人漫画に似たの出てきた巨大な怨霊

 

91:NN生涯水の中byあの尼許さない

ごめん流石に笑った

 

92:NN妻が可愛すぎて常に瀕死の元鬼

酒呑さん……

 

93:NN自分がヤンデレって風潮を消したい

 もしかしてずっと黙ってました? 黙ってましたよね? あのお三方? 巫山戯てますか、私騙されるのって苦手なのですが、それを知ってやりましたか? あぁ、はいそうですよね。貴方様方は悪戯好きでしたからね。ふふっ私って冗談嫌いなんですよ? 行っていいんですか? いいですよね、なら向かいます。待っててください逃げたら焼きます。潰します貫きます――――逃げてみてください、逃がしませんから。

 

94:NN目足一つで腕二つ

ヒエッ

 

95:NN神出鬼没な幼女

あーあ、スイッチ入っちゃった。

 

96:NN二千六百歳児

まあ仕方ないですよね、天狗と蜘蛛と鬼は報い受けてください

 

97:NN弟子とは良いものだ

え、吾もか?

 

98:NN拙者人化&女体化させられすぎじゃね?

まじで鬼許さない

 

99:NN石の中のアイドル狐

まずは鬼、次蜘蛛、最後天狗

消す逃げるな

 

100:NN首塚から出れない生首

えっちょ――なんか周りに狐gあ死n

 

 

  

 

 

「……………………かおすぅ」

 

 配信が終わって数時間後、椛先輩に教えられた妖怪スレを覗いてみればそこには混沌しか広がっていなかった。懐かしい妖怪達が居たのは分かったが、どうしようもなくヤバイ奴らばっかりで、配信の裏でこんな地獄が広がっていた真実を知って俺は、心の底からそんな言葉を漏らしてしまった。

 

「え、やば? 餓者髑髏に酒呑に玉藻だよな。あとは人魚の奴に……一本だたらか? あとはあの四天狗……いやマジで現代に馴染みすぎじゃないかあいつら――は? マジでやばいだろこのスレ」

 

 そもそも結構な奴らに俺死んだと思われてたのか?

 かなりショックなんだが…………というか、玉藻前アイドルやってるのか。

 

「…………やばいな考えれば考えるほどに頭痛してくる」

 

 配信よりも見るだけで疲れてしまうそんな過去のスレ。

 そこには古い知り合い達が沢山いて、正直胃痛が大変な事になっていた。 

 

「寝よ……疲れたわ」

 

 とりあえず何も見なかったことにして、俺はパソコンを閉じ先輩に用意されていた布団に潜り収まることのない頭痛から逃げることにした。

 




 そうだ評価をくれた方・感想をくれた方々・誤字報告をしてくれる方々いつもありがとうございます。
 そうだ最近感想を返信を始めたので、気軽に感想くれると嬉しいです。
 そうそう、あと前に七尾様やつぐみんを描いてくれた方が早良理沙さんの現実での妖怪姿を描いてくれましたのでここに載せさせていただきます。


【挿絵表示】


 それではまた次回。
 次は番外編として七尾様の話を予定していますのでどうかお楽しみに!


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番外編:幼馴染みはVtuber

今回は七尾さん回というか七尾さんの幼馴染みの回?


 高校二年生の夏休み。

 それはきっと充実した物になるんだろうな……そんな事を思ったのは今から約一年前の夏。

 海に行ったり、彼氏を作ったり、友達とキャンプしたり、この年齢では言うのは恥ずかしいけどよくあるライトノベルみたいな運命的な出会いが待っていたり……と、そんな事を妄想していたが、現実は非情であり学年が上がったからといって何か変化があるという事はなかったのだ。

 

 ただ今私の前にある現実は、夏休みの補習という地獄だけで何も楽しいことはない。

 いや分かってはいるのだ。遊んでばかりで勉強を疎かにした私が悪いということは……でもあれだよね、仕方ないじゃん? だって高二なんて遊んでなんぼみたいなとこあるし――――と、私こと加茂葛葉(かもくずは)は思うのです。

 

「で、そこの所どう思うかすみん?」

「その渾名は止めてって言ってるでしょ葛葉――結局何が言いたいのかしら」

「いやあれなの、こんな地獄みたいな補習はやめてパーッと遊びに行こうぜ! ってやつだよ」

「…………それが付き合ってあげてる幼馴染み対する態度? 帰るわよ私」

「あ、待ってそれは待ってお高いアイス奢ったじゃん! ……あ、さてはあれだね? ケーキも追加で! みたいな感じだね! もぉ、最初から言ってよこの卑しんぼうめっ」

「――帰るわ」

「いやごめん謝るから待ってよ、ウェイトウェイトそしてステイ」

 

 渾身のお巫山戯はどうやら幼馴染みには通用しなかったようで、彼女はそのまま鞄を持って教室から出て行こうとしてしまった。流石にそれだと私は死ぬと思ったので、全力で彼女の腕を掴んで椅子に座らせる。

 

「おーけー霞? 私ピンチ、補習ヤバくてガチ瀕死――十年の付き合いがある幼馴染みを助けると思ってさ? せめて最後まで助けようぜ? そしたらみんなハッピーよ」

「それ私に良いことないわよね……」

 

 心底疲れた様子で、そうツッコむ私の愛しい幼馴染み。

 今の様子だと、確かにかすみんにはメリットがなく見えるだろう。

 ふふふ、だけど甘いよ。多分パキスタンのグラブジャムンにオリゴ糖と蜂蜜を流し込んだ時より甘い、だって貴方を買収するのは私の特技だから。

 そんな事を私は思いながら、ふっふっふとラスボスみたいに笑い横にかけてある鞄から二枚のチケットを取り出した。

 

「控えよかすみん、これが目に入らぬか!」

 

 私が取り出したのは今をときめく巫女系アイドルのサマーライブチケット。

 それは私が用意できる最高峰の彼女に対する切り札。昔の英雄達が出てくる作品的に言えば、彼女に対する特攻付きの宝具。

 

「…………で、何が分からないのかしら? 教えるから早く終わらせるわよ」

「え、あの流石に早くない? あと乗ってよ、私がやばい奴みたいじゃん」

「それは昔からよ、今更気にする必要ないでしょ? それよりよく当たったわね、倍率大変な事になってたのに」

 

 急かしてくる幼馴染みに頬を膨らませながら抗議したが無情にもそう返されて、私が分からない部分を丁寧に説明してくれた。いつも何だかんだ真剣に手伝ってくれる彼女だが、今だけはやる気が段違い。背後に修羅すら見える覇気で、私に勉強を教えてくれる。

 

「そういえばさー、今日二期生の酒猫さんとコラボするんでしょ何やるとか決まってるの?」

 

 今は私達の貸し切り状態みたいになっている場所で、一通り出された課題を終わらせた私はペンを回しながらそんな事をきいてみた。

 

「決まってないわね、内容的には何かゲームで戦うらしいのだけど私は聞かされてないわ」

「対戦ゲームって……かすみん大丈夫? 昔一緒にやったマリオカートでずっと逆走してたけど」

「流石にもうそんなプレイはしないわよ、今はダートに飛び込むぐらいね」

「それを克服すればもう敵なしじゃん!」

 

 大体何でも出来るのに何故かゲームだと弱くなる幼馴染みは、帰る支度をしながらそう答えてくれて、その返答にいつも通りだなぁとそんな感想を私は持った。そのまま自分も鞄を持って、今やった課題を先生の所に持って行くことに……。

 

「そうだ葛葉、私ちょっと弓道部に忘れ物取ってくるわ」

「あ、おっけー! じゃあ購買で合流ね」

 

 提出する直前、用事を思い出したのか幼馴染みは所属している部活に向かうことにしたようだ。

 結構大事な物なのか、少し急ぎ足で向かう彼女を見送りながら職員室に向かうことにしたのだが、それだけではつまらないのであまり人のいない校舎を探索しながら進んでいくことにした。

 

「あ、そういえば期末テストの結果見てなかったじゃん」

 

 色々見ながら歩いていると、まだ学校の掲示板に貼られている期末テストの結果が目に入った。

 学年別のそれには一位の場所に私の幼馴染みである蘆屋霞の名前が堂々と載っていて、それに鼻が高くなりながらも下の方にあった自分の順位を見て心が死んだ。

 

「くっ思わぬ伏兵が――いや、自分の順位なんだけどさ、下から数えて三十位はやばいくない?」

 

 そんな事を呟きながら夏の校舎を探索し終えて、私は職員室にいる担任の先生に課題を提出し幼馴染みが待っているだろう購買へと向かう。

 一階にある食堂に着いてみるとそこはやっぱりガラガラで、周りを見渡せば端っこの席の方に近寄り難い雰囲気の霞がいた。

 

「はいはい、私さん参上ですよ。かすみんかすみん帰ろうぜ」

「そうね、用事もあるし少し急いで帰りましょ?」

 

 その後は彼女の日課であるパトロールに付き合いながらも、霞の実家である神社に足を運び途中で買ってきたケーキなどを食べることにした。

 私はもう親に寄っていくと伝えておいたし結構遊んでも問題なし。まあでも流石にコラボの時間が来たら邪魔しちゃ悪いし帰るけどね。

 

「そうだ葛葉テレビ見るかしら?」

「あ、みるみるー今何やってたっけ?」

「えーっと、今はアレ……丁度白銀妲己(しろがねだっき)さんのインタビューのようね、今度のライブのプロモーションかしら?」

 

 テレビを付けてみれば、そこに映るのは銀髪の超絶美少女。

 彼女の公式設定曰く、今は二十四歳ぐらいらしいが……どうみても高校生ぐらいにしか見えないほどに若々しい。

 一切の不純物を感じさせないほどに綺麗な銀の髪に、老若男女全てに愛されるほどに整った容姿。

 笑顔や溜息一つで全てを虜にする人間離れした現代最強のアイドル――そんな彼女は画面越しだというのに、存在感が桁違いでこれは直視していいのか? と思う程の魅力があった。

 あまりの美少女度に私は女なのか? と思うことが彼女を推しているとあるけど……最近は吹っ切れて彼女は別次元の生物だろうという事で割り切ってる。

 

「ライブは二十五日のだったわよね」

「そだね、二十五日の日曜……で確か夜八時から」

「ならその日は配信休まないといけないわ。今のうちにスケジュール調整しておかないと……」

 

 頭の中で予定を組み立て始めた彼女を見ながら、後で頭痛を起こすだろう彼女の事を思い少し私はキッチンを借りてお菓子でも作ることにする。

 軽くパンケーキでもとそう考えながら、もう完全に場所を覚えてしまった材料を棚などから出して四枚程パンケーキを焼けば、それに気付いたのか彼女がキッチンにやってきた。

 

「紅茶飲むかしら?」

「ありがと、ミルクティーで頼むぜ」

 

 そんな事をしながら時間を潰していけば、気付けば時間は午後八時。

 彼女の配信が始まるのは八時四十五分、流石にそれまでには帰らないと行けないので、私はすぐに徒歩二十分ぐらいにある家へと帰り、少しワクワクしながらパソコンの電源を入れて彼女のチャンネルを開いた。

 

                     

 

 

 

 

 

 

 

 

 

▶ ▶❘                                 CC ⚙ ろ わ だ 

【二・三期生コラボ】狐と猫のゲーム対戦【妖ぷろ三期生】

45.396 人が視聴中・0分前にライブ配信開始         い132 う12 へ共有ほ保存 …


【妖ぷろ】七尾玲那 Ch

チャンネル登録者数 6.9万人

 

 

 ライブ画面に表示されるのは、妖狐モチーフのキャラと他の妖ぷろメンバーとは違う少し現代風の見た目の猫の妖怪。だけど彼女にはちゃんと和を感じさせるような要素が詰め込まれており、細かい事にパーカーのポケットには御札が何枚か詰め込まれていた。

 

「やっぱり、拘り凄いなぁ……」

 

 翡翠の色をした大きな目に長い髪とふかふかの尻尾……自分が狐好きという事もあり現実でその尻尾に触りたいという感情が溢れてくるがそれは置いておく。

 とりあえず私はとりあえずいつものようにコメントを打ち込んで、他の人達の反応を確認しながら今日の配信を一視聴者として楽しむことにした。

 

[待ってた]

[やっぱり九十又ちゃん可愛い]

[なんか既に赤面してるけど、もう酔ってる?]

[七尾様は既にめっちゃ笑顔]

[二人共うっきうきじゃん]

[可愛い]

[どっちが勝つんだろう?]

 

「皆さんこんばんにゃー! 妖ぷろ二期生所属だった気がする仙魈(せんしょう)だにゃん!」

「子狐の皆と、一升瓶の皆さんこんにちわ? 初見の方はよろしくするわね、妖ぷろ三期生所属の七尾玲那よ――ねえ先輩、前から聞きたかったのだけど一升瓶の由来ってなんなのかしら?」

 

 始まった挨拶を見ながら、容易に混乱している霞の姿が想像できて少し私は笑ってしまった。今頃彼女は大真面目に答えを待ってるんだろうなぁ。

 

「ふふふ……その質問を待ってたニャンよ! そうウチの一升瓶の由来は……どうしよう忘れたニャン」

「えぇ……」 

 

 えぇ……忘れたんだ。

 勿体ぶったのに忘れたという霞の先輩に同じ反応をしてしまった私。

 流石七尾の先輩だなぁと思いながらもコメントを打ち込んで、今日はどんな配信をやるか質問してみることにする。

 

[いや草]

[やっぱり酔ってる]

[平常運転]

[確か由来は決めるときに一番最初に目に入ったからとかだった気がする]

[ガチ困惑七尾様BB]

[後で作るわ]

[今日は何やるの?]

 

「……まあさっきのはなかったことにして、とりあえず今日やることの説明をするにゃー! 頼むニャンよ、七尾ちゃん」

「任されたわ先輩。今日やっていくのは少し前に流行ったゲームの壺おじのスピンオフ的な竹おじというゲームよ」

「一応初見の方とかいると思うからあらすじ的なのを説明するにゃー。確かかぐや姫に憧れたおじさんが巨大な竹を見つけたらから入ってみたら出られなくなったみたいな感じにゃーね!」

 

 私が知らないゲームだが、なんだろうそのあらすじだけでカオスなゲームは……あ、そういえば霞がこのゲームを面白いわよと教えてくれたゲームがそれだった気がする。今更だけどやっとけば良かったかも……。

 

「とりあえず月を目指すのが目的のゲームなんだけど、それだけじゃつまらないから今日は先に着いた方が勝ちの罰ゲームありのルールでやっていくわ」

「罰ゲームは安直にゃけど、お互いの言うことを一つ聞くという物を用意してるニャン! ちなみにウチは七尾ちゃんには今度の大型コラボで辛いものを食べさせようかと思ってるにゃーね」

「ッ――絶対に負けられないわね」

 

 あ、火が付いた……というより負けられなくなったのかな?

 確か霞って凄く辛いものが苦手だったし、林檎と蜂蜜の結構甘いカレーの中辛でもギリギリだし、辛味に強い仙魈さんが辛いという物とか食べたらきっと霞は泣くだろう。

 

[なんで七尾様燃えてるんだろ?]

[そういえば七尾様って辛いもの苦手じゃ]

[辛いの駄目なの?]

[なんか前の鴉様がtweetで、七尾は中辛のケバブで泣いてたって言ってたような……]

 

「そうにゃ、ウチはもう三期生に着いて調べ済み! 弱点は全部把握してるし、負ける要素も揺さぶりも完璧なのにゃ!」

「そうね分かったわ先輩――なら私も遠慮しないわよ」

「ふっ、かかってくるニャン!」

「じゃあ、先輩への罰ゲームは……山盛りわさびを入れた大トロを今度の料理企画で食べて貰うわ」

「え?」

「決まりね、じゃあ早速やっていくわ」

「ちょっ!? 待って七尾ちゃん! ウチわさび無理!」

 

 そんな感じで始まった配信。

 どっちが勝っても、叫び声が聞けそうな罰ゲームに私は期待しながら、竹おじ配信を楽しむことにした。

 




 そういえば昨日オリジナルの日刊三位に載ってたんですよね、知り合いに教えてもらったんですけど、本当にびっくりしました。これも皆さんがこの作品を読んでくれているおかげですので心からの感謝を。
 あと前回から感想や評価をくださった方ありがとうございます。
 毎回の面白い感想本当に楽しませて貰っていますので、どうぞ遠慮なく送ってください。
 あと次回は多分お料理コラボの準備回です。ゆったりとやっていく感じなのでどうかお楽しみに!


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料理ってたまに熱中すると作りすぎるよね

約一ヶ月ぶりなので初投稿です。


 秋の山に広がっていたのはあまりにも異質な景色だった。

 空には太陽が輝き、海の中に月が沈み、桜が舞い雪が降り、地面には紅葉が散らばっていた。

 そして……紅葉をより紅く彩るように、夥しい程の血が撒き散らされているというあまりにも現実離れしたこの劇場――そんな場所で儂は下に倒れる友を見下ろしていた。

 

『終いか……いや、まだいけるだろう阿久良? 儂に劇場まで出させたんだもっと魅せてくれ』

『あはははっ分かってますよ、そんな事! まだですっ、私はまだ生きている!』

 

 変化が解け始めていて、もう限界であろう筈の友はそれでも心の底から笑っている。

 時間が経つごとに、動きは悪くなっているのに、もう動くのも辛いはずなのに……それでも、此奴が纏う覇気は一切衰えず、それどころか目に見えて増していき止まる気配を感じさせないのだ。

 

『そうか……ははっそうじゃな、主はこの程度では止まらぬ妖じゃ!』

 

 そうやって笑い、空中に百を超える氷柱を作りだし彼目掛けて全てを撃ち出す。

 一撃一撃が即死級の氷塊、それを笑いながら砕き、異常な速度で迫ってくる親友を儂は刀を作り迎え撃つ。

 二日は続いている此奴との遊びは、一向に終わる気配がなく……むしろ永遠に続くように感じてしまう――だけど、そう感じていても限界というのは来てしまうもので、今から二刻程で阿久良に変化が訪れた。

 

『ごッつ……』

 

 それまで限界を感じさせながらも、高速で動いていた阿久良が急に止まり大量の血を吐いたのだ。

 それに儂は怯んでしまい、手を止めかけたがそれを此奴が許す事などなく疲労を感じさせる顔でしっかりと蹴りを入れてくる。

 

『親友、まだですよ。まだ動けますだから手を止めないでください……全力全霊で私の最後を!』

『ッ……無粋であったな、詫びるぞ阿久良――だからこそ、これで終いじゃ』

『それでこそ、貴方です』

 

 今この場に広がっているのは、儂の術で作った劇場。

 儂の場を整えるという能力を最大に使い、それに妖術を混じり合わせて出来た特殊な結界。劇場の中身を指定して、それに反しない限りは壊すも創るも自由な大舞台。

 

『この一撃を手向けとしよう』

 

 本来この劇場の最後は爆破で終わり、儂以外を全て壊すという風にしていたのだが……此奴を送るにはそれでは駄目なのだ。

 だからこそ儂は、この場で一つ技を作る。

 この劇場は太陽と月そして四季を基調に創った場所で、それに関わるモノなら全部自由に使って戦う事が出来る。今までは冬の力の後に夏の力といった風に戦っていたが、最後は全部同時に使ってしまおう。

 

『終幕・四季陽月』

 

 空から太陽が落ちてきて、湖から月が昇り相手に迫る。

 逃がさないように海が相手を囲み、桜と紅葉が刃のように飛んでいく――そして最後に、儂の手にある刀から斬撃を飛ばす。

 

『鬼狐炎葬』

 

 儂の最新の技を迎え撃つのは、彼が使える最大にして最強の自爆技。

 彼に向けられた信仰心や悪意などの想いを燃料に放たれる鬼狐の業火。

 この世の全てを焼き尽くしかねないそれを纏いながら、阿久良は迫ってきて儂の技を燃やしながらここまでやってきた。

 満身創痍な彼は、技を潰す度に傷を増やし儂の元に来る頃には変化も解けて元の姿に戻っていた。

 

『あぁ、限界です。ありがとうございました。また……いつか会いましょうね親友』

『じゃな阿久良王、またいつか』

 

 最後に笑顔を浮かべて、儂は彼の首を刀で刎ねて彼を送ることにした。

 その瞬間、阿久良は金色の光となって飛び散ってその全て狐に変わり何処かへ旅立ち始める。

 そういえば昔こいつは、死んだら狐に生まれ変わるって契約してるんですよねとか言ってたが、この様子だとあれは本当の事だったらしい。

 あの狐の特徴的に瑜伽大権現との契約だろうが、あのヒトの眷属にでもなったのだろうなと……そんな事を思いながら儂は酒を嗜み見送ることにしたのだが、いつまで経ってもこの場から動かない狐がいたのだ。

 

『ん、なんじゃ? 主はいかんのか? ……これは手紙?』

 

 最後に残った狐がどこからか紙を取り出し、儂に渡してくる。

 粋な事をするなと思いながら儂はそれを開き読んで見ることにしたのだが、それを見てすぐに儂は笑ってしまった。

 

『ふっ彼奴らしいなぁ、この狐を頼むそれと、「前の遊戯の続きをしましょう。私の子孫と縁を結べたら何か言葉を残してないかと聞いてみてください」か……この内容的に自分から探すのは違うじゃろうし、縁があったらやってみるか』

 

 手紙を渡して役目を終えた狐は、儂の事を上目遣いで見てくる。

 そんな彼女の頭を撫でた後に儂は、その狐を頭に乗せてこの場を後にすることにした。

 

『そうじゃ名前は……阿惟(あい)でよいか?』

 

 彼奴の一文字に、惟という文字を合わせた名前。

 意味は特にないが頭に浮かんだのがこれだったし、これが一番良いという風に勘が働いているし、きっとこれでいいだろう。

 一応これでいいか確認するように返事を待ってみれば、その狐は元気よく鳴いてくれたので反応的に好印象。

 

『その反応、気に入ったようじゃな。じゃあ阿惟帰るぞ』

 

 気に入ってくれたのか満足そうな気配を出してくる彼女一度撫でてから儂は、新しくできた家族を背中に移し空へと飛び立った。

 

 ―――――――― 

 ――――――

 ……… 

 ……

 

 朝日が部屋に射し、久しぶりの自分の布団で目を覚ました俺が最初に感じたのはとても気持ちのよい懐かしい何かの感触だった。

 

「ん……あぁ? ……何かの毛か?」

 

 何かを確かめる為に数十秒間触ってみれば、それは何でか撫でなれた感触で暫く触って動物の毛だって事を理解出来た。触ってて気持ちい毛並みに暫く癒やされながら撫でていると、睡魔に襲われてしまいすぐにこの毛の中で眠りたくなってくるが、毛の主はそれを許さないようだ。

 

「ちょやめろ、噛むな俺を噛むな……というか誰だよ、こんな朝から」

 

 急に撫で回したのは悪いかもしれないが、俺の頭を噛むのは違うだろう。

 とりあえず離してくれた後で俺は、噛みついてきた上に布団に忍び込んだ不届き者の姿を確認することにした。

 

「って阿惟かよ……何年ぶりだ帰ってくるの? というか、お前デカくなってないか? 前はもうちょっと小さかった気が……」

 

 そこにいたのは今朝の夢に出てきた妖狐。

 俺の布団を占領する彼女は、少し冷ややかな目でこちらを睨みながらも、久しぶりに会った事の喜びが隠せていないのか六本ある尻尾が揺れていた。

 

「え、女性にデカいは言うなって? いや、どう考えてもお前はデカ……いやごめん、謝るから頭噛もうとするなよ」

 

 とりあえず噛もうとしてくる家族を抑えながらも俺は着替えることにして、そのまま昨日仕込みをしておいた食材を調理するために俺は台所に向かうことにした。

 

「そういえば土曜の配信で猫先輩負けたからわさび寿司食べることになってるんだよなぁ」

 

 昨日の夜帰ってきたらやっていた竹おじコラボ配信は、なんともカオスなものに仕上がっており騙し合いや先輩がドラえもんになったりとか色々あったが、無事に霞が勝利して先輩は料理企画の最中に特盛りワサビ寿司を食べることになったのだ。

 

「寿司は霞が作るらしいが、どんぐらいワサビ入れるんだろうな……っといけね、卵が半熟じゃなくなる」

 

 料理企画のためにオムライスを練習しながら昨日の動画を思い出していると、卵に火を入れすぎてしまいそうになったので、急いでフライパンから卵を取り出して事前に作っておいたシーフードライスにそれを載せて包丁で割っておく。

 あとはデミグラスソースを作って完成……なのだが、どうにも加減が難しくて納得いくソースが出来ないのだ。

 そのせいで居間の机にはソース以外は完璧なオムライスが大量に並んでいて、どう処理しようかめっちゃ悩んでいる。一応儂一人でも食べることは出来るが、流石に十五人前のオムライスとか体重計が敵になるので食べたくはない。

 

「鞍馬の爺さんとか、酒呑でも呼ぶか? それに土蜘蛛一家なら全然食べれるだろうし……」

 

 そんな事を思いつき、すぐにスマホで連絡を入れてみることにしたのだが――一向に繋がらない。

 いつもなら2コールぐらいで皆出てくれるのに、どうしたのだろうか?

 

「あっ繋がった」

 

 とかそんな事を考えていると、三人目にかけた酒呑とすぐに繋がった。

 

『なんだ鴉、こんな朝っぱらからおれに何のようだ?』

「いやさ、飯作り過ぎたから、知り合いでも呼んで処理しようかって思ってさ。お前どうせ暇だし来るだろ?」

『ヒトを年中暇みたいに言うなよ、おれだって忙し……くないな。すぐいくわ』

「了解、雫には話通しておくが普通に玄関から来いよ、三年前みたいに生首で現れたら祓われるぞ」

『分かってるって、おれもアレは死んだかと思ったからな……まあもう死んでるんだけど』

「はは、とりあえず冷める前には来いよ。じゃあまた後で」

 

 そう言って電話を切った後で、鞍馬の爺さんからLINEが届き何の用だと聞いてきたので、飯を作りすぎたからこないかと聞いて見れば、数秒後に「すぐ向かう」とだけ送られてきた。

 それに了解とだけ返事をしてから俺は、皆が来るまでに雫を起こしておくことにした。

 

「おーい雫ー、起きろよ朝だぞ……」

 

 返事はない。

 中から気配は感じるが、どうにも熟睡しているようで起きる様子がなかった。

 

「よし、阿惟ゴー。雫を起こしてきてくれ」

 

 流石に年頃の女子高生の部屋に入って起こしに行くという無謀な事などは出来ないので、同じ性別の此奴に任せることにした。

 こいつはかなりしっかりしているし問題ないだろうから、後は任せて俺は鞍馬の爺さんと酒呑を持て成すために付け合わせになりそうなスープやサラダでも……といった感じで再び台所に戻ることにした。

 

「なっ、なんで阿惟さんがここに!?」

「雫様主様がお呼びです起きてください、噛みますよ」

 

 ……なんか同居人の悲鳴と、聞き覚えのない誰かの声が聞こえたがなんだろうか?

 ジャガイモや人参そして玉葱を火にかけながら鼻歌を歌っていると聞こえてきたのはそんなものだった。かなり騒がしいが何が起こってるんだろうな。

 ガシャーンとかドーンとか誰かを起こしているとは思えない音達をBGMに料理を終わらせ、居間に並べようとなった頃に雫達がやってきた。

 

「おはよー雫……と、誰だよ」

「おはようございます主様、人に化けれるようになった阿惟です」

 

 いつの間にそんな事に……そういえば前は五尾の狐だったが、一尾増えてたし成長してたのかこいつ。

 

「おっけー、どうして化けれるようなったかは知らんがお疲れだ。あと雫は何でそんなにボロボロなんだよ?」

「阿惟さんが悪いです……とりあえずおはようございます鴉様。それと朝食はオムライスですか、今日は豪華です――なんですか、これ? 宴会でもするんですか?」

 

 最初に目に入ったオムライスの感想を雫は伝えようとしてくれたのであろうが、その他に机に並べられていた十五個のオムライスを見てすぐに頬を引き攣らせる。

 その表情と感じているであろう気持ちは分かるのだが、そこまでドン引きしたような表情を見せる必要は無いだろう、泣くぞ俺……いや、作りすぎた自覚はあるし何より俺もこの量はないんじゃないかと思っているが――やめよう、馬鹿が加速するだけだ。

 

「とりあえず作りすぎたから食べるぞ雫、助っ人も呼んだから多分大丈夫だ」

「それ何人ですか?」

「二人だな、あと俺と雫と阿惟がいるから一人三人前の計算だ」

「……了解です」

 

 そんなこんなで作戦を伝えたので、戦闘準備に入りながらも冷める前には来て欲しいなと思っていると丁度インターフォンが鳴り、誰かが来てくれたようだ。

 

「今開けるぞー」

 

 一応防犯対策としてインターフォンで顔を確認しないといけないかもしれなかったが、俺って他人の気配が分かるので、そこら辺は気にしなくていい。

 本来ならもっと別の事に使えるだろう能力を無駄に使いつつ、玄関を開けてみればそこには何故か不満そうな顔をする幼女と黒髪のイケメンがいた。

 

「久しぶりだな鴉、元気だったか?」

「鴉、このクソ天狗ぶっ飛ばして良いよな?」

「大体何があったかは分かるが、ここで暴れるなよ酒呑……とりあえず入れよ、飯が冷める」

「ぶー、おれ、こいつ殴りたい」

「別に殴ってもいいぞ、まあ吾はやり返すがな」

 

 こんな所で鞍馬天狗と酒呑童子に喧嘩などやらせるわけにも行かないので俺はすぐに酒呑を抱え強制的に部屋に入れることにした。

 

「まあ積もる話もあるだろうし、今日は騒ごうぜ?」

「それもそうだな……そうだ鴉、一応土産に酒を持ってきたのだが飲まぬか?」

「おっ飲む飲む、まあとりあえずいらっしゃい二人共」




 ウマ娘とモンハンにハマり賞味期限が大変な事になったお菓子の妖怪です。
 ある程度モンハンが一段落したので、投稿再開します。
 次回は、妖怪達が駄弁りながら近況報告する感じの話。


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最近の妖怪事情

土下座


「とりあえずあれだ……お前何してるんだよ?」

 

 席に着きいざ食事会、となった時最初に酒呑にそんな事を言われてしまった。

 流れは一切なかったが多分VTuberやってることだろうな。

 

「いや、別に良いだろ俺がなにやったって……」

「それはいいんだよ、俺が言いたいのはな……なんでそのままの姿でやってんだって話だ」

 

 痛いとこ突くなぁ……。

 でもさ、仕方なくないか? 俺の事覚えている妖怪とか絶対少ないと思ってたし、何より現代に名前が残ってないのは知ってたから別に使ってもいいだろ的な感じだったのだ。

 いや、でもその使った結果が妖怪スレのあの惨状だったわけだが……。

 

「何考えてるか大体分かるが、鴉……今の時代身バレは怖いぞ、それに妖怪の力使いすぎだ」

「アンタに言われたくないぞ、鞍馬の爺さん……」

 

 一番天狗の中で常識はあるとはいえ、存在そのものがバグみたいなこのヒトは今の時代に戦国時代と間違う程の鍛錬量を課す道場を開いているのだ。そのせいでたまにテレビの剣道の大会とかでは最強人類決定戦が開かれているし……もうちょっと自重した方がいいと思うんだ。

 それに比べたら俺なんて、変化と演技と追体験の力しか使ってないしめっちゃ慎ましやかに生きているぞ。

 

「どっちもどっちだ莫迦ダブル。配信見てたが鴉は自重しなさすぎだし、鞍馬の莫迦は俺の神社に弟子を送るな」

「そのぐらいはいいだろう、興が乗って育てすぎると人間では相手出来なくなるのだぞ?」

「……鞍馬の爺さんは置いといて、俺が莫迦扱いは違くないか?」

「はぁこれだから空を飛べる妖怪は……」

 

 なんだろうか? すっごい莫迦にされたような感じがするのだが……確かに空を飛べる妖怪はヤバイ奴ばっかりな気がするが、此奴に言われるとなんか釈然としない。

 

「神仏に喧嘩を売ったお前が言うなよ、俺も駆り出されたの覚えてるぞ」

「ははは、あーあの頃のおれは若かったな……でも楽しかっただろ?」

「いや、まあ楽しかったけどさ」

 

 此奴も此奴で百鬼夜行だーとか言って、妖怪連れて神や仏に喧嘩を売りまくった馬鹿だし本当にヒトに何か言える立場じゃないよな。まあそれにノって俺も暴れたから何か言えるわけでもないけど……。

 

「聞いてる限り、皆さんあまり変わらない気がします」

 

 二つ目のオムライスを完食し、それをお茶で流し込みながら雫がぶっ込んできたのはそんな一言。

 薄々気付いていた事だったが、急にぶっ込まれた正論……それは俺達に突き刺さり――――。

 

「おい鴉、この娘……空気読めなくないか?」

「……雫はいつもこんな感じだぞ」

「ぐさっと何かが吾に刺さったな」

 

 俺達三体の妖怪を口撃だけで狼狽えさせたのだ。

 その口撃のせいで言い合いを続ける雰囲気ではなくなり、気まずくなった俺は話題を変えることにした。

 

「そうだ。玉藻の奴アイドルやってるんだよな?」

 

 色々聞きたいことはあったのだが、一番気になっていたのはこれだったのでこいつらに聞いて見たのだが、何でかアイドルという言葉を出してから二人が妙な反応をしたのだ。

 

「……どうした二人とも、急に黙って」

 

 何かまずかったのだろうか? と、そう思い顔色を確認していると何かを決心したような表情で酒呑が口を開いたのだ。

 

「いや、ちょっとトラウマが蘇っただけだから心配するな。それで、やってるかどうかだろ? やってるぞ……」

「名前分かるなら聞きたいんだけどさ、これって聞いていいやつか?」

 

 一応自分なりに色々アイドル調べてみたんだが、名乗りそうな名前で調べても出てこなかったし、あのヒトの事だし花言葉を入れたような名前だと思ったんだが見つからないんだよな。

 酒呑の反応的に聞かない方が良い感じな気がするが、やはり好奇心には抗うことができないので出来る事なら聞いてみたい。だけど、微妙に引き攣ってる爺さんの顔的に聞かない方がいい気も……。

 

「……白銀妲己だ」

「え、そのまま過ぎないか?」

 

 アイツは元々外国からやってきた妖怪で、昔妲己とか名乗ってたらしいのだが……流石に今も有名なのに元の名前のままで活動するのはヤバいだろう。

 一度断りを入れて名前で調べてみれば、ヤバいほどの人気アイドルという事を知る事が出来た。

 

「というか玉藻の奴大丈夫なのか? 今スマホで見て見たが、容姿も狐耳隠したぐらいだし、陰陽師とかに襲われるだろ」

 

 白銀妲己で検索してみて出てきた写真はアイドル衣装に身を包んでいるがそれ以外は平安時代で見慣れた姿。

 あいつの絵は昔よく出回っていたし、現代でも陰陽師の間では残ってるだろうから危なくないのだろうか?

 そう思い普通に心配でそんな風に聞いてみたのだが、それに対する答えは微妙なモノだった。

 

「それが……大丈夫らしいな。アイツ曰く、最近鬱陶しい陰陽師共が襲ってきたんですが、お話ししたら監視だけになったって言ってからな――まあ後は分かるだろう?」

 

 それ陰陽師の上層部魅了された感じじゃないか……。

 変な想像してしまったが、あいつに関わったのは確定だろうし多分魅了されてるんだろうなぁ。

 

「玉藻って有名な九尾の狐ですよね……改めて思うんですが、鴉様の人脈ってどうなってるんですか?」

「んー普通だぞ? ただ長く生きてるから知り合い多いだけだからさ、なんなら雫に紹介しようか? 人魚とか餓者髑髏とか蛟とか……あと誰だ? あぁそうだ土蜘蛛とか隠神の爺さんとか良い奴だぞ」

「あ、いえ大丈夫です。恐れ多いというか、なんというか……」

 

 遠慮しなくていいのにな、皆良い奴だし何より今選んだメンバーは常識がある奴らだし、雫の事を知れば親戚おじちゃんみたいになってくれると思うし。

 

「土蜘蛛は違うだろ……」

「こいつに同意するのは嫌だが、吾もそれは同意見だ」

「えぇ……そうか?」

 

 個人的にはあいつは古い妖怪の中ではかなりの常識枠だと思ってるんだが……だって、子蜘蛛の面倒見は良いし……やった悪行といえば都を襲ったぐらいだしな。

 

「ご馳走様です。そうだ鴉様、ちょっと先輩の所に用事があるので出かけさせて貰いますね。」

「ん、お粗末様。気を付けて行ってこいよ」

「主様私も食べ終わりましたので、掃除でもしてきますね。あと今日の家事は私がやらせて貰います。ですからゆっくりしてくださいね」

 

 雫の後に続くように立ち上がった阿惟は、綺麗に完食されたオムライスの皿を全員分重ねて、そのまま台所に向かっていった。 

 そうして雫が出かけ阿惟が掃除に戻ったことでこの場には、三体の妖怪が残される。

 

「なあ鴉もう一つ聞きたかったことがあるんだが、お前はなんで配信中に性別変えるんだ?」

「………………成り……行き?」

「あ、それは吾も聞きたかったな。お前に性別ないのは分かってるが、男でいるときにどうしてああなる? なぜ童女になったりするのだ」

「やめろ、そこをツッコまないでくれ。本当にああなったのはマヨイビト達のせいなんだ」

 

 俺はそういう妖怪だし望まれたらやるよね、だから仕方ない。

 そう言いたかったが、それを言ってしまえばツッコまれそうだったので自重してとりあえず、視聴者に責任を擦り付けることにした。

 

「……人のせいにするなよ、まあでも楽しそうならいっか。あ、そうそう。お前明日女装するんだろ? いまからファッションショーでも始めようぜ?」

「What's? ちょい待て、明日はメイドの口調で参加するが実際に着るとか言ってな――待て、おい鞍馬の爺さん? なんであんたまで近寄ってくる?」

「すまぬな鴉、もう服は用意してあるんだ。大人しく着せ替え人形になれ。というかなってくれ、じゃなきゃ……吾らが死ぬ」

 

 何かを思い出しながら哀愁ただよう表情でそんな事を伝えてくる鞍馬天狗。

 逃げようにもこいつらから逃げるなんて余程速い妖怪じゃなきゃ無理で、あっという間に拘束された俺は、自分の部屋に連れ込まれて――――。

 

「あ、ちょ本当に待て、せめて変化させ――なんでウィッグまで用意してるんだ!? 離せ、まじで離してくれ、根元掴むな酒呑飛べなッ、つうかなんで狐が俺の部屋に!? ひゃっ、やめ――いやだメイドになりたくない!」

 

 

待ってた!

この日のために仕事休んだ

この配信を肴にもやし食べるわ

今日のために断食した

というかサムネの鴉様草

一人だけ和服じゃなくてメイド服

50000円

しかもロリ

9000

一人だけ浮いてて草

恐ろしく速いスパチャ俺じゃなきゃ見逃しちゃうね

俺も見逃さなかったわ

                     

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【百鬼ノ宴】飯ウマ妖怪は誰だ!? 料理王決定戦!!!

15.396 人が視聴中・0分前にライブ配信開始       い175 う12 へ共有ほ保存 …


【公式】妖ぷろ ☑

チャンネル登録者数 42万人

 

「さぁ、川魚の諸君今日は俺ら妖怪の祭に参加してくれてサンキューな。今回の司会兼料理役を務めさせて貰う依童神虎だ。今日はお前ら川魚達に思う存分飯テロさせて貰うが、恨むなよ?」

 

[神虎様キター!]

[常識ポジが司会だこれはいける]

[今回はあの混沌料理作る妖怪はいないからきっと神虎様の胃は死なない(フラグ)]

[まあ胃が死んでも胡瓜あれば生き返るから大丈夫でしょ(適当)]

 

 沸いていくコメントや神虎先輩の胃を心配したり胡瓜万能節を掲げるコメント。それにくすりと笑いそうになりながらも俺は、自分が紹介されるまでは気配を殺しただ黙って置物となる事にした。

 

「皆さんこんばんにゃー! 妖ぷろ二期生所属だった気がする仙魈(せんしょう)だにゃん! もう、二本ぐらい開けてるけど、寝ないように頑張るにゃんよ」

 

 瓢箪が現れその中から煙の用に現れる吾らが先輩。

 彼女は用意されていた司会席の前に立ち絵をおかれた後で元気よく挨拶した。

 

[どんな配信でも酒を飲むことを忘れない妖怪の鏡]

[そもそも料理できるんですか?]

[酒に酒かけて料理って良いそう(偏見)]

[流石酒猫]

 

「酷いにゃーね、そもそもウチ審査員にゃよ?」

「……早速馬鹿が一人見つかって胃が痛いが、最初のゲストの九十又仙魈だ。昼間の配信中に寝ないか心配だが、まあそこは阿久良の奴がなんとかしてくれるだろう……という訳で次のライバーの紹介だ」

 

[流されてて草]

[もう胃がいたそう(小並感)]

[そういえば酒猫ってカップ麺に熱燗注いで美味いって言ってたし味覚大丈夫なのか?]

[流石酒猫]

 

「うちの仙魈が本当にすまないな……改めて妾達の宴に参加してくれて感謝するぞ餌達には悪いが、今夜は食してやらぬが、存分に楽しんでいってくれなのだ」

 

[はい可愛い]

[#見習え酒猫]

[可愛い]

[癒やされるわ]

 

「対極的なコメントだが、俺もそれに関しては同意しよう。さて次は俺と同じ男枠そして癒やしになり得るかもしれない後輩の紹介だ。頼むぞ鵺?」

 

 そして次は俺の盟友の番。

 司会役として呼ばれたアイツは、雷獣らしく空から雷と共に降ってきて、

 

「ヒョーヒョーという鳴き声からこんにちわ、妖ぷろ三期生所属源鶫っです! 今日は待ちに待った料理企画、僕の尻尾の蛇も楽しみにしてましたし、今日のために1日断食した気がしますのででいくらでも食べれますよ!」

 

[(゚∀゚)o彡゜つぐみん(゚∀゚)o彡゜つぐみん]

[常識枠その2]

[気がするは草]

[癒やし枠]

 

 こんなコラボでも全く緊張していないのか、いつも通りに挨拶をしちゃんとネタを入れてきた。 

 

「あまり無理するなよ、さて次は個人的に未知の料理スキルをもつ式神妖狐の番だな」

「未知とは酷いわね、ある程度の料理なら作れるわ……あ、子狐の皆妖ぷろ三期生の七尾玲那よ。今日は料理企画という訳だからかなり練習してきたから安心して見てくれると嬉しいわ」

 

 七尾も七尾でいつもの調子でそう言い、笑顔で視聴者に挨拶する。

 それにやっぱり俺の同期は凄いなと思いながらも、自分の番は次なので心の準備をすることにした。

 

[可愛いけど、うっかりを発動しないか心配]

[なんか爆発させそう]

[基礎技能高いし大丈夫でしょ]

[まあ一個作るのは決まってるし失敗はしないでしょ]

[決まってるんだ]

[うんワサビ盛り寿司を酒猫に食べさせないといけないからね]

[そういえば罰ゲームあったわ]

 

「そうね今回のためにちゃんと山葵芋を用意しておいたわ。だから安心してね先輩」

「どうしよう……なにも安心できにゃい」

「そこは自分で罰ゲームを用意した過去の自分を恨むんだな……そして次が最後なんだが――ひとつだけ先に言わせてくれ、妖ぷろの悪乗りは怖いと。さぁ出てこい大妖怪」

 

 そしてやってくる儂の番。

 少し不穏な紹介に首を傾げながらも、ここは事前に用意した台詞通りにやらせて貰う。

 

「皆様こんにちは、妖ぷろ三期生の浮世鴉と申します。今回は妖ぷろのメイドとして妖怪の皆様に私の手料理を振る舞わせて貰います。お客様方もどうか、私達妖怪の宴を存分にお楽しみくださいね?」

 

 用意された立ち絵は母親が2日で仕上げたロリメイド状態の儂。

 普段の着物とは一変してこれこそがメイドという衣服に包まれている儂は、背や骨格なども少女に寄せられていて、それを見るだけでロリに対する執念のようなものを感じてしまうような一品だった。

 しかもこの立ち絵に妖ぷろは本気を出してしまったせいで、頭を下げれば羽も一緒にお辞儀するようなモーションをするという素敵仕様。

 

[この妖怪一応男ってま?]

[だった気がする……]

[鴉様はやっぱり最強]

[ロリママメイド鴉爆誕]

[髪も伸びてロリっぽくなってる]

[可愛いまじで可愛い]

[違和感の消失]

 

 

「補足だが、この妖怪はリアルの姿でもなんでかメイド服を着ているぞ。俺も初対面は性別分からなくなったが、もうそういうもんだと思わないといけないレベルだったな」

「あの神虎様なんで暴露するのですか? 私、泣きますよ?」

 

 司会である神虎先輩のこいつの性別は何なんだろうという視線を感じながらもそう言ったのだが、なんか言葉にしただけで涙が出てきたのだ。

 何故かって? ふっそんなのは簡単だ。

 だって今の俺は変化を許されない状態で女装させられているから。

 これがもし、変化有りだったら遠慮なくロリ化してコスプレするのだが、人間がいるこの現場で妖怪の力なんか使えるわけがないので退路はなし……しかもそれに加えて今の俺にはある呪いがかかってるのでメイド服を脱ぐことが出来ないのだ。

 

[流石にリアルメイド服は草なんだ]

[あたま妖ぷろ]

[鴉様はやっぱり最高]

[リアルメイド鴉]

[あんまり思っちゃ駄目だけど見てみたい]

[モデルの顔赤くなってて最高]

[これを聞いた俺らも困惑してるけどライバーが一番困惑してる説]

 

 まじで恨んでやるからな酒呑童子。

 配信終わったら覚えとけ……そんな呪詛を込めながらも、配信から手を抜くことなど出来ないので俺は覚悟を決めて羞恥心を消しながら頑張ることにした。

 




 
 次回は料理企画前編のような話を書こうと思ってます。
 一週間以内には出すので、お楽しみください。


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【百鬼ノ宴】飯ウマ妖怪は誰だ!? 料理王決定戦!!! 其ノ一

ちょっとリアルがごたごたしたせいで遅れてしまいませいたすみません。
あといつも誤字報告や感想・評価をしてくれる方本当にありがとうございます!


 始まってしまった料理配信、本来ならメイドを演じるだけの筈だった企画……だったのに阿呆な幼女のせいで儂は何でかメイド服。

 既に頭が痛い状況に、追い打ちをかけるような服装暴露。

 加速するコメントと、哀れむような二つの視線……それに早速入れた気合いが死ぬのを感じながらも儂は表情に出さぬように先輩の言葉を待つ事にした。

 

「まあこれで全員の紹介を終えた訳だ。ツッコミどころある奴が二匹ほどいるが、そこは気にせず今回の企画の説明をさせて貰うぞ、というわけでこいつを見てくれ」

 

 

料理王決定戦簡易説明

・食材は自由

・妨害禁止

・制限時間六十分ぐらい

・猫に酒を与えるな

・猫禁酒

               

▶ ▶❘                                 CC ⚙ ろ わ だ 

【百鬼ノ宴】飯ウマ妖怪は誰だ!? 料理王決定戦!!!

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[制限時間適当で草]

[結構普通なルール]

[食材自由に嫌な予感がする]

[最後の草]

[禁止されてて笑うわ]

[あれ既に飲んでなかったっけ?]

[あっ]

 

 

 コメントを見る限り、今頃最初立てられていた予定通りに今回の企画の簡単な説明が画面に映っていることだろう。確か妖ぷろのスタッフが作ってくれたのは覚えてるが、どんな内容じゃったっけ?

 そんな事を思いながら配信を映してるモニターを見てみれば、そこには仙魈先輩に対する酒を禁止するようにとの文字が記されていた……。

 

「あの神虎様……お酒――」

「……それ以上言うな、あの馬鹿は禁止しても飲むんだ。まあ、流石に始まる前に飲むのは予想外だったが……」

 

 顔に影を宿した様な先輩のその表情。

 それだけで今までの苦労が感じられる気がして、こっちの胃まで痛くなってくる。

 この配信が終わったら、なんか先輩に奢ろうとそう思いながらも彼の指示に従って別室に行き、早速料理をしていくことにした。

 

「始めますがマヨイビトの皆様、改めましてこんにちは妖ぷろ三期生の浮世鴉メイドバージョンです」

 

 ここからは儂のチャンネルでやる事になっているので、改めて視聴者達に挨拶をしてから一度お辞儀した。

 今回のこの料理企画は、司会である神虎・仙魈先輩と鶫達の視点は妖ぷろのメインチャンネルで配信され、儂ら料理する側は自分のチャンネルで配信するというものとなっている。

 ちょっと複雑な企画になっているが、やっぱり推しの視点とかを見たい人に対する配慮としてはこういうのはやった方がいいという神虎先輩の提案でこういう形式になったのだ。

 

 

[メイドバージョン口で言うのか]

[気になったからこっちの枠来たけど、この妖怪は性別何なの?]

[性別は鴉]

[なんでロリ声がこんなに違和感ないんだ?]

[そりゃ鴉様だから?]

 

「あと今回の配信では他の方が何を作ってる・もう完成している等のコメントは止めてくださいね」

 

 この企画的にそういうコメントがあると儂らが楽しめないのでここは釘を刺しておく。

 所謂鳩行為と呼ばれるそれは普段は見かけないが、面白がってやる人もいるので注意は大事だからだ。

 

「それじゃあ早速料理を始めていきますが……ででんっ、ここで一つ問題です! 今日私は何を作るでしょうか?」

 

 私はそういってから今日作るメインの料理の材料を配信画面に表示してから視聴者達に問題を出すことにした。

 このまま素直に料理を作るのも良いが、やはりこういう企画ではちゃんと視聴者の方々と楽しみながらやりたいからだ。

 

・牛ヒレ

・塩

・粒の黒胡椒

・ブランデー

・赤ワイン

・フォンド・ヴォー(自作)

 

 まあ正直フォンド・ヴォーと表示してる時点で、知ってる視聴者にはフランス料理って事が分かるだろうから、簡単な問題だろうけど、まあそこはいいだろう。

 そう自分で結論づけてから、横目でコメント欄を見て視聴者達の反応を待ってみれば、

 

[ででんっ]

[可愛い]

[この妖怪推さなきゃ(使命感)]

[この材料だと……がいこくのりょうりだな!]

[鴉様だと和食作りそうだったけど、メイドバージョンだから外国の料理なんだ]

[フォンド・ヴォー使うって事はフランス料理?]

[というかフォンド・ヴォー自作は草]

 

 ちょっとふざけてやったででんって部分に注目されたり、博識兄貴がいたり、自作の部分に反応してくれる優しい視聴者の姿を確認することが出来た。

 それに満足して自然と頬が緩んでくるが、流石に強いメイドバージョンでやると決めたからにはそんなだらしない表情を見せるわけにはいかないので、すぐにキリッとした表情に戻すことにした。

 

「ふふっ、そうですよ自作したんですよ。まあちょっとそのせいで寝不足なんですがね」

 

[はっ、閃いた! これは可愛いメイドだ]

[キリってなった瞬間に可愛いこと言いだして頭バグるかと思った]

[こいつは男? いや女性? え? なんなのまじで]

[切り抜きで見たイケメン鴉の面影がないんだけど]

[雇わせてください]

[嫁になってくれないか?]

[いや俺が貰う]

[婿にならせてください]

 

「駄目ですよー、今の私は妖ぷろのメイドなので仕えられません」

 

 流石にここまで演じればメイドになりきる事は苦でない。

 だからこれからは羞恥心に怯えることなんてないし、さっき以上にメイドに儂はなれるだろう。

 

「ですが……そうですね、もしもマヨイビトの皆様中に妖怪がいて妖ぷろに来てくれるのなら仕えてあげても良いですよ?」

 

 なんか楽しくなってきたので、料理を進めながらカメラに向かって上目遣いでそう言ってみることにした。

 ちょっと悪ノリが過ぎたかもしれませんが……ちょっとどんなコメントが来るのか気になったので後悔はない――と思ったのですが、

 

[よし輪廻転生してくる]

[山っていけば妖怪になれたっけ?]

[海の中で半年過ごせば海坊主になれるかな?]

[鳥人間コンテスト極めて天狗になるわ]

[地面に潜って怪異として語り継がれるか]

[皆人間止める覚悟してて草]

[ちょっくら百薬枡探してくる]

[私も同行しよう]

[↑花京院!?]

 

 予想以上の反響に一瞬で顔を引き攣らせてしまったのだ。

 え、何なのじゃ? マヨイビト達の団結力やばくないか? 儂、もしも此奴らが武士とかだったら勝てる気がしないんじゃが。

 あまりにも予想してなかった反応に、演じるのを止めて素に戻ってしまった。すぐに演じ直さなければいけないのだが、やはり衝撃というのは大きいモノで少し手が止まってしまう。

 

「あ……えっと、下準備も終わりましたので焼いていきますねー」

 

 まだ衝撃が抜けきれず震え声になってしまったが、そこは許して欲しい。

 そうやって心の中で見知らぬ誰かに謝ってから、粒の胡椒をまぶしたヒレ肉を暫くフライパンで焼くことにして、それにちょっとマイクを近づけてからちょっとしたASMRっぽい事をすることにした。

 

「今お肉を焼いていますよー聞こえますか?」

   

[飯テロが強すぎる]

[なんかあれだわ匂いを画面越しから感じられる能力欲しい]

[なにその能力凄い欲しいわ]

[ソレ凄く悪用出来そう]

[その能力は欲しいね]

[やっぱり人間止めるしかないのか]

 

 なんだその能力儂も欲しいぞ。

 そしたらよく深夜に見てしまう飯テロ動画で匂いを感じられて満足することが……いや、それはむしろ悪手ではないか? だって匂いは感じられるけど味わう事が出来ないからむしろ腹が空きそうな気がするのじゃ。

 

「確かにその能力便利そうですが、お腹空いてる時地獄じゃないですか?」

 

[あ、そうじゃん]

[盲点だったわ]

[深夜に発動したら死ねる自信あるわ]

[気づけて良かった]

[救世主鴉]

[新属性かな?]

 

「ふふ、助けちゃいましたね。感謝しても良いですよ……あ、そろそろオーブンに移さないといけませんね」

 

 平常心を取り戻したのでメイド口調をこれなら維持できそうだ。

 そう思いながらも、今回作る牛フィレ肉のポワレを仕上げるために焼きあげた三つのヒレ肉をオーブンへと入れることにした。

 

「じゃあこの後はソースを作って完成なのですが、時間も余ってますしついでにスープでも作りましょうかね?」

 

 今回は三人分の料理だったから多めに材料を盛ってきてるし、多分余るでしょう。

 それなら余るだろうフォンド・ヴォーとソース用に持ってきた赤ワインを使ってちょっとしたスープでも作るのはありかもしれませんね。

 

「…………よし、ソースの完成です。あとはスープですね――あ、どうしましょう玉葱がありません」

 

 スープを作ろうとした所で気付いたのだが、今回私は使わないと思ってて玉葱を用意していませんでした。

 個人的になのですが、スープには玉葱が入ってないと落ち着かない私……玉葱なしスープは許すことが出来ないけど、もう作ろうと決めた以上今更止めるのはなんか嫌ですし……。

 

「そうだ。七尾様あたりなら多分持ってますよね」

 

 確か七尾様は色んな野菜を使って料理するわ……っと言っていましたし、きっと持っているでしょう。

 あの娘なら多分ですが分けてくれるでしょうし、ちょっと部屋にお邪魔させて貰いますか。

 

「七尾様、今いいですか?」

「もうすぐ終わるから良いわよ、でもちょっと待ってちょうだいね」

 

 そう言われたら待つしかないので少し待ってから、扉が開くのを確認して私は彼女にと用意された部屋に足を踏み入れた。

 何をしていたのだろうと思って部屋を見渡してみればその答えはすぐに分かった。

 彼女のテーブルの上に巨大なクローシュが置いてあったのだ。

 流石七尾様ですね、ちゃんと私に料理がバレないように隠してますね。

 

「もう料理は完成したからいいのだけど、急に何の用かしら?」

「えっと玉葱が必要になりまして、余ってないか聞きに来ました」

「玉葱ね、それなら二つほど余ってるわよ」

「貰っても良いですか?」

「ええ全然いいわよ。あ、それとちゃんと私の子狐達に挨拶しなさい、盛り上がってるわ」

 

 その言葉を聞いた私は、配信を確認できる用の画面を見てみたのだがそこには、今回の為に書かれた私の立ち絵が表示されていて、横のコメント欄がかなり盛り上がっている様子を見ることが出来たのだ。

 

[三期生てぇてぇ]

[優しい世界]

[やっぱり三期生仲がいいなぁ]

[鴉×式神妖狐……いいね]

 

「あ、どうも子狐の皆様浮世鴉メイドバージョンです。もうすぐこちらの配信も料理が終わりますのでよければ足を運んでみてくださいね」

「こら、私の子狐を取ろうとしないの。祟るわよ」

「怖いですね七尾様」

 

[これが伝説の挟まれるシチュか!?]

[ありがとう、夢が叶った]

[百合の間に挟まれてるような感覚だ]

[百合……なのか?]

[百合じゃね?]

 

「私は男なので百合じゃないですよー」

 

 これは本当に大事なことなのでそうやって釘をさしてから、私は自分の部屋に戻ってスープを仕上げてから皿に盛り付けて料理を完成させることが出来た。

 

「ちょうどいい時間ですし、さっそく持って行きますか。マヨイビトの皆様、今日は付き合ってくれてありがとうございます。私の枠は閉じますが、続きは妖ぷろ公式チャンネルでやりますので、どうか引き続きお楽しみください」

 

 

 




 次回はメインチャンネルので料理の審査です。
 どうかお楽しみください。
 


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【百鬼ノ宴】飯ウマ妖怪は誰だ!? 料理王決定戦!!! 其ノ二

今回は早く書けたぞ!


料理乙カレー

三期生の料理凄かった

きいてるかぎりみんなおいしそうだったよね

鴉様は料理ができすぎて嫁に来て欲しいと思った

七尾様が料理できて驚いたby子狐

やらかさなかったの奇跡でしょ

でもまあやばい料理はあったよね

七尾様のあれでしょ、あのワサビ盛り寿司

9000

料理お疲れ様代

これからの料理審査楽しみだなー!

料理する企画だったから無言が多くなりそうで怖かったけどみんな喋りが上手かったから飽きなかったわ

                     

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 料理を運び司会の三人がいる部屋に戻ってきてから画面のコメントを見てみれば、こっちにネタバレにならない範囲のものばっかりで、何故かそれが無性に嬉しかった。

 それにちょっと満足しながらも用意されたテーブルに料理を置いてから、私は神虎様の言葉を待つ事に。

 残りの七尾様と椛様も同じように料理を並べて司会の言葉を待ってるみたいだ。どんな料理を作ったのか気になりますが、それはもうすぐ知る事が出来るのでちょっと我慢しないといけません。

 でも、阿久良様の馬鹿でかすぎるクローシュの中身とか凄い気になります。

 

「よしお前ら揃ったな、ひとまず料理お疲れだ。クオリティが高い? でいいか分からんが……みんな個性があり見応えがある料理風景で実況してて楽しかったぞ」

「ですね、特に盟友の料理中の鼻歌の時とかはコメント欄が沸きに沸きまくったりととても楽しかったです」

 

 え、儂……鼻歌とか歌っておったのか?

 いや、流石にそんなわけないじゃろ……そんな事になってれば、きっと儂の配信でのコメント欄で何か言われる筈だし……。

 

[めっちゃ動揺してるのか周り見てるの草]

[可愛い]

[あ、コメント欄見たのかさらに顔が赤くなった]

[何故かあの時黙って用って天啓が来たから黙ってたけどまじでやってよかった]

[まさか俺以外に天啓を得た奴がいたとはな]

[お前らも? 私の所にも来たわ]

[怪奇現象じゃん]

[こっわ]

 

 えぇまじなのか……というかなんなのじゃその啓示、妖ぷろの視聴者多いはずなのにその全てに行ったのか? そうだったのならまじの怪奇現象ではないか。

 

「なんかやべぇことになってるきがするにゃんが、そこは気にしない方がいいってお酒が言ってるにゃん」

「おい馬鹿猫、酒は喋らないしなんで司会席の下に酒瓶が五本転がっているんだ? いつのんだ? おい目をそらさないでこっち見ろ」

「いやー、ウチ思ったことがあるにゃんね。この企画中に何本開けれるかなーって……でもあれにゃんよ? ウチのマネちゃんともみにゃんのマネさんは許可出してくれたから問題ないのにゃ」

「お前も共犯か阿久良?」

「妾は知らぬ……そもそも、仙魈の奴に禁酒を提案したのは妾だし、そんな事を許可する訳ないのだ」

 

 なんか此処のやり取りだけで普段の神虎先輩の苦労が見て取れる気がしますが、そこはツッコまない方がいいのでしょうね。

 それと、仙魈先輩のマネージャーさん自由すぎませんかね? いやこの場合稗田様も共犯だから彼女もかなり自由って認識した方が……。

 

「まあ先輩方料理も冷めますし、これ以上仙魈様にツッコんだら進みませんよ?」

 

 少し責められている仙魈様を庇うようにそう言う鶫様。

 

「それはその通りなんだけどな、司会中も思ってたが鶫は馬鹿猫に甘くないか?」

「甘くありませんよ? ただ推してるだけなのでそう見えるだけじゃないですか? まあ正直めっちゃ甘いと思いますけどね!」 

「……どっちなのよ鶫さん」

「流石私の一升瓶にゃん! ほら、もみにゃんも河童ももっとウチに甘くなれ」

「ふふっ、仲いいですね皆様」

「あっ浮世鴉様が笑ってるまじで尊い……なんだ主ら、妾の方を見て?」

 

 結局どっちか分からなくなるようにいつもの構文を使う鶫様と、ツッコむ七尾様そして調子に乗る仙魈様……とかいうカオスな図が広がり、それを見た私は自然と笑ってしまった。

 ……一瞬だけだったのですがなんか阿久良様が限界民化してるのが見えたけど気のせいですよね?

 

[やっぱり一升瓶の俺らは仙魈様に甘くなるよな!]

[それはマジで仕方ない、癖になるからね甘やかすの]

[安定のつぐみん構文]

[調子に乗る仙魈様可愛い]

[それに頬を引き攣らせる神虎様……]

[い つ も の]

[なんか阿久良様バグってない?]

 

「まあ言われたし進めるが、最初は誰から審査する? 俺としては量が少ないモノから食べたいから浮世鴉の奴の飯から食いたいんだが……」

「あ、僕もそうですね。盟友のご飯は冷めたら味が落ちてしまいますのではやめに食べた方がいいと思います」

「鴉の飯ニャン? あ、そうにゃ鴉ワイン余ってたらウチにくれにゃ」

「あ、いいですよ仙魈様企画が終わった後お渡しします」

 

 流石に配信中にこれ以上飲ませるのはノー。

 そんな事を思った私はちゃんとそう言ってから料理を運ぶことにして、三人の前に牛フィレ肉のポアレと即興で作ったオニオンスープを置いた。

 

「めっちゃ美味そうだがよく作れるな、確かフランス料理だろ?」

「この料理は結構簡単ですよ。よければ今度作り方お教えしましょうか?」

「そうなのか? なら今度コラボでもするか」

「それなら私で良ければその誘い受けさせて貰います」

 

 なんか流れでコラボが決まってしまいましたが、正直めっちゃ嬉しいですね。

 多分メイド状態でなければ叫んでいる自信しかありません……というかニヤけていませんよね? 最近演じてると気が抜ける事が多いから怖いのですが。

 

[鴉様がニヤけまくってるの可愛い]

[やっぱりこの鴉女だろ(確信)]

[河童×鴉?]

[ひらめ……いた?]

[薄い本厚くしないと(使命感)]

[やばい妖ぷろ配信に現れるお姉様方がアップ始めたぞ!]

 

「ンっ――とにかくお召し上がりください。鶫様何笑ってるんですか……ぶっ殺しますよ?」

「あの盟友笑ったのは悪かったんですが、怖いので急に口悪くならないでください」

 

 そんなに私が笑うのはおかしいのですか?

 そういう圧を込めながら睨んでみればすぐに屈する私の盟友。

 やっぱり三期生で一番強いのは私なんですねと確信しながらも、自信満々に笑ってみればコメント欄がまた加速するという光景を見ることが出来た。

 

「悔しいけど料理に関してはウチの負けにゃんね。まあゲームで勝つからいいにゃんけど」

 

 少し不貞腐れながらも料理を食べてくれる仙魈先輩は、なんでかそんな事を言いながら料理を完食して最後に美味いと言ってくれたのだ。

 やっぱりいつになっても褒められるのは嬉しいもので、また頬が緩んでしまい妖ぷろの謎技術のせいで私の表情が配信で筒抜けになっているのか、恥ずかしいコメントがどんどん襲ってくる。

 

「この鴉かなりチョロくない? 不覚にも可愛いとおもったにゃんけど……本当に男なの?」

「一応こんな姿ですが……男ですよ? 正直いうと今すぐ布団に入ってゴロゴロしたいぐらいには恥ずかしいです」

「じゃあなんでその格好で来たのかは聞くのはありにゃんか?」

「……聞かないでくれると助かります……いや本当に」

 

 霞と理沙先輩あたりは気付いているだろうが、俺には今酒呑童子の呪いがかかってるからな。

 そのせいでメイド服を脱げないし、何より口調を維持しなければ何が起こるか分からない……ので本当に仕方ないのだ。女に変化することさえ許されてればいくらでも本当に着られるのになぁ。

 

「なんか闇深そうだから聞かないでおいてやるニャン、感謝するにゃんよ後輩」

「助かります……そうだお二方はどうですか? 私の料理、変な味しないでしょうか?」

「問題ないどころか、一番手にはもったない味だ。あとの事を考えると気が重くなるぐらいには美味かったぞ」

「優勝候補ですね盟友、前遊んだときに手料理食べさせて貰いましたがあの時より美味しくてビックリしました」

 

 二人のその言葉を聞く限りこの反応なら高評価と思っていいはず。

 神虎先輩の口からちょっと気になる言葉が出てきましたが、多分ソレは七尾様のわさび寿司……ですよね? 阿久良様の料理はまだ見えてませんが凄い良い匂いですし、問題とかなさそうですから。

 

「次は私の番ね、あんまりインパクトはないと思うのだけど今回作ったのは肉じゃがと味噌汁よ……あと仙魈先輩用のワサビ寿司よ」

「カメラで見てたから知ってたけど、大トロが飾りになってるワサビ寿司とかもうワサビが本体にゃんよね」

「でもちゃんと大トロは使ってるわよ?」

 

 確かに寿司の上に大トロは乗っていますが……その下になんでワサビが層みたいになってるのですか?

 これまじで人の食い物じゃない気がするのですが……でも不思議ですね、その他の料理はすっごい普通の物ですし神虎様と鶫様が怖がるような物じゃないです。

 

[家庭的だなぁ]

[あれ、やばいのってこれ?]

[全然普通というか、むしろ食べたい]

[嫁に来てください]

[鴉様を嫁にください]

[和の七尾と洋の鴉]

[なやむなぁ]

 

「普通に美味しかったな」

「ですね、とても安心できる味でした」

「まって……ウチの心配してよ、死ぬワサビに殺される……本当に待って」

 

 完食して満足したのかそんな言葉を残す男組とワサビに殺されて悶絶する仙魈様。

 しかもあまりにもつらいのか、いつものキャラを保てなくなっている。

 しかも安心して食べれる肉じゃがの後にワサビ寿司を食らったんです。きっとそのダメージは計り知れないでしょう、なんかぴくぴくと痙攣もしてますし、これ大丈夫なのでしょうか?

 

[嫁に本当に来て欲しい]

[カメラに写ったけど本当に美味しそうだった]

[まあその美味しそうな料理を食べた後にワサビ寿司にやられた妖怪いるんだけど]

[あの寿司は絶対に人の食べ物じゃない]

[酒猫死去]

[くそう酒に俺は倒されると思ってたのに!]

 

「な、なんとか復活にゃん。じゃあ最後は本命のもみにゃんの飯にゃね!」

「あぁ……そうだな。逝くしかないか」

「盟友……僕達の生存を願ってください」

「あの男性の皆様、どうしたんですか? 顔が死んでおりますよ?」

 

 阿久良様の料理を食べる直前、復活した仙魈様は待ってましたと言わんばかりにナイフとフォークを構えた。そしてその反応の裏で男組の表情が死に、どこか覚悟を決めたような雰囲気を漂わせたのだ。

 なんでしょう? もしかしてヤバいのって、阿久良様の?

 

「よし妾の番じゃな、今回作ったというより用意したのは……これなのだ!」

 

 やっと自分の番がきた阿久良様は自分が持ってきた巨大なクローシュが勢いよく開いた。一体何が入ってるのでしょうと、思いソレを見たのですがそこには――――。

 

「牛の……丸焼き」

「そうだ妾が用意したのは松阪牛の丸焼き! この日のために奮発して買ったのだぞ」

 

 そうやって笑顔で言うのはいいのだが、その量はあまりにも規格外。

 一頭だったら良かったのだが、巨大すぎるクローシュの中には三頭の牛……つまり本来なら大人数で食べる筈の牛の丸焼きを一人一頭食べる計算に……。

 

[にっこにこで草]

[善意100%]

[既に酒猫の分が半分なくなってるの草なんだ]

[絶対カービィが胃袋に入ってるって(恐怖)]

[男組頑張って]

[牛三頭が並ぶ光景とかやばいな]

 

 コメント欄からも動揺が伝わってくるが、その気持ちは分かるので私は今何も言えない。

 

「美味しいニャン! でもこれじゃあ足りない気がするニャンね」

「妾も少ないと思ったのだが、まあこのぐらいならすぐだろうな。良い感想待ってるぞ?」

「食べるぞ鶫……終わったら打ち上げだ」

「ですね先輩、生き残りましょう」

 

 人間の限界を超える速度でもっきゅもっきゅと言う効果音を出しながら食べる仙魈様。

 その速度は昔見た酒呑童子の食う速度に近い物があり、ソレを見るだけでかつての妖怪達での宴を思い出し……私に胃に多大なるダメージが入っていくのが分かった。

 食費が……私が持ってきた食材が全部幼女の胃に……。

 そして、私がトラウマを思い出している中、食べる度に胃を抑える男組がいてこの場はあまりにもカオスなものに。

 

「提案なのですが、私も阿久良様のご飯を食べてもよろしいでしょうか?」

「む? 全然良いぞ! むしろ友である鴉には食べて欲しかったのだ。待っておれ、今切り分けてくるからな」

「私も貰って良いかしら阿久良先輩、こんな立派な牛だもの食べてみたいわ」

「そうか、なら七尾の分も持ってこようではないか」

 

 流石にこのままでは配信が終わらないと思った私がそう提案すると、近くにいた七尾も乗ってくれて流れ的にみんなで牛を食べることになった。

 阿久良様が鼻歌を歌いながら切り分ける中、男組に視線を送ってみればすっごく感謝するような感情を感じる事ができたので、それに気にするなと伝えるように笑う。

 すると何故か拝まれるとい事態に発展するという謎な状況になったが、その後は何問題なく配信が進み、みんなで牛を食べることに……。

 そしてそれから二十分後。

 

 

「完食……ですね――皆様お疲れ様でした」

「美味かったが俺はもうしばらく牛を見たくない」

「明日から僕はまじで走らないとやばいです」 

「美味しかったニャンね……そういえば男共はなんで死んでるニャン?」

「そうだな、美味しかったのになんで死んでおるのだ?」

「きっと……美味しすぎて昇天しかけてるのよ」

「そういうものなのか……まあ、満足してるならよしなのだ」

 

[死ぬ男子勢と全然元気な女子勢で草]

[やっぱり妖ぷろ女性陣の胃袋おかしいよ……]

[七尾様もあっち側だった件]

[牛三頭がなくなってる光景きっと人生でもう見ることないだろ]

[敬礼]

[表情三人ともまじで死んでて笑う]

 

「あとは結果発表なんだが……これって純粋な味で評価すればいいよな?」

「そっちの方が分かりやすいし、それでいいにゃんよ」

「僕も……異論はありませんね。まずは僕からの発表です」

 

 ちょっと配信時間がオーバーしてしまったが、待ちに待った結果発表がやってきた。

 誰が勝つのだろうか? そう思うとドキドキしてしまったが、インパクトだと私が負けているので正直勝てる気がしない。

 

「僕は盟友ですね。とても美味しかったですし何よりあんまり食べたことないフランス料理ってのがよかったです」

「じゃあ次は俺だな。俺は七尾の和食が勝っていたと思うぞ、優しい味だったしかなり拘って作ってたのを見てたからな」

「ウチはもみにゃんにゃ、豪快に牛を焼くのが最高だったし見応え食べ応え全部あったし美味しかったにゃん」

 

 鶫様が私に、神虎様が七尾様に、そして仙魈様は阿久良様……つまり結果は同票で優勝者はなし。

 

「これってみんな優勝ですか?」

「そうじゃない? 同票な訳だし」

「むぅ、勝つつもりであったのだが駄目であったか。まあこの結果もありだな」

「じゃあ優勝者は全員って訳で今回の配信はこれで終わり……か? かなり長い配信だったが、ここまで見てくれてありがとな。今日この場に出た全員のチャンネルは概要欄から飛べるから気になったら奴がいたら遊びに行ってくれ!」

 

 そして優勝者が決まった事で配信を終える事となり、神虎様が最後にそう告げて今日の配信を終わることになった。かなり長くてオチとしてはちょっと弱かったかもしれないけど、かなり盛り上がったこの企画。

 こうやって誰かと一緒に競うというのは久しぶりだったからかなり楽しかったし今日は参加して良かったな。

 

 

おつー!

お疲れ様でした!

みんな料理美味しそうだった

鴉様の料理食べたいぞ

むしろ鴉様を食b

次のコラボ企画楽しみ!

牛ヤバかったね

鴉様がやっぱり可愛かった

                     

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 次回は司会側の視点と掲示板を混ぜた話。
 近日中には投稿するから楽しみに待っててください。
 それといつも感想をくれる方々やここすきをつけてくれる方々本当にありがとうございます。いつもそれを後から見て執筆の励みにさせていただいてるので、遠慮なく送ってくださいね。


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【百鬼ノ宴】飯ウマ妖怪は誰だ!? 料理王決定戦!!! 司会ノ章@掲示板

今回は予告通りに掲示板と司会視点の話。


 

 待ちに待った料理配信。

 早速カオスな光景が広がってしまったが、それ以外は順調で今頃盟友達は料理部屋に向かってることでしょう。

 それにしても緊張しますね、結構お世話になってる神虎先輩はもう慣れたから大丈夫なのですが……やっぱり推しと一緒に配信するのは心の底から緊張します。

 

「あ、最初に部屋に着いたのは盟友ですね。手際よく材料を並べてますが、何を作るんでしょうね?」

「見た感じ肉を取り出したみたいだが、ワインとか見るに……ステーキでも焼くのか?」

「肉にゃんか、今日は食べるつもりだったからバッチこいにゃんね!」

 

 あ、推しが気合い入ってる可愛い。

 やばいですね、推しが近くにいるし今日は本当にちゃんと出来るか心配です。

 とりあえず今は、ちゃんと進行しないとせっかく来てくれた視聴者の方々に悪いので、いつも調子でやりますか。

 

「次は七尾さんですね、野菜とか色々取り出していますがこっちは何を作るんでしょう? って鰹節とか取り出してますが、まさか削るところからやるんですかこれ?」

 

 別の画面に注目して彼女が何をするか確認していると今日用意したであろう食材の山から鰹節を取り出した彼女がその場で削り始めたのだ。

 とても慣れた手つきで削っていますが、これ配信に音入ってるんでしょうか?

 あ、入ってますねリズミカルにシュッシュッて音が。

 

「いい音だな、今度胡瓜でASMRでもするか」

「神虎先輩、貴方までバグらないでください」

「いやいい案だろ胡瓜ASMRは」

「いや狂ってるにゃんよ」

 

[聞かなきゃな]

[義務だしね]

[キュウリスキ]

[キュウリバンノウ]

[あぁ洗脳された川魚の群れが]

[キュウリ関わると神虎様やばいよな]

[猫がまともにみえる恐怖]

[やっぱり常識枠なのつぐみんだけだわ(確信)]

 

「ほらお前ら川魚達がキュウリは正義だって」

「お前が洗脳した奴らの意見とかアウトにゃん」

「あーでも胡瓜は美味しいですよね、流石に先輩ほどは食べれませんが」

 

 普段はあんまり大食いしない先輩は胡瓜の事になると、本当にバグるんですよね。

 常識人な先輩が何がそこまで先輩を奮い立たせるのか……分からな――いや胡瓜ですね。

 

「さて次は……阿久良のだが、まあアイツは安心して良いだろ」

「ですよね、阿久良先輩ならきっと和食でも作るでしょう」

「それは違うにゃんよ、ウチはもう知ってるけど牛を豪快に使った一品を作るらしいにゃん」

 

 牛を豪快に……それなら盟友と同じステーキですかね?

 なら和牛のステーキですか、洋と和を同時に食べるのちょっと楽しみで――。

 

「え、なんで牛その物が!?」

「何言ってんだつぐ――ふぁ!?」

 

 楽しみだなとそう思った瞬間に、目に入ったのは三頭の牛。

 それはもう立派な牛が三頭並び、そのまま丸焼きにするための器具にセットされるというあまりにも現実味のない光景が広がっていたのだ。横の神虎先輩は普段絶対配信で聞かなそうな声で驚いているし、そもそも牛三頭って馬鹿みたいな値段しますよね? というか、これ僕らが食べるん……ですか?

 

「おっあれなら満足出来そうにゃん」

「マジですか仙魈様、僕食える自信一切ないんですが……」

 

[この猫の妖怪は何を言っているの?]

[日本語かいまの?]

[牛なんで?]

[一頭でもやばいのに三頭は……笑えねぇ]

[どうしよう妖ぷろ男組の目が死んでる]

[これは仕方ない]

[あとなんか火力凄くない? みるみる牛が焼けていってるんだけど]

[《速報》ぽん童子、牛三頭を丸焼きにする]

[これもしかしなくても一人一頭計算?]

 

 なんか一瞬チラッと見えたコメント欄に馬鹿みたいな事をいってる視聴者がいましたが気のせいですよね?

 一人一頭とか無理ですよ? もしかして視聴者の目玉飛んでいきましたか? だってあの牛どう考えても大人ですしサイズ馬鹿ですよ? 

 

「アッ盟友が鼻歌歌いながらお肉焼いてますね、もうこれが癒やしです。あと最近思うんですが盟友って性別なんなんでしょう? 神虎先輩分かります?」

「それは今日初めて会った俺に聞くのは酷じゃないか? 長い付き合いのお前が分からなきゃ駄目だろ。いやまぁ、口調完璧でメイド服を完全に着こなしているアイツを見ればそう思うのは仕方ないとは思うが……なんか真面目に考えるとSAN値削れそうだな」

「これだから男は……って言いたいニャンが、あれは反則だから目を瞑るニャン。というか、あの人なんであんなに肌白いの? 生まれる性別間違ってるでしょ」

 

 やっぱりみんなそう思いますよね。

 この二人は初対面だったはずですが、開幕よろしくお願いしますご主人様方ですからね。

 事前情報では男って聞いてたはずでしょうし、絶対混乱してでしょう。僕はもう三度目のメイド服で少しは慣れましたが、やっぱり驚きますもん。

 

[鼻歌可愛い]

[あれなんか向こうの配信にコメントできな――]

[なんか頭にビビってきたんだけど何これ?]

[コメントしてはいけない気がする]

[というか見たい、鴉様のメイド服見たい]

[でも見てはいけない呪い]

[俺来世は妖ぷろの壁になるんだ]

 

 

 なんかコメント欄で怪奇現象起こってますが、妖ぷろの配信では結構な頻度で起こるのであまり気にしない方がいいですよね。それに今はソレを気にするより自分達の胃を心配しないといけないですし……。

 阿久良先輩が牛をモンスターなハンターが出てくるゲームのように焼く光景を見ながら、そんな事を思った僕は、まともに料理を作ってくれる三期生の仲間の方を見て静かに涙を流した。

 

「神虎先輩、終わったら打ち上げでもしましょうね」

「そうだな、まあ生き残れるか分からんが約束しよう」

「なんか男二人が変な事で仲良くなってる気がするにゃんが……これツッコんで良い奴かにゃん?」

 

 出来ればツッコまないでください。

 そんな事を心の中で思った僕はもうすぐやってくる料理の山を思いまた涙を流し、最初に盟友のご飯を食べたいなぁと切実に思いながら……心の準備をすることにした。

 

ツッコむな猫

逆になんであの牛を見て恐怖を覚えないんだ

まあ猫は満漢全席一人で食べるしね

男達生きてられるのかな

おれ一回丸呑みした事あるけどめっちゃきついぞ

二人の顔が死んでいるのだ

ここまで生気のない表情を見れるのは妖ぷろだけだよな

まじでどんな技術で表情出してるんだろう?

牛三頭は絶対やばいって

                     

▶ ▶❘                                 CC ⚙ ろ わ だ 

【百鬼ノ宴】飯ウマ妖怪は誰だ!? 料理王決定戦!!!

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【公式】妖ぷろ ☑

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【総合】VTuberついて語るスレ:その×××

 

256:Vの民

妖ぷろ相変わらず狂ってたね

 

257:Vの民

ただの料理企画だと思ってたのにまじで笑った

まさか牛が出てくるとか思わないでしょ

 

258:Vの民

初見だったんだけど妖ぷろの表情凄かった

何種類ぐらい用意されてるんだろうね?

 

259:Vの民

数えようとしたけど多すぎて無理だった記憶ある

 

260:Vの民

そこは七不思議の一つだから気にしたら負け

 

261:Vの民

自分も初見だったんですが、あの鴉のキャラヤバすぎません?

男……なんですよね?

 

262:Vの民

鴉様の性別は鴉様だぞ

最近では妖ぷろで一番の怪異だから気にしたら祟られる

 

263:Vの民

メイド服着て配信してたんでしょ? 

やばいよね

 

264:Vの民

正直凄く見たかった

 

265:Vの民

ファンアート増えまくってるから見れるよ

 

266:Vの民

俺も創作欲が高まりすぎて最速で描いたよ

…………夜鴉の方で

 

267:Vの民

 

268:Vの民

あー本当に見たいな凄く可愛かったんでしょ?

 

269:Vの民

メイド服で来てたって神虎様言ってたし秋葉でみた人とかいるんじゃない?

 

270:Vの民

そういえばあの配信の日に秋葉でメイド服を着た美少女みた気がする

 

271:Vの民

確かちょっとTwitterで話題に上がってたよね、何故か写真に撮れない美少女って

 

272:Vの民

写真撮ろうとすると鴉が来たり狐に襲われたり蛇に絡まれるって盛り上がってたわ

 

273:Vの民

詮索NG

話題ずれてる

 

274:Vの民

あ、すまん

 

275:Vの民

話戻すけど料理企画面白かったね、鴉様の料理とかお店で出せるレベルだったし、七尾様の凄く家庭的だった

 

276:Vの民

次の日呟いてたけどメイド服じゃなかったら和食作る予定だったんだって鴉様

 

277:Vの民

和食も見たかったね

 

278:Vの民

あ、それなら今度個人の配信で和食作るっていってたから待ってるといいよ

 

279:Vの民

楽しみだねぇ、今度はショタ声かな?

 

280:Vの民

偶にしか出さないイケメン声での料理も聞きたいかも

 

281:Vの民

あーわかる

 

282:Vの民

あと今度神虎様とのコラボがあるからそれも楽しみ

 

283:Vの民

そういえば今日の夜に総大将の配信あるんだけど何やるんだっけ?

 

284:Vの民

えっと確か、一期生三人でのコラボ配信だったはず

 

285:Vの民

あーFPSやるんだよね

 

286:Vの民

胃を痛める神虎様の姿が見えてくる

 

287:Vの民

近接戦闘のぬらりひょん、バーサークしながら敵を蹂躙する天狗、胡瓜に癒やしを求める河童

 

288:Vの民

どうしよう神虎様が一番まともなのに一番ヤバく見える

 

289:Vの民

だってストレス限界値に達すると胡瓜食べるから……

 

290:Vの民

やっぱり妖ぷろやばい

 

291:Vの民

じゃあそろそろ別の箱の話しようぜ

 

292:Vの民

おーけー

最近熱いのだと異世界バーチャルズと世界書庫かな

 

293:Vの民

魔王様、魔王様!

 

294:Vの民

ゆーしゃ、ゆーしゃ!

 

295:Vの民

双子異世界組じゃん

 

296:Vの民

ショタ&ロリ!

 

297:Vの民

吸血鬼設定の勇者とかいう色物

 

298:Vの民

しかも姉が魔王

299:Vの民

吸血魔王がゆーしゃの姉

それか吸血鬼の姉が魔王でVTuberやってる件

 

300:Vの民

それなんてラノベ?

 

301:Vの民

リアル双子でVTuberやってるっぽいからね絡みが自然で凄い見てて癒やされる

 

302:Vの民

いつも正義っぽくなる魔王様すこなんだ

 

303:Vの民

逆に魔王を追い詰めて悪役ムーブかますゆーしゃ好き

 

304:Vの民

それを宥める王女

 

305:Vの民

ぽんこつ王女でしょ?

妖ぷろ限界民の

 

306:Vの民

キリッとした真面目キャラなのに総大将の前で限界民RTA始める王女様好き

 

307:Vの民

普段→国民よ、私の配信によく来てくれたな! 今日もよろしく頼むぞ。

総大将コラボ時→すぅー、あのぉよろしくお願いします、推してます。

 

308:Vの民

二重人格かな?

 

309:Vの民

俺らじゃん

 

310:Vの民

切り抜きある?

 

311:Vの民

あるよ貼っとく

【異妖コラボ】ぬらりひょんに限界民化する王女様【切り抜き】

 

312:Vの民

さんくす

 

313:Vの民

この切り抜き好き

 

314:Vの民

二期生は一般兵士とギルドマスターとエルフだっけ?

 

315:Vの民

みんなキャラ濃いけど、一般兵士はまじで社畜してて草なんだよな

 

316:Vの民

共感する話題しかなくて涙出てくるんだ

 

317:Vの民

エルフは植物関連の知識がエグいよね

 

318:Vの民

ギルドマスターはあれ、普通にめっちゃ面白い

 

319:Vの民

酒の話題だけで二時間話し続ける酒豪

 

320:Vの民

酒猫と飲んでたときヤバかったな

 

321:Vの民

二人とも下関連の話いけるから無限に終わらなくて笑った

 

322:Vの民

運営からストップ入った話笑うんだ

 

323:Vの民

ストップはいってなかったら永遠に続いたきがする

 

324:Vの民

そろそろ書庫の方話そうぜ

 

325:Vの民

そうだね

書庫と言えば、まああれかシンデレラか

 

326:Vの民

いや白雪姫でしょ?

 

327:Vの民

いやいや裸の王様だよ

 

328:Vの民

この中で一番濃いのは裸の王様だよね

 

329:Vの民

最後まで明かされなかったからイケメンキャラかな? とか思ってたのに超イロモノキャラだったから笑った。

 

330:Vの民

しかもマッチョで超イケボ

 

331:Vの民

さらにビジネスマッチョじゃなくて、めっちゃ知識があるという

 

332:Vの民

あの人の筋トレ講座みたいなので彼女出来たんだよな

 

333:Vの民

俺も

 

334:Vの民

私も出来た

 

335:Vの民

本人が善人過ぎてアンチすら心痛めた話好き

 

336:Vの民

圧凄すぎるからちょっと苦手

 

337:Vの民

まあ圧は仕方ない

 

338:Vの民

美少女二人の間に挟まる二メートルはあるマッチョ

 

339:Vの民

でもホラー苦手で叫ぶの可愛い

 

340:Vの民

女性陣より叫ぶの草なんだ

 

341:Vの民

ギャーー!(イケボ)

 

342:Vの民

あとは元ヤンシンデレラとドルオタ白雪か

 

343:Vの民

うーん字面カオス

 

344:Vの民

あ、そういえば今度鴉様と魔王様がコラボするって!

 

345:Vの民

まじで何処情報?

 

346:Vの民

鴉様の呟き

 

347:Vの民

 

浮世鴉【妖ぷろ所属】@ukiyo_youpuro

今度吸血鬼とコラボするのじゃ!

待っておるのじゃ外国妖怪

 

348:Vの民

可愛い

 

349:Vの民

ロリとロリの絡みか楽しみだね

 

350:Vの民

鴉様はショタだよ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 次回から三章です。
 メインは他の箱とのコラボの話をする予定で、ちょくちょく番外編を挟む感じかな?
 そしていつも感想や評価ありがとうございます。いつも笑わせて貰ったり、元気を貰ったりしているので、感謝しかないです。
 これからも遠慮なく送ってください!
 


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吸血魔王と裸の筋肉
鴉様のノベルゲー配信@コラボのお誘い


お久しぶりです。
ちょっと六月と七月前半が忙しくて投稿できていませんでした。
しばらくは結構余裕が出来たので、出来るだけ更新できるように頑張ります。



ぐちゃりとそんな音が鳴っていた

 

 何処とも分からない暗く静かなその場所で絶え間なくその音は鳴っていた

 

 

 僕はどうしてここに居るのだろう? 

 

 

 なんで……こんな所にいるのだろう?

 

 

 何も見えない。だけど音だけは続いている

 

 

 それがいいことなのか、悪いことなのか今の僕には……判断できなくて、

 

 

 ただただ同じ音を聞くことしか出来なかった。

 

 

 一定間隔で近づいてくるようなその音を聞いていると、今にでも狂ってしまいそうだ。

 

 

「ミつケた――ヨ?」

 

 

 ぬめりとした湿った感覚、それが触れたと同時にそんな声が耳元から聞こえてきた。

 

 

「これで――ズット、一緒だネ?」

 

BADEND 21 【共生】

 

 

 BADEND……そんな文字が表示され、やってくるしばしの沈黙。

 確認用の画面で見れるコメント欄には草ばかりが生え、それが余計に心を抉ってくる。

 そして、

 

「だからなんでじゃー!」

 

 儂の心の底からの叫びが部屋に響き、癖で机を叩いてしまった。

 バンッという勢いのよい音と、再び聞こえる軽快なBGM……何度聞いたか分からないそれに、多少苛立ちながらも儂は再びタイトル画面に目を通す。

 

 

 

       

                                                              僕の不思議な日常ラブコメ

 

 

 

はじめから

続きだよ

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おまけ

またね

▶ ▶❘                                 CC ⚙ ろ わ だ 

ノベルゲームをやってみるのじゃ!!@雑談配信【浮世鴉】

26.396 人が視聴中・125分前にライブ配信開始       い486 う43 へ共有ほ保存 …


【妖ぷろ】浮世鴉 Ch

チャンネル登録者数 73541人

  

 

 

 数十回ほど訪れたこの画面。

 これ以上ないタイトル画面&パッケージ詐欺に心をやられながらも、儂は再びデータをロードした。

 流石にこれだけ繰り返せば心はなくなってくるが、一つだけ聞かせてほしいのだ。

 

「さてマヨイビト諸君、儂の何がダメだったと思う?」

 

 切実なその問い。

 画面の先に居るマヨイビト達は、きっとその問いに答えをくれるから――そんな考えで投げかけたのじゃが……返ってきたのは無情な反応だった。

     

[だからスライムは助けるなって言ったのに]

[このゲーム基本人助けしたら詰むからなぁ]

[続きどうぞ]

[学習しないぽん鴉]

[気持ちは分かるが、見て見ぬ振りしないとね]

[……スライムに負ける鴉様?]

[閃いた]

 

「閃かないで?」

 

 意図せぬホラゲーのせいで闇に葬りたいロリ声が出てしまったが、今回のはホラーノベルだったからここは許してやるのじゃ。

 というか、マヨイビトが閃くせいで母上が浮夜鴉を増やし、それに触発された他のマヨイビトが更に増やすという永久機関はいつ収まるのじゃ? こないだイラスト投稿サイトでタグ見たときとか、日中から変な声が出たのじゃ。

 

「でだ、マヨイビト達よ……すっごい今更じゃが、このゲームのジャンルを答えてくれぬか?」

 

[ラブコメギャルゲ]

[タイトル通りラブコメ]

[ラブコメありのハートフルゲームだぞ]

[なんでそのハートフルゲームで主人公が死んでいるのですか?]

[萌え死んだんじゃね?]

[鴉様に殺される俺らと同じ感覚だよきっと]

 

「確かにじゃ、儂は主らにやるゲームを募集し、最初は別の種族が出てくるハートフルラブコメと聞いたぞ? ……じゃがな、蓋を開けたらハートフルボッコ系ホラーノベルとか主らに人の心はないのか!?」

 

[草]

[妖怪に人の心がないかと聞かれても]

[涙目で草]

[このゲームの完全初見プレイはいつみても面白い]

[鴉様無限に死んでそう]

[耐久配信になりそうな予感]

 

 タイトルは少し違和感がある物の、よくあるノベルゲーム風のモノで【僕の不思議な日常ラブコメ】だった。

 だけどどうだ? 蓋を開ければ某運命のゲームの主人公以上に命が軽く、そこら辺に死が詰まってる世界とかどうなっているのだ。

 まだマシな怪異系のホラーや人間の闇、挙げ句の果てに修羅場からの殺し合い。

 なんなのだろうかこの悪意の玉手箱は……。

 ここに来るまでに既に主人公が何人亡くなったのかはもう分からず、多分今頃墓場には数十個もの死体が埋まっているだろう。それも変死体ばっか……。

 

「まああれじゃな、流石にそろそろこのゲームにも慣れてきたし……攻略予定じゃった巫女の子をさくっとハッピーエンドにでも連れて行くのじゃ!」

 

 顔を一度叩いて気合いを入れて切り替える。

 深呼吸してからマウスカーソルを続きからに合わせてクリックし、一番最新のデータをロードした。

 とりあえず、桜の木の下の選択肢に戻った儂は、物音を無視してヒロインの子と下校する。

 

[学習する鴉]

[鴉は賢いからね]

[なお初見の時]

[「こういう時の物音はきっといいフラグなのじゃ! 猫とか出てきて!」]

[しかもこのゲームの猫は基本的にやばいと学んだばかりでやったから本当に吹いた]

[一個前は飼い猫に飼われるENDだったねトオイメ]

 

「猫可愛いから仕方ないじゃろ、そもそもがさがさっていう物音でスライム出てくるとは思わないのじゃ……」

 

 普通なら物音がするとかなら猫とかなら犬とか猫とかじゃろう。

 どんな思考回路だったらスライム娘が倒れているという発想に至れるのじゃ、罠じゃろあれ……。

 

「とりあえず今日はエンディングまでやっていくが、引き続きネタバレは無しで頼むぞ」

 

[はーい]

[任せろ鴉様]

[雪椿:任せて。あともうスライムに襲わせてるからあとでFAチェックだよ]

[仕事が速すぎる]

[もうそういう妖怪じゃん……]

[先生ぇ]

 

 

「相変わらず母上は速すぎるのじゃ……」

 

 本人曰く大学生らしいが夏休みの課題とか大丈夫なのだろうか?

 儂の配信の時は毎回いてくれていて、凄く嬉しいのだがそこが心配だ。

 昨日も妄想が爆発しそうって呟きながら数枚ほどの絵を投稿していたが、あのペースでいつ休んでいるのだろう?

 儂の絵に加えて、自分のオリジナルの作品のキャラ達その他の漫画の仕事など……人間のはずじゃが本当に凄い体力だよな。

 

「よし……今日は絶対にハッピーエンドまでいくのじゃ!」

 

 ゲームを進めながらエモい展開を目にした儂は改めてそう決意しながら、テキストを進めていった。

 

 

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日祀社
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浮世鴉 お せ

#XXXX

   ─────20XX年8月17日─────  

10:25 日祀社 突然ですがコラボのお話持ってきましたよ浮世鴉さん

10:29 浮世鴉 突然ですね……自分は大丈夫ですよ

10:30 日祀社 話が早くて助かります。それで今回のコラボなんですが、なんと箱外……

つまり、他の事務所とのコラボなんですよね

10:32 浮世鴉 別の箱とのコラボですか、楽しそうですね

結構ありますが、どの事務所とのコラボなんですか?

10:34 日祀社 異世界バーチャルズですね、そこの魔王であるシュヴァルツさんとのコラボです

10:37 浮世鴉 また大手ですね、何やるかは決まってるんですか?

10:40 日祀社 そこは当人達で決めたほうが面白くなりそう……と社長が

10:42 浮世鴉 あはは、了解です

10:45 日祀社 あとはこっちで打ち合わせの機会を設けますが、特に質問はありませんか?

10:47 浮世鴉 特にないですね、頑張らせて貰います。

 

 

 


日祀社へメッセージを送信  GIF  へ  

 

 

 そんな事があって、初めての箱外コラボが決まった翌日。

 緊張もあるが、今回のコラボは相手側からの依頼という事もあり大半を嬉しさが占めている。

 でもまだやはり緊張は取れないので、少しでもそれをほぐすために先日箱外コラボをした糀の奴に相談することにした。

 

「やっほ糀……先日のコラボお疲れ様ー」

「あざます盟友、大変でしたが楽しかったですよ」

 

 通話をかけてから数秒で繋がり第一声としてそう言えば、糀の奴は上機嫌でそう返してきた。

 先日というか三日ほど前の八月十五日に糀は、俺がコラボする予定の異世界バーチャルズの勇者枠であるブランというVTuberとコラボしていたのだ。

 やった内容といえば、全世界の遊びが51種類も詰め込まれた最新のゲームで野球をしたりタコ焼きというカードゲームをやったりしていたのは記憶に新しい。

 野球では糀の奴が数回ほどホームランを食らったり、タコ焼きで何故か無双する大妖怪の姿が見れたりと非常に満足する動画となっていたのを覚えている。

 

「それで盟友、何の用ですか?」

「そうだそうだ今度俺も、箱外コラボする事になったんだよ」

「いいじゃないですか! 何処とやるとか決まってるんですか?」

「お前と同じ異世界バーチャルズだな、魔王様とコラボする事になったぞ」

「…………まじですか、流石盟友」

「それで今日は緊張がやばいから、かけたんだが……この後ゲームでもしないか?」

 

 緊張を解すならゲームが一番。

 それにこいつとなら気楽に出来るし、何より楽しい。

 それに今日は今度配信でやる予定のDBDの練習をしたかったし、ゲームが上手い糀と一緒にやれば上手くなれるという算段だ。

 

「そういえば、魔王様の配信って見たことありますか?」

「元々見てたが、昨日から過去の配信を見てる感じだな。どういう人か気になるし」

「そうなんですね、それならおすすめの動画ありますよ?」

「まじか、なら後で送ってくれ」

「任せてくだ――――盟友待って! そっちにマイケルが!」

「えっちょまひゃぁ!」

 

 話に集中していたら曲がり角からマイケルに襲われるという事件が発生し、最早染みついてきたロリ声を配信外で出してしまうという痴態を晒してしまった。

 そういえば、魔王様の配信ってホラーゲームが多いけど……まさかコラボでもホラーやるとかないよな……毎回ガチで怖いホラーをやる人だから、普通にホラーを持ってくる可能性があるが……儂、ロリにならずにすむかなぁ。

 マイケルにメメモリされながら俺はそんな事を考えて、次のマッチへと向かう事にした。

 

 




 前回からお気に入り登録してくれた皆様、そして評価や感想・ここすきをしてくれた皆様本当にありがとうございます。
 励みになるのでこれからもどんどん送ってください!


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久しぶりの真珠麿晩餐会

 お久しぶりです。
 今回は箸休めのマシュマロ回。
 ちょっと短いですがお楽しみください。


 コラボが決まってから約二日程経った月曜日。

 今日も今日とてどんな配信をしようかと考えながらもネッ友の太郎丸45世さんとDBDのランクマを午前中に周し、雫を見送った午後のこと。

 

「あー暇じゃ、午後から配信するのは変わらぬがそれまでまじで暇なのじゃ」

 

 最近夏の暑さのせいか人間状態でいるのも面倒くさく、大体の時間を妖怪状態で過ごしているせいか常に儂口調になっている気がするが、それはきっと暑さのせいなので仕方ない。

 まあそのせいで糀と話しているときや打ち合わせの時も妖怪口調が稀に出るのだが……。

 

「暑いのじゃー」

 

 ゴロゴロと床を転がりながらクーラーの効いた部屋で休んでいるが、今日がかなりの猛暑なせいであまり冷えていないのだ。こんな時こそ気分を紛らわせる為にもエゴサでもして動画の感想でもとも思ったが、スマホが遠いせいで取りに行く気になることが出来なかった。

 

「……年々暑くなってるんじゃがまじで地球温暖化大変じゃよな」

 

 昔はよかった……と思ったが、儂の全盛期である平安時代とか今の気温とあんまり変わらなかった気がするので、いかに家電の魔力が恐ろしいのかが分かってしまい、人間に一瞬恐怖を抱いたが、ありがたいのでそれはすぐに感謝へと変わっていった。

 

「こんな時こそ雪女の知り合いの家にでも行けば涼めるのじゃが、外出るの怠いからのぉ」

 

 基本家に引き籠もってる儂にとって暑さは天敵である。

 わんちゃん儂の種族が吸血鬼だったら永遠に家に引き籠もってるレベルで敵だ。  

 暑さが敵って部分で自分で首を傾げてしまったが……太陽=暑さみたいなものだから変わらないだろう。

 

「そういえば、近々チャンネル登録者であるマヨイビト達が八万人行きそうなんじゃよな」

 

 同期である七尾達も八万人までもう少しじゃし、何か記念の配信でもしてみるべきか。

 …………まあそこらへんは要相談じゃな、儂一人で盛り上がっても意味が無い。

 

「っと、そうじゃ久しぶりにマシュマロでも食すか、結構溜まってたしそろそろ返さないと悪いじゃろう」

 

 それと今回こそは例の怪異に遭遇しないようにマシュマロに結界でも……電子の海に結界ってどう貼るんじゃ?

 いつも現れる怪異マロの対策として結界を貼ろうと思いついたのだが、よくよく考えてみれば電子の世界に妖力を使う方法が分からなかったので断念する事になった。

 あのマロは面白いのだが、毎回どういう経緯で一番上に紛れ込んでいるか分からないから当事者としてはかなり恐怖なのだ。読まないという選択肢もあるのだが、儂の第六感がやめとけと毎回のように警告してくるから逃げれない。

 

「じゃあ早速マシュマロの整理じゃな! どんな質問が溜まってるか楽しみなんじゃ!」

 

 よし暑さを振り払い事も兼ねてテンション上げてやってこー!

 

          

 

鴉様こんばんはー

胡瓜食べませんか?

  

                  

 マシュマロ

 

「さてマヨイビト及び川魚の諸君、なにか弁解はあるかのう?」

 

[だってコラボするし]

[胡瓜美味しいし]

[やっやれって天啓が!]

 

「いやな、これが二~四件ぐらいならよかったのじゃがな。なんじゃ三十件って儂の菓子倉庫胡瓜畑になったぞ!?」

 

 いや本当にビビった。

 これがクソマロ爆撃かと戦慄までしてしまったぞ?

 でもまあ正直これを貰った時ふふって笑ってしまったし、しょうもなくて吹いてしまったせいで雫に変な目で見られてしまったのだ。

 

「主らのせいで今日の晩飯は胡瓜三昧だし謝っとくれ」

 

[食べたんだ……]

[草]

[食べてるの草]

[計画通り?]

 

「いやな、あんなに胡瓜テロされたら食べるしかないだろう」

 

 これでもか! とやってくるクソマロならぬ胡瓜マロのせいで儂は無性に胡瓜が食べたくなり、地元のスーパーを何軒か回って胡瓜を買う羽目になったのだ。移動する度に増えていく同じ野菜に偶然あった近所のヒトとかに変な目で見られたし本当にどうしてくれようか。

 

「さてさて次のマシュマロじゃが……これじゃな」

 

          

 

鴉様こんばんはー

お料理コラボの時の事なのですが

女性陣はどうやって牛を丸々完食できたのでしょうか?

気になって夜も寝れません

 

  

                  

 マシュマロ

 

 それは儂に聞かれてもと思ってしまうが、それは仕方ないだろう。だってそれは面の前で見ていた儂が一番訳が分からない事だし。

 あれじゃぞ? 巨大な牛三頭が目の前でどんどん消えていくのじゃぞ? どう考えても恐怖以外の何物でもないし、今でも稀に訳が分からなくなる。

 

「あれは一種の怪奇現象じゃから気にせんほうがよいぞ質問者様よ」

 

[この鴉逃げたな]

[いや、逃げるだろ]

[怖かったよね]

 

「そうじゃなかなり怖かった」

 

[九十又仙魈:鴉? お前も食べるにゃんよ?]

[草]

[やべぇの来ちゃった]

[食べる(意味深)]

[キマシ?]

[いや物理だ]

 

 丁度どんな反応が出てくるかなと思いながら偶然見たコメント欄。

 そこには今丁度話題に上がってる女性陣の一人である九十又仙魈先輩の姿があり、儂は自然とひゅっと悲鳴を上げてしまった。

 

「あーあれじゃな、頭おかしい量でもいっぱい食べる女性って素敵じゃと儂は思うぞ?」

 

[阿久良椛:親友?]

[七尾玲那:鴉さん?]

[喧嘩売り続けてて草]

[あーあ]

[ばいばい鴉様]

[失言デッキ作ってるの?]

 

「すぅー……次のマロにでもいくかのう」

 

 何故こんな平日の配信が同じ事務所の仲間に見られているのだろうか?

 さっきからそのせいで体が冷えてくるのじゃが……早く話題を逸らさなければまた失言してしまいそうじゃな。

 

          

【隣の席の鴉様】

 

「あれ?」

 

机の中を漁ってから鞄を確認してからその一言。焦りを覚えながらもそういうも、目当てのものは見つからなかった。一応最後にロッカーを見てみるもやはり見当たらない。

 

「なんじゃ、何か忘れたのか?」
                  

次の授業の教科書が見当たらず焦る僕に声を賭けてくるのは、ロリにもショタにも見える隣の席の妖怪だった。

図星だったのが恥ずかしくちょっと顔を逸らしてみれば彼女は、仕方がないって様子で笑う。

 

「また教科書でも忘れたんじゃな、見せてやるから机を寄せい」

「悪いよ、それに見づらいでしょ?」

「気にするでない、それにそんな事を言うまえに忘れ物をなくせ」

「……善処するよ」

 

まったく本当に彼女には頭が上がらない。いつも助けられてるし彼女が隣の席で良かったな。

「まったく、反省するのじゃぞ?」

 

何がおかしいのか責めながらも笑う彼女に首を傾げていると、そっと顔を近づけてきて

 

「そうじゃ今日放課後付き合っとくれ」

 

ぼそっと囁くように告げられたその一言、あまりにもかわいい声でそう言われて僕の顔は真っ赤に染まり、今から放課後が楽しみになってきた。

 

 

                    

 マシュマロ

 

[朗読は草]

[一人二役でさらに草]

[メンタル化物じゃん]

[傑作]

[泣いた]

[雪椿:次のイラストはセーラー服だね]

[首塚から出れない生首:草]

 

「ふぅ……誰じゃこのSS送ったの!?」

 

 色々な質問や胡瓜食べませんかのマロのなかで異彩を放っていたこのSSマロ。

 きっと頑張って書いたであろうこの一作を思わず朗読してしまった儂は一息置いてからそう叫んだ。

 もうあれだツッコみ所がありすぎるのだ。儂が女になってるし学生やってるし、なによりなんかデレてるし! しかも微妙に出来が良いからムカつく。

 しかもコメント欄にもツッコみ所があるせいでなんか疲れる。 

 母上がコメント欄で新たに儂のイラストを作ろうとしているし、なんかすっごい見覚えのあるNNがコメントしてるし!

 まじでなにやってるのじゃ酒呑童子……現代満喫しすぎじゃろ。

 

「さて、そろそろ良い時間じゃし、終えるが今回は俗に言うクソマロが多かったの、儂としては楽しいのでどんどん送ってくれて構わぬが、送る相手は選ぶのじゃぞ?」

 

 色々あって疲れたが今日は楽しかったのう。

 そう思いながら最後にそう釘を刺し、配信を閉じた儂は一人伸びをしてあまりにあまった胡瓜を食べに行くことにした。

 

 




 次回はもう少し早めに更新したい。
 あと前回の話で評価してくれた方や感想くれた方本当にありがとうございます。


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吸血魔王の雑談配信

お久しぶりのトッポです。
リアルが忙しく久しぶりの投稿でございやす。


                     

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

▶ ▶❘                                 CC ⚙ ろ わ だ 

吸血魔王の雑談配信

3.396 人が視聴中・5分後にライブ配信開始          い147 う9 へ共有ほ保存 …


セレネ・シュヴァルツ

チャンネル登録者数 187964人

 

 

 

 

 

「さぁ魔物共、跪きなさい」

 

[セレネ様ばんわー]

[お側に]

[今日も相変わらずのロリボ]

[安心した]

[ロリ可愛い]

 

「ロリじゃないんですけど!?」

 

 最早ロリと言われたら反射的に出るようになったその言葉。

 いつも思うんだけど、どこをどう聞いたら私の声がロリ声に聞こえるんだろうか?

 弟に確認しても姉さんは大人っぽい声って言ってくれてるのに。

 いやいい、もう慣れた。私だって一年は配信をしている系の最強吸血鬼だ……今更ロリと言われて動揺するようなクソザコメンタルではないのだ。

 

[助かる]

[今日の一ロリ]

[あ、ロリじゃないんだが数える兄貴だ]

[いやあれは姉貴だぞ]

 

「初めて認知したけど、何なのよそいつ?」

 

 今までの数えられてたんだ。

 というか、数えられる程に私さっきの言葉言ってたの?

 流れるコメントの中で見つけたそのコメント。

 そこで知った私の視聴者がやっていることに戦慄しながらも、私は雑談を続けていく。

 

「そうだ。そういえば今度コラボをするわ、相手は妖ぷろの浮世鴉よ」

 

 ある程度話し続けて丁度良い頃合いになった頃、私は念願叶って手に入れた彼と話す機会――というよりコラボの話を視聴者である魔物達に伝えることにした。

 コメントの反応はまちまち、楽しみって言ってくれる人もいれば杞憂する人達もいる。私だって知らない男性とコラボするという話だったら怖かったけど、彼は別だ。

 

「彼とのコラボは安心して欲しいわ、私の勘だけどいい人だと思うの」

 

[魔王様の勘なら安心だ]

[自分が知る中で最強の勘を持つ魔王様の言葉なら大丈夫だね]

[ガチャを回せば全て言った通りの結果を引く能力を持った最強の吸血鬼だからね]

[運が絡んだ物だととことん強いゲームよわよわ魔王]

 

「私、ゲーム弱くないの」

 

[いや弱いでしょ]

[レースゲーめっちゃ下手じゃん]

[妖狩りで鎌鼬に負けてたじゃん]

 

「弱くないわ、あれはゲームの難易度が高いだけよ」

 

[弱いぞ]

[認めてくれ]

[君は……弱いんだ]

[ゆーしゃに十連続で負けたのは誰だろうね?」

 

「あれは弟が強いのよ、だから私は弱くないの」

 

 そうだ。私は決してゲームが下手というわけじゃない。

 それどころかとても強いのだ。だってソーシャルゲームのガチャで天井とかしたことがないのだから。ソルがいくら注ぎ込んでも出なかった人権キャラを単発で二枚引いたし、ゲームには強いのだ。

 ガチャゲー的には弟に勝ってるので、私の方が多分強い――QED証明完了。

 

「いいかしら魔物共? 私はね、勝利数的に言えば弟に勝ってるのよ? だから私の方が強いの」

 

[そうですね]

[確かに運ゲー最強だもんね]

[不正が出来ないじゃんけんゲーで視聴者相手に六百人抜きする化物魔王だしね]

[あれはなんだったんだろう?]

[とても恐怖を感じた]

 

「思い返してみなさい? ってもういいわねこの話題は、それよりコラボの件よ」

 

 こんなどうでもいいことよりコラボだコラボ。

 私達を救ってくれたあのヒトと久しぶりに絡む機会。

 それを想像するだけでも頬が緩むし、何より今から楽しみで仕方ない。

 

[めっちゃ楽しみにしてて可愛い]

[何やるか決まってるの?]

[初コラボだし雑談?]

[歌枠かもよ?]

 

「ふふふ、そこは安心して頂戴」

 

 コメントを確認した瞬間に漏れる笑い。

 何故かと言えば彼とやるゲームをもう決めているからだ。

 

「彼とやるのは所謂馬鹿ゲーと呼ばれてる竹おじね。それで先にゴールした方の勝ちのルールでやるわ」

 

 記憶が確かならかぐや姫に憧れた系おじさんが竹に入って月を目指すとか言うゲームだった気がするけど……どんな思考回路だったらそんなゲームを思いつくのかしらね。

 

[どうしよう落ちまくる魔王様の姿が容易に想像できるんだけど]

[キレてそう(小並感)]

[ご冗談でしょう魔王様]

[貴女にそのゲームは酷では?]

[やめるんだ。勝てるわけがない]

 

「あれ、おかしいわね……どうして私が負けるみたいな空気なのかしら?」

 

 どういう事なのかしら?

 私は最強の魔王であり吸血鬼なのよ、確かに彼に負けるというのは興奮するけれど……それはそうと勝負事で負けるつもりなどないわ。

 

[そういえばコラボのきっかけって?]

[気になる]

[どういう経緯なの?]

[魔王様が誘ったんでしょ?]

 

「きっかけかしら? それなら大層なものじゃないけど私が彼と話してみたかったからよ。あとは社長が妖ぷろのライバーとコラボしてる私達の姿を見たいって言ったからね」

 

 表向きとしてはそんな理由、だけど本当は生きていた彼とまた話したかったから。

 思い出すのは彼と出会った最初の記憶。雪の日に手を差し伸べてくれた彼の姿――何処までも優しく私達を守ってくれた彼の事。

 

[相変わらずの社長で安心した]

[異世界バーチャルズの社長はVTuber限界民だからね]

[自社の社員に話しかけるだけで限界化するやべぇ社長]

[大丈夫? コラボしたら社長の精神果てない?]

 

「大丈夫よ既に真っ白になってるから」

 

[何も大丈夫じゃなくて安心した]

[草]

[黙祷]

[おかしい人をなくした]

[デジタンかな?]

 

 あの時は本当にビックリした。

 コラボしたいわって言った瞬間に後ろに倒れて失神したんだから。

 しかもなんか奇声上げながら、推しが推しと絡もうとしてる尊いとか訳分からない事言ってたし、うちの箱の社長は本当に大丈夫なのだろうか?

 

「とにかく、明後日コラボするから楽しみにしてて頂戴ね」

 

 

 

 夢を見ている。

 いつかの忘れられない夢を見ている。

 

『なぁ主ら、笑わないと楽しくないぞ?』

 

 そのヒトにあったのは偶然……いや運命といってもいいだろう。

 五百年前の雪の日に、私達に手を差し伸べてくれた彼の姿……それは今も覚えていて、忘れる事が出来ない大切な記憶だ。

  

『ねえ、どうして私達に優しくしてくれるのかしら?』

 

 助けてくれて、一時期の間私達を育ててくれた彼に一度気になって聞いた事がある。

 だってそうだろう? 彼からしたら私達を育てるメリットなんてないし、何より本来無関係な筈で何の義務もないはずなのに私達を守る理由が分からなかったからだ。

 

『誰かに優しくするのに理由とか必要ないじゃろ? 強いて言うならあれじゃな、主らのような子供が笑ってないとムカつくっていう理由じゃな』

 

 聞いて見たら彼はそんな事を当たり前の様に言い放った。

 最初はなんだそれって思った。ムカつくって、なんて自分勝手な怪物なのだろうって……だけど、それと同時にこのヒトはどこまでも優しい怪物って事を理解した。

 たった五十年だけだけど、私と弟のソルを守ってくれた彼――浮世鴉。

 私達に生き抜く術を与えてくれて、何より愛情を与えてくれた異国の化物。

 両親から捨てられた私達を――同種族すら恐れられた私達に無償の愛を捧げてくれたあのヒト。

 

「……今日、また話せるのね」

 

 目が覚めて来るはコラボ当日。

 これが終わったら弟に自慢しよう、私の方が先に彼と話したって。

 でも一つ心配だ。数百年ぶりにちゃんと私は彼と話せるだろうか? いつものようにちゃんと私のままでいられるだろうか? ……どうしよう今から心配になってきた。

 

「まあ、やるしかないわね」

 

 そう言ってから私は今日やるゲームを練習しようとしたんだけれど……その瞬間、一件のメッセージが私の元に届いたのであった。

 

「誰かしらって――鴉さん? え、なんで?」





 前回から時間が開いてしまいましたが、来ている感想や一言評価、ここすきなどには全部目を通させていただいておりますので、これからも気軽に送ってくれると作者が喜びます。次回から吸血魔王との竹オジコラボ編です。大体2~3話で終わるのでお楽しみ下さいませ。


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【竹オジ対決】自分の事をカグヤ姫だと信じて止まない一般おじさんを月に送る配信 その一

新年一発目の更新です


 待ちに待った箱外コラボの日。

 先日あった魔王系吸血鬼VTuberのセレネ・シュヴァルツ様の雑談配信で、コラボの宣伝をしてくれた事もあり、エゴサしてみたときとか、普段見かけない名前の人達が結構楽しみにしてくれていたし、いつも以上に配信を頑張ろう。

 まあとりあえず、配信する前に先日貰ったセレネ様に連絡でも入れるとするか。

 

 

会話に参加または作成する

セレネ
                 検索    き め ? 

フレンド

Nitoro

源鶫 

太郎丸45世

雪椿

七尾玲那〇

阿久良椛

依童神虎

 

 

 

 

 

 

 

 


浮世鴉 お せ

#XXXX

   ─────20XX年8月20日─────  

10:36 浮世鴉 今日は頑張りましょうね!

10:37 セレネ ええ、よろしく頼むわ

10:39 浮世鴉 それにしても、セール中に竹オジコラボ提案するかやりますね。

10:41 セレネ 安い方がいいもの、それに今なら私達の配信を機に

ゲームを買ってくれる人が増えるかも知れないでしょ? だから今しかないと思ったのよ

10:43 浮世鴉 さては天才ですね、神ですか?

10:45 セレネ 魔王よ、もっと崇めなさい

10:47 浮世鴉  そうだ配下になっても?

10:50 セレネ 構わないわ、今なら四天王の地位を上げるわよ

10:53 浮世鴉 めっちゃ出世させてくれる草

10:56 セレネ 貴女だもの、そのぐらいはするわ。そうだ浮世鴉さん、コラボ終わったら聞きたい事あるのだけどいいかしら?

11:04 浮世鴉 別に良いぞ。でもそれはなら今でもよくないか?

11:06 セレネ あとで頼むわ 。

11:09 浮世鴉 了解じゃ、時間作らせて貰うぞ。

 

 


セレネへメッセージを送信  GIF  へ  

 

 

 約束してしまったが、儂に聞きたい事ってなんじゃろうな。

 それは気になってしまうが、今はコラボに集中しなければいけないので一旦置いておき配信の準備をする事にする。

 

「そうだ。今日の配信のために竹オジを試しておきたいけど、流石に初見でやった方がいいか? そっちの方が面白いだろうし……」

 

 難しいとは知っているが、七尾の配信を見る限り結構簡単そうだったし、初見プレイで大丈夫……な筈。

 いやなんか嫌な予感がするな、そういえば仙魈様の方ではめっちゃ苦戦していたしあれは七尾が上手かっただけな気もしてきたぞ?

 

「いやでも期待されてるのは流石に初見プレイだろ。嫌な予感とか気にせずに頑張るとするか」

 

[待機]

[ロリコラボ助かる]

[ロリショタだろいい加減しにろ]

[どっちも子供定期]

[運バグ鴉VS運強吸血鬼――フェイト!]

[どんなコラボになるんだろうね]

[楽しみだ]

 

「マヨイビトの皆様方、こんばんはじゃー! 妖ぷろ三期生所属の浮世鴉、今日は告知通り吸血魔王ことセレネ・シュヴァルツ様とコラボしてゆくのじゃ!」

「さぁ魔物共そして初見の方も跪きなさい。異世界バーチャルズのセレネ・シュヴァルツよ。今日はこの世界の妖怪の浮世鴉さんとゲームをしていくわ」

 

 通話アプリで通話しながら、貰ったセレネ様の立絵を画面に表示しながら配信を始めてコメント欄を確認する。

 初めて話す相手で緊張してしまうが、これでも一ヶ月近く配信をしているのでそこらへんは抜かりはないのじゃ。

 

[待ってました!]

[タイトル草]

[確かにその通りだけど]

[クワで月に辿り着ける一般おじさんとは]

[ロリ声とショタ声が同時に存在する場がみれてよかった]

[ロリショタ助かる]

[ロリショタは鴉様だろ!?]

[じゃあロリショタロリで]

 

「ロリじゃないんですけど!?」

「生で聞けた感動」

「鴉さん!?」

 

 セレネ様の持ちネタを生で見ることが出来て感動していれば、秒でツッコミをされてしまい。儂はふふっと笑ってしまった。

 

「というか主らロリショタってなんじゃ、男状態の儂はロリじゃないぞ」

「ロリ状態があるのに疑問を持って欲しいわね」

「…………そうじゃな」

 

 そういえば儂なんでロリ化するようになったんじゃろうか? 

 ……今更すぎるかもしれないが、配信で自然に性別を変えているのはなんでじゃろうな。どうしてだろうと思い原因を探ってみて頭に過るのは盟友兼同期の鶫の笑顔。

 

「……あれ今の地雷だったかしら、なんか表情暗いわよ?」

「いや、気にせんでくれ全部鶫が悪いのじゃ」

 

[源鶫:なんでですか盟友!?]

[いや草]

[なんも関係ないつぐみんが急襲されてるの草なんだ]

[本人降臨で更に草]

 

「とにかくじゃセレネ様、さっそくやっていこうとするかのう」

「そうね対戦コラボだけれど、せっかく遊ぶのだから長く出来る方がいいものね」

「そうじゃな。色々話せると楽しいじゃろうしお互い頑張ろうなのじゃ」

 

 そうやって儂らは互いにゲームを起動してそれを配信画面にへと映し、準備を終わらせた。これから先は真剣勝負だけれど、せっかくのコラボだし仲良くやっていけると最高じゃな!

 

[この時二人は知らなかった壮絶な煽りあいになることを]

[不穏なプロローグやめるんだ]

[でもこのゲームだしなぁ]

[嫌な予感しかしないのだ]

[共闘しなければ友情破壊ゲームだからね]

 

「何故心配する民がいるのじゃ?]

 

 そんなにヤバイゲームなのかこれ、確かに七尾と仙魈先輩の配信は確かに色んな意味で阿鼻叫喚なものになってたが……そんなに酷いものには見えなかったぞ。

 

「ゲームを起動したのはいいのじゃが……何なのじゃ、このおっさん」

「それがこのゲームの主人公よ鴉さん、ほら申し訳程度に長髪のカツラ被ってるでしょ?」

 

 ゲームを起動しパスワードを入れて合流すれば、画面には竹の中に入った二人のおっさんが映し出された。しかもなんかそのおっさんは長いカツラを被っていて手にクワを持っている。

 

「そうか、これが自分の事をかぐや姫だと信じて止まないというおっさんか……頭涌いてないか? ……こやつ」

「それはこのゲームをプレイした全人類が思っている事よ、まず常人は月を目指そうと思わないわ」

「そもそもかぐや姫に憧れた経緯はなんなのじゃ?」

「確か……かぐや姫の名前ってなんか格好良くね? とかいう理由で憧れたそうなの」

 

[理由あっさ]

[初めて知った]

[なんでそれで月を目指そうと思ったの?]

[あまりにも理由が浅い]

 

 まじで理由が浅いのじゃ。

 というかそんな理由の主人公でゲーム一本作るってこのゲームの作者凄いのう。

 まだ月を目指してクワを使って登るって事しか分からないが、今の時点でもツッコみ所がヤバいのじゃ。

 

「この景色は農場じゃな……牛に囲まれた農場で全裸の竹入おっさんって事案じゃろ」

 

 ポップした場所はのどかな農場。

 牛がいて空には鳥が飛んでいるこの場所に生まれ落ちた竹入おっさん。あまりにも場違いすぎて既に頭が痛くなってくる。

 

「このゲームにツッコんだら負けよ、というより序盤でツッコんでたら死ぬわ」

「死ぬのか!?」

「えぇそれもツッコミ死っていう割と哀れな死に方ね」

「そんな死に方大妖怪的にNOなのじゃ」

 

[そんな死に方やだ]

[鴉様ツッコミ属性だし死ぬな]

[ロリ化しそう]

[ホラー以外でも見れるようになるんだね]

[大妖怪? 妙だな]

[即堕ち系有能不憫ポンコツホラゲ苦手ヤンデレ大食いイケメン儂ショタロリ爺婆ママメイドが大妖怪?]

[初見ですが、なんだそれ]

 

「なぁ主ら儂の属性バグってない? え、今そんな事になっとるのか?」

「てっきり認知してるものだと思ったけど違ったのね」

「認知するわけないのじゃ」

 

 儂の当初の見通しではまじで有能鴉として名を馳せる筈だったのに、何故こうなったのじゃ? あれか、流されやすい儂が悪いのか? いやでも望まれちゃったし。

 

[#認知しろ鴉]

[#認知して鴉]

[あ、未だ伸び続けるハッシュタグだ]

[こわい]

[源鶫:流行らせたの僕ですけど、こうなるとは思ってませんでした」

 

「やっぱり主が悪いのじゃ鶫」

「カオスね、安心するわ」

「セレネ様!?」

 

 安心しないで欲しかった。でも流石は魔王このカオスにも適応しているとは凄いのう。

 と、そんな感じで雑談から始まってしまった竹オジ配信。

 まだこのときの儂は知らなかったが、このゲームは頭がおかしかったと言うことを先に告げておこう。




次は一週間以内に更新したい。


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【竹オジ対決】自分の事をカグヤ姫だと信じて止まない一般おじさんを月に送る配信 その二

お久しぶりですカクヨムの方で更新再開したのでこっちにも投稿します。


「そういえばセレネ様よ、このステージはどういうステージなのじゃ?」

「ドキドキワクワク海老と蟹を添えた海からコースね」

 

 前に七尾の配信でやっていたステージとは別なので気になって彼女に聞いてみれば、とち狂ってるような答えが返ってきた。

 このゲームの目標を考えると月を目指すはずななのに、どうして真逆と言っていいはずの海から行こうとしているのだろう?

 そもそもなんでコース料理みたいな名前になっているんじゃよ。

 

「ちなみに出てくるのは蛸と雲丹よ、海老と蟹は出てこないわ」

「コース名が詐欺!?」

「それがこのゲームの常識よ、気にしたら負けなの」

「……既にどういうゲームか分かってきたのじゃ」

 

[目がすでに死んでるの草]

[もうカオス]

[相変わらずこのゲーム頭おかしいわ]

[振り切れたギャグゲーっていいよね]

[わかる]

 

 

 平坦なステージを鍬を使って進みながら雑談を続け、時折コメントを拾いながら配信をしていると急にステージの構成が変わり洞窟のようなものが見えてきた。

 

「そうだわ鴉さん、この先道が二つあるのだけど、せっかくだから別々の道でいかないかしら?」

「お、それはいい提案じゃな! 上と下で別れてるようじゃが、どっちの方が難しいのじゃ?」

「そうね、難易度的には上だけど下は色々な仕掛けがあって面白いわよ?」

 

 与えられた二択。

 配信的に考えれば難しいほうをやったほうがいいかもしれないが、儂の勘的に下でやったほうが笑いが取れると告げている。

 だから儂は迷わず下を選ぶことにして、彼女にその選択を告げることにした。

 

「それなら下じゃな、面白い展開バッチこいじゃ!」

「了解したわ……強く生きて頂戴ね」

 

[黙祷]

[面白い鴉を亡くした]

[死因:ツッコみ死]

[グッバイ鴉様]

 

 

「おっと主ら? なぜ儂が死ぬ前提なのじゃ?」

「いえ、そんな事は思ってないわよ……ただ――いえ、なんでもないわ」

「なぜそんなに不安を煽るのじゃ……」

「期待させるのは演者の基本じゃない」

 

 それは期待させるのじゃなくて絶望へと肩を押してるのじゃないか?

 そう思ったけど、どこかで聞いたことがある言葉に儂は一瞬を首を傾げ、操作ミスをして早速目の前にある穴に落ちてしまった。

 

「む……穴に落ちてしまったのじゃ」

 

 まあ落ちたのなら上がればいいじゃろう。

 そんな考えで気楽に進めようとしたのだが、急にゲーム画面からなんか無駄にいい声で誰かのセリフが流れてきた。

 

「人生何事も経験ですよね。時には穴に落ちてしまう、そして相当なストレスが溜まり失敗が続いてしまう……そんなの悔しいですよね?」

「まあそうじゃな、悔しいのじゃ」

「そうでしょう! だからこそ前に進むのです……時間はいくらでもありますから、前進前進!」

「このゲーム励ましてくれるのか、優しいのう」

「それでは魂込めて、進んでください!」

 

[落ちる度に台詞流れるんだっけ?]

[無駄にいい声なの草]

[仲間が増えたねやったね鴉様]

[おい馬鹿やめろ]

 

 

 そこから別々のルートで進むことになってしまったから、同じ場所で難しさを共有することが出来なくなったので、適当に雑談を続けながら進んでいくとまた儂は落下してしまう。

 

「己を強く持ってくださいね、私達が失敗と呼ぶのは落ちるのではなく落ちたままでいること……そんな事を言っている方もおりますし、這い上がってくださいね」

 

 急に難易度が上がったせいか、ミスが増えてきたが励ましてくれる仲間がいるので大丈夫、メンタル保って進んでいくかのう。

 

[セレネ様もう随分先に行ったよ]

[神社についたみたい]

[トマトジュース飲んでるよ]

 

「神社って結構先なのか? ……ふっ、だが儂はその手には乗らぬぞ、どうせ先に進んでいると伝えて儂を動揺させる気じゃろう? じゃがな、儂はこのゲームについて何も知らぬので精神攻撃は効かぬのじゃ!」

 

[ドやる事じゃないよ]

[可愛い]

[なんも誇れなくて草]

[ドヤ顔鴉様再び]

[ちなみに事実]

[セレネ様はやいな]

 

 

「あ、鴉さん。負けたほうホラーゲームね」

「聞いてないのじゃ!? そもそも今回は戦うだけじゃろ!?」

「言ってないもの、それに罰ゲームなしなんてつまらないじゃない?」

「それはそうじゃが、せめて食べる系飲む系にしないか? 儂ホラー駄目なのじゃ……」

 

 まじで次ホラーやったらどんな属性が増やされるのか分からないし、何よりホラーは前回のは楽しかったが、基本的に無理なのでやりたくない。 

 だからホラーを望む声など見えないし、そういう感情などは感じない。

 つまり儂がやる事と言えば勝つことで何も心配することなのどないのじゃ!

 

「よし決まりじゃな」

「何を決めたのかしら?」

「ふっ勝利への道をじゃ、覚悟を決めた儂はもう止められぬぞ」

「知ってるかしら鴉さん覚悟だけじゃどうにもならない事だってあるのよ」

「今に見ておれよ」

 

 吸血鬼の戯言など効かぬ。

 儂は基本的にゲームは得意なのじゃ、初見のゲームだって今までクリアしてきたし……なんの問題もない。

 

「ちなみにやってもらうのはVRホラーね」

「のじゃ!?」

 

 それを聞いた瞬間、全身に鳥肌が立ちありえないレベルの操作ミスをしてしまい儂は穴へと真っ逆さま……そしてすかさず流れるいい声のセリフ。

 

「何度も穴に落ちてしまい、絶望してしまう……そのお気持ちわかりますよー。ですが、諦めてはいけません。前に進めば未来は見えますとも!」

「こいつさては煽ってるじゃろ!?」

 

 そのセリフにさらに集中を途切れさせられ、続けざまに洞窟の奥へと落下してしまった。そして畳みかけるようにまた台詞がやってくる。

 

「あ、また……くぅ~お悔やみ申し上げます!」

「こいつ祟る!」

「鴉さん落ち着いて、そいつを呪ったって意味ないわよ」

「でもこやつだけは許せないのじゃ……というか、セレネ様が止まれば解決ではないか?」

「何言ってるのよ、真剣勝負で止めれるわけないじゃない。それに私もホラー苦手なのよ?」

 

 それならなぜホラーを罰ゲームに提案するのじゃ?

 至極当然な疑問、それが頭に浮かんだと同時にセレネ様が言葉をかけてきた。

 

「そんなの決まってるじゃない……叫ぶ貴方が見たいのよ」

 

 それは心底体が冷えるような声であり、なんとも熱を帯びたモノだった。

 どうして儂を虐めるんだ? 何か癪に障る様な事をしたのか儂は? ……そんな疑問があふれるが、感じられる感情は好意のみで儂の頭は混乱した。




明日も更新しますね


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【竹オジ対決】自分の事をカグヤ姫だと信じて止まない一般おじさんを月に送る配信 その三

「ええい、こうなったら自棄じゃ自棄、何度落ちようと儂はこの洞窟を抜けきってみせるのじゃ! ゆくぞカツラ姫(男)!」

 

 VRホラーなんかしたらマジで死ぬ。

 そんな思いを胸に儂は不死鳥の如く立ち上がり洞窟を駆け上がっていく。

 なんか洞窟を下っている気がしなくもないが、これは月を目指すゲームなのできっとそれは気のせいだ。

 画面にはクワを使って先へと進むカツラを被った変態がいる。

 しかしこいつはもうここまで儂と道を共にした戦友であるので、今更格好は気にしない。

 

[カツラ姫とは]

[その通りだけどさぁ]

[(男)まで口に出さなくていいよ]

[きのせいだけど下ってない?]

[入り組んでるんだろ(適当)]

 

「よし、なんか洞窟の里みたいな所についたのじゃ。数多のゲームをやってきた儂の勘的にここにはきっとチェックポイントが……」

 

[ないぞ]

[このゲームにあるわけがない]

[あったらいいね]

[希望は捨てろ] 

 

 いや儂はそれを信じない。

 だってここまで来るのに三十分もかかっているんだぞ?

 今落ちたら、洞窟どころか何処に戻るか分からない。そんな事になったらマジでメンタルが死ぬだろうし、正気を保てる訳がない。

 

「……なかったのじゃ」

 

 マジでなかったよ。

 ほぼ横か上に進むだけのゲームだから探索するところも限られているし、戻るなんてもってのほか……つまり出来る限り探索して見つからないって事はマジでないって事なのだ。

 心なしかカツラ姫もなんかやつれているし、もしやこのゲームは儂の心情まで反映しているっていう素敵仕様なのか?

 いや、ないな。

 そんなハイテクなゲームだったらもっと話題になってるじゃろ。

 

「ッすぅー……ここ、どこじゃ?」

 

 先に進めばあったのは合流地点になっていると聞いたはずの神社ではなく、何処からどう見ても海の中……。

 上を見れば亀や魚が泳いでいて足元には少し荒いグラフィックの蛸や雲丹がいる。

 しかもなんか画面には今まで見たことのないゲージのような物が出現し、止まっている間にどんどん減っていた。

 

「なぁ、マヨイビト達よ……これってもしかしなくても酸素ゲージ的なものか?」

 

[違うよ]

[そうだよ]

[早く進もうぜ]

[気にしなくて良いからその場で待ってみよう]

 

「あ、鴉さんは海に着いたのね、抜かされちゃったわ」

「え、これって聞いてた神社より先なのか?」

「そうね、待ってたのだけどやるじゃない」

 

 そうなのか、という事は儂は勝ってる?

 セレネ様の配信を見ていた限り人を騙すような人間じゃなかったし、これは信じて良いだろう。でもそれだと合流するっていったのに悪いことしたな。戻った方がいい気もするのじゃ。

 

「それと戻らなくていいわよ、これは真剣勝負だもの」

「よいのか? なら儂は先に進ませて貰うじゃ!」

 

 そう言って貰ったのなら進まない訳にはいかないのじゃ。

 セレネ様はゲームというか、何をやるにも全力で他者を楽しませるという信条を持ってやっているといつかの雑談配信で言っていた。

 それは儂も掲げている信条だし、その気持ちは誰よりも分かる。

 だからここで手を抜く……ましてや戻るという選択なんて選べる訳がない。

 

「はやく進まないとやばいのう、このゲームの事じゃから実は何もなかった草みたいな事があるかもしれないが、こんな危なそうなゲージを無意味に設置する訳などないし、急いだ方がいいはずだからのう」

 

 そしてそのまま進んで行けば、亀を渡って進む場面や、蛸の足に引っかかって先に進んでいくという技術を要求してくる場面が増えてきて、かなり苦戦してしまったが、なんとか突破。

 時々酸素ゲージを回復出来るような場所もあり、そのおかげで酸素ゲージを維持しながら出来ていたが、ここでピンチが訪れてしまった。

 

「ッ――ゲージがヤバいのじゃ、泡は……泡はどこじゃ?」

 

 視点を動かし周りを見渡すも、助けてくれるシャボン玉は見つからない。

 そうしている間にもどんどんゲージは減っていき、遂には赤色になってしまった。

 さらに焦らせるように慌てさせるような音楽が流れてきて、儂の操作がおぼつかなくなってきた。

 

「そうだ鴉さん、私今富士山にいるの――この意味、分かるかしら?」

「富士山と言えばかぐや姫に関わる重要な山、まさかそこから行けるのか!?」

「察しが良いわね、じゃあ私は向かわせて貰うわ」

 

 やばい。

 何がヤバいって、儂どう考えても海の中だから月に行ける気がしないし、酸素ゲージないからゲームオーバーになる可能性があるのもやばい。

 VRホラーは絶対に嫌だしここまで頑張ったのだから勝ちたいという思いがあるので負けたくない。

 

「あ、酸素ゲージ切れたのじゃ」

 

 儂の画面が暗転し、やってくるのは古き良いわかりやすい死亡BGM……と思ったのだが、横から亀が現れてカツラ姫を乗せて何処かへ移動し始めた。

 そしてやってきたのは豪華な城。

 海の中に存在する御伽噺で見るような竜宮城だった。

 

「え、儂生きてるのか?」

 

[あ、レアイベだ]

[どんなイベントなの?]

[発生条件は?]

[亀の甲羅を全部一回で乗ることが出来ると起きる初見じゃ分からないイベントだよ]

[そういえば、やってたね鴉様]

 

「という事は儂にはまだ希望があるって事か?」

 

 これは運が良いのじゃ。

 助かったぞ見知らぬ亀よ。

 だけど一つ気になるのじゃが、なぜ止まってくれないんじゃ? このままだと竜宮城の壁に激突するような……。

 

「って、スピード落とすのじゃ! 海の交通ルールとか知らぬがこの加速はスピード違反じゃろ!?」

 

[気にしたら負けや]

[亀だからセーフ]

[車じゃないからね]

 

「そういう問題じゃないのじゃー!」

 

 スピードを落とすことのない亀はさらに加速を進め、壁をぶち抜きながら竜宮城の中に突撃し始めた。

 そして、それは竜宮城の上へと進んで行き誰かを轢いた後で煙突のような部分から飛びだした。 

 この状況をありのまま説明するとするのなら、亀の足にクワを引っかけたカツラを被った変態が、超高速で空へと向かっているというもの……何処からどう見てもカオスだし、状況が理解出来ない。

 そしてちょっと画面の横を見て見れば――。

 

「なぜこの時代設定でロケットがあるのじゃ!?」

 

 飛行するロケットが隣にあり併走して空へ向かっていた。

 時代設定は正直よく分かってないが、時々見えたモブキャラの服装や建物的にロケットがあるよう時代ではないはずだ。

 なのに横には近未来的なロケットがあって、中には少し竹の色が違う変態が乗っている。

 

「くっまさか追いつくとは思わなかったわ鴉さん、ここからが本当の勝負ね!」

「儂のテンションが置いていかれてるのじゃ……というか、この亀なんなのじゃ?」

 

 なんでロケットと平行して進めるんだとか、月目指すって事は大気圏を亀で突破するんだよねとか……だけど、今の言葉を聞く限りこれは終盤……操作できなくなってるが、ここが正念場となるだろう。

 ならば頑張るだけだ。

 

「大気圏を抜けるわ! 今は私の方が早いわよ!」

「行け名の知らぬ亀よ、主ならもっと早く飛べるはずじゃ! 万年生きるとされる種の矜持を見せとくれ!」

 

 儂の言葉に呼応してか、目をキランと光らせた亀からジェット機のようなものが生えてきて驚異的な加速を始めた。

 

[覚醒した!?]

[何が起こってるか分からないけど、熱いって事は分かった]

[もうツッコミ所しかないわ]

[これが最新のバカゲーか……]

[意☆味☆不☆明]

 

「行け、止まるな。主なら行けるぞ!」

「私のロケットを舐めて貰ったら困るわ、まだ諦めないわ!」

 

 そして見えてくる月面。

 大気圏を越えて何処から酸素を補給しているのか分からない状況でやってきたのは目的の地。

 僅差の勝負はどっちが勝つか分からない程に接戦となっており、後はもう天に祈るのみとなった。

 

「行くのじゃー!」

「届きなさい!」

 



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カオスなギャグゲーも程々に

ばれへんばれへん


 亀とロケットが月に着いた直後、訪れるのは静寂。

 横のモニターにはコメントが流れており、状況的に似たようなコメントが多い。勝者はどっちだとか、どっちが勝ったとか……あとは少しのネタコメ。

 これで負けた方には罰ゲームがあり、その場合儂は絶対にやりたくないVRホラーをするはめになる。だけど、真剣勝負の上ならという思いもあり、こんなに熱い対決の末なら受け入れられ――るかもしれない。

 

[どっち勝った!?]

[ほぼ同時だったぞ!]

[……未だかつてこのゲームでこんなに熱くなった事はあっただろうか?]

[ないだろ]

[どっち勝っても面白い]

 

 流れるコメント、緊張し息を呑む儂。

 儂が操作するカツラ姫は画面の中でやりきったような表情をしている。

 ――そしてセレネ様のカツラ姫はというと……。

 

「ぬ、同じ表情?」

「あら、これは……」

 

 その表情を確認し、画面を操作して進めれば今回のリザルト画面に移った。

 このバカゲーはやはり色々凝っているのか、リザルト画面もネタ満載な上にステージに到達した時間まで記録されている。

 それを見る限り、最初はセレネ様が優勢であったが、亀の所で並び初め宇宙空間で完全に合流――つまり、どういう事かというと。

 

「引き分けか……これは」

「ええ引き分けのようね。クリアタイムも同じだし」

 

 画面に映し出されるどろー……という文字。

 つまり今回の勝負は引き分けということであり、どっちも勝ちという事になる。

 

[このゲームで引き分けが起こるなんて……]

[ありえるのか?]

[ありえるもなにも結果がそうだし]

[つまりこれはどうなるんだ?]

 

 コメント欄にも疑惑の声。

 唐突に決まったとはいえ、了承した以上どっちも勝ちで罰ゲームなしというのはかなりつまらない。

 

「セレネ様よ、この場合どうするのじゃ?」

 

 ホラゲーはしたくないが、楽しませるためにも何かはしなくてはいけない。だからまたコラボできる前提の話になってしまうが……次回に持ち越しというのが理想。

 だけど、それをセレネ様が受けてくれるかどうかは未知なのだ。

 儂としてはまた遊びたい。だから、そうなって欲しいとは願うが……。

 

「そうね、この場合は……次回に持ち越し、じゃ駄目かしら?」

「……のじゃ?」

「その声的に鴉さんも同じ考えのようね」

「よくわかったのう。じゃが、よいのか?」

 

 セレネ様はかなりの人気VTuber。

 必然的に案件などでの仕事も多く忙しいだろう。それに今回は彼女がから誘ってくれたとはいえ……本来は叶わぬコラボ、相手方の社長が乗り気だったからいいものの、今回の反応が良くなければもう叶わない。

 

「なに、もしかして嫌なのかしら?」

「いや、儂はもっと主と遊びたいぞ」

「ならいいじゃない。そんなに不安ならアンケートでもとるわよ。というかこのコラボまた見たいかしら魔物達? ――鴉さん、見たいそうよ」

「そうか――なら儂も聞くぞ。マヨイビト達よ、また儂らの宴に来てくれるか?」

 

[あたりまえだよなぁ!]

[また見たいです]

[ロリショタロリが見れるなら]

[だからなんだよそれw]

 

 見えるコメントは好意的なモノで溢れてる。

 なら不安になることはないだろう――初めての箱外コラボ、視聴回数などは後での確認なるが、最終的な同接は3万を超えた。

 そしてコメントを見る限り、皆が楽しんでくれただろう。

 

「なら決まりじゃ! またコラボするぞセレネ様!」

 

 そして儂は満面の笑みで配信を閉める為にそう言った。

 流れは完璧、それにこれならまた彼女の遊べるから……と、そんな事を考えていたのだが彼女の最後を待ってみると、

 

「えぇ、その時はVRホラーの夜巡りさんね」

 

 予想もしてなかった一撃を食らわされた。

 

「ふぁ!?」

「では、魔物共そしてマヨイビトの皆様……また次の配信でね」

「まっちょ、セレネ様!? それは聞いとらんぞ!?」

 

[セレネ様配信閉じたぞ]

[草]

[逃げられない]

[YOUDEDT]

[こんにちロリ]

 

 この流れ的に配信は終わり。

 無理! とかは絶対駄目なので、俺はVRホラーに挑まなければならぬのか……やじゃぁ。

 

「と……とにかくマヨイビトの皆様よ、今日の配信はこれで終わりじゃー。また次の配信でなー」

 

[死ぬほど声震えてて草]

[ぐっばい鴉様]

[またロリ化ぁ]

[鴉様がロリ化してぇ! FAがまた増えるぅ!]

[雪椿:任せて]

 

「母上ぇ!?」

 

 そこで配信は終了。

 とりあえず枠を閉じて、数秒間。

 落ち着くために深呼吸をした後の事……。

 

「VRホラーって……やばそうじゃなぁ」

 

 すっごい遠い目で儂はそう呟いて、明後日の方向を見つめながら通話アプリをまた立ち上げた。セレネ様と話す約束があったし、少し聞きたい事があるからだ。

 数回メッセージを取り合った後、通話を了承されたのでかけてみると。

 

『聞こえるかしら鴉さん?』

「聞こえてるぞ、セレネ嬢」

『……そっちが今の素?』

 

 ……そっちが?

 ちょっとどういう事か分からなかったが、普段の素はこんな感じなのでこのまま話せばいいだろう。

 

「まあ、そうだな。不都合あるか?」

『ないわね、というか予想してなかったイケボでビックリしただけよ』

「草、まあ俺の声はいいからな」

 

 そういう妖怪だし、どんな声でも出せる俺は基本的に聞きやすい声を出している。素の声はショタに近いが、人間を演じている以上は今の声がやりやすい。

 

『相変わらずの自信ね安心するわ』

「俺と会ったことあるのか?」

『えぇ、かなり前にね』

 

 へぇ知り合いだったのか、それならコラボを誘ってくれたときに言えば良かったのにな。そんな事を思いながらも、俺は少しの違和感に気付いた。

 俺は人間での仮の身分自体は作っているが、VTuberを始まるまでは殆どニート。

 外にも買い物をしに行くぐらいで、知り合いなんか出来る筈がない。

 

「……主、何者じゃ?」

『やっぱり私としてはこっちの方が安心するわ』

「まさか妖怪か?」

『どうかしらね、大妖怪浮世鴉様』

 

 推しの一人が妖怪だった件。

 ……じゃなくて、それなら何故接触してきた?

 わからぬが、相手には目的がある筈なのでそれを慎重に聞かなければならない。

 

「要件はなんじゃ?」

『そうね、それは会ってから話しましょう。招待、受けてくれるかしら?』

 

 与えられる選択肢。

 それに対して儂は――。

 



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#認知しろ鴉

こっそり朝に


 

『どうするのかしら浮世鴉様、招待を受ける? 受けない?』

 

 ……与えられる二つの選択肢。

 当然ながら受けるメリットはない。相手の目的が分からない以上、下手に誘いに乗るのは愚策だからだ。

 だけど……今までの態度を考えるに、害はないと思うのだ。

 相手の目的は分からない。だけど信じてもいいと思う……何より推しのことは信じたいのだ。

 

「その誘い乗るのじゃ」

『そう、よかったわ』

「だけどな……俺の周りに危害を加えるのであれば滅ぼすぞ――小娘」

  

 だがこれは釘を刺しておく。

 いくら推しの一人とはいえ、俺の周りに手を出してくるのなら敵だ。そこに慈悲はなく、滅するだけ。

 

『――そこは安心して頂戴、危害を加えるなんてしたくないもの』

「そうかその言葉忘れるなよ」

『ええ。じゃあここに来てくれないかしら?』

 

 そう言って、通話アプリにDMが飛んでくる。

 ということは今日こいという事なのだろう……誘いに乗ると言った以上行かないわけには行かないので、俺は住所を記憶して寝ているであろう雫に置き手紙を書いてからそのまま家から飛び去った。

 

 場所的には妖プロ本社がある秋葉原の近くだろう。

 狙ってやったかは分からないが、警戒しといて損はなし……錫杖を久しぶりに持ち出し、東京に向かって飛んでいく。

 何かあった時の為に鞍馬と酒呑そして土蜘蛛一家に連絡を入れておき、準備は万端。大好きな秋葉で戦闘なんかしたくないが、もしもの場合は致し方ない。

 

「さぁ、鬼が出るか蛇が出るか……はたまた別の妖か。どうなるか」

 

 そして、バレないように気配を消して人間達の所に降り立ち送られた住所に向かったらそこは――なんの変哲もない居酒屋だった。

 

「……ここであっとるのか?」

 

 思わず人前なのに妖怪口調になってしまう。

 信じたくないし間違ってるかもしれないので念の為スマホで住所を確認。

 ヒットするのは目の前の居酒屋――何度見てもその結果は変わらず、ここが集合場所のようだ。

 

「立ってるのも悪いし入るか」

「いらっしゃいませー! 何名様でしょうか?」

「あー、先に待って貰ってるんだが……名前は確か」

 

 あ、やべ。

 そういえば、彼女の名前を聞いてなかった。

 というか、こんな場所に呼ばれるなんて思ってなかったから聞けるわけがなかった。まじでどうすんだよ、これじゃあ合流できずに終わるぞ?

 

「あ、来たのね鴉さんこっちよ」

「あぁあのお客様の連れですか、どおりで」

「……どおりで?」

「いやなんでもありません、とりあえずどうぞー!」

 

 店員に案内されたのは奥の個室。

 そこにいたのは居酒屋には似合わない、ゴスロリチックな服装の――とても見覚えのある少女だった。

 記憶を辿りに思い出してみればそこにいたのは数百年前に一緒に過ごした吸血鬼の少女を成長させたらそうなるような、配信通りの姿。

 そういえば、セレネ様を推し始めた理由は懐かしさだったなぁとそんな事を思い出し……俺は目の前の少女の正体を理解した。

 

「俺が言うのも何だが、配信にそのままの姿を出すのは止めた方がいいと思うぞ」

「貴方にだけは言われたくないわ、鴉さん――というか、改めて聞くけど今の素はそれなのね」

「まあな……それと覚えてなくて悪かった」

 

 今思えば声で気付けば良かった。

 だけどそれは後の祭り、今はもう俺は謝るしかない。

 そう謝ったところ、彼女は全く気にしない素振りで笑ってからこう言ってくれる。

 

「私も貴方が生きてるなんて思ってなかったもの、それで相子じゃ駄目かしら?」

「助かる――すまなかったな」

「だからいいわよ……あ、この場合こう言えばいいかしら? 認知しなさい鴉様」

「くはっ、そういえばそのタグ流行ったな。まあ主らは俺の子供みたいなものじゃし、認知はするぞ――鶫は駄目だが」

 

 久しぶりの再会。

 しんみりする必要も無いし、とりあえず酒を頼み俺は席に腰掛けた。

 ……積もる話はいっぱいあるしとりあえず酒でも飲みながら話すとするか。

 

「大きくなったな、というか成長期いつだったんだよ」

「貴方と別れた後ね、ソルはまったく変わってないわよ」

「……そういえばソルも本名だよな、ネットリテラシーちゃんとしろよ」

「だから貴方に言われたくないわ、がっつり本名で実写じゃない」

 

 ……それは言わないで欲しいな。

 俺の名前とか忘れられてると思ってたし、何より俺の事知ってる妖怪がまだ生きている事自体最近知ったし……京都勢は別じゃが。

 

「……何も言えないな」

「昔からだけどやっぱり貴方時々抜けてるわよね、私達育てるときも苦労してそうだったし」

「技術はあるが知識はないからな俺の場合」

 

 俺の能力の一つである演じるは、その演じた者の知識までは手に入らない。

 分かりやすく言えば経験と技術のみを憑依させるみたいな力なのだ。だからその場でだけ使うのはいいが、継続して使うとなるとならす必要があるし知識も手に入れなければいけない。

 

「難儀な制約よね、まあそれでもチートだけど」

「儂の周りそれだとチートばっかじゃぞ」

 

 天狗勢しかり、酒呑しかり……儂の知り合い達は個人で国落としぐらい出来る化物ばっかりだ……酒呑なんて変身を三回残してるし。

 改めて思うが日本はバグである。

 よく儂生きてたなー。

 

「で、聞きたいんだが……なんでセレネは配信始めたんだ?」

「そうね、面白そうで気になったし会社運営してて暇だからね」

「……まさかの社長?」

「リアルでも割と魔王やってるわ、社員も結構人外多いわよ」

 

 それどんなゲームかラノベ?

 内容としてはアレだな、会社経営系か日常系のドタバタコメディ。

 多分主人公はソルだろう。あの子はツッコミタイプだし、よくセレネに振り回されていたから。

 

「そういえば、ソルは元気か?」

「ソルは……元気だけど家ではやばいわね、毎日貴方の配信見てるわ」

「それは嬉しいが、ちゃんと寝るようにいうんだぞ? 体調崩したら心配だし」

「大丈夫よ、今も貴方の作った棺桶ベッドを大事に使ってるわ」

「……今度新しいの作るのじゃ」

 

 あれ作ったの何百年前だ?

 確か出会ったのが五百年前で、別れたのがそれから六~七十年ごぐらいだから下手に数えても三百年物のベッドだ。

 

「ソルは俺と会ってること知ってるのか? あいつなら来そうなんだが」

「絞めたわうるさそうだから」

「えぇ――今度そっちの家行くぞ?」

「それは私が死ぬから止めて頂戴」

「なんでじゃ?」

「なんでもよ」

 

 よく分からないが、家に行くのは駄目らしい。 

 ちょっと残念だがそれも仕方ない。今度お邪魔できる機会があれば行かせて貰おう。

 

「そうだ鴉様、ちょっと目を見てくれないかしら?」

「なんじゃ急に――ってセレネ、なぜ睡眠技…………ぐぅ」 

 

 目を見た途端にかけられるチャームの亜種。

 それを食らった儂はかなりの眠気に襲われ寝てしまった。

 最後見た光景は、この席に近付いてくる巨漢のマッチョ……なんで? と思ったが、俺は睡魔に抗えずそのまま眠った。

 

「ちょっと邪魔な客が来たからよ――で、何の用かしらエクソシスト、私今大事な人と話してるのだけど?」

「……貴様が人間と密会してるとソル様から連絡があったのだ。何をする気だ? 吸血魔王?」

「……あの馬鹿、後で絞めるの確定ね」



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襲来筋肉エクソシスト

 

 私の目の前にいる因縁……とまではいかないけど、面倒くさい相手。

 かなりの巨漢で筋肉を備えたそいつは、天敵であるエクソシストだ……まぁ、色々あって彼はソルの部下になってるけど。

 

「見る限り、チャームを使ったな。予想通りだが、遂に尻尾を出したか」

「貴方が来たから仕方なくよ、彼に正体がバレるわけにはいかないもの」

「……貴様、その人間に何をするつもりだ? ソル様曰く、攫おうとしているとは聞いているが」

 

 あの馬鹿、マジで絞めるだけじゃすまないわ。

 一回は潰す。絞めたのは悪いと思うけど、彼との密会を邪魔してくるのは許せない。それになんだ? 私が彼に危害を加えると思ってるのか? ちょっと久しぶりにあったせいで血を吸いたいなぐらいは思ったけどそれ以上はなにもしないわ。

 

「本当にただ会ってただけよ……それともなに? 私が彼に何かするとでも?」

「それはないだろう。だが、貴様の姿で身バレしてみろソル様に迷惑かかるだろう」

「……相変わらずのソル信者、あの子も厄介なの部下にしたわね」

「あの方を愚弄するな滅するぞ」

「貴方に言われても怖くないわ……それ以上に怖いのがあるもの」

 

 ……さっき経験したばかりだけど、鴉さんの本気はヤバかった。

 このエクソシストは最強格、だけど通話越しで本当に死ぬと思ったのはさっきが初めて。本音を言えば、彼にあんな殺意を向けられるのは心の底から嫌だったけど、忘れていただろうし誘い出すにはああいう態度を取るしかなかったから仕方ない。

 

「そんなに疑うなら私は帰るわ、お優しい貴方の事ならこの人に何かしないと思うし任せるわね」

「やけにあっさりひくな」

「こんな場所で戦うのは迷惑になるでしょ? それに、物足りないけど話せたもの……それだけで今は満足なの」

 

 死んだと思っていたヒトに会えた。

 それだけでどれほど幸せか、しかもその相手は今は同じ仕事をしていて、機会さえあれば何度も話す事が出来る。だから今はこれでいいのだ……名残惜しいが、連絡先はあるし問題なし。

 

「貴様がそこまで想う人間か、難儀だな」

「そうね。で、後は頼めるかしら? この人は私が吸血鬼だとは知らないから上手くやって頂戴」

 

 ま、全部嘘だけどね。

 なんならこの人の変化が完璧なおかげで彼に妖怪だとバレてないみたいだし、ここは嘘をつこう。エクソシストに任せるのは心配だが、彼なら乗り切れるはずだ。

 なんか昔以上に擬態が上手くなってるし、信頼していい。

 

「義理はない。だが、急に来た詫びだ今回はその言葉に乗ってやろう」

「じゃあ、会計も任せるわ。邪魔した罰よ」

「…………承知した」

 

 さぁて、あとはソルね。

 あの馬鹿絶対に一回は灰に戻すわ。

 そんなこんなで居酒屋から離れた私は、ソルと一緒に住んでいるマンションに戻り今頃私に帰りを待っている弟の為に魔力で槍を練った。

 

「姉様おかえりー! 早かったねなんかあった?」

「白々しいわね、一回灰になりなさい?」

「……姉様が先に接触したのが悪いよね、知ってる嫉妬って最強の感情なんだよ?」

「そっちこそ、弟は姉に勝てないことを自覚しなさい」

 

 その瞬間、メイド達によって結界が貼られる。

 それが開始の合図となり、私は槍をソルは黒い剣を構えて突貫してきた。

 今宵始まる吸血鬼同士のラグナロク、鴉成分を摂取した私は最強なので負けることはないだろう。

 

――

――――

――――――

 

「大丈夫か?」

 

 目が覚める。 

 テーブルから顔を起こして、周りを見ればそこは居酒屋だった。

 儂、何してたっけ? とか思いながらも記憶を辿れば睡眠系の技を食らったことを思い出した。

 なんで急にと思いながら微睡む意識の中で横の巨漢の存在に気付く。

 

「……誰だ?」

「俺はダンテ、あの吸血――セレネ殿に頼まれて貴方の介抱をしていた。どうやら酔い潰れたようで時間がないからと任せられたんだ」

「……そうか? 記憶ないが」

 

 感じるのは西洋の神の加護。

 記憶を頼りにそういう存在を思い出す。

 確かこういう奴らは西洋版の陰陽師、エクソシストという奴だろう。

 なんでエクソシストがここに? と思ったが、それよりセレネの安否が気になった。

 

「……セレネ殿はさっきもいったが用事があるんで帰った。酔い潰れた貴方が心配だったようで俺を呼んだんだ」

「そうか、悪いな。久しぶりの酒で飲み過ぎたみたいだ」

 

 癖、少しの言葉の揺れから察するにそれは嘘だろう。

 そもそも吸血鬼である彼女とエクソシストが親しいなどないだろうし、セレネを追って来た……と思うのが自然。

 だがまあ、知り合いなのは確かだろうから信じてもいい。

 ……あと、この様子だと俺はちゃんと人間だと思われてるみたいだな。

 だって、バレてたら俺も討伐対象だし。いや本当に七尾と理沙にあってから変化強めて良かった。あれなければバレないと思って気を抜いてたから。

 

「それにしても悪いな、介抱して貰って」

「いや気にするな……記憶も改竄されたかあの吸血鬼め」

 

 最後は小声だったが俺の鴉耳は聞き逃さない。

 勝手な予想で話を合わせているが、これは徹底した方が良さそうだ。

 ……あと、今思ったんだがこの声どっかで聞いた事あるな。

 

「失礼かもしれないが、あんた配信してないか?」

「しているが、もしや視聴者の方なのか? それにしてもよく分かったな」 

 

 ビンゴ、それにこの声だと多分この人はきっとあの箱の人だ。

 予想通りだったら男の推しの人だろうし、知り合えるの嬉しいかもしれない。

 

「いや、視聴者でもあるが多分同業者……妖プロ所属の浮世鴉だ」

 

 本来なら外でこんな事はいえないが、ここは個室で結構防音がしっかりしているっぽいので大丈夫だろう。

 

「……!? 光栄だ貴方に会えるなんて」

「っと、どうした急に?」

「失礼、推しだから驚いただけだ。俺の上司に勧められて見たのだが、嵌まってしまいよく見ている」

 

 まさかのエクソシストがマヨイビトなのは草。

 というか、俺の配信の視聴者層どうなってるんだよ。

 今の所かなりカオスだぞ?

 

「俺は世界書庫所属のカイザ・ルカノールだ。一応裸の王様というキャラでやらせて貰っている」

 

 やっぱりあっていたが、まさか本当にマッチョだったとは。

 確かにあの筋トレ知識はかなり役立つし、本人も詳しい人だとは思ってたが……まさかエクソシストだとは思えない。

 というか、俺が知り合うVTuberことごとく普通じゃないの何で?

 まともな人間なの今の所鶫と仙魈しかおらんぞ? ……まぁ先輩に関しては、坂田の末裔らしいので普通の人間っていっていいかは分からないが。

 

「だと思ったよ、声が格好いいし記憶に残ってる」

「それは貴方もだ。あのホラゲー配信の時のイケボが地声なのだな」

「……まあな、そうだ何かの縁だし連絡先交換するか?」

「ああ、頼む。こちらとしてもいつかコラボしてみたいと思ってたから助かる」

 

 とりあえず通話アプリの連絡先を交換して、俺はカイザ・ルカノール改めダンテと知り合いとなった。

 人間だと思っている以上、下手に正体はばらせないが……少しは良い関係を築こうか。

 

「それより、大丈夫か家には帰れるか?」

「まあ大丈夫だ。あ、でも終電が近いな……どうするか?」

 

 人間に徹するとなった以上、京都まで飛んで帰るのはバレるから不可能。 

 だから電車で帰ろうと思ったんだが……時間的に帰れない。

 

「俺の家に泊まるか? 近いし一夜ぐらいは貸すぞ」

「……あーどうしよ」

 

 流石にエクソシストの家にいくのは不味い気がするが、かといって歩いて帰るのは無理。だから俺は、めっちゃ頑張って変化することを決めて彼の家に泊まることにした。



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収益化記念雑談枠&凸待ち その壱

 エクソシストの家に一泊し、家に帰ってから約二日。

 遂に待ちに待った日が来たのだ。

 ……そう、その待ちに待ったモノとは収益化。しかもタイミングが登録者が八万人いったのとほぼ同時。

 収益化の審査はかなり厳しく、少し時間がかかったようだが、もう通ったので心配する必要は無し。それに合わせての企画も色々進行しており、ついでにボイス販売も行う予定だ。

 

「収録は理沙監修だから怖いよなぁ」

 

 浮世鴉様のボイスなら私が録音しますと名乗り上げてくれたのは嬉しいが、気合いが入りすぎで心配である。

 蘇る前回の台本暗記の記憶、それに少し身震いしてしまったが……その分いい物が出来るので我慢しよう。

 

「……それにしても儂も遂にスパチャ解禁か、感慨深いのう」

 

 いやぁ、嬉しい。

 この事を報告したら教えてくれたが、鶫も七尾ももうすぐらしいので近々皆で集まってお祝いでもしたいな。

 一応説明しておくと、スパチャとは分かりやすく言えば投げ銭。

 投げれる最高額は一日で五万円であり、普段なら流れてしまうコメントを目立たせる機能だそう。単純にその配信者を応援したいからとか、名前とコメントを読んで貰い人が使っているイメージだ。

 

「――よし、では始めるかのう」

 

 嬉しさが抑えきれないので早速枠を開き、俺は配信を開始した。

 タイトルを付けていつも通りの時間に配信を開いたおかげか、ちらほらとよく見る名前がちらほらと。

 

「――タイトル通りじゃが、収益化通ったので記念&凸待ち配信じゃー!」

 

[遂にか!]

5000円

よっしゃー投げるぞー!

[審査長かったね]

10000円

さっそく投げてる人いるの草

3000円

オマエモナー

 

 

 始めた瞬間流れていくスパチャの嵐。

 人生二度目のリアル桃鉄に少し頭の中に猫が現れたが、これから先も経験するかもしれないので出来るだけは慣れよう。

 まあ儂、あんまりスパチャはONにしないと思うのじゃが、会社の収益を考えると解禁していた方がいいが……まあそこら辺は要相談。

 

「さっそくコメント欄がカラフルになっておるな。第弐の盟友の配信で経験はしたが、やはりこの光景は凄いのう」

 

 第弐の盟友である阿久良椛先輩。

 彼女とのコラボ配信で経験はしていたが、いざ自分がってなると驚くモノがある。

 これ、慣れれるか? ……ちょっと心配になったが、本当になれなきゃ見てくれる人にも悪い。善意で送ってくれる人もいるだろうし、スパチャ読みとかしたいから。

 

 

50000円

首塚から出れない生首:これが洗礼だ

50000円

最近の巨人漫画に似たの出てきた巨大な怨霊:受け取ってもろて

50000円

神出鬼没な幼女:お菓子食べてね!

50000円

石の中のアイドル狐:上限キエロ

[こえぇ」

[赤スパが流れてくるよ――あ、字余り]

[富豪やん]

 

 何やってるんじゃ彼奴ら、さっきのスパチャでも驚いてたのになんてもん渡してるんだよ。というか、もしかしてだけどこの配信見てる視聴者やばい? 

 長く表示されるから分かるが、今見ただけでも餓者髑髏に酒呑童子、そして玉藻前と座敷童がいる。既に戦争が起きそうなメンツにさらなる目眩に襲われるが、もうこいつらって事で割り切った。

 

「―――さん、ありがとうなのじゃー」

 

 とりあえず今の段階で目に通せるかぎりの名前を読んでいるが、多分追いつかなくなるので一旦止めることにする。

 

「さぁ雑談もよいが、そろそろ凸待ちの開始じゃ――神虎先輩のように凸待ちゼロ人とかは止めて欲しいが、どうなるかのう」

 

 通話アプリの凸待ち部屋は、二人しか入れないようになっている。

 こういう企画用に立てられた部屋であり、よく使われているらしい。さぁ、最初は誰が来るのか……楽しみが過ぎるが、心の準備もまだなので最初は話しやすい人がいいのう。

 前もって全体に凸待ちやるとは伝えてあるが、ネタとして誰もこない可能性もある――ちょっと怖いが……。

 と、そう思った瞬間にピコンという音。

 誰かが入ってきたみたいだ。

 

「しゃー! 僕が一番乗り! 敗者の皆様には悪いですが、僕が最初に喋ります!」

「あ、盟友ではないか……というかなんだその口上? いつもと違うが……」

 

 それにやけにテンションが高いし、何より全力疾走したかのように息が乱れている。マジで、なんだ? 儂の知らない所で何が起こっておる?

 

「改めまして、ヒョーヒョーという鳴き声からこんにちわ、妖ぷろ三期生所属源鶫っです! 今回はママ兼盟友の凸待ちに参加させて貰いまーす!」

 

 だけどやはりこいつも配信者。

 すぐに息を整えていつもの名乗りを上げた彼は、とても満足げにそう言ってくれた。

 

[つぐみんだ-!]

[(゚∀゚)o彡゜つぐみん(゚∀゚)o彡゜つぐみん]

[常識枠だから安心だ]

[敗者って何だ?]

 

「よく来てくれたのう鶫。儂誰も来ないと思って心配だったのじゃ……」

「盟友の凸待ちに行かないわけないじゃないですか!」

「嬉しいが、さっきからコメント欄に見知った名前が多いぞ?」

 

[阿久良椛:はよう]

[七尾玲那:あとが詰まってるわ]

[依童神虎:抑えとくからゆっくり喋れよ]

 

 改めてなんだこの状況?

 なんじゃ? 儂の知らない所で別部屋でも作られてるのか? 

 かなり気になるが、それは後で聞けばいいしとりあえず今は鶫と話すとするか。

 何話すかはデッキ組んできたので話は途切れないだろう……多分。

 

「でじゃ、鶫早速質問何じゃが……今年の良かった出来事とかあるか? まだ八月じゃし、それまでの範囲で良いぞ」

「うーん……そうですね、一番は仲間が出来たことですね! 七尾さんに盟友本当に大切な仲間です!」

 

 儂は妖怪の特性として相手の感情が直に分かる。

 だからこそなのだが、彼は本当にそう思ってくれてるようで……かなり嬉しかった。

 

[てぇてぇ]

[マジで嬉しそうに語るじゃん]

[いいなぁ、そういう仲間]

[……つぐみん]

 

「ありがとうな鶫、儂も主の事は大好きじゃぞ」

 

 本心だからこそ、俺もちゃんと言葉を返す。

 本心で何より本気で彼を仲間だと思ってるからこそ、そう伝えた。

 

「……まじで照れますね、これ――短いですが、他の方が怖いので僕は失礼します! では盟友またゲームしましょうねー!」

 

 盟友である鶫が去り、しばしの雑談タイム。

 次の妖怪がすぐ来ると思ったが、案外時間が開くっぽい。

 とりあえず雑談を続けていると、またピコンという音が鳴った。

 

「おっ、誰か来たようじゃな!」

「初見の方それと子狐達にマヨイビトの皆、どうぞよろしくね――PP妖狐よ」

「七尾、ちゃんと名乗るのじゃ」

「あ……七尾玲那よ」

 

 こやつ最近PP妖狐で通じるから気を抜いてるじゃろ。

 ……そう思ってツッコめば、すぐに名乗ってくれる七尾。

 

[PPはポンコツパワーポイントの略だった?]

[それだとPPPじゃね?]

[それな]

[七尾様だー!]

 

 やはり盛り上がるコメント欄。

 それに嬉しくなりながらも儂は彼女と話し始める。

 

「最近主とは喋ってなかったからのう、いっぱい話すぞ!」

「そうね、最近私の方も忙しかったもの、沢山話しましょう?」

 

[阿久良椛:仕方ない待つか]

[源鶫:僕の時と対応違うくないですか?]

[草]

[依童神虎:諦めろ]

 

 一先ず画面に七尾の立絵を表示して……あ、やべ立絵間違えた。

 画面に映されたのは目を見開きアホっぽい顔してる七尾の絵……どうしてこんな画像を持ってるの? と聞かれれば、社長に渡された共有画像にこれがあったからとしか言えない。

 

「……鴉さん?」

「なんじゃ七尾?」

 

 儂はマジで悪くないぞ?

 だって画像があったんだから仕方ない。

 

[立絵草]

[なんでそんな画像あるんだ?]

[アホっぽい]

[なんでこの顔にしたんだよw]

 

「まあ許すけど、覚えておいてね」

「ミスったのは儂じゃが、送ってきたのは社長なのじゃ……」

「……社長さんならやりそうね」

「じゃろ?」

 

 あの社長のことだ儂のミスを見越して送ってきた説もある……だって彼奴人読み凄いし、勘が鋭すぎるから。

 

[妖プロ社長(公式):だって面白いじゃん]

「社長もよう見てる]

[暇なのかな?]

 

「いつもお疲れ様なのじゃ」

「あとでお話ね」

 

[妖プロ社長(公式):う゛ぇ!?]

[草]

[おもろ]

[部下に怒られる社長の図]

 

 儂の反応とは……真逆? のような反応をする七尾。

 コメント欄は見えてないと思うから、儂の反応で話しているとは思う。

 八雲社長には申し訳ないが、ミスったのは多分ネタであの画像を仕込んだせいなのでここは大人しく受け入れて貰おう。

 

「そうだわ鴉さん、用意した会話デッキって何個あるのかしら?」

「ちょっと待っとくれ、画面に出すのじゃ」

 

 そういえば画面に出してなかったなと思った儂は、字幕で四つほど用意しておいたた会話デッキを表示した。

 

・今年の良かった出来事。

・最近はまってるもの。

・趣味。

・好きな食べ物。

 

「まあこんな感じなんじゃが、今回は無難に趣味でも聞こうかのう」

「趣味……ね、それなら写経よ」

「えぇ……なんで写経」

 

[写経は草]

[現役、女子……校生?]

[妖狐さん?]

[そういえば写経配信してたよなこの妖狐]

 

 写経は趣味と言えるのか?

 儂、それを趣味にしている人間初めて見たというか……出会ったんじゃが。

 

「だって私は陰陽師……のぉ式神よ、写経が趣味でもいいじゃない」

「儂、それは分からない」

「まあいいわよ、いつか分かるもの。あ、どうかしら一緒に般若心経でも写す?」

「やめて、儂が滅される」

 

 ドSじゃなぁ、儂一応神仏の括りではあるから滅されるまではいかないが、それでもメインは妖怪なので結構効いてしまうのだ。

 

[会話草]

[この狐、同期を滅しようとしているのか?]

[と・も・だ・お・れ]

[二人とも妖怪だもんね]

[終わりや]

 

「じゃあ、私はここで帰るわ。次の方は誰かしらね」

「お疲れなのじゃー……っと次は早いのう」

 

 七尾が落ちた瞬間に入っている何者か、誰だろうと通話アプリを開いてみれば、名前は阿久良椛。つまり先輩が来てくれたらしい。

 

「親友、来てくれたのか!」

「マヨイビトの諸君こんばんはなのだ。妾だぞ!」

 

[阿久良様だー!]

[尻尾もふりてぇ]

[声がいい二人]

[良すぎて困る]

 

「久しぶりだの親友]

「そうじゃな親友、変わりなかったか?」

「特にないぞ? 強いて言うなら……限界民を宥めてたぐらいなのだ」

 

 限界民って誰ぞ?

 視聴者ではないと思うし心当たりは正直ない。

 だけど、分かることとすれば声音的にマジで大変だったことぐらい。

 

「……分からぬがお疲れ様じゃ」

「なぁ親友、出来れば今のをロリボ若妻風にやってくれると嬉しいのだ」

「えぇ……主の頼みじゃからやるが、大丈夫か?」

「大丈夫なのだ。それよりはよう。あ、出来ればちょっと呆れた感じで頼む」

 

 なんか色々と業が深い気がするが、親友には世話になってるのでここはやってしまおう。期待されたら答えるそれが儂のポリシーじゃし……もうロリ化は今更じゃ。

 

「はぁ、お疲れ様です旦那様」

「今から家行って良いか?」

「止めてくださいます?」

「妾……生きてて良かった」

「そんな事で生を実感しないで欲しい」

 

 阿久良のキャラ崩壊が儂のせいで加速している気がしなくもないが、それは気のせいだということにしておこう。だって何か言うの怖いし。わんちゃん喰われる。

 

[ロリボを聞いている時が、一番生を実感する!!]

[ガスまくなガス]

[見えねぇわ]

[画面が黄色い]

[阿久良様の崩壊具合が草]

 

 そういえばそんな台詞を出してくるFPSがあったよな、今度皆でやろうと思ってるが、鶫辺りでも誘ってみるか。未だ絡んでない法眼殿も上手いらしい誘うのもありかもしれんな。

 

「では会話デッキを切るのじゃが最近はまってるものとかあるか?」

「そうだな、それなら親友の配信だな。毎日山の狐達と見ているぞ!」

「それは嬉しいのう!」

 

[狐飼ってるんだっけ、阿久良様]

[たまにSNSに狐の写真上げてるよね]

[あぁ、別界隈からも人気の白狐の画像ね]

 

「では妾も退散しよう、次は一期生が来るぞ!」



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収益化記念雑談枠&凸待ち その弐

こっそり


「次は一期生が来るぞ!」

 

 親友が最後に残していった一言、それが耳に届いて暫く……儂は一瞬何を言っていたのか理解出来なかった。

 一期生が来る……つまりは、一期生の三人が凸待ちに来てくれると言うこと。

 

「のじゃ!?」

 

 ちょっと本気でまって欲しい。

 言葉が理解出来ないというか……え、いやマジなのか?

 一期生の三人、つまりは我らが総大将である奴良瓢鮎様や、狂天狗とよばれる山主法眼先輩、そして胡瓜狂いの依童神虎先輩などがやってくるということ。

 三人の誰もが儂が憧れた人達、そしてこの妖プロを形作った偉人でもある。

 そんな人達のうち誰かが来る? ――おっけーちょっと理解出来ない。

 

「……よしマヨイビト達よ、配信切ってよいか?」

 

 正直心の準備とか一切出来ていないので、儂からしたらもう帰りたい。

 喋りたいけど、そんな勇気は今の儂にはなく――それどころか、え? 来るの? って思いが強すぎて、正直に言えば爆発寸前だ。

 

[駄目に決まってるだろ]

[落ち着け大妖怪]

[……遂に俺等の鴉様が一期生とコラボか]

[感傷深いね]

[妖プロの謎技術のせいで、焦ってるのが分かってマジでおもろい]

 

 落ち着け、マジで落ち着け儂。

 こういうときは何じゃっけ? あ、そうだロリ化……はしなくてよくて、何をすればいいんだ? あれか、人の字を掌に書いて飲み込むんだっけ? 

 筆、何処だったかな?

 

 過去最大の迷走状態に陥った儂は、とりあえず配信中に筆でも探しに行こうとしたんだが、現実は非情であり、ピコンとアプリの音が儂の耳に届いた。

 

「来たんだけど?」

「なんだ来ちゃ駄目だったのか?」

「あ、いえ大丈夫ですよ神虎様」

「なんでロリ化してるんだ?」

 

[混乱極まっててロリ化してて草]

[あまりに一瞬の切り替えすぎて、配信変わったかと思った]

50000円

[石鎚山法起坊:本当にロリだな]

50000円

[弟子とは良いものだ:この鴉、何があったんだ?]

 

 おい二大天狗!? 

 何故儂の配信にいるのかは置いておくとして、スパチャ投げてるんじゃ!?

 ロリ化して、一瞬で目に付いたコメント。

 それは儂の古くからの知り合いである大天狗の二人のNNだった。石鎚の爺さんは絶対からかってくるし、鞍馬に関しては頭を痛めてるのが目に見える。

 

「いえ、ただちょっと慌てているので平静を保とうと思っただけですよ?」

「だからってロリ化はないだろ、場所間違えたかと思ったぞ?」

「だって……一期生の方と一対一とか緊張しますもん」

 

[何これ可愛い]

[これ、本当に男でいいんだよな?]

[性別鴉だから仕方ない]

 

 いや儂は今ロリだが?

 ――っとそうじゃなくて、とりあえずもうこのままで進めよう。変化してしまった以上、変わるのも疲れるしこのまま行った方が楽だ。

 

「あの神虎様、今回はこのままでも……よろしいですか?」

「おい後輩、こんな所で料理対決の衣装に立絵変えるな、同接増えてるからな」

「だって今ロリですし……」

「その単語が自然にでる現実が一番怪異だと思うぞ?」

「私は妖怪ですしせーふでーす」

 

[メスガキ……ロリ、メイド?]

[また属性増やしてるよこの鴉……]

[息をするように増やすなw]

[即堕ち系有能不憫ポンコツホラゲ苦手ヤンデレ大食いイケメン儂ショタロリメスガキ爺婆ママメイド]

[打ち込むの早すぎぃ!]

[コピペしてるんでw]

 

 コメント欄の加速具合がマジでヤバイ気がするが、妖怪の視力を持っている儂からしたら、何の問題もない。全部目を通せるし、気になったのは覚えてられる。

 だからこそ言うが、なんで儂の属性今こんなことになってるの? 改めて思うが、マジで頭おかしくない? 創造神もびっくりだよ? 天ちゃん辺りに言ったら多分笑い死ぬぞ?

 

「という訳で神虎様、私のメンタル面を考慮してささっと質問するのですが……好きな食べ物……はどうでもいいんで最近はまってるものを教えてくれませんか?」

「どうでもいいとは酷いな」

「どうせ胡瓜ですので、周知の事実かと思いまして」

「いや、そうだが……言わせてくれよ」

「常識枠の貴方が、壊れる姿見たくないです」

「何気に酷いな!?」

 

 いやだってねぇ。

 この人は普段は凄い常識的な人物であり、かなり優しいまともな人間だ。 

 スタジオであった限り、鶫と同じでマジの純人間。なのに、あれだぞ? 胡瓜が関わった瞬間に狂天狗もビックリな狂化に陥るんだぞ? そんなの制御出来る訳ないし、胡瓜の話題は持ってこない方が吉なのだ。

 

 

「はまってるモノならあれだな、家庭菜園だな」

「まってください神虎様?」

「ちゃんと胡瓜育てるぞ」

「これも地雷でしたか……」

「いや、今日は多く語らん。後が使えてるし、何よりお前に語ったら、後ろが怖い」

「あれ、まだ残ってる方が?」

「あぁ――いや、残ってないぞ?」

 

 

 それは無理があるのでは? 

 ……そう思ったが、誤魔化す以上なんかヤバイ相手が控えてるのだろうな。

 それこそ、奴良瓢鮎様が……それ、一番やばくないか?

 

「あのぉ、神虎様? 奴良様は来ませんよね?」

「来ないって、うん,来ない――俺は言ってないから何もしないでくれ」

 

[奴良瓢鮎:河童校舎裏]

[草]

[そういえば、サプライズで凸るって……]

[奴良瓢鮎様:義兄弟共、地獄堕ち]

[そんなぁ]

[すまんってw]

 

 今のコメントの流れ、それを見るに……これはマジで奴良様くるフラグでは?

 

「神虎様、私抜けるんで配信お願いできますか?」

「駄目に決まってるだろ!?」

「えぇ、駄目ですか……」

「いいから大人しく話せ鴉」

 

 その瞬間、通話から落ちていく神虎先輩。

 今のうちに心を整えようと思ったんだが、すぐにピコンと音が鳴り……。

 

「さぁ、オレが来たぞ! こんばんはだ浮世鴉!」

 

 俺の最推しである奴良瓢鮎様が通話に入ってきた。




次は早く更新します。
そういえば近状ノートにも書きましたがDiscordサーバーを作りました。
読者作者問わずメンバーを募集してるのでお気軽にお入り下さい。


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