デート・ア・ディケイド (黒崎士道)
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オリ主・オリ設定

五河 士 (いつか つかさ) 仮面ライダーディケイド

イメージCV.鈴村健一

 

この物語の主人公で、神の手違いによって死んでしまったため、魂の管理者である神様に『 デート・ア・ライブ』の世界に転生させられた少年。転生後、気を失っていたところを五河家に保護され、そのまま養子となった。

美形な容姿で明るく、困っている人はほっておけない性格。写真を撮ることが趣味、嫌いなものはナマコ。士道と同じく精霊にキスをすることで霊力を封印することができる。

神様から受け取ったディケイドライバーとライダーカードを使ってディケイドに変身して闘うことが出来る。

 

使用ライダーカード

・ディケイド

・クウガ

・アギト

・龍騎

・ファイズ

・ブレイド

・響鬼

・カブト

・電王

・キバ

・ダブル

・オーズ

・フォーゼ

・ウィザード

・鎧武

 

 

 

 

 

海東 大樹 (かいとう だいき) 仮面ライダーディエンド

 

 

士より先に神様に転生させられた少年。クール系男子だが、人を茶化したりするのが好きで天然な性格で同じ転生者である士とは親友といえる仲。楽しいことが大好きでトラブルがあるとすぐに首を突っ込む。

士と同様、神様から受け取ったディエンドライバーとライダーカードを使ってディエンドに変身して闘う。

 

使用ライダーカード

・ディエンド

・轟鬼

・レイ

・歌舞鬼

・キバ

・ドレイク

・ブレイド

・電王

・サソード

・サガ

・ライオトルーパー

・G3

・王蛇

・イクサ

・サイガ

・シザース

・ライア

・ヘラクス

・ケタロス

・ファム

・斬鬼

・威吹鬼

・パンチホッパー

・アギト

・カイザ

・アクセル

・バース

・メテオ

・ビースト

・バロン

・龍玄

・斬月

 

 

 

 

操真 晴也(そうま はるや) 仮面ライダーウィザード

 

士たちの後から転生させられた少年。普段はお調子者でムードメーカーだが、根は真面目で転生者たちの中では士と大樹がボケ、晴也がツッコミ役の担当である。好きなものはドーナツ。

神様から受け取ったウィザードライバーとウィザードリングで魔法を使用できたり、仮面ライダーウィザードに変身できる。

 

 

 

 

葛場 千秋(かつらば ちあき) 仮面ライダールシファー

イメージCV.入野自由

 

パラドクスに所属する謎の少年。かつてノーハートに拾われ、それからパラドクスの一員として暗躍する中でディケイドを激しく敵視している。

戦極ドライバーとカオスロックシードを使用することで仮面ライダールシファーに変身する。

 

 

 

 

神代 零奈(かみしろ れいな)

イメージCV.大原さやか

 

記憶をなくした精霊の少女。識別名は《ヴァルキリー》。

 

顕現する天使は神々しく輝く虹色の翼《神帝閃光(ミカエル)》。《神帝閃光》にある宝石からあらゆる武器を召喚することができる。《神帝閃光》と一体化させることで最強の剣《約束された勝利の剣(エクスカリバー)》となる。

 

おとなしく生真面目で天然な性格だが、怒り出すと性格が豹変する。趣味は裁縫とお昼寝。記憶をなくした自分に名を与え、命を賭けて救ってくれた士に好意を抱く。

 

 

 

 

 

檜山 蓮(ひやま れん)

 

喫茶店『ル・クール』のマスター。士たちが仮面ライダーであることを知っている数少ない人物の一人、士たちに助言や新しい力を授けたりする謎の人物。

 

 

 

ナサニエル・テイラー

 

巨大財団、アーガスコーポレーションの社長。その正体は士たちを転生させた神からの使者で士たち仮面ライダーのサポートをする。

 

独自の研究を行い顕現装置や様々な技術を開発している。仮面ライダーと甘いお菓子が大好き。

 

 

 

 

九条 明日奈(くじょう あすな)

 

若くしてテイラーの秘書、そしてアーガスコーポレーションの精鋭たちのリーダーを務めている女性。

さらに美しい美貌に加え、テイラーの補佐をするために身につけた運動神経や頭脳はほとんど完璧な女性。

 

財団が開発した数少ないライダーシステム・イクサを使用できる実力者でもある。

 



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序章
転生と破壊者の力


ついにリメイク版の『『ディケイド・ア・ライブ』が完成しました!

長く更新していませんでしたが、もう一つの作品の『デート・ア・ライブ〜若き英雄の物語〜』もよろしくお願いします!


気が付くと、俺は何も無い真っ白な空間にいた。

 

「……ここは?」

 

「やあ、君が新しい転生者だね?」

 

突然後ろから声がし、俺は後ろを振り向くとそこには一人の男性がいた。

 

純白のコートを纏い茶髪の髪をオールバックにしたイケメンな男性は俺を見据えながら佇んでいた。

 

「えっと……あなたは?」

 

「ああ、紹介が遅れたね。私はこの空間で魂の管理者を務めている。

君たち人間で言うと神様、と言ったほうが分かりやすいかな?」

 

「か…神様⁉︎」

 

これって俺死んじゃって転生させてもらうっていうよくありがちなパターンだよな⁉︎

 

てか、俺死んだのかよ⁉︎

 

「まあ落ち着いてくれ。死んでしまって色々と戸惑っているかもしれないが、君に話さねばならないことが沢山ある。

取り敢えず、紅茶でも出そう。話はそれからだ」

 

神様がそう言うと俺はいつの間にか椅子に腰をかけていて、目の前には高級そうなカップに紅茶とお菓子があった。

 

そして神様は俺の前の椅子に腰をかけて優雅に紅茶を飲んでいる。

なんだかすごく絵になってる。

 

「さて、まず君に謝らなければならないことがある。

今回君は我ら神たちの手違いによって死んでしまった。全ての神に代わり謝罪をさせてもらいたい。

申し訳なかった」

 

神様は申し訳なさそうな顔をして頭を下げる。そして懐から手帳を取り出し開く。

 

「ふむ、黒崎士君。君は幼い頃に両親を事故で亡くし、その後祖母に育てられる。そして今日、高校の下校中に大型トラックに弾かれて死亡……か」

 

どうやらそれは俺の履歴らしい。神様は手帳を懐にしまうともう一度紅茶に口をつける。

 

「我々はは今回の件を大変嘆いている。君に申し訳ないとね。

そこで全ての神たちがお詫びを兼ねて君に転生の許可を下さった」

 

「……え?転生って…」

 

「そのままの意味さ。新たな命を持って生まれ変わる。

まあ、本来の人間ならばそのままあの世へと行くのでそれはないのだけれどね」

 

「えっと…それじゃあ、また戻れるんですか?」

 

「…いや、一度死んでしまった人間は同じ世界に戻ることは出来ない。世界の掟だ。君には別の世界に転生してもらう」

 

「……」

 

「気持ちは分かる。だが、もはや過ぎてしまった事はどうしようもないんだ」

 

「…いえ、構いません。また命を貰えるってだけでありがたいです」

 

「…そうか、そう言ってくれると助かる。さて、君の転生先なんだが」

 

突然巨大な本棚が現れ、神様は立ち上がると本棚から一冊の本を取り出した。

 

そしてその本を俺の前に置く。

 

「君にはこの、『デート・ア・ライブ』という世界に転生してもらいたい」

 

………いろんな意味でヤバい世界じゃねーか。

 

名前くらいは聞いたことあるけど、そんなとこ行ったら絶対死ぬ。

 

「安心してくれ。君を丸腰で行かせる訳じゃない。

見たところこの世界は少し危なっかしいからね。なので私から君にプレゼントがある」

 

神様は椅子に腰を下ろした。そして何処からか洋紙と羽ペンを取り出し羽ペンでそこに何かを記入する。

 

「まずは、身体能力の強化。そして二つ目は精霊の封印能力だ。これはいずれ君にも分かる。

さて、三つ目なんだが」

 

神様は懐から白いバックルのようなものとカードを机の上に置いた……って、これどっかで見たような気がするんですけど……?

 

「君には仮面ライダーディケイドの力を授ける。これは君に相応しいと思ったからだが、どうかな?」

 

「え?あ、ありがとうございます」

 

「喜んでもらえて何よりだ」

 

藍染さんは笑顔でそう言った。実は俺も仮面ライダーは好きなので正直嬉しい。

 

「使えるライダーカードはクウガから鎧武までだ。

向こうには私の協力者がいるはずだが、彼とは原作が始まればあえるはずだ」

 

「はい、分かりました」

 

「それから、これは君のサポート役のキバットバット三世だ」

 

神様はそう言って指を鳴らすと何もない空間から機械のような蝙蝠、仮面ライダーキバの相棒のキバットバット三世が現れた。

 

「よお!お前が俺様の新しい相棒か!よろしくな!」

 

「ああ、よろしく。俺は士だ」

 

「キバットはたまに君から霊力を供給しなければ動けなくなってしまうから、よろしく頼む。

キバット、彼と共に頑張ってくれ」

 

「おう!キバって行くぜ!」

 

「よし、それではそろそろ転生の準備をしよう」

 

神様は手をかざすと俺とキバットの足下から白い魔法陣が現れた。

 

「そういえば言い忘れていたが君の前にもう一人、その世界に転生者がいるのだが、彼には私から連絡を入れておこう。キバット、頼むよ」

 

「任せろ!」

 

「神様、本当にありがとうございました」

 

「ああ、では第二の人生、楽しんでくれ」

 

俺の意識はどんどん遠くなって行った。

 

SIDE OUT

 

 

SIDE 神様

 

「………」

 

彼は行ったか……

 

「先輩」

 

後ろには私の後輩である天使が立っていた。

大方、私を待っていたのだろう。

 

「どうしたんだい?」

 

「なんであの子にディケイドの力を渡したのですか?」

 

「……どういう意味だい?」

 

「誤魔化さなくても良いですよ、先輩。

もしかして、彼がここに来るのを待っていたのではないですか?」

 

ふっ、相変わらず感が鋭いな。

 

「…いや、そんなことはないよ。私は誰にでも平等だ」

 

「と言うと?」

 

「確かに天界から彼を見たとき、彼に興味を持ったのは事実だ。だが、天使は人間を殺してはならない。

彼がここに来たのは私にとって偶然だったんだ。

まあ、先に行った彼には破壊者の資格がなかったというだけだ」

 

「じゃあ、あの子にはその資格があるってことですか?」

 

「ああ、だからこそ彼にディケイドの力を渡したんだ」

 

「……とか言って、本当はあの子がどうやってあの世界で生きるのか楽しみなんでしょう?」

 

「……どうだろうね?」

 

さあ、楽しませてもらうよ、

君が世界の破壊者に相応しいかどうか。

 

「行こうか」

 

「はい、神様」

 

私と天使は他の神たちへの報告のためにその空間から姿を消す。

 

SIDE OUT

 

 

 

SIDE 士

 

「…ここは?」

 

瞼を開けるとは見知らぬ部屋でベッドの上に寝かされていた。現状を確かめるために身体を起こしてみる。

 

今の士の容姿は小学校の高学年くらいの身長で少し長めの黒髪の美形な顔だちだった。

 

「お、やっと起きたか!」

 

声がしたので横を見るとキバットがパタパタと音をたてながら飛び回っていた。

 

「なあキバット、ここどこなんだ?」

 

「さあ?お前この家の前で倒れてて助けられたんだけどよ、神が言うにはここが俺たちの新しい家だって。

あ、そうだ。あいつがこの世界に着いたらこれ渡しておけって」

 

そう言うとキバットは蝋で封をされた手紙を渡してきた。

 

「君がこの手紙を読んでいるということは転生は無事に完了したようだね。

さて、今の君は五河家に保護されているはずだ。この世界では君は五河家の一員という扱いになる。

 

もし、この家の者に何か尋ねられたらすまないが適当な理由をつけて誤魔化してくれ。

 

私が言っていたもう一人の転生者だが、彼には君の事を既に知らせておいた。しばらくしたらキバットと共に彼と接触してくれ。きっと良い友人になれる。

 

それからディケイドライバーとライドブッカーは君のバックの中に入っている。原作が始まるまでは誰にも見られないよう心掛けてくれ。

 

なお、この世界には本来ない力を介入させてしまったため原作にはない物語が生まれる可能性がある。

くれぐれも注意してくれ。

 

では改めて、第二の人生を楽しんでくれたまえ。

健闘を祈る。

神より」

 

「……なるほどね、大体は分かった」

 

そう呟いた後、士は取り敢えずベッドから出て側にディケイドライバーが入っているというバッグを確認して部屋の外へ出ようとドアノブに手をかけようとするが、突然ドアが勢い良く開き士は顔面を強打した為、現在床の上で痛みのあまり転がり回っていた。

 

「〜〜ッ⁉︎」

 

ドアの方を見ると、士に深刻な深手を負わせたのは活発そうな赤髪の可愛らしい幼い少女だった。

 

「あ、お父さん!倒れてた人が起きたよー!」

 

少女は嵐の如く慌てて部屋から去って行った。

士にかなりの重傷を負わせたのに気づかず……。

 

「……大丈夫か?」

 

「……グズ…ありがとう…」

 

士はキバットの優しさに泣きそうだった。

 

そしてその後、少女の父親らしい男性が部屋に入ってきた。男性はここまでの経過を簡単に説明してくれた。

士はこの家、五河家の近くの道に倒れていたのを先程の少女、五河琴里とその義兄である五河士道が見つけてここまで運んできてくれたということらしい。

 

「今度はこちらから聞くけど、君はなんであんなところで倒れていたんだい?」

 

男性の質問に士は固まってしまった。

流石に転生したなどと言うわけにはいかないので、適当な理由をつけて誤魔化そうとしたのだがーー

 

「では君は、両親を亡くして一人旅をしていたということだね?」

 

「…はい」

 

良い理由を考えた結果、こんな見苦しい理由しか思いつかなかった。普通ならこんな話信じないだろう。

 

「よし、なら君は今日から俺の家族だ」

 

「…へ?」

 

男性の突然の家族宣言に士は思わず間抜けな声を出してしまった。冗談かと思ったが、男性の目は真剣だったので本気で言っているらしい。

 

「君は行く当てが無いんだろう?なら俺の養子になってほしいんだ。勿論、ちゃんと君が自立出来るまで育てるつもりだ」

 

「えっと……」

 

突然の出来事に士は一瞬断ろうとしたが、先程のキバットの言葉を思い出した。神様はここが士たちの新しい家と言っていたらしい。ということは、この誘いを断ったら確実に路上でくたばっている。それだけはゴメンだ。

 

「分かりました。じゃあ、これからもよろしくお願いします」

 

士の宣言を聞いていたのか、ドアが勢い良く開き先程の少女、琴里が士の腹に突っ込んできた。

 

「おにーちゃん、これからよろしくね!」

 

琴里のタックルにより腹部にかなりの激痛が走ったが、琴里の眩しい笑顔を見るとそんなことはどうでも良くなった。

 

「ああ、よろしくな」

 

士は新しい家族と共にこの世界で生きていこうとこの時誓った。

 

「ん?」

 

士は一瞬だけ妙な気配を感じたが、周りには琴里と父親以外誰もいないので気のせいだと思った。

 

 

 

 

 



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もう一人のライダー

「ほら、さっさと行くぞ!士!」

 

「ちょっと待てって、キバット!」

 

俺が五河家の養子になって、一週間程が経った。最初はキバットの姿を見て琴里と士道や両親たちも驚いていたが、今ではキバットも五河家ともうすっかり家族となった。

 

琴里は初対面と変わらず活発で、元気いっぱいな世話の焼ける妹だ。

 

士道の方も最初はあまり上手く馴染めていなかったが、なにかときがあってもうかなりの仲良しだ。士道の場合は家族というより、親友に近い関係かもしれない。

 

二人は徐々に新しい世界での生活に馴染めていた。

 

そして現在士はキバットに連れられて、先にこの世界に来た転生者に会いに行くところだった。

 

家から出て数分、士が連れて来られたのは家のすぐ向かいにある小さな公園だった。そこにあるベンチに一人の少年が座っていた。

 

サラッとしたショートヘアの黒髪に右目下に泣きぼくろがある少年は士に気づくとベンチから立ち上がる。

 

「やあ、君が神様が言っていたもう一人の転生者かい?」

 

「ああ、君は?」

 

「僕の名前は海東大樹だ。よろしく」

 

そう言って大樹は指鉄砲で撃つ仕草をした。

 

そしてその後、互いに挨拶を終えた二人は神様に与えられた自分達の能力について話し合うため、まずは士から自分が神様から授かった能力とライダーであることを話した。士が話を終えると大樹は頭を抱えた。

 

「……はあ、しかし…精霊の封印能力とお互いに仮面ライダーの力とは…。あいつは僕たちを原作介入させる気満々だね」

 

「えっ?お互いにって…、大樹も仮面ライダーなのか?」

 

「ああ、僕は仮面ライダーディエンドさ」

 

大樹はそう言うと上着から変身銃ディエンドライバーと、ディエンドのライダーカードを見せた。

 

「君は何のライダーなんだ?」

 

「俺は仮面ライダーディケイドだよ。で、こいつは相棒のキバットだ」

 

そう言って士もディケイドライバーとディケイドのライダーカードを取り出した。その隣でキバットも士の横でパタパタと飛び回る。

 

「俺様がキバットバット三世だ!よろしくな大樹」

 

「ああ、よろしく。それにしても、ディケイドとディエンドとは、なんだかあいつらに仕組まれている気がしてならないんだが…」

 

「いや、そんなことはないと思うけど…」

 

「…まあ、考え過ぎだね」

 

大樹はまだ納得がいかないような表情をして、場の空気が少し重くなった感じがしたので士はとにかく場を和ませるために話題を出そうと必死に考えていた。

が、先に口を開いたのは大樹の方だった。

 

「ところで士、この後は暇かい?」

 

「えっ?いや…特に予定はないけど……」

 

「ならこの後一緒にどこかに遊びに行かないか?まだ色々と話したいこともあるし」

 

「じゃあ、まずは適当にゲーセンにでも行くか?」

 

「そうだね。それじゃあ早速行こうか」

 

 

 

それから数十分後……

 

ゲーセンで存分に遊んだ俺たちはとりあえず近所のファミレスに足を運んだ。もうそろそろ昼時だし、昼食をとるのにちょうどよかった。

注文を終えて、運ばれた料理を前に互いに席につき向かい合う。

 

「ほら、フォークとスプーンだよ」

 

「ありがと」

 

俺は大樹からフォークとスプーンを受け取って、注文した大盛りパスタを啜る。

 

「おいおい、ラーメンじゃないんだから……」

 

「んぐ?」

 

そうツッコミを入れる大樹も微笑ましげに注文したドリアを口に運ぶ。

 

「それにしても…なんで神は僕たちに仮面ライダーの変身能力なんて渡したんだろうね?トラブルに巻き込まれることが確定じゃないか」

 

大樹は不意にそんなことを呟く。俺も口元を拭いて水も一口飲んでから口を開く。

 

「どうなんだろうな?……まあ、原作に巻き込まれる可能性がないわけじゃないし…神様曰く本来原作にない物語があるって言ってたから、自分の身を守る護身用程度に使えばいいんじゃないか?」

 

「君は深く考え過ぎじゃないか?」

 

「ポジティブ思考って言ってほしいな」

 

そう言って俺はまたパスタを啜り始める。大樹はそんな俺を見てつっこむ気が失せたのか、またドリアを食べだす。

 

 

 

 

「なんか、今日結構楽しかった気がする……」

 

「同感だね」

 

俺と大樹はまた公園に戻ってベンチで寛いでいた。周りはもう太陽の光が沈み始める夕暮れ時だ。

 

「そういえば、大樹って『デート・ア・ライブ』の原作知識ってあんの?」

 

「いや、そもそも僕はあまりそういう本を見なかったからね。その名前すら初めて聞いたんだ。まあ簡単に言うと、神が勝手に転生先を決めたってこと」

 

「へえー、俺もあんまり知らないんだよな」

 

「ということは、君も転生の理由は大体僕と同じなのかい?」

 

「ああ。でも俺、この世界に来てまだ一週間くらいだけどさ、転生してひとつだけ分かったことがあるんだ」

 

「分かったこと?なんだいそれは?」

 

大樹は頭にハテナマークを浮かべる。士は数秒の沈黙の後、口を開く。

 

「誰にでも…大切な存在は必要ってことかな…」

 

士はこの世界で出会えた大切な家族の琴里や両親、士道の笑顔を思い浮かべる。

 

一方、大樹は感心したように士を見ていた。

 

「大切な存在…か。いいこと言うじゃないか」

 

「へへ、まあね」

 

「つかさおにーちゃん!」

 

「「ん?」」

 

二人は声がした方を向くと、そこには琴里の姿があった。琴里はこちらに走ってくると士に抱きついた。

 

「士。この子は?」

 

「俺の妹の琴里だよ。ほら琴里、挨拶」

 

「五河琴里です!よろしくね!」

 

「ああ、こちらこそ。僕の名前は海東大樹だ。よろしく、琴里ちゃん」

 

「うん!」

 

「さて、じゃあ僕はそろそろ帰るとしよう。士、琴里ちゃん、またな」

 

「またな、大樹」

 

「またねー!」

 

大樹は指鉄砲で士と琴里に撃つ仕草をすると二人に背を向け、そのまま夕日の方へと歩いて行った。

 

「おにーちゃん、だいきおにーちゃんっていい人だね!」

 

「ああ。そうだな」

 

俺と琴里は手を繋ぎながら家に向かった。

 

「ねえねえつかさおにーちゃん。そういえばもうすぐ私の誕生日なんだよ!」

 

「へえ、じゃあプレゼントは何が欲しいんだ?」

 

「えっとねー」

 

 

そしてこの数日後、天宮市を謎の大火災が襲った。

 

 



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第1章 十香デッドエンド
始まりの朝


更新が遅れました!

ついに士がディケイドに変身します!お楽しみに!


夢を見ていた。まるで、過去を思い出すように……

 

士が立っていた荒野には数多くのライダーたちとマシン、モンスターが倒れていた。

 

そしてその中で、ただ一人だけ佇んでいるものがいた。

 

マゼンタに輝く、バーコードをモチーフとした仮面ライダー

 

「ディケイド…」

 

紫色のドレスを身に纏い、夜空のような黒髪を腰まで伸ばした少女が呟いた。

 

ディケイドは少女に近づいて行く。

だがそれに気づいたライダーが一人いた。

 

「待て…悪魔!」

 

仮面ライダークウガだ。

クウガはふらふらと立ち上がると両手を広げる。

 

「はあああああああああ!」

 

するとクウガを闇のエネルギーと雷が包んだ。エネルギーの余波で周りに倒れていたライダーたちとマシンが浮き上がる。

 

「くっ!」

 

士はその余波に吹き飛ばされそうになるが、何とか持ちこたえた。

 

そしてクウガは禍々しく刺々しい装甲、さらに筋肉が浮き出た黒いボディ、闇に包まれたかのような真っ黒な瞳の「アルティメットフォーム」の姿になる。

 

変身を終えると、余波で浮いていたライダーたちとマシンは地面に落ちる。

それを合図にクウガはディケイドに向かう。

 

ディケイドがクウガのパンチを避け、腕を掴む。だがクウガはそれを振り払い間合いを取る。

 

「はあああ!」

 

クウガの拳を炎が包む。

 

そしてディケイドの拳もマゼンタに輝く。

 

「「はああああああ‼︎」」

 

二つの拳がぶつかり合う。

 

士の意識はそこで途切れた。

 

 

 

 

 

 

 

瞼を開くと、士の目覚めは最悪だった。何故なら、身体の上を可愛い妹が飛んだり跳ねたりしているからだ。

 

「あー、琴里くーん?俺の可愛い妹よ?」

 

「おお!なんだ?私の可愛いおにーちゃんよ!」

 

白いリボンに赤いツインテールを揺らしながら琴里は士に尋ねる。

 

「いや、そろそろどけよ。朝飯作れないから」

 

「はーい!」

 

「ぐぅっ⁉︎」

 

琴里は重たい衝撃を士の腹に残し部屋から出て行った。

 

(嫌な夢だったな…)

 

士は心の中で呟きながら身体を起き上がらせ軽く動かす。

 

「おーい!つっかさー!起っきろー!」

 

大声で騒ぎながらパタパタと羽音をたてて部屋に士の相棒、キバットがやって来た。

 

「おーい!って、起きてんのか」

 

「ああ、おはようキバット」

 

「おはよう!士!」

 

士は布団から出て既に制服に着替えていた。

 

「今日は春休みも終わってお前も晴れて高校2年生!一世一代の晴れ舞台だぜ〜!」

 

「大げさだってキバット。なんで今日はそんなに上機嫌なんだよ?」

 

「そりゃ〜お前、今日はいよいよ待ちに待った原作開始なんだぜ?ああ、楽しみだ!」

 

「…なあ、分かってると思うけどーー」

 

「ああ、わかってるてぇの。俺様が飛んでたら周りのねーちゃんたちも驚いちまうこと間違いねーからな。お前の鞄の中で大人しくしてるよ」

 

「ありがとう、キバット」

 

士はキバットを伴いながら階段を降りてリビングへと入った。そこにはテレビを見て寛いでいる琴里と既に朝食を作り始めている士道がいた。

 

「よう士道、おはよう」

 

「ああ、おはよう。士」

 

士は士道に挨拶を交わしながら台所に入り、朝食の手伝いをする。

 

「おー!キバット!おはようなのだ!」

 

「おう、おはよう琴里!」

 

琴里とキバットも元気に挨拶を交わす。その間に士道と士は朝食を作る。

 

「ー本日未明、天宮市近郊のーー」

 

「ん?」

 

士は朝食を作りながらテレビから流れた言葉に眉を潜めた。それもそのはず、士たちが現在暮らしている地域がその天宮市だからだ。

少しの間テレビの画面を観ていると映っていた映像が切り替わり、まるで隕石が落ちてきたかのように地面が抉られ、建物も無残に破壊されている光景が映し出された。

 

「空間震か…」

 

士道がそう呟きながら出来た朝食をテーブルに並べると、キバットが飛んできてテーブルに置いてあるバスケットに入っていたパンを翼で持ちながら囓る。

 

「そういやぁ、最近この辺りって空間震が多くねぇか?特に去年あたりから」

 

パンを囓りながらキバットはそう言う。

 

「んー、そうだねー。ちょっと予定より早いかな…」

 

「んぁ?早いって何がだ?」

 

「んー、あんでもあーい」

 

琴里の意味深な言葉に士とキバットは気になったが、士道はそれ以上に琴里の声が口ごもったのが気になる。ゆっくりと琴里の頭に手を置き、首を回した。

その際「ぐぎゅ」と可愛らしい声が聞こえたが、それよりも琴里が朝食の時間に飴を舐めている方が問題だった。

 

「こら、飯の時に舐めるなって言ってんだろ」

 

「んー!んー!」

 

士道は飴を取り上げようと口から出ていた棒を引っ張るが、そのせいで琴里の顔がすごい形に変形した。その中で仲裁に入ったのは士だ。

 

「まあ舐めたもんは仕方ないし、舐めさせてやれよ。琴里も次は隠れて舐めろよ」

 

「はあ…、ちゃんと飯も食えよ?」

 

「おー!愛してるぞおにーちゃんたち!」

 

結局、士の言葉と琴里のチュッパチャップス愛に士道の方が折れた。

その後士と士道、琴里はそれぞれ席に座り朝食を食べている。その時、士道は何かを思い出したように言う。

 

「そういえば今日って、中学校も始業式なんだよな?」

 

「そうだよー」

 

「じゃあ昼には帰ってくるってことか。琴里、昼飯で何かリクエストあるか?」

 

琴里は思案するように頭を揺らす。

 

「デラックスキッズプレート!」

 

「お子様ランチかよ!」

 

琴里のリクエストに思わずキバットがツッコミを入れる。琴里がリクエストしたのは近所のファミレスのメニューだった。

というか、中学生がお子様ランチを注文するのはどうかと思うのだが…。士も神様から転生の時にかなりの大金を受け取っていたので金には困らなかった。

 

「まあ、最近ファミレスも行ってなかったし、俺が奢るから気にすんな」

 

それを聞いた琴里は喜びを爆発させて椅子から立ち上がりピョンピョンと跳ね回る。

 

「絶対だぞ!絶対約束だぞ!地震が起きても火事が起きても空間震が起きてもファミレスがテロリストに占拠されても絶対だぞ!」

 

「いや、占拠されてたら飯食えないだろ」

 

「つーか、ファミレスにテロリストなんか来るか?」

 

四人は朝食を食べ終え、士は食器を洗いながら先程の約束を思い出しながら自分は少し妹に甘いかもと思ったが、今日はキバットの言うとおり、春休みも終わり新学期が始まるのだ。今日くらいは別にいいだろうと、考えているうちに食器を全て洗い終わりすぐに学校に行く支度を始めた。

 

部屋の机にある引き出しからディケイドライバーとライドブッカーを取り出し、必要なものしか入っていないバッグの中にキバットと共に入れて準備は完了だ。士道と琴里は既に先に高校と中学校に向かったので、士は家のガレージに入って行った。ガレージの奥にはマゼンタのバイク、マシンディケイダーがひっそりと置かれていた。

キバットによると神様からのプレゼントらしい。士はこのバイクを日頃の足代わりにしている。マッドブラックのフルフェイスヘルメットを被った士はガレージのシャッターを開けるとバイクに跨がり、アクセル全開で学校へ走り出す。

 

 

 

 

士が学校に着くと、廊下に貼り出されたクラス表を適当に確認してから、自分がこれから一年間世話になる教室に向かっていく。

 

「2年4組か」

 

「やあ、士」

 

声をかけられ後ろを振り返ると、そこには士と同じくこの世界に転生したもう一人の転生者であり、士の親友である海東大樹がこちらに歩いてきた。

 

「よう、おはよう。大樹」

 

「ああ、おはよう。それにしても、また君たちと同じクラスなんてね」

 

「『君たち』ってことは、士道も同じなのか?」

 

「士道なら先に教室に向かって行ったよ」

 

 

士は大樹と雑談をしながら目的の教室に着いた。まだ始業時間には早かったが、新学年、新学期ということで時間に余裕を持って登校している多くの生徒たちで教室の中は賑わっていた。

 

「五河君!海東君!」

 

二人は教室に入ると誰かに呼ばれてその方を見ると、アシンメトリーな長い黒髪が特徴的な女の子がこちらに向かって来る。

 

「おはよう楓」

 

「おはよう。五河君」

 

「やあ、楓ちゃん。また同じクラスだね」

 

「うん、またよろしくね。二人とも」

 

この子は夜桜 楓。士と大樹が中学生だった頃、あることがきっかけで仲良くなり、それ以来よく一緒にいることが多い。そこで先に登校していた士道がやって来る。

 

「よう、三人とも、おはよう」

 

「あ、士道君もおはよう!」

 

士道まで来て楓は元気にはしゃいでいたが、向こうから女子のグループに呼ばれたため、すぐにそちらの方へと向かった。

 

「五河 士道、五河 士」

 

楓が三人から離れて行くと、突然士道と士は見知らぬ少女に呼び止められた。

 

「えっと…俺たちになんか用か?」

 

士道はそう応えると少女は微動だにせずに思案して言葉を返す。

 

「覚えてないの?」

 

士も転生してからの記憶を遡り思い出そうとしたが、やはり見覚えがなかった。そんな士道たちの様子を見て、少女は

「そう」と一言だけ言うと机から参考書のような本を取り出し、それを読み始めた。

 

「あ〜しまった〜。つい足が出た〜」

 

「ぐほぁ!」

 

士たちの後ろで大樹のいかにも棒読みなセリフと何が潰れたような声が聞こえた。その声の主は一応三人の友人である殿町宏人のものだったが、大樹の蹴りをくらった殿町は床の上で倒れている。だが数秒後なんとか復活した殿町はゆっくりと立ち上がる。

 

「よう五河兄弟、海東。お前ら二人ともセクシャルビーストめ!」

 

「セク…なんだって?」

 

聞きなれない言葉についていけない三人だが、殿町はそんなのに構わず言葉を続けた。

 

「セクシャルビーストだ、お前らちょっと見ない間に色づきやがって。お前ら楓ちゃんだけでなく、いつの間に鳶一折紙と仲良くなったんだ?」

 

「「「…誰?」」」

 

「鳶一だよ、鳶一折紙。てゆーか海東!お前去年紹介してやっただろ!」

 

「……ああ。覚えていたよ?」

 

ーー今の間は絶対に忘れてたな。大樹の奴……。士は心の中でそう呟いた。

 

「ちょっと待て⁉︎何だ今の間は⁉︎お前去年教えてくれって言ったから教えたのに全然覚えてなかったのか!」

 

「あ、そういえば鳶一って確か超天才とか言われてた学年主席だったよな」

 

その後殿町がため息をつきながら鳶一折紙について詳しく語り出した。要約すると、成績は学年主席で体育もダントツ、「『恋人にしたい女子ベスト13』では3位の人気らしい。そこで士道が疑問に思ったことを口にする。

 

「なあ、なんでベスト13なんて中途半端な数字なんだ?」

 

士道の問いに答えたのは大樹だった。

 

「簡単な話だよ、士道。主催者の女子の順位が13位なんだ。あ、因みに楓ちゃんはぶっちぎりの1位だってさ」

 

「へえー、じゃあ男子もあるのか?」

 

「ああ、『恋人にしたい男子ランキング』はベスト358まで発表されたぞ」

 

「多っ!最後の方ワーストランキングに近いじゃんか!てか殿町は何位だったんだ?」

 

「僕が教えてあげよう。僕が1位で士が2位、士道が53位そして殿町は見事に358位だ」

 

「………」

 

大樹が言った内容に士はどうやって殿町に声をかければいいのか分からなかった。

 

「…えっと…殿町…。その…悪かったな…嫌なこと聞いて」

 

「言うな!2位の奴に励まされても俺が惨めになる!」

 

そう言って殿町は頬に涙を伝わせながら教室から飛び出して行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「五河兄弟、海東。どうせ暇なんだろ、飯いかねー?」

 

今日の日程を終え、帰り支度を整えた生徒たちが教室から出て行く中、先程涙を流して教室から飛び出して行った殿町が話しかけてきた。

 

「悪い、今日は琴里と飯食いに行くんだ」

 

「僕もだ。今日は大事な用がある」

 

「なあ五河、俺も一緒に行っていいか?」

 

「え?別にいいと思うけど」

 

「……殿町、何を企んでいるんだい?」

 

大樹はジト目で殿町を見つめた。士道も殿町の口から出る言葉に嫌な予感しかしなかった。

 

「いや、別に他意はないんだが、琴里ちゃんも三つくらい年上の男でもどうなのかなと…」

 

「…残念だよ、殿町。君はロリコンだったのか…」

 

「やっぱお前来るな!ここでぶっ飛ばしてやる!」

 

「はいはい、落ち着けって士」

 

士は妹への愛が為に暴走寸前になり、殿町に殴りかかりそうなのを大樹が服を掴んで止めにかかる。

 

ーーと、その瞬間、

 

「ウウゥゥゥゥウウウゥゥゥゥゥーーーー!」

 

教室の窓ガラスをビリビリと揺らしながら不快なサイレンが、響き渡る。

 

「ーーーこれは訓練では、ありません。これは訓練では、ありません。前震が、観測されました。空間震の、発生が、予想されます。近隣住民の皆さんは、速やかに最寄りのシェルターに、避難してください。繰り返しますーー」

 

突然の空間震警報に士、士道、大樹、殿町の四人は一瞬呆けてしまったが、すぐに避難行動をとれた。

 

「ほら、早く地下シェルターに行くよ」

 

大樹は冷静に歩き出し三人も後を追っていくが、大樹が突然立ち止まった。

 

「大樹?どうした?」

 

「彼女、どうしてシェルターとは逆の方向に向かっているんだ?」

 

そこには人混みをかき分けて逆走をする鳶一折紙の姿があった。士道は声をかけようとしたがすぐに走り去ってしまった。

 

「お、落ち着いてくださぁーい!だ、大丈夫ですから、ゆっくりぃー!おかしですよ!おさない、かけない、しゃれこうべー!」

 

担任のタマちゃん先生は周りの生徒たちより断然焦っていた。その様子に、生徒たちは不安を感じるというより、緊張をほぐされているように見える。

 

「なんか自分より焦ってる人を見ていると落ち着くね」

 

「ああ、それわかるかも」

 

大樹が苦笑しながらそう言うと殿町も似たような表情を作って返した。その時、士の制服のポケットがもぞもぞと動き出したので、士はポケットの中を覗いてみた。

 

「おい。士、士道!」

 

「キ、キバット⁉︎」

 

なんと士の制服のポケットからキバットが出てきたのだ。キバットは鞄の中に入れたはずなのに何故か士の制服に忍び込んでいたのだ。

 

「どうしたんだよ。一体」

 

「どうした、じゃねーよ!琴里の奴、まだシェルターの外にいるんだぞ!」

 

キバットの言葉に士道は悪寒を感じた。もしキバットの言葉通りなら、最悪なシナリオが想像出来たからだ。士道は携帯のGPS機能を使って琴里の位置を確認する。

 

「ッ!」

 

士道の予想した最悪なシナリオが現実に起きてしまった。琴里の位置を示すアイコンが約束していたファミレスの前を指し示していたのだ。その事に毒づきながら士道は生徒たちの人混みを飛び出して行った。

 

「おい士道!待てよ!」

 

キバットに集中していた士もそれに気づき士道を追いかける。

 

「士、士道!どこに行くんだ!」

 

大樹が後ろで叫ぶが、士はそれに構わずそのまま走り去って行く。

 

 

 

 

 

 

 

「キバット!原作通りならこの後はどうなるんだ⁉︎」

 

「悪りぃ、俺も原作までは知らねえから何とも言えねぇ!」

 

あの後、士道を見失った士はマシンディケイダーをエンジン全開で走らせ、キバットと共に空間震警報が鳴り響く街の中を駆けている。もう少しで目的地であるファミレスに着く。きっと士道もそこに向かっているはずだ。

 

だが、その時、士とキバットを視界を塗りつぶすほどの光と猛烈な爆風が襲い、マシンディケイダーごと吹き飛ばされた。

 

「「うわあああああああああ⁉︎」」

 

 

 

 

 

気がついたら爆風に飛ばされたのか、士の隣には士道が転がって来ていた。それを確認した士は士道の元に駆け寄る。

 

「いってえ……おいキバット、士道。大丈夫かーーーーえ?」

 

士は思わず間の抜けた声を出してしまった。視界が晴れると街が消えていたのだ。ビルは崩れ落ち、道路にはヒビが入り、まるで隕石が落ちてきたかのように地面が削り取られていた。だが、そんな目の前の惨劇よりも、そこにいた一人の少女に目を奪われてた。それは絶世の美女だった。少女は神秘的に輝くドレスを着ていて、その美しさに見惚れてしまっていた。この少女を言葉で表すのならば、暴力的にまで美しい。そんな少女が後ろにある玉座から長大な剣を取り出した。

 

「なんだ…?」

 

その剣は光り輝き幻想的なものだった。少女は剣の切っ先をこちらのほうに向かって振り上げる。そして剣が振り下ろされると剣の軌跡が二人のいる直線上通り、あらゆるものを切り裂いていた。

 

「なっーーー⁉︎」

 

「避けろ士道!」

 

士はこちらに迫る斬撃をかわすために士道の服を掴んで無理矢理その場から投げ飛ばす。運のいいことに斬撃は士の真横を通ったため、足元には大きな斬撃痕が残っていた。

 

「ひ……⁉︎」

 

「おい士!前だ!」

 

突然の出来事に戦慄する士道、士にキバットが叫ぶが、少女は一瞬で士たちの目の前に移動していた。

 

「ーーおまえたちも……か」

 

少女は顔を歪ませて悲しげにそう言うと剣の切っ先を士に向ける。

 

「ーー君は……」

 

「……名を聞いているのか?」

 

心地の良い調べの如き声音だが、どこか悲しそうに聞こえたように思えた。

 

「ーーそんなものは、ない」

 

「ーーーっ」

 

その時の少女は、ひどく憂鬱そうなーーまるで、今にも泣き出してしまいそうな表情をつくりながらその言葉を口にした。

 

 

次の瞬間、無数の銃声と砲撃音が鳴り響いた。

 

上空を見ると、ボディースーツを着て武装をしている女性たちが少女に向けてミサイルをいくつも発射してきた。その中には士と士道のクラスメイトである鳶一折紙までいた。だが少女は剣を握っていない方の手を上にやり、グッと握る。するとミサイルが圧縮されたように潰れ、その場で爆発した。

 

「こんなものは無駄だと、何故分からない」

 

少女が剣を振り抜くと、その衝撃で武装をした女性たちが吹き飛ばされる。女性たちは体勢を立て直そうとする。

 

「貴様が、精霊だな?」

 

突然声が聞こえて全員がそちらを見ると、そこには一人の人物が立っていた。黒いコートを身に纏い、フードを深くかぶっていたためその表情は分からなかったが声からして男性だろう。その男からは禍々しい何かを感じる。

 

「悪いが、我ら機関の目的の為について来てもらうぞ」

 

男は指を鳴らすと、その背後にゆっくりと異形な何かが姿を現す。士はその怪人たちを見て驚く。

それは間違いなく『ウィザードの世界』に現れる絶望から生まれる怪人、ファントムだ。

 

「行け、ファントム」

 

男がそう言うと怪物、ファントムは武装した女性たちや少女に襲いかかる。しかし、少女はファントムたちを一太刀で吹き飛ばしていく。

 

「なんなんだよ……一体…」

 

士道は怪人たちや黒いコートの男に恐怖を感じていた。

 

「…士道」

 

「ど…どうしたんだよ、士」

 

士道は突然自分を呼んだ士の方を見る。その士も怪人たちを見つめていたままだった。

 

「あいつらは俺に任せろ。だから…お前はあの子のことを見ていてくれ」

 

「それって…どういう……」

 

士道が全てを言い終える前に、士は黒いコートの男の元に向かっていく。

 

 

「ほう、なかなかやるな。そうこなくては…」

 

少女の戦闘を見る男はフードに隠れた口角を上げていた。

 

「おい!」

 

「ん?」

 

男が後ろを振り返ると、そこには士が立っていた。

 

「俺がお前の相手をしてやる」

 

「ふん、たかが人間が笑わせるな」

 

男は鼻で笑うが、士は余裕な表情を浮かべていた。

 

「悪いけど、ただの人間じゃないんだよ」

 

士は右腕を横に伸ばす。

 

「キバット!」

 

「おう!キバって行くぜ!士!」

 

士が叫ぶとキバットがディケイドライバーを持ちながら飛んで来て、ドライバーを士に投げ渡す。士は投げ渡されたドライバーを掴むと腰に装着する。そして左腰に連携されているライドブッカーからカードを取り出す。

 

「貴様…何者だ?」

 

男は士に尋ねる。男のこの言葉に士は待ってましたと言わんばかりに叫んだ。

 

「通りすがりの仮面ライダーだ!覚えておけ‼︎」

 

ディケイドライバーのバックルにカードを挿入し、バックルを回す。

 

「変身!」

 

《KAMEN RIDE・DECADE》

 

瞬間、士の周りに14の紋章と、14のモノクロのシルエットが出現する。

それらが士と重なると一瞬だけ発光し、次の瞬間にはモノクロだったシルエットと同一の姿の仮面にバックルから出現したマゼンタのプレートが頭部に突き刺さる。

 

そこにはマゼンタに輝く戦士がいた。

 

「何⁉︎」

 

「俺はディケイド……仮面ライダーディケイドだ‼︎」

 

 

 

 

 

世界の破壊者の物語が今、始まる。

 

 

 

 




次はディケイドの戦闘です!

戦闘描写って難しいですね!笑


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世界の破壊者

ついにディケイドの戦闘です!

ここからオリジナルライダーが入ってきます。


「何だ…その姿は……」

 

男はフードの中で驚愕の表情を浮かべていた。

 

いや、男だけではない。士道と武装をした女性たちも、男に精霊と呼ばれた少女も、皆が士の姿に驚きを隠せなかった。

 

白、黒、マゼンタ色の身体にXの意匠があり、頭部にはエメラルドグリーンの複眼にバーコードをモチーフとしたプレートのようなパーツが装着され、その姿はマゼンタの色に輝きを放ち、圧倒的な力を感じさせた。

 

この姿こそが、かつて『世界の破壊者』と呼ばれた次元戦士、その名は……

 

ーーー仮面ライダーディケイド

 

 

 

 

SIDE ???

 

 

 

現場から離れた崩壊したビルの屋上で、一人の漆黒の仮面ライダーが士が変身した仮面ライダーディケイドを見つめていた。その片手に黒い小さな錠前を握りしめて。

 

「やっと現れたか……ディケイド」

 

漆黒のライダーは憎悪を込めた声でそう言うと、そのままディケイドの戦闘を見ている。

 

 

 

SIDE OUT ???

 

 

 

 

「…何だか知らんが、機関の障害は排除するだけだ」

 

男は指を鳴らすと先程のようにファントムを呼び出し、ファントムたちは一斉にディケイドに襲いかかる。

 

だが、ライドブッカーを本型のブックモードから剣型のソードモードに変形させたディケイドは襲いかかるファントムどもを切り倒しながら男に近づこうとするが、ファントムはそれをさせないと壁になろうとする。

そこでディケイドはライドブッカーから一枚のカードを取り出し、バックルに挿入する。

 

「邪魔だ!」

 

《KAMEN RIDE・KABUTO》

 

ドライバーの音声と共にディケイドの姿が変わる。

メタルチックな赤い金属アーマーにカブトムシのような角が特徴的な仮面ライダー。

威風堂々と立つその姿こそ光を支配せし太陽の神と呼ばれた、天の道を往き、総てを司る戦士、仮面ライダーカブトだ。

 

「姿が変わった⁉︎」

 

男はディケイドの姿の変化に驚きの声を上げる。それに対してディケイド…否、ディケイド・カブトはさらにもう一枚のカードをバックルに挿入する。

 

《ATTACK RIDE・CLOCKUP》

 

その瞬間、ディケイド・カブト以外の周りの時間の流れがほぼ止まり、ディケイド・カブトは超高速の世界の中、加速しながらライドブッカーでファントムたちを切り払っていく。

 

『CLOCK OVER』

 

その音声と共にクロックアップの効力が切れて、時間の流れが元に戻った。それと同時に切り裂かれていたファントムたちが爆発して消滅する。

突然の出来事に男は驚かずにはいられなかった、たった一瞬でファントムたちが倒されたのだから。

ディケイド・カブトは剣を撫でるように払う仕草をすると元のディケイドの姿に戻る。

 

「っ⁉︎貴様、何をした!」

 

ディケイドはもう一枚のライダーカードを取り出す。

 

「さあな、次はこいつだ!」

 

《KAMEN RIDE・WIZAED》

 

『ヒー♪ヒー♪ヒーヒーヒー♪』

 

ディケイドはカードをバックルに挿入すると、ディケイドの横に炎を纏った赤い魔法陣が出現し、それはゆっくりとディケイドに近づく。ディケイドは赤い魔法陣を通過すると、ディケイドの姿がまた変化した。

特徴的な赤い宝石を模した円型の仮面が太陽の光を反射し、全身に纏う黒いロングコートがはためく。

絶望を希望に変える魔法使い、ウィザードの姿になる。そしてディケイド・ウィザードはライドブッカーからカードを取り出す。

 

《ATTACK RIDE・CONNECT》

 

『コネクト・プリーズ!』

 

ディケイド・ウィザードの隣に赤い魔法陣が現れ、そこに腕を突っ込むとその中からウィザードの専用武器、ウィザーソードガンを引っ張り出す。ウィザーソードガンを手にディケイド・ウィザードは男に向かって行く。

 

「はあっ!」

 

「舐めるな!」

 

男は片手に大剣を呼び出し、ディケイド・ウィザードのウィザーソードガンを弾き飛ばす。

そして男は自身の身体を異形な姿に変身する。刺々しく獣を思わせる青い身体、その身に纏うオーラはまさに怪人と言えるものだった。ディケイド・ウィザードはその姿に驚愕の感情を見せる。

 

「なんだと…⁉︎」

 

「人間ごときが!俺に勝てると思うな‼︎」

 

長さが1m以上で刀身が幅広い特殊な形状の大剣を怪人となった男は逆手かつ片腕で持っていた。ディケイド・ウィザードは体勢を立て直し、間髪入れず怪人に2撃目、3撃目と剣を振るうが、ことごとく剣閃が弾かれていく。

 

「おおおお‼︎」

 

「ちぃっ!」

 

そして怪人の上段からの斬撃をディケイド・ウィザードはウィザーソードガンの刀身で太刀の一撃を防ごうとするが、それに対して怪人の強すぎるその威力に力負けし、ディケイド・ウィザードは咄嗟に後ろに飛んで距離を取った。

 

『キャモナスラッシュ!シェイクハンズ!…キャモナスラッシュ!シェイクハンズ!…』

 

ディケイド・ウィザードはウィザーソードガンのハンドオーサーを展開させ、左手にある赤色の指輪、フレイムウィザードリング翳す。

 

『フレイム!スラッシュストライク!ヒーヒーヒー!ヒーヒーヒー!』

 

ウィザーソードガンの刀身に炎で形成された赤い魔法陣が揺らめく。

 

「はああ!」

 

ディケイド・ウィザードは炎を纏ったウィザーソードガンを振り抜き、炎の斬撃を怪人に飛ばす。

 

「ちっ!」

 

怪人は舌打ちを鳴らすと、大剣の刀身でディケイド・ウィザードの炎の斬撃を受け止める。

だがその隙をディケイド・ウィザードは見逃さなかった。ディケイド・ウィザードは先程とは違う金色のカードをバックルに挿入する。

 

「決める!」

 

《FAINAL ATTACK RIDE・wi、wi、wi、WIZAED》

 

『チョーイイネ!キックストライク!サイコー!』

 

その音声と共にディケイド・ウィザードの足元に炎の魔法陣が現れ右脚を炎が纏い、ディケイド・ウィザードは怪人の懐に入る。

怪人の方もディケイド・ウィザードに気づくが遅かった。

 

「くっ⁉︎貴様!」

 

「フィナーレだ!」

 

ディケイド・ウィザードは怪人に飛び蹴りを放ち、

『ストライクウィザード』を叩き込む。怪人はギリギリのタイミング、大剣でそれを防ぐがディケイド・ウィザードの蹴りの威力に耐えきれず、大剣にヒビが走りそのまま後方へと吹き飛ばされた。

 

「ぐぅっ!」

 

蹴りの衝撃で崩れた瓦礫から怪人から変身が解けた男が出てきた。男は立ち上がる際に顔を隠していたフードが取れ、その顔が露わになった。

長い青色の髪に鈍く光る金色の双眼、そして何より顔に刻まれたX字の傷跡が特徴的な顔の男は、ウィザードから元の姿に戻ったディケイドを睨んだ。

 

「貴様…一体何なんだ…?」

 

「さっきも言っただろ。仮面ライダーディケイドだ。覚えておけ」

 

ディケイドの名を聞いた男は目を見開き、ディケイドを見つめた。

 

「ディケイド…?……そうか…お前が……」

 

男は背後に手を翳すと、何もない空間から灰色のオーロラのような壁が現れた。

 

「今日のところは撤退しよう。すぐにまた会うことになるがな」

 

男はオーロラの中に溶け込むように入るとそのままオーロラと共に姿を消した。

 

「ふぅ」

 

男が去ったのを確認するとディケイドは大きく息を吐いて両手を弾くように叩く。

そして周りを見ると先程の少女がいつの間にかいなくなっていたので、何かを忘れているような気がしながらマシンディケイダーに乗りその場を去ろうとした。

 

「待ちなさい!」

 

声のした方を見るとそこにはこちらに向かって武器を構えている鳶一折紙を含めた武装をした女性たちがいた。その中から隊長らしき女性が前に出た。

 

「私は陸上自衛隊のAST部隊をしている日下部燎子よ。早速質問だけど、あなたは何者なの?」

 

燎子と名乗った女性は警戒するような目でこちらを見つめてきた。

 

「さっきも言ったけど、通りすがりの仮面ライダーだよ」

 

ディケイドの答えに燎子は目を鋭くした。まともに答える気はないと分かったらしい。

 

「そう。ならあなたを拘束してじっくりと話を聞かせてもらうわ。総員、戦闘準備!」

 

彼女の指示で他の隊員たちは戦闘態勢に入る。それを見たディケイドは仮面の内側で深いため息をついていた。

そしてライドブッカーからカードを取り出す。

 

「悪いけど、捕まる訳にはいかないんだよ」

 

《ATTACK RIDE・INVISIBLE》

 

ディケイドはマシンディケイダーと共に晴れた霧のようにその場から姿を消した。

 

 

 

 



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動き出す物語

更新遅れました!

内容はリメイク前の改良版のような形になってしまいましたが、どうぞ!


SIDE ???

 

真っ白な大理石に囲まれた、中央にあるステージのような円卓をそれぞれ高さが異なる八つの椅子が取り囲む広間に三人の人物がそれぞれの席についていた。

一人は一番高い位置にある椅子に腰を掛け、黒いコートのフードに顔を隠し、その表情を知ることかできない。

二人目は右眼に眼帯を付け、左頬に大きな傷、白髪が混じった髪の目つきが鋭い男。

そして三人目が先程怪人となりディケイドと戦闘を行っていた青色の髪にX字の傷跡を持つ男だった。

 

「ーーでは、お前は件のディケイドとやらに任務を妨害され、惨めにのこのこと帰ってきたということか…」

 

「はい…申し訳ありません………ノーハート様」

 

青い髪の男は円卓の上でフードで顔を隠した男、ノーハートに膝をつく。

 

「ははっ、でもお前さんに深手を負わせるなんて中々やるじゃないか破壊者さんも」

 

眼帯を付けた男、ブライグは挑発するように青い髪の男、アイザに茶々をいれた。だがアイザはそんなブライグを無視し頭を下げたままだった。機関の副官である彼は任務の失敗に対する罰を受ける覚悟でいた。だが当のノーハートの口から予想外の言葉が出された。

 

「ご苦労だった。ディケイドの報告だけでも十分だろ。下がれ、アイザ」

 

「……はっ」

 

アイザは闇に包まれその場から消えた。白い空間に残されたのはノーハートとブライグの二人だけだ。

 

「ついに向こうも動き始めたなぁ?ボス」

 

ブライグはノーハートに話しかける。それにノーハートは懐かしむように口を開く。

 

「……あれから25年…長かったものだ。ついに我々も本格的に動き始める時が来た」

 

 

 

 

「我らの完成、そしてこの愚かな世界の未来を終わらせるためにな……」

 

 

 

SIDE OUT

 

 

SIDE 士

 

姿が戻ったディケイドはマシンディケイダーで街を走っていた。先程の女性たちに捕まると色々と面倒な事になるので、とにかく現場から遠く離れた場所にバイクを停めた。

 

「はあ…面倒な事になったな……」

 

ディケイドはそう呟きながらバックルを取り外して士の姿に戻り、さっきの戦闘を思い返していた。

ーーあの怪人に変身したコートの男、

それに『ウィザードの世界』の怪人たち、一体何かが起きてるのか?

 

「取り敢えず、帰るか…何か忘れてる気がするけど」

 

士は士道の存在を完全に忘れ、マシンディケイダーのエンジンをかけて学校に戻ろうとした時だった。

 

「五河士…いえ、仮面ライダーディケイドですね?」

 

「ん?」

 

声がしたので後ろを振り向くと、そこには栗色の髪を束ねた少女がいた。年齢は自分より少し上だろうか。士はディケイドの名を呼ばれたことで少し警戒した。

 

「あなたは?」

 

「私はアーガスコーポレーション、社長の秘書をやっている九条明日奈。社長があなたにお会いになりたいそうなので、こ同行願います」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何処かの廃墟……そこには先ほどディケイドと怪人たちの戦闘を見ていた漆黒のライダーがいた。ライダーは変身を解くと一人の少年が現れた。

 

漆黒の髪に金色の瞳を持つ少年は腰に装着していたベルトを外し、一瞬悲しそうな顔を作るが、すぐに穴が空いた天井を見上げる。

 

「ようやく動き始めたな………ディケイド………ついに俺たちの物語が始まるんだ……」

 

少年は一人そう呟くと闇に溶け込むように、その場から姿を消した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

現在士は明日奈と名乗った少女に連れられて巨大なビルの中の廊下を歩いていた。そして二人はエレベーターに乗り込み、最上階に着くと一つのドアがあった。

ドアの上には金色のプレートで【社長室】と描かれていた。明日奈はそのドアを開け、士も続いて中に入る。

 

「連れてまいりました。社長」

 

「ああ、わざわざご苦労だったね。明日奈君」

 

そこには巨大なデスクに座る六十代の外国人男性がいた。削いだような鋭い顔立ち、鉄灰色の前髪が流れていて真紅のスーツを着た姿は威圧感があった。

 

「さて、君が五河士君だね?」

 

「はい。あの……あなたは?」

 

「おっと、紹介が遅れたね。

私はナサニエル・テイラー。このアーガスコーポレーションの社長を務めている。以後、よろしくな」

 

「は、はあ…どうも……」

 

そこでテイラーは士の様子に気づいたのか、柔らかい笑みを浮かべた。

 

「ははは、いや済まない。自分で言うのもなんだが、どうも私は周りから怖い顔の年寄りと思われていてね。いやはや参ってしまうよ」

 

テイラーから先程の威圧感がなくなり、士は緊張が少し解けた。

 

「まずは、今日君に来てもらった訳を話そう。私は待っていたんだ。今日、4月10日にディケイドが現れるのを」

 

士はテイラーの言葉に少し引っかかった。

これではまるでこの男性は、今日、自分があの場所に現れディケイドに変身すると分かっていたような言い方だった。

そう思う一方、テイラーはそんな士の考えを見抜いているように微笑む。

 

「神からは私のことを聞いていないのかい?彼は君たちの協力者である私のことを既に君たちに伝えたと言っていたのだか?」

 

「神」。その言葉で士ははっとした。その人物についているのは転生者である自分と大樹を含めてたったの二人だけなのだ。

 

「まさか…あなたは……」

 

「ああ、私はかつて彼の部下だった者だ。

だがそんなことより、話の前にもう一人ここに来てもらった者がいるんだ」

 

「もう一人?」

 

「そうだ。入ってきてくれ」

 

すると士が入ってきたドアとは別のドアが開く。そこから部屋の中に入ってきた人物に、士は驚きを隠せなかった。

 

「やあ、士。さっきぶり」

 

「大樹⁉︎」

 

入ってきたのは学校のシェルターに避難したはずの大樹だった。テイラーはそんな士の反応を気にせずそのまま言葉を続けた。

 

「さて、それでは本題に入るとしよう。今この世界で起こっていること、そして君たちが戦わなければならない敵について…」

 

 

「まずは、私たちが戦うべき敵についてだ。

この世界では、強い心を持った者、または強い想いを持ちながら人間がその生命を奪われた時、抜け殻となった魂と肉体が意志を持ち強大な力を持つ怪人として生まれ変わることがある。

そしてその少数の怪人たちで構成された組織、これが私たちの敵である『パラドクス機関』だ」

 

明日奈が手元に持った端末を操作すると、部屋の中に数人の黒いコートを着てフードで顔を隠した男たちがビジョンで映し出された。

 

「パラドクス機関…」

 

士はその名を呟く。

 

「だが、厄介なのが彼らはあらゆる仮面ライダー世界の怪人どもを統率し、その配下に置いているということだ」

 

「どういうことですか?何故パラドクスと怪人たちが関係あるのですか?」

 

「ふむ…。君たちは『リ・イマジネーション』、という言葉を知っているかね?」

 

「リ・イマジネーション…?」

 

聞きなれない言葉に士は聞き返す。しかしそれに応えたのは大樹だ。

 

「聞いたことがあります。確か、ある作品を元として新しい作品が作られる。という意味でしたよね?」

 

「ああ、その通りだ。この『デート・ア・ライブ』の世界はある人物がこの世界に深く干渉した事がきっかけでその『リ・イマジネーション』によって構築されたイレギュラーな世界なんだ。

彼ら『パラドクス』はそのイレギュラーによって生まれた、まあ仮面ライダー風に言うとようするに『デート・ア・ライブの世界』での大ショッカーということになる。そのせいなのか、彼らは世界を超える力を持ちあらゆる世界から怪人たちをその配下に置いている」

 

「彼らの目的は何なんですか?」

 

「いや、こちらもいち早く彼らを探っているのだが残念ながらその目的は未だ不明だ」

 

「そうですか…」

 

テイラーの言葉に大樹は悔しそうな顔をする。

そして士は映し出された黒いコートの人物たちをジッと見つめていた。

 

ーーなんだろう…始めて見るはずなのに……俺は、こいつらを何処かで見たのか?

 

士がそう思う中、大樹が口を重々しく開く。

 

「パラドクス……たくさんの怪人を従えている上、一人ひとりが強い力を持っているなんて」

 

「ああ、それについては安心してくれ。我々は何も君たちだけに戦わせるわけではないよ」

 

大樹の呟きにテイラーは笑顔で応える。

 

「そもそもこのアーガスコーポレーションは君たち仮面ライダーをサポート、そして世界の均衡を守るために最先端の技術力とあらゆる精鋭たちを募って私が立ち上げたんだ。

無論、明日奈君も私の秘書である以前にその精鋭の一人だ。しかし現在我々は顕現装置を開発出来るとはいえ、パラドクスに対抗出来るのは仮面ライダーであるディケイドとディエンドだけだ。

そこで我が社が君たちを全面的にサポートするよ。どうかな?」

 

「…やります。そのパラドクスって奴らが俺の大切な人達を傷つけるなら、俺がそいつらを破壊してやります!」

 

「僕もです。こんな奴らに好き勝手されたら迷惑極まりないですよ」

 

「そうか。素晴らしい」

 

二人の言葉にテイラーは満足だと言わんばかりに満面の笑みを浮かべる。

 

「君たちなら引き受けてくれると思っていたよ。早速だが、私からのプレゼントだ。受け取ってくれ」

 

そう言ってテイラーは士と大樹にそれぞれ三枚のカードと書類を渡した。ソラは渡されたカードを見ると、それは仮面ライダー鎧武に変身出来る『GAIMU』と描かれたライダーカード。書類の方には『契約手続き』と書かれていた。

 

「いやはや、君たちとは仲良くやれそうだ。頼りにしているぞ、仮面ライダー」

 

二人はこの時始めてテイラーの笑みを見て腹が立ったのは言うまでもない。

 

 

結局あのあと士と大樹は契約手続きを終えた後、色んな書類にサインを書かされた上、テイラーや上層部の人たちにに長い話を聞かされ、夕方の7時近くにやっと帰宅することができた。

 

「……大変な事になってきたな」

 

「ああ…リ・イマジネーションの世界にパラドクス、怪人たち…か。でも一番の問題は…」

 

「その怪人たちを率いる、パラドクスのメンバー……」

 

「お呼びかな?」

 

「「っ⁉︎」」

 

士と大樹の会話に聞いたことのない声が響き渡った。それは相手を不安にさせるほどの低い声。

 

「誰だ⁉︎」

 

「っ!士!上だ!」

 

上を見ると近くのビルの上に黒いコートの集団が士と大樹を見下ろしていた。コートを着た人物たちは七人。それぞれの顔はフードに隠され、まったく見ることができない。

 

「パラドクスか⁉︎」

 

「ここで全員倒してやる!」

 

二人はそう叫びディケイドライバーとディエンドライバーを手に持つ。

 

「倒す、かーーーすっかり悪者扱いだな」

 

中央に立つリーダーのような男が笑いながら告げ、背後に現れた灰色のオーロラの空間に消えていった。

 

「待て!」

 

大樹が叫び、男たちを追おうと走り出すが、その大樹の前にパラドクスのメンバーの一人が現れた。そいつのおかげで残りのメンバーたちは皆、姿を消していた。

 

「あぶないあぶない」

 

「邪魔だ!」

 

士は男に向かって叫ぶ。だが男はそんな士たちの苛立ちを楽しむように大げさな動作をする。

 

「そんな言い方はないよな。俺を全否定か?」

 

男は士をからかうように言った。

 

「ゴチャゴチャ言ってないでどけ!」

 

「そんな言葉で状況を変えられると思ってるのかってハナシだ」

 

士の乱暴な言葉を前に、男は余裕たっぷりに肩をすくめる。

 

「なら、力ずくでどいてもらう」

 

大樹がディエンドライバーの銃口を男に向ける。しかし男はまだ余裕な態度をとっている。

 

「そうーーそれが正解。普通の奴が相手ならな。しかし、俺はパラドクスの一員。つまり普通の奴ではない」

 

「ふん!どうせ怪人たちに戦わせて自分たちは見てるだけだろ!」

 

士が不愉快そうに言い放つ。

 

「おっと……そういう認識はいけないと思うぞ?」

 

男はゆったりと言うと、ほんの少し首を傾げ、言葉を続ける。

 

「お前たちの相手がどれほど強大なものか思い出させてやろうじゃないかってハナシ」

 

「……思い出す?」

 

男の言葉に士が聞き返す。男の言っている言葉の意味がわからなかった。

 

「くくく…わははははははは!そうそう、5年前のあの時もそんな顔で俺を見てたっけ!」

 

「どういう意味だ⁉︎」

 

「さあーーーどうだろう?」

 

男は士を煽るように言うと、片手を振り上げる。するとその背後から、先ほどの男たちのように灰色のオーロラが立ち昇った。男の姿がオーロラに溶けて消えていく。

 

「いいコにしてろよ〜?」

 

「待て!」

 

士は男を追いかけ手を延ばすが、男は跡形も無く消えていた。

 

 



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ラタトスク

士と大樹がパラドクスと遭遇した次の日、結局あの後琴里はこちらが心配したのも知らずに元気に帰ってきた。

そして学校の帰りのホームルームで。

 

「来て」

 

「は?お、おい……」

 

士は突然折紙に手を掴まれ、そのまま何処かに強制的に連行された。後方では大樹が頑張れと言うかのような眼差しをして、女子の集団が何やらキャーキャーと騒いでいる。そして現在、屋上で折紙に解放された二人は彼女と向き合う状態だった。

 

「五河士。あなたに聞きたいことがある」

 

「ああ…昨日のことだろ?」

 

「誰にも口外しないで。私のことも、それ以外のことも」

 

「分かってるよ。そもそも言うつもりもないって」

 

「それと、昨日のあれは何?」

 

やっぱり聞いてきたか。と士は内心で呟いた。内容は当然、ディケイドと怪人たちについてだろう。

 

「あれって、ディケイドのことか?」

 

「そう」

 

折紙はぴくりとも表情を変えないまま短く言った。

 

「……守るために全てを破壊する力、かな」

 

「…どういう意味?」

 

「俺は目の前で大切な人たちを失いたくないんだ。だから俺はディケイドになってみんなを守るんだよ」

 

士の答えに折紙はまだ表情を変えずに黙って聞いていた。

 

「なら、あなたが昨日戦った黒コートの男は何?」

 

今度は怪人に変身したあの青い髪の男、について質問をしてくる。

 

「あいつは…いや、あいつらとは関わらない方がいい」

 

「どうして?」

 

「昨日の戦いを見てたら分かるだろ?あいつは強すぎる。しかも、あんな奴らがまだいるんだ。普通の奴なら絶対に殺される」

 

「……」

 

折紙は士の言葉に歯を噛み締めた。士の言うとおり、あの男はディケイドの強力な攻撃を受けても平然と立っていたのだ。

彼の言葉通り、折紙たちなら簡単にやられてしまうだろう。

 

「まあ、要するにあいつらは俺たちに任せろってこと。じゃあ俺はもう行くよ」

 

士は屋上から去って行く。折紙はその背を悔しそうに拳を握り締めて見ることしかできなかった。

 

 

 

 

 

そしてそれから約20分後……

 

「なんでこうなんの⁉︎」

 

士は下校途中で『カブトの世界』の怪人、ワームに追いかけられていた。恐らくパラドクスのメンバーがディケイドを消すために呼び出したのだろう。

 

「キバット!」

 

「おう!」

 

士はキバットからバックルを受け取り腰に装着、カードを挿入する。

 

「変身!」

 

《KAMEN RIDE・DECADE》

 

士はディケイドに変身すると、それを待っていたかのようにワームがサナギ体から成虫体のアラクネワーム・二グリティアに脱皮した。

その瞬間、二グリティアはクロックアップで高速移動をし、ディケイドを吹き飛ばす。

 

「ぐっ…クロックアップ出来るのはお前だけじゃないぜ!」

 

《KAMEN RIDE・KABUTO》

 

ディケイドはライダーカードを用いてカブトへと変身。同時にもう一枚のカードを取り出す。

 

《ATTACK RIDE・CROCK UP》

 

カブトとなったディケイド・カブトはカブトの能力、クロックアップを発動し、ソードモードのライドブッカーで二グリティアに向かって行く。

 

ディケイド・カブトとワーム以外の周りの世界が超スローモーションのように見える超高速の世界の中、ディケイド・カブトはライドブッカーで二グリティアを何度も斬りつけ、とどめの一撃で二グリティアは爆発した。

 

「……ふぅ」

 

ワームを倒したディケイドは変身を解除し、士の姿に戻ると、

 

「おーい!士ー!」

 

「ん…士道か?」

 

声がしたので振り返ると、背後から士道がこちらに向かって走ってくる。

 

「どうしたんだ?」

 

「ああ、士に聞きたいことがあってな…」

 

「聞きたいこと?」

 

「ああ……ちょっと待ってくれ」

 

士道はそう言うと、耳元に手を当てて何かを呟いている。

 

二人がそんなやり取りをしていると、キバットが飛んできた。

 

「士、また怪人だ!」

 

「っ!分かった!行くぞキバット!」

 

「え…⁉︎お、おい。待てよ士!俺も行く!」

 

 

 

 

士たちが現場に着くと、そこには『キバの世界』の怪人、ファンガイアであるホースファンガイアが一人の女性を襲おうとしていた。

 

「変身!」

 

《KAMEN RIDE・DECADE》

 

ディケイドに変身した士は、ホースファンガイアを蹴り飛ばし壁に叩きつけ、女性から引き離した。

 

「早く逃げろ!」

 

ディケイドの声に女性は震えながらその場から走り去った。

 

「お前はディケイド……!」

 

ディケイドの拳、蹴りが次々とホースファンガイアに炸裂する。ディケイドの優勢が続くと思ったが、ホースファンガイアはどこからか剣を取り出し、不意をつかれたディケイドに斬りかかる。

 

「ぐぁっ!」

 

「士っ!」

 

ディケイドはファンガイアの剣撃をまともに受け、ダメージを受けすぎて一瞬で劣勢になった。

 

「チッ……!」

 

「終わりだ!」

 

ホースファンガイアがディケイドを剣で貫こうとした。

 

だがその瞬間、ホースファンガイアを幾つもの銃撃が襲いかかる。士は背後を振り向くと、そこには大樹がディエンドライバーの銃口をホースファンガイアに向けていた。

 

「ファンガイアということは、パラドクスの差し金か。

そんなことより、何やってるんだい、士」

 

大樹は膝をついたディケイドに歩み寄る。

 

「大樹…お前、何で……」

 

「それよりも先に奴を倒すんだろ?説明はそれから」

 

大樹はホースファンガイアの前に立ち塞がる。

 

「貴様!邪魔をするな!」

 

「僕の旅の行き先は僕が決める。覚えておきたまえ」

 

大樹はそう言って、片手に変身銃、ディエンドライバーを持ちカードを銃身に装鎮すると、銃口を上に向ける。

 

「変身!」

 

《KAMEN RIDE・DIEND》

 

すると、大樹の姿が基本カラーがシアンと黒がベースのディケイドに似た仮面ライダーディエンドに変身する。その姿に士道が驚愕の声を上げる。

 

「大樹も仮面ライダーなのか⁉︎」

 

「士道、君は士の戦闘しか見たことがないよね。なら見せてあげよう、これが僕の闘い方だ!」

 

ディエンドはファンガイアに駆け出し、銃撃、蹴りを繰り出すと、カードを取り出しディエンドライバーに装鎮した。

 

《ATTACK RIDE・BLEST》

 

「はあっ!」

 

ディエンドライバーの銃口から幾つもの青い光弾がホースファンガイア目掛けて発射される。

 

「ぐうう!」

 

ディエンドの銃撃によってホースファンガイアの動きが怯む。

 

「決めろ!士!」

 

「ああ!」

 

ディケイドは金色のカードをバックルに挿入する。

 

《FAINAL ATTACK RIDE・de、de、de、DECADE》

 

ディケイドとホースファンガイアの間に14枚のホログラム状のカード型エネルギーが現れる。

ディケイドはその中を潜り抜けてディケイドの必殺技、『ディメンションキック』を放つ。

 

「ぐわあああああっ!」

 

ディケイドの『ディメンションキック』を受けたファンガイアは爆発した。

そして戦闘が終わった後、変身を解いた士と大樹は公園で話し合っていた。

 

「……で、俺に話ってなんなんだ?」

 

「ああ…悪いけど、士と大樹に一緒に来て欲しいんだ」

 

「僕も?何故だい?」

 

「お前らと話したいって奴がいるんだけど、いいか?」

 

「俺は別にいいぞ」

 

「僕もだ。断る理由がない」

 

士と大樹がそう言った瞬間、二人は謎の浮遊感に包まれてその場から姿を消した。

 

 

 

 

 

 

 

切り立った崖に囲まれた荒野。乾いた風が吹きすさぶ。そんな中に士は一人立っていた。この場所には見覚えがあった。ここは初めてディケイドに変身した日の朝に自分が夢で立っていた場所なのだ。

だが夢と違い、周りにはライダーもマシンも倒れてはいなかった。

 

「…ここは夢の……え?」

 

士は辺りを見回すといつの間にか目の前にいた人物に驚いた。それは初代仮面ライダー、仮面ライダー1号だったのだ。1号は士を見つめたままその場に立っていた。

 

「仮面ライダー…1号…?」

 

「これからお前に幾つもの宿命が降りかかる」

 

「え…?」

 

「お前はその宿命を乗り越えた時こそ、真の仮面ライダーとなる」

 

「どういうことだ?」

 

士は1号聞き返す。だが1号はしばらく黙ったままで言葉を発した。

 

「この物語はお前が紡いでいかなければならないという事だ」

 

1号はそう言って背を向けると姿を消し、士の意識が途切れた。

 

 

 

 

士が目を覚ますと、目の前に見ず知らずの目元に隈を蓄えた眠たげな女性が顔をかなり近づけて覗き込んでいた。

 

「ふむ、起きたかね」

 

「あ、はい。おはようございます……じゃねえよ!てゆーかあんた誰⁉︎」

 

「ここで解析官をやっている、村雨令音だ」

 

「おいおい、起きていきなり煩いね君は」

 

側には大樹がパイプ椅子を逆向きに座っていた。士は女性に質問をする。

 

「あの…ここってどこですか?」

 

「……ああ、〈フラクシナス〉の医務室だ。君が気絶していたので勝手に運ばせてもらったよ」

 

突然訳のわからないワードが出てきて現在頭の中が絶賛パニック中だ。

 

「?……えっと〜、すいません、よく分からないんですけど?」

 

「どうも私は説明下手でね、丁度いい。君たちに会わせたい人がいる。気になることは色々あるかもしれないが、詳しい話はその人から聞いてくれ。君たちの友人もそこにいる」

 

士は大樹と共に令音の後について行き、その合わせたいという人の元へ向かうことになった。

その道中、彼女は30年寝てないと言って睡眠導入剤をラッパ飲みでラムネのようにガブ飲みしていた。

士は普通に命の心配をしたがその反対に大樹は、『この人、怪人じゃないの?』と若干ドン引きしていた。

 

そして令音に連れられて三人は軍艦にある司令室のような大部屋であった。中に入ると金髪の男性が待ち構えていた。

 

「初めまして。私はここの副司令、神無月恭平と申します。以後お見知りおきを」

 

「えっと……どうも」

 

いきなり知らない人に挨拶をされた上、何処だか分からない場所にいることに士は戸惑っていた。それに比べて大樹は冷静を貫いていた。

 

「よく来たわね。待っていたわ」

 

不意に声が聞こえた。その声は艦長席のような場所に座る人物のものだったが、その人物に士とポケットにいたキバットを含めて流石の大樹も驚きを隠せなかった。

 

「歓迎するわ。ようこそ、『ラタトスク』へ」

 

そう、それは普段は可愛らしい雰囲気を放つ士の可愛い妹の琴里だった。唯一いつもと違うのはツインテールを括っていた白いリボンが黒いリボンになっていたことだ。

 

「「「琴里(ちゃん)⁉︎」」」

 

士と大樹、キバットは驚愕で思わず叫んでしまった。よく見たら、その側には士道が複雑そうな表情をしていた。だが琴里はそんなことはスルーで士に聞かなければならないことがあった。

 

「そんなことより、士!大樹!これはどういうことよ⁉︎」

 

「呼び捨て⁉︎」

 

「なあ士、あれっていわゆる『反抗期』ってやつなのかな?」

 

驚く士と大樹を無視して琴里が正面にあった巨大なモニターを指すと、そこには先日士がディケイドに変身して怪人たちと戦闘を繰り広げていた映像が最初から最後まで映し出された。

 

「さあ!説明して!」

 

「ちょっ、ちょっと待てって!」

 

「何よ、せっかく司令官直々に説明を求めてるっていうのに。もっと光栄に咽び泣いてみなさいよ。今なら特別に足の裏くらい舐めさせてあげるわよ?」

 

「ほ……ッ、本当ですか⁉︎」

 

「あんたじゃない!」

 

神無月が喜び勇んで声を上げたが、琴里が即座に神無月の鳩尾に肘鉄を喰らわせ、神無月はそのままうつ伏せになる。士は神無月を心配して駆け寄るが、

 

「心配ご無用、我々の業界では最高のご褒美です!」

 

「なんだよその業界⁉︎」

 

 

 

結局、状況が落ち着いてきたところで士と大樹は琴里たちに全てを話した。

仮面ライダーのこと、そして怪人を率いるパラドクスのこと、流石に二人が転生者であることは伏せておいた。

話を終えると琴里が頭を抱えてため息をついた。士道もなんだか疲れたような表情を見せる。

 

「なんか……壮大すぎて頭がこんがらがってくるわ。何よパラドクスって……ロクな奴らじゃないわね」

 

「ああ……話がデカすぎだろ……」

 

 

「じゃあ、次はこっちが説明するわね」

 

琴里がそう言うとモニターが切り替わり、先日士と士道が会った精霊の少女が映し出された。

 

「これはーー」

 

「精霊。本来この世界に存在しないものであり、この世界に出現するだけで己の意思とは関係なく空間震を発生させる。悪い言い方をすれば人類を滅ぼす最凶最悪の化物だ」

 

琴里の説明を遮るように大樹が言葉を挟む。

 

「ーーへえ、よく知ってるのね」

 

「まあ、あまり深く詮索はしないでほしいな」

 

士も大樹もアーガスコーポレーションでテイラーに散々聞かされていたのでそれについては既に知っている。

 

「ふーん。じゃあわざわざ説明する手間が省けるわね。それじゃあ二つ目、これはAST。陸自の対精霊部隊よ。精霊が出現したらその場に飛んでいって処理、要はぶっ殺すってこと」

 

琴里がそう言うと令音がモニターに向けてリモコンを操作し、そこにたった一人の少女に機械で武装をした女性たちが集中的に攻撃している映像が映し出された。

 

「これがASTのやり方よ。あんたたちはこんなやり方がいいの?」

 

「こんなのいい訳ないだろ!」

 

士は思わず声を荒げる。その時、ふとあの少女の顔が浮かんできた。

 

(ーーお前も……か)

 

ようやくあの子があんなことを言った意味が分かった。そしてあの、今にも泣き出してしまいそうな顔の意味も。

 

「いくら危険だからって、こんなことする必要ないだろ…」

 

士がそう言うと琴里は人差し指を立てた。

 

「ふーん、じゃあ精霊の対処方法がもうひとつあるとしたら?」

 

「もうひとつ…?」

 

「そう。ひとつはASTのやり方、武力による殲滅。そしてもうひとつが精霊との対話。私たち『ラタトスク』はこちらの方法で精霊を保護することを目的としているの」

 

士たちは勿論そちらの方法がいいに決まってる。だが、琴里の次の言葉でこの緊迫した雰囲気は一気にぶち壊された。

 

「というわけで士と士道には精霊とデートしてデレさせてもらうわよ」

 

琴里はふふんと得意げにそう言った。……そしてしばらくの沈黙が流れた。

 

「ちょっと待て⁉︎」

 

琴里から何の脈絡もなく突然の精霊とのデート宣言に士またもや思わず声を上げる。

そもそも先程のやり取りでどうやったらデートという単語が出てくるのだろうか。

 

「なんで今の会話でそうなるんだ!」

 

「てか大樹はどうなんだよ!」

 

「ああ、大樹には士の相棒として二人のサポートをしてもらうわ」

 

「僕と士が相棒か……中々いいね。ところで琴里ちゃん」

 

「なんなら琴里様でもいいわよ?」

 

「却下。僕はここではどういう立場なのかな?」

 

「今の話だと、パラドクスって奴らは怪人たちを使って精霊を狙うかもしれない。

そんな時に仮面ライダーとはいえ士一人だけじゃ対処し切れるとは限らないでしょ?だからこそ、もう一人の仮面ライダーであるあんたが必要なのよ」

 

「そうか、なら協力するよ」

 

大樹は琴里に指鉄砲で打つ仕草をする。それに琴里はクスリと微笑んだ。

 

「そう、なら二人は明日から訓練よ」

 

「「聞けよ‼︎」」

 

士の意思など全く関係なく士は大樹と共にラタトスクの一員となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SIDE ???

 

漆黒の仮面ライダーは夕日が沈みかけている天宮市を高いビルから見下ろしていた。その背後に黒いコートを着た男、ノーハートが現れる。

 

「どうだディケイドは?」

 

「まだ全然だ。俺が仮面ライダーとしてしっかり鍛えてやらないとな」

 

漆黒の仮面ライダーは笑いながらそう告げる。

 

「まだ時期が早い、次に精霊が出現した時にしておけ」

 

「わかってる。今は様子見だろ?」

 

「そうだ。我々の物語が今から始まる」

 

その言葉に漆黒のライダーは空を見上げながら答える。

 

「物語ーーーそんななまやさしいものなのか?」

 

「………全ては計画次第ということだな…」

 

ノーハートはそれだけ言うと、その場から姿を消す。残されたライダーは視線を空から下の街に移す。

 

 

 

 

「ディケイド……そろそろ俺も本格的に動き出すか…。お前を破壊するために」

 

 

 

 




やっぱり戦闘描写が難しいですね。

感想や評価を入れてもらえると嬉しいです。


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訓練開始

更新が遅れてしまいました!

話が少しグダグダかもしれませんがどうぞお楽しみください!


士と大樹がラタトスクの一員となった次の日、

放課後となり生徒たちが次々と帰宅または部活に励む中、士と士道、大樹の三人は自分たちのクラスの副担任として潜入していた令音、そして校内にやって来た琴里と遭遇しそのまま物理準備室へと連れ込まれたのだが、中はかなり改造されていた。

部屋の中には多くの液晶画面が設置され、以前の物理準備室の面影すらもはやなかった。

 

「何ですか、この部屋?」

 

士道が恐る恐る尋ねると、令音は明らかに考えるような仕草を行ってから答える。

 

「……部屋の備品さ?」

 

「なんで疑問系なんだよ⁉︎ついでに嘘が下手すぎだし!あとこの部屋にいた先生はどうなったの⁉︎」

 

名前は知らないけど確か物理準備室には先生が住んでいるとかなんとかという噂を大樹から聞いたことがある。

なんでも本人曰く自宅の便所以外で唯一安らげる場所だったらしいが。

 

「……ああ、彼か。うむ」

 

令音は再び考えるような仕草をしたのだがそのまま数秒が過ぎた。そして案の定……

 

「そこで立っていてもしょうがない。取り敢えず座りたまえ」

 

「うむ、の次は⁉︎」

 

結局見事にスルーされた。これ以上このことについて言及するなということなのか。これはもう何を聞いても、きっと無視をされるだろう。

 

そんなやり取りの中、琴里が白いリボンで括られていた髪をほどくと、ポケットから取り出した黒いリボンで髪を結び直す。

そして気怠げに制服の首元を緩め、令音の近くにあった椅子に座る。

 

「さあ、早速始めようかしら」

 

「始めるって何をだよ?」

 

琴里の言葉に士道は疑問の声を上げるが、琴里はため息をついた。

 

「昨日、訓練をするって言ったじゃない。もしかしてもう忘れたのかしら。今後のために老人ホームの申し込みをした方が良いかしらね」

 

いつもとかなり違う琴里の様子に士と士道が辟易した。昨日も見ていた二人だが、未だ琴里の高圧的なモードーーー司令官モードに慣れていなかった。

ただ、いつもの無邪気な琴里ーーー妹モードから司令官モードに変換するマインドコントロールはリボンの付け替えで行っているらしい。

 

「令音、今日の訓練について二人に説明してちょうだい」

 

「シンと士、今回は二人にやってもらいたいことがある」

 

そう言って、令音が液晶画面の電源を入れる。

令音は士のことは普通に『士』と呼ぶのだが、士道の場合は何故か『しんたろう』を略した『シン』と呼ばれている。

本人が散々そのことについて指摘したのだが、どうやら直す気はないらしい。

 

「君たちがデートを行うにあたって、クリアしてもらわなければならない課題がある。それは女性の接し方さ」

 

「女性の接し方ですか……」

 

士道はその程度の事が出来ないわけがないという雰囲気を晒し出していたが、突然琴里に後ろから蹴りを入れられ令音の豊満なバストに飛び込んだ。

 

「……っ、なな、何しやがる……ッ!」

 

士道は顔を紅くさせながら琴里に叫ぶ。

 

「はん、ダメダメね。これくらいで心拍を乱してちゃ話にならないわ」

 

「……まあ、話は後に置いておくとして。二人にやってもらうのはこれだ」

 

今のやりとりを見ていた令音は話が進まないと思ったのか液晶画面の電源を入れる。

画面が立ち上げられると、やけにピンクを基調とした映像が映し出された。

 

「「「ギャルゲー⁉︎」」」

 

思わず士と士道に続いて大樹まで叫びがハモってしまった。どう見ても『恋愛シュミレーションゲーム』ーー要するとギャルゲーだった。

しかもご丁寧に士道の方には『恋してマイリトル・シドー』、士の方は『恋してマイリトル・ツカサ』のロゴが踊っている。

 

「言っておくけどもし選択肢を間違えたりしたらあんたたちの黒歴史が公開されることになるから」

 

「いやああああああああああああ⁉︎」

 

士道は絶叫を上げる。琴里が取り出したのは士道が黒歴史時代に作ったオリジナルキャラの設定集だった。

 

「士はこれね」

 

「なっ……⁉︎」

 

琴里は液晶画面を指差すと、そこに映し出された映像に士は絶句した。それは……

 

『ーー変身!……いや、なんか迫力ないなぁ…。もっとこう…威厳がある感じで……変・身!……いや、これはクウガをパクってる感じがするしなぁ……』

 

かつて士がディケイドの変身のシーンの練習をしている映像だった。

 

「うわあああああああああああ‼︎やめてええええええええ‼︎」

 

「じゃあ訓練開始よ」

 

 

 

 

 

 

ここはとある公園のベンチ、そこに一人の男性が頭を抱えていた。

 

「ちくしょう……また投資に失敗しちまったよ。……たくっ、これで何度目だよ」

 

どうやらこの男性は株の投資に失敗してしまったようらしい。

 

「はぁ〜…金が欲しいなぁ〜」

 

男性はそんなことを一人で愚痴を言っている中……

 

「くくく……まあしょぼいが結構な欲望を持つ奴がいるな」

 

ブライグは公園の木の上で欲望から生まれたメダル、セルメダルを片手に男性を見つめていた。

 

「その欲望……解放してみな」

 

突然、男性の後頭部に投入口が出現する。

ブライグは男性に向かってセルメダルを投げると、それは吸い込まれるように投入口に投入される。

 

「う、うわあああああああああああ⁉︎」

 

男性の腹部からミイラのような怪人が生まれる。

欲望から生まれた『オーズの世界』の怪人、ヤミーだ。男性は怯えてその場から逃げ出す。

そしてヤミーはミイラのような姿からカマキリヤミーへと姿を変える。

それを見たブライグはカマキリヤミーの背後に飛び降りる。

 

「ディケイドからドライバーを奪え。出来るなら始末しても良いぜ」

 

「…御意」

 

そう言うと、カマキリヤミーはその場から飛び出して行った。

 

 

 

 

「っ!士、また怪人だぜ!」

 

神様の特典で怪人探知機能が備わったキバットはどんな場所に怪人が出現してもその位置を特定出来るらしい。

キバットがこう知らせるということはまた何処かで怪人が出現したということだ。

 

「じゃあさっさと行くぞ!」

 

「士、僕も行こう」

 

「あ!お前ら待てよ!」

 

士道が背後で呼び止めるが、士は一刻も早くこのギャルゲー訓練から合法的に逃げ出した。

 

 

 

 

士は学校から少し離れたところにある小さな公園に着くと、そこにはカマキリヤミーがいた。

 

「ディケイド……パラドクスのため、貴様にはここで消えて貰う」

 

「やってみろよ、出来るならな。変身!」

 

《KAMEN RIDE・DECADE》

 

士はすかさずライドブッカーからディケイドのライダーカードを取り出すとバックルに挿入し、ディケイドに変身する。

大樹はディエンドライバーでカマキリヤミーに銃弾を浴びせる。

 

「貴様はディケイドの仲間か⁉︎」

 

「知らないというのは…悲しいね」

 

《KAMEN RIDE・DIEND》

 

「兵隊さん、行ってらっしゃい」

 

《KAMEN RIDE・RIOTROOPERS》

 

大樹はディエンドに変身すると、『ファイズの世界』で『騒乱の騎兵』を意味する量産型の戦闘用特殊強化スーツの兵士、ライオトルーパーを三体召喚した。

 

ライオトルーパーたちはカマキリヤミーに向かって行くが、元々個々の戦闘力が低いライオトルーパーたちは三体がかりでのコンビネーションでカマキリヤミーと五分五分の戦闘を行っている。

 

「くっ、雑魚どもが!」

 

「そいつらばかりに気を取られてていいのか?」

 

《ATTACK RIDE・BLAST》

 

ディケイドはライオトルーパーたちと戦闘を行っているカマキリヤミーの背後にガンモードのライドブッカーで高速の光弾を放つ。

 

「ぐぅあ!」

 

「士、トドメは僕がやらせてもらうよ」

 

ディエンドは金色のアタックカードをディエンドライバーの銃身に装鎮し、ポンプアクションのように前にスライドさせる。

 

《FINAL ATTACK RIDE・di、di、di、DIEND》

 

ディエンドライバーの銃口に幾多のカードたちが円を描きつつ標的を狙うかのようにターゲットサイトを作り出す。そしてディエンドがディエンドライバーのトリガーを引くと、それらが収束し、強力なエネルギービーム『ディメンションシュート』を放つ。

カマキリヤミーと戦闘を行っていたライオトルーパーたちは強制的にビームのエネルギーの一部となった。

 

「ぐぅあああああああああああああああ⁉︎」

 

『ディメンションシュート』を受けたカマキリヤミーは断末魔を上げ、爆発した。

 

「さあ、戻ろうか」

 

大樹は変身を解除してそのまま帰路を歩く。士は一旦学校に戻ろうかとふと思うが、士道のようにギャルゲー訓練の餌食になるのは御免なので士道には心の中で謝りながら大樹と一緒に帰路を歩く。

 



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漆黒の騎士


更新が遅れてしまいました。今回は十香と士道たちが遭遇する数日前のお話です。
ここでディケイドのライバルとなるオリジナルライダーが登場するので、どうぞ!




士道と士のギャルゲー訓練開始から次の日、士は一人で住宅街の外れにあるある場所に向かっていた。

今日もギャルゲー訓練を士道と共に行っていたのだがキバットから怪人のものと思われる大きな霊力の反応があると言われた場所に向かうために今日は琴里の許可をもらって物理準備室から抜け出した。

 

こんな時は大樹も一緒に来てくれるのだが、生憎なことに今日はテイラーから呼び出されたため大樹はアーガスコーポレーションに出向しているのに加えて、キバットも突然姿を消してしまったので士は一人だ。

 

 

 

 

 

 

 

「ここか…キバットが言ってたのは」

 

数十分後、キバットに教えてもらった目的の場所に辿り着いた。そこはもうすでに使われなくなっているのか、既に廃墟となっている大きな倉庫だった。確かにここなら隠れ家としても使えそうなため、怪人もここに隠れているかもしれない。そう思いながら士は倉庫の中に入っていく。

 

中はかなり老朽化していて、ドラム缶が大量に放棄されていた。だが、妙なことに怪人の気配は感じられなかった。

その時、背後からカツカツと足音が聞こえて振り返ると、そこには黒いコートを纏いフードを深く被りその表情をうかがえない人物が立っていた。

 

その黒いコートには見覚えがあった。数日前、士たちの前に現れた謎の組織『パラドクス』のメンバーたちが着ていたコートと同じものだった。それを確信した士はディケイドライバーを取り出して身構える。

 

「お前は……?」

 

「……知る必要はない。お前はここで俺が倒すんだからな」

 

コートの人物は淡々と告げる。声からして恐らくは士と同じくらいの少年だろう。

 

「どういう意味だ?」

 

「すぐに分かる」

 

少年はそう言うと、黒いバックルを取り出し腰に装着する。中央には何かをはめる跡があり、その右隣には小さな刀のようなパーツがついていた。

 

「なっ…戦国ドライバー⁉︎」

 

士はそれを見て驚く。

それは仮面ライダー鎧武が使用する戦国ドライバーに似ていたが、横についているフェイスプレートには何かの頭部が描かれていて本来の戦国ドライバーと形状が少し異なっている。

 

「見せてやる……パラドクスの力を」

 

少年は続けてその手に漆黒の禍々しいオーラを放つロックシードを手に取り、スイッチを押して解錠する。

 

『カオス』

 

その音声と共に、少年の頭上に大きな黒い球体が出現する。少年はバックルの中央にロックシードをセットして、再び施錠する。

 

『ロックオン』

 

ドライバーにセットされたロックシードを施錠すると、ドライバーから法螺貝の笛音が鳴り響く。

 

「変身」

 

少年は小さなブレードのようなパーツをロックシードに向かって降ろす。すると、ロックシードの柄の部分が割れる。

 

『ソイヤ!カオス アームズ 黒騎士・オン・ダークネス♪』

 

その音声が響き渡っだと思うと、黒い球体は少年を覆うように飲み込み、黒い球体は霧のように消えるとその場には一人の戦士が立っていた。

 

黒が基調のアンダースーツ・ライドウェアを纏い赤い紋様を持つ、禍々しさを放つ鎧を装備した紫の双眼を持つ仮面をつけた漆黒のライダーがそこにいた。

 

そのライダーの姿はまるで黒騎士を思わせた。

 

「お前は…何者なんだ?」

 

「仮面ライダールシファー……お前を破壊する者だ」

 

ルシファーと名乗ったライダーはその手に剣に銃口とトリガーがついた悪魔のような目の装飾を持つ武器、ヴォイドセイバーを持つ。

士もディケイドライバーを装着し、バックルにカードを挿入する。

 

「変身!」

 

《KAMEN RIDE・DECADE》

 

士はディケイドに変身し、ソードモードのライドブッカーを構える。互いに武器を構えた状態で睨み合う。

 

「お前の力、見せてくれよ」

 

ルシファーはそう告げると、一気にディケイドとの間合いを詰める。ヴォイドブレードライドブッカーがぶつかり合い、火花が散る。ディケイドが振り下ろしたライドブッカーの刃はルシファーのヴォイドセイバーによって弾かれていく。

 

「はっ!」

 

間髪入れずにルシファーがディケイドの懐目掛けて駆け出し、ヴォイドセイバーを斬りあげ、薙ぎ、刺突する。

 

「くっ…!」

 

ディケイドは素早い身のこなしですべてを紙一重で躱していき、ルシファーから距離を取るとライドブッカーからカードを一枚取り出し、その一枚をバックルに挿入する。

 

「変身!」

 

《KAMEN RIDE・BLADE》

 

カードを装鎮すると、ディケイドライバーからオリハルコン・エレメントと呼ばれるヘラクレスオオカブトの絵柄が浮かぶ青い光のゲートが眼前に放出された。

臆することなく光のゲートを通過すると、ディケイドの姿が変わる。

赤い複眼と一本角を携えた仮面に、青を基調としたスーツに白銀の胸部の鎧にはスペードのマークが存在を主張するように鎮座していた。

 

それは、友と世界を救うために運命と闘うことを選んだ戦士。仮面ライダーブレイドだ。

 

ブレイドに変身したディケイド・ブレイドはソードモードのライドブッカーを持ち、ルシファーに向かって駆け出していく。

 

「おもしろい!」

 

ディケイドの変身を見たルシファーもまた、ヴォイドセイバーを構えて迎え撃つ。対するディケイド・ブレイドはルシファーの間合いに入る寸前、カードをドライバーに挿入した。

 

《ATTACK RIDE・METAL》

 

刹那、鋼の強度にまで硬質化したディケイド・ブレイドにルシファーのヴォイドセイバーがぶつかる。

ルシファーはヴォイドセイバーの一閃がディケイドを捉えた、と思っていた。

 

「なっ…⁉︎」

 

しかし、ルシファーは驚愕の様子を見せる。確かに手応えはある筈なのにディケイド・ブレイドのその硬度なボディは一切のダメージを通していない様子だったのだ。

たった一瞬の出来事だったが、虚をつくのは充分だ。ディケイド・ブレイドはすかさず次のカードをドライバーに挿入した。

 

《ATTACK RIDE・TACKLE》

 

ディケイド・ブレイドはライドブッカーを構え、眩い白光を放ちながら猛スピードで強烈なタックルをルシファーにかました。

重い衝撃を近距離で受け、宙に投げ出されるルシファーは地面に落下する直前に受け身を取ることに成功するものの、ディケイド・ブレイドの予想外の攻撃に呆気にとられるものの、直ぐに立ち上がる。

 

「舐めるな!」

 

ライドブッカーを構えるディケイド・ブレイドに叫ぶルシファーはヴォイドセイバーを構えて素早く距離を詰めるとディケイド・ブレイドに一閃をくらわせる。

 

「がああ!」

 

装甲から飛び散る火花が痛烈な一撃の威力を物語っていた。だがその隙をルシファーが見逃す筈がなかった。

 

『ソイヤ!カオス・オーレ!』

 

ルシファーが戦国ドライバーのブレードを二回振り下ろすと、ヴォイドセイバーの刀身に紫色のエネルギーが迸る。

 

「はあ!」

 

ルシファーはヴォイドセイバーを振り抜き、紫色のオーラを纏った一閃をディケイド・ブレイドに向けて放つ。

 

「ぐわぁっ⁉︎」

 

ディケイド・ブレイドはルシファーの放った一閃を避けられずに直撃。ブレイドから元のディケイドの姿に戻り、地面を転がる。ディケイドは小さく呻きながら態勢を立て直そうと立ち上がったが、すでに目の前に距離を詰めたルシファーがヴォイドセイバーを振りかぶっていた。

 

ヴォイドセイバーが振り下ろされた矢先、ディケイドは素早くバックステップを踏んで攻撃を躱すと、ルシファーとの距離を取るために後ろに飛び退いた。

 

「これで決める!」

 

《FINAL ATTACK RIDE・de、de、de、DECADE》

 

ディケイドはバックルにファイナルアタックライドのカードを挿入し、高く跳躍すると眼前に現れた15枚のホログラム状のカード型エネルギーを潜り抜ける。

 

「上等だ!」

 

『ソイヤ!カオス・スカッシュ!』

 

対するルシファーも戦国ドライバーのブレードをロックシードに向かって一回降ろすと音声とともにその右脚に強力な闇のエネルギーを纏い、背中に闇の翼のエネルギーを出現させると高く跳躍する。

 

「「はあああああああああああああああああああああああああ‼︎」」

 

互いに右脚を突き出しディケイドの金色のエネルギーを纏う『ディメンションキック』と、ルシファーの闇を纏うキックがぶつかり合う。

 

両者の必殺技は空気や大地を震わせながら二人を中心に巨大な衝撃波を放つ。轟音が吹き荒れ、すさまじい衝撃があたり全体に駆け抜けた。そしてしばらく続いていた互角の均衡状態が崩れ、両者は互いにその衝撃で吹き飛ばされた。

 

「ぐああああっ!」

 

「ぐっ……!」

 

宙に投げ出された両者はそのまま地面に叩きつけられ、激突した衝撃で地面は少し陥没した。しかしその大きなダメージで二人は互いに変身を解除され元の人間の姿に戻されてしまう。

 

「流石だな、ディケイド」

 

ルシファーから変身を解除された少年はコートについた砂埃を払いながら立ち上がる。士も傷ついた体を立ち上がらせながら少年と対峙する。

 

刹那、士と少年の間にオーロラが出現した。少年はそのオーロラを見る途端、『時間切れか』と、舌打ちを鳴らした。

 

「また会おう…ディケイド」

 

少年はそう告げると、その前方に現れた灰色のオーロラの中に溶け込むように消えて行った。

士はそれを見届けると今の戦闘で手負いのダメージを受けたためか、その場で膝から崩れ落ちてしまった。

 

「仮面ライダー……ルシファー」

 

士は虚空を見つめながら先ほど闘った謎のライダーの名を呟く。

 

 

 

 

 

 

 

 

何処かの廃墟ーーー風が吹き抜ける中、そこに立っていた黒コートのフードを深く被った男、ノーハートは虚空を見つめていた。その背後で空間が揺らいだかと思うと、漆黒のライダールシファーが姿を現した。ノーハートは振り返ることもせず、ルシファーをいさめる。

 

「勝手な行動をとるな」

 

「ちょっとからかっただけさ」

 

だが、そんな叱責をルシファーは意にも介さずその場で変身を解除する。そして漆黒の髪に金色の輝きを帯びた瞳を持つ少年が現れた。

 

「……まあいい、そろそろお前も動き出す時が来たということだ。仮面ライダールシファー……いや、葛葉千秋よ」

 

「ああ…俺の任務はディケイドの討伐、なんだろ?」

 

ノーハートの背中を見つめる少年ーー葛葉千秋は静かに答えた。

 

「そうだ……世界を創り直すためにも、ディケイドの存在が我々の障害となる」

 

「分かってるさ、世界を救うためにな」

 

ルシファーは強い意志を込めた声でそう告げ、その言葉を背後から聞いたノーハートは口元を歪める。

 

ノーハートは真の目的を知らず、世界を救うためだと自分を信じ、真っ直ぐに突き進んでいる純粋で愚かな少年を自分の傀儡として導くために偽りの目的を信じ込ませる。そうすることで計画にとって最も邪魔なディケイドを始末するのにも効率がいい。

 

「お前にはその内、ある場所に向かってもらう」

 

「向かうってどこに?」

 

「来禅高校だ」

 

ノーハートはフードの奥でゆるりと笑いながらそう告げる。

あの謎の存在が言っていた例の五河士道という少年、その家族であり世界の破壊者と呼ばれた存在ディケイドこと五河士、もう一人の仮面ライダーディエンドである海東大樹、ーーーそこに仮面ライダールシファー……いや、葛葉千秋も混ぜてやろう。

 

 

世界を混沌に陥れ、新たな創造に導くために。

 



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君の名は

ギャルゲーという名の拷問とも言える訓練から数日が経った。あれから士道は何度も選択肢を間違え黒歴史が公開され『ダークフレイムマスター』と呼ばれたりしたらしい。

 

士は奇跡的になんとか極秘映像を死守することができたが精神的にボロボロだ。

士は先程琴里から訓練を行っている士道の様子を見てきて欲しいと言われ、士道を探している最中だった。

 

そして今、士はとんでもない場面に遭遇している。

 

「本気で先生と、結婚したいと思っているんです」

 

……、何を言ってるんだこいつは。

 

これが先生に結婚宣言をしていた士道に対する士の最初の一言だった。だって、見つけていきなり先生を口説いているのだから当然の反応だろう。

 

だが士のその反応はタマちゃん先生のリアクションによってことごとく塗りつぶされる。

 

 

「本気ですか…」

 

『結婚』というワードがきっかけとなったのか、普段のタマちゃん先生なら決して考えられない雰囲気にたじろぐ士道。

 

それを見ていた士もタマちゃん先生のその圧倒的な雰囲気に思わず大嫌いなナマコ並みの恐怖を覚えて後ずさりしてしまう。

 

「…!士君も本気ですか⁉︎」

 

士はタマちゃん先生に存在に気づかれて尋ねられてしまう。ここで自分にフラれるとは思わなかった士はすぐに返事が出来ずしどろもどろになっている。

そして、タマちゃん先生の封印がついに破られた。

 

「五河君たちが結婚出来る年齢になったら私もう三十歳超えちゃうんですよ?それでもいいんですか?両親に挨拶しに来てくれるんですか?婿養子とか大丈夫ですか?高校卒業したらうちの実家継いでくれるんですか?」

 

「あ……あの、先生………?」

 

「いいんですか?」などと色々尋ねている割には士道のブレザーを掴んでいた。

このままでは士道はタマちゃん先生に強引にゴールインされてしまうだろう。

あと人が変わったように目が血走っているのが一番怖かった。

 

「で、でも…俺たちってまだ16歳ですし結婚は……」

 

ここで士道は逃げ道を探ろうとまだ結婚出来る年齢ではないことを言った。士もこれで取り敢えず助かったと思った。

だが、それはタマちゃん先生には意味をなさず、むしろ更に結婚へと突き進む思考を加速させてしまったに過ぎなかった。

 

「心配しないでください。血判書を作りますから、痛くしませんから安心してください。あ、でも日本って多夫一妻制が認められてないんですよね」

 

「そ、そうですよ。ああ残念だなぁ、多夫一妻制じゃない日本じゃ一人しか結婚できないですよね。結婚するだったら俺より士道をお勧めしますよ。それじゃお幸せに!」

 

士はあっさり士道を見捨ててその場から離れた。少し離れた場所から士道の様子を見ると、士道は逃れる道を絶たれたことで冷や汗を流し絶望顏になっていた。

 

そしてタマちゃん先生の想像を超えた行動力についに士道も逃げ出した。賢明な判断だ。

 

士は逃げ出した士道を追いかける。

 

そしてまた、とんでもない場面に遭遇してしまった。

 

士道は逃げている最中に一人の女子とぶつかり、その拍子に尻餅をついたのか士道に向かってM字開脚をしていて下着が見えている体制だった。

 

しかもその相手の女子がまさかの鳶一折紙だという。

 

…………、こいつはラッキースケベの体質なのか?

 

士の士道に対する第二の一言だった。いくらなんでもこのシチュエーションはないだろう。

 

こんな展開はギャルゲーの中でしか起こり得ないと思っていたのだが、実際今目の前でそれは起きていた。

 

士道のその行為になにを思ったのか、折紙は士道と恋人宣言をしだした。

タマちゃん先生といい鳶一折紙といい、この学校には個性的な女子が多い気がする。

 

 

「ウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウーーーーーーーー」

 

唐突にけたたましいサイレンが鳴り響く。これは入学式の時と同じ空間震警報だ。

 

「急用ができた。また」

 

鳶一はそう言うと急いでその場から離れる。おそらく精霊が出現したためASTから出動要請があったのだろう。

 

こちらも琴里から渡されたインカムを装着し、士道と共に琴里の誘導に従って精霊が出現する予想地点に向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

精霊が出現したのは学校の教室だった。しかも、まだ進級して間もない自分たちの教室だった。

 

現在、士と士道は教室の入り口の前にいる。士は念のためにディケイドライバーを懐に隠しておく。

精霊は中にいるようだが、士道はまだ心の準備が出来ていない様子だった。

 

「大丈夫だ士道、俺が話すからお前は見てればいいって」

 

「ああ……でもなぁ…」

 

士道はまだ何か心配らしい。そんな士道の様子を察したのか、インカムから琴里の声が聞こえる。

 

『安心しなさい士道。《フラクシナス》のクルーが全力であなたたちをサポートするわ。たとえば……』

 

『五度の結婚、そして五度の離婚を経験した恋愛マスター《早すぎた倦怠期》川越!』

 

「それって全部全敗ってことだよな⁉︎」

 

『夜の女性に絶大な人気を誇る《社長》幹本!』

 

「ただ単に金の魅力だって!」

 

『恋のライバルに次々と不幸が。午前二時の女《藁人形》椎崎!』

 

「それ絶対に呪いかけてるだろ!」

 

『100人の嫁を持つ男《次元を超える者》中津川!』

 

「ちゃんとz軸のある嫁だろうな⁉︎」

 

『その愛の深さ故に、今や法律で愛する彼の半径500メートル以内に近づけなくなった女《保護観察処分》箕輪!』

 

「その人は一体なにしたんだ⁉︎」

 

『……皆、クルーとしての腕は確かなんだがね』

 

『大丈夫だよ士、士道。僕だっているんだし』

 

インカムから令音と大樹の声が聞こえた後、また琴里の声が聞こえる。

 

『まあくれぐれも精霊の機嫌を損ねて死なないように気をつけなさい。

士はともかく、士道なら一回くらい死んでも直ぐにニューゲーム出来るから問題ないけど』

 

「なんだよそれ…」

 

「いいからさっさと行くぞ」

 

士は教室の扉を開ける。

そして、夕日が赤く染まった教室の中にその少女はいた。

不思議なドレスを纏った少女は机の上に片膝を立てるように座っている。

 

少女は幻想的な輝きを放つ目を物憂げな半目にし、ぼうっと黒板を眺めている。

夕日を背にした少女のその姿はどこか神秘的で見るものの思考を奪ってしまうほどだった。

士は思わず少女のその姿に見惚れてしまっていた。

 

「ーーぬ?」

 

少女は士たちの侵入に気づき、こちらを見つめてくる。

 

「……ッ!や、やあーー」

 

士道がどうにか心を落ち着けて手を上げようとした瞬間。

 

ーーひゅん、と。

 

少女が無造作に手を振るったかと思うと、士道の頬を掠めて黒い一条の光線がすり抜けていった。

 

その一瞬の後、二人の背後にあった教室の扉や廊下の窓ガラスが盛大な音を立てて崩れる。

 

「くっ⁉︎」

 

その際の衝撃で士のポケットからディケイドライバーとライドブッカーが落ちた。

士はそれらを取りに行こうとするが、少女は二人に向けて黒い光球を向けていた。

 

「お前たちは何者だ。答える気がないのなら敵と判断する」

 

「お、俺は五河士道!こっちは五河士!ここの生徒だ!敵対する意思はない!」

 

士道は両手を上げながらそう言うと、少女は訝しげな目をしながら二人に歩み寄る。

 

少女はディケイドライバーを見つけた途端、しばしの間士と士道の顔を凝視してから何かを思い出したように眉を上げた。

 

「お前たち、前に一度会ったことがあるな……?」

 

「ああ、確か…今月の十日に街中でな」

 

「おお」

 

士がそう言うと、少女は得心がいったように小さく手を打つ。

 

「思い出したぞ、お前は確か何やら姿がいろいろ変わっていたおかしな奴だ」

 

「おかしな奴って……」

 

少女の目から微かに険しさが消えたのを見取って、士は一瞬緊張が緩む。

 

「が……ッ⁉︎」

 

刹那の間の後、士は少女に前髪を掴まれて顔を上向きにさせられていた。そして少女は士道の方へ視線を向ける。

 

「そっちの奴は確か、私を殺すつもりはないと言っていたか?……見え透いた手を。

なにが狙いだ?私を油断させておいて後ろから襲うつもりだったか?」

 

士はその時の少女の顔が気に入らなかった。少女のその全てに絶望したかのようなその顔が。

 

士は自分が仮面ライダーである限り、目の前にいる誰かにそんな顔はさせたくなかった。

 

「…なんで、そんな顔をするんだよ」

 

士の言葉に少女は若干反応をするが、眉を寄せて何も言わずに士の髪から手を離すと、じっと士を見つめていた。

 

「俺は…俺たちはお前と話をする為にここに来た!内容なんてなんでもいい!気に入らないなら無視したって構わない!俺たちはお前とずっと一緒にいたわけじゃないから、お前がこれまでどんな辛い思いをしてきたかは分からない!でもな、これだけは言わせてくれ。俺はーー俺たちはお前を否定しない!」

 

士が言った言葉に少女は驚いたように目を見開く。そして士たちに背を向け、しばしの沈黙のあと、小さく唇を開く。

 

「……ツカサ。それにシドーと言ったな」

 

「ああ」

 

「本当に、お前たちは私を否定しないのか?」

 

「本当だ」

 

「本当の本当か?」

 

「本当の本当だ」

 

「本当の本当の本当か?」

 

「本当の本当の本当だ」

 

士は士道と間髪入れずに声を揃えて答えると、少女は今までにない笑顔を見せた。

その美しく可愛らしい笑顔に士はまた見惚れてしまった。

 

「ふん、誰がそんな言葉に騙されるかバーカバーカ!……だがまあ、あれだ。どんな腹があるかは知らんが、こんなことを言ってくれる奴は初めてだからな、少しだけ貴様らを信じてやる」

 

「ああ、ありがとな」

 

少女の笑顔に士は思わず顔を赤くしてしまったが、取り敢えずは気を許してもらえたようだ。士は少女の名前を呼ぼうとしたが、そこで少女には名前がなかったということを思い出した。

 

「ぬ?」

 

少女も士の様子に気がついたのか眉をひそめる。そしてしばらく考えを巡らせるように顎に手を置いたあと、

 

「……そうか、私と話をするには名前が必要だな。これまでは相手がいなかったから必要なかったが。ツカサとシドーは私を何と呼びたい?」

 

「「な……」」

 

少女の要求に二人は言葉を詰まらせた。

 

『これはまたヘビーなのが来たね』

 

「そんなこと言ってる場合かよ…」

 

士のインカムから大樹の声が聞こえてくる。士道の方もインカムを抑える仕草をしているので、おそらく大樹と琴里は別々の回線で通信を入れているのだろう。琴里が名前を考えたようなので余程変な名前が出てくることはないと思うが。そして、士道の口から彼女の名前が告げられた。

 

「トメ!君の名前はトメだ!」

 

次の瞬間、少女は士道に告げられた名前が相当嫌だったらしく、士道の足元にズガガガガガガガッ!と小さな光球が連続でマシンガンのように発射された。

 

「なぜかはわからんが、無性に馬鹿にされた気がした」

 

少女もこの通り、一気に不機嫌になった。

 

『あはははは!いや、今時の女の子にトメはないって!いいネーミングセンス……ってぇ⁉︎ちょ、何するんだよ琴里ちゃん!』

 

インカム越しからは士道が告げた名前がツボになったようで大樹が大笑いしているところを、鈍い音がしたのでおそらく琴里が制裁したらしい。そこで今度は士が思いついた名前を告げた。

 

「それじゃあ…十香っていうのはどうだ?」

 

「……まあ、いい。トメよりはマシだ」

 

『成る程ね、君たちが彼女と出会ったのは四月十日だったから十香ってことか。安直だけどいいんじゃないかな』

 

インカムから大樹の声が聞こえてくる。取り敢えずは気に入ってもらえたようでよかった。隣ではなんか士道が落ち込んでいるが。

 

「トーカとはどうやって書くのだ?」

 

「それはな…」

 

士道は黒板の方に歩いて行くと、チョークを手に取り、『十香』と書いた。十香もそれを真似して指からビームらしきもので黒板を削って書いた。下手くそだったが、ちゃんと十香と書けている。

ここで精霊の少女ーー十香は二人に顔を向ける。

 

「シドー、私の名を呼んでくれ」

 

「十香…」

 

名前を呼ばれて満足した十香は、今度は士の名を呼ぶ。

 

「ツカサ…」

 

「ああ…十香」

 

顔を綻ばせ嬉しそうに笑顔を浮かべる十香に士と士道も安心して微笑む。

 

 



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二人のデート

それから士道と士は十香との会話を楽しんでいた。ほとんどは十香が質問して二人がそれに答えていた。ただ、それだけのやりとりで十香は満足そうだった。

 

「……そういえば十香」

 

「なんだ?」

 

「お前って…結局どういう存在なんだ?」

 

「む?」

 

士道の問いに十香は眉をひそめる。

 

「ーー知らん」

 

「し、知らんって…」

 

「事実なのだ。仕方ないだろう。ーーどれくらい前だったか、私は急にそこに芽生えた。それだけだ。記憶は歪で曖昧。自分がどういう存在なのかなど、知りはしない」

 

「成る程……難しいもんだな」

 

「そうなのだ。

突然この世に生まれ、その瞬間にはもう空にメカメカ団が舞っていた」

 

「め、メカメカ団…?」

 

「あのびゅんびゅんうるさい人間たちのことだ」

 

「ああ…」

 

メカメカ団というのはどうやらASTのことらしい。士と士道は思わず苦笑した。

と、次いでインカムからクイズに正解したような軽快な電子音が鳴った。

 

『チャンスよ、士』

 

「チャンス?何が?」

 

『精霊の機嫌メーターが七十を超えたわ。見たところ、士道より士の方が精霊の好感度が高いから一歩踏み込むなら今よ』

 

「了解」

 

「なあ、十香。今度、そのだな…デートしないか?」

 

士は勇気を振り絞って始めて女の子をデートに誘った。

だが、十香の方はキョトンとして顔をした。

 

「デェトとはなんだ?」

 

「えっと…それはだなーーー」

 

『っ⁉︎士道、士!何か来るわよ!』

 

インカムから琴里の声が聞こた刹那、士たちのもとに燃え盛る火炎弾が襲いかかって来た。

 

「な、なんだ⁉︎」

 

直撃は逃れたが、士道と十香はそこにいた異形の存在に戸惑いを隠せず驚き、士はそれを見つけるとディケイドライバーを手に持つ。

 

そこにいたのは、揺らめく炎のような意匠が全身を覆っている『Wの世界』の超人、マグマドーパント。そして、右腕の巨大な爪が特徴的な虎に似た『鎧武の世界』の怪人、ビャッコインベスの二体がいた。

 

「二人とも、下がってろ」

 

「ゴルァァ!」

 

士は飛びかかって来たビャッコインベスに蹴りをくらわせ、ディケイドライバーを装着しライドブッカーからカードを取り出して構える。

 

「変身!」

 

《KAMEN RIDE・DECADE》

 

士はディケイドに変身すると、マグマドーパントがこちらに駆け出す。ディケイドはソードモードのライドブッカーでマグマドーパントを斬る。そしてカードを取り出す。

 

《KAMEN RIDE・AGITO》

 

ディケイドは光に包み込まれると、その姿を変えた。

金色の四肢に赤い複眼。その姿は夕日の光によってより神々しさを際立たせる。

 

力を得たものを説く新たなる戦士、仮面ライダーアギトだ。

 

「また違う姿だぞ!」

 

十香はディケイドの変身に目を輝かせていた。ディケイド・アギトはマグマドーパントとビャッコインベスにパンチとキックを叩き込み、教室の外へと追い出す。

 

「いいか士道、十香から離れるなよ」

 

「分かった。気をつけろよ」

 

「誰にモノを言ってんだよ」

 

ディケイド・アギトは背中越しから士道にそれだけを告げると二体の怪人たちを追いかけて外へと出る。上空では待機していたASTがマグマドーパントとビャッコインベスに応戦を仕掛けているが、二体ともそれを物ともせずマグマドーパントの火炎弾がディケイド・アギトに放たれた。

 

「うおおおお!」

 

だがディケイド・アギトは臆することなく炎上した道を駆け抜け、そのままマグマドーパントに飛び蹴りを放つ。

 

「グロオオ⁉︎」

 

《FAINAL ATACK RIDE・a、a、a、AGITO》

 

ファイナルアタックライドのカードをバックルに挿入したディケイド・アギトの額のホーンが展開され、姿勢を低く構える。ディケイド・アギトの足元に光り輝くアギトの紋章が展開され両脚に収束されていく。ディケイド・アギトは高く飛びライダーキックをマグマドーパントに撃ち込み、それをくらったマグマドーパントは衝撃で吹き飛ばされて爆発とともに消滅する。

 

アギトの姿から元のディケイドの姿に戻ると、ビャッコインベスが鋭い爪でディケイドに襲いかかって来る。ディケイドはそれをかわすと、ビャッコインベスから距離を取る。

 

「新しい力を試してみるか」

 

そう言ってディケイドが取り出したのはテイラーから貰った新しいカードだ。少し不安もあるが、多分大丈夫だろう。

 

「変身!」

 

《KAMEN RIDE・GAIMU》

 

『オレンジ アームズ 花道・オン・ステージ♪』

 

突然ディケイドを光の粒子が包み込むと、ディケイドは青いアンダースーツ・ライドウェアが装着される。そして突然、ディケイドの頭上に巨大なオレンジが出現したと思うと、それはディケイドの頭部に被さると各部が展開し、鎧の姿へと変わった。

 

力を自分のためではなく誰かのために使い、世界を変えるために闘う戦士、仮面ライダー鎧武だ。

 

「お、オレンジ?」

 

「おお!美味そうだぞ!」

 

それを見た士道は首を傾げるが、十香の方はなぜかオレンジを見て涎を垂らしながら目をキラキラさせて喜んでいた。食べられないのだが。

 

「さあ、ここからは俺のステージだ!ってな」

 

ディケイド・鎧武は専用武器の無双セイバーと大橙丸を手に持ちビャッコインベスに斬りかかる。

 

「はあっ!」

 

「ゴァァァ!」

 

ビャッコインベスは反撃だと言わんばかりに爪による連撃を繰り出すがディケイド・鎧武はそれを無双セイバーと大橙丸を使って受け止めたり、カウンターを入れながらどんどんビャッコインベスを追い込んでいく。

 

「これで決める!」

 

《FAINAL ATTACK RIDE・ga、ga、ga、GAIMU》

 

ディケイド・鎧武は大橙丸と無双セイバーをつなぎ合わせることでナギナタモードに変える。ナギナタモードとなった無双セイバーの刀身からエネルギー斬をビャッコインベスに放ち、それが命中するとビャッコインベスをオレンジ型のエネルギー空間で拘束する。

 

「はああああああああああああ‼︎」

 

ディケイド・鎧武はナギナタモードの無双セイバーを握りしめてビャッコインベスに駆け出すと、大橙丸の刀身で一閃する。

 

「ウゴオァァァァァ!」

 

ビャッコインベスは断末魔を上げながらその場に倒れ込むと、そのまま爆発を上げて消滅した。

 

「《鏖殺公》!」

 

十香のその声が聞こえたと思うと、校舎ではいつの間にか突貫して来た折紙と十香が交戦していた。その側では士道が何かの衝撃で気絶したのか、倒れていた。

 

「「はあああああああああああああああああああああ‼︎」」

 

十香と折紙は互いの命を刈り取るべく全力で剣を振り下ろす。だが、士道が近くにいるというのにそれを士は黙って見ているわけではなかった。

 

《ATTACK RIDE・ILLUSION》

 

「「ッ⁉︎」」

 

十香と折紙は互いに驚愕した。二人の目の前にはそれぞれの剣をライドブッカーで受け止めている二人のディケイドがいたからだ。

 

「ぐうっ……結構キツイな、これ」

 

分身が消滅したディケイドは二人が互いの剣を降ろすのを確認すると、取り敢えず琴里の指示で気絶した士道をフラクシナスへ回収するために担ぎ、カードを取り出す。

 

「悪いな、十香。また会おうな」

 

「ああ、ツカサもな」

 

十香は笑顔でそう答える。名残惜しいが、あまり時間をかけられないのでカードをバックルに挿入した。

 

《ATACK RIDE・INVISIBLE》

 

ディケイドと士道の姿はその場から虚空に消滅した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、次の日……

 

 

「まぁ、考えてみたら普通に休校だよな」

 

士はそう呟きながら半壊した高校の前で、オリジナルのディケイドである門矢士が使用していたマゼンタカラーの二眼レフのトイカメラのフィルムを巻いてファインダーを覗き込んで、その背景をレンズに切りとった。

 

カシャリ、と小さな音をしてシャッターを切る。

 

今日は士道と共に一応登校したのだが、やはりあんな事が起きた後では休校となっていた。士道の方は買い物をしていくと言って、一度家に戻るために帰路に着いていた。その一方で、士の方は暇潰しのために街を彷徨っている。

今日は確か大樹と一緒に常連の喫茶店の店長からの依頼で店の手伝いをする予定だったので、そちらの方に行こうと商店街へと続く道に足を向けた。

だがーー数分と待たず、士は再び足を止めることとなった。道に立ち入り禁止を示す看板が立てられていたのである。その向こうに広がっている景色はさながら紛争地域のようだった。

アスファルトの地面は滅茶苦茶に掘り返され、ブロック塀は崩れ、雑居ビルまで崩壊している。

 

「行き止まりか…」

 

士はもう一度ファインダーを覗き込んでシャッターを切る。

 

「ーーーああ、そういえばここだったっけな……」

 

この場所には見覚えがあった。ここは士と士道が初めて十香と出会い、士がディケイドに変身して戦闘を行った空間震現場の一角だ。

この有り様を見る限り、まだ復興部隊が処理をしきれていないようだ。

 

「……これからどうなるんだろう」

 

士は目の前の光景を見るとそう呟いた。初めてディケイドに変身した時といい、昨日のことといい、パラドクスは十香が現れる度に襲って来ている気がする。

神様が言ったとおりこれからは色んなことが起きるし、イレギュラーによって別の物語も生まれるかもしれない。

 

「………サ」

 

あの時、士を襲って来た謎の漆黒のライダーもそうだ。戦国ドライバーはともかく、士はあんな仮面ライダーは知らない。もしあのライダーがパラドクスのメンバーならこれからの闘いで他のライダーも現れるかもしれない。

そうなるといくら仮面ライダーの力を持っているとはいえ士と大樹だけでは厳しい。

 

「……い、………サ」

 

それに、士はディケイドになって闘っている限り周囲を巻き込む可能性が高い。これからもパラドクスと闘えば士道や琴里たち、十香を傷つけてしまうかもしれない。

 

「おい、ツカサ!無視をするな!」

 

「ん?」

 

そこで士はやっと自分の名を呼ぶ声に意識を向けた。

視界の奥ーーー通行止めのエリアの向こう側から声が聞こえて来る。

その方向へ視線を集中させると、瓦礫の山の上に、街中に似つかないドレスを纏った少女が、ちょこんと屈み込んでいた。

 

「と、十香⁉︎」

 

「ようやく気付いたか、バーカバーカ」

 

背筋が凍るほどに美しい貌を不満げな色に染めた少女ーー十香は、とん、と瓦礫の山を蹴ると、かろうじて原型を残しているアスファルトの上を辿って士の方へ進んで来た。

 

「とう」

 

通行の邪魔だったのだろう、十香は目の前に立っていた立ち入り禁止の看板を蹴り倒して士の前に到着した。

 

「な、なんでここにいるんだ⁉︎てゆーか、空間震警報鳴ってないぞ⁉︎」

 

そう。精霊が現れる際には空間震が発生するのを知らせるための空間震警報が鳴るはずなのだが、周囲はとても静かだ。

 

「なんでって、お前から誘ったのではないか、デェトとやらに」

 

「あ……」

 

「さあツカサ、早くデェトに行くぞ。デェトデェトデェトデェトデェト!」

 

「分かった!分かったから!取り敢えずはそのワードを連呼するのをやめてくれ!」

 

「ぬ、何故だ?……はっ、まさかツカサ、私が意味を知らないのをいいことに、口にするだけでもおぞましい卑猥な言葉を教え込んだのか?」

 

十香が頬を赤く染め、眉をひそめる。

 

「そうじゃないって!取り敢えずは、話を聞いてほしいだけだ」

 

「ぬ、そうか……なら良い」

 

十香はそう言うと腕を胸の下で組んだ。だがデートをする前に、士は致命的なことに気がついた。

 

「その前に、その服装をなんとかしてくれないか?流石にその格好だと目立つし、ASTに…えっと、メカメカ団に見つかるのも面倒だしな」

 

「ふむ…ではどのような服が良いのだ?」

 

「そうだな……まあこんな服なら良いんじゃないか?」

 

そう言って士が取り出したのは、昨日士道から無理やり押し付けられた折紙の制服姿の写真だった。なんでこんなものを持っていたのか訳を聞いても士道は答えてくれなかったが。

 

「………む…」

 

十香は小さく嘆息すると、その写真を取り細々にちぎり棄てた。

そして指をパチンと鳴らすと、その身に纏っていたドレスは溶けるように消え、それと入れ替わるようにして来禅高校の制服を纏っていた。

 

「これで良いのか?」

 

「あ、ああ…」

 

士は目の前の光景に驚きを隠せなかったが、十香はふふんと腕組みをしている。

 

 

「では、行くぞ。デェトに!」

 

 

 

士たちの戦争(デート)は、まだ始まったばかりだ。

 

 

 

 



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デート開始

お久しぶりです!
更新が遅れてすみません。最近、リアルの方が忙し過ぎてかける時間があまりありませんでした。

皆さんに楽しんでもらえるようにもっと頑張ります!


「さあツカサ、早くデェトだ!」

 

「分かったから、落ち着けよ」

 

士は十香に左手を差し出す。十香はそれを不思議そうに見つめるので士は微笑みながら口を開く。

 

「ほら、手を繋ごうぜ」

 

「なんだ、そういうものなのか?」

 

「ああ、今回は俺がエスコート役だからな。このくらいはしないと」

 

「ふむ……」

 

十香は考え込むようにしたが、しばらくして士の手を握った。

 

「…ん、悪くないな、これも」

 

そう言って十香が笑い、きゅっと手を握る力を少しだけ強くしてきた。小さくて柔らかい、女の子の感触が伝わってくる。士は自分でも顔が赤くなっているのが分かる。

 

「それじゃあ、行くか」

 

士は十香の手を引いて歩き出す。そこで、歩きながら十香が聞いてくる。

 

「ところでツカサ、デェトとは一体なんなのだ?」

 

「えーと……男女が一緒にでかけたり、遊んだりすること……かな?」

 

実際、士も男女交際なんてしたことがないため、勿論デートなんてしたことがない。よく大樹と士道、楓とともに出かけるくらいのことはしていたが、ほとんど女子と二人で出かけるなんてことはなかった。

 

「……つまりなんだ、昨日ツカサは私と二人で遊びたいと言ったのか?」

 

「あ、ああ…」

 

「そうか」

 

士は恥ずかしさでますます顔が赤くなる。その一方で十香は明るい表情をしてうなずくと、士の手を握る手を強くして大股で歩き出す。

 

「では早くデェトに行くぞ!」

 

士も十香に引かれて歩き出す。幸い、今日も制服のポケットにディケイドライバーをちゃんと隠し持っているから万が一のことがあっても対処はできるはずだ。

というか、そんなに毎日怪人が現れたらキリがない。

そんなことを考えながら路地を抜け、様々な店が軒を構える大通りに出た。

 

「……っ、な、なんだこの人間の数は。総力戦か⁉︎」

 

十香が先ほどとは桁違いの人の軍に驚いたらしい。その手には何やら悪い意味で見覚えのある光球を出現させていた。

 

「いや、違うって!誰も十香の命なんて狙ってないから!」

 

「……本当か?」

 

「本当だよ」

 

「…ツカサが言うなら信じてやろう」

 

その言葉に士はホッとする。ーー不意に、十香の顔から力が抜け、少し頬が緩んでいた。

 

「……おいツカサ、この香りは何だ?」

 

「香り?……ああ、あれか」

 

士はその香ばしい香りが漂っているパン屋を指差す。

 

「ほほう」

 

十香は十香は短くそう言うと、ジッとそこを見つめた。そして、絶妙なタイミングでぐーきゅるる、と十香のお腹が鳴る。士はそれに苦笑を浮かべる。

 

「……行くか?」

 

「うむ!そうしよう!」

 

十香はやたら元気良くそう言うと、大手を振ってパン屋の扉を開く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ここは、天宮大通りにある喫茶店『ル・クール』。

落ち着いた雰囲気の店内では、女性客が多い中である一人の少年が忙しそうに営業スマイルでオーダーを受け取っていた。

 

「ご注文はお決まりでしょうか?」

 

その少年とは仮面ライダーディエンドである海東大樹だった。

大樹は今日、士と通い続けているこの喫茶店で店長から客が多すぎて人手が足りないということで現在、エプロン姿で絶賛バイト中というわけだ。

 

「蓮さん、オーダー入ります」

 

客からオーダーを受け取った大樹は店内の奥にあるカウンターにいる人物に呼びかける。

 

「悪いな、大樹。忙しい時間帯に手伝わせて」

 

カウンターから現れたのは、日本人とは思えない癖毛のある銀髪でこげ茶色のエプロンを着た男性だった。

この男性が喫茶店『ル・クール』のマスターの檜山蓮である。

 

「いえ、僕も士もお世話になってますから。このくらいは当然ですよ」

 

「そう言ってくれると助かるよ」

 

蓮はコーヒーを淹れながらそう言う。その時、カランカラン、とベルの音が鳴ると、大樹の耳に聞き覚えのある声が聞こえてきた。

 

「ねえ、令音。ここのスイーツっておいしいんだよ。結構人気でいつも満席なんだけど……」

 

大樹はその方向を見ると、中学校の制服姿の琴里が令音を引き連れてやって来た。琴里を見つけた蓮はそちらへ向かう。

 

「いらっしゃい。よく来たな、琴里ちゃん」

 

「おお!蓮さん、こんにちわなのだ!」

 

蓮を見て琴里は嬉しそうに挨拶を交わす。琴里もよく士や士道達と共にこの店にくるので、蓮からして見ればもはや琴里も常連さんだ。

 

「大樹、君は学生だろう。こんな時間からバイトとは感心しないね」

 

大樹を見つけた令音は痛いところを聞いてきた。そこでフォローを入れてくれたのは蓮だった。

 

「すみません、実はこいつとははちょっとした付き合いで手伝ってもらっているんです。今回は見逃してやってはくれませんか?」

 

「まあ、教育者ならここで見逃すわけにはいかないが、寄り道をしている琴里を私は了承してしまっている。今回は目をつぶりましょう」

 

「ありがとうございます。では、こちらへどうぞ」

 

蓮のお陰で大樹は令音からの許しをもらえることができた。蓮は二人を店内の一番奥の席に案内する。その際に、女性客の多くは蓮に注目していた。

この店は元々メニューにある料理がどれも絶品であることで有名なのだが、この店のマスターのルックスの良さで女性客にも大変人気なのだ。たまに手伝いに来る来禅高校イケメンランキング屈指の順位の大樹と士も例外ではなかった。

 

そしてそれから一時間後……。また、カランカラン、とベルの音が鳴る。

 

「ぶふぅぅぅぅぅぅッ⁉︎」

 

突然、琴里があるものを発見して、口に含んでいたジュースを勢いよく吹き出した。そのお陰で目の前にいた令音はジュースをモロに被り、びしょ濡れとなっていた。

 

「令音さん⁉︎」

 

大樹は急いで令音にタオルを手渡す。令音は手渡されたタオルで顔を拭った。

 

「どうしたんだい、琴里ちゃん」

 

「だ、だってあれ…」

 

「「……?」」

 

大樹と令音は琴里が指差す方向を見るとーーぴたりと動きを止めた。

大樹はそのまま固まりお盆を落とし、令音は口に含んだ紅茶をぶー、と琴里に吹き出す。

 

「……なまらびっくり」

 

……何故北海道方言?と、大樹は心の中でツッコミを入れた。

 

「えええ……なにこれぇ」

 

琴里は令音からのジュース攻撃を受けて身体中がベトベトして軽く涙目になっていた。大樹は琴里にもタオルを手渡す。大樹たちの視線の先にあったのはーー

 

「ほう、この本の中から食べたいものを選べばいいのだな?」

 

「そういうこと。好きなの選んでいいぜ」

 

「きなこパンはないのか?」

 

「いや、流石にきなこパンはないって。てか、さっきのパン屋で食いまくってたじゃねえか」

 

「また食べたくなったのだ。一体なんだあの粉は……あの強烈な習慣性……あれが無闇に放たれれば大変なことになるぞ……人々は禁断症状に震え、きなこを求めて戦が起きるに違いない」

 

「それはねえって」

 

そう、店内に入店したのは来禅高校の制服を着た二人の男女。一人は大樹の親友であり、仮面ライダーディケイドである士。

もう一人は精霊、十香だったのだ。

 

琴里はいつの間にか、白いリボンから黒いリボンに取り替える。そして携帯を開くとラタトスクの回線に繋いで、何か連絡を取る。

 

「さて、大樹にも働いてもらうわよ」

 

ジュースまみれの司令官様に言われても反応しづらいのだが、そこは黙っておくことにする。

 

 

 

 

 

「いらっしゃいませ、ご注文はお決まりでしょうか?」

 

「えーと……って、大樹⁉︎」

 

「む、誰なのだ?ツカサ」

 

今日は大樹とバイトだったことを完全に忘れていた士は声を上げ、大樹を知らない十香は首を傾げる。

 

「やあ、十香ちゃんだね。僕の名は海東大樹、士の友達だ。よろしく」

 

大樹はそう言って指鉄砲を作って十香に狙いを定めて向ける。

 

「大丈夫だって、大樹は俺の仲間だから」

 

「むぅ……まあツカサが言うならそういうことにしておいてやる」

 

十香は少し大樹を怪しんでいたが、士の言葉で少しは信じてもらえたようだ。それから十香はメニューに載っていた料理の半分を注文し、全て平らげた。確かに「好きなの選んでいいぜ」とは言ったがここまでだとは思いもしなかった。

 

30分後…士は会計を行っていた。レジを担当しているのは大樹だ。

 

「お会計、6万8千円となります」

 

「……」

 

士の財布から全ての重みが消え去った。士は十香に気づかれないように静かに涙を流していた。大樹はそんな士に苦笑しながらレシートとともに琴里から託されたものを渡す。

 

「…福引券?」

 

福引券を受け取った士は疑問の声を上げるが、大樹がこっそりとデートの作戦だと耳打ちをした。士はそれを聞いてしぶしぶ了承し、十香を連れて喫茶店から出て行った。

 

「ツカサ、なんだそれは」

 

十香は士が手に持っていた福引券を興味深そうに見詰めてきた。

 

「行ってみるか?」

 

「ツカサは行きたいのか?」

 

「……行きたい、ちょー行きたい」

 

「では行くか!」

 

十香は大股で元気良く士の手を引いて進んでいく。

それから少しすると、赤いクロスを敷いた長机の上に大きな抽選器(ガラポン)が置かれたスペースが見えてきた。ハッピを羽織った男性が抽選器のところに一人、賞品渡し口のところに一人おり、その背後には景品と思われる自動車やら米やらが置かれていた。既に数人が列に並んでおり、十香はそれを見て士が渡した福引券を握りしめ目を輝かせた。

 

「とりあえず、並ぶか」

 

「ん」

 

十香が頷き、二人は列の最後尾に並ぶ。

十香は前に並んだ客が抽選器を回すのを見ながら、首と目をぐるぐる動かしている。

天然なのだろうか、その時の十香が凄く可愛く見えた。

 

そしてすぐに十香の番が来る。十香は前の客に倣って福引券を係員に渡して抽選器に手をかける。

よく見ると、係員の一人は確か、《早過ぎた倦怠期》川村……だった気がする。本人には悪いがよく覚えてない。

 

「これを回せばいいのだな?」

 

十香はそう言って、ぐるぐると抽選器を回す。数秒後、抽選器から赤いハズレ玉が飛び出した。

 

「……っと、残念だったな。赤はポケットティーー」

 

士の言葉は、川村(?)が手に持っていた鐘がガランガランと高らかに鳴ったため、遮られてしまった。

 

「大当たり!」

 

「おお!」

 

士は眉を潜めたが、別の係員が賞品ボード『1位』と書いてある金色の玉を赤いマジックペンで塗りつぶしていたのを目撃した。

 

「もうなんでもありだなこれ⁉︎」

 

何故か士はツッコミを入れずにはいられなかった。

 

「おめでとうございます!1位はなんと、ドリームランド完全無料ペアチケット!」

 

「おお、なんだこれはツカサ!」

 

「テーマパークなのか…?聞いたことない名前だけど……」

 

興奮した様子でチケットを受け取る十香に士は訝しげな調子で返す。すると、川村(?)がずずいっと顔を寄せて来る。

 

「裏に地図が書いてありますので、是非!これからすぐにでも!」

 

言われた通りにチケットの裏を見ると、地図が書いてあった。というか、ものすごく近かった。

 

「……行ってみるか?十香」

 

「うむ!」

 

本人も乗り気なようなので、とりあえず足を運ぶことにした。

場所は本当に近かった。この福引き所から路地に入って数百メートル。まだ両側には雑居ビルが並んでおり、テーマパークがあるとは思えない。

だがーー

 

「おお!ツカサ‼︎城があるぞ‼︎あそこに行くのか⁉︎」

 

十香が今までになく興奮しながら、前方を指差す。

そんな馬鹿なと思いつつチケットの裏側から視線を前方に向ける。

 

そこには確かに小さいながらも、西洋風のお城がある。看板にも、『ドリームランド』と書いてある。

 

……ついでにその下に『ご休憩・二時間四○○○円〜 ご宿泊・八○○○円〜』という文字まで書いてあった。

まあつまりは、大人しか入ってはいけない愛のホテルである。

簡単に言うと『ラブホテル』だった。

 

「……戻るぞ十香。別のところに行こう」

 

「ぬ?あそこではないのか?」

 

「いや、確かに場所はあってるけどあそこに行くのはやめておこう」

 

「しかし、あそこにも行ってみたいぞツカサ」

 

「……いや、今はまだ流石にまずいからな…。いつかまた来ような」

 

「むぅ…そうか」

 

どうにか十香を説得することは出来たが、流石に初デートでここは無理がある。士は十香の手を引きながら一刻も早くその場から離れる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方その頃、街中に建っているあるビルの屋上でフードを被った男が立っていた。

 

「ククク……まさか、あの仮面ライダーディケイドが精霊とデートしてるなんてなぁ…」

 

男はそう言いながら手に持ったある物を眺める。

 

「おもしれえ、こいつを使ってみるか……」

 

男の手には片方にのみスロットが取り付けられた赤いドライバーと、『D』の文字が刻まれたUSBメモリーのような物があった。

 

「せいぜい楽しませてもらうぜ……」

 

男は口元を歪めながらそう呟く。

 

 



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天分かつ剣



更新が遅れてしまいました!

では、いよいよ十香編もラストに突入です!どうぞ!


オレンジ色の夕日に染まった高台の公園には今、士と十香以外の人影は見受けられない。

時折遠くから自動車の音や、カラスの鳴き声が聞こえるだけの、静かな空間だった。

 

「おお、絶景だな!」

 

十香は先ほどから落下防止用の柵から身を乗り出しながら、黄昏色の天宮市の街並みを眺めている。

この天宮市の街を一望できる見晴らしのいい公園は士のお気に入りの場所でもある。

 

「ツカサ!あれはどう変形するのだ⁉︎」

 

十香は遠くを走る電車を指差し、目を輝かせながら言ってくる。

 

「残念ながら電車は変形しないな」

 

「何、合体タイプか?」

 

「まあ、連結くらいはするな」

 

「おぉ」

 

士の説明に十香は妙に納得した調子で頷くと、くるりと身体を回転させ、手すりに体重を預けながら向き直った。

夕焼けを背景に佇む十香の姿は、それはそれは美しくて、一枚の絵画のような美しさだった。

 

「ーーそれにしても」

 

十香が話題を変えるように、んー、と伸びをした。

そして、にぃッ、と屈託のない笑顔を浮かべる。

 

「いいものだな、デェトというのは。実にその、なんだ、楽しい」

 

「そうか……今日は俺も楽しかったよ」

 

そう言いながらも士は、十香の顔を見て少し顔が赤く染まっていた。

 

「どうした、顔が赤いぞツカサ」

 

「……気のせいだよ」

 

士は顔を逸らしながら誤魔化す。

 

「ーーどうだった?お前を殺そうとするやつなんて一人もいなかっただろ?」

 

「……ん、皆優しかった。あんなにも多くの人間が、私を拒絶しないなんて。私を否定しないなんて。ーーあのメカメカ団……ええと、なんといったか。エイ……?」

 

「ASTか?」

 

「そう、それだ。街の人間全てが奴らの手の者で、私を欺こうとしていたと言われた方が真実味がある」

 

「おいおい……」

 

流石に十香の発想が飛躍しすぎていて、士は思わず苦笑した。だがその直後、十香は何かを思い詰めるような表情をする。

 

「だが、私は壊していたのだな。こんなにも美しく優しい世界を。ASTが私を打ち倒そうとする理由が知れた」

 

十香は弱々しく、痛々しい笑顔でそう言う。

 

「ツカサ、やはり私はいない方がいいな。私が現界する度にこの素晴らしい世界を破壊するのならば、いっそのこと……」

 

「そんなことさせるか!」

 

士は十香の言葉を遮り、叫ぶ。士は目の前で誰にもそんな絶望したような顔をさせたくなかった。顔を俯かせていた十香が顔を上げる。

 

「今日は空間震が起きてないじゃないか!もしかしたら、空間震を発生させずにこっちに来たり、この世界に留まれる方法だってあるかもしれないじゃないか!」

 

「で、でも、あれだぞ。私は知らないことが多すぎるぞ?」

 

「そんなの、俺が全部教えてやる!」

 

「寝床や食べるものだって必要になる」

 

「だったら俺の家に来ればいい!」

 

「予想外の事態が起こるかもしれない」

 

「俺が守ってやる!予想外の事態なんか起きてから考えればいいだろ!」

 

十香は少しの間黙り込んでから、小さく唇を開く。

 

「……本当に……本当に、私は……生きても良いのか?」

 

「当たり前だ」

 

「この世界にいても良いのか?」

 

「そうだ」

 

「…そんなことを言ってくれるのは、きっとツカサだけだぞ。ASTはもちろん、他の人間たちだって、こんな危険な存在が近くにいたら嫌に決まっている」

 

「知ったことかそんなもの……ッ!俺は世界の全てを敵に回しても、たった一人のために戦う!十香、お前は俺の大切な存在だ!だから俺はお前を守る!それだけのことだ!たとえ、世界がお前を否定しようとするなら!俺がそれよりずっと強くお前を肯定してやる‼︎」

 

士はそう叫び、十香に向かって手を差し出す。

十香の肩が、小さく震える。

 

「握れ!今はーーそれだけでいい!絶対に俺が守ってみせる!」

 

士は十香の言葉を遮ってまでも、力を持つだけで他の人間となんの変わりもないこの少女が殺されることだけは嫌だった。目の前で苦しんでいるというのに、それでも助けないなんてことは出来ない。

 

「ツカサ…」

 

十香は意を決し、士の手を握ろうとした瞬間。士は何かを感じ取り、背中に寒気が走った。

 

「十香!」

 

士は咄嗟に十香を突き飛ばした。十香はそのまま衝撃に耐えられず、ごろんと後ろに転がった。

そしてーー

 

「ーーーーーーがっ⁉︎」

 

士は自分の腹に凄まじい衝撃を感じ、その場に倒れた。

 

 

 

 

 

 

 

二人がいた公園の一キロ圏内にある高台で、ガシャン、という音と共に士を貫いた対精霊巨大ライフル〈CCC〉が倒れた。

先ほどそのライフルの引き金を引いた人物は、AST隊員である鳶一折紙である。彼女は精霊である十香を発見し、十香を仕留めるために〈CCC〉の引き金を引いた。外れる要素は微塵もなかった。

ーー士が十香を突き飛ばさなければ。

折紙の放った弾はーー十香の代わりに士の身体を、綺麗に削り取った。

 

『折紙ッ!折紙ッ!』

 

通信機から上司である日下部燎子の声が聞こえるが、折紙はそれに反応することが出来なかった。ただただ、自分がやったことの恐ろしさに身動きが取れなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

十香はゆっくりと倒れた士に近づき、彼を見つめる。

 

「ツカサ……」

 

名を呼ぶが、返事はない。ただ、彼の腹に開いた大きな穴からおびただしい量の血が流れ出るだけだった。

 

「ツカーー、サ…」

 

十香は士の頭の隣に膝を折ると、その頬をつついた。

だが、反応はなかった。

 

「ぅ、ぁ、あ、あーー」

 

数秒の後、頭がようやく状況を理解し始める。

 

その時、十香の足元に何かが当たった。十香は足元を見ると、見覚えがあるものが目に入った。

そこには衝撃で士のポケットから飛び出したディケイドライバーとライドブッカーが落ちていた。十香はそれらを拾い、その身に羽織っていた制服の上着を士にかけ、ドライバーをその側に置く。

 

そして、十香はゆらりと立ち上がると、顔を空に向けた。

 

ーー嗚呼、嗚呼。

一瞬ーー十香は、この世界で生きられるかもしれないと思った。

士がいてくれれば、なんとかなるのかもしれないと思った。

すごく大変で難しいだろうけど、できるかもしれないと思った。

 

だが、やはり、駄目だった。

 

この世界はーーやはり十香を否定した。

 

 

「ーー《神威霊装・十番》……ッ」

 

瞬間、周囲の景色がぐにゃりと歪み、十香の身体を荘厳なる霊装が纏う。

十香は地面に踵を突き立て、そこから巨大な剣が収められた玉座が出現する。十香はトン、と地を蹴ると、玉座の肘掛けに足をかけ、背もたれから剣を引き抜く。

そして。

 

「ああ」

 

のどを震わせる。

 

「ああああああああああああああ」

 

天に響くように。

 

「ああああああああああああああああああああああああああああーーーーッ‼︎」

 

地に轟くように。十香は吼えた。

 

「《鏖殺公》ーー【最後の剣】‼︎」

 

刹那、十香が足を置いていた玉座に亀裂が走り、バラバラに砕け散った。そして玉座の破片が十香の握っていた剣にまとわりつき、そのシルエットをさらに大きなものに変えていく。

全長10メートル以上はあろうかという、長大に過ぎる剣。

 

十香は剣を握る手に力を込めると、瞬きほどの間も置かず、士を撃ち抜いた少女、鳶一折紙のいた高台に移動していた。

 

「嗚呼、嗚呼。貴様だな、我が友を、我が親友を、ツカサを殺したのは貴様だな」

 

その時、折紙は始めて表情を歪めた。しかし、そんなことは十香にはどうでもよかった。

 

「ーー殺して壊して消し尽くす。死んで絶んで滅に尽くせ……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SIDE 士

 

 

「……うっ」

 

腹に妙な熱を感じ、士は起き上がる。視線をそこに向けると、そこには炎が士に開いた穴を舐めていた。一瞬疑問に思った士だが、そこであることに気づいた。

 

「…って、あっつぅぅぅ⁉︎え、なんで⁉︎なんで俺生きてんの⁉︎」

 

今更、腹にくすぶっている炎の熱に士は跳ね起きる。

再度腹に開いた穴を見てみるが、すでに穴は塞がり、傷は治っていた。色々と謎だが、今はそれどころではない。士は側に置いてあったディケイドライバーとライドブッカーを拾い、十香を探すと同時に凄まじい轟音が響き渡る。

急いでそちらを見ると、そこには巨大な大剣を振り回し、周囲の全てを破壊している十香がいた。

 

「くそ!やめろ十香!」

 

士は十香を止めようと、彼女の元に走り出そうとした時だった。

 

「うおっ⁉︎」

 

突然の浮遊感が士を襲う。気がついた時には、士はフラクシナスの艦内にいた。

 

「つかさあああ!心配したぜぇ無事でよかったああ!」

 

「うお、キバット!」

 

フラクシナスに着いて間も無くキバットが号泣しながら士に突っ込んでくる。その勢いで士は倒れそうになるが、なんとか持ちこたえた。

 

「やあ、散々な目にあったね士」

 

「大樹…士道……」

 

そこで控えていた大樹と士道が士に歩み寄る。

 

「さて、琴里ちゃんからの伝言なんだけど、今十香ちゃんが君が殺されたことで暴れまくっているんだ。そこで、王子様である君が十香ちゃんにキスして彼女を救うってわけ。理解できた?答えは聞いてないけど」

 

大樹はそんなことを言いながら士の服の襟を掴んでそのまま引きずっていく。そして連れて来られたのは艦体下部にあるハッチに連れこまれた。

状況が理解できない士はいきなりこんなところに連れこまれたため、状況を確認しようと背後にいる大樹に声をかける。

 

「な、なあ…まだ全然状況が理解できないんだけどーーー」

 

「じゃあそういうわけで、いってらっしゃい」

 

士は最後まで言葉を発せなかった。士は背後に衝撃を感じると、妙な浮遊感に襲われた。フラクシナスに回収されたわけではない。士は後ろを振り返ると唖然とした顔の士道と、足をこちらに突き出し凄くいい笑顔の大樹が目に入った。

それだけで士は自分に起きた事を瞬時に理解できた。

 

「覚えてろよてめええええええうわあああああああああああああああああ‼︎」

 

士は自分を蹴り落とした大樹に叫びながら、そのまま落下していく。

 

 

 

 

「なあ、大丈夫なのか?あれ……」

 

「…………まあ、大丈夫じゃないかな?士だし」

 

「理由になってねえよ……」

 

「……失敗したら…そりゃまあ、地面に綺麗な花が咲くよ。真っ赤な」

 

「やばいだろそれ⁉︎」

 

士が蹴り落とされた後、フラクシナスの艦内ではそんなやりとりがあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

轟音と共に周囲が吹き飛ばされていく。十香は剣を振り回し、衝撃波を折紙に放ち続ける。折紙は随意領域でどうにかそれを防いでいるが、それ以外は何もせず、ただその場にへたり込んでいた。

 

「ああああああああああああああああああああああああああああああ‼︎」

 

十香は剣を上段に振り上げると、雄叫びと共に折紙に振り下ろす。一瞬、抵抗した随意領域だったが、次の瞬間にはクレーターを形成しながら消滅した。

その折紙に十香は剣を突きつける。

 

「ーーーー終われ」

 

十香が剣を振り上げ、それを振り下ろそうとした瞬間。

 

「十おおおおお香ああああああああああああああああああああああああ‼︎」

 

はるか上空から聞こえた声に十香は目を見開き、空をふり仰ぐ。すると、上空から一つの影が猛スピードで落ちてくる。

 

それはーー折紙に撃ち抜かれたはずの士だった。

 

「ツーーカサ…?」

 

不意に士の身体が落下の重力に抗うようにふわりと浮かぶ。十香はそのまま士の元に飛んで行くと、士の身体を抱きとめる。

 

「ツカサ……本物か?」

 

「幽霊に見えるか?心配かけてごめんな、十香」

 

士のその言葉に十香は目じりに涙を浮かべると、そのまま士に抱きつく。

 

「ツカサ、ツカサ、ツカサ……‼︎」

 

「ああ、なんーー」

 

なんだ、と答えかけたところで士の視界の端に凄まじい光が満ちた。

十香が握っていた剣が、あたりを夜闇に変えんばかりに真っ黒に輝いている。

 

「十香!これは⁉︎」

 

「【最後の剣】の制御を誤った……!どこかに放出するしかない……!」

 

「どこかって、一体どこに…」

 

十香は地面の方に目を向ける。士も十香につられてそちらを見ると、そこには今にも瀕死状態で倒れている折紙がいた。

 

「いや駄目だぞ⁉︎流石にあそこは駄目だぞ⁉︎」

 

「ではどうしろというのだ!もう臨界状態なのだぞ!」

 

そういっている間にも、十香の握る剣は辺りに黒い雷を撒き散らしていた。まるで機銃掃射のように地面を抉っていく。

 

士は先ほど大樹に言われた言葉を思い出した。正直信じられないし、抵抗しか感じない。だがーー

 

「十香……何とかなるかもしれないっ!」

 

「なんだと⁉︎どうするのだ⁉︎」

 

今はこの方法しかない。士は覚悟を決める。

 

「えっと…ちょっと破廉恥なことになるけど……十香は俺を信じてくれるか?」

 

「当たり前だ‼︎」

 

そう言った十香の唇に士は自分の唇を押し付けた。

 

「ーーーッ⁉︎」

 

力一杯に目を見開き、声にならない声を上げる十香。

 

十香の唇は、柔らかくてしっとりしていて甘い匂いまでしてそんな感覚感触が士の脳内を駆け巡った。キスはレモン味とか聞いたが、実際は十香が昼間に食べていたパフェの味がした。

一拍おいて、天に聳えていた十香の剣にヒビが入り、バラバラに霧散して空に溶け消える。

次いで、十香がその身に纏っていた霊装から光の粒子が放出され、その色を失う。それが士の身体に吸い込まれ、一瞬士の身体が輝き出したと思うとすぐに消えた。

二人はそのままゆっくりと地面に降り立つ。

 

「今のはーー」

 

「多分成功……かな」

 

不思議そうに唇に指を触れさせていた十香に士は苦笑いでそう応える。

 

「十香ーーッ⁉︎」

 

瞬間、士は何かの気配を感じた。だが、それを察した時には、士と十香を謎の爆発が襲いかかった。

 



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パラドクスの奇襲

ついに十香編も終了です。ここまでの道のりが長かった……
今回はパラドクスのメンバーと絡ませたかったのですこし強引かもしれませんが、ご覧ください。


※予告を少し修正しました。


不意打ちのような爆発が収まる。幸い士と十香には怪我はなかったが、突然の出来事に驚きは隠せない。

 

「大丈夫か十香⁉︎」

 

「う、うむ、大丈夫だ」

 

「見つけたぞディケイド!」

 

上空からそのような声が聞こえた。士は声のした方を見ると、空から蝙蝠の姿をした怪人がいた。

 

「イマジン⁉︎」

 

それは『電王の世界』に存在する時の運行を乱す未来からやって来た怪人、イマジンだった。

コウモリイマジンはそのまま地面に降り立つと、士と十香に向かってくる。

 

「これで終わりだ!」

 

「くっ!十香!」

 

士は咄嗟に十香を庇うように抱きしめる。コウモリイマジンが士と十香に襲いかかろうとした時だった。

 

「ぐうああ⁉︎」

 

「「っ⁉︎」」

 

どこからか銃撃がコウモリイマジンを襲った。士と十香がそちらを見ると、そこにはディエンドライバーを構えた大樹がいた。

 

「大樹…!」

 

「馬鹿な!ディエンドだと⁉︎」

 

大樹の姿を確認したコウモリイマジンは声を上げる。大樹はそんなコウモリイマジンを睨み、ディエンドのカードを取り出す。

 

「僕の友達に手出しする奴は僕が倒す。覚えておけ!」

 

大樹はディエンドライバーとディエンドのカードを構えながらそう叫ぶ。カードをディエンドライバーの銃身に装鎮すると銃口を天に向ける。

 

「変身!」

 

《KAMEN RIDE・DIEND》

 

大樹はディエンドに変身する。

士も立ち上がってディケイドライバーを取り出し、十香の方を振り返る。

 

「十香、ここで待ってろよ」

 

「う、うむ…」

 

十香は不安そうな顔で士を見上げる。

そんな十香を見て、士は笑顔を浮かべながら十香の頭を撫でる。

 

「大丈夫だ、すぐに戻るから」

 

士は十香に背を向け、バックルを腰に装着する。

そしてライドブッカーからディケイドのカードを構え、叫ぶ。

 

「変身!」

 

《KAMEN RIDE・DECADE》

 

士はディケイドに変身し、ディエンドの隣に立つ。

 

「行くぜ、大樹」

 

「ああ」

 

二人はすぐさまコウモリイマジンに駆け出し、ディケイドはソードモードのライドブッカーでコウモリイマジンを斬りつけ、隙ができた背後にディエンドがディエンドライバーで撃ち抜く。

 

「ぐうう!貴様らぁ!」

 

《ATTACK RIDE・BLAST》

 

《ATTACK RIDE・BLAST》

 

ディケイドはガンモードに変形させたライドブッカーで、ディエンドはディエンドライバーでコウモリイマジンに光弾を連射する。

 

「ぐああああ!」

 

「士、僕が決める!」

 

コウモリイマジンは声を上げる。だが、ディエンドはディエンドライバーにファイルアタックライドのカードを挿入し、銃口にサークルを描く。

 

《FAINAL ATTACK RIDE・di、di、di、DIEND》

 

「がああああああああああああああ‼︎」

 

ディエンドが放つ『ディメンションシュート』の光の光線を受けたコウモリイマジンはそのまま爆発する。

二人はそのまま戦闘が終わったと思っていた。

 

 

 

「ひゅー、かっこいいねぇ。流石は仮面ライダーだ」

 

「「っ⁉︎」」

 

その時、突然聞こえた声に二人は身構える。二人の前方に現れた灰色のオーロラから一人の男が姿を現す。

 

黒いコートを纏い、鋭い金色の瞳を持ち白髪が混じった黒髪を後ろに束ねている男だ。なによりその男の特徴は右眼の方だ。右眼には眼帯を付け、左頬には何かの傷跡があった。

 

「あんたは?」

 

「俺はブライグ、パラドクスのメンバーさ。ーーーまたの名を」

 

ブライグと名乗った男はコートのポケットに両手を突っ込むと、そこから取り出した物を二人に見せつけるようにちらつかせる。

一方は、スロットが片側のみに取り付けられた赤いドライバー。

もう一方は、『D』の文字が刻まれた紫色のUSBメモリーのような物が握られていた。

 

「なっ…⁉︎それは!」

 

「ロストドライバーに…ガイアメモリだと⁉︎」

 

ディケイドとディエンドはブライグが手に持っていた物に驚きを隠せなかった。

 

それは、『Wの世界』に存在する変身ドライバー『ロストドライバー』と、地球の記憶がプログラムされたUSBメモリー『ガイアメモリ』だった。

 

「いくぜ……」

 

ブライグがガイアメモリのスイッチを押すと、『Despair』という電子音声が流れる。そしてロストドライバーを腰に装着する。

 

「変身」

 

『Despair』

 

ブライグはガイアメモリをロストドライバーのスロットに差し込み、横倒しにするとブライグを中心に紫色の波動と共に紫電が包み込みその姿を変える。

 

黒いマントを纏った紫色の身体に仮面には金色の複眼の右眼に一筋の傷跡が入っている。その両手にはボウガンのような銃が握られていた仮面ライダーがそこにいた。

 

「ーー仮面ライダーデスペリア…ってな」

 

デスペリアから放たれる威圧感にディケイドたちは身構える。そんな二人にデスペリアはわざとらしく身振りをくわえながら話す。

 

「おいおい、そんなに身構えるなよ。残念ながら今回は顔見せだ。お前らの相手はこいつらにしてもらうぜ」

 

デスペリアが指を鳴らし、その背後に灰色のオーロラが出現するとそこから異形の大群が姿を現す。

頭部全体が背骨のような模様のマスクにスーツ姿のマスカレイドドーパント、

顔の中心に拳大のレンズを覗かせ全身を包帯で大雑把に巻いているクズヤミー、

夕陽の光を反射する銀のマスクに忍装束を身に纏ったダスタード、

頭部に二本の角を生やしところどころに石のような皮膚にラインが走るグール。

 

その異形の団集は現れる途端、ディケイドとディエンドを中心に取り囲む。

 

「やれるかい?この数」

 

怪人たちに囲まれる中、互いに背中合わせになったディエンドがディケイドに聞いてきた。

 

「さあ…あと一体増えたら厳しいかもな」

 

ディケイドも冗談じみた声でディエンドに応える。

 

「その時は、僕が一体多く倒してあげるよ」

 

ディエンドのその言葉に、ディケイドが仮面の中でニヤリと怪しい笑みを浮かべた(気がする)。

 

「……それじゃあ行くか」

 

そう言うとディケイドはライドブッカーを地面に突き刺し、一枚のカードを取り出す。そこにはディエンドと巨大な銃が描かれていた。

 

「ちょっとくすぐったいぞ」

 

《FAINAL FORM RIDE・di、di、di、DIEND》

 

「……はい?」

 

この電子音を聞いた瞬間、ディエンドは即座に思った。もしかしたら行動を間違えてしまったのではないかと。

 

「え?ちょ、うわあああ⁉︎」

 

無慈悲にもディケイドはディエンドの背中に手刀を打ち込む。するとディエンドの姿が普通では考えられない変形を遂げ、その姿をディエンドが使用するディエンドライバーの姿を模した巨大なビーム砲『ディエンドバスター』へと変化した。

 

「なんだありゃ⁉︎」

 

その光景に流石のデスペリアも驚きを隠せなかった。

 

『え、ええええ⁉︎何⁉︎どうなってんの⁉︎』

 

「これが俺とお前の力だ」

 

ディエンドも慌てて自分をこんな姿にした張本人のディケイドに詰め寄るも、ディケイドはそれをスルーしてディエンドバスターを手に取り怪人たちに銃口を向けると、バックルにカードを挿入する。

 

「行くぞ、大樹!」

 

『ちょっと士⁉︎』

 

「うるさいなあ、出番が増えたんだからいいだろ?」

 

『いや、全然良くないから⁉︎』

 

ディエンドの叫びも、虚しくディケイドに無視されてしまう。ディケイドは先ほどフラクシナスから蹴り飛ばされた恨みも含めてディエンドを武器に変形させたなどということは、当然ディエンドが知るはずがない。

 

《FAINAL ATACK RIDE・di、di、di、DIEND》

 

ディエンドバスターの銃口から幾多のカード型エネルギーが出現し、標的を狙うようにそれはターゲットサイトを作り出す。そしてトリガーを引くことで、それらが収束し巨大なビーム『ディメンションバースト』が放たれる。

 

「『うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお‼︎』」

 

『ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア‼︎』

 

ディエンドバスターから放たれたディメンションバーストのエネルギーの奔流は怪人たちを呑み込み、そのまま消滅させた。

 

「ちいっ!」

 

それを見たデスペリアは灰色のオーロラの中へと撤退していく。

 

 

 

 

変身を解除した士と大樹は十香の元へ戻る。十香は不安そうに此方を見つめたあと。

 

「……ツカサ」

 

十香が、消え入りそうな声を発した。

 

「なんだ?」

 

「また……、デェトに連れて行ってくれるか……?」

 

「ああ、いつだってな」

 

士の言葉に十香は満面の笑みを浮かべた。

 

「………僕って、完全に空気だよね…これ……」

 

甘い雰囲気全開の二人の間に入れない大樹は夕陽を眺めながらそんなことを呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SIDE パラドクス

 

 

ここは本来の世界とは異なる異空間に存在する世界。

この世界にはパラドクスの本拠地となる無機質な白い巨大な城がそびえ立っていた。

 

その城の奥にある研究施設に、一人の青年が薄暗い部屋の中でコンピュータと向き合っていた。そんな彼の側にあるデスクの上には幾つかの束ねられたレポートと様々なドライバーが置かれている。

 

「帰ったぜ、プロフェッサーコウスケ」

 

背後からデスペリアに変身したブライグが現れる。

デスペリアはロストドライバーのスロットを元に戻し、ガイアメモリを抜き取ると変身が解除され、人間の姿に戻る。

 

「…まったく、君だったんだね……僕のデスクから勝手にロストドライバーとデスペリアメモリを持ち出したのは」

 

金髪の髪を後ろに束ね、白衣を着た青年ーー八神コウスケはそう言いながら椅子をくるりと回し、ブライグの方へ顔を向ける。

 

「いや悪かったって。てっきりもう完成したもんかと思ってよぉ」

 

ブライグはくつくつと、愉快そうに笑いながらそんな言い訳をする。

反省の色がまったく見られないのを分かったコウスケはため息をつきながら再びコンピュータに顔を向ける。

ブライグは部屋の傍にあるソファーに寝転ぶ。

 

「ここは寝る場所ではない」

 

「いいだろ?ディケイドとディエンドの相手で疲れたんだ」

 

ソファーでくつろぐブライグにコウスケは不機嫌そうな顔をする。ブライグはそんなとこは気にもしていない。

 

「そういえば、例のプロジェクトはどうなってんだ?」

 

「……一応、ノーハート様以外のメンバーのドライバーは全て完成しているからね。今のところは順調だよ」

 

「ふーん…じゃあ、この前言ってたあの兵器の方はどうなんだ?確か名前は……」

 

「ーー対仮面ライダー・精霊殲滅用自立稼働型兵器…『キラードロイド』だ」

 

答えようとしたブライグにコウスケが間髪入れずに答える。

 

「おお、それだよそれ。そのキラーなんとかはどうなんだ?」

 

「現時点ではなんとも言えないね。

まだ試作段階にすら入れないから、それについてはもっと戦闘データが欲しいものだ。君たちにもそのためにもっと頑張ってもらうよ」

 

コウスケはブライグに見向きもせずにコンピュータを操作する作業に戻る。その様子にブライグは肩をすくめると、その部屋から姿を消す。

 

 

SIDE OUT パラドクス

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

士たちから少し離れた丘の上に木々が生い茂っている場所から一人の少年がその光景を眺めていた。その傍らに赤い小さな鳥ーーレッドガルーダを伴って。

 

「…あれが、この世界に転生した仮面ライダーか」

 

少年の言葉に肯定するかのようにレッドガルーダがその少年の周りを飛び回る。

 

「なら、俺も参戦するとしますかね。三人目の転生者として……」

 

そう告げた少年の左手には、赤い指輪『ウィザードリング』が夕日の光を反射していた。

 

 




キバット「よぉみんな!俺様はキバットバット三世だ!今回から始まる次回予告コーナーの司会を担当するぜぇ!」

士「なんでまたいきなりそんなことするんだ?」

キバット「いや、なんか作者が『せっかく仮面ライダーなんだから、次回予告も入れてみよう!』って」

士「また適当な理由だな……で、このコーナーはどんなことをするんだ?」

キバット「えっとぉ、このコーナーは小説内の登場人物をゲストとして招待したり、章が終わる度に次回予告もするんだと」

士「へぇ…じゃあ頼んだぞ、司会さん」

キバット「よっしぁ!じゃあ早速、次回予告行くぜ!」







次回、デート・ア・ディケイドは、


「今日から厄介になる、夜刀神十香だ。皆よろしく頼む」

「絶希晴人です。みなさん、よろしくお願いします」

「葛場千秋。以上です」

精霊の少女、十香と共に謎の二人の転入生がやってくる。



《フレイム・プリーズ♪ヒー♪ヒー♪ヒーヒーヒー♪》

「さあ、ショータイムだ」

「ウィザード……」

ディケイドたちとパラドクスとの戦いに、絶望を希望に変える指輪の魔法使い、仮面ライダーウィザードが参戦する!




「あ…………」

「ええええええ⁉︎士君が仮面ライダー⁉︎」

怪人との戦闘後、ディケイドの正体が思わぬ人物にしられてしまうことに……⁉︎



そして……衝撃の出来事が!

「今度は、俺も一緒に戦う!」

《オレンジ!》

「ええええ⁉︎士道⁉︎」

なんと!士道がオレンジで変身‼︎



「少しは強くなったか?」

「お前は……!」

ディケイドの前に再びパラドクスの仮面ライダー、ルシファーが現れる。




「問おう。私を呼び出したのは貴方か?」

「君は…一体……」

ルシファーに追い詰められる中、突然の光と共に現れたイレギュラーの精霊《ヴァルキリー》にディケイドは危機を救われる。




「あいつの人生はあいつだけのものだ!誰にも、それを穢す権利なんてない!もし、世界が精霊たちの笑顔を奪うのなら、俺が精霊たちの笑顔を守ってやる‼︎」





全てを破壊し、全てを繋げ!




キバット「評価・感想を待ってるぜ!」

大樹「次回の僕の活躍、見逃さないでね」








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第2章 零奈セイバー
新たな日常と指輪の魔法使い


おひさしぶりです!

今回は、四糸乃が現れるまでの一ヶ月の出来事を書きます!

遂に『或守インストール』が発売しました!早速プレイしてこの話も小説に投稿しようと思います!そのためにも、早くそこまで話を進めないといけませんね笑


「…………あー」

 

「大丈夫か士?」

 

十香の力を封印してから、十日間が過ぎた。

 

復興部隊の手によって完璧に修復された校舎には、たくさんの生徒たちが集まっている。そんな中、士は気の抜けた息を吐き、だるそうに机に突っ伏していた。

 

「なんかなぁ…夢みたいな話だよな」

 

士はこの一ヶ月の間に起きた全ての出来事を思い浮かべる。精霊の少女ーー十香と出会い、ディケイドに変身し謎の組織パラドクスとの戦いが始まったことなど、こうしてみると色んなことがあった。

そう考えていると、士道は暗い表情をする。

 

「羨ましいよ……士が」

 

「士道…?」

 

不意に士道が小さく呟き、士は士道の方を振り返る。

 

「俺にも…士みたいに力があったら……」

 

士道はそう言って俯く。士道の気持ちが分からないことはない。あの時、パラドクスの奇襲があった時、士道はただ見ていることしか出来なかったのだ。それがどれだけ自分に無力感を与えるか。

 

だが士は士道にそんな顔をしてほしくない。

 

「……そんな風に自分を悲観するなよ、士道」

 

「え?」

 

士の言葉に士道は顔を上げる。士はそれを確認すると、言葉を続ける。

 

「俺は、守りたいものがあるから戦ってるんだ。士道だって…五年前に俺を助けてくれただろ?」

 

「五年前って……?」

 

「覚えてないならいいや」

 

「な、なんだよそれ」

 

士の曖昧な言葉に士道は質問をするが、士は質問に答えず再び机に突っ伏した。これ以上聞いても何も答えないと分かった士道はため息をつく。

その時、教室に入ってきた人物が二人に近づく。

 

「やあ士、士道、おはよう」

 

「おはよう大樹」

 

「あー、おはよー」

 

教室に入って来た大樹に士は間の抜けた挨拶をする。それを見た大樹は呆れ顔で士を見る。

 

「士…いくら十香ちゃんとしばらく会えてないからってダラダラしすぎじゃないかな?」

 

「そんなんじゃないけどさぁ…なんか最近調子が悪くて」

 

士が十香の霊力を封印して以来、あれから怪人たちによる被害が少しずつ増えてきた。その度に士と大樹は戦闘に駆り出されているため、『天宮市を守る正義のヒーロー』とディケイドとディエンドの写真が新聞の一面になっていたりする。

 

「そういえば…」

 

一瞬、大樹が何かを企んだかのように凄く不気味な笑みを浮かべた気がしたのは、士の気のせいだと信じたい。

 

「今日の僕の弁当なんだけど、士にも食べてもらいたいだけど…いいかな?」

 

「は?いや、別にいいけど……」

 

「そうかそうか」

 

士の返事を聞いて大樹が何故か喜んでいる気がする。そこで大樹が口を開く。

 

「ところで士、まだ食べられないのかい?……ナ・マ・コ」

 

「寧ろあれを食べられる奴の正気を疑うわ‼︎」

 

咄嗟に士が顔を青ざめ席からばっ、立ち上がり叫ぶ。

余談だが、士は大のナマコ嫌いなのだ。昔一度、琴里、士道、大樹がそれを克服させるために(大樹の場合は面白そうだから)士を椅子に縛り付け、大樹が調理したナマコを無理矢理口にねじ込ませた結果、白目を向き泡を吹きながら倒れた。

その時の大樹の一言が、『やっぱり生に塩をかけただけじゃだめだったのかな……?』だったのだ。

以来、士のナマコに対する拒絶反応がさらに強くなってしまい、逆効果となってしまったのだ。

 

士と大樹がそんな口喧嘩をしていると、教室が急に騒ついた。そこには鳶一折紙が額やら手足やらを包帯だらけにして、頼りない足取りで士の前まで歩いてきた。

 

「よう、鳶一。無事でよかっーー」

 

士がそう言いかけたところで、折紙が深々と頭を下げていた。

 

「ーーごめんなさい。謝って済む問題ではないけど」

 

折紙はあの時ーー十香を狙った一撃を誤って士にはなってしまったことを謝罪する。

 

「いや、いいって。お互いに無事だったんだし」

 

「でも、私の気が収まらない」

 

「だから、いいんだって。結局俺は生きてるんだし、鳶一だって生きてたんだ。はい、この話はお終い!」

 

士の方はすでに折紙を許しているのだが、まだ食い下がろうとする折紙を黙らせるために強制的に会話を終了する。

そのタイミングで、ホームルームの開始を告げるチャイムが鳴り、タマちゃん先生が教室に入る。

 

「はーい、皆さーん。ホームルームを始めますよぉー」

 

折紙はそのまま無言で自分の席に戻り、他の生徒たちもそれぞれの席に着く。

とはいえ、折紙の席は士の隣にいる士道のすぐ隣にある席だ。安堵の息も吐けない。

 

「はい、皆さん席に着きましたね?」

 

次いで何かを思い出したかのように手を打ち、うんうんと頷いた。

 

「そうそう、今日は出席を取る前にサプライズがあるの!入って来て!」

 

その言葉に答えるように二人の少年と、一人の少女が入って来た。

 

士、士道、折紙の三人はその少女を見て驚いた。

そこにいたのは夜空のような美しい髪と水晶のような瞳をした少女だった。

 

「今日から厄介になる、夜刀神十香だ。皆よろしく頼む」

 

高校の制服を着た十香が、ものすごくいい笑顔をしながら入ってきた。そしてチョークを手に取ると、下手くそな字で黒板に『十香』とだけ書いた。

 

「と、十香……」

 

「ぬ?」

 

士が言うと、十香が視線を向けてきた。

 

「おお、ツカサ!会いたかったぞ!」

 

十香が大声で士の名を呼び、ぴょんと飛び跳ねて士の席の真横の位置までやって来る。そのせいで士はクラス中から注目を浴びる。

そして十香は隣にいた士道、士の前の席にいる大樹を見つけると再び声を上げる。

 

「おお、シドーに大樹もいるではないか!」

 

「やあ十香ちゃん、久しぶり」

 

「うむ!」

 

大樹は十香にいつもと変わらない態度で挨拶をする。そこで十香は、冷たい視線を向けてくる折紙の姿を見つける。

 

「ぬ、何故貴様がこんなところにいる?」

 

「それは、私の台詞」

 

二人の視線が混じり合う。この雰囲気はいつでも戦闘を行いそうで士は内心でひやひやしながらその様子を見守る。

 

「は、はい!おしまい!おしまいにしましょう!まだ自己紹介が終わってませんからー!」

 

タマちゃん先生がそう言うと、クラスの全員の視線が十香とともに教室に入ってきた二人の男子に集まる。

そのうちの一人が前に出てきて、自己紹介を始める。

 

「えっと…絶希晴人です。これから一年間、皆さんと学園生活を楽しみたいと思っています。よろしくお願いします」

 

人懐っこそうな顔、髪は短めの茶髪。その左手にはめた赤い宝石の指輪が輝いていた。

転入生の一人、絶希晴人はにこやかな顔でそう告げて一礼する。

晴人の自己紹介が終わり、もう一人の転入生にクラスの視線が集まる。

闇を思わせる漆黒の黒髪。少し長めのその髪が金色に鈍く輝く瞳を少し隠す。クラスの視線に気がついたのか、少年は面倒くさそうな顔をする。

 

「…俺は葛場千秋だ。よろしく」

 

それだけ告げると、もう一人の転入生、葛場千秋は口を閉ざしてしまった。しばしの沈黙、クラスの全員が次の言葉を待つが、それ以上は何も言わなかった。

 

「あ、あのぉー、以上……ですか?」

 

「はい、以上です」

 

タマちゃん先生が千秋に訊くが、返ってきたのは即答だった。タマちゃん先生は何故か泣きそうな顔になる。

 

「………」

 

「え……?」

 

士の気のせいなのか、一瞬千秋が此方を見て少し笑っていた気がした。

そして再び沈黙が走る。まずい空気になってしまったと思いきや。

 

『キャーーーーーーーーーーッ‼︎』

 

突然クラスの中に大音響が響いた。それは全てクラスの女子によるものだった。その一方で折紙は興味なしと言うように十香を睨み、十香は何故こんなことになったのか訳が分からず戸惑い、楓は普通にパチパチと拍手をしたりと普通の反応だった。

 

「かっこいい!しかも二人ともイケメン!」

 

「五河君と海東とはまた違ったタイプのイケメンよ!」

 

「五河君の爽やか系、海東君のクール系、絶希君のおとぼけ系、葛場君の俺様系!もうお腹いっぱい‼︎」

 

「どれもステキ‼︎」

 

ホームルームの間、クラスの女子はそんな感じに騒いでいた。士は勝手に自分と大樹のキャラが決められていたことに苦笑していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結局あの後、十香が士の隣にいた生徒を睨みで退かし、席は十香、士、士道、折紙という順になった。二人の間で十香と折紙が無言で睨み合い、間にいた士と士道は頭を抱えていた。

 

午前中の授業が終わり昼休み、士道は十香、楓、士と席を合わせ机の上に弁当を置く。だが、士だけがその場にいないことに気がついた十香は疑問を浮かべる。

 

「む?シドー、ツカサはどこに行ったのだ?」

 

「ああ……士なら大樹に追い回されてるよ」

 

士道の言葉に楓も疑問を浮かべる。

 

「大樹君が士君を?なんで?」

 

「大樹の奴が乾燥ナマコのパックを買って来たんだよ。で、それ持って士を面白半分で追い回してるってわけ」

 

「ああ……大樹君ならやりそうだよね…」

 

楓は苦笑しながら廊下の方に目を向ける。そこには……

 

「つーかーさー!まだナマコが食べられないのかーい?」

 

「来るなああああああああああああ‼︎」

 

大樹がパックに入ったナマコを手にものすごいいい笑顔で、士が涙目でそれから全力逃走しているという、なんともシュールな光景がそこにあった。

 

「楓、ナマコとはなんだ?うまいのか?」

 

「えっと……十香ちゃんは知らない方がいいよ、あれって一応食べられるけど…気持ち悪いし……」

 

「む、そうなのか?一度食べてみたいぞ」

 

「そ、それより!士君には悪いけど、お腹も空いちゃったし先に食べよう!ね?」

 

「そうだな!そうしよう!」

 

「う、うむ」

 

士道と楓は十香を誤魔化そうと昼食を取ろうと誘い、十香も訳が分からないまま二人と昼食を取る。

その日の昼休みは、士の絶叫が学内に響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今日の授業が全て終わり、士は士道、十香とともに帰宅した。士と士道は十香に街を案内していたが、十香が腹が空いたということで、現在三人は休憩も兼ねて喫茶『ル・クール』に来ていた。

 

「よお士、士道、よく来たな」

 

「こんにちは、蓮さん」

 

店内に入ると、客は一人もおらず、蓮が三人を出迎えてくれた。

 

「…ん?その子はこの間一緒に来ていた子か?」

 

「ああ、十香っていうんだ」

 

「うむ。よろしくだ、蓮とやら」

 

「ああ、よろしくな。三人とも好きな席に座ってな、後でメニューを持って行くから」

 

蓮はそう言うとカウンターへと姿を消す。士たちもテーブルに着くと、蓮がメニューを持って来て三人がそれぞれ注文をして十数分後には注文した品がテーブルに並べられる。

士はショートケーキと紅茶、士道はホットケーキとコーヒー、そして十香はというと……。

 

「おおおおおお⁉︎」

 

十香は目の前に置かれた少し大きめの器を見て、目を輝かせる。器の上にはきなこをかけ、いろんなお菓子でデコレーションされた大きなパフェが置かれている。

十香は見た時点で早速涎を垂らしている。

 

「れ、蓮!もしやこれはみんなきなこなのか⁉︎」

 

「ああ、どうだ?新作メニューの『DXきなこパフェ』は」

 

「早く食べたいぞ!」

 

「そんなに慌てなくてもパフェは逃げねぇよ」

 

そんな十香に士道が苦笑しながら言う。三人で早速デザートを食べようとした時……。

 

「っ⁉︎なんだ⁉︎」

 

突然近くで爆発音が聞こえ、三人は手を止める。士は席から立ち上がり、士道と十香の手を引く。

 

「行くぞ、デザートは後だ!蓮さん、行ってくる!」

 

「ああ、気をつけろよ」

 

十香が何やら騒いでいたが士はそんなことはお構いなしに二人を引っ張り、『ル・クール』から出て行く。最終的に誰もいなくなった店内で唯一残った蓮は、一人呟いた。

 

 

「……さて、今度はどんなライダーが来るんだろうなぁ」

 

 

 

 

 

 

士たちが現場である廃工場に着くと、そこには『ウィザードの世界』の怪人、ファントムとグールがいた。

 

「あいつらはあの時の!」

 

「うむ、私を襲って来た奴らと似ているぞ!」

 

ファントムを見たことのある士道と十香は声を上げる。グールを引き連れてたファントム、ゴブリンが此方に向かってくる。

 

「つ、ツカサ!」

 

「わかってる、変身!」

 

《KAMEN RIDE・DECADE》

 

「やれ!」

 

士はディケイドに変身し、ライドブッカーをガンモードにしてゴブリンたちに銃口を向ける。それと同時にゴブリンの指示でグールが駆け出す。

 

「さて、やりますか……」

 

《ATTACK RIDE・ILLUSION》

 

ディケイドはライドブッカーからイリュージョンのカードをバックルに挿入する。すると、ディケイドが三人に分身する。それぞれがガンモードのライドブッカー、ソードモードのライドブッカー、徒手空拳の戦闘スタイルに分割し、グールたちを相手取る。

 

「数には数だ。と言っても、お前らみたいにただ呻くのとは訳が違うぜ」

 

ソードモードでグールを斬り倒し、ガンモードで撃ち抜き、格闘で薙ぎ倒す。グールは手に持った槍で応戦するが、全員ディケイドに倒されみるみる数が減っていく。グールは跡形もなく倒された。

 

「なんだ?なんかあっさりし過ぎな気が……」

 

「ツカサ!」

 

十香の声がして後ろを振り返ると、そこには士道と十香の二人を人質に取ったゴブリンがいた。先ほどの戦闘のうちに戦えない二人に近づいたのだろう。

 

「士道!十香!」

 

「動くなよディケイド?こいつらがどうなってもいいのか?」

 

「くっ…お前!」

 

ディケイドは二人を人質に取られて動けなくなった。士道は一般人で、十香は精霊であっても力を封印された今の状態では普通の人間と何の変わりもない女の子だ。

 

「くくく…形勢逆転だなぁ?」

 

ゴブリンは何やら不思議な石を取り出すと、それを地面にばら撒いた。するとその石から、先ほどディケイドが倒したはずのグールたちが姿を現した。

グールは槍を構え、ディケイドに襲いかかるが、士道たちを人質に取られたことで下手に動けないディケイドはその攻撃をただ受けるだけだった。

 

「ぐ……!」

 

「士!」

 

流石にこのままではディケイドも不利になってくる。ディケイドはこの状況をどうにかするためにグールに抵抗しようとした、まさにその瞬間。

 

『⁉︎』

 

「ぐうあああ⁉︎」

 

突然銃声とともにグールたちとゴブリンから火花が散った。拘束が緩んだ隙に、十香と士道はゴブリンから逃れ、ディケイドの元に駆ける。

 

「ツカサ!」

 

「悪い、士。俺たちが足を引っ張ったから…」

 

「いいんだって、二人が無事だったなら」

 

ディケイドは仮面の内側で二人に微笑む。そしてディケイドは先ほどの奇襲の攻撃の正体を探すために辺りを見回す。

 

「成る程ね……ファントムか。それにグールを引き連れてるってことは…どうやらお前が主犯ってとこだな」

 

不意に後ろからそんな声が聞こえたのでディケイドはそちらを振り向く。そこには、右手に奇妙な形の銃をゴブリンたちに向けて構えていた一人の人物がいた。

その人物とは、今日、十香たちとともに士たちのクラスに転入して来た少年ーー絶希晴人だった。

 

「絶希……何で、お前が…」

 

「…まあ、細かいことは後でいいだろ?まずはこいつを倒さないと」

 

晴人はそう言うと、右手に装着してある手のような形の指輪をベルトの手の形になっているバックル部に翳す。

 

《ドライバーオン・プリーズ♪》

 

その音声とともにベルトがその姿を変えた。普通のベルトから、まるで仮面ライダーが使用するベルトのように。続けて晴人は、ベルトのバックル部にある左右の両端に設置されているシフトレバーを操作して、右手側に傾いた手形のバックル、ハンドオーサーから音声が鳴り響く。

 

《シャバドゥビタッチヘンシーン♪シャバドゥビタッチヘンシーン♪》

 

ドライバーが軽快な音声を響かせる中、晴人は左手に装着した赤い宝石の指輪『フレイムウィザードリング』にあるバイザーを下ろし、ハンドオーサーに左手を翳す。

 

「変身」

 

《フレイム・プリーズ♪》

 

《ヒー♪ヒー♪ヒーヒーヒー♪》

 

そこに出現した赤い魔法陣が歌のような音声コールと共に魔法陣が晴人の身体を通過する。魔法陣が通過し終えると、晴人の姿が変化していた。

 

特徴的な赤い宝石を模した円型の仮面が日の光を反射し、全身に纏う黒いロングコートがはためく。左手の中指には仮面と同じ赤い宝石の指輪が耀き、腰には手のような形のドライバーが装着されている。

 

その姿こそ、絶望を希望に変える希望の魔法使い。

 

「ウィザード…」

 

 

「さあ、ショータイムだ」

 

 

この精霊の世界に、指輪の魔法使いが参戦する。

 

 



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新たな仲間

士たちと同じ来禅高校に転入してきた少年、絶希晴人は指輪の魔法使いーー仮面ライダーウィザードに変身し、迫り来るグールの群れに臆することなく立ち向かって行く。

 

「ふん!はっ!」

 

ウィザードは手に持った専用武器、ウィザーソードガンをガンモードからソードモードへと変形させ、グールたちを斬り裂いていく。

 

「あらよっと」

 

ウィザードの背後にグールが槍を振るって襲いかかるが、ウィザードはアクロバティックな動きで軽々と躱し、ウィザーソードガンで再びグールを斬りつける。

 

「にしても、数が多いな…」

 

また一体を斬り伏して周りを見渡せば、未だにグールたちが犇き合っている。そんなウィザードの横を一つの影が通り過ぎた。

 

《ATTACK RIDE・SLASH》

 

「たあっ!」

 

ウィザードの前に出たディケイドのマゼンタの光を纏ったライドブッカーの斬撃がウィザードの周りにいたグールたちを吹き飛ばす。

 

「えっと…五河君、でいいんだよな?」

 

「ああ。俺も手伝うぞ、絶希」

 

ディケイドはウィザードにそう答えると、ライドブッカーからカードを取り出しバックルに挿入する。

 

《ATTACK RIDE・BLAST》

 

「はあっ!」

 

ディケイドライバーにカードを挿入すると同時にライドブッカーをガンモードに変形させ、グールの群れに銃口を向けると、引き金を引いた。

すると、ライドブッカーの銃身がマゼンタカラーの分身を作り出し、同時に五つの銃口が火を噴いた。

一斉に連射される光弾を正面から受けたグールたちは呆気なく倒され、残るはゴブリンだけだ。

 

「おお、すごいね」

 

「このっ……貴様らああああ!」

 

ウィザードはあんなにいたグールの群れをあっさりと全て倒したディケイドの実力に驚き、自分が呼び出したグールを全て倒されてしまったゴブリンは怒り、棍棒を取り出しディケイドの背後から振り下ろす。

 

「ほっ!」

 

だが、その不意打ちをウィザードがあっさりとウィザーソードガンで受け止める。そして空いた片手でウィザードライバーを操作する。

 

《ルパッチ・マジック・タッチ・ゴー♪ルパッチ・マジック・タッチ・ゴー♪》

 

ウィザードはディケイドがグールを射撃している間に入れ替えていたウィザードリングをドライバーに翳し、魔法を発動する。

 

《ライト・プリーズ♪》

 

「ぐわっ⁉︎なんだこれは⁉︎」

 

突然ウィザードの身体から光が発せられる。その光の眩しさにゴブリンは両手で目を隠す。それはゴブリンの身体がガラ空きになっているということだった。

 

「「はあっ!」」

 

「があああああ⁉︎」

 

ガラ空きになったゴブリンの腹にディケイドとウィザードが蹴りを入れ込む。それによってゴブリンの体は大きく吹き飛ばされる。

 

「さぁて、そろそろ決めますか」

 

ウィザードはそう告げるとウィザーソードガンをガンモードに変形させ、手形のハンドオーサーを開放する。

 

《キャモナシューティング・シェイクハンズ♪キャモナシューティング・シェイクハンズ♪》

 

「さあ、フィナーレだ」

 

ウィザードは冷淡に、ゴブリンにそう告げる。

ウィザードはウィザーソードガンのハンドオーサーに左手に装着したフレイムウィザードリングをまるで握手するかのように翳す。

 

《フレイム・シューティングストライク!ヒーヒーヒー♪ヒーヒーヒー♪》

 

そして銃口をゴブリンに向け、引き金を引いた。

 

「があああああ⁉︎この俺が…こんな、こんな奴らに……ぐああああああああああ‼︎」

 

 

ウィザーソードガンから放たれた火炎弾がゴブリンに直撃。その威力は凄まじく、ゴブリンは爆発とともに消えてしまった。

 

「ふぅ」

 

ウィザードは一息つくと、変身を解除し絶希晴人の姿に戻る。それに続いてディケイドも変身を解除して士の姿に戻り、互いに変身を解除したところで晴人が士に話しかける。

 

「で…君がこの世界の仮面ライダーでいいんだよな?」

 

「ああ、いいと思う」

 

士はそう答える。そこで離れていた士道と十香がこちらに来る。

 

「士、絶希!大丈夫か⁉︎」

 

「大丈夫だよ。えっと…五河………しんたろう君だっけ?」

 

士道の名前を知らないのか晴人は首を傾げながら士道に逆に聞いてくる。それに士道がツッコミを入れる。

 

「し、しか合ってねぇ!士道だよ!五河士道!」

 

「五河だと紛らわしいから俺は士って呼んでくれ」

 

「分かったよ。士、士道。じゃあ俺のことも晴人って呼んでくれよ」

 

三人も名前も呼ぶようになったところで、士道が何かに気がついた。

 

「なあ士、俺たち普通にこうやって過ごしてるけど……十香のこと忘れてないか?」

 

「あ」

 

たった今思い出したのか、そこで士は素っ頓狂な声を上げた。何も知らない晴人は頭にハテナを浮かばせている。

 

思えば類を見ない大食いである十香が好物のきなこのパフェを食べようとしていたところを士が無理矢理連れ出し、自分の要件が済んだらそれをほったらかしにしていたのだから。

先程までファントムたちを相手取り勇猛果敢に戦っていたディケイドである士も十香の怒りを恐れた。

 

「何をしておるのだツカサ!シドー!用が済んだのなら早くきなこぱふぇを食べるぞ‼︎」

 

「お、おい十香⁉︎」

 

「ぐぇ⁉︎と…十香!く、首!首が絞まる‼︎」

 

もうここにいる必要はないと言わんばかりに十香は士道の手を引き、士に至っては制服の襟を引っ張られ、完全に首が絞まっているがそんなことは気にもせず十香はそのまま走り出す。

 

「…何が何やら」

 

その様子を見ていた晴人は肩を竦め、彼も士たちと一緒に『ル・クール』へと走り出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふわあ〜〜……」

 

ル・クールに戻った十香は先程食べ損ねたDXきなこパフェを堪能し、まるで天国でも見たかのように、これまでにない程の幸せそうな顔をした。

 

「けしからん…なんといううまさなのだ!これはきなこパンを上回る至高の味だぞ!」

 

「そ……そうか…」

 

「は、ははは…」

 

「十香ちゃんは本当にきなこが好きだね」

 

パフェのあまりの美味しさに十香が興奮するが、首が絞まり窒息死しかけた士は机に突っ伏し、士道は苦笑いをしながらホットケーキを口に運ぶ。

そして士は顔を上げ、そこに居た人物に叫ぶ。

 

「なんで大樹がいるんだよ⁉︎」

 

「居てあげてるんだ。感謝したまえ」

 

そう。ル・クールに戻ってみれば、士たちが座っていた席に大樹が我が物ののように座ってくつろいでいたのだ。

因みに晴人はメニューを見て蓮に注文を入れていた。

 

「じゃあ、注文はどうする?」

 

「えっと…じゃあ、このプレーンシュガードーナツで」

 

「分かった。大樹も何か食っていくか?」

 

「じゃあ僕はフルーツパフェをお願いします」

 

蓮は二人の注文を聞くと、そのままカウンターへと姿を消す。一先ず落ち着いたところで、士は晴人に問わねばならないことがあった。

 

「晴人…お前、仮面ライダーだったのか?」

 

「まぁね」

 

「ふーん…じゃあ晴人に話してもいいんじゃないかな。僕たちの敵について」

 

「ああ、そうだな」

 

そして士たちは晴人にこれまでの出来事を語ることにした。精霊についてはどうしようか迷ったが、晴人は士たちを助けてくれたので、それについても話した。少なくとも自分たちの知りえる情報も、すべて。

 

 

 

ーーー世界を殺す厄災、精霊。

 

ーーー精霊を救うために活動をしている秘密機関ラタトスク。

 

ーーーそして、精霊を狙う謎の組織パラドクス。

 

 

 

それらをすべて話し終えると、店内に沈黙が流れる。その沈黙を破ったのは晴人だった。

 

「…成る程ね。要はパラドクスっていう奴らがいろんな世界の怪人たちを統率していて、精霊を狙っているってことなんだよな?」

 

「簡単にまとめたらそうだな」

 

「へぇ…魔法使いの俺が言うのもなんだけど、世界って不思議なことばかりだな」

 

「なあ、晴人は魔法使いなのか?」

 

士たちの会話に士道が聞いてくる。魔法使いと聞いたのだから、気になるのは当然だろう。

 

「ああ、そうだよ。試しに魔法を見せてやろうか?」

 

晴人はそう言うと、右手に指輪を装着すると、それをバックルに翳す。

 

《ガルーダ・プリーズ♪》

 

すると晴人の前にプラモデルのような物が組み立てられていく。これはウィザードの使い魔であるプラモンスター『レッドガルーダ』だ。

 

「これは?」

 

「こいつは俺の使い魔さ」

 

「使い魔?…うわっ!動き出した!」

 

晴人は士道に説明しながら、召喚に使用した指輪を定位置にセットして、使い魔たちはピコピコと動き出す。晴人は驚く士道を流し目で見ながら水を飲む。

 

「こいつが俺の使い魔のガルちゃんだ」

 

「ちゃっかり名前も付けてるのか……」

 

晴人に名付けられたレッドガルーダーーガルちゃんはしばらくその辺りを飛んでいたが、パフェを食べていた十香に気がつくと今度は十香の周囲を飛び回り始めた。

 

「む、どうしたというのだ?」

 

「はははっ、どうやら十香はガルちゃんに気に入られたみたいだな」

 

「そうなのか?」

 

晴人の言葉に十香がガルちゃんに聞くと、ガルちゃんはそれを肯定するように翼をピコピコと動かす。

 

「っていうか、こんなところで魔法使っていいのかよ?他の客はいないけど、蓮さんだっているんだぞ」

 

「あ…」

 

士道の言葉に今更気づく晴人だった。

 

「大丈夫だよ。蓮さんは俺たちが仮面ライダーだってこと知ってるんだし」

 

「そうなのか?」

 

「ああ、蓮さんは僕たちの正体を知っている数少ない人物の一人さ」

 

「そういうことだ」

 

士たちの会話に蓮が注文された品をお盆に乗せてやって来る。晴人と大樹にドーナツとフルーツパフェを差し出すと、近くのカウンター席に腰を掛ける。

 

「ただし、俺はただの観客さ。

士たち仮面ライダーが何をして、世界がどうなっていくのかを見届けるだけだ。……まぁ、それ以外では俺はこの喫茶店のマスターだがな」

 

蓮はそう言うといつの間に淹れていたのか、コーヒーを口にする。そしてコーヒーの入ったカップをカウンターに置くと、晴人を見つめる。

 

「で、お前はどうするんだ晴人。お前も士たちと一緒にパラドクスと戦うのか?」

 

蓮の問いに晴人は笑みを浮かべ左手に装着したウィザードリングを見せつけるように掲げる。

 

「もちろんさ。なんたって俺は、希望の魔法使いだからな。精霊の希望だって守ってみせる」

 

「戦っても勝ち目はないかもしれないんだぞ?それでもか?」

 

「上等だ。俺は絶対に絶望なんかしないし、誰にもさせない」

 

晴人は強く、そう告げる。

士たちは新しい協力者が出来たことに喜び、その様子を蓮はカウンターから眺めていた。

 

「さあ、今日はもう閉店だ。早く帰っておけ」

 

時計を見ると、もうすでに7時を過ぎていた。もう日はとっくに沈んでいる。家に帰っているはずの琴里の夕食の準備をしなくてはと思い、今日はそのまま全員解散となった。

 

現在はフラクシナスに住んでいる十香を迎えに来た令音に十香を任せると、士と士道は家路を急いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてその日の夜、閉店中のル・クールのカウンターで蓮はコーヒーを口にしながらある人物に電話をかけていた。数回のコールの後、その人物が電話に出る。

 

「はい、もしもし?」

 

「ああ士道、俺だ。悪いな、こんな時間に電話なんかかけて」

 

蓮の通話の相手とは士の家族、五河士道だった。

 

「別にいいですけど…どうしたんですか?」

 

「いや、明日学校が終わったら店に来てくれないか?お前に渡したいプレゼントがあるんだ」

 

「プレゼント…ですか?」

 

「ああ……お前にとっては一番欲しい物のはずだ。それじゃあ明日、店で待ってるぜ」

 

蓮はそれだけ伝えると、士道との通話を切る。携帯をカウンターに置き、またコーヒーを飲む。そしてカウンターに置いてある物を二つ手に取る。

 

 

 

「さて…力を求めるお前がどこまで俺を楽しませてくれるのか、見せてもらうぜ………士道」

 

 

そう呟く蓮の手の中には、黒いバックルと果物を模した錠前が握られていた。

 

 

 




ウィザードこと晴人が士の仲間になりました。

そして次回、士道がまさかの……⁉︎


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士道・オン・ステージ

今回はなんと、士道が遂に変身をします。
どんなライダーに変身するかはタイトルを見ればわかると思いますが、楽しんでください。


今日の授業が終わり、士は一人で帰路に着いていた。いつもなら士道や十香も一緒なのだが、士道は蓮に呼び出されたためル・クールへ行き、十香は検査のためにフラクシナスへと行ってしまった。

 

「暇だなぁ…」

 

自宅に帰ってもやることがない士は大樹か晴人と一緒に何処かに出かけようと思い、携帯電話を取り出し操作する。

と、携帯に気を取られていた士は曲がり角から不意に現れた少女とぶつかってしまった。

 

「きゃっ!」

 

「あっ、ごめん!大丈夫か?」

 

少女はそのまま尻餅をついてしまい、士は急いで少女に自分の手を差し出す。少女は士を顔を見ると、何故か微笑む。

 

「ええ、大丈夫ですわ。私も不注意でしたわ」

 

少女はそう言って士の手を取り立ち上がる。その時に少女は士の手に細くて柔らかくて少しひんやりとした指を絡めてきて、不覚にも少女にドキリッとしてしまった。

 

「どうしましたの?」

 

「い、いや!なんでもない!」

 

士は照れを誤魔化すためにそっぽを向いてしまう。

少女は高級そうなブラウスにロングスカートという出で立ちだったのだが、それら全てが黒に統一されているためか、まるで喪服を着ているように見えた。

 

「私、時崎狂三と申します。初めまして、五河士さん」

 

狂三と名乗った少女はクスクスと笑いながら、長いスカートを数センチ上げてお辞儀をする。そこで士は何故狂三が自分のことを知っているのか疑問を感じた。

 

「俺のこと…知ってるのか?」

 

「もちろんですわ。私はずっとあなたに会いたかったですもの………仮面ライダーさん」

 

「っ……⁉︎」

 

士は狂三の言葉で心臓を掴まれたような気がした。

 

「えっと、い、いきなりどうしたんだ?仮面ライダーってあれだろ?最近噂のヒーローってやつでーー」

 

「ふふふ……嘘がお下手ですのね。誤魔化さなくてもいいですわよ」

 

狂三は口元を隠してクスクスと笑う。士はそんな狂三が不思議に思う。まるで全てを見透かしているようで士は尋ねずにはいられなかった。

 

「狂三……君は一体…」

 

「それでは、私はこれで失礼いたしますわ」

 

士の問いに狂三は答えずそのまま士に背を向け、歩き始めたところで足を止めた。

 

「そうでしたわ……士さん」

 

狂三は士を振り返り、顔を赤く染めながら口を開いた。

 

「今度会う時はぜひ……二人でお茶でも致しませんこと?」

 

「……へ?」

 

狂三の言葉に思わず変な声を上げてしまった。まさかと思い士はもう一度狂三に聞き直す。

 

「えっと…それってつまりーー」

 

「はい。デートのお誘いですわ」

 

狂三は笑顔でそう答える。まさか会ってたったの数分しか経っていない美少女にデートに誘われるとは思いもしなかった士は顔が赤くなり、テンパってしまう。そんな士の反応を見て微笑んだ狂三は士に一言告げる。

 

「では、また会いましょう…士さん」

 

狂三はそう告げると、そのまま街の中へと姿を消した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方その頃、士と別れた士道は先日蓮から電話で呼び出されたためル・クールに来ていた。士道に渡したいものがあると言っていたからか店のドアには『CLOSE』という看板がかけられていた。

士道は何故蓮が自分だけを呼び出したのか疑問に思っていると、そんな思考を読まれていたかのようにドアが開き、中から蓮本人が出てきた。

 

「よく来たな士道、待ってたぞ」

 

蓮が中に入っていくので士道もそれについて行った。店内には客がおらず、蓮は何処かに行ってしまい士道はカウンター席に座った。

そして、少しすると蓮が『STAFF ONLY』の表示がある扉から姿を見せる。その手には銀色のアタッシュケースが握られていた。

 

「お前に渡したいプレゼントっていうのは……こいつだ」

 

そう言って蓮はアタッシュケースを持ち出してカウンターの上に置くとケースを開ける。

 

「ーーーー⁉︎」

 

士道はアタッシュケースの中に入っていたものを見て絶句した。中に入っていたのは刀のような黄色い飾りと中央に窪みがある黒いベルトのバックルのようなもの、もうひとつは『L.S.-07』と書かれたオレンジを模した錠前のようなものだった。他にもケースの中にそれと同じような錠前がいくつも入っていた。

それは形は違えども、士や晴人が変身する時に使用するドライバーと少し似ていた。

 

「蓮さん、これは⁉︎」

 

「こいつは『戦極ドライバー』だ。で、この果物みたいな錠前が『ロックシード』。戦極ドライバーはこのロックシードを使って変身することができる」

 

蓮はアタッシュケースから戦極ドライバーとオレンジを模したオレンジロックシードを取り出し士道に説明する。だが士道は蓮の説明など耳に入っておらず、戦極ドライバーに見惚れていた。まるで、玩具を欲しがる子供のように。

蓮はそんな士道の様子を見ると、薄ら笑いを浮かべる。

 

「だが…こいつを見せたのはお前に見せつけるためだけじゃない。士道、約束通りこいつはお前にくれてやる」

 

「……!本当ですか⁉︎」

 

士道が目を見開き、言ってくる。その表情は本当に無邪気な子供のようだ。蓮は金色の輝きを帯びた瞳で士道を見据える。

 

「ああ……言ったと思うが、俺は観客だ。力を求めるお前がこの力で何をするのか…見させてもらうぜ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

街の中にある高層ビルの屋上で、一人の人物が立っていた。その身には黒いコートを纏い、フードを被った人物はビルから街を見下ろし、まるで幽霊のようにその場に佇んでいる。

 

「まったく、僕が出されるなんて……よほど重要な任務なんでしょうね。さて…僕は一体何をすれば……ほう、これはこれは……」

 

ポケットに手を突っ込んだ男は、そこから一枚の紙を取り出すとそこに書かれていた内容を見て、感嘆の声を漏らす。

 

「フフフ…まさか、彼と接触しろとは……とても興奮する任務ではありませんか!ですが、迷いますねぇ…ブライグはともかく、一番乗りはルミナさんに譲るつもりでしたが、生憎せっかくのチャンスを不意にするほど僕は優しくはありませんからね。たっぷり楽しませてもらうとしましょう!」

 

独り呟く男はその手に狼を模した金色のレリーフがあるデッキケースを掴む。

 

「と、その前に……せっかく彼に会うのですから、何か贈り物をしょうか」

 

男は背後に手を掲げると、そこに灰色のオーロラが出現し、そこから異形の存在が姿を現す。『Wの世界』のバードドーパント、『キバの世界』のラットファンガイア、『ウィザードの世界』のヘルハウンド、『オーズの世界』の軍鶏ヤミー、『鎧武の世界』のライオンインベスと、それぞれ異なる世界の怪人たちが黒いコートの人物の背後に並び立つ。

 

「フフフ…さあ、見せてもらいますよ。世界の破壊者と呼ばれた仮面ライダーの実力をね……」

 

そう言ったコートの人物はゆっくりとフードを外す。中から現れたのは黒い髪に右眼の辺りに特徴的な刺青が刻まれている青年だった。青年は猛禽類を思わせる緋色の瞳で街を見下ろす。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あって間もない狂三にデートに誘われた士は、公園のベンチに腰をかけていた。士は狂三が何故自分が仮面ライダーであることを知ってるのかは気になったが、今はそれ以上にデートに誘われたことに頭がいっぱいだった。

 

「なんか凄く疲れた気がする…」

 

士はそう呟き、ベンチの背もたれにもたれかかる。その時士に声がかけられた。

 

「よっ、士。今帰りか?」

 

「ん?ああ、大樹に晴人か」

 

そこには先ほど士が連絡を入れようとしていた大樹と晴人がいた。二人はベンチに座る士の元まで歩き、空いた場所に腰をかける。

 

「そういえば士、士道はどうしたんだい?」

 

「なんか蓮さんに店に呼び出されたらしくてさ。十香も検査があるから今日は一人なんだよ」

 

大樹の問いにそう答えると、士は視界の端にあるものを見つけ、立ち上がる。

 

「ん?なんだろ?あの自販機」

 

そこにあったのは自動販売機だった。だが大きさも普通の物より一回り大きく、上には『戦極ジュースサーバー』と書いてあった。どうやら自動販売機ではなくジュースサーバーだったらしい。

三人はジュースサーバーに近寄り、そのメニューを見てみると色んなフルーツのジュースが並んでいた。

 

「へぇ、色んなフルーツがあるんだぁ。でもなんだろう、ドリアンにマツボックリ、ドングリって…」

 

大樹はメニューを指差すと確かにドリアン、マツボックリ、ドングリ、クルミといったいかにもフルーツどころかジュースにすべきではないものまであった。士はクルミと聞くと先ほど会った狂三のことを思い浮かべる。

こんなことで名前が思い浮かんだなんて本人に知れたならばきっとひどい目に合わされるかもしれない。

 

「じゃあ僕はバナナシェイクでも飲もうかな」

 

と言って、大樹はジュースサーバーに小銭を入れ、バナナシェイクを注ごうとすると《カモン!バナナ・アームズ!》という音声と同時にラッパのような音楽がジュースサーバーから流れた。……沈黙が流れる。

 

「……なら俺はブドウジュースにしようかな」

 

次は晴人が小銭を入れてブドウジュースを注ぐと《ハイー!ブドウ・アームズ!》と、中華風の音楽がジュースサーバーから流れる。……またも沈黙。

 

「えっと……俺は、メロンソーダ」

 

士は気になっていたメロンソーダをコップに注ぐと《ソーダァ!メロンエナジーアームズ!》と軽快な音楽がまたもやジュースサーバーから流れた。それを聞いて士は何故か松ぼっくりを無性に破壊したくなった。

 

「なんだろう…このジュースサーバー」

 

思わず呟いてしまった士。それは二人も同意見だったらしく、首を縦に振る。そしてジュースを口にすると、強い炭酸と濃厚なメロンの味が口いっぱいに広がり以外と美味しかった。

三人はそのまま公園を後にしようとした時だ。

 

 

「グルルルルル…」

 

「ヴゥウウウ……」

 

士たちの背後にいつの間にか五体の怪人たちが立ち塞がっていた。バードドーパント、ラットファンガイア、ヘルハウンド、軍鶏ヤミー、ライオンインベス、どれもそれぞれ別の世界の怪人たちだ。

 

「なっ…こいつらは……!」

 

「まったく…暇な連中だね、パラドクスも」

 

「こんなのんびりタイムにも出て来るなんてな…」

 

そんなことを言っている間にも怪人たちはじりじりとこちらに近づいてきている。

 

「来い、キバット!」

 

「おう!ひっさしぶりの登場だぜぇ〜!」

 

士は飛来してきたキバットからディケイドライバーを掴み取り、大樹は制服の内側のポケットに忍ばせていたディエンドライバーを取り出し、晴人は制服のボタンを外しバックルに指輪を翳すと《ドライバーオン・プリーズ♪》という音声とともにウィザードライバーが出現する。

 

《KAMEN RIDE》

 

《KAMEN RIDE》

 

《シャバドゥビタッチヘンシーン♪シャバドゥビタッチヘンシーン♪》

 

「「「変身!」」」

 

士はバックルにディケイドのライダーカードを挿入、バックルを回し、大樹はディエンドライバーの銃身にディエンドのライダーカードを装鎮し引き金を引く、晴人はウィザードリングのバイザーを下ろしハンドオーサーに翳す。

 

《DECADE》

 

《DIEND》

 

《フレイム・プリーズ♪ヒー♪ヒー♪ヒーヒーヒー♪》

 

三人はそれぞれディケイド、ディエンド、ウィザードへと変身する。

 

「ヤミーとファンガイアは僕が引き受ける。君たちは残りを頼む」

 

「ああ、そっちは任せた」

 

ディケイドがそう答えるとディエンドは左脇のカードホルスターから一枚のカードを手に取り、ディエンドライバーの銃身に装鎮、ポンプアクションのようにスライドさせる。

 

《KAMEN RIDE・BARON》

 

「いってらっしゃい」

 

ディエンドの銃口から幾つものシルエットが放出され、それが一つに重なると、そこには何故かバナナを被った戦士がいた。

 

「え?…バ、バナナ⁉︎バナ…バナナ⁉︎」

 

「バロンだっ‼︎」

 

頭部を覆っていたバナナが展開され、鎧の姿に変わる。バナナの西洋騎士…仮面ライダーバロンがウィザードの狼狽にツッコミを入れ、専用武器ーーバナスピアーを構え、軍鶏ヤミーに挑みかかる。ディエンドはバロンを援護するように軍鶏ヤミーに光弾を放ち、ラットファンガイアをバロンがバナスピアーで薙ぎ払う。

 

「んじゃ、俺もやりますかね」

 

軽い口調でウィザードはハンドオーサーを左手側に傾け直し、赤い指輪フレイムウィザードリングから緑の指輪、ハリケーンウィザードリングに付け替えた手をハンドオーサーに翳す。

 

《ハリケーン・プリーズ♪フー♪フー♪フーフーフーフー♪》

 

頭上に展開した風の渦巻く緑の魔法陣を飛躍して通り抜け、ウィザードは緑を基調とした出で立ちに、逆三角形の緑の宝石を模した仮面が煌めく、ハリケーンスタイルへと姿を変えた。

魔法陣を足場に大空高く飛翔したウィザードはウィザーソードガンを逆手に持ち、空を飛ぶバードドーパントめがけて滑空した。

 

そしてディケイドの方にはライオンインベスとヘルハウンドが迫って来た。ライオンインベスが爪でディケイドに襲いかかるが、ディケイドはライドブッカーで受け流していると、背後からヘルハウンドが剣で斬りつけられディケイドはそのままライオンインベスに爪で切り裂かれ、蹴りをくらった。

 

「ぐっ、だったら!」

 

《ATTACK RIDE・BLAST》

 

ディケイドはライドブッカーをガンモードにして連続で光弾を連射し、二体ともその銃撃に後ずさる。そんな時、ディケイドたちの後方から足音が聞こえた。

 

「士!」

 

声の方向を振り向いて、ディケイドはそこに目をやると走ってきたのか息を切らしながら片手にアタッシュケースを持った士道が立っていた。士道の声に反応してライオンインベスが士道の方を見る。不味いと感じたディケイドは士道に叫ぶ。

 

「士道⁉︎何してんだよ⁉︎」

 

「今度は、俺も戦う!」

 

そう言って士道はアタッシュケースからなにやら見覚えのある黒いバックルのようなものを取り出すと、それを腰に装着し、ベルトが巻かれ、左側のフェイスプレートに何かの仮面が描かれる。そしてケースからオレンジが描かれた錠前のようなものーーオレンジロックシードを取り出し、左側についていたスイッチを押して解錠する。

 

「変身!」

 

《オレンジ!》

 

すると、士道の頭上にチャックのような裂け目が開き、そこから巨大なオレンジが出現する。それを見たライダーたちは唖然としていた。

士道はオレンジロックシードをバックルの中央にセットし、ハンガーを押して再び施錠する。

 

《ロックオン》

 

ロックシードを施錠すると、バックルから法螺貝の笛音のような音声が鳴り響く。

士道はバックルに取り付けられていた小さなブレードのようなパーツーーカッティングブレードをオレンジロックシードに向けて振り下ろすと、ロックシードの柄の部分が割れる。

 

《ソイヤ!オレンジ・アームズ! 花道・オン・ステージ♪》

 

その音声が鳴った次の瞬間、士道の頭上に出現したオレンジは士道の頭部に被さるように覆うと、士道の身体が青いスーツに包まれる。オレンジの各部が展開し、鎧のような姿となる。

その姿はまさに、鎧武者だった。

 

 

「ええええ⁉︎士道⁉︎」

 

「まさか…士道がライダーに⁉︎」

 

「えーー⁉︎士道もライダーだったの⁉︎」

 

士道の突然の変身に当然ディケイドだけでなく、ディエンドもウィザードも騒ぎ出す。

それに対して士道ーーもとい仮面ライダー鎧武は手に握ったオレンジの断面のような刀、大橙丸を構える。

 

「さあ、ここからは俺のステージだ!」

 

鎧武はそう言うと、大橙丸を構え、ライオンインベスに向かって駆け出す。ライオンインベスが爪を振り下ろすが鎧武はそれを躱し大橙丸でライオンインベスを斬りつけると、逆上したライオンインベスが鎧武の首を掴み、締め上げる。

 

「ぐぅ……それなら……こいつだ!」

 

鎧武は咄嗟に左腰に連行した銃剣、無双セイバーを左手で握り、引き抜くと同時に真横からライオンインベスを斬りつける。斬られて怯んだライオンインベスを蹴り飛ばし、大橙丸と無双セイバーの二刀でライオンインベスを立て続けに切り裂く。

 

「よし!このまま!」

 

鎧武は無双セイバーのグリップを引き、さらにトリガーを引く。すると、無双セイバーの鍔部分から光弾が発射されライオンインベスに命中する。怯むと見るや、鎧武は再度無双セイバーのグリップを引いて弾を込め、ライオンインベスを狙い撃つ。しかし、四回続けざまに撃って五回目を放とうとすると、カチッ、カチッ、と弾切れになってしまった。

 

「ウソだろ⁉︎こんな時に弾切れ……って、うわああああ⁉︎」

 

弾切れによる隙が生じる。ライオンインベスは仕返しだと言わんばかりに爪で鎧武を切り裂き、立ち上がろうとする鎧武を蹴り飛ばす。

 

「くっ…まだだ!」

 

鎧武は飛びかかってくるライオンインベスの腹を蹴り飛ばし立ち上がると、大橙丸の柄の窪みに無双セイバーを差し込み接合し、ナギナタモードに切り替える。そしてさらにライオンインベスに斬りかかる。

 

「はああああああああ!」

 

鎧武はナギナタモードの無双セイバーでライオンインベスを何度も斬り裂き、ダメージを与えていく。そして、渾身の一撃を込めて吹き飛ばす。

 

「士道、なかなかやるな」

 

「士たちに比べれば、まだまだだけどな!」

 

互いに怪人を相手取りながらも軽口を叩く。ディケイドはディエンドとウィザードの様子を確かめようと視線を変えると、ディエンドはバロンと共に軍鶏ヤミーとラットファンガイアを圧倒し、ウィザードはバードドーパントを地面に叩き落としフレイムスタイルに変身しバードドーパントをウィザーソードガンで斬りつけていた。

 

「みんな、一斉に決めるぞ!」

 

ディケイドの言葉に全員が頷いた。

ディケイドはファイナルアタックライドのカードを構え、鎧武はオレンジロックシードをナギナタモードの無双セイバーに装着し、ディエンドはファイナルアタックライドのカードをディエンドライバーに挿入、ウィザードはウィザードリングを入れ替えベルトに翳す。

 

《ロックオン イチ・ジュウ・ヒャク・セン・マン オレンジ・チャージ!》

 

鎧武はナギナタモードの無双セイバーからエネルギー斬を放ち、それが命中すると、ライオンインベスはオレンジ型のエネルギー空間に拘束される。鎧武は駆け出し、大橙丸の刀身でライオンインベスを一閃する。

 

「せいはあああああ!」

 

《FAINAL ATTACK RIDE・de、de、de、DECADE》

 

カードをバックルに挿入したディケイドとヘルハウンドの間にホログラム状のカード型エネルギーが出現、ディケイドはライドブッカーの刀身を構えカード型ホログラムを潜り抜ける。そしてマゼンタの光を纏ったディケイドの『ディメンションスラッシュ』がヘルハウンドを葬る。

 

「だあああああああ!」

 

《FAINAL ATTACK RIDE・di、di、di、DIEND》

 

ディエンドライバーから放出されたホログラム状のカード型エネルギーが円形にターゲットサークルを形成する。サークルが幾重にも重なり、ドライバーのトリガーを引くとそこから巨大な光線『ディメンションシュート』が放たれ、バードドーパントとラットファンガイアを呑み込む。

 

「はあああああああ!」

 

《ルパッチ・マジック・タッチ・ゴー♪ルパッチ・マジック・タッチ・ゴー♪》

 

《チョーイイネ!キックストライク・サイコー!》

 

ウィザードの足元に赤い炎を纏った魔法陣が出現、燃え盛る炎を右脚に纏ったウィザードはロンダートから跳躍する。そして、『ストライクウィザード』がバードドーパントを貫いた。

 

「だあああああああ!」

 

 

『ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア‼︎』

 

四人のそれぞれの必殺技を喰らった怪人たちは、断末魔を上げながら爆発とともに消滅する。

戦闘が終わると、鎧武はオレンジロックシードを戦極ドライバーにセットし、蓋を閉じると士道の姿に戻る。ディケイドたちも変身を解き、人間の姿に戻る。

 

「これが……俺の変身…」

 

士道は戦極ドライバーを見つめながらそんなことを呟く。その一方で士は、琴里にどう説明をすれば良いのか、頭を抱えていた。

 

 

 

 




いかがだったでしょうか?士道の初戦闘は。

感想・評価、待っています。


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出会い

「…………」

 

士たちは現在、フラクシナスの艦内にいた。そしてその視線の先には艦長席に座る琴里の前で士道が正座をしているという光景がある。

 

「さて…さっきのはどういうことかしら、士道?」

 

琴里は言っているのは士道が鎧武に変身した件についてだろう。それはそうだ。士道が変身したことは士たちにとっても衝撃的だったのだ。

 

「えっと……見てたのか?さっきの」

 

「ええ、そうよ。あなたが突然ベルトと錠前を使って変身したところから最後までね」

 

琴里がそう言ってモニターを指差すと、そこには先ほど戦極ドライバーとロックシードを使い鎧武に変身しディケイドたちと共に戦闘を繰り広げていた士道の姿が映し出されていた。

 

「ですよねー」

 

士道は完全に言い逃れが出来ない状況にいた。

 

「それじゃあ質問するけど士道、あなたはこのベルトと錠前を何処で手に入れたの?」

 

「……言わなきゃダメか?」

 

「当たり前よ。あんなもの見せられたんだから」

 

琴里に観念した士道は戦極ドライバーとオレンジロックシードを取り出し、口を開く。

 

「この戦極ドライバーは……貰ったんだよ」

 

「貰った?誰に…?」

 

「蓮さんだよ。昨日電話で『渡したいプレゼントがある』って言われて店に行ったらこのドライバーを貰ったんだ」

 

士道がそう言う。そこで士は確かに今日士道は蓮に店に呼び出されたということを思い出した。だが何故蓮が戦極ドライバーを持っていたのかは分かるはずがない。

 

「……ふーん。蓮さんがねぇ…」

 

士道の言葉を琴里が興味深そうに聞く。そして艦長席にもたれかかり、ため息をつき口を開く。

 

「……まあ、何にしてもあなたまで仮面ライダーに変身できるようになったのなら心配事が少しは減るかもね。精霊をデレさせること以外は」

 

「うぐ……」

 

一応話はこれで終わったが琴里の言葉に士道がうめく。さっきまでのピリピリした空気がすぐに和らいだ。

 

「なあ、俺って呼ばれた意味あった?」

 

そこで晴人が口を開く。晴人の場合は琴里の指示でフラクシナスに同行してもらったのだが、琴里が晴人を連れてこさせた理由がわからない。

 

「あるわよ、指輪の魔法使いさん。

あなたにもラタトスクに協力してもらいたいの、仮面ライダーが四人も居れば味方として心強いわ。それにパラドクスと戦うのなら私たちだって少しくらいはサポートができると思うのだけどどうかしら?」

 

琴里からラタトスクに勧誘され、晴人は少しの間、頭を悩ませていた。

 

「うーん……俺って組織とかは好きじゃないんだけど、士たちも居るしなぁ。あ、でもお試しでっていうならいいけど」

 

「まぁ……いいわ、それで」

 

晴人の曖昧な答えに納得いかないような顔をする琴里だが、艦長席から降りて、晴人に手を差し伸べる。晴人も差し伸べられた琴里の手を取り互いに握手を交わす。

 

「それじゃあ、晴人にはこれからラタトスクの一員となってもらうのだけど」

 

「はい質問」

 

「……何かしら?」

 

出鼻を挫かれた琴里は不機嫌な態度で晴人に聞くと、晴人が口を開く。

 

「やっぱり仲間になるならアダ名が必要だと思うんだけどさ、『ことりん』か『ことちゃん』どっちがいいかな?」

 

「知らないわよそんなの!勝手にしなさい!」

 

「冗談だよ、冗談」

 

「会ってすぐにアダ名をつけるなんてたまったもんじゃないわよ……」

 

勝手にアダ名をつけようとするマイペースな晴人に対して、琴里の方は頬を引きつらせていた。こんな晴人だが、戦闘となると頼もしい味方なのだ。そこで気を取り直した晴人が琴里に聞く。

 

「それで、俺はここでは何をすればいいんだ?」

 

「そうね…晴人も大樹と同じで士と士道のサポートをしてもらおうかしら。あとは精霊との接触中に現れた怪人やパラドクスとの戦闘にも出動してもらうくらいね」

 

「もう一つ質問、これって給料出るのかな?」

 

「出るわけないでしょ、あなた仮面ライダーでも一応学生よ」

 

「なーんだ」

 

琴里の答えに晴人がつまらなさそうに言う。というか、給料をもらうつもりだったのだろうか。

 

「そんじゃあ、俺はこの辺で帰るとするよ。今日は色んな意味で疲れたから……」

 

「あ、ああ…」

 

「では、こちらだ」

 

晴人は疲れた顔で士たちにサムズアップをすると、令音に連れられてフラクシナスから出て行く。士もそれに続くように歩き出す。

 

「それじゃあ俺も行くよ、夕飯の支度もしなくちゃいけないしな。琴里と士道は何かリクエストとかあるか?」

 

「俺は特に何もないけど…」

 

「私もよ。士に任せるわ」

 

「ああ、わかった」

 

士はそう言うと、フラクシナスから地上に転送され夕飯の材料を買うために商店街へと向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おや〜士君じゃないかい!いつもウチの店を贔屓してくれてありがとうねぇ」

 

「そんなことないですよ。ここの野菜っていい品ばかりだし、それにおばあちゃんとは古い付き合いなんだから」

 

「あら〜!そりゃ、嬉しいこと言ってくれるじゃないかい!ほれ、カボチャとジャガイモもおまけしとくよ」

 

「おおお!ありがとう!」

 

夕飯の食材を買いに来た商店街に来た士はとある店に来ていた。士がよく野菜を買いに来る八百屋の主人であるおばあちゃんは元気に笑い、士が渡したエコバックに野菜を入れていく。

 

「よし、これで全部かな。じゃあおばあちゃん、また来るよ」

 

「ああ、またいつでもおいで。琴里ちゃんと士道君にもよろしくね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやぁー、今日は結構買ったなぁ」

 

士は八百屋を出た後、偶然にもスーパーのタイムセールに遭遇してしまい今の士は両手にパンパンに膨れたエコバックが持たれていた。

 

「随分のんきなことをしているな…」

 

背後から声が聞こえたので士は後ろを振り返る。そして、その人物を見る途端に士は身構える。

 

「っ!お前は、あの時の……!」

 

「よう…少しは強くなったか?」

 

その人物とは、黒いコートを纏いフードをかぶった士とおなじくらいの背丈の少年だった。一見それだけでは誰なのかもわからないが、少年のその手に握られた黒いバックルーー戦極ドライバーが目に入り、その少年が何者なのかを悟った。

それは以前、士に襲いかかってきた漆黒のライダーの変身者だった。

 

「ディケイド…お前がどれほど強くなったか、見せてもらうぞ」

 

黒いコートの少年は前回戦った時に使用した戦極ドライバーを腰に装着すると、漆黒のロックシードを取り出し、解錠する。

 

「変身」

 

《カオス!》

 

少年がロックシードを解錠すると、頭上に闇の球体が出現する。ロックシードをバックルにセットし、ハンガーを押し再び施錠すると、カッティングブレードをロックシードに振り下ろす。

 

《ソイヤ!カオス・アームズ!黒騎士・オン・ダークネス♪》

 

球体が少年の頭部に被さり展開、漆黒のライダーへと変身する。黒いアンダースーツに、黒と赤が基調の禍々しい鎧、紫の複眼を持つ黒騎士のようなライダーを士は知っている。

 

「ルシファー…」

 

「さあ、変身しろ。ディケイド」

 

ルシファーはそう言いながらヴォイドセイバーを士に向けて振り下ろす。士はそれを躱し、ディケイドライバーを取り出す。

 

「変身!」

 

《KAMEN RIDE・DECADE》

 

士はディケイドに変身し、ライドブッカーでヴォイドセイバーを受け止めると、鍔迫り合いをしてから互いに距離を取る。ディケイドが駆け出し、ルシファーにライドブッカーを振り下ろす。ルシファーはそれをヴォイドセイバーで迎え撃ち、火花が散る。

 

「はあっ!」

 

「ちっ!」

 

ディケイドはルシファーに蹴りを入れ、後ろに飛びながらガンモードに変形したライドブッカーで光弾を放つがルシファーはその光弾を回避すると、ヴォイドセイバーで斬りかかってきたのをディケイドはライドブッカーで防いだ。

 

「やはり、お前は一筋縄では行かないな」

 

「そりゃ、どうも!」

 

至近距離でライドブッカーから光弾を発射し、ルシファーを怯ませてから蹴りを入れて距離を取り、カードを取り出しバックルに挿入する。

 

《KAMEN RIDE・W》

 

ディケイドを中心に風が吹く。その風と共に左右で色が違う仮面ライダーが姿を現す。右半分は、吹きぬく風を象徴とした緑。左半分は、絶対的な切り札を象徴する黒。

二人で一人の仮面ライダーダブルだ。

 

「さあ…お前の罪を数えろってな」

 

ディケイド・ダブルは腕に力を込め、風を纏った格闘術でルシファーを攻撃する。巻き起こっている風が、ルシファーにダメージを与えていく。

 

「だああ!」

 

「くっ!」

 

風を纏った蹴りを入れ、ルシファーは苦悶の声を上げる。ルシファーは背後に飛び、ディケイド・ダブルから距離を取る。

 

「ふん…やるな。だが、まだまだこれからだ」

 

ルシファーはそう言うと、龍が描かれたロックシードを取り出し、解錠する。

 

《ドラゴン!》

 

瞬間、ルシファーが纏っていたカオスアームズが消失し、ルシファーの頭上に大きな黒い西洋竜の頭部が出現する。ルシファーはカオスロックシードをドライバーから外し、ドラゴンロックシードを装着すると、ブレードを振り下ろす。

 

《ソイヤ!ドラゴン・アームズ!飛龍・オーバーロード♪》

 

上空に浮遊していたドラゴンの頭部がルシファーに被さり、展開される。黒く鱗のある鎧、仮面には竜の頭部のような装飾が施され、赤い複眼が鈍く光る。その両手には竜を模した双剣が握られていた。

 

「姿が変わった……!」

 

「言っただろ?まだまだこれからだ、ってな」

 

《ソイヤ!ドラゴン・スパーキング!》

 

ルシファーはブレードを三回振り下ろし、手に握られた双剣ーーツインドラゴンに赤い光が走り、それをディケイド・ダブルに向けて振るう。

すると、ツインドラゴンから竜の爪痕のような斬撃波が連続で繰り出され、ディケイド・ダブルはライドブッカーで防ごうとしたがライドブッカーに直撃した瞬間、予想以上の衝撃が走り、そのまま吹き飛ばされてしまう。

 

「ぐあああああ‼︎」

 

ディケイド・ダブルは大きなダメージでディケイドの姿に戻ってしまう。ディケイドはふらふらと立ち上がり、ライドブッカーを杖に身体を支える。

 

「くっ……」

 

「これで、終わりか?」

 

「まだまだこれからだ……」

 

ルシファーの言葉にディケイドは言い返す。だが実際、強がりを言っているだけでディケイド自身は少し限界が来ていた。

ディケイドはインビジブルのカードで撤退をしようと思考していた瞬間、

 

『っ⁉︎』

 

ディケイドとルシファーの間に突然灰色のオーロラが出現する。そして灰色のオーロラからは『電王の世界』のスコーピオンイマジン、『キバの世界』のシームーンファンガイアが現れた。

 

「っ⁉︎こいつらは⁉︎」

 

現れる途端、スコーピオンイマジンは斧を持ちシームーンファンガイアはサイズを構えディケイドに襲いかかる。ディケイドは先ほどのルシファーとの戦闘でのダメージもあり、攻撃を全て喰らってしまう。

 

「がああああっ…‼︎」

 

シームーンファンガイアはサイズを振るい、ディケイドを斬りつける。それに追い打ちをかけるようにスコーピオンイマジンが膝をつくディケイドに蹴りを入れる。

 

「………何の真似だ?」

 

そこで戦闘の様子を見ていたルシファーが口を開く。その声には闘いに横槍を入れられたためか、怒りが込められていた。そこでルシファーの声に応えたのはスコーピオンイマジンだった。

 

「ネロ様からの指示でございます……ディケイドを始末しろと」

 

「ちっ、ネロの奴……舐めた真似を!」

 

ルシファーは叫ぶも二体の怪人たちはそれに応えずディケイドに武器を振るう。ディケイドは辛うじてライドブッカーで応戦するが、限界も近づいてきた。

 

「ククク……ディケイドよ、これまで倒されてきた同志の恨みをここで晴らさせてもらうぞ!」

 

スコーピオンイマジンとシームーンファンガイアは地を這うディケイドに対して斧とサイズを振り上げると、息の根を止めようと振り下ろす。

 

『なっーー⁉︎』

 

二体の怪人たちは驚愕した。ディケイドに向けて振り下ろされた武器を、ディケイドは全て素手で受け止めていた。ディケイドは斧とサイズを力強く握り、スコーピオンイマジンとシームーンファンガイアを蹴り飛ばす。

 

「ふざ……けんな…!」

 

ディケイドは仮面越しで、二体の怪人たちに睨みつける。

 

「俺は、まだ、倒れるわけにはいかないんだよ……!」

 

「ふん、ほざけ!今更何ができる⁉︎」

 

ディケイドの覇気に気圧されながらも、再度武器を構えディケイドに迫る。

 

(俺は…こんなところで終われないんだ!俺はまだ何もできてない!)

 

ディケイドはライドブッカーを握る手に力を込める。

 

(俺は……まだ死ぬわけにはいかないんだ‼︎)

 

ディケイドがライドブッカーで怪人たちを迎え撃とうとした瞬間。辺りに強い風が巻き起こりながら目の前が光り輝く。

 

「くっ……⁉︎」

 

「なんだ……⁉︎」

 

『があああああああああああああああああああ⁉︎』

 

ディケイドとルシファーが突然の光景に驚く中、光から一人の人影が見えた。その人影が消えたと思った途端、二体の怪人たちが真っ二つに斬り裂かれた。

 

 



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記憶のない少女

イマジンとファンガイアは突如現れた何者かの手によってあっという間に爆発し、消滅した。

突然目の前に起きた出来事にディケイドとルシファーは動揺を隠せなかった。

 

「なっ⁉︎」

 

「っ⁉︎誰だ!」

 

ルシファーは怪人を倒した人物に向かって叫ぶ。そして、爆発によって生じた砂埃から一人の少女が現れた。

 

翠色の水晶のような透きとおった瞳に黄金の美しい髪を後ろに束ね、一つ間違えれば美少年と捉えてしまいそうな愛らしさと凛々しさを兼ね備えた顔立ち。

その身に纏う蒼を基調としたドレスに神々しい白銀の甲冑を着けた姿は、まるでーー物語の中に出てくる騎士を思わせた。

 

ディケイドはその美しさに見惚れてしまっていた。だが、同時に少女を見てたった一言だけが口から出ていた。

 

「ーー精霊」

 

ディケイドは少女のその姿だけでもそう確信することができた。少女のその雰囲気は初めて出会った時の十香に似たものだったのだ。

 

少女はその左腰に携えた鞘から柄を握り、虹のような幻想的な輝きを放つ刃を持つ西洋剣を抜き取るとディケイドと向き合う。

 

「問おう、私を呼んだのは貴方か?」

 

少女はその翠の瞳でディケイドを見つめながらそう問いかける。

 

ディケイドは声が出なかった。

突然の出来事に混乱していたわけでもない。ただ、目の前にいる、その少女のあまりの美しさに言葉を失っていた。

 

「君は…一体……」

 

「私は精霊です。貴方が私を呼び出したたのだから、確認するまでもないでしょう」

 

そう言った精霊の少女は何を当たり前なことを聞いているんだ、と言わんばかりに即答する。

だがディケイドは少女の言葉がなに一つ理解できていない。

 

「ちょっと待った!俺が君を呼び出した⁉︎」

 

「違うのですか?」

 

少女は不思議そうに可愛らしく首を傾げる。そんなふうに言われてもこっちが困る。

 

「違うどころか、全く心当たりがないんだけど」

 

「なら、貴方は何者ですか?」

 

少女は再び問いかけてくる。その問いにディケイドは困惑しながら答える。

 

「えっと……通りすがりの仮面ライダー…かな?」

 

ディケイドがそう言うと、少女は怪訝そうな表情をする。

 

「か、かめん…ライダー?何ですかそれは?」

 

まあ、それが普通の反応だろう。ディケイドは仮面の内側で苦笑を浮かべていると、背後からルシファーの声が聞こえてくる。

 

「驚いたな。ディケイドを倒すつもりが、まさか精霊が出てくるとは」

 

少女はディケイドを守るように前に立ち、カオスアームズになったルシファー向かって剣を構える。

 

「何者だ?」

 

「仮面ライダールシファー……それ以外にお前に教えることはない」

 

ルシファーはそう言って腰に携えたヴォイドセイバーを抜き取る。

 

「下がって」

 

ディケイドは片手で少女を制し、ルシファーの前に立つ。

そしてディケイドはライドブッカーからカードを取り出し構える。

 

「変身!」

 

《KAMEN RIDE・FAIZ》

 

ディケイドを赤い光が包み込み、光が収まるとその姿を変える。Φの文字を模したような金色に光る円形の複眼。全身の鎧を走る赤いエネルギーの血流ーーーフォトンストリームが輝く。

 

悪しき行い全てが黒く濁ったものではないことを教えてくれた戦士、仮面ライダーファイズだ。

 

「貴方は一体……」

 

ディケイドの変身に少女は驚愕している。

ディケイド・ファイズは専用武器のファイズエッジを構え、戦闘態勢に入る。

ルシファーもヴォイドセイバーの切っ先をディケイド・ファイズに向ける。

 

「また違う姿か…面白い」

 

「いくぞ!」

 

その言葉を合図にディケイド・ファイズはファイズエッジを、ルシファーはヴォイドセイバーを振り上げ、地面を駆けた。二人の武器がぶつかり合い、火花が散る。

 

二人は鍔迫り合いを行いながら、横走りでその場から離れ互いに後ろに飛び退き距離を取る。

 

「はあっ!」

 

ルシファーのが振り下ろす刃をディケイド・ファイズがファイズエッジで防ぎ、ルシファーの腹部に蹴りを入れる。ルシファーはヴォイドセイバーでディケイド・ファイズのファイズエッジを弾き飛ばすと、そのままディケイド・ファイズに斬りかかった直後、ディケイド・ファイズを蹴り飛ばす。

 

「甘いな」

 

「だったらこれでどうだ!」

 

ディケイド・ファイズがファイナルアタックライドカードを取り出そうとした時だった。

 

「精霊を確認。総員、攻撃開始!」

 

ディケイド・ファイズは少女の方を見ると、いつの間にか彼女の周りを十数名のAST隊員たちが取り囲んでいた。

 

ASTは少女に向かってミサイルや銃弾を発射するが、少女はその手に持つ西洋剣で全てを斬り裂いていた。

 

「っ⁉︎まずい!」

 

ディケイド・ファイズはASTの攻撃を受けている少女の元に行こうとした。

だが、ルシファーがその前に立ちはだかり、ヴォイドセイバーを変形させ、ソードモードからガンモードへ変化させた。

 

「戦いの最中によそ見とは、舐められたものだ」

 

ルシファーはヴォイドセイバーの銃口をディケイド・ファイズに向け、引き金を引く。至近距離で数発の銃弾ディケイド・ファイズめがけて飛来する。

 

「ちっ!」

 

ディケイド・ファイズは苦悶の声を上げるも、瞬時にファイズエッジを盾のように構えて後ろに飛び退く。僅かに銃弾が腕と足をかすめたが気にする余裕はなかった。

 

《ソイヤ!カオスオーレ!》

 

ルシファーはブレードを二回振り下ろすと、ヴォイドセイバーの刀身を紫色の光のエネルギーが纏いディケイド・ファイズに放たれる。ディケイド・ファイズはファイズエッジを盾にしてかろうじてそれを受け止めた。

 

「ぐぅっ…!」

 

ディケイド・ファイズは早くASTから攻撃を受けている精霊の少女の元に一刻も早く行かなければならないというのにルシファーがその行く手を阻む。

ディケイド・ファイズは苛立ちながらファイズエッジを握る手に力を込める。

 

「……あれ?」

 

「ん?」

 

激戦を繰り広げている中、ディケイド・ファイズとルシファーは視線を感じ少女の方を向くと、彼女の周りに結界のようなものが張られているため、ASTの攻撃は彼女に届いていないが、ASTが取り囲んでいるにも関わらず少女はディケイドたちの戦闘を見ていた。

 

少女はディケイド・ファイズとルシファーの方に向かって片手を掲げ、叫ぶ。

 

「《神帝閃光》(ウリエル)!【神滅槍】(グングニル)‼︎」

 

瞬間、少女の背後に虹色に輝く翼が出現する。その美しさに一瞬魅了されたディケイドだったが、あることに気がつく。その翼にはそれぞれ七色のひし形の宝石のようなものがあったのだ。

 

その内の青色の宝石が光を放ちだしたと思うと、その光は細長い形に変わり、少女の前に浮遊する。少女は手を伸ばしその光を掴むと、光はたちまち姿を変える。

 

現れたのは、蒼い槍だった。彼女の背丈より少し長く、刃先には三本の刃が取り付けられた槍だ。

 

少女はその槍を逆手を持つと、大きく構える。そう、まるでーーーこちらに投擲するかのように。

 

「……は?え、おい、ちょっと⁉︎」

 

ディケイド・ファイズは少女の突然の行動に戸惑いを隠せない。それはルシファーの方も同じようだ。

 

「おい!お前あいつに何した⁉︎」

 

「俺が知るか⁉︎」

 

ルシファーとディケイド・ファイズが揉めている間に少女の持つ槍に蒼いエネルギーが溜められて行き、それは次第に肥大化している。

 

そしてーーー

 

「はああああああああああああ!」

 

少女は巨大なエネルギーを纏った槍を放つ。その衝撃で周りにいたASTたちは吹き飛ばされ、槍が通る跡は木っ端微塵に破壊されていく。

 

「ええええええ⁉︎」

 

「ちっ!」

 

ルシファーは舌打ちを鳴らすと、出現した灰色のオーロラの中に逃げ込む。そして、取り残されたディケイド・ファイズはというとーー

 

「うおおおおおおおおおおおおおお⁉︎」

 

全力で槍から逃げていた。それはもう勢い良く、シュールなんて言葉知るかというくらい全力で。

しかし、槍はどんどんディケイド・ファイズに迫ってくる。

 

ディケイド・ファイズは走りながらライドブッカーからカードを取り出し、バックルに挿入する。

 

《FORM RIDE・FAIZ ACCEL》

 

ディケイド・ファイズの胸部アーマー・フルメタルラングが展開して肩の定位置に収まり、赤色だったエネルギー流動経路のフォトンストリームは銀色のシルバーストリームに変化する。

 

これがファイズの超高速形態にして強化形態のフォーム、ファイズアクセルフォームだ。

 

そんな凄いファイズのフォームを今この状況で使うのはどうかと思うのだが、そんな事を考えている暇はない。

 

ディケイド・ファイズアクセルフォームは左腕に装着された腕時計型の装備『ファイズアクセル』のスタータースイッチを押す。

 

《Start Up》という音声と共にディケイド・ファイズアクセルフォームの姿がその場から掻き消えたかのように見えた。正確には消えたのではなく、カブトの『クロックアップ』と同様に常人の眼では追いきれないほどの超加速に移行したのだ。

だが、ファイズアクセルフォームの場合はクロックアップと比べて制限時間がたったの十秒だ。ディケイド・ファイズアクセルフォームはその十秒の間に急いでその場からかなり遠くの場所を目指して走る。

 

《Three》

 

《Two》

 

《One》

 

《Time Out》

 

ファイズアクセルのカウントダウンが終わり、ディケイド・ファイズは超加速から解除され周りの動きが元に戻る。

 

ファイズから元に戻ったディケイドは先ほどまで自分がいた場所を見ると、そこは跡形もないと言って良いほど破壊されていた。あんな攻撃が自分に当たったらと思うと悪寒が走る。

 

 

ディケイドはその場から人目につかない路地裏に入ると突然浮遊感に襲われた。

 

フラクシナスに回収されたと気が付いたのは、仁王立ちでディケイドを待っていた般若のような形相の琴里に制裁を受けてからだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、何か言うことはある?」

 

「……申し訳ありませんでした」

 

変身を解除した士はフラクシナスの艦橋にて艦長席に座りこちらを見下している琴里に向かって土下座をしていた。それほど状況は深刻なものだった。

 

「あの短時間で私に黙って勝手に精霊と接触した上、派手に暴れてくれるなんてね。随分舐めた真似してくれるじゃない、士」

 

「いや、だってあの子が現れたのだっていきなりだったし、それにあんな状況で他にどうしろって言うんだよ」

 

琴里から放たれる剣呑としたオーラに圧倒されながら士は冷や汗をかきながら説明する。

 

「あの子?…ああ、《ヴァルキリー》の事ね」

 

「《ヴァルキリー》?」

 

琴里の言葉に士は訊き返す。

 

「さっきの精霊の識別名よ。初めて観測されたからさっきASTが命名したの。あなた彼女と面識があったの?」

 

「いや、全く知らない」

 

実際、あの少女は士が自分を呼び出したと言っていたが士自身は彼女に会ったことなどないし、会っていたとしてもあんな美少女を忘れるわけがない。

 

「まあいいわ。それで…さっき映像にあんたみたいな奴が映ってたけど、もしかしてあいつが…」

 

「ああ、あいつがパラドクスの仮面ライダールシファーだ」

 

士が答えると琴里は深くため息をつき、口を開く。

 

「そう…あんな奴が敵にいるなんて厄介ね」

 

「大丈夫だって、俺は絶対にみんなを守るって決めたんだ。そう簡単に負けないさ」

 

士の言葉に琴里は少し照れながらもそれに応える。

 

「……ありがとう。でも、士はいつも頑張り過ぎなのよ。私たちだって少なくともあなたのサポートくらいは出来るんだから、たまには私たちのことも頼りなさいよ」

 

琴里はそれだけ告げると扉の方に向かい、そのまま艦橋から退室して行った。

 

「……あ、やべ」

 

そこで士は思い出した。今晩の食材が現場に置き去りにされていたということを。それを思い出した士は急いで戦闘があった現場に戻りエコバックを回収した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから次の日ーーー

 

学校が終わり、今日こそは家でのんびりくつろいでいようと思った士は携帯で大樹と通話をしながら真っ直ぐ家路を歩いていた。

 

『それじゃあ、今日の怪人退治は僕たちに任せて士はゆっくりと休んでいなよ』

 

「なんか、悪いな。面倒かけて」

 

『いいって、そんなの。十香の件以来君ばかり戦ってるんだしたまには息抜きぐらいしなよ。士道もライダーとなったんだし、精々こき使ってあげるよ』

 

「は、ははは……」

 

大樹ならやりかねない言葉に苦笑しつつ心の中で合掌をする士だった。

 

「やっと見つけました」

 

士は声のした方を振り向くと、そこには先日士が出会った騎士のようなドレスと甲冑を纏った精霊の少女が立っていた。

 

「えっと……昨日の?」

 

「はい、無事で良かったです」

 

「どうやって俺だって分かったんだ?」

 

「昨日のあなたの気配を感知してここまで来ました」

 

取り敢えずまた彼女と会えたのは良かった。士はこの少女に昨日の攻撃について聞かなくてはならない。

 

「なあ、なんであの時俺まで攻撃したんだ?」

 

士の問いに少女は顔を赤くする。そのまま顔を俯かせ、小声でその理由を告げた。

 

「そ、その……貴方の援護をしようとしたのですが…」

 

少女の言葉に士は絶句した。

あの時ルシファーとの戦闘で援護をしてくれたのなら少女に感謝するしかない。だが実際、少女のあのデタラメな攻撃のおかげでルシファーどころか士まで危険な目にあったのだ。もし本当に援護をしようとしていたのならば不器用すぎるとしか言いようがない。

 

「えっと……その、気にすんなよ、俺は大丈夫だったんだし。ところで、名前は何ていうんだ?」

 

「名前……零奈………それが私の名前…だと思います」

 

「思う?」

 

少女の歯切れの悪い応えに士は口を開く。

 

「私は……自分が精霊である、ということしか知らないのです。あとは零奈という名前、以外の記憶はまったく……」

 

「つまり…記憶喪失ってことか?」

 

「はい。そういえば、まだあなたの名を知らないのですが…」

 

零奈にそう言われ、士はまだ自分が名乗っていないことに気づいた。

 

「ああ、そういえばまだ名乗ってなかったな。俺は五河士だ」

 

「イツカ、ツカサーーツカサ、私にはこの発音が好ましいですね」

 

零奈は嬉しそうにそう言う。そこで士は考えた。零奈が精霊なら、士は記憶喪失の彼女を救いたい。

 

「なあ、零奈………俺とデートしてくれないか?」

 

「……?」

 

士は少し顔を赤くしながら零奈にデートを申し込む。それに対し本人は首を傾げていた。

 

「デート……とはなんですか?」

 

「えっと……男女が一緒に出かけたり、遊んだりすること…かな」

 

士は一度何処かで行ったやり取りをしたような気がしたが、やはり気のせいだと思い頭の片隅に置いておく。

 

「わかりました。では行きましょう!」

 

零奈は笑顔で士の手を取り、そのまま何処かに歩き出そうとする。手を握られて一瞬、士は心臓が跳ね上がったのを感じたが、すぐに我に返る。

 

「ちょ、ちょっと待った⁉︎」

 

「どうしましたか?」

 

「いや、どうしましたかって、俺たちまだ会って二日目だぞ!いいのか?」

 

「大丈夫です。ツカサは信じてもいい人です」

 

「こ、根拠は…?」

 

「女の勘です!」

 

「勘かよ⁉︎」

 

零奈の言葉に士は思わずずっこけた。なんとも言えない理由に士は呆れ半分、戸惑い半分というかんじだが、零奈は真剣な瞳で士を見つめる。

 

「私には記憶がないのであなたに迷惑をかけてしまうのかもしれません。ですが、何故かあなたと共に居たいのです」

 

零奈のその言葉は告白にしか聞こえなかった。

 

「すみません。いきなりこんなことを言ってしまって。ご迷惑でしたよね」

 

暗い顔で俯く零奈を見て、士は慌てて首を振る。

 

「い、いや!そんなことないって、零奈みたいな綺麗な子にそんな風に言われて俺も嬉しいよ。ぜんぜん迷惑じゃない」

 

「ツカサ……」

 

士は零奈に微笑み、零奈は顔を赤くする。

 

「さあ、俺たちのデートを始めよう」

 

 

 

 

 



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戦う理由

「さーて、どうしようか…」

 

デートをすると言ったものの、どこに行けば良いのかわからず士は零奈を連れて商店街に来た。その零奈はというと、たくさんの人で賑わう商店街の風景に目を輝かせていた。

 

「おお……これはすごい人ですね」

 

「ここは商店街っていって、色んな人達がここで買い物をしたりするんだよ」

 

「なるほど……」

 

零奈は興味深々な様子で士の言葉を聞きながら周りを見回す。

 

「ツカサ、あそこは何なのですか?」

 

そう言って零奈が指を指したのはハンバーガーショップと思しき店だった。

 

「ああ、あそこはハンバーガーっていう食べ物が食べられる場所なんだよ」

 

「!食べ物っ⁉︎」

 

「食べ物」というワードに食いついてきた零奈。もしかしたら十香と同じ食いしん坊なのだろうか。

 

「えっと…行ってみるか?」

 

「はい!」

 

零奈は笑顔で言うと、上機嫌にハンバーガーショップに向かっていく。士は財布の中身は大丈夫か心配になりながら零奈の後を追う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何処かの廃墟、そこで佇んでいた黒いコートを纏った黒い髪に紅い眼の少年の背後の空間が揺らぐと、そこから少年と同じ黒いコートに身を包んだ千秋が姿を現す。

 

「どういうつもりだ、ネロ」

 

「どういうつもり……とは?」

 

「何故あの時怪人どもを仕向けた。お前が余計なことをしなければ、俺はディケイドを倒すこともできた」

 

千秋は紅い眼の少年、ネロを睨みつけながらそう言う。あの時、千秋はルシファーとなりディケイドと戦っていたところをネロが放った怪人どもに妨害されたのだ。機関からディケイドを倒すという任務を請けた彼にとっては迷惑な事だった。

 

「まあ…それについては申し訳なかったと言っておきましょう。しかし、僕にも僕の任務がありました。それに、そのおかげで精霊も確認できたのですからいいではありませんか」

 

「ふん……」

 

「今はまだ時期ではないのですよ、千秋……来るべきその時まで楽しみましょう。そのためにあなたは来禅高校に入学したのですから」

 

ネロの言葉に千秋は不愉快そうに眉をひそめると、ネロに背を向けて言った。

 

「……それより、どうやってディケイドと戦う。まともにやりあう気ならあいつを舐め過ぎだぞ」

 

「僕のやり方は違いますよ」

 

ネロはそれだけ告げると、その姿を消した。千秋はそれを見届けると舌打ちを鳴らして姿を消した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ご注文がお決まりでしたらどうぞー!」

 

ハンバーガーショップに入った士と零奈は無料でいただける店員のスマイルを受け取りつつ、メニューを見つめる。零奈の場合はどうすれば良いのか分からず士の後ろに付き添っている。

 

「えっと、俺はてりやきバーガーセットでドリンクはコーラ……零奈は何にする?」

 

士は自分のセットを決めると、零奈にメニューを渡す。メニューを見た途端零奈の目が輝き口から涎が少し出ていた。

 

「では、ここからここまでのものを全部お願いします!」

 

「「え………?」」

 

士と店員の声が重なってしまった。確かここのメニューはかなりあったはずだ、零奈が示した商品の数を数えると、かなりの額となる。

 

「えっ……ここからここまで……?えっと……?あ、あの…お客様……?」

 

士が財布の中身と金額は大丈夫なのか心配する中、零奈の豪快を通り越して奇怪な注文に店員は困惑して、士の方へと助けを求めるような視線を寄越した。

 

「あ……じゃあ、それでいいです……もう」

 

士は諦め、考えることを放棄すると、どうにでもなれと思いそのまま注文をした。その時の店員は口をぽかんと開け、しばらく放心状態だった。当然の反応だろう。

士の方はまたしても財布から重みが消えてしまった。

 

 

 

 

 

 

「んん〜!美味しいです!」

 

零奈は注文した山盛りのバーガーとポテトが運ばれると、幸せそうにむしゃむしゃと食べていく。ここまで幸せそうに食べてもらえているのなら士も嬉しいが、その代わり痛い出費だ。

 

「はあ……」

 

士はため息をつきながらてりやきバーガーにかぶりつき、先ほど貰ったレシートを見る。まさか零奈が十香と同じ食いしん坊だとは思わなかった士はこれからはもっと節約をしようと思った。そんなことは知らずに零奈はどんどんバーガーを平らげていく。

 

「なんとも始めての味でしたが……中々の美味ですね!」

 

「ははは…そうか。よかったよ」

 

士は零奈の笑顔に苦笑し、コーラを喉に流し込む。この腹ペコ王には十香と同様に満腹という言葉が存在しないのだろうか。そんなことを考えているうちに零奈は全てのバーガーを平らげ、残っていたのはバーガーが乗っていたトレイだけだった。

 

「よ、よし!次に行くか!」

 

「はい。腹八分目とも言いますしね」

 

零奈の言葉に戦慄を覚えた士は、急いでハンバーガーショップを後にする。そして再び街中に出ると零奈がある店を発見する。

 

「ツカサ、あそこは何なのですか?」

 

零奈がそう言ったのは女性向けのおしゃれアクセサリーが売っているアクセサリーショップだった。

 

「ああ、あそこはアクセサリーショップ。女の子が着けるような小物とかが売ってるんだよ」

 

士は零奈の手を引いてアクセサリーショップの中に入ると、中はおしゃれな空間で可愛らしいアクセサリーがたくさん並んでいる。

 

「いらっしゃいませ。お客様は恋人同士ですか?」

 

「えっと……多分」

 

「零奈…⁉︎」

 

店員に話しかけられ零奈が顔を真っ赤にしながらそう言うので、士はびっくりして顔を赤くしながら零奈を振り向く。そんな二人の様子を見て店員は微笑ましいものを見ているように笑顔を浮かべる。

 

「では、何かありましたらいつでも言ってくださいね?」

 

「あ、はい。ありがとうございます」

 

店員はそう言って士たちから離れていく。士が店員と少し話している間、零奈は並べられているたくさんのアクセサリーを見渡しあるものが目に入る。中央に宝石が埋め込まれていた青い十字架の可愛らしいネックレスだ。

 

「欲しいのか?」

 

「い、いえ、なんでもありません」

 

「じゃあこれください」

 

「はい、ありがとうございます」

 

零奈は断ろうとしたが、結局士がそれをレジに持っていき会計を済ませるとネックレスを持って零奈とともにアクセサリーショップから出る。

 

「その……ありがとうございます。ツカサ」

 

「気にすんなって。ほら、せっかくだからつけてみなよ」

 

士はネックレスを持って零奈の後ろに回るとその首元にネックレスをかける。

 

「ど、どうでしょうか?」

 

「ああ、よく似合ってる。可愛いよ零奈」

 

「か、かわ…いい……⁉︎」

 

零奈は顔がだんだんゆでだこのように真っ赤になる。清楚で静かな少女だと思っていたが、先ほどからころころ変わる彼女の顔を見ていると士も楽しくなってくる。

 

「…零奈?」

 

「な、なんでもありません!それより、ほら!早くデートを続けましょう!」

 

「お、おい」

 

零奈に手を引かれ、士は街中を走っていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日は楽しかったですね…」

 

零奈は満足した顔で、士と公園のベンチに腰をかける。二人はいつかのジュースサーバーからそれぞれオレンジジュースとチェリーソーダを購入しそれを飲んでいた。

 

「ああ、俺も楽しかったよ。零奈にも楽しんでもらえてよかった」

 

「いえ、私だってこの世界がこんなにも素晴らしいなんて思いもしませんでした」

 

フフッと笑う零奈にハハッと笑い返す士。零奈はベンチにコップを置くと恥ずかしそうにしながらも、嬉しそうな笑顔を浮かべる。

 

「この世界で…初めて出会えたのがあなたでよかったです、士……」

 

「零奈…」

 

「それでは!デートを終える前に、何か思い出に残ることをしましょう。私たちの初めての出会い、そして初めてのデートを祝して……」

 

「それならば、僕のショーを見て行ってはいかがでしょう……そこのカップル方」

 

士と零奈の後ろから突然声がかけられる。振り向くとそこには、黒いコートで身を包んだ男がいた。零奈が怪訝な声で男に声をかける。

 

「あなたは…誰ですか?もしかして、マジシャンとかいう人でしょうか?」

 

「はいその通りでございます、麗しいお嬢様。いかがです?僕のマジックでも少し見ていかれては…」

 

「面白そうですね。士、一緒に見ましょう!」

 

マジックは初めて見る零奈は士の手を引き、男の近くに寄ろうとした。

瞬間、突然士が零奈の腕を力強く引き自分の身体に引き寄せる。

 

「えっ……な、なんですか⁉︎」

 

「下がれ!」

 

士は零奈に叫び、彼女を自分の背中に隠すとディケイドライバーを取り出し男を睨みつける。そんな士の様子を男は愉快そうに嗤いだす。

 

「おやおや、随分酷い扱いですねぇ。僕はただショーを披露しようとしただけだというのに……」

 

「マジシャンなら普通は客に殺気を放ったりしねぇよ……そのコート、あんたパラドクスのメンバーか?」

 

士は黒いコートと得体の知れない気配で男がパラドクスのメンバーだと判断し警戒するも、男は相変わらず嗤い続け大げさな手振りとともに話す。

 

「フフフ……流石はディケイド、確かに一筋縄ではいきませんね。では改めまして、僕の名はネロ…パラドクスのメンバーです。先日は僕の手下がお世話になりましたね、《ヴァルキリー》?」

 

男がフードを外しその顔を露わにする。歳は士と少し上くらいの黒い髪に右の頬に特徴的な刺青が刻まれた顔。そして猛禽類を思わせる紅い瞳が士の目を引いた。だが何より驚いたのは先日決められたばかりの零奈の識別名を何故知っていたのかだ。

 

「零奈の識別名を…⁉︎まさか、昨日ファンガイアとイマジンを俺に襲わせたのは……!」

 

「その通り、あの怪人たちをあなたに襲わせたのは他でもない、この僕です。まあ本来なら僕が直接あなたに会いに行こうとしたのですが、生憎別件で忙しかったので彼らにあなたの相手をさせました」

 

「………で、今回は何で俺たちの前に出てきた?」

 

「あなたがどんな人物か気になっていたのですが、残念ながら任務が最優先ですので……あなたにはここで消えてもらいます」

 

やれやれといった様子で首を振るネロを警戒し続ける士。そんな士を見てネロはため息をつくとポケットからあるものを取り出す。それは狼を模した金色のレリーフがある黒いデッキケースのようなものだった。

 

ネロはデッキケースを掲げると、腰に中央部に大きな長方形の窪みがある白銀のベルトーーVバックルが装着される。

 

「変身」

 

ネロはその一言と共に手に持ったデッキケースをVバックルの中央部に装填する。すると、幾つかの虚像が現れネロの身体に重なるとネロの身体を漆黒の闇が包み込む。

そして現れたのは、狼のような姿をした黒いライダーだった。

 

「僕は仮面ライダーヴァイス……さあ、僕のカードマジックなんていかがです?」

 

「悪いけど、カードなら俺も持ってるんでね……変身!」

 

《KAMEN RIDE・DECADE》

 

士はディケイドライバーを装着してディケイドに変身する。だがヴァイスはゆっくりとディケイドに近づくと仮面の内側で口を開く。

 

「戦う前に……一つ問いたい。何故、あなたはそこまでして我々パラドクスと戦うのですか?」

 

ヴァイスの質問にディケイドは当たり前だと言わんばかりにその問いに答えを返す。

 

「単純さ…俺は、大切な人を守りたいんだよ。誰にも絶望なんてさせないために……戦っているんだ」

 

「その結果であなたは何を得たのですか、五河士君。その力を、何故自分のために使おうとは思わないのですか……?」

 

「俺のこの力は…闇を払う光……みんなを笑顔にするための鍵だ!……だからこそ!俺はこの力で……希望を守りたい!誰にも絶望なんてさせたくないんだ!」

 

「愚かですね…それほど素晴らしい力を持っていながら、それを無駄にするつもりですか……?」

 

「俺はただ力を無駄にしているわけじゃない。それは確かにお前たちから見れば無駄な行動に見えるかもしれない。…だがそれは、お前たちが力を奪うことにしか使おうとしないからだ。…人の心を支える、希望をな」

 

「………」

 

ディケイドの言葉をヴァイスは黙って聞いている。ディケイドはそのままゆっくりと目の前に立つヴァイスに向かって歩き出す。

 

「だが…俺は違う。この力…ディケイドの力で俺はみんなを守るために戦っている!それは決して無駄な戦いなんかじゃない。確かに守る力は、一見すれば弱く見えるかもしれない。だが、守るために力を使うやつはどこまでも進化していく!奪うものから、何かを守ろうと傷つく奴はどこまでも強くなれる!」

 

「だから、精霊も救うというのですか?僕には理解できません…それは世界を殺す厄災とも言われているのですよ?そんなものに……存在する価値があるとは思えないのですが…」

 

ヴァイスは不安そうな表情でディケイドの後ろで会話を黙って聞いている零奈に視線を向ける。ディケイドは零奈の方を振り向くと、言葉を続ける。

 

「世界とか、難しいことは俺にはよく分からない。でもな、これだけははっきりしてる。たとえ精霊であろうと生きる権利だってあるってことだ」

 

「そういうのを、偽善というんですよ……」

 

「それでもいい!もし、世界が精霊たちを拒絶するのなら、俺が精霊たちの笑顔を守ってやる!」

 

ディケイドは力強く、そう誓いを口にする。そして零奈を振り向くと、仮面の内側で笑みを浮かべる。

 

「知ってるか?零奈の笑顔…悪くない」

 

「ツカサ……」

 

ディケイドの言葉に零奈は目に涙を浮かべる。ヴァイスはそんなディケイドに向かって再び問いかける。

 

「五河士…あなたは、何者なんですか?」

 

ヴァイスの問いにディケイドは高らかに言い放つ。

 

「通りすがりの仮面ライダーだ。覚えておけ!」

 

そして、ディケイドはこちらを見つめてくるヴァイスに向かってソードモードのライドブッカーを突きつけた。

そんなディケイドを見つめていたヴァイスはハァ…とため息をついてからVバックルに装填されたデッキケースから一枚のカードを抜きだす。

 

「………なるほど。いいでしょう…ならばあなたのその覚悟、僕が見定めてあげましょう…!」

 

《SWORD VENT》

 

ヴァイスはカードを左腕に取り付けられた狼の頭部を模した召喚機『ヴァイスバイザー』に挿入すると、手元に黒いサーベル『ヴァイスサーベル』を出現させる。

 

「来るなら来い、俺は全てを守る!」

 

黒き狼牙のライダーと、世界の破壊者といわれたライダーがぶつかり合った。

 

 

 

 



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繋がる力

夕焼けの公園で火花が散る。

 

硬い金属がぶつかり合う音と激しく飛び散る火花が絶えることなく続いている。

互いに激しい剣劇を繰り広げる二つの人影が、公園の中央で激突した。

 

「うおおおおおおおおお!」

 

「はぁああああああああ!」

 

二つの人影が己の武器をぶつけ合い、鍔迫り合いのようにせめぎ合う。

ディケイドはライドブッカーを渾身の力で振るい、ヴァイスはヴァイスサーベルを盾のように構えてディケイドの一撃を防ぐ。

 

「フフフ……!やはり素晴らしいですね、ディケイド!まさか、他のライダーに変身せずに僕と互角に渡り合えるとは……!」

 

「その言い方だと、まだ本気じゃないってことか……。そろそろ少しは本気を出したらどうだ」

 

ディケイドはライドブッカーをヴァイスに突きつけると、ヴァイスはククク、と嗤いながらデッキケースからカードを抜きだす。

 

「フフ、確かにこのままでは、僕が不利になってきますしね……。では、お言葉に甘えて使わせてもらいますよ」

 

《STRIKE VENT》

 

ヴァイスはヴァイスバイザーにカードを装填すると、その音声と共に黒い狼の頭部を模した手甲『ヴァイスクロー』が右腕に装着された。ヴァイスクローの口部分に黒いなにかが集束していく。

 

「フフフ……狼に命を喰われないようお気をつけてください…さあ、始めましょう。闇の狩りを…!」

 

その言葉と同時に、ヴァイスクローから黒い閃光が放たれた。

 

《ATTACK RIDE・SLASH》

 

黒い閃光がディケイドに迫る中、ディケイドはマゼンタの光を纏ったライドブッカーでそれを斬り裂こうと振り下ろすが、衝撃に耐えきれずそのまま吹き飛ばされてしまう。

 

「僕が扱う属性は闇…つまり今、日が落ちたこの空間は僕の属性が強化されるということです」

 

ヴァイスはそう言うと再びヴァイスクローから黒い閃光を放出し、ディケイドはそれをなんとか躱していく。そしてライドブッカーをガンモードに切り替えて、カードをバックルに挿入する。

 

《ATTACK RIDE・BLAST》

 

ディケイドはヴァイスに向かって銃身が分身したライドブッカーから光弾を連射していく。

 

「甘いですよ」

 

《GUARD VENT》

 

ヴァイスの前方に黒い壁が出現し、光弾を全て弾き飛ばす。続いてヴァイスはカードをヴァイスバイザーに装填する。

 

《TRICK VENT》

 

瞬間、ヴァイスの隣に同じ姿の分身が三体出現した。現れた分身たちはそれぞれヴァイスサーベルを携えている。

 

「どうです。中々面白いでしょう?」

 

四体に分身したヴァイスは四方からディケイドに苛烈な剣劇を仕掛ける。ディケイドはライドブッカーで応戦するが隙が出来たところから次々と繰り出される剣に斬り裂かれ、大きく吹き飛んだ。

 

「ぐっ…⁉︎……ッ、しまっーー」

 

「これで終わりです、ディケイド!」

 

《SHOOT VENT》

 

四体の分身のヴァイスクローの口部分から漆黒の黒炎弾が発射され、ディケイドを取り囲んで炸裂する。そして、ディケイドはそのまま闇の焔に飲み込まれた。

 

「ツカサーーーッ‼︎」

 

目の前の惨劇を見て叫ぶ零奈。ヴァイスの方は黒い焔が噴煙を上げ続けているのを失望した様子で眺めていた。

 

「これで終わりですか…僕程度に殺されるようでは、あの方の障害にすらなりませんね…時間の無駄でしたか……」

 

ため息をついたヴァイスは未だに激しく燃える黒い焔に背を向けてその場を去ろうとする。

 

《ATTACK RIDE・BLAST》

 

「ぐあああ⁉︎」

 

士を飲み込んだ焔と黒煙の中、ヴァイスに向けられて青い光弾が放たれ、ヴァイスはそれを背後からモロにくらい吹き飛ばされてしまった。

それを見た零奈は黒煙の方を振り向くと、そこからは片手に青い銃器を構えディケイドを守るように立ち塞がる少年ーー海東大樹がいた。

 

「ぐっ……何者ですか?」

 

「通りすがりの仮面ライダーさ」

 

「間に合ったか!」

 

遠くからレッドガルーダを連れた晴人と士道が公園に向かって走ってくる。三人の姿を確認したディケイドは安堵の声を上げる。

 

「大樹!晴人!それに士道も!」

 

「士、僕たちも一緒に戦うよ」

 

《KAMEN RIDE・DIEND》

 

大樹はそう言うとディエンドライバーにディエンドのカードを装填し、銃口を天に向けてトリガーを引くとディエンドに変身する。それに遅れて晴人と士道も変身する。

 

「さてと、始めますか。変身!」

 

《シャバドゥビタッチヘンシーン♪フレイム・プリーズ♪ヒー♪ヒー♪ヒーヒーヒー♪》

 

「俺も…!変身!」

 

《ソイヤ!オレンジ・アームズ!花道・オン・ステージ♪》

 

晴人はフレイムウィザードリングのバイザーを降ろすと共にバックルに翳し、士道はオレンジロックシードをドライバーに装着してカッティングブレードを振り下ろす。二人はウィザードと鎧武に変身を終えた。

 

「これは驚きましたよ。まさかこの場に四人の仮面ライダーが集まるとは。フフフ、まだまだ楽しめそうですね」

 

「悪いけど、さっさと終わらせてもらうよ」

 

「おやおや、そう言わずにもっと楽しみましょう」

 

その言葉と共にヴァイスの分身たちがディエンドたちに向かって行く。ディエンドたちはそれぞれ分身を相手に戦闘を行う。

 

ディエンドは分身の振るう剣を躱しながらディエンドライバーで分身に銃撃を浴びせ、素早い動きで分身を翻弄し接近戦を仕掛ける。

ウィザードはウィザーソードガンで分身を斬り裂き、華麗な足技を繰り出し分身を吹き飛ばす。

鎧武は分身に多少苦戦を強いられているが、ナギナタモードに接合させた無双セイバーと大橙丸を振るい分身に応戦している。

そして本体であるヴァイスはディケイドに向かってヴァイスサーベルを振り下ろそうとした時、何者かがディケイドとヴァイスの間に割り込みヴァイスの剣を受け止めた。ディケイドはその姿を確認すると、青を基調とした青いドレスに白銀の甲冑を着け両手で西洋剣を持つ霊装姿の零奈だった。

 

「零奈…⁉︎」

 

「貴方たちだけには戦わせません…私の誇りに従って士、貴方に助力します!」

 

零奈はそう告げるとヴァイスのサーベルを受け止めていた西洋剣に光が集束されていく。

 

「【勝利すべき黄金の剣】(カリバーン)!」

 

零奈は手に持った西洋剣を大きく振るい、ヴァイスを吹き飛ばす。空中に投げ出されたヴァイスの身体に追いついた零奈はさらに剣を振り下ろし追撃をかける。

 

「くっ……!」

 

地面に叩きつけられたヴァイスは苦悶の声を上げる。ディケイドは視線を変えると、既に分身たちはディエンドたちの必殺技によって倒された後だった。

分身を倒されたヴァイスはゆらりと立ち上がりくつくつと嗤い始めた。

 

「クククク……流石だ、面白い!それならこちらも、とっておきを使うしかありませんねぇ…」

 

ヴァイスはそう言ってデッキからカードを抜き取ると、それをディケイドたちに見せつけるように掲げる。そのカードには黒い狼の絵が描かれていた。ヴァイスはそのカードをヴァイスバイザーに装填する。

 

《ADVENT》

 

その音声と共に上空の空間に歪みが現れる。そしてそこから現れたのは、巨大な漆黒の狼だった。その大きさにディケイドたちは言葉を失う。ヴァイスは狼の背に飛び乗るとディケイドたちを見下ろす。

 

「なっーーー⁉︎」

 

「これが今の僕のとっておき、契約獣フェンリルです。さあ、君に相応しい舞台が整いましたよ」

 

『グルアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア‼︎』

 

辺りにフェンリルの咆哮が響き渡る。フェンリルはディケイドたちに向かって駆け出すと、口から黒い焔を吐き出す。

 

「ぐうああああああ‼︎」

 

フェンリルの焔を受けたディケイドたちは大きく吹き飛ばされる。ディケイドは零奈を抱き締め焔から守ったが、全員のダメージは大きかった。

 

「士!あんなでかいのどうやって倒すんだよ!」

 

鎧武は声を上げる。まさに絶体絶命というタイミングで、ディケイドの腰に提げられたライドブッカーから一枚のカードが飛び出した。そこには巨大な西洋龍とウィザードが描かれていた。このカードを見たディケイドは咄嗟にある方法を思いつき、カードをバックルに挿入する。

 

《FAINAL FORM RIDE・wi、wi、wi、WIZARD》

 

「ちょっとくすぐったいぞ!」

 

「はっ?え、う、うわああああ⁉︎」

 

「ええええええ⁉︎」

 

「これは一体⁉︎」

 

ディケイドは背中を向けていたウィザードに手刀を打ち込む。すると、ウィザードの姿が本来ならばあり得ない変形を遂げその姿を変える。その姿は、ウィザードである晴人がそのうちに宿すファントム、ウィザードラゴンと似た姿ーーウィザードウィザードラゴンとなった。

 

『こ、これは…!』

 

ウィザードは自身がドラゴンの姿になったことに戸惑い、空中を浮遊しながらディケイドに近寄る。

 

「これが…俺とお前の力だ!」

 

『……ああ!』

 

ディケイドたちがウィザードウィザードラゴンの背に飛び乗ると、ウィザードウィザードラゴンは空に舞い上がると、フェンリルに向かって口から炎のブレスを放つ。フェンリルはそのブレスを自らのブレスとぶつけ相殺すると、爆発が起こる。

 

「くっ!力はフェンリルと互角ですか…面白い!」

 

フェンリルはウィザードウィザードラゴンに向かって爪の斬撃波を放つが、零奈と鎧武がその背から剣とナギナタで斬撃を放ちそれを防いでいく。それに続いてウィザードウィザードラゴンは尻尾でフェンリルを叩きつける。

 

『グウアアアアアアアアアア⁉︎』

 

「ちっ!」

 

《STRIKE VENT》

 

ヴァイスはヴァイスクローから黒い閃光をウィザードウィザードラゴンに向けて発射する。だが、それを零奈が一筋の光り輝く一閃を放ち斬り裂いた。

 

「やらせません!」

 

「フェンリル!」

 

ヴァイスの言葉を合図にフェンリルが黒い焔のブレスを放つ。それを阻止しようとディエンドがディエンドライバーにカードを装填する。

 

「くらえ!」

 

《FAINAL ATTACK RIDE・di、di、di、DIEND》

 

ディエンドが放つディメンションシュートが焔のブレスにぶつかり、そのままフェンリルへと直撃した。

 

『ガアアアアアアアア‼︎』

 

「俺と晴人で決める!」

 

『ああ‼︎』

 

地面に墜落していくフェンリルとヴァイス。そしてディケイドはライドブッカーからカードを取り出しバックルに挿入する。

 

《FAINAL ATTACK RIDE・wi、wi、wi、WIZARD》

 

「はっ!」

 

ディケイドはウィザードウィザードラゴンの背から高く飛躍しすると、ウィザードウィザードラゴンはその姿をまたもや変形させる。その姿を巨大な龍の足『ストライクフェーズ』に変形させるとディケイドはそのままウィザードとの合体技『ディケイドストライク』をフェンリルとヴァイスに放つ。

 

『ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア‼︎』

 

ディケイドストライクを受けたフェンリルは断末魔を上げながら爆発した。地上に降り立ち、 変身を解いた士と晴人は息を上げながら爆発を見つめる。

爆発からは変身を解除したネロが傷を負いながら姿を現す。

 

「…なるほど、ここは撤退させていただきます」

 

「逃げる気か?」

 

「ええ、僕の任務は既に完了していますので。それでは…いずれまた会いましょう」

 

ネロはそう言うと手をかざした空間から灰色のオーロラが現れ、そこに沈んでいくように姿を消していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヴァイスとの激戦を乗り越え、大樹たちは士と零奈に気を使ってくれたのか先に帰ってしまい、今公園には士と零奈の二人だけだ。

 

「あ、あの、ツカサ…」

 

「ん?」

 

「その…ありがとうございました。あの時…ツカサが言ってくれたあの言葉、すごく嬉しかったです」

 

零奈は士に貰ったネックレスを握りしめ顔を赤くしながらそう言った。士はそんな零奈に微笑みその頭を撫でる。

 

「零奈はもう俺の大切な人だ。これからも俺はお前を守り続けてやるさ」

 

士の言葉に零奈は喜びで涙を流した。記憶がなかった自分と始めてデートをしてくれ、傷を負っても零奈を守ると誓ってくれた。もはや零奈にとって士はかけがえのない存在となっていた。

だからこそ、零奈は士に告げた。

 

「ツカサ、私は貴方をーーー愛しています」

 

零奈が士の首に両手を回し、士は零奈の手に引き寄せられるまま零奈の顔に近づき、二人は互いの唇を重ねた。

 

 

 

 

 

 

そして次の日ーーー

 

来禅高校、士たちのクラスは朝から男子や女子が騒然としていた。理由は簡単、今日、このクラスに一人の転入生がやってきたからだ。

翠色の美しい瞳に長い金髪が綺麗になびいている美少女だった。そしてその美少女は、チョークを手に取り黒板に綺麗な字で名前を書く。

 

「本日よりこのクラスでお世話になります、神代零奈です。以後、お見知り置きを」

 

そう、その美少女とは十香と同じ精霊であった記憶喪失の少女、零奈だった。零奈がクラスの生徒たちの質問に答えていく中、大樹は士にニヤニヤと笑みを浮かべ、晴人と士道は苦笑、十香は零奈と友達になろうと意気込み、士の方は苦労が絶えない自分に深いため息をついていた。

 

 

 

 

 





キバット「よお!第二章も終わってこのコーナーも第二回目に突入だ!今日はこの人がゲストに来てくれたぜ!」

零奈「零奈です。本日はよろしくお願いします」

キバット「そういやぁ、零奈ってずっと剣で戦ってたけどあれが零奈の天使なのか?」

零奈「いえ、あれは私のお気に入りというだけで、私の天使は《神滅閃光》という翼です」

キバット「ああ、そういえばそんなのもあったっけ」

零奈「《神滅閃光》とは、翼にある宝石から私のあらゆる武器を呼び出し、使用することができる、要はちょっとした武器庫のようなものですね」

キバット「へぇー、でも俺は見たことないからあんま分からねぇな」

零奈「では試してみますか?」

キバット「は?試すって、ちょ、おい!なんだよその翼!え、何その槍!」

零奈「《神滅閃光》、【神滅槍】!」

キバット「なんでえええええええええええええええええええ⁉︎」

零奈「……では、次回予告です」



次回、デート・ア・ディケイドは、

「ツカサ!クッキィというものを作ったぞ!」

「ツカサ、私もクッキーを焼いてみました」

十香と零奈が転入し、士たちの賑やかな日々が続く。







「いたく、しないで……ください……」

雨が降り注ぐ中、士と士道はコミカルなウサギのパペットをつけた少女、四糸乃と出会う。




「変身」

《HENSHIN》

パラドクスの新たなライダー、ゼフィルスがディケイドに襲いかかる。


「俺、参上!」

ディケイドがクライマックスなライダーへと変身!





「俺が、四糸乃のヒーローになってやる!」

《パイン・アームズ!粉砕・デストロイ♪》

士道は四糸乃のヒーローになるために戦う!




全てを破壊し、全てを繋げ!



零奈「評価・感想、じゃんじゃん送ってください」


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