戦車と少女のスポ根もの。 (にゃあたいぷ。)
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鉄血少女の勝ちたがり戦車道①

「――鉄と血だ!」

 

 全国大会十連覇、その偉大なる黒森峰女学園の先人達が積み重ねてきた夢が踏み躙られた数日後のことだ。

 試合で酷使した戦車を各々で整備点検する最中、意気消沈する皆の重苦しい空気に耐え切れず、私は血反吐を吐き捨てるように声を上げた。私の肩に置かれた西住まほの手を振り払って、思いの丈を口にする。

 爪が肌を突き破る程に握り締めながら腑抜けた面の仲間達に訴えた。

 

「全国が注目しているのは黒森峰の――戦車道ではなく、力だ。聖グロやサンダース、知波単はそれぞれの戦車道を重んじるだろうが、それ故に勝利に執着することはない。黒森峰は持てる力を結集し、次の機会の為に保持しなくてはいけない。本大会では幾度も好機を逃してきました。OG会介入後の黒森峰は、健全な戦車道として相応しくない。目下の大問題は、派閥や伝統によってではなく――これは西住流と反西住流の対立が生んだ大きな欠陥でもあるが――鉄と血によってのみ解決される!」

 

 そうだ、私達は勝たなくてはならない。この汚名を注ぐには、勝利以外に手はない。

 あの決勝戦でプラウダ高校は誰もが誰よりも勝利に執着していた、それ故に優勝をもぎ取った。対して私達は勝利に徹することができず、西住流だとか、なんだとか、内輪の権力闘争に執着して団結する事もできていなかった。それじゃあ勝てるものも勝てないに決まっている。

 私達はもっと勝利に執着しなくてはならない。勝利、ただそれだけが私達に許されている。

 

「勝つ為には強くあらねばならない! 強い者に食い殺されるのは弱い者の宿命だ! ならば、どうする!? 強くなる為に必要なことはたった三語で済む――邁進せよ、歩み続けろ、あくまでも進み続けるのだ!」

 

 力を追い求めよ、その先に勝利が待っている。

 

「私達の道は私達で決める! 私達の鉄と血が黒森峰の命運を決するのだ!!」

 

 学園生活における最後の全国大会を逃した三年生は未だ、顔を俯けたままだ。

 しかし二年生、一年生は目に涙を溜めながらも歯を食い縛り、睨みつけるように私のことを見つめ返した。誰かは言った、歴史が証明する所に拠ると逃した機会は二度と戻らない。しかし、どれだけ現状がどん底にあろうとも、歩み始めるところから始めなければ、私達は何も得ることはできない。大丈夫だ、私達は強くなれる。逆境が私達を強靭な肉体と精神を鍛え上げる。私達の戦車道は此処から新しく始めるのだ。

 これは黒森峰女学園が再起を決意するまでの話。そして、これからの話になる。

 

 

◇  ◾️  ◇  ◾️  ◇  ◾️  ◇

 

 

 黒森峰女学園高等部、戦車道特待生一年。それが私の肩書だ。

 潮の香りがする、地面が僅かに揺れている。それは今の学園艦全盛の御時世に珍しく内陸生まれの内陸育ちな私にとっては新鮮な感覚だった。ドイツを意識した街並み、地震の多い日本では見られないような背が高くも可愛らしい住居はまるで私を別の世界へ訪れたような気にさせる。石煉瓦の道を靴底で叩いて、小気味よい音を鳴らしながら学校を目指した。

 道中、黒森峰女学園の黒色と灰色の制服を着た多くの生徒とすれ違った。私と同じくドイツ風の街並みに初々しい反応を見せる新入生、その様子を遠目から見守る先輩方の姿、そんな彼女達と同じように私もまた黒色と灰色の制服に袖を通している。

 校舎が見え始めた頃合いで、私は大きく胸を膨らませてから溜息を吐いて笑みを浮かべる。

 これから始まる学園生活が良いものになることを願って、その敷居を跨いだ。

 

「おや、貴女は確か全国大会で会ったことなかったっけ?」

「えっと何処のチームだったっけ?」

「私は長崎のチームに所属していたんだけど……」

「ああ! あの二回戦で当たった!」

 

 入学式、そんな周りのひそひそ声に耳を傾けながら指定の席に腰を下ろす。

 私の周りには見知った顔が多かった。というのも戦車道名門校である黒森峰女学園には、全国各地より戦車道の腕に覚えがある生徒が集められるのだから当然といえば当然の話。特に九州地方、中国地方、四国地方といった場所から黒森峰女学園に入学する者が多い印象がある。そんな中で私の顔を知る者は少なかった。何故なら私は中学時代に活躍できず、スカウトの目に止まることがなかったのだ。入学試験を受けることで辛うじて黒森峰女学園戦車道特待生の地位を獲得したに過ぎない、それも補欠で。

 そんな私にとって周りは同学年の戦車道大会で活躍した有名人ばかり、どうにも場違い感が半端ない。

 中学校の試合で私のことを打ち負かしたチームの選手も居るし、全国中学校大会で活躍した顔触れも多い。中学時代に無双し、前年度の全国高校生大会で優勝に大きく貢献した西住まほの妹である西住みほが居るし、私のすぐ近くには逸見エリカが座っている。中学校最後の大会で私を撃破した赤星小梅の顔もある――正直、萎縮する。

 ちょっぴり不安が残る中、入学式を終えた私は各自に割り振られた教室へと一人で足を運ぶ。

 

「君は独りかな?」

 

 授業が始まるまでの間、これまた五十音順で決められた席に座っていると後ろから話しかけられた。ゆったりと後ろを振り返ってみると、高校生にしてはやけに小柄な少女が柔らかく笑って手を振ってみせる。

 

「初めまして、私は茨城(いばらき)白兵衛(しろべえ)って云うんだ。下の名前で呼ぶ時は親愛を込めて兵衛(ひょうえ)と呼んでくれると嬉しい」

 

 君と同じ試験組だよ、と自己紹介しながら手を差し出してくる彼女にどう対処すべきか迷って「あー、んー」と目を泳がせながら間延びした声を漏らした後で意を決し、彼女の手を受け取った。

 

「私は赤池(あかいけ)鉄心(てっしん)、よろしくね」

「こちらこそ、お願いするよ」

 

 しっかりと握り返してくれる彼女に合わせて私も手に力を入れ返すと、それにしても、と彼女は苦笑混じりに告げる。

 

「お互いに男らしい名前に苦労してそうだ」

「まあ、うん、そうね」

 

 もう慣れたかな、と曖昧に笑い返した。

 これからの学園生活について、簡単な説明を受けた後、このまま今日は解散する流れになる。

 同じ新入生の生徒達が友達と近場にある喫茶店やクレープ屋に行こうと約束を交わす中、私は配られたプリントなんかを黙々とクリアファイルに入れる。これからどうしようか? まだ部屋の段ボールも開け切っていないので学寮に戻ってしまうのが良いか、それとも近場のホームセンターにでも足を運んで家具を充実させるのが良いか。

 頭の中で色々と計画を立てていると「この後の予定は空いているのかな?」と机を挟んだ正面に立つ茨城に声を掛けられた。

 もう帰り支度は済ませているようだ。

 

「特にないけど?」

 

 そう素っ気なく返せば、それは良かった。と彼女は嬉しそうに頷き返す。

 

「これから戦車倉庫に足を運ぼうと思っているのだけど、一緒にどうかな?」

 

 黒森峰女学園に来て、私はまだ戦車倉庫には足を運べていなかった。

 遠目から何度か練習風景を眺めたことはあったけど、なんだか思っていたよりも練度が低くて、控え選手の練習日だと思って早めに切り上げた記憶がある。まあ学園艦に来てから一度も戦車に触ってないし、そろそろ恋しくなってきた頃合いでもある。

 特に断る理由も思いつかなかったので、茨城の提案に乗っかることにした。

 

 道中、茨城の提案でタピオカティーを片手に戦車倉庫へと向かっている時のことだ。

 

「そういえば赤池って、どうして黒森峰に入ったのかな?」

「どうって……大した理由はないけど?」

「試験を受けてまでして入りたかったんだろう?」

 

 重ねて問われ、私はタピオカティーを一口だけ飲んでから理由を語る。

 とはいえ大した話ではない。ただ単に私の戦車道は西住流に憧れるところから始まり、その上でドイツ戦車も大好きだから黒森峰女学園を選んだ。本当に、それだけが理由で入学先を選んだ。入学する時に、私では試合に出場できない可能性が高い。と言われていたし、実際その通りだと思う。親からの反対もあった。それでも私は西住流と黒森峰女学園への想いを断ち切ることができず、今ここに立っている。

 不安はある。でも、それ以上に西住流の戦車道を学べることを思うと浮ついた気分になる。

 それを出来るだけ抑え込み、表面上だけ取り繕って掻い摘んで答えた。

 

「そういう貴女はどうして黒森峰に?」

 

 問い返すと茨城は、あっさりと答えてのけた。

 

「私はね、戦車道が好きなんだ。どうせなら一番強いところで戦車道をやりたかった」

 

 それだけだよ、と彼女ははにかんでみせた。

 

 少し、強めの風が吹いた。

 吹き抜ける風に髪が靡いて、その先には二人の女生徒が居る。背中にかかる程に長い、茶色に近い銀髪。隣を歩くツインテイルの子は知らないけども、彼女の事はよく知っている。黒森峰女学園中等部の戦車道チーム、副隊長として全国大会優勝まで導いた人物。名前は逸見エリカと言ったはずだ。

 私とは格が違う天上人、私では畏れ多くて話しかけることもできやしない。

 

「初めまして、逸見エリカ。それに楼レイラ。中等部の試合はよく見に行っていたよ」

「えっ、私の名前も覚えてる!?」

「貴女も車長をやっていたじゃない。まあマニアックなのは否めないけど」

 

 あんれ〜? 話しかけてる〜?

 あの人、前年度の全国中学生大会の覇者様に話しかけてるよー。

 怖いよー。コミュ力つよつよかよー。

 

「ちなみに私は茨城白兵衛で、彼女は赤池鉄心と云うんだ」

「いや、聞いてないし」

「へえ、二人とも、なんというか……厳かな名前だね!」

「レイラもあまり乗らないで」

 

 逸見は大きく溜息を零すと「それで用がないならもう行くけど?」と茨城に冷たく告げる。「用ならある」と茨城は云うと「戦車倉庫に向かうのなら一緒に連れて行ってくれないかな?」と図々しく問いかけた。

 

「……どうして私達があんた達と一緒に行かなきゃいけないのよ」

 

 別に良いんじゃない? と零す楼の頭に逸見が軽くチョップをして黙らせる。面倒臭いって想いが顔から滲み出てるのがわかる。

 

「理由が必要かな?」

 

 そう云うと茨城は「それじゃあこうしよう」と得意顔で提案する。

 

「今日から私達は友達になろう」

 

 メンタル形状記憶合金かよ、こいつぅ〜っ!

「はあ?」と逸見が心底嫌そうな顔をしてみせる横で「それじゃあ今日から友達だね!」とツインテイルの子が食いついた。

 これが陽キャのやりとりってやつか、こいつらメンタル強過ぎやしませんかねえっ!

 

「……念のために聞いてあげるけど、レイラとこいつが友達になるってことで良いのよね?」

「エリカと私、それから白兵衛ちゃんに鉄心ちゃんと!」

「あ〜、その名前。可愛くないから下の名前で呼ぶ時は兵衛(ひょうえ)って呼んでくれると嬉しいかな?」

「兵衛ちゃんと!」

 

 意気揚々と返す御友人の姿に逸見がとても疲れた顔でチラッと私の方を見つめてきた。

 貴女の友人でしょ、なんとかなさい。と視線だけで訴えているのがよくわかる。

 でも、ごめんなさい。その子、別に私とは友達でもないんですよ。今日、知り合ったばかりなんですよ。

 

 陽キャって怖いなー。と思いつつ、流されるまま四人で戦車倉庫まで向かうことになった。

 

 

◇  ◾️  ◇  ◾️  ◇  ◾️  ◇

 

 

 人付き合いは、あまり得意な方ではない。

 別に誰かと話したりすることを苦痛に感じることはない、けども面倒臭く感じることは多々あった。私は我が強いせいか、誰かと合わせて生きるということがとても疲れてしまう質のようでして、ひとりで居ることを好むことが多い。けど、それは決して誰かとの繋がりを断ちたい訳でもなかった。

 都合の良い時に会えて、都合の良い時に話して、都合の良い時に遊んで、都合の悪い時だけ疎遠になる。そんな風に考えているから私には小学校、中学校とちゃんとした友達ができなかった。

 私は戦車が好きだ、そして戦車道が好きだ。

 

 もし仮に私が人との繋がりを保てるなら、きっとそれは同じ趣味を持つ仲間。

 自分がしたい事の為に必要だから、私は都合良く仲間を求める。好きな事の為だから多少の苦痛は受け入れる。たぶん戦車道をやっていなかったら私はもっと駄目な人間になっていたんだろうなって思う。人生の九割以上が退屈で面白くないことばかりで、残りの一割未満に楽しいことや幸せがあるのだと思っている。人間関係も似たようなものだ。九割以上が面倒臭い、でも残りの一割未満に楽しさや幸せが詰まってる。それが好きで人との付き合いを保ちたいって思っているのだけど、やっぱり面倒臭くて深い関係には至れない。

 中学時代の友達未満とも一ヶ月もしない内に連絡が途切れちゃったし。

 いやまあ、メールをしない私も悪いのだけど――都合の良いことばかりを求める私はきっと性格が悪い。悪いのを知っているから、やっぱり人間関係は程々が良い。戦車道だと利害が一致してるから関係性がより一層に楽になる。まあ、それはそれで迷惑を掛けた時のストレスがマッハだったりするんだけど、迷惑をかけない程度には実力を付けてるし? あ、でも黒森峰に入ったら平均以下、っていうか底辺近くになっている。

 今一度、一から鍛えなおさきゃいけないな。と決意を改める。

 その為にも早く戦車に乗りたかった。

 

「さあ、着いたわよ。こちらから入れるわ」

 

 何度か足を運んでいるようであり、逸見が慣れた様子で私達を先導してくれる。

 戦車倉庫の中は、少し薄汚れていた。上級生には活気がなく、疲れ切った顔で戦車の整備をしている。それに、なんだか人数が少ないように感じられた。黒森峰の練習はきついって聞いているし、そのせいで戦車道を辞めてしまう生徒も少なからず居るという話もあった。活気がないから少なく見えるだけか? いや、やっぱり数そのものが少ないように感じられる。

 どうしたことか、と思っていると逸見が翳った顔で口を開いた。

 

「今、少し空気が悪いのよ」

 

 若干の怒りを滲ませる。事情を知っているのか、楼もまた気不味そうに目を背けた。

 

「そういえば君達は中等部からの進学だったね」

 

 なにかを察するように茨城もまた目を細めて微笑み返す。

 三人の間でなんか分かり合ったような空気を出すのは止めて頂きたい。……別に良いもん、話に入れて貰えないのなら勝手に見て回るので。あっ、パンターG型がある! ドイツ戦車の中でも特に好きなのがパンター戦車、ソ連軍のT-34戦車に対抗する為に生み出した中戦車であり――被弾傾斜を取り入れたデザインを採用したりとか、幅広い履帯だとか、75mm砲だとか、語れることはいっぱいあるけども、そんなことよりも大切なことがある。そうだ、パンター戦車は格好良いのだ! T-34戦車と見た目が似てるって? 違うんですよ! 履帯の前方が少し盛り上がってるところとか、車体前方が前に突き出す形になってる所とか! 全然違うんですーっ! あと速さ! やっぱり戦車は速くなくちゃいけない! デザインだけで云うとⅣ号戦車が大好物なんですけど、彼の戦車の最高速度は時速38kmなんですよ。このギリギリ時速40kmに届かないのは、なんというかイケメン男子の身長が168cmと聞いた時と同じ残念感がありますね。

 ズラリと並んだパンターG型に、ふんすふんすと興奮していると背後から向けられる生暖かい視線に気付いた。

 

「貴女の友人は随分と変わっているのね」

「……まあ、誘った甲斐もあるというものだよ」

 

 逸見の言葉に茨城が肩を竦めてみせる。

 ぐぬぬ、面食いの何が悪い! 謝罪と賠償を要求するニダ!




隻脚少女のやりなおしR


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鉄血少女の勝ちたがり戦車道②

 今から二十二年前、黒森峰女学園は全国高校生大会にて三連覇を果たす。

 当時、隊長を務めていたのは西住しほ。彼女の偉業は後の黒森峰に強い影響を与え続ける事になり、現在に至るまで常に優勝候補の座に居座り続ける事になった。今となっては全国高校生大会九連覇という偉業まで果たし、その勢いは留まることを知らない。

 というのが表面だけを見た時の黒森峰であり、実情とはかなり食い違っている。

 黒森峰女学園の体制は限界が近かった。西住しほが妊娠を理由にOG会を抜けたのが今から十九年前、育児が落ち着いた頃には西住流の師範となり、陸上自衛隊の戦車部隊の稽古を付け、今は高校戦車道連盟の理事長に務めている。つまり本家本元による西住流の教えは今から十九年前に途絶えてしまっているのだ。

 二度目の黄金時代、蝶野亜美の時代を経て、一時、黒森峰女学園は低迷することになった。

 それが今から十二年前の出来事になる。

 

 

◇  ◾️  ◇  ◾️  ◇  ◾️  ◇

 

 

 黒森峰女学園、戦車道第二演習場。

 広く開けた空き地にて、新入生達は四人一組となって過酷な演習に身を投じる。

 それはもう精神的にとびきり厳しいものだった。

 

「ぶろろ〜ん!!」

 

 逸見エリカが唸りを上げる。

 

「二時の方向に敵戦車発見!」

「装填良し!」

「照準よし!」

「撃てぇーっ!!」

 

 私達もエリカに続いて、指差し声出しで確認を取りながら仮想訓練を実施する――つまるところ、ごっこ遊びである。

 

「やってられるか!」

 

 操縦手役のエリカが制服帽を地面に叩きつける。

 まあ、気持ちは凄くわかる。っていうか私もどうかと思うかな、これ。周りを見渡しても、仕方なく、と云った様子で先輩の命令に従う者ばかりだ。こんな事を続けたところで――

 

「――意味がない」

 

 振り返ると兵衛(ひょうえ)が退屈そうに欠伸をする。

 

「これなら部屋で戦車道の資料を読み漁っている方が何倍もましだね、止めよっか?」

 

 そんな彼女の軽い調子の言葉にレイラは戸惑い、エリカは不機嫌そうに睨み返した。

 

「止めてどうするのよ? 一応、先輩命令なんだけど?」

 

 エリカの刺のある物言いに「ちょ、ちょっと……!」とレイラが割って入ろうとしたが兵衛が手で制する。

 

「やっぱり戦車道の練習には、戦車が必要だと思わない?」

「その戦車がないから、こんな事をさせられているのだけど?」

「まあ、その通りなんだけどね」

 

 肩を竦める兵衛の飄々とした態度にエリカが歯を噛み締める。

 

 私達が今、この状況にあるのは、稼働できる戦車の数が足りない為だ。

 基本的に戦車というものは金食い虫。戦車一輌を補充するだけでも多額の資金を必要とするし、維持費や燃料費、弾薬費と含めると目眩がする程の桁を突き付けられる。それは戦車道の名門校でも例外ではない。黒森峰では質の良い戦車を揃える為、戦車の総数を減らしている。

 この事で割りを食っているのが新入生であり、基本的に一年生の間は戦車に乗せて貰えない。三年生、二年生が練習に使った戦車を整備し、それ以外の時間は今やっているような仮想訓練という名のごっこ遊びを強要させられている。

 まだ黒森峰女学園に入学して二週間、全く以て嫌になる。

 

「だったら余計な事を――ッ!」

「戦車を用意できれば良いんだ」

 

 兵衛はあっけらかんと口にする。食い気味の言葉に出鼻を挫かれたエリカは暫し言葉を失うと、考え込むように視線を落とし、それから改めて兵衛のことを懐疑的な目で睨みつける。

 

「……そう言うからには当てはあるんでしょうね?」

「エリカは中等部から黒森峰の戦車道をやっているのだろう、何処かに当てとかはないのかな?」

「ある訳ないでしょ。中等部も余裕がないし、他にあれば先輩方が先に使ってるわよ」

 

 素っ気なく答えた後で「いや」とエリカは考え込む仕草を取り、横目でレイラを見る。

 

「レイラ、確か廃棄処分予定のまま放置されている車輌が幾つかあったわよね?」

「えっ? あるにはあるけど――中等部でもニコイチしてるから使えるものは抜いちゃってるはずだけど?」

「それじゃないわよ。去年、一昨年で高等部からⅢ号戦車が姿を消していたわよね?」

 

 それだけじゃないよ、と兵衛がポケットからプリント用紙を取り出した。

 

「本当なら練習が終わった後に見せるつもりだったんだけどね」

 

 開いたプリント用紙にが、月刊戦車道の古い記事がコピーされている。

 それは今から十三年前の戦車道全国高校生大会。確か蝶野亜美が黒森峰の隊長として、数々の伝説を打ち立てた事で有名な大会だったはずだ。

 此処を見て欲しいんだ、と兵衛は決勝戦における黒森峰女学園の車輌編成を人差し指で示した。

 

「当時の黒森峰はⅣ号戦車とⅢ号戦車の混成部隊、でも今の黒森峰には予備戦車として数輌のⅣ号戦車があるだけなんだ」

 

 エリカは顎下に親指を添えて「使える状態ではないと思うけど」と呟き、でも、と顔を上げる。

 

「一度、確認を取る価値はあるかしら……」

「ちょっと兵衛、バレたら怒られるって! 選抜メンバーにも選ばれなくなっちゃうかも!」

「レイラ、その心配は不要だよ」

 

 このままでは私達が選ばれることはないからね、と兵衛が得意顔で答える。

 

「ただでさえ二年生と一年生の実力の差は歴然なんだ。それでいて毎日のように戦車に乗る先輩方との差は今、こうして手を拱いている間にも開いているんだよ?」

「だったら少しでも早く戦車に乗れるように先輩達の不興を買わないように――!」

「こんな意味のない練習をさせて新入生をほったらかしにする先輩方に何が期待できるんだい? どうせ二年生になるまで試合に出させて貰えないのなら、せめて一年生から戦車に乗って練習がしたいんだ」

 

 兵衛が真顔で真正面からレイラを睨み返す。

 レイラがビクッと肩を震わせる。それを見て、すまない、と兵衛が大きく息を吐いて力を抜いた。

 そんな二人に「兵衛、それは違うわ」とエリカが告げる。

 

「今年の隊長は西住まほよ、あの人は決して私達を裏切らない。選抜は年功序列よりも実力を優先する、そうに決まっているわ」

 

 でも、とエリカは私達を見渡してから強い意志を以て口にする。

 

「今の私達の実力では選ばれない、私達には戦車が必要よ」

 

 兵衛は嬉しそうに笑みを浮かべ、レイラが諦めたように溜息を零す。

 

「エリカのまほ好きは相変わらずね」

「そんなんじゃないわよ。ただ、あの人が信用するに足る実力を持っているってだけよ」

 

 不貞腐れるエリカに、はいはい、とレイラは困ったようにはにかんだ。

 空気が和やかになるのを感じ取り、さて、と兵衛が今まで一度も意見を口にしなかった私に声をかける。

 

「Ⅳ号戦車であっても、Ⅲ号戦車であっても動かすのに四人は必要なんだ」

 

 とりあえず私から言えることはひとつだけ。

 

「行動を起こすのは戦車の有無を確認してからでも遅くないと思うよ。とりあえず今日は真面目に参加して、練習が終わった後に使えそうな戦車を探すのはどうかな?」

 

 その提案に三人共に頷き返してくれた。渋々と仮想練習に戻るエリカにひとつ、問いかける。

 

「西住隊長は信用できるんだよね?」

「なに? できるに決まってるじゃない」

「……レイラは?」

「できる、と思う。あの人は戦車道に背を向けることができない人だから」

 

 ふむふむ、なるほどね?

 操縦手役のエリカを先頭に再び、四人一組の戦車ごっこを再開する。

 行動を起こすなら根回しをしてからでも遅くはない。

 

 

◇  ◾️  ◇  ◾️  ◇  ◾️  ◇

 

 

 黒森峰女学園が低迷した原因のひとつにOG会の介入がある。

 OG会が持つ知識と戦術は二十二年前の時点で止まったままであり、当時の最先端も今となっては埃の被った骨董品も当然だ。これで第二次黄金期を築いた蝶野亜美がOG会に残れば話も違ったかも知れないが、そのまま彼女は自衛官の道を歩んだが為にOG会へ参加しなかった。

 そもそも蝶野亜美はワンマンアーミーの気質が強い。彼女は単騎で敵車輌を十五輌も撃破した伝説が残っており、十二時間にも渡る激闘の一騎討ちを演じたりもしてる。彼女の在籍中、蝶野亜美一人に頼る戦い方をしてしまった反動が翌年、翌々年のことであり、二年連続で全国大会一回戦敗退をしてしまっている。

 陳腐化した戦術しか持たないOG会では、正攻法で黒森峰を立て直すことはできなかった。

 

 今から十年前。当時、猛威を奮っていたのはサンダース大学付属高校のM4中戦車(シャーマン)部隊になる。

 編成車輌の全てをシャーマン系統の戦車で揃えた豪華な構成に、当時からの強豪である聖グロリアーナ女学院も太刀打ちできず、Ⅳ号戦車D型が主力の黒森峰も選手の質が落ちたこともあって敵わなかった。二年連続の一回戦敗退もあり、OG会での自らの地位が崩れることに危機感を抱いた西住しほ時代のOG会のメンバーが新たな戦車を次々と寄贈した。初めはティーガーⅡ、エレファント重駆逐戦車、何輌かのパンターG型。

 翌年、圧倒的な性能差で黒森峰女学園は無事に全国高校生大会で優勝を果たし、十連覇の夢へと駆け続けることになる。

 OG会の増長が始まったのも、この頃からだ。

 

 

◇  ◾️  ◇  ◾️  ◇  ◾️  ◇

 

 

 黒森峰女学園戦車道、隊長室前。

 私、赤池(あかいけ)鉄心(てっしん)は適当な自販機で買ったスポーツ飲料を片手に待ち伏せる。目当ての人物が現れるまでの間、退屈凌ぎにポケットに差したペンを指の上で転がすように回す。そして今日までに得られた情報を精査する。

 西住まほ。西住流の師範候補、西住しほの次の家元として期待されている麒麟児。私が憧れる西住流の本家本元、西住しほ世代のOG会メンバーから黒森峰女学院の廃れつつある西住流信仰を復活させる為の旗頭とされている。

 この程度の情報なら適当に胡麻を擦り、下手に出ていれば簡単に手に入った。

 

(後は実際に話して為人を知り、出方を――――)

 

 コツコツと足音がしたのを聞き取り、ゆっくりと姿勢を正した。

 そして廊下の角から姿を現したのは何度か御目にかかった事のある西住まほ。普段は取り巻きに周囲を固められている為、新入生が直接、話ができる機会はほとんどない。

 彼女は私の姿を確認すると露骨に嫌そうな顔を浮かべてみせた。

 情報を訂正、彼女に策を弄するのは得策ではない。

 

「西住隊長、お疲れのところ申し訳ありません」

「ん? ああ、話なら手短にしてくれると助かる」

 

 これは早期の方針変更が功を奏する形となりそうだ。

 

「新入生の戦車道に関することです」

 

 端的に要件を伝えると彼女は僅かに目を開き、私を見つめ返す。

 どうやら彼女は本当に政治的な話が嫌いなようだ。

 こりゃOG会も大変だ、と内心で思いながら口元で取り繕った笑みを浮かべる。

 西住隊長を含め、御愁傷様なことである。

 

「新入生に配備されている戦車がない事はお知りになられていますか?」

「話は聞いている」

 

 端的な言葉、表情筋に乏しい顔付き。

 感情が読み取り難いが、たぶんこれって素なんだろうな。

 最初に不機嫌な顔を見ることが出来て良かった。

 

「黒森峰には廃棄処分予定の戦車が倉庫に残っていましたよね?」

「あれはもう部品を抜いているから使えないはずだが……」

「もしレストアすることが出来たなら私達の自由に使わせて貰ってもよろしいですか?」

 

 西住隊長は、暫し黙り込んだ後で「なにかあれば言ってくれ」と素っ気ない態度で隊長室に入ってしまった。

 ……うちの隊長、ちょっとコミュニケーション能力に難があるんじゃない?

 これ、絶対に勘違いする子いっぱいるよ。



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鉄血少女の勝ちたがり戦車道③

 Patron-Tankers Association.

 支援者と戦車道の協会。通称PTAと呼ばれる組織の実態は、その名が関する通りに黒森峰戦車道を支える支援組織の事だ。

 高価な戦車を取り揃えた黒森峰の貴重な資金源であると同時に生命線でもある。彼の組織がなければ、戦車を動かすことにすら困窮し、練習も満足に出来ない日々が続くことになる。その為、黒森峰戦車道に対する発言力が強く、事ある度に口出しする生徒達から煙たがられているのもまた事実であった。

 組織の構成員は、基本的にOG会の親西住流派閥の連中で固められている。それ故にOG会はPTAを通して黒森峰の生徒に指示を送ることが多い。

 

 

◇  ◾️  ◇  ◾️  ◇  ◾️  ◇

 

 

 素晴らしきかな、黒森峰。素晴らしきかな、我が帝国。

 砂塵を上げる総数二十輌からなる戦車の大行進は、遠目から見ていても壮観だ。何度も訓練を繰り返しただけあって、陣形に乱れはない。唸りを上げる駆動音、地面を削る履帯音、ハリウッド映画も顔負けの迫力があった。黒森峰女学園の十連覇を飾る西住流の凱旋には、兎にも角にも美しき陣形によるものでなくてはならない。

 西住隊長の妹であるみほ殿は、この訓練に否定的な意見をお持ちのようだが意味はある。下手な行軍を晒すことは黒森峰、延いては西住流の誇りを汚すことになりかねない。それは即ちOG会の面子に瑕を付けることと同義だ、黒森峰が笑われるということはOG会が笑われることも同じである。

 それは許せない、自尊心が許さない。OG会から黒森峰へ、陣形訓練を多く熟すようにと指令が下されていた。

 

「随分と西住流に相応しい陣形になって来たじゃないか」

 

 天幕にて、眼鏡を中指で上げながら呟いてみせれば「此処まで鍛えるのに苦労しましたよ」と訓練の指揮を執っていた花谷が得意顔で告げる。彼女もまたOG会における親西住流派閥に属する生徒の一人である。

 

 黒森峰女学園において、西住流とは信仰の名称だ。

 西住流が素晴らしい事は認めるが、チーム競技において、個人が持つ武勇なんて高が知れている。個人の戦果が戦術的勝利に勝ることがないように、戦術的勝利が戦略的勝利に勝ることもありえない。

 勝利に必要なのは優れた作戦でもなければ、秀でた技術でもない。

 

 相手よりも強い戦車を数多く揃える、これに尽きる。

 

 これが王道、これぞ覇者の戦い方と云うものだ。

 今の黒森峰の戦力を以てすれば、馬鹿でも勝てる。圧倒的な質と量で押し潰すだけの簡単な仕事です。

 寡兵よく大軍を破る、なんていう用兵家の浪漫は中世時代で品切れだ。

 

「そう云えば、反西住流の人間はどうなりました?」

 

 花巻の言葉に私は口角を上げて答えてやる。

 

「あいつらなら軒並み普通科に転科して行きましたよ。彼女達は草チームで戦車道を続けるみたいですよ?」

 

 ああ、笑いが止まらない。くつくつと肩を揺らす。

 氷室や鬼塚を慕う反西住流の邪魔な人間を一掃し、残ったのは親西住流か反抗心のない使いやすい人間だ。

 最早、黒森峰には我らに逆らえる者は居ない。

 黒森峰女学園、戦車道全国高校生大会十連覇の年に生まれた私は、天に選ばれた神の落とし子に違いない。そんな私に与えられた使命とは、黒森峰女学院の十連覇を如何に素晴らしく彩ることに他ならない。

 私の手によって、黒森峰女学園は高校戦車道史に名を刻むのだ!

 

 私、富永の名と共にっ!!

 

 勝って当然、勝利は必定! 黒森峰と書いて、常勝と読む!

 故に黒森峰に求められる勝利とは、如何に美しく――クールで! スマートに勝つのかが求められているのだ!

 さあ、一糸乱れぬ行軍! 統制の取れた砲撃を!

 我らの戦いか勝利を飾ることにあらず! 勝利に飾る戦いをするのだ!

 

 黒森峰十連覇の立役者として、西住まほを支えた名参謀として!

 素晴らしき富岡による素晴らしい歴史が幕を開ける! 此処から私の輝かしき未来は始まる!

 その為に、今日までの黒森峰があったのだ!

 

 

◇  ◾️  ◇  ◾️  ◇  ◾️  ◇

 

 

 これは今から丁度、十年前の話だ。

 圧倒的な質と数による蹂躙を味に占めたOG会はⅣ号駆逐戦車/70(V)(ラング)、ヤークトティーガー駆逐戦車、ヤークトパンター駆逐戦車と次から次に高性能な戦車を黒森峰に寄贈し、その莫大な投資金を盾に黒森峰戦車道の運営にまで口出しをするようになっていった。

 やれ近頃の若い者は根性が足らん、やれ近頃の若い者は忍耐が足りん、私達が優勝した時はああだった、こうだった。そんな益体もない話を延々と聞かせるOG会の厄介なところは今から二十二年前、西住しほが隊長を務めた時代、つまり三連覇を成し遂げた者達が言ってくる点にある。

 実績は充分過ぎる程で貢献度も高い、それ故に誰も彼女達を諫めることが出来なかった。

 

 

◇  ◾️  ◇  ◾️  ◇  ◾️  ◇

 

 

「こころ、食事の時くらい手帳を見る癖を止めたらどうなの?」

 

 黒森峰女学園の食堂にて、格安の定食を前に手帳を捲っているとエリカに咎められてしまった。

 私は小さく溜息をひとつ零し、ポケットに手帳をしまった後で両手を合わせる。四人席の向かい側には、逸見エリカと楼レイラ、そして私の隣には茨城白兵衛(しろべえ)がちょこんと座っている。今のところ、私達は四人一組の戦車チームだ。チームになったからには出来るだけ顔は合わせておいた方が良い、というエリカの発案から特に断る理由もない時は四人で行動を共にするようにしている。

 そして息が合っているのかいないのか、テーブルに並べられた食事が被った事は一度もなかった。

 エリカは定食にハンバーグが付いてる時だけ定食を頼み、ない時はパスタなんかを好んで食べている。レイラは体重を気にしているのかカロリーの少ない食事を選ぶことが多く、兵衛(ひょうえ)は丼物に付け合わせをひとつ頼むのが基本だった。私はといえば、適当に栄養バランスが良さそうな食事を頼むことが多い。

 エリカはナイフとフォークでハンバーグを切り分けながら、それにしても、と溜息混じりに告げる。

 

「Ⅱ号戦車は中等部に引き渡されていたのは知ってたけど、まさか1号戦車が残っているとは思わなかったわよ」

 

 私が西住まほに根回しを済ませた後、私達は廃棄予定の戦車をまとめて置かれた旧倉庫へと足を運んでいた。

 そこには思っていた以上の戦車が乱雑に詰め込まれており、状態は酷く、使えそうな部品のほとんどが抜かれた状態で放置されていた。それでも、なんとか使えそうな戦車はないかと探索を進めている内に、ほぼ最奥の場所にて、整備するだけで直ぐに使えそうな戦車を二輌も発見したのだ。それが1号戦車、戦車の内壁に刻まれた文字を読み解くに、今から二十五年以上も前の代物だと発覚している。

 ただまあ修理や整備云々よりも廃棄戦車を乱雑に押し込んだ倉庫の最奥から取り出す方が苦労しそうな有様だった。

 

「辛うじて使えそうな部品を掻き集めて、ようやく使えそうなのは一輌だけだったね〜」

 

 レイラはプチトマトの刺さったフォークを振りながら残念そうに溜息を零す。

 1号戦車を見つけた後、懐中電灯を片手に使えそうな部品を手分けして探し続けること丸一日。情報を共有して、辛うじて組み立てられそうな戦車は一輌分だけだった。基本はⅢ号戦車、何型になるかはレストアを始めるまで分からない。たぶん足りない戦車も出て来るだろうし、ニコイチどころでは済まないツギハギ戦車になる予定だ。

 とりあえず中等部から戦車を借りて、旧倉庫から必要な部品を引っ張り出すとエリカは言っていた。あとで旧倉庫の廃棄戦車を整理するという名目で他所から重機を借りれないか西住隊長に相談してみるか。親子丼をぺろりと平らげた兵衛が満足げにお腹を撫でながら「裏側の壁を壊せば手っ取り早くない?」と提案してきた、物騒過ぎない?

 兵衛の裏壁破壊案は、やることやってから。ということで話を決める。

 

「あ、みほ隊長だ」

 

 不意にレイラが口を開いた。

 振り返ると、定食が乗ったトレイを両手に持った少女がおどおどと周りを見渡している姿があった。

 彼女は確か西住みほ、西住隊長の妹だ。

 

「元隊長よ、今は隊長じゃないわ」

 

 エリカは不機嫌そうに吐き捨てる。

 そういえば昨年の黒森峰中等部では、彼女が隊長を務めていたのだったか。

 なんだか気弱で頼りなさそうな子だと思った。

 友達も居ないのか、ずっと周りをキョロキョロと見渡している。

 

「声を掛けなくても良いの?」というレイラの問いかける。

「いらないわよ」とエリカが素っ気なく答える。

 

 暫く彼女の様子を横目に窺っていると卑しい笑みを浮かべた三人組が食堂に現れた。

 あの先頭の眼鏡面は確か、富永だったか。黒森峰学園戦車道科二年生彼氏なし、PTAに所属するOG会幹部の娘。なんかエリートっぽい雰囲気を漂わせようと頑張っているが、親の権威を笠に着る物腰に戦車道科の生徒達からの評判は悪い。PTAからは指示を受けるだけで、あまり自分の頭で動くことをしようとしない――というよりも、親から派手な行動をしないように言い付けられていると言った方が正しいか。鎖犬隊を自称する、どうしようもない奴らだってことは確かだ。

 彼女は西住妹に一言、二言と言葉を交わした後で富永は軽く周囲を見渡した後、眼鏡越しの双眸は私達を捉えた。卑しい笑みを浮かべながらコツコツとわざとらしく足音を立てながら近付いてくる。

 エリカは黙々とハンバーグを口に運んでおり、兵衛は眠たそうに欠伸する。あたふたしているのはレイラだけだった。

 

「貴女達、席を譲りなさい。ここは西住の方がお使いになられる」

「…………」

 

 そして私達は全員で無視を決め込んだ。         

 

「聞こえなかったの?」

「聞こえているわ」

 

 富永の威圧的な口調に反応を示したのは、エリカだ。しかし彼女の目に写っているのは、富永ではなくて西住妹である。

 

「随分な御身分ね、みほ。貴女は何時から人を使うことを覚えたのかしら?」

「……っ!」

 

 挑発的な物言いに西住妹が下唇を噛み締める。

 ポケットに手を入れる。御守りでも入れているのか、ギュウッと握り締めているのがわかった。

「まあ構わないよ」と兵衛は席を立った。

 意外だな、と思っていると彼女は隣の机から椅子をひとつ持って来て、それを机の一辺に置いてみせる。

 エリカが嫌そうに表情を歪めるが、咎めはしない。

 

「此処なら空いている。いやはや、中学全国大会で優勝したチームの隊長と御同伴できるのは光栄だよ」

「……貴女、私の言っている意味が理解できなかったのですか?」

 

 ピクピクと顔を引き攣らせる富永に、兵衛は鼻で笑って返してみせる。

 

「悪いなあ、富永さん。なんと、この机は五人用なんだよ」

 

 その兵衛の対応にエリカが堪えきれずにくつくつと喉を鳴らした。

 ドン! と拳が机に叩きつけられる。富永が私達を睨みつける、それで怯えたのはレイラだけだ。

 静まり返る食堂内に兵衛は困ったように肩を竦めてみせる。

 

「ああ、悪かったよ。そんなにこの机が使いたいなんて思っていなかったんだ。何かのジンクスだったりするのかな?」

 

 失敬、と兵衛が席を立つと続いてエリカもトレイを手に腰を上げる。レイラも慌てて、といった様子で立ち上がったので、私も彼女達に続くように椅子から腰を上げた。

 

「それじゃあ、みほ。あっちの方で一緒に食べようか?」

 

 神経も図太ければ、コミュ力もたっけえなあ! これには流石の西住流も、あうあう、とたじろいでいる。

 

「貴女、この方が誰と存じています?」

 

 富永が青筋を立てながら、されとも貼り付けた笑みで冷静を保とうと荒い息を零す。

 

「貴女、如きが、馴れ馴れしく、名前で、呼んで、良い、相手ではない!」

「……西住隊長と被ると思って名前で呼んでみたけど、駄目だったかな?」

「えっ? えっと……ううん、大丈夫だよ」

 

 西住妹が首を横に振れば、なら良かった。と爽やかな笑顔を浮かべてみせる。代わって握り締めた拳を震わせるのは富永、今にも襲い掛からんという剣幕で兵衛のこと睨みつけた。

 

「良い機会だし、友達になってくれないかな?」

「友達? 友達……私と友達になってくれるの?」

「そう言ってるよ」

 

 西住妹がにへらと笑みを零す。この表情を見て、この子って基本はボッチなんだな。と妙な親近感を覚える。

 

「いけません、それはいけません。西住殿」

 

 兵衛と西住妹の間に割って入るのは富永、西住妹を庇うように立ち塞がった。

 

「貴女と私達とでは産まれが違うのですよ、お分かりですか?」

「そうだね、君達と私達とでは分かり合うのは難しそうだ――みほ、君はどちらと一緒に学園生活を送りたいのかな?」

 

 兵衛の言葉に僅かに身を揺らしたのはエリカ、この騒動が起きてからずっと憮然とした顔になっている。みほは私達と富永達を見比べて、俯き、そして意を決したように顔を上げて――しかし、エリカと視線が合ったところで萎れてしまった。

 

「……ありがとう、誘ってくれて」

 

 でも、と言葉を紡ぐ前に「よし、わかった!」と兵衛は強引に西住妹の手を取る。

 

「礼を言われるまでもない、誘った甲斐があるというものさ」

 

 西住妹の手を引いて強引に食堂を出ようとする兵衛に、エリカは大きく溜息を零して後を追いかけた。

 エリカが続けばレイラも倣う、友達三人が食堂を出るなら私も追いかけざる得ない。

 

「待て、待ちなさい! 待てと言っているッ!」

 

 しかし、それで富永達が納得するはずもなく、彼女の二人の取り巻きが私達の行く先を阻んだ。

 力尽くでも止めてやる。という気配に兵衛は、ふむ、と周囲に視線を巡らせた。

 私もまた、身構える。とりあえず西住妹に危害が及ばないようにしておかなくてはならない。

 

「兵衛、これ以上の御節介は止めなさい」

 

 言ったのはエリカ、彼女は無愛想な面構えで虹すみ妹を真正面から見据えて告げる。

 

「貴女はどうしたいのよ?」

 

 西住妹の視線が揺れる。

 助けを求めるように兵衛、私、レイラ――そして、再び兵衛と視線が合ったところで、小さな友人は力強く頷き返す。

 こくり、と西住妹の喉が動いた。しっかりとエリカの目を見て口を開いた。

 

「私も、一緒に……行っても良い……かな?」

「そこまで言ったなら、きちんと良いなさいよ」

「あはは……」

 

 うん、うん、と西住妹は何度か頷いて、今度こそはっきりと答えた。

 

「私、もう一度、ちゃんとエリカさんと話したい」

「はあ? なんなのよ、それ」

 

 エリカはツンとした態度を取り、西住妹は誤魔化すように笑ってみせる。

 どうやら二人の間には小さくない因縁があるようだ。それもそうか、二人には中等部からのエレベーター組。良し悪しはさておき、少なからず縁はあって然るべきだった。

 歯切りしを鳴らす富永を尻目に、私達はみほを連れた五人で食堂を後にする。

 

 

◇  ◾️  ◇  ◾️  ◇  ◾️  ◇

 

 

 黒森峰戦車道が連覇を重ねるに連れて、OG会の口出しも限度を超えたものへとなっていた。

 公式戦に使う車種の指定だけならまだしも練習内容や次期隊長の指定、試合メンバーにまで指示を下すようになる。

 この事で不満が表出したのが、私の三つ上の世代……氷室前隊長の時代になる。彼女は西住流からの脱却を公言していた。強かで頭が切れる人物であり、彼女の腹心とも呼べる鬼塚前副隊長の人望もあって、黒森峰戦車道は一時的にOG会からの支配から逃れる事に成功する。

 実際、二人の対応にOG会はほとほと手を焼かされる。

 西住流に頼らない独自の戦法で全国大会に優勝した事もあり、OG会における親西住流派閥は力を大きく削がれることになった。

 とはいえOG会もただ黙って指を咥えていた訳ではない。

 

 この時、黒森峰中等部には西住流次期家元の娘、西住まほが在籍していた。

 黒森峰の衰えつつある西住流の威光を取り戻す為、OG会は西住まほを担ぐ事を決めたのだ。

 

 目的が決まってからのOG会は実に早かった。

 氷室前隊長に勘付かれる前に水面下で強かに動き、その結果として、まだ二年生の西住まほを隊長にしてしまったのだ。この騒動により、次期隊長として内定していた一人の少女が転科させられる事になり、そのまま転校してしまった。

 また此度の横暴には生徒達も反発が強く、多くの生徒が戦車道から離れる事になる。

 

 

◇  ◾️  ◇  ◾️  ◇  ◾️  ◇

 

 

 練度が低い、これでは取れる戦術も限られる。

 信頼できる仲間から渡された資料に目を通した結果、分かったのは現状の黒森峰に往年の練度の高さは引き継がれていないという事だった。椅子に体重を傾ける。さて、どうしたものか。と小さく溜息を零す。

 此処は隊長室、コンコンと扉がノックされたので姿勢を正して「入って良いぞ」と答える。

 

「……お姉ちゃん」

「みほか、どうしたんだ?」

 

 何時からか大人しくなった妹が、今日はほんのりと機嫌が良さそうだった。

 

「お姉ちゃんが心配で……今、何やってたの?」

「全国大会の選抜の為に生徒の情報を読み込んでいたんだ。しかし、うん、やはり私には新入生全てを把握することは難しそうだな」

「もう……駄目だよ、お姉ちゃん。私でも出来たんだから」

 

 そうは言っても百人以上居る新入生全ての顔と名前を覚えるのは骨が折れる。でも妹のみほは一月もしない内に覚えていたんだったか――なんとなしに具合が悪かったので適当に話題を切り替えることにする。

 

「そういえば、みほ。なにか良いことあったのか?」

「急にどうしたの?」

「いや、なんとなく嬉しそうに見えたからな」

 

 ん〜、とみほは可愛らしく考え込む仕草を見せた後、たぶんあれかな、と笑みを浮かべて少し嬉しそうに答える。

 

「私、友達ができたよ。お姉ちゃん」

「友達? 中等部からの付き合いはないのか?」

「付き合いはあるけど、友達と云える子は居なかったかな?」

 

 少し照れ臭そうに頰を掻いてみせる。

 そうか、友達が居なかったのか。私が抜けた後の中等部では寂しい思いをさせて居たのかも知れない。

 思えば私がまだ中等部に居た頃、ずっとみほが近くに居たような気がする。

 

「そうか、良かったな」

「うん!」

 

 幸せそうに頷くみほの姿に私も嬉しくなる。

 それにしても、友達か。私にも友達が……あれ、友達? 私に、友達?

 とも……だち……?

 

「お姉ちゃん、どうしたの? 急に顔色が悪くなったけど?」

「……いや、なんでもない。ちょっと明日までにしなくちゃいけない仕事があるから先に帰っててくれないか?」

「え? うん、良いけど……手伝おうか?」

「いや、良い。お前の手を煩わせるようなものでもないさ」

「なら良いけど……」

 

 渋々と心配そうに私を見つめながら隊長室を去ろうとする妹に、私は笑みを浮かべて答える。

 

「みほ、その友達を大事にするんだぞ」

「うん、わかってる。お姉ちゃん、無理しないでね」

 

 パタンと扉が閉じるのを確認して、私は机に突っ伏して頭を抱える。

 悲報、私、西住まほには友達が居なかった。



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鉄血少女の勝ちたがり戦車道④

 幼い頃、周りにある全てがキラキラと輝いて見えた。

 それは道端に転がった綺麗な形をした石だったり、公園の中にある砂場やジャングルジム。街中で偶に顔を合わせる名物猫を追いかける。路地裏に続く道、その先にある開けた景色は小さな冒険譚だ。私は何時も服を汚して帰って来るような子だったから、母は何時もしかめっ面で出迎える。素敵な絵本よりも図鑑を、可愛い衣服や人形よりもディアゴスティーニの模型を強請っていた。

 私はデジタルなSF世界よりも階差機関を用いたスチームパンクを好んだ。

 指抜きの手袋に長靴を履いて、全身に皮ベルトを巻き付けては水泳の授業で使うゴーグルを嵌めてドヤ顔を決める。小学生の時から私は重厚な鉄と油に浪漫を抱き、無駄に革ベルトを増やしたゴスロリ衣装が好きだった。そんな私が間近で戦車が走っているのを見た時、その腹の底まで響く履帯とエンジンの振動に惚れ込んでしまったのは必然だったのだと思う。

 私の戦車歴は長い。小学二年生の時から地元にある戦車道の草チームに紛れ込み、その時から戦車の中に乗せて貰っていた。弾薬とかは危ないから扱わせて貰えなかったけど、高校生のお姉さんの膝上で戦車を操縦した経験もある。

 戦車に関する資料は当時、草チームのメンバーから見せて貰っていた。

 

 私はキラキラしたものを見るのが好きだった。

 何時からか機械や計器の類は見慣れたものへと成り果て、色褪せて見えるようになった。指抜きの手袋や無駄に数を増やした革ベルトは押入れの奥にしまい込んだ。今もスチームパンクは好きだ。でも、昔のように無作為な情熱を燃やす真似はしなくなった。好奇心のままに振り撒いていた興味や関心は、何時しか人そのものへと向けられるようになる。

 西住しほ、それが今ある私の原点だ。昔の映像、3:4比の荒い解像度。西住流の軌跡と銘打たれた番組にて、戦車のキューポラから指揮を飛ばす西住しほの凛とした姿に私は見惚れてしまった。

 まるで、それは物語の主人公のように眩く輝いていて――彼ら、彼女らを見ていると凡人の私とは生きている世界も、見えている景色も違うんだなって思い知らされる。そうして当然と云うか、そうしなくてはならないと云うか、彼女達は常に生命エネルギーと呼べるものを燃やしながら生きている。常人では長くは耐えきれない熱量の中に自分を置き続けることができる限られた人類、魂を燃やし続けても底が尽きない生命力の塊。人間が持つ意志の強さが黄金のような、もしくは漆黒に似た輝きを放つのだ。

 それ以来、私はキラキラと輝いている人間の観察が趣味になった。

 

 

◇  ◾️  ◇  ◾️  ◇  ◾️  ◇

 

 

 黒森峰女学園、旧戦車倉庫にて。

 戦車倉庫の最奥に眠っていた二輌のⅠ号戦車を救出する際、重機を使わせて貰った事のついでに入り口付近も綺麗にさせて貰った。とは云ってもレストア予定のⅢ号戦車も含めた計3輌の戦車を置く場所を確保しただけに過ぎないが、まあ野晒しにしておくよりかは幾分かマシだろう。

 話し合いの結果、Ⅰ号戦車は新入生の共有財産として扱われる事が決定している。

 第二次世界大戦までに設計された戦車しか扱ってはならない高校戦車道においても骨董品に等しい戦車ではあったが、やはり使える戦車があるとないとでは天と地ほどの差がある。今までごっこ遊びに勤しんでいた事もあって大いに賑わうことになった。

 私達も勘が鈍らない程度にⅠ号戦車に触れながらⅢ号戦車のレストアを進めている。

 

 先ず最初に行ったのは、まだ使えそうな部品を持ち寄る所からだった。

 装甲に損傷が少ない戦車を素体に、先ずは車体の錆を取って洗車する。他の戦車から剥ぎ取った砲身や履帯を整備し、なんとか一輌分の部品を持ち寄ることが出来た。「まるでジャンク屋ね」と私が呟けば「偶にネットオークションで見かける継ぎ接ぎ戦車*1って、こうやって売られているのね」とエリカが溜息混じりに答える。「戦車、売るよ!」と意気揚々と言ったのはレイラ、誰も反応しなかった。

 昼休みになると、暇なのか西住妹がよく顔を出しに来る。

 

「まるでボコみたいだあ」

 

 と部品が混入し過ぎて、何型なのか分からなくなったⅢ号戦車を見て目を輝かせる。

 西住妹は、ボコられグマのボコという昔に少しだけ流行ったアニメの熱狂的なファンだ。ポケットには、いつも小さなボコぐるみを御守り代わりに入れている。余談になるが兵衛(ひょうえ)もまたボコアニメの視聴者だったようで、西住妹ほど熱狂的なファンではないが二人でボコ談義をしている事が多々ある。

 閑話休題、旧戦車倉庫に通い詰めて早一月、状況に変化が訪れる。

 他の生徒達がⅠ号戦車を使った練習をしている横で、私達はいつもの面子、いつもの旧戦車倉庫でⅢ号戦車のレストアを進めている。もう七割方は修理を終えており、走らせるだけなら問題のないところまで来ていた。

 後は砲身の点検を済ませて、搭載したら戦車として充分に動かすことができる。

 

「おやおや、ご苦労なことです。これで黒森峰女学園における稼働戦車が一輌増えた、ということですね」

 

 鎖犬隊と書かれた腕章、憎たらしい眼鏡面。彼女の後ろには何時もの二人がおり、今日に関しては更に五人の生徒を付き従えている。

 

「……富永……先輩…………」

 

 逸見エリカが鋭い目付きで睨み付ける。

 この場において、西住妹の姿はない。それは単なる偶然か、それとも西住妹が居ない時を狙ったのか。たぶん後者なんだろう、と当たりを付ける。今日はお姉ちゃんと試合をするんだって昨日、嬉しそうに話していたことを覚えている。

 そんなことを考えていると、今にも殴りかからんという気迫を身に纏うエリカの前に一歩、兵衛が歩み出た。

 

「やあやあ、お勤め御苦労なことですね。今は二、三年生の練習中で忙しいはずですが?」

「我が黒森峰は優秀なので、我々が居なくとも練習に支障は出ないんですよ」

「いえ、黒森峰の先輩方の心配はしておりません。貴女方の練習に不備はないのですか、と聞いているのです」

 

 相変わらず、メンタルが強いことでして……

 大人数を相手にしても一歩も引かず、真っ向から挑発する彼女の姿に苦笑する。

 

「先輩を愚弄する発言……痛めつけることも可能なのですが?」

「やれるものならやると良い。その時は、これを引っ張らせてもらうよ」

 

 兵衛は後ろポケットから防犯ブザーを取り出し、その紐を摘まみ取る。

 

「……ここは周りから離れているので聞こえるとは思えないのですが?」

「近頃の防犯ブザーは便利でね、位置情報も発信してくれるようにできているんだよ」

「ハッタリでしょう?」

「なら試してみると良い、私はどちらでも構わない」

 

 富永は中指で眼鏡を直し、大きく溜息を零す。

 

「まあ良いです」と一言だけ零し「我々の御役目は、そのⅢ号戦車の回収にあります」と片手で仲間達に合図を送った。

 統率された動きでⅢ号戦車を囲う上級生達に「えっ、なになに!? なにこれ!?」と悲鳴を上げる。そんなレイラはあっけなく捕捉され、エリカもまた後ろ手に拘束される。「……腐ってるわね」とエリカが唾を吐き捨てるように言ってやれば「先輩にそんな口を叩くと試合に出れませんよ?」と富永は勝ち誇った笑みを浮かべてみせた。

 兵衛はただ黙って、事の成り行きを見守っている。

 

「黒森峰への貢献をありがとうございます。これで西住流の覚えも良くなることでしょう!」

 

 まあ尤も、と富永は付け加える。

 

「私達の手柄、として報告させて頂きますがね? 反抗的な一年生に手伝わせた、とでも言っておきましょうか」

 

 レイラ、エリカの二人が旧戦車倉庫の外へと連れ出されようとしていた。

 兵衛だけは抵抗をしているのか、二人掛かりで動かそうとする先輩を相手に手を出さず、堪えるように突っ立っている。

 そして、私の肩にも先輩様の手が乗せられた。

 

 私は凡愚で臆病者だ、まるで物語の主人公のように強く輝く光に群がる街灯蛾と大差ない存在である。

 きっと私を主人公にした物語をネット上に置かれても、お気に入りは二桁にも届かず、感想なんて一つも付けば良い方だ。モブと変わらぬ存在感、居ても居なくても構わない。あの時の西住しほのような英雄になりうる者達の活躍を間近で見たいだけの端役だが、それでも浪漫というものは心得ている。英雄になり得る者達が、こんなところで挫折を味わうのは面白くない。

 手札はある。確か、こういう時に相応しい台詞があったはずだ。

 

()()()()()()()()()()()、取っておいた根回しがあります」

 

 私は先輩様の手を払って、どや顔を決め込んだ。

 

「……ふふん、良い気分ですね」

 

 鼻で笑ってやると、唯一堪えていた兵衛が力を抜いて両手を上げる。

 やめてくれよ。私に全部、投げるとか責任重大じゃん。プレッシャー半端ないっすよ。

 富永は不機嫌に表情を歪ませた後、取り繕うように笑みを作る。

 

「これはPTAの意思、強いてはOG会の指示。黒森峰の総意に基づく行動であります」

 

 つまり、と演技がかった仕草で大げさに声を荒げる。

 

「貴女の行動は彼の西住流に対する反逆行為となるのですが!! ……本当によろしいのですね?」

 

 なるほど、私が言い負かされるとそういう事になるのか。

 チラリと横目に兵衛を見れば、ぶちかましてやれ、と兵衛は笑って顎を動かした。

 エリカは懐疑的な目で、じいっと私の事を見つめてくる。

 

 大丈夫なんでしょうね? たぶん、大丈夫っす。

 

 アイコンタクトも程々に改めて富永に向き直る。

 綻びは見えた。しかし取り繕ったとは思えない富永の自信満々な笑みに、少しだけ気圧される。

 ギュッと拳を握り締めて、もう引っ込みつかないと覚悟を決める。

 

「この件、西住隊長は掌握されていますよ?」

 

 最初の段階で、私の方から伝えておきましたので。と付け加える。

 この事にレイラは驚き、エリカはジトッとした目を私に向ける。兵衛は愉快そうに笑みを浮かべていた。

 どよめくのは鎖犬隊以外の先輩方、しかし富永は片手を上げるだけで身内を制する。

 

「本件はPTAの意思、強いてはOG会の指示。と言いましたが?」

「私達は西住隊長から許可を貰っています――――」

 

 私は間髪入れず、言葉を続ける。

 

「――貴女達のいう西住流とは一体全体、誰のことを云うのです?」

 

 流石にPTAやOG会の事とは言えまい。

 富永は黙り込み、そして中指で眼鏡の位置を直しながら考え込む仕草を見せる。

 大きく息を吐き捨てた後で、それでは、とゆっくりと口を開いた。

 

「貴女方、新入生にはもう戦車を貸し出すことをやめましょう」

「えっ、そんな……!」と反応したのはレイラで、富永は愉悦に口角を上げて続ける。

「だって、そうでしょう?」

 

 富永は勝利を確信したように、笑みを深める。

 

「新入生にはもう練習用の戦車がある。となれば、二、三年生の戦車は次の全国大会十連覇に向けて使わせてもらうのが合理的かつ効率的というものですよ」

 

 なるほど。こういう連中がのさぼれば、反西住流の派閥も生まれる訳だ。

 エリカを見やり、そして兵衛を見やる。

 二人とも黙って頷き返してくれたから、このまま引き下がらないと決めた。

 

「酷い先輩も居たものですね」

「これは貴方達の選択ですよ」

 

 眼鏡越しに富永の目が鋭く私を射貫いた。から、私も豪胆に笑みを浮かべて応えてやる。

 ふん、と富永は不機嫌そうに鼻を鳴らして仲間達を引き上げさせた。

 とりあえず、この場は凌いだか。安堵している暇はない。

 

 鎖犬隊を見届けた後、私はこの場を三人に任せて倉庫裏の広場まで駆け出した。

 

 

◇  ◾️  ◇  ◾️  ◇  ◾️  ◇

 

 

「て、てぇへんだ! てぇへんだ!」

 

 戦車倉庫裏の広場にて、

Ⅰ号戦車を使った訓練をしていると赤池(あかいけ)鉄心(てっしん)が慌てた様子で駆け寄ってきた。

 彼女は逸見エリカや茨城白兵衛、最近では西住隊長の妹である西住みほと一緒に居ることが多くて――三人と比べると影が薄いというか、あまり印象に残らない人物だった。

 その彼女の汗だくで尋常じゃない様子に私達、新入生組はどよめいた。

 

 私達は彼女に対して、借りがある。

 というのも戦車を使った練習のできない新入生の為にⅠ号戦車を見つけ出し、それを独り占めせずに解放したのは彼女達なのだ。まだ戦車の数は足りてないけども、それでも自分達で管理できる戦車に新入生は皆、歓喜の声を上げた。今はⅢ号戦車をレストア中で「これで上級生の鼻を明かしてやるんだ」と兵衛が意気込んでいたのを覚えている。

 そんな彼女達の一人の慌てた様子に、全員が意識を向けた。

 

「えっと、どうしたんです?」

「赤星さん!」

 

 私が声を掛けると彼女は縋るように私の胸を掴み、震える声で叫んだ。

 

「あいつらが()()()()()()()()()()しているんです!」

「え……っ?」

 

 動揺して声が詰まった私に代わって、後ろから様々な声が上がった。

 

「なんですって!?」

「ふざけるな!」

「整備ばかりで全然、戦車を使った練習をさせてくれない癖に!」

「これなら草チームにでも行った方が為になるわよ!」

「ほんっと、上級生は好き勝手やって……ッ!」

 

 その怒りを露にする声を背に受け止めて、赤池がゆっくりと顔を上げる。

 あれ? 赤池の口元が今、笑っていたような?

 しかし、気のせいだったのか。赤池は悲痛な顔で歯を食い縛りながら皆に答える。

 

「許せない……()()の苦労も知らずに……! でも()()から戦車を奪おうとしているのは上級生の皆じゃない、鎖犬隊を名乗る連中よ!!」

 

 あいつらか! と新入生の一人が叫んだ。

 

「西住流の威を借る女狐め!」

 

 飛び出した言葉に「そうよ、あいつらは西住流を騙っているのよ!」と赤池が被せる。

 

「私が夢見た西住流はこんなんじゃない……西住流を穢しやがって……許せない!」

 

 震えた声は演技に見えない、その殺意に思わず息を飲んだ。身震いするほどの激情を放っていた彼女は、はっ、と目に正気の色を取り戻して顔を上げる。

 そして握り締めた手を開いて私達に訴える。

 

「あいつらが来るかも知れないけど、西住隊長には既に話は通してるから安心して! それじゃあ私、この事を今から隊長に伝えてくるから!」

 

 強気の笑顔を浮かべた姿に皆が強い意志を込めて、頷き返した。

 走り去る彼女、その数分後に犬鎖隊の腕章をした一人が私達の元に訪れる。

 確か彼女は花巻先輩だったか。

 

「これから先、新入生に戦車を貸し出すことはなくなった。それもこれも全て……」

 

 しかしもう皆の意思は固まっていた。

 

()()から戦車を取り上げようとした癖に! 今までも一度だって、まともに貸してくれなかった癖に!」

「はあっ!? 何を言って……Ⅰ号戦車如き……」

「ふざけるなよ! 西住流、いえ! OG会の犬め! PTAの手先め!」

「おい、ちょっと待てって……!」

「帰れ! 私達の戦車を守るんだ! Ⅰ号戦車、装填よーし!」

「撃っちゃえーっ!!」

 

 砲撃音が鳴り響いた。

 勿論、人を狙って撃っちゃいなかったが威嚇には十分だったようで鎖犬隊の方々は、ほうほうの体で逃げ出す他になかった。

 新入生の仲間達が勝利の歓声を上げる中で、私はひとり額に手を打ち付ける。

 

 あゝ、これはもう大事になる予感しかしない。

*1
前期型と後期型の部品が混在している戦車のこと、造語。




簡易人物紹介

・逸見エリカ(現一年生。原作開始時、二年生)
 作品毎にキャラクターの変化が激しいけど、なんとなしにどの作品でもエリカっぽさが残る不思議な子。
 フェイズエリカでは中等部の頃から黒森峰に所属しているが、プラウダ戦記では高等部で初めて入学したっぽい。本作では、黒森峰入学は中等部ということにしている。
 また当作でのキャラ付けは、アニメ四割、フェイズエリカ三割、リボンの武者二割、プラウダ戦記一割、といった割合になってる。


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鉄血少女の勝ちたがり戦車道⑤

レストア戦車。ずっとⅣ号戦車とⅢ号戦車を勘違いしていました。
申し訳ありません、Ⅲ号戦車が正しいです。


 ボコられグマのボコ。

 少し前に流行った子供向けのアニメであり、いつもボコが殴られ蹴られてボコられる。

 懲りずに何度も何度でも立ち向かっては返り討ち、骨が折れても心は折らず、それでもと健気に何度でも立ち上がる姿に心を打たれる者はいた。拳ひとつでは世界は何も変えられぬ、力を持たねば理不尽に対抗できぬ、心だけがあっても意味はない。それでもだ、それでも人には絶対に譲れぬなにかがある。ボコは、それを教えてくれるのだ。

 何度、心が折れそうになっても、何度、挫けそうになっても、何度、地に膝を付けたとしても、何度でも、何度でも立ち上がっては立ち向かうのだ。

 だって、それがボコだから!

 

 

◇  ◾️  ◇  ◾️  ◇  ◾️  ◇

 

 

 私、西住みほは姉であるまほと一緒にいる事が多い。

 学寮は少し距離が離れている事もあり、姉には姉の付き合いもある事を考慮すると顔を合わせ難い。というよりも鎖犬隊を自称する人達が、親西住流派閥を自称する人達が、ちょっと……いや、かなり邪魔で仕方なかった。なので私達が顔を合わせられるのは戦車道という建前がある時が多く、そして姉は戦車道に対して、誰よりも真摯であったが為に話題も戦車道に関する事が多くなる。

 これは、そんな姉との一幕であり、隊長室にある備え付けの椅子に腰を下ろしていた時の話だ。

 

「そろそろ全国大会の編成を決めなくてはならない」

 

 姉は要点だけを掻い摘んで話し出すことが多い。

 ふと思い出したかのように飛び出す言葉は、周りを誤解させやすく、姉に近寄り難い雰囲気を形成させる。実際、姉は会話が苦手だ。戦車道に関する事なら話せるけど、基本は言葉足らずで、話を噛み砕かないと理解できないことが多々ある。妹の私でさえもそうなのだから、他の人からすると更にちんぷんかんぷんなことになっているのではないだろうか。必要最低限以下しか話さないので周りの人からよく怖がられている。そのことを注意すると、怖がらせているつもりはない。で話を打ち切っちゃうのが姉の悪い癖だった。

 まあ今は二人きりの時は構わないんだけども。

 

「高校の全国大会って早いよねえ」

「それは仕方ない。何処の高校も条件は同じだ」

 

 戦車道全国高校生大会は本格的な夏が訪れる前に全ての日程を終える。

 具体的な開催期間は大まかに、五月の終わり頃から六月いっぱいまでとしている事が多い。その為、新入生は充分な訓練を受けられない事が多く、チームメンバーが充分に足りている高校が一年生を採用することは少ない。それこそ、私のお姉ちゃんのような類稀なる才能の持ち主でなければ選ばれることはない。

 ただ今年の黒森峰に限っていえば、新入生を採用せざる得ない理由があった。

 それは、OG会敷いてはPTAの過剰介入によってまだ二年生の姉を隊長に就任させた騒動であり、その影響で過半数を超える生徒が黒森峰戦車道を辞めてしまった。特に能力の高い生徒から軒並みいなくなってしまったので、今の黒森峰に往年の力は残されていなかった。

 全国大会のことを思うと、今から億劫になってくる。

 

「みほはもうメンバーを決めているのか?」

 

 問われて、私は首を横に振る。

 

「でも、気になる子なら居るかな?」

「言ってみろ」

「まだ声も掛けていないけども……」

 

 短く促されて、私が想定しているメンバーを口にする。

 

「砲手と装填手は以上で……あと操縦手に井手上武子さん、それから通信手に赤池鉄心さん」

「武子のことは知っているが、赤池とは誰のことだ?」

「もう新入生の名前と顔をまだ覚えてないんだね」

 

 まあ鉄心、こころは突出した能力もなければ、個性的な性格をしている訳ではない。

 どちらかと云えば、影が薄い方で姉の覚えが悪いのも仕方ないと云えば仕方なかった。

 姉は少し拗ねるように眉間に皺を寄せるが、何か言い返したりはしなかった。

 

「まあ、みほの選んだ人選だ。間違いはないのだろう……しかし新入生から選ぶのなら逸見や茨城でも良いんじゃないのか?」

「あ、茨城さんのことを知っているんだね」

「……知人が評価していたからな」

 

 逸見エリカ、茨城白兵衛。二人共、能力だけを考えるなら不足はない。

 でも、二人には私のチームに入れるよりも、もっと良い役割がある。

 

「エリカさんと兵衛さんは私とは別に新入生チームを作る方が良いかな」

「今の二年生に匹敵する程か?」

「うん。それに二人共、私のやり方よりもお姉ちゃんの戦車道の方が合ってると思うから」

 

 二人共に戦車の性能を十全に発揮する能力に長けており、特にエリカは戦車の長所を相手に押し付ける戦法を得意としていた。

 

「もし試合で使うなら、戦車はレストア中のⅢ号戦車になるかな?」

「あ、お姉ちゃんも知っていたんだ」

「新入生の……ああ、そうだ。彼女だったか、その赤池が許可を取りに来てたよ」

 

 やっぱり先にお姉ちゃんに話を通していたんだ。

 上級生からの妨害を予想し、誰も逆らうことができないお姉ちゃんに話を通して楔をする。効果的な一手を誰よりも早くに打つ辺り、やっぱり、こころは頭が回る。お姉ちゃんを尊敬しているみたいだから、ちょっと申し訳ないけど、それでも私にはこころみたいに盤外にまで視野を持てる人が必要だった。

 単純な能力だけならエリカや兵衛の方が高い。正面衝突ならこころがエリカと兵衛に百回挑戦しても勝つことはない、でも搦め手を使うならエリカと兵衛が百回挑戦しても、きっとこころには勝てない。

 でも、先手先手で相手の出鼻を挫くやり口は、西住流的ではなかった。

 本人には言い難いけど、こころの能力は西住流では活かされ難いものだ。

 

「逸見達は使えるか?」

「……うん。指揮を執るのは難しいだろうけど、戦車一輌で戦うだけなら問題ないよ。二人共、お姉ちゃんのことが大好きだからPTAに染まっている人達よりも使い勝手が良いと思う」

「力は示せるか?」

 

 上級生達に納得させることができるか、ということか。私は力強く頷き返した。

 

「うん。正直、富永さんの訓練しか受けてない二年生の人達よりも戦える」

「なら、決まりだな」

 

 姉は椅子の背凭れに体重を傾けて、小さく笑みを浮かべる。

 

「最初は与えられた駒だけで戦うつもりだった。でも、少しくらいは私の手駒を用意させてもらっても良いだろう」

 

 三輌、できれば四輌。と姉は言い。選抜試合を行うことを口にした。

 

 

◇  ◾️  ◇  ◾️  ◇  ◾️  ◇

 

 

 Ⅲ号戦車、外面だけはJ型。中身は新旧の部品が混ざり過ぎて何型なのか判別ができない。

 西住隊長から選抜試合を行う旨が伝えられて、その際に赤池鉄心ことこころはみほに引き抜かれた。

 おかげで私達は、こころの代わりを探すことになり、そうして選ばれたのが――――

 

「あ、赤星小梅です! よろしくお願いしますぅ……」

 

 ――彼女という訳だ。旧戦車倉庫、Ⅲ号戦車J型(仮)の前で赤星が畏まって頭を下げる。

 

「よろしくー! ほら、エリカもちゃんと挨拶して!」

 

 幼馴染が私に挨拶を強要してくる。丁度良い子を知ってる、と言っていたので任せたらこれだ。

 

「今更、挨拶もなにもないじゃない……」

 

 彼女、つまり赤星小梅の事はよく知っている。

 というよりも彼女は中等部時代からの付き合いで、試合ではみほと連携していることが多かった印象があった。

 いや別に嫌いという訳でもないけど、ちょっと思うところがあるだけだ。

 

「私の方は挨拶しておいた方が良さそうだね。茨城(いばらぎ)白兵衛(しろべえ)だよ、兵衛(ひょうえ)って呼んでくれると嬉しいな」

 

 兵衛は相変わらず、誰に対しても態度を変えず、物怖じすることがない。

 それが頼りになることもあるし、いや、ちょっと待てって呼び止めたくなることもある。とはいえだ、今回に限っては悪い流れではない。連携が取れない程に仲が悪いのは駄目だが、戦車チームのメンバーは必ずしも仲良しである必要はない。

 赤星の相手はレイラと兵衛に任せて、私は私の役割を全うすれば良い。

 

「挨拶が終わったなら訓練を始めるわよ。連携の見直しもしないといけないし……もう選抜試合まで時間がないわ」

 

 私がいうとレイラは少し呆れるように、兵衛は当然だと云わんばかりに頷き返す。

 今年の黒森峰は選手層が薄い。その事を喜んで良いのかどうかは分からないが、転がり込んできた好機を無下にする趣味はない。

 レギュラーの座、先輩達を押し退けてでも必ず掴み取ってやる。




簡易人物紹介

・楼レイラ(現一年生。原作アニメ開始時、二年生)
 公式スピンオフ作品フェイズエリカ、にて登場する逸見エリカの相方的ポジションの子。
 エリカとは小学生からの付き合いであり、中等部時代は車長として、エリカと共にみほとの模擬戦に臨んだことがある。
 高等部になってからは頭角を現すエリカに置いて行かれる形で選抜から外されて、外から応援することになった。

 黒森峰関連の設定はプラウダ戦記を参照にしている当作において、
 そもそも戦車の数が足りていないので必然、ひとつの戦車に実力のある者が固まるようになってしまった。
 新入生組の中では、実力は高い。
 西住みほ、逸見エリカと比べると見劣りするが、上位に入る程度の能力は持っている。
 車長希望ではあるが、ひと通りの役割は熟せる。


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