紫の星を紡ぐ銀糸N (烊々)
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プロローグ 帰ってきた女神補佐官(ギンガ)

 お久しぶりの初投稿です。



 皆さん、お久しぶりです。お初にお目にかかる方は初めまして。プラネテューヌの女神補佐官、ギンガと申します。

 

 初めましての方のために、少しだけ私のことと、前作のことをお話しさせていただきます。

 

 女神補佐官というのはプラネテューヌ教会にしかない役職で、主なお仕事は基本的に女神様や女神候補生様の身の回りの世話や教育、鍛錬などを行うことです。それ以外にもプラネテューヌの衛兵や諜報員の戦闘指南も任されています。有事の際のプラネテューヌの兵の司令役も担っています。

 

 言うならば女神補佐官とは教祖と対を成す、国のトップである女神様の直下の双璧のようなものあり、教祖であるイストワールがプラネテューヌの「知」を司るのなら、私は「武」を司るなどと言われています。「武」を司るとはいっても、私の実力は女神様には及びませんが。まだギリギリ候補生の皆様より私の方が強いかもしれませんが、超えられるのは時間の問題でしょうね。

 

 

 次に、前作についてかるーーーーくおさらいします。

 

 ゲイムギョウ界の主要四国、『プラネテューヌ』、『ラステイション』、『ルウィー』、『リーンボックス』の間では、長きにわたり世界の覇権を巡って争う歴史が続いていました。

 

 しかし、その状況を良しとしない現在のプラネテューヌの女神、ネプテューヌ様の提案から、その主要国間で武力によるシェアの奪い合いを禁止する『友好条約』が締結されました。

 

 友好条約を結んだことにより、女神様たちは以前よりも友好的な関係を築き上げていきました。その間に様々な事件が起こり、女神様やゲイムギョウ界に何度も危機が訪れましたが、女神様たちが力を合わせてこれを乗り越えていきました。

 

 ちなみにその過程で私は一回死にました。なんだかんだで生き返りましたが。

 

 そしてその危機を乗り越えた後、これまたネプテューヌ様により友好条約の破棄が宣言されました。マイナスな意味ではありません、これからは条約がなくとも真の絆で結ばれた友として、共にゲイムギョウ界を守り発展させていくという意味でした。それに他の国の女神様たちも賛同し、友好条約は破棄された……というのが前作のラストです。

 

 

 そしてその友好条約の破棄から数年、私は今、プラネテューヌの女神、ネプテューヌ様に………

 

 ………正座させられています。

 

「ネプ子さんが怒っている理由……わかる?」

「……申し訳ありません、わかりません」

「昨日、何してたの?」

「ユニ様の鍛錬にお付き合いを」

「一昨日は?」

「ロム様とラム様と遊んでいました」

「その前の日は?」

「ブラン様の古書店巡りに荷物持ちとして御一緒させていただき……」

「その前の日は?」

「ベール様とオンラインゲームを」

「……その前の日は?」

「ネプギア様と……」

「ネプギアとなら別にいいや、その前の日は?」

「ノワール様の趣味の裁縫のお手伝いを」

「ふーん、その前の日は?」

 

 ネプテューヌ様のご機嫌がどんどん悪くなってしまっている……⁉︎ 何故でしょう? それに、質問の意図がわかりかねます……私はどうしたらいいのでしょうか。

 

 それにしてもネプテューヌ様は怒っていても可愛らしいお方ですねぇ。いくらでも怒られたいです。しかし、怒っているよりも笑っている姿の方が可愛いらしいので、ご機嫌を直して欲しいのですが……

 

「ギンガは……」

「は、はい」

「ギンガはわたしの女神補佐官でしょー⁉︎」

「そ、その通りです……」

「わたしを一週間もほったらかしにして! 他の子とばっかずっと一緒にいて! そんなのダメだよー!」

「申しわけありません……しかし、女神補佐官としての職務は全うした上での外出ですし……」

「一番の職務はわたしと一緒にいることでしょ⁉︎ これには温厚さが取り柄の主人公のネプ子さんでもおこだよ、おこ!」

 

 ……確かに、ネプテューヌ様の怒りは最もですね。私はネプテューヌ様とネプギア様に仕える身。他の国の女神様からのお誘いがあっても、ネプテューヌ様を最優先に考えればなりませんでした。それによりネプテューヌ様に不愉快な思いをさせるとは……女神補佐官として何とも不甲斐ない。

 

「……っと、ここら辺にしておかないとまたギンガが切腹するとか言いだしかねないからお説教はここまでしようかな」

「……」

「最近はギンガがわたしの命令だけじゃなくて自分の意思で行動するようになってくれて嬉しいけどね」

「ネプテューヌ様……!」

「でもそれとこれは別だよ! 放っておいたらすぐにわたしのことを蔑ろにするダメダメ女神補佐官のギンガのために『プラネテューヌ女神補佐官基本法』を制定します!」

「……なるほど、いいですね」

「あれ? 意外と乗り気?」

「はい。教祖と違い女神補佐官はこの国にしかない役職ですので、条約や法律など色々なルールがある教祖と違い女神補佐官は慣習法のようなものしかありません。ですから、そのように成文化させていただくと私としても有り難いと言いますか……」

「なんかすごい真面目な話になっちゃった」

 

 ネプテューヌ様……こんな私のためにそんな素晴らしいものを作ってくださるなんて……!

 

「ええと、じゃあ条文を読むよ!『第一条 女神ネプテューヌの命令は絶対』!」

「はい!」

「うわぁ、すごいいい返事……『第二条 女神ネプテューヌの許可なしに他の女神にデレデレしてはならない』!」

「……はい!」

「あ、少し返事に躊躇があったね」

「そ、そんなことは……」

「どうだかねー『第三条……うーん、こっからまだ思いついてないんだよねー」

「そんなぁ……!」

「ねぷぅ⁉︎ なんでそんなショック受けてるの⁉︎ そんなに楽しみにされるなんて意外だったよ……」

「……『第三条 女神ネプテューヌがあまりにも仕事をしない場合は強制的に執務室に連行するか、ギルドまで連行しクエストをさせることができる』」

「い、いーすん⁉︎」

 

 いきなり現れて条文を追加したのは、プラネテューヌの教祖、いーすんことイストワール、私の相棒です。

 

「『第四条 女神ネプテューヌがプラネテューヌの統治を放棄した場合、第一条第二条の効力は失われ、女神補佐官の命令権は女神候補生に移るものとする』」

「ちょっと! 勝手に条文を作らないでよ、いーすん!」

「当たり前のことを追加しただけです。それに、ネプテューヌさんはギンガさんを怒れる立場ですか?」

「え?」

「この一週間他の女神様たちと遊びながらも与えられた仕事はちゃんとこなしていたギンガさんと、この一週間ほとんど仕事をすることなくゲームばかりしていたネプテューヌさん。さて、どちらがどちらをお説教する立場でしょう?」

「それは……」

「そして、ギンガさんもです! ネプテューヌさんを甘やかしてばかりいないで、ちゃんと叱るところは叱ってお仕事をさせてください!」

「はい……」

「ですからね! 私は……くどくどくどくど」

 

(いーすんの長いお説教が始まっちゃったよ……)

(ネプテューヌ様、いーすんがお説教に夢中になっているうちに逃げましょう)

(そうだね!)

 

 そのままネプテューヌ様と共に物音一つ立てずにその場を去りました。

 

「くどくどくどくど……あれ? ネプテューヌさん? ギンガさん? ……ぐぬぬぬ、また逃げられましたー!」

 

 

 

 

 

 

「いい天気ですね」

「そうだねー!」

「そういえば、ネプギア様のお姿が見られませんでしたが」

「今日はユニちゃんと朝イチでお出かけだって」

「ほほぅ、仲の良いことは良いことです」

 

 さて、ノリで外に出てきたはいいですが、何をしましょうかね。このままネプテューヌ様とお散歩というのも乙なものですが。

 

「ねーねーギンガ」

「なんでしょう?」

「戦闘訓練しよーよ」

「これまた急ですね、構いませんけど」

「この間あいちゃんが、ギンガが戦闘スタイル大きく変えたって言ってたから気になってたんだよね。ちょうど外に出てきたしいい機会かなって」

 

 そうです、私は色々と自分の力不足を痛感したので、以前と大きく戦闘スタイルを変えたんです。メインウェポンがネプテューヌ様と同じような刀剣なのは変わりませんが、色々と装備が増えました。今からそれをネプテューヌ様にお見せしましょうかね。

 

「いいですね、やりましょうか」

「よーし! そうと決まれば早速どっか広めのダンジョンに行こうよ!」

「かしこまりました」

 

 それに、私とネプテューヌ様は、言葉を交わすよりも剣を交える方が質のいいコミュニケーションをすることができますので。

 

 

 

 

 

 

 

「……変身完了。ギンガ、準備はいい?」

「いきなり変身ですか」

「変身前だとあなたには敵わないもの」

「そんなことないと思いますけどねぇ」

「あるわよ、変身後でも油断すると勝てないもの……で、準備はいいの?」

「あ、すみませんまだです。今整えますので」

 

 先ほどいった追加装備を急いで整えます。両腰部に新武装『NPガンブレイド』、両脚部には新武装『NPカタール』。NPというのは、ネプギア様の武器にも使われている新発見されたNP粒子というもので、よくわかりませんけどなんかすごいものらしいです。そして手に持つのは以前より愛用している剣。ガンブレイドやカタールを使用する際は背部に収納します。

 

 ガンブレイドとは、ナイフとしても使用できるハンドガンです。連結して中型のライフルとしても使用できます。ネプギア様とユニ様に相談にのっていただいて作ったものです。

 

 カタールは、あいちゃんのように手に持って使うというよりは、脚部に装備されていることから蹴り技を斬撃にすることができたり、そのまま投擲したり、連結してブーメランのように使用するのがメインですね。脳波制御による操作で、投げたカタールは自動でまた脚部に装着されます。

 

「随分と……トゲトゲしたシルエットになったわね」

「私は女神様ほど成長性がないので、強くなるためには手数を増やす方向でいかないといけませんからね」

「……楽しみだわ、今からあなたと戦うのが」

「ありがたきお言葉」

 

 それにしても…………変身したネプテューヌ様、パープルハート様は美しいですねぇ……そして凛としたその美しさの中に垣間見える普段のネプテューヌ様のような可愛らしさ……ゲイムギョウ界が生み出した奇跡のようなお方です。

 

 ……っと、いけません。パープルハート様に見惚れている場合じゃありませんでしたね。今から私たちは戦うのですから。

 

「行くわよ! ギンガ!」

「はい!」

 

「「はぁぁぁっ!」」

 

 

 

 

 

 

 

 ……というわけで、『紫の星を紡ぐ銀糸N』スタートです!

 

 

 

 

 

 

 




 登場人物軽く紹介


ギンガ

 本作オリ主。プラネテューヌ女神補佐官。いーすんよりちょい年上。女神様が好き。女神様を信じない人間はみんな死ねば良いと思ってる。


ネプテューヌ

 原作主。プラネテューヌの女神。ギンガに想いを寄せてるけど肝心なところで日和る。ギンガの一番は自分だと思い込んでいるし、実際そう。


ネプギア

 ネプテューヌの妹でプラネテューヌの女神候補生。ギンガを兄のように慕っている。


イストワール

 いーすん。プラネテューヌの教祖。ギンガとお互い一番信頼しあってるが、ギンガが女神を甘やかすところだけは信頼してない。


ノワール、ブラン、ベール

 他の国の女神たち。ギンガの女神補佐官としての能力は評価してるけど性格がアレなのでプラマイ0って感じ。ノワールとブランは自分たちがまだ女神として未熟だった頃の恥ずかしい思い出をギンガに知られてるのでいずれ抹殺しようと思ってるとか思ってないとか。ベールは気にしてない。


ユニ、ロム、ラム

 他の国の女神候補生たち。姉たちとは違い、自分たちをちゃんと指導してくれるギンガを慕っている。


アイエフ

 プラネテューヌ教会の諜報員で、自他ともに認めるギンガの愛弟子。ギンガの魔法の名前は大体アイエフの手帳から取って付けていて、アイエフはそれを恥じらいながらも半分誇りに思っている。


コンパ

 プラネテューヌのナース。度々死にかけるギンガをいつも看護するのがコンパ。だからギンガはコンパに頭が上がらない。

 


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プロローグおまけ 戦闘訓練

 はしょった戦闘シーンを描写した初投稿です。



 まずは牽制。ガンブレイドを構え、そこから粒子ビームをマシンガンのように連発し、敵の出方を伺います。

 

「甘い!」

 

 秒間約十二発の弾幕を難なく剣で斬り伏せるパープルハート様。迎撃から流れるような動きで距離を詰めてきて、私に剣を突き立てます。

 

「……っ!」

 

 私は突き立てられた剣をガンブレイドの刃の部分で受け止めます。

 

(やっぱりトゲトゲしてる部分は刃なのね)

 

 一本の剣を二つの刃で受けているとはいえ、力勝負となれば私に勝ち目はありません。体格では私が優っていても、相手は女神様。身体能力では私と女神様は天と地ほどの差があります。

 

 だから手数で押すしかありません。脳波制御によって脚部に装着されているカタールをパープルハート様に向かって射出します。

 

(……⁉︎ その武器、そういう感じなのね……っ!)

 

 カタールに気を取られた一瞬の隙をつき、パープルハート様の剣を押し返し、ガンブレイドを腰部に装着して背中の剣を抜きます。やはり近接戦ならこれを使う方が私としてもやりやすいので。

 

(トゲトゲした見た目なだけあって、近接戦の手数が私より多い。この状況で至近距離でやり合うのはこっちが不利ね……ならっ!)

 

 パープルハート様は一旦バックステップで距離をとられる様子…………と思ったら一瞬でまた距離を詰めてきます。

 

「……おっと!」

 

 距離をとったと思ったら一瞬で距離を詰めて攻撃、そして攻撃後はまたすぐに距離をとる。パープルハート様の持ち前の機動力を生かした、所謂ヒットアンドアウェイの戦法。

 

 なるほど、私が手数で対応する前に削り切ろうという魂胆ですね。

 

(こんなに冷静にすぐ対応してくるなんて、流石はギンガね………っ⁉︎ これは……っ⁉︎)

 

 その瞬間、空中を浮遊するカタールが、左右からパープルハート様に襲いかかります。不意をつくために先程射出したカタールをあえて回収せずにいたわけです。

 

(脳波制御で操作する武器なんて私には使えない……ネプギアもまだ練習中とか言ってたわね。それを難なく使ってくるなんて……正直嫉妬しちゃうわ、けどそれ以上に……)

 

 とはいえ、あのカタールごときじゃ女神様の気を散らせることはできても、倒しきることは到底できませんね。浮遊するためのエネルギーもそろそろ切れますし、一旦カタールを脚部に再装着させましょうか。

 

 パープルハート様は……すごく楽しそうな表情をされていますね……全く、私はあなたについていくのが精一杯だと言うのに。

 

(…………楽しいわ。ギンガと戦うのは本当に楽しい。何と言っても私たち女神をも凌駕する戦闘技量。そして、行動が殆ど読めない。

 

 私たちは敵の体のシェアエネルギーの流れから敵の次の行動をある程度予測できる。シェアエネルギー量が多い女神同士の戦いなら尚更。

 

 けど、ギンガはこのゲイムギョウ界において唯一と言っていい『シェアエネルギーを一切持っていない』という特異体質の持ち主。だからギンガの行動をシェアエネルギーの流れから予測するのは不可能。

 

 そして、ギンガはその研ぎ澄まされた技量により、攻撃や技の予備動作がほぼ存在しない。

 

 だから、ギンガの行動は私たちには読めない。そして読めないからこそ……楽しい!※)

 

 

『※この辺の設定は前作の幕間『ギンガのパーフェクトシェアエネルギー教室 』に載っています。その回は所謂原作のネプステーションのような本編時空とは違う時間軸のもので、シェアエネルギーを作者なりの独自解釈に基づいた独自設定をまとめ、オリ主のギンガに解説させたものです。』

 

 

(……ここからは本気でいかせてもらうわ! 私の本気、受け止めてちょうだい!)

 

 ……! パープルハート様からのプレッシャーが増した……ということは技を使うおつもりですか。どうやら本気でくるようですね。

 

 いいでしょう。その本気、私の本気で応えましょう!!

 

「はぁぁぁっ! 『クロスコンビネーション』!」

「……『ギャラクティカエッジ』!」

 

(きた! ノーモーションでいきなり出てくるギンガの必殺剣技『ギャラクティカエッジ』……私が必死で練習してもできない技! 何故かあいちゃんにはできるけど!)

 

 私のギャラクティカエッジの威力はパープルハート様のクロスコンビネーションのものに劣ります。ですが、威力では劣っていても発生の速さから敵の攻撃が届く前にこちらの攻撃を届けられ、互角のぶつかり合いができるのです。

 

 そう、今のところは互角。しかし、今の私には足があります! 脚部のカタールは射出するためだけのものではなく、蹴りを斬撃にするためのものでもあるということです!

 

「『ギャラクティカエッジ』!」

 

(嘘……っ⁉︎ 足でも⁉︎)

 

「きゃあぁっ⁉︎」

 

 そのままパープルハート様を技の衝撃で吹っ飛ばします。女神様を足蹴にするなど死罪級の不敬ですが、今は戦闘中なので許してください。

 

「やるわね……っ!」

 

 何事もなかったかのように体勢を整えて立ち上がるパープルハート様。足で放つギャラクティカエッジは、まだ普通の威力には昇華させられてはいなかったようで、吹き飛ばすことはできても大したダメージにはなっていないようです。

 

「これはどうかしら? 『32式エクスブレイド』!」

 

 パープルハート様が唱えたその技名と共に、シェアエネルギーで創り出された大剣がこちらに射出されます。

 

 ……まともに受ければやばいですね。ならば、奥の手を使うとしましょうか。

 

 追加装備のガンブレイドとカタールには更なる機能があり、それら合計4本の小剣は、私のメインウェポンである剣と合体し、1つの大剣となります。これは、私の弱点であるパワーを補うための機能です。

 

 これで32式エクスブレイドを避けるのではなく、迎撃してみせましょう……!

 

「『エクステンドエッジ』‼︎」

 

 大剣を薙ぎ払い、斬撃に加えてそこから巻き起こる衝撃波で敵を攻撃する技『エクステンドエッジ』。あいちゃんのノートからアイデアを貰って創り出した技です。

 

「うぉぉあああああっ!」

 

 気合の入った掛け声と共に大剣を振り、そこから放たれる技でエクスブレイドを弾き飛ばします。

 

 ……しかし、

 

「『ネプテューンブレイク』で決めるわ!」

 

 そこから間髪入れずに叩き込まれるパープルハート様の必殺技の連撃。大剣モードからガンブレイドとカタールを分離させ再び装着し、両手足全てを使って迎撃しますが……

 

 ……結局パープルハート様の攻撃を捌ききることはできず、首元に剣を突きつけられてしまいました。

 

「これで、私の勝ちね」

 

 そのまま両手を上げ、降伏の合図をします。

 

「お見事です。パープルハート様」

「いい勝負だったわ。ていうか、あなたこれでよく私より弱いなんて平気で言うわよね」

「実際そうじゃないですか」

「私があなたに勝っているのは女神としての力の差だけじゃない。単純な技量はあなたの方が遥かに上よ」

「そう言われましても……その力の差が絶対的なものですし……」

「その絶対的な差とやらがあるのになんでここまでいい勝負になるのよ?」

「それは……」

「今回は私の勝ちだけど、私はまだあなたを完全に超えたなんて思っていないのよ? それなのにあなたより私の方が強いなんて断言されて、少し遠ざけられているような気がするから寂しいわ。まだ私はあなたに習いたいことがたくさんあるのに」

「も、申し訳ありません……」

 

 そんなつもりはなかったのですが、寂しい思いをさせてしまっていたとは……なんたる不覚、反省しなければ。

 

 そのままパープルハート様は変身を解除していつもの姿へと戻ります。

 

「まぁでも楽しかったよ、またやろーね!」

「はい」

「それにしてもさー、ギンガの新武器が強くてびっくりしちゃったよ」

「実は戦闘で使うのは今日が初めてでして、中々使い勝手が良かったのを自分でも驚いてます」

「あんなに使いこなしておいて初めてなんだ……うーん、わたしも色々新技とか作らないといけないかなぁこれは。ネプギアも新必殺技の開発中らしいし」

「いいですね」

「どんな技にしよっかなー」

 

 こうして、戦闘訓練から流れるようにネプテューヌ様の新技開発が始まり、教会に帰るのは夜になってしまいました。

 

 そしてネプテューヌ様と私が帰った後、結局いーすんにお説教されたのは言うまでもありません。

 

 

 

 

 

 

 




 戦闘シーン書くの苦手ですが好きです(矛盾)。


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零次元編
01. 切り拓く次元


 

 

『どうしてあなたが封印されることを選ぶのですか……っ⁉︎ あなたはこの国の女神、あなたに従うべきは国民たちでしょう⁉︎」

 

『そんなことないよ。このままだとこの国のみんなが不幸になっちゃう。だから……』

 

『どうしても……どうしても封印されると言うのですか……!』

 

『ごめんね。こんな力を持って生まれてきて……』

 

『謝らないでください。私は、あなたに仕えられたことを誇りに思っていますから』

 

『……ありがと。次の女神のこと、よろしくね』

 

『かしこまりました……』

 

『……おやすみ、さよならギンガ』

 

『はい、おやすみなさい……うずめ様』

 

 

 

 

 

 

 

(……何笑ってんだよ、そんなにあの方がいなくなって嬉しいか……? あの方がどんな思いでこの国を、お前たちを守ってきたと思っている……! ……愚民どもが……!)

 

 

 

 

 

 

 

 

『イストワール! 何故うずめ様の存在そのものがプラネテューヌの記録から消されているのですか⁉︎ なぜそこまでする必要があるのですか⁉︎』

 

『え? うずめ……?』

 

『な……何ですかその反応』

 

『あの……申し訳ないのですが、そのうずめさんという方は一体……?』

 

『……は?』

 

『申し訳ありませんが……私のメモリーの中にデータが……』

 

(何が起こって……? この感じ……おそらく、うずめ様の力なのでしょうか?)

 

『ギンガさん……?』

 

『…………こちらこそ申し訳ありませんでした。忘れてください』

 

『は、はい……』

 

(もし、うずめ様の力なら……あの方が世界の記録から消えることを選んだのなら……私はその意思を尊重するのみです。しかし……そんなのあまりにも……)

 

『悲しすぎますよ……』

 

 

 

 

 

 

 

 

「……夢……ですか」

 

 ……うずめ様のことを今更夢に見るとは。あの頃は女神様を信じない国民のことを心の底から嫌悪していました。そのせいでいーすんと意見が食い違い、言い争いになることも多かったです。最近になってネプテューヌ様に嗜められたことでようやく国民に対して寛容になることができるようになったんでしたね。

 

 それに、今思えばうずめ様は世界や人々の全てに拒絶されていたわけではありませんでした。うずめ様を信じ、愛してくれる方もたくさんいました。それなのに……

 

\ 〜♪ /

 

 着信……? ……知らない番号ですね。誰ですかこんな朝っぱらから。とりあえず出ましょうか。

 

「もしもし………………っ、お前か。何の用ですか?」

『ーーーーーー』

「……マジですか?」

『ーーーーーー』

「……なるほど、わかりました。その条件をのみましょう」

『ーーーーーー』

「……では、任せます」

 

 通話を切り、Nギアを毛布が盛り上がった柔らかいところに投げ捨て……

 

「ぁ痛っ⁉︎」

 

 ……ると、ガツンと鈍い音が鳴り、さらにそこから悲鳴が上がりました。この声、そしてこの独特なリアクション……

 

「ネプテューヌ様……?」

「ねぷぅ……まさか頭にNギアを投げつけられて起こされるなんて……」

 

 どうやら今の通話の内容を聞かれてはいなかった様子。聞かれたくなかったので安心しました。

 

 そんなことよりもまずはNギアをぶつけたという罪を清算しなければ……私の命で足りるでしょうか。

 

「申し訳ありません、大丈夫ですか? まさかネプテューヌ様がいるとは……」

「大丈……いや、ナデナデしてくれないと許さないもんねー!」

「そんなことで許されるのならいくらでもさせていただきます」

 

 ネプテューヌ様からの許しを得ることができ、なおかつネプテューヌ様の頭を撫でることができる……正に一石二鳥です。

 

「ねぷぅ〜〜♪」

「あの、ネプテューヌ様はなぜ私の寝床に?」

「んー? いいじゃんたまには。ギンガだって愛しの女神様が添い寝してくれて役得でしょー?」

「それはそうですけど……」

「ほらほら、撫でる手が止まってるよー!」

「すみません」

 

 ……役得は役得なんですけど、最近は以前にも増してネプテューヌ様の距離が近いような気がするんですよね。いや別に嫌ではないですし、むしろネプテューヌ様が近くにいると元気になれますけど。直接ネプテューヌ様に理由を聞くのもあれなので、あいちゃんとコンパさんに聞いてみたのですが……

 

『まぁ……それはギンガさんに原因があると思うですよ』

『むしろ目の前で消滅されたから、ネプ子がそうなっても仕方ないというか……』

 

 ……と言われてしまいました。よくわかりませんが、ネプテューヌ様にとって私はまるで目を離したらどこかへ行ってしまう飼い犬のような感覚なのでしょう。だから監視しておきたいわけですね。なるほど、腑に落ちました。飼い犬である私が主人であるネプテューヌ様を撫でているのは逆な気がしますけど。

 

「……私はもう起きて朝食の準備をしますが、ネプテューヌ様はもう少しお眠りになられますか?」

「うーん、目が覚めちゃったしわたしも手伝うよ」

「ありがとうございます……その前に」

「?」

「おはようございます、ネプテューヌ様」

「……うん! おはよう! ギンガ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日の昼、私は教会のある場所へと向かうことにしました。ある場所……教会の地下深く、うずめ様が封印されている『それ』が祀られている祭壇へと。

 

 私以外の記憶からは忘れ去られ、私しか行き方を知らない祭壇なので、どうせ何も変わりはないでしょうしわざわざ様子を確認しに行く必要なんてないのですが、あんな夢を見たからか無性にそこに行って祀られている『それ』が見たくなってしまったもので。

 

 記録なら消された祭壇ということで、偶然誰かがたどり着かないように、少し変な行き方をしないと行けないようになっているんですよね。

 

 ええと、秘伝マシンを使い地下通路から何もない空間に出て、右に200歩、下に256歩、左に63歩……ここですね。……ん?

 

「……それじゃあ、クロちゃん帰るよ! ワープ! ……あれ? 何も起こらないよ?」

 

 ……祭壇の方から人の声がしますね? 何故ここに人が? この場所を私以外に知る者はいないはず。とりあえず侵入者であることには変わりないですし、やることは1つですね。

 

「……動くな!」

 

 その声と共にガンブレイドを構え、その銃口を侵入者に向けます。

 

「わわっ⁉︎ どうして教会の人が⁉︎ ここって記録から忘れられてるはずじゃなかったの⁉︎」

 

 声質的に女性のようです。いえ、性別は関係ありませんね。この神聖なる祭壇に土足で踏み入る者には容赦はしません。

 

「動いたら殺します」

「怖っ⁉︎ こんなところで捕まるわけにも死ぬわけにもいかないし、とりあえず逃げろー!」

「それでも動くか……忠告はした!」

 

 そのまま忠告を無視した侵入者に向かってガンブレイドからビームマシンガンを乱射します……が、鮮やかな身のこなしと素早い動きで避けられます。

 

 この女、只者じゃない……!

 

「本当にぶっ放してきた⁉︎ この次元のプラネテューヌってこんなに世紀末なの⁉︎」

 

 ……その声、その気配、その匂い。さっきまでは暗くてよく見えなかったが、一瞬だけ小さな電灯に照らされて見えたその姿、そしてその魂の輪郭……間違いない、あれはネプテューヌ様……⁉︎

 

 しかし、ネプテューヌ様にしては身体が大きく、パープルハート様にしてはシェアエネルギー反応がありません。なら、あの方は一体……?

 

(一瞬だけ動きが止まった……? よし、逃げるチャンスだよ!)

 

 ……いえ、今はそんなことを考えている場合ではありません。どうやら奴は祀られていた『それ』を持ち去った様子……! 取り返さなければ!

 

 一瞬の隙を突かれ、あまりにも速い逃げ足で教会を脱出されてしまいましたが、見失ってはいません。このプラネテューヌにおいて、私から逃げられると思わないことです!

 

「やばいやばいやばいあの人すごい速い! 本当に人間⁉︎ このままじゃ捕まっちゃうよ! こんな時にワープが使えたら!」

 

\ カチッ! ピッ! /

 

「……え? 何今の音?」

 

 その瞬間、人よりも大きな渦のようなものが出現し、彼女を吸い込んでいきます。

 

「ちょっ! 何この渦⁉︎ もしかしてわたし、飲み込まれてる⁉︎ あーれー!」

 

 逃走用のアイテムを起動した……ようには見えませんね。どうやら、彼女にとっても不測の事態のようで、そのまま彼女は渦に飲み込まれていきました。

 

 そして彼女を全速力で追いかけていた私もいきなり止まることはできず、その渦に飲み込まれていきます。

 

 うーん……どうやらこれ、抵抗とか無意味なやつですね、詰みです。どうしようもなさすぎて焦るどころか冷静になってきました。

 

「はぁ……勝手に行方不明になってしまっては、ネプテューヌ様に怒られてしまいますねぇ……」

 

 ーーーそのまま私は渦に飲まれ、意識を失い…………

 

 

 

 

 

 

 

「んぐぇ……ここは?」

 

 目が覚めると、見知らぬ街の中にいました。街……というよりは廃墟ですね。

 

 とりあえずそこらへんの高台に登り、周囲を確認します。眼前に広がる光景は、割れた空、淀んだ空気、広がる廃墟、その果てにある『何もない』大地。ここが私の住むゲイムギョウ界とは違う世界だということは一瞬で理解できました。

 

 しかしなぜだか、どことなく懐かしさを感じるような……? いや、そんなはずはありません、気のせいでしょう。

 

 そういえば、あのネプテューヌ様によく似た女もこの世界のどこかに飛ばされたのでしょうか? さっきまでは殺……拘束する気だったのですが、この世界の情報を集めるためにできれば合流したいところです。

 

「うーん、やはり電波も通じないようですね」

 

 と、言いつつも少し楽しくなってきました。私は散歩が趣味なので、このようなディストピア散策に少し憧れていたんですよね。少し不謹慎ですが。

 

「〜〜〜♪……あ?」

 

\ ーーーーーーッ! /

 

 軽快なステップを踏みながら踊るように歩いていたら、いつの間にかモンスターに囲まれていました。数は……5体。見たことがない種類ですが、そこまで強くはなさそうなので軽く蹴散らしてあげましょう。

 

 そうですね、戦闘訓練でパープルハート様には隙がなくて使えなかった新武器のギミックなどの実験相手になってもらいましょうかね。

 

 NPカタールとNPガンブレイドの合体機能には大剣モードに加え、武器のエネルギーを射撃機能に特化させたライフルモードがあります。何本もの剣がくっついて大型のライフルになるというものなので、見た目はかなり変になってしまいますが。

 

 私に襲い来るモンスターの群れがほぼ直線上に並んだタイミングを狙い、

 

「一掃する!」

 

 大出力の照射ビームを射出します。5体の雑魚モンスターのうち、私に近かった3体が消し飛びました。

 

「……中々良いですねこれ」

「ーーーーーッ!」

「遅い」

 

 残りの2体も分離させたカタールで切り刻むと消滅していきました。

 

 ゲイムギョウ界のモンスターは、ダメージが限界を超えると消滅するのですが、どうやらこの世界のモンスターもそのようですね。ならば、この世界もどこか別の次元のゲイムギョウ界なのでしょうか?

 

 そんなことを考えていると、更なるモンスターたちの気配を察知しました。どうやら今の戦いの音に釣られてやってきたようですね。

 

 数は……十数体ぐらい、この数全てと1人で戦うとなると割と面倒ですね。

 

 ……となると、この魔法を使いましょう。あいちゃんのノートから名前をもらったこの魔法を、そこに書いてあった詠唱と共に。

 

「血に飢えた死霊の宴を始めよう……『魔界粧・黒霊陣(まかいしょう こくりょうじん)』!」

 

 詠唱と共に魔力を解き放ち、地面に術式を展開すると……

 

 ……………………

 

 ……何も起こりません。

 

 『魔界粧・黒霊陣』とは術式の範囲内に眠る死霊を一時的に蘇らせ使役する魔法。こんな廃墟が広がるような世界ならばこの魔法で使役できる死霊も多いと思ったのですが、術式には何も反応していません。

 

 考えられるケースは2つ。

 

①『魔界粧・黒霊陣』は別の次元や世界の死霊を呼び出せない。

②そもそもこの世界には死霊が眠っていない。

 

 可能性が高いのは①の方ですかね。②の可能性がないわけではありませんが、死霊の類が一切存在しない世界なんてあるわけないですし。

 

 死霊に助けてもらおうと思っていたのですが、結局私1人で戦うことになりそうですねこれは。まぁ、いいでしょう。

 

 そして私が剣を抜こうとしたその瞬間……

 

「うぉおおおおお‼︎」

 

……突如謎の少女が私の目の前に現れて拳を振るい、モンスターたちを吹き飛ばしました。

 

「爆発音が鳴ったから様子を見にきてみりゃ……まさか、モンスターと戦ってる人間がいるなんて思わなかったぜ……」

 

 少女……いえ、違います。この気配は……女神様です!

 

 赤い髪をした女神様……ふ……ふひひひ……まさかこの世界の女神様に会えるなんて……ふひ……心が踊りますねぇ……! 別の世界とはいえ、女神様を目の前にしたらやることは一つ! それは頭を垂れて平伏すこと……

 

『第二条! 女神ネプテューヌの許可なしに他の女神にデレデレしてはならない!』

 

 ……っ! そうでした……私はネプテューヌ様が制定した法律でそれを禁止されていたのでした……っ!

 

(何だこいつ……? 急に表情が明るくなったと思ったらいきなり倒れこもうとするもその途中で何かに気がついて中腰でプルプルしてやがる……)

 

\ ーーーーーーッ! /

 

 ……おっと、どうやらこの女神様の先程の素晴らしき一撃でもモンスターを殲滅できていなかった様子。今はこの女神様と共にモンスターを殲滅するのが優先、女神様を崇め奉るのは後ですね。

 

「お前、名前は?」

「ギンガと申します」

「ギンガ…………(ギンガ……ぎんっち……んー、なんか違ぇな、ギンガでいいか)……なぁギンガ、お前が敵じゃねえなら、一緒に戦ってくれるか?」

「もちろんです。お任せください」

「サンキュー! よし、行くぜ!」

 

 そう言ってその女神様が手元に武器を顕現させます。この方はどんな武器を使うのでしょ………………メガホン?

 

 ……武器にメガホンを使う女神様……だとしたらこの方は……まさか……っ!

 

「あ、名乗るの忘れてたな。俺の名前は……」

「天王星……うずめ……様」

「え? なんで俺の名前を?」

 

 

 

 

 

 




 前作最終決戦でプラネタワーは消し飛んだのですが、祭壇は地下深くだから無事だったのいうことにしといてください。書いてる途中で思い出したんですよね。


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02. 閉ざされた世界

 
 零次元編はRTAみたいな速度で進んでいくことになります。



 

 

「……ねぷぅ!」

「どうしたのお姉ちゃん?」

「ギンガが私の知らないところで他の女神にデレデレしてる気がする!」

「そ、そうなんだ……」

「まぁ冗談は置いといて、さっき拾ったこの変なゲーム機のこと、ギンガならなんか知ってるかもしれないと思ったんだけど、どこ行ったんだろう?」

「さっき調べたいことがあるって言ってどっか行ったっきり帰ってこないね」

「ギンガってわたしの忠臣! .…みたいなこと言うくせに割と自由だからなぁ……ネプギア、これ直せる?」

「見たことないゲーム機だからわからないけど、少し見てみるね」

 

\  ポチ! ゴォオオッ! /

 

「な、なにこの渦⁉︎ わたしたち、飲み込まれてる⁉︎」

「ど、どうしようお姉ちゃん! 抜け出せないよ!」

「「吸い込まれるぅー! あーれー!」」

 

 

 

 

 

 

 

「……つまり、お前が俺の名前を知っていたのは、お前の世界の俺と知り合いだからってことか。そして、お前は別の世界からここに来たってことか」

「おそらくそういうことだと思います」

 

 私の知るうずめ様とこのうずめ様とでは、容姿も性格もかなり異なっていますが……いや、本質は同じですね。

 

「そっか……まぁとりあえずありがとうな! もうちょっとで俺の仲間たちの避難も完了できそうだ」

「お役に立てて光栄です」

「なぁ、その喋り方なんとかならないか? なんかむずむずするっていうか……タメ口でいいんだけど」

「申し訳ありませんが、それはできません。女神様へタメ口をきくぐらいなら死を選びます」

「そ、そうか……(もしかしてこいつ、やばいやつ?)」

 

 ……………………っ! この感覚……ネプテューヌ様とネプギア様が近くにいる……⁉︎

 

 私ほどの信者となると、愛しの女神様が近くにいるとその尊さを察知できるのです。しかし、なぜあのお2人がこの世界に……?

 

 

 

 

 

 

 

「……えちゃん! 起きてお姉ちゃん!」

「うーん……あと10分……」

「そんなこと言ってる場合じゃないよ! 起きてってば!」

 

(ぅうん……? ……広がる廃墟……割れた空……なるほど)

 

「なんだ夢か〜」

「夢じゃないよー!」

「えぇ? わたしたち部屋の中にいたよね? どうしてこんなところにいるのさ?」

「あの変な渦に飲み込まれたから……かな?」

「…………ねぷ!」

「どうしたのお姉ちゃん?」

「ギンガが近くにいる気がする!」

「どうしてわかるの?」

「私ほどの女神になると、女神補佐官が近くにいるのをなんとなく察知できるんだよ」

「(これが愛の力……なのかな?)じゃあ、ギンガさんがいる方向ってわかる?」

「なんとなくわかるよ、そっちの方に行ってみようか。それにしても、なんでこんなところにいるんだろうね?」

「もしかしてギンガさんが戻ってこなかったのって……私たちみたいにあの渦に飲み込まれたからじゃ……?」

「あー、そういうことか」

 

\ ネプテューヌ様ー! ネプギア様ー! /

 

「ギンガの声だ」

「本当にいた……」

 

 やはりネプテューヌ様とネプギア様がこの世界に来ていました。こんなに早く再開できるとは嬉しいです……が、今プラネテューヌは女神様と候補生様が不在ということ。教祖であるいーすんの胃が心配ですね……

 

 とりあえずはうずめ様にネプテューヌ様とネプギア様を紹介いたしましょう。

 

「うずめ様、こちらが私の仕える女神様、ネプテューヌ様とネプギア様です」

「プラネテューヌの守護女神、ネプテューヌだよ! よろしくね!」

「プラネテューヌの女神候補生、ネプギアです。よろしくお願いします」

「まさか、別の世界の女神に会えるなんてな……俺は天王星うずめだ。よろしくな!」

 

 女神様同士の出会いと紹介を円滑に行うことができて安心です。ほら、ニチアサの1クール目とかによくあるじゃないですか、話が噛み合わず戦いになってしまう感じ。そういう感じにならずに済んで良かったです。

 

「なぜあなたたちもこの世界に?」

「それがさぁ、変なゲーム機をいじってたらいきなりそこから渦みたいなものが出てきてそれに飲み込まれたんだよね」

「変な……ゲーム機……」

「ギンガ何か知ってる?」

 

 勿論知っています。そのゲーム機こそ、『私たちの世界の天王星うずめ』様が封印されている媒体なのです。しかし、私たちの世界のうずめ様は人々から忘れられることを選んだわけであり、私がその情報をネプテューヌ様に開示するわけにはいきません。それに『条件』もありますし、どうしたものか……とりあえずはぐらかしておきましょう。

 

「いいえ、特に何も」

「……そっか」

「おそらくは私もそのゲーム機とやらの影響でこの世界に飛ばされてしまった、ということなのでしょう」

 

 ……とはいえ、なぜそのゲーム機のせいでこの世界に飛ばされるようなことになったのかは私にもわからないんですよね。あのゲーム機にはそんな機能ないはずですし。

 

「うずめ様、先程から聞こうと思っていたのですが、この世界は一体どうなっているのでしょうか?」

「『デカブツ』のせいで、街も壊され人も消されちまってるんだ」

「『デカブツ』……?」

「……噂をすればおでましだ」

 

 その瞬間、上空から何かが飛来してきました。地面に衝突し現れたのは、巨大な人型のモンスター。そして、それが引き連れるモンスターの大群。なるほど、この世界の現状が大体わかりました。

 

「な、何あのでっかいの⁉︎ いきなりラスボス襲来⁉︎」

「そうだな……あいつを含めて、この世界の現状を簡単にお前らに説明しておく」

 

 うずめ様から説明されたことは、例の巨大なモンスターがこの世界を破壊している元凶だということ、そのモンスターには破壊したものの存在そのものを消滅させる力があること、この国に生き残っている人間がいないこと、その代わりに言葉の通じる善良なモンスターが暮らしていること、うずめ様以外に戦える者がいないこと……などですね。

 

 一応反撃の策を考えているようですが、まだ準備中とのことで詳しく聞くことはできませんでした。まぁ、おそらく反撃の策とはアレでしょうね。

 

「……俺だ、そっちの避難状況はどうだ?」

『うずめか、無事なようで安心したよ。こちらは七割といったところだ』

「わかった。引き続き頼む」

『すまない、苦労をかける。うずめも無理はしないように』

 

 うずめ様の端末にお仲間から通信が来たようですね。今の声……どこかで聞いたことがあるような……? いえ、今そんなことを気にしてもしょうがないですね。

 

「うずめ様」

「ん? なんだ?」

「見たところあの巨大なのよりも周りの雑魚の方が先にやって来ますね」

「だいたいいつもそうだな。デカブツよりもモンスターが先に来る」

「では、先にそれらを片付け、あの巨大なのとは戦わずに撤退しましょう」

「……逃げるならお前たちだけで逃げろ。俺は女神としてこの世界をこんな風にしたあいつだけは許せねえ!」

「わたしも戦うよ! あんな巨大な相手、燃えてくるね!」

「お前たちは逃げろ! これは俺の世界の問題だ!」

「戦うったら戦う! うずめを放って逃げるなんてできないよ!」

「お姉ちゃんにうずめさんも、あんなのと戦うつもりなの⁉︎ 無茶だよそんなの! ギンガさんからも何か言ってください!」

「え⁉︎ 私ですか⁉︎」

 

 まさか私に飛び火して来るとは……それどころかネプテューヌ様とうずめ様が言い争いになってしまいました。お二人とも言い出したら聞かないタイプですからどうしたものか……

 

「逃げろ!」「嫌だ! 逃げない!」

「……お二人とも少し冷静になってください。うずめ様、ネプテューヌ様がこう言い出したらもう聞きません。目の前のこの状況を黙って見過ごすことはできない性格なのです。それに、もしあなたも同じ状況なら見捨てて逃げるなんてしないでしょう?」

「けど!」

「それに、あの巨大なやつは闇雲に突っ込んで勝てる相手ではないのはあなたが一番わかっているはずです。策を練り、万全な状態で挑んでからボッコボコにしてやった方が、これまでの無念も晴らせるというもの……そうは思いませんか?」

「それは……まぁお前の言う通りだな」

「ネプテューヌ様もです。あなたはおそらくこの世界じゃ女神化をすることができません。だからあまり無茶はしないでください」

「えー⁉︎ ギンガはわたしが負けると思ってるの?」

「……ネプテューヌ様が無茶してピンチになったら私また命をシェアクリスタルに変えますからね」

「わかったから絶対にやめて。冗談でも言わないで」

「申し訳ありませんでした。けど、わかってもらえて嬉しいです」

 

(すごい……お姉ちゃんもうずめさんも納得させた。というか、ギンガさんとうずめさんって本当にさっき知り合ったばっかなのかな? うずめさんからはともかく、ギンガさんはうずめさんの性格とかをよく知っているような話し方をするけど……考えすぎかな)

 

「一先ずここは雑魚モンスターを殲滅、例の巨大なやつとは戦わずに撤退、その後避難しているうずめ様のお仲間と合流、そして休息を取りあの巨大なやつを倒す策を練る。それで行きましょう。構いませんね?」

「わかった!」「はい!」「了解だ!」

「ではうずめ様、作戦開始の合図をお願いします。リーダーはこの世界の女神であるあなたです」

「え? あー、えっと、ここから俺の仲間たちと合流するまではノンストップで行くぞ! 一度手伝ってくれるって言ったからには、途中で帰りたいって言ってもシカトするからな、覚悟しとけ! じゃあ、作戦開始だ‼︎」

「「「おー!」」」

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあ、海男たちの救出を祝って、かんぱーい!」

「「カンパーイ!」」

 

 というわけで、殲滅、撤退、合流、その全てが円滑に進みました。ぶっちゃけ例の巨大なやつをスルーさえできれば後は余裕でしたね。うずめ様のお仲間のまとめ役である『海男』という方が人面魚だったのは少し驚きましたが。

 

「ねぷっち、ぎあっち、ギンガ。ありがとな。最初は意地張ってお前たちは逃げろって言っちまったけど、お前たちがいてくれて心強かった」

「お礼なんていいよ。わたしたちもう友達でしょ?」

「そうですよ。それに、新しいお友達ができて嬉しいです!」

 

 色々あって、ネプテューヌ様とネプギア様とうずめ様も仲良くなれた様子。女神様たちの仲睦まじい様子……ふひひ、溜まりませんねえ。

 

 女神様を遠目で眺めながらニヤニヤしていた私に海男さんが話しかけてきました。

 

「ギンガ。楽しんでいる彼女たちに真剣な話をして水を差すわけにはいかないから、先に君だけと情報交換がしたい」

「構いません。と言いつつも、こちらから渡せる有益な情報は何もないと思いますが」

「とりあえず何でもいいから教えてほしい。君たちはどこからきたんだい?」

「おそらく別の世界ですね。私は永く生きているので、私の世界の地理をほぼ全て知り尽くしています。私の世界のどこにもこんな場所は存在しません。それと、今おそらくあなたの頭の中にある『うずめ様の力で生み出された存在』という説も違うと思います」

「……! よく俺の考えてることがわかったね。そして、うずめの力の詳細を知っているのかい?」

「自らの妄想を現実にしてしまう力ですよね。実を言うと、私の世界にもうずめ様はいましたから」

「知っているのなら話は早くて助かる。それに、『た』ということは、今はいないということかい?」

「…………海男さん、今から私が言うことをあの三人には秘密にしてもらえますか? 特にネプテューヌ様とネプギア様には」

「あぁ、構わないよ」

 

 私は海男さんに、私の世界のうずめ様が封印されたことを話しました。そして、その後世界の記録から消え、私がその情報を自分の意思だけで開示するわけにはいかないことも。

 

「……どこの世界でも、うずめは悲しい運命を辿っているんだね……俺にそれを話しても良かったのかい?」

「あなたは私の世界の者ではないのでギリギリセーフということにしておいてください。それに、誰かにこれを話せて少しスッキリしました。そして、私たちがこの世界に来た原因、それに一つ仮説を立てました」

「聞こう」

「この世界のうずめ様が無意識に助けを求め、それが私たちの世界のうずめ様に届いたことにより、うずめ様同士の力が次元を超えて共鳴し、私たちの世界なうずめ様が封印されているゲーム機が私たちの世界とこの世界を繋いでしまった、のかもしれません」

「なるほど、有力な説だ」

「この説が真実だとしても、帰る方法がわからないのには変わりませんけどね」

「そうだね……さて、この世界の現状については、うずめにどこまで聞いているんだい?」

「この世界は例の巨大なやつのせいで滅びる寸前ということですね」

「そうか……この世界が奴のせいで滅びかかっているのは本当だ。しかし、奴のせいでこの世界の人たちが全て消えたというのは、俺は違うと思うんだ」

「違う……?」

「いや、俺にも詳しい理由はわからない。そんな気がする、というだけさ」

「そうですか……まぁとりあえずは例の巨大なやつを倒すことからですね。さて、そろそろ三人とも話を交えて……」

 

 と言い、ネプテューヌ様たちの方へ視線を向けると、

 

「すぅ……すぅ……」

「ねぷぅ……」

「すやぁ……」

 

 三人とも寝てしまっていました。今日はとても頑張っていましたからね。疲れてしまったのでしょう。

 

「やれやれ、作戦会議は起きてからだね」

「そうですね、今日はお疲れ様でした。ネプテューヌ様、ネプギア様、うずめ様」

「俺たちも休むとしようか」

「では、おやすみなさい」

 

 

 



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03. 遥かに煌めく女神たち

 この回で登場するあるキャラは、原作のVⅡと大幅に設定が違います。



 

「これがNPガンブレイドとNPカタールかぁ……! わぁ……ガンブレイドはちゃんと私とユニちゃんが手伝って作った設計通りになってる! それにこのカタール……さっき自動で飛ばしてましたよね⁉︎ 脳波制御ってやつですか⁉︎」

「は、はい」

「すごい……! それに、ガンブレイドもカタールも連結するんだ……ちょっとくっつけてみていいですか⁉︎」

「構いませんよ」

「ありがとうございます! こことここ……かな? ……あれ? もしかしてこれ、全部連結させられるんですか⁉︎」

「そうですね」

「うわぁ……! 私もこんな武器使ってみたいなぁ!」

「あの……ネプギア様……そのあたりで武器を返してもらえると……」

「えぇー! もっと見たいです! それに、ギンガさんこの武器が完成したら最初に私に見せてくれるって言ったじゃないですか⁉︎ それなのに結局見せてくれないままお姉ちゃんと試合して、私少し怒ってるんですよ!」

「うっ……申し訳ありません」

 

 そんな約束したようなしなかったような。私のメモリー機能は同じ人工生命体であるイストワールと違いそこまで性能が良くないので、割とうっかり忘れてしまうことがあるんですよね……

 

「なぁねぷっち、ぎあっちがすげえテンション上がってるけどなんだあれ?」

「ネプギアは機械オタクだからね。ああいう興味を引く機能とかあると夢中になっちゃうんだよ」

「……しょうがない。作戦会議はぎあっちの気が済むまで待つとしようか」

 

 うぐぐ……ネプテューヌ様たちに助けを求めようと思ったのですが、既に諦めムードとは。しょうがないですね、元はと言えば忘れていた私が悪いので、ネプギア様の気が済むまで待ちましょう。

 

「連結合体にも色々種類があるんだー! とりあえず全部やってみよう! 楽しいなぁ!」

 

 結局ネプギア様の気が済むまでは数時間かかりました。しかし、夢中で私の武器をいじるネプギア様はとても可愛らしかったのでいつまでも見ていでもよかったですね。

 

「……気を取り直して、作戦会議といこうか。先程、大量のシェアクリスタルがありそうな場所があるとの連絡を受けた」

「何度か戦ってわかったんだが、デカブツはシェアの力に弱いらしい。だから、大量のシェアクリスタルがあれば奴に有効な手を打てる!」

「なるほど」

 

 そういえば説明するのを忘れていましたが、どうやらこの世界はシェアクリスタルが拾えるようで、うずめ様はそれを使い女神化するようです。女神様の変身に用いられるシェアクリスタルは私たちの世界では創るのが難しいかなり貴重なものなのですが、世界が違えばそのような違いがあるということなのでしょう。ディメンションギャップってやつですね。

 

 女神様が存在し、シェアという概念がある。つまり、ここもゲイムギョウ界……ということなのでしょう。

 

「シェアクリスタルがあれば、わたしたちも変身できるかなぁ?」

「自らが信仰で得たシェアで作られたシェアクリスタルでないと無理……なのは私たちの世界でのルールなので、別の世界ならワンチャンあるかもしれませんね」

「とりあえずそこに向かいましょう」

「よーし! じゃあ行くぜ、みんな!」

 

 

 

 

 

 

 

 向かった先は桜の花が生い茂る森でした。私は花を愛でる趣味はないので、花が咲いてるなーぐらいで特に何も思うことはありません。花より女神様なので。

 

「ここにシェアクリスタルがあるのか……」

「この国にもまだこんなに綺麗な場所が残っていたんですね」

「シェアクリスタルがある場所だけ、だけどね」

「どういうこと?」

「そうだね……ギンガ。君の方がシェアクリスタルというものに詳しいと思うから、説明を任せていいかい?」

 

 桜並木の下を歩く女神様たちに見惚れていたら急に海男さんにキラーパスを投げられました。まぁいいでしょう、女神様とシェアの関係の詳しさにおいて私の右に出るものはイストワールぐらいしかいないと自負していますし。

 

「わかりました……シェアクリスタル、そしてその源であるシェアエネルギーは、ゲイムギョウ界の本質と言えるものです。女神様が国を守護する力が失われ、シェアエネルギーが存在しなくなった土地は朽ちていきます。そして女神様の力の源でもあるシェアエネルギーのさらに源は主に人間による『信仰』。つまり、人間のいないこの世界では女神様は本来の力を発揮できません。かつて別の次元のゲイムギョウ界の方と関わる機会があって、その方もそのゲイムギョウ界と同じと言っていたので、おそらくゲイムギョウ界という場所は次元が違えどどこも同じなのでしょう。話を戻すと、この場所が自然豊かなのはシェアクリスタルの影響で土地がまだ生きているからでしょうね」

「そういうことだ、説明ありがとうギンガ。このゲイムギョウ界に名前をつけるなら……零次元だろうか」

「零……次元」

「じゃあさ、ここのシェアクリスタルを持っていったら、この森は枯れちゃうんじゃないの?」

 

 ネプテューヌ様……こんな草木ごときを気にかけるとは、やはり慈悲深いお方……! 

 

「そうだけど、こういう場所は貴重だから全部は持って行かないようにしているのさ」

「よかったぁ。それなら、今度お花見に来れるね!」

「お、お姉ちゃん……ギンガさんと海男さんが割と重い話をしてたのにそんなこと考えてたんだ」

「こういう切羽詰まった状況だからこそお花見みたいな娯楽が大事なんだよ」

 

 ネプテューヌ様……! 何と素晴らしい心がけ……! 感動で涙すら出てきます……!

 

「なぁねぷっち、何でギンガ泣いてんの?」

「うずめ、ギンガのやることに突っ込んでたら疲れるからある程度は放置するのがオススメだよ」

「おっけー」

「でさ! あのでかいのをやっつけたらここにうずめの仲間のみんなも連れてきてパーっとお花見やろうよ!」

「いいなそれ!」

 

(うずめのあんな笑顔を見るのは久しぶりだ。できればいつまでも笑顔でいてほしいものだ)

 

 おっと、ネプテューヌ様の尊さを感じるのに集中していたせいで皆様に置いて行かれそうになりました。急いで追いかけましょう。

 

 その後、シェアクリスタル探索が始まりました。この森にいるうずめ様のお仲間のモンスターたちにも手伝ってもらっています。たとえ人がいなくとも、その代わりに多くのモンスターに慕われている……やはりうずめ様は立派な女神様です。

 

 ならば……理論上は『あること』が可能ですね。

 

「さて、シェアクリスタルの反応は……」

「あーそっか、ギンガならわかるか」

「どういうことだい、ねぷっち?」

「ええと、ギンガは特異体質ってやつで、本来人が生まれ持つはずのシェアエネルギーが全くのゼロなんだ」

「それは……ゲイムギョウ界においてはかなりのディスアドバンテージではないのかい?」

「そうなんだけど、その代わりに人よりも強い身体で生まれてきてるんだって。だからすごく五感が優れてて、シェアエネルギーを感じ取れちゃうんだって。まぁなんていうか……バグキャラ?」

「バグキャラ……」

「まぁつまり、シェアクリスタルの探索には適任ってわけ!」

「なるほど」

 

 さてさて、シェアクリスタルはこちらにありそうですね。茂みをかき分けながら進みます。おっ、それらしき物体が見つかりました。

 

「ペロっ……これはシェアクリスタル!」

「なんで舐めたんだよ」

「このシェアクリスタルを見てくれ、こいつをどう思う?」

「すごく……大きいです」

「これぐらいのシェアクリスタルなら、あの作戦ができて、デカブツを倒せるかもしれねえ!」

「おぉ! やったねうずめ!」

 

「ほう、それは困るな」

 

 その声が聞こえた瞬間、私たちを魔法の閃光が横切り、それによりシェアクリスタルが砕け散りました。

 

「……っ⁉︎」

「そんな……シェアクリスタルが……っ!」

「誰だ⁉︎」

 

 その声……その気配……まさか……!

 

「ナーハッハッハ! 私の名はマジェコンヌ。この世界に終焉を齎す者だ!」

「「マジェコンヌ⁉︎」」

 

 ……『マジェコンヌ』とは、私たちがかつて戦い、時には前作のラスボスであるタリの女神を倒すために協力した者です。さっき感じたプレッシャーはこいつのものか。

 

 ……というか、何故奴がこの零次元に……?

 

「……ん? 貴様らは、プラネテューヌの女神と候補生ではないか。何故こんなところにいる?」

「それはこっちの台詞だ。何故お前が零次元にいる?」

「ほぅ、ギンガ……まさか貴様までいるとはな」

「質問に答えろ」

「答える義理はない」

「ねぇマザコング。わたしたち、世界を守るためにタリの女神と一緒に戦ったよね? わたしたち仲間になれたんじゃないの?」

「マジェコンヌだ‼︎ それにあれは一時的に手を組んだにすぎない。私はいつでも貴様ら女神の敵だ」

「そんな……」

「ふん、さぁ行けダークメガミよ! 女神どもを葬ってやれ!」

 

 マジェコンヌの声と共にいきなり巨大なモンスター……奴が『ダークメガミ』と呼称しているので私もそう呼びましょう……ダークメガミが姿を現しました。

 

「なっ……お前がデカブツを操ってやがったのか!」

「その通りだ」

「なら、お前がこの世界をこんな風にしたのか⁉︎」

「だとしたら……?」

「……っ! 絶対に許さねえ! うおおおおっ!」

「うずめ様! 闇雲に突っ込むのは危険です!」

「……ふん、許そうが許さなかろうが貴様はここで死ぬ」

 

 そう言ってマジェコンヌが手を振りかざすと、ダークメガミが巨大な腕を振り下ろし、前に出過ぎたうずめ様を思い切り吹き飛ばしました。

 

「ぐぁぁぁっ!」

「うずめ様!」

 

 そしてダークメガミの巨腕は次に私たちの方に振り下ろされます。

 

「ちぃ……っ!」

 

 私は急いで皆様の前に立ち、武器を大剣モードにしてそれを盾のように構えることで、ダークメガミの攻撃をなんとか防ぐことができました。

 

\ うわぁぁぁっ!/ \きゃあああっ!/

 

 しかし、私の防御の範囲から外れてしまっているうずめ様のお仲間のモンスターたちはその攻撃の被害を受けてしまっている様子。いくら私でもあれだけの数を守りきれはしません。

 

「こんなのマップ兵器だよ! ズルだよ!」

「ジージェネとかだとマップ兵器って戦闘アニメーションが見れないし、連続行動ができないのであまり使わないんですけど、こうやって実際やられてみるとかなり強いですね」

「そんなこと言ってる場合じゃないですよギンガさん!」

「すみません」

 

 実際かなりやばいですね。私の大剣でダークメガミの攻撃をいつまでも防げるわけではありませんし、なんならそれを指示しているマジェコンヌ本体もそれなりの戦闘力を有しています。

 

「……『エクステンドエッジ』!」

「『32式エクスブレイド』!」

「『スラッシュウェーブ』!」

 

 私たちの技をダークメガミにぶつけてみるも、ほんの少しのダメージにしかなっていない様子。

 

「なるほど、どうやら貴様らは変身ができないようだな。シェアクリスタルを破壊しておいてよかったよ。貴様たちはここで終わりということになるな」

「……それは……どうでしょう?」

「何?」

「私は女神様の可能性を信じています。たとえシェアクリスタルが無くても、人間から信仰が貰えなくても、女神様は立ち上がり、この危機を乗り越えることができると」

「ふん、くだらん! 塵芥と成り果てろ!」

 

 

 

 

 

 

 

「結局……俺には……うずめには何も守れないの……?」

「……うずめ」

「海男……」

「いつも君だけに戦わせてしまって、辛い思いをさせてしまってすまない……ギンガの話を聞いて気づいたんだ」

「何を?」

「俺たち零次元のモンスターがうずめを『信仰』しシェアエネルギーを渡すことができるのではないか、と。だから、俺たちの思いと力を受け取ってくれ」

「……できるかな? うずめに」

「それは君の心次第だ。けど、俺たちはうずめのことを信じている」

 

\ うずめさん! 頑張って!/

 

「この光……そうだよね……うずめが……俺が……やるんだ! 俺がこの世界を守るんだ! うおおおおおっ! 変身‼︎」

 

 

 

 

 

 

 

「……ねぷぅ⁉︎ この光は!」

「お姉ちゃん、これって!」

「シェアの光だね! 行くよネプギア!」

「うん、お姉ちゃん!」

「「変身!!」」

 

 その瞬間、眩い光が二人を包み込みます。やりましたね、うずめ様……!

 

「なっ、あの光……人のいないこの世界でシェアが発生したというのか⁉︎」

「理論上は可能ですよ」

「何⁉︎」

「実は、人間だけでなくゲイムギョウ界に生きとし生けるほぼ全ての生命は微量ながらシェアエネルギーを有しています。たとえそれがモンスターであっても」

「モンスター……まさか!」

「そのまさかです。我々の世界では人の言葉を喋り、人に友好的で善良なモンスターは稀なので、モンスターから女神様に『信仰』によってシェアエネルギーが譲渡される現象などほとんどありえません。しかし、この零次元にはそんなモンスターが数多く存在します」

「くっ……そいつらの信仰を得たということか……っ!」

「その通りです。実を言えば、私はお前の破壊したあのシェアクリスタルなんて最初からアテにしていません」

 

 そう、何かがきっかけでモンスターたちからもシェアが得られるようになれば、落ちているシェアクリスタルが無くてもうずめ様は変身できるようになりますからね。

 

「さぁ、待ちに待った女神様の変身です。ご唱和ください、女神様の名を!」

 

(ハイテンションだな……ギンガ)

 

「プラネテューヌの女神『パープルハート』様‼︎ 女神候補生『パープルシスター』様‼︎ そして、この零次元ゲイムギョウ界の女神『オレンジハート』様‼︎」

 

「変身完了。女神の力、見せてあげるわ!」

「変身完了です! 女神候補生だからって甘くみないでください!」

「変身かんりょー!」

 

 変身したパープルハート様とパープルシスター様の元に、オレンジハート様が飛んできて並び立ちました。

 

 嗚呼……三人の女神様が並んでいる……女神様尊い……最高……

 

「か〜ら〜の〜! シェアリングフィールド、展開ー!」

 

 そしてやはり、オレンジハート様といえばこの『シェアリングフィールド』ですよね。

 

 『シェアリングフィールド』。自らのシェアエネルギーを空間を作り出せるほどの高濃度のものへと昇華させるシェアエネルギー操作の『真髄』。そして、オレンジハート様が使うそれは、以前私が使った紛い物とは格が違う本家大元のシェアリングフィールドです。

 

 高濃度のシェアエネルギーの粒子がドーム状になり、私たちを包んでいきますーーーー

 

 

 

 

 

 

 

「お姉ちゃん……このフィールドって」

「ええ……けど、あの人のものとは効果が違うようね。力が溢れてくるわ……!」

「ふっふっふー! これがうずめの秘策、シェアリングフィールドだよ!」

「これだけシェアの力が溢れているこの空間なら、ダークメガミがかなり弱体化するというわけね」

「そうだよ! 流石ねぷっち! ていうかねぷっちって変身するとすごく変わるね!」

「あなたも相当だと思うけど……」

「……あれ? ギンガさんとマジェコンヌがいない?」

「えー? おかしいなぁ、二人ともフィールドの範囲内にいたはずなのにー?」

「とりあえずはダークメガミを倒すのが先ね。行くわよ、ネプギア、うずめ!」

 

 

 

 

 

 

 

(あのフィールド……おそらくはギンガのやつが以前やったものと同じだろう。天王星うずめとやらが構えた瞬間に急いであの場から離れておいて正解だったな……)

 

「……まぁ、お前はそうするよな。俺が使ってるのを見て『シェアリングフィールド』を知ってるからな」

「相変わらず、女神がいない場所では敵に対して喋り方が素に戻るのだな。私はそっちの方が好きだぞ?」

「お前にそう言われても何も嬉しくねえよ」

「それで、私が逃げるのを予測して追ってきたわけか」

「そういうことだ。本当はあの中で女神様達と一緒に戦いたかったけど、お前を放っておくわけにはいかないからな。それに、お前には聞きたいことが山ほどある」

「答える義理はないと言った」

「なら、質問を拷問に変えてやる」

 

 そう言って剣を取る俺と、槍を構えるマジェコンヌ。

 

 女神様とダークメガミ、俺とマジェコンヌ。二つの戦いの幕があがる……なんてな。

 

 

 

 

 




 ぶっちゃけますと、オリ主のギンガと1番絡ませて楽しいのはこのマジェコンヌです。


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04. 再開と離別

 最初だけは三人称視点です。



 パープルハート、パープルシスター、オレンジハートの3人はシェアリングフィールド内を飛び回りながらダークメガミを攻撃していく。 

 

「『デルタスラッシュ』!」

 

 パープルハートは斬撃が生み出したエネルギー波で敵を三角状に切り裂く新技でダークメガミから距離を取りつつも確実にダメージを与えていく。

 

(本当は最初にあの人に見せたかったんだけどね……)

 

「『M.P.B.L』!」

 

 ダークメガミの意識がパープルハートに向いた隙をつき、パープルシスターは専用武器M.P.B.Lから照射ビームを放つ。

 

「(『咆哮夢叫』!) ほにゃああぁっ!」

 

 それに続いてオレンジハートも自身の武器であるメガホンに声を入れ、そこから放たれる超音波を炸裂させる。

 

 シェアリングフィールドにより、女神3人はパワーアップし、ダークメガミは弱体化している。決着は時間の問題であった。

 

「トドメはあなたに譲るわ、うずめ」

「ねぷっち……わかった! いくよ! 必殺! 『烈波夢双絶掌』!!」

 

 超音波と打撃を織り交ぜたオレンジハートの必殺技。

 

「これで……終わり!」

 

 最後の一撃が決まり、遂にダークメガミのダメージが限界を超え、消滅していく。

 

「やった……デカブツに勝てた! やったよ!」

「ええ、私たちの勝ちね」

「ほんと、ありがとう! ありがとうね、ねぷっち、ぎあっち!」

「礼には及ばないわ。それに……」

「マジェコンヌが残ってる……けど、向こうはギンガさんがいるからなんとかしてくれてるはずだよね」

「とりあえず、私たちも向かいましょう」

「うん! というわけで、シェアリングフィールド、解除ー!」

 

 

 

 

 

 

 

「消え去るがいい!」

 

 マジェコンヌが魔法の衝撃波を放つ。

 

「……見切った!」

 

 それを側転で回避しながら、カタールを二本射出。

 

「ふんっ!」

 

 一本目は避けられ、二本目は槍で弾かれる。たが、関係ない。俺のカタールはオートで動かせる。飛んでいった二本のカタールを脳波制御で軌道を変え再びマジェコンヌに向けて飛ばす。

 

(なるほど……厄介な武器だ)

 

 そのまま奴に突撃、俺とカタールで三方向から攻撃を仕掛ける……が、あいつそういえばビット兵器的なの前に使ってたから割と簡単に対応されそうだな。

 

「……くだらん!」

 

 マジェコンヌはカタールを魔法陣の防壁でガードし、突っ込んできた俺を槍で弾き飛ばす。

 

「ちぃ……っ!」

 

 以前からわかっていたことだが、このマジェコンヌはそれなりに強い。女神様に匹敵するほどのパワーとスピード、それに加え他人の技や能力をコピーできる力があり、女神様の技ですら使えやがる。

 

 ……というのが以前の話。見た感じ、今のこいつはそんな力に頼り切ってはいない。コピー能力で得たものよりも自身の得意とする戦い方の技量を伸ばしている。前までのこいつなら近接戦は俺の技量で圧倒できたけど、今は無理そうだな。

 

 少し見直した。こいつ意外と鍛錬を積んでるんだな。

 

「やるじゃねえか。女神様の真似事をしていた頃よりも今のお前の方が俺は好きだぜ?」

「貴様にそう言われても何も嬉しくはない」

「照れるなよ、こっちまで恥ずかしくなる」

「誰が照れるか!」

 

 ……さて、無駄話はこの辺して、戦い方を変えよう。カタールとガンブレイドを連結させライフルモードに換装。

 

(武器が連結した……? ちっ、少し見ない間に変な武器を使うようになりおって!)

 

 ライフルモードのビーム砲は主に四種類。通常のビーム砲、ビームマシンガン、大出力の照射ビーム、そして最後の一つは『ワイドカッタービーム』。ワイドカッタービームというのは、横幅のある刃状のビームを高弾速で射出するというもの。

 

 そのワイドカッタービームを奴に向けて射出する。

 

「狙い撃つ!」

 

(避け……いや、見た目以上に範囲が広いと見た! ならば!)

 

 マジェコンヌは槍に魔力を纏わせ、ビームを弾いて消滅させる。

 

「そんな小細工、私には通用せんぞ!」

 

 そんなことはわかっている。簡単に捌かれるのは想定内。ライフルモードをから再びカタールを分離させ両手で持ち二刀流で斬りかかる。

 

(今度は二刀流か! こうも一瞬で戦い方が変えてくる……面倒だな)

 

 カタールを振る途中で腕から離して飛ばし、空いた手でガンブレイドに持ち変え、ビームマシンガンを連射。

 

「くっ……!」

 

 マジェコンヌは槍を両手で回し、円形の盾のようにしてそれらを防ぐ。そして防がれた瞬間にガンブレイドを腰部に装着し、魔力を練って魔法を叩き込む。

 

「『魔界粧・轟炎』!」

 

 俺の愛弟子、あいちゃんの技。使い勝手の良い炎魔法だから、俺も使わさせてもらってるんだよな。

 

「効かんっ!」

 

 マジェコンヌが俺の魔法を奴の魔法防壁で防いた瞬間を狙い、背中の剣を抜いて斬りかかる。

 

 そうやって俺は一つの戦法が通じなくなれば即座に別の戦法に変えて畳みかける。そうすることで常に敵の不意をつけるから、ステータスで劣る相手にもある程度は有利に立ち回れる。

 

(相変わらず女神よりも面倒な戦い方をする男だ……ならば視界を奪うか!)

 

「闇に堕ちろ!」

 

 そう言ってマジェコンヌが手を前に出すと、黒い霧のようなものが発生し、それが俺にまとわりついて視界を奪う。状態異常『暗闇』ってやつか。

 

「…………」

 

 そして音で場所を悟られないために声すら出さない。流石に用心深いな。けど、お前がどんな動きで来るかなんて見えなくてもわかる。俺は他者の魂の輪郭を知覚できるから戦闘において視覚がなくても問題ない。たとえ暗闇の中でも、お前の行動は手に取るように見える。

 

「……そこだっ! 『ギャラクティカエッジ』!」

「なっ⁉︎ ぐぅぅぁっ!」

 

 技が入ったという確かな感覚が腕から伝わる。そして、『暗闇』が晴れ、吹っ飛ぶマジェコンヌが目に入った。

 

 しかし、マジェコンヌはよろめきながらもすぐに立ち上がる。

 

「くっ……専用のプロセッサユニットを装備していなくてもそれか……やはり強いな、貴様は」

「戦闘スタイルを変えたのもあるし、単純に身体もアップデートされたからな」

「ふっ、そうか」

「お前も随分と腕を上げたようだな」

「私も修行というやつをしてみたのさ」

「修行……」

 

 ……おかしい。かなりのダメージが入っているはずのマジェコンヌだが、その表情には一切の焦りがない。それどころか余裕の表情を崩すことはない。

 

「後二回」

 

 そう言ってマジェコンヌは指を二本立てる。

 

「私は後二回変身することができる」

「変身……だと?」

「私なりの修行の成果というものだ。女神が普段の姿から変身して更にパワーアップするように、私も変身して更にパワーアップできるようになったのさ」

 

 変身……余裕の表情の正体はそれか……!

 

「私の変身は、本格的に女神どもと戦闘する時のために取っておこうと思っていたんだがな。光栄に思うが良い、貴様の強さに敬意を表し、私の変身を見せてやろう……!」

 

 マジェコンヌは禍々しいオーラを放ち始める。正直、変身してパワーアップされたらもう俺に勝ち目はなくなるだろう。

 

「女神様の変身の邪魔をするのは重罪だが、お前のは別だ。そんな余裕なんか与えるかよ」

「無駄だ。そんなこともあろうかと、変身中はバリアを展開できるようにしているのさ!」

「バリア……ね」

 

 わかってねえな。今から俺がするのは攻撃じゃねえ。忘れたわけじゃねえだろ? 俺にも『アレ』が使えるってことを。まぁ余裕ぶっこいてるようだから、確実に引き摺り込めるだろう。

 

 俺の領域(シェアリングフィールド)に。

 

「はぁぁぁっ! 変し……」

「『シェアリングフィ……」

 

\ パリーーーン! /

 

 俺たちがそれぞれの行動を始めた瞬間、女神様達とダークメガミを覆っていたオレンジハート様のシェアリングフィールドがひび割れて崩壊していく音がした。どうやら、向こうの戦いが終わったようだ。

 

「…………ちっ、ここまでのようだな」

 

 それを見たマジェコンヌはそう言って変身を途中でやめる。俺も集中力が乱れたから、シェアリングフィールドが不発となる。

 

「興が削がれた。今回は退かせてもらおう」

「逃がすかよ、まだ聞きてえことが山ほどあるっつったろ」

「答える義理はない……今はな」

「あ?」

「ではさらばだ」

「っ! 待て!」

 

 急いで追おうとするが、すぐにマジェコンヌはその場から消えた。

 

「……逃したか。まぁいいか。今は」

 

 さっきまでマジェコンヌが立っていた場所を見つめながら立ち尽くしていると……

 

「ギンガ!」

 

 ……物凄い勢いでパープルハート様が飛んで来ました。

 

「申し訳ありませんパープルハート様。マジェコンヌに逃げられました。おそらく奴はあらかじめ魔法か何かで逃走経路を作っていたのでしょう」

「あなたが無事なら良いわ」

「あんな奴には負けませんよ。それよりも、ダークメガミを倒したようですね。お見事です」

「そうよ、私頑張ったわ。だから」

 

 そう言ってパープルハート様が私に頭を向けてきます。

 

「パープルハート様、これは一体?」

「あら、言わなきゃわからない? 撫でて」

「はい?」

「二度も言わせないで頂戴。撫でて。ほら早く」

「わかりました……では」

 

「お姉ちゃーーん!」「ねぷっちー!」

 

 私が手を伸ばそうとした瞬間、パープルシスター様とオレンジハート様がこちらに飛んで来ました。

 

「ギンガ、やっぱり今のなし」

「は、はい……」

「はぁ、せっかく急いで飛んで来たのに」

 

 他の方には見られたくはない……ということですか。 私としてはせっかくパープルハート様を撫でられるチャンスが消えてしまい少し悲しいですね。

 

 こうして、私たちはダークメガミを倒し、マジェコンヌを退け、

 

「よっしゃああああああ! ついにあのデカブツを倒したんだああああ‼︎」

 

 といううずめ様の喜びの咆哮を聞いてから、 拠点へと戻り祝杯をあげるのでした。

 

 

 

 

 

 

 

 それから数日後。

 

「ぐだぁー……」

「ぐだぁー……」

 

 ネプテューヌ様とうずめ様は、前の戦いの疲れが取れていないようで、だらけきっていました。

 

「こら二人共。いつまでだらけているんだ? 少しは若者らしくシャキッとしないか」

 

 そんな二人に説教をする海男さん。私はあまり女神様を叱りたくないので、海男さんがそうやって叱ってくれて助かっています。

 

「はぁ、全く今までの威勢はどこに行ったのやら……」

「まぁ、お二人ともとても頑張ってくれましたから……あば、あばばばば」

「ど、どうしたギンガ⁉︎」

「これって……!」

「知っているのかい、ぎあっち?」

 

 これは、前にいーすんが別の次元のいーすんからの着信があった時と同じものです! そうか! 今の私は完全な人工生命体。次元を超えていーすんの着信を受けることができるのですね。それに気づくとは流石いーすん、我が相棒!

 

「ごごご心配なく海男さんんん。わわわ私の次元かからの通信ですのでで…………いーすん、私です」

『ギンガさん! ようやく繋がりました! ネプテューヌさんとネプギアさんは一緒ですか?』

「はい」

『そうですか、安心しました。それより、ギンガさんはもうわかっていると思いますが、あなたたちは今別の次元にいることがわかりました』

「わかっています。そして今からいーすんが帰り方を教えてくれることも」

『話が早くて助かります。以前、私と別の次元の私が世界を繋げるゲートを開いたことはご存知ですよね?』

「私といーすんでも開ける……ということですか?」

『はい。今から準備をするので、それが完了したらまた通信しますね』

「わかりました、では」

 

 そう言って通話を終了します。

 

「ネプテューヌ様、ネプギア様」

「なにー?」 「何ですか?」

「なんか帰れそうです」

「ねぷ⁉︎ うーん、早く帰りたいと思ってたけど、いざ帰れるとなったらなんか名残惜しいよ」

「何言ってんだよ。帰れるうちに帰った方がいいに決まってるぜ、ねぷっち」

「うずめ……」

 

(……そっか、私たちが帰ったら、うずめさんはまた一人で戦うことになっちゃう……)

 

「何度も言うけど、本当にありがとうな。それにこの数日間、お前たちと一緒にいれて本当に楽しかったぜ」

「うずめさん……私たちと一緒に来ませんか?」

「ぎあっち……ふっ、ありがとう」

「じゃあ!」

「けど、それはできない。こんな世界だけど、俺たちの世界を捨てたくはないんだ」

「うずめさん……」

 

 国を……世界を背負う者しての見事な覚悟。私はあなたのことを忘れません、天王星うずめ様。

 

「……あばばば、き来ましたか。もしもしいーすん」

『準備ができました』

「了解、早くて助かります。では」

『「ゲートを開きます!」』

 

 そうすると、光の柱が出現し、私たちを包んでいきます。

 

「わたし、うずめのことは絶対に忘れない!」

「ああ、俺もねぷっちたちのことは絶対に忘れない!」

 

\ 大変だうずめさん! /

 

 しかしその時、何やらとても焦った様子で、うずめ様のお仲間のモンスターたちがやってきました。

 

「……どうしたお前ら⁉︎」

 

\ この前のマジェコンヌとかいうおばさんがこっちに向かってきてるんだ! /

 

 あいつ……っ! タイミング悪すぎだろ何なんだあいつマジでぶっ殺すぞ‼︎⁇

 

「見つけたぞ女神共!」

「くっ、もうこんなとこまで来やがったのか⁉︎」

「その光、どうやら貴様らは次元を超えて戻るつもりだな。貴様らを……特にギンガ、貴様を超次元に帰すわけにはいかん! 邪魔をさせてもらう!」

「させるかよ!」

「邪魔だ、死ね!」

「……っ⁉︎ うずめさん、危ない!」

「ネプギア⁉︎」 「ネプギア様⁉︎」

 

 不味い! ゲートはそろそろ閉じて転送が開始されるというのに、ネプギア様が転送ゲートから出てしまいました! ネプギア様を残してこの次元を去るなど、女神補佐官として愚の骨頂! しかし、私が向こうに戻らないわけにもいかないのです! なぜなら、このゲートを開くのはイストワールに相当な負荷がかかっており、ゲート終了後に絶対イストワールはオーバーヒートしてダウンします。そんな時のためのイストワール修理パッチの場所は私しか知らないのです! くっ、ならば……この秘術を使うしかありませんね! (この間約0.01秒)

 

「『ギャラクティカイリュージョン』!」

 

 ギャラクティカイリュージョン。それは、所謂『分身魔法』で、私が前の身体を捨て、完全な人工生命体となることで身につけた秘術です。これにより私は二人に分身し、片方はゲートから出てネプギア様と零次元に残り、もう片方はネプテューヌ様と共に超次元に戻ることにします。 (この間約0.01秒)

 

 そして、ネプテューヌ様と一人の私はそのままゲートの光に包まれ超次元に帰還しました。

 

 

 

 

 

 

 

「わたし、超次元にとうちゃーっく! ……じゃなくて、色々と展開についていけないよ! ネプギアが零次元に残ったのもだけど、いきなりギンガが変なことやって分裂したことも衝撃だよ! ……あれ、ギンガ?」

 

 私がギャラクティカイリュージョンをあまり使いたくない理由は二つ、一つは分身すると当然それぞれ戦闘力が半分になること。戦闘力が半減しても二人に増えることの利点も勿論ありますけど、単純に私がそうなりたくないという拘りです。

 

 そしてもう一つ……二つの理由のうち、より嫌な方が……

 

「わたしはここです、ねぷてゅーぬさま」

「下から声……? それになんか舌足らず? …………ねぷぅ‼︎⁇」

 

 分散することで半分になるのは戦闘力だけではありません。外見年齢も半分になってしまうのです。私の普段の外見年齢は二十歳ぐらいの青年なのですが、つまりその半分……

 

「ギンガが……ギンガがちっちゃくなっちゃったーーーーー‼︎⁇」

 

 ……そう、今の私は十歳ぐらいの見た目になってしまっているのです。

 

 

 

 

 



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05. 星はいつもそこにある

 主人公が幼くなったことを表すためにセリフをひらがなにしたらわかりにくくなってしまいました。ごめんちゃい。



 オーバーヒートでダウンしたイストワールをネプテューヌ様の部屋に運び、丁度良く教会にいたあいちゃんとこんぱさんに状況を軽く説明し、今後のことについて話し合います。

 

 と、その前に。

 

「ねぷてゅーぬさま」

「なに?」

「ちいさくなったからといっても、ようじあつかいするほどではありません。おひざのうえからおろしてほしいのですが……」

「えーやだ」

 

 やだ、ときましたか……そう言われてしまってはどうしようもないので諦めましょう。ネプテューヌ様のお膝の上に座る機会なんてありませんからこの際存分に堪能しましょうかね。

 

(小さい師匠……すごく可愛い……っ! 私も膝に乗せたい!)

 

「ねえ、ネプ子」

「ダメだよあいちゃん」

「まだ何も言ってないんだけど」

「ギンガを抱っこしたいんでしょ? ダメに決まってるじゃんギンガはわたしのなんだから」

「ちょっとぐらいいいじゃない」

「ダメー」

「くっ……!」

 

 正直ネプテューヌ様が断ってくれて安心しています。愛弟子の膝の上に乗るのは流石に恥ずかしいので…………っと、そんなことより話を続けましょう。

 

「ええと、おーばーひーとしたいすとわーるをなおすにはしゅうせいぱっちなるものがひつようなのですが、そのしゅうせいぱっちはぷらねてゅーぬのあるだんじょんにかくしてあるのです。いまからわたしはそこへしゅうせいぱっちをとりにいきます。そこであいちゃんにたのみがあります」

「何ですか?」

「いすとわーるがなおるまでのあいだ、あいちゃんを『きょうそだいり』ににんめいします。あいちゃんはきょうそだいりとしてあるていどいすとわーるのしごとをしてもらいたいのです。ほんとうはそんなことしてもらうのはもうしわけないのですが、いまは『てんかんき』なのもあってきょうかいのしごとをとどこおらせるわけにはいかないんですよね」

 

 『転換期』。民衆が新しい女神様を望むことで現在の女神様を信仰しなくなり、それにより女神様の世代交代が起こる期間またはその兆候。些細なことでもシェアが落ちる面倒な時期です。

 

「教祖代理……わかりました! 任せてください!」

「ありがとうございます、あいちゃん。こんぱさんはいすとわーるについていてください」

「はいです!」

「ねーギンガー、わたしは?」

「ねぷてゅーぬさまはぜろじげんからかえってきたばかりでおつかれでしょうからやすんでいただければ……」

「何言ってんのさ、流石にわたしでもみんなが頑張ってるのにだらだらするわけにはいかないよ! わたしもギンガとそのダンジョンに行く! 今のギンガは見た感じ弱そうだから心配だし」

 

 よ、弱そう……っ⁉︎ 確かにステータスが半分になってはいますけど、それでもあいちゃんぐらい強いですよ。ですが、ネプテューヌ様が一緒に来ていただけるのはとても嬉しいですね。

 

「ありがとうございますねぷてゅーぬさま。ではさっそくむかいましょう」

「師匠、気をつけて」

「だいじょうぶです。ねぷてゅーぬさまもいますし、そこまできけんなばしょにいくわけじゃないですから」

 

 ギャラクティカイリュージョンでは武器を分身させることはできず、武装は零次元に全部置いてきてしまったので、今の私は何も装備していません。教会の倉庫に行き、今の私でも扱えそうなものを適当に漁り、装備を整えます。

 

 目的地は『初代女神の聖域』。その昔、私が作ったダンジョンです。

 

 

 

 

 

 

 

「で、ここがあなたの作ったダンジョンなのはわかったけど、どうしてこんなにモンスターがいるのよ?」

「ながいあいだかんりしていなかったあいだにもんすたーがおおくすみついてしまったわけです。しかし、そのもんすたーたちがしんにゅうしゃにおそいかかってくれてぎゃくにつごうがいいので、このさいもんすたーたちをすませてあげてもいいかな、と」

「なるほどねぇ」

「あの、わたしからもききたいことがあるのですが……」

「何かしら?」

「……なぜわたしはぱーぷるはーとさまにずっとだっこされているのでしょうか?」

「私がそうしたいからよ」

「はずかしいのでおろしてください」

「ダメよ」

「そんな……」

 

 ダンジョンに入って即変身したパープルハート様に抱き抱えられ、今に至ります。私ごときの身体を女神様に抱えさせるなんて不敬の極み、あと単純にめちゃくちゃ恥ずかしいので降りたいです。しかし、私を抱えながらでも華麗な動きでモンスターを蹴散らしていくパープルハート様を特等席で見ることができるのは良いですね。

 

(小さなギンガ……とても可愛いから、ずっと抱っこしていたいわね)

 

「……ん?」

「どうしたの、ギンガ?」

「このさきにれいのものがあるのですが、どうやらそこそこつよいもんすたーがいるようですね。けはいをかんじます」

「けど私の敵じゃない、でしょ?」

「そうですね。では、そろそろおろしてください」

「どうしても降りたいの? 私に抱っこされるのは嫌?」

「いやではなく、わたしもぱーぷるはーとさまといっしょにたたかいたいのです」

「ズルいこと言うわ……」

「……?」

「何でもないわ。そうね、一緒に戦いましょう。けど、あなたは本調子じゃないから絶対に無茶しちゃダメよ」

「わかっています」

「あなたは私が絶対に守るわ」

「なら、わたしもあなたをまもりますよ」

「……そういうとこ、本当にズルいわね」

「……?」

「何でもないわ。さ、行くわよ」

「はい!」

 

 そのまま奥に進んで行った私たちの目の前に立ち塞がるのは『エンシェントドラゴン』、中々強いモンスターではありますがパープルハート様の敵ではありません。

 

「ギンガ、これを」

 

 私が武器を取ろうとした時、パープルハート様に普段ネプテューヌ様が使っている太刀を渡されました。

 

「いいのですか? わたしがこれをつかって」

「倉庫にしまってあったような玩具よりその方が良いでしょう?」

「ありがとうございます」

 

\ ーーーーーーッ! /

 

 ……うるせえな。今俺がパープルハート様と話してんだろうが邪魔すんじゃねえ殺すぞ……っといけません、平常心平常心……!

 

(……なんかギンガが怒ってるけど、今のギンガが怒っても可愛いだけで迫力ないわね。じゃなくて……)

 

「……来るわよ!」

「わかっています!」

 

 咆哮の直後に繰り出されたエンシェントドラゴンのブレス攻撃を散開して回避し、パープルハート様は右から、私は左からそれぞれ攻撃を仕掛けます。私が敵の周りをうろちょろすることで気を散らさせ、パープルハート様の技が最大限に威力を発揮するための露払いをします。

 

「……『クロスコンビネーション』!」

 

 そして正面から叩きつけられた女神様の必殺技により一撃で消滅するエンシェントドラゴン。転換期のシェアの低下によるパープルハート様のほんの少しの弱体化や、サポート役の私がこんなちんちくりんになってしまっていても、苦戦するような相手ではありませんでしたね。

 

「おみごとです」

「褒められるほどの相手でもないわ。もう大したモンスターはいなさそうだし、変身を解こうかしらね」

 

 そう言って変身を解除するパープルハート様。いつもだと戦闘後に即変身を解除してしまうのは少し名残惜しいと思っているのですが、今は逆に好都合ですね。戦闘が終わったから抱っこ再開とか言われそうだったので。

 

 門番的な存在感を放っていたエンシェントドラゴンをブチ倒したネプテューヌ様と私は、そのまま奥へと進んで行き、修正パッチがある場所まで辿り着きました。そこには修正パッチだけでなく私が代々残し続けてきた『あるもの』があります。

 

「これは……いかにもな石碑!」

「れきだいのぷらねてゅーぬのめがみさまのながきざまれているものです」

「このダンジョン、『初代女神の聖域』はこれを祀るためにギンガが作ったってことね」

「はい」

「へぇ〜……ん? この『ウラヌス』って名前の隣なんか不自然に空いてない?」

 

 流石に鋭いですねネプテューヌ様。ウラヌス様の前の代の女神様こそこの次元における『天王星うずめ』様なのです。あの方が昔、この次元からあの方の記録を全て消した際に、この石碑からも名前が消えてしまったわけです。さて、どうやってそれを誤魔化しましょうか……

 

「ギンガがミスっちゃったのかな?」

「……! あ、はい、みすりました。そのせいで、すぺーすがあいたままにせざるをえなかったのです」

「意外とおっちょこちょいなところあるよねギンガって」

「そ、そうですね……あはは」

 

 よし、なんとか誤魔化せました……よね?

 

「それよりも、いまはいすとわーるのしゅうせいぱっちです。たしかせきひのまえをほればでてくるはず……」

「タイムカプセルみたいだね」

「たしかとうじのめがみさまはそんなのりでうめてたようなきがします……お、しゅうせいぱっちありました」

「よーし! 早速持って帰ろう!」

「はい!」

「……の前に、ギンガ」

「なんでしょう?」

「挨拶して行ったら? ここの女神たちに。少し後ろで待ってるからさ」

「ひつようありませんよ」

「どうして?」

「あまりわたしがあいにくることをよしとしていませんからね、ここのみなさまは。いぜんはそのうちのひとりにおいかえされましたし」

「追い返された……?」

「それに、ねぷぎあさまがむこうにのこされているというひじょうじにそんなことをしていたら、ぎゃくにみなさまにおこられてしまいます」

「そっか……じゃあ、色々と片付いたらまた来ようね。ネプギアも一緒に」

「……はい!」

 

 そう言って私たちは聖域を後にします。

 

(ーーーーまたね、ギンガ)

 

 ……声? いや、気のせいでしょう。

 

 

 

 

 

 

 

「ただいまー!」 「ただいまもどりました」

「おかえりなさいです!」

「さて、さっそくぱっちをつかいましょうかね」

「どうやって使うのこれ?」

「それは……よっと」

 

 教会に戻ったら早速作業開始です。イストワールの口を開け、その中に思い切り修正パッチを突っ込みます。

 

「ねぷぅ⁉︎ な、何やってんのギンガ!?」

「なにといわれても……こうやってつかうものなんですよ」

「そうなんだ……うわぁ、いーすんの口がとんでもないことになってる……まるでガリガリくんみたいだね」

「これで……きどうしてくれるはずですが……さぁどうなる?」

 

 パッチを接続した時、イストワールの目が光りだし……

 

『自動プログラム起動 アップデートパッチを確認 インストールを開始します』

 

 ……という自動音声が流れ出しました。成功です。

 

「これでだいじょうぶですね、あとはじかんさえかければふっきゅうできそうです」

「ふぅ……これで一安心だね!」

「良かったです!」

「わたしはいすとわーるがなおるまであいちゃんのしごとをてつだってきます」

 

 ネプテューヌ様の部屋を後にし、イストワールの執務室にいるあいちゃんの元へ向かいます。

 

「……少ししか任されてないのにこれだけでもしんどい。イストワール様って見た目以上にすごいのね……」

 

 あいちゃんは独り言で嘆きながらもちゃんと頑張っていてくれました。流石我が愛弟子。

 

「だいじょうぶですか、あいちゃん」

「ひゃぁっ! し、師匠⁉︎ イストワール様の件はどうでしたか⁉︎」

「しゅうせいぱっちをぶちこんだのでじかんがたてばふっかつするとおもいます。それまでのあいだあいちゃんだけにいすとわーるのしごとをまかせるわけにもいかないので、おてつだいにきました」

「ありがとうございます!」

「そんなにみがまえなくてもいいですよ。わたしとあいちゃんのなかじゃないですか」

「……」

「あいちゃん……?」

 

(可愛い……膝に乗せたい。いや、もう乗せよう。今はネプ子はいないし、それに今の師匠になら抵抗されても勝てそうだし)

 

 ……ん? あいちゃんの目が少し怖いですね……それに何かプレッシャーを感じます。

 

「師匠ォ……少し……こっちに来てもらえますかァ……?」

「え、あ、はい」

「ふふふ……!」

「……っ⁉︎」

 

 私があいちゃんに近づいた瞬間、あいちゃんに取り押さえられそうになりました……っ⁉︎

 

「あ、あいちゃん⁉︎ 何を⁉︎」

「抵抗しないでください師匠! ていうか師匠が悪いんですからね! いきなりこんなに可愛くなるなんて……!」

「えっ、ちょっ!」

「大丈夫です! このままおとなしくしていてくれれば! ちょっと抱っこしたり膝の上に乗せたりするぐらいですから!」

「やめてくださいあいちゃん! さすがにそれははずかしいです!」

「私だと……ダメなんですか? ネプ子ならいいのに……私は……」

「そ、それは……」

「隙ありィ!」

「なっ!」

 

 捕まりました……! 完全に私の負けですねこれは……まさかこんな手を使ってくるとは……っ! おのれあいちゃ……いや、アイエフ! 師である私を超えて行くか……! 仕方ないですね。ここは愛弟子の見事な奇策に免じて、望み通りになりましょう。

 

 さて、こちらの私は上手くいきましたが、向こうの私は上手くやれているでしょうか?

 

 

 

 

 




 


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06. 邂逅する運命

 零次元編は後一話か二話ぐらいで終わると思います。



-零次元-

 

「馬鹿野郎ぎあっち! お前自分が何したかわかってんのか! せっかく帰れるチャンスだったんだぞ!」

「だとしても、あそこでうずめさんを見捨てるなんてできません! 見捨てるぐらいなら帰れなくたって……!」

「そんなの……申し訳なさすぎるだろうが……っ」

「うずめさま、ここはおちついてください。まずはこのじょうきょうをなんとかするのがさきです」

「「…………⁉︎ ぎ、ギンガ(さん)がちっちゃくなってる〜〜!?」」

 

 ……まぁ、当然驚かれますよね。しかしそれについて詳しく説明できる状況ではありません。

 

「はなしはあとです。まずは……」

「あぁ、この状況を打開することからだね、ギンガ」

「うみおさんはモンスターたちのひなんゆうどうをおねがいします」

「わかった。うずめと有事の際の合流先はあらかじめ決めてあるんだ。そこで後で落ち合おう」

「りょうかいです」

 

 とりあえず、海男さんとモンスターたちを離脱させられました。マジェコンヌはそれを気にも留めない様子ですね。

 

「……随分と可愛らしい姿になったではないか」

「だれのせいだと……!」

「まぁ、これはこれで『奴』が喜びそうだから良しとするか」

「やつ……?」

 

 気になるワードが出てきましたが、その詳細を聞く余裕はなさそうです。奴の口ぶりからすると、私たちを始末しに来たというよりは、私を元の次元に帰さないために急いで邪魔しに来た……と考えられます。この場所が捕捉されてしまった原因は、次元を繋げるゲートを開いた際に発生する光の柱が目立ちすぎたからでしょうね。

 

 ネプテューヌ様は帰ってしまいましたが、私が半分残ったので、半分は目的を果たしたことにしてこの場は帰ってくれると良いのですが……

 

「……まぁ、さすがにそんなつごうよくはいきませんよねぇ」

「何をぶつぶつ言っている?」

「まじぇこんぬ」

「なんだ?」

「このばはひいていたたげませんかね? あなたもわたしたちをしまつしにきたわけではなさそうですし」

「良いだろう…………とでも言うと思ったか。元々私の仕事はそこの女神の始末だ。お前をこの次元に残すことは急遽入った別件に過ぎない」

「ですよねー……」

 

 なら……やるしかなさそうですね。まずはこの次元に残していた武器を装着。普段の姿で装備するのに比べると少し重いですがこの程度なら問題ないでしょう。どうやら攻め込んできたのはマジェコンヌ一人で他にモンスターを引き連れては来なかった様子。

 

「やる気か? そんなザマで?」

 

 武器を構えた私に対し、マジェコンヌが嘲笑うように問いかけてきます。奴の変身とやらを考慮すると、力の底が知れないので数では有利だとしても、正面から戦いたくはありません。実を言うと、今の私にはシェアリングフィールドの使用が不可能なのです。分身にはこういうデメリットもあるんですよね。

 

 そしてうずめ様もシェアリングフィールドが使えないと思います。私のものよりもうずめ様のものは規模が大きい分必要なシェアエネルギーの桁が違いますので、前回の使用からまだ再び使えるほどのシェアエネルギーが溜まっていないのです。

 

 しかし、敵にそれを悟らせるわけにはいかないのでとりあえず今はイキリ散らかしておきましょう。

 

「それはこちらのせりふです。こちらにはわたしだけでなくめがみさまがふたりもいるんです。おまえひとりでかてるとでも?」

「そうだな、ぎあっちへの説教は後だ。まずは紫ババァをぶっ倒す!」

「は、はい! 説教……うぅ……」

 

(……わたしがなんとかうずめさまをせっとくしますからあんしんしてください)

「……ありがとう、ギンガさん」

 

 うずめ様とネプギア様が変身し、マジェコンヌと対峙します。私はその斜め後ろで構えます。女神様の盾となる時以外に、女神様の前に立つなど不敬ですので。

 

「さぁて、年貢の納め時ってやつだよ、おばさん!」

「それはどうかな? 私にも貴様らと同じように変身ができる。そうすれば貴様ら如き簡単に蹴散らすことができるのさ」

「ふっふーん! そんなハッタリ、うずめには通用しないよー!」

「ふん、ハッタリかどうか……見せてやろう……!」

 

(…………と言ったはいいものの、数日前の戦いでは失念していた、この男もしくはあの女神の『シェアリングフィールド』。変身という隙を晒せば、奴らにもフィールドの展開に充分な時間を与え、その範囲内へ引き摺り込まれることが確定する。たとえ変身してパワーアップしたとしても奴らのフィールド内で戦うとなると分が悪いだろう。とはいえ、あんな大技はそう易々と使えん筈、おそらく相当な量のシェアエネルギーが必要だ。……ならば、少し探ってみるとするか)

 

「そういえば、シェアリングフィールドとやらは使わんのか? あれを使えば変身した私にも有利に戦えると思うぞ?」

 

 やはりそれに気づきますか。そして我々の反応を見て行動を決めるつもりでしょうね。私は表情を崩さずに無視しますが、問題は……

 

「え⁉︎  えー、あー……つ、使えるけどぉ……? 余裕で使えちゃうけど……ええと……うん、お、温存してるんだよねーあえて!」

 

 くっ……! オレンジハート様、全然誤魔化せてなくてめっちゃ可愛いですね……! 正直に『使えない』と言わなかったとはいえ、あれではバレバレです! しょうがありません、私だけでもシェアリングフィールドが使える感を出しておきましょう。正直それがバレるのも時間の問題でしょうけど……

 

(……なるほど、今あの女神はフィールドの展開は不可能! そして問題はギンガの奴だが、奴は見た目通りにかなり弱体化していると見た。前のような覇気を感じられん。およそ普段の50%のスペックといったところだろう。そんな状態でシェアリングフィールドを使えるとは思えんし、使えたとしても大した効果ではないはずだ! ならば……)

 

 マジェコンヌのあの様子……もうバレたようです。我々に奴の変身への対抗策がないことを悟られましたか……っ! 

 

「くっくっく……女神ども! 見せてやろう……我が真の力を!」

 

 マジェコンヌはそう高らかに宣言し、禍々しきオーラを纏い、姿を変えていきます。

 

(奴らが何かする様子は見られない! 私の勝ちだな……!)

 

 そのオーラが消え、現れたのは人形ではなく巨大な異形のモンスター。なるほど、これがお前の変身ですか、マジェコンヌ。

 

「うげっ、きもっ⁉︎ ぎあっち、わたし、あいつとは戦いたくないかもー。触るのやだなー」

「え⁉︎ いきなり何を言い出すんですかうずめさん!」

「冗談だよ冗談。まぁ……キモいのは本当だけど」

 

 ……? 私的には中々良いフォルムだと思うんですけどね。どうやら私とオレンジハート様のセンスは違うようです。

 

「……ほぅ、なかなかいいへんしんじゃないですか。もしへんしんとかいいながらめがみかまのまねごとをしやがったらこんどこそぶっころすところでしたよ」

「くだらん強がりはよせ。今の貴様が私を殺すなど到底無理なことだ。いや、貴様らまとめてかかってきたとしても今の私には勝てん」

「ちっ……」

「女神諸共消え去るがいい!」

 

 そう言ってマジェコンヌの魔法攻撃を繰り出してきます。その範囲は広く、避けることができません。

 

「「きゃあああぁっ!」」

「ぐぅぅぅぅ……っ!」

 

 ……⁉︎ たった一発でこのダメージ……! 思った以上にマジェコンヌのパワーが上がっています……! 女神様と同等かそれ以上の強さです。私が半分にならなければなんとかなったかもしれませんが、今この状況では全滅する可能性すらあります……!

 

「嘘でしょ……」

「力が……入らない……」

 

 大剣モードを上手く盾に使った私はともかく、パープルシスター様もオレンジハート様も戦闘を継続するのが難しいほどのダメージを負ってしまった様子。こうなったら、私が命を懸けてネプギア様とうずめ様と海男さんたちが逃げる時間を稼ぐぐらいしか道はなさそうですね。この私が死んでももう半分の私が向こうの次元で生きているので完全に死ぬことはありません。小さい状態から戻れなくなってしまうのは嫌ですけどね……

 

「ぱーぷるしすたーさま」

「ダメです」

「わたしまだなにもいってませんよ?」

「一人で犠牲になるって言うつもりでしたよね? そんなのダメです!」

「しかし……」

「何か手があるはずです……何か……!」

「残念ながらそんなものなどない! さらばだ……!」

 

(『奴』には殺さんように言われたが……ここで殺しておく!)

 

 くそっ……ここまでか……っ! せめてパープルシスター様とオレンジハート様の盾になるしかありません! 私如きの肉壁で護れるかはわかりませんが…………!

 

 

 

 

 

「『レイジングラッシュ』!」

 

 

 

 

 

 マジェコンヌが攻撃する直前、その技名と共に振り下ろされた剣が炸裂し、土煙が舞います。

 

 いまの声は……まさか……!

 

「まだどんな状況かよくわからないけど、見た感じこっちが悪者って感じだよね!」

 

 ……土煙が晴れて姿を表したその人物は、やはりあの時のネプテューヌ様に似た女でした。この零次元に飛ばされていたようですね。

 

「…………ふむふむ」

 

 彼女は周りを見渡すと……

 

「うんうん、可愛い子の味方な私としてはやっぱりこっちの助太刀をするよ!」

 

 と言い、私たちの方に駆け寄り、パープルシスター様に声をかけます。

 

「ねえ、そこの桃色の髪の可愛い子」

「え、私ですか?」

「そうそう、私私。名前なんていうの?」

「え、えと、ネプギアです」

「わーっ! 名前にネプがつくなんて奇遇だね! 海王星のわたしとしてはセンチメンタリズムな運命を感じずにはいられないよ!」

「ネプ……?」

「あ、自己紹介が遅れてたね! わたしの名前はネプテューヌ! 何を隠そう、次元を股にかける通りすがりの昆虫ハンターだよ!」

 

「「「「……!」」」

 

 その名前を聞いて、私たちは衝撃を隠せませんでした。少し固まる私たちの様子を見て心配そうにネプテューヌ様が話しかけてきます。

 

「あれ……? わたし何か変なこと言っちゃった?」

 

 しかしそれと同時に納得もいきました。おそらくこの人は別の次元のネプテューヌ様なのでしょう。

 

 ……やっべぇ……私が仕えているネプテューヌ様とは別のネプテューヌ様とはいえ、殺……拘束してしまうところでした。

 

「んー、まぁいいや……おっ! あなたの腕についているその機械、かっこいいね!」

「カッコイイ⁉︎ これのカッコよさがわかるなんて、大きくてもねぷっちはわかってるねー!」

「ねぷっち? あはは、可愛いニックネームありがとー!」

 

 オレンジハート様とも一瞬で打ち解けるコミュ力……やはり、次元は違ってもネプテューヌ様はネプテューヌ様なのですね。

 

 しかし、このネプテューヌ様からはやはり女神様特有の気配を感じない……

 

「ん? 君、どこかで会ったことある……?」

「……いえ」

「君もなかなかカッコいい装備つけてるね。後で触ってもいい?」

「まぁ……かまいませんけど」

 

 どうやら私のことには気づいていない様子。外見年齢が半分になるという分身のデメリットが逆に活かされましたね。流石にネプテューヌ様といえど、自分を殺……拘束しようとした奴の味方にはなってくれなかったかもしれませんし。

 

「話は済んだか?」

「あれ? さっきので倒されてなかったんだ」

「ふん、あの程度の攻撃でやられると思うな」

「それに、わたしたちが話し終わるのを待っててくれてたんだね。見た目によらず優しいね!」

 

(ちっ……見た目は異なっていてもうざったいところはあの女神にそっくりだな。とはいえ、どうやらこの女は女神ではなさそうだな。女神特有の気配を感じない。私の計画を乱すような力は無さそうだし……有益な情報も持ってはいなさそうだな……ここで消しておくか)

 

「一人増えたところで無駄だ。貴様も死ぬがいい」

「あ、待って待って」

「……はぁ、調子が狂うな。少しだけだぞ?」

「ありがとね!」

 

 マジェコンヌの奴……やけに聞き分けが良いですね。それだけでなく、今までの奴の行動は違和感まみれなんですよね。何が狙いなんでしょうか……?

 

 『これ』も『あれ』の一環ということなのでしょうか.…?

 

「戦闘前の回復はRPGのお約束だからね! 今回は私の作った特製のネプビタンVⅡをプレゼントしちゃうよ!」

 

 そう言ってネプテューヌ様は私たちにえげつない色と匂いの液体が入った瓶を手渡してきました。良薬口に苦しというやつなのでしょう、ぐいっと飲み干します…………うん、不味い。

 

「……苦い」

「けどすごい……傷が癒えていく」

 

 オレンジハート様もパープルシスター様も全快し、再びマジェコンヌに対峙します。このネプテューヌ様の強さが未知数とはいえ、これならなんとかなりそうです。

 

「よし、それじゃあ張り切って、ボス戦いってみよー!」

 

 

 

 

 




 『ゲイムギョウ界こそこそ裏話』
・ギンガのメインウェポンの剣の名は「星晶剣・銀牙」。その昔、初代プラネテューヌの女神がギンガに贈ったもので、絶対に朽ちることのない(加工はできる)鉱石でできている女神用の武器以上の業物です。しかし、ギンガとイストワール以外の者には持つことすらできないという初代プラネテューヌの女神からの呪いともいえる加護がかかっています。


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07. 有為転変

 小さくなったギンガのセリフをひらがなオンリーにしたのはミスでした。読みづらくて申し訳ないです。



「かたまっているとさきほどのようにいっきにやられてしまいます、さんかいしましょう! あと、しょうじきいまのわたしではへんしんしたまじぇこんぬあいてはあまりやくにたちませんので、おおきいねぷてゅーぬさまのうごきにあわせるようにしてください!」

「はい!」 「りょーかーい!」

 

(へぇ……あのちっちゃい子が指示出すんだ)

 

「とりゃあっ!」「てやぁっ!」「ほにゃっ!」

 

 散開して四方向から攻撃を仕掛けるも、パープルシスター様とオレンジハート様、そして大きいネプテューヌ様の攻撃に比べて、明らかに私の攻撃の威力が足りていません。

 

 ……やはり今の私では力不足ですね。膂力が少ないため剣の斬撃でダメージが出せず、魔力も少ないため魔法攻撃でダメージを出すこともできません。武器から放つビーム砲も私の魔力をエネルギーに変換したものなので、魔法同様威力が出せません。

 

(……やはり今のギンガは弱い、無視してもいいだろう。となると意識を例の女に四割、女神どもに三割ずつと言った配分で割けばいいだろう)

 

「消えろ!」

 

 マジェコンヌの魔法攻撃が、パープルシスター様とオレンジハート様と大きいネプテューヌ様へ飛んでいきます。しかし、私の方には飛んできません。どうやら、マジェコンヌは完全に私を意識の外に置いているようです。

 

 ……よし! この状況を待っていました! 今の私にはシェアリングフィールドが使えなくても、『この技』なら使うことができます。

 

 『この技』は隙がありすぎて、一対一の状況ではまず使えません。しかし、敵の意識が私から完全に抜けている今、この技を使う絶好のチャンスなのです。

 

 自らの力を両手に集め、腕を十字に組み、技名と共に必殺光線を解き放ちます!

 

「はぁぁぁっ! 『ギャラクティカクロスシュート』!」

 

 私のエグゼドライブに相応する技、『ギャラクティカクロスシュート』。この技だけはステータスが半減している今でも充分な威力を出せる技なのです。

 

「……なっ! ぐぅああああっ!」

 

 意識の外から飛んできた私の技は当然マジェコンヌに直撃し、それが大きな隙となりました。

 

「なに今のウルトラヒーローの必殺光線みたいな技⁉︎ まぁいいや、これで隙ができたね!」

「はい! 畳みかけます‼︎」

「おっけー!」

 

 大ダメージにより動きが鈍ったマジェコンヌに絶え間なく三人の攻撃が叩き込まれます。

 

(しまった……ダメージが大きすぎる……っ! これでは更なる変身ができん……! くそっ、あの男……こんな技を隠し持っていたとは‼︎)

 

「トドメだよっ!」

 

 その言葉と共に放たれた大きいネプテューヌ様の斬撃により、ついにマジェコンヌを倒すことができました。

 

「馬鹿な……この私が……っ!」

「ふっふーん! だいしょーり!」

 

 そして戦闘が終わり、パープルシスター様とオレンジハート様が変身を解きます。すると、変身解除を見たネプテューヌ様は何かに気付いた様子でうずめ様に話しかけます。

 

「あれ? もしかして二人って女神様だったの?」

「まぁな、名乗り遅れたが、俺の名はうずめ。この国の女神だ。さっきは助かったよ」

「おっー! うずめって、普段はかっこいいんだね!」

「俺がかっこいいだと⁉︎ ふっ、さすがねぷっち、わかってるじゃないか」

 

 そういえば、零次元のうずめ様はかっこいいことに拘っていると以前海男さんに聞きましたね。最初は頼れる女神様を演じるためのものだったと聞きましたが、それはそうともううずめ様本人の趣味になっているようです。

 

「ネプギアは女神化を解くと名前だけじゃなくて見た目もわたしにそっくりさんになるんだね」

「え、えと……」

 

 ネプギア様は大きいネプテューヌ様の対応にあたふたしています。私が話を遮ることで、助け舟を出してあげましょうか。

 

「それよりも、まじぇこんぬをどうするかです」

「俺としてはボコボコにしてやりてえとこだがな……!」

「ダメ! このグロいのは私が標本にするって決めてるんだから!」

「え……?」

「生きたまま標本にするんだ! だって、見てよ、この紫色の羽根。如何にも毒を持っている珍しい蝶って感じだし、絶対レアな生物だって!」

 

 ある意味一番タチの悪い方に捕まってしまいましたね。ご愁傷さまです、マジェコンヌ。

 

「と、いいましても、こんなにでかいやつをどうやってひょうほんにするんですか?」

「それはね……えーい! きゅーしゅー!」

 

 大きいネプテューヌ様が懐から手帳のようなものを取り出して開き、マジェコンヌがそれに吸い込まれていきます。

 

「そして、最後にテープで止めて、本を閉じて……はい、おしまいっ、と」

 

 ……なるほど、持ち運びに便利なアイテムですね。私も欲しいなぁ。

 

「……さて、さきほどうみおさんに、うずめさまのほんきょてんとやらでおちあおうといったのでむかいましょうか。うずめさま、あんないをおねがいできますか?」

「わかった。そうだ、でっかいねぷっちも来るか?」

「わたしもいいの?」

「助けてくれたんですし、当然です。何かお礼もしたいですし」

「わーい、やったー! この世界に来てからずっと一人ぼっちだったから寂しかったんだよね。それに持ってた携帯食料がなくて、野垂れ死に寸前だったんだ……」

「なら、礼に腹一杯食わせてやるよ」

「本当⁉︎ ありがとう!」

「よし、じゃあ向かおうぜ」

 

 拠点に着いたら、私は大きいネプテューヌ様がプラネテューヌ教会地下の祭壇から例の渦巻きマークのゲーム機を持ち去った件について聞きたいんです……が、この状況で聞いても気まずいことになりそうですし、とりあえず保留にしておきますか。

 

 

 

 

 

 

 

「ここが、俺の本拠点だ」

 

 うずめ様の本拠点。山と森、豊かな自然に囲まれた川のほとりで、周りにシェアクリスタルの反応も有りますね。拠点にするのにうってつけの場所と言えます。

 

 うずめ様の声を聞き、海男さんを始めとしたうずめ様のお仲間のモンスターたちが集まってきます。

 

「無事だったか、みんな! ……あれ? ねぷっちがいるね。まさか……この短期間でねぷっちが急激に育ってから零次元に帰ってきたというのかい?」

「うわっ! このお魚なに⁉︎ あははははは! 真顔でおっかしーのー!」

 

 海男さんの言葉をそっちのけで海男さんのビジュアルに爆笑している大きいネプテューヌ様を置いといて、私が説明します。

 

「〜〜〜というわけなんです」

「……なるほど」

「ねえねえ、これドラム缶風呂だよね! わたし、本物みたの初めてかも! わたし、これに入ってみたい!」

「大きくても、ねぷっちは相変わらずのようだね。早速だけど、君が何者なのかを話してくれないかい? お風呂はその後で、ね?」

「うん、いいよー。その代わり、この世界のこととか、あなたたちのこととか教えてくれないかな? ずーっと一人だったから何がなんだがサッパリだったんだ」

 

 こうして、私と海男さんで大きいネプテューヌ様に零次元のことや我々の戦いのことなどを説明しました。

 

「〜〜〜ということなのです」

「おーっ、わたし以外にもわたしがいたんだー。会ってみたいなー」

「では、そちらのせかいのぷらねてゅーぬでは、べつのめがみさまがくにをおさめているということなのですね」

「そうそう、プルなんとかって女神様なんだ」

「……! そのなは……!」

 

 プルなんとかというのは『プルルート』様……私たちが以前出会った別次元の女神様ですね。となると、大きいネプテューヌ様はプルルート様の次元『神次元ゲイムギョウ界』のネプテューヌ様なのでしょう。まぁ、並行世界や次元など星の数ほどあるので確定ではありませんが。

 

 それよりも今私たちが必要な情報は、大きいネプテューヌ様の出身地ではありません。どうやら大きいネプテューヌ様は次元を超える力をお持ちのようなので、それをなんとか私たちのために使わさせてもらいたいのですが……

 

「その、お願いがあります! 私とギンガさんを元の次元に連れていってくれませんか⁉︎」

 

 私が口を開くよりも先にネプギア様が頼み込みます。

 

 ……くっ、出遅れました……! 本来こういった交渉のようなものは女神補佐官である私の役目。それを女神であるネプギア様にやらせてしまうなど、愚の骨頂……っ! なんとも不甲斐ない、穴があったら入りたいです。

 

「いいよ!」

 

 大きいネプテューヌ様は快く承諾してくれました。

 

「……と言っても、次元を移動できるのはわたしじゃなくて、クロちゃんの方なんだけどね」

「クロちゃん……?」

「それで、そのクロちゃんというのはどこにいるんだい?」

「実は、この世界に来るなり、巨人みたいなのを見かけたと思ったら、面白そうとか言って飛んで行っちゃったんだ」

「なら、次の目的は決まりだね」

「ええ、あしたからは、そのくろちゃんさんとやらのそうさくですね」

 

 話が済ませて、あり合わせの食料で夕食を済ませた後、大きいネプテューヌ様の手帳を開き、待ちに待ったマジェコンヌ尋問タイムです。

 

「というわけで、今から……ええと、名前なんだっけ?」

「まじぇこんぬです」

「そうそう、マザコング! マザコング拷問会を始めたいと思いまーす!」

「マジェコンヌだ! ……と言いたいところだが、こんなザマではそうも言ってられんか……」

「じゃあ、質問! どうしてマザコングはうずめを倒そうとしてるの?」

「そこに女神がいるからだ」

「なにそれ。じゃあ、倒したらどうするの?」

「超次元に帰るだけだ」

「なんか、聞き出せる情報がほとんどないね。つまんないの」

「あの、ねぷてゅーぬさま。たのみがあります」

「どうしたの?」

「すこしこのまじぇこんぬとふたりだけではなしがしたいのです。そのあいだみなさまはせきをはずしてもらってもよろしいでしょうか?」

「わたしは別に良いけど、みんなは?」

「俺も構わねえよ」

「じゃあ、わたしたちはお風呂に入りましょうか」

「いいね! あ、話終わったらちゃんとねぷのーとを閉じといてね!」

 

 そう言って三人はテントから出ていきます。

 

 …………さて。

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ、良い湯だなぁ」

「こうしてドラム缶風呂に入りながら見る光景も風情があって良いですね」

「……風呂に三人で入ってなければ尚更良いんだけどなぁ」

「やっぱり三人で入るのは無理があったんじゃ……」

「ダメダメ! やっぱりお風呂はみんなで入らなきゃ! これ、お約束なんだよ」

「なんだそのお約束……ていうか、なんかドラム缶がすっげえ綺麗だな。輝いてるぜ」

「お風呂を沸かす前にギンガさんが洗って磨いておいてくれたんですよ」

「あいつ何でもできるよな……さっき飯作った時もあり合わせの食材ですげえ美味い飯作ったし。ねぷっちが羨ましいぜ、あんなできる部下がいるなんて」

「そういえば、あの子は女神じゃないんだよね? 男の子だし」

「子っていうか、なんか知らないけど身体を二つに分身させて見た目を半分の年齢にしてるんだっけか?」

「うわぁなにそれすごい。本当に人間?」

「ギンガさんは人工生命体なんです。昔は人間だったんですけど」

「へぇ〜。そういえばさ、ギンガはネプギアとか大きいわたしの何なの? 親代わりとか? もしかして……恋人⁉︎」

「ち、違いますよ! ……そうですね、私とお姉ちゃんの……なんて言えばいいんだろう? 私が生まれた時から一緒にいるのに、こうやって考えてみると、私ってギンガさんのこと全然知らないなぁ……」

 

 

 

 

 

 

 

 意気揚々とマジェコンヌに詰めてみたはいいものの……正直、大したことは聞けませんでした。残念です。

 

「お風呂あがったぞ、紫ババァと何話してたんだ?」

「うずめさま……」

「な、なんだよ俺をじっと見て……なんかついてるか?」

 

 風呂上がりのうずめ様……ふつくしい……見惚れてしまいますね、やはり女神様は最高です。

 

「いえ……せけんばなしのようなものです。たいしたことではありません」

「そっか。じゃあ、ギンガも風呂入りな」

「ありがとうございます、いただきます。どらむかんふろのあとしまつはしておきますので、うずめさまたちはおつかれでしょうしさきにねていただいてもかまいませんよ」

「悪いな。じゃあ、おやすみ」

「ええ、おやすみなさい」

 

 そう言ってテントを後にし、私もお風呂に入ります。

 

「ふぅ……いつのじだいも、おふろというものはきもちがいいですねぇ……」

 

 気の抜けた独り言を呟きながら、水面にぼんやりと映る小さくなった自分の体を見て、ふと思い出に浸ります。遠い昔、私がまだ人間で、今の見た目通りの年齢だった頃、初代プラネテューヌの女神様に初めて会ったあの日のことを。

 

「ギンガ」 

「おっ、うみおさん」

 

 物思いに耽けていると、海男さんに話しかけられました。

 

「風呂に入りながら、晩酌でもどうかな? といっても、これはお茶だけど」

「おさけはあまりすきではないので、ぎゃくにおちゃでたすかります。それに、いまのみためでおさけをのむとみせいねんいんしゅにみえてしまいますし」

「ははは、確かにそうだね」 

 

 そんなたわいない会話をして、風呂をあがり、私たちも眠りにつきます。

 

 

 

 

 

 

 

 翌日。朝食を済ませ、クロちゃんさんとやらの捜索の準備をします。

 

「それで、くろちゃんさんとやらをさがすのに、あてはあるのですか?」

「ないよ」

「ないんですか……」

「まぁ、そのうち見つかるよ!」

「だといいんですが……」

 

 うーん、この行き当たりばったりな感じ、やはりこの方もネプテューヌ様ですね。

 

「あのさ」

「はい、なんでしょう?」

「前から言おうと思ってたんだけど、わたしにも『様』を付けるのはやめてほしいかなって。わたしは女神じゃないし」

「それも……そうですね。しつれいしました、ネプテューヌさん」

「さん付けかぁ……呼び捨てでもいいよ!」

「それはできません」

「えー、なんでよー」

「なんでもです。そのなまえをよびすてにするぐらいならしをえらびます」

「つれないなぁ」

 

 そんな会話をしていると、いきなりネプテューヌさんのパーカーワンピースのポケットが膨らみだしました。

 

「えっ⁉︎ なに⁉︎」

 

 ネプテューヌさんがポケットから取り出したのは、今にも自力で開きそうなぐらい膨らんでいるねぷのーと。そして、そこから放たれるプレッシャーは……!

 

「嘘⁉︎ ねぷのーとから出てくるっ!」

 

 ネプテューヌさんがたまらず本を手から離すと、パァン! という爆発音と共に、マジェコンヌがねぷのーとから出てきました。

 

「まじぇこんぬ……っ!」

「あ、あのおばさんマザコングなんだ」

 

 そういえばネプテューヌさんは通常形態のマジェコンヌを見るのは初めてでしたね。

 

「ギンガさん! お姉ちゃん! 今の音は⁉︎」

 

 爆発音を聞きつけたうずめ様とネプギア様がテントから出てきました。

 

「てめえ、出てきやがったのか!」

「私が本気を出せば、あの適度の封印を破ることなど他愛もない」

「なら、もう一度あなたを倒してみせます!」

「ふん、多勢に無勢のこの状況。誰が貴様らと正面から戦うものか! さらばだ!」

 

 そう言ってマジェコンヌは逃亡します。意外と冷静な判断しますよねあいつ。

 

「追うぞ!」

 

 うずめ様の号令と共に、私たちもマジェコンヌの後を追いかけます。

 

 

 

 

 

 

「こちらです、みなさま!」

 

 前に言ったか言っていないかわかりませんが、私は五感がバグレベルで優れているので、奴が残した気配を辿り、後を追うことができます。以前のように用意しておいた魔法で逃亡するならまだしも、普通に逃亡するだけならば私から逃れることはできません……!

 

「まるで警察犬みたいだね」

「すごい通り越して怖いな」

「私がまだ幼い頃、かくれんぼで遊んだことがあるんですけど、ギンガさんには絶対に勝てなかったなぁ……」

 

 マジェコンヌの逃亡先は、まるでコロシアムのような場所でした。なるほど、これは逃げたと言うより……

 

「……あきらかにさそいこまれてますよね」

「上等だ! 今度もぶっ倒してやる!」

「まぁ、わたしたちが力を合わせれば簡単に勝てるよ!」

「だといいのですが……」

 

 コロシアムの内部に進んでいくと、その中心にマジェコンヌが立っていました。そして、その隣に飛んでいるのは……いーすん?

 

「あっ、クロちゃん! もう! わたしを放ってなにしてのさ! 寂しかったんだからね!」

「わりぃわりぃ、こんな面白そうな世界、滅多にないからついはしゃいじまってよ」

「ねぷっち、こいつがクロちゃんってやつか?」

「その通り、俺様がクロワールだ」

 

 この方がクロちゃんさんですか。外見がいーすんの2Pカラーみたいな感じですね。それに、魂の輪郭もいーすんに酷似しています……が、存在の質が違います。

 

 ……もっと、高次の存在のような……

 

「黒いからクロワールっていうんだよ」

「違えよ! クロニクルのクロだよ! オメエは何回言えばわかんだよ」

 

 クロニクルとイストワールでクロワールですか……いい名前ですね。それに、グレたいーすんみたいな見た目がすごく可愛らしいです。

 

「俺様は歴史を記録するのが役割なんでね。いろんな世界を渡り歩いてはその世界の歴史を記録してるんだ」

「なんでそんなやつが紫ババァと一緒にいるんだよ?」

「まぁそれは成り行きってやつだ」

「成り行き……?」

「俺がここにいんのは別に待ってる奴がいるからなんだけどな、そこにこのマジェコンヌがやって来たからよ、こりゃあ面白えことが起こるって思ってこいつといるわけだ」

「クロちゃん。別に待ってる人って誰?」

「言ったってわかんねーだろうから今は気にすんな」

「えー」

「……お?」

 

 ネプテューヌさんとの話を適当に切り上げたクロワールさんが私のことを凝視してきました。なんでしょう?

 

「……なるほど、お前がこの次元の『あいつ』か。ははっ、俺と会ったばかりの頃の『あいつ』にそっくりだな」

 

 ……『あいつ』? クロワールさんの口ぶりからすると、別な次元の私なのでしょうか?

 

「与太話はそこまでだクロワール。そろそろ、そいつらを始末させてもらう」

「へいへい、勝手にやりな」

「その前にクロワール。先程言っていた、貴様が持つタリの女神の力とやらを渡せ」

「たりのめがみ……っ⁉︎」

 

 衝撃の名前が出てきました。それにタリの女神の力をクロワールさんが持っている……だと⁉︎

 

「くろわーるさん……あなたはいったい……⁉︎」

「あ? あー、タリの女神に力を与えたのは俺だ。まぁ俺があげたのはほんの少しのカケラみてえなもんで、あんなにおっかなくなったのはあいつの資質なんだけどな」

 

 ……まさか、前作ラスボスの更にまた元凶にこんなところで会えてしまうとは。

 

「本当はあいつが世界を滅ぼすところをもっと間近で見たかったんだけどよ。結局あいつは負けちまうわ、その後あいつの力を回収して別の次元でぶらぶらしてたらネプテューヌには捕まるわで散々だったんだぜ?」

 

 どうやらクロワールさんは中々邪悪な心の持ち主のようです。しかし、いーすんと同じ顔をしているので可愛くて憎めません。困ったものです。

 

「さて、ちゃんと渡してやるから、面白えもんを見せてくれよな、マジェコンヌ」

「ふん、期待しておけ」

 

 そう言ってクロワールさんは禍々しい黒い炎のようなものをマジェコンヌに渡します。

 

「……聞け! 女神ども! 私は今から最後のダークメガミ召喚を行う!」

 

 その力を手に、マジェコンヌが高らかに宣言しだします。

 

「最後……?」

「最後のダークメガミ召喚、それは…………私自身がダークメガミになることだ! ……天王星うずめ、貴様がシェアリングフィールドを完全に使いこなせるようになる前に殺しにきておいて本当に良かった」

 

 そう言ってマジェコンヌはクロワールさんから貰った力を取り込み、ダークメガミに変身していきます。

 

「うおおおおおおっ!」

 

 ……しかし、あまりにもの力で、完全に変身するのに時間がかかっているようです。

 

 ならば……

 

「みなさま、ここはいったんにげましょう!」

「ここまで来て逃げるのかよ……って言いたいところだけど、これはマジでやべえから逃げるしかないな……っ!」

「そうですね、一旦退いて作戦を考えましょう!」

「よーし! じゃあ、てったーい! クロちゃんも一緒に逃げるよー!」

「は? おい! 離せ! いや、まぁいいか。どうせ逃げてもダークメガミと化したマジェコンヌがこの世界をぶっ壊すのは変わらねえしな」

 

 

 

 




 みなさん、いよいよお別れです!
 零次元を守るオレンジハート様たちは大ピンチ! しかも! ダークメガミへ姿を変えたマジェコンヌが、オレンジハート様に襲い掛かるではありませんか! 果たして! 零次元の運命やいかに!

 次回、零次元編 最終回『オレンジハート大勝利! 希望の未来へレディーゴー‼︎』


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FINAL. オレンジハート大勝利! 希望の未来へレディーゴー‼︎

 

 まずは状況の説明からです。

 

 現在、ダークメガミは大量のモンスターを引き連れてゆっくりと進軍中です。

 

 そして私たちですが、ダークメガミどもの進路の廃墟に潜伏しています。なぜ廃墟に潜伏しているかと言うと、ネプギア様の立てた作戦のためです。

 

 その作戦とは、シェアリングフィールドを展開する為、うずめ様をダークメガミの正面まで連れて行くこと。ですが、正面から挑んでは迎撃されるので、この先の廃墟でダークメガミを待ち伏せて、通りかかったところで奇襲を仕掛け、ダークメガミだけをシェアリングフィールドに隔離して、雑魚との戦闘を極力最低限に抑えるのです。

 

 うずめ様にはシェアリングフィールド発動のために体力を温存する必要があるため、雑魚を蹴散らすのは私の役目です。それに、フィールドを展開さえできれば、雑魚モンスターと戦う必要はなくなります。

 

 戦いの前に、海男さんを始めとしたうずめ様のお仲間たちからのシェアで、今うずめ様は大量のシェアエネルギーを蓄えています。これならば、ダークメガミを覆うのに充分なシェアリングフィールドを発動できるでしょう。

 

 さて、そろそろダークメガミがこの廃墟の前に来る時間ですね。

 

(ねぷっち、ぎあっち、ギンガ、お前らのおかげで俺はここまで来ることができた。

 ずっと一人で寂しかった。正直、こんなやつに一人で勝つなんて無理だって、薄々感じていたんだ。けど、ぎあっちたちが一緒にいてくれたから、俺は今、こいつの目の前にいることができたんだ。

 ……だから……だから、最後に改めて力を貸してくれ!)

 

「よう、デカブツ! 待ってたぜェ! この瞬間をよォ! シェアリングフィールド、展開!」 

 

 ダークメガミが通りかかるタイミングで、うずめ様がその前に飛び出し、変身をして、シェアリングフィールドを展開しようとします。

 

「……!」

 

 ……が、フィールドが展開される直前に、ダークメガミから発せられたエネルギーにより、シェアリングフィールドが打ち消されてしまいました。

 

「なんで……どうして……」

「そんな……!」

 

 何が起こったかわからずに困惑しているオレンジハート様とネプギア様に、ダークメガミが何をしたか理解した私が説明をします。

 

「なるほど、やつはしぇありんぐふぃーるどのたいさくをしてきやがったということですか」

「そんなことできるんですか⁉︎」

「りろんじょうはかのうです。もともと、だーくめがみがしぇあのちからでよわるというよりは、だーくめがみのちからとしぇあのちからはあいはんするえねるぎーなのです。だから、いっていいじょうのだーくめがみのえねるぎーはぎゃくにこちらのしぇあのちからをそがいするのです」

「ソノ通リダ! コノ私トクロワールカライタダイタタリノ女神ノ力ガアレバ、シェアノ力ナド打チ消スコトナド容易イ! 運命ハ既ニ決マッテイル、貴様ラノ抵抗ハ無意味ナノダ!」

 

 ……あいつ喋れるんですね。そんなことより、この短期間でシェアリングフィールド対策をちゃんと取ってくるとは、流石としか言いようがありません。

 

「やっぱりうずめはダメな女神なの……? 何も守れないの……?」

 

 そう言って俯くオレンジハート様の手を取ります。

 

「……おれんじはーとさま」

「ギンガ……?」

「へいじょうしん、そしてしゅうちゅうです。みずからのこころからはっせいするちからをからだぜんたいにいきわたらせるいめーじです」

 

 私がかつて私の次元のうずめ様に教わったことを、再び零次元のうずめ様に教えます。

 

「わかった……!」

「それでもまじぇこんぬのほうがつよいえねるぎーをもっているでしょう。だから、わたしのしぇありんぐふぃーるどもうずめさまのしぇありんぐふぃーるどにしんくろさせてさぽーとします」

「でも、今のギンガはシェアリングフィールドを使えないんじゃ……」

「まったくつかえないわけじゃありません。びりょくながらも、うずめさまのさぽーとはできるとおもいます」

 

 そう言って私は力を込め、シェアリングフィールドを発動させようとします。

 

「……うーん、やっぱりだめでした」

「えーーっ⁉︎ この流れでダメって嘘でしょー⁉︎」

「きたいさせておいてもうしわけありません……どうしましょううううううううう、ううう、う」

「ギンガさん⁉︎ いや、これって……!」

 

 ……この振動、イストワールからの着信ですか! いいタイミングです! おそらく、私たちの危機が次元を超えてもう一人の私になんとなく伝わり、私の側にいるであろうイストワールにも伝わったのでしょう。

 

『……皆さん! こちらの世界のシェアと、もう半分のギンガさんの力も使ってください』

「いすとわーる! ありがとうございます!」

『時間がないのでやり方を手短に説明します。まずは、もう半分のギンガさんのデータを転送し、ギンガさんを完全体に戻します。そしてギンガさん越しにこちらの世界のシェアエネルギーをネプギアさんに送ります。そうしたら、うずめさんのシェアリングフィールドの展開の補助を行えるはずです』

「わかりました、おねがいします!」

 

 その瞬間、小さな光の柱が発生し、もう一人の私が出てきます。

 

「……すこしぶりですね、わたし」

「そちらはいろいろたいへんだったっぽいですね、わたし。さて……」

「えぇ」

「「いまこそもどりましょう。あるべきすがたに……!」」

 

 そう言ってギャラクティカイリュージョンを解除し、二人の私は一つに、元の私に戻ります。

 

「女神補佐官ギンガ、完全復活です!」

「あーっ! あなたはあの時の怖い教会職員! なるほど、あなたがギンガだったんだ!」

「あ、ネプテューヌさん。えっと、その節は失礼しました……けど、こちらにも事情があったもので」

「まぁ、勝手に入ったわたしが悪いってのもあるしね。水に流そう!」

「はい、まずはこのダークメガミを倒すところからです」

『では、シェアエネルギーを送りますよ』

 

 その直後、イストワールから高濃度のシェアエネルギーが私の身体に送られてきます。

 

「あばばばばばばばばばっ!」

 

 高濃度のシェアエネルギーを女神様ではなく人が浴びると、まるで高圧の電流を浴びているようになってしまい非常に危険です。私越しでシェアエネルギーを届けるというのは、私の身体が頑丈だからこそできる荒技なので、絶対に真似しないでください。ていうかこんな作戦提案してくるなんて、イストワールって割と私に容赦ないですよね。

 

「ねねねねネプギア様ままま、わわ私の手をととと取ってシェアエネルギーをううう受け取ってくだだださいいいい」

「は、はい!」

 

 私から超次元のシェアエネルギーを受け取ったネプギア様は変身をします。パープルシスター様にシェアエネルギーを届けることで私の身体への負荷と振動が収まりました。

 

「この懐かしい暖かさ……うん、これこそ私の世界のシェアエネルギーです!」

「さぁ、オレンジハート様、やりましょう」

「うん、わかった!」

「パープルシスター様、お願いします」

「はい!」

 

 まずはパープルシスター様に集められている超次元のシェアエネルギーと、うずめ様のシェアエネルギーを共鳴させます。

 

「「シェアリングフィールド‼︎」」

 

 そして、うずめ様と私のシェアリングフィールドをシンクロさせ二重に展開します。一層目はマジェコンヌに打ち消されますが、二層目のシェアリングフィールドは無事に展開されます。

 

「何ダト⁉︎」

「ふっふーん! これがうずめと……」

「私の……」

「「絆の力だよ(です)!」」

「……へー、あなたとうずめの、ねぇ……」

 

 ……オレンジハート様と私が息のあった決め台詞を言い終わると、後ろから不機嫌そうなパープルハート様の声が聞こえてきました。

 

「……⁉︎ パープルハート様⁉︎」

「全く、目を離したらすぐに私以外の女神に鼻の下を伸ばすんだから……っ!」

「なぜシェアリングフィールド内に……⁉︎」

「このフィールドは零次元と超次元のワープゲートも兼ねているってあなたも知っているでしょう! ほら、うずめにデレデレしてないでさっさと戦う準備をしなさい!」

「は、はい!」

 

 そう言ってパープルハート様に耳を引っ張られますが、私にとって女神様から与えられる痛みは快楽です。

 

「あれが小さいわたし? 小さくないじゃん。あっ、変身してるからか」

「そうですね。お姉ちゃんは変身すると大きくなるんです」

 

 オレンジハート様、パープルハート様、パープルシスター様、ネプテューヌさん、そして私。役者が揃いました。まさに総力戦です。

 

「みんな……ありがとう! 最終決戦、みんなで勝ちに行くよーーっ‼︎」

 

 

 

 

 

 

 さて、戦闘開始です。

 

 シェアリングフィールドのバフを加味しても、零次元では超次元ほどパープルハート様とパープルシスター様の力を発揮することはできません。先程送られてきた超次元のシェアはシェアリングフィールドのエネルギーにしてしまいましたし。おそらく今の私たちのステータスを並べると……

 

オレンジハート様>私≧パープルハート様>パープルシスター様

 

 ……といった感じでしょうね。ネプテューヌさんの力はまだ測りきれていないので除外します。

 

 おそらくそれをダークメガミ-マジェコンヌも理解していると思うので、奴の狙いが集中するのはオレンジハート様でしょう。

 

 ならば、NPカタールを射出し、その後脳波制御によりオレンジハート様の周りを浮遊させ、盾のようにします。

 

「ありがと、ギンガ!」

「どういたしまして」

 

 ……オレンジハート様のめいいっぱいの笑顔と感謝の言葉で少し頬が緩んだところに、思い切りパープルハート様に尻を叩かれます。

 

「集中」

「……はい、申し訳ありません」

 

 ……気を取り直して。我々は今五人。そのうちの二人か三人が常にダークメガミの死角にいるフォーメーションを取っています。

 

 飛行できる女神様たちはダークメガミの周りを飛び回り、私もネプテューヌさんはシェアリングフィールドに設置されている足場を跳び回っています。ダークメガミの前方にいる方が攻撃を引きつけ、後方にいる方がダメージを与えていく、そんな戦法です。

 

(チッ! チョコマカト……!)

 

 そんな戦い方をする私たちにイラついたのか、ダークメガミの攻撃パターンが変わっていき、オレンジハート様に集中していた狙いも分散していきます。ならば……

 

「うずめ様、一旦カタールを回収しますね」

「わかった! ばいばい、カタ男、カタ美!」

 

 ぉおう……私のカタールに勝手に名前をつけられてしまってました。カタールを回収して、ガンブレイドと合体させてライフルモードに換装し、照射ビームを放ち……ますが、どうやら大したダメージにはなっていませんね。

 

「マジェコンヌがいる分パワーアップしているからか、前のダークメガミとは比べ物にならない強さね」

「なるほど」

「迂闊な行動をすればすぐにこっちがやられてしまいそう、少しずつ削っていくしかないわ」

「そうですね」

 

 強敵を前にも焦らずに冷静さを失っていません。流石です、パープルハート様。

 

「消エロ!」

 

 その声とともに、ダークメガミから放たれるは禍々しい色の光弾。狙いは私とオレンジハート様ですか。

 

「うずめ! ギンガ!」

「「問題ないよ(ありません)!」」

 

 私は大剣モードを盾に光弾を防ぎ切り、オレンジハート様は拳で相殺します。

 

 敵の攻撃の隙を突き、パープルハート様とパープルシスター様とネプテューヌさんが斬撃を叩き込むも、ダメージになっているのかいないのかわかりません。

 

「うーん、これじゃ埒が空かないね」

「向こうの攻撃をうまく捌けてるけど、こっちも有効打があげられてないです……」

 

 どうやら、時間をかけて少しずつ削っていくのがセオリーっぽいですけど、シェアリングフィールドは無限に展開できるわけではないので、時間をかけると有利なのはダークメガミ側です。困りましたね。

 

 ……待てよ、この技なら大きなダメージが見込めます。

 

「はぁぁっ! 『ギャラクティカクロス……」

「ソノ技ハ撃タセン!」

「ちぃ……っ!」

 

 私が構えた瞬間に攻撃を飛ばしてきて邪魔してきやがりました。流石に、一度敗因となった技は撃たせてくれませんか。

 

 …………いや、これならば。

 

(皆様、作戦があります)

 

 散開した味方をいちいち集めては、敵に作戦を組んだことを悟られます。よって、私が前作序盤に多用していた脳内に直接語りかけるやつを使います。

 

(〜〜〜〜〜〜〜という感じでいきます! では、皆様お願いします!)

 

 作戦を伝え終わると、パープルハート様が不安そうな目でこちらを見てきましたが、作戦を開始させてもらいます。その作戦とは……

 

「『ネプテューンブレイク』!」

「『M.P.B.L』オーバードライブ!」

「『スラッシュラーケン』!」

「ひっさつ! 『烈破夢双絶叫』!」

 

 ……四方向からの、大技の連撃。

 

(無駄ナコトヲ……! 必殺技ノ連携トハイエ、来ルト分カッテイルモノナラバ、ガードシテヤリ過ゴセバダメージヲ大幅ニ減ラセル!)

 

 ……はブラフで、本命は私の『ギャラクティカクロスシュート』です。奴が女神様たちの攻撃に気を取られている隙に、私が光線のエネルギーを溜めます。

 

(……イヤ待テ? ギンガノヤツハドコダ……?)

 

 ……ダークメガミのあの様子、まさか気づかれたのか⁉︎

 

(チィッ、騙サレルトコロダッタ……! コイツラノ必殺技ハ陽動! 本命ハ……!)

 

「……貴様ノ必殺光線ダナァッ!」

 

(メガミドモノ攻撃ヨリモ、コノ男ノアノ技ヲクラウ方ガマズイ! 女神ドモカラノダメージハアル程度割リ切ッテ、マズハギンガヲ仕留メル‼︎)

 

 私の作戦に気づき、技を溜めている私を見つけたダークメガミは女神様たちの技を無視して思い切り拳を振り下ろし、

 

「ぐぅああああああっ‼︎」

 

 技の溜め途中だったため行動が遅れた私に直撃します。

 

「ギンガっ‼︎」

「馬鹿メ! 私ガソンナ作戦ニ気ヅカナイトデモ思ッタカ⁉︎」

 

 あまりにものダメージで、私はもう戦闘を続行できそうにありません……

 

 だが、これでいいのです。

 

「……ぐっ……ふふ……ふ、ふはははっ!」

「何ガオカシイ?」

「馬鹿はあなたです。私は女神補佐官ですよ? 女神様を差し置いて、私がトドメの一撃をやるとでも?」

「……ナンダト?」

「わかりませんか? じゃあはっきり言ってやる。俺に気を取られて女神様から目を離すから負けるんだよ」

「……ッ⁉︎」

 

 そう、私の攻撃は更なるブラフです。この作戦の本命は……

 

「「「「『クアッドバースト』!」」」」

 

 ……パープルハート様、パープルシスター様、オレンジハート様、ネプテューヌさんの連携技『クアッドバースト』を、私に気を取られ無防備になったダークメガミにぶち当てることだったのです。実を言うと、『クアッドバースト』にエネルギーを割いてもらうために、先程の皆様の必殺技はセリフだけでただの威力の高い通常攻撃をしてもらいました。

 

 この作戦のために、私があえてダークメガミの攻撃を正面からまともにくらう必要があったから、パープルハート様が私を不安そうな目で見たわけですね。

 

 ダメージが大きすぎてボロボロで立ち上がることができないため、女神様たちの美しき連携と、連携技をまともにくらい耐久値が限界を下回ったダークメガミが断末魔をあげながら消えていく様子を見届けます。

 

「馬鹿ナァァァ! グアアァァッ……ッ!」

 

 これで、オレンジハート様の……いえ、オレンジハート様と私たちの勝ちです。

 

「勝った……うずめたち、勝ったよ! 今度こそ本当に勝ったんだよ‼︎」

 

 ……戦いが終わり、女神様たちは変身を解除します。

 

 

 

 

 

 

 

「でも、まさか最後の最後にお姉ちゃんがこっちの世界に来るなんてびっくりしたよ」

「いーすんがパッチでアップデートされたおかげで次元を超えるゲートを作れるようになったのです。同じプラネテューヌ産の人工生命体である私がいる異次元という条件で、大量のシェアエネルギーがあれば、ほぼ確実に作れます」

「す、すごい……!」

「そうそう、決戦前にいーすんのアップデートが間に合ってよかったよ」

 

 ネプテューヌ様がそう言い終わると、ネプテューヌ様の元にネプテューヌさんが駆け寄ってきました。

 

「うわーっ! 小さいわたし、かわいい!」

「そういうあなたは大きいわたし! さっきは戦いに集中してたからよく見てなかったけど、わたしって大きくなるとこんな風になるんだ。よかった、身長だけじゃなくてちゃんと胸も成長してるみたいで安心したよ」

 

 ぬっ! これは、ネプテューヌ様とネプテューヌさんの絡み、ダブルネプテューヌ様‼︎ あぁ^〜良いですねぇ〜。片方が普通の人間で良かったです。二人とも女神だったら尊さに耐えられず死ぬところでした。

 

「にしても、ねぷっちが二人並んでるってのも、不思議な光景だな」

「と言っても、ギンガさんがいきなり二人に分身した後だとあまり驚きはしませんけど……」

「それもそうだな。さて、シェアリングフィールドを解除するか」

 

 ……! シェアリングフィールドを解除するのはまずい! 止めなくては!

 

「あーっと、まってうずめ! ストップストップ!」

 

 私が口を開く前にネプテューヌ様が止めてくれました。良かったです……

 

「ん? なんでだ?」

「実はこの空間が消えちゃうと、わたしもネプギアも元の世界に戻れなくなっちゃうんだ」

「シェアエネルギーで構築されたこの空間が消えると、強制的にゲートも閉じてしまうわけです」

「そう、だからのんびりしていられないんだ。今度こそ……本当のさよならだね」

「……そうか、もう少し一緒にいられると思ったけど、

「……あ」

「そんな顔するなよ、ぎあっち。俺たちは女神なんだ、今生の別れってわけじゃあるまいし、いつかきっとまた会えるさ」

「……はい! いつか、また会いましょう……!」

「あぁ、約束だ!」

 

『それでは、ゲート、開きます!』

 

「じゃあね! うずめ!」

「あぁ! ねぷっち! ぎあっち!」

 

 ネプテューヌ様とネプギア様の別れの挨拶を見届けた後、私も別れの挨拶をします。いーすんが作った次元のゲートは、私が通ることが解除条件に設定されているので、私が最後まで残る必要があるわけです。

 

 あれ? そういえばネプテューヌさんはどこへ行ったのでしょう? 少し目を離したら消えてしまいました。……まぁ時間がありませんし、あの方のことはおいといて、私も別れの挨拶を済ませましょう。

 

「ギンガ、お前も色々とありがとうな」

「女神補佐官として、女神様のために動くのは当然のことです」

「君とはもっとゆっくりと語り合いたかったものだ」

「海男さん……またお茶を飲みながら語り合いたいものですね」

「あぁ、そっちのうずめにもよろしく」

「……はい」

「……ん? そっち?」

「なんでもないさ」

「では、ゲートを閉じます。さようならうずめ様、海男さん」

「ああ! また会おうぜ!」

 

 別れの挨拶を済ませ、ゲートを閉じます。

 

 さようなら、うずめ様、海男さん。また会いましょう。

 

 零次元の素晴らしき女神様と、その素晴らしきお仲間たちに、祈りを込めて。

 

 

 

 

 

 

『紫の星を紡ぐ銀糸N』第一部 零次元編 -完-

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ、クロワールに呼ばれて来たはいいものの、なんなんだこの次元? 廃墟まみれだし、人もいねーし、キショイモンスターがうようよいるし、それになんか変な女が倒れてるしよ。ま、女神除いて女には優しくするってのが俺の信条だから助けといてやるか」

 

「とりあえず……んーと、クロワールは『本物の天王星うずめ』ってやつと合流しろって言ってたな。けど、そいつ聞いた限り女神らしいんだよな。俺、女神好きじゃねーんだけど」

 

「てか、こんな世界に本当に俺が求めてるものがあんのかよ」

 

「う……」

 

「あ? 目が覚めたか?」

 

「……? ギンガ……? なぜ貴様が……」

 

「あ? ギンガ? 誰だよそいつ…………あぁ! わかったわかった、別の次元の俺のことね、はいはい」

 

「別の次元……? 貴様はギンガではないのか。ならば貴様の名は?」

 

「あ? 名前かぁ……俺名前ねぇんだよなぁ。あーでも、前どっかの世界の守護神をぶっ殺した時に、その世界のバカどもにそこに伝わる御伽噺の悪魔の名前で呼ばれたことがあってな……確か『ルギエル』って名前だったか。それ割と気に入ってるからそう呼んでくれ」

 

「ルギエル……か」

 

「あんたの名前は?」

 

「……マジェコンヌだ。それよりも、なぜ貴様はこんなところにいるのだ?」

 

「昔の知り合いに呼ばれたんだよ。クロワールっつーんだけど、知ってる?」

 

「……! ……知っている。ならば、貴様がクロワールの言っていた……」

 

「ほーん、話は聞いてんのね。じゃあ、あんたも俺のお仕事仲間ってことなのかな? よろしく。てかあいつ、呼び出しといて自分はいねえのなんなんだよ」

 

\ おーい! やっぱ来てやがったか!/

 

\ あれがクロちゃんの待ってた人?/

 

\ そういうことだ /

 

「お、やっと来やがったようだな。んじゃ、お仕事の始まりだな。超次元編に乞うご期待ってね」

 

 

 

 

 

 -つづく-

 

 




 というわけで、次回から超次元編です。


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超次元編
01. 動き出す悪意


 超次元編スタートです。



 私たちが零次元から戻ってきて数日後、心配をかけたお詫びと言っては何ですが、ネプテューヌ様が小さなお茶会を開催しました。

 

 現在、ゲイムギョウ界は『守護女神の転換期』の真っ只中で、皆様が招待を受けてくれるか心配でしたが、日に日に増していく女神様たちへのネガキャンに対しストレスが溜まっているようで……

 

「あーっ! もう、誰よ勝手にラステイションの女神は友達がいないとか孤独な守護者とかネットに書き込んで広めたのは!」

「私もですわ。昨日は一日中部屋に缶詰でしたのに、紅茶ショップ巡りをして高い紅茶を経費で沢山買ったことにされていますわ……」

「私も。何故か、私の名前でAMAZOOの商品レビューを書かれてる。しかも、全部評価が最低で、抽象的な内容。二週間で百以上の商品に最低評価をつけたり、購入を『ココウニュウ〜』、ゲームを『ゲムー』って書いたりしてるあたり、間違いなく煽ってるわ。そして、何故かそれを私の裏アカウントだというデマまで出始める始末……」

 

 ……という感じで、愚痴らずにはいられないということで、集まってくださりました。

 

「みんな大変だねー、有る事無い事書かれて」

「あなたはどうなのよネプテューヌ」

「シェアが下がってきてはいるけど、わたしにはみんなみたいな酷いものはないかなぁ」

「……なるほど。確かにプラネテューヌの場合は、悪い書き込みを即特定して即断罪しそうな奴がいるものね」

「命を賭けてまでもやる奴はいないってことね」

 

 ……はて? 誰のことでしょう? 

 

「……皆様、お茶のお代わりをお注ぎします」

「あら、ありがと」

「ねぇギンガ」

「なんでしょう?」

「昔から転換期ってこんな感じなの?」

「そうですねぇ……過去のゲイムギョウ界にも転換期はあり、その時の女神様のシェアが低下することはありました」

「やっぱりあったんだ……」

「しかし、当時は四国間の守護女神戦争が盛んだった時代なので、転換期で国がゴタつくと、その隙を他国に突かれて国を滅ぼされる可能性もありました。だから、国民は行き過ぎたネガキャンをしなかったのです。だというのに今の時代のカスどもは……っ!」

「はい、ギンガ、ストップ」

「……申し訳ありません、熱くなりました」

 

 転換期の厄介な点はそれだけではありません。転換期は人々が自らの意思で引き起こすものというより、現象に近いのです。例えるなら、働き蟻の法則ですね。女神様にネガキャンをするカスどもを皆殺しにしても、女神様を信仰する人々の中からまたいきなり女神様を信仰しなくなる者が生まれてしまう、といった感じです。

 

「ねえ、ネプテューヌ。そういえば、お茶会の他に何か重要な話があるとか言ってなかった?」

「そういえばそんなことを言ってたわね。つい、愚痴るのに夢中で忘れていたけど……」

「そうそう、そうだよ。わたしもすっかり忘れてた。えっとね、こういう時期だからこそ、個別に対応するんじゃなくて、みんなで連携して乗り越えられないかな、って思ってるんだ!」

「……ネプテューヌにしては良い案ね。わたしも、一人では限界を感じていたところ」

「でしょでしょ? 三本の矢は一本よりなんたらって言うように、こんな時だから協力し合うべきなんだよ」

「協力、ねぇ……良い考えだと思うけど、それはそれでまた叩きの材料にされるのよね……」

「『慣れ合い政治乙!』や『一人では何もできない守護女神』とか批判の書き込みが目に浮かぶようですわ……」

「……まぁでも、やってみる価値はありそうね。それにネプテューヌ、何かいい案があるんでしょう?」

「うん! わたしたち四国共同で、おっきなおっきな祭りをやろうと思うんだ!」

「お祭り? それならどの国も毎年やってるじゃない?」

「それは国別でしょ。わたしがやりたいのは、四国合同の、言わばゲイムギョウ界感謝祭的なでっかいやつ!」

「……良いアイディアね」

「私もネプテューヌの意見に賛成ですわ。今までは国ごとの対応でしたが、この案なら、何かが変わるかもしれませんわ」

「そうね。それに、もしかしたら、影で変な情報を流している犯人を炙り出せるかもしれないわ」

「変な情報って?」

「まだ確証はないけれど、私たちに関してデマや嘘を流して人々を不安に陥れている奴がいるの」

「これは、あくまで推測ですが、規模的に何かしらの組織の犯行ですわ。でなければ、この量の情報操作は無理ですわ」

「おそらく、プラネテューヌに関してのデマが少ないのは……」

 

 そう言ってノワール様が私を見ます。

 

「……下手な情報を流せばギンガやイストワールに捕捉されかねないから……ってのもあるでしょうね」

「プラネテューヌに関しては、その者たちも慎重にならざるを得ないってことですわね」

 

 そんな皆様のやり取りを聞いて、少し頬が緩みます。

 

「どうしたのよギンガ? ニヤニヤして」

「皆様に、プラネテューヌのデマが少ないということで、デマを流してるのは我々だと疑われるかもしれないと思っていたのですが……実際はそんなことを微塵も思っていないようで、以前にも増して仲が良くなられたと、感慨深さを覚えたのです」

「あ……」

「そういえば、そんな発想すらしなかったわ……」

「いつのまにか、私たちはすっかりネプテューヌに絆されていたのですわね」

「……ん? なになに? わたしまたなにかやっちゃいました?」

「もう……台無しじゃない……まぁいいわ。ゲイムギョウ界大感謝祭、やってやろうじゃないの!」

「じゃあ、みんなでお祭り成功させるぞー!」

「「「おーっ!」」」

 

 

 

 

 

 

「……もしもし、私です」

 

「こちらの出方は決まりました。おそらく、それに合わせて何か動きがあるはずです」

 

「……あ? あれは事故みたいなもんだからしょーがねえだろ? まぁ、悪かったよ」

 

「そいつらの狙いのようなものは、まだわかってないのですか?」

 

「わかりました。警戒はしておきます。じゃあ引き続き頼みました」

 

 

 

 

 

 

 

 大感謝祭が決まってから数ヶ月後。月日はあっという間に経ち、四カ国共同のゲイムギョウ界感謝祭は無事に開催されました。

 

 以前より、女神様へのネガキャンは酷くなり、私もはらわたが煮えくり返りそうでしたが、感謝祭が始まってからは、国民たちも祭りを楽しんでいるのか、そういったものは目に見えて減っていきました。それどころか、女神様に対するシェアも回復しているように見えました。

 

 私たちの杞憂なんて知らないかのように、ゲイムギョウ界感謝祭は大盛況の中、最終日を迎えました。感謝祭に合わせたテロなどを警戒していましたが、何も起きませんでしたね。

 

 しかしまだ終わってはいません。最終日である今日は、感謝祭の最大の目玉、G-1グランプリの決勝リーグがあります。 G-1グランプリというのは、ゲイムギョウ界の猛者たちが集い、最強を決めるべく戦うトーナメント戦の大会です。

 

 ちなみに私は今回は運営側ということで参加していません。参加したとしても、女神様に当たって散っていたでしょうし。

 

「さて、そろそろ時間ですね。パープルハート様を応援せねば……」

 

 警戒を怠らないようにしながらも、パープルハート様応援用Tシャツに着替え、パープルハート様缶バッチを身体中に装備し、パープルハート様うちわを両手に持ちます。髪の毛も今日だけ紫色に染めるか悩んだのですが、いーすんに止められたのでやめました。 

 

 観客席を先に取っておいてくれたあいちゃんとコンパさんの元に向かいます。

 

「あっ! 師匠! ……気合入ってますね」

「全身ねぷねぷですぅ……」

「あいちゃんとコンパさんの分もありますよ、ほら、パープルハート様Tシャツと缶バッジとうちわ」

「……えっ⁉︎」

「わぁ……! ありがとうございますです! 早速更衣室で着替えてくるです!」

「ちょっ! コンパ! 乗り気なの⁉︎」

「あいちゃんは乗り気じゃないですか?」

「……嫌だったのですか? あいちゃん……」

「う……ぅぅ……わかりました! 着替えてきます! 行くわよコンパ!」

「はいです!」

 

 あいちゃんとコンパさんが着替えてきたタイミングで、決勝リーグのプレイヤーの四人、四女神の皆様が入場してきます。まぁ、そりゃ決勝リーグに進むのはあの方々になりますよね。

 

(うぅ……恥ずかしい……! でも、着たからには全力でネプ子を応援してやろうじゃない!)

 

「ネプ子ーーッ! 頑張れェーーーーッ!」

「ねぷねぷーー! 頑張ってくださいですーー!」

 

 お! 何という気合の入った応援! 流石はあいちゃんとコンパさん! 私も負けていられませんね!

 

「パープルハート様ーー‼︎ 頑張ってくださーーーーい‼︎」

 

 

 

 

 

 

 

\ ネプ子ーーッ! 頑張れェーーーーッ! /

 

\ ねぷねぷーー! 頑張ってくださいですーー!/

 

\ パープルハート様ーー‼︎ 頑張ってくださーーーーい‼︎ /

 

「呼ばれてんぞ?」

「……三人とも、すごい格好ですわね。特にギンガ」

「……もう……恥ずかしいじゃない」

「って言ってる割には嬉しそうだけど?」

「そうね、負けられない理由が増えちゃったわ」

「へっ! 一対一の勝負なんてやってらんねえな! 四人入り乱れての乱戦マッチといこうぜ!」

 

「その勝負、ちょっと待ってもらおうか!」

 

 

 

 

 

 

「…………あ? 誰ですかあいつら」

 

 四女神様たちの素晴らしい戦いが始まろうというタイミングで、謎の四人組が乱入してきやがりました。女神様たちの元に直接殴り込む命知らずはいないと思って少しだけ警戒を解いてしまった私のミスでもありますね。

 

「……あいちゃん、コンパさん。今から私、ステージに向かってあの不届き者どもを殺……摘み出しに行ってきますね」

「は、はい……」

「師匠、私も……!」

「あいちゃんはここで待っていださって結構です。ていうかここにいてください。あの不届き者どもは私の手で殺……摘み出したいので」

「はい、すみません……いってらっしゃい師匠」

「行ってきます……っ!」

 

(やばいやばいやばいやばい、師匠めっちゃキレてる……‼︎)

 

 観客席とステージの間には、危険防止のためにバリアが貼られているので、観客席からステージに行くためにはわざわざ廊下から入場路まで回り込まなくてはなりません。バリアをぶっ壊して直行するという手もありますけど、私でもこのバリアを壊すのは時間がかかりますし、それをやると後でいーすんにめっちゃ怒られるのでやめておきましょう。

 

 全力疾走でスタジアムの廊下を駆けます。

 

「この廊下を越えれば……入場路……っ!」

 

 ……その瞬間、天井を破壊し、何者かが落下してきました。

 

「……っ⁉︎」

 

 土煙が晴れ、そこに現れたのは……

 

「けほ……っ! 煙た!」

 

 ……私? 私と全く姿形が同じ者がそこに立っています。

 

「……うーん、別次元の同一体だから当然っちゃ当然だが、やっぱり俺と瓜二つでキショイなぁ」

 

 別次元の同一存在……まさかこの男は、ネプテューヌ様に対するネプテューヌさんのような存在だということですか。

 

「そこをどいてもらえますか?」

「それはできないな。クライアントからはお前の足止めを任されてんだ。なんたらエネルギーってやつのおかげで、あの四人は女神に勝てるだろうけど、お前相手だとそれが効かねえからちときついだろうからな」

 

 それを聞けば、更に行かなくてはならない理由ができました。別次元の私と会ったところで何も思うことなどありません、邪魔をするなら排除する、それだけです。

 

「どかないのならば……殺してでも押し通ります!」

「無理だな。お前じゃ俺に勝てねえよ」

「警告はした……!」

 

 剣を取り、この男に降りかかりますが、私の斬撃は全て寸前で避けられます。この男……私の攻撃を避けるだけで何もしてきませんね……?

 

「何故本気で戦わない……?」

「俺の役目は足止めっつったろ? それに、クライアントはお前を殺すなって言うんだもん。殺していいなら本気で殺すんだけどな」

 

 舐めやがって……っ! しかし、長らくゲイムギョウ界で生きてきた私ですら、私と同じくシェアエネルギーが全くゼロの者との戦闘経験がないため、敵の動きが読みづらく、戦いづらいのも事実。

 

「……潮時か」

 

 すると、奴はいきなり私から距離を取ります。

 

「逃げる気ですか……っ!」

「お仕事が完了したから俺がもうここにいる意味はねえってことだ。見ろ」

 

 そう言って奴が指を差した廊下のモニターに映し出されていたのは……

 

 ……例の四人に敗北した四女神様たちでした。

 

 嘘だろ……?

 

「んー、どこまで話していいんかな? まぁいいか。今から行われるのは世界改変ってやつだ。女神の存在を排した新世界の幕開けって感じ? 俺はどうでもいいけど」

「……っ!」

「お前もわかっていると思うが、この世界改変はシェアエネルギーを介在して行われる。つまり、シェアエネルギーを全く持たない俺たちにはなんの影響もない。安心しろ」

 

 ……わかっていますよ。

 

 私がその手の世界改変に耐性があるから、私はうずめ様のことを忘れなかったのですから。

 

「そんじゃーな! あばよ!」

 

 そう言って奴が消えた瞬間、世界は眩い光に包まれーーーー

 

 

 

 

「時は満ちた。さぁ始めよう。ゲイムギョウ界の改変を」

 

 

 

 



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02. 改変の序曲

 

 

 

 

 

「世界は書き換えられた。さぁ、アフィモウジャス将軍よ、君は改変された世界に何を望むんだい?」

「金だ。持てる限りの富を、ワシは手に入れるのだ」

「……金、か。いつの時代にも金の亡者はいるものだ。まさか、侵略戦争でも始めるのかい?」

「戦争、か。武力による争いなど、旧世紀の争い成り! 現代の戦争とはすなわち情報戦! そしてまた、情報は武器にも富にも成る! それ故の、秘密結社アフィ魔Xである‼︎」

「……なるほど。見た目によらず、君はインテリのようだ。でも、約束を忘れてもらっては困るよ?」

「分かっておる。アレを手に入れればいいんだろう? 既に部下が動いておる」

「確か、忍者……ステマックスだったかな。いつ紹介してくれるんだい?」

「あやつはワシの命にしか従わん。故に、お主に合わせるつもりはない。それに、お主にも部下がいただろう? 我が計画の最大の懸念であったプラネテューヌの女神補佐官を足止めした例の男が」

「彼、ねぇ……こっちが任せたことはちゃんとやってくれるんだけど、世界改変が起こった後、探しているものがあるって言ってどっか行っちゃったんだよね。一応後で連絡を取ろう思ってるけどさ」

「ふん、そうか」

「まぁいいさ。君たちが例の物さえ手に入れてくれればね。長年待ちわびたんだ、あまり待たせないでくれよ?」

 

 

 

 

 

 

 

「この次元のギャザリング城到着っと! さぁ、俺の求めるものはあるかな?」

 

「…………」

 

「はぁ……ない、か。この次元もハズレ臭えな。ま、念のためこの次元の隅から隅まで探してみっかなぁ……」

 

\ ppppppp /

 

「あ? 着信? おぉん、クライアント様か……めんどくせえー……もしもし?」

『どこをほっつき歩いているんだい、ルギエル? 君に頼みたいこ「電波が悪いから聞こえませーん。一旦切りまーす」……え? ちょっ』

「さて、俺の探し物が終わるまで着拒しとくか! ワークライフバランスってあるだろ? 今はライフの方優先ってね!」

 

 

 

 

 

 

 

 例の世界改変後、場所は変わらずスタジアムで目を覚ました私は、同じくスタジアムで意識を失っていたらしいネプギア様、ユニ様、ロム様、ラム様と合流しました。

 

「突然みんな会場から消えちゃうし、おまけに誰も私たち女神のことを覚えてないし、何がどうなってるの?」

「皆様、いきなりこのようなことを言われても信じられないかも知れませんが、今この世界は改変されているようです」

「改変……?」

「どういうことですか?」

「私も詳しいことは分かりません、ですが、この現象を仕掛けたであろう敵の一人と先ほど交戦し、そいつが確かに言ったのです。『女神(様)の存在を排した新世界の幕開け』……と。結局その敵には逃げられてしまいましたが……」

「新世界……」

「なんかこわい……」

「とりあえず、あたしはラステイションに戻ってお姉ちゃんと合流します!」

「わたしもルウィーに戻ってお姉ちゃんと合流するわ!」

「うん……!」

「私は今すぐネプテューヌ様を探しに行きたいのですが、まずは教会に戻り、イストワールに今の世界がどう改変されているのかを聞こうと思います」

「わかりました! じゃあ、お姉ちゃんは私が探します!」

「では、ひとまずここで解散ですね。皆様、抜かりなく!」

「「「「はい!」」」」

 

 そのままユニ様はラステイションに、ロム様とラム様はルウィーに向かわれました。ネプギア様はネプテューヌ様の捜索に向かわれ、私はプラネテューヌ教会に戻ります。

 

「……ん? 何ですかあの下品な金色は……?」

 

 スタジアムを出て、見通しが良くなると、見慣れない塔のようなものが四つほど目に入りました。それに、見た感じシェアエネルギーが集められているようです。気になりますが、詳細はイストワールに聞きましょう。

 

 

 

 

 

 

「ただいま戻りました」

「おかえりなさいませ、ゴールドサァド補佐官殿」

「……は?」

「……え?」

「あ、いえ、何でもありません」

 

 教会職員の一言に驚き、つい素が出てしまいました。彼が言ったゴールドサァド……そして金色の塔……イストワールに聞かずとも、今のゲイムギョウ界の現状が少しずつ分かってきましたね。

 

「あ、おかえりなさい! ギンガさん!」

「ただいま戻りました。イストワール。早速で悪いのですが、数秒ほど合体しましょう」

「……なるほど、確かに私たちなら言葉を交わすよりそっちの方が手っ取り早いですね」

 

 イストワールは私の意を汲み取ってくれました。話が早くて助かります。

 

 私とイストワールの合体とは、前作12話で見せた『ギンガイストワール』のことです。イストワールが私の頭にしがみつくようにして合体し、私とイストワールの意識をリンクさせます。私の身体とイストワールの頭への負担が大きいので乱用はできませんが、数秒程度の合体ならその負荷を大幅に軽減できるでしょう。

 

「では……」

「「合体‼︎」」

 

 合体によって私たちの記憶の一部が共有され、(イストワール)は改変前の世界の詳細を、(ギンガさん)は改変後の世界の詳細を把握することができました。

 

「「……大体わかりました」」

 

 イストワールとの合体を解除し、頭に流れ込んできた情報を整理します。

 

 まず、ゲイムギョウ界から女神様の情報が消し去られてしまったのは事実。そして、改変後の世界は女神様ではなく、 G-1グランプリ決勝に乱入し女神様を倒した例の四人組『ゴールドサァド』が治めるゲイムギョウ界へとなっているようです。

 

 改変の主な影響は二つ。一つは新たなモンスターの出現。改変前まで確認されたことのなかった凶暴なモンスターたちが徐々に増えている、また突如モンスターが凶暴化する現象が報告されているようで、他者に対して見境なく猛威を振るうことから教会は『猛争化』と呼称し、原因を調査しているとのことです。

 

 二つ目の影響は、世界改変や猛争化に託けた団体や組織が小競り合いを始めたこと。まだ国家間の戦争とまでは行っていないものの、規模や戦火は徐々に大きくなっているようです。

 

 そして、今最も深刻なのが、それらを裏で操っていると言われている『秘密結社アフィ魔X』。企業の技術や情報を盗み出し、それらを他者に売り捌き戦火を広げている文字通り悪の秘密結社の存在ということです。

 

 ……はぁ、女神様がいなくなった途端このザマですか。やはり、人間どもは醜いですね。うーん、ゴールドサァドと秘密結社アフィ魔Xとやらを皆殺しにすれば、この改変は直るのでしょうか?

 

 何はともあれ、情報は集まりましたし、私もネプテューヌ様の捜索に行きましょう。

 

\ ppppppp /

 

 ……着信? どうやら、あいちゃんからですね。

 

「もしもし、どうしましたあいちゃん?」

『あ、師匠! ネプ子見つけました! 今から教会に連れて帰ります!』

 

 ……流石我が愛弟子。

 

 

 

 

 

 

 

「ただいま戻りました、イストワール様、師匠」

「ただいまです!」

「もー大変だったよ! 起きたら街の外だし! 街の人はみんな私のこと覚えてないし! でも、あいちゃんとコンパはわたしのことをちゃんと覚えててくれてて、それだけは嬉しかったなぁ」

「私もよくわからないんだけど、何故かネプ子のことは覚えてたのよね……」

「私たちがねぷねぷのことを忘れるわけないです」

 

 女神様の情報が消えている今のゲイムギョウ界において、何故あいちゃんとコンパさんがネプテューヌ様のことを覚えているか疑問だったのですが、そういうことですか。世界改変に耐えるほどの想い……本当に良い友を持ったようですね、ネプテューヌ様。

 

「ギンガもちゃんとわたしのことを覚えてくれてくれたんだよね!」

「……それに関してですが。私がネプテューヌ様のことを覚えているのは、あいちゃんとコンパさんとは違い、私の体質だと思われます」

「えっ……そっか……わたしへの想いじゃ……なかったんだ……」

「ちょっと師匠! 事実とはいえ、それはあんまりじゃないですか!」

「……私だってネプテューヌ様が大好きだから忘れなかったって言いたかったですよ! でも女神様に嘘はつけませんもん!」

「え、あ、はい。すみません師匠……」

 

(……あ、今のギンガさんの一言でねぷねぷの表情がみるみる明るくなっていくです)

 

「……こちらこそすみません、取り乱しました。あいちゃんとの通話が終わった後、ネプギア様にも連絡を取ったのでそろそろ教会に戻ってくる頃かと……」

 

\ ただいまー! ……じゃなくて、今はお邪魔します……なのかな? /

 

「あ! ネプギアが帰ってきたよ!」

「これで、プラネテューヌの女神が二人とも揃いましたね」

「ギアちゃん、おかえりです」

「はい、ただいまです」

「ネプギア様、あれからユニ様やロム様、ラム様はどんな感じでしょう?」

「んー……私も大したことは知らないんですけど、ノワールさんはラステイション教会に捕まって、今はユニちゃんが救出作戦を実行している頃ですし、ロムちゃんとラムちゃんはついさっきルウィーに着いてブランさんを探してるみたいですけど、中々会えないようです。リーンボックスに関しては、魔王が復活したとかどうとかで騒ぎになってたような……」

「ちょ、ちょっと待ってネプギア! あんた、なんでそんなに詳しいのよ⁉︎ 諜報部の私だって知らない情報ばっかりよ⁉︎」

「仕方ありませんよあいちゃん。どうやら今のゲイムギョウ界は世界改変の影響で各国の情報網が分断されているようで、改変前ほど諜報部が情報を手に入れにくいのです。ネプギア様がここまでの情報を手にしているのは、他の候補生の皆様と無線で連絡を取り合っていたからなのでしょう」

 

 それに、ネプギア様は零次元でのネット環境に依存しすぎていたことを痛感したようで、いざという時のために候補生の皆様の携帯端末を改造していました。私の携帯端末も目を話した隙に勝手に改造されてました。まぁ、結果オーライってやつですね。

 

「リーンボックスの件は少しハッキングしましたけど……」

「リーンボックス……ですか」

「ベールさん、一人で大丈夫かなぁ?」

「そうですね。リーンボックスに限っては、女神候補生もいないですし……」

「今直ぐにでもベールのところに飛んでいってあげたいけど、流石にプラネテューヌを空けるわけには行かないしなぁ……んー……そうだ!」

 

 ネプテューヌ様が何かを思いついたようで私の方を見てきます。何か、ではなくもう何を言われるのか分かりましたけど。

 

「ねえ、ギンガ」

「かしこまりました」

「……わたしまだ何も言ってないよ?」

「言わずともわかりますよ。リーンボックスに出張、ですね?」

「そう! ベールは強いけど、誰も頼れる人がいないってのは寂しいだろうからさ! ネプギアに行ってもらうか悩んだんだけど、ネプギアだとベールの毒牙にかかりかねないから……」

「ど、毒牙⁉︎」

「そうそう、もしネプギアを行かせちゃうと、次会ったらネプギアがベールの妹になってる可能性があるんだよねー……」

「ベール様なら……ありえるわね」

「ありえるです……」

 

 ……確かにベール様ならやりかねないというのは、否定はできませんね。

 

「では早速、リーンボックスに向かいます」

「あ、ちょっと待ってギンガ!」

 

 私がリーンボックスに向かおうとするとネプテューヌ様に呼び止められました。

 

「ギンガに渡したいものがあるんだ!」

「渡したいもの……とは?」

「ギンガは私の加護を受けられないでしょ? でも、私の加護をたっくさん込めたアイテムを渡せば、間接的にギンガに私の加護をかけてあげられるってことで、いーすんと協力して作ったんだ! 名付けて、わたし特製指輪型アイテム『ネプテューヌリング』だよ!」

「これを……私に?」

「うん! 本当は、 G-1グランプリで優勝したら渡そうと思ってたんだけどねー……とりあえず付けてあげるから、左手出して!」

「はい!」

 

(うわっ、ネプ子ったら薬指に付けてるわ……!)

(ねぷねぷ、大胆です……!)

(惜しむべきはギンガさんが左薬指に指輪をつけるって意味を全く理解していないであろうことですね……)

(ネプ子からのプレゼントで嬉しい、ぐらいしか思ってなさそうよね)

(まぁでもそれでこそギンガさんです……)

 

 ネプテューヌ様からのプレゼント……心が躍ります。魂が叫びます。あ、やべ、泣きそう……

 

「ええと、この指輪には……わたしの加護以外にどんな効果が有るんだっけ? ……忘れちゃった」

「私から説明します」

「あ、いーすん! いいところに!」

「この指輪には、ギンガさんの魔法やシェアリングフィールド展開の補助、専用プロセッサユニット『リミテッドパープル』装備時の負担の大幅な軽減、そして……」

「あ、思い出した! ええと、ギンガがピンチになった時、この指輪に想いを込めると良いことがあるよ!」

「良いこと……とは?」

「それはやってみてのお楽しみかな! わたしがいなくても、その指輪をわたしだと思って肌身離さず付けててね!」

「はい!」

 

(ネプ子……それはいくらなんでも愛が重すぎじゃ……)

(でも、ギンガさんも嬉しそうだからいいんじゃないですか?)

(うーん、二人とも嬉しそうなんだけど、二人が喜んでる内容がなんかちょっとすれ違ってるような……)

 

 ネプテューヌ様とイストワールが私のために作ってくれた強化アイテム……以前装備していたNPカタールとNPガンブレイドが零次元最終決戦でダークメガミの攻撃をまともにくらった時に破損してしまったので、新しい強化アイテムによって戦力を増強できるという意味でも助かります。

 

「では、ギンガさん。お気をつけて」

「行ってらっしゃい! ギンガ!」

「はい、行って参ります!」

 

 早速リミテッドパープルを装備展開し、リーンボックスに向けて空を駆けます。本当にリミテッドパープル装備時の負担が軽減されてますね……しゅごい。

 

 ……というわけで、リーンボックス出張編、スタートです!

 

 

 

 

 

 





 原作であいちゃんがネプテューヌのことを覚えてなかったのがなんか嫌だったので覚えてることにしました。

 超次元編のノワール編ブラン編は原作から変えようがないのでカットされます。ネプ編もぎあちゃんがいますが、ほとんど変わらないのでカットされます。



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03. リーンボックスに立つ

 

 

 空を駆けリーンボックスに向かう途中、いきなり海上からリーンボックスの兵と思われる連中に攻撃を受けました。

 そういえば改変前の世界と違い、国間の関係も殺伐としているんでしたね、迂闊でした。ネプテューヌ様からのプレゼントが嬉しすぎて気が抜けていたのかもしれません。

 殲滅するのにそれほどの時間は必要なさそうなのですが、この兵士たちも記憶がないだけで元はベール様の大事な国民。無闇に傷つけるわけにはいきません。ですので、適当にいなしつつ強行突破しましょう。

 

 

 

 

 

 

 

『ベール、どうやら外敵は包囲網を強引に突破し、君がいる方向に進んでいるようだ。迎撃してくれ』

「かしこまりましたわ」

『健闘を祈る』

 

(……ん? どうやら早速来たようですわね! ……ってあれは!)

 

「ベール様ーーーーーーッ‼︎」

「ギンガ⁉︎」

 

 リーンボックスに侵入し、ベール様の気配と女神様特有の尊さを探知しながら飛び回ること数分で見つけることができました。そのまま、ベール様の前に跪く姿勢で着地します。

 

「女神補佐官ギンガ、ネプテューヌ様の命を受け、ベール様の元に参りました!」

「ネプテューヌの? どういうことですの?」

「ネプテューヌ様が、ベール様の助けになってほしいと」

「そうですか……正直言うと、一人だと少し不安でしたからあなたが来てくれて助かりますわ。ありがとう」

「勿体なきお言葉。早速ですが、リーンボックスの現状についてお聞きしてもよろしいでしょうか?」

「ええ、もちろんですわ。私は今〜〜〜〜」

 

 ベール様から聞いたリーンボックスの現状は、プラネテューヌと同じく女神様の存在が消し去られ、代わりに統治者としてゴールドサァドの『エスーシャ』という女が君臨している、というものでした。

 

 そしてどうやら、リーンボックスは外敵とモンスターの猛争化による脅威に脅かされているようです。外敵というのは、他国からの侵略者を指しているようなのですが、ベール様は他にも隠された意味があると推測しているようです。

 そして、その外敵からリーンボックスを守るためにソルジャーという職が存在し、適正さえあれば外敵討伐の任務が与えられ、その成果によって金銭などが支給されるようです。ベール様はリーンボックスの内情を知ることと、エスーシャへ接近のためにソルジャーに登録したということです。

 また、魔王とやらが復活し、その対処にも追われているようです。その魔王の呪いのせいで、ソルジャーたちがらん豚に変身させられているとのこと。魔王……ゲイムギョウ界の御伽噺に『ユニミテス』という魔王が出てくるのですが、あくまでこれは空想上のものですし、私にはわかりません。

 

「外敵……あー、なるほど。それ私のことですね。だから先程執拗に攻撃を受けたのですか……」

「安心してくださいな。私が事情を説明して誤解を解いて差し上げますわ」

「ありがとうございます」

「それもそうですけど、まずはプラネテューヌのことが聞きたいですわ」

「それならばおまかせを、イストワールから情報を仕入れていますので」

 

 ベール様にプラネテューヌの現状、それに加え、ネプギア様から仕入れた他国の現状も話せる限りのことを説明しました。

 

「プラネテューヌは猛争化したモンスターに脅かされてるものの、他国ほど社会そのものはあまり変化していません」

「元の統治者があまり仕事をしてませんものね」

「それに関してはノーコメントです……」

「とりあえずは、外敵なんていなかったと言うことで、報告に戻りましょうか」

 

 

 

 

 

 

 

 

「おお、ベールよ。やられてしまうとは情けない」

「やられてなどいませんわ。そもそも外敵ではありませんでしたし」

「どっちでもいいさ。君の戦果には興味ないしね。……それより、隣の男は誰だ?」

「彼はギンガ、私の……なんて言ったらいいんでしょう?」

「今はベール様の忠実な僕です」

「あ、はい。じゃあそれで。彼が今回リーンボックスにやってきた外敵の正体ですわ。ただし、私を訪ねてきただけですので、外敵というのとは少し違いますけどね」

「なるほど、勘違いだったわけか。それはすまなかった」

「やけにアッサリと流しますね。私は曲がりなりにもリーンボックスへの侵入者ですよ?」

「別に、興味ないね。どうやらソルジャーたちにも被害はないようだし、それ以上に君に興味がない」

 

 リーンボックスのゴールドサァドであるこちらのエスーシャという方は、私に対して無関心ですね。まぁ逆に助かります。

  G-1グランプリの決勝を台無しにした四人のうちの一人であるこの方に怒りが湧かないと言えば嘘になりますが、今は私の我を通す場ではないので我慢です。

 

「腕は立つようだし、君にも魔王と外敵の討伐に協力してもらいたい」

「構いませんよ。ベール様のお役に立つために私はここに来たわけですし」

「ありがたいね。今日から君もソルジャーだ。歓迎しよう」

 

 会話しながらエスーシャさんのことを観察してみましたが、彼女の魂の輪郭は人と少し異なっていますね、まるで一つの身体に二つの魂が宿っているような……

 

「とりあえず、今日はご苦労だった。下がっていいよ」

 

 ……私は良いとしてベール様に『下がっていいよ』……? 何ですかその口の利き方は? ぶち殺されたいのですかこの女……っ⁉︎ ……っといけません、我慢我慢。

 

 話が終わり、私たちは追い出されるように教会を後にします。

 

 

 

 

 

 

 

「どう思いますか?」

「どう、とは?」

「エスーシャのことですわ。私たちが話している間、あなたはずっと彼女のことを観察していたでしょう?」

「そうですね、エスーシャさんの魂の輪郭を見たところ、一つの身体に二つの魂が宿っていました」

「……とんでもないことサラっと言いましたわね」

「それ以外では……エスーシャさんは支配欲が無いと言いますか、リーンボックス自体にあまり興味が無い、という感じに見受けられましたね」

「あの、魂の件をサラっと流さないでくれません? そもそも魂の輪郭って何ですの?」

 

(……いえ、そういえば以前ネプテューヌも言っていましたわね、『ギンガは割と変なことを言うからある程度はスルーした方が良い』と)

 

「私にも一切の興味が無いようなのが幸いですね。これでこちらもある程度自由に動けます。ベール様」

「何でしょう?」

「知り合いがリーンボックスにいるようなので、少し会ってきてもよろしいでしょうか?」

「構いませんわ。では夜まで自由行動といたしましょう」

「了解です」

 

 

 

 

 

 

 

「久しぶりね! 狂人……じゃなくてギンガ」

「はい、お久しぶりです、アブネスさん」

 

 かつては『幼女女神に断固NO!』とかいうふざけたことを言っていたこちらのアブネスさんですが、タリの女神の件を境に何か思うことがあったのか、最近は女神様や教会に反するような動画を上げることはやめ、小児や幼児向けの教育チャンネル的なものをやっているようで、その教育チャンネルの人気がとても高くなっているようです。

 というわけで、彼女とは敵対する理由もなくなったので『昨日の敵は今日の友』と言いますか、最近何かと連絡を取り合うような仲になったわけです。そこで、私は彼女の有名配信者しての情報網に期待し、リーンボックスだけでなくこの世界の更なる情報、あわよくば秘密結社アフィ魔Xについての情報を聞き出そうということで彼女を尋ねたのです。

 ちなみに、彼女はリーンボックスに在住しているわけではないのですが、世界改変が起こった時に偶然リーンボックスにいたせいで、出られなくなってしまったらしいです。

 

「早速ですが、『秘密結社アフィ魔X』について何か知ってることをお聞きしてもよろしいですか?」

「ほんとに早速ね……まぁあなたが私を尋ねてきたって時点でそういうことだと思ってたけど。実を言うと例の世界改変の二週間前ぐらいに私に秘密結社アフィ魔Xに協力しないかって感じの内容のメールが届いたのよね。私のチャンネルの発信力と秘密結社の情報力が一つになれば巨万の富を得られる、みたいなこと書いてあったわ」

 

 ……富、ですか。現代の戦争は武力ではなく情報戦と言いますからね。世界を混沌に陥れ、その中で情報という武器を売買することで富を得る。成程、それが秘密結社アフィ魔Xの目的のようですね。

 

「もちろん断ったわよ。私は金儲けのために動画撮ってるわけじゃないもの。それに、戦争や紛争が起これば一番被害に遭うのは弱者、つまり幼年幼女なのよ? そんな世界許せるわけないじゃない!」

 

 アプネスさんの掲げる『世界中の幼年幼女を守る』という信念。これを元に女神様に敵対しつつも女神様という存在に向き合い続けた彼女だからこそ、世界が改変されても女神様の記憶が残っていたようです。

 

「そういうわけだから、私も秘密結社のことは名前しか知らないわ。あ、でもそうね……『@将軍のまとめサイト』って知ってるかしら?」

「最近巷で話題のニュースサイト的なやつですよね?」

「そうそう」

 

 『@将軍のまとめサイト』とは、ゲイムギョウ界で最も話題のニュースサイトらしいです。私は欲しい情報は自らの足で仕入れに行くタイプですので利用したことはあまりありません。

 

「私はこのサイトの運営をしてるのが秘密結社アフィ魔Xだと思ってるわ」

「確かに……あれだけの情報量、秘密結社が運営しているとなれば納得もできます」

「ま、わかったところで、だけどね」

「そうですよねぇ……以前までの世界ならまだしも、教会の情報網が分断された今の世界では、例のサイトから秘密結社の特定なんてできませんからね……」

 

 とはいえ、少しずつわかってきました。どうやら『秘密結社アフィ魔X』は『@将軍のまとめサイト』を運営して情報を仕入れてまとめることで、自分たち都合のいいように世論を誘導して世界を裏から操っているようですね。

 しかし、解せない点が一つ。それは……

 

「……ゴールドサァドとやらについてなのですが、なんていうか違和感があるんですよね。秘密結社と結託し、女神様を陥れ世界改変を企んでいたにしては、ゴールドサァドたちは国の統治に無関心すぎます。先程会ったリーンボックスの統治者であるエスーシャさんや、現在のプラネテューヌの統治者であるビーシャさん、ルウィーとラステイションのことはあまり知らないのですが、聞いたところその二つの国のゴールドサァドも国の統治に積極的じゃないらしいですし……」

「そうねぇ……何か探るために直接インタビューしようにも、リーンボックス教会は門前払い、他の国には行きようがないし」

 

 教会に行ったんですか……相変わらずの行動力の化身ですね。

 

「ま、とりあえず私から渡せる情報はこんなものね。と言っても、全然何も渡せてないけど」

「いいえ、こちらこそ貴重なお時間をいただきありがとうございました」

「あ、そうだ。プラネテューヌの幼女女神によろしく!」

「……はい! 伝えておきます。ですが、幼女女神(様)って言い方はやめてください。殺……断罪しますよ?」

「怖っ!」

「冗談です」

「あなたが言うと冗談に聞こえないのよ‼︎」

 

 

 

 

 

 

 

 アブネスさんと別れ、再びベール様と合流しました。それからベール様が拠点としているホテルに来たは良いのですが……

 

「……あの、ベール様」

「どうかいたしましたか?」

「教会がエスーシャさんの手に落ちているので、今はホテルを拠点に活動しているのはわかります。ですが…………なぜ私もベール様と同じ部屋なのでしょうか?」

「なぜ……って、あなたはネプテューヌに言われて私の孤独を癒しに来たのでしょう? でしたら、私と同じ部屋にいるべきですわ」

「ですが……」

「それに、あなたに対して今更恥じらうことなんてありませんわ。あなたには私がまだ女神として未熟だった頃の醜態の数々を知られていますもの」

「醜態だなんて思っていませんよ。様々な経験を積み重ねることで、女神様は成長なさるのですから」

「ふふふ、そうですか。なら、紅茶でも飲みながらそれらの思い出話といきませんか?」

「良いですね。では私が」

「いいえ、私が淹れて差し上げます。あなたは座っていて」

「かしこまりました」

「〜〜♪」

「……上機嫌ですね。何か良いことでもあったのですか?」

「今だけならあなたはリーンボックスの女神補佐官ですもの。上機嫌にもなりますわ」

「以前は事あるごとに私をリーンボックスの女神補佐官にしようもしていましたものね……最近は全く誘われなくなりましたけど」

 

 その代わりなのかは分かりませんが、ベール様はネプギア様を妹にしようとする動きが以前にも増して激しくなり、ネプテューヌ様が頭を悩ませています。

 

「そうですわね、私は他人の恋路を邪魔するような無粋な女神ではありませんもの」

「恋路……ですか?」

「はぁ……それくらい自分で気づきなさい」

「……?」

「とりあえず紅茶が入ったので、お茶にしましょう」

「かしこまりました」

 

 ……といった感じで、リーンボックス出張一日目は終了しました。

 

 

 

 

 

 

 

「……そこにいるのは誰だ?」

「まさか、私に気づくとは、流石ゴールドサァドのエスーシャといったところか」

「……誰だ?」

「私の名はマジェコンヌ。ゲイムギョウ界に混沌を齎す者さ」

「混沌だかなんだか知らないが、私を暗殺しにでも来たか? だが、この身体で討たれてやるわけにはいかないんでね、抵抗させてもらうよ」

「自惚れるな。貴様の命など興味はない。貴様とは話がしたくて来たのだ」

「興味ないね」

「低下したソルジャーの戦力補強や練度の向上のため、でもか?」

「……」

「情報規制を敷いているようだが、魔王復活における貴様の失態はいずれ国民に知れ渡るだろうな」

「……それで? 私を脅して何を企む?」

「脅すだなんて心外だな。私はただ、貴様と取引がしたいだけなのだ」

「取引だと……?」

「貴様の計画とやらに協力してやろう。その代わり、この教会の地下に封印されている『あるもの』を渡してもらう」

「そんなものに興味はないね。だが、協力すると言ったからには、それと引き換えだ」

「ふっ、構わん」

 

 

 





 アブネスはなんか出したかったので出しました。割と好きなんですよねこいつ。一応信念があって、めちゃくちゃなこと言ってるようで割と筋通ってるとことか。


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04. 辿り着いた真意

 

 

 

「『ギャラクティカエッジ』ッ‼︎」

 

 外敵のロボ型モンスターに私の剣技を叩きつけ破壊します。

 

「お見事ですわ、ギンガ」

「ありがとうございます」

「相変わらず綺麗な剣技ですわね」

「お褒めいただき光栄です」

「そういえば、結局ネプテューヌはこの技を使えるようになったのでしょうか?」

「わかりませんが、多分使えないかと」

「教えて差し上げないのですか?」

「女神様が私の真似事などする必要はありませんので」

「はぁ……ネプテューヌが可哀想ですわね。いつか愛想を尽かされても知りませんわよ」

「嫌われる覚悟も無くては、女神補佐官は務まりませんよ」

 

(……流石に鈍すぎはしませんか? ネプテューヌに同情する日が来るとは思いませんでしたわね……)

 

 さて、状況を説明しますと、私たちはここ数日ソルジャーとして外敵やモンスターの駆除に明け暮れていて、今日も今日とて外敵退治に駆り出されたわけです。魔王による呪いでソルジャーが次々とらん豚にされている現状、戦えるソルジャーが減る一方なので、私たちも忙しくなる一方です。

 

「……ん?」

 

 破壊されたロボ型モンスターの内部がふと目に入り、ある『違和感』を覚えます。

 

「ギンガ、どうかいたしました?」

「……ベール様、少しお時間をいただけますか? このロボの残骸で調べたいことがあるので」

「構いませんけど……」

 

 ベール様に許可をいただいたので、ロボ型モンスターの残骸の腕部を引きちぎって強引に中身を取り出して観察します。

 

「やはり……このロボ、リーンボックス製のパーツが多く使用されています。いえ、それどころかほぼ完全にリーンボックス製です」

「何ですって……?」

「外見だけではわからないのですが、内部パーツは国ごとに個性が出るんです。こういったロボ型モンスターは過去に何度もぶっ壊してきたので、中身を少し見ただけでどこ製なのかわかっちゃうんですよね」

「そして……これがリーンボックス製と?」

「はい。間違いありません」

「……ならば、つまりこれは外敵を模して作られた偽物ということですわよね? けど、どうしてそんなことを、誰が…………って、ここで考えていても仕方ありませんわ、考えるのは後にして、今は進みましょう」

 

 私たちの外敵排除任務の次にはもう魔王討伐任務が入っています。

 そう、討伐なのです。ここ数日間の教会の調査により、ついに我々は魔王の住処を突き止めたので、すぐに魔王の住処たるダンジョンへの向かいます。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここが魔王がいるダンジョン……ですか」

「魔王の住処にしては地味な場所ですね。もっとおどろおどろしいものかと思っていたのですが」

「私の国にそんなダンジョンがあってたまりますか」

「それもそうですね。失礼しました」

 

 そのままダンジョンに突入し、迫り来るモンスターをちぎっては投げ、ちぎっては投げ、どんどん奥へと進んでいきます。

 

「うーん……」

「どうかいたしましたか、ベール様?」

「い、いえ、何でもありませんわ」

 

 ここ数日間ベール様は戦っている時少し不満そうな表情をするんですよね。私が何かしてしまったのでしょうか……?

 

 ……おっと、魔王とやらの気配が近づいて来ました。

 

「ベール様、この先に……」

「わかっています。魔王がいるのでしょう?」

「気を引き締めていきましょう!」

「ええ!」

 

 と言って気を引き締めはしたものの、魔王とやらにしては何か気配が弱々しいですね。それに、私はこの気配に覚えがあります。

 

「……お出ましのようです」

「これが、魔王? 確かに不気味な外見をしていますわ」

 

 私たちは魔王の正体を目の当たりにしました。いえ、魔王と呼ばれているだけのただのモンスターと言った方が正しいですね。

 

「……いえ、違います。このモンスターは、私が零次元という次元で戦ったモンスターです。身体が大きいですが、魔王と呼ばれるほどの強さはありません」

「零次元……あなたたちが以前迷い込んだ次元ののことですわよね?」

「はい……しかし、何故零次元のモンスターがここに……」

「……はぁ」

「ど、どうしたのですか? いきなり溜息など……?」

「このモンスター、雑魚なのでしょう? せっかくギンガが来てくれて、一緒に華麗な連携をしながら戦える思っていたのに、ここ数日間出てくるのは連携など必要のない程度の雑魚ばかり。不満も溜まりますわ……」

「そう言われましても……」

 

\ オオオオオオオオッ! /

 

 己を目の前にして雑談をする私たちに苛立ったのか、モンスターは咆哮を上げながら襲い掛かって来ます。

 

「ベール様!」

「言われなくてもわかっていますわ。さっさと片付けてしまいましょう……!」

 

 敵の攻撃を華麗に回避し、回避の姿勢から流れるように繰り出されたベール様の槍技により、モンスターは動けなくなるほどのダメージを負いました。図体だけ大きい雑魚モンスターなのもあって、私が何もせずとも一瞬で決着がついてしまいました。

 

「お見事です」

「褒められるほどの相手ではありませんわ。それよりも、私良いことを思いついたのですけれど」

「良いこと……とは?」

「このモンスターを魔王ということにしてエスーシャに差し出すのはどうでしょう……?」

 

 ベール様がニヤリと笑います。

 

「なるほど、いいですね……!」

 

 その意図を理解し、私も便乗してニチャアっとした笑みを浮かべます。

 

「先に笑った私がいうのもなんですが、その笑い方流石に気持ち悪いですわよ。二度としないでくださいな」

「……申し訳ありません」

 

 

 

 

 

 

 

「……まさか、こうも早く魔王を捕まえられるとは。流石女神とその僕と言ったところか」

「当然ですわ」

 

 ……やはりこの雑魚モンスターを魔王だと信じているようですね。

 ちなみに、このモンスターは私が引きずりながら教会に持ち帰りました。ベール様に「よくそんなもの素手で持てますわね……」とドン引きされてしまいましたが、ベール様にドン引きの表情で見られるというのは逆にご褒美みたいなものです。

 さて、エスーシャさんとの交渉はベール様に任せましょう。

 

「……こほん」

「なんだ?」

「まさかと言いますが、魔王を捕まえたのに礼の一つも無いということさ、ありませんわよね⁇」

「……ふっ。なるほど、褒美が望みか。ならば望みを言え。この度の活躍を称え、何でも好きなモノを褒美としてやろう」

「……ニヤリ。今、あなた、何でも、と言いましたわね」

「あぁ」

「ベール様……!」

「な、なんですのいきなり?」

「何か不穏なものを感じました。例えば『この世に存在するゲイムギョウ界中のゲームの初回限定版を店舗特典付きで全て望む』みたいなことを言い出しかねないような気がしたので、鍵を刺しておこうかと」

「心でも読んだんですの……?」

「ネプテューヌ様ほどではありませんが、私はベール様の言いそうなことは割と分かります」

「はぁ……結局何が望みなんだ。早く言ってくれ」

「あ、はい。リーンボックスを返していただきましょう……!」

「そうか。いいだろう。リーンボックスなど、欲しいのならばいくらでもくれてやる」

「……え? ……ええええええ⁉︎ そ、それは本当ですの?」

「魔王を捕獲した今、この国や今の立場に拘る理由はない。あとは君たちの好きにするといい」

「まさか……こんなにあっさり取り返せるとは……思いませんでしたわ」

 

 少し驚きましたが、エスーシャさんの国の統治への無関心さを思い返せば納得も行きます。ベール様が国を取り返し、これにてリーンボックス出張編も終了……といけばいいのですが。

 

「失礼するよ! エスーシャ、魔王のことで報告がある」

 

 話が済んだと思った瞬間、人型で筋骨隆々のスライヌがいきなり教会の謁見の間に入ってきました。

 以前ベール様が言ってたのですが、エスーシャさんには配下の人型スライヌが二体いて、今入って来た筋骨隆々のオススライヌとナイスバディらしいメススライヌとのこと。仕える主は違えど、主君に仕える者同士のシンパシーを感じますね。

 

「なんだ、言ってみろ」

「魔王の体組織を調べたんだが、オイラの舌が普通のモンスターだと告げているんだ」

「どういうことだ? あれは魔王ではなかったのか?」

「魔王であって魔王ではないのだろう」

「つまり、私たちが魔王だと思っていたのが、魔王と呼ばれていただけの、普通のモンスターだった、ということか」

「だろうね」

「そうか……っ!」

 

 報告を聞き終わり、エスーシャさんは何か焦った様子で教会の奥へ駆けて行きます。

 私たちは何が何だか分からず、そのまま教会を後にしました。

 

 

 

 

 

 

 

「上手くいきませんでしたわね……」

「上手くいきませんでしたね……」

 

 結局リーンボックスを取り返す話は有耶無耶になり、意気消沈しながら街中を練り歩くベール様と私。まぁ、女神様とお散歩ということで少しだけ浮ついた気持ちになりますが。

 

「魔王が存在しなかったということは、ソルジャーはどうなるのでしょう?」

「外敵だけを相手にする組織にでも生まれ変わるんじゃないでしょうか?」

「リーンボックス製のロボ型モンスターが出てきたこともあって、外敵というのも何かきな臭いですわよね」

「やはり教会に殴り込んでエスーシャさんを尋問した方がいいのでは?」

「そんな強引なやり方は好きではありませんわ。もっとスマートでエレガントにいきたいものです」

 

\ pppppp /

 

「おっと、私の携帯端末ですわ……あら? エスーシャからメールだなんて珍しいこともあるんですのね」

「いつもは通話で呼ばれますからね」

「ええと内容は……『エスーシャを止めてください イーシャ』……と書かれていますわ」

「エスーシャさんなのに差出人がイーシャさん……ということですか? イーシャさんとは?」

「私も知りませんわ…………あっ! ギンガ、あなた以前エスーシャの身体にはもう一つの魂があると言いましたわよね?」

「はい……あ、そういうことですか」

「気づいたようですわね。イーシャというのもしかして……」

「エスーシャさんのもう一つの魂……」

「可能性は高いですわ」

 

\ pppppp /

 

「またメールですわ。ええと……『エスーシャは百万匹のらん豚を連れて黄金の頂に来ている。時間がない。@イーシャ』……と書かれています」

「百万匹……魂……まさかっ⁉︎」

「何か心当たりがある様子ですわね」

「……禁術です」

「え?」

「魂の器、すなわち肉体を創り出す禁術です。おそらくエスーシャさんはイーシャさんなる方の身体を用意しようとしているのでしょう。百万匹のらん豚はその禁術の素材です」

「素材って……! らん豚は元は人間。このままでは百万人が犠牲になるということなのでしょう……⁉︎」

 

 何故この禁術をエスーシャさんが知っているのでしょう……? この禁術は私とイストワールでゲイムギョウ界の歴史から抹消した筈……

 

 そして、色々と繋がりました。おそらくエスーシャさんは『魔王』を禁術のための素材にしようとしていたのでしょう。しかし、魔王なんてものは初めから存在せず、禁術の素材も存在しない。だからエスーシャさんは焦って最後の手段に出たわけなのでしょう。最後の手段、百万匹のらん豚を素材にするという手段に。

 

 あとは、これは推測なのですが、外敵というのも魔王捕獲のためにソルジャーたちを鍛えるため、そしてソルジャーという職をそれっぽくでっち上げるための自作自演だった可能性があります。

 

「何としても止めなくてはなりませんわ!」

「はい、行きましょうベール様! 黄金の頂とはおそらく……」

「……わかっていますわ。以前のリーンボックスには存在しなかった巨大な金色の塔のことでしょう? 行きますわよ! 全速前進ですわ‼︎」

 

 

 

 

 

 

 

 私たちは黄金の頂に侵入しました。侵入、というよりは黄金の頂自体が来るもの拒まずといった感じで開放されていたのです。

 

 黄金の頂の内部は、まるで宇宙空間のような景色が広がっており、パネルのような足場が点々と配置され、それを少しずつ登っていくことで上を目指すようになっていました。

 

「不思議な場所ですわね……」

「そうですね、まさか内部がこうなっていたとは……」

「この上にエスーシャがいるのですわよね」

「おそらく」

「なら、変身して一気に上に飛んでいきましょう。あなたも専用のプロセッサユニットで飛べますでしょう?」

「わかりました。確かに飛べる我々にはこんなステージギミックにわざわざ付き合う必要なんてありませんよね」

「そういうことですわ」

「えー? ダンジョン攻略にそんなズルしちゃダメだよー!」

「と言われましても……状況が状況ですし」

「そうですわ。ゲームの攻略ならダンジョンの隅々まで探索しますが、今はそんなこと言ってられませんもの」

「それもそっか。でも私飛べないんだよねー。大ジャンプはできるけど」

「そういえばネプテューヌさんはネプテューヌ様と違って変身して飛行することはできないんですね」

「そうそう」

「では私が抱えて行きましょうか? ……………………って、え⁉︎ ネプテューヌさん⁉︎」

 

 思わぬ再会による驚きもありますが、それ以上にあまりにも私たちの会話に自然と混ざってきてとても馴染んでいたので不覚にも気付くのに少し時間がかかってしまったことの方に驚いています。

 

「久しぶりだね、ギンガ」

「お、お久しぶりです……」

「そっちのお姉さんはホテルの大浴場で胸を揉み合った以来だね」

「そうですわね。ネプテューヌって……もしかして、あなたたちが零次元であったという大きいネプテューヌのことですか?」

「はい、そうです」

「お風呂で会った時は湯気でよく見えなかったのですが、やはりネプテューヌだったのですね……」

「ネプテューヌさん、何故あなたがここにいるのですか?」

「それは、わたしが秘密結社アフィ魔Xの一員で君たちの足止めを頼まれたからだよ!」

「秘密結社……? あなたは秘密結社の一員だったのですか?」

「まぁ、色々あってね」

「秘密結社の一員がここにいるということは、ゴールドサァドと秘密結社は結託しているということでいいんですか?」

「完全にグルってわけじゃないよ。とりあえずお互いの目的のために協力だけしてるって感じかな?」

「そしてあなたの役割は私たちの足止め……ということですか」

「うん、そういうこと」

 

 彼女の言葉の全てが真実とは思えません。何か別の企みがあるように見受けられます。しかし、真実を確かめている時間はなさそうです。

 

「ベール様、ここは私が。ベール様は先に上に向かってください」

「……わかりましたわ。ギンガ、気をつけて」

「はい。ベール様も」

 

 そのまま塔の上を目指すベール様を、意外にもネプテューヌさんは見逃しました。

 

「やけに素直にベール様を通しましたね」

「流石にギンガと女神様を同時に相手取ろうってほど自惚れてないよ。それに……」

 

 ネプテューヌさんはニヤリと笑い、双剣を顕現させ、両手に待ち臨戦態勢に入ります。

 

「ギンガとは一回戦ってみたいと思ってたんだよねー!」

「実を言うと私もです……が、今はそれよりも優先すべき事情がありますので、押し通らせていただきます!」

 

 そう言って私も剣を抜き構えます。

 

「さてと……名乗りでもあげちゃおうかな! 秘密結社アフィ魔X、ネプテューヌ!」

「……女神補佐官、ギンガ!」

「おっ、ノリがいいね! いざ尋常に……!」

「「勝負ッ‼︎」」

 

 

 

 

 

 







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05. ギンガの想いがネプを呼ぶ

 

 プロセッサユニットによって飛行ができる私の機動力に、パネルを足場に跳び回るだけで追いついてくるネプテューヌさん。

 本当に人間かと思うほどの身体能力ですね、私も人のことは言えませんが。

 

「捕まーえた!」

「……っ⁉︎」

 

 マジですか! 追いつくどころか回り込んで来るとは……!

 

「とりゃああっ! 『レイジングラ「『ギャラクティカエッジ』!」……っと!」

 

 しかし、遅れをとる私ではありません。

 私のギャラクティカエッジはゲイムギョウ界において最速で当たり判定が発生する技。つまり、至近距離での技の出し合いでは、余程の実力差がなければ私が負けることはないのです。

 技を潰すための攻撃は相手へのダメージにはほとんどならないので、剣同士が弾き合う音が鳴るだけで、戦況は膠着状態が続きます。

 

「あははっ! やるね!」

 

 自身の技が潰されているにも関わらず、それに狼狽えるどころか楽しそうにしているネプテューヌさん。まるでネプテューヌ様と模擬戦をしている時のようです。別次元の同一体となるので当たり前っちゃ当たり前ですけど。

 

「やっぱ強いねギンガって!」

「お褒めいただき光栄です……!」

「足止めのつもりだったけど、本気で行くよ!」

「望むところです……!」

 

 私の方が戦闘技量とスピードは高いですが、本来は表手で持つであろう大剣を両手に携え、それぞれを片手で振り回せる彼女の方が下手したらパワーは上かもしれませんね。

 それに、剣が二本あれば手数も倍と言いますし、たとえ技の出し合いでは勝てても至近距離で斬り合うのは少し悪手です。少し距離を取りましょう。

 

「……『エリアルショット』!」

 

 距離を取って私にネプテューヌさんは脚部のホルスターから銃を抜き、私に向かって数発ぶっ放してきます。

 

「『魔粧・氷結樹』!」

 

 私は氷魔法を展開し、銃撃を防ぎ切ります。そして防ぐだけでなく、氷の木の枝を伸ばしてネプテューヌさんを包囲します。

 

「……そんな道理、わたしの無理でこじ開ける‼︎」

 

 そう言ってネプテューヌさんは氷結樹を剣で叩き壊しながら脱出し、剣を思い切りぶん投げて来ます。当然これは回避。

 

「それっ!」

 

 そのまま追撃と言わんばかりの銃による連射。ていうかあの銃、見た感じハンドガンっぽいのに連射できるんですね。

 先程は魔法で防ぎましたが、この程度の銃撃など剣でも全て切り落とせま…………っ⁉︎

 

「これは……っ⁉︎」

「油断したね!」

 

 急に後ろから飛んできたネプテューヌさんの剣によりプロセッサユニットの背部装甲を砕かれました。

 ……まさか、投げられた剣がブーメランのように戻ってくるとは……!

 

「隙ありっ!」

 

 前方からの銃撃と後方から剣により体制を崩した私の隙をついて、ネプテューヌさんは剣を拾いながら飛び込んできます。

 

「とりゃあっ! 『ネプニカルコンビネーション』ッ‼︎」

 

 そして繰り出される、ネプテューヌさんの必殺乱舞『ネプニカルコンビネーション』。

 

「……くぅ!」

 

 対応が遅れたため、私の技を先出して潰すのは間に合いません……っ! 

 

「それそれそれーっ!」

 

 絶え間なく浴びせられる大剣による連撃。

 不味い……捌き切れない……っ!

 

「ぐっ、おおおおおぉっ‼︎」

 

 斬撃を身体に喰らわぬため剣でガードしたはいいものの、ネプテューヌさんの技によるノックバックで、パネルを何層もぶち抜きながら数十メートル吹っ飛ばされます。

 ダメージを抑えられましたが、衝撃でプロセッサユニットの翼部パーツの一部が破損。これでは飛び回りながらの高速機動戦がもうできません。

 

「くっそ……」

 

 ……強い。

 わかってはいましたが、強い。

 人の身でありながらここまでの力。

 パープルハート様に匹敵するほど……いや、世界改変によるシェアの下降というデバフを負ったパープルハート様よりも強いかもしれませんね。

 

「……ふふ、ははっ」

 

 ……だからこそ、笑みが溢れてしまう。

 

(……ギンガ、笑ってる……?)

 

 嗚呼、ネプテューヌ様。そしてネプテューヌさん。

 次元が違い存在が違えど、あなたという存在はここまで私を魅了するのか。

 これが試合であれば、このままずっとあなたと戦っていたいものです。しかし、私には上に行かねばならない理由がありますので……

 

『ギンガがピンチになった時、この指輪に想いを込めると良いことがあるよ!』

 

「……このアイテム、使わせていただきます! ネプテューヌ様‼︎」

 

 右腕を掲げ、ネプテューヌ様にされた説明の通り、指輪にありったけの祈りとネプテューヌ様への愛を込めます。

 

『ネプテューヌリング、起動!』

 

 すると、指輪からネプテューヌ様の声が聞こえます。

 

(小さいわたしの声……あの指輪から……?)

 

 なるほど、音声付きアイテムだったのですね。さて、起動するとどうなるのでしょうか。

 

『……ギンガネプテューヌ!』

 

 ……はい? 私の名前の後ろにネプテューヌ様の名前って、何ですかその不敬な並び?

 そんなことを思っていたら、いきなり指輪から発生した紫色の光に包まれます。

 

「……っ⁉︎」

 

 この光、まるでネプテューヌ様とパープルハート様に包まれているかのよう……! 私の力とネプテューヌ様の力が混ざっていく感覚がします。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「早く……上には向かわなくては……!」

「おっと、ここから先へは行かせないぞ!」

「あなたたちは……スライヌマンとスライヌレディ!」

「エスーシャちゃんのところへ行きたければ、私たちを倒していくことね!」

「あなたたちのことは嫌いではありませんでしたが、私の前に立ちはだかるなら容赦はしませんわ!」

 

 

 

「………っ⁉︎」

「……うわっ⁉︎ なんだこのプレッシャー⁉︎ 下の階層からか!」

「一体下で何が起こっているの……?」

 

(この気配は……ネプテューヌのものですわよね……? しかし、ネプテューヌはプラネテューヌにいるはず。では、このプレッシャーは一体……?)

 

 

 

 

 

 

 

 変身完了の合図するかのように光が晴れていきます。先程は不敬だと言いましたが、ネプテューヌ様が付けてくれた名前ということで、高らかに宣言しましょう!

 

「……ギンガネプテューヌ! 変身完了!」

 

(……変身しちゃった……見た目はそこまで変わらないけど、髪の毛先がちょっと紫色になって、片目が女神化みたいに電源マークが付いてるね。なるほどなるほど、これが小さいわたしとギンガの力が一つになった新形態って感じなのかな)

 

 私の剣『星晶剣・銀牙』を片手に持ち換え、もう片方の手にパープルハート様の使用している剣と同型の剣『機械剣・ネプテューヌ』を顕現させて持ちます。

 

「わたしと同じ二刀流……」

「申し訳ありませんが、あなたとの一対一はまた今度です。ここからは、ネプテューヌ様と私の二人の力で参ります」

 

 力強く足場を蹴り、ネプテューヌさんの側面に回り込みながら、左逆手で機械剣の右薙ぎを繰り出します。

 

(速い……っ⁉︎)

 

 ネプテューヌさんが跳んで回避したので、追撃のため飛び込んで縦に斬り落とします。

 

(スピードだけじゃない、さっきまでとはパワーがダンチ! これはやばいかも⁉︎)

 

 斬撃自体は剣で受け止められてしまいましたが、衝撃を殺しきることはできず、そのまま下に叩き落とし……

 

「斬り伏せる!」

 

 星晶剣で袈裟斬り、機械剣で逆袈裟斬り、そして二刀斬りの三連撃。

 

「うわぁぁぁっ!」

 

 〆の二刀斬りにより、ネプテューヌ様はパネルを突き破りながら思い切りふっ飛んで行きます。

 

「痛てて……!」

 

 ふっ飛んだ相手をそのまま追いかけ、指輪から頭に流れ込んで来るネプテューヌ様の動きと私の動きを合わせて……

 

「『クロスコンビネーション』!」

 

 ネプテューヌ様の必殺技を繰り出します。

 

「……やばっ!」

 

 これは避けられてしまいましたが、追撃の手は緩めません。今の私が使えるのはネプテューヌ様の『クロスコンビネーション』だけでなく、指輪から頭に流れ込んでくるイメージと私の身体の動きを合わせれば、ネプテューヌ様の全ての技が使用可能となります。

 

「『32式エクスブレイド』!」

 

 次に繰り出すのは、シェアエネルギーで頭上に大剣を創り出し相手に向かって射出する技『32式エクスブレイド』。多分これも避けられるでしょうが、私の狙いは別にありますので。

 

(……よっと! うーん、さっきからわたし避けてばっかだなぁ……あれ、ギンガは?)

 

「……後ろです」

「うわっ! いつの間に⁉︎」

 

(……これはまさか、射出された大剣に乗って移動したってこと⁉︎ まるでドラゴンボールで桃白白が自分の投げた柱になって移動してたみたいに⁉︎)

 

 この位置関係なら、防御も回避ももう間に合いません。私の必殺剣技をお見舞いしましょう!

 

「はぁぁぁっ! 『ギャラクティカエ……」

 

 ……いえ、共に参りましょうか、ネプテューヌ様! 

 

「……『ギャラクティカネプテューンブレイク』‼︎」

「……うん! これ以上無理! ワープ!」

「うおおぉぉ……ぉおう?」

 

 技が当たる寸前のところをワープ能力で逃げられてしまい、剣が空振った音が響きます。そのせいで少し間抜けな声が出てしまいました。

 

「……っと」

 

 そのまま空中で体制を整え、そこらへんの足場に着地します。

 

「逃げられましたか……まぁいいでしょう」

 

 むしろ逃げてくれて良かったですね。ギンガネプテューヌに変身できたことでテンションが上がりすぎて本気で技を使ったので、直撃していたらネプテューヌさんを殺していたかもしれませんし。

 

「ふーっ……」

 

 女神様の力を纏うのはやはり身体への負担が多いようで、戦闘終了後はすぐに変身解除した方が良さそうですね。もう少しネプテューヌ様の力と想いを纏ったこの姿のまま全身全霊でネプテューヌ様を感じていたかったのですが、それよりも今はベール様の元に急ぎましょう。

 

 

 

 



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06. 想いの果てに

 

 

 

 その後、スライヌマンさんとスライヌレディさんを倒したベール様は、塔の頂上にいるエスーシャさんの元に辿り着き、そのままエスーシャさんと一騎討ちを始めました。

 私も少し遅れて駆けつけたのですが、グリーンハート様に手を出すなと言われたので待機していました。そのままグリーンハート様はエスーシャさんに完勝。流石は女神様です。

 

 それに加え、エスーシャさんの儀式は失敗したようです。どうやら儀式の素材たるらん豚が百万匹ではなく九十九万九千九百九十八匹しかいなかったとのこと。これはあくまで推測ですが、ネプテューヌさんあたりが持ち去ったのだろうかと思われます。

 

 ちなみに、エスーシャさんとイーシャさんの魂が一つの身体に同居することになった経緯とは、エスーシャさんが映画作りに失敗し死にかけているところに、イーシャさんが自らの身体にエスーシャのさんの魂を受け入れることで助けたからとのこと。確かに、映画作りに失敗すると死にかけるというのはゲイムギョウ界の常識ですからね。

 ていうか今のエスーシャさんの身体は元々イーシャさんのものだったのですね。逆かと思ってました。

 

 そして、ベール様はエスーシャさんの説得に成功し、和解することができました。エスーシャさんがこのような凶行に走ったのはイーシャさんの魂が限界を迎えているという『誤解』によるものだったのです。

 エスーシャさん曰く「一つの身体には二つの魂が入るようにはできていない」ということでしたが、実を言うとそんなことはありません。エスーシャさんの身体の中のイーシャさんの魂の輪郭を見たところ、至って健康そのものでどこも悪くありませんでしたし。

 

 その後、エスーシャさんは「こんなものがあるから私は道を間違えた」と私たちに黄金の頂の中枢の破壊を頼んで来ました。どうやら黄金の頂とは、世界改変により女神様から奪ったシェアエネルギーを貯めておくための施設だったらしいです。そして、黄金の頂の中枢を破壊した私たちは、九十九万九千九百九十八匹のらん豚たちを連れて黄金の頂を後にしました。

 

 こうして、エスーシャさんという少女が、イーシャさんという少女を救うために起こした騒動は誰一人犠牲を出さずに終焉を迎えることができました。

 ていうか世界改変のはじまりはG-1グランプリの決勝でエスーシャさんたちが乱入したことだったと思うんですよね。それに関して私は何も思うことがない言えば嘘になりますが、ベール様が赦したのならば私からもこれ以上何もありません。

 

 さて、というわけでこれにてリーンボックス出張編も無事終了ということで……「ちょっ、ちょっと待ってくださいな!」

「はい? どうされましたベール様? 地の文に乱入してくるとは」

「どうされました、じゃありませんわ‼︎ 私とエスーシャの激闘、そして劇的な和解シーンがどうしてあらすじでカットされてますの⁉︎」

「と言われましても……原作『新次元ゲイムネプテューヌVⅡ』においては重要シーンであっても、二次創作『紫の星を紡ぐ銀糸N』においてはそのシーンはあまり重要ではないと言いますか……その件に関して私は何もしてませんし……」

「サラッととんでもないメタな台詞吐きましたわね……釈然としませんわ……」

「それに……人の感情のあれこれについては私にできることはほとんどありません。私にできることなんて……戦うことだけですから……」

「ギンガ……そんなことは……………って、それっぽいこと言って誤魔化そうとしないでくださいな‼︎」

「バレましたか」

「もう……まぁ良いですわ。今度こそリーンボックス教会を取り戻しましたし、帰りましょうか、私たちの帰るべき場所へ」

「はい!」

 

 ……と、その前に。

 

「エスーシャさん」

「何だ?」

「あの禁術……あなたは誰から聞いたのですか? それに、イーシャさんの魂がもたないということも誰から聞いたのでしょう?」

 

 私とイストワールでゲイムギョウ界の歴史から抹消したはずの禁術をどこでどうやって知ったかを聞かなければいけません。

 

「らん豚を素材とする儀式はマジェコンヌからだ。それと、イーシャの魂が持たないことは夢の中で謎の声に聞いたんだ」

 

 ……そんな曖昧なものを信じたのですか……とツッコミたいところですが、おそらくイーシャさんの危機と聞いて冷静ではいられなかったのでしょうね。

 望んだ答えが得られず口惜しい気持ちはありますが、わからないものはどうしようもありませんね。

 

「……では、それともう一つ。先程あなたとベール様が決闘をしている間、スライヌマンさんとスライヌレディさんから聞いたのですが、あなたはマジェコンヌとある契約を交わしたそうですね。その内容を聞かせていただけませんか?」

「契約……? あぁ、奴が私の計画に協力する代わりに、奴は教会の地下に封印されている『あるもの』を寄越せと言った。私はそんなものに興味はないから勝手に取っていけと言ったから、その『あるもの』が何なのかまでは知らないな」

「そう……ですか」

「それがどうかしたのか?」

「いえ、なんでもありません。マジェコンヌとは少なからず因縁があるので、奴が動いていると聞き、その詳細が少し気になっただけです」

「そうか。まぁ、君たちの因縁には興味ないね」

 

 ……実際はなんでもなくなんてありません。

 

 リーンボックスの教会地下には、うずめ様が封印されているゲーム機の周辺機器の一部が保管されています。

 それを、秘密結社アフィ魔Xが狙っている……? 何が目的なのでしょうか? ……情報がない中で考えていても仕方ありませんし、秘密結社の動きを『奴』から聞けたら考えるとしましょう。

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ……死ぬかと思ったよ……」

「ご苦労だったなネプテューヌ」

「あ、マザコング。聞いてよ〜! ギンガがいきなり強化フォームになってさ!」

「強化フォーム……か」

「それで、例の物は手に入ったの?」

「勿論だ。後は空気忍者が他の国から盗み出してくれば全てが揃う」

「揃ったらどうなるんだろうね……? 無条件でデュエルに勝利できるとか?」

「さぁな……我々の仕事はあくまでこれの回収だ。それ以降のことは何も知らされていない」

「そっかー……」

 

 

 

 

 

 

 

「あーーーー、だめだ。山の上から海の底に至るまで、この次元の端から端まで探してみたけどやっぱり見つからねえ」

 

「んー、俺がこの次元で行ってない場所……後は教会ぐらいか」

 

「……いや、アレは教会にあるはずねえ。アレは教会にあっちゃいけねえもんだしな」 

 

「やっぱこの次元はハズレじゃねえかよ。クロワールが俺を騙したのか? いや、あいつはしょーもない奴だがしょーもない嘘はつかねえ」

 

「さーて、どうすっかなぁ……」

 

 

 

 

 

 

 

 教会を取り戻し、今度はベール様のシェア集めを手伝う日々が始まりました。

 女神様の記憶が失われている現在のゲイムギョウ界では以前ほどシェア集めは楽ではありませんが、そこは女神補佐官としての腕の見せどころです。愚民どもを調教し、女神様のことしか考えられないようにす「やめなさい」

「……おっと、ベール様。今回はやけに地の文に乱入してきますね」

「ネプテューヌほどではありませんけど、あなたが何を考えているかなんて見ればわかりますわ。ネプテューヌのおかげで少しはマシになったと聞きましたが、相変わらずの過激思想ですわね……全く……」

 

 ベール様に止められたので愚民調教計画は中止です。まぁ良いでしょう。ベール様の魅力があればそんなことをしなくともすぐにシェアは貯まるでしょうし。

 

『ーーーーギンガさん』

 

 その瞬間、いきなりいーすんの声が私の頭に響きます。いーすんから交信、ということは……

 

「もしもしいーすん。その様子ですと、そちらはもう済んだということですか?」

『はい。ネプテューヌさんとネプギアさんがギンガさんとベールさんを迎えに向かっているところです』

「私と……ベール様もですか?」

『そうです。戦力を集め、秘密結社にこちらから打って出ます』

「なるほど」

『では、詳しい話はギンガさんがプラネテューヌ教会に戻ってからしますので、これで』

「はい」

 

 いーすんとの通話を切り、ネプテューヌ様がこちらに向かっているの聞いたのでなんとなく空を見上げると……

 

「ギンガーーーーーーッ!」

 

 物凄い勢いでパープルハート様が私の方に突っ込んで来ていました。

 

「ギンガ!」

「へぶっ」

 

 私を見つけるなり、凄まじい勢いで変身を解除しながら突撃してきたネプテューヌ様は、その勢いを殺しきれず思い切り私の腹に激突します。

 しかし、愛する女神様を受け止めてこそ女神補佐官というもの……っ!

 

「ぐ……そ、その様子ですと、プラネテューヌの件は片付いたようですね」

「うん! ばっちりだよ! それよりもギンガ、大丈夫⁉︎ ベールに何か変なことされなかった⁉︎」

「何ですか変なことって、失礼ですわね」

「ベールはギンガをリーンボックスの女神補佐官にするとか言い出しかねないし……とりあえずギンガは持って帰るからね」

「そうはいきませんわよ」

「えっ?」

「ギンガを連れて帰る代わりにネプギアちゃんを置いていってもらいますわ! トレードです!」

「べ、ベールが変なこと言い出した……」

「ささ、トレードの詳細について話し合いますわよ」

 

(詳細も何も、ネプギアもギンガもあげないよ)

(そうじゃありませんわ、ネプテューヌ)

(じゃあ何さ)

(そうですわね……想うだけじゃなくて、ちゃんと言葉にしないとギンガには伝わりませんわよ)

(え、な、何のこと‼︎⁇)

(そうやって恥ずかしがっているうちはギンガをものにはできないと思いますけどね)

(うっ……)

(ま、頑張ってくださいな)

(うん……ありがと……)

 

 ネプテューヌ様とベール様がひそひそ話をしておりますが、聞こうとするほど無粋ではありませんので、話が終わるまで明後日の方向を向いて待っていましょうか。

 

「ギンガさーん!」

「パープルシスター様!」

 

 すると、空からパープルシスター様がやって来ました。そのままパープルシスター様は着地して変身を解除します。

 

「はぁ……ふぅ……お姉ちゃんが凄い勢いで飛んで行っちゃったから、追いかけるのも精一杯で……」

「申し訳ありません。わざわざ迎えに来させてしまって」

「良いんですよ。私もお姉ちゃんもギンガさんとベールさんに会いたくて来たんですから」

「まぁ! ネプギアちゃん! 私に会いに来てくれたんですの⁉︎」

「え、あ、はい」

「嬉しいですわ!」

「むぎゅっ」

 

 早速ネプギア様がベール様に捕まりました。話の流れ的にネプギア様がこの場に来るとこうなるとは思っていましたけど。

 

「さて、ネプテューヌ。ギンガは返しますので、このままネプギアちゃんはいただいていきますわね。それでトレード成立! ですわ!」

「ダメに決まってんじゃん何言ってんのさ」

「もう、ネプギアちゃんもギンガもなんて、欲張りですのねネプテューヌは」

「いや元々ネプギアもギンガもわたしのだよ…………じゃなくて、迎えに来たのはギンガだけじゃなくてベールもだよ」

「……? どういうことですの?」

「実はもうブランとノワールにはプラネテューヌ教会に来てもらってるんだ。わたしたちの力を合わせて……」

「秘密結社に打って出る……ということですよね?」

「おっ、ギンガは知ってたんだね」

「実は今さっきいーすんから交信がありまして」

「よし、じゃあプラネテューヌに戻るよ!」

「はい! ……とその前に、ベール様。そろそろネプギア様を離していただけますと……息ができていなさそうなので」

「あら? さっきから何も言わないと思っていましたら、私の豊満な胸のせいでこんなことになっていたなんて。私の豊満な胸のせいで」

「うぅ……デジャヴ……がくっ……」

「ね、ネプギアーーーーーーッ!」

 

 

 

 

 





 


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07. アフィベース強襲

 

 女神様、候補生様、あいちゃん、コンパさん、そして私ギンガがプラネテューヌ教会に集結し、秘密結社へのカチコミについて話し合っています。話のまとめ役はいーすんに任せましょうか。

 

「ゲイムギョウ界が変わってしまったあの日から、世界は秘密結社により騒乱に包まれています」

 

 プラネテューヌでは、猛争モンスターが活発なこと以外では特に社会が変化していることはなかったそうです。ネプテューヌ様とネプギア様は、ゴールドサァドのビーシャさんとも速攻で仲良くなったようで、共同で猛争モンスター退治にあたっていたとのこと。その過程で再登場したワレチューさんが暴走してキングワレチューになったり、ビーシャさんが暴走して全てを破壊しようとしたりと色々あったようですが、ネプテューヌ様とネプギア様、そしてあいちゃんとコンパさんの力でなんとかなったっぽいですね。

 

 その過程で秘密結社アフィ魔Xの構成員、忍者『ステマックス』に教会の備品である渦巻き型のゲームハードが盗まれたとのこと。

 本体をプラネテューヌ、周辺機器を他の三国に分散させて保管していたのですが、リーンボックスのものはマジェコンヌに回収されていることを考慮すると、既に他の周辺機器も秘密結社の手に落ちていると考えるのが妥当でしょう。

 渦巻き型のゲームハードがこの次元の『天王星うずめ』様を封印してあるものというのは、世界で私しか知らないはずですし、何故秘密結社がアレを狙う理由がわからないとはいえ、ぶっちゃけ割とマジでやべえ事態です。

 

「そのことならこっちでも把握しているわ。捕まえた傭兵組織の連中を締め上げたら吐いてくれたわ。名前は知らないみたいだけど、どうやら、そいつが世界を改変したり、傭兵組織に助言していたみたいなの」

 

 ラステイションでは世界改変後、傭兵組織が教会を乗っ取りラステイションを牛耳っていたようです。ノワール様とユニ様と、ゴールドサァドのケーシャさんという方で傭兵組織を殲滅しつつ、その後いきなり暴走したケーシャさんを倒して、無事ラステイションを奪還したようですね。なんだかんだでノワール様とケーシャさんは親友になったようで、心なしかノワール様の機嫌が良さげです。

 

「ルウィーもよ。捕まえた革命家が似たようなことを言っていたわ。それで、革命家は裏でルウィーを支配するために、昔からルウィーにライセンス制度が浸透しているかのように改変してもらったそうよ。ただし、名前は知らないそうよ」

 

 ルウィーでは、改変によりライセンス制度というものが導入されていたようです。ライセンス制度により住居や職業選択の自由が存在しなくなっていたとのこと。……私的には人間って愚かなのでライセンス制度を使って一括で管理するってのは悪くない発想だとは思うんですけどね、まぁこれを言ったらブラン様にしばかれそうなので黙っておきましょう。その後、ゴールドサァドのシーシャという方と協力し、黒幕の革命家を倒して、その後なんだかんだで闇落ちしたシーシャさんを倒してルウィーを奪還し、元の社会に戻したようですね。

 

 なるほど、どうやらゴールドサァドという連中は悪意があって女神様から統治者の座を簒奪したわけではなさそうですね。ノワール様とブラン様の証言に出てきた名前が知られていない『その方』によって都合よく利用された存在と考えるのが良さそうです。

 

「あなた方もなんですの?」

「ベールさんもなんですか?」

「えぇ、秘密結社の構成員がエスーシャの目的の為に、いろいろ手を貸していたそうなんですわ。そしてその構成員というのが、マジェコンヌと……」

「……零次元で出会ったネプテューヌさんです」

 

 その言葉を聞いたネプテューヌ様とネプギア様は目を丸くします。

 

「そんな……お姉ちゃんが……⁉︎」

「うそぉ⁉︎ あの時のもう一人のわたしが秘密結社の一員⁉︎ 主人公じゃないにしても、ネプテューヌだよ⁉︎ あわわわわわ……どうしよう、シリーズ多しとはいえ、まさか別次元のわたしが敵になるなんて……」

 

 とはいえ、ネプテューヌさんは、悪事を働いていたのではなく、何か別の目的があって秘密結社に身を置いているんだと思います。が、あくまでも推測なので口にはしませんけど。

 

「となると、現状明らかになっている秘密結社の構成員は、ワレチューさんを除き、忍者ステマックス、マジェコンヌ、もう一人のネプテューヌさん……そして、名も知らぬ謎の少女」

「いえ、おそらくもう一人います」

「もう一人……ですか?」

 

 私がうずめ様のこと以外でまだ皆様と共有してない情報があります。

 そう、私が遭遇した『別次元の私』のことです。

 

「ネプテューヌ様に対するネプテューヌさんのように、別の次元の私が秘密結社の一員である可能性が高いのです」

「別の次元のギンガ……?」

「今まで言うタイミングがなかったのですが、世界改変が起こったあの日、別の次元の私の一度交戦しています」

「前にギンガさんが言ってた戦った敵って、もう一人のギンガさんだったのね……」

「はい。少しだけ戦った感覚からすると、その男は私よりも強いです」

「またまた〜。わたしたち女神以外でギンガより強い人なんているわけないじゃん〜」

「……悔しいですが、本気でその男が私を殺そうとしていれば、今この場に私はいなかったでしょう」

「そんなに……?」

 

 考えたくはありませんが、あの男は下手したら女神様よりも強い可能性があります。

 

「それで、どうやってこっちから打って出るの?」

「もしかして、もう特定済みとか?」

「はい、特定できています。ハッキングなど諜報に詳しい方の力をお借りしましてね」

「ハッキング……まさか……」

「はい、そのまさかです。アノネデスさんに協力してもらいました」

「どうやってあのオカマを懐柔したのよ……」

「割と素直に頼みに乗ってくれましたよ? タリの女神の件で何か思うことがあったようで、以前のように悪事を働くこともやめたようですし」

「そう……ならいいけど……」

「さて、相手の戦力が未知数な以上、この作戦には、女神及び女神候補生のみなさん、そしてアイエフさんとコンパさんとギンガさん。以上十一名に、秘密結社の拠点となっている空中戦艦へ行ってもらいます。相手は、世界を改変する程の組織です。みなさん、お気をつけください」

 

 

 

 

 

「将軍のまとめサイト用のネタを探しに忍び込んだものの、えらいことを聞いてしまったでござる。これは早く戻って、将軍に知らせなくては……!」

 

 

 

 

 

 

 

「よ、久しぶり。ネプテューヌちゃんにマジェコンヌちゃん」

「あ、ルギエル。よく空中戦艦まで来れたね」

「あぁ、跳んで来た」

「ふん、何が久しぶりだ。どこで何をしていたんだ貴様は」

「野暮用さ。んなことよりネプテューヌちゃん、ちょっとクロワールと二人で話させてくれない?」

「え? うーん、まぁ良いけど……クロちゃんを逃したらダメだからね!」

「そんなことしないから安心しとけ」

 

 

「……よぉクロワール。俺が何言いたいかわかるよな?」

『知るか』

「お前がこの次元に例のものがあるっつっただろうがよ。この次元中探し回ったのにどこにもないんだが?」

『俺はこの次元に来れば手に入るかもしれねえって言っただけで、この次元にあるなんて一言も言ってねえもん』

「あ?」

『まぁでも手に入るかもしれねえのはほんとだぞ? お前がちゃ〜んとあいつの言うことを聞けばな』

「……察したわ。そういうことかよ。最初からそう言えっての」

『言おうと思ったのに勝手にどっか行ったのはお前だろうが』

「確かに。じゃあ話は終わりだ」

『その前に、俺をここから出してもらえると嬉しいんだけどな』

「そりゃ無理だ。ネプテューヌちゃんに怒られちゃう」

『けっ』

 

 

「話終わったぜ。はいこれねぷのーと」

「はーいありがとう。クロちゃんとのお話どうだった?」

「あー、俺の早とちりだった」

「なにそれ」

「そんなことはどうでもいい。ルギエルよ、合流したからには貴様にも働いてもらうぞ」

「え? やだよ」

「なんだと?」

「俺はクライアント様からの命令しか聞かねえからな。タダ働きなんてごめんだね」

「……ちっ、なんなんだこいつは」

 

(うーん、戻ってきたはいいものの、クライアント様がどこにもいねえな。俺が着拒してたせいで怒っちまったのか? …………ん? なんだあのロボだかおっさんだかわからない奇妙な生命体?)

 

「ふむ。今月の売り上げは先月の十倍、か。この調整でいけば、この戦艦のローンの返済もすぐに終わるというものよ」

「この戦艦……ローン購入だったのか……」

「羽振りが悪いなぁ。戦艦ぐらい一括で買えよ」

「個人が一括でこんな戦艦を変えるわけがないだろう。ステマックスと共に、一年以上下調べをして返済計画も立ててなんとか購入できたのだ。……む? というより、見慣れん顔だな。誰だ貴様は?」

「覚えなくていいさ。俺も男の名前を覚えんのは苦手だ」

「なるほど、貴様が奴の言っていた……ふん、聞いた通り傍若無人な男のようだな」

「そりゃどうも」

「さて、例のものの回収はどうだ? アフィモウジャスよ」

「抜かりはない。既に四つとも揃っておる」

「そうか、では約束どおりそれらをいただこうか」

「……五兆クレジット、先払いじゃ」

「貴様! 約束が違うぞ!」

「そうだよ、そんな金額、オークション違法出品者も付けないよ! 訴えて勝つよ!」

 

(どっかン家のぐらぐらゲームってのが1100兆円で売られてんの見たことあるけどな)

 

「手に入れるとは約束したが、タダで渡すとは買っておらん!」

「この、金の亡者め! ならば、力ずくで奪うまでだ! ネプテューヌ!」

「あいさ、マザコング!」

 

(来て早々仲間割れしてんの草。この組織おもしれー)

 

「ルギエル! 貴様も協力しろ!」

「んー……」

「おい! 聞いているのか⁉︎」

「……クロワール」

『あん? なんだよいきなり』

「俺はあのゲーム機みてーなのを力ずくで奪うべきか?」

『あー…………まぁ今はしなくても良いんじゃねえか? その方が面白くなりそうだし』

「おっけ。じゃあ俺はトンズラこくわ。バイビー!」

「自由だなールギエルは。クロちゃんとルギエルが働いてくれないならわたしもパスかな。わたしとしてはこの組織にもうちょっといたかったけど、こうなったらしかたないよね。ワープ!」

「ちっ! ここは退くしかないか……!」

 

 

「逃げられたか……ふん、まぁ良い」

「……将軍! 大変で御座る! ……って、マジェコンヌ殿とネプテューヌ殿はどうしたで御座るか?」

「おぉステマックスよ。奴らなら今しがた裏切って消えおったわ」

「そ、そうなので御座るか……じゃなくて! 女神たちに拙者たちの事がバレてしまい、この戦艦に向かっているので御座る!」

「ふむ……やはりこの時が来たか。しかし、信仰の力なき女神など、このワシの敵ではない! マジェコンヌたちなどの力に頼らずとも、女神たちを討ち取り、身代金を要求してやろうではないか‼︎ ハーッハッハッハッハ‼︎」

「おぉ! 流石将軍で御座る! 一生付いて行くで御座るよ!」

「笑止!」

「えっ……?」

「ステマックスよ、貴様はクビだ」

「将軍、冗談にしては心臓に悪いで御座るよ!」

「冗談などではない。ワシは知っておるぞ、貴様がラステイションの女神候補生のおなごにうつつを抜かしておることにな!」

「そ、それは……!」

「これは裏切りも同義! まさに万死に値する! 腹を切るか出て行くか好きな方を選べ!」

「拙者……将軍を信じていたのに……! うわぁぁんでござるぅぅぅぅっ!」

 

 

「……行ったか。女神たちにワシらの存在がバレた以上、ワシにできることはお主を解雇することのみ。流石のワシとて女神たちには敵わん。それに、お主を想い人と戦わせるわけにもいかぬ。ワシの分まで生きるのじゃぞ、ステマックスよ……」

「……悲しいね。アフィモウジャス。オレは悲しいよ。まさか君が裏切るとはね」

「むっ、貴様か!」

「今ならまだ許してあげる。さぁ、すぐにマジェコンヌたちにそれを渡すんだ」

「断る! これはワシが手に入れたものだ、それを求めるものに売って何が悪い!」

「金の亡者……いや、日和ってそう演じてるだけかな?」

「……」

「けど困ったな。オレは実体がないから触れることはできないし、このままでは女神たちに奪われてしまう。なら、君が奪われないように守ってくれれば良いだけの話だよね」

 

 

 

 

 

 

 

 さて、カチコミの準備が終わったので、後は空中戦艦とやらに乗り込むだけです。カチコミのしおりをちゃんと作って皆様に配布しました。

 

「……あれ? ……あれは……」

「どうしたのよ、ユニ?」

「ごめん、お姉ちゃん。ちょっと急用を思い出したの。先に行ってて」

「あ、ちょっと、どこ行くのよ、ユニ!」

 

 おおっと! ユニ様が単独行動に走ります! せっかくしおりで立てたカチコミ計画が早速崩れました! うーん、私が計画を立てると大体うまくいかないんですよね……

 

「まぁ、奴らが逃げるとは考えにくいですし、少し待ちましょうか」

「そうね、ありがとう」

「いえいえ」

 

 待つこと数分、ユニ様が戻ってきました。

 

「あ、みんな待っててくれたの?」

「置いて行くほど薄情ではありませんよ」

「ありがとうございます。じゃあ、行きましょう」

 

 

 

 

 

 

 アノネデスが特定したポイントから空中戦艦に乗り込むことに成功しました。これだけ大きな戦艦の購入履歴はどこかしらに残るものなので、特定するのは容易かったということですね。

 

「ここが空中戦艦の中かぁ! なんかメカメカしくてカッコイイかも!」

「その割にはあっさり侵入できたわね」

「さて、皆様、カチコミのしおり24ページを開いてください。しおりに書いてある通り、この形状の戦艦の艦橋はおそらくあちら側にあるので、そこに向かいましょう」

「はーい!」

 

 前もって入手した戦艦の情報を元に、おそらく秘密結社の構成員がいるであろう艦橋に向かいます。

 

 そして、我々が艦橋の方に進んでいると……

 

「待っていたで御座るよ、女神たち」

 

 ……物陰から、謎の声が聞こえます。聞いたところ機械音が混ざった男の声なので、マジェコンヌやネプテューヌさんではなさそうですね。

 

「……その声、聞き覚えがあるわね。どうせ正体はバレてるんだし、出てきたらどうなの? ステマックス」

 

 あいちゃんの言葉を聞いて物影から出てきたのは忍者型ヒューマノイド。なるほど、こいつが例の忍者ステマックスですか。

 

「……うそ」

「……ユニ?」

「…………どうして、どうしてあんたがここにいるのよ!」

「何のことで御座るか? 拙者、お主のようなおなごは知らぬで御座る。誰かと勘違いしているのでは御座らんか?」

「……っ! そういうことなのね……」

 

 ユニ様はあの忍者と知り合いな様子。となると、ラステイションやルウィーからゲーム機を盗み出したのはこいつで確定でしょう。

 ……舐めた真似しやがって。

 

「皆様、この忍者は私に任せて先にお進みください」

「ギンガ……?」

「こんな雑兵如き、私一人で充分です。皆様はその間に秘密結社の首領を」

「わかった! 任せたよ、ギンガ!」

「将軍の元へは行かせないで御座……「させません」……くっ!」

 

 先に進もうとする女神様たちの前にステマックスが立ち塞がろうとするので、間に割って入ります。その隙をついて女神様たちは先に進みました。

 

「あなたの相手は私と言っているでしょう? どうやら、私がいない間、プラネテューヌで好き勝手やってくれたようですしね。それに、ネプテューヌ様に向かっていかがわしい本をばら撒いたとか……! ぶっ殺して差し上げましょう!」

「……ギンガさん! あたしも一緒に戦います!」

「ユニ様……? 皆様と向かわれた筈では……?」

「あたしなりに付けなきゃいけないケジメがあるから戻ってきました!」

 

 ケジメ……? そして何やら訳ありの関係……? まさか……

 

「……こいつユニ様の彼氏とかですか‼︎⁇」

「はぁぁぁぁっ‼︎⁇ いきなり何言うんですか⁉︎ いくらギンガさんでも言って良い冗談と悪い冗談があります! 撃ち殺しますよ⁉︎」

「ひえっ、申し訳ありません」

「あたしがさっき親友と喧嘩したって言って落ち込んでたあいつを慰めたらあたしたちの前に敵として現れちゃったから、そのケジメをつけるってだけです! だから、そういう関係じゃありません! わかりましたか⁉︎」

「はいすみませんわかりました!」

 

 先程ユニ様が離脱したのってそういうことだったんですね。納得です。

 

「あ、あの〜? 戦うのならもう仕掛けていいで御座るか?」

「おっと、すみません。そうですね、どこからでもかかってきてください。それに、私より弱い男に女神様の彼氏には相応しくありませんので」

「だからそういう関係じゃないって言ってるじゃないですか! 今度こそ撃ち殺しますよ⁉︎」

「ほら、ユニ様。敵が来ますよ」

「あ、はい!」

「いざ、参るで御座る‼︎」

 





 超次元編はあと一話か二話ぐらいで終わると思います。


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08. 胎動する光

 

「来たか! 女神ども!」

「あなたがアフィモウジャス将軍ね」

「いかにも。ワシこそ秘密結社アフィ魔Xの首領、アフィモウジャス将軍じゃ!」

「まさにラスボスの風格ってやつだね! アフィなんとか将軍を倒して、世界を元に戻す!」

「そうはさせぬ! 安泰な世など、金にならぬ! この猛争に染まった世界こそ、金を生み出す泉! その水源を枯れさせると言うのならば、排除するのみ!」

「なら、わたしたちも本気で行くよ! 変身っ!」

「ふん、女神化したところで、今の貴様らが得られるシェアエネルギーなどたかが知れている!」

「確かに……前に比べればシェアは少ない。だがな、多いとか少ないとかじゃないんだ! どんなにシェアが少なくなっても、想いが強ければシェアエネルギーは何倍にもなるんだ!」

「そう、私たちは今平和を願う人たちのために立っているの。その人々の想いで、お金に染まったあなたの猛争を壊してあげるわ!」

 

 

 

 

 

 

 

「ステルス流忍法、分身の術!」

「ステマックスが増えた⁉︎」

「ほぅ……」

 

 確かに見事な分身の術ですが、そのような小細工、女神様には通用しても私には通用しません。

 分身に実体があろうがなかろうが『魂』が存在しないので本体がどれだか丸わかりです。

 

(分身には目もくれず、一直線に拙者まで……っ! だが!)

 

「喰らうで御座る!」

「む?」

 

 ステマックスは接近させまいとクナイや手裏剣を投げつけてきます。

 しかし、それら全てはユニ様の援護射撃によって撃ち落とされます。

 

「あたしを忘れてもらっちゃ困るわ!」

 

 ユニ様が作ってくれた隙を逃さず、ステマックスの懐に寄ります。

 

「術は私に看破され、投擲はユニ様に撃ち落とされる。そして、それらに頼ると言うことはあなたは正面からの戦闘はあまり得意ではないということ」

「……っ!」

「その反応、どうやら図星ですか。後はわかりますよね? 詰みです。あなたは」

「まだで御座る……! 『ステルス流必殺忍ぽ……「『ギャラクティカエッジ』」

 

 おそらく敵の最大の技であろうものに対し、先に技を出して潰します。

 

「ぐあっ!」

「詰みだと言ったはずです」

 

 『ギャラクティカエッジ』はヒットして敵がよろけてから再び『ギャラクティカエッジ』で追撃できるようになっています。一度技を当てて敵の体勢が崩れ、そこに上手く追撃するのを繰り返せば無限ループのようにハメ続けることができるのです。

 ヒットしても思うようによろけてくれない女神様のような強者には、ループまで持ち込むのは不可能なんですけどね。

 

「『ギャラクティカエッジ』!」

「ぐあぁぁぁぁっ!」

 

 というわけで、ループが決まったので後はステマックスが倒れるまでこれを繰り返せば私たちの勝ちというわけです。

 

(うわぁ……ギンガさんえげつない……じゃなくて!)

 

「ギンガさん! トドメを刺さないでくれませんか! そいつと話したいことがあるんです!」

「……かしこまりました」

 

 ユニ様からの頼みなので、ハメループの手を止め、ステマックスを地面に叩きつけます。

 

「ぐえっ!」

 

 私としては粉々にしてやっても良かったのですが、ユニ様の優しさに感謝することですね。

 

「ごめんなさい。ワガママを聞いてもらって……」

「いえいえ、私がいると話の邪魔でしょうし、先に向かわれた皆様の元へ行っていますね」

「はい!」

 

 

「うぅ……酷い目にあったで御座る」

「なら、諦めればよかったじゃない。早めに降参してればいくらギンガさんでも許してくれたと思うわよ」

「でも、あそこまで行った手前、引くに引けなくて……」

「だと思った」

「かたじけない……」

「そう思うなら逃げるんじゃないわよ? あんたが逃げたら、あたしが怒られるんだから」

「わかっているで御座る。そして、ユニ殿、将軍を……」

「わかってるわ。悪いようにしないから安心しなさい」

 

 

 

 

 

 

 

 さてさて、カチコミのしおりを再度確認し、船橋に急ぎましょう。

 

『……もしもしギンガさん!』

「イストワール、何事ですか?」

『ギンガさん、ネプテューヌさんたちは今そこにいますか?」

「敵の構成員の一人を私とユニ様が引きつけてる間に首領を討ちに行かれました」

『……それは困りましたね』

「何がですか?」

『改変前の世界で、女神の皆さんがゴールドサァドに負けた理由をご存知ですか?』

「理由……?」

 

 女神様がゴールドサァドに負けた理由……

 

『なんたらエネルギーってやつのおかげで、あの四人は女神に勝てるだろうけど』

 

 ……世界改変が起こったあの日、別の次元の私に言われたことを思い出します。

 

「そういうことですか……!」

『説明しようと思ったのですが、どうやらギンガさんはもう分かっているようですね』

「はい、なんとなく」

 

 シェアエネルギーと相反する負のエネルギー、それをまとっていたことによりゴールドサァドは女神様に対して有利に戦えたということですね。そして、秘密結社の首領もそのエネルギーをまとっている可能性が高く、このままでは女神様は敗北してしまう。イストワールが私に伝えたかったことはそれでしょう。

 

『ゴールドサァドの皆さんが今対抗策を編み出している途中です。それまでの間……』

「わかりました。私が敵の首領を食い止めていればいいわけですね」

『お願いします!』

 

 

 

 

 

 

 

「……っ! たった一撃喰らったはずなのに、どうして力が入らないんですの……!」

「奴の剣にシェアエネルギーが……削り取られたのか……?」

「そんなチートアイテム……卑怯ですわよ……」

「ふははははは! ほれ、さっきまでの威勢はどこにいった! まぁ、殺しはせん。貴様らは身代金のために生かしておいてやろう!」

「身代金……? 私たちを金儲けの道具にしようっていうの……⁉︎」

「今に始まったことではないだろう? 世界が変わる前からワシは貴様らを使って、儲けさせてもらっていたんだからな!」

「……やはり『@将軍のまとめサイト」の管理人は……!」

「その通り! ワシだ! そして、世界は変わった! 泰平の世から、猛争渦巻く世界へと! 貴様ら女神はすでに過去の遺物! 女神の代わりとなるべく生まれたゴールドサァドも、黄金の頂を失い、その力は皆無! これからは、この世界が猛争の渦に呑まれ、争いに焼かれていくさまをここから眺めるがいい!」

 

「戦乱の世なんて、碌なものじゃありませんよ」

「……ぬぅ?」

「ギンガ!」

「申し訳ありません。遅れました」

 

 船橋に辿り着いて最初に目に入ったものは、敵の首領らしき大型ヒューマノイドの前で膝をつく女神様たち。

 残念ながらイストワールの言っていた通りになったようです。

 

「来たか、女神補佐官ギンガよ。待っておったぞ」

「待っていた……?」

「ワシの元につけ。ワシは貴様の力を高く評価しておるのだ」

「はぁ? 私とあなたは初対面ですけど?」

「それは当たり前だ。ワシの計画の懸念点は女神よりも貴様だったからな。ゲイムギョウ界の改変までは貴様に捕捉されんように隠密に行動してきたわけだ。噂やデマを撒き散らすことをあえてプラネテューヌではやらなかったようにの」

 

 なるほど……プラネテューヌでは他の三国に比べて女神様へのネガキャンが緩かったことや、『@将軍のまとめサイト』があまり有名ではなかったのはそういう理由でしたか。

 

「ギンガよ。ワシに負けた女神どもなど裏切ってワシの元につけば、今なら高待遇で歓迎してやろう。ワシとお主とでこの世界の富を手にしようぞ!」

「お断りします」

「即答か。つれないのぅ……なぜそこまでして守護女神に拘る? 貴様には女神無き混沌の世界でも生きていけるだけの才と力があろうに、何故女神などに付き従う?」

「簡単な話です。私が女神様を愛しているからです」

「愛ぃ……? ふん、ワシには呪いのようにしか見えんがな。女神に心を縛られ続けている呪いにな」

「呪い……ですか、いいところ突きますね。確かに少し前までの私は呪われていたと言ってもいいでしょう。しかし、最近私はようやくその呪いから解き放たれましてね。私はもう女神補佐官としての使命で女神様に仕えているのではありません。私が愛する女神様に仕えたいから仕えているのです」

 

(ギンガ……)

(愛だって。よかったじゃないネプテューヌ)

(いや、多分違うわノワール。あの人のことだからどうせ親愛とかそういうアレよ……)

 

「ふん、ならば、女神のためにここで死ぬが良い!」

「……!」

 

 アフィモウジャスが剣を降りかかってきます。ステマックスとは比べ物にならない力。そして力任せではなく、剣の腕もそれなりにある。なるほど、秘密結社の首領なだけはあります。

 女神様に効くエネルギーをまとっていることを考慮すると、ネプテューヌ様からいただいた指輪で変身すると逆に不利になってしまいかねません。

 

(ちぃっ……やはり、ネガティブエネルギーはこの男には効果がないようだな……だが!)

 

「ワシの敵ではないわ!」

 

 例の負のエネルギーで女神様にはデバフをかかるとはいえ、多対一の状況で女神様を倒せるほどの相手。奴の言う通り、流石に私では勝てないでしょうね……

 しかし、勝てないことは戦わない理由にはならない!

 

「はぁぁぁっ! 『ギャラクティカエッジ』!」

「……ふん! パワーが足りん!」

「ちぃっ……!」

 

 やはり火力不足が否めません。こんな時にカタールとガンブレイドがあれば……

 

「師匠! 助太刀します!」

 

 女神様ではないため負のエネルギーの影響がほとんどなかったあいちゃんがコンパさんの応急処置を受け戦線に復帰してくれました。

 

「あいちゃん、助かります」

「いきましょう師匠!」

「ええ!」

 

 私が左、あいちゃんが右から同時攻撃を仕掛けます。

 

「「『クロスギャラクティカエッジ』!」」

「良い技だ……だが、ワシには届かぬ!」

「……っ⁉︎」

 

 敵の剣の振りから発生する衝撃波で薙ぎ払われ、ガードが間に合った私はともかく、間に合わなかったあいちゃんが吹っ飛ばされます。

 

「かはっ……!」

 

 そのまま壁に叩きつけられたあいちゃんは意識を失います。

 

「あいちゃん!」

「その小娘が素早いことは少し戦ったから知っておるのでな。わざと技を喰らうことで逆に隙を作ったのだ。そして……『スパークファイア』!」

 

 アフィモウジャスが剣を床に突き立てると、そこから衝撃波が炎のように発生し、床を這いずりながら、物陰に直撃します。

 

「嘘っ⁉︎ きゃあああっ!」

「ユニ様!」

 

 負のエネルギーが込められた技が物陰に待機していたユニ様に直撃し、ユニ様はたまらずノックダウンしてしまいました。

 

「狙撃の機会でも伺っておったのだろう? バレバレだったがな。さて、後は貴様一人! 貴様にはワシの必殺技を見せてやろう……!」

 

 どうやら、決めにくるようですね。必殺技ですか、確かに直撃すれば勝敗は決するでしょうが、そんなものに当たる私では…………っ⁉︎

 

「……ふっ、気づいたようじゃな?」

 

 この位置関係、私の後ろにはまだ動けずにいる女神様たちがいます……っ!

 

「貴様が避ければ女神たちに当たってしまうのぅ?」

「てめえ……!」

 

 ならば、この場から動かずに迎撃するしかありません。

 この技は零次元での戦いの後にふと思いつき、なんとなく習得してみたもので、実戦で使うのはこれが初。ぶっつけ本番となってしまいましたが……

 

「『リミテッドシェアリングフィールド』……」

 

 『リミテッドシェアリングフィールド』。本来シェアエネルギーで空間生成を行う技『シェアリングフィールド』を自分の体の周りにのみ展開するもので、例えるならシェアリングフィールドが『攻め』ならリミテッドシェアリングフィールドは『守り』。自身の周りに形成されたフィールドが敵の攻撃を感知した瞬間にカウンターを繰り出して防御するというものです。

 シェアリングフィールドなど空間生成能力の効果から自身を守るというのが本来想定された用途なのですが、こういったことに応用が効くこともリミテッドシェアリングフィールドの利点です。

 

「ほぅ……なにか策があるようだな。だが無駄だ! 喰らえ! 『成・金・斬』!」

 

 必殺の一閃、そして拡散する衝撃波……! リミテッドシェアリングフィールドの範囲内に入った敵の攻撃は、後ろの女神様に届かぬように全て迎撃します。ですが、流石にダメージを0にできるほど都合のいいものではありません……!

 

「むぅ、まさか耐えるとは……」

 

 『成・金・斬』とやらを耐えることはできましたが、ぶっちゃけもう立っているのが精一杯です。リミテッドシェアリングフィールドを使わなかったら即死でしたね。

 

「だが、見るからに満身創痍。勝負あったな」

「そうですね。流石は秘密結社の首領。この勝負は私の負けです」

「ふん、やけに潔いではないか」

「……」

「女神どもの身代金を要求してやろうと思ったが、気が変わった。ここで女神どもを滅ぼし、世界をより混沌にしてやった方がワシの望む世界に近づくだろう……!」

 

 ……どうやら負の禍々しいエネルギーがアフィモウジャスの性格にまで影響を及ぼし思想まで過激になってきているようです。

 

「最期に何か言い残すことはあるか?」

「いいえ? 何もありませんよ。最期ではありませんので」

「何……?」

「間に合ったということですね」

 

 私が言葉を言い終わった瞬間、ゴールドサァドの四人が船橋に乗り込んできました。

 

「ビーシャ⁉︎ それに、他のゴールドサァドまで!」

「これが貴様らの策か? ふん、今更ゴールドサァドどもが加勢しようがワシは止められぬ!」

「そうだろうね、だから……」

「受け取れ、守護女神たち!」

 

 そして、ゴールドサァドたちは女神様に『例のもの』を渡します。

 

「これは……シェアクリスタル⁉︎」

「ただのシェアクリスタルじゃないよ! ゴールドクリスタルの欠片と合わせて生成した、その名も『ハイパーシェアクリスタル』!」

「アタシたちなりに、君たちの力になりたくてね。イストワールに渡して作ってもらったんだ」

「守護女神とゴールドサァドへの信仰心、この世界全ての信仰心がそのクリスタルには宿っているんです!」

「シェアとは祈り、そして願いだ。それを力に変えることができれば、奇跡も起こせるはずだ」

「もちろん、値段はプライスレス! 思いっきりやっちゃえ!」

「ゴールドサァドのみんな……感謝するわ!」

 

 『ハイパーシェアクリスタル』を使えば女神様は通常の女神化を超えた更なる変身が可能となります。おそらく、アフィモウジャスが放つ負のエネルギーすら弾き飛ばせるほどの力を手にすることができるでしょう。

 

「上手くいきましたね」

「ギンガ……! 貴様、最初から時間稼ぎのつもりで……!」

「いえ、倒せるなら私が倒してしまおうとは思っていましたよ? 残念ながら私では無理だったんですがね。しかし、女神様にあのクリスタルが届けられる時間を稼げただけ良しとしましょう」

「くっ……!」

「さぁ、刮目するが良いアフィモウジャスよ! 女神様の新たな姿を!」

 

 

 

 

 

『ネクストプログラム、起動』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 『紫の影』を読んでくださった方には久しぶりの『リミテッドシェアリングフィールド』でした。
 次回、超次元編最終話です。


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FINAL. NEXT NEW VENUS


 


 

 女神化をさらに超えた変身、その理論自体は存在していました。

 しかし、その域に達した女神様をこの目で見たことは一度もありません。

 今まで私はゲイムギョウ界には女神様を信奉する者のみが生きていればいいと思っていました。不純物を取り除く、つまり女神様を信じない人間を排除することによる信仰の『最適化』、これこそが女神様やゲイムギョウ界を新たなステージに押し上げる手段だとも思っていました。

 しかし、違いました。女神様を信じる者、信じない者、それらは全てゲイムギョウ界の『可能性』なのです。完全ではなく不完全だからこそ辿り着く境地がある。現に女神様は私の言う『最適化』などせずとも、今ここにある世界によって進化を果たしました。

 

「ふっ……私は間違っていたようですね」

 

 そして私は今、世界が、歴史が、そして女神様そのものが変革する瞬間を目撃しています。これを喜ばずにはいられましょうか……!

 

 世界中の願いによって進化した、守護女神の極限進化、『ネクストフォーム』!

 

「人々やゴールドサァドの想いと共に、行くわよ!みんな! 次世代の女神の力、見せてあげるわ!」

「「「ええ!」」」

 

 さぁ! 存分にお戦いください、女神様!

 

 パープルハート様……いえ、ネクストフォームと化したのでネクストパープル様ですね、ネクストパープル様が先陣を切り、アフィモウジャスに飛びかかります。

 

(……私たちはようやく掴んだ、ギンガが以前言っていた『己の力の核心』を。そして『核心』を掴んだから、今の私にならできるかもしれない。いいえ、かもしれないじゃなくてできる! 見ていてねギンガ。私の大好きなあなたの技を!)

 

 む? ネクストパープル様のあの構え、そして太刀筋……まさか……!

 

「はぁぁぁっ! 『ギャラクティカエッジ』!」

 

 ……ギャラクティカエッジは私やあいちゃんのような人間(厳密に言うと私は人間ではありませんが)にとっての最適な剣技であり、女神様にとっては違います。おそらく、ネクストパープル様にとってはギャラクティカエッジよりもクロスコンビネーションを使われた方が威力は高いでしょう。

 ……しかし、誰かが言ったことがありました。私の『ギャラクティカエッジ』はゲイムギョウ界で最も美しい剣技だと。正直女神様を差し置いてそんなこと言われるなど不敬の極みだと思っていたのですが……ようやくその意味がわかりました。

 ネクストパープル様が放たれた『ギャラクティカエッジ』の美しさに、一瞬とはいえその場にいる全ての者が魅入られて動きを止め、時が止まったかのようにすら見えました。

 

「ぬぉっ! (いかん、敵でありながらもつい目を奪われてしまったわ!)」

 

(……やっと気づいたわ! ギャラクティカエッジは人によってやり方がほんの少し異なるのね。ギンガにはギンガのやり方があって、あいちゃんにはあいちゃんのが、私には私のがある。だから私がギンガやあいちゃんの動きを完コピしたところでできないわけだわ……)

 

「ネプ子もついにできるようになったのね。あーあ、師匠の技が使えるのは私だけの特権だと思ってたのに」

「その割には嬉しそうです。あいちゃん」

「私とコンパで何度も練習に付き合ってあげたからね」

「ふふ、そうですね」

「……しかし、甘いですね。ギャラクティカエッジは極めれば予備動作無しで技を出せるので、予備動作がある時点でまだまだです」

「師匠……(いつもはネプ子に甘々なのに、戦闘においては本当に厳しいわよね……)」

 

 ギャラクティカエッジの完成度はともかく、ネクストフォームと化した女神様相手となるとアフィモウジャスはもう終わりでしょうね。現に、私とあいちゃんとコンパさんがお喋りをしている間にものすごい勢いでアフィモウジャスがボコボコにされてますし。

 

「ぬぅぅ……っ! おのれ! おのれおのれおのれぇっ! おのれ女神どもぉっ!」

「……諦めなさい。もう勝負はついてるわ」

「大人しく投降すれば、悪いようにはしないわ。それに、これ以上はあなたの大切な親友、ステマックスも望んでいないはずよ!」

 

 ネクストパープル様、そしてユニ様がアフィモウジャスの説得を試みます。

 

「まだだ! ワシはまだ戦える! ワシの覇道は、誰にも止められぬ‼︎」

 

 しかし、その声が届いていません。やはり、アフィモウジャスは負のエネルギーの影響で暴走しています。

 

「どうして……わかってくれないの!」

「多分、原因はあの黒いオーラね」

「ああ、あのオーラはアンチクリスタルと同じで、負の力を感じるぜ」

「どうにかならないの⁉︎」

「目視できるほどの瘴気に取り憑かれてしまっては、もう殺すしかありません」

「そんな……!」

 

 汚れ仕事を引き受けるのは私の役目。

 今楽にしてやる、アフィモウジャス。

 

「いいえ。そうはさせないわ」

「……ネクストパープル様?」

「例え敵であっても救う。そして共にハッピーエンドも迎える。それが私たち守護女神よ。エスーシャが言っていたわ。シェアとは祈り、そして願い。それを力に変えれば奇跡も起こせると」

 

 ネクストパープルが刀にシェアエネルギーを込めます。何をなさるつもりなのでしょうか?

 

「ついえよ! 猛争‼︎」

 

 そのままアフィモウジャスを切り裂きます……が、アフィモウジャスに外傷はありません。そして先ほどまで感じられた禍々しき瘴気が消えています。

 シェアを感覚で察知できる私には、ネクストパープル様の真の力を理解することできました。どうやらネクストパープル様の必殺の一閃は事象や概念すらも切り裂くことができるようです。

 

「……将軍がまとっていた負のオーラ、猛争の力だけを斬ったわ」

「じゃあ、これで終わったんだよね。お姉ちゃん」

「ええ。首領を倒した以上、秘密結社は壊滅。作戦成功よ。帰りましょうみんな。いーすんが待ってるわ」

 

 そして、アフィモウジャスの邪念を切り裂いたからか、改変されたゲイムギョウ界が元に戻っていくような感覚がします。とはいえ、なんとなくそんな気がする程度なので詳しい話は後でいーすんが教えてくれるでしょう。

 

 ……しかし、気がかりなことが一つ。結局マジェコンヌやネプテューヌさん、そして別次元の私と遭遇しなかったことです。奴らのことも秘密結社の一員と仮定していたのですが、どうやら違ったようですね。そこらへんはアフィモウジャスから尋も……事情聴取でもして聞き出しましょうか。

 

 まぁ何はともあれ、今は女神様の勝利を讃えま………………

 

\ どさっ /

 

「……ちょっ! 師匠⁉︎ 師匠!」

「どうしたのあいちゃん? ってギンガ⁉︎」

「どうしようネプ子! 師匠が急に倒れて……!」

「将軍さんから受けたダメージが大きかったようです! 早く教会で治療しないといけないです!」

「私が抱えて飛んで帰るわ! ネクストフォームで最大加速したら教会なんてすぐよ!」

「ネプ子お願い!」

「わかってるわ! もう! ギンガはいつも自分がきつい時は倒れるまで何も言わないんだから‼︎」

 

 

 

 

 

 

 

「アフィモウジャスは負けてしまったようだ。それに、結局アレは女神達に奪還されてしまったようだね」

「その割には余裕そうっすね」

「……ルギエルか。オレを着信拒否しといて、よくおめおめと姿を見せられるね?」

「ただでさえもう一人の俺の足止めを殺さずにやれなんてクソ面倒な仕事任せてきたくせに、更に追加で面倒そうなお仕事を押し付けてこようとしたそっちが悪いと思いまーす」

「はぁ……そうかい。ところで、君は超次元で何をしていたんだい?」

「ん? あー、探し物」

「探し物って?」

「多分言ってもわかんねーと思うけど、まぁ別に隠すほどじゃねえか……

 

 ……『ゲハバーン』って知ってる?」

 

「ゲハバーン……?」

「その反応的に知らないっぽいな。まーなんつーかどっかの次元のゲイムギョウ界にあるらしい最強の剣でな、それを探してんだ。この次元にはなかったけどな」

「……なら、いいことを提案してあげるよ」

「あん?」

「オレの頼みをいくつか聞いてくれれば、オレの力でその剣を創ってあげてもいい」

「んなことできんのか?」

「それは君次第さ」

「……できることならやるけど、無理難題なら断るぜ?」

「そうだね、君に任せたいこと、それは………………」

 

 

 

 

 

 

 

 目覚めて最初に目に入ったのは、安心そうに私を見下ろすネプテューヌ様といーすん。なるほど、私はぶっ倒れたんですね。

 

「……また無茶をしたようですね、ギンガさん」

「必要な無茶ですので」

「全くもう……いつもギンガさんは……けど、安心しました」

「そうですね……心配かけて申し訳ないです」

「こちらこそ申し訳ありません。追加装備の修復が間に合っていれば……」

「そんなことありませんよ。不覚をとった私が悪いのです」

「いいえ、私が……」

「いえいえ、私が……」

「ちょっとちょっと! 二人だけの世界に入らないでよー! ギンガを運んできたのはわたしなんだからー!」

「わかっています。ネプテューヌ様には感謝してもしきれません。あの指輪の件もそうです。あれがあったからリーンボックスでの戦いも切り抜けられました。ネプテューヌ様にはいつも助けられてばかりです」

「そ、そう……? えへへ….」

 

(ネプテューヌさん……ちょろすぎません……?)

 

「さて、いーすん。聞きたいことがあります」

「なんでしょうか?」

「私がぶっ倒れる直前、ネクストパープル様の一閃の影響か世界改変が元に戻るような感覚がしたのですが、教会の方で何か観測されましたか?」

「はい。今私もそれを伝えようと思っていました。空中のアフィベースを中心に、事象そのものを切り裂くような力が観測されました。それにより女神様のことを忘れていた人々も記憶が戻ってきたんです」

「やはりですか。流石はネプテューヌ様ですね」

「ふっふーん! もっと褒めてくれていいんだよ!」

 

 そう言ってネプテューヌ様は撫でろと言わんばかりに頭を差し出してきます。そして勿論撫でさせていただきます。

 

「ねぷぅ〜♪」

 

 さて、いーすんに聞きたいことはもう一つ。

 

「秘密結社の方はどうなりましたか?」

「意識を失ったアフィモウジャス将軍は女神様たちが拘束。今はコンパさんが様子を見ています。そして忍者ステマックスも自首してきました。これにより秘密結社は一応壊滅したものとしています。ですが……」

「残る者たちのことですね?」

「はい。依然マジェコンヌと大きいネプテューヌさん、そして名の知れぬ少女と別の次元のギンガさんの行方はわかっておりません」

「なるほど。そういえば、例のゲーム機の回収は?」

「そちらの方は大丈夫です。回収した後、以前より厳重に保管してあります」

「わかりました」

 

(……多分ギンガはあのゲーム機が何なのかを知ってる、そしてその正体が何かわたしやいーすんにも言えない事情があることを。けど、わたしがそれを問い詰めてもギンガを苦しめるだけだから今は聞かないでおこうかな)

 

「さて、身体も動くようになってきたので、私はアフィモウジャスの様子を見にコンパさんの元へ向かいます。奴が目覚めたら色々と聞かなければならないことがありますので」

「まだ安静にしていたほうが良いのでは?」

「じっとしているよりある程度身体を動かした方が回復も早いものです」

「根拠あるのそれ?」

「ありません。そんな気がするってだけです」

「ギンガって割と気分で生きてるとこあるよね……」

 

 

 

 

 

 

 

「うっ、ここは……」

「あ、将軍さんが目を覚ましたです。ここはプラネテューヌ教会ですよ」

「……そうか。ワシは守護女神たちに敗れたのか……しかし、何故だろうか。まるで憑き物がおちたような、清々しい気持ちだ」

「実際に落ちましたしね。禍々しいエネルギーが」

「あ、ギンガさん」

「コンパさん、アフィモウジャスの看護、ありがとうございました。あとは私に任せてください」

「わかりましたです……けど、痛いこととか酷いことをしたらダメですよ?」

「善処します」

「善処じゃダメです。約束してくださいです」

「……わかりました」

「ならオーケーです」

 

(あのギンガが……押し負けている……? この看護師……なかなかの強者なのか⁉︎)

 

「さて、アフィモウジャス将軍。あなたには聞きたいことが沢山あります」

「その前に……」

「はい?」

「ステマックスはどうなった? 奴はワシが秘密結社から解雇した。もはや奴は秘密結社とは無関係の一般人。故に、ことの騒動には奴は無関係。責任は全てワシにある……だから……!」

「残念ながら……

 

『出会ったあの日から、拙者と将軍は運命共同体! 拙者だけ知らぬフリをして将軍だけに罪を被せるわけにはいかないで御座る!』

 

 ……と言って自首してきたらしいので、彼も身柄を拘束せざるを得ませんでした」

「そうか……」

「とはいえ、今回の件はあなたたちを裁いて終わる問題ではなさそうですし。私の質問に素直に答えてくださるのなら悪いようにはしません」

「良かろう。ワシに答えられることならなんでも答えようぞ」

「協力的で助かります。では、秘密結社の構成員にマジェコンヌとネプテューヌさんがいたはずです。その方々はどちらに?」

「やつらは離反し消えた。消えた先までは知らぬ」

「そうですか……」

 

 消えた……となるとネプテューヌさんの能力でしょうね。ワープされたとなると手がかりもありません。

 

「では、次の質問です。あなたに負のエネルギーを授けた者がいるはずです。その方は何者ですか? 目的などを語ってはいましたか?」

「ワシが言われたのは例のゲーム機の回収だけだな。それ以外は知らぬ」

「そうですか……では、どうやってその方と知り合ったのですか?」

「ある日突然其奴に、自分に協力すれば世界を都合よく改変してやると持ちかけられたのだ。今思えば、ワシもゴールドサァドのように利用されていただけだろう」

「……でしょうね。となるとこれ以上あなたに聞くことはありません。あなたがた秘密結社の処罰は一旦保留としますので、今は療養しててください」

「保留? それで良いのか……?」

「悪いようにはしないと女神様が約束してしまったもので」

 

 それに、ゲイムギョウ界の改変は元に戻った良いものの、事態は何一つ解決していませんしね。

 

「では、私はこれで」

 

 そう言ってアフィモウジャスの元から去ります。

 さて、まずは女神様を集め、今後のことについて話し合わなければなりませんね。

 

\ ーーーーーーーー! /

 

 その瞬間、プラネテューヌ教会に鳴り響くアラート。

 このアラートは……緊急事態のものですよね……? 一体何が……?

 

 

 

 

 

 

 

「相変わらず人使いの荒いクライアント様だぜ。まぁいい、こっちも準備は終わったし、始めさせてもらうか……!」

 

 

 

 

 

 

 

『紫の星を紡ぐ銀糸N』第二部 超次元編 -完-

 

 戦いは、続く。

 

 





 次回から最終章に入っていきます
 ていうかほんとに活躍しねーなこの主人公……


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心次元編
最終章へ向けてもう一度簡単なキャラ紹介


 


 

 

・ギンガ

 超次元編中盤にてネプテューヌから授かった「ネプテューヌリング」により新形態「ギンガネプテューヌ」への変身を会得。

 これまでの戦いを経てゲイムギョウ界への考え方が変わりつつある。

 超次元ゲイムギョウ界の「天王星うずめ」を唯一記憶しており、人々から忘れられることを選んだうずめの意を汲んで、うずめが封印されているゲーム機の正体を明かさないまま再び保管しようとしている。

 敵の内情を探る何者かと内通しているようだが、相手の正体は未だ不明。

 

・ネプテューヌ

 超次元編終盤にて女神化を超えたネクストフォームへの変身を会得。

 ギンガが例のゲーム機の正体を知っている上で自分たちに隠していることを察してはいるが、何か事情があることも察しており、あえて何も聞かずにいる。

 

・ノワール、ブラン、ベール

 ネプテューヌ同様ネクストフォームへの変身を会得。守護女神の転換期を乗り越えつつある。

 

・女神候補生 ネプギア、ユニ、ロム、ラム

 ゲイムギョウ界が改変された時の戦いを経て、心身ともに更に成長した。その際に新たな必殺技も会得した様子。

 

・天王星うずめ

 超次元とは別の次元『零次元』で出会った天王星うずめ。ギンガ曰く「超次元におけるうずめとは容姿や魂の輪郭がやや異なる」とのこと。ギンガたちと協力し、零次元を滅ぼそうとするマジェコンヌを撃破した。その後は荒廃した零次元の復興を頑張っているらしい。

 

・アイエフ、コンパ

 頼りになるネプテューヌの親友たち。

 

・イストワール

 プラネテューヌ教会のブレイン。ギンガが何かを隠してるのは察しているがあえて何も聞いていない。

 

・ゴールドサァドたち

 ハイパーシェアクリスタルの生成の代償に自らのゴールドサァドとしての力を捨て、一般人として日常に戻った。

 

・アフィモウジャス、ステマックス

 アフィモウジャスは女神から受けたダメージとネガティブエネルギーを使用した身体へと負担により療養中。ステマックスはそんなアフィモウジャスを親友として面倒を見ている。ゲイムギョウ界を混沌に陥れた秘密結社の構成員として教会に拘束されているという立場ではあるが、女神たち(主にユニ)の気遣いにより割と快適に過ごしている様子。

 

・マジェコンヌ

 敵キャラ。零次元編でギンガたちに負けて死にかけていたところをルギエルに助けられる。超次元編では色々と暗躍していた。

 

・大人ネプテューヌ

 ギンガネプテューヌの被害者。零次元編ではギンガたちとともにマジェコンヌと戦ったが、超次元編ではなんとマジェコンヌと行動をともにしていた。その目的は不明。

 

・クロワール

 世界が滅びる歴史を観測したいとのことだが、今のところは目立ったことはなにもしていない。ルギエルとは古い知り合いらしい。

 

・謎の少女

 黒幕。うずめが封印されているゲーム機を狙っている。

 

・ルギエル

 別次元のギンガの同一体。ぶっちゃけ超次元編ではほとんど何もしてなかった男。最強の魔剣『ゲハバーン』を求めて次元を流離っていたが、クロワールに唆され超次元ゲイムギョウ界にやって来た。心次元編では謎の少女からの頼みで何かをするようだが……?

 




 本当はこういったものがなくてもキャラたちがどういう立場でどんな動きをしているのか分かりやすく文章を書くべきなんですよね。すみません。


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01. 罠


 今までは地の文が一人称でしたが、この章からは三人称になります。最終章からオリキャラの主張が激しくなってくるので今まで以上に人を選ぶ内容になると思います。



「ちょうど、先ほど観測されたのですが、ゲイムギョウ界の空に突如大きな穴が空いてしまったんです」

 

 女神たちを集め、緊急事態について簡単に説明するイストワール。

 

「さっそく、その写真がネット中に出回っていますわ。これを見てくださいな」

 

 そう言ってベールが見せた携帯端末の画面には、確かにプラネテューヌ上空に大きな黒い穴が空いていた。

 

「……嫌な予感がするわ」

「なら、さっさと調べたほうが良さそうね。ネプテューヌ、ベール、ブラン、付き合ってくれるかしら?」

「ええ、構いませんわ」

「わたしも、ノープロブレムだよ! サクッと行ってサクッと調べてサクッと帰ってこようよ」

 

 ネプテューヌたち女神四人はとんとん拍子で話を進めていく。

 

「なら、あたしも……!」

「ユニは待機していて」

「どうして? あたしじゃ足手まといなの?」

「逆よ。私たちが不在のゲイムギョウ界を任せられるのはあなたたちしかいないの。もし何かあったらその時は頼りにしてるからね、ユニ」

「……うん!」

 

 素直な言葉で自分の後を託すノワールと、それに笑顔で応えるユニ。超次元編を経て、姉妹の距離が更に縮まったようだった。

 

「……」

 

 他の皆の会話には混ざらず何かを考え込み、俯きながら黙っているネプギア。

 

(お姉ちゃんはもちろん強い。ノワールさんたちもいるし、そしてネクストフォームだってある。不安なんかない……はずなのに、この胸騒ぎは何?)

 

 ちなみにギンガはアフィモウジャスから受けたダメージがまだ回復しきっておらず、もし戦闘になったら足手まといになりかねないと思い、女神たちについて行くことを断念していた。

 

「それじゃあいーすん、ギンガ。サクッと行ってくるね」

「わかりました。みなさん、どうか気をつけて」

「いってらっしゃいませ、ネプテューヌ様。くれぐれも……」

「わかってる。ズーネ地区の時みたいな油断はもうしないよ」

 

 ネプテューヌたちは女神化し、空の大穴へと飛んで行った。

 

 

 

 

 

 

 

 女神たちが出発した日の夜。プラネタワーの屋上。ネプギアはこっそりと姉たちの所へ行こうとしていた。

 

「……ここからなら、誰にも見つからないよね。帰ってくる時も、お姉ちゃんたちと時間をずらせばいいだけだし」

「一人でどこ行くつもり?」

 

 否、こっそりとしていたつもりだったが、どうやらユニにはその思惑がバレバレであり、普通に背後から着けられていた。

 

「ユニちゃん⁉︎ いつの間に⁉︎」

「あんたがさっきからずっと変な様子だったから、どうせこんなことだろうと思ってつけてきたのよ。そんなに心配なの? お姉ちゃんたちのこと」

「……え、えと、その……うん。……どうしても、胸騒ぎがして。だから、ユニちゃん、このことはみんなには……」

「なら、あたしも行くわ」

「……え?」

「あんた一人じゃ危なっかしいしね。着いてってあげるわ」

「ありがとうユニちゃん!」

 

 ネプギアとユニは、変身して展望台から飛び立とうとする。

 

「お待ちください」

 

 しかし、突然後ろから声をかけられ、その足が止まる。

 

「ギンガさん⁉︎」

「……」

 

 その声の主はギンガだった。

 自分たちを止めに来たに違いないと、ネプギアもユニもバツの悪そうな表情をする。

 

「ネプテューヌ様たちが行かれてからネプギア様の様子がずっとおかしく、先程いきなり姿を消したので、もしやと思いここへ来てみたら……やはりでしたか」

 

 ギンガは喋りながらネプギアとユニの前方に、まるで彼女たちを妨げるように歩いて回り込む。

 

「止めに来たんですか……?」

 

 今すぐに姉たちの元へ向かいたい、しかし目の前のギンガを無視して進むのは良心が痛む。そう思っていたネプギアとユニだったが、

 

「いいえ、逆です」

「「え?」」

 

 ギンガの意外な返答に目を丸くした。

 

「ネプテューヌ様たちを信頼していないわけではありませんが、私も少々胸騒ぎがしましてね。しかし、今の回復しきっていない私がついて行ったところで足手まといになりかねないので、どうしたものかと悩んでいたら、どこかへ行こうとするネプギア様とユニ様を見つけまして」

「……つまり?」

「ネプテューヌ様たちの様子を見に行ってくれませんか? イストワールには私から言っておくので」

「あ、ありがとうございます」

「その代わりと言ってはなんですが、一つ約束をしてください」

「約束……ですか?」

「やばいと思ったらすぐに逃げること。たとえその時にネプテューヌ様たちが逃げないという判断をしても、あなたたちだけでも絶対に逃げて来ること」

「はい! わかりました!」

「じゃあ、行ってきます!」

「はい、いってらっしゃいませ」

 

 ギンガは、女神化して大穴に向かい飛んでいくネプギアとユニを見送る。

 

「あの大穴….明らかに敵が何かをしたものだが、奴から情報が来ない……タイミングが悪いのか……それとも……」

 

 

 

 

 

 

 

 空の大穴の中は、まるでレトロゲームのグラフィックのような水色で殺風景な回廊がどこまでも続いてた。

 

「ずいぶん進んだつもりだけど、終わりが見えないわね……」

「つまんないのー……」

 

 進むこと数時間、特に変わりない景色に飽きがまわったノワールとネプテューヌがぼやく。

 

「この回廊、どこまで続いているのでしょうか? あら……?」

「どうしたの?」

「気のせいだったら良いのですが、あちらからこちらに何か向かってきてません?」

「……向こう?」

「ええ。ずー……っと向こうですわ。多分アレは……」

 

 ベールが指を刺した豆粒のようなシルエットが、近づくにつれて鮮明になっていく。そのシルエットの正体は……

 

「……そう、モンスターの群れですわ」

 

 ……モンスターの大群だった。

 

「……すごい数ね」

「それに、見たことない種ね。まぁ、モンスターなら倒すことには変わりないけど」

「モンスターの進行方向からの予想ですが、おそらく、ここの出口に向かっているんじゃないかしら」

 

 ブランとベールが変身する。それに続いてノワールも変身し、武器を構える。

 

「となると、意地でも死守しねえとな」

「ですわね。数は多いですが、私たちが力を合わせれば苦戦することはないでしょう」

「力を合わせる……ね。少し前までは私たちって敵対してたはずなのに、今では一緒に戦うのが普通になってる気がするわね」

「不服か?」

「いいえ! 心強いわ! ほら、あなたも早く変身しなさいよ、ネプテューヌ!」

 

 ネプテューヌだけは変身をせずに、モンスターを眺めて考え込んでいた。

 

「あのモンスター……!」

「どうしたの?」

「わたし、あのモンスター知ってる!」

「はぁ⁉︎ 何でお前だけ知ってんだよ?」

 

 ネプテューヌの言葉に驚くホワイトハートとブラックハート。しかしグリーンハートはその真意を察していた。

 

「……なんとなくわかりましたわ。あれは零次元で見たモンスターと言いたいのでしょう?」

「うん。間違いないよ」

「じゃあこの回廊の先にあるのは……その零次元ってこと?」

「それはわからないけど……」

「そんなことより、まずは目の前の敵を倒すわよ!」

「わかってる……!」

 

 ネプテューヌも変身し、武器を取る。

 女神たちの変身が完了したのを合図とするように、どんどん流れ込むモンスターたち。咆哮をあげながら女神たちに襲いかかる。

 しかし、遅れをとる守護女神ではない。迫りくるモンスターたちを次から次へと蹴散らし、大群だったモンスターは瞬く間にその数を減らしていく。

 そうやって女神たちがモンスターを押し込むように倒しながら進んでいると、先程の回廊よりも少し広い空間に出た。

 

(……広い? この空間、どうなっているのかしら?)

 

「これでラスト!」

 

 ブラックハートの力強い掛け声と共に放たれな一閃で、最後のモンスターが倒される。

 

「あら、ラストは私が決めようと思ってましたのに……」

「誰だっていいでしょそんなもの」

「とりあえず殲滅完了だな。次が来るかもしれねえから警戒は怠るなよ」

「言われたくても分かってる………わ……?」

 

 突如、女神たちは背後から巨大なエネルギーの気配を感じ取る。それは今までに感じたことのないような異様な気配だった。

 

(この気配……まさか……!)

 

 否、パープルハートだけはそれを知っていた。おそるおそる振り返り、その正体を口にする。

 

「ダーク……メガミ……っ!」

 

 振り返った女神たちが目にしたのは、かつてネプテューヌ零次元で戦った巨大なモンスター『ダークメガミ』。

 

「ダークメガミって、お前が零次元編のラスボスっつってたやつだよな⁉︎」

「どうしてそれがここに⁉︎」

「考えるのは後! 今ここで倒すわよ!」

 

 女神たちは思わぬ強敵との遭遇に驚くものの、臆することはない。

 先の戦いで身につけた新たなる力を再びその身に宿す。

 

「「「「ネクストプログラム、起動‼︎」」」」

 

 

 

 

 

 

 

「ここが穴の中……まるで、昔のRPGのダンジョンみたい……」

「グラフィックが雑なやつね。……ん? 奥から何か聞こえてこない?」

「うん、微かに聞こえるね。これは……戦闘の音……?」

「お姉ちゃんたち、戦ってるのかしら? 心配だけど、あくまであたしたちの任務は様子見だし、お姉ちゃんに追いつくと、ついてきたことに怒られるかもしれないから、近づきすぎないようにしないとね」

「そうだね。それに、こんな回廊だから音が反響して聞こえるだけで、まだお姉ちゃんたちとはだいぶ距離がありそう」

「とりあえず急ぐわよ」

「うん!」

 

 

 

 

 

 

 

「巨大な相手には、巨大な武器で行くわ! 『32式エクスブレイド』!」

 

 ネクストパープルは自らのシェアエネルギーで創り出した大剣『32式エクスブレイド』を、射出ではなく手で持って振り回す。

 

「面白いことしますわねネプテューヌ。では私も……『シレットスピアー』」

 

 ネクストグリーンも巨大な槍『シレットスピアー』を射出するのでなく手で掴んで振り回す。

 

\ オオオオオオオオッ! /

 

 耐久値が削られたダークメガミが怒りの咆哮と共に思い切り腕を振り回し攻撃をするが、それが女神たちを捉えることはない。

 零次元編では猛威を振るったダークメガミも、ネクストフォームとなった四人の女神の前では少し強い程度の相手でしかなかった。

 

「ダークメガミ、実物を見た時は少し驚いたけど、ネクストフォームになった私たち四人の敵ではないようね」

「へっ、どうやら私たちは強くなり過ぎちまったのかもな」

「けど、油断はしませんわ」

「はぁぁぁっ! 『デルタスラッシュ』!」

「『インビトウィーンスピア』!」

「行きなさい……『ナナメブレイド』!」

 

 ネクストパープル、ネクストブラック、ネクストグリーンの三人がダークメガミの行動を止め、

 

「『ブラスターコントローラー』! 最大出力!』

 

 そしてネクストホワイトの必殺武器『ブラスターコントローラー』で仕留めにかかる。

 

「オラァァァッ‼︎」

 

 特大の照射ビームに貫かれ、ダークメガミは光に還った。

 

「これで終わりだ」

 

 ダークメガミを撃破した四人は、一旦ネクストフォームから通常の女神化に戻る。

 

「増援は……来る様子はなさそうですわね」

「ていうか……この回廊、どこまで続いているのかしら?」

「闇雲に進み続けるより、一度戻っていーすんたちに調査報告した方が良さそうね」

「でも、私たちが戻っている間にまたモンスターが進軍してきたら……」

「なら、この回廊の壁を破壊して道を塞いでおきましょうよ」

「そうね。パパッと破壊して戻りましょ。ブランお願い」

「私か?」

「向いてるでしょ? こういうの」

「はぁ……しょうがねえな……『ツェアシュテールング』!」

 

 ブランの斧技により、回廊の壁も地面もめちゃくちゃに破壊され、人はおろかモンスターですら通れなくなった。

 

「こんなもんだろ。さ、帰るか」

 

 ブランが変身を解除する。それに合わせるようにネプテューヌたちも変身を解除する。

 

「ふぅ〜終わった終わった。帰ったらだらだらしよーっと」

「そういうわけにはいかないわ。この穴の調査も途中だし、まだマジェコンヌも大きいあなたも謎の少女ももう一人のギンガも残ってるのよ?」

「そうですわ。帰ったらすぐに対策を練らないといけませんわね」

「えぇ〜! 休みたいよ〜!」

「作戦会議なんて休みながらでもできるでしょ。ほら、キビキビ歩く」

「ねぷぅ……」

 

 戦いが終わり気が抜けたように談笑する三人を、やれやれと後ろから眺めるブラン。

 

 その瞬間、さくり、と刃が物を貫くような音が鳴る。

 

「……? 何の音かしら?」

 

 そして自分の身体に少し違和感を持ったブランが自身の腹部を見ると、

 

「……え?」

 

 小刀の先が自分の身体を貫いて飛び出していた。

 

「なに……これ……?」

 

 小刀が身体から引き抜かれたブランは意識を失い、がくんとその場に倒れこむ。

 

「ん? どうしたのブラン?」

 

 異様な物音に振り返ったネプテューヌたちの目に入ったのは、倒れ込んだブランと小刀を持ち不敵な笑みを浮かべるギンガと瓜二つの人物。

 

「「「……‼︎」」」

 

 ネプテューヌたちは全身の毛が逆立つ感覚がした。一切の油断はしていなかった。しかしブランが倒れるまで物音はせず、気配もなかった。女神は魔力やシェアエネルギーをある程度感知できるのに、その男が姿を表すまで全く気づかなかった。

 

(この人が別次元のギンガ! そうか……別次元のギンガってことは、この人もギンガと同じでシェアが一切ないんだ!)

 

 そして、ギンガ同様のシェアエネルギーを持たないという特異体質が、悪意を持って自分たち向けられることがこれほどの脅威であることを実感した。

 

(それにこの人、ギンガと違って魔力まで一切無い! だから、姿を見せるまでわたしたちじゃ気づけない!)

 

「っ! はぁぁぁぁぁっ!」

 

 不測の事態の衝撃、恐怖、怒り。それらが混ざった声を上げながら再び変身する女神たち。

 

「判断が速いな。流石は守護女神」

 

 不敵な笑みを崩さず、その男-ルギエルが口を開く。

 

「とはいえ、普通の変身か。ネクストなんちゃらにはならねーのか?」

 

(まぁ、ならねーんじゃなくてなれねーんだよな。俺がそうなるように()()()から)

 

 

ーー

 

ーーー

 

ーーーー

 

 

『君に任せたいこと、それは女神たちを捕まえてくることさ』

 

『は? 無理難題じゃねーか。やめやめ。やっぱ上手い話には裏があるっつーわけかよ』

 

『何も手ぶらでやれと言ってるわけじゃない。できる限りこちらでもサポートはするさ』

 

『サポートぉぅ?』

 

『まずオレが女神たちを誘き寄せる。そうだな、超次元の空に次元の大穴を開けば、向こうから勝手に来てくれるだろうね』

 

『なるほど、女神をこっちの有利な場所に誘い込むってことか』

 

『そういうことさ。だから、君が戦いやすいような下準備は好きにするといい。君の望むゲハバーンとやらを作れるほどの力は今のオレにはないが、それ以外で必要な物があるなら用意してあげるよ』

 

『ほーん。至れり尽くせりって感じだな。なら良い。女神捕獲、承った』

 

『悪いね。オレが直接行きたいところだけど、まだオレの正体を彼女たちに知られるわけにはいかないんだよ。特にギンガにはね』

 

『へー、そりゃ大変だな。知らんけど。とりあえず、適当にモンスター借りてくぜ』

 

『いいよ。好きなだけ使うと良い』

 

『後は……あのでけえやつ出せるか?』

 

『でかいやつ?』

 

『ええと……ダークメガなんちゃらってやつ』

 

『そこまで出てきたなら"ミ"まで言いなよ。ダークメガミね。わかった。けど、側は同じでも、零次元でマジェコンヌが合体したやつほどの出力はないよ?』

 

『いや、逆にそれで良い。追い詰めすぎて逃げる選択をされても困るからな。体力は削りながらも撤退を選ばせないギリギリのラインを攻める』

 

『そんなに徹底した準備をしなくたって、君の力ならどうにでもなりそうだけど?』

 

『俺じゃネクストなんちゃらを複数相手にしたら数分で鏖殺されちまうさ。それにたとえどうにかなったとしても、ギリギリの戦いなんてしたかねえ。ま、あんたの用意したモンスターとダークメガミで下拵えが済んだら、後は俺が仕留めるさ』

 

『ふっ、頼んだよ、ルギエル』

 

 

ーーーー

 

ーーー

 

ーー

 

 

 

(加えて、不意打ちで一体仕留められたのもラッキーだったな。これでだいぶやりやすくなった)

 

 女神たちは武器を構えて臨戦態勢に入りながらも、ルギエルに余計な情報を与えないため何も答えない。

 そんな女神たちのことは気にせず、ルギエルは話し続ける。

 

「女神化から更に変身するのと、一旦通常の状態に戻ってから再度ネクストなんちゃらに変身するのとじゃ食うエネルギー量が違えのは見りゃわかる。戦闘が落ち着いてから、お前らが一度変身を解く機会を待ってたんだよ」

 

 ルギエルの読みは正しかった。ネクストフォームは変身するだけで大量のエネルギーを消費し、戦闘中も通常の女神化の比じゃないほどのエネルギーを消費し続ける。

 そして今、女神たちは先程の戦闘のせいで、ネクストフォームで戦闘が行えるほどエネルギーが戻りきっていない。

 

「あなた何者……? 何が目的でこんなことをするの⁉︎」

「んなこと知ってどうすんだよ。やむを得ない事情があるって言えば黙って倒されてくれんのか?」

「……っ」

 

 自らが最も信頼する者と同じ顔で自らを嘲るような表情と物言いをするルギエルに、パープルハートは苛立ちを隠せない。

 

「モンスターやダークメガミはあなたが差し向けてきたのね……っ!」

「正解。流石に万全の女神たちと正面からやり合おうなんてほど自惚れてねえからな。だからモンスターとかダークメガミを使ってお前らのエネルギーを削ったってことよ。候補生とか他の雑魚とか連れて来られたら面倒だったけど、馬鹿正直にお前ら四体だけで来てくれて助かったぜ」

「なるほど。よく策を練られましたわ。とはいえ、ネクストフォームならまだしも通常の女神化をした私たちには勝てるとでも? 舐められたものですわね……!」

「勝てるさ。だからお前らの前に現れたんだよ。勝てねえなら姿隠したままにしとくわ」

 

 そう言ってルギエルはわざとらしく屈伸や震脚などの準備体操をする。

 

「さて、こちとらボーナスがかかってんだ。本気でいかせてもらうぜ」

 

 

 



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02. 虚無の暴君

 

 どこかの異空間。 

 そこに集うは三人の女性。

 

「あれ? ルギエルはどこ行ったの?」

 

 その中の一人、ネプテューヌ(大人)が口を開く。

 

「彼には守護女神の捕獲に向かってもらったよ」

 

 答えるは、顔が黒い霧のようなものに覆われ、口元しか見せていない謎の少女。

 

「捕獲……?」

「あぁ、オレの目的の最終段階のためにね」

「目的、か。ゲイムギョウ界への復讐と言っていたな。そろそろ貴様の正体を教えてもらおうか。意味のわからない命令を下すだけで姿は見せないのはいい加減不愉快だぞ」

 

 そして最後の一人、マジェコンヌが二人の会話に割って入る。不愉快と言いつつも苛立った様子はない。

 

「悪い悪い。計画が最終段階に入るまでオレの正体がバレるわけにはいかなかったからね。でもまぁ君たちは色々と頑張ってくれたから、そろそろ挨拶といこうかな」

 

 そう言って謎の少女は自らを覆う黒い霧を振り払い、その姿が露わになる。

 

「初めまして。オレの名は天王星うずめさ」

 

 霧が晴れ、現れたのは『天王星うずめ』。

 かつてギンガたちと共に戦った零次元の守護女神がそこにいた。

 

 

 

 

 

 

 

(プラネテューヌには『女神補佐官』という役職が存在する。もう昔のことだけど、当時はプラネテューヌとラステイションは敵対していたとはいえ、ネプテューヌとは仲が良かったから、その女神補佐官、ギンガのことをネプテューヌから聞く機会があった。当時はまだラステイションの女神候補生だった私は、好奇心からお忍びでプラネテューヌまでその女神補佐官を見に行ったことがある)

 

『……と言っても、ネプテューヌが大袈裟に言ってるだけで、ただの人間でしょ…………‼︎⁇』

 

(その時、初めてギンガを見て感じたのは『恐怖』。それはギンガが当時の私より強かったからだけじゃない。本来あるはずのもの(人が生まれ持つシェアエネルギー)がない『虚無』が、存在感を放っているという矛盾、未知なるものへの恐怖)

 

『なに……あの人……』

 

 

ーーーー

 

ーーー

 

ーー

 

 

 

(あれから時が経って、私はギンガより強くなって、あの時に感じた恐怖も忘れ去った…………そう思っていた……けど!)

 

 女神ブラックハートの脳裏に蘇る、虚無への恐怖。

 しかし、恐怖が蘇ったとはいえ、闘志が消えたわけではない。むしろ湧き上がる。「この男は、ここで仕留めなければならない」と。

 

「ネプテューヌ! ベール! 行くわよ!」

「わかってるわ!」 「了解ですわ!」

 

 三人の女神は近距離攻撃を仕掛けるのではなく、一旦散開し攻撃の機会を伺う。 

 

(別次元の存在とはいえあれもギンガなら戦闘技量はおそらく私たちよりも上。数が混ざっているとはいえ、そんな相手に近接攻撃を仕掛けにいくのは悪手ね)

(だからこそ、私たちのアドバンテージを活かす。高速機動戦で翻弄してやるわ!)

 

「……あん?」

 

 女神たちが散開するのを見て、ルギエルは眉を顰める。

 

(散開……フォーメーション……相手が人間だからって舐めてくれねえのは面倒だな。ま、こっちも出し惜しみなしで行かせてもらうか)

 

 ルギエルが懐から取り出したのは、まるでねぷのーとのような手帳。彼もネプテューヌ(大人)同様に、物体を収縮させてから収納できるアイテムを所持している。

 

(さてさて……)

 

 そして、手帳から武器を取り出し顕現させる。

 それはあらゆる次元を渡ってきたルギエルが集めた、人が女神を討つために作られたアイテム『対女神武具』。

 

(……使うのはこれだ。対女神武具……『神骨刀』)

 

(武器を出した……? それにあの武器からただならぬ気配を感じる……なおさら距離を詰めるわけにはいかなくなりましたわね……! ならば!)

 

「『シレットスピアー』!」

「畳みかける! 『32式エクスブレイド』!」

「『トルネードソード』!」

 

 女神たちは距離があっても高い威力を出せる技を選択。あくまで近づかずにルギエルを仕留めることを意識。

 シェアエネルギーによって作られた大槍、大剣、そして空を裂く斬撃がルギエルに襲いかかる。

 

「……残念」

 

 しかし、ルギエルが刀を振るうと、それらの技は霧散し消えた。

 

「何ですって……⁉︎」

 

(私たちの技があんな簡単に薙ぎ払われた……? いえ、薙ぎ払われたというよりは……)

 

 女神たちはすぐに、ある違和感に気づいた。

 

(……あの刀の効果? ……なるほど、あれが前ギンガが言っていた『対女神武具』ってやつね!)

 

 

 

ーー

 

ーーー

 

ーーーー

 

 

『今日ネプテューヌ様にお教えすることは、私が対女神武具と呼んでいるもの関してです』

 

『対女神武具? 名前からしてわたしたちへの特攻武器ってこと? アンチクリスタルみたいな』

 

『はい。かつてゲイムギョウ界にはアンチクリスタルだけではなく、多くの対女神武具が存在していました』

 

『多くのって……実はわたしたち女神って嫌われてる?』

 

『女神様は世界を照らす光。しかし、光あるところに影があるのもまた必然。その影こそが対女神武具なのです』

 

『でも、前にいーすんが言ってたよ? アンチクリスタルはギンガが全部壊したって。他のやつもそうなんでしょ?』

 

『そうですね、対女神武具の99%はかつて私が破棄しました……が、アンチクリスタルのように知らないうちにリポッブするものもあるので、女神様に仇なす者が使ってくることも考えられますし、頭の片隅には入れておいてください』

 

『はーい』

 

 

ーーーー

 

ーーー

 

ーー

 

 

 

(まさかその対女神武具とやらを別次元のギンガが使ってくるなんてね……)

 

(……ん? ほーん、対女神武具に気づいたようだな。それか存在を知っていたか。どっちでもいいが、それならもう隠す必要もなさそうだな)

 

「この刀は、お前らのシェアエネルギーをある程度吸収する効果がある」

 

 神骨刀の効果を気づかれつつあることを悟ったルギエルはあえてその効果を開示した。

 

「そして吸ったエネルギーを放出すれば面白いことができるわけよ。こんなふうにな!」

 

 ルギエルが思い切り神骨刀を振るい放たれたのは、まるでブラックハートの『トルネードソード』のような、空を裂く斬撃。

 

「……っ!」

 

 威力は高いが速度はイマイチな斬撃だったため、女神たちはこれを回避。そして再び集合し、敵を討つための策を練る。

 

(……作戦変更ね。まずはあの武器をどうにかしないと不利な状況が続くわ)

(ネプテューヌとノワールに敵の攻撃を少し任せてもよろしいでしょうか? その間に私が敵の懐に潜り込み、あの刀を破壊しますわ)

(構わないわ。頼んだわよ、ベール)

 

 作戦会議は手短に済ませ、再び散開。三方向からルギエルに接近する。

 

「……ま、そうするだろうな」

 

 ルギエルは三方向からの攻撃に怯むことなく冷静に対処する。回避と反撃を織り交ぜ、的確に女神たちの攻撃を捌いていく。

 

(三対一なのに……私たちの攻撃が捌かれている……⁉︎)

(ギンガの言った通り、ギンガよりも格段に強い!)

 

 闇雲に仕掛けても勝てないと悟ったパープルハートとブラックハートは一度距離を取り……

 

「『クロスコンビネーション』!」

「『レイシーズダンス』!」

 

 ……二方向から必殺技を仕掛ける。

 

「はっ、神骨刀がエネルギーを吸えるのは遠距離攻撃だけじゃねえ! 今さっき近距離でお前らと斬り合ってる時も、お前らから漏れてるシェアエネルギーを吸って力を貯められるんだよ!」

 

 ルギエルは再び神骨刀に蓄えられたエネルギーを放出し、斬撃を巨大な衝撃波に変え、パープルハートとブラックハートを迎撃する。

 

「きゃあぁぁっ!」

 

 パープルハートとブラックハートは巨大な衝撃波にたまらず弾き飛ばされる。

 

「……今ですわ!」

「あ?」

 

 しかし、グリーンハートがすぐに追撃を仕掛ける。彼女が狙っていたのは、神骨刀がエネルギーを解き放ったその瞬間。

 彼女の読み通り、神骨刀はエネルギーの放出による攻撃と吸収を同時に行うことはできず、そのため放出した瞬間は隙を晒すことになる。

 また、ルギエルも女神二人を弾き飛ばすほどの威力で刀を振るった直後であるため、グリーンハートの攻撃への反応が少し遅れていたように見えた。

 

「『レイニーラトナビュラ』ッ!」

 

 グリーンハートの狙いはあくまでも神骨刀。不意をついたとはいえルギエル本体は一撃で倒せる保証はないと考え、まずは厄介な武器の破壊を優先した。

 神骨刀はグリーンハートの技の威力に耐えることができず砕け散る。

 

「まじか! ……なんてな」

 

 しかし、既にルギエルは神骨刀から手を離していた。

 

「え……?」

 

 そして、次の瞬間にはルギエルの手に別の武器が握られていた。ブランに突き刺して意識を奪った例の小刀が。

 その小刀とは、対女神武具『神討の小刀』。女神の身体に突き刺してアンチエネルギーを直接流し込み意識を奪うもの。ちなみにこの刀自体に殺傷力は無く、刺さっても意識を失うだけで身体へのダメージにはならない。

 

(神骨刀に意識を向けてくれて助かったよ。ま、そうなるようにわざと神骨刀の効果を開示して意識を向けさせたんだけどな)

 

 ルギエルの思惑どおり、神骨刀に意識を向けていたグリーンハートは反応が遅れていた。

 ルギエルは無防備になったグリーンハートに容赦なく何度も神討の小刀を突き刺す。

 

「ぅ……」

 

 グリーンハートは変身が解除され、意識を失う。

 

「俺は剣士じゃねえからな。剣なんて使い捨ての道具なのさ。いや、神骨刀は割と気に入ってたから壊れたのちょっとショックだわ」

 

 ルギエルはそんな軽口を吐き捨て、体勢を立て直したパープルハートとブラックハートに視線を向ける。

 

「あと二体」

 

 

 

 

 

 

 

「ルギエルどうなったかな? 一目見たときから強いのはわかってたけど、流石に女神相手はきついんじゃないの?」

 

『んなこたねーさ』

 

「クロちゃん?」

 

『あいつはできないことは最初からやらねえ。女神を捕獲しに向かったってことはそれはもうできるってことなんだよ』

 

「そういえば、ルギエルはクロちゃんが呼んできたんだよね? 古い知り合いだって言ってたけどどんな関係だったの? 元カレ?」

 

『馬鹿か。そんなんじゃねーよ。俺が次元を飛び回って、偶然ガキだった頃のあいつに会って、面白えやつだったから暫く行動を共にしてたってだけだ。あいつが暴れまわって世界を滅茶苦茶にして、俺がその滅茶苦茶になった世界を記録するって感じでな』

 

「ふーん。じゃあ何で一緒じゃなくなったの?」

 

『目的もなく暴れてたあいつが、ある目的を見つけちまったからな。お互いのやることが噛み合わなくなって解散したってわけだ』

 

「目的……ゲハバーンかい?」

 

『お? あいつから聞いたのか?』

 

「隠すほどの目的じゃないって言って教えてくれたよ」

 

『あいつも最初は女神を倒すために対女神武具っつーのを集めてたんだけどな、途中からそれをコレクションするのにハマってな』

 

「コレクション……意外と男の子っぽい趣味だね」

 

『まぁな。そんでどっかの次元でゲハバーンの噂を聞きつけて、それを欲しがるようになったってわけだ』

 

「なるほど、そして君がこの次元なら手に入るかもしれないと彼を唆したってことだね?」

 

『そういうことだ。あいつを呼んだ方が面白くなると思ってな』

 

「クロワールよ。さっきから言われているそのゲハバーンとは何だ?」

 

『通称、女神殺しってな、女神を殺せば殺すほど力を増す魔剣のことさ』

 

「そんなものが存在するのか……」

 

『俺も実際に見たことはねーけどな。どこかの次元のゲイムギョウ界には存在するらしいぜ。性能は噂でしか知らねーけど、あいつがその剣を手にしたらゲイムギョウ界の一つや二つ簡単に滅びちまうだろうな』

 

「「……」」

 

(なんとなくゲハバーンを作ってあげると約束したけど、彼の力とその剣があれば簡単にオレの目的が達成できそうだ。嬉しい誤算だね)

 

 

 

 

 

 

 

(ベールがやられた……! けど、あの厄介な刀は破壊したわ! もう一度距離を取って……)

 

「遅え」

 

 距離を取ろうとするパープルハートとブラックハートに一瞬で詰めるルギエル。今までは女神たちの高速機動戦にあえて付き合わず、自らのAGIの高さを隠していた。

 そのままルギエルはブラックハートの首元に神討の小刀を突き刺そうとする。

 

「させないわ!」

 

 しかし、パープルハートがすかさずカバーに入り、ルギエルの胴体に袈裟斬りを仕掛ける。

 

「おっと」

 

 ルギエルはこれを回避し、再び距離を取る。

 

「当たると思ったのに、なんて速さ……」

「……まるで化け物ね」

「はぁ? 化け物……? お前らだけには言われたくねえよ。お前ら女神こそ人の形をした化け物だろうが」

「なんですって?」

「ノワール、敵の言葉に気を取られちゃダメよ」

「……わかってるわ」

 

 距離を取ってから、壁や天井でさえも縦横無尽に駆け回り攻撃の隙を狙うルギエルに対し、パープルハートとブラックハートは背中合わせになりお互いの背後を守り合う。

 

(散開から集中、攻めから守りへと戦闘スタイルを変えたか。狙い通りだな。ようやく『これ』が使えるぜ……!)

 

 ルギエルが取り出したのは切り札、彼の持つ対女神武具たちの中でも最高の逸品『アブソリュートダガー』。

 それを手に取り正面から急速接近する。

 

(来る……っ! おそらくあのナイフも対女神武具ね! 迂闊な反撃はせずに、タイミングを合わせて私たちの必殺技を叩き込むわよ!)

(わかってるわ、ギリギリまで引きつけましょう!)

 

 パープルハートとブラックハートの狙いは正しい。いくらシェアと魔力を引き換えに得た鋼の肉体を持つルギエルとはいえ、攻撃のタイミングに合わせて守護女神の必殺技をまともに喰らうとなればタダでは済まないだろう。

 しかし、彼が手に持つ対女神武具はその状況を覆す。

 

(こいつは一度きりしか使えねえ所謂『切り札』、ここぞという場面じゃねえと無駄にしちまう。だからこそ、女神たちの意識が攻めから守りに切り替わったこの時を待っていたってな!)

 

 対女神武具『アブソリュートダガー』の効果、それは……

 

「……ねぷっ⁉︎」

「……のわぁ⁉︎」

 

 ……有効圏内における、女神の変身の強制解除。

 

(どうして変身が……?)

 

 唐突な変身解除に理解が追いつかず、ネプテューヌもノワールもほんの一瞬動きがフリーズする。数えるなら約一秒。

 しかしその一秒の隙でさえ、この男相手には命取り。

 

「ぁ……っ」

 

 その隙にて、ノワールがルギエルに神討の小刀で突き刺されること十二回。

 ネプテューヌが戦闘に意識を戻したときには、既にノワールは気を失っていた。

 

「ノワール!」

 

(わかった! あのナイフの効果なんだ! 嘘でしょ、対女神武具ってあんなに強いの⁉︎)

 

 ネプテューヌの意識が戦闘に戻り、自らの変身解除が対女神武具の効果によるものだとわかったとしても、もう遅かった。変身解除のステータスダウンにより、ルギエルのスピードにネプテューヌの反応速度では追いつくことができない。再度変身する隙は当然なく、反撃すらも追いつかない。勝負はもう着いたも同然だった。

 

「終わりだな」

「そん……な……」

 

 何度も神討の小刀を突き刺され、ついに最後の一人、ネプテューヌが意識を失い地面に倒れる。

 

「……任務完了っな。女神とバチボコにやりあうのは久しぶりだったけど、腕が鈍ってなくて安心したぜ」

 

 戦闘が終わり、再び静寂が支配する回廊の中、ルギエルは誰が聞いているわけでもない独り言を呟く。

 

「……ゲイムギョウ界の恩恵(シェア)を司る至上の存在守護女神。だが、そんな恵まれたお前たちも、シェアを全く持たない俺みたいな人間の出来損ないに負けるってことだ」

 

 

 

 

 

 

 

「どうしようユニちゃん! お姉ちゃんが!」

「バカっ! 大声出したらあいつにバレるわよ!」

「……でも!」

「あたしだって今すぐ飛び出していきたい……けど見たでしょ? お姉ちゃんたちを倒せる相手に、あたしたちだけで勝てるわけないわよ……」

「ユニちゃん……」

「今は退いて、この状況をギンガさんたちに伝えるのが優先よ。それに、あたしたちは絶対に逃げてこいって言われたでしょ?」

「そうだね……そうだよね」

 

 

 

 

 

 

 

 




・ゲイムギョウ界こそこそ裏話、『対女神武具』について
 対女神武具。その名の通り人が女神を倒すためのアイテムである。製法は自然に発生するもの、女神への怨念が形になったもの、女神自体の成れの果てなど様々。
 ちなみに『対女神武具』と言う名前はルギエルが適当につけた名前で、武具の形をしてない『アンチクリスタル』のようなアイテムも対女神武具としてカテゴライズされている。別次元の同一体だからか、偶然ギンガも同じ呼称をしていた。


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03. 暁の零次元へ


 うずめ冤罪のくだりはやりません。魂で看破できるやつがいるので。



 

 

 

「へいお待ち。守護女神四体、五体満足フルセットだ」

 

 ルギエルはそう言って両腕で抱えてきたネプテューヌたちを無造作に床に放り捨てる。

 

「ありがとう、ルギエル」

「まさか本当に捕まえてくるとは……」

「……ん? マジェコンヌちゃんとネプテューヌちゃん、戻ってきてたのか」

「そうだよー! それにしてもすごいね、女神を捕まえてくるなんて」

「そうでもねえさ。俺からしたら女神よりもネプテューヌちゃんとかマジェコンヌちゃんを相手にする方が面倒だったりするんだよな」

「……? どういうこと?」

「対女神武具があるっつーのもあるけど、守護女神って隙だらけなんだよな」

「隙……?」

 

 抽象的な言葉だからか、あまり理解が進んでいないネプテューヌ(大人)とマジェコンヌの様子を見て、ルギエルは捕捉するように説明を続ける。

 

「女神ってのは人間の望んだように生まれるってのは有名な話で、隙も血も涙もない支配者を人間は望まないってことだ。完璧超人キャラよりわかりやすい欠点があるキャラの方が人気が出るって創作物とかでよくあるだろ? だからこそ、人間から愛される守護女神っつーのは必ず隙が存在するのさ」

「それって性格のことでしょ? 戦闘面においては違うんじゃないの?」

「性格も戦闘も同じさ。だから、クライアント様が作った誘いにまんまと引っかかって、俺みたいな奴に足を掬われる」

「……詳しいんだね、守護女神のこと」

「まぁな。伊達に何度も戦ってねえさ。話戻すけど、かと言って守護女神が簡単に負けちまったら世界は終わりだ。そんな時のために生まれんのが女神候補生ってことだが……」

 

 話の途中でルギエルはネプテューヌ(大人)とマジェコンヌに向けていた視線を、今度は『天王星うずめ』の方へ向ける。

 

「……その女神候補生の二体ぐらいがこっち見てたんだよな。向かってこなさそうだからほっといたんだけど、別に良いよな?」

「見られていたことに気付いていたくせに何もしなかったのかい?」

「だってそいつら相手にすんのは今回の仕事じゃねーし」

「そうか……まぁ構わないさ。彼女たちにはもっと面白いものを見せてあげたいしね」

「面白いもの、ね。まぁ俺には興味ないから席を外す。また何かあったら呼んでくれ」

「そうか。お疲れ様」

「あ、そうだ。報酬忘れんなよ?」

「わかってるさ」

 

(報酬……? 何のことだろう?)

 

 

 

 

 

 

 

 ネプギアとユニはプラネテューヌ教会に帰還し、事の顛末を語った。

 

「やはり罠……でしたか。ネプギア様とユニ様の報告通りなら、今あの穴は塞がっているということになります。となると、一先ずは放置しておいても良さそうですね」

 

 それを聞いたギンガは狼狽える様子もなく、淡々と話を進めていく。

 以前のネプギアたちならばそんな様子のギンガに怒りを覚えたかもしれないが、ギンガの本心を察することができるぐらいには成長している。それに、自分たちが狼狽えていても状況が良くなることはないと気持ちを切り替えられる強かさも身につけていた。

 

「ネプテューヌ様たちがあの穴の内部を探査しに行っている間、我々はあの穴そのものを解析し、そのエネルギー反応からあの穴が別の次元に繋がっていることを突き止めました」

「別の次元……?」

「我々が零次元と呼んでいた次元です」

「……!」

「何故零次元に繋がっているかはまだわかりませんが、これより女神候補生の皆様とあいちゃんとコンパさんと私で、零次元に向かい女神様を救出します。敵の狙いが女神様の排除なら、その場で始末していたはず。しかし、連れて行かれたというのならば、まだ無事である可能性は高いです。それに……」

「それに?」

「ネプテューヌ様からいただいた指輪からネプテューヌ様の加護を感じることができます。ネプテューヌ様に何かあれば感じられなくなるはずなので」

「じゃあ……まだ大丈夫そうですね」

「けど、零次元って別の次元なんですよね? どうやって行くんですか?」

「それは私から説明します」

「いーすんさん?」

 

 教会の奥からイストワールが、例のゲーム機を持って現れた。

 

「秘密結社から回収した例の渦巻き型のゲームハードには、零次元へと繋がる機能があることが判明したのです。何故そんな機能がついているかはわかりませんが、スイッチを押して起動することで、零次元へのゲートを一時的に開くことができます」

「そっか……だからお姉ちゃんと私は零次元に吸い込まれちゃったのか……」

「なら、さっさと向かいましょう! お姉ちゃんを取り戻す……!」

 

 零次元への移動手段を手にしたことで、姉たちを助けに行く意思を固める妹たち。

 しかし、不安もあった。

 

「けど、ねぷねぷたちが負けた相手に私たちだけで勝てるですか……?」

「確かに厳しいかもしれません。しかし、私たちだけではありませんよ。零次元には心強い味方となってくれる方がいます」

「そっか……! 零次元にはうずめさんが」

 

(それに……いや、これはまだいいか……)

 

「そうと決まればすぐに行きましょう。イストワール、お願いします」

「はい。では、起動します!」

 

 イストワールがゲーム機のスイッチを押し、零次元へのゲートが開く。

 

「では、イストワール、行ってきます」

「はい、行ってらっしゃいギンガさん……お気をつけて」

「……そうですね、何があるかはわかりませんし、アレをいつでもできるようにしておいてください」

「わかりました」

 

 

 

 

 

 

「零次元……またここに来ることになるとは……」

「なんだか殺風景で怖い……」

 

 ディストピアな雰囲気を放つ零次元に怯えるロムとラム。それとは対照的にネプギアとギンガは、零次元の雰囲気に少し懐かしさを覚え表情が緩くなる。

 

「まずはうずめ様と合流し、お力添えいただければ……」

「うずめ……?」

「前言った、零次元で会った女神のことだよ」

「あーその人ね。ネプギア、その人の居場所はわかるの?」

「ええと、拠点にしていた場所はわかるから、そこに行けばいると思う」

「うずめさんってどんな人なんだろう……?」

「かっこよくて可愛い人だよ」

 

 ネプギアとギンガは零次元の地形をよく覚えていたため、そのままうずめの拠点までみなを案内しながら歩いて行く。

 

「お邪魔します」

「おーいらっしゃい…………って、え⁉︎ ぎあっち⁉︎ それにギンガも⁉︎」

「久しぶりです。うずめさん!」

「ぎあっち、ギンガ、久しぶりだね」

「海男さん!」

「人面魚⁉︎」

「ふっ、驚かせてしまったようだね。俺は海男。悪い人面魚ではないよ。よろしくね」

「よ、よろしくお願いします……」

 

(すごいイケボ……)

 

「なんか見ない顔がちらほらいるな。どうしてここに?」

「それは〜〜……」

 

 ギンガはうずめと海男に事の顛末を説明し、ユニたちにうずめと海男について紹介する。

 

「……〜〜ということなんです」

「そうか……ねぷっちたちが……」

「ネプテューヌ様たちの奪還のために、力を貸していただけないでしょうか?」

「勿論貸すに決まってるさ」

「ありがとうございます」

「けど、零次元につながる大穴って言ったか? そんなもんこっちからは出た覚えないぞ?」

「そうですか……」

「いや……でも、何か関係があるかもしれない……」

「関係……?」

「最近になって、零次元で新しいエリアを観測できるようになったんだ。といっても、何もない空間なのだが……」

「何もない空間とは?」

「言葉の通りさ。まだ調査は何も進んでいないが、君の言った次元の大穴がそこから繋がっている可能性はある」

「ならば向かいましょう」

「ああ。君たちが一緒なら心強い」

 

 ギンガたちはうずめと海男に案内され、零次元の果て『何もない空間』に到着した。

 そこはその名の通り何もなく、ただ灰色の景色が広がっているだけだった。

 

「本当に……何もない……」

「進んで大丈夫かな」

「行ってみなきゃわからないわ」

「あ、そうだ。ぎあっちかギンガに聞きたいことがあるんだ」

「聞きたいこと……ですか?」

「あぁ、ここ最近零次元で何度も観測されている大きな揺れ……そしてこの画面を見てくれ」

 

 そう言ってうずめが見せてきたビジュアルラジオに映されていたのは

『306:130:873:046:305:830:52:30:82』

 という数字の羅列。

 

「これは……次元座標ですよね?」

「話が早くて助かる。揺れが観測されてから、この数値が少しずつ変わるようになってるんだ」

「……待ってください。次元座標が動いたんですか⁉︎」

 

 ネプギアは驚き、声のトーンが上がる。

 

「……次元座標というのは多次元空間でその次元が位置する座標です。そして次元座標は本来絶対的なものであり、数値が変動することはありません。けど、それが動いてるのなら……この次元が移動していることになります」

「そうだったのか……けど、どうして移動してるんだ? それに、どこに向かってるんだよ……?」

「……超次元……です」

 

 ギンガが頭を抱えながら呟いた。

 

「306:130:873:046:305:830:52:30:93、これが私たちの住む超次元の座標です」

 

 ギンガの一言に続いて、ネプギアは、はっと、何かを思い出して話し始める。

 

「……以前の零次元の座標は306:130:873:046:305:830:52:30:70……そして今の零次元の座標が306:130:873:046:305:830:52:30:82……つまり、徐々に超次元に近づいてきています」

「そうなるとどうなるんだ⁉︎」

「わかりません。次元座標が重なるなんてことは本来起こりえないのですから……」

「けど、動いてるんだよな……一体何が起こってるんだよ……」

「……」

「……そういえばうずめさん、記憶喪失はどうなりましたか?」

 

 暗くなった雰囲気を見かねてか、ネプギアは話題を変える。

 

「あぁ、そのことか。モンスターたちからシェアを得られるようになったおかげか、少しずつ思い出してきたよ。……ただ、新しく作ったゲーム売るためにリアカー引いて行商したり、販売が波に乗り始めたと思ったら生産が追いつかなくて頭下げてたりと、まぁしょうもない記憶ばかりだけどな」

「でも、そんな記憶でもないよりはあったほうがいいですよ」

「そうだな。けど、俺としてはそろそろ自分の国の名前ぐらい思い出したいんだけどな」

 

 

 

 

 

「プラネテューヌ」

 

 

 

 

 

 何もなく誰もいなかったはずの空間から声が聞こえた。声に驚いた全員が、その方向に向き直すと、天王星うずめと瓜二つの少女とネプテューヌ(大人)が立っていた。

 

「プラネテューヌ。それがお前の……いや、オレの国の名前だ」

「やっほー、ネプギア。また会ったね。元気してた?」

「お、お姉ちゃん……⁉︎」

「ネプテューヌさん……」

「あ、ギンガも久しぶり!」

「……フフ。やぁ、はじめまして、【俺】。こうして会うのは初めてだね」

「テメェが誰か知らねえが、そいつはぎあっちの国の名前だ、騙されねえぞ」

「そんなことは当たり前さ。オレの国の延長線上にぎあっちの国があるんだからさ」

「……どういうことだ」

「それは【俺】が思い出すことだ。そして、プラネテューヌにされたこともね。まぁ、そんなことはいい。今回は別の用があって来たんだ」

 

 『天王星うずめ』はゆっくりと歩いて、ギンガの前で立ち止まった。

 

「……久しぶりだね。本当に久しぶりだ。会いたかったよ、ギンガ。オレのこと覚えてるよね?」

 

 ネプギアたちにとっては、異様な光景に思えた。今さっきまでは悍ましいほどの負のオーラを放っていた『天王星うずめ』が、ギンガを前にした途端まるで見た目相応の少女のように柔らかい雰囲気を放ち始めたのだ。

 

「うずめ様……やはり……あなたは……」

 

 ギンガは『天王星うずめ』を見た途端、驚愕し狼狽えた。

 ギンガが、零次元の天王星うずめとギンガの知る超次元の天王星うずめを別の次元の存在だと思っていたのは、魂の輪郭が違ったからである。正確に言えば、零次元の天王星うずめは魂の輪郭が欠けていた。

 しかし、零次元の天王星うずめの魂の輪郭と、目の前の『天王星うずめ』の魂の輪郭をパズルのピースのように合わせると、超次元の天王星うずめの魂の輪郭と一致していたのだ。

 そこから導き出される答えは……

 

「そうだよ。今君が思っているその通りさ。さてギンガ、君に頼みがあるんだ。秘密結社から取り戻したゲーム機をオレに渡してくれないか?」

「……それはできません」

「どうしてだい? このオレが頼んでるんだよ? 君の女神であるこのオレが」

「今の私が仕えているのは女神ネプテューヌ様ですので……」

「……ははっ、相変わらず融通が効かないね。でも、それでこそギンガだ。逆に安心したよ」

「……」

「本当は君ともっと思い出話でもしたいところだけど、今回はここまでにしておこう。次の手はもう打ってあるし。帰るよ、ネプテューヌ」

「待ってください! どうしてお姉ちゃんたちを攫ったんですか⁉︎ 返してください‼︎」

「時が来たら返すさ。期待しておいてくれ」

 

 そう言って『天王星うずめ』とネプテューヌ(大人)は、後方の何もない空間へと進んでいく。

 

「せっかくの手がかりなのよ、逃がさないわ! ネプギア、追うわよ!」

「うん!」

「待てーっ!」

「待って……!」

 

 ネプギアたち候補生とうずめは去って行く『天王星うずめ』とネプテューヌ(大人)を追いかける。

 

「……うずめ……様……」

 

 しかし、ギンガはその場に茫然と立ち尽くしていた。その様子に気づいたアイエフとコンパが心配そうに歩み寄る。

 

「大丈夫です? ギンガさん」

「大丈夫です……」

「師匠、あいつと知り合いだったんですか? それにあいつが言っていた"君の女神"って一体……?」

「……そうですね。あの方から正体を明かしに来たならば、もう私が隠す必要はなさそうです。後で全てをお話しします。私たちも追いかけましょう」

「……わかりました」

 

 

 

 

 

 

 連れ去られた女神、移動する零次元、そして二人の天王星うずめ。候補生たちは、理解が間に合わない展開に戸惑いながらも進み続ける。

 しかしその中でギンガ一人だけは、この事態の真相に近づきつつあるのだった。

 

 

 

 

 

 

 



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04. 宿敵の刃

 

 

「暗闇の中に星のようなものが輝いている……こんな場所がこの世界にあったなんて……」

「ねえ、ユニちゃん。ここって……」

「うん、黄金の頂の内部みたいね」

「黄金の頂……? ゲイムギョウ界が改変されていた時にあった金色の塔だっけ?」

「そういえば、ネプギアは行ってないんだっけ? あたしとかロムとラムはその中でゴールドサァドと戦ったのよ」

「そうだったんだ」

 

 『天王星うずめ』とネプテューヌ(大人)を追いながらも、雑談する候補生たち。

 その少し後ろで、うずめは隣を走るギンガに問いかける。

 

「なぁギンガ。俺にそっくりなあいつのことだが、知り合いだったのか?」

「……話すと長くなりますし、今頭の中で言葉をまとめている途中なのでお待ちください。後で全てをお話しするので……」

「……無理すんなよ。なんかお前すげえしんどそうな顔してるぞ? 言いたくないことなら言わなくていいからさ」

「いえ、こうなった以上必ず話さなくてはならないことですから」

「そうか……まずはあいつらを追いかけねえとな」

「はい」

 

 そうこうしているうちに、ギンガたちは零次元の果ての果てまで辿り着いた。

 しかし、『天王星うずめ』とネプテューヌ(大人)は既に消えていた。

 

「逃げられたか……ここまで来ておいて……」

「待って、何かあるわ!」

 

 アイエフが指を差した方向に、空間の歪みのようなものがあった。

 

「あれは……」

 

 近づいて見てみると、零次元に来た時のゲートと同じような構造のゲートであることがわかった。

 

「多分ここから逃げたんだと思うけど……まだ開いてるわね……」

「大きいねぷねぷ、閉じ忘れちゃったですか?」

「充分あり得るわね。別次元の別人とは言え根本はネプ子だし……」

「とりあえず行こうぜみんな」

 

 

 

 

 

 

 

「さて、ネプテューヌ。君は何か大事なことを忘れていないかい?」

「大事なこと? わかった! おやつの時間でしょ!」

「ゲート、閉じてないだろう? 今しがた、彼女たちがこちらに来た反応があった」

「しまったーー‼︎ わたしとしたことが、すっかり忘れてたよ!」

「まぁ良いさ。他の有象無象ならまだしも、ギンガには来てほしかったしね」

「……ほっ」

「……とでも言うと思ったかい? ゲートを閉じずに彼女たちを心次元に招き入れたことは、どう償ってもらおうか」

「あれ、うずめさん……怒ってる……?」

「いや、全然。むしろ気分いいよ。久しぶりにギンガに会えたし。けどさ、裏切り者を始末する機会に丁度いいと思わないかい?」

「えっと、裏切り者……? わたし裏切ってないよ?」

「とぼけるなよ。おかしいと思ってたんだ。ギンガは明らかにこっちから出していた情報以上のことを知っていた。つまり、ギンガに秘密結社の情報が漏れていたんだよ。だから誰かがギンガと内通してると思ってたんだよね」

「わたし本当に知らないってば⁉︎」

「そもそも君の利用価値など、君の持つ標本に閉じ込められているクロワールの力しかない。マジェコンヌ」

「なんだ?」

「ねぷっちを始末しろ」

「いいのか?」

「もう必要ない」

「……そうか」

「ちょっ、やめてよマジェっち。わたしたちズッ友でしょ?」

「やれ」

 

 

 

 

 

 

 

 ゲートを通り過ぎると、そこにはまるで宇宙のような空間が広がっていた。

 

「なんだ……ここ……」

 

 目を引くのは中央らしき場所に浮かぶ大きなオレンジ色のシェアクリスタルのような物体。それを恒星に例えるなら、その周りに浮かぶ大きさそれぞれの瓦礫が惑星や衛星のように感じられる。

 

「……」

 

 神秘さと不気味さを併せ持つその空間の雰囲気に圧倒され、ギンガたちは言葉を失う。

 

「……とりあえず拠点となるとこを探そうぜ」

「あぁ、みんな疲れていそうだし、一旦休むとしよう」

 

 少し歩くと、廃墟が並ぶ場所へ出る。

 

「なんか、零次元にそっくりな場所ですね……」

「休めそうな場所ではあるから、ここを拠点にするっていうのはどうだ?」

「うずめさんにさんせー! わたしもうくたくただよ」

「くたくた……」

「みんな疲れてるようですし、一先ずここでおやすみしましょうか」

「ああ、そうしよう」

 

 そのまま一堂は、廃墟の中で一番原型をとどめていた建物を拠点とし、休息をとることにした。

 

「私から皆様に言わなければならないことがありますが、その前に私はこの次元の特定のポイントである人物と合流します」

「『ある人物』……?」

「はい、実を言うと私は知り合いを秘密結社に潜り込ませ、内通していました」

「……!」

「秘密結社の戦艦、アフィベースの特定を迅速に行えたのも、アノネデスのハッキングだけでなくその内通者からの情報があったからです。と言っても、敵の全てを知ることはできなかったことや、こちらに情報が漏れていることを悟られぬよう、ほんの少しの情報しか渡されませんでしたが」

「そうだったんですか……」

 

(内通者……もしかして大きいお姉ちゃんかな? うん、きっとそうだ!)

 

「詳しくは、その人物と合流し、ここへ戻って来てからお話しさせていただきます」

「じゃあ、私も行きます!」

「俺も行くよ。ぎあっちとギンガなら心配はないけど、じっとしてるのは性に合わないし」

「わかりました。では行きましょう」

 

 

 

 

 

 

 

 逃げ惑うネプテューヌ。それを追い回すマジェコンヌ。

 

「どうした? 逃げるばかりか? 零次元での威勢はどこへ行った!」

「マザコング……わたし、マザコングと戦いたくないよ」

「何……?」

「昔のマザコングは悪い人だったって聞いたけど、今はそうじゃないんでしょ?」

「何が言いたい……?」

「小さいわたしが、世界を守るために小さいわたしたちと一緒に戦ったって言ってたよ! マザコングはうずめと一緒に世界を滅ぼしたいわけじゃないよね? 何か事情があってうずめに協力してただけなんだよね?」

「……っ、黙れ! 分かったようなことを言うな! 無抵抗の相手を痛めつけるのはつまらんからと手加減してやっていたら調子に乗りおって! そんなに死にたいならば殺してやろう‼︎」

 

 ネプテューヌに、マジェコンヌの槍が振り下ろされる。

 

「……っ!」

 

 しかし、その槍はネプテューヌを捉えることはなかった。

 間に入ったNPカタールが、マジェコンヌの槍を防いでいたのだ。

 

「……ほぅ、来たか」

 

 マジェコンヌは驚く様子もなく、不敵な笑みを浮かべる。既にマジェコンヌの興味はネプテューヌにはなく、その瞳はギンガを捉えていた。

 

「マジェコンヌ……!」

「お姉ちゃん!」

「ねぷっち! 大丈夫か⁉︎」

「ネプギア……うずめ……ギンガ……」

「……その様子ですと、あっちのうずめ様に裏切っていたのがバレた、と言った感じでしょうか?」

「うん……クロちゃんも取られちゃった……ごめんね、みんな」

「気にすんな。まずはあの紫ババァを倒すことからだ! 俺たち四人なら勝てるさ」

「……ネプギア様、うずめ様、申し訳ありませんが、奴とは一人で戦わせてもらえませんか?」

「ギンガさん……?」

「奴とはタイマンで戦いたいのです……我儘なのは分かっていますが……」

「……わかりました。勝ってください……必ず……!」

「はい!」

 

 ネプギアとうずめはギンガの意を汲み、ネプテューヌ(大人)を連れて少し離れたところから戦いを見守ることにした。

 

「これまで貴様とは二度戦ったが、いずれも決着にはならなかったな」

「最初のは私の負けで構いませんよ」

「いや、貴様は女神候補生どもが来るまでの時間を完全に稼ぎ切り、その後私は女神候補生どもに敗北した。あの戦いは私の負けさ」

「やけに潔いですね。なら引き分けといきましょう」

「そうだな。なら、ここで完全に決着としようか」

「……お前のことは嫌いですが、お前の作るナスは好きでしたよ」

「そう言ってもらえると生産者冥利に尽きる」

 

 どこか気の抜けるようか会話をしながら、お互い一定の距離を取り、戦いに意識を向けていく。

 

「見せてやろう……この私の真の変身を……!」

「そう言えば、結局零次元編では見れなかったんでしたね。ならば、私も全力で相手をしましょう……!」

「はぁぁぁっ! 変身‼︎」

「『ネプテューヌリング』起動!」

 

 マジェコンヌは闇に包まれ、零次元編で見せた魔物の姿へと変わり、そこから更に人型の魔物の姿へ変貌する。

 ギンガは光に包まれ、女神ネプテューヌの加護をその身に纏う。

 

「ギンガネプテューヌ 、変身完了。プロセッサユニット装着。NPフルブレイドモード展開」

 

 『NPフルブレイドモード』。修復したNPカタールとNPガンブレイドを装備し、更に星晶剣銀牙と機械剣ネプテューヌを両手に携えた完全装備形態。全身から剣が生えているような見た目をしているためこの名前が付いている。

 

「お互いに……随分と大仰な見た目になったものだ」

「私はその姿、嫌いじゃないですよ?」

「ふん……」

「行くぞ……マジェコンヌ‼︎」

「さぁ来るがいい……ギンガ‼︎」

 

 

 

 





 ・ゲイムギョウ界こそこそ裏話
『NPフルブレイドモード』
 NPガンブレイド、NPカタール、星晶剣銀牙、機械剣ネプテューヌを携え、リミテッドパープルを装備したギンガネプテューヌの完全武装形態。
 基本的に両手が埋まっているが、NPカタールだけでなくNPガンブレイドも脳波制御によって動かせるため、ほぼ全ての武器を同時に使用ができる。

『バスターソードモード』
 NPガンブレイドとNPカタールを星晶剣銀牙に合体、連結させた大剣モード。

『ライフルモード』
 NPガンブレイドとNPカタールを連結、合体させ、大型のビームライフルとして扱うモード。
 通常のビーム砲、ビームマシンガン、照射ビーム、ワイドカッタービームの四種類のモードが存在する。



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05. ギンガネプテューヌ vs 真マジェコンヌ

 ついに決着です。



 

 

 マジェコンヌは、常人を大きく凌駕する魔力や他者の力をコピーする能力を持ちながら生まれてきた。常人とは生きる時間も違う、つまり長く生きることができた。他者よりも優れた存在だったのだ。

 

 だからこそ、孤独だった。退屈だった。

 

 ある時、女神という存在を知った。女神とは、常人を大きく凌駕する力を持ち、長く生きる存在。自分と同じだと思った。その存在の力を模すことで、その存在に近づけば、自分の孤独が癒され、退屈しなくなると思った。

 

 しかし、ダメだった。たとえ力を模しても、生物として違う女神の心を理解することはできず、孤独も退屈も終わらなかった。

 

 いつしかマジェコンヌは、自分は世界そのものと相容れない存在だと思うようになった。そしてマジェコンヌの中で一つの目的ができた。それは、守護女神を排除し世界を混沌の姿へと変えることだった。

 

 しかし、その計画は守護女神と『ある男』によって阻まれた。マジェコンヌにとっては守護女神の抵抗は想定内だったが、その男の存在は想定外だった。その男はマジェコンヌとは逆で持たざる者だった。しかし、マジェコンヌと同様に世界と相容れない存在でもあった。

 

 ではなぜその男は孤独ではないのか? なぜその男は世界に退屈していないのか? マジェコンヌはそんな疑問を持つようになった。

 

『あのナスからは、以前のお前からは感じられなかった、お前ならの命への尽くし方というものを感じたんです! 命と真剣に向き合っている者にしか出せない味でした!』

 

 一度敗北したマジェコンヌが、再び女神を排除しようとナス農園を買収し、女神にナス攻撃を仕掛けようとした際にその男に言われた言葉『命に尽くす』。

 

 結局ナス作戦は失敗し、マジェコンヌの前にはナス農園だけが残った。やることもなくなったマジェコンヌはナス栽培を本格的に始めることにした。しかし、マジェコンヌはナスという命に尽くすことで、初めて自らの生も感じることができた。すると、孤独を感じなくなった。退屈もしなくなった。世界に対する向き合い方そのものが変わった。そうするうちにマジェコンヌはいつのまにかコピー能力を捨て、鍛錬の果てに『自分だけの力』を手に入れた。

 

 そして、その自分だけの力で、自分の生き方を変えたその男を倒したくなったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 ぶつかり合う紫の(ギンガ)(マジェコンヌ)

 

「うおおおおおっ!」

「はあああああっ!」

 

 ギンガネプテューヌと真マジェコンヌの戦いから漏れたエネルギーの余波が、少し離れた場所にいるネプギアたちにまで届く。

 

「すごい……」

「紫ババァ……あんなに強かったのかよ……」

「ギンガ……マザコング……」

 

(接近戦を続けるのはリスクがありますが、距離を置いても有利にはなりませんね……さて、どうしたものか)

 

 単純なステータスならマジェコンヌの方が上。しかし、素早さや小回りが効く点や手数の多さならギンガに分がある。

 

(とにかく、やれることは全てやりましょう……!)

 

 ギンガは両手に機械剣と星晶剣を携えたまま、脳波制御によってカタールとガンブレイドをライフルモードに換装し、自身の隣に浮遊させる。

 

(おそらく通常のビーム砲とビームマシンガンでは奴相手だと威力が足りず牽制にもなりません。ならば……)

 

 撃ち出すのはワイドカッタービーム。範囲、威力、弾速に優れた攻撃。

 

「それはもう見たぞ」

 

 マジェコンヌは武器も魔法も使わず、腕を振るうだけで防いだ。

 

「……マジですか」

 

(大きなダメージになるとは思っていませんでしたが、まさかああも簡単に防がれるとは。先ほど少し近接戦でぶつかり合った時にも感じましたが、おそらく奴にはもう私の通常攻撃は通用しないでしょう……)

 

 ギンガネプテューヌですら有効な一撃を繰り出すことが困難なほど変身したマジェコンヌは強くなっていた。

 

「今度はこちらの番だ!」

 

 マジェコンヌの闇魔法の波動がギンガに襲いかかる。

 

「そんな手など……!」

 

 ギンガは迎撃をライフルモードから放たれる照射ビームに任せ、その隙にマジェコンヌの懐に接近し斬り込む。

 

「『クロスコンビネーション』ッ!」

 

 機械剣ネプテューヌから繰り出される技がマジェコンヌを捉えた。

 

「ぐっ……」

 

 通常攻撃ではダメージにならないマジェコンヌも、技ならば少しのダメージになった。

 

「……甘い!」

 

 しかし、ダメージにはなったものの動きを止められるほどのものではなかった。

 

「『マジック・M・スラッシュ』!」

 

 カウンターのように繰り出されたマジェコンヌの斬撃もまたギンガを捉える。

 

「がぁっ……!」

 

 魔力を帯びた斬撃によって数メートル吹き飛ばされるギンガ。

 

「くっ……やる!」

 

 地面にぶつかる前に、咄嗟に体制を立て直す。

 ダメージはあったものの、元々身体が頑丈なギンガに女神の加護が合わさり、小さな傷は即座に癒え痛みも引いていく。

 

「ちっ……埒が開かんな」

 

 お互い、隙も威力も小さい攻撃はダメージにならず、かといってそれらが大きい攻撃は放つ前に見抜かれて、防がれるか避けられる。

 

(……強い。まさかここまで強くなるとは。奴は女神様とはまた違った『神』の領域に進化を果たしています。生まれる時代や世界が違えば、奴が『神』として崇められることもあったかもしれませんね。私一人ならばもうマジェコンヌには勝てないでしょう……しかし、今の私には愛する女神様のご加護があります。負けるわけがありません)

 

「一つ提案をしよう」

 

 足を止めたギンガに対し、マジェコンヌが語りかける。

 

「なんでしょう?」

「このままちまちまと戦い続けても無意味なのは貴様もわかっているだろう」

「まぁ……それはそうですね」

「ならば、火力勝負といこうか」

「ほぅ」

「私の最大の一撃と貴様の最大の一撃。これらをぶつかり合わせ立っていた方の勝ち、というのはとうだ?」

「構いませんよ。その方がわかりやすくていいですし」

 

 そう決まると、両者ともに構えていた武器を下ろし、呼吸を整える。

 

「……ギンガよ、礼を言うぞ」

「はぁ? なんですか急に」

「貴様の存在が私をこの域に引き上げたのだ。女神ではなく貴様がな」

「……そうですか。それはどういたしまして」

「だがまだだ。ここで貴様を倒すことで、私は真に進化を果たすのだ!」

「進化、ですか。正直、感心しています。その域に達することは私には不可能でしょう。しかし、勝ちまで譲る気はありません」

「だろうな」

 

 マジェコンヌは自らの持つ闇黒のエネルギーを限界まで高めていく。

 ギンガは指輪に祈りを捧げ、自らの魔力と指輪から湧き出すエネルギーを高めていく。

 

「『終焉の導き』をくれてやろう……!」

 

 マジェコンヌは技の準備を完了させ、限界まで高められたエネルギーが込もった腕を前に出す。

 ギンガは身体を広げ、必殺技の『ギャラクティカクロスシュート』を超えた究極必殺技『ギャラクティカエスペシャリー』を放とうとする。

 

「……いえ」

 

 しかし、ギンガは技を放つ前にあることを思い出した。

 それは、秘密結社へのカチコミ直前に女神にかけられた言葉と、

 

 

『あなたのその指輪……あなたの活躍がネプテューヌの活躍みたいでなーんか癪なのよね。そうだ、私の加護も込めてあげるわ!』

『ギンガさん、あたしの加護と込めます!』

 

『そうね……私の加護も込めてあげるわ』

『お姉ちゃん! わたしわたしも!』

『わたしも……込める……!』

 

『私の加護も込めて差し上げますわ。といっても、私たちの加護はネプテューヌのものと比べて一時的なものでしかありませんが、受け取ってくださいな』

 

『私の加護も込めさせてください! お姉ちゃんに怒られちゃうかな……? ううん、それでも、私の加護も受け取って欲しいです!』

 

『もー! ギンガはわたしのギンガなのにー! まぁいいや。ギンガ、みんなの心はギンガと一緒だよ!』

 

 

 ネプテューヌリングに込められた、超次元ゲイムギョウ界八人の女神の加護。

 

(ゲイムギョウ界八人の女神様よ……私に力を‼︎)

 

「……準備は済んだようだな、ならば喰らえ! 我が最強の一撃を‼︎」

 

 マジェコンヌの腕から放たれる闇黒の必殺波動。

 

「『メガミラクル……エスペシャリー』ッ‼︎」

 

 ギンガの全身から放たれる守護女神たち四色の必殺光線。

 二つの力の奔流がぶつかり合う。その余波が地面を砕き、戦場を破壊していく。

 

「うわわわわっ⁉︎」

「お姉ちゃん! 私に捕まって!」

「俺も……ねぷっち! うずめにも捕まって!」

「二人ともありがとう!」

 

 足場も崩れて無くなってしまったため、変身したネプギアとうずめがネプテューヌを抱える。

 

「あああああああああぁっ!」

「うおおおおおおおおぉっ!」

 

 力の押し合いになり、ギンガもマジェコンヌも、咆哮とも言えるほどの荒々しい声をあげる。

 

(ネプテューヌ様、私を導…………いや、違う‼︎ 私が助けてもらうのではありません……! わたしが助けるのです!)

 

 その瞬間、ネプテューヌリングの出力が上昇した。

 

(む? この指輪……まさか、私がネプテューヌ様を想えば想うほど力が増すのですか……!)

 

 そう、そのまさかである。

 それはネプテューヌがネプテューヌリングに仕込んでいた機能であるが、恥ずかしくてギンガに言えずにいたものである。

 

(成程……ならば、ネプテューヌ様ネプテューヌ様ネプテューヌ様ネプテューヌ様ネプテューヌ様ネプテューヌ様ネプテューヌ様ネプテューヌ様ネプテューヌ様ネプテューヌ様ネプテューヌ様ネプテューヌ様ネプテューヌ様ネプテューヌ様ネプテューヌ様ネプテューヌ様ネプテューヌ様ネプテューヌ様ネプテューヌ様ネプテューヌ様‼︎)

 

 ギンガがネプテューヌへの想いを解き放つと、ギンガの光線の威力がどんどん増していく。

 

「何ぃ⁉︎」

 

(ネプテューヌ様ネプテューヌ様ネプテューヌ様ネプテューヌ様ネプテューヌ様ネプテューヌ様ネプテューヌ様ネプテューヌ様ネプテューヌ様ネプテューヌ様ネプテューヌ様ネプテューヌ様ネプテューヌ様ネプテューヌ様ネプテューヌ様ネプテューヌ様ネプテューヌ様ネプテューヌ様ネプテューヌ様ネプテューヌ様ネプテューヌ様ネプテューヌ様‼︎)

 

 溢れんばかりのネプテューヌへの愛により、限界以上に出力が上昇した『メガミラクルエスペシャリー』の光に、マジェコンヌの『終焉の導き』がどんどん呑まれていく。

 

「ぬっ……ぉおっ! 抑えられん……!」

 

(ネプテューヌ様ーーーーーーッ‼︎)

 

 そしてついに、『メガミラクルエスペシャリー』の光が、『終焉の導き』の闇を呑み込んだ。

 

「ぐっ……ぐわぁぁぁぁぁぁっ!」

 

 ギンガの技が直撃し、マジェコンヌは力が尽きて元の姿に戻り、飛行ができずに落ちていく。

 

「……おっと!」

 

 ギンガは落ちていくマジェコンヌを追いかけて、その手を掴み上げた。

 

「勝負は私の勝ちです。そういうわけで、次はあなたが秘密結社に潜伏し、もう一人のうずめ様と接触した際の情報を渡してもらいましょうか」

「……そうだな」

「いえ、ここではなく我々の拠点に戻ってからにした方が良さそうですね。足場も何もかも消え去ってしまいましたので」

「ちょっ、ちょっと待ってください⁉︎ ギンガさんの言っていた内通者って、マジェコンヌさんのことだったんですか⁉︎」

 

 ギンガとマジェコンヌのやりとりに驚くネプギア。

 

「はい、そうです。実を言いますと、マジェコンヌは最初から我々の味方です」

「まぁ……そういうことだ」

「「「ええ〜っ⁉︎」」」

 

 遡ること数ヶ月前。

 

 

ーー

 

 

ーーーー

 

 

ーーーーーーーー

 

 

「もしもし………………っ、お前か。何のようですか?」

『最近世間を騒がせている秘密結社……いや、プラネテューヌでは騒がせていないんだったか、とにかくそこから私に連絡が入った。女神の座の転覆の準備がどうとか言っていたな』

「……マジですか?」

『マジだ。私はそんなことになど興味はないが、ここで一つ貴様に借りを作ってやろうと思ってな。私が秘密結社に入り、貴様に情報を流してやる。ただし、条件が二つある。一つは、貴様の女神補佐官の立場や権限を使い、私の農園のナスの納品先の市場を紹介すること。もう一つは私が貴様と繋がっていることを女神どもには黙っていることだ』

「……なるほど、わかりました。その条件を呑みましょう」

『意外と素直に呑むのだな……もう少し疑われると思ったものだが……まぁ良い。奴らに動きがありそうならば、また情報を渡す。と言っても、私が秘密結社に疑われぬ用に、渡す情報はこちらの裁量で決めさせてもらうぞ?』

「……では、任せます」

 

 

ーーーーーーーー

 

 

ーーーー

 

 

ーー

 

 と、言った感じで、ギンガとマジェコンヌは繋がっていたのである。

 

「ちょっと待って⁉︎ じゃあわたしってもう一人のうずめの勘違いで始末されそうになったってこと⁉︎」

「そういうことになるな」

「そういうことになりますね」

「そんなぁ〜! まぁ裏切ってたのも事実だからいいか。それに……」

「それに?」

「マザコングはやっぱり悪い人じゃなかったんだね! わたしはそれが嬉しいよ!」

「……ふん」

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ、女神捕獲の疲れによる居眠りから目覚めたぜ」

「なんだその説明口調……」

「あれ? クライアント様一人? ネプテューヌちゃんとマジェコンヌちゃんは?」

「俺もいるぞ」

「お、クロワール。お前何であの本の外にいんの?」

「色々あってな」

「へー」

「聞いといて興味なさそうなのほんとクズだよなお前」

「褒めるなよ」

「褒めてねえよ」

「ねぇルギエル、そのクライアント様ってのやめてくれないかい?」

「嫌だったのか? 悪かったな。やめる。じゃあなんて呼べば良い?」

「うずめでいい」

「ならうずめちゃんだな」

「……それで良いさ。で、ねぷっちとマジェコンヌがいない理由だっけ?」

「そうそう」

「裏切り者のねぷっちをマジェコンヌに始末させているんだよ。もうこれ以上ねぷっちは必要ないからね」

「……え? まじ?」

「ん? 何だその反応?」

「いや、裏切り者に裏切り者の始末をさせるなんて、うずめちゃん面白いことするなー、って」

「……どういうことだい?」

「もしかして、気づいてなかったのか? マジェコンヌちゃん最初から俺たちの味方なんかじゃないぞ?」

「……それをわかっててなぜ言わなかった?」

「いやわかっててあえて泳がしてんのかなって思ったから。その反応だとまじで気づいてなかったんだな」

「……ちっ」

「あーあ、多分これネプテューヌとマジェコンヌにあいつらと合流されちまったんじゃねーの?」

「…………」

「ま、安心しろようずめちゃん。うずめちゃんがゲハバーンを作ってくれる約束を守る限り、俺はうずめちゃんを裏切ったりはしないさ」

「俺は面白い方の味方だぜ」

「ほんと相変わらずだなお前」

「……まぁ良い。こっちの準備も終わった。これでオレの計画も達成される…………!」

 

 

 

 

 

 

 

「……」

「え、えっと……」

 

 ギンガたちが連れてきたマジェコンヌに対し、気まずそうな反応を見せる一同。

 

「……やはり、信じられなさそうな反応が見られますよね」

「だって、そいつ零次元で俺をマジで殺しに来てたじゃねーか⁉︎ それに俺たちとガチで戦っただろ⁉︎」

「あれは事故みたいなものでな……その理由は後々話す」

「わかったよ……ていうかよ、お前ら協力してたんならなんでさっきはバトったんだよ?」

「「それは、こいつと協力してたとしても目の前にしたらムカついてぶっ倒したくなるからです(だ)」」

「そ、そうか……」

 

 うずめは納得しきれていない様子だが身を引く。ギンガを信頼していることと、マジェコンヌから以前感じられたような邪気を今は感じられなくなっていたからである。

 

「だったら、どうしてあたしたちに言ってくれなかったんですか⁉︎」

 

 しかし、ユニたち女神候補生はギンガに詰め寄る。

 

「その男を責めてやるな。女神どもに黙っていることを協力する条件にしたのは私だ」

「マジェコンヌ……」

「貴様ら女神は嘘がつけんか、嘘が下手だろう? だから、内通者を送り込ませたことを隠しながらの立ち回りなど出来はしない。違うか?」

「それは……」

「それに、奴らに内通がバレれば、私たちの手の出し用のないほどに計画が修正される可能性がある。だからこそある程度奴らの思い通りにさせる必要があったのだ」

「……」

「全てを納得してくださいとは言いません。私たちの立ち回りも失敗が多かったものですから」

「……わかりました。あたしはギンガさんを信じます」

「わたしも!」「わたしも……!」

「ありがとうございます」

「けど、あんたのことは完全に信じたわけじゃないわよ! マジェコンヌ!」

「それでいいさ」

「……何よ張り合いないわね。なんか前とは別人みたいになってるじゃない……」

 

 候補生たちもマジェコンヌに対する敵意を引っ込めた。

 

「アイエフさんとコンパさんはマジェコンヌさんにあんまり驚いてないですね」

「……まぁ、そんな気はしてたのよね。実を言うと改変後のプラネテューヌでマジェコンヌと遭遇したんだけど、戦いでは明らかに手を抜かれたのよ。だから逆に腑に落ちた感じね。マジェコンヌって、正面から女神に喧嘩を売ったからか、裏社会ではカリスマ的存在なのよ。秘密結社が接触を図るのも納得だわ」

「それに、マジェコンヌさんは悪い人じゃないのは私たち知ってるです」

 

 コンパの言葉を聞いて、マジェコンヌは少しバツの悪そうな表情をする。どうやら、善意を向けられるのは慣れていないようだった。

 

「……話を戻すが、内通も虚しく我々は後手に回ってしまっている。女神誘拐の件は私にとっても想定外だったのだ」

「もう一人の私のせいで、ですか?」

「あぁそうだ。奴の、ルギエルの存在が最大の懸念かもしれん。なにしろ行動が読めん。目的はあるようだがな」

 

(ルギエル……それがもう一人のギンガさんの名前……)

 

「目的とは?」

「ゲハバーンという剣を欲していた。そんなものがこの次元にあるとは思えんがな」

「ゲハバーン……ギンガさんは知っていますか?」

「噂程度なら知っています。正直あまり話したくないものですが」

「ならばそれは私から話そう。女神を殺せば殺すほど力を増す魔剣らしい」

「昔その噂を耳にし、そんなものがあってはならないと、超次元の至る所を探しましたが、現実には存在しませんでした」

「そんなものがなくて良かったですね……」

「全くです。さて……これからのことを話し合う前に、私から皆様……特にうずめ様にお話することがあります」

 

 ついに来たか、とうずめが身構える。

 

「今まで私は、ある女神様のためにこの情報を隠してきました。しかし、こんな状況になった以上、もう隠すことはできません」

 

 

 

 

 

 

「今こそ開示します。かつて、我々のゲイムギョウ界にてプラネテューヌを治めていた女神様、『天王星うずめ』様のその全てを」

 

 

 

 

 

 




 はい、マザコング味方でした。個人的に伏線とやらに挑戦してみた感じです。バレバレだったかもしれませんが。

 ギンガネプテューヌの最強必殺技『メガミラクルエスペシャリー』。今は亡きコンパゲーのソシャゲ『メガミラクルフォース』とウルトラマンギンガストリウムの最強必殺技『コスモミラクルエスペシャリー』を組み合わせたものです。


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06. 真実


 怒涛の説明ラッシュです。



 

「かつて、プラネテューヌには天王星うずめ様という女神様がいました。

 そのお方は自分の妄想を現実にする『妄想力』という特異な力を持っていました。妄想力とその方の地道な努力もあり、プラネテューヌは以前よりも豊かになっていきました。

 しかし、妄想力は幸福だけをもたらすものではありませんでした。妄想力は時に不幸な事故を生むことがあり、そんなことが度々起こると、うずめ様に不信感を持つ国民が増えていきました。そして、その不信感を感じ取ったうずめ様が悪い妄想をしてしまい、悪い妄想が妄想力によって現実となって、更に国民からの不信感が増すと言う負の連鎖に陥っていきました。その際、うずめ様の命を狙う者も現れ、その者たちの行いによりうずめ様と親しかったある国民の命が失われました。

 次第に国は荒れていき、このままでは国そのものが傾きかねないと考えたうずめ様は、自らを封印させることで事態の解決を図りました。そして、封印された後に妄想力を使って超次元ゲイムギョウ界から自らの記録を全て削除したのです。私はうずめ様がこの世界の人々から忘れられることを選んだと思い、その意を汲んで私もうずめ様の存在を隠すようにしてきました」

 

 ざっくりと超次元でのうずめについて語るギンガ。それを聞いた全員は驚き言葉を失う。しかしネプギアとアイエフは驚きながらも少し納得する様子を見せた。

 

「……少し、不自然だとは思っていたんですよね。プラネテューヌの歴史についての文献などで、ネプ子の前の前の女神らへんの歴史がごっそり抜け落ちているような記述になっていたこととか」

「私も同じような違和感を持ったことがあります……あれってうずめさんのことだったんだ……」

「しかし、それは君たち世界のうずめのことだろう?」

「いいえ、海男さん。そこのうずめ様こそ、私たちの世界のうずめ様なのです。正確には、その片割れ、といったところでしょうか」

「そうなのか……」

「マジかよ……」

「最初は私もわかりませんでしたよ。私の知るうずめ様と、容姿も魂の輪郭も異なっていましたので」

「魂の輪郭ってなんだよ……」

「次はもう一人のうずめ様についての説明をしましょう。マジェコンヌ、頼みます」

「そうだな、これは私が話そう。貴様らが見た『天王星うずめ』は偽物ではない。奴はゲイムギョウ界への負の心に取り憑かれた天王星うずめだ。そして貴様が、奴が捨てた良心から生まれた天王星うずめというわけだ」

「どうしてそんなことがわかるのよ?」

「本人に聞いたからな。奴の目的はゲイムギョウ界への復讐とギンガ、貴様だ」

「私……?」

「あぁ、理由を詳しくは知らんが、奴は貴様に執着している」

「確かに、あいつギンガさんのことすっごく好きそうだったもんね」

「頭がこんがらがってきた……けど、納得もしたよ。俺がお前といて少し懐かしい気分になって落ち着くのって、そういうことだったんだな……」

「はい。今まで黙っていて申し訳ありませんでした」

 

 ギンガはそう言ってうずめに跪く。

 

「ちょ、やめてくれよ恥ずかしい! それに、今お前が仕えてる女神はねぷっちだろ? だから、そういうことはねぷっちだけにしとけ。俺にはすんな!」

「かしこまりました」

 

 そう言ってギンガは再び立ち上がり、マジェコンヌはそんな様子に呆れながら再び話し始める。

 

「話を続けるぞ。奴が封印されている間に溜まったゲイムギョウ界への憎悪が妄想力によりネガティブエネルギーへと変化し、そのネガティブエネルギーがある次元を生み出すほどになったのだ」

「その次元って……もしかして」

「あぁ、ここだ。クロワールは『心次元』と呼んでいたな」

「やはりですか……」

「そして、私たちが零次元と呼んでいたあそこは、この次元の入り口でしかないただのハリボテだったってことさ。そして、先ほども言ったが、零次元に零れ落ちた奴の良心から生まれたのが……」

「……俺……か」

 

 次々と明かされる真実。聞き手に情報を整理する時間を与えるため、マジェコンヌは少し間を置いて話を続ける。

 

「私が秘密結社に入った直後、奴から最初に受けた命令が次元で貴様を痛ぶることだ。しかし、トドメ刺すようには言われなかった。何故なら、貴様が力を増せばまた奴も力を増していく構造になっていたからだ。それに途中から気づいた私は、クロワールから得た力を使い、貴様を本当に抹殺しようとしたわけだが……」

「結局俺たちに敗れたってことか……」

「そういうことだ」

「もしかしてさ……あそこで俺がお前に殺されてりゃ、こんな事態になってなかったってことか?」

「……まぁ、そういうことになるな。だが、そんなことを言っていてもしょうがない。そもそも女神バカのこの男がそんな作戦を呑むわけなかろうし」

「それはもちろんです。私たちが零次元に迷い込んでマジェコンヌと遭遇したのは単なる偶然、事故ですが、そうしなければうずめ様はマジェコンヌに殺されていたかもしれないので結果オーライですね」

「まぁ、そういうことにしておいてやろう。あの時点でこの男に情報を全て渡すという方法も取れたが、奴の正体の確信がまだなかったのでな、そのまま潜入を続けていたわけだ」

「ネプテューヌさんにマジェコンヌが捕まった時はどうなるかと思いましたよ。だから私が細工をし、出られるようにしておいたわけですが」

「あの時まじぇっちが出てきたのってギンガのせいだったんだ……ていうかもしかして、わたし余計なことしてた感じ? 秘密結社に潜り込んで色々と妨害してたり頑張ってたんだけど、余計だった感じ?」

「いえ、余計ではありません。リーンボックスで、らん豚を二匹逃して儀式を妨害したのはネプテューヌさんですよね? その節はありがとうございました」

「……え? わたし一匹しか逃してないよ」

「となると……まさか」

 

 ギンガとネプテューヌとマジェコンヌの方を向いた。

 

「……何だその目は?」

「んーん、なんでもなーい」

「そうですね、なんでもありません」

 

 しかしそれ以上口に出すことはなく、心の中にしまうことにした。

 

「……私にとってもネプテューヌの行動は余計というわけではなかったぞ。貴様のおかげで奴からの意識を逸らせることができた。奴は貴様だけを裏切り者だと思い込んでいたからな。それに、クロワールを抑えていた功績もある」

「うぅ……まじぇっち優しい……!」

「そして、零次元での戦いが終わると、奴の計画も次の段階に入った。ゲイムギョウ界を改変し、その際に自らの魂の器を作る計画だ」

「魂の器……?」

「簡単に言えば肉体のことです」

「そうだ。ゴールドサァドどもを闇に落とし肉体を奪おうとする計画、例のゲーム機を取り戻して自身の肉体を解放する計画の二通りがあったようだ」

「例のゲーム機……って、ええっ⁉︎ もしかしてあのゲーム機って!」

「はい。実は、あれはうずめ様の身体が封印されているゲーム機なのです。詳細を知るのは私とマジェコンヌともう一人のうずめ様だけでしたが」

「そりゃ、取り合いになるわけですね……」

「じゃあ、ゴールドサァドも皆さんも、アフィモウジャスさんもステマックスさんも、みんなあの人に利用されてたってことですか?」

「そういうことでしょうね」

「そしてついに女神捕獲の直前になって、奴が私とネプテューヌに正体を明かしてきたのだ」

「うずめが……うーん、紛らわしいからあっちのうずめは黒いから『暗黒星くろめ』って呼ぼう。くろめがわたしを始末しようとマザコングに命令したのは、逆に裏切るのにいいタイミングだったってわけだね」

 

(何その安直な名前)

(でも、ネーミングセンスがねぷねぷにそっくりです。やっぱりねぷねぷはどの次元でもねぷねぷなんですね)

 

「そういうことだな」

「言ってくれれば良かったのに〜」

「私が奴を裏切ろうが貴様のことが気に食わんのは変わらん。私としては本当に貴様を殺してやっても良かったんだぞ」

「え゛っ⁉︎ そんな〜! マザコングとわたしはズッ友でしょ〜⁉︎」

「ええい! ひっつくな、離れろ鬱陶しい!」

 

 マジェコンヌに抱きつき頬擦りまでしようとするネプテューヌに対し、マジェコンヌは嫌そうに手で押しのける。

 

「おそらくあの時ネプテューヌさんが教会地下の祭壇にいたのは……」

「うん、くろめに頼まれたからだよ。あの時わたしが何も知らないでゲーム機を取ってこようとしたからこんなことになっちゃったのかも……」

「いいえ。ネプテューヌさんのせいではありません。私の知る情報うまく使えば、もっと早く『うずめ様』の正体にたどり着き、事態の解決に向かうこともできたはずでした。しかし私は『うずめ様』が世界へ復讐しようしていることなんて考えたくなかったから、目を逸らしていたんです……だからこんな事態になったのは私の……」

「『私のせい』は禁止ですよ、ギンガさん。あたしたちは仲間なんですから」

「ユニ様……」

「お姉ちゃんたちを助けて、暗黒星くろめとルギエルって奴を倒して解決すればいいのよ!」

「うん……頑張る……!」

「ラム様……ロム様……ありがとうございます」

「ていうか、俺の力で超次元から俺の記録が消されたってことなら、なんでギンガは俺のことを覚えていたんだ?」

「そうですね、皆様は私の特異体質についてご存知でしょうか?」

「ええと、なんとなくですけど。人が生まれ持つシェアエネルギーがない代わりに、人よりも強いってことですよね?」

「はい。それに加え、私は直接女神様のご加護を受けることができません。うずめ様の妄想を現実にしてしまう力は、言ってしまえば女神様のご加護のようなものなのです.つまり、私には効果がありません。だから私はうずめ様のことをずっと覚えていることができました」

「世界改変の影響も受けなかったのはそういうことだったんですね」

「はい。さて、これまでのことはある程度整理し終えたので、これからのことについて話し合いましょう」

「そうだな。奴の、暗黒星くろめの目的はゲイムギョウ界に復讐すること。そのために攫った四女神にネガティブエネルギーを注ぎ込み、悪堕ちさせようとしている」

「どうして暗黒星くろめはねぷっちたちを悪堕ちさせようとしているのだろうか……?」

「理由までは知らん」

「けど、小さいわたしたちが捕まってる場所なら知っているよ。小さいわたしたちは、ダークメガミによってこの世界の中心部に囚われているんだ」

「単純に考えると、真っ直ぐ向かえばいいだけ……ですが、そうはいかないというわけですね?」

「そう。この心次元にはくろめによって眠らされている小さいわたしたちの夢が世界に投影されちゃうんだ」

「その夢にとやらに阻まれて真っ直ぐ進まない可能性がある、ということかい?」

「そういうことになるな。だからこそギンガ、貴様の力が必要になる。シェアの影響を受けず、魂を見れる貴様にならば、投影される夢に惑わされずにこの世界の中心を目指せるだろうからな」

「なるほど、ならば任せてください」

「よし! じゃあみんな! 出発するぜ!」

 

 

 

 

 

 

 

「……で、捕まえた女神どもはどうだ?」

「よく眠っているよ。そして、新たなダークメガミの良い素材になってくれている」

「素材ねぇ……女神どもの力をもとに作ってるんだっけか?」

「前のは女神を模しただけの木偶の坊だったけど、今度のは違う。オリジナルの女神を取り込むことで、彼女たちの力を吸い取らせているんだ」

「んで、それと入れ替えるようにネガティブエネルギーとやらを注入することで、あいつらが猛争の渦とやらに落ちて悪堕ちするってわけか」

「そういうことさ。クロワールにルギエル、君達は物事の理解が早いから話していてストレスが少なくて助かるよ」

「けど、ぶっちゃけこんなことするより処分した方が早いと思うけどな。同士討ちでもさせようってか?」

「それは君の知る必要はないよ」

「そうかい。あと、一つ報告だ。こちらに進行してくる気配を感じる。奴らが来るようだぜ?」

「なら、出迎えてあげよう。奴らが来る頃には女神たちの悪堕ちも済むだろうし」

 

 

 

 

 

 

 

「貴様! 生意気に私に合わせて来るんじゃない!」

「はぁ⁉︎ お前が私に合わせてきているんでしょう⁉︎ 嫌だったら私の後ろにでも下がっていればいいんじゃないでしょうか!」

「誰が貴様の後ろになど立つか! 貴様が下がれれ!」

 

 守護女神たちが囚われてる心次元の中心に向かう途中、ギンガたちに襲いかかるモンスターたち。しかし、ギンガとマジェコンヌの息のあった(本人たちは不本意だが)コンビネーションで次々と倒されていく。

 

「すごい……いがみ合いながら蹴散らしていってる……」

「なんか見てて面白いわね」

「仲良し……なのかな……?」

「うーん、どうなんだろう?」

「ほーら二人とも! 喧嘩しないの! そろそろ例の場所に着くよ!」

「そうですね……ネプギア様、ユニ様、ロム様、ラム様」

「はい?」

「ネプテューヌさんやマジェコンヌの話を聞いた限り、おそらくはお姉様方と戦うことになるでしょう。覚悟はよろしいですか?」

「大丈夫です。お姉ちゃんをぶん殴ってでも救ってみせます!」

「怖いけど……頑張る……!」

「お姉ちゃんを助けに行くのは二回目だもの! 今回も華麗に助けてあげようじゃない!」

「頼もしい限りです」

「私とネプテューヌはルギエルを抑えよう。だが、あの男はおそらく女神の力を纏ったギンガよりも強い。正直できるかはわからんな……」

「だったら私とコンパも協力するわ」

「大した力にはならないと思うですけど……」

「いや、助かる」

「だったら俺はもう一人のオレを、暗黒星くろめをぶっ倒してやるぜ!」

 

 決意を胸に、心次元の中心、暗黒星くろめの元へ向かうギンガたちだった。

 

 

 

 





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07. 守る者、守る力


 ギンガはくろめという呼び方をしたくないらしいので、うずめをそのまま、くろめを『うずめ様』と呼びます。そういうことにします。



 

 

「なぁギンガ」

「どうしましたか? うずめ様」

「俺ってさ、嫌われるぐらいダメな女神だったのかな?」

「そんなことはありません。確かに嫌う者はいました。しかし、うずめ様を信じている者の方が多かったのです。ですから……」

「いや、大丈夫だよ。それだけ聞ければ充分さ」

「それに、この事態において、私には一つ大きな罪があるのです」

「罪……?」

「当時の私はうずめ様を追い込んだプラネテューヌ国民を嫌悪していました。嫌悪……いえ、あれはもはや憎悪でした。うずめ様が自身が封印されることを選んだのも、そんな私を見かねたからというのも理由の一つでしょう。それが私の罪です。当時の私なら『うずめ様』の憎しみを肯定していたでしょうね。『うずめ様』が私を引き入れようとするのも、その頃の私が印象に残っているからかもしれません」

「……けど、今は違うんだよな?」

「はい」

「ならいいさ!」

 

 

 

 

 

 

 

「で、うずめちゃん。俺はなにをすればいいわけ? 候補生の始末は悪堕ちさせた女神たちにさせるんだろ?」

「そうだね。ルギエル、キミは裏切り者たちと人間たちの相手を頼むよ。彼女たちに邪魔をさせなければなんでもいい」

「りょーかい」

「四女神は既に堕ちた。そうすればギンガもこっちに付くだろうさ」

「そう上手くいくかね?」

「いかせてみせるさ」

 

 

 

 

 

 

 

「ここが例の場所だよ」

 

 ネプテューヌ(大人)とマジェコンヌの案内で、心次元の中心部、暗黒星くろめの元に乗り込んだギンガたち。

 最初に目に入ったのは、ダークメガミの内部に囚われながら眠っている四女神であった。

 

「お姉ちゃん!」

「見たところダークメガミはまだ起動していないようですし、破壊すれば助けられるかもしれませんね」

「そんな余裕があればいいがな。お出ましだ」

 

 そう言ってマジェコンヌが指を刺した方向から現れたのは、暗黒星くろめとクロワール。

 

「悲しいよマジェコンヌ。まさかキミが裏切り者だったなんて」

「裏切り……? 違うな、初めから私は貴様らの味方になどなっていない」

「そうか。まぁ良いさ、殺すやつが一人増えたというだけだからね」

「ふん、今更余裕そうなツラをしたところで、私に気づけなかった間抜けであることには変わりはないぞ?」

「言ってくれるね。けど、生憎キミに時間を割くつもりはない。キミたちの相手は彼に任せることにするよ」

 

 くろめがそう言うと、ルギエルが奥からのそのそと現れた。

 

(当たり前だけど、本当に師匠そっくりね……)

 

「ルギエル、頼んだよ」

「了解。それに、あっちもその気っぽいしな」

「その気?」

「多分、候補生どもともう一人の俺以外のメンツは俺にぶつけようって魂胆だろうぜ。俺にそんな価値ないっつーのに」

「オレはキミのことを評価しているよ」

「嬉しいこと言うねぇ。んじゃ、わかりやすく始めるとするか……な!」

 

 言葉を言い切る前に、超スピードでネプギアに接近し、短刀を振りかざすルギエル。

 

「……させないよ!」

 

 その刃はネプテューヌの双剣とマジェコンヌの槍に防がれる。

 

「この男は私たちで引きつける! その間に貴様らは女神どもをなんとかしろ!」

「ありがとうございます、マジェコンヌさん! お姉ちゃん!」

「礼はいい、早く行け!」

「はい!」

 

 マジェコンヌの指示を聞いたネプギアは、その場をマジェコンヌたちに任せて囚われている女神の方へ向かった。

 

(よし、予想通りの展開だな。さて……)

 

 ルギエルは空いている方の手をアイエフとコンパに向け、人差し指を立てて自分の方へ数度傾ける。所謂『こっちへおいで』のサイン。

 

「……なるほど、どうやらあの人も同じ考えだったようね」

「もう一人のギンガさんも、私たちを引きつけるのが役割ってことです?」

「そういうこと。まぁ、こっちにも都合がいいからあえて乗ってやろうじゃない。行くわよ、コンパ」

「はいです!」

 

 

 

 

 

 

 

「全く、彼はやる気があるんだかないんだか……」

 

 与えた役割を適当にこなそうとするルギエルに頭を抱えるくろめ。

 そんなくろめの元にうずめが立ちはだかる。

 

「随分と余裕じゃねえか、偽物……じゃないんだったな。お前も俺ってことなんだっけ?」

「そうだね、お前はオレさ。どうせオレたちの過去についてはギンガから聞いたんだろう? 説明が省けてラッキーだ。そうだな、一つ素晴らしい提案をしよう」

「何……?」

「【俺】よ。オレと一つになろう。元は一つだったんだ。また一つに戻ろうじゃないか」

「そんな提案聞くわけねえだろ」

「そうかな? だったらオレが持つ【俺】の記憶の一部を返してあげよう。聞いた話だけだと憎しみまで思い出すのは難しいだろう? 裏切られ、苦しめられた記憶がないなら、オレが思い出させてあげるよ」

「……うっ!」

 

 その瞬間、うずめに流れ込む、『天王星うずめ』がかつて民から忌み嫌われ、罵倒され、存在そのものを否定された記憶。

 

「ぅ……ぁ……あぁっ!」

 

 今まで持っていた記憶の何倍もの記憶が頭に流れ込んだことで苦しみ、膝をつく。

 

「しっかりするんだ、うずめ!」

 

 うずめに駆け寄る海男。そんな海男の声を聞いたくろめは何かに気がついたような表情をする。

 

「その声……そうか……キミが彼だったのか……」

「何のことだ? それより、君もうずめならもうこんなことはやめてくれ!」

「……キミならそう言うだろうね。でももうキミの言葉はオレには届かない。あの時、オレを残して死んでしまった、オレを一人にしたキミの言葉なんて……」

「……な、何を言ってるんだ……?」

「キミは自分の正体がなんだかわかっていないのかい? まぁ当然か」

「俺の……正体……?」

「そうだな。そこでうずくまっている【俺】も聞くといい。お前が海男と呼ぶそいつが何者なのかをな」

 

 海男は黙ってくろめの話を聞くことにした。自分の正体が気になったこともだが、うずめのための時間稼ぎになるとも思っていた。

 

「かつてオレ同じ夢を持っていた相棒とも言える男がいた。これと言った特徴のない平凡な小市民だった。新しく作ったゲームを売る際、庶民の生活に疎いギンガではなく、小市民ゆえに人々の暮らしをよく理解しているその男と協力することの方が適しているというわけで、イストワールが呼んできたんだったっけ。ギンガは嫌な顔をしていたな。その頃は色々と大変だったが、充実した日々だった……」

「……」

「……けど、オレの妄想力が暴走し始めるようになった頃、その男はオレを殺そうとした国民の銃撃からオレを庇って、死んだ」

「……!」

「馬鹿な男だよ。シェアが下がっていたとはいえ、オレは女神だぞ? あんな銃撃で死ぬわけないのに、オレを庇って死んだんだ」

 

『君が望むのなら、俺はどこにでも付いて行く。そして、君と同じ夢を見る……』

 

「……何が夢だ。死人に夢なんて見れるわけがない。あんなくだらない死に方をするぐらいなら、生きてオレのそばにいてほしかった。結局オレには誰も付いて来てくれなかったんだ……ギンガを除いて。長くなったが、簡単に言うとキミは【俺】の妄想力から転生した存在だよ、海男。どうして人面魚になっているかは知らないがな」

「そう……だったのか」

「オレの搾りカスである【俺】の副産物とはいえ、旧知の仲だ。そこをどいてくれないか?」

「断る! 君とうずめを一つにさせはしない!」

「そうか……なら」

 

 くろめはうずめを守るように立ち塞がる海男を蹴り飛ばした。

 

「ぐあっ!」

「う、海男……!」

「さぁ【俺】。お喋りは終わりだ。これでわかっただろう? オレのゲイムギョウ界への憎しみが。オレと一つになろう。オレと共にゲイムギョウ界を滅ぼそうじゃないか!」

 

 くろめはそう言ってうずくまるうすめに手を差し伸べる。

 

「……こんな」

「ん?」

「こんな記憶がなんだってんだ‼︎」

「何……?」

 

 くろめが差し出した腕を弾いて、頭痛が響く頭を抑えながらも、立ち上がるうずめ。

 

「確かに、俺は嫌われてたかもしれねえ! けどな、ギンガが言ってたんだ。たとえ俺を嫌う奴らがいても、俺を愛してくれる人たちだってたくさんいたってな! だから俺は俺を信じる奴らのために戦う! 俺が信じる奴らのために戦う! それだけだ!」

「……ここまで愚かだとは思わなかったよ、【俺】。それに、お前が戦おうが戦わなかろうが、ゲイムギョウ界は滅びる。オレだけじゃなく、悪堕ちした女神たちの手によってな!」

「そいつはどうかな? 俺はぎあっちたちを信じてる。あいつらなら猛争の渦に落ちたねぷっちたちを引き上げられるってな!」

「くだらない。これ以上聞くに耐えない妄言を垂れ流す前に、ここで【俺】を取り込んでやろう!」

「やってみやがれ!」

 

 

 

 

 

 

 

 くろめとルギエルをダークメガミの前から引き剥がし、女神候補生たちとギンガはダークメガミに囚われている四女神の元へ到着した。

 

 

「お姉ちゃん!」

「ネプ……ギア……?」

 

 ネプギアの声が届いたのか、ダークメガミに囚われ意識を失ったネプテューヌが目を覚ます。

 

「お姉ちゃん! お姉ちゃん!」

「ネプギア……来てくれたんだ。ありがとう。来てくれて早速だけど、殺すね」

「……え?」

 

 ネプテューヌはいつものような笑顔で物騒なことを言いながらネプギアの首元に手を伸ばす。

 しかし、それよりも早く動いていたギンガがネプテューヌの腕を既に抑えていた。

 

「やはり、既に堕ちていましたか」

「邪魔だよギンガ。ネプギアを殺せないじゃん」

「させると思いますか?」

「鬱陶しいなぁ。ギンガはわたしの言うことを黙って聞いていれば良いんだよ。それともギンガから殺してあげようか?」

「ネプテューヌ様の手で殺されるなら本望ですが、今のあなたでは私は殺せません」

「じゃあ試してみる?」

「望むところです」

 

 ギンガとネプテューヌのやり取りの間に、悪に堕ちたノワール、ブラン、ベールも目覚める。

 

「……さて、私はユニをどうやって痛ぶろうかしら? 死なないようにするのって難しいのよね」

「ロム……ラム……聞かせて、あなたたちの悲鳴を……」

「全く、あなたがたは良いですわよね。可愛い妹たちを痛ぶることができて」

 

 いつものような笑顔で物騒な台詞を吐く三人。

 

「お姉ちゃん……」

「悪堕ちしちゃってる……」

「でも、正気に戻してあげるから……!」

 

 しかし、候補生たち既に女神たちと戦う覚悟を決めており、その言葉を聞いても怯えることはない。

 

「ぐわぁぁっ!」

 

 候補生と四女神が対峙していると、そこにくろめの攻撃を受けたうずめが吹っ飛ばされてきた。

 

「強えな……流石は【オレ】ってとこか」

「当たり前だろう? オレから出た搾りカスの分際で良くもまぁオレに勝てると思ったものだ。……おっと、ねぷっちたちが目覚めたのか」

 

 くろめは女神たちが目覚めたのを確認すると、その視線をうずめからギンガに向ける。

 

「さぁ、これがオレの答えさ、ギンガ。キミが仕えているねぷっちはもうこっちにいる。キミも来い。そうだな、キミが来てくれるならゲイムギョウ界の全てを滅ぼすなんて言わないさ。キミの望む通り、女神を信じない者を全て排除した世界を作ろう。キミなら俺の元に来てくれるだろう? あの時、オレのゲイムギョウ界への憎しみを肯定してくれたキミなら」

「……そうですね。それが女神様のご意志ならば、私は従うだけです。あなたとネプテューヌ様たちと共に、女神様を信じぬ者を皆殺しにし、理想郷を作りましょう………………と、少し前までの私ならば言ったのでしょうね。申し訳ありませんが、お断りします!」

「何……?」

「私は今のゲイムギョウ界を信じています。女神様を信じる者、信じない者、それら全てはゲイムギョウ界の可能性なのです。だから私は守ります。可能性の光を絶やさせはしません!」

「可能性だと……? くだらない……!」

「ねーうずめ。めんどくさいからもうギンガ殺していい?」

「……殺すのはダメだよねぷっち。彼を少し痛めつけてわからせてあげたらこっちに来てくれるはずだ……」

「ダメかー。じゃあ、殺さなきゃ痛めつけても良いってことだよね?」

「うん。この際もう強引でもいいか。殺さない程度なら好きにして良いよ」

「やったー! ……さて、ギンガもネプギアも、私がたくさん痛めつけてあげるわね!」

 

 ネプテューヌがパープルハートに変身すると、それに続くようにノワールたちも変身していく。

 

「パープルハート様……あなたはまだプラネテューヌの守護女神ですか?」

「守護女神……私を縛り付ける運命……そんなもの、もう私には必要ないわ!」

「では、あなたはもうプラネテューヌの守護女神ではないと?」

「そうよ。だったら何よ」

「ならば、プラネテューヌ女神補佐官基本法第四条『女神ネプテューヌがプラネテューヌの統治を放棄した場合、第一条第二条の効力は失われ、女神補佐官の命令権は女神候補生に移るものとする』に基づいて、たった今から私の命令権はネプギア様のものになります」

「何ですって……?」

 

 プラネテューヌ女神補佐官基本法。ネプテューヌがノリで作り、イストワールが条文を追加したものである。

 

「ネプギア様、ご命令を」

「……わかりました。お姉ちゃんたちを止めましょう。あんなお姉ちゃんたちなんて見たくありません!」

「かしこまりました。今から私はパープルハート様たちの動きを止めます。手荒な真似をするので、巻き込まれないように少し下がっていてください。ネプギア様たちにはその後をお願いすることになります」

「一人でやるつもりですか?」

「一人ではありませんよ」

 

 そう言ってギンガは数歩ネプギアたちの前に出る。

 

「まさか、私たちを止められると思っているの?」

「止めてみせますよ。それが女神補佐官の責任というものです」

「無理よ。あなたの指輪は私が加護の供給を断つことができる。それがないあなたでは私たちに勝ち目などないわ」

「確かに私では勝てないでしょう。しかし、私たちならば」

「私たち……?」

「私が半人半人工生命体から完全な人工生命体となったことで、様々な能力が追加されました。今から行うこれは、その一つです」

「何よそれ」

「それは……イストワールとのワイヤレス合体です!」

 

 ギンガは懐からイストワール人形を取り出し、頭の上に乗せる。

 

「さあ来い……相棒!」

 

 そのイストワール人形は、超次元からイストワールの情報をギンガに届け、また超次元のイストワールへギンガの情報を届けるためのアンテナのような役割を持っている。加えて、超次元にいるイストワールの声が通信機のようにイストワール人形から鳴り響くようになってもいる。

 

「「……『ギンガイストワール』合体完了」」

 

 変身した守護女神に勝るとも劣らないプレッシャーを放つギンガイストワールに、少し怯む守護女神たち。

 

「……が、合体したところで、私たちの敵ではないわ!」

「ぶっ潰してやるよ!」

「うずめには殺さないように言われましたので、死なない程度に痛ぶって差し上げます!」

 

 ブラックハート、ホワイトハート、グリーンハートの三人がギンガイストワールに攻撃を仕掛ける。

 

「「未来は見えています」」

 

 しかし、その攻撃は最低限の動きですべて回避され、ギンガイストワールに届くことはない。

 

「……っ⁉︎ 当たらない⁉︎」

 

 ギンガイストワールのことを知るパープルハートは攻撃を仕掛けず、様子を伺っていた。

 

「皆、ギンガいーすんは敵の攻撃を完璧に予測できるの。だから闇雲に仕掛けても当たらないわ」

「……ちっ、鬱陶しいぜ」

「なら、逃げ場を無くせばいいってことでしょう?」

「四方向から仕掛ける、これでいきましょう」

 

 四女神は散開し、逃げ場を無くすように囲みながら四方向からギンガイストワールに攻撃を仕掛ける。

 

「さぁ……どうするの? ギンガいーすん!」

 

 すると、ギンガイストワールは動きを止めた。

 

「「……パープルハート様(ネプテューヌさん)、なぜ私たちがこのような能力を持つかご存知ですか?」」

「知らないわよそんなこと」

「「そうですか。ならば、お教えしましょう。簡単なことです。一つは女神様を守るため。もう一つは世界を女神様から守るためです」」

 

 その言葉とともに、ギンガイストワールは左腕を天に掲げる。

 

「何をするつもりよ? まさか、お手上げの降参のつもり?」

「「いいえ。そういえばパープルハート様(ネプテューヌさん)は、私たちの未来予測能力は知っていても、こちらの方は直接食らった時の記憶がないんでしたね」」

「…………?」

「「ならばまたお見せしましょう…………『シェアリングフィールド』展開」」

 

 その瞬間、ギンガイストワールが創り出した必殺の領域が四女神を包み込んだ。

 ギンガイストワールのシェアリングフィールドはうずめの使うものとその効果が大きく異なる。

 うずめのシェアリングフィールドの効果は『敵の弱体化と味方の強化』。ギンガのシェアリングフィールドの効果は『特定の事柄に基づいた戦闘力の配分』、しかしギンガの効果は守護女神に適用されないように設定されている。

 ならばなぜギンガイストワールのシェアリングフィールドが必殺となるか。その鍵を握るのがイストワールである。本来イストワールにはシェアリングフィールドの展開は不可能。しかし、ギンガと合体しギンガイストワールとなった状態では、イストワールの効果がフィールドに付与される。

 イストワールのシェアリングフィールドの効果、それは……

 

「ぐっ、あああああっ!」

「頭が……なにこれ……っ!」

「どういうこと……ですの……っ」

「ぅぅっ! これは……⁉︎」

 

 ……フィールド内の全ての者の頭の中にイストワールの持つ莫大な情報を問答無用で流し込むことである。人間どころか守護女神ですら処理しきれない情報の波が襲いかかり、正常な思考を奪う。その効果は敵味方関係なくフィールド内に存在する者全てに降りかかるため、予め候補生たちを下がらせていたのである。

 

「「……ワイヤレス合体となると、ここらで限界のようですね」」

 

 ワイヤレス合体は通常の合体と比べ合体時間が極端に少なく、シェアリングフィールドの発動時間も少ない。たった数秒のフィールド展開によって合体の限界時間に到達してしまう。

 

「頭がぐるぐるしてるけど、まだ戦えるわ!」

「めんどくせえことしやがって……ぶっ殺す!」

 

 数秒のフィールド展開では、女神たちを戦闘不能に至らせるには不十分であった。

 

「くっ……」

 

 身体への負担と制限時間超過により合体が強制解除され、ギンガはその場に膝をつく。

 しかしそれは敗北ではない。

 

「ネプギア様! ユニ様! ロム様! ラム様! 後はお任せしました!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





 くろめ→海男は原作だと多分なんとも思ってなかったんでしょうけど、この作品ではある程度の情はあることにしました。蹴り飛ばしましたけど。


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08. 取り戻す光

 

 

「向こうは派手にやってんな」

 

 ルギエルと対峙していたネプテューヌ(大人)たちだったが、女神たちの激戦とは打って変わって戦いらしい戦いはしていなかった。

 

「……気に入らんな。何故本気で戦わん?」

「女子供は無闇に傷つけないのが主義でね。俺の役割はあくまで君らの足止めだからな。君らもそんなんだろ? だったら俺たちがここで何しないだけで、お互いの役割を果たせてることになる。だったら何もしなくてもいいってことだ」

「……それもそっか!」

「おいネプテューヌ!」

「だってさ、わたしたちを傷つけるつもりのない相手と戦うのってなんか嫌じゃん? さっきからわたしたちの攻撃を防ぐだけで反撃はしてこないし」

 

 ネプテューヌは剣を降ろし戦いを止める。

 

「ねー、ルギエル。戦う気がないからさ、わたしとお喋りしない?」

「ん? いいぜ」

「どうしてルギエルはゲハバーンって剣が欲しいの?」

「理由なんかねえよ。そこに最強の魔剣があるんだったら欲しくなっちまう、そういうロマンなのさ」

「くろめに協力してるのも、ゲハバーンが欲しいから?」

「半分はな」

「半分ってことは、もう半分は違うってこと?」

「あぁ。単純にあの子を気に入ったから、かな」

「……ふーん」

 

 

 

 

 

 

 

 候補生たちの判断と行動は早かった。

 時間をかけると女神たちが回復してしまうかもしれない、と考えて最初から必殺技を叩き込もうとする。

 

「お姉ちゃん……受けて、私の新しい必殺技! 『ビットズコンビネーション』‼︎」

 

(ビットとの連携攻撃……私も知らないネプギアの新技……!)

 

 ネプテューヌはネプギアの攻撃を冷静に対応しようとするも、ギンガイストワールのシェアリングフィールドによって引き起こされた頭痛に悩まされる。

 

「ぐぅぅ……痛ぅ……ギンガぁ……!」 

 

 頭痛に思考を取られた一瞬の隙を突いたネプギアの一撃はネプテューヌの眼前に迫り切っていた。

 

(まずい……避けられな……!)

 

「きゃああああっ!」

 

 ネプギアの技が炸裂。

 

「『ドルチェ・ヴィータ』‼︎」

「『エンドレスコキュートス』‼︎」

「『氷剣アイスカリバー』‼︎」

 

 それに続き、ユニはノワールに、ロムはブランに、ラムはベールに、それぞれの新必殺技を叩き込む。

 女神たちは吹っ飛ばされ、変身が解除される。

 

「ネプギア……よくも……! 許さな……あれ? なんでわたし、ネプギアことを憎んでたの……?」

「お姉ちゃん! 正気に戻ったんだね!」

「ネプギア……ごめん、わたし、ネプギアに心ないことを言って……」

「いいんだよ。お姉ちゃんが戻って来てくれれば」

「……まだです! 今は一時的に正気を取り戻しただけで、完全に負のエネルギーを取り除けてはいません!」

「じゃあ、どうすれば負のエネルギーを取り除けるんですか?」

「おそらく、それ以上のシェアエネルギーを流し込んで打ち消す方法が確実かと!」

「わかりました! ……お姉ちゃん!」

 

 ユニは思い切りノワールを抱きしめる。

 

「え⁉︎ ちょ⁉︎ ユニ⁉︎」

「じっとしててお姉ちゃん! そして、あたしの想いと力、受け取って!」

「わ、わかったわ!」

 

 戸惑いながらも満更でもなさそうなノワールだった。

 

「私たちもやろう!」

 

 ユニに続き、ネプギアはネプテューヌに、ロムはブランに、ラムはベールに密着し、シェアエネルギーを流し込んでいく。

 

「させるか! もう一度ネガティブエネルギーで悪に染めてやろう!」

「させねえのはこっちだよ! 姉妹の感動の和解に水を刺すんじゃねえ!」

「べるっちとらむっちは姉妹じゃないだろう!」

「それはそうだがそういう問題じゃねえんだよ!」

 

 再び女神たちを悪堕ちさせようとするくろめを、うずめがなんとか食い止める。

 

「ありがとう、ネプギア」

 

 ネプギアからシェアエネルギーを託されたネプテューヌは、ネクストフォームへと覚醒しネガティブエネルギーを振り払った。

 ネプテューヌだけではなく、ノワールもブランもベールもネクストフォームへと覚醒し、ネガティブエネルギーを打ち消す。

 

「べ、ベールさん……元に戻ったなら、その、は、離して……」

「あら? だって、ラムちゃんがわたくしを元に戻してくれたのなら、ラムちゃんはわたくしの妹ということですわよね? 姉妹同士の愛の抱擁をまだ終わらせるつもりはありませんわ」

「今すぐ離さねえとお前から潰すぞベール」

「あら残念」

 

 ベールは名残惜しそうにラムを下ろす。

 

「ネプギア、下がっていて。後は私たちがカタをつけるわ」

 

 女神たちは武器を取り、くろめに向けて構える。

 

 

 

 

 

 

 

「……ん? あー、やっぱ失敗したか」

「やっぱ、ってことは最初から失敗するって思ってたの?」

「まぁな。進んで憎悪に染まったうずめちゃんならまだしも、守護女神を悪に染めるのは無理だと思ってたんだよな。人間の願いが女神の悪堕ち、とかならいけるけど、ネガティブエネルギーで強引にやるとなると、あんな風にシェアエネルギーを使って戻されちまうってな」

「それをわかっててなんでくろめのことを止めなかったの?」

「俺が言うより実際やってみてダメだった方が諦めるだろ」

「それは……確かに」

「それに、俺にとっちゃこれでオーケーなんだよな」

「何が?」

「これでようやくギンガとかいうもう一人の俺をぶち殺せる」

「……!」

「さてと、もうちょい君らと遊んでてもよかったけど、そろそろ時間だ」

 

 

 

 

 

 

 

「さて、わたくしたちを弄んでくれた借り、たっぷりと返させていただきますわ」

「言っておくけど、お釣りはいらないわよ」

 

 すっかりと調子を取り戻した女神たちだが、その声はくろめには届いていなかった。

 くろめの憎悪は、ただ一人ギンガへと向けられていた。

 

「ギンガ……オレはキミを許さない。オレを裏切ったキミを、絶対に」

「うずめ様……」

「キミだけはここで……殺す!」

 

 女神たちには目もくれず、くろめはギンガを殺しにかかる。

 

「……おおっと、今は違えだろ。うずめちゃん」

 

 しかし、突如現れたルギエルがくろめを抱き抱え、後退する。

 

「なっ、離せルギエル!」

「少し冷静になりなって。今は戦う時間じゃない」

「くぅ……」

「目的の半分は果たせなかったけど、もう半分果たせた。だろ?」

「それも……そうだな。すまなかった、少し冷静になろう。そして下ろしてくれ。抱えられたままだと格好がつかない」

「あいよ」

 

 ルギエルは抱えていたくろめを優しく降ろす。

 

「あら久しぶりね。あなたへのリベンジもここで果たしてあげてもいいんだけど」

「メガミサマと正面から正々堂々戦うわけないだろ? 逃げさせてもらう」

「逃がすと思う?」

「逃げられるさ。それに、あんたらの相手は俺じゃない。うずめちゃん、頼むぜ」

「ああ。キミたちの相手は、キミたちからいただいたエネルギーで強化されたダークメガミだ」

 

 くろめはダークメガミを起動し、ネプテューヌたちに差し向ける。

 

「そしてもう一つ。キミたちが呑気に戦っている間に、この次元の座標は超次元へと近づいた。エネルギー体でしかなかったオレも超次元で行動ができるほどにね」

「……! 次元を近づけていたのはそのためだったんですね!」

「そういうことさ。クロワール」

「お? とうとう超次元に行くんだな?」

「俺も俺も」

「わかったわかった」

 

(クロワール、キミはオレたちを超次元に送った後、心次元の最奥を守備を頼む。ねぷっちたちはやらないとは思うけど、万が一この心次元を破壊し尽くしてオレを消そうとした場合はそれを防いで欲しい)

(しょうがねえな。その代わり俺にもダークメガミを使わさせてもらうぞ)

(構わない。好きに使うといい)

 

「さらばだ後輩諸君、次に会う時は封印から解き放たれた真の姿をお見せしよう」

 

 そう言って、くろめとルギエルは心次元から姿を消した。

 

「今すぐ追いたいところだけど……今はダークメガミが先ね」

「アレは私たちで仕留めるから、ユニたちは超次元に戻ってあいつらを追って」

「うん、わかった!」

「ネプテューヌ様、私はどうすれば」

「ギンガには私のそばにいて欲しいけど、今は超次元の方が大事だから、ネプギアたちと一緒に戻りなさい」

「かしこまりました」

「クロちゃんがいればささっと次元を移動できるんだけど……もー! クロちゃんのバカー!」

「イストワールと交信し、次元のゲートをこじ開ければすぐに戻れますよ」

「大丈夫? ギンガイストワールへ変身した負担がまだ残っているんじゃないの?」

「そこは気合と根性で何とかしますし、イストワールにも何とかしてもらいます」

 

 ギンガは頭に手を置いて集中し、次元を超えてイストワールと交信する。

 

『……ギンガさん。要件は分かっていますよ。次元のゲートですね?』

「話が早くて助かります。では、早速お願いします」

『はい、では行きます!』

 

「……あの、師匠」

「どうしました、あいちゃん?」

「私はネプ子たちとここに残ろうかと」

「なんだかんだで心配ですし……」

「わかりました。お願いします!」

「はい!」「はいです!」

 

 ネプテューヌたち四女神とうずめ、海男、アイエフ、コンパ、ネプテューヌ(大人)が心次元に残り、ネプギアたち女神候補生、ギンガ、マジェコンヌが超次元へと戻ることになった。

 

「……って、どうしてマジェコンヌが⁉︎」

「それはかくかくしかじか〜というわけです」

「なるほど、よく分かったわ」

 

(え? 今のギンガの説明でネプテューヌ分かったの?)

 

「色々とあったけれど、あなたのことも頼りにさせてもらうわね、マジェコンヌ」

「……ふん」

「さて、おしゃべりはここまでよ。ネプギア、ギンガ、頼んだわね」

「うん!」

「お任せください」

 

 

 

 

 

 

 

「……久しぶりの超次元だ」

「俺はそうでもないけどな。さて、こっからどうする? なんなら俺が奪って来てもいいぜ? うずめちゃんのゲーム機」 

「いや、ここまで来ればあとはオレ自身でやれるさ。それに、キミは女神相手は役に立つけど人間相手じゃあんまり役に立たないってことがわかったしね」

「うずめちゃんがやれっていうなら女子供でも殺すけど?」

「キミじゃ邪魔者は消せても、隠されてしまった場合にゲーム機を見つけられないだろ?」

「確かに。なら俺は一旦俺のアトリエに戻っかな」

「アトリエ……?」

「俺がどっか別の次元の狭間に作った、対女神武具の保管庫さ。俺らの作戦が上手くいくにしろいかないにしろ、最後には女神たちと直接やり合うことになるだろ? そのためにはもっと対女神武具がいる。手持ちの分は女神捕獲してくんのにほとんどおしゃかにしちまったからな。使えそうなのを片っ端から持ってくる」

「持ってくるって……キミは次元移動を自力でできるのかい?」

「一応、そういうアイテムを持っててな」

「だったらさっきもクロワールに頼まずに自分でやればよかったじゃないか」

「あいつのワープの方が正確なんだもん。んじゃ、ちょっくら行ってくる」

「わかった。じゃあ後で」

「おう」

 

 ルギエルは再び次元を超えて行った。

 

「さて、オレも果たすべきを果たすとしよう」

 

 そして、永きの時を超えついに超次元へと帰還した『天王星うずめ(暗黒星くろめ)』は、プラネテューヌ教会へと歩を進めるのだった。

 

 

 





 銃で人撃ってたら投稿遅れました。ごめんちゃい 


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09. くろめ襲来

 

 異次元のゲートからギンガたちはプラネテューヌ教会へと帰還した。

 

「少しずつですが、天王星うずめさんという女神のことを思い出してきました。プラネテューヌの歴史を綴る史書として、歴代の女神様のことは覚えておかなくてはならなかったと言うのに……面目ありません……」

「イストワールのせいではありません。それがあの方の力なのです」

「しかし、どうしてギンガさんが覚えているのなら、私たちの合体時に共有されなかったのでしょうか?」

「ギンガイストワールでのリンクは、お互い全ての記憶が共有されるわけではありません。イストワールがスリーサイズと体重のデータを私に共有されないように設定しているのと同じです」

「そ、それは言わないでください!」

「隠したところで私にとっては服の上から見ても

大体わかるんですけどね」

「……それ、セクハラですよ」

「これは失敬。さてイストワール。おそらくうずめ様はここに来るでしょう。例のゲーム機はどこに?」

「ちゃんと隠してあります」

「隠し場所を知る者は?」

「私だけです」

「良いですね、秘密を知るものは少ないに越したことはありませんし」

「……困るよ隠されちゃ。オレにはそれが必要なんだから」

「「‼︎」」

 

 プラネテューヌ教会正面のドアから入ってきた暗黒星くろめが、ギンガとイストワールに語りかける。

 

「久しぶりだね、イストワール。その様子だとオレのことを少しずつ思い出してきたようなのかな?」

「あなたが……うずめさん?」

「あー……キミの知るオレと今のオレは少し容姿が異なっているからね。その反応でもしょうがないか」

「……」

「話を戻そう。キミが隠した例のゲーム機の場所をオレに教えてくれ。キミとオレの仲だろう?」

「それは……できません」

「だろうね。念のため聞いてみたけど、そう言うのはわかっていたさ。まぁ良い。キミたちを全て排除し、超次元と心次元を融合させれば、必然的にこの次元も心次元となる。そうなれば、隠されたゲーム機を見つけることなど容易い」

 

 そう言ってくろめはネガティブエネルギーを解放し、自身の力を高めていく。

 

「久しぶりの超次元だ。少し暴れさせてもらおうかな」

「させはしません」

「オレだけに気を取られていて良いのかな? キミたちが抵抗するだろうと思って、先程国の周りに適当にダークメガミを一体放っておいた」

「……!」

「ギンガさん! ダークメガミは私たちがやります!」

「ネプギア様……しかし……」

「大丈夫です! 実はさっき、うずめさんからシェアリングフィールドを発生させられる小型のクリスタルを貰っておいたから、これを使えば私たちだけでもダークメガミは倒せます!」

「わかりました。頼みます! 私はうずめ様を止めます!」

 

 ネプギアたちは変身し、ダークメガミの元へ向かった。

 ちなみに、この後彼女たちがダークメガミと戦う直前、誰がシェアリングフィールドを展開するかでクリスタルの取り合いになったのだが、それをギンガたちが知るよしもない。

 

「……ならば、私は貴様に力を貸してやろう、ギンガ」

「マジェコンヌ……?」

「奴に好き勝手されるのは気に入らんのでな。それに、貴様一人で抑えられる相手ではなかろう?」

「それはそうですね。すみません、ありがとうございます」

「良いね。キミも直接潰してあげたいと思っていたんだよ、マジェコンヌ」

「はっ! 潰れるのはどちらだろうな?」

「神聖な教会の中で戦闘とは……しかし、場合が場合なのでしょうがありませんか」

「無駄話は終わりだ。来るぞ!」

 

 ギンガはギンガネプテューヌに、マジェコンヌは最終形態にそれぞれ変身し、迫り来るくろめに応戦するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「……こんなものね」

「ねぷっちたち、すっかりダークメガミとの戦いに慣れてるね」

「まぁね。あなたのシェアリングフィールドがあればもう苦戦するような相手ではないわ」

 

 ダークメガミを苦戦もせずに一蹴したネプテューヌたちは、変身解除する。

 

「へぇ〜、やるじゃねえかお前ら」

「クロちゃん!」

「どのツラ下げてここにいるのよ」

 

 アイエフがクロワールに対し嫌味を吐くも、それを気に止める様子はない。

 

「お前らは、この次元の秘密を知ってどうするつもりだ?」

「そんなの聞かれるまでもないわ。もう一人のうずめを倒す、それだけよ」

「倒す、ね。いいのか? この心次元はあいつそのもの。お前らがあいつを倒せば、心次元も零次元も消える。そしたらそこのうずめもこの世界の住人みんなも消えちまうんだ。それでもお前らはうずめを倒すってのか?」

「そんな……」

「困ったよな。あいつを倒さなきゃ、超次元は救えない。けど、あいつを倒すと、心次元も零次元も救えない。守護女神としてお前らはどういう答えを出すんだ?」

「酷いよクロちゃん! そんなの選べるわけないじゃん!」

「答えを早く出さないと、次元の融合が進んじまうぜ?」

「……っ」

「迷うなよ、みんな。【オレ】を倒せ」

「でも、そんなことをしたらうずめは!」

「わかってる。けど、それで良いんだ。俺は過去の女神、そんな俺が今の世界のみんなの足を引っ張るわけにはいかねえ」

「そうだな。うずめの想いから生まれた俺もまた過去の産物。そんな俺たちが君たちの負担になるべきじゃない」

「うずめ……海男……」

「ダメに決まっているでしょ、そんなこと。わたしたちはみんなでハッピーエンドを迎える。誰も欠けちゃだめだよ」

「ねぷっち⁉︎ けど……! 【オレ】を倒さないと超次元が!」

「別の方法があるよ。わたしがアフィモウジャスを斬った時、そしてさっきネプギアたちがわたしたちを元に戻してくれた時のように、ネガティブエネルギーをシェアエネルギーで打ち消して、もう一人のうずめ……紛らわしいから、ええと……黒いから『暗黒星くろめ』って呼ぼうかな」

 

(同じネプ子だから、ネーミングセンスも同じなのね……)

 

「とにかく、くろめをシェアエネルギーで浄化すればいいんだよ」

「確かに……ですが、暗黒星くろめは長い間世界中のネガティブ感情を吸っているんですわよね? そう簡単に浄化できるでしょうか……」

「やってみる価値はあると思うわ」

「そうね。やってやりましょう。で、やると言ってもどうするの? 直接くろめにシェアエネルギーをぶつけるの?」

「この心次元がくろめの心の中なら、その中心となる場所を浄化すればいいんだよ!」

「じゃあ早速中心とやらに向かおう!」

 

 心次元の中心を目指し進んでいくネプテューヌたち。

 そんな彼女たちの前に度々幻影のようなものが映し出され、その行く手を阻む。

 

「もー! さっきから何この変なの! 進みづらいよー!」

「そういえばマジェコンヌが言ってたな。この次元はここに迷い込んだ者の夢や願望が映し出されることがあるって」

「わたしたちは急いでたから、みんなの夢を見る暇がなかったんだよね」

「ふーん、夢……ね。じゃあ、これって誰の夢?」

「見た感じわたしたちでも、ネプギアたちでもあいちゃんやこんばでもなさそうだし……」

「もしかして…………ギンガ?」

「言われてみればそんな雰囲気がするわね」

「ギンガの夢か……」

「……気になりますわね」

「少しだけ見ていっても……いいんじゃない?」

「そうだよね! わたしはギンガの女神として、ギンガの夢を把握しておく必要があるよ!

 

 ネプテューヌたちは、映し出されたギンガの夢の中に入ることにした。

 

「ここは……プラネテューヌ教会?」

「あ、あれ見て!」

 

 そう言ってノワールが指を刺した方向には、ギンガとある女神が向かい合って座りながら談笑する映像が流れていた。

 

「あの女神……ネプ子ね」

「ギンガさんはねぷねぷと一緒にいることが夢……です?」

「へー、良かったじゃないネプテューヌ」

「……違う」

「え?」

「あれはわたしじゃない……わたしに似ていたらしい、初代のプラネテューヌの女神だよ」

「そうなんだ……」

「あはは……やっぱりギンガは今でもその人のことが大好きなんだ……そうだよね……」

 

 そう言ってネプテューヌは後ろを向いて、ギンガの夢の中から去ろうとする。

 

「ネプテューヌ?」

「ごめん……ちょっと一人にさせて」

「……行っちゃった」

「一人に……させてあげましょう」

 

 他の皆はネプテューヌを追いかけようとはせず、ギンガの夢の映像を見続けるのだった。

 

 

『……で? 私との約束を果たしたってことは、私よりも好きな人ができた、ってことよね?』

『はい』

『はぁ……少しショック』

『申し訳ありません……気の多い男と罵られようと構いません』

『冗談よ。むしろ安心したわ。あなたの心を縛り続けるのは、辛いもの』

『……』

『あなたの好きな女神、ネプテューヌちゃん、だっけ?』

『はい』

『可愛いの?』

『それはもう。可愛くてしょうがないです』

 

 

「ちょっと! 今好きな女神のことネプテューヌって言わなかった⁉︎」

「そうですわね! そうですわよね⁉︎」

「……話の流れ的に敬愛とか友愛とかそういうのじゃないわ。ガチのやつよ。つまり、ネプテューヌが大勝利してるってことよ……!」

「ネプ子と師匠って相思相愛だったってことですね」

「ねぷねぷ、もう少しここにいて見てればよかったですぅ……」

「へぇー小さいわたしとギンガがねぇ……」

「わぁ……なんか素敵……」

 

(みんな盛り上がっているね。うずめも完全に素に戻っているが……まぁ今は良いだろう)

 

「それにしても、ギンガの夢ってどういうことなの?」

「多分ですけど、昔好きだった女神様とお話をしてからちゃんとネプ子と向き合いたい、とかじゃないですか?」

「ケジメをつけるってことね」

「変なところで無駄に真面目ですわね」

 

 

『随分とぞっこんね。どうしてそんなにその子のことが好きなの?』

『そうですね。あなたが私の命を救ってくれた方なら、あの方は私の心を救ってくれた方だから、でしょうか』

『心……』

『……あなたが生きていた頃から行われていた守護女神戦争は、ここ最近までずっと続いていました』

『……やっぱり、そうよね』

『敵を殺し、自らが育てた兵士たちを死地に送り、そうやって殺して殺して、殺して、たくさん殺しました。それを自分の役割だと、自らの心も砕いて捨てて、そしてまた殺し続けました。そのうち表立った武力衝突は減っていきましたが、それでも、私の手は血に汚れすぎていました』

『ギンガ……』

『しかし、ネプテューヌ様はそんな戦いの日々に終止符を打ちました。そして、私の崩れ落ちた心を掬い上げてくれたんです。今の私が少しでも人間らしく笑えてるのは、あの方のおかげなんです。だから私はあの方のお側にいたい。以前はあの方のためなら命を捨てる覚悟がありましたが、今は違います。生きて、生き抜いて、あの方のお側にい続けたいんです』

『………そう。ふふ、なんだか妬けちゃうわ』

 

 

「……すごいこと聞いちゃったわ」

「今まで『ネプテューヌ→ギンガ』と思ってたけど『ネプテューヌ→←←←←←ギンガ』ってことだったのね」

「ネプテューヌを呼び戻して来た方が良いんじゃないでしょうか?」

「うーん、ギンガが心次元から去って時間が経ったからか、この映像も消えかけてきてるから、小さいわたしを呼び戻してる時間はなさそうだよ」

「えー! じゃあねぷっちとギンガはすれ違ったままってことなのー? そんなの悲しいよー!」

「まぁそこは本人たちがなんとかすることだと思うわ」

「ねぷねぷもギンガさんも、頑張れ、です!」

 

(俺は零次元でギンガから聞いたから知っていたけどね)

 

 こうして、ノワールたちもギンガの心の映像の元から去った。

 

「……」

 

 去った先には、ネプテューヌが落ち込みながら立っていた。

 

「みんな……」

「どうしてすぐどっか行っちゃうのよあなたは。もう少し我慢して待ってればいいことが聞けたのに〜」

「え? ……え?」

「全くよ。まぁ……良かったわね、ネプテューヌ」

「え? なに? どういうこと? みんなは何を見たの?」

「秘密ですわ。気になるなら、ギンガ本人から聞くといいですわね」

「え? ちょ、教えてよー!」

「よーし、じゃあ気を取り直して、心次元の中心に向かおう!」

「「「「「おー!」」」」」

「教えてってばー!」

 

 

 

 

 

 

 

 女神の身ではないながら女神をも凌駕する戦闘力を持つギンガネプテューヌとマジェコンヌは、ネガティブエネルギーによって強大な力を持つ暗黒星うずめとも互角に渡り合えていた。

 

「……やるじゃないか」

「あなたもやりますね、うずめ様。昔を思い出します。あなた鍛錬を積んでいたあの日々のことを」

「……その感じ、やめてくれないか? そうやってオレを絆そうとしているのかい? 大きい方のねぷっちみたいに」

「……」

「無駄さ。それに、キミからオレを拒んだんじゃないか。オレはキミが来てくれるなら世界全てを滅ぼすつもりはないとまで譲歩したよ? それなのに、キミはオレよりもねぷっちたちを選んだんだ」 

「それは……」

「聞くに耐えんな。まるで子供の癇癪だ」

「……何?」

「世界を拒んだのは貴様だろう。それだけの力があれば、別の生き方などいくらでもできただろうに、憎しみに囚われ他者の声を聞こうとせず、他者を踏み躙る。当然、そんなことをしていれば誰しも貴様からは遠ざかっていく、ただそれだけのことだ。まぁ無理もないか、今の貴様は憎しみだけのエネルギー体だからな」

 

 くろめに対して容赦ない言葉を浴びせるマジェコンヌ。

 

「黙れ。キミに何がわかる」

「わからんさ。何もな。それより、貴様もいい加減覚悟を決めたらどうだ、ギンガ。貴様は女神ではない。全てを守ることなどはできん。貴様の守りたいものを守るために、奴を倒す覚悟を決めろ。それに、貴様が信じるべき天王星うずめは奴ではない、今心次元で戦っているあの天王星うずめだろう」

 

 ギンガは痛いところを疲れたようなバツの悪い表情をする。

 手を抜いているつもりはなかったが、くろめを倒すことに躊躇いがあったのもまた事実だった。

 

「……まさかお前に諭される日が来るとは思いもしませんでしたよ」

「気に入らんか」

「いいえ。ありがとうございます」

 

 再びギンガは剣を構え直す。

 

「全く、イラつかせてくれるね、マジェコンヌ。まぁでも少しだけ感謝するよ。ようやくギンガが本気でオレと戦う気になったようだからね」

 

 

 

 

 





 多分このシリーズで一番優遇されてるキャラはマジェコンヌ。
 どうしてこうなった。


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10. 決戦の予兆

 

 

 

 心次元を突き進み、中心部となる場所に辿り着いた女神一行。

 

「ここが中心になるのかな?」

「そうだね」

「なぁ、でっかいねぷっち。心次元に入ってからずっと気になってたんだけど、あの遠くに見える壊れたでかいシェアクリスタルはなんなんだ?」

「あれは封印されているうずめの体内に蓄えられているシェアエネルギーが結晶化されたものだよ」

「マジか。そんなに大事なものだったのか……」

「お前らは知らないと思うが、零次元に落ちていたシェアクリスタルはこいつのカケラだったんだよ」

「……!」

 

 女神一行を阻むように待ち構えていたクロワールが会話に割って入る。

 

「クロちゃん!」

「よっ、また会ったな」

「クロちゃんがここにいるってことは、わたしたちを邪魔しに来たんだね」

「大正解。あいつも人使いが荒いよな。まぁ、その方が面白えから良いけどよ」

「クロちゃん! これ以上はダメだよ! 今すぐ暗黒星くろめに協力するのはやめて! このまめじゃ二つの次元が滅んじゃう!」

「次元が滅ぶなんて俺にとっちゃ今更なのはお前もよくわかってんじゃねえのか? 俺が今までどのくらい世界の始まりから終わりを記録してきたなんてな。ま、お前に捕まってからはそれもさっぱりだけどな」

「そりゃそうだよ! ただ歴史を記録するだけなら良いけど、面白くするために滅茶苦茶にするなんて絶対間違ってるよ! だからわたしはクロちゃんを外には出さなかったんだよ!」

「だろうな。お前との付き合いも長いんだ。そんなことはわかってるさ。お前がおちゃらけたフリしながらも俺やうずめの計画を邪魔してたこともな」

「クロちゃん……」

「ま、話し相手としては退屈しなかったことにだけ感謝しといてやるよ。けど、今回ばかりは俺のやりたいようにやらせてもらうぜ。出ろ、ダークメガミ!」

「性懲りも無くまたダークメガミ? 今更そんなものが役に立つと思ってるわけ?」

「確かに、ダークメガミ程度じゃもうお前らに勝てねーだろうな。けど、俺がお前らを適当に足止めしてるだけで、次元の融合は進んでいく。そうならばあいつの目的も果たせてちまうわけだ。さぁ、行ってこいダークメガミ‼︎」

 

(……大きいわたし)

(どうしたの? 小さいわたし)

(わたしたちでダークメガミを倒すから、大きいわたしはクロワールを捕まえてよ)

(良いの?)

(良いんだよ。大きいわたしはクロワールのことを大切な友達だと思ってるんでしょ?)

(……うん)

(じゃあ、任せたよ)

(わかった! ありがとう!)

 

 

 

 

 

 

 

 マジェコンヌの闇魔法の援護を受け,真っ直ぐ突っ込むギンガ。

 くろめが迎撃のため掌からエネルギー弾を放つも、浮遊するNPカタールとNPガンブレイドに防がれる。

 

「面倒だな……けど、面倒なだけだ。キミの攻撃など、オレにはダメージにならないさ」

 

 振り下ろされたギンガの剣を、くろめは容易く握りしめる。

 刃を握りしめているというのに、くろめの手は少しの傷もついていなかった。

 

「消えろ、『夢幻粉砕拳』」

 

 そのまま剣ごとギンガを引っ張り、ネガティブエネルギーを纏わせた拳を叩きつけようとする。

 

「させん!」

 

 しかし、その拳はマジェコンヌの槍で弾かれ、その隙にギンガはくろめの正面から離脱し、距離を取る。

 くろめは見た目こそ変身していないうずめとそっくりだが、戦闘能力はネクストフォーム相応かそれ以上。たとえ二対一とはいえ、まともに戦って勝てる相手ではないとギンガは判断した。

 

「マジェコンヌ! アレを頼みます!」

「命令をするな!」

 

 マジェコンヌの闇魔法により、教会中が黒い霧で覆われ、敵味方問わず視界を奪われる。

 

「目眩しか……」

 

 人並外れた五感を持つギンガは、暗闇の中でも問題なくくろめを捕捉すること可能。

 そのまま、物音ひとつ立てずにくろめに斬り込む。

 

「甘いよ」

 

 しかし、暗闇の中であっても、くろめの拳はギンガの剣を受け止めた。

 

「『目に見えるものだけを信用するな』、キミがかつてオレに教えてくれたことだろう、ギンガ!」

 

 そして剣を砕き、その奥にいるであろうギンガを、ネガティブエネルギーを纏わせたもう片方の拳で貫いた。

 

「これで終わりさ!」

 

 ………かのように見えた。

 

(……⁉︎ 違う! ギンガじゃない! 剣だけ……!)

 

 くろめが砕いた剣は、ガンブレイドとカタールが合体した中型の剣であり、脳波制御で浮遊させて斬りかからせたものだった。

 当然、その奥にギンガはいるはずもない。

 

「……私の教えを忘れずにいてくださったことは、嬉しい限りです」

 

 背後から、声が聞こえた。

 

「しかし、私もあの頃より強くなっているということです……『ギャラクティカエッジ』」

 

 そして、無防備な背中を晒したくろめに、ギンガの技が炸裂した。

 

「ぐぅぅっ……ぁぁああっ!」

 

 くろめは技の衝撃で数メートル吹き飛び、教会の壁に叩きつけられた。

 

「やったか?」

「いいえ。手応えはありましたが、この程度で勝てる相手な筈ありません」

「……だろうな」

 

 ギンガの言う通り、くろめはすぐに立ち上がる。

 

「……オレは今この瞬間にも世界のネガティブ感情を取り込んでいる。そしてそのネガティブ感情はエネルギーとなり、オレの力になる。キミたちがオレに与えたダメージもすぐに回復してしまったよ」

 

 くろめを倒し切るためには、高出力のシェアエネルギーを帯びた攻撃をするしかない。

 しかし、ギンガネプテューヌもマジェコンヌはそれができず、くろめを倒すための手段が存在しない。

 ギンガネプテューヌには女神の力が付与されているが、あくまでもギンガの基礎スペックを底上げする程度の力しかなく、敵への攻撃にシェアエネルギーを帯びさせることまではできない。

 

「しかし、攻撃を当て続ければ動きは止められるということ……!」

「何度でも地べたを這いつくばらせてやろう!」

 

 ギンガもマジェコンヌも諦めはせず、剣と槍を構える。

 

「無理はしない方がいい。わかっているよ。キミたちの変身は時間制限がある。そろそろ時間なんじゃないかい?」

 

 その瞬間、くろめの言ったとおりギンガもマジェコンヌも変身が解除されてしまった。

 

「女神でもないキミたちが、女神を超える力を出し続けるなんて不可能なんだよ。結局キミたちはここで終わりってことさ」

 

 くろめは拳にネガティブエネルギーを込め、ギンガとマジェコンヌにトドメを刺そうとする。

 

「ぐ……なんだ……? 力が……っ! この感じ……シェアエネルギーか‼︎」

 

 しかし、くろめは急にうずくまって苦しみ出す。

 

「何が起こっている……?」

 

 マジェコンヌは困惑しながら呟く。

 

「おそらく……心次元、つまりうずめ様の心の中に残ったネプテューヌ様たちが、何かをしたのでは……?」

「なるほど……確かに、ネガティブエネルギーを原動力としている暗黒星くろめにとって女神どものシェアエネルギーは毒となるわけだな」

「……っ! 後輩と絞りカスの分際で……オリジナルに楯突くとは……許さんぞ‼︎」

 

 激昂したくろめは、ギンガたちが心次元から帰還する際に使用した次元のゲートを使い、心次元へと逃亡していった。

 

「ギンガさん!」

 

 くろめが去ってからすぐ、ダークメガミを撃破してきたであろうネプギアたちが駆けつける。

 

「ネプギア様! その様子ですと、ダークメガミを撃破してきたようですね。流石です」

「ありがとうございます! そっちは大丈夫でしたか?」

「ええ、なんとか。ネプテューヌ様たちが心次元で何かしてくれたようなので助かりました」

「流石お姉ちゃん。くろめさんはどこへ?」

「たった今逃げていきました。あまりにも早い逃げ足だったので、追うことはできませんでしたが、おそらく心次元に戻ったものだと思われます」

「そうですか。じゃあ、私たちも心次元に向かいましょう!」

「……いえ、私は超次元に残ります」

「え? どうしてですか⁉︎」

「今この瞬間にも心次元と超次元の接近が続いています。もしかすると、超次元の方でも何か問題が起こるかもしれません。超次元に何も問題がなければ私も後から心次元に駆けつけますので」

「わかりました! じゃあ、行ってきます!」

 

 ギンガは、再び心次元へと向かう候補生たちの背中を見送るのだった。

 

「……お前は心次元には行かないのですか、マジェコンヌ?」

「貴様と同じ理由さ。私には超次元を守る理由がある」

「ナス農場……でしたっけ?」

「それもそうだが、ナスを食べる消費者、ナスを卸す市場、それだけではなく、私は農業に関わる全てを守る必要がある」

「……ナスの守護女神にでもなるつもりですか?」

「ナスの守護女神か。悪くないな」

 

(悪くないんですか……)

 

「皮肉なものだ。かつてこの世界に混沌を齎そうとした私が、世界を守ろうとしているなどな」

「良いことじゃありませんか」

「……うるさい」

 

 

 

 

 

 

 

 ダークメガミはやはり一蹴された。

 それどころか、守護女神たちは、ダークメガミ戦に慣れてしまっていることにより、先ほどよりも早く撃破することができた。

 

「……ちっ、時間稼ぎ程度にしかならないとわかっていたけど、まさかこんなに早くやられるなんてな。しょうがねえ、適当にずらかるとするか」

「……てーい!」

「あべし!」

 

 ダークメガミ戦には参戦せず、クロワールの隙を伺っていたネプテューヌ(大人)は、上手く背後からクロワールを捕まえることに成功し、すぐさまねぷのーとにクロワールをしまい込む。

 

「クロちゃんゲット!」

「おいやめろ! 出しやがれー!」

「もう離さないからね! わたしたちは一心同体だよー!」

「気色悪いこと言うんじゃねー! 出せー!」

 

 クロワールを捕まえたネプテューヌ(大人)は、してやったりといったふうな得意げな表情だけでなく、大事な友達をどこか遠くへ行かせずに済んだ、そんな安堵を浮かべていた。

 

「さて、邪魔者はいなくなったことだし、そろそろ浄化を試みようかしら」

 

 そう言ってパープルハートはネクストパープルへと変身し、それに続いて他の女神たちもネクストフォームへ変身する。

 

「ベール、ブラン、ノワールはありったけのシェアエネルギーを私に。他のみんなは祈って」

 

 シェアエネルギーと祈りの力を得たネクストパープルの『次元一閃』が、心次元の中心部に浮かぶシェアクリスタルのネガティブエネルギーを斬り裂いた。

 

「…………駄目だわ。手応えは感じたけれど、やっぱりシェアエネルギーがネガティブエネルギーにかき消されてしまったわ」

 

 ネクストパープルの言った通り、表面のネガティブエネルギーを斬り裂いて消滅させることには成功したが、シェアクリスタルからネガティブエネルギーが次々と溢れて出てくるため、効果があったとは言い難い。

 

「しかし、手応えは感じたのなら、エネルギーの量さえあればなんとかなるということだ」

「なら、一度ネプギアたちと合流して、作戦を練り直しましょう」

 

 

 

 

 

 

 

「クソ……ッ‼︎」

「おうおう荒れてんねぇ、うずめちゃん」

「ルギエル……!」

「今戻ったよ。その様子だと、失敗しちゃったようだねぇ」

「黙れ……!」

「ごめんごめん。で、クロワールは?」

「捕まったんだろうさ」

「あらら。あいつがしくじるなんてな。んー、多分あいつも知らないうちにだいぶネプテューヌちゃんに絆されちゃってたんだろうな」

 

(……やはり誰も役には立たなかった。そして、この男もオレを見限って去って行くんだろうね。その前に借りを返しておくとしようか)

 

「……キミに、これを渡しておく」

「ん? これって……」

「キミの言っていたゲハバーンさ。完全なモノは今のオレでは作れないから、女神の命を込める前のただの剣でしかないし。キミやクロワールの話を聞いて作った物だから、キミの言うようなスペックがあるかわからない」

「いやいや全然オッケーだ! ていうか、最初からそれで充分だったんだよ! 女神の命なんて後から込めるさ! いやぁ、作れるならさっさと作って貰えばよかったぜ!」

「そうか。喜んでもらえて何よりさ。これでもうオレがキミにできることはない。どこへでも行くといい」

「おいおい、せっかく対女神武具を持ってきたんだぜ? 最後まで付き合うさ」

「もうキミにはオレに付き合う義理なんてないだろう? それに、これ以上報酬とやらで渡せるものなんてないよ」

「あるさ」

「じゃあ何が欲しいんだい?」

「うずめちゃんが欲しい」

「……はぁ? 何を言い出すんだ急に」

「そのまんまの意味さ。濁った目。歪んだ心。俺のタイプなんだよ、うずめちゃんって」

「貶されてるようにしか聞こえないんだけど」

「俺は好きなのさ。ま、この報酬は気が向いたらで良い。嫌がる娘に無理やり言い寄るのは趣味じゃないからな。んなことより、これからどうすんの?」

「そうだな。超次元に行く直前にクロワールからいただいた『タリの女神』とやらの力を取り込み、次元融合をさらに加速させる。そして……これは完全に融合させてからにしようと思っていたが、今から心次元から超次元へのゲートをこじ開け、猛争モンスターを大量に送り込む。超次元を破壊し尽くせと命令してね。そして、オレを止めに来るであろう女神たちを今度こそ消し去ってやるさ」

「ほーん。良いね。じゃあ俺はどうすればいい?」

「超次元に行って、抵抗する者たちを全て排除してくれ。超次元には猛争モンスター如きじゃ倒せなさそうなのが何人かいそうだし」

「オッケー。じゃあさ、あのギンガってやつが来たらもう殺してもいいよな? 今まではずっと殺すなって言われてきたけど」

「うん、もういいよ。彼はもうオレのものにはならない。だったら死んでくれた方がいい。それに、いい感じに妥協できる相手が見つかったしね」

「……お? もしかして、うずめちゃん意外と乗り気? ははっ、嬉しいね」

「さぁね。今のオレには好意や愛なんて感情はない。キミの望むようになるかはキミの活躍次第さ。とにかく、頼んだよ」

「りょーかい。じゃ、超次元に屍の山を立てて、うずめちゃんを待ってるぜ」

 





 最終決戦が近づいてきました、つまりお別れが近いということです。
 ダークメガミ戦は書いてておもんないのでほぼカットです。


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11. 双銀の相剋

 

 

 

 

 ネプテューヌたちとネプギアたちは、心次元の拠点にて合流した。

 

「お姉ちゃん!」

「ネプギア! そっちはどうだった?」

「くろめさんがダークメガミを出してきて大変だったけど、うずめさんから貰った小型のクリスタルでシェアリングフィールドを展開できたからなんとかなったよ。その間にギンガさんとマジェコンヌさんがくろめさんを撃退してくれてゲーム機は取られなかったんだけど、結局くろめさんには逃げられちゃって……」

「そっか。ギンガは?」

「それが、超次元で何か起こる予感がするから残るって言って……」

「なるほど、ギンガらしいね」

 

 納得しながらも少し不満げなネプテューヌにネプギアは苦笑いする。

 その瞬間、心次元全体が揺れた。

 

「な、何⁉︎ 何が起きてるの⁉︎」

『あいつとうとうやりやがったな』

「どういうことなのクロちゃん! 説明して!」

『お前に捕まる少し前にな、あいつにタリの女神の力を渡してたんだよ』

「タリの女神の力って……?」

『次元に干渉する力だ。凄えことに、この心次元を移動させることだって、その力を使えば容易くできちまうんだぜ。本当は、あいつが自分の身体を取り戻した後に使えって言ったんだけどな、力が強すぎて呑まれちまうから。けど、この様子じゃ全部一気に取り込んだみたいだな』

「次元融合を加速させるつもりか……!」

『ここまで来ちゃ、もう止められないぜ! 久しぶり面白い歴史が見られるってもんだ!』

「次元融合を止めるためには暗黒星くろめを倒すしかない。けど、暗黒星くろめを倒すとうずめや海男たちも……」

「いや、俺に考えがある」

「うずめ……?」

「【オレ】からタリの女神の力を奪って、逆に次元融合を止めれば良いんだ」

「確かに、それならなんとかなるね!」

「そうと決まれば【オレ】の元に殴り込みだな!」

 

 タリの女神の力を取り込んだ暗黒星くろめが放つ強大なエネルギーを辿れば、その場所を特定するのは容易かった。

 『心ノ最深部』、暗黒星くろめはもう逃げも隠れもせずそこにいた。

 

「……来たか」

「あぁ、来てやったぜ、【オレ】」

「あなたを倒して、ゲイムギョウ界を救ってみせるわ!」

「ふっ……救う、ね」

「何がおかしいのよ?」

「既に超次元滅亡のカウントダウンは始まっている。次元融合とは別の要因でね」

「どういうことだ?」

「何も不自然に思わなかったのか? オレの元に来るまでに、一切の猛争モンスターと遭遇しなかったことを」

「まさか、お前……!」

「そうだ、そのまさかだよ。既に心次元中の猛争モンスターを超次元に向かわせた。超次元を壊して殺し尽くせと命令してね。キミたちが守ろうとしているものは既に滅びようとしているのさ!」

「……」

「……ん?」

 

 どうやら、くろめにとって女神たちの反応は思っていたものとは違ったようだった。

 

「……やっぱり、ギンガさんの想定通りだった」

 

 ネプギアが声を漏らす。

 

「なるほど。ギンガが超次元に残ったのか。その余裕の正体はそういうことだったんだな。ふふ……はははっ!」

「何がおかしいんだよ?」

「ルギエルって言えばわかるかな? 彼も超次元に向かった。抵抗する人間どもを皆殺しにするためにね。一度戦ったねぷっちたちにはわかるだろう? ギンガではルギエルに勝てないさ。そして、キミたちのいない超次元にはもう彼を止められる者などいない」

「……だとしても、わたしはギンガを信じてる」

 

 ネプテューヌに迷いはなかった。

 ネプテューヌだけではなく、女神たちは、成すべきことを成すためにここに立っている。

 

「この場で俺たちは【オレ】を、憎悪に染まった天王星うずめを倒す!」

「そうか。ならばオレも受けてたとう。再び顕現せよ、ダークメガミたちよ!」

 

 そう言ってくろめはネガティブエネルギーを放出し、ダークメガミを四体呼び出す。

 

「なるほどね。あなたの力で何度でも復活できるってわけ。でも、数を揃えてもダークメガミ如きじゃもう私たちには勝てないわよ?」

「早まるなよのわっち、まだ準備の途中さ。キミたちの力を使って作り出したダークメガミの力を全て一つに集め、最後にオレ自身が融合することで、最強のダークメガミの誕生だ‼︎」

 

 くろめは全ての力を一つに集め、最強のダークメガミ、『ダークオレンジ』へと姿を変えた。

 

「ふはははははっ! これぞ正に究極! ゲイムギョウ界のクズどもに復讐には最も適した力だ‼︎」

「正にてんこ盛り、ですわね」

「私たちから吸い取った力に、タリの女神の力もある」

「それに加えて……ネガティブエネルギー……」

「だとしても、俺たちは勝つ。それだけだ」

「勝つ? 今更シェアリングフィールドを展開できたところで、今のオレの力を抑えることなどできはしない!」

「それはどうかな? 心次元の中心に浮かぶクリスタル……アレを使ってシェアリングフィールドを展開したら……どうだ?」

「……っ、正気か⁉︎ それはオレたちの生命線、その力を使い果たすのはオレたちの死を意味するんだぞ⁉︎」

「うずめ! 差し違えるなんてダメだってば! 命を大事に、だよ!」

「わかってる。全部使ってあいつと心中する気なんてねえよ。壊れるギリギリまであのクリスタルの力を使えば、あいつも弱体化する筈だ」

 

(……うずめさん。ああ言ってはいるけど……死ぬ気かもしれない……! 場合によっては私が止めなきゃ……!)

 

「これが俺の最後の女神化だ! 変身‼︎」

 

 うずめはオレンジハートへの変身を合図に、四女神たちはネクストフォームに変身し、候補生たちは女神化する。

 

「『シェアリングフィールド』展開!」

 

 心次元、心ノ最深部。

 最後の戦いの幕が上がる。

 

 

 

 

 

 

 

『……やはり、猛争モンスターの群れが異次元のゲートから接近していますね』

「超次元に残って正解でした。これでネプテューヌ様たちも決戦に集中できるでしょう」

『ですが……あれだけの量のモンスターを一人で食い止めるつもりですか?』

「マジェコンヌもいますしなんとかなりますよ。いえ、なんとかしてみせます」

 

 ギンガとマジェコンヌは暗黒星くろめが作った次元のゲートの座標に待機していた。

 

「準備はいいですか、マジェコンヌ」

「言われるまでもない」

 

 彼らの眼前に迫る大量の猛争モンスターたち。

 

「さて、この魔法はじつに28話ぶりの出番ですね」

 

 ギンガは魔術の印を手で編み出し、術式を展開する。

 

「血に飢えた死霊の宴を始めよう……! 『魔界粧・黒霊陣』‼︎」

 

 その詠唱と共に地面から湧き出るゲイムギョウ界に眠る死霊たち。

 

「さぁ行くぞ死霊たちよ。我らの手で女神様の帰るこの地を守るのだ!」

 

 大量の死霊たちと共に、ギンガとマジェコンヌが先陣を切って猛争モンスターたちを迎撃する。

 

「ふん、相変わらず気色悪い魔法だ」

「私たちの同志ですよ。気色悪くなんてありません」

「貴様から見ればそうだろうな」

 

 ギンガとマジェコンヌは雑魚モンスターを死霊に任せ、死霊たちでは相手をするのが難しい大型のモンスターに攻撃を仕掛けていく。

 

「『ラ・デルフェス』!」

「『EX・H・インパルス』!」

 

 ギンガとマジェコンヌの活躍により、猛争モンスターの数はみるみると減っていく……が、減るスピード以上に次元のゲートから次々と猛争モンスターが出てくる。

 

「やはり……数が多すぎますか……!」

「く……抑えられん……!」

 

 あまりにも多い猛争モンスター全てを倒し切ることができず、防衛ラインを突破されようとしていた。

 

(まずい……魔界粧・黒霊陣の展開も限界が近い……このままでは……!)

 

 次々と死霊が消えていくが、猛争モンスターの数はゲートからどんどん増えていく。

 そしてついに、防衛ラインが突破された。

 

「とりゃぁぁああっ! 『ビーシャキック』‼︎」

 

 その時、ビーシャ、ケーシャ、シーシャ、エスーシャのゴールドサァドが駆けつけ、防衛ラインを突破した猛争モンスターを撃破した。

 

「私たちもこの戦いにさせてもらうよ!」

「ゴールドサァドの力はほとんど失ったけど!」

「この世界を守りたいという気持ちはあります!」

「共に戦おう、この世界の安寧のために」

「皆さん……ありがとうございます」

「どういたしまして。それに、駆けつけたのは私たちだけじゃないよ」

 

 そう言ってシーシャが指を差した後方に目を向けると、物凄い人数の義勇兵たちが防衛ラインに集結してきていた。

 国籍や信仰を問わず、皆この世界を守るために立ち上がったのである。

 

「それにしても、なぜこんなに多くの人が……」

「決め手となったのは、アブネスチャンネルとかいう有名な配信者の放送を、アノネデスとかいうハッカーが世界中の放送局にハッキングして強引に流したことらしい。私たちはよく知らないんだけど、知り合いなのかい?」

「まぁ……知り合いっちゃ知り合いですけれど……まさかあの方たちまで協力してくれるとは……」

 

 既に数の利は完全に超次元側にあった。

 そして、この光景は超次元ゲイムギョウ界が守護女神の転換期を完全に乗り越えたことも意味していた。

 

「……女神様たちにこの光景をお見せできないのが残念です」

「そうだね。さて、女神補佐官のギンガさん。今はブランちゃんたち守護女神がいないから、暫定的に私たちのトップは君だ。集まった義勇兵たちに号令をかけるといい」

「わかりました」

 

 ギンガはプロセッサユニット:リミテッドパープルを装備し空に上がる。

 そして星晶剣銀牙を掲げ、高らかに宣言する。

 

「……諸君らの気高き想いは決して絶やしてはならない! 守護女神様の魂は常に我々と共にある!」

 

\ おおおおおっ!/

 

「……ゲイムギョウ界の真理はここだ。皆、我が剣の元へ集え‼︎」

 

 ギンガの宣言が響き渡る。

 これ以上ないほど士気も上がり、超次元防衛戦の幕が上がるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「ははっ、カスどもが最高に調子こいてんねぇ。ぶち殺してえわ」

 

 

 

 

 

 

 

 だがその瞬間、ギンガは猛争モンスターよりも鋭く悍ましい殺気を感じ取った。

 

(……‼︎)

 

 そして、次元のゲートから猛争モンスターのネガティブエネルギーの中に『無』を感じ取る。

 

(やはり来たか、ルギエル!)

 

「そうそう、お前だよお前。ギンガだっけか? 初めて見た時から殺したかった。ようやくその時が来たってな! はっはぁ! お前を殺してうずめちゃんとランデヴーだ!」

 

 ルギエルはマジェコンヌやゴールドサァドたち、そして義勇兵たちには目もくれず、猛争モンスターすらも押しのけてギンガの元に一直線で向かってくる。

 

「マジェコンヌ! モンスターの迎撃の指揮はお前とゴールドサァドの皆さんに任せます! この男の狙いはわた……」

 

 ギンガが言い終わる前に、ルギエルに頭を掴まれ都市部に向かって思い切り投げられていた。

 

(速い……っ!)

 

 そして追撃の跳び蹴りが入り、高層ビルを数本突き抜けて更に吹っ飛んでいく。

 

「こんななんもねーところでやり合ったって面白くねえ。もっと派手なフィールドでやろうぜ」

 

 タリの女神の件もあり、緊急事態の際はプラネタワーなど都市部のシンボルが狙われることを想定し、予め国民は都市部からの避難を済ませていたためすでに無人となっている。

 

「んー? 街の中だってのに人の気配がねえな。ノーギャラリーか」

「……」

「しゃーねー。さっさとお前をぶち殺してカスどもをすり潰しに戻るか」

「させはしません」

「なら、精々止めてみせろ!」

 

 ドン、という足音が鳴った瞬間、ギンガの眼前にルギエルの拳が迫る。

 

「……っ⁉︎」

「遅えよ」

 

 ギンガが迎撃のために振るった剣は、側面に的確な打撃が加えられることにより、その勢いが殺される。

 

「おいおい、それでも『俺』かよ? ちと弱すぎんじゃねえか?」

 

 常人には目で追えないほどの速度の攻防。

 しかし、喋る余裕もないギンガの攻撃を、ルギエルはヘラヘラ笑いながらその全てを正面からねじ伏せている。

 それはまるで技術を嘲笑うかのような圧倒的な暴力だった。

 

「……まだまだっ!」

 

 ギンガはネプテューヌリングを使い、ギンガネプテューヌへと変身する。

 

「あーん? 女神の力を使うなんて、人と同じ顔しながらきっしょいことしないでくれよな。まぁ、そうしてもらわないと張り合いがねえか」

 

 変身前のギンガから繰り出される攻撃は全て無力化していたルギエルだったが、ギンガネプテューヌの攻撃は回避し始める。

 その表情からは、先程のような笑みは失われていた。

 

「『クロスコンビネーション』‼︎」

 

 そして、遂にギンガの刃がルギエルを捉える。

 

「……けど、さっきよりはマシって程度だ」

 

 ……かのように見えたが、ルギエルはその刃を素手で掴んで防いでいた。

 

「こんなもんで俺とお前の力の差は埋まらねえッ!」

 

 そして剣を引っ張ってギンガの身体を引き寄せ、顔面に拳を叩きつける。

 

「が……っ!」

 

 衝撃で後退り、大きく呼吸を乱すギンガ。

 

「はぁ……はぁ……」

 

 対するルギエルは息一つ乱すことない。

 

「お前がこんなに弱い理由がわかるか?」

「……」

「何かを得て強くなるのが女神なら、捨てて強くなるのが俺たちだ。言うなれば俺たちは世界のバグ、不純物さ。だからこそ、バグがシステムに順応しちまったら弱くなるに決まってる。俺たちはシステムを壊す側なんだからな」

 

 ルギエルは一旦戦いの手を止め話を続ける。

 

「お前も全てをかなぐり捨てればよかったんだ。情や想い、絆、それら全部捨てて強さだけを求めれば俺並みになれただろうに。でもお前はそうじゃない。持ちすぎた、背負いすぎた。だからお前はこの世界のカスどもと同じにまで堕ちぶれてんだ」

「私がこの世界の皆さんと同じ……?」

「あぁ、同じだよ。同じ有象無象の雑魚でカスだ」

「それは……嬉しいことですね」

「……あ?」

「確かに……女神様すら守れる力が欲しいと思ったことはあります。私にもう少し力が有れば……何度そう思ったことか。しかし、あなたの理屈が正しく、私が弱い理由が、私がこの世界の一員として皆と共に生きているからということならば、私はそれが……とても嬉しい」

 

 言いながら、満ち足りたような穏やかな笑みを浮かべるギンガ。

 ルギエルは対照的に心底つまらなそうな表情を浮かべていた。

 

「……あっそ。じゃあもう死ねよ」

 

 ルギエルが拳を振りかぶったその時、魔法の光弾が横切る。

 

「ギンガさん!」

「イストワール! なぜここに? あなたも避難したはずでは?」

 

(あれは……この次元のクロワールか。中々可愛いじゃん。けど、俺的にはクロワールの方が好みだな)

 

「放っておけない誰かさんの様子を見に戻ってきました。それに、私は教祖、この国の信者の代表です。ただ逃げるわけにはいきません。私も共に戦います!」

「……わかりました。今更逃げろなどとは言いません。行きましょう、イストワール!」

「はい、ギンガさん!」

「「合体‼︎」」

 

 ギンガネプテューヌの頭にイストワールがしがみつき、合体が開始される。

 

(……なにあれ、おもしろ)

 

 女神(ネプテューヌ)の加護、史書であり教祖(イストワール)のデータ、器となる身体(ギンガ)。その三つが合わさった新たな形態となる。

 

「「合体完了……」」

 

(ギンガイストワールネプテューヌ……それとも、ギンガネプテューヌイストワールですかね? どちらにせよ長すぎますね。ではこうしましょうか)

 

「「『ギンガトリニティ』‼︎」」

 

 

 

 

 



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12. 未来を否定する魔剣

 

 

 

 

(心次元でのこいつらと女神の戦いをチラ見してたから知ってはいたが、マジで当たんねえんだな)

 

 常人の目では追えないほどの速度で放たれたルギエルの打撃だが、ギンガトリニティを捉えることはない。

 

(……いや、当たんねえのはまだ良い。問題はシェアリングフィールドだ。今の俺はあれに対する対抗策がねえ。巻き込まれたら即ゲームオーバーだな)

 

 ルギエルは自分から攻撃を仕掛けることを無駄だと悟り、回避と反撃に専念する。

 

「……そこっ!」

「ちぃ……っ!」

 

 対するギンガは、敵の反撃を喰らわないために隙の小さい斬撃や魔法攻撃を仕掛け、少ないながらも確実にダメージを与えていく。

 

(……そして当然こいつはそれをわかってやがるな。シェアリングフィールドという強力な択をチラつかせながら、少しずつ俺を削っていくって魂胆だろうな)

 

 ルギエルがダメ元で拳を振るって反撃してみるも、当然回避される。

 

(くっそ……やっぱわかっててもどうにもならねーな。今はダメージを安く済ませて変身の時間切れを待つしかねーか。確かあいつらの変身は時間制限あるっぽいし)

(……と、彼は思っているでしょうね。だからこそ……)

 

「「『光ノ羽根』‼︎」」

 

(彼が攻めに消極的な今、ここで畳み掛ける‼︎)

 

 ギンガが展開したのは、イストワールのスキル『光ノ羽根』。

 光属性の魔力で構成される羽根部分を相手にぶつけてダメージを与える技であり、展開中は機動力も大きく上昇する。

 

(……っべ! 速っ!)

 

 急な速度上昇に、ルギエルの反応がほんの少し遅れる。

 その隙をギンガは逃しはしない。

 

「『ギャラクティカネプテューンブレイク』ッ‼︎」」

 

 そして、ギンガの必殺剣舞がルギエルに炸裂する。

 

「……っ⁉︎ ぐ……ぉおおおおおっ‼︎」

 

 その衝撃で、ルギエルは瓦礫の山に吹っ飛んでいった。

 

(倒し……てはいないでしょう。これで終わる相手なはずはありません)

 

 

 

 

 

 

 

 今までのダークメガミの比ではない強さのダークオレンジを前に、苦戦する女神一同。 

 

(今までのみたいな理性や知性を感じられないようなものではなく、巨大な体躯、膨大な魔力、そしてネガティブエネルギーを使いこなしている。……やりづらいわね。攻め方を変えてみましょう)

 

「……行くわよノワール!」

「もう、命令しないでよね!」

「「『アサルトコンビネーション』‼︎」

 

 ネクストパープルとネクストブラックの連携技を合図に、女神たちはバラバラに攻撃を仕掛けるのではなく、連携をとりながら攻めていく。

 

「行くわよロムちゃん!」

「わかった……! ラムちゃん……!」

「ネプギア! あたしたちも!」

「うん!」

「「『ロムちゃんラムちゃん』ーー!」

「「『シュタルクヴィータ』!」

 

 ノワールのトルネードソードとネプテューヌの32式エクスブレイドの同時攻撃、ルウィー女神候補生自慢の氷魔法連携攻撃、ネプギアとユニの連携攻撃が三方向からダークオレンジを襲う。

 ただのダークメガミなら、これだけでもHPの大半を削られるものだが、

 

「効かん! 効かん効かんっ!」

 

 ダークオレンジは怯むことすらなく、反撃に巨腕を振るう。

 

「ロム! ラム! 私の後ろに!」

 

 ネクストホワイトがロムとラムの盾となり、ダークオレンジの攻撃を防ぎ切る。

 

「……ふん、今の攻撃を防げていい気になっているようだが、長引けば長引くほど不利になるのはお前たちだぞ? シェアリングフィールドにも、お前達の変身にも制限時間は存在する。そのうちの片方でも過ぎればオレに勝つことなどできなくなるのだ! ふははははははッ!」

「なら、過ぎる前に倒し切ってあげるわ!」

 

(ギンガも頑張っている。だから私も……!)

 

 

 

 

 

 

 

「痛ってぇー……」

 

 ルギエルは瓦礫の山から這い出て、邪魔な瓦礫を無造作に投げたり蹴飛ばす。

 額や腕から血は流してはいるが、戦闘を継続することには支障のない程度のダメージだった。

 ルギエルが頑丈だというのもあるが、咄嗟に防御してダメージを低く済ませていたのだ。

 

「ふーっ…………ははっ」

 

 戦況的にはギンガの方が有利に見える。

 しかし、ルギエルは余裕の笑みを崩すことはない。

 

「……お宝を使うのはもっと後にしようと思ってたんだけどな」

 

 ルギエルが取り出したのは濁った紫の刀身を持つ剣、そしてもう片方の手に持つのは様々な色に光る水晶だった。

 

「ゲハバーンって知ってっか?」

「「……!」」

「その反応、知ってるようだな。まぁこの次元にもゲハバーンはなかったんだけど、うずめちゃんが俺の話を聞いて作ってくれたんだ。本物より性能が劣るっつってたから『ゲハバーン・レプリカ』って感じかな」

「「その剣で……女神様を殺すつもりですか……!」」

「いや、この次元の女神をぶっ殺すのはうずめちゃんの役目さ。つーわけで使うのはこの水晶だ」

 

 その水晶とは、対女神武具『インターセプトスフィア』。

 女神の死後、行き場を失ったシェアが新しい女神を生むことを阻害するために、女神の遺体から神格とシェアエネルギーを封印し、国の発展そのものを止める禁忌のアイテム。

 

「この水晶は、俺が今まで殺してきた守護女神やそれに等しい神格を持つ者、そいつらの命をストックできるものなんだよ。つまりこの中にストックしてある命をゲハバーンに吸わせると……」

 

 ルギエルが水晶をゲハバーン・レプリカで斬り裂くと、水晶中の光がゲハバーン・レプリカの刀身に吸われていき、禍々しい紫色に光っていく。

 

「……完っ成ー! これで、ゲハバーン最終形態だ!」

 

 ルギエルが最終形態となったゲハバーン・レプリカを手にしたその瞬間、ギンガは戦慄した。

 

(これは……? 彼があの剣を持った瞬間から……彼の未来が予測できません……!)

 

 ゲハバーン・レプリカの禍々しい底知れない力の前では、イストワールですらその予測が不可能。

 故に、ギンガはこの先の戦闘において未来予測を封じられることになる。

 

「へえ……これの未来は見えないんだ、お前ら。まぁ当然か。レプリカとはいえゲハバーンだもんな」

 

 ルギエルはギンガの反応からそれを察する。

 そして、ゲハバーン・レプリカを思いのままに振り回す。

 

(……しかし、未来が見えなくても、勝負が決まるわけではありません!)

 

 ギンガは未来予測をせずとも、変身合体によって上昇した反応速度でゲハバーン・レプリカの斬撃を全て回避する。

 その斬撃の余波だけでギンガの背後にある高層ビルが薙ぎ倒される。

 

(たった一閃でこの破壊規模……噂である『ゲイムギョウ界を滅ぼす魔剣』という肩書きは嘘でなかったということですか……)

 

「ははっ、すっげ。本物には劣るっつってたけど、十分やべえもん作ってくれたじゃんうずめちゃん」

 

 ルギエルが笑いながら無造作に振るう斬撃の余波で、プラネテューヌの都市がどんどん崩壊していく。

 

「そうだ。俺がゲイムギョウ界のカスどもをぶっ殺して、うずめちゃんが女神どもをぶっ殺した暁には、あの一番でかい塔をうずめちゃんと一緒にゲハバーンで縦に両断すっか。ケーキ入刀みたいな感じで。ははっ!」

 

 ルギエルはプラネタワーだけに斬撃の余波が届かないように、器用にプラネテューヌを破壊していく。

 

「「あまり調子に乗らないでいただきたい!」」

「お?」

「「これで終わらせてあげましょう! 『シェアリングフィールド』展開‼︎」」

 

 ルギエルが悦に浸ってる隙に、ギンガは射程距離にまで一気に接近し、必殺のシェアリングフィールドで一気に勝負を決めにかかる。

 

「……はっ! 調子に乗ってんのはどっちだろうなぁ!」

 

 しかし、展開される寸前に、シェアエネルギーの塊がゲハバーン・レプリカによって両断され霧散していき、シェアリングフィールドは不発となった。

 

「「……⁉︎」」

 

(……なんという力! シェアリングフィールドそのものを切り裂くとは……!)

 

「さっきまでの威勢はどうしたァ⁉︎ お得意の未来予測とシェアリングフィールドが通用しなくてお手上げってかァ⁉︎」

 

(まずは、あの剣をどうにかしなくては……!)

 

「さぁて! こっからは出し惜しみなしで行かせてもらおうか!」

 

 ルギエルが懐から取り出して投擲したのは、対女神武具『神誅手裏剣』。

 幻影夢忍界というゲイムギョウ界と似た次元で入手した手裏剣をルギエルが自身のアトリエで加工したもの。

 その効果は、投擲した手裏剣がシェアエネルギーに反応し自動で追尾していく、というもの。

 

(……厄介な武器ですが、奴の手を離れた瞬間に私たちの未来予測が可能となり、完全に躱し切れます。だが、おそらく彼もそれは承知。本命はやはりゲハバーンの斬撃……!)

 

「はっ、ゲハバーンがお望みかい? だったら、こんなのはどうだ!」

 

 ゲハバーン・レプリカの持ち手に鎖を縛り付け、鞭のようにしなやかな軌道とロングレンジで振り回す。

 その鎖もまた対女神武具であり『トラッカーチェーン』と呼ばれ、高いシェアエネルギーに反応しどこまでも伸びていくものである。

 

(……厄介な道具ですが、鎖を斬れば……!)

 

「おおっと」

 

 ギンガが狙いをトラッカーチェーンに向けた瞬間、ルギエルはチェーンを縮小させて手元にゲハバーン・レプリカを戻す。

 

「おいおい、ゲハバーンだけに意識がいってるぜぇ?」

 

 ルギエルは、ゲハバーン・レプリカに意識の大半を割いていたギンガの横腹に回し蹴りを入れ込んだ。

 

「「かは……っ!」」

「いいね、いい気分だ。さっきまでなんも当たらなくてイラついてたけど、ようやく当てられて気分がいい」

 

 ギンガイストワールやギンガトリニティは敵の攻撃を喰らわないことが前提の合体であり、合体時のダメージは通常よりも行動に支障をきたすものとなる。

 変身合体による消耗に加えて溜まっていくダメージによってギンガの動きは段々と悪くなっていく。

 故に、先程までは拮抗していたように見えた戦況も次第にルギエルの方に傾いていく。

 

「……いい加減飽きてきた。お前らの限界も見えたしな。そろそろ終わりにしようか。俺も必殺技ってやつをやってやろうかね。えっと……さっき食らったのはこうだったっけか?」

 

(……! あの構えは……!)

 

「名前は……そうだそうだ、『ギャラクティカネプテューンブレイク』っつったか。よっし、じゃあ行くぜ。『ギャラクティカネプテューンブレイク』!」

 

 ルギエルは、一度受けただけで、ギンガトリニティの必殺技『ギャラクティカネプテューンブレイク』を完全に模倣してみせた。

 

「「……『ギャラクティカネプテューンブレイク』ッ‼︎」」

 

 対するギンガも自身の必殺技で迎撃する。

 ギンガの持つ星晶剣銀牙とルギエルの持つゲハバーン・レプリカが正面からぶつかり合う

 そして。

 

「……終わりだな」

 

 ガキン、と金属が砕ける音が鳴り響く。

 

「「……ぁ」」

 

 星晶剣銀牙が。

 長い時の中、だだ一度も欠けることも朽ちることが無かった刃が。

 折れて、砕けて、散っていった。

 

 



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13. その名はサーガ

 

「想いに価値はねえ。あんのは力だけだ。そして力の象徴である暴力がこそか最も澄んでいて尊いもんなのさ」

 

 崩壊したプラネテューヌ。

 

「ギンガトリニティだっけか? ま、悪くない暴力だったと思うぜ。けど、ゲハバーンの方が優れた暴力だったってだけだ」

 

 倒れ込むギンガとイストワール。

 

「くたばったかな。死体遊びをする趣味はねえし、カスどもを皆殺しにしてから心次元に行って愛しのうずめちゃんに加勢するとしようか」

 

 ルギエルがプラネテューヌだった廃墟と瓦礫の塊に背を向ける。

 

「……まだ、まだです」

 

 すると、ギンガが地面に這いつくばりながらルギエルの足を掴んだ。

 

「もう終わったろ。いい加減しつこいぜ」

 

 ルギエルは飽き飽きした表情でギンガの腹部に蹴りを入れる。

 

「がはっ!」

「キル確認してなかった俺が言うのもなんだけどよ、生きてたなら寝てりゃいいものを、わざわざ起きて邪魔すんなら今すぐ死にたいってことだよな? だったら望み通りにしてやるよ!」

 

 ルギエルがゲハバーン・レプリカを振り上げたその時、闇の魔力で生成された槍がルギエルに向かって飛来した。

 

「……あ?」

 

 マジェコンヌがルギエルの前に立ち塞がるように着地する。

 

「マジェコンヌ……どうしてここへ……」

「いくら私たちが猛争モンスターに善戦したといえ、貴様がルギエルに負けてしまってはゲイムギョウ界は終わりだ。だから様子を見にきたのだが……この有り様か」

「どけよ、マジェコンヌちゃん。俺マジェコンヌちゃんのこと割と好きだからさ、殺したくないんだよね。でも、邪魔すんなら殺すしかなくなる」

「退くわけにはいかん」

「はぁ……どいつもこいつも、どうして他人なんかのために命をかけて戦うんだか」

「おかしなことを言う。貴様が今戦っている理由も、暗黒星くろめのためだろう?」

「……俺マジェコンヌちゃんのそういうこと好きだけどマジで嫌いだな。まぁいいや。どかねえなら殺す」

 

 マジェコンヌは変身し、ゲハバーン・レプリカの斬撃を槍で受け止める。

 

(何という速く重い攻撃だ……! ギンガはこんなやつと戦っていたのか……っ!)

 

 しかし、変身したマジェコンヌでさえ、ルギエルには身体の強さも武器の強さも劣る。

 ギンガトリニティほどの善戦も出来るわけがなく、すぐに追い込まれていく。

 

「ほら、無理じゃん。マジェコンヌちゃんじゃ俺を止められねーよ?」

「無理であることが戦わない理由にはならん!」

「ウザいこと言うなよな」

 

 マジェコンヌの抵抗も虚しく、マジェコンヌの攻撃はルギエルに届くことはない。

 逆に変身が解除されるほどのダメージを食らって膝をつく。

 

「……『ギャラクティカクロスシュート』!」

 

 マジェコンヌが戦っている間に、なんとか体力を振り絞り立ち上がったギンガがルギエルに必殺光線を撃ち込む。

 

「お前はもう終わったっつってんだろ」

 

 しかし、光線はゲハバーン・レプリカに斬り払われ、その全てが霧散して消える。

 

(やはり……私たちでは勝てないのか……! 私たちの想いは……奴の力に蹂躙されるだけなのか……!)

 

 力は届かず、技も通じず、万策が尽き、守りたかった国は壊され、遂にギンガも心が折れそうになっていた。

 

 

 

 

『……そんなことはないわ。ギンガ』

 

 

 

 

 

「……⁉︎」

 

 唐突に頭の中に鳴り響く声に驚きを隠さずにいた。

 何故なら、その声の主は…………

 

『久しぶり……ってほどでもないか。この前死にかけてたあなたを追い返した時ぶりね』

 

 …………初代プラネテューヌ女神のものだったからだ。

 

『女神の加護を込められる指輪、ねえ。いいもの持ってるじゃない、ギンガ。なら、貸してあげるわ。私の加護……いいえ、私たち全員の加護を!』

 

 その瞬間、プラネテューヌ近辺のあるダンジョンから光の柱が出現する。

 そのダンジョン、『初代女神の聖域』から出現した光の柱は、軌道を変えてギンガの持つネプテューヌリングに収束されていく。

 

「なんだ……あの不愉快な光は……?」

 

 ルギエルは不快な表情を見せるが、未知なるものに対して下手に手を出すことは危険と判断し、距離を取って様子を伺う。

 

『あなたがあの石碑を作ってくれたから、みんなあそこで安らかに眠っていられたんだけど、もう一人のギンガが持ってるあの剣のせいで、一時的に私たちの魂が叩き起こされちゃったのよね』

「そうだったんですか……」

『でも、結果オーライね。これでまたあなたと共に戦える。ネプテューヌちゃんがあなたへ贈ったプレゼントを利用するのは少し気まずいけど、まぁ事態が事態だからね。それに……』

『……お姉ちゃん、久しぶりにギンガと話せて嬉しい気持ちはわかるけど、無駄話しないの。早くして』

『もう、ちょっとぐらいいいじゃない……さぁ、ギンガ。もう一度ネプテューヌリングを起動して』

「はい!」

 

 ギンガネプテューヌに変身する時よりも、強く眩しい光に覆われる。

 ギンガに付与されるのは、歴代プラネテューヌの女神全員の加護。

 

(ギンガさんは……全ての女神様の加護を得て、プラネテューヌの歴史そのものへと進化しようとしている……)

 

 銀色の糸で紡がれきた紫の星が、今ここに収束される。

 全ての想いがギンガの力となって世界を照らす。

 『ギンガ』という存在をも超えた姿。

 

「変身……完了……‼︎」

 

 その名は『サーガ』、ここに降臨。

 

 

 

 

 

 

 

 サーガ降臨のとてつもないエネルギーは次元をも超え、心次元にまで伝わっていた。

 

『……おいおい、次元を超えて伝わるレベルのパワーってどういうことだよ? 超次元で何が起こってやがるんだ?』

 

 その衝撃に、一旦女神たちとダークオレンジの戦いの手が止まる。

 

「とてつもない力を感じますわね。けれど……」

「そうだな。なんだか……」

「……ええ、暖かくて……優しい光」

「ギンガ…………そういうことね。これが……あなたが紡いできた想い、紡いできた光なのね。全く、ギンガはもうあなたたちのじゃなくて私のなのに……まぁいいわ、今だけは」

 

 

 

 

 

 

 

「気持ち悪」

 

 サーガを前に、ルギエルはただそう吐き捨てる。

 

「……けどいいさ。それも全部否定してやるよ。何度でも言ってやる。想いに価値なんてねえ」

 

 ルギエルはゲハバーン・レプリカを握り直し、サーガの首元に刃を伸ばす。

 

「……」

 

 対するサーガは、その場から動くことなく、両手を広げる。

 

「……『ギャラクティカエスペシャリー』」

 

 そして広げた全身から必殺光線を放つ。

 

「はぁ⁉︎」

 

 ルギエルは咄嗟に体を捻って回避する。

 

(おいおい。あの技はマジェコンヌちゃんから聞いてた話だと、隙がデカすぎてタイマンじゃ使い物にならねえんだろ? 今全くの貯め無しで飛んできたんだが?)

 

 そして再び距離を取り、サーガの魂の輪郭を観察する。

 

(……なるほど、今のこいつをさっきまでのこいつだと考えない方がいいな。姿自体あまり変わりはしてねえが、存在の質が違う。だがしかし! 奴がまとってる光は間違いなく女神の力! 女神の力なら、ゲハバーンでぶっ殺せる! ……いや、殺せる、じゃねえ! 殺す‼︎)

 

 サーガの観察を済ませたルギエルは、再びゲハバーン・レプリカを振りかぶり、必殺光線での迎撃を警戒し、直線状ではなく曲線状に攻撃を仕掛けていく。

 

「来い、星晶剣銀牙」

 

 そう言ってサーガが正面に手をかざすと、砕け散った星晶剣銀牙が集まっていく。

 

「そして、生まれ変われ! 『創世剣サーガ』‼︎」

 

 サーガは女神の加護と祈りを使い、星晶剣を再生、進化させた。

 

「『デルタスラッシュ』!」

「……ちっ」

 

 ルギエルはデルタスラッシュの飛ぶ斬撃をゲハバーン・レプリカで弾き飛ばす。

 弾き飛ばされた聖なる光を含んだ斬撃が瓦礫の塊となったプラネテューヌの街並みに当たると、建物や道路が破壊される前の姿に戻った。

 

「はぁ⁉︎」

 

 それこそが、創世剣サーガの力。ゲハバーンが未来を否定する魔剣ならば、創世剣サーガを未来を創る聖剣。

 

「『ミラージュダンス』!」

 

 サーガは間髪入れずルギエルに斬りつける。

 

「ちぃ……っ」

 

 ルギエルはゲハバーン・レプリカで創世剣サーガを受け止める。

 その戦いの余波により、創世剣サーガの光がプラネテューヌ中に撒き散らされ、プラネテューヌの街並みはどんどん再生されていく。

 

「まずは返してもらいます。あなたが壊したプラネテューヌを!」

 

 そしてルギエルがゲハバーン・レプリカで破壊した街の全てが元通りとなった。

 

(くそっ……好き勝手やりやがって。だが、こいつの動きにも少し慣れてきた。さっきまでとは次元が違う強さであるが、勝てない相手じゃねえ)

 

 ルギエルはサーガを目の前にしても強気な態度と表情を崩すことはない。

 むしろ、今まで戦ったことのない強敵との全力のぶつかり合いにより、更に調子を上げているようにすら見えた。

 

「ならば……『ギャラクティカイリュージョン』」

 

 状況を変えようとサーガが発動したのは、ギンガが過去に用いた分身魔法『ギャラクティカイリュージョン』。その分身には肉体年齢が半減されるという明確な弱点があったが、サーガにおいてその弱点は存在しない。つまり単純な話、戦力が二倍となる。

 

「……まじか。きしょっ」

 

 いきなり二人に増えたサーガに対し、ルギエルは直球な感想を吐き捨てる。

 

「『32式エクスブレイド』!」

「『スラッシュウェーブ』!」

「ちぃ……っ!」

 

 サーガは数の利を活かし、ルギエルの体力を確実に削っていく。

 

(分身……っても、増えれるのは本体だけか。創世剣サーガとやらは増えてねーしな)

 

 しかし、ルギエルの戦いの経験値はギンガ以上。サーガの動きにも即座に適応しつつあった。

 

(こうも早く対応してくるとは……一周回って尊敬すらできるほどの強さですね……しかし!)

 

「『夢幻粉砕拳』!」

 

 一人のサーガの拳技がルギエルに仕掛けられる。

 

(焦ったか。甘えよ!)

 

 だが、そんな強引な攻めは、ルギエルに通らない。

 ゲハバーン・レプリカの反撃を受け、剣先で身体を貫かれ、ダメージが限界に達して片方のサーガが消滅する。

 

「ぬぅ……しかし、任せましたよ、私」

 

 しかし、それこそがサーガの策。

 

「かしこまりました、私。『ギャラクティカクロスシュート』!」

 

 片方のサーガがあえてルギエルに特攻して作った隙に、もう片方のサーガの必殺光線がルギエルに直撃する。

 

「ちぃっ!」

 

 ルギエルは空いた方の掌で光線を弾き飛ばす。左手へのダメージが大きく、動かすことができなくなった。

 

(くっそ、小足みてえな感覚で必殺技ばかすか撃ってきやがって!)

 

 それでもルギエルの戦意が尽きることはない。

 

「結構な力だ。メガミサマのためってか?」

「当然です。女神様の想いが詰まったこの姿。負けるはずがありません」

「はっ、その割にはうずめちゃんに冷たかったよなぁ?」

「……っ」

「あの子が感じた絶望は、憎しみは実際に存在したものだろ? ネガティブ感情で増大したっつっても、零から生まれたものじゃない。それは俺よりお前の方がわかってるんじゃねーのか?」

 

 サーガはルギエルの言葉に素直に耳を傾ける。

 暗黒星くろめという存在を否定しきれないサーガには誰よりも突き刺さる言葉だからだ。

 

「平和のためか。そりゃ大いに結構。けどな、そのために切り捨てられるものはたまったもんじゃねえよ。『暗黒星くろめ』か。いい名前だな。世界に否定され、女神の座を追われ、名前すらも奪われ、そして今存在すらも消されようとしてる。可哀想になぁ」

「……」

「ま、そういう娘が好きで、味方してあげたくなっちまう俺も俺だけどな」

「あなたは……本当にうずめ様を……」

「……ぁー、無駄話だ。お前を殺す。そして抵抗する奴らも殺す。全員殺す。それがうずめちゃんのやりたいことで、うずめちゃんのやりたいことが俺のやりたいことだからな」

「……そうですか」

 

 その言葉を聞き、サーガはルギエルに対して敵意こそあっても嫌悪感を抱くことはもうなかった。

 ルギエルがルギエルなりに暗黒星くろめを愛していることを理解したからだ。

 

「白黒付けようか」

「望むところです」

 

 圧倒的な力を持つサーガであるが、変身していられる時間はギンガイストワールやギンガネプテューヌに比べて極端に短い。

 そしてルギエルも疲弊とダメージによって体力が尽きようとしている。

 お互いこれ以上戦いが長引くことを避けたいため、そして自らの意地を通すため、正々堂々正面から最後のぶつかり合いとなる。

 

「『ギャラクティカネプテューンブレイク』で決めてやるよ」

「その技、気に入ったのですか?」

「割と。でも名前が好きじゃねえな」

「好きに変えれば良いでしょう」

「そうかい。なら……あー……思いつかねえな。『ギャラクティカネプテューンブレイク』でいいわ」

「……そうですか」

 

 ルギエルはゲハバーン・レプリカを強く握りしめて斜めに構える。

 サーガは、右腕で握りしめた剣を地面と平行に突き出してかまえる。

 その構えこそ、プラネテューヌの守護女神相伝の剣技。

 技の名を『クリティカルエッジ』。

 

「はああああぁぁぁぁっ‼︎

「うおおおおぉぉぉぉっ‼︎」

 

 光と闇、両者の紫の剣が交差する。

 

(……あぁ、わかってた)

 

 そして、ゲハバーン・レプリカは砕け散り、ルギエルの右腕が切断されて吹き飛ぶ。

 

「…………っ」

 

(……わかってたさ)

 

 最後の一閃は、サーガが制した。

 

「……くそっ……らしくねえことしちまったぜ。あばよ……!」

「……っ、この期に及んで逃げる気か! ルギエル!」

「お前の勝ちで良いさ……! けど、まだ死ぬわけにはいかねえもんでな」

 

 ルギエルはアイテムを起動し、次元を超えて逃亡した。

 

「くっ……逃しましたか……」

 

 サーガはルギエルを追うことができないため、ゲイムギョウ界の戦士たちと猛争モンスターの戦いに加勢することにした。

 

「さて、最後の仕上げです」

 

 サーガはシェアエネルギーの翼を生やし、空に上がる。

 自らのエネルギー全てを力に変え、頭上に光の球を生成する。

 

「……『ギャラクティカブラスター』‼︎」

 

 その技名と共に、空中で爆ぜた光は軌道を変え雨のように拡散し、戦地へ降り注ぐ。

 ゲイムギョウ界に仇なす猛争モンスターには裁きの光となり、ゲイムギョウ界のために戦う戦士たちには癒しの光となる。

 ギャラクティカブラスターによりおよそ八割の猛争モンスターは駆逐され、残りの二割もバフがかかった戦士たちによって撃破されていく。

 そして遂に、最後の一体が倒されたとき、各地で勝利の雄叫びが上がるのだった。

 

「やりましたね、ギンガさん。いえ、今はサーガさんでしょうか?」

「ギンガでいいですよ。例えるなら『サーガ』は、ネプテューヌ様とパープルハート様の呼び方の違いのようなものです」

『イストワール……久しぶりね』

「その声は……」

『あなたにもずっと感謝したかったの。プラネテューヌをありがとう、そしてこれから頼むわね』

「……はい!」

『そろそろ時間だわ。本当はもっと話したいことがあるけど……これ以上の変身はギンガが持たないから。だから……またねギンガ、イストワール』

「はい。また」

『……あ、そうだ。一つ忘れてたわ』

「なんでしょう?」

『ネプテューヌちゃんに、ちゃんと好きって言ってあげるのよ』

「……余計なお世話です」

 

 サーガの変身が解除される。

 

「イストワール、私は今すぐに心次元へと向かいます」

「もう向かうのですか? 少し休んでも……」

「急がねばならない理由があります。ルギエルの逃げた先はおそらく心次元です。彼はただ逃げたわけではありません。私の予想が正しければ……」

 

 その瞬間、ネプテューヌリングが砕け散る。

 サーガ変身のための歴代プラネテューヌ守護女神全ての加護を蓄えるのに、耐久力が足りなかったのだ。

 

「……ぁ」

 

 ギンガは、ネプテューヌから貰ったアイテムが砕け散る様を目の当たりにして。

 

「うわぁぁぁあああああぁぁぁぁっ!」

 

 大の大人とは思えないような情けない悲鳴をあげるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 右腕を失った際の止血を適当に済ませ、よろよろと心次元を歩くルギエル。

 

(想い、絆、情、その全てを捨てる。自分のためにしか生きない。そして何も持たない。それが俺の生き方だったはずだ。けど……)

 

 ルギエルの頭に浮かぶのは、暗黒星くろめのこと。

 

(……何もかもを捨てたはずの俺が、求めちまった。他者のために戦っちまった。自分の生き方を曲げたその時点で、俺は負けてたんだよな……)

 

 自らの存在を嘲笑しながらも、その瞳には強い意志が宿っていた。

 

(けど、このクソみてえな命にも、まだ一つだけ使い道がある……だから……)

 

 

 

 



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14. 暗黒と虚無の女神

 

 

『女神でもねーのに、そんな小せえ身体ででけえモンスターを倒しちまうなんて、面白いやつだな、お前』

『………』

『お前、名前は? ……っておい! いきなり掴むんじゃねえ! おいやめろ! 口に入れようとすんな!』

『……うるさい。腹が減ってんだ』

『俺は食い物じゃねえぞ!』

『モンスターは殺すと消えるから食えない。この際食えればなんでもいい』

『おいやめろ! 食い物なら出してやるから!』

『なら食わないでやる』

『なんなんだこいつ……』 

 

(……けど、こいつ面白えな。人間が持ってるはずのシェアエネルギーを微塵も感じねえ。人よりシェアが劣る分身体が強えやつは何人も見てきたが、全くのゼロなのは初めてだ。まだガキだが、こいつを上手く使えば、世界をめちゃくちゃにできて楽しめそうだ……)

 

『おい』

『ん?』

『俺と一緒に来ないか? お前はこんな次元なんかで燻ってるやつじゃない。俺はそう思うんだ』

『……食い物をくれるなら行く』

『それなら俺がやるさ。じゃあ、交渉成立だな。俺はクロワール。お前は?』

『俺……? 俺には名前なんかない』

『あー、そういう感じか。まぁ、次元を旅していくうちに名乗りたい名前も見つかるさ』

 

 

 

 

 

 

 

 心ノ最深部。

 サーガの光は次元を超えてネプテューヌたち守護女神にバフをかけ、拮抗していたダークオレンジとの戦況は、一気に女神側が有利となった。

 そして遂に、

 

「必殺! 『烈破夢双絶掌』ッ!」

 

 オレンジハートによる最後の一撃が振り下ろされ、決着となった。

 ダークオレンジは断末魔を上げながら消えていき、先程までダークオレンジが存在していた真下の地面にくろめが苦しみながら這いつくばっていた。

 

「オレは……! オレは…………っ!」

 

(消えるのか……こんなところで……なにも為せぬまま……!)

 

 なんとか立ち上がれたものの、ネガティブエネルギーを練る体力はもう残っていない。タリの女神の力も失われ、次元融合を加速させることはもうできない。

 目の前の女神たちに消されることを待つだけの身であることを嫌でも理解していた。それどころか、女神たちが手を出さずとも自身のエネルギー体を維持できず消滅していく運命であった。

 

「【オレ】……」

「やめろ! 来るな……っ!」

 

 うずめがくろめの方へゆっくりと歩いていく。

 

「……【オレ】の罪は俺の罪だ。お前を一人にはしないさ、一緒に死んでやるよ。一人じゃ寂しいだろ? それに、俺は過去の女神だから俺に帰る場所なんてないしな」

 

 その表情は優しく穏やかなものだった。

 加えて、それはうずめの出した答えでもあった。天王星うずめという女神そのものが消えてなくなること、これこそが真の猛争事変の終息である、と。

 

「そんなの嫌です!」

 

 しかし、ネプギアがうずめの腕を掴み、その歩みを妨げる。

 

「私はまだうずめさんと一緒にいたい! うずめさんに死んでなんてほしくない! うずめさんの帰る場所ならあります! 私たちの帰る場所がうずめさんの帰る場所です! だから……死ぬなんて言わないでください……!」

 

 ポロポロと瞳から涙を流しながら、うずめの腕を掴んで離さない。

 

「うずめさん……行かないで……行かないでよぉ……」

「ぎあっち……」

 

 うずめも涙を漏らす。

 

「良いシーンだな」

 

 吐き捨てられた言葉にその場の全員が振り返る。

 声の主は心ノ最深部へと辿り着いたルギエルだった。

 

「天王星うずめは帰る場所を見つけて、暗黒星くろめは消えてなくなって、心次元編終了。ハッピーエンドか。感動的だな」

 

 身体中傷だらけで右腕も無い満身創痍のルギエルに対して、女神たちは手を出すことはできなかった。それどころか、敵であるルギエルを心配そうに見つめる者さえいた。

 

「気に入らねえ終わり方だ。だから、助けてやるよ、うずめちゃん」

「助けるって……そんなことより、どうしたんだよその傷!」

「ははっ、ごめんな、負けちまった。心配してくれんの? 嬉しいね」

「……そうか。オレも負けたよ。猛争モンスターも全滅した。オレたちの負けさ」

「諦めんなよ。まだだ」

「まだ……? オレはもう【俺】にシェアクリスタルの力を殆ど使われてしまった……タリの女神の力も今のオレには扱えない……もうオレたちにできることはない」

「いいや、方法はある。うずめちゃんに俺の命をやるよ。そうすれば、うずめちゃんはまだ戦える。そして、シェアクリスタルに依存する必要もなくなるさ」

「……! でも……そんなことをしたらキミが……!」

「良いさ。男ってのは馬鹿な生き物でな、惚れた女のためなら命なんて捨てれるんだよ」

 

 そう言ってルギエルは『インターセプトスフィア』の欠片を懐から取り出した。

 インターセプトスフィアには、女神の神格を封印するだけでなく、ある者の命を単位として形にし、他者に譲渡できるようになるという効果もある。

 

「さぁ、コンティニューといこうか、うずめちゃん。俺と君の二人で」

「オレが好きって本当だったのか……どうして……」

「さぁな。俺もよくわかんねーよ。でも、俺にとってはこれでいいのさ」

「ルギエル……」

 

 自らの命をインターセプトスフィアの欠片に込めていくルギエル。

 

「クロワール!」

『あ? なんだよ?』

「お前にも、色々世話になったな。あばよ」

『……あぁ。じゃーな』

 

 ルギエルは長い付き合いだったクロワールにも最期の挨拶をするのだった。

 

「……愛してるぜ、うずめちゃん」

 

 そう囁いてからくろめを抱きしめ、その命をくろめに渡して消えていった。

 そして、くろめは命と身体を取り戻した。

 

「……どうして、オレに命なんてくれたんだ」

 

 しかし、念願の命と身体を手にしても、くろめの表情は暗かった。

 

「そのせいで……憎しみ以外の感情を思い出してしまったじゃないか……! キミがいなくなってから、キミにそばにいて欲しいと思ったって……キミのことを想ったって、もう遅いのに‼︎」

 

 浮かべるのは悲哀。

 

「うああああああっ‼︎」

 

 その叫びと共に再びダークオレンジへと姿を変えるくろめ。

 

「まだやろうっての……?」

「私たちも力を使い果たしたってのに……!」

「……待って、様子がおかしいわ!」

 

 ダークオレンジはその場から動くことなく、ひび割れて崩れていっていた。

 

「何が起こっているの……?」

「見て! 何か出てくるわ!」

 

 そしてダークオレンジの中から、守護女神のような者が姿を顕す。

 

「あれは……黒い……オレンジハート……?」

「……変身完了。名前をつけるとするなら、ダークオレンジを超えた……『アークオレンジ』ってとこかな。感じるよ。暴力的なまでに満ちた生命力、これがキミの命か、ルギエル」

 

 そう言ってくろめが正面に手を翳すだけで、衝撃波が発生し、女神たちを弾き飛ばす。

 

「きゃあああっ!」

「なんて力……っ!」

「そうだ、これがオレの……オレたちの力。そして、オレこそが天王星うずめだ。【俺】の力も存在も返してもらう」

「どういうことだ……? ……うわっ!」

 

 くろめが創り出した黒いもやが実体を持ち、うずめを縛りつけ、くろめの方に引き寄せていく。

 

「ぐ……こんなもの……!」

「抵抗は無意味だ。【俺】の力も吸収し、オレは真の完全体となる!」

「うわぁあああっ!」

 

 黒いもやがうずめの全身を覆い、そのもやはくろめに吸収されていった。

 

「そんな……うずめさんが……吸収された……!」

「さて、本当の最後の戦いといこうか。まぁ、キミたちにはもう抵抗する体力も残ってなさそうだけど」

 

 力の殆どを使い果たした女神たちは、もう為す術もないと思われた。

 

「ネプテューヌ様ーーーーーーッ!」

 

 その時、ギンガが心ノ最深部に全力疾走で駆けつける。

 

「あの感じ……やはりルギエルはうずめ様に命を渡したようですね」

「そうだよ。ギンガには全部わかってるんだね」

「昔の私なら、同じことをしたかもしれませんから」

 

 言いながら、アークオレンジとなったくろめに目を向ける。

 

「これはまた良い姿になられましたね、うずめ様」

「皮肉じゃなくて本心で言ってそうだなキミは。そうだよ。これはオレがルギエルからもらった命で得た力さ」

「あの男は、本当にあなたを愛していたんですね」

「……そういうことになるのかな。キミのことだから無策でここに来たわけじゃないだろう?」

「そうですね」

「ならやると良い。キミたちが何をしようが、オレたちの力でその全てを踏み潰してあげるよ」

 

 くろめはギンガを見据えたままその場を動くことはなく、全ての思惑を正面から捩じ伏せる、という意志を示す。

 

「時間をいただいたので早速やりましょう、ネプテューヌ様。私がシェアクリスタルになってネプテューヌ様を強化いたします」

「……っ、ダメ! それだけはやっちゃダメ! それをしたらギンガは……っ!」

「ご安心を。いつまでもあなたを悲しませるだけの私ではありません」

「どういうこと?」

「命をかけて生成するのではく、私自身がシェアクリスタルに変身するのです。つまり、私が死ぬことはありません。戦闘が終われば元の姿に戻ります」

「嘘じゃないよね?」

「当然です。それに、私はまだ死にたくありません。あなたのお側にいたいので」

「……その感じなら嘘じゃないっぽいね。ならお願い!」

「かしこまりました!」

 

 ギンガは返事と共に、掌サイズのシェアクリスタル『ギャラクティカシェアクリスタル』に変身する。

 『ギャラクティカシェアクリスタル』、ギンガが半人半人工生命体から完全な人工生命体に生まれ変わったことにより可能となった変身であり、二度とネプテューヌを泣かせぬよう自身の命を賭けずともネプテューヌの力になれるように、というギンガの想いが込められたものである。

 

「行こう、ギンガ」

 

 ギャラクティカシェアクリスタルを手にしたネプテューヌは軽く口づけし、変身する。

 

(お姉ちゃんが、クリスタルだからってどさくさに紛れてギンガさんにキスした……! それにギンガさんと一緒に戦えてすごく嬉しそう……!)

 

 ネプテューヌは『ネクストパープルギャラクティカグリッター』への変身を果たした。

 シルエットは変わらないが、手足や装甲に銀色のラインが入り、通常のネクストフォームをも超えた力と輝きを放つ。

 

「最後の勝負ね、くろめ。いえ、『天王星うずめ』! 私とギンガの力、見せてあげるわ!」

「……プラネテューヌの今と未来を象徴するねぷっちと、プラネテューヌの過去を象徴するギンガ。良いね。ゲイムギョウ界を滅ぼす際にキミたちを消し去ることが、オレにとって大きな意味を持つことになる。行こうルギエル。オレのキミの二人で全て壊してやろう……!」

 

 

 

 

 




ルギエル プロフィール
身長 182㎝
髪の色 銀
好きな食べ物 生肉 ナス 
趣味 対女神武具収集、製作
特技 戦闘行為


対女神武具ランク
S ゲハバーン
A+ アブソリュートダガー
A インターセプトスフィア アンチクリスタル
A- 神骨刀 神討の小刀
Bトラッカーチェーン 神誅手裏剣


次回、心次元編最終回です。
最後だからってオリジナル変身体増えすぎだろなんだこれ。




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FINAL. 最後の勝者

 

 

 

 

「協力に感謝するよ、イストワール」

「いいえ。うずめさんの願いですもの」

 

 海男はうずめの仲間だったモンスターたちを超次元まで避難させていた。

 

「……よし、これで全員だな」

「後は、女神様たちの勝利を祈るのみです」

「俺には祈ることしかできない……うずめ……帰ってきてくれ……!」

 

 

 

 

 

 

 

 心次元、心ノ最深部。

 対峙するネクストパープルギャラクティカグリッターとアークオレンジ。

 

「……大きいわたし。頼みがあるの」

「変身したわたしにそうやって呼ばれるのちょっと違和感あるね。なーに?」

「みんなを連れて心次元から脱出して」

「一人で残るの?」

「一人じゃないわ。ギンガがいるもの」

「でも、お姉ちゃん……!」

「ネプギア、変身する体力が残ってない私たちが残ったところで足手まといにしかならないわ」

「ノワールさん……」

「ネプテューヌ、絶対帰ってきなさいよ」

「そうだよ、絶対に帰ってきて、お姉ちゃん。帰って来なかったらお姉ちゃんのプリン全部食べちゃうからね」

「……何が何でも帰らなきゃ行けない理由ができてしまったわね」

 

 ネプテューヌ(大人)はクロワールの力でゲートを作り、仲間を連れて心次元を脱出した。

 

「別れの挨拶は済んだかい?」

「あら、待っていてくれたのね」

「そこまで無粋ではないさ。それに、全力を出したキミたちに打ち勝つことに意味があるんだから」

「そう。なら、行かせてもらうわ!」

 

 声と共に、紫の光が強くなり、まるで翼のように広がっていく。

 そして瞬きすらも許さぬ速度で、くろめへと翔ける。

 

「『クロスコンビネーション』!」

 

 くろめは避けようともしない。

 

「『夢双連撃』」

 

 向けられた剣の連撃に拳で応戦する。

 刃と拳だけでなく、込められたシェアエネルギーのぶつかり合いの衝撃により、轟音が響き渡る。

 

「……くっ」

 

 すると、くろめの掌から鮮血が飛ぶ。軽い切り傷程度であったが、今のネプテューヌの剣をくろめの拳では受けきれないことを意味していた。

 

(ならば……)

 

 くろめは切り傷自体は即完治させたものの、手ぶらで戦うのは不利と判断する。掌からネガティブエネルギーのドス黒いオーラを放出し、そのオーラはメガホンへ姿を変える。

 

「すぅ〜……ぁあああああああッッ‼︎」

 

 メガホンに向かって絶叫し、メガホンから放たれた破壊音波がネプテューヌを襲う。

 

「『32式エクスブレイド』」

 

 ネプテューヌは迎撃のため、32式エクスブレイドを現出させる。一本だけでなく、ノワールの『ナナメブレイド』から発想を得て、四本の32式エクスブレイドを自身の周りに浮遊させ、盾代わりにし身を守る。

 

「……『クリティカルエッジ』!」

 

 破壊音波から防御して間も無く、くろめの斬撃がネプテューヌを襲う。

 

「えっ⁉︎」

 

 ネプテューヌが驚いたのは、くろめが剣を握っていたことに加え、口に出した技名。

 咄嗟に太刀で受けで防御するものの、力を入れ切ることができず、大きく弾き飛ばされる。

 

「くっ……!」

「拳とメガホンで戦うことが一番オレに適しているけど、剣を使うのも悪くないね」

「まさか……あなたがクリティカルエッジを使ってくるなんてね」

「これはプラネテューヌ相伝の剣技。オレにも使えないわけじゃないよ」

「……確かにね、()()

「ふっ。生意気だよ、()()

 

 紫の太刀と黒き剣、刃と刃が交じり合う。

 剣の腕ではくろめはネプテューヌに劣る。だからこそ、拳やメガホンによる攻撃を織り交ぜる。

 両者一歩も譲らぬ激戦が繰り広げられる。

 

「はぁぁぁっ!」

「うぉぉぉっ!」

 

 激戦の中、一瞬ネプテューヌにはうずめの動きがブレて見えた。

 

(あれ……?)

 

 それは目眩や幻覚ではない。ネプテューヌには、今まで見えていなかった何かが確かに見えていた。

 そして、そのブレが見えた時から、それまで以上に、くろめの攻撃に対して即座に的確な対応をすることができている。

 

(くろめから出ているオーラみたいなものが見える……くろめと同じ形をしたオーラが…………これは、まさか!)

 

 ネプテューヌは気づいた。

 

(そうだわ……ようやくわかった……! これがギンガの言っていた『魂の輪郭』!)

 

 並外れた五感に加え、百戦錬磨の上に得た第六感により敵の状態を把握しその行動を予測する。

 守護女神ですら辿り着いていない戦闘における技の極地。

 

(その極地に立った者のみが見えるものがこの魂の輪郭なのね!)

 

 ギンガの力と想いと共に戦うことにより、ネプテューヌはその極地に足を踏み入れたのだ。

 

(……ねぷっちの動きが変わった……?)

 

 自らに届く刃の数が増え、自らが届かせる拳と刃の数が減っていることに、当然くろめも気がつく。

 

(これは……明らかにねぷっちにはオレの見えていないものが見えている…………っ、いや違う! この感じ……ねぷっちだけじゃない、ギンガだ! 思い出せ……ギンガの見えているもの……ギンガがよく言っていたこと……)

 

 うずめは戦いの最中、自らの記憶を辿る。

 

(……『魂の輪郭』、おそらくそれだ! どうすればオレもそれが見れる……? いや、どうすればじゃない、オレにだって見えるはずだ! 何故ならば!)

 

 今持つくろめの命が、元々誰の命であるかがその答え。

 

(ルギエル、オレを導いてくれ!)

 

 そう、ルギエルに見えたものが、くろめにも見えぬはずがない。

 

(見えた! ねぷっちの魂の輪郭!)

 

 そして、くろめもネプテューヌが踏み入れた極地へと辿り着く。

 

(くろめの動きまで変わった……! へぇ、気づいたのね、やるじゃない……!)

 

 ネプテューヌの動きは綺麗すぎた。だからこそ、結果的に自身の動きを見た相手をその極地まで押し上げることになってしまった。

 だが、それでいい。そんなアドバンテージなどいらない。同じ条件で全力でぶつかり合い、そして勝つ。それは最早、世界を守るためだけではなく、女神としての意地でもあった。

 

 

 

 

 

*   

 

 

「いーすんさん!」

「ネプギアさん! それは皆さん、おかえりなさい。……あれ? ネプテューヌさんとギンガさんは……?」

「残ったわ。ルギエルが命を与えてパワーアップした暗黒星くろめとの決着をつけるために」

「そうですか……」

「でも、暗黒星くろめにうずめが吸収されちゃって……」

「待ってくれ」

「どうしたんですが、海男さん?」

「のわっち、さっき何と言ったかもう一度言ってくれないか?」

「え? えーと、『暗黒星くろめにうずめが吸収されちゃって』……」

「さらにその前だ」

「『ルギエルが命を与えて……」

「それさ‼︎」

「のわぁ⁉︎ びっくりした……それがどうしたのよ?」

「急に大きな声をあげてすまなかったね。それより、暗黒星くろめの人格が別の方法で命と身体を取り戻したなら……ゲーム機の封印を解除したら復活するのは……!」

「……あっ!」

 

 

 

 

 

 

 

 全てをかなぐり捨てて得た虚無の暴力、世界中のネガティブ感情を取り込んだネガティブエネルギー、この二つ合わせ持つ今のくろめは無尽蔵に力が湧く。

 対するギャラクティカグリッターネクストフォームの変身時間は無制限ではない。

 

(……最後に勝つのはオレだよ、ねぷっち)

 

 今この瞬間は互角であっても、その均衡はいずれ崩れる。

 くろめが勝利を確信した…………その瞬間。

 

「……な……んだ……⁉︎」

 

 謎の衝撃がくろめの体内を襲う。

 

「ぐっ……何が起こった……⁉︎」

 

 胸に手を当てると、自らの中から、大事な何かが消えていることに気づく。

 

(【俺】がいない……! オレの中の【俺】が、抜け落ちている……! 何故だ……⁉︎ いや、理由はどうでもいい……! このままだと、まずい!)

 

 ルギエルの命はくろめが復活するための命としては極上のものであった。否、極上すぎた。

 ルギエルの命のあまりにもの我の強さは、【暗黒星くろめ】だけでは制御しきれず、【天王星うずめ】も取り込んで完全体に戻ることでようやく完全に制御ができるほどのものだったのだ。

 しかし、ゲーム機の封印が解かれ、うずめは一つの命となってくろめの中から消え、くろめは自身の力を完全に制御する術を失うことになった。

 

(クソ……っ!)

 

 己の力の出力を下げなければ、力の制御が効かなくなる。しかし、出力を下げれば、目の前の強敵に勝つことができない。

 

(全く……やんちゃな男は嫌いだよ、ルギエル)

 

 しかし、くろめの選択は、出力を更に上げることだった。

 

(そうだ、キミのくれた命だ。【俺】なんていなくたって、使いこなしてみせる)

 

 そして、自らの力の全てを拳に纏わせる。

 

(あの様子……決めに来る気ね)

 

 対するネプテューヌも、自身のシェアエネルギーを高め、刃に乗せる。

 

「『ビクトリィースラッシュ』!」

「『烈覇夢双絶掌』!」

 

 必殺の拳と刃がぶつかり合う。

 

「……っ」

 

 そして、ネプテューヌの太刀が砕け散る。

 

(ねぷっち自体へはダメージを与えられなかった……が、太刀は砕いた!)

 

 武器のないネプテューヌではくろめに勝つことはできない。

 

(オレの勝…………⁉︎)

 

 思いかけて、くろめは戦慄した。ネプテューヌの手には既に別の剣が握られていたからだ。

 

(あれは……!)

 

 それがただの予備の太刀程度のものだったなら、くろめは戦慄しなかっただろう。

 ルギエルの命に深く刻み込まれている敗北の記憶が、くろめの頭に危険信号を放ち続ける。

 その剣は、贋作とはいえあの魔剣をも打ち砕いた希望の聖剣。名を『創世剣サーガ』。

 

「くっ……!」

 

 そして、くろめが気づいたことはもう一つ。

 

(そうだ……ねぷっちのビクトリィースラッシュは必殺技じゃない……!)

 

 必殺技(エグゼドライブ)は高い威力と引き換えに連打することができない。

 だからこそ、ネプテューヌはあえて敵の必殺技には必殺技をぶつけなかった。それ故に自身の太刀を失うことになった。

 しかし、ネプテューヌの真の狙いは、ギンガの意志から託された創世剣サーガでの必殺技、隙を生じぬ二段構え。

 

「『次元……いえ」

 

 くろめは敗北を悟った。

 

「『超・次元一閃』‼︎」

 

 そして、小さく笑った。

 全力を出し合った勝負の愉悦か。

 目の前の強敵への賛辞か。

 自らを超えた後輩への希望か。

 いずれにせよ、その表情からはもう憎悪は感じられなかった。

 

「強いな……ねぷっち」

 

 誰にも聞こえないような小さな声で呟き、自らの敗北を両手を広げて受け入れた。

 

 

 




 エピローグ的なものをやって終わりです。
 ありがとうございました。


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エピローグ
絆よ永遠に/遥かなる旅路


 

 

 

 

 ネプテューヌがくろめを撃破するほんの少し前、ゲーム機の封印が解かれ、うずめが命と身体を完全に取り戻した時のこと。

 

『ただいま、みんな。ただいま、ゲイムギョウ界!』

『おかえりなさい……うずめさん』

『イストワール……久しぶり』

『ごめんなさい……あなたのことを忘れてしまっていて……』

『気にすんなよ。俺だって忘れてたんだ』

『またこうして会えて、話すことができて嬉しいです』

『俺もだよ。吸収されたはずの俺がこうやって復活できるなんて、まるで裏ワザだな』

 

 うずめはそれに安心しながらも少し寂しそうな表情を浮かべていた。

 

『もしかしたら、【オレ】とも分かり合える未来もあったのかな……』

 

 そしてその後、くろめを撃破したネプテューヌとギンガが心次元から帰還した。

 

『みんなー! ただいまー!』

 

 うずめが次元融合を完全に停止させたことにより、零次元と呼ばれた次元も、心次元と呼ばれた次元も、存在が消えることはなくなった。

 こうして、猛争事変と呼ばれた災厄に終止符が打たれ、超次元ゲイムギョウ界には平和が戻った。守護女神の転換期を乗り越えられ、女神への信仰は揺るがぬものとなった。

 また、最近荒廃していた零次元に青空が見えるようになったり、新しく草木が生えるようになってきているという。

 

 そして、それから数週間後。

 

「……本当に行っちゃうの?」

「うん、わたしは旅人だから」

 

 ネプテューヌ(大人)は、天王星うずめと共に平和になった超次元ゲイムギョウ界をひとしきり観光し、それが終わるとこの次元から旅立つことにした。

 

「そっか。それがわたしの決めたことなら、わたしは止めないよ。でも、たまには顔を見せにきて欲しいとは思うかな」

「あはは、そうだね」

「寂しくなるな……ねぷっち」

「うずめとはずっと一緒だったもんね」

「ねぷっちなら心配はいらないと思うけど、元気でやれよ!」

「うずめこそね!」

 

 ネプテューヌ同士で熱く握手を交わし、うずめとは拳を軽く突き合う。

 

「お姉ちゃん……」

「ネプギアも色々ありがとうね。短い間だったけど、可愛い妹ができて楽しかったよ」

「また、会えるよね?」

「わたしって方向音痴だから旅するつもりで戻ってきちゃうかも、なんて」

 

 言いながら、ネプギアを抱きしめて頭を撫でる。

 

「マジェコンヌも見送りに来てくれたんだ」

「悪いか?」

「ううん。嬉しいよ」

「……これを持っていけ」

 

 マジェコンヌがネプテューヌ(大人)に差し出したものは、紫の野菜、ナス。

 

「ナス⁉︎ 嫌だよ!」

「嫌だと⁉︎ これは私の農園で作り上げた最高級ブランドのナス『ディープパープル』だ! 見ろ、この艶! 食べればHPが80%回復するぞ! この一つで何千円もするのだぞ! 持っていけ!」

「要らないったら要らないよ!」

「くっ、せっかく餞別でもと思って持ってきてやったのに」

「ナス以外なら何でも受け取るけど、ナスは嫌なの!」

「ふん、ならばやらん。どこへでも行ってしまえ」

 

 言い合いになってはいるが、どこか和やかな雰囲気だった。

 

「ギンガにも色々とお世話になったね」

「あなたがいてくれたおかげで私も色々と助かりました。ありがとうございました」

「そうだ、いつかリベンジに来るからねー!」

「いつでも受けて立ちます。今度は変身無しで」

「わたしももっと技を磨いておかなくちゃ!」

『……おいネプテューヌ。時間の流れは次元ごとに異なるけどよ、何週間も経っちまってる。早くしねえと見つけらんなくなるぞ』

「あ、そう? それじゃ、みんなー! ばいばーい!」

 

 ネプテューヌ(大人)はとびきりの笑顔と共に大きく手を振り、クロワールが作り出したゲートの中へ消えていった。

 

 

 

 

 

 

 どこかの次元の狭間。

 ルギエルは意識を失っているくろめを抱き抱えながら、行く宛もなくただ歩く。

 

「死にぞこなっちまった。いや、一回死んだは死んだけど」

 

 ルギエルは創世剣サーガの力で、自身が手放した命と身体を取り戻していた。

 

「……あのクソカス野郎め」

 

 彼を蘇らせたのは、他でもないギンガの願いであった。

 

 

 

ーー

 

ーーー

 

ーーーー

 

 

『……なぜ俺を生き返らせた?』

『うずめ様のためです。私はあの方にも消えて欲しくはない。けれど、あの方はまだ超次元に戻ることを望みはしないでしょう。そして、私にはあの方を完全に救うことはできない……だから、あなたに託します』

『はっ、良いのかよ。そんな理由で俺なんか蘇らせて。俺がしたことを忘れたか?』

『超次元においてあなたが壊したものは私が全て創って直しました。他の次元であなたがやったことまでを裁く権利は私にはありません』

『……けっ。ならそういうことにしといてやるよ。けどな、確かに俺が命をあげたからうずめちゃんは憎しみ以外の感情を思い出したが、それでもうずめちゃんが超次元への復讐を望むなら、俺もうずめちゃんと一緒に超次元を滅ぼしに戻ってくるぜ』

『ならば、何度でも止めてみせます』

『……そうかい』

『ねー、ルギエル』

『なんだい、メガミサマ?』

『その呼び方なんか嫌だからネプテューヌって呼んでよ。それより、いつかくろめが自分の気持ちと折り合いが付いたらさ、いつでも超次元に帰ってきてねって言っといて』

『……あいよ』

 

 

ーーーー

 

ーーー

 

ーー

 

 

 

「ぅ……ん……?」

 

 ルギエルの腕の中、くろめが目を覚ます。

 くろめも創世剣サーガの力で再び命を与えられていた。そしてそれもまたギンガの願いであった。

 

「起きたか」

「ここは……? どうして……オレは生きてるんだ……?」

「あー、女神ネプテューヌとあのクソカス野郎が気を利かせたんだ」

「ねぷっちとギンガが……」

 

 くろめは胸に手を当て安堵と寂しさを混ぜてような表情を浮かべる。

 

「あれだけあったオレの中の憎悪を……もう殆ど感じることができないんだ。オレはもう何のために生きればいいかわからない。本当にわからないんだ……」

「必要か? それ」

「え?」

「生きる意味がなきゃ生きてちゃいけないわけないだろ。そんなもんなくたって、生きてるから生きるでいいんだよ。ま、どうしてもそれが欲しいんなら、適当に次元をぶらついてる間に見つけりゃいいさ、ゆっくりな」

「……」

「俺はうずめちゃんに着いていくよ。うずめちゃんのやりたいことが俺のやりたいことだからな」

「……自分で決めるのが面倒なだけじゃないのかい?」

「さぁな」

「なんだよそれ。そんなことより降ろしてくれ」

 

 くろめが不満そうにルギエルの服の襟を引っ張ると、ルギエルはくろめを優しく地面に降ろす。

 

「おーい!」

 

 すると、背後からくろめとルギエルを呼ぶ声が聞こえた。

 

「その声……」

「ネプテューヌ?」

「よかったよかった見つけられて。少し久しぶりだね、お二人さん。旅をするなら一緒に行こうよ!」

「俺はいいけど、超次元はもういいのか?」

「まぁね。あそこの次元は居心地がいいからいつまでもいたかったけど、わたしは旅人だからさ、いつまでも同じ次元にいるわけにもいかないんだ。だから、くろめ……いや、うずめとルギエルが旅するんならわたしも着いていこうと思って」

「いいのかい? オレはキミを殺そうとしたんだよ」

「わたしを殺そうとした悪いうずめはもう小さいわたしがやっつけたから」

「……そうか」

「よぉ、クロワール」

『生きてたんだな、お前』

「ほんとだよ。別れの挨拶をしたってのに、もう再会しちまったぜ。だせーのなんの」

『お前がだせーのなんていつものことだろ。それに、あんなつまんねえ死に方、お前には似合わねえよ』

「それもそうだな」

 

 クロワールの言葉に棘はあるものの、どこかに暖かさを感じられるものだった。

 

「なんか、賑やかになったね」

「いいじゃん。わたしは賑やかなの好きだよ」

『俺はなぁ……うずめもルギエルも毒気が無くなっちまってつまんねえよ』

「お前は相変わらずだな」

 

 暗黒の星は憎しみを失い、銀色の虚無は愛を得た。だからこそ、彼らはもう悪意を振りまくようなことはないという確信がネプテューヌにあった。

 

「さ〜て、どこに次元に跳ぶ?」

「場所はどこでも良いけど俺腹減ったわ。腹減りすぎてこのままじゃクロワール食べちまう」

『おい』

「じゃあまずはどこかでご飯食べよっか」

「食事か……数百年ぶりだから少し楽しみだ」

 

 こうして、奇妙な四人旅が始まるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 プラネタワーの展望台。

 ギンガはプラネテューヌの夜景を眺めていた。

 

(ふむ、プラネテューヌの街並みは、創世剣サーガの力でちゃんと元に戻っていますね。もしかしたらどこかミスって変なことになっているかと心配だったのですが、安心しました)

 

「ここにいたんだね、ギンガ」

「……ネプテューヌ様」

「隣、いい?」

「勿論」

「……ようやく、終わったね」

「ええ、お疲れでした。ネプテューヌ様」

「ギンガこそお疲れさま」

「ありがとうございます。そうだ、ネプテューヌ様に謝らなければならないことがいくつもあります」

「うずめのことを黙ってたことでしょ? 謝らなくていいよ。一番辛かったのはギンガだろうし」

「しかし……」

「わたしがいいって言ったからいいの。もう謝るの禁止」

「……はい」

「あ、でも、わたしに内緒でマジェコンヌと随分仲良くなってたのはちょっと許せないかな」

「仲良くないですよあんな奴」

 

(その反応が仲良いんだよなぁ……)

 

 ネプテューヌはギンガの右手薬指に目をやる。

 

「ネプテューヌリング、壊れちゃったんだってね」

「申し訳ありません……せっかくいただいたのに……」

「ううん、また作るからいいよ。それに安心したんだ。わたしのあげた指輪がちゃんとギンガのことを守ってあげたんだ、って」

「そうですね。たくさん守ってくれました」

 

 ネプテューヌがニコリと笑う。

 ギンガも穏やかな表情を浮かべる。

 そのまま、二人とも喋らずにプラネテューヌの夜景を眺め、展望台に吹く緩やかな風の音だけが響く。

 

「……ねぇギンガ」

 

 沈黙から数分、ネプテューヌが口を開く。

 

「どうしました?」

「わたしね、ギンガにずっと言いたかったことがあるんだ。でも、わたしとギンガお互いのためにも今は言えないんだ。もし先の未来、プラネテューヌの守護女神はわたしからネプギアになった後ぐらいにちゃんと言うから、その時まで待っててくれる……?」

「当然です。いつまでも待ちますとも。それに……」

「それに?」

「ネプテューヌ様が私に言いたいことは、私がネプテューヌ様に思っていることと同じですから」

「えー、本当に? だって、それはギンガもわたしのこと好きってことだよ?」

「はい」

「女神だから好き、とか、家族だから好き、じゃなくて、恋人にしたい、とか、イチャイチャしたい、ってことだよ?」

「はい」

「へ〜、そうなん…………え?」

 

 自らが喋りすぎたことに気づいたこと、そしてギンガの想いを知ってしまったことで、ネプテューヌは顔を真っ赤にして口元をぱくぱくさせる。

 

「……ぜ、全部言っちゃったけど、ま、まぁそういうことで、うん」

 

 ネプテューヌはなんとか平常心を取り戻す。

 

「だから……この話の続きは、いつかの未来で、ね?」

「わかりました」

「だからさ、ギンガ。これからもずっとよろしくね」

「こちらこそ」

 

 すれ違っていた心が遂に交わる………のは今ではなくいつかの未来だが、今は交わらずともお互いの想いの暖かさを感じ合う二人なのだった。

 

(はぁ〜〜〜〜ネプテューヌ様可愛すぎる〜〜〜〜! ……ふぅ、なんとか平常心のまま表情に出さずに耐えることができました。グッジョブです、私)

 

 

 

 

 

 

 

 ここに守護女神たちと女神補佐官:ギンガの"物語"には一旦幕が降りることになる。

 この先のゲイムギョウ界の未来に平和が続いていくか、そうでないかはまだわからない。

 それでも、彼らはどんな困難も乗り越えて、その思いを確かに未来へと紡いでいくだろう。

 

 

 

 

 

 

       紫の星を紡ぐ銀糸N -完-

 

 

 

 

 

 

 




 これにて完結です。ここまで付き合ってくださった読者の皆様、本当にお疲れ様でした。そしてありがとうございました。



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よっしーさんとのオリ主交流企画
白の従者との交流


 初オリ主交流企画です。



 

 

 

 

 この次元のプラネテューヌには、女神補佐官という役職が存在する。

 教会において教祖と対をなす、国のトップである守護女神を補佐する双璧であり。教祖が国政を司るなら、女神補佐官は軍事を司る、などと言われている。

 主な業務は、女神の身の回りの世話、教育、鍛錬などを行うことである。また、プラネテューヌの衛兵や諜報員の戦闘指南を担っている。

 

 そんなプラネテューヌ教会で、ある日のこと。

 

「ネプテューヌさん、今日こそ例の書類をルウィーまで持って行ってください!」

「えー、明日でいいじゃん」

「そう言ってからもう二週間経っているんでいますけど」

「じゃあもう二週間は大丈夫ってことだね!」

「なんでそうなるんですか!」

「この時期のルウィーはいつも以上に寒いんだもーん。暖かくなってからでいいじゃーん」

「何ヶ月先まで引き伸ばすつもりですか! このままじゃ外交問題に発展しちゃいますよ!」

 

 いつものように仕事をサボるネプテューヌと、それを諌めるイストワール。

 その二人の喧騒を聞きながらも、特に気にする様子は見せず、黙々と書類仕事をこなす男がいた。

 

「ギンガさんもネプテューヌさんに何か言ってください!」

「私ですか?」

 

 急にイストワールに話を振られたこの男こそ、本作『紫の星を紡ぐ銀糸』の主人公、女神補佐官の『ギンガ』である。

 身長は182㎝、外見年齢は二十歳程度。イストワールの金髪の真逆のような銀色の髪と星空のような青紫の瞳が特徴で、ネプテューヌ曰く「無駄に良い顔」な容姿。

 人工生命体イストワールが製造される前から生きているほどの長寿であり、初代プラネテューヌの女神の代からプラネテューヌに仕え続けている。つまり、ただの人間ではなく、イストワールと同じく人工生命体で、イストワールと異なる点は、丁度20歳程度の頃に人間から半人半人工生命体に肉体を作り替え、ここ最近完全な人工生命体に生まれ変わったことである。

 

「……こほん、ネプテューヌ様、書類をルウィーに持っていくだけですよ? サッといってサッと帰って来ればすぐです」

「えー、めんどくさーい。ギンガ行ってよ」

「わかりました」

「返事早っ!」

 

 この男ギンガは、女神ネプテューヌにこき使われることを喜びとする男。

 女神の命令を遵守することが生き甲斐。つまるところ、狂信者である。

 「女神を信じない人間は死ぬべきである」と思っていた以前よりだいぶマシにはなっているが、その狂信者ぶりは未だ健在。ネプテューヌに頼まれた雑用を喜んで受け入れるのだった。

 

「イストワール、私がルウィーに書類を持って行くことになりました。プラネテューヌの女神補佐官である私ならば、ネプテューヌ様の代理としての責務を全うできるはずです」

「またそうやってネプテューヌさんを甘やかす……まぁ、わかりました。では、お願いします」

「ギンガー、気をつけてねー」

「飛んでいく際は飛行機などにぶつからないように注意してくださいね」

「はい」

「いってらっしゃーい」

「いってきます」

 

 ギンガは専用のプロセッサユニット『リミテッドパープル』を装備し、ルウィーの方向へ空を飛ぶ。

 

 

 *

 

 

 ルウィー教会。

 

「今日は吹雪が酷いわね」

 

 読者をしながら、窓の外を見たブランが呟く。

 

(外に出れそうにもないし、読書日和ね)

 

 すると、豪雪が吹き荒れる中、ふと光が煌めいた。

 

「……ん?」

 

 その光は強さを増し、ルウィー教会に接近する。

 

「ブラン様ーーーーーーッ!」

「うぉぉおお⁉︎」

 

 その光の正体であり、高速で飛行してきたギンガは、ブランの部屋の窓にペタリと張り付く。

 驚きのあまり大声をあげるブラン。

 ブランが窓を開けると、ギンガはブランに跪くように着地する。

 

「女神補佐官ギンガ、ネプテューヌ様の命を受け、ブラン様の元に参りました!」

「と、とんでもねえ参上の仕方をするんじゃねえ!」

「申し訳ありません。例の書類をお持ちしました」

「……ようやく持ってきたのね。あなた雪まみれだから、タオルを持ってこさせるわ」

「ありがとうございます」

 

 ギンガは、ルウィー教会のメイドから渡されたタオルで頭を拭きながら、ブランの自室から女神の応接間へ向かう。

 応接間へ到着し、書類の内容を照らし合わせながら色々と話し合う二人。

 

「……そういえばブラン様」

「なにかしら?」

「見慣れない子がいましたね。新人のメイド……にしては服装が違いましたし」

「あー、側近よ。名前は『クリスト』」

「クリストさん……ですか。側近? ルウィーの女神補佐官ってことですか?」

「それだとプラネテューヌの後追いしたみたいで癪に触るし、あくまで『側近』よ」

「そうですか。それにしても……彼女はかなりの逸材ですね」

「やはり、あなたには見ただけでわかったようね」

「あれほどの逸材を見たのはあいちゃんとコンパさんぶりですから、心が躍ってしまいました。連れて帰ってもよろしいでしょうか?」

 

 ちなみに、プラネテューヌ諜報員であるアイエフに戦闘の基礎を叩き込んだのもギンガであり、アイエフはギンガのことを『師匠』と呼び慕っている。

 

「ダメに決まってるでしょ。それより、逸材って、アイエフはわかるけど……コンパも?」

「はい。コンパさんも逸材ですよ。もう少しあいちゃんのように性格が戦いに向いている気質なら……と口惜しい気持ちもありますが、それがコンパさんの魅力でもありますからね」

「ふーん。なら丁度いいわ。お願いがあるんだけど」

「なんでしょう?」

「クリストの稽古をつけてあげてくれない?」

「私が……ですか?」

「ええ。私やロムとラムと戦うより良い経験になると思うから」

「私は構いませんけど、クリストさんがどう言うでしょう?」

「私の命令ってことにしておけば断れないわ」

 

 コンコン、と応接間のドアを叩く音が鳴る。

 

「ブラン様、お茶をお持ちしました」

 

 そして、執務室の扉の向こうから、少女の声が聞こえた。

 

「噂をすれば、ね。入って」

「失礼します」

 

 今入ってきたこの少女こそ『白の女神の新たな従者』の主人公、女神ブラン:ホワイトハートの側近『クリスト』である。

 身長は145㎝程度。胸辺りまでの白の長髪のポニーテール、目の色は黒。

 紺色の道着袴を着て、白い足袋と草履を履いている。そこにブランから貰った水色のケープを羽織り、白いポシェットを下げている。

 所謂和装であり、洋風でモダンな雰囲気のルウィー教会では一際目を引く格好をしている。

 

「今日のお茶はベール様からいただいた紅茶になっています。ブラン様、どうぞ」

「ありがとう」

「お客様もどうぞ」

「ありがとうございます」

 

(……うっわ、すっごい良い顔。プラネテューヌの女神補佐官だっけ? それにさっきブラン様は「噂をすれば」とか言ってたな。私の話をしていたのかな? 緊張しちゃうな……)

 

 守護女神の関係者の男性と接する機会はあまりなかったからか、珍しそうな目でギンガを見るクリスト。

 

(……ふむ、従者としての作法は叩き込まれているようですね。フィナンシェさんあたりが指導したのでしょう。あの服装……おそらくクリストさんはルウィー出身ではなく、辺境のあそこらへんの村辺りですかね?)

 

 対するギンガも、クリストの身なりや立ち振る舞いを観察していた。

 

「……クリストさんと言いましたか」

「は、はい!」

 

 急にギンガに声をかけられたクリストは上擦った声の返事となった。

 

「もう、クリスト。緊張しすぎよ。まぁ確かにこの男は顔"だけ"は無駄に良いから気持ちは少しわかるけど。クリスト、あなたこの後の予定は?」

「えーと……特にはないので鍛錬でもしようかと」

「そう、なら丁度良い。ギンガと手合わせをするといいわ」

「手合わせ……ですか?」

「彼、強いのよ。私たち女神ほどじゃないけど。だから、あなたにとって良い経験になるはずよ」

「は、はい………」

 

 急な話ゆえに、クリストの返事はしどろもどろだった。

 

「書類の件は済んだし、じゃあ、後はお若いお二人に任せて」

「ちょ、なにお見合いみたいなこと言いだすんですかブラン様!」

「そうですよ。それに、私はブラン様よりも歳が上なので若くはありませんし」

 

(え、そうなの⁉︎ どうみても二十歳ぐらいなのに……)

 

「一度言ってみたかったのよ、この言葉」

 

 そうして、ブランは執務室から去っていった。

 何を喋れば良いか分からず、黙り込むクリスト。

 

「……握るのは剣、いや刀ですか?」

 

 しばしの沈黙の後、先に口を開いたのはギンガだった。

 

「はい、刀です。どうしてわかったんですか?」

「服装と、手ですかね。お茶を給仕してくれた時にふと見えた、手のマメのできかたが刀を握る人間のそれでしたし」

「あの一瞬でわかったんですね」

 

 クリストは、自身の使う武器を見事に言い当てたギンガに興味が湧いてきた。

 

「あの、私からも質問したいんですけど、ブラン様より歳上と言っていましたが、プラネテューヌで女神様にどのくらい仕え続けてるんですか?」

「うーん……えーと……あー…………初代は何年前でしたっけ……? えーと…………」

 

(初代⁉︎ 初代ってプラネテューヌの初代守護女神ってことだよね? プラネテューヌの歴史は全然詳しくないけど、何千年生きてるのこの人⁉︎)

 

「あの! 軽い気持ちで聞いただけなので、そこまで深く考えなくていいですから!」

「あ、はい、ごめんなさい。そうだなぁ、私今何歳なんでしょう? 後でイストワールに聞きましょうかねぇ……」

 

(歳をとると自分の年齢をいちいち数えなくなるっていうけど……それって本当だったんだな……)

 

「……ブラン様に仕えるようになってから、どうですか?」

「えっと、すごく大変です」

「でしょうね」

「けど、楽しいです。最初は成行と勢いで側近にされたんですけど、いつのまにか自分にとっての心の拠り所になって、不思議な人ですよね、女神様って」

 

 クリストの言葉を聞いて、ギンガは自身がまだ幼い頃にプラネテューヌの初代女神に拾われた時のことを思い出す。

 思えば自分が女神補佐官になったのも、クリストと同じく成行と勢いだった。それがいつのまにか自身のアイデンティティになり、そして誇りになった。

 ギンガはクリストに過去の自分を見ているようで、少し微笑ましい気分になった。

 

「……そうですね、不思議で、そして素敵な方々です。女神様は」

 

 それから二人がたわいもない話をしていると。

 

「ギンガさん来てるんでしょー⁉︎」

 

 勢いよく応接間のドアを開け、ロムとラムが入って来た。

 

「ギンガさん久しぶり……!」

「お久しぶりです。ロム様、ラム様」

 

(……わっ、すぐに屈んで目線をロム様とラム様に合わせた。プロだなぁ……)

 

「ギンガさん遊ぼー!」

「雪合戦、しよ?(わくわく)」

「外猛吹雪ですよ?」

「猛吹雪の中でやるから面白いのよ!」

「そうですか……しかし、お誘いは嬉しいのですが……私には他にやることがありますので……」

「えー! 遊んでくれないのー? あー! わかったー! ギンガさんは側近さんを口説こうとしてるんでしょー⁉︎」

「わぁ……!(どきどき)」

「口説っ……違いますよ!」

「そうですね。口説いています。あわよくばプラネテューヌに連れて帰ろうかな、と」

「ええっ⁉︎」

「冗談です」

「タチの悪い冗談はやめてくださいよ!」

「そうだよ! 側近さんにはもうフィナンシェさんがいるんだからー!」

「ちょ、ラム様⁉︎」

「ほぅ……フィナンシェさんと、ですか」

「二人はね、ラブラブなんだよ」

「ロム様も悪ノリしないでください!」

 

(うぅ、どうして私がこんなに恥ずかしい目に……! けど、ロム様とラム様にこんなに懐かれてるなら、悪い人じゃなさそうだな。いや、それは女神の従者だから当たり前か。それに、話す前はとっつきづらい雰囲気だと思ってたけど、話してみたら別にそうでもないし)

 

 この男の人となりはわかった。

 次は…………

 

「……あの、ギンガさん」

「なんでしょう?」

「そろそろ手合わせの方、お願いできますか?」

「……ふっ、勿論です」

 

 刃で語り合いたい。クリストはそう思っていた。

 

 

 

 

 ルウィー教会地下の修練場。

 模擬戦用のゴム素材でできた武器を持ち、対峙するギンガとクリスト。

 

「準備はよろしいですか? クリストさん」

「はい!」

「側近さん頑張れー!」

「頑張れー……!」

 

(場所が場所な上に立場が立場なので、クリストさんばかり応援されていますね。正直羨ましい。アウェーの時のサッカー選手もこんな気分なのでしょうか?)

 

 両手に模擬刀を携えるクリスト。

 対するギンガは、片手でのみ模擬剣を握る。

 

「では、行きます!」

 

 先に動いたのはクリストだった。

 高いAGIを活かし、一気に間合いを詰める。

 

「……っ!」

 

 しかし、刀の間合いに入る直前にその足を止める。

 ギンガの異様な気配を感じ取ったからである。

 

(ただ剣を構えて立っているだけなのに……隙らしい隙がどこにもない……! 迂闊に突っ込めばカウンターでやられる!)

 

 クリストの読みは正しかった。

 ギンガは守護女神より弱い。それは紛れもない事実である。しかし、ギンガには本気の守護女神の修練相手となる程の強さがあることもまた事実。

 クリストが迂闊な攻撃をしようものなら、下手をすれば反撃により勝負は決する。

 

(なら、一旦は距離を詰めずに戦おう……!)

 

「凍てつけ……『氷天凍地』!」

 

 その声と共に、クリストは刀を地面に刺す。

 すると、ギンガの足元から氷柱が出現した。

 

「……ほぅ」

 

 しかし、氷柱が出現する直前に魔力を感知したギンガは、バックステップで氷柱を回避する。

 

(避けられた……! いや、避けたというより、先に動いたような……)

 

「少し、氷が邪魔ですね。『魔界粧・轟炎』」

 

 ギンガは氷柱に対抗するように、魔法の火柱をぶつける。

 

(魔法まで使えるのかよこの人。しかも炎魔法、相性が悪い……!)

 

 魔法のぶつけ合いだと分が悪いと判断したクリストは、刀の間合いに近づいていく。

 

(迂闊な攻めは悪手。だから、全力で技を叩き込む!)

 

「『飛燕氷牙』!」

 

 抜刀の勢いから放たれる斬撃『飛燕氷牙』。

 魔法を唱えるために剣を下げていたギンガの隙を逃さずに、その刃を振りかぶる。

 

「……『ギャラクティカエッジ』」

 

 しかし、その斬撃は、ギンガの剣技『ギャラクティカエッジ』に相殺される。

 

(嘘……! 完全に先手は取った筈なのに! ていうかなに今の剣技……⁉︎ 斬撃が出るまでの予備動作が一切見えなかった……‼︎)

 

 『ギャラクティカエッジ』はギンガが数千年もの間に極め続けた剣技の真髄。ゲイムギョウ界において最速で当たり判定が発生する技で、予備動作が見えないほど。

 

(そうか! この人の強さって女神様みたいに身体強いからってよりは、剣技の基礎を極めたような戦い方をすることなんだ……! だから、私にとってこの人から学べることが多いからって意味で、ブラン様は手合わせをしろって言ったんだ!)

 

 その後、お互い技を出さずに刀と剣で斬り結ぶだけの時間続く。

 

(……ふむふむ。やはり……良い! ブラン様は良い従者をお持ちのようだ。これほどの原石に出会ったのは久しぶりなので、ついつい心が躍ってしまいます。しかし……)

 

 だが、クリストの刀がギンガを捉えることはない。

 

「……足りませんね」

「足りない……?」

「クリストさんが本気を出していないわけではないんでしょうけど、おそらく何かまだありますよね? 例えば…………女神様の変身みたいなものとか」

「……‼︎」

 

(マジかよ……! 少し刃を交えただけで私の『氷魔覚醒』がバレるなんて……っ!)

 

「見せたくない理由があるのなら無理にとは言いません。けど、私はあなたの本気が見られないのは少し悲しいですね」

「いや、隠してるつもりはありませんでしたよ? けど、私が見せようとする前にバレると思ってなかったです……」

「ほぅ。では……!」

 

 その声と共に強い足踏みで、ギンガはクリストに接近して剣を振るう。

 

「……本気を出したくならせてあげましょうか!」

「わわっ!」

 

 先程よりも更に苛烈さを増すギンガの斬撃。

 剣を一つしか持たないギンガに比べ、二刀流であるクリストの方が手数は多い筈なのに、クリストはギンガの剣の速さに追いつくだけで精一杯だった。

 

「ほらほら〜! 本気を見せなければこのまま決着ですよ〜‼︎」

「……くっ、このぉ……っ!」

 

 ギンガはクリストの刀を弾き飛ばして距離を取り、わざと変身の隙を与える。

 半分挑発のように見えるギンガの行動に対し、クリストはほんの少しだけ苛立ちを覚える。

 

「そんなに見たいのなら、お見せします! いでよ……氷晶の陣羽織!!」

 

 クリストの魔力が氷塊に変わり、その氷塊は細かく弾ける。

 弾けた氷の粒は舞い上がり、クリストの上半身を覆う。

 覆われていた氷の粒は、水色の陣羽織へと姿を変える。

 そして、湧き出る魔力に意識を向け、各部位に防具を生成していく。篭手、臑当、甲懸、兜、大袖と、甲冑を意識した装備を身にまとった。

 

「素晴らしい……!」

 

 守護女神の変身とはまた違った、美しくも力強いクリストの変身を、ギンガは目を光らせながら眺めて呟いた。

 クリストは更に四本の氷の刀を生成、自身の背後に浮遊させる。

 そして、目を閉じて再び開くと、普段の黒い眼が女神ホワイトハートの髪の色のような水色へと変わっていた。

 

「これが私の変身『氷魔覚醒』です。ここからは、本気で行きます!」

 

 

 




 続きは『白の女神の新たな従者』のページ内で読めます。
 → https://syosetu.org/novel/246440/24.html


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後日談とあとがきと……
澄んだ日の模擬戦


 

 猛争事変の事故処理の全てが完了され、ゲイムギョウ界の平穏を取り戻されてから数ヶ月。

 事変を乗り越え、更に成長したその力を試すため、ネプテューヌはギンガに戦闘訓練を頼んだのだった。

 

「こうしてあなたと戦うのも、心次元での戦い以来ですね、パープルハート様」

「……あの時のことは忘れてちょうだい」

 

 喋りながら、武器を構える二人。

 

「剣、新しくしたのね」

「はい。あの剣は少し……使いづらくなってしまったので」

 

 以前のギンガの愛剣『星晶剣銀牙』はルギエルとの戦いで砕かれたのち『創世剣サーガ』として生まれ変わった。

 ギンガの願いを力に変えることができる創世剣サーガは、普段使いするにはあまりにも過ぎた力であったため、ゲイムギョウ界の平穏と安寧への祈りとして、歴代プラネテューヌの名が刻まれた例の石碑の横に刺して封印されているのである。

 ギンガが今使用してる剣は『機械剣ネプテューヌ:Galaxtica Expansion』というもの。これは、パープルハートの武器を模して作られた『機械剣ネプテューヌ』を、イストワールが集めて分析したギンガの戦闘データをフィードバックし、ギンガ専用の新たな武器として作り上げたものであり、星晶剣銀牙以上にギンガにとって使い勝手が良くなっている。

 

「……そういえば、前はトゲトゲしてたのに、結局剣一本に戻ったの?」

「直しても直してもすぐに戦いで壊すからと、いーすんが作ってくれなくなりまして……」

「あら」

 

 ギンガが度々使っていた『NPカタール』と『NPガンブレイド』は、予算の関係もあってイストワールに修復してもらうことができなかったようである。

 

「さて、始めましょうか」

「ええ、行くわよ! ……『32式エクスブレイド』!」

 

 ネプテューヌは試合開始と同時に大技を放つ。

 脆弱な相手ならば、これだけで勝負が決するほどの一撃。

 

「甘い……ッ!」

 

 しかしギンガは、迫り来る32式エクスブレイドを、技も使わずに斬り砕いた。

 

「……ギンガ……あなた、前より強くなった?」

「そうですね……私は自身の限界には既に至ったものだと思っていました。しかし、どうやら私もまだまだ強くなれるらしいです」 

 

 別次元の同一体であり自身の"力"の極地とも言えるルギエルとの戦いが、ギンガに大きな影響を与えたようで、自身の力や限界を見つめ直す良い機会となっていたのだ。

 

「ネプテューヌ様もネプギア様も、今よりもっともっと強くなっていくでしょう。ですから、私ももっと強くなってみせます。あなた方と共に戦い続けるために」

「そう。良い心がけね……!」

 

 言いながらギンガに接近して剣を振るうネプテューヌ。

 STRもMOVも守護女神であるネプテューヌの方が上である。しかし、ギンガのAGIは守護女神をも凌駕するほど高く、また、彼の戦闘経験値から来る予測も合わせ、ネプテューヌの動きを先取りすることで、互角の戦いを繰り広げることを可能にしている。

 

(有効打は出す前に潰してくるし、適当なフェイントは看破される……思うように戦えないわね……)

(私も強くなれたとはいえ、パープルハート様も以前より強くなっていますね。なんとか食らいついていますが、気を抜いた瞬間に敗北してしまうでしょう……)

 

 互いに得意な攻撃範囲であるものの、やりにくさを感じているようで、互いの剣を弾き合い、一旦距離を取る二人。

 

「『クロスコンビネーション』ッ!」

「『ギャラクティカエッジ』!」

 

 そして、前進する勢いと共に技を繰り出す。

 威力はクロスコンビネーションの方が上。しかし、ギャラクティカエッジの特筆すべきは威力ではなく技の出の速さ。ただでさえAGIの高いギンガから繰り出されるギャラクティカエッジは、技の初動が見えないほど。

 威力が速度によって相殺され、先程の切り結びと同じように、互角のぶつかり合い…………

 

「あなたのその技、私がどれだけ見て来たと思ってるの?」

「……っ⁉︎」

 

 …………のように見えたが、ネプテューヌはギャラクティカエッジの見えないはずの初動をきちんと捉えており、ギャラクティカエッジを受け切った後、クロスコンビネーションを通す。

 

「ぐぅぅっ!」

 

 咄嗟に防御に徹し、ダメージを安く抑えたものの、均衡が崩れたことにより、ギンガは敗北を悟る。

 

「参りま……」

「何言ってるのよ? まだ全然動けるでしょう?」

「え?」

「せっかく身体が温まってきたのに、こんなところで降参されたらつまらないわ」

 

 まさかの降参拒否にギンガは困惑していたが、ネプテューヌからしたら、女神にとって全力を振るえる機会は少ないため不完全燃焼で終わらせたくない、というのも無理もない話だった。

 

「というわけで、あなたにこれを贈呈しちゃうわ」

「これは……『ネプテューヌリング』……!」

「また作ったの。前のは壊れちゃったらしいからね」

 

 ネプテューヌがギンガに渡したアイテムとは、『ネプテューヌリング』。

 特異体質により女神の加護が受け取れないギンガのために、女神の加護がこもったアイテムを渡そうと、ネプテューヌとイストワールで開発したアイテム。

 先の大戦にて、破損してしまっていたものを、ネプテューヌは作り直していたのである、

 

「酷い話よね〜。私がせっかくあげた指輪を私以外の女神の想いで壊しちゃうなんてね〜」

「うぐ……そ、それは……」

「冗談よ。さて、次はそれ付けて戦ってちょうだい。第二ラウンドよ」

「良いのですか……? おそらくこれを使用すれば、パープルハート様よりも強くなってしまいますよ……?」

「だから良いのよ。自分より強い相手と戦える機会なんてそうそう無いから、そういう意味でも楽しみだわ。それに、あなたの変身を直接見たことないから」

「かしこまりました。では……!」

 

 ギンガはネプテューヌリングを起動し、貯められていた女神の加護を解放。

 そして『ギンガネプテューヌ』へと変身した。

 

「なんか、少し私に似てるわね」

「あなたの加護ですので」

 

 お互いに一息つき、武器を構え、仕切り直して再び剣を交える。

 先程まではパワーが劣っていたギンガだが、変身によって底上げされたステータスは、女神であるパープルハートにも届くほど。

 

(……今までより疾く、重い! さっき『私より強い』って言っていたのを、ギンガにしては大きく出たと思ったけど……紛れもない事実だったようね……っ!)

 

「『魔粧・煉獄』ッ!」

「……っ」

 

 掌から魔力の炎弾を解き放ち、ネプテューヌに向かって射出するギンガ。

 

「……『クロスコンビネーション』ッ!」

 

 ギンガネプテューヌは、自身の技に加えてネプテューヌの技も使用可能になる。

 魔法に意識を向けさせた隙に、一気に距離を詰めたギンガは、まず『クロスコンビネーション』でネプテューヌの防御を崩し。

 

「『デュエルエッジ』!」

 

 空いたところに、重い一撃を叩き込んだ。

 

「ぐ……ぅっ」

「パープルハート様……」

「気遣いは要らないわ。今は勝負中よ」

「……はい」

 

 今まではギンガ側が劣るステータスを、反射神経と経験からの予測によって埋めていた。

 ならば、ギンガ側のステータスが劣らなくなれば戦況はどうなるか。

 

(このままでは、負けてしまうわね……っ!)

 

 ギンガネプテューヌはパープルハートを圧倒していた。

 

(……けど! 楽しくて堪らない!)

 

 しかし、不利な状況だというのに、ネプテューヌの表情は明るかった。

 その理由は、先程ネプテューヌが言った『自分より強い相手と戦える機会なんてそうそう無い』ことに加え、もう一つある。

 

「ごめんなさいギンガ。私もう自分を抑えられないわ。ねぇ、良い……?」

「……私は構わないんですけど、いーすんになんて言われるか……」

 

 ギンガはこれだけの発言からネプテューヌの意図を理解していた。

 ネプテューヌは『ネクストフォーム』の使用許可を求めていたのだ。

 先程のもう一つの理由とは、ネプテューヌはまだネクストフォームという本気を残していて、ギンガネプテューヌは自身の本気をぶつけるに相応しい相手だったこと。

 しかし問題がある。ネクストフォームへの変身は、多大なシェアが消費されてしまう。ゲイムギョウ界の脅威に立ち向かうならまだしも、模擬戦で多大なシェアを消費してしまえば確実にイストワールから説教されることになるのだ。

 

「……後で一緒に謝ってくれる?」

「勿論」

「ありがとうギンガ。じゃあ……変身するわね!」

 

 ギンガもギンガで、ギンガネプテューヌの全力で果たしてどれだけネクストフォームと戦えるかが気になっていた。

 

「『ネクストプログラム』、起動、変身完了。この姿になるのは久しぶりだわ」

「それだけ平和だったということです」

「さぁ、早く構え直して。時間が勿体ないわ」

「かしこまりました」

 

 ネプテューヌがネクストパープルへ変身し、戦闘が再開される。

 守護女神の極限進化、ネクストフォーム。

 これまでのものとは隔絶された質の戦闘が繰り広げられる。

 

「『ギャラクティカエッジ』!」

 

 様子見は必要なく、通常の斬撃ではダメージを与えられないと判断したギンガは、最初から技を使って攻め立てる。

 

「見えているわ」

 

 しかし、ギンガの技は、ネプテューヌに容易く捌かれてしまった。

 ネクストフォームは、単純にステータスが上昇するだけでなく、女神化している時以上に思考が澄んで、戦闘技量すら底上げされる。

 

「『テラ・ドライブ』」

「……っ、ぐぁっ!」

 

 ネプテューヌにとっては小技程度のものでも、ギンガは避ける隙を見出せず、防ぐことしかできない。

 最早ギンガネプテューヌですら、ついていくのが精一杯な程両者の力の差が開いてしまっていた。

 

(……だとしても! 女神様の本気を受け止めることができず、何が女神補佐官かっ!)

 

 それでも尚、死に物狂いでネプテューヌに追い縋ろうとするギンガの姿は、更にネプテューヌを高揚させる。

 

「ギンガ、手加減できそうにないわ。耐えて」

「ええ、思い切りやってください」

「なら……行くわよ! 『クリティカルエッジ』‼︎」

 

 ネクストパープルの刃が振り下ろされた。

 ギンガはその一撃を避け切ることも防ぎ切ることもできないことも悟っていた。

 

「……っ⁉︎」

 

 しかし、その刃がギンガを捉えることはなかった。

 

「これは……!」

 

 ネプテューヌとギンガの間を、飛んできた"あるもの"が遮ったからだ。

 

「……全く、困った方々です」

 

 ギンガはそれを見て、嬉しそうながらも呆れたような表情を見せる、

 その"あるもの"とは、歴代の女神の加護が込められた希望の聖剣『創世剣サーガ』。

 それがギンガの危機に反応し、勝手に飛んできて、ギンガの身を守っていた。

 

「ねぇギンガ」

「……はい」

「ちゃんと言っててくれない? 今のギンガの女神はこの私だって。あなたたちじゃなくて、こ・の・わ・た・しだって」

「次会ったら強く言っておきます、はい……」

 

 ネプテューヌは頬を膨らませ、いじけたような口調で話す。

 ネプテューヌ的には、過去の女神のギンガへの祈りがこもった創世剣サーガはあまり好きではないらしい。

 

「けど、今ので終わらなくて良かったわ。続けましょう。その剣に持ち替えても構わないから」

 

 それはそうと、ギンガの更なるパワーアップを促す創世剣サーガの装備はもっと戦いたいネプテューヌにとっては好都合だった。

 

「かしこまりました」

 

 こうして、二人の戦いは続いていった。

 

 

 

 

 

 

 

「はぁーっ、つっかれたーっ!」

「お疲れ様です。ネプテューヌ様」

 

 長きにわたる模擬戦を終え、ゆっくり歩きながら教会に戻る二人。

 

「ギンガは疲れてないのー?」

「いえ、ガチで疲れてます。あんなに長時間戦ったのなんて久しぶりでしたので」

「わたしも猛争事変以来に全力を出したなぁ。けど、わたしたちが全力で戦わなくちゃいけないぐらいの大事件なんて、起こらなくていいもんね。ちょっと平和ボケするぐらいが丁度いいんだよ」

「そうですね。これからは、変わらず平和なゲイムギョウ界でいてほしいものです」

 

 ようやく手に入れた平和がいつまでも続くことを祈りながら、笑い合う二人なのだった。

 

「……そういえばさ、その剣どうするの?」

 

 ギンガが手に持っている創世剣サーガを指差してネプテューヌが言った。

 

「そうですねぇ……正直こんな簡単に飛んでこられるとゲイムギョウ界のバランス的にも良くないので、もう少し強めに封印した方がいいのかもしれません」

「そうしなよ」

「皆様には悪いのですが、これも今のゲイムギョウ界のためですから」

 

 そうしてギンガは後日、石碑の前で「そんなに心配しなくていい」と祈りを込め、創世剣サーガを再度封印したのだった。

 また、模擬戦でのシェア大量消費の件で、ネプテューヌとギンガは揃ってイストワールから説教されたとか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……平和は続かなかった。

 そう遠くない未来、ゲイムギョウ界には新たな危機が訪れることになる。

 来るそれは"妹たち"の戦い。

 絶望から希望の未来へ切り開く、女神による女神のための破壊と再生の物語。

 その中で、彼は何を思い、どう戦うのか。

 

      『紫の星を紡ぐ銀糸S』

 

 シスターズvsシスターズをクリア後、多分連載開始。

 

 

 





 完結から数ヶ月経ち、新作の話題を出しといてアレですけど、銀糸Nのあとがきを残そうと思います。
 新作を書くにおいて、旧作で書き残したことをなくすためのものというのが一番の意味ですね。
 ちなみに、自分のあとがきは後で見るに耐えなくなって消す可能性が高いので多分期間限定です。
 

・零次元編

 謎を散りばめ違和感まみれの内容にすることで伏線を用意するという試みを初めてやりました。
 その際、作者(私)が知っている情報、読者の皆様が把握しているであろう情報、キャラが把握している情報がごっちゃになってないかおそるおそる物語を書き続けていました。
 零次元編の途中、ネプテューヌルートとネプギアルートに分かれる部分があるのですが、どちらのルートにもギンガを行かせたいという思いから分身魔法『ギャラクティカイリュージョン』が生まれました。これ自体は我ながらイカれながらも良いアイデア(自画自賛)だと思ったのですが、その際幼くなったギンガの発言を全てひらがなにしたのはマジで読みづらくて失敗だったと思います。この場でも謝罪します。ごめんね。
 零次元編の最終戦、ダークメガミと化したマジェコンヌ戦で巨大戦を書くのが嫌になってしまったことも今となってはいい思い出です。マジでめんどくさいんですよ巨大戦。
 最後の最後でこの物語のアナザー主人公であるルギエルが登場しました。彼については後に詳しく書きます。


・超次元編

 大人ネプテューヌvsギンガ(ネプテューヌ)のマッチアップがしたかったので、ギンガがベールルートへ向かわせるのは確定事項でした。その際ギンガ不在のネプテューヌルート、ノワールルート、ブランルートではどう足掻いても原作との相違点を作れないと判断したため、原作通りにしてほぼカットすることになりましたが。
 超次元編の名の通り、守護女神が活躍する章なので、ギンガネプテューヌお披露目以外ではギンガの活躍する場を上手く作れませんでした。零次元編ほど伏線を貼ることもできなかったため、ギンガネプテューヌ登場以外は全体的に割と地味な章になってしまったと思われます。


・心次元編

 最終章、全ての清算です。
 マジェコンヌ戦を経てようやく伏線回収ができて、胸の支えが取れたような気分でした。ネタばらしって気持ちいいぜ。
 もうこれが最後なので、やりたいことを全て詰め込みました。シスシス発売決定したので最後ではなくなりましたが。
 当たり前ですが、原作とは少し違った結末となりました。どうしても自分には作中でくろめとの決着をつけさせられなかったのです。くろめを敵として倒してしまってはギンガにとってハッピーエンドにならない。かといって、くろめとの和解はできない(強引にしたらキャラの解釈がズレる)わけで、撃破も和解もしないエンドになってしまいました。けど、自分はアレで良かったと思っています。誰だって自分の気持ちに即折り合いをつけることなんてできませんから。


・ルギエルについて

 本編ラスボスであるくろめに対し、オリ主であるギンガのラスボスとして登場してもらいました。
 本編キャラに配色しないレベルで大暴れしたりと、おそらくこの作品の評価に関わるレベルの劇薬だと思ってますし、このキャラのせいでこの作品が好きじゃなくなった人もいると思います。
 傍若無人で平和と秩序と守護女神を嫌うギンガの対極をなすキャラとして設定しましたが、実を言うとギンガという存在の根は『悪』であり、ギンガという存在の本質はギンガではなくルギエルの方が近いのです。ギンガが女神と出会うことなくそのまま育つとルギエルみたいな感じになります。
 そもそもギンガはキャラは善人ではありません。本質が『悪』な守護女神に仕えてるからかろうじて善側にいた男が、守護女神のその影響を受け世界の見方を変えて真の善側になる、というのがこの作品の一つのテーマなのです。
 だからこそ、自身の真の(悪の)道を突き進んだルギエルこそ、ギンガにとってラスボスに相応しい存在となったわけです。
 くろめに惹かれた理由は、自分と同じように『何も持っていない』からです。世界から見放された存在としてシンパシーを感じていたことや、それでも足掻きながら復讐という歪なやり方であっても世界と向き合うことをやめないくろめの健気さに、自信が失った『何か』を見出し、惹かれたわけです。
 正直彼には死んでもらうつもりでしたが、くろめの結末をああいう感じにするために生き返りました。くろめにとって、どんな自分でも無条件で愛してくれる人がいる、という救いを与えるためみたいな感じです。大人ネプテューヌではどうしても善側に偏ってしまってそこらへん難しそうだったので。
 ちなみに名前の由来はウルトラマンギンガのラスボス『ダークルギエル』からです。


・最終的な強さランク

サーガ
>アークオレンジ(うずめ吸収)≧ネクストパープルギャラクティカグリッター≧アークオレンジ
>ダークオレンジ、ルギエル(ゲハバーン装備)>暗黒星くろめ、四女神ネクストフォーム、ルギエル(対女神武具フル装備)
>真マジェコンヌ、ギンガネプテューヌ>四女神≧天王星うずめ>ギンガ、大人ネプテューヌ、マジェコンヌ≧候補生>アイエフ、コンパ

※銀糸Nではあまり出番のなかったゴールドサァドなどのキャラたちは除外、またギンガイストワール関係も除外


・最後に

 ここまで読んでくれた方々へ、本当にありがとうございました。
 次回作『紫の星を紡ぐ銀糸S』もよろしくお願いします。



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