ABChanneler-戦うWanTuber- (綾久庵)
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序章、石田崎瑠李の独白

__スカルファイヤー壱郷空介は改造戦士である。彼を改造したグロッカーは世界征服を企む闇の古代民族である。スカルファイヤーは人間の自由と笑顔のためにグロッカーと戦うのだ!

《スカルファイヤー》、十年前…世界がこんな風になる前に放送された日本の特撮ヒーロー番組である。

私、石田崎瑠李は警察官だ。

小さい頃から祖父の撮ったスカルファイヤーに憧れて正義を守るこの仕事を目指していた。…もっとも、あの頃はまさか世界がこんな風になるとは思っていなかったけれど。

世界中で蔓延した“思想ウイルス”。感染した人間は一見普段と全く変わらない行動や反応を起こすがその自我は完全に食い潰され、代わりに世界を破滅させることを目的とした破壊的思念に統合される。その破滅思想は瞬く間に伝染しすでに世界からは5つの国が滅んだ。

このウイルスのもっとも恐ろしい性質、それは()()によって感染するということ。“色”、“音”、“触覚“、要因は様々、思考が()()に及んだ瞬間、人は意思を失った”ゾンビ“となる。この性質をもってして思想ウイルスは国境を飛び越え同時多発的に感染を拡大させた。

そんな事態に日本がとった政略は“鎖国”だった。国土を壁で覆い人や物の行き来の制限はもちろん、徹底した情報統制により“感染源”を隔離させることをまるでこの事態を予測していたかの如く迅速にやってのけた。今やその情報統制は国内外のやりとりに留まらず、都道府県、果ては隣町同士の連絡も制限されている。

そんな鎖国社会の中、前時代からもたらされてきた当たり前の自由を失った人々の中で新たな表現の場所が生まれた。

 

__動画配信サービスWanTube

 

全てのインターネットが制限されているこの状況で何故かこのWanTubeだけは何の制約もかけられることなく…いや、正確には我々警察による如何なる方法でも制約をかけることができずに野放しにされてきた。

さらにWanTubeでは動画に広告をつけることで動画の視聴回数に応じた収益が動画の投稿者に付与されるシステムが存在する。さらにはその収益によって生活するWanTuberなる人々が数多く現れた。

…そして、私はそのとあるWanTuberの動画を目にすることとなった。

 

動画の始めに映し出されたのは全身が昆虫類の頭部で構成された化け物の姿だった。

スマホで撮られたらしきその動画はブレが激しく画質も荒めだが、撮影者は今にもその化け物に襲われそうになっているのはわかった。

化け物はクワガタムシの頭部のような右腕を開きながら撮影者ににじり寄る。

今にもそのクワガタの手で切り裂かれそうになったその瞬間、電子音のような異様な音声がそこに響き渡った。

 

《boom boom Hello!WanTube!!》

 

謎の音声と共にボイスパーカッションのような独特なメロディーが絶えず流れ続ける。

 

「変身!!」

 

《HERO Channel♪Ready Go♪》

 

仰々しい金属音と共に画面外から一つの赤い人型の影が化け物の首を目掛けて飛びかかり、その場に倒れ込みながら組み伏せた。

赤い影の全貌はハッキリと見えないがその顔の上半分は電光掲示板のような黒塗りで目に当たる部分が赤く発光している。そして何より頭頂部より伸びる一本のアンテナのような角が特徴的だった。

その一連を撮影していたカメラの持ち主は振り返って一目散に逃げる……かと思いきやちょうどいい距離でその化け物と怪人アンテナ男の組み合う様子を引き続き撮り始めた。

アンテナ男の方が化け物に振り落とされ地面に叩きつけられた。背中を痛そうにさすりながらもがくアンテナ男に化け物は間髪入れずに南国産のカブトの角のような左手を振り下ろしとどめを刺そうとする。

しかし、その一撃を待っていたかのようにアンテナ男は体を捻らせてそれを躱し、地面にめり込んだ左腕に飛び乗って回し蹴りを喰らわせた。

化け物の額にあったカブトの角がその蹴りに攫われると同時に緑の血が噴き出す。その後もアンテナ男は化け物の攻撃を誘いながら当たったフリをして寸前で避け強烈なカウンターをお見舞いし全身の角をへし折っていった。

満身創痍となった化け物の前にアンテナ男は悠然と立つ。しかし、その隙を見た化け物は自らの右腕でその左腕を切り離しアンテナ男に向けて射出した。アンテナ男は間一髪で飛来したカブトの頭を受け止めるが、化け物の方は広げた羽を振動させてすでに上昇を始めていた。

追いかけようとして一瞬何かを思いついたように踏みとどまったアンテナ男は腰に付いているラジオのような物体のダイアルを何度か回し始める。

 

《HERO Channel♪Every Day♪》

 

メロディーが鳴るのを確認したアンテナ男はベルトのバックル部分に付いている頭部のものと同形状のアンテナを前に倒した。するとバックルが二つに割れ中から回転する光が現れる。

 

《prululululululu…syupa!!”Transition Kick“……yhaaaaaaa!!!》

 

ベルトから鳴る謎の子供の歓声と共にアンテナ男と空中の化け物の正面に黒く光る輪が出現した。それと同時にアンテナ男もその輪の中に向かって猛烈にダッシュする。アンテナ男はその輪に飛び込むと同時に姿を消した。

 

《todays,Channeler’s points…trulululullulu…syupa!!97(ナイティセブン)‼︎yhaaaaaaa!!!》

 

またしても鳴った歓声と共に化け物の側の輪からアンテナ男が弾丸のように飛び出し、飛んでる化け物の体を地面まで蹴りつけた。派手に吹っ飛ばされた化け物は悶えながら立ち上がり、次の瞬間断末魔をあげながら爆発四散した。

 

《nbyyyye…》

 

その音声と共にアンテナ男は光に包まれ、動画は終了した。

 

…普通に考えればこの動画はCGの出来がいい個人撮影の特撮ヒーローショーだろう。

ただ警察官として見過ごせない点が幾つも存在する。その最たるものがこの撮影現場に人間の死体が発見されたことである。それもただの死体ではない。検査の結果ゾンビとなった人間の死体であることが明かされた。

そして、このチャンネルは他にも7本の動画を投稿しているがいずれもその撮影場所ではゾンビの死体が確認された。

はたして、これらの動画は実際に撮られた物だったのか。映像の中の化け物たちは本当にゾンビの成れの果てだったのか。

そして、アンテナ男とその撮影者、彼らが一体何者だったのか知る由もない。

…けれど、それは普通の警察側の人間だったらって話。

 

アンテナ男の動き、そして一度だけ発された声。どちらも私に覚えがあるものだった。

 

“彼”は祖父、石田崎浩三郎が何処かから見つけてきた役者の卵だった。

性格は最悪。おまけに子供嫌い。そのくせ外面だけは綺麗に見せようといつも躍起になっていた。

一見するとヒーローになんかとは対極に位置する人間…けれど一度壱郷空介を演じればスーツアクターもスタントも全部自分でこなす超人的な役者と化す。

そして何よりその演技は幼い子供に正義の存在を信じさせるには充分なものだった。

スカルファイヤーの打ち切りと共に彼は何処かへ去り、祖父もそのすぐ亡くなった。その行方は今の今まで知らなかった。けれど、この動画のアンテナ男の闘い方、当たったように見せかけてスレスレで避けるこのやり方は一年間スカルファイヤーの中に入っていた彼のものだ。

どんなに経ってもその動きは色褪せてない。…特にあのSF(スカルファイヤー)キックのフォームなんかはね。

何があったかは知らないけれどあんなに嫌がってたヒーローの仕事をまたやってるなんて相当のっぴきならない事情があるのでしょう。

 

怪人アンテナ男__戦うWanTuber・ABチャンネラー

 

きっとアンテナ男の正体が彼なら私は安心して託すことができる。あとは彼が私を見つけてくれるのをただ待つだけだ。

 



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昔、ヒーローだった男

「君ね、昼間っからお酒飲んで、電柱におしっこして、しかもこれで三回目よ?見つけたのが僕じゃなければ即現行犯逮捕よ?ねぇ、五月雨霧(さみだれぎり)さん?」

 

「はい、今はとても反省しています。」

 

五月雨霧と呼ばれた男は生気のない声で受け答えをする。男は砂区網子通り派出所にて取調べを受けていた。

 

「今はって何?ちょっとしたら忘れるの?3歩歩いたら記憶なくなっちゃうわけ?」

「…いや、前回の時から反省して焼酎やめてハイボールに変えてみたんですけど…あんま効果なかったみたいで。」

「…君、一度書類送検経験してみた方がいいんじゃないかな?」

「待ってください!それだけは勘弁してください!そんなことしたら芸能界復帰がますます遠いてしまいます!」

「またその話?そもそも君のことなんてテレビで見た記憶ないけど本当に芸能人だったの?」

「…本当っす!今年の四月まではちゃんと事務所に入ってたんです!ほら、聞き覚えないですか?サミダレギリジョーって!」

「…本当に知らないなぁ。まぁ、だったらだったで、そんな人がなんでこんなチャランポになってしまったのかね。まったく、僕は今から本部に行かなきゃいけないっていうのに…。」

「部長!石田崎、ただいま戻りました!」

派出所に入ってきたのは背の高い若い婦警だった。長い髪を後ろで一纏めにし健康的な印象を受ける女である。

「ちょうどよかった!石田崎くん、彼をもう小一時間絞り上げておいてくれ。路上泥酔の常習犯なんだ。僕はこれから会議に行かねば。」

「え?は、はい。かしこまりました!ご苦労様です!」

「じゃあ、僕は行くから。五月雨霧さん!これに懲りたら二度とあんなことはやめるんですよ?次は無いですからね!」

「うっす、さーせんでした。」

「さみだれぎり…?」

その名前に引っかかった女は部長が出ていった後すぐに男の顔を直視する。

「あ…!」

「…なんすか?」

「丈一!!」

「えっ…?その声…あ!石田崎ってもしかして…瑠李ちゃん!?」

 

「うう…だって俺…おやっさんが死んでからどうすればいいかわかんなくて…。」

「だからってこんな堕ちるとこまで堕ちることないでしょ!?」

派出所に女__石田崎瑠李の怒声が響き渡る。

「おじいちゃんだって草葉の陰から泣いてるよ!」

「そうか?あの人はむしろこういう状況腹抱えて大笑いしてそうだけど。」

「う…まぁ否定はできないけど…!」

男の方__五月雨霧丈一は十年前、瑠李の祖父・石田崎浩三郎に育てられた俳優だった。

「…瑠李ちゃんの方はどうしてたんだ?おやっさんはたった一人の肉親だったんだろ?」

「私は全然平気。むしろおじいちゃんが残してくれた遺産で勉強して警察官にまでなれたんだから。」

「逞しいこった…。」

「丈一は?もし役者に戻れたらやっぱりまたファイヤーみたいなのやるんでしょ?」

「馬鹿言え、あんなの二度とやるかよ。」

丈一は目に見えた悪態をつく。

「えー、なんでぇ!?」

それに返すように瑠李が子供のような声を上げた。

「おま…もう幾つだよ。とにかく、おやっさんには世話になったけど…スポンサーの都合で勝手にいい奴にさせられんのはもうこりごりなんだ。お前だって俺があんな役向いてないことぐらい分かってただろ?」

「まぁそれはそうだけど……。」

「だいたい子供ってやつは自分勝手に正義を押し付けてきやがる。お陰で俺は酒の一つも満足に買いにいけなかったんだぜ。」

「…それでも、空介を演れるのは世界で丈一だけだって思ってるよ。今でも。」

「……そうか?」

「ううん…兎にも角にも、丈一!あんたはさっさとお酒を断ちなさい!」

「お、おう。善処します。」

「次見つけたら問答無用でしょっ引くからね。」

「ひえぇ…か、堪忍してくだせえ…酒がないとあっしは手の震えが止まらないんでやす…。」

そのまま瑠李に付き添われる形で丈一は派出所を後にした。

 

「ジョォォォ…!!」

「ひっ…!」

__SPAM!!

派出所から出てきた丈一に向かってものすごい勢いで近づいてきた黒いジャケットの女が股間を蹴り上げた。

「あっ…!うぐっ…うぐっ…!!」

丈一は涙目で股間を押さえながらその場に倒れ込む。

「ちょ…ちょっと!?」

「この男が大変ご迷惑をおかけしました!私の方からキツく言っておくのでこれ以上はどうか…!」

茶味のかかった長い黒髪のすらりとした女は丁寧に頭を下げた。

「うっ…助けておまわりさん…俺、この人から日常的にDVを受けてます…!!」

「あら?いつから私たちそんなドメスティックな関係になったのかしら?」

「あの…あなたは?」

瑠李は訝しがりながらジャケットの女に尋ねる。

「申し遅れました。私は、黒倉アノン。諸事情があってこの男の保護者をしています。」

「は、はあ…。」

「てぇ…ったく、勝手に帰るからほっときゃいいだろ?お前俺の股間になんの恨みがあるんだよ!」

 

「……ぜっと。」

 

「あ…!?…あぁ。」

小声で発せられたその言葉に、丈一の表情が真剣なものに変わる。

「悪い、瑠李ちゃん。俺もう行くわ。」

「え?」

「ちょっとした仕事の時間でさ。また話しよう。」

「それはいいけど…。」

「それと……その、なんだ。ごめんな、おやっさんが死んだ時なんの力にもなってやれなくて。」

「え…?ははっ!何言ってんの。私は大丈夫だったけど現在進行形で困ってるのは丈一の方でしょ!せいぜいがんばってね!」

「ハッ…相変わらず可愛くねえガキだ。」

そう言って丈一はアノンと共に手で礼をしながらその場を後にした。

 

ABチャンネラー五月雨霧丈一はWanTuberである。旧知の中だったとある脚本家に改造された丈一はAV女優の黒倉アノンに拾われ、日夜人間社会に溶け込んだゾンビと戦い、その様子をWanTubeに投稿することで生活費を稼いでいた。

「…で、今回はどんなやつだ?」

山木日光(やまぎあきみつ)、元バスの運転手。ゾンビ名は“キャットゾンビ”。組織が街の監視カメラをハッキングしたところ彼と一緒に路地裏に入った子供が姿を消しているのがわかったんですって。最近起きてる連続児童失踪事件の犯人ももしかしてこいつの仕業かも。」

組織とは数ヶ月前、丈一を改造した脚本家の所属する対ゾンビ組織“グロッカー”のことである。一悶着あった末に今では二人に色々と情報提供をしてくるようになった。

その情報をもとに丈一とアノンは早足で目的地に向かっていた。

「なんで子供を?あいつら子供のことはゾンビにできないんじゃなかったのか?」

「さあ?…できない、からできるようにしたいんじゃない?例えば誘拐された子供達を実験台にしてね。いざとなったら子供達を人質にしてくるかも。」

「…先に言っとくけど、人質なんて知ったこっちゃないからな?俺は正義のヒーローなんかじゃねえんだ。」

「…あっそ、でもどっちにしろこのままじゃもっと多くの子供が危険に晒されるでしょ。やるならすぐに決着をつけなさい。」

__プシュー!!!

「なんだ?」

気づけば二人は人影の無い朽ちた建物が立ち並ぶ廃墟群へと足を踏み入れていた。

その前方にはバスに乗ろうとする虚な目をした少年の姿があった。

「だめっ!!!」

「え…?」

アノンの声で正気に戻った少年は異様な雰囲気のバスに対して距離を取ろうとする。

__乗レ……乗レッ…!!!

バスの中から無数の白い腕が伸び、少年を掴んで引きずりこもうとし始めた。

「うわっ…わー!!!」

「クソッ!!」

丈一は駆け出しながらラジオのようなベルトを巻いて赤いアンテナを側面に差し込む。

 

《boom boom Hello!WanTube!!》

 

「変身!!」

 

丈一の掛け声と共に周囲に現れた複数の立体的な電波マークから稲妻のような光が身体を貫いていき、赤い装甲を身に纏った一本角の怪人の姿へと変貌した。

 

《HERO Channel♪Ready Go♪》

 

__ABチャンネラー、対ゾンビ組織グロッカーが怪人変異型ゾンビに対抗すべく作り出した秘密兵器である。意思のないゾンビに対して、アンテナを介して使用者の意思を増幅、具現化させることで恐るべき破壊力を生み出す。

 

『うぉら!!!』

「フギャッ!!?」

 

チャンネラーのドロップキックによってバスそのものが数メートル弾き飛ばされる。バスから伸びていた手はその衝撃で少年を放した。

「うわっ!!あっ…ABチャンネラー…!?」

尻餅をついた少年はいつも動画で見ていたチャンネラーの姿に目を輝かせ顔を近づけようとする。

『ゥゥ…オイガキィ…クッチマウゾ…!!』

「ひぃっ!!」

チャンネラーの怪物のような仕草に少年は一目散に逃げていった。

「あんたって人は…。」

『へへ、これで邪魔者は消えたぜ。撮影よろしくぅ!!』

「おめえらが、俺たちを殺し回ってる化けもんか?」

異様なバスから訛りの強い声が飛んできた。

__バコン!…バコン!バコン!バコン!

バスはまるで金槌で叩かれたようにへこみ始め、やがて太った二足歩行の猫のような人型に変形する。キャットゾンビの戦闘形態だった。

『化けもんはお前ら…いいや、お互い様だろ?悪いけど、世のため金のため、こっからはカッコつけさせてもらうぜ!』

「うるせえ!おめえらも“終わらせ”てやる!!」

キャットゾンビの額の行先表示器に“地獄”と表示される。

それと同時に手足の肉球からホイールが展開されキャットゾンビは四つん這いになった。

__ブップー!!

『なっ…!』

キャットゾンビの巨体が高速でチャンネラーに突撃する。

チャンネラーは派手に回転することで相殺させた。

『クソッ…思ったよりすばしっこくて重たい敵だな。だったら…!』

チャンネラーは何処からか青いアンテナを取り出してベルトの赤いアンテナを外した。

《boom spa!!》

 

『チャンネルチェンジ!!』

 

《ACTION Channel♪Ready Go♪》



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正義のミカタ

『チャンネルチェンジ!!』

 

またも鳴った独特なメロディーと共にチャンネラーは稲妻に貫かれる。

 

《ACTION Channel♪Ready Go♪》

 

そこに立っていたのは青色に変色したチャンネラーだった。

 

『ホゥワッチャァ!』

 

チャンネラーはカンフー映画のようにキャットゾンビに対して安い挑発を投げかける。

「てんめぇ…!」

キャットゾンビはさらに突進による追撃を繰り返した。

再びチャンネラーの身体に巨体が衝突する。しかし、チャンネラーはそれを避けようとしなかった。

__グニャッ…!

「なんだぁ!?」

『捕まえたぜ…デブ猫!』

チャンネラーはぶつかった直後にキャットゾンビにまとわりつくようにしてその背中にしがみついた。

__“アクションチャンネル”、剛の力を持つ“ヒーローチャンネル”に対して柔の力に特化したチャンネラーの変身形態である。運動能力が主に強化され、体を水のようにして攻撃を受け流すことを得意とする。

『おら!おら!』

「や…やめろ…フギャァァァァ!!!」

背面を揺らされ続けたキャットゾンビはとうとう横転してその勢いのまま壁と激突した。

粉砕された壁の中から一本の鉄骨がチャンネラーの足元に転がり込んでくる。

『へっ…丁度いい。』

チャンネラーがベルトのダイアルを回し始めた。

 

《ACTION Channel♪Every Day♪》

 

その音と共にアンテナが前に倒される。

 

《prululululululu…syupa!!”Replacement Hand“……yhaaaaaaa!!!》

 

その時、チャンネラーの手のひらが青く発光した。

チャンネラーはその手で転がってきた鉄骨を手に取る。鉄骨からは異様な音が発せられ、やがて棍のような武具に変質した。

その武具をチャンネラーは軽々と振り回し始める。

「フシャアアアア!!!」

ダメージを負ったキャットゾンビはとうとう表層上の人格も取り繕うことすらやめ、本性を現した。剥き出しにした鋼鉄の爪でチャンネラーに切りかかる。

二、三度“棍”と“爪”がかち合って火花が生じた。

大ぶりの攻撃を誘ったチャンネラーはキャットゾンビの頭部に向かって棍を突き出した。

__見切った!

棍の間合いをすでに測っていたキャットゾンビは持ち前の瞬発力でその一撃をかわそうとする。

__ジャラッ!

「ギニャァッ!!?」

突如、棍から鎖が伸び先端がキャットゾンビの鼻頭を粉砕した。チャンネラーの棍はただの棍でなく二箇所で折れ曲がる、いわゆる三節棍と呼ばれる物だった。

顔を押さえながらふらつくキャットゾンビをチャンネラーは三節棍をヌンチャクのようにして追撃する。

『これで止めだ!!』

三節棍に青い光が灯る。

チャンネラーはキャットゾンビの体を横一文字に薙ぎ払おうとした。

__ピタ!シュルルル…!

「フ!?ニャアァァァァ!!!?」

『あ!?』

三節棍の薙ぎ払いが空振りに終わる。

キャットゾンビは謎の黒い紐によって高速で上空に吊り上げられていった。

『なんだ!?やったのか!?』

「やられた…!もう一体ゾンビがいたなんて…!」

『クソッ…!』

 

《nbyyye…》

 

アンテナが抜かれ、チャンネラーは丈一の姿に戻った。

 

「どっち飛んだかわかるか?」

「全然ダメ。何回再生しても垂直に連れてかれてるようにしか見えない。」

「…しょうがねえ、ちゃんと倒しきらねえと再生数伸びねえからな。今日は一旦帰るとするか。」

 

「どういうこと…?」

 

「…!?」

 

唐突に後方から女の声が聞こえ、二人は慌てて振り返る。

そこにはあの瑠李が立っていた。

 

「瑠李ちゃん…!?」

 

「丈一、だったんだ。チャンネラーの正体。」

 

ひどく乾いた声で瑠李が呟いた。

「なんでここに?」

「さっき子供が泣きついてきたんだ。“チャンネラーに食べられちゃう!”って…。」

「あっ……ちゃぁ…。」

丈一は後方からアノンのじっとりした目線を感じる。

「…ねぇ、さっきの化け物は何?丈一の体、どうなっちゃったの?」

「…あれがゾンビの本体だ。あいつら人が見てないところでああやって力づくで数を増やしてったんだ。俺の体の方は……改造されたんだよ、色々あって。」

「そう…なんだ。」

瑠李の返事はどことなく歯切れの悪いものだった。

「とにかく瑠李ちゃん、ここで見たことは絶対に他言しないでくれ。頼む!」

「無理だよ。…私警察だよ?」

「そこをなんとか…!」

「…丈一、警察に全部話して協力してもらおうよ。警察が一緒なら丈一ばかり危ない目に合わなくたっていいし…ファイヤーだってそうしてたでしょ?」

「それが…言いにくいんだけど…。」

 

「警察は信用できない。」

 

言い淀む丈一に対してアノンがはっきりと言い放った。

「なんなの、あなた?そもそも丈一に戦わせて、そんな動画ネットに上げて何するつもりなの?」

「…少なくとも、動画を作ることに関してはこの男も合意の元なのだけれど。それにゾンビの存在をひた隠しにしてる国家権力なんて信用できると思う?」

「それは…。」

「この際だから思いきって聞くけど、あなたたちはどこまで知らされているの?」

「…言えない。社会の混乱を防ぐために警察がゾンビの存在を公に認めるわけにはいかないもの。」

「そう…。あくまでそういうスタンスなのね。警察は。」

「…虫のいい話なのはわかってる。でも、警察だけの力じゃどうにもできない。だからこそ協力してほしいの、丈一。」

「…んなこと言われてもな。」

「お願い!行方不明の子供達の命がかかってるの!」

瑠李の言葉にアノンが反応を示す。

「“子供達”…?それって…。」

「この街で頻発してる子供の連続失踪事件…!警察の上層部は何故かまともに捜査させようとしない。だから私、自分で調べていたの。山木って男を張ってたんだけどまさか今の化け物って…。」

「…そう。あれが山木。正確にはそのゾンビの成れの果て。」

「そっか…ゾンビが絡んでたんだ。通りで上が腰を上げないわけだ。…丈一。」

瑠李が急に丈一の方に向き直した。鞄から何かを取り出し丈一に差し出そうとする。

「な、なんだ?」

「…これ、行方不明になった子供達のリスト。何か手がかりになるかもしれないから。私のことは信じなくてもいい、でもこの子達だけは……。」

「…助けろって言うのか?俺に?」

「え?」

「ガキはゾンビにできねえ。だからその実験のためにガキ共は連れてかれてる。そう言う話だったよな?」

「…まぁ、それは推測だけれど。」

「こんなに実験材料がいるのにまだ連れてこうとしてるってことはさ、もう何人かその実験とやらでダメになっちまったんじゃねえか?」

「何が言いたいの…?」

「相手はゾンビだぜ?何を考えてんのかもわからねえ。ガキ共だって五体満足はおろか生きてるかだって怪しい。たとえ無事なやつを助けたとしても間に合わなかった奴がいたら…どうしてもっと早く来なかったんだって叩かれるだろ?」

「だからってこのまま放っとけばもっと被害が大きくなるんだよ…!?」

「いいや、ゾンビの方は必ず仕留める。でも、ガキは知ったこっちゃない。変に足跡を残して動画に低評価付けられたら金が出ないからな。というわけでこんな資料は要らん、返す。」

「丈一…全部お金の為だったの?こんなことしてるのは。」

「…お前の方こそ何勘違いしてたんだよ、俺は今も昔も“ヒーロー”なんかじゃない“役者”なんだ。演技して金稼ぐ、それだけだ。なんにも変わっちゃいない。正義のヒーローなんてもんはモニター越しに勝手に押し付けてる幻想だろうが。こりごりなんだよ、そういうのは。」

そう言い捨てると丈一は踵を返す。瑠李は口を閉ざしたまま俯いていた。

「…ちょっと、ジョー。どこ行くつもり?」

「先帰る。」

 

夕暮れ時、とある個室焼肉店に二人の若い女が訪れた。瑠李とアノンである。

あの後、すっかり意気消沈してしまった瑠李をなんとなく放っておけなかったアノンは彼女を食事に誘っていた。

 

「ごめんなさい。気使ってもらっちゃって。」

「いえ、気にしないで。そんな大層なものじゃなくて話、色々と聞きたかっただけだから。」

「黒倉さん…でしたよね?」

「ああ、“それ”好きに呼んでいいわ。芸名だから。それと歳も近いようだし敬語も無しにしましょう?」

「……うん、ありがとう。って、“芸名”?」

「あ…私、一応女優だから。」

「へぇ、すごい!ドラマとか出てるの?舞台とか?」

「いや…ええと、AV…とか。」

それを聞いた瑠李が急に顔を真っ赤にする。

「ああ…もう!こういう反応されるから言いたくなかったのに!」

「ご、ごめんって!私、そういうのあんまり詳しくなくて…!でも、なんでそんな人がこんなことしてるの?」

「…それに関してはただの偶然よ。たまたま家の近くに捨てられてたジョー…五月雨霧を拾ったら、なんやかんやでゾンビから助けられて…私がその動画をWanTubeにアップしたらお金になるんじゃないかって提案したの。そしたらあの男妙に張り切り始めて…ごめんなさい。ああなっちゃったの私のせいかも。」

その言葉に瑠李が笑った。

「ふふっ…そんなことないよ。あいつは昔からああだもん。」

「そう…あなたの方は?なんであんな男と知り合いなの?」

「私のおじいちゃん、石田崎浩三郎っていうんだけど。スカルファイヤーってヒーロー番組撮ってたんだ。丈一はそのおじいちゃんに拾われた当時売り出し中の新人役者。おじいちゃん以外の身寄りがなかった私はちょくちょく撮影現場に連れてかれて面倒見てもらってたんだ。丈一ともそこで知り合った。丈一ってばあの頃から子供嫌いで近づくといつも嫌な顔してたなぁ…それはそれで面白かったけど。」

「…今思うとなんでそんな男がヒーローなんてやろうと思っていたのかしら。」

「さぁ。おじいちゃん、口だけはうまいから乗せられちゃったのかもね。でも、スカルファイヤー…壱郷空介を演ってた時の丈一は本当に真剣だったよ。私はそんな丈一のこと見て本当に空介みたいな人がどこかにいるって信じてた。怖くても辛くても一人で戦い続ける空介に憧れて、警察官にまでなったんだもの。…でも、丈一変わっちゃった。根っからの正義の味方だった壱郷空介はもう見れないと思うと寂しいな。」

「それは違う。」

「え?」

「そもそも壱郷空介はスカルファイヤー全42話の中で一度だって“正義”なんて言葉は使わなかったわ。グロッカー達も自分なりの正義の下に行動してるのを感じていたから。だから最後まで決して自分が正義だなんて名乗ったりしなかった。壱郷空介は正義の味方なんかじゃない。ただ自分が信じたもののために…誰かの笑顔を守るために戦ってるだけ。それは今も…ジョーも変わってない。あいつが今何を信じて戦っているのかは分からないけど。」

「見てたんだ…スカルファイヤー。」

「あっ…。」

今度はアノンの顔がみるみる赤くなる。

「ああ、もうっ!今日こんなのばっか!」

「ははっ…これでようやく納得いった。だからアノンちゃんみたいな子が丈一に付き合ってるんだね。」

「…そうよ。初めてあの男がゴミ捨て場に寝転がってるの見た時心臓止まるかと思った。…このこと、ジョーには黙っておいてもらえる?」

「丈一は知らないんだ。」

「言っちゃったら今後の活動に支障をきたすでしょ…色々と。」

「でも正直幻滅しなかった?カメラが回ってない時の丈一、あんなのでしょ?」

「そりゃ…あんなにガッカリな性格だけれど、根っこの部分はテレビ越しに見てたのと何にも変わらないもの。ヒーロー呼ばわりされるのを嫌がるのもきっと、正義っていう言葉に対してどこまでも真面目だからだと思う。自分が負えない分の責任を絶対に背負わないためにああいう態度をとってるんじゃない?」

「…そうかな?…ううん、そうだったかも。丈一はいつだってそういうやつだった。」

「子供達のこと、私はこっそり協力する。できることがあったらなんでも言って。ジョーは拒むでしょうけどそれとなく仕向けてみるから。」

「うん…ありがとう。あ、そうだ。一つ訂正していい?」

「え、何?」

「実は壱郷空介は一度だけ正義って言葉を使ってるんだ。本人出演の遊園地のヒーローショーでね。」

「…!?……ヒーローショー!?盲点だったわ…。だって行きたくても行けなかったんだもの。」

「ふふっ…それも最初の一回だけで、丈一すぐにセリフ変えちゃったんだけどね。ショーだとテレビと勝手が違うみたいで空介のキャラもだいぶ変えてたなぁ。」

「ちょっと、その辺…詳しく聞かせてくれない?」

 

その後も、スカルファイヤー談義と丈一の悪口で二人は盛り上がりいつの間にか時刻は店の閉店時間間際になっていた。

 

「わっ、もうこんな時間。帰らなきゃ。」

「あ…そう?なら、お会計こっちでしとくけど…。」

「えぇ、いいよそんな…。」

「ここは奢らせて。まだ話したいことはたくさんあるんだから。もしよければまたどこか食べに行きましょう。」

「……うん。わかった。今度は奢らせてね。いい店探しとくから。今日はありがとう、久々に人とこんなこと話せて楽しかった。」

「こちらこそ。」

瑠李はぺこりと頭を下げて店を出て行った。

それからすぐにアノンのスマホが鳴る。

__あの、家の鍵

丈一からのメッセージだった。

事務所を追われ、住んでたアパートをも追われた丈一は現在、アノンのマンションに転がり込んでいた。

そのメッセージを見たアノンは額を軽く指で押しながら店を後にしようとする。

ふと、瑠璃の荷物があった置き箱に鍵付きの手帳が落ちているのに気づく。厳重に閉じられ3桁の暗証番号を入れない限り、横からも覗き見れない代物だった。

 

「…これ?」

 

「降ってきやがった。」

丈一はアノンの部屋の前で大降りの雨を眺めながらコンビニで買った酒をチーズ鱈で一杯やっていた。

やがてエレベーターの着く音と共に廊下から一つの足音が聞こえ始める。

「お、帰ってきた。…って、なんだ?傘ぐらい差せばよかっただろ?」

部屋の前に戻ってきたアノンはずぶ濡れになりながら青い顔をしていた。

「どうした…!?おい…!」

 

「ジョー…落ち着いて聞いて。」



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激情に駆られる

翌日の早朝、丈一とアノンは互いに口を交わすこともなく、とある廃劇場の前に立っていた。

 

「…お前はここで待ってろ。最悪、感染源がそのまま置いてあるかもしれん。」

「……撮らなくていいの?」

「ああ……撮らないでいてくれ。」

 

 

丈一はこれから起こりうる最悪な事態を記録に残したくはなかった。アノンを残し意を決したように劇場の中へ足を踏み入れて行く。

劇場の壁にもたれかかったアノンは昨夜拾った手帳を静かに手に取った。

 

__この手帳を見つけてくれたあなたへ

 

薄暗い劇場の中を丈一はゆっくりと歩いて行く。やがて丈一の改造人間としての感覚がとある部屋の前でゾンビの反応を示した。

丈一は一度目を閉じ、何かを願う素振りを見せながらそのドアを開けた。

 

「やっぱり、来たんだ。丈一。」

 

「瑠李ちゃん…。」

 

そこに立っていたのは石田崎瑠李だった。

 

部屋の中は異様な色で塗りたくられ、スクリーンにはモザイクのような色の配列が1秒置きに入れ替わっていく謎の映像が映し出されていた。おそらくこの要素の一つ一つが人をゾンビに変える思想ウイルスの情報であることを丈一は直感した。

 

「あの手帳、昨日カバンの中から無くなってたことに気づいた時は心底肝が冷えたよ。でも相手はアノンちゃんだし、パスワードもかかってるし、明日になったら戻ってくるんじゃないかなーって思ったんだけど…念のためここに来てみて正解だった。」

「あんなわかりやすいパスワードしてたら総当たりですぐ解けるだろうが。」

メモのパスワードは“004”__スカルファイヤーが警察に追われる時につけられた“未確認怪人第4号”のコードネームからつけられたものだった。

「そっかぁ、その発想、なぜか出てこなかったな。その手帳、今の私には何が書いてあるかわからないし燃やそうと思ったけど不燃性だし、なんやかんやでいつか処分しようと思ってたらまさかこんなことになるなんてね。丈一、その手帳…何が書いてあったの?」

「本物の瑠李ちゃんが山木に捕まった子供達の行方を書いていたんだ。自分がゾンビになった時のために。」

「…そっか、そんなこと書いてあったんだ。ゾンビになると一週間前後の記憶消えちゃうから思い出せなかった。」

「…認めるんだな、自分がゾンビだってこと。」

「だって状況証拠多すぎるでしょ。これじゃ認めざるおえないよ。」

「子供達は…ガキどもは何処にやった?」

「言えないよ。私ゾンビだよ?」

「…そうだよな。そりゃそうだ。」

「ねぇ、丈一。丈一もこっちに来てよ。頭の中、非道(たのし)いことでいっぱいにできるよ。辛いことなんて全部消えるよ。」

 

「瑠李ちゃん。」

 

「何?」

 

「すまなかった。助けられなくて。」

 

《boom boom Hello!WanTube!!》

 

「そっか…やるんだね。いいよ、丈一は特別だから残酷(きれい)に終わらせてあげる。」

 

「変身!」

 

「変身。」

 

丈一と瑠璃が同時に同じ言葉を発する。

 

《HERO Channel♪Ready Go♪》

 

その音と共に丈一はチャンネラーに変身した。

瑠李の身体も黒く染まり変形していく。頭蓋から二つの車輪のようなものが突き出し、その頭部は“映写機”の姿をとった。衣服はスクリーンマスクでできたドレスのようなものに変質し、その隙間からおびただしい量のフィルムが垂れている。か細い腕はそのままの形で6本に増え、上半身はさながら蟲のような姿に変貌した。

蜘蛛のゾンビ、“スパイダーゾンビ”である。

 

「あ…丈一には、もっとふさわしい姿があるよね。ちょっと待ってて。」

 

《theatre!!》

 

何処からともなく発せられた声と共に映画館の天井からスパイダーゾンビの周囲に複数の映写機がフィルムに釣られながら落ちてくる。映写機は強烈な光でスパイダーゾンビの身体を照らし始めた。

 

映写機の光を浴びたスパイダーゾンビに四方八方から複数の人型の光が重なり合わさる。完全に光が重なり終わった時スパイダーゾンビの姿は更なる変貌を遂げていた。

 

黒い仮面に赤い瞳とボディ、そして風にたなびくようなマフラー、その姿はスカルファイヤーそのものだった。

 

__この手帳をあなたが読んでいる時私はゾンビになっているでしょう。ひょっとして、もう倒されちゃったかな?

 

その手帳は紛れもなくゾンビになる前の瑠李が書いたものだった。

 

__この街で起きている連続子供失踪事件、警察ではまともに捜査させてくれないので、私独自にやることにしました。

__捜査の結果、最初の子供の失踪と同時期に仕事を辞めた元バスの運転手、山木日光という男が怪しいとふんだ私はその男を尾行しついに廃劇場…網子シアターという場所に子供を連れて行くところを押さえました。

__以下に現場の見取り図と子供達の居場所、そして山木の情報を記します。

そのメモの箇所には精巧な見取り図と山木の行動パターンなどが書かれていた。

 

__と、ここまで詳細に記しましたけど、お察しの通り私はこの中に一人で潜入し、そしてこのメモを書いています。山木には既に見つかり、劇場の一室に立てこもってはいますがもう長くは持ちそうにありません。おそらく私はゾンビにされるでしょう。だから、ここからはゾンビになった私を倒すであろうABチャンネラーさん……ていうかたぶん丈一に向けてメッセージを残したいと思います。

__まず、一言。私がゾンビになったのは私の責任です。もし湿った顔で謝ろうものなら“ファイヤーきりもみシュート”をお見舞いしてやります。

 

高速で間合いに入ったファイヤーに体を掴まれたチャンネラーは真上に投げられる。

空中に打ち上げられたチャンネラーをファイヤーはその強大な脚力でキャッチし、回転しながらパイルドライバーのように地面に打ちつけた。

 

『ぐぁっ!!』

 

衝撃でチャンネラーはその場に昏倒する。

 

『もう終わり?』

『馬鹿いうんじゃねえ…!食らってやっただけだ…!!うおおおお!!』

 

すぐに起き上がったチャンネラーは間髪入れずファイヤーに殴りかかった。

 

__ドス!!

『…軽いよ、丈一。』

 

ファイヤーは全く動じずチャンネラーの胴を手刀で抉る。

 

『がっ…はっ…!!うおらああ!!』

 

慟哭のような丈一の雄叫びが劇場に響き渡った。

 

__出会った頃から、あなたは嫌なやつで……本当に嫌〜〜なやつで、それはそれとしてからかい甲斐のある男でした。

 

『はぁ…はぁっ…!!』

 

__それでも、そんなあなたの作り出すヒーローに私は憧れました。たとえそれが売れるためになりふり構ってられなかったその場凌ぎの虚像だったとしても、私はいつかあなたみたいになりたいと思ってたくさんの人の笑顔を守れるこの警察を目指しました。

 

『うおらあああ!!』

 

__その結果、子供たちは助けきれず肝心なところはあなたに押し付けること、あなたにまた余計な重荷を背負わせることになってしまって本当にすみません。あなたが仮面の下でどんな顔をして戦っているか少しはわかっているつもりなのに。

 

『はぁっ…おりゃあああ!!』

 

__でも、丈一ならきっと最後はしっかり決めてくれるよね?うん、これが最後なんだから思いっきりわがままを言わせてもらいます。

 

チャンネラーの拳が空を切る。

『もう…ダメだね。見てらんないよ。終わりにしよう、丈一。』

『がっ…!!』

ファイヤーの一撃がチャンネラーを遠くへ吹き飛ばした。

 

__丈一、私のヒーローへ

 

ファイヤーはそのまま腰を深く落とし、炎を帯びた脚で助走を始めた。

突き飛ばされたチャンネラーはうずくまったままベルトのダイアルを回す。

《HERO Channel♪Every Day♪》

 

__これから何があっても…どうか、絶対に絶対に

 

ファイヤーが助走の勢いで高く飛び上がり、炎を纏いながら足を矢のように突き出した。

スカルファイヤーの必殺技、“SFキック”である。

 

__負けないで

 

『くっ…!!』

《prululululululu…syupa!!”Transition Kick“……yhaaaaaaa!!!》

 

そのベルトの音声と同時にチャンネラーが立ち上がった。

SFキックがチャンネラーを貫こうとした瞬間、チャンネラーの前後に光の穴が現れ、その中を通過したファイヤーがチャンネラーの真後ろに着地する。

その着地点に向けて、赤い稲妻を帯びたチャンネラーの回し蹴りが炸裂した。

“カウンターSFキック”__スカルファイヤーが劇中一度だけ使用した、高速で移動するワームグロッカーにむけて放ったカウンターのSFキックである。

 

《todays,Channeler’s points…trulululullulu…syupa!!100(ワンハンドレッド)‼︎yhaaaaaaa!!!》

 

その一撃でファイヤーへの変身が解けたスパイダーゾンビがその場に倒れようとする。チャンネラーはその身体を両手で受け止めた。

「ひどいな、丈一…私への攻撃、全部躊躇してたの“演技”だったんだ…。」

『…俺は“ヒーロー”じゃない“役者”だぜ。』

「…だったら、なんで抱きしめてくれるの?」

『ただのファンサービスだ。俺の最初のファンのために。』

「そっか…うふふ。体、もう動かないや。もうこんなことしないで済むんだね。ありがとう、丈一。あと、アノンちゃんにもよろしくね。これはお節介だけど丈一はもっとアノンちゃんと話をしてあげるべきだと思う。」

『話?なんの話だ?』

「…そういうとこだよ、丈一。でも…もっとわがままを言えば、本当は……私も…丈一と一緒に戦いたかったな………。」

『瑠李……瑠李ちゃん!!』

 

瑠璃が伸ばす手を丈一が掴む。

その瞬間、大きな爆風が劇場を揺らした。

 



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蘇るヒーロー

戦いが終わり、廃劇場の中からチャンネラーに変身したままの丈一が出てくる。

「ジョー……やったのね。」

『…ああ、だけどまだ終わりじゃない。』

「…ええ。」

アノンはそれ以上、何があったか深く聞かなかった。

「メモには山木が子供達の実験に失敗した時の計画も書かれてた。狙う場所は“東京スカイロード”。自らバスになって子供達ごとそこへ突っ込むつもりみたい。」

東京スカイロード__それはゾンビへ対抗するために作られた日本最大のジャミング装置である。

『…たく、バスを使う悪者ってやつはなんでどいつもこいつもやり方が回りくどいんだよ。』

 

その時、チャンネラーのベルトに通信が入った。

『聞こえるか“壱郷”…今からその情報を送る。』

『猪上…!』

通信の相手は猪上(いのがみ)鬼善(きよし)、丈一を改造した男でありスカルファイヤーの脚本家だった男である。そして今はグロッカーという組織を立ち上げ、ゾンビと社会の裏側から戦っている。

『悪かったな、壱郷。お前だけにこんな役目を負わせて。』

『御託はいい、だいたいお前はずっと瑠李ちゃんに嫌われっぱなしだったろ。さっさと情報を寄越せ。』

猪上は丈一とはスカルファイヤー以前からの旧い付き合いだった。そして今でも、丈一を役名で読んでいる。

『山木日光…いや、キャットゾンビの座標は送った。それと、とっておきの“脚”をお前に用意しておいた。じきにたどり着く。』

『あ?脚…?』

『お前には何かと因縁のあるものだ。切るぞ。』

『あ、おい!』

通信は一方的に遮断された。

『あんにゃろう…勿体ぶりやがって。』

 

「そう…それと、これはあなたが持っていなさい。」

アノンがチャンネラーに瑠李の手帳を渡そうとする。

『…いいや、俺には重たすぎる。』

「あなたへのファンレターでしょう。」

『…わぁったよ。』

チャンネラーは渋々手帳を受け取った。

手帳に手が触れた瞬間、チャンネラーの頭部のアンテナが光を帯びベルトから奇妙な音が流れ始める。

《登録登録登録〜♪登録登録登録登録〜♪》

『うおっ、なんだ?』

手帳に触れた右手から、左手に緑の光が走った。

その光が徐々に実体を伴ってそこに緑色のアンテナが現れた。

「新しいアンテナ…?そう…あの子が残した意思をベルトが受信したのね。」

『…チッ、こんなもん渡されたら後に引けなくなっちまっただろうがよ。』

チャンネラーは緑のアンテナに語りかけるように言った。

 

『しょうがねえ、今日だけは“ヒーロー”演ってやるよ。それで満足だろ?』

 

首都高速道路で一台のバスが暴走を始めた。

正面が獣の顔ように歪み、ヘッドライトは禍々しい光を放ち続けていた。

バスの中からは子供たちの啜り泣き叫ぶ声が響き渡る。

『泣けぇ!叫べぇ!おめえらが“終わり”を見続ければ”俺たち“はデカくなれる!おめえらの脳漿が飛び散る様を世界中に人間共に見せつけてやる!』

スパイダーゾンビの死を感じ取ったキャットゾンビはバスに変化し、子供達を乗せて東京スカイロードに特攻を仕掛けるべく首都高を突き進んでいた。

 

『そこまでだ!キャットゾンビ!!』

 

『ああん!?』

 

__ヴィイイイイ!!

 

『とう!!』

 

上段の道路からバイクに乗った赤い影がキャットゾンビのすぐ隣に飛び降りた。

 

『おめえはァッ!!』

 

『自由と平和と笑顔の戦士!ABチャンネラー!!子供達を返してもらう!!』

 

赤い影の正体はチャンネラーだった。猪上から自動運転で送られてきたバイクを駆り、キャットゾンビに併走する。

 

「AB…チャンネラー…?」

「ABチャンネラーだ!!」

「助けて!チャンネラー!!」

 

バスの中の子供達が歓声が湧き上がった。

 

『待たせたな!今から助ける!しっかり掴まってろ!!』

 

チャンネラーは緑のアンテナを手に取った。

 

《boom spa!!》

 

『…こんなことに付き合ってやってんだ。力、貸してくれよ?チャンネルチェンジ!!』

 

《POLICE Channel♪Ready Go♪》

 

稲妻と共にチャンネラーの色が緑に変わり左手首には手錠、右手には拳銃のようなものが現れた。

 

『ふざけやがってェ!!オエッ…!ボエェェッ!!!』

 

キャットゾンビの口が開き、スクラップの塊のような物体が複数吐き出される。

塊は地面に落ちると同時に四つん這いの人の形を取り、四肢から生えた車輪で走行しながらチャンネラーを取り囲んだ。キャットゾンビの生成した複製体である。

 

「フシャアアアア!!」

 

複製体の一匹がチャンネラーに飛びかかった。チャンネラーは素早く複製体に向けて発砲する。

 

「シャァッ!」

『うおっ!?』

 

複製体は空中で銃弾を避けながらその爪をチャンネラーに向けて振り下ろした。

間一髪、チャンネラーは車体を傾けながらその一撃を避ける。

 

__弾道を見切られてるのか…だったら!

 

チャンネラーは併走する複製体に向けて銃弾を放った。弾はまたしても避けられ、反対側から別の複製体がチャンネラーを襲う。

その時、チャンネラーが首を傾けると同時に通過した弾が複製体に直撃した。

 

「フギャアア!?」

 

首都高の壁から跳ね返った弾丸を受けた複製体は後方で爆発を起こす。

 

『次はお前だ!』

「フギャッ…!?」

 

チャンネラーの左手の手錠が前方の複製体の片足を捕らえた。足を取られた複製体はバランスを崩し、回転しながら宙に浮く。それに向けてチャンネラーは銃を乱射した。

「フギャーッ!!」

跳弾により他の複製体が次々と爆散していく。

最後の一体が逆走してチャンネラーに突撃してきた。

 

『はぁっ!!!』

「フギャニャッ…!!」

 

チャンネラーはバイクを跳ねさせ、最後の複製体を踏み台に飛翔した。そのままバイクを乗り捨て、バスに飛び乗る。

 

『降りろォ!!』

『ぐっ…!!』

 

キャットゾンビはしがみついたチャンネラーを振り落とそうと車体を左右に揺らし始めた。

 

「「わああああっ!!!」」

『やめろ!!』

 

《POLICE Channel♪24(トゥエンティフォー)♪》

 

ベルトの緑のアンテナが倒される。

 

《prululululululu…syupa!!”Captures Bind“……yhaaaaaaa!!!》

 

その音声と共にチャンネラーの左手に光が集まった。

 

『うおおお…!!』

 

チャンネラーは力を込めた左拳を振り下ろした。拳の接触と同時にチャンネラーの左手首から手錠が消え、車内の子供達の手に手錠が現れる

その反動と共にチャンネラーはバスから飛び降りた。

 

『……!?何をしたァッ!!?』

 

キャットゾンビは身体に違和感を感じて急ブレーキをかける。振り向くとその後方にはチャンネラーと中にいたはずの子供達の姿があった。

あの瞬間、ポリスチャンネルの力により子供達はキャットゾンビの車内から“取り除かれ”ていた。

 

『…もう歩けるな?君たちはすぐここから離れるんだ。』

 

チャンネラーは振り返り子供達を遠くへ逃す。

 

『ここまでだ、キャットゾンビ。チャンネルチェンジ!』

 

《HERO Channel♪Ready Go♪》

 

チャンネラーの身体が赤色に戻った。

 

『おめえらぁ…もう許さねえ!!フシャッ!

ゴァッアッ!!フギャアアアア!!!!』

 

キャットゾンビの咆哮と共にその身体からは毛が生えていき、さらに12本の脚が現れ野獣のような姿へと変貌した。

 

『フニャァァ…!!こうなったのも全部あの女をゾンビにしたせいだぁ!あの女だけはゾンビになってもコントロール出来なかった…!ギギッ…なんであの女だけはゾンビになる最後の瞬間まで絶望しなかったんだ!!?』

 

『…あの子は昔誰かに与えられた“幻想”の犠牲になっただけさ。正義のヒーローとかいう理想の犠牲に。…だから、俺はここに蘇った。そんな幻想に責任を取るために。』

 

《HERO Channel♪Every Day♪》

 

『例えあの幻想が全て嘘だとしても、せめてあの子が信じたものだけは本物だったってことを証明するために…。』

 

チャンネラーは右手を腰に当て、左腕を斜め上に伸ばした。スカルファイヤーのポーズである。

 

『…カッコつけさせてもらうぜ。』

 

キャットゾンビは道路が抉れていくほどの力でチャンネラーに突進する。

『知るかァ!!死ねぇーッ!!!』

『うおおおお!!!』

チャンネラーも前方に向かって疾走を始めた。

 

『雷光…!!』

 

《prululululululu…syupa!!”Rising Effection Kick“……yhaaaaaaa!!!》

 

チャンネラーの足跡に強烈な光が走る。

 

『SF…!!』

 

『キシャアアアア!!!』

 

キャットゾンビが大口を開けてチャンネラーに飛びかかった。

それと同時にチャンネラーも飛翔し、空中で一回転する。

 

「「チャンネラー!!!」」

 

子供達の声援の中から、チャンネラーはいるはずのない瑠李の声を聴く。

 

__丈一!

 

『キィィィック!!!』

 

チャンネラーは両脚を突き出し、稲妻を帯びた肉体が光の矢と化す。

雷光SFキック__スカルファイヤーの劇中にてSFキックの効かないトカゲグロッカーに対して壱郷が特訓の末、習得した強化型のSFキックである。

その一撃はキャットゾンビの身体を正面から貫いた。

 

『ニャアアアアア!!!』

 

《todays,Channeler’s points…trulululullulu…syupa!!120(ワンハンドレッドトゥエンティ)‼︎yhaaaaaaa!!!》

 

チャンネラーが地面に着地すると同時に、その巨体は爆発し、消滅した。

 

「チャンネラー!」

 

一部始終を見ていた子供達がチャンネラーに駆け寄る。

『遅れてすまなかった。君達、怪我は無いか?』

「…怖かった!」

「チャンネラー!助けてくれてありがとう!」

 

『…いいや、君達を助けたのは俺じゃない。石田崎瑠李というお巡りさんだ。いいかい、例え周りの大人がどれだけ違うと言ってもこの名前だけは絶対に覚えていてくれ。本当の正義のヒーローの名前だ。』

 

戦いの後、警察は一連の出来事を山木による身代金目的の誘拐事件として処理した。容疑者は交通事故により死亡したことにされ、この事件によって殉職した一人の警察官の名前も公には伏せられている。

 

「あ…君は。」

「ん?ああ、どうも。ご無沙汰です。」

 

ジョギング中に交番前を通りかかった丈一に、声をかけたのはあの部長だった。

 

「どうしたんだ、その格好。最近見ないと思ったら、どういう風の吹き回しだい?」

「体力づくりっすよ。やっぱ役者戻った時に要るでしょって思って。」

「そう……もしかして、お酒も?」

「はい!ここの若いお巡りさんにガツンと言われてから禁酒中であります!」

「そうかい…それは、よかった。」

 

部長はもの悲しそうな、嬉しそうな複雑な表情をする。

 

「ともかくジョギング中に呼び止めて失礼しました。部下ともども応援しています。」

「ええ、ありがとうございます!」

 

「あの…!」

部長の元に一人の少女が訪ねてきた。

「これ…!“イシダザキルリ”って人に…!」

「どうしたんだい…?」

少女が部長に小遣いで買った小さな花束を渡す。その少女はあのバスにいた子供の一人だった。

「助けてくれたって…チャンネラーが言ってたから…。」

「…そうか……そうか!ありがとう、これは渡しておくよ。」

 

丈一はその様子を遠目で眺め、そっと派出所を後にした。

 

「お…なにやってんだ?こんなとこで。またゾンビか?」

「いえ…見張りにきただけ、トレーニングサボってお酒飲んでないとも限らないし。」

「さいですか…。」

丈一はジョギングのコースで待ち伏せしていたアノンに遭遇する。

「そういや、お前。あの日瑠李ちゃんと何話してたんだ?」

「そりゃ……あなたの悪口よ。」

「…俺の悪口で五時間も飲めんのかよ。」

「もう少し、あの子と早く会えてればいい飲み相手になれたかもね。」

「そうか?…そうかもな。」

アノンと出会った頃から丈一はどことなく彼女に瑠李と似た雰囲気を感じていた。

「あいつが、正義のヒーローなんてもんに憧れてなきゃ今も元気にしてたんだろうな。こんなことなら、あん時もっと手ぇ抜いとくんだった。」

「…なにも“なりたい”って気持ちだけが憧れじゃないでしょ。あなたが振り撒いた憧れの中には“きっと助けてくれる”って願望も含まれているんじゃないの?」

「なんだ?それ。」

「さぁ…例えばの話だけど、あなたを見ていた人間の中には毎日苦しい思いをしていた子供もいたかもしれない。そんな子供も明日、ヒーローに助けてもらえるなら…いつかヒーローが助けてくれるならって希望を持って生き続けることができれば、何かの拍子に救われることもあるかもしれない。そう考えれば、あなたが馬鹿みたいに真面目にやってきたことで間接的に救われた命もどこかにあるんじゃない?」

「そうかぁ?…いいや、騙されねえ。二度とヒーローなんてやってやるか。だいたい、そんな奴がいるなら顔を拝んでやりてえよ。」

「ぷしゅっ…!」

その言葉にアノンが吹き出して唐突に顔を抑える。

「なんだ…?」

「…なんでもない。さ、帰りましょ。まだ眠らせてる動画の編集もあるわけだし。」

「…へいへい。」

 

丈一の前では滅多に笑わないアノンの横顔が夕陽に照らされてわずかに笑みを帯びているように見えた。

 

__ABチャンネラーの戦いは続く。基本的には金と名誉のために。

 

__けれどもそこに消えない願いが残っていたならば、ヒーローはいつでも蘇る。



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