狙撃手のダンジョン攻略 (センチュウ)
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ステータス紹介

取り敢えずこれを元に膨らませる


[ステータス]

名前:ファロス

所属:アンリマユ・ファミリア

レベル:6

力:H(111)

耐久:H(122)

器用:D(502)

俊敏:A(895)

魔力:S(988)

視力:A

魔法:投影

   ・所持している武具の劣化品を瞬時に製造する

スキル:緋色の傷(スカーレッド)

    ・死に近づくほどアビリティ強化

    ・1日に1度だけ緋色の傷(スカーレッド)に変身できる

 

   :殺戮技巧(R.I.P.)

    ・生物殺害時に耐久・魔力回復、アビリティ強化

    ・スキル発動中上記以外による回復不可

 

   :気配偽装(ステルス)

    ・自身の気配を別のものとして偽る

 

 

[キャラ背景]

 オラリオにやってきて6年経つ小人族(パルゥム)。性別は女。

 故郷の鍛冶師が造ったクロスボウを用いた狙撃を得意としており、オラリオに到着する以前に黒死の天霊(トゥルー・クワイエット)緋色の傷(スカーレッド)の単独討伐を果たしている。なお、その影響がスキルに発現している。

 アンリマユことヒトガタマックロクロスケとの出会いは路地裏。良さげなファミリアを探して歩き回っていたところでばったり遭遇し、意気投合してそのまま眷属化。アンリマユとファロスしかいないファミリアだが、戦闘スタイルの都合上他人との交流が少ない現状をかなり気に入っている。

 

 

[参考]

【シャングリラ・フロンティア】『黒死の天霊(トゥルー・クワイエット)』『黒き死に捧ぐ嘆き(レクィエスカト・イン・パーケ)(通称R.I.P.)』『緋色の傷(スカーレッド)

【アークナイツ】『ファウスト』

【Fate】『エミヤ』『アンリマユ』

【とある魔術の禁書目録(インデックス)】『マリアン=スリンゲナイヤー』

 

 

[メタ背景]

小人族(パルゥム)の少数民族である黒小人(ドヴェルグ)、『マリアン=スリンゲナイヤー』が造った身の丈程のクロスボウを担ぎ、『エミヤ』の投影で造った矢を『ファウスト』のステルスとスペックで射出し、『黒き死に捧ぐ嘆き(レクィエスカト・イン・パーケ)(通称R.I.P.)』の殺戮バフで自己強化する。弱点である近接戦闘を『緋色の傷(スカーレッド)』への変身能力で補うクロスモンスター。

殺戮の果てに半死半生になれば危機契約31等級並の馬鹿火力と耐久を併せ持つ怪物と化す。

その状態で『緋色の傷(スカーレッド)』に変身したらどうなるのか? R.I.P.の殺戮バフを乗せた瀕死の『緋色の傷(スカーレッド)』って時点で察しろ。

ちなみにガチで死にそうになるとインベントリアの中に逃げ込む。インベントリアの性能はナーフ前の初期仕様、つまりモンスターの目と鼻の先でも中に逃げ込めるのだ。製造元はマリアン=スリンゲナイヤー。



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彼女の日常

ベル君ってヴォーパル魂の化身みたいだなって思うんですよ

[追加情報]
うちのオリ主は矢を装填済みのクロスボウを複数投影してマミさんみたいな挙動ができる


 穏やかな日光の注ぐ快晴の下、屋根上を駆けてダンジョンに向かう影が1つ。

 子供のような小柄な体躯、白い(・・)肌を隠すように纏った襤褸(ボロ)、そして日光を反射してきらめく黄金のブレスレット。それら全ては気配隠蔽(ステルス)によって隠されている。

 

 拠点から最短距離でバベルの根本にたどり着き、誰かの姿を探すようにキョロキョロした後、誰にも認識されないままにダンジョンへと突入する。

 基本的に、ダンジョン攻略とは複数人でパーティを組んで行う物である。ソロ攻略など一部例外を除いて自殺行為と誹られる蛮行にして愚行の極み。

 己の力を過信した愚かな駆け出しが上層で星の数ほど命を落としている事はもはや語るまでも無い。

 

 

 

 37階層白宮殿(ホワイトパレス)の内部にある闘技場(コロシアム)にて、殺戮が横行していた。

 気配隠蔽(ステルス)で身を隠しつつ相棒たるクロスボウを両手で構え、投影で複製したクロスボウを周囲に浮遊させながら全方位に向けて一斉掃射。

 本体たる手元のクロスボウは兎も角、『既に矢が装填されたクロスボウを投影→発射→投影解除』というループを高速で回し続ける周囲の複製品達は攻撃の手を一切休める事無くモンスターを穿ち、屠り続ける。

 

「……こんなもんかね?」

 

 射撃を止めて気配隠蔽(ステルス)を纏い、周囲を睥睨(へいげい)

 キラキラと輝く魔石やその他ドロップアイテムをホクホク顔でインベントリアに収納する彼女の名前はファロス。

 小人族(パルゥム)の少数民族たる黒小人(ドヴェルグ)の冒険者。

 

「ふむふむ結構落ちたなコリャ、全部売り払って幾らになるのかねぇ? 100万超えるかな?」

 

 闘技場(コロシアム)内部のモンスターを鏖殺したとはいえ、それで安全が確保されたわけではない。

 次産間隔が無くモンスターが一定の数まで無限に産み落とされるという地獄のようなその場所には、相変わらずポコポコとモンスターが産み出されており、ファロスが殺した分の補充は瞬く間に終わるであろう。

 本来ならサポーターを複数人雇って回収するような量のドロップアイテムを一人で拾いきるにはあまりにも時間が足りていない筈なのだが、気配隠蔽(ステルス)を纏ってテクテク歩くだけでその周囲のアイテムが独りでに消えていく。

 

 格納鍵(かくのうけん)インベントリア

 

 ファロスの右手首で輝く黄金のブレスレットの名前であり、古くから黒小人(ドヴェルグ)が愛用する相棒のようなアイテムであり、まごうこと無きチートアイテムである。

 コイツが一つあるだけで旅が滅茶苦茶楽になる。鞄持たなくていいし寝たいときには中に入れば良いのだ。

 

 新たに産まれたモンスター達は気配隠蔽(ステルス)によってファロスの存在を認識出来ていないが、だからと言って安全というわけではない。

 元来この地はモンスター同士が争う闘技場(コロシアム)

 火力だけならレベル6冒険者の中でも最強格なのだが、その代償とでも言うかのように耐久に乏しい彼女ではモンスター同士の争いに巻き込まれるだけで大怪我を負う可能性がある。

 

 なので逃げる。

 ドロップアイテムを全て拾い終えたファロスは、身を隠しながらそそくさと闘技場(コロシアム)から退散した。

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 気配隠蔽(ステルス)で身を隠し、殺戮技巧(R.I.P.)によって強化された脚力を存分に活かして矢の如き速度で地上へと駆ける。

 

 今夜は何作ろうかなーと、最近舌が肥えてきたマックロクロスケにふるまう料理について思いを巡らせながら地上へと向かっていると、奇妙な集団を見つけた。

 

(……あれは、ロキ・ファミリア? アイツら何やってんの?)

 

 彼らがいること自体は何の問題もない。

 冒険者がダンジョンにいることは水鳥が水辺にいるのと同じく自然なことだ。

 問題なのはその様子。

 顔見知りたる第一級冒険者達の誰も彼もが、何やら切羽詰まった表情で全力疾走しているのだ。

 

 現在地は中層。

 場合にもよるだろうが、この近辺に一級連中を脅かすモンスターがいるとは思えないのだが……

 訊いてみるか。

 気配隠蔽(ステルス)を解除。

 突然現れたファロスの姿にギョッとした数人を無視し、疾走を維持したまま比較的話しかけやすい金髪の同族に近づく。

 

 

「こんちゃーす」

「うおあ!?」

「何があった? やけに急いでるようだが、手伝おうか」

「ッ……ミノタウロスの集団が逃走している! 上の冒険者達に被害出る前に仕留めるのを手伝ってくれ!!」

「了解」

 

 

 話しかけたのはロキ・ファミリアの団長、フィン・ディムナ。

 他ファミリアの冒険者を巻き込むことに対して一瞬躊躇したらしいが、それどころではないと考え直して要点を告げた。

 

 前を見れば、確かにロキ・ファミリアからの逃走を果たすべく疾走する異形の集団がいた。

 なるほど、アレらを仕留めればいいのかね?

 ファロスの行動は早かった。

 

 ガシャココココココココォンッ!!!!!

 

 一瞬で数十台のクロスボウを投影。

 すでに矢が装填されたそれらは間髪入れずに射撃を開始し、瞬く間にミノタウロス達を

 

「他には?」

「いくらか上の階層に流れた。すまない、巻き込んでしまって……」

「気にしなさんな。見たところ遠征帰りだろ? 帰り際に喧嘩売られて返り討ちにしたらそのまま逃げられた感じかな? 下でどんなバケモノに遭遇したかは知らんが(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)疲弊した状態で逃げの一手の集団を仕留めきるのは厳しいだろ」

「……すまな「こんのメスガキがあああああああ!!!! 何団長と話し込んでんのよおおおおおお!?!?」

「やっべ逃ーげよ。先行くわ」

 

 フィンと話すファロスの存在に気づいて怒号と共に駆け寄ってくるティオネ・ヒリュテ(ショタコンアマゾネス)にビビり散らかして上層に向かって逃走。

 自分の方がレベルが上とは言え、恋する乙女の怒りは恐ろしい。

 どこぞの天霊が良い例だろう。

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 アイズ・ヴァレンシュタインが最後のミノタウロスを討伐し、間一髪で助かった駆け出し冒険者らしき少年に鮮血が降り注ぐ。

 白かった頭髪は真っ赤に染め上げられ、猟奇的な光景が出来上がった。

 

 「……大丈夫ですか?」

 

 その少年に対し、アイズはスッと手を差し伸べた。少年はその手に目もくれずただ時が止まったようにアイズの顔を見つめていた。

 

(……惚れたなアリャ)

 

 少年の顔を遠くから見ていたファロスは漠然とそう思った。

 名も知らぬ駆け出しの少年よ、確かにアイズは美人さんだし惚れるのは別におかしなことではないが、その想いを成就させるには最低でもクソデカイ壁が3枚ほど立ちふさがるぞ?

 具体的に言うと口の悪いツンデレ狼(ベート・ローガ)初心な百合エルフ(レフィーヤ・ウィリディス)、更にはセクハラ女神(ロキ)だ。

 

「だぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!?」

 

 駆け出しの少年―――ベル・クラネルは絶叫を上げながらその場から逃走する。

 その勢い、脱兎のごとく。

 抱腹大笑の果てに呼吸困難に陥っているベート・ローガではないが、唖然とした表情でその場に固まるアイズは正直クソ面白かったです。

 




格納鍵(かくのうけん)インベントリア
効果:無尽蔵にアイテムを収納できる。
【転送:格納空間(エンタートラベル)
インベントリアを持つ者のみが入る事を許された格納空間に入る呪文。
【転送:現実空間(イグジットトラベル)
格納空間から外に出る呪文。

ぶっ壊れアイテム。
解りやすく言えば中に入っても遭難しない四次元ポケット。
普段は収納のために使われるが、緊急事態におけるシェルターの役割も果たす。
 


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水の都炎上事件 1

緋色の傷(スカーレッド)
 明らかに熱を帯びた陽炎を噴き出し、その上で血が滲むかの様な紅蓮の赤に染まった傷を纏ったクソ強三つ首ティラノ。
 毒は物理的に燃やされ、魔法系統も弾かれる。
 近接武器は外皮にぶつけると熱で耐久を消費する。
 素の状態でもえげつな過ぎるタフネスに加え、攻撃された箇所にその攻撃への耐性を獲得し、ダメ押しに死に近づくほどに強くなる特性を持つ。
 フィジカル面でもバケモノ過ぎるのだが、捕食した生物の脂肪などから油を取り出し、体内で生成した可燃性物質と混ぜて吐き出して炎上させる攻撃、通称『ゲロナパーム』も持っている。


 少しだけ、昔の話をしよう。

 2年前の事である。

 当時レベル5だったファロスは、レベル6になるためにとある偉業を果たさんとした。

 

 27階層の階層主、アンフィス・バエナのソロ討伐。

 

 全高は20M(メドル)を超え、全身が白い鱗で覆われた幻想の如き美しい水竜であり、水上の地形も考慮した推定能力はレベル6相当。

 水上でも燃え続ける焼夷蒼炎と、魔法を拡散させ威力を落とす紅霧というブレスを有しており、遠距離攻撃が不可能なために水上での接近戦が強いられる。

 

 パッと調べただけでバケモノ感が凄まじいこの階層主を知った時、ファロス(バカ)はこう考えた。

 

 ―――多頭でナパーム使いとか緋色の傷(スカーレッド)とキャラ被りしてんだよぶち殺すぞ。殺戮技巧(R.I.P.)緋色の傷(スカーレッド)を併用して肉弾戦すれば結構いい勝負出来るんじゃね? 緋色の傷(スカーレッド)に炎なんぞ効かんし魔法も使わんし。

 

 冒険者は冒険をしてはいけないとは誰の言葉だったか。どこぞのハーフエルフが怒り狂う図しか思い浮かばない。

 流石に思い立ったその日に特攻をかますほどバカではなかったが、ソイツはインベントリア越しに故郷の幼馴染(マリアン・スリンゲナイヤー)に向けてこんな手紙を送りつけた。

 

 内容はこうだ。

 

―――緋色の傷(スカーレッド)に変身した状態で水上を走れるようになる魔道具って作れる? ちょっと喧嘩売りたいやつがいるんだけど。

 

 返信はこうだ。

 

―――作れるに決まってんでしょ明日まで待て。

 

 そんな訳で、整わなくても良い舞台は整ってしまった。

 蒼炎の白に挑むは爆炎の緋。

 酷く独善的な挑戦者は翌日あるいは明後日に水の都に降り立つ準備をするべく、殺戮の自己強化を開始する。

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 先に仕掛けたのは緋色の傷(スカーレッド)だった。

 

『『『■■■■■■■■■■■■■■■■■■―――――――――――ッ!!!!!!!!』』』

 

 蒼色の水晶で出来た幻想的な水の都を、誇張抜きに揺さぶる三重の大咆哮。

 衝撃によって崩落した水晶塊が降り注ぐ中、前日の全てを殺戮技巧(R.I.P.)による自己強化に費やした恐るべき三つ首が水面を駆けて(・・・・・・)双頭の竜に肉薄する。

 

『『◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆――――――――ッ!?!?!?』』

 

 数百M(メドル)の距離を一瞬で詰める、巨躯に似合わぬ凄まじい速度で突撃を食らった双頭はたまったものではない。

 その長い首の根本を三つの顎でダッチリ固定され、突撃の勢いに任せて水中から陸上に叩き出されたのだから。

 拘束されていない方の首が焼夷蒼炎や赤霧を三つ首にブチかましていたが効果はなく、その上魔道具の効果によって水面でも陸上と同じように行動できる三つ首と違って、双頭は水上で踏ん張りが効かなかった。

 恐るべき紅蓮の三つ首に炎で対抗する無意味さは、焼石に水どころの話ではないだろう。

 

『『『■■■■■■■…………』』』

 

 轟音と共に水晶の陸地に双頭を投げ飛ばした三つ首の作戦はこうだ。

 調べたところ、目前で唸り声をあげる双頭の推定能力はレベル6。

 いかに緋色の傷(スカーレッド)が強大とはいえ、その力を操るファロス本人はレベル5。

 冷静に考えなくても勝ち目がないのは明らかだ。

 ならばどうする?

 相手を弱体化させ、自信を強化すれば良いのだ。

 そもそも双頭の推定能力がレベル6なのは水辺の地形を考慮しているからなので、陸上に叩き出す事さえできれば推定能力はレベル5まで下がる。

 水に浮かばぬ水竜なぞ打ち上げられたシャチの如く。

 決して侮れる存在ではないが、その危険度合いは元来の姿よりも大きく劣る。

 

『『◆◆◆◆◆◆◆…………ッ』』

 

 陸地に投げられた我が身と目の前に立つ竜の威圧感から自らの不利を悟ってすぐさま水中に戻ろうとするが、そうはさせぬと三つ首が立ちふさがる。

 ギリィッと忌々し気に歯を食いしばり、双頭の眼に強烈な殺意が宿る。

 

『『◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆――――――――ッ!!!!!!!!』』

 

 紅蓮の三つ首に負けず劣らずの大咆哮。

 水の都がビリビリと震え、所々から蒼い水晶片がパラパラと降り注ぐ。

 

 二度目の激突において、先に動いたのは双頭だった。

 粘着質な蒼炎のブレスを吹きかけて鬱陶しい挑戦者を焼き殺さんとするが、ただでさえクソ高い炎耐性に加えて緋色の傷(スカーレッド)のとある特性が蒼炎を無効化した。

 

 

 ダメージを受けた箇所に自身が受けた攻撃に対する耐性を獲得する。

 

 

 殺戮を重ねて強くなり、死に近づいて強くなり、攻撃を受ける度に堅くなる。

 余りにも極悪に過ぎるその三点が、水の都に君臨する階層主を全力で殺しにかかる。

 

 一度付着すれば地面を転がった程度では絶対に消えない粘着質な青い炎は、幾人もの冒険者達を問答無用で焼死体に変えてきたその炎は、紅蓮の三つ首にとってはただの粘っこいぬるま湯に等しいのだ。

 

『『『■■■■■■■■■■――――――――ッ!!!!!』』』

『『◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆――――――――ッ!?!?!?』』

 

 地面に亀裂を生じさせる勢いで再度繰り出された突撃は蒼炎の壁を突き破り、水晶の如き重装甲を容易く砕き割る。

 血反吐と鱗を撒き散らし、吹き飛ばされる双頭。

 しかし三つ首は攻撃の手を休める事なく、寧ろ激化させていく。

 転倒という極大の隙を晒した獲物を片足で踏みつけ、その頭上で三つの大顎をガパリと広げる。

 噛みつこうとしているのではない。

 もっと凶悪だ。

 三つ首の喉奥からゴポゴポと粘着質な水温が響き、粘つく何かが吐き出された。

 

 ソレは、ドス黒い血反吐の如き重油塊。

 ソレは、緋色の傷(オリジナル)が死に瀕してなお勝利に食らいつくために編み出した最後の手段。

 ソレは、緋色の傷(スカーレッド)が有する最強の瞬間火力。

 

 ガヂンッ! と牙を打ち鳴らした瞬間、ドス黒い重油塊が白く膨らんで、音が消えて───

 

 

 

 爆発した。

 

 

 ……

 

 

 

 …………

 

 

 

 ………………

 

 

 

 

 前日の全てをスキルによる自己強化に費やした。

 

 初手の不意打ちで水中から陸上に叩き出すことで機動力を剥奪した。

 

 相手のメインウェポンである焼夷蒼炎を、持ち前の炎耐性と被撃耐性で無害化した。

 

 魔法を阻害する赤い霧はそもそも魔法を使わないことで対処した。

 

 相手がこちらを本格的な脅威として認識する前に、最大火力を急所である顔面に叩き込んだ。

 

 

 綿密とは言い難いものの、そこそこ手間をかけて作られた光景は―――控えめに言って、地獄の如きありさまだった。

 

 

 重油塊の残滓に引火した火がパチパチと燻り、融解した水晶の台地に穿たれた巨大なクレーター。

 

 双頭を仕留めるための決して狭くはない陸地は、見るも無残にえぐり取られた。

 

 あと数時間もすれば、この地点は妙に水深の深い水辺の一部と化すだろう。

 

 そんな地獄の中心に、二頭の怪物がいた。

 

 

 片方を、アンフィス・バエナ。

 ゼロ距離で重油塊による大爆発をまともに受けてなお生存している事には驚嘆するが、全身を守る水晶の竜鱗は粉々に砕け、首の片方は半ばから消し飛び、残る片方も浅い呼吸を繰り返すだけでいつ息絶えるか分かったものではない。

 

 片方を、緋色の傷(スカーレッド)

 流石に重油塊による大爆発を至近距離で受けたのは堪えたのか、全身に生傷をこさえ、口から血反吐を垂れ流し、最も近い位置で爆発を食らった首元は酷く焼けただれていた。

 

 たったの一手で満身創痍と化した双方だが、優位がどちらにあるかなど、今更解説する必要はないだろう。

 

 

『『『■■■■…………』』』

 

 

 地響きと共に三つ首が歩を進め、生き残った双頭の片割れを踏みつける。

 

 

 ミシ……パキ…ペキ………

 

 

 骨が軋み、鱗がひび割れ――――

 

 

 …………グシャ

 

 

 ――――そのまま、踏みつぶした。

 

 

 戦闘時間はわずか数十秒。

 

 階層主とは、一部例外を除いた大部分にとって一種の絶望だ。

 

 正式名称は迷宮の孤王(モンスターレックス)。特定の階層にのみ出現する強力な固有モンスターのことであり、通常、ファミリアの総出や同盟を組んで討伐される存在。

 

 状況の全てが想定通りに進んだ結果とは言え、余りにもあっさり決着がついてしまった現状に三つ首は不満タラタラである。

 

 ふと、脳裏に過去の殺し合いが蘇る。

 

 かつてオラリオに到達する以前の話だ。

 汚泥に塗れ、血反吐をまき散らし、卑劣な策略の限りを尽くし、持ちうるありとあらゆる手段を以て緋色の傷(オリジナル)に挑んだ7日間。

 人を超越した冒険者になる以前、正真正銘の人間だった時に果たした確かな偉業。

 罠も策略も何もかもをその身一つで食い破る絶対強者を、知識も装備も策略も出し切った結果、確かに果たした偉業の記憶。

 その偉業を果たした時の激情は、今なお小人の胸中に刻み付けられ、スキルとして発現している。

 

 

 今回はどうだ?

 果たして今の自分は、あの時に迫る偉業を成し遂げたと言えるのか?

 

 

 モヤモヤとしたものを抱えながら魔石をインベントリアに仕舞い込み、帰路に着こうとした時だった。

 

『『『…………?』』』

 

 何かが凄まじい速度で突っ込んでくる。

 

 違和感を感じて辺りを見回した直後、轟音と共に周囲の景色が急変する。

 

 違う。

 

 景色が急変したのではなく、三つ首の巨体が数十M(メドル)に渡ってカッ飛ばされたのだ。

 

『『『!?』』』

 

 驚愕と共に着地、息つく間もなく再びの衝撃が顔面を襲う。

 再びピンボールの如く突き飛ばされる三つ首だが、流れゆく景色の中で襲撃者の姿を視界にとらえた。

 

 ソレは、一言で表すなわば『骨』だった。

 

 ドラゴンのような頭部とそれを支える太い頸椎(けいつい)

 頸椎(けいつい)の先端からは4本の骨が生えており、それらは手足の役割を果たしているらしい。

 四肢のそれぞれに備えられた5本指の先端には鋭利な鉤爪が生えており、三つ首を襲った2度の衝撃はソレを用いた刺突だったのだろう。

 

 殺戮バフと、自爆によって死に近づいた緋色の傷(スカーレッド)の装甲に僅かなれども傷を与えた存在。

 

 殺意に染まった闖入者―――ダンジョンの免疫機能、ジャガーノートは、水の都の一角を巨大なクレーターに変えやがった不埒者を抹殺するべく、咆哮すら上げずに三つ首へと肉薄した。

 

 

 第二ラウンド、開始。




Q.なんでジャガーノート出てきたの?
A.重油塊による大爆発は27階層の一部をクレーターに変えました

Q.いくら緋色の傷(スカーレッド)でも下層の階層主を単騎で一方的にボコボコにするのはやりすぎじゃね?
A.相性もあるけど、この緋色の傷(スカーレッド)は丸一日掛けたR.I.P.の殺戮バフでクソみたいな自己強化をしています。

Q.どのくらい強くなってるの?
A.死にかけのオリジナルよりちょっと強くて堅い。さらにここから死にかけバフが上乗せされていく。


次回、高火力高機動紙装甲(ジャガーノート)VS重火力低機動重装甲(スカーレッド)

ファイッ


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水の都炎上事件 2

一人称チャレンジ


 

 骨の竜との戦闘が始まって数時間。

 俺はボコボコにされていた。

 

『『『■■■■■■■■――――――――――ッ!!!!!!!』』』

 

 赫怒の咆哮と共に鉄筋にゴム巻いて鉄板貼りつけたような大質量の尻尾を横なぎにぶん回す。クソが。当たらねぇ。アメンボみたいに水面滑ってんじゃねぇぞクソ骨がぁ!!!!

 

 この数時間、殴られては離脱されのヒットアンドアウェイ戦法でボコボコにされている。おかしいだろ。その戦法って火力の乏しい軽戦士が自分よりでかいモンスター相手にするやつだよね? 殺戮バフと死にかけバフで強化された緋色の傷(スカーレッド)の天然装甲を貫通する攻撃手段を持ってる奴がみみっちい事やってんじゃねぇぞ殴らせろやゴラァ!?

 

 喋れぬ身で悪態を垂れ流しても状況は好転しない。考えろファロス。お前が望んだ怪物との死闘がここにあるぞ。

 

 再びの顔面パンチで水面をゴロゴロ転がりながら思考を巡らす。殺戮バフと死にかけバフのおかげで相手の攻撃は決定打に欠けているが、そうじゃ無かったら今頃俺は顔面グチャグチャのミンチ状態にされているだろう。念のために緋色の傷(スカーレッド)化を解いてなくてよかったわ。遠くから不意打ちで渾身の狙撃をブチ込むなら兎も角、動き回りながらクロスボウを乱射したところでコイツに当たる気がしない。

 

 ん? 不意打ち?

 

 閃きを得て気配隠蔽(ステルス)を発動。俺の体が景色に溶けて同化し、骨恐竜はこちらを見失な……見うし…………クソがバレバレじゃねーかやっぱり緋色の傷(スカーレッド)状態だと精度が落ちるよなぁ!

 

 ゴロゴロと転がされながら苦し紛れにゲロナパームをまき散らして点火。轟音と共に大爆発が水面を這うように炸裂する。しかし骨恐竜は当然のように全弾回避。やってらんねぇ……いや待てよ? ヤケクソ気味にばら撒いたけどこれって結構いけるのでは?

 

 俺は見逃さなかったぜぇクソ骨君よぉ……骨の表情なんざチンプンカンプンだが爆発の余波に巻き込まれかけた時、やたら大げさによろめいたよなぁ!? さてはテメェ高機動かつ高火力だが生存に欠かせない装甲機能がペラッペラなんじゃねぇのぉ!?

 

 即興で組み立てた作戦はこうだ。

 ゲロナパームと肉弾戦でクソ骨を誘導しつつどうにか地形にハメて一発叩き込む。余波だけであんなによろめくんだ。まともな一撃を叩き込めばあのクソみたいな機動力もどうにかなるだろう。多分。

 

 そうと決まれば即行動。待ってろよカルシウム野郎その全身粉々にして畑の肥料にしてくれる。

 

 

 

 1時間後

 

 

 

 んぬァ―――――――!!!!!! クソ機動!!!!!

 

 作戦変更だ。ほとんど遮蔽物のない湖でコイツをハメれる地形なんぞある訳ないだろうが。カウンターと設置技でどうにかするんだよ。

 

 爆発するマーブル模様をまき散らしながらアメンボクソ骨ザウルスを猛追するが、当然のように回避される。やっぱ緋色の傷(スカーレッド)の弱点って俊敏さが皆無な所だよなぁ……後で対策考えなきゃ。

 

 その頭を粉砕せんばかりに力を篭められた噛みつきをクソ骨は余裕のあるバックステップで回避。そこでヤツは今までにない動作を見せた。

 

 

 ……何だあれ、土下座?

 

 

 唐突ながら、ミノタウロスというモンスターがいる。

 人間の如き同地に牛の頭を持つ連中なのだが、そいつらは追い詰められた時の切り札としてとある攻撃手段を持っている。まぁ突進なんだけど、コレがなかなか馬鹿に出来ない。

 両手が地面に着くほどの前傾姿勢から繰り出されるその突撃は、捉えた獲物を悉く天高くに突き上げていく質量兵器だった。

 ソレと似た気配を、目の前の骨竜から感じる。

 

 ―――ファロスは与り知らぬ話であるが、ジャガーノート側も実は追い詰められているのである。

 ジャガーノートの特徴として、力と俊敏に秀でている事、耐久が著しく低い事、ファロスが知らないモノでは魔法を反射する外殻、そしてあらゆる防具を貫く爪。

 

 さて、この特徴の中でジャガーノートを追い詰める最も大きな要因は、紙装甲と爪である。

 問題だ。ひたすら鋭利さを求めて研ぎまくった結果、紙のような薄さになった刃物を想像して欲しい。普通ならば豆腐を切り裂いているはずのソレが、内部に溶岩を溜め込んで真っ赤に赤熱した鉄塊を殴り続けた場合、或いは鉄部分を貫通して溶岩に飛び込んだ場合、刃の切っ先はどうなってしまうのか?

 その答えは、灼熱の血液を浴び続けてボロボロになった骨の指先が物語っている。

 

 

 ヤツが纏う雰囲気が明らかに変わった。これまでの無機質な殺意だけじゃない。かつて緋色の傷(スカーレッド)黒死の天霊(トゥルーク・ワイエット)が死に際に見せた情熱的な殺意。ソレに似ているんだ。

 よくよく観察してみれば、骨竜の指先はボロボロになっている。当然か。こちとら殺戮バフと死にかけバフで鬼強化された緋色の傷(スカーレッド)だぞ。素手で殴りかかれば逆に焼き潰されるのは当然だ。

 

 ―――成程? 最期の突撃に賭けるって訳かよ。俺は好きだぜそういうの。テメェの火力と俺の耐久を比べてやろうじゃねぇか。

 来いよクソ骨。お前の殺害を偉業とし、それを以て俺は次のステージ上がってやる。

 

 骨竜の全身にこれまでにない力が籠められ、関節がミシミシと厭な悲鳴を挙げる。

 四肢にありったけの力が装填され、そして―――弾けた。

 

『――――――――――――――――――――――――――ッ』

 

 音を置き去りにし、数百(メドル)の距離を一瞬で駆け抜ける。ひたすら殺戮のためだけにデザインされた凶弾が向かう先は紅蓮の三つ首。

 三つ首に備えられた六つの眼球は確かに骨竜を捉え、隆起した脚部の筋肉は水面を鷲掴みにし、きたる衝撃に備えている。

 

 突撃する者と待ち受ける者の距離は瞬く間に詰まり、そして、衝突。

 

 

『『『■■■■■■■■――――――――――ッ!!!!!!!』』』

 

 

 最初に、鱗が砕ける音を聞いた。

 次に、骨が折れる音を聞いた。

 最後に、全身を砕き割らんばかりの衝撃を感じた。

 

 しかし、それでも、緋色の傷(スカーレッド)は、ファロスは、斃れない。偉大なる好敵手の姿を借りて無様を晒すことは許されない。他ならぬファロス自身が許さない。

 

『『『■■■■■■■■………………ッ』』』

 

 火山の如き重低音。鱗は砕け、骨は跳び出し、半死半生の身と化しながらも敵の突撃を正面から受け止めた傲然なる三つ首の覇者は、目前の挑戦者に牙を剥く。

 

 俺の勝ちだクソ骨野郎。

 

 三つ首が骨竜の頭部を捉え、噛み砕く。

 

 ジャガーノート。過去にはファミリアを一つ壊滅させたこともある殺戮の使者は、白い灰と化して霧散した。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 そうして一人の小人の挑戦は幕を閉じた。

 

 決着の後、二度あることは三度あるとガチガチに警戒して緋色の傷(スカーレッド)のまま安全地帯を目指した結果、新種のモンスターと間違えられて冒険者達と交戦しかけたり、地上に戻ってからステータス更新したらマックロクロスケに爆笑されたり、ギルドにレベルアップの報告をしたらハーフエルフの受付嬢に死ぬほど怒られたりした。

 

 余談だが、今回の俺の挑戦は『水の都炎上事件』と呼ばれるようになった。

 

 




 前提条件をすべて無視した上でファロスvsジャガーノートをする場合、ファロス側にとっての最適解は気配隠蔽(ステルス)状態で遠方から『本物』のクロスボウで『本物』の矢を不意打ちで撃ち込むことです。
 威力だけの話をするなら投影による劣化品でも過剰火力なのですが、ジャガーノートには魔法反射があるので効果が無いどころかファロスが自爆するんですよね。なので実物を使って物理攻撃をします。(なお、ファロスは魔法反射について全く知らないので初見殺しで死ぬ)
 最初の構成では人間としてのファロスにボスラッシュ二枚抜きをしてもらう予定だったのですが、基本的には狙撃手の皮を被った魔法使いモドキであるファロス(人間)ではジャガーノート以前にアンフィス・バエナの赤霧に対抗できない悲しみ。どうにかアンフィス・バエナを撃破してもファロス(人間)はジャガーノートの発生条件である大規模な破壊活動をしないのでそもそも遭遇すらしない件。


 ここで余談を一つ。
 意図的ではないが、ジャガーノートを召喚してしまった上に単騎でぶっ殺したことでファロスはウラノスに呼び出されてOHANASIをする羽目になった。ファロスによるジャガーノートへのヘイトが更に高まった。

ウラノス「もうやるんじゃねぇぞ(意訳)ついでに誰かに喋ったら分かってんだろな?(超意訳)あといくつか引き受けて欲しい依頼があるんだけど受けないなんてことないよね?(超絶意訳)」
ファロス「あのクソ骨死んでも俺に迷惑かけやがる……あ、フェルズさんじゃないっすよ?」


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怪物祭

思ったより長くなった


 ガネーシャ・ファミリア

 

 男神ガネーシャが運営する大手の探索系ファミリアであり、本拠は『アイアム・ガネーシャ』。エンブレムは象の顔。Lv.5の団長シャクティ・ヴァルマをはじめとして上級冒険者をオラリオで最も多く抱え、戦力はロキ・ファミリアやフレイヤ・ファミリアにも大きく劣らず、古くからオラリオの治安維持を担っているオラリオの良心的な存在である。

 

 そんなガネーシャ・ファミリアだが、他にも特筆すべき特徴がある。

 

 それは、有力な調教師(テイマー)が多数所属している事だ。多くの冒険者にとってモンスターとは討ち斃す存在であって従える存在ではない。そんな中で、人類の敵対者であるモンスターを従え、調教するモンスターテイマーは、様々な技能を持つ冒険者の中にあっても特に稀少な存在なのである。

 

 そして、その特徴を生かして開催される祭りがあるのだ。

 

 怪物祭(モンスターフィリア)

 

 ガネーシャ・ファミリアとギルドが共同で開催し、調教師(テイマー)達が己の腕を大衆に披露する、オラリオを代表する祭典である。

 

 

「…………毎度のことながら賑わってんな」

 

「ひひひっ、良いよなこの祭り。普通なら喰われる側の人間がモンスターを使役するって発想はなかなか好きだぜ。モンスター相手に必死にマウント取ってる感じがして微笑ましいよ」

 

「おめーは食い歩きがしたいだけだろ」

 

 

 ミノタウロスのマラソン大会(死亡により全員失格)から数日が経った今日この日頃。

 

 祭りと共に何時にも増して賑わう街中を歩む小柄な2人。

 

 片方を、ファロス。

 

 小人族(パルゥム)の少数民族、黒小人(ドヴェルグ)でありながら白い肌を持つレベル6冒険者。今は両手いっぱいに食物を抱えて1つずつ隣の主神に手渡している。

 

 片方を、アンリマユ。

 

 『なんでアイツ闇派閥(イヴィルス)じゃないの?』と度々言われることがあるが、この世全ての悪という物騒過ぎる肩書に反してそこまで素行が悪いという訳でもない、真っ黒な少年のような風貌の悪神。今は隣の眷属から手渡される食物の数々を1つずつ食い漁っている。

 

 アンリマユ・ファミリア。数あるファミリアの中で異彩を放つ零細ファミリアである彼らは珍しく連れ立って街中を歩き、あちこちに展開されている露店を巡って食べ歩きツアーの真っ最中であった。

 

 祭りの主役とも言えるモンスター達を無視して食い物に興味を示すあたり、この1人と1柱の性格が見えて来る。

 

 

「そういえばよ」

 

「ん?」

 

「最近あのロリ巨乳に眷属が出来たって話知ってるか?」

 

「ろりきょ……何だって?」

 

「ヘスティアだよヘスティア。アイツに眷属が出来たらしいぜ? どんなヤツか興味あるんだけど教えてくんなくてよー。オマエ何か知らね?」

 

「ヘスティアさんとは最近会ってないから何も知らんよ。何処で知ったんだ?」

 

「こないだ神会があって偶には出席してやろうかなーって思って行ってやったんだよ。そこでロキと喰っちゃべってたらヘスティアと合流してよー。あ、フレイヤとも会ったけど相変わらずお前の事狙ってたぜ」

 

「えぇ……」

 

 

 自身の魂を"黄金の炎"と表現する美の女神を思い浮かべる。初対面でいきなり魅了しようとしてきた上に色々と目のやり場に困るから結構苦手だ。

 

 思わず渋い顔をすると、何が面白いのかマックロクロスケがケラケラ笑う。他人事と思って愉快そうにしやがって。俺が引き抜かれたら誰がお前の飯を作るんだよ。

 

 

 

 食物が次々と暗黒に吸い込まれて消えていく様を観察していると、雑踏の向こうから何やら聞き覚えのある明るい声が。

 

 それは丁度今噂をしていた神物の声で――――

 

 がしっ

 

 

「…………ナニカナふぁろすサン」

 

「おめー今邪魔しに行くつもりだっただろ」

 

「いやいやいや!? オレはただ知り合いを見かけたからひとこと挨拶をしようと思いましてねぇ!?」

 

「あわよくば例の眷属の顔を拝んでヘスティアさんをおちょくろうって魂胆が見え見えなんだよ自重しろや。せめて祭りの後なら協力してやるから今は見逃してやれよ……」

 

「いや――、いかにも『私今幸せです』って主張してるあの声聞いたら是非とも引っ掻き回したくなるっつーかなんつーか……」

 

「最悪かよ……後でホームの位置特定しとくから今は見逃してやってくれ」

 

「ウッシャァッ!!!!!」

 

 

 妥協の仕方が悪質過ぎる。問題の先送りどころの話ではない。

 

 自分の知らない場所で爆弾を抱えさせられた女神に心の中で手を合わせ、ホームの位置を特定した後に何か詫びの品を差し入れする事を決意。

 

 

 それから歩きながら差し入れの内容を考えていると、奇妙な音が聞こえてきた。

 

 響く足音、引き摺る鎖の金属音、極めつけに獰猛な唸り声。それら全てが平穏にとっての異物である。

 

 

「へ?」

 

「は?」

 

 

 なんかモンスターが脱走してるんだけど。

 

 

-----------

 

 

「モンスターが逃げた? 見張りは?」

 

「どういう訳か、皆魂を抜かれたようになってまして」

 

「恐らく、外部の者の犯行かと思われますが………」

 

「そんな事は後で良い! 逃げたモンスターは何匹だ?」

 

「9匹です!」

 

「我がファミリアの討伐隊が、至急対応に当たっています」

 

「我々だけでは間に合わん、他のファミリアとも連携を取る。この場に来ている神に協力を要請しろ!」

 

「待ってください! モンスターを逃がしたのは、我々ガネーシャ・ファミリアの失態です!」

 

「他勢力の力を借りてはこちらの面目が!」

 

「俺は群衆の主、ガネーシャだ! 我らの至福は子供達の笑顔! 地位と名誉など捨て置け! 市民の安全が最優先!!」

 

「「申し訳ありません!!」」

 

「混乱を避けるために、祭りはこのまま続ける。騒ぎを大きくするなよ。行け!」

 

「「ハイ!」」

 

 

-----------

 

 

 モンスターを矢の一撃で難なく瞬殺し、釈然としない顔で魔石を拾っていると、周囲で見ていた市民の一人が切羽詰まった様相で話しかけてきた。

 

 曰く、他の場所でもモンスターが脱走しているらしい。詳しい数は不明。

 

 

「………安全地帯に避難しろアンリ。俺は他の脱走モンスターを始末してくる」

 

「はいよー。逃げ足の速さには自信があるから心配すんな」

 

「ヤバくなったら"ボタン"で呼べよ?」

 

「ヘイヘイ」

 

 

 指先をピラピラ振ってはよ行けと急かすアンリ。一応おめーの心配もしてるはずなんだがなぁ………

 

 

「さて、と」

 

 

 両足に軽く力を籠め、大きく跳躍。流れるように気配隠蔽(ステルス)を纏い、屋根上を跳ねるように移動してモンスターの姿を探す。

 

 

 あ、見ーつけた。

 

 なんかニョロニョロした緑の………花?っぽいモンスターがいる。

 

 地面から伸びる長い体は鱗のような凹凸に覆われ、先端部には頭部らしき花が咲いている。キキョウの花を限界まで毒々しくしたような花弁の中央にはハエトリグサの如き顎があり、その更に奥には人間に似た口が覗いている。

 

 控えめに言って気色悪過ぎる。っつーかあんなモンスターダンジョンにいたか?

 

 しかめっ面で初見のモンスターを観察する。そして、近くで交戦している冒険者達には見覚えがあった。

 

 あれ? あいつらってロキ・ファミリアの………なんで苦戦してんの? あ、丸腰だからか。そりゃ祭りの日に武装してるやつなんぞ少ないわな。

 

 

 そこにいたのは血反吐を吐いて(うずくま)るエルフの少女と彼女を助けようとするファミリア達。

 

 そして、瀕死のエルフを今にも仕留めようとする花のモンスター。

 

 

 加勢するべく気配隠蔽(ステルス)を纏ったままクロスボウを構える。狙いは花っぽい口の中で輝く魔石。距離は直線50M(メドル)程。当たるのか? 抜かせ。こんな至近距離で外すなどありえない(・・・・・・・・・・・・・・・・・)

 

 投影で製造した矢をつがえ、放つ。

 

 直線の軌跡を描いて飛翔する青白い魔力の矢は寸分違わず魔石を打ち砕き、ちょうどエルフ―――レフィーヤに襲い掛からんとしていた1匹を塵へと変えた。

 

 

「え!?」

 

「この矢……まさか《一人軍隊》!?」

 

「………」

 

 

 うげ、《剣姫》と目が合った。なんで見えるんだよ。

 

 真顔でこちらをガン見する《剣姫(アイズ)》と数瞬だけ目を合わせ、すぐさまお互いにモンスターの討伐に戻る。

 

 1匹、2匹、3匹―――順調に狙撃と剣撃によって討伐されていく花のモンスター。

 

 最後の1匹が塵に変わったが、すぐさま石畳を隆起させて新手が3匹現れる。

 

 ………無限湧きじゃねーだろーな

 

 しかし、敵が何匹現れようともやることは変わらない。どうやら連中は魔力の気配に対して敏感に反応するらしく、気配を感じながらも隠蔽されたその所在が分からずに右往左往する花のモンスターを、俺とアイズが処理する………はずだった。

 

 

「―――ぇ?」

 

「ウッソだろお前え!?」

 

 

 ビシリ、と、アイズが振るう剣が粉々に砕け散ったのだ。

 

 なんで剣が………ってお前それレイピアじゃねーか! そりゃ直剣みたいに振り回してたらぶっ壊れるに決まってんだろ!?

 

 

「チィッ!」

 

 

 一瞬呆然として止まっていたアイズだが、俺が放った矢が足元に着弾したことで我に返ったらしい。一斉に襲い掛かってきた3匹を回避して魔法を発動。手元に残った剣の柄頭に風を纏わせて殴りつけるが効果は薄い。モンスターの表皮が少し凹んだだけだ。あの花打撃耐性あんのかよ面倒くさ。

 

 

「何でまたこっちを無視すんのっ!?」

 

「魔法に、反応してる?」

 

 

 クソが。アイズを狙ってウネウネ暴れ回るせいで急所に矢が当たらん。

 

 俺やアマゾネス姉妹が何度も攻撃を仕掛けるが、モンスターの矛先はアイズから外れない。やっぱりあのモンスター魔力に反応してるだろ。

 

 アイズは倒れたレフィーヤから遠ざかるようにして逃げ回る。見たところ花の攻撃手段は体当たりと噛みつきと地面から生えた触手の鞭打ち。一番面倒くさいのは触手の鞭だなアリャ。手数が多過ぎる。

 

 俺やアマゾネス姉妹の援護、そしてアイズ自身の風の鎧もあって鞭撃は一度たりともアイズを捉えていない。しかし触手の本数が多すぎる。お互いに決定打が無い現状をこのまま維持していたらアイズが何時かガス欠を起こすし何よりレフィーヤの容態がヤバイ。下手すりゃあ死ぬ。

 

 

「ッ聞け! 俺は今からレフィーヤの容態を診るからしばらく援護射撃が出来ん!!」

 

「りょうかーい!!」

 

「オラァアアアアア!!!!」

 

 

 返事をしたのはティオナだけか。まあ良い。

 

 気配隠蔽(ステルス)を解除してレフィーヤに接近。うーわ内臓まで抉られてるじゃねーか冒険者じゃ無かったら死んでるだろコレ。

 

 すぐさま路地裏にレフィーヤを引きずり込み、ひとまずの安全を確保した上でインベントリアからエリクサーを取り出して傷口にぶちまける。

 

 

「おいレフィーヤ。調子はどうだ」

 

「ぅ……ゲホッゴホッ!? ちょっこれエリクサー!?」

 

「人命第一だアホ。それはそれとして金は請求するから覚えとけよ。良くここまで踏ん張った。後は俺らが叩き潰しとく休んどけ………ってオイ!?」

 

 

 治癒の最中である傷口から蒸気を噴き出しながら戦場に張り込もうとするアホタレの腕を鷲掴みにする。

 

 コイツさっきまで死にかけてたのに戦線復帰しようとしてんの!?

 

 まさかコイツはアマゾネス的な戦闘民族なのかと、見た目からは想像も出来ぬギャップの可能性を幻視して戦慄する。

 

 

「ちょ………」

 

「―――もう、守られるだけは、嫌なんです……っ!」

 

 

 ―――絞りだすような声だった。力強い声だった。意志の籠った声だった。身に覚えのある(・・・・・・・)声だった。

 

 目を見開き、呆然とするファロスの目前で、レフィーヤは今尚戦い続けるアイズ達を見つめている。そんな彼女は自らの足で立ち、確かな決意を瞳に湛えて宣言する。

 

 

「私はっ、レフィーヤ・ウィリディス! ウィーシェの森のエルフにして、誇り高き【ロキ・ファミリア】の一員!」

 

 

 私は―――戦えますっ!!

 

 

「――――――――…………………ッ」

 

 

 その姿に、ファロスは何を思い出したのか(・・・・・・・)。目に映る感情は驚愕、呆れ、怒り、歓喜―――そして、羨望。

 

 ため息を、吐いた。

 

 

「―――オーケイ分かった。あのクソ花野郎は打撃に耐性があるらしく武器を持ってないアマゾネス姉妹やアイズでは分が悪い。俺の狙撃ならクソ花の魔石を貫通してワンパン出来るがああもビチビチ動き回られたら流石に当たらん」

 

「じゃあ―――」

 

「レフィーヤ、あいつを氷漬けにする魔法、撃てるか?」

 

「撃てます。任せてください」

 

「―――よし。ヤツは魔力に反応するのは知ってるな? 俺があの3人に作戦を伝えるからレフィーヤは合図があったら詠唱開始だ。魔法が完成するまでお前はクソ花に狙われるだろうから俺らが守る」

 

「わかりました」

 

「よし―――オイ、3人ともそのまま聞け!! レフィーヤがクソ花を氷漬けにする魔法を撃つから俺等は護衛に徹する! その後袋叩きで粉々にしちまおーぜっていう作戦なんだが異論あるか!?」

 

「レフィーヤは無事なんでしょうね!?」

 

「ッたりめーだろエリクサー浴びせてやったわ!」

 

「なら乗ったァ!!」

 

「詠唱始めェ!!!!!」

 

 

 

 

「【ウィーシュの名のもとに願う】」

 

 

 インベントリアから扉の如き大楯が取り出され、ファロスとレフィーヤの周囲を簡易な城塞と化す。

 

 

「【森の先人よ、誇り高き同胞よ。我が声に応じ草原へと来れ】」

「【繋ぐ絆、楽宴の契り。円環を廻し舞い踊れ】」

「【至れ、妖精の輪】」

「【どうか―――力を貸し与えて欲しい】」

 

 

 それは希少な召喚魔法。エルフの魔法に限るが、詠唱とその効果を完全把握していれば、他者の魔法を使用できる二つ名の由来。

 

 

「【エルフ・リング】」

 

 

 

「【終末の前触れよ、白き雪よ。黄昏を前に風を巻け】」

 

 

 2つ目の詠唱が始まった。アイズを超える魔力に反応したのか、花のモンスターが殺到している。しかし、ファロスが展開した盾に到達する以前に、彼女の仲間達が花のモンスターを殴り飛ばして足止めする。

 

 

「【閉ざさえる光。凍てつく大地】」

「【吹雪け、三度の厳冬―――我が名はアールヴ】」

 

 

 それは白い死の形。

 吹雪を呼び起こし、敵の動きを、時さえも凍てつかせる無慈悲な雪波。

 

 

「【ウィン・フィンブルヴェトル】」

 

 

 魔法の発動と共に盾を収納。押し寄せるクソ花共を迎撃しつつ、巻き込まれないように退散する。

 

 

「うわーお………」

 

 

 白い魔法が残した爪痕は凄まじいものだった。辺り一帯が氷の結晶でささくれ立ち、直接の標的とされたクソ花3匹は氷像と化して微動だにしない。

 

 

「いっくよぉ~~~ッ!!」

 

「このっ! 糞花があっ!!」

 

「っ!!」

 

 

 アマゾネス姉妹が拳を握りしめ、アイズがいつの間にか手にしていた剣を振るい、俺はクロスボウを構える。

 

 各々の獲物は氷像を木っ端微塵に砕き割り、その場に涼やかな快音を打ち鳴らした。

 

 




"ボタン"
正式名称は緊急呼び出しボタン。
押されると同時にアラームと転移術式が起動し、アンリマユの下にファロスが召喚され、敵対者の鏖殺もしくはアンリマユの救出を行う。
このボタンに呼び出されるファロスは殺意MAX状態なので手段を選ばずに暴れ回る。具体的に言うと緋色の傷(スカーレッド)に変身した上で投影を使いまくる。


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