ゆらぎ荘の帝王様 (サンサソー)
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番外編
番外編1 夢中の死闘


お気に入り100件突破!?評価9追加でバーに色ついた!?感想も来たああ!!
な…何があったし……(震)
皆さんありがとう!もう感無量です!これからもこの作品をよろしくお願いします!!

今回は番外編。戦闘シーンを書いてみました。ちょっと日常を書きすぎて腕がなまってるかも……変なとこあったらじゃんじゃん送ってください!

今回はいつもより長めです。時間がある時に読んでいただけると。



夢と現実の狭間。そこに君臨するは生きとし生けるものの王。

 

配下の魔王を使い、着実に世界を手中に収めようとしていた幻魔王デスタムーアは、突如目の前に現れた者たちに驚きを隠せずにいた。

 

「な、なんじゃ、お前たちは!?」

 

自分が好きに泳がせていた、いずれ戦うのであろうと思っていた勇者一行と、見るだけで悪寒が止まらない神威を放つ巨漢。

 

どうやって此処へ?その怪物はなんだ?

 

未だ疑問の尽きない幻魔王を置いて、巨漢は勇者たちへと話しかけた。

 

「この者を倒せば良いのだな?……ふむ、なるほど。これは容易い事だな」

「な、何を言っているのだ愚か者どもめ!思い知るがいいっ!!」

 

あまりにも無礼な言葉にデスタムーアは激怒した。右手を巨漢に向けると、右手側に浮かんでいた玉が突如燃え盛り巨漢へと放たれる。

 

中位の魔物程度ならば灰すら残らない火炎弾。それを巨漢は何もせずに受け入れた。

 

ニヤリと笑う。この攻撃を受けた者はどんなに強き者であろうと手傷は免れない。爆発するように広がった火炎は、巨漢を飲み込み━━━━━巨漢の腕のひと薙ぎで消え去った。

 

「な、なんだと!?ならば、これならどうじゃ!」

 

左手をあげると、左手側の玉が凄まじい冷気をまき散らしながら巨漢へと放たれる。これも中位程度の魔物であればたちまち氷のオブジェに変わってしまう冷気だ。

 

しかし、この怪物には意味の無いものだった。

 

なんと、巨漢は冷気を受け止め、デスタムーアへと投げ返した!投げられた冷気弾は巨漢の魔力によりさらに強力なものとなってデスタムーアに直撃する。

 

「グホォッ!?おのれ…おのれぇぇぇっ!!」

 

デスタムーアは対象を魔力の爆発で飲み込む呪文、イオナズンを唱えた。大魔王の魔力によって呪文は暴走し、辺り一面を吹き飛ばしていく。

 

「ハッハッハっ!なかなか心地よい魔力だ。ああ、私としたことが名乗るのを忘れていたな。私は破壊と殺戮の神、魔神ダークドレアムなり。この興が面白いものとなることを期待しよう」

「ぐ…ぬぬ……ダークドレアム、だと?貴様、噂に聞く悪夢と破壊を司る魔神か!わしが相手にせぬと決めておった存在が、まさかこの世界に顕現しておったとは…!」

 

幻魔王が司るのは夢と生。幻を見せ、生命を意のままに弄ぶことができる。が、しかしこの巨漢……魔神ダークドレアムはそれに対しこれ以上ない天敵となっていた。

 

しかし、これに怖気付いていてはデスタムーアの名が廃る。自分は数多の存在の頂点に立つ大魔王。幻魔王デスタムーアなのだ。

 

「く…くくっ!ならば悪夢ごと飲み込むだけよ!貴様はここで、わしに倒されるがよいわ!!」

 

デスタムーアは身を震わせ冷たく輝く息を吐き出す。かの大魔王までとはいかずとも、その威力は最高クラスのものだ。

 

しかし、この悪夢には関係ない。ダークドレアムは かがやくいき をくらうも涼しげにしている。

 

「ぬんっ!」

 

ダークドレアムは手から燃え盛る火炎を生み出し、デスタムーアへと放った。その威力はデスタムーアの権能を食い破り、想像を絶する威力へと変換される。

 

「ぐ…ぎゃあああっっ!!!??」

 

一瞬にしてデスタムーアが灰と化していく。よろよろと浮かぶデスタムーアは、荒い息を吐きながら2つの玉を頭上へと移した。

 

「ハァ…ハァ…や、やはりジジイの姿では失礼だったようだな…」

 

2つの玉は溶け、合体しデスタムーアを包み込む。グニャグニャと蠢いたあと、巨大な怪物へと姿を変えた。

 

身の丈ほどの巨大な翼、自身よりも長い尻尾、棘が所々に生えている筋肉質な体。デスタムーアの第2形態である。

 

「では、これならどうかな?」

 

その巨体で、肩をいからせながら突進する。しかし、ダークドレアムは吹き飛ぶどころか1ミリも動かない。

 

デスタムーアは防御力を低下させる呪文、ルカナンを唱えた。しかし、ダークドレアムには効いていない。

 

デスタムーアは灼熱の炎を吐き出した。しかし、やはりこれもダークドレアムには通用しない。ダークドレアムはおいかぜを起こし、炎を跳ね返した。

 

「グホォッ!?ぐ…かくなるうえは……!」

 

デスタムーアは防御力を上昇させる呪文スカラを2度かけ、攻撃力を上昇させる呪文バイキルトをかけて突進した。

 

他の大魔王でさえ、この一撃には手を焼くだろう。デスタムーアも、これならばダメージを負わすことは出来るだろうと確信していた。

 

しかし、その期待は裏切られる事となる。それも最悪な形で。

 

デスタムーアの突進をダークドレアムは鼻で笑い、全身から凄まじいオーラを放った。

 

「うぎゃあっ!!!?」

 

デスタムーアは、放たれたオーラに吹き飛ばされ、仰向けに倒れてしまう。と、体が突然点滅し、頭と手を残して消滅してしまった。オーラによるダメージは幻魔王の肉体を蝕み破壊してしまったのだ。

 

「ぐ…ごほっ!お…の…れぇ……」

「……もう終わりか。その勝てぬと知りながらも、おのれの誇りを守らんがために向かってくる姿はよきものだった。だが、やはりこの相性を返すことは不可能だ。他の悪夢や破壊の化身ならばともかく、この私を倒すことなどできん」

「がふっ!……何か、方法は……こ奴に一泡吹かせるような……っ!!この波動は…あやつめ、神による他の世界での役割を終えて、眠りにつきよったか!これは好都合よ!!」

「…?何を……」

 

デスタムーアは両手を浮かばせ、次元を引き裂いた。そして裂かれた次元の歪みに手を突っ込み、何かを引っ張り出すと投げ捨てる。

 

「グ……ゴォッ!?なんだ…いったい……」

 

それは他の世界で猛威を振るう大魔王。デスタムーアの友にして、進化の秘法によって記憶を無くしていた男だった。

 

彼の名はエスターク。無限に進化を続ける地獄の帝王である。

 

「グゴゴゴ……何奴だ、我が眠りを妨げるものは…!」

「エスターク!無事か!?」

「ぬ…貴様は…?」

「覚えておらぬか?わしはデスタムーア!貴様の友じゃ!そら見ろ!あ奴が攻撃し、貴様の眠りを邪魔したのだ!」

「……増援か」

 

ダークドレアムは双頭剣を構える。デスタムーアには自分の性質が上手く噛み合ったため蹂躙できたが、地獄の帝王にはそれが当てはまらない。己の力で倒さなければならないのだ。

 

「汚いぞデスタムーア!」

「む……?貴様、勇者!よくもこのような怪物を連れてきてくれたな!!おかげでわしの体をボロボロにされるどころか、地獄の帝王を呼び出すはめになったわ!貴様らは絶対に許しはせん!どれ、お前たちの体を引き裂き、はらわたを喰らい尽くしてやろうぞ!!」

 

デスタムーアの両手と頭が巨大化する。勇者一行と幻魔王はそのまま最終決戦へともつれ込むのであった。

 

一方、怪物2人は互いに得物を構え、静かに探りあっていた。

 

「グゴゴゴ……貴様が、我の眠りを妨げたのか。我が眠りを妨げる者は、誰であろうと許さん!我が名はエスターク、地獄の帝王!!」

「ふむ、これは面白い。あまりにも退屈だったところだ。私の名はダークドレアム。破壊と殺戮、そして悪夢を司る魔神なり!地獄の帝王とやら、いざ尋常に勝負だ!!」

 

―ギガスローッ!!

 

ダークドレアムは自身へギガデインを打ち込む。その雷を剣で受け止め、纏わせるとエスタークへと投擲。くるくると回りながら、雷をまとった双頭剣は地面を裂きながら迫る。

 

エスタークは右手の剣を構え、真上に打ち上げた。そして、大きく跳んでダークドレアムへと双剣を振り下ろす。

 

―たたきつぶしッ!!

 

ダークドレアムは打ち上げられた剣を手に瞬間移動させ、エスタークの振り下ろしを受け止める。すると、ダークドレアムの防御力が下がった。エスタークの魔力が流れている双剣による たたきつぶし の効果だ。

 

ダークドレアムは地面へと力を受け流し捌くと、振り下ろした姿勢となったエスタークに斬りかかった。

 

しかし、エスタークは魔力を暴走させ自身の周囲へ解き放ち、ダークドレアムを遠ざけた。

 

「素晴らしい!あの粗末な召喚式によって十分な力が出せぬとはいえ、この私を相手に1歩も譲らぬとは!もっとだ、死合を続けるぞ!」

「グゴゴゴ……強き者との闘争は久方ぶりだ」

 

ダークドレアムは剣の中心を分離させ、2振りの剣に変える。片方に炎、もう片方に雷を纏わせ、エスタークへと駆けた。

 

―ジゴスパークッ!!

 

エスタークは迫るダークドレアムへ地獄の雷を放つ。しかし、ダークドレアムはそれを躱しながらエスタークの懐へと入り込んだ。

 

―灼熱火炎斬ッ!!

―ギガブレイクッ!!

 

方や猛り狂う火炎の一閃、方や聖なる雷の一閃。それらはエスタークの肉体を難なく傷つけた。

 

「グゴッ!?グ…ガアアアアッ!!」

 

エスタークは双剣で左右から挟むように打ちつけるも、ダークドレアムは素早く離れて躱す。エスタークは瞑想で傷を回復しながら、ダークドレアムを睨みつけた。

 

ダークドレアムは驚いていた。自分の放った渾身の一撃。それらが傷を付けさえすれど、そのまま振り抜くことかなわず肉体の途中で止まったのだ。異常なほどの耐久力、そして破壊力。今の自分が勝っているのは、せいぜい手数と俊敏性ぐらいか。

 

エスタークはダークドレアムを警戒しながらも次の手を考えていた。自分の攻撃の方がまだ上だ。しかし、どんなに威力が高い攻撃も当たらなければ意味は無い。ならばどうするか?

 

相手の攻撃を無効にし、己の破壊力を高めればいい。

 

「むうっ!!」

 

―スカラ×2ッ!

―バイキルト×2ッ!

 

「な…何ッ!?」

 

エスタークは己に防御力上昇の呪文と攻撃力上昇の呪文をかけた。これらの呪文は通常とは違う効果を持つ。通常は、バイキルトならば1度しかかけることは出来ない。しかし、このバイキルト×2はさらに重ねて効果を表す。スカラは2度以上かけることが出来るがこのスカラ×2はそれ以上の効果を発揮する。

 

ならば呪文か息、体技を使えばいい。しかし、エスタークは呪文と息や体技だけで勝てるほど甘くはない。

 

「なるほど、そうきたか」

「グゴゴゴ…さあ、来るがいい」

 

エスタークは両手を広げ、どっしりと構える。ダークドレアムは両手に持つ剣を一つに繋げた。

 

「そう来るならば、私も骨が折れるだろうな。しかし、そのような手は私には効かん!」

「ぬっ…!」

 

ダークドレアムの指から いてつくはどう が放たれた。エスタークにかかっているバイキルトとスカラ、ついでにマホカンタまでもが消え去った。

 

「初めからマホカンタが貼られていたのは分かっていた。魔力の流れでな。そのような大魔王の噂を聞いていたが、たしか魔界の王とやらではなかったか?」

「グゴゴゴ……魔界の王、か。我を配下にしようとして結局は諦めた愚か者よ。我は真似でもなんでもない、ただこうしているだけだ」

「そうか……ならば、私も小細工をさせてもらうぞ」

 

―あやしいひとみ

 

ダークドレアムの目が妖しく光る。その光を向けられたエスタークはたちまち眠ってしまった。

 

「ふふふ…まさか眠りに耐性がないとはな。先にしたのは貴様の方だ、悪くは思うなよ」

 

ダークドレアムは剣に雷を纏わせながら近づいていく。ぐうぐうと立ちながら眠るエスタークは、そのことに全く反応を示さない。

 

ダークドレアムがエスタークの目前にまで迫り、剣を振り下ろした。瞬間、エスタークが輝いた!!

 

「な、何ッ!?」

 

―あやしいひかり

―ねがえり

 

エスタークの体から妖しい魔力の光が放たれ、ダークドレアムの剣を弾いた。そして、エスタークが眠りながらやたらめったらに剣を振り回す。

 

「く、グハッ!」

 

エスタークは眠っている。眠っているが故にその剣筋が全くと言っていいほど読めない。右へ行ったかと思えば下から切り上げられ、左へ行ったかと思えば突きがくる。反撃しようにも、頻繁にエスタークの体から あやしいひかり が放たれ、剣や体が弾かれてしまう。

 

「ま、まさか悪手だったとは!」

 

しかし、寝ている今が最大のチャンスであることに変わりはない。ダークドレアムは離れ、剣を再び分離させると聖なる祈りの力を剣に込めた。

 

対してエスタークは眠りながら何も無い場所に剣を振り下ろしている。当たり前だ、あれはただの寝返りなのだから。

 

「ぉぉおおおおおッ!!!」

 

剣に白く神々しい光が灯る。ダークドレアムはそれらを十字に斬り放った。

 

―グランドクロスッ!!

 

十字の巨大な斬撃がエスタークに迫る。聖なる技である グランドクロス であれば、魔族であるエスタークには致命的なダメージを負わせられるはずだ。幸いエスタークは見当違いの場所を向いていた。決まる!そうダークドレアムは確信した。

 

 

 

 

 

 

―真・完全覚醒

 

グランドクロスは突如方向を変え、ダークドレアムへと猛進した。

 

「な…何ィィイイッ!!?」

 

意表を突かれたダークドレアムはグランドクロスをもろに喰らい、2人の戦闘により近くに出ていた岩にぶち当たった。

 

「ぐ、何が……なっ!?」

 

顔を上げたダークドレアムの目前には、灼熱の炎と凍てつく冷気を纏わせた双剣があった。

 

―大氷炎の斬滅剣ッ!!

 

双剣による連続斬りがダークドレアムを打ち据えた。数十による連撃を叩き込み、最後にエスタークは双剣を振り上げ、最後の力を振り絞りダークドレアムへと振り下ろす。

 

巨大な魔力の爆発によって、ダークドレアムはその身を徐々に削られながらも叫んだ。

 

「フ……フハハハハハッ!!完敗だ!素晴らしき力だ!この私が、たった1人に倒されてしまうとは!しかし、私は不滅の魔神なり!いつかまた、相見えようぞ。我が好敵手(とも)よ!!」

 

満足気に笑いながら、ダークドレアムは消滅し悪夢の世界へと帰って行った。

 

「グゴゴゴ……」

 

エスタークはフラフラと揺れながら、双剣を落とした。真・完全覚醒は、エスタークの奥の手であり、最後の切り札。その身にかかる負荷は想像を絶する。瞑想で回復した傷がまた開き、筋肉が所々裂けている。エスタークは体の修復、力の回復のために眠りについた。

 

エスタークが光に包まれ、元の場所へと帰っていく。いずれ、また帝王は他の神によって異世界の試練として使われるだろう。静かに微睡みながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「グギギギ……な、なぜだ……この私がこんなムシケラ共に敗れてしまうとは……い、意識が薄れてゆく……わ、私の世界が……崩れ……グハッ!!」

「倒した……大魔王を倒したぞーッ!!!」

 

一方その頃、幻魔王デスタムーアは勇者一行にちゃっかり敗れ、世界に平和が訪れたのだった。

 

 

 




疲れた……今回は5740文字。いつもの二倍だぁ!?

あれ、デスタムーアとダークドレアムってこんなキャラだったっけ……。タグにキャラ崩壊ってあるからこんな感じでも大丈夫なはず(震)

時系列ですが、大魔王たちは時の砂などのアイテムを複数所持し、魔力等を用いて時空を渡ることなども可能な超常の存在として捉えていただければ。星のドラゴンクエストとかだとだいぶそこら辺はっちゃけてたりするので、それに習ってこの作品もはっちゃけてます。

何か変な所、誤字脱字があれば、活動報告や感想にお願いします。

評価や感想もお待ちしております〜。


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番外編2 決戦、再び

アンケートの解答ありがとうございました!

2択目が圧倒的票差により選ばれました。
無能とかゴミとか言われてますが、皆さんは好きなようですね。私もこの神様は大好きです。
それとも、記憶ありの帝王様の戦闘が見たかったのでしょうか?

今回、私的には番外編1より薄いかなぁと。やはり、自分で展開を考えるのは難しい……というより、納得出来てない。

もしかしたら、後に編集でところどころ変えてしまうかも…。




私は、いま困惑している。

 

「やれやれ。ちょっと散歩をしていたらヘンな所に来てしまったようだ」

 

私は魔界での仕事を一段落させ、異世界への旅行を明日に控えていた。早めに寝ておこう、そう思って自室で眠りについたはずだ。

 

「ふむ、魔物……魔族がいるということは、まったく知らぬ世界に来たというわけでもないか」

 

ここは……この塔はなんだ?まさかまた、寝てる間に別世界の扉でもくぐったか?いや、それはまだいい。問題は、なぜ貴様が私の前にいるのかだ。

 

「我が名はマスタードラゴン。まあ、知らないだろうとは思うがな。たまにはこうして、ハネをのばすのも良いモノだ」

 

知っているわバカチン!そも、気づかないものなのか!?この妖魔の姿では会ったことはないが、貴様とは死闘を繰り広げたはずなんだがなぁ!?

 

「ならば、ここはひとつ。ウデだめしというのはいかがかな?」

 

……は?

 

「もちろんムリにとは言わん。勝てれば褒美は出すが、どうかな?」

 

……私に…いや我に気づかず、あまつさえウデだめしだと…?勝てれば褒美は出す……だと?

 

「……やろうではないか」

「おお、やる気があって良いぞ。それでは、軽く遊んでやるとしよう!」

 

ハハハ、なるほど?今度は軽く……遊んでやる…ときたか。

 

「遊ぶ必要は無い。遠慮は無用、貴様の本気で来るがいい」

「ほう……この私と本気で手合わせ願いたいと、そう申すのか?神威を感じられぬはずもあるまい?」

「無論だ。貴様のその高い鼻をへし折ってやりたくなってな」

「ほほう……私の神威を感じてなお、そこまで豪語するか。よほど自信があると見えるな……面白い」

 

眼前の白銀の龍神が、はばたき宙へと移った。その目には絶対の自信と我への哀れみ(・・・)がハッキリと浮かんでいる。我を、力も読み取れぬ自信過剰な魔族とでも思っているのだろう…!

 

「よかろう。ならば、望みどおり手加減はせぬ!覚悟するがよい!」

 

マスタードラゴンは口に魔力を集め、空色の極太光線を放つ。それは私ごと塔の壁を突き抜け、地形を変えるほどの爆発を起こした。

 

「ぬ……大人げなかったか?いや、あそこまでの大口を叩いたのだ。これで本気を出さなければ彼奴への侮辱ともなろう……それにしても、口ほどにも……っ!?」

 

塔が傾く。マスタードラゴンは空へと逃れ、倒れゆく塔を驚きの眼差しで見届けた。

 

光線の威力の余波か?いや違う、斬られたのだ。根本近くが斜めに割れていることから斬撃を飛ばしたのだろう。

 

マスタードラゴンは光線の着弾地点へと視線を向け……目を疑った。

 

「ば、バカな!?なぜ貴様がここに……そうか、先程の魔族か!おのれ、また私の前に現れるとは忌々しい!」

「グゴゴゴゴ……この姿になってようやく気づくとは、貴様も衰えたか?」

「ほざけ!よもや、封印をも破るとはな……地獄の帝王エスターク!!」

 

封印は破ってはいないのだが……神のせいだよ。文句はあの世にいるアイツに言ってくれ。

 

「しかし、貴様をここで倒せば魔物どもの勢いも削がれるだろう。今度こそ滅びるがいい!」

「グゴゴゴゴ……やってみせよ」

 

ーバギムーチョッ!!

ー地獄の竜巻ッ!!

 

真空の刃による巨大な竜巻と紫色をした地獄の竜巻が相殺する。それを合図に我とマスタードラゴンは次々と攻撃を放った。

 

ー天空竜のキバッ!!

ー刃砕く一閃ッ!!

 

敵の状態をリセットする龍神のキバと、敵の武器を砕き薙ぎ払う一閃が激突する。

 

ージゴデインッ!!

ードルマドンッ!!

 

聖なる雷撃呪文と闇の雷撃呪文が辺りを焼き尽くす。

 

ーグランブレスッ!!

ーじごくのごうかッ!!

 

最高クラスの威力を誇る新緑色のブレスと、地獄にて燃え盛る業火が凄まじい爆発を起こす。

 

やはりトロッコに20年も捕まっていたとはいえ、力はさほど衰えてはおらぬようだな。

 

互いのブレスが巻き起こした爆煙を突っ切り、マスタードラゴンが我に体当たりを仕掛けてきた。が、それは前回の戦いで既にみている。

 

体を左側にずらすことで避け、掬い上げるように右手の大剣で切り上げた。

マスタードラゴンは上空へと打ち上げられたが、すぐさま体勢を立て直すと黄金の魔力を練り上げ巨大な槌を形成した。

 

ー天からの神撃ッ!!

 

マスタードラゴンが咆哮すると槌が高速で我へと迫る。我は進化を促す禁呪の魔力を体から放出し、剣に暴走した魔力を纏わせた。

 

ー進化の結末ッ!!

ー帝王の怒りッ!!

 

紫のオーラを纏った無数のどす黒い魔力のトゲが槌をくい止め、赤い双剣の叩きつけによって槌は完全に破壊された。

 

しかし、その間にマスタードラゴンは我の目前へと迫っていた。その爪に真空の刃を纏い、目にも止まらぬ速さで我へと突き立てた。

 

ー奥義爪嵐撃ッ!!

 

「グ…ゴ…!」

 

龍神の爪は容赦なく我の肉体を破壊していく。しかし、集中して周りのことが見えておらぬようだな!

 

ー大氷炎の斬滅剣ッ!!

 

双剣に灼熱の炎と凍てつく冷気を纏わせ、両側から挟み込むようにマスタードラゴンを打ちつけた。

 

「グォッ!?」

 

そのまま地面に叩きつけると、氷炎を纏う双剣の連撃を叩き込みマスタードラゴンを地中へと押し込んでいく。

 

「ぐ…ぬぬ…おのれぇえっ!!!」

 

マスタードラゴンが吠える。我は上空に魔力を感じ、すぐさまその場を離れた。

 

次の瞬間、空から無数の光線が降り注ぎ、我が立っていた場所を塵ひとつ残さず消滅させた。

 

「貴様ァ、エスタークッ!!許さぬ、絶対に許さぬぞぉ!!」

「……頭に血が上りすぎだ。これではつまらぬ…一度頭を冷やせ」

「グォォオオオッ!!」

 

マスタードラゴンは暴走した魔力を放出した。天候が変わり、落雷が次々と落ち大地を破壊していく。まったく、貴様がそのようなことをすればこの世界は不毛の地となってしまうだろうに。

 

一度叩きのめし、元の世界にバシルーラで強制転移させてやるか。

 

そんな我の思いなど露知らず、マスタードラゴンは自然をも操る魔力を解き放ち我へと抜けた。

 

ー天地雷鳴ッ!!

 

我の頭上から、巨大な蒼雷が降り注ぐ。我は魔法陣を展開し迎え撃った。

 

ージゴスパークッ!!

 

魔法陣から地獄の雷が放たれ、蒼雷を打ち消していく。我は未だこちらへと雷撃をとばす龍神を一瞥し、ため息を吐いた。

 

「グォォオオオッ!!」

「昔からそうだ。貴様は余裕というものを知らぬ……だからその権能を使うことにも気付かぬ。怒りに呑まれてはデスピサロと同じではないか…」

 

マスタードラゴンは周囲に黄金色の結晶生物を生み出し、それらが生成した魔力と自身の魔力を口内に集中させていく。

 

その魔力量は前回とは比べ物にならないほど増大している。なるほど、貴様も鍛錬は怠ってはいなかったというわけか。

 

「ならば、我も本気を出さねばな!!」

 

ー真・完全覚醒

 

内に眠る力を解放し、斬撃・呪文を1度だけ跳ね返すバリアを纏う覚醒。しかし、やつの攻撃は跳ね返すことはできぬ。あれはおそらく、体技系の技だろう。しかし、これにより我の目は赤く染まり、真の力を使うことが出来る。

 

「むぅん!」

 

双剣に氷炎を纏わせ、カンカンカンと打ち付け合う。そこに一気に魔力を流し込めば……紫色の巨剣の完成だ。

 

「さあ、これをもって決着としよう。思えば、貴様とは停戦条約を交わしてはいなかったな。これを機に、歩み寄る努力もするといい!」

「ォォオオオオッ!!!」

 

ー白天の崩落ッ!!!

 

マスタードラゴンの顎に溜まった黄金の魔力が、極太光線となり放たれる。

我は両手に握った1本の魔剣をマスタードラゴンへと振り下ろした。

 

ー天上天下断獄斬ッ!!!

 

技がぶつかり合う。そういえば、前回はこれで敗北したのだったな。だが、我は進化を繰り返し力を増している。怒りで我を忘れた貴様など恐るるに足らず!!

 

「グヌ……ガァアッ!」

「散歩でここへ来たのだったか……貴様も災難だな。元の世界で、改めて再びまみえようぞ!」

 

光線を押し返し、魔剣がマスタードラゴンを地へと叩きつける。流れ出た魔力が大地に浸透し爆ぜた。

 

「グォォオオオッ!!!?」

「……今か」

 

ーバシルーラッ!

 

敵を強制瞬間移動させる呪文、バシルーラを唱えた。行先は天空城、やつの居城だ。

 

「いずれそちらに出向く。その際にじっくりと話し合おうではないか」

 

こちらは貴様の失態も抑えている。貴様の気に入りそうな事もな。交渉のカードはある……あとはやつがどう出るかだな。

 

 

こうして、宿敵との再戦は我が勝ち星を上げたのだった。

 




戦闘の舞台…キャラバンハートなのをわかった方はいるのでしょうか…。
いかがでしたでしょうか?
戦闘描写が番外編1より簡単だったかな…。

マスタードラゴンが超雑な扱いになってる気がします。ごめんねプサンさん…。

ここでの真・完全覚醒は、スーパーライトの真・完全覚醒とバトルロードの真化を合わせてます。
さすがに、スーパーライトの効果だけだと覚醒って何よ?と言えるぐらい効果も大して強くないので……お許しを。


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番外編3 前編 地獄の遺伝子

お待たせしました〜……。こうやって小説書くの、なかなかにいい休憩になりますね〜……。

今回は前編です。戦わせるために、筋通しや内容の構成考えるの今までで1番難しかった……番外編でこんなに苦労したの初めて。


地獄の帝王は、勇者に2度……いや、異世界を含めると何度も倒された。

 

導かれし者たち、天空の勇者とその家族、竜神族とその仲間、天空の守り人、冒険王、モンスターマスター……あげるときりがない。

 

彼らは生まれながらにして勇者であったり、その勇気と成し遂げた功績によって勇者と讃えられた者たち。

 

『勇者にのみ、地獄の帝王を殺すことができる』

 

天空の勇者たちと戦った際には、確かに命の危険はあった。実際に死んだこともある。しかし、天空の勇者以外の者たちと戦ったさいには、倒されはすれど死ぬことはついになかった。

 

挙句の果てには、進化を繰り返した帝王は勇者級の力を持つ相手に助言をして追い返すという余裕を見せてくる始末。

 

神々は、この怪物が記憶を失っている間になんとしても滅ぼしておきたかった。魂までは滅ぼせずとも、封印が成れば地獄の帝王が復活することはついぞないだろう。

 

神々は考えた。天空の勇者が再び現れるのを待つか?いや、それでは遅い。今もなお、帝王は進化を繰り返し力をつけている。一世代だけでは力不足……ではどうするか。

 

勇者を呼べ。異世界問わず、伝説の勇士たちをかき集めろ。我々もうって出れば、必ずや帝王を殺せるはずだ。

 

あらゆる時間軸、あらゆる世界から強者たちが召喚された。たった一体の魔物を滅ぼすために、地獄の帝王を世に出さぬために。

 

地獄の帝王vs光の連合軍

 

たった一体との戦争は苛烈を極めた。圧倒的火力の攻撃と、凄まじい生命力。Lvと呼ばれる力の大まかな測定値が最大となった勇者と神々を前に、地獄の帝王は大立ち回りをして見せた。

 

完全覚醒した帝王に眠りは効かず、ただただ回避し殴る。どうしても躱せない攻撃はアタックカンタやマホカンタを貼った者たちが盾となり、雷の必殺技たちが絶えず飛びかい帝王に僅かながら傷をつけていく。

 

いかに地獄の帝王でも、連合軍の全てを捌ききることはできず、ついに倒れた。

 

神々はすかさず魂を封印し、肉体は勇者たちにバラバラに切り刻まれ、異世界に封じられることとなる。

 

こうして、地獄の帝王は完全に滅びた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

遥か宇宙の彼方にて、人知れず邪悪な魔力を放つ宝箱があった。

 

複数のそれらは互いに共鳴しながらも、今か今かと待ちわびていた。全てが揃い、再び降臨する時を。

 

その箱の前に、2つの人影がうつる。

 

闇のオーラを纏うそれらは箱の中身を取り出すと、ある浮島へと向かう。目的はその巨大な塔の中、ブレイクモンスターと呼ばれる、魔物の体を構成するマ素に汚染された魔物を生み出す装置。

 

『黒鉄の監獄塔』に、それらは降り立った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アロマ・ゲブズリン。

 

魔物をこよなく愛し、人間全てをマ素によって魔物にしようとした男が遺した仕事を受け継ぎ、バトルGPの会長となった娘。伝説のモンスターマスターをライバルと呼び、競い合い、寿命で逝った彼女を迎えたのは大魔王と呼ばれる存在であった。

 

絶えることのない苦しみ・痛みに蝕まれ、大魔王の命令に従うことだけ許される。

 

子孫であるアロマ・ゲブズリンも同様であった。

 

大魔王の命令は、強いモンスターを作り出せ。魔王軍の戦力を増強するために配合でモンスターをかけあわせ、最上位の魔物を生み出す事だった。

 

しかし、やはり普通の配合では限度がある。どうしたものかと必死に考えていた際に見つけたのが、宇宙に散らばった禍々しい魔力を放つ宝箱だった。

 

勇者たちにバラバラに切り刻まれ、僅かな肉片となってしまった帝王の身体。

 

『地獄の遺伝子』であった。

 

恐ろしいことに、この遺伝子は通常の配合装置や配合技術では操作できなかった。明らかに普通の魔物のものでは無い。しかし、復活させ、軍に加えることが出来たなら?私たちの苦しみも終わるかもしれない。

 

そのために、黒鉄の監獄塔に来たのだ。ブレイクモンスターを作り出すこの巨大な装置ならば、マ素で肉体の足りない部分を補いつつ最凶の怪物が生まれるとふんだのだ。

 

監獄塔に残る、異常なマ素量を誇るダークマデュライトをつぎ込み、地獄の遺伝子をセットする。装置が動き始め、高密度のマ素を浴びた地獄の遺伝子が妖しく輝き始めた。

 

やがて輝きは強くなり、何も見えなくなった瞬間、監獄塔が凄まじい揺れに襲われた。監獄塔の屋上から凄まじい気配が放たれ、野生の魔物たちは逃げ出し、街に住む知恵ある魔物たちは畏怖の念に身を震わせながら拝み始めた。

 

エレベーターと階段を使い、2人は監獄塔を上がっていく。上がるごとに強くなる圧倒的存在感。大魔王の力と呪いを施されているというのに身体の震えが止まらない。

 

扉を開け、そこで見たものとは━━━━

 

「グゴゴゴゴ……なんだ、貴様らは」

 

魔王族に分類され、巨大な双剣と体の大部分がマ素に汚染された、まさにブレイクモンスターの王とも言うべき風貌。

 

「我が名は凶エスターク。今はそれしか思い出せぬ……」

 

青い肉体をマ素に染めた地獄の帝王、凶エスタークであった。

 




番外編3 後編をやり終えたら、しばらく番外編はしないで本編進めようと思います。

また投稿まで空いてしまうと思いますが、気長に待っていてくださると……ほんと、待たせすぎとは思っているんですけどね……ごめんなさい。

25話目は早めに出します。


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番外編3 中編 汚染された帝王

なんとか滑り込み…。今回で後編終わらせて本編行くつもりだったのに、伸ばしちゃった…。
また近いうちに後編の方も出します。
さて、デカビタでも開けるか…。


黒鉄の監獄塔。その屋上で、帝王と2人の少女は対面した。

 

圧倒的な威圧感は少女たちを飲みこみ、押しつぶさん限りの強さ。しかし、大魔王の呪いと力によってなんとか自我を保たせている。一度気を失ってしまえば、呪いによって想像を絶する痛みと苦しみを与えられてしまうのだから。

 

そんなことを知らない帝王は、2人へいつものように言葉をかけた。幾度となく異世界に迷い込み、出会った者たちへ送った問いかけを。

 

「グゴゴゴゴ……誰だ、貴様らは?我が名は凶エスターク……今はそれしか、思い出せぬ……はたして自分が善なのか悪なのか、それすらもわからぬのだ…………その私になに用だ?私を従えるためにやってきたのか?」

「……ソウヨ、アナタヲ生ミ出シタノハワタシタチ。ダカラ、ワタシタチニシタガイナサイ…!」

「私を生み出しただと…?おかしなことを言う……私はあらゆる場所をめぐり、様々な者たちと出会ってきた。だが、貴様らなど知らぬ……」

「ソンナ、ワタシタチガ配合シテ作リ出シタノニ……マサカ、アノ肉片ガ……?」

 

地獄の遺伝子に宿る帝王の魂。そこに微かに残っていた記憶が、再生した肉体に定着したということ。アロマ達にとっては都合が悪い。配合で生み出した魔物は自分たちを主と認識し、従順になる。しかし、生み出される前の記憶などがあっては命令に従うことなどありえないだろう。

 

「……ふむ、しかしどうしても私を従えたいと言うならば、それなりの力を見せてみろ。私を従えるのに十分な力を持っていると示せば、私はおとなしく従うとしよう…」

「…ッ!言ッタワネ」

「私に二言は無い……しかし、こわっぱとて手加減はせぬ!全力でひねり潰してくれよう!」

 

凶エスタークがマ素に汚染され変形した双剣を手に取る。アロマたちも生み出した魔物たちをはなった。

 

「行キナサイ!『デスピサロ』『バルザック』!」

「コッチモヨ!『ムドー』『大魔王デスタムーア』『デュラン』!」

 

強大なステータスを誇る魔王族。そして魔王族並の力を持つ高ランクの魔物たち。それらがいっせいに殺気を向け構える光景は一種の地獄だ。

 

しかし凶エスタークは冷静に見据えた。両手を広げ、受け入れるかのような構えをとる。

 

「グオオオオオッ!」

 

最初に動いたのはバルザックだった。跳躍でその肥えた巨体を空中へ投げ出し、巨大な棍棒を凶エスタークへと振り下ろす。棍棒には闇の魔力が付与された。

 

━━無明斬りッ!

 

エスタークは右手に持った剣で受け止め、左の剣で吹き飛ばそうとするがいつの間にやら迫っていたデュランが凶エスタークの懐へと潜り込んでいた。

 

━━羅刹斬ッ!

 

暗いオーラを纏った剣が凶エスタークへ襲いかかるが、左の剣を地面に突き刺し無理矢理体勢を変えることで回避。その隙を見逃さず、ムドーが催眠呪文ラリホーマを唱えた。

 

「グゴゴゴゴ……」

 

しかし眠らない。凶エスタークは爆発の魔力を剣に纏わせデュランとバルザックを無理矢理振り切った。

 

━━爆砕斬りッ!

 

デュランとバルザックが凄まじい勢いで吹き飛び、島を越え宇宙へと飛び出して行った。

 

それを気にもとめず、ムドーが最上級の火炎呪文メラガイアーを唱える。巨大な…しかし凶エスタークと比べると小さい火球が放たれた…が、凶エスタークもメラガイアーを唱えた。

 

呪文の威力は詠唱者の魔力の質と絶対量で決まる。凶エスタークのメラガイアーはムドーのそれよりも一回りも二回りも巨大であり、呪文も打ち消しながらムドーを飲み込んだ。残ったのは多少の焦げあとのみ。

 

「バカナ…!魔王族ニ届カズトモ、上位ノ魔物タチガ…!」

「グゴゴゴゴ……魔王族?なんだそれは……貴様らが何を言っているのかは理解できないが、そこにいる2体の魔物を見て理解したことがあるぞ」

「理解シタ…ダト?」

「戦いには関係ない……些末なことだ。さあ、続けるぞ」

 

凶エスタークが爆裂呪文イオマータを唱えた。この呪文は小さな爆発を連続で起こす呪文だが、凶エスタークの魔力によって暴走し、一度の爆発がイオナズン級の威力へと変わる。しかし流石は魔王族。デスピサロが呪文を跳ね返すバリア、『マホカンタ』を貼りデスタムーアは傷を負う毎に回復呪文やめいそうで癒していく。

 

次はこちらの番だと言わんばかりに迫る二体。まずはデスピサロが動いた。口から最上位の炎ブレス、右手からは地獄の雷を放つ。

 

━━煉獄火炎ッ!

━━ジゴスパークッ!

 

凶エスタークは双剣で打ち払おうとするも、デスピサロが左手を上へ振り上げると凶エスタークの立つ床から巨大な禍々しい手が現れ凶エスタークを捕らえた。

 

━━アビスハンドッ!

 

闇の手が爆発し業火と雷が襲う。これにはたまらず、凶エスタークは拘束を解き魔力の渦から脱出した。そこへデスタムーアが仕掛ける。

 

デスタムーアは自身に賢さのパラメーターを上昇させる呪文インテを掛け、最上位の爆裂呪文イオグランデと最上位の氷結呪文マヒャデドスを唱える。凶エスタークを飲み込んであまりあるほどの範囲を爆発が飲みこみ、上空からは巨大な氷塊が次々と落ち、辺りを氷漬けにしていく。

 

「……フフッ。コレナラアイツモ終ワリネ」

 

勝利を確信したアロマたち。しかし、次の瞬間には煙が吹き飛ばされ、無傷(・・)の凶エスタークが現れた。

 

「ナッ!?ナゼ無傷ナノ…アノ猛攻ヲ受ケテ!」

「グゴゴゴゴ……テンションが低かったからな」

「ナ…ナンデスッテ!?」

「テンションが低かったと言ったのだ……確かにあの猛攻は良かった。だが、気力を吸収する呪文ギガ・タメトラを使えばさほど脅威ではない…」

「デ…デスタムーア ダケナラトモカク、デスピサロ ハ『つねにマホカンタ』ノ特性ガアルハズ…!」

「私が先に掛けたのはデスタムーアだ。そして、吸収したテンションを使いギガ・タメトラをデスピサロへ掛けた。マホカンタに対し、テンションの上がった特殊呪文の成功確率は半分……結果は成功だ」

「ソ…ソンナ……!」

「さて、まだデスピサロから吸収したテンションが残っている。つまりは……わかるな?」

 

凶エスタークは双剣を掲げ、1つの魔力の玉を生成した。それが消えた瞬間、デスピサロとデスタムーアのいる空間が輝いた。

 

「終いだ」

 

━━ビッグバンッ!!

 

音が消えた。周囲は極光に包まれ、何も感じることの出来ないまま時間が過ぎていく。

 

ほんの一分程度、しかし体感では数十分にも思えた虚無の時間が過ぎ、機能を再稼働させた目が映したのは……周囲にあった鉄の柵と、階下への階段を囲っていた建物、抉れ蒸気を排出する鉄パイプを露出させている床、そして雲ひとつない晴天だった。

 

凶エスタークとアロマ以外には何もいない。魔物たちは塵一つ残さず消滅していた。

 




いろいろとキツイけど、こうやって内容考えて書くのもいいですね〜……ホント、いい休憩になる。

次回、やっっっと本命です。お待たせしてしまい本当にすみませんでした。


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番外編3 後編 凶帝王と大魔王

おまたせしました。疲れた……。書いてる中、どんどんとお気に入り登録が減っていくことに悲しくなった……すみません。私が書く作品は全て不定期更新です。
今回の話はいつもより長文です。

〜スーパー愚痴タイム〜
(この話が投稿遅れた言い訳)
いったい何がつらいって、互いが使う技とその属性、そして耐性を調べあげて撃たせ合うのがキツい。
特性とかだとまだマシ。技が無効や弱点ついてたら描写にも気を使わないといけないから、独自の耐性表を作成して、それを見ながら書き上げました。

1番悩んだのは帝王様の耐性について。例えば、DQMJ3の凶エスタークの眠り耐性が『無効』、でもDQMJ3Pの凶エスタークは『軽減』、そしてDQMSLだと『普通』。もう統一して欲しい……。


手持ちのモンスターが全て倒され、残るは自分たちのみ。戦う手段を失ったアロマたちは、すでに諦めかけていた。

 

私たちはこの怪物に殺されてしまう……自分たちは死んだ存在なのだから殺されることはないか?いや、あの大魔王も霊体に干渉できたのだ。この凶エスタークとやらにもそれは可能かもしれない。

 

2度目の死。それを悟ったアロマたちの顔は、恐怖に染まってはいなかった。やっと開放される……あの大魔王による地獄の苦しみから、命令に逆らえない屈辱から解き放たれることができる。

 

この魔物ならば可能だと長年の経験から直感したアロマたちは、静かに目を閉じた。おそらく身を引き裂く激痛が襲うだろうが、呪いと比べれば大したことはない。痛みにはもう慣れた。

 

さあ、一思いにやってくれと覚悟したアロマたちの耳に、声が一つ届く。

 

『愚か者どもめ。我輩から逃げられると思ったか?だが、この魔物を蘇らせた功績に免じて、お前たちを特別に許してやろう。さあ、まだまだ働いてもらうぞ』

「っ!?ソンナ、嫌ダ、モウ魔王ノ言ウコトナンテ聞キタク…!!」

 

目を開ければ、そこは黒鉄の監獄塔ではなく、辺り一面の闇だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………」

 

凶エスタークは暗闇の中で静かに佇んでいた。

 

心地よい眠りを堪能していれば、自分を従わせたいという生意気な小娘たちに起こされた。

実力も伴わない愚か者たちをいざ滅ぼそうとすればいつの間にか小娘たちは消えた。

そして辺りが暗闇に閉ざされ、充満する強大な魔力から確かに感じる敵意。

 

次々と起こる無礼、普段は温厚な帝王といえど怒りのゲージは上がっていた。

 

この敵意には覚えがある。かつて、ミルドラースなる者が自分を従わせようと迫ってきた時に感じたもの。神を超えただの、王の中の王だのと言っていた。そして、実力も確かにあった。

 

しかし睡眠を邪魔され、従わなければ滅ぼすというその身勝手さには我慢ならない。

 

そしてついに……。

 

「グォォオオオオッッ!!!」

 

帝王はブチ切れた。

 

━━身も凍るおたけびッ!

 

魔力を乗せた破壊の咆哮が放たれた。魔力で生み出された闇は強大な魔力の波動に耐えきれず、徐々にヒビが入り……爆散。ようやく状況が把握できるようになった。

 

赤い異空間にただ一つ、浮き島のような床がある。そこに帝王は立っていた。

 

「グゴゴゴゴ……」

 

しかしそんなことはどうでもいい。自分をここまでコケにした愚か者を見つけ出し、滅ぼす。その考えのみが頭を占めていた。

 

そんな帝王に言葉が投げかけられた。

 

「ようこそ、魔王の間へ。ここは我輩の治める魔界、その中心にある魔王城の最奥だ」

 

浮かぶ床の先端、広間のように広がったそこに彼はいた。

 

目玉のような宝玉がついた杖を持った、翼やしっぽの生えた紫色の魔物。目を引くのは、異常な程に発達した上半身と三本角だろう。

 

その身に纏うオーラはは凶エスタークに勝るとも劣らない王者のものであった。

 

「我輩は大魔王マデュラージャ。あまたの魔物の頂点に立つ支配者にして魔界の王。あの娘たちはよくやってくれた……お前は我輩の配下に相応しい」

「…………マデュラージャ?貴様、いつから名を変えた」

「……なに?」

 

大魔王であり魔界の王……その肩書きはかつての王の中の王と同じもの。しかし勇者たちによってバラバラにされ、再び蘇った際に帝王は記憶をいくつか落としていた。

かのミルドラースの名前や肩書きは覚えていたが、その姿はすっかり忘れてしまっていた。

 

しかしだいたいは一緒だと凶エスタークは判断した。翼もあったししっぽもあっただろう。角もあれば牙も鋭かった。

腕も二本?だし体色も紫?だったような気もする。杖もまあ持っていたか……いや違う。それは別のデブだった。

 

頭の中でマデュラージャ=ミルドラースという、当人たちからすればふざけるなと言いそうな方程式を組み立てた帝王は……さらに激しく怒りを見せた。

 

「なるほど、あの小娘たちは貴様の部下だったか……一度ならず二度までも、私の眠りを妨げ、挙句には従えというその傲慢、ここまで私を怒らせたのは貴様が初めてだ…!」

「……まさか、お前は我輩を誰かと勘ちが━━━」

「問答無用!もはや貴様の言葉など聞きたくはない。貴様は今ここで、私に滅ぼされるがいい!!」

 

━━爆砕斬りッ!

 

双剣に爆発の魔力を纏わせ、振り下ろす。不意をつかれたマデュラージャはモロに食らい、イオナズン級の爆発が包み込んだ。

 

「グゴゴゴゴ……」

 

再び双剣に魔力を纏わせていく凶エスターク。舞い上がった煙へと振り下ろさんとしたその時、煙の中から一筋の剣閃が凶エスタークの汚染された角を吹き飛ばした。

 

━━闘魔爆炎斬ッ!

 

「グォォオオオオッ!?」

 

凶エスタークとは比べ物にならないほどの威力。圧倒的な破壊力はアロマたちが繰り出した魔王族では成しえなかったことを易々としてのけた。

 

「我輩は生まれながらにして王というわけではなかった。あまたの魔物を打ち倒し、実力でのし上がってきたのだ……ゆえに、この世界であふれる魔王族とは別格の存在。エスターク種など、恐るるに足らぬ」

「グゴゴゴゴ…………」

「力の差は歴然だ。さあ、我輩の軍門に下るがいい。さもなくば、その身が欠片となるまで打ちすえ続けてやろう」

「…………よくも聞いておればゴチャゴチャと。だが感謝しよう、貴様のおかげで……すっかり目が覚めた」

「なにを……むっ!?」

 

━━爆砕の波動

 

うちなる魔力が暴走した。イオグランデ級の爆発が辺りを飲み込み、立っていた床を粉々に吹き飛ばしていく。粉塵が晴れ、そこに立っていたのは……青かった体色を黄土色に変え、三つの目を赤く染めた凶エスタークだった。

 

「グゴゴゴゴ……そういえば我の自己紹介がまだだったな。我が名は凶帝王エスターク。はたして自分が善なのか悪なのかもわからぬが……もはやそんなものは関係ない。我に仇なすものは全て……破壊し滅ぼすのみ」

「な…なんだ、お前は。本当に魔王族か!?」

「魔王族……違うな。我は唯一無二の存在……そこらの紛い物や量産物などと同列に扱うな。そら、まだ戦いの途中だぞ。他のことに思考を割いて良いのか?」

「っ!?」

 

━━凶帝王の双閃ッ!

━━金剛裂壊斬ッ!

 

爆発の魔力を乗せた双剣がマデュラージャを襲う。突然のことにも反応し、片方は防げた。しかしもう片方の剣は防げずにマデュラージャの肉体を傷つけた。

 

「ぬぐっ!?」

 

マデュラージャの動きが明らかに鈍くなる。エスタークのマ素がマデュラージャへ入り込み、その身を蝕み始めたのだ。

マデュラージャは鋭い眼光をエスタークへと向けると、死の瘴気を拳に纏わせた。

 

それに対し、エスタークはいつものように構え、迎撃の体勢を示した。

 

━━凶帝王の構え

━━地獄落としッ!

 

死の拳がエスタークへと放たれる。その瘴気は全てのステータスを一段階下げるという驚異的な効力を発揮するものであり、かのメタル族の防御力と耐性すらも貫通する威力を誇る。

その拳はエスタークに当たり……凄まじい衝撃がマデュラージャ(・・・・・・・)を吹き飛ばした。

 

「なっ!?バカな…!」

 

そこへエスタークの追撃が迫る。双剣が強力な爆発の魔力に包まれ、目にも止まらぬ速さで斬りつけてきた。

 

━━爆炎の絶技ッ!

 

「ぐっ……ぬっ!?これ…は……」

 

爆炎の絶技は、マ素に汚染された『マ素状態』の敵に大ダメージを与えるほかに、別の効果も合わせ持つ。攻撃が当たる度に防御力を一段階下げるというもの。先の地獄落としと合わさり、マデュラージャの受けるダメージはさらに増大し体力を凄まじい勢いで削っていった。

 

このままではマズイ。そう悟ったマデュラージャは……勝つことを諦めた。

 

━━雷雲招来ッ!

 

「ぬ……」

 

強力な雷がエスタークに次々と降りかかった。凶帝王エスタークに雷は効果がない。しかし、光による目くらましは可能だった。

 

光がおさまると、マデュラージャは距離をあけて杖を真上に掲げていた。見上げると、上空に巨大な魔力の塊が浮いている。目くらましによる僅かな時間の間に、マデュラージャは今使える最強の技を放つ準備を完了させていたのだ。

 

「我輩はあまたの魔物の頂点に立つ魔界の王。我輩は…王として、決して誰にも負けるわけにはゆかぬ!」

「グゴゴゴゴ……」

「ォォオオオオオオッ!!!」

 

━━スーパーノヴァッ!

 

禍々しい魔力球が放たれる。エスタークは双剣を構えると、魔力球へと連撃を叩き込んだ。

 

━━地獄の乱撃ッ!

 

その連撃は少しずつ、魔力球を押し戻していく。凶帝王エスタークの特性である『凶ボディ・帝』がステータスを上昇させているためだ。このままでは、いずれは打ち返されてしまうだろう。しかし、マデュラージャは読んでいた。

 

━━超いてつくはどうッ!

 

「むっ!?」

 

マデュラージャの指からいてつくはどうの上位版、超いてつくはどうが放たれた。凶ボディ・帝によるステータス上昇がかき消され、そのことに驚いたエスタークに隙ができてしまう。

 

「いまだ!ハァアアアッ!!」

「お…おおっ!?」

 

マデュラージャは『ハイテンション』によってテンションを上げ……魔力球を殴りつけた。エスタークは双剣を弾かれてしまい、そのまま魔力球に包まれ大爆発を起こした。

 

「ぜぇ…ぜぇ……っ!なんという耐久力だ…!」

 

エスタークは立っていた。しかし、体の大部分が消し飛び、魔力の源であったマデュライトもヒビが入っている。双剣を握ってはいるが、だらりと腕を下げ動く気配がない。

 

「おのれ……いまいましいが、もはや我輩に殺しきる力は残っておらぬ……次元の中を、永遠に漂うがよい…!」

 

マデュラージャは残りの力をふりしぼり、『次元の裂け目』を生み出した。魔王軍を送り込む際に使うものとは別で、別次元へと繋がっている。

 

マデュラージャはエスタークを持ち上げると、裂け目へと放り投げた。裂け目が閉じ、静かになった魔王の間でマデュラージャは倒れ込んだ。

 

「我輩はあまたの魔物の頂点に立つ魔界の王……。敗北よりは……よい。我輩は誰にも負けるわけにはゆかぬ……」

 

残りの気力も失ったマデュラージャは、深い眠りにつくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どこともわからない次元の彼方。エスタークの肉体は超常の再生力によって復活しようとしていた。

 

汚染されていた部分は消し飛ばされ、マデュライトも割れたことで元の姿へと近づきつつあった。

 

しかし、全てのマ素が消えたわけではない。再びその力が振るわれるのか……それは、復活した後の帝王のみが知ることだった。

 

 




私にとって1番の敵はモンスターズ作品のみに登場するモンスター、またはモンスターズ作品を舞台とした戦闘シーンです。

さて、友人に言われたので再びアンケートを取ります。お題は技の解説について。この回と、近日に投稿する本編にてアンケートを作りますので、投票よろしくお願いします。
締切は10月10日 日曜日まで!


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番外編 ギャグ回

だいぶ前にアンケートとったのに、今更ながら投稿です。
他作品ネタとは言っても、キャラが出てくるわけではないのであしからず。そして大してネタを入れられたわけでもありません。

ギャグ、というよりも混沌です。笑えないかも知れません。


これは、黒龍神の一件が起こるよりも前のお話。

 

「グゴゴゴゴ……ゆう…しゃ…」

「…帝王様」

「グゴゴゴゴ……無限リザオラル…」

「帝王様」

「グゴゴゴゴ……星ドラ…インフレ…」

「帝王様!」

「グゴッ!?」

 

なんだ、敵襲か!?魔星神の襲来か!?それともまたラプソーンが何かしたか!?

 

「……知らない天井…いや、忘れかけていた壁だ」

「おはようございます帝王様」

「……ピサロか。我の眠りを妨げるとは、覚悟ができておるのだろうな?」

「何をおっしゃるのです。今日は祭りの日、帝王様も参加せねばなりません」

「祭りだと?」

 

湯煙温泉郷でそういった催しは近日には無かったはずだが……そういえば、ここはどこだ。ゆらぎ荘の部屋じゃないぞ。

 

「玉座とバリアのみの部屋……エスターク神殿?」

「寝ぼけていませんと、浴衣にお着替えください」

「待て、魔界にそのような祭りなど…」

「お 着 替 え く だ さ い」

「はい」

 

いつの間にやら黒い浴衣を着た『真夏の祭神』の姿になっているピサロ。その言い様も無い圧に当てられ、大人しく用意された浴衣に袖を通す。

 

それにしても、エスターク神殿に浴衣などなかったはずだが…。

 

「採寸、作成はカルマッソとロザリーです」

「また寝ている間にやりおったなあの二人」

 

いつもの部下の暴走に頭が痛む。しかし何やらピサロの様子もおかしい。ここまでズケズケと来るタイプだっただろうか。

 

「では外へと出ましょう」

「ああ、そうだ…なあああ!?」

 

肯定の意を示したその瞬間、床がパカリと開いた。『なぜボッシュートの仕掛けが神殿に!?』という叫びは凄まじい風の音でかき消され、まるで遊具の滑り台のごとく滑っていく。

 

やがて光が見え、気が付けば外に放り出されていた。下は川、このままではドボンからの水浸しである。

 

「ぐっ……我を…この地獄の帝王をなめるでないわぁ!!」

 

手に双剣を顕現させ一閃。川の水が分かたれ、その威力によって吹き上げる突風を受け高度を確保する。そして対岸へと豪快に着地した。

 

「あ…危なかった。なんなのだあの仕掛けは…?エスターク神殿にあのようなものなどあるはずがない!」

 

振り向き今一度エスターク神殿を見上げ…見上げ……。

 

「ゆらぎ荘じゃないか!?」

 

エスターク神殿など影も形も無かった。何事も無いようにゆらぎ荘があるばかり。私が飛び出してきた穴も見当たらない。

 

ありのまま今起こった事を話すぜ!

私は徹夜の仕事を終わらせてゆらぎ荘で眠りについたんだ。部下に叩き起されてエスターク神殿で目覚めると、ボッシュートされていつの間にかゆらぎ荘の前に立っていた。何を言ってるか分からねーと思うが私も何が起こっているのか分からなかった。ルーラだとか旅の扉だとかじゃ断じてねぇ、もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ……。

 

「帝王様」

「ぴ、ピサロ!これはいったいどういうことだ!?」

「さあ、祭りはこちらです帝王様」

「話を聞けい!?」

 

ズルズルと為す術なくピサロに引きずられていく。おかしい。何もかもがおかしい!

 

ある程度進むと、ガヤガヤと活気のある気配があるのがわかる。湯煙温泉郷は何やら祭りの真っ最中だった。道端には屋台が並び、人魔問わず賑わっている。

 

「………………」

 

私は無言で手近な提灯に手を添えた。まるで線香花火のような、ぷっくりとした黄色い身体。その上部分には味のある顔が……。

 

「ラプソオオオンンンンッ!!?」

 

暗黒神その人であった。

 

「ああ、それはちょうど良いデザインでしたので大量生産した暗黒神提灯です」

「怖いわ!屋台や通りの端から端まで全部ラプソーン!怖いわ!レティスも気絶するわ!」

「神鳥ならばあそこに」

 

ピサロの指さした先。そこには全身を黒く染め、禍々しいオーラを纏った巨鳥が…。

 

「ダークラーミア!!闇落ちしてるじゃねぇか!!」

 

なんならその隣には闇に染まり邪悪な意志を持ったロトの剣、『呪いの剣』までいる。なんだその酒は?どうやって飲むつもりだ。

 

マズイ、エスタークに転生した時のような精神状態になってきた。語気まで戻った気もするぞ。

 

「はあ……お前も散々なんだな、ラプソーン」

「もう気にしないことにしたよ」

「そうか……ん?」

 

先程手を添えた提灯に目を向けた。目が合った。

 

「本物が混じってる!?」

「お、アークさんも祭りに来たんすか」

「あ、ここ、コガラシくん!」

 

声の方向を見ると、コガラシくんが屋台でタコ焼きを焼いていた。なんだろう、すっごく安心する。

 

「他の方々は?」

「ああ、幽奈たちならアッチに」

 

「よいしょ〜!」

「よいしょ〜」

 

コガラシくんが指さした方へ視線を向けると、幽奈さんと仲居さんがお餅をペッタンペッタンとついていた。その周囲には夜々さんや呑子さん、そして狭霧さんが座って餅つきを楽しそうに見ている。

 

癒される…ずっと見ていられるよ。

 

 

その横に何かあるが、気にしないでおこう。

 

「この状況はなんだもじゃ。なんでギガントドラゴンの口に挟まってるもじゃ」

「………………」

「ふ、笛の勇者?なぜこっちに無言で近づいてくるもじゃ?ちょ、乗るなもじゃ!このワシを誰だと思ってるもじゃ!なぜ、なんでこんなことす━━━━━━」

「ドン・モジャールが死んだ!この人でなし!」

 

ギガントドラゴンの口の中に押し込まれ消えていったももんじゃの頭領など気にしない。

 

 

 

餅つきも餅が出来れば終わるもの。ゆらぎ荘の面々が美味しそうに餅を頬張る中、私はどういうわけか教会へと連行された。

 

タキシードを着せられ、式場へと通される。左右の席には魔物たちとゆらぎ荘の面々が座っていた。つい先程まで餅食べてませんでした?

 

「……おい、これはどういう状況だ?」

「これより、地獄の帝王エスタークの婚儀を執り行うわ」

「説明しろと言っている!神父!挨拶の儀よりも先に……って」

「ゴメンなさいね新郎さん。少しお静かに」

「お、おお、オルゴ!?」

 

なぜ天魔王がここにいる!!待て、席に座ってる面子もおかしいぞ!大魔王のお歴々に魔星王、挙句の果てには光邪神や魔邪神どもまで!?

 

おい天空の勇者ども!なぜそこにいる!?なに?マスドラに送り込まれた?あのトロッコがぁ!

 

「さあ、新婦さんのお出ましよ。ちゃんと迎えてあげてちょうだいね」

「おい待て、突然のこと過ぎてまるで意味がわからんぞ!相手が誰かわからん状態で結婚式とかなんの冗談だ!?」

 

教会の扉が開く。綺麗なレースとウェディングドレスを着ているのは……ナメクジの魔物、ブチュチュンパだった。

 

「……は?」

「さあ、誓いのキスを。思いっきり、皆が引くぐらいブチュっと」

「は、え、なんだなぜこうなった!おい、なんなんだこれは!?おい待て寄るな来るな!私のそばに近寄るなあああッ!!」

 

なぜか身体が一切動かせなくなり、目の前をブチュチュンパの巨大で分厚い唇に覆われたのだった。

 

 

 

 

 

「っっっはああッ!!?」

 

目が覚めた。飛び起きて慌てて周囲を見回し、ゆらぎ荘の一室だと確認。コガラシくんが落とされるよりも若干早めに起きたようだ。

 

「……夢か」

 

とりあえずムーアをぶち殺そう。そう固く決意した。

 

 

 

「なんかとばっちりを受けた気がするんじゃけど」

「デスタムーア様は恨みを買いやすいですから。さあ、まだ仕事が残っておりますよ」

「ううむ、なんか納得がいかん」

 



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序章
プロローグ


ようこそ、ゆらぎ荘の帝王様へ。
初めての作品ですが、精一杯頑張ります。
完結まではもっていきたいです。
これからよろしくお願いしますね。


『世界の終わり』

この一言に尽きた。

時間が炸裂し、世界は震え、地上はことごとくかき乱された。海は割れ、山は沸き立ち、島々は潰え、河川は干上がった。

それを成したのは二つの巨影である。

白銀の龍と赤茶の魔人が衝突する度に世界が揺れていた。

―帝王の一閃ッ!!

―ギガブレイクッ!!

魔人が巨剣による一閃を、龍が聖雷の一閃を交差させる。

―地獄の業火ッ!!

―煉獄火炎ッ!!

地獄から召喚された業火と煉獄より召喚された火炎が打ち消し合う。

―ジゴスパークッ!!

―ジゴデインッ!!

地獄の雷と聖なる雷撃が互いを相殺する。

 

「魔族の王よ!いい加減に負けを認めたらどうだ!!」

「グゴゴゴ……我には記憶が無い。しかし、そんな我を慕うもの達がいる。なれば、そのもの達のために戦い抜くのみ!話は終わりだ!」

 

龍神の爪が魔王へ襲いかかるが、魔王は双剣を交差させ受け止める。そのまま、暴走させた魔力を龍神へ叩き込み怯ませた隙に双剣を振り下ろすが、龍神は口から光線を放って牽制し距離をとった。

一進一退。互いに実力が拮抗しているために、なかなか有効打を与えきれずにいた。戦い始めて実に十数年、互いに余力が少なくなってきている。確実に決着は近づきつつあった。

 

―メラガイアーッ!!

―ギラグレイドッ!!

魔王は猛り狂う巨大な火球を、龍神は全てを溶かす熱線を放つ。呪文が起こした大爆発の中、煙が晴れるのを待つ魔王の前に突如龍神が出現した。

 

「なにッ!?」

「カァッ!!」

 

意表を突かれた魔王は龍神の突進を受け背中から倒れた。その隙を突かんと、龍神は空高く舞い上がり口にありったけの魔力を集中させていく。体勢を立て直した魔王は、いざ迎え撃たんと双剣に魔力を溜めていく。

 

龍神の口には、全知全能たる由縁、天候さえ操る神の全魔力が溜まる。

魔王の双剣は、方や灼熱の業火、もう方や凍てつく冷気が包み、それらを打ち付け巨大な紫光の剣を作り上げた。

 

―天の崩落ッ!!

―天上天下断獄斬ッ!!

 

龍神の放った光線は通過する場所にあった物を空間ごと消滅させ、魔王の振り下ろした魔剣は存在全てを両断し迫った。

 

「ハアアァァァァァッッ!!!!」

「カアアァァァァァッッ!!!!」

 

光線と魔剣が衝突する。互いが全力を込めた一撃は世界を震えさせ、周囲にあった全てを吹き飛ばす。数分の間拮抗し、世界がいよいよ崩壊を迎えそうになった時、状況が動いた。

 

魔剣が少しずつ押されていく。魔王は顔を歪めながらも、必死に力を込め続けた。

 

「グゴゴゴ……我はまだ、滅びるわけにはいかぬ…!」

「貴様がなんと言おうが、これで終いだァッ!!」

「お…のれ、グゴゴゴ……グガアアァァァッ!!!???」

 

魔剣が打ち消され、光線が魔王の肉体を包む。力の奔流に身体を削られ、やがて巨大な爆発が起こった。

 

「………ッ!ヤツめ、消滅せなんだか」

 

煙が晴れ、そこにあったのはぐったりとした魔王の姿。ボロボロになってはいるものの、二本足でしっかりと立っている。が、動く気配がない。どうやら気絶しているようだ。

 

「なんというタフさ……もはや力は少ない。遺憾だが、一度封印し、時を待つとするか。ヤツを倒せる者、勇者が現れるまで」

 

龍神は残りの力を振り絞り、魔王を神殿ごと地下へ封じ込めた。復活するまでの時間を稼ぎ、魔王を倒しうる存在、勇者誕生の時まで間に合わせるために。

 




こんくらいかな。
文字数が変動しまくるので、長い短いと幅が大きいかもしれません。
暖かい目で見てくださると嬉しいです。


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第1話 地獄の帝王

一気に2話投稿…張り切ってしまった…。


━━魔界

 

そこは、魔物がはびこる闇の世界。

 

人間を狩り、戦いを楽しみ、暴力の絶えない…秩序など存在しない混沌の極み。魔物たちが好きに生きる地底世界。

 

力のある人間や神々に攻め入られたことも少なくなく、結束とは無縁な魔物たちは幾度も滅びの危機に陥ったこともあった。

 

上に立つものが必要だ。

 

魔物たちはこぞって争いあった。俺が、私が、我が、頂点に立つのは自分だと力を示しあった。

 

魔物たちにとっては力が全て。それは揺るぎない絶対の理であり、賛成はすれど反対するものなど皆無。

 

「まったくもって愚かしい」

 

例外が起こった。

 

━━━エスターク

彼は天賦の才を持った妖魔だった。強大な魔力と知略を巡らせ、史上初の魔界統一を成して見せた。魔界に秩序をもたらした彼は、魔物に富と力を与え、軍の編成・強化と秩序構築を徹底した。

 

2年。

魔界の全てを整えた時間だ。

呪文や儀式、魔法陣を用いた技術を編み出し、生産力・軍事力を向上させ、規則の制定や新たな取り決めを広めた。

魔物たちにとっては力こそ正義。上位者の命令に背くことはなく、全てがスムーズに進んだ結果がコレだ。

 

魔界を手中に収めた。次は外界、人間の住む地上だ。

人間は資源だ。食料にもなれば、儀式の生贄にもなり、労働力ともなる万能な資源。

人間の補充とともに、領土拡大のために軍が派遣された。

 

これには人間も神々も驚かされた。あの野蛮な魔物どもが隊を組み、作戦のもとに侵略してきたのだから。

強大な魔界軍は人間の抵抗などものともせずに進行した。村は焼かれ、城は陥落し、国が滅んでいく。

これには神々も黙ってはおけず、天使や天空人の軍勢が人間に味方した……が、もはや焼け石に水となった。出陣した神が1人、また1人滅んでいく。地上は地獄と化した。

人間達は、魔物をまとめあげ地獄を作り出した妖魔を恐れ、こう呼んだ。

地獄に君臨せし魔族の王。

 

━━━地獄の帝王

 

もはや完全制圧は目前。しかし、魔物たちは満足しなかった。自分たちは血湧き肉躍る戦いがしたいのだ。殺戮は十分に堪能した。

 

魔界軍はいったん侵攻を切り上げ、異世界へと手を出した。残り少ない人間や神を相手にするより、異世界の英雄や神々との戦いを求めたのだ。

帝王はそれを黙認し、戦神や主神などといった強大な敵には自分から出向き、討ち取った。いくつもの世界を征服していくうちに、他の魔王達との交流を深め、対等な存在として外交を執り行うなど、着実に帝王の収める魔界は力をつけた。

 

しかし、そう良いことばかりが起こり続けるほど、世界は甘くはなかった。いい加減に地上も完全に征服しようかと帝王が考えていた時、ついにアレが現れたのだ。

 

━━━マスタードラゴン

神々の頂点。天空城の主。全知全能の龍神。

そう魔物たちに呼ばれ、恐れられてきた絶対神が、残りの神々とともに魔界軍へ攻め込んだのだ。

異世界へと軍の大半を送っていた魔界軍は瞬く間に崩れていき、占領していた国も奪い返される始末。

 

帝王は焦った。いかに強大な魔界軍といえど、マスタードラゴンはあまりにも強大過ぎる。

今まで戦った神々とは比較にならない相手に対し、帝王は異世界へと送り込んだ軍団を呼び戻……さなかった。

もし、この戦いで敗北した場合、魔界軍のいない異世界はすぐに反乱を起こしてしまう。それでは他の魔王にも示しがつかぬし、魔界も危機に瀕してしまう。

 

帝王は地上に残っている軍団を全て魔界へ戻し、禁術の開発に励んだ。地上が取り返されようとも、再び征服すれば良い。今はとにかく、龍神への対抗手段を!

しかし、龍神は恐るべき早さで地上を取り戻し、魔界へと攻め入った。禁術はまだ完成していない。が、それでもやるしかない。帝王は、己の編み出した━しかし不完全な━禁術を体に施した。

 

━━進化の秘宝

術を施した肉体の進化を操作する禁術。

これを用いて、進化の果てにある最強の生物となれば、あの龍神であっても倒すことが出来るだろう。

しかし、まだこの術は不完全であった。成功させるには黄金の腕輪という呪物が必要なのだが、まだ作成できておらず、進化を操るどころか暴走させてしまう危険性がある。

 

結果、進化の秘宝は正しく働かず、強大な力を得たものの、帝王は記憶を失くした怪物となってしまった。

 

それでも全知全能の龍神を倒すには及ばず、地上に築き上げていた居城もろとも地の底へ封印されてしまった。

 

地上は帝王の力と龍神の力の影響により荒れ果て、その惨状をみた龍神は地上に干渉しないことを約束した。地上に降りたとしても、その結果が良いものとは限らない。己の力を過信していたことを悔やみながら、龍神は帝王を唯一倒せる存在、勇者の誕生を待ち望むようになった。

 

魔界軍は帝王の命令どおり異世界の領土を守り続けた。

地獄の帝王が、再びこの世に復活する、その時まで。

 

 

しかし、誰一人として知る者はいなかった。

進化の秘宝がもたらしたのは、記憶を代償に手に入れたのは、力だけではないことを。

 

 

帝王は無限に進化を続ける不老不死の怪物となっていた。

 

彼は寝ぼけ眼のうちに、勇者と戦い、異世界へと召喚されながら進化を続けていく。そして、再び彼は諸悪の根源と出会う。地獄の帝王が行く異世界物語が始まった。

 




感想くれたら私が喜びます。次の話を作成するための原動力となるので、よかったら感想ください。


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第1章 狂乱の破壊神
第2話 激安下宿 ゆらぎ荘


基本、主人公視点です。帝王様のような口調ではありません。普通の人間のように喋り、普通の人間のような心情です。魔人化した際は帝王様になります。


神に殺されはや数万年。再び神(ブッコロ済み)によって異世界へととばされた私。前世は普通の会社員、今世はエスターク帝王。ひとつ言わせてくれ----どうしてこうなった。

 

『力が全て』という脳筋バカどもが襲ってくる毎日。進化の秘宝を使わずとも勝利を約束してくれる帝王ボディに感謝すれど、負けたヤツらが勝手に配下に加わっていくのはいい気持ちがしない。

 

我、元人間ぞ?上に立ったことなんて、学生の頃に学級委員になった以来だぞ?なのに大量の魔物たちをまとめあげられるとでも?出来るわきゃねぇだろいい加減にしろ!

 

部下からは、「他勢力を倒し勢力を広げるべき」と散々に言われた。いやでもさ、私は いのちだいじに を尊ぶんですよ。死にたくないのよ。

 

進んで殴り込みに行くことはしたくないと遠回しに行ってみたこともある。腑抜けと判断し出て行ってもらおうとしたわけだ。

 

「敵が来るのをどっしりと待つ。下郎の元へわざわざ出向く必要はないということですね!さすが、我らの長だ!」

 

あぁもう、どうせいっちゅうんじゃ!!?

いいように解釈すんなや!もっと疑えよ!?何もかも勝手に勘違いせんで欲しいのよ!?

 

結局、私は魔界を統一し、部下の言うように地上へと侵略を開始した。知らなかったのか?世界の運命からは逃げられない…!

挙句の果てには、どこから見つけてきたのか旅の扉を引っ張り出し、それを解析&量産して異世界へ旅立っていきやがった。強敵が出たからと私まで出陣を要請される始末。

もう私にはどうすることも出来ん……

どうせいっちゅうんじゃ…(泣)

 

そして予想通り、マスドラが降臨したわけですよ。

やべ、私このままだとブッコロコロスケされると焦りながら、なんとか進化の秘宝を編み出した。さすが帝王の頭脳よ。

しかし、やはり時間が少なかった。黄金の腕輪の作成が間に合わず、結局はエスターク帝王と同じ末路を辿ることとなった。

 

封印された後は、異世界に出張したりしていたらしい。らしいと言うのは、その時は不完全な禁術の副作用で記憶をなくしていたからだ。

オレハ…ナニモシラナイ…シラネ……。

 

そこに現れたのが、全ての元凶であった神とかいうお節介。

なんと、また私を別の世界に転生させようとしていた。咄嗟に剣で叩き潰しちゃったよね…。その際に魂に干渉されたことによって、全ての記憶を思い出し、進化の秘宝も制御することが可能になっていたというわけなのだよ。

 

叩き潰しちゃった後は、神が用意していた転移だけが発動し、異世界へと飛ばされてしまった。幸い旅の扉を複数所持していたため、魔界に帰り私がいない間の仕事や部下への顔出しを済ませることができた。

 

基本、大魔王の仕事は部下の案を吟味し許可を出すか、戦の指揮・戦法を決めて戦うぐらいだ。しかし、何百年もの月日が経っているのだ。その仕事を部下がある程度対応していたとはいえ、王が不在の間にあれこれ決めてしまうのはマズイ。そのため、かなりの仕事があった。

 

それらを捌き、何とか終わらせた時には心身ともに疲労が溜まっていた。

 

どうこの疲れをとろうかと考えた時に思いついたのが、異世界への旅行だ。

 

その旅行先には色々と悩んだが、私が神に飛ばされた世界が1番都合がよかった。魔物もおらず、呪文などの術もあまり発達していない。そこであれば、元人間だった頃の生活ができるのでは?

 

決めてからの行動は早かった。魔界へ戻るために設置した旅の扉を潜り、いざバカンスだ!と意気込んでいた。

 

しかし、私は失念していたのだ。異世界人が来ても、家も何も無い。貨幣も違うからゴールドは使えない。ゴールドを金として換金しようにも、金貨なんて持ってきては絶対に怪しまれる。ここは私の前世のような世界に近い。金貨なんて発掘品か記念硬貨ぐらいしか普通はお目にかかれない。

 

バカンスなんてできねぇじゃねぇか!

 

それからは必死に職を探した。バイトし、前世から知っている歌や曲を路上ライブで披露し、なんとか金を集める生活にあけくれた。もちろん、その間は公園で寝泊まりしたさ。

名前はエスト・アーク(Est Urk)。ただ私の名前を英語表記にし、中ほどで分けた安易なものだ。

 

そんな地獄の生活を送り続け、やっとこさ住める場所を確保することが出来た。

それがこの、元温泉旅館であった激安下宿『ゆらぎ荘』。

上下水道にエアコン完備。初期費用ゼロ、保証人不要、即日入居可能、食費一万五千円で朝夕の2食付き、温泉入り放題。その家賃は驚きの月千円!

ここまでの優良物件はないと断言出来る!が、やはり安いなりの理由が存在する。

 

ここはでる(・・)らしい。そのせいで、入居しているのは相当な物好きだけだとオーナーから言われた。

まあ、私は幽霊の一人や二人にどうこうされるほどの貧弱さは持ち合わせていない。もし襲ってきたとしても、かる〜く対処できるだろう。

 

さて、んじゃま入らせてもらおうかね。玄関が前世の実家みたいだ……懐かしい。

 

「お邪魔蟲…………」

「……………………」

 

前世で好きだったペンギンっぽい大王のマネをしながら入ってみると、人がいた。

ヤベェ、気まずいってもんじゃねぇ…。

とりあえず観察してみる。私の目の前にいるのは二人の少女だ。一人は、猫耳フードの着いた服と短パンという格好をした緑髪少女。もう一人は、宙に浮き、土下座の姿勢で壁にめり込んでいる浴衣を着た白髪少女…だと思う。

 

この際、なんでめり込んでるとかはどうでもいい。どうせオーナーの言っていた幽霊だ。一番キツいのはフード少女の視線だ。無表情で、まっすぐ私のことを見ている。その視線には寸分の動きもみられない。

 

(死んだ……これから先、同居するであろう少女からの第一印象が変な気持ち悪い人になってしまった……)

「…………いらっしゃいなの」

「ア、ハイ。ヨロシクオネガイシマス」

 

きっと、この少女はなかったことにしようとしてくれているのだろう。普通に挨拶してくれた、その気遣いが今は私の心を削りまくっている。

 

ちなみに、この少女『伏黒(ふしぐろ) 夜々(やや)』は気遣いのつもりで言った訳では無い。事前に伝えられていた入居者が来たから、普通に挨拶しただけである。このゆらぎ荘には個性的な人物が多いため、お邪魔蟲という謎の言葉にはなにも思っていることは無いのだ。

 

「お部屋に荷物置いて、温泉にでも入るといいの。ちょっと臭いから」

「ッッ!!!?」

 

少女の純粋な一撃(ストレート発言)

かいしんのいちげき!

エストの心は9999ダメージを受けた!

 

「…………アハハ、アリガトウ。ソウサセテモラウヨ」

「ん」

 

少女はその場を去っていった。幽霊少女はいつの間にやらいなくなっている。とりあえず、部屋に行こう。そして、温泉に入って、体を念入りに洗おう。

 

ホームレスしていたため、しばらく風呂は入っていない。わかっていたこととはいえ、かなりのショックを受けたのだった。

 




どうしても、展開をポンポン進めようとしてしまう…。
一場面をすぐ想像できるように掘り下げて書きたいのに…もっと意識しないといけないみたいです。
主人公のお邪魔蟲は、まぁホンの出来心です。誰もいないところで、好きなキャラの真似をしてみたり、大声で歌ってみたら人がいた、という感じ。
私がゆらぎ荘の玄関を初めて漫画で見た時、カワ〇キの店みたいだと思ったのが運の尽きでした。
マイナーなネタなので、たぶんほとんどの人が頭に?をつけたかと。申し訳ないです…。


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第3話 温泉

確認してみたらUA600超え、お気に入り10件。皆さん読んでくれてありがとうございます!
ドラゴンクエストとゆらぎ荘の幽奈さんという、突飛な組み合わせですので、呼んでくれる人いるかなぁと心配でした。嬉しくてニコニコが止まりません。
これからもどうぞ、よろしくお願いします!


温泉だ……この世界に来て、初めてのお風呂。川以来の身を清める至高の時間…!

 

小さめの木、青い大空、岩に囲まれたにごり湯。気のせいか、花のような優しい匂いも感じる。

あぁ、この和風な感じ……実に、実に懐かしい。すぐに肩まで温泉に浸かり、今までの疲れをとりたいところだが、まずは体を洗わなければ。

 

長いホームレス生活によって髪は固まり、体は少し黒い色に見える。大丈夫だろうか、魔界にいた時のような妖魔の姿に戻れるのか?基本的に妖魔という種族はエルフのように美形で知られている。これでも魔界では美しさも有名だった帝王様。長い間手入れが出来ない生活を送っていたため、戻れないとなるとかなりショックだ。部下からも変な目で見られるに違いない。

 

……と、いやいやなにを扉の前でグチグチ悩んでるんだ。そんなに悩む暇があったら身体の汚れを落とすのが先だろうバカめ。

 

風呂椅子に座り、白い石鹸を……石鹸?そういえば、さっきからしていた花の香りはコレか。魔界では、風呂はもはや作業のようなものだったから、こういった日用品の開発はあまりやってなかったな。身体の手入れも、基本は魔法陣か術式の刻まれた櫛やブラシ、タオルで充分だったからなぁ。

 

……って、また私は。まったく、目の前のことに気を回さず、ほかのことを延々と考えるとは……久しぶりの風呂で少し心情がおかしくなっているな。早く汚れを落としてしまおう。

 

シャンプーで、固まった長い髪をほぐしながら洗う。絡まっている部分はより一層、優しく丁寧に洗わなければ色々と大変なことになるため細心の注意を払いながらほぐしていく。うん、元の金色に戻ってきたな。

 

さて、次は顔だな。石鹸を手で泡立て、手の泡を顔に塗るようにして洗っていく。耳の裏や中まで、隅から隅まで優しく洗い、少しの間そのままにしておく。あとは流せば…よし、サッパリ。

 

最後は体だ。まずはお湯で身体全体を軽く温めつつ湿らせ、柔らかいタオルで泡立てる。同じところを何回も洗い、手ごわいところは強めに、しかし硬い部分は避ける。やりすぎて肌に傷がついたりすると、ロザリーやカルマッソあたりに目ざとく追求されそうだ。いや、ホームレス生活していたこと自体、知られてはいけない。

 

「さぁ、お待ちかねの温泉タイムだな。久しぶりにゆっくり出来そうだ」

 

にごり湯の中にゆっくりと浸かり、肩が少し出る程度まで沈む。おっさんのような声が出そうになったが、それだけは何とか回避した。帝王にもなってそんな声を出してしまうのはいただけない。そも、妖魔のこの姿に似合わない。自身の声とはいえ聞きたくない。

 

「はぁ……やはり風呂はいいものだな。今までの疲れやらが全部吹っ飛んだ」

 

『風呂は体だけじゃなくて心の汚れも落としてくれる』

 

前世のアニメ映画でそんなセリフがあったなぁ。うん、その通りだ。疲れがとれてリラックス、凝り固まった考えや偏見も全部洗い流してくれる。だから、臭いと言われてしまった辛い記憶も、水に……いや、お湯に流してしまおう…ぐすっ。

 

「襲撃の不安がないゆったりとした風呂は初めてだな…」

 

魔界にいた頃は、四六時中ずっと他勢力の襲撃を警戒していたからな。トイレ中に来た時は、ドラクエ界の上杉謙信になってたまるかと奮闘したものだ……良くない思い出だ。別のことを考えよう。

 

そういえば、風呂で温まりながらストレッチやマッサージをするとよく筋肉がほぐれるという話があったな。まあ、そんなことをするより動かないまま湯に浸かっていたい気分なのだが。

 

そんなどうでもいいことを考えられる平和な時間の中で、自分の立てる水音以外の音があった。どうやら、複数人の誰かが脱衣所で喋っているらしい。声からして、おそらくは全員が女性だろう……!?

 

まずい!このままだとアニメでお馴染みのお風呂ハプニングが起こってしまう!脱衣所に人がいる以上、もう出ることは叶わない……このままだと確実に問題が起きる!

やめてくれ、さきほど 変な発言&臭い事件 があったというのに、ここに来てさらに問題を起こしてみろ!新入居者である私の印象は変人変態の底辺に成り果てる!

 

『仕事終わりのお風呂が一番よぉ。お酒もあるし、今日はゆっくり出来るわねぇ』

『お疲れ様です。しかし、だからって羽目を外しすぎないでくださいよ?』

『大丈夫よぉ。私だってぇ、自制ぐらいは出来るわよぉ〜?』

 

二人か!さて、どうする?このままだと鉢合わせて誰だお前からの何見てんだ変態になってしまう。

ルーラで逃げるか?いや、スッポンポンの状態でどこに行けばいいんだよ!

なら、ステルスかレムオルで透明になるか?いや、私が透明になっても温泉に浸かっていたせいで空中に水滴が浮いている、または滴り落ちている怪奇現象が発生してしまう!

トベルーラで空中に逃げるか?外から誰かに見つかりでもしたらそれこそアウトだ!

どうすれば…どうしたらいい……っ!これなら…!

 

 

 

 

「おっふろぉ〜!………あらぁ?」

「…?どうかしましたか、呑子さ……ん…?」

 

桃色髪の眼鏡をかけた女性と、紫髪を手裏剣で束ねた少女が入ってきた。そこで最初に目にしたのは、こちらに背を向けながら温泉に入っている男。

 

「なっ!?誰だ貴様は!ゆらぎ荘に男はいなかったはず!」

「もしかしてぇ、仲居さんが言ってた新しく来た子かしらぁ?これからよろしくねぇ」

「……………………」

 

2人の声掛けに何も反応を示さない男。それに女性はどうしたのかと頭に?を浮かべ、対し少女の方は、タオルで体を隠しながらもムッと怒りを見せた。

 

「おい貴様!聞いているのか!?返事ぐらいしたらどうなんだ!」

「……………………」

「ん〜……ん?もしかしてぇ……」

 

未だ反応を見せない男に対しさらに怒りを抱く少女をよそに、女性はなにかに気づいたのか男の方へと足を進めた。

 

「の、呑子さん!?そんなに無警戒で近づいたら…!」

「ん〜……あらぁ、やっぱりねぇ。さぎっちゃん大丈夫よぉ。私の思った通りだわぁ」

「はい…?いったい何が大丈…………これは…」

 

2人が目にした光景。それは、岩を背もたれにして眠りこける男の寝顔だった。

 




男主人公の体を洗うシーン、細かくしすぎたかな。
小説書くのって難しいですね。今更ながらに実感します。
よろしければ、感想と評価お願いします。
まぁ、楽しんで見てくれさえすればこの2つはどうでもいいんですけど。それも、私の文章力にかかってるんですけどね…。


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第4話 夢魔の警告

アンケート投票ありがとうございます。これは楽しみにしてくださっていると捉えていいですよね。文字数はこのままで頑張っていこうかと思います。
試験があったので投稿に間が空いてしまいました、ごめんなさい。


星々が瞬いている。それらは天の川のように集まり、流れ、黒い渦へと消えていった。そこはまさに宇宙空間。しかし、厳密には違う。宇宙の形態・性質を模した1つの夢世界。

 

夢と現実の狭間に君臨する生きとし生けるものの王の世界。

 

「こうして会合するのは久しいのぉ。タークよ」

 

そして、私の前で2つの玉を肘掛けのようにして浮かんでいる桃色の爺こそ、この世界の主である大魔王━━━━━

 

《幻魔王デスタムーア》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だが、そんなことはどうでもいい。

憐れな記憶障害爺に鎮魂歌(レクイエム)を聴かせてやれ!!

━━━帝王の怒りッ!!

 

「ぬおおぉぉぉっっ!!!?」

 

赤く禍々しい魔力を纏った双剣がデスタムーアを襲う。デスタムーアは突然の攻撃に驚愕するも、すぐにワープし双剣を回避した。

 

「チィっ!外れたかっ!」

「あ…危ないではないか!この形態ではひとたまりもないというのに、いったい何事じゃ!!」

「やはりか貴様!ラプソーンと共に悪戯をし、私の睡眠を妨害した時を忘れたのか!私の眠りを妨げるなと散々注意したというのに性懲りも無く……私の睡眠を邪魔するものは絶対に許さんッ!!」

「そ…そうじゃった!こやつは眠りを妨げられるのを酷く嫌うのであった!」

「今ごろ思い出しても遅いわ引きこもりの臆病者め!!」

「な、何を言うかこの便利魔王!!」

「べ、便利魔王…だと!?なんだその変な渾名は!」

「ちょっとやそっとじゃ起きないから勇者への試練や成長にうってつけだと、異世界の神々が呼んでいた蔑称じゃよ!!」

 

ま、まさかそのような屈辱を味わっていたとは!いやそれよりも、私をその名で呼んだということは……まさか。

 

「貴様、なぜその名を知っている?神と接点でもあるか、それとも……」

「ギクッ!な、なんじゃ!わしは何もしとらんぞ!?」

「私が記憶を無くし、寝ていた間にどこかへ転移させたか?」

「は…は……何を根拠に「そういえば、まだ私が記憶をなくしていた時、夢の中で滅びかけていた時があったらしいな」ぐっ!?」

「その反応、何か知っているな?夢の中ということは貴様以外にありえぬからなぁ!」

「あ…と、その…な?勇者が化け物をわしの所に連れて来おってな?やられそうになったから、夢からおぬしに干渉して呼び寄せ、共に化け物と戦ったことがあるのじゃよ…他の魔王に連絡を取る余裕はなかったからのぉ」

 

 

『ギガスローッ!!グオォォォ!!』

『たたきつぶしッ!!ハアァァァ!!』

『よし、わしもグボアァァ!?グフッ……』

『今だ!大魔王を討ち取るぞ!!』

『き、貴様らそれでも勇者か!負傷した者をよってたかって攻撃とは!?ええい、仕方がない!お前たちの身体を引き裂き、はらわたを喰らいつくしてくれようぞ!!』

 

「わしもおぬしと共に戦い、最終形態にまでなったのじゃが、勇者がうっとおしくてな。おぬしが魔神と戦っておる間、勇者と戦っておったんじゃよ。いやぁ、わしは夢と生を司る故、悪夢と破壊を司るあの魔神には絶対に勝てんかったからのぉ。助かったわい」

「そして、ちゃっかり勇者に倒されると」

「グハッ!?その言葉はわしに効く……」

 

まさか私の知らない間に魔神と戦わされていたとは……私が負けていたら魂食われてたのか、怖い…。

 

「さて、そろそろ本題に入ろうか。まったく、かなり話が変な方向へ進んだな」

「誰のせいじゃと……わしか…」

「そうだな。貴様のせいだ」

「わ…わかっておる。それで、わしがここにおぬしを呼んだのはほかでもない」

 

陽気であったデスタムーアの顔が真剣味を帯びる。誰よりも慎重で狡猾な魔王がこういった顔をする時は、かなり大きな問題があるときだ。これは、気を引き締めなければなるまい。

 

「わしが異世界へ送っておる斥候から報告があってな。最近、邪神官が悪霊の神々やその他の悪魔を集め活動しておるらしい」

「邪神官ハーゴンか……破壊神もいるのか?」

「まだあやつの崇める者は復活しておらぬ。が、別の破壊神の姿は確認されておる。どうやらあちらも本気のようじゃ」

「別の破壊神……しかし悪霊の神々の主神ではないと。私の配下でもやりようはあるな」

「うむ、あの主神でなければな。そも、奴は世界の創造と破壊の理を担っておる。前回は不完全な復活だった故、あのように暴れておったが、ハーゴンめは同じように復活しようとしておるようじゃ」

「しかし、それではまた暴れるだけではないか?それでも世界滅亡は成るだろうが……」

「いや、今度は生贄の数を増やすようじゃ。奴に信心深い教徒共をな。生贄の数が増せば完全な復活に近づき、生贄の信心が深ければ深いほど神の力も増す。あの神は信仰者の想いに応える性質を持つからのぉ……ハーゴンが呼び出したとなれば、確実に数多の世界を破壊するじゃろう」

 

まったく、はた迷惑な話だ。たとえ大魔王クラスの者が治めている世界も、あの邪神官の呼び出した破壊神には関係ない。強敵がいたとしても、生贄とハーゴンの願いに応え、侵攻するだろう。

 

「しかも、奴らの神を復活させる世界……その世界座標が、今おぬしがおる世界の物じゃった」

「なんだと!?私がいることを奴らは……」

「知ってはおるじゃろうが、そこはおぬしの領土ではあるまい?手付かずの、それも魔物などが知られておらぬ辺境の世界であれば、破壊神復活の暗躍には都合が良いのじゃろうて」

 

なんということだ……せっかくバカンスに来たというのに、こんな事に巻き込まれるとは…。

 

「破壊神が復活すれば、その世界どころかわしらの世界にまで危険が及ぶ。ちょうどその世界におったおぬしが何とかしてくれぬか?仮に復活したとしても、おぬしならばなんとかなるじゃろうし、わしらも援軍出陣の準備はしておく故な」

「待て、私だけにやらせるつもりか?他の世界にいる邪神官の手下共ぐらいは何とかしてくれるのだろう?」

「そこは安心しておけ。既に他の大魔王が動いておるからな、配下の魔王や幹部が派遣されておるわい」

「……了解した。こちらの世界ではできるだけやろう。もしもの時は連絡を送る。その時は頼むぞ」

「うむ、心得た」

 

やれやれ、とんだ災難だ。邪神官と悪霊の神々、そして悪魔に破壊神か……私の軍勢もこちらへ派遣しなければ。目が覚めたら連絡を送るか。

 

「では、伝えることは伝えたぞ。何かあればすぐに呼ぶといい」

「ああ、そうさせてもらおう」

 

デスタムーアは霧のように消散した。それに伴い、宇宙のような夢の世界も白く変色し消えていく。デスタムーアが去った影響で目が覚めるようだ。

 

「バカンスの場が仕事場に早変わりだ。この責任はきっちり払ってもらうぞ」

 

既に来ているであろう邪神官共に、私は静かに怒りを燃やしたのであった。

 




今回は幻魔王デスタムーアの回でした。こんな性格の魔王になってしまうとは……原作でも陽気な臆病者だし、別にいいよね?イベントはもはやネタだし。
この作品では、ムーアさんはDさんにボコされていません。そのかわり手負いの中、Dさんを倒した勇者一行に袋叩きにされています。
やはりムーアさんは不憫の中で輝くのです(適当)
次回からはまたゆらぎ荘側の物語になります。漫画片手に展開を考えなければ……ぶっちゃけこういったドラクエの展開考えるよりも楽です。


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第5話 顔合わせ

お気に入り22件、UA1636。ありがとうございます!こうして数字が増える度に、たくさんの方がこの作品を見てくださっているのだと実感します!できれば、感想も……。

今回、やっと顔合わせです。ドラクエの展開を考えることにかなり愉しみを覚えてしまい、直前までゆらぎ荘の内容を考えることをやめていました…。

リアルの友人から『オリジナル技豊富やな』と言われたので補足しておくと、この小説に出しているドラクエ技は全て存在します。原作だけではなく、バトルロードやSLといったゲームからも輸入しています。ゆらぎ荘側も同じようにしようと思っているので、私の考えたオリジナル技は一切出ません。

少々注意が遅くなりましたが、ご了承ください。


「あら、お目覚めですか〜?」

「……?………??」

 

ありのまま今起こった事を話すぜ!

私はハプニングを回避するために、自分にラリホーをかけて眠ったんだ。旧友から警告を受けていざ目が覚めると、見知らぬ少女に膝枕をされていた。何を言ってるか分からねーと思うが私も何が起こっているのか分からなかった。誘拐だとか事案発生だとかじゃ断じてねぇ、もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ……。

 

「……っと、すみません。膝をお借りしてしまって」

「いえ、大丈夫ですよ〜。でも、お風呂で寝てしまうのは今後は無いようにお願いしますね。浴衣を着せるのも一苦労でしたので」

「……すみません」

 

え?てことは私の裸をみせてしまったということだよな?腰のタオルも外して……なんということだ…。

 

「見苦しいものをお見せしました……」

「いえ〜、温泉旅館の時にこういう事は数回ありましたのでお気になさらず。むしろ……うふふ」

「……?どうしました?」

「なんでもありませんよ〜。エスト・アークさん、ですよね?」

「はい……あれ?私、名前言いましたっけ」

「私はゆらぎ荘の管理人ならび中居を務めております。仲居ちとせ、と申します」

「仲居さんでしたか。なるほど、なら知っていても……なかいさん?貴女が仲居を!?」

「はい〜。ゆらぎ荘の皆さんのお世話をさせていただいてるんです〜」

 

どう見ても中学生ぐらいのこの子が?どういう場所なんだゆらぎ荘って……。色々と手伝った方がいいかな。かなり広いし、掃除とかもあまり手が届かなそうだし。

 

そうやって仲居さんと話していると、勢いよく襖が開き、1人の女性と2人の少女が入ってきた……!?

 

「お〜?やっと起きたぁ〜!お近付きに一杯ど〜お?」

「呑子さん、出会い頭にお酒を勧めないでください」

「う。お風呂は温かくて眠くなるから、眠っちゃうのは仕方ないの」

 

桃髪の女性、紫髪の少女、緑髪の少女だ。前の2人は初対面だが、声からして恐らく風呂に来た2人だろう。猫耳少女は、あれだ……変な発言を聞かなかったことにしてくれた優しい子だ。

 

「ご迷惑をかけてしまいすみません。今日からゆらぎ荘に入居することになりました、エスト・アークと言います」

「そんなに固くならなくても大丈夫よぉ。あたし《荒覇吐(あらはばき) 呑子(のんこ)》!ほら、グッと一杯。どうぞぉ」

「おお、酒か!…ん゛ん゛、ありがとうございます。いただきます」

「なっ…まさか、呑子さんの突然の誘いを受ける人物がいるとは……って、そうじゃない!そのお酒ってかなり強いはずでは!?」

「あら、『鬼殺し』だったわねぇ。ごめんねぇアークちゃん、せっかくだけれど「なかなか美味しいですね〜」って、あらぁ?」

 

なみなみ注がれていた鬼殺し?というお酒、なかなかのお味。魔界の名酒には劣るが、これもまたいいなぁ。

 

「心配しなくても大丈夫ですよ。私、お酒には強いので」

「そ…そうか。ああ、私は《雨野(あめの) 狭霧(さぎり)》だ。これからよろしく頼む」

「こちらこそ「ただし」…?」

「ゆらぎ荘の風紀を乱してみろ。その時は、この私が天誅を下す」

「あ…はい」

 

凄みがあるな……手に持ってるクナイはどこから取り出したんだ?

 

「夜々は《伏黒(ふしぐろ) 夜々(やや)》。これからよろしくなの、アーク」

「よろしく……」

 

気まずい。夜々ちゃん?は優しい子なのだろうが、こちらの心が少し軋んでしまう。

 

「それにしてもぉ、アークちゃんはなんでここに来たのぉ?」

「恥ずかしい理由ですよ。お金が無くてですね…ずっとホームレスの生活をしていて……」

「……ごめんなさいねぇ。辛い生活を送ってたのねぇ」

「いえいえ、何の計画もなしに知らぬ所へ出てしまったのがいけなかったんです。自業自得ですよ」

 

ホント、なんで私はこんな無計画に出てきたんだ。今思えば、G(ゴールド)を溶かして金にしてお金に変えれば良かったのではという考えも出てきた。事後になって良案が浮かぶっていうあるある……ない?なくない?

 

「そろそろ遅い時間ですし、皆さんもお休みになってください〜」

「はい、そうします」

「明日も仕事あるしねぇ」

「う。夜々も寝るの」

 

3人は襖を開け、それぞれの部屋に向かっていく。さて、私も自分の部屋に……あ。

 

「アークさん、お夕飯の残りがありますが、いただきます?」

「ありがとうございます!いただきます!」

 

ちょうど思い至ったことだ。どうやら私は、まだ明るい昼過ぎから夜までぐっすりと眠っていたらしい。まあ、妖魔の状態ならこの程度かな。記憶のなかった頃は、軽く数年寝ることが仮眠レベルだったし。

仲居さんに案内されながら、私はゆらぎ荘の中を進んでいった。

 

 

 

「美味しいです。こんなに美味しい料理はいつぶりだろうか!」

「凄い勢いですね。でも、食べ方はすごく上品……どこかでマナー教育でも受けたんですか?」

「あー……幼い頃に少し!それより、料理上手なんですね」

「はい〜。まだゆらぎ荘が旅館だった頃に、女将さんから教わったんです」

「なるほど……こんなに広いのに、おひとりで家事を?」

「はい。旅館の頃は大変でしたが、今はもう慣れました」

 

なるほど、もう習慣のようなもので、特に苦はないか。でも、さすがに少女一人に全て任せるのも気が引けるしなぁ。

 

「差し出がましいかと思いますが、私も手伝いをさせていただけませんか?これでも少しなら料理も出来ますし、家事も一通りできますよ」

「本当ですか!ぜひお願いします!」

 

仲居さんは立ち上がり、ばっと手を握ってきた。びっくりしたが、やはりという気持ちも強い。慣れたと言っても大変な日々だったんだなぁ。

 

実際は違う。この女、何を隠そう中学校へ通っている。それ自体は何ら不思議ではないことなのだが、彼女の秘密に関係するのだ。平日に毎回出かけ続けるというのもおかしな話。住人に気づかれないようにするには、手伝いをしてくれる人の存在はありがたいことだったのだ。

 

(それに、日本人離れした美形のアークさんと家事をするのも、なかなか良さそうなものです。毎日がんばってますし、これぐらいの欲は……いいですよね?)

 

仲居ちとせ、外人のようなイケメンがタイプである。推しアイドルのマロジュンが日本人離れした顔立ちをしていることから、中居さんを知る人は驚きつつも察するだろう。

 

「ごちそうさまでした」

「はい、お粗末さまでした。今日は疲れたでしょうし、お休みになってください」

「ありがとうございます、お言葉に甘えさせてもらいますね。ああ、それと1つお願いがあるのですが……」

「お願い?なんでしょう」

「できれば、他の皆さんにも伝えて欲しいのですが……」

 

━━━私が寝ている時は、私が自然に起きるまで絶対に起こさないでくださいね?

 

「っ!??は、はい。分かりました」

「お願いしますね。それでは、お休みなさい」

「はい、お休みなさい〜」

 

怯む仲居さんを残して、私は8号室へと足を進める。さて、魔界への連絡と軍の編成。斥候もよこすか……忙しくなりそうだ。




他の話よりも内容が薄いかも…。日常のようなゆったりとした話を、面白く書けるように練習も必要だなぁ。ギャグとかをもっと増やしたほうがいいのだろうか。
何か変なところがあっても、温かい目でお願いします。


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第6話 動き出す闇たち

お気に入り34件、UA2090!評価もありがとうございます!これはやる気が出てくるってもんですよ。完結まではしっかり持っていかねば……これからもこの小説をよろしくお願いします。


「準備はどうじゃ。軍勢の様子は?」

「はっ。降臨の儀式場は着々と整っております。悪魔達も続々と集まり、もはや大魔王の軍勢と同程度の数かと」

 

認識不能の結界の中、青白い肌をした男が異形の怪物の報告を受けていた。辺りは暗く、しかし宙には数多の星々が輝いている。彼らは破壊神を崇める邪教団。その潜伏場所は、だれもが思いつかぬようなところであった。

 

彼らがいるのは━━━月。

 

人間たちが辿り着くことはほぼ不可能、そして実力者もすぐには来れないであろう場所だ。邪教団にとって、この世界の月はとても都合がよかった。

 

開発もほとんどされていない手付かずの世界。月も、人間たちによる調査等はされているものの、それもほとんど完全には程遠い。そして、月に未だ残る膨大なエネルギーの存在。

 

彼らは知る由もないが、この月では数年前に戦があった。《餓爛洞(がらんどう)》という圧倒的な力を持つ存在と、地球の実力者達が死闘を繰り広げたのだ。数多の超越者と呼ばれる者たちが、それらに終始優勢であった餓爛洞が放出した膨大な霊力が溜まりに溜まったこの場所は、悪魔達の召喚及び彼らの崇める破壊神を降臨させる儀式の場として最高だった。

 

「他の神々はどうか。支援を要請していたはずだが…」

「はい。悪霊の神々は既に集結しました。しかし、他世界の神で応答があったのは2人だけです。そのうちの一人は既に此処へ顕現しております」

「そうか。まだ2方来ただけよい方か……うむ、下がって良いぞ」

「ははっ!」

 

怪物は一礼し、退出していった。残った男は、豪華な椅子に腰掛け宙を仰ぎ呟く。

 

「我らが神の降臨はもうすぐ。残る不安要素は、この世界に居合わせた地獄の帝王か。まったく、このような辺境の世界に来ておるとは予想外……あの帝王のことだ、すぐに我らの動きを察知するだろう。奴が出張ってくる前に、神の降臨の儀を終えなければ……」

 

溜息をつきながら、ハーゴンは空を見上げる。そこにあるのは、青く美しい……己が滅ぼさんとしている地球だった。

 

 

 

 

 

「魔王様、エスターク様からの使者が」

「ほう、地獄の帝王が私にか。通せ」

「ははっ!」

 

岩が宙に浮いている不思議な空間で、異形の老人が玉座に座っていた。エスタークの使者は、魔剣士と名高い魔王ピサロ。ピサロは片膝をつき、こうべを垂れながら老人へと声をかけた。

 

「ご機嫌麗しゅうございます。帝王様のもとで魔王をしている、ピサロと申します」

「魔族の貴公子か。噂は耳にしている、魔族の中で剣を競わせれば敵う者はおらぬとか」

「いえ、まだまだ若輩でございます。この度ここへ訪れましたのは、我が主たる帝王様の書状をお届けに参りました」

 

ピサロが取りだしたのは、凄まじい魔力の封をされた一枚の紙。老人は興味深げに片眉を上げると、人差し指で書状を指し、手のひらを上にして人差し指を曲げた。すると、書状が浮かび上がり老人のもとへと飛んでいく。

 

「タークが書状か。珍しい事もあるものだ、あやつが機密をしたためるなど。慎重に事を進めようとする男が、友好関係にあるとはいえ他者に書を…な」

 

老人の指からいてつくはもんが起こり、封の魔力を消し去る。畳まれた紙を広げた老人は、その内容に……正確には最後の辺りに目を見張った。

 

『拝啓 魔界の王ミルドラース

本当は直に会って話したかったのだが、こちらも手が離せぬ故こういった書の形をとらせてもらった。

さて、貴様に頼みたいことがある。我はいま、邪神官ハーゴンの破壊神復活の件を取り扱っておるのだが、さすがに他世界に潜む邪教団の教徒共までは手が回らぬ。ムーアから聞いたぞ、他の大魔王が動いておる中、貴様の動きが遅いとか。すぐに手伝え、この辺りできちんと動かなければ影の薄い大魔王の蔑称を返上することなど夢のまた夢だぞ。

 

追記

もし早く動かなければ、我を配下にしようとした結果、手痛い反撃をくらいすごすごと帰って行ったことをバラす。確かこれは、貴様の黒歴史だったなぁ?』

 

「………………」

「…?如何されましたか、ミルドラース様」

「……いや、何事も問題は無い。そう、私が早く動けば万事解決よ。その後に帝王と久しぶりに戯れるのも一興だろう……!」

 

老人、ミルドラースはワナワナと震えている。その顔は汗が吹き出ており、指に込められたちからで書状はグシャグシャになってしまっている。その震えは怒りか、それとも焦りか。どちらにせよ、ミルドラースに残された道はただ一つ。軍を編成し邪教団の教徒共を叩き潰すこと。

 

「おのれぇ……この代償は高くつくぞ帝王よ…!ヘルバトラー!急ぎ兵を集め、他世界へと出陣せよ!邪教団に属する者どもを根絶やしにするのだ!!」

「は…ははっ!」

 

ヘルバトラーと呼ばれた魔物は、ミルドラースの怒気に気押されながらも、急ぎ足で出ていった。

 

「……これはいったい、どうしたことだ?」

 

未だ怒り収まらぬ大魔王を前に、ピサロは怯みながらも困惑していた……。

 

 

「ミルドが動いた。いま動けるものはわしにミルド、デミーラにラプ、そしてゾーマ……あれ?わしらって意外と暇?」

「デスタムーア様のような数多の世界を手中に収める大魔王様がたは、よっぽどの事がない限り忙しい事態にはなりませぬからなぁ」

 

デスタムーアの居城にて、仲良く……よく?話をしているのが配下の魔王、ムドー。忠誠が厚く、デスタムーア含め信頼されている彼は、よくデスタムーアの、相談役としても活躍していた。

 

「基本、わしらは政策を考え、部下の案をまとめ最終判断をくだすのみじゃからな。その以降は配下に任せ、報告を元に新たな試みを考えるの繰り返し…この程度では退屈も溜まるというものよ」

「つまり、大魔王様がたが暇であるほど、我らの治める世界は平和であるということです。いつまでも暇でいてください、我々がお支えしますので」

「……おぬし、相手をダメにするタイプじゃな」

 

大魔王と配下と言うにはなかなかフランクな雰囲気であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「軍勢の招集及び、編成が完了しました。彼らは、貴方様のご命令が下される時を今か今かと待ち望んでいます」

「うむ……各部隊へ伝令を。各世界に潜伏している邪教団の同胞共を殲滅せよとな……」

「はっ!」

 

巨大なナニカ(・・・)が、黒い装いを纏った人間へ出撃の命を下した。ナニカは宙に浮かびながら、その裂けた口をニヤリと歪ませる。

 

「これは好都合……ここで貢献しておけば、少しぐらいは信頼が得られるだろう。そうすれば、ある程度の時間は確保できる。ふむ、我の計画を成すために……あの破壊神を利用させてもらうか…目障りな魔王どもを減らすことができれば……クククッ!」

 

不気味に嗤うその魔物は、後ろに目をやる。そこには、また巨大な影が四つ並んでいた。




原作が進まねぇ……すみません。ゆらぎ荘の話書こうと思ってたら、思考がいつの間にかドラクエへと行ってしまい筆が進んでいました。
この話だと三人称にしなければいけなかったのですが、難しいもんですねぇ……〜sideみたいな感じでやった方が上手くいったかな……。


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第7話 多忙なアークさん

遅くなってしまいすみません…作曲ができる音楽アプリに夢中になってしまって…ドラクエの曲を譜面にするのに時間をかけてました。あとアンテ曲も……すみません。


あの妖怪ジジイから知らされた邪教団の暗躍。

それに対処するため、私のバカンス計画は暗黒魔城都市のように崩れ落ちた。そういえば、あのデブは元気しているだろうか?龍神族にまたちょっかいかけてなければいいが……。

 

まず、1時に起床。

え、早すぎだって?やることが沢山だから仕方ないよ。エスタークの自覚あるのかだって?たしかにエスタークとしては不合格というか考えられない行動をしている。しかしこれも世界の平和のため。ワシは常に正義のために戦うのだゾイ。

 

ゆらぎ荘の裏山に登り、数個の旅の扉を設置する。この旅の扉はルーラで魔界から持ってきたものだ。いちいちルーラを使える者が軍勢を送るのは手間も時間もかかりすぎるからな。魔界へと繋げ、旅の扉を持たせた部下たちにこちらの世界の座標を覚えさせ大量に設置するのだ。

と、旅の扉から銀髪の妖魔が出てきた。彼は私がもっとも信頼を置く腹心だ。

 

━━━ピサロ

勇者の村を焼き払い、地獄の帝王を復活させるため暗躍した魔族の王。私の監督のもと、進化の秘宝を自在に操ることを可能とした天才だ。流石はドラクエ4のラスボスである。

 

「帝王様、間もなく工作隊及び斥候部隊が到着致します。こちらが部隊編成等をまとめた書類です」

「うむ……この地はまだ人間が少ないようだ。工作隊が到着次第、山を改造し内部に拠点となる要塞を築き上げよ。隠密性の高い結界、その内側に強固な防御結界も怠るな。この世界の者どもに気付かれぬよう……そうだな、5時間のうちに完成させろ。呪文はなるべく使うな、気付かれる可能性が高まる。斥候部隊の者にはこの星を捜索させよ……異界も含めてな。その後に近い星から探索だ。キメラのつばさも支給しておけ。ステルス、レムオルの呪文を切らさぬように徹底させろ。念の為 きえさりそう を用意、魔力補充に備え まほうのせいすい や けんじゃのせいすい も大量に確保しておくように。在庫が足りぬ場合は、特例として ようせいの霊薬 や せいれいの霊薬 も少量であれば使用を許可する」

「はっ!次に、事前に収集の指令を受けた帝王軍についてですが、既に兵は集結しております。こちらは如何しましょう」

「そうか、集結は既に……拠点が完成次第、旅の扉でこちらへ呼べ。鍛錬場・訓練場を拠点に追加し、そこで出撃の時まで士気向上・武力向上に努めるように言っておけ。我の命令が下るまで待機させろ」

「ははっ!では、さっそくとりかかります」

 

旅の扉から次々と魔物たちが出現し、流れるように整列した。力自慢や工事を目的に生まれた魔物もチラホラといる。どうやら名簿通りの部隊のようだ。

 

「皆の者!この山を我らが帝王軍に相応しき拠点として改造する!刻限はこれより5時間後の午前6時!結界も含め、かなりの高密度な作業となるが、我らは偉大なる帝王軍!この程度、我らにとっては造作もない!そうだな!?」

『ははっ!』

「では、すぐさまかかれ!」

 

バッと魔物たちが散っていく。ある者は地質を調査し掘る場所を決め、ある者は持ってきた建材を点検し整理していく。

やがて掘る場所と大まかな設計図が出来上がると、地盤に補強の呪文をかけ次々に穴を掘っていった。

 

「ここは我らにおまかせを」

「うむ。では、6時にまたここへ来る。その時に出来栄えを見せてもらうぞ」

「御意」

 

踵を返し、私はゆらぎ荘へと戻る。こんな朝早くにいなくなっていたのでは変に思われてしまう……寝てるか?いや、用心しておくのに越したことはない。

 

「あとは、ゆらぎ荘で人間の生活をしつつ周囲と友好関係を築かなければ。ゆらぎ荘の者たちは皆、人間でないまたは普通の人間ではないようであるし…な」

 

私がまず人間ではないとバレてしまえば、いらぬ問題を起こしかねない。相手を消したとしても、周りがいつか必ず異変に気づく。その前に……。

 

「なんとしても潰さねばならん。まだ大事となっておらぬうちに!」

 

破壊神が復活すれば、この世界の者も確実に気づく。そして、破壊神に対抗する我らの存在も知られてしまう……何故だろうか。復活させまいとは思うが、私がこういった面倒に巻き込まれる時は、大抵はとことん面倒な大事になる。いや、私が巻き込まれるのは大抵大事のくらいのものだ。龍神王の試練や魔神決戦の時がいい例だ。

 

「……嫌な予感がしてきたな。本腰どころか全身全霊を持って事に当たらなければ」

 

復活してしまうことを前提とした策もいくつか考えておかねば。と、そうこう思考しているうちに、ゆらぎ荘に着いたようだ。今の時刻はだいたい2時前、動いている気配は……ない。

 

「杞憂だったか。さて、金策のため、一作品でも作らなければ」

 

え?魔界からGを持ってくればいいじゃないかって?ホームレスだったのに、いきなり大金出されたらむこうも困惑してしまう。そのため、私もできることを探し、世に認められるぐらいまでは行くことが出来た。

私がしている仕事は、前世のゲームを おもいだす と もっとおもいだす で完全に再現し、アレンジなども加え出すものだ。やっている事は完全に盗作だ。しかし、もはやこれぐらいしかやっていけなかったのだ。私は大魔王だ。人間の作品を奪ってしまっても誰も咎めるものはいない!そもそも盗作と気づく者はいない。と開き直ってしまっている。

 

「しかも、かなり人気も出始めた今日この頃。辞めるにも辞められなくなってしまった…とほほ」

 

おっと、内心が口から漏れてしまった。昔から、思ったことをポロっと口に出してしまうのは悪い癖だな。私が怪物であることをうっかり言ってしまわないように気をつけねば。

 

「さて、今日は青い鬼でも作ろうかな」

 

 

 

 

 

 

「…………っと、今回はここまでかな」

 

危ない危ない。かなり没頭してしまった……あと少しでも続けていたら6時を過ぎてしまうところだ。

 

「さて、拠点は完成しただろうか」

 

固まった身体をポキポキと鳴らしながら、太陽がまだ出かかっている暗い外へ出た。軽く辺りを見回しながら裏山の頂上を目指し登っていくと、落ちていく滝の下で何かが動いたのを見つけた。

 

「……ん?あれは……狭霧さんか。この寒い時期に滝行なんて、普通じゃありえないが…若いのに立派だなぁ」

 

今は季節的にまだ冬だ。加えて山という高地の滝や川の水温はかなり低いはず。こんなに朝早くから苦行を、自ら進んでやるとは……なんか思考がおじさんみたいになってきたな。

 

「っ!帝王様、お待ちしておりました。ささ、こちらへ」

 

私に気づいたピサロが、何も無い山の壁へと歩きだす。そのまま壁に激突!…はせず、するりと壁の中へ消えていった。これは、認識阻害の呪文と結界だ。魔力を欠片も感じさせない……完璧な仕事だ。

私も中に入ると、そこには…………城があった。

 

「……ピサロ、説明を」

「はっ!帝王様の拠点となるため、主城であるエスターク神殿ほどではありませんが、城を山の中に建設。迎撃の罠等も一級品を取り揃えております」

「そうか、うむ。この世界の拠点として、これ以上ない素晴らしき城だ。だが…………私は事前に、ゆらぎ荘…人間の建設物でこの世界を過ごすことを言っていたはずだが」

「………………」

「………………」

「……申し訳ありません、忘れておりました」

「……相変わらずどこか抜けているな貴様は」




今回は忙しいアークさんの朝を書いてみました。次から、次からはゆらぎ荘の話に入るから……。


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第8話 辻褄合わせと幸せ

大変お待たせしました。他作品に浮気したり、曲アプリをやったりでかなりの期間が空いてしまい、ごめんなさい。
UAが増え、お気に入りが少しずつ増えてることにかなり罪悪感が来ました…。
一週間に1話のペースでいけると思うので、これからもこの作品をよろしくお願いします!


襲い来る眠気を、眠り解除効果のある めざめのはり を刺すことで何度も吹き飛ばしながら、私は荒覇吐さんの部屋へと向かう。

 

「荒覇吐さん〜?」

 

ノックしつつ呼びかけてみるが、返事はない。おそらくまだ寝ているのだろう。

 

さて、まずは弁明させてくれ。昨日に入居したばかりの新人が女性の部屋に押しかけているという案件まっしぐらの状態だが、これにはちゃんと訳がある。

私の荷物を荒覇吐さんが預かっているからだ。私の部屋、じつは物置として使われていたらしい。1階の端っこで、他の部屋と比べて日当たりなども悪く、かなり長い間空き部屋だった。

仲居さんが片付けたものの、掃除はまだだったので荷物は荒覇吐さんが預かったらしい。今回寝たのは空き部屋だった7号室だ。そこに荷物を置くにも、防犯のため、もしものために信頼のある入居者最古参の荒覇吐さんが預かってくれていた。

管理人の仲居さんは片付けと掃除、そして家事などがあり、さすがに荷物の管理までは手が回らなかったのだと。

 

全ては私が風呂で寝てしまったのが悪い。あそこで目覚めなければ、そのまま7号室へ運ばれていた。私が目覚めた時点で荷物は荒覇吐さんの部屋にあり、そのままみんな寝てしまったということだ。

 

え?荷物ないなら仕事できないだろって?大事なものは異空間にしまっているんだよ。でも、財布やらの荷物に入ってないと怪しまれそうな物はカバンにある。機材は後で買ったとでもなんとでも言えるからな……すこしキツい言い訳だけど。

 

「さて、どうしようか。起きてくるまで待とうにも、中居さんが言うにはかなり遅い時間まで寝るらしいし……仕事の修羅場だったみたいだし、後にするか」

 

正直に言って、外で軽く買い物をしておきたかったのだが……まあいいか。いつでもいける。

 

「む、アークさん。呑子さんの部屋の前で何を?」

「おや、雨野さん。おはよう。荷物を荒覇吐さんが預かっていると聞いてね、取りに来たんだが、まだ寝ているらしくて」

「そういう事ですか。絵面が…少しアレだったので…」

「あー…確かに。早く行くとするよ。そういえば、雨野さんは学生……かな?行かなくていいのかい?」

「私は中学3年、試験も終えました。今は入学式までの長期休暇です」

「なるほど。なら、次は高校か……気を抜くと大変なことになるから、勉強や友好関係はしっかりね…」

「は…はい……」

 

少し引き気味に雨野さんが答えた。きっとその目には微妙な顔をしつつ変に真剣な目をした私がうつっているだろう。私は前世の高校生活は失敗したからな。雨野さんはまだ若い、失敗しないようにちゃんと言っておかないとね。

 

「あらぁ?さぎっちゃんにアークちゃん、おはよぉ」

「おはようございます荒覇吐さん」

「おはようではありませんよ呑子さん。もう8時です……って、修羅場だったはずなのに早いですね」

「そうねぇ……話し声が聞こえたからかしらぁ?」

「「ごめんなさい」」

 

そういえば、荒覇吐さんの部屋の前だった……。部屋の前で人が話してたらそりゃ起きるわ。

 

「アークちゃんコレぇ」

「あ、荷物。ありがとうございました」

「いいのよぉ。これからお風呂に入ろうと思うのだけどぉ、二人も一緒にどぉ?」

 

一瞬にして、雨野さんの私を見る目が鋭くなったのは私の勘違いではないだろう。

 

「冗談はやめてくださいよ荒覇吐さん」

「私も、この後はたんr……自習があるので」

「あらぁ、つれないわねぇ……」

「荒覇吐さん、雨野さんはともかくなんで私まで…」

「えぇ?だってぇ、鬼殺しみたいな強いお酒飲める人、アークちゃんしかいないからぁ……それと、アタシのことは呑子って呼んで!」

「……分かりました。次からそうします」

「あら、そこは呼んでくれるところじゃないのぉ?」

「いちいち呼びませんよ。さん付けは外しませんのでそこは了承を」

「残念ねぇ」

「今度にお酌してあげますから」

「なら許すわぁ」

 

お酒に忠実だなぁ。

 

「それでは、私は部屋に戻りますね」

「私もそろそろ行きます」

「はぁい、2人ともじゃ〜ねぇ」

 

呑子さんはお腹空いたぁと呟きながら去っていった。さて、私の部屋に荷物を置いて買い物に行こうかな。

 

「雨野さんも、あまり煮詰めないようにね。頑張りすぎると体に毒だから」

「心得てますよ。それと、私のことも狭霧でいいです」

「ふむ、なら狭霧さんと呼ばせてもらうよ。それじゃあ、私は部屋に戻るとするよ」

「はい、またお昼時に」

 

狭霧さんは玄関の方へと去っていった……あれ?自習なら部屋でやるほうがいいはずだが……まあ、細かいことは気にしないでおこう。

 

さて、部屋に行ったら外で軽くつまめるものと酒を買ってこよう。機材は……買ってきたことにしよう。どこにそんな金があったのか疑問に思われなければいいが……。

 

「さて、行くか」

 

スーパーに行って……近くのコンビニで缶詰でも買うかな。

 

「あ、帰ったら食費とか出しておかないと」

 

仲居さんに怒られてしまうからな……妙に凄みがあるし、あまり怒らせない方がいいか。

 

「……ん?」

 

玄関を出たところで、何かが裏山の方で飛んでいた気がした。

なにか、細くて黒いものが……それに、裏山から力の放出を感じる。

 

「確認しておくか。バレたわけでもあるまいし、危険な者ならば始末しておくか」

 

酒やらは後だな。ちくしょう、久しぶりに腰を落ち着けて1杯やれると思ったのに。

どんどんと山を登っていき、滝近くまで来た。

 

「この辺りだったと思うのだが……む?」

 

何かが聞こえた。耳を澄ましてみると、気合のこもった吠え声のようだ。

 

「この声……狭霧さんか?」

 

常人よりも感じる力がかなり強いと思ってはいたが……先程の黒い物体も彼女のものか?

こっそりと覗いてみると、狭霧さんの姿が見えた。周囲に大量のクナイを展開し、そのうちの一つに飛び乗って宙を駆けている。

 

「……やはり、この世界にもこういった者はいたのだな」

 

特殊能力……ではないな。あれは技だ。力を具現化させ、クナイの形にすることで所属している組織の事を、扱いやすい形にまで進化させた己の努力を証明している。

 

「おそらく、ゆらぎ荘はその手の者たちが集まっている場所なのだな。狭霧さんとはまた違った性質のようだが」

 

これは僥倖だ。交友関係を結び、いずれ力が必要になった場合は助けを借りられるかもしれない。

 

「さて、そろそろ行くか。買い物に行かなければ」

 

少しばかり寄り道してしまったが、まあどうとでもなる範囲だ。時間を開けすぎて問われる事はあるまい。

 

 

 

 

 

 

うむ、重い。と言った感じに運んでいるが、怪しまれるか?いや、大丈夫なはずだ。怪しまれるポイントはないさ。

今、私はコンビニとスーパーのビニール袋を両腕にかけ、機材を手に持って運んでいる。袋なしに運んでいるからか好奇の目を向けられているが、今回1度きりなので大して気にしていない。

 

「さて、到着だ」

 

ゆらぎ荘に着いた。私の力ならば重くは感じないが、そのような仕草をしておかないと変に思われそうだ。

ゆらぎ荘前の階段なんかは、わざとゆっくり登ったりしたため、時間がかかって嫌になったが、こうしてみると謎の達成感がある。

 

「おや、アークさん!その大荷物はいったい!?」

 

ああ、誰とも会わぬようにと願ってはいたが、さすがに無理だったか。

 

「やあ、仲居さん。仕事に使う機材です。これでもゲームを作ってまして、そこそこ売れているんですよ?」

「そ、そうなんですか。運ぶのを手伝いましょうか?」

「いえいえ、お気になさらず。あと少しの距離なので」

「…わかりました。何かあったら力になりますので、遠慮なく言ってくださいね」

「ありがとうございます。それでは」

 

仲居さんを後にして、部屋に入ると機材を並べた。

 

「うん…うん、これでよし。さて、そろそろお昼か。朝は食べないことを仲居さんに言ってたから、これが今日初のちゃんとしたご飯になるのか。昨日の夜は美味しかったし、期待が高まるなぁ」

 

ホームレスの時とは比べ物にならない今の現状に、幸せの笑みが出てくる。できれば、この幸せをもっとかみ締めていたいものだ……。

 

 

そのためにも、邪魔なものは早く片付けなければ。

 

 

 

 




久しぶりにこっちを書いたから主人公の口調やらがガバガバだぁ……。
ある程度区切りが着いたら、もう一つの作品の方に移ったりします。その時は、こちらの作品が投稿されていないかと……どちらも投稿はキツイですゴメンなさい。


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第9話 食に目がない伏黒さん

遅れました…。今回少しだけ短いです。
お気に入り50件、UA3749、しおり18件、評価9に1件追加(感激)、感想0件(泣)。
皆さんありがとうございます!これからも続けていくので、よろしくお願いします!


夜々は激怒した。必ず、かの邪智暴虐の新人にご飯を作らせねばならぬと決意した。

 

「あの…伏黒さん」

「…………」

 

やあみんな。地獄の帝王ことエスターク改めエスト・アークだよ。今は伏黒さんに正座をさせられています。

 

「そ、そんなに怒ることですか?私は別に言う必要も無いだろうと思っていたので……その…」

「夜々にとって、美味しいご飯は大切なことなの」

「でも、わざわざ言う必要あります?」

 

料理ができること(・・・・・・・・)

 

話をしよう。あれは今から36万…いや、数分前だったか。まあ、いい。

 

忙しかった昨日を乗り越え、いざ起きてみると昼を過ぎ、仲居さんは留守だったので、私は久しぶりに自炊しようと、買ってきた魚を焼き、ご飯パックをレンジで温め、お茶を飲みながらゆっくりと食べていた。

 

ちょうど焼き魚を食べ終わった頃に、玄関が開き、出かけていたらしい伏黒さんが駆け込んできたのだ。ヨダレを垂らしながら、空になったお皿を見てションボリ。そして、今に至る。

 

なんで、私は正座をさせられているのだろう?

 

「…………」

「美味しい食事は仲居さんが作ってくれるでしょう。私はやむを得ずこうやって自分でやりましたが、伏黒さんは寝坊なんてしないでしょう?」

「……いい匂いだった」

「へ、匂い……ですか?」

「う」

 

こくりと頷きながら、匂いを思い出したのか少しニヨニヨしている。

 

匂い……へ?どういうことだ?美味しそうな匂いがしたからバタバタと駆け込んできたってことかな。

 

「仲居さんのお魚でも、あそこまでの美味しそうな匂いは出ない。夜々が今まで嗅いだことも無い、いい匂い」

「…………ぁっ」

 

そうだった、すっかり忘れていた。

 

さて諸君!突然ながら私は料理が得意だ。何言ってやがんだおめぇ、と思っただろうが、我々魔物と人間の言う得意には差がある。

 

天才と呼ばれる人間が人生の全てをかけて編み出した神業と言われる手法。そんなもの、永く生きる研鑽を重ねた魔物からしたら児戯に等しい。

 

食材の鮮度から余熱の取り方まで、呪文と何百何千年の経験によって全てが完璧。僅かなズレも許されないその緊迫した工程は、もはや戦いと言ってもいい。

 

さて、この帝王ボディだが、そういった技術などに非常に敏感だ。特に戦いの技術は、より顕著に現れる。

 

見て模倣する、聞いて模倣する、こんなものは当たり前。時間はほぼ無限にある、そんな一介の魔物ができることを大魔王クラスである私が出来ないか、答えは否である。

 

帝王として猛威をふるっていた私は、最高峰の呪文と技術を用いて作られた料理の品々を口にした。栄養豊富な素晴らしい料理によってもたらされたのは、健康や舌の肥えだけでは無い。

 

口にした際の感じた魔力の波形により呪文を特定、舌触りからどのような工程があったのかを呪文によって映像として見ることも可能。ここまでくれば、もうおわかりだろう。

 

積み上げられてきた超技術を、私は全てものにした。

 

それによって、私が料理を作ればそれは、繊細な味付けと万人に優しい口当たりの極上料理ができるわけだ。

 

どこのト○コだよ。

 

「…………食べるかい?」

「っ!いいの?」

「お望みならね。仲居さんにちゃんと伝えておくんだよ」

「うん!」

 

目をキラキラさせながら、伏黒さんは走っていった。あれ、仲居さんのいる場所知ってるのかな。

 

「……まあいいか。とりあえず、まずは買い物だな……ははは、他の人の食事を作る余裕がある。懐にちゃんとした収入があるのはいいものだな」

 

こういった気軽に買い物ができるという当たり前が、私にはとても幸せに思えてしまう。この感覚は少し薄めておかねば、後の帝王業に支障が出てしまうかもな……。

 

 

 

 

 

「出来ましたよ。熱いうちにおあがりなさい」

「いただきますなの!」

「あーこらこら。料理は逃げないからもっとゆっくり、味わって食べなさい」

「ムグムグムグムグ」

 

ものすごい勢いで食べる食べる。猫っぽい人だとは思ったけど、これはハムスターと言ってもいいのでは、というぐらいに詰め込んでいる。

 

美味しそうにしているということは、ちゃんと味わってくれているのだろう。

 

「アーク、おかわりなの」

「わかりました……はい」

 

おーおー、いい食べっぷりだ。料理を作った側としては嬉しいねぇ。

 

「伏黒さんは食べるのが好きなんだね」

「う。ご飯は夜々の大きな楽しみ」

「そうか。なら、おなかいっぱいになるまでお食べ。まだおかわりはあるから」

「う!」

 

本当に美味しそうに食べるな。思えば、誰かにこうやってご飯を作るのは初めてか。なんだか娘ができたような感じだ。

 

「う……アークは食べないの?」

「ああいや、食べるよ。いただきます」

 

ああ、まただ。私としたことが、また考えにふけってしまった。風呂で反省したというのに、癖というものはなかなか治らんな。

 

「ふむ、なかなかいい出来になった……そういえば、伏黒さんは学生かい?」

「う。今は春休み」

「そうか。なら目一杯楽しんでおくといい。だんだん時が経つと、長期休暇も忙しくなるからね」

「う」

 

特に受験とかは大変だから……うっ、頭が。

 

 

 

 

 

「ごちそうさまなの」

「はい、お粗末さまでした」

 

す、すごい量を食べたな。炊いた米も空っぽだ。

 

「アーク、またご飯を作って欲しい」

「んー、まあ機会があればね。仲居さんがいつも作ってくれるから、そこまでないとは思うけど」

「う。それと、夜々のことは夜々でいい。苗字だと長いし、アークだけそう呼ばれると違和感」

「ふむ、そうか。なら、次からは名前で呼ぶよ」

「う」

 

よし、ファーストコンタクトは散々だったが、なんとか友好関係は築けたようだ。餌付けとも言うが……まあいいだろう。

 

まあ、だいたいここの住人とも会話出来たし、成果は上々。さて、いつ私が人間では無いとバラすか……。

 

 

 

しかし、そう考えるまでもない。やがて帝王はその正体を知られることになる。

 

とうとう物語が始動していく。その行く末は、誰にも分からない。

 

 

 




新たに評価をくださりありがとうございます!低評価でも高評価でも嬉しいので、お賽銭感覚で感想とともにください……お賽銭感覚だとあまり来なさそう。


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第10話 ゆらぎ荘の幽奈さん

評価ありがとうございます!
まさか本当に来るとは思ってなかったです…。思わず3度見ぐらいしましたよ。嬉しい…!
お気に入り登録、UAもありがとうございます!楽しんでいただけるよう精進します。


今日、新しく入居者が来るらしい。その人は男性で、狭霧さんと同じぐらいの子なのだとか。

楽しみだなぁ。男は私しかいなかったから、少し肩身が狭かったんだよ。

 

そうだ、間取りとか色々と教えてあげるか。そうやって交友関係を深められればいいなぁ。

 

 

 

 

そう思っていた時期が私にもありました。

 

「う〜ん……」

「……何があったんです?」

「ええと、その…のぼせてしまったみたいなんです」

「いや、顔の濃い跡とか完全に痣ですよね」

 

何がどうなったらこうなるんだ。

なんで気絶してるんだ。なんで顔に痣あるんだ。なんで仲居さんに膝枕されてるんだ……私もされてたなそういえば。

 

「え〜これはですね〜……そう!おそらく転んでしまったのかと!」

「そう とか言ってしまってるじゃないですか。転んで桶か何かにぶつかったぐらいじゃこうはなりませんよ」

「えっと…その〜……」

 

ここまで見事な傷はまず風呂場の物じゃ……岩ぐらい?とにかく相当強い力じゃないと。

 

「……仲居さん。何か隠してませんか?」

「い、いえいえ!隠してなんて……」

「……もしかして、あのふわふわ浮かんでいる少女と関係が?」

「っ!見えて…いらしたんですか」

 

私の発言に驚いたのは仲居さんだけではない。浮かびながら心配そうに少年を覗きこんでいた白髪少女もこちらを見て、目が合った。

おそらくこの子は、私が来た時に土下座の姿勢で壁にめり込んでいた子だろう。

 

「あ…あの…本当に私のことが見えていらっしゃるんですか?」

「ええ。声も聞こえますよ」

「本当ですか!?……んんッ。私はこのゆらぎ荘についている地縛霊、湯ノ花幽奈と申します」

「これは丁寧に。私は数日前からここに入居したエスト・アークと言います。幽奈さんでいいですか」

「は、はい!どうぞお好きなように!それにしても、感激ですぅ〜!まさか私を見ても逃げずに挨拶してくれるなんて〜」

「まあ霊感等は強いので、慣れですかね」

「はえ〜、そうなんですね」

 

いい子だ。絶対いい子だこの娘。

 

感じる気配もふわふわしてる。悪意を持ったことがないような…悪意を微塵も感じたことが無いような清いオーラだ。

 

「う〜ん……っ。ここ、は?」

「あら〜、お目覚めですか〜」

 

少年が目を覚ました瞬間、幽奈さんは急いで壁をすり抜けて行ってしまった。やっぱりあなたの仕業だったのね…。

 

「オレはたしか、風呂で……あんた達は?」

「冬空コガラシさんですね〜?」

「えっ…なんで俺の名前…」

「私、このゆらぎ荘の仲居を務めております。仲居ちとせ、と申します」

「仲居さん!?あんたが!?」

「はい〜。ゆらぎ荘の皆さんのお世話をさせていただいてるんです〜」

 

まあ驚くよね。まだ中学生ぐらいの少女が中居やってるんだもの。

 

「やあ。私はエスト・アーク、数日前からここに入居した者だ」

「あ、ウス。冬空コガラシっす」

 

なかなか珍しい名前だね。コガラシくんか〜……うん。人間にしてはとてつもない力を秘めている。なかなかの強かさだ。

 

「まあ新参者同士、ひとつ仲良くしようじゃないか」

「よろしくっす!エスト……アーク、さん?」

「アークでいいよ。我ながら珍しいだろう。外国でもそうはいない」

「あ〜…確かに聞いたことないっすね」

「ははは、まあ気軽に呼んでくれ」

 

優しそうな少年だ。力を持っていることを少し危惧していたが、いらない心配かもしれん。まだ、判断材料は少ないがな。

 

「おぉ?やぁっと起きたぁ〜」

 

襖をスパーンと音をたてながら開け入ってきたのは呑子さん。続いて僅かに表情をひきつらせた狭霧さんと眠そうな夜々さんが入ってくる。

 

「おはよぉ〜。お近付きに1杯どぉ〜お?」

「呑子さん、彼は未成年ですよ!」

「夜々眠い…」

 

三者三様、性格が丸わかりな反応だ。まったく、こういうのは第1印象がだね……そういえば私のは最悪だったな。

 

「あたし荒覇吐呑子!」

「冬空コガラシっす!で……その〜…」

「ん〜?」

 

呑子さんがかがみ、大きく手を振りあげながら挨拶した。酒が入っている時はたいてい豪快なアクションをするからなぁ。

……って、コガラシくん?何故そっぽを向いて……っ!?

 

「呑子さん、立ちましょう」

「えぇ〜?」

「いいからいいから。さあ、せ〜のっ」

「ん〜?」

 

酔った呑子さんに手を貸して立ち上がらせる。ふぅ、これでコガラシくんもだいぶマシになるかな。

 

「まったく、呑子さん?そんな格好で屈んだら下着が見えてしまうかもしれませんよ?」

「えぇ〜?だってぇ、新しく入ってきた、それも気絶から起きたばかりの子に立ったまま挨拶っていうのもおかしいかなぁ〜ってぇ」

「そうですけど、ちゃんと自分のことも考えてください」

「…はぁ〜い」

「アークさんマジ感謝っす」

 

いいのいいの。たった数日なのに、こういうのにも慣れちゃったから。

 

「冬空コガラシ、と言ったな。このゆらぎ荘の風紀を乱してみろ。その時は、この雨野狭霧が天誅を下す!」

「っ!?」

 

あら?コガラシくん?なんで顔の傷が増えてるの?切り傷だし……ああ、狭霧さんのクナイか?あ〜もう、病み上がりの人に傷をつけちゃあダメだよ。

 

って……今度は夜々さんか。みんなもう少し配慮ってもんを……。

 

ペロッ

 

!!!???

 

「?っ!?てめぇ何しやがる!?」

「ムッ。夜々が治してあげようと思ったのに」

「いやいやいや!夜々さんどうしたの!?急にコガラシくんの傷口を舐めたりして!」

「?夜々が直そうと思ったの」

 

ん〜?どういうことだ?そういった能力があるのか?いやいや、初対面の人に力を見せるほどおバカではないはず。

 

「あ〜コガラシくん、こっちに来なさい。手当てしてあげるから」

「え、いや大丈夫っすよ!これぐらいほっときゃ……」

「ダメだよ。菌が入って膿んだりしたら大変だろう?ほら、来なさい」

「う、ウス」

 

ついでに痣のところにも湿布を貼っておくか。

 

「アークさん、お母さんみたいですね〜」

「ただ世話好きなだけですよ。仲居さんもどんどん頼ってくださいね」

「ふふっ、そうさせてもらいます〜」

 

よし、これで終わりだ。さて、もう遅い時間か……あっ、そういえば。

 

「コガラシくんはお腹減ってるかい?」

「あ、そういや晩飯食ってなかったな……」

「なら、もう時間も遅いですし、軽いものを作りますね〜」

「手伝いますよ」

「ありがとうございます〜」

「アーク、アーク!夜々も!」

「えっ……本当に軽くだよ?お2人はどうします?」

「そうねぇ〜、いい感じのおつまみちょ〜だぁ〜い」

「……私は…本当に軽くでいいので」

「了解しました。それじゃあ、少し待っててください」

 

なんだかんだあったが、みんな仲良くなれそうでよかった。さ、腕によりをかけて作ろうかな!……呪文は無しにするか。

 

 

作った料理は大好評だった。ふふふ、そんなに褒めても何も出んよ。

 

それにしても、何か忘れてるような気が…。

 

 

 

 

 

「はう〜……美味しそうですぅ〜…。みなさん楽しそうですぅ〜……」

 

帝王の地獄耳はしっかりと拾った。

そういや忘れてた。あとで幽奈さんに差し入れよう。

 

 

 

 




何故、主人公がママ化したのか……。
書いてるうちに自分でもなんでこうしたか分からなくなってくる時がたまにあります。
定期試験があるので1、2週間開きます。すみませんが、勉強・試験が終わるまで投稿できません。


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第11話 救沌衆 襲来!

皆さんお久しぶりです!活動報告や東方実験手記の方を見た方は2日か数刻ぶりでしょうか。
無事に定期試験が終わり、またちゃんと投稿できるようになりました。
また更新していくので、よろしくお願いしますね〜。


「ああ、そのようにせよ。連絡は随時すること、そして魔力を感じられることのないように念話・通話ではなく、モシャスか変化の杖を用いて……猫あたりにでもなって報告に来い。わかったな?」

「は、ははっ!では、しっ失礼します!」

 

よお皆。アークさんだ。え?口調が若干変わってる?そりゃ怒ってるからな。そのせいで念話相手の部下を怯えさせてしまったが、そんなことは今はどうでもいい。

 

原因となった出来事は、今朝まで遡る。徹夜して仕事に勤しんでいた分、少し遅い時間まで寝るつもりでいたというのに……朝6時頃に叩き起こされたんだ。

 

物理的に……ではない。何かが大音量で吹き飛ばされ、すごい勢いで川に落ちる音、そしておそらく幽奈さんの謝る大声。このトリプルパンチをくらったせいで意識が覚醒してしまったのだ。

 

私は……皆がご存知の通り、睡眠を邪魔されるのがこの世で最も嫌っている事だ。普段ならば怒りにまかせて瀕死にするか殺すかなのだが、この世界でそんなことをするのはさすがにマズイため我慢した。

 

結果、イライラが溜まっている。ちなみに、やっと寝付けそうだった昼頃にもゆらぎ荘は騒がしくなった。

 

どうやら、僧侶……お坊さんが幽奈さんを強制成仏させようとしていたらしく、それをコガラシくんが止めたらしい。

 

その際にも、怒鳴り声やドタバタ音、幽奈さんの叫び声、極めつけにコガラシくんが温泉に落ちる轟音と悲鳴。

 

怒っているが、それを子供に晴らすのもまた情けないことだとは思う。子供だろうと女だろうと、もう殺してもいいかもしれないと若干思ってはいるが。

 

そんなこんなでこの日は終わった。私はぐっすり眠りたいのだが、この世界の仕事と魔界から送られてきた資料確認が残っている。今日も徹夜になるだろう。もはや数日眠りこけてもいいかもしれない。疲れたよ、私は。

 

 

 

 

 

 

「おわああああああ!?」

 

ドッポォォォン……!!

 

「コガラシさあああんっ!!」

 

………………………………。

寝始めたのは5時頃。今は6時ぐらいか…。

 

「…………ご飯を食べに行こうか」

 

その後は仕事をしよう。何も考えずに、ただ黙々と。そして終わりしだい寝てやる。一日中どころじゃないぞ、数日は覚悟してもらう。

 

襖を開けると、狭霧さんと呑子さんが朝食を食べようとしていた。

 

「アークさん、おはようございます」

「おっはよぉ〜アークちゃん」

「……おはようございます」

「何かあったのぉ〜?かなりやつれてるけどぉ〜」

「……いえ、何も…大丈夫です」

「あ、アークさんおはようございますー。朝食できてますよ」

「ありがとうございます……」

 

仲居さんが運んできてくれた食事に箸をつける。あんなに美味しく感じた仲居さんの料理が、今ではあまり美味しく感じない……いや、味を感じないと言うべきか。

 

狭霧さんや呑子さんよりも素早く食べると、仲居さんが食器を下げてくれた。お礼を言って自室に戻ろうとした時、元凶とも言うべき子たちが入室してきた。

 

 

「あのまま天に召されるトコだったぞ!?」

「すみませんすみません!」

「……………………」

「あっ、アークさん!」

「おはようございますアークさん〜」

「……ああ、おはよう。私は、自室で少し寝てくるから、あまり大きな音は出さないでくれよ」

「う、うっす」

 

この子たちも悪い子ではない。きっと言うことを聞いてくれるはずだ……きっと。

 

ふむ、仕事を終わらせてからと思っていたが、期限が近いというものも無いし……先に寝よう。そろそろ私も限界だ。

 

「はあ、ゆっくり眠れると……いい…な……」

 

 

 

 

 

「たのおおもおおおお!!!!」

 

………………………………。

寝付いて数分しか経っていないのだが?

 

「拙僧は救沌衆降魔僧が一人、辻昇天の洩寛!!昨日はよくもやってくれたな小童よ!どうやらその屋敷、霊視で調べてみれば悪鬼羅刹の巣窟ではないか!貴様らまとめて、我ら救沌衆が一掃してくれるわ!!」

 

………………………………。

 

「洩寛殿!彼奴等は皆、女子の姿をしており申す!手荒な手段は如何なものかと!」

「我等は速やかに悪鬼共を滅するのみよ!」

「しかし…!」

「……ならば、女子は捕らえるがよい!主らの好きなように修行を付けてよいぞ!!」

「お、おお!?成程それならば、彼奴等を救うことにもなりましょう!!」

「拙僧もそう考えており申した!」

「拙僧も!」

 

…………ふざけるな。

私の眠りを妨げておいて、ゆらぎ荘の者共に手を出すだと?よほど死にたいらしい…!

安心しろ、殺しはせん。この世界において、最も重要なのは強者との協力関係の構築及び信頼だ。ここらで、ゆらぎ荘の者共に一つ、貸しを作ってやるのもいいだろうて…!

 

「ゆくぞ悪鬼共!ここで貴様らを殲滅してくれるわ!!!」

「騒々しいわあああ!!!」

『!!!???』

 

怒鳴りながら自室の障子を開け、手すりに足をドンと乗せた。ゆらぎ荘の面々も外にいる僧侶共も驚きの視線を向けてくる。

本来ならば、ここで人外であることを知られたくはなかったが、まあよいわ!これを機とすればよいだけだ!!

 

「貴様らやかましいぞ朝っぱらから!この我の眠りを妨げおって…我の溜まりに溜まった怒り、今ここで晴らしてくれるわぁ!!」

 

右手に帝王の剣を顕現させ、魔力を込める。剣先にバチバチと黄色い魔力球が現れ、瞬時に消滅する。

 

『イオ』

 

次の瞬間、僧侶共の周囲が輝き、次々と爆発が起こった。

 

たとえ下級呪文とはいえ、私の魔力で放たれたそれは暴走を起こし、僧侶共を軽々と吹き飛ばす。かなり加減したからか、ほとんどが立っているものの、かなりのダメージを与えたようだ。

 

と、ちょっと待て。体調がこの上なく悪い時に暴走呪文を放ったせいで盲が……。

 

「チッ!後は任せますよ……」

 

布団に戻り、眠気のままに目を瞑る。呪文を放った直後のためか、まだ眠りには入れないようだ。しかし、少しずつ意識が遠くなっていく…これならそう掛からないか。

 

外の喧騒が聞こえてくる。完全に眠りに着く前に、皆さんのことが分かるか…?

 

「……ハッ!とりあえず殲滅を!雨野流誅魔忍術奥義(あめのりゅうちゅうまにんじゅつおうぎ)叢時雨(むらしぐれ)!!」

「……なんだアレ…」

「誅魔忍である狭霧さんの霊気の忍具は、神出鬼没、変幻自在なのです!」

「まず誅魔忍って何だ…!?」

 

忍具…いつぞやのクナイか。成程?

 

「わぁ〜!みぃんなつるっつるでボールみたい!ねぇねぇ、ボウリングしてもいーい?いいかなぁ?」

「ぼ…ぼうりんぐ!?」

「えぇ〜…ダメなのぉ?」

「えっ!?いやまぁ、少しくらいなら…!?」

「わーい!それじゃあ……」

「ぬ…?か、身体が持ち上げられて…!」

「見よ!あのツノ……鬼か!?」

「いいっくよぉ〜!すっとらーいくぅっ!」

『ぎゃああああ!!!!』

 

「人吹っ飛んでんぞオイ…」

「呑子さんは、かの鬼の首領(ドン)、酒呑童子の末裔なのです!!それゆえ、お酒に酔えば酔うほど強くなります!」

 

……聞いてるだけでかなりツッコミどころ満載だな。

 

「…うん、あいつらで遊んできていいよ」

「……は?」

「ンニャッ♪」

『ぎゃああああ!!』

「ニャーンッ♪」

 

「夜々さんはあんなにカワイイ猫神さんに憑かれているのです!」

「オマエ自身は何もしねーのかよ!?」

「くあ……だって夜々眠いし…」

 

猫神…神の1種か?これは、気を引き締めねばならないか……鳴き声からは威厳やらなんやらは感じないが。

 

「く…莫迦な、全滅だと…!?いや、体勢を立て直し次こそ奴らを滅してくれる!」

「すみませんお客様。それは困ります」

「ぬっ!?何奴!」

 

ピルルル…トゥルル…

 

……なんだ、この音。電話か?

 

「は…?拙僧の宝くじが一等当選ッ!?」

「拙僧がジョニーズに合格ぅぅ!?」

「拙僧が大富豪の遺産相続人に!?」

 

……は?

 

「億の借金がチャラに!?」

「ポチが帰ってきた!?」

「ハゲ治療薬の治験者に!?」

 

ポチて……いや坊主じゃなくてハゲだったのかい……。

 

『もう妖怪退治なんざやってられるかー!イヤッホオオイッ!!!』

 

あーもうメチャクチャだよ。

 

「ちィィッ!これだからゆとりは……む!?」

 

ナーンミョーホーホーケキョー

 

…これも電話?え、ホントに?

 

『父さんごめんなさい。親になって、私が間違ってたってようやく気付いたの!だからお願い…出家なんてやめて家に帰ってきて…!』

「…………………………………」

 

アンタだけ異様に重くないか?こんな時だけは帝王ボディがいらないと思えてしまう。

 

「ちぃぃぃッ、覚えておれい悪鬼どもめが!この礼はいつか、必ずしてくれる!!」

『まことに有難う御座いましたああ!!』

「お幸せに〜」

 

「そして、ゆらぎ荘最古参にして管理人の仲居さんは、運勢をあやつる座敷童子さんなのです!皆さんスゴいですよね〜!」

「あぁ…すげぇぜ。仲居さん!俺にも運を…」

「やめておけ。アレは奴ら自身の運が使われているんだ」

「一生分の運を使い果たしてなきゃいいのだけどぉ…」

「え!?怖ッ!!」

「やっぱり仲居さんが最強…!」

 

……えげつないな仲居さん。やはり友好関係を築こうとした私の判断は間違ってなかったか。

ふむ、かなり意識も遠くなってきた。待望の睡眠が私を待っている…!

 

「さて、私たちの自己紹介は済みましたが、アークさんがまだですね」

「ああ、あの人は一体何者なのだろうか……あの術に、霊力は感じられなかった」

「まずは起きてから、だな」

 

ああ、私の説明もいるのか。帝王のことは伏せておいて、邪教団の事、それを追いかけている事を色々と省いて伝えておくか……。

 

そろそろ…か。すまないが、おそらく数日は寝ているかもな……まあ魔人形態の時よりかは…マシ……か……。

 

「ZZZ…ZZZ…」

 

 

 




今回はいつもより長くなってしまった。これから先もこれぐらいの文字数いくかも?
さて、どんな風に介入していこうか……。
よろしければ、評価・感想をお願いします。まあ、前話にも載せた通り、楽しんでもらえればそれでいいのですがね、活動の原動力になりますぜ。
まあそれも、私の文章力、発想力にかかっているのですがね……。


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第12話 起きてくださいアークさん!

皆さん!とうとう感想が来ました!
嬉しくてリアルゲルド族タイムしたら家族から変な人を見る目で見られてしまった…。
初めて感想を貰ったので、返事がまったくもって面白くない文になってしまった…申し訳ないです。
他の方々も、良ければ感想・評価等お願いします。
今回は三人称視点です。それではどうぞ!


「それでは、ゆらぎ荘緊急会議を行います!」

 

救沌衆の襲撃から3日が過ぎた頃、ゆらぎ荘ではアークを除いた全員が居間に集まっていた。誰もが真剣な面持ちになる中、悲しそうに目尻を下げながら司会を務めているのは仲居さんだ。

 

何故このような状況になっているのか。それは、今この場所にいない者が理由である。そう、我らが主人公のエスト・アークさんだ。

 

「今回の議題は、アークさんがこの3日間、1度も目覚めない事!そして、まだ起きる兆しが見えないことについてです!」

 

宣言通り、彼は数日間一切起きずに寝続けている。食事も水も摂らずに、動きもせず。

1日目は、そんなに眠かったのかとそこまで大事には捉えていなかった。かなり眠そうにしていたため、仕事で徹夜していたのだろうと推測し、ゆっくり休ませてあげようと起こさなかった。

 

2日目になるも、まだ寝ているのかと思いながら、それぞれが思い思いの生活を行った。せめて食事でもと仲居さんが起こしに行ったが、呼び掛けに全く反応せず、寝息さえ少しも乱れることはなかったという。

 

3日目、さすがにおかしいと全員が気づいた。皆がアークの部屋へ行き、声をかける・大声で騒ぎ立てる・顔を引っ張ってみる・強く叩いてみる等々、様々な方法を試してみたが、それらも全く効果は無かった。

 

そのまま時間が流れ、時計が零時を回ったため今は4日目となる。どうすればアークは起きるのかと絶賛会議中なのであった。

 

「なぜ、アークさんは寝続けているのでしょう…」

「3日前……いや、4日前か?その時はかなりやつれていたが……」

「そうねぇ〜…辛そうにしてたわぁ」

「そういや、隈ができてたな。寝不足だったんすかね?」

「……アークさんが入居された初日に、お夕飯をご馳走したんですけど……その時にアークさんに言われたことがありまして…」

「言われたこと、ですか?」

「はい」

 

その時を思い出したのか、仲居さんは少しぶるっと震えた。アークがそのお願いごとをした時、威圧感が凄まじかったからだ。小学生くらいの子供であれば泣き出すレベルには。

 

「『私が寝ている時は、私が自然に起きるまで絶対に起こさないでくださいね?』と言われまして……その、威圧感?が凄かったです」

「威圧感……アークさんにとって、睡眠はかなり大事な行為…ということか?」

 

彼女らが分からないのも当然だ。彼にとって、睡眠とはどれほど大切な、かけがえのないものなのか。

 

エスト・アーク…改めエスタークは、戦乱の世に飲まれた。前世がただの一般人であった彼が、四六時中命を狙われる状況であったことがどれほどの苦痛だったのか。

 

心休まる時などほとんど無い。周囲を警戒し、敵がくれば力をもってして制圧する。そんな、血なまぐさい日々を送っていた彼にとって、唯一の安らぎが睡眠だった。

 

襲撃があっても対処できるよう結界を貼り、疲れた心身を癒すことができる。これがどれほどありがたいことなのか、エスタークは強く実感し、理解したのだ。

 

それからだ。睡眠を邪魔する不届き者を半殺し、または殺すようになったのは。

 

しかし、ここで疑問が出る。なぜこの世界にてエスト・アークとなった彼が、防音の結界などを使わなかったのか。

 

これも、いる場所がゆらぎ荘であることが原因だ。普通の人間の住むマンション等の住居であれば、結界を貼っても誰も気づかないだろう。しかし、ゆらぎ荘には実力者たちが住んでいる。結界など使えば、感知されてしまうかもしれない。

 

認識阻害の結界を使おうにも、それだと中にいるエスト・アークを認識できず、これまた面倒なことになる。こういった理由から、何もせずに過ごすことしか出来なかったのだ。

 

「しかし、どうしたものか。あそこまで眠りが深く、反応もしないようでは対処のしようがないぞ」

「……アークさん、何か術を使ってましたよね。ただ霊感が強いだけと言ってましたが、私たちに何か隠し事をしているのではないでしょうか…?」

「隠し事かー……人じゃない、とか?」

「…ッ!コガラシさん!!」

「でもよ、飯も食わずに数日間寝続けるってのも人間じゃできねぇと思うんだよな……それに、あの術も普通の人間ができるもんじゃねぇだろうし…」

 

コガラシの言葉に全員が黙る。皆が思っていたことだ。アークは、彼は人間ではないまたは普通の人間では無いのでは。そして、それを自分たちに隠しているのではないかと。

 

まだ、彼とは知り合ってから日が浅い。そういった秘密を話せないのも分かるのだが、それでも少し寂しいものがあった。

 

「アークさんは、一体何者なのでしょう?」

「未知の術に何日も寝続ける…特殊体質、かしらぁ?」

「今まではこのようなことはありませんでした。何かしらの理由があるのでしょう…」

「…………あっ」

 

ここで、幽奈がふと気づいたように声を上げる。皆の視線が向く中、幽奈は少し顔を青くして問いを投げかけた。

 

「あの、アークさんの体調が悪くなり始めたのって……コガラシさんが来てから……ですよね?」

「む…そういえばそうだな…ッ!?貴様の仕業か冬空コガラシィィ!!」

「違ぇっての!?」

「あの……あながち間違いではないかと……私も同犯ですが…」

「…?どういうことぉ〜?幽奈ちゃん」

 

皆を代表して呑子さんが聞くと、さらに顔色を青くし、プルプル震えながら幽奈は答えた。

 

「わたし、寝相が悪くて……あれから何度もコガラシさんに迷惑をかけてしまっているのですが…その……コガラシさんを川に突き落とす場所が、ほぼ毎回アークさんの部屋の近くなんですよぉぉ…!」

「な…2階の私の部屋にまで強く響く轟音と叫び声だと言うのに…!」

 

グスグスと涙ぐみ始める幽奈の説明を聞いて、全員が納得した。

 

朝の騒動はほぼ毎日起きている。川に高所から落ちる音と叫び声を、近くで聞くなどかなりのストレスになるだろう。ましてや、アークはよく仕事で徹夜をする。ようやく寝れるという時に何度も叩き起こされれば、極度の寝不足になるだろうことは容易に想像できた。

 

「あの隈とやつれ顔はそういうことだったのねぇ〜」

「あの後に寝てくるっつって、すぐ坊主たちが来たから……」

「う。全く眠れてないはずなの」

『……………………』

 

全員が黙る。正体等はともかく、これで一つ分かった。コガラシと幽奈は縮こまり、全員の視線を黙って受けるしかない。

 

「おそらく、充分…?な睡眠をとれば、起きてくるとは思いますけど……その時はちゃんと謝りましょうか」

「「はい……」」

 

こうして、ゆらぎ荘緊急会議は終了。もう少し気を付けようと落ち込むコガラシと幽奈の2人であった。

 

ちなみに、アークが起きたのはその翌日。2人の謝罪を快く受け止め、しかしまだ帝王であるという正体は明かさずに、もう一度自己紹介を受けたのだった。

 

 




感想により私のエネルギーが補充され、次の話を書くことが出来ました。
ハハハッ!
なんと現金な奴なのでしょうか!
自分にちょっと嫌悪感が出てきたぞ。
今回は、三人称に挑戦しました。
むつかし…むつかし…。


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第13話 ゆらぎ荘名物 温泉卓球!

なんか最近調子に乗ってしまっているな?バカスカ投稿してるとあとが怖くなってきた……。
しかし、調子がいいのもまた事実。ちょっとポックリ行くまで……平日は無理だけど、休日は頑張ろう。
私のやる気が途切れない内に……。


「ぉゎぁぁぁぁ…」

 

トッポオオオン……

 

「コガラシサーンッ!スミマセ-ンッ!」

 

今日も今日とて目が覚めた。流石は防音結界。あの轟音と叫び声が本当に小さくなった……いや、私の貼った防音結界を貫通して聞こえてくるって相当じゃないか?流石と言うべきは彼らの方だったか……。

 

しかし、起こされるとはいえ、ここまで小さくなれば怒る気にはならないな。ストレスもあまりないし。

 

と、ここで皆は思っていることだろう。お前さ結界とか貼ったらバレるからやらないって言ってなかったっけ?と。

 

もはや今更なんだよ。やっぱり坊さんの集団に目の前で呪文使っちゃったからね。霊能力者だーってことでひとつ納得してもらったんだよ。おそらく皆は霊能力者じゃないだろうって信じてないだろうけど。

 

まあでも、かなり心配をかけてしまったようだし反省はしてるよ。普通はビックリするよね。だいたい4日間ぶっ通しで寝続けてたらしいし。

 

さて、ご飯を食べに行くか。今日は仲居さんの当番だったな。初日に手伝うと言ってから、日替わりで家事を分けているのだ。今日の私の受け持ちは風呂場の掃除だったな。ご飯食べたら始めるか。

 

「なかなか広かったよなぁ……昼までに終わるようにピオラでもかけるか?いや、流石にポンポン呪文を使うのも……ん?」

 

どう掃除しようか考えながら廊下を歩いていると、前方から猫が歩いてくるのが見えた。ふむ、なるほど?とうとう来たか。

 

「にゃ―…」

「うむ、ご苦労。未だに斥候部隊からの報告がなかったゆえ、少しばかり心配していたぞ」

「うにゃっ!?」

 

帝王として喋りかけると、猫が驚いたようにこちらを見上げる。まあ、そうだろうな。自分たちの王が浴衣着て人間の生活に溶け込んでいるのだから。

 

周りに誰の気配も見当たらないことを確認すると、しゃがんで猫に視線を向けた。

 

「それで、この世界に異界はあったか…いや、この星の調査はどれほど進んでいる?実力者や神の存在は確かめたか?」

「にゃ……う―……」

「どうした?人間に聞かれると心配しておるのか?案ずるな、他の者の気配は無い。安心して報告をするがいい」

 

なんだ?この猫、普通の猫には無い力を感じるというのに……報告ができない理由でもあるのか?

 

「何を黙っている。私とて無駄な時間は好かぬぞ」

「にゃ…にゃう……」

 

言葉は通じているはずだ。この猫からは困惑が見て取れるからな……なぜ困惑しているのだ?

 

「いい加減にしろ。早く報告を……ぬ…」

 

階段側から足音と話し声が聞こえる。これは……コガラシくんと幽奈さんか。まったく、こやつどうしてくれようか。

 

「貴様は猫の振りを続けろ。まったく、無駄な手間をかけさせるな」

「にゃ……」

 

降りてきたのはやはりコガラシくんと幽奈さんだ。コガラシくんがゲンナリしているのは今朝方の川へダイブしたことかな?

 

「毎朝すみませんコガラシさん…私、もっと気を付けますので!」

「おう頼む…毎朝これじゃ身が持たねーぞ……幽奈の未練を晴らす具体的な方法も考えていかねーとな。幽奈はなんか好きなもんとかねーのか?」

「好きなもの……猫さんですね!」

「猫か……猫ならアイツに……おっ」

「やあコガラシくん、それに幽奈さんも。なんだか元気が無さそうだね?」

「お〜〜っす!アークさん。今、幽奈の未練について話してたとこなんすよ」

「ああ、聞こえていたよ。そういえば、猫が好きなんだってね。ここにちょうどよく…ほら」

「おおっ!」

 

猫のままだぞ、という視線を向けておく。しかし猫は頭に?をつけていた。おい、なんでそんな反応をするんだ。

 

「どっから入り込んだんだおまえー?」

「あっコガラシさん!その猫さんは…」

 

コガラシくんは猫を抱き上げ、乱暴に頭を撫で始めた。たいして猫はフシャーと威嚇しながら暴れている。あーあー、そんなワシワシとやったらダメだよ。

 

「お?なんだイヤか。撫でてやってんのにかわいくねー奴だな」

「こ、コガラシさん!あのっ…」

「フシャーッ!」

「痛ッ!?」

 

猫がコガラシくんの手を引っ掻き、見事脱出した。床に足を着いた瞬間、猫が煙を出し爆発した。

 

え?まさか変化を解いたのか!?そんなことしたら……。

 

しかし、煙が晴れ出てきたのは魔物ではなかった。というか、私のよく知っている人物だった。

 

「フーッ!フーッ!」

「おまえ…夜々!?」

「…………え?」

 

ちょっと待て。一回待て。ウェイトウェイト。

え?夜々さんだったの?夜々さんに向かって斥候部隊やら星の調査やら言ってたの?どうしよう、どうしよう!?

 

「冬空コガラシ…これは一体どういうことだ……!?」

「狭霧!?」

 

コガラシくんの後ろから現れたのは狭霧さん。般若のごとき形相をしながらコガラシくんを睨みつけている。あっ、コッチ向いた。

 

「アークさん……」

「あー…私は何もしていないぞ?猫がいたから珍しいなーと観察していただけだ」

「コガラシに…夜々の身体中をまさぐられたの!夜々、触られるのキライなのに…!」

「お、俺は猫を撫でてただけだーッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「悲しいことですが、今日。冬空コガラシさんの退去を希望する嘆願書が提出されました。よって、この確執の早期解消を図り、ゆらぎ荘宿舎規則に則り一本勝負を執り行います!」

 

ゴメンねコガラシくん。あそこで擁護するのはデメリットが大きかったんだ。

 

「宿舎規則って?」

「ゆらぎ荘が下宿になった際、当時の女将さんが取り決めた鉄の掟です…!逆らった者は恐ろしい不幸に見舞われてしまうとか…!」

「マジかよ……」

 

その不幸は仲居さんが引き起こすんですねわかります。

 

「敗者は素直に、勝者の言うことに従うこと!よいですね?」

「う」

「無論です」

「やるしかねーのか…」

「勝負方法は、ゆらぎ荘に古くから伝わる伝統競技━━━」

 

━━━温泉卓球!ダブルス一本勝負!!

 

「はぁ…卓球苦手なんだよな……」

「まあまあ、頑張ろうよコガラシくん」

「フフンッ!早速負けた時の言い訳か?見苦しいぞ冬空コガラシ!」

「う!アークも、手加減はしないの!」

 

今回、私はコガラシくんのバディとして参加した。ちょっと罪悪感がね…。とりあえず、ここで楽しく卓球をして夜々さんに忘れてもらう作戦だ。流石にやらかしたからね……。

 

「せっかくの卓球だし、楽しもうか」

「いや、俺のここでの生活がかかってるんすよアークさん…」

「もちろん私だって勝ちに行くよ」

「……まあ、適当でいいか。アイツらがまともな卓球をするとも思えねーし」

「う〜……にゃッ!!」

「出ました!夜々選手の肉球サーブ!」

「ラケットすら使わねぇの!?」

 

夜々さんは手につけた肉球グローブでボールを打った。柔らか肉球によってコースが微妙にズレ、取りずらいものになっている。これ狙ってるのか?狙ってるなら天才だぞルールガン無視だけど。

 

「これはコースが読みにくいでしょうね」

「さぁ果たしてコガラシ選手、夜々選手の変則サーブを返せるのか!?」

 

スパァァンッ!

 

振り抜かれたコガラシくんのラケット。返されたボールはとても早く、バウンドして壁まで飛んで行った。

 

「…………何…!?」

「コガラシ選手、見事打ち返しましたぁ〜!」

「凄いじゃないかコガラシくん!」

「貴様…卓球が苦手というのは虚言か!?」

「嘘じゃねぇよ。俺はかつて卓球コーチの霊に取り憑かれたことがあってな…やりたくもねー地獄の猛特訓に付き合わされて卓球嫌いになっちまったのさ。まぁおかげで、全国大会優勝程度には強くなれたけどな」

「おお〜!」

 

すごい体験をしているな!まあそれはとても心強いのだが!

 

試合はコガラシくんが大活躍し、こちらの有利に進んだ。しかし、狭霧さんたちもタダでやられる気は無いようだ。

 

「なるほど、なかなかやるな冬空コガラシ。ならば私も…」

「「「「「本気を出そう!」」」」」

「はあ!?」

 

どろんっ!という音とともに狭霧さんが5人に増えた。まさかこれは有名な影分身の術とやらか!?

 

「おお〜っと、狭霧選手得意の分身サーブです!コガラシ選手は本物の球を見分けられるのでしょうか!?」

「ちょ…待て!そんなのアリか!?」

 

私たちは見事全て外し、狭霧さんたちにポイントが入ってしまった。

 

「こんなもん返せるか―ッ!!」

「ふはははは!待っていろ幽奈!もうすぐそのふしだらな男から解放してやる!」

「なっ…!?」

「ふむふむ、このままじゃマズイね……よし。そろそろ本格的に動こうか」

 

また狭霧さんが分身サーブを打ってくる。コガラシくんは当てずっぽうでラケットを振るってるようだ…………あれだな。

 

カァンッ!

 

ボールが返され相手の陣地へと刺さる。私が打ったのは本物だったようだ。

 

「な…!?」

「アークさん!本物だったんすか!」

「そうだね。分身サーブの打ち返すコツ、解っちゃったかも」

「な……コツだと!?」

「アークさん!俺にも教えてください!」

「ふむ……教えると対策されそうだからねぇ。分身サーブの時は私に任せなさい」

「ウッス!」

「く……アークさん、思わぬ強敵だな…」

「う」

 

その後の試合は私たちの圧倒的有利で幕を終えた。コガラシくんは強いねぇ。霊力も使ってないのにどんどん返してくれて助かったよ。

 

「……アークさん。私のサーブ、どうやって見分けたんですか」

「うん?ああ、それはだね。分身は霊力そのものだから、霊力が少ないボールを見つけることが出来れば、それが本物というわけさ」

「なるほど…!」

 

まあ簡単なことさ。ここの皆なら出来そうだし、大して自慢できるものじゃないよ。

 

さて、今は片付けをしているところだ。使ったものはちゃんと片付けしないとね。

 

「で?勝負は俺らの勝ちでいいんだよな?」

「ああ。負けは負けだ。不本意だが…もう貴様を追い出すような真似はしないと約束しよう。だが、覚えておけ。貴様がもし我々に害をなすようであれば、追い出す程度で済むと思うな」

「ンなことしねーって……お!その卓球台2人じゃキツイだろ。手ぇかすぜっとと、おわっ!?」

 

コガラシくんが卓球台を運ぼうとする狭霧さんと夜々さんへと走る…あ、足下に球が……ってマズい!!

 

私は踏み込んでコガラシくんを手で受け止めた。ふぅ、危ない危ない。もう少しで狭霧さんと夜々さんもろとも倒れるところだった。

 

「あ、サンキューっすアークさん」

「ああ、ちゃんと床を見ておきなさい。転んで怪我でもしたらダメだからね」

「ウス」

「まったく、少しは周囲に気を配れ冬空コガラシ」

「う。不注意なの」

「す、スマンって」

 

あはは。こうやってドタバタしてるのも悪くない。この子たちもちゃんと護ってやらないとな。

 

 

 

「アーク、今朝言ってたことの意味って」

「ノーコメントだ」

 

 




やはり原作に入ると長くなるな。
つまり、それまでの私の想像力が乏しかったということでは…!?
うん、もうちょっと想像力を鍛えておかねばならないようだ。


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第14話 猫さんの調査報告

UA8000超え、お気に入り180件突破、評価もありがとうございます!

※ここから下は読まなくても結構です。

評価に関しては、低評価でも嬉しいです。評価が来ること自体が嬉しいので、低評価の嵐でも嬉しくなっちゃって私のやる気が続きます。(作者はマゾではありません)
勿論、高評価はもっと嬉しいです!皆さん本当にありがとうございます!

感想もご気軽に!今のところ4件も頂いているので気分がフワフワしています。コチラも私のやる気燃料です。
※これらは強要の類いではありません。これから先ゼロ件でも私は悠々として投稿します。

さて、長々と失礼しました。
本編始まります。




うむ、今日もいい朝だ。ゆっくりと布団で目覚めるのは心地がいいな。ごきげんようみんな!エスト・アークさんですよ。

 

なぜか、今回はコガラシくんが川にダイブしなかったようだ。音が聞こえてこなかったからね。その分いつにも増して私は体が軽い気がするよ。

 

いつも、こうやって静かな朝が訪れてくれればいいなぁ…。

 

「コガラシさーん!どこですかコガラシさああん!?」

 

前言撤回、今日も騒がしい朝だ。

それにしても、コガラシくんがいないのか?あんなに大きな声で呼びかけているのに答えないとなると……どこかに出かけているのかな。とりあえず、部屋の外に出てみよう。

 

私が部屋の外に出ると、ちょうど仲居さんと出会った。掃除をしていたらしく、その手には水が入ったバケツをぶら下げている。

 

「やあ、おはようございます仲居さん」

「おはようございますアークさん」

「そういえば、今日はコガラシくん出かけてるみたいですね。どこへ行ったかご存知ですか?」

「コガラシさんなら……」

「コガラシさあああんっ!!!!」

 

ぐっ!?声が近くで聞こえてきた。どうやら幽奈さんがここに来たよう……っ!

 

「おはようございます幽奈さん。はしたないですよ、そんな格好で!」

「え?は、うぅぅっ!?」

 

今の幽奈さんは着物がはだけ、その豊かな胸部や下着が見えてしまっているほど乱れていた。私はすぐに目を閉じて幽奈さんに注意をする。

 

「幽奈さん?取り乱していたのは声で解ってはいたけど、まずは冷静になりなさい」

「…………もしかして、み、見ましたか?」

「私は紳士ですからね。すぐに目を閉じましたとも。今の幽奈さんの状況は仲居さんの発言でだいたい察せますが、とりあえず浴衣を直してください」

「は、はい!」

 

ふう、どうにかピンチは免れたな。幽奈さんに許可を貰い目を開けると、いつも通りの幽奈さんの姿になっていた。

 

「そうだ、お二方はコガラシさんの居場所を知りませんか!?起きたらコガラシさんがいないんですぅぅぅ!」

「うーん、私は知らないなぁ」

「も…もしかして、やっぱり!ご迷惑をかけ続ける私が嫌になって、ゆらぎ荘を出て行かれてしまったのでしょうか…!?」

「コガラシさんならもう出かけましたよ。今日は高校の入学式なんだそうです」

「え…?高校…入学式……」

 

あー、なるほど。だから狭霧さんの気配もしないのか。

 

「たしか湯煙高校でしたっけ」

「はい。狭霧さんも同じ高校だったと思います」

「湯煙高校……わたし、行ってきます!」

「え!?ちょ、幽奈さん!」

 

バビューンという効果音が出そうなほど、幽奈さんは超高速で飛んでいってしまった。そんなにコガラシくんが心配なのか……。

 

「それでは、私は掃除に戻りますね」

「私も手伝いますよ。今日の当番はいつもより少なめですし」

「助かります〜。それでは、私は2階の掃除をしてきますので、アークさんは1階の掃除をお願いしますね」

「任せてください。バケツと布巾は用具入れから勝手に取っていいですか?」

「はい、お願いします〜」

 

仲居さんと別れ、私は用具を揃えて1階の壁から掃除し始めた。その間に考えることは……夜々さんの事だ。

 

私の失態を夜々さんは忘れていない。卓球の後に聞いてきたからな……楽しく温泉卓球をして忘れさせてしまおう大作戦は失敗に終わった。

 

これはまずいぞ。他の方々に話されてしまったら、私の正体についてそのうち喋らなければならなくなってしまう。

 

殺して口封じはダメだ。ただの一般人ならともかく、夜々さんはゆらぎ荘の実力者たちと友好関係を結び、彼女自身も特殊な力を持った人物だ。オマケに猫神などという下位の神が憑いている。彼女を殺害するメリットがあまりにも小さく、デメリットがあまりにも大きすぎる。

 

呪文や術で言えなくさせてしまう手もあるが、魔力を感知し術者を特定されてしまえばおしまいだ。

 

ならば、もう少し仲良くなってそれとなくお願いをしてみるしかないな。

 

そう、平和的解決をするのだよ。暴力は何も生まないのだ。私が柔らかい態度で接すれば、きっと優しいあの娘も聞いてくれるはずさ。

 

「……ま」

 

しかし、これはマズイな。私は念話で、部下に猫あたりにでも変身して報告に来いと言ってしまったが、こちらが部下だと思ったものがまた夜々さんだった……もしくは、姿を実際に見たわけではないが、その猫神とやらだったなんて事になる可能性もある。

 

「……さま」

 

うーむ……どうするか。実は、恥ずかしいことだが霊力と魔力の見分けは未だつかない。卓球の時も、込められた力の量で判断したに過ぎないのだ。

 

「……うさま」

 

念話も今はしたくないなぁ……呪文と結界を扱えることを知られている現状、ここで念話などすれば、誰か術で連絡を取り合う仲間がいるということを知られ、溜まっている私への不信と疑念がさらに膨れ上がるだろう。

 

私は友好関係を築きたいのだ。逆に信頼を失い、対立することになるのは絶対に阻止しなければならない。

 

さて、どうしたものか…………。

 

「帝王様ッ!!!」

「ぬおっ!!!??」

 

だ、誰だ!どこから……あ、猫。

 

「何度もお呼びしましたのに、お返事を下さらないので強く呼びかけてしまいました。申し訳ありません」

「ああ、気にするな。少し思考に耽っていたからな……気配の確認はしたな?」

「勿論です。さて、今回は斥候部隊の調査結果についてご報告にまいりました」

「そうか……書類などはよい、口頭で話せ」

「ははっ!」

 

書類などがなくても、我が帝王ボディは見たものを瞬時に記憶し、自由に使うことができる。何かしらで思い出せなくなっても、 おもいだす と もっとおもいだす という特技を使えば失われた記憶も取り戻すことが可能だ。

 

進化の秘宝を使った期間の記憶も思い出せたしな。ダークドレアムに好敵手(とも)と呼ばれていたことには本当にビビったが…。

 

「では聞こうか」

「はい、ではまずはこの世界とその異界についてです。まず、天界や魔界は存在しません。しかし『異界』と呼ばれる空間は数多く存在していました。どうやら、この世界の実力者の中でも有数の者達が作った空間のようで、名を『天狐家』と言うそうです」

 

天狐……か。狐が異界を作るとは、想像がつかん。ここは不思議な世界だな。

 

「また、この世界では霊力の数値によって強さを定めているようで、霊力が数百万の者たちを『超越者』、それらの中でも最上位に位置するのが『御三家』と呼ばれる存在のようです。『御三家』は、さきほど申しました東の妖怪を束ねる狐憑きの一族『天狐家』、西の妖怪を束ねる鬼の一族『宵之坂家』、そしてどちらにも付かず、孤高にして天狐・宵之坂を上回るほどの強大な霊力を誇る『八咫鋼』を総称したものとのこと」

「異界とやらは天狐のみが…?」

「はい。変化の術である葉札術というものを応用し作り上げたらしく、術の技量が劣る宵之坂・八咫鋼には不可能のようです」

 

ふむふむ、なるほど。とりあえずはその『御三家』に接触し関係を結ぶことを目標とするか。いや、彼らに気づかれずに事を終わらせたいところだ。引き続き捜索に当たってもらうか。

 

「邪教団についてはどうだ。なにか掴めたか?」

「居場所は無理でした。しかし、この世界の神の近くで悪魔を見たとの報告があります。おそらく、この世界の神を利用しようとしているのでしょう」

「ふむ。この世界の神はどのような立ち位置だ?」

「現象を司りはすれど、個々の力についてはそれほどではありません。邪教団の悪霊の神々にすら及びはしないでしょう」

「そうか……ご苦労。引き続き邪教団の調査を続けろ。それから、これからの報告はそちらから気配を探り声をかけろ。身近にいる者との判断がつかなくてな」

「承知致しました。それでは、私は拠点へと戻ります」

「うむ。さらなる成果を待っている……ああそれと、ピサロに伝えておけ。他の軍団長にもこの世界に来るように手配を進めろ、とな」

「承知致しました。それではこれにて」

 

猫の姿をした部下が外へと出ていった。さて、奴らも本格的に動き始めたというわけか。面白い、どちらが勝つか、とことん戦おうではないか。

 

私は布巾を水で濡らしながら今後の策を考える。これ以上、私のバカンスを邪魔させはしない!

 

 

 

地獄の帝王が掃除しながら戦いの決意を固めてるところってすごくシュールだな。

ちょっと気分が下がってしまった……。

 

 

 

 




今回はゆらぎ荘の幽奈さんの世界についてでした。

部下の報告を聞いてると帝王様が部下に任せてるだけにしか見えませんが、これでもなにを調査させるか、どんなことを気を付けさせるかなどを考え決めているのは帝王様です。

雑事は任せて、こういった部隊の動き方・法律などの政策の決定といった重要なものは王が行っています。

話題が変わりますが、皆さんお気づきだとは思います。そう、アンケートを新しく作りました。
『しなくてもええで』や『どちらでもいい』が多い場合は説明しません。でも、いろんな作品から技を出しているので、どんな効果なのか知りたい人は『どんな技なのか解説お願い』に投票してください。

『どちらでもいい』が『どんな技なのか解説お願い』より多くても、『しなくてもええで』の方が少ない場合は解説します。『どちらでもいい』しか投票されなかった場合も解説しません。

投票締切は5月30日の日曜日。『しなくてもええで』と『どんな技なのか解説お願い』が同数だった場合は期間を延長します。

皆さん投票よろしくお願いします。


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第15話 無垢で小さなエロダヌキ

感想とお気に入り登録、評価もありがとうございます!いやはや、もう17話分も投稿したんですねぇ(未だ原作に入ったばかり)

完結までは絶対に持っていきますので、凍結や失踪の心配はなさらずにお楽しみください。

誤字・脱字や質問がありましたら、感想か活動報告にてお願いします!



「さて、コガラシくん?何か遺言はあるかい?」

「弁明すっ飛ばして遺言!?」

「違うんですアークさん!話を聞いてください!」

 

今、私の目の前には正座しているコガラシくんがいる。その後ろには幽奈さんと……幽奈さんの浴衣の裾を掴んでいる小さな少女。

 

今の時間は夜。なかなか帰ってこないコガラシくんと幽奈さんが心配になり、外に出て探しに行こうとしたところに2人が帰宅した。

 

ああ、よかった。無事だったん……まで言って私は固まってしまったのだ。コガラシくんと手を繋ぐ幼い少女を見てしまったが故に。

 

そのまま正座させ、未だ混乱しているぐちゃぐちゃな思考のまま喋り続けているため、弁明と言うつもりが遺言となってしまったらしい。

 

「えーと、これはですね?」

「なんだい、話を聞こうじゃないか。ところで溺死と焼死どちらがいい?」

「はうぅぅっ!?アークさんのおめめがぐるぐるしてますぅっ!?」

「アークさん落ち着いてください!どーどー…」

 

仲居さんが飛び込んで来て私の肩を抑えた……いや違う、私の肩が飛び込んで仲居さんを抑えたのか?ダメだ、思考がまとまらん。

 

「むむむ……やむを得ません!狭霧さん、よろしくお願いします!」

「承知しました!すみませんアークさん!」

 

おうふ。首に何かが当たったぞ。あれ…どうしたことだ……私の意識が…薄れて…ゆく……。

 

 

 

 

「ふう、ありがとうございます狭霧さん。アークさんは、私が後でお部屋に寝かせておきます」

「礼には及びません。それにしても、凄まじいほどの取り乱しっぷりでしたね……」

「こ、怖かったですぅ……」

「マジで死ぬかと思ったぜ……」

「コガラシさんと幽奈さんをすごく心配されていまして……ついさきほどもお二人を探しに行こうとしていたんですよ。すると、そんなに小さな子を連れて帰ってきたものですから頭が安心やら疑問やらでオーバーヒートしてしまったようですね」

「あー……それは悪いことをしちまったな……」

 

頭を掻きながらコガラシが言う。少女もまた自分のせいだと俯いてしまっていた。

 

「それで、その子はどちら様です?」

「あ……ボクの名前は信楽(しがらき)こゆず。去年、化け狸の里からやってきたの」

「化け狸か。葉札術と言われる妖術を得意とする妖怪と聞いている」

「うん。化け狸の里には掟があって、葉っぱを使った妖術……葉札術を勉強して、十歳になったら1人で里を出ないといけないの」

「十歳ですか!?まだ子どもなのに……」

「狸は一歳でもう大人だよ!化け狸も十歳で大人として人間の世界に溶け込むんだ。ボク以外の十歳になった人達は、もう人間に化けて暮らしているんだ…」

「こゆずさんは山奥の古びたお寺跡に住んでいたらしく、それなら私たちと一緒にゆらぎ荘に住むのはどうか……と、提案したんです」

「……こんなに小さな子をほっとけはしませんからね。分かりました、私が使っている管理人室を一緒に使いましょう」

「っ!ありがとう!」

「しかし!コガラシさんと幽奈さんは、アークさんが起きてきたらしっかりと謝ること!いいですね?」

「ウス!」

「はい!」

 

こうして、ゆらぎ荘に新たな居住者が増えたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

帝王は滅びぬ!何度でも甦るさ!

 

こんなに早く話が終わるのか、と思ったかい?もうちっとだけ続くんじゃ。

 

私が気絶している間に、あの少女……こゆずさんがゆらぎ荘に住むことになったらしい。別に、そのことはもういいんだ。コガラシくんと幽奈さんからも謝罪を貰ったし、こゆずさんの事情も聞いたしね。

 

でも……恥っっっずっっ!!

 

夜になっても帰ってこない2人を心配しすぎて、挙句に状況を正しく判断できずに狂い、狭霧さんに手間をかけてしまうとは!

 

帝王に有るまじき失態だ……確かに事案の匂いがプンプンしていたが、それでも冷静に事に当たるというのが指導者……いや、大人の役割だと言うのに…!

 

「はぁ、ここのところ失態ばかりだな」

 

部屋から出て、食堂へと向かう。襖を開けると、もう私以外の人は揃っていた。

 

「おはようございますアークさん。いま朝食を運びますね!」

「ありがとうございます…………ところで、アレは?」

 

私が目を向けた先、そこでは直視してはいけない事が起こっていた。

 

「ZZZ……」

「ふおお…すごい……!」

 

すでに朝食を食べ終わっていた呑子さんが酔っ払って寝ている。その上に乗るのはこゆずさん。顔を呑子さんの胸にうずめ、感嘆の言葉を呟き続けていた。

 

「あはは……実はこゆずさんが、自分に足りないのは……その、おっぱいだと言い始めまして。コガラシさんのお友達に迷惑をかけた件も、その子の胸を研究するためだったらしくて……」

「あー……なるほど?」

 

いや、なるほどじゃねーよ。研究と称して胸を見て触ってのエロガキじゃないか。あまりにも節操が無さすぎる。

 

「……大丈夫なんですか?」

「まあ、害がある……というわけではないので……」

「ふむ、ですがあまりに酷くなった時はそれ相応の対処をしますよ」

「……はい。それは承知の上です」

「なら、私からは何も言うことはありません。いただきます」

 

話が一段落したのを見計らって朝食を食べ始める。うん、仲居さんの料理はやはり美味し……ん?

 

「………………」

「こゆずさん?どうかしたのかな?」

「あの……えっと、ごめんなさい!みんなも、ごめんなさい!」

『っ!?』

 

頭を机につけて、こゆずさんが少し泣きながら謝ってきた。何を謝っているのだろうか?私はこゆずさんに怒ってることなんて一つも……。

 

「なんで謝るんだい?キミは私に、皆に何かしたわけでもないだろうに」

「その、ボクがひどいコトしちゃったから、コガラシくんと幽奈ちゃんが帰れなくて……その、二人のことをすごく心配してたって聞いたから……他のみんなもって……」

「………………」

 

私の箸が止まる。ああ、なるほど。私自身も気づいていなかったようだ。私は、一つの迷惑が想像以上の人に対して影響を及ぼすということを知ったであろうこゆずさんに、ゆらぎ荘の皆にちゃんと謝って欲しかったんだ。

 

「……その事に気づけたのなら、私はキミに対してとやかく言うつもりはないよ。その分、成長できたんだ。これからはこんなことを起こさないように、起きないように頑張りなさい。それに、私たちはキミに怒っている者はいないよ。ねぇ、皆さん?」

「はい。私は大丈夫ですよ〜」

「私も、そのような事は特には…」

「う!」

「むにゃ……こゆずちゃ〜ん…」

「俺たちはそんなの気にしてねーよ!」

「ゆらぎ荘の皆さんは、こゆずさんを歓迎しますよ〜!」

「っ!!うん……う゛ん゛っ!!」

 

泣き始めたこゆずさんをそっと抱き上げ、優しく背中をさすってやる。軽く体を揺りかごのように前後へと揺らしながら頭を撫でたりしていると、すぅすぅと寝息が聞こえ始めた。

 

「やれやれ。大人だとは言っていましたが、こうしてみるとやはり、ただの小さな女の子ですね」

「はい。部屋に寝かせてきますね」

「お願いします」

 

仲居さんにこゆずさんをそっと託す。こゆずさんは軽く身じろぎしたが、泣いていた顔は欠片も見つからず、安らかな笑顔で眠っていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「仲居さんとアークさん、夫婦みたいねぇ〜」

「「ブフォッ!!!???」」

 

 

 




優しい日常回、といった感じです。
日常を書くのはあまり経験が無いため、ちょっとぎこちなくなっているかも。
暖かい目で見守ってください。

ただいまアンケートを実施しています。これから先は戦闘シーンも出てくるので、後書きの技の解説について、投票よろしくお願いします!
ちょっと投票期間長すぎたかな…?


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第16話 微睡みの邪神官

ふへへ……柄にもなく頑張りすぎたかもしれない…。私、確か週一で投稿するって言ってたのに……。
ネタのストックはある……展開もある程度考えてある……なら、書くしかねぇよなぁ!?

昨日、徹夜したのでテンションが未だにおかしいです。いつものように書けてるか分からない……。


「ああ、神よ。あなたは何故、私にこんなにも無情な試練を課すのですか…?私はいったい、どれほどの苦難を味あわなければならないのでしょうか……私は、貴方様に精一杯尽くしてきた、皆に平等の愛を分け与えたというのに……」

 

私は、教会の中でもそれなりの地位を持っていた。貧しい生まれながらも、雑用その他を嫌な顔せずこなし、神に仕えてきた。貧しい者たちの苦しみを、私はよく知っている。私は彼らを救わなければならない、そう決意した……。

 

しかし、人間は……ああ、人間は!良き隣人として、良き導き手として尽力した私に、その醜さを見せ始めた。

 

上層の者どもは私の評判を気に入らず、ありもしない噂をでっち上げ、酷い仕打ちをした。私はだんだんと余裕がなくなり、皆に尽くすことも難しくなる。不当に送られてくる雑務などに時間を裂き、富も徐々に消えていく。そんな私に、皆は関心を示さなくなった。

 

食べ物をあげた子供たちはこちらを見向きもせず、相談事にものった大人たちには身ぐるみを剥がされそうになる始末。彼らは、私に感謝していたことは間違いない。しかし、それは私の分けた愛ではなく、私がもたらす食料や富に向けられたものだった。

 

やる事なす事、それらは全て無に帰した。

 

私は無気力になり、教会を抜けて旅に出ることにした。それは、私に現実を突きつける最悪なものとなった…。

 

食料がない、金がない。それゆえに徒党を組み商隊を襲い、荷物を奪う賊となった者がいた。

 

己の権力を守らんがために、忠臣をためらいもせず切り捨てる者がいた。

 

魔物によって殺される人々。それに怒りを示し、己の手を血に染める者がいた。

 

魔物を愛した、それゆえに魔物ともども処刑された者がいた。

 

中には生粋の善人もいた。しかし、人間の本質は暗く醜い悪である。そんな者どもに食い物にされ、皆が果てていった。

 

この世には多くの悲しみが満ちている。私のように全てを裏切られ、絶望した者がこの世には溢れている。彼らは、私を仲間だと…傷口を舐め合いながら無様に生きていこうと言い、ついてきた。

 

こんな世界など……いや、全ての世界において、こんなことが繰り返されている現状は無くなるべきだ。しかし、もはやこれらは不動の摂理。己の内にある闇にすら気づかない……気づいていても素知らぬ振りをする者どもが跋扈している今、我々だけでは何も変えられはしない。

 

では、神ならばどうか?教会にて、古い文献を閲覧したことがある。そこには、この世の真理が記されていた。

 

 

『全ての世界は、創造と破壊によって成り立つ。神々が天地を創造し、破壊の化身が人も物も壊し新たな世界を創造するための材料を作る。

破壊と創造は表裏一体、世界の安寧と繁栄のため神を崇めることとは、すなわち己の終わりを新たな世界への礎とすることでなければならない。

 

己の終わりを嘆き、恐れるものは信仰者にあらず。終わりの献身を拒むな。でなければ、何人たりとも神を崇めることは許されぬ』

 

 

私はそこまでを思い出し、天啓を得た思いだった。

全ての存在にとって、唯一等しく訪れるものこそ、肉体と魂の崩壊……すなわち『破壊』である。一度この世界を……いや、全ての世界を破壊し、新たな世界を創造するための礎とすることこそ私の使命なのでは?悲しみの連鎖を止め、善人が幸せになれる世界の創造を、破壊の神に祈り聞き届けてもらえば…!

 

それからの行動は早かった。無断に教会へ侵入し、あらゆる手段を用いて『破壊』について述べられた、または破壊を司る神についてまとめられた書を手に入れた。

 

やはり、私の思った通りだ。破壊の神であろうと、邪神と蔑まれていようと、結局は神。我々の祈りと捧げ物を糧とし、願いを叶えてくださる偉大な存在なのだ。そして、そんな神々を代表する御方の名前を、私が生涯かけて尽くすと決めた神の名を、私はついに見つけ出した。

 

悪魔を束ね、生贄の生き血によって目覚める邪神。しかし、創造と破壊の理をなし、世界を見守り時が来れば破壊する絶対の神。

 

【 破壊神シドー 】

 

ああ、神よ。偉大なる我らが神、破壊神シドーよ。願わくば、私を貴方様の血肉に……共に、全てのものに破壊の安らぎを!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ま」

 

「……さま」

 

「ハーゴンさま」

「ぬ……」

「お目覚めになられましたか。ご報告をしたいのですが、よろしいでしょうか」

 

寝ていた……か。懐かしい夢を見た。私が破壊神さまを崇めるきっかけとなった忌々しい我が若輩の頃の夢を。

 

「かまわん。行っていた工作はどこまで進んでいるのだ?」

「はっ。ハーゴン様の仰せの通りに、呪いを担当の者が保管し、来るべき時に使用できるようにしています。この世界の神や実力者付近への配置も完了しています」

「うむ……」

「次に、別世界にて潜伏していた教徒たちですが……みな全滅しました」

「やはり、か。おおかた大魔王の軍勢が攻め込んできたのだろう」

「はい……しかし、私たちの知る大魔王とは別の勢力も加担していたようです」

 

別の勢力……他世界の神々か?奴らも我らの動きに気づき始めたか……。

 

「その者たちの詳細は分かるか」

「それが……魔物でありましたが、明らかに既存のものより強力でした。スライムで例えると、通常よりも数倍の戦力……キメラほどにまで」

「……なんだと?」

 

スライムはすぐに死に至る最下級の魔物。それが、空を舞いギラなどの呪文を扱うキメラと同等だと?最下級が中級下位の魔物の力を持つ……ありえぬ。

 

「それは確かなのか?」

「はい……しかし、それは例え。実際に攻め込んできたのは闇の力を多分に秘めたゴーレムなどといった者たちです」

 

それは……そうとうマズイことになった。これは、一刻も早く破壊神さまを復活させなければ…!

 

「神官どもに伝えろ。支度が整いしだい、儀式を行うと」

「ははっ!」

 

魔物が扉を大急ぎで抜けていく。私は深く椅子に腰かけながら、謎の勢力と大魔王たちのことで頭を悩ませる。降臨の儀はまだするべきではない。それは奴と会合してからだ。

 

その前に、他の大魔王クラスやその勢力に邪魔されなければよいのだが…………。

 

「まったく、次から次へと……しかし、私は諦めませぬぞ。全ては破壊神さまのため……等しく世界に破壊の安らぎを与えるために…!」

 

 

 




今回は邪神官ハーゴンとその配下たちの様子についてです。ドラクエの番外編としてハーゴンが主人公のゲームも考えられてたらしいですね。その辺りの設定を入れてみました。

ちなみに、私はビルダーズは1止まりで2はやっていません。なので、ハーゴンの喋り方・思想が違っているかもしれませんが、そこはご了承ください。

よければお気に入り登録・感想・評価お願いします。私の燃料として結構効きます。



※必読お願いします!

アンケートですが、明日の5月28日金曜日の正午にて締切とさせてもらいます。上ふたつの投票数が一緒の場合は、どちらかに1票入った時点で終了です。
まだ投票しようと思ってるけど先延ばしている方などがいらっしゃいましたら、投票をその時間までによろしくお願いします。


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第17話 仲居さんのいないご飯

祝!UA10000突破!皆さんこの作品を読んでくださりありがとうございます!

私が自己満足のために書き始めた作品ではありますが、お気に入り登録・評価・感想・ここすき投票までしてくださり、感謝の念が堪えません!

これからもこの ゆらぎ荘の帝王様 をよろしくお願いします!



いつもの騒動で目が覚め、ある程度までゲーム制作・運営の仕事が片付いた頃。

 

機器の電源を切り、ググッと体を伸ばしていると、ドアの向こう側から声がかけられた。

 

「アークさん。昼食の支度が出来ましたよ」

「分かりました仲居さん。すぐに向かいます」

 

もう昼か。集中すると時間を忘れてしまうな。

 

立ち上がり、ドアを開けて居間へと向かう。いい匂いがするな……それに声も聞こえる。もうみんな揃っているようだな。

 

「あっ、アークさん!隣空いてるっすよ」

「ああ、ありがとう。ふぅ……」

 

コガラシくんの隣に座ると同時にお膳を持った仲居さんが現れ、私の前に食事を置いてくれた。

 

「では、頂きましょうか!」

『いただきます!』

 

うん、仲居さんの食事は体に染み渡るなぁ……この味噌汁も気持ちが落ち着く優しい味だ。

 

「なあ、夜々を呼びに行った時に、夜々が屋根から落ちそうになったんだけどよ……猫神が助けたんだ。なんか、そういった特別な契約とかあんのか?」

 

さらっと怖いことを言わないでくれ。まさかそんなことが起きていたとは……屋根から落ちそうになるってそうとう危ないぞ。

 

「猫神は宿主を守る習性があるんだ」

「習性?」

「猫神は気まぐれに人間を宿主とし、宿主に様々な力を与える。誅魔忍軍では、基本的には無害とされている妖怪だ」

「ふ〜ん…そんなのが夜々に取り憑いてんのか」

「……誅魔忍軍?」

 

初めて……ではないな。坊さんたちが来た時に幽奈さんが言っていた記憶がある。だが、詳細まではわかっていない組織だ。

 

「ああ、アークさんには伝えてませんでしたね。闇夜に紛れ、人に仇なす暴虐非道の妖怪共に、神秘霊妙の奥義を以て天誅を下す、女性の霊能力者によって構成された忍者集団です」

「ふむ、それで狭霧さんは霊力のクナイを扱うのか」

「はい。他の誅魔忍は、手裏剣やまきびしなど、得意とする忍具にも個人差があります」

「ほうほう、なるほどなるほど」

 

忍者と言えばその情報収集能力と様々な術。さすがに我が軍を見つけ出すことは出来ないだろうが、それでも拠点外で活動する際には用心せずに越したことはあるまい。

 

「でも、猫神がなんで夜々に?」

「仲良しだから…!」

「そんだけ!?」

 

まあ、神と人が仲良くなり生活を共にするというのはよくある話だ。異世界でもよく見たし……恋仲になっている者とかな。舌打ちが止まらないよ。

 

「普段は夜々の中で眠っているらしいが、夜々から出て外で遊ぶ姿もよく見かける。ちゃんと夜々の所にかえってくるあたり、夜々が気に入られているのは間違いないだろう」

「いいなぁ、猫神様は。大好きな人といつも一緒にいられるんだね。ボクにも憑依能力があったらなぁ……」

「千紗希さんのことですか?」

「うん。やっぱり千紗希ちゃんのおっぱいはボクの理想だからさ……あっ!ここの皆のおっぱいも素敵だよっ!?あくまでボク個人の話で…」

「なんのフォローだ」

 

う〜ん、この子の情操教育はもう諦めたが、こう……胸の話ばかりするのでは今後に支障が出ないだろうか?

 

「でも、ホントにコガラシくんや幽奈ちゃんには感謝してるんだ。仲居さんのご飯を毎日食べられるなんて、こんな幸せないよ〜…!」

「うんうん!仲居さんの料理は絶品よねぇ〜」

「こゆずさんがすごく喜んでくれるので、私も作りがいがあります〜。でも、アークさんの料理の方が素晴らしいんですよ〜」

「う。アークの料理はすごく美味しい」

「ホントに!?アークさんっ!ボクにも作ってよ!」

「あ〜……わかったよ。期待はしすぎないでね」

 

こう、褒められるのはやはりくすぐったい気持ちになるな。素直に褒めてくれるのは嬉しいが、そういったことがあまり無かった分よけいに感じてしまう。

 

「ところで皆さん。私…明日から温泉組合の慰安旅行なのですが、本当に私いなくて大丈夫ですか?」

「勿論です!朝夕の食事を皆で分担する手筈です」

「数日くらい大丈夫だろ!」

「楽しんできてください!」

「仲居さんも、たまにはゆっくりしなきゃあ〜」

「ありがとうございます!では、お言葉に甘えて…」

「いってらっしゃ〜い!」

 

 

 

しかし、いかに私がいるとはいえ、仲居さんの存在はあまりに大きかった。こうして快く仲居さんを送り出した私たちであったが……。

 

「朝ごはんできたー」

「……これは?」

「…?朝ごはん」

「猫缶って書いてあんぞ!?」

「せめて人間用を用意してくれ!」

「まあまあ、キャットフードではないんだ。猫缶も基本は美味しい缶詰だよ。ねえ、夜々さん?」

「う。美味しいの」

「だからって朝メシ缶詰はないと思うぜ…」

 

 

「みんな〜!夕ごはんの準備できたぞぉ〜!たぁんとめしあがれぇ〜♡」

「酒の肴じゃねぇか!それもスナック菓子ばっかり!」

 

一日目にして皆が仲居さんの帰還を切望したのだった。

 

次の日の朝━━━

 

「おお〜!ようやくまともな食事が!」

「アサリの炊き込みご飯か〜!誰が作ったんだ?」

「わたしです〜!」

「っ!?幽奈が…!?」

「幽霊なのに料理までできるのか!」

「いっただっきま〜す!」

 

ふむ、これは美味しそうな……っ!?こ、この味は……。

 

「ブッフォオッ!?」

「!?」

 

あとで聞いたところによると、幽奈さんは醤油とコーラを、お酢と料理酒を間違えていた。お供えなしでは味見ができず、気付けなかったらしい。

 

いや、容器にコーラや料理酒の名前ぐらいは書いてあるのでは?と思ったが、確認してみるとラベル等が剥がされており、確かに間違えそうな似た容器になっていた。

 

結局、皆は料理を食べきることはできなかった。残った料理は私が残さず食べました。残すとバチが当たるからね……私はバチを当てる神の敵なのだがね。うっぷ、お腹が少し痛い。

 

 

その日の夜━━━

 

「どうやらまともに料理ができるのは私だけのようだな…」

「狭霧!」

 

狭霧さんが皆の夕食を作ってくれた。くれたんだが……。

 

ゴプッ…ブク……ドロ…ッ

 

名状しがたき物体だな。なんだこれは?死にそうになったバブルスライムにそっくりだ。

 

「裏山で採集した山菜のカレーだ!スパイスには雨野家秘伝の生薬を配合した!見た目や味に少々難はあるが良薬口に苦し!春には苦味を盛れとも言う!たまにはこういう健康食もいいだろう?」

「健…康……?」

「い、いただきま……っ!?」

 

ツーン…

ごと…ッ

 

「ど、どうした皆!?」

 

コガラシくんと夜々さんが机に突っ伏した。ああ、臭いだけで逝ったか……。

 

結局、私以外の全員が残した。私はもちろん完食したよ。体の調子が悪くなってきたけれど、ホームレスをしてきた私にとっては、食事がどんなに劇物でもありがたくいただくと決めている。

 

 

 

今、私たちの前にあるのは煌びやかな焼き魚とご飯や味噌汁。私たちが欲しがっていたちゃんとした(・・・・・・)料理が並んでいた。

 

「ヤマメの塩焼きねえ〜!」

「こ、このオーラはいったい!?」

「う…美味すぎる!!」

「やっとおいしいご飯だよ〜!!」

 

素晴らしい。これほどの技は魔物でもそう多くないぞ。少々火を当てる時間が惜しいが、これはこれでなかなかの物だ。

 

「まるで生きているかのような躍り串も見事だが、何より火のとおり具合が神懸かっている!この焦げ目の異常なまでのムラの無さはなんだ!?およそ、人の手によってなされた業とは思えん!一体何者が……」

「俺だ」

「冬空コガラシ!?」

 

ほほう、コガラシくんか。まだ十数年程度の若さだと言うのに、人間の身で良くぞそこまで…!

 

「串打ち三年焼き一生。一生をかけ磨き続け、死の瞬間に極めた焼きの奥義を後世に残さんとする伝説の料理人がいた。その霊に取り憑かれ、修行させられたことがあってな……!」

「どれだけ波乱万丈な人生を送ってきたんだいコガラシくん……」

 

霊に憑かれすぎだろう。濃すぎる人生を歩んでいるんだな……。

 

「さ、さすが過ぎますコガラシさん〜〜!!」

「こんなお魚、ボク初めてだよ!」

「ふ…これは私の完敗だな」

「コガラシちゃんコレ、酒の肴に最高ねぇ〜!」

 

コガラシくんの胴上げが始まった。みんな、忘れているのかもしれないが、言ってくれれば私も料理作ったんだがなぁ……。ちなみに、私の当番の日はない。仲居さんと一緒に頑張ってくれているから自分たちにやらせてくれと言われたんだよ。

 

「すみません皆さん!ただいま戻りました〜……」

 

わーっしょい!わーっしょい!

 

「……なんの騒ぎです??」

「ああ、仲居さん。お帰りなさい。やはり、みんな料理が上手くできなくて……コガラシくんの料理が美味しかったことに感動してるんです」

「あー……」

 

苦笑いになる仲居さん。胴上げは未だ続いている……そろそろやめたら?コガラシくんが酔ったのか顔色が悪くなってる気がするから。なんなら頬もだんだんと膨らんできてるから!?

 

 

その後、私によってコガラシくんは救助された。美味しいご飯を作ったというのに散々な目にあったコガラシくんなのであった……。

 

 

 




皆さんアンケートへの投票ありがとうございます!
一票差で『しなくてもええで』の方が多かったので、後書きに解説は入れません。

しかし、『どんな技か解説お願い』にも同じぐらい票が入っていたので、本文で簡単な説明の文を入れるようにします。


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第18話 夜々、おそるおそる近づく

まさか原作の1話に2話使ってしまうとは……こんな感じだとかなり長引きそうだなぁ……。

お気に入り206件!とうとう200を突破しました!

皆さん、この作品を読んでくださってありがとうございます。さらに楽しんでいただくために精進いたします!


仲居さんが温泉の慰安旅行から帰った次の日から、彼女は不可解な行動を取り始めていた。

 

「………………」

「………………」

 

コガラシくんが廊下を歩く。夜々さんも後をついていく。

 

「………………」

「………………」

 

コガラシくんが歩く方向を変える。夜々さんも方向を変える。

 

「…………っ!」

「…………っ!」

 

コガラシくんが廊下をダッシュする。夜々さんもダッシュする。

 

「…あの二人、何かあったのぉ?」

「わかりません。今朝からずっとあの調子で…」

 

夜々さん、コガラシくんにある程度気を許して…いや、懐いてきたと言うべきか?猫のように。

 

「夜々!俺に何か用があんのか?」

「っ!…………」

「………へ?」

 

コガラシくんの呼びかけに夜々さんは立ち止まると、じっとコガラシくんを見つめている。返事もせず、ただじっと。

 

恋……ではないな。私はあの目をよく知っている。私に料理を作れと催促する時の目、食べ物をくれというサインだ。

 

おそらく、夜々さんはコガラシくんの焼き魚を気に入ってまた作ってくれと言いたいのだろう。何故か言葉には出さずに。

 

しかし、言葉に出さないのならそれがコガラシくんに伝わるはずもない。

 

「…夜々?だから何の用かって……」

「………………」

 

 

そして、夜々さんはその後もコガラシくんの後をつけまわすのだった。

 

朝起きると布団のなかに潜り込んでいたり、食事中もじっと見つめていたり、移動するコガラシくんの後をつけまわしたり。

 

挙句の果てには━━━━

 

「アークさん、最近の夜々変じゃないすか?前は全然、俺の事なんて興味無さそうだったのに……」

「確かにね。ああいうことは私の知る限りでは初めての行動だ。まあ、私はなんとなくだけど彼女が言いたいことが分かる気がするけどね」

「マジっすか……まあ、夜々もさすがに風呂の中までは…」

「…………」

 

いるんだよなぁ……真後ろに。ああ、頭が痛くなってきた……。

 

「夜々っ!?」

「夜々が背中流してあげるの」

「はぁ!?おっオマエ何言って…」

「コガラシくん落ち着いて……あっ」

 

コガラシくんが夜々さんに驚き、ワタワタと手を振り回した結果、お湯のボタンを押してしまった。

 

そして、シャワーの口は夜々さんへと向いている。

 

「ニャッ!?」

「あ…わり……」

 

夜々さんが濡れ、タオルも透けてしまった……って、そんなことをしてる場合じゃない!変えのタオルを取りに行かないと!

 

「シャァァッ!!」

「ブフゥッ!?な、なんで……」

 

後ろを振り返ると、夜々さんが右手の指を尖らせてコガラシくんを引っ掻いていた。ああ、コガラシくんは上がらせて処置しないと……。

 

 

 

 

 

 

もはや風呂どころではなくなってしまったため、とりあえずコガラシくんの怪我の処置をして、コガラシくんの部屋へと集まった。

 

やはり、こういうのはちゃんと伝え合わないとね。

 

「夜々さんは、お湯が少し苦手なんです。温泉も、いまだにまず指で温度を何度か確認してから、恐る恐る入られるほどで……」

「ほんと猫みたいなヤツだな」

「コガラシ……ごめん」

 

どうやらあの引っ掻きは反射だったらしく、夜々さんは反省しているようだった。大事にはならなくてよかった。

 

「つか、本当にどうしたんだ?夜々。オマエ、一昨日から変だぞ?」

「………………」

「ふむ、夜々さん。コガラシくんは優しい人だ。きっと君のお願いも聞いてくれるはずだよ」

「アーク……う、わかったの。コガラシ……その……」

「おっ、なんだ?」

「……また、コガラシの焼き魚を……作って欲しいの…」

「…………はあ、なんだそんなことかよ…材料とか揃えないといけねぇから、機会が来るまで待っとけ」

「っ!」

 

今回はそれでお開きとなった。自室へと戻る夜々さんは、今までの無反応さが嘘のように、シッポを揺らしてご機嫌そうだったという。

 

 

━━━━数日後の夜

 

ゆらぎ荘の厨房で、コガラシくんは焼き魚を大量に作っていた。私も皆で食べるための軽いものを作っている。

 

「ったく、それならそうで早く言やいいのによ」

「まぁそう言うな。夜々は夜々なりに、あれで案外人との距離感を気にするんだ。知り合ってまだ日が浅い冬空コガラシには気軽に頼みにくかったのだろう。だから、夜々なりにまず仲良くなろうとあのような行動に出たのだろうな」

「そんなことのためだけに風呂まで押しかけるか?フツー」

「……あれ?私の時はそんなこと無かったのだがね。今も、たまに作ってあげてるし……」

「う〜む……そこは本人にしか分からぬところかと」

「そうだね〜……気になるし、聞いてみようかな」

 

 

 

夜々さんはゆらぎ荘の屋根で待っていた。

 

「ほら、できたぞ〜」

「その他も持ってきたよ」

「っ!」

「しっかし、こんなにたくさん食いきれるのか?しかも塩振らないでって…」

「猫は塩分取りすぎダメって聞いたから」

「ああ、聞いたことあるな。夜々もそうなのか?」

 

む?たしか、夜々さんは塩に弱くは……ああ、なるほどね。

 

「夜々はお塩ある方が美味しい。でも……」

 

夜々さんから光があふれ出し、光は猫の形になりながら具現化した。

 

「猫神様にも食べさせてあげたかったの」

 

猫神様……この大きな猫がね。たしかに神性を少しだが感じる。それに……もふもふだ。超もふもふだ。

 

「ンニャ〜!!」

 

焼き魚を頬張った猫神様は、器用にほっぺを両手で押さえ悶えてから、コガラシくんに頬擦りをし始めた。

 

「うおっ!?」

「美味しいって!」

 

夜々さんは猫神様のために、コガラシくんに作ってもらおうと頑張ってたんだね。

 

「ありがとねコガラシ。またお魚焼いてくれる…?」

「おう!」

「ふふふっ。さあ、私達も食べようか。いただきます!」

『いただきます!』

 

相変わらず、私の料理は好評だった。ふふっ、私もコガラシくんのような若者にはまだまだ負けんよ。

 

「そういえば、夜々さんは私に料理を頼む時は普通に来たよね」

「う。アークは、こう…作ってくれるって思ってたの。なんでそう思ったのかはわからないけど……」

「ふむ……まあ、私の雰囲気が柔らかかったからとでも思っておこうかな。さあ、こっちもお食べ」

「う!」

 

夜々さんは美味しそうにパクパクと食べてくれる。コガラシくんは私の技術に気づいたのかすこし複雑そうな顔をしていたが…。

 

ちなみに、猫神様は神ではあるものの、妖怪の部分が強いらしく私にも構ってくる。私としては、もふもふで可愛い猫神様が擦り寄ってくるのは悪い気がしない……いや、かなり嬉しいけどね。

 

猫神様を撫でながら、皆で食べる料理はとても美味しかった。

 

 

 

その後、たまにコガラシくんや私に付き纏う夜々さんの姿があったのだった。

 

 




主人公について書いてるうちに自分でも分からなくなってきたぞ?前はまだ心の中も若い感じだったのに……。

もうちょっとギャグを心の中でもいいからやってくれていいんやで?
別になくてもいいけどね(どっちだよ)

いっそのこと、前に投稿した話に入れたようなギャグを混ぜないでこのまま行こうかな……。


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第19話 締め切り15時間前とみた!

遅くなりすみません…。
行事やらで精神的にも肉体的にも疲れ果てていました…。

これからは最低週一にはちゃんと投稿できるかと。でも、期末も迫ってきてるんですよねぇ……。


いつものように仕事を終えて、お昼ご飯を食べるために下へおりていると、温泉上がりの呑子さんと出会った。

 

「おや、呑子さん。温泉に入ってたんですか」

「そうよぉ〜。すごく気持ちよかったわぁ〜」

 

ホカホカしてる呑子さん、すこし色っぽいな。まあ、私としては右手に持ってる缶ビールの方が気になりますがね。

 

「呑子さん?昼間から温泉はまだしも、お酒はダメですよ」

「いいじゃなぁ〜い。私は、いつでもお酒を楽しむことに全力なのよぉ」

「しかし、お酒ばかりだと体を壊しますよ」

「そこは大丈夫よぉ!酒気とかはちゃんと霊力に変換してるからぁ〜程々に酔うぐらいで止めてるわぁ〜」

「む……そう言われると、何も言えなくなりますよ…」

 

なるほど、霊力に変換すれば体の毒になるほどの量を飲んでも大丈夫なのか。私もそういった呪文でも……解毒呪文キアリーで充分か?

 

と、玄関の前で話していると、扉を開けてコガラシくんと幽奈さんが学校から帰ってきた。

 

「ただいまーっす」

「あらおかえりぃ〜」

「お帰りなさい2人とも」

「今いい湯加減だったわよぉ〜」

「昼間っから温泉っすか…ん?そういや、呑子さんていつもゆらぎ荘に……もしかしてニート?」

 

コガラシくん、それはさすがに失礼だよ……。

 

「も〜違うわよぉ!」

「コガラシさん!呑子さんはですね…」

「呑子先生!!」

 

バタバタと走る音がする。廊下の角から飛び出してきたのは、片目の隠れたスーツ姿の女性だった。

 

「呑子先生!捜しましたよ……!」

「あら、累ちゃんじゃなぁ〜い!」

「まさかこの修羅場に温泉とは……時間押してるのわかってますか!?」

「リフレッシュしたかったのよ〜。累ちゃんも入ったらどぉ〜?」

「入りません!」

 

見知らぬ女性は私たちをそっちのけで呑子先生に詰め寄るが、呑子さんはのらりくらりと交わしてはビールを飲んでいく。

 

って、いやいやそうじゃなく。

 

「呑子さん?あの、先生って…?」

「っ、これは失礼しました!ゆらぎ荘の方ですか?私、荒覇吐呑子先生の担当編集になりました、羽良嶋(はらしま) (るい)と申します」

「これはどうもご丁寧に。私はエスト・アークと言います」

「冬空コガラシっす。え〜っと?月間少女マーマレード……え、てことは呑子さんって…漫画家!?」

「そうよぉ〜!ちゃんと働いてるんだからぁ〜!」

 

まさか、漫画家……いや、確かに言われてみればわかるような気もする。それ以外の職業だったら納得なんかできないだろう。

 

 

 

 

 

「「お邪魔しまーす」」

「いらっしゃぁ〜い。ちょぉ〜っと散らかってるけどぉ、ゆっくりしていってねぇ」

 

仕事を見せてくれると言うので、女性の部屋に入ることには戸惑いがあるものの見学してみる事に。しっかし、散らかってるとは言わないのでは?布団とかも綺麗に畳まれているし、小物がそこらに転がっているわけでもない。

 

では、何を見て呑子さんは散らかっていると言ったのか。それは……空になったお酒のビンやビール缶が大量に置かれているからだ。

 

「お、おぉ……」

「はぁ……またお酒が増えてる……」

 

お酒(空)パラダイスの惨状にコガラシくんは引き、羽良嶋さんは頭を抱えた。心中お察しします……。

 

「それで、修羅場と言っていましたが…?」

「呑子先生の在宅アシさん……アシスタントさんが事故で入院してしまったのです」

「来週には退院できるらしいんだけど……今月の〆切、明日なのよねぇ……」

「……はい?明日!?」

「より正確に言えば、明日の7時……残り15時間です。なのにまだ白紙のページが何枚も…!」

「や…ヤバいんじゃないんすかコレ…!?」

「すごく…!」

 

明日の7時……白紙のページは、ひーふーみー……8枚?いや、下手するともっと…!

 

「アークちゃん、コガラシちゃん、何飲むぅ?なんか買ってきたげよっかぁ?」

「アンタなんでそんな呑気なんすか!?」

「ふふ…お酒の力よぉ!ヤなコト全部忘れられるぅ!」

「現実逃避してる場合か!!」

 

これは、絶望的すぎるなぁ……酒に逃げそうになるのも分かるが、やはりやらないと。

 

「原稿上がるまで飲酒禁止です!そうやって描けないんですから!」

「ああん!わかってるわよぅ」

「編集さんって大変すね…」

「ホントにな……」

「そういうわけだからぁ、アークちゃん、コガラシちゃん、手伝ってくれない?」

「了解っす!」

「わかりましたよ」

 

まあこうなる事は予想出来ていたが……呑子さんは私たちに画力があるかと心配しないのだろうか?というか、手伝って本当に大丈夫なのかな?

 

……なんだか私が心配になってきたぞぅ!

 

「すみません……私がヘルプアシさんを見つけられれば…!微力ながら、私もお手伝いさせていただきます!」

「真面目だなぁ。コガラシくん、ちょうど良い例と悪い例が目の前にあるんだ。しっかり見ておいた方がいいよ」

「そうねぇ〜……ちょっと待って?悪い例ってアタシのことぉ〜!?」

「アンタしかいないでしょーがよ」

「アークさんも冬空くんも辛辣ですね……」

 

そんなわけで、呑子さんの漫画制作が再開されたのだった。

 

 

━━━十数分後

 

「ブツブツブツブツブツブツブツ」

 

ただならぬ気配を放ちながら、まさに鬼の形相でキーボードを叩く呑子さん。いやぁ、怖いね。おにこんぼう も縮み上がって痩せちゃうくらいには凄まじいね。

そんな呑子さんにコガラシくんも気づいたようで。

 

「なんか…呑子さん雰囲気違くないすか…?」

「原稿中…特に締め切り前は荒むそうで……しかし、ああなればなんとか間に合わせてくれるはずです」

「なるほど?鬼のようなオーラを纏っているあれが、集中した本気の呑子さんだと」

「あんな呑子さん初めて見た……」

 

ブルッと震えながらもその手はかなり上手い絵を描きあげているコガラシくん。なんだい、次は漫画家の幽霊にも取りつかれたことがあるとか言い出すんじゃないかね?

 

ちなみに、私は帝王様ボディによって呑子さんの描き方を観察したおかげで、少し真似できるようになった。呑子さんは現役の有力漫画家さんだから、猿真似でも多くの技術を手に入れることが出来たからね。

 

「それにしても、アークさんと冬空くんも上手いですね…マンガ描かれるんですか?」

「いやぁ昔ちょっと漫画家志望の霊に取り憑かれたことが」

 

ほらやっぱり。そしてそんなことをペラッと喋るんじゃありません。

 

「霊?」

「いや、それはキミが昔書いていたマンガのネタだろう?」

「へ?いや、ちが━━━」

「実は、私とコガラシくんはマンガを一時期書いて見せあっていたんですよ。いやぁ、最初はホント、そこらの中学生…いや、小学生レベルの酷さだったんですが、思いのほかヒートアップしてしまいましてねぇ。描き方の本まで買ってやりあったんです。いやぁ、懐かしいなぁ…」

「そうだったんですか。道理でこんなに上手いんですね」

 

ふぅ、なんとか誤魔化せた。とっさの返答にしてはいい出来だったんじゃないか?

 

「しっかし、このマンガを呑子さんがね〜…!お酒以外のモノにも興味あったんすね」

「……ふ、ふふっ……」

「へっ?あの、呑子…さん……?」

 

突如不気味に笑いだした呑子さん。なんだ、気を張りつめすぎてぶっ壊れてしまったか。

クルッとこちらを向いた呑子さんの目は正気だった。しかし、眉は坂道のごとく斜めっているが。

 

「この男子ね…モデルもやっているような魅力的な女子に迫られても……主人公以外の女子なんて異性としてほとんど意識しないの…絶対にブレたりしないのよ。裏切ったりしないの…絶対に……こんな一途な男がいるかよぉぉ!!!」

「アンタが描いてんでしょーよ!?」

「大体、何が悲しくてリア充なティーンどもがキャッキャウフフする様を克明に描写しなきゃならないのぉ!?こちとらとうに成人してるってのよぉ!!」

「…ほっといていいんすか?」

「呑子先生はろくな男と出会わなかったそうで……そのフラストレーションを原稿にぶつけてらっしゃるのです。たまに現実を思い出しああなるそうですが、大丈夫です。しばらくすれば落ち着きますよ」

「漫画家って……」

 

おおう、暴れる暴れる。そうか、そんなに辛い思い出を背負ってるんだな。まあ、気持ちは分かる。こちとら数万年も独身の身だからね……言ってて悲しくなってきた。

 

「うきゃぁぁあああ!!」

 

……でも、このまま放置しとくのもアレだよね。原稿も進まないし…。

 

「呑子さん、落ち着いてください。大丈夫ですよ。呑子さんはとても優しい人ですから、スグにいい相手が見つかりますよ」

「うぅ……アークちゃぁ〜ん……慰めてぇ〜…」

「はいはい、呑子さんは頑張ってますよ。みんなわかってますからね。でも、このまま叫び続けても辛いだけですよ?パパッと仕事片付けて、お酒でも飲みましょうよ。この前言っていたようにお酌してあげますから」

「うぅ……お酒…お酌…うん、頑張るわぁ」

「はい、その意気ですよ」

 

なんとか立ち直った呑子さんが、椅子に座り画面に向かった。さて、こちらも早く仕上げないとな。

 

「アークさんって凄い包容力をお持ちで……あの状態の呑子先生を宥めるとは…」

「面倒見がいいとかそういう次元じゃない気がするっす」

 

そうかな?ま、これも年長者ゆえかもね。

 




実はこの話、書き始めてから数日間ほっぽってました。

手につけ始めても時間的に途中で止まってしまい、そのまま行事の準備やら予行やらで疲れが溜まってしまい……これ、ただの言い訳になってますね。

とにかく、何かしら投稿が遅れるなどがあれば、活動報告に書きますので、ちょくちょくそちらも確認していただければなと思います。

この作品が良いと思ったら、お気に入り登録・評価・感想等お願いします!
まあ、気が向けばでいいので。

誤字・脱字があれば、報告お願いします!すぐさま確認して修正しますので!



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第20話 修羅場の終結

評価・お気に入り登録ともにありがとうございます!
私のやる気が補充されてゆく…ついでにハイテンション状態です。

そういえば、少しの間、日間ランキングで47位になっていたらしいです。どおりで数日前にAUが毎時間数十〜3桁ずつ増えていたのか…。お気に入りもすごく増えてましたし。

いやはや、ありがたい限りです。これからも、この作品をよろしくお願いします。

星のドラゴンクエストとスーパーライトのフレンドを募集中です。よろしければどうぞ。どちらもプレイヤー名はサンサソーです。

星のドラゴンクエスト
ARYSLG5776

スーパーライト
434680507

追記
今朝見て見たら日間29位!?
たまげたなぁ……。
まあ、午後には消えてましたけどね(泣)



4人で黙々とマンガを描き続け、はや9時過ぎになった。

 

あれだけ白紙や空きのあったマンガも、私とコガラシくん、そして羽良嶋さんの手伝いによってだいぶ進んでいる。

 

しかし、呑子さんが今描いている部分は少し難産気味なようで、呑子さんが難しい顔をしながら頭を抱えていた。

 

「んんん〜……」

「……?今度はどうしました呑子先生」

 

思わず出たのであろう唸り声に羽良嶋さんがすぐさま反応した。さすが、呑子さんの担当編集さんだ。些細な変化も見逃さない。

 

「絡みのシーンで詰まっちゃってぇ…アタシ、デッサン苦手なのよねぇ……」

「あ〜…主人公が肉食系男子に襲われるシーンですか」

「……?っ!?」

「少女マンガなのにそんなシーンがあるんすか!?」

「少女マンガだからこそですよ。過激なシーンの需要は高まる一方で……」

 

はえ〜……そういったモノは少年マンガとかの男性向けだけだと思ってたよ。最近は少女マンガもそっち側に進出してるんだなぁ。

 

「あ、そーだぁ!せっかくコガラシちゃんとアークちゃんがいるんだしぃ、資料写真撮らせてもらってもいーい?」

「資料写真すか?」

「いやいや、呑子さんが描くのは学園モノでしょう?私では歳を食いすぎですよ」

「いいえぇ?アークちゃんは中性的だし、生徒と恋仲の先生をしてもらおうかなぁって!」

「……おっとぉ?雲行きが一気に怪しくなったぞぅ?」

 

この嫌な予感は……あれだ。ロザリーたちに着せ替え人形にされた時と同じ…!

 

「さぁ、アークちゃんもコガラシちゃんも着替えてねぇ〜」

「これも今後の活動のため、お願いします!」

「まあ、俺はいいっすよ?」

「……はは、慣れって怖いよね。もはや何も感じないよ」

 

こうして、コガラシくんと私は2人によって着せ替え人形にされたのだった……。

 

 

 

 

 

 

「あの…呑子さん?今おいくつなんでしたっけ…?」

「ん〜?23よぉ?……何かぁ?」

「なんでもないっす!」

 

膨らむ制服、短めのスカート。極めつけは━━━

 

「はあい、コガラシちゃん!アタシのこと襲っちゃってどうぞぉ〜!」

「「いろいろ危ない!!!」」

 

絵面的にはかなりアレだよね。私?私は次に撮る番だよ。というか、これからその衣装に着替えるんだけどね。

 

ベランダに出て、なるべく姿勢を低くして着替え始める。まったく、なんでこの世界でもこんな事をせにゃならんのか……。

 

「コガラシちゃん!もっと腰を寄せて!」

「う、うす!」

 

部屋の中からパシャパシャと写真を撮る音がする。声からして、コガラシくん動揺しまくりだな?撮るシーンがシーンだから仕方ないけどね。

 

この後、同じようなことを私もやるのかぁ……ん?この衣装って……あっ。

 

「冬空くんに思い切りが足りない感じですかね…」

「そうねぇ……もっと襲われてる感が欲しいわねぇ〜。そうだ、コガラシちゃん!スカートの中に少し手を入れてみましょうか!」

「はぁ!?いや、さすがにそれは…!」

「ちょっともぉ、コガラシちゃんったらぁ。そんなに恥ずかしがらないでよぉ。こっちまでテレくさくなっちゃうじゃなぁい。あくまで、資料を撮るだけなんだからぁ!」

「っ!」

 

……そうだよな。これは呑子さんの仕事…ちゃんとやらねぇと!

なんて、真面目なコガラシくんは思ってるんだろうな。完全に2人の悪ノリMAXな行動なんだろうけど。

 

「…すんません、弛んでました!もう躊躇しないっす!」

「その意気よぉ!」

 

さて、問題は私が今手に持ってる衣装だな。いや、まだロザリーたちに着させられたものの方が過激だったりしたのだが。

 

「こ…こんな感じっすか!?」

「やんっ!そぉそぉ!いい感じよコガラシちゃん…!」

 

仕方ないな、諦めて着ようか。それにまだ化粧もあるし……はぁ、憂鬱だ。

 

パシャパシャパシャパシャパシャパシャ

 

……すごく連射してるな?

 

「そのままブラウスを引きちぎってぇ…ベッドに押し倒してぇ…!」

「呑子さん!」

「きゃん!」

 

ドサッという何かが倒れる音が聞こえた。まさかおっぱじめてないよな?さすがに呑子さん相手とはいえ……コガラシくんの精神力を信じるよ?

 

「ほら累ちゃん!あの辺とその辺から俯瞰でぇ!少し角度変えて数パターン!」

「承知ッ!!」

 

うん、大丈夫そうだな……さて、化粧も終わったしそろそろ出るかな。

 

「いやぁ冬空くんなかなかのスタイルですね。ついでに文化祭の女装シーンの資料も撮っちゃいましょうか!?」

「いいわねぇ!」

「はぁ!?」

 

……あれ、私のこと忘れてる?

 

「お二人ともー!そろそろ入っていいですかー!?」

「あ、ごめんなさいねぇアークちゃん!」

「すっかり忘れてました!どうぞー!」

 

襖を開け、3人の前に現れる私。どうだろう?ロザリーたちに教えられた通りに出来ているはずだが…。

 

「っ……」

「こ、これは…!?」

「あらぁ……」

 

三者三様。コガラシくんは顔を赤く染め、羽良嶋さんは顔を手で覆いながら指の隙間から目を覗かせ、呑子さんは驚いたあとものすごくいい笑顔になった。

 

さて、今の私の姿を説明しよう。

 

ハリのある白いTシャツに、黒いウエストリボンのついた黒パンツという簡単なものだ。しかし、勿論これは女性物の訳で。必然的に化粧も女性のやり方になった。

 

口紅ではなく柔らかいリップを使い、水分を含んだぷっくりとした唇。長い黄金の髪はポニーテールでまとめられ、顔や首周りもスッキリしている。切れ味のある目も化粧用マジックなどで柔らかく広く見せ、まつ毛は程々な長さにする。あくまで先生としてなので粉はあまりふっていない。

 

すると、どうだろう?清潔感のある美人外国人教師の出来上がりだ。

 

「いいじゃなぁ〜い!早速撮っちゃいましょうかぁ!」

「冬空くん!こっちに来てこの辺りに立ってください!アークさんと対面する形で!」

「っハ!?え、アークさん……本当に!?」

 

魔族はだいたい美形だからね。ピサロもしょっちゅうロザリーに着替えさせられていたし……女装しているのにもう慣れたからか嫌な気持ちが出てこないなぁ……。

 

ちなみに化粧品などは異空間から取り出したものだ。入れたはずはないのに、いつの間にか入っていたものだが……付いている魔力の残滓からして十中八九ロザリーだな。どうやったんだ?

 

「さて、まずは何から行こうかしら!」

「ここまで素体が良いと撮りがいがあります…!」

「やべぇ……アークさんは男、アークさんは男なんだドキドキすんじゃねぇよ俺…!」

「ん〜…この姿をマンガの資料にされるのか……もうなんでも良くなってきた…」

 

写真撮影の後半戦……いや、中盤にやっと差し掛かったところか。つまり、まだまだ撮影会は続くってことだ……。

 

 

 

 

 

 

ボーン、ボーン……

 

「あら、もぉテッペン?」

「原稿進んでないんですけどぉぉ!!」

「「…………」」

 

まあ、こうなる事は容易に予想出来たよね……にしても疲れた。まだマンガを描く仕事もあるのに、体力を使い果たした気がする。

 

 

 

しばらくマンガを描き続け、外が少しずつ明るみ始めた頃。

 

「コーヒーお待たせしました。コガラシくんは熱いお茶ね」

「どうもぉ〜」

「すんませんアークさん」

 

寝落ちしてしまった羽良嶋さんに毛布をかけ、また画面へと向かう。コガラシくんは休憩中で、棚に寄りかかりながらお茶を啜っていた。

 

「羽良嶋さん、起こさなくていいんすか?」

「累ちゃんは原稿上がってからが本業だもの。おかげさまでなんとか間に合いそうだしぃ」

「よかったっす。一時はどうなることかと……」

「撮影会が長引かなければ今頃は終わっていましたがね」

「うわ〜ん!アークちゃんがいじめるわぁ〜!」

「羽良嶋さんが起きちゃいますよ。まったく……」

 

しかしよほど眠かったようで、羽良嶋さんは少し身じろぎをしてまた寝息をたてた。この後に本業が控えているとなると、今のうちに寝させていた方が遥かに良いだろう。

 

「…呑子さん、ガチで好きなんすね。この仕事」

「…どうかしらねぇ?実はアタシも昔、さぎっちゃんみたく妖怪退治とかやっててぇ……その時のアタシはいい子だったから、言いつけ通り妖怪との戦いを頑張ってたんだけどぉ…ちょっとヘマして大怪我した時思ったの。『あぁ、アタシの人生はなんにもしないまま終わるのかぁ』ってね」

 

……呑子さんもかなりキツい過去を持っていたのか。

 

「その反動なのかしらねぇ。やりたいコト片っ端からやらなきゃ気が済まなくなっちゃって…色々やってるうちにこの仕事に落ち着いたワケ。でも……それって結局、戦いから逃げただけなのかもしれないけどねぇ」

「……いやぁ、そんなことはないんじゃないすかね?」

「え?」

「だって呑子さん、妖怪退治のためにも我慢できるんすか?お酒」

「っ!ふふっ、できそうにないわねぇ。〆切まであと2時間!原稿明けたら温泉入って飲むわよぉ〜!!」

「ウス!」

「………お静かにね?」

「「っ、はい……」」

 

いい雰囲気だったが、それで羽良嶋さんを起こしちゃまずいでしょ。まったくもう……。

 

 

 

 

 

すっかり日が昇り、鳥のさえずりが聞こえ始めた頃。

 

私たちは必死に描き続け、遂に原稿を完成させた。やりきったぜ…!

 

「玉稿賜りましたー!では、私はこれにて!今月もお疲れ様でしたー!」

「頑張ってくださいね〜」

「お…終わった……」

「おつかれさまぁ〜アークちゃんコガラシちゃん……」

 

呑子さんとコガラシくんはぐったりと机に突っ伏している。数時間ぶっとおしで描き続ければこうなるだろうね。私かい?魔界の仕事による慣れと めざめのはり で乗りきったよ。

 

こうして原稿は終わった……が、まだ私たちには試練が待っている。そう━━━

 

「それじゃあ、飲むわよぉ〜!!」

 

大酒飲み(呑子さん)との祝杯という試練が…!

(なお、試練はコガラシくんにだけ指す模様)

 

 

 

 




アンケート作りました!
内容は、次の番外編で誰が戦うかです。

ドラクエ5のラスボスVS裏ボス、覚醒した邪神VS全能の龍神、ドラクエ4のラスボスVS裏ボスという超豪華メンバーです。

アンケートの1つ目と3つ目の戦いでも、星のドラゴンクエストやバトルロードなどの技などを出すと思います。

期限は今週の日曜日まで!皆さん回答よろしくお願いします!


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第21話 英雄の火酒

.
ちょっと頑張って2話投稿。
ふぃ……ちょいと疲れました。



「かんぱぁ〜い!!」

 

カァン!と、缶ビール2本とゴツヤ・サイダーの缶が鳴らされる。

 

私とコガラシくんが口をつけるよりも先に、呑子さんはすぐさまビールを口に運びグッビグッビと美味しそうに飲んでいった。

 

「〜〜〜っぷはぁぁあ!!原稿明けの一杯…これぞ至福ぅ!」

 

拳をグッと握り、缶を高々と掲げながら呑子さんは涙を流した。よっぽど禁酒が堪えたんだろうなぁ。

 

「人生の意義悟っちゃうぅぅ!!」

「いやいや今から飲むんすか!?俺寝たいんですけど!」

「ならなんで缶を鳴らしてしまうんだい…しかもきっちり開けてるし。開けたならちゃんと飲みなさい」

「あ……うす。ゴッゴッ……ぷはぁっ」

「いい飲みっぷりねぇ〜!アタシもまだまだ行くわよぉ〜!!」

 

いつの間に1本飲みきったのか、2本目の缶を開ける呑子さん。私も疲れが溜まっていたからか、かなり勢いよくビールを呷ってしまった。

皆はこんな事しないようにね?アルコール中毒起こすかもだから。

 

「う〜ん、アークちゃ〜ん!一緒に飲むお酒は美味し〜わねぇ〜!」

「そういえば、呑子さんはいつも一人で飲んでましたもんね」

「そうなのよぉ〜…みんなお酒が飲めないしぃ、中居さんはあまり好きじゃないらし〜しぃ……でも、アークちゃんがいるからもう大丈夫ねぇ〜!!」

「ゴッゴッ……ふぅ。眠いし、俺はもう寝ますね…」

 

私の注意を聞いてくれたのか、開けた缶を空にすると立ち上がるコガラシくん。欠伸をしながら自室へと……自室へと…。

 

ガシッ

 

行けない。呑子さんがコガラシくんの服の裾を掴み、意地でも行かせんとコガラシくんを引き止めていた。

 

「ちょっ!?呑子さん、俺もう寝たいんすけど!」

「いいじゃないのよぉ〜!アタシ、頑張ったでしょお?一緒に打ち上げしましょうよぉ〜!」

「ちょ…もう酔っ払ってんすか!?勘弁してください!」

「うんって言わなきゃ離してあげなぁ〜い」

 

コガラシくんの首に腕を回す呑子さん。そのままコガラシくんは引き寄せられ、豊満な呑子さんの胸に収まってしまった……おおう!?

 

「むぐっ!?わ…わかりました!わかりましたから離してください!」

「いやいやいや、呑子さん!離してあげてください!」

 

無理矢理コガラシくんを呑子さんから引き剥がす。息ができずにいたコガラシくんは荒く呼吸を繰り返し必死に酸素を取り入れ始めた。

 

「ぜぇ…ゲホッ!はぁ…はぁ…死ぬかと思った…アークさん、いつもサンキュっす……」

「礼には及ばないよ……呑子さん?」

「だ…だってぇ……一緒に打ち上げしたかったんだものぉ…」

「でも無理強いは良くないですよ。コガラシくんもまだ高校生なのに、早朝まで付き合わせておいて寝かせないのは体がもちませんよ。私が付き合いますから、少し落ち着きましょう?」

「むぅ……はぁ〜い」

 

コガラシくんは私にお礼を言いながら、今度こそ自室へと戻っていった。

 

「さて、今回はお疲れ様でした呑子さん。原稿が間に合って良かったですね」

「アークちゃんとコガラシちゃんのおかげよぉ!今回はホントにピンチだったけどぉ、2人のおかげでなんとか間に合ったわぁ……ありがとね、アークちゃん」

「私よりもコガラシくんの方がよくやってくれましたよ。写真もコガラシくんが1番取られてましたし」

「それでもよぉ……こういう時は累ちゃんがいつも手伝ってくれるけど、アークちゃんとコガラシちゃんがいなかったら今回は無理だったわぁ」

「お役に立てたなら良かったですよ……はい、呑子さん。新しいビール缶です」

「あら、もう空っぽぉ?ありがとねアークちゃん」

 

互いに労いながらビールを飲んでいく。私は帝王様ボディによりこれぐらいじゃ酔えないな……あっ、そうだ。

 

「呑子さんはたしか…鬼殺しを飲んでましたよね。強いお酒もイケる口ですか?」

「そうねぇ……お酒ならなんでも好きよぉ!鬼殺しみたいな強いお酒があるのぉ?」

「なんなら、鬼殺し以上の強いお酒がね。味もいいですし、どうです?」

「なら貰おうかしらぁ!ワクワクするわねぇ」

「わかりました。少し待っていてください……あ、グラスとか入れ物を用意しておいて下さい」

「はぁ〜い」

 

自室に戻り、異空間から1つの酒壺を取り出す。その酒壺には墨で、竜と大きく描かれていた。

 

酒壺を持ちながら、呑子さんの部屋へと戻ると、ちょうど2人分のお猪口を準備し終わったところだった。

 

「お猪口ですか。これから出すお酒には良さそうですね」

「良かったわぁ。強いお酒らしいから、これがいいかなぁって」

「ありがとうございます。それでは、注ぎましょうか」

 

酒壺からお猪口にお酒を流し込む。そして、一緒にその酒を呷った。

 

「はぁ……これは美味し…!?」

「あ〜…これは……」

「〜〜っ!?」

 

かなり辛口……というか、強すぎるお酒だ。鬼とはいえ、これはキツかったか。

 

「あ、アークちゃん?これは、なんのお酒なのぉ?」

「これは『竜の火酒』と言いまして、空の英雄と言われた光の竜が好物としたと伝えられるお酒です。一口で全身に酔いが回るほどの強いお酒で……まあ、竜が好むほどですから相当な物です。味はかなりのものでしょう?」

「そ、そうねぇ……味はとても良かったけれど、強すぎるわぁ」

「なら下げますか?」

「いいえぇ、こんなに美味しいお酒、飲まないなんてもったいないわぁ!」

 

再び竜の火酒を呷る呑子さん。今度はのたうち回るほどではなかったが、これまた酷い顔になってしまった。しかし、最終的には幸せそうな顔へと変化している。

 

「あれねぇ……このお酒には天国と地獄が詰まってるわぁ」

「私にはちょうどいいというか少し物足りないぐらいですけどね……うん、美味しい」

 

これを売ろうとしていたあの里の民はおバカなのではないか?竜のために作られた酒、こんなのを普通の人間が飲むと喉が焼けてしまいそうだ。

 

「このお酒、アークちゃんはどうやって手に入れたの?」

「あ〜……それはナイショで。皆さんが気になっている私の正体、それを明かした後であれば教えますよ」

「ん〜……残念ねぇ。まぁ今はこのお酒を楽しもうかしらぁ」

 

常人であれば二口飲めば倒れてしまうというのに、呑子さんは次々と飲んでは悶絶する。

 

これが鬼の特性か。たしか、酒気を霊力に変換しているんだっけか。

 

「はぁ。いい感じに火照って来たわぁ……よぉ〜し、それじゃ朝風呂といきますかぁ!」

「……っ!!!?」

 

呑子さんが突然、帯を掴み裸になった。そして別の手を私の帯に……。

 

「いや、やらせねぇよ!?」

「あらぁ、アークちゃんも一緒に入りましょ〜よぉ」

「入りません!というか、ここで脱がないでください!」

「んもぉ〜…」

 

渋々といった様子で呑子さんは浴衣を着てくれた。

 

「はぁ……まあ、今度また飲む約束をしますよ。それでいいですか?」

「……わかったわぁ。次は、その……竜の火酒も飲めるようになっておくからぁ」

「ええ。また一緒に飲みましょう」

 

ここで、打ち上げはお開きになった。いずれ、コガラシくんや羽良嶋さんともこういった打ち上げをするかもなぁ。

 

期待と一種の予感を抱きながら、私は自室の布団に潜り込んだのだった。

 

 




今日、番外編2を投稿しましたが、どうでしたでしょうか?

番外編2にアンケートを作りましたので、そちらに投票か感想を頂けると嬉しいです。

よろしければ、お気に入り登録・評価もよろしくお願いします。私のエネルギー補給になります故に。


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第22話 コガラシくん危機一発!

今回は超難産です。

どこまでお色気シーンを書こうか悩みました。

こういったシーンは慎重に扱わないと色々と怖いので……:( ;˙꒳˙;):



まだ鳥のさえずりが聞こえる朝。

 

私は朝食を作り始めていた。今日のメニューはお味噌汁と卵焼きやウインナーなどの軽いものだ。足りなければ白米と味噌汁でカバーしよう。

 

1ミリのズレも許さないスピーディーかつセーフティーな包丁さばき。

火が通り過ぎないように火力と鍋の状態をつぶさに観察し、丁度良いタイミングで高速手首ひねり。

 

つまみから変な音がした気がするが、まあ良しとしよう!

 

さて、後は盛り付けて……そういえば、お風呂に入ってからみんな食べると言っていたな。

 

仕方がない、適度に温めつつ鮮度を保つ呪文でもかけておこう。

 

「こゆずさ〜ん?」

「こゆずさーん!どこですか〜!?」

 

おや、仲居さんと幽奈さんの声が。

 

「あ、アークさん!こゆずさんを見かけませんでしたか!」

「こゆずちゃんですか?私は見ていませんが…どうかしたんですか?」

「こゆずさんが部屋から姿を消していまして…まだ眠そうにフラフラしていたので心配で…!」

「なるほど……ちょうど支度も出来ましたし、私も探しますよ」

「ありがとうございますアークさん!」

「中居さん、次はお風呂場に行ってみましょう!」

「ええ、アークさんは玄関近くをお願いします!」

「わかりました」

 

仲居さんと幽奈さんは駆け足で行ってしまった。さて、私も探すとしますか……玄関から外に出ていたらどうしよう?

 

「こゆずちゃん?どこにいるんだ〜?」

 

声を辺りに投げかけてみるも、返事は無い。まさか、本当に外に出てしまったのでは?一度玄関の外に出てみようかな。

 

「う?アーク」

「おや、夜々さん。こゆずちゃんが行方不明なんだけど、どこにいるか知っていたりしないかな?」

「こゆず……う!さっきお風呂の方に行くのを見たの」

「そうか……なら、中居さんと幽奈さんがもう見つけている頃かな。ありがとう夜々さん。夜々さんの朝食は大盛りにしておくよ」

「う!楽しみなの!」

 

再びゆらぎ荘の中に入り、お風呂場へと向かう。まったく、眠気まなこのままどこかに行ってしまうとは……というか、なぜお風呂に行ったんだろう。

 

…………?

 

おや?ゆらぎ荘周辺の気配が……5つ?

これは…コガラシくんがいないぞ。さっきまで確かに気配を感じていたというのに。

 

「コガラシくん…どこかに出かけたのか?いや、出かけたのならば玄関にいた私と出会うはず」

 

どんどん心配事が増えていく。さて、コガラシくんはどこだ?

 

「最後に感じたのは……風呂場か」

 

どうしてお風呂に関して問題が起こるのか。なにか特殊な呪いか何かでもかかってるんじゃなかろうか。

 

と、お風呂に着いた……何かが擦れる音だ。これはスポンジかな。なら、中に誰かがいるということか…うーん、中を調べたいのだが。

 

「すみませーん!中に誰かいますか〜?」

「アークさん?私です〜!幽奈がいます!」

「幽奈さんか。コガラシくんがいなくなったんだが、どこにいるか分かるかい?」

「コガラシさん……こゆずさんを見つけた時には既にいませんでしたよ!」

「そうか……わかりました!ありがとうございます!」

「いえいえ〜」

 

幽奈さんが中にいるということは、コガラシくんは風呂場以外のどこかに……。

 

「あらぁ、おはようアークちゃん!」

「おはようございますアークさん」

「う。アーク、何してるの?」

「おや皆さん。コガラシくんがいないので探しているんですよ。皆さんは知ってますか?」

「う〜ん…知らないわぁ。ごめんなさいねぇ」

「私も知りません」

「わからないの」

 

皆さんも知らないか……どうしたものか。

 

「また別の場所に行こうと思います。ではまた」

「はぁ〜い。じゃ、入りましょ〜」

「ええ」

「う」

 

3人は扉の奥に消えていった。さて…コガラシくんはどこに行ったんだ?

 

う〜む…やはり気配を感じないとなると外に出たのかな……ふむ、霊力の方を探知してみるか。コガラシくんほどの強い霊力ならすぐに……んん?

 

これは……お風呂?

 

え?覗きかいコガラシくん?いや、何故かわからないが分散しているな。まるで細かく分裂しているかのような……まさか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あらぁ、おはよう幽奈ちゃん!」

「おはよう幽奈」

「おは」

「呑子さん!狭霧さん!夜々さん!おはようございます〜!」

『おわああああ!?』

 

まさか、俺がボディーソープ(・・・・・・・)になっちまってる時にみんな来ちまうなんて!?

 

『おっ…おいみんな!やめろ!俺がいるんだ!!誰も俺の声聞こえないのか!?頼む!誰か…!』

 

ボディーソープとなった俺は、みんなの身体に張り付き、流れる。柔らかい胸や臀部などの感触は俺の理性を容赦なく削っていった。

 

『す…すまねぇ。女の子の…みんなの身体中を、こんな…こんな風に…俺…!!』

 

と、夜々がプカプカ浮かぶ泡に気がついた。まるで猫のように姿勢を低くし、ジャンプ。泡を割り夜々が落ちたのは、狭霧と呑子さんの上だった。

 

「う!?」

「あらぁ?」

「なっ!?」

 

夜々が2人に倒れ込むと同時に、柔らかいものに挟まれる感触が俺を襲った。

 

『ああ…挟まれて……ああもう、もみくちゃ祭りじゃあああい!!』

 

この時は、流石の俺も何かが崩壊した。

 

 

 

「こうして皆で入るのも久方ぶりだな」

「どうせなら全員揃ってみたいです〜」

「そうねぇ、後は中居さんとこゆずちゃんと……コガラシちゃんとアークちゃんがいればねぇ」

「な…彼らは男ですよ!?」

「それなんですけど、水着を着たらどうでしょう?」

 

アークさんはともかく、俺はもういるんだなぁコレが…!さっきはガチでやばかったぜ…。

 

気合い入れたり元の姿を強くイメージしてみたり…思いつく限りやってみたが変化はさっぱり解けやしねぇ。

修行でちったぁ強くなった気がしてたんだが、拳を振るえねーとなるとこんなにも無力になっちまうんだなぁ俺は…。

 

こんなことになるんなら、もうちっと術の方もやっときゃよかったぜ……っ!?

 

この喪失感は…!?流れて行った泡の感覚が途切れた……拡散しすぎたせいか!?もしソープを使い切られたら…俺の意識はどうなっちまうんだ!?

 

…………クソッ。

 

誰にも気づいてもらえねぇし、俺…このままずっと人間に戻れず、孤独なボディーソープとして消えていくのかよ…!

 

『誰か……誰か俺に気づいてくれよ……』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ああ、やっと見つけたよコガラシくん」

 

俺を包む暖かい感触。見上げると、アークさんが微笑みながら、俺を持ち上げていた。

 

 




原作を改めて見返しても、この場面は本当にゾッとします。ごめんねコガラシくん。

というか、一番コガラシくんがヒロインしてません?
やっぱり原作主人公ゆえ、こういう境遇に陥ってしまうのが多いから、こんな展開にはなりやすいんですよねぇ…。


期末試験が迫っておりまして、また1、2週間空いてしまうと思います。すみません……あれ?もしかしていつも通りでは?

終わり次第また投稿を続けていこうと思います。
もしかしたら、我慢できなくなったら書くかもしれませんね。


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第23話 温かい温泉とコガラシくん

更新遅れてしまいすみません。

無事テストは終わりましたが、ネタ集めのためにドラクエのアプリをプレイしていたところ、DQMSLが何故か起動することができず、使用していない連携のパスワードすらも何故か無効になるということが起きました。

かなり時間を費やしていたので、完全に心が折れ、傷心からドラクエの小説であるこの作品から目を逸らしていました。

なんとか心を持ち直したので、また投稿していきます。

フレンド申請をしてくれた方、特にチームにまで誘ってくださったMEI(Acg)さん、本当にすみません。



「まさかお風呂場に、しかもボディーソープになっているなんて思いもしなかったからね。見つけ出すのに少し時間がかかってしまったよ」

『ァ、アークさんんん!!!!』

 

コガラシくんの力が荒ぶっている。何か激しい感情に襲われているようだね。

 

「あ〜…ごめんね。コガラシくんだとはわかっているんだけど、流石に心を読むとかはできないんだ」

『そ…そうなんすか。でも、気づいてもらえただけでも…本当に…本当に!』

「まあ積もる話はあるだろうけど、まずはここから離れようか」

『うす!……あれ!?そういや皆が入って……』

 

む?少々コガラシくんが焦ったような気配…ああ、みんなのことかな?

 

「先に説明しておくと、私はいま姿を消す ステルス というじゅも…術と、気配を消す レムオル という術を使用している。まりょ……霊力を流し込んだことでコガラシくんもみんなに気付かれないはずだ」

『そうなんすか!便利な術を知ってるんすねぇ』

「さて、早めに出てしまおう。この術には時間制限があるからね……長くいすぎると術が解けてしまう」

『了解っす!』

 

私はコガラシくんを持ちながら外と隔てている柵へと歩みを進めた。わざわざ外履きにしていたせいで少し床が汚れてしまっているな、反省。

 

『……あれ?なんで柵の方に…』

「コガラシくんが考えていることは気配でわかりやすいなぁ。少しはそのあたりの技術も磨いておかないと、そういったことに敏感な相手とでくわしたら苦戦するよ?」

『え……俺の考えていることがわかるんすか!?』

「なんとなくだけどね。表情と態度、気配や魂はその人の心をよく映すから」

『へー……ん?魂…?』

 

おっと、ちょっと変なことを言ってしまったかな。とりあえず話を戻して誤魔化すか。

 

「さて、なんで柵に向かっているかだが、まあ簡単なことさ。突然誰もいないのに扉が開いたらおかしいだろう?そっと行っても、狭霧さん辺りは騙せる気がしない」

『あーたしかに。狭霧のヤツ、細かい所まで気を回すから気づきそうっすね』

「そうだね。さあ、乗り越えようか」

 

柵に手をかけたその時、風呂場の扉が開き仲居さんが入ってきた。

 

「皆さんお湯加減いかがですか〜?」

「仲居さん!こゆずちゃんは大丈夫でした?」

「ええ。すぐにまた寝てしまいましたよ〜」

 

「あらら、寝てしまったのか。なら、コガラシくんを元に戻す方法も探っておかないと…」

『え、いや大丈夫っすよ!こゆずが起きたら解いてもらえば……』

「そうはいかないよ。確かにそれでもいいかもだが、せっかくの休みを潰して欲しくはないからね」

『アークさん…!』

 

「仲居さぁん!今日もお風呂ピカピカよぉ。いつもお掃除ありがとぉ〜」

「いえ!今日はコガラシくんがしてくれたんですよ。食費の減額の代わりに時々手伝ってもらってるんです」

「あら、そうだったのぉ!」

 

「へぇ、コガラシくんはそこまで切羽詰まっているのかい?なんならお小遣いあげようか」

『いやいや、いいっすよ!もう高校生ですし、バイトとか行ってますから!』

 

そういえば、コガラシくんはバイトをかけ持ちして働きまくっていたな……それでも食費を払えないってことは、何か事情があるのかな?……これ以上踏み込むのは野暮か。

 

「コガラシくん…いい方ですよね。素直で、一生懸命で、ちょっとぶっきらぼうなところもありますけど、彼の仕事には誠意が感じられるんです。そんな彼だから、皆さんとも仲良くなれたんでしょうね」

「わ…私は特に仲良くなったわけでは……でもまあ、悪い男ではなさそうですね」

「はい!コガラシさんにはいつもよくしてもらってます〜!」

「夜々も嫌いじゃない。ご飯美味しいし」

「かわいいアシちゃんゲットできて大助かりよぉ〜」

 

『っ!!!』

「コガラシくん。気持ちはわかるが、今は我慢だ。キミの強い気持ちで霊力がこゆずちゃんの術を強引に解くなんてことにでもなったら、それこそマズイぞ。ここは耐えるんだ」

『っ……うす』

 

霊力を荒ぶらせるコガラシくんをなんとかなだめて柵を登っていく。その間にもみんなの話は進んでいった。

 

「ふふ。はじめは男性の方で…しかも霊能力者ということで、どうなることかと少々心配していましたが……コガラシくんみたいな方でよかったですね、皆さん」

「…ええ」

「はい!」

「う」

「そうねぇ」

 

『……俺だって嫌いじゃねーよ……みんなのこと少しずつわかってきたとこなんだよ……!やっぱ俺、ゆらぎ荘のボディーソープとして生きるのは、そんなの御免だ!』

「……任せなさい。みんなも協力してくれるはずだよ」

『うす!……俺はこれからも、冬空コガラシとして…!!』

 

 

 

 

 

「んん……はれ?なんらかはふだじゅつをつかってゆかわんじがすゆ…。ん〜…またねぼけてつかっひゃったのかな……といとこ」

 

 

 

 

 

「なっ!?」

『へっ!?』

 

突然コガラシくんが輝き始めた。輝きは強くなり続け、一際大きく光ると爆発が起こる。

 

ぼうんっ!

 

「ぐっ!……あっ」

「お、おおっ!?」

 

急に元に戻ったコガラシくんが私の手から離れ、床へと落ちた。煙が晴れ始め、全員の視線がコガラシくんへと向く。

 

「ああ、私の術の効果が及ばない範囲に……」

「も…戻れた!?元に戻れたのか俺…!?」

「……っ!?こ…コガラシくん!?」

「あ、仲居さん!そうっす!冬空コガラシっす!うれしいっす!俺ちゃんと……」

「コガラシさん!?」

 

ああ、ここが風呂場ということも忘れて、お風呂に入りに外に出てきた仲居さんの肩を掴んで詰め寄っている。傍から見たら完全に事案ですねはい。

 

まあ、そんなことをすればみんなも自然とコガラシくんがいることに気づくわけで……。

 

「冬空コガラシ、貴様またしても━━ッッ!」

「おお狭霧!俺がわかるんだな!?」

「は…?貴様何を…!?」

「コガラシちゃんたら、案外大胆なんだからぁ」

「なっ何か事情があるんですよねコガラシさん!?」

「コガラシ…一緒に入る?」

「みんなも…!よかった…俺…俺は本当に…!俺は元に戻ったぞぉぉぉ!!」

「とっとにかく一旦出てくれませんかコガラシくん!」

「天誅ッ!!」

「ギャーッ!?」

 

ああもう、めちゃくちゃだよ……とりあえず私は戻ろうかな。ご飯を温め直してみんなが上がるのを待つか。

 

「……あれ?アークさん!?」

「は…?」

 

あれ、仲居さんにバレてる。あっ!まさかもう呪文の効果がきれたのか!?そんなバカな!?

 

 

 

結局、この後コガラシくんと共に事情を説明してなんとか理解してもらうことが出来た。その際に狭霧さんからクナイを飛ばされたが……かんがえてみれば狭霧さんに攻撃されたのは初めての体験だったな。

 

思わぬ波乱がありつつも、みんなの絆がより一層高まったのだった。

 

 




今回は会話多めでしたね。口調や性格が頭から抜けていたり、書く技術が完全に訛ってます…リハビリで他の作品の方も更新していこうかな…。

本当に更新が遅れてしまいすみませんでした。
また最低週一間隔で投稿していきます。

DQMSLはまた1からやっていきます……。


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第24話 龍神様の神隠し

投稿が遅れてしまい大変申し訳ありません。

活動報告にも書いたとおり、夏休みの課題と受験勉強であまり手がつけられていませんでした。
眠い…キツい……。

これからは休憩がてら各作品を投稿していきますので、たまに確認に来てくださると嬉しいです。
何かしらある時は活動報告を出しますので、そちらをたまにでいいので確認して、今後の投稿について把握してくだされば幸いです。


湯煙温泉郷。

 

数々の名湯を揃えるこの場所には、多種多様な客が足を運ぶ。

老若男女問わず観光客が押し寄せる故に、妖の類もまた集まりやすいのだ。

 

ある日のこと、そんな温泉郷に2人の珍客が訪れていた。

 

「あの〜すみません。写真撮ってもらっていいですか?」

「っ!おおう……これが噂に聞く逆ナン(・・・)というものか」

「はい?」

 

2人の若い女性が、橋から見える川と木々を背景に写真を撮ろうとした。

しかし、やはり自撮りよりも誰かが撮ってくれた方が良い写真になるため、通りすがりの着物を着た色の濃い男性に頼んだのだが……男の様子がおかしい。

 

「あの、私たちただ写真を……」

「よいよい!皆まで言うな。おぬしらの気持ちしっかと受け取った!故に……二人とも、余の側室に加えてやろうぞ!!」

「きゃあ!?」

「ちょっ、離して…!」

 

突然大声を上げたかと思えば、男は女性2人を肩に担ぎあげた。暴れる女性たちを片手のみで抑え、いざ歩きだそうとしたところへ……背後から鋭い手刀が男の頭に振り下ろされた。

 

「おやめください」

「ゴブフゥッ!?」

 

あまりの痛さに、頭を抑えるため男は女性たちを手放した。女性たちは駆け足で逃げ出し、しかし痛みでそれどころではない男は抗議の目線を狼藉者へと向けた。

 

「おおう…痛いではないか朧!」

「みっともない真似はおやめくださいませ。玄士郎さま」

 

そこにいたのは白髪の少年とも少女とも見える風貌。玄士郎と呼ばれた男の従者であった。

 

「それに、あの者たちは見たところ極めて平凡。玄士郎さまの妻には相応しくありません」

「むぅ…そうは言っても、いくらもおるものではなかろう。霊力の強い美女など…!」

 

そう、彼らが来たのは玄士郎の嫁に値する女性を探すため。そのために数々の観光客が訪れる湯煙温泉郷へと現れたのだ。

 

「しかし、そうでなくては玄士郎さまの妻とは認められないでしょう。さあ、温泉を楽しみつつ気長に探しましょう」

「うむぅ…そうだな。余の妻となりうる者を探さねば…!」

 

2人は温泉郷の奥へと進んでいく。この場所には求めている女性の条件に合う者が多くいることを、彼らはまだ知らない。

 

 

 

 

 

 

 

そして、2人を上空から見定めていた存在がいた事も、彼らは知らない。

 

「あれが黒龍神とやらか……人間に混じって呑気に観光とは、程度が知れる」

「どうしますか。私たちが動くならば、何かの動乱に乗りたいところですが…」

「あまり目立つことなく、力を集めなければなりませんから。しかし、そう簡単にいくかどうか」

「うむ……騒ぎが起これば動く。何も起こらなければこちらから仕掛ければよい。行くぞ、ここにはヤツがいる。発見されてはこの上なく面倒だ」

「「ははっ!」」

 

3つの影は空間に溶け込み姿を消した。そのいく先は誰にもわからない。

 

 

 

 

 

 

「イヤアアアア!!」

「キョウモダメダッター!」

 

い つ も の。

毎回思うが、なぜ私の結界を突き抜けてくるんだ。たまにでもいいから普通に起きてくれ……。

 

支度をして、居間へと下りる。そこには少し眠たげなこゆずちゃんがいた。

「おはようこゆずちゃん。他の皆は?」

「…………あ、おはようアークさん!皆はもうご飯を食べたよ!お部屋にもどっちゃった」

「そうかい」

 

そこへ、コガラシくんと幽奈さんが襖を開けて入ってきた。コガラシくんはいつもの学ランだが、まだ髪が湿っているあたり苦労がうかがえる。

 

「お、おはようっすアークさん、こゆず」

「お二人ともおはようございます〜!」

「おはよう2人とも」

「おはようコガラシくん!幽奈ちゃん!」

 

2人の分も食事を運び、みんなで食べ始める。暖かな食卓……数万年もの時があると、なんど味わっても感動してしまう…。

 

「ふぇ〜……それにしても、コガラシくん毎朝大変だね〜」

「ああ、着替えや髪乾かしたり大変だ」

「コガラシくんはその辺りの男子よりも髪を伸ばしてるから、被害は大きそうだね」

「でも毎朝同じ朝日で目が覚めるって……まるで夫婦みたいで憧れちゃうな〜」

「毎朝川へ突き落とす嫁がいてたまるか」

「いつもすみません…!!」

 

涙を流しながら目以外で笑顔を作るという器用な技を披露する幽奈さん。コガラシくんは目のあたりに黒い影ができて表情がわかりにくいが、怒っていることはわかる。

 

「でも、お嫁さんに憧れる気持ちはわかります〜!幽霊のわたしには無縁の話ですけど…」

「いや、そうとは言えないんじゃないかな?」

「へ…?どういうことですかアークさん?」

「外国には冥婚というものがあってね。死者と生者の結婚なのだけど、死者への弔いと慰め、生者の想いを死者へ捧げることが目的なんだ。それに幽奈さんは悪霊にもなっていない、理性ある魂を持っている。魂を交わらせ子を作ることも可能だ」

「そ、そうなんですか!?」

「へ〜!アークさん物知りだな」

 

ふふふ、まあ頼ってくれたまえよ。

おっと、話が長くなったな。そろそろ部屋に戻って仕事の続きをするか。

 

「ごちそうさまでした。それじゃあ、私は部屋に戻るよ。何かあったら訪ねてくるといい」

「わかりました〜!さ、こゆずさん。私たちも食べ終えてお使いに行きましょう!」

「うん!」

 

私は食器を片付け、部屋に戻ると魔界の資料を手に取った。そろそろ、あの者たち(・・・・・)も揃うか。

斥候もこの星はだいたい調べ終えたようだし、他の星にも行かせるべきか……いや、何か見落としがあるとマズイ。もうしばらくしっかりと調べさせるか。

 

 

 

 

 

 

 

アークが資料とにらめっこをしている頃、幽奈とこゆずはおかしな男に絡まれていた。

 

「そこの娘!余の名は龍雅玄士郎。オヌシ…名は何と申す?」

「ふぇ?えと…」

「こゆずさん!知らない人には…!」

「あ…そっか!逃げないと!」

「余を不審者扱いとな!?オヌシに聞いておるのだ人間霊の娘よ!」

 

男に指をさされたことに、幽奈はひどく驚いた。既に死んでいる自分を見ることができる、しかも人間の娘としてちゃんと認識できる人はかなり少数なのだ。

 

「すっすみません、わたしでしたか!わたしはゆらぎ荘の地縛霊、湯ノ花幽奈と申します!」

「ほう…幽奈と申すか。良い名だ……っ?」

 

いつものように迫ろうとした玄士郎だが、踏みとどまった。今すぐにでもこの娘を城へと連れ帰る。その思想に頭が占領されほかのことが考えられなくなってしまったのだ。

 

「……どうだ朧」

「…?ふむ、霊力も中々。悪くないですね」

「……では幽奈よ。オヌシを余の妻に娶ろう」

「…………妻!?きゃっ!」

 

朧は玄士郎の変化に少々訝しみながらも、幽奈を認めた。許可を得た玄士郎は、さっそく無表情のまま幽奈を抱き上げた。

 

「な、離してくださぁぁぁいっ!!」

 

幽奈のポルターガイストが発動する。しかし、玄士郎は吹き飛ばされるどころか髪を揺らした程度の影響しか受けなかった。

 

「えっ!?ポルターガイストが…!」

「当然だ。我が殿、玄士郎さまは、信濃は龍雅湖を統べる神霊、黒龍神であらせられるのだから」

「龍…神…!?」

「帰るぞ朧」

「はっ!」

「ゆっ幽奈ちゃん!」

 

朧が宙へ手刀を振るうと、黒い渦が現れた。こゆずが止める暇もなく玄士郎と朧は渦へと入り込み、渦が消え去る。

後に残ったのは、唖然とした表情のまま固まったこゆずだけだった。

 

 




アンケート投票ありがとうございました。

次の番外編は凶帝王エスタークvs大魔王マデュラージャに決まりました!
DQMJ3の隠しボスとDQMJ3Pの裏ボスの対決。面白く読めるよう努力いたします。


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第25話 コガラシ始動

新しくスーパーライトを始めたので、またフレンド募集。始めて1週間程度だけど、無課金なりにかなり進めました。
サポートは5枠全部埋めてるので、必要なクエストに選んで連れていってください。
ID 674 966 649

追記
申し訳ない、投稿予約を使ってみたんですが、日付が8日の12時のはずが12日の12時になってました。活動報告にも上げたというのに、本当に申し訳ないです。
それに伴い、アンケートの締切も15日までに伸ばします。本当に申し訳ありませんでした。


「……遂にしっぽを掴んだ」

 

湯煙温泉郷の上空にて、私は感覚を研ぎ澄ませ周囲の空間へ気を張り巡らせていた。

 

そこにあったのは魔力の痕跡。この濃度と性質からして、精神操作の類か……しかもこれほどの量、掛けられた相手はなかなかの実力者だったようだ。

 

そして、微かな神気……なるほど、奴らもついに神を動かしたか。よほど切羽詰まった状況に置かれているらしい。他の魔王共もきちんと仕事してくれているようだ。

 

これほどの魔力量であるのに気づくのに少々時間がかかった……相手は上位の神か。

 

「はあ、まったく……見つけ出すのにこれほどの期間を要するとは、私もまだまだだな。この不自然な途切れ方から推察するに、転移を使ったか……すぐに捜索隊を編成、出動させねば」

 

ゆらぎ荘の裏山、そこにある帝王軍基地へ向かおうとした時、電話が鳴った。いったい誰だ、忙しい時に……呑子さん?

 

「はい、もしもし」

『あ、アークちゃん?今どこにいるのぉ?』

「今……今はスーパーにいますが、どうしました?」

『実は狭霧ちゃんから連絡があってぇ〜……幽奈ちゃんが攫われちゃったんですってぇ〜!』

「……へ?攫われたって、どういうことですか!?」

『黒龍神っていうのが犯人みたいよぉ〜。今は狭霧ちゃんとコガラシちゃんが向かってるみたいだけどぉ、アタシたちも助けに行く予定なの!車出すから、アークちゃん拾っていくわねぇ!』

「……いや、呑子さんたちはそのまま向かってください。私は少し準備してから行きますから……場所だけ教えてください」

『ん〜……わかったわぁ。狭霧ちゃんが言うには、その神様のいる場所は長野県の龍雅湖っていうところみたいよぉ〜』

「了解しました。では、また後で」

 

電話を切ると、すぐさま裏山へと飛ぶ。黒龍神……おそらく、あの魔力は湯煙温泉郷に来ていたそやつの精神を操った時のもので間違い無さそうだな。

 

「この一件、邪教団が絡んでいるとなれば……こちらも相応に準備しなければな」

 

付き添いは……そうだな、念の為にピサロに頼むか。裏山に着き、壁へと走る。そのまま壁をすり抜け……。

 

「ゴブッ!?」

 

られなかった。しまった、もう少し左の方だったか……。

 

 

 

 

 

長野県、龍雅湖。その畔に佇む和風の城こそ、神霊である黒龍神、龍雅玄士郎が治める龍雅城である。

 

先に到着していたコガラシ・狭霧・こゆずの三人は、幽奈奪還作戦を展開していた。

 

コガラシが弦士郎たちの陽動を務め、その隙に狭霧とこゆずは幽奈を連れてコガラシと合流し脱出する。それが幽奈奪還作戦の全貌だ。

 

コガラシはしっかりと気を引き、釘付けにしてみせた。作戦において一番大事な仕事を、見事果たしてみせたのは感服する。

 

そう、自ら捕まる(・・・・・)という大胆が過ぎる行動ということを省けば。

 

「ふ……いい恰好ではないか」

「こ…これってまさか……拷問的なアレ…?」

 

捕まったコガラシは、幽奈にゾッコンである玄士郎へ『幽奈と色んなことをした』と言い興味を持たせた。それによりかなりの時間、玄士郎と従者たちを釘付けにしていたのだが、痺れを切らした玄士郎が吐かせるために用意させたのは……十露盤板と呼ばれる角張った鉄板と、伊豆石と呼ばれる4枚の大きな四角形の石だった。

 

石抱きという拷問方法であり、その内容は伊豆石を最大4枚まで乗せて膝を十露盤板に食い込ませるというもの。それと並行して鞭打ちまで行われ、これらは江戸時代にて正規の拷問の前段階、つまり前座として行われていたものだった。

 

「さあ、石を乗せよ!」

「ちょっ!?」

(しまった、調子に乗りすぎちまった!急げ、急いでくれ狭霧ー!!)

 

従者の魚人が一枚目の伊豆石を乗せようとした時……新たに四人、庭へと入る人影があった。

 

「玄士郎さま。曲者を捕らえました」

 

玄士郎の側近である朧と従者の屈強な魚人、そして朧と同じような着物を着せられた幽奈に、魚人に手枷をはめられ吊るされている狭霧であった。

 

「幽奈!狭霧…!」

「こ…コガラシさん!」

「もう一匹…子狸を取り逃してしまいましたが、現在捜索中です。その男と共に幽奈さまを攫いに現れたのでしょう……しかし、この狭霧という娘もなかなかの霊力の持ち主。玄士郎さまの側室に迎えてはどうか…と」

「おおう?」

 

朧の進言に、玄士郎は吊るされた狭霧をまじまじと見つめた。服が破れ、しかし強気な表情の美少女。玄士郎はすぐに鼻血を出しながらニヤけた。

 

「狭霧と言ったな!合───格!!」

「玄士郎さまならばそう言ってくださると思っておりました」

 

幽奈だけでなく狭霧まで嫁に迎えるという横暴ぶり。コガラシの怒りはさらに膨れ上がっていった。

 

「…おいオマエら、あんま勝手言ってんじゃねーよ」

「正座で凄まれてものう……」

「ああ!?うるせえよ!」

「……冬空コガラシ!ここは貴様だけでも退け!」

 

しかし、狭霧は冷静に物事を判断した。黒龍神の強さの次元を、朧との戦闘で知った狭霧はコガラシだけでも逃げることにかけたのだ。

 

「そこの眼帯の従者一人ですら、私ではまるで相手にならなかった。やはり、人間が手を出していい相手ではなかったのだ…!」

「あ…あの!わたしはあなた方に従いますから!狭霧さんは帰してあげてください!」

「なっ!?幽奈!」

「コガラシさん!わっ…わたしは、龍雅の家に嫁ぎます…!大丈夫、ですから……狭霧さんたちと、ゆらぎ荘へお帰りください!」

「うむうむ!素直なのはよいことだぞ幽奈よ!」

 

涙を流しながらも、笑顔でコガラシに語りかける幽奈。玄士郎はその言葉に頷いているが、その顔からは狭霧を帰す気は見られない。

 

それにより、今まで蓄積していたコガラシの怒りは限界にまで迫っていた。

 

「……なぁ龍神さま!質問に答えようか?俺と幽奈は……一緒に風呂に入るくらいの仲だ」

「!?」

「え…こっコガラシさん!?」

「貴様、突然何を…!?」

 

玄士郎の知りたがっていた、コガラシと幽奈の仲。ついにそれを言い放ったコガラシへ、玄士郎は静かに歩み寄った。

 

「余の幽奈と……混浴、だと…!?」

「おう」

 

コガラシの短い返事。幽奈を自分のモノと思って疑わない玄士郎は、その短い返事に込められた意を汲み取り……激怒した。

 

「っ!」

「ぐ…っ!?」

 

玄士郎がコガラシを蹴りあげた。あまりの威力にコガラシは高く打ち上げられ、洞窟の天井に激突し、崩れた岩と共に庭へと落下した。

 

「こ…コガラシさあああん!?」

「クッ…あれでは助からん…!」

「おおう!?殺めてしまったか!?だがな……余はこの程度では飽き足らんぞ!!」

 

玄士郎が土埃へと迫ると、その中で立ち上がるコガラシの姿があった。

 

「!?生きておったか!まだまだ痛めつけて欲しいらしい!」

「……なぁ龍神さま。いますぐ幽奈と狭霧をはなせ……でなけりゃ力ずくで連れ帰る」

 

コガラシの、神をも恐れぬ言葉。一瞬静まり返った後、魚人たちはあまりのおかしさに吹き出した。

 

「がははははっ!力ずくだとぉう!?何を言っとるんだコイツは!?」

「頭の打ち所が悪かったと見える!!」

「哀れな……」

「こ……コガラシさん…?」

 

場の全員がコガラシの言うことを信じていない。神に人間が勝てるはずがないのだから。玄士郎は笑いながらも、高らかに宣言した。

 

「馬鹿を言うでないわ!幽奈と狭霧はこの後、余と婚姻の儀を迎え……そして余は幽奈と狭霧としょ…しょしょ……初夜を迎えるのだぁぁぁ!!」

 

顔を赤らめながら妄想に耽る玄士郎。その姿はついに……コガラシの堪忍袋の緒を切った。

 

「させねぇよ」

「…っ!?な……」

 

踏み込み一つで玄士郎の眼前に迫ると、コガラシは玄士郎の腹へと拳を叩き込んだ。コガラシが蹴りあげられた時とは比べ物にならないスピードで殴り飛ばされ、龍雅城に大穴を開けながら天井へ激突。玄士郎は埋まり、落ちてくる気配はなかった。

 

『』

「……俺は以前、デタラメに強い霊能力者の霊に取り憑かれたことがあってな。ムリヤリ弟子入りさせられたが…そのおかげで、地獄の修行と試練の果てに、師匠をも倒す力を手に入れた」

 

玄士郎を見ながら、コガラシは拳を握った。大事な仲間を悲しませるような輩は、ことごとくその剛拳に倒れることになるだろう。

 

「悪霊だろうが神だろうが関係ねぇ……俺がぶん殴れねぇのは、女だけだ」

 

コガラシの強い決意。それは場の者たちの目に強く焼き付いたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……役立たずめが」

 

 




今回は本当に申し訳ありませんでした。なんとか気づけてよかった……前書きにもあるとおり、アンケートの期限を15日まで伸ばします。


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第26話 魔神降臨

お気に入り登録、感想共にありがとうございます!この不定期かつ更新の遅い作品を見てくださっている皆さんには感謝してもしきれないです。

よろしければ、これからもよろしくお願いします。
ついでに感想やお気に入り登録、評価もあれば嬉しい(強欲)


『朧……生まれは違えど、あなたもあの方の子。私の子も同然と思っているわ』

『勿体のうお言葉にございます、御前さま』

『……今のままではいずれ、外の神々に敵う者が玄士郎ただ一人になってしまうわ。朧…玄士郎を一人にしないで。強い龍雅家を作って…!』

『承りました御前さま。ありとあらゆる手段を厭わず……龍雅家を強く…!』

 

 

 

 

「さて、幽奈と狭霧をはなしてもらうぜ」

「こ…こここコガラシ…さん…!?」

「信…じられん。一体…なに…が……?」

 

腕をグルグルと回しながら幽奈たちへと近づくコガラシ。目の前で起こった神退治に幽奈と狭霧は頭の整理が追いついていないようだった。

 

「お…お逃げください朧さま!玄士郎さまを下す相手など我々ではとても…!」

「……幽奈さまと狭霧さまは渡せん」

「しかし…!」

 

主が倒され、次は自分たち。魚人たちはなんとか朧を逃がそうとするも、朧にとっては龍雅家を強くするために、幽奈と狭霧はなんとしても手に入れておきたい。手放してはまたどれだけの期間、龍雅家が外の神々に脅かされるのか。

 

「ここは私にまかせよ。おまえ達は玄士郎さまを」

「は…ハッ!」

「御武運を…!」

 

朧はコガラシへと歩を進める。その右手を黒い刀へと変化させ、構えた。

 

「…やる気か?」

「下郎めが…!」

 

朧は足を少し動かし……次の瞬間には消えていた。

 

「ハッ!」

「うおっ!?」

 

後ろに一瞬で回り込んでいた朧がコガラシを斬りつけた。それにより凄まじい音が響いたのだが……それは金属同士がぶつかったかのようなものだった。

 

「私は先代黒龍神の尾より生まれ出でた護り刀……神刀・朧」

「俺は冬空コガラシだ」

 

コガラシが拳を振るうと、その拳圧が地面ごと抉りとっていく。至近距離で放たれたために、朧の着物が少々破られてしまった。

 

「私の本気の斬撃ですら薄皮一枚斬れぬとは……嫌になる程頑強だな。そしてこの拳撃……玄士郎さまは狭霧さま以上の結界を何重にも纏っている。それを只の一撃で全て破り尽くしたということ…!まともに喰らっては、私では塵も残らぬだろう」

 

朧がその速さでコガラシの拳撃を躱していく。その顔はコガラシと自分の戦力差に苦々しくなっているが、それでも戦意は失っていなかった。

 

「だが勝算はある。たしかに聞いた……『女だけは殴れぬ』…と」

「……へ?」

 

破れた着物から飛び出たのは、小ぶりながらもしっかりとした女性の胸だった。

 

「お…オマエ女だったのか!?」

「やはり気付いてなかったのだな…!」

「こっコガラシさん!?どう見ても女の子じゃないですか!」

(あの従者、女だったのか…!)

 

気が付いていたのは幽奈だけ。これには普段は冷静沈着な朧も怒りを顕にしていた。

 

「…斬る!」

 

再びの超加速。四方八方からの鋭い斬撃がコガラシを襲った。

 

「冬空コガラシ!貴様さえ…貴様さえ邪魔しなければより強い龍雅の家を成せるのだ!」

「こ…コガラシさん!」

「……心配ない。冬空コガラシは、おそらく殆どダメージを負っていない。速さは朧が上のようだが…すでに速度が落ち始めている。殴れずとも捕らえて終いだ。この勝負…朧に勝ちの目はない」

(私が手も足も出なかった相手を……冬空コガラシ、只者ではないと思ってはいたが、まさかここまで……!)

 

朧が再び背中に斬りかかろうとした時、突然朧の刀を掴む者がいた。

 

「やぁっほぉ〜!みんな元気みたいねぇ〜」

「呑子さん!夜々さん!」

 

鬼のツノを出した呑子と、欠伸をしながらこゆずを頭に乗せた夜々がそこにいた。

 

(私の刃を素手で……この女も強い!)

「狭霧ちゃん、幽奈ちゃん!」

「こゆずさんも!ご無事だったんですね!」

 

変化で小さくなっていたこゆずが幽奈に飛びつく。涙ながらに、こゆずは状況を説明し始めた。

 

「ぼっボク、狭霧ちゃんが捕まってもうダメだと思って…助けを呼びに地上に出たんだ!そしたら呑子ちゃん達が…!」

「狭霧ちゃんに連絡貰ってすぐ車飛ばしてきたのよぉ〜!もぉビックリしたわよぉ!せっかく助けに来たのに、もう敵の親玉殴り飛ばされちゃってるんだものぉ!コガラシちゃんがあんなに強かったなんてねぇ……これじゃあアークちゃんの出番もないわねぇ」

「え、アークさんも来てるんですか!?」

「んーん……アークは後から来るみたいなの」

「そ、そうですか…」

「さぁ!みんな早く帰りましょお〜!仲居さんがお夜食作って待ってるわよぉ。アークちゃんも拾わなきゃあ〜」

「は…はい!」

 

しかし、そんなことを許すはずもない者が一人。朧は刀を人間の手に戻すと、今度は両方の手を刀へ変化させた。

 

「いいや帰さん。おまえ達全員……龍雅家に嫁ぐがいい!」

「待て待て!これ以上は被害が広がるだけだと思わねーか?それってオマエの言う龍雅家のためになるのか?」

「……なんだと?」

「俺は戦わずに済むならそれに越したことはねぇと思ってる。頭を冷やして考えてみろよ。それでもまだ戦うことが最善の一手だってんなら相手してやる」

 

 

 

『ありとあらゆる手段を厭わず……龍雅家を強く…!』

 

 

 

「……そう、だな。玄士郎さまを倒すほどの男と闘り合うなど……愚策も愚策だな……」

「朧さん…!」

 

朧は刀身を収め、構えをといた。それまでの緊迫していた空気が緩み、一段落ついた。

 

 

 

 

 

 

「それでは困る」

『!?』

 

不意に放たれた殺気に、上からかけられた言葉に全員が見上げた。

 

そこには、三体の異形が浮かんでいた。二本の巨大なツノと背丈より長く先が針なっている尻尾、そして両手の甲から一本ずつ生えている太い棘が特徴の金色の怪人。その後ろには二体の女性のような、しかし蝙蝠のような翼や手の形に蠢く服が特徴の怪人が侍っている。

 

「なんだアイツら……」

「龍雅の者ではない。貴様ら、何者だ!」

 

朧の鋭い声に、金色の怪人はクックッと笑いながらも答えた。

 

「我に呼ぶ名などはない。生贄を喰らい、人の願いを叶える魔神よ。だが……そうだな、とある人間は我を『いにしえの魔神』と呼んだ」

「いにしえの……」

「魔神……だと…?」

「龍神さまの次は魔神かよ…」

「だ、大丈夫だよ!コガラシくんは龍神を一発で倒しちゃったんだから!」

 

金色の怪人、いにしえの魔神はこゆずの言葉を鼻で笑うと、空気を踏み台に高く跳躍し、玄士郎のもとに迫った。

 

「な……玄士郎さまに何をする気だ!」

「ククク……今回は、我は手を出さん。その代わりとして、コイツにはまだ働いてもらおうと思ってな」

「っ!」

 

朧は瞬時に加速すると、両手を刀へと変化させ斬りかかった。その刀身はいにしえの魔神へと直撃したが……傷一つ付くことはなかった。

 

「くっ!?」

「フン……眷属風情が」

 

━━━光の炎

 

いにしえの魔神は口から聖なる光を宿した火炎を吐き出した。斬撃を肉体で難なく受け止められたことで硬直していた朧は避けきれず、コガラシたちのもとへと叩きつけられてしまった。

 

「ぐあっ!!」

「朧さん!」

「ククク……身の程を弁える良い機会になっただろう。我自らその身に教えてやったのだ、感謝するがいい」

 

いにしえの魔神は気を失ったままの玄士郎へ手をかざすと、魔神の手からどす黒い骸骨のようなものが湧き出始めた。

 

「さあ、黒龍神よ!屈辱だろう、見下していた人間に倒されたことが!喜ぶがいい、貴様は復讐の機会を得るのだ!我が盟友の『呪い』によってな!」

 

『呪い』がいにしえの魔神の手元を離れ、玄士郎へと向かう。気絶している玄士郎には抵抗の術が無く、『呪い』は玄士郎の胸へと吸い込まれた。

 

「ぬ…ぐグ、ギギギ……」

「玄士郎…さま…!」

 

玄士郎が苦しみはじめ、体を黒い霧のようなものが覆っていく。その霧は玄士郎を飲み込み、膨張し……一匹の巨大な龍と化した。眼は赤く光り、鱗の所々からは禍々しい呪いの霧が吹き出している。

 

「クハハハハッ!さあ暴れるがいい、黒龍神よ!」

「グギャアァァアアアッッッ!!!」

 

突風が吹き始め、天井に雷雲がかかる。黒龍神・強とも言うべきソレは、コガラシたちへと牙を向けたのだった。

 

 




ドラクエ9より、いにしえの魔神登場です。今回はハーゴン側として動いてもらいます。

玄士郎の龍の姿ですが、原作でちょくちょく出てくる龍神をイメージしてくださると。そこへドラクエ11の強モンスター要素が加わっています。

アンケートの方もご協力よろしくお願いします。


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第27話 肉の魅力は魔力の如く

三人称難しい……でもやっぱり書くの楽しいですね、落ち着いてきたのでまた更新していきます(定期更新とは言ってない)



黒龍神が唸り声を上げながら、コガラシただ一人を睨みつけている。呪いの霧が体から吹き出す度に、その眼光は鋭くなり、雨風は強くなっていった。

 

「げ…玄士郎さま……」

 

変わり果てた主人の姿に、朧は膝をついた。もはや龍雅家を護るどころの話ではない。他ならぬ玄士郎の手によってソレは壊されようとしていた。

 

「ギルルルルル……」

「……話は通じそうにねーな。もう一度ぶん殴るしかねーか」

「冬空コガラシ!奴からは得体の知れない力を感じるぞ!くれぐれも……」

「無理はしねえ……とは言えねーな。あんな龍神さま、ほっといたらそれこそヤバいぞ」

「そうねぇ……それに、どうやらコガラシちゃんにご執心みたいだしぃ?」

「仕方ねえ。みんな下がっててくれ」

「アタシはみんなを守ってるからぁ……存分にやっちゃってえ〜!」

「サンキュっす呑子さん!」

 

コガラシが拳を握り、黒龍神を見上げる。それに呼応するかのように、黒龍神も雷を鳴らした。

 

両者睨み合い……先に動いたのは黒龍神だった。

 

━━アクアブレス

 

黒龍神の口から大量の水が溢れ出し、光線のようにまっすぐコガラシへと放たれる。それをコガラシは、右の拳を振るうことで発生した拳圧を利用しかき消した。

 

━━しゃくねつ火球

 

しかし黒龍神は攻撃の手を緩めない。灼熱の火球を連続で吐き出しながらコガラシへと向かっていく。

 

「シッ!」

 

コガラシも拳圧を放ちながら、黒龍神へと走った。

 

互いに攻撃を相殺しながら近づき……ついに激突。一人と一体を中心に凄まじい衝撃波が庭を吹き飛ばしていった。

 

人の姿だった玄士郎を一撃で沈めた拳撃。それが再び叩き込まれるも、今度は硬い鱗と結界で防いでみせた。今度は黒龍神がコガラシの肩へと噛みつくも、多重の防御結界と霊力によって強化された頑強さで傷一つつかない。

 

「これは……互いの攻撃力が、相手の防御を突き破れる程ではないのか!?」

「コガラシさん…!」

 

打撃が効かないのであれば、打撃以外で攻撃すればいい。黒龍神はいったん尾を振るいコガラシを引き剥がすと、高く舞い上がった。

 

━━ボイドブレス

 

完全なる真空空間。それを球状に形成し吐き出した。コガラシは他のブレスと同じように相殺しようとするも、拳撃と衝突したボイドブレスは大きく膨れ上がり、凄まじい空気の大爆発を引き起こした。

 

「がっ…!?」

「コガラシさあああん!!」

 

その威力にコガラシは吹き飛ばされ、岩に激突。ボイドブレスの衝撃によって一瞬だけ身体全体の力みを緩めてしまい、結界や霊力強化が弱体化。岩との衝突でコガラシは気を失ってしまった。

 

黒龍神はトドメをさすために『呪い』によって与えられた魔力と自身の霊力をかき集めた。それは口内に蓄積され、禍々しい闇となって溢れ出していく。

 

「まずい!このままでは冬空コガラシが…!」

「呑子さん!わたしたちは大丈夫ですから、コガラシさんを助けてあげてください…!」

「そうねぇ……そうしたいのはやまやまなんだけどぉ……」

「させると思う?」

 

黒い光線が呑子へと放たれた。すぐさま横へ跳ぶことで躱した呑子は、鬼の霊力をツノの先端へ集め、『鬼火砲』と呼ばれる霊撃を放つ。しかし鬼火砲は突如出現した氷の壁に阻まれ、相手に届くことはなかった。

 

「ククク……大人しく当たっていれば、私のとびっきりの呪いで楽にしてあげたのに…」

「反撃を防いであげたのは私なのですが…?」

「いちいちうるさい娘だこと……」

 

そこにいたのは、いにしえの魔神の後ろに控えていた二人の妖魔だった。

 

「あらぁ……突然攻撃してくるなんて、ひどいんじゃなぁ〜い?」

「こんな辺境に生息している小鬼ごときに、わざわざ正々堂々なんて馬鹿らしいわ」

「そうやってすぐ調子に乗るのはいけないって、魔神さまからも言われてるはずなのに……ごきげんよう、この世界の強者。私はヘルヴィーナス、そしてこの高飛車な女はイシュダルよ。短い間だろうけど、よろしくお願いしますね」

「こんなヤツらに自己紹介なんて、アンタは礼儀正しすぎるのよ」

「だって、元人間ですもの?魔物になろうとも、女性としての気品は損なわないつもりよ」

 

敵を前にして、余裕を見せるイシュダルとヘルヴィーナス。しかし隙は見当たらず、呑子は攻めようにも攻めれないでいた。朧は魔神の攻撃によるダメージで、狭霧は朧との戦いで受けたダメージで動けず、幽奈と夜々は戦闘に向いていない。一人で強者二人を相手するには、皆を守りつつ勝ち、コガラシを助けに行くのはとても無茶なことだった。

 

「はあ……そもそも私はこんなジメジメした所来たくなかったのよ……はやくお肉に会いたいわぁ……」

「まさかアナタ、あの黒騎士をまだ追ってるの?あんなのお肉の足しにもならないわよ」

「……あらぁ〜?」

 

話の内容がおかしくなっていく二人。その表情はだんだんと蕩けていき、その綺麗な口からはヨダレが垂れ始めている。

 

「そうだねぇ……二人ともお肉が欲しいよねぇ」

『!?』

 

第三者の声が響いた。いつの間にやら、青髪の男が立っており、その両手には見るからに上質な肉を握っていた。

 

「ほらほら、キミたち魔物が大好きな『しもふりにく』だよ。キミたちが本能で求めてしまう、最高級の肉だ」

「あ……うう…」

「は…はあぁ…」

 

うっとりとした顔は、先程の余裕など露ほども見られない。その妖艶さで数々の者たちを虜にしてきた妖魔の姿などない、そこには本能に忠実な本来の魔物の姿しかなかった。

 

「欲しい?欲しいよねキミたちぃ」

「はいぃ……」

「ください…」

「なら誓えるかい?今の主を捨てて、ボクの主、地獄の帝王に仕えるって」

「「あ…あぁ……」」

 

危ない。あまりにも危ない状況ではあるが、敵である妖魔たちが手玉に取られてしまっていることに呑子たちはあっけに取られ何も出来ずにいた。

 

「あとは力を見せるだけでスカウトは完了だねぇ……ささ、あちらをご覧よ。キミたちの新たな主人のお出ましだ」

「グルアァァアアアッッ!!?」

『!?』

 

黒龍神の悲鳴が響く。全員がその悲鳴に驚くと、巨大な物が落ちてきた。それは身を焼かれた黒龍神、そしてその近くに降り立った者こそ……遅れて到着していたアークだった。

 




初めてこんな風に書いてみました。
もう恥ずかしいのでこんな展開は作りません。

アンケートの方、ご協力お願いします。


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第28話 アークvs黒龍神・強

筆がのってきました。
これからアーク視点です。三人称視点を続けて投稿したので勝手があまりわからなくなってしまった……。

㊗️合計文字数10万突破・UA3万突破・お気に入り400件突破!
本当にありがとうございます。更新遅い、予定通りに投稿できないなどなど皆さんに数々の迷惑をかけてしまったというのに……ここまで来れたのも皆さんのおかげです。

これからもこの『ゆらぎ荘の帝王様』をよろしくお願いします!


暗い洞窟の中で、巨大な龍を地へ落とした男が静かに立っていた。というか私だった。

 

やあ、アークさんです。邪教団が干渉してくると予想したら、予想以上の大惨事になっていて慌てたよ。

 

だがもう大丈夫!なぜかって…?私が来た!

 

「と言えればどれほど良かったか」

「グル……」

 

火炎呪文メラゾーマ。猛り狂う火球を放つ上位の呪文なのだが、量多めに魔力を回したというのにピンピンしてる。この世界での初めての戦闘だから、少しやりすぎたかと心配していたのだが……水を司る神だからかあまり効かなかったらしい。やるじゃないか……。

 

「グルアァァアアアッッ!!」

 

━━かみくだき

 

傷つけられたことに怒った黒龍神が、私をその大きな口で食いちぎろうとしてくる。私は右手に『地獄の帝王の盾』と呼ばれる、私を象った盾を顕現させ装備した。盾の縁を黒龍神の上顎の牙に引っかけ、力を右側にずらすことでいなす。

 

私のすぐ真横でガチンッという音が鳴った。少し背筋が冷えるね。

 

「グルルル……」

 

私が思わぬ方法で攻撃を防いだためか、黒龍神は静かにこちらの様子を伺い始めた。私も少し見てみようか、本気の形態ではないとはいえ、私のメラゾーマを耐えた理由は……ああ、邪教官の『呪い』か。私の知る限りでは身体を動けなくさせ苦しみを与えるものだったと思うが……呪いも種類が豊富だ。あの邪教官が多種多様な呪いを扱えても不思議ではない。

 

「……もう少し、見せてもらおうか」

 

━━ダモーレ

 

相手の情報を看破する呪文ダモーレ。黒龍神の情報が、私の頭になだれ込んできた。

 

龍雅玄士郎

Lv:31

HP:5711/6410

MP:∞

攻撃力:483

守備力:598

すばやさ:377

かしこさ:214

 

状態異常

呪い(特殊):憎悪増強・精神狂化・魔力付与・強制強化

 

なぁにこれ。色々と盛りすぎではないかなこの呪い。

 

「ついに来たか、地獄の帝王」

「ん……キミはいにしえの魔神か…」

「ほう、知っているのか」

 

そりゃ、前世ではキミ倒すために宝の地図潜りまくったし。結局、そこに居たのは色違いの別物だったけどね。マデュラビーム連射はもう経験したくない……。

 

「そのトカゲ、なかなかのものだろう?貴様も真の姿を見せたらどうだ。あの者たちにも見られることになるだろうがな」

「……なかなかいい性格しているな。だけど、その必要は無い」

 

私の全身を光が包む。光がおさまると、私の全身は鎧に包まれ、左手に盾、右手にオノを装備していた。

 

『地獄の帝王のかぶと』『地獄の帝王のよろい』『地獄の帝王の盾』『地獄の帝王のオノ』

 

その全てが私を象る武器防具たち。私が人間形態で戦う際は、これらを身につけることで私の存在を知らしめるようにしている。その伝説の武具には及ばないながらも込められた魔力は一級品だ。

 

「今回は久しぶりに楽しめそうだ……なんなら、キミも参加するかい?」

「我にはやるべきこともあるのでな。お前はトカゲと遊んで……」

「グオォォオオオッッ!」

「ブフゥッ!?」

「あ」

 

黒龍神は理性を失っている。敵が会話するという隙を晒して我慢ができなくなったか。黒龍神は、魔神をはねながら(・・・・・・・・)私へと突進してきた。

 

「さすがにその巨体を受け止めたくはないな!」

 

私は大きく跳ぶと、黒龍神の頭に着地。そのまま頭にオノを振り下ろした。

 

「グルアァァアアアッッ!!」

「チィ……硬い!」

 

鱗を割ることが出来たが、そこで止まる。黒龍神は頭を大きく振りながら、雷を大量に降らすことで私を振り落とした。

 

「おっとっと…」

「グルルル…!」

 

危なげに着地した私へ、黒龍神はさらに追撃を加えた。その口からは電撃が漏れ出し、それらが口内に束ねられていく。

 

━━サンダーブレス

 

束ねられた電撃は雷をも超える威力をもって私へと迫る。私はオノを真上に構えると、全力で振り下ろした。

 

━━だいまじん斬りッ!

 

当たれば会心の一撃、当たらなければ大きな隙を生む技だ。しかし、私は当てるために振るわけではない。その会心を発生させる莫大な力でサンダーブレスをかき消すため。

 

「そおぉぉらあぁああッ!!」

 

地面に振り下ろされたオノは、凄まじい衝撃波を生み出し電撃をかき消した。ソコを突こうと接近していた黒龍神も衝撃波に当てられ、空中へと待避せざるをえない。

 

次はこちらから仕掛けようと脚に力を入れた時、一つの通信が入った。念話……発信者はアイツか。

 

「なんだ、これからが面白いところなんだが」

『ごめんねぇ。でもそろそろ終わりにしないと、この洞窟ももたないよ?みんな仲良く埋まりたいなら別にいいけどさ』

「……そうだな。名残惜しいが、終わらせるか」

 

オノに強大な魔力を回す。豊潤な上質の魔力を吸ったオノは、その刃を赤黒いオーラで包んだ。

それに反応した黒龍神も、口内に魔力と霊力を集中していく。コガラシにトドメを刺そうとした際に使おうとした最大の技だ。

 

「『呪い』を解く準備をしておけ、カルマッソ」

『オッケ〜イ!にゃはははは!』

 

━━黒くかがやく闇

 

黒龍神の口から、禍々しい闇のブレスが放たれた。空間を歪めながら私へと迫ってくる闇に……その先にいる黒龍神へ向けて、私はオノを振り下ろした。

 

━━双魔滅殺

 

あの魔界に潜む二人組をも殺す一撃が、剣圧となって放たれた。それは黒くかがやく闇を引き裂きながら前進し……。

 

「グギャアァァアアアッッ!!?」

 

黒龍神は剣圧に全ての結界を破壊され、自慢の鱗もボロボロにされながら天井に叩き込まれた。偶然にも、その様はコガラシによって倒された時と同じような状態で、戦いは終わりを迎えたのだった。

 

「……正直、お前を舐めていた。その姿では大した力はないと……だがその認識は改めねばならないようだな」

「私は地獄の帝王だ。この程度倒せなければ、異世界の戦神や主神に勝てるはずもないだろう」

「そうだな……さて、我は戻らせてもらおう。あの二人はくれてやる……片方はろくに命令も聞かぬ役立たずだったしな」

「逃がすと思うか?」

 

一瞬で距離を詰め、オノをいにしえの魔神へと振り下ろす。しかし、いにしえの魔神の姿は無かった。あるのは呪いの骸骨模様だけ……どうやら呪いによる転移を発動させたらしい。

 

『すでに憎悪と神の力は回収できた。これでようやく目的は達成されるのだ……地獄の帝王よ、お前の命も残り少ないぞ?クク、ハハハハハハッ!』

 

嗤い声を残して、魔神の気配は消えた……が、その程度で私を、我が帝王軍を振り解けるはずもない。

 

『帝王様、転移の魔力と呪いから、奴らの潜伏先が割れました』

「そうか、ならばようやく攻め入ることが出来るということだ。全軍を集結させろ!親衛隊を残し、集まりしだい出撃だ!」

『ハッ!』

 

ついに、ついにこの大事も終わりが見えてきた。私はやっと開放されるのだ!待っていろ、夢のバカンス!

 

 

 

 

「アーク…さん……?」

 

あ……忘れてた。

 




脳内「なんだ、これからが面白いところなんだが」
現実『ごめんねぇ。でもそろそろ終わりにしないと、平均文字数もたないよ?文字数バラバラにしたいなら別にいいけどさ』
脳内「……そうだな。名残惜しいが、終わらせるか」

ステータスはあらゆるモンスターをベースに私の勝手な想像、ボスっぽく作ったものです。気にしなくて大丈夫。

アークさんの中身が若くなってきました。いや、最初の頃に戻ったのかな……。


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第29話 帝王軍出撃!

この作品は投稿が早かったり遅かったりと激しいです。もし、また投稿が遅くなっても変わらず見てくださると嬉しいです。



よし、予防線は張ったぞ!



裏山にある城、広場へと続く廊下を私はピサロと歩いていた。

 

「世界樹の葉は使ったか?」

「はい。あの黒龍神の呪いは無事解けたようです」

 

世界樹の葉

それはその名の通り、世界を支える聖なる大木『世界樹』の葉っぱだ。世界樹は凄まじい神聖な力を有しており、その葉っぱ一枚だけでも死者を甦らせるほどだ。

 

ハーゴンの呪いは非常に強力だ。その呪いを解くには世界樹の葉を使うしかない。死者を甦らせるほどの聖なる力をもってして、やっと解除できる呪いなどそこらの魔王でも成せない芸当だ。

 

「ゆらぎ荘……でしたか。彼らへの説明はどうなされるつもりですか」

「……ゆらぎ荘に戻ったら、全て話すと伝えてある。出ていけと言われれば、そのまま出ていく」

「……了解しました」

 

そう、私はコガラシくんたちに秘密にしてきた……そして騒動に巻き込み、傷つけてしまった。殴られても、何も言えない。だがその前に、邪教団を潰す。これ以上ゆらぎ荘の皆に被害が出る前に!

 

喧騒が聞こえてくる。長い廊下も終わりが近づき、眩しい光が私とピサロを照らしだした。

 

「全軍、この場に集結しました。後は帝王様の命令を待つだけです」

「うむ……」

 

黒龍神の一件で姿を見せたいにしえの魔神。ハーゴンによるものか巧妙に隠されてはいたが、奴が移動した際、通った後に残されていた微弱な魔力を辿り、斥候と隠密を使って調べた結果、邪教団の潜伏先を特定することに成功した。

 

そこは、月だった。異界を利用するなどの線を考え入念に調べさせていたことで、月などの探索に踏み込めずにいたため、発見が遅れてしまった。

 

これは私の落ち度だ。もっと細かく部隊分けを指示し、より広範囲を捜索に当たらせておけば……いや、過ぎてしまったことはもうどうにもならない。

 

これ以上、奴らに好きにさせてたまるか。この遠征をもってしてこの一件を終わらせてみせる。

 

「そのためにも……まだ破壊神が降臨しておらぬうちに叩き潰さねばならん!我が帝王軍とともに!!」

『ォォォオオオオ!!!!』

 

廊下を抜け、広場を見渡せる台上に出た。眼前に揃うのは私が丹精込めて育て上げた我が軍団。皆が、来たる戦いへと胸を膨らませ、腕を鳴らしている。

 

そういえば、私の軍団を詳しく話していなかったな。ちょうどいい、ここで我が軍団について聞かせよう。

 

帝王軍は構成される魔物の性質や出自、またはそれらを率いる軍団長によって五つの軍団に別れている。

五つの軍団とは、それすなわち!

 

 

魔族王軍!!!

私が進化の秘宝を未だ制御できていなかった時、私を復活させようと暗躍した当時の魔王軍!それゆえに最も統率のとれた、我が軍の中で最強の軍団!!

 

これを統率する軍団長は、我が腹心の部下である魔の貴公子、ピサロ!

 

私の手解きにより進化の秘宝を自在に操る、私が記憶をなくしていた時に魔物を台頭していた魔族の王!

 

私を復活させようと暗躍していたこともあり、その強さと功績から我が魔界のNo.2として励んでいる。

 

その剣技は何人をも寄せつけぬ奇跡の技!それゆえに魔剣士や剣神の異名を持つ!技量の勝負であれば、私をも超えるだろう!

 

 

魔導機兵群!!!

異世界の技術を取り込み、進化した機械兵の軍団!その多彩な装備と高度なAIの頭脳により、圧倒的な戦果を容易く上げる!

 

これを統率する軍団長は、遥かな次元の彼方にて破壊されたまま投棄されていた破壊兵器、オムド・ロレス!!!

 

私自らが修理し、機能や精神の向上に成功したことで魔王として生まれ変わったのだ!

 

その戦闘力は絶大であり、消滅呪文などの強大な呪文や次元を渡る力を駆使して、対象を最速かつ最適に破壊する!!

 

 

帝獄海賊団!!!

全ての海を渡り、宇宙を渡り、次元すらも渡った最強の海賊団!!この荒くれ者たちの前ではどんな困難もさざ波に過ぎない!

 

これを統率する軍団長は、全ての秘宝を手に入れた海賊王、キャプテン・クロウ!

 

その力は海の、宇宙の、次元の荒波に揉まれ魔王クラスの実力を誇る!

 

 

轟竜制圧隊!!!

モンスターの中でも最強を誇る種族、ドラゴン!その圧倒的な強者を集めた精鋭部隊!!奴らの前では城も星もことごとく踏み潰される!

 

これを統率する軍団長は、トカゲでありながら竜を超え、ついには魔王にまで届きうる力を手に入れた王、最強キングリザード!

 

闘争本能の塊である彼の暴力は、敵の全てを破壊するまで止まらない。その腕力だけなら私に次いで最強を誇る!

 

 

魔物愛好部!!!

一見大したことのない名称だが、その実は魔王族までもが所属する魔物の大軍勢!規模だけでいえば帝王軍随一!

 

これを統率する軍団長は、魔界の門を開き人間界を魔界へと塗り潰そうとした結果、自らも魔物と成り果てた狂人、カルマッソ!

 

配合によって生み出された魔物たちは、全てが彼の命令で行動し、互いに愛し合っているゆえに死を恐れない!その圧倒的な物量は敵をことごとく飲み込むだろう!

 

 

「そうそうたる顔ぶれだ……たったの数ヶ月程度で、皆がとても懐かしく思える」

「平和な時を過ごせていたようで」

「ああ……だが、それももう終わりだ。これからは戦争……あの邪教団どもを叩き潰し、再び平和を取り戻す…!」

「魔王らしくないセリフをよく言えますね」

「ロザリーと旅行に行く計画を立てていたくせに何を言うか」

「な……帝王様!?」

 

うろたえるピサロを尻目に、私は……いや、我は前へ出る。全軍が我へと注目し、喧騒はすっかりおさまっていた。

 

「邪教団の居場所を突き止め、我々もついにここへ集った。戦の無い、退屈な刻を長々と過ごしたが……その鬱憤を晴らす時がやってきた」

 

魔物は全生物の中で闘争本能が強い。平和もいいだろう、愛する者と幸せな時を過ごすのもまた一興だ。しかし、やはり魔物にとっては足りぬ。

 

「男も女も関係ない……封じ込めてきた魔物の闘争心を、月に潜む愚か者たちへ!」

 

私は平和でもいい。元人間だからな……だが、魔物の戦闘欲は3大欲求と大差ない。闘争こそ、魔物のあるべき姿なのだから。

 

「我が名はエスターク、地獄の帝王!!帝王の名のもとに、貴様らへ命を下す……我らに愚かにも牙を向いた者どもを滅ぼし尽くせ!」

『オオォォォォオオオッッ!!!』

 

次々と旅の扉が開かれる。帝王軍は列を成し、旅の扉で転移していく。邪教団の本拠地、月へと降り立って行ったのだった。

 




ダイの大冒険要素を出しました。あのシーンは大好きなものの一つです。そして、ついに軍団長の紹介!彼らの活躍まであと少し…!

感想が沢山来るのが嬉しくて、ついつい張り切りすぎてしまう。もう24時間以内のgood回数を使い切っちゃった。

評価もありがとうございます!1だったのが少し悲しかったですが、それでもこの作品を真剣に読んで評価してくださって嬉しいです。

よろしければ、どんなところがダメだったか、感想などで教えてください。少しづつでも、皆さんに楽しんでもらえる作品が作りたいんです。
他の皆さんも、何かアドバイスなどがあったら御気軽に言ってください!読者の皆さんに頼るのも情けない話ですが、より良い作品を作っていきたいと思っていますので!


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第30話 月面戦争、開戦!

しばらくはドラクエメイン。
ゆらぎ荘の皆は出てこないです……。



地球のすぐそばに浮かぶ月。そこへ複数の青い渦が発生し、魔物たちが溢れ出てくる。

 

「やっとだ、やっと戦えるぜ!」

「悪魔だろうがなんだろうが、我ら帝王軍に死角なしよ!」

 

邪教団との戦いに胸を躍らせる魔物たち。久しぶりの戦に興奮しているのは、帝王軍としての大規模な戦闘が久しぶりだからだ。

 

列の先頭であった彼らは月の大地を踏みしめ、いざ一歩踏み出した……その瞬間、爆発に飲まれた。

 

「!?敵襲、敵襲ー!」

「これは罠だ!」

 

旅の扉から新たに到着した者たちが慌てふためく。旅の扉で攻めてくることを読んでいた邪教団は、魔力を感知すると共に包囲。ある程度出てきたところで奇襲をしかけたのだ。

 

「ククク……わざと呪いと魔力を使い転移したかいがあった。ここまで愚直に攻めてくるとはな」

 

姿を現した邪教団、彼らを指揮していたのは金色の怪人。コガラシたちを苦しめた、いにしえの魔神であった。

 

「猛威を振るった帝王軍と言うから、どんなものかと思って相手してみれば……この程度の奇襲で騒ぐか」

 

未だに混乱している帝王軍を嗤いながら、魔神は冷静に様子を見続けた。彼はその力で一国を滅ぼしたこともあるが、それはたんに力によるものだけではない。呪いを振りまき、部下が有力な敵に魅了されたことさえも利用し、確実に全ての生命を奪った。その目は力に溺れぬ、知性を秘めている。

 

そんな彼も耳にしていた。突如頭角を現してきた、地獄の帝王と呼ばれる魔族が率いる帝王軍。その圧倒的な力で瞬く間に数多の世界を掌握していったという。

 

しかし、どうしたことだ。あの慌てふためき様……あのような者どもが世界を支配できる軍勢には見えない。

 

「地獄の帝王が直々に出ていたのか、それとも弱い世界に当たっていただけか……どちらにしろ、我の敵ではない」

 

再び呪文を放つよう命令する。悪魔や神官たちが様々な呪文を唱え、帝王軍へと放たれた。それらは慌てふためく帝王軍へと直撃……することなく、透明なバリアに反射され跳ね返ってきた。

 

「なっ!?マホカンタだと!?」

 

跳ね返った呪文により悪魔と神官たちが吹き飛ばされていく。自身へ向かってくる呪文を腕の棘で切り落とした魔神は、立ち込める砂煙のなか、帝王軍へ光の炎を放つ。しかし、今度は逆風が吹き荒れ、光の炎までもが跳ね返されてきた。

 

「ぐ…カアッ!」

 

全身に力をため、棘の一閃で炎をかき消した魔神。帝王軍へ目を向けると、先程まで混乱に陥っていた魔物どもの姿は無く、統制された帝王軍の姿があった。

 

「な…バカな!先程のは……」

「我ら帝王軍が、この程度で怯むことなどない」

 

帝王軍の魔物たちが道を開けていく。姿を現したのは、魔族の王ピサロだった。未だに驚きを隠さない魔神へ、鋭い眼光を突きつけながらピサロは続けた。

 

「我らは魔物、強い闘争本能を持つために策を練るのは得意としない者も多い。だが、帝王様は我らが心置きなく暴れられるように、奇襲に備えた呪文や技の使い手を育成した。我ら帝王軍に死角はない」

「ぐ……おのれぇ!かかれ者共!邪神降臨の邪魔をさせるな!」

 

ギガンテスやサイクロプスなどの巨人が、悪魔神官やきとうしなどの信者が、アークデーモンやじごくのもんばんなどの悪魔が帝王軍へと襲いかかる。

 

それに対しピサロ率いる魔族王軍も、アームライオンやおにこんぼうなどを前衛に、だいまどうやグリーンドラゴンなどを後衛に陣を展開した。

 

互いの体が、呪文が、技がぶつかり合う。ギガンテスが棍棒で吹き飛ばそうとしてくれば、おにこんぼうが棍棒で迎え打ち、だいまどうがメラゾーマを放てば、アークデーモンがイオナズンで牽制する。

 

入り乱れ、激戦が繰り広げられる中、その中心にて魔神とピサロは戦っていた。

 

━━痛恨連打ッ!

━━神速の剣技ッ!

 

魔神が繰り出す痛恨の一撃をピサロは目にも止まらぬ早業で威力を減らし、逸らしていく。魔神の棘とピサロの『魔剣士のつるぎ』が幾度もかち合っては一進一退の攻防が繰り広げられていた。

 

「速さでは敵わぬか……」

「フッ!」

 

━━神速の一閃ッ!

 

ピサロの剣を棘で防ぐも、その威力に後ろへと吹き飛ばされる魔神。地面へ着地した時には既にピサロが追いついており、その剣を振り下ろした。

 

「むぅんっ!」

「ぬっ!?」

 

魔神が拳を振るう。先に届いた剣が魔神の腕を切り落とそうとするが、高い音を発して止まった。一瞬の硬直、その間に魔神はピサロをなぐり飛ばした。

 

「くっ!」

「ぬう……」

 

着地したピサロが剣を構える。魔神はゆっくりと起き上がり、不機嫌そうな表情を隠しもせず言った。

 

「我は自身にバイキルトとスクルトをかけた……だというのに、今のですら大きなダメージにはならんか」

「なるほど、さきほどの異常な頑丈さの理由はそれか」

 

剣が止まったことに納得したピサロは、魔神の実力と判断力に舌を巻いた。吹き飛ばされながらも補助呪文を唱え、それを気づかせないように地面の砂埃を巻き上げたのか。

 

「魔神と名乗るだけのことはある。その強さであれば魔王の域にまで到達しているだろうな……提案がある」

「ほう?言ってみろ」

「今すぐ降伏し、傘下に加われ。帝王様は寛大なお方だ……降伏すれば命だけは助かるだろう」

「ククク……なるほど、我を邪教団から引き抜こうというわけか。面白い……だが、ことわる!!」

 

━━ちからためッ!

━━痛恨連打ッ!

 

魔神は全身に力を溜め、痛恨の一撃を連発した。ピサロは剣技でずらしていくが、魔神はさらにペースを上げていった。

 

「我は生贄を食らい、願いを叶える魔神よ。すでに契約は成っている!この我が、ハーゴンを裏切ると思うなぁ!!」

 

渾身の一撃がピサロを剣ごと吹き飛ばす。ピサロは剣を地面に突き刺し速度をころし足を地につけた。

 

「破壊神シドーの復活まで協力することが奴の願い。貴様らを倒せずとも、ここに釘付けにしておれば良いのだ」

「……そうか、ならば残念だったな」

「なに?」

 

ピサロの返しを訝しむ魔神。次の瞬間、爆発音が轟いた。

 

「なんだ、何が……っ!?」

 

爆発元を探るため辺りを見渡した魔神は気づいた。神殿の方角から煙が上がっていることに。

 

「なぜ神殿から……っ!まさか貴様ら!」

「そうだ……我々は帝王軍の一部、魔族王軍。他の軍団がいくつもの場所に旅の扉を繋げ、同時に進行していたのだ。我らを足止めしたところで、他の軍団が手を下すまでのこと」

「バカな……おのれぇ、おのれぇぇえええっっ!!」

「むっ……」

 

いにしえの魔神から赤いオーラが噴出した。放たれる神威が強まり、その目に瞳は無くなっている。これは力ある魔物が激昂することで入る『激怒状態』。身体能力の著しい強化と、技の威力が高まる形態だ。

 

ピサロは気を引き締め、剣を構える。いにしえの魔神は三つの目で睨みつけ、ピサロへと飛びかかったのだった。

 




いにしえの魔神の名台詞「だが ことわる!!」を出せて満足……さて、魔神はどこまで行けるのか。

次はオムド、クロウ、カルマッソの予定。

アンケートは15日に締め切ります。まだの方はぜひ投票してください。


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第31話 襲いかかる刺客

今まで考えていた展開を繋ぎ合わせているので今のところはまだ続けられる。ストックが無くなったら更新遅くなるかも……。

お気に入り登録、評価、感想ありがとうございます!続きを書くための励みになります…!

減少するお気に入り登録数に不安を感じてきた……ちゃんと面白く出来てるか少し心配。でも最後まで書き上げる!



爆発が立て続けに起こる。神殿の一部が崩れ始め、邪教団たちは混乱に陥りながら吹き飛ばされていった。

 

奇襲は成功したと連絡を受け、儀式を準備していた神官たちは全方位から迫る帝王軍を見た。報告と違う状況に戸惑っていた彼らは、空から降り注いだ砲弾の雨に飲まれていく。

 

「全砲用意……撃てぇ!」

 

空に浮かぶのは数多の船。その船たちの砲台が火を吹いた。着弾した砲弾は刻まれた魔法陣により大爆発を起こし、神殿をみるみると崩していく。

 

その様子を、離れた丘の上で見ていた三つの影がある。

 

「にゃはははは!随分と景気よく撃ちまくるねぇ」

「長い間、こうした戦は無かったからな。砲弾も有り余っているのだ」

「ヨイ、ハカイダ…」

 

魔物愛好部の軍団長カルマッソ、帝獄海賊団の軍団長キャプテン・クロウ、そして魔導機兵群の軍団長オムド・ロレス。

 

彼らは軍団から離れ、戦況を確認しながら念話で部下と連携をとっていた。これは敵の圧倒的な範囲攻撃で全滅を逃れるためであり、軍団長同士で情報を共有し有利に進めるためでもある。

 

「あの船、なかなか高いところにあるのによく当てられるねえ?」

「当然だ。私の船は『ゆうれい船』という意志を持ったモンスター、乗組員が角度を間違えようと、自分で修正し撃つことも可能。最高の相棒だよ」

「シカシ、邪教団ノ者タチモ黙ッテハイナイヤモシレンゾ」

「ハッハッハッ!あの高さまで飛んでいくにも、その前に撃ち落とせるさ!残念ながらお前たちの出番はない!」

 

キャプテン・クロウは高らかな叫びをあげる。それと同時に、ゆうれい船が爆発に飲まれた。

 

『………………』

 

あまりの衝撃にカルマッソはあんぐりと口を開け、常時冷静なオムド・ロレスも目玉のついた歯車を巨大化させた。世にも珍しいフラグ建築と回収の並行である。

 

「わ……私の船があぁぁあああ!!?」

 

クロウの体が透け始め、完全に消える。彼は亡霊のため、独自の瞬間移動を持っている。向かった先はゆうれい船だろう。

 

「……あの船が攻撃されたということは、砲撃も止まるね」

「事前ニ念話ガコナカッタトイウコトハ、敵ハ相当ナ手練ノヨウダナ」

「そうだねぇ……ボクたちも動こうかな。あのモンスターたちを片付けてからね」

 

上空から二つ、落ちてくるものがある。それらは空中で変形すると四つの足を展開し着地した。

 

「ピピッ!敵性反応ヲハッケン!」

「ハイジョセヨ!」

 

姿を現したのは二体のスーパーキラーマシン。ある世界では神の一部が別れたことで生まれた兵器だが、この二機は別の世界の産物のようだ。

 

「ありゃりゃ、SSランクが二体も」

「……古イ機体ダ。コノ程度ノ機兵ナド……」

 

スーパーキラーマシンたちがクロスボウから無数の矢を放つ。オムド・ロレスは体の歯車を分離し、カルマッソの前に突き刺すことで矢を防いだ。自分へと放たれた矢はその圧倒的な硬さにより傷一つ付かない。

 

「ん〜……ボクもコイツらはいらないかなぁ。壊しちゃお」

「モトヨリソノツモリダ」

 

カルマッソはスカウトリングから魔物を呼び出した。現れたのは『魔王の使い』『なげきのぼうれい』。そして懐から黒い玉を取り出した。

 

「久しぶりに使うなあコレ。さあ『魔抱珠』よ、ボクにマ素を分けておくれ〜」

 

『魔抱珠』と呼ばれた黒い玉から、禍々しい瘴気が溢れ出しカルマッソを飲み込んでいく。瘴気が晴れると、そこにはイモムシのようなこの世のものとは思えない異形となったカルマッソがいた。

 

「にゃはははは!悪いけど、ボクたちは手加減しないからねえ!」

「出来ノ悪イガラクタハ廃棄処分ダ……」

 

体内にある大量のマ素から魔抱珠をいくつも生み出し浮かばせるカルマッソ……いや、ガルマッゾ。

歯車を回転させ『禁断の魔扉』を起動させるオムド・ロレス。

 

二体のスーパーキラーマシンは無感情に、主の邪魔をする者たちへと襲いかかって行った。

 

 

 

 

 

 

場所は変わり、炎上するゆうれい船にクロウは現れた。

 

「なんだこれは……おい!何があった!」

 

倒れていた魔物『ゆうれい船長』を起こし尋ねるクロウ。ゆうれい船長は僅かに腕を動かし、船内へと続く階段を指さした。

 

「……そうか。お前は休んでいろ」

 

クロウはゆうれい船長をゆっくりと横にさると、階段を下っていった。あちこちが崩れており、火が道を塞ぐ。しかし、クロウは壁をすり抜けていくことで回避しながら奥へ奥へと進んで行った。

 

「………………」

 

船内の傷を見るに、主に使われたのは呪文。この船を覆うほどの爆発と炎……どれほど強大なやからなのだろうか。誰にせよ、その侵入者を許すつもりなど彼には無いが。

 

「…………?」

 

クロウが立ち止まる。サーベルを抜くと、周囲を警戒し始めた。木材が燃える音の中に、かすかにだが笑う声が聞こえたのだ。

 

「誰だ、どこにいる!」

 

声を荒らげるも、答えない。ただただ笑い声だけが大きくなるばかりだった。

 

「……そうか、ならばあぶりだしてやる」

 

━━しんくうはッ!

 

剣を振るうことで真空の刃を飛ばした。真空の刃は炎を消していき、あらゆる所へ飛んでいく。そのうちの一つが、クロウの前方でかき消された。

 

「……そこか」

「ケケケケケッ!まさか自分の船の中でこうも暴れるとはな!」

 

透明化を解除したのか、そこにいた者の姿があらわになった。そこにいたのは、グレムリンやベビルと同じ姿をした小悪魔。違うのは黒と赤の色合いぐらいか。

 

「お前が私の部下をやったのか」

「ああそうだ!オレ様はバアルゼブブ!ベリアルに並ぶ大悪魔さ!」

 

ベリアル……それは悪霊の神々の一柱。黄金の肉体に巨大なバトルフォークを持ち、あらゆる世界で暴れたとされる伝説の悪魔だ。

 

しかし、このバアルゼブブの姿からはそんな威厳は感じられない。それでもクロウは、目の前のふざけた小悪魔が持つ魔力を見抜いていた。

 

「なるほど、虚言ではないようだな」

「もちろんさ。オレ様はな、この姿を見て油断するバカどもをいたぶるのが大好きなんだ!」

「っ!」

 

━━マヒャドッ!

 

不意をついたバアルゼブブが氷結呪文マヒャドを唱える。船内が急激に冷え、形成された氷がクロウを打ち据えた。たちまちクロウは凍りつき、吹雪と氷が収まった頃にはクロウは氷に閉じ込められてしまった。

 

「ケケケッ!バカだなぁ、悪魔を相手する時は常に警戒しねぇと!何考えてるかわからないぜぇ!?」

 

腹を抱えて笑いころげるバアルゼブブ。もう一度じっくり見ようと氷像へ目を向けると、何も入っていない(・・・・・・・・)氷があった。

 

「……へ?」

「ふんっ!」

 

クロウのサーベルが閃き、バアルゼブブを切り裂いた。切り裂かれたバアルゼブブは驚愕の表情を浮かべると……モヤとなって消滅した。

 

「っ!マヌーサか!」

「そのとおりぃぃ!」

 

━━ベギラゴンッ!

 

クロウの後ろから熱線が放たれる。クロウはすぐさま壁へと飛び退き熱線を回避すると、バアルゼブブへかまいたちを放った。しかしそれも幻惑。本物はクロウの背後に回っていた。

 

「ケケケケケッ!氷像から抜けられるのはわかってたぜ?アンタは霊体みたいだしなぁ。だが、オレ様は魔力にかまけたバカじゃない。二重三重の策を張り巡らせているのさ!」

「やりにくい……ならば!」

「お?」

 

クロウがバアルゼブブから距離をとり、そのまま階段へと向かっていく。バアルゼブブは呪文で攻撃しながらもクロウを追いかけた。

クロウは壁をすり抜けていくが、バアルゼブブは壁を焼き払いながら迫る。

 

「ケケケッ!逃げてばかりじゃあ勝てないぜ!」

「ぐっ!?」

 

ついにバアルゼブブのベギラゴンがクロウを飲み込んだ。炎がおさまる……が、そこにクロウの姿はなかった。

 

「ケケケ……魔力を見るに、甲板に瞬間移動しやがったな?広い分戦いやすいと踏んだか」

 

バアルゼブブも甲板へと転移する。いつでも攻撃できるように魔力を練りながら光に包まれた瞬間……。

 

「ようこそ、海賊の地獄へ」

 

数多の砲音が轟いた。

 

 




アンケートは15日まで!まだしていない方は投票よろしくお願いします。


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第32話 海賊王の砲撃

なぜか昨日から毎時間お気に入り登録とUAがどんどん増えていく……嬉しいんですが、突然のことに驚きを隠せないです。いつもはUAが0の時もあるのに…何が起こってるんだ……?

今回はちょっと少なめ。前回で少し進めすぎましたね…。

お気に入り登録、評価、感想ありがとうございます!誤字報告も受け付けておりますので、何かあればよろしくお願いします。


ゆうれい船の甲板へと転移したバアルゼブブ。出迎えたのは自分へと迫る数多の砲弾だった。

 

「ちょっ!」

 

すぐさま周囲へイオナズンを展開し相殺するも、バアルゼブブの頭は混乱していた。

 

「なんで砲弾が飛んでくるんだ!?この船の船員は全員ぶっ飛ばしたはず!」

 

別の船から乗り移ってきたか?いや、それにしては音はしなかった。しかも転移で現れた自分にまっすぐ向かってきた。砲台を動かすにしては早すぎる。

 

そこまで煙に巻かれながら考えていたバアルゼブブの耳に、再び砲撃の音が聞こえる。咄嗟に床に屈むと、バアルゼブブの小さな頭の上を砲弾が通り過ぎていった。

 

それにより、イオナズンによって巻き上げられていた煙が晴れ、ようやく謎の答えを知ることとなった。

 

「ようやく出てきたな」

「……おい、なんだよそれは!?」

 

やはり数多の砲門が向けられていた。しかしクロウの配下は一人もおらず、砲台は船に取り付けられたままだった。

 

砲弾を放ったのはクロウの背後。空間から覗いていた(・・・・・・・・・)数多の砲門からだった。

 

「何も無い場所から、魔力を用いてマグマや突風を放つ『体技』。私は海賊、それにともなった技が使える。さあもっと踊れ。私のクルーと相棒に傷をつけたその代償は高くつく!」

 

━━ほうげきッ!

 

砲門が火を吹いた。バアルゼブブは慌てて転移を発動しクロウの死角へ逃れるも、すぐさま斜線変更。次弾が装填された砲門が砲撃を開始する。

 

「ぐ…このっ!」

 

━━しゃくねつッ!

 

バアルゼブブは灼熱の炎を吐き出すことで、弾幕の隙間からクロウへ攻撃した。しかし、クロウは真空波を巻き起こすと炎をかき消し、再び砲撃を開始する。

 

「チィッ!なら、また幻惑に飲まれな!」

 

━━マヌーサッ!

 

クロウの頭に薄い桃色の霧がかかり、バアルゼブブが数十体に増えた。それぞれが上位呪文を放ち、灼熱の炎を吐く。クロウは瞬間移動によってマスト付近に退避すると、指を鳴らした。その振動に魔力が乗せられ、それに触れた砲門は次々に棘の付いた大砲へその姿を変えた。

 

━━とげとげほうげきッ!

 

名称は可愛らしいが、その実は凶悪の一言。棘のついた砲弾が放たれ、先程までとは比べ物にならない爆発がバアルゼブブたちを吹き飛ばした。

 

「クッソ……なら船内に戻って…!」

「させるはずがないだろう」

 

船内にこもればクロウは砲撃を使えない。冷静さをかき階段へと向かうバアルゼブブの前に、クロウは瞬間移動した。

 

一瞬、驚きで硬直したバアルゼブブの首が掴まれ、そのまま床へと叩きつけられる。左手のサーベルが怪しく輝き、骸骨の形をした呪いが湧き始めた。

 

「この船をまた利用しようと……お前はどれだけ私を怒らせれば気が済む…!」

「が……うぅ……」

「これで終わりだ、小悪魔!」

 

━━ドクロ割りッ!

 

呪いを纏ったサーベルが振り下ろされ、バアルゼブブを両断せんと迫る。しかし、忘れてはいないだろうか。姿こそ小悪魔だがこのバアルゼブブ、ベリアルと並ぶ大悪魔である。要するに……。

 

「なめるなぁああっっ!!」

「ぬっ!?」

 

ここで終わる程度の者ではないのである。

 

━━イオグランデッ!

 

イオ系呪文の最上位。最強の爆裂呪文イオグランデが放たれた。その巨大な爆発の嵐はゆうれい船だけにとどまらず、クロウの率いていた船団の全てをことごとく飲み込んでいく。モンスターと言えど船。爆発に耐えられず、次々と破壊され塵に変わっていった。

 

「ぬ…おぉぉおおおお!?」

 

亡霊であるクロウに並の攻撃は通らない。威力の三分の二まで軽減できるそのクロウも、大悪魔の全魔力を込めたイオグランデには敵わず、その霊体を崩壊させていった。

 

「バカな、バカなぁあああっ!!?」

 

最後の霊子一粒までバラバラに散らばり、クロウはその生涯に幕を下ろした。爆発が収まり、周囲には何も無い。フラフラと飛ぶバアルゼブブは、その顔を酷く歪ませた。

 

「は…はは……ハハハハハッ!見たか、これが大悪魔バアルゼブブ様の力だぁ!亡霊ごときが勝てるわけがないんだよぉ!!」

 

高らかな笑い声が辺りに響く。帝王軍の一角、帝獄海賊団は全滅、破壊神降臨にバアルゼブブは大きな貢献を果たしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「欲は冒険へと駆り立て、財宝は夢へと誘う」

 

━━見果てぬ夢

 

幸せそうな顔で眠りこけるバアルゼブブを、クロウは持ち上げ空高く放り投げた。砲台はメカニックになり、砲門へエネルギーを蓄え始める。

 

「許せはしないが、その大悪魔の意地は見事だった。最後はまどろみに包まれながら逝くといい」

 

━━宇宙砲

 

砲門から溢れ出すは宇宙の神秘。光と化した世界の力。

 

放たれた青い光線はバアルゼブブを一瞬で蒸発させ、宇宙へと帰っていった。

 

「……ふう、これでこちらは片付いたな。他の船から薬草を回して貰うか。あと少しで治るからな、お前も待っていろ」

 

船が少しばかり揺れた。クロウは笑うと、地上の様子を見るために船から体を乗り出した。

 

ドンッ!!

 

「うっ…おぉおおわっっ!!?」

 

巨大な光の矢がクロウの顔面スレスレを通過し、ゆうれい船のマストを消し飛ばした。致命傷とも言える損失にゆうれい船は力を失い、浮遊できずどんどん降下していく。

 

「な…な……!?」

 

数刻前には砲弾の雨に晒されていた神殿が近づいてくる。怒涛の展開についていけないクロウはただ一言。

 

「なんで私たちばっかりこんな目にぃいいいっっ!!」

 

特攻という形でクロウは見事、ハーゴンの神殿を破壊することに成功したのだった。

 




今頃気づきましたが、番外編でアロマをカルマッソの子孫というような書き方をしてしまいました……申し訳ありません。そちらも直しておきます。


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第33話 SSランクもピンキリ

お気に入り登録ありがとうございます。400件突破したばかりなのにかなり増えて……すっごく嬉しい。

今回は早く展開を進めるために早々と書いたので内容が薄くなってしまったかも。一つのことを場面場面掘り下げて書きたいと言っていたのに、最初の頃と比べて成長が感じられませんね……。

今回、気持ち悪いシーンがあります。ご注意ください。


クロウがバアルゼブブと追いかけっこをしていた頃、地上でも激戦が繰り広げられていた。

 

「ハイジョ!」

「キミ、ちょっとうるさいよ〜ん?」

 

スーパーキラーマシンがガルマッゾへと迫る。その間に魔王の使いが滑り込み、その四本の武器でスーパーキラーマシンの剣を押さえ込んだ。

 

「邪魔スル者、ハイジョスル!」

 

━━メッタ斬りッ!

 

スーパーキラーマシンは両腕を振り回し魔王の使いへと斬り掛かった。魔王の使いも武器で捌こうとするも、力はスーパーキラーマシンの方が上。さらに読みにくい乱雑な攻撃ともなれば、魔王の使いには捌ききることは不可能だった。

 

━━ドルモーア

 

魔王の使いを抑え込むスーパーキラーマシンへ、ガルマッゾが闇の呪文を放つ。闇の爆雷はスーパーキラーマシンのコックピットへと直撃し仰け反らせた。

 

━━れんごく斬りッ!

 

魔王の使いは退きざまに炎を纏った斬撃を加える。それはスーパーキラーマシンの左前脚を折り体勢を崩した。

 

━━マジックハックッ!

 

なげきのぼうれいが呪文を唱え、スーパーキラーマシンの耐性を下げる。そこへガルマッゾが連続で呪文を叩き込んでいった。

 

━━イオナズンッ!

━━ドルモーアッ!

 

爆発の嵐がスーパーキラーマシンを包み、その中へ闇の爆雷を放つ。舞い上がった砂煙と闇の雷により、たちまちスーパーキラーマシンの姿は見えなくなった。

 

「光あふれる地に沢山いるんだもの、SSランクの資格なんてないよね?キミは行ってもSランクで十分、スーパーライトな世界に帰っちゃいなよ〜」

 

ガルマッゾの提案に、スーパーキラーマシンは攻撃で答えた。頭部が足の間へ滑り込み、巨大な砲門が顕になる。剣を地面に突き立て支えにすると、砲撃を開始した。

 

━━300mmキャノン砲ッ!

 

放たれた巨大な砲弾はガルマッゾを守らんと前へ出たなげきのぼうれいと魔王の使いを吹き飛ばし、次弾がすぐさま装填、放たれた。

 

「へ〜?初めて見る技だよ〜」

 

ガルマッゾは周囲に浮かばせた魔抱珠を合体させ盾にした。大量のマ素によって作られる魔抱珠の硬度は高く、スーパーキラーマシンの砲撃であろうと傷一つつかない。

 

「ガ……ガガ……」

 

蓄積したダメージによって思考機能が正常に働かないスーパーキラーマシン。しかし、目の前の敵を排除することは忘れていない。キャノン砲が効かないのであれば別の攻撃をすればいい。

 

「チャー……始…10%…5………100……」

 

スーパーキラーマシンの砲門にエネルギーがチャージされ、それは極太光線となって放たれた。

 

━━スーパーレーザーッ!

 

この機体において最大の技。光線はガルマッゾの魔抱珠を軽々と破壊し、その巨体を飲み込んだ。

 

「あら、あららぁああっ!!?」

 

光線に飲まれたガルマッゾの肉体が崩壊していく。光線が消え、その場に残ったのは小さな魔抱珠のみだった。

 

「ハイジョ……確…認……」

 

次なる獲物を求めて、スーパーキラーマシンは地面を這いずる。別の機体が戦っている巨大な天秤、赤い眼光はオムド・ロレスへと向けられ、砲門が向けられた。

 

残されたエネルギーを全て使い、倒せずとも別の機体が有利になるように。砲身が赤熱し形が変わり始める。連発を想定されていないキャノン砲は耐えきれないだろうが、敵を殲滅することに比べれば些末な問題。

 

チャージが完了し、再びスーパーレーザーが放たれる…。

 

「ガ……ガピピッ!?」

 

ことは無かった。キャノン砲を巨大なマデュライトが貫く。行き場を失ったエネルギーは暴走を始め、爆発。スーパーキラーマシンは跡形もなく破壊された。

 

「にゃはははは!残念だったね、ボクは生きてるよ!」

 

小さな魔抱珠を拾い上げたガルマッゾが笑った。そこへさらに二体の魔物が近づいていく。それらはガルマッゾと瓜二つの姿をしていた。

 

「あら、終わっちゃった?」

「ボクたちが来た意味は〜?」

「ないない!ただの杞憂だったみたい!」

 

三体のガルマッゾが肉を動かし小さな魔抱珠と共に一体化する。できあがった巨大な肉塊は縮み始め、人間体の姿に変わった。

 

「ボクが死ぬなんてありえないんだ。この世からマ素が失われない限り、ボクの悪意は新たな肉体を形成し蘇る。残念だったね!」

 

スーパーキラーマシンの残骸へ声をかけると、カルマッソはオムド・ロレスの方へと足を進めた。倒れた魔王の使いとなげきのぼうれいはスカウトリングに戻され、その場に残されたのはガラクタと化したスーパーキラーマシンのみだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

もう一体のスーパーキラーマシンとオムド・ロレスの戦いは一方的だった。

 

放たれる矢はその守備力によって効かず、大剣で斬りかかろうにも宙に浮いているオムド・ロレスには届かない。空中戦を挑もうにも、オムド・ロレスの歯車によって地面に叩き落とされていた。

 

「スーパーキラーマシン……モハヤ古イ機体デアル貴様ニハ、ソノ名ヲ名乗ルコトスラ許サレナイ」

 

━━かがやくいき

 

オムド・ロレスは歯車によってスーパーキラーマシンの足を切断すると、身を震わせ冷たく輝く息を吐き出した。動けないスーパーキラーマシンはたちまち凍りつき、その動作を鈍くさせていく。

 

「ソノ名ヲ名乗ルノデアレバ、サラニ機能ヲ搭載スルガイイ……我ノ軍団ニイル機体ノヨウニ」

 

オムド・ロレスが神殿へと目を向ける。邪教団と戦っているのは魔導機兵群と魔物愛好部の魔物たち。その中で猛威を奮っているのはスーパーキラーマシンだった。

 

━━デッドリーウェポン

━━ダークマター

━━真・一刀両断

 

オムド・ロレスの前で無様に凍りついている機体とは比べ物にならない性能。神の一部であった機体ならまだ違う結果を残せただろうに、悲しいことに違う機体だ。

 

「マッタク、嘆カワシイコトダ。改良モサレズ、コノヨウナ捨テ駒トシテ使ワレルトハ…セメテ、最後ハ華々シク散レ」

 

歯車の一つでスーパーキラーマシンを掬いあげると、空高く放り投げる。オムド・ロレスは右に炎、左に氷の魔力を浮かばせ融合させる。相反する力が混ざり合うことで自然の摂理が乱れ、あらゆる物を無に帰す消滅の魔力が生み出された。

 

━━メドローア

 

消滅の魔力は巨大な光の矢となり放たれ、スーパーキラーマシンを塵一つ残さず消し飛ばした。

 

「……サテ、ソロソロ制圧ニ本腰ヲ…ム?」

 

矢は空間ごと消滅させながら突き進んでいく。その行く先には、クロウが向かったであろうゆうれい船が浮かんでいた。

 

「ア」

 

メドローアはマストを直撃。亡霊だろうと消滅の魔力に抗えるはずもなく、ゆうれい船は神殿へと墜落していった。

 

「………………」

「……オムド」

「っ!?」

 

いつの間にやらオムド・ロレスの背後にいたカルマッソ。その目は呆れに染まっていた。

 

「……まあ、エッチな本でもあげちゃえば許すでしょ」

「……ダナ」

 

いない所でも、クロウの扱いは雑だった。

 




アンケート投票ありがとうございました。
いらないが3票多かったので無しにします。

でも、どんな技か知りたい場合は感想などで言ってください。そういった感想が多ければ解説入れます。少なければ感想の返信で解説します。


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第34話 竜をも超えたトカゲの王

今回、なぜこいつが?と思っているであろう軍団長の出番です。私的にはかなり好きなキャラですぜ。

お気に入り登録、感想ともにありがとうございます!これからもこの作品を読んでくださると幸いです。



━━ドラゴン━━

 

それは、魔物の中でも最強と称される種族。その系統には数多の種族が属しており、その中にはドラゴンではない種族も組み込まれてしまっていた。

 

トカゲ、つまりはリザード種。ドラゴン系に属するが、竜ではない。それ故に鉄よりも硬い肉体を持つわけでもなく、岩をも溶かすブレスを吐けるわけでもない。

 

ドラゴン系統の中で、リザード種は下に見られていた。たかがトカゲが本物のドラゴンに勝てるはずもなく、リザード種ら肩身の狭い生活を余儀なくされていた……彼が現れるまでは。

 

━━キングリザード━━

 

リザード種でありながら、想像を絶する鍛錬の末に竜をも超えたトカゲの王。

 

その身を鍛えに鍛え、吐き出すブレスも喉が焼け落ちるまで特訓した。より強い相手との戦いを求め、他の系統すらも荒らした戦闘狂。

 

その力はやがてリザード種の限界を超え、ついにはドラゴンをも打ち倒した。世界で初めて、トカゲでもドラゴンに勝利することを証明してみせたのだ。

 

それからだ。己を鍛え上げ、竜を超えるリザード種をキングリザード種と定義されたのが。

 

キングリザード種はリザード種の楽園を作り上げるべく、日々戦いに明け暮れている……が。

 

最初のトカゲの王、つまり初代キングリザードはどうしていたのか?

 

楽園のために戦っているのか?それともリザード種を王らしく統率しているのか?

 

どれも違う。彼は竜を下した後も、ただただ戦い続けていた。ドラゴンを倒した……ならばより高みを、トカゲである自分がどこまで行けるのかを知るために。実績を上げれば、さらにリザード種の可能性を証明することができるのだから。

 

己を鍛え続けながら、強者を求め異世界を転々としていた彼は出会った。圧倒的な力で神々を薙ぎ払う地獄の帝王に。

 

高みを目指す彼は、生まれて初めて恐怖に震えた。魔王を見たことはある……挑んだことも。しかし、その怪物は魔王という次元を超えていた。

 

初めて目の当たりにした、大魔王の力。震える自分自身に激昂した彼は地獄の帝王へと挑んだ。

 

『俺と戦えぇ!!』

『グゴゴゴゴ……』

 

彼は負けなかった…しかし勝ちもしなかった。なぜなら、地獄の帝王の目は異世界の神々にのみ向けられており、彼のことなど眼中になかったからだ。

 

どれほど拳を叩き込もうと、どれほど強力なブレスに飲まれようと、地獄の帝王は一瞥もくれず、ただただ進撃する。

 

無視されていることに、興味すら向けられていない自分自身に怒りをおぼえた彼は、スーパーハイテンション状態で持ちうる最高の技を叩き込んだ。

 

━━竜王拳ッ!

 

縦横無尽に跳ね回りながら連撃を加え、三つに別れた尾を叩きつける奥義。生涯最高の手応えを感じた彼は、地獄の帝王へと向き直り……目が合った。

 

それまでの怒りも屈辱も全てが消え失せた。湧き上がるのは死の予感、自分など到底敵わないと理解し、次の瞬間には確実に死ぬであろうことを彼は悟った。

 

最高のテンションで、持ちうる最強の技を叩き込み、しかし地獄の帝王は無傷。覚悟を決めた彼は目をつぶり、その時を待った。

 

『………………?』

 

しかし、彼は死ななかった。目を開けると、地獄の帝王の姿ははるか遠くの方へ移動しており、その世界の主神の首をはねたところだった。

 

『…っ!………クソッ!』

 

殺す価値すらないのか。彼は膝から倒れ、涙を流した。と、そこへ一つの人影が近づいた。地獄の帝王の腹心、魔の貴公子ピサロだ。

 

『貴様、すぐに立ち上がれ』

『……ほっといてくれ』

『帝王様がお呼びだ。先程の技を見て、改めて会いたいとのことだ』

『なっ!?』

 

彼はすぐさま起き上がり、ピサロを……その奥に立つ地獄の帝王を見た。双剣を地面に突き刺し、戦地を見渡していた帝王は彼へと目を向けると、背を向け歩きだす。ピサロも続くために足を進め、キングリザードは置いていかれまいと後に続いた。

 

その後、その潜在能力と技を認められた彼は剛竜制圧隊の軍団長を命じられた。新たな鍛錬の場、強者と戦える立場を得た彼は改めて決意する。力をつけ続け、いつしか自身が高みに来たと感じることが出来た時、再び地獄の帝王に挑むことを。次こそは、戦うに足りる存在になることを。

 

 

 

 

 

 

 

クロウの乗っていたゆうれい船が、オムド・ロレスのメドローアによって撃ち落とされた頃、剛竜制圧隊は神殿の内部を掃討し、地下へと攻め込んでいた。

 

軍団にはヘルジュラシックやドラゴンデストロイなどなど、力が自慢のドラゴンたちが所属しており、地下に溢れていた悪魔たちはことごとく叩き潰されていった。

 

その先頭で突き進むのは特殊進化配合装置により生まれ変わった初代キングリザード、通称『最強キングリザード』。

 

それまでの限界値を大きく伸ばした彼は凄まじい力を手に入れ、今では魔王と同等かそれ以上の戦闘力を有していた。

 

「目指すは儀式の間!そこに邪教団の親玉がいるはずだ!敵をぶっ飛ばしながら突き進めぇ!!」

『グオォォオオオッッ!!』

 

ドラゴンたちはギガンテスの振り下ろした棍棒を真っ向から押し返し、アークデーモンの放つイオナズンに飛び込み壁へと叩きつける。頑丈な扉が行く手を阻もうと、吐き出すブレスで溶かし突破していった。

 

「足止めすらできんぞ!」

「とにかく壁になれ!儀式の間に行かせるな!」

 

邪教団の魔物たちが進行を止めようとするが、先頭にいたキングリザードが途端に加速し、目にも止まらぬ速さで突っ込んで行った。

 

━━竜王拳ッ!

 

拳が、ツメが、三又の尾が巨人を悪魔をことごとく吹き飛ばしていく。瞬く間に突破された魔物たちは、キングリザードに続いていたドラゴンたちに踏み潰された。

 

黒曜石で作られた扉を破壊しながらキングリザードが広場に突撃……ついに止まった。後に続いてきたドラゴンたちに腕で静止させ、広場の中心を睨む。

 

そこには二体の魔物がいた。報告にあったいにしえの魔神、それに酷似した姿の怪物と、ヤギのような顔をした巨大な悪魔。剛竜制圧隊を一瞥した悪魔は愉快そうに笑うと、言葉をなげかけた。

 

「外が騒がしいと思えば、ドラゴンの群れか!なるほど、これは戦いがいがあるものだ!」

「愚かなり、帝王軍よ……破壊の運命に抗うなど、無駄な事だ」

「……誰だ?お前ら」

「おお、戦うならば名を名乗らねばな!我が名はタイタニス、全ての悪魔を統べる者!」

「……フォロボス。貴様らとはまた別の世界の破壊神だ」

「っ!!」

 

名乗りを上げた破壊神と悪魔の王。強者を前にキングリザードは胸を高鳴らせた。

 

「俺は帝王軍は剛竜制圧隊、その軍団長を担った最強キングリザード!お前たちの相手、俺がつとめよう。お前たちは残りの邪教団を潰しにいけ!」

 

キングリザードを残し、ドラゴンたちは来た道を戻って行った。タイタニスは口を歪ませ喜びを、フォロボスは不機嫌そうな顔をしていた。

 

「ほう、噂に名高いキングリザード種か!」

「フン、トカゲごときが我に届くと思うたか。すぐに蹴散らしてくれる」

 

トカゲの王が、系統の王と破壊神に挑む。未だかつて無い組み合わせの戦いが、ここに始まったのだった。

 




金ピカ魔神の超強化版と、悪魔の系統の王が登場。
通常のキングリザードでは勝ち目はないが、果たして?


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第35話 破壊の矛先は

この章が終わったらいったんネタ集めに戻ろうかな。間隔空くかもです。


「初めから全力でゆくぞ!」

 

━━イオグランデッ!

 

流石は系統の王タイタニス。バアルゼブブでさえ魔力を使い果たすことで発動させた最上位呪文イオグランデを片手間に放った。

 

「むう!?」

 

凄まじい爆発が部屋を満たし、神殿を崩していく。爆発に飲まれているキングリザードへ、フォロボスが仕掛けた。

 

━━ドルモーア

 

破壊神の魔力によって呪文は暴走を起こし、巨大な闇の爆雷がキングリザードを吹き飛ばした。壁を突き破り隣の部屋へと転がり込んだキングリザードは、床を砕きながら跳躍しタイタニスへと突進する。タイタニスは笑みを浮かべながら、召喚した巨大なサーベルを振り下ろした。

 

━━ほのおのいちげきッ!

 

キングリザードはサーベルの腹を左腕で打ち軌道をそらすと、そのまま回転し炎を纏わせた右の裏拳を放つ。タイタニスが体勢を崩したところへさらに追い打ちをかけようとするが、フォロボスの放った棘の拳を腹に受け引き離された。

 

━━魔の刺突ッ!

 

フォロボスが素早く踏み込み、キングリザードの胸へと拳の棘を打ち込む。しかしキングリザードは棘と肩を掴み止めると、フォロボスの顔に灼熱の火球を浴びせた。

 

━━しゃくねつ火球ッ!

 

「ヌグ……」

 

━━おぞましいおたけびッ!

 

離さぬままに、今度は身も凍るおぞましい雄叫びを上げる。音の振動波はフォロボスの肉体の隅々にまで広がり内部を傷つけた。

 

「こっちも相手してくれよ!」

 

━━悪夢のこだまッ!

 

「ゴアッ!?」

 

複数の魔力弾が放たれ、その衝撃はキングリザードの魂に響く。フォロボスを手放したキングリザードは、タイタニスに首を掴まれ壁に叩きつけられた。

 

「おら、まだまだ行くぞ!」

「トカゲごときがァ!」

 

純粋に戦いを楽しんでいるタイタニスと、怒りに顔を染めたフォロボスが追撃を始めた。

 

━━バギムーチョッ!

━━ギラグレイドッ!

 

━━メラガイアーッ!

━━ドルマドンッ!

 

タイタニスの放った最上位呪文バギムーチョの竜巻へ、同じく最上位呪文ギラグレイド、フォロボスのメラガイアーが合わさり獄炎の竜巻と化した。そこへトドメと言わんばかりにフォロボスのドルマドンが炸裂。巨大な爆発を引き起こした。

 

「む、終わってしまったか?少しばかり遊び足りんぞ」

「フン……たわいもない」

 

巻き上がった砂煙に背を向け、儀式の間へと続く扉へと戻る二体。そんな中、フォロボスが足を止め振り返った。

 

「破壊神よ、いかがした」

「………………」

 

怪訝そうな目で煙を見つめるフォロボス。次の瞬間、雷鳴が轟き煙から稲妻が放たれた。

 

「ムウッ!」

「……しぶとい」

 

煙が晴れ、そこにいたのは全身を雷に包んだキングリザード。先程の呪文の嵐は、少しもキングリザードへとダメージを与えていなかった。

 

「そうか、まだ終わらぬのか!よい、よいぞ!」

 

━━ギラグレイドッ!

 

タイタニスの手から放たれた巨大な熱線が、地を舐めるように溶かしながらキングリザードへと迫る……が、キングリザードの体と衝突する前に消滅した。

 

「むっ!?なんだ、我の魔力が消えたぞ!」

「フンッ!」

 

━━魔の刺突ッ!

 

素早い踏み込みでフォロボスが近づき、棘で突く。すると、キングリザードの左手に持つ宝玉『竜眼』が光り、フォロボスの突きを跳ね返した。

 

「……なるほど、その宝玉か」

「聞いたことがあるぞ。キングリザード種とそれに近しいドラゴン種は、生まれながらに竜の瞳の形をした宝玉を持つという。その宝玉には呪文や物理攻撃のダメージを完全に無効化にする力があるとか……」

「そうだ、これこそ俺の秘技『竜眼』。呪文と打撃攻撃のどちらかを選び、そのダメージを無効化する。実力者であればどちらのダメージも同時に無効化することも可能だ。俺はまだ片方しかできぬがな」

 

竜眼によってダメージを同時に無効化する力を持つのは、現在ドラゴンガイアにしかできないとされている。彼は通常種と同じような効果しか発動できないが、与えられる恩恵は凄まじいものだ。

 

「さあ、次は俺の番だ。俺の技を受けてみろ」

「おもしろい!」

「どうしようが我らの勝利は揺るがぬ。好きにするがいい」

 

バチバチと稲妻が走る。キングリザードは見に纏った雷を拳と三又の尾へと集中させると、勢いよく床を蹴った。

 

━━轟雷・竜王拳ッ!

 

雷光一閃、神殿の地下は雷の光で包まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同じ時、地上ではピサロといにしえの魔神が死闘を繰り広げていた。互いに一進一退の攻防、しかし怒りに身を任せ力を振るいにしえの魔神の動きを、ピサロはすでに読みつつあった。

 

「オォォオオオオッ!!」

「フンッ!」

 

動きを読もうとも反応が難しい速さ。しかしピサロは完璧に攻撃を合わせ、いにしえの魔神を迎撃した。

 

━━秘技グランドクロスッ!

 

魔族の魔力がこもった邪悪な十字架が、いにしえの魔神を吹き飛ばす。ピサロは魔神へと追いつき、今の自分が放てる最高の技を繰り出した。長引いてしまった戦いに終止符を打つために。

 

━━超ジゴスラッシュッ!

 

地獄の雷を剣に纏わせ、無数の斬撃を叩き込む。地面に落とされた魔神へと、巨大な雷の刀身を叩きつけた。

 

「オォ…ガアァァアアアッッ!!」

 

地面が一直線に陥没した。いにしえの魔神は肉体を保てる魔力を失ったのか、端から徐々に粒となって消えていく。

 

「ク……ククク……クハハハハハッ!!」

 

自分が倒されたというのに、いにしえの魔神は勝ち誇ったように笑い始めた。いよいよ狂ったかとピサロが背を向けると、いにしえの魔神は笑いを堪えるように肩を震わせながらピサロへと問いかけた。

 

「ククク……どこへ行く?」

「……神殿へ」

「ハハハハッ!行って……どうするつもりだ。まさかハーゴンの儀式を……止めようと思っているのではあるまいな?」

「それ以外に何があると言うのだ」

「哀れで、無知なお前に……教えてやる。ハーゴンの儀式が、そんなに長引くような……ものだと思うか?」

「どういう意味だ」

「クハハハハハッ!!無駄だ無駄だ!なぜなら……」

 

 

 

 

 

 

「グアァァアアアッ!?」

 

キングリザードが扉ごと吹き飛び、儀式の間へと入った。フォロボスはタイタニスを蹴ると、怒声を浴びせた。

 

「愚か者め!なぜ扉の方へと吹き飛ばしたのだ!」

「すまんすまん……だが、もういいだろう?」

「……ここへ釘付けにしておくのは十分。だが任されたことを最後まで果たせなくば悪魔王の名が泣くぞ」

「もともと称号に興味はない。我の好むことにのみ集中するのがこのタイタニス、傍若無人でなくて何が悪魔か!」

 

 

 

「ハーゴンはすべき術を終え……」

 

 

 

倒れていたキングリザードは見た。血に濡れた部屋、誰もいない儀式の間を。キングリザードのすぐ側には、あくましんかんの物であろうローブの切れ端が落ちていた。

 

その時、天井が崩れる。キングリザードは歯車に掬いあげられた。

 

「オムド……ロレス……」

「急グゾ、キングリザード」

「何があった……」

「おお、キングリザード!無事だったか!」

 

そこへクロウが浮き上がり近づいてきた。何時になく焦った様子のクロウがキングリザードの質問へと答えた。

 

「先程まで悪魔王と破壊神の魔力で儀式の間の探知ができなかったのだがな、お前のおかげでやっと成功したのだ。どうやらハーゴンは、神官たちを皆殺しにし既に転移した後だった!月にはもういない!」

 

 

 

「地球を目指しているのだから…!」

 

 

 

休日、ちょうど朝食を済ませたゆらぎ荘。各々の日課へ動き出そうとした時だった。

 

突如起こる地震。ゆらぎ荘に結界が貼られ、光に包まれた。光が収まるとゆらぎ荘は……暗闇の空が広がる不毛の大地に転移していたのだった。

 




新しい章を始めるまでアンケートはしません。
しかし、何かを戦わせて欲しい場合は感想にリクエストください。休憩代わりに番外編に書いてみます。
魔王vs魔王、幹部vs幹部、下っ端vs下っ端でもなんでもいいです。


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第36話 ゆらぎ荘vs悪霊の神々

ついにゆらぎ荘参戦。そしてあの三大悪魔が登場。
ビルダーズ2などはやったことがないので、悪霊の神々の口調が変でもどうかご容赦ください。

そして今回は難産。悩んでたら時間経ってた&筆がなまった。


真っ暗な空に草木一本ない浮島のような大地。事態に気がついたゆらぎ荘の面々は外に飛び出した。

 

「何これ!?なんにもない!」

「こ、こゆずさんは中に!」

 

仲居がこゆずをゆらぎ荘の中へと入れようとすると、突然ゆらぎ荘が光り輝き、次の瞬間にはどこにもその姿は見えなくなってしまった。

 

「ゆらぎ荘が!」

「どうやら俺たちを返す気はないみてーだな」

「無論だ」

『っ!』

 

第三者の声が響く。空間が歪み、現れたのは三体の怪物。山のような一つ目の巨人に、赤紫の毛皮に身を包む翼が生えた猿、そして黄金色の屈強な牛顔の怪物だ。

 

「我が名はベリアル。大悪魔にして悪霊の神々が一柱」

「同じくアトラス。偉大なる破壊の下僕だ」

「同じくバズズだ。喜べ、お前らは供物に選ばれたんだ」

「供物って、なんのことだよ」

「我らが主、破壊を司る邪神への生贄に選ばれたということだ」

「何を勝手に…!」

「そ、そんなのお断りです!」

 

否定の言葉をくちにする面々に、悪霊の神々を自称する怪物たちは眉一つ動かさない。彼らにとっては、既に決定事項。どう答えようと関係ない。

 

「この世界における強者たちよ、その身を破壊神に捧げよ」

「さあ、仕事だぜ」

 

━━デビルクローッ!

 

バズズがツメに暗黒の瘴気を纏わせ振るう。ツメから放たれた斬撃が地面を裂き、三つの大地に分断した。

 

「これは…!」

「分かれちゃったの…!」

「ケケケ、美味そうな人間どもだ。少しくらい味見したいもんだな」

 

 

「……仲居さぁ〜ん、後ろに隠れててねぇ」

「あ、ありがとうございます呑子さん…」

「怖がることはない。一瞬で叩き潰してやる」

 

 

「突然来て、生贄になれなんて…!」

「勝手言ってんじゃねーよお前ら」

「人間と地縛霊ごときが、大層な口を利きおるわ」

 

それぞれの大地にて、いっせいに戦いが始まった。

 

 

 

 

呑子と仲居は、巨人アトラスと対峙していた。

 

「おっきいわねぇ〜」

「……どっこらせ」

「え…?」

 

アトラスは棍棒を地面に置き、どっかりと座った。戦う気がないのかと一瞬思った仲居だったが、呑子は手に持っていた鬼殺しを飲み干すと真後ろへ鬼火砲を放った。

 

「ぎゃっ!?」

「部下に不意打ちさせるなんてぇ…酷い人ねぇ。アナタが来ないと、アタシは倒せないわよぉ?」

「使えん……仕方がない。足だけで相手してやる」

「余裕ねぇ……油断してくれてるだけ助かるわぁ」

「呑子さん!わたしも運勢操作でサポートします!」

「ありがと仲居さん。それじゃぁ……やりましょうか」

 

呑子が鬼火砲を連続で放つ。その全てがアトラスに当たるものの、アトラスは大して気にしていないようだ。アトラスは座ったまま足を上げ、勢いよく大地へと下ろす。それだけで地震が起こり、津波のように衝撃波が地を這ってきた。

 

呑子は仲居を抱えてジャンプ。押し寄せる衝撃波を飛び越えた……が、次いで下ろされる別の足。2人が着地するタイミングを狙って再び衝撃波が放たれた。

 

━━運勢操作・招福っ!

 

運良く、衝撃波に耐えられなかった大地に穴が空き、衝撃波が止まった。しかし爆風は防げず、2人を地へと凄まじい勢いで叩きつける。

 

「いったぁ〜い……仲居さん、だいじょ〜ぶぅ?」

「は、はい。なんとか……」

「しつこい奴らだ。さっさと死ねば楽になれるものを…」

 

呑子が再び鬼火砲を発射する。どうせ効かないと、アトラスは気にせずに足を上げた。

 

「鬼火砲は鬼の霊力を使うんだけどぉ……酒呑童子の末裔ともなると、こんなことも出来ちゃうのよぉ」

 

呑子が手を捻ると、鬼火砲の軌道が変わる。向きを変えた鬼火砲は、無防備なアトラスの目に直撃した。

 

「ぐおぉぉおおおっっ!!?」

 

アトラスに限らず、ギガンテスなどの一つ目の巨人種は総じてその目が弱点。巨大な一つ目は遠くまで見通すことが出来るが、そのぶんデメリットもあった。

 

「うごご……許さん、許さんぞ!全力でひねり潰してやる!」

「あらあらぁ、足だけで戦うと言ったのはアナタよぉ〜?」

「黙れ!このアトラスをコケにするとは、愚かな!」

 

ついにアトラスが立ち上がる。棍棒を肩に担ぎ、2人へと迫っていった。

 

 

 

 

狭霧と夜々は、既にバズズと戦い始めていた。

 

「ケケケケケ!しっかり避けないと消し炭だぜ!?」

 

━━ベギラゴンッ!

 

地を這う熱線が2人へと迫る。夜々は猫神の加護による速さで、狭霧は飛ぶクナイを足場にして回避した。

 

━━雨野流誅魔忍術奥義、叢時雨っ!

 

大量のクナイが生成され、バズズへと降り注ぐ。バズズはニヤけた顔をさらに歪め、呪文を唱えた。

 

━━バギクロスッ!

 

2つの真空の竜巻が発生し、降り注ぐクナイを気流で押し流していく。バラバラに飛んでいったクナイは狭霧や夜々へと向かうものもあった。

 

「くっ…!」

「猫神さま!」

 

夜々から光が溢れ出し、猫神が顕現する。猫神はバズズへと飛びかかるも、バズズは猫神の巨体をすんなりと躱しツメを突き立てた。

 

「ヴニャァアアッ!?」

 

痛みに襲われた猫神は体を乱雑に動かしバズズを振り払う。バズズは翼で器用に体勢を整えると、大きく口を開いた。

 

━━しゃくねつのおたけびッ!

 

灼熱の炎の如き高熱の咆哮が放たれる。猫神の毛に火がつき始め、やがて全身を包んでいった。

 

「ヴニャアアッ!」

「カカカ、熱いか?なら涼しくしてやるぜ」

 

━━こごえる吹雪ッ!

 

バズズが吐き出した吹雪は猫神の炎をたちまち消し、さらには凍らせていく。急な温度変化に猫神の体はついていけず、光となって夜々の中へと戻ってしまった。

 

「猫神さま!」

「そんな低級の神に、このバズズが遅れをとるはずがないぜ!さあ、観念しな!」

「させるか!」

 

━━分身の術っ!

━━雨野流誅魔忍術奥義、雨蛟龍っ!

 

「オオッ!?」

 

5人に分身した狭霧が、クナイを集め巨大な針を生成し放った。夜々へと飛びかかっていたバズズは、自分よりも大きな針を5つ受け止め、放たれた針の勢いのまま大地に叩きつけられた。

 

「夜々、無事か!」

「う。大丈夫なの…でも、猫神さまはもう出れない」

「そのぶん、霊力の操作に集中できた。後は私にまかせてくれ」

 

砂煙を睨む狭霧。煙からズルズルと這い出してきたのは、下半身が無くなってしまったバズズだった。

バズズは悪霊の神々の中でも多様な攻撃手段を持つが、アトラスやベリアルのように強靭な肉体は持ち合わせていない。下手をすれば低級の神と同等の脆さなのだ。

 

「ククッ……人間のくせに、生意気な…!」

「その人間に、そこまでやられているのだ。降伏しろ」

「ケケケ!バカ言うなよ。オレはなぁ、まだ負けちゃいないぜ!」

 

━━ベホマッ!

 

バズズの体を緑色の優しい光が包む。光がおさまると、バズズの肉体は完全に再生していた。

 

「なっ!?」

「さあ、第2ラウンドだ。油断はもうしねぇ、邪神の力の前にひれ伏せ!」

 

バズズの体を邪悪なオーラが包む。先程とは比べ物にならない速さで、バズズは2人へと襲いかかった。

 

 

 

 

コガラシと幽奈は、ベリアルと対峙していた。

 

「なぜオレたちを襲うんだ…?」

「なぜ…か。それは我らが神への捧げ物とするためだ。神は信心深い教徒の他に、強き者の肉体と魂を食らうことでさらなる力を得る」

「だからって、突然襲ってくるなんて!他の方を連れて帰ってください!」

「帰るわけがなかろう。貴様らには、共に過ごしたことでヤツの魔力が少なからず付いている。地獄の帝王と関わったのが運の尽きだな」

「地獄の…帝王……?」

「お喋りはここまでだ。さあ、その身を神へと捧げよ!」

 

ベリアルがバトルフォークを構える。コガラシは幽奈を背に、拳を構える。次の瞬間、ベリアルとコガラシは激突したのだった。

 




文字数が平均超えちゃったので強引な強制終了。

お待たせしてしまいすみません。
やっぱり漫画片手でないとゆらぎ荘の面々の口調がとりにくい。ドラクエの敵の話し方って一貫してる部分あるから楽なのよね……。


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第37話 末裔のチカラ

お久しぶりです。更新また間が空いてしまいすみません。

第1章も終盤になってきました。
ここからはゆらぎ荘の面々と悪霊の神々の戦いを書いていきます。


アトラスが本気になると、その攻撃はより一層激しさを増した。走るだけで衝撃波が放たれ、巨大な棍棒が振り回される。

 

地を這う衝撃波を避けようと飛び上がれば、アトラスの棍棒が襲いかかるというコンボ。衝撃波自体の威力は少ないが、強引に仲居を庇いながら突き破っていた呑子は何度も衝撃波を食らいボロボロになっていった。

 

「ウオォォオオオッ!」

 

━━運勢操作・招福っ!

 

雄叫びをあげながらアトラスが棍棒を振り下ろす。仲居の運勢操作によって何度も回避がやっとの状態だが、その反動でまたもや衝撃波に飲まれる2人。

 

目玉以外の急所を持たないアトラスに、半端な攻撃は通用しない。その肉体は『ミナデイン砲』と呼ばれる超火力のビーム砲撃をも弾き返すほどの頑強さを誇る。

そして目は棍棒を持たない方の腕でガードしているため、呑子の鬼火砲は少しもダメージを与えられていなかった。

 

このままではアトラスに勝てないどころか、一矢報いることすらもできないのは明白。呑子は衝撃波に吹き飛ばされながらも、その覚悟を決めた。

 

「平気ぃ?仲居さぁん……」

「は、はい!呑子さんが守ってくださったので……呑子さんの方が酷い傷です!」

「いいのよぉ……仲居さん、ちょぉっと離れててねぇ?アタシ、久しぶりにぃ……ちょっとだけ本気出しちゃうからぁ」

「っ!は、はい!わかりました!」

 

仲居が走って呑子から離れていく。それを見たアトラスは大いに笑った。

 

「ゴハハハハッ!仲間に見捨てられでもしたか?なんの意図があるにせよ、このアトラスから逃げられると思うなぁ!」

 

━━はかいのいちげきッ!

 

呑子もろともに押しつぶさんと、アトラスの棍棒が振り下ろされる。絶体絶命の状況、それに対して呑子は不敵な笑みを浮かべた。

 

「そんなわけないじゃなぁい!仲居さんは何度もアタシを痛みに耐えながら助けてくれた……ならぁ、アタシもそれに応えないとねぇ!」

 

呑子の肌が段々と黒く変色していく。髪は桃色から真っ白に変わり、角は硬質化し黒く物々しく変化した。

 

「さっきのと昨日のを合わせてぇ……三升ってとこかしらぁ?」

 

棍棒へと、呑子が拳を叩き込む。その力は凄まじく、棍棒を弾き返しアトラスを大きくのけ反らせた。

 

「な、なんだとっ!?」

「さあ、行くわよぉ!」

 

呑子がツノから次々と鬼火砲を放つ。アトラスの肉体にダメージは無いが、衝撃で少しずつ後ろへ押され始めた。

 

「ぐ…ぐぐ……なめ、るなぁ!」

 

━━ふんさいのいちげきッ!

 

棍棒に魔力を込め、鬼火砲を薙ぎ払う。全ての鬼火砲を弾き、障害物がなくなったアトラスは呑子へと迫る。大きく棍棒を振り上げたところで……後ろから大量の鬼火砲が襲いかかった。

 

「ウ…オォォオオオッ!?」

 

呑子が弾かれた鬼火砲を操り、アトラスの背中に誘導したのだ。意識外の攻撃にアトラスは前へ倒れ、四つん這いになる。そこへ、がら空きになった目玉に呑子の特大の鬼火砲が直撃した。

 

「ギャアァァアアアッ!!?」

 

目玉をおさえ、仰向けに倒れるアトラス。呑子はアトラスの顔に飛び乗ると、霊力を纏わせた拳を顔へと叩き込んだ。

 

「ブッ!?」

 

一度に終わらず、何度も何度も拳が叩き込まれる。自分よりも小さい相手に、一方的に顔を殴られている。そんな異常は、アトラスに一つの忌々しい記憶を蘇らせた。

 

 

『はあぁぁあああっ!!』

『グガッ!グゲッ!』

『やっぱりおかしいわよあの力』

『これで魔力まで持ってたら最強だったな。もうアイツ一人でいいんじゃね?』

 

 

「この…アトラスが、神でも…勇者でもない……こんな辺境の世界にいる小鬼に……力負けだと……」

 

アトラスの手が棍棒を握る。もう片方の手で拳をつくると、勢いよく地面へと叩きつけた。

 

「そんなことが、あってたまるかぁああっ!!」

「っ!」

 

━━大地の怒りッ!

 

アトラス周辺の大地が蠢き、赤熱していく。やがてマグマが吹き荒れ、巨大な岩盤が突き出し呑子を襲い始めた。

 

「あらぁ、ちょっとマズイわねぇ」

 

完全に囲まれ、退路も無くなった大地。アトラスは棍棒を肩に担ぐと、呑子へと襲いかかった。

 

「このアトラスが!貴様のような小娘に敗北するなど、あるはずがない!吹き飛ばしてくれるわ!」

「やってみなさぁ〜い?」

 

━━超かっとばすッ!

 

両手で棍棒を持ち、フルスイング。呑子は鬼火砲で棍棒の速度を弱めると、全身を霊力で包み突進した。棍棒と呑子の突進は拮抗し、凄まじい衝撃波が起こる。手強しとみたアトラスは、後ろ足を上げると勢いよく地面へと叩きつけた。

 

━━ランドインパクトッ!

 

大地が割れ、突き出てきた鋭い岩盤が呑子を吹き飛ばした。空中で体勢を立て直した呑子へ、アトラスは複数の岩盤を掴み投げつけていく。呑子は鬼火砲で相殺するが、そこへ岩盤を砕きながらアトラスの棍棒が迫った。

 

━━はかいのいちげきッ!

 

咄嗟に腕で防御するも、全身を棍棒に強打され、マグマを越えて山に突っ込んだ。埋まった呑子は外へ出ようともがいていると、突如浮遊感に包まれる。

 

「ウオォォオオオッ!」

 

アトラスが山を持ち上げたのだ。呑子は山ごと投げられ、さらにアトラスは追撃を加える。

 

━━だいはかいのいちげきッ!

━━大地の怒りッ!

 

山のごとき巨大な岩を投げ、地面を叩き岩盤の突き上げを行う。呑子の埋まった山は岩に貫かれ、岩盤によって砕かれた。

 

アトラスの誇る最高の技たち。息切れしながらも、アトラスは笑みを浮かべた。

 

「あらぁ、何を笑ってるのかしらぁ?」

「……?な、なっ!?」

 

呑子が、アトラスの背後に浮かんでいた。一瞬、硬直した隙をつき、呑子がアトラスの目玉へ鬼火砲を放つ。悲鳴をあげながらアトラスは地面へと倒れた。

 

「なぜ、なぜ生きているのだ貴様!?」

「簡単なことよぉ、あなたの技が放たれる前にぃ、アタシは山から脱出していたの」

 

アトラスが山を投げた時、その力で運良く(・・・)外への穴が開き、呑子はそこから脱出していた。アトラスの技は呑子の埋まっていた場所を正確に貫き破壊していた。その穴が無ければ確実に死んでいただろう。

 

「仲居さんがいてくれて助かったわぁ」

「あの……小娘か、あの小娘が!」

 

呑子はこの場にいない、遠く離れた仲居へ感謝した。アトラスは恨みを込めて叫ぶも、技の連発でかなり消耗した今はそれしかできなかった。

 

「これで締めよぉ」

「バカな…こんな小娘に、小鬼ごときに敗れるというのか!?悪霊の神々が一柱である、このオレが!?」

 

呑子のツノに霊力が集まり、巨大な鬼火砲が形成されていく。それがアトラスへと向けられようとしていたその時。

 

「「っ!?」」

 

ガラスが割れたような音とともに、何かが空間を突き破り飛び出してきた。

 




まだアークさんは出ない予定。主人公の影も形もないぜ……。


第1章が終わったら、ネタ集めのためにメインは少しお休みします。

それまでの間を繋げるために、今のうちからアンケートで番外編のテーマをいくつか決めていきます。

リクエストも受け付けますので、その場合は感想欄にお願いします。


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第38話 邪神のバズズ

誤字報告ありがとうございます!
本当にありがたいです!極力無くすようにしますが、何かおかしいところ、誤字脱字があれば遠慮なく送ってください!


悪霊の神々。

 

それは破壊の邪神を主神とする神話体系にて神格化され、主神の眷属として加護を受けた怪物たちを指す。

 

アトラス、バズズ、ベリアル。これらは魔界にてあまたに存在する種族に過ぎない。しかしその中で、一際強大な個体が破壊神を崇め、力を授かったのがこの三体なのだ。

 

通常種の数倍の大きさ、頑強さ、力、そして知能を持つ巨人アトラス。

 

通常種よりも幅広い手数と威力の高い呪文を持つ猿魔バズズ。

 

通常種とは比較にならないほどの魔力と肉体を持ち、唯一体色が変わらなかった黄金の大悪魔ベリアル。

 

どれもが神と同等、魔王と同等の力を持つものたち。しかし、そんな怪物たちの中でも一体、不幸な魔物がいた。

 

バズズだ。彼は搦手と呪文の扱いは良かったが、肉体の方は貧弱であった。素早さが高く身軽ではあった。だが、その脆さは悪霊の神々の中では顕著であり、他の二柱と大きく差を開けてしまうものであった。

 

それを哀れんだ最高神は、バズズへ力を貸し与えた。身を守る盾になり、さらには敵を貫く矛となりえる邪神の魔力を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バズズが邪悪なオーラを纏ってから、戦いは一方的なものになっていた。

 

「ギャハハハハッ!」

「くっ!」

 

目で捉えるのがやっとのスピード。バズズは高速で移動しながら狭霧の霊装結界をそのツメで少しずつ切り裂いていった。

 

「オレの下半身を吹っ飛ばしてくれたんだ、ちょっとやそっとじゃ死なせねぇからな!なぶり殺しだぁ!」

「これ以上、好きにさせてたまるか!」

 

━━雨野流誅魔忍術奥義、暴雨っ!

 

その場で回転しクナイの斬撃による竜巻を作る。しかしバズズはオーラで竜巻を無効化し、そのツメで再び狭霧へと襲いかかった。

 

━━デビルクローッ!

━━猫爪

 

魔力を纏ったバズズのツメを、爪撃が打ち払った。夜々の指が鋭いツメに変化し、爪撃を飛ばしたのだ。

 

「なんだぁ?猫女、あの神が動けねぇのに手を出しちまってもいいのかよ?」

「夜々!」

「猫神さまは休んでる。でも、猫神さまがいなくても力は使える」

「へえ?可愛い顔して、なかなか度胸あるじゃねぇか。気に入らねぇ!」

 

━━ラリホーマッ!

 

「猫は猫らしくおねんねしてなぁ!」

「う……」

「夜々!」

 

ピンク色の魔力が放たれ、夜々の体が地に崩れた……と思ったら、飛び起きた。

 

「ごはん!」

「へ…?」

 

夜々は鼻歌を歌いそうなほど上機嫌に、ポケットから袋を取り出した。

 

「そ、それは!?」

「う。アークから貰った煮干し。もうお昼時だけど、ごはんが食べれない時はこれで我慢してる。いる?」

「いらねぇよ!」

「そういえば夜々は食事の時間に敏感だったな……」

「チィッ!ならもう一度かけて…」

「させるか!」

 

クナイがバズズへと降り注ぐが、クナイが当たる前にバズズはその場から離脱した。

 

「いちいち癇に障る人間どもが!さっさと死んで、その肉体と魂を差し出せばいいのによ!」

「ことわる!そんなこと、するわけがないだろう!」

「う。美味しいごはんも食べられなくなっちゃうの」

「……そうかよ、ならもうやめだ」

 

バズズは瞳を閉じ、静かに瞑想する。オーラが次第に濃度を増し、さらに体から吹き出していく。

 

「っ!夜々、奴に何もさせるな!」

「う!」

 

━━雨野流誅魔忍術奥義、叢時雨っ!

━━猫爪っ!

 

大量のクナイが展開され、バズズへと降り注ぐ。夜々も爪を振るい、爪撃がいくつも放たれ、地面を削りながら迫る。

 

「もうおせぇよ」

 

オーラが全てバズズの右手に集まり、巨大な漆黒の三本爪を形成する。その余波でクナイと爪撃はかき消され、狭霧と夜々は吹き飛ばされそうになった。

 

「ケケケケ……早く死ねば、この力を見ずに済んだのにな」

「そ…それは……」

「我らが神の力だ。破壊の力、その片鱗。テメェら程度なら塵すらも残らねぇだろうさ!」

「肉体も捧げろと言っていたくせに…!」

「そのつもりだったがよ、やっぱいいや!信仰心もない、貧弱な人間の体なんぞ、あってもなくても大して変わらねぇさ!だからよぉ……その魂だけもらうぜ!」

 

━━邪神のツメッ!

 

巨大なツメが2人へと迫る。それはとても避けられるものではなく、邪神の力が2人を消滅させる……ことはなかった。

 

「……あ?」

 

消えた。ツメが覆いかぶさった時には、まだその姿は見えていたが、ツメが地面につく頃には姿を消していた。

 

「…………」

 

バズズは周囲を見回すが、二人の姿はどこにもない。気配も感じない……つまりは逃げられた。あの二人ではなく、第三者の手によって。

 

「誰だあぁぁあああっ!どこに隠しやがったぁぁあああ!!」

 

翼を動かし空高く飛び立った。辺りを何度も見渡しながら、バズズは二人を探すために飛び去って行った。

 

 

 

 

 

 

バズズが飛び去って行くのを、バズズが飛び立った場所のすぐそば(・・・・)で三人は見ていた。

 

「危なかったの。ありがと、猫神さま。ゆっくり休んで」

『にゃあん……』

「あと少しで、私たちは死んでいたわけか……助かった、朧」

 

邪神のツメが二人を押し潰さそうとしたその時、神速で二人を救出したのは数日前からゆらぎ荘に住みついていた朧だった。

ツメから脱出した瞬間に猫神の『しのびあし』によって気配と姿を消し、バズズのすぐそばにいたものの気づかれることはなかった。

 

「玄士郎さまの容態も安定したのでな。いざ戻ってみれば認識阻害の結界があったゆえに少々気づくのに時間がかかった」

「いや、それでもだ。朧が加われば奴との戦いも少しは楽になる」

 

近くの岩に背を預けると、狭霧は霊力を集中させて霊装結界を修復した。夜々はポリポリと煮干しをつまみ、朧は片手を剣に変え、周囲を警戒している。

 

「朧、夜々のしのびあしは強力だ。そこまで警戒しなくてもいいぞ」

「だが、どの辺りにいるのかは把握しておきたい。突然襲われたら対処のしようがないからな」

「それもそうか……夜々、霊力はまだあるか?」

「う。まだしのびあしも続けられるの」

「そうか」

 

 

 

 

 

「我らが神よ、その力をお貸しください」

 

━━神のはどうッ!

 

 

 

 

 

 

 

三人が立ち上がった時、凄まじい力の波動が辺りに吹き荒れた。

 

「っ!?」

「……しのびあしが消された」

「なにっ!?」

 

「見つけたぞおおおおっ!!」

 

『!?』

 

バズズがオーラを纏いながら勢いよく着地する。構える三人へと、バズズは鋭い眼光を向けた。

 

「っ!テメェだな?そいつらを助けたのは……よくもこのオレをコケにしてくれたなぁ!」

「朧!」

 

━━デビルクローッ!

 

ツメに魔力を纏わせ朧へと迫る。しかし朧はバズズ以上の速さで回避し、剣を振った。しかしオーラに阻まれ、剣が弾かれる。その隙を突こうとするバズズへクナイが殺到し押しとどめた。

 

「チィッ!テメェら、オレをいいように翻弄してそんなに楽しいか!」

「楽しくなどない!こちらも命懸けだ!」

「そうかよ、ならその命を置いてけや!皆殺しだぁ!行くぜブハァッ!?」

『!?』

 

バズズが三人へと飛びかかったその時。空間が割れ、何かがバズズを吹き飛ばして行った。

 

『…………』

 

吹き飛ばされたバズズは近くの岩を砕いて転がり、飛び出した何かは山へと着弾する。突然のことに、三人はただただ固まっていたのだった。

 




バズズの口調はダイの大冒険のフレイザードとガルダンディーをすこしだけ意識。


アンケートは、これから一話ずつに作っていきます。第1章が終わるまでのそれぞれに様々なアンケートを作るので、いずれも投票してくださると嬉しいです。

ギャグ回への投票多いな……自分で考えてみるとカオスな展開しか思い浮かばないんだけど、どれぐらいがギャグとカオスの境目なんだろう?

前回のアンケート内容は、投票が多かった順に投稿していく予定です。日常も戦闘もギャグも書きます。


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第39話 怒りの王

2つ目のアンケート、最初は接戦だったのにいつの間にか差が開いていてびっくり。


「ムゥンッ!」

 

ベリアルがバトルフォークを回転させながらコガラシたちへと迫る。コガラシが拳撃を放つも、ベリアルは自身にスクルトをかけ、そのまま突っ切った。幽奈へとバトルフォークを振るうが、コガラシが間に入り先端を掴み止める。それを見たベリアルは瞬時に後ろへ跳躍しながら呪文を放った。

 

━━メラゾーマッ!

 

放たれた火球をコガラシは拳撃でかき消し、ベリアルへと駆ける。ベリアルは全身に力を貯めて迎え撃った。

 

コガラシの拳とベリアルのバトルフォークが衝突し、互いに拮抗する。このベリアル、なんとアトラスよりも力が強い。頑強さはさすがに劣るが、山をも持ち上げるアトラス以上のパワーは、神を一撃で倒したコガラシに打ち負けることはなかった。

 

「人間が、よくぞここまで力をつけたな。怒りの王と呼ばれた大悪魔である我とほぼ互角……いや、我以上か」

「これでも異世界の邪神を、師匠たちと倒したりしたことがあってな。そう簡単にオレは倒せねーよ」

「ククク……そうか、ではこれならどうかな?」

 

━━バイキルトッ!

 

ベリアルの呪文が発動すると、途端にコガラシが押され始めた。バイキルトは対象の力を2倍にする呪文。少々押され気味だった力勝負は一気に傾いた。

 

「っ!」

「ぬっ!?」

 

コガラシは空いている腕で拳撃を放ちベリアルを怯ませると、その顔に連続で拳を打ち込み始めた。スクルトにより防御力が上がってはいるものの、コガラシの力はそれをものともせずにベリアルを地面へと叩きつけていった。

 

「まさか、ここまでの…っ!?」

 

コガラシの拳が腹に深々と突き刺さる。肺の空気を全て吐き出し、バトルフォークを手放してしまったベリアルは……コガラシをその剛腕で抱きしめた。

 

「うおっ!?」

「近づいたのが運の尽きよ。喰らえい!」

 

━━全周囲イオナズンッ!

 

ベリアルの体が発光し、自身を起点に爆発がコガラシとベリアルを包んだ。通常のイオナズンとは威力が桁違いのそれは、地面を軽々と破壊し吹き飛ばしていく。

 

「コガラシさぁぁん!!」

 

幽奈が叫ぶと、爆発によって巻き上がっていた砂煙からコガラシが飛び出してくる。同じようにベリアルが姿を現し、コガラシへと指を向けた。

 

━━魔界のイオナズンッ!

 

魔界の瘴気が混ざった、紫がかった爆発がコガラシを飲み込む。間髪入れずに、ベリアルは手のひらに小さな黒い炎を作り出し投げつけた。

 

━━デスファイアッ!

 

小さな炎は、砂煙の中に入り凄まじい爆炎を起こした。

 

「……っ!やはりな!」

「フッ!」

 

衣服はボロボロになっているが、目立った傷はないコガラシが姿を現した。コガラシは拳撃を放ちながらベリアルへと迫る。ベリアルは拳撃をバトルフォークで打ち払いながら呪文を唱えた。

 

━━メラガイアーッ!

 

巨大な火球がコガラシへと放たれる。コガラシは拳撃で火球を貫き爆散させた。しかし、ベリアルは火球とともにコガラシへと迫っていた。

 

━━連続ためッ!

 

連続ためによってスーパーハイテンションとなったベリアルは、極限にまで圧縮した魔力をコガラシへと押し付けた。

 

━━デスエクスプロージョンッ!

 

ベリアルの持ちうる最高の技。イオグランデ以上の爆発がコガラシとベリアルを包んだ。

 

「コガラシさん!」

 

幽奈がいてもたってもいられず、舞い上がった煙へと近づいていく。慌てた幽奈が、いよいよ煙の中に入りそうになった時、煙の中から腕が伸び幽奈の首を掴みあげた。

 

「キャッ!?」

「グフフフ……そちらから来てくれるとは、殊勝な心がけだな」

 

煙が晴れ、ベリアルが姿を現した。コガラシは倒れ伏し、ピクリとも動かない。魔界のイオナズンによって呪文への耐性が脆くなっていたコガラシの防御結界は、スーパーハイテンション状態から放たれたデスエクスプロージョンに耐えきれず破壊されてしまったのだ。

 

「貴様は霊だな?魂の扱いは悪魔の得意とするところ。まずは人魂にして、魔力を与えてやろう。さぞ肥えた、美味い魂になることだろうて」

「うう……」

「ハハハッ!暴れても無駄だ。貴様はかなり上質な霊、我らが神への供物にふさわしい!」

 

ベリアルが幽奈を掴んでいる手に魔力をためていく。いざ形を変えようとベリアルが力んだ時、ベリアルの足を掴む者がいた。

 

「ム……?なんだ貴様、まだ動けたのか。生贄にするゆえ、死なない程度に力をセーブしたが……スーパーハイテンションのあの技を受けてなお動けるとはな。その頑強さには驚いた」

「幽奈を…離せ…!」

「コガラシ…さん……」

 

ベリアルは軽く笑うと足を上げ、コガラシの背中へと勢いよく下ろした。

 

「ガッ!?」

「コガラシさん…!」

「この娘は離せんなぁ…我らが神への捧げ物とするのだ。極上の状態でお出ししなければ」

「てめぇ……」

「案ずるな、すぐに会える。貴様はまず、降臨の際に生贄として喰われる。その後すぐに、この娘も神に喰われるだろう。離れている時間はほんのわずかだ……が、神に粗相をされては面目が無い。動けなくなるまで痛めつけておくか」

「ぐっ!?」

「や、やめて…ください!」

 

ベリアルが何度もコガラシを踏みつけていく。コガラシの体が地面に沈み、なけなしの霊力によって貼られている防御結界が削られていった。

 

「いや…コガラシさん……!」

「クハハハハッ!なあに死なせはせん!生贄なのだから、神におのが肉体が喰われるありがたい光景を、生きて目に焼きつけるといい!」

「ゴブッ…!」

 

コガラシの口から血が吐き出される。それを見た幽奈は、ベリアルに必死に懇願し始めた。

 

「やめて…やめてください!わたしはどうなってもいいですから!コガラシさんは…ゆらぎ荘の皆さんは!」

「聞けぬ願いだ。潔く諦めろ!」

「ぐあっ!」

「コガラシさん!」

「ククク……良い魂の色をしている。苦痛と悲しみに彩られた、そそる色だ。貴様らが神への生贄でなければ、我が喰らいたかった!貴様らはここで終わる。生贄となる時を楽しみにするといい!」

 

高らかに叫ぶベリアル。その声を聞いた幽奈の中で……何かが切れた。

 

「……ダメです。皆さんを神への生贄になんてさせません」

「ほう?ククク……中々面白いことを言うではないか」

「何も…面白くないです。あなたがたの思う通りになんて…!コガラシさんから離れてくださいいい!!!」

「ムッ!?」

 

幽奈のポルターガイストが発動した。しかもその威力は、コガラシを川に落としていた時のものとは桁違いのものだった。ベリアルを浮かせ、凄まじい勢いで吹き飛ばす。思わず幽奈から手を離したベリアルは、岩をいくつも粉砕しながら飛び、地面へと叩きつけられた。

 

「ぐぬ……お、おのれぇ!悪足掻きしおって!」

 

ベリアルが起き上がり、二人の所へと戻ろうとした時、何かが自分へと向かってくることに気づいた。

 

「ムッ!?な、貴様は!?」

 

ソレはベリアルを掴むと、突然発生した空間の歪みへと放り投げ、その手に持ったオノで殴り飛ばした。

 

ベリアルは空間の歪みを経由し、別の場所へと転移した。殴り飛ばされた時の勢いは止まらず、その場にいたバズズにぶつかり、山へと突っ込んで行ってしまったのだった。

 




今回のアンケートはギャグ回に関してです。ギャグレベルを選んでください。
下に行くほどレベルが高いです。カオスには別のアニメとかのネタも含まれます。


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第40話 登場!カンダタ親衛隊

お待たせしました。
感想にて、ドンピシャに言い当てられたんですが。
やっぱりオノだとバレてしまうのか…。

マジェス・ドレアム、ついにスーパーライト上陸!イルルカではまだ作れてなかったし、ダークドレアムのネタが増えるのは大変喜ばしい。このまま色んな技や特性を見せていって、ネタのストックを増やして欲しいものです。


はるか昔から、存在する盗賊たちがいた。

 

頼りなくも偉そうなカシラに、付き従う子分たち。しかし暴力は極力せずに、えっさほいさと盗みを働く彼らはいつしか大きな盗賊団へと成長していた。

 

彼らはあらゆる場所で盗みを働いた。国から、遺跡から、果てには次元をも超えて姿を現し金目の物を根こそぎ奪い去っていく。

 

人々は言う。海を統べた海賊、彼らの中でもっとも有名な者は誰か?それはかの海賊王キャプテン・クロウをおいて他にいないと。

 

では、地ではどうか?これもまた、名だたる盗賊団たちが存在する。キャット・リベリオなどがいい例だ。しかし、やはり一番に出てくるのはこの者たちをおいて他にいないだろう。

 

あまたの世界に存在する財宝を奪い去った、伝説の盗賊王率いる荒くれの群。名を『カンダタ盗賊団』と言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よっし!いい具合のかっ飛ばし、さすがオレ様よ!」

「馬鹿野郎!さっさと傷を手当するように号令かけねぇか!」

「うっ!すまねえ親分!」

 

ベリアルを殴り飛ばしたのは、緑の覆面を被った半裸の大男。そしてそれに喝を入れるのは、これまた黒い覆面を被った半裸の大男であった。

 

「てめぇら!こいつらを治療してやれ!」

「了解しやした、カシラ!」

 

空間が歪み、次々と黄土色の鎧を纏った者たちが現れた。彼らはコガラシのそばによると、手に持っているものをコガラシの口へ運んだ。

 

「上質なやくそうだ!食って傷を癒しな!」

「薬草…?それって塗ったりするものじゃ…んがっ!?」

 

無理やりコガラシの口へやくそうを突っ込む『カンダタこぶん』。口から手を抜き、コガラシの顎を掴むとこれまた強引に動かし、飲み込ませた。

 

「げほっ!げほっ!何しやがる!?」

「ほうら傷が癒えたぜ!よかったな!」

「こんなもんでそんなすぐ治る……治……」

 

コガラシは異変に気づく。かろうじて喋るのすらやっとだったのに、上半身を起こしスムーズに喋れていた。体を見ると、傷は全て塞がっていた。血の跡と破れた衣服のみが、先程まで大怪我をしていたことを証明している。

 

「気合いを入れりゃあ霊力回してすぐに直せるが……霊力もからっきしだったのに回復してやがる…」

「へっへっへっ!やくそうは疲労や気力、その全ても回復すっからなぁ!今回使ったのは特やくそう!大量に食わせたし、そりゃあすぐさま回復するってもんよ!」

 

笑う子分に、カシラの拳骨が襲った。鎧を貫通して響いた痛みに子分が悶えるも、お構い無しに指示を飛ばした。

 

「呑気に駄弁ってんじゃねぇよ!さっさとこいつら担いで転移してろ!腐っても神の一柱、これぐらいじゃあ……」

 

瞬間、山が一つ消し飛んだ。渦巻く爆発の魔力が、ベリアルの怒りを代弁している。

 

「やっぱり沈まねぇよな!」

「グオオオオオオッ!!」

「そら、行けェテメェら!!ここはオレ様と親分で片付ける!!」

「了解しやしたぁ!」

「うおっ!?」

「きゃっ!?」

 

子分たちはコガラシと幽奈を担ぐと、空間の歪みへと駆ける。それをベリアルは見過ごそうとはしない。

 

「ふざけるなぁ!逃がすかぁ!!」

 

━━メラガイアーッ!

 

巨大な火球が子分たちへと放たれた。子分たちは剣を構えるが、火球は子分たちに届くことなくかき消された。

 

「へへへ、お相手はオレらだぜ!」

「ったく、足引っ張るんじゃねぇぞ小僧!」

「あいよ親分!」

「目障りな…!我らが神への供物をよくも!」

「オレ様たちは盗賊だぜ!そんな大事なものは、しっかりと手中に収めておくんだったな、牛頭野郎!」

「我を愚弄するか、公開しても遅いぞ盗人があ!」

 

カンダタとカンダタおやぶんはオノを構える。ベリアルは二人へとバトルフォークを向け、跳躍したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

吹き飛んだ山の近くにて、ベリアルと衝突したバズズは気絶していた。

邪神の力を得ても、死角からの大質量を伴った一撃には対応できず、受け身も取れないまま吹き飛ばされてしまったのだ。

 

そんなバズズを、大きさの差が激しい三つの影が見下ろしていた。

 

「可哀想に……窮地に陥った子たちを救うためとはいえ、カンダタのカシラも容赦ないわねぇ」

「あら、結局は敵なのだしいいじゃない。アタシたちの仕事も楽になるわ」

「えぇ〜?でも褒められないよぉ〜……」

「褒められるために命張らないの!まったく、ショコラはまだまだ子供ねぇ」

「子どもじゃないよぉ!ハニーお姉ちゃん!シュガーお姉ちゃんがイジめるわ!」

「ショコラが悪いわよ」

「ハニーお姉ちゃんまでぇ!?」

 

バズズを哀れんでいるのは小さな長女シュガー、ツンとした態度をとるのは恋多き次女ハニー、大きく騒ぎ立てるのは巨人の如く巨大でガッシリとした三女ショコラ。

 

彼女らはカンダタの下で活躍し、ついにのれん分けを果たした三姉妹。その名も、女盗賊団『カンダタレディース』。

 

「な…なんなんだ、あの者たちは……」

「敵…か……?」

「う…………」

 

見知らぬ三姉妹にあっけにとられていた狭霧と夜々、そして朧は、突如三人へと振るわれたハニーのムチに対応できなかった。

 

「なっ!?」

「くっ!?」

「うっ!?」

「はい、痛いけどすぐ忘れるからね。アンタたちはそこの歪みを通りなさい」

 

ムチで打たれた三人は一瞬だけ痛みに顔を歪めたが、すぐさま無表情になり目にハートを浮かべた。ハニーの魅了攻撃にかかった三人は、ハニーの言う通りに歪みへ進み、くぐって行った。

 

「もう、なんでアタシが女を魅了しなきゃならないのよ!どうせならあっちの男の子の方に行きたかったわ!」

「ふええ、ハニーお姉ちゃんが怒ってるぅ……」

「まあまあ、それよりもこのお猿さんをどうにかしなきゃ。悪魔は死んだら魔界に帰るというし、サクッと殺りましょ」

 

シュガーが二つのトゲ付きメイスを取り出す。ハニーはムチを、ショコラは拳を構え、バズズを見据えた。

 

「…………ッカ、あ…?何が起きたんだ……あ?なんだテメェら。あの二人は……」

「目覚めちゃったかぁ……先手必勝!行くわよアンタたち!」

「ええ、この猿に八つ当たりさせてもらうわ!」

「ごめんねお猿さん!死んでください!」

「ああ!?誰が猿だ!いいぜ、テメェらから殺してやらぁ!!」

 

踊りかかる三姉妹。バズズは身体に邪神の力を纏い、迎え撃つのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

呑子の鬼火砲にたじろいでいたアトラスのすぐそば。そこに現れた歪みから一隻の宝船が飛び出した。

 

黄金色の宝船。そこに乗るのは七人の覆面男たち。空を飛び、金持ちからごっそりと金目の物を奪い尽くす義賊。その名は『カンダタセブン』。

 

「よっしゃあ!オレらが来たからにはもう安心!……って、はあ!?アトラスやられてんじゃねーか!?」

「おいおいおい、オレたちの活躍って子供二人拾っただけかよ!?」

「あらぁ……仲居さんとこゆずちゃんのことかしらぁ?」

「名前は聞いてねぇや!悪いな!とりあえず後はオレたちに任せて、お仲間さんらのところに行きな!」

「あらぁ、いいの?」

「おうよ!そいつはオレたち、カンダタセブンが請け負ったぁ!」

 

一人が歪みをゆびさして叫ぶ。呑子はアトラスから注意を外し、空間の歪みへと入っていった。

 

「さあて、やろうか木偶の坊!疲れてて悪いが連戦だ!」

「〜〜っ!!このアトラスを…どこまで侮辱すれば気が済むのだあああっ!!!」

 

アトラスが棍棒を持ち直しカンダタセブンへと駆ける。宝船を器用に操りながら、カンダタセブンは宝物を構えたのだった。

 

 

 




霊力は、ダイの大冒険で言うところの闘気と同じようなものとして書いています。
実際は違うものであるとは思っていますが、魔力や魔法力よりも、ドラクエに当てはめるならこれが最適かな?と思いました。


活動報告を見てくださった方はもうご存知でしょうが、リアルが忙しく他作品ともに更新速度が落ちます。

といっても、『ゆらぎ荘の帝王様』は番外編やりながらネタ集めの方針は変わりません。何かリクエストがあれば書きます。何も無い場合は、何も書けないままの期間ができちゃうかもしれないです。

オラにネタを分けてくれ…!

とりあえずスーパーライト、ストーリー追加はよ。ネタが足りないんじゃ。


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第41話 邪神官ハーゴン

長くお待たせしました。
大学受験、無事合格し戻ってきました。

ブランクどころか初見です。この作品を長らく更新していなかったので、書き方を!忘れた!


悪霊の神々はカンダタ盗賊団改めカンダタ親衛隊を蹴散らさんと息巻いていたが、やはりゆらぎ荘の面々と戦ったことによる消耗で苦戦を強いられていた。

 

ベリアルはまだ体力も魔力も充分残っているが、バズズは邪神の力を使った反動と先程の気絶により息切れしており、アトラスは呑子に叩きのめされすでに満身創痍の状態だった。

 

そんな彼らに帝王軍親衛隊を相手するには厳しい。

 

そう感じたのだろうか。空間が歪み、新たに一人この戦場に乱入者が現れた。

 

「………………」

「なっ、ハーゴンさま!」

 

その男、ハーゴンが現れたことにいち早く気づいたのはベリアル。カンダタたちは武器を構え警戒するも、ハーゴンは一瞥もくれずに悪霊の神々へと手を向けた。

 

瞬間、どす黒い呪いがその手から溢れ出し、ベリアル・バズズ・アトラスを包み込む。

 

突然のことに驚きながらも、彼らはハーゴンの呪いを受け入れた。自身の体から禍々しいオーラが出始め、力がみなぎるのを感じたベリアルは、その呪いが何なのかを理解した。

 

「これは……邪神の!シドーさまの力!」

 

傷が一瞬で修復され、アトラスは赤黒い、バズズは青黒い、ベリアルは緑黒いオーラを纏いさらに上位の存在へと進化する。

 

アトラスの山のごとき巨体はベリアルの2倍程度にまで縮み、しかしその力は縮んだことでより凝縮される。

 

バズズは魔力が高まり高速で循環していく。それに共鳴し体毛を染めている血がより暗く変色し魔力を発し始めた。

 

ベリアルはその黄金色の肉体が一回り大きくなりさらに筋肉質になる。強大な魔力はバトルフォークにまで侵食し、その威力を底上げした。

 

新生した悪霊の神々、新たな名を『アトラスネオ』『バズズエリート』『ベリアルオリジン』。

 

それらは凶暴な赤い瞳を親衛隊へと向け、闘争心の赴くままに襲いかかったのだった。

 

 

 

 

 

 

ゆらぎ荘にて、コガラシたちはカンダタこぶんたちから事情説明を受けていた。

 

「……つまり、いまゆらぎ荘を襲っているのは別世界から来た破壊の神を信仰する邪教団。そして、あなた方たちは邪教団を倒そうとしている…と」

「にわかには信じ難いが……あそこまでの強さを持ちながら、誅魔忍軍の目を掻い潜りこの国に存在できている。どれほどの強者でも、全国に散開している誅魔忍の目は欺けないからな」

「わかってもらえたようだな!あの悪魔どもは頭たちがやってくれる。お前らはアッシら、カンダタ親衛隊が守ってやるからよ!大船に乗ったつもりでどーんと任せておきな!」

 

豪快に笑うカンダタこぶん。一息つけるかと皆が力を抜いた時、幽奈がふと気づいた。

 

「あの、ゆらぎ荘は湯煙温泉郷に戻されているんですよね?」

「ん?おうよ、次元の狭間に捨てられてたのを拾い上げて、元の場所に戻してあるぜ」

「では…あの……なぜ襖の奥に木々や建物ではなく、空が広がっているんでしょうか……?」

「は?」

 

カンダタこぶんが急いで半開きの襖を全開にする。そこには、雲すらない青空と石のような材質の床が広がっていた。

 

「おいおい、なんだこれ……」

「お空の上、ねぇ…」

「……アッシらじゃねえ。逃げろ!邪教団の━━━」

「そう急ぐな。楽しみはこれからだぞ」

「━━━仕業かもしれ……あ?」

 

注意を促していたカンダタこぶんの胸部分から呪いの棘が生えた。黄金の鎧を容易く貫いた棘が抜かれ、カンダタこぶんはマ素となって消える。

 

「なっ!?」

「誰だ!」

 

その場の全員が、いつの間にか侵入していた敵へと注意を向けた。そこに居たのは、悪魔のような紋様が入った布を纏い、ドラゴンのヒレのようなものが付いた帽子をかぶった青い肌の男だった。

 

「お、おめぇは…ハーゴン!」

 

男……ハーゴンはニタリと笑うと、杖に魔力を纏わせ解放する。魔力は骸骨の形をした呪いとなり、カンダタこぶんたちを次々と吹き飛ばしていった。

 

「やめろぉ!!」

 

コガラシたちがハーゴンへ攻撃を加えた。対しハーゴンはニヤリと笑うと、それらに迎撃の体勢をとる。

 

狭霧のクナイ、呑子の鬼火砲が放たれる。が、脚の一薙ぎで打ち払われた。

夜々の爪撃と朧の剣撃が襲う。が、魔力の暴風で壁に叩きつけられた。

コガラシの拳が打ち込まれる。が、受け止められ反撃の拳に打ち据えられた。

 

「悪魔たちに気を取られていたからか、この空間に引きずり込むのは容易だったぞ。ふふふ……これで、私をここまで手こずらせた地獄の帝王に、目にものを見せられるな」

「ぐ……勝手言ってんじゃ…ねぇ…!」

「フンッ、私の一撃を受けてまだ立てるか。意識を飛ばすために顎を狙ったのだが……人間のくせに丈夫だな。まあいい、その強さであれば我らが神もお喜びになるというものよ」

「生贄になんざさせるかよ!」

「ムッ…」

 

コガラシが拳撃を放つ。ハーゴンは複数枚の結界を貼り防ぐも、コガラシの拳撃はその全てを割りハーゴンを外へと吹き飛ばした。

 

雨野流誅魔忍術奥義(あめのりゅうちゅうまにんじゅつおうぎ)叢時雨(むらしぐれ)!!」

 

起き上がろうとしているハーゴンへクナイの雨が降り注ぎ、さらに呑子の鬼火砲が数発打ち込まれた。仕上げにコガラシの全力の拳撃が床をぶち抜き、浮遊島のような足場に穴を開けた。

 

「やったか…!」

「さぎっちゃ〜ん?それフラグよぉ?」

「口は災いの元、とはよく言ったものだな。言わずともこの程度ではやられんが」

 

ハーゴンの声が3人の背後から聞こえた。咄嗟にコガラシと呑子はその場を飛び退いたが、反応が遅れた狭霧は腕を掴まれ、床に叩きつけられた。

 

「がっ!?」

「狭霧!」

「クフハハハハハ!!」

 

━━狂乱脚ッ!

 

ハーゴンの連続蹴りが狭霧を襲った。一瞬で霊装結界が剥がされていき、腹に重い一撃を打ち込まれることで完全に剥がされてしまった。

 

「あ…ぐ……」

「さぎっちゃんからぁ…離れなさぁい!!」

 

呑子がハーゴンへ格闘を仕掛ける。巨人アトラスを上回る鬼の力、それはハーゴンをも凌駕していた。

 

「ほう…ならば、これならどうかな?」

 

ハーゴンの身体から禍々しいオーラを立ち上らせた。それは右手に集中し……凄まじい衝撃波と共に巨大な爪を形成した。

 

「な、あれは!」

「う……破壊神の力…」

 

━━邪神のツメ

 

バズズの使用した邪神の力。それは何もバズズのみに使えるわけではない。最も破壊神と近い存在であるハーゴンに、使えない道理はなかった。

 

爪が振り下ろされる。呑子はすぐさま攻撃範囲内から離脱し、爪は触れた床を紫色の光に変えて消滅させていった。

 

「あらぁ……生贄にするって話はどうしたのかしらぁ…?」

「肉体にこだわってなどおらぬ。お前たちほどの実力者ならば魂だけでもよい……生贄はすでに足りているからな」

「足りている…?どういうことだ」

「ククク……我らが偉大なる破壊神シドー様は、信心深き信徒を生贄として食らうほど力を増し、完全な復活へと近づいていく」

 

ハーゴンは爪を形成する邪神の力を消散させ、次は持っていた杖に魔力を込め始めた。

 

「であれば、お前たちのような何も知らぬ者を生贄にせず、我ら自身を生贄とすれば良い。我が神殿にて、私と共に破壊神降臨の下準備を進めていた神官は全て生贄となった。今こうしてお前たちを襲っているのは、上質な魂を捧げさらなる力を得るためだ」

「……結局、オレたちは捧げ物ってわけか」

「そう、お前たちは我らが神に喰われる…それだけよ」

 

杖に込められた魔力が暴走し、凍てつく呪いの暴風となって吹き荒れる。ハーゴンはその杖をコガラシたちへと向けた。

 

「さあ、そろそろ終わりにするとしよう。地獄の帝王が来ぬうちに、お前たちの魂を頂かねば」

「……いにしえの魔神ってやつも言ってたけどよ、誰なんだよ……地獄の帝王ってのは」

「ククク……地獄の帝王とは、魔物を率いて数々の世界を手中に収めた魔王のことだ。その正体も教えてやりたい……が、時間が無い。続きはゆっくりと聞かせてやろう……魂にした後でな」

 

━━ロンダルキアの風ッ!!

 

暴風が床を凍り付かせながら、コガラシたちとゆらぎ荘へ迫る。まだ戦えるコガラシと呑子は、拳撃、鬼火砲を放つも圧倒的な魔力量の前には効果が無かった。

 

「く、くそっ!」

「マズイわねぇ…!」

 

コガラシと呑子の抵抗をものともしない暴風はゆらぎ荘を飲み込む━━━━

 

 

 

━━蒼天魔斬・改

 

 

 

 

 

━━━━ことは無かった。空から放たれた青い骸骨の形をした斬撃が、暴風と衝突し相殺させたのだ。

 

「む?」

「あ…あの人は…!」

 

ゆっくりと降りてくる者が一人。その身体は黄土色の鎧に包まれていた。

 

「アークさん!!」

「……やあ、遅くなってしまったよ。すまないね」

 

アークはコガラシたちへと振り返り、手をかざす。するとコガラシたちの身体はベホマの光に包まれ、その傷を全て癒した。

 

「ククク……異世界の旅は楽しかったかな?」

「まったく……月にいないことは読んでいた。月を覆っていた力が消えていたからな。軍が月に侵攻すると同時に地球に来ているならば、空間を捻じ曲げて潜伏しているとは思っていたが……」

「様々な世界に繋げておいたのだ……が、まさかこの1日で全てを踏破するとはな。私の息のかかった悪魔や魔物たちの溢れる世界を……」

「ああ。数百もの世界を渡るのは流石に骨が折れたぞ」

「ククク、流石は…地獄の帝王と言ったところか」

 

ハーゴンがこぼした言葉がコガラシたちを打った。それに気づいたか、アークは少々俯いた。

 

「アーク…さん。今のは……」

「……ああ、そうだ」

 

アークの身体が光り始める。強烈な光が収まれば、そこにはアークの代わりにこの世のものとは思えない恐ろしい怪物が佇んでいた。

 

「エスト・アークでは無い。人間でもない……我が名はエスターク。この世界とは別の世界に在る者……地獄の帝王だ」

 

 




やっとアークさんの正体が割れました……って、まだ原作2巻の状態!?あと20巻以上あるのか…たまげたなぁ……。

番外編もちょくちょくやっていきます。最初は……ギャグ回か。1番目と3番目に多かったので、間をとって他作品のネタはほどほどに……できるといいなぁ。


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第42話 邪悪なるもの

書き方をできる限り戻してみました。ちょっとぎこちないか…?



「アークちゃんが……」

「地獄の帝王……」

 

見慣れた人の姿、その面影すらないほどの怪物となった我はさぞや恐ろしく映っているだろう。

 

人智を超えた力を持つコガラシ、そして鬼である呑子と言えども、次元を超えてその名をとどろかせるほどの怪物を目にすればこうなることはわかっていた。

 

「……お前も人が悪い。仮にも神官であろう……己から打ち明ける程度の甲斐性は見せてくれてもよかろう」

「ククク……いくら地獄の帝王と言えども、自分から打ち明けるのはなかなか難しいかと思ってな。余計なお世話だったかな?」

「グゴゴゴゴ……なるほど、覚悟はできているらしい」

 

脚を勢いよく振り下ろすと、床に大きな闇の渦が二つ出現する。その中へ手を入れ、我が愛用している二振りの双剣を抜き出した。

 

「良いのか?声をかけんで。それぐらいは待ってやってもよいぞ」

「グゴゴゴゴ……」

「フッ、もはや振り返りはせぬか。だがどうやら…」

 

「待ってくれ!アークさん!」

 

「…あやつらの方は、お前に用があるみたいだぞ」

「………………」

 

戦闘形態を既にとっている。もはや人型の時とは既に精神構造が違うのだ……故に。

 

「人型の時であればともかく、今の我には特に思うことは無い」

「ククク……本当か?」

「くどい。この地獄の帝王が、人間一人の声に耳を傾け、心を動かすとでも。我にあるは、お前を滅ぼし破壊神降臨を阻止することだけだ」

「そうか。それは残念だな」

「……貴様の時間稼ぎも終わりだ。さあ、儀式などする余裕は無いぞ、邪神官!」

 

剣を床に突き立てる。剣から床へと暴走する魔力が流し込まれ、ギラグレイド級の閃熱がハーゴンへと猛進した。

 

「魔力など!」

 

内なる破壊神の力を身に纏い閃熱を受けるハーゴン。しかし、大魔王級の超魔力はたとえ神の力があったとしてもそう易々と受けきれるものでは無い。

 

閃熱はハーゴンの魔力を食い破り空高く吹き飛ばした。

 

「ゴッ!?くそ……なっ!?」

 

空中で体勢を立て直すハーゴン。が、大魔王を相手にするならばその動作はいけない。

 

ハーゴンが地を見た時には、すでに眼前にまで剣圧が迫っていた。

 

━━帝王の一閃

 

とっさに魔力を纏い、簡素ではあるが結界を何重にも貼る。僅かながら威力が殺された剣圧は、ハーゴンの腹に深い斬り傷を負わせるだけにとどまった。

 

「ほう……」

「ぐ…化け物め!!」

 

ハーゴンの身体をベホマの光が包む。傷を癒したハーゴンは、魔力で足場を作り蹴ると、我へと突撃してきた。

 

━━破壊のカルテットッ!!

 

地面から魔力でできた悪霊の神々の幻影が現れた。アトラスの幻影が棍棒で殴りかかり、バズズの幻影が爪で切り裂き、ベリアルの幻影が口から魔力球を吐き出し攻撃してくる。

 

我は双剣を交差させ防御の構えをとる。神々の攻撃が我を打ち、そこへ凄まじいスピードで迫っていたハーゴンが、魔力を込めた蹴りを放った。

 

魔力が爆発し煙が巻き上がる。幻影が消え、地に降りたハーゴンは……地獄の雷に打たれた。

 

「ゴアッ!?」

「グゴゴゴゴ……」

 

ハーゴンの技によるダメージはあるが、傷ができるほどではない。頭の上で双剣を合わせ、勢いよく左右へ振りきる。剣にのった魔力は竜巻となり、ハーゴンを飲み込んだ。

 

━━地獄の竜巻

 

竜巻の中でもみくちゃに振り回されているハーゴンは、杖から破壊神の魔力を込めた魔力球を放ち爆発させることで竜巻をかき消した。

 

「グフッ…はぁ…ククク、クハハハハ!!なるほど、確かに噂に違わぬ圧倒的な破壊力、そして耐久力だ!だが…」

 

魔力で空中に浮いたハーゴンが、破壊神の力を再び右手に集中させ巨大な爪を作り出した。

 

「いくら地獄の帝王とて、この技を受けてはタダではすむまい!!」

 

━━邪神のツメッ!!

 

巨大な三本爪が迫る。対して、我は双剣に魔力を纏わせ一息に振り下ろす。それにより剣から必殺の魔力の剣撃が放たれた。

 

━━必殺の一撃ッ!

 

邪神のツメは薄紫色の魔力波と拮抗するが、やがてヒビが入り広がっていく。その威力は確実に押し負けていた。

 

「な、なんだと!?我らが神の力が!!」

「その一部を行使しているだけであろう。であれば、この結果は当然だ」

 

必殺の一撃は邪神のツメを砕き、ハーゴンを飲み込む。轟音と極光、その中で微かにハーゴンの悲鳴が聞こえた。

 

「……これで終いか」

 

煙の中から地に落下するものがある。ハーゴンだ。凄まじい勢いで地面へと激突するも、もはや悲鳴も出せないのか衝突音しか聞こえなかった。

 

……念の為、死体を粉々にしておくか。ハーゴンめはもはや虫の息であろうが……意識がまだあれば何をするか分かったことではないからな。

 

「…………?」

 

脚をハーゴンの落下地点へと進めようとした時、ふと背後に気配がある。

 

振り向くと、そこにはコガラシと呑子が立っていた。

 

「アーク…さん……」

「グゴゴゴゴ……なぜここにいる。ゆらぎ荘の中にでも入っていろ。後は全て我らが片付ける」

「……はぁ、アークちゃん?あまりコガラシちゃんを虐めないでちょぉだい?アタシたちぃ…あなたに話があるのよぉ」

「我には無い。あと少しで全てが終わるのだ…お前たちに時間を食っている場合ではない」

「そ、そんなこと言わなくてもいいじゃなぁい…」

「我がこの姿になれば、思考は戦闘や破壊よりになるのだ。今の我には何を言おうと…」

 

「アークさん!オレ、別にアークさんの正体なんてどうでもいいからな!!」

 

……………………

 

「確かに面食らっちまったけど、それでもオレにとっては…!」

「……アタシもおーんなじ。だから……ぜぇんぶ終わって、そしたらまた改めて話してもらわないとねぇ」

「……………………」

「それにぃ、霊能力者とかぁ……色々と嘘ついてるのバレバレだったしぃ?」

「ぬ……」

「とにかく……オレは、オレたちは待ってますから!」

 

初めて、振り返った。

 

この世界に戻ってきて、今に至るまで彼らの顔を一度も直視できていなかった。

 

『見慣れた人の姿、その面影すらないほどの怪物となった我はさぞや恐ろしく映っているだろう』

 

まったく……どうやら私は見くびっていたのかもしれない。いや、気付かないふりをしていたのかもな。

 

私と彼らとでは存在の格が違う。それ故に、今のうちに別れておこうとしていたのかもしれない。

 

……何が地獄の帝王か。人間と、ゆらぎ荘という場所で人間らしい生活をしてしまったことで、我の中にある()を……遥か遠い記憶を、感覚を蘇らせてしまった。

 

「……その時点で、すでにこうなることは決まっていたのか」

「え…?」

「……全てが終わったら……再び自己紹介をしよう。嘘偽りなく、全てを打ち明ける」

「アークちゃん…」

「今でも我をそう呼べるお前たちには驚いたぞ。異世界でも類を見ぬ者たち……この世界を選んで良かったと、まさかこの姿で心の底から思うとはな」

「そうだな、そしてそれが最大のミスだ」

『!?』

 

ハーゴンが…起き上がっている!?不敵な笑みを浮かべるやつの周りには、地獄のいかずちが音を立てていた。

 

「きさま…!」

「すでに神官どもは生贄にしてある!月で、すでにすべき儀はほとんど終わらせた!であれば、お前たちが話していた僅かな時間でも、降臨の儀はすぐに行うことができたぞ!」

 

いかずちが高速でハーゴンの周囲を回り始める。止めようと双剣を振るうと、ハーゴンは防御すらせずに双剣の一撃をその身に受けた。

 

「グブッ!?ク……ククク、もう遅い。もはや私を倒しても、世界を救えまい!」

 

ハーゴンの足元に黒い渦ができる。素早く我が下がるのを見たハーゴンは、口元をニヤリと歪ませ高らかに叫んだ。

 

「我が破壊の神シドーよ!今、ここに生贄を捧ぐ!!」

 

ハーゴンが渦の中に飛び込み、姿を消す。渦は消え、その代わり空に巨大な青みがかった闇の渦が現れた。

 

「……結局、降臨することになったか」

「あそこから、破壊神ってやつが出てくるのか…?」

「大きな渦……おっきぃわねぇ。あの渦を見てるだけで寒気がするわぁ」

「……?」

 

大きな渦……いや、大きすぎるぞ。破壊神シドーは、我と同等かそれ以下の背丈だったはず。あの渦は我が入ってもまだまだ余裕がある程の大きさ……。

 

なんだ、この込み上げてくる不安……嫌な予感がする。

 

渦から何かがゆっくりと出てくる。それは中がまるで見えないほどの密度の巨大な闇の玉だった。

 

 




一人称、二人称、三人称のどれかに慣れてしまうと、ほかの二通りがやりづらいですねぇ。


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第43話 絶望降臨

長らくおまたせしてしまい申し訳が立ちません。また他の作品と並行してちょくちょく投稿していきます。

正体バレたのと、記憶は取り戻しているので地の文にはアーク状態の精神を、口から出るのは帝王様にします。


破壊神の力を賜った悪霊の神々たち。その力は想像を絶するものであった。

 

━━だいはかいのいちげきッ!

━━しゃくねつのおたけびッ!

━━魔界のイオナズンッ!

 

巨人の豪打が、灼熱を伴う咆哮が、瘴気を含む大爆発がカンダタ親衛隊を襲う。

消えたハーゴンからゆらぎ荘を守らねばならないというのに、悪霊の神々は倒れてくれる様子はない。それどころか、ますます攻めを強め押し立てる始末。

 

「小僧!!まだまだ力が足んねぇぞ!」

「そんなこと言われたってよ!?チクショー、なんだってこんなことになっちまうんだ!」

 

カンダタおやぶんが斧を振り回し地面へ叩きつける。衝撃は大地を盛り上げ、神々の技を僅かながら押しとどめていた。その後ろには傷付き倒れたカンダタレディースとカンダタセブン。未だに立てるのはカンダタとカンダタおやぶんのみだった。

 

カンダタ親衛隊は攻めあぐねていた。各個撃破を図ったはずが、合流されてしまえば個の力が充実した側に戦況は傾く。カンダタ親衛隊も粒揃いではあるが、やはり邪神の力を賜った神々には一歩遅れていた。

 

「クハハハハハッ!我らに楯突いた愚かさを悔やみながら、その魂を捧げ━━━━」

 

ベリアルオリジンが勝利を確信し、カンダタたちへと狂笑を向けた時。

 

空間が大きく揺れた。

 

『!?』

 

揺れは一度しか起きなかったが、代わりに凄まじい圧と魔力が辺りを覆った。カンダタたちは息をすることすらもできなくなり、対して悪霊の神々は歓喜に震えだした。

 

「おお、この魔力!」

「ついに、ついに目を覚まされたか!」

「残念だったな、俺たちの勝利だ!!」

 

ハーゴンの生み出した小さな世界は悲鳴をあげ、ヒビを入れていく。それに気付いたカンダタおやぶんはカンダタを蹴り飛ばした。

 

「グエッ!?な、何すんだよ親分!」

「……キメラのつばさ持ってたろ。さっさと行け」

「な…何言ってやがる!?親分でも言っていいことと悪いことがあるぜ!!」

「馬鹿野郎!状況をよく見やがれ。この威圧、恐らく破壊神は復活しちまった。ならお前は戻って、月にいる軍団に情報を伝えて来い!」

「フハハハハハッ!我らを前にして、良くもぬかせるな!まあいい、アトラス!バズズ!お前たちは破壊神様の元へ!我はこやつを屠った後に合流する!」

「させるかァッ!!」

 

━━カンダタむそうッ!

 

カンダタおやぶんは斧を大きくぶん回し巨大な竜巻を形成。そのまま神々へと突進した。しかし、前へ出たベリアルオリジンがバトルフォークを振るうと、カンダタおやぶんの斧が止まり鍔迫り合いへと持ち込まれてしまった。

 

「フンッ、貴様如きが我々を阻めるとでも?」

「グギギ…早く行け小僧ォ!!」

 

ベリアルオリジンとカンダタおやぶんが打ち合う。破壊神復活によるものか、ベリアルオリジンの身体能力はさらに上昇した。内にある邪神の力が共鳴しているのだ。

 

「ウオオォォオオオッ!!」

 

しかし、カンダタおやぶんは一歩も退かない。自慢の大斧を振り回し、筋肉質な肉体から放たれる豪打は確かにベリアルオリジンに引けをとってはいなかった。

 

「ぐ…くそ、クソおお!!」

 

カンダタがキメラのつばさを掲げ、握りつぶす。カンダタは光に包まれ、崩壊し始めた世界から脱出したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

大渦が閉じ、巨大な闇の塊が残る。強烈な魔力の波動はコガラシたちの身体を震わせた。

 

それは、原初の権能。『創造』に相対する『破壊』。

 

彼らはその『破壊』の前に立っている。生物としての本能が、その強大さから彼らの身体を震わせているのだ。

 

……ォ……オ……

 

闇はまるで胎動するかのように段々と魔力と威圧を強める。コガラシくんは異世界の邪神とは戦ったことがあるらしい。しかし、目の前にある存在は全くと言っていいほど格別したものだ。

 

…ォォ…オオオ…

 

「ヌゥンッ!!」

 

━━じごくのごうかッ!

 

先手必勝。戦いの鉄則だ。私の口から吐き出された地獄の業火は魔力を掻き分け闇へと猛進する。そのまま闇を焼き尽くす……かに見えたが。

 

「なに……?」

 

業火は何かに弾かれるようにかき消されてしまった。

 

ォォ…ォオオオ…

 

「グゴゴゴゴ……」

 

それになんだ、先程から聞こえる音は。まるで()()()()のような……。

 

その時、私たちの目の前の空間にヒビが入り砕き散った。穴から現れたのは二体の異形。ベリアルたちのいる空間から脱出したベリアルとバズズだった。

 

「おお!!この波動、まさしく破壊神様のものだ!」

「世界の終わりが近づいてる。あれほど巨大な暗黒…球……あ?あれ、暗黒球…だよな?」

「ぬ…?」

 

バズズは様子の可笑しさを感じ取った。アトラスも目を凝らし闇の球体を見る。やがてその巨眼を大きく見開き驚きをあらわにした。

 

「暗黒球は赤みを帯びた闇の球体のはず……だが、あれに黒以外の色が見えぬな」

「それにサイズがおかしい。あれ程までに巨大化した例なんざ……」

 

「グゴゴゴゴ……コガラシ。呑子」

「うっす」

「なぁに?」

「……すまぬ」

 

━━バシルーラ

 

「え、アークさ━━━」

 

強制瞬間移動。コガラシくんと呑子さん、そしてゆらぎ荘の姿が消え去る。やはり、この場に居させる訳にはいかない。悪霊の神々の反応を見る限り、どうやらあれは邪教団側にとっても予想外のものなのだろう。

 

つまりはイレギュラー。本当にあれは周知されている破壊神のものなのか?

 

「ぬ…バズズ。あれは…」

「ああ。地獄の帝王だ」

 

バシルーラを使ったことで魔力を感知されたな。隠れるつもりもなかったが、破壊神と悪霊の神々を同時に相手するとなると骨が折れそうだ。

 

剣を構え悪霊の神々へ向き直ったその時。

 

ォォォォオオオオッッ!!

 

闇の大玉にヒビが入った。その割れ目から紫色の魔力が溢れ出し、やがて大玉の所々から光線が放たれた。

 

「ぬっ!?」

「な、なんだ!?」

 

光線は床を削り、見境なく破壊の限りを尽くす。それは私と悪霊の神々にまで襲いかかった。

 

「ゴオッ!?」

「し、シドー様ああああ!!?」

 

圧倒的な威力を誇る光線が、瞬く間にアトラスとバズズを消滅させた。まさか、忠臣であったはずだろう!?

 

「ぬうん!!」

 

━━帝王の一撃ッ!

 

魔力を纏わせた剣で光線を受け止め、弾き返す。散らばったエネルギーは着弾した場所を紫色の粒子に変えてしまった。

 

大玉のヒビは広がり続け、やがて眩く怪しい光を解き放った。剣を床に突き刺すことで衝撃波を耐えていると、光は段々と収まっていった。

 

「……破壊神…か…?」

「ォォオオオ……」

 

そこには、巨大な異形が浮揚していた。

 

紫色の筋肉質な巨体。二対のこれまた巨大な剛翼と剛腕。脚は無く、黒い棘の生えた身体の下からは龍の首が伸びていた。

 

伝え聞く破壊神シドーとは明らかに違う。所々に似る部分はあるが……。

 

「ォォォオオオオッ!!」

「グゴゴゴゴ……相手にとって不足なし。我はエスターク、地獄の帝王!」

 

咆哮する怪物へ剣を構える。久方ぶりの強敵に、私の身体は震えていたのだった。

 

 

 

 

いや、勝てぬかもしれない相手だと…わかっていたのかもしれない。

 

 




小説家になろうやカクヨムでの活動を抑えてこちら側に集中するつもりです。

残念ながら、アンケートを取った番外編ですが、ワチャワチャしてる間にネタが集まったので一回ずつで抑えます。またネタも何もかも無くなったらそちらを回そうかと思います。


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第44話 破壊と殺戮の神ジェノシドー

今回約600文字ほど短めになります。


双剣を振り上げ、勢いよく床へと突き刺す。私を中心に暗い光を放つ魔法陣が展開され、指を向ければ雷が顔を出す。

 

━━ジゴスパークッ!

 

地獄の雷が放たれた。対し、破壊神は掌をこちらへ向け紫電ほとばしる黒雷を生み出す。

 

━━ジェノスパーク

 

黒雷は地獄の雷と少しばかり拮抗した後、突破。次の瞬間には私の身体を凄まじい痛みが襲った。

 

「グゥ…ヌァアアアッ!」

 

━━ドルマドンッ!

━━じごくのごうかッ!

 

右手の剣に闇の雷球を乗せ、左手の剣に地獄の業火を吐き纏わせる。右手の剣を振るい雷球を飛ばし、左手の剣で突きを行うことで業火の渦を破壊神へと放つ。

 

「ォォォオオオオ……」

 

━━ジェノスラッシュ

 

破壊神の右手に黒雷が溜められ……爆ぜる。振るわれた剛腕から黒雷の斬撃が放たれ、雷球と業火の渦は一瞬で掻き消される。

 

「ヌゥンッ!!」

 

双剣で斬撃を受け止めるも、あまりの威力に後方へと押される。なんとか耐えていると、破壊神はその口と龍の口に闇の魔力を集中させ、魔力砲を放つ。しかし、追撃が来ることは想定済み。

 

先程の撃ち合いでわかった。私は耐久力にものを言わせ圧倒的破壊力で相手を叩き潰す戦法を多用する。しかし、あの奇妙な破壊神は、単純な火力であれば私よりも上だ。

 

これでも、他の大魔王の中でも純粋な破壊力と耐久力は上位に位置すると自負している。現に傷を負わせるなど勇者や最上級の神々ぐらいにしか成した者はいない。だが、それでも私の技を難なく押し切られることなど無かった。

 

つまりは、私とあの破壊神の力はあまりにも乖離している。しかも奴が本気を出しているようには見えない。己に降りかかる火の粉を払おうとしているだけ。

 

真正面から挑めばどうなるか、それは想像に難くない。しかし私は地獄の帝王。手数で言えば私の右に出るものなど居ない。

 

━━帝王の構え

 

言わずと知れた我が構え。受け止めていた斬撃から剣を離し、迎え入れるように両腕を広げる。黒雷の斬撃と二本の魔力砲は私に当たり……破壊神へと跳ね返された。

 

「ォォオオオッ!?」

 

まさか攻撃が返ってくるとは思いもしなかったのか、破壊神は直撃を受けた。自分の力だからこそ、それは自身を傷つけるに能う脅威となる。

 

メタル属と呼ばれる魔物の種がいる。メタルボディと呼ばれる硬い身体と呪文への完全耐性を持つ彼らは、しかしマホカンタなどで跳ね返された攻撃や呪文にはその効果を発揮しない。

 

帰ってきた力は、元は己の力。それゆえに身体はどうしても受け入れようとする。それすらも通さないのであれば、力を振るうこと自体が不可能であるためだ。

 

それゆえ、確かに跳ね返された攻撃は破壊神に効いた。手応えはあった、悲鳴も聞こえた。しかし、煙から姿を現したのは無傷の破壊神。身体が特別頑丈なのか、はたまた無力化する術を持っているのか。私の魔力も込められた攻撃は破壊神を傷つけるまでには至らなかった。

 

「ォォォオオオオッ!!」

 

それどころか、破壊神の逆鱗に触れてしまったらしい。顔を怒りに染め、身体に赤いオーラを纏った。ある程度の強さを持つ魔物は、追い詰められると湧き上がる怒りによって『怒り』状態となる。その効果は身体能力や技の威力を高めるというもの。

 

破壊神はさらにその上、『激怒』状態となった。その上昇率は怒り状態とは比べ物にならない。

 

「グゴゴゴゴ……なるほど、ここからが本番というわけか」

 

破壊神の手に眩い雷が迸る。対し、私は空間に腕を突き刺し引き抜いた。手に掴み取ったのは禍々しい紫結晶。それを口に含み、噛み砕いた。

 

内なる力が活性化し、それは結晶となって体表を突き破る。その周辺は黒く変色し鉱物のごとく硬化した。

 

いつしかの記憶の一つ、勇者と神の軍勢を相手取った後に手に入れた異なる進化の形。

 

「ォォォオオオオッ!!」

「グォォオオオオッ!!」

 

━━邪神の雷撃ッ!

━━凶帝王の双閃ッ!

 

凶帝王となった私は、破壊神との真剣勝負に挑むのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「どわわ!?っとと」

 

旅の扉より、一人の巨漢が転がり出る。

 

キメラのつばさによって山中の拠点に戻っていたカンダタだ。彼はまさに今、月にいるであろう帝王軍に現状を伝えるために月に転がり出たのだ。

 

作戦通りに事が進んでいるならば、それぞれの軍団は旅の扉を囲うように陣を構えているはず。もしそうでなくとも兵を置くことはされているはず。

 

「すぐに軍団長に取り次いでくれ!地球に……!?」

 

顔を上げたカンダタは見た。

 

旅の扉の周囲に陣は無く。

 

それどころか兵の一人も見当たらず。

 

今転がり出た旅の扉、それがある小さな地を除いて。

 

 

 

何も無い宇宙空間が広がっていた。

 

 

 

 




戦闘一辺倒にしたいのに、他の展開を書いとかないと後々になってグダってしまう。苦肉の策です……。


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第45話 時を求めて

UA5万突破、ありがとうございます!



ゆらぎ荘にて、コガラシたちは意識を取り戻した狭霧たちに状況説明を行っていた。

 

アークが地獄の帝王と呼ばれる存在だということ、そして敵の目標は果たされ、破壊神が降臨しアークと戦っているということを。

 

「話が壮大になってきたな…」

「アークさん…大丈夫なのでしょうか……」

 

困惑と心配。幸いアークへの嫌疑は無く、しかし言い様のない不安はあった。

 

「アークちゃんは強いから……きっと大丈夫よぉ」

「ウス、あの破壊神とかいうヤツも倒してくれるはず……っ!?」

 

その瞬間、突如地震が彼らを襲った。地面……いや、大気までもが震えているのか、宙に浮かぶ幽奈までバランスを崩している。

 

「な、なんですかこれは!?」

「うわぁぁああっ!?」

「壁か柱にしがみつくんだ!」

 

振動はしばらく続いていたが、しだいに収まった。なんとか一安心と息を吐いた。しかし、次にこゆずが発した言葉に凍りつくことになる。

 

「ねえみんな!空が鏡みたいに割れてるよ!」

『!?』

 

視線が外へ向くと、空に割れ目があり紫色の光が零れていた。その光に見覚えのあるコガラシと呑子が顔を強ばらせると同時に、ズルリと巨大な指が這い出てくる。

 

「あれは…!」

「まさか、破壊神!?」

 

6本の指が割れ目を広げ、凶悪な相貌が顕になる。『破壊』そのものである破壊神は存在するだけで本能的な恐怖を生み出す。咆哮のみで対象の魂を崩壊させるほどだ。

 

空から辺りを見回す破壊神を前にして、ゆらぎ荘の面々は金縛りにあったように動けなくなる。そんな中、彼らの背後に青い渦が吹き出し始めた。

 

「〜〜っぶはあ!ここは…ゆらぎ荘か!?どうやら当たりみてぇだな!」

「っ!アンタは…カンダタさん!?」

 

渦から転がり出たのはカンダタ。彼は手を軽く上げ挨拶すると、早口で現状を説明し始めた。

 

「さっき帝王様から念話があってな!破壊神がなぜあの姿になったのかを調べろと言われた!」

「念話…っ、アークさんは生きているんですか!?」

「おう!今は再生に時間がかかってるが、死んじゃいねえぜ!っと、それよりもだ。お前らに頼みたい事があるんだ!」

「な、なんですか!?なんでも言ってください!」

 

悪霊の神々との戦闘でも、彼らは自らの無力感にやるせなさを感じていた。しかし、自分たちでも役に立てる。そのことが彼らをはやらせた。

 

「まずはオレと一緒に城に来てくれ!」

「え、城…?」

「裏山に拠点として城を築いたのさ。全然わからなかっただろ?」

「裏山に!?」

 

皆が驚愕に染まる中、カンダタはキメラのつばさを取り出すと握り砕く。その場にいた全員が青い光に包まれ、次の瞬間には姿を消していたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ォォォオオオオッ」

 

破壊神が穴へ顔を捩じ込み、外界へ進出しようとする。空間が軋み、割れてはその穴を広げていく。

 

しかし、そうは問屋が卸さない。ここで行かせれば……。

 

「大魔王の沽券、そして地獄の帝王の名が廃るわ!」

 

━━進化の結末ッ!

 

進化を促す無限に等しきエネルギーが破壊神の龍首を絡めとった。鬱陶しそうに破壊神の顔が不快に歪み、龍首のアギトが大きく開く。

 

━━カオスフレイム

 

禍々しい紫炎が吐き出される。対し、私は口を開けると同時に腕にも魔力を送り、放つ。

 

━━じごくのごうかッ!

━━地獄の竜巻ッ!

━━ジゴスパークッ!

 

火炎、竜巻、雷は混ざり合い、魔力砲となる。紫炎と魔砲はしばし拮抗するも、やがて紫炎が押され突破された。

 

「ッ!?」

 

突破されたことに少々驚いた破壊神の顔に魔咆が直撃する。多少怯みはすれど、やはり目立った外傷は無い。それでも、外界よりも注意を引くことはできた。

 

「グゴゴゴゴゴ……頼んだぞ、お前たち」

「ォォォオオオオッ!!」

 

破壊神はこの世界に留めておく。その間に、きっと成し遂げておくれよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うし、着いた!」

「とと、これは転送術か!?」

「うわ〜、すごいすごい!」

 

一行がたどり着いたのは裏山の中、城の目の前だった。各自立派な城にあっけに取られていたものの、カンダタの声で我に返る。

 

「ここの宝物庫に、とあるアイテムがある。まずはそれを探すのを手伝ってくれ!」

「アイテム?どんなヤツなんだそれ」

「へへへ、それは世にまたとない秘宝。しかしあまたの世界を束ねるオレ様たちには幾つもあるものなんだがな?」

 

カンダタが1枚の紙を見せる。そこには砂時計の絵が描かれていた。

 

「時を自在に操ることのできる奇跡のアイテム、人呼んで『ときのすな』」

「時間を…操るだと!?」

「驚きの連続で何が何だかわからなくなってきました…」

「さあ行くぜ!帝王様が破壊神を食い止めてる間に見つけねえとな!」

 

カンダタが駆ける。次いでコガラシたちも走り始めた。目指すは宝物庫、そこにある『ときのすな』を求めて。

 

 

 

道中、コガラシは幾つかカンダタに質問をしていた。

 

「なあ、あの破壊神ってのはどんぐらい強いんだ?オレも師匠と一緒に異世界の邪神と戦ったことはあるけどよ、あそこまでの霊力は生まれて初めて見た」

「お前が戦った邪神とは、あれは別物だ。邪神にも種類があってな、その中でもあの邪神は一線を画す存在なのさ。『破壊』の概念を司る邪神、シドー。信心深い教徒の祈りの他に、魔法陣を用いることで比較的簡単に呼び出すことができる。その目で『破壊』するか否かを見定め、眼鏡にかなえば『破壊の創造』をもたらすという、世界全体で見ればありがたい神様だ」

「破壊の神様がどうしてありがたいんだよ」

「創造と破壊は表裏一体にして同一の現象だ。世界を破壊することはすなわち、さらに上位の世界を作り出す下準備。その輪廻があるおかげで全ての世界は調和を保っているのさ」

「なんか……難しい話だな」

「ま、すでに住んでるヤツらからしたらたまったもんじゃないが、それでも必要な事なのさ……っと、着いたぜ!」

 

緊急時だからと、カンダタは着くなり宝物庫の扉へタックルをかまして入った。続いてゆらぎ荘の面々が入室すると、あらゆる魔法の武具やアイテムが出迎えた。

 

「おお……」

「す、スゴいですぅ……」

「ちょ、お前ら!早く探さなきゃマズイんだって!?」

「う、ウス!」

 

手分けして砂時計を探し始めた一行。しかし大量のアイテムの中から一つを探し出すのは一苦労だ。

 

「え〜と、これじゃない」

「これでもないな」

「お、多すぎんだろ…」

 

カンダタが言うには、砂時計のサイズは小さめらしい。それがさらに見つけ出すことを難しくしていた。そこで、仲居がふと思いつく。

 

「み、皆さん!運勢操作を使います!反動に気をつけて探してくださいね!」

「おお!その手があったか!」

「さっすが仲居さん!頼りになるぜ!」

 

━━運勢操作・招福!

 

「えーと、えーと……あ、これじゃないかな!?」

 

アイテム群の中に顔を突っ込んでいたこゆずが手に持った物を掲げる。緑色の不思議な砂が詰まった砂時計だ。

 

「でかした!それが『ときのすな』だぜ!」

「えへへ〜」

 

カンダタはこゆずから『ときのすな』を受け取る。と同時に、こゆずが何かを踏んだ。見ると、岩の欠片のようなもの。瞬間、宝物庫が輝いた。

 

『え?』

 

こゆずの踏んだ『ばくだんいわ』は大爆発を起こし、宝物庫を吹き飛ばした。煙が収まったとき、そこにカンダタたちの姿は無くなっていたのだった。

 



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第46話 悪魔王の目論見

破壊された月で何が起こったのか。その真相やいかに。


「お前たち、無事だったか!」

「キングリザードの傷が酷い!衛生兵!」

 

クロウたちは軍団を率いピサロと合流した。重傷者は簡易な回復呪文をかけられ運ばれていく。

 

「これで全員か!」

「全軍団、合流完了だよ!」

「よし、皆の者!引き上げだ!」

 

ピサロが軍団を旅の扉へと向かわせる。しかし、そうは問屋が卸さない。

 

「っ!?伏せろ!」

 

━━イオグランデ

 

巨大な爆発が魔物たちを吹き飛ばしていく。呪文を放った下手人は上空からゆっくりと降り立った。

 

「どこへ行く。まだ我らは健在だぞ」

「逃がさぬ。破壊神復活の儀は邪魔させぬ」

 

タイタニスとフォロボスが追いついたのだ。魔王級二柱の襲来に軍団長たちは得物を構えた。

 

「逃走などするものか。キングリザードをここまで痛めつけてくれたのだ。まともに死ねるとは思うなよ」

「ああ、あのトカゲの王は強かったぞ!だが残念ながら、我の渾身の一撃で沈んでしまったがな!」

「そうか。ではそちらが沈む番だ!」

 

━━ほうげきッ!

 

砲門が空間から顔を出し、砲撃を開始した。対しタイタニスとフォロボスはサーベルと棘を使い砲弾を両断。カウンターとして呪文を放つ。

 

━━ドルモーアッ!

━━メラガイアーッ!

 

暴走した呪文と最上位呪文が放たれる。それをオムド・ロレスが自ら前に出て受ける。特性『つねにマホカンタ』を持つオムド・ロレスは全ての呪文を跳ね返し、面食らった2人は爆発に飲まれた。

 

「にゃははははは!」

 

動くのは悪辣で狡猾な手数は他の追随を許さないガルマッゾ。

 

━━レベル4ハザードッ!

 

「ぐおっ!?」

「っ!?破壊神!」

 

ガルマッゾから放たれたマ素の波動がフォロボスを打ち、その身体を重度のマ素に侵食された。そこでオムド・ロレスが追撃のための舞台を整える。

 

━━リバース

 

敵味方全ての速さが逆転する。動き回るのには適さない身体をしているガルマッゾは途端に凄まじいスピードを獲得し、タイタニスらが動く前に再び技を放った。

 

━━災禍のマ瘴ッ!

 

禍々しいマ素の渦が魔抱珠から放たれた。タイタニスは回避できたものの、マ素に蝕まれたフォロボスは逃げきれず暴力的な激流に身を削られていく。

 

災禍のマ瘴はマ素深度の高い相手に高ダメージを叩き出す。深度1で2倍、レベル4ハザードによって深度4まで進んでしまったフォロボスの肉体は破壊し尽くされ、まともに動けなくなった。

 

「破壊神をこうも……やはり帝王軍の名は伊達ではないな!」

「次は貴様だ!」

 

仲間であるフォロボスが倒されたことに興奮するタイタニス。リバースの効果が切れたタイミングでピサロが疾走。タイタニスの放つ呪文はクロウの砲撃に撃ち落とされ、ピサロとタイタニスの近接戦が始まった。

 

「ぬ、ぐおおっ!?」

 

巨大なサーベルの合間を縫うようにピサロの剣が閃く。得物の相性も、近接戦もピサロに分がある。それを悟ったタイタニスは勢いよくサーベルを振り下ろし土煙を巻き起こした。

 

「喰らえいっ!」

 

━━冷酷な氷撃ッ!

 

タイタニスはいち早く煙から抜け出し、ピサロへと魔氷の雨を降らせた。喰らえばヒャド耐性を下げてしまう氷撃はしかし、ピサロの一薙ぎで消滅する。

 

━━ジゴスラッシュッ!

 

地獄の雷が迸り、斬撃となって氷撃を溶かす。しかし技を放った隙をタイタニスは伺っていた。

 

━━邪悪なこだまッ!

 

「むっ!?」

 

悪夢のこだまを超える威力の魔力弾の群れがピサロを襲う。なんとか回避するピサロだが、さらに追撃で呪文が放たれた。

 

━━ギラグレイドッ!

 

極熱の閃光が放たれる。地を舐め突き進むそれは、ピサロを焼き吹き飛ばした。

 

「ぐああっ!!」

「ピサロッ!」

 

ピサロを瞬間移動で受け止めるクロウ。タイタニスが接近しようとするも、オムド・ロレスがかがやく息を吐き牽制した。

 

「はぁ…はぁ……ははは!流石だ!この悪魔王がまさかここまで攻めたというのに、未だに全員健在とは!」

「ぐ……当たり前だ。我ら帝王軍を侮るな!」

「フハッ!ああ、その強さを認めてやろう。故に……貴様らも、破壊神へと捧げてやろう!」

 

━━呪縛の氷撃ッ!

 

タイタニスは呪いの魔氷を生み出し、命を刈り取らんと放った。

 

「ぐほおっ!?」

 

地に伏すフォロボスへと。

 

「な、何いい!?」

「仲間を、攻撃しただと!?」

 

「あ、悪魔王おお!!何故、何故我を撃った!?」

「なあに、破壊神への贄だ。安心しろ、我も直ぐに行く故な!」

「き、貴様ああああ!!」

 

フォロボスは塵となり消えた。タイタニスは軍団長たちへと振り返ると、その右手に禍々しい闇の魔力を集中させていく。

 

「次は貴様らだ。我が主の命令には無かったが、まあいいだろう」

「我らを相手にそれができるとでも?」

「できるさ!万が一を想定して、我が主より力を借りてきたからな!」

 

その手の中にある魔力はタイタニスをも優に超え、さらに増大していく。凄まじい魔力の波動に、軍団長らの背筋が凍った。

 

「この魔力は破壊神の物では…!貴様の主は破壊神では無いのか!?」

「フハハハハッ!違う!我はあるお方の下僕!破壊神など我らに利用されるだけの存在よ!さあ、さあ!死ぬ用意はできたな!?」

「ぐっ、総員退避しろ!死ぬぞおお!!」

「もう遅いわぁ!皆まとめて破壊神に喰われるがいい!」

 

タイタニスの握っていた魔力が一際大きく輝き、暗い月を眩く照らした。

 

本来ならば、この一撃により月は破壊され軍団全てが贄となる。そして破壊神シドーはジェノシドーへと変異するのだ。

 

 

「全て、滅びされえええッ!」

 

━━魔星王の禁術ッ!

 

魔力は歪み、渦巻き奔流となって星々を破壊せんとする。邪悪な魔力がタイタニスもろとも全てを飲み込まんとし……ポスンっという音とともに消滅した。

 

「……は?」

 

「間に合ったああ!」

 

耳にしなかった声が響き渡る。見ると、旅の扉付近で見知った男が何かを掲げていた。

 

「なんとか発動してて良かった!これで破壊神は変わらねえ!」

 

その男、カンダタが高らかに叫ぶ。その手には『せいじゃくのたま』。呪文である魔星王の禁術は『せいじゃくのたま』によってタイタニスが呪文を封じられたことで不発に終わったのだ。

 

「ば、馬鹿な!?我が主の、闇の王の力が!?」

 

動揺するタイタニス。そこへ雷が迸った。

 

「よう。先程のお返しだ、たっぷりと味わえ!!」

「き、貴様、キングリザード!?」

 

完治したキングリザードが、タイタニスの隙を突き懐深く潜り込んでいたのだ。敗北を何より嫌う彼は、タイタニスへ並々ならぬ激情を抱いていたのだ。

 

━━轟雷・竜王拳ッ!

 

豪打一撃一撃が身を貫き焼き切っていく。タイタニスは悲鳴すら上げられぬまま打たれ続け、最後の尻尾による一撃で地へと叩きつけられた。

 

(ま、マズイ……これでは無駄死にだ。我が生贄となり王の力を破壊神に取り込ませねばならぬというのに、奴らに殺されてしまえば元も子もない!ここは一時撤退……)

 

ルーラを唱えるため魔力を練ろうとするタイタニス。その目論見は……。

 

「カンダタウルトりゃ……ええい、喰らえやああああ!!」

 

━━カンダタウルトラスパークアタックッ!

 

「が、がああああああああ!!!?」

 

勇者の一撃と遜色無い雷の一閃により消え去ることとなったのだった。

 

 



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第47話 邪神召喚

やっと最終決戦が始まります。

原作だとまだ10話超えたあたりなのに、とんでもなく長くなりましたね…。


破壊神の力により進化した悪霊の神々。その圧倒的な力をもってカンダタ親衛隊を薙ぎ払おうとするも、彼らもまた必死に食いついていた。

 

━━大地の怒りッ!

━━邪神のツメッ!

━━ヘルファイアッ!

 

━━━カンダタむそうッ!

━━━ベギラゴンショットッ!

━━━とっておきボムッ!

 

戦闘兵器『カンダタロボ』まで引っ張り出しての応戦。しかし戦闘力は未だに悪霊の神々の方が上だった。

 

ショコラの剛力はアトラスネオに潰され、カンダタセブンの宝物はバズズエリートに焼き尽くされ、カンダタおやぶんの斧はベリアルオリジンに弾き飛ばされる。

 

「フハハハハッ!なんと貧弱な者どもよ!」

「お前たちの魂も、破壊神様の贄にしてやるぜ!」

「死ね!破壊に身を委ねるのだ!」

 

猛攻に耐える親衛隊。カシラであるカンダタが月に行っていることで、さらに苦しい状況に陥っていた。

 

「踏ん張れよぉ!月の戦が終わるまで耐えきれ!」

「フハハハハッ!月には悪魔王と破壊神がいるぞ!そう易々と突破はできぬ!」

「はっ!俺の倅はな、言ったことはちゃーんとやる奴なんだよ!」

「フンッ!ならばその愚かな希望を、今ここで打ち砕いてやろう!」

 

━━連続ためッ!

━━デスエクスプロージョンッ!

 

スーパーハイテンション状態から繰り出されるベリアルオリジン最大最強の技。それはカンダタ親衛隊へと放たれ……横から投げられた斧に弾かれ軌道を逸らされた。

 

「なにっ!?」

「親分!ただいま戻ったぜ!」

「っ!ようやくか!おせぇぞバカヤロウっ!」

 

旅の扉からカンダタが飛び出す。それに続いて大量の魔物らが出現し、悪霊の神々を包囲した。月面戦争から帰還した帝王軍である。

 

「な、なんだと!?」

「バカな、早すぎる!魔王以上の力を持つ奴らをどうやって…!」

「我ら軍団長は魔王と同等かそれ以上の力を持つ。であれば、数で劣る貴様らが敗北するのは必至だ」

 

旅の扉よりピサロが現れ、続々と軍団長が姿を現した。展開は変わった。親衛隊は倒されず、壊滅するはずだった帝王軍はここにある。

 

もはやこの状況、悪霊の神々の圧倒的不利であるが、帝王軍は攻撃準備を整えた。彼らは逆境に陥ろうとも忠実なる邪神の使徒であるために。

 

「であれば!ここで貴様らを叩き潰してやる!」

「破壊神様に見えるのは真の強者だけでいい。1人でも多く道ずれにしてやらぁ!」

「我ら3柱、簡単に殺せると思うなよ!」

 

帝王軍へと踊りかかる悪霊の神々。対し迎撃体制をとる全軍団。

 

どちらが勝利したのかは言うまでもない。しかし確かに、悪霊の神々はその気高き志を示して見せたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

ハーゴンも終わりだ。私の攻撃をモロに受けて立っているのは流石と言うべきだろうが、その傷は致命傷。立っているだけで精一杯であろう。

 

それにしても、驚いたのはゆらぎ荘の面々が()()()()()()私が来るまでハーゴンと渡り合っていたことだ。

 

ハーゴンの実力は魔王をも超える。何人かは倒されているかと思ったが、まるで()()()()()()()()()()()()()かのように立ち回る様は違和感を覚えたものだ。

 

しかし、結果的に奴を追い詰めることができた。私の思うよりも皆は強かったということなのだろう。

 

「ガハッ!ぐ……なぜ私がこうも、確かに捉えられるはずなのに…!」

「終わりだ、邪神官。我らがいる限り、貴様の願いは叶えられん」

「ぐ…ふふ、そう言っていられるのも今のうちよ」

「っ!アークさん!ハーゴンは破壊神を呼ぶつもりだ!」

「グゴゴゴゴ……疑問は残るが、芽は摘まねばな」

「私を殺すか!?それこそ無駄なこと!私はすでに破壊神様の一部なのだからなぁ!もはや私を倒しても、世界を救えまい!」

「ぬっ!?」

 

ハーゴンの足元に黒い渦が発生し、地獄の雷が飛び出す。コガラシくんたちを庇い後ろへと下がるのを見たハーゴンは、口元をニヤリと歪ませ高らかに叫んだ。

 

「我が破壊の神シドーよ!今、ここに生贄を捧ぐ!!」

 

ハーゴンが渦の中に飛び込み、姿を消す。渦は消え、その代わり空に巨大な青みがかった闇の渦が現れた。

 

「むう……」

「クソッ!破壊神降臨は防げないっつーのかよ」

「…?どういうことだ」

 

コガラシたちはカンダタと共に『ときのすな』を使用した。爆発の拍子に発動したそれは問題なく効果を発揮し、そのため時間は巻き戻った。記憶を持つのはカンダタと彼らのみである。

 

「それはまた後で!それよりも……破壊神が、来る!」

 

渦から暗いオーラが漏れ始め、丸まった状態でソレはゆっくりと現れた。まずは翼が開き、蛇の尾が首を伸ばす。次いで腕が1本ずつ広げられていき……目が開いた。

 

瞬間、凄まじい威圧が放たれる。物理的な衝撃波を伴うそれに耐えていると、今度は大音量の咆哮が辺りを染め上げていく。

 

「グゴゴゴゴ……ついに現れたか。破壊を司る邪神、破壊神シドー!」

「グギャアアアァァァァアアアッ!!!」

 

シドーは一通り叫ぶと、その口から暗黒を吐き出した。暗黒はやがて渦を巻き、大きな闇の球体となってシドーを包んでいく。

 

「あれは…?」

「グゴゴゴ……『暗黒球』。破壊神シドーが力を溜める際に用いる闇の帳。その内部は別世界のような空間となっているという」

「つまりぃ〜、破壊神を叩くには今が絶好の好機ってわけねぇ?」

「仲居さんたちはゆらぎ荘の中に戻っててくれ!俺たちだけで行く!」

「わ、私も行きます!」

「……そうねぇ、アタシと幽奈ちゃんにコガラシちゃん、そしてアークちゃんで行くわね?」

「……分かりました。美味しいご飯を作って待ってますので……気をつけて行ってくださいね」

 

本当は全員を置いて行きたいのだが、何故かコガラシくんたちの目に宿る闘志がそれを許さない。自分たちの世界は自分たちで守りたいとでも言うつもりなのか…?なんであろうと、私が彼らをここに置いていくことは難しそうだ。

 

「では行くぞ。我に掴まっていろ」

「ウス!」

「はい!」

「はぁ〜い」

 

身長差のため3人は私の足に触れる。それを確認した私は、魔力で身を包み浮かび上がると、ルーラの応用で暗黒球へと突進。その内部へと侵入するのだった。

 

 




今更とんでもないことに気が付きました。
『中居ちとせ』ではなく、『仲居ちとせ』でした。なんてこったい。修正祭りじゃあ!(泣)


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第48話 前編 死へと導く滅びの光

ここからシドー戦です。もちろん技や能力も大量輸入しています。


闇の激流の中、私はコガラシくんらと共に中心部へと直進していた。魔力を纏っているため闇の影響は無いが、この濃度は歴代の大魔王にも匹敵する。

 

「真っ暗闇っすね」

「こ、これはちゃんと進めているのでしょうか?」

「案ずるな。一面の闇でわかりずらいだろうが、しっかりと進んでいる。我の魔力からはくれぐれも出るな。闇に肉体を削り取られるぞ」

「それは怖いわねぇ…」

 

それにしても、破壊神との戦いに彼らを巻き込んでしまうとは……せめて、傷つかないように守らねば。

 

「破壊神だかなんだか知らねーけど、俺たちの世界を破壊させやしねえ」

「はいっ!破壊神さんには悪いですが、帰ってもらいましょう!」

「あらぁ、2人ともやる気満々ねぇ〜」

 

そんな私の心配を他所に、コガラシくんたちは気合を入れている。悪霊の神々やハーゴンと戦ったというのに、凄まじい闘気。素直に感心できる。

 

「……むっ、光が見える。中心部に着くぞ」

「よっし!散々な目に合わせられたからな。拳骨をくれてやる」

 

拳をポキポキと鳴らすコガラシくん。呑子さんもゆらぎ荘から持ち出した『鬼殺し』を10本開け、一息に飲み干した。

 

やがて光が大きくなり……私たちは蒼天の中へと飛び出した。着地するのは無限に広がる水面。揺らぎすら起こさず、鏡のように空を映す様は幻想のような景色だ。

 

「ここが……暗黒球の内部っ!?」

「綺麗ですぅ〜!」

「……2人ともぉ、はしゃがないの。ほら、神様がお待ちかね見たいよぉ?」

 

呑子さんが上空を指さした。そこにはつい先程に見た青い巨体。力を溜めていた破壊神が、その目を開いた。

 

「っ!スゲー、殺気だけでこんだけ…」

「こ、こここコガラシさぁん…!」

「ちょ、落ち着けって幽奈!」

「はぁ……呼び出されて早々っていうのは同情するけどぉ、あたしたちも色々とされたしぃ……10升モードぉ…!」

 

呑子さんが角を生やし戦闘態勢をとる。それと同時にコガラシくんと幽奈さんも鋭い視線を投げた。

 

対し、破壊神もまた腕を広げ唸り声に似た声を上げた。

 

「わが…なは……はかいの…かみ、し…どー…」

「っ!まさか、言葉を…!」

「きさまら…に……さずけ…る…は……ハカイ!」

 

破壊神シドーが言葉を口にすることに面食らったが、名乗りを受けて返さぬは無礼というもの。もとより返すに能わぬ名など持ち合わせてはいない。

 

「我はエスターク。地獄の帝王!破壊神よ、貴様はこの暗黒球より外へは出れぬ。ここで滅びを与えてやろう!」

「……おろ……か…な…。われの…もとめるは……ハカイのみ!」

 

━━いなずまッ!

 

シドーの手から激しい稲妻が放たれた。私が剣で受け流そうとすると、稲妻が突如不自然な動きをし、地へと軌道が逸れた。

 

「これは…幽奈のポルターガイスト!?」

 

コガラシくんの声を聞いて幽奈さんの方を見てみると、身体は震え青い顔をしながらも、懸命に前を向く幽奈さんの姿があった。

 

恥ずかしさなどによって、心を大きく動かした際に発動してしまうポルターガイスト。破壊神の威圧により本能的な恐怖を常に呼び起こされている今の状況は、幸いポルターガイストを発動しやすくさせていたのだ。

 

「は、破壊神さんの攻撃は私が引き受けます!」

「グゴゴゴゴ……ありがたい」

 

━━かがやくいきッ!

━━しゃくねつッ!

 

私の吐き出した冷たく輝く息を相殺せんと、シドーもまた灼熱の炎を吐く。しかし、それはコガラシくんが放った拳撃が消散させたことで吹雪はシドーへと届いた。

 

「どんどん行くわよぉ〜!」

 

呑子さんの鬼火砲が放たれる。それはかつてないほどの威力を誇り、シドーの注意を向けさせた。

 

次々と放たれる鬼火砲。煩わしそうにシドーがその手に雷を迸らせるが、そこで私も攻撃を準備する。

 

━━ジゴスパークッ!

━━ジゴスパークッ!

 

互いに放った地獄の雷が衝突した。その合間を呑子さんが操る鬼火砲が進み、シドーへ着弾していった。

 

「グギャアアアァァァァアアアッ!!」

 

大したダメージにはなっていないが、鬼火砲の連打は怒りを誘えたようだ。しかし、それにばかり気を取られていると…。

 

「フッ!」

「グギッ!?」

 

コガラシくんを見逃す。背後からシドーへ飛び乗った彼は、その背中へと連撃を見舞った。彼は神を一撃で沈める拳を持つ。その威力はたしかに破壊神にもダメージを与えられるものだった。

 

「グゴゴゴゴ……コガラシ!飛べ!」

「っ!うす!」

 

コガラシくんがシドーの背中から飛び退いたところへ、私の双剣が破壊神を襲った。しかし流石は伝説の破壊神。すぐさま反応し魔力を纏わせた爪で迎撃に臨んだ。

 

━━帝王の一閃ッ!

━━邪神の爪ッ!

 

衝突が凄まじい衝撃波を生み、辺りを吹き飛ばす。空中で私とシドーは接近戦にもつれ込んだ。

 

━━たたきつぶしッ!

━━破壊の鉄拳ッ!

 

━━帝王の怒りッ!

━━邪神の怒りッ!

 

激しい攻防戦が繰り広げられる。ぶつかり合う度に衝撃波が発生し、コガラシくんたちも加勢に入れない。ここで私との接近戦を嫌ったか、シドーは幾度目かの衝突を利用し大きく距離をとった。

 

「ほろ……び…よ…!」

 

シドーの全ての腕が魔力を練り上げ、一つに融合させていく。凄まじい魔力量、一気に決めるつもりか!破壊の魔力はやがて禍々しくも神々しい光となり、辺りを照らし始めた。

 

迎撃のため、コガラシくんたちの前へ出て魔力を練り上げる。間に合うか…!?

 

━━真・完全覚醒ッ!

 

私が真の力を引き出した時点で、シドーは準備を整えていた。せめて盾となるべく、覚醒時に貼ったバリアに加えスカラ×2を唱える。

 

「ハカイ…!」

 

━━死滅の極光ッ!

 

放たれた破壊の光は私の肉体を容赦なく焼き、削り取っていく。後ろからコガラシくんたちの声が聞こえた気がするが、轟音のせいでハッキリとは聞こえない。

 

『死滅の極光』。聞いたことがある。破壊神シドーが世界を滅ぼす際に放つという技だ。本来、世界を破壊するために放つ力が、今や私へと向けられているわけか。

 

 

まったく、大魔王冥利に尽きる話しよな!

 

 

「グガアアァァアアアッ!!」

「っ!?」

 

━━必殺の一撃ッ!

 

双剣に暴走した魔力を纏わせ、一息に振り下ろす。必殺の斬撃は光を裂きながら進み、シドーに巨大な斬傷をつけ吹き飛ばした。

 

やっと全身を覆う痛みが消えた。片膝をつくも、まだまだ戦える力は残っている。

 

「アークさん!大丈夫ですか!?」

「無茶しすぎっすよ!」

「心配をさせないで欲しいわねぇ〜」

 

ああ、どうやらみんなは無事のようだ。ひとまず一難は退けられた。だが戦いはここからだ。気を引き締めねば。

 

シドーは未だに倒れていない。一旦攻撃をやめ、その傷を見ていた破壊神は手を添えた。

 

━━ベホマ

 

「……ああ、忘れていた」

「き、傷が…!」

 

私たちの付けた傷やダメージが全て癒えていく。そうだ、破壊神シドーは創造とも密接な関係にある。回復呪文や補助呪文にまで精通しているのだ。

 

であれば、こちらも惜しむ必要は無いというものだ。

 

━━めいそう

 

私は静かに目を閉じ瞑想する。これにより傷が癒え、数秒もあれば身体は戦闘前と同じ状態に戻っていた。

 

回復手段がある。互いにそれを知った。傷を付けても癒える相手を倒すのは一苦労だ。であればどうするか?

 

回復の余地すら許さない攻撃を叩き込むしかない。

 

「グギャアアアァァァァアアアッ!!」

「グガアアァァァアアアッ!!」

 

破壊神も同じ結論に至ったのだろう。『激怒状態』となり能力を底上げしていく。対し私もまた『激怒状態』となる。ここからは全力のぶつかり合い。そして、命の削り合いとなるだろう。

 

「行くぞ幽奈!呑子さん!」

「はいっ!微力ながらもお手伝いです!」

「今月もピンチだしぃ、早く終わらせなきゃねぇ〜」

「それはアンタの自業自得だろーがよ」

「コガラシくん酷いわねぇ〜」

 

戦場に似合わぬ空気を出しているが、彼らもまた決意の固まった目をしている。決着は、もうすぐそこまで迫っているという事だな。

 




ジョーカー作品だとシドーさん喋りますよね。でも他の作品だと余り喋らない。


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第48話 後編 死を賭して

ついに決着。果たして勝つのは破壊神かアークさんとゆらぎ荘か、はたまたダークライか。
第1章は次話で終了。長かった…ここまで長かった…。


『激怒状態』となったシドーが黒い呪いの瘴気を身に纏う。それはいつか見た大魔王のバリアを連想させる。しかしそれとは似て非なるもの。『無常の衣』と呼ばれるそれは、全てのダメージを半減させ状態異常を無効にする。

 

これも相まってダメージを与えずらい上に回復呪文ベホマまで使えるという鬼畜難易度。さらに破壊神は防御力を上昇させる強化呪文スクルトを使用し、その守りは鉄壁を誇る。しかしそれらも、とある技を使用すれば無効化する事が出来るのだ。

 

━━超いてつくはどうッ!

 

上位効果を消し去る上位版の『いてつくはどう』。通常のいてつくはどうでは消し去ることができない神の権能や大魔王の禁呪でさえ無効化するというものだ。これも数あるいてつくはどうの種類のひとつに過ぎない。これ以上の効果を発揮する技はまだ存在する。

 

破壊神がせっせと築き上げた防壁を一瞬にして消滅させるというなんとも言えない状態だが、それに気を取られるような油断はできない。シドーは戦闘開始時から凄まじい殺気を放っている。少しでも余所見をすれば瞬く間に殺される。

 

それはコガラシくんたちも本能的に悟っていたようで、決してシドーから目を離そうとしていない。

 

「グギャアァァアアッ!」

 

━━連続ドルマドンッ!

 

シドーが動く。手に3つの闇の雷球を生み出し上空へと撃ち放った。それはある程度の高さまで上昇すると、法則など無視した速度で私たち目がけて落下してくる。

 

━━ポルターガイストッ!

 

幽奈さんが両手をかざすと、最上位呪文ドルマドンへ霊力が干渉する。しかし相手は破壊神の大魔力。一つを逸らすことが精々で、残り二つは私が斬り捨てた。

 

「はうぅぅ……私のポルターガイストがあまり聞いてません…」

「グゴゴゴゴ……奴も本気を出したことで干渉するのが難しくなっているのだろう。だが効果が無いという訳でもない。幽奈はそのまま続けてくれ」

「は、はい!お任せ下さい!」

「呑子は幽奈を守れ。コガラシは我と共に行くぞ」

「うす!」

「りょぉ〜か〜い」

 

幽奈さんは呑子さんに任せる。何度も自身の技を逸らされれば注意が向くのは必然。その時に幽奈さんでは対処しきれないと思ったのだ。

 

━━バイキルト×2

━━スカラ×2

 

「うおっ!?いつもより力が湧いてくるぜ…!」

「相手は破壊神。用心に越したことはないと思ってな。さあ、来るぞ!」

 

━━ジゴデインッ!

━━ドルマドンッ!

 

神聖なる巨雷が私たちへ、暗黒の爆雷球が幽奈さんたちへと放たれた。幽奈さんはポルターガイストを発動、ジゴデインを逸らし、向かってくるドルマドンは呑子さんが鬼火砲を撃ち込み爆発させる。

 

その間に、私とコガラシくんは充分に近づくことができた。コガラシくんが拳を叩き込むと、目に見えてシドーが後退する。攻撃力を底上げされたコガラシくんの一撃はシドーに充分なダメージを与えられている。

 

先程の打ち合いで分かったことだが、シドーは接近戦よりも遠距離戦に長けている。無論その腕力や物理技も脅威だが、やはり遠距離戦での苛烈さはなりを潜めていた。故にシドーは私とコガラシくんから距離を取ろうとする。

 

━━邪神の咆哮ッ!

 

「グギャアアアァァァァアアアッ!!」

「ぬ……」

「うおわっ!?」

 

シドーの咆哮による衝撃波を踏ん張って耐える。だがしまった、コガラシくんが後方へと吹き飛ばされてしまった!

 

そしてシドーは私に目もくれずコガラシくんへと向かっていく。『邪神の咆哮』は相手にかかった上位効果を消し去る力も持つ。先程かけた私の呪文の効果が切れたことをシドーは察知したのだ。

 

「コガラシさん!」

 

幽奈さんの悲痛な叫びが響く。呑子さんが鬼火砲で牽制しようとするも、シドーは腕の一薙ぎでかき消してしまう。私も追いかけるが、一歩届かない!

 

━━邪神の爪ッ!

 

シドーの爪がコガラシくんを打つ。強固なコガラシくんの防御結界を破壊し、肉体を破壊神の魔力が駆け巡る。吹き飛ばされた彼を幽奈さんが受け止めようとするも、勢いを殺しきれず共に地へと叩きつけられてしまった。

 

「コガラシッ!?幽奈ッ!?貴様ァアアッ!」

 

━━大氷炎の斬滅剣ッ!

━━死滅の破爪ッ!

 

双剣に灼熱の魔力と凍てつく魔力を纏わせ斬り掛かる。対しシドーも世界をも滅ぼす力を爪へ纏い真っ向からぶつかりあった。

 

「グガアアァァアアアッ!」

「グギッ!?」

 

しかし接近戦では私に分がある。爪の合間へ剣を滑り込ませ地へ叩きつけると、地面ごと空へ打ち上げる。すぐさま体勢を立て直したシドーが全ての腕に闇の魔力を集中させた。どうやら大技を放ちたいらしく、空間にシドーから吹き出した魔力が充満し次第に何かを形作っていく。

 

「グゴゴゴゴ……悪霊の神々か」

 

アトラス、バズズ、ベリアルの姿をとった魔力。影とも言うべきそれは邪魔をさせんと襲いかかってきた。

 

「アークちゃぁん!ここはあたしに任せてぇ!」

 

鬼火砲が悪霊の神々の影を襲う。呑子は3升でアトラスを相手取れた実力者だ。消耗しているとはいえ、10本も鬼殺しを飲んだ彼女なら悪霊の神々を抑えられるだろう。

 

「すべ…て……に…、ハカイの…やすら……ぎ…を…!」

「グゴゴゴゴ……少なくとも我には安らぎなど訪れぬ。ただ一つ、眠りだけが我の安らぎなのだ」

 

恐らく放たれるは最大の技。であれば我もまた全力で応えねば、倒されてしまうやもしれんな。

 

「……いや、自分のことよりも皆のことを心配しているのが大きいか。やれやれ、我も随分と絆されてしまったものだ」

「ほろ…び…よ………せかい…と…ともに!」

 

━━破壊の宴ッ!

 

今まで以上に高まった闇の魔力が球となり、輪の配置で撃ち出される。そしてその口から球の輪を潜るように闇の光線が放たれた。

 

━━帝王の構え

 

対し私は腕を広げいつもの構えを取る。そしてシドーの最大の技をその身に受ける。その瞬間、闇の魔力球と光線が跳ね返りシドーへと猛進した。

 

「グゴッ!?」

 

流石に自身の技が返されるとは思っていなかったのか、破壊の宴はシドーに直撃する。その隙へ、私もまた最大の技で穿たんと魔力を練り上げた。

 

双剣を打ち鳴らし、灼熱の炎と凍てつく冷気を纏わせる。それらを束ね巨大な紫の魔剣を作り上げた。

 

「この世界に貴様の破壊は必要無い。滅び、魔界へと戻るがいい!」

 

━━天上天下断獄斬ッ!

 

振り下ろされる魔剣。それを見たシドーはなんと、急激に魔力を高め闇を放出した。

 

━━破壊の宴ッ!

 

まさかの2度目。そうそう連発できるような技ではないはずである。破壊神の執念か、はたまたハーゴンの全世界への怨念ゆえか。光線と魔剣が衝突し、鍔迫り合いの状態となった。

 

「グギャアアアァァァァアアアッ!!!」

「グガアアアァァァアアアアッ!!!」

 

互いに全力で魔力を注ぎ込む。空間が軋み、暗黒球がだんだんと崩壊を始めた。このままでは先に暗黒球が消滅し、鍔迫り合いの魔力の波動で外の世界に影響が出る!

 

と、その時。シドーの背中に衝撃が襲った。シドーが首だけ振り返れば、そこには幽奈さんに支えられながら拳を突き出した状態のコガラシくんがいた。

 

シドーを襲ったのは拳撃。霊力を消耗した状態ではあるが、意識を割かせた功績はあまりにも大きい。

 

一気に魔剣が光線を押し返した。それに気づいたシドーが魔力を込めるが、一度取られた流れを取り戻すには遅すぎた。

 

「グゴゴゴゴ……破壊神シドーよ。世の理を成す神よ。貴様は強かった……が、我に注意を注ぎ続けるというミスを犯したが故に敗北するのだ。そう……貴様は、ゆらぎ荘を舐めすぎた」

 

一刀両断。魔剣はシドーを切り裂いた。その傷から魔力が漏れ出し、光となって強まっていく。もはやベホマも効果はあるまい。

 

「わ……われ…は……ハカイ…のかみ……し…どー……。ああ…ま…た……なせ…ぬ…か……」

 

シドーの身体に亀裂が入る。光が吹き出し、ボロボロと崩れていく。破壊神の最期だ。

 

「すま……ぬ……はー…ご……ん……」

 

瞬間、凄まじい轟音と共にシドーが弾け、大魔力の爆発が起こった。それは崩壊を始めていた暗黒球と共鳴し、暗黒球までも同様の爆発を起こし始める。

 

「出るぞ、掴まれ!」

 

コガラシくんたちを回収し暗黒球の外へと転移する。暗黒球の内部にもう人は無く、ただ破壊神を象った杖が一本残るばかりだった。

 

 

 

 

 

 

暗黒球が光を発し巨大な爆発を起こす。それによりハーゴンの作り出した異空間も崩壊し、激戦の跡は尽く無に帰していった。

 

「暗黒球及び異空間の崩壊を確認。帝王様は破壊神を打ち倒されたようだ」

「よし、我らも城へ戻ろう。久方ぶりの、戦勝の宴だ!!」

 

帝王軍もまた元の世界へと戻っていく。魔物の持つ戦闘衝動を充分に満たした後はもちろん宴に酔う番だ。

 

邪教団は壊滅。地獄の帝王とゆらぎ荘によって、世界は守られたのであった。

 




破壊神シドー討伐隊の勝利。第1章が終われば、またゆらぎ荘での話に戻るでしょう。実に原作第2巻(16話)の3倍近く話を出してますが、最後は何話になるのでしょう。3倍で考えると、最終巻では209…210?話だから……630話、え゛っ。

え、ダークライ?誰ですそれ。


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第49話 祝杯に湧くゆらぎ荘

感慨深いなぁ……これでやっと1章終わりかぁ。長すぎるわボケェ!作者ボゲェ!


裏山に構えられた城の中で、魔物たちは宴を催していた。

 

久しい大戦を終え、存分に力を振るった魔物たち。戦闘衝動が三大欲求に匹敵する彼らは、満たされた気持ちで酒を酌み交わす。やがてヒートアップすれば殴り合いも起きるが、それもまた宴会の花というものだろう。

 

そんな魔物たちを見下ろせる上階にて、軍団長らは宴を楽しんでいた。

 

「ハーッハッハッハッ!我ら帝王軍、あのような邪教団など恐るるに足らず!負けることなど万に一つもないが、やはり勝利の美酒は美味いものだ!」

「……実は全滅していたかもって話はしないでおくか」

「む?カンダタ、何か言ったか!」

「なんにも言ってないぜ。それ、もう一杯いこう」

「ハッハッハッ!そうだな、我らの勝利に今一度、乾杯!」

 

笑いながら豪快に飲み進めていくクロウ。カンダタは微妙な気持ちになりながらも、酒に罪は無いと一気に呷った。

 

「シカシ魔王クラスノ敵ガ来レバ我ラガ出ネバナラン。少シハ足止メ程度ノ力ヲ持タセルノモ良イカモナ」

「それでは俺たちの出番が無くなるだろう!」

「足止メ程度ト言ッタダロウ。我ラガ行クマデニ部下ヲ失ウツモリカ」

 

酒も入れば道理も通じなくなる。だんだんと熱が入ったキングリザードは顎で外を示し、オムド・ロレスも歯車を高速回転させ応えた。

 

「にゃははははは!」

「はぁ……静かに酒も飲めんのかアレらは」

「にゃははははは!」

「……カルマッソ。いい加減煩いぞ。今の発言はお前にも当てはまっているのだが」

「にゃははははは!」

「……ロザリーを呼ぼう。でなければやってられん」

 

カルマッソ、酒が入ると笑い上戸であった。いつまでも笑い続けるカルマッソにげんなりしたピサロは、腰を上げ婚約者の元へと向かうのであった。

 

「さあもう一杯、かんぱーい!ははは!」

「にゃははははは!」

『死に腐れオムライスがっ!』

『オムライス…?オムライスダトォォオオオッ!?』

「ピサロさま、この唐揚げはお酒に良く合いますよ」

「ん……ああ、美味い。ありがとうロザリー」

 

「……もうやだコイツら」

 

カンダタは一人ガブガブと飲む。そういえば、帝王様はゆらぎ荘で楽しくやっているのだろうか?と一瞬だけ考え、その場にぶっ倒れたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「この度は、本当に……申し訳なかった」

 

ゆらぎ荘にて、私は皆と食卓を囲んでいた。どうやらカンダタが私の正体を知らせていたようなのだが、改めて私は己の正体を明かした。

 

私は地獄の帝王と呼ばれる大魔王であり、数多の世界を力で支配した存在である。命を数え切れぬほどに踏みにじってきた怪物であると。

 

しばらく沈黙があり、その空気は容赦なく私を打ち据えた。せっかくの喜びの場であるというのに、このような空気にさせたのは申し訳なく思う。しかし、このまま宴に参加することはできない。こればかりは伝えておかねばならなかった。

 

私は彼らを巻き込んだ。私が接触したがゆえに魔力を辿られ発見、そして襲われたのだ。私が関わらなければ、邪教団はゆらぎ荘を襲うことはほぼありえなかったはずなのだ。

 

そんな事をしでかした私が、はたしてこの宴に参加して良いものか?たとえ追い出されることになろうと仕方が無いとピサロには言った。しかし、路頭に迷っていた私に幸福な時間をもたらしてくれた彼らにそう言われるのは、恐らく私の想像以上に辛いものとなるのだろう。

 

そう思いながら俯いていると、ふと頭に何かが載った。驚いて少し頭を上げると、なんと仲居さんが私の頭に手を載せていたのだ。

 

「アークさん。私たちは、あなたが普通の人間でない事はわかっていました」

「……………」

「そして今回、大変なことになってはしまいましたが……そんなに自分を卑下しなくてもいいんです。アークさんは何も悪くありません」

「そっすよアークさん!何度もオレたちを助けようとしてくれたじゃないっすか!」

「コガラシさんの言う通りです!アークさんが気に病む必要はありません!」

「誅魔忍として監視はしていましたが、特に怪しいこともありませんでしたしね」

「う。あの時の報告?も合点がいったの。ずっと前から頑張ってた、アークは偉い」

「むしろあたしたちこそ、色々と邪魔しちゃったみたいだしぃ、お互い様ってことで割り切りましょぉ〜」

「うむ。改めてアークの力を確かめることができた故、気にしていない。玄士郎さまを救ってくれた恩もある」

「そうだよ!アークさんは優しい人だってことボクたち知ってるんだから!」

 

罵倒でもなく、怒声でもない。覚悟していたものとはあまりにも優しく温かい言葉に思考が止まる。その間に彼らは土下座の体勢だった私を席に着かせると、準備していたコップを掲げた。

 

「それでは!皆さんの無事と平和、そして私たちを守ってくださったアークさんに!乾杯!」

『カンパーイッ‼』

 

仲居さんの音頭によって宴が始まった。未だに固まる私に、料理や酒を笑顔で進めてくる皆。私は震える手でそれらを頂いた。料理はとても暖かくて美味だった。ほんのちょっぴりしょっぱいような気もしたが、きっと塩を効かせ過ぎてしまったのだろう。私はぼやけた視界のままに、そのひと時をじっくりと楽しむのだった。

 




これにて第一章 狂乱の破壊神は終わりです。次回からは原作第三巻に突入します。

ここまで見てくださった皆さん。今までご高覧ありがとうございました。これからも『ゆらぎ荘の帝王様』をどうぞよろしくお願いします。


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