植え替えられたオキザリス (チガ)
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植え替えられたオキザリス

注意:結城友奈は勇者である 花結いのきらめき 花結いの章14〜16話 愛媛奪還編のネタバレを若干含みます。


私-犬吠埼風と妹の樹は無事今日の戦いを終え二人で仲良く自宅の浴室にいる

 

「うぅ…恥ずかしいよぉ…自分で髪くらい洗えるよぉ…」

恥ずかしがる樹に対し

 

「髪は女の命よ?女子力クイーンのお姉ちゃんに任せなさい。ほら、シャンプー流すわよ」

そう一言告げると諦めたのかギュッと目を瞑った樹。うん。ウチの妹は今日も可愛い

 

最近、私達は愛媛の半分以上を順調に取り返していている

今日はいつも通りバーテックスをある程度倒した所で精霊を引き連れて赤嶺が登場してきた。彼女が率いてきた造反神が作ったオリジナル精霊はかなり特徴的だった

勇者と見た目がそっくりになるソレは物理的な攻撃は効かず精霊側も肉体的な攻撃が不可。

代わりに対象の勇者の精神世界に入り込み記憶を読まれ、投げかけられた議論や質問に嘘をついたり答えられなければ精霊に取り憑かれ神樹内で2度と戦うことができなくなる体になるという…厄介な敵だ

 

主に丸亀城組が狙われたものの全員無事。今日も損害なく勝利できた。何よりだ。

 

身体も洗い、浴槽でのんびりと疲れを癒してお風呂からあがり、バスタオルを身につけ出てきた私たちに対して

「勝手にお邪魔してるよ」と声がかけられる

…赤嶺!?

 

咄嗟に赤嶺を見つめたままテーブルに置いたスマホに飛び込もうとするが彼女の後ろにいる二人を見て固まった

 

 

 【私たちの両親がいる】

 

 

「あ、気づいた?見た目と記憶だけでなく人格も似せて、心情も人のようにした精霊の二体だよ〜」

いわば造反神の精霊ver2ってとこだね。と微笑む赤嶺。

続けざまに

 

「偽りの生命だけれどもこの二人の記憶は本物。

…甘えても良いんだよ?」

と焚き付けてくる

 

「そんな作り物に…」

自分でも声が震えているのが分かる。なんとかして逆らわないとマズイ…

 

「今までよく頑張ってきたね、風」

「お疲れ様。大変だったでしょう?風、樹?」

昔聞いた。2年前から何度も何度も聞きたいと渇望していた2人の声がした。

 

…今まで張り詰めていた糸が切れた。

当たり前だ。極々平和な日常を過ごしてきた私たちは当たり前のように享受していた幸せを突然奪われたのだ。

もし、死んだのが私達の両親だけでなければ同じ被害を被った遺族の人々と傷を舐め合えたかもしれない。

もし、私が勇者にならず、部長にならずに皆を巻き込まなければここまで感情が揺り動かされることはなかっただろう。

 

しかし、たらればで過去は変わらない。変えられない。

私も樹も両親に泣きながら抱きつく。

 

「造反神につけってことよね?」

涙声で問う私に対し

 

「うん。住む場所も提供するよ。造反したとはいえ神樹様の1柱だからね。勇者の力はほぼ使えるから私のお役目を…いや、勇者達と戦ってほしいな。

 

…でもしっかりと危険性も理解してから判断してほしい。もし断っても手土産としてこの二人は残していくよ」

 

そう言い赤嶺は私たちに造反神の真の目的や造反神側に来るデメリットとリスク。

…そして、現実世界に戻ったらどうなるか。西暦勇者達の行く末や…銀が死亡することを語り出した。

あまりの運命の過酷さに私も樹も声が出なかった。嘘だと疑いもした。しかしあの目と表情は嘘を語るものではなかった。私と樹は朝が明けるまで話し合い、そして

 

 

 

--翌日、私と樹は学校に行かずに皆の前から姿を消した--

 

 

 

 

 

数日後、星屑達の襲撃を片付けた勇者部の前に私達は姿を現した。

 

「風さん、樹!心配したぞ!」

安堵した様子で若葉が話しかけてくる

 

「ごめんなさい皆。私たちは造反神側につくわ」

私は敵対する意思があることを示す

 

一瞬の間。そして

 

「「戦闘不能状態にしてでも連れて帰ります(よ)!」」

頭の回転の速い須美、杏が攻撃してくる。精霊バリアにより攻撃は致命傷にならない。ならば衝撃を加え続け動けなくなるまで攻撃をしようと考えての行動だろう。賢い子達だ

 

飛んでくる矢を私が武器を巨大化。横なぎの風圧で威力を弱めそれを赤嶺は徒手空拳で叩き割り・樹はワイヤーで捉えていく

 

いける。一瞬安堵したのも束の間

 

突如槍が飛んでくる…雪花か!

私は咄嗟に樹の方へ視線を向ける。なんとか回避行動を取ったものの凶器は樹の束ねてあるサイドの髪を一房もって行った。

…精霊バリアは発動しない。少し間を置いて愛しの妹の肩からスゥッと一筋の血が流れるのが見えた

 

しまった。樹に気を取られすぎて杏の矢が目の前に迫っていることに気づくのが遅れた。回避行動が間に合わない。せめて損傷箇所を最小に!急いで大剣を構えようとするが間に合いそうにない…

 

….精霊バリアだ…犬神が守ってくれた

しかし元より力が弱まっているようだ。先端だけとはいえ刺さった

「痛っ…」

勇者服をじんわりと赤い液体が染め上げていく

 

勇者達は予想外の出来事に愕然とし手を止めた。

 

赤嶺が語り出す

「あ、言ってなかったね〜あなた達の使役する精霊達は神樹を介して顕現している存在だから、敵対している私達側には精霊バリアまではつかないんだよ。

…何故か犬神は無理矢理リンクを断ち切ってこちら側に来たようだけど…仲良しだね〜羨ましいよ〜」

 

続け様に

 

「精霊バリアが無いということは…分かるよね?東郷美森さん、乃木園子さん?

…犬吠埼姉妹はここまでの覚悟を持ってこっち側に来たんだ。あなた達にこの壁が越せるかな?

 

今回は2人がこっち側についたよ〜っていう紹介をしたかっただけだし退かせてもうね」

 

驚きで言葉もでない勇者部員たちを尻目に私達は赤嶺の拠点へと戻っていった。

 

 

 

「ごめんなさい樹。わたしのせいで髪が…」

私は樹を守りきれなかったことを悔いた。まただ。また私は後悔をしてしまう。髪は女の命だ。それをいきなり初戦で失うとは…姉として不甲斐ない。

「気にしないで。私が決めたことだもの。私はお姉ちゃんに、ついていくよ」

私を安心させるように樹が抱きしめてきた。

樹は立派に育っている。私からも手を伸ばし抱きしめ合う

 

少しして

 

「樹ちゃん、髪は残念だったね…

私はもう一つ拠点を作ってくるよ。家族水入らずで過ごしたいでしょ?疲れただろうしあなた達は休んでいて」

赤嶺がこれからの予定を話す

 

私は樹への抱擁をほどき

「赤嶺…アンタこんなに大変なお役目を一人でこなそうとしてたのね」

赤嶺を抱きしめた

 

「甘えちゃうから…やめてくださいよ風さん…」

言葉ではそう言うものの全く反抗しない

 

「ずっと苦労しているんだからたまにはこの風お姉ちゃんに甘えなさい。あなたも一緒に住みましょう?」

自分の今できる精一杯の優い声音で語りかけると

 

「…もう少しだけこのままで」

赤嶺も抱き返してきた。

 

そんな様子を樹と両親が微笑ましそうに見つめていた

 

そうして私は樹や赤嶺、擬似バーテックスと訓練の日々を送ることになる

 

 

 

--------

 

勇者部はそれどころではないと部活動を停止した。

しかし「どころ」ではなかった。彼女達はそれを日常としてきたのだ。日々行っていたものが消え、勇者達は拭いきれない違和感を感じて過ごすこととなる。

まとめや進行、話の整理や癒し。その他諸々をくれたあの2人が消えたダメージは想像以上に大きかった。

 

力づくでも取り戻す。

できるだけ傷つけないよう友奈二人と棗の拘束術に期待がかかる。

 

今度こそ、彼女たちを…

 

--------

 

 

 

 

 

数日後、再び犬吠埼姉妹と赤嶺は勇者部員達と相見えた

 

「二人を返してもらう!」

怒気を帯びた声で若葉が叫ぶ。今は丸亀城組でリーダーを務めていた彼女が部長なのだろうか。

彼女なら安心して後を任せられる。

 

「う〜んそれは嫌だしもう少し本気を出してあげるよ」

赤嶺がそう言うと

ジャキンジャキンと音を立てながら右腕の横に存在感を放っていた硬質的なものが拳前へと移動・合体し固定され斧のような武器となった。

カッコいいものに目がない銀と球子は目を輝かせる

 

「勇者服同様この武器も造反神…元天の神の力でできている。つまり…」

 

突如消え・・・いや猛スピードで赤嶺はその武器を使い攻撃を繰り出す。

 

辛うじて避けた夏凜の右頬にツウッと一筋の赤い線が滲み出て、血が流れ落ちていく

[まるで]射手座の針のような速度だ。[もし]射手座の攻撃がバリアを貫通し掠っていたらこうなるのだろう

周りが動揺を隠せない中、続く2撃目を飛び出してきた高嶋が手甲で受け流すようにしてなんとか防いだ。金属を擦る甲高い音が響いて火花が散り、浅いながらも傷が創られる。

 

「…勇者バリアなんて貫通できるんだよ?」

 

敵とはいえ人だと、友奈族だと思い気づかないうちにどこか緩んでいた雰囲気の勇者達の目の色が変わる。

 

 

「これはあなた達が元の世界に戻った後を想定した戦いでもある」

赤嶺は私たちを含めた神世紀300年から来た6人を意味深に一瞬だけ見る

 

「神花解放はしないであげる。

さあ、お役目を果たそうか・・・火色舞うよ」私と樹も戦闘姿勢をとった。

 

 

 

戦闘は10分にも満たなかった。

勇者部随一の力を持つと自負する私

テクニカルな攻撃を繰り出す樹

そして対人戦に特化した赤嶺

日が浅いとはいえ対人訓練も積み重ね戦う準備はある程度整っている

 

かたや勇者部員達は未だ精神が不安定だ。結果は目に見えていた

やはり彼女達は優しすぎる…そう思うと同時に後ろめたい波が押し寄せてくる

 

 

倒れ伏す勇者達を見下ろしながら鏑矢の少女はポツポツと誰に言うでもなく話はじめる

「あなた達は弱いね。肉体的な面ではない。精神面だよ。一対一なら、本気なら勝てる可能性が高いのにどうしても傷つく仲間に意識が向いて隙ができてしまっているね。

それとは別に風さんと樹ちゃんを傷つけまいと力加減をしてしまっているのも嫌でも感じ取れる」

 

「「未来のわたしみたいに」傷つく仲間を見捨てることになろうとも任務は達成するべきだよ」

自嘲気味に笑いながら言う赤嶺。

一番近い私ですらなんとか聞こえる声量で「レンち…」と呟くのが聞こえた。誰なのかは分からないが彼女の未来にその人と何かしらがあったのは容易に察せられた

 

 

「今回は初回だし大サービスで見逃してあげる。次はないよ?」

 

 

両親と過ごしたいという気持ちも強いがそれと同じくらい私は彼女達を現実世界へ戻したくない。死なせたくない。

 

現実世界へ戻るかどうか。それは恐らく理詰めでは解決しないのだろう。ならば互いにぶつかり合い腕っ節で気持ちを伝え合うしかない。

 

ならば私は最後まで。神樹の勇者ではなく造反神の勇者として戦っていこう

 

 

 

植え替えられたオキザリス

〜終〜

 



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