異聞大正怪異譚 (てーけー。)
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剣柱 劔桃晴 外伝

先ずは(真の)主人公目線、という話。


ここは蝶屋敷。

怪我を負った鬼殺隊の隊士が治療と機能回復を兼ねて入院する病院と道場を一つにした様な施設だ。

 

那谷蜘蛛山での一件にて大怪我を負った竈門炭治郎、我妻善逸、嘴平伊之助ら三人はここに入院する事になった。

 

 

 

入院して暫く経ち、明日から軽めの回復機能訓練が開始する旨を伝えられた夜、竈門炭治郎は禰豆子をあやして木箱の中へ誘導していた所にある人物がやって来た。

 

 

「あら、炭治郎くん、こんばんは。明日から回復機能訓練なんだってね。頑張ってね。」

 

「あ、()()()()()。こんばんは。はい、そうなんです。なので今日は早く寝ておこうかなと。」

 

 

俺、竈門炭治郎は病院施設の夜ということもあって、いつもより出来るだけ小さい声で返事をする。

 

 

この人は()()()()()さん。この蝶屋敷の住人で、主に回復機能訓練のお手伝いをしてくれている人だ。

今は怪我で引退しているけど、元柱の凄い人だと聞いている。

普段から穏やかで暖かい匂いのする可憐な女性って感じで禰豆子もとても良く懐いている。禰豆子に構い過ぎてよくしのぶさんに怒られてるけど…

 

 

「そう、それじゃお邪魔しちゃったかしら。ほんの少しだけ伝えたい事があったのだけど…」

 

「いえ、少しなら全然構いませんよ。何かあったんですか?」

 

 

それじゃあ、少しだけ。

そう言ってカナエさんは俺にいつもの穏やかな表情のまま話し掛けた。

 

 

「炭治郎くん、(もも)くんにはもう会ったかしら?彼、貴方のこととても心配してたから…」

 

(けん)(ばしら)(つるぎ)桃晴(ももはる)さん、ですよね。実際にお会いしたのは柱合会議が初めてなんですけど、お話出来なくて…。鱗滝さんと冨岡さんと一緒に禰豆子の身を庇ってくれたいい人なので…俺、会えたらお礼を言いたいんです!」

 

 

〈桃くん〉という愛称の人なら多分その人の事だろうと当たりをつけて、俺は返事をする。

ここへ来てからカナエさんがそう呼ぶ人の話を度々聞かされていて、彼女の妹であるしのぶさんに誰のことなのかは聞き及んでいた。

 

 

「そうなの。じゃあ丁度良かったわ。炭治郎くんが回復機能訓練を受けている間にここへ来る手筈になっているから会うと良いわ。優しい人だからきっと仲良くなれると思うの。」

 

「はい!ありがとうございます!」

 

 

ウフフ、とカナエさんは花も綻ぶような笑顔を俺に向けて、その人を紹介してくれると言う。

 

それだけ言うと、カナエさんはおやすみなさい、と一言告げて帰っていった。俺は中途になっていた妹の誘導を再開する。

 

「(どんな人なんだろう…)」

 

柱合会議の時は確か遅れて参上して来た人だ。妙に禰豆子が懐いていたのが気になるけど…

 

 

「なぁ、禰豆子。禰豆子は剣柱の劔桃晴さんって人知ってるか?ほら、お館様の前で禰豆子の頭を撫でてた人だよ。」

 

俺は猿轡を噛んでいる妹に語りかける。

 

「むー?むーんー!」

 

禰豆子はよく知っていると伝えたいようで両手を挙げて笑顔になる。この感じを見るに、どうやら本当に優しい人みたいだ。

 

「早く会いたいなぁ。お礼もしたいし。」

 

 

 

鬼殺への道のりを歩き出したばかりの竈門炭治郎少年。

その少年は今後様々な出会いを果たし、多くの物語を紡ぐ事になる。この後に出会う剣柱との一幕もその内の一つである。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

炎の様な男が今、燃え尽きようとしていた。

側には三人の()()が看取っている。

 

 

「…それから、竈門少年。剣柱(けんばしら)(つるぎ)桃晴(ももはる)へ教えをこうがいい。ヒノカミ神楽とやらを彼が知っているかは分からないが、彼も特殊な呼吸法をつかう。何かの役に立つやも知れん。」

 

 

「…はい、はい!分かりました!会いに行きます!」

 

「それでいい。彼は強いぞ。俺と違い上弦と三度も戦って生き残っている、まさに鬼殺隊の希望だからな。」

 

「煉獄さんだって乗客二百人全員を護りきったじゃないですか!俺、絶対煉獄さんみたいに強くなってみせます!」

 

「…ははは、有難う。そう言ってくれると嬉しい。…心を(つよ)く持て、少年。さすれば願いは必ず叶う。」

 

「はい!…はい!煉獄、…さんっ!」

 

 

 

涙が溢れる。偉業を成した英雄に、オレは力強く返事をして、その最期を見届ける。

 

呆気ないなんて言わせない。あの凶悪卑劣な鬼に正々堂々と立ち向かった目の前の強く熱い漢が託したモノを必ず繋いでみせる。

 

 

 

夜明けの太陽が眩しく輝く。

 

竈門炭治郎、我妻善逸、嘴平伊之助ら三人は鬼殺隊の柱の背中を見届けて、決意を新たにここから大きく成長することになる。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

「桃晴か?ああ、良く知ってるぜ。何せ同期で柱になった奴だからな。ま、俺の方が派手に先輩な訳だが!」

 

鼻高々といった雰囲気でそう語る大男と共に夜の街を真っ昼間に行く。

 

何か気になる事でもあんのか?と興味を示した彼に俺は未だ会ったことが無い人の印象はどんなものか、と尋ねる。

 

 

「んー、どんな奴かって訊かれりゃ、ド派手にヤベェ奴だって答えるしかねぇな。初見じゃ気付きにくいが、とにかく派手にヤバイ奴だ。アイツの鬼の討伐数知ってっか?もうじき四桁だぜ、俺と同い年で。どうだ派手だろ?」

 

 

「はあ!?4桁!?ってことは1000超えるってこと!?どんなバケモノなのソレ!?鬼相手にそんな場数踏んでるって命が幾つあっても足りないじゃん!?柱って皆そんななの!?」

 

「ンガーーー!!俺の方が強ぇに決まってんだろ!よんけただかじゃんけんだか知らねーが俺が最強なんだよ!!勝負しやがれ桃丸とやらーーーー!!」

 

「バカ、お前バカなの!?勝てる訳無いだろ!柱だぞ!聞かれたらどーすんだ!」

 

 

相変わらず甲高い声で喚き散らす善逸と、雄叫びをあげて居もしない相手に威嚇する伊之助。宇髄さんの言った内容には俺も驚いたけど、二人が俺の分も驚いてくれたせいでなんだか出遅れた気分になる。

 

 

「アイツはガキには優しいから悪口言おうが鯉口切って挑発しようが地味に怒んねぇと思うぞ、多分。」

 

アイツにとっちゃ自分より年下全員ガキみたいなもんだしお前らは大丈夫だろ、付け加える宇髄さん。

 

ホント?ホントにホント?と疑心暗鬼に陥る善逸。

ガキ扱いすんなーー!!と更に勢いを増す伊之助。

 

賑やかなのは良い事だけど、この街の昼は割と静かだから悪目立ちしている。恥ずかしいからやめてくれ…

 

 

俺が二人を宥めていると、宇髄さんは真剣な顔になって語りだした。

 

「我妻が言う通り、そんだけの場数を踏むってのは即ち死ぬ可能性も高まるって事だ。文字通り命が幾つあっても足りねぇ。だがアイツはそれをやってのけた。そして歴代の柱の記録なんざもうとっくに塗り替えちまった。そう考えると派手にヤバい奴だろ?」

 

確かに。

宇髄さんは見た目からして二十歳そこらだ。同じ年齢で1000の鬼を倒すとなれば、俺と同期で入隊した(つまり十五で入隊試験を通った)としても5年間で1000体、年間200体倒してる計算だ。凄すぎる。

 

 

「…何より他の柱と違う点は、上弦と戦って三度も生き残ってるってとこだ。」

 

 

しん…と俺含め三人とも黙り込んでしまった。

あの普段から五月蝿い二人も固まっている。

 

 

そうだ。煉獄さんから聞き及んでいた話。

上弦の鬼と3回も出会い3回とも生き残った、という話。那谷蜘蛛山で俺達は下弦の伍とその配下と戦って死にかけている。下弦ですらあの強さなのに上弦と渡り合うとなれば話が変わってくる。蝶屋敷で修行して全集中を解得したりしてから多少は強くなったと思うけど、無限列車で出会ったあの上弦の参は今までの鬼とは比べ物にならない強さだった。今会っても瞬く間に殺される気しかしない。

 

 

ごくり、と生唾をのんで固まる俺達の頭をポンポンと軽く叩く宇髄さん。

 

 

「オイオイ地味に困るぜそんなんじゃあ。此処にはその上弦の鬼が出るって噂なんだからなぁ。」

 

 

 

「………エ?イマナンテイッタノ?」

 

「だから、出るんだよ、上弦。俺達はそいつを派手に狩りに出向いたって訳だ。」

 

「はぁああああああああ!!??何言ってんのこの人!?出るの!?ここに!?上弦が!?死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死んだ……」

 

善逸は気絶してしまった。

 

今は俺はそれどころじゃない。

聞き逃せない情報が耳に入ってきた。

 

「じょ、上弦が出るんですか!?あの物凄く強い!?」

 

「そうだよ、その上弦。言ってなかったっけか?」

 

「はい!聞いてません!」

 

「そうか、んじゃ今言った。俺様が派手にその上弦をぶった斬って勝ち鬨上げるからお前らは派手に盛り上げろ。」

 

「(ノリが軽いっ!?)よ、余裕があるんですね…俺は正直自信がありません…」

 

 

流石に立て続けに上弦の鬼と相対することになるとは思っても見なかったものだから驚いたのと同時に、上弦の参の事を思い出して身震いする。

 

この嫌な寒気はよく知ってる。恐怖だ。

俺は今、臆病風に吹かれて縮こまっている。

当然だ。直近で柱の煉獄さんがやられた所を目の当たりにしている。自分が戦えば善戦すら出来なかったであろう相手が迫っているのだから。

 

 

「あん?なんだ怖ぇのか?お前、確か上弦の参相手に生き残ったんだろ?それが戦って生き延びたのか、それとも逃げ延びたのか、はたまた逃がされたのかは知らねぇが、胸を張れ。結果は同じだ。桃晴と同じ事やってのけてんだよ、お前ら。」

 

 

普通の事を言っている、という感じでそう告げる宇髄さん。

 

今のは励ましてくれたんだろうか?

 

…そうだった。煉獄さんも俺達に胸を張れって言ってくれた!俺達はあの人の背中に憧れて強くなるって決めたんだ!

 

 

「…はい!」

 

俺は改めて自信に満ちた返事をした。

今は凄く晴れやかな気持ちだ。

 

 

 

「それとアイツに出来て先輩たる俺様が地味に出来ねぇ訳がねぇ!ハーーッハッハァ!」

 

キランと額当てを輝かせて高らかに笑う宇髄さん。煉獄さんもそうだったが、柱の人達って皆キャラが濃いんだろうか…

 

ふと後ろに目をやると、こういう時にいつもヤンチャな伊之助が静かだった。

 

「……」

 

「…伊之助?」

 

俯いて震えている。

やっぱり伊之助でも流石に上弦は怖いのかな。

 

だが伊之助は震えを止めると両手を高く突き上げて興奮した様に吠え始めた。

 

「よっしゃーーー!!上弦!強ぇ鬼!倒したら桃丸より強いってことだよな!?掛かってこいやーーー!!」

 

良かった、いつもの伊之助だ。

 

 

「良い啖呵だ、派手に気に入った。特別にお前を鉄砲玉として一番槍に任命してやる。派手に散ってこい!」

 

「オレはてっぽうだまじゃねー!!伊之助様だーーー!!」

 

 

ここに至るまでの道中同様、わーわーとまたしても盛り上がってきた俺達四人(うち一人気絶)。

この後善逸が目を覚ましてより五月蠅くなるのだがそれはまた今度。

 

 

 

激戦となる予感が頰を撫でる。

冷たい死が迫るとは思えない程、

妙に暖かい風だった。

 




異聞大正こそこそ小噺

やぁ皆、作者のてーけー。だよ。今作は僕の初投稿となるから忌憚のない意見も罵詈雑言もウェルカムだよ。勿論進捗には影響するよ。やっぱり感想や評価って嬉しいよね。だから遠慮なく送ってきて欲しいな。

それで原作キャラはいつ出てくるの?

この作品は後に出てくるオリジナルキャラクター劔桃晴君が主人公として活躍する二次小説だよ。桃晴君以外のオリジナルキャラクターが出てきたり、原作である鬼滅の刃以外の他作品から設定を引用したりする場合もあるから、この作品を見るか見ないかは自分で線引きして決めて欲しいな。

それで原作キャラはいつ出てくるの?

本編で語られなかったストーリーやら設定などは後書きに小出しにしていこうかなって思ってるから読む人は読んでくれるとうれしいな。

それで原作キャラはいつ出てくるの?

因みに「この書き方ウザい」とか「いいからちゃんと書けや」とか中傷されてもこの後書きの仕方はやめないよ。これが一番書きやすいからね。ごめんね。

それで原作キャラはいつ出てくるの?

何度も言うようだけど、作者はドMだから誹謗中傷でも罵詈雑言でもウェルカムだよ。送ってくるってことはファンなのさ…僕のね。取り敢えず暇な人は読んでいってね。それじゃあ次回で会おう!


最後に主人公のプロフィール載っけときます


劍桃晴(つるぎももはる)

22歳183cm 72kg (柱合会議編時点)
7月30日生まれ 獅子座 A型

好きな食べ物は特に無い。
苦手な食べ物も特に無い。

好きなことは子供の遊び相手。
嫌いなことは子供が飢えること。

悪鬼には容赦無し待った無し加減無し。
年上の美人に弱い。
年下や子供にはとことん甘い。

柱としては悲鳴嶼の次に古株。
宇髄と同期でよく喧嘩してる。

剣柱(けんばしら)
剣(つるぎ)の呼吸を使う。

鬼殺隊最強と名高い隊士。
歴代の鬼殺隊の鬼との交戦記録を次々と塗り替えた猛者。炭治郎と初めて会話した時点では3回上弦と交戦して生き残っている。

日輪刀の色は玄(赤黒)色
本差と脇差の2本持ちで、別にある鬼を狩る為に用意した日輪刀を持っている。
その刀の全長およそ8尺(当時約2m40cm)。
持ち手にまで刃先が繋がっていて、鍔はなく、峰がそのまま持ち手になっている。
鉄地河原鉄珍作。
とにかく頑丈で重い。
街中に持ち運べない事には渡されて実際に使ってから気付いた。



次回「進捗が遅い!」パチーン


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幸せを崩す色

優しい男の子が壊れる話。


「コラァ! 待ちやがれ!!」

 

 午前の太陽が爛々と輝く中で、両手一杯にパンを抱えて逃げる悪童が一匹。彼が何者なのかはその場にいる誰にでも分かった。痩せた子供でマトモな服も召してない……。この時代では珍しくも無い捨て子だろう。生き残るために盗みを働いたのだろう。だがそんなことはこの店の店主には関係ない。薄汚いコソ泥に大事な商品を盗られたとあっては生かして返す理由などない。

 

「捕まえたぞクソガキぃ、ぶっ殺してやる!」

 

子供と大人の体格差は簡単に覆せるものではない。遂に後ろ首を捕まえられてしまった。店主は少年を地面に叩きつける様に放り、足で何度も踏みつける蹴りつけるを繰り返した。

 

「このっ、コソ泥が!生きるっ、価値のねぇっ、ゴミが!死んでっ、詫びやがれ!」

 

うずくまって暴力を受ける少年は、「痛い」も「やめて」も言わず、ただ周囲の視線を感じ取っていた。

可哀想に。と憐れむ貴婦人がいた。

憐れむだけで、どーせ何もしない。

汚いガキだ。と蔑む商売人達。

テメェらの金勘定のが汚ねぇよ。ばーか。

見ないフリをする検非違使が通り過ぎた。

へっ、お勤めご苦労さん。

 

一通り暴力を振るった店主はうずくまる少年を尻目に、先程まで子供が抱えていたパンを拾おうとする。

 

「ったく、もう売れねぇじゃねーか。汚ねぇガキの触ったパンなんてガッ!!??」

 

目を離したのも束の間、先程までうずくまっていた少年が店主の股を後ろから蹴り上げた。店主が泡を吹いて崩れ落ちると同時にサッと落ちたパンを拾い上げて少年は逃げていった。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「ふぅ、鈍間なそうな奴を選んだつもりだったんだけどな……」

 

傷だらけになった身体をさすりながら、街の路地裏に隠しておいた少年が大きな風呂敷包みに持ってきたパンをねじ込む。

 

少年の名は桃晴(ももはる)。姓はない。この街から山一つ隔てた先にある村のはずれのあばら屋を住処にしている。桃晴はそこに捨て子を集めて皆で協力して生きている。

 

「これだけあれば1週間は食い繋げるだろ。さてと、…帰るか。チビ共が待ってる事だしな。

 

少年は先程までの様子とはうってかわって明るい声を出して優しく微笑むと帰路についた。少年は捨て子達の長男だから、一緒に住む子供達を食やせてやる為に頑張らねばならないのだ。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

(桃晴視点)

〜村外れのあばら屋〜

 

「ただいまー」

 

街を出て翌日の早朝まで歩き通しでやっと帰宅した俺は、ギッシリ中身の詰まった風呂敷包みをドスンと床に置く。ふい〜もう超疲れた、いや、マジで。

 

「兄さん、お帰り。」

「桃晴お兄、お帰りなさい。」

「桃兄ちゃん、おかえりー」

「お帰りなさい!ももにー!」

「「お帰り、桃兄!」」

「兄ちゃん、おもちゃ買ってきたー?」

「オイラお菓子がいいー」

「オレもー」

「桃にー抱っこして!」

「ずるい!ワタシもワタシも!」

「…zzzz」

 

ハハハ、ただいま可愛い兄妹達よ。少し静かにな、輪太郎が起きちゃうから。オモチャもお菓子も買ってきたから落ち着けー。順番だぞ。

 

この子達は俺の家族で兄妹。皆捨て子で本当の血は繋がってないが、確かな絆で結ばれてる。上から紹介しよう。

 

次男の柿二郎(かきじろう)。今年で8つ。俺よりずっと頭が良い自慢の弟。自分も働きに出ると煩いが、まだ認めてない。お前はまだウチに居ろ。食料は兄ちゃんがなんとかしてやるから。

長女のお春。今年で8つ。まだ8つにしては落ち着きがあり、笑顔が綺麗なウチの女衆の一番上。将来は別嬪さんになるだろうなぁ。

三男の瓜助(うりすけ)。今年で7つ。食いしん坊で寝坊助だが、愛嬌があって優しい奴だ。いつか絶対腹一杯食わせてやるからな!兄ちゃんに任せろ。

次女の夏未(なつみ)。今年で7つ。元気いっぱいの女の子。偶に兄妹でケンカになれば俺も手がつけられない程暴れん坊な所がある。でも向日葵みたいな笑顔はとっても可愛いらしい。将来は別嬪間違いなしだ。

四男と三女のあおとあい。2人とも今年で6つになる双子。容姿だけじゃなくて動きも鏡合わせみたく同じ。どっちも人形みたく美形だ。将来は美男美女になるだろうよ。

五男の佐助、六男の茂吉、七男の新太。3人は今年で5つ。やんちゃな盛りの坊主共。いつも3人で日が暮れるまで冒険ごっこをしてる。沢山食って遊んで寝て大きくなれよ!

四女の秋葉と五女の冬香。2人とも今年で5つ。一番俺に懐いてるんじゃないかな。よく抱っこをせがまれるし、将来は俺のお嫁さんになるって言ってたしな。どっちも将来は確実に美人になるだろう。

最後に八男の輪太郎。まだ赤子だ。最近拾ってきた捨て子。あまり泣かない利口な子だが、赤ん坊は泣くのが仕事だぞ。

 

 

とまぁ、ついつい紹介が長くなったが、俺含めて今は13人の大所帯だ。食わせるのもやっとの状況だが皆で仲良く暮らしている。素朴な幸せってのはこーゆー事を言うんだろうな。

 

「兄ちゃん!ボーっとしてないでさ、早く座ってメシにしよ!久しぶりに皆揃って食べられるんだから!」

 

「おう!そうだな。まずはメシにしよう。家族揃ってのメシの方が美味いからな。」

 

そう言って俺は抱っこしていた秋葉と冬香を下ろし、囲炉裏(いろり)の前に座る。膝の上にはいつも通り秋葉と冬香が座ってきた。いやぁ、モテる男は辛いですなぁ。

 

「秋葉、冬香。桃晴お兄は疲れてるから、…程々にね?」

 

「「はーい、春姉。」」

 

良いんだよ、お春。もう疲れは吹っ飛んだから。本当は甘えたい年頃だろうに、長女だからかしっかり者に育ったお前にも簪を買ってきてやったぞー、安物で悪いがな。

 

「…もう、無理しなくていいって言ってるのに。…でも嬉しい。ありがとう桃晴お兄。」

 

「無理なんかしてねぇよ。もっと我儘言っていいんだからな。兄ちゃんお前らの笑顔が見れるだけで嬉しいから。」

 

この子達は近くの村から出ない様に言い聞かせている。山一つ越えた先の街で盗みを働く俺と関わりがあると嗅ぎ付けられないためだ。

勿論別の街では出稼ぎもしているが、稼いだ金は半分ほど子供達への贈り物代に消える。

本当は食料まで全部自分の働いた分だけで食わせてやりたいけど、…ごめんな、こんな兄ちゃんで。

 

 

「よし、メシ食うぞ!メシ!兄ちゃん腹減った!」

 

「うん、そうしよう。」

「桃晴兄は何食べる?」

「メシだー」

「ごーはん!ごーはん!」

「「美味しそー」」

「オイラこのでっかい芋もーらい!」

「あ、ずりーぞ!オイラもー」

「オレも!」

「ケンカしちゃダメよ、ね?桃にー?」

「桃にーは何食べるー?」

「……ぁうー」

 

 

 

こうして桃晴一家の朝餉の時間が始まった。

また暫くは穏やかな日々を過ごすことになる。金もなく、家はボロボロで、備蓄もそこまでない、とても余裕がある生活とは言えないけれど、素朴な幸福が確かにあった。

 

 

 

 

 

 

幸せが崩れる時は、いつも血の匂いがする

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

(桃晴視点)

 

それからしばらくして、食料の備蓄も尽きかけていたので、俺は山一つ越えた先の街へ出稼ぎに向かった。大晦日を控えるこの時期は書き入れ時だ。多くの人の財布の紐が緩み、正月に向けて備蓄を蓄えようとする。必然物価も上がるが、その分給料も上がる。俺がさっきまで働いていた店も同様。今回はいつもより多めに稼ぐ事が出来た。

 

「…盗みをしなくても済んだのはありがたいな。」

 

俺も人間だ。盗みに対して罪悪感はあるし、やらなくて良いならやらない。ただ兄妹を飢えさせる位なら泥を被る事に躊躇いが無いだけだ。

 

 

ダメだ、少ししんみりしてしまった。日が暮れてしまったからかな?いや、それよりも書き入れ時だからと出稼ぎの最終日にいつもより遅くまで働いていたからだ。疲れが溜まったのだろう。

 

「出先で芋を沢山貰ったから、皆喜ぶだろう。瓜助の好物の南京も手に入ったし、帰ったら煮付けを作ってやろう。少し遅くなったのも謝らなくちゃな。」

 

ウチはもう目の前だ。暗い考えはやめよう。兄妹達の前では明るく優しい兄ちゃんでいなければ彼らを不安にさせてしまう。

 

だから俺は気持ちを切り替えて、兄妹達に兄の帰宅を告げようとあばら屋を前にした。その時だった。

 

妙な違和感があった。

 

おかしい。

いつも家の外まで漏れている兄妹達の話声がしない。

おかしい。

変な匂いがする。この辺りではこんな匂いはしない。でも、何処か嗅ぎ慣れた匂いだ。これは確か、俺が街に居る時に、盗みをして捕まって、それで制裁で殴られたり蹴られたりした時の………。

 

………血の匂いだ。

 

 

 

俺は古くなって腐りかけている木の戸を強引に開けて兄妹達の無事を確認しようとした。

 

 

 

 

そして見てしてしまった。

 

 

 

 

そこら中に飛び散った血と光を失った目で此方を見つめる次男の柿二郎、…の頸。辺りを見渡せば、まだ幼い子供の腕や脚、そしてそれらを曲がれた胴体が見知った服を着て(・・・・・・・・)転がっていた。

 

 

 

「……あ。……え?」

 

 

 

目が眩む。

なんだコレは。悪魔にしてはタチが悪いにも程がある。夢なら覚めてくれ。早く兄妹達と会いたい。全員抱きしめてあの子達の温もりを確かめたい。

 

 

 

鼻が曲がる程充満した血の匂いに吐きそうになるのを堪えてあの子達だったものに歩み寄る。途中でグチュグチュと不快な音をたてる湿った何かを踏んだ気がするが気にしない。

 

 

 

震える手で横たわる柿二郎の頸を抱きしめると岩でも抱いているのかと思う程冷たくなっていた。

 

 

 

「……そんな、……そんな、そんな事って……なん、…で……だっ、だって、…熊除けも、…猪除けも、この辺りは……全部…」

 

 

 

村から少し離れた場所だが害獣除けは完璧だったはずだ。なんだったら探さないと人に見つからない様な工夫だってしていたんだ。熊も猪も、ましてや辻斬りに遭う可能性だって考慮して場所を選んだのに。

 

「…あん?…おい、何だお前。同業か?」

 

 

 

俺が入ってきた入口に、誰かが立っていた。

よく聞き取れなかったが、振り向けば月の光で映る人影で大人の男だと分かった。

 

「ここは俺様が先に見つけた。その頸も置いてけよな。俺様の非常食だ。歳が食い過ぎてるし男だから食指は動かんが、腹の足しにはなる。」

 

 

 

何を言ってるのかわからない。

ひじょうしょく?しょくし?はらのたし?

 

「そいつ以外の肉は美味かったぜぇ。何せ全員七つを越えない女子供と来た。まさに俺様の好物ドンピシャ!特に女と赤ん坊!ギャハハ!」

 

 

 

「…なんで、…笑ってんだよ…」

 

「ああ?…んだよ良く見りゃ人間の餓鬼じゃねーか。そこら辺血塗れで匂いと人相じゃ気づかなかったぜ。ギャハハ!…んー、お前、不味そうだなぁ。チッ、非常食の方かよ。しかも男!ツイてねーなぁ。」

 

 

 

何だコイツは。

何がそんなにおかしいんだ。

何でコレを見て平気な顔してられるんだ。

 

 

 

「全員食ったって……赤ん坊も…ここに居た全員…食った?……は?」

 

 

俺が消え入りそうな声で呟くと、男はニヤリと、その鋭い歯を見せて興奮した様子で捲し立てた。

 

「ギャハハ!いいねェいいねェ!七歳を迎えると肉は不味くなるがァ、そォゆう顔が見れるのがオマエら人間のいい所だァ!聞かせてやろーかァ!?一番最初はオマエの持ってるソイツからぶっ殺したァ!理由は一番不味そうで一番気に入らない目ェしてやがったからだァ!そしたらよそしたらよォ!全員怯えた表情でよォ!歯をガタガタ震えわせながら腰ィ抜かしてやがったァ!中にはションベンちびってる奴もいたなァ!ギャハハ!そっからは傑作だァ!一番背の高ェ歳食ったメスの足をチョン切ってェ!そのメス残して一人ずつゥ!じっくりと足から一寸ずつ輪切りにして食ってやったのよォ!最後まで残されたメスの方はゲロ吐きながらワンワン泣いてよォ!生き絶える寸前まで「モモハルお兄!モモハルお兄!」って喚いてやがったァ!さいっっこうに愉しかったぜェ!!!!!!!!!」

 

「テ"メ"ェ"ェ"え"え"え"え"え"!!!!!」

 

殺してやる殺してやる殺してやる!!!!

 

 

桃晴は懐に隠したガラス片(街での盗みの際に、捕まって殺されそうになったとしても逃げ出せる様に忍ばせた物だ)を取り出して男に向かって飛び掛かった。相手はガタイの良い男だが関係ない。絶対に何があってもこのクソ野郎に報いを受けさせてやる。その思いで決死の突貫を試みた。が、

 

ドギャッ

 

「っ!?っがふ!!?ごぼっ、がばっ!」

 

何をされたのか理解するのに数秒掛かった。壁まで蹴り飛ばされたのだ。まだガキとはいえもう十三になる自分をいとも簡単に。

 

「(…内臓がいくつか潰れた。肋骨も。…背中が痛い。背骨もイッたか?…痛い、熱い。………立てない。)」

 

点滅した視界が回復し、思考が戻ってくると、自分が鼻と口から赤い吐瀉物を吐き散らしているのを確認した。

 

「…おいおい、やめてくれよ。死を覚悟して向かってくる奴が一っっっ番冷めるんだよ。そうゆうのじゃなくてさ、悲鳴か命乞いかどっちかにしてくれよ。殺さない様に手加減すんのは難しいんだぜ?」

 

キンキンと甲高い音が頭に鳴り響いて男が何を言ってるのか聞き取れない。右の目は血が入って開けない。残った左眼の視界もボヤけている。痛みで身体が痙攣する。立てない。痛い。ただ痛い。思考が霞む。痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い。

 

「…こ"ろ"す"……お"ま"…た"け"…せ"…た"い"…」

 

「あーあ、手加減し損ねちまった。まあいいか、オスだし。

()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

よし、メシ食うぞ!メシ!兄ちゃん腹減った!

 

うん、そうしよう。

桃晴お兄は何食べる?

メシだー

ごーはん!ごーはん!

美味しそー

オイラこのでっかい芋もーらい!

あ、ずりーぞ!オイラもー

オレも!

ケンカしちゃダメよ、ね?桃にー?

桃にーは何食べるー?

……ぁうー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

プツンッと視界が弾けた。

 

 




やぁ皆、また会ったね!長話になるだろうから原作本編まではちょっとまってくれよな!桃晴君がどういう人物なのかを知ってからが、むしろそこを知るのがこの作品の趣旨でもあるからさ。主役なんだし。ね?

それで原作キャラはいつ出てくるの?

いきなりオリジナルキャラクターが沢山出てきてビックリしたかな?まぁ桃晴君以外全員死んだし良いよね別に。一応人格の設定とか実は別で使う予定だったキャラクターだったとかそんなのも色々設定だけは練ってるんだけど面倒だから今回はポイーの方向で!

それで原作キャラはいつ出てくるの?

次回もこの作品の主要キャラのオリジナルキャラクターが登場するよ。着いて来れる奴だけ着いて来い!ってね。

それで原作キャラはいつ出てくるの?

次回
「主人公関連はフラグ」


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不滅の憎悪

壊れた男の子を拾う話。


(わたくし)は鬼に襲われて命を落とすよりも、

残酷なときがあると考えます。

それは、大切な家族が死に、

自分一人が生き残ってしまったときです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(わたくし)はその光景を目にした時、長らく柱を任されてから鈍った感覚を久方ぶりに取り戻しました。

 

 

「(…ひどい。)」

 

 

無造作に撒き散らされた血と臓物の匂いで、ここは人が長く居ていい空間ではないとはっきり分かる。

 

 

一体何人殺されたというのか。

明らかに五人以上喰われている。

子供だとしたら最悪十人以上…。

 

肉片が転がっているのはここを襲った鬼の趣向だろうか。偏食な鬼は偶にいる。

 

 

家族を皆殺しにされたのだろう。自分にも憶えがある。あれは悲惨だ。この世に一人残される悲しみは、地獄より辛いことかも知れない。

 

 

ぐちゃっぐちゃっぐちゃっぐちゃっ

 

 

血の涙を流し握り込んだ鋭い何かを、ただひたすら振り子の様に肉片塗れの床に叩きつけている。

 

瞳は(くら)く、何も映していないかの様で、この少年の精神(こころ)が壊れかけていることを示していた。

 

 

(わたくし)は袴が血で汚れるのを気にせず膝をつく。

そして彼の血に塗れた腕を優しく掴んで動きを止める。

 

少年は糸が切れた様に(わたくし)に倒れ込み、気を失った。

 

 

呼吸が浅い。酷く体温が下がっている。良く見れば重傷だ。彼自身も鬼に襲われたに違いない。急いで治療せねば間に合わなくなる。

 

 

鞍馬(くらま)(かくし)と医療班を。緊急です。」

 

「カァー!リョーカイ!カァー!」

 

(わたくし)はお付きの鎹鴉(かすがいがらす)に他の鬼殺隊隊士を呼んでもらうよう頼み、抱き留めた少年を寝かせてから、此処へ来た時同様辺りを再度確認する。

 

 

「(…鬼の気配がほとんどない。これだけ派手に人を殺すのです、隠れるのが上手い鬼ではない。

襲った鬼は一体何処へ消えたのでしょうか…?)」

 

 

襲っておいてこの子だけ喰わずに去ったなどとは、到底信じられない。既に討伐済みと言う訳でもあるまいし…

 

 

(わたくし)は右手に構えた日輪刀ならぬ日輪槍を握り直し、瞳を閉じて息を吸い込む。

 

 

 

「…山の呼吸()の型 地流羅針(ちりゅうらしん)

 

 

 

こんっ、と日輪槍の石突(いしつき)を床に当て、

鬼の居場所を探る。

 

すると驚愕した。

 

 

「(っ、目の前!?いや、足元!)」

 

気づかなかった!?

(わたくし)がこの距離で呼吸を使うまで!?

 

「!これは…」

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

「お館様、山柱(やまばしら)巌山(がんざん)(とうげ)(みさき)様がおいで下さいました。」

 

「…うん、ありがとう。通してほしい。」

 

「畏まりました、…お入り下さい。」

 

 

 

(かくし)と呼ばれる黒子(くろこ)の様な格好をした人物が襖を開けると、奥から長い黒髪を後ろで束ねた女性が姿を現す。

 

彼女は縁側で綺麗な姿勢で座布団の上に座る少年を前に跪き(こうべ)を垂れて、仰々しい口調で挨拶をした。

 

 

「山柱、(がん)(ざん)(とうげ)(みさき)馳せ参じまして御座います。」

 

「…お早う、岬。楽にして構わないよ。」

 

「はい。」

 

 

姿勢を崩すことはないものの、頭を上げる許可を得たその返事はおっとりとしたもので、彼女の本来の口調が優しいものだと伺える。

 

 

一拍置いて、山柱巌山(がんざん)(とうげ)(みさき)と産屋敷家97代目当主、産屋敷耀哉(かがや)の談義が始まった。

 

 

「用件は昨日の一件と見てよろしいでしょうか?」

 

「…うん、昨晩君から受けた連絡について、少しだけ聞きたい事があってね。構わないかな。」

 

「勿論でございます、何でもお聞きください。」

 

「…まずは保護したという少年は、その後どうなったのかな。」

 

「ひとまず峠は越えました。今は寝台にて絶対安静、と言った所ですね。」

 

「…そうか。命が助かっただけでも良かったよ。」

 

 

耀哉は瞳を閉じて、少しだけ祈るような間を空けると、次の話題を切り出した。

 

 

 

「…妙な出来事があったんだってね。

 

 …是非聞かせて欲しいな。」

 

 

すると巌山峠岬と呼ばれている彼女はおっとりとした表情から真剣な眼差しへと切り替えて話し始めた。

 

 

「はい。…お耳汚しをお許しください。

 

…端的に言うと、全身をバラバラに寸断された鬼が、保護した少年の足元に転がっていました」

 

 

彼女は続ける。

 

(わたくし)が現場に到着した時には、その少年以外周囲には誰も居らず、鬼は暫くして消滅しました。その時の少年の容体から見て遅くとも30分以内の出来事です。」

 

 

「…状況証拠として有力なものは、何かあるかい。」

 

「鬼殺隊の誰かが鬼を倒した可能性は…」

 

 

「…それに関する報告は今日まで一件も来ていないね。鬼殺隊の人間ならば重傷の民間人を置き去りにしたとも考えにくい。

 

 …他には何かあるかい。」

 

 

産屋敷耀哉はそう事実と感想を述べ、報告に来た山柱巌山峠岬の提言を促した。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

(わたくし)は昨晩の一件でお館様に何か連絡が届いていないかを確認し、優しく否定されたのを踏まえ改めて自身の考えを話しました。

 

(わたくし)としてはこちらの方が到底あり得ないと思いつつあくまで可能性として提言しました。

 

 

「…あの少年の重傷が、鬼によるものかは定かではありませんが、状況証拠として、彼が鬼と交戦した可能性があります。右手には、一応刃物と呼べるモノも持っていましたし…」

 

「…刃物になるモノ?」

 

お館様が的確に次の主題を誘導する。やはりこの方もこちらの可能性を考慮しているのですね…。

 

 

「ええ。彼はガラス片を握っていました。

 

隠の方に既に確認していただきましたが、本当にただのガラスの破片でした」

 

(わたくし)はあり得ないと断じる理由を話す。

 

 

「ガラスで鬼の肉体を傷つけられるとは到底考えられません。まして日輪刀で頸を斬らねば鬼は死なずに再生するというのに…切断面も明らかに素人が行ったものではありませんでした。彼がやったのだと仮定すれば、あの重傷を負った上で30分以内に…ということになります。」

 

 

「…ありがとう、よく分かったよ。

 

…いずれにしてもその少年に話を聞かないといけないね」

 

 

「だがまずは傷が癒えるまで産屋敷邸(ウチ)でゆっくり休んでもらおう。…身体も、()もね。」

 

 

隠の調査によれば、あの廃屋には十三人もの捨て子達が集まり住んで居たのだと言う。故に、恐らくあの少年以外十二人まとめて殺されたとみていいでしょう。

 

 

「お館様にお願いがございます。」

 

「…うん、言ってごらん。」

 

 

(わたくし)は柱になって2年になる

 

まだまだ未熟だが、

それでも鬼殺隊が有する最高位の一人

子供一人護れずとあっては柱の名がなく

 

 

そして何より…

 

 

「その少年の看病もとい彼の事は、

(わたくし)にお任せ頂けませんか?」

 

「…分かったよ、その様に取り計らおう。」

 

「有り難き幸せ」

 

 

願わくば、

 

あの子の心を救える者に、

あの子が出逢えます様に。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「…(何処だ、ここ)」

 

 

目が覚める天井が目に入った。

すごく遠くて綺麗で平らな天井だ。

肌越でも分かる、服もすごく上等で綺麗なものを着ている。

 

首が痛いので眼球だけを動かして辺りを確認すると、だだっ広い座敷で柔らかい布団に寝かされているのが分かった。

 

身体中を清潔な包帯でぐるぐる巻きにされている。

誰かが自分を治療してくれたのだろう。

痛みで呼吸が苦しい。

全身気怠くて、力が入らない。

 

 

 

俺は確か、一人で街へ出稼ぎに行って…

 

一人で街で稼いだ金で食い物を買って…

 

一人で夜にウチに帰って来て…

 

そして、………

 

 

「あら、目が覚めましたか。お早うございます。まだ動いてはいけませんよ。傷が開いてしまいますので。」

 

座敷の襖が開くとそこから長い黒髪の女性が出てきた。知らない人物だが自分に向かって笑みを浮かべている。

 

 

「…あん、た。ここの、家の、人か?」

 

声を出すと痛みが響くが途切れ途切れに何とか伝える。

 

「そう焦らず。何か胃に優しいものを作りますので暫くはそのまま。貴方は先程まで生死を彷徨っていたのですから…

 

出来上がったら持ってきますので、それを食べ終わったらまた、色々お話をしましょうね。」

 

 

そう言って女性はまた奥へ戻って行った。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

私が介助をしながら持ってきた卵粥を与えると、(最初は固辞していたが)少年はそれを食べ始め、全て平らげたのを確認した。

 

「腹は満たされましたか?」

 

「ああ、こんな美味いメシ初めて食べたよ」

 

「ただの粥なのですが…、そうですか。快復したらもっと美味しいものを沢山作って差し上げますね。」

 

 

この子は孤児だ。あの小さな廃屋で十人以上の幼い子供たちを養っていたとすれば、食わせるだけで精一杯だったのでしょう。粥といえどもご馳走に見えたかも知れない。

 

 

「…まずは自己紹介をしましょう。

私の名は巌山峠岬。鬼殺隊と呼ばれる組織で働く者です。あと、ここはその鬼殺隊の長で在られるお館様、産屋敷耀哉様の御邸宅です。」

 

「ええと、…桃晴。姓はない。…なぁ、あの子達は、…本当に死んだのか?あの男に、全員殺されちまったのか?」

 

あの陰惨な光景を思い出したのか、俯いて震えた声をだす彼、桃晴は私に縋る様に確認をとった。

 

 

「…ええ、残念ながら。私が来た時にはもう、貴方しか生き残りは居ませんでした。もう少し早く辿り着いていれば間に合ったかも知れません。…御免なさい。」

 

 

何度目かも分からない。

生存者に間に合わなかったことを謝るのは。

 

 

「あんたは悪くないだろ…。…ちくしょう、何たってあの子達があんな目に遭わなきゃならないってんだ…。お天道様は何を見てたんだ…ちくしょう!ちくしょう!」

 

「……。」

 

私は黙って彼の頭を撫でた。

彼は悔し涙を流し布団を握りしめる。

まだ嗚咽が止まるのも待たずに私の方を見て告げる。

 

「あの野郎は…あの子達を食ったとか抜かしやがったあのクソ野郎は今何処にいるんだ!?教えてくれ!奴だけはこの手で報い受けさせてやる!」

 

 

「…あの男、鬼はとうに死にました。貴方が殺したのですよ。覚えていませんか?」

 

「え?…覚えてない。…死んだのか?」

 

「はい。その事で我々鬼殺隊は貴方に話を聞きたいのです。あの時何があったのかを。」

 

お館様より授かった命は2つ。

この子の無事と、

この子のチカラの正体に知ること。

 

私は少し落ち着いてきた少年に昨日の晩の事を聞かねばならない。

 

「ちょっと待ってくれ、鬼殺隊やら鬼ってのは何なんだ。聞いた事がない言葉で分からないことだらけだ。」

 

「はい。その事も含めて貴方の療養がてらお互いに情報共有していきましょう。どうせまだ動けないのです。ゆっくりと時間をかけて話をしましょうね。急がば回れ、です。」

 

 

 

太陽が中天をさす正午。

これが桃晴と巌山峠岬との出会いであり、

鬼殺の道との出会いだった。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

あの出来事から二ヶ月は経った。

 

治療が迅速かつ丁寧でしっかりと療養したのが幸いして、俺の身体はほとんど快復に至った。

 

 

あの子達の無惨な死は未だに飲み込めていないが、それでも俺に何かと世話を焼いてくれた巌山峠岬さんと話をすることで得るものはあった。

 

 

岬さんは鬼殺隊という鬼と呼ばれる魔物を討伐する組織に属している人らしく、俺が今居る馬鹿デカイ屋敷は産屋敷という鬼殺隊の長をしている人物の家らしい。会ったことはないが。

 

この大正の日本国(ひのもとのくに)で起きる連続殺人や神隠しやらの出来事は大抵が鬼の仕業らしい。

 

鬼は人を主食とする化物で、夜にしか出てこないが普通の人間には太刀打ち出来ないような強い魔物で、出会えば即ち死を意味するという。

 

そんな中生き残った俺は幸福でもあるが、不幸でもあると岬さんは言っていた。

 

俺としては誰か一人でも代わってやれるなら代わってやりたかった。悔しくて堪らない。奴が、鬼が憎い。絶対に許さない。

 

その思いで俺を鬼殺隊に入れてくれと頼んだ所、最初は頑なに認めてくれなかったが、根気よく頭を下げていたら岬さんは渋々といった感じで受け入れてくれた。その代わり自分が出す課題を乗り越えられない場合は諦めろとも言った。

 

上等だ。なにがなんでもこなしてやる。奴らを根絶やしにしてその罪を償わせてやる。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

「(この子はすぐに死んでしまう…)」

 

彼が鬼殺隊へ入隊すると言って聞かなくなったのは鬼殺隊の事を教えた私が悪いものの、彼に起こった悲劇について説明するにあたってこれを省略することは出来ませんでした。

 

毎年、鬼殺隊へ入隊する人は後を立たないが、その中の一部はこういった家族や親しい者達を鬼に奪われた人達。

 

つまり復讐。

死に目を看取れるならまだしも、身内を殺され更に喰われ、辱められる。そんな外道を許しては置けないのが人間の心というもの。自分のその後の人生を捧げてでも復讐に走る者達の気持ちは人間であれば分からない筈がありません。

 

 

ですがそんな人に限ってすぐに死ぬ。理由は当然無理をするからだ。本当の意味で死ぬ気で物事に当たるのです、彼等は。

 

 

止めなければならない。私は柱以前に鬼殺隊の一員で、こういう善良な一般人を守る立場の人間だ。決して我らと同じ道に導くために救った訳ではない。

 

 

この男子も同じ。いざとなればきっと自分の命を軽く捨ててしまう。それだけはさせてはならない。彼の家族を私は救えなかったけれど、貴方だけでも、一つでも多くの命を救いたいのです。

 

 

なので私は、彼に無理難題を押し付ける事にしました。身近な者の死(それも惨殺されたなど)というものは受け入れるのに時間がかかるもの。時間をかかる事に従事させれば自然と向き合う時間も増える事でしょう。身を守る術を学ぶことは無駄にはなりませんからね。

 

 

 

「(…などと、思っていた時期がありましたね。)」

 

 

もう彼が此処に住み着いて二年目になる。

 

…正直失策だったかもしれない。

まさか教えてから僅か一年と少しで全てモノにしてしまうとは思っても見ませんでした。

それも刀の扱いだけでなく、全集中まで…。

 

私の流派に留まらず、産屋敷邸である事を逆手に全ての呼吸法の写本を用意したら木綿が水を吸うかの様に全てを会得してみせるとは。

 

 

「(まさか天賦の才を持っているとは予想だにしませんでした。)」

 

師匠の身としては嬉しいものの、当初の狙いから大きく逸れてしまいました。慣れぬ事はすべきではありませんね…。

 

 

「よ、師匠。お帰り。今日は非番なんだろ?昼に稽古場で少し打ち合ってくれよ。なんか新しい呼吸が閃きそうなんだ。」

 

「よ、ではなくキチンと挨拶なさいといつも言っているでしょう桃晴。…おはようございます。残念ながら急務があるので稽古は無しです。それと貴方も今日はついて来て下さい。お館様の下へ挨拶に向かいますよ。」

 

「…俺も?珍しいってか初めてだな。なんだかんだいつも急な事言い出すよな、あんた。」

 

 

今日はお館様に頼まれてこの子の顔を見せに行く日です。元々お館様には()されてれていましたが、私はこの子が鬼殺隊に入隊するのに反対だったため今まで一度も連れて行きませんでした(その場で入隊を宣言されてはお館様も困ってしまうかもしれませんし…)。

 

しかしもう隊士として指南出来る事が無くなってしまった今、後には引けないと思い、お館様への挨拶に向かうという訳です。

 

 

「…あんた、ではなく師匠と呼びなさい。全く、…良いですか?お館様はやんごとなき身分の御方です。御前ではその様な言葉遣いはやめる様に。」

 

「…へいへい。」

 

「へいは一回。」

 

「へいで良いんかい。」

 

 

いい訳ないでしょう。

少し心配ですが行くとしましょう。

お館様はお優しいですからお怒りはしないでしょうがそれはそれ。人としての作法も出来ねば一人前とは認めません。

 

 

 

 

早朝、日の出が過ぎた頃合い。

私と桃晴は同じ屋敷に住むお館様、産屋敷耀哉様に会いに向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




異聞大正こそこそ小噺

さぁ、という訳でオリジナルキャラクター、山柱の巌山峠岬さんだよ。設定上ではこの人、十字教の元シスターさんなんだ。宗教や哲学などの学問に詳しい人だよ。教会の人達を鬼に喰われてから産屋敷家に拾われたよ。キリスト教徒で仏教にも帰依している人なのでお肉は食べないし、恋愛もしないよ。相手は鬼とはいえ殺生をする訳だから、自分も死ねば地獄へ堕ちると割り切っているよ。山柱というだけあって、全集中"山の呼吸"を使うよ。何の派生かは分かるよね?日輪刀の色は山吹色で、刀というよりは十文字槍の遣い手で、リーチの長さと破壊力を活かした戦い方をするよ。

へ〜それでfgoやら空の境界やらBLEACHやらの要素はいつ出てくるの?

桃晴君と出会った当初の年齢は18歳。身長は169cm体重は乙女の秘密だよ。身体の一部がすごく豊満な美人さんなんだって。流石は山柱だよね!母性の塊の様な人物で、人当たりも胸も柔らかい(ウマイ)当時の柱の中でも支持率が高かった人だよ。柱になって2年目になるベテランで、ここ100年間で柱としては強い部類に入るんじゃないかな。

へ〜それでfgoやら空の境界やらBLEACHやらの要素はいつ出てくるの?

今回出てきた「全集中"山の呼吸"伍の型 地流羅針」は攻撃の型じゃなくて、主に鬼の探知に使う型だよ。自分が地面に足をつけている状態で使えば、地上に何が何処にあるが全て察知出来るようになるよ。有効範囲はなんと周辺50km。集中力が必要だけど、他の型とも併用出来て、いわゆる「見聞色の覇気」的な状態になれる優れモノなんだ。でもこの型は接地しているものにしか効果を発揮しないから、これに頼り過ぎない様に気をつけているんだって。

へ〜それでfgoやら空の境界やらBLEACHやらの要素はいつ出てくるの?

最後になるけど、容姿や戦闘描写等は各自の脳内で補完して欲しいかな。作者は出来る限りで頑張るよ。桃晴君と岬さんはこれから絡みがあるから楽しみにしててね。

次回
「オリキャラなんて大抵死ぬ。」


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"劔"になった日

靭い男の子と出会う話。


()は産屋敷耀哉。

お飾りだが、これでも四歳の頃から鬼殺隊という政府非公認の組織の長を務めている。

我等鬼殺隊は一般には知られていない鬼という怪異と戦う専門家だ。

 

この大正の日の本にあって大量の死を撒き散らす災害、鬼。彼らは非常に凶悪かつ残忍で人を襲う。尋常ではない膂力と無限の再生力を持ち、日に晒すか日輪刀という特殊な鋼と鉄を用いた刀で頸を斬るかしないと殺せない。

 

そんな怪物を生み出す元凶がいる。

鬼舞辻無惨。鬼の始祖。

産屋敷の一族は約千年もの間彼を追い続けている。

 

 

 

 

時々、山柱の巌山峠岬からあの奇妙な事件の生存者である少年の話を聞く。

 

少年の名は桃晴といい、鬼殺隊の話をすると入隊したいと志願したらしい。行く当てがないのならそれも良いと思う。

 

この産屋敷の離れの一室で療養し、快復したら一人前の技術を詰め込んで入隊するらしい。

それまでは厄介になりたいと山柱巌山峠岬越しに伝えられた。僕は厄介だなんて思わないし、いつまでも居たって構わないよと伝えている。

 

 

快復した今は岬が直々に面倒を見ていて、修行に励んでいる様だ。どうやら鬼殺の隊士を目指すらしい。呼吸と剣術の腕前が天才級だと聞いた。なんと全ての呼吸に適正があるという。呼吸を教え始めてまだ数ヶ月だというのに全集中まで習得したというのだ。

 

 

会ってみたい、と僕は思っている。

 

歳も近いと聞いているし、働き者で良い子だとこの屋敷でも評判が高い。

 

でも、僕は産屋敷の当主としての勤めがあるし、病で外にも出られない。年頃の子供の様な生活はおくってこなかったから、話も合わせられないかもしれない。

 

 

だが今朝彼の保護者兼師匠の岬が彼を連れて挨拶しに来るという。これまでは会わせるのを少し渋っていた様子だつたのだが何か心境の変化でもあったのだろうか。

 

まぁいずれにしろ、少し楽しみだ。

鬼殺隊の長なんてしているけども、()()の子供達に直接会う機会は然程多くないからね。

 

願わくば、善い子で、これから沢山の幸せに彼が出逢えると嬉しいと思う。

 

 

…あと、

…それと、出来れば、

…友達になれると良いなあ。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

"私"は"私"を使い潰してでも、

 

やらねばならない事がある

 

今も何処かでのうのうと生きる

 

鬼舞辻無惨、鬼の始祖

 

多くの悲劇の元凶、千年続く因縁

 

この身体中を巡る穢らわしい血筋

 

決して忘れることはない

 

産屋敷の全ての怨恨と憎悪を込めて

 

ヤツを滅殺するその日まで

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「お館様、山柱巌山峠岬及び()()の桃晴、参上致しました。」

 

「やぁ、こんにちは岬、桃晴。今日はいい天気だね。」

 

「はい。お館様もお変わりないようで何よりです。」

 

「…お初にお目に掛かります、…桃晴です。」

 

「そんなに畏まらなくていいよ。私は別に偉い人物ではないし、確か君とは同い年だっただろう?」

 

「そ、そうか?なら遠慮なく…」

 

「いい訳ないでしょう、桃晴。今は(おおやけ)の場。仲良くなるのはいい事ですがまだ御前です。(わきま)えなさい。」

 

「えぇ…」

 

 

「…ふふふ。面白いね、君。あと、本当に気を遣わなくてもいいよ。此処は今他の隊士は居ないからね。」

 

「…お館様、今は柱の私が居ます。それは是非次の機会に。出来れば私を柱として遣わせていない時にでも。」

 

「ふむ、そうかい?では君を柱として呼んだ用件はさっさと済ませてしまおうか。」

 

 

 

 

「では私はこれで。任務に向かいます。」

 

「うん。いつも有難う、気をつけてね。」

 

「はい。」

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

二人して屋敷の外に出て、自分の師匠はこれから任務へ向かうのかと思いきや、正門をくぐった所でくるりと反転して俺に向き直った。

 

「桃晴はここでお館様のお側に付いていてください。今日の分の修行は免除とします。」

 

「なに、まだ俺に何かあるのか?」

 

「ええ、ここでお館様がどのようなお仕事をなさっているのかを知ること、そして、出来ればお館様のお友達になって差し上げてください。…あの御方はお忙しく、お身体も弱いので同年代のお友達を作る機会がないのです。」

 

「…ふーん。別に俺、そういう理由があったって気を遣ったりとか出来ないぜ、性に合わないし。俺でいいのか?」

 

「ふふっ、その方があの方も喜ばれます。」

 

「そうかい。じゃ、了解。取り敢えず今日はお館様と一緒にいるよ。帰ったら連絡くれ。」

 

「はい、では行ってきますね。」

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

早朝の5時から昼の2時。

俺がここへ来てから経った時間だ。

 

俺は縁側の支柱に隠れて鬼殺隊の長とやらの仕事ぶりをずっと観察していた。

 

だが()()()()()()()()()()()、支柱の影からそっと出てきて目の前の未だニコニコと優しげな笑みを浮かべる自分と同い年位の少年に話しかけた。

 

「……お前、いつもこんなことしてるのか?」

 

「こんなこと、というのは僕の仕事の事かな?だとしたらそうだよ。毎日隊士達の報告を聞いて、書面に纏めて、それだけ。」

 

気付いてたのかよ…と呟くと、

気配には敏感な体質なんだ、と返された。

 

 

まぁ、そんなことより。

 

 

「それだけ、じゃないだろ。…中でも隊士達の死亡報告が多い。あんな化物相手にする仕事だから殉職者は絶えないって師匠から聞いちゃいたが、お前…それを聞くたびに本当に悲しそうな顔してやがった。こんなことずっと続けてるのか?」

 

「…そうだよ。鬼殺隊として僕に出来ることがこの位しか無いからね。僕は死ぬまでこの仕事を続けるよ。

 

…勘違いしないで欲しいのは、これは僕が望んでやっている事だということさ。この身は鬼殺隊の皆の為に、そして鬼舞辻無惨を滅ぼす為に使い潰すつもりだ。」

 

 

「…せめて辛いなら辛いって言えば良いだろ。なんでいつもニコニコしてんだよ」

 

「彼等が遠くへ()ってしまうのはいつも辛いけれど、隊士達だって辛くとも頑張っているのだから。僕だけは決して立ち止まる訳にはいかないんだ。鬼殺隊の長となったその日からね。」

 

 

「……強いな、耀哉(お前)は。」

 

 

「…君も充分(つよ)いよ、桃晴。家族を殺されたのに立ち上がった。今度は自分と同じ目に遭う人を一人でも救う為に剣を取った。人としてそれは素晴らしい事なんだよ。」

 

 

「…俺のはそんな真っ当な理由じゃない。ただ復讐のために学んだだけだ。」

 

「それも真っ当な理由だよ、桃晴。家族を愛していたから殺した鬼が憎いんだろう?人として当然の理屈だよ。」

 

それにね、と耀哉が続ける。

 

「どんな理由であれ、結果は同じさ。君が鬼を倒すことで救われる者がいる。それは素晴らしいことなんじゃないかな。」

 

「僕も鬼が憎い。ただ善良に生きてきただけの人達が、何の理由があって理不尽に殺されなければならないのか。それを思うだけで今にも頭が沸騰しそうだ。だけどね、ただ憎むだけでは何にもならない。まして僕は生まれつきこの病弱さだ。何も出来ない。」

 

君と違ってね、と自分に皮肉を飛ばし目を伏せる。

 

今度は決意と確信に満ちた人間の目を俺に向けて、

 

「だから()()に出来る事を精一杯やろうと決めたのさ。」

 

 

そう言いきった。

清々しい程の今日一番の微笑みと共に。

 

 

ああ、と俺は納得した。

コイツもきっと同じだ。

はち切れんばかりの"怒り"を持ってる。

それを見せるのは"怒り"の対象にのみ。

その相手だけは何があっても地獄に落としてやるという確固たる意志と執念。

 

 

…だが、コイツにはチカラが無い。

俺には運良くあったけど、コイツは奴らに届く刃を直接持つ事を許されなかった。

 

 

ならば、

 

 

「…よし決めた。」

 

「…何をだい?」

 

「鬼殺隊で一番お前の役に立つ(くらい)って"柱"なんだろ?…俺がなってやるよ。柱になってお前の分の鬼を倒してきてやる。」

 

「…」

 

「俺がお前の刃…"(つるぎ)"になってやる。」

 

 

「…うん、期待して待っているよ、桃晴。」

 

 

 

 

今日から俺は名前を(つるぎ)桃晴と名乗る。

 

柱なんて偉い人間に成るんだし、

姓はあったほうが良いよな。

 

 

コイツの、産屋敷耀哉の刃として、

全ての悲しみの連鎖を断ち切ってみせる。

 

 

 

この後少しして、

 

仕事がひと段落着いたから、と本当なのか嘘なのか分からない声色で告げる耀哉と色々な話をしたり(基本俺の身の上話や修行の事を一方的に話してた)、剣さばきが見たいと言うので今まで習ったものを見せてやったりして親睦を深めた。

 

 

大事なモノがまた増えた。

 

 

生まれて初めて出来た"親友"のために、

俺は決意を新たに修行に励んだ。

 

 

 

 




異聞大正こそこそ小噺

桃晴君は天才肌なので教えられた事なら大抵なんでもこなしてしまう器用な少年だよ。無一郎君のようなガチガチの天才じゃないけど、半分位は炭治郎君と同じく「長男だから我慢できた」って奴だね。

へーそれでfgoやら空の境界やらBLEACHやらの要素はいつでてくるの?

岬さんは桃晴君を鬼殺隊に入隊させないために産屋敷邸に所蔵されている5大流派全ての呼吸法を持ち出して"全て出来るまで認めません"と言ってたんだけど、まさかホントに全て出来るなんて思っても見なかったみたい。それも1年少しの期間で。根性にも限度があるよね。

へ〜それでfgoやら空の境界やらBLEACHやらの要素はいつ出てくるの?

隊士として教えられる事が無くなってしまったので仕方なく入隊を認めた岬さんは、継子として桃晴君の面倒を見ていく事を決心するよ。因みにネタバレになるけど山柱を継ぐことはないよ。桃晴君の一番得意な呼吸(というか広範囲攻撃が出来るなどの理由で使い勝手がいいと本人が思っている)は風の呼吸だからね。

へ〜それでfgoやら空の境界やらBLEACHやらの要素はいつ出てくるの?

今回描かれた通りこれから先桃晴君の苗字は"劔"ってことになるよ。作者もさっさと熱い展開に向かいたいけど桃晴君を語る上で名前の由来になるこの話は抜かせなかったんだ。なんてったって"剣柱の外伝"だからね。因みに下の名前の由来は
→鬼といえば"桃"太郎
→鬼は日に弱いから"晴"れ
から来てるよ。

へ〜それでfgoやら空の境界やらBLEACHやらの要素はいつ出てくるの?

いやーお館様に友達が出来て良かったね。みんなも友達は大事にしようね。それじゃまた会えたら次回もお楽しみに。

次回
「お前此処は初めてか?肩の力抜けよ…」


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報われぬ戦士

はじめてのおしごと、という話。


「桃晴、今日は私の任務に同行してもらいます。良いですね?」

 

「また突然…だけど良いぜ。やっとこさ鬼狩りらしくなってきたって訳だ。鍛練ばかりじゃなくて、やっぱり経験も積まなきゃだもんな。」

 

 

「……実践を軽く見ている訳では無いのなら、気合いを入れるのは構いません。…早速行きましょう。」

 

「…?おう。」

 

 

いつもならここら辺で「首尾一貫、常在戦場の心得を忘れましたか?油断は鬼殺隊では死を招きますよ!」なんて説教の一つでも飛んでくると思っていたのに、なんだか今日の師匠は変だ。何かあったんだろうか?

 

 

そこはかとなく憂いを帯びた表情をする巌山峠岬の後ろを着いていく桃晴は後に知ることになる。鬼殺隊の仕事とは、ただ鬼を狩るだけの仕事ではないことを。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

"なんでもっと早く来てくれなかったんだ!"

 

"殺された私の家族を返してよ!"

 

"この人殺し!"

 

 

本日任務で赴いた地で、俺と師匠が助けた住民から投げられた言葉だ。

俺は助けられた身で何てこと言うんだと言い返そうとして師匠に止められた。

 

 

その帰り道。

 

 

「…これが鬼殺隊の姿です、桃晴。」

 

「…。」

 

「滑稽に映りますか?命を懸けて助けた人々に、時には罵倒や暴力を浴びせられる我々は。」

 

 

「基本的に鬼殺隊は鬼が出没してから出動する組織です。故に大抵は被害が出てからしか動けません。出動しても階級の低い隊士では返り討ちに遭う場合も多くあります。ましてや上弦が出現すれば柱でも…」

 

 

貴方は元々利口な人で、助けられたことをすぐに自覚出来て、そのことを飲み込めたのかも知れないが、そうでない人もいる。寧ろそちらの方が多いのだと師は言う。

 

 

「私達は感謝されるから戦うのではありませんが、それでも謂れのない中傷に屈してしまう隊士も少なからず居るのです。その事を知っておいて下さい。」

 

報われない、という言葉が似合う職業である。

そう締め括って師匠は語り終えた。

 

 

 

たとえ、そうだったとしても、俺は…

 

「桃晴」

 

師匠は少し感傷に耽る俺に声をかける。

 

「何だ」

 

「復讐をするな、などとは言いません。鬼殺隊になれば助けた人の中にそういう人と巡り会う機会があるかも知れません。その人の気持ちを理解出来るのは、その気持ちになった事がある人間だけです。故にその時の気持ちは忘れないでください。…但し、それだけを戦う理由にしないでください。命を大切にしてください。生きるということを見捨てないでください。貴方が生きているだけで救われる人間がすぐ近くに必ず居ますから。」

 

 

復讐だけを理由に戦う者はすぐに死ぬ。

自分の命が軽くなってしまうから。

 

そんな事を言う師匠。

 

この人にとって俺も護りたい人間の一人だと。

 

 

「貴方が復讐以外の戦う理由を見つけられることを祈っています。」

 

いつも般若みたいな顔で俺に指導してくる癖に、こういう事を言う時だけ聖母みたいな慈愛の微笑みを浮かべるのは狡いと思う。

この場でこの人を否定できる様な奴はいないだろう。本当に狡い。

 

 

「…重いっての。」

 

「軽くなるよりは良いでしょう。」

 

 

笑顔を向けられて照れたのがバレたのか、ニコニコと笑みを深める師匠に俺は自分の答えを返す。

 

 

「それに、復讐以外の理由ならもう在るぜ。教えてやんねーけどな。」

 

「ええ!本当ですか!教えてください。貴方の理由。」

 

「教えねーっての。」

 

「何故ですか。恥ずかしがらず教えてください。優しい貴方の事だからきっと素敵な理由なのでしょう?」

 

「…しつこいぞ。ぜってー教えねー。」

 

「ええー、何でですかー。」

 

ねえねえ、と肩をゆすってくるこのウザったい()()()()に、俺はぞんざいな態度でそっぽを向く。

 

 

アレだ、能ある鷹は爪も思いの縁も秘めるのだ、多分。

 

 

うーん、お館様と一緒にいた時何かあったのでしょうか。…何故か最近(つるぎ)とかいう姓が付きましたし…

 

ボソボソと考え始める師匠に俺は話題を逸らすため、今後の予定を聞くことにする。

 

「なあ、明日からはどーすんだ。今日みたいにあんたの任務に着いて行けば良いのか?」

 

「あ、明日の夜は貴方の入隊試験ですよ。藤の御山で7日間生存すれば合格です。貴方は賢く強い子なので大丈夫でしょうが、くれぐれも油断しないように。」

 

 

明日!?

 

「…だから!あんたはいっつも突然なんだよ!そーゆー大事な事は事前に言っといてくれ!」

 




大正こそこそ小噺

戦闘描写があると思った!?僕も!でも書きません!この作品では主要な戦闘以外ほぼ書きません(笑)何わろてんねん。でも本当ごめんなさい。作者ホントにそういうの苦手だから書いたら雑になりそうで
…長くなるし(ボソッ

へ〜それでいつになったらfgoやら空の境界やらBLEACHやらの要素が出てくるの?

この作品では人物の内面とかを重視する作品ってことで一つ勘弁してくれないかな!ちゃんと上弦の戦闘は頑張るから!(出来るとは言ってない)

へ〜それでいつになったらfgoやら空の境界やらBLEACHやらの要素が出てくるの?

次回の話もほとんど戦闘描写無いんだ。スイマセン何でもするんで許してください!ん、今何でもするってry

へ〜それでいつになったらfgoやら空の境界やらBLEACHやらの要素が出てくるの?

次回
「ぬるゲーなんで難易度上げときますね」


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最終選別(ベリーイージーモード)

(マジで)7日間生き残るだけいい話。


藤襲山。(ふもと)が全て人工的に藤の花で覆われた、産屋敷家が所有する広大な土地の一つ。ここでは年に一回、鬼殺隊への入隊試験、最終選別と呼ばれるものが行われる。合格条件はただ一つ。7日間生き残ること。しかしこの山には歴代の鬼殺隊があえて殺さずに生捕にした鬼を大量に放逐している。生捕に出来たということはそれ程強くない鬼しか居ない訳だが、それは鬼殺隊に入隊出来た人での基準の話。普通の人間や修行不足の者が立ち入った所で怪物相手に生き残ることは困難である。この最終選別を生き残ればそれは即ち鬼殺隊としての看板を背負うにたる人物になれる、という寸法だ。

 

 

 

 

「それでは、午後8時になりましたので、これより最終選別を執り行います。参加者の方はどうぞ山の中へお入り下さい。なお、入れば7日間この藤襲山から出ることは罷りなりません。下山されたと判断した場合は即失格となり、機密上その後の身柄を此方で改めさせていただく場合が御座いますますのでご容赦ください。…お気をつけて。」

 

 

午後8時。

日も落ちて辺りが完全に暗くなった頃。

耀哉の屋敷でよく目にした黒子(くろこ)(かくし)と呼ばれる人の宣言により、ここ藤襲山に集まった二十余名の人達による鬼殺隊最終選別が始まった。

 

 

 

ぞろぞろ、といった具合に山は入って行く入隊希望者達。

辺りをキョロキョロと見回す者もいれば、迷いなくといった具合に入って行く者もいる。

 

俺は俺以外の全員が山へ足を踏み入れたことを確認してから、ずっと言おうと思ってたことを全員に聞こえるように大きな声でハッキリと告げた。

 

 

「…よし皆、全員で団体行動しよう。」

 

 

は?って声が聞こえた

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「…ふふふ、それで結局皆で共同生活しながら7日間生き残った、という訳だね。」

 

痛快、といった感じで笑う耀哉、鬼殺隊の長がそこに居た。

 

先日終わった最終選別の生存者は26名、全員合格だった。ここ何十年とない記録だったらしい。理由は全員が固まって行動したことだが、特にお咎めは無かった。

 

「別に団体行動するなって言われてなかったからな。なんか不味かったか?」

 

「いいや、何も不味くないよ。鬼殺隊では個別に任務を受ける事になるけど、階級が下になるにつれて合同任務は多くなるからね。入隊すれば必ず一番下の癸から始まるのだし、鬼殺隊としての最初の任務を最終選別でしたと思えばそれはそれで正しいとも言えるよ。」

 

「因みに鬼に一度も出くわさなかった訳じゃないぜ。集団である事に喜んで飛びつく(バカ)も居たからな。役割を分けて罠も張って、ついでに完璧な布陣で見張り番を交代しながらやった。最初は皆疑心暗鬼だし、緊張で身体がガチガチな奴もいたけど、俺は現役の柱の弟子だから信じろって告げて、最初に襲ってきた鬼を瞬殺して見せたら後は皆ちゃんと着いて来てくれたよ。」

 

「…ありがとう。毎年最終選別は死者が多い。全員合格なんて本当に稀だ。君が居てくれた事で今年は若くして死んでしまう子供達が減ったよ。」

 

「よせよ。俺は出来る限りをしただけさ。他の奴らも協力的で頭の出来も良かったから成り立ったんだ。実力もキチンとあったしな。」

 

「そうだね。今年の入隊者は揃って優秀だって聞いているよ。」

 

「それに、俺は柱の弟子だからな。一応鬼殺隊の任務を経験したことがある身として、先輩らしく導いてやんないとな。」

 

「岬の任務に同行しただけだろう?」

 

「うっせ。ついてっただけとか野暮な事言うなよな。あの人もあの人だ。同行は許すのに自分の仕事には絶対手を出すな、とか出したら破門!、とか言うからそうなっただけだなんだよ。」

 

「岬は面倒見がいいからね。君が団体行動を提唱したのも師匠に似たんじゃないかい?」

 

 

ばっかお前それ言うなよ、ちょっと師匠ならそうするかなぁとか思ってた所あるんだから!

 

 

「…ちげーよ全然違う!俺はただ…誰かが傷つくのが嫌なだけだよ。大事な奴が守りたい人の事も守ってやりたいと思っただけでだな…(ボソボソ」

 

俺は鼻頭を掻きながら小声で言う。

我ながら言ってる途中で恥ずかしくなってしまった。顔が紅くなってたら揶揄われそうなので斜め上の方を向く。

 

「ん?なんだって?」

 

「…いや、なんでもない。」

 

「良いじゃないか。大事な人が守りたい人も守りたい鬼殺隊(ウチ)の標語にしたい位良い言葉だ。」

 

「わざわざ大声でいうなーー!!ちゃんと聴こえてるじゃねーか!」

 

「…ふふふふ。君、本当に面白いよね。退屈しないよ。あー…久しぶりに少し大きな声を出してしまった。…少し疲れたかな。そろそろ休む事にするよ。」

 

「…悪ぃ、大丈夫か?」

 

「大丈夫だよ、本当に少し疲れただけだから。僕の病弱さは知ってるだろう?」

 

相変わらず微笑みを浮かべて平気だと言う耀哉。

こいつは無茶をしがちだから俺が無理矢理にでも休ませないと働き過ぎる。

 

 

そういえばこいつ…

 

「…顔の周りの()()、増えたな。」

 

「…ああ、そうだね。鬼舞辻の呪い。さて、三十までしか生きられない不治の呪いだけど、僕はそれまで保つかな。」

 

 

鬼舞辻無惨。奴を倒さないとこの呪いは解けない。一族全員が産まれた時から掛けられる最悪の病。

 

 

「…冗談でもそんなこと言うな。鬼舞辻は、鬼は俺がぶっ殺してやるって言ったろ。ソレも何とかしてやる。だから勝手に諦めんな。」

 

「…ありがとう。優しいね、君は。君が居てくれて僕は幸せだよ。」

 

「小っ恥ずかしい事平気で言うよな、お前。そーゆーとこだぞ。」

 

「日々の感謝を伝えるのは大事な事だよ。桃晴は岬にちゃんと伝えられているかい?」

 

「ぬわーもう、だからそーゆーとこなんだっての!今あの人の話すんなよな。情緒がめちゃくちゃになる!お前はもう休めっ!」

 

「もう元気になってしまったよ、もう少し話でもどうだい?」

 

「…お前実は性格悪いよなぁ。」

 

「ふふ、知らなかったのかい?」

 

 

 

他愛もない話もこれまで。

俺は隠の人を呼んで耀哉を布団で休ませる様頼む。すぐに人が飛んできて耀哉の介助に回ってくれた。

 

 

 

こうして語る事も特にない俺の入隊時の話は終わった。俺にとって劇的な事は何も無く、だからこそ良かったと思う出来事の話。俺はこれから誰かの日常を守る為に、非日常へ身を投じる。あの日から続く燃ゆる炎の様な怨嗟と、出逢うことのできた生きる希望を守る為に。

 

 

 

 




異聞大正こそこそ小噺

未だに原作登場人物が耀哉様だけってマ?なこんな駄作見てくれている人はありがとう!
タノム、アトスコシダケマッテクレ。
桃晴君はやっとこさ鬼殺隊入隊しましたね。ちょっとは他の方の作品のスピード感見習いたいですね…
神経質なもんだから作者は気になった所ばっかり筆が乗っちゃうんですよね。

へ〜それでいつになったらfgoやら空の境界やらBLEACHやらの要素が出てくるの?

現在の桃晴君の年齢は12歳。鬼殺隊の入隊に年齢制限があるのかは知らないけれど、無一郎君は14歳で柱になってるから多分入隊しても良い年齢だと思うんだ!その前に継子だしね。知らんけど。ネタバレすると桃晴君が柱になるのは数えで15歳(当時で言う元服の年)の時だよ。一体何があったんだ…()

へ〜それでいつになったらfgoやら空の境界やらBLEACHやらの要素が出てくるの?

次回
「初任務〜前編〜」


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悪欲五色〜上〜

初任務の話。


最終選別を経て晴れて鬼殺隊に入隊した俺は"癸"と書かれた右の掌を満足げに見た。

 

それから左手に視線を下げ、届いた日輪刀がしっかり布に包まれ隠されていることを確認し、顔を上げて自分に遣わされた鎹鴉(かすがいがらす)と共に颯爽と任務に向かおうと産屋敷家の門を潜った。

 

「待ちなさい。」

 

「ぐえっ」

 

ぐいっと急に襟首を掴まれたせいで、慣性の法則に従い俺の首が()げかける。

 

 

「げほっげほっ…んだよ師匠、人が折角気持ち良く任務に赴こうってのに出鼻くじきやがって。心配なら要らねーよ、明日までには無事に任務こなして帰ってくるっての。いい加減弟子離れしろよ。

なぁ、旭丸(あさひまる)?」

 

 

「ポー、桃晴、バカ、桃晴、南東ニムカエ、南東ニムカエ、クルッポー」

 

「今馬鹿って言った?」

 

 

"旭丸(あさひまる)"は最終選別を突破した朝に玉鋼を選ぶと同時に遣わされた鎹鴉だ。カラスというか鳩だが。俺が名前を付けてやったが気に入ってくれたみたいでとても懐いてくれている。多分。

 

 

「…はぁ、全く。貴方はせっかちですね。()()の貴方に普通の任務は与えられません。これは昨日説明したでしょう。覚えていないのですか?」

 

「んなこと言ってたか?」

 

「…今からでも最終選別を不合格にするだけの権力が()にはあります。」

 

「本当にすみませんでした」

 

「…浮き足立つ気持ちも分かりますが、そんな事では本当に危ないんですからね。初任務での殉職率は再三言って聞かせたでしょう。」

 

「…わかってるよ、…ただ東京なんて都会の街に出掛けたことが無かったから興奮してただけだ。」

 

「分かっているならよろしい。…さて、引き留めた理由は先も言った通り継子の貴方には普通の任務は与えられないからです。」

 

継子とは即ち柱の直弟子。いずれ柱になる才能を認められた人間だけが持つ称号の様なもの。いわゆるコネ。

 

継子になれば()()()()()として他の隊士より難度の高い任務をこなし、従って階級も他より一足跳びに上がれるというわけだ。

 

 

いや待て、()()()

 

「はいその通り。やっと思い出しましたか。貴方は山柱()のお側付きとして任務に同行してもらいます。鎹鴉が貴方に伝えた任務の内容は貴方に向けたものではなく、柱の私に課せられたものですよ。」

 

「はぁあああ!?」

 

 

「あ、でも当然これからは手伝ってもらいますよ。隠との連携から鬼の捜査方法、一般人の被害を最小限に抑える為の配慮等はその場でレクチャーしていきますので身体で覚えてください。あとは、…鬼狩りも。」

 

「な、なんだ実質合同任務と同じか…また着いてくだけで何もするなって言われるかと思ったぜ。」

 

「それでは本当にただのコネじゃないですか。あと明らかに癸の隊士が赴く任務の内容じゃないでしょう、コレ。初見で気付きなさい、全く。」

 

 

確かにまあ初任務にしては…って感じではあったが。

 

 

 

『現在東京府内街近くの商人街で強盗目的と思われる連続殺人が起きている。犯人は捕っていない。凶器は見つかっておらず、単独犯か複数犯かもわかっていない。現在の被害件数は40件を超え、被害者の自宅は全件荒らされ金品は全て持ち去られた模様。警邏隊(けいらたい)は目下捜査中及び巡回を強化するにあたり、住民には警戒するよう呼びかけている。』

 

これが世間に公表された内容。

新聞の一面に記されたものだ。

 

 

鬼殺隊に流れてきた情報はこうだ。

 

()()()()()()()()()()()ことから鬼の可能性アリ。既に隊士数名を二度に分けて向かわせたが両隊帰還せず。早急な対応を申請する。』

 

 

「ここ数週間で40件の被害を出し、挙句遺体一つ見つかっていないなど異常です。それに隊士も何人か行方不明…間違いなく下弦並みの鬼かそれ以上が居ます。心して掛かって下さい。」

 

「…ああ、分かった。」

 

 

確かに普通の事件ではない。死体の処理をこれまで一度も人に見つからずにやり過ごすなどどう考えても無理がある。何より、二度も向かわせた鬼殺隊員が()()()()というのが気になる。

 

「なぁ、鎹鴉は一匹も報告に帰って来なかったのか?

 

「ええ、()()なんです…。隊士が人知れず殺されてしまう例はありますが、鎹鴉も帰って来ないとなると、相当用心深い鬼ということなのでしょうね。しかし…」

 

 

互いに考察を交わしながら道中を進むことにした。

 

今はまだ日が登ったばかり。

耀く太陽が俺達の背中を照らす。

まだ肌寒く感じるこの時間帯にも関わらず暖かさを覚える陽光は、二人の長い陰を写す。

俺達は陰の射す方向へ、この奇怪な事件の手掛かりを探るべく旅立つのだった。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「それにしても、桃晴の日輪刀の色は不思議な色合いでしたね。」

 

道すがら、暇潰しに隣りの上司が話しかけて来た。

 

(赤黒)色とは。少し赤色が入っていますし、炎の呼吸が合っている、という事なのでしょうか?」

 

「特にどの呼吸が得手不得手ってのは無いはずなんだがな。個人的には風の呼吸が一番使いやすい。風刃でリーチを(おぎな)える分戦い方の幅が広くて俺の性に合ってる。逆に炎の呼吸は力でねじ伏せる近接型が基本形だからかあんまし肌に合ってねぇ。」

 

「分からないものですねぇ。私が初めて日輪刀を手にした時には素直に今と同じ山吹色になったものですが。…あ、捻くれているからこの様な…」

 

「…一言多いんだよあんたは…」

 

 

本日は晴天、日差しが眩しい午後の太陽。

山柱の巌山峠岬とお付きの俺は二人して街の入り口に立つ。来た理由は当然鬼の居場所を探る情報収集だ。

 

 

 

東京近郊の街だけあって人通りが多い。隣りにいる山柱は任務で此方の方に赴いた事があるようで、俺にいつもよりは賑わいがない方だと教えてくれた。

 

 

それにしてもこの街についてからというもの、なんだか妙な違和感がある。

こう、喉の骨に引っかかって出てこないが、とにかく違和感があるのだ。それが何か今のところは自分にも分からないが。

隣にいる柱にはそんなものないのか、スッと街へ入って行くもので、俺は一旦それを忘れて山柱に遅れじとついて行く。

 

 

「まずは街の人に話を聞きます。これだけ人の多い通りですから手分けして噂などを聞いてまわりましょう。集合場所はここで、時間は日が落ちる前までには。いいですか?」

 

「了解。」

 

「迷ったら街の人に訊けば教えてくれますからね。分かりましたか?」

 

「幾つだと思ってんだ…」

 

「ふふっ、冗談です。ではまたここで。」

 

「ほいよ」

 

 

それだけ言って俺達は別れた。

さて、俺はコソコソと噂を集めに行くかね。聞いたってガキ相手に真面目に答える奴の方が少ないだろうからな。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「遅いですね…」

 

日が傾き、日没まであと1時間程。

軽い情報収集にしてはそれなりに時間が経っている。

桃晴は明らかにこういった細々とした役割よりも実践、つまり鬼狩りに精を出すタイプ。情報収集なんて早々に切り上げてここでサボっていると思ったので早めに来たものの、アテが外れてしまった。

 

一体今頃何処に居るのだろう。まさか本当に迷ったのか?などと考えていると、おーい、と声が聴こえた。桃晴だ。

 

 

「遅いですよ桃晴、待ちぼうけをくらいました」(モグモク

 

「モグモクじゃねーよ、何してんだあんた!情報収集は!?」

 

「当然してきました。十分に終わったからここに居るのです。」(ズズー

 

「クソ、真面目に情報収集してきた俺が馬鹿みたいじゃねーか。おい、お茶飲むのやめろ。情報共有するぞ。」

 

 

「そう急ぐ必要はありません。鬼は日没までは出てきませんし、何より…()()()()()()()()()()()()()()()()()()。」

 

 

貴方も私の弟子なら当然分かっていますよね。という風に俺を横目に見る。

 

 

 

 

「そうだな。

 

 

鬼は間違いなく()()()()()()()()()()だ。

 

 

つまり俺達はここで巡回に来た奴を調べればいい。」

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「一応、そこに至るまでの経緯を説明しておきましょう。」

 

日没までまだ少しだけ時間があるので、と言って山柱巌山峠岬は答え合わせを行う。

 

 

 

まず犯人を絞り込む要素として、死体の処理です。夜にしか鬼は出ないからといって、これまで誰にも見つからないというのはおかしな話です。

故に見つからなかったのではなく、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だったのではないかと私は推察しました。

得られた情報では、殺人現場は全て夜に見つかっていました。であれば第一発見者は誰だったのか…警邏隊です。警邏隊の誰かが巡回中にそれらを全て発見していました。

確かに、発見が全て警邏隊だったとしたら、夜に殺害が発覚するのはおかしくありませんね。

恐らく鬼は擬態が上手い鬼なのでしょう。顔を別の警邏隊の一人に変えて、同じ人物が同じタイミングで発見したのでは無い様に見せかける工夫もしています。簡単なトリックに見えて意外性のある事件です。何も分からず鬼殺隊員がやられてしまう例として、あり得ない訳ではありません。

 

 

 

どうでしょう、推理小説っぽかったですか?などとおどけてみせる山柱に俺は突っ込みを入れることにする。あんたの推理はガバガバだと。

 

人が良いにも程がある。そんなお人好しだからもう一つの大事な要素に辿り着かないんだ。

 

 

「あんたなぁ、…忘れてる事があるぞ。それも二つ。一つはその推理じゃ鬼は一匹だとは判明しない事。もう一つは…」

 

 

そこまで言った所で急に陽が無くなった。雲に隠れたのだ。この時間にあの大きな雲じゃあこのまま夜が来る。

 

それには二人とも考え至っていたので、既に戦闘を開始出来るよう準備を整えた。

 

俺は鞘に左手を添えていつでも抜刀出来る様に。

隣りの上司は右手を背中の十文字槍へ。

既に隠れ蓑は取ってある。戦いには邪魔だ。

 

辺りはヒューと風が吹いている。いつの間にか人通りは無くなっていて、そこには俺達だけがポツンと残されていた。

 

まもなく夜が来る。

 

 

巡回に来たと思われる警邏隊が、俺達に話しかけて来た。

 

 




異聞大正こそこそ小噺

さて、初任務だね、継子の立ち位置が正確なのかどうかは分からないけど、今作品では柱に付随して任務に遂行することにしているよ。鎹鳩の旭丸も長い付き合いになりそうだね。そう言えば鳩は平和の象徴って聞いたことはないかい?平和を愛する桃晴君にはピッタリだね()。

へ〜それでfgoやら空の境界やらBLEACHやらの要素はいつになったら出てくるの?

そんなことよりサラッと出てきたけど桃晴君の日輪刀は玄(赤黒)色だよ。fgoで両儀式のスキル"直死の魔眼"がそんな色だったからそうしたよ。単純だね。

へ〜それでfgoやら空の境界やらBLEACHやらの要素はいつになったら出てくるの?

次回
「ダメ、ゼッタイ。」


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悪欲五色〜下〜

オリジナル下弦は便利、という話。


「こんばんは、お二方。この街では見ない方ですね。近頃は物騒ですから、夜間の外出はお控え下さい。」

 

 

人当たりの良い顔で笑みを浮かべて俺達にそう促す人間に擬態した鬼へ、巌山峠岬が切り返す。

 

 

「御託は結構、正体を現しなさい。貴方が鬼である事は見抜いています。」

 

 

 

「…鬼殺隊は優秀な人間がオオイなぁ。」

 

 

この展開を読んでいたという風にニタリと口角を上げて嗤う警邏隊の男。

男の左眼には下弦、右眼には参の文字。

 

 

「下弦!…来ますよ、桃晴!」

 

「…来い、殺してやるッ!」

 

「そう焦らず。自己紹介でもドウです?僕は下弦の参、鐚梵天(びたぼんてん)というモノです。お見知りオキを。…君達が喰われるまでの、ほんの僅かな時間デスがね。」

 

 

余程の自信があるのか、余裕の笑みを浮かべたまま立ちつくす下弦の参鐚梵天に、取り合うつもりはないと俺は突貫する。

 

 

「死晒せ」

 

 

風の呼吸壱の型 塵旋風・削ぎ

 

 

真横へ吹く嵐が如き剛風を纏いながらの突進。地面を削りながら突っ込んで来る俺を、鐚梵天とやらはひらりと躱す。

 

 

「おおっと、…危ナイ危ナイ、僕は直接戦闘は苦手でシテ。…争いなんて辞めまセンかぁ?不毛デスよ。ククク…」

 

「貴方が人を喰わないというなら考えましょう。…あと桃晴、考えなしに突っ込み過ぎです。相手は下弦ですよ。……桃晴?」

 

「………」

 

 

「ククククク…効いてきまシタかねぇ。」

 

「…ぐ、ぅううううあああああ!!」

 

「桃晴!…何をしたのです!」

 

「嫌デスねぇ、僕は何もしてまセンよぉ。ただ少し背中を押してアゲタだけ。僕の血鬼術 獣欲覚醒は既に辺りに充満していマスよ?その者の内なる欲望を開花サセる。僕に近づくだけてこの有様なのデス。その身で触れればどうなるか、見たいデスかぁ?見たいデスよねぇ?ククククク」

 

 

「(精神攻撃の血鬼術!?不味い、この子には効きすぎる!)」

 

 

山の呼吸漆の型 天落の波濤(てんらくのはとう)

 

 

岬は空中で槍を回した後、両手でしっかりと柄を握り込むとその(きっさき)を地面へと叩きつけた。

 

固い地面がめり込む程力強く突き刺さった衝撃が、地を伝って辺り一面を震わせる。

 

咄嗟に鐚梵展は空中に逃れ事なきを得たが、何らかの精神攻撃を受けたと思われ頭を抑えて唸る桃晴は、伝って来た振動の波によって強く弾き飛ばされる。

 

桃晴はそのまま地面を数回跳ねた後、意識を失ったのか地に伏せたまま動かなくなった。

 

「(意識を刈り取れましたか。…危なかった)…嫌らしい術を使いますね。此処に来た鬼殺隊員にも同じ事を?」

 

「ククク…ええ、そうデス。無様に惨たらしく殺し合ってくれマシタ。どうです僕の血鬼術、素晴らしいでショウ?」

 

両手を宙に掲げて恍惚の表情を浮かべる鐚梵天。

 

「ジワジワと少しずつ使えば人を操り人形にも出来るんデスよ。僕を殺しにきたバカにはいきなり致死量を与えてその身に宿る欲望という欲望を爆発させてやっていマス。」

 

例えば食欲など極限まで刺激してやれば人が人を襲って食うなんて地獄絵図を展開するんデスよ。

 

などと得意げに自身の血鬼術を自慢する鐚梵天。

 

「僕はお前達がどんな醜い欲望をその身に宿してのか観察するのが大好きなンダ!クククククク!」

 

 

「…外道ですか。いいでしょう。貴方には地獄へ堕ちてもらいます。」

 

「出来ませんよ」

 

「それはどうでしょう、っね!」

 

 

山の呼吸壱の型 剛衝方天戟(ごうしょうほうてんげき)

 

 

岬は空中へ飛び上がり長く持った十文字槍をその勢いのまま鐚梵天の頭へ振り下ろす。

 

ドカッと激しい音と共に地面に大穴が空く。

 

鐚梵天は一撃で頭からまともにこれをくらい、押し潰されてしまった。

 

岬は土煙を上げる足元に鬼の死体を確認しようと槍を引き抜いた所で、背後の声に驚嘆する。

 

 

『…呆気ない、と思いましたね?』

 

「!?…幻覚ですか!」

 

「正解!言いましたヨォ、辺りに僕の血鬼術が充満シテイルと!もう貴方も既に僕の血鬼術の術中!本当の位置は分からナイ!さぁ、踊り狂って下サイ!地に頭を擦り付けて懇願すれば痛みも消してあゲボァ!?」

 

 

鐚梵天の声がする方へ頭を向けていた岬はすぐ後ろでまたしても声が聞こえ、其方を向くと、

 

顎から上の無くなった鬼がつっ立っていて、その足元に失った顔面の上部が転がっているのを目にした。

 

 

「…もも、はる…?」

 

自分には何処に居るのかも判別出来なかった鬼を正確に斬ったのは自身の弟子桃晴だった。

 

やがて鐚梵天は綺麗に刈り取られた顎と同じく身体を隅々までバラバラに切り刻まれ、以降一言も発さずに砂へと消えて行った。

 

その斬撃の速度たるや目で追う事能わず。ましてや、つい先程まで10メートル先で伏していた筈だというのに。

 

「…」

 

 

嫌な気配と共に鬼は霧散した。

どうやら血鬼術も解けたらしく、自分たちの周りに数人の人が居るのに初めて気付いた。幻覚によって分からなくされていたのか。

 

 

まずは桃晴の安全を確かめないと。

 

「桃晴、今のは一体…」

 

安否を確かめようとしてつい気になった先程の目にも止まらぬ斬撃の事を聞こうとし、弟子の肩に触れた瞬間ゾッとした。

 

 

 

真冬の石に触れた様に冷たく、硬くなっていた。

 

 

 

「桃晴!?桃晴!これは一体!?」

 

 

 

「お、おいアンタら…鐚梵天様を殺したのか?」

 

幻覚が解けた事で存在が明らかになった数人の人間の中の一人が、岬に声を掛けてきた。…鐚梵天、()

 

 

「…え、ええ、もう大丈夫です。関係者の方々でしょうか?私は鬼殺隊という組織に属する者。鬼は先程消滅しました。もう安全ですよ。」

 

触れたままの桃晴の身体に体温が戻ってきている事を確認しつつ、周囲の人々に事情を説明する。

どうやら桃晴は無事の様だ。先から一言も話さないのが少し気になるが。

 

 

いつの間にかいたその町民達数名を代表して、成人男性が一人、前へ出て来て衝撃の一言を放つ。

 

 

 

 

「…なんて事してくれたんだアンタら…チクショウ!鐚梵天様の仇だァ!!」

 

 

 

そう言うと全員、背中に隠した包丁をかざして我々に襲いかかってきた。

 

 

「なっ!?やめなさい貴方達!?…まさか血鬼術が解けていないのですか!?」

 

必死に十文字槍で振りかざされる刃物を払い凌ぐ岬。どうやら奴の血鬼術は麻薬と同じ、使えば使う程依存性が増していくタイプの血鬼術だった。そういえば奴も「人を操り人形に出来る」とも言っていた。

 

この人達はあの血鬼術を使用されて、依存症を発症させた者達だ。

 

「くっ、落ち着きなさいっ!!」

 

 

山の呼吸弐の型 重芯(じゅうしん)振り子・円山(まどかやま)

 

 

襲いかかる刃物を持った人々を円を描く様に薙いで、まとめて槍の腹で吹き飛ばす。

鬼に加担する者を知らない訳ではない。

だが、自身の意志で加担する者は時に此方に被害を与えてくるケースがあり、尚のことタチが悪い。

 

柱になるまで鬼殺を続けていれば、そういう人達が居る事を知る機会があるかも知れないが、少なくとも今自分の隣にいる桃晴(この子)が知るには時期が早過ぎる。

 

 

 

「このガキも鬼殺隊だっ、殺せぇ!!」

 

「桃晴っ!!」

 

「…」

 

槍で払い除けた先から雪崩れ込む様に狂った民衆が襲いかかる。

流石に数が多く、柱といえど数十人をまとめて相手には出来ない。

民間人を斬る訳にはいかず、加減するには数の理が勝る。

払い損ねた数人が自分の後ろで立ち尽くす桃晴へ襲い掛かる。

 

 

 

 

その安否を確認しようと岬が振り返る先に、

桃晴はもう居らず。

 

 

 

一瞬、瞬きをした後には辺りは血の海だった

 

 

 

 




異聞大正こそこそ小噺

今回下弦の参、鐚梵天が使った血鬼術「獣欲覚醒」は自身の血の匂いを嗅いだ者の欲望を増減させる血鬼術だよ。食欲を極限まで増幅させれば人間が人間を見境なく襲って食べる所まで飢えさせる事が出来るんだ!

へ〜それでfgoやら空の境界やらBLEACHやらの要素はいつになったら出てくるの?

この鬼は頭の回る鬼だから、警邏隊の人間に化けたり、街の人間を喰わずに血鬼術で依存させて共犯者(操り人形)にして隠れ蓑にしていたんだ。

へ〜それでfgoやら空の境界やらBLEACHやらの要素はいつになったら出てくるの?

素の戦闘能力は雑魚そのもので血鬼術も鬼には効かないから下弦止まりだったけど、無惨様には名前を覚えて貰えるレベルには気に入られていて、実は彼には自分の食欲を増幅させる事で暴走状態にして戦闘能力を高める(但し暫く理性が無くなる)、という奥の手を持ってるよ。

へ〜それでfgoやら空の境界やらBLEACHやらの要素はいつになったら出てくるの?

次回
「劔は考えぬ刃であれ」


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悪鬼滅殺の誓い

『正義の道一筋を突き進むのでは、
 私たちは誰ひとり、
 救いに出会うことはない。』


信じたくない光景だった。

コレを自分の弟子がやった事だとは思いたくなかった。

この子は優しい子だから。

 

 

 

「…桃晴、どうして殺したのですか。」

 

「あんたが斬ろうとしないから

 俺が代わりに殺っただけだ」

 

「私は斬れとは言っていません。」

 

「あんたコイツらが改心するとか思ったろ。

 そういうのは無駄だから斬った。

 …それだけだ」

 

「桃晴、鬼殺隊の本分を理解していますか」

 

静かに怒気を向ける師に、俺は答える。

 

「鬼を殺し、民を護る。だろ」

 

「今貴方は民を護りましたか。」

 

「護ったよ。

 コイツらが次に出す被害から」

 

 

 

今回の事件の全貌。

つまりは民間人に鬼の共犯者が居たのだ。

いかに巡回する警邏隊といえど毎度毎度、40件も夜の犯行となれば警邏隊の警備を疑わしく思う輩も出てくる。そういう噂をかき消すのに一役買って出ていたのだろう。

鬼殺隊の二組がやられたのも恐らくコイツらの裏切りだ。俺は師匠と違って()()()の噂を辿って鬼殺隊の死体が埋められた路地裏へ行き着いた。死因は背中から刺された傷だった。喰われていないし鬼の仕業ではない。

新聞の記事に金品の強盗が含まれていたのもコイツらが喰われた人の家を漁ったからだ。

 

 

誰かを犠牲にして得る快楽を覚えた者は、簡単に豹変する。

元が善良だったかは関係がない。

 

 

何より俺から言わせれば、誰かを食い物にする人間と鬼の何が違うのかわからない。

 

 

「っ!!まだ罪を犯したと決まっていないでしょう!私は怪しきは罰せなどとは教えていません!

 

 なのに何故殺したのです!」

 

 

「同じ事をするからだ。コイツらは次も鬼に協力するよ。」

 

 

「どうしてそう言い切れるのですか」

 

 

 

「するさ、必ず。もう味を占めちまった。次も自分の快楽の為に誰かを犠牲にする。

 

コイツらはやるよ、また同じ事を。

今度はもっと知恵をつけて狡猾になる。

 

本当にまだ更正の余地はあったか?山柱」

 

 

「桃晴…」

 

 

長い時間が掛かるかもしれないけれど、共に歩んであげれば、いつかその日が。

 

そう言おうとした所で、私は桃晴の気配が復讐に燃えていた頃に感じたものに近づいているのが分かり、とっさに言い返す事が出来なかった。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

その後の事は端的に言えば、揉み消した。

鬼殺隊の本分は殺人では無く鬼殺だ。

鬼殺隊は鬼を殺す事が本分なので、血鬼術どころか鬼の存在を一般には知られない以上、如何なる理由があっても人を殺す事を許されてはいない。

 

俺は緊急で救えない人間と判断して、そこに集まっていた全員を殺したが、柱の命令でもなし、それは許されざる行為だった。

 

俺は継子の称号を剥奪され(幸いにも鬼殺隊を除籍にはならなかったが)、逃げる様に産屋敷の家から出て行った。

 

山柱巌山峠岬とは以来会っておらず、お館様である耀哉の呼び出しも無視して藤の家を転々としながら全国へ鬼殺の旅をしている。

 

 

「ポー…桃晴…大丈夫カ?クルッポー」

 

「大丈夫だよ、旭丸。この通り傷は癒えてから任務に出てるだろ?」

 

「ソウジャナイ…ポー」

 

 

旭丸は優しい奴だ。継子の件なら元よりそこまで気にしてない。柱になるのに絶対に必要な称号でも無いしな。

 

耀哉との約束は果たす手柄はもう充分かも知れないが、いかんせん鬼は今も何処かに居る。西へ東へ走りは斬って回るからなかなか屋敷へ顔を出せないだけだ。もうちょっとだけ待っててくれ。

 

 

「さ、もうじき夜だ。今日も一狩り…いや、五狩り位しに行くぞ!旭丸、いつもみたいに鬼が多く出る方角を指定してくれ。」

 

 

「…クルッポー…北東、北東…」

 

 

 

 

現在の階級は乙。下弦はあの鐚梵天とやらを含めて6体倒している。新しい呼吸法も様になってきたことだし、そろそろ本格的に呼吸を乗り換えてもいいかもしれない。

 

 

北東といえばあの時の事件に近い位置になりそうだ。別に敬遠してた訳じゃ無いがなんだか少し気不味い。

 

いや、気にしても仕方がない。俺はあの人とは違う考えで鬼を斬るだけだ。そんな奴鬼殺隊の中にも沢山いる。

金の為、人の為、正義の為、己の為…

いかな理由であれ、悪を絶つことは悪じゃないと思うからこそ、…そうでなければ続けられない。

 

俺はマイナス思考になりがちな自分の頭を振って思考を切り替える。アレからもう一年は経つ。強くなった自分はもう誰かに教えを乞う立場じゃない。力なき者を守るために、この力を奮うのみだ。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

ある場所に、

上下左右無限に続く畳と木の廊下在り。

 

名は無限城。

鬼舞辻無惨の居城、

魑魅魍魎の巣食う城である。

 

 

 

城の主がまだ来ていないのをいいことに、頭から血を被ったかの様な優男が一体の鬼に話し掛ける。

 

 

「ねぇねぇ、()()()!鐚梵天が死んだんだってね。知ってたかい?」

 

「そうなん。初めて聞いた名前やわぁ。」

 

 

奈落(ならく)と呼ばれた2本の立派な角を生やした、痴女の様な格好に羽織りを着た少女の鬼は、鈴のなる様な美声で流暢な京言葉を話す。

 

 

「えぇ〜そうだっけ?オレがこないだ鬼にした元神父だよ。覚えてない?面白い血鬼術を使う鬼でさ、下弦の参まで上り詰めたのに…勿体ないなぁ。あの御方も気に入ってただけにお怒りだ。」

 

「ふぅん、ウチ、興味の無い事にはとんと覚えが悪いさかい、堪忍な?」

 

「奈落様が謝る事じゃないさ!()()()()()()()()()()()。それでねそれでね、最近鬼殺隊が活発になってるんだって。なんでも碧色の眼を持った剣士が暴れまわってるって。怖いよねぇ。」

 

クスクスと扇に口元を隠して笑う童磨。

口で言った事とは真逆の余裕が見える。

 

 

 

「…へぇ、碧色の目玉ねぇ。」

 

 

ニタリと破顔う少女の鬼。その美貌には年相応には見えない妖艶さがある。

 

「…おや、珍しいなぁ、興味がお在りで?」

 

「…ふふっ、どおやろねぇ。」

 

 

べべんっ

 

 

突如として琵琶の音色が響く。

 

童磨は音の鳴る方に黙って膝をつき、首を垂れる。奈落は何もせず、手に持つ酒を煽って城の主を迎えた。

 

 

やってきたハイカラな格好の男は、目線を奈落へ向けると少々以外そうに口を開いた。

 

 

「…お前が来るのは珍しいな、奈落童子(ならくどうじ)。私に協力する気になったのか?」

 

「ちゃうよ?ウチらは互いの邪魔はせんて約束やろ?せやから、ウチから干渉も協力もせんよ。」

 

「…ふん、まぁいい。お前には元より期待していない。私の邪魔をしなければそれでいい。好きにしろ。」

 

 

それだけ言うと無惨は集まった上弦の鬼達に向き直り、見下ろしながら言葉を告げる。

 

 

「鐚梵天が死んでいた。()()()()()()()()()()故に他の鬼に探させていたが見つからない。恐らく殺された。最近は同様の殺され方をする鬼が多い。…他の下弦も5体殺されている。間違いなく鬼殺隊だ。見つけ出して殺せ。」

 

 

顔に青筋を浮かべ、心底苛ついている様子で告げる無惨。

 

 

「その件やけど」

 

 

とそこへ、先程挨拶を交わした奈落童子から声を掛けられる。

 

 

「その()()、ウチが貰うから手ぇ出さんといてくんなまし?」

 

ニコッと小首を傾げて笑みを浮かべる。

 

「…なんだと?」

 

 

瞬間、ゴゴゴゴゴゴゴと地鳴りが響く。

 

 

「私の邪魔はしない契約だった筈だ」

 

「ウチの邪魔もせん約束やで?」

 

 

更に二人の圧力は増したいく。

ミシミシと(つくば)う上弦達を可視化された重力が襲う。しかし、彼らは無表情のままその時を無言で貫く。

 

 

暫く二人の睨み合いが場を包む。

 

 

先に目線を切ったのは無惨だった。

 

「…私は確かに告げたぞ。」

 

部下達に最後に圧をかけると

鳴目、と一言告げて琵琶の音と共に去って行った。

 

 

「…相変わらずつまらん男やねぇ」

 

奈落童子が大きな漆の杯を呷る。

 

童磨は漸く頭を上げると海から陸へ上がった様に息を吐く。

 

「ぷはぁ。もう、相変わらずはオレ達の方だよ奈落様。あの御方と喧嘩するのはやめて欲しいなぁ。キツイんだよ?アレ」

 

キョロキョロと周りを見ると、既に同僚たる他の上弦達は居なくなっていた。

 

「なんやの童磨。ウチより無惨に着くん?つれへんわぁ。」

 

ケラケラと笑いながら話す姿は呑兵衛そのものだが、その姿でさえ侮れない恐ろしさが少女から漂う。

 

「そうゆうのもやめてほしいなぁ。オレ達があの御方に逆らえないの知ってるでしょ?っていうか、知ってたんじゃないか。碧色の瞳の子のこと。」

 

「いや?今知ったで。気になったから見てみたくなったんよ。」

 

「…へぇ、奈落様好みの美男子だといいね」

 

「そやねぇ、ふふ」

 

 

 

 

陽の光が届かぬ悪鬼の巣窟。

 

そこには嗤う鬼が二匹居た。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

藤の家は鬼殺隊の後援者の家系であり、その紋所である藤の花が描かれた家紋と暖簾は鮮やかな紫色が映える。

代々産屋敷家がその無限の財力で資金援助を行って来ただけに、裕福な家系が多く、その援助先は何らかの商店などを営業し、つまりは人の為に働く者達が集まっている。産屋敷の人徳が為せるものと言えよう。

 

 

ここはその藤の家の一つであり、鬼殺隊隊士が怪我や病気を負った時のために訪れる某所。普段は宿屋を営み、有事の際には貸し切りにして隊士が湯治に赴く銭湯でもある。

 

 

「……。」

 

ゴクリ、と喉を鳴らして緊張する二十歳程の美女が一人。

 

現役の山柱、巌山峠岬は今まで任務で何度も訪れては1ファンとなり、休みの日にはいつも利用するこの場所を前に、未だかつてない焦燥に駆られていた。

 

 

「(…今日は明け方、この場所を桃晴が宿とする情報はお館様より仰せつかっています。気まずいですが、勇気を出すのです岬!)」

 

 

今日ここに来たのは他でもない、

桃晴と会って話をする為。

 

あれ以降一度も会わず、継子を破門にした自身から会おうと決心したのは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()でもあるが、同時に同僚となる元弟子との和解の為でもある。

 

 

お館様が気を遣って今まで偶然任務でかち合わない様に根回しをしてくれていたが、最近になって漸く会う決意を決めたのだ。

 

 

「(…桃晴は私に会いたくないかも知れませんが、柱となる身としてお互いにケジメをつけましょう。そして出来れば以前の様な関係に戻りたい…)」

 

 

ふぅと一息ついてリラックス。

巌山峠岬は桃晴がもう居るであろう宿屋の暖簾をくぐった。

 

 

 

 

「いらっしゃいませ。」

 

「今晩は、おば様。山柱の巌山峠岬です。お変わりない様で何よりです。」

 

「岬様、此方こそ。また随分美人になられて。」

 

「…もう、おば様ったらいつもそれなんですから。4日前に来たばかりじゃないですか。」

 

いつも言われてしまうがいつ言われても照れてしまう。このおば様には叶わない。

 

「ほほほ、いいじゃありませんか。ささ、奥へ。お話はお館様より伺っております。桃晴様は今は湯浴みへ行っております。今夜は貸し切りで御座いますよ。」

 

「そうですか。では、桃晴が湯から上がったら私の部屋へ案内してくれますか?私はそちらで待たせて頂きますね。」

 

「…あら、それはいけませんわ。」

 

「…え?」

 

意外な言葉が返ってきたので私は鳩が豆鉄砲をくらった様に目を点にする。この老獪なおば様が準備不足などする由もない。

…何故なのか?

 

 

「今宵は男女の逢瀬。ここは女を出して行くべきですよ、岬様。」

 

キッと真剣な表情に切り替わったおば様が、ここで一手と言わんばかりに提案してきた。

…はい?

 

「…ちっ、違います!今夜は別にそんな理由で来たのではなくっ!弟し…劔桃晴にお館様よりの伝言を伝えに来たのです!」

 

「…あらそうなの。聞いた話と違いますわねぇ。分かりました。ですが折角ですしご一緒入られては?久しぶりに会うのでしょう?元弟子という事も聞いています。いきなり向かい合っては貴方も話のネタに困りましょう。…ほほほ」

 

 

やっとお相手が見つかったのかと…

とか

既成事実を…

とか

あわよくば…

とか言っているこの老婆心が過ぎるおば様を道中必死で弁明する。

 

本当に違うと理解させることに苦心しながらも、一緒に風呂に入るという案は明日の営業の事を考えて承諾した。私に下心はないったらない。

 

 

 

巻き布すら付けず裸一貫となった私は風呂の入り口に立つ。扉一枚隔てた先には誰かの気配が。

 

 

私はまたしても意を改めて勢いよく扉を開けるのだった。

 

 

「一緒にお風呂に入りましょう、桃晴!」

ガラガラー

 

「何入って来てんのあんたー!」

キャーーー

 




異聞大正こそこそ小噺

やっとフラグが建った(何話目だよ)
漸く本編の前段階まで漕ぎつけたよ!
長い闘いだった…本当に。満足してエタらないよう努力しよう。ここまで設定上(プロット)では数行なのに何という蛇足、マジで反省してどうぞ。

いいからいつになったらfgoやら空の境界やらBLEACHやらの要素出てくんだよ。

童磨と強そうな鬼が出て来ましたね。という訳でオリキャラ、酒呑童子もとい奈落童子さんです。姿の描写とセリフで匂わせたけどちゃんと描けたかな?勘のいい読者は気付いてるかも知れないけど、巌山峠岬さんのイメージ像は頼光マッマだよ。あくまで姿とか声だけだけどね。

いいからいつになったらfgoやら空の境界やらBLEACHやらの要素出てくんだよ。

奈落童子さんの事だけど、中身は全然酒呑童子ちゃうやんけってなっても勘弁してね。そのまま引用するつもりは元よりないからね。

いいからいつになったらfgoやら空の境界やらBLEACHやらの要素出てくんだよ。

奈落童子さんは今作のラスボスに近い位置です。雑魚キャラでも当て馬にもなりません。つよつよです。設定上は上弦より強いです。無惨並みのチートなんで期待してて下さい。

いいからいつになったらfgoやら空の境界やらBLEACHやらの要素出てくんだよ。

次回
「おねショタ!?大好物です!」


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靭く成れる理由

おねショタは良いぞという話。


前回のあらすじ

 

「(明日もこの宿は営業する訳ですし二人まとめて入った方が差し障りがないでしょうしおば様が言う様に話のネタとか困らないかも知れないし気まずさを取り除けるいいチャンスでもある筈で入隊前からどのくらい鍛えられたのかちょっとだけ気になりますし)お風呂一緒に入りましょう!!」ガラガラー

 

「キャーーー」キャーーー

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…少し、真面目な話をしましょう。」

 

 

仕方なしに俺がこの人の髪を洗い始めてから、暫くして。

長いまつ毛を気持ち良さげに閉じたまま、元師匠の巌山峠岬は静かな声で語り始めた。

 

 

「…貴方は人を喰わない鬼が現れたなら、

 どうしますか?」

 

 

屏風(びょうぶ)から出してから言ってくれ。」

 

 

頓智(とんち)ではなく、真面目な話です。

 

 …いえ、やはり質問を換えましょう。

 

 悪人が善行を行う事を信じれますか?」

 

 

そんな事を突然言われても困る。

もしかしなくてもあの時の事を言っているのだろうか。だとしたら俺の答えは決まっている。到底信じられない。

 

 

しかし、その時の師の表情がそこはかとなく不安げで、良い返事を期待したかの様な表情をするものだから、俺は少し気まずくて、突き離すような言い方が出来ずに、曖昧な返事をしてしまう。

 

 

「…行動で示すなら考える、…かもな。」

 

 

本来なら一も二もなく悪人なら罰せ、と告げていただろうに、その時はなんだかそう答えてしまった。

 

 

「そうですか、…良かった。やはり貴方は理性的で優しい人ですね。」

 

 

唐突に俺を褒めて変な人だ。

困惑する俺に彼女は話を続ける。

 

 

「罪と罰は切り離して考えるべきである、と私は思うのです。悪人だったからと、その先もずっと悪人であるという事はありません。悪虐が世に尽きることは無いかも知れませんが、善い事が出来ない人は一人も居ないのです。」

 

 

残念ながら俺には到底理解出来ない考えだ。そう在れればどれだけ良いか。その考えが許されるなら、罪も罰も必要ない。誰もが満ち足りていないと、そうは考えられないのだ。

 

 

「…性善説って奴だろ、それ。耀哉の屋敷に居た時読んだよ。難解な言葉で下らないこと書いてある宗教だった。」

 

「あら、よく勉強していますね。偉い偉い。」

 

「茶化すな。」

 

「ふふっ、…まぁ私のは孟子の様な立派なものではありませんが。それに近い所はあるかもしれませんね。」

 

「あんたあんな人尊敬してんか?書いてある事ほとんど詐欺だぞ、アレ。信じる奴はバカか狂人だ。」

 

 

「ふふ、…そうかも知れません。

 

では桃晴、ここで問題です。

 

孟子は真に性善説が正しいと思っていたのでしょうか?」

 

 

「?そりゃ著者なんだし、そうなんじゃないのか?」

 

 

甘いですよ桃晴。ちゃんと読みましたか?

 

師は得意げに指摘してくる。…ウザい。

 

「一説には、かの孟子が性善説を説いたのは、この世が性悪説で出来ているからだそうです。

 

そうであるから唱えたのではなく、

そうあってほしくて唱えたのだと。」

 

 

「人間の本質が悪であるなど、学問で証明するまでもなく、誰でも()っていることですからね。だからあえて証明したのです、()()るべし、と。」

 

 

ふーん、と相槌を打ちながら、洗髪を完了した師の髪を湯に()かし流していく。泡が(ほど)けて艶やかな黒色が戻っていく(さま)に、狸に化かされたかのような感覚を覚えた。

 

 

「でもそれじゃあ逆に、人間は生まれつき悪人で罪人って言ってるようなものだな。

皮肉なモンだ。」

 

「そこがまた面白い所なのですが、

…さて、お互い洗髪は終わった事ですし、次は身体を洗って貰いましょうか。勿論、私の後は貴方の方も洗ってあげますね。」

 

「はぁ!?まだやんのかよ!もう良いだろ、身体くらい自分で洗え!自分の身体も自分で洗う!」

 

 

というかこの状況もおかしい!出て行こうしたらこの宿のオババが脱衣所を掃除中だって言うし…あのオババの仕業か!

 

 

「何を言うのです。折角一緒にお風呂に入っているのですよ。勿体ないじゃありませんか。入隊前から一段と引き締まった貴方の身体をもっと良く見せてください。」

 

「変態かあんた!?俺にそんな趣味ない!あのなぁ!俺はもう数えで十四!元服(げんぷく)間近の男なんだよ。あんた羞恥心とかないのか!?」

 

「全裸なんて今更ですよ?貴方が意識を失った最初の朝、一体誰が看病したと思っているんですか。」

 

「それとこれとは話が別だろ!あんたの方は良いのかよ、嫁入り前の身体を男に触られて!」

 

「それこそ成人前の男性に触られてキズモノになったなどと、少し大人(おとな)()ないというか…こう、痛くないですか?それに、

 

こんな生傷だらけの女、誰も貰いたがりませんよ。」

 

 

申し訳無さそうに眉を下げて笑う彼女に少しムカついた。なんだか自分が熱心に集めたビードロを、他人に石だと(わら)われた様なそんな気分だ。

 

「…んなこと無いだろ。」

 

 

口を尖らせて小さく反論した俺に、彼女は綿(めん)に石鹸を擦って泡をたてる手を止めた。ニヤリと笑って

 

 

 

「…何です?もしや見慣れない女体に興奮しているのですか?いけませんよ、桃晴。いくら年頃の男の子(おのこ)が成熟した女性に興味をそそられるのは仕方ないとはいえ、この身は元ですが巫女(シスター)。私に劣情を(いだ)いてはなりません。心頭滅却なさい。」

 

(いだ)くか阿呆(アホ)師匠。茹っ(のぼせ)たんじゃねーの。適齢期過ぎてんだから無理すんな。」

 

「は?」

 

 

 

やべっ、これは真剣(マジ)怒っ(キレ)てる時の顔だ。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

「全く、貴方はもう少し女性の扱い方を学ばなければなりませんね。」

 

 

 

 

 

二人の男女が同じ湯に浸かる。それだけではまるで艶本(えっぽん)の内容みたいだがそんな展開は一つも無い。どちらかと言えば親子や姉弟の間柄にしか見えない。結局背中だけ互いに洗い合う事で折衷(せっちゅう)とした。

 

 

湯煙漂う石造りの露天風呂はかなり広い造りだが、二人の距離はそう遠くない。

 

女の方は長い髪が湯につかぬ様に頭を布で器用に覆い、肩口まで湯船に浸かってから、拳大の(こぶ)を付けた俺に向かって先程の話を蒸し返す。

 

 

 

 

 

「…さっき、貴方が言った"人は生まれつき悪人で罪人"と言う言葉。西洋では"原罪"という表現を用います。」

 

 

「明確な定義がある訳ではありませんが、人は生まれて死ぬまで罪を背負い続ける生き物だから、生きている間に清貧に過ごした者には、死んだ時くらいはその罪を不問にしてあげましょう、という思想です。」

 

 

 

 

 

「鬼は元々人間です。鬼舞辻によってある日突然魔に変えられた哀れな人達。我々鬼殺隊は鬼を殺して人を助ける組織ですが、元は普通に暮らす人だった者を殺して人を助けているとも言えます。そう考えると業が深いと感じるのは私だけでしょうか。」

 

 

だから、鬼が人を喰うのは罪ではなく、

ただ巡り合わせが悪かっただけなのだと

巌山峠岬は言う。

 

我が師ながら繊細な人だと思う。

愛が深いならぬ、愛が広い。

敵である鬼にまで分け与えるその慈愛を、

少しは自分に向けられないのだろうか。

博愛主義などとは良く言ったものだが、俺からすれば大事な人を奪われて怨みも抱けないというのは、許容し難い考えだった。

 

 

「…その生き方は、辛くないのか?」

 

「辛いですよ」

 

なんでもないかの様に言う師に、

俺は不思議に思う。

なぜそんな辛い思いを自ら背負うのか。

 

 

「人生とは苦しみを積み上げる巡礼だと、私は私を導いてくれた人に、そう教わりました」

 

「生きている限り自身が本当に求めるものは決して手に入ることはないとも。」

 

 

「…死んだら欲しいものが手に入るって?

 …そんなの詭弁だろ。」

 

 

それじゃあ生きてる意味なんてまるで無いじゃないか。

 

 

そう俺が切り返すと、もう茹っ(のぼせ)てしまったのか、彼女はゆっくりと立ち上がり、さっきまで背にしていた黒岩の上に腰掛ける。

 

 

誰かに想いを()せているのか、

(まぶた)を閉じて天を仰ぐ。

 

 

短い黙祷を終えて、ふっと柔らかく微笑んで、俺に語りかける。

 

 

 

「いいえ、死ぬ時にはもう手にしているのです。ただ、生きているうちにそれに気づくか気づかないか。それだけです。」

 

 

細かい傷跡が残った自らの肢体を、

惜しげもなく月へ晒して語る言葉は、

 

()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

気づくか、気づかないか。

それが最も重要なことで、多くの人が気づかぬまま最期を迎えるとも。

 

 

「あんたは、気づいたのか?

 自分が本当に欲しいかったものに。」

 

「ふふっ、ええ。気づいていますし、

 実はもう手に入れていますよ。」

 

 

さっき生涯手に入らないって言って無かったか?という突っ込みはせず、俺は師の話に付き合う。また女の扱いを指導(ゲンコツ)されては堪らない。

 

 

「へぇ、どんなものなんだ?」

 

「貴方です。」

 

「へ?」

 

「正確には、貴方や鬼殺隊の皆ですね。

私の大切な家族で、暖かい周囲の人達。

私の"本当に欲しいもの"をいつか必ず手に入れようと頑張っている人達。」

 

愛おしいものを愛でる様に、いつもみたいにおっとりした調子で俺にそう告げる。

 

 

自分だけが努力して手に入れるのではなく、誰かが自分と同じものを欲し、それを手にするその時まで、その夢を繋いでくれる同士。

 

 

果てしなく長い道のりには違いなくて、

掴めないまま終わるかもしれない夢。

 

 

なんだか()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と言ってるみたいだ。

 

 

それを語る師の姿は誇らしげで、どこか儚げで、こうゆう悟った表情をする所が俺は出逢った時から苦手なのだ。

 

 

 

「あ、そういえばまだ手に入してないものがありました。」

 

思い出した、というように人差し指を立てたかと思えば、その指をそっと口元に当てて悪戯っぽい笑みを浮かべ、

 

 

 

 

 

"貴方が貴方の本当に欲しいものに気づく事"

です。

 

 

そう言って微笑む姿があんまりにも月に映えるから、なんだか自分は恥ずかしくなってついつい誤魔化してしまった。

 

 

「…二つも欲しがるとか、ちょっと強欲なんじゃねーの」

 

「そんな事ありません。欲しいものはいくつあったっていいのです。両の手で抱えきれるだけ求めれ(ねだれ)ばよろしい。」

 

 

ふふん、と自慢げに語る師に、

自分は口じゃ一生勝てないなと思った。

 

 

「仏の道ってのはアレか?

 弁舌が上手くなる教えのことか?」

 

「全く、年上には本当に素直じゃありませんね。偶には師匠をたててくれたっていいのですよ?」

 

「子供騙しが通じる歳じゃないだけだ。

…おい、頬を膨らませるな撫でるな引き寄せるな抱きしめるなー!」

 

 

 

鬼殺隊の夜は戦いの夜だ。

殺伐としているのが常であり、

こうしてゆっくりと語り合えるのは稀だ。

桃晴が(つるぎ)の姓を名乗ってから二年になる。

それ以外は特筆すべきことは何も無い、

けれど彼にとって何かが変わった、

そんな特別な夜だった。

 

 




異聞大正こそこそ小噺

お待ちかねのおねショタ回だよ!作者のチカラを振り絞った力作だったけどどうだったかな。当然一発は抜いてくれるよね。無作法だもんね!今回はオリキャラの岬さんの中身をかなり掘り下げたつもりだよ。ファンが増えると嬉しいな。

へ〜それでfgoやら空の境界やらBLEACHやらの要素はいつ出てくるの?

副題は岬さんの根底にある強さ、そしてこれからの桃晴君の強さになっていく、という意味でつけたんだ。原作のOPである『紅蓮華』ともシナジーがあって良いでしょ?

へ〜それでfgoやら空の境界やらBLEACHやらの要素はいつ出てくるの?

所々にタグにある他原作のオマージュを挟んだり、いろんな宗教や哲学に触れたりを楽しんで貰えたら嬉しいな。

へ〜それでfgoやら空の境界やらBLEACHやらの要素はいつ出てくるの?

次回。

へ〜、へ?

次回。









次回
「死の具現」


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奈落の様な瞳〜上〜

地獄とは平和の隣りにある、という話


なんやかやとあって階級が"甲"になったことを伝えられた湯浴み後の会話。

 

俺は柱となるべくしてその就任式を執り行う為に産屋敷の屋敷にずっと前から呼ばれていたのだ、という話を山柱の巌山峠岬から知らされた。

 

いや、柱の条件は知っていたし、俺がその条件を満たしている事も知っていたが、産屋敷家というのは鬼舞辻から身を隠す為にその屋敷の位置を選ばれた人間(例えば柱とか隠の一部の人)以外知らされないし、度々屋敷を引っ越す。

 

屋敷内へ行くには色々と遠回りや準備をしなければいけない等の理由で日数を取られるため、行くのを敬遠していたのだ。

 

階級なんぞより俺は鬼殺を優先していた。

耀哉との約束で柱になると告げていたが、柱には現役の内にいつでも成れるしな。

 

 

 

元師匠である巌山峠岬の話では、元々"甲"という階級は無かったらしい。

 

鬼殺隊で階級を昇段するかは鬼殺隊の元締めである産屋敷家が鎹鴉の報告を元に精査し、その功績から癸から乙までの七段階で評価する。

 

"甲"という階級は「一定の功績だけが足りていない、実力が柱として劣らない立場」らしい。例えば、未だ下弦の鬼以上の鬼と戦ったことが無かったり、鬼を50体以上(たお)していなかったり。あとは柱の定員である10人が既に揃っていたり。ここ100年間でそんなことは無いらしいが。

 

 

そして俺の場合、功績も足りているのに就任式を執り行っていない、と。多分わざわざ山柱に伝手を頼んだのは耀哉の気遣いだろうけどな。

 

 

「就任式とやらはいつなんだ?」

 

「すぐにでも。緊急でもない限りは現役の柱が半数以上揃っている場合に新しい柱の就任が受理されます。今現役柱が6名なので、今回は3名以上ですね。私ともう一人の柱が居れば行えます。」

 

俺の就任式には山柱の巌山峠岬の他に、岩柱と炎柱立ち会ってくれる予定だそうだ。

 

少なっ、という野暮なツッコミはしない。

柱になるだけの才能など少ない方で、柱の殉職率もこの人に随分前から聞き及んだいる(隊士になる前の授業として耳にタコが出来るほど)。

 

 

「ふーん、じゃあ明日には出発するのか」

 

「そういうことです」

 

 

 

 

早朝の出発とあって俺達は早く寝る事にする。

 

 

 

 

しれっと同じ部屋で寝ようとした元師匠を締め出そうと躍起になっていたその時だった。

 

 

 

べべんっ

 

 

かなり近くで琵琶の音が鳴り響く。楽師が仕事をするには流石に遅すぎる時間帯だ。

 

それになんだか怖気が走る。隣りの山柱も同じ感覚がしたのか、お互いに頷きあい、隊服にサッと着替えて刀を取る。

 

 

鬼が出た。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

その鬼と目が合った瞬間、

身動きが取れなくなった。

 

 

金縛りの血鬼術かと思い、

深く息を吸い込む。

今度は呼吸の仕方を忘れた。

 

 

 

「…みいつけたぁ。」

 

 

痴女みたいな格好をした童女の鬼が、そこに居た。

 

深い深い谷底の闇そのものみたいな瞳で俺を見つめて、目当てのモノを見つけたとはしゃいでいる。

 

 

何をしてんだ、俺。

動け。抜刀しろ。頸を刈れ。

鬼が目の前にいるんだぞ。

 

 

しかし身体は言う事を聞かず、

只々ガタガタと震えるばかり。

 

「…!?っか、……!?」

 

ダラダラと脂汗が滲み出る。

喉が渇いて変な音が出る。

何だこの鬼は。

今まで出会ったどの鬼よりもヤバい。

 

 

「ん?あぁ、ウチと目ぇ合ったばっかりに、息も出来へんのやねぇ。可哀想やねぇ。どれ、目合わさんでええ様に、

()()()()()()()()()()()()()

 

 

瞬きもしていないのに一瞬にして目の前に現れたこの鬼は、爪の尖った右手をゆっくりと俺の左眼に延ばして…

 

 

 

「山の呼吸壱の型 剛衝方天戟!!!」

 

 

後ろから強烈な一撃が飛んできた。

 

少女の鬼は飛び引いてこれを躱し、元の位置へ戻る。

 

 

「桃晴!大丈夫ですか!」

 

「…はぁはぁ、大丈夫だ。傷は無い。」

 

すんでの所で山柱の助太刀が入る。

もう少し遅ければ眼を抉られていた。

 

 

「目を合わすな!動けなくなる!」

 

「金縛りの血鬼術ですか」

 

「分からない。…だがアイツは何かヤバいぞ。」

 

「…ええ。この禍々しさ、これが上弦?」

 

「上弦の文字は無い…けど動きが速すぎて見えなかった。」

 

ヒヤリと背中に嫌な汗が伝う。本当に動きがまるで見えなかった。一瞬して間を詰められたさっきの事をを思い出して俺は慌てた様に抜刀し構える。

 

巌山峠岬は言われた通り目を合わさないように口元から上を見ずに鬼の様子を伺う。

鬼殺隊でも天才の部類に入り、既に柱となる予定の桃晴でさえ怯えた様子を見て、山柱、巌山峠岬は先程投げた槍の柄を掴み、構えを取る。

 

 

「上弦てアレやろ?無惨の手駒の。ウチはそんな名前とちゃうよ?

 

…奈落童子。よろしおす。」

 

 

雅な所作で挨拶を交わす鬼。

隙だらけだが突っ込めば死の予感がする。

 

「それに…血鬼術ゆうんはこうゆうのをゆうんとちゃうの?」

 

 

 血鬼術 千紫万紅神便鬼毒

 

 

トクトクと大きな杯から鮮やかな酒の様なものが溢れ出す。

 

零れ落ちた瞬間、草木は枯れ果て、燃え上がり、地面を腐らせ、辺りを侵蝕する。

 

 

「「…!!!??」」

 

 

俺達は後ろへ少しでも距離を取ろうと全速力で後退する。

 

 

「桃晴!山を降ります、着いて来なさい!」

 

「…ああ!」

 

 

あの鬼はヤバすぎる。

 

ジュワジュワと山林が腐っていく。

足下まで迫るソレを振り切れるまで後退した俺達は驚愕する。

 

 

「…山が」

 

「…一応宿屋の人達には皆、既に下山するよう伝えています。心配ないでしょうが、これ程の血鬼術は初めて見ました…」

 

 

ものの数分の出来事で山一つ無くなってしまった。否、溶けてしまった。

 

ぺしゃっぺしゃっと溶けた拍子に出た酒臭い有毒そうな煙の中から小さな影が歩いて出てくる。

 

 

「ふふ、ビックリした?ウチの酒はなぁんでも蕩かしてしまうさかい、小僧も呑んでみる?美味やで。」

 

奈落童子の後ろには文字通り草一本残ってはいなかった。なみなみと毒の入った先程の杯を口に当てがって嚥下すると、また俺達に話し掛ける。

 

 

「それにしてもそこの無粋な牝乳女(うしちちおんな)は小僧の(つがい)?…残念やわぁ。甘ったるくて不味そうやさかい、ウチの口には合わんやろね。」

 

「私と桃晴はその様な関係ではありません。貴方は何者ですか。」

 

「取り合うな師匠。糞ったれの鬼なのは確実だ。戦うぞ。」

 

「ああん、もう、せっかちやねぇ。遊ぶんもええけど、もちぃと語らうんも悪ぅないよ?名前は桃晴ゆうんやねぇ、ええ名前やんか?イケメンやし、ウチに(しゃく)でもしてくれへん?」

 

 

その綺麗な目玉もっと近くで見たいわぁ。

などと言う奈落童子。

 

俺は油断なく身構える。

 

 

風の呼吸参の型 晴嵐風樹

 

 

俺は出来るだけ広く地面を抉り取る様に全集中の呼吸を繰り出す。まずは戦闘を出来るだけの場を整える。

 

 

山の呼吸肆の型 金剛砕(こんごうくだ)き・十歩(じっぽ)()

 

 

続け様に巌山峠岬が突貫し、目にまとまらぬ速さの突きを繰り出す。奈落童子はそれをヒラリヒラリと軽く躱していく。

 

 

「ふふ、(ぬる)(ぬる)い。そんな突きじゃイけんわぁ。」

 

「…っく!」

 

 

一息連続の突きを全て躱してから間を詰めると、奈落童子は伸びきった岬の右腕を掴み取り、余った腕で岬の胴へ手刀を放つ。

 

 

風の呼吸弐の型 爪々(そうそう)科戸風(しなとかぜ)

 

 

横合いから桃晴の日輪刀が伸びる。

 

ガキィンと金属同士を叩き合った様な音を鳴らし、奈落童子を引き剥がす。

 

「ほっと、…危ない危ない。ふふ」

 

()()()()()をパッパッと払い、埃一つ付いていないその様に斬りつけた桃晴は驚愕する。

 

「(固すぎるっ!?斬りつけた俺の方が腕が痺れてやがる。)」

 

「…フォローありがとうございます桃晴。腕は無事ですか?」

 

「…折れてはいない。()がダメになりつつあるけどな。…硬さが尋常じゃない。マトモに打ち合ったら勝ち目が無いぞ、気をつけてくれ。」

 

「…日輪刀と打ち合って勝つ硬さ…ますます普通の鬼では無いですね。貴方は上弦の鬼ですか?」

 

 

腕の痺れを気にしてくれたのか、隣に立つ山柱が少しでも情報を聞き出そうと奈落童子に話し掛ける。

 

 

「ちゃうよってゆうたよ?まぁ、あの()()()()共の間じゃあ、〈上弦の零〉やんてけったいな呼ばれ方される時もあるけどなぁ。」

 

 

「…上弦の、零…」

 

「上弦は6体では無く7体…」

 

「ウチは好かんからこの呼び名使わんけど。小僧はウチの事、名前で呼んでな?」

 

 

"零"という事は"壱"より更に上の可能性がある。納得の強さだが動揺が隠せない。

 

 

最悪の想定が頭をよぎる。このまま戦っても今の俺達ではこの鬼に勝てないかも知れない。

 

かくなる上は…

 

 

「師匠、俺がしん…

「桃晴、貴方は即刻ここを離れてお館様へ報告へ急ぎなさい。殿(しんがり)は私が務めます。」

 

 

 

「…な、何言ってんだ!俺の方が残った方がいい!追って来て街に被害が出たらどうする!?」

 

 

「1つ、貴方の日輪刀はもう使い物にならない。どちらかがこの場に残らねばならないなら、戦える私が適任でしょう。

 

 2つ、追っては来ません。その為に私が残るのです。貴方は一刻も早くお館様の下へ急ぎこの事を報告し、可能であれば柱の増援を頼みなさい。鎹鴉だけでは不安です。

 

 3つ、今は私が上司。聞き分けなさい。

 

何か反論はありますか。」

 

 

「………。」

 

 

反論の余地は無いかも知れないが、だが。

 

だってそんなの、間違いなく死ぬ。

 

それだけは、嫌だ。

 

 

「…嫌、だ。」

「桃晴!行きなさいっ!」

 

 

ああ、チクショウ。

 

 

「…っくそ、待ってろ、すぐ戻る!」

 

 

師匠に背を向けて俺は走りだす。

 

 

 

「貴方は戻って来なくてよろしい。…己が信ずる道を征きなさい。」

 

 

 

 

そんな声が聞こえた気がするが、今は振り返る暇も惜しい。全速力で山道を駆け抜けながら、鎹鳩の旭丸を口笛で呼びつける。

 

「っ旭丸!この近くにいる柱、誰でもいい!見つけ次第応援を呼んでくれ!頼む!」

 

「クルッポー!」

 

 

バササッと翼を羽ばたかせて旭丸が飛び立って行った。

 

あとは俺がお館様の下へ…いや、近場の藤の家に遣いを頼もう。俺は戻るべきだ。柱を呼んでも二体一じゃ、さっきと状況が変わらない。三体一なら、…何とかなるかも知れない。何とかするんだ!戻って来るなと言われたが知った事じゃ無い!

 

 

 

 

 

 

 

「…お待たせしました。正直待ってくれると思っていませんでした。」

 

「…ふぁあ、終わったみたいやね。退屈やったけど、待った甲斐はあったからええよ。」

 

「待った甲斐?」

 

 

 

「…ふふ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

なんちゃって。

と戯ける鬼に私は冷静に相対する。

柱の一人として、私は鬼のペースに流されたりなどしない。何より…

 

 

「その様な事にはなりません。私が此処で貴方を倒しますので。」

 

「あはは!…なんでやろねぇ。あんたはんの事見ると、なぁんか(はらわた)煮えくり返りそうなるわぁ。」

 

 

 

ここに産屋敷家の公式の記録に、上弦との戦闘が数十年ぶりに更新された。

 

 

 




異聞大正こそこそ小噺

ああ、遂に物語が動き出す…
作者です。ビンビンにおっ勃ってたフラグが即刻回収された気分は如何でしょうか。私は涙無しには観れません。もうすぐ桃晴君が柱になりますね!楽しみだなぁ()次回チラッとイキ過ぎたホモ和…じゃ無かった悲鳴嶼さんがちょーっとだけでてきますよ。お楽しみに。

あとごめんなさい、長いので二話に分けます!

次回
「死の具現〜直死〜」


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奈落の様な瞳〜下〜

大切な者を失って覚醒する話


「…南無」

 

 

真夜中の山道を物凄い速度で駆ける巨漢がいた。

 

名を悲鳴嶼行冥。

 

鬼殺隊きっての特化戦力である柱の一人であり、岩の呼吸の遣い手である。

 

また、類稀なる怪力の持ち主であり、その怪力たるやまだ呼吸法を知らぬ頃に鬼に襲われた際、夜通しその鬼の顔面を殴り潰した程である。

 

彼の怪力と身につけた岩の呼吸法はまさに天啓と言える程に適合していて、今では鬼殺隊の歴史上でも百年に一度の逸材と名高い。

 

 

そんな男が急ぐ理由は「上弦の鬼が出た」という情報を鎹鴉(鳩?)が現場に最も近かったとされる自分へ報せに来たからである。

 

 

「…"上弦"という情報は確かか、鳩よ」

 

「クルッポー!ホントウ、ホントウ!山柱トソノ元継子ノ劔桃晴ガ遭遇!山柱ハ殿ヲ務メ、桃晴ハお館様ヘ報告ニ向カッタ!デモ桃晴ハ多分山柱ノモトニ戻ル気ダ!コノママジャ二人共死ヌ!応援頼ム!応援頼ム!」

 

「…成る程、相分かった。」

 

 

上弦の鬼はここ百何十年と姿を見せていない、正確には姿を見て生き残った鬼殺隊がいないと言われる、常軌を逸した強さを持つ鬼である。

 

その強さは下弦の鬼以下とはまるで違い、柱であってもコレに打ち勝った記録は無く、数百年と上弦の顔ぶれは変わっていないのだという。

 

自分達鬼殺隊の最終目標は鬼舞辻無惨の討伐であり、まずもって上弦を倒さないと話にならない。

 

自身の先輩にあたる山柱と言えど、一人では相手はキツいかも知れない。急ぐべきだ。

 

元継子とやらはどうやら山柱の命令を無視してしまった様だが心配になったのだろう。それも仕方の無い事だ。何せ相手は今まで会った事もない上弦。上司の命令に反するは隊規違反だが、あの山柱の元継子と聞いている。居ても足手纏いにはなるまい。

 

自身に報せを伝えた鎹鴉ならぬ鎹鳩の後を追う形で山中を走る。

 

恐らく自身にしか完璧に操れないだろう斧と鉄球が鎖で繋がれた特殊な日輪刀を両手に構え、いつでも戦闘を行える準備を整えている。

 

 

 

 

 

鎹鳩が木に止まった。

どうやら此処に居るらしい。

 

 

自分は目が見えないので気配を探るが、鬼の気配は弱っていた。コレが上弦なのか…?

 

しかし弱った鬼の気配と共に、これまた衰弱して今にも消え入りそうな人の気配も感じとる。山柱かその元継子か?

 

このままでは危険な事を察知して鬼とその人物の間に勢いよく割って入る。

 

 

 

「…あら、なんや邪魔が入ったねぇ。やっぱり今宵はここまでかなぁ。」

 

 

千切れた自分のモノと思しき左腕を拾い上げると、京言葉を使う二本角の少女の鬼はその重傷からは想像も出来ない程余裕の笑みでそう言って、プラプラと拾った腕を(もてあそ)ぶ。

 

対象的に行冥の背中に後する人の気配は、近くへ行けばそれが男子のもので、今にも意識を失いそうな程出血多量であることが身に纏う匂いと弱った呼吸音で判った。

 

 

「…まだ間に合う。少年よ、まだ意識を保てるか?」

 

 

「…す、…こ、…ろす」

 

大木に背を預けて手足も動かせないほどボロボロになって尚、「殺す」と呟いて殺意を眼前の鬼へ向ける少年に、行冥は哀れみよりも寧ろ感嘆の念を抱く。

 

 

「(この状態にしてまだ戦意があるか…すぐに治療すれば間に合うだろう)」

 

「…腕を生やさないのか、鬼よ。」

 

 

ふと疑問に思った事を口にする。(すべから)く鬼は瞬く間にどんな傷も再生する能力を持つ。頸を断たねば意味をなさないからこそ、この日の本で脅威をふるうのだ。

 

 

「ふふっ、そんなんあの鬼もどき共だけ。ウチはアレらとは根本的に違うからなぁ。再生やなんてずっこいチカラ持ってへんよ?そん代わりそないな()()()()()()()()()で斬られるほど柔らこぉない…筈なんやけど、そこな小僧には斬られてしもたわ。あははっ、可笑しいねぇ!」

 

 

愉しそうに女の鬼は破顔(わら)う。

 

彼女は懐に千切れた腕を仕舞い込むと、足下にに突き刺さった刃こぼれだらけの日輪刀の刃先を右腕の指でつまみ取り、鑑定する。

 

 

「ホンマになまくらやし、コレは小僧の方に理由が有りそやねぇ…」

 

「…何の話だ?」

 

「ふふ、あんたはん、そこな小僧ちゃあんと治療したってな?特にその碧い左の(まなこ)は潰したらあかんよって。ウチはこれで帰るさかい、頼んだよ?」

 

「逃がすと思うか」

 

「あははっ、あんたはんもウチと遊びたいん?けど駄ぁ目。ウチもう胸も腹も満たされたし。あんたはんもイケメンやけど、ウチ今は小僧に夢中やねん。せやから…

 

 

 

 

邪魔、したらあかんよ。」

 

 

 

 

最後の言葉だけは歴戦の行冥でさえゾッとするような声色で、思わず冷や汗が垂れた。

 

グッと両手の日輪刀に力が入る。

 

しかし次の瞬間には鬼は消えていた。

 

べべんっと響いた琵琶と共に。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

時は戻りとある山中。

 

桃晴は鬼を前に嫌な予感がした。

 

溶け落ち、あちこち崩れた戦場を背景に、

桃晴はつい先程戻ってきて、目の前の悪鬼へ疑問を呈す。

 

 

「…おい、お前。

 …師匠は、何処に行った…」

 

「あ、来た来た。…小僧、"お前"やのぉてちゃんと名前で呼んでぇや。寂しいやんか。」

 

 

ふふふとふざけて破顔う女に同じ質問をする。

 

 

「…答えろ。師匠を何処にやった?」

 

「…ふぅん、そないな態度とるんやねぇ。じゃあこうしよか。ウチの名前呼んでくれたら、あの牝ちち女(うしちちおんな)が何処行ったか教えたるわ。」

 

 

「答えろっ!!奈落童子ぃ!!!」

 

 

「はい、あげる」

 

 

ポンと掌サイズのナニかを投げられた。

 

悪意のカケラも感じられなかった行動に、桃晴は思わず両手で投げられたモノを受け取ってしまう。

 

 

腕の中に収まったモノは、

 

 

自身の師の生首だった。

 

 

昏い瞳を半開きにして、少し口を開いて冷たくなっている、変わり果てた恩師が、腕に収まっていた。

 

 

「…あ、ああ…」

 

「四肢は甘くてなかなか美味かったよ?乳から下は脂っこそうやったから溶かしてしもたけど。」

 

 

「ああああああああああああああああ」

 

「悲しい?怖い?ウチのこと嫌いになった?」

 

あははははっ

 

愉快に破顔うこの鬼に殺意がはち切れそうになり、同時に恩師の危機に間に合わなかった自分を情けなく思う。

 

 

「…なんで…ああ、何も、まだ、返せて無いのに…あああああああああ」

 

「泣いてるん?可哀想やねぇ。

 …泣き顔もかぁいらしいねぇ。」

 

 

奈落童子がニタニタと嫌らしい笑みを浮かべる。

 

 

「…テメェみたいなのが居るから…」

 

「うん?なぁに?」

 

 

オマエらなんか根絶やしにしてやる

 

 

ドクンと心臓が止まる。

 

左の視界に"奇妙な線"が迸る。

 

ギシギシと身体が硬くなっていく感覚と頭の先から血の気が引いていき、体温が冷めていく。

 

しかし左の視界はぐらりとゆっくりとしたモノでまるで残像の様に奈落童子含め全ての物体が揺らぐ。

 

自分が遅くなったのではなく、コレは自分が早くなったのだ。あの下弦の参、鐚梵天の時と同じ感覚。覚えている。長くは保たないがこれなら新しく開発している途中のあの呼吸で、

 

コイツを殺せるっ!!

 

 

 

 

剣の呼吸壱の型 剣禅一如

 

 

「…あはっ」

 

 

ギャリンッ

 

一瞬で詰め寄った桃晴が、凄まじい速度で奈落童子の首へ一太刀。右腕で受け止められてしまうも、最初に打ち合った時とは違い、その腕には刃が食い込んで血が飛び散った。

 

 

奈落童子は桃晴の日輪刀を払うと少し距離を取り、斬られた腕から出た血をぺろりと舐める。

 

 

「あらら、斬られてしもた。小僧、その碧い眼ぇ、キラキラ輝いてから動き変わったねぇ。面白いモン持ってるやん?もぉっと魅せてぇ?」

 

目つきを更に嫌らしいものに変えて、悪鬼が恐ろしい速度で襲いかかる。桃晴は最初に相対した時には反応すら出来なかった奈落童子の動きを今度は見切り、躱して返す刀を浴びせようと技を繰り出す。

 

 

 

剣の呼吸参の型 無明三段突き

 

 

 

見える!動く!斬れる!殺せる!

 

桃晴はかつて無く研ぎ澄まされた視界と身のこなしで奈落童子へ横合いから突きを入れる。刃こぼれの激しい今の日輪刀では斬撃とり突きが有効と判断した。

 

奈落童子は桃晴が放った突きをその鋼鉄の如く硬い手で掴み上げようと腕を伸ばし、

 

 

彼女の掌を日輪刀が貫通した。

 

即座に飛び引き、回避に専念する。

 

二の突き、三の突きが空を穿つ。

 

 

笑みはそのままに、更に興味を持ったのか、奈落童子は愉快げに高笑いをあげる。

 

 

「あははっ、強ぉなったねぇ桃晴。そないにあの女気に入ってたん?」

 

「うるせぇ、殺す。殺す殺す殺す!」

 

 

激昂する桃晴を他所に、奈落童子はボタボタと血が滴る右腕に付けられた傷痕を視る。

 

 

「…傷が塞がらんわぁ。ウチも鬼やさい、人間よりは回復早いんやけどなぁ。やっぱりその目玉、なぁんか秘密ありそやねぇ。」

 

 

奈落童子は背中に左腕を回すと、するりと自身の身体以上の大きさの大剣を握って出してきた。

 

 

「これ、ウチの武器(えもの)。頑丈やさかい、そんなまくらじゃ何合打ち合って保つやろねぇ。…どぉする?桃晴。」

 

「次で殺す」

 

「あはっ、強がってもあかんよ。

 ()()()()()()()()()()()()

 

 

笑みを深める奈落童子。

 

その推測は正しいもので、桃晴は既に限界を越えて肉体を動かしていた。

 

この眼は使えば()()()()()()。必然呼吸が出来ず、時間が経つにつれて酸素が足りなくなって視界がぼやけ、身体も硬直する。

 

既にこの感覚は経験済みだが、誰にも言っていない。

 

だが、この眼に映る線や点をなぞる様に力を加えれば、豆腐を切る様にあっさりと切断できる。切断面は鬼でも容易に再生出来ない。

 

その事は実証済みだ。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

剣の呼吸(しち)の型 汎式・直死

 

 

桃晴はこの眼を"直死"と呼ぶ。

 

 

「…今日の所は次の一撃で終わっとこか。

 寂しいけど、またね桃晴」

 

「ここで死ね!!!」

 

 

剣の呼吸伍の型(あらため) 直死・倶利伽羅天象

 

 

月夜に二つの影が重なる。

 

勝敗は決した。

 

 

 

 

 

 

明治37年5月31日

山柱巌山峠岬及びその元継子劔桃晴が

上弦の零 奈落童子と遭遇。

岩柱悲鳴嶼行冥が増援し、これを撃退。

負傷者一名、死亡者一名。

 

死亡者 巌山峠岬

 

 

 




異聞大正こそこそ小噺

オリキャラは殉職するもの。都合が良いからでは無くコレもフラグの一部だと思おう。重要そうなキャラクターでも容赦なく死んでいくハードな世界観、ソレが鬼滅。むしろ味が増してるのか?まぁ、ソレは良いとして岬さんは此処でオサラバですね。追悼はしっかりしてやるからな…

長ったらしさは作者の悪癖ですが、付き合ってくれる読者の皆様には感謝を。薄々気付いてきた方はいるだろうか?桃晴君に関わるとロクな事にはならない。主人公の運命力が試されてると言えますが主人公は炭治郎なんだぜ。不運に見舞われるのは当たり前だよなぁ?その内黒塗りの高級車とかにもぶつかってくれるのだろうか…


奈落童子の血鬼術はfgoの宝具そのままって感じではありますが、一応オリジナルの血鬼術とか用意してます。出すかは分かりませんが…

桃晴君のまだ未熟な剣の呼吸が少し出てきました。完成度がまだまだ低いこの呼吸も時系列をすっと飛ばしてめちゃくちゃ強くなっていきますのでお楽しみに。fgo大好きなのでドンドン宝具もどき出していきたい。燕返しとか超かっちょ良いし。




ここまでの時系列(簡略版)

桃晴君、12歳で家族全員鬼に殺される
(因みに原作開始10年前)

桃晴君、山柱とお館様に出会う

桃晴君、13歳で鬼殺隊へ入隊

桃晴君、初任務で継子を剥奪される
(多分この位の時に悲鳴嶼さんが柱に)

桃晴君、若干15歳一年で乙に(甲)
(この辺りで義勇の最終選抜)

桃晴君、師と和解

奈落童子に師を殺され覚醒するも敗北

次回
「主人公、遂に柱へ。」


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奈落の様な瞳〜後〜

シリアルな話にしたかった、という話。


「………」

 

ちゅんちゅんと小雀達が鳴く声が聴こえる。

 

意識はハッキリしている。どのくらい寝ていたのか分からないが、身体のあちこちがまだ痛いから、そう時間は経っていないのだろう。

 

目覚めは最悪だ。全て覚えている。

 

また俺は大事な時に間に合わず、

また俺は大切な人を失った。

 

枕に頭を預けながら起き抜けで涙を流す。

動き気力も湧かない。

このまま居なくなってしまいたい。

 

 

「…目覚めたのかい、桃晴」

 

「…耀哉」

 

 

俺は広い一室に寝かされ、開かれた縁側に座布団を敷いて、そこには耀哉がお茶と共に座っていた。

 

 

「…そのままで良いから、良く聞くんだ」

 

 

そう言って耀哉は外を向いていた体を此方に向き直して、いつもと違ってニコニコとした顔を悲しそうに目を伏せながら、俺にあの日の事を詳細に話した。

 

 

「…岬は残念ながら逝ってしまった。その場に居合わせた君は、その様子だと分かっているよね。…良い子だったから、僕も本当に悔しくて、悲しいよ。」

 

「……。」

 

「此処に君を運んだのは岩柱の悲鳴嶼行冥という人物だ。君と上弦の零の間に入って危機を救ってくれた人だよ。覚えているかい?」

 

「…ああ。感謝してる。」

 

「…そうかい。動けるまで回復したら岬の葬儀を行うから、そこで会って礼を言っておくと良い。彼も来る筈だ。…彼は君と岬の仇を討てずに鬼を逃してしまった事を済まなく思っている様子だった。」

 

「…そうか。気にしなくて良いと伝えてくれ。」

 

 

 

「……大丈夫かい、桃晴」

 

 

優しい親友の声が耳に残る。

俺は堪えられなくて声が枯れる。

 

 

「…わ"り"ぃ、…かがや。俺、また、守れながっだ…」

 

「…君は何も悪くないよ、桃晴。誰も何も悪く無い。悪いのは全て鬼舞辻と悪鬼だけだ。」

 

「必ず斃すから…俺が奴らを根絶してやるから…」

 

「…うん。待っているよ。

 だから、…今は傷を癒そうか。」

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

土砂降りの雨の日に、山柱、巌山峠岬の葬儀はひっそりと行われた。

 

しかし何処から耳にしたのか、彼女を知るという人達がぞろぞろと集まり、その葬儀は満席どころか人でごった返しになった。それだけ彼女が慕われていた証だ。

 

残った遺体がしゃれこうべ一つと知るや否や、皆悲嘆に暮れ、鬼に怒りと憎しみを吐き出す者も少なくなかった。

 

 

そんな中、満身創痍で葬儀に参列する俺は、一人の人物に挨拶していた。

 

 

「…悲鳴嶼行冥さん、ですよね。あの時は助けてくれてありがとうございました。」

 

「…済まない。お前達の仇、みすみす逃した。私の失態だ。」

 

「謝らないで下さい。貴方は悪くない。あの時は俺の命を優先してくれたんでしょう?」

 

「…うむ、まだ間に合うと判断したのでな。」

 

 

ありがとうございます、ともう一度俺が言うと、南無阿弥陀仏…と唱え始める行冥さん。この人も師匠と同じ仏門に入っている人なのかな…

 

 

 

所で、と目の前の巨漢が話を切り出す。

 

 

「劔桃晴よ。お前はこの後柱になる逸材だと聞いている。継子を破門にされた事もあった様だが、あの状況で戦意衰えぬお前を見て、私も柱として迎え入れる事に否はない。…あの上弦と思しき鬼にも一太刀浴びせていた実力も大したものだ。傷が癒え次第就任式を執り行うとお館様からも伝えられている。…励むが良い。」

 

「…いや、柱にはまだならない。

 俺は癸からやり直す。」

 

「…何?」

 

「一太刀浴びせたなんて聴こえは良いが俺は負けた。あんたも見たろ、俺がボロボロにされてアイツは飄々としていたのを。ゼロから修行し直して、必ずアイツの頸を刈り飛ばしてやる。」

 

 

ありったけの憎悪と覚悟を乗せてそう宣言する俺を、行冥さんは黙って暫く見つめた後、「…相分かった。お館様にもそう伝えておく。」と言って去って行った。

 

 

 

 

俺は葬儀を途中で抜けて、産屋敷の家に一言「階級を"癸"に戻しておいてくれ」と書き留めて出発した。

 

出発先はもう決まっている。

とある育手のもとだ。

 

なんでも元柱で雷の呼吸有数の遣い手と聞いている。紹介状は無いが人伝に人が良すぎるほど良い好々爺だと聞いているので大丈夫だろう。

 

 

この哀しみと憎悪は胸の内へ。

師匠が目指した夢を継ぎ、

親友が望む世界の柱となるために、

全ての絶望の連鎖を断ち切る刃たらんと、

俺は己の信じる道を征く。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

明治38年5月某日

 

産屋敷の庭先で、柱の就任式が執り行われていた。

 

柱となるのは音柱、雷の呼吸の派生となる今のところ無二の呼吸法の遣い手である。

 

名を宇髄天元。

元忍者の肩書きを持つ抜忍で、産屋敷耀哉が自ら鬼殺隊へ引き抜いた逸材だ。

 

入隊してからというもの、忍として元々鍛え抜かれた肉体と精神を駆使し、たった一年で瞬く間に戦果を挙げ、柱となってしまった。

 

 

「(…リスクが高い職場だとは分かっていたが、柱になるとここまでかよ。柱の定員は十人だったよな?)」

 

 

就任式の最中、天元はそんな事を考えていた。

 

それもその筈。

この場に集まった人間の数は、自分を除いてお館様とそのお付きの奥方と御息女二名に柱が二人、つまり全員で六人。部下の方が少ないとはこれ如何に。

 

現在の柱はこの二人で全てだそうだ。

つい最近も風柱が殉職したそうで、自分もそうならないという保証は何処にも無かった。

 

柱は鬼殺隊の特記戦力であり、もっとも危険な前線へ送られる存在である。生き残る以上の実力を備えていなければ、一瞬でお陀仏、という訳だ。

 

 

「皆も天元の柱就任に異議はあるかい?」

 

「ありません。」

 

「同じく。」

 

 

「…では天元。音柱就任おめでとう。君が居てくれてとても助かっている。その恩に報いるだけのものを私からは僅かばかりの現物でしか出せない事を許しておくれ。」

 

「滅相も御座いません。お館様に置かれましては、そのお身体に気を遣って頂けるのなら何も求めません。」

 

 

世辞を言いつつ、堅苦しい形式を済ませていく。こういった地味な事は趣味ではないが、これでも元忍者。慣れたものだ。

 

 

「…ありがとう。何か欲しいものがあればいつでも何でも言って欲しい。それじゃあ、堅苦しい形式的なものはこの位にしようか。」

 

 

偶に心でも読んでいるのかと思うほど鋭いお館様が、既に飽きていた自分の心境を汲んでくれた様に就任式の終わりを告げる。

 

 

「天元」

 

「は。」

 

「…早速で悪いのだけどね、君に一つお願いがあるんだ。」

 

「なんなりと」

 

「…堅苦しいものではないから安心して欲しい。実は一つ御使いを頼みたくてね、良いかな?」

 

「勿論で御座います(お館様の御使いなんぞ堅苦しいに決まってるだろ…)」

 

 

新人いびりか?とちょっと警戒しつつ天元は返事をすると、ニコニコといつもの笑みを浮かべたお館様がゆっくりと口にする。

 

 

「君と同期の柱になる予定の人物が一人いてね。彼を此処へ連れてきて欲しいんだ。」

 

 

「…はぁ。」

 

「彼の名は劔桃晴。現在空席の風柱に任命する事を、既に君以外の柱とは相談済みだ。今より柱となった君にもその人柄と実力を確かめてもらって、それから此処へ連れて来て欲しい。君にとっても同期の同僚というのは嬉しいものかも知れないよ。…どうだろう、頼めるかな?」

 

「まぁ、お館様の頼みとあらば。…自分としても同期は歓迎です。」

 

とりあえず当たり障りの無い事を言っておく。何となくで引き受けたが、別に人一人連れてくる位どうという事はなかろう。

 

 

 

そして天元は後悔した。

 

 

 

「…良かった。引き受けてくれてありがとう。彼は頑張り屋な良い子なんだけどね、少し頑張り過ぎてしまう癖がある。甲になっていた所を癸に戻してからというもの、また甲まで上がったから、ずっと前から柱に推薦されていたのだけれど、なかなか顔を出さずに困っていたんだ。」

 

 

お館様が困った様に、されど誇らしげにそう言う。すぐ後に聞いた話では自身の無二の親友として交友があり、元継子だという。

 

 

「最近ではもうすぐ討伐数が五百に届くとか。全く、()()()()()()()柱になれと言っているのに聞かんのだ。…面倒臭いと言いよってな。はぁ。」

 

 

ため息を吐く炎柱。

…500?

 

 

「…南無。…上弦との交戦経験のある男だ。実力は申し分ない。実際に目の当たりにしている私が保証しよう。」

 

 

何故か涙を流しながら岩柱が言う。

上弦との交戦経験?

 

 

 

天元は安請け合いをした事を後悔した。

元忍びの自分らしくない。

地味で最悪だ。

厄介事を押し付けられた。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

天元は柱となって最初の任務「劔桃晴をお館様のもとへ連れ帰る」を達成する為にとある山へ向かっていた。

 

お館様より桃晴の次の任務地であり、既に本人が向かっているのだと聞いたからである。

 

劔桃晴とやらは聞いた話だと、昼は鬼殺の現場へ向かい走り、夜は鬼と戦闘するを年から年中繰り返している戦闘狂だという印象だ。

 

階級に拘りは無く、金も名声も女にも欲がないから、お館様様も報酬に困っているそうだ。

 

そういう奴の目的は、鬼殺隊の隊士ならば多分復讐とかそんな所だろう。

 

いよいよヤバい奴なんだろうなという予想をたてて、天元は現場に向かう。スピードには自身がある。何せ忍の脚だ。

 

自分は先に着いてとっとと鬼を斬首し、目的の人物を連れ帰ろうと画策して近くの里に入って藤の家で一旦休憩をとることにする。

 

 

ここの里の藤の家は団子屋だそうだ。偶には甘味も悪くない。

 

暖簾をめくって藤家紋の団子屋に入ろうとした所で中が子供の声で賑わいをみせる光景を目にする。

 

 

「(…子供(ガキ)が多すぎねぇか?んなに人気なのかねぇ、この店)」

 

 

「よーし、一人一本ずつだぞ!ズルしちゃダメだかんなー!」

 

「にーちゃん、団子くれー!」

 

「待て待て女とチビ共からなー。男子は紳士じゃねーとモテねーぞー」

 

「しんしって何ー?」

 

 

キャーキャーワーワーと子供達が賑わいを見せる。大人達はそれを微笑ましそうに眺め、子供達の中心には一人の元服したて位の男子が出来たての団子を配っていた。

 

て言うか隊服着てるしアイツが劔桃晴じゃね?

 

 

「おい、お前。そこの団子配ってる奴。お前が劔桃晴か?」

 

「あちーからゆっくり食えよ、お前ら。…ん、そうだが…あんた誰?その隊服、同業か?」

 

 

子供達に一通り団子を配り終えたタイミングで天元は声を掛ける。分けてやったとかでは無く自分の金でホントに全部配ってるやがった。自分の子供でもなし、なんだコイツ。慈善事業者気取りか?

 

 

「俺ァ音柱の宇髄天元様だ。お館様の命でお前を連れ帰りに来た。この子供(ガキ)共は一体なんだ?」

 

「…柱が一体何の用で、ってアレか。俺はまだ柱はいいって耀哉にも槇寿郎さんにも行冥さんにも伝えてるんだが。このチビ共は俺が勝手に集めて菓子を買ってやっただけだよ。ほれ皆んな、食ったらちゃんとご馳走様して帰って家の手伝いすんだぞー」

 

「「「「「はーい」」」」」

 

「…んだそりゃ。つーかちゃんと着いてきて貰うぜ。こちとらお館様から直々の任務、しかも柱の初任務だ。失敗出来ん。」

 

「知らねぇよ…耀哉(あいつ)の事だからそんな事で怒んねぇよ。他の柱も俺の事知ってるから同様だ。帰んな、俺はこれから討伐任務だ。」

 

「ああん?手前ぇ…地味に柱の命令をシカトする気か?」

 

「なったばっかなんだろ?偉そうにすんな。」

 

 

先程まで子供(ガキ)共に向けていた慈愛の態度とは打って変わって生意気な態度をとる桃晴に天元はカチンとくる。

 

 

「…手前ぇ、こちとら引き摺ってでも連れて来いとの仰せだ。なんだったら派手にボコボコにして連れてっても良いんだぜ。」

 

「はっ、やってみな。」

 

 

はい殺す。

 

 

「…おい、表に出な。俺様にケンカ売った事を派手に後悔させてやる。」

 

「上等、ギラギラ悪趣味な格好しやがって。これで弱かったら爆笑してやらぁ。」

 

 

流石ににこの場で抜刀する訳にはいかない。バチバチとお互いに血走った目でガンを飛ばし合いながら団子屋を出る似た者同士の男二人組がそこにはあったという。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「…や、やるじゃねぇか」ゼェゼェ

 

「…お、お前こそ」ハァハァ

 

 

日が傾き夕方頃。

山の麓の人通りのない広場で、あちこちに破壊痕と斬り刻まれた傷跡が目立つ。

 

 

かたや轟音を響かせながら爆発を、

かたや様々な呼吸を混じえて斬撃を、

 

 

馬鹿二人が午前中からずっとこの場で休みなく激闘を繰り広げた結果である。

 

 

ヘロヘロになって遂に倒れた二人の中に勝者はなく、両者の中には互いを認め合う友情が芽生え始めていた。

 

 

大地に二人して寝転がり、沈む夕日を眺めるながら体力回復に努める。心地よい風が辺りを包む。

 

息も整った頃合いで、静寂を切り裂く様に天元が話を切り出す。

 

 

「…そういやなんでお前、なんで地味に階級をやり直してたんだ?お館様や悲鳴嶼、煉獄の旦那に訊いても本人に聞けと言っていてな。」

 

 

俺は元忍だからコッソリ調べても良かったが、何となくお前の口から聞いとこうと思ってよ。

 

両手を枕にして、桃晴の方を見ずに夕日を観ながら思った事を口にする。この男に今更気遣いなど不要だと天元は判断し、直球の疑問を呈する。

 

 

「…鬼に負けたからだ、上弦の零に。甲になったその日に、それはもう完膚なきまでにボロボロにされた。…奥の手まで使ったのにな。…恩師も殺されて、行冥さんに助けられてなきゃ多分俺も死んでた。だから癸からやり直す事にした、それだけだ。」

 

「ふーん」

 

「ふーん、て。聞いといてなんだよその感想。」

 

「いや、意外とつまんねぇ理由だなって。元継子ってのもその恩師の事か?」

 

「…そうだけど、継子が"元"になったのは俺が命令違反したからだよ。」

 

「ハハハハハ!そっちの方が面白ぇじゃねぇか!何だお前生意気で捻くれてるのは元からかよ。"元"継子だけに!」

 

「失礼な奴だなお前…疲れてなきゃぶん殴ってる所だ。」

 

「はんっ、もう一戦やっても良いんだぜ」

 

「やんねーよ。これから任務なんだから」

 

「ああ、そういやそうだっけか。」

 

「て訳でここでお別れだな。じゃあな、天元。もう会わねぇだろうが鍛錬としちゃ悪くない時間だったぜ。」

 

「じゃあな、じゃねぇ。俺が来た意味忘れたか?お前を連れて帰るっつったろ。俺も任務に同行して、終わったら一緒にお館様のもとへ向かうぞ。どさくさ紛れに逃げようとすんじゃねぇ。」

 

「ちっ、バレたか。じゃこうしよう。二手に分かれて捜索だ。その方が早く終わる。」

 

「する訳ねぇだろ。お前終わり次第逃げるつもりだろうが。」

 

「んだよ、ストーカーかお前。」

 

「俺はノーマルだボケ。男のストーカーなんぞ御免被る。」

 

 

「ああ?」

 

「なんだよ?」

 

 

バチバチとまたしてもガンの付け合いが始まる。

 

決着の付け方はすぐに決まった。

 

 

 

 

 

夜。それは鬼の活動時刻。

日中は暗闇に潜む悪食は今日も主食の人間の血肉を求めて人里に降りようと山を進んでいた。

 

 

「ゲヘヘ、さぁて今日はどんなニクに出会えるかなぁ。ゲヘヘヘヘへ。ん?」

 

ドドドドドドという音が近づいてくる。鬼が振り返ると凄まじい形相の二人組の男が物凄い速度で此方に走って来ている音だった。

 

 

「どりゃあああああああ」

「死ねぇえええええええ」

 

 

ズババァ

ドカンッ

 

鬼は断末魔をあげる暇もなく呆気なく灰となって死んでしまった。無念。

 

 

「はい俺が斬った!俺の方が速かった!トドメ刺したのは俺!俺の勝ち!」

 

「馬鹿言うな俺の方がド派手に速かったに決まってんだろ!節穴か?派手に俺の勝ちだ!大人しく負けを認めやがれ!」

 

 

「はぁ?」

 

「ああん?」

 

 

 

 

 

 

 

結局二人の決着はつかず。

 

耀哉のもとへ帰ってきたのは翌日になってから。迎えに行った悲鳴嶼行冥に朝になっても勝負していた所を纏めて拳で解らされ、二人してふん縛られて引き摺り出されたとさ。

 

 

あ、あと桃晴はその日に"風柱"になりましたとさ。

 

 




異聞大正こそこそ小噺

久しぶり!作者のてーけー。だよ。済まんな、桃晴君を剣柱にするにはもう少しかかるんだ。というわけで天元さん初登場だよ。炎柱の槇寿郎さんも都合上出てきたね(あとの登場予定は無いんだけどね)。天元さんは桃晴君と同期の柱だよ。最終的には悲鳴嶼さんの次に古株になる予定なんだ。仲良くして欲しいね。天元が柱になったのが原作ではいつなのか分からないけれど、この作品では原作開始の7年前という事になってるよ。よろしくね。

次回
「胡蝶の夢」


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間話休題

〜産屋敷邸〜

 

 

 

庭先に満開の藤の花が薫る縁側。

綺麗に並んだ白い庭石との対比が美しい。

池には錦鯉が悠々と泳ぎ、水のせせらぎと鹿威し(ししおどし)の軽く響く音が心地良い。

 

麗しい男女が一組散歩をしている。

 

 

「…鎹鴉から報告は聞いているよ。

 …岬のことは残念だった。」

 

「…山柱様は4年間も柱を務めた古株(ベテラン)。五代流派の一つである岩の呼吸の遣い手として、かつてない程の活躍でした。元十字教の巫女(シスター)としても学があり、寺子屋で教師も兼任してくれて。産まれたばかりのひなき達にも、本当によくして頂いていました…」

 

 

「そうだね。ひなき、にちか、輝利哉、くいな、かなた。五つ子達の名前を共に考えてくれた恩は忘れ難い。」

 

 

それと、と耀哉は続ける。

 

ここからが本題という様に。

 

 

「唯の戦死じゃない。彼女は鬼殺隊として大きな成果を挙げたよ、あまね。」

 

「ええ。上弦の鬼。出現したのは記録上では実に数百年ぶりでしょうか。それも上弦の零、奈落童子。」

 

 

 

「ああ、だがそれよりもだよ、あまね。彼女の最大の成果は、上弦が撤退する程の傷を残す隊士を、鬼殺隊(ここ)へ導いてくれた事だ。」

 

「…桃晴様、ですね。」

 

 

劔桃晴。

今年15になる新進気鋭の鬼殺隊隊士。

産屋敷耀哉無二の親友。

産屋敷に拾われてからというもの、一所懸命な努力と史上類を見ない呼吸の才で、基本となる五流派全ての呼吸法を僅か一年で修めた鬼才(この言葉はあまり使いたく無いが)。

山柱の元継子で、現役だった彼女直々に鍛え上げられた原石。

最近では新たな呼吸法を独自開発しているらしく、その完成形が待ち遠しい。

 

確実に鬼殺隊の新たな光となってくれる存在である。

 

 

「そうだっ!やはり彼は特別だ!全ての派生の呼吸を使いこなすという時点で普通では無いと気付いていたが、まさかここまでとはっ!ああ、ありがとう、よくやった桃晴!やはり君は鬼殺隊の希望となる剣士だ!…っ、ぐっうぅ…」

 

 

朝日に手を伸ばし、後ろ一歩を歩く自らの妻へ興奮気味に語る耀哉は、言い終わるとゲホゲホと血の混じる咳をする。

 

すぐに妻が駆け寄り、背中をさする。

 

 

鬼舞辻の呪いは依然変わりなく彼の身体を蝕み続けている。最近では遂に額に呪いの証が侵食し、その命散らす日が確実に近づいている事を如実に表すかの様だった。

 

 

「…あなた、お身体に障りますのでこれ以上は興奮なさらないで下さいまし。」

 

「…ハァハァ、ふふ、これが興奮せずにいられるものか。相手は上弦の零だった。最も鬼舞辻に近い鬼だ。つまり証明は出来た。私の子供達の刃はあの鬼舞辻に届くとね。」

 

 

約1000年。

これは予兆だ。

その時が遂に来たと、

興奮冷めやらぬ様子で耀哉は言う。

 

 

「…しかし桃晴様が上弦の零に付けた傷が再生していなかったと、岩柱様が直接伝えに来られたとか。…一体どういう事なのでしょうか。」

 

 

桃晴の付けた傷が回復しなかった、

という岩柱悲鳴嶼行冥の報告。

間違いなく事実なのだろうが、それはあの鬼の方に問題があったのか。

 

否、と耀哉は思い、あまねに自身の見解を伝える。

 

 

「…上弦の零、奈落童子が去る前に〈特に左の眼は潰さぬようしっかり治療しておけ〉と言い残したらしい。…これは桃晴の左眼に何かあると見ていいだろう。」

 

 

敵の言葉を真に受けるつもりではないけどね。

と付け加えておく。

 

 

「…彼の傷が癒え次第、呼び出して聞き出しましょうか?」

 

「…いや、まだだ。まだその時ではない気がする。…それに彼と私は親友だ。彼の大事な事は彼の口から直接聞きたい。私は桃晴を信じる。」

 

 

吐血した血を拭って答える耀哉。

自信と確信に満ちた回答で迷いは無いと言った感じだ。

 

 

「承知しました。この事は内密に致しましょう。」

 

「いつもありがとう、あまね。」

 

「いつでも頼って下さいね、あなた。」

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

時は遡り明治三十某年。

 

 

「岬さん!見てください。私の階級もう(つちのえ)まで上がったのよ!岬様のおかげね!」

 

(わたくし)のお陰ではありません。貴女が頑張っているからですよ、カナエ。」

 

「ウフフ、ありがとう岬さん。見て、しのぶも(かのと)になったの!しのぶもとっても頑張ったのよ!」

 

「…やめてください姉さん。姉さんと比べられたら私なんて…」

 

「あら、比べてなんてないわ。しのぶは他の隊士より非力だけと、それでも鬼を倒せる工夫をしているじゃない。それってしのぶがとっても努力した証よ?」

 

「そうですよ、しのぶ。最近になって突きをメインにした技で構成した独自の呼吸法を研究しているとか。貴女達の研鑽も成果も、柱やお館様の耳にキチンと入っています。(わたくし)にとっても鼻が高いです。」ナデナデ

 

「…あ、頭を撫でないで下さい。恥ずかしいです。」

 

「ウフフ、しのぶは可愛いわねぇ。私も撫でちゃおー」ナデナデ

 

「も、もう姉さんまでっ!」

 

 

女三人集まれば姦しいとはよく言ったものだが、そこにある光景は男達にとって悩ましいまでに美しかった。

 

麗しの美人と可憐な美少女が二人。

 

 

 

「…桃晴も貴女達みたいに可愛げがあれば良いんですがね。どうしてああも捻くれてしまったのでしょう。」

 

「岬さんたらまたその人の話?いい加減仲直り出来ないの?というか、命令違反で継子を剥奪されたのは向こうの落ち度じゃない。岬さんがそこまで気にする事かしら?」

 

 

頭を振って岬は答える。

 

 

「いえ、(わたくし)は別に継子の件を気にしているとか怒っている訳では無いのです。…ただ、あの時言い過ぎてしまったのなら謝りたい、というか…」

 

 

「以前までの様な関係性に戻りたいのよね?岬さん。」

 

分かっているわ。とカナエが言う。

 

「…ええ。師弟だった頃の様に、私が(たしな)めて、あの子が口答えして、仲良く喧嘩して。…そういう関係に、戻りたいのです。…あの子が嫌なら、無理強いはしませんが。」

 

「岬さん…」

 

「ウフフ、きっと彼もそう思っているわ!会う事さえ出来れば必ず仲直り出来ると思うの。今は少しすれ違っているだけよ。」

 

カナエが胸に手を当ててそう言ってくれる。

 

しのぶも同じ考えの様で、私の腕に触れて慰めてくれる。

 

 

本当に良い子達だ。美人で気立ても良いなどと、もう少しあの子にも見習って欲しいくらいに。

 

 

ありがとうございます。と岬は二人に感謝を告げると、カナエは安心して話題を広げる。

 

 

「その内私達にも紹介して下さいね。桃晴君、岬さんのお弟子だったんだもの、きっと私達とも仲良くなれるわ。」

 

 

私達も岬さんの寺子屋の生徒だったのだし、兄妹弟子の関係になるのかしら。

 

なんて口にするのを、少し微妙な表情で岬は返す。

 

 

「あーはは、…ど、どうでしょうね。紹介する事はやぶさかではありませんが、仲良くなれるかは保証しかねます…」

 

 

カナエから目を逸らす岬に、今度はしのぶが疑問を投げ掛ける。

 

 

「?岬さんにしては歯切れが悪いですね。根はとても良い子で優しい子だといつも他の生徒にも自慢しているじゃないですか。」

 

「う、うーん、あの子少々皮肉屋な所がありまして。年下の子供達には良いお兄さんであろうとするのですが、逆に同年代と年上には本当に素直じゃないというか。今歳は15を迎えてしのぶには優しいでしょうが、カナエには生意気に映るかも…」

 

「それ唯の思春期では…?」

 

(わたくし)と出会った当初からそんな感じで…性根を矯正しようとしたのが逆に良くなかったのかも知れません。カナエ、本当は良い子なので仲良くしてあげて下さいね?」

 

「ウフフ、もちろん。任せてくださいな、岬さん。」

 

 




異聞大正こそこそ小噺

さて一方、この時期に錆兎くんが死んでしまう最終選別が行われていたよ。桃晴くんとは会うキッカケも無いしここはスルー。ファンの人達にはすまん。というか義勇的には錆兎が生き残ったら水柱になってたんだろうか。

閑話休題ならぬ間話休題という事で、ちょっと桃晴君とヒロインの初邂逅は次回へ持ち越し。すまん。

胡蝶姉妹は実は岬さんの寺子屋の生徒だったという話も盛り込んでおります。岬さんが寺子屋開いてたのも初出しなんですが。寺子屋開いてたというよりは、産屋敷家に頼んで孤児院の様なものを開いておりました。そこで元々教会で教養を学んでいたシスターだった経験を活かして教師をしていた、という設定です。柱なので忙しいですから、臨時講師的立場ですが。勿論生徒からは慕われていました。孤児院の子供達は成長すると藤の家紋のお店へ働きに出たり、鬼殺隊に入隊したり行先は様々です。この孤児院が後の蝶屋敷となるという裏設定もあったりします。


では今回はここまでということで。


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早春開花〜上〜

春が来る話。


 

産屋敷邸に居候している身だが俺がそこに居る時間は隊士となった日からというもの、あまりにも少ない。

 

癸の初任務で今は亡き山柱と喧嘩別れで全国の藤の家を転々としながら鬼狩りに精を出し、彼女の葬儀の後も同じ様な生活を続けて、あれよあれよの間に柱になってしまった。

 

柱も柱で激務で知られており、なかなか帰ってくる暇などない。普段からあまり家に居付く性格でも無いが。

 

 

俺は現お館様の耀哉を含めた柱との談合、所謂、柱会会議にて遊撃隊という名目で、これまで通り全国鬼狩りツアーの立場を勝ち取った(大反対を受けたが耀哉の鶴の一声により事なきを得た)。

 

俺は耀哉の劔となる約束だ。あいつの刃を全ての鬼共の喉元を突き立てるのが俺の役目。これでいい。

 

 

まぁ、何が言いたいかと言うと、産屋敷家の周辺を巡回し警護する事を第一任務として近くを拠点としている他の柱ではなく、俺がわざわざ呼ばれるにはそれなりの理由がある。多分。

 

 

 

「近々柱になる隊士の昇格試験って事か?」

 

「うん。その隊士は今(ひのえ)なんだけどね。水の派生の呼吸を使う隊士で、とても強い。ここまで大きな問題もなくトントン拍子で階級を上げている期待の新人だ。」

 

「…俺が問題児だったこと弄ってくるなよ。ちゃんと自覚してる。」

 

 

唐突に悪態を突かれて口を尖らせる俺をまあまあ、と耀哉が宥める。お前が弄ってきたんだろ。

 

 

「今報告に挙がっている鬼の出現場所は此処から遠いが、どうやら下弦の鬼でね。君も知っての通り他の柱はここら辺を守ってくれている。そこで君にその子が無事に下弦を討伐する面倒を見て欲しいと言った所だ。」

 

 

私を守る必要はないと散々説いているのにね。と付け加えるが、あの人達の言い分も分かる。鬼殺隊にとってお館様という指標は重要だし、何よりお前の人徳で鬼殺隊が成り立ってる所もある。近くで護りたくもなるだろ。

 

 

「…それにしても、何というかちょっと過保護な気がするが。俺や柱が同行しなきゃいけない案件か?ソイツ強いんだろ?柱に推薦される位だし。」

 

「問題は無いだろうが、目的は君に会わせるためだよ。」

 

「んん?どういうこった?」

 

「…お館様、そろそろお時間です。次が迫っております。」

 

「…ああ、今行くよ、あまね。どうだろう、頼めるかな桃晴?」

 

 

食い気味に急かす耀哉。なんだからしくない。あまねさんもだ。お館様が忙しいのは知っているが、今日は特に急ぎの用でもあるのかね。

 

 

「…いやお前の頼みなら断る事ねーけどよ。了解、行ってくる。危なくなったら俺が代わりに討伐してくるから安心しな。」

 

「…いつもありがとう桃晴。それじゃあ頼んだよ。」

 

「おう。お前も無理すんじゃねーぞ。」

 

 

任務は受了した。少し気になる所はあるが特に問題なく終わるだろう。俺は一足先に後輩となる柱候補の顔を拝むとしますかね。

 

 

 

 

 

 

「…上手くいきましたね、あなた。」

 

「…ああ、助太刀ありがとう、あまね。」

 

「いえ。あの子達にとって良い刺激になると良いですね。」

 

「…少し性急過ぎたかな。」

 

「今が最良かと。彼女もこの後柱になるのですし、顔合わせは遅いか早いかだけの違い。早く打ち解けてもらった方が宜しいでしょう。」

 

「うん、そうだね。…僕はお似合いだと思うけど、あまねはどう思う?」

 

「私も同意見です。彼女にその気があるか次第ですが、桃晴様の好みの女性はどう考えても岬様…いえ、年上好き…いえ、あの方は尻に敷かれる位が丁度良いでしょう。」

 

「(言葉を選んでそれかぁ…)桃晴驚くだろうなぁ、ふふ。」

 

「ふふふ。(桃晴様(お友達)に会うとついつい意地悪になってしまうこの方の癖は微笑ましいわ…)」

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

〜鬼殺へ向かう列車の中〜

 

 

「…………」

 

「……」

 

「…あの、お茶菓子があるのだけど、食べます?」

 

「…いや、いい。お前達で食え。」

 

 

対面する形で座席に座る俺達。

 

何で真正面に座ってしまったんだ、俺。

 

正直こうなるとは考えて無かった俺は、馬鹿正直に鎹鳩の旭丸から伝えられた通りの打ち合わせ場所、この座席へ導かれるままに座って待っていた。

 

するとそこへやってきた美少女二人組。

歳は離れているが姉妹だろうか。よく似た顔付きのとびきりの別嬪が、こちらへ座るなり挨拶をかましてきた。

 

 

「お早うございます。本日お世話になる胡蝶カナエです。隣りに居るのは私の妹、しのぶです。本当は私の単独任務だったけれど、しのぶもきっと強くなるから今のうちに下弦並みの鬼を体験させておきたくて同行を勝手に許可しました。…いけなかったでしょうか?」

 

「お早う御座います、同行致します胡蝶しのぶです。姉が危なっかしいので着いてくる事にしました。」

 

「もうっ、しのぶったら心配ないって言ってるのに…鬼殺隊の先輩としても姉としても、いつまで経っても敬ってくれないんだから…」

 

「敬ってほしいならそれなりの行動で示して下さい。駅前でお茶菓子選びに夢中になって乗り遅れそうになったのは何処のどなたですか…」

 

「えへへ…」

 

 

 

ホワホワした姉とキチッとした妹。

 

どうやら性格は真反対。

 

 

いや、そんなことより俺は余りの美形に戸惑って声すら出せず固まってしまっていた。目も合わせられず、ギギギと錆びついたカラクリみたく顔を車窓に向けて黙りこんでしまう。

 

 

「(おいィ!耀哉ァ!女の子(おなご)ならそう伝えとけっ!え、何、この(ナリ)で柱になるのこの娘!?どんだけ鬼殺隊人材不足なんだよ!隊士の年齢若い子多いけどさ!)………」

 

「…あの、何か失礼でもしたでしょうか」

 

「…(この反応…もしかして)姉さん、風柱は姉さんの美貌に見惚れてるんですよ。」

 

「え、ええ?そうかしら。完全に目を逸らされてるけど…」

 

「間違いありません。初対面でこの反応の仕方はあの寺子屋での思春期の男子そのものです。…姉さんに変な事したら許しませんからね。」

 

「ちょ、ちょっとしのぶ、失礼よ!…御免なさいね、風柱様。この子私の事になると少し過激で…」

 

「姉さんもいい加減自分が美人だと自覚してください!無邪気に笑顔を振りまくからあちこちから縁談持ち込まれて、逐一断る身にもなって下さい!」

 

 

妹に警戒されてしまった。

俺なんかはしのぶちゃんも確実に美人の類いだと思うが。具体的にはあと四つか五つ歳取れば絵巻物に描かれるレベルで。いや、そういう目では決して見ないだろうが。

 

 

いかん、話題に困る。美人ですねと正直に話したら楽になるだろうか。でも妹に警戒されてるし。しかし全く喋らないのも変な奴だ。俺は別に最近水柱になった義勇みたいなコミュ障やらではない。

 

そういえばその妹のしのぶちゃんが少し気になる言葉を口にしていたな。

 

 

「…寺子屋。」

 

「…あ!はい。私達、両親を亡くして産屋敷の孤児院に拾われたんですが、そこで山柱の巌山峠岬様の生徒だったんですよ。」

 

「風柱様とお会いするのは葬儀の時以来で、あの時は話しかけられる雰囲気でもなく…でも、不思議な縁もあるものですね。こうしてお会い出来るとは思ってもいませんでした。」

 

「ホントねぇ。二人共々これからよろしくお願いしますね。」ニコッ

 

 

笑顔が素敵ですね。

 

 

「(…いや違う違う!)…そうか、師匠の。遅れたが風柱の劔桃晴だ。好きに呼んでくれ。」

 

何とかつんのめる事なく挨拶を終えた俺は、どうやらこれからこの美人姉妹と列車に揺られながら目的の村へ向かうことになるらしい。

 

ある意味前途多難な鬼殺が始まろうとしていた。

 

 

「(取り敢えずは目を慣らすことからだな…)」

 

「(…良かった。岬さんの言う通り、怖い人じゃなかったわね。仲良く出来ると良いな。)」

 

「(邪な視線…では無い様な、でもやっぱりチラチラ姉さんをエロい目で視てる様な…)」

 

 




異聞大正こそこそ小噺

十何話にして漸くヒロインが登場する二次小説とは。大概牛歩ですがお付き合い頂きありがとうございます、てーけー。です。

この人っていつ柱になったんだろう、とかこの出来事っていつ起きたんだろうとか考えながら書くとゲシュタルト崩壊起こして一から洗い直して結局崩壊するを繰り返してます。

この小説では数え歳と誕生日を都合良く解釈する事で時系列の矛盾を出来るだけ少なくする小賢しい工夫をしています。季節とか考慮するんじゃないっ!頭で読むな、心で感じろ!それでもダメなら感想でダメ出ししな!(ステマ)

ここからどんどん原作キャラが出てくる予定なのでようやっと読者が楽しめるくらいになるかと思われます。オリジナル展開と設定はたんまりあるけど。

巷では鬼滅の2期が始まりますね。楽しみです。皆の推しは、何処から?私は音から!宇髄さんのカッコいい所いっぱい観たいと思います!ufoなら神作画間違いなしなんだよなぁ。ようつべでのMADとかまた流行んだろなぁ。オラワクワクすっぞ。

今回の小噺として今作品の鬼殺隊の序列、階級の上がり方について今更まとめときますね。

癸→壬→辛→庚まで
1年間生き残ることで自動的に繰り上がるものとする。(癸でも現在の価値で月20万円と現代社会と当時の物価的にそこそこ高給職ではある鬼殺隊だが、その死亡率は凄まじい。特に初任務の殉職率はズバ抜けて高い)

庚→己→戊→丁まで
低難易度の任務を3回以上こなす事でその功績に応じて振り分けられる。この頃はまだ合同任務の数は多い。

丁→丙→乙まで
継子又は才能を見込まれる隊士で、単独任務や応援に呼ばれることが多くなる。その功績によって振り分けられる。


既に柱になるだけの能力を持っていると見込まれた者に与えられる。功績さえ揃えばすぐに柱へ推薦される。(殆どの場合、甲に上がる隊士は既に鬼を50体以上倒しているか下弦の鬼を討伐しているケースが多い。大体上がって1週間以内に柱へ昇格する。柱は10人分しか席が無いが、今作においては全ての席が埋まったのは無一郎の時が初めて。)


今回はちょっと短め。次回はもう少し長いです(作者が嘘つきなのはご存知か?)。タイトル詐欺も何回目。気にせず行きたいと思います。カナエの下弦討伐、戦闘描写あった方がいいかねぇ。

次回
「胡蝶の夢〜②〜」


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早春開花〜下〜

捻くれ者には年上が似合う、という話


ガタゴトと揺れる列車。蒸気機関の仕組みは良くは知らないが、意外と煙突から出る黒煙が窓から入ってくる事はなく、車内は快適だった。俺は初めて見る列車にその車内や車窓から観る景色を堪能していると、幼い子供みたいだと笑われてしまった。恥ずかしい。

 

今日まで列車など乗ったことがないので興奮してしまったと正直に告げると、二人して顔を見合わせた後、じゃあ今まで任務にどうやって向かって来たのかと問われる。柱になる前でも遠出の任務はあるだろう、と。

 

そんなの歩いたり走ったりに決まっている。

 

日ノ本は世界的に見れば小さい部類に入る国だ。北から南(現在の青森〜鹿児島)までだいたい直線500里(約2000km)位なんだから、十日もあれば何処でも着く、と答えると何故かドン引きしていた。

 

 

「おすすめだぞ。足腰鍛えられるし、警邏にしょっ引かれそうになったらそのまま日輪刀(持つモン)持って逃げられるし。」

 

「…普通の人間は一日50里も歩けません。」

 

「無理しちゃダメよ。」

 

「無理してない。あと普通の人間だよ。慣れの問題じゃねぇか?んな事で大丈夫かよ。妹ちゃんは兎も角、あんたは柱候補なんだぜ。」

 

 

俺は柱を舐めてると痛い目を見るぞ、と同じ柱となる彼女へ忠告しておく。ただの善意のつもりで。

 

 

「柱は激務だ。俺は遊撃隊として全国回っているが、そうでなくともお館様の警護に、合同任務では甲以下への指示献策、緊急任務に緊急出動。それでいて自分の鍛錬を欠かせば呆気なく死ぬ環境。確実に今までとは別格の仕事量になる。そんな華奢な身体で出来るかね。」

 

 

ヤバい、最後の一言は余計だった。

緊張からか、口数を増やそうとし過ぎて失敗してしまった。

 

すかさずしのぶちゃんに突っ込まれてしまう。

 

 

「華奢かどうかは関係ないでしょう!姉さんの活躍を見てもいない癖にっ」

 

 

しのぶちゃんの大声で列車の中に居る人達が驚いてしまう。俺もちょっとチビりかけた。

 

 

「しのぶ」

 

 

憤るしのぶを目を閉じたカナエがそれを止める。

 

 

「…ありがとうございます。今のは貴方なりの激励、なんですよね?ウフフ、それはそれとして真摯に受け止めておきます♪…でも、

 

女の子にそんな態度は減点ですよ。」

 

 

 

 

 

"全く、貴方はもう少し女性の扱いを学ばなければなりませんね。"

 

 

 

 

 

「……すまん。知った風な事言った。」

 

「ウフフ、はい。…しのぶも。」

 

「…すみません。柱の方に向かって生意気な口を利きました」

 

 

そんな風に言われてしまってはこちらとしては謝る他ない。自分で言い過ぎだと思ったしな。

 

彼女の一言で列車内はまた安寧を取り戻す。俺達も周りの人に会釈して謝り、一先ず落ち着いた。

 

 

「ウフフ、それにしても意外とお喋りさんなのね、桃晴君って。最初は寡黙な人なのかと思ってたわ。…どうして初めは黙っていたの?」

 

「…いや、別にお喋りでもないが。…黙ってたのは少し人見知りなだけで」

 

「姉さんに見惚れてたんですよね?」

 

「あらそうなの?困っちゃうわ、ウフフ」

 

「違うっての。勝手に決めつけんな。」

 

 

良かった。話す内に心臓がバクバクいってたのも収まって、彼女の美貌にも目が慣れてきた。緊張も解けていつもの俺らしくなってきたと思う。

 

 

お館様(耀哉)から任務の件は聞いてるよな。今回の相手は下弦の可能性が高い。油断なく取り掛かれ。危ないと判断したら俺が代わりに頸を斬る。いいな。」

 

 

取り敢えず話題を変えようと俺は今回の任務の話を切り出す。

 

 

「ええ。今回は私の甲昇格も兼ねた大事な試練でもあります。油断は禁物と心得ているわ。」

 

「私もお手伝いしても構いませんか?折角ここまで来ましたし、今の私がどれだけ出来るのか試すつもりです。あと、個人的に私は"毒"を使った鬼狩りも研究しているんです。サンプルは多いに越した事はないので…」

 

「良いぞ。別にトドメを刺すのが誰かなんてどうでも良い。柱だからと単騎の戦闘能力に特化しなきゃいけない訳ではないと俺は考えてる。"毒"とやらもそうだ。何を使ったっていい、鬼を殺さればそれで。」

 

 

俺は俺の考えを口にする。俺にも因縁ある相手が居るがそれはそれ。この二人は姉妹だし、これからも同じ任務を受ける場合はあるだろう。

 

 

「…あの」

 

 

歯切れ悪くカナエが俺に伺いをたてる。

 

 

「姉さん、止めた方が良いです…相手は下弦なんですよ?」

 

 

しのぶはカナエが何か言う前に止めようとする。一体何だと言うのか。

 

 

「…鬼を討伐する前に、その鬼か悪い鬼なのかどうかだけでも、私に確認する猶予をくれませんか」

 

 

その言葉を聞いた途端、急速に自分の中の熱が冷めていく感覚を覚えた。

 

鬼殺隊になんて入隊しておいて、

そんな事が言う奴が居るとは。

 

いやそんな事より、コイツはあの人の死を見て、まだそんな事が言えるのか。

 

 

 

 

 

「悪りぃが前言撤回だ。そんな考えじゃすぐに死ぬ。あんたこの仕事向いてねぇよ。辞めた方が良い。」

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「何ですかあの人は!失礼な人!」

 

「…しのぶ、そんなに怒らないで。あの人にもあの人なりの考えがあるのよ。今回はそこに無神経に踏み込んだ私が悪いわ。」

 

 

目的地の最寄り駅。

此処からは歩きで村へ向かう。

 

カナエとしのぶは駅のホームで荷物を確認しながら二人話合っていた。

 

手荷物すら無い桃晴は既に駅員に切符を渡し、さっさと村へ向かってしまった。

 

 

「姉さんも姉さんですが、何もあんな言い方しなくても良いじゃないっ」

 

憤慨するしのぶは風柱が目の前にいない事をいいことに悪態をつきまくる。カナエはそれを宥める形で共に鬼の出る村へ出発した。

 

 

「…桃晴君はあの優しい岬さんを目の前で失っているのだもの。鬼に対して憎しみの感情を抱いているという事は分かっていたことだわ。…私が悪いのよ」

 

「だからって他人の職業にまで口出しする権利は無いと思うわ!実績だって姉さんは今丙だし、もうすぐ甲になって、柱になるまでの成果を挙げているのよ?」

 

「それとこれとはまた別なんでしょう。彼が怒ったのは私が鬼に慈悲を向けるからなんでしょうし…」

 

 

鬼と和解し、互いに幸せになれる世界を望む。それが胡蝶カナエの願いであり、最終目標。こんな考えが少数派なのは知っているし、通用する程鬼殺の現場は甘くないという事は重々承知している。

 

だが、カナエに諦めるつもりはない。

彼女にとって鬼殺隊に入隊した目的であり、恩師である岬にも影響を受けた思想。元々人間だった鬼も含めて、全ての人に救済を。

 

理解し(わかり)合うには多くの時間を必要とするだろうが、それでもカナエは諦めきれずにいた。

 

いつか。その日がきっと来る。

 

自分のこの考えに賛同してくれる人がきっと現れてくれる。自分のこの考えを継いでくれる人がきっと居るはず。

 

この思いを絶やさない限り。

 

 

まずは同じ恩師を持つ風柱からだと思ったが、道のりは険しそうだ。

 

 

取り敢えずは村へ向かおう。

任務を放棄する訳には行かない。

 

 

麗しい二人組は手荷物を纏めて目的の村にある藤の家に向かうのだった。

 

 

 

 




異聞大正こそこそ小噺

やぁ皆久しぶり。序盤のヒロイン回ってどうしても喧嘩しがちだよね。分かり合えない部分が際立って、時間が経つにつれて徐々に相手の事を理解していく。人間関係ってそういうものです。うーん、王道。鬼?鬼とは理解し合えません。あくまで人間関係だから。奈落童子ヒロインにしろって僕のゴーストが囁くけどそんな事にはならねぇよ、馬鹿か僕。酒呑童子は恋も愛持ちえないし、情緒は捩じくれてんだよ、金時だから耐えられるんだ!(過激派)え?奈落童子と酒呑童子は別モノだろって?そこがミソなんだなぁ。(適当)

今回乗った列車は勿論だけど無限列車じゃない、普通の列車だよ。警戒したニキ、ここじゃ鬼は出ねぇよ。ちゃんと村で端役になるから安心しな。

うん、そんなんだ。今回も短め。ごめんね。長くなる、時間が取れない、筆が進まないの3拍子だから更新エタらないようにだけ気をつけてるんだ。

何度でも言うけれど、この作品では戦闘描写は各自の脳内で補って欲しいな。原作並みの白熱を求められても困るからね!心理描写とか伝えたい所を作者が勝手に書くオ●ニー作品だし多少はね?と言う事で次回に続きます。

次回
「胡蝶の夢〜③〜」



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