X世(デーチモ)と哿(エネイブル) (凧の糸)
しおりを挟む

武偵高来る!

 アニメリボーンの一気見をして、久々にすげー、かっけーとなってました。基本的には漫画よりもアニメの方に比重が大きくなるかも。


 

「え!!武偵高校に転校!?」

 リボーンはいつもいつも突拍子の無いことを言う奴だが、学校まで転校させると言うとは思っていなかった。

 

「そうだぞ、ツナ。お前はネオ・ボンゴレ1世を継ぐには今までと違った経験をする必要があるんだぞ」

 

「でっ、でも!並高は?」

 

「ほら、転校届は出しといてやったぞ」

 書類には確かに並高の印鑑が押印されていた。ツナは自分の目を疑ったが、何度見ても『都立並盛高校から、東京武偵高校への転入を認める』としか書かれていない。顔はあっという間に真っ青になった。

 

 

「うわーーーーー!!!俺、絶対死んじゃうよーーー!!!」

 

「うるせえ」

 リボーンの踵が頭に入る。アルコバレーノ()の呪いが解けてから、彼らは少しずつ成長していた。あれから二年ほど経ち、二頭身の体は三頭身ほどに伸びている。勿論それは、蹴りにも体重が更に乗るようになった事をも意味する。要するに前よりもめちゃくちゃ痛い。

 

 

「ツっく〜ん、ちょっと来てぇ〜!」

 母さんだ。ツナは痛みが引くのを必死に待っているので、正直勝手にやってくれよ、と思ったが、目の前のリボーンがそれを許すはずも無い。

 

「おら、行け。ママンのお呼びだぞ」

 

「わ、分かったよ……」

 リボーンに蹴られない為にも、急いで階段を降りる。母さんは何か包み紙のようなものを開けている最中だった。

 

 

「届いたわよー、武偵高校の制服!カッコいいし、結構いい生地ねぇ……」

 

「母さん、それはリボーンが勝手に言ってるだけで……」

 

「まあいいじゃない。リボーンくんはあなたの家庭教師なのよ?」

 

「ま、まあ……そうだけどさ」

 受け入れ難い事実だが、リボーンはツナの家庭教師(かてきょー)。成績もまあまあ上がっていたり、色々とあるのでツナとしては認めるのは物凄く癪である。

 

「そういう事だ。それに、寮に入る準備もしておけよ」

 

「ちょっと、リボーン!!寮に入るって……」

 

「お前は自律の精神を身につけろ。ついでにコネでも作ってこい。マフィアにコネは欠かせないんだぞ」

 

「そ、そんなーーーーー!!」

 なんやかんやで、リボーンや母さんにも押し切られて俺は武偵高校へ行くことになった。転入の為の試験はいつしたのかを、リボーンに聞いたら「この前出したプリントが編入試験だ。簡単だっただろう?」

 

 もうめちゃくちゃだ。マフィアのボス候補みたいになってるツナにとって、逮捕する側の武装探偵になって大丈夫なのかと疑問が生じた。転入初日にしょっ引かれそうで、ぶるぶると震える日々が続いた。

 

 

 

 

 

# # # # #

 

 

 

 

 

「ど、どうも……並盛高校から転入した沢田綱吉です……」

 

 

 その日から、東京武偵高校には『ダメツナ』の渾名が広まった。

 

 

 曰く、突然倒れたと思ったら、パンイチで走り出した。

 

 曰く、拳銃は殆ど的から外れ、あり得ない方向に飛んでいた。

 

 曰く、薬莢運びを手伝ったら、飛び出した猫に驚いて薬莢を撒き散らし、立とうとしたら薬莢に足を滑らせた。

 

 

 

 曰く曰く……と二年生で一般高校から来た割に、救いようのないくらいにドジで、バカな奴が転入したと悪い意味で話題になっていた。

 

 

 そもそも、武偵高校は一般中学から入学する者もいるが、大半は武偵高付属中学から進学する者が多数派だ。二年で転入とは、イコール強者と言っても過言ではないのにも関わらず、その真逆の、寧ろ一般学生よりも弱そうなダメツナ(沢田綱吉)が現れたのだから、注目度はある意味異常な程あった。

 

 

「おい、ツナ。遅刻するぞ……」

 

「はあっ!!やべ、今何時……?」

 

「もう少しでバスだな、急げよ」

 目の前で呆れている男は遠山キンジ。ツナとはルームメイトとなった、何処となく根暗そうな男で彼の渾名は昼行灯。一部の心無い者は『ダメツナ』といいコンビだ、とコソコソ噂していた。

 

 

 

「あ……もう出てる?」

 ツナは階段をトントンとリズミカルに駆け降りたが、バス停にバスは無い。だが、ツナ自身はギリギリ間に合うように行動したはずだった。

 

 

「あれ?時計は合ってるはず……」

 ボンゴレが開発したあらゆる環境に対応し、GPSや通信機能すら付いているハイパー腕時計が万一にも間違う訳が無い。ジャンニーニやスパナ、正一君が太鼓判を押していたからだ。

 

 

 

「そんなぁ……」

 遅刻は確定したので、仕方なく自転車置き場から自分の自転車を動かした。

 

 

 

 

 

# # # # #

 

 

 

「キンジ、まだ来てないの?」

 あの後、ツナは遅刻しかけたが、滑り込みで着く事が出来た。先に寮から出たはずのキンジは未だに来ていなかった。そこで、最近友人になった武藤君にキンジの事を尋ねた。

 

 

「ああ、アイツと来なかったのか?」

 

「え、バスに乗ってないの!?」

 

「「え?」」

 ツナと武藤の間には大きなズレがあるようだ。しかし、それを擦り合わせようとする前に担任である高天原ゆとりがクラスに入ってきた。

 

 

「今日は昨年度の三学期から来ていた転入生がきてまーす!」

 ゆとり先生の言葉とともに、1人の少女がやって来た。

 

 

「神崎・H・アリア。宜しく」

 ピンクのような髪色に、高校二年生にしてはやけに低い背丈。武偵高校の女子制服と合わせてとても赤々としている。

 

 

「それじゃあ席はーー」

 その時、運が良いのか悪いのか、タイミングよくキンジが項垂れた様子でのそのそと入ってきた。

 

 

「先生、わたしはアイツの隣がいい」

 その人差し指の皆が辿っていくとキンジへとぶつかった。

 

 

「よ……良かったなキンジ!なんか知らんがお前にも春が来たみたいだぞ!先生、オレ、転校生さんと席代わりますよ!」

 この状況を面白がっている武藤君はノリノリで手を挙げて先生に提案して、席を変更した。先生自身もあっさりと変更を認めたが、うふふと笑っている所を見るに、そういうことなのだろう。周囲のクラスメイトも手を叩いたり、囃し立てたりと朝の空気はちょっとしたお祭り気分一色に染まった。

 

 

「キンジ、これさっきのベルト」

 件の神崎さんは煽てや囃し立てを気にせず、キンジにベルトを投げ渡した。

 

 

「理子分かった、分かっちゃた!これ、フラグばっきばきに立ってるよ!」

 お祭り気分をいっそう上げたのは彼女、峰理子だった。まあ、男と女、ベルトとくれば鈍いツナでも察しはつく。

 

 理子はそのまま益々ボルテージを上昇させ、「おい、キンジお前には……」「そんな……あの昼行灯にホントに春が……」と一層クラスは喧騒の勢いを増す。

 

 

「お、お前らなぁ……」

 

「キンジも災難だね……」

 二人で顔を見合わせて苦笑いしていると、突然の銃声。

 

 

 パンッ!パンッ!!

 

 

 音源は神崎さん。自前の二丁拳銃を抜いて発砲したらしい。これには銃声になんか慣れっこの彼らも顔を青くして、クラスは静寂に包まれる。そして、神崎さんは顔を真っ赤にしてこう言った。

 

 

 

「れ、恋愛なんて…………くだらないッ!!!!」

 

 

 一応だが、武偵を育成する武偵高校では銃弾を意味も無く撃つことは禁じられているが、必要であるならば発砲すら止むなしとされている。それでも、比較的一般人なツナの神崎アリアへの第一印象は『拳銃をバカスカ撃つやべー女』と刻まれてしまった。

 

 

 

「全員覚えておきなさい!そんなバカな事をいつ奴はーー」

 

 

「風穴空けるわよ!!!」

 

 

(ひぃいいいーーやっぱコエぇーーー!!!)

 リボーンくらいの怖さは無いものの、基本的に肝の小さいツナは震え上がった。

 

 

 

 

 

 

# # # # #

 

 

 

「にしてもなぁ……」

 

「何?ツナ、言いたいことがあるなら言いなさいよ」

 

「いっ、いえ。何でもないです……」

 転校生の神崎さんはツナたちの部屋に転がり込んだ。「キンジ、わたしのドレイになりなさい!!」の言葉付きで。あの朝、キンジが武偵殺しにチャリジャックを仕掛けられている時、彼女がパラシュートで降りてきたそうだ。そこで神崎さんに目をつけられたらしく、こうしてキンジはパートナーになる様に迫られているらしい。

 

 迷惑極まりないが、この手のタイプはリボーンで散々経験しているからか、幾らか楽だった。同時にリボーンの蛮行に慣れていると気づいて悲しくなりもした。

 

 

 

「どうだ、ツナ。寮には慣れたか?」

 

「まあ、少しは……って、リボーンッ!!!!」

 

「なあ、この子供はツナの所のか?」

 キンジの呑気そうな言葉と対照的に、神崎さんの顔は険しくなり、彼女の特徴的なコルト・ガバメントの二丁拳銃を突きつけた。

 

「アンタ……何者?」

 

「お前たちが遠山キンジと神崎アリアか。チャオっす、俺はリボーン。ツナの家庭教師(かてきょー)だぞ」

 

「……」

 神崎さんとキンジは黙り込み、神崎さんはリボーンと向かい合い、キンジは神崎さんの方とリボーンの方を交互に見ている。

 

 

「……分かったわ、リボーン。よろしく、神崎・H・アリアよ」

 

 

「試すような真似をしてすまねぇな。それで、こいつが遠山キンジか。へなちょこだが、初めて会った時のツナよりは見込みがあるな」

 

 

「そりゃどうも」

 キンジはツナの知り合いらしい子供から一方的に言われ、喜んでいいのか分からない微妙な気分になった。

 

 

 

 こうして、遠山キンジと神崎アリアはダメダメ少年、沢田綱吉とツナの家庭教師(かてきょー)、リボーンとの出会いを果たすのだった。

 

 

 

 

 

__________________________________________

 

 

 

 

「どうしました?蘭豹先生」

 蘭豹は家族にさえあまり見せた事が無いような深刻な表情をしていた。校長の緑松武尊は相変わらず認識出来ない顔であるが、薄らと笑っているように彼女は感じた。

 

 

「おい……校長先生……何故ボンゴレ10代目が武偵に?」

 貴蘭會(グイランフィ)という香港マフィアのボスの令嬢である彼女は、伝統・格式・規模・勢力の全てに於いて別格であるイタリアで最大級のマフィア、ボンゴレファミリーの恐ろしさをよく聞かされたし、知ってもいた。

 

「まあ、古い先輩からの『お願い』ですかね」

 

「冗談じゃあ済まされませんよ、ボンゴレは……」

 青い顔でいると、蘭豹は突然現れた別の気配に反応した。

 

「……ッ!」

 M500を撃ちかけた蘭豹はすんでの所で止まった。校長の傍らに、ボルサリーノのソフト帽に黒スーツの小さな子供が居た。彼女はこの何の脅威も無さそうなただの子供1人に、校長以上の深い恐れを抱いた。

 

 

 

「チャオっす、おめぇが蘭豹だな」

 

「あ、アンタは……まさか、リボーン」

 裏社会では伝説のヒットマン。凡ゆることに通じ、銃で狙った獲物は必ず逃がさないボルサリーノと黒スーツの出立ちをしたなぞの人物という都市伝説程度の話。

 

 蘭豹が生まれるかなり前に行方不明になったらしく、噂くらいにしか知らなかったが、彼女の祖父に聞いた時、彼の顔は真っ青になり、「アレは、もはや人外の域だ……」とだけ語ったのは記憶に強く刻まれていた。

 

 

 

「俺の生徒を入れるように武尊にお願いしたんだぞ」

 

「は、はは……冗談にも程がある……」

 生徒達や、今までボコボコにしてきた連中、そして自分自身でさえも驚くような乾いた笑いが溢れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




Xバーナーめちゃくちゃ好き


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

母と娘



なかなか戦闘には入れない。一応、武偵殺し編の最後くらいが一番の見せ場かなぁ、と。


 

 

「チャオっす、今日からお前たちを教育するリボ川だぞ」

 

「って、リボーン!!何でここに!」

 並中や並高の時と同じように変な格好をして教師に紛れ込んでいた。

 

 

 

「おい……沢田、リボ川先生だぞ?俺でも知ってるような有名人だからリボーンな訳ないだろ」

 いや、嘘だろ?とツナは本気でそう思った。というより、何故キンジがこのリボーンもといリボ川を知っているのか。そちらの方が意味不明だった。

 

 

 

「まあ、確かに何となくリボーンに似てる所もあるけど……ツナ、あんな子供(リボーン)が武偵高教師なんて無理よ」

 

 

 

「あんなガキに教師が務まるかよ」

 口の悪いクラスメイトの1人がボソッと小さく言った瞬間、リボーンは持っていたチョークを彼に向かって投げた。

 

 

「が……っ…………」

 彼の額に直撃したチョークは粉々に砕け散り、彼は意識を失った。武偵高校の教師は、校長、緑松武尊を始め、蘭豹や綴先生などの超危険人物の巣窟と分かっていたのに。

 

 

「何か言ったか?」

 

(うわーーーー!!またリボーンがやっちゃったよーーー!!)

 

 

「じゃ、始めるぞ。筋がよければ、お前らを立派なマフィアにしてやるぞ」

 しーんとした空気の中で授業は始まる。そもそも武偵高校でマフィアの勧誘とかおかしい。とツナは思った。

 

 

 

 

 

「ふぅ……リボーンの授業にしてはマシだったな……」

 リボーンの授業と言えば毎度毎度とんでもないものばかりだが、今日は比較的マシだった。武偵高の生徒たちもチョーク粉砕以降は概ね真面目な態度で授業を受けていた。

 

 

 

「ま、今のアイツらじゃあとてもボンゴレには入れられねぇな」

 相変わらず神出鬼没なリボーンが校舎の中に勝手に作った部屋から現れた。

 

「ボンゴレ?パスタのあれか?」

 幸い、キンジはボンゴレ・ビアンゴの方を思い浮かべているようで、ボンゴレファミリーの方は知らないようだった。

 

 

「げ!! な、何でもないない!!」

 

「ちょ、沢田!」

 少しでもリボーンから遠ざけるべく、ツナはキンジの背中をグイグイと押して教室から出て行った。

 

 

 

 

# # # # #

 

 

 

 

「ん?ツナ、どうしたんだ?」

 キンジは昨日から同室のツナが何回もトイレに入っていく姿に、悪いものでも食っていたのかと思っていた。

 

 

「いや、何だかお腹痛くてさ……」

 昨日、クラスの人気者、峰理子から貰った毒々しい色のクッキーを食べてからお腹が痛かった。キンジの考えは当たっていたが、ツナは彼女の為にも内緒にしておこうと本当の事を黙っていた。

 

 

「俺は先に行ってるからな」

 

「あー、うん」

 また一つ波がきた。

 

 

 

 便意は二十分ほどで完全に消えた。昨日から続いたのに嘘のように消えたので、遅刻にも関わらず清々しい気分でツナは学校へ行くことにした。

 

 

「あれ?メールだ」

 こんな朝にメールが来るとは、滅多に無いことでツナは不思議なら思いながらも内容を見ていた。

 

 

 

「ば、バスジャック!?」

 キンジによると、乗るはずだったバスが武偵殺しにバスジャックされたらしい。

 

 

「おい、ツナ。無事だな」

 

「リボーン、バスジャックって……」

 

「明らかにお前を狙った犯行じゃない。恐らく、お前の近くに武偵殺しがいるぞ。偶然にしちゃあ出来すぎてる」

 

「そんな……」

 衝撃に打ちひしがれていると、電話が掛かってきた。

 

『10代目!!ご無事ですか!!!!』

 

「獄寺君!!」

 

「10代目のお近くでバスジャックが発生したと聞いたので、慌てて電話しました。声からして、無事なようですね」

 

「まあ、リボーンもいるしね」

 

「リボーンさんが……それではもう切ります。どうかお気をつけて」

 

「うん、獄寺君も」

 そう言って電話を切った。獄寺君も元気そうで、少しホッとした。

 

 

 

「ま、こうしても仕方ねえ。というより、遅刻だってことを忘れんじゃねえぞ」

 

 

「うん、だよな」

 自分が出来ることは無い。歯痒いが、任せるほかに無いのだ。

 

 

 

 

 

# # # # #

 

 

 

 

「キンジ、神崎さんの具合は?」

 ツナは神崎さんの病室に訪れていた。すやすやと何もないように眠っているが、額にはガーゼが当ててあった。

 

 

「額を弾が掠めたが、それ以外の傷はない。でも……眠り続けてる」

 神崎さんはバスジャックにキンジと介入して、解決した。その代わり、キンジを銃弾から庇った際に額に怪我を負ったそうだ。自責の念でキンジは目を閉じていた。

 

 

 

「武偵殺しを、捕まえる」

 

 

 

 

 それから二日、神崎さんは退院した。いつものように元気そうで、キンジと2人で一安心した。日曜日で、神崎さんもキンジも何処かに出かけるようだった。目覚めると、1人だけの部屋で都内でもぶらぶら散歩しようかと思ったが、並盛の家に寄ろうとツナは思った。

 

 

 

「珍しくリボーンの奴もいなかったけど……アイツ、そういや愛人が4人もいるんだっけな」

 初めて聞いた時は冗談だと思っていたが、アルコバレーノは呪いで赤ん坊になっていただけで、愛人が4人いる事は本当で、他にも話していた自慢話は全て本当と明らかになったのだった。愛人の1人は獄寺君の姉、ビアンキ。ポイズンクッキングという毒の料理を扱う暗殺者だ。今日は別の愛人に会いに行くと言っていたが、行方は分からない。

 

 

 

「あ、キン…………」

 奇妙な行動をとるキンジが居た。どう見ても怪しすぎる。

 

「しーっ、沢田、静かに……」

 口に人差し指を当て、小声で喋った。

 

「な、何してるの?」

 

「あれ、見ろ」

 神崎さんが、意外に似合う白いブラウスを着て、何処かに向かっていた。

 

 

「なるほど……でも、何処に?」

 

「それを尾行しようってんだよ。あっ、動いた」

 

「ま、待ってよ」

 キンジと共に神崎さんを尾行することになった。Sランク武偵の神崎さんは偶にこちらを向いたが、何とか気づかれていない……と思う。もしも並盛だったら、人もここまで多くないからバレるだろうし、群れていると雲雀さんに咬み殺されるだろう。

 

 

「アンタたち、バレバレよ。尾行なのに尻尾がニョロニョロ見えてるわ」

 

「なんだよ、気づいてたなら話しかければ良いじゃないか」

 

「ははは……たまたまキンジを見かけてね」

 一方、真面目な表情で神崎さんは口を開く。

 

 

「……迷ってたのよ、言うべきか。ツナとキンジも武偵殺しと関わっているから」

 

「え……?俺は被害を被ってないけど」

 

「まあ、アンタに関しては感よ。奴は意図的にアンタという存在を犯行から避けているわ」

 

「はあ……」

 ツナは生返事を返したが、リボーンのような事を言っているなと思った。

 

 

「もう着いちゃったし。いいわ、着いてきて」

 

「まあ、行くか」

 神崎さんが言うままに、警察署内へ足を踏み入れていく。そのまま、俺たちは面会室に来た。神崎さんは誰に会おうとしているかは分からないが、緊張と焦りに満ちている顔にツナからは見えた。

 

 

 

「ママっ!!」

 神崎さんに面影がある女の人が通された。柔らかい雰囲気と茶髪の人。神崎さんより落ち着きのある感じの人だ。一体何をしたのか、ツナにはさっぱり見当がつかなかった。

 

 

「まぁ、アリア。……この方々、彼氏さん?それともお友達?」

 

「ち、違うわよ、ママ。こっちは遠山キンジ、あっちは沢田綱吉。別に彼氏とか、そう言うんじゃないから!!!!」

 真っ赤な顔の神崎さんにもうふふ、と笑いを返す。そして、俺たち2人の方にかなえさんは視線を向けた。

 

「初めてまして、神崎かなえと申します。娘がお世話になっているみたいですね。……沢田くんは家光さんよりも奈々ちゃんに似てますね」

 

「それって……」

 父さんや母さんとの関わりを聞こうとしたが、神崎さんが遮った。

 

「ママ、それは兎に角、今は時間が無いから手短に話すけど、コイツは武偵殺しの被害者で、アイツは武偵殺しが意図的に避けてる奴よ」

 神崎さんは続けた。

 

 

「奴は最近動きが活発になってる。直ぐにとっ捕まえてやるわ!待ってて!!」

 しかし、かなえさんの目は節目がちで、暗い。まるで、もう諦めているかのようだった。

 

 

「武偵殺しの件だけでも無実を証明すれば、ママの懲役864年が一気に742年まで減刑されるわ。最高裁までの間に、他も絶対全部なんとかするから」

 神崎さんの焦りも分かった。肉親がこのような目に遭えば誰だって焦る。未来で父さんと母さんがボンゴレ狩りの中、イタリア旅行に出たきりで行方不明になっている時も、不安感を覚えたのは記憶に残っている。

 

 

「そして、ママをスケープゴートにしたイ・ウーの連中を、全員ここにぶち込んでやるわ」

 

「アリア。気持ちは嬉しいけど、イ・ウーに挑むのはまだ早いわ。それより、パートナーは見つかったの?」

 

「……ッ、それは……」

 先程とは違う、狼狽した顔を神崎さんは見せた。

 

「大きな敵と戦う前にいい人を見つけなきゃ。大丈夫。貴方ならきっといいパートナーを見つけられるわ」

 しかし、時間は無情にも来てしまう。

 

 

 

「神崎、時間だ」

 

 

「ママ、待ってて。必ず公判までに真犯人を全部捕まえるから」

 

「焦ってはダメよ、アリア。お互いに支え合える人を探すのよ」

 そうしてかなえさんは再び牢屋に戻された。アリアは顔を伏せたまま、一言も喋らず警察署の外に出た。俺もキンジも外に出た。

 

 

 

「あのさ、神崎さん、キンジ。俺、先に戻ってる。リボーンから呼び出し食らってさ」

 気まずいタイミングでリボーンから電話が来た。明るい場違いな音はとてもツナをきまり悪くさせた。

 

 

「あ、ああ。分かった」

 

「……」

 2人と別れ、リボーンのいる所に向かった。

 

 

 

 

 

「ツナ、神崎かなえに会ったのか」

 

「うん……でも、とても犯罪を犯したりしなさそうだし、神崎さんもそう言ってた」

 かなえさんの事をリボーンは知っていたが、とても聞きたい気分では無かった。

 

「この件、想像以上に厄介かもしんねぇ。下手したら、今まで以上に覚悟がいるかもしれねえぞ」

 リボーンの瞳がこちらを射抜く。

 

「……俺は神崎さんを助けたい。神崎さんは友達で、困ってるなら、少しでも手伝いたい。神崎さんとかなえさんが、一緒に笑って欲しい」

 

 

「ふっ、決まってたか。“武偵”としてなんとかしてみせろ」

 

「うん」

 きっと、神崎さんを助けたいこの想いは強い覚悟のはずだからーー

 

 

 

 

 

______________________________________________

 

 

ーー少し前、都内のカフェ

 

 

 

「にしても、あの『ダメツナ君』がボンゴレ10代目とはねぇ……」

 写真にはずっこけている姿や、間抜けな姿ばかりが殆どを占めていた。お世辞にも格好良くはない。だが、パンツ一丁で額に炎を灯している画像もあり、彼が普通ではないと理解できる。

 

 

「気を付けろ、あくまでもお前の狙いは神崎アリアと遠山キンジ。ボンゴレには決して手を出すな」

 裏に通じる彼女は、ツナの正体をも知っていた。

 

 

「はいはい、分かってる分かってる。そっちはどうなの?」

 

「完璧だ、“理子”。綿密に立てたから、ミスはない」

 

「そっちも気を付けて、“ジャンヌ”?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 





感想、評価、熱烈感謝!!



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

覚悟と死ぬ気

いよいよ理子戦。しっかりとリボーン色を出していきたい。


 

「え!神崎さん、イギリスに帰っちゃうの!?」

 

「ええ、パートナーも……見つからなかったし、イギリス武偵局から戻るように言われてる」

 神崎さんの表情は俯き、芳しくない。パートナーに最も近いだろうキンジはここに居ないし、ツナが彼女のパートナーになる事は出来なかった。

 

 

「でも……いいのかよ!!神崎さんはそれで!」

 

「じゃあ、アンタが何とかしてくれるの!?…………ごめん、それじゃ、さようなら」

 

 

「……ッ」

 悔しい。だが、引き止めてどうなるものでもないし、彼女が求めているのはツナではなくてキンジだろう。どうするべきか、ツナは考える。

 

 

「うーん」

 

「う〜ん……」

 

「うーーーん……」

 

「うっせぇ、ツナ」

 

 

「痛ってえええ!! やめろよ!リボーン!!」

 マジで痛い。目玉が飛び出すほど痛い。

 

 

「いつまでもウジウジグズグスすんな、おめぇは第一、何がしてえんだ?」

 

 

「神崎さんがイギリスに帰るっていうけど……このままキンジと別れさせちゃ、いけない気がするんだ……」

 直感的にだが、「このまま2人を別れさせてはいけない」と強く感じていた。

 

 

「ツナ、そう思ったならやる事は分かるだろ?お前が動く理由はいつだってシンプルだ」

 ツナは決心がついた。携帯の電話帳から、登録されているキンジの電話番号を打つ。

 

 

 

「キンジ、俺、沢田だけど……」

 しかし、意外な言葉が返ってきた。

 

 

「沢田、悪い、羽田に用ができたッ!」

 

「神崎さんの事? 分かった。キンジ今何処?」

 

「台場だ。でも、どうする気だ?」

 

「羽田に行くのに、足がいるでしょ!」

 鍵と二つのヘルメットを取り、駆け出した。

 

 

 

# # # # #

 

 

「沢田、手短に説明する」

 キンジを拾ったツナは、自前のバイクで羽田空港まで法定速度ギリギリでぶっ飛ばした。幸い、道路は空いていたのでそれなりの余裕をもって到着出来た。

 

 

「アリアが『武偵殺し』に狙われている。このままじゃあ、恐らく飛行機が墜ちる」

 

「わ、分かった。でも、どこだ……?」

 首都の玄関口たる羽田空港は兎に角広い。イギリス行きも沢山路線があってどれだか判らず、混乱する。

 

「ロンドン、ヒースロー行きだから……ANA600便だな。こっちだ、急ぐぞ!」

 

「うん!」

 2人は搭乗口近くまで来た。突然に駆け込む2人の武偵に慌てるが、事情を説明し、武偵である証拠を見せ、半ば強引に飛行機へと搭乗する。

 

 

 

「……良かったのか、沢田」

 

「まあ、ちょっと怖いけどさ……友達の危機なんだ、引き下がれないよ」

 

「……っ」

 キンジは驚いた。空港までそこそこの大きさのバイクを回したのもあるが、ツナの瞳は武偵数ヶ月の者とは思えない、意思の強い目だった。

それが、キンジにとっては兄と重なる。

 

(いや、他人に面影を重ねるべきではないな)

 頭を振って、雑念を追い払った。

 

 

「ここだ」

 アリアのキャビンだ。確か、数十万するようなセレブリティ溢れるクラス。庶民的な2人は内心で少し気が引けた。

 

「き、キンジ!?それにツナまで……!」

 神崎さんは呆然としていた。そりゃそうだ。

 

「……断りも無く部屋に押しかけてくるなんて、失礼よッ!!」

 怒る神崎さんが怒鳴りつけるが、キンジは負けずに言い返した。

 

「お前にそのセリフを言う権利はないだろ」

 

「まあまあ……それよりも、さ」

 ツナはこのまま喧嘩されても敵わないと、仲裁に入った。

 

「ああ、『武偵殺し』がお前を狙っている。それに……約束、まだ果たしてないだろ」

 

「キンジ……アンターー」

 神崎さんが何か言おうとすると、銃声が機内に響く。

 

 

「っ、まさか」

 武偵殺しの仕業だろう。客が驚いて、いくらかドアを開ける音が重なる。一般人やキャビンアテンダントがぞろぞろと出てきて、不安げな顔で会話している。決して良い状況では無かった。

 

 

 アリア一行も、音の出た機体前方を慎重に覗く。普段は固く閉じている

コクピットの扉は開け放たれ、あるキャビンアテンダントが2人の男を引きずっている。機長と副機長だろうか。彼らは死んではないようだが、ピクリとも動かない。

 

 

 

「動くな!」

 ツナはCZ100を、キンジはベレッタ92Fの改造モデルーー通称キンジモデルを構える。相手は銃口を前にしても沈黙し、不気味だった。だが、顔を上げると、ニイっと能面のような笑みを浮かべた。

 

 

 

 

「Attention,Please、でやがります」

 彼女?はピンを引き抜いた缶を、こちらに投げる。勿論、一般人もいるが、武偵殺しからすれば路傍の石ころと同程度だろう。

 

 

「皆さんっ!早く部屋に戻れ!!」

 声が掠れるほどのキンジの大声は、この場所の危険性を乗客たちに本能から理解させた。皆が焦って、蜘蛛の子を散らすように部屋に戻る。

 

 

 

「ガスだ!飛び込めっ!」

 廊下を白い煙が満たしていく。キンジとツナは神崎さんの部屋に転がり込むことで事なきを得た。

 

 

 

「アリア、やっぱり武偵殺しだ。あの言い方から考えて間違いない」

 キンジの推理はこういうものだ。

 

 

・チャリジャック、バスジャック事件の他にもシージャックで、ある武偵を仕留めた。

 

・シージャックの際だけ、電波での遠隔操作が無かった。それは本人が居たから。

 

 

 その他諸々の証拠を神崎さんに話すと、彼女も一応の納得はしたようだった。しかし、キンジが『ある武偵』と言う瞬間だけ悲しげな顔を見せたのは、気のせいだったかも知れない。

 

 

 色々と話していると、ベルトの着用サインが不規則にチカチカと光る。

 

 

「えーっと、何か見たことあるな……」

 

「和製モールスだ……アイツ、挑発してきてやがる」

 

 内容は、オイデ オイデ イ・ウー ハ テンゴク ダヨ オイデ オイデ ワタシ ハ イッカイ ノ バー ニ イル ヨ

 

 

 イ・ウーって、組織なのか?とツナは思いつつ、三人は一階のバーへと進む。そして、バーに着いた。オトナの雰囲気がある、普段なら絶対に来ないだろう場所。誰もいないはずのバーカウンターには1人の女。彼女は妙な事に、フリルのやたら付いた武偵高校の制服を着ている。コスプレにしては冗談が過ぎた。

 

 

 

「今回も、キレイに引っかかってくれやがりましたねえ。余計なオマケもいるみたいだけど」

 彼女?は顔を触る。すると、被り物を剥がすようにベリベリと剥がれて、中からは金色の髪が現れる。

 

 

「嘘……だろ」

 

「Bon soir?」

 とても流暢なフランス語。クラスの人気者、峰理子がそこにはいた。

 

 

 

「最悪も最悪、ボンゴレは必死に避けてきたのに自分から食いつくなんて。流石の理子もキミが10代目なんて思って無かったよ」

 

 

「何を言ってるんだ……」

 VONGOLE(アサリガイ)と理子はツナに言うが、まだまだ表側に近い2人には、その真の意味を計ることは出来ない。

 

「……」

 ツナは思わず黙ってしまう。

 

 

「後で、話す」

 ボンゴレ云々は話しづらい上に、それを理子が許すとは到底思えない。

 

「ははっ、後なんて……くるのかねぇ?」

 

 

 

 

「アタマとカラダで人と戦う才能ってさ、けっこー遺伝するんだよね。武偵高にも、お前たちみたいな遺伝系の天才が結構いる。でも……お前の一族は特別だよ、オルメス」

 

 

 

「理子・峰・リュパン4世。それが理子の本当の名前」

 

 

 

「でも……家の人間はみんな理子を『理子』とは呼んでくれなかった。お母さまがつけてくれた、このかっわいい名前を。呼び方が、おかしいんだよ」

 

「おかしい……?」

 神崎さんが首を傾げる。

 

 

「4世、4世、4世さまぁー。どいつもこいつも、あたしを数字でしか見ない。でも今日で終わり、オルメス4世を倒せば理子は理子になれる。数字じゃない、理子は本当の理子になれる!」

 ギラギラした目でアリアを睨みつける。それは、何かに取り憑かれた目であった。

 

 

「プロローグはおしまい、ここから先は理子の物語。100年前の対決と条件は同じ、ちゃんとパートナーも用意してやったんだ。舞台は整ったぞオルメス、自分の役を演じな!」

 どうやら、理子と神崎さんの先祖には並々ならぬ因縁があるようだ。あの時(継承式)のエンマくん*1のような感じだが、それとはまた違うとツナは思った。

 

 

 

「まずは……」

 

「おわっ……!?」

 

 

「沢田っ!」

 理子は、何か銃と酷似した物からネットを発射した。武偵御用達の犯罪者捕獲ネットは理子に改造されて、並大抵の力や熱、薬品も効かない優れものだ。ツナはグルグル巻きで、彼の非力な力では決して解けないだろう。

 

 

「これでボンゴレは封じた。さあて、オルメスにキンジ。ヤろうか?」

 そう言うと、理子のツインテールは意思を持ったように動き始めた。ふたつ剣だけでなく、二丁の銃もある。双剣双銃(カドラ)というアリアの二つ名と同じだ。

 

 

 双剣双銃(カドラ)双剣双銃(カドラ)の剣と銃弾の応酬は、殆ど互角。アリアがいくらSランク武偵だからといって、武偵殺しで、妙な技を使う理子には些か場が悪いとも言えた。だが、ここにはキンジがいる。ヒステリアモードのキンジも合わさって、神崎さんにかなり有利に事を運んでいる筈だが、中々決着は付かない。

 

 

 

「チッ、手詰まりだな。ま、コイツを使ってみるか……」

 膠着し、互いに大きく下がった。理子はゴソゴソと胸元から何故か指輪とヘンテコな模様をした立方体の箱を取り出した。

 

 

「あっーーマズい!!」

 それは、死ぬ気の炎を灯すためのリングと、(ボックス)兵器と呼ばれる、死ぬ気の炎を餌とする新兵器。

 

 

「ボンゴレは知ってるか。なら、コイツでサヨナラだ!! 開匣!」

 赤いリングから、嵐の炎が点火され、匣に注入される。

 

嵐豹(パンテーラ・テンペスタ)!!やってしまえ!!」

 

「ガルルルル……」

 手のひら程度の箱から豹が出てくるのに面食らう2人だが、度胸はあるのだ。理子の行為にも然程動じていない。しかし、ツナは2人が知らないある事実を知っていた。

 

 

「キンジ、アリア!!触れちゃダメだ!!!」

 嵐属性の死ぬ気の炎の性質は、分解。炎に触れた物を全て分解していく。キンジのベレッタが軽く触れ、先端部分だけ削れていた。

 

 

「なっ!」

 先端が炎に触れた跡は切断されたのとは違う。ボロボロと砂のように崩れている。死ぬ気の炎を知らない彼らも脅威を十分に理解した。

 

 

「何でリングを……」

 理子は強気に返答する。

 

「お前らだけが使えると思うなよ?」

 嵐豹と理子はじわじわと嬲るように追い詰めていく。

 

 

(もうちょい、もうちょいなんだけど……)

 内ポケットに死ぬ気丸とボンゴレギアを入れているが、間一髪で隙間を作ったので、あと少しで取り出せそうだった。しかし、その残り少し指一本分届かない。

 

 

「うわっ!!」

 飛行機が揺れる。死ぬ気丸が入ったケースだけが床に転がる。神崎さんの近くへと転がった。

 

 

 

「神崎さんッ!中身を一つでいいから、こっちに!!!」

 ツナは必死に叫ぶ。匣兵器を持つ者と持たない者の戦力の違いはよく知っているからだ。このままでは、2人もツナも死んでしまう。

 

 

「分かったわ!」

 直感的に、ナニカを理解した神崎さんは中身を一つ、口に向かって投げる。上手く口でキャッチしたツナは、死ぬ気丸をゴクリと飲み込んだ。

 

 

 

『!』

 皆がツナを注視した。すると突如、拘束していたネットは轟々と焼き尽くされ、自由になったツナは、ボンゴレギアに炎を灯す。

 

 

 

 

「理子……死ぬ気でお前を止める……!」

 沢田綱吉の額には、橙色の大空の死ぬ気の炎が燃え上がっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*1
未来編の後の話で漫画のみに登場するキャラ。継承式編の鍵を握るが、ツナと同じくらいドジ。





忙しいので、次話まで間隔が空きます


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

決着

 はい、前回からまあまあ期間が空きました。新生活で忙しかったりで、雑な所もあるかも知れませんが、ちょっと目を瞑ってもらえると幸いです。

 それではどうぞ


 

「はっ、額に炎なんてともしちゃってさ。こんな展開、嫌いなんだけどッ!」

 

 

「銃弾は俺に効かない」

 高密度のエネルギーである死ぬ気の炎は、使い手によって敵を屠る矛にも、身を護る盾にもなる。精製度A以上であり、7^3(トゥリニセッテ)の一角を担うボンゴレリングが変化したボンゴレギアは、特に高純度の炎の扱いを可能にする。

 

 銃弾程度であれば、容易に防御が出来る。更に、金属で構成された剣は物によるが、ドロドロに溶かし切ってしまう程だ。

 

 

「くっ、マジかよ」

 しかし、彼女はまだまだ焦らない。匣兵器をこの密閉空間で使用できる彼女が有利なのだから。

 

 

「だが、匣兵器はどうかなぁ?」

 理子のリングが再び炎を匣兵器へと注いでいく。一段と炎の揺めきも大きくなった。

 

 

「ガルルルル……!」 

 その獰猛で、荒れ狂う赤い炎を纏う牙は沢田綱吉へと襲いかかる!

 

 

「沢田っ!!」

 

「ツナ!!!!」

 ツナは微動だにしない。そして、直撃寸前に額の炎が消えた。二人が駆け出そうとした時には、既に終わっていた。

 

 

「死ぬ気の零地点突破1世(ファースト)エディション」

 

 

「なーー」

 

「凍ってる……」

 ツナが触れている嵐豹(パンテーラ・テンペスタ)はみるみる氷漬けになっていく。摩訶不思議な現象が発生して、すっかり覆われた嵐豹はゴトリと鈍い音と共に転がった。

 

 

「こんな……認めてなるものかよッ!」

 理子は受け入れられない。受け入れてはいけない。再び武器らしいものを取り出そうとする。

 

 

「ーー遅い」

 一瞬で背後をとったツナは、手刀を理子に入れようとする。が、それは失敗した。

 

 

 

 壁面の小規模な爆発。キンジのチャリジャックなど、過去の一連の事件から見ても、武偵殺しの十八番は爆弾だった。容易周到で、謎の組織イ・ウーの一員である峰・理子・リュパン4世という女は強かだ。万一の事くらいは考えていたのだ。

 

 ツナは咄嗟に避けることが出来たが、理子を取り逃がしてしまった。

 

 

「キンジーーいや、ははッ、峰の名が泣くね。男相手にこんなに必死になってさ。 Au revoir (さようなら)

 理子は何かを言おうとしたが、踏みとどまり、ニヒルな笑みを作る。爆発で空いた大穴から、理子は飛び降りる。背中に仕込んでいたパラシュートが展開されて、風を掴む。

 

 闇に溶けるように、直ぐにその姿は小さくなっていった。

 

 

 

 

# # # # #

 

 

 

ーー並森町

 

 

 

「まあ、その後に飛行機を撃墜されかけたりしたけど、なんとか着陸出来たよ」

 こうして、獄寺君と山本と話しているのが一番の証拠。操縦士のいない飛行機を国が撃墜しようとしたが、キンジのテクニックにより空き地島という武偵高のあるメガフロートと同じくらいの面積の人工島にギリギリで着陸出来たのだった。

 

 

「許せませんね……10代目、撃墜させる命令を出した奴らを……」

 

「ま、待って待って!!獄寺君!!!ダメ、ダメに決まってるだろ!!」

 懐からさりげなくダイナマイトをチラつかせる獄寺君。彼なりの優しさだが、些か過激。でも、三、四年の付き合いだからかツナは多少は慣れた。

 

 

「は、はぁ……10代目がそうおっしゃるのであれば」

 

「にしても、災難だったな、ツナ。そのキンジとアリアってのもスゲーじゃん」

 山本は相変わらずの調子だった。彼は野球で有名な高校に推薦の話が沢山あったらしいが、全てを蹴って、並森高校に進学した。最近は並高の野球部も上り調子で、友人としてとても誇らしい。偶々オフなので、こうしてツナ達と行動していた。

 

 

 

「あのなぁ、野球バカ……10代目の方が何万倍も超スゲーんだよ!!!」

 

 

「はは、獄寺は相変わらずツナのことになると語彙力なくなってんのな」

 

「うるせぇ!!」

 

「あははっ、何だか懐かしいな」

 武偵高とは違う空気感も心地の良いものだ、そうツナは思った。

 

 

「10代目……アレ、武偵高校の制服ですか?」

 獄寺君は、休日にも関わらず着ている変わった制服と携帯している拳銃で予測し、ツナに聞いた。

 

「うん、女子のだね。あんなのでも銃弾を防げるらしいよ」

 

「へぇー、頑丈だなぁ」

 山本は首を傾げている。不思議な事だが、あの薄そうな生地でも実はまあまあの重さがある。仕組みは説明されたが、なんやかんやで銃弾を防ぐそうだ。ツナ自身も半信半疑だったが、教師が実演をしているのを目で見たので、その防弾性能はよく理解していた。

 

 

 

「キミたち、何群れてるの」

 

「ひ、雲雀さん!」

 げ!とツナは震え上がる。彼の名は雲雀恭弥。並森の支配者にして、風紀委員長。群れを嫌う孤高の人だ。その強さは折り紙付きで、経歴も謎の人物だが、並森への愛は人一倍。本物である。

 

 

「雲雀……テメー、いちいち10代目にガン飛ばしてんじゃねぇぞ」

 

 

「ハハッ、何だか久しぶりだな」

 

 

『なあ、銀行強盗があっちの銀行に出たってホントか?』

 

『ああ、おっかねぇな。ここらはないと思ってたんだけどなあ……』

 物騒な話題が通行人たちから漏れる。全世界から見ても犯罪件数が上昇するこの世界、珍しく犯罪が増えてない地域こそがこの並森だった。それは無論、雲雀さんが率いる風紀委員たちの尽力だ。

 

 

 

「!」

 並森をだれよりも愛する雲雀さんが真っ先に走る。最も、彼の場合は人間を助けようという気持ちよりは、並森の治安を乱す者を咬み殺そうとしての行動だろうが。

 

 

 

「10代目、どうされますか?」

 

「うん、俺たちも行こう……なんだか嫌な予感もする」

 正直、休みなのだから、二人と何か遊びにでも興じる手もあった。だが、ぼんやりとした、形容し難い不安感が胸に燻り、ツナたちは現場へと向かった。

 

 

 

「流石に警察を無視しないはず……いや、雲雀さんだしなぁ」

 その通りで、雲雀さんは無視してずかずかと、堂々とした様子で入口から入る。

 

 

「お、おい!!テメェ、どういうつもりだ!人質がわからねえのかよ!」

 二人組の犯人。一方は金を詰め、もう一方はナイフを人質の首に突きつけている。周囲の客はロープで縛られて、一箇所に固められている。不気味な雲雀さんの行動に、犯人はゴクリと喉が鳴り、僅かに拳が震えていた。

 

 

「おい、動くなよ」

 金を詰め終えた片割れは、拳銃を懐から取り出し、人質に向ける。

 

 

「どうやら武偵のようだが、これでどうだ?」

 彼らは並森の住人ではないようだった。風紀委員の存在を知る者なら、こんな真似をするはずがない。例外なく雲雀恭弥にぶちのめされるからだ。おまけに雲雀さんを武偵と勘違いしているようだ。

 

 

「風紀委員への侮辱、および並森への敵対行為。あと、君たち群れすぎだ」

 

「「は?」」

 強盗犯たちは、「侮辱と敵対行為」「群れすぎ」という言葉に理解が及ばす、意識が固まるが、段々と馬鹿にされているような、腹立たしい気分になっていった。

 

 

「一発解らせないとーー」

 額に青筋を浮かべた男は、そう言って、引き金に指をかける。

 

 

「待ちなさーー」

 ツナとは別の武偵たちもタイミング良く駆けつける。

 

『!!!?』

 犯人、そしてちょうど駆けつけた武偵すらも困惑した。だが、この街の住人である人質たちは並森の風紀委員長(雲雀恭弥)がやって来た時点で、既に犯人たちの末路は分かっていた。

 

 

 水の一滴が地面に落ちるよりも短く、あっという間の事だった。

 

 

 拳銃を握る男は、顎に来た未曾有の衝撃に意識を消し飛ばし、もう一人は相方が吹き飛んだのを理解する前に、接近した雲雀の仕込みトンファーによってナイフの刃はポッキリと折れた。

 

 

「あが……っ……」

 ステンレスの刃が破壊された衝撃は腕を伝わり、ナイフは床に落下いく。そして、人質が引き剥がされると、彼の右頬へと鋭い一撃が加わる。彼が気絶したのとナイフの(つか)が落ちるのは全くの同時であった。

 

 

 

 

「君たち、いつまでそうしているつもり? 僕の前で群れるなら、君らも纏めて咬み殺すよ」

 蜘蛛の子を散らすように出て行った人質は外で警察の保護を受けた。警察の方も雲雀さん達、風紀委員会の事はよく知っているので「ああ、雲雀恭弥か」といつもの事と流した。

 

 

 

「かっ、母さん!!」

 

「あら、ツッ君に獄寺君に山本君じゃない〜!」

 ツナが抱いた不安感は正しかった。偶然銀行を訪れていた沢田奈々は人質となっていた。彼女の生来の性格からか、へっちゃらなようだったが、ツナはしばらくギョッと目を見開いていた。

 

 

 

「え……これ何……?」

 彼らはただ奇妙なこの街に困惑したままだった。

 

 

 

 

 

# # # # #

 

 

 

「ツナ、話しなさい!!」

 

「俺も気になるな」

 自室にて、ついに説明をする事になったツナ。一体何処から話せばいいのやら、思案して、拙いながらにも語り始める。

 

 

「まあ、最初は中学生の頃に……」

 

「代わりに俺が説明してやるぞ」

 相変わらず神出鬼没なリボーンはひょいとツナの横に跳んできた。

 

「って、リボーン!」

 

「俺はツナをボンゴレ10代目にするべく家庭教師(かてきょー)として送り込まれたんだ」

 あーだこーだと上手い具合にリボーンは話をしている。ツナは聞いていて、「リボーンに任せて良かったのかも……」と少しだけ項垂れた。

 

 

「なあ、それっておかしくないか? ツナは日本人で、一般人だったんだろ?」

 

「そうね。ボンゴレはイタリアにある最大規模のマフィア。日本のツナと関係があるとは思えないし、第一に他にも候補者がいるはずよ」

 アリアは至極真っ当なことを言う。キンジもうん、と頷いた。

 

 

「いたにはいたんだ。でも、10代目最有力候補のエンリコは抗争中に撃たれ、若手No..2のマッシーモは沈められ、秘蔵っ子のフェデリコはいつの間にか骨になっちまってな」

 丁寧に写真まで用意してある。コミカルな調子でリボーンは言うが、中々にえげつない絵だ。うわ……とキンジはドン引きしていたが、多少は慣れているアリアはそうでもない様子だった。

 

 

「それでも、ツナにお鉢が回ってくる理由が分からないわ」

 

「実は、ボンゴレファミリーの創始者、ボンゴレ1世(プリーモ)は後のボンゴレの元になる自警団を作った後、日本に移住して沢田家康と改名している。ツナの曽曽曽祖父なんだぞ」

 

「なるほど、だから綱吉……」

 二人はマフィアにあるよく分からない細かなルールの為にツナがボスへと指名されたと思った。実際にはかなり深く、重要な理由があるのだが、それを話す必要性は今は無い。キンジはそれよりもツナの名前の由来になるほど!と疑問が解けたような顔をしていた。

 

 

「そういや、ツナのあの赤いガントレットみたいなのは?」

 今度はキンジが質問した。そもそも、武偵の基本的な装備は銃だ。素手で戦う者もいるが、ガントレットのようなゴテゴテしていて、手首まですっほり覆い、指などを分厚いものでガードするタイプの武器を扱うのは非常に稀と言えた。

 

 

 

「詳しくは話せないが、ボス候補となったツナは色々な敵と戦う中で手に入れた力だぞ。俺が家庭教師をしたからな、やる時にはそこらの奴には負けねぇ」

 初めは骸の時。リング争奪戦も、未来でも、シモンとのいざこざの時も、バトルロワイヤルの時も、ずっと使ってきた。ツナにとっては相棒も同然だ。

 

「ふーん、一応の納得は行ったわ。ま、でもアンタがツナだって事に変わりはないもの。これからもよろしく」

 

「俺も同感。でも、流石に驚くけどな、ツナがマフィアのボス候補なんて」

 かなりグレーラインにいるツナに対し、二人は特に気にする素振りは無かった。それは武偵がタフなだけでなく、二人の生来の性格によるものだろう。

 

「うん、今後とも宜しく」

 ツナは僅かな嬉しさを隠しながらも、はにかみで返した。

 

「なんかムカつくな」

 

「ぐえ」

 リボーンに蹴られた。

 

 

 

 

 

 




次回からは魔剣編になります。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

魔剣、来る!


魔剣編は短めに終わるかも。それと、今回は日常回です。

追記:タイトルミスしてたので、変えました。


 

「そういや、ツナはアドシアードはどうすんだ?」

 

「アドシアード?」

 キンジ経由で友人となった武藤君と不知火君の二人と昼食をとっていた。本来、キンジも含めた四人で食べることが多いのだが、偶々、彼が教務課へと呼び出された為に、キンジの不運と無事についてを呑気に喋っていた。

 

「ああ、そうだった。武偵以外だとあんまり知らない人も多いからね」

 少し思案してから、不知火君は簡単な説明をした。

 

「うん、例えるなら……武偵たちが自分の腕前を競うオリンピックみたいなものかな。競技に参加しなくてもかなり楽しいイベントだと思うよ」

 

「で、どうなんだ?」

 

「まさか。俺は参加しないよ。そもそも、ひよっこ武偵の俺じゃあ話にならないさ!」

 

「ま、そりゃそうか」

 武藤くんは残りのカレーライスをかき込む。

 

「ごちそうさまでしたっと。俺ぁちょっとやる事あるから先行くわ」

 

「分かったよ」

 

「うん」

 トレイをさっと持った彼はあっという間に食堂から出て行った。

 

「なんか、騒がしくなってきたね」

 

「大体この時期はこんなモノだけどね。まあ、最も忙しくなるし、三年生は忙しいどころじゃあなくなるみたいだからねえ……」

 

「そ、そうなんだ……」

 ツナ自身も武偵高校に入ってから聞かされたある文言は印象に残っていた。『奴隷の一年、鬼の二年、閻魔の三年』現代の高校とは思えない強烈な文言だが、これは武偵高内のパワーバランスを表している。

 

 こんな物騒な高校だからか、三年生ともなれば相当な実力者が残る。そして、人によるがかなり大きい依頼を受けられるようになり、指名されることもあるのだとか。まあ、総じて三年は繁忙期だということだ。

 

 

「それじゃ、僕もそろそろ行くよ。またね、綱吉くん」

 

「ああ、うん。またね」

 ツナは不知火君が外に出たのを見送り、少し伸びをした。

 

「確か……猫探しの依頼かぁ……」

 あまり得意ではないが、珍しく単位の美味しい依頼に向けてツナは立ち上がった。

 

 

 

 

# # # # #

 

 

 

「あ、白雪さん」

 

「こんにちは、これから暫くここに居ることになったの。よろしくね」

 

「あ、ああ、そ、そそそうなんだね」

 

「?」

 ツナは表情を努めて変えないようにしたが、心の中の動揺は口から溢れてしまった。彼女ーー星伽白雪は大変に美人で、正真正銘の大和撫子だが、キンジの幼馴染みにして、やや……いや、かなり愛が重いという欠点が存在した。部屋で初めて会った時のことは思い出したくもないし、問題児ことアリアとの邂逅の際はもっと酷かった。部屋中の家具が穴だらけ、傷だらけになり、ベランダの物置に隠れる羽目になった。

 

 だが、欠点以外は素晴らしい。勉学や諸々の事だけでなく料理も上手なので大変に美味な料理を頂くという恩恵も受けたことがある。そう、欠点以外は。

 

 

 

「ツナ、ちょうど良かった。私から説明するわ」

 

「はぁ……」

 何でも星伽さんは超能力を扱う武偵ーー超偵を専門に誘拐する犯罪者、魔剣(デュランダル)に狙われているという情報が入ったらしい。

 

 らしい、と曖昧に言われる理由は実在しているのか疑われているからだ。ツナはゲーム内で登場する強い武器としてデュランダルを知っていて、剣の名前を通り名にするなんて珍しいなぁ、と呑気な事を思った。

 

 

 

「さて、色々設置するけど……ツナも手伝って」

 

「うん。あんまりよく分からないけど、指示してもらえばその通りに動くよ」

 

「じゃあーー」

 アリアは色々と指示をする。だが、それはかなり細かく、分かりづらいアリアの自己流が入り混じったものであった。本来、キンジのようなある程度の能力のある武偵ならあっさりと指示を成し遂げただろう。

 

 しかし、今それを実行しているのは()()沢田綱吉。武偵高校ドジランキングの上位に名を連ねる男である。

 

 

「げ」

 

「うわ」

 

「しまった……」

 ちょうど三連続、見事に失敗をした。そして、キンジは急いでツナを出来るだけ遠くに引っ張っていった。

 

 

「なあ沢田……取り敢えず部屋からしばらく離れた方がいい……」

 

「うん……そうする」

 ツナがミスを重ねる毎にアリアの口数が少なくなり、米神の青筋が増えていった。我慢強くアリアは必死に抑えているようだったが、これはもうヤバいかもしれない。

 

 ツナは「少し、何かを買ってくるよ……」と断ってから逃げるようにして部屋から出て行った。

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ……ももまんでも買って帰るか……」

 自転車で遠くまで行っていたが、途中にキンジからお使いを頼まれたので石鹸やらの必需品を買って帰ってきた。そして、近くのコンビニでももまんを購入しようとしたが、運悪く売り切れていた。

 

「仕方ないかあ……」

 ご機嫌取りくらいはしないとな、とツナはもう一漕ぎしてももまんを探す。

 

 

 

「ふう、やっと見つかった」

 中々ももまんは見つからず、何件か周ることでようやく一つだけ購入できた。そして、自転車に乗って帰ろうとすると、トントンと背中を叩かれた。

 

 

 

「これ、落としてますよ」

 

「あ……ありがとうございます」

 いつのまにか換えの歯ブラシが落ちていたらしい。拾ってくれた人物は金髪で、眉目秀麗な西洋人だった。剣道かフェンシングの系統を嗜んでいるのか、竹刀袋を下げているのが印象に残る。一瞬、山本みたいだとツナは思ったが、どちらかと言えば獄寺君のような雰囲気がするなぁと感じとった。

 

 

「それでは、また今度」

 

「あ、どうも」

 また今度?と訝しむが、丁度ポケットが振動した。

 

「はい、沢田です」

 

『取り敢えず、大丈夫そうだ。そろそろ帰ってこいよ』

 

「ああ、うん。もう着くよ」

 

『それじゃ』

 キンジから掛かってきた通知で一先ずは安心して自室へ入れそうだ。カゴから重いレジ袋を引っ張って、階段を登って行った。

 

 

 

 

 

「あら、遅かったじゃない」

 

「うん、まあね。はい、お土産」

 

「ももまんじゃない!」

 

「一応、白雪さんにはあんまん。キンジには肉まんだよ」

 

「ありがとう、沢田君」

 

「おっ、サンキューな沢田」

 レジ袋に入ったあんまんと肉まんを渡す。アリアはぺろりと食べてしまっていた。

 

「は、はや……」

 これには目を丸くした。本当についさっきももまんをあげたはずなのに、胃袋へと消えている。

 

 

「あ、ツナ。設置した物の説明するからちょっと来なさい」

 

「うん。買ったものをしまったら行くよ」

 レジ袋に詰まっている日用品の数々を棚や箱に収納していく。以前のツナであれば適当にしまったかもしれないが、綺麗に仕舞おうと考えるくらい彼は成長をしていた。

 

 

「今度こそ説明するわ」

 

「うん」

 そうして説明が始まったが、ツナは話の五割も理解していなかった。いくら武偵としての知識がある程度は身についても、Sランク武偵で多くの経験と知識を身につけているアリアにはついて行けそうにない。さわりの部分は必死に覚えたので、ツナからすれば十分及第点だった。

 

 

 

「ツナ、アリア晩飯出来たってさ」

 

「お、よっしゃ」

 ツナは小さくガッツポーズをした。本当に彼女の料理は美味しいので、是非とも食べたかった。キッチンから漂ってくる香りに思わずごくりと唾を飲み込むが、「なんだよ、大袈裟だな」とキンジはちょっと呆れていた。

 

「へぇ、意外。作ってもらう方だと思ってたわ」

 

(まあ、大抵の料理はアリアの料理よりも美味しいけどね……)

 以前、朝食をアリアが作ろうとした際の悲劇を思い出した。真っ黒の料理で美味いのはイカ墨パスタくらいだろう。

 

「……ツナ、アンタ失礼な事考えてない?」

 

「いっ、いや、何も……」

 そう言えば、変な所で超直感並みに鋭いのをツナは忘れていた。ゾゾゾと背中に冷たいものが走る。

 

 

「ま、まあさ、ご飯を食べようよ。美味しいからさ」

 

「ふうん、そうね」

 今度から気をつけようとツナは思った。

 

 

 

 

 

 

 




次回はgw中に出したい、と思ってますが……鋭意努力はします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
一言
0文字 ~500文字
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。