ハイスクール・フリートー乙女達の航海日記ー (三坂)
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今回よりハイスクール・フリートの二次創作を投稿させていただきます!至らぬ点もあると思いますがよろしくお願いいたします!


登場人物

 

赤宮春香(あかみや はるか)

大淀の航洋艦長(クラス委員長)

航海科所属、15歳

大淀クラス内では「艦長」と呼ばれており、親友の焔からは「ハルちゃん」と言われている。

親がホワイトドルフィンやブルーマーメードなどに所属していた影響を受けて自身もブルーマーメードを目指すようになった。そして親友の焔と偶然にも同じ艦に配属となった。特にずば抜けたことはない平凡な少女だが、いざというときの判断力は侮れない。

フレンドリーな性格でどんな人とでも仲良くなれる。

 

焔羽南(ほの はなん)

副長、砲雷科所属

赤宮の親友で仲がよくほとんど一緒にいることが多い。

海育ちのため泳ぎが得意、過去には長距離水泳などにもトライしたことがある。赤宮からは「ホノちゃん」と言われている。彼女のアシスタントとして陰でいつも支えている。

 

上里雪(うえさと ゆき)

砲術長、砲術委員。砲雷科所属

ガッツリなミリタリー系女子

兵器こととなったら雪と言われるほど詳しく、右に出るものはいないとか。見た目は美少女のため初めてあった人の100パーセントは本来の彼女に驚く。

そのため射撃指示はかなり正確で狙った獲物はほとんど外さないレベル。ましてや試験の際には噴進魚雷を打ち落とすなどの離れ業も披露している。

 

小野瀬由依(おのせ ゆい)

砲術委員.砲雷科所属

副砲担当、大の本好きで好きあらばどこでも本を読む。

高嶋と同じで上里のストッパー役。

文章理解力がかなり高く、ちょっとの会話だけでも理解できる。

 

高嶋穂香(たかしま ほのか)

水雷長、水雷委員。砲雷科所属

大淀クラスでは唯一の赤髪。明るくて元気な少女。たまに解説で暴走しがちの上里のツッコミ役。魚雷の性質を理解しており、時には普通の人では考えもしない方法で魚雷を使用したりする。上里や小野瀬と同じ艦橋勤務。

 

浅野柚乃(あさの ゆの)

記録員、書記。主計科所属。

愛用のタブレットで、情報収集や航海日誌の記録などを行っている。機械関係にはかなり強く、パソコンなども持ち込んでいろいろな情報をクラスに共有したりする。

普段はかなり大人しい。

 

霧矢晴(きりや はる)

航海長、航海委員。航海科所属

操舵を担当。まったりな性格でマイペース。しかし操舵を握ると動きが早くなる。勘が鋭く、ピンチなときはそれで切り抜けたりしている。

 

砲雷科

 

羽坂薫(はさか かおる)

砲雷員、主砲照準担当

上里の親友で、彼女のどんな指示にも対応できる。

普段は筋トレなどで体力をつけている。

 

若葉来美(わかば くるみ)

砲雷員、主砲旋回担当

少し人見知り、しかし艦のメンバーには心を開いている。砲塔の点検などもしている。

 

鈴野琴(すずの こと)

砲雷員、左舷副砲照準担当

副砲射撃を担当しており、接近戦などで猛威を振るう。

狙いはあまり正確ではないがラッキーショットが多い。

 

春坂結菜(はるかさ ゆなん)

砲雷員、右舷副砲照準担当

山育ちの野生児、サバイバル生活が大の得意。

 

古谷香音(ふるや かのん)

水雷員、左舷一番魚雷発射管担当

アニメが大好きで開いてる時間はよくアニメ鑑賞をしている。

 

乃木久佳(のぎ ひさか)

水雷員、右舷魚雷発射管担当

優しい口調で話すが、怒った笑顔がクラス内でダントツに恐ろしいらしい。

 

土佐丸美(とさ まるみ)

水雷員、ラッパ手

音楽が大好きで楽器を扱うのが得意

そのためラッパもかなり上手に扱うため、彼女の担当になっている。ソナー担当、ちょっと音にもすぐに反応でき,聴力が優れている。

 

航海科

 

保野酒見(ほの さかみ)

航海員

予備操縦員として普段は艦橋直下の海図室にいるが、晴が席を外す際には舵を握っている。

メンバーの中で数少ないスキッパー免許持ち

 

霞麗(かすみ れい)

左舷航海管制員

目がかなりいい、小さな漂流物でさえも見つけられる。

 

冬見子日(ふゆみ ねのひ)

右舷航海管制員

一時期海外に住んでいたこともあり、英語がかなり得意

朝のラジオ体操が日課

 

久野美紀(ひさの みき)

電信員

通信機器の免許を持っている。

そしてメモなどにスマホを多用している。

 

九花望(ここのか もち)

見張員、視力や聴力がよく遠距離の船舶を肉眼で捕捉できる。ほとんどマストの見張り台で過ごすことが多い。

が、開いてるときはよく降りてくる。

昔から運動神経がいい。

 

機関科

浜北野菜(はまきた のな)

機関長、機関員

親が機関関係の仕事をしていたことがあり機関にはかなり詳しい、動かしながら修理もお手の物。

普通の人がやるとかなりかかる修理も早く済ませることができ、機関委員から信頼を得ている。

 

 

和影文(わかげ ふみ)

機関員

浜北の幼なじみ、彼女と同じで機械に詳しく

だいたい修理する際には共同作業をすることが多い。

 

 

穂見若狭(ほのみ、わかさ)

機関員

癒し担当

彼女がいると場の雰囲気が和む

そしてマスコット的な存在

 

木野真姫(きの まひめ)

機関員

計算が得意で機関の出力調整などで的確な数値を出すことができる。

 

応急科 

 

小野宮榊(おのみや さかき)

応急長、美化委員長

ダメコンやクラス美化担当

工具を扱うのが得意で素早く損傷箇所の応急修理が可能

メンバーで最年少の14歳

 

雪見稚(ゆきみ わか)

応急員、美化委員

小野宮と同じダメコンなどの担当

そしてクラス美化委員としてクラスの秩序を守っている。しかしたまに可愛い一面を見せることも

 

主計科

 

寺見久那(てらみ くな)

主計長、会計

親が金融関係の仕事をしていたこともあり

会計や書類作成、物品管理、購買(酒保)を受け持っている。

 

野波祐奈(のなみ ゆうな)

給食員、砲水雷運用員、炊事委員

どんな料理もレシピや材料があれば何でも作れてしまう。普段からメモ帳を持ち歩いており気に入った料理があれはすぐにメモる。

 

小込千景(ここみ ちかげ)

給食員、砲水雷運用員、炊飯委員

主に祐奈のサポート役

二人でクラスみんなのご飯などを作っている。

クールで美人

 

明石穂稀(あかし ほまれ)

衛生長、保健委員

生徒でありながら、医師免許の資格を飛び級で獲得しているエリート少女。直せない怪我はないと言われるほど

手当が上手。

見た目から年上に勘違いされることも。

よく医療関係の本を読んでいる。

 

乗船艦艇

 

小型直接航洋艦大淀

基準排水量8.168トン

全長192.00m

最大幅16.60m

後続距離10.315カイリ

乗員30名(史実だと782名)

 

武装

三年式15.5cm3連装砲2基6門

九六式10cm連装高角砲4基8門

61cm3連装酸素魚雷発射管2基(片舷1基ずつ)

25ミリ単装機銃4基

(変更点)

25ミリ単装機銃2基を撤去

127ミリ単装速射砲を装備

主砲を20.3cm連装砲2基4門に変更

 

 

レーダー

21号電探1基

22号電探2基

13号電探1基

最新レーダー

 

ソナー

零式水中聴音機1基

九三式三型探針儀1基

水中信号機

 

潜水艦隊を指揮するために建造された軽巡洋艦

そのため通信設備などが優れており

教育艦内では屈指の性能を誇っている。 

教育艦として改装されたあとは

後部甲板に3連装魚雷発射管を左右に追加装備

更には砲弾も表示できる高性能レーダー

対水上・対潜レーダーを装備している。

後部格納庫には無人機や予備魚雷や物資などの保管場所として使え、更には作戦会議室としても機能する。

副砲のほとんどは自動化されている。

なお大淀は横須賀校所属艦のため赤色のラインが引かれている。

艦番号580

 

 

ちなみにはいふりの世界では太平洋戦争が勃発しなかったことから大淀は姉妹艦が建造されて二番艦仁淀・三番艦、四番艦の高瀬 鳴瀬が就役し佐世保・舞鶴・呉・横須賀基地のそれぞれに配備されています。

 

とあるお方に頂いた大淀の画像です

 

https://img.syosetu.org/img/user/262096/86113.jpg

 

 

(こちらは書いていただいた色有りです) 

https://img.syosetu.org/img/user/262096/86164.jpg

(見る際はこちらのリンクをコピーして開いてください)

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回から物語スタートです


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EP1「入学」

今回よりスタートです!



海上交通が盛んな横須賀、多種多様な船がすれ違い賑わいを見せている。そんな中を横須賀女子海洋学校のセーラー服を着て、水上バイクを操る茶髪茶眼少女が。

雰囲気からしてどうやら新入生のようだ。

 

「えっと‥どこかな‥」

 

周りをキョロキョロしつつ走っている。どうやらバイクを止める場所を探しているようだ。

 

「おっ、あったあった」

 

少しキョロキョロしたあと、見つけたのかそちらにバイクの進路を変える。その水上バイクの係留場所には彼女と同じ制服を着ている子達がちらほら確認できる。

 

「いっそげいっそげ〜」

 

バイクの荷物入れから指定カバンを取り出し、駆け足で

学校へ向かう。

 

ーどんな子に会えるかな〜楽しみ♪ー

 

期待と目標を懐きつつ、移動していると後ろから声をかけられる。

 

「あれ?もしかしてハル?」

 

聞き慣れた声を聞いた少女ははっとした表情で振り返る。そこには黒髪ロングの少女が

 

「ホノちゃん!?」

 

「良かったぁ〜、合ってた♪」

 

どうやら顔見知りのようでハルと言われた少女はどうして親友ここにいるのかという驚きの表情、ホノと言われた少女は知っている友人だったことに安堵の表情を浮かべる。

ちなみにハルと言われた少女が赤宮春香、そしてホノと言われた少女は焔羽南。二人共小さい頃からの幼なじみのようだ。

 

「もしかしてホノちゃんもブルーマーメードになるの?」

 

「そりゃもちろん♪乙女の憧れの場所ですから」

 

校舎へと足を運びつつ二人は雑談を交わす。一時期中学生のとき別々の学校に通っていたため、楽しそうだ。

 

「一緒の艦になったらいいねぇ〜」

 

「そうだね〜」

 

っとそんなこんなお話していると校舎につく。中に入り手続きを済ませて、一度荷物をロッカーに預ける。

その後、入学式が行われる大型直接教育艦武蔵艦首付近甲板に移動する。

 

「うへぇ〜、さっすが武蔵。大きいねぇ」

 

艦首付近から武蔵の巨大な主砲塔、そしてビルのようにそびえ立つ艦橋を見上げつつ春香がそう口に溢す。

 

「世界最大って言われるだけはあるよね〜」

 

焔も艦橋を見上げつつ、そう口に出す。甲板には多数の新入生がおり、誰もが期待や不安などいろんなことを胸に秘めていた。

 

「そういえばなんの船になるんだろ〜

私は巡洋艦とかに乗ってみたいな」

 

「私は戦艦かな♪でも戦艦ってエリートクラスの子じゃないと難しいからねぇ‥」

 

「ホノちゃんなら行けそうな気がするけど」

 

会話を弾ませていると、アナウンスが入る。

 

「「これより入学式を行います。新入生は速やかに整列してください」」

 

「おっそろそろ始まるね」

 

アナウンスを聞いた二人は整列場所に向かう。新入生が整列し終えると一人の女性が前に出てくる。

 

「新入生の皆さん、ご入学おめでとうございます。

私は横須賀女子海洋学校校長宗谷真雪といいます」

 

自己紹介を終えた真雪は一度新入生を見回してから再度口を開く。

 

「これから先、様々な壁や試練が待ってると思います。ですが皆さんなら乗り越えられると信じております。

立派なブルーマーメード目指して頑張りましょう」

 

こうして宗谷校長からの挨拶を終えたあとは、各クラス艦の発表がありそれぞれクラス表や荷物を持って教室に移動する。

 

「‥まさか、同じクラスになるとはねぇ。こんな偶然あるんだ‥(汗)」

 

「しかも、ハルが艦長なのが驚きだよ」

 

「ムム‥、それはどうゆことさ」

 

「だってぇ、ハルの成績私より平凡なの知ってるんだから」

 

「フグァ!?(10ダメージ)」

 

焔の攻撃を受けダメージを喰らい、少ししょげる春香。

どうやら二人共同じクラスになったようだ。話を聞く限りだと、春香が艦長、焔が副長といったところだろうか。

 

「でも、ハルが艦長ならやりやすいかもね♪」

 

「えへへ‥♪私もだよ♪ホノちゃんが副長なのがけっこう大助かり、サポートよろしくね♪」

 

「任せなさい〜♪」

 

「んで私達が乗るのが小型直接教育艦大淀‥、今年から配属となった新鋭艦かぁ」 

 

「最新鋭か‥、ってことはいろいろ設備揃ってるかも」

 

焔のフォローで再び復活した春香と話しながら通路を歩いていると「大淀クラス」、と書かれた教室につく。

中に入るとすでに何人か着ている様子だった。

 

「早い人はもう来てるね」

 

「だねぇ」

 

教室を見渡しつつ席につくと二人の少女が気づいてやってくる。

 

「貴方達もここのクラス?」

 

「あっはい、艦長の赤宮春香です」

 

「同じく副長の焔羽南といいます。あなたは?」

 

「私は砲術長の上里雪。んでこっちが」

 

「砲術員の羽坂薫です♪よろしくお願いします(一礼)」

 

「こちらこそ、よろしくお願いします(礼)」

 

こうして挨拶を終えると、丁度指導教官が入ってくる。

 

「よし、みんな席につけ」

 

それを聞いて雑談などをや挨拶などをしていた生徒達は素早く座る。それを指導教官は確認しつつ教卓にたつ。

 

「大淀クラス全員いるな?艦長」

 

「はい、起立」

 

指導教官からの指示を受け、号令をかける。全員が立ったことを確認すると再び口を開く。

 

「指導教官の古庄だ。今日から君達は高校生となり、海洋実習に出ることになります。様々なことを考えていると思います。期待や不安、ですが、仲間と協力して、荒波を超えていきましょう。そして、陸に戻った際には立派な船乗りとして会えることを期待しております。」

 

そして少し間を開けて

 

「それでは各自出港用意!」

 

「「はい!!」」

 

古庄の指示を受けて、各自出港準備のために持ち場へ移動する。それを確認しつつ、自身は教室を出る。

 

ー今年度から教育艦として配備された新鋭艦大淀、その最初となる乗組員のあの子達‥、どんなふうになるのか楽しみねー

 

そんなことを思いつつ、大淀をあとにするのであった。

 

 

 

 

 




大淀は今年度から配備された教育艦という設定です。
理由としては最新鋭の設備などの都合で引き渡しが遅れたということになってます。
そのため、春香達が最初の乗組員生徒となります。


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EP2初航海でピンチ!?

今回から海洋実習が始まります。
しかし初の航海でとんでもない事態が‥!?


古庄教官の挨拶が終わったあと、各自持ち場につくために移動する。もちろん春香達も持ち場である艦橋に向かう。が‥

 

三人「「‥‥」」

 

艦橋に入ると三人は全く同じ方向に視線を向けている。その先には方位盤の上で寛ぐ一匹の茶色の猫が‥

 

「なんでここに猫が‥」

 

「多分迷い込んだとか‥」

 

「とりあえずどうします?この猫」

 

「ここに居させるしかないかなぁ‥そろそろ出港時間出し」

 

「艦長と同意見だな、ここで面倒見ればいいし」

 

「私も艦長と同じで」

 

「んで、名前どうする?」

 

「とりあえずもちでいいんじゃない?」

 

「即答(汗)」

 

とそんなこんな話してると、他の子も入ってくる。

 

「おっもう来てる。」

 

「おまたせしました〜」

 

「よろしく‥です」 

 

「おはよう御座います!」

 

そして艦橋メンバーが集合したことを確認すると春香が口を開く。

 

「改めまして、艦長の赤宮春香です」

 

「副長の焔羽南といいます♪」

 

「砲術長の上里雪だ」

 

「水雷長の高嶋穂香です♪」

 

「書記の、浅野柚乃です」

 

「航海長の霧矢晴です〜」

 

「砲術員で副砲担当の小野瀬由依、よろしく」

 

こうして自己紹介を一通り終えると、艦橋の雰囲気が変わる。

 

「よし!それじゃみんな!出港用意!」

 

「「はい!!」」

 

春香の指示を受けて各自配置につく。

 

「各区域配置完了!」

 

「機関室、機関出力及び蒸気圧正常!」

 

「了解!艦長!」

 

「出港用意!錨挙げ!」

 

春香の指示を受け大淀の錨が土佐丸美の上でラッパとともに巻き上げられていく。艦首に配置していた応急員、美化員の雪見稚が錨巻上げ中の赤旗を巻上げ完了の合図である青旗に上げ変える。

 

「錨巻上げ完了!」

 

「機関両舷微速!大淀出港!」

 

停泊していた大淀がゆっくりと動き出し、桟橋をあとにする。

 

「両舷微速!」

 

機関室では機関長の浜北野菜の指示で機関員が出力バルブを調整していた。

 

「航海長操艦」

 

「「航海長操艦」」

 

「両舷微速前進、赤黒なし、進路130度」

 

「いただきました航海長。両舷微速前進、赤黒なし、進路130度」

 

「艦長、指導教官より各艦あて。出港後速やかに第四航海序列に移行せよとのこと!」

 

「了解、本艦の進路そのまま!大和後方につく!」

 

「進路そのまま!大和後方につけ!」

 

こうして艦隊は出港、集合先である西之島新島沖に向けて出港するのであった。   

 

 

それから数時間ほど艦隊は何事もなく航海を続けていたのだが‥

 

「武蔵より入電、晴風が機関の不調を起こしたようです。」

 

電信員の久野美紀からの報告を柚乃が読み上げる。それを聞いて右舷デッキから晴風の様子を見る春香、

報告通り晴風の煙突から少し白目の白煙が立ち上り速力も落ちてきているようだ。

 

「それに伴い貴艦は晴風の護衛及び修理の支援を命ずるととのことです。」

 

「やれやれ‥武蔵の艦長は人使い荒いねぇ」

 

柚乃の読み上げる文章を聞きつつ、苦笑いを溢す焔

 

「こんな中でうちが設備整ってるからねぇ

仕方ないよ」

 

そんな焔をたしなめつつ、操舵をしている晴に視線を向ける。

 

「晴さん、機関出力を4分の1に落として。晴風に接近して並ぶ感じで、面舵〜!」 

 

「わかりました。機関4分の1に落とします。面舵〜!」

 

「戻せぇ!取舵!」

 

「戻せぇ〜!取舵〜!」

 

春香の指示を聞きつつ、操舵を操る晴。少し蛇行しつつ晴風と並ぶように調整していく。

 

「それと晴風にこれから護衛及び修理支援を行うことを探照灯で伝えて」

 

「了解」

 

大淀の探照灯が何回か点滅、晴風にこちらの動向を伝える。それから少しして晴風から返答が来る。

 

「艦長、晴風より返答です。「支援感謝する」とのこと。」

 

「よし、(伝声管に行き)機関室聞こえる?

今から晴風の機関修理を手伝うから、何名か人を派遣してほしいの」

 

「あいよ!任せな!私と文で行く」

 

「まかせてください」

 

伝声管からは野菜と同じく機関員で幼なじみの和影文

の声が聞こえてくる。

 

「ありがとう、それと修理工具で足りないものがあるなら格納庫に何個かあるからそれ使って」

 

「気が利くじゃん♪サンキュ」

 

その間にも大淀は晴風の横に並ぶように航行、そして両艦の間がある程度狭まってきたタイミングで応急長の

小野宮榊がタラップを設置する。

 

「設置できました」 

 

「了解!じゃあ行きますか!」

 

「はい!」

 

設置完了次第二人は工具を持ってタラップを渡り晴風甲板に降り立つ

そこには艦長らしき少女が出迎え来てれた。

 

「晴風艦長の岬明乃です。この度は支援感謝します♪」

 

「大淀機関長の浜北野菜だ。んでこっちが」

 

「機関員の和影文です。」

 

「んで、申し訳ないが機関室まで案内してくれないか?」

 

「わかりました!それではこちらへ」

 

そう言って明乃は二人を案内して機関室へ向かうことにする。

 

「もううちの機関長のマロンちゃんとかが修理してるけどけっこう時間かかるみたい」  

 

「ふむぅ、そうなるとけっこうやられてますね」

 

「だなぁ‥」

 

歩くこと数分後、機関室へ着いた三人は中に入る。

 

「マロンちゃん、どう?機関の調子」

 

「結構やられてらぁ、こりゃ修理かかるなぁ‥!」

 

機関室では機関長の柳原が工具片手に機関の修理をしていた。もちろん他の機関員も駆り出されていた。

 

「ん?艦長、その人たちが手伝いに来てくれた人?」

 

明乃の後ろにいた二人に気づき、声をかけてくる機関助手の黒木

 

「そうそう♪こちらが大淀の機関員の‥」  

 

「機関長の浜北野菜」 

 

「同じく機関員の和影文です。」

 

「機関助手の黒木洋美だ。丁度足りなかったから助かるよ」

 

「んじゃ、早速取り掛かりますか‥!」

 

「ですね‥!」

 

二人は持ってきた工具箱を床におろし、中から様々な道具を取り出して復旧作業に取り掛かる。

 

ーその頃、晴風艦橋ー

 

「はぁ‥ついてない‥」

 

艦橋では艦長の明乃に変わり副長のましろが指揮を任されているのだが、どうやら何か悩んでる模様。

 

「初の海洋実習で機関の不調‥、しかもそれで遅刻‥ついてない‥。」

 

「まあ、晴風は高圧缶だからねぇ‥。速度は早いけど壊れやすいんだよ」

 

そんなましろをフォローするかのように水雷長の芽依がやれやれと首をふる。

 

「現在の速度だとあとどれくらいだ?」

 

こればっかりは仕方ないと切り替え、操舵をしている航海長の鈴に聞く。

 

「えっと‥巡航18ノットで四時間‥」

 

「はぁぁ‥ついてない‥」

 

だがやはり現実を聞くと再び暗くなってしまうのであった。

 

「まあ、機関の不調が原因なので多少は多めに見てくれると思いますよ〜」

 

タブレットを見つつ、今度は書記の幸子がフォローに入る。

 

「それに、新鋭艦大淀の乗員の方も手伝ってくれますし、想定より早く治りそうですよ。」

 

「うい」

 

幸子の話に、砲術長の志摩が首を縦にふる。その下では猫の五十六が干し魚を美味しそうに食べていた。

 

「‥まあ気にしてても仕方ないか‥(渋々顔を上げて並んで航行している大淀を見つつ)そういえば、あの大淀って今年から教育艦として使われてるんだよな?」

 

「確かそのとおりのはずです。武装は15.5センチ3連装砲2基、10cm連装高角砲4基。そして教育艦改修時に搭載された61cm3連装魚雷発射管2基を後部甲板に左右1基ずつ、最大速力は35ノット。今回は搭載しておりませんが無人機の格納も後部格納庫で可能、他にも最新鋭の通信設備及びレーダーも搭載され。戦艦にも劣らない設備になってます。」

 

「ってことはあの艦に乗ってる子達が教育艦最初の乗員か〜」

 

「そうなるな、にしても最新鋭の設備か‥、立ち回り次第だとうちよりも強そうだな」

 

艦橋で雑談をしていると伝声管から明乃の声が聞こえてくる。

 

「みんな〜!機関修理終わったって〜」

 

「わかりました。大淀乗組員を送ったあと、艦長は艦橋に戻ってきてください」

 

「わかったシロちゃん♪」

 

「シロちゃんではなく宗谷ましろです‥(汗)」

 

 

修理を終えたあと二人は大淀に戻り、タラップを片付け後、大淀が先行する形で前に出る。

 

「艦長、晴風機関修理完了とのことです。」

 

「流石機関員、仕事がはやい‥♪」

 

艦橋では晴風の機関修理が終わったことを焔が春香に報告していた。

 

「まあでもこれは遅刻確定かなぁ‥」

 

「機関不調なので、多少はなんとかしてくれるんじゃないですか?」

 

「そうなればいいんだけどねぇ、私達はいいとして晴風の乗員が心配だよ(汗)」

 

 

その頃見張り台では、見張員九花望が暇そうに海面を眺めていた。特に見張りを要さないときのため仕事がなく、海面や晴風の様子を見たりして時間を潰していた。

 

「暇だ‥、下に降りようかな‥」

 

しかしあまりにも暇のため、一旦降りようかと考えた矢先‥。

 

ドォォン‥!

 

「!!」

 

微かだが何かの音が聞こえてきたため慌てて視線を遠方に移した直後‥

 

ザァァァン!!

 

大淀の右舷前方に何かが着弾、大きな水柱が上がり、船体が揺れる。

 

「右舷前方に着弾!」

 

「着弾!?」 

 

見張り台からの報告を受け、艦橋に衝撃が走る。さらに追い打ちをかけるかのように‥

 

ザァァァン!

 

「再び右舷に着弾!」

 

「一体どこから‥!っ!総員見張り厳となせ!」

 

急いで砲撃主を探そうと、各自に指示を出したのだが‥その原因は一瞬でわかった。

 

「艦長!砲撃主は‥さるしまです!」  

 

望の報告を聞いて慌てて双眼鏡で砲撃方向に視線を向けると、そこには砲身をこちらに砲撃を撃ち込むさるしまの姿が‥

 

「さるしま‥ってことは‥、古庄教官‥!?」

 

「どうして‥教官が‥」 

 

艦橋ではなぜさるしまがこちらに攻撃してきているのか理解が追いついてなかった‥。しかしそんな中でもさるしまは攻撃の手を緩めない。

 

「もしかして、遅刻したこと怒ってるのか?」

 

「それから抜き打ちテスト?」

 

「わからな‥(どぉぉぉん!)っ!」

 

再び着弾、水柱とともに上がる爆炎を見て上里がはっとなる。

 

「艦長!これ実弾です!」

 

「実‥弾?」

 

「どうゆうことよ!?」

 

動揺が広がっているのは晴風も同じ、大淀を狙って放った砲弾の一部がズレて晴風付近に着弾していた。

 

「どうして‥」

 

「遅刻したんだ!怒られて当然だ!」

 

「だからってこんな‥(ドォォン!)え‥これ‥実弾?」

 

大淀が攻撃を受けた際、至近弾の水柱を見て自然とそう口に出す。

 

「実弾‥」

 

「リンちゃん!面舵一杯!回避急いで!」

 

「りっ了解‥!」

 

「だめです!艦長!無線も手旗信号も応答ありません!」

 

「そんなに怒ってるの!?」

 

「このままじゃ怪我人が出るぞ‥」

 

「それと大淀にも回避運動するように伝えて‥!」

 

どうしたらいいのか‥初航海でこのような事態に遭遇してしまったため一同は逃げの一手しかとれなかった。

だが‥大淀艦橋では違うようだ‥。

 

「‥‥」

 

他の人メンバーが慌てて対応を話してる中一人考え込む春香、そして‥しばらくして口を開く。

 

「対水上戦闘‥右舷砲戦用意‥。目標さるしま」

 

「「!?」」

 

艦長の思いがけない発言にメンバーの視線が春香に集まる。

 

「‥ハル‥それだと‥教官の船撃つことになるよ‥?」

 

こうゆう場だとわきまえて艦長と言ってる焔でさえ、驚きのあまりあだ名で呼んでしまう。

 

「わかってる‥。でも‥このままだとうちや晴風の乗員にも危害がでる‥。演習弾を使うから沈没はしないから安心して。最初は警告射撃、それでも砲撃を止めなかったら艦尾に向けて集中砲撃。足を止めてその隙に離脱する‥。」

 

「「‥‥」」

 

春香の言葉に一同は返答に迷う‥。しかし焔は決心した顔で口を開く。

 

「わかった‥。ハルが言うなら‥」

 

他のメンバーも顔を見合わせて頷く。それを確認したあとで春香が艦長帽子をかぶり直す。

 

「対水上戦闘用意!!」

 

「対水上戦闘用意!!これは演習ではない!繰り返す!

これは演習ではない!」

 

春香の合戦合図につられ、焔が伝声管で艦内に指令の指示を出す。

 

「目標!さるしま!右舷砲戦用意!弾頭模擬弾!第一射!警告射撃!」

 

「了解!右舷砲戦用意、目標さるしま!弾頭模擬弾!

第一射警告射撃!主砲塔旋回急げ!」

 

「同じく!右舷1、3番副砲、砲戦用意!弾頭模擬弾。第一射!警告射撃!」

 

春香の指示を受けた上里と小野瀬が砲戦用意の指示を出す。その間に柚乃が晴風へ砲戦開始の合図とその後の指示を電話で伝える。

 

ー晴風艦橋ー

 

「艦長!大淀から!これよりさるしまと交戦するとのことです!」

 

「大淀が!?」

 

幸子の指示を聞いて慌てて受話器を受け取り、電話に出る明乃。

 

「こちら大淀書記、浅野柚乃です」

 

「晴風艦長岬明乃です!あの!さるしまと交戦するって聞きましたが!?」

 

「えぇ、そのとおりです‥。このままでは被害が大きくなります‥。でも安心してください。演習弾なので沈没はありません。それよりもその後のことについて説明します。」

 

「その後は‥」

 

「はい、さるしまとの距離を離すこと、もしくは航行不能に成功した場合。速やかにこの海域を離脱、第2合流地点の酉島南方10マイルまで退避します‥。」

 

「わかりました‥」

 

そして通信を終えると艦内に視線を移す。

 

「リンちゃん!離脱用意!さるしまの迎撃が成功したことを確認したら面舵して最大全速!」

 

「りょっ了解!」

 

「艦長‥、いいんですか‥?」

 

明乃の指示に慌てつつも従う鈴とは対象で心配そうに見つめるましろ。

 

「本当は攻撃してほしくない‥、けどみんなを守らないといけないから‥‥」

 

「‥‥」

 

ー大淀艦橋ー

 

「右舷砲戦用意!主砲!1、2番!90度旋回!射角30度」

 

「右舷副砲搭!射角20度!」

 

砲撃に備えて上里は主砲射撃指揮所へ、小野瀬は副砲射撃指揮所へ通達する。

 

主砲射撃指揮所

 

「了解!1、2番旋回開始。右舷90度旋回、射角30度」

 

「回した。照準よし」

 

射撃指揮所では、羽坂薫と若葉来美が上里の指示を聞きつつ砲塔を回す。

 

副砲搭射撃指揮所

 

「副砲搭、1番、3番射撃用意よし」

 

副砲射撃指揮所でも小野瀬の指示を聞いて、右舷副砲担当の鈴野琴も照準を急ぐ。

 

ー大淀艦橋ー

 

「主砲!射撃用意良し!」

 

「同じく副砲射撃用意よし!」

 

「見張り!用意よし!」

 

「水雷員スタンバイよし!」

 

「機関室!全速いけます!」

 

「応急員配置完了!」

 

「艦長!各部配置完了!いつでもいけます!」

 

各部からの報告をまとめ、焔が伝える。それに頷いて再び目標に視線を向ける。

 

「対水上戦闘!目標さるしま!右舷砲戦撃ち方用意!警告射撃!てぇ!」

 

「主砲攻撃はじめ!」

 

「副砲!てぇ!」

 

ドゴォォォン!

 

射撃開始の合図とともに大淀の15.5cm3連装砲、10cm連装高角砲が火を吹き、さるしまめがけて飛来していく。

 

ドゴォォォン!

 

「目標に着弾!至近弾です!」

 

さるしまの周囲に主砲副砲弾が降り注ぎ着弾、その衝撃でさるしまの狙いが一時振れる。

 

「どうだ‥!」

 

これでどうなるか‥春香は双眼鏡で様子を見る。しかし撃たれたことにお構いなしかのように再び攻撃してくる。

 

ズドォォォン!

 

「目標!射撃継続!!」

 

見張りからの報告で、覚悟を決めて再び射撃指示を出す。

 

「主砲副砲射角調整!第ニ射、さるしま艦尾周辺!集中砲撃!」

 

「了解!射角調整!さるしま艦尾周辺!集中砲撃!」 

 

「可能な限り機関にダメージが入るようにして」

 

「わかりました!」

 

再び指示を受け、主砲副砲の射角が調整されて狙う位置を変える。

 

ヒュン!ドォォン!

 

「さるしまからの攻撃!至近弾!」

 

「主砲!副砲!攻撃始め!」

 

「「てぇぇ!」」

 

ドォォン!

 

春香の再度射撃命令につられ、大淀の主砲と副砲が再び火を吹く。そして再び放たれた砲弾はさるしま艦尾に連続で着弾、そのせいかバランスが一瞬崩れる。

 

ー晴風艦橋ー

 

「大淀の攻撃!目標に命中!さるしま速力落ちてます!」

 

見張員の野間マチコからの着弾報告を聞いて、明乃が指示を出す。

 

「面舵一杯!最大全速!」

 

「おっ面舵一杯!」

 

「出力全開!!」

 

「戻せぇ!0度ようそろー!酉島南方10マイルまで退避!」

 

海域から離脱するように晴風は進路を変えて、その後に大淀も晴風に続くように離脱していく。

 

 

ーさるしま艦橋ー

 

ピピピピピ

 

さるしま艦橋では古庄教官が一人どこなに打電を入れていた。しかしどこなく普通じゃない雰囲気を醸し出し‥

 

ー横須賀某所ー

 

その頃横須賀某所では、とんでもない騒ぎになってきていた。

 

「横須賀女子海洋学校教育艦さるしまより入電!

我大淀及び晴風の攻撃を受け大破!」

 

「学生が攻撃‥!?」

 

「どうゆうことだ!!」

 

「至急!横須賀海上安全整備局に連絡!」

 

「至急!至急!緊急報告!緊急事態発生!

至急対応を求む!繰り返す!至急対応を!」

 

ーーー

 

晴風艦橋

 

「しっかしどうして攻撃してきたんだろうねぇ‥」

 

なんとかさるしまの攻撃から逃れた二隻の艦橋では、どうして攻撃されたのか考えていた。

 

「遅刻したからとか‥?」

 

「だからって実弾を打ってきてるんだぞ‥、普通じゃありえない‥」

 

「あっもしかして!私達さるしまの何か黒い裏を見てしまったんですよ‥!それかさるしまの反乱!」

 

「また始まったよ‥」

 

「でも怪我人が出なくてよかったよ

とりあえず損傷箇所をチェックして学校に報告しよう。」

 

いつもの幸子の一人芝居にやれやれと肩を落とす芽依、それをフォローする明乃、すると設置してある無線がなり

 

「あっ私が出ます」

 

我に返った幸子が無線に出る。最初は普通だったのだが‥徐々に暗くなっていく。

 

「はい‥はい‥、わかりました」

 

「ふぇ?」

 

「晴風が‥我々の船と大淀が反乱したって‥!」

 

「「えぇ!?」」

 

思いもしなかった報告に一同の目が大きく見開く。

晴風だけではない、同じく反乱に指定された大淀でも‥

 

ダッダッダッ!

 

「艦長!緊急報告です!我々と晴風が反乱したことになってます!」

 

「はぁ!?」

 

息を切らしながら入ってきた柚乃のとんでもない報告に

一同は驚きを隠せずにいた。

 

ー反乱‥どうして‥ー

 

 

 

 

 

 

 

 




新メンバー
もち
大淀に紛れ込んだ猫
基本おとなしいがネズミを見たら血相かえて追いかけていく。


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EP3追撃戦でピンチ!?

今回はシュペー戦です!



横須賀女子海洋学校校長室

 

「晴風と大淀が反乱!?」

 

海江田の報告を聞いて、思わず声を荒上げる。  

 

「はい、集合時刻に遅れた晴風とその護衛の大淀が到着した直後、突如教育艦さるしまを攻撃‥、撃沈したそうです‥。」

 

一瞬固まってしまうものの、すぐに我に戻り続きを聞く。 

 

「どうしてそんなことに!?」

 

「さるしま艦長古庄教官は、意識を失っており‥

詳しいことは‥まだわかっておりません‥」

 

「‥‥」

 

 

同時刻

ブルーマメード所属改インディペンデンス級沿岸戦闘艦

ふしお艦長室  

 

「大淀と晴風が反乱!?」

 

驚きの報告に一瞬大声を出しているのは、艦長の赤宮咲。赤宮春香の母親でありブルマー本隊の水上打撃群の指揮官も勤めている。階級は二等保安監督官

一瞬大声になったものの慌てて声を低くする咲、ちなみに無線の相手は咲の旦那であり春香のお父さんの赤宮信三。ホワイトドルフィンでもかなり上の役職で、官僚などとも話ができるほどだ。

 

「どうゆうことよ‥」

 

「俺もさっぱりわからん‥。さっき連絡が来たばっかりだから‥」

 

「‥‥上は?」 

 

「上の奴らも現在パニクってるさ‥、まあ無理もないが‥」

 

「‥本当に春香が反乱したと思う‥?いや、入学仕立ての子達が‥」

 

「俺はありえないと思うな。なんの恨みのない生徒が反乱を起こすなど考えにくい‥」

 

「‥私もよ‥。何より春香が反乱なんて考えられない‥。」

 

「‥‥。とりあえず俺も探ってみる。何かわかったら可能な限り連絡よこしてくれ。」

 

「わかったわ‥‥」 

 

そうして連絡を終えると、一枚の家族写真をふと見つめる。そこには咲と信三に挟まれ、笑顔でピースしている春香の姿が‥‥  

 

ー春香‥‥ー

 

ー晴風及び大淀艦橋ー

 

無線(学生艦の反乱,さるしまを攻撃。さるしまの沈没。艦長以外乗組員は全員無事)

 

「なんで反乱したことになってんの!?先に打ってきたのはさるしまでしょ!!」

 

「うぇ‥私に言われても‥」

 

こちらが反乱したことにされ、納得のいかない芽衣は鈴に詰め寄る。

 

「知床さんに言っても仕方ないだろ‥(フードを引っ張る)」

 

「あ〜‥、ごめんごめん(汗)」

 

そしてそのままましろに連れて行かれるのであった。

 

「でもどうして沈没しちゃったんだろ‥模擬弾だったんだよね‥?」

 

どうして模擬弾で沈没したのか、それに疑問を浮かべる鈴。その会話は通信で大淀に聞こえており、春香が反応する。

 

【こっちも全然わからないわ‥。模擬弾で沈むとか聞いたことないわよ‥。】

 

「本当模擬弾だったんだよな?」

 

まさか間違えて実弾を打ったのではないか‥そう思ったましろは質問する。それに春香が答えようとすると上里が反応する。

 

【砲術長の上里雪だ!打ったのは模擬弾で間違いない!第一実弾うつには艦長副長の‥】

 

【はいそこまで〜】

 

話がヒートアップしかける前に高嶋と小野瀬のストップが入る。

 

「となれば沈むはずはないのだが‥」

 

「もしかして‥これも演習の一環とか‥?」

 

「演習で沈没するか‥!」

 

「なら!わざと沈没したとか!」

 

このタイミングでもぶれず幸子の一人芝居が始まる。

 

「私達!何かさるしまの黒い影を見てしまったんですよ!」

 

「また始まった‥」

 

「私達遅刻しただけじゃん‥」

 

【ナニコレ‥(汗)】

 

幸子のいつものテンションに、どこから突っ込めばわからずにいる焔。 

 

「「お前ら〜見たな〜!」「私達何も見てません〜!」「えぇい!このまま生かしてはおけん!ドォォン」

「あっ逃げられた‥えぇい!このまま海の底に沈んでやる〜!!」」

 

「全部妄想じゃん‥」

 

【ですね‥(汗)】

 

一人芝居に芽衣と晴が思わず呆れる。とりあえず切り替えさせるためにましろが質問する。

 

「それより納沙さん、そのタブレットの通信切ってある?」

 

「大丈夫です、さっき艦長の指示があったときに切ってあるので」

 

【こちらもタブレットの通信は切ってあります】

 

「通信が使えないのは不便だがな‥」

 

「まあ今発見されたら面倒だからねぇ‥仕方ないよ」

 

【動画見れないのもすこし辛いねぇ】

 

もちろんタブレット以外も位置情報がわかるものは両艦すべて切ってある。

 

「ごめんね‥、すこし不便だと思うけど‥第2合流地点の酉島沖までだから」

 

今まで黙っていた明乃もすこし申し訳無さそうに話す。

 

「いっ位置情報もビーコンも切ってあるけど‥

わっ私達お尋ね者なんだよね‥?」

 

操舵を握りつつ、鈴が涙目になる。まあこの状況は辛いのは無理はない。

 

【お尋ね者で済めばいいけど‥最悪犯罪者になるだろうね‥】

 

【こらこら、小野瀬さん。そんな思っても口には出さない】

 

「学生で犯罪者は嫌だよぉ‥‥(涙目)」

 

さらには小野瀬の追撃で今にも泣きそうになってしまう。

 

【とりあえず第2合流地点でなんとか合流しないと‥】

 

「ですね‥‥」

 

 

そして翌日、朝日に照らされつつ晴風を先頭に単縦陣で航行していた。その2隻では昨夜の戦闘の被害確認を起こっなっていた。

 

「どう?砲塔の具合は」

 

被害状況の確認のため艦内を回っている春香、砲塔の具合を見ていた羽坂と若葉に声をかける。

 

「あっ艦長」

 

「一応さっき確認したけど大丈夫そう。砲塔自動化っていうのは便利だけど、メンテが大変だよ‥」

 

若葉がやれやれと首を左右にする、

 

「とりあえず、私は他のところも見てくるね」

 

「あっ、気をつけてくださいね〜」

 

機関室

 

ガチャ

 

「浜北さん、機関の調子はどう?」

 

「一応は問題ないが、昨夜の砲撃で計器がちとやれたなぁ‥。今直してる」

 

機関室へ訪れるとそこには浜北を中心として機関員で計器の修理作業をしていた。

 

「浜北さん〜!ここ、これでいいですか〜?」

 

「あぁ、それでいいぞ木野」

 

今も作業を続けており皆、計器とにらめっこしていた。

 

「ごめんねぇ‥、負担をかけちゃって」

 

「気にしなくてもいいですよ艦長〜、好きでやってるようなもんですし」

 

春香の申し訳なさそうな表情に、ススまみれになりながらも笑顔で若狭が返す。

 

「相変わらず若狭の笑顔はいいな〜♪」

 

「疲れが吹き飛びますよ〜」

 

「よっ!うちのマスコット!」

 

「えへへ〜」

 

相変わらず笑顔が満点の若狭に、思わず場の空気が和む。

 

「あとどれくらい掛かりそう?」

 

「もうすぐ終わるかな、だがそれまでは最大全速は出せねぇぜ?」

 

「わかった。」

 

保健室

 

「明石さん(ガチャン)負傷者はいない?」

 

機関室をあとにし、保健室に訪れるといつもの医療の本を読んでいる衛生長、保健委員の明石穂稀の姿が

 

「今のところは至近弾の破片で頬をすこし切った見張員の望さん以外は来てないわ。」

 

「良かった‥‥、」

 

「しかし、春香さんも大変だねぇ‥。初航海でいきなり反乱扱い受けるとは」

 

「それはみんな一緒だよ‥(汗)ここで私が頑張らないと‥」

 

「それはいいけど、無理は禁物ね?もしなんかあれば相談乗ってあげるから」

 

「うん♪ありがと♪」

 

大人な雰囲気を醸し出しつつみんなのお姉さん的存在で艦のクラスでも高い信頼を得ている明石。そんな理由を改めて実感した春香であった。

 

艦橋

 

「ただいま〜」

 

「おっおかえりなさい~」

 

艦橋に戻ると代わりに指揮をしていた焔や艦橋のメンバーが出迎える。

 

「どうだった?」

 

「見張員の望さんが頬に切り傷、あと機関の計器がすこしイカれたみたい‥」

 

「やっぱ無傷じゃいかないかぁ‥」

 

春香の報告を聞いて、焔がすこし肩を落とす。横では柚乃がタブレットを記録していて艦橋の隅ではもちがくつろいでいた。

 

「残弾はどれくらいある?」

 

「主砲副砲ともに演習弾、実弾残弾余裕あり、魚雷は一発のみ。燃料も余裕はあるかな。食料とかもまだまだあるみたい。」

 

「酉島までの距離は?」

 

「あと2時間すれば到着するよ〜」

 

春香の質問に柚乃と晴が答える。それを聞いてすこし考え込む。

 

「とりあえずはなんとかもたせるしかないかなぁ‥」

 

晴風艦橋

 

「艦長、大淀の被害状況がきました。」

 

晴風艦橋では幸子がタブレットの画面を明乃に見せる。

 

「大事にならなくて良かった‥。」

 

「1番攻撃喰らってましたからねぇ‥」

 

「とりあえずこちらの被害状況も送ってくれる?」

 

「わかりました(送る)」

 

それから少しして

 

「お昼のカレーですよ〜」

 

給糧員の伊良子の声が伝声管を通じて艦内に響き渡る。

 

「そろそろお昼か〜」

 

「じゃあ交代で食べに行きましょうか」

 

「カレー‥!」

 

「晴風のカレーはどんなのだろうな!」

 

「宗谷さん!一緒に行きましょうか!」

 

「むむ‥クロちゃんはマロンと行くんでいぃ!」

 

そんな他愛もない艦内の雰囲気とは裏腹に見張りをしていた。マチコが遠方に何か見つける。

 

「右60度、距離30.000!接近中の艦艇は‥アドミラルシュペーです!」

 

「アドミラルシュペー!?」

 

「ドイツからの留学生艦です‥」

 

「とりあえず総員配置に!」

 

「総員配置に‥!」

 

同じく大淀でも、シュペーを補足していた。

 

「ああもう‥!せっかくのお昼なのに!」

 

お昼を邪魔されたのか少し、不服な顔をしつつも急いで艦橋に戻ってくる春香。

 

「目標は!」

 

「現在速度20ノットで接近中‥」

 

「レーダーでも補足してます!」

 

「この距離だと‥」

 

「はい‥完全に見つかりましたね‥」

 

「総員戦闘配置!」

 

「総員戦闘配置!!」

 

「晴風より入電!シュペー主砲こちらに旋回中です!!」

 

「主砲旋回‥!?」

 

「九花さん!白旗!雪見さん!発光信号!」

 

春香の指示で九花が白旗をしっかり上にあげ、雪見が探照灯で発光信号を送る。晴風でもマチコが白旗をあげる。

 

しかし‥

 

ドドドォン!

 

「シュペー主砲発砲!」

 

「なんで‥」

 

「エンジンも止めないとだめだ!」

 

「確かに‥白旗と発光信号だけだと効力がありませんね‥」

 

「でも逃げるんだよね‥?」

 

「うっうん‥!180度反転する。面舵一杯、前進一杯!」 

 

「面舵一杯!」

 

「着弾!」

 

明乃の指示で回頭を始める晴風、直後左舷側にシュペーの砲弾が着弾する。

 

「晴風!面舵180度反転!」

 

「こっちも反転する!取舵一杯!180回頭!」

 

「取舵一杯!」

 

春香も回頭指示を出し、大淀も反転、引きの姿勢になる。

 

「シュペーは主砲28cm3連装砲2基6門!

艦橋左右に多数の副砲を搭載!さらに艦尾には3連装魚雷発射管を2基!それでありながら28.3ノットと巡洋戦艦並の速力を持ち!広大な航続距離を有してます!」

 

「つまり火力装甲面は向こうの方が上ってことか‥」

 

「流石はポケット戦艦‥」

 

追撃をしてくるシュペーを見つつ性能を解説する上里、

それを聞きつつ険しい表情を浮かべる春香

 

「シュペー速力上げてます!」

 

「やっぱり追ってくる‥‥」

 

「このまま機関全開にしてると壊れちゃいますよ‥!」

 

二隻とも砲撃を受けつつ全速で逃げているが、全開を維持し続けると機関が壊れるのは明白。早急な対策を求められた。

 

晴風艦橋

 

「発揮可能速力は!」

 

「第四全速まででぃ!」

 

「第四全速‥27ノット‥」

 

二隻とも先のさるしまとの交戦で機関にダメージが入っており、全開の速力が出せずにいた。

 

「向こうの最大速力とほぼ同じです‥」

 

「どうしたら‥」

 

必死で抜け道を考えていると‥

 

「ぐるぐる」

 

「ふぇ?」

 

突如志摩が何かいい、明乃が視線を向ける。どうやら何か伝えたいようだ‥。

 

「ぐるぐる」

 

「‥!」

 

一瞬何を言ってたのかわからなかったがしばらくして何か閃く。

 

「鈴ちゃん!取舵一杯!」

 

「取舵一杯!取舵20度」

 

「何をする気ですか!」

 

「煙の中に逃げ込むの!」

 

その間にも晴風は取舵を続け、煙の中に入ると再び指示を出す。

 

「戻せぇ!面舵一杯!」

 

「面舵一杯‥!面舵30度!」

 

「一発でもあたったらおしまい‥速度と小回りを活かして逃げ回るしかない‥!」

 

その名の通り晴風は排煙を利用して隠れつつ、蛇行して

シュペーから逃げ回る。それは大淀からも見えていた。

 

「何やってんだ!?明乃艦長!まさか血迷ったか?」

 

晴風の想定外の行動を見て思わず声を荒上げる上里、

しかし晴は何をしたいのかわかってる模様

 

「おそらく煙の中に逃げ込もうとしてるのかも!

巡洋艦とはいえ駆逐艦に比べたら小回りは悪い。それを利用して!」

 

晴の解説を聞いて、春香がハッと何か思いつく。

 

「柚乃さん!この船に煙幕弾積んである!?」

 

「えっ!?あっはい!確か主砲用が一発ほど!」

 

いきなり呼ばれたため、すこし反応が遅れながらも素早く答える。

 

「シュペーに直接煙幕弾をぶつければ相手の視界は奪える!そのすきに離脱すれば‥!」

 

「そういうことか!」

 

春香の説明に納得の表情を浮かべる。そして素早く射撃指揮所へ指示を出す。

 

「1番砲右に煙幕弾装填!」

 

「了解!」

 

上里の指示に素早く羽坂が反応、装填されていた1番砲の模擬弾が降ろされ1番右に煙幕弾が装填される。

 

「右砲戦用意!目標シュペー!射撃弾数1!

煙幕弾!」

 

「了解!右砲戦用意!目標シュペー!射撃弾数1!

煙幕弾!主砲1番旋回急げ!」

 

「大淀!主砲旋回してます!」

 

左舷航海管制員の山下が双眼鏡で大淀を見つつ

声をあげる。それを聞いて明乃も視線を向けると

大淀の1番砲がシュペーに向けて旋回、その右砲身の射角が上がる。

 

「赤宮艦長‥一体何を‥」

 

大淀の不可解な行動に疑問を浮かべるましろ。しかしその様子を見た明乃が覚悟を決める。

 

「戦闘‥左砲戦。同行のシュペー」

 

「何を言ってる!さるしまのときと同じこと

になるぞ!」

 

「実弾でスクリューショットを撃ち抜くの‥!

そうすれば足止めはできるから‥」

 

「そうすれば!今度こそ本当に反乱になる!」

 

「このままじゃ‥怪我人が出る‥!

それに‥いつまでもハルちゃんに頼ってられない‥!」

 

まだすこし納得のいかないましろだったが、シュペーの攻撃をうけ続ける現状を見て覚悟を決める。

そして二人はあるキーを取り出しつつ2つ設置されてる鍵穴の前に立ち、同時に差し込み回す。

 

「実弾!用弾はじめ!」

 

各砲塔に搭載されてる実弾がロックを解除されたことで装填を始める。

 

「装填よし!射撃用意よし!」

 

晴風艦橋ではスクリューショットを成功させるための話し合いをしていた。

 

「スクリューを撃ち抜くにはどれだけ近づいたらいいかな?」

 

「水中だと弾の速度が急激に落ちるから無理だって!」

 

「水中弾っていうのがあったでしょ?」

 

「それは巡洋艦以上に積んであってうちには積んでない!」  

 

「通常形状でも水中である程度弾は進むって聞いたよ」

 

「理論上では12.7cm砲弾の水中速度は10mなので‥

シュペーの側面装甲を抜くには‥3.000以下まで近づてください!」

 

「八の字航行のまま距離を3.000以下まで詰めて!」

 

「うぇぇ‥詰めるの‥?」

 

明乃のトンデモ指示に思わず小鹿みたいに震えてしまう鈴であった‥。

 

「それと大淀にもこのことを伝えて!」

 

大淀艦橋

 

「艦長!晴風より入電!我これより3.000以下まで近づいてシュペーのスクリューショットを行うとのことです。」

 

「明乃さんはやることが派手だねぇ‥」

 

晴風からの報告を焔から聞いて思わず苦笑いする春香、しかしすぐに切り替えて指示を出す。

 

「煙幕弾発射タイミングは晴風がシュペーに攻撃、

スクリューショットを成功させたタイミングでやる

わよ!そうすれば、邪魔にはならないはずだから!」

 

「了解!」

 

あれから涙目になりつつも明乃の指示でシュペーに接近させる鈴。ちなみにシュペーは前後の主砲を分けて、晴風と大淀に攻撃していた。

 

「距離4.000‥」

 

「3.800‥」

 

「3.600‥」

 

3.600まで近づいてきたタイミングでシュペーが発砲、そのうちの一発が晴風の3番砲塔に直撃。3番砲塔が大破する。それと同じタイミングで 

 

「シュペーより小型艇接近!」

 

「!?」

 

両艦ともに同じ報告が入り、艦橋メンバーが慌ててその方角に視線を向けると、シュペーから脱出したのだろう

砲撃を避けつつ接近してくる少女が‥ 

 

ドォォン!

 

しかし、運悪く副砲の一発が小型艇に直撃、少女は海に放り出される。 

 

「小型艇の乗員が海に投げ出されました!」

 

「味方を攻撃してる‥!?」

 

「なんで!?」

 

「「私は!艦長の指示に従いません!晴風を攻撃するなんて!」「なんでた!艦長に逆らう気か!」「えぇい!こんな船!脱出してやるぅぅ!」」

 

「憶測を言うな‥」

 

「シロちゃん」

 

「シロちゃんではなく!宗谷‥」

 

「ここ、任せていいかな?」

 

「え?」 

 

「ドイツ艦を引きつけておいてね!」

 

「あっそれとココちゃん!甲板に保健員の美波さん呼んでおいて!」

 

「わっわかりました!」

 

そう言って明乃はスキッパーに乗り込むために甲板に足を運ぶ。

 

「どうして‥はっ!」

 

なぜそのようなことを言ったのか一瞬理解不能だったましろだが、理解できたのか急いであとをおう。

 

「どうして敵を助ける!?」

 

そんなましろの答えに、迷わず言葉を返す明乃

 

「敵じゃないよ‥、だって海の仲間は家族だもん‥!」

 

そんな明乃の言葉には、強い確信が持たれていた。それを言いつつ帽子を外し、ましろにわたす。

 

「行ってくるね‥!」

 

シュペーの砲撃の中、スキッパーを操りながら落ちた少女の元まで向かう明乃。

 

「艦長落ちた子助けに行ったの?」

 

艦橋に戻った際に芽依が質問してくるが、切り替えて指示を出すましろ。

 

「距離3.000まで近づけ!」

 

「はいぃ‥」

 

再び涙目になりつつも晴風を近づける鈴であった。

 

 

ー明乃が飛び出た同時刻大淀艦橋ー

 

「晴風よりスキッパー発進確認!」

 

左舷航海管制員の子日の報告をうけ、左舷見張り台から

スキッパーの様子を確認する春香。

 

「もしかして!海に落ちた子を助けに行ったのかも!」

 

同じくスキッパーを確認しつつ高嶋がそう語る。

 

「艦長!どうしますか!?」

 

焔が春香に指示を仰ぐ

 

「射撃タイミングは変わらず!その代わり!スキッパーの動向には注意して!」

 

「了解!」

 

 

その間にもじわじわとシュペーに接近を仕掛ける晴風

 

「距離3.200‥、3.100‥!」

 

「撃っちゃえ撃っちゃえ!」

 

2番砲が旋回、右砲身の射角が調整され、射撃可能タイミングになったとき‥

 

「2番砲右!攻撃はじめ!」

 

ましろの射撃指示をうけ、晴風の主砲が発砲。砲煙とともに放たれた砲弾がシュペー艦尾に近辺に向けて飛来

手前に着弾する。

 

ザバァァァン!

 

砲弾が着水してすこししたあと少しして、艦尾付近で閃光が光る。

 

「晴風の攻撃目標に命中!シュペー速力落ちてます!」

 

見張りからの報告をうけ、春香も動き出す。

 

「1番右!弾種煙幕弾!攻撃はじめ!」

 

春香の射撃合図で大淀の1番右が発砲、放たれた煙幕弾がシュペーにめがけて飛んでいく。

そしてシュペー艦橋付近に着弾と同時に爆発、白い煙に包まれる。

 

晴風艦橋

 

「大淀の砲撃命中!煙幕弾のようです!シュペー視界奪われてます!」

 

晴風でも見張りの報告をうけ、素早くましろが指示を出す。

 

「取舵一杯!第四全速!ようそろー!」

 

「取舵一杯!」

 

「私達も晴風に続くわ!取舵一杯!」

 

「取舵一杯!」

 

晴風に続いて大淀も現海域を離脱しつつ、明乃の回収に向かうのであった‥。

 

その頃‥明乃は漂流していた少女を救出、異常がないかチェックしていた。

 

「大丈夫‥あなた‥生きてる‥」

 

その後無事に晴風に回収されたあと、少女は美波に任せて艦橋に戻る。

 

「シロちゃん」

 

呼ばれて、明乃に視線を向けるましろ

 

「ありがとう‥♪」

 

「てっ適切な指示をしたまでだ‥//」

 

少しそっけなく返されたがすこし嬉しそうだ。

 

大淀艦橋

 

「艦長、救出された子は命に別状はないようです」

 

「良かった‥‥(ホッ)」

 

柚乃の報告をきいて、今までこわばってた顔が思いっきり緩む。

 

それから、時間が進み、辺り一帯が夕日に染まりつつある頃両艦内では夕食のカレーができていた。

 

「これが‥うちのカレー‥!」

 

「美味しそう‥!」

 

大淀の給糧員が作ったカレーを見て目を輝かせる

乃木と香音、他にも当番以外の子はここでカレーを食べるために集まっていた。

 

ー大淀艦橋ー

 

艦橋のメンバーのほとんどが夕食を食べに行ってるが

焔は当番のためここでカレーを食べていた。

 

「んむ〜♪美味しい‥♪」

 

美味しそうにカレーを頬張っていると

 

ビービー!!

 

突如無線が鳴り響く。

 

「んむ?むへぇん?(無線?)(モグモグ)」

 

無線に気づいて、急いで口の中のカレーを飲み込むと無線を手に取る。

 

ー艦長室ー

 

その頃春香は一足早く夕食を済ませ、自室で日記を書いていた。元々は日記などは書かなかったが、この事態に巻き込まれてからは毎日のようにつけていた。

 

「これでよし‥!」

 

日記を書き終わり背伸びをしていると、備え付けの無線機が鳴り響き

 

「艦長!至急艦橋へ!」

 

ー艦橋ー

 

ダダダ

 

声からして何か胸騒ぎがしたため駆け足で走って艦橋に駆け込む春香

 

「どうしたの!?ホノちゃん!」

 

やはり何があったのが、焔の顔からして焦りの表情がにじみ出る。

 

「非常通信回線です!」

 

「どこから!?」

 

「‥武蔵から‥」

 

 

【こちら武蔵、こちら武蔵!!】

 

「こちら大淀艦長!赤宮春香です!どうされました!?」

 

焔と交代して無線に応じる春香。何度か呼びかけてるものの向こうの通信出力が弱いのか聞こえてないようだ。

しかし相手は必死で話を続ける。

 

【非常事態発生‥至急救援を‥!】

 

「‥!?」

 

【現在北北西北東、北北西北東!至急救援を‥!

至急救援を】

 

無線に呼びかけてるもかは必死な思いで通信機器のバッテリーが切れるまで呼びかけ続けていた‥。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




新たな登場人物
赤宮咲
赤宮春香の母親でありブルマー本隊の水上打撃群の指揮官も勤めている。階級は二等保安監督官
赤宮信三。
春香の父ホワイトドルフィンでもかなり上の役職で、官僚などとも話ができるほどだ。


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EP4パジャマでピンチ!?

今回はかなり長くなりそうです
なので時間を確保してご視聴ください


4月8日16:30

横須賀女子海洋学校会議室

 

「校長、海上安全整備局から連絡です。」

 

「読んで」

 

「はい、今回の晴風及び大淀の件。速やかに校内で処理できなければ大規模反乱行為と認定し、貴校所属艦は拿捕、それが不可能ならば‥撃沈すると‥」

 

「!?」

 

秘書と思われる男性の話を冷静に聞いていた宗谷校長だったが、撃沈という言葉が出てきた瞬間に顔色を変える。さらには海江田が付け足す。

 

「このままでは、本当に反乱になってしまい、ブルーマーメード本隊の治安維持出動もありえます‥」

 

「まだ真実がわかってないないのに生徒を危険には晒せない!私達は生徒の安全のためにあらゆる手段を尽くしましょう」

 

「はい!」

 

「まずは国交省の統括官に連絡を‥」

 

秘書に指示を出そうとしたとき

 

「宗谷校長!どうゆうことですか!」

 

「ちょ!赤宮さん!落ち着いて!」

 

ドアが勢いよく開き赤宮が血相を変えて駆け込んで詰め寄る。そして少し遅れて宗谷真霜も駆け込んでくる。

 

「撃沈命令って!まだ確証がないのにいくらなんでも早すぎます!」

 

「赤宮殿‥落ち着いてください‥」

 

真霜だけでは止められなかったのかついには海江田も入り込んでようやく落ち着く。

 

「わかってます、私も‥生徒を危険には晒せません」

 

そしてチラッと大淀クラスのプロフィールを見て再び視線を向ける。

 

「確か‥娘さんは大淀の艦長でしたよね?」

 

「えぇ‥、そうよ‥」

 

「私も‥娘が晴風の副長をしていますの‥。だから不安な気持ちはわかります。」

 

そして一間開けて

 

「そういえば、貴女の旦那さんはホワイトドルフィンの上の役職だったわよね?」

 

「はい」

 

「どうにかして、撃沈命令の撤回はお願いできないかしら?」

 

「できるかどうかはわかりませんが‥、やってみます」

 

「お願い。それと真霜、あなたの部下に晴風と大淀の接触をお願いできないかしら?」

 

「わかりました。校長」

 

ーー

 

 

同時刻晴風艦橋

 

あの非常通信を受け、晴風乗員との今後の予定を話し合うために春香が大淀からスキッパーで乗り移る。

 

ー武蔵からの救援要請‥どうしよう‥ー

 

あの救援要請は晴風でも受信しており、明乃はどうしようか迷いまくっていた。その様子を舵輪を握ってるましろは少し不安そうに見つめていた。

 

「艦長〜、大淀の艦長来たよ〜」

 

少しして春香を連れて芽依が艦橋に入ってくる。

 

「艦長、赤宮さん来ましたよ」

 

「‥‥」

 

「艦長!」

 

「‥はっ!」

 

上の空状態だっただがましろの声掛けでようやく我に帰る。

 

「ごっごめん(汗)」

 

「はぁ‥、しっかりしてくださいよ‥」

 

「忙しい中ごめんねぇ」

 

今の明乃の頼りなさに少しため息をこぼすましろ、それに少し申し訳無さそうな顔をする春香

 

「いらっしゃい‥♪ハルちゃん♪」

 

「おぉ、私の名前覚えてくれたんだ〜、って今は置いといて‥、」 

 

少し脱線しかけたがすぐに元の路線に戻して

 

「とりあえず、武蔵の救援要請はそっちも聞いた?」

 

「はい、こちらでも受信しました」

 

「となれば武蔵でも何ならかの事態が発生したということか‥‥」

 

「うん‥」

 

「だが詳しいことがわからない以上‥、下手には動けないしな‥」

 

「だよねぇ‥、そうだ。そっちの損害状況も確認したいんだけど。」

 

「わかりました‥♪」

 

武蔵の件はとりあえず様子見をすることでまとまり、ひとまずはお互いの損害状況を確認することにした。

 

大淀艦橋

 

「ただいま戻りました」

 

「おっおかえり」

 

艦内の損害確認のため、艦橋を後にしていた柚乃がタブレット片手に戻ってくる。そしてそれに気づいて出迎える焔

 

「どうだった?」

 

「えっと、後部甲板で浸水、レーダー系統にもダメージあり、それと浸水の影響で機関も修理中。動かしながらでも大丈夫ですが巡航以上は出せないとのこと。」

 

「やっぱそうなるかぁ‥、必要部分の修理だけならどれくらいかかる?」

 

「えっと‥、機関だけなら一日かければなんとか」

 

「一日か‥、それまで襲われないことを

祈るしかないな‥。」

 

ーそれから日が落ちた頃ー

大淀通信室

 

「っとと‥(ピコピコ)」

 

通信室では電信員の久野美紀が受信用のヘッドホンをつけながらゲームをしていた。

 

「くぅ‥!ムズい‥!」

 

難しいゲームなのか苦戦しながらしていると、ヘッドホンからどこからか打電が入る。

 

「‥!」 

 

打電が聞こえた瞬間すぐにゲームをやめて、スマホのメモアプリを開いて傍受した打電内容を聞き取る。

 

「海上‥安全‥委員会‥」

 

ー大淀艦橋ー

 

「艦長!美紀さんが無線を傍受したそうです!」

 

「!?どこから!」

 

「海上安全委員会の広域通信です‥!」

 

「広域通信‥?」

 

柚乃の言葉に艦橋にいた全員の視線が集まる。それを見つつ一同に見えるように送られてきた情報を見せる。

その内容を見つつ焔が読む。

 

「現在、横須賀女子海洋学校の艦艇が逸脱行為をしており同校貴校の艦艇の寄港を一切認めないように通達する‥。また以下の船は抵抗するようなら撃沈しても構わない‥教育艦大淀及び航洋艦晴風!?」

 

「撃‥沈?」

 

「捕まるのは覚悟してたが撃沈は勘弁してくれぇ!」

 

「つまりどこの港にも寄れないってこと‥?」

 

「そうなりますね‥艦長」

 

「うちら完璧にお尋ね者になっちゃいましたねぇ〜」

 

まさかの撃沈命令に艦橋は騒然となる。港にも寄れないというのに、早すぎる撃沈命令に艦橋は騒然となっていた。もちろん晴風でも同様のことが起こってるバズだ。

 

「となれば‥武蔵も同じ状況下に置かれてるってことだよね?」

 

「その可能性は大いにありますが‥、我々は突入訓練を受けていませんし‥」

 

「となれば‥なんとかして横須賀に戻らないと‥」

 

「ですね‥どっちしろ他に宛がない以上学校に戻るのが最善でしょう。」

 

それから少しして晴風と艦隊内の通信で協議して、進路は変更なしで横須賀へ戻ることに。そしてそこで武蔵の件も任せることで一致した。

 

ー大淀艦長室ー  

 

あのあと交代勤務まで時間があったため、自室に戻り仮眠をとっている春香。すると備え付けの無線機がなる。

 

「艦長、ソナー担当の丸美さんが海中でなにか動く物体を探知したとのことです。至急艦橋へ」

 

さっきまで爆睡していたはずだが、柚乃の声が聞こえると同時に飛び起きて着替え、

伝声管で艦内に指示を出しつつ艦橋へ足を運ぶ。

 

「総員配置に!」

 

ー艦橋ー

 

艦橋では呼び出した柚乃の操舵を握っている晴の姿が

 

「柚乃さん!報告を!」

 

「ええっと‥、方位3.000m海中に微弱な推進音

艦1、現在照合中です。」

 

「水上目標じゃないってことは‥潜水艦!?」

 

「ふぁぁ‥眠い‥」

 

「こんな時間にどうしたんですか‥?」

 

そして少し遅れつつも、艦内のメンツ集まってきて春香の指示で配置につく。

 

「主砲!配置よし!」

 

「副砲も以上なし!」

 

「機関室!巡航以上は出せないよ!」

 

「見張りよし!‥仕事あるっていいねぇ‥」 

 

「艦長‥、各部配置に付きました(目を擦りながら)」

 

少し眠そうにしつつも配置についたことを春香に伝える焔。少しして艦内通信で丸美の声が入る。

 

「照合できました。東舞校所属伊201潜水艦です」

 

「東舞校‥とりあえずこのことを晴風に伝えて!」

 

ー晴風艦橋ー

 

「艦長、大淀より入電。海中の潜水艦は東舞校所属の伊201のようですね」

 

「もうできたの!?」

 

「流石最新鋭の教育艦‥!」

 

「私の仕事取られちゃいましたね‥(汗)」

 

大淀からの報告を読み上げる幸子、そしてそれを聞いてあまりの早さに驚きの声をあげる明乃と興味ありそうに見る芽依。そして仕事を取られたせいなのか少ししょげる万里小路

 

「にしても東舞校って?」

 

「男子校のようですね‥」

 

「へぇ〜、男子校なんだ」

 

「潜水艦はみんな男子校なんですよね。でも狭くて暑くて臭くて‥」

 

「わっ私には無理ぃぃ‥(涙目)」

 

「絶対追手だよ!撃っちゃお!」

 

芽依の提案を聞いて少し考えてから明乃は口を開く。

 

「ココちゃん、伊201と通信できないかな?」

 

「普通の電波では海中で減衰するので難しいですね‥」

 

「それはうちのやつでだよね?

大淀ならできないかな?」

 

「確かに‥、大淀は潜水艦隊の指揮をとるために建造されていますから‥。潜水艦との通信ができる装置もありますよね」

 

「そうと決まれば、すぐに大淀に打電して。通信してもらおう。」

 

ー大淀艦橋ー

 

「艦長、晴風より入電」 

 

「読み上げて」

 

「はい、そちらの通信機器で東舞校の潜水艦と交信できないかと言うことです」

 

「美紀さん、伊201と交信は可能?」

 

「やってみます」

 

春香の指示を受けて多数設置されてる通信機器の中から1つの機器のスイッチをつけ、調整する。

 

「よし‥これで可能なはずです」

 

「じゃあこちらの所属と敵意はないことを伝えて」

 

「わかりました」

 

その後、伊201に打電文を送り、相手の動向を

見ることに。

 

晴風ソナー室

 

「目標進路変更。急速に深度を増していますわ」

 

「こちらの意思が伝わったということか‥?」

 

「うぅん‥、まだわからない‥」

 

同時刻‥2隻の斜め後方の海面に、潜望鏡が顔を出し様子を伺っていた。

 

「いた、あの大きな格納庫は大淀で間違いない。となれば前に居るのは晴風だな」

 

「潜水艦がいるのに明かりをつけるとは‥

ただの的ですね」

 

「艦長、あちらから来た打電内容はどうします?」

 

「気にするな、予定は変更しない。このまま相手の戦闘能力を奪う。1、2番発射管開け」

 

「了解、発射管開きます」

 

「まずは大淀、晴風の後方にいるならまともに回避できんだろう‥。そこを狙う」

 

「はっ!」  

 

「魚雷発射用意完了」 

 

「Fire!」

 

魚雷を放たれる少し前の晴風艦橋

 

「そういえば、伊201ってどんな船なの?」

 

艦橋で周囲の見張りをしてる最中にふと気になったのか口を開く。

 

「ええっとですね‥、あっありました」

 

明乃の質問にタブレットを操作、艦艇の情報を見ていた幸子が伊201のデータをみつける。

 

「基準排水量1.070、水中では20ノットは出る高速艦ですねぇ‥」 

 

「20ノットってこっちより遅いよ?」

 

「はぁ‥こっちは水上、あっちは水中‥。通常の潜水艦は6ノット程度だ」

 

「20ノットと6ノット‥」

 

「へぇ、普通の潜水艦より3倍速いんだ‥、武装は?」

 

「53cm魚雷発射管4門、25ミリ単走機銃2基、

魚雷10本!」

 

「魚雷!2本いらしゃいましたわ!」

 

「マロンちゃん!出せる限りで最大全速!」

 

「今手がはなせねぇ‥クロちゃん頼んだ!」

 

「了解」

 

「待ってください!この魚雷は‥2本とも大淀に向かっています!」

 

「大淀!?」

 

魚雷接近を聞いて晴風は慌てて魚雷の斜線から待避しようとする。それは後方の大淀も同じで、

 

「感あり!魚雷2本来ます!」

 

「機関出せる限りで!それと、取舵一杯!」

 

「了解!取舵一杯〜!」

 

晴風とぶつからないようにしつつ取舵をとって進路を変えて避けようとする‥しかし。

 

「艦長!晴風より入電!この魚雷‥狙いは本艦です!」

 

「こっち!?」

 

晴風からの通信を受けて慌てて報告する焔、それを聞いて驚きの顔をする。

 

「美紀さん!魚雷の位置わかる!?」

 

「ええっと‥、方位270度、近づきます。感3.000、感2.000」

 

「わかった!」

 

美紀の報告を聞いて望が素早くその方角の薄暗い海面を確認する。すると雷籍を引きつつ接近してくる魚雷が‥

 

「雷籍左20度!こちらに向かってきます!このままでは命中コースです!」

 

「面舵一杯!!」

 

「面舵一杯!」

 

「回避間に合いません!」

 

そんな中上里は伝声管で射撃指揮所に指示を出す。

 

「1番左60度旋回。射角10!」

 

「了解、よし回した」

 

それを受けて大淀の主砲が旋回、砲身が接近してくるであろう魚雷に向ける。

 

「艦長!実弾の使用許可を!」

 

「実弾!?」

 

突然の使用許可に戸惑いを見せた春香だが、上里の真剣な眼差しを受けてすぐに切り替える。

 

「副長、時間がない。すぐに実弾のロックを解除

するわよ!」

 

「わっわかりました!」

 

一瞬何を言われたのかわからなかった焔だが、言われるがままに実弾ロック解除のキーを同時に回す。

 

「実弾!用弾はじめ!」

 

ロックを解除されたことにより実弾が主砲に装填される。それを確認次第素早く指示を出す。

 

「戦闘左砲戦!目標魚雷!弾数3!」

 

「了解!戦闘左砲戦!主砲1番!うちぃ方始め!」

 

ドドドン!

 

射撃合図とともに大淀の主砲が火を吹き、放たれた砲弾が魚雷めがけて飛んでいく。そして海面に着弾と同時に魚雷に当った砲弾が爆発水柱が上がる。

 

「大淀!主砲で魚雷迎撃!損傷はないようです!」

 

「主砲で魚雷迎撃したの!?」

 

マチコからの報告を受けて驚きの声をあげる明乃

 

「迎撃‥‥」

 

「いいねぇいいねぇ♪向こうの砲術長もなかなかの腕してるよ〜」

 

「流石としか言えないな‥」

 

「でもあと8発‥タマちゃん!左砲戦用意!」

 

「うぃ‥」

 

指示を受けて志摩が配置につく。それと同時に晴風の主砲が旋回する。

 

「目標見えません!」

 

「撃ったら今度こそ反乱にな‥!」

 

「わかってるよ!でも‥逃げるには」

 

「ぜっ全速が出せれば振り切れるんだろうけ‥」

 

「だから全速は出せねぇっての!」

 

「ひぃぃ‥わかってるよぉ‥」

 

「万里小路さん!相手の位置わかる?」

 

「恐れ入りますが‥もっとゆっくり進んで

もらわないと‥」

 

「これ以上ゆっくり進むとやられちゃうよ‥」

 

「とりあえず‥今は逃げ回ろう‥!」

 

同時刻‥伊201艦内

 

「魚雷を‥主砲で‥迎撃‥だと?そんな‥」

 

潜望鏡で魚雷の行方を見ていた艦長は、主砲で魚雷を迎撃した大淀を見て混乱を大きくさせていた。だが、すぐに切り替え

 

「‥‥3、4発射管注水開始!目標は晴風!それと発射次第!1〜4番発射管に魚雷装填!」

 

「アイサ!」

 

「どうせ偶然だ‥。だが見てろ‥、次こそは終わらせてやる‥。」

 

 

それから一時間ほど、2隻は伊201から逃れるために逃げ回っていた。

 

晴風艦橋

 

「周囲‥何も見えません‥」

 

マチコからの報告を聞きつつ、ましろと明乃は時計の針を見る。

 

「一時間経過か‥、速度差からして十分距離を

離したかと‥」

 

「そうなの?」

 

「向こうも最高速度でずっと水中を動けるわけがない」

 

「じゃあ、なんとか逃げられたかなぁ」

 

「逃げるのは任せて♪」

 

「それ自慢するところですかぁ?」

 

「こっココちゃん!?」

 

やはり距離を離したことが効いているのか余裕が少しずつだが生まれてきていた。

 

 

大淀ソナー室

 

やはり真夜中のせいなのか、美紀がうたた寝をしていた。すると伝声管から春香の声が

 

「美紀さん、なにか聞こえますか?」

 

「ふぇあっ‥すっすみません‥うたた寝

していました‥」

 

「ごめんねぇ(汗)眠たい中頑張ってもらって‥

でも、もう少しお願いできないかな?」

 

「大丈夫です♪任せてください♪」

 

そう言いつつ、ヘッドホンを耳に当てて海中の様子を確認しているのであった。

 

 

大淀艦橋

 

「ふぁぁ‥」

 

高嶋が眠たそうにあくびをしている。まあ無理もない、現在はほぼ真夜中。普通なら寝ている時間だが潜水艦のせいで一同寝れずにいた。

 

「眠い‥‥」

 

「同感です‥」

 

そんな艦橋に乗員に夜食を配っていた千景がトレーに載せたおにぎりを持ってくる。

 

「みなさんお疲れ様です〜、夜食のおにぎり持ってきました〜」

 

「おっ助かるよ〜」

 

大淀見張り台

 

見張り台では千景からもらったおにぎりを美味しそうに頬張ってる九花が‥

 

「うむ〜、美味しい。さすがはうちの給糧員‥!?」

 

そんなふうにおにぎりを頬張り終えた直後、海面になにか見えたのか急いで伝声管に飛びつく。

 

「雷跡2!!左120度3.000!晴風に向かう!」

 

「面舵!進路変更!魚雷と水平に!」

 

魚雷接近に気づいた大淀は魚雷と水平になるように進路を変える。晴風も進路そのままで斜線から避けるように突っ切る。

 

晴風医務室

 

医務室では美波がいて、ベッドには明乃に助けられた少女が眠りについていたのだが‥

 

ドドドドン!

 

「なっなんじゃぁぁ!?」

 

外の轟音と衝撃を受け、慌ててベッドから飛び起きたのであった。その同時刻外では外れた魚雷が晴風後方で爆発する。

 

「あと6本‥」

 

「こんな早く見つかるとは‥‥」

 

艦橋デッキから爆発する魚雷を双眼鏡で確認する確認していると‥‥

 

「このドヘタクソな操艦はなんなんだ!艦長は誰じゃい!」

 

突然として艦橋に金髪長髪少女、おそらく明乃が助けた少女だろうか‥その子が押しかけてくる。

 

「この船はド素人の集まりか!」

 

「今‥潜水艦と戦闘中でして‥」

 

幸子が現状を説明するのだが‥

 

「んなことわかっとる!」

 

あっさり跳ね返されてしまう

 

「ならば夜戦中に照明をつけとるのは何事だ!」

 

「照明全部消して!」

 

少女の言葉を聞いて、明乃が艦内の照明を消すように指示を出す。その直後艦内の明かりが全部消える。

 

「何も見えない!?」

 

「夜目になれておかないからだ!」

 

「航海灯もだ!このドマヌケ共が!」

 

さらには航海灯も消える。晴風は明かりを落としたがこの状況に気づいてない大淀は明かりをつけたまま‥

つまり‥

 

「んであの船はなんだ!」

 

当然シュペーの少女に目をつけられてしまう。

 

「えっと、あれは大淀‥」

 

「そんなことを聞いてるのではない!なんてあの船も明かりをつけているんだ!」

 

「ココちゃん!ハルちゃんに明かりを全部消すように伝えて!」

 

明乃の指示で幸子が大淀に明乃の内容をそのまま伝える。少しすると大淀の艦内の明かりと航海灯が消える。

 

「こんなことしたら‥大淀とぶつかっちゃう‥」

 

「戦闘中に自分の居場所を伝えるドアホがいるかぁ!

取舵一杯!」

 

「取舵一杯ぃぃ‥取舵20度‥」

 

少女の指示を受けて晴風は進路を変更、さっきの魚雷を回避したために遅れつつも大淀も回避行動に入る。

 

「うへぇ‥これ僚艦見つけるの一苦労だよ‥」

 

晴風を見失わないように見つつ九花がぼそっと

ぐちを零す。

 

「聴音聞き逃さないで」

 

「わかりました」

 

「それとあの船にも聞き逃さないように伝えろ。こっちよりかは機器が揃ってるはずだ」

 

「了解です」

 

「これで時間は稼げるはずだ」

 

あらかた指示を出し終えて落ち着いてきたところにましろが疑問をぶつける。

 

「お前は誰だ‥?」

 

そんなましろの質問を受けハッと我に戻る少女、そして自己紹介をしようとするが‥

 

「私はヴィル‥」

 

「あっ!ドイツ艦の子だよ!目が覚めたんだ!」

 

「いや、それより今は戦闘だ。すぐに反撃の準備に

移る!潜水艦戦ならワシに任せろ!」

 

「へぇ〜」

 

「潜水艦の本場はドイツだからな!」

 

「「ほぉ〜」」

 

「さすがドイツ」

 

「そいつ?」

 

「どいつ?」

 

「まずはド基本の爆雷で‥」

 

ここまで勢いづいていた少女だが‥

 

「一発しかない」

 

あっさりとましろに切り捨てられて徐々に

くるい出す()

 

「じゃあド定番の対潜迫撃砲で‥」

 

「そんなの積んでない‥」

 

「M32対潜魚雷‥」

 

「いつの時代だよ‥ってか知らん!」

 

「じゃじゃああの船だ!あれは軽巡だろ!?あれな‥」

 

「大淀は今回対潜装備は積んできていない!」

 

次々と切り捨てられて行く様子に思わず艦橋内には笑いに包まれる。そして切り捨てられた少女は悔しそうな涙目で拳を握り

 

「じゃあなにがあるんじゃぁぁい!」

 

そんな少女を見て明乃が決心した表情で語る。

 

「そう‥私達にはなにもない。だから知恵を貸してほしいの。」

 

「どうにかして潜水艦に一撃入れる方法ないのか!」

 

「うぅん‥」

 

「何か!」

 

「あっ‥!」

 

少女に問い詰められ、なにかないか考えていた明乃のだが、少女の奥に見える並走中の大淀を見てなにか気づく

 

「おぉ‥!」

 

艦尾にて‥

 

「爆雷移譲用意!」

 

明乃の指示を受けて艦尾では給糧員のほまれ、あかね姉妹と伊良子、主計の美海が搭載している爆雷の移譲に取り掛かる。さらには爆雷の取り扱いのため水雷長の芽依も加わる。

 

「リンちゃん!面舵一杯!大淀の斜め前、後部クレーンが主砲塔と並ぶように」

 

「りょ了解‥!」

 

大淀艦橋

 

「面舵一杯!晴風の後部クレーンに1番砲の位置合わせて!」

 

「難しい注文ですねぇ〜」

 

「上里さん1番主砲左60度旋回、クレーンが届く高さまで右砲身下げて」

 

「あいよ!」

 

大淀でも同様に忙しく動いていた。まさかこんな方法で反撃するとは‥とそんなふうに思っている焔は柚乃に質問する。

 

「この方法‥可能なのかしら?」

 

「えっと‥、晴風の爆雷は九一式なので‥缶径が450ミリ‥大淀の主砲が60口径なので‥およそ930ミリ、理論上では可能ですが‥」

 

「まさか主砲の空砲を利用して爆雷を発射するなんて発送‥恐らく私達が初めてね‥(ため息)上里さん、やれそう?」

 

「不可能ではないんだが‥砲弾とは使い勝手が違うから少々厳しいよ‥、今機関員の真姫さんに計算してもらってる‥」

 

助っ人して艦橋に来た真姫と一緒に、発砲した爆雷の軌道を計算しつつやれやれと首を振る。

 

「よくこんな方法うちの艦長は引き受けたわね‥」

 

指示を飛ばしてる春香を見つつ、苦笑いを見せる焔

そんな苦労を知ってか知らずか春香は伝声管とにらみっこしていた。

 

「それと艦内の手空き乗員は見張り及び爆雷以上際の手伝いをお願い、移譲開始は向こうの合図で行うわ」

 

春香の指示を受けて大淀艦内も慌ただしく動き回っていた。

 

「私は移譲の手伝いするから見張りの方お願い!」

 

「晴風の動向にはしっかり注意を!できれば魚雷の発射方向の推測もお願い!」

 

 

そんな中、マチコが新たな魚雷を確認、報告する

 

「雷跡1、左120度2.000、こちらに向かう!」

 

「リンちゃん!面舵一杯!魚雷進行方向からそれつつ大淀の斜め前に!」 

 

「面舵一杯!」

 

新たに放たれた魚雷を避けつつ2隻は徐々に接近、お互い明かりをつけていないため、細心の注意を払う。

 

「艦長!まもなく移譲可能距離まで来ます!」

 

後部甲板からの報告を受けて右舷のデッキから大淀を確認する。移譲可能距離前から既に1番砲を回しておりいつでも載せれる状態にしてあった。

 

「お互いの動きが安定次第移譲開始!」  

 

晴風の後部甲板でも爆雷にワイヤーを引っ掛け落ちないようにしつつクレーンで持ち上げ準備に入る。

 

「爆雷巻きつけ完了!いつでも行けるぜ!」

 

そしてお互いの動きが定まってきた直後明乃が声

をあげる。

 

「移譲開始!」

 

明乃の指示を受けて、クレーンが動き出し移譲作業に乗り出し始める。

 

「オォライオォライ‥もう少し砲身上に!」

 

「了解」

 

「クレーンもうちょい左に寄せれれる?」

 

「もうちょい左だ!」

 

慣れない作業、いやこんなことを誰もしたことがないのでもちろんマニュアルもなく。四苦八苦しながらも砲身に爆雷を入れ、ワイヤーを外す。

 

「砲身ゆっくり上げて!」

 

「急に入れたら衝撃で砲身拭き飛ぶぞ!」

 

その後ゆっくりと砲身が上がり、爆雷が砲身奥に入ったことを確認すると艦橋にオッケーの旗合図を伝える。 

 

「取舵一杯!」

 

「取舵一杯ぃ!」

 

「面舵一杯!晴風と距離をとって!」

 

「面舵一杯〜!」

 

爆雷の移譲が完了次第2隻はすぐに距離をとり、次の魚雷発射に備える。

 

「潜水艦というものは、魚雷攻撃の最中は必ず潜望鏡をあげる‥。それを見つければ‥」

 

「つまりチャンスは一度きり‥」

 

確認を取り次第伝声管で機関室に指示を出す。

 

「機関室!一瞬だけ全速出せる?」

 

「って言ってますけど‥」

 

「しょうがねぇ!10秒だけだぞ!それ以上は責任は取れねぇな!」

 

「ということですぅ‥」

 

「お願い!」

 

「はあい‥」

 

その間にも伊201は晴風の真下を通過、次の攻撃位置へ移動する。

 

「魚雷を5本も避けられた‥‥」

 

10本中5本もさけれたせいか少し苛立ちをしている艦長、そして‥

 

「射撃位置につき次第全門発射!避けられないように放射状に打て!」

 

「はっ!」

 

艦長の指示を受けて潜水艦内では乗員が忙しく動き回っていた。

 

「あとはうまく誘い込めばいけるはずだ‥」

 

「本当にぃ‥?」

 

「うんわかった、リンちゃん赤15!」

 

「赤15!」

 

「そこから徐々に強速まで落として」

 

「よっようそろ〜‥」

 

「タマちゃん!砲戦準備!」

 

「うい」

 

伊201艦内

 

「1、2、続いて3、4。発射管開きます」

 

発射管ランプが発射可能に切り替わると同時に乗員がスイッチを回す。それと同時に発射管が開き

 

「攻撃開始!」

 

「発射!」

 

艦長の合図で乗員が発射ボタンを押し、魚雷が放たれ、2隻に向かう。

 

晴風艦橋

 

「雷数4‥真後ろからいらっしゃいました(わ)!!」

 

「「面舵ぃ!」」

 

万里小路と乃木が報告すると同時に明乃と春香が同時に面舵指示、晴風が魚雷に立ちふさがる形、そして大淀が晴風の後ろにつくように進路を変える。

 

「探照灯照射始め!」

 

面舵しつつ2隻は探照灯を照射、水面下を動いてる魚雷を照らす。

 

「見つけました!」

 

まゆみが2隻の探照灯に照らされた魚雷を見つけ、

報告する。

 

「面舵一杯!戦闘!右砲戦!」

 

「右砲戦!目標!敵潜水艦!弾種爆雷!!

発射弾数1!」

 

「了解!主砲1番旋回急げ!」

 

2隻は面舵を取りつつ晴風は魚雷に主砲を向け、大淀はその後に確認できるであろう敵潜水艦の潜望鏡目掛けて照準する。

 

「てぇ!」

 

ドドン!

 

志摩の合図で主砲が火を吹き、魚雷目掛けて放たれる。

水面に着水直後晴風の目の前に4つの水柱が上がる。

 

「‥!」

 

直後なにか見つけたのかマチコが双眼鏡をその方角に向ける‥。そこには海面上潜望鏡を出している伊201が‥

 

「潜望鏡視認!右10度25!」

 

「ハルちゃん!」

 

「オッケー!」

 

明乃の声と同時に待っていましたとばかりに微笑みを大きくさせ、

 

「戦闘!右砲戦!目標伊201!遠慮はいらない!カマしなさい!」

 

「了解!戦闘!右砲戦!1番右!撃ち方始めぇ!」

 

春香の合図、そして上里の射撃指示を受けて大淀の1番右砲身の射角が上がり発砲、空砲の威力の反動で放たれた爆雷が潜望鏡目掛けて飛んでいく。

 

「魚雷を‥防がれた‥?それに‥大淀の発砲は空砲‥いや‥あれは‥」

 

潜望鏡から一部始終を見ていた艦長はこちらに向けてなにか飛んでくるのに気づいた。そして飛んでくるものを見て慌てて潜望鏡を閉じる。

 

「急速潜航急げ!」

 

艦長の指示で急いで潜航を開始する伊201,しかし気づいたのが少し遅く、潜航を始めたタイミングで着弾

そのまま201頭上で爆雷が爆発、巻き込まれる。

 

「右舷気泡確認!」

 

「浮上してきます!」

 

晴風と大淀に挟まれる形で気泡確認、その直後伊201が浮上してくる。それを2隻は探照灯で照らしている。

 

「今です艦長!逃げましょう!」

 

「最短コースは選定済みです!それに大淀にも送ってます!」

 

「両舷前進強速!!」

 

「伊201より国際救難信号等の発信を確認、

現在東舞校教員艦が30ノットで接近中」

 

「取舵一杯!20度ヨウソロ!」

 

「艦長!さっさと逃げましょう!」

 

「ここで捕まるのは勘弁だ!」

 

「このまま、晴風が送信してきてくれたルートでいきましょう!」

 

「機関出せるだけ出して!晴風に続いて!」

 

「さっさと逃げようよぉぉ!」

 

伊201から、いや接近中の教員艦から一目散に逃げるかのように2隻は現海域から退散していくのであった‥。

 

4月9日

16:30

 

あれからしばらく立ち、なんとか逃げ切ることに成功した2隻は横須賀目指して航海していた。

その頃晴風医務室では明乃と、事情を聞いた春香が少女に話を聴いていた。

 

「単刀直入に聞くわね‥。あなた達の船で何が

あったの?」

 

春香の質問にうなずきながら見つめる明乃、その二人を見つつ少し間を開けて口を開く。

 

「我らのアドミラルシュペーがか‥?」

 

「うん‥、あっでも‥言いたくないなら‥」

 

「いや‥、ワシもよくわからんが聞いてもらったほうがいいな‥」

 

そして二人が少女の座っているベッドの左右に座ったのを確認して再び話す。

 

「我らの船も貴校との合同演習に参加することは知っていたか?」

 

「いえ‥初耳です‥」

 

「私も‥」

 

「まあそれはいい、わしらは合流地点に向かっていた

のだが‥突然電子機器が動かなくなって‥それを調べようとしたら‥、誰も命令を聞かなくなった‥!」

 

「まさか‥!」

 

「反乱?」

 

「わからん‥、わしは艦長から他の船に伝えるように命令を受けて脱出してきた‥」

 

「艦長?」

 

明乃の言葉に視線を膝においてあった帽子に移す。

 

「帽子を拾ってくれたことには感謝している‥

これは我が艦長から預かったものなんだ‥。

‥シュペーに戻って艦長に返さなければ‥!

「必ず‥!」」

 

少女の顔には決意の表情が現れていた。

その顔を見て二人は顔を合わせて確信する。

 

「わかった!私も手伝う!」

 

「これを聞いたら‥乗らない訳にはいかないわねぇ!」

 

そんな3人を席に座りつつ美波は見つめていた。

その直後‥

 

「艦長!校長からの全艦帰港命令が出ました!」

 

幸子の報告を聞いて3人ははっとなる。その後も

報告は続く。

 

「えっと‥、私は全生徒を決して見捨てない

全艦を守るために各員、速やかに学校へ帰港せよとのことです!」

 

大淀集合教室

 

あのあと大淀に戻った春香は至急乗組員を集めて緊急会議を開くことにした。

 

「学校から、全艦帰港命令が出されした。大淀及び晴風も学校が責任を持って保護するから戻ってくるようにだって‥!」

 

「その代わり、帰投最中は一切の戦闘を禁ずる

そうです」

 

「良かったぁ‥」

 

それを聞いてメンバーは安堵の表情を浮かべる一同

それに焔が付け加える。

 

「とは言っても晴風や本艦に対する警戒は解けて

ないです。どの港にも寄れない、私達は密かに学校に戻る必要があります」

 

「それと私達に新たな仲間が加わります♪」

 

そう言って春香が教卓前にタブレット画面をおくと、その画面には晴風教室の様子が、すると例の金髪少女が入ってくる様子がリアルタイム映し出されている。

 

「ドイツ艦からやってきた‥、えっと‥ヴィルヘル

ミーナ‥‥なんだっけ‥?」

 

しかしあまりにも名前が長かったのが途中で明乃がつまずき、それに痺れを切らす少女

 

「ヴィルヘルム海洋学校から来た、ヴィルヘルミーナ・ブラウンシュヴァイク・インゲルノール・フリー

デブルクだ。アドミラルシュペーでは副長を

やっていた」

 

「長いからミーちゃんでいいかな?」

 

「誰がミーちゃんだ!?」

 

そんなミーナの突っ込みをスルーしつつ、幸子に自然を向ける。

 

「どこの部屋が開いてるかな?」

 

「ベッドの空きがあるのは‥、副長の部屋だけですね」

 

「ヴェ!?‥私の‥部屋‥?」

 

その後‥幸子によって大淀の乗員にも見られてしまい、

一生の黒歴史が作られたのであった()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




無事に学校へ戻れる希望が見えてきました。
無事に戻れるのか‥


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EP5トイレットペーパーでピンチ!?

今回から少し話を分けていこうと思います
あの長期を、書くのは辛いっす()


4月13日

太平洋日本近隣

大淀、倉庫室にて‥

 

「えっと‥お米がこれで全部‥

後、保存食とか野菜、飲料水も余力あり‥」

 

「まだまだ気にしなくても良さそうだね〜」

 

倉庫室では給糧員の野波と小込が在庫チェックを行っていた。学校に戻れる事になったとはいえ、やはり長期の航海は在庫の残量が気になるものだ。

 

「だね、一時期はどうなるかと思ったよ、ん?」

 

そんなこんな話しているとある棚にしまってるダンボール箱に目がつく、表面にはトイレットペーパーと書かれている。

 

「そういえば、トイレットペーパーも確認しないと」

 

小込がそう言ってトイレットペーパーが入ってるであろうダンボール箱を引っ張り出す。が‥

 

「「え‥?」」 

 

二人の目に入ったのは何も入ってない空っぽの中身であった‥。

 

艦橋 

 

「‥横須賀までどれくらいかかります?」

 

周辺の見張りをしていた焔が双眼鏡を降ろし、晴に質問する。

 

「えっとね〜、4日はかかるかな〜」

 

マイペースな返答をしつつもしっかりとした時間を素早く計算し、的確に答える晴

 

「4日か‥、艦長少し急ぎましょう。学校から戦闘停止命令が出ているとはいえ他の船との遭遇は避けたいです」

 

「それもそうだね。少し急ぎ足で行こうか」

 

とそんなことを話していると

 

「艦長!!大変です!」

 

息をきらしつつ小込と野波が艦橋に滑り込んでくる。

 

「一大の緊急事態です‥!!」

 

「‥??」

 

艦内クラス教室にて

 

あれから乗員全員を集めて、緊急の会議を開いていた。教卓前には小込と野波の姿が

 

「今回の航海実習は2週間ほど‥、そのため各物資を余分に入れていたんですが‥」

 

「もうトイレットペーパーがありません!!」

 

「「えぇ〜!!!!??」」

 

野波のトンデモ発言に一同驚きの声をあげ、顔を見合わせる。

 

「誰がこんなに使ったの〜!?」

 

「ヤバいよぉ‥!!」

 

そんな様子を水雷員左舷魚雷発射管担当の古谷が呆れながら見ていた。

 

「やれやれ‥初航海でここまでドタバタする‥(ゾッ)」

 

しかし横から何かヤバいオーラを感じ取ってロボットみたいに視線を横に向ける。そこには右舷魚雷発射管担当の乃木が笑顔なのにヤバめな気配全開で座ってた。

そして少しして席をたち、前に出てくる。

 

「ん?どうしたの乃木さ‥(ゾッ)」

 

急に前に出てきたのに気づき声を掛けようとした小込だが、乃木の気配で何か察する。いや、彼女だけではない。ここにいる全員が同じように何か察してしまう。

 

「誰かな〜?トイレットペーパー勝手に使ったの〜(ゴゴゴゴゴ)」

 

「「ヒィィィ!?」」

 

顔は笑っているのに何故かとてつもないオーラを漂わせている。それを見た全員は顔が真っ青になる。

 

「今なら正直に言ってくれれば許して上げるわよ〜?(ゴゴゴゴゴ)」

 

彼女の圧をうけ、一人、また一人手を上げていく。  

 

「すっすみません!トイレットペーパー1つ貰っちゃいました‥!鼻を噛むために‥」

 

「私は飲み物を零して吹こうとしてしまって‥」

 

そんなカオスな状況を見つつ焔は春香に、視線を向ける。  

 

「艦長〜、どうにかして(汗)」

 

「うぇ!?あっうん」

 

一瞬驚いたがすぐに切り替えみんなをまとめる。

 

「待って!みんな足りないものとかある?」

 

それを聞いて各自一斉に答える。

 

「魚雷!」

 

「爆雷!」

 

「日用品!」

 

「魚雷とかは普通の港では補給できないからなぁ‥」

 

「でもある程度、日用品だけでも補充しておかないと」

 

そんなこんな話していると、教室備え付けの受話器が鳴り響く。それに気づいて春香が受話器を取る。

 

「もしもし〜」

 

「あっハルちゃん♪」

 

どうやら電話の相手は岬のようだ。向こうから聞こえる会話からしてどうやら同じ状況になっているようだ。

 

「あ〜‥(汗)もしかして岬さんの方もおんなじ状況?」

 

「その声だと、ハルちゃんの方も一緒なんだ‥(汗)」

 

「そう(汗)」

 

「あっそれならさ、買い出しにいかない?」

 

「買い出し?」

 

「うん♪ここから近いところに四国オーシャンモールっていう水上ショッピングモールがあるから」

 

晴風から転送されてきたオーシャンモールの位置情報を

柚乃にタブレットで見せてもらいつつ会話を聞く。

 

「確かに‥、ここなら日用品も売ってますもんね」

 

と、そこにましろの声も加わる。

 

「だが、全員で行くと見つかる危険性がある。」

 

「となれば、少人数で行ったほうがいいかもね」

 

「だね。じゃあ、こっちからは二人出すね」

 

「了解、こっちからも二人出すよ」

 

と、ここまで順調に話が進んでいたが等松と寺見のある発言でつまずきかける。

 

「「艦長‥!お金が‥‥足りません!」」

 

「「えぇ!?」」

 

それを聞いた一同が一斉に等松と寺見に視線を集める。

 

「どっどうしよう!?」

 

「とっとりあえず募金で集めるしか‥」

 

そんなこんなで再び混乱仕掛けていると、明石が手をあげる。

 

「ん?どうしたの?明石さん」

 

それに春香が気づき、視線を向ける。もちろん他のメンツも同じように視線を向ける。それを確認すると明石が口を開く。

 

「その件なら問題無い」

 

そう言ってポケットに入ってた財布を取り出し、財布の中から一枚のカードを取り出す。

 

「これは‥?」

 

「電子マネー、最大50万入るやつ。親がもしものために入れてくれてるの」

 

「ごっ50万‥(汗)」

 

「これで、うちと晴風の分を補えるはずだよ」

 

「でっでもいいんですか?非常用のお金ですよね‥?」

 

「今は非常用だから問題無い、だからぜひ使ってくれ」

 

無線越しのましろの申し訳無さそうな質問に当たり前のように答える明石。

 

「じゃあお言葉に甘えてそうさせてもらうね‥♪」

 

「よし、お金の問題はなくなったね、あとは誰が行くか‥」

 

「私が行きます(手を挙げる)」

 

「オッケー、じゃあ私と小込さんでいいかな?」

 

「大丈夫です」

 

「はい〜」

 

 

そして2隻は四国オーシャンモールに向けて航海することに、だが船ごと行くとバレる危険性があるため、ある程度近づいたらスキッパーで行くことに。

晴風からは岬と、和住。大淀からは春香と小込の乗ったスキッパーが出発する。

 

「楽しみだな〜」

 

「艦長、あっちでは専門用語は禁止ね。あと船のことも」

 

「わかってるよ〜(汗)」

 

「小込さん、明石さんから借りたカードある?」 

 

「もちろん‥♪(見せる)あと借りたことを証明する許可証も」

 

スキッパーを運転しつつ、カードのことを聞くと財布からカードを取り出し見せる小込。

 

「にしても‥小込さん、その筒の袋はなんですか?」

 

ふと気づいたのか和住が小込が背負ってる筒の袋の中身を聞く。

 

「あぁ、これ護身用の木刀。なんかあったときのために持っておこうと思って」

 

その間にも2隻のスキッパーは四国オーシャンモールへ向かうであった。

 

 

 




次回はオーシャンモールでの買い物
それから待っている僚艦の様子を書いていこうと思います。


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EP6買い出しでピンチ!

買い物及び今回例のやつか出てきます


四国オーシャンモール

 

岬達が乗ったスキッパーは道中何事もなく、ショッピングモール内の港に入る。

 

「えっと‥確かこの辺に無料シャトルバスが‥」

 

岬の肩を掴んでバランスを取りつつ、シャトルバスを探している和住、そして見つけたのか指を指す。

 

「あっ!あった!」

 

「了解〜、ハルちゃん〜」

 

「あれかね〜。把握」

 

そして2台のスキッパーは無料シャトルバスの近くの停泊場へ止めてシャトルバスでショッピングモールに向かうのであった。

 

ショッピングモール前広場

 

「わぁ〜♪広い!」

 

シャトルバスを降りた岬の視線の先には、洋上ショッピングモールとは想像できないような広さのお店であった。

 

「確かに広いですね〜(見上げつつ)」

 

「‥それで‥あなた、その格好はどうしたの(汗)」

 

小込が少し呆れつつ和住に視線を向けると、そこにはマスクとサングラスをかけたいかにも不審者オーラ全開の彼女の姿が‥。

 

「こうゆうのはバレないように顔は隠さないと!」

 

「いや‥逆に怪しまれるから‥」

 

自信満々に答える和住であったがあっさり切り捨てられるのであった。

 

「じゃあ、早く行こうか♪」

 

そうして四人はモールの中へ足を運ぶのであった。

 

同時刻‥大淀では

 

四人を見送った2隻は、少し離れた位置で停船見つからないように潜めていた。

 

「‥‥」

 

艦橋では定番メンツが揃っており、見張りなどをしていたりしていた。

 

「いやぁ〜平和だねぇ〜」

 

舵輪を握りつつ、いつものマイペースな口調で話をしている晴、それに同感するように上里も口を開く。

 

「まあ確かにな〜。ここまでゆっくりできたのも久しぶりかも」

 

「いろいろ追いかけられまくったからな〜、こうゆう時間は初めてかも」

 

「これで追われてなかったから完璧なんだけどなぁ‥」

 

 

上里に釣られるように小野瀬や高嶋が会話に加わる。

しかし、不安なのか少しソワソワしつつ柚乃へ視線を向ける焔

 

「でも‥大丈夫かな?」

 

「大丈夫ですよ〜。うちの艦長そんな簡単にやられる人じゃないので〜」

 

タブレットを突きつつ落ち着いた表情で話を勧めていく柚乃

 

「それに、最悪の場合千景さんがみんなを守ってくれますよ〜」

 

ー大淀艦尾甲板ー

 

「ん〜‥(漂流物を棒で漁りながら)」

 

「使えそうなもんないですね〜‥」

 

後部甲板では、小野宮と雪見が何か使えるものはないか

棒で漂流物を漁っているのだがなかなかいいものが見つからない模様。

 

「おっ?」

 

ふと見ると、外見にそこまで年季が入ってないまあ新しい箱が流れてきていた。それを回収して外から観察する。

 

「なんだろこれ‥」

 

「うぅん‥わかんない‥とりあえず開けてみる?」

 

「そうだね、開けてみよっか」

 

雪見の意見に同意して、箱のロックを解除して中身を開ける小野宮、直後中からハムスターが飛び出してどこかへ走っていってしまう。

 

「あぁ!ちょっと待ってぇぇ!!」

 

それに当然二人も気づいて慌ててあとを追うのであった‥。

 

ー視点を戻し‥ショッピングモール組ー

 

買い物中も特につけられることはなく予定通りトイレットペーパーを購入することに成功、買い物特典でくじ引きも回し、岬の強運ぷりっを発揮するという一面があったり、していた。

 

「‥‥‥」

 

岬や和住、春香が楽しそうに雑談をしている中、千景は後ろをこっそり見つつ眉を細めていた。

 

「ん?どうしたの?千景さん」

 

千景の異変に気づいた春香が自然と会話を抜けて小声でよってくる。

 

「誰か、私達のあとつけてる‥」

 

「‥どんなやつかわかる?」

 

「さっきちらっと見たけど服装からして恐らくブルーマーメード」

 

「‥最悪の事態ね‥。相手も同じことを考えていたか‥」

 

「どうする?艦長」

 

「とりあえず様子見ね‥。相手の出方次第」

 

「了解」

 

そうして気付かないふりをしつつ春香は再び会話に戻り、千景はイヤホンで音楽を聞いていた。

しばらく歩いていると人気の少ない通路に出て、あと少しでシャトルバス乗り場につくといったところで

後ろ集団の足が早くなる。

 

「っ!みんな!走って!」

 

「「ふぇ!?」」

 

咄嗟に、声を上げた千景に驚きつつも走り出す岬と和住。それを確認して目を合わせつつ二人も走り出す。

 

「まっ待ちなさい!」

 

後ろの集団も気づいたのか慌てて追いかけてくる。四人は全力ダッシュで走っていたのだが岬が段差で躓く。

 

「きゃっ!?」

 

「艦長!!」

 

気づいて和住が足を止めて振り返る、なんとか起き上がった岬だが追いついてきたブルマー隊員達に取り押さえられる。

 

「あぅう‥」

 

「くそっ!不味い!」

 

岬が捕まったことに焦りの表情を見せている和住と春香。しかし、千景は深呼吸をしつつ筒から木刀を、取り出す。直後弾かれたようにとびだす。

 

「ちっ千景さん!?」

 

それに気づいて慌てて止めようとする和住だが春香に制止される。その間にも千景はブルマー隊員に急速接近する。

 

「!?」

 

当然隊員も気づき、護身用の拳銃を取り出そうとする。

しかし彼女から見ればその動きは遅すぎる。間を通り抜けて背後を取ると首元に強烈な一撃を加える。

 

「フグ‥‥!?」

 

千景の一撃を喰らった三人は一瞬でその場に倒れてしまう。それを確認しつつ、残ったリーダーらしき女性に目標を変更する。

 

「っ!?」

 

生徒に一瞬で制圧された隊員に驚きつつも、反射的に取り出した拳銃を突きつけようとする。

 

「遅いです」

 

そう口に出して、構えようもしていた拳銃を弾き飛ばす。弾き飛ばされた拳銃は少し離れた茂みに落下する。

 

「はや‥っ!」

 

あまりの、速さに驚きを見せていた彼女だが、千景に木刀を首元に突きつけられる。

 

「‥わざわざつけてくるとは‥趣味が悪いですね‥

海上安全整備局の宗谷真霜さん」

 

拳銃を弾き飛ばした際に開いていた落ちた手帳を見つつ

相手の名前を口に出す。

 

「‥自己紹介する手間が省けた‥わね」

 

「とりあえず‥いろいろ説明してもらいますよ‥」

 

真霜の目を少し睨みつつ、しっかりと突きつけている千景であった‥。

 

 




船で逃げたハムスター‥気になりますねぇ
それとショッピングモール組はブルマーと触発状態に‥どうなるのか‥!?


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EP7「一触即発のピンチです!?」

「んで、なんでここにいるんですか?」 

 

木刀を首元を突きつけながら、真霜に質問する千景。その気迫に息を飲みつつ説明する。 

 

「‥‥宗谷校長の指示で貴方達に接触を‥」

 

「‥本当にですか?」

 

真霜の言葉に疑いつつ、突きつけた木刀を動かさない千景。そんな生徒を見てポケットからある書類を取り出す。

 

「これを見たほうがいいかしら‥?」

 

「‥‥(ふぅ)」

 

その書類を見た千景は気が抜けたのか安堵の息をはき、木刀をしまう。

 

「疑いがあったとはいえ‥、貴方の部下に少々手荒い真似をしてしまい‥すみません(ペコリ)」

 

先程の気迫とはまるで嘘のように、申し訳なさそうな雰囲気で頭を下げる千景。そんな彼女に少し驚きつつもすぐに切り替える。

 

「‥気にしなくてもいいわ‥。とりあえずあなた達が無事で良かった」

 

「「千景さん!」」

 

少しして岬達が千景のもとに駆け寄る。

 

「怪我はない?」

 

「えぇ、艦長」

 

「良かったぁ‥」

 

「ヒヤヒヤもんですよぉ‥」

 

それぞれが安堵の表情を浮かべていると、真霜が四人のもとへやってくる。

 

「晴風と‥大淀の乗員ね?」

 

「はっはい!晴風艦長の岬明乃です!」

 

「大淀艦長、赤宮春香です」

 

「晴風乗員の和住媛萌といいます」

 

「大淀乗員の小込千景です。先程は失礼しました(ペコリ)」

 

「海上安全整備局の宗谷真霜といいます。ひとまず、ここで話もなんだから船に案内してくれないかしら?」

 

「わかりました」

 

ー晴風、大淀ー

 

日が暮れてきている中、2隻は指定場所で停泊。四人が戻って来るのを待っていた。

 

「まてぇぇ!」

 

同時刻、雪見や小野宮が逃げ出したハムスターを追いかけていていた。小さく小回りのきくハムスター相手に絶賛悪戦苦闘していたのだ。

 

「くっそ!すばしっこい!」

 

「あぁ!あっち曲がった!」

 

途中で、すれ違った仲間が止めようとしたがうまいことかわされていたちごっこ状態になっていた。

 

「この!(スカ)」

 

「こいつ!(スカ)」

 

再びアタックを仕掛けるが再び避けられる。そうこうしているうちにハムスターはある部屋に入り込む。

 

「逃がすか!」

 

そう言って二人も部屋に飛び込む。がしかし既に猫のモチによってあっさり捕獲されていたのであった。

 

ー晴風見張り台にて‥ー

 

周囲の静かな波音を聞きつつ、マチコは双眼鏡で警戒をしていた。

 

「〜‥?」

 

しばらくして、双眼鏡の端で何が何度か光りそれに気づいて、その場所を拡大、何か気づいたのか急いで伝声管に飛びつく。

 

「間宮及び明石他護衛の航洋艦2隻とホワイトドルフィン艦1隻!こちらに近づく!」

 

「何!?」

 

マチコの報告を聞いた晴風艦橋は大騒ぎになっていた。

 

「最悪の事態だ‥」

 

「ボイラー缶火落としてるから動けないよぉ‥‥」

 

「何をしとる!ド間抜け共が!艦長は!」

 

「まだ戻ってきていません!」

 

「なにぃ!?」

 

ー同時刻大淀艦橋ー

 

「まさかこんなに早く見つかるとは‥」

 

「艦長戻ってきてないから逃げられない‥」

 

「それ以前にボイラー缶落としてるからすぐには動けないよ〜」 

 

2隻とも、エンジンを停止させているためすぐには動けない。その間にも5隻は晴風と大淀に近づく。

 

「艦長が戻ってきました!ブルーマーメードの巡視艇も確認できます!」

 

見張りからの報告を聞いて一同その方角へ視線を向ける。そこには2隻のスキッパーとともに追随してくる巡視艇が確認できる。

 

「まさか‥捕まったのか‥」

 

「‥これはヤバい‥」

 

巡視艇を確認するやいなや、更に焦りの表情を浮かべるメンバー。だが‥、

 

「寛いでる場合じゃねぇ!」

 

突然怒号が、聞こえ慌てて視線を向けるとそこには小野瀬の姿が‥、しかし様子が変だ‥。

 

「えっとぉ‥小野瀬さん‥?」

 

フリーズしかけた頭をなんとか使って小野瀬に声をかける焔。

 

「やられる前にやりかさねぇと!」

 

「小野瀬さん落ち着いて!?」

 

「落ち着けるかぁ!ボォーっとする暇があるなら攻撃するぞぉ!」

 

高嶋が制止しようと声をかけるが、逆効果のようだ。それを見て慌てて焔が止めようとする

 

「小野瀬さん!?」

 

「邪魔ァ!」

 

「ギャフン!?」

 

しかしあっさりと弾き飛ばされてしまう。そのまま小野瀬は機銃台に向かう。他のメンバーも慌ててあとを追う。

 

キボウノハナー

 

残された焔は、某団長みたいな倒れ方をしておりどこからかフリージアが聞こえてくる。

 

 

艦橋を飛び出した小野瀬は機銃台に飛び乗りトリガーを引く。

 

「ヴァァァ!!」

 

雄叫びを上げつつ機銃を乱射する小野瀬。放たれた弾丸は進路を塞ぐように展開していた5隻にはなたれる。

 

「あ〜‥やってますねぇ」

 

「はぁぁ‥」 

 

晴風からもその様子が確認されており、それを見て絶望たっぷりの表情が現れるましろ。

 

カチ、カチ

 

しかし込められいた弾は演習弾のため、全く被害はないようだ。乱射しているうちにマガジンの弾が切れる。

 

「このどアホぉぉぉ!!」

 

その隙を見逃さず上里が小野瀬をつかみ派手にほおりなげ、そのまま海に落下する。

 

「‥あ!?」

 

それを見て我に戻るが既に遅し、飛ばされた小野瀬は水しぶきとともに海に着水する。少しして海中から小野瀬が顔を出す。

 

「プハ‥!あれ‥私‥」

 

「大丈夫か!?」

 

「小野瀬さん!」

 

小野瀬が我に戻ったことと、無事なことに安堵の表情をくれ浮かべる上里達。その後無事に救助されて、少しすると岬が2艦の乗員に声をかける。

 

「みんな!安心して!補給をしに来てくれたって!」

 

「捕まえに来たわけじゃないって!」

 

同じく春香も、みんなに落ち着くように声をかけていたのであった。

 

 

 




なんとか、和解が出来て一安心ですねぇ
ちなみに本作のウィルスの犠牲者は小野瀬さんとなりました()
経緯はハムスターが艦内を逃げ回ってたときに接触してしまったことが原因のようです。
そして原作では補給に来た艦艇は4隻ですが
今回はホワイトドルフィンの教員艦も混じっています
誰が乗っているのでしょうか!?


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EP8「猫でピンチ!?」

あれから一夜開けた夜明け、2隻は明石及び間宮から補給や修理を受けていた。

 

「こちら、海上安全整備局平賀2等監察官、そしてその上司さんの宗谷真霜1等監察官」

 

同時刻、晴風甲板では岬が平賀と真霜の紹介を行っていた。紹介が終わるとましろがすごい勢いで頭を下げる。

 

「もっ申し訳ございませんでした!」

 

そんないつもと変わらない妹を見て真霜は安堵の表情を浮かべて、

 

「相変わらず変わらないわねぇ‥ましろ」

 

「えっえっと‥真霜姉‥いや‥宗谷監督官‥」

 

「姉さんでいいわよ。こんなときまでガチガチじゃ落ち着けないでしょう」

 

ましろをリラックスさせている真霜に変わり、平賀が春香に話をかける。

 

「あなたが大淀艦長の赤宮春香さんね?」

 

「はい、」

 

「小野瀬さんの容態は?」

 

「今は大丈夫です。とりあえず、買い出しの物品を千景さんと運んでもらってます。」

 

 

大淀の倉庫室では小野瀬と千景が買い出してきたトイレットペーパーをしまっていた。

 

「なんかごめんね‥?つきあってくれて‥」

 

「別にいいわよ、私もやらかした一人だし、せっかくなら一緒に謹慎処分受けたほうがいいでしょ?」  

 

「ありがとう‥」

 

艦上では、2隻の修理と平行して、一部武装の換装を行っていた。

 

「おぉ‥!」

 

艦橋メンバーは新しくなった大淀の武装を目を輝かせつつ、眺めていた。

 

「15.5cm3連装砲よりも、火力、射程が格段に上がった20.3cm連装砲‥!!くぅ!最高だぜ!」

 

特に上里は火力が高くなったことにめっちゃ喜んでいるのであった。それを苦笑いで見つつ柚乃が付け足す。

 

「副武装の変更はありませんが、艦橋全部の旧機銃台

に127ミリ速射砲が装備されたみたいです。」

 

「もう、戦闘にならないとはいえこれは心強いね」

 

そうしていると明石艦長である杉本がやってくる。

 

「大淀の‥乗員だね」

 

「あっはい、そうです」

 

気づいて焔や艦橋メンバーが杉本のところへ駆け寄っていく。来たのを確認してからポケットからUSBメモリを取り出す。

 

「これ‥修理箇所と武装変更の詳細が書かれているから‥」

 

「ありがとうございます(受け取り)」

 

USBメモリを受け取っている柚乃を見つつ焔がふと思い出したのかキョロキョロする 

 

「あれ、うちのもちは?」 

 

「あぁ‥、それならあっちでうちの猫とくつろいでるよ」

 

そう言って杉本が指を指した先に、明石で飼っている猫と一緒に寛いでるもちの姿が‥

 

その頃、晴風甲板では岬や春香、ましろが平賀や福内から事情聴取を簡単に受けていた。

 

「なるほどね。遅刻をしたら突如としてさるしまから攻撃を受けたと‥‥」

 

「はい‥‥」

 

「やはり原因は掴めないか‥」

 

「古庄さんが意識を取り戻したらしいし、とりあえず真霜さんの報告も待ったほうがいいわね」

 

「あの‥、私達は‥どうなるんでしょうか‥」

 

心配な表情を浮かべつつ、二人に疑問をぶつける岬

 

「もっもしかして‥捕まるとか‥」

 

「それはないから安心して、確かに上が早とちりしかけたけど十分な確証がないのに生徒を危険には晒せないわ。それに、宗谷校長直々の指示であなた達に来たのよ」

 

「えっ‥お母‥宗谷校長が」

 

「えっ!?しろちゃんのお母さん校長なの!?」

 

岬が驚いて確かめ、それに頷くましろ。だが春香は少し不安そうに聞く。

 

「ですが‥校長の権限でも完全撤回は‥」

 

「だから俺が来たんだよ」

 

春香の声を遮るように声がして、一同はその方角へ視線を向ける。そこにはホワイトドルフィンの護衛艦から降りてくる一人の男性が

 

「俺が直接聞けば、上の奴らも必然的に聞かざる負えなくなる。それなら問題はないはずだ」

 

「え‥その声」

 

どうやら春香には聞き覚えがある声のようでハッとした顔になる。

 

「よっ、久しぶりだな春香。元気にしてたか?」

 

「父さん!」

 

馴染みの信三の顔をみた春香は笑顔満点で飛びだし抱きつく。

 

「っとと、相変わらず元気だなぁ」

 

「えへへ〜♪だって数ヶ月ぶりだもん〜」

 

やれやれとしつつも抱きついた春香の頭を撫でる信三、撫でられると表情が緩んでいる。

 

「えっえっと‥その方は‥」

 

追いつけてないましろは、困りつつも春香に質問する。

 

「あっ、自己紹介してなかったね。私の父でホワイトドルフィン所属の‥」

 

「赤宮信三だ。ホワイトドルフィン第1戦隊指揮官及び護衛艦むらさめの艦長もしている。」

 

「そういえば、父さんどうしてここにいるの?

確か、アメリカ海軍との合同演習でハワイにいるはずじゃ‥」

 

「本来ならそうなんだが‥、実は相次いで生徒の教育艦が相次いで失踪または、行方不明になってるんだ。」

 

「行方不明‥!?」

 

信三の言葉を聞いたましろの表情がハッとなる。その横では岬が心配な表情になっている。

 

「父さんが戻ってきたのは、もちろん春香のことが心配というのもあるが‥上から行方不明の艦艇の捜索要請が来てな‥」

 

「あっあの!武蔵は‥モカちゃんは無事なんですか!?」 

 

食いつくように岬が信三に問い詰めている。それを見たましろや春香に制止されてつつ、横にいた平賀が代わりに話す。 

 

「武蔵も例外ではなく‥、行方がわからなくなってるの‥」

 

「そんな‥‥」

 

平賀の言葉に返す言葉がなく、開いた口が塞がらないほどのショックを受けていたのであった‥。

 

 

 



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EP9「武蔵がピンチです!(前編)」

そして次の日‥、2隻は聴取及び機関始動までの時間付近の諸島で過ごすことになった。

 

「それ!(バシャ!)」

 

「このぉ!(バシャ!)」

 

「隙あり!」

 

近くの砂浜では水着姿の大淀、晴風乗員が水浴びをしていたり、甲板ではカードゲームなどをして思い思いに過ごしていた。

 

「全く‥‥、昨日のやつでがあるのによく元気に過ごせるよなぁ‥」

 

そんな呑気な乗員を見つつため息を吐くましろ。あのあと学校に出す報告書の作成を乗員一同で取り掛かっており、疲労困憊なはずなのだが‥

 

「まあ、今までゆっくりできなかったからな‥無理もないか‥(キョロキョロ)ん?そういえばそっちの艦長さんはどうしたんだ?」

 

ふと、キョロキョロしつつ春香の居場所を尋ねるましろ。そう言われて、焔もキョロキョロしつつ艦長がいないことに気づく。

 

「そういえば‥どこいったんだろ」

 

「あれじゃない?事情聴取とか?」

 

「確かに‥」

 

 

「あの‥平賀さん‥、どうして私もここで一緒に聴取を?」

 

大淀クラス教室で、春香、千景、小野瀬が平賀と福内の聴取を受けているようだが、なぜ自分もなのかと不満そうな表情を浮かべている春香。

 

「こちらの不手際といえ、隊員制圧を最終許可をしたあなたもちゃんと、聴取は受けてもらいます。」

 

「うぅ‥、確かにそうですが‥」

 

福内に正論をきっぱり言われ、何も言い返せず少し項垂れている春香。その様子を見つつ、平賀が小野瀬に質問。

 

「小野瀬さん‥もう一回聞くけど‥、なぜ攻撃したのか覚えてないのね‥?」

 

「はい‥」

 

「‥‥。春香さん、小野瀬の普段はどんな感じですか?」

 

少し考えて、今度は春香に質問をする平賀。自分に聞かれたため、先ほどの項垂れが嘘のように切り替わる。

 

「すごくおとなしい性格です‥。空いたときとはよく本を読んでますし‥、例の件は嘘のように性格が変わってました‥。」

 

「なるほど‥」

 

「平賀さん、やはり小野瀬さんのプロフィールでも同じように書かれています。」

 

つけたすように、福内が資料を見つつ伝える。それを聞いた平賀は再び考え込む。

 

「‥覚えてないのなら無理に聞く必要はないわ‥実際、この子が攻撃的なる方がありえないんだし‥」

 

冷静に、なおかつ的確な分析をする千景。それを聞いて平賀も意を決する。

 

「そうね‥、嘘は言ってるようには見えないし、無理に聞く必要はなさそうね。わかったわ、聴取を長くしても疲れるだけだし、この辺にしましょうか。必要な聴取はあらかた取れたし」

 

「ですね、じゃあそろそろ終わろうかしら。お疲れ様」

 

 

 

「あっ艦長に二人とも〜、お疲れ様です〜」

 

聴取が終わり、3人と平賀、福内が甲板に戻ってくると艦橋の乗員が出迎えに来ていた。

 

「おっ、みんな〜」

 

「聴取疲れたぁ‥」

 

「いろいろ絞り取られたねぇ‥()」

 

少しげっそり、特に春香と千景はこれでもかというほど絞り取られたため、疲れているのが見て取れていた。

 

「あっ♪ハルちゃん〜」

 

少しすると、岬が駆け足でやってくる。そしてその声に気づいたのか信三もやってくる。

 

「よっ、春香。聴取お疲れさん」

 

「あっ父さん〜‥、疲れたよぉ‥」

 

その後、報告書を学校などに届けるために信三が艦長を務めるむらさめに平賀と福内は乗り込み帰ることになった。

 

 

同時刻‥小笠原諸島近海にて、東舞校カラーを施した護衛艦数隻が単縦陣で航行していた‥。

 

「哨戒艦はつつきより入電、我武蔵発見、繰り返す我武蔵発見。場所は小笠原諸島近海とのとこと」

 

その中の1隻、護衛艦あきつきの艦橋では部下と思われる男性が艦長に報告をしていた。

 

「ようやく見つけたか‥、無線はどうだ?」

 

「無線も応答なし、ビーコンの反応がないとなると‥おそらく電装系の故障かと」

 

「そうか‥、とりあえず無事に見つかってよかった‥。まさか、立て続けに生徒の艦艇が失踪するとはな‥

とりあえずすぐに向かう、哨戒艦を呼び戻せ」

 

 

 



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EP10「武蔵がピンチです!?(後編)」

北マリアナ諸島海域

 

「武蔵‥安定して航行してますね」

 

双眼鏡でみつつ、武蔵の状況を確認する副長。あれから哨戒艦を呼び戻した東舞校教員艦隊はすぐさま武蔵のいる海域に急行したのであった。

 

「それなら良かった。後は生徒が無事かどうかの確認だな。まっこれで横須賀女子海洋学校の校長もとりあえず一安心だろう‥。なにせ、一度に何隻もの教育艦が消息を絶ったんだからな‥」

 

艦長の中年の男性は頭をポリポリしつつ、ため息をつく。すると双眼鏡で武蔵の様子を見ていた副長が武蔵の主砲塔がこちらに向くのに気づく。

 

「‥‥?」

 

何故こちらに向けてきたのか疑問を浮かべる副長、しかしその疑問は次の瞬間打ち砕かれる。

 

ドドドン!!!

 

「撃ってきました!!?」

 

「何!?」

 

突然の副長から出てきた報告に思わず席を立ち上がる艦長。直後、武蔵から砲撃が教育艦隊に降り注ぐ。

 

「4番艦より入電!!機関部に被弾!!航行不能!!機関部に被弾!!航行不能!!」

 

カチ!カチ!

 

「発光信号に応答ありません!!」

 

武蔵からの砲撃を受けた直後、2番艦が発光信号で交信を試みるも反応はない。

 

「我々を脅威と誤認しているのかもしれん!3番艦は接近して呼びかけてくれ!!」

 

一瞬フリーズしかけた艦長だが、すぐに指示を出し

指令を受けた3番艦が接近を試みる。

 

「武蔵乗員の諸君!!我々は東舞校教員艦だ!!君達を保護しにきた!!速やかに停船して指示に‥(ドドドン!!)」

 

拡声マイクで呼びかけを試みた3番艦だが再び武蔵からの砲撃を受け艦首に被弾、退避する。

 

「隔壁閉鎖急げ!!」

 

呼びかけにも応じない。さらには次々と被弾していく僚艦を見て艦長が覚悟を決める。

 

「魚雷を撃とう‥!どこかに穴を開けて艦を傾斜させれば砲は使えなくなる。」

 

「生徒の船を‥撃つことになりますが‥」

 

「砲を使えなくさせてから生徒を保護する‥!」

 

「わかりました‥」

 

艦長のまさかの指示に一瞬躊躇った副長だが、現状を考えて止む終えないと判断。配下の艦隊に指示を出す。

 

「対‥!!水上戦闘用意‥!!」

 

「対水上戦闘‥用意!!」

 

対水上戦闘用意の合戦合図とともに、各教員艦の主砲が武蔵に向けて旋回する。

 

「各部配置用意よし!」

 

「各部閉鎖用意よし!対水上戦闘用意よし!!」

 

 

ドゴォォォォォン!!

 

「2番艦被弾!!」

 

「対水上戦闘!!奮進魚雷!!攻撃始め!!」

 

「奮進魚雷!!発射始め!!」

 

ゴォォォ!!!

 

攻撃始めの合図で戦闘可能な6隻(元は8隻編成)の全部VLSハッチが開き轟音とともに奮進魚雷が空中へ放たれ武蔵へと飛行する。

ある程度接近してきたところで後ろのロケットブースターが切り離され、一瞬パラシュートを展開し海中に着水

その後は魚雷として武蔵船腹へと襲いかかる。

 

ドドドドン!!

 

各艦艇4発ずつ、合計24発放たれた奮進魚雷は全弾武蔵に命中。普通の船ならこれでほぼ満身創痍になるはずななのだが‥   

 

「全弾命中‥!砲は‥ダメです!!速力!砲ともに変わらず!!」

 

「やはり演習弾では無理か!!」

 

威力が半減した演習弾だとはいえ、24発もの攻撃を喰らえばひとたまりもないはず。しかしそれ喰らってもなお武蔵は何くわぬ様子で射撃を続けていることに思わず悪態をつく艦長‥。ここから艦隊は地獄の砲雷撃戦を繰り広げるのであった‥。

 

 

同時刻‥諸島近海

 

晴風と大淀ではミーナの歓迎会でのほほんとした雰囲気に包まれていた。みんなが楽しそうにしている中大淀医務室では穂稀と美波が特殊なケースに収められたハムスターを眺めていた。

 

「これが‥?」

「そう、うちの乗員が漂流してた箱を拾った際にその中から出てきたやつらしいの。んでその中で触った小野瀬の様子がおかしくなったの」

「なるほど‥‥、調べる必要があるね‥」

 

そんな中地上では、楽しそうにしている仲間を見ていた焔だが無線が鳴っていることに気づき無線機を取る。

 

「はい、こちら大淀副長の焔ですか‥はい‥はい!?」

 

突然声が裏返った焔に一同驚いて焔に視線を集める。その彼女は通信を終えると血相を変えて振り向く。

 

「横須賀女子海洋学校より緊急入電!!北マリアナ諸島にて武蔵を発見した東舞校教員艦隊が攻撃を受けているとのこと!大淀及び晴風は至急急行して情報収集に務めろと、ただし発砲は控ええてくださいということです!」

 

「総員!!配置について!!」

 

焔の報告を聞いた岬が配置命令を出す。歓迎会の直後こため水着のままの子がいたりしているものの時間がないためジャージを着て急いで持ち場に行く。

 

「錨あげ!タラップ収納!!確認次第緊急出港!!」

 

錨と僚艦を繋いでいたタラップが格納された直後、緊急出力で晴風が出港、続いて大淀も動き出す。

 

 

「増援8隻到着。陣形整いました」

 

武蔵の初撃で2隻ほど離脱した教員艦隊だが増援部隊が合流したことで再び追跡に入る。最新鋭の護衛艦で構成された艦隊だが、相手は水雷防御や自身の砲撃に耐えられる装甲を持つ戦艦。圧倒的不利な状況は変わらなかった。

 

「なに‥これ‥」

 

現場海域に到着した大淀と晴風の2隻だが、圧倒的力でねじ伏せられる教員艦隊を見てあ然としていた。

 

 

「‥艦長、どうしますか?」

「とりあえずは様子見‥、学校からは交戦を避けるように言われてるし‥面舵一杯!武蔵左舷に展開して」

「わかりました〜!面舵一杯!!」

 

春香の指示をうけて大淀は武蔵左舷、つまり晴風と挟み込む形で展開する。

 

 

「なんとしてでも‥!足を止めなければ‥!奮進魚雷!!攻撃始め!!」

 

1番艦のVLSが再び開いて奮進魚雷が空中に放たれる。しかしなぜか目標を見失い迷走してしまう。

 

「何!?」

「艦長!!大変です!全艦からの通信途絶、データリンクも止まっています!!」 

「どうゆうことだ‥!?」

「砲撃、本艦に着弾します!」

 

さらに追い打ちをかけるかのように武蔵から放たれた砲撃が周囲に降り注ぐ。その反動で一瞬跳ね上がってしまう。

 

 

「艦長!!教員艦隊のほとんどが追跡不能になっています!!」

 

子日からの報告をうけて一同は視線を教員艦隊に向ける。あれだけいた艦隊のほとんどが戦闘不能になり次々と脱落。生き残った艦隊も追跡するのがやっとという状態だ。

 

「武蔵の状況は!!」

「速力上げてます!!海域から離脱する気です!!」

 

その張本人の武蔵は全速力で逃げるかのように離脱しようとする。すると双眼鏡を動かした子日の目に晴風からスキッパーが出ていくのが映る。

 

「晴風よりスキッパー射出!!武蔵に向かってます!!」

「え!?」

 

報告をうけて慌てて春香も双眼鏡でスキッパーに視線を向ける。そこにはうっすらだが岬が乗っているのが確認できる。

 

 

「晴風!速力上げてます!!恐らくスキッパーを追う気です!!」

 

スキッパーが出ていくと同時に晴風が速力をあげて追いすがるのが確認できる。

 

「恐らくスキッパーの援護ね‥」

「晴風より入電!!貴艦は速やかに海域を離脱されたしとのこと!」

「晴風をおいていくなんて言葉私にはないわ!!対水上戦闘用意!!スキッパー及び晴風を援護する!!」

「「はい!!」」

 

大淀も速力をあげて武蔵と並走するように進路を調整する。

 

「雪さん!右舷砲戦用意!!弾種徹甲榴弾!!目標はスクリュー!!」

「了解!!スクリュー壊して足を止める算段だな!1、2番砲右90度旋回!!弾種徹甲榴弾!!」

「高嶋さんは魚雷発射用意!!狙いは主砲と同じくスクリュー!!タイミングは任せる!」

「わかりました‥!(伝声管に駆け寄り)後部右舷魚雷発射管75度旋回急いで!」

「副砲群も砲戦用意!!可能な限り艦橋には当てないようにしつつ副砲の破壊を優先して‥!」

「ほい‥!」 

「総員戦闘配置!!」

 

合戦指示を受け大淀の主砲塔、副砲群、魚雷発射管が武蔵へと向く。

 

「主砲配置完了!!」

「魚雷!いつでもオッケーです!」

「副砲‥いけるよ‥」

「応急員配置完了!」

「各部閉鎖よし!」

「配置完了!!艦長!」

「対水上戦闘!!目標!武蔵!!撃ちぃ方始めぇ!」

「「「てぇ!!」」」

 

轟音とともに大淀の20.3cm連装砲、続いて右舷10cm連装高角砲、艦橋全部の127ミリ単走速射砲、遅れて後部右舷61cm3連装魚雷発射管が次々と攻撃を開始する。

 

武蔵の周囲に放たれた砲弾が次々着弾、激しい水しぶきが上がる。さらには遅れて魚雷が艦尾周辺に次々と命中

一瞬武蔵の船体が反動で傾く。

 

「魚雷!!全弾命中!!」

「主砲弾!至近弾!」

「副砲!射撃継続!!」

 

大淀からの一斉射を喰らった武蔵、しかし前より性能が上がったとはいえ所詮大淀は巡洋艦。再び体制を立て直しつつ46cm砲、遅れて155ミリ砲の砲口が大淀に向けられる。

 

「武蔵!!速力変わらず!狙いをこちらに向けています!!」

「ジグザグ航行で狙いを絞らせないで!射撃は継続!!」

 

射撃を続けつつジグザグ航行に切り替える大淀、直後武蔵が発砲。教員艦隊との砲撃戦をものともしてないかのように大淀との撃ち合いに突入する。

 

 

「離脱しろといったのに‥」

 

両者ともに一歩も引かない撃ち合いをみつつ、離脱しない大淀にすこし呆れの表情を見せるましろ。

 

「んで!どうする!撃っちゃう!?」

「だめだ。こっちから撃てば艦長にも被害が及ぶ、狙いが向こうにいっている間に回収するぞ!知床さん面舵一杯!」

「おっ面舵一杯ぃぃ!」

 

ヘイトが大淀にいっている間に武蔵へと向かった岬を回収するために晴風が接近を試みる。

 

 

 

その頃岬はスキッパーで武蔵に並走するかたちで接近する。

 

「モカちゃん〜!!!」 

 

そう叫びつつ、視線を艦橋に向けると薄っすらとだがもえかの姿が確認できる。

 

「‥‥!」

 

しかしその直後、海面に浮いていた漂流物にぶつかってしまいスキッパーから海中に放り出されてしまうのであった‥。



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EP11 「揺れる心」

「プハッ!!」

 

スキッパーから放り出された明乃は海面から勢いよく顔を出して武蔵へと視線を向ける。

 

「モカちゃん〜!!!!」

 

もう一度知名の名を叫ぶが、そんな彼女を置いていくかのように武蔵は徐々に離れていく。さらには交戦中の大淀、そして接近してこようとしてくる晴風にむけて主砲、そして副砲を発砲、その轟音が響いてくる。

 

 

ー大淀艦橋ー

 

「艦長!!スキッパーの乗員が海に投げ出されました!!」

 

「えっ!?」

 

 

右舷見張員の子日の報告を受けて急いで右舷航海管制塔の双眼鏡に飛びついて確認する春香。そこには報告通りスキッパーと海に投げ出された明乃の姿が‥ 

 

 

「あの感じだと砲撃じゃなくて漂流物に当たって投げ出された感じか‥‥」

 

「艦長!!助けにいきましょう!!」

 

「いや‥その必要はない‥」

 

 

高嶋の提案を窘めつつ視線を向けた春香の先にはすでに岬を救助しようと接近を試みる晴風の姿が‥、しかしそれに武蔵も気づいており対応可能な武装で攻撃している。

 

 

「あの感じだと晴風に任せたほうがいい‥!それよりも私達がやるべきことは晴風の支援!!武蔵の狙いをこちらに絞らせて!!」

 

 

「「「了解(うい)!!」」」

 

 

春香の指示に乱れぬ返答を返す艦橋メンバー、射撃体制を再び整えた大淀は再び武蔵にむけて激しい砲撃を開始する。

 

 

「発射速度の早い副砲群はなるべく相手の副砲の破壊を優先して‥!!」

 

「主砲は引き続き徹甲榴弾!!狙いは艦橋以外ならどこでもいい!!アイツの気を可能な限りこちらに寄せろ!!」

 

「魚雷は艦尾か艦首に集中‥!中央は水雷防御が硬いからそのへんの調整はちくじ言うね!」

 

 

20.3cm連装砲・10cm連装高角砲・127mm速射砲・61cm3連装魚雷などの大淀が使える全武装が絶え間なく攻撃を続け、武蔵に襲いかかる。

そのうちの副砲弾の一発が武蔵の第一副砲塔に命中、爆炎に包まれる。

 

 

「艦長!!武蔵の副砲一基破壊確認!!それと左舷高角砲の三基ほども同様に破壊しました!!」

 

「武蔵速力低下!!」

 

 

いくら重装甲に包まれている武蔵とはいえど、流石に何度も攻撃されればかなり応える。徐々にではあるが損傷箇所が増えていき僅かではあるが速力が落ちてきている。そこまで攻撃されれば放置しないわけには行かず左右に振り分けていた主砲を全て大淀へと向ける。

 

 

「武蔵!!こちらに全主砲指向!!」

 

「見張員は至急艦内に待避!!晴さん!!取舵一杯!!」

 

「了解!!」

 

 

春香の指示を受けて見張員である望、子日、霞は急いで艦内または艦橋に待避、晴が取舵で進路を変更しようとした直後、轟音とともに武蔵が発砲放たれた46cmの徹甲弾が無数に大淀に襲いかかる。

 

 

「主砲弾!!こちらに来ます!!」

 

「総員!!衝撃に備えて!!」

 

 

雪の発言を受けて春香が衝撃に備えるように伝えた直後、砲弾が大淀の周囲に降り注ぐ。

 

 

「っ‥‥!!!!」

 

 

46cmクラスの砲弾となればとてつもない衝撃になることは目に見えてわかること。砲弾が着水すると大きな水柱が上がり波打つ。

 

 

「流石‥46cm砲‥相変わらずとてつもない威力ね‥。被害状況の確‥「敵弾再び来ます!!」はっ!?」

 

 

子日からとんでもないことを言われて焦った表情で再び武蔵へと視線を向ける春香。それもそのはず、武蔵の主砲弾は46cmクラス、いくら自動装填装置が積まれていたとしても装填には30秒ほどかかる。先程撃ったはずなのに連続で撃てるなどありえない話だ。

 

 

「なんで‥!?」

 

「‥!!そういうことか!くそ!一枚やられた!!」

 

 

武蔵の仕掛けたトリックに気づいて思わず悪態をついてしまう雪。それに気づいた柚乃が説明を促す。

 

 

「雪さん!!どうゆうことですか‥!?」

 

「簡単なトリックだ!恐らく武蔵は交互撃ち方をやってる!」

 

 

交互撃ち方‥戦艦など精度が低い艦でよく行われる手法、一斉射でも当たらないことはないが、そうなると主砲同士の爆風で狙いがずれてしまうのだ。そのため、最初は左右の砲身、続いて真ん中の砲身という順で撃つことで命中精度を上げるというやり方。 

 

 

「そうか‥!武蔵の乗員はエリート揃い‥こっちの動きを読んでたか‥!」

 

「晴さん!面舵!!」

 

「駄目です!!間に合いません!!」

 

「くっ!総員!!衝撃に備えて!!」

 

 

そう春香が指示した直後、再び大淀の周辺に無数の砲撃が着弾、その中の一発が後部格納庫に命中、とてつもない爆炎が上がる。

 

 

「「きゃぁぁぁ!!!??」」

 

 

 

艦内から悲鳴が上がると同時に、被弾した大淀は一瞬艦後部が下がり艦首が浮き上がる。その後すぐに体制が戻ったものの後部格納庫から黒煙が上がっていくのであった。

 

 

ー武蔵艦長室ー

 

 

「う‥そ‥」

 

 

被弾して黒煙を上げつつ速力が低下、戦線離脱をしていく大淀を見たもえかは表情が青ざめる。46cm砲弾が一発だけといえど軽巡洋艦にはかなりの脅威になりかねない。自分の幼なじみを助けようとしている晴風の援護とはいえど、何もできずにただ味方が蹂躪されていく様子を見るとなればかなり精神に来るものがある。

 

 

「‥‥」

 

 

彼女はただ距離が離れていく2隻を見ることしかできずにいるのであった‥。

 

 

ー洋上ー

 

 

「っと‥!」

 

 

その頃海に放り出された明乃はなんとかスキッパーに戻り、乗り込んでエンジンをかけ直す。

 

 

「もかちゃん‥」

 

 

離れていく武蔵を追いかけようとした彼女だが、砲撃を受けつつこちらに向かってくる晴風、そして自分を守るために被弾、速力が低下している大淀を見て心が揺れる。

 

 

「っ‥!」

 

 

しばらく迷っていた明乃だが、決心した様子でスキッパーを方向転換。晴風へと戻っていくのであった。




大淀が武蔵の攻撃を受けてついに被弾‥

46cmクラスの砲弾が直撃となればかなり危機的状況なのは間違いない‥果たして‥大淀乗組員は無事なのか‥
そして‥明乃と晴風乗員の運命は‥!


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EP12 行動

久しぶりの投稿です!


ー武蔵追跡が断念された同時刻‥‥ー

横須賀女子海洋学校

校長室にて

 

 

「教員艦隊16隻ほぼすべてが航行不能‥‥!!?」

 

 

海江田からの報告を聞いた宗谷校長は衝撃のあまりか頭を抱えつつうなだれる。

 

 

「はっ‥‥停船を呼びかけたところ突然武蔵からの砲撃を受け、保護をするために交戦したそうですが‥‥なにやら電子機器関連のトラブルで連携が取れず各個撃破されていったと‥‥。おまけに奮進魚雷を何十発受けたはずなのに武蔵はピンピンしていたそうです。」

 

 

「していた‥‥?それはどうゆうこと?」

 

 

引っかかるような言い方をしたことに気づいた宗谷校長は顔を上げて真剣な表情で海江田に質問する。

 

 

「実は武蔵に接触を命じていた我が校所属の航洋艦晴風及び小型直接教育艦大淀のうち、大淀が海上安全法10条ならびに海上警備行動法に基づく正当防衛及び晴風、損傷艦の待避支援として交戦をしたとの報告が入っています」

 

 

「生徒同士の交戦‥‥可能なら避けたかった事態だけど‥‥それで両者の被害状況は?」

 

 

「かろうじて航行が可能だった教員艦さきつきからの報告によれば武蔵は第一副砲及び左舷高角砲群が沈黙したとのことです。ですが大淀も無事ではなく後部格納庫に被弾していたとのことです。」

 

 

春香は咄嗟の判断で射撃をしたためそんなことを考える暇はなかった。しかし校長などの最高責任者の許可が必要なためその許可なく発砲した場合は本来法律などに違反する行為であり処罰対処になりかねないのであるが‥‥

 

 

「信三殿と真霜監督官‥‥古庄教官や咲監督官の働きかけのお陰ね‥‥。まっ向こうもそれどころじゃないでしょうが‥‥」

 

 

ブルマーやホワイトドルフィンなどの働きかけで今回の事態は海上安全法9条ならびに海上警備行動法に基づく正当行為として処理された。まあ‥上もおそらくそんなことにかまっている余裕がないというのもあるだろうが‥‥

 

 

「ひとまず‥‥死者は出ていないのね?」

 

 

「はっ、教員艦隊は軽症者などは多数出ていますが重症者などは確認されていません。晴風などはあの砲撃下で負傷者はゼロとのことです。」

 

 

「喜ぶべきなのか否か‥‥‥それで肝心の大淀の詳細な被害状況は?」

 

 

 

 

 

 

 

 

ー横須賀湾外ー

 

 

横須賀基地周辺の湾外にはブルーマーメイド所属で咲の指揮する沿岸戦闘艦ふしお以下第ニ水上打撃群配下のあきつか・きぬがさ・あきたかの計4隻とホワイトドルフィン所属で赤宮信三が指揮する護衛艦むらさめ以下あきさめ、ときつかぜ、はまかぜを含む第一戦隊所属の4隻の合計8隻が停泊していた。

 

 

「ふぅ‥‥なんとか処罰は回避できたな‥‥」

 

 

「そうね‥‥ヒヤヒヤもんだわ‥‥」

 

 

むらさめの甲板で手すりに寄りかかりつつ、少しお疲れの様子で咲と信三が飲み物片手に休憩してるようだ。

 

 

「全く‥‥うちの子は本当思い立ったらすぐに行動しちゃうんだから‥‥(汗)誰に似たのやら‥‥」

 

 

「まあ間違いなくお前に似ただろうな(汗)」

 

 

「‥‥返す言葉がございませんわ‥‥(汗)」

 

 

あっさりと信三に指摘された咲は返す言葉がないため思わずしょげてしまうのであった。すると横須賀から一隻の哨戒艇がこちらにやってくる。

 

 

「‥お、どうやらお出ましのようだぜ?」

 

 

「えぇ‥私達を呼び出した御本人‥がね?」

 

 

 

 

 

 

「海上安全監督官の宗谷真霜です。本日はお忙しい中きていただいてありがとうございます」礼

 

 

甲板では真霜が二人に一礼をしてから再び帽子を被る。どうやら彼女が二人を呼び出したようだ、もちろんその理由は春香の件もあるがそれ以外もあるようで‥‥

 

 

「呼び出した理由はなんとなくわかってるぜ‥。相次いでいる横須賀校所属の学生艦の件だろう?」

 

 

「流石信三さん‥‥察しがいいですね。えぇ、そうです。あの航海演習開始から相次いて学生艦が消息を絶っているのです‥‥」

 

 

「‥んで人手が足りないから私達にも捜索に加勢してほしいと‥」

 

 

「はい‥‥ご存知かと思われますが東舞校教員艦隊が武蔵との交戦で壊滅的な被害を負われました‥‥。そのため‥日本国内で動かせるある程度大きな艦隊が限られています‥」

 

 

「そのうちが‥‥俺たち第一戦隊と咲の第二水上打撃群ってことってことか‥‥」

 

 

「はい‥‥それで指示というのが‥お二方の艦隊を臨時に統合、捜索艦隊を編成して消息不明の学生艦‥‥及び武蔵の捜索‥保護を命じます」

 

 

真霜の言うとおり、日本国内には大規模に動けるとすれば東舞校の教員艦隊・そしてブルマー艦隊なのだが教員艦隊は武蔵との戦闘で壊滅。ブルマーも手が回らない状態になっていたのだ。そのため数少ないフル稼働できる咲と信三の艦隊を抜擢、捜索に加えることで穴を埋めようという算段だ。

 

 

「学生艦も捜索に向かわせることもできますが‥‥あいにく大型艦艇のほとんどはドック入りをしていまして‥‥なにより武蔵に迎える艦艇が限られる状態ですね‥‥」

 

 

「わかった、俺たちで引き受けよう。今は少しでも人手が多いほうが何かと楽だからな」

 

 

「初めてじゃないかしら?二人で一緒に作戦するなんて、捜索艦隊指揮官はどうするの?」

 

 

「それはお前に任せるよ。そうゆうのは得意だろ?」

 

 

「あら♪わかってるじゃない♪」

 

 

出会った当初から仲の良かった二人。それは結婚しても変わらずに定期的に会うときによく二人で話しているのを真霜は見かけていた。仲間からも理想の夫婦として羨ましがれるほどの仲だ。

 

 

「んじゃそうと決まれば作戦計画書が必要だな。真霜監督官、あるか?」

 

 

「はい、ではこちらの資料を確認してください。こちらには―――――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

北マリアナ諸島近海にて

 

 

武蔵の追跡を断念した二隻はとりあえず近くの島に停泊することにして損害状況の確認をすることにした。

 

 

「ウヒャー‥‥こりゃ派手にやられたね」

 

 

格納庫屋根に登り驚きの表情を浮かべる小野宮、その視線の先には消火作業は済んだものの46cm砲弾の直撃を喰らったため上部構造物がグチャグチャになっている格納庫の屋根であった。

 

 

「うわぁ‥‥機銃台がグチャグチャになってる‥‥こりゃ使えなさそうだね‥‥」

 

 

ほぼ原型を留めていない25ミリ単走機銃二丁をつつきつつ衝撃を隠しきれない雪見。機銃だけならまだ艦内につんである予備を交換すればいいが‥発射台まで壊れているため交換のしようがない。

 

 

「これでよく怪我人が出なかったよねぇ‥‥晴風も」

 

 

「だねぇ‥‥砲弾が直撃したことと晴風艦長が海に放り投げられたときはどうなるかと思ったしねぇ」

 

 

ー大淀艦橋ー

 

 

「損害報告が終わりました。25ミリ単走機銃二丁が破損後部格納庫も派手にやられています‥‥その影響で一部レーダーと機関にダメージが‥‥少し修理に時間がかかかりますね‥‥。負傷者は晴風ともになしです」

 

 

「あの直撃でけが人が出なかったことを喜ぶべきなのか否か‥‥」

 

 

艦橋では焔から損害報告を聞いていた春香がやれやれという表情になる。それもそうだろう、武蔵の46cm砲弾が直撃して怪我人が出なかったことは奇跡的なこと。羅針盤の上ではあの戦闘のあととは思えないほど寛いでいるもちが‥‥

 

 

「ただ晴風の状況は宜しくないですね‥‥」

 

 

「あ〜‥まあ艦放棄して飛び出しちゃったからなぁ‥‥」

 

 

しかし大淀よりも遥かに重たい問題を抱えているのが晴風だ。岬が飛び出した件で艦内はかなり気まずい雰囲気に包まれているのがこちらからでもわかる。

 

 

「副長、ちょっとこっちの指示任せていいかな?」

 

 

「晴風の方に行くんですね?わかりました♪任せて♪」

 

 

「凄い‥‥もう艦長の言いたいことを理解してるよ副長‥‥」

 

 

ちょっとの会話だけで読み取った焔のコミュニケーション能力に驚きを隠せない高嶋。いや‥小さい頃から一緒にいたためおそらく焔からすれば春香の言いたいことはお見通しなのだろう。

 

 

「それじゃ行ってくるね〜」

 

 

帽子を立て掛けて、艦橋に指示を出したあと春香はスキッパーの元へ駆け寄っていくのであった。

 

 

大淀に搭載されているスキッパーで晴風の元に向かった春香はタラップを伝って甲板に上がる。やはり向こうにいたときから感じていた以上に重たい雰囲気に包まれていた。

 

 

「ん〜‥‥これは宜しくないですなぁ‥‥」

 

 

頭をポリポリしつつひとまずは艦橋に向かおうとしかけたときにあることに気づく。

 

 

「お?あれは‥‥」

 

 

彼女の視線の先には甲板通路に座り込んでいる岬とそばに寄り添っている知床の姿が‥‥

 

 

「あ‥赤宮さん‥!」

 

 

どうやら知床も気づいていたようで彼女を確認すると少し安堵した表情を浮かべる。知床の声につられて岬も顔を上げて春香に気づく。

 

 

「あっ‥ハルちゃん‥‥」

 

 

「大丈夫‥?って雰囲気じゃないか‥‥(汗)」

 

 

「うん‥‥あっリンちゃん側にいてくれてありがと‥♪そろそろ持ち場に戻ってて♪」

 

 

「えっあっ‥‥いいんですか‥?」

 

 

「うん♪もうだいぶ落ち着いたから‥、それにちょっとハルちゃんと話したいこともあるし‥‥」

 

 

「わかった‥!」

 

 

岬の指示に頷いて、立ち上がると春香に一礼してから知床は艦橋へと駆け足で戻るのであった。それを確認するとゆっくりと立ち上がり向き直る。

 

 

「えっと‥‥今回の件は本当に申し訳ございませんでした!!」バッ

 

 

「えっあ(汗)」

 

 

突然謝罪の言葉を口にしたと思えば勢いのいい頭を下げる岬に戸惑いを隠せずにいる春香。

 

 

「私の‥‥身勝手の行動のせいで‥‥‥危険な目に‥合わせちゃった‥‥から‥‥」

 

 

頬から涙を流しながら話している岬を見てそうゆうことかと納得の表情を浮かべた春香は静かに彼女を胸に抱きかかえる。

 

 

「ふぇ‥‥」

 

 

何が起こったか理解出来ていない岬、しかしそんなことは気にしないかのように春香は瞳を閉じてそっと滑らかに頭を撫でる。すると何故か不思議と昔お母さんに抱かれたときの温もりを感じた‥

 

 

「うぅ‥‥ひっ‥ぐ‥えっ‥ぐ‥」

 

 

自然とこみ上げていた感情が爆発して、岬は無邪気な子供のように春香の胸の中で涙を溢しつつ泣いていた。‥それだけ葛藤があったのだろうし、艦長という立場上誰かに甘えることができなかったのだ‥

 

 

 

 

「‥‥‥」

 

 

そんな二人の様子を艦橋要員のメンバーと見張員の子達が静かにデッキから観察していた。

 

 

「艦長‥‥大人になりすぎじゃない‥‥(汗)」

 

 

「大人というよりか‥‥お母さん?」

 

 

「なんかそれに近い雰囲気感じる‥‥」

 

 

「だね‥‥」

 

 

もちろん、あちらの空気に配慮して小声で話しつつそれぞれ影から見守っていた。すると背後の無線電話機のコールが鳴り響く。

 

 

「あっ私が出ます」

 

 

コールに気づいた柚乃が駆け足で電話機の元に向かい受話器を手に取る。

 

 

「書記の柚乃です。はい‥はい‥はい‥?えぇ‥わかりました‥ちょっと確認してみます」ガチャ

 

 

「どうしたんだ?柚乃、なんかぱっとしない感じだね」

 

 

電話の雰囲気が気になったのか、上里や他のメンバーも柚乃の元へ歩み寄ってくる。

 

 

「はい‥‥副長、早速確認してほしいことが‥‥」

 

 

「‥‥?」

 

 

 

ー晴風艦橋下左舷甲板ー

 

 

「‥‥‥」

 

 

がむしゃらに泣きじゃくる岬とそんな彼女を静かに撫でている春香を気づかれないようにましろは陰に隠れてみていた。

 

 

「‥‥艦長‥‥‥」

 

 

いつもは明るくてハイテンションなイメージが染み付いていたためこんな様子なのは初めて目にした。というか武蔵の件からおかしくなっていたことを薄々と感じていたのだ。

 

 

「‥‥私は‥‥本当に副長として責務を果たせてるのだろうか‥‥‥」

 

 

ポツリと放った言葉は、波打ちによってかき消されてしまうのであった。流石にずっと覗き見をする訳にはいかないと思ったのか180度回れ右して艦橋に戻ろうとしたとき。

 

 

「あっ!副長‥!!」

 

 

どうやらましろを探していたようだ。こちらを確認すると幸子がタブレット片手にに駆け寄ってくる。

 

 

「どうした‥‥?なんか慌ててるようだが‥‥」

 

 

「実は‥‥おかしなことが‥‥」

 

 

 

 

 

 

 

 

「‥‥(グスッ)」

 

 

「落ち着いた‥‥?」

 

 

あれから泣きじゃくっていた岬であったが落ち着いたのか目元の涙を指で拭き取りつつ春香に笑みを浮かべつつ視線を合わせる。

 

 

「うん‥♪ありがとう‥♪なんだか‥スッキリしたよ‥‥♪」

 

 

「そりゃ良かったよ‥♪(ピピッ)ん?」

 

 

するとポケットに入っていたスマホから着信音が鳴っていることに気づいて取り出して出る。

 

 

「はい‥はい‥へ?うん‥わかった丁度晴風にいるから確認してみる」ピピッ

 

 

「どうしたの‥?」

 

 

電話の内容が気になったのか、岬が首をかしげつつ尋ねる。そんな彼女に対して少し考え込んでから再び春香が向き直って口を開く。

 

 

「どうも‥レーダーとか広域無線機・あっあと位置情報を確認するGPSが使えなくなってるみたいなの。それが‥晴風と大淀で‥」

 

 

「えっ‥‥!?両方で!?」

 

 

まさかのトンデモ発言に思わず驚きの声をあげる岬であるのであった‥‥。



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EP13 ウィルス

ひとまずは持ち直した岬

しかし新たな問題が‥‥


大淀艦橋にて

 

 

「では状況を手短に説明します」

 

 

電信員の美紀が艦橋を見渡し一間開けてから再び口を開いて説明する。

 

 

「晴風及び大淀にて原因不明の電波妨害が発生‥それにより電子機器関連のほとんどが使用不能です。」

 

 

「電波妨害‥‥?なんでわかるんですか?」

 

 

なぜまだ詳しく調べてないのに原因が電波妨害だとわかるのかて‥疑問に思った岬が質問すると美紀がポケットからとある機械を取り出す。

 

 

「コイツは元々盗聴器の電波を探るための探知機ですが、私が今回の件用に開発した特殊探知機で調べました。即席ですが正確性には自信があります。」

 

 

「流石美紀さん〜、電子機器の腕前で右に出る人はいませんねぇ〜」

 

 

電信員であるためこうゆうのには強いのかすぐに作ってしまう彼女の技量に関心の表情を浮かべる柚乃。

 

 

「それで‥その妨害電波はどっちから出てるの?」

 

 

「それが起動した瞬間に探知したので‥‥確実にこの大淀艦内から発生しています」

 

 

「うっうちらから‥!?」

 

 

まさかの妨害電波が自分たちの船から出ていることに驚きを隠せない焔。いや彼女だけではない、晴風から派遣された岬や幸子、西崎や艦橋にいたクルーも驚きの表情に包まれる。

 

 

「レーダー系の全滅は艦船にとって死活問題です。となれば早急に原因を見つける必要がありますね」

 

 

 

 

ー大淀艦内ー

 

 

というわけでこの妨害電波の発生源を突き止めるために美紀を先頭に春香・岬・幸子・高嶋・の6人が艦内の捜索に入ることに。

 

 

「どう?美紀さん」

 

 

「だんだん反応が近くなってきてますね‥‥おそらくこの先でしょう‥。」

 

 

「でもそんな妨害電波が出るような機械積んでたっけ‥‥?」

 

 

「そもそも教育艦に使われる無線機にはそんな発せられるような機器はありませんし‥‥」

 

 

高嶋や幸子が話しているうちに美紀がとある場所の扉前で立ち止まる。その扉には医務室と書かれており岬が不思議そうな視線を向ける。

 

 

「医務室から反応が出てるの‥?」

 

 

「間違いありませんね‥‥ここで機械の反応が今までにないくらい大きくなっています‥」

 

 

「医務室といえば‥明石さんがいるんだろうけど‥‥明石さんそんな機械持ってないよ?」

 

 

「となれば‥確かめないと‥‥」

 

 

「気をつけてね‥?何が起こるかわからないから‥」

 

 

春香の言葉に頷きながら高嶋が扉に手をかけてゆっくりと開けていく。扉を開けて中に入るとそこには丁度眠らされたネズミみたいな動物を固定してなにやら実験している明石と鏑木の姿が

 

 

「あれ?ミナミさん‥それにそちらは大淀の‥」

 

 

「明石穂稀よ、気楽に明石って呼んでちょうだい〜」

 

 

「それよりあなた達どうしたの?そんな大勢で」

 

 

「えっとですね‥‥」説明中

 

 

どうしてここにいるのかと言うのを春香が二人に説明すると納得した表情を浮かべて笑みを浮かべる。

 

 

「やっぱりね‥‥予想通りだわ」

 

 

「えぇ」

 

 

「予想通り‥?それってどうゆう‥」

 

 

既に分かっていたかのよつな表情を浮かべる二人に対して首を傾げながら詳しく聞こうとしたとき‥艦内無線が飛び込んでくる。

 

 

「こちらソナー、復旧いたしましたわ」

 

 

「同じく艦橋、広域通信復活。レーダーも同様に映りました!!晴風も同様のようです!」

 

 

「‥‥復旧‥!?一体何で‥」

 

 

「原因は単純だ、ちょっとその探知機借りるぞ」

 

 

「あっはい‥」

 

 

一体なぜこのタイミングで復活したのか‥驚きを隠せない春香達に説明するために美紀から探知機を借りた鏑木がそのネズミかハムスターみたいな動物に近づける。するとかなり微弱だが妨害電波を発しているのが確認できた。

 

 

「つっつまりそのネズミみたいな動物から妨害電波が発していたせいで僚艦や私達の艦のレーダーとかが使えなかったって訳‥?」

 

 

「あぁ、そうだ。だが正確にはコイツはネズミじゃない」

 

 

高嶋の答えに頷きつつ鏑木はこれはネズミではないことを否定する。じゃあ何なのか、疑問を浮かべる一同に説明するために明石が口を開く。

 

 

「正確にはこの子はおそらく実験体の動物。初めて見る血液タイプだしなにやら変なウィルスに感染しているみたいなの。しかも人工的な‥ね?」

 

 

「じっ人工的‥!?それってつまり‥」

 

 

「えぇ♪そのまさかよ、このウィルスは元々とある研究機関で開発されていたやつ。このウィルスに感染した人は凶暴になったり自衛行動で非感染者を攻撃する習性があるの」

 

 

「それじゃ‥小野瀬さんが暴走したのも‥‥」

 

 

「そうよ、そのウィルスに感染した実験動物に接触したからなのよ。ちなみにそのウィルスについて調べてみたらその研究船が西之島新島にいたことがわかったわ」

 

 

「西之島‥‥っ!?」

 

 

「航海演習の集合場所だ‥‥!!」

 

 

まさかの自分たちの集合場所の近くに研究船がいたことに驚きを隠せない岬と春香。ということは‥‥

 

 

「待っ待ってください!ということは‥さるしまが突然攻撃してきたのも‥‥!」

 

 

「そうよ‥そのウィルスに乗組員全員が感染したから‥‥‥そして‥‥そこに集まっていた艦艇‥武蔵を含む何隻かもおそらく同様にね‥‥」

 

 

「そんな‥‥」

 

 

自分の大切な親友が乗っている武蔵までもがそのウィルスに感染していることにショックを隠しきれない岬。

 

 

「モカちゃん‥‥」

 

 

「明石さん、そのウィルスって治療薬とか作れるの?」

 

 

「できないことはない‥もちろん時間はかかるが‥」

 

 

「それでも♪作れる保証はあるわ♪」

 

 

「おぉ♪これは大きな進歩になりそうです♪」

 

 

新たな希望が生まれたことで一同は喜びの表情を浮かべているが岬はやはり浮かない顔をしていた。それに気づいた春香が声をかける。

 

 

「大丈夫‥♪みんながいるから‥きっと乗り越えられる‥!」

 

 

「‥‥うん!」

 

 

ひとまず電波妨害の原因が特定できたことで一安心した春香達。空気感染など念の為ということで二人から消毒や手洗いうがいを徹底するように伝えられてそれを行うことに。

 

 

「最初はどうなるかと思ったけどなんとかなりそうだね〜♪」

 

 

「ですね〜♪これなら‥武蔵を助けることができるかも‥です!」

 

 

「とりあえずこのことを晴風と大淀の乗員に伝え‥‥「艦長!至急艦橋に!かなりまずいことになりました!」‥‥!?」

 

 

「この声は‥副長‥?」

 

 

「けっこう焦ってましたね‥‥。なんかあったのでしょうか‥?」

 

 

一息ついたのもつかの間、艦内無線で焔から呼び出しを受けた春香。声からしてかなり焦っている様子でかなり大変なことが起こったことを意味していた。

 

 

「とりあえず戻ろっか‥‥幸子さんと岬さんも晴風に戻って確認して!」

 

 

「わかった!」

 

 

「はい!」

 

 

「残りは一度艦橋に向かうよ!」

 

 

「了解!」

 

 

「忙しいったらありゃしないですね‥‥」

 

 

ひとまずは艦橋に戻ることにし、一同は艦内廊下を駆け足で戻ることにしたのであった。

 

 

 

 




電波妨害の原因や凶暴化のけんがウィルスによることだと言うことを突き止めた乗員。


しかしそれ以上の問題が二隻を襲うのであった。


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EP14 機雷

今回はアニメにないびっくりな機雷除去方法が誕生します。


「まさか逃げ込んだ先がこの始末とはねぇ‥‥」

 

 

左舷見張り台の双眼鏡で周囲を見つつそうぼやく霞、右舷見張り台で同じく海面の様子を伺っていた子日が駆け足でやってくる。

 

 

「こっちも同じだったよ。晴風の奥にうっすらと何個か確認できた」

 

 

「おそらく海中にもあるでしょうね‥‥はぁ‥‥まさか逃げ込んだ先の島周辺が機雷原だったなんて‥‥」

 

 

ため息を付きつつ再び海面に双眼鏡を向ける。その先には何個か浮上している黒い物体‥‥船舶にとって非常に危険な機雷が浮かんでいたのであった‥‥。

 

 

 

ー大淀後部格納庫ー

作戦司令室

 

 

「現在晴風及び大淀が停泊しているアスンシオン島近海一体に機雷がばら撒かれているのがソナーで確認されました。種類からして系維機雷、浮遊機雷、沈底機雷、短系止機雷。海上封鎖に使われる一般的な機雷です。」

 

 

元々大淀は潜水艦隊指揮を目的として建造されていたため設備が充実している。特にこの無人戦術偵察機を格納する後部格納庫は、教育艦として使われる際に搭載機を減らす代わりに司令室が加えられて、艦隊旗艦として運用できるようにしているようになっている。そのためか生徒が乗艦する艦艇としては一番の最新機器が整えられていた。

 

 

スクリーンに表示されているアスンシオン島沖近海の機雷状況と過去のデータを照らし合わせつつパソコンを操作して柚乃が解説していた。その話を岬、ましろ、西崎、青木、高嶋、春香、焔、上里が真剣な表情で見ていた。

 

 

「さっき調べたんだが、どうも日米関係が一時期悪化していたときに海上封鎖目的でバラまかれた機雷らしい。んで、その関係が改善された際に機雷除去はされたらしいが‥‥どうも処理しきれなかったらしいな」 

 

 

海上安全整備局の公布している資料をコピーした紙片手に補足説明をする上里。

 

 

「はぁ‥‥逃げ込んだ先が機雷原だなんて‥‥ついてない‥‥。だが‥それならよく当たらなかったな‥‥?」

 

 

相変わらずついていないことにため息を溢すましろ。だがこれだけ散布されている機雷に入る際はよく当たらなかったなとふと思う。

 

 

「多分通ったところが運が良かったんでしょうね‥‥。けど‥機雷原に囲まれているなら状況は変わるわ‥‥」

 

 

腕を組んでスクリーンに表示されている機雷の予想位置を一通り見つつ焔は眉を密かにひそめる。機雷というのは設置する際は船から落とすだけの単純作業だが撤去となれば話は変わる。様々な種類の機雷がバラまかれるとなればどこにどんな機雷があるのかわからないということ。つまり慎重に対処しなければ怪我人が出かねない。

 

 

「でも海上封鎖や航路妨害のためにバラまかれたやつならそこまで範囲は広くない。落ち着いて対処すればできないことはないよ」

 

 

機雷の分布状況と範囲を確認しつつ、春香は特に問題ないということをみんなに伝える。そんな中、高嶋は一人スクリーンを真剣に見つめていた。

 

 

「ほ‥?」

 

 

するとなにかに気づいたのか首を傾げつつ目の前に置かれていたパソコンを開いてなにやら調べているようだ。

 

 

ーこの分布状況‥‥島沖周辺にはバラまかれてるのに島沿岸はばら撒かれてない‥‥もしかしたら‥ー

 

 

「にしてもこの後部格納庫って武蔵の砲撃が直撃したところだろ?よくこんな司令室無事だったな」

 

 

周囲を見渡しつつ、西崎がふとそんななことを言い出す。確かにこの後部格納庫は砲撃が直撃した場所、中まで貫通していなくても電子機器がいくらか壊れていそうだが‥‥

 

 

「伊達に5重装甲ですから‥!(ドヤ)」

 

 

そう、ドヤ顔の上里の言うとおりこの司令室は被弾対策のために教育艦では異例の5重装甲となっておりいかなる被弾も耐えられるようになっている。そのためコンピューターなどの電子機器も激しい振動に耐えられるように設計されていた。

 

 

「それじゃ、早速掃海作業に入ろうか‥!一応晴風と大淀に掃海道具積んであるかr‥「ちょっと待って!」ほ?」

 

 

早速掃海作業に取り掛かろうとした岬であったが高嶋に急に呼び止められる。他のメンバーも驚きつつ視線を向ける。

 

 

「どうしました?高嶋さん」

 

 

「柚乃さん、本艦と晴風から機雷までの間の距離てわかるかな?」

 

 

「?一応わかりますが‥」

 

 

「それなら表示してくれない?」

 

 

高嶋の問いかけに少し疑問を持ちつつもひとまずは言われたとおり艦と機雷間の距離を算出する柚乃。少しするとスクリーンに新たに距離が追加で表示される。

 

 

「なんでこれを気にするんだ?確かに機雷との距離関係は大丈夫だけど‥‥」

 

 

西崎にはなぜ高嶋がこんなことを気にするのか不思議で仕方なかったがそんなことはお構いなしのような感じで次に大淀に搭載されている魚雷の残弾を確認する。

 

 

「通常魚雷があと9発と深度魚雷が4発‥‥武蔵と似たような戦闘を想定すると‥‥(カタカタ)最低でも通常魚雷は残さないと‥、それに‥この距離関係なら‥」

 

 

「たかちゃん‥一体何をする気なの(汗)」

 

 

なにやらブツブツと話しながら画面とにらめっこしている高嶋に一体どうしたのかと岬が尋ねる。

 

 

「いや〜♪ちょっと閃いちゃって♪あっ!艦長、ちょっといいですか?」

 

 

「はいはい〜?どうしたの?」

 

 

「えっとですね〜‥(ゴニョゴニョ)」

 

 

「ふむふむ‥‥」

 

 

すると春香の元へ駆け寄ってなにやら耳元で高嶋が話しているようだ。春香もふむふむと頷きながら話を聞いているが、一体何を話しているのか‥‥一同は首を傾げつつ見ていたのであった。

 

 

「わたし的には問題ないと思うけど一応晴風と大淀両艦乗組員からの許可も取ってからね〜」

 

 

「わかりました♪」

 

 

「艦長?一体何を話していたんですか?」

 

 

首をかしげていたメンバーを代表して焔が何を話していたのか春香に質問する。

 

 

「ん〜?実は高嶋さんの提案で魚雷を使った機雷除去とかどうかって」

 

 

「「「機雷を魚雷で!??」」」

 

 

「はい♪」

 

 

 

ー大淀後部甲板ー

 

 

元々無人偵察機の着艦ように後部甲板は広く設計されていたことからここに晴風と大淀の明石と美波以外の全乗組員が集合して機雷除去方法について説明を受けていた。その前にはボードを使って高嶋が説明していた。

 

 

「というわけで、これから魚雷を使った機雷除去方法を説明するね。」

 

 

「魚雷を使った機雷除去とは‥‥大淀も晴風に負けない癖の強い連中が揃ってるのぉ‥‥」ニヤ

 

 

「全くですわい‥‥‥こりゃ面白いことになってきましたな旦那‥‥」ニヤ

 

 

どうやらミーナと幸子は出会ってから意気投合しているようで、なにやらちょっと中二地見た話し方で話し合っていた。それを横目に見つつましろが質問する。

 

 

「それで具体的にはどうやってするんだ?」

 

 

「そうですね‥、具体的に説明するとこの掃海方法には深度魚雷を使います。」

 

 

「深度魚雷って確か戦艦とか用の魚雷で深度が深くなって駆逐艦とか巡洋艦に当たらなく代わりに発見確率を下げられる魚雷だよな?」

 

 

「はい、そうです。」

 

 

深度魚雷‥某海戦ゲームを知っている人なら耳にしたことがあるでしょう。深度が深くなることで発見距離が短くなり、相手に回避させる猶予を与えない魚雷のことだ。しかし深くなると言う事は船底が大きい相手にしか当たらなくなるということを意味しており、駆逐艦や巡洋艦には効果が全く無く主に戦艦用の魚雷となっている。

 

 

しかし魚雷で機雷除去というのは今までに前例がないため、作戦司令室で話を聞いていたメンバーは春香を除いてあんまりピンと来てないようだ。

 

 

「まず二本の深度魚雷にワイヤーを引っ掛けます。これは簡単に外れないようにしっかりと固定してください、それが完了次第予定航路上に広角で魚雷を合計四本発射。海中に潜んでいる機雷の線を切断して洋上に浮上させます。その後は晴風の機銃と大淀の127ミリ速射砲で浮いてきた機雷を処理するという形です。」

 

 

「ほお〜魚雷をそんな感じで使うのか、なかなか面白い発送だな〜。気に入ったぞ〜」

 

 

「確かに‥‥スキッパーを使ってやるよりかは安全ですね‥‥万が一当たっても魚雷なら爆発だけで済みますし‥仮に他の機雷と誘爆したとしても機雷原とは離れているから被害が及ぶことはない‥」

 

 

手の甲を顎に当てつつ、確かにその方法なら安全だということに納得の表情を浮かべるましろ。そんな彼女の話しているメリットにうんうんと両乗組員が頷く。だが一つ気になることがあるようだ。

 

 

「それでその機雷原除去に使った魚雷はどうするんだ?」

 

 

「それはその魚雷に防水式遠隔自爆装着をこの深度魚雷は装備しているので役目が終わればこちらのボタンで処理します」

 

 

ましろに代わりミーナが質問をすると高嶋はポケットから遠隔操作式のボタンを取り出して見せつつその質問に答えていく。一通り説明が終わると一度見渡してから口を開く。

 

 

「‥‥という感じでやりますが‥‥よろしいですかね?」

 

 

「私は問題ないと思うぞ安全に処理できるならそれでいいし」

 

 

「こっちも賛成かな、確かに前例はないけど安全面考えたらそっちがいいし」

 

 

ミーナと焔が賛同するかのように首を縦に振りつつ、他のメンバーもつられるようにやろうという雰囲気に包まれる。

 

 

「よし!そうと決まれば行動開始だね!晴風乗員はこのあと船に戻って大淀の機雷掃海の支援、その後の出港するための準備を行うよ!」

 

 

「はい!!」

 

 

「となれば次はうちらかな?はい!大淀乗員注目!このあとは機雷掃海のための準備のため水雷委員の子と手空き要員は後部甲板に集合して作業に取り掛かって!」

 

 

「指示は私が出すから従ってね〜」

 

 

「主要要員は出港に向けた準備及び周辺警戒、通過するときに除去しきれてない機雷とかの警戒をお願い!」

 

 

「わかりました!(はあい〜!)」

 

 

こうして大淀、晴風乗員は機雷除去と出港に向けた準備に取り掛かるのであった。




いかがでしたでしょうか()

いやぁ大淀乗組員って晴風よりも発想が豊かですね(晴風もなかなか発想にめぐまれてますが())


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EP15 嵐

まかの魚雷での撤去()面白くなってきましたな


ーアスンシオン島近海ー

 

 

海中に浮遊している物体‥機雷‥そのほとんどが海底に鎖で繋がれており流れないようになっていた。現代でも船舶からすればかなり厄介なものであり一発でも致命傷になりかねない。

 

海中での波の影響か、かすかだがゆったりと揺れている機雷。撒かれてからもう何十年も経つが今も役目を果たすために獲物を待ちつづけている。

 

しかし機雷原ということでここに接近してくる船舶は一隻もいない。なので海中は波の音以外静かな空間が広がっていた。‥‥いや‥そうでもないようだ‥

 

 

微かだがうっすらと聞こえてくるスクリュー音、なんならそれは海上からではなく海中から聞こえてくる。少し経つと音のする方向から4発の魚雷が姿を現す。しかし‥やけに速度の統率が取れている‥。さらにその魚雷間には海面から照らされるワイヤーが‥‥

 

 

ガギィィィンン

 

 

魚雷がその下を通るとワイヤーによって海底と繋いでいた鎖が切断され、鈍い音とともに切り離された機雷はゆっくりと海上に浮上していく。

 

 

ザブゥン

 

 

切り離されてから少し経った頃、青空満点でテカテカの太陽に照らされた海面に機雷が浮上、何十年ぶりの朝日を浴びる。周辺にはあの魚雷によって鎖を切断された機雷が相次いて浮上、そのまま海面の揺れによって流される‥‥はずだった。

 

 

「ヒャッハー!!派手に行くよぉ!」

 

 

「ドーン♪」

 

 

西崎と立石の声が聞こえるとともに25ミリ単走機銃の発射音がなったと思った直後、晴風から放たれた無数の弾丸が相次いで機雷に襲いかかる。直撃を食らった機雷は次々と爆発、水柱をあげる。なんとかその攻撃を免れた機雷もいたのだが‥‥

 

 

ドンドンドンドン

 

 

機銃音とは明らかに違う重低音が響くと同時に、弾丸より明らかに大きい砲弾が機雷に直撃爆発させる暇もなく粉砕していく。

 

 

「1〜10の砲撃目標撃破確認!新たな目標11〜18!」

 

 

「了解だ!」

 

 

大淀に127ミリ単走速射砲が追加された際に増設された射撃管制室そこではカメラ越しに127ミリ速射砲を操作盤で操りつつ見張りの望の指示を受けて上里が射撃を行う。

 

 

「こちらソナー、予定航路上の機雷除去を確認いたしましたわ」

 

 

「マロンちゃん!機関いける!?」

 

 

「こっちはいつでも行けるぜ!!」

 

 

万里小路からの報告を受けて、機関室のマロンに確認を取った岬は直ちに指示を出す。

 

 

「両舷前進微速!!取舵一杯!」

 

 

「両舷前進微速‥!!取舵一杯!!」

 

 

指示を受けた晴風は機関を始動させてゆっくりと動き出して魚雷が作った航路に向けて進路を変えていく。それを確認すると大淀艦橋でも春香が指示を出す。

 

 

「晴さん!両舷前進微速!!取舵一杯!!」

 

 

「了解〜。取舵一杯ようそろ〜」

 

 

いつものようにマイペースな声を出している晴だが操艦はしっかりと行っており、直後ゆっくりと大淀もタイミングをずらして動きだし晴風に追随する。

 

 

「見張りは厳となして!取りこぼしの機雷がないか確認を!!」

 

 

「了解!!」

 

 

「魚雷!!機雷原を通過しました!!」

 

 

丸美の報告を受けて、忙しく指示を出している春香に代わり焔が高嶋に指示を出す。

 

 

「高嶋さん!魚雷の自爆を!」

 

 

「オッケー!」

 

 

焔の合図を受けて高嶋が起爆装置を起動。直後魚雷が進んでいたと思われる海面から薄っすらとだが水柱的なのが4本上がる。

 

 

「こちら見張り台!正面にて4つの水柱確認!!深度魚雷の自爆を確認しました!!」

 

 

「野間さん!大淀に手旗信号!!」

 

 

魚雷の処理が完了したことを確認すると岬が手旗信号でそのことを大淀に伝えるように指示しての野間が手旗信号で伝える。

 

 

「晴風より手旗信号!!全魚雷の自爆確認とのことです!!」 

 

 

子日からの報告を受けて高嶋は少しホッとしたような雰囲気を見せる。万が一失敗したらどうしようかという思いがあったらしい。

 

 

「速力あげ!第4戦速ようそろー!」

 

 

「了解〜第4戦速ようそろー!」

 

 

その後機雷原を抜けたことを確認すると晴風と大淀は速力を上げて再び武蔵捜索に乗り出すのであった‥。しかし‥‥二隻が向かう先には‥‥怪しげな雲が‥‥

 

 

 

ゴロゴロ!!!

 

 

ザバァァァァンンン!!!

 

 

「あわわ‥!!?」

 

 

「かっ艦長!!これ本当に合ってるんですか!?」

 

 

「晴風から送られてきた航路情報にはこんな雷雨は乗ってなかった‥‥!!あぁもう!本当海の天気って変わりやすい!!」

 

 

発達した激しい積乱雲によって先程の穏やかな海が嘘かのように大荒れの波が二隻を襲う。戦艦などの排水量ならこの程度は多少揺れる程度だろう。しかし排水量が晴風は2.033トン、大淀でも8.168トンしかない小柄の船体では話が違う。

 

いくら船が大荒れで転覆しにくいように設計されていたともさすがにキツイものがある。激しい積乱雲によって荒れた波が船体に襲いかかり、甲板や砲塔、艦橋などに思いっきりかかる。

 

 

「ってかこれ積乱雲ですよね!?雷もなってますし‥!!」

 

 

「雷がレーダーとかに当たったらけっこう不味いんですが‥‥!!またレーダー使えなくなるのは勘弁してくださいよ!」

 

 

艦橋にいるメンバーはなんとか転げないように羅針盤や双眼鏡台など捕まっていられる場所に飛びついている状態だ。晴も舵を取られないように激しい揺れの中なんとか操舵を行う。

 

 

「霞さん!子日さん!左右警戒を厳に!!この辺は岩礁が多い!!」

 

 

「わかりました!!ですがここまで大荒れだと‥!」

 

 

「それでもやるわよ!!こんなところで座礁なんてごめんだわ!!」 

 

 

「それと柚乃さんと美紀は晴風との情報共有を密に!!」

 

 

「りょ‥了解です!」

 

 

「雷で通信機器がやられないことをいのるしかないですね‥‥!!」

 

 

霞の言うとおり、こんなところでが座礁していたら新たな問題が起きることは間違いない。そうなれば武蔵捜索も夢のまた夢、そうならないようになんとか現在位置を確認しつつ大淀と晴風は大荒れの海を突き進んでいくのであった。

 

 

 

 

 

ー数時間後ー

 

 

かなり時間が経っただろうか、二隻はなんとか積乱雲を抜けて落ち着きを取り戻した海をゆったりと航行してた。

 

 

「現在位置と艦内状況は?」

 

 

「えっと‥ウルシー環礁80キロ南の地点ですね‥‥。周辺に艦影はなし、数名ほど一時的な船酔いを起こしましたが今は落ち着いているとのことです。嵐による艦の損傷もなし。晴風も戦闘、航行に支障はありません」

 

 

とりあえず落ち着いたので状況確認をするため、春香は柚乃に現在位置と嵐による被害状況の確認をしてもらっていた。

 

 

「ひとまず‥‥最悪の事態は避けられたわね‥‥」

 

 

「だね‥。晴風も無事そうだし良かったよ‥‥」

 

 

やはり嵐で気が張っていたのか、春香と焔は安堵したような表情を浮かべて少し気が抜けていた。いや他のメンバーも嵐に振り回されて疲れているようだ。

 

 

「海に出たら何が大変かって一番は嵐だよねぇ‥‥」ゴクゴク

 

 

「それは同感〜‥‥、下手すりゃ武蔵相手するよりもつかれるかも‥」ゴクゴク

 

 

「いや‥武蔵相手もなかなか疲れるわよ‥‥」ゴクゴク

 

 

ひとまず今は千景達が用意してくれた飲み物で糖分を補給しつつ安息の時間を過ごしていたのであった。

 

 

 

ー通信室兼電探室ー

 

 

 

「ふぅ‥‥」ゴクゴク

 

 

嵐を過ぎたことで特に今は仕事がない、そのため美紀は千景達が艦内に配って回っている飲み物を飲みつつスマホでゲーム実況動画を見ていた。

 

 

「本当‥‥海洋実習始まってから振り回されてっぱなしですね‥‥。ってかこれはもう実習じゃなくて捜索活動になっていますが‥‥」

 

 

確かに、彼女の言うとおり海洋実習が始まってからいろんなことに巻き込まれていた。ウィルスに汚染されたさるしまからの突如の砲撃、そしてシュペーとの激しい追撃戦、さらには東舞高の潜水艦との対潜戦闘、おまけには千景が教員と一時戦闘になる始末。そこに追い打ちをかけるかのように起きたのが武蔵との戦闘だ。

 

 

「ひとまずは‥自分の役目を果たしますか‥‥っとここはこうすればいいのですか‥‥」

 

 

基本仕事ないときはこうやってゲームや動画を見て寛いでいる美紀。今回も例に漏れず飲み物を飲みつつ動画を見てくつろいでいた。

 

 

「これは後で実践してみまs‥「ビービー!!」っ!?」

 

 

しかし突如として非常通信回線(SOS信号)の発信を伝える無線機のアラームが部屋一帯に鳴り響く。それに気づいた彼女は動画を止めて回線を繫ぐ。

 

 

『こちら商店街船新橋艦長です!!非常事態発生!!現在はウルシー環礁方面!!本船は積乱雲の影響で発生した人的ミスにより船が座礁!!船には民間人や乗組員が多く乗っています‥‥!至急救援を!!』

 

 

「座礁‥‥となると不味い!」

 

 

一刻も争うと判断した美紀は艦内スピーカーを活用して艦橋へと報告を行うのであった。

 

 

 




機雷原や嵐を抜けたことで一安心の晴風と大淀乗組員。


しかし美紀が新橋からのSOS信号を受け取るのであった‥‥。


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EP16 SOS

新橋からの救援要請を受けた美紀

その報告は大淀や晴風に伝わることに‥‥


「にしてもこの飲み物美味しいね〜♪」

 

 

「流石うちの調理担当♪最高だぜ♪」

 

 

同時刻、艦橋では飲み物で一息つきつつ雑談を交わしていた。久しぶりに訪れた時間、艦内のメンバーも思い思いにすごしていたのだが‥‥

 

 

「久しぶりに休めそうで‥‥「艦長!!救難信号及び緊急無線を受信!!このちかくです!!」!?」

 

 

久しぶりのゆったりとした時間に背伸びをしていた焔であったが突如として飛び込んだ美紀からの通信に慌てる様に顔をあげる。

 

 

「総員配置について!!急いで!!」

 

 

咄嗟の判断で配置を命じた春香は艦橋の受話器を手に取り美紀と詳細な確認を行う。

 

 

「美紀さん、救難信号を発信しているのはどの船?」

 

 

『商店街船の新橋という名前の船らしいです。現在も救難信号及び緊急無線を発信しています。どうやら座礁したようです‥!』

 

 

「座礁‥おそらく先程の嵐でしょうね‥‥。至急美紀さんは海上安全整備局に連絡。それと新橋と無線を繋いでくれる?」

 

 

『わかりました!』

 

 

「それと柚乃さんは晴風にこのことを伝えて、っと言っても多分向こうも気づいてるけど事の詳細を」

 

 

「了解です!」

 

 

「副長は艦内に現状の状況説明を‥!」

 

 

「任せて‥‥!!」

 

 

ー商店街船ー

新橋艦橋にて

 

 

座礁した新橋では乗組員が慌ただしく動き回っており艦長も状況確認と救援要請の対応に追われていた。

 

 

「救命ボートを降ろせるだけ降ろせ!!負傷者や子供、女性やお年寄りを優先して乗せろ!!それ以外には救命着を着せるんだ!!」

 

 

「艦長!!艦底部の破孔から浸水が始まっています!!おそらく長くは持ちません!!」

 

 

「くそ!ひとまず避難誘導を優先しろ!ブルーマ―メードの救援が来るまでなんと‥‥「艦長!!近辺を航行中の横須賀海洋女子学校所属の教育艦大淀より入電が‥!」海洋女子か‥副長!あとは頼む!通信員!至急大淀と繋げ!」

 

 

ひとまずは指示を副長に引き継ぎつつ通信員に大淀との無線をつなぐように指示を出して無線用の受話器を手に取る。

 

 

『こちら横須賀女子海洋学校所属、小型直接教育艦大淀艦長の赤宮春香です!』

 

 

「商店街船新橋の艦長だ!」

 

 

『ひとまず状況説明を手短にお願いできますか?』

 

 

「はい、本船はウルシー環礁を航行中に岩礁に座礁‥!現在‥艦底部が破孔して浸水が始まっています!」

 

 

『浸水‥となれば猶予はあまりなさそうですね‥‥わかりました。乗組員と乗客は何名いますか?』

 

 

「およそ百名ほど‥‥現在船からの退艦命令を出しています‥!」

 

 

 

 

ー大淀艦橋ー

 

 

 

『およそ百名ほど‥‥現在船からの退艦命令を出しています‥!』

 

 

新橋艦長からの報告を聞いて春香は眉を潜める。ただの座礁ならまだなんとかなる。だが浸水しているということはいつ船が沈没しても同じくないという状況だ。

 

更に日が落ちかけていることから海面温度が下がっていることは明白、そんな状況下で海に投げ出されればいくら体力に自身のある男性でも低体温症になり衰弱して溺れかねない。 

 

 

「あまり時間は残されてない‥か‥‥」

 

 

「艦長!!海上安全整備局からの連絡で近いブルマーでも四時間ほどかかるとのことです!」

 

 

美紀からの報告でただでさえ焦っている春香の表情が更に焦りを見せ始める。

 

 

「四時間も‥‥!?」

 

 

「そうなると確実に救援は間に合わない‥‥」

 

 

「とは言っても‥私達救援についての実習は受けていないよ‥‥?」

 

 

四時間となれば明らかに間に合わないのは明白、おそらく嵐のせいで船が出せなかったのが原因だろう。だからといって春香達が救助活動をしようにもそれに沿った授業や実習を受けていないため下手に手を出せない‥

 

 

「だがこのまま放っておけば犠牲者が出かねない‥!!艦長!決断を‥!!」

  

 

「‥‥」

 

 

だがだからといって放置しておけば犠牲者が出かねない、それを危惧してか上里が春香に指示を仰ぐ。しばらく考えていた彼女だが決意したような表情を浮かべて顔をあげる。

 

 

「上里さんの言うとおり‥放っておけば悪い方向に行く‥‥なら!その前に!」

 

 

「ハルならそう言うと思ったよ‥‥!晴さん!取舵一杯!!最大戦速!!」

 

 

「はいな!取舵一杯最大戦速!!」

 

 

「うっしゃ!修理したてだが気にするな!機関回せるだけぶん回せ!!」

 

 

焔の指示を受けて大淀は進路を変更、新橋乗組員及び乗客を救助するために機関出力を最大までぶん回しすぐに最大戦速の35ノットまで跳ね上がる。

 

 

「晴風も本艦と同様に新橋救助に向かうとのこと!!」

 

 

柚乃の報告を聞いてチラリと右舷に視線を移すと少し遅れて晴風も取舵をとって進路を変更、大淀に追随するようについてくる。

 

 

「どうやら向こうの回答も同じみたいね!艦内手空き要員は新橋乗客及び乗組員受け入れ用意!!負傷者は医務室に!それ以外は後部格納庫にお願い!その際には毛布の至急もね!あと!給食員は暖かい食べ物の用意を!」

 

 

 

艦内に忙しく指示を出しつつ、大淀及び晴風はブルマーの救援部隊が来るまでの時間を稼ぐために新橋の救援に向かうことにし、座礁場所に全速力で急行していくのであった。





晴風と大淀は新橋救援に向かうことに‥‥

果たして‥‥どうなるのか!?


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EP17 救助


座礁した新橋


大淀や晴風乗組員は今までにないような激務に終われるのであった…。


ウルシー環礁

新橋座礁地点

 

 

「ある程度は予想してたけど……ここまでとは…」

 

 

現場海域に到着した大淀と晴風、甲板から現状を見て春香が眉を潜める。現場では報告通り新橋が環礁に勧修寺から乗り上げて停船、甲板からは乗客が救命ボートに乗り込んだり救命着を来て海に飛び込む様子などかなり不味い状況になっていた。

 

 

「スキッパーやボート…!小型艇降ろして!!それと乗り降り用のタラップも!!探照灯照射始め!!」

 

 

艦中央部に搭載されているスキッパーや後部格納庫に武装変更の際に載せられたボートや小型艇を搭載クレーンで海面に次々と降ろしていく。

 

小型艇やボート、スキッパーには毛布や浮き輪、救命ボートを引っ張るためのワイヤーなどが積み込まれおり、晴風からもスキッパーやボートが降ろされていく。その間にも二隻は探照灯照射を始め新橋周辺で漂流している乗客などの捜索を始める。

 

艦首甲板でスキッパーなどの荷降ろし作業を確認していた若葉が準備完了の合図である青旗をあげる。

 

 

「救助班の準備完了!!いつでも行けます!!」

 

 

「発進!!」

 

 

春香の合図とともに大淀周囲で待機していた救助部隊が散るように散会。探照灯の指示に従って漂流者の救出に向かうために新橋へと急ぐ。

 

 

「助けだ…!!助けがきたぞ!!」

 

 

「こっちだ!!早く来てくれ!!」

 

 

日が落ちてはいるが少し離れているところに艦内明かりをつけ探照灯で捜索している晴風と大淀を見るなり、絶望にくれていた乗客は微かな希望を取り戻す。さらに両艦から発進した救助挺がエンジン音を響かせつつやっくるのを確認すると震える体をなんとか奮い立たせ助けを求める。

 

 

「可能な限り女性や子供…!お年寄りを優先!!若い男性でも衰弱している人がいるならそっちも!!」

 

 

小型艇やスキッパー、ボートは漂流者の近くに到着すると次々と乗客を引き上げたり、スキッパーでボートを引っ張って大淀へ運んだりして、予備の救命ボートを広げて乗りきれない人をそちらに乗せていく。小型挺から救助部隊の指揮を任された焔と望が拡声器を使って指示を飛ばす。

 

 

「せえの!!」引き上げる

 

 

「私の手に捕まってください!!引き上げますよ!!」

 

 

「ぐにに…!!濡れている分重い…!!」

 

 

「あぁもう!こんなときのために鍛えておけば良かった…!!」

 

 

子供を引き上げるならまだなんとかなるが成人男性や女性を引き上げる時は濡れている服が重りとなり、学生の女子が引っ張るにはかなりキツくなっていた。

 

 

「母ちゃん……もう…む…」

 

 

「っ!?」

 

 

なんとかボートの縁に捕まり、母親の手に捕まっていた子供がとうとう力尽きて手が離れてしまい流されていく。

 

 

「ゆうちゃん!!」

 

 

「恐れた事態が起きたか!!」

 

 

「雪見さん!!いける!?」

 

 

「ダメ!!こっちも手が回らない!!」

 

 

「あぁもう!!こんなときに!」

 

 

母親の叫び声に気づいたのか望が慌てた様子で声のした方向に視線を向ける。そのボートに乗っていた大淀乗組員も気づいたもののほかの乗客の救助で手が回らない。

 

 

 

「副長!!どうするよ……って副長!?」

 

 

どうするか焔に指示を仰ごうとした望であったが、突然制服を脱ぎ始めて水着姿になっている彼女をみて驚愕する。

 

 

「望さん!ちょっと救助部隊の指揮お願い!!」

 

 

「あっちょ…!?「望さん!こっちのボート埋まったので一旦戻ります!」あっあぁ!わかった!」

 

 

そう言い残すと、海面に勢いよく飛び込んで流されていってる子供のところへ泳いでいく。そんな突然な行動に困惑していたが、報告が飛び込んできたためそちらの対応に集中することに。

 

 

「副長!!これ使ってください!!」

 

 

「ありがと!!」

 

 

近くのスキッパーで作業していた羽坂が手に持っていた浮き輪を勢いよく投げる。投げた浮き輪は綺麗な軌道を描きつつ焔の近くに着水、お礼を伝えつつ浮き輪を手に取り再び泳ぎ出す。

 

 

「かあ……ちゃ……」ブクブク

 

 

おそらく長いこと水に使っていたせいだろう……衰弱しきっており徐々に沈んできていた。あと少しで顔が入りかけたとき…

 

 

ガシッ!!

 

 

「………?」

 

 

突如誰かに手を捕まれ抱き寄せられつつ浮き輪をつけられる。うっすらとする意識を保たせつつ視線を向けると、そこには少し息を切らしつつ笑みを浮かべる焔が

 

 

「おね…ちゃ…ん?」

 

 

「もう大丈夫…♪」

 

 

「ゆ…め…じゃ…」

 

 

「夢じゃない…あなたは生きてる…♪」

 

 

自身も冷たい海水に浸かっているため、体温は低くなってるがそれでもなぜか不思議と温もりが伝わる。元々彼女は長距離水泳などの経験者のためその時の知識を生かしてなんとか助けることに成功したのだ。

 

 

「副長!!お待たせしました!!」

 

 

後ろからエンジン音が響いてくると同時、保野が操るスキッパーが全速力でこちらにやってくる。後ろには明石の姿も

 

 

「この子をお願い!!かなり衰弱しきってる!!」

 

 

「えぇ!任せて!」

 

 

焔や保野、明石の三人でその子供をなんとかスキッパーに引き上げる。それを確認すると保野はエンジンを吹かして全速力で大淀へと向かう。その間にも明石はいつにもなく真剣な表情で応急処置を開始する。

 

 

ー頼んだわよ…!ー

 

 

スキッパーが走り去るのを確認すると、自身も指揮に戻るために再び小型挺へと泳いで帰るのであった。

 

 

 

ー大淀後部甲板ー

 

 

「タラップ左右に降ろして!!可能な限り委譲作業をスムーズにおこなうわよ!!」

 

 

「怪我をしてない人は後部格納庫か講堂!!している人は医務室に誘導して!!」

 

 

「もたもたせずにてきぱきやるわよ!!」

 

 

「「はい!!」」

 

 

救助部隊が忙しく動き回っているのと同じく、残って待機していた大淀乗組員もボートで運ばれてきた新橋乗客を次々とタラップで大淀へ運び込んでいく。現場指揮を任された乃木がマイクでメンバーにテキパキと指示を飛ばしていく。

 

 

 

無人機の格納庫や物資の保管場所として機能している格納庫、そしてクラスの集合場所である講堂はいま新橋の乗客が身を寄せる場所として機能していた。

 

 

ー調理室ー

 

 

「えっと…あっちは運んだから…次はこっちか…!」

 

 

「野波さん!!それもう少し火力をあげられるかしら!」

 

 

「わかりました!!やってみます!!」

 

 

調理室では千景や野波、応援としてきた寺見の三人が新橋の乗客に出すための暖かいスープや飲み物のココアなどをあわただしく用意していた。

 

 

「ほらほら!さっさと運ぶよ!!時間は待ってくれない!!」

 

 

「「了解!!」」

 

 

機関長の浜北の号令に答える機関員、いまは船を動かす必要がないため艦内電力用の発電機を動かしている真姫を残して残りは給食員の応援に駆けつけていた。

 

 

「暖かい飲み物です…♪」手渡し

 

 

「毛布をもうひとつですね…!わかりました!」駆け足

 

 

食事などを渡す際に何か必要なものがないか確かめ、あれば倉庫などに駆け足で取りに行くなどかなりハードなスケジュールになっていた。

 

 

 

 

 

「艦尾にもうひとつタラップ降ろして!!それと現在の収容人数の把握も…!!」

 

 

「可能な限り晴風と分散するように収容して!!まだ新橋に残されている乗客や乗組員がいるから!!」

 

 

艦橋では春香と柚乃が無線電話機片手に艦内のあちこちに指示を出し続けていた。他の艦橋メンバーは人手の足らない箇所の応援に向かっており一度に入り込んでくる報告を聞き分けてそれにあった指示を二人で出していた。

 

 

『艦長!!一部かなり衰弱しきった人が何人かいます…!!これ以上長引かせるとなると…』

 

 

「それはわかってる…!!それに新橋がいつまで持つかもわからない…!テキパキ行くわよ!」

 

 

「艦長!!晴風も収容作業が着実に進んでいます…!ですがやはりこの状況ですから衰弱しかけている人も…!」

 

 

「…となれば一刻も早く乗組員や乗客全員を助けなければ…!」

 

 

みんなの協力もあって収容作業は着実に進んでいる…しかしそれでも残された時間は多くないというのはなぜかわかった。そのため春香は今までにない焦りの表情を見せつつ艦長として与えられた職務をまっとうしていたのであった…。





着実に救助作業は進んでいる…


しかし残された時間は少ないというのはなぜかわかっていた。


春香達は任務を遂行できるのか…


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EP18 転覆

あれから漂流していた乗客の収容をおこなっていた晴風と大淀であったがなんとかそれが終わると救助隊を新橋へ向かわせ、残された乗客や最後まで避難誘導していた乗組員を回収するため誘導を開始。それにあわせて大淀と晴風も新橋へと接近する。

 

 

「あちらからボートが出ます!!焦らず落ち着いて行動してください!!」

 

 

「怪我をしている人がいれば私達か新橋乗組員に報告して!手伝いますので!!」

 

 

拡声器やマイクなど、広範囲の人に伝えられる機器を持ち出せるだけ持ち出して乗客を安全に誘導していく。多少怪我をしているしとはいるがほとんどの人間は自力で歩けるため、海上での救助活動よりかは比較的安全にできた。

 

 

「あまり時間がありません!!まだ残っている人がいれば早急に甲板へ!!」

 

 

「この先の誘導員の指示に従ってください!!」

 

 

「この先の通路はせまいけん!押さんようにな!!」

 

 

艦内では晴風から派遣された救助隊の指揮を勤めるましろとミーナ、焔の三人がデッキ内に残された乗客の甲板への誘導をしていた。

 

 

「あの!ちょっといいですか…!」

 

 

すると誘導している彼女達に気づいたのか若い男女夫婦がこちらへと焦りながらやってくる。服装からして新橋にある飲食店の経営者らしい。それに気づいた三人のうちましろが代表して答える。

 

 

「どうされました…!」

 

 

「じっ実は…多聞丸がいなくて……飲食店内と周辺のあちこちを探したんですが…」

 

 

「迷子ってことですね…?」

 

 

どうやら船が座礁した際にびっくりしてあわてて逃げたのだろう。そのせいで夫婦と離れ離れになってしまっていた。

 

 

ー参ったわね…いつ船が転覆するかわからないのに…ー

 

 

このタイミングで迷子となればかなりヤバい、というのも先ほどよりも艦低部分の破孔から浸水が進んでおりそれによって新橋は安定感が一層悪くなってきている。もはやいつ転覆してもおかしくない状態であった。

 

 

だが聴いてしまった以上無視するわけにはいかず三人はアイコンタクトで意見が一致していることを確認して行くことに決める。

 

 

「わかりました!あとは私達が引き受けるのでお二人は至急甲板へ!!」

 

 

「私は艦首部分を探す!二人は艦尾をお願い!!」

 

 

「任された!いくぞ!ましろ!ワシらは艦尾を探す!時間があまり残されていない!!素早くいくぞ!!」

 

 

「わかってる!!焔副長!気をつけて!!」

 

 

「そっちもね!!」

 

 

軽く話したあとましろとミーナは艦尾の捜索、焔は艦首部分の捜索に乗り出していくのであった。

 

 

 

 

ー新橋艦首部分ー

 

 

「多聞丸~!どこにいるの~!いたら返事して~!!」

 

 

艦内廊下を走りつつ声をかける焔。ときどき部屋や飲食店に入って隅々まで見るがいる気配は感じられない。

 

 

「参ったわね…この辺にいないとなると…もっと奥?…そうなると急がないと…」

 

 

先ほどよりも船がきしむ音が大きくなってきている。あまり捜索に時間をかけれられないと彼女は思い先ほどよりも全力疾走で階段を降りていく。

 

 

「多聞丸~!!出ておいで~!!」

 

 

携帯電話のフラッシュライトで照らしつつ声を張り上げて呼び掛ける…しかし先ほどと同じく反応は返ってこない。

 

 

「もしかしたら艦首にいないのかな…?」

 

 

ここまで呼び掛けてもいないとなればおそらくはましろやミーナが探している艦尾付近にいると判断して来た道を戻ろうとする。

 

 

ニャ~

 

 

「え?」

 

 

するとどこからか猫の鳴き声が耳に聴こえてくる。それに気づいて慌てるように視線をそちらにむけるとそこには一匹の灰色の子猫が…

 

 

「もしかして…あなたが多聞丸?」

 

 

ニャ~

 

 

恐る恐る訪ねるが、その子猫は特に答えず鳴きながらこちらにやってくる。飼い猫なのだろう、初めて見る焔を警戒せずにむしろ甘えるように擦り寄せてくる。

 

 

「飼い猫なのかな…?(抱き上げて)あっ…ここに名前が書いてある…ミネちゃんって言うんだ…♪」

 

 

ニャ~♪

 

 

焔の問いに元気一杯の鳴き声で嬉しそうにしっぽをたてながらミネという名前の子猫は答える。多聞丸は見つけられなかったが別の飼い猫を見つけた以上探索を続けるわけにもいかないためにひとまず上がろうとした……が……

 

 

「ん…?なんか軋むおとが一瞬大きく……ってやば…!?」

 

 

何か嫌な予感を感じたのか慌てるよう子猫を抱き抱えて上に向かおうとするが時既に遅く……限界に達した新橋は大きな金属音を響かせつつおおいく転覆してしまったのであった……。

 

 

「艦長!!新橋が転覆してます!!」

 

 

「え!?」

 

 

救助活動が落ち着きある程度の艦橋要員が戻ってきたタイミングで見張りに戻った望からの報告を受けて大淀乗組員が甲板へ慌てるように飛び出してくる。晴風の方もおそらくは同じような状況になっているだろう。

 

 

「新橋に向かってた救助隊や残された乗客…乗組員の確認を!!大至急!!」

 

 

何が起こったのかまだ現状整理ができていない心境をなんとか押さえつつ春香は現状報告を急がせるように指示を出す。それを聞いた乗組員は指示に従って慌てるように散会する。

 

 

「艦長!残されていた新橋の乗組員と乗客は全員が離艦済みとのことです!!救助隊のほとんども甲板にいたため転覆前に待避できたとのことですが…」

 

 

「ですが……?」

 

 

「艦内の捜索向かっていた晴風副長のましろさん、ミーナさん!うちから派遣されていた副長が…!」

 

 

「晴風より入電!!晴風副長のましろさんと及びミーナさんは転覆直前になんとか脱出できたとのこと!その際に猫を救助していますが……、うちの副長がまだ艦内に取り残されている可能性があります…!!」

 

 

「最悪のシュチュエーションですね……」

 

 

晴風から派遣されていたましろとミーナは捜索していた多聞丸という猫を無事見つけて、転覆直前に脱出することに成功しのだが…焔だけがどうやら取り残されたらしい…。

 

 

「ホノ……」

 

 

大切な幼なじみが艦内に取り残されと聴いて動揺を隠しきれない春香。それでもなんとか無理やり我を保ちつつ報告を聴いている。

 

 

「艦長!!救助にいきましょう!!」

 

 

「上里ちゃん!それはダメ!経験が未熟な私達がいったとしても…!新たな問題をうみかねないよ…!」

 

 

助けにいこうと進言した上里に対して今までにないような少し強い口調で高嶋がそれを止める。

 

 

「けっけどよ…!このままじゃ副長が…!」

 

 

「…確かに高嶋さんの言うとおり……私達がいっても…怪我をしかねない……。私だって今すぐ助けにいきたい…けど…余計な心配はかけたくないから……」

 

 

「艦長……」

 

 

助けにいきたくてもいけない…そんな息苦しい胸のうちを春香から感じ取っていた艦橋メンバー…いや、伝声管によって艦内全員がそれを聞き取っておりどう答えていいかわからずにいるのであった……。

 

 

 

ー救助隊ボートー

 

 

「………焔副長…」

 

 

なんとか脱出できたものの、あそこで別れて捜索する判断をしなければ良かったとましろは悔やんでいた。それに自分たちだけ脱出できたということはただの卑怯者というような思いを持っていた。

 

 

「副長…、あまり自分を責めるな……。責めたところで何も解決しない…」

 

 

「だが……」

 

 

それを気にかけてかミーナがましろにたいしてあまり自分を責め込むなということを伝える。しかしましろはあまり納得したような表情を見せない。

 

 

「今…ワシらにできることは無事をいるのこと…そして無事に帰ってきたときに出迎えることじゃ…」

 

 

「…そう……だな…」

 

 

ミーナの説得を聴いてなんとか自分の気持ちを落ち着かせつつ、ましろは手に持っていたスポーツドリンクを一気に飲みのして整理をする。そのとなりでは多聞丸がましろにすり寄っていた。するとボートを操縦していた西崎が声をあげる。

 

 

「副長!!みんな!あれ!」

 

 

それにつられて慌てるように視線をむけると晴風と大淀の後ろから特徴的な三脚艦艇と角ばった護衛艦が現れて、その二隻からから無数のスキッパーがこちらにやってくるのが見えた。

 

 

「ブルマーだ!!ブルマーがきてくれた!!」

 

 

「ホワイトドルフィンもいます!!」

 

 

ボートの乗組員達が二隻を確認すると同時に歓声を上げて大喜びしている。さらには近くの基地から駆けつけてきた飛行船やスキッパー3機が加わり、飛行船は探照灯で海面を照らす。それとほぼ同時に1機のスキッパーがこちらにやってくる。

 

 

「ブルーマーメイド保安救助隊の沼北です!!」

 

 

「晴風副長の宗谷ましろです!!大淀副長がまだ船内に!!」

 

 

「了解…!!任せなさい!!」

 

 

ましろの言葉に頷いた沼北は無線機で後続のスキッパーに指示を飛ばす。

 

 

「ブルーマーメイド保安救助隊沼北より各宛て!!船内に大淀副長が取り残されているとのこと!各救助隊は直ちに新橋へ向かい早急に救助するわよ!」

 

 

「保安観測隊了解!!」

 

 

「ホワイトドルフィン海難救助隊も同じく!!」

 

 

ホワイトドルフィンとブルーマーメイドの混合救助隊という例にみない編成ではあるがほとんど乱れないスキッパー部隊は全速力で新橋へと向かうのであった。

 

 

 

 

ー無事でいてくださいよ……焔副長…!ー

 

 

 




果たして焔は無事に救助されるのか……!?


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EP19 救助

焔が取り残されるというかなり不味い展開になってしまったのだがブルーマーメイドとホワイトドルフィンの混合救助隊という異例の編成だがそれでも好機と取られていた晴風及び大淀乗組員はすこし胸を撫で下ろしたのであった。


果たして…彼女の運命は…


「……っ……」

 

 

どれくらい経ったのだろうか……どうやら転覆した衝撃で気を失っていた焔はゆっくりと体を起こしていく。

 

 

ミャ~

 

 

「良かった……無事みたい…」

 

 

近くではあの子猫が心配そうに鳴いているのが目に入ってくる。見た感じ怪我はしてなさそうなためすこし安堵した表情になる。

 

 

「……でも…それより問題なのが…」

 

 

そういって向けた視線の先にはまるでこの世が反転したかのような艦内が目に入り込む。自分がいる天井だったところを見るとやはり転覆したらしい。

 

 

「どうしよう……ひとまず転覆してるのはわかってるから救助は来るだろうけど……」

 

 

捜索している区画は伝えたからどこにいるかはある程度目星はついている。しかし転覆してしまっている以上ただ待っているだけではすぐには来ない。

 

 

「ひとまず船底に近い区画に行こう……そこから叩けば気づいてくれるはず…」

 

 

ゆっくりと立ち上がりつつ近くに転がっていたスマホをポケットに入れ、子猫を抱き抱えつつ歩み始める。だが船が転覆しているせいか階段が潰れていたり物が散乱して通路が塞がっていたりと正規ルートからではとても通れそうにない。

 

 

「やっぱり簡単には通れないよね……お?」

 

 

どうしたものかと考え込んでいるとふと目の前に艦内地図が落ちていることに気づいて手に取る。

 

 

ーふむふむ…この先の通路を使えばいけるのか…よし、ちょっと遠回りになるけどいく価値はあるかな…ー

 

 

そんなことを思いつつ、地図片手にその通路へ向かうために再び歩きだしていくのであった。

 

 

「携帯は…ダメか…電波が通じない……」

 

 

行く途中の間でも、電話でコンタクトが取れないか何度かアプローチを試みたもののやはり電波が届いてないのか繋がらない。しばらく歩くとその通路があると思われる場所につくのだが……

 

 

「…ここまで来てこれ…か……」

 

 

ミャ~…

 

 

焔の視線の先には破孔から張り込んできた影響か、海水によって通路が浸水している姿であった。猫に視線をむけるとなにやら水にたいして苦手意識を持っているのかすこし震えているのが確認出来る。

 

 

「この子が大丈夫なら泳いでいくんだけど……どうしたもの…ん?」

 

 

別ルートを探そうかと考えていた矢先に、ふと視線の端に水などを運ぶためのパイプが入り込む。それを見て焔が艦内地図を確認するとどうやらこの先まで続いているらしい。

 

 

「ミネちゃん、この先に行きたいから貴方はこのパイプを伝って行ってくれないかしら?そのついでにこれも…」

 

 

そういってポケットから取り出したスマホを近くに転がっていたヒモでミネにくくりつけ、海水で壊れないようにする。

 

 

ミャ~?

 

 

ミネはそっちは大丈夫なのかと不思議そうに顔を覗き込む。そんな子猫に対して静かな笑みを浮かべつつ焔は静かに撫でる。

 

 

「私は大丈夫…、ここを泳いでいく…♪それに…元々海には強いから…!」

 

 

焔の言葉を聞いた直後、それを信用するかのように子猫はパイプを伝って浸水している通路の先へと向かっていくのであった。

 

 

「さてと……私も行こうかな…」

 

 

そんなことをぼやきつつ服を脱いで水着になりつつ海水へ足をつける。まだ5月手前ということもあるのか、それとも日が落ちているせいか知らないが普段よりも冷たく感じた。

 

 

「うへぇ……冷たい……」

 

 

しかし、ここを通らないと目的地へはいけないので覚悟を決めて勢いよく海水に体を浸ける。すこし身体を慣らしてから、近くを漂流していた板の上に脱いだ制服をおいてそれを押すように浸水した通路を進んでいくのであった。

 

 

 

 

浸水した通路を泳ぐこと数分ほど経った頃だろうか、少々冷えている水に耐えながら注意を払いつつ進んでいると船底と浸水区間の終わりが見えてきた。

 

 

「良かった……この辺は浸水してない…これで水に浸かりながら待つというシュチュエーションは避けれそう…」

 

 

一息つきつつ、あがってもとは通路の天井部だった床を歩いて船底に手が届く位置のところまで移動する。ミネも無事にたどり着けたのか携帯を抱えた状態でお利口に待っていた。

 

 

「ありがとね…♪携帯運んでくれて♪」

 

 

ヒモを取りつつ、お礼のために頭を撫でていると気持ち良さそうにミネはゴロゴロと云いながら撫でられる。

 

 

「さてと……あとは…」

 

 

撫で終わると何か船底を叩けるもとはないか周囲をキョロキョロしつつ焔が探していると丁度いいところに非常用ハンマーが転がっているのが目に止まる。

 

 

「おっ、丁度いいのがあるじゃない…♪」

 

 

ハンマーを手にとって、船底に耳を当てて外の様子を聞き取る。むやみに叩くよりも誰か近くいることを確認してからの方が体力の温存がしやすいのだ。

 

 

 

ー何人か歩いている足音が聞こえる…なら…ー

 

 

誰かいることを確認してからハンマーを構えておもいっきり船底に何度も叩きつける。あまりの威力に船内にその音がやかましく響いていた。

 

 

「ここだ!ここから聴こえてくるぞ!!」

 

 

だがやかましいほど叩きつけられたお陰か、外からハンマー音に負けないほどの男性の声が響いてくる。すると複数の声が聴こえてくるとともに忙しい足音が聞こえてくる。

 

 

「誰かいるのか!?」

 

 

「はい!!います!!」

 

 

先ほど泳いだ時とハンマーを打ち付けたせいで体力はかなり削られていたがそれでも精一杯の声を張り上げて相手に聞こえるように答える。

 

 

「要救助者発見!!この下だ!!」

 

 

「おい!その電動チェーンソー持ってこい!!」

 

 

「これから穴を開けるからそこから離れてくれないか?」

 

 

「わかりました!!」

 

 

外から聞こえる隊員の指示に従ってミネを抱き抱え、船底部からすこし離れる。

 

 

「クチュン!!」

 

 

海水に浸かり身体を吹いていないせいだろう、軽くくしゃみをして手で押さえる。

 

 

「タオル持ってくれば良かったかな……」

 

 

そんなことをボヤいているうちに電動チェーンソーによる船底部の穴あけが始まり、音とともに火花が飛び散っていた。

 

 

「これで外に出れるから安心してね~」

 

 

チェーンソーの音で不安そうにしているミネを静かに撫でつつおとなしく待つ。するとチェーンソーの音が止まるとともに開けていた船底部の壁がおとを立てて真下に落ちていく。するとハシゴがおろされて何人かの隊員が懐中電灯で中を照らす。

 

 

「君大丈夫か!?怪我はしてない!?」

 

 

「怪我はしてま…クチュン!!」

 

 

「濡れているな…ここまで来るときに水に浸かったか……。おい!毛布とタオル持ってこい!!あと暖かい飲み物も!!」

 

 

服装からしてホワイトドルフィンの救助隊だろう、その指揮官らしき人物が他の隊員に指示を飛ばす。その間にもブルーマーメイドの救助隊がハシゴを伝って降りてこちらにやってくる。

 

 

「ブルーマーメイド救助隊所属の明田っていうわ」

 

 

「大淀副長の焔羽南です…!それでこっちが捜索中に見つけたミネっていう子猫で…おそらく飼い猫かと」

 

 

「わかったわ、それじゃここを出ましょうか。歩けるかしら?」

 

 

「はい…!もちろん歩けます…!」

 

 

こうしてブルーマーメイドとホワイトドルフィンの救助隊によって子猫のミネと焔は無事に救助され、それを聞いた晴風や大淀乗組員は大喜びしたそうな……




救助隊の活躍が項をそうし、焔と子猫は無事に救助された。これで一安心という形だろう……


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EP20 Ratウィルス

ー翌日ー

 

 

ブルーマーメイドとホワイトドルフィンの混合救助隊によって事なきを得た晴風、大淀。あのあと話を聞くとどうやら二隻は春香の母である咲指揮下の捜索艦隊のようで、ときつかぜとあきつかという艦名らしい。

 

偶然この近くを航行していたため、救援報告を聞いて近隣の基地とともに全速力で急行してきたそうだ。その後あきつかとときつかぜ両艦に乗客などの委譲作業が行われる。

 

 

「クチュン!!」

 

 

…とどうやら一名ほど軽い風邪を引いてしまったらしい。焔が手で口や鼻を押さえつつ可愛いくしゃみをする。

 

 

「も~…!ホノは無理をしすぎですよ~!」

 

 

「面目ないですわ……(ショボン)」

 

 

そして春香にお説教されて返す言葉がないのかすこししょげた様子でガックシとなっている。なんだかんだいって彼女が一番心配していたのだ、無理もないだろう。

 

 

「でも良かったよ~♪ホノちゃんか無事で」

 

 

「艦長の言う通りですね…♪」

 

 

そんな二人に岬とましろがやってくる。ましろの手にはあの多聞丸が抱かれていた。どうやら完全に懐かれてしまったらしい。

 

 

「ありゃ…(汗)ましろさん懐かれてしまいましたね…(汗)」

 

 

「そうなんだよな……ほんとは飼い主に返す予定だったんたが……ここまで懐かれてるなら私が買うことになって……」

 

 

「そうゆうホノちゃんたってそうじゃない♪」

 

 

岬がそうゆうと同じく、焔と春香の後ろがわの足元にミネがゆっくりとやってきて焔の足元で座り込む。

 

 

ニャ~

 

 

「あはは…(汗)私も懐かれちゃたみたいで……、それに飼い主が見つからなかったから私で預かることにしたの」ナデナデ

 

 

自身もしゃがみこんでミネの首元をナデナデしていく。すると気持ち良さそうにゴロゴロ慣らしてさらにスリスリしてきていた。

 

 

「けっこう甘えん坊さんだね~」

 

 

「そうだね…♪っと…そうだ!」

 

 

猫の話で盛り上がっていた四人であったがなにやら思い出した様子で焔が勢いよく顔を上げる。

 

 

「艦長…!衰弱して溺れかけていた子供がいましたよね…!その子の容態は…」

 

 

「もちろん大丈夫だよ♪ホノが素早く助けてくれたお陰と明石さんの応急手当で命には別状ないって♪」

 

 

「ほっ……良かった……」

 

 

助けてたあの子供が無事と聞いて一安心したのか焔が胸を撫で下ろしている。あれだけ衰弱していたのだ、何かあってもおかしくはない。

 

 

「ひとまず本土に帰ったらしばらく入院らしいけど、直ぐに退院できるらしいよ~」

 

 

「なるほど…♪」

 

 

晴風と大淀からブルーマーメイドとホワイトドルフィンの艦艇に委譲している乗客を甲板から見つつ、そんなことを話しているのであった。

 

 

 

「これをお願いします」

 

 

同時刻、鏑木と明石は保安観測隊の岸間と海難救助隊の安佐北に例のウィルスについての報告書といくつかの液体かが入ったサンプルが入ったキャリーケースを手渡ししていた。

 

 

「うむ、確かに受け取ったぞ。…しかしコイツが今回の反乱騒動の真犯人か……」

 

 

受け取ったケースを見つつ、眉を細める安佐北。そしてケースとは別に渡された書類にも目を通していく。

 

 

「しかし…人工的に研究…ですか…もとは海底プランクトンから見つけたらしいですが…」

 

 

「その研究船がどうやら航海演習の集合場所にいたらしい。その調査のため研究員がその日訪れてる…、それに今回失踪した艦艇のほとんどがこの集合場所にいたとのことだ」

 

 

「えぇ…だから私たちはこれが怪しいと踏んでいろいろと調べてみました。それを横須賀女子海洋学校に運んでほしいんです。」

 

 

「わかりました、これは私たちがキチンと届けておきますね。どっちにしろ乗客や乗組員を本土に運ばないといけないので」

 

 

「お願いします」ペコリ

 

 

その後、収容作業を終えたあまつかぜとあきつかはゆっくりと動き出してその場をあとにする。これから本土に戻って乗客の引き渡し作業などいろいろするらしい。

 

 

「とりあえずこれでどうにかなりそうね、鏑木さん」

 

 

「そうだな、あとはあれが一般で使えるようになればパンデミック被害は押さえられる。」

 

 

去っていく二隻や飛行船などを眺めつつ二人はすこし安堵したような表情を見せているのであった…。

 

 

 

 

 

それからまもなく…新橋の救助作業などを終えた晴風と大淀はウルシー環礁をあとにして再び武蔵捜索に戻るのであった。

 

 

「ん……?」

 

 

先行する大淀の見張り台で、何かに気づいたのか双眼鏡をそちらに向ける。そこには見慣れた艦影が予定航路の霧の中から現れてくる。

 

 

「艦長!!正面の霧より近づく目標あり!!艦形状からして武蔵です!!」

 

 

「総員配置に!!後続の晴風にも伝えて!!」

 

 

まさかの武蔵との遭遇に驚いていた春香であったが直ぐに艦内に配置命令を下す。伝声管からの指示を受けて艦内では焔が作動させた非常警戒体制を示す警戒アラームが鳴り響き、あわただしく乗員が動き回っていた。

 

 

「大淀より入電!!我武蔵発見!繰り返す!我武蔵発見!!正面の霧に出現とのことです!!」

 

 

「総員配置について!!野間さん!確認を!!」

 

 

「了解!!」

 

 

幸子からの報告を受けて、岬が艦内に配置命令を出しつつ野間に確認するように伝える。それに答えた野間が双眼鏡で確認すると大淀の先、正面の霧より武蔵に似た形状の船がうっすらと姿を現す。

 

 

「こちらでも確認しました!!あれは武蔵で間違いないかと!!」

 

 

「美紀さん!!武蔵との距離と速度は!!」

 

 

伝声管で通信室の美紀に武蔵との距離を確認するように伝える。他艦では通信員と電探員はそれぞれ別に配置されているのだが大淀は美紀が兼用して担当している。

 

 

「ちょっと待っててください…!」

 

 

指示を受けて無線機の反対側におかれているレーダーに身体の向きを変えて確認、すぐに報告する。

 

 

「武蔵の速度は現在18ノット!!距離はおよそ13マイルです!!」

 

 

「13マイル!?それならとっくのとうに武蔵の砲撃射程だぞ!!」

 

 

あまりにも近すぎることに異変を感じた望と野間は見張り台より上に登り先ほどよりもしっかりと確認する。すると霧から完全に出てきてようやく全貌が見える。武蔵に似ているようでよくよく見るとスマートな艦橋、そして2基の連装砲、横須賀校所属を示す赤いラインとなればそれはあの船しかない。

 

 

「艦長!!正面の船は武蔵でありません!!横須賀校所属の戦艦比叡です!!」

 

 

「比叡!?確か武蔵と同じく消息が不明だった船よね!?」

 

 

そう金剛型戦艦の二番艦であり、横須賀校所属の比叡だ。元々比叡は近代化改装の際、他の姉妹艦と比べ改修時期がずれ込んだ影響で大和型に採用される艦橋方式を試験的に搭載、大和型の建造に大きく役立っていた。それ以外にも最新設備を整えたことで金剛型では一番の新鋭艦となっていた。遠くから見るとそれは武蔵そっくりなため、間違えるのも無理はないだろう。

 

 

「ほへぇ~…確かに…遠くから見たらほんと武蔵そっくりだね」

 

 

「元々…比叡は大和型の試験艦みたいな感じで改装されたからな……。遠くから見たらほんと見分けはつきにくいぜ…」

 

柚乃のタブレットで比叡と武蔵の画像を見比べつつ本当にそっくりだと口々に話している艦橋メンバー。その間にも大淀は発行信号を送るが比叡からの返答はないようだ。

 

 

「ダメ…発行信号応答なしだね…」

 

 

「やっぱり比叡も他の艦と同じ状況か……ひとまず現在地、そして状況を横須賀校に報告して」

 

 

「わかりました」

 

 

指示にしたがって美紀が通信機で横須賀校と無線をつないで報告する。その間にも焔は保安観測隊の岸間から貰った風邪薬を口に入れて水で飲み込む。

 

 

「そういえば、風邪の具合とかどう?」

 

 

「うん♪もう大丈夫♪すこし安静にしてたのと薬のお陰でだいぶよくなったよ♪」

 

 

春香に聞かれた焔はいつもの満面の笑みを見せて完全復活宣言をして、それを見た春香は安堵したような表情になってミネも嬉しそうにしっぽを立てる。

 

 

「それなら大丈夫そu……「比叡発砲!!」っ!早速…!?晴さん!!取り舵一杯!!」

 

 

「任せなさい~!取り舵一杯~!!」

 

 

マイペースに答えつつも素早く操舵鈴を回す。進路を変えた直後に右舷側に比叡の砲撃が着弾、大きな水柱が派手に上がる。

 

 

「大淀が比叡の攻撃を受けてます!!」

 

 

「被害は…!!」

 

 

「至近弾のみ!!戦闘に支障はないとのことです!!」

 

 

「私たちも180度回頭する!!取り舵一杯!!」

 

 

「とっ取り舵一杯!!」

 

 

大淀が攻撃を受けるとすぐさまましろが被害状況を幸子と共有しつつ、岬は知床に先頭に続くように反転することを伝え、それにしたがって晴風が180回頭する。

 

 

「学校側からの指示は!!」

 

 

「えっと…ちょっと待ってて下さい……来ました!!ブルーマーメイドの派遣要請を出しているとのことですが本国からの派遣のため到着が四時間後になるとのことです!その間、晴風と大淀は安全を確保しつつ比叡を捕捉してくださいと指示が…!」

 

 

「言ってくれますよ…!!」

 

 

 

ー同時刻…横須賀校校長室にてー

 

 

コンコン

 

 

「失礼します」ガチャ

 

 

真雪が資料を読んでいると部屋をノックする音が聞こえて真霜が資料片手に入ってくる。その後ろには信三の姿も

 

 

「例の調査結果がまとまりました」

 

 

そういいつつ、真霜が出したファイルの表面には「Ratウィルスの報告書」と書かれており捲ると今回の学生艦反乱事件との因果関係が記されていた。

 

 

「やはり校長や真霜監督官の予想通りでした。政府関係の一人をちょっとキツメに問い詰めたらあっさり吐いてくれましたよ」

 

 

「あなた…見かけによらず大胆ね…(汗)」

 

 

信三の政府関係者問い詰めの様子は真霜も見ており、見た目から想像できない行動に呆れを通り越している。

 

 

「政府公認の研究みたいね…、ここに署名がされてるわ…。」

 

 

「正確には海中プラント内で発見されたウィルスの調査やワクチン開発などを行うために研究員によるハムスターなどの動物を使った研究などを専用の船でしていたらしいのですが…」

 

 

「それがなんならのミスでそのハムスターなどの動物が脱走……それにより研究船がウィルスに犯されたと…」

 

 

「その研究船の調査に古庄教官以下数名の隊員と調査員が乗り込んだことが確認されました…おそらくそこから広がった可能性があるわね……、そのウィルスに対するワクチン状況は?」

 

 

「その件においては心配ありません。大淀と晴風に乗艦している保健委員の明石さんと鏑木さんがそのウィルスに対するワクチンのサンプルデータを作ってくれたお陰ですでに量産の目処が立っています。」

 

 

「確か二人ともうちの学校一の優秀な生徒だったわよね?エリート少女って言われているらしいわ。」

 

 

鏑木と明石の知名度は学校内でもかなり高く、先生の間でも知らない人がいないと言われるほど医療に関しての技術はずば抜けおり、すでにいくつかの医療関係の大学病院からオファーがかかっているとか…。

 

 

「失礼します!!(ガチャ)先ほど晴風及び大淀から比叡を発見!!場所はトラック諸島近海です!!」

 

 

「なんですって!?状況は!!」

 

 

「やはり比叡乗組員もそのウィルスに感染してるようで砲撃を受けているとのことです!!」

 

 

「至急ブルマーに派遣要請!!晴風と大淀は捕捉し続けるように伝えておいて!!それと各自持ち場戻りなさい…!」

 

 

「「はっ!!」」

 

 

海江田から比叡発見との報告を聞いた真雪は素早く指示を飛ばし、それに従う形で各自校長室を後にしていく。

 

 

ーでも確かトラック近海にはブルマーの船舶は展開してなかったはず……最悪生徒に足止めを頼むしかないわね……ー

 

 

パソコンを開いて現在の艦艇の展開状況を把握して真雪は眉をひそめる。それからすこししてとあるところに電話をかけるのであった。



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EP21 比叡追撃戦!!

横須賀校で真雪達が慌ただしく動いているなか、ブルーマーメイドの部隊が到着するまでの時間見失わないようにするために二隻は比叡と距離を取りつつ捕捉し続けていた。

 

 

「艦長!!これをみてください!!」

 

 

比叡の動向を右舷デッキで監視していた春香の元に柚乃が慌てるよう駆け寄ってタブレット画面を見せる。何事かと思った春香は画面を覗き込むが、直後焦りの表情を見せ始める。

 

 

「この進路って……!」

 

 

「えぇ!!このままの進路でいけばトラック諸島にぶち当たります!!今あそこには戦艦を止められる戦力はいません!!となれば…」

 

 

「あの状態で比叡がトラック諸島に突っ込めばウィルスのパンデミック被害がおこるどころか火の海になりかねない!!至急この情報を晴風と横須賀校に送って!!」

 

 

ひとまずこの情報を晴風と横須賀校に送るように指示を出してそれに頷いた柚乃は駆け足で艦橋に戻っていく。それを確認すると自身も急ぎ足で艦橋へと戻りつつ策を練り始める。

 

 

「ブルーマーメイドの部隊が到着するのは四時間後……それじゃ間に合わない……。となれば…ここで止めるしかないけど…どうやって止めれば…」

 

 

そんなことをボヤキながらもひとまずはみんなや晴風の乗員と対応を協議してから決めることにした。

 

 

 

 

 

 

 

「……というわけです…」

 

 

『かなり不味い事態になっちゃったね…』

 

 

艦橋の無線機で岬にこの事を柚乃と電話を変わった春香が簡単にまとめて説明する。向こうも事の重大さは理解している様子でざわめきを見せていた。

 

 

「ブルマー本隊を待ってては間に合いません…。となれば…我々で止める必要があります」

 

 

「止めるといってもどうやって……晴風も大淀も比叡をねじ伏せられる火力を持ってませんよ…」

 

 

会話を聞いていた高嶋が心配そうに口を開く。確かに彼女の言うとおり二隻の主砲火力では比叡と渡り合うには一押し足らない。なら魚雷を使えばいいと言うことになるが今は演習弾を積んでいないため下手すれば轟沈や怪我人が出る恐れがある。

 

 

「なんかいい案ないなかなぁ………お?」

 

 

頭をポリポリしながら柚乃から借りたタブレットでいろいろみていた上里であったが何かに気づいて首を傾げる。

 

 

「……これだ!!!」

 

 

「「「『!!?』」」」

 

 

先ほどまで静かにしていたのに突然大声を上げたため、春香達がビクッとなって上里に視線を向ける。もちろん無線越しの岬も驚いているようだ。

 

 

「うっ上里ちゃん…!?どうしたの急に……(汗)」

 

 

「あっ…ごめん…(汗)ってそうじゃなくて…!艦長!!これなら比叡を比較的無傷で止められるかも!!」

 

 

そういってタブレットの画面を春香に見せる上里、一瞬なんのことかわからなかった彼女であったが…画面を見て納得した表情を浮かべる。

 

 

「みんな!!ちょっと聞いて!!この方法なら比叡を止められるかも…!!」

 

 

 

 

 

 

「…つまりこの近くにある諸島に比叡を誘導して…うまいこと岩礁で座礁させるってことですか?」

 

 

「そうゆうこと、幸いさるしまとかシュペーの時みたいにこっちが挑発すれば乗ってくるのは確実だし。それを利用すれば…」

 

 

「…わかった…!やりましょう!」

 

 

「えぇ!!ここで比叡を止められるのは私たちしかいない!!やれるだけやりましょうれ!」

 

 

春香と上里の提案に焔が乗ることを提案すると次々と大淀の乗組員達の賛同する声が聞こえてくる。晴風側も決まったのか岬が明るい声で返事をする。

 

 

「ハルちゃん!晴風のみんなもやろうって!!みんなで協力して武蔵を止めよう!!」

 

 

「えぇ!!っとそうなれば早速作戦会議ね!!柚乃さん!!この辺の海図地図と比叡のスペックを!!丸美さん!ソナーで海中の岩礁の位置確認お願い!」

 

 

「既に用意してあります!!」

 

 

「こちらも準備万端…!!いつでも行けます!!」

 

 

 

その頃、晴風と大淀を追撃している比叡は装填が完了次第前部砲塔を左右に振り分け、さらには一部副砲や高角砲で攻撃を続ける。しかし攻撃に集中し過ぎて比叡は二隻に誘導されるように諸島海域に誘い込まれる。

 

 

「左舷に着弾!!」

 

 

望の着弾報告を聞きつつ艦橋上部デッキに上がった春香は比叡の様子を見つつ伝声管で艦橋に指示を出す。

 

 

「取舵~!!」

 

 

「取舵~!!」

 

 

伝声管からの指示を受け、晴の復唱が聞こえてくると同時に大淀が晴風と別れるように左へと進路を変えていく。

 

 

「ホノちゃん!砲雷撃の指示お願い!!」

 

 

自身は操舵指示に集中するために艦橋にいる焔に砲雷撃の指示を依託、それを受けて彼女は指示を出していく。

 

 

「左!砲雷撃戦用意!発射雷数1!比叡の右舷を狙って!当てないでよ!」

 

 

「ん~…難しい注文ですな~」

 

 

焔の指示を受けて零式方位盤を覗きつつ、かなり難しい注文といいながらも乗り気な高嶋が魚雷発射の諸元を算出していた。それを確認しつつ上里と小野瀬に視線を向ける。

 

 

「主砲、艦橋以外なら当てても問題はない、ただしできるだけ右舷側に着弾させて左側へと進路を変えるように誘導お願い!」

 

 

「うっしゃ!任せなさい!!」

 

 

「副砲は抜ける心配がないから全力で当てても問題はないよ。ただし主砲と同じように右舷側に可能な限り着弾させて!」

 

 

「ほい……!!」

 

 

「攻撃始めぇ!!」

 

 

焔の合図とともにあらかじめ旋回して比叡に狙いをつけていた10cm連装高角砲の左舷群が射撃を開始、毎分19発の砲弾が比叡の右舷側に降り注ぐ。その間に後部左舷魚雷発射管も旋回を終えると比叡の進路上に放つ形で魚雷を1発発射、航路の妨害を行う。

 

 

「比叡取舵!!本艦を追撃する模様です!!」

 

 

「よし!誘導にのってくれたか…!」

 

 

望の報告を聞いて狙い通りと言わんばかりに笑みを浮かべる。その間にも射角を確保した20.3cm連装砲、そして62口径127ミリ単装砲が相次いで射撃を開始、先ほどよりも厚い弾幕が比叡に襲いかかる。

 

 

「比叡!取舵で進路変更!!大淀を追撃する模様です!!」

 

 

「第五戦速ヨウソロー!!大淀が引き付けている間に誘導ポイントに先回りするよ!!」

 

 

「よっヨウソロー!!」

 

 

比叡の狙いが大淀に移ったことを確認すると晴風も誘導ポイントに向かうために出力を上げ、可能な限り比叡から隠れるように島などを利用して先回りしていく。

 

 

「間もなく第一ポイントです!!」

 

 

「次弾!!主砲副砲煙幕弾!!比叡の目を一時的に潰すよ!!」

 

 

「了解!!次弾煙幕弾装填!!」

 

 

「主砲!!装填完了だよ!!」

 

 

「副砲も同じく完了!!」

 

 

主砲射撃指揮所と左舷副砲射撃管制室から装填完了との報告がはいる。それを確認した上里と小野瀬は焔に視線を向けて彼女はそれに頷いて号令を下す。

 

 

「目標!!比叡!!てぇぇ!!」

 

 

「「発射(ぁぁ)!!」」

 

 

再び焔の射撃指示を受けて2人が号令を下す。それとほぼ同じタイミングで主砲副砲が火を吹き、放たれた煙幕砲弾が比叡の手前で炸裂、比叡の視界を一時的に奪う。

 

 

それにより一瞬視界を奪われる比叡であったが、まるでお構い無しのように再び発砲。放たれた砲弾は明後日の方向に飛んで行くが視界を取り戻すことに成功する。

 

…がそこにいたのは大淀ではなく晴風、視界が奪われているうちにうまいことすり替えていたのだ。普通であればこの時点で気づくのだがRatウィルスに汚染されている比叡はとくに気にせずに晴風を追撃する。

 

 

「魚雷!!左右に一発ずつ!!」

 

 

「頼むから通ってよ!!」

 

 

ましろの指示を受けて晴風は比叡の進路を固定するために左右に魚雷を1本ずつ、合計2本発射。案の定晴風の狙い通り魚雷を回避するために比叡は間に入るように進路を変える。

 

 

「比叡!!誘導ポイントに乗りました!!」

 

 

「これならいける!」

 

 

「あぁ!ワシらの作戦通りじゃ!!」

 

 

「これで座礁させられる!比叡の足を止めることが!!」

 

 

見張りからの報告を受けて、双眼鏡で比叡が座礁ポイントに入ったことを確認する。狙い通りのコースであるためあとは座礁するのを待つだけ…であった。

 

 

「!!?抜けられた!!」

 

 

しかし比叡は何事もなく座礁ポイントをノンストップで通過してゆき晴風を追撃をかけてきたのであった……。

 

 

「なんで…進路はバッチリなのに……」

 

 

「くっ…!至急大淀に報告だ!!別のポイントに誘導しないと…!!」

 

 

艦橋が慌てているのをよそに比叡が再び発砲、晴風に向けて砲弾を放ってくる。

 

 

「撃ってきた!!取舵~!!」

 

 

撃ってきたことに気づいた岬が慌てて回避するように指示を出して、晴風が進路を変更した直後、晴風の左舷艦尾付近に着弾し衝撃が走る。

 

 

「「きゃぁぁぁ!!?」」

 

 

「至近弾!!左舷後部甲板付近に着弾!!」

 

 

野間の報告を受けて慌てるように岬が身を乗り出して水柱を確認する。

 

 

「損害は…!!」

 

 

岬が損害確認をしようとした直後、機関室のバルブが出力全開をだし続けたことと元々壊れやすい高温高圧缶が限界に達したためオーバーヒートして針がふりきれる。

 

 

「バルブ破損!!」

 

 

「ヤバイってこれ!!これ以上出力維持できない!!」

 

 

 

バルブが破損したことを慌てて報告しつつ柳原たちはなんとか出力を維持しようとなんとか応急措置を行うが……

 

 

「艦長…!機関出力低下してます…!!」

 

 

涙目の知床が機関出力が落ちていることをましろや岬に報告する。それを受けた2人は焦りの表情を見せつつ別の策を練っていた。

 

 

 

 

「このままじゃ…作戦は破綻だぞ……」

 

 

 

 

「どうすれば…またもう一回トライするほど機関には余力がない……」

 

 

 

 



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EP22 切り札

「このままじゃ…作戦は破綻だぞ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうすれば…またもう一回トライするほど機関には余力がない……」

 

 

一回で決めるつもりであったため、機関を全開したことが仇となってしまった。高高圧缶は出力を発揮しやすいぶん他の機関によりも故障がしやすい、ましてや全開航行や至近弾を喰らえばそれに拍車がかかってしまう。

 

 

「機関!どれくらい発揮可能だ!!」

 

 

「第四戦速まででぃ!!」

 

 

一瞬放心状態になりかけたましろであったがすぐに伝声管に飛び付き機関状況を訪ねる。その頃機関室では機関員達がそれぞれ手分けしつつ応急処置を行っていた。麻侖も出力調節をしつつ答える。

 

 

「第四戦速……27ノット…」

 

 

「比叡の最大戦速は約30ノット……これではいずれ追い付かれてしまいます…!!」

 

 

「袋小路に追い詰めたつもりだったが…それはワシらのほうであったか……」

 

 

「このままじゃやられちゃうよぉ…(涙目)」

 

 

「くそ~!!演習用魚雷あれば撃てるのに!!」

 

 

さすがに状況が不味いということを察知した幸子達は慌てるように視線を合わせる。その間にも比叡はジリジリと距離をつめつつ砲撃を放ってくる。

 

 

「左舷に着弾!!」

 

 

「………」

 

 

岬も比叡をみつつ、どうにかしなければと必死な思いで策を練ってきていた。だがこのときに限って策が思い付かない。

 

 

ーなんとかしなきゃ…このままじゃ晴風が……ー

 

 

焦りを見せつつ必死な思いで頭の回転を巡らせていると直後どこからが砲撃が飛んできて比叡の周囲に相次いで着弾する。

 

 

「えっ…!?」

 

 

どこから飛んできたのか…岬は慌てるように視線をそちらに向ける。するとそこにはバトンタッチしたあと島に隠れるように停泊していた大淀が砲身から白煙を上げて比叡に向けていた。

 

 

「至近弾!!」

 

 

「機関始動!!最大戦速!!」

 

 

「了解~!!最大戦速~!!」

 

 

「出力全開!!」

 

 

砲弾の着弾を確認すると速やかに春香が抜錨合図を出して機関が出力全開でモーターが唸り出しつつ大淀が動き出す。Ratウィルスに汚染された人間は攻撃してくる対象を優先して狙う修正がある。そのため比叡は狙いを晴風から大淀に変えるために進路を変更しつつ砲塔を旋回させる。

 

 

「比叡!狙いをこちらに変えました!!」

 

 

「よし!計画通りに釣れたわね…!!このまま晴風から引き剥がすわよ!!」

 

 

狙いを完全にこちらに変えたことを確認しつつ、出力全開を維持したまま大淀は射撃続行しつつ進路を変更、それに続く形で比叡も追撃する。

 

 

「艦長!!晴風から通信です!!」

 

 

「変わって!出るわ!」

 

 

晴風から通信がきたのか受話器片手に焔が呼び出す。そのため一時的な指揮を彼女に任せて春香は晴風からきた通信に変わって出る。

 

 

『こちら晴風、岬です!!大丈夫なのですか…!?殿を務めてくれるのは助かるのですが……』

 

 

「大丈夫…♪これくらいならお茶の子さいさいよ♪」

 

 

『でも……武蔵の…件がありますし…』

 

 

やはり武蔵の件で気にしているのか、少し不安そうな表情を見せる岬。それを無線越しに感じ取った春香は安心させるように言葉をかける。

 

 

「それでも…♪困ってる人はほっとけない性格だからね…!」

 

 

『ハル…ちゃん…』

 

 

「そっ、ひとまずあなた達は機関の復旧を優先してなさい。その間に比叡はこちらで何とかするから♪」

 

 

『…わかりました……!!お願いします…!!』

 

 

岬との通信を終えた春香は忙しく動いている艦橋を見渡しつつふと思う。

 

 

ーさてと…カッコつけたものの…あそこが座礁させられる可能性が高いポイントだったのよね…どうするか……ー

 

 

先ほど突破された座礁ポイント、そこが計算で一番座礁できる可能性があったところのためそこが抜かれたとなると他にできることが限られる。

 

 

「最悪……魚雷を機関部に当てて止めるしか…」

 

 

あまり使いたくない手段ではあるが、こうやって考えている間にそれこそ被害が拡大しかねない。そんなことを考えていると柚乃の開いていたタブレットの画面がふと視線に入る。

 

 

「あれは確かこの辺の海図………!!そうか!!」

 

 

それに映し出されていた海図を見てなにか閃いたのかはっとした表情になる。そして忙しく動いていた柚乃にとあるお願いをする。

 

 

「柚乃さん!!ちょっといいかしら!!」

 

 

「ひゃい!?なっなんでしょうか艦長…?」

 

 

いきなり声をかけられたため少しかわいい反応を見せつつ視線をこちらに向ける柚乃。

 

 

「その海図で…この辺の地形データ算出できる!?」

 

 

「えっあっはい…!できないことはないですが…」

 

 

「それなら今すぐにお願い!!」

 

 

「艦長いきなりどうしたんですか!?こんな忙しい時に…!!」

 

 

なぜこの忙しいタイミングでそんなことをするのか、思わず焔が声を荒げつつ訪ねる。それに答えようとしたとき柚乃がタブレットを見せる。

 

 

「できました!!これです…!!」

 

 

「ありがと…!!ちょっと借りるね!!」

 

 

少し柚乃からタブレットを借りてその調べてもらった島周辺の海図を事細かに確認する。それからなにか閃いた表情を浮かべて顔を上げ、それから艦橋のメンバーに声をかける。

 

 

「みんな!!ちょっと聞いて…!!これなら比叡を止められるかも!!」

 

 

「本当ですか!?」

 

 

「さっすがウチの艦長!!こゆうときは本当頭の回転が早いぜ!!」

 

 

ほぼ詰みかけていたため、春香の提案に思わず期待の表情を浮かべる一同。そしてそれを確認すると先ほど思い付いた作戦を説明するのであった……。

 

 

 

 

 

 

 

「それじゃ作戦を説明するね?まず座礁させるのいうのは一緒、でもその方法はだいぶ変わるかな。」

 

 

そういってタブレットに表示されている近辺の海図でとある無人島を指差しつつ説明する。

 

 

「この島を柚乃さんに調べてもらったけど、他の島に比べて岩礁が深めにあるの」

 

 

「…確かに…この島だけ他に比べて深いかも…大淀の船底なら比較的浅瀬を通れる…」

 

 

「でも…この程度から座礁なんて……」

 

 

春香の提案に納得の表情を浮かべている高嶋であったが、上里はやや否定的な表情を浮かべる。確かに彼女のいう通りその程度の岩礁では比叡を座礁させることはできない。だがそうじゃないといわんばかりに、ノンノンと指を揺らしつつ補足の説明を付け足す。

 

 

「言ったでしょ?普通の方法じゃないやり方で座礁させるって」

 

 

「それってどうゆう……」

 

 

まだピンと来ていない焔を見つつタブレットを操作、すると今度は比叡、大淀の両スペックが表示されてその中、お互いの旋回半径が拡大される。

 

 

「そうゆうことか~」

 

 

操舵をしつつそれを見て春香の言っていることがようやく理解できたのか晴が閃いた表情を浮かべる。

 

 

「晴さんの予想通りよ♪普通に座礁させられないなら無理矢理でもさせるようにすればいい、つまり旋回半径が大きくなりやすい戦艦を利用して比叡を島に突っ込ませる!」

 

 

「そっそれってつまり!?」

 

 

「岩礁ギリギリで回頭するってことですか!?艦長!!」

 

 

まさかのぶっ飛びの作戦内容に一同は戦闘中なのにもかかわらず開いた口が塞がらない状態になっていた。

 

 

「流石にそれは無理があります艦長…!!いくら大淀が比叡よりも旋回半径が小さいといっても…!駆逐艦よりも大きいですよ!」

 

 

だが普通ならリスクが高すぎる内容、流石に焔も慌てながら否定的な言葉を述べる。いや彼女の言う通りかもしれない。確かに、春香のいう通り大淀の旋回半径は比叡よりも小さい。しかしそれでも巡洋艦という部類に入る以上駆逐艦よりも小回りは悪くなってしまう。その状態で岩礁ギリギリの回頭をすれば自分達も座礁してしまう危険性がある。

 

 

「確かに……無理かもしれない…。…けど…みんなで協力すればできないことはないよ…!!航海実習が始まって以来のこのメンバーなら…!」

 

 

反対されることは彼女自身もわかっていた。しかしそうだとしても曲げない強い意思は彼女の性格からきていた。もえかの成績優秀や明乃の幸運のようなめだったことがない春香。それでも…思ったことをそのままみんなに伝えたのだ。

 

 

「本当うちの艦長はこんなときは頭の回転が速いですよね~」

 

 

少しの間沈黙が続き、艦橋には周囲に降り注ぐ比叡の砲撃の着水音が響いていた。しかしそれを打ち破る声が後ろから聞こえてくる。一同が視線を向けるとそこにはいつものマイペースな晴が…

 

 

「でも…そんな艦長がいるから飽きないんですよ~♪私はやるよ~♪どうせ他にいい案はないんだし♪聞いてあげようよ♪艦長の無茶なお願い~」

 

 

「晴さん…」

 

 

マイペースながらも他人のことを以外にも考えてくれる晴の優しい言葉に込み上げてくる感情を抑える。そんな彼女言葉を聞いてか艦橋メンバーや伝声管からも次々と声が上がってくる。

 

 

「まっ、晴のいう通りかもな~。うちの艦長は走り出したら止まらないし。わかった!アタシもやるぜ!」

 

 

「私も……やる…」

 

 

「みんなで力を合わせれば!!!なんとかなる!!」

 

 

「よしゃ!!気合いいれていくぞ!!ここが踏ん張りどころだ!!」

 

 

「…本当、ハルは私にない魅力的な才能があるよ…♪わかったわやりましょう♪」

 

 

「ホノ…♪みんな♪」

 

 

「ちょっと待っててください、作戦計画を練ってきます」

 

 

そういって柚乃のところに行き簡単な作戦会議、そしてその間春香は指示に集中するのであった。

 

 

 

ー横須賀校ー

 

 

「校長、失礼します(ガチャ)大淀から作戦提案が届きました」

 

 

「見せなさい」

 

 

扉をノックして校長室に入ってきた海江田がタブレットを真雪に渡す。それを受け取った彼女は作戦内容がかかれたデータを確認する。

 

 

「なるほど…よくできてるわ……つまり座礁ギリギリで回頭、それにつられてきた比叡を座礁させるってことね」

 

 

「いくら今までの戦闘で経験を積んでいるだとしても……、これをするにはベテランの航海長でも躊躇うほどのリスクが…下手をすれば大淀も座礁する可能性が……」

 

 

海江田でもわかるかなり無茶な作戦、経験豊富な人間でも前例のないやり方のため流石に校長が首を降るとは思っていないようだ。

 

 

「…わかったわ、作戦を許可します。」

 

 

「いいのですか……?」

 

 

「彼女達なら心配ないわ、きっとやりとげてくれるもの。あの子の娘が艦長なら…ね?」

 

 

「…わかりました、作戦許可を大淀に送っておきます。それと1つ気になる報告が……」

 

 

「報告……?」

 

 

なにやら引っ掛かるような言い方をしている海江田に思わずみていたタブレットから視線をあげる真雪。それを確認しつつ彼はもう1つ持っていた資料を見せる。

 

 

「Ratウィルスのデータです。今までの流れから接触した人間などや密閉空間なら空気感染することが確認されていますが……」

 

 

 

 

 

 

「大淀、晴風に乗っていた猫からはウィルスは検出されませんでした。接触していた率が高いにも関わらず。」

 

 

 

 

 

 

 

海江田の報告を聞いて、座っていた席をゆっくりと立ち上がる真雪。そしてそとの景色をみつつ笑みを浮かべるのであった。

 

 

 

 

 

 

「これはもしかしたら……あの船にはいい風が吹いてるかもね……」



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EP23 一か八かの大回頭 大淀の反撃

「艦長!!横須賀校から作戦許可がおりました!!」

 

 

「よし!!艦橋より!艦内各員!!これより比叡強行停止作戦フェイズ2を始めます!!」

 

 

 

焔から校長の許可が降りたことを確認すると伝声管で艦内のメンバーに春香が指示を出していく。

 

 

「結構無茶振りな作戦かもしれない…!!けど!私達ならやりとげるはずよ!!頑張りましょう!!」

 

 

 

「「「おぉぉぉ!!」」」

 

 

春香の掛け声にそれぞれ配置区域は違うのにまるで一緒の部屋にいるかような団結力で気合いをいれるのであった。

 

 

 

晴風

 

 

「麻侖ちゃん!!何か手伝うことないかな!?」

 

 

艦橋には必要最低限の人員を残した岬は、ましろや西崎・立石とミーナを連れ機関室へと駆け込んでくる。それを見て一瞬驚いた麻侖であったがすぐに切り替えて頷く。

 

 

「助かるでぃ艦長!丁度人手が欲しかったんだ!!それならこっちを手伝ってくれ!!」

 

 

「わかった!私と西崎さんはこっちを!艦長と立石さん!ミーナさんはそっちを頼む!!」

 

 

「「「了解!!(うい)」」」

 

 

指示を受けたことでましろが細かい内容を各自に伝えてそれに頷いた岬達は頷きつつ動き出す。すると今度は砲雷科や水雷科などからも続々と人が集まってきていた。

 

 

「私達にも手伝わせてください!一刻も早く直さないと!!」

 

 

「おうよ!!これだけいれば百人力だな!!感謝しきれないぜ!!!」

 

 

続々と集まってくれているメンバーにも感謝しつつ、一同は一刻も早く復旧させるために修理を急ぐのであった……。

 

 

 

 

それと同時刻、大淀はフェイズ2の座礁作戦を発動するために比叡を誘導ポイントに誘い込んでいた。そんなことも気づかない比叡は砲撃を叩き込みつつ追撃をかける。

 

 

「右舷に着弾!!」

 

 

砲撃の着弾位置を望が逐次報告、それを聞きつつ春香が的確に指示を出す。

 

 

「第四戦速ヨウソロ~!、なるべく比叡の座礁確率を上げるために距離を詰めさせる!」

 

 

「了解~第四戦速ヨウソロ~」

 

 

比叡との距離を詰めさせてなるべく比叡の座礁確率を上げるために晴に機関を一時的に落とすように指示を出す。それにしたがって晴が第四戦速まで速力を落とし大淀を減速させる。

 

 

「上里さん、比叡とどれくらいまでなら攻撃を喰らいにくい?」

 

 

「いまよりあと数メートル…もう少し詰めればそれ以上はいけるが…そこから先は私でも保障できないな…」

 

 

「見張り員は比叡の動向に注意して!それと高嶋さん!魚雷発射用意!!発射諸元は伝えた通りで!」

 

 

「任せて!!」

 

 

「艦長!!まもなくポイントです!!」

 

 

指示を出していると焔がまもなくポイントに到着することを伝える。それを聞いて視線を前へと向けると目の前に少し大きめの島が姿を現していた。端から見れば大淀がそのまま島に突っ込むような航路で進んでいるように見えてる。

 

 

「いよいよね…!艦橋要員!水雷員及び航海員!見張り員と機関員を覗いて対ショック姿勢!!」

 

 

万が一の事態を考えて必要要員以外は対ショック姿勢をとらせるように伝声管で指示を出していく。その間にも大淀はジリジリと島へと接近していく。

 

 

「…晴さん…回頭のタイミングは私の合図でお願い…!」

 

 

「了解~!」

 

 

先ほどよりもさらに接近していくがまだ合図は出さない。マジマジと島を見つめつつギリギリまで粘っている。まだ… まだまだ引っ張っている。

 

 

「かっ艦長…!これ以上は!」

 

 

船というのは車みたいにすぐに曲がれるわけではない、流石に答えるものがあったのか上里でも流石に怖じ気づいている。

 

 

「………」

 

 

しかし春香はそれでも動じない……ギリギリまで引き付けてから…透き通る声で指示を出す。

 

 

「緊急回頭始め!!取舵一杯!!ようそろ!」

 

 

「了解!!取舵一杯!!ようそろ~!」

 

 

指示を受けて晴が勢いよく舵を回していく。魚雷回避などに使われる緊急回頭、そのため大淀は普段の旋回とは比べ物にならないほど艦が傾きつつ回頭を始める。

 

 

「っとと…!」

 

 

やはりそうなれば艦内の横Gも比べ物にならないため春香達は飛ばされないように何かのものに捕まって堪えてる。ギリギリの回頭のためかすぐそこに島の沿岸が見張りから見える。

 

 

「ソナー、チャートはどう?」

 

 

「ギリギリです…!あと数cmずれたらぶつかります…!!」

 

 

ソナーで海底の深さや岩礁の位置を確認している丸美の声にはやや焦りが混じっている。それもそうだろう、大淀が回頭しているほぼ真横には岩礁が海面から姿を現しており少しでも航路がずれれば間違いなく岩礁や海中のサンゴに艦底にぶつかる。

 

 

「晴ちゃん!舵とって!ぶつかりそう!!というか海中のサンゴがみえてる!!」

 

 

右舷見張り員の子日から悲鳴ともとらえられる声が聞こえてくる。彼女のいうとおり海中にあるサンゴが艦からでもみえるほど沿岸ギリギリを通過していた。

 

 

「左舷後進三分の二!!」

 

 

少しでも旋回半径を小さくするために左舷スクリューに後進をかけて調整する。というか時々スクリューが岩礁に擦るおとが聞こえておりひとつたりとものミスが許されない状態であった。

 

 

「左舷魚雷戦用意!!比叡の進路を固定して!!」

 

 

「了解~!!頼むから通ってよぉ!!」

 

 

操舵指示で手一杯な春香に変わって焔が発射指示を下す。それを受けて高嶋が魚雷発射を指示して左舷側魚雷発射管に残っていた2本の魚雷が放たれて比叡に襲いかかる。

 

 

「比叡!!進路変えました!!魚雷を回避する模様です!!」

 

 

「よっしゃぁ♪これでいける!」

 

 

もちろん比叡は回避するために進路を変更、狙いどおり魚雷と魚雷の間を通過していく。それを確認すると高嶋は嬉しそうにグッとマークをする。

 

 

「比叡発砲!!」

 

 

「衝撃に備えて!」

 

 

まんまと大淀の策略に引っ掛かった比叡であったがそれもお構いなしのように攻撃、放たれた砲弾は大淀の周囲へ降り注ぐ。

 

 

「後部甲板付近に着弾!!」

 

 

「ぬお!?危ない……ここで機関部やられてたら詰んでたわね……」

 

 

放たれた砲弾はどうやら機関部のある艦後部近辺に着弾したよう衝撃に絶えつつ春香は驚きを隠せずにいるのであった。

 

 

「比叡!!取舵とってます!!旋回するつもりです!!」

 

 

「このタイミングの旋回は間に合わない!!機関最大戦速!!比叡から距離を取るわよ!!」

 

 

「了解~機関最大戦速~」

 

 

春香の指示を受けて再び機関が最大まで唸りを上げつつ周り、回避で速力が落ちていたため弾かれたように大淀が加速、比叡から距離を取るように離脱していく。それを追撃するように比叡も取舵を開始、しか速度が乗っていたことと大淀に意識を向けすぎてギリギリまで気づかなかったため完全に回避が間に合ってない。

 

 

「比叡!!回避間に合ってません!!」

 

 

「どうやら…おいかけっこは私達の勝ちね…!!」

 

 

焔がそういい放った直後、とてつもない轟音とともに旋回が間に合わなかった比叡が沿岸の岩礁に艦首から乗り上げていく。急に乗り上げたため機関が緊急停止、そのため武装も動きを止めて完全に沈黙した状態で停止する。

 

 

「こちら見張り!!比叡機関停止確認!!完全に止まりました!!」

 

 

「よっしゃぁぁぁぁ!!!」

 

 

「やったぁぁぁ!!」

 

 

望からの比叡完全停止確認の報告を聞くと同時に大淀乗組員達は一斉に歓声を上げて喜び合う。その様子は機関をなんとか復旧して駆けつけた晴風からも確認された。

 

 

「比叡!座礁により動きを完全に止めました!!」

 

 

「やった!!」

 

 

「はらはら……」

 

 

「怖かったよぉぉぉ……(涙目)」

 

 

「ったく…大淀の乗組員はワシをここまでハラハラさせてくれるとはな…だが見事なものだ」

 

 

「能ある鷹は爪を隠すといいますけぇ」

 

 

「お主…やるな…(ニヤリ)」

 

 

「やったよ♪シロちゃん♪」

 

 

「はい♪やりましたよ艦長♪」

 

 

もちろん晴風乗員も歓声つつまれており艦橋ではそれぞれのメンバーが抱き合った喜びを共有していた。岬とましろも同じように喜んでいた。

 

 

それから二隻は比叡のもとへゆき、ブルマーが到着するまで比叡乗組員にワクチン接種、そして艦内消毒を行うのであった。

 

 

 

諸島近海にて……

 

 

晴風や大淀がいる諸島近海にて……夕日に照らされる形で二隻の沿岸戦闘艦・そして一隻の教育艦が航行していた。沿岸戦闘艦のほうは一隻はブルーマーメイドの横須賀所属を示す赤のラインと艦首には艦番号のBPF35という文字が書かれている。もう一隻は黒い目立つ塗装というかなり変わった船で横にはBPF10と書かれていた。

 

 

そう捜索艦隊旗艦をつとめるふしおと戦術執行部隊所属のべんてんのようだ。

 

 

「なぁ…どうしてお前がここにいるんだ?」

 

 

「宗谷校長からあなたが暴走しないように見張っててっていわれたからねぇ……。あなた…何かしらやらかすから」

 

 

「…ぐうの音もでねぇ……」

 

 

べんてんの艦橋ではましろの姉であり戦術執行部隊を指揮する宗谷真冬と咲の姿があった。…どうやら宗谷校長の指示で暴走しがちな真冬の見張りを任されたようだ。

 

 

「っといっても比叡はうちの子の大淀と晴風がなんとか座礁させて止めたみたい。私達の仕事はあまり残ってなさそうね」

 

 

「ちぇ~…せっかく私も派手にやりたかったのに……」

 

 

「相手は生徒なんだから…あんまり手荒な真似はしちゃダメよ?というか…あなたならやりかねないわ……(汗)」

 

 

「失礼な……私をなんだと思って……「じゃじゃ馬?」ドストレートにいってくれるな……」

 

 

そんな茶番をしつつも三隻は晴風と大淀のもとへと使うために全速航行で向かうのであった。……しかし…後ろの教育艦は一体誰なのだろうか…?




次回より新たなオリキャラと船を追加しようと思います!!

それでどの船がいいか読者の皆様にお力をお借りしたいと思いまして。
要望はこんな感じです。


・巡洋艦クラス

・横須賀所属

それぞれの要望からどんな船にするか決めるので良ければドシドシお願いします~


(ちなみに回頭場面はバトルシップのある場面をお借りさせていただきました)


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EP24 姉

夕日が海面を照らす中、座礁した比叡の近くで大淀と晴風は停泊していた。あのあと、比叡艦内の消毒作業と乗組員へのワクチン接種を終わらせてブルマーが到着するまで待機することに。

 

 

「なんかあれだよねぇ……」

 

 

「ん~…?」

 

 

「一気に忙しいことをやったあとってさ…ボーっとしてたいよねぇ……」

 

 

「わかる~……」

 

 

艦首付近で手すりに寄りかかっている春香と焔は燃え尽きたような人のようにほげ~っとしていた。まあ無理もない、比叡を止めるためにあの手段を使えば神経がいくらあっても足りないだろう。ちなみに二人の右手には栄養ドリンクが…

 

 

「あっあとこの飲み物美味しいよねぇ~…」

 

 

「疲れた時はこれに限るよ~……」

 

 

「あっ!いたいた!おぉい~!ハルちゃん~、ホノちゃん~!!」

 

 

呑気にほげ~っとしていると、二人を探していたのだろう岬が声をあげつつこちらに駆け足でやってくる。背後にはましろの姿も

 

 

「あっ、宗谷さんに岬さん…♪」

 

 

春香と焔も気づいて視線を向けて出迎える。どうやら晴風の方も作業が落ちついたらしい。

 

 

「なんとか成功したね♪」

 

 

「だね~。ヒヤヒヤもんだったけど…(汗)」

 

 

「赤宮さんもなかなか無茶なさるんですね…(汗)。まあこれだけじゃなくて武藏でもそうでしたが…」

 

 

「昔からこんな感じだからね~。うちの艦長は…(汗)」

 

 

「あはは……(汗)ってん?」

 

 

褒められているかそうじゃないのか、よくわからない言い方をされたため春香が思わず苦笑いになっていたとき、視線の端に3隻の艦艇が目に移りそちらに視線を向ける。そこには三脚が特徴的な艦である改インディペンデンズ級二隻、そして赤のラインが入った教育艦がこちらへとやってくる。

 

 

「…げっ……」

 

 

「おっ……!」

 

 

その中の二隻に見覚えがあるのか黒色に塗装された艦をみて思わず顔がひきつっているましろにたいして、小さい頃から横須賀に遊びに来たときに何度も見慣れていた赤のラインがはいり、もっとも優秀な艦長にしか付与されない横線に三つの斜め線が入った艦を見た春香の表情が明るくなる。

 

 

「あれは確か…!」

 

 

「なんで姉さんがここに……」

 

 

そう、ましろの姉である真冬の乗り込んでいるBPF10べんてん・そして春香の母、咲が指揮するBPF35ふしおだ。だが後ろの艦は見慣れないようでそちらに視線を向けると四人は首を傾げる。

 

 

「あれ?あんな艦いたっけ…?」

 

 

「さぁ……塗装的には横須賀所属みたいだけど…」

 

 

艦橋

 

 

「どうやらあの教育艦は伊吹っていう重巡洋艦らしいですね」

 

 

もちろん3隻のことは艦橋にいたメンバーも確認しており興味深そうにみていた。しかしそれとは正反対にもちとミネはいつものようにじゃれあっている。

 

 

「伊吹っていったら改鈴谷型重巡洋艦のことだな…確か横須賀にそんな名前の船があったよ」

 

 

流石はミリタリーオタクの上里、タブレットで調べていた柚乃の言葉だけで一瞬で正確に言い当てる。そう彼女の言う通り横須賀校所属の小型直接教育艦伊吹。艦番号はY680で改鈴谷型として建造された船だ。

 

 

「でも確か伊吹って私たちが入学したときには遠洋航海に出てたはずなんだけど「あっ!!」……!?」

 

 

遠洋航海で本来ここにいないはずの伊吹がなぜここにいるのか…そんなことを首に傾げていた上里であったが引き続き調べていた柚乃が目を輝かせながら顔をタブレットから勢いよくあげる。それに一同は驚きの表情を見せていた。

 

 

「どっどうしたの……柚乃ちゃん…(汗)」

 

 

「皆さん!!これみてください!!あのふしおの艦長は凄腕な人みたいですよ!!」

 

 

いきなり声を大きくしたため、驚きつつも高嶋がその理由を聞く。いまだに興奮が収まらない柚乃だがそれでも手はしっかりと動かしてタブレットを一同に見せる。

 

 

「えっと……ふしおの艦長は赤宮咲…ってこれって」

 

 

「はい♪うちの艦長のお母さんでしょうね…!しかもそのお方は凄く…ひとまず!これを!」

 

 

未だ興奮を隠しきれない柚乃が画面をスクロールさせて別の情報を見せるとみていた一同も驚きを露にする。

 

 

「マジか…!!あのクリーブランド事件で各国政府から賞状もらってるのかよ!!」

 

 

「クリーブランド事件って…!入学試験でも出てきたよね!?確か当時最新鋭の護衛艦がテロリストに乗っ取られて…」

 

 

「テレビで観たことがあります!!当時かなり大々的に報道されてましたね…!!」

 

 

ようやく柚乃が興奮している意味を理解したのか、他のメンバーもその波に飲まれてしまう。ちなみにクリーブランド事件とは何かここで説明しておきましょう。

 

 

今から十年前、アメリカ海軍所属の最新鋭護衛艦クリーブランド級の二番艦アトランタがセイロン島にて海賊に奪取された事件のこと。乗員はすぐに解放されて無事であったものの当時最新鋭装備をのせていたアトランタは非常に強力で一隻だけでも水上打撃群と張り合える能力を有していた。

 

実際このアトランタを止めようとアメリカ海軍は巡洋艦クラスの護衛艦を主力とした8隻の水上打撃群を派遣したもののあっさりと返り討ちにあってしまった。各国も止めようと艦隊を相次いで派遣したもののほとんどが失敗してしまった。

 

だがこれを止めたのが沿岸戦闘艦ふしお以下4隻、そう咲が指揮する艦隊であった。精鋭のアメリカ海軍でも止められなかったアトランタを奮進魚雷や主砲などで誘引、隙ができたところに旗艦であるふしおがアトランタに強硬接岸を実施。これにより艦内の海賊を制圧して事態を収集させたのだ。

 

これを受けてアメリカ合衆国政府や日本政府、イギリス政府などの各国政府から勲章を授けられるという異例の表彰となった。そのため、咲のふしお艦側面にはブルマーのマークのとなりにもっとも優秀な艦長にしかつけられない黄色の斜線が三つ描かれた絵がつけれているのだ。

 

ちなみにこの事件は世界各国のブルマーの試験などで来島の巴御前とも言われた宗谷真雪の件と同様に出題されており、彼女の名前を知らないものは関係者ではいないというものらしい。

 

 

「……うちの艦長の親ってそんな凄い人だったんだ……」

 

 

子日も覗き込みつつ、驚きと関心の表情を浮かべているようだ。その間にもべんてんが大淀に接岸、その隣にふしお・伊吹と並ぶように停船する。

 

 

「ひさしぶりねぇ♪春香♪入学式前以来じゃないかしら?」

 

 

「よっ!ましろ!ひさしぶりだな!」

 

 

「母さん♪」

 

 

「やっぱりそうでしたか…姉さん…」

 

 

真冬に苦手意識をもっているのか、ましろは喜びというよりかなり頭を抱えている様子だ。それに対して春香は嬉しそうにぴょんぴょん跳ねながら歓迎しているというなんとも対照的な光景が写り込んでいた。

 

 

「えっと…お二人は…」

 

 

しかし状況整理が追いついていない岬は困惑した表情を浮かべていた。するとそれに気づいた二人が彼女に視線を向けつつ挨拶をする。

 

 

「俺はべんてん艦長でブルーマーメイド強制執行課保安即応艦隊所属、二等保安監督官の宗谷真冬だ…!そこのましろの姉ってところかな!よろしく!」

 

 

「私はブルーマーメイド第二水上打撃群所属、旗艦ふしおの艦長兼指揮官を勤める赤宮咲よ…♪階級は真冬さんと同じ二等保安監督官。うちの子が世話になってるわね♪」

 

 

「はっはじめまして!晴風艦長の岬明乃です…!!」

 

 

「大淀副長の焔羽南です。はじめまして♪春香のお母様♪」

 

 

それぞれの自己紹介が終わると接岸しているのをみていたのか晴風や大淀の乗組員が甲板に出てくる。

 

 

「おやおや~、なにやら楽しそうですね~」

 

 

「ん?」

 

 

するとどこからか声が聞こえてきたためそちらに視線を向けるとそこにはふしおやべんてんを経由して伊吹から二人の乗組員が降りてくる。姿からしておそらく艦長と副長だろう。

 

 

「あ……」

 

 

どうやらその中の一人、艦長らしき人物に見覚えがあるのだろう。焔が目を見開く。

 

 

「こらこら(汗)あんまりはしゃがないでよね。っと♪そこにいるのは羽南じゃない♪ひさしぶり、元気にしてた?」

 

 

「姉さん!?」

 

 

「「「えぇぇぇ!!??」」」

 

 

まさかの焔から発されたとんでもない言葉に思わず両艦の乗組員全員はこれまたびっくりな揃いも揃って驚きの声を上げて姉さんと言われた生徒へ視線を向ける。

 

 

「はじめまして…かな♪私は小型直接教育艦の艦長を勤める焔由梨♪そこの大淀副長、羽南の姉で横須賀校三年生なの、よろしくね♪」

 

 

「同じく伊吹副長の旭川誉です♪よろしく!」

 

 

 

 

羽南の姉であり茶髪ショートの大人しい感じを漂わせている焔由梨・そして少し薄い緑がかったショートヘアを揺らして活発そうな旭川誉は驚きを隠せない乗組員に自己紹介をするのであった……。




新キャラクター
焔由梨
伊吹艦長

羽南の姉であり横須賀海洋女子学校に所属する高校三年生。学年では首位をとるほど優秀であり伊吹乗組員からは厚い信頼を得ている。本来であれば遠洋航海に出ているはずであったが…。どうやらなんかしらの方法で戻ってきたらしい。

旭川誉
伊吹副長
伊吹の副長を勤めており、由梨の幼なじみ。彼女とは正反対で活発なため艦長がよく振り回されるという珍事が起こることも……。しかし指揮は優秀で由梨に続く優等生だ。ドがつくほどの蕎麦ファン()


小型直接教育艦伊吹
基本的なスペックは史実の重巡洋艦伊吹と同じであるが魚雷発射管が四連装魚雷から島風に搭載されている五連装魚雷発射管に変更。さらに機銃の連装からすべて単装に変わっている。
艦番号はY680


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EP25 シュペー

それから焔は由梨からどうしてここにいるのかという理由の経緯を聞いて納得の表情を浮かべていた。

 

 

「なるほど…私たちの反乱疑惑を聞き付けてわざわざとんぼ返りしてきたんだ…」

 

 

「そうなのよねぇ(汗)。実際羽南に何かあったいけないって思って遠洋航海を中止して戻って来たのよ~」

 

 

そんな二人の会話をよそに大淀や晴風乗組員は春香に対して質問責めをしていた。

 

 

「艦長のお母さんってそんな凄い人だったんですね!?」

 

 

「凄いですよ!!どうして言ってくれなかったんですか!?」

 

 

「あ~……()」

 

 

流石の春香でもこの状態は止めることができずにしばらくの間、焔やましろ、岬が助け船を出すまで続いていたのであった………。

 

 

 

翌日

 

 

「それじゃ我々は他の生徒の艦艇の捜索に戻るとするぜ。ましろ、元気でな!」

 

 

「ねっ…姉さんもね……」

 

 

「母さんも気をつけてね~」

 

 

「あなたもね~?けっこう無茶するんだから~!」

 

 

「私たちは比叡を横須賀に送り届けますね。何があるかわかりませんし」

 

 

「それなら…姉さんとはここでお別れかな……?」

 

 

「そんな寂しそうな表情をしないの…♪この騒動が落ち着いたら、二人でどこか食べにいきましょうか♪」

 

 

「うん♪」

 

 

こうして捜索活動の再開や比叡を横須賀まで護衛するために伊吹やふしお、べんてんは座礁から脱した比叡を連れてトラック諸島近海を後にするのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アドミラルティ諸島北海域にて

 

 

ふしおやべんてん・比叡や伊吹と別れた二隻はトラック諸島近海を後にしてここアドミラルティ諸島にやって来ていた。その理由というのはミーナが乗艦していて、さらに一度交戦したことのあるドイツからの留学生艦アドミラル・シュペーの捜索である。

 

 

ことをさかのぼること数日前、晴風や大淀が比叡と戦闘を行っていた際に、トラック諸島にあるブルーマーメイドの基地にある水上レーダーが一瞬ではあるがシュペーと思われる艦艇の反応をキャッチしていたのだ。その報告を受けた二隻は手が空いていることや丁度近くにいたことから急行することにした。

 

 

「何気にシュペー雲隠れしてましたねぇ…」

 

 

柚乃タブレットでシュペーの反応データを確認しつつ今まで雲隠れしていたことに神妙な表情を浮かべていた。

まあ無理もない、日本の排他的経済水域は他国に比べてもなにげに広大だ。いくら諸島にレーダー基地を建設してもカバーが行き届かない。おまけに現在は行方不明艦の捜索にブルーマーメイドやホワイトドルフィンの大多数が駆り出されており、すでにパンクしている可能性がある。

 

 

「おまけにここは島が多いから……うまいこと死角に入り込んでたことで見つからなかったのかも…」

 

 

双眼鏡で周囲の島を見つつそんなことを口にこぼす高嶋。現在二隻は単縦陣で航行しており大淀を先頭に晴風が追随する形になっていた。

 

 

「幸い、比叡の時にワクチンとかの治療薬は作ってたから問題ないはず、うちの明石さんと晴風の美海さんが作ってくれたから」

 

 

比叡の際にもそうだが、二隻の生産能力をフル活用して現在ワクチンなどの治療薬を生産中だ。さらには晴風や大淀乗組員から選抜した強行部隊の編成を行っており、ブルマーの救援がなくても乗り込り制圧することも可能になっていた。

 

 

晴風艦内

講堂にて

 

 

「では、今回のシュペー奪還作戦の説明をワシがしておこう。」

 

 

講堂では晴風メンバーが座っており壇上の中央にはミーナが…、その左には岬とましろ・右には焔や春香の姿もあった。

 

 

「おそらく前回の戦闘でスクリューの一部を破壊されているから速力はかなり落ちてるはずじゃ…。けど腐ってもポケット戦艦、巡洋艦よりも強力な28cm三連装砲や副砲を多数搭載している。普通に接近するとなるとかなり危険だな…。そこでワシの考えがこうじゃ」

 

 

そういうと春香にチラリと視線を向けて彼女も軽く頷いたあと変わって説明する。

 

 

「なので、今回の作戦では本艦がシュペーと交戦して相手の注意を引き付けます。その間に晴風はギリギリまでシュペーに接近、その後強行部隊を突入させて制圧させます。」

 

 

「そのため、大淀及び晴風乗組員から選抜された強行部隊は晴風に乗艦。乗艦する際はスキッパーによって乗り込みます。」

 

 

春香に続いて岬による補足の説明が行われて一同はうんうんと首を縦に降って納得の表情を浮かべる。

 

 

「正直…比叡の時よりも厳しい戦いになるかもしれない……それでもやってくれるか?」

 

 

やはり、自分の乗っていた艦。どれだけの実力があるかはわかりきっていた。もちろん晴風や大淀の乗組員を信用していない訳ではない、むしろこれだけ交流を深めた両艦になにかあってはいけないという気持ちがあるのだろう。

 

 

「そんなこと聞かなくてもわかるんじゃない?ミーナさん♪」

 

 

焔が笑みを浮かべつつ講堂内を見渡す。そこには覚悟を決めた晴風乗組員の瞳がミーナに写り込んでいた。

 

 

『もちろんやりますよ!!』

 

 

『ここでひいたら仲間として恥ずかしいですからね…!!』

 

 

『艦長のお陰でそんなもんなれましたから~♪もう何が来ても驚きませんよ~』

 

 

「えっちょ…今最後のやつひどk…「ほら♪みんなミーナさんのためにがんばるって♪」」

 

 

「みんな…ありがとう……!」

 

 

さらには無線越しに大淀乗組員からも賛同の声が相次いで上がる。それを聞いて込み上げてきた感情をなんとか押さえつつ精一杯の感謝を伝える。

 

 

「それじゃみんなで頑張ろう…!!」

 

 

「「「おぉ!!」」」

 

 

 

数時間後

アドミラルティ諸島北西海域にて

 

 

「電信室より見張り及び艦橋宛!!艦右前方にて艦影を補足!!至急確認を!!」

 

 

レーダーで警戒していた美紀が映り込む反応を確認して至急艦橋へ報告を行う。それを聞いた望が反応があった方角へと視線を向けると1隻の艦影が確認できた。

 

 

「見張りより艦橋へ!!艦影視認!!三連装砲と後部両舷の四連装発射管からしてシュペーで間違いありません!!」

 

 

「ようやく見つけたわ…!至急晴風に報告を!!」

 

 

「わかりました!!」

 

 

艦橋では突入部隊の指揮を行うために艦を離れている春香に変わって焔が艦長帽を被って指示を出していた。

 

 

 

時は遡ること数時間前……

 

 

「え?私に突入部隊の指揮をお願いしたい?」

 

 

シュペーの強行乗艦作戦の会議が終わったあと突如として岬からあることを頼まれていた。

 

 

「そうなの…、私はスキッパーの操縦担当になって…乗り込めそうになくて………だからハルちゃんにお願いしたいの…!」

 

 

「うぅん……私は大淀の指揮もあるし………あっそうだ!ねぇホノちゃん?」

 

 

「ん~?どうしたの?」

 

 

そうは頼まれても自分も大淀の指揮があるため、どうしようかと悩んでいるとなにか閃いたのか隣にいた焔に声をかける。

 

 

「話は聞いてるかもしれないけど……頼めるかな……?」

 

 

「やっぱりね~。そう来ると思ってたわ…♪ハルってそうゆうの断りにくい性格なの知ってるし、わかった…任せて…!」

 

 

「いっ…今の短い会話で理解した……!?」

 

 

いくら先ほど岬がお願いをしていたとはいえ、あの短い会話だけで内容を察した焔のコミュニケーション能力に思わずましろは驚きを見せていた。…いや…長年一緒に過ごしていたからこそできる芸当なのだろう。

 

 

「ありがとう…!!助かるよ!!」

 

 

「わっ私からも感謝の言葉を…!」

 

 

了承してくれた二人に岬は表情を明るくさせて勢い良くお辞儀をして、それにつられるようにましろもキッチリとしたお辞儀をしている。

 

 

「いえいえ…♪っとそれでは…!現時刻を持って大淀の指揮権を一時的に赤宮春香から焔羽南に委譲します…!」

 

 

「わかりました!本時間をもちまして…!大淀艦長に着任します!!」

 

 

着任挨拶を得て、春香から艦長帽を渡された焔は静かに受け取って頭に被るのであった。

 

 

「おぉ…♪似合ってるよ♪私よりよっぽど艦長らしいよ…!」

 

 

「そっそうかな…///なんか照れる…///」

 

 

春香に褒められたことで先ほどの表情が嘘かのように少し恥ずかしそうな表情を浮かべつつも嬉しそうな表情を浮かべている。

 

 

「それじゃ…!大淀を…お願いするね…!」

 

 

「はい!任せてください♪」

 

 

 

ー時は戻りー

 

 

「シュペーの動きは?」

 

 

『シュペーの武装の様子からしてこちらに気づいた様子はありません』

 

 

見張り員からの報告を受けた焔が少し考え込んでから艦橋に視線を向けて作戦指示を出す。ちなみにシュペーは相変わらずのんびりと航行しており警戒している素振りをほとんど見せていない。

 

 

「晴風に発光信号送れ!!これよりシュペー奪還作戦を開始します!!」

 

 

「了解!!」

 

 

 

 

「大淀より作戦開始の合図を確認!!」

 

 

「面舵45度!!これより本艦は島を盾に接近!大淀がシュペーと交戦開始したことを確認次第に可能な限り近づきスキッパー部隊を突入させます!!」

 

 

「面舵一杯ぃぃ!!」

 

 

大淀からの作戦開始の合図を受けて、晴風は面舵で進路変更。シュペー、そしてミーナの帰る船を取り戻すための戦いが幕をあけるのであった…。





いよいよシュペーとの戦いが幕を開けます!!
(ぜひ感想などもどしどし送ってください、主のやる気に繋がりますので())


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EP26 砲撃戦

「晴風進路変えました!!こちらの合図が伝わったかと!!」

 

 

「わかったわ!対水上戦闘用意!!目標!!右舷前方のシュペー!!」

 

 

「了解!!1・2番右40度!高角50度!主砲旋回急げ!!絶対当てるなよ!!相手の注意をこちらに向けさせろ!!」

 

 

「副砲も同じく……お願い……!!」

 

 

「了解!!右40度!高角50度!!回した!!」

 

 

「こちら右舷副砲も旋回完了!!いつでもいけます!!」

 

 

「艦内防水扉封鎖完了!!」

 

 

「機関いつでもいけるぜ!!」

 

 

「水雷員も用意よし!!」

 

 

「応急員も配置完了!!」

 

 

「見張りもオッケーです!」

 

 

「副t…艦長!!」

 

 

「えぇ!目標!シュペー!撃ち方始めぇ!!」

 

 

焔の号令どほぼ同じタイミングで射撃用意をしていた主砲塔や副砲塔が一斉に発砲。放たれた大小の砲弾がシュペーの左舷中心に次々と着水、そのため思わずシュペーの進路が一瞬ぶれてしまう。

 

 

「左舷を中心に全弾近!!」

 

 

「シュペー主砲及び副砲旋回!!こちらに気づいたた模様!!」

 

 

だがそうなってしまったのは一瞬だけ、攻撃を受けたシュペーはすぐさま主砲を旋回。もちろん副砲も連動して動き出してすぐさま大淀を捕える。

 

 

「なるべくシュペーにたいして艦を立てるようにして!!少しでも被弾確率を下げる!!」

 

 

「了解~!艦をシュペーにたいして可能な限りたてるね~」

 

 

もちろん焔もそれはわかりきっていたことで、すぐさま晴にたいして艦を立てるように指示。それを受けた晴は舵を微調整してシュペーの斜め後ろにつく。こうなると一部の副砲は使えなくなるがそれはいた仕方ない。

 

 

「シュペー発砲!!」

 

 

「各員!衝撃に備え!!」

 

 

その直後、シュペーが轟音とともに発砲。放たれた無数の砲弾が大淀の周囲に降り注ぎ激しい衝撃が襲ってくる。

 

 

「流石ポケット戦艦…!!28cm砲弾は伊達じゃないぜ…!!」

 

 

壁の手すりに捕まりつつ、シュペーの威力に思わず感心の表情を浮かべる。揺れが収まると大淀も負けじと発砲、再びシュペーに砲弾が襲いかかるのであった。

 

 

「なんかこっちに全力で撃ってきてますね…!!やはり人気者はつらいですよ…!」

 

 

「今はそのほうがありがたいけどね…!!望さん!!晴風に対して突入合図の信号を!!」

 

 

迷わずこちらに全力で砲撃してくるシュペーにたいして思わずそんなことを口走る高嶋、だが大淀からすればその方が好都合というもの。完全に意識がこちらに向いたことを確認すると伝声管で望にたいして指示を出す。

 

 

『了解!!』

 

 

それを受けて見張りから身を乗り出し、右手にもっていた閃光弾を上空に打ち上げる。昼間のため光っているのは見えないが煙はしっかりと晴風から確認できていた。

 

 

「大淀より突入合図来ました!!」

 

 

「取舵一杯!!これよりシュペーにたいして接近を開始!!ある程度近づいたらスキッパー部隊は突入を開始せよ!!」

 

 

「とっ取舵一杯!!」

 

 

「くぅ~…!今回は魚雷はお預けかぁ…!!」

 

 

「うい……」

 

 

大淀からの突入合図を受けて島を盾に航行していた晴風はましろの指示を受けて取舵で進路をシュペーへと向け二隻の激しい砲撃戦に紛れて接近を試みるのであった。

 

 

 

 

 

 

「シュペー左舷に確認しました!!大淀と撃ち合ってます!!」

 

 

島から飛び出すと左舷に報告通りシュペーを確認、その左舷後方には大淀が航行しており互いに激しい砲撃戦を繰り広げていた。

 

 

「完全に意識が大淀にいってますね……」

 

 

「はい…ですがあれだけ激しいとなると大淀がいつまでもつか…」

 

 

幸子の言う通り、これだけ激しい撃ち合いとなると互いにいつ被弾してもおかしくない。大淀はあえて至近弾にするように撃ってるとはいえシュペーは当てるつもりで砲撃を叩き込んでいた。そのため長くは持たないことははっきりとわかる。

 

 

「左舷見張り、シュペーの動きは?」

 

 

「右舷副砲に動きは見られず…!主砲や射撃指揮装置は大淀に向いています…!」

 

 

激しく砲撃を放っている左舷がまるで嘘かのように右舷の副砲群は沈黙しており完全に気づいていないことが見てとれる。

 

 

「一応警戒はした方が良さそうだな……。スキッパー部隊は?」

 

 

「既に準備完了とのこと、指示をあればいつでも発進できるみたいです。」

 

 

艦に乗り込む突入部隊、晴風からは野間・万里小路・鏑木・ミーナ、そして大淀からは春香・千景・明石・乃木が選抜されそのスキッパーを操縦する岬・等松・寺見・真姫の計13人が四台のスキッパーに別れて乗船しており指示があればすぐに突入できるよう待機していた。

 

 

「よし!それならスキッパー部隊に伝達!!突入を開始せよ!!」

 

 

気づかれてない今ならスキッパー部隊を突入させることができると判断したましろは突入指示を下す。それを受けて内海と山下が突入開始を示す赤旗を左右で待機しているスキッパー部隊に見えるようにあげる。

 

 

「突入開始の合図来たよ!!」

 

 

「よっしゃ!それじゃ突入部隊!抜錨!!」

 

 

「ガンガン飛ばすから振り落とされないようにね!!」

 

 

「マッチー!頑張って!応援してるから!」

 

 

赤旗を確認次第左右のクレーンに吊るされていたスキッパー四台が海面に降ろされる。それを確認すると操縦を担当する四人はアクセルノブをおもいっきりひねり甲高いエンジン音を響かせつつ晴風から離れシュペーに向かう。それを確認すると晴風は少し距離をとりつつ万が一の事態に備えて待機するのであった。

 

 

「岬さんたちは艦尾から!私たちは艦首から制圧してくるね!」

 

 

「わかりました!」

 

 

「お主ら気を付けるんじゃぞ!」

 

 

「そっちもね!」

 

 

なるべく制圧時間を短縮するために分散することを提案、それに沿って岬達は艦尾・春香達は艦首から乗り込むことためにわかれるのであった。

 

 

「皆さん!!そろそろ乗艦ポイントです!!突入準備を!!」

 

 

艦首の真下へ近づくと真姫が突入部隊に合図をかける。それを聞くと春香がワイヤーアンカー銃で狙いをつけようとするが波のせいで狙いが定まらずにいると

 

 

「えっ!ちょ…二人とも!?」

 

 

しかし、千景と乃木は何事ないようにワイヤーアンカーを手すりに引っ掻けて巻き上げを利用して登っていく。自分も遅れまいと春香もなんとかワイヤーを引っ掻けることに成功する。

 

 

「よっと…」

 

 

「っと」スタ

 

 

登りおえて甲板に侵入した二人が視線を向けると、複数人のシュペー乗組員がふらふらとこちらにやってくる。しかし明らかに目の色が赤くなっており共謀なっていることが顔つきでわかった。

 

 

「まあ察しの通りの光景ね」

 

 

「そうねぇ、というか私たち人気者ですねぇ♪モテすぎはつらいですよ~♪」

 

 

「この状況でモテてるの…かしら…(汗)」

 

 

そんな茶番をしている二人を他所に、ウィルスに感染したシュペー乗組員が一斉に二人に襲いかかる。

 

 

「ったく… 迷いなく来ましたか…けど…」

 

 

「そんな単純な攻撃じゃ…私たちは倒せないわよ…!!」

 

 

ほぼ同じタイミングで二人は弾かれたように飛び出していく。千景は木刀、乃木は海水の入った水鉄砲を持っていた。

 

 

「うぁ"ぁ"ぁ"ぁ"!!」

 

 

唸り声をあげつつ襲いかかってきたシュペー乗組員を千景はあっさりといなし、木刀で首元に強烈な一撃を加えていく。流石はブルーマーメイドの隊員を制圧した実力の持ち主、多数の相手を一瞬で制圧する。

 

 

「まっ…ウィルスで理性失ってるならこの程度でしょうね…」

 

 

「流石千景さん~…!私も負けてられませんわ…!」

 

 

千景の活躍を見て自分も負けじまいと、二丁の水鉄砲を乗組員に向けて発砲。ヘッドショットを連続で叩き出しつつ倒していく。

 

 

「乃木さんもなかなかやりますね…!」

 

 

「千景さんばかりにカッコいいところを見せられませんから…!」

 

 

「おぉ…って…これ私いらないんじゃ…(汗)」

 

 

なんとか登ってきた春香であったが既に制圧済みの甲板を見渡して目が点になっていた。その間にも春香に手伝って貰って登ってきた明石が倒れている乗組員にワクチンを接種していくのであった。

 

 

 

「艦長!!晴風より入電です!突入部隊が先ほどシュペーに乗り込んだとのことです!!」

 

 

「ここまでは予定通り……!主砲!副砲!撃ち方止め!突入部隊の戦闘に配慮するわ!ここまで気を引き付ければあとは…!」

 

 

「了解!主砲!撃ち方止め!!あとは突入部隊に任せるぞ!!」

 

 

「副砲も…撃ち方……止め…」

 

 

春香達が乗り込んだとの報告を晴風から受けた大淀では突入部隊の戦闘に配慮し、ここまで引き付ければ充分と判断して砲撃を停止。しかしこちらに依然として注意を向けさせるために今の距離を保つことに。

 

 

「シュペー発砲!!この拡散位置だと…!!かなり不味いです!!」

 

 

しかしそんな現実を知るよしもないのかシュペーは再び発砲。さらに運悪く砲弾がかなり拡散しているせいでこのままでは何発かの命中コース、回避も距離的に間に合わない。

 

 

「各員衝撃に備えて!!応急員は待機!!」

 

 

ある程度は想定していたため、艦内に指示を出した直後シュペーから放たれた砲弾が大淀へと襲いかかる。周囲に散らばるように相次いで着水、そのうちの主砲弾数発が1、2番砲塔に命中。直後激しい爆発とともに砲塔が爆炎に包まれる。

 

 

「きゃぁぁぁぁ!!!?」

 

 

砲塔が爆発しても沈まないように設計されているとはいえ、被弾となればかなりの衝撃が伝わってくる。艦内乗組員は悲鳴などをあげつつもなんとか物に捕まって耐えていた。

 

 

「いてて……けっこうやられたわね…損害報告急いで!!」

 

 

「前部主砲大破!!現在消火活動中!!」

 

 

「単装砲にも命中弾!!使用不能!!」

 

 

「機関室問題なし!!全速航行可能!!」

 

 

「艦首付近にて浸水発生!!ですが戦闘に支障はなし!!」

 

 

「左右副砲異常なし!!砲撃可!!」

 

 

被弾の衝撃でクラクラする頭をなんとか支えつつ艦内の状況を伝えるように指示を出す焔。すると伝声管から相次いで報告が飛び込んでいる。前へと視線を移すと黒煙を吹き上げる2基の主砲塔が……

 

 

「けっこう手荒にやられたわね…けど…!ここまで来たら…!!頼んだわよ…ハル!!」

 

 

そう呟きつつ視線を動かした先にはシュペーとその後方に航行している晴風、そしてシュペーの足元に小さく見えるスキッパーの姿であったのだ。

 

 



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EP27 白兵戦!!シュペー奪還!!

「シュペーの砲撃によって大淀被弾!!見た感じ前部2基の主砲塔が大破しています!!」

 

 

 

「……!!」

 

 

 

内田の報告を受けて明乃はあわてて双眼鏡でそちらに視線を向けるとそこには報告通り1、2番主砲が大破して黒煙を上げている大淀が…

 

 

 

「すぐにあっちの状況確認…!!急いで!!」

 

 

 

「大淀より入電!!我前部主砲及び速射砲大破も戦闘続行可とのことです!!負傷者もいません!!」

 

 

 

艦橋にある無線機で大淀と交信していた真白が、詳しい状況をいち早く報告する。それを聞くと少し安心したのか一瞬表情が緩むがすぐに引き締まる…。

 

 

 

ーあとは…突入部隊がうまく行けば……ー

 

 

 

シュペー艦内

 

 

 

「うがぁぁぁぁ!!!」

 

 

 

「甘い!!」

 

 

 

「ほっ!!」

 

 

 

「私だってぇ!!」

 

 

 

一体どこから沸いてくるのかというほど絶え間なく次々とウィルスに汚染された乗組員が襲ってくるが、千景と乃木は何事もなかったかのように避けつつ淡々とまるで流れ作業みたいに制圧していく。艦長の威厳にかけてでも負けまいと春香も水鉄砲で射撃していく。

 

 

 

「これでよし…」チク

 

 

 

そして3人が制圧した乗組員へ順番に明石がワクチンを打ち込みつつあとを追いかけていた。蹴散らしつつ歩いていると後部甲板からきていた野間達が駆け寄ってくる。

 

 

 

「そっちはどうだ…!」

 

 

 

「こっちはほとんど制圧しました…!そっちは…!」

 

 

 

「こちらも制圧いたしましたわ…!あとは艦内だけです…!」

 

 

 

「もう少し急いだ方がいいじゃろう…!!テアはそこまで体が強くない!!」

 

 

 

「同意です…!このまま長引けばこちらが不利になってしまう可能性が…」

 

 

 

甲板を制圧したとなればあと残るのは艦内のみ、…しかし武装はまだ健在のため一刻も早く完全制圧する必要があった。艦長の安否もわからないため一同は駆け足で艦内に乗り込んでいくのであった。

 

 

 

 

「この先の階段を登れば艦橋じゃ!!」

 

 

 

ミーナの案内を受けつつ、廊下の角を曲がる一同。しかしその先には一体何人いるのかというほどウィルスに感染した乗組員が待ち構えていた。

 

 

 

「ここも…!?一体何人いるのよもう!!」

 

 

 

「流石にこれを相手していると時間が…!!」

 

 

 

これには流石に春香とミーナも悪態をついてしまう。いちいち相手をしていれば艦橋に向かう時間が長くなってしまい、その間にテア、そしてシュペーの注意を引き付けている晴風・大淀に何かあればそれこそ不味いことになりかねない。

 

 

 

「その件は心配無用…!」

 

 

 

少しの間お互い睨みあっていたが野間が前に出て立ち塞がる。それに釣られるように万里小路や千景、乃木や明石もゆっくりと前に出ていく。

 

 

 

「ここは私達が引き受けるから!ミーナさんははやぬ艦長さんのもとへ!!」

 

 

 

「じゃっじゃが…!お主らは…」

 

 

 

「こっちは大丈夫!簡単にやられるほどヤワじゃないから♪」

 

 

 

「美波さん、艦長!!ミーナさんのことは任せましたよ!!」

 

 

 

「結構責任重大だね…!わかった!!ここはみんなに任せたよ!!」

 

 

 

「気を付けるんだぞ…」

 

 

 

「すまぬ!!恩にきる!!」

 

 

 

野間達に感謝の言葉を送りつつ3人は斜め前にあった階段を登って艦橋へと急いで登っていく。それをチラリとみつつ千景は明らかに様子がおかしいシュペー乗組員の群へと視線を向き直す 。

 

 

 

「さてと…艦長にカッコつけちゃった以上…変な真似は出来ないですね…!」

 

 

 

「えぇ♪むしろぎゃふんと言わせて上げましょうか♪」

 

 

 

「とはいえ先ほどよりも数は多そうです…!!気を抜かずにいきましょう!」

 

 

 

「もちろん…わかっている…!」

 

 

 

「倒した子達の処理は私に任せて…!」

 

 

 

互いに視線をあわせて準備が出来たことを確認すると同時…明石以外が弾かれたように飛び出していく。もちろんシュペーの乗組員も同じように唸り声を上げて千景達に襲いかかっていくのであった。

 

 

 

「この先を上がれば…!!いた!テア!!」

 

 

 

下で千景達が引き付けたお陰で邪魔が入ることなくスムーズに艦橋へと上がることに成功、デッキに入るとそこには見慣れた背中、そうテアがいたのだ。

 

 

 

「大丈夫か…!今助け……!?」

 

 

 

駆け寄ろうとしたミーナだがこちらに視線を向けたテアの表情を見て驚愕する。目は他の乗組員と同じように赤くなっておりいつもの彼女ではないことは一目でわかった…。そう…彼女も感染していたのだ…。

 

 

 

「この感じだと…彼女も感染していますね…」スチヤ

 

 

 

間に合わなかったか…そんなことを思いながらも春香は水鉄砲の銃口をテアに向けようとした……。…がその前にミーナに軽く静止される。

 

 

 

「こうなったのは…ワシにも責任はある……。だから……ワシがケリをつける…!」

 

 

 

「…!!」ダッ

 

 

 

そういい放った直後、弾かれたようにテアが飛び出していきミーナに回し蹴りを容赦なく炸裂させる。しかし……彼女と一緒にいる時間が長いため本人しかわからない弱点を知っていたのだ…。

 

 

 

「…!」ガシッ

 

 

 

勢いよく飛んできた足をミーナは片手で押さえて止めてしまう。そう…彼女は体が小さい上に力が弱いのだ…、だからそれを逆手にとってギリギリまで受けを取らなかった…。抵抗する彼女を優しく抱き締めると美波が横からワクチンを撃ち込んでいく。

 

 

 

「……」

 

 

 

少し間踠いていたテアであったが…しばらくすると落ち着いた様子で眠りについてしまう。それを確認するとミーナは視線で合図を送りそれを確認した春香が戦闘終了を示す白旗をあげていく。

 

 

 

「シュペーより白旗が上がりました!!どうやら制圧は成功のようです!!」

 

 

 

「「「よっしゃぁぁ!!」」」

 

 

 

見張りからの報告を受けた大淀、晴風では歓喜の声で賑わいを見せて互い喜びあっていた。行動を停止したシュペー、丁度夕日と被っているせいかどこか誇らしげにしているように見えたのは気のせいだろうか…




(感想をドシドシお願いいたします~
かなりモチベーションに繋がるので)


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EP28 懇親会



久しぶりの投稿です!!

かなり投稿期間が開いてしまい申し訳ございませんでした(汗)


「「おぉ~♪」」

 

 

あれからシュペー艦内の消毒作業と乗組員へのワクチン接種を済ませた後、シュペーの甲板でちょっとした懇親会をすることになった。

 

それに際し、机の上にはシュペー・大淀・晴風の三艦の主計科や給糧員が中心として作られた様々な料理が並んでおり乗組員達も目を輝かせながらそれぞれの反応を示していた。

 

 

「張り切った解があったわね…♪やっぱり国境を繋ぐのは料理が一番…!」

 

 

「確かにね~」

 

 

みんなが楽しそうにしつつ美味しそうに食べている様子を見て満足そうな表情を浮かべている千景と野波。千景に関してはあの白兵戦の後だと言うのに疲れを全く感じさせていないように感じた。

 

 

「でも本当に大丈夫なの?艦長から聞いたけどけっこうな白兵戦だったらしけど…」

 

 

「別に、あれくらいならなんともないわ。ブルマーの隊員と比べればそこまで疲れなかったし」

 

 

「さっ流石うちの剣道エース…(汗)」

 

 

寺見が一応大丈夫なのかと問いかけるが本人は問題ないと返答していつも通りの表情を見せている。

 

 

 

 

「っと、紹介しておこう。こちらが我がアドミラル・シュペー艦長を勤めている」

 

 

「テア・クロイツェルだ。うちの副長がお世話になったな。それと我が艦を救ってくれて感謝している。改めてお礼を言わせてくれ」

 

 

その頃、ミーナは春香と岬とともにテアのもとを訪れておりお互いの自己紹介をしていた。先に自己紹介を終えたテアは帽子を一度取って深々と感謝の気持ちを伝えるために一礼する。

 

 

「そっそんな(汗)そこまでしなくてもいいよ(汗)困ってる人はほっとけないし…!何よりそれが私たちの役目だからね…!ってその前に自己紹介してなかった…(汗)」

 

 

まさか深々と頭を下げられるとは思っていなかった二人は少しアワアワしたような表情を見せて、特に岬は少し慌てながら弁明する。…がそれで少し脱線しかけ自己紹介をしていないことを思い出したのかハッとした顔になる。

 

 

「それじゃ自己紹介させてもらうね♪私は岬明乃…!晴風の艦長やってるんだ♪よろしくね♪」

 

 

「小型直接教育艦大淀の艦長をしています…!赤宮春香です…♪」

 

 

「改めて、テア・クロイツェルだ。アドミラルシュペーの艦長を勤めている…♪よろしくだ」

 

 

それぞれ自己紹介を済ませたため盛り上がっている親睦会に参加しようとした四人だが……テアがなにか思い出したようで顔をあげる。

 

 

「そういえば一つ言わなければならないな…。大淀の艦長に…」

 

 

「ふぇ?私ですか?」

 

 

一体何の話だろうかと思い首を傾げながらテアの方へ視線を向ける春香、それを確認すると彼女が再び口を開く。

 

 

「その…大淀の件はすまなかったな…、不可抗力とはいえあのようなことになって…」

 

 

「あ~…(汗)」

 

 

テアの言葉を聞いて苦笑いしつつ大淀へと視線を向ける。航行に支障はないとはいえど前部二基の主砲と速射砲が損傷したことで戦闘力は一気にダウンしてしまったのだ。

 

 

上里などの砲雷委員や機関委員などが応急措置を試みたものの完全に大破していたためそれが出来ず、ひとまずは明石や間宮と合理するまでそのままという形になった。

 

 

「気にしなくても大丈夫ですよ(汗)あれだけ戦闘が激しいとなればこうなることは覚悟していたことですから(汗)」

 

 

「それはそうだが…、…その件でお詫びと言ってはなんだが大淀に載せる新武装を明石の乗組員に託しておいた…。詳細は秘密だが、現在ドイツで開発中の新装備とだけ言っておこう」

 

 

「いっいいんですか…?新装備を私たちなんかに…」

 

 

春香からすればそれはまさかのことであった。それもそうだろう、テアが提案した新装備とは十中八九現在彼女の本国であるドイツで開発されたばかりの武装。本当に私たちにあげていいものかと疑問に思うのも無理はない。

 

 

「構わないさ、その新装備はまだ完成段階ではないからな。遠慮なく使ってくれたほうがデータも取れる。そっちからしても美味い話だろ?」

 

 

「つまり、両方Win-Winと言うことですね…♪分かりました、みんなには秘密にしておきます♪」

 

 

「あぁ♪助かる…♪」

 

 

「艦長~!テアさん~、そんなところで話してないでこっち来てくださいよ~。早くしないとみんなが食べちゃいますよ~!」

 

 

「テア艦長も早く~!」

 

 

「今行く…♪」

 

 

「そんな急かさないでよ~(汗)」

 

 

話が終わると同時にみんなから呼ばれたため、テアと春香はみんなのところに駆け寄っていくのであった。

 

 

 

 

「ん~、おいひい~♪」モグモグ

 

 

「このウィンナー、歯ごたえがあって良さげだよ♪流石本場ってところですね…♪」

 

 

「ふむ…、これが海軍カレーか……悪くはないな…♪」

 

 

国は違えど同じ船乗り仲間、甲板上では三艦の乗組員が入り乱れながら楽しくお喋りをしていた。晴風と大淀の乗組員はある程度顔を合わせているからなんとなくわかる。

 

しかしシュペーの乗組員に関してはほとんどが互いに初めて見る顔ばかり、それでも今回の戦いで親睦が深まったのか時折冗談交じりで話したりしているのが聞こえてくる。

 

 

 

「ふぅ…」

 

 

「お疲れ様…♪」

 

 

あれだけ激しい戦闘だ、その影響で気が抜けているのか少しお疲れ気味で手すりに寄りかかっている焔に飲み物を差し出す春香。そのままとなりに立って同じように寄りかかる。

 

 

「ごめんねぇ…本当は無事で大淀を返したかったけど…」

 

 

飲み物を受け取りつつ少し申し訳なさそうに話す焔、やはり彼女なりに気にはしていたのだろう。だが春香は首を振って笑みを見せて、

 

 

「むしろよく頑張ってくれたほうだよ♪それにあれはアンラッキーショットだから私でも避けれない自信あったし…(汗)」

 

 

「そうかな…?」

 

 

「うん♪みんなも怪我はないみたいだし♪焔やみんなが頑張ってくれたお陰でシュペーの乗組員を救えたんだから…!誇ってもいいと思うよ♪」

 

 

「ハル……」

 

 

「むしろお礼言わせて欲しいくらいだよ♪ありがとうね♪ホノちゃん…!」

 

 

いくら運が悪かったとは言え、大淀を損傷させてしまったことに少し罪悪感を感じていた焔であったが、それを全く感じさせないような笑みを浮かべている春香を見て少し表情が緩む。

 

 

「もう…♪相変わらずそこは艦長になっても変わらないんだから…(クスッ)♪あっ…そういえば帽子返してなかったね…(汗)」

 

 

話に夢中で忘れかけていたことを思い出した焔は頭に被っていた艦長帽子をとって春香の頭に被らせる。

 

 

「ちょっと遅くなったけど…、現時刻を持って艦長権限を返還します…♪」

 

 

「了解♪艦長権限の返還を確認したよ♪」

 

 

 

 

「っとそういえば…、シュペーはこのあとどうするんだ?」

 

 

美味しそうに食べていた上里であったが思い出したかのようにテアにある質問を投げ掛ける。ミーナに食べさせて貰っていた彼女であったが、質問をされたことで一度口にいれたものを食べてから口を開く。

 

 

「ひとまず乗組員の検査と修理があるからゼーアドラー基地に寄港する予定だ。」

 

 

「ということはちょっとしたお別れかなぁ……」

 

 

高嶋の放ったこの言葉を聞いて、話を聞いていた幸子とミーナの表情が少し複雑そうになる。幸子に関しては悟られまいとこっそりと艦内に戻っていくのであった。

 

 

 

 

 

 

それから楽しい時間というのはあっという間に過ぎると言うものだ…。賑わいを見せていた懇親会は日が暮れるとともに終わりを見せる。

 

 

「あっという間だったねぇ~…」

 

 

「確かにね…、楽しいことって本当あっという間に過ぎるものだわ…」

 

 

晴風の甲板で手すりに寄りかかりつつ春香と明乃は片付けを終えて出港準備に終われているシュペーを眺めていた。

 

感染が収まったとはいえ、乗組員の精密な検査は必要不可欠であり更には戦闘で損傷した部分の修理のため、アドミラルシュペーは近海にあるドイツ海軍基地、ゼーアドラー基地に向かうことに…

 

そのため晴風と大淀とはここでお別れとなる。お互いに名残惜しそうにそれぞれの艦を見つつ最終作業に終われていた。

 

 

「それじゃそろそろ大淀に戻るわ…♪シュペーがそろそろ出港しそうだし」

 

 

「わかった…♪」

 

 

そう明乃に告げた春香は軽く手を振って大淀へと戻っていくのであった…。

 

 

 

 

 

 

「艦長!間もなくアドミラルシュペーが出港します!!」

 

 

「警笛用意!!総員帽ふれ!!」

 

 

見張りの望からの報告を受けて春香は号令をかける。甲板には大淀乗組員全員が集まっており、帽子をふったり手を振ったりして別れを惜しんでいた。

 

 

それはシュペーや晴風も同様で、帽ふれや敬礼、はたまた手を振ったりとそれぞれの形で見送っていた。中でもミーナと幸子は互いに他の子達に負けない大きな声を出しつつ手を振っている。

 

 

「ミーちゃん!!また会おうね!!」

 

 

「当たり前じゃ!!船乗りなら…!!またどこかであえるけん!!永遠のお別れってことじゃないで!!」

 

 

二人の声を書き消さない程度に配慮してか、少し低めで大淀から警笛が鳴らされる。マストには「U.W」旗が掲げられいる。

 

大淀の警笛に答えるように、シュペーも警笛を鳴らしながらゆっくりと水平線の向こうに消えていくのであった。

 

 

 

 

 

 

「出港用意!!錨上げ!!」

 

 

シュペーと分かれて少ししたぐらいだろうか、先ほどのしみじみとした別れの雰囲気がまるで嘘かのように両艦では慌ただしい出港準備に終われていた。

 

 

「機関室!!蒸気圧!!出力ともに正常です!!いつでもいけます!!」

 

 

「大破した武装はとりあえず布で覆っておいたよ…!」

 

 

「電探!見張りともに周辺警戒を厳となして…!!こっちは無防備みたいなもんだから異変は逐次報告をお願い…!!」

 

 

「こちら見張り、了解した!」

 

 

「電信員もオッケーです!!」

 

 

「集合時間だいぶ過ぎちゃったから急ぐわよ!!両舷強速!!面舵15度!」

 

 

「だいぶ飛ばしてるね~艦長~、両舷強速~。面舵15度にするね~」

 

 

どうやら明石と間宮の合流時間を大幅に過ぎていたらしい、出港用意が完了するとともに晴風が先頭でそれに続くように大淀がちょっと飛ばし気味でゆっくりと動き出していく。

 

 

「向こうには一応遅れるとは連絡は入れておきましたが~」

 

 

「でも待たせ過ぎてもあれだしね…!ご機嫌斜めになる前に早くいきましょうか…!」

 

 

とりあえず遅れるとはちゃんと連絡を入れて相手からも了承の返信が返っては来ているがやはり待たせ過ぎるのも失礼なため二艦は単縦陣で航行しつつ合流地点であるモルッカ諸島に進路を変更する。

 

 

「現在、周辺に艦影と思われる反応なし!!無線も異変はありません!」

 

 

「警戒態勢を維持!!どこで感染した学生艦と蜂会うか分からないわ!!今日は徹夜覚悟で職務にあたって!」

 

 

「ひぇ~、焔副長が張り切ってるよ~(汗)」

 

 

「徹夜…」

 

 

艦長である春香よりも張り切っている焔の指示を受けて高嶋と小野瀬が苦笑いでその様子を眺めている。

 

 

 

 

 

暗闇に包まれた海面、そんな中灯火管制をしかれた二艦は暗闇に紛れ込むように航海灯を光らせて少し急ぎめに月夜に照らされながら航行するのであった。

 

 

 

 

 





懇親会が終わり
シュペーと別れた大淀と晴風は、明石と間宮に合流するためにモルッカ諸島に向けて急ぎめの航海をするのであった。


そして…新武装とはなんなのか…?気になりますな…


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EP29 パーシアス作戦



(大変おまたせしましたー
久しぶりの投稿です)

今回は大淀乗組員の会話メイン回です。
ご了承ください


 

 

5月5日

 

 

 

「こっこれは…!!」

 

 

 

シュペー救出作戦を終えてミーナ達と別れた晴風、大淀乗組員一行は工作艦明石や給糧艦間宮と合流するためにモルッカ諸島へ訪れていた。もちろんここで合流したのもシュペーや比叡戦で損傷した部位の応急修理や部品交換、そして食料や日用品などの補充を兼ねているから。

 

 

もちろん現在進行系で作業は進んでいるようで、明石と並ぶように停泊していた大淀の前部甲板では何人かの乗組員生徒達が集まっていた。…しかしその中で一人だけ明らかにキラキラさせている人物がおり……

 

 

 

「これってドイツの20.3cm砲じゃないですか…!一体なんでこれが…ってかそれよりも写真写真っ…!」パシャャャ!!

 

 

「…上里さん張り切ってますね……(汗)」

 

 

「あはは…(汗)やっぱこっち系の趣味があると興奮しちゃうんだろうねぇ」

 

 

 

大淀の前部甲板、以前は妙高などでも使われてシュペー戦で大破してしまった20.3cm砲は既に撤去されており新たにそこには日本の巡洋艦が搭載しているものとは明らかに違う角ばった砲塔がそこにあった。

 

そんな主砲下ではかなり興奮気味状態の上里が目を輝かせておりスマホ片手に四方八方から新しく換装した砲塔を写真に収めている。

 

 

相変わらずというか彼女らしいなと思わず苦笑いで見ている高嶋や小野瀬を横目に見ながら羽南は明石艦長である杉本に視線を向けながら尋ねていく。

 

 

 

「あの…これは一体…?」

 

 

「…シュペーのテア艦長とミーナ副長から大淀に渡すように言われてた装備だよ…」

   

 

「えっ?シュペーの子達から…ですか?」

 

 

 

「うん…、見た目は普通のSKC/34 20.3cm(60口径)砲と何ら変わりないけど、既存のよりも射程、火力、精度が格段に強化されててシステムも最新式だからほとんど別物って言っていいかな?」

 

 

「別物……」 

 

 

「というか君たちホント凄いよねー…、こんな装備を他国でしかも学生艦で運用出来るなんて滅多にないよ…」

 

 

「ふぇ〜?それはどいうことですか?」

 

 

 

どうやらこれはシュペーのミーナやテアから大淀に渡すように言われていた装備らしく、杉本の話を聞いた羽南は驚きの表情を浮かべていた。

 

もちろん事前にその話を本人から聞かされていた春香(ここにはいないが)はそのことを明かしていないため、大淀乗組員のほとんどは知らないということに。

 

 

経緯を聞いた羽南達は再び興味深そうな雰囲気で新しい武装を見上げていくが、そんな一同を見てふと杉本がポツリと意味ありげなことを口にする。それを聞いた晴は相変わらずマイペースな口調で話しながらそれはどいうことかと首を傾げながら尋ねていく。

 

  

 

「…だって、その主砲つい最近本国のドイツで技術を集約されて開発されたモノホンの新型らしいよー。しかも向こうでもまだ全く配備されてないみたい、だから実質君たちが最初に使えるってことだねぇ」

 

 

「ほほーっ、まだ本国で運用されてない新型主砲を私達が最初に使えるなんて誇らしi……えぇぇぇぇ!!??」

 

 

 

晴の質問にいつもの雰囲気で杉本は答えていくがしれっととんでもないことを口走る。それがあまりにも自然過ぎたためそのまま頷きながら流しかけた上里であったが、直後辺りに響き渡るレベルの絶叫を響かせた。

 

 

 

「えっあっそれって本当なんですか…!?」ガハツ

 

 

「えっ、そうだよ…?シュペー艦長本人がそう言うんだからそれは間違いないかな…。丁度実戦でのデータが欲しかったからタイミング良かったって満面の笑みしてたし」

 

 

「…いくら実戦データが欲しいからってそんな技術集約したような砲をポンって渡すかなぁ…(汗)」

 

 

「…確かに杉本さんの言う通り既存のSKC/34 20.3cm砲よりも格段に性能が爆上がりしてますね…。火力や精度に関しては前積んでた20.3cm砲よりもかなり上ですよ…」

 

 

「…というか君たちの艦長さんからその話は聞いてなかったの?なんかテア艦長は伝えたってニコニコしながら答えてたけど…」

 

 

 

驚きを露にしている上里の隣でそれは本当なのかという口調で小野瀬が突っかかるように食い込み気味で話す。そんな彼女に対し、少し驚きはしたもののそうだよ?と答えながらその時のテアの心境を語っていた。

 

まさかそんな本国でも運用していないどころか試作段階の兵器を簡単に他国艦に渡すもんなのかなと、羽南は苦笑いをしつつ頭を抱えていた。その隣では柚乃がタブレットで既存のSKC/34 20.3cm砲のデータと比べながら本当だという表情を浮かべている。

 

 

ってきり艦長からその情報を共有されているもんだと思っていた杉本は、そんなわちゃわちゃな艦橋組を見て春香から聞かされてないのかと不思議そうな表情をしながら首を傾げていく。

 

 

 

「えっあっいや…艦長からは特に何も…」

 

 

「…もしかしてさっき別れる時にやけに艦長ニヤニヤしてた…、艦長らしくないなーっていうくらいの笑みだったから不思議に思ってたけど…。まさかこれを知ってて…」

 

 

「…たぶんドッキリとして言わなかったんでしょうね…(汗)ホノらしいというかなんというか…」

 

 

「…なんだ大淀の艦長みんなに秘密にしてたんだ、それならこの反応も納得だね…。…あっこれ換装した武装に関するデータが入ったUSB」スッ

 

 

「あっありがとうございます(受け取り)、そういえば艦長の話で思い出しましたけど春香さんはいずこへ行ったのでしょうか…?」

 

 

 

特に春香から何も聞かされていないと高嶋が眉を細めながら答えると、そういえばさっき艦長と別れる際に何やらニヤニヤしてたことをふと思い出した上里がこれのことだったのかという納得の表情を浮かべている。

 

羽南の付け加えるようなセリフを聞いた杉本は、そりゃあんな反応するしみんな知らないよねという納得の顔を浮かべながら今回の武装交換分のデータが入ったUSBをポケットから取り出して手渡していく。

 

 

そんな二人を見ていた小野瀬がそういえば春香はどこへ行ったのかという疑問を口にした。杉本と合流する前に用事があるといってその場を後にしてから一向に戻ってくる気配がない。

 

 

 

「確かに小野瀬の言う通りですね…ハル何してるんだろ……(少し心配そうに)」

 

 

「どーせ用事っても武蔵捜索に関する件だろっ?なら心配することはないさ」

 

 

「うん……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大淀艦長室

 

 

「……パーシアス作戦…」

 

 

 

艦橋組が噂しているのとほぼ同時刻、艦長室の室内では春香がいつになく神妙な表情で何枚もホッチキスではせられたとある紙の束に目を通していた。その表紙には大きな文字で書かれた『パーシアス作戦』という文字が…

 

 

 

「武蔵捜索に学生艦の参加を認める…、とは言えど流石に主力はブルーマーメイドになるから私達はいざという予備戦力として本土近海で待機…」

 

ー…とは言えど武蔵の所在が分からないからその通りに行くか…、最終航路からしてフィリピン方面なのは間違いないけど…。なんか引っかかる…ー

 

 

 

どうやらこの書類は現在行方を眩ませている武蔵捜索や戦闘に学生艦の参加を許可させるというもので、様々なことが書かれていた。もちろん表紙には作戦の許可として『横須賀女子海洋学校』や『海上安全整備局』、『国交省』などの印鑑が押されている。

 

本来であれば危険を伴うような作戦に学生艦の参加許可なぞ降りないがそうも言ってられないのが現状。舞鶴の教員艦隊は先の武蔵との戦闘でそのほとんどの戦力を失っている状態であり、ホワイトドルフィンも他の事情で参加不可となれば実質的に動かせるのはブルーマーメイドの艦艇のみ。

 

 

そうなれば現在の戦力で武蔵を止められるかという非常に怪しい状態ということになる上、例の通信障害もあるため現在のシステムで構成されたブルマー艦艇では教員艦隊の二の舞いに成りかねない。

 

それに現状最終航路から過程してフィリピンへ向かってはいるものの万が一の事態もあり得るため、予備戦力として残して置きたいというのが本音だろう。

 

 

書類に一通り目を通していた春香は、なりふり構ってられない状況なんだなっと言うことを改めて確認しつつ果たしてその通りに物事が進むのかと疑問の表情をしていた。確かに今までの比叡やシュペーなどの動きからすれば武蔵がフィリピンへ向かっているのは誰でも想像出来る。

 

ウィルスに感染すると動きが単調になりやすいため、軽く徴発すれば簡単に乗ってくるし複雑な航路はほとんど取らない。…それなら武蔵が突然日本近海に現れることもないのだが、彼女の心情はどこか落ち着きがなく何か嫌な予感を感じていた。

 

 

 

「とりあえず…晴風にも情報が言ってるだろうから出発する前にみんなに情報共有しておこう…」ガチャ

 

 

 

だが今気にしてても何かが変わるというものでもないため、とりあえずはこの情報をみんなや晴風と共有しておくことにした春香は書類片手に艦長室の扉を開けて部屋を後にしていくのであった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同時刻

太平洋側

日本近海にて…

 

 

 

辺り一帯に濃厚な霧が発生しているせいかほとんど周りが見えないと言ってもいい海域、しかし波は比較的穏やかのようで静かな時間が続いていく。

 

 

 

ザザーン……

 

 

 

…がそんな静かな雰囲気を一変させるように霧の中からゆっくりと大きな影が近づいてきた。それは漁船や小型艇とは全く比べ物にならないほどであり、聳え立つ中央の構造物はまるで鋼鉄の城を模様しているようにも見える。

 

 

 

「…一体…どこに向かってるの…、…誰か…武蔵を止めて………」

 

 

 

鋼鉄の城と言ってもいい構造、艦橋とも言える場所の上部一角では窓から外の様子を見ていたもえかの姿が…。自分達のいる場所以外がウィルスによって汚染されてしまい、制御が効かなくなった武蔵の行く末をただただ見つめていた。

 

一体これからどうなってしまうのか、果たして武蔵はどこへと向かっているのか…?そんなことを考えていた彼女はポツリと呟くように届きもしない助けの声を嘆いてしまう。…だがそんなことは知らんというばかりに、ウィルスによって制御が効かなくなった大型直接教育艦『武蔵』は目的がなく絶望に包まれた航海を続けていくのであった。

 

 

 

 

 

 






ついにテア艦長がいっていた新装備が明かされましたね。
見た目はプリンツ・オイゲンなどに搭載されているSKC/34 20.3cm(60口径)砲と変わりはありませんがなにやら魔改造されているとのこと。

というかテア艦長そんなヤバそうな兵器どっから入手したんですか()




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EP30 緊急事態




(すごくお久しぶりです
創作意欲がなかなかわかなかったのでかなり期間が空いてしまいました。申し訳ございませぬ


これからぼちぼち投稿していこうと思いますので何卒よろしくお願い致します)




 

 

 

 

5月4日 

0520

 

 

「レーダーはどうだ?」

 

「異常ありません、不審な水上艦艇及び潜水艦も確認できず。平和みたいなものです」

 

「そうか…、なら良いんだがな」

 

 

静岡県沖を航行していたホワイドドルフィン所属の第1戦隊、護衛艦ときつかぜのCICでは不審な艦艇などがいないかレーダーによる随時チェックが行われていた。

 

…が特にこれと言って怪しい船などは確認できず、正直言って平和とも見て取れるような時間が流れる。

 

 

「…武蔵はフィリピン方面に向かったとのことですし、我々に出番は無さそうですね」

 

「そもそも近海警備ってことで俺たち旧型艦が残されたんだ、こんなときに来られても困るよ」

 

「まあウィルスに感染した人間は動きが単調になりやすいってことですし…、わざわざフィリピンから引き返すことはないでしょう」

 

 

実際、武蔵が向かったと思われるフィリピン方面が主戦場になるということでブルーマーメイドの主力は予備を残してそっち方面に回されているようだ。

 

もちろんホワイト・ドルフィンも例外ではなく、日本海の警備に加えフィリピン方面へ増援へと送られているとのこと。

そのため一番旧式である護衛艦ときつかぜ(モデルは練習護衛艦しまかぜ)が近海警備として残されている。

 

 

「まあどっちにしろ本土に座礁船の船とかウィルスに関しての情報やらで合流出来なかったんだ、無理もねぇ」 

 

「とは言え大丈夫でしょうか?…教員艦隊の件もありますし…」

 

「考えたったて仕方ないよ、無事に成功することを祈るほかないだろ。ってかそうしてもらわにゃ困る」

 

「それにうちのダブルエースが居るんだ。きっとどうにかしてくれるさ」 

  

 

どうやら旧式以外にもウィルスやらなんやらの報告をしていたら乗り遅れてしまったのも関係している様子。

とは言え相手は数で勝る教員艦隊を壊滅させかけた武蔵、いくら戦力を結集してるからと言って彼らからすれ心配だろう。

 

しかし気にしててもどうにかできるはずも無く、今は与えられた役目を全うすることにした乗組員は再び与えられた役目をこなすのであった。

 

 

 

 

 

 

ピコーン

ピコーン(白点表示)

 

「ん?艦長これって…」

 

「なんだ…?(画面を見て)不明艦か…」

 

 

それからしばらくして何気なくレーダーを見ていた乗組員だが突如表示された不明艦が映されたことに気づいて、艦長へ報告。

 

艦長もそれを聞くとスクリーンが見える位置へと移動していく

 

 

「まさかこのタイミングで領海侵入でしょうか…?」

 

「…いやそれなら日本海側や沖縄沖に展開している艦が見つけてる、方角からしてそれはないな」

 

「ではこれの反応は…方角からしてフィリピン方向なのは確実ですが…」

 

「……無人機があれば確かめたんだがな、とりあえず監視とh…」ビーッビーッ

 

 

まさかこの状況で領海侵入か…そう乗組員が不安な口ぶりで呟くが、艦長は方角や他の艦からの情報を鑑みそれはありえないと断言。

 

とは言え直接確かめるには情報が少なすぎるため、ひとまず監視と報告をするように指示をしかけた直後。

戦闘指揮所に響き渡るほどの警報が鳴り響いた。

 

 

「……!?艦長!不明艦は武蔵!武蔵です!!」

 

「はぁ!?なんだと、馬鹿な事言うな!武蔵はフィリピンに向かってるはずだろ!」

 

「そっそのはずなのですが…一瞬武蔵らしき反応を……」

 

「ちっ…!(こんな時に!)至急ブルマーとホワイト・ドルフィン司令部!あと海上安全整備局に連絡を……!」

 

 

 

 

 

5月4日

0630

 

ブルーマーメイド

日本支部 総合司令本部

 

 

「…現在までに確認されている状況を報告致します」

 

 

それから間もなくして、ブルーマーメイドの日本支部。その中で武蔵などの行方不明艦に対する専門部門として臨時に組織された総合司令本部では慌ただしい雰囲気に包まれていた。

 

…指揮官を任されている宗谷真霜は美人な顔つきに見合わないほどに焦りを見せながら、部下の報告に耳を傾ける。 

 

 

「静岡沖を航行していた混成艦隊所属のときつかぜが武蔵らしき反応をキャッチ、一瞬ではありましたが…」

 

「それと同時に、富士の遠水平線レーダーが大型艦を補足。ときつかぜからの情報と照らし合わせてもこれが武蔵なのは確実」

 

「…はぁ、最悪な事態になったわね…。フィリピン方面に戦力を集中させたのが仇になるとは」ハァ

 

 

どうやらときつかぜと同じタイミングで富士の遠水平線レーダーが大型艦を捕捉、情報を照らし合わせたことでこれが武蔵なのは確実のようだ。

 

まさか戦力集中が返って仇になるとは…そんなことを思いながらも真霜はため息を付きつつ引き続き報告を聞いていく。

 

 

「武蔵の状況は?」

 

「現在ときつかぜが距離を保ちつつ監視を継続、相変わらずビーコンは切っていますし無線による応答もナシと…」

 

「…それと、これはときつかぜからの報告ですが。このままの進路で行くとあと3時間で浦賀水道に侵入するとのことです」

 

「…出来れば聞きたくない報告。間違いなく今の浦賀水道に入られたら首都機能は完全麻痺よ」

 

 

現在ときつかぜが武蔵と距離を保ちつつ航行、監視を継続しているため情報が逐次入ってくるのは幸い。しかしそれによって武蔵の予想進路に浦賀水道が入っていることを聞くと、聞きたくない報告に思わず頭を抱えてしまう。

 

 

「…とりあえずこのことをすぐに海上安全整備局及び政府機関へ伝えて、最悪避難誘導も視野ね…。今動かせる艦は?」

 

「武蔵を監視しているホワイト・ドルフィン所属の護衛艦ときつかぜ、そして九州沖に予備として待機させている平賀・福内の別働隊…」

 

「…それと瀬戸内海沖に停泊しているブルーマーメイド第ニ戦隊所属のあきつか及びあきたかがいます」

 

「何隻か本土に残してくれた咲監督官に感謝ね、精鋭の第二戦隊がいるだけでも幾分か気持ちは楽だわ…」

 

 

現在浦賀水道付近、及び東京湾はほとんどの戦力が出払っており蛻の殻。つまり完全に無防備な状態であり万が一侵入でもされた場合、首都機能が麻痺、最悪の場合火の海になりかねないのだ。

 

とは言えブルーマーメイドでも精鋭と言える第二戦隊所属の2隻が残ってくれてるだけまだ良い方だろう。

 

 

「それと武蔵へ向かえる艦艇としては近海で停泊中の晴風、大淀の2隻もいます。ときつかぜを除けば最短で接触出来る距離かと…」

 

「…出来れば生徒に任せたくはない、けど流石に旧式のときつかぜ単艦は避けたいわね…」

 

 

他にブルマーより(ときつかぜを除き)最もすぐに駆けつける距離にいるのが晴風、大淀の2隻と伝えられると真霜はどうしたものかと考える。

相手は生徒艦と言え教員艦隊をほぼ壊滅させた戦艦、駆逐艦及び軽巡でさえ荷が重いのに生徒にそんな危険な接触は避けたいもの。

 

だが旧式であるときつかぜ単艦を接敵させ続けるにはリスクが大きすぎてしまう、それに大淀は最新鋭のレーダーやシステムが乗っていることから情報収集には効率的なのも事実。

 

 

「宗谷校長には私から伝えておきます、それと生徒にも。とりあえず今は武蔵の詳しい位置を各艦へ共有を」

 

「分かりました」

 

 

 

 

 

 

横須賀女子海洋学校

ブリーフィングルームにて

 

『我々は現在石垣島南方を40ノットで航行中、とにかく急行します!!』ピピッ

 

「はぁ…、フィリピン方面に戦力を集中させたのが仇になったわね」

 

 

続々と急行であるという報告が入る中、まさか戦力集中がここまで自分たちの首を締め付けることになるのか…と校長である真雪はため息を溢す。

 

 

『現状すぐに動かせるのは、武蔵を追尾してるホワイト・ドルフィンのときつかぜ、そして平賀・福内の別働隊と、第二戦隊所属の2隻が…。それと大淀と晴風も…』

 

「まだ精鋭の第二戦隊がいるだけでもマシかと…、もし咲監督官が残してくれなかったら戦力はこれよりも下です」

 

「とは言え相手は東舞校所属の教員艦隊を壊滅させかけた武蔵、…これだけの戦力で足りるかどうが」

 

『尚晴風及び大淀はすぐに向かえる位置にいます。私としては旧式のときつかぜと共同で追跡をさせるべきかと』

 

「…流石に生徒を巻き込むわけにはいかないわ真霜、他に動かせる船はないの?」

 

 

一応動かせる艦艇については話を聞いているが、海江田教官の言う通りこれだけの戦力で足りるかという不安もある。もちろん生徒の船、とくにあの大淀及び晴風が最も近くにいるという話も真霜から受けるが

 

流石に今回はあまり参加させたくないようで、他に出せる艦艇がいるかどうか再度確かめる。

 

 

「一応ドッグに一隻…、けどそれも出せるかどうか」

 

「宗谷校長、このまま行けば武蔵はあと3時間で浦賀水道に入ります。あんな戦艦に入られたら間違いなく……」

 

『…大淀は教育艦で最新鋭のレーダーシステムを搭載しています。直接的な戦闘をしなくても後方支援なら……』

 

 

しかしそんな猶予がないのは解っていることで、尚且つ大淀の搭載しているシステムは下手をすればブルマーやホワイト・ドルフィン所属の艦艇に近いレベル。

 

戦闘をさせなくても監視任務をさせるには適しており、その護衛に晴風がつくのは必然。娘である真霜からの進言を聞いて覚悟を決めたらしい。

 

 

「…2隻に武蔵の詳細な位置は報告した?」

 

『はい、既に報告済みです』

 

「すぐに武蔵へ向かうように伝えて、ただし戦闘は駄目。ときつかぜと共同で監視に当たるように徹底させなさい」

 

『分かりました、では』ピピッ

 

 

 

 

九州沖

沿海域戦闘艦『みくら』艦長室

 

 

「…はい、はい。分かりました、すぐに準備に取り掛かります」ピッ

 

「面倒なことになったわね…、平賀さん」

 

 

それから少しして九州沖で待機していたブルマーの別働隊(予備)にも連絡は言っており、真霜からの詳細報告を聞いた福内・平賀の二人は芳しくない表情を浮かべる。

 

 

「一応例のウィルス用ワクチンや突入部隊の準備はしていたけど…、まさか武蔵がこっちに来るとは」

 

「RATに感染した人間は動きが単調になるとは聞きますが…、案外複雑な動きもできるのかな」

 

「フェイントは恐らく偶然よ平賀さん、けどその偶然がこっちに来てしまったというところね」

 

「こっちは4隻、最悪ホワイト・ドルフィンと第二戦隊の精鋭2隻が居るとは言え…楽ではないですよ」

 

 

もちろん最悪の事態に備えて別働隊として待機していた艦隊は、ウィルス感染した学生艦に乗り込めるようにワクチンや突入部隊を用意していたためすぐに出れる。

 

しかし何度もいうが相手は教員艦隊を壊滅させかけた戦艦、たかが旧式護衛艦や最新鋭とはいえ沿海域戦闘艦クラスで止められるとは思えない。

 

 

「…どっちにしろやるしかないわ、主力はほとんどフィリピンに出払ってる。他に手はないもの」

 

「そうだね、私達は私達でやれることをやりましょう。腐ってもブルーマーメイドなんだし」

 

「ええっ、意地ってものを見せましょうか。生徒達にこれ以上辛い思いをさせたくありませんから」

 

 

とはいえ他に動かせる艦隊が居ない以上、武蔵は自分たちで止める他ない。生徒のためにも…そして海の安全をブルーマーメイドとしての責務を果たすために…

 

そんなことを思いながら二人は目を見合わせつつ、笑みを浮かべながら自分たちの役目を果たそうと行動を起こすのであった。

 

 

 



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