自称平和主義者の少女戦記 (MAGA翡翠)
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割と陰鬱めなエピローグ
二次創作、戦記物初めてです。諸々大目に見ていただければ…幸いです。
WEB版6割、原作2割・オリジナル要素2割位の準拠率かなと。
僕は戦争なんて対岸の火事の話だと思っていた内の一人。
あの時は年齢的にもまだ高校生だったのだから。
最近の趣味は専らパズルゲームとか、証拠を集めたりして心理戦もある裁判ゲームとかを好んでいた。ゲームが趣味、と云われればそうかもしれない。
けど最近は新型のウイルスの件とかもあるし、僕だけではなく全国的に人間の余暇活動は内向きになってしまうと思う。
そんな割とどこにでもいるような学生だったけど、実は最近親にも内緒で行っていたネット活動があった……。
ん、動画サイトの配信とかでナニか目立つ事をしてお金を稼ぐとか?
個人的にはそういうお手軽金儲け的な事はしないポリシーだった。
全然別にお金目的ではないし、全然そういう系統の趣味ではなかったと思っている。
そう、僕が扱ったのはいわゆる
言わずと知れた先のアメリカの大統領選から端を発した。インターネット上で真偽不明の情報が錯綜した一連の騒動のあれこれだった。
……まあこういうのも未成年にとって系統(ジャンル)的には余り健全、とは言えないのかもしれないけれど。
それでも、素人目からでもあの大統領選は相当「匂う」と思っていた。
マスコミに叩かれまくっている方の候補者は確かに言動的にはきついけど経歴や家族構成的には非常に真っ当なのだから。
一方の筆頭候補は本人にも淫行疑惑があるし、なぜか家族に行方不明者が続出して生活が荒れ放題の親類(スキャンダラス)だらけなのに……。
本来スキャンダルが大好きなはずのマスコミは一切その事には触れもしない。
少なくともこの点だけは不自然だった。
真面目な話、ほとんど全てのマスコミが一人の候補を一方的に叩くなんて余り報道の体制としてちょっと平等ではないと思ってしまった。
まあ……民間向けの報道なんてそんなものなのかもしれないけど。
結局叩かれていた候補は負けたし、彼の一部の過激な支持者達を煽る発言をしたとして最後の最後まで叩かれてた。
けどやっぱりなんか納得できなかったし……ちょっとおかしいと感じたのだ。
別に僕は名門出でもない、どこぞの高校の一学生の身分であれど。
この時、報道機関(マスゴミ)に対する不信感をかなり持っていた。
確かにネット上の情報だけが全て正しい、とは限らないだろうけど。
偏向報道、とネットで揶揄される理由もあるんだと痛烈に感じた。
そこでこの一連の事項について深い疑問に陥った僕は、自分なりにまず情報を精査してまとめ、SNS上で考察なんかを交えて、自分の意見として発表してみた。
すると続々と賛同者(フォロワー)が集まって、そして反対意見者(アンチ君)もわんさかと僕のアカウントに沸いきてアンチコメントをよこして来た。
それでも着々とSNS上の賛同者も続々と増え、その声援に圧されたのか段々とアンチの声が少なくなっていくのがわかった。
その時はしてやったり……と思って僕は胸がすく気持ちだったのを覚えている。
「なんか、最近はゲームもあんまり面白くないな……」
高校からの帰り、今日は一人でスマホを片手にそんなことを思っていた。
黄色い線の内側に入って電車が駅のホームに来るのを待っている。
しばらくすると特急電車が来た、あれはこの駅には止まらない。
「えッ……?」
仰天した、僕は理不尽に誰かにホーム内へと突き落とされたのだ。
なすすべもなく、呆けたまま僕は電車に撥ねられた。
僕はこの時、君子危うきに近づかず……ということわざを思い出した。
著名人とかが政治的な発言を控える理由の一端が分かった気がする。
そう、良くも悪くも政治ネタは荒れてしまう。
なにより近頃は物騒な世の中、いつどこで人の恨みを買ってしまうかわかったものではないのだから。
けど一般学生の僕を駅のホームに突き落とすという、野蛮な行為。
そこにも何者か達の思惑があったのか、単なるイカれた人間の逆恨みなのか……それは今となってはわからない。
賛同者の人には、貴方は愛国者だとか〇派の鏡だ、とかそんなことを言われて褒められて正直気分としては然程悪くはなかったけど。
僕が欲しかったのは称賛の声とかではなかった。
なによりも僕は世の中の、本当のことが知りたかったのだとおもう。
やり残したこともたくさんあるし、親や友達にも悪いことをしたなと痛感させられた。
けどもう遅い。
特急列車とぶつかったわけだし、僕はもう間違いなく死んだのだろうから。
自分の人生に後悔を感じたまま。こうして僕はその短い生涯に幕を閉じたはずだった。
だったはず。
「いてて……??」
なのに次の瞬間には、なぜか見慣れぬ部屋のベッドの横でこうして尻餅をついているのは何故だろう。
……やっぱり世のなかには科学だけでは説明できない、摩訶不思議なことが沢山あるらしい。
僕はフラフラしながらも何とか立ち上がって、窓へと近づく。
そして硬い窓ガラスを開け、食い入るように外の景色を見た。
「ここは……?」
まず目に入ったのは凸凹に舗装された道路。その舗装状態はあまり良くないようだ。
その道路を行きかうのは、レトロすぎて逆に斬新なデザインの自動車の群れ。
えと、どこだろう……ここって、ヨーロッパ?
いや北欧とかにしても町全体の作りが古臭すぎる、ような感じも。
「遠くで煙が出ている」
そして遠方には巨大な煙突が数本、そこからド図黒く巨大な煙がもうもうと上空に立ち上っているのが目を引く。
よく見るとどこもかしこも煙突からは煙が出ていて、町中煙だらけで少し空気が悪い。
「っ……煙くさい」
煙が流れてきたので僕は溜まらず窓を閉めた。
戦争でも近いのだろうか、工場関連の施設はフル稼働らしい。
もしかして僕は異世界に転生してしまった系のアレ?
それにしてはよくある中世ではなく、産業革命直後な感じで珍しい。
ため息を吐きながら床を見ると、この部屋にはやや場違いな現代的な本があった。
「こんな本……確かこんな所にはなかったはず」
そう、この部屋には古書しか置いてなかった。
ここは「今世」の僕が誰より知る、「父親」の所蔵部屋なのだから。
「……今までのことを思い出した」
床に無造作に横転した梯子を見て完全に思い出した。
そうだ……僕は本棚の上にある箱を取ろうとして、梯子から滑って床に頭を打ち付けたんだった。
頭を打ち付け前世を思い出す、異世界もの序盤でありがちなパターン。。
この肩まで伸びた灰色の髪を持つ、帝国軍人の次女で年齢は12歳。
今の僕の名前はイラル・マスルゥーレ、彼女に転生してしまっていたようだ。
なんていうかやっぱり女性に転生したのは……心理的に正直つらいなって。
女顔、と前世でも何回か揶揄されたことはあるけど、まさかこんなことになるなんて。
思い出した前世の記憶がスムーズに今世のそれと統合されたのか、不思議と今の身体や精神上の諸々の違和感はそれ以上は感じなかった。
今世の僕(イラル)は前世の記憶がないままでも自分の嗜好と同じく、あまり女の子らしいフリフリとした服装をしていなかったのは不幸中の幸い、なのかもしれない。
コンコン、とドアからノック音がした。
突然だったので少しびっくりした。
「イラル? 入るわよ」
「は、はい」
母親が入ってきた。
「大きな物音がしたけど……なにかあったの?」
「いや別に、ちょっとお尻を打ち付けた位で……心配はいらないです」
「まあ、そうなの……お尻を? 怪我には気をつけてね」
「あ、うん気を付けるから」
特に問題なし、と言って取りあえず母親を安心させ、部屋から出てもらった。
心配して来てくれた母親には悪いことしたけど、今は一人で情報の整理をさせてほしい。
気を取り直して本を手に取る。まごうことなき幼女戦記の本がそこにあった。
余暇として話題のラノベは一応全部買っていたし、この本も最初の数冊は買ったので僕も一応ファンとして数えられるだろう。
けどこの作中で起こるイベントを逐一事細かに思い出せるかというと。非常に怪しいレベル。
とりあえず僕は半端知識のニワカってことには違いない。
というか何でこの本がここにあるのかわからないけど、原作をうろ覚えの僕にはありがたかった。
本の内容の年表もあっているし街の地名も一致している。
どうやら僕はこの本の世界の住人になってしまったらしい……。
「この人もゲームとかやるんだ」
手元に存在する原作本、その行間にFPSという単語を読んで、ふと脳裏に記憶の一幕が蘇った。
数年前、とある太平洋戦争をモチーフにしたFPSゲームを友達の家でプレイした記憶。
ノリノリのアメリカ兵になりきって、悪い日本兵をぶっ倒していくゲーム……僕はその時、言い知れない忌避感を感じた。
FPSゲームが嫌いとかではないけど、こういう題材のはやりたくないな、と。
リアルに歴史上で起きた戦争については、当事者ではないので詳しくはない。
けど硫黄島の映画だったり。第二次大戦時の連合軍が初めてドイツに上陸・侵攻した史上最大の作戦を題材にした、あのグロめの映画も観たことあるし。
漠然と戦争とかはよくない、現実では起こってほしくないとは思っていた。
友達にそのことを話したら、「ゲームなんだから考えすぎだって」と茶化された……僕が異端なのだろうか。
余り御大層なことを言うつもりはないけど、ご先祖さまに対しては一応しっかりと敬うっていうか、まあ少なくとも恥じないように生きたい心持ち?
それって悪いことなのか……わからなかった、答えが見つからなかった。
まあそういうノリの話題はなんとなく、親とか友達にも言い難かったし。
政治のことについて相談できる人は余り周りに居なかったのを覚えてはいる。
それについて語りあえる場なんて、リアルではまずなかった気がするし。
……自分語りはまあまあこれくらいに、ちょっと状況を整理しようと思う。
改めて本のページをめくっていくうち、前世でこの本を読んでしばらく経ちあやふやだった記憶が鮮明になっていく。
幼女戦記の主役である軍人の幼女魔導師、ターニャ・デグレチャフに転生した人は元エリート・サラリーマンの男性……。
この世代は、戦争世代の子供の代? それかぎりぎり孫の世代だろうと思う。
戦争の恐ろしさとかは祖父母か両親から聞いているはずなのに。
改めて本を読んで再び湧き上がる疑問、なんでこの人は果てのない末期戦になんかに帝国を導いてしまうのだろう……。
彼女(彼?)がそうせざるを得ない理由でもあるのか。やっぱりこの神を名乗る存在Xが干渉したせいかな?
考察しつつ改めて目にした幼女戦記を全ページよみ終わり、あいからず刺激的な内容で面白かった。
「う~ん、このままならない感じ……」
僕はまるで他人事のようにつぶやく。いやそう呟かざるを得なかったのかもしれない。
まあ読者として見ている側は面白いだろうけど……絶対こんな世界には生まれたくはなかったし今の状況では全く僕の気分は晴れない。むしろ胸やけしそうである。
というかなんで僕がこんな世界に来たんだろう……この世界に見合うような軍事的な知識はさほど持ち合わせてもいないし。何か使命的なものでもあるとか?
あの暴走する元日本人、ターニャ・デグレチャフを止める事が出来れば、もしかしたら。僕は元の世界に戻れるんじゃ……。
運命論者ではないけど、淡い期待を抱きながらそこまで考えてしまった。
……嫌、だってこんなに狂った世界なのだから、一種のゲーム的な世界なのだろうと側面的に捉えて考えてなければ。
とてもじゃないけどこの先、気(正気)が持たないだろうしこの先やっていられないかもしれない。
もしかしたら、彼女(ターニャ)も同じように考えているのだろうか。
「仕方ない……それなら、早速動き出そう」
ある種の覚悟を決めて、渋々僕はこの人生を歩みだす。
本の史実によれば、僕の居る帝国は最早戦争待ったなし。
近いうちに硝煙が支配することになる灰色の大地。
そんなこの世界の「主役」である彼女、ターニャ・デグレチャフをひとまず止めるため僕は動くことにした。
いずれにしても、明確にそんな行動ができるのは同じ「日本人」である転生者である僕一人しか恐らくいないのだろうから。
なので、なるべく最善は尽くしてこの世界で生きたいと思った。
僕はこの部屋を出て一階に降り、父の居るリビングに向かう。
今日は休日なので、 少佐というそれなりの軍の階級に就く父は家で休みをとっている。
まあ親の名前は作中に出てくることもないし、いわゆる
この世界で自分を今まで育ててくれた、実の親へ向ける敬意はそんなこととは関係はない。
「父さん」
読んでいた新聞を一旦畳みつつ父さんは僕の方を見た。
「ん? どうしたイラル?」
「白銀……ターニャ・デグレチャフって知っていますか?」
「いいや、まったく知らないな。誰なんだそいつは?」
父さんはまだこの時点彼女の名前を知らないらしい。
けど小さい子供(幼女)が軍事学校に入隊するとなれば、少し位は軍の関係者の間で話題になるだろうし。
軍人の父さんが知らないってことはターニャはまだ士官学校にも通ってないはず。
先ずは孤児院にいるだろう彼女をどうにかしないとならない。善は急げだ。
陰 謀 論 に近づくべからず(教訓)
でも軍事と政治はセットな所あるし、政治に陰謀は付き物。仕方ないですよね……。
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