勇者部部員は壊れている (岩切 蓮夜)
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プロローグ:最悪の居場所

しょうがないじゃん…
私達だって、思春期なんだよ…?
人を虐めてなにがわるいの…?
■■ ■■


俺の通う讃州中学は至って普通の中学校だった。

朝登校して、昼飯食って、放課後に遊んで…

 

……でも、中学生活にも慣れてきた頃、俺は気づいてしまった。

 

明らかにおかしい部活が出来ていた事を。

 

気づいた時はすでに遅かった。

どうして、誰もあんなに怪しい部活が出来る事を疑問に思わなかったのか。

どうして、先生は誰一人としてあんな部活を作ることを止めなかったのか。

 

…なにより、なぜよりによって『あいつら』が部員となってしまったのか。

 

考えたって、もうどうにもならないのだが。

========================================

「友奈、東郷はいりまーす!」

 

朗らかで、騒がしい声とともに勇者部部室に来たのは「結城友奈」と「東郷美森」。

二人は俺と同じ、讃州中学2年のいわゆる美少女だ。

今日も可愛い。

 

「あっ!『和道(かずみち)』くん!もう来てたんだ!」

 

うるさいくらいの声で「結城友奈」は俺を見つけてはしゃぐ。

 

(来てたんだ、じゃねえよ…こっちは早く帰りたかったのに…)

 

「あぁまた風先輩に『捕まった』のね、あなたもあなたよ。部活しないで帰るなんて『有り得ない』のだから」

 

車椅子にすわる、年齢にそぐわない巨乳の持ち主、「東郷美森」は俺を軽く諌める。

 

…俺は別に、この部活に入りたかったわけではない。

そもそも、部活自体するつもりなんてなかったんだ。

 

…それがなんで…

 

思考を遮るように、「結城友奈」が俺に近づく。

 

「よく『3日間』も頑張ったね!もう『二度と』部活サボろうとしちゃダメだからね!風先輩が帰ってくるまで、反省するんだよ!」

 

あまりにも近すぎる至近距離でしばらくニコニコ笑っている友奈の顔は部室の電気が逆光となり、影で隠れている。

 

そう、それはまるで闇の中で悪魔が嘲笑うかのように。

 

「それじゃ、今日の見回り行ってきまーす!」

 

俺を見るのに飽きたのか、颯爽と部室を出ていってしまった。

 

俺は…なんとも言えない感情になって俯いた。

 

 

 

 

 

しばらくの間があった後だった。

急に近くでバタン、という音がした。

 

何かが、落ちるような音だった。

 

顔を上げる。

その刹那、東郷のドロップ缶を投げる姿が目に映る。

直後、激痛が走っている事に気づく。

 

(ガッッッッッ!??)

 

『物理的に』声の出せない俺は、声にならない悲痛の叫びを余儀なくされる。

 

「貴方如きの人間が友奈ちゃんに近づくな、って前にも言わなかったっけ?」

 

そんな酷すぎる言葉と彼女の所持物が多数飛んでくる。

 

頭の中では彼女の言葉の意図を探っていた。

 

しかし、そんな間も与えないくらいにペンやはさみが飛んでくるのだ。

 

なんで、、、こんな目に合わなければならないのか…

 

彼女が近くにある物をほとんど投げ終えたあと、静かにノートパソコンを持ち上げる。

 

(さすがに、、シャレにならないっ、、!)

 

と思うも彼女を静止する力は、今の『無力』の自分にはない。

恐らく、この打撃で俺は最低でも意識を落とすだろうと予測した。

もうダメだと感じた、

 

 

 

 

その時、勢い良く扉が開いた。

「はーいみんなちゅーもーく!部長の『犬吠埼 風』先輩がやって来たぞー!」

「…………」

 

大きな声で入り込んできた、この部活を作った張本人「犬吠埼 風」と

弱々しく風のあとをついてくるように、入ってきた可愛らしい「犬吠埼 樹」が佇んでいた。

「犬吠埼 風」は3年生で「犬吠埼 樹」は1年生の姉妹だ。

 

「あ、あちゃ〜取り込み中だったぁ?ごめ〜ん…」

 

「別にいいですよ、ちょっと『教育』を施していただけですから」

 

いきなりのことで、東郷も手を止めた。

一命をとりとめたのだ。

 

不意に安堵の表情を見せた俺は、運悪く「犬吠埼 風」の目に止まる。

 

「へぇ〜生きてたの。びっくりした〜、死んじゃってたらどうしようかと思った〜」

 

すると、「犬吠埼 樹」はどこからともなくキャンパスブックを取り出し、

【ゴキブリと張り合える生命力なんじゃないかな】

と書いてあるページを見せた。

 

すると、「犬吠埼 風」は爆笑する。

 

「ハハハッ!樹、その説面白すぎ!今度試すか!こいつとゴキブリだけ部屋に入れて、何も与えず一週間暮らさせてみるとか!」

 

さすがの俺もしびれを切らして、抗議しようとするも唸る事しかできない。

 

「あぁあぁ、忘れてた忘れてた、『喋りたくても喋れない』し、『動きたくても動けない』もんね〜」

 

風は『片目しかない』目をウインクさせながら、俺の体を縛る『ロープ』と口を塞ぐ『ガムテープ』を外す。

 

「ぷはっ!ゴブッァ!」

 

「汚え息吐くなよ、実際3日歯ぁ磨いてねえだろ」

 

「ッッ……!!」

 

息しただけで、金曜の放課後から何も食ってない空の腹に風の白いニーソックスを履いた美脚がぶちこまれた。

 

「結局、ロープ解いたって動かないじゃん、こいつ」

 

おもんねぇなぁ、と風が呟いている間に扉が開く音がまたひとつ。

 

それと同時に「はっ…」と悲哀に満ちた呼気のような声が響く。

 

それに気づいた風が声をかける。

 

「おっーす!『夏凛』!おつかれ〜、遅かったじゃない!」

 

樹も

【お疲れ様です】

と書かれたページを見せている。

 

入ってきたのは「三好 夏凛」。ちっさなツインテールと前髪が地味に特徴のあるスポーツ系女子だ。

 

そして、勇者部の中で『唯一』のまともな思考回路を持った部員。

 

 

…いや、正確には唯一思考回路が『狂わなかった』『勇者』である。

今は、俺の相談役にもなってくれている。

 

そんな『まとも』な人間がこの有様を見れば、どういった反応が正しいか

 

目に哀しみの涙を浮かべながら、重い口を開いた。

 

「あ…っ、おいっ!、、」

 

「?」

 

「何やってるんだよ、風!」

 

「なにって見ればわかるでしょ。サンドバッグ君で遊んであげてるのよ」

 

半笑いで答える。

樹が隣で

【それをいうなら、サンドバッ君でしょ】

なんて書いているが、「夏凛」は笑わない。

 

「こんな…こんなことして、ほんとに何も感じないの!?」

 

「?夏凛が何言ってるか分からないんだけど」

 

「前は『こんな』んじゃなかったじゃない!!」

 

「……?」

 

夏凛の、そんな悲痛な言葉は届かない。

夏凛は涙を流しながら、東郷の方を見る。

 

「東郷ッ…!あんたも何も感じないの!?人が困ってるなら、それを助けるのが『勇者部』じゃなかったの!?」

 

そんな悲痛な叫びに、冷静に風が答える。

 

「ええ、そうよ。私達は人を、四国を助ける為に勇者に変身して戦うの。それは大赦から直接、派遣されてきた夏凛が一番よくわかるでしょ?」

 

「じゃあッ…!じゃあ、和道はどうなのよ!みんなとおんなじ一人の人間でしょ!!」

 

「人を助けるのに、犠牲なし、なんて綺麗事聞くと思う?」

 

「犠牲って…、バーテックスと直接戦ってるわけじゃないのに、そんな言い訳通用するとでもおもってるの!?」

 

「誤魔化すつもりなんてサラサラない。こいつは私達の『ストレス発散方』なの。そういう意味での犠牲よ。」

 

「ッッ...!!」

 

あっ、という間に夏凛が風に殴りかかろうとする。

 

その瞬間、友奈が部室に帰ってきた。

 

 

「ただいm!……、、、」

 

友奈の明るい表情がどんどん曇る。

それを見た風も夏凛も動きが止まる。

 

「えっ…どうしたの、にぼっしー…」

 

「友奈…!!」

 

友奈の苦い表情を見た東郷が口を開く。

 

「今日はもうこの辺にして、解散しましょう。」

 

「そ、そうだよ!明日にはまた仲良くなれるよ!」

 

樹も苦笑している。

風がただ一人、夏凛を怒らせた理由を考え続けているようだった。

 

「さよなら、、」

 

誰も出ていこうとしなかった部室から先陣を斬って出て行こうと行動したのは、俺だった。

 

たとえ、俺が被害者だとしてもこういう場にはいい思いはしない。

 

なぜなら、『元の』彼女たちを知っているから。

これは彼女たちの『本心』であって、『本心』ではない。

 

その事を『唯一』知っている俺だからこそ、申し訳なくも感じる。

 

(多分、俺の『せい』で俺の『おかげ』なんだな)

 

そんな事を考えながら、ドアの前まで歩いて来た所で振り返り…

 

「夏凛、いつもの場所で…」

 

とだけ言い残して、学校をあとにした。

========================================

ここは夕方になると、夕日が海と合わさるようで、とても綺麗だ。

昔、妹とよく遊んだ場所でもあった。

恐らく、生きていた間の中で一番綺麗だ。

学校とは違い、とても落ち着く場所。

 

それは今でも変わらない。

 

「ごめんッ、ちょっと遅くなった。」

 

ハァハァ、と息を切らしているのは夏凛だ。

恐らく、走ってきたのだろう。

そこまでしなくていいのに。

 

「なんかごめんな?」

 

「いやいや、和道の方がずっと苦しんでるし」

 

お互いに笑いあう二人。

だが、ここに来てるのは幸せを分かち合う為だけではない。

 

「…今日は、何を『された』の?」

 

俯き加減で、嫌な記憶を抉り出しながら話す。

 

「今日というか一昨日あたり、いや、もっと前か?」

 

「先週の金曜日、もう嫌になって部活をサボろうとしたら体をロープで縛られ、口をガムテープで止められ、部室に放置された…」

 

「!!………」

 

声にならないくらい夏凛は驚く。

 

「…ごはんは?」

 

「ろくなものなんてない。水も飯も、その前に何も出来ない。さっきちょっと食ってきたばかり。」

 

「そんな…そんなのって…!!」

 

「でも、大して動いてなかったからなんとか生きてたよ。」

 

笑ってみせる。夏凛まで、辛い思いをさせたくない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………なんで?」

 

しばらくの間があってから、問われた。

 

「何が?」

 

「なんでそんなに笑ってられるの…?私だって、風たちに何かされたわけじゃないけど、怒りで殴りかかろうとしたわ。でも、なんで和道はなんにもしないの!?何も言い返さないの!?」

 

ああ、

夏凛は今、俺のために怒りや悲しみを露わにしてくれているんだな。

そう感じるだけで、涙が溢れる。

だから、

だからこそ、強がらなくてはならない!

男はそうであるべきと、そう思ったから。

 

「俺はな、俺には妹がいる」

 

「そいつは病弱だけど、いつか幸せになってほしいと思っている。だからだ。」

 

キョトンとした顔で夏凛が俺を見つめる。

 

「……妹?それが勇者部に関係するの…?」

 

「ああ、するさ、」

 

その時同時に、『大赦』からも言われた言葉を思い出す。

 

(これだけは『絶対に』勇者様達には申し上げないでいただきたい、か)

 

知らん。

俺は夏凛を信頼している。

だから全部話す。

俺がなぜこんなに嫌な『勇者部』に『黙って居座っている』のか。

 

全て、ばらしてやる。




はじめまして、作者の「岩切 蓮夜(いわきり れんや)」です。

こんな感じで胸糞キャラ崩壊クソIF描いていきます。

のちのち、官能的な所も出していこうかなと考えています。

尚、めっちゃくちゃ投稿頻度遅くなる予定(リアルな都合上)ので理解していただきたい…


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Episode 1:それでも地獄を選ぶ理由

多分、彼女は
「三好 夏凛」は■■の■■■について教えられたんだと思う。
きっとそれは、勇者に知られてはいけないことだったのかもしれない。

でも、私は神様だから。
見守ることは出来ても、話し合うことはできないんだよ。
■■ ■■


俺は話す。

「三好 夏凛」という一人の勇者に。

なぜ、『勇者部』に居続けるのか。

なぜ、なにも抵抗『できない』のか。

 

その根端にある『俺の過去』について。

今の『勇者システム』について。

 

思い返して見れば、少し恥ずかしい話だなと感じる。

========================================

俺の名前は「和田 和道(わだ かずみち)」。

名前に「和」が2個つくが、そこまで平和主義者というわけでもなく和風好きというわけでもない。

 

まぁ、喧嘩っ早いわけでもめっちゃ洋食好きというわけでもない。

 

俺はどちらかと言えば平和な方で、どちらかと言えば洋食が好きな

そんな、『普通』の人間だ。

これといった目立つ特徴があるわけではないが、強いて言えば家系に問題がある。

 

俺は神世紀123年の勇者、『和田 綺波(わだ きなみ)』の子孫であると聞かされた。

 

それがどうだから、『勇者部』に関係あるとかそういうわけではないが。

 

話が逸れた。元に戻そう。

 

そんな普通な人間にも、『妹』がいる。

名前は「和田 友奈(わだ ゆうな)」。

3歳年下の妹だ。

今、思えば馬鹿みたいに「結城 友奈」に似ている。

ずっと元気で、誰にでも優しい。

そんな子だった。よくこの港近くで、はしゃぎあったな。

 

そして、俺は別にシスコンというわけではない。

『妹』のことが好きでも嫌いでもない、普通の「兄妹」だった。

 

でも、そいつが小学4年生に上がる頃、つまり俺が中学入学する直前、

 

重い病にかかった。

 

あれだけ元気だったのに。

明確な思春期も訪れる前のことで、俺はまだ嫌われてもいない、そんな時で

 

うるさいくらいはしゃいでたあいつが、ベッドの上で24時間眠っているのを見て、、、

 

かなりショックを受けた。

信じられなかった、ずっと見てたからこそ、心の底から、

 

さらに追い打ちをかけるように、俺の家は貧乏だった。

何故か、

俺の父親が勇者の血筋を継いでいて、幼い頃は大赦からの恩恵もあり『裕福』だった。

 

しかし、問題は母親にあった。

こんなに母親の事を恨む息子はいるだろうか。

 

子孫代々、永遠に与えられる大きすぎる恩恵『目当て』で父親に近づき結婚したからだ。

 

俺が小学生になる頃、母親の不倫が発覚した。

今までにもいくつかそういった事があったが、俺の父親は馬鹿みたいに甘すぎるので大目に見てきたらしいが、流石に我慢の限界だったらしい。

 

それっきり、母親は大量の金を持って相手の男と逃げて帰って来なかった。

 

その3日後、父親が苦しみの果て自殺。

 

両親を失ったと同時に、俺と妹の本当の血筋が発覚。

父が亡くなる前に、DNA検査を依頼していたのだ。

俺はその母親と父親の子供であったものの

妹は母親と一晩遊んだ男のもので、俺と妹は父親違いの兄妹という事実。

 

周りからも散々蔑まれ、馬鹿にされ『呪いの血』だと言われる。

 

俺は怒りで、どうしようもなかった。

そんな時、貧乏であるが優しい老父母に拾われる。

 

大赦も冷たいもので、

「勇者は四国の人々の救いであらなければならない。それを揺るがす者には恩恵を与えられない」

という理由で俺達を冷たく突き放し最低限度の恩恵しか与えてくれなくなったのである。

 

そして、収入源は『そこからのみ』なのである。

じっちゃん、ばっちゃんの年金も俺達「兄妹」を育てるには少なすぎた。

 

俺が小6になる頃、じっちゃんが死んだ。

ばっちゃんは認知症がひどく、老人ホームに送られていたため、じいちゃん家を借りて2人で暮らすことになった。

 

その1年もしないうちに、妹が寝たきりになった。

俺は病院に妹を預け、訳もわからないまま学校に通った。

 

そんな時、大赦は俺に『こんな』取引を持ちかけてきた。

========================================

「…大赦?」

 

「ああ、大赦だ」

 

「もしかして、和道は大赦の存在を知ってるの?」

 

「そういうことだ」

 

「私達が勇者として、どんな戦い方をしているかも…?」

 

「…ああ、そして最近はもっとひどい。」

 

夏凛が悲しそうに俯く。

答えそうにないので、俺から口を開いた。

 

「『満開』…だろ?」

 

「…!!そのことまで知ってるのね…。」

 

「そして、『唯一』お前がその『満開』とやらを使っていない。だろ?」

 

「!!なんで!?なんで知ってるの!?」

 

「気付かないのか?大赦はお前らに『隠し事』をしているんだよ。」

 

「!!」

 

沈黙が流れる。

 

「ハハハッ!こんな勇者もクソも関係のないような、一般人が知ってんだぜ。」

 

夏凛は、何も答えない。

なので、続ける。

 

「そして大赦はこう持ちかけて来たんだ。『お前に尻尾を握らせてやる。しかし、それは尻尾を守るためだ。約束を守れば妹の命も助かる。しかし、もし約束を破り、尻尾を抜けば妹はどうなるか』ってな」

 

「…どういうこと?」

 

「つまり、」

 

切り出す時、迷った。本当に言っていいのか。

もしこの事が『勇者』に知られてしまえば、役目を捨てて戦わない道を選んでしまうのではないか。

 

しかし、もう心に決めて喉まで出かけていた。

戻すことは不可能だと。

 

「満開の副作用について、だ」

 

「満開の…副作用?」

 

「そうだ、そしてそれは…」

 

 

 

「精神の不安定さだ。」

 

 

 

「…!!」

 

「満開を使えば、精神がおかしくなる。それを勇者に伝えれば、誰かを知らず知らず傷つけないように満開を使わなくなる。そうなれば、バーテックスに勝つことが難しくなるってことさ。だから、大赦はそのことを隠していたし、そうなると『後始末』も必要になってくる。」

 

「…『後始末』?」

 

「そう、それが俺のお役目。彼女達の膨大に膨れ上がった不安や怒りを全て受け止める役。彼女達の世間体を悪くしないためにもな。」

 

「…でもなんで和道なの?」

 

「俺は四国の人間に嫌われている上に、妹の友奈が病弱っていうのがある。つまり、立場的に一般人より下の俺を勇者達のクッション代わりにする事で、人間世界に悪影響を及ぼさなくていいんだとさ。あと、この役目を果たすたびに恩恵を与え、妹の手術代になるという条件付きで。」

 

「……」

 

「ま、だから仕方ないんだよなぁ。そう、、分かっていても辛かったから、お前に相談してた。」

 

「そうなんだ…」

 

「弱いよな、俺。」

 

「違う!!」

 

夏凛が急に大声を上げた。

 

「それは違うと思う…和道は妹のために必死に頑張ってるだけじゃない!それなのに、親の血とか周りの目のせいで、不幸な事になって…そんなの、そんなの苦しんで当然よ…!なんで今の今まで相談してくれなかったの!?もっと早く言えば…言えば…」

 

「言えば?」

 

俺は最低だと思いながらも、尋ねる。

 

「言えばどうにかなった、って次元じゃない。今、言ったからってどうしようもないだろ?」

 

「ッッ…!」

 

ぐっと涙を堪えてる夏凛の姿は可愛かった。

 

「でも、やっぱり苦しくなった。だから、言っちゃいけないと思ったけど、お前に話した。ありがとな」

 

夏凛がこっちを見て、キョトンとした顔になる。

 

「これから、戦いが増えるたび俺への虐めも酷くなってくると思う。それでも、お前らは俺の味わってる苦しみより大きいんだよな。この事はあいつらには言わないでくれ。根は優しい奴らだって知ってるから。それで俺がクッション役になれなくなって犯罪者になってもらっても嫌だし。」

 

「…うん。」

 

「あと最後に、夏凛。これは、俺のわがままなんだけどさお前は『満開』を使わないでくれよ。俺の相談役がいなくなっても嫌だしな。」

 

夏凛の表情が曇る。

…なぜだ?素直に頷いてくれるものと思っていたのに。

まるで『満開を使っていないことを恥』と感じているような…?

 

「?おーい、夏凛おーい?」

 

「!う、うん…」

 

「?大丈夫か?」

 

「な、何でもないわよ!!」

========================================

帰り道

 

「あんたが理由があって、この部活にいる事が分かったわ。でも、苦しかったら相談する!すぐにね!たとえ、遅かれ早かれどうしようもないと分かっていても、早く報告すれば何かしら出来ると思う。気持ちを分け合うだけでも、早い方が絶対いい!これだけは譲らないんだから!」

 

「…ああ、これからはそうするよ。」

 

「はいっっ!!!」

 

「ングっっ!!なにこれ…?」

 

「にぼしよ、これ食って元気出しなさい!……こんな事しか出来なくてごめん。」

 

今度は俺がキョトンとしてる間に

 

「じゃあね!!」

 

と走り去っていった。

なにか、心にずっしりと乗っていたおもりが外れたようだった。

 

もう、こんなに距離が離れてしまったから叫んでも夏凛には届かないだろう。

 

だから、心の中で言うよ。

 

「夏凛、ありがとう。」




どうもです、岩切 蓮夜です。

今回はオリ主について深く掘り下げたつもりです。
結局、最終回で使うべきネタとかバンバン注ぎ込んでしまって次回のネタ探しに時間がかかりそうです(笑)

まぁ、ざっくり言うと過去編(早すぎたかな?)になるわけですが、如何だったでしょう?

気ままに書きたいこと書いとけばいいやーってな感じで書いていきます。

次回更新はかなり遅くなると思いまs(殴

モチベアップのためにも是非是非、ご評価ご感想お寄せください!

あっ…えー、ありがとうございました。(締め方が分からない)


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Episode 2:完成形勇者

私達はみんな、望んで勇者になったわけじゃない。
それでもお役目は果たさないといけなくて。
戦わないと誰かが傷ついて。
戦わなきゃ私達の住む四国がなくなるから。

でも、やっぱり
私達も女の子だから。
誰かにとってのお姫様になりたかったのに。
■■ ■■


私は「三好 夏凛」。

大赦から直接、派遣された『完成形勇者』。

あいつらとは違う。

あいつら『勇者部』なんていなくたって、私一人で十分。

 

そう、思っていた。

でも、ひとりで戦ってる分、ひとりじゃ出来ないことも出てきた。

だから、あいつらの力をいい感じに利用して、あの忌々しい『バーテックス』を倒してる。

 

べ、別に心を許したとかそういうのじゃないから!

 

あいつらと一緒だと私もおかしくなりそうだし!

ひとりひとりは私より弱いくせに!!

 

でも、、あいつらみたいな馬鹿達と一緒にいても、意外と心地良いものなのね、

 

 

(にぼっしーも素直になればいいのに!)

 

 

そうね、私『勇者部(ここ)』に来て、初めて心から笑えてる気がする。

 

『今』はもう『言えない』けど

 

「友奈」「東郷」「風」「樹」。

私はあんた達の事、嫌い…じゃなかったわ。

 

 

 

ああもう!『好き』だったわよ!

 

え、違う!?あ、あぅ…もう一回?

 

はぁー、はいはい分かったわよ!

 

 

 

 

私は!『勇者部』の皆の事が!『今でも』大好きよ!!

 

 

 

 

(は、恥ずかしい…)

========================================

「ぐふっっぁ!!」

 

「ね!分からない、和道くん?金ないから、くれっつってんだよ」

 

友奈のまわし蹴りが、顔面に炸裂する。

 

「殺しちゃだめよ、友奈ちゃん。そいつには、まだまだ私達のサンドバッ君になってもらうんだから。」

 

もはや東郷はこっちさえ見ず、パソコンを弄りながら適当な調子で友奈に注意する。

 

「はーい!わかってまーすよッッ!!と!」

 

「ごふぁぁっっ!!?」

 

後ろでくすくす笑っている樹の姿が見える。

 

「でも、なかなかお金借してくれないんだもん」

 

「だ、だから、今日財布持ってきてないんだって…」

 

「ほらほら、またそんな嘘つく〜悪い子にはお仕置きが必要だね!」

 

(人の話なんか、聞いちゃいねぇ)

 

「それじゃあ、いくよ〜!勇者ぱーんち!!」

 

3mほど飛んだ。

意識も飛ぶくらいのやつだ。

さすが勇者様、いいなぁ力のある奴は。

そうやって、弱者を力でねじ伏せる。

そして、その力は正義に使われる事は決してない。

 

いや、使ってるか。今、絶賛使用中だったな。

思考がネガティブへと化していく。

もう訳がわからない。

 

 

俺は、この四国の連中からしても、大赦からしても、勇者達からしても、

『バーテックス(てき)』と同じ扱いなんだろうな。

 

 

…なんでだよ

俺がなんかしたって言うのかよ。

どうして、こんな苦しまなくちゃいけないんだよ。

俺のせいじゃない。『友奈(いもうと)』のせいじゃない。

誰かが勝手に作った罪に、なんで俺達が償わなければならない!

 

「…くん!和道くん!ねぇ!生きてる?」

 

あぁ、もういっそ殺そうか。

多分、火を放っても死なないのかもしれないが。

こいつらが悪いわけじゃないのも、分かっているが。

 

四国なんてどうでもいい。大赦なんてどうでもいい。『勇者部』なんてどうでもいい。

俺でも反逆できるんだぞと、見せつけることさえ出来れば、それで…

========================================

殺す。

 

ごめん、友奈。

でも、もうこれ以上傷つけられたくない。

友奈が悪いわけじゃないの、わかってるけど。

 

ごめんなさい、『私』は『勇者部部員』を全員殺す。

========================================

扉が開く音がした。

 

同時に夏凛が鬼の形相で木刀を持って、友奈に襲いかかろうとする。

 

 

みんな、驚きの顔だ。誰一人笑うのをやめてしまった。

 

俺からしたら、

棚から牡丹餅な状況だ。

 

 

 

 

…でも、俺は

頭フラフラなのを押さえつけて、友奈を守る。

 

振り降ろした木刀が、俺の腕に直撃する。

 

直前に腕を頭の上に、持ってきていたからだ。

 

痛みがひどい。骨折しているかもしれない。

 

「くあッッッ……!!」

 

「!!?!!?」

 

床に倒れる。それから、すぐに先生達が来る事となる。

 

遠くなる意識の中で、かすかに強い

夏凛が泣き叫ぶ声が聞こえる。

 

それすらも、遠くなっていく。

 

その意識の隅で、他の勇者部の心配そうな顔が見える。

 

建前なんかじゃない、本気で心配してくれている。

あの顔は作り物なんかじゃないって事だけ、強く意識の中に残った。

 

でも、俺はその中に『一人足りない』ことに気づけなかった。

========================================

目が覚めると、見知らぬ天井だった。

危ない、やめよう、著作権にかかりそうだ。

でも、マジで『見知らぬ天井』なんだけど…

 

記憶を辿れば、っても頭が痛い。

なんとなくぼんやり思い出してきた。

「勇者ぱーんち!」とかふざけたのをもろに食らって、頭ぶつけて、

そっから夏凛が入ってきて!

 

「夏凛!」

 

思わず叫ぶ。

まぁ、もちろん返事は…

 

「ふぇ!な、何よ!」

 

いたんかい。

 

「ん?ここは…」

 

「病院よ、ずっと眠ってて起きなかったらどうしようと思ってたとこよ。」

 

カーテンを少し捲って、覗く。

 

「外真っ暗じゃねえか!帰んなくていいのか?」

 

「一人暮らしだから、心配はない。それより頭は大丈夫?」

 

今更、滅茶苦茶、包帯が巻いてあるのに気付く。

 

「こんな…大げさだってえの。心配ねえよ。少しズキズキするけど。」

 

「そっか、ならいいの。あの…じゃあ腕は…?」

 

「腕?」

 

下を見れば、右腕も包帯ぐるぐる巻にされている。

 

「はぁーん、骨折しちゃってたか」

 

申し訳無さそうに上目遣いで、こちらを見る。

 

「心配ねえよ。むしろ、頭より痛くねえ。」

 

「そっか…ねぇ、一つ聞いていい?」

 

「ん?」

 

「なんであの時、友奈を庇ったの?」

 

「あん?そりゃ言ったろ、友奈も今はああだけど大切な友達だからな」

 

「…違う。多分、それだけじゃない。」

 

「は?」

 

「綺麗事を並べたって、心の底じゃ恨んでたはず。わかるわ、それくらい。毎日放課後、話を聞いてるんだから!あの時、あんたは頭から血を流すくらい重症だった。立てないくらい、フラフラしてたはず。そのまま、身を委ねていれば…いえ、たとえ動けるとしても周りから見たら動けないくらいボロボロだから、動けない間に勝手に夏凛がやったと言ったほうが、楽なハズなのに。すごい痛いのを我慢してまで、あんたは友奈を庇った。…分からない、なんで!?なんで、友奈を庇ったの!?」

 

急に長いな…頭が追いつかないがなんとなくわかった。

 

「……ふーむ、確かに」

 

夏凛が(実際にはしてないが)ズッコケるのが見えた。

 

「でも、あの時友奈を殺してやろうか、とまでは思った。」

 

「!?じゃあなんで!」

 

夏凛は恐らく、俺が「友奈を殺そうと思った」という所に驚いたのだろう。

意外そうな目で見てくる。

 

「ま、どうせ勝てないしな。あ、ところで夏凛。ここは何病院だ?」

 

「?何って、そりゃ羽波病院しかないでしょ。」

 

「そりゃ都合がいいや。」

 

「ちょ、ちょっと!何動こうとしてんのよ!医者は安静にしてろって…」

 

「ははっ、構わねえさ。あとで一緒に怒られようぜ。それより、知りたいだろ?俺が友奈を庇った理由。」

 

「わ、私も共犯!?」

 

うーん、と30秒くらいうねると

 

「分かったわよ!もう!行けばいいんでしょ、行けば!」

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私が和道に連れて来られた場所は、多分病院のなかで一番大きい病室だと思う。

 

そこで眠っていたのは…

 

「…友奈?いや…」

 

「ふっ、遺伝子レベルで似てるよな」

 

友奈とよく似た少女が眠っていた。

でも、一目で「結城 友奈」とは別人だと分かったのは体の大きさが違ったからだ。

 

「和田 ユウナ、俺の妹だ。」

 

「前に言ってた、病弱なあんたの妹さん…」

 

「めっちゃ似てるだろ?名前と顔だけじゃなくて、中身も似てるんだな、これが。」

 

「『友奈』と『ユウナ』…やっかいね」

 

「やっぱこいつら似てるからさ、どうしても守ってやりたくなるんだわ」

 

彼は『ユウナ』の顔を撫でる。

 

「…他の奴らもそう、俺にとっては『風先輩』も『樹』も『東郷』も『夏凛(おまえ)』も大事な妹みたいなもんなんだよ」

 

わざと気持ち悪そうな顔をする。

 

やめろよこわいよ、と言われて笑った。

 

「背負ってるもんが、多いからさ」

なんて、カッコつけながら心配そうに『ユウナ』を見つめる和道の横顔を

 

 

初めて格好いいと感じた。

 

 

今まで同情しかして来なかったから。

 

それなのに、

私は、勇者なのに、、

 

私は他の『勇者部部員』とは違う。

 

私は大赦から派遣された『完成形勇者』だ。

 

だから、助ける。

友奈達含めてみんなを。

誰も苦しまない、そんな四国(せかい)を!

 

これは宣告だ。

私の望む世界のための。

そして今、話す。

 

「和道、私覚悟を決めたわ。」

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急に大声を張り上げたと思ったら、

何やら宣言し始めた。

 

ちょっとうるさいですよー、の注意が入る。

あっ、と言って顔を赤らめる夏凛。

 

でもしっかり思いを受け止めた。

照れてる顔を横目に、ユウナを見つめる。

 

兄ちゃんも頑張るから、早く目覚ませよ。

こっちは心配すんな。

もう「一人」じゃない。

心強い「勇者」がいる。

だからもう、怖くない。

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「今日はありがとな」

 

「こ、これくらい当然よ!悩んだら相談!」

 

お互いに笑いあって、夏凛は俺の病室をあとにした。

 

俺が最後まで見つめた夏凛の背中はまさに、

「完成形勇者」と名乗り出てもいいくらい

 

心強かった。




どうも、岩切 蓮夜です。

今回は思春期らしい反抗と闘う理由について深く描いてみました。(深く?)

夏凛ちゃんのツンデレを描きたい!という気持ちは大きいのですが、なかなか女の子の気持ちは書きづらい…(笑)
人間の汚い部分も描いて見たいと思ってるので、救いのある『今』の場面を印象深く綺麗に描く事が目標です。

終盤あたりに夏凛ちゃんの『宣言』の内容ですが、、、

実は内容を考えていません。
二人がまた一歩近づく要素にしたかったのですが、、、

でもこの先、この宣言については深く触れないのでわすれてください。

またのちのち考えて付け加えておきます。

では、また次回でお会いできる事を願って、、

アリーブェデルチ!(間違ってる気がする)

追伸

最期の「ありーぶぇでるち」で思い出したのですが、本文に出てくる「見知らぬ天井」は元ネタ(?)はエヴァンゲリヲンです。
いや、でもパクる気とかはさらさらなくて
たまたま書いてたのを、読み返したら「エヴァやん!」となり、消すのもまた考えるのも面倒だったので、そのままパロディにしてみました。

許してちょ!


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