がっこうぐらし!×血まみれスケバンチェーンソー (音佳霰里)
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がっこうぐらし!×血まみれスケバンチェーンソー

リクエストを頂いたので書き始めました。
恐らく元ツイの内容からしてギャグ調なのでしょうが、私はシリアスしか書けないので『シリアスをギャグで包んだような何か』みたいな小説が出来上がってしまいました。

解釈違いだったら許し亭許して。
以上。



「――こ、これじゃあキリがないわ!」

 

 学校で生活をし、日常を忘れないようにするための学園生活部。

 そんな学園生活部の顧問である教師『佐倉慈(さくらめぐみ)』は、彼女達の周りを囲む大量の『かれら』を目の当たりにして、そう叫んだ。

 

「なんで……どうしてっ……!」

 

 ――学園生活部の部長である『若狭悠里(わかさゆうり)』は、目の前の信じ難い光景に絶望の声を上げ、

 

「クソっ、なんでこんな日に限って……!?」

 

 ――普段から『汚れ仕事』を担当している『恵飛須沢胡桃(えびすざわくるみ)』は、普段なら有り得ることの無い光景を前にして、手に持つ愛用のシャベルが軋むほど力を込め毒づき、

 

「りーさん……くるみちゃん……めぐね、えっ……!」

 

 ――部のムードメーカーであったはずの『丈槍由紀(たけやゆき)』は、まるで現実から目を背けるように、仲間である部員たちの名前を叫ぶ。

 

『どうしてこんなことが起きたのか』

 

 今は悲壮感に包まれている部員たちの考えることは、たった一つ、これだけであった。

 

 周りをありえないほどの量の『かれら』に囲まれている、学園生活部の面々。

 どうしてこんなことが起きたのか、それは、つい数分前の出来事にきっかけがあった――。

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 ――その日は雨の降る日だった。

 

 街中に『かれら』が闊歩し始め、生者たちを喰らうようになってから数日が経っていた。

 

 その日の学園生活部は、いつも通りの朝を迎えていた。

 

「おはよ、りーさん」

「えぇ。おはよう、くるみ」

 

「今日の朝ごはんは缶詰にしましょうか」

「めぐねえは何にするの?」

「そうね、私は……」

 

 学園生活部が部室とする生徒会室内は、和気藹々とした空気に包まれていた。

 

「今日はどうするんだ?」

 

 缶詰に白米という(この非常事態においては)豪華な朝食を食べ終えた後、食後のお茶を飲みながらそう聞いたのは胡桃だった。

 

 その質問に考え込んでから答えたのは、部の顧問である慈だった。

 彼女は椅子から立ち上がると、部屋全体に響き渡る声で、教師らしくこう告げた。

 

「そうね……今日はあいにくのお天気だし、自由行動にでもしましょうかしら」

「そっか、分かった」

「ただし、部の心得にもあるように単独行動はしない事。良いですね?」

 

「「「はーいっ!」」」

 

 慈はその答えに満足気に頷いた後、再び椅子に座り直し食後の一服に再び戻った。

 どうやら何人かは、各々のやりたい事を行う為に部室の外へと向かったようだった。

 

 そんな中、部長である悠里は家事をしながらぼんやりと外を眺めていた。

 彼女は手元でカチャカチャと皿と皿の擦れ合う音を鳴らし、手に持つスポンジで皿を一枚一枚丁寧に磨いていた。

 

 そんな彼女が違和感に気づけたのも、偶然の事だった。

 

 最初は、BGM代わりに学園生活部の面々の会話と、雨の窓に叩き付けられる音を聞いていただけだった。

 しかしふと気になって外を見てみると、何故かそこに『かれら』の姿は1つもなかったのだ。

 

 ――その異常事態に気付いた悠里が目を見開くのと、胡桃によって勢いよく扉が開かれるのは同時だった。

 

「――りーさん、いるかっ!?」

「……えぇ」

「良かった! いや良くないが。とにかくバリケードがっ!」

 

 

 

 

 

 3階から、階段を降りきった先に設置してあるバリケード。

 その外側は、まるで地獄のような様相だった。

 

 詰めかけるようにやってきた『かれら』がバリケードに張り付き、それを叩く。

 それだけではなく、後ろからやってきた『かれら』もそれに参加し、バリケードにさらなる負担が加わる。

 

 外には、雨の当たらない校舎内へと向かう『かれら』がまだまだ居り、雨から逃げてきた『かれら』が大きな音を立てて軋むバリケードに引き寄せられる。

 それを見たまた別の『かれら』が、音に引き寄せられてやって来る。

 

 そんな悪循環が、ここでは起こってしまっていた。

 

 バリケードと言っても、机を縦に重ね、それらを針金で固定した程度の急増品である。

 そんな事を続けられていたら、いつかは壊れる時が来るに決まっている。

 

 バリケードが大きな音を立てて崩壊する。

 縦に高く積まれていた学習机達は、外側からのエネルギーに従い、内側、つまりは生存者達のいるエリアへと倒れ込んでくる。

 

 そして『かれら』もまた、生者達の方へと群がって行ったのであった。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 ――そこからは早かった。

 

 やっとの思いでこじ開けた安全地帯は、数の暴力という言葉を具現化したように襲いかかってくる『かれら』に、一瞬で制圧されていった。

 

 その流れで、この様に周りを『かれら』に囲まれてしまうのも当然の結果だと言えるだろう。

 

「ァ、アァ……」

 

 生徒達を護るように立っていた慈に、虚ろな目をした『かれら』が、緩慢な動作で手を伸ばす。

 何の武器も持たぬ慈に、それを跳ねのけるほどの力は――

 

 ――無い。

 

「アァ、ァァァ……」

 

「ヒッ……」

 

 肩先に『かれら』の手が触れる。

 慈は恐怖からか、それとも生存本能からなのかは分からないが、反射的に一歩後ずさる。

 しかし、後ろに護るべき生徒達がいると言う事実が変わることはなく、慈がこれ以上後ろに下がることが出来ないという事実にもまた変わりは無い。

 

 絶望の色に染まっていく学園生活部の面々。

 誰の声か分からぬ声が、慈の名を叫んだ。

 

 とうとう『かれら』の手が慈の肩を掴み、その白く美しい首筋に『かれら』が狙いを定めてしまった。

 

 裂けるのでは無いかと思われるほど大きく開かれ、涎か血か分からぬ物が慈の肩に垂れ、腕へと滴り落ちていく。

 

『噛まれる』

 

 そう直感的に感じ取ってしまった慈が、せめて生徒だけでも守ろうと覚悟を決めたその瞬間――

 

 

 ――彼女は現れた。

 

 

 カツン、カツンと、『かれら』では有り得ない程しっかりとした足音が、辺りに響き渡る。

 それと同時に、ドルルルル……! と、低く大きい唸り声の様な、モーターの回る駆動音が聞こえ始める。

 

 聴力によって生存者達を判断する『かれら』にとって、この音は流石に無視出来なかった様で、慈に掴みかかっていた『かれら』はその手を離し、音の発せられる方を向く。

 

『かれら』は、欠片ほどだが残ってしまった理性から、音の発信源にいる人間がこの場において最も脅威であるとのランク付けをし、その脅威を排除する為に、音の発信源へと歩み寄った。

 

 そんな『かれら』の様子を、呆然としたように見送る学園生活部の面々。

 しかしふと我に返り、『かれら』から解放された慈の所へと走りよっていく。

 

 安心感からか、無意識に抱き合ってしまっていた部員達に聞こえて来たのは、一際大きくブゥゥゥン……! と響いた、モーターの駆動音だった。

 

 その音に気を惹かれた彼女達は、『かれら』と同じ様に音の鳴るほうを見た。

 

 ――そこに居たのは、セーラー服を着た少女だった。

 

 身長はゆき達よりも少し上だが、来ているセーラー服がこの近くの中学校の物だったことから、恐らく中学三年生なのだと推測される。

 

 が、何よりも目を引くのは彼女の持つチェーンソーだ。

 

 黄色のカラーリングをしたチェーンソーは、所々に特殊な改造がされており、部員達の知る本来のチェーンソーとは、色々とかけ離れているように見えた。

 

 そんなチェーンソーは今、大きな唸り声を上げながら刃を動かしていた。

 

 何故かは分からないが、彼女は下駄を履いているらしく、現に彼女がこちらに歩み寄ってくる時にカラン、コロンと下駄のなる音が響いている。

 

 ただし全てチェーンソーの音にかき消されてしまっているが。

 

 彼女は『かれら』の前で立ち止まる。

 すると直ぐに周りを大量の『かれら』に囲まれてしまう。

 

 ――と、唐突に『かれら』の内の一体が大きな呻き声を上げながら、果敢にも彼女に向かって突撃していく。

 

「――来な!」

 

 彼女はもう一度大きくチェーンソーを鳴らすと、思いっきり『かれら』に向かって振り下ろした。

 

「オラオラァ〜!!」

 

 ――そこから、彼女のチェーンソー無双が始まった。

 

 彼女がチェーンソーを一振りすれば、辺りには『かれら』の血と臓物だった物たちが噴き散らされる。

 二振りすれば、近くにいる『かれら』の体は見るも無惨な状態へと変貌を遂げていく。

 

「くたばれ死人ども〜っ!!」

 

 彼女が『かれら』を切り捨て、散らし、吹き飛ばす。

 その瞬間だけ、学校の廊下は冒涜的ながらも美しいという、相反するふたつの感情に彩られた様な光景が広がっていた。

 

 すると突如、少女の足元を掴む腐った手が現れる。

 

 が、少女はこれを一瞥することも無く、あくまでも冷静に――

 

「るっ」

 

 ――否、大声で叫びながら――

 

「せェェェ〜〜〜ッ!!」

 

 ――切り捨てた。

 

 その後も『かれら』をちぎっては投げ、ちぎっては投げを繰り返していた彼女だったが、突如異常が起こった。

 

 ――ばしっ

 

「!!」

 

 唐突に『かれら』の内の一体が、両手でチェーンソーの刃を取った。

 俗に言う、『真剣白刃取り』と言うやつ――チェーンソーが白刃、つまりは真剣に当たるかは分からないが――である。

 

「し……白刃取り!! 上等!!」

 

 すると、まるで計っていたかのように後ろから『かれら』が歩み寄ってくる。

 

 ――まさに絶体絶命、そう言える状況だ。

 

「はっ!!」

 

 しかし彼女にはまるで意味をなさない様で、向かってきた方の『かれら』の掴みかかりを冷静に対処すると、白刃取りされているチェーンソーはそのままに、その華奢な体の何処にそんな力があったのだろうか、天井近くまで()()()()()()()飛び上がった。

 

「うわぁぁぁすごい!! 大ジャンプ!!」

「つっよ……!!」

 

 そんなアメコミ映画じみた光景を目の前で見せられた学園生活部から、呆然と言った様子で声が漏れる。

 

『かれら』の頭部に突き刺さっていたチェーンソーはジャンプの影響で大きく円を描き、『かれら』の頭を左右に分断させ、活動停止へと至らせる。

 

 そして次に少女は、掴みかかってきた『かれら』に対してチェーンソーを振り上げると、『ズバアアッ』といった擬音が聞こえてきそうなほど、気持ちいいくらいにチェーンソーを振り下ろし、『かれら』の体躯を真っ二つにしたのだった。

 

 ――そうしてその場に残っていたのは、血まみれの廊下に転がる『かれら』の体を形作っていた物、呆然とその場で佇む学園生活部、そして血まみれになりながらもチェーンソーを手放すことの無かった少女だけとなっていた。

 

 

 

 

 

「す、すごい……」

「全滅だな……」

 

 思わずと言った様子で、悠里と胡桃が声を上げる。

 

 と、いつの間に歩み寄っていたのか、慈がチェーンソーを持ったままの少女に声を掛ける。

 

「あの……。どなたかは存じ上げませんが、助けていただいて……ありがとうございました」

 

 慈は少女に感謝の言葉を送るが、少女はそれと対照的に、取り出したハンカチで顔に付着した血を拭うだけで、言葉を返すことは無かった。

 

「あなたも知っているように、数日前からあの不気味軍団が現れて、街の人々を襲い、仲間を増やし始めたんです」

 

 深刻な声色で慈は続ける。

 

「危ない所でした……。バリケードが突破されて、あと少しで噛まれるところだったんです」

 

 と、それまで無言を貫いていた少女が、唐突に口を開いた。

 

「アレは……『偶然』なんかじゃなくて、『必然』だったのよ」

 

「「「「えっ?」」」」

 

 思いもよらない言葉に、学園生活部に所属する4人の声が重なった。

 

 少女はチェーンソーを片手に預け、何も持っていない右手を窓の外に向けた。

 そこに広がっているのは、数日間でようやく見慣れてきた、荒廃してしまったいつもの街並みだ。

 雨雲によって少し暗くなっているという違いはあるが、少なくとも慈達には普段と変わりない光景のように見られた。

 

 しかし、少なくとも彼女にとっては、普段とは大きな違いがあるようだった。

 

「ほら、見なよ。窓の外に一匹も『あいつら』が見えないだろ?」

「「「「…………!!」」」」

 

 その言葉を聞き、4人は弾かれたように窓の近くへと走りよる。

 

 確かに、どれ程くまなく窓の外を見渡してみても、『かれら』の姿は一向に見えることがない。

 

 そんな四人の姿を見ながら、少女は話を続ける。

 

「『あいつら』は生前の行動に従って行動をする。この時間は、普段なら学校がある時間だからね。今回はそれに加えて、『雨が降ったから雨宿りをする』という行動が組み合わさって、こういう事が起きたんだ。あたしがここに居合わせなければヤバかった……」

 

 彼女の言う『こういう事』とは、恐らく学校の中に大量の『かれら』が集まってきたことを指すのであろう。

 

 確かに、と、かつて二階にある食堂に食糧を取りに行き、食堂にいる大量の『かれら』を目にしたことのある胡桃たちは頷いた。

 

 

 ――しかし、少女の次の言葉はさすがに予想の範疇を超えていた。

 

 

「それに、『あいつら』は勝手に生まれてきたんじゃない。作られた存在だったんだよ。コイツらを作り出して、この街の人間達を実験体にしようと企てた奴らがいるってことよ。この連中をやっつけて終わりじゃないわ」

 

「「「「――」」」」

 

 この悲劇は人為的、作為的に仕立てあげられた事である。

 そう言っているのを聞いて、今度こそ四人の思考は停止した。

 

 しかし、この事を『知っていた』人物がいた。

 

「そんな、一体誰が……。それにどうしてこの街の人たちを……」

 

「――まさ……」

「――めぐねえ?」

 

 そう、佐倉慈だ。

 

 彼女はこの惨劇が始まった二日後に、とある冊子を読んでいた。

 

 その冊子とは、彼女がこの学校に赴任して来た時に配布され、非常時態になるまで開けては行けないとされてきた、『職員用緊急避難マニュアル』である。

 

 マニュアルの中には、この学校に異常なまでに設備が整っている理由や、秘匿され続けてきたこの学校にある地下シェルターの存在が載っており、極めつけには、この惨劇を引き起こした()()()()の名前と声明がつらつらと書き記してあったのだ。

 

 そんな慈の様子を見て、知っている奴がいたかとばかりに軽く鼻を鳴らした少女は、この惨劇の下手人の名を告げる。

 

「連中を生み出したのはたった一つの会社さ……その名前を――」

 

 

 

 ――『ランダルコーポレーション』。

 

 

 チェーンソーの少女と教師の女性の声が、重なった――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それよりも少し前のこと。

 

 とある部屋の中で、複数人の男女が話し合っていた。

 

 否、これでは誤解を生み出してしまうのかもしれない。

 

 と言うのも、彼らのいる部屋の壁や床は全て無機質なコンクリートで覆われており、また彼らは話し合いと言うには余りにも鋭く、そして殺気に満ち溢れた表情をしていて、とても話し合いをしているようには見えない。

 

 と突然、中央に佇む、豪華な椅子に座る男性が口を開いた。

 

「……ッチ、今回の事件は全て貴様のせいだ。貴様があんな事をするから、街は壊滅、本部からはボコボコに批判された!! 当然研究も永久凍結だ!!」

 

「ヒィィッ……!!」

 

 男性はその顔を怒りで歪ませており、部屋の奥にいる何故か縛られている男性に向かって怒鳴り声を上げている。

 

 男性はおもむろに椅子から立ち上がると、ドスドスと音を立てながら縛られている男性の元へと歩いていく。

 

 縛られている男性は、怒りを顕にしている男性が近づいてくるにつれて、その顔に浮かぶ恐怖の色をより濃くしていく。

 

「――フゥ、取り乱してしまったな。……さて、君の処遇を決めよう」

「おっ、お許しください……!」

「ハハハッ、まさか君は自分がこれだけのことをして無罪放免になると思っているのかね?」

 

 その言葉を聞いて、縛られている男性の顔から血の気が失せ、まるで土の様な色になる。

 彼の瞳に映っているのは、男性が愛想笑いを浮かべながら怒りを堪えている顔と、これから彼に降りかかるであろう絶望の色だけだ。

 

「フッ……さて、それでは君は――」

 

 と。

 

「――社長、失礼します!」

 

 立っている男性――『社長』と呼ばれた男性の後ろにあった両開きのドアから、黒いスーツを着た男性が走って入ってきた。

 

「……何だね、君。私は今忙しいんだ。急用以外では入って来ないようにと伝えたはずだかな……?」

 

 そう言って社長は黒服の男性に凄む。

 

「も、申し訳ございません! ですが、どうしても社長のお耳に入れて頂きたく……!」

「ほう? それはどのような事かね? 場合によっては――」

 

 そう言いながら、社長は右手の親指を立て、右手を首の近くに持っていき、首を親指で掻き切る動作をする。

 

「――こうする事もやぶさかではないのだがね……? そう、彼のようにね……」

 

 そんな社長の言葉に対し、黒服の男性は内心冷や汗を流すが、それを表に出すこと無く、報告を行っていく。

 

「しゃ、社長のご息女――『鋸村(のこむら)ギーコ』様が、この巡ヶ丘市内の高校、『私立巡ヶ丘学院高等学校』にいらっしゃることが発覚致しました!」

 

 黒服の男性がそう言うと、それまで興味が無さそうにしていた社長の目が、そんな報告をした黒服の男性を捉えた。

 

「……何、それは本当かね?」

「は、はい。調査班が確認致しましたので、間違いはないかと」

 

 その言葉を聞いた社長は満足気に頷くと、今度は縛られている男性の方へ向き直り、その顔同士を近づけ、囁くように話す(脅す)

 

「聞いていたかね? 私の娘がそこにいる。必ず無傷で連れて来い!! もし仮に他の生存者達と接触していたら、その時は――まぁ()()()()()()と思ってもらおう」

 

 コクコクと声も出さず、赤べこの様に頷く男性。

 そして次に、社長はこう畳み掛ける。

 

「もし仮に無傷で連れ帰って来てくれたなら、君の処遇についても考えてあげなくもないんだがねぇ……?」

 

 そう貼り付けたような笑顔で言う社長に、媚びた笑みを浮かべながら、希望を見いだした様な表情をする男性。

 

「では、頼んだよ?」

「はい、必ずや! ……つきましては、まずはこれを解いていただきたく……」

 

 男性がそう言うと、社長は不思議そうな顔をする。

 

「? 何を言っているんだね? 期待しているのは君ではない」

「……へ?」

「当たり前だろう? 街を壊滅させた犯罪者に何を期待するというのだね」

「な、なっ……」

 

 ――では、頼んだよ。君()()

 

 社長がそう言うと、縛られている男性の後ろから複数人の白衣を着た人達が出てくる。

 

 男性は死にたくないなどと叫びながら暴れるが、それを上から抑え込むことで無力化する。

 

 と、白衣の人達の内の一人に、黒服の男性から注射器が渡される。

 

 白衣を着た研究員が縛られている男性に注射器を打ち込むと、すぐに男性の体に変化が現れた。

 

 皮膚は健康な肌色から腐ったような灰色へ。

 筋肉は服をはちきれんばかりに肥大させ、所々に皮膚が破れて筋繊維が覗いてしまっている。

 また、体からは普通の人間ではありえない触手がうねうねと生えてきている。

 

「ァ゛ァ゛ア゛ァ゛ァ゛!!」

 

 目からは光が消え失せ、理性なんて欠片も残っていない。

 そんな男性だった物を見て、社長は口元を醜く歪める。

 

 ――来るべき再会の時をその瞳に映しながら、

 

「ククッ……待っているぞ、ギーコよ……!」

 

『ランダルコーポレーション』日本支部社長の男、『鋸村』と名札のつけられている男は嗤い続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして場面は学校に戻る。

 

 先程チェーンソーを握っていた少女――鋸村ギーコは、その手に持っていたものを下に置くと、咥えタバコをしながら自身の殺した『かれら』を眺めていた。

 

「――ギーコさん? ……何を、咥えているのですか?」

 

 そんな事実はなかった。

 ギーコは0.1秒でタバコを消し証拠隠滅させると、何事も無かったかのようにセンチメンタルな気分へと浸り直した。

 

 後ろに見える悪魔()なんて見えない。

 ミエナイッタラミエナイノダ。

 

「それにしても……本当に行ってしまうんですか?」

 

 悠里がギーコにそう聞いてくる。

 

「行くよ。あたしは自分自身にけじめを()()()()()()()にここに来たから」

 

 そして三階の階段前までやって来たギーコは、振り返って学園生活部の方を向きながらこういう。

 

「見つけてブチ殺すまでは帰らない」

 

 そしてギーコは階段を降り始める。

 

「何もあなたのような若い子が身を削らなくても……」

 

 そう心配した慈が声をかけた直後。

 

 

 

 ――ズドオオオオン!! 

 

 

 

 天井を突き破って、肉体の肥大した『かれら』が飛び降りてくる。

 突然の襲来に驚いた皆がその『かれら』を目にした直後――。

 

 

 ――触手が。

 

 

 ――慈の体を。

 

 

 ――貫いた。

 

 

「え……?」

 

 それは誰の発した言葉だったか。

 悠里の言葉だったかもしれないし、由紀の言葉だったかもしれない。

 

 そして、慈の目から光が消え失せ――

 

「めぐねえから離れろぉっ!!」

 

 ――『かれら』に後ろから殴り掛かるシャベル系ゴリラが1人。

 

 しかし、強化された『かれら』であるソレに、シャベルごときの打撃が効くことは無い。

 

「――ッ!? クソっ!!」

 

 直後、胡桃の体は『かれら』の持つ触手によって巻き取られる。

 

「ギーコォォォ!!! 俺に従わないとガキ共がミンチになるぞォ〜〜〜ッ!!」

「ッ!? 言葉を……!?」

 

 なんと言葉を話す『かれら』は、器用にも慈の遺体を触手だけで外し、まるで路傍の石の様にその辺に投げ捨てた。

 

「俺に大人しく捕まりな!! その後てめーを社長の所に連れていく!!」

 

 次第にヒートアップしていく『かれら』は、触手を廊下中に振り回しながらギーコの方へと近づいていく。

 

「ちなみにてめーを連れ帰れば社長は俺への刑を軽くして頂けるとのこと!! だから来い!! 絶対に来るのだ!! 俺のキャリアの為にな!!」

 

『キャリアの為に』という所を一際大きく話す『かれら』。

 が、

 

 

 ――ドルンッ! 

 

 

 ギーコはそんな願いをも切り捨てるように、その手に持つチェーンソーを鳴らし始めた。

 

 目の前にそびえ立つ『かれら』の姿を冷静に、そして鋭く射抜くギーコの瞳は、それまでイキり散らしていた『かれら』の精神を一瞬で鎮火させ、更に後ろへと追いやるほどの圧力を兼ね備えていた。

 

「そ、それがどうしたってんだ!! てめーなんざ怖かねぇ、野郎ぶっころしてやる!!」

 

 まるでコマンドーのような叫び声を上げ、その巨大な体躯からは想像できないほどの猛スピードでギーコの元へと向かって行く『かれら』。

 

「それが――」

 

 しかしそんな突撃程度では、彼女には通用しないのだ。

 

「どうしたァ〜〜〜!!」

「「ぐぇ」」

 

 いつかの焼き直しのように、彼女は縦に大きくチェーンソーを振るい、胡桃諸共『かれら』を叩き切る。

 彼女は胡桃のことなどは全く頭に入っておらず、ただ『かれら』を叩き切ることしか考えていなかったのだ。

 胡桃は思いっきり泣いて良い。

 

『かれら』を倒したことでホッとするギーコ。

 

 しかし直後、突然足元から伸びてきた触手に足を取られ、逆さ吊りにされる。

 

「くそっしまった!! 窓の外から!!」

「こっちに来な!! 可愛がってやるぜー!!」

 

 下卑た笑みを浮かべながら、ギーコの元にのっしのっしと歩み寄る『かれら』。

 

 見ると、周りには由紀と悠里が、口を塞がれた状態でギーコと同じように吊るされていた。

 

 しかしギーコは一切彼女らを気にかけること無く、手に持つチェーンソーを力強く握りしめると、相手との距離、そして相手の特徴を冷静に把握する。

 

 "喋る『アイツら』……初めて見たな……。それに奴の触手……1本1本の長さにバラつきがある!! 距離が縮まるほど使える本数が増えて、逆に奴に有利だ!! しかし全部斬り落とせば、近距離な分逆にこっちが有利!! "

 

 ここで決意を固めたギーコは、一際大きく目を見開く。

 

 "――いざ、勝負っ!! "

 

 と、そんなギーコの変化を悟ったのか、『かれら』も行動を起こした。

 

「キャッ!?」

「うおっ!?」

「うわぁっ!?」

 

 悠里、そして由紀の3人を、触手で吊り下げたまま『かれら』の前に動かしてきたのだ。

 

「グヘヘ……。どうだギーコ、これでお前も手出しできまい……!!」

「くっ……!!」

 

 こうも人質を取られては、動く事の出来ないギーコ。

 しかし、人質となっている彼女らは違った。

 

「えいっ!」

「てぇいっ!!」

 

 拳が、そしてカッターの武器達が、一斉に『かれら』の触手を襲う。

 

「っ! ガキ共!! 後で殺すからな!!」

 

 と、傷をつけられて怒ったのか、『かれら』の意識が2人に向く。

 

 その隙を見逃すギーコでは無い。

 

「テメーの心配してろコラァ〜〜!!」

 

 ギーコはそう叫ぶと同時に、チェーンソーのモーター部分にあるスイッチを力強く左手で押す。

 

 するとシリンダーが作動し、回転するチェーンソーが刃の部分だけ飛び出す。

 

「くらえ!!」

 

 ――そして、彼女はその技名を叫ぶのだ。

 

「『つらぬきのチェーンソー』!! *1

 

 飛び出した刃が『かれら』の頭に突き刺さる。

 回転する刃は『かれら』の頭を削り取る。

 

「ガヒイイィ〜〜ッ!!」

 

 がここで1つ、不幸な出来事が起きた。

 

 悠里と由紀は、拳やカッターを振りかぶるようにして攻撃をした。

 するとどうなるのか。

 

「「キャーっ!?」」

 

 行き場を無くしたエネルギーは、足を掴む触手を起点として、振り子の運動を始めてしまうのである。

 

 

 ――そして、その不幸は起こった。

 

 

「「「「あっ」」」」

 

 高速で飛び出したチェーンソーの刃は、不幸にも一直線に重なった『かれら』、由紀、そして悠里の頭を綺麗に刎飛ばしたのである。

 

 まずはギーコ達の足元に絡みつく触手を切り飛ばす。

 

 そしてチェーンソーはその勢いのまま、身長が同じくらいの、悠里と由紀の白い首筋へと一直線に進んで行き、その首を地面へと叩き付ける。

 

 最後にチェーンソーの刃が仕舞われる直前に、刃は『かれら』の頭部の3分の4を削り取った。

 

「やっば……」

 

 地面に解放され、座り込んだままついと言った様子で呟くギーコ。

 

 しかし、ギーコは我に返ったように立ち上がると、未だ痛みに呻く『かれら』の頭の部分にチェーンソーを近づけた。

 勿論『かれら』にとどめを刺す為だ。

 

 このままでは殺されると気づいてしまった『かれら』は、命乞いの為に声を出す。

 

「て、てめー……。それ、改造してるな!? 言っとくが、俺にとどめを刺すのは賢くないぜ……」

 

 まず手始めにそう怯えたように声を出す『かれら』。

 日本の現代社会で培われた、長い物には巻かれろの精神は伊達じゃないのだ。

 

 そんな猿芝居を、ギーコは冷めた目で見つめている。

 

「『取り引き』しよう!! 社長の居場所を教えてやるかわりに俺を見逃せ」

 

 頭から血を流しながらも、力強くギーコの顔を見据える『かれら』。

 

 が、ギーコはそれを――

 

「いや知ってる。場所はもう調べてある」

 

 ――知っているから、という理由でバッサリと切り捨てる。

 

「ま、マジ……!?」

 

 これには流石の『かれら』も言葉を失う。

 

 痺れを切らしたギーコが、チェーンソーを更に『かれら』の頭に近づけると、キレた『かれら』が怒りの声を上げる。

 

「や、ヤメロー! 俺は薬を注入され、脳や身体を改造されているんだ!! 裁判なら無罪だぞ俺は!! だいたい、なんでてめーに俺を裁く権利があるんだ!!」

 

 そう叫んだ直後、お返しとばかりにこう叫ぶ声がする。

 

「――あたしが――」

 

 チェーンソーの刃が返される。

 人と人ではない何かの血でコーティングされたそれは、鈍く紅い光を浴びたかのように、キラリと輝いている。

 

 それが今、『かれら』の首に向かって突き進んでいる。

 

「――勝ったからさ!!!」

 

 刃は首を穿ち、首は空を目指して飛んでゆく。

 

「ぎゃああああああぁぁぁ、あ……ぅげ……」

 

 辺り一帯には、かつて人だった『かれら』の断末魔と、ギーコの持つチェーンソーの駆動音だけが、虚しく響き渡っていた。

 

 ギーコは改めて一息つくと、廊下の惨状から目をそらすように、地上へと向かう階段を降り始めた。

 

 

 

 ――そうして辺りには、静寂だけが広がった。

 

 廊下にあるのは、つい先程まで生きていた人だったものと、つい先程まで生きていた人では無かったもの、そしてそれらの鮮血が混ざりあった液体だけだった。

 

 外を見渡してみても、一面に広がるのは雨の景色と鈍く分厚い曇天だけだ。

 

 チェーンソーで狩られた『かれら』は、最後に1度だけ、確認するように呻き声を上げると、そのままバタリと倒れ込み、二度と動くことは無かった。

 

 

 

 

 ――ギーコの行方は、誰も知らない。

*1
「つらぬきのチェーンソー」 シリンダー作動によって、「突き」と「リーチ延長」で敵を殺す技。




いっぱいパロネタ考えるの疲れました、まる。


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