The end of the journey 〜最果ての旅〜 (カズめぐ)
しおりを挟む

プロローグ

新劇場版のネタバレを含みます。
ネタバレが嫌な方はブラウザーバックを推奨します。



目が覚めると、目の前には見慣れた光景があった。

どうやら僕はまたここに戻ってきてしまったらしい。

 

「今回はちゃんと終わらせたんだけどな…。」

 

僕がボソッと独り言を言うと、隣で座っていた少女が僕に話しかけてきた。

 

「何独り言言ってんのよ。気持ち悪い。」

 

僕は声の主の方を見る。

そこにはアスカがいた。

 

「ただいま。アスカ。」

 

「ふんっ。なにがただいまよ。気持ち悪い。」

 

「君は惣流・アスカ・ラングレーだよね。」

 

「そうよ。何度も碇シンジに見捨てられては、首を絞められる惣流・アスカ・ラングレーよ。」

 

アスカは嫌味混じりにそんなことを言ってきた。

 

「それは、ほんとにごめん…。」

 

「謝っても許さないわよ。一生償いなさい。」

 

「わかってるよ…。ところで、アスカ。何で今回はいなかったの?」

 

「そんなの私が知るわけないでしょ。でも、実体がないだけで、ちゃんとあの世界にはいたわよ。」

 

「そっ、そうなんだ。じゃあ、全部見たってことだよね。」

 

「ええ、そうね。あんたが苦しむ様を見てほくそ笑んでたわ。」

 

「ひどいな…。」

 

「ひどいのはどっちよ。偽物の私を救って、ヒーロー気取り?ほんとに反吐が出るわ。」

 

「それでも、一回助けれなかったんだけどね…。」

 

「はんっ。そうね。ほんとにグズで優柔不断なんだから。それに何よ、いくら偽物とはいえ、何で私をあんな盗撮マニアの相田とカップリングしてるのよ。気持ち悪いったらありゃしないわよ。」

 

「あの世界のアスカはケンスケと1番仲が良かったからだよ…。逆に誰ならよかったんだよ…。」

 

「加持さんに決まってるじゃない。」

 

「あの世界のアスカは加持さんのこと好きじゃなかったし、そもそもミサトさんとの子供もいたのに、さすがにやばいだろ。」

 

「ふんっ。まあ、いいわ。終わったことにとやかく言っても仕方ないわ。で、あんたこれからどうすんのよ。」

 

「どうするもの何も、僕たちの世界を変えるために動くしかないだろ。」

 

「また繰り返すつもりなの?」

 

「それしか出来ないんだから、仕方ないじゃないか。」

 

「はぁ、ほんとあんたバカね。」

 

「何とでも言えよ。僕は僕のやったことの責任を取りたいだけだ。」

 

僕は拳を握りしめて言う。

その様子を見ていたアスカはため息混じりに聞いてきた。

 

「はいはい。正義感は立派なもんですね。ところで、何度も聞いて悪いけど、あんたってどうやってタイムリープしてるの。」

 

「こんな世界嫌だって、強く思うと、意識を失って、別の世界にいるんだ。」

 

「そっ。で、今回はあの世界だったと。」

 

「うん。エヴァがない世界にしたのに。こっちの世界には何も影響なかったね。」

 

「当たり前じゃない。そんなこともわかんないわけ?」

 

「たしかに、君がいない世界を救ったところで、僕たちの世界が変わるわけないよね。」

 

「そう言うことを言ってるんじゃないわよ。ほんとにバカね。」

 

「次はちゃんと惣流・アスカ・ラングレーがいる世界でやり直すよ。」

 

「はぁ。勝手にしなさい。どうせ私は裏切られ、殺されるんだから。」

 

「もうそんなことさせないよ。」

 

「無理よ。どうあがいてもあんたはまたここに戻ってくるわ。今までもそうだったでしょ。」

 

「たしかにそうだけど…。次はなんとか出来るかもしれないじゃないか…。」

 

「ほんとに頭の中お花畑ね。物事の本質が何も見えてない。」

 

「そんな言わなくたっていいじゃないか…。僕だって、繰り返したくないよ…。でも、別の世界に行くと記憶がリセットされた状態で始まって、同じ結末になっちゃうんだよ…。」

 

「ふーん。じゃあ、記憶の継続性があれば、どうにか出来るってわけね。」

 

「当たり前じゃないか。今の記憶があれば絶対に世界を変えれる。」

 

「わかったわ。じゃあ、もし記憶の継続性があった世界に行きあたっても、この場所に戻ってきてしまったら、そん時は私の言うことひとつ聞きなさいよ。」

 

「何で、そんな約束しなきゃいけないんだよ。」

 

「それくらい覚悟があるのかって話よ。」

 

「覚悟ならあるよ。」

 

「そう。なら、契約成立ね。そろそろ、私も自分が傷つくのは飽きてきたし、いいわ。せいぜいもがきなさい。」

 

そういうと、アスカは僕の眉間をポンと人差し指で叩いた。

その瞬間、僕は意識を失ったのである。

意識を失う最中、アスカは何かを呟いていたが、僕はそれを聞き取ることができないまま、世界が暗転した。

 

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第一話

目を覚ますと、目の前には知らない天井が…。

いや、知っている天井があった。

ここは、ネルフだ。

いや、ちょっと待て。

今の僕には今までの世界の記憶がある。

どうして、こんな突然…。

もしかして、アスカが何かしたのか?

まあいい。

そんなことより、今はいつなんだ?

早く世界を変えるために動かないと…。

そんなことを、考えていると、扉から紅い瞳の少女が入ってきた。

「碇君。目を覚ましたのね。あなた、ディラックの海に取り込まれてから3日も寝たままだったのよ。」

 

「そっ、そうなんだ。」

 

「えぇ。ちょっと待ってて。今、赤木博士呼んでくるから。」

 

そう言うと、綾波は部屋から出て行った。

僕は綾波の後ろ姿を見送ると、綾波の発言から現状についての考察を行った。

綾波はディラックの海と言っていたので、どうやら今は第12使徒戦の後らしい。

まあ、今思えば目を覚ます時は絶対にこの時なのだが、今まで、あまり気にしていなかったので初めて気づいた。

それもこれも、記憶があるからだろう。

こんなことは初めてなので、僕は戸惑いを隠せない。

しかし、戸惑ってる場合でもないのだ。

もしかしたら、記憶があるのはこれが最初で最後のチャンスかもしれない。

なので僕は、何が何でも世界を変えることを成功させなくてはいけない。

確か、次は3号機もとい、第13使徒が来るはずだ。

その対策をならなきゃいけない。

しかし、アスカはどこにいるのだろうか。

もしかしたら、アスカにも記憶の継続性があるかもしれない。

そしたら、協力してこの世界を変えれるはずだ。

協力してくれなくても、アスカ自身に記憶があるのであれば、アスカが傷つくような最悪な結末にはならないだろう。

もう僕はアスカが傷つくのは見たくないのである。

理由は自分でもわからない。

多分、責任を感じてるんだろう。

今までの僕は責任から逃れて散々アスカを傷つけ、裏切ってきた。

でも、今回はそんなことはさせない。

そう心に誓った。

しばらくすると、扉が開きリツコさんと、ミサトさんが入ってきた。

 

「シンジくん大丈夫?異変ない??」

 

ミサトさんが心配そうに聞いてくる。

 

「えぇ。今のところ大丈夫そうです。」

 

「そう?ならいいんだけど…。リツコはどう思う?」

 

「本人が大丈夫と言っても、シンジくんは使徒に取り込まれていたのよ。だから、一応精密検査はしておくわ。」

 

「やっぱりそうよね。シンジくん精密検査受けてね。」

 

「わかりました。それより、アスカはどこにいます?」

 

「あら、気になるの?」

 

ミサトさんがにやけながら聞いてくる。

 

「あっ、いや。姿を見ないなと思っただけですよ。」

 

「ふーん。まあ、アスカにも伝えたんだけど、『そっ。』て言っただけでどこか言っちゃったわ〜。きっと、照れてるのよね〜!」

 

「そんなことないと思いますよ…。」

 

僕は苦笑いしながらミサトさんに返事をする。

今のところ、ミサトさんの発言だけではアスカに記憶の継続性があるかどうかはわからない。

仕方ないので家に帰ってから確かめることにしよう。

そんなことを考えていると、またミサトさんがニヤニヤしながら話しかけてきた。

 

「もー、そんなに真剣な顔でアスカのこと考えるなんて青春ね〜。」

 

「別にアスカのことなんて考えてないですよ。」

 

「またまた〜。」

 

「ミサト。その辺にしときなさい。」

 

ミサトさんが僕のことを揶揄っていると、横からリツコさんが止めに入った。

 

「シンジ君もこんな、脳内お花畑の人はほっといて精密検査に行くわよ。」

 

「わかりました。」

 

ミサトさんは何やらぶーぶー文句を言っていたが、リツコさんが華麗に無視をきめ、僕とリツコさんは検査場へ行くのであった。

 

…………

2時間後。

僕は精密検査が終わり、自宅に帰ってきた。

 

「ただいまー。」

 

しかし、返事はない。

どうやら、まだ誰も帰ってきていないらしい。

時刻は17時。

まあ、待っていればそのうち帰ってくるだろう。

それまでにアスカにさりげなく記憶の継続性があるかどうか聞く手段でも考えよう。

ストレートに聞くのが1番手っ取り早い方法ではあるが、これでもしアスカに記憶の継続性がなかったら、気まずくなる。

なので、少し遠回しに聞く必要がありそうだ。

しかし、その匙加減が難しい。

僕がそんなことで悩んでいると、玄関の扉が開く音が聞こえた。

 

「バカシンジ帰ってたのね。それより、ご飯は?」

 

部屋に入ってくるなり、アスカはそんなことを聞いてきた。

アスカは僕のことを心配してる素振りはない。

まあ、今までもこういうことはあったし、気にしないでおこう。

 

「ごめん。今から作るから少し待ってて。」

 

「早くしなさいよ。私、部屋にいるから。出来たら呼んで。」

 

「うっ、うん。わかった。」

 

アスカはそう言い残すと、さっさと自室に入ってしまった。

うーん…。

今の会話では何も判断できない。

やはり、何かこちらから仕掛けないとダメだろう。

僕はそんなことを考えながら、夕飯の支度に取り組むのであった。

 

……

1時間後。

夕飯の支度が出来たので、僕はアスカを呼ぶことにした。

 

「アスカ。夕飯できたよ。」

 

「わかった。今行く。」

 

こうして、僕たちは食事の席に着いた。

 

「ミサトは?」

 

「今夜は遅くなるって言ってたよ。僕のことで色々しなきゃいけないことがあるらしい。」

 

「そっ。」

 

会話が途切れ、しばらく沈黙が続いた。

そんな中、僕はなかなかに確かめる手段が思い浮かばないため、少し強行策に出ることにした。

 

「式波…。」

 

僕はボソッとそう呟く。

 

「何言ってんのあんた?」

 

アスカが怪訝そうな顔でこちらを見てくる。

どうやら、知らないみたいだ。

 

「いや、何でもないよ…。」

 

僕は少し残念がりながら、下を向く。

 

「二度とその名前を口にしないで。反吐が出るわ。」

 

「ご、ごめん…。えっ…?」

 

僕は顔をあげアスカにも視線を送る。

 

「何よ?」

 

「アスカも覚えてるの?」

 

「当たり前じゃない。何言ってんのよ。」

 

アスカはさも当然の如く言ってくる。

 

「当たり前ではないと思うんだけど…。」

 

「当たり前よなのよ。そんなこともわからないなんてやっぱりバカね。」

 

「覚えてるなら、言ってくれればよかったじゃんか…。」

 

「逆に覚えてないって選択肢があること自体おかしいのよ。」

 

「何でさ。」

 

「そんなの自分で考えなさい。」

 

「そんなのわからないよ…。」

 

「ふんっ」

 

また会話が途切れた。

しかし、今はこんなことで言い争ってる場合ではない。

アスカに協力してもらわなければ。

 

「アスカ。記憶があるなら僕に協力してくれないか?」

 

僕はアスカの目を見て真剣に尋ねる。

しかし、アスカの返事は僕の期待していたものではなかった。

 

「嫌よ。」

 

「何でよ…。」

 

「あんたの力だけでどうにかしないと意味ないからよ。」

 

「どうしてさ…。」

 

「そんなこともわからないなんて。はぁ。先が思いやられるわね。」

 

「教えてくれたっていいじゃないか。」

 

「嫌よ。私は協力もしないし、邪魔もしないわ。あんたの力で頑張りなさい。」

 

「わかったよ…。その代わり、ひとつだけ約束して。」

 

「何よ。」

 

「アスカは自分が傷つかないように立ち回って。お願いだから。」

 

アスカは僕の発言に少し驚いていたが、すぐに眼光鋭い顔に戻り聞き返してきた。

 

「何でそんなこと言われなきゃいけないわけ。」

 

「そっ、それは…。」

 

「何よ。はっきり言いなさいよ。」

 

アスカが真剣な目で聞いてくるので僕は答えることにした。

 

「僕は世界を変えることが最終目的だけど、目的の中にはアスカを救うことも含まれてるんだ。だから、君が傷ついたら意味がないんだよ。」

 

僕がそう言うと、アスカが睨みながら言ってきた。

 

「気持ち悪い。偽善者ね。」

 

「それでもいいから。お願いだよ。」

 

僕は頭を下げてお願いする。

 

「はんっ。わかったわよ。まあ、もう痛いのは嫌だし、自分の身は自分で守るわ。」

 

「ありがとう。僕も出来るだけ、守るようにするから。」

 

「勝手にしなさい。」

 

こうして、この世界に来ての初日を終えるのであった。

 

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二話

次の日。

僕達はネフルでシンクロテストを受けていた。

 

「どう、リツコ?シンジくんは大丈夫そう?」

 

「安定しないわね。」

 

「あちゃー。やっぱり、こないだのことが関係してるのかしら?」

 

「わからないわ。でも、高い時は80%オーバーしてるから、謎は深まるばかりね。」

 

「そんな高い数値出してるの!?」

 

「ええ、しかもシンジくんだけじゃないわ。」

 

「えっ、もしかしてアスカも?」

 

「その通りよ。アスカは何とアベレージが80を超えてるわ。」

 

「どうしちゃったのよ、二人とも…。」

 

「私にも分からないわよ。でも、数値が高いことは喜ばしいことよ。」

 

「まぁ、そうなんだけどさー。ところで、レイはどうなの?」

 

「レイはいつも通りよ。」

 

「やっぱり、アスカとシンジくんだけなのね。んー、アスカはシンジくんが帰ってきて精神的に安定したとか?」

 

「ありえないわけではないけれど、可能性としては低いわね。」

 

「そうよね。それにシンジくんの方はディラックの海に取り込まれた以外の理由がないわよね。」

 

「そうね。でも、今のところ精密検査で異常は見つかってないわ。」

 

「ますます分からないわね。」

 

「えぇ、とりあえず今日は終わりにしましょう。ミサト。3人に声をかけてちょうだい。」

 

「了解〜。3人ともお疲れ様ー。今日はもう上がっていいわよー。」

 

こうして、僕は今、更衣室にいる。

今日のシンクロテストの結果はまだ伝えられていない。

何か問題でもあったのだろうか。

思い当たる節はある。

おそらく僕のシンクロ率が安定していなかったのであろう。

僕はシンクロテスト中もずっと考え事をしていたせいで、シンクロテストに集中出来ていなかった。

はぁ。

こんなんじゃダメだよな。

もっと頑張らないと…。

そんなことを考えながら更衣室の外に出ると、そこにはアスカがいた。

 

「遅い。何してんのよバカシンジ。」

 

「アスカこそ何してるんだよ?」

 

「あんたのこと待ってたんでしょうが。」

 

「別に待ってなくていいのに。」

 

「あんた忘れたの?一応、あの頃の私たちは基本的に一緒に帰ってたのよ?それが、あの日を境に疎遠になったら怪しまれるでしょうが。少しは頭使いなさいよ。」

 

「確かに、それはそうだね…。」

 

「私だって本当は嫌で仕方ないんだから。ほら、行くわよ。」

 

「ごめん。でも、今日は先帰ってて。僕、リツコさんのとこに用事があるから。」

 

「3号機のこと?」

 

アスカが鋭い視線で聞いてくる。

 

「うん。出来ることはしておきたいから。」

 

「そう。なら、私も着いていくわ。」

 

「えっ、アスカは先帰ってなよ。」

 

「お断りね。あんたがポカしないように監視するなよ。」

 

「そんなことしないよ…。」

 

「どうだか。どうせ、今日のシンクロテストであんたがポカしたから、結果が伝えられてないのよ。」

 

「それは、その…。」

僕は言葉を詰まらせた。

その後、結局、僕とアスカは二人でリツコさんのところに向かった。

 

「あら?二人してどうしたのかしら?」

 

「少し聞きたいことがありまして。」

 

「シンクロテストの結果かしら?」

 

「それも聞きたいですけど、3号機のことについて聞きたいです。」

 

「どうして、あなたがそのことについて知ってるのかしら?」

 

リツコさんが、疑いの眼差しを僕達に向けてくる。

 

「風の噂で…。」

 

「はぁ、どうせミサトが酔っ払って喋ったんでしょうね。」

 

「すいません…。」

 

ごめんなさい、ミサトさん。

僕は心の中でミサトさんに罪をなすりつけたことを謝った。

 

「ミサトへの処遇は後で考えるとして。それで、あなた達は3号機の何が知りたいのかしら。」

 

「パイロットってもう決まってるんですか?」

 

「まだよ。今決めてるところよ。」

 

「そうなんですか。決まったら教えてもらってもいいですか?」

 

「どうしてかしら?」

 

「その…。パイロットって仲間じゃないですか。だから、早めに知っておきたいなと思いまして…。」

 

「そうね。確かにそれはいい心がけね。わかりました。決まり次第教えましょう。」

 

「ありがとうございます。」

 

「その代わり、私の質問にも答えてもらうわよ。」

 

「何ですか?」

 

「今日のシンクロテスト、シンジくんの数値が極端に安定していなかったけど、何か余計なことを考えてたのかしら?」

 

「…。すいません…。」

 

「そう。それとアスカ。」

 

リツコさんは今まで黙っていたアスカに突然話しかけた。

 

「何よ?」

 

「あなたも以前と比べて、シンクロ率が高くなってたけど、何かあったのかしら?」

 

「努力したのよ。エースパイロットとしてシンクロ率が高いのは当然でしょ?」

 

「それもそうね。」

 

リツコさんは言葉ではそう言ってるのが、内心は納得していないし、僕達のことを疑っているだろう。

今度からはもっと気をつけないと、リツコさんにばれかねない。

 

「僕達、そろそろ帰りますね。ありがとうございました。」

 

「ええ。さようなら。」

 

こうして、僕達はリツコさんの部屋を出た。

 

「だそうよ。ミサト。」

 

「私、酔っ払って喋ったかしら?」

 

「そんなことはどうでもいいのよ。」

 

「どうでもよくないわよ。機密事項を漏らしたかもしれないのよ?」

 

「まあ、ミサトならやりかねないわね。それより、今はシンジくんの行動力についてよ。」

 

「確かに、以前のシンジくんとは違う気がするわね。」

 

「えぇ、それとアスカもよ。以前ならこんな風にシンジくんに着いてきていたかしら?」

 

「アスカは普段と変わらないような…。」

 

「確かにそうかもしれないわね…。今はとにかくシンジくんについてよ。ミサト。慎重に探ってちょうだい。」

 

「わかったわよ。」

 

……

その頃。

僕達は帰路に着いていた。

 

「アスカも今度からは気を付けてね。」

 

「はぁ?なにを?」

 

「アスカだって怪しまれてたじゃないか。」

 

「私のシンクロ率が高いのは当たり前のことでしょ?それより、あんたの方がよっぽど気をつけなさいよ。」

 

「どうしてだよ。」

 

「はぁ。以前のあんたを考えてみなさいよ。今よりもっとウジウジしてたのよ。それなのに、あんなに積極的に行動しちゃって。自らバラしてるようなもんじゃない。」

 

「仕方ないだろ!?以前のままじゃ何も変えられないんだよ。」

 

「はんっ。せいぜいもがきなさい。どうせ無駄だから。」

 

「そんなのやらなきゃわかんないよ。」

 

その後、僕達は家に着き。

その日を終えたのであった。

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第三話

僕がこの世界に来てから三週間ほど経ったある日。

僕はリツコさんの部屋に呼び出されていた。

 

「何でしょうか、リツコさん。」

 

「先日の3号機のパイロットについてよ。」

 

「パイロット、決まったんですね。」

 

「ええ。ところで、今日はアスカいないのね。」

 

「えっ…?呼ばれたのは僕だけですよね?」

 

「ええ。その通りね。」

 

「はぁ…?それより、誰なんですか?」

 

「あなたがよく知ってる人よ。」

 

そう言うと、リツコさんは僕にとある資料を渡してきた。

そこにはフォースチルドレン鈴原トウジの情報が載っていた。

 

「パイロットはトウジなんですね…。」

 

「ええ。そうよ。ちなみにこれは機密情報だから漏らしちゃダメよ。

あなたの頼みで早めに公開してるのだからね。」

 

「わかりました。ありがとうございます。それでは、失礼しますね。」

 

そう言って、僕はリツコさんの部屋を後にした。

 

「ミサト。もう出てきてもいいわよ。」

 

「盗み聞きはあんましよろしくないわよね…。」

 

「あら、最初はノリノリだったじゃない。」

 

「あんたみたいに悪趣味じゃないわよーだ。」

 

「それより、シンジくんの反応見たかしら?」

 

「ええ。全然驚いていなかったわね。」

 

「その通りよ。驚くどころかやっぱりかみたいな反応してたわね。」

 

「シンジくん本当にどうしたのかしら…?」

 

「まあ、しばらくは様子見よ。」

 

場所は移ってミサト宅。

僕は今日の夕飯作りをしていた。

テーブルにはアスカが頬杖をつきながら座っている。

 

「アンタ、今日どこ行ってたの?」

 

「リツコさんとのところだよ。」

 

「じゃあ、聞いたのね。パイロットのこと。」

 

「うん。やっぱりトウジだったよ。」

 

「それ機密情報でしょ?私に言っていいわけ?」

 

「アスカだって元々知ってるだろ。」

 

「でも、私は知らないことになってるのよ。だから、ミサトあたりにちくればあんたは大目玉食らうわよ。」

 

「そんなことしないよね…?」

 

「さあね。私はあんたが苦しむ様を見るのが生き甲斐だからするかもしれないわ。」

 

「…。」

 

僕は神妙な面持ちでアスカを見る。

 

「はぁ。そんな顔で見ないでくれる?心配しなくても言わないわよ。邪魔はしないって言ったでしょ?あんたの好きにしなさい。」

 

そう言うと、アスカは部屋に戻ってしまった。

ところでふと思ったが、アスカはなぜ邪魔をしないと言い切ったのだろうか。

アスカは僕のことを恨んでるはずだ。

それなのに、邪魔をしてこない。

むしろ、人前ではいつも通りに振る舞ってくれる。

一体、何を考えているのだろうか。

しばらく、考えてみたが、答えには辿り着けなかったので、思考を放棄した。

それよりも、今はトウジのことである。

明日、学校に行ったら話をしてみよう。

 

……

次の日。

学校にて。

 

「トウジ。おはよう。」

 

「おう。おはよーさん。」

 

「ちょっと昼休みに話したいことあるから屋上に来てもらってもいいかな?」

 

「何や!?告白か!?」

 

「ちっ、違うよ!?」

 

「すまん。せんせ。わしは女子が好きなんや!」

 

「だから、違うって言ってるだろ!?」

 

ちなみにこれのせいで、僕はホモなんじゃないかという、噂をされるのであった。

 

……

昼休み。

屋上にて。

 

「それで、話したいことって何や?」

 

「最近変わったことなかった?」

 

僕は少し探りを入れながら聞いてみる。

 

「んー。シンジにここに呼び出されたことくらいやのう。」

 

「ほんとに??」

 

「嘘ついてどないすんねん。」

 

「確かにそうだけど…。」

 

僕がトウジのことを疑いの眼差しで見ていると、突然校内放送が流れた。

 

『2年A組鈴原トウジ君。至急校長室まできてください。』

 

「わしやないか。」

 

トウジが不思議そうな顔をしてる。

この放送を聴いて、僕はようやく合点があった。

トウジ自身はまだ、パイロットについて何も聞かされてないのだ。

この後、校長室でリツコさんから聞かされるのであろう。

 

「まあ、そういうことやから、話はまた今度頼むわ。」

 

「うん。わかった。」

 

こうして僕はトウジと別れ、教室に戻った。

結局、その日、トウジは教室に戻ってくることなく、学校が終わってしまうのであった。

 

……

ミサト宅にて。

 

「あんた、やっぱりホモだったの?」

 

「ぶふっ。」

 

アスカがとんでもないことを聞いてきたため、僕は水を吹き出してしまった。

 

「違うに決まってるだろ!」

 

「どうだか。フィフスといい感じだったじゃない。」

 

「カヲル君はそんなんじゃないよ!カヲル君は僕の大切な友達だ。」

 

「はんっ。まあ、いいわ。で、鈴原とはちゃんと話したわけ?」

 

「まだ、話せてない。でも、ちゃんと話すつもりだよ。」

 

「そっ。わかったわ。」

 

「ところでアスカはこの世界に来てから何してるの?もう結構経つけど?」

 

「急に何よ。」

 

「いや少し気になって…。言いたくないなら言わなくてもいいよ…。」

 

「ふん。まあ、大したことはしてないわよ。」

 

「具体的には?」

 

「お買い物行ったりとか、普通のことしてるわ。」

 

「そうなんだ。」

 

僕はアスカの行動が意外だったので驚いた顔をする。

アスカはそんな僕の顔が不快だったのか、キッと僕の顔を睨んできた。

 

「なによ。文句あるの?ちゃんと、あんたの邪魔はしてないでしょ?」

 

「そっ、そうだけど…。」

 

「ならいいじゃない。」

 

「でもさ…『ピーンポーン』

 

僕の言葉を遮るチャイムの音が鳴った。

僕は玄関に行き、チャイムを鳴らした主を確認する。

玄関の前には、なんと、トウジが立っていたのである。

 

「トウジどうしたの??」

 

「シンジ。ちょっと話したいことがあるんや。少し時間ええか?」

 

トウジは神妙な面持ちをしていた。

僕は当時の用件が既にわかっていたので、当時の提案を快諾した。

 

「アスカ。少し出かけてくる。」

 

僕はアスカに声をかけ、トウジと一緒に近くの公園に行った。

 

「シンジは、わいがエヴァのパイロットに選ばれたって知っとんたんか?」

 

「うん。先日、聞いたんだ。」

 

「そか。エヴァに乗るってどんな感じや。」

 

「僕は…。怖いかな…。」

 

僕は本当の気持ちを包み隠さずトウジに話すことにした。

そうすることで、少しでもトウジの気持ちが楽になればいいと思ったからだ。

 

「やっぱり、シンジも怖いんやな。」

 

「うん。でも、僕は守りたい人がいるから乗るよ。」

 

このセリフを聞いて、トウジが少し驚いた顔をしている。

確かに、本来の僕ならあまり言わなさそうなセリフではある。

 

「守りたい人がいるからか…。せやな、わいも守りたい人がいる。」

 

「それは妹さんのこと?」

 

「それもあるんやけど、それだけやない。ケンスケやいいんちょそれにお前や惣流もや。」

 

「そっか。覚悟はできたんだね?」

 

「あぁ。ありがとうな。おかげで覚悟できたわ。」

 

「もし、何かあったとしても僕が絶対に何とかする。約束するよ。」

 

「最近のシンジはほんま頼りになるなー。ほな、よろしゅう頼むわ。」

 

「うん。任せて。」

 

こうして、僕はトウジと別れ、再び自宅に戻った。

 

「ただいまー。」

 

「遅い。早く夕飯作りなさいよ。」

 

「ごめん。今すぐ作るよ。」

 

家に帰ると、お腹を空かせたアスカが不機嫌そうに待っていた。

 

「ちゃんと話できたのね?」

 

アスカが僕に聞いてくる。

 

「うん。できたよ。」

 

「乗らないことを勧めたの?」

 

「それも考えたけど、トウジはサクラさんのことを引き合いに出された時点で乗らない選択肢はないんだよ。だから、どんなことがあっても僕が何とかするって励ましてきた。」

 

「はっ。いいわね正義のヒーロー気取りで。本当ならあんたに何度も殺されてるのに。」

 

「それは僕が殺したわけじゃ…。いや、僕が殺したのと同義だよね…。

でも、今回はそれが起きないように手を尽くすよ。だから、アスカも少し手伝ってくれないかな…?」

 

「嫌よ、と言いたいところだけど、アイツが死ぬとヒカリが悲しむからね。今回は特別よ。」

 

「ありがとう、アスカ。」

 

こうして、僕らは実験日当日を迎えるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




よかったらお気に入り登録と感想お願いします!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Another Side 1

これはアスカ視点のお話です。


私が、一度目に目を覚ました時、私はシンジに首を絞められていた。

 

「気持ち悪い。」

 

私は泣き崩れるシンジにその言葉を浴びせる。

なぜ、この言葉を発したのかは、私もわからない。

自然と口から漏れていた。

しかし、今ではこの言葉が二人の記憶が蘇るトリガーである。

私たちは何回もこの場面に遭遇した。

その度にシンジは絶望している。

そんなシンジを見て、最初の方は内心ほくそ笑んでいた。

私を見捨てた罰だと思って見ていた。

しかし、何回もそんな姿を見ているうちにそのようなことは思わなくなってしまった。

おそらく、この世界の真実について少し知ってしまったからであろう。

そして、こないだの出来事で私はこの世界の真実を全て知ることになった。

なぜか、この世界には惣流・アスカ・ラングレーが存在しなかったのである。

恐らく、シンジがこう願ったのだろう。

『惣流・アスカ・ラングレーが傷つかない世界にしたい』と。

傷つかない=存在しないは流石に驚いた。

しかし、私がいない代わりに、偽物の私が存在した。

シンジはその世界で偽物の私を傷つけ、絶望していた。

けれど、なんだかんだで、シンジはその世界をいいものに仕上げてしまったのである。

私はそれを見て反吐が出た。

私の偽物を救って、シンジが満足している。

そんなのは許せない。

私には何もしてくれないのに、なぜ偽物は救うのだろうか。

シンジは私だけを見てればいい。

私だけに罪の意識を感じればいい。

私だけを…。

今の私の心はシンジへの憎しみが7割で構成されている。

残りの3割は口にしたくない。

これを口にしたら、私は私じゃなくなる。

私の存在意義はいかにシンジを苦しめるかだ。

でないと、私は…。

 

 

……

あの世界から帰ってきたシンジが夢物語を語っている。

 

「当たり前じゃないか。今の記憶があれば絶対に世界を変えれる。」

 

変えられるわけがないじゃない。

 

「わかったわ。じゃあ、もし記憶の継続性があった世界に行きあたっても、この場所に戻ってきてしまったら、そん時は私の言うことひとつ聞きなさいよ。」

 

「何で、そんな約束しなきゃいけないんだよ。」

 

「それくらい覚悟があるのかって話よ。」

 

 

「覚悟ならあるよ。」

 

覚悟なんてあっても、どうせ戻ってくるのよ。

 

「そう。なら、契約成立ね。そろそろ、私も自分が傷つくのは飽きてきたし、いいわ。せいぜいもがきなさい。」

 

そう。

これでもう終わりにしましょ。

最後に今までにないほどの絶望を与えてあげるから。

でも、安心して。

あなたの心が折れてしまったとしても、ちゃんと私が…。

 

 

こうして私とシンジは最果ての旅へと出たのであった。

 

 

 




これからもちょくちょくアスカ視点も書いていきたいと思いますー!
感想を頂けると嬉しいです!
次回更新日は3月20日0時を予定しています。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第四話

3号機起動実験当日。

僕は学校をサボってネルフに来ていた。

理由はもちろん、すぐエヴァに乗れるようにするためである。

今の僕たちなら今回の事故を未然に防げたかもしれない。

しかし、それをするにはあまりにも危険すぎる。

だから、トウジには申し訳ないが、今回ののような対策を取らせてもらった。

でも、その代わり絶対にトウジを助ける。

僕がそんなことを考えていると、ネフルの警報がなった。

『松代で事故発生。パイロットは至急本部に来てください。』

ついに来たか。

僕はその警報を聞き、走って奈良は本部に向かった。

 

……

初号機の中にて。

『総員第一種戦闘配置。地対地戦用意。エヴァ全機発進!』

『攻撃地点に全機配置完了』

『野辺山で防衛線を展開』

『目標確認』

僕はその声を聞き、ゆっくり前を見た。

やはり、3号機が使徒に乗っ取られている。

トウジ、今助けるから。

僕は3号機に向かって行った。

初号機と3号機はお互いの手を掴み、牽制しあっている。

すると、3号機の肩甲骨あたりからさらに腕が2本出てきて、初号機に襲いかかってきた。

これは予想通りだ。

 

「アスカ!!」

 

「言われなくてもわかってるわよ。」

 

肩甲骨から出てきた2本の腕をアスカが止めに入る。

今なら、首元がお留守だ。

 

「綾波!エントリプラグを引き抜いて!」

 

「わかったわ。」

 

綾波は僕の指示通りエントリープラグを引き抜いた。

よし。

作戦通りだ。

あとはこのまま3号機を倒せば全てが終わる。

そう思っていた。

しかし、運命は残酷だった。

『3号機から使徒の反応が消えました!?えっ、エントリープラグから零号機に侵食反応あり!パターン青!使徒です!』

 

「侵食タイプか。厄介だな。」

 

「あぁ。しかもそれだけではない。コアが零号機に移動している。」

 

「なんと。今度は零号機を乗っ取ったのか!?」

 

「零号機に緊急停止信号を送れ。」

 

「ダメです!反応ありません!」

 

「なら仕方あるまい。」

 

「碇。ここで零号機を捨てるのか?委員会が黙ってないぞ。」

 

「ふっ、構わん。代わりならそこに転がっている。」

 

「なるほど。3号機か。」

 

「あぁ、問題ない。」

 

「綾波!!どうしたんだよ!?」

 

僕は必死に綾波に問いかけるが反応がない。

すると、ネルフから通信が入った。

 

『現時刻を待って、零号機を使徒とみなす。』

 

「待ってよ、父さん!?綾波が乗ってるんだよ!?」

 

『シンジ。あれは使徒だ。早く倒せ。』

 

「出来るわけないだろ!?綾波が乗っているんだ!」

 

「やれ、シンジ。」

 

「嫌だ!待ってろ綾波!すぐ助ける!」

 

僕はそう言うと、綾波を助けるために零号機に近づこうとした。

 

「碇。いいのか。初号機を失うことになるぞ。」

 

「初号機パイロットとのシンクロを全てカットし、ダミーシステムに切り替えろ。」

 

「で、ですが…。ダミーシステムはまだ…。」

 

「構わん。続けろ。」

 

「わかりました。初号機パイロットのシンクロを全てカット。ダミーシステムに切り替えます。」

 

「父さん!待ってよ!?やめてよ父さん!?」

 

「初号機との通信をカットしろ。」

 

「わかりました…。」

 

その後、僕の叫び声は虚しく響き渡った。

零号機はダミーシステムを起動させた初号機により殲滅され、同時にパイロットの死亡報告が僕の耳に入ってきた。

僕はまた失ってしまったんだ。

綾波…。

 

 

 

……

ミサト宅にて。

 

「あんたいつまでそうしてるわけ?」

 

アスカが少し怒気を帯びた声で話しかけてくる。

 

「ほっといてくれよ。」

 

僕は今は誰とも話したくないので、そっぽを向いた。

 

「当初の目的だった鈴原は助かったんだし、少しはシャキッとしなさいよ。」

 

「でも、綾波が…。」

 

「綾波は量産型よ。明日にはまたひょっこり現れるわよ。」

 

「そういうことじゃないだろ!アスカの分からずや!」

 

僕は声をあらがアスカに言う。

 

「分からずやはどっちよ。あんた、ここに何しにきたの。こんなことで一々止まってどうすんのよ。ほんとに世界を変える気あるの。」

 

アスカの一言に僕の胸が痛む。

確かに、アスカの言う通りだ。

僕は本当の目的のためにこんなところで止まってるわけにはいかない。

でも、また綾波を助けられなかったんだ…。

 

「わかってる。わかってるよ…。でも、今日だけはこうさせて欲しい…。」

 

「ふん。勝手にしなさい。」

 

アスカはそう言うと、自分の部屋に戻って行った。

一人取り残された僕は、朝まで声を押し殺しながら泣くのであった。

 

……

次の日の朝。

僕はトウジのお見舞いに来ていた。

トウジは右脚を骨折してしまっていたが、それ以外は特に外傷はなかった。

また、使徒による精神汚染もなかったため、骨折した箇所以外は概ね健康体である。

 

「シンジ。ありがとうな。わいを助けてくれて。」

 

「僕だけの力じゃ無理だったよ。」

 

「そうやな。あとで、惣流にも綾波にも礼を言わなあかんな。」

 

「綾波…。」

 

「綾波には悪いことをしたな。わいのせいで大怪我あってしもうたみたいやから。」

 

綾波は量産型のため、一人が死んだとしても死亡扱いにならない。

怪我扱いにして、次が出てくる。

だから、トウジには怪我をしているという報告がされている。

 

「そうだね。今度お見舞いに行ってあげようよ。」

 

「せやな。」

 

「ところで、今日惣流はどうしたんや?癪やが、礼を言おうと思ったんやが。」

 

「アスカはどこかに出かけてるよ。」

 

アスカは僕が泣き疲れて寝てから起きるまでの間に出かけてしまったいたため、どこにいるか僕にも分からない。

 

「そうか。なら、また今度会った時でええか。」

 

「そうだね。じゃあ、僕はそろそろ帰るよ。」

 

「おうよ。じゃあ、また学校でなー。」

 

「うん。また学校で。」

 

トウジの見舞いを済ませた僕は特にすることもなかったので、とりあえず自宅に戻った。

 

……

ミサト宅にて。

 

「ただいまー。」

 

しかし、返事はない。

アスカはまだ帰ってないみたいだ。

いったい、どこに行ってるのだろうか?

まあ、アスカがいないのであればお昼ご飯を作る必要もないので、少し寝ることにした。

昨日は全然眠れてないので、僕はほんの数分で眠りにつくことができた。

 

……

数時間後。

目を覚ますと、隣に誰かの気配を感じた。

隣を向くと、何故かアスカが寝ている。

ほんとになぜ。

とりあえず、このままでは埒があかないので、アスカを起こすことにした。

 

「アスカ起きて。ここは僕の部屋だよ。」

 

「んー。あんた起きたのね。」

 

「うん。ところでなんでここで寝てるの?」

 

「あんたと話そうと思って部屋に来て、気持ちよさそうに寝てるあんた見たら私も眠くなっちゃったのよ。」

 

「それで、僕の横で寝てたの?」

 

「そうよ。そもそも、あんたが悪いんだからね。」

 

「えっ?なんで僕?」

 

「あんたが昨晩メソメソ泣くもんだからうるさくて眠れなかったのよ。」

 

「ごめん…。」

 

「まあ、いいわ。その様子だと立ち直れたのね。」

 

「完全にではないけど。うん。もう大丈夫だよ。ありがとう、アスカ。」

 

「ふん。あんたのためじゃないわよ。私のためよ。」

 

アスカはそっぽ向いてしまった。

 

「ところでアスカはどこ行ってたの?」

 

「ヒカリのところよ。」

 

「どうして?」

 

「あんたバカァ?鈴原のこと伝えに行ったに決まってるでしょ。いま、鈴原のところにはネルフ関係者しか行けないんだから、私が言わなきゃ鈴原の状況はわからないのよ。」

 

「なるほど。そういうことか。」

 

「で、なんで、そんなこと聞いたわけ?」

 

「トウジがアスカにもお礼を言いたいんだってさ。」

 

「ふーん。まあ、アイス一本で手を打ってあげるわよ。」

 

「僕に言われても…。」

 

「あんたが伝えときなさい。私は特に何もしてないわって。」

 

「何言ってるんだよ。アスカだってトウジのこと助けたじゃないか。」

 

「あんたと違って、私は自分のために動いてるんだから礼を言われる筋合いはないのよ。」

 

「…。わかったよ…。そう伝えとくよ。素直じゃないんだから…。」

 

「だって、事実だもの。」

 

「はぁ。」

 

「それよりあんた。次はどうするの。あいつ倒せるの?」

 

「次は確か…。」

 

「第14使徒。最強の使徒よ。」

 

「確か、覚醒してやっと勝てたんだよね。」

 

「でも、自分の意思で覚醒を操ってたら、あんたの父親が黙ってないわよ。」

 

「そうだね。でも、S2機関も取り込まなきゃ行けないし…。」

 

「そうね。」

 

「だから、不足の事態も予測して、作戦立てるよ。

 

「まあ、死なない程度に頑張りなさい。」

 

「アスカもがんばんないとやばいからね?」

 

「そうかしら?無敵のシンジ様がいれば余裕でしょ。さてと、私はまた寝るから起こさないでね。」

 

そう言うと、アスカは再び寝てしまった。

ここ、僕の部屋なんだけど…。

まあいいや。

アスカとあそこで長い期間過ごしてきたせいか、アスカもこういうことをあまり気にしていない。

それよりも、今は第14使徒の事だ。

あの、無茶苦茶な攻撃力にあの鉄壁のATフィールド。

近づこうにも、あの伸びる腕のようなもので中々近づけない。

遠距離攻撃はATフィールドによって無効化。

考えれば考えるほど最強すぎる。

でも、今は一人じゃない。

アスカもいる。

…。

アスカを頭数に入れてもいいのだろうか。

前回は委員長のこともあり、協力してくれたが、今回はどうなのだろうか。

邪魔はしないと言っていたが、協力するとも言ってない。

綾波は…。

正直、顔を合わせづらい。

僕が殺してしまったのだから…。

しかし、今はそんな私情で行動してる余裕はない。

今後の作戦に支障をきたさないためにも、今度綾波とちゃんと話しておこう…。

そんなことを、考えてるうちに僕はいつの間にか寝てしまっていた。

 

第14使徒が来るまであと3日…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回更新日は3月21日0時を予定しています。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第五話

次の日の朝。

僕は綾波の部屋に来ていた。

 

「碇君、どうしたの。」

 

僕が部屋を訪ねると、右目に眼帯をつけ、左腕に包帯を巻いてる綾波が出迎えてくれた。

 

「その、君に謝りたくて…。」

 

「どうして、碇君が謝るの。」

 

綾波が無機質な視線を僕に向けてくる。

しかし、僕はそれに臆することなく言った。

 

「君を守れなかったからだよ。」

 

「そう。でも、碇君が守れなかった私は私じゃないわ。」

 

「そうかもしれない。でも、綾波は綾波だよ。」

 

「そう。私は私なのね。」

 

「うん。綾波は綾波だ。今度こそは絶対に守る。約束するよ。」

 

「ありがとう。碇君。私も碇君を守るわ。」

 

「うん。ありがとう。」

 

こうして僕は、綾波の部屋を後にした。

次に僕は加持さんに呼び出されたため、ネルフに向かった。

 

……

ネルフにて。

 

「よっ。シンジ君。久しぶりだな。」

 

「お久しぶりです。加持さん。今日はどうしたんですか?」

 

「ちょっと、君と話したいことがあってな。」

 

「なんでしょうか?」

 

「いや。最近、シンジ君が逞しくなったと葛城から聞いてね。少し話してみたくなったんだよ。」

 

「そんなことないです。僕は変わらず、臆病なままです。大切な人すら守りきれない弱いやつですよ。」

 

「いやいや、大切な人がいることに気付けるだけでも素晴らしいものだよ。人は大抵、失ってからその大切さに気付くからね。」

 

確かに僕は全てを失ってから、気付いた。

なので、あながち加持さんの言ってることは間違っていないだろう。

 

「それはミサトさんのことですか?」

 

「これはまいったな。シンジ君にはなんでもお見通しのようだ。」

 

加持さんは困った笑みを浮かべている。

 

「今からでも遅くないと思いますよ。」

 

「いや、もう遅いんだよ。運命の歯車は止まってはくれないからね。」

 

「そうかもしれません。でも、結局は自分がどうするか次第なんですよ。だから、遅いなんてことはありませんよ。」

 

「こりゃ、まいったな。シンジ君の方が大人みたいだ。」

 

「僕は子供ですよ。」

 

「そうだな。まあ、長話もなんだ。最後に質問を一つだけして終わりにしよう。」

 

「なんでしょうか?」

 

「君にとって、アスカはどういう存在だい?」

 

「へっ?」

 

よくわからない質問に僕は固まる。

 

「その質問の意図はなんでしょうか…?」

 

「特に意図はない。純粋な興味だよ。」

 

「そっ、そうですか。」

 

「まあ、この答えはすぐに出さなくてもいい。出たら教えてくれ。」

 

そう言うと、加持さんはどこかに行ってしまった。

一人残された僕は先程の質問について考える。

僕にとって、アスカはなんなのだろうか。

よくわからない。

家族のようなものだが、家族と呼ぶには違和感がある。

この感情の正体がなんなのか僕はまだ知らない。

 

「よくわからないよ。」

 

僕はボソッと独り言を呟き、家路に着いたのであった。

 

……

自宅にて。

 

「ただいまー。」

 

僕が家に帰ると、アスカが仏頂面で待っていた。

 

「あんた、どこ行ってたのよ。」

 

「綾波のところだよ。」

 

「ファーストの?今までずっとファーストのところにいたの!?」

 

「あとは加持さんのところだよ。」

 

加持さんの名前を出した瞬間アスカの顔がすごく引き攣った。

 

「なんで、あんたが加持さんのところに行ってんのよ!?」

 

「加持さんに話したいことがあるって呼ばれたんだよ…。」

 

「何話したのよ。」

 

「最近、変わったねって言われたくらいだよ。」

 

僕は話がややこしくなるのを避けるため、最後の質問は伏せておくことにした。

 

「ほんとにそれだけしか話してないのね。」

 

「話してないよ。」

 

「そう。なら、いいわ。」

 

「なんで、アスカに一々報告しなきゃいけないんだよ…。」

 

「なんか文句あるの。」

 

「別にないよ…。」

 

「そう。で、作戦は立てたわけ?」

 

「まだ立て終わってない…。」

 

「あんた、それなのにファーストのところ行ってたわけ!?人類とファーストどっちが大切なのよ!?」

 

「仕方ないじゃないか!綾波にはちゃんと謝っておきたかったんだ。」

 

「あの人形女のどこがいいわけ??」

 

「綾波のこと悪く言うなよ!」

 

「事実を言って何が悪いのよ。」

 

珍しく、アスカがすごく噛み付いてくる。

 

「アスカ。どうしたんだよ。」

 

「別に何もないわよ。あんたには関係ない。」

 

「僕のことが嫌いなのは分かるけど、他の人の悪口はやめてよ。」

 

「ふん。まあ、いいわ。とにかく、作戦をさっさと立てなさいよ。」

 

 

「わかってるよ。でも、そんな適当に立てていいことではないと思うんだ。」

 

「そんなグズグズしてると、タイムオーバーになるわよ。」

 

「そんなに言うんだったら一緒に考えてくれたっていいじゃないか。」

 

「嫌よ。それにどうせ、追い込まれれば初号機が覚醒するんだし、私が手伝わなくてもいいのよ。」

 

「なら、作戦作戦って急かさなくてもいいじゃないか。」

 

「はんっ。もう勝手にしなさい。」

 

「あぁ、勝手にするよ。」

 

僕とアスカはしばらく睨み合っていたが、僕が怖気付いたため、自分の部屋に退散した。

部屋に戻った僕は冷静になり、先程のことを考える。

今日のアスカはこっちの世界に来てからは初めてと言っていいほど、気が立っていた。

しかし、気が立って、語気が荒くなってはいたものの、根本的にはいつまでも作戦が立てられない僕のことを心配して、話題を振ってくれたのではないだろうか。

…。

わからない…。

アスカが果たして僕にそのようなことをするのだろうか。

これは、僕にとっての都合の良い妄想なのではないだろうか…。

 

「わからないよ。加持さん…。」

 

僕は虚空にそう呟き、ベッドに横たわった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回は3月22日0時に更新します。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第六話

次の日の朝。

僕は一人で学校に向かっていた。

朝起きた時には既にアスカがいなかったのである。

行き先はもちろんわからない。

制服はかけてあったので、学校に行ってるわけではなさそうだ。

そんなことを考えながら歩いていると、少し先の方に人影が見えた。

その人影は僕に気づいたのか、僕の方にどんどん近付いてくる。

そして、僕はその人が誰なのかがわかった時、固まってしまった。

 

「初めまして。碇シンジ君。」

 

僕の目の前にはカヲル君がいた。

 

「どうして、カヲル君が…。」

 

「おや?君とは初対面のはずだけど。もしかして、君は今までの君と在り方が違うのかな。」

 

「カヲル君がいる…。カヲル君が生きてる…。」

 

「僕はここにいるよ碇シンジ君。」

 

「うわぁぁぁぁ」

 

僕は泣き出してしまった。

 

「大丈夫かい、シンジ君。」

 

カヲル君が心配そうに僕のことを見ている。

 

「ごめんね、カヲル君…。僕は君のことを何回も何回も…。」

 

「いいんだよ。シンジ君。僕は君の幸せを履き違えてしまっていたからね。当然の報いを受けたまでさ。」

 

「そんなことないよ…。カヲル君は誰よりも僕の幸せを願ってくれた。なのに、僕は君を…。」

 

「シンジ君。気にしないでくれ。君と僕は今こうして会えてるじゃないか。だから、会えたことの喜びを分かち合おう。」

 

「うん…。やっぱり、カヲル君も在り方が違うんだね。」

 

「僕は使徒だからね。リリンとは違うんだよ。この円環にずっといるのさ。」

 

「でも、どうして、カヲル君はこの時期にここにいるの?」

 

「君のお父さんがシナリオ通りに動いていないから、委員会から監視役として寄越されたわけだよ。」

 

「それってつまり…。」

 

「そう。シンジ君が未来を変えてると言うことだ。」

 

「でも、僕は綾波を…。」

 

「誰にでも失敗はあるさ。でも、君はそこで立ち止まってるわけにはいかないと言われたはずだよ。」

 

「それでも、僕は胸を張って未来を変えたとは言えないよ。」

 

「ふふ。相変わらず、シンジ君はガラスのように繊細だね。でも、今は自らの手で幸せを掴み取ろうとしてる。全部、セカンドのおかげなのかな。全く、羨ましいな。シンジ君のそばにずっと入れるなんて。」

 

「たしかに、アスカのおかげで僕は変われたよ。でも、アスカは僕のそばにいれてよかったなんて全く思ってないと思うよ。」

 

「それは彼女の口から聞いたのかい?」

 

「聞いてないけど…。」

 

「ふふ。今度聞いてみるといいよ。彼女は全てを知りながら君のそばにいる。相当なお人好しだよ。」

 

「…。機会があったら聞いてみるよ.…。」

 

「ところでシンジ君、君は今、明日のことで困ってるんじゃないかい?」

 

「うん。」

 

「なら、それについて少し話をしよう。よかったら僕の部屋に来ないかい?」

 

「カヲル君の部屋に?いいよ。」

 

こうして僕たちはカヲル君の部屋に向かった。

カヲル君の部屋に着くと、中にはピアノがあった。

 

「ピアノ…。」

 

「覚えているかいシンジ君?」

 

「もちろんだよ。」

 

「なら、少し一緒にひかないかい?」

 

「いいよ。」

 

僕たちは1時間ほどピアノを弾いた。

そして今に至る。

 

「で、シンジ君は明日の使徒をどうやって倒すんだい?」

 

「それはまだわからない…。」

 

「今のシンジ君なら、倒せると思うよ。君のATフィールドは昔より遥かに強固だ。それに、彼女もついてる。」

 

「でも、倒すだけじゃダメなんだ。S2機関も取り込まないと…。」

 

「S2機関のことは気にしなくていいよ。そこは僕がなんとかしよう。だから、君は倒すことだけに集中しなよ。」

 

「えっ、ほんとに大丈夫なの?」

 

「もちろん。僕を信じておくれ。」

 

「わかった。信じるよ。」

 

「ありがとう。」

 

僕がこの時、その方法をちゃんと聞いとけばよかった死ぬほど後悔したのはまだ先の話。

僕とカヲル君はしばらく談笑をした後、僕は部屋を後にし、家に帰った。

 

……

時刻は18時。

ミサト宅にて。

 

「ただいま。」

 

「あんた今まで何してたのよ!?」

 

「アスカこそ、朝いなかったけど何してたんだよ…。」

 

「まずは私の質問に答えなさいよ。」

 

「…。カヲル君のとこにいたんだ。」

 

「はぁ???なに?あんた、やっぱりホモだったわけ??」

 

「違うよ!カヲル君は僕にとっての大切な友達だ!」

 

「はんっ。どうだか。それより、なんであいつがもう来てんのよ。」

 

「僕たちが少しずつ未来を変えてるんだよ。」

 

「それで、あいつが早くに来たわけ?あーやだやだ、未来なんて変えなきゃよかったわ。」

 

「どうしてそこまでカヲル君を毛嫌いするんだよ…。」

 

「ナルシスホモだからよ。」

 

「はぁ。もういいよ。アスカの分からずや。」

 

「そんなことより、あんた明日のことはどうしたのよ。」

 

「ちゃんと考えたわけ?」

 

「カヲル君が今の君たちなら大丈夫だって言ってた。」

 

「それを鵜呑みにしたと。」

 

「うん。でも、僕とアスカがいれば大丈夫だと僕も思うよ。」

 

「それで明日転けても私のせいにすんじゃないわよ。」

 

「絶対大丈夫だよ。」

 

「ほんとに能天気ね。」

 

「ははは…。それより、アスカ。カヲル君がアスカのことお人好しって言ってたけどどう言う意味なんだろ。」

 

「はぁ?その情報だけじゃわかんないわよ。他に何か言ってなかったの?」

 

「アスカは全てを知ってるだろうとも言ってたよ。」

 

「…。他は。」

 

「他は特にないかな。」

 

「そう…。あいつの戯言よ。気にするだけ無駄だわ。」

 

アスカはそう言うとどこかに行ってしまった。

結局、その日アスカは帰ってくることはなかった。

こうして、僕らは第14使徒戦当日を迎えたのであった。

 

 

 

 




次回は3月23日0時に投稿します。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第七話

『総員第一種戦闘配置』

 

「目標は?」

 

『駒ヶ岳防衛線突破されました』

 

『第1から18番装甲まで損壊』

 

「18もある特殊装甲を一瞬で…。」

 

「エヴァの地上迎撃は間に合わないわ。初号機と2号機をジオフロント内に配置。頼むわよ、アスカとシンジ君…。」

 

 

……

ジオフロント内にて。

 

「アスカ。もうすぐ来るよ。大丈夫?」

 

「あんた誰に向かって言ってるわけ?」

 

「アスカが心配で…。」

 

「はんっ。あんたに心配されるほど落ちぶれちゃいないわよ。自分の心配でもしてなさい。」

 

ドゴーン

空が割れる音がした。

 

「おいでなさったわね。」

 

僕たちから少し離れたところに第14使徒が現れた。

 

「さてと、今までの借りをきっちり返さないとね。」

 

アスカはそう言い、使徒向かって走り出す。

すると、使徒は腕のようなものをたたみ出した。

 

「シンジくるわよ!」

 

「わかってる!ATフィールド全開!!」

 

僕は伸びる下の腕をアスカから守るために、ATフィールドを展開した。

僕のATフィールドによって腕が弾かれた使徒は懐がお留守になり、隙ができる。

 

「もらったーー!!」

 

そこをアスカがプログレッシブナイフでコアを砕きにかかった。

しかし…。

 

「なっ!」

 

アスカのナイフが弾かれる。

使徒が硬い殻のようものでコアを覆ったのである。

 

「ちょっ、シンジ何よこれ!?」

 

「僕にも分からないよ!アスカとにかく離れて!」

 

「そんなの言われなくてもわかってるわよ!あっ…。」

 

アスカは体勢を整え、一旦引こうとしたが、使徒の腕が再びアスカに襲い掛かろうとしていた。

 

「アスカ!!」

 

僕は2号機の前に出て、アスカの盾となった。

ブシュッ。

初号機の片腕が切り落とされる。

 

「ぐっ…。」

 

「シンジ!?あんた何してんのよ!?」

 

僕はアスカに痛みを堪えながら聞く。

 

「アスカは怪我ない?」

 

「あんた人のことより自分のこと心配しなさいよ!?」

 

「よかった。無事なんだね…。」

 

「くっ、このバカシンジ…。ミサト!もっと硬いものないの??」

 

「今用意できるものだと、ソニック・グレイブしかないわ。」

 

「いいから出して!」

 

「アスカのところにソニック・グレイブを射出!」

 

アスカは射出されたソニック・グレイブを握った。

 

「サンキュー。ミサト。」

 

アスカはそう言うと、また使徒に向かって走り出した。

 

「アスカ!?一人じゃ危ないよ!!」

 

「ふんっ。あんたは自分の心配してなさいって言ったでしょ。」

 

アスカは僕の心配をよそにすさまじい操縦技術で使徒の伸びる腕の攻撃をかわし、懐まで潜り込んだ。

 

「アスカにこんな操縦ができたなんて。」

 

ミサトはごくりと唾を飲む。

 

「今のアスカのシンクロ率は150%よ。」

 

「150!?今までで最高の数値じゃない!?」

 

「ええ、おそらくシンクロテストでは手を抜いてたのでしょうね。」

 

「今はいいとして、これならやれるんじゃないかしら。」

 

「どおおりゃーーーー」

 

アスカは使徒のコアを覆ってる殻に向かって、思いっ切り、太刀を振り下ろした。

パキンっ

太刀が折れ、破片が飛び散る。

しかし、今回は見事に殻も砕くことができていた。

 

「もういっちょーーーー!」

 

アスカは既に折れてしまった太刀で、コアを砕こうと、振り下ろそうとする。

しかし、現実はそう甘くなかった。

使徒は再び、腕でアスカの首を切ろうとしていたのである。

 

「アスカ!!」

 

僕はATフィールドを全開にしてアスカを守りにいく。

ザシュッ

使徒の腕は2号機ではなく、初号機の頭を切り落とした。

 

「シンジ…?」

 

アスカの問いかけに初号機は反応しない。

 

「アスカ!今のうちにコアを!」

 

ミサトさんの声で我に帰ったアスカは、太刀で素早くコアを砕きにいった。

 

「いっけーーーーー」

 

パキン

使徒のコアが砕けた。

 

「使徒の殲滅を確認!」

 

「ミサト!?シンジは!?」

 

「パイロットの状況は??」

 

「わかりません。応答がありません。」

 

「すぐに救助に向かって!」

 

「シンジ…?」

 

 

……

 

「知ってる天井だ。」

 

僕は目を覚ますと、ネルフの治療室にいた。

隣を見ると、僕の手を握りながら寝ているアスカがいる。

 

「おはよう。シンジ君。」

 

アスカの後ろに立っていた、カヲル君が僕に話しかけてきた。

 

「カヲル君。使徒はどうなったの?」

 

「使徒は見事彼女が倒したよ。」

 

「よかった…。で、僕はどうしてここに?」

 

「覚えてないのかい?」

 

「うん。少し記憶が曖昧なんだ。」

 

「君は使徒に頭部を切り落とされたんだよ。」

 

「えっ、なのに僕は生きてるの?」

 

「切り落とされる直前に神経接続を僕が切ったからね。」

 

「カヲル君が助けてくれたんだ。ありがとう。」

 

「僕よりも、そこで寝ている彼女に礼を言った方がいいよ。」

 

「アスカに??」

 

「あぁ、彼女に頼まれていたんだ。万が一のことがあったら任せたって。」

 

「アスカがそんなことを。」

 

「バカシンジ…?」

 

カヲル君と話しているとアスカが目を覚ました。

 

「アスカ。おはよう。」

 

「おはよう…、じゃないわよ!?あんた大丈夫なの??」

 

「おかげさまで。アスカ、ありがとうね。」

 

「はっ?私は何も…。フィフス、あんた何も言ってないでしょうね?」

 

「さぁ?僕はもう帰るよ。シンジ君、お大事にね。」

 

そう言うと、カヲル君は逃げるように帰っていった。

 

「あんた、何聞いたの。」

 

アスカが睨みながら、問い詰めてくる。

 

「何も聞いてないよ…。」

 

「じゃあ、なんでお礼なんて言ったの。」

 

「ずっと、看病してくれてたのかなと思って…。」

 

「ほんとにそれだけ。」

 

「うんっ…。」

 

「なら、いいわ。リツコたちを呼んでくるから少し待ってなさい。」

 

「わ、わかった。」

 

その後、リツコさんが来て、軽く検査をした結果、特に問題はなかったため、僕は無事家に帰ることができたのだった。

 

 

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Another Side 2

アスカ視点です。


3号機起動実験の翌日。

私は加持さんのとこに来ていた。

 

「加持さん?お話しってなーに?」

 

私は加持さんに聞く。

 

「まあ、まず世間話でもしようか。そこに座ってくれ。」

 

私は加持さんに指さされた場所に座った。

 

「最近、調子はどうだい、アスカ?」

 

「別に普通ですよー。」

 

「そうか。まあ、普通が1番だ。」

 

「もー、加持さんたら変ですねー。あっ、もしかして、私に告白しよう思ってて緊張してますー??」

 

「はははっ。今の君からそんな言葉を聞いて驚きだよ。」

 

「どういう意味ですか??」

 

「今の君は俺なんか眼中にないって感じだからね。」

 

「そっ、そんなことないですよー。加持さんが私の相手してくれないだけじゃないですかー。」

 

「大人の観察眼を舐めちゃダメだよ。たしかに、こないだまでは俺に対して憧れから来る好意的な視線を送ってくれていたよ。でも、とある日からその熱い眼差しは別の人に向けられるようになった。」

 

「…。なんの話かわかりません…。」

 

「別に隠さなくていいんだ。何も悪いことじゃないからね。俺は嬉しいんだ。あのアスカが純粋に女の子としての楽しみをできているというのがね。」

 

「純粋なものじゃありません。私は…、歪です…。」

 

「…。そうだな。正直言って、純粋な好意の眼差しではない。何があったのかは聞かないよ。野暮だからね。」

 

「…。」

 

「でもな、アスカ。気持ちってのは言葉にしないと分からないんだよ。相手に伝わらない。」

 

「いいんです。伝わらなくて。」

 

「後悔するぞ。失ってからじゃ遅いんだからな。少しは素直に行動してみるといいぞ。」

 

「頑張ってみます…。」

 

「まあ、真面目な話はここら辺にしとくか。」

 

その後、私と加持さんは世間話を少ししてから別れた。

 

……

加持さんとお話ししてから2日後。

私は再び、加持さんのところに来ていた。

 

「加持さん。」

 

私はニコニコしながら加持さんを呼ぶ。

 

「ア、アスカ…。目が笑ってないぞ…。」

 

「そんなことないですよ。それとも、何かやましいことでもあるんですかー?」

 

「すまない、アスカ。出来心だったんだ…。」

 

なぜか、浮気した男を追い詰めている構図になってしまったが、私は気にせず加持さんの話を聞いた。

 

「まあ、それだけだよ。」

 

私は昨日加持さんがシンジに何を言ったのかを洗いざらい聞き出した。

 

「もう余計なことは話さないでくださいね。」

 

私はまた笑顔で言う。

 

「悪かった…。ちょっとした、お節介のつもりだったんだよ…。」

 

「あんまり、お節介ばかりしてると殺されちゃいますよ。」

 

「ははは…。肝に銘じておくよ…。」

 

「そうしてください。」

 

「でっ、実際はどんな感じなんだ。」

 

「何もないですよ。私、そういう感じじゃないので。」

 

「そっ、そうなのか…。」

 

実際そうである。

今の私の心は過半数がシンジへの憎しみで構成されている。

残りのものにまだ名前をつける気はない。

それは最後でいいのだ。

でないと…。

 

「そんな顔をするなら、素直になればいいんじゃないか?」

 

私は私がどういう顔をしていたかわからない。

しかし、今の発言的に寂しそうな顔でもしていたのだと察することができる。

 

「もう、茶化すのはやめてください!ほんとに何にもないですから。」

 

「そうか。でも、こないだ俺が言ったことは忘れるなよ。」

 

「そっくりそのまま加持さんにも返します。」

 

「あらら、二人揃って同じことを言うんだな…。」

 

「では、これで失礼しますね。」

 

「あぁ、気をつけて帰れよ。」

 

私は帰路につき、思考を巡らせる。

加持さんが言った言葉。

『失ってから大切なものに気付く。』

実際、加持さんは失ってから気付いたので、あのようなことを言えるのだろう。

シンジにしても同じだ。

シンジも一回全てを失っている。

対して、私はどうだろうか。

私は全てを失った時、シンジみたいにまた前を向けるだろうか。

分からない。

でも、分からなくていいのだ。

もう、失うことなんてない。

私の復讐が終わるまで絶対に離さない。

私はそう心に誓ったのであった。

 

 

 




次回は3月25日0時に投稿します。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第八話

第14使徒戦翌日。

リツコの部屋にて。

 

「やはり、あの子達に何かしらの異変があるようね。」

 

「やっぱり、そうよね…。」

 

「えぇ、戦闘中とはいえ、アスカはシンクロ率が150オーバー。シンジ君も100%をゆうに越えてたわ。」

 

「シンクロテストではどうだったんだっけ?」

 

「ディラックの海から帰ってきてから1回目のテストでは二人とも80%を出していたけど、それ以降は平均60%程よ。」

 

「それは、手を抜いてたってことかしら?」

 

「おそらくそうね。」

 

「なんて、そんなことを…?」

 

「私たちに怪しまれないようにじゃないかしら?」

 

「はぁ、隠し事されてるってわけね。」

 

「そうね。こちらも悠長にしてる場合じゃないわ。早急に原因を明らかにしないと。」

 

「シンジ君はディラックの海に取り込まれてたから、異常があってもおかしくはないけど、なんでアスカまで…?」

 

「それは、分からないわ。ところで、普段の二人に変わりはないかしら?」

 

「んー。いつも通り、アスカがシンちゃんを罵倒して、家事を全て押し付けてる感じね。」

 

「それをいつも通りと捉えるのはどうなのかしら…。あなたの保護監督責任をといたいわね…。」

 

「だって、アスカに注意しても聞かないんだもーん。」

 

「はぁ、今はそのことは不問にしましょう。引き続き、二人に異変はないか監視を続けてちょうだい。」

 

「了解しました〜。」

 

……

同時刻。

司令室にて。

 

「碇。いいのか?シナリオから大きく逸脱しているぞ。」

 

「構いませんよ。」

 

「しかし、上が黙ってないぞ?予定より早く、委員会から直接使者が送られてきたんだ。」

 

「大丈夫ですよ。冬月先生。我々の目的には支障ありません。」

 

「なぜ、そこまで余裕なのかね?」

 

「シンジがこちら側の人間だからですよ。」

 

「なに?お前の息子がか?」

 

「はい。ですから、利用できるものは、最大限利用しましょう。」

 

「はぁ。お前がそう言うなら、だまってついて行こう。」

 

 

……

さらに同時刻。

ミサト宅にて。

僕はとりあえず、一つ目の山場を乗り切り、脱力していた。

昨日は本当に危なかった。

でも、アスカの危機に自然と身体が動いてしまったのである。

とにかく、アスカに怪我がなくてよかった。

そんな事を考えていると、僕の部屋の扉が開き、誰かが入ってきた。

僕は咄嗟に寝たふりをする。

すると、その人物は僕のベッドになんの躊躇いもなく入ってきたのだった。

そして、その人物が話しかけてきた。

 

「シンジ。起きてるの。」

 

「う、うん。」

 

「そう。」

 

そしてそのまま会話が途切れる。

先日、アスカは僕のベッドに忍び込んできたことがあった。

そして、その時、僕が何も言わなかったので、それから時々こうして潜り込んでくるのだ。

僕は、文句を言うと何をされるか分からないので言わないようにしている。

それに、僕も満更ではないのだ。

アスカの温もりを感じると安心する。

理由はよく分からないがら安心するんだ。

アスカはどう思ってるか分からないけど…。

 

「あんた、これからどうするの。」

 

アスカが突然話しかけてきた。

 

「とりあえず、最初の山場は超えたけど、やることはいっぱいあるからそのための下準備かな。」

 

「そう。」

 

「アスカはどうして僕に協力してくれるの?協力しないって言ってたのに。」

 

「別に協力してるつもりはないわ。私のやりたいようにやってるだけよ。」

 

「そっか。でも、ありがとう。」

 

「ふんっ。」

 

再び沈黙に戻る。

しかし、僕は生まれて初めて、言葉が無くても不安にならない感覚を味わったのであった。

そして、そのまま僕は再び眠りにつくのであった。

 

……

数時間後。

僕は目を覚まし、隣を確認する。

しかし、アスカの姿はない。

僕は起き上がり、リビングへと向かう。

すると、そこには何やら考え事をしているアスカの姿があった。

 

「どうしたの?」

 

「ちょっと、考え事よ。」

 

「そっか?」

 

僕は冷蔵庫からお茶を取り出し飲む。

 

「普通、そこは何のとか聞くでしょうが。」

 

アスカがこちらをキッと睨む。

 

「何を考えてたの…?」

 

「加持さんのことよ。」

 

「加持さん?」

 

「アンタ忘れたの!?このままいくと、加持さんが殺されちゃうじゃない!?」

 

「そうだけど…。まだ、ずいぶん先の話じゃないか…。」

 

「アンタね、暗殺されたってことはずっと命を狙われてったことなのよ

。だから、本来いつ殺されてもおかしくないんだからね!」

 

「たしかにそうだね…。」

 

「というわけで、加持さんを拉致して監禁します。」

 

「えっ!?」

 

「なによ?文句あるの?」

 

「なっ、ないけど…。どうやってやるんだよ…。」

 

「それは任せなさい。私が完璧な作戦を立てるわ。」

 

アスカが悪い顔をしている。

正直不安でいっぱいだけど、覚悟を決めてやるしかないみたいだ。

 

「作戦は明後日実行よ。」

 

「流石にはやすぎない??」

 

「善は急げよ。」

 

「はぁ…。」

 

こうして、加持さん捕獲作戦(仮)が実行されるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第九話

とあるマンションのとある部屋にて。

 

「ここは、どこだ…?」

 

「加持さん。お目覚めですか?」

 

「その声は…。まさか、シンジ君なのか?」

 

「はい。そうです。すいません。手荒なマネして。」

 

「…。俺は確か…。」

 

 

……

数時間前。

 

「加持さん!いらっしゃい!」

 

「あぁ、お邪魔します。葛城は仕事中か?」

 

「はい。そうですよ。」

 

「おや、シンジ君もいたのか。」

 

「はい。部屋に篭ってますんで、お気になさらず。」

 

「気にしなくていいよと言いたいとこだが、アスカが用ががあるらしいからな。まあ、用が済んだら呼びに行くよ。君とも話したいことがあるしね。」

 

「わかりました。では、また後で。」

 

僕はそう言い、部屋に戻った。

大丈夫。

あとは、アスカが何とかしてくれる…。

 

「加持さーん。何飲みますかー?」

 

「コーヒーをお願いしようかな。」

 

「わかりましたー。」

 

「で、用ってのはなんなんだ?」

 

「私、加持さんのことが心配なんですよ。」

 

「んっ?俺のことが?どうして?」

 

「加持さんって、色々なところのスパイしてるじゃないですか。だから、いつか殺されちゃうんじゃないかって不安なんですよ。」

 

「アスカ…?なんで、そんなこと…?」

 

「まあ、そんなわけで、少し大人しくしててくださいね。」

 

「えっ…?あれっ…?急に眠気が…。」

 

加持さんはあっという間に寝てしまった。

 

「シンジー。こっち手伝ってー。」

 

「わかったよ…。」

 

……

そして、現在に至る。

 

「俺は嵌められたのか。」

 

「すいません。アスカは言い出したらきかないんで…。」

 

「どうしてこんな事を?」

 

「加持さんが心配だからですよ。」

 

「君たちが気にするような事じゃないさ。」

 

「でも、このままじゃ、殺されちゃいますよ?」

 

「どうして君たちがそう言い切れるのかな?」

 

「詳しくは話せませんが…。人類補完計画。これで、わかりますかね…。」

 

「なっ、君はもしかして全部知ってるのかい?」

 

「ご想像にお任せします。」

 

「なるほど。それなら、君たちが変わったのも納得がいく。つまり、このままいけば俺は近いうちに暗殺されるわけか。」

 

「そういうことです。」

 

「でもな、シンジ君。俺は殺される覚悟はとっくにできている。でなきゃ、こんな仕事はやってないさ。だから、この拘束を解いてくれないか?」

 

「加持さん。自分で覚悟が決まってるからって死んでいいわけではないですよ。」

 

「それはどういうことだい…?」

 

「加持さんが死ぬと、悲しむ人がいっぱいいます。特に、ミサトさんです。」

 

「…。そうかもしれないが、あいつも大人だ。割り切るだろう。」

 

「加持さんは、前に僕に言いましたよね。失ってから大切なものに気付くもんだって。後から、後悔しても遅いと。」

 

「言ったな…。」

 

「ミサトさんにも同じ思いをさせるんですか?」

 

「…。それは…。」

 

「ミサトさんは今でも加持さんのことを愛していますよ。だから、そんな簡単に死んでもいいとか言わないでください。」

 

「…。はぁ、こりゃ敵わんな。わかったよ。ここで、しばらく身を潜めることにしよう。」

 

「ありがとうございます。僕たちのわがままに付き合ってくれて。」

 

「あそこまで言われたら仕方ない。でも、葛城に危険が迫ったら教えてくれ。俺はあいつを守りたいんだ。」

 

「加持さんからそんなことが聞けるとは…。驚きです。」

 

「茶化さないでくれよ。これでも、本気なんだ。」

 

「わかりました。食事とか生活に必要なものは僕が定期的にもってきますね。」

 

「ああ、よろしく頼むよ。」

 

「それでは、アスカが待ってるので。」

 

「ちょっと、待ってくれ、シンジ君。」

 

「なんでしょうか?」

 

「こないだの質問の答えは出たかな?」

 

「…。まだ、答えをちゃんと見つけたわけではありません。でも、僕にとってアスカは大切な存在です。幸せになって欲しいと願ってます。でも、この感情がなんなのかはいまだにわかりません。」

 

「そうか。そこまで、わかってるならいいんだ。焦らず、見つければいい。アスカのことは任せたぞ。」

 

「…。自信はないですが、頑張ります、」

 

こうして、僕は自宅に戻った。

 

……

ミサト宅にて。

 

「加持さんどうだった?」

 

アスカがソワソワしながら僕に聞いてくる。

 

「納得してくれたと思うよ。しばらくはあそこに身を隠すってさ。」

 

「あんた、すごいわね。まあ、でも監視は怠ったちゃだめよ。」

 

「わかってるよ。あんまし、気が進まないけど…。今度、アスカもちゃんと謝りに行きなよ。手荒なマネしちゃったんだから。」

 

「そうね。今度、謝りに行っとくわ。」

 

そんな会話をしていると、ミサトさんが帰ってきた。

 

「たっだいまー。」

 

「お帰りなさい、ミサトさん。

 

「あれ?二人とも真剣な顔して?お取り込み中だった?」

 

「違いますよ。」

 

「あら、そう?遠慮しなくてもいいのよ?」

 

「しつこいと嫌われるわよ。」

 

「やーん。アスカが辛辣ー。あっ、そうだ。加持くんの姿が午後から見えないんだけど、あなたち知らない?」

 

「知らないわよ。」

 

「僕も知りませんね。でも、加持さんのことですし他の女の人のところに…。」

 

「…、それもそうね。よーし、ご飯にしましょー。」

 

ミサトはそう言うと、着替えをしに部屋に入っていった。

 

「アスカはすごいね、平然と嘘がつけて。」

 

「アンタもじゃない。しかも、余計なことまで。」

 

「…。謝ることが増えちゃったよ…。」

 

「ほんとに、バカね。」

 

こうして、加持さんの拉致監禁作戦は無事、成功(?)に終わったのであった。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Another Side 3

アスカ視点です。


第14使徒戦、早朝。

 

「初めまして、セカンドチルドレン。いや、君も初めましてではないのかな?」

 

「挨拶なんてどうでもいいわ。それより、アンタに話があるのよ。」

 

「僕に話かい?ちょうどよかった。僕も君に聞きたいことがあるんだ。」

 

「何よ?」

 

「おや?僕から先に聞いてもいいのかい?」

 

「いいから、早く言えっての。」

 

「じゃあ、聞かせてもらおう。なぜ、君は全てを知った上で、こんな事をしているんだい?」

 

「…。答えたくないわ。」

 

「なら、質問を変えよう。なぜ、君がそのような辛い役目を果たそうとするんだい?」

 

「私しかいないのよ、あそこには。だから、私がやるしかないの。」

 

「それは、義務感からかい?」

 

「それも、あるわ。でも、半分以上は復讐のためよ。」

 

「復讐か。ふふふ。君は素直じゃないんだね。」

 

「それが私の取り柄だもの。」

 

「そうか。なら、僕からの質問は終わりにしよう。」

 

「じゃあ、次は私ね。まず、一つ目はお願い事よ。」

 

「君からのお願い事?それは気になるね。」

 

「いちいち、勘に触る言い方ね。まあ、いいわ。今日、使徒が来ることは知ってるのよね?」

 

「あぁ、もちろん。」

 

「そいつがめちゃくちゃ強いことも?」

 

「うん。」

 

「なら、シンジが危険な時はアンタが助けてあげて。」

 

「僕が?どうしてだい?」

 

「私は私のことで手一杯であいつのフォローまではできないのよ。」

 

「でも、シンジ君なら普通に勝てると思うけどな。」

 

「それはあいつが冷静な判断ができた時よ。でも、多分あいつは私が危ない目に遭うと、私を庇って自分が危ない目に遭うはずよ。」

 

「なぜ、そう言い切れるんだい?」

 

「あいつは私を助けれなかったことに負い目をかんじてる。だからよ。」

 

「なるほど、半分正解だけど、まだ半分足りないな。」

 

「はっ?何言ってんの?」

 

「なんでもないさ。わかった。その役目、引き受けよう。」

 

「ふん。しくるんじゃないわよ。」

 

「そんなことはしないさ。シンジ君のためだからね。」

 

「やっぱり、アンタってホモだったのね。」

 

「ホモ?それは、ホモサピエンスのことかい?それなら僕は違うよ。」

 

「違うわよ。同性愛者のことよ。」

 

「それも違うさ。そもそも、僕には性がない。使徒だからね。それに、シンジ君は僕の大切な友達さ。」

 

「あっそう。じゃあ、最後に質問するわ。」

 

「どうぞ。」

 

「アンタ、シンジにS2機関のことは任せろって言ったらしいわね。」

 

「あぁ、言ったさ。」

 

「アンタ、もしかして。」

 

「その、もしかしてだよ。」

 

「なんで、そんなことをするわけ?」

 

「僕はシンジ君の幸せを願ってるからね。」

 

「あいつはそんなこと望んでないわよ。」

 

「望んでなくてもしなくちゃならないんだよ。僕の存在はシンジ君の幸せの邪魔でしかない。」

 

「だけど、他にやり方があるでしょう。」

 

「これが、最適解だよ。」

 

「なんで、言い切れるのよ。」

 

「あとでわかるさ。それより、君はそろそろ行かなきゃだろ?」

 

「そうね。まあ、あとは任せたわ。」

 

「ふふ。やはり、君たちに純粋な幸せは似合わないね。でも、苦労した先に掴める何かがあるはずだよ。」

 

「ふん。どうでもいいわ。」

 

こうして、私はナルシスホモと別れて、ネルフにむかったのであった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十話

加持さんを監禁してから一週間程経ったある日。

僕たちはネルフに来ていた。

 

「今日から、パイロットとしてネルフに配属された、渚カヲル君よ。」

 

「断固拒否しまーす。」

 

「ちょっ!アスカ!?何言ってんのよ!?」

 

ミサトさんが、驚いた顔でアスカを見る。

 

「セカンドは僕に冷たいね。」

 

「当たり前でしょ。生理的に無理。」

 

「アスカ!?カヲル君に失礼じゃないか!」

 

「いいんだよ。シンジ君。仕方ないさ。」

 

「でも…。」

 

「心配してくれてありがとう。でも、僕は大丈夫だから。」

 

「カヲル君が言うならわかったよ…。」

 

「なによ。二人して、気持ち悪い。」

 

「アスカ!」

 

「はーい、そこまでにしてー。四人ともシンクロテストをするので、着替えてきてくださーい。」

 

僕たちは、ミサトさんに言われた通りに着替えに行った。

 

「あの子たち、仲良いわね。」

 

「ほんとよね。だから、余計怪しいのよ。」

 

「渚カヲル君のことかしら?」

 

「そうよ。渡された資料を見ても、なーんにもわかんないのよ。」

 

「彼はゼーレから直接送り込まれてきたそうよ。」

 

「はぁ。とにかく、注意深く見てなきゃね。」

 

「そうね。とりあえず、私たちもいきましょ。」

 

「は〜い。」

 

 

……

1時間後。

 

「四人とも上がっていいわよ。」

 

リツコさんに声をかけられ、僕たちは更衣室へと向かった。

 

「シンクロ率はどうだったー?」

 

「アスカ、レイ、シンジ君はいつもとあまり変わりはないわ。」

 

「新しい子は?」

 

「シンクロ率70%よ。」

 

「彼、初めてよね?」

 

「そのはずよ。」

 

「はぁ。ますます怪しいじゃないの。」

 

「まあいいじゃない。シンクロ率は高いに越したことはないわ。」

 

「そうなんだけどさ…。アスカとシンジ君が急に高くなった原因も分かってないのに新しい悩みの種が…。」

 

「しっかりしなさいよ。」

 

「わかってますよーだ。それにしても、零号機がほぼ直って、あとは初号機が直ればエヴァを4機も動かせるわけね。」

 

「腕の見せ所じゃない。」

 

「エヴァ4機なんてあったら、世界を滅ぼせそうね。」

 

「そうね。それほど、責任重大ってわけよ。」

 

「…。うっ…。胃が痛い。」

 

「頑張りなさいよ。」

 

「はーい…。」

 

 

……

更衣室にて。

 

「カヲル君。この後、少し時間あるかな?」

 

「あるよ。どうしたんだい?」

 

「いや…。特に用事があるわけじゃないんだけど…。少し、歩きながらお話でもできたらなって…。」

 

「ふふふ。僕もシンジ君と話したいからいいよ。」

 

「ありがとう!カヲル君!」

 

「だめよ。」

 

「ア、アスカ!?なんでここにいるんだよ!?ここは男性用だよ!?」

 

「アンタが遅いからでしょ。ほら、帰るわよ。」

 

「ちょ、僕はカヲル君と帰るから、アスカは先行っててよ。」

 

「嫌よ。約束したじゃない。シンクロテストの帰りに買い物に付き合ってくれるって。」

 

「そんなのしてないよ!?」

 

「ふーん。そういうこと言うんだ。」

 

「なんだよ。」

 

「最低だ…。俺って…。」

 

アスカの呟きによって、血の気が引いていく。

 

「アスカ…。買い物行こうか…。」

 

「最初からそうしてればいいのよ。」

 

「ごめん。カヲル君…。また今度一緒に帰ろう…。」

 

「構わないさ。彼女は君がいないとだめだからね。」

 

「??」

 

僕がカヲル君が言った言葉の意味を考えていると、アスカが僕の手を無理矢理、引っ張り出してきた。

 

「ほら、早く行くわよ。」

 

「ちょ、引っ張らないでよ…。またね、カヲル君!」

 

「またね、シンジ君。」

 

こうして僕はアスカに無理矢理、買い物に付き合わされたのだった。

 

……

デパートにて。

 

「アスカー。そろそろ帰ろうよ。」

 

「まだ、見てんのよ。」

 

カヲル君と別れてからも、アスカはすごく機嫌が悪い。

どうして、こんなに機嫌が悪いのか僕にはわからない。

 

「シンジ。どっちが似合う?」

 

僕が考え事をしていると、突然アスカが僕に話しかけてきた。

 

「どっちも似合うと思うよ…。」

 

「アンタ、日本語わかってる?どっちって聞いてんのよ。」

 

「右の方が似合うと思う…。」

 

「そっ、じゃあ、お会計してきて。」

 

「えっ!?なんで僕が!?」

 

「アンタが似合うって言ったんでしょ?」

 

「アスカが聞いてきたんじゃないか!?」

 

「いいから早くしなさいよ。この美少女の私と買い物できてるのよ?服の一着や二着くらい買いなさいよ。」

 

「無茶苦茶だ…。」

 

結局僕は、服を買わされるのだった…。

しかし、服を買ったあたりからアスカの機嫌は少し良くなったので、これなら安い買い物かもしれないと思う僕であった。

 

「アスカはどうしてカヲル君が嫌いなの?」

 

僕は歩きながらアスカに聞く。

 

「嫌いなのに理由なんてないわよ。」

 

「アスカと仲良くなって欲しいんだよ。」

 

「嫌よ。」

 

「カヲル君はとってもいい人だよ?」

 

「アンタにとっていい人でも、私にとっては違うのよ。」

 

「どうしてさ。」

 

「自分で考えなさいよ。」

 

「わかんないから聞いてるんだろ?」

 

「そんなんだからバカシンジなのよ。」

 

「ひどいよ…。」

 

「ふんっ。」

 

結局、何もわからないまま、今日が終わるのであった…。」

 

 

 

 

 




少し、更新頻度を下げるかもです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十一話

6月6日の朝。

僕はいつものように起きると、隣でアスカが眠っていた。

いつ忍び込んできたのかはわからない。

そもそも、ここ最近、毎日忍び込んでくる。

しかし、理由は本人の口から語られることは一切なかった。

 

「アスカ。起きて。ここは僕の部屋だよ。」

 

僕は毎度お馴染みの言葉でアスカを起こす。

 

「もう朝なの?」

 

「朝だから起きて。学校遅刻しちゃうよ。」

 

「シンジ。今日は学校休みなさい。」

 

「えっ?なんでさ?」

 

「出かけるわよ。」

 

「どこに??」

 

「いいから、黙って着いてきなさいよ。」

 

「さすがに、学校は休めないよ。」

 

「最低だ…。俺って…。」

 

「わかりました…。」

 

こうして、僕は学校をサボる羽目になってしまった。

 

「シンジまだー?」

 

アスカが僕の部屋の前で急かしてくる。

 

「もういけるよ。」

 

僕はそういうと、ドアを開けた。

するとそこには、こないだ僕が買った服を着ているアスカがいた。

 

「その服…。」

 

「なによ?文句あるの?」

 

「いや…。やっぱり似合ってるなって。」

 

「はぁ?アンタ何言ってんの?当たり前のこと言うんじゃないわよ。」

 

「ご、ごめん…。」

 

「ふんっ。いいから行くわよ。」

 

「わかったよ…。」

 

僕たちは家を出た。

 

「で、どこ行くの?」

 

僕はアスカに尋ねる。

 

「海よ。」

 

「海!?なんで急に…。」

 

「いいから着いてきなさい。」

 

僕はアスカにそう言われ、渋々電車に乗り、海に来た。

 

「海だね。」

 

「そうね。」

 

「ちゃんと青いや。」

 

「赤い方が良かったかしら?」

 

「青い方がいいよ。」

 

「そっ。」

 

僕たちは砂浜に座り他愛もない話をしている。

正直何をしているんだろうって感じだ。

 

「アスカ、今日はなんで突然?」

 

「アンタ、今日誕生日でしょ。おめでとう。」

 

「えっ?」

 

僕はアスカから驚きの言葉を聞き固まる。

 

「迷惑だったかしら。」

 

「いや、全然。むしろ嬉しいよ。覚えていてくれたんだね。」

 

「当たり前じゃない。私はエリートよ。」

 

「そっか。こうして、ちゃんと誕生日祝ってもらうの初めてかもしれないな。」

 

「アンタ人望薄いものね。」

 

「ひどいや…。」

 

貶されているものの、僕はあまり悪い気がしなかった。

今はアスカに誕生日を祝ってもらえたことの嬉しさが勝っている。

 

「これ、あげるわ。」

 

そう言うと、アスカは小さな小包を僕に渡してきた。

 

「これは?」

 

「プレゼントよ。」

 

「僕に?」

 

「アンタ以外に誰がいんのよ。」

 

「アスカが?」

 

「アンタ。殴られたいの?」

 

「ご、ごめん…。意外すぎて…。」

 

「ふんっ。ありがたく受け取りなさい。」

 

「うん。ありがとう。何が入ってるの?」

 

「DSSチョーカーよ。」

 

「…。アスカ、冗談でもそれは…。」

 

「揶揄いたくなっただけよ。中身は家に帰ってから確かめなさい。」

 

「わかったよ。」

 

どうやら、アスカは目の前で開けてほしくないらしい。

だから、僕は家まで楽しみに待つことにした。

 

「ところで、なんで海に来たの?」

 

「見たくなったのよ。青い海が。」

 

「そうなんだ…。」

 

「赤い海ばっかりだったから。」

 

「たしかにそうだね…。」

 

「そろそろ行きましょうか。」

 

「どこに?」

 

「家よ。」

 

「帰るってこと?」

 

「そうよ?」

 

「せっかく海に来たのに?」

 

「もう充分見たじゃない。」

 

「分かったよ…。」

 

こうして僕らは家に帰った。

僕は家に着くと、部屋に入り、アスカからもらったプレゼントを早速開封した。

すると中には、リング?指輪?みたいなものが入っている。

そして、そのリングの内側には何やら文字が彫られているみたいだ。

僕はそれを見る。

そこには、こう文字が綴られていた。

『I will never forgive you. But if you want, I give you all of me.』

何かの格言だろうか?

直訳すると、『私はあなたを決して許さない。しかし、あなたが望むなら、私は私の全てをあなたにあげます。』になる。

どういう意味だろう。

許せないけど、僕がお願いしたら協力してくれるということだろうか。

それとも、直訳通りの意味なのだろうか…。

アスカがそんなことを…?

わからない…。

今度、加持さんに聞いてみよう…。

こうして、僕の嬉しくもあり、謎にも包まれた誕生日は終わりを迎えたのであった。

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Another Side 4

私は何をしているのだろうか。

自分で買ったリングを見つめながら思う。

しかも、文字まで彫っている。

たしかに、シンジに喜んで欲しかった。

でも、これはやりすぎだ。

加持さんのアドバイスは聞くべきではなかったのだ…。

 

……

シンジの誕生日の一週間前。

とあるマンションの一室にて。

 

「よっ、久しぶりだな、アスカ。」

 

加持さんがエプロン姿で出迎えてくれる。

家の中にずっといて暇だったのか、料理に目覚めてしまったのだ。

まあ、それは今は置いておこう。

 

「加持さんに相談があるんです。」

 

「なんでも聞いてくれ。」

 

「男の人って何をもらったら嬉しいですか?」

 

「それはシンジ君のことかい?」

 

「…。違いますよ…。」

 

「隠さなくていいんだよ。シンジ君は確か来週誕生日だったね。」

 

「はい…。」

 

私はあっさりバレてしまったので、ばつが悪い。

 

「まあ、シンジ君なら何をもらっても喜ぶんじゃないか?」

 

「そうですけど…。いざ、決めようとすると…。」

 

「んー。そうだな、リングなんてどうだ?」

 

「リングって指輪のことですか?」

 

「あぁ、そうだよ。シンプルなやつにして、中に文字でも彫ってみたらどうだ?そしたら、シンジ君の女除けにもなるぞ。」

 

「別に私は…。」

 

否定しようと思ったが、他の女がシンジ近づく想像をしただけで、虫酸が走ったので否定するのをやめた。

はぁ。

私はこんなにもシンジのことが…。

 

「どうしたんだ?」

 

一人で物思いに耽る私に加持さんが声をかける。

 

「どうすればいいのかわかんないです。」

 

「シンジ君とのことかい?」

 

「はい。たしかに私はアイツに特別な思いを抱いているかもしれません。でも、それを認めてはだめなんです。」

 

「どうしてだい?」

 

「…。それは言えません…。」

 

「そうか。なら言わなくてもいい。何か事情があるんだろう。」

 

「はい…。」

 

「まあ、気持ち云々は置いておこう。その代わり、自分がしたいことに素直に従ってみたらどうだ?」

 

「私のしたいこと…?」

 

「あぁ、そうだ。」

 

「わかりました…。頑張ってみます…。」

 

「あぁ。また、いつでも相談に来ていいからな。なんせ俺はずっと暇だからな。」

 

「わかりました。ありがとうございます。」

 

……

 

そして今に至る。

私は加持さんのアドバイス通り、リングを買い、素直な気持ちを文字にして彫ってしまった。

ほんとにバカである。

こんなの気持ちを認めてるのと同じだ。

それでも、私は心に嘘をつき続ける。

私には最後に果たさなくてはならない役目がある。

たとえ、シンジに嫌われようとも。

でも、その時までは今の気持ちを尊重してもいいのではないか。

そんな考えが頭をよぎる。

私は私の気持ちがわからない。

きっと、何もなければ私は素直に気持ちに従えるのだろう。

私はシンジに見てほしい。

シンジに触れてほしい。

シンジに…。

そんなことを思っても、一歩が踏み出せない。

きっと、恐れているのだ、失うことを。

はぁ、私はここまで弱い人間に成り下がったのか。

昔の私が見たらどう思うだろうか。

いろんなことを頭の中でぐちゃぐちゃと考える。

でも、答えは出ない。

結局私はそのままねてしまったのであった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十二話

6月7日の朝。

僕は学校に行く準備をしていた。

結局、夜が明けても、アスカの考えてることは分からなかった。

でも、これだけはわかる。

アスカが僕のために用意してくれたんだ。

それだけでも嬉しい。

僕はアスカからもらったリングを紐に通し、首からぶら下げて、いつも肌身離さず待つことにした。

お守りみたいなものだ。

これを見ると、不思議と力が湧いてくる。

そんなことを考えながら僕は家を出た。

 

……

学校にて。

 

「おっ、センセ久しぶりやのー。元気にしておったかー?」

 

「うん。トウジこそ元気そうで良かったよ。」

 

「ワイはいつもぴんぴんしてるでー!」

 

トウジはその場でジャンプする。

どうやら、後遺症はないみたいだ。

本当によかった。

 

「ところで碇?」

 

僕がトウジのことを考えていると、横からケンスケが話しかけてきた。

 

「ん?どうしたの?」

 

「その首からぶら下げてるものってまさか…?」

 

「ん?なんや?何ぶら下げてるんや?」

 

ケンスケの言葉を聞き、トウジが僕の首元を見てくる。

 

「なんや!?指輪なんてどないしたんや!?誰からもらったんや!?」

 

「トウジ!?声が大きいよ!!」

 

トウジがあまりにも大きな声で言うため、クラス中が僕らの方を見ている。

ちなみに、アスカは朝僕が起きた時点で家にはいなかったが、ちゃんと今は教室にいる。

つまり、全部聞かれているということだ。

しかし、アスカに反応はない。

 

「綾波からもらったんか?それとも惣流か!?」

 

トウジは興奮冷めやらぬ様子で僕を問い詰めてくる。

 

「昨日、誕生日だったからもらったんだよ…。」

 

「なっ!?昨日誕生日やったんか!?はよ教えてくれや!祝い損ねたやないか!?」

 

「ご、ごめん。自分から誕生日言うのは恥ずかしかったから…。」

 

「ワシらでも知らんかったいうことは、やっぱり惣流か綾波やな。」

 

「だな。それしかない。」

 

トウジとケンスケが僕を見ながら、推理を続けている。

こんなことなら、服の下に入れておくべきだった。

 

「くっー、羨ましいのう。シンジにもとうとう春が来たんか。」

 

「そんなんじゃないよ。」

 

「隠さなくてええんや。それよりも、今日は惣流のやつがやけに静かやのう。やっぱり惣流からやったんか?」

 

「言わないよ…。」

 

こんな時だけ勘が鋭いトウジを恨んだ。

そんなに勘がするどいなら、委員長のことも気付いてあげればいいのに…。

 

「ちょっと、かまかけてみようやないか。」

 

なにやら、トウジが悪い顔をしている。

きっと、何かしでかす気だ。

 

「おう、惣流。お前、とうとうシンジと付き合うようになったんか?」

 

!?

まさか、アスカに喧嘩を売るなんて…。

僕はトウジの予想を超えてくる行動に固まってしまった。

しかし、この後さらにすごいことが起きるのであった…。

 

「そうよ?悪い?」

 

「えっ…。いや、別に…。悪くはないんやないか…?」

 

「ならほっといてよ。」

 

「す、すまん…。」

 

トウジが言い負かされている。

それよりも、今はアスカだ。

とんでもないことを口走っていた。

アスカの発言のせいで、教室中がざわついている。

 

「アスカ!」

 

僕はアスカの手を取り、教室を出る。

冷やかしの声がしたが、今はそれどころではない。

アスカに事情を聞かなければ。

僕はアスカの手を引き、屋上に来た。

 

「ちょっと、急に何よ。痛いじゃない。」

 

「ご、ごめん。でも、どうしてあんな発言を?」

 

「アンタがそれを学校に持ってきたからでしょ?他にどう言えば良かったのよ。」

 

「確かにそうだけど…。流石にあれはやりすぎじゃ…。」

 

「はぁ?全部私のせいにするわけ?」

 

「違うけど…。元はと言えば、アスカはどうして僕にこれを?」

 

僕は昨日の夜ずっと悩んでいたことをアスカに聞く。

 

「…。なんとなくよ。」

 

「なんとなくってなんだよ。」

 

「そのままの意味よ。」

 

「…。じゃあ、あの彫ってある文字はなんなんだよ。」

 

「別に深い意味はないわ…。」

 

「アスカが何を考えているのかわからないよ…。」

 

「そうね。私にもわからないわ。でも、これだけは言えるわ。」

 

「何さ…。」

 

「私はアンタが好きよ。」

 

「えっ…。」

 

僕はアスカの思いがけない言葉に固まる。

しかし、アスカはそんな僕にお構いなしに話し続けた。

 

「でも、これは純粋なものじゃない。私はアンタが憎くてたまらないわ。でも、その中にアンタが好きっていう感情もある。お子ちゃまなアンタにこんな重い気持ちが受け止め切れるかしら?」

 

アスカは言葉は挑発的だが、目は悲しそうだった。

アスカは勇気を出して、僕に気持ちを言ってくれた…。

でも、僕は…。

 

「アスカ。僕は確かにアスカのことを大切に思っているよ。でも、この気持ちがなんなのか分からなかった。」

 

「そっ。なら、この話は終わりね。教室に戻りましょ。」

 

アスカが僕の話を聞かずに、帰ろうとしている。

 

「アスカ!でも、今はこの気持ちをちゃんと言葉にできるんだ!」

 

僕の言葉にアスカの歩みが止まる。

 

「何よ。」

 

アスカは後ろ向きのまま僕に聞いてきた。

 

「僕はアスカのことが好きなんだ。好きって言葉じゃ、表現できないほど、君のことを想ってる。憎まれてたっていい。だから、アスカさえ良ければ、僕とずっと一緒にいてください。」

 

やっと言えた。

アスカを好きだと。

アスカとずっと一緒にいたいと。

 

「アンタ、それ本気で言ってんの…?」

 

「僕は本気だよ。」

 

「私はアンタのことが死ぬほど憎いのよ。」

 

「それでも僕はアスカと一緒にいたい。」

 

「バカじゃないの…。」

 

「そうだね。バカかもしれない。でも、アスカが好きなんだ。」

 

「わかったわ。そこまで言うならいいわ。その指輪に書いてある通りにしてあげる。」

 

「それって…。」

 

「『I will never forgive you. But if you want, I give you all of me.』 私はアンタを許さない。でも、アンタが望むのであれば私はアンタに私の全てをあげるわ。好きよ、シンジ。」

 

アスカはそう言うと、僕に抱き付いてきた。

僕はそんなアスカを優しく腕で包み込む。

 

「ありがとう。アスカ。こんな僕を受け入れてくれて。」

 

僕はアスカを抱きしめながら、僕たちの明るい未来を絶対に掴むと、再度、心に強く誓ったのであった。

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Another Side 5

これで最終話です!
今までありがとうございました!


シンジの誕生日の翌朝。

私はシンジと顔が合わせづらかったので、シンジより早く起き、学校に向かっていた。

もちろん、学校についても誰もいない。

私は自分の席につき、呟いた。

 

「私のバカ…。」

 

 

……

一時間後。

教室内は徐々に生徒の数が増えてきた。

ちなみに、シンジは3バカで話している。

 

「なんや!?指輪なんてどないしたんや!?誰からもらったんや!?」

 

「トウジ!?声が大きいよ!!」

 

鈴原の声がデカすぎて、私はシンジたちが何を話しているのか知ってしまった。

どうやら、私があげた指輪のことを話しているらしい。

シンジはちゃんと付けてくれているみたいだ。

しかし、鈴原のせいで周りが少しざわつき始めた。

少し、嫌な予感がする。

シンジたちは先程よりも声のトーンを落として話しているため、何を話しているのかは私には聞こえない。

代わり、周りの人声がよく聞こえる。

 

「碇くん、指輪なんて持ってるんだって。誰かと付き合ってるのかしら?」

 

「えー、それショック…。私、碇くんのこと狙ってたのに…。」

 

「私もいいなと思ってたのにな…。」

 

とある女生徒二人がそんなことを話している。

私はそれを聞いて、とても気分が悪かった。

シンジは誰にも渡さない。

よっぽど、不機嫌な顔をしていたのか、心配してヒカリが話しかけてきた。

 

「アスカ、大丈夫?」

 

「大丈夫よ。」

 

私は無表情のまま答える。

そんな中、鈴原が私のことをニヤニヤしながら話しかけてきた。

 

「おう、惣流。お前、とうとうシンジと付き合うようになったんか?」

 

普段の私なら、こんな軽い挑発に乗らずに鈴原をけちょんけちょんに懲らしめていたはずだ。

しかし、今の私は先程の女生徒の話のせいで、冷静な判断が出来なくなっていた。

 

「そうよ?悪い?」

 

私はとんでもないことを口走っていた。

 

「えっ…。いや、別に…。悪くはないんやないか…?」

 

鈴原が私の発言に困惑している。

こっちも、動揺していたが、悟られるわけにはいかない。

 

「ならほっといてよ。」

 

「すまん…。」

 

なんとか、切り抜けることができた。

しかし、今度はシンジが私のところに来た。

 

「アスカ!」

 

シンジは私の名前を呼ぶと、手を引っ張り、私を屋上まで連れて行った。

シンジは怒っているのだろうか…。

私はとても不安になる。

しかし、それを悟られないように語気を強くした。

 

「ちょっと、急に何よ。痛いじゃない。」

 

「ご、ごめん。でも、どうしてあんな発言を?」

 

シンジが困った顔で聞いてくる。

 

「アンタがそれを学校に持ってきたからでしょ?他にどう言えば良かったのよ。」

 

「確かにそうだけど…。流石にあれはやりすぎじゃ…。」

 

「はぁ?全部私のせいにするわけ?」

 

「違うけど…。元はと言えば、アスカはどうして僕にこれを?」

 

私は聞かれたくないことを、シンジに聞かれた。

 

「…。なんとなくよ。」

 

私はお茶を濁すような回答をする。

 

「なんとなくってなんだよ。」

 

「そのままの意味よ。」

 

「…。じゃあ、あの彫ってある文字はなんなんだよ。」

 

「別に深い意味はないわ…。」

 

「アスカが何を考えているのかわからないよ…。」

 

シンジが悲しそうな顔をしている。

シンジにはそんな顔をしないでほしい。

シンジには笑っていてほしいのだ。

だから、もう嘘はつけない。

たとえ、私が私でなくなったとしても。

 

「そうね。私にもわからないわ。でも、これだけは言えるわ。」

 

「何さ…。」

 

「私はアンタが好きよ。」

 

「えっ…。」

 

とうとう、言葉にしてしまった。

今まで、頑なに認めなかったのに、言葉にしただけで、色々感情が溢れてくる。

あぁ。

やっぱり、私はシンジが好きだったんだ。

でも、それだけではない。

ちゃんと本当の気持ちを伝えなければ。

 

「でも、これは純粋なものじゃない。私はアンタが憎くてたまらないわ。でも、その中にアンタが好きっていう感情もある。お子ちゃまなアンタにこんな重い気持ちが受け止め切れるかしら?」

 

言った。

ちゃんと言った。

包み隠さず言えた。

でも、こんな重い気持ちをシンジが受け止めてくれるはずがない。

私はこの先のことを考えると泣きそうになった。

そんな私を見てシンジがゆっくりと口を開いた。

 

「アスカ。僕は確かにアスカのことを大切に思っているよ。でも、この気持ちがなんなのか分からなかった。」

 

嫌だ。

聞きたくない。

拒絶の言葉なんて聞きたくない。

 

「そっ。なら、この話は終わりね。教室に戻りましょ。」

 

私はシンジの話を聞きたくなかったので、足早に教室に戻ろうとする。

しかし、シンジが真剣な表情で私を呼び止めてきた。

 

「アスカ!でも、今はこの気持ちをちゃんと言葉にできるんだ!」

 

私は自分が言いたいことだけ言って、逃げようとしていた。

でも、それではダメだ。

ちゃんと、気持ちに決着をつけなければならない。

私はそう思い、シンジに聞く。

 

「何よ…。」

 

私に聞かれたシンジは深呼吸をした後に、ゆっくりと話し出した。

 

「僕はアスカのことが好きなんだ。好きって言葉じゃ、表現できないほど、君のことを想ってる。憎まれてたっていい。だから、アスカさえ良ければ、僕とずっと一緒にいてください。」

 

えっ…?

シンジが私を好きって言ってくれた…?

私を受け入れてくれた…?

 

「アンタ、それ本気で言ってんの…?」

 

私は震えた声でシンジに聞く。

 

「僕は本気だよ。」

 

「私はアンタのことが死ぬほど憎いのよ。」

 

「それでも僕はアスカと一緒にいたい。」

 

「バカじゃないの…。」

 

嬉しい…。

シンジが私を必要としてくれた。

一緒にいたいと言ってくれた。

 

「そうだね。バカかもしれない。でも、アスカが好きなんだ。」

 

「わかったわ。そこまで言うならいいわ。その指輪に書いてある通りにしてあげる。」

 

「それって…。」

 

「『I will never forgive you. But if you want, I give you all of me.』 私はアンタを許さない。でも、アンタが望むのであれば私はアンタに私の全てをあげるわ。好きよ、シンジ。」

 

私はそう言うと、シンジに抱き付いた。

すると、シンジは両腕で私を抱きしめて返してくれた。

そして、こう耳元で囁いてきた。

 

「ありがとう。アスカ。こんな僕を受け入れてくれて。」

 

私は生まれてから、1番幸せだったかもしれない。

きっと、これはこの先にあることの代わりに神様が用意してくれたプレゼントだろう。

だから、私は旅の果てまでの少しの時間、この幸せを噛み締めることにしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 




すいません。
エイプリルフールです。
ちゃんと続きますんで、許してくださいm(_ _)m


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十三話

とある日。

リツコの部屋にて。

 

「ミサト。あなた知っているかしら?」

 

「なにをー?」

 

「アスカとシンジ君が付き合い始めたそうよ。」

 

「えっ、それどこ情報よ。」

 

「ネルフの諜報員よ。しかも、教室で大胆に宣言したそうよ。」

 

「なんで、あなたが諜報員から情報を聞き出してるのよ…。」

 

「パイロットの管理として当然よ。むしろ、あなたの方がお粗末じゃなくって?」

 

「私は、私生活には極力触れたくないのよ。あの子達にはパイロットの時以外は普通の子供として過ごしてほしいもの。」

 

「けれど、あの子達に何かあったら私たちのクビどころではすまないよよ。」

 

「確かにそうだけど…。」

 

「それに今はあの子達が変わった原因を突き止めてるところでしょ?」

 

「そうね…。確かに、あのアスカが…。」

 

「そうよ。人に寄り添おうとせず、自分の力でなんとかすることに拘ってきたアスカが人と一緒にいることを選んだのよ。」

 

「それは、単にシンジ君と会って変わったんじゃ…。」

 

「人はそう簡単には変われないわ。」

 

「はぁ。わかったわよ。私も少し監査の目を強化すればいいんでしょ?」

 

「ええ、そうしてちょうだい。」

 

……

同時刻。

ミサト宅にて。

 

「アスカー。夕飯何食べたい?」

 

「ハンバーグ。」

 

「わかったー。」

 

僕とアスカが付き合ってから数日経ったけど、特に僕たちの生活に変わりはなかった。

少し変わったことと言えば、今までは寝静まった頃に僕の布団に入って来ていたが、今はもう最初から入ってきている。

そのせいか、僕は少し寝不足である。

しかし、幸せなのでよしとしている。

 

「たっだいまー」

 

僕が夕飯の支度をしていると、ミサトさんが帰ってきた。

 

「お帰りなさい。ミサトさん。」

 

「おっ、今日はハンバーグね!エビチュがすすむわ!」

 

「ほどほどにしておいてくださいね…。」

 

「わかってますよ〜。」

 

夕飯が出来上がり、食卓につく。

 

「「「いただきます」」」

 

3人で夕飯を食べるのは久しぶりな気がする。

ここ最近ずっとミサトさんは忙しそうにしていた。

 

「みんなで揃って食べるのも久しぶりですね。」

 

「そうねー。最近、忙しかったからねー。」

 

「いつもお疲れ様です。」

 

「シンジ君たちは私がいなくて大丈夫だったー?」

 

「ガキじゃないんだから大丈夫に決まっているでしょ。」

 

先ほどまでなんともなかったのに、なぜか今は機嫌が悪そうに見える。

 

「アスカ?どうしたの?ハンバーグ美味しくなかった?」

 

僕は心配になり、アスカに聞く。

 

「いつも通り普通よ。」

 

「そっか?」

 

僕はますますアスカが不機嫌な理由がわからない。

すると、ミサトさんがアスカを揶揄い出した。

 

「ごめんねー、アスカ。シンちゃんとの二人きりの時間を取っちゃって〜。」

 

「別にそんなんじゃないわよ!?」

 

アスカが顔を真っ赤にして反抗した。

 

「私知ってるんだからね〜。二人がお付き合いしはじめたことー。」

 

初耳である。

一体どこで聞いたのだろうか…。

 

「どこ情報ですか?」

 

「女の勘よ。」

 

「はぁ。」

 

まあ、情報源はいくら聞いても答えないだろう。

僕は付き合ってることを公にしていいのかわからなかったため、アスカの方をチラリと見た。

すると、アスカは悪いかをしていた。

 

「付き合ってると思うなら、少しは気を利かせなさいよ。」

 

「えー。ここ一応、私の家なんだけど…。」

 

ミサトさんはしょぼんとしている。

 

「アスカ…。流石に言い過ぎだよ…。」

 

「いいのよシンちゃん。せっかくアスカが楽しそうにしてるんだから。こういう、普通の幸せも味わって欲しいのよ。」

 

「そういうものですかね…?」

 

「そういうものよ。あと、二人ともお付き合いするのは構わないけど、中学生なんだから、あまりハメを外しすぎないようにね。」

 

「そんなことわかってるわよ。」

 

アスカはとうとう否定しなくなった。

最近のアスカは受け入れるのが早い気がする。

人は案外変わるもんだ。

 

「ならいいわ。2人とも、幸せになりなさいよ。」

 

なぜか、ミサトさんはしみじみとしている。

そういえば、加持さんのことはどうなっているのだろう?

 

「ミサトさん。加持さんてどうしてます?」

 

「あー、加持君なら、こないだ手紙でしばらく遠方で仕事があるって来たわよー。」

 

手紙?

僕はそんなもの知らない。

アスカがだしたのだほうか?

しかし、今は確認できないので、話を合わせることにした。

 

「なら、無事だったんですね。よかったです。」

 

「そうね。シンジ君の言う通り、女のところに転がり込んでるのかも。」

 

「ははは…。」

 

僕はこの件をまだ加持さんに謝っていない。

今度、ちゃんと謝ろう…。

 

「じゃあ、私はお風呂入ってくるわね。2人はあんまし夜更かしせず寝るのよ?」

 

「わかりました。」

 

ミサトさんはこうして風呂に入りに行った。

リビングには僕とアスカの2人が残されている。

 

「アスカ。今日はミサトさんもいるし、自分の部屋で寝なね。」

 

「わかったわよ…。」

 

一時間後、僕が寝ようとすると、布団の中にはアスカがいた。

 

「アスカ…。」

 

「なによ。別にいいじゃない。悪いことしてるわけじゃないんだから。」

 

「わかったよ。」

 

こうして、僕らは眠りについたのだった。

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十四話

7月10日の朝。

僕は次の日のことを考えていた。

ちなみに、加持さんの暗殺は阻止することができた。

他にも色々と細かいことはあったが、特に取り立てるほど問題は起こらなかったので割愛しよう。

今は明日の第十五使徒戦のことで頭が一杯だ。

この使徒のせいでアスカは何度も苦しめられた。

だけど、今回は絶対に僕が守ってみせる。

しかし、相手は宇宙空間にいるため、策が思い浮かばない。

しばらく、考え込んでいるとアスカが起きてきた。

 

「おはよー。」

 

「おはよう。アスカ。」

 

「真面目な顔してどうしちゃったのよ。」

 

「明日のこと考えてたんだよ。」

 

「明日?あぁ、あの使徒ね。」

 

「今度こそアスカを守るんだ。」

 

「でも、どうやって倒すのよ。」

 

「それは、今考え中で…。」

 

「まっ、任せたわ。」

 

そう言うと、アスカはシャワーを浴びにいってしまった。

意外と呑気と言うか、気にしてないと言うか…。

アスカならめくじらを立てて、使徒を倒そうとすると思ったのに…。

まあ、今はとにかく倒す方法を考えよう。

確か、ロンギヌスの槍で倒していた気がする。

しかし、あれは最終手段だろう。

父さんがそう易々と出すとは思えない。

他に方法はないのだろうか。

あるとすれば、僕がギリギリまで追い込まれて、槍を使わせることくらいだろう。

アスカが受けるくらいなら僕が受ける。

そうだそうしよう。

しかし、アスカにこれを話すと反対されそうなので話さないことにした。

 

 

……

翌日。

7月11日。

 

『総員、第一種戦闘配置。対空迎撃戦用意。』

 

『目標は衛星軌道上に停滞中。映像で確認しました。』

 

「これは…。」

 

「衛星軌道から離れないわね。」

 

「降下接近の機会をうかがってるのかしら。それとも、その必要もなくここを破壊できるのか…。」

 

「とりあえず、エヴァを発進させて、様子を伺いましょう。」

 

「そうね。全機、戦闘配置について。」

 

ミサトさんがそう声をかけたが、一人だけその命令に賛成しなかった。

 

「待て、初号機はケージで待機させろ。」

 

その声の主は父さんだった。

 

「碇指令。それはなぜでしょうか?初号機は前回の戦いで大きく損傷しましたが、今はもう修理済みです。」

 

「これは命令だ。」

 

「ですが…。わかりました。初号機及び初号機パイロットは第三ケージにて待機。それ以外は発進準備を進めて頂戴。」

 

「ちょっと待ってよ。どうして僕だけ待機なんだよ!?」

 

前回と違い、覚醒したわけでもないのに出撃できない理由が分からない。

 

「これは命令だ。黙って聞け。」

 

「でも、それじゃあ…。」

 

「シンジ君。これは命令よ。」

 

「はい…。」

 

僕は横にいたアスカを心配そうに見る。

 

「なによ?」

 

「ごめん…。肝心な時に力になれなくて…。」

 

「別にあんたなんていなくても平気よ。」

 

「だけど、僕は君が心配なんだよ…。」

 

「大丈夫よ。あんたは大人しく待ってなさい。」

 

「うん…。気を付けてね…。」

 

こうして僕とアスカは別れた。

 

「全機、発進準備できました。」

 

「二号機を先行させろ。」

 

「わ、わかりました。二号機発進!超長距離射撃用意!零号機と3号機は2号機のバックアップとして発進準備。」

 

「了解よ!」

 

「「了解」」

 

アスカ、綾波、カヲル君がそれぞれ返事をする。

どうして僕は、いつも肝心な時にアスカのそばにいられないのだろうか。

自分の無力さに心底腹が立つ。

それに、倒産が何を考えているのかもわからない。

そんなことを考えているうちに、2号機はすでに地上に出ていた。

2号機がそれに向かってライフルを構える。

すると、今まで同様、使徒が2号機に光線を浴びせてきた。

 

「アスカ!?」

 

やはりこうなってしまった。

くそっ。

僕はここで何をしているんだ。

 

「敵の指向性平気なの!?」

 

「いえ、熱エネルギー反応はありません!」

 

「ですが、心理グラフが乱れていきます!精神汚染が始まります!」

 

「まさか…。使徒の心理攻撃!?人間の心を探るつもりなの?」

 

ミサトさんたちとの会話を背に僕は初号機のところに走り出した。

僕は急いで初号機に乗り込む。

 

「お願いだ!!動いてよ!アスカが!!」

 

しかし、初号機は動かない。

 

「くそっ!」

 

僕は操縦席を殴った。

そして、モニター越しに2号機を見守る。

今の、僕には見守ることしかできない。

ほんとに無力だ…。

 

……

一方、管制室にて。

 

「アスカ!?命令よ、撤退しなさい!」

 

「2号機パイロットから反応ありません!!」

 

「くっ…。ポジトロンライフルの用意は?」

 

「最終段階です。強制集束機作動中。地球の自転及び動誤差修正0.03。薬室内圧力最大!全て発射位置!」

 

「いかせてもらうよ。」

 

3号機が持つポジトロンライフルから光弾が発射された。

しかし、使徒には届かない。

 

「ダメです。この遠距離でATフィールドを貫くにはエネルギーがまるで足りません。しかし、最大出力です。もうこれ以上は…。」

 

「2号機心理グラフシグナル微弱。」

 

「LCLの精神防壁は?」

 

「ダメです!触媒の効果もありません!」

 

「生命維持を優先。エヴァからの逆流を防いで!」

 

「はい!」

 

「2号機活動停止!生命維持に問題発生!パルス微弱。パイロット危険域に入ります。」

 

「目標は変化なし。相対距離依然変わりません。」

 

「ミサトさん!僕を出撃させてください!アスカを助けに行きます!」

 

「シンジ君…。わかったわ。初号機出撃準備。」

 

「ダメだ。目標は精神を侵食するタイプだ。今初号機を侵食される事態は避けねばならん。」

 

「じゃあ、アスカを見殺しにしろっていうのか!?」

 

僕は父さんを睨みつける。

 

「レイ。ドグマを降りて槍を使え。」

 

父さんがようやく重い腰を上げ、ロンギヌスの槍を使うことにした。

 

「碇!?それは…。」

 

「ATフィールドの届かぬ衛星軌道上の敵を倒すにはそうするしかない。急げ。」

 

「碇。あれを使うのはまだ早いのではないか?」

 

「委員会はエヴァシリーズの量産に着手した。チャンスだ。冬月。」

 

「しかし…。」

 

「時計の針は戻らない。だが、自らの力で進めることはできる。」

 

「老人たちが黙ってないぞ!」

 

父さんと冬月副指令が何かを話しているが、聞こえない。

しかし、今はそれどころではない。

とにかくアスカを助けなければ。

 

「零号機は第二層を通過!地上に出ます!」

 

「零号機。投擲体制。目標確認。誤差修正よし。」

 

「カウントスタートします。10.9.8…3.2.1.0!」

 

零号機が空に向かって槍を投げた。

 

「目標消失!2号機解放されます!機体回収は二番ケージへ。」

 

アスカ…。

動か無事でいて…。

 

 

……

病室にて。

 

「アスカ!?」

 

僕は勢いよく部屋に入る。

するとそこにはリツコさんがいた。

 

「シンジ君。そっとしといてあげて。精神に負担をかけすぎたのよ。」

 

そう言われ、アスカを見た。

アスカは虚ろな目で虚空を見ている。

 

「そんな…。僕はまた…。」

 

僕は膝から崩れ落ちた。

 

「アスカ…。ごめん…。」

 

僕はアスカの手を握り、謝る。

すると、後ろからカヲル君が入ってきた。

 

「赤城博士。セカンドチルドレンはここでこのまま治療を?」

 

「ええ。そのつもりだけど。」

 

「なら、精神衛生上、自宅でシンジ君と一緒にいさせてあげるほうが彼女のためになるのでは?」

 

僕はカヲル君の発言を聞き顔を上げる。

 

「確かにそちらのほうが良いかもしれないけれど…。」

 

「リツコさん。お願いします。」

 

僕はリツコさんに頭を下げてお願いする。

 

「はあ。仕方ないわね。その代わり何か異常があったら、すぐ連絡すること?わかったかしら?」

 

「はい。ありがとうございます。」

 

「じゃあ、私は車の手配をしてくるからここで待ってて頂戴。」

 

そう言うと、リツコさんは部屋を出た。

 

「カヲル君。ありがとう。」

 

僕はカヲル君のほうを向き、礼を言う。

 

「いいのさ。僕はこれが最善だと思っただけだからね。」

 

こうして、僕とアスカは自宅に戻ったのだった。

 

……

自宅にて。

僕はアスカをアスカのベッドに運び終え、アスカのことを見ている。

 

「じゃあ、シンジ君。私はネルフに戻るから。何かあったらすぐに連絡ちょうだいね。」

 

「わかりました。ここまで、運んでくれてありがとございます。」

 

「いいのよ。あなた達のためだもの。アスカのそばにいてあげてね。」

 

「はい。わかりました。」

 

ミサトさんは家を出てネルフに向かった。

 

僕は再びアスカを見る。

すると、突然アスカがむくりと、起き上がったのである。

 

「アスカ!?」

 

僕が驚いた顔をしていると、アスカが僕を睨んできた。

 

「何よ。」

 

「何よじゃなくて…。どうして!?」

 

「私が今さら、あんなのにやられるわけないでしょ?トラウマなら全部克服済みよ。」

 

「じゃあ、どうして今まで…。」

 

「フリよ。」

 

「何で、そんなことを…?」

 

「私はここで退場した方が都合がいいからよ。」

 

「どうしてさ。」

 

「そういうシナリオなのよ。」

 

「よくわかんないよ。」

 

「まあ、わかんなくていいわ。そのうちわかるから。」

 

「そっか…。それより、本当に大丈夫なんだよね…?」

 

「大丈夫よ。まあ、心の中を覗かれるのは何度経験しても気持ち悪いけどね。」

 

「本当によかった…。」

 

「心配しすぎなのよ。」

 

「当たり前だろ!僕はまたアスカを失ったかと思ったんだ…。」

 

「まあ、安心しなさい。しばらくは、大人しくしてるから。あとことは頼んだよ。」

 

「うん。今度こそ何とかしてみせるよ。」

 

アスカが無事で、本当によかった。

もう絶対にあんなことにはさせない。

こうして僕たちは眠りにつくのであった。

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十五話

遅くなってすみません…


第15使徒を殲滅してから一週間ほど経ったある日。

僕はリツコさんに呼び出されていた。

 

「シンジ君。アスカの調子はどうかしら?」

 

「変わらずといった感じです…。」

 

「そう。元気そうでなによりね。」

 

「はい…。えっ…?」

 

僕はリツコさんの発言が理解できず、戸惑う。

 

「何かしら?」

 

「えーっと、どういう意味でしょうか?」

 

「あら?気付かないと思った?」

 

リツコさんが澄ました顔で僕を見てくる。

 

「もしかして…。」

 

「そうよ。初めから気付いてたわ。科学の力を舐めないでちょうだい。」

 

「ははは…。」

 

僕は愛想笑いをして誤魔化す。

さすが、リツコさんだ。

欺くには難敵すぎる。

 

「で、あなた達は一体何を企んでるのかしら?」

 

今度は鋭い眼差しで僕を見てきた。

しかし、アスカが何を考えてるいるのは僕にもわからない。

それに、リツコさんに言えないことも沢山ある。

 

「僕にはわかりません。」

 

「そう。じゃあ、質問を変えるわ。」

 

「はい?」

 

「あなたはどこまで知ってるのかしら?」

 

「えっ…。」

 

リツコさんの鋭い質問に僕は固まる。

言い逃れができそうな空気ではない。

しかし、リツコさんに話して大丈夫なのだろうか。

敵が味方かもわからないのである。

 

「何でもは知りません。知っていることだけです。」

 

「ふふふ。随分と曖昧な答えね。まあ、いいわ。最後の質問をするわね。」

 

「わかりました。」

 

「あなたは一体どうしたいの?」

 

「僕は…。」

 

僕はどうしたいのだろうか。

この世界を救いたい?

たしかに救いたいが、本質は違う。

僕は…。

 

「僕は僕の未来のために戦います。それが、自分の父親だろうと。巨大な組織が相手だろうともです。」

 

「そっ。わかったわ。今日はもう帰っていいわよ。アスカによろしく伝えておいて。」

 

「わかりました。リツコさん。今日のことは…。」

 

「他言はしないわ。」

 

「ありがとうございます。それでは失礼します。」

 

僕はそういい、リツコさんの部屋をさった。

 

「私たちが知らないこともたくさん知ってそうね。」

 

「えぇ。そうね。でも、今はそこまで心配する必要はないんじゃないかしら?」

 

「どうして言い切れるのよ?」

 

「シンジ君が戦う目的と私たちが戦う目的が一致しているからよ。」

 

「たしかにそうね。私たちも私たちの未来のために戦ってるのだものね。」

 

「えぇ。でも、シンジ君は自分の父親だろうとも言ってたわね。」

 

「そうね。そこは引っ掛かるわ。碇司令が何か企んでるのかしら。リツコ。あんた何か知らないの?」

 

「知らないわ。」

 

「はぁ。シンジ君に聞くしかないのかしら…。」

 

「素直にいってくれるとは思えないわね。」

 

「そうよね…。シンジ君が素直に全部話してくれれば、力になれるかもしれないのに…。」

 

「きっと、私たちは信用されてないのよ。」

 

「がびーん。それはショックね…。」

 

「きっと、シンジ君が信頼してるのはアスカと渚カヲル君だけよ。」

 

「私、一応、保護者なのに。」

 

「無様ね。」

 

 

……

ミサト宅にて。

 

「なっんですってーーー!!!!?????」

 

「落ち着けよ!アスカ!」

 

「落ち着けるわけないでしょ!?バレてたのに一週間泳がされてたのよ??あの、マッドサイエンティスト何考えてるのかしら!?」

 

「それは、わからないけど…。一応、内密にしてくれてるんだから感謝はしないと…。」

 

「いい?シンジ?あんたがやろうとしていることが、司令やゼーレにバレてみなさい。その時点で詰みよ。」

 

「わかってるよ…。」

 

「わかってるなら、話す相手をもっと慎重に選びなさいよ。」

 

「元はと言えば、アスカが大根役者だから…。」

 

「なんか言ったかしら?」

 

アスカがこちらを睨んでくる。

その視線はリツコさんよりも鋭い。

 

「なんでもないです…。」

 

「ならいいのよ。」

 

「そういえば、アスカはなんでこんなことしたんだよ?」

 

「こないだ話したじゃない。」

 

「あんな抽象的な事でわかるわけないじゃないか。」

 

「それ以外言いようが無いのだから、仕方ないでしょ?あんたの父親のシナリオ通り進めないと、想定外のことが起きるかもしれないでしょ。」

 

「そうだけど…。アスカは2号機に乗れなくても大丈夫なの?昔はあんなに拘ってたじゃないか。」

 

「いつの話してんのよ。別に今は乗る理由なんてないわ。ママは私の心の中にいるもの。それに…。」

 

「それに?」

 

「なんでもないわ。そろそろ、ミサトが帰ってくる時間だから部屋に戻るわね。」

 

アスカは逃げるように、部屋に戻ってしまった。

きっと、アスカは僕に隠し事をしている。

でも、話したく無いのであれば、僕は待っているしかない。

そんなことを考えていると、ミサトさんが帰ってきた。

 

「たっだいまー。」

 

「お帰りなさい。」

 

「アスカの調子はどう?」

 

「変わらずといった感じです。」

 

「そう。早く良くなるといいわね。」

 

「はい。そうですね…。」

 

少し、嘘をついてるみたいで心が痛む。

 

「ご飯にしましょうか。」

 

「わかりました。」

 

その後、僕たちはご飯を食べ、そのままその日を終えるのであった。

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十六話

7月28日。

第十六使徒が襲来した。

使徒はカヲル君の乗る3号機に侵食しようとしたが、カヲル君自身には侵食できず、3号機の自爆をもって殲滅された。

もちろんカヲル君は無事である。

そして、今は2人で更衣室にいる。

 

「カヲル君?本当に大丈夫なの?」

 

「シンジ君。僕は使徒に侵食はされないさ。だから、心配しないで。」

 

「でも、心配なものは心配で…。それに、3号機も…。」

 

「3号機は仕方ないさ。もともと無いに等しいものだからね。2号機があるから充分だよ。」

 

「2号機に乗るの?」

 

「そのときが来たらね。まあ、彼女は許してくれなさそうだけど。」

 

「アスカか…。」

 

「彼女の様子はどうだい?」

 

「まだ…。」

 

カヲル君に嘘をつくのは心苦しいが、仕方ない。

 

「そうか。あまり気を落とさないで欲しいな。彼女もきっとそれを望んではいない。」

 

「そうだね…。アスカが目覚めた時には全て終わらせられるようにするよ。」

 

「それがいいさ。」

 

「それより、確かもう使徒は来ないはずだよね?」

 

「そうだね。」

 

「僕まだ、S2機関取り込んでないよ。」

 

「そこは安心してくれたまえ。僕がなんとかするよ。」

 

「使徒がいないのに?」

 

「シンジ君は心配しなくて大丈夫だよ。僕がなんとかするから。」

 

カヲル君が僕にニコッと笑いかけてくる。

しかし、その笑みはこれ以上の追及を拒むような笑みだった。

 

「わかったよ…。でも、僕に手伝えることがあったらなんでも言ってね、」

 

「ありがとう、シンジ君。」

 

こうして僕はカヲル君と別れた。

 

……

自宅にて。

 

「今回の使徒は随分呆気なかったわね。」

 

「そうだね。僕も正直びっくりしたよ。」

 

「まあ、倒せたんならなんでもいいわよ。」

 

「これで、使徒は全部倒したから、あと少しだ。」

 

「全部?まだ…。そうね。あと少しね。」

 

「…?僕何か変なこと言ったかな?」

 

アスカの歯切れの悪さに僕は不安になる。

カヲル君もそうだったが、2人とも僕に何か隠してることがあるのではないか。

 

「いや、私はずっとあの状態だったから、この期間のことを詳しくは知らないのよ。」

 

「たしかにそうだね…。」

 

確かにそうだが、それだけじゃない気がする。

僕は何かを見落としている?

しかし、それがわからない。

 

「どうしたのよ?」

 

アスカが僕の顔を覗き込んでくる。

 

「アスカは僕に何か隠し事してる?」

 

僕はアスカの目を見て聞いた。

 

「…。なんにもないわよ…。」

 

アスカは目を逸らし、ボソッとそう言った。

確実に何かを隠している。

しかし、これ以上追及する勇気はない。

 

「そっか…。ならいいんだ…。」

 

この時、僕はアスカやカヲル君に追及しなかったことを後悔する日が来るなんて思ってもいなかった。

 

……

数日後。

とある場所にて。

 

「さあ行こうか。リリンが生み出し、アダムの化身よ。彼らの未来のために。」

 

その日。

僕は大切なものを失った。

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十七話

管制室にて。

 

「セントラルドグマ内に高エネルギー反応あり!パターン青!使徒です!」

 

「使徒!?一体どうやって!?モニター回せないの?」

 

「ダメです!モニター反応ありません!」

 

「くっ、埒があかないわね。」

 

「初号機及び、パイロットをセントラルドグマに向かわせろ。」

 

「しかし、状況がなにもわからないまま向かわせるのは危険すぎます!」

 

「構わん。行かせろ。」

 

「わかりました…。」

 

……

初号機内部にて。

 

セントラルドグマ内に使徒…。

まさか、カヲル君が…。

僕はセントラルドグマに降りながら、いろいろなことを考える。

もしかしたら、カヲル君じゃないかもしれない。

きっとそうだ。

しかし、現実は残酷だ。

やはり、目の前にいるのはカヲル君である。

 

「カヲル君どうしてだよ…。」

 

「その答えは君自身得ているはずだよ。シンジ君。」

 

「でも、カヲル君は僕の味方なんじゃ…。」

 

「そうだよ。シンジ君。でも、僕は使徒なんだよ。リリンと共存はできない。どちらかが滅びる運命なのだ。」

 

そう言いながら、カヲル君は後ろを向き、巨人を見る。

 

「やはり、ここにあるのはリリスだね。いったい、アダムはどこにあるのかな。」

 

「カヲル君。僕は君と戦わなきゃならないの?」

 

「戦わなくてはいい。僕を殺してくれさえすればね。」

 

「そんなこと出来ないよ!!カヲル君は僕にとって大切な友達なんだ!」

 

「ありがとう、シンジ君。でも、君には僕を殺さなきゃいけない理由がある。」

 

「そんなのないよ…。」

 

「あるさ。一つ目は僕が使徒であること。二つ目はまだ君がS2機関を取り込んでいないことさ。」

 

「なっ…。もしかして…。」

 

「そうだよ、シンジ君。僕を初号機に取り込みたまえ。」

 

僕はカヲル君の言葉を聞き、絶句した。

今までの違和感はこれだったのだ。

使徒がいないのにS2機関を取り込む。

それはつまり、使徒であるカヲル君を取り込むことでしか、S2機関を取り込めないのである。

もう少し、早く気付いていれば結末は違ったかもしれない。

しかし、今はカヲル君を取り込むことでしかS2機関手に入れることはできない。

 

「カヲル君は初めからこのつもりで…。」

 

「僕に任せてと言ったからね。」

 

「こんなのって…。」

 

「シンジ君。君は僕を取り込むしかないんだよ。」

 

「そんなことできるわけないだろ!?」

 

「出来るできないの話じゃないんだよ。やるしかないんだ。」

 

「嫌だ!」

 

「シンジ君。君の目的はなんだい?こんなとこで立ち止まってていいのかい?」

 

「くっ…。でも、君を…。僕は君にも幸せになって欲しいんだ…。」

 

「大丈夫だよ、シンジ君。君の幸せが僕の幸せだからね。だから、頼むよ。」

 

「君がいない世界なんて嫌だよ!もう、誰も失いたくないんだ…。」

 

「シンジ君。物事には優先順位が存在するんだよ。君はなぜ円環を繰り返す?それは紛れもなく彼女ためだろう?」

 

「確かにアスカを救うためだ…。でも…。」

 

正直、これ以外に方法がないということを僕は頭では理解している。

S2機関を取り込まないで、量産型に勝てるとは思えない。

しかし、カヲル君を自らの手で再び殺すなんていうことは絶対にしたくない。

 

「シンジ君。君たちの望む未来に僕はいられないんだ。だから、少しでも僕を役立てておくれ。」

 

カヲル君は真剣な眼差しでこちらを見てくる。

僕は…。

覚悟を決めなきゃいけない。

僕たちの未来のために。

 

「カヲル君、ごめん…。」

 

僕はそう言い、カヲル君を掴んだ。

 

「謝らなくていいんだよ、シンジ君。これは、僕自身の償いだからね。」

 

「ありがとう、カヲル君。そして、さようなら…。」

 

グシャッ…

肉体が潰れる音が響き渡る。

僕はカヲル君を捕食した。

守りたかった人を自らの手で壊した。

僕はこの事を、ずっと一人で背負い込む事を決めたのであった。

誰にも話さない。

僕とカヲル君だけのお話…。

 

……

管制室にて。

 

「目標のエネルギー反応消失。カメラ元に戻りました。」

 

「消失!?モニター回して!」

 

モニターには呆然と立ち尽くす、初号機の姿があった。

 

「シンジ君!?一体、何があったの!?」

 

「…。使徒がいたので、殲滅しました…。」

 

「えっ、倒したの!?」

 

「はい…。今から、そっちに戻ります…。」

 

「わかったわ。」

 

「碇。あれは…。」

 

「あぁ、S2機関を取り込んでいる。多少のずれは存在したが、結果的には我々のシナリオ通りだ。」

 

「まさか、あの少年を取り込んだというのか。委員会が黙ってないぞ。」

 

「構わん。もはや、委員会の存在は不要。来るべき日のために準備を進めればいいだけだ。」

 

「量産型はもう完成してるんだぞ。」

 

「それも計画通りだ。」

 

そこには、一人で不敵な笑みを浮かべている男の姿があった。

 

……

更衣室にて。

 

「シンジ君。何があったのか説明してちょうだい。」

 

「使徒と接敵して、死に物狂いで戦ってました…。」

 

「どんな使徒だったの。」

 

「いつものような感じです…。」

 

「そう。わかったわ。今日はもう帰っていいわよ。お疲れ様。」

 

そう言うと、ミサトさんは更衣室からでていった。

一人取り残された僕は帰りの支度をさっさと済ませ、帰路についた。

 

……

自宅にて。

僕は無言で玄関を通り、自分の部屋に入る。

そして、先程のことを思い出す。

カヲル君をまた死なせてしまった。

カヲル君の事を考えるだけで、自然と涙がこぼれ落ちる。

咽び泣く声が聞こえたのか、アスカが部屋に入ってきた。

 

「あんた、泣いてんの?」

 

「アスカ…。今日はほっといてくれないかな…。」

 

僕は枕に顔を押し当て、アスカの方を見ずに言う。

 

「嫌よ。あんたのケアはあいつから頼まれてんだから。」

 

「えっ…。カヲル君がどうして…?」

 

「こうなることを予想してたんでしょうね。」

 

「カヲル君…。というか、なんでアスカは今日のこと知ってるんだ??」

 

「少し考えれば、わかるわよ。もう、あいつしか使徒はいなかったのよ。」

 

「わかってたなら、どうしてもっと早く教えてくれなかったんだよ!?」

 

僕は興奮して、大声で怒鳴るようにしてしまった。

しかし、そんな僕にアスカは動じずに答える。

 

「知って、何ができたわけ。」

 

「他に方法があったかもしれないじゃないか!?」

 

「ないわよ。そんなのあんたでもわかってんでしょ。」

 

「…。」

 

確かにそうだ。

第14使徒を捕食できなかった時点で、こうなることは目に見えていたのかもしれない。

カヲル君がなんとかすると言っていたので、僕は深く考えていなかった。

思えば、あの時からこの結末は決まっていたのだろう。

 

「でも、カヲル君が…。」

 

僕の額に再び涙がつたう。

 

「今日は泣けるだけ泣きなさい。その代わり、明日からはあいつのためにもしっかりしなさいよ。」

 

僕は返事をせず、ひたすら啜り泣いた。

アスカの言う通り、今日だけは…。

でも、明日からはカヲル君のためにも僕は前を向かなければならない。

彼の死を無意味なものにはしてはいけない。

僕はそう心に決めるのであった。

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Another Side 6

とある日。

私の携帯に非通知の着信が入った。

こんな時にかけてくるのは十中八九あいつだろう。

そう思いながら、私は携帯を手に取った。

 

「もしもし。」

 

『やあ。僕だよ。少し、時間いいかな。』

 

「無理って言っても無駄なんでしょ?」

 

『まあ、そうだね。君は僕に借りがあるからね。』

 

「はいはい。で、なんの用?」

 

『明日、僕は初号機に取り込まれるよ。』

 

「そっ、ご自由にどうぞ。」

 

『相変わらず冷たいな、君は。』

 

「あんたに優しくするなんて死んでも嫌よ。」

 

『ははは。僕はとことん嫌われてるらしいね。』

 

「早く要件を言いなさいよ。」

 

『シンジ君のケアをしてあげて欲しい。それが出来るのは君しかいない。』

 

「まあそうね。それは、私にしかできないわね。でも、あいつが傷つく事を分かった上でやるんだから、あんたも本当に性格悪いわね。」

 

『仕方ないのさ。確かに、シンジ君の心に傷をつけるかもしれない。でも、シンジ君が望む未来に僕はいらないのさ。だから、必要な犠牲だよ。』

 

「まあ、そうね。あんたの言ってることは的を得てるわね。」

 

『ふふふ。君に肯定されるとは珍しいね。』

 

「はぁ?私だって正しいと思ったことは肯定するわよ。」

 

『確かに、そうだね。失礼したよ。』

 

「ふん。要はこれで済んだ?切りたいんだけど。」

 

『あぁ。済んだとも。あとは君に任せたよ。シンジ君を導いてあげて欲しい。』

 

「言われなくても大丈夫よ。ほら、さっさと切りなさい。」

 

『ふふふ。さようなら。セカンドチルドレン。』

 

そう言うと、あいつは電話を切った。

これでもう、あいつの姿を見ることも声を聞くこともないだろう。

寂しいとかそういう感情は一切浮かんでこない。

まあ、当然だろう。

そこまで関わりがない。

しかし、私は私がやらなきゃいけないことの重さを改めて認識する。

今の私に本当にやり遂げられるのだろうか。

私は幸せを知り過ぎた。

この幸せを手放したくないという気持ちがある。

でも、やるしかないのだ。

あいつと私の未来のために…。

 

……

自宅にて。

シンジの部屋から啜り泣く声が聞こえる。

どうやら、終わったらしい。

あいつがシンジのために死んだ。

でも、シンジからしてみたら大切な人を自らの手で殺したのだ。

傷ついて当たり前だ。

まあ、避けては通れなかった道なのだ。

私はあいつからの最後のお願いを聞くとしよう。

しかし、なんて声をかければいいのかわからず、ドアに手を掛けれない。

優しく声をかけ、慰めることもできる。

でも、それは逆効果な気がする。

きっと、シンジにとって今優しくされることは苦痛でしかないだろう。

なら、私は私らしく振る舞おう。

惣流・アスカ・ラングレーらしく。

そう、覚悟を決め、私はシンジの部屋のドアに手を掛けた。

 

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十八話

全てが終わる日まであと数日。

僕は自分にできる事をするために動いていた。

 

「お久しぶりです。加持さん。」

 

「おや、久しぶりだね、シンジ君。ちょっとやつれたかい?」

 

「まあ、色々あったので…。」

 

「そうか。まあ聞かないでおこう。で、なんのようだい?」

 

加持さんはいつもの軽い調子で聞いてくる。

それとは、対照的に僕は真面目な顔で答えた。

 

「加持さんを解放しにきました。」

 

「えっ…?」

 

あまりにも突然のことだったため加持さんは固まってしまった。

 

「こりゃまた、急にどうしたんだい?」

 

「もうすぐ、終わりが近づいてます。じきにここも危険になります。」

 

「そうか。とうとうなのか。」

 

「はい。それに、ミサトさんも危険に晒されると思います。ですから、ミサトさんを守ってあげてください。」

 

「わかった。ありがとう、シンジ君。」

 

「いえ、今まで自分たちの都合でこんなことしてすみませんでした。」

 

「いやいいんだよ。俺もやっと気づけたからね。だから、シンジ君もがんばりたまえよ。」

 

「はい。わかりました。」

 

その後、加持さんはどこかに行ってしまった。

 

 

……

自宅にて。

 

「加持さんは?」

 

「どこかに行っちゃったよ。」

 

「そっ。無理しないといいんだけどな。」

 

「今の加持さんなら自分の命を軽く扱うようなことはしないよ。まあ、ミサトさんを守るために多少の無理はするかもしれないけどね。」

 

「そうね。」

 

「うん。」

 

会話が終わり、沈黙が流れる、

しばらくすると、アスカがボソッとつぶやいた。

 

「もうすぐ終わるのね。」

 

「うん。あと少しだよ。」

 

「怖い?」

 

「怖いよ。逃げ出したいくらい怖い。」

 

「じゃあ、逃げちゃえばいいじゃん。」

 

アスカが真剣な顔で言ってくる。

それに対して、僕も真剣な顔で答えた。

 

「怖いけど。逃げちゃダメなんだ。僕は君を守りたいから。」

 

僕は本心を告げる。

今まで頑張って来れたのも全部アスカのおかげだ。

アスカを救いたい一心で頑張ってきた。

一度は裏切り、傷付けたのに、アスカは僕のことを好きと言ってくれた。

今度はその気持ちに僕が答える番だ。

だから、命に変えてでもアスカは守る。

 

「まあ、死なない程度に頑張りなさい。」

 

「うん。」

 

そして、再び沈黙が流れる。

昔は嫌だった沈黙も今では少し心地よさを感じる。

話さなくても分かり合える気がするからだ。

僕が心地よさに浸っていると、アスカが話しかけてきた。

 

「海に行きましょう。」

 

「へっ?」

 

アスカの突拍子もない発言に変な声が出る。

 

「海よ。海に行きましょう。」

 

「どうしてさ?」

 

「なんとなくよ。ほら支度して!」

 

「今から!?ていうか、アスカはいま外に出ちゃダメでしょ!?」

 

「別に問題ないでしょ。リツコにバレてるんだから。」

 

「えー…。でも…。」

 

「うじうじしてないでさっさと行くわよ!即断即決すぐ行動!」

 

結局、僕はアスカのわがままに付き合わされ海に行くのであった。

 

……

海岸にて。

 

「綺麗ね。」

 

「うん。」

 

目の前には大海原が広がっている。

時刻は午後3時。

真っ青な海に心が浄化されていくようだ。

 

「海ってこんなに青かったんだ。」

 

アスカがボソッとそんなことを呟いている。

 

「だね。久しぶりに見たからかな?」

 

「そうね。ちゃんと目に焼きつけとかなきゃ。」

 

「どうしてさ?」

 

「なんとなくよ。」

 

「ふーん?」

 

アスカが不思議なことを言っていたが、特に気にしなかった。

 

「ねぇ。シンジ。」

 

「なに?」

 

「アンタは全てが終わったら何するの?」

 

「全てが終わったらか…。考えたことなかったな。アスカはしたいことあるの?」

 

「私はアンタがいればなんでもいいかな。」

 

アスカが海を見ながらすごく恥ずかしいことを平然と言ってくる。

 

「そ、そっか…。僕もアスカがいたらなんでもできる気がするな。」

 

僕も勇気を振り絞って言ってみたが、アスカは特に反応しなかった。

 

「そっ。まあ、先のことはその時に考えればいいわよね。」

 

「そうだね。だから、ちゃんと終わらせよう。今度こそ。僕たちの手で。」

 

「頼りにしてるわよ。」

 

「うん。アスカは絶対に守ってみせる。」

 

「そろそろ、帰りましょうか。」

 

アスカはそう言うと、腰を上げ、歩き出した。

僕はその背中に無言でついていく。

 

「ねぇ。また、全てが終わったら来ようね。」

 

僕がアスカに問いかける。

 

「そうね。今度、海に来たら大事な話をしましょ。」

 

アスカは振り返らずにそう答えた。

 

「大事な話?」

 

「そう。大事な話。」

 

「今じゃダメなの?」

 

「全てが終わってからね。」

 

「そっか。わかった。その時にはちゃんと聞かせてね。」

 

「うん。」

 

こうして僕たちは帰路についた。

そして、とうとうその日を迎えたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




あと少しで終わらせられると思います。
長らくお待たせしてすいません。
あと少しだけ、お付き合いいただけると幸いです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十九話

決戦の日。

司令室にて。

 

「父さん。なんの用?」

 

「お前に聞きたいことがある。」

 

「なに?」

 

「お前は私の敵か?」

 

「わからない。でも、父さんのやろうとしていることを肯定することはできない。」

 

「やはり、全て知っているのか。なら、なおさら肯定できない理由がわからないな。」

 

「母さんのために人類全てを巻き込むことなんて肯定できないよ。」

 

「ふっ。シンジ。今のお前は私と同じだ。」

 

「父さんと?同じじゃないよ。違う。」

 

「いや。同じだ。お前もセカンドパイロットを失ったら同じことをするだろう。」

 

「…。それは…。」

 

「ふっ。まあ、いい。せいぜい足掻くといい。」

 

「父さんの好きにはさせない…。」

 

こうして、僕は司令室を出た。

もしかしたら、父さんと最後の会話かもしれない。

でも、いいんだ。

他に話すことはない。

しかし、僕は父さんと同じなのだろうか。

アスカのためなら世界を滅ぼすのだろうか。

わからない…。

もしかしたら…。

ダメだ。

こんなことを考えてる暇はない。

早く、初号機のところに行かなきゃ。

アスカはリツコさんの配慮もあり、すでに2号機に乗り込んでいる。

戦時が攻め込んでくるまで、あと30分もない。

できることをやっておかねば。

そして、そのまま僕は綾波のところに行った。

 

……

零号機の前にて。

 

「綾波。」

 

「碇君。どうしたの。」

 

「綾波と話がしたくて。」

 

「そう。」

 

「綾波は父さんのところに行くの。」

 

「命令だから。」

 

「綾波はそれでいいの?」

 

「…?命令だもの。」

 

「綾波はどうしたいの。」

 

「私は…。ごめんなさい、わからない。碇君はどうしたいの。」

 

「僕はアスカを守りたい。綾波を守りたい。ミサトさんを守りたい。他にもたくさんの人を守りたい。」

 

「そう。私も碇君を守りたい。でも、どうしたらいいかわからない。」

 

「ありがとう、綾波。一緒に戦おう。そして、僕たちの未来を掴もう。」

 

「それが碇君がやりたいこと?」

 

「うん。」

 

「わかった。私は碇君と一緒に戦う。」

 

「ありがとう。」

 

「こんな時は笑えばいいのかしら?」

 

「うん。笑えばいいと思うよ。」

 

こうして、僕と綾波は別れ、それぞれエヴァに乗り込んだ。

 

……

僕は初号機の中にいる。

遠くの方から爆発音が聞こえる。

とうとう、戦自が攻め込んできたのだろう。

ミサトさん達が心配だが、事前に対策は立てておいたので、信じるしかない。

僕はゆっくり深呼吸をする。

緊張のあまり、身体が小刻みに震えていた。

僕は気持ちを落ち着かせるため、心の中で母さんに話しかける。

 

『母さん。僕に力を貸してください。』

 

そう、願ったら少し気持ちが軽くなった。

僕は一人じゃないのだ。

母さんもいる。

綾波もいる。

それに、アスカもいるのだ。

大丈夫。

きっと、大丈夫。

そのために、今まで頑張ってきたのだ。

僕は覚悟を決め、目を開ける。

 

「エヴァ初号機発進!」

 

こうして、僕は最後の戦いに向かった。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二十話

前回投稿から約1年が経ってしまいました…。
今更感もありますが、自分なりに終わりを見つけれたので書きました。
一応、本編は次で最後でAnotherがあるかないかくらいです。
本当にお待たせしました…。


「アスカ!!」

 

「わかってるつーの!」

 

アスカは背後にいた戦闘機に回し蹴りをきめ、破壊する。

僕たちが、戦闘を始めてから、15分ほど経っていた。

しかし、未だにアンビリカルケーブルは壊されていない。

おそらく、エヴァ3機を相手にしているため、思った以上に苦戦しているのだろう。

それなら、こっちにとって都合はいい。

お陰で、戦自の戦闘機は大体破壊することができた。

戦況はだいぶこちらに有利だ。

しかし、そんなことを考えていると、とうとうアレが投入されたのである。

 

「碇君。上。」

 

綾波の声に反応し、僕とアスカは上を見る。

 

「とうとうおいでなさったわね。」

 

アスカが嫌悪感に満ちた声で言う。

 

「アレが、量産型エヴァンゲリオン。」

 

綾波が唖然とした声で言う。

 

「アスカ…。」

 

「大丈夫よ、シンジ。私は平気。だから、アンタはアンタのやるべきことに集中しなさい。頼りにしてるわよ。」

 

「わかった。」

 

「よし。じゃあ、もう一度、確認するわよ。アイツらはS2機関を搭載してるから生半可に破壊してもすぐ再生するわ。だから、一瞬で終わらせるわよ!」

 

「了解。」

 

「わかったよ。」

 

僕と綾波が返事をする。

 

「それじゃあ、行きますか!!!」

 

……

同時刻。

とある場所にて。

 

「レイならきませんよ。碇司令。」

 

「ふっ。見ればわかるさ。」

 

「なら、なぜここに。」

 

「最後を見届けるためだ。」

 

「何のためにですか?」

 

「私の野望を打ち砕いてまで、欲しがった、シンジ達の未来とやらだ。」

 

「見届けて、どうするのです?」

 

「見定めるのだよ。私とシンジの望む世界。どちらが、得るに相応しいか。」

 

「もし、相応しくなかったら。」

 

「私がシンジの障害になろう。」

 

「…。そこまでして、あなたは…。」

 

「あぁ。望むものはその一点だけだ。」

 

「…。あなたは、生かしておけません。ここで、死んでもらいます。あの子達や私達の未来のために。」

 

リツコは引き金を引いた。

 

……

 

「どうすればいいんだ…。」

 

量産型エヴァとの戦いの最中、僕は絶望の淵に立たされていた。

初号機以外の2機の活動限界まで1分を切っている。

しかし、まだ1体も倒せていないのである。

 

「考えろ。考えるんだ…。量産型はS2機関を取り込んでいるから、半永久的に動き、再生し続ける…。なら、どうやって倒せばいいんだ…?」

 

僕がブツブツと呟いていると、アスカが話しかけてきた。

 

「アンタね!さっきから言ってるじゃない!?使徒とほぼ変わらないんだから、コアを潰せばいいのよ!」

 

「その、コアが見当たらないじゃないか!?」

 

「絶対どこかにあるはずだから、火力で押し切るわよ!」

 

「アスカは少し冷静になろうよ…。僕はともかく、アスカと綾波は活動限界まで1分位しかないんだよ…。」

 

「だから、こそでしょ!ファースト行くわよ!」

 

「えぇ。」

 

綾波とアスカが1体の量産型エヴァに同時に斬りかかる。

すると、体内からコアが露出した。

 

「ほら!やっぱり、あるじゃない!これを潰せば。」

 

そう言いながら、アスカはコアを潰した。

すると、その1体はピクリとも動かなくなったのである。

 

「残り8体。1体当たり、10秒もかけれないわよ!」

 

「わかったよ。やればいいんだろ!」

 

僕はアスカと一緒に他の量産型エヴァに斬りかかる。

そして、露出したコアを綾波が潰すという行為を繰り返していた。

しかし…

時間が足りなかったのである…。

零号機と二号機は活動限界を迎えてしまった。

 

「くそっ!!あと2体なのに…。」

 

電源が切れ、綾波やアスカと連絡が取れない。

周りを見渡すと、量産型エヴァ2体が嘲笑うようにこちらを見ている。

少しすると、量産型エヴァ2体は2号機の方へと動き始めた。

 

「やめろ!!」

 

僕は二号機を守るべく突撃する。

しかし、1体がこちらを邪魔してきて、二号機の元に行けない。

その間にももう1体は二号機に向かって行っている。

 

「くそっ!僕だけの力じゃどうにもなんないのか…。僕が弱いから…。

母さん、頼むよ。僕に力を貸してよ。今度こそアスカを守りたいんだ!!」

 

ドクン

母さんの声が聞こえた。

わかってるよ。

母さん。

僕がすべきことがなんなのか。

だから、今は力を貸してください。

アスカを守りたいんだ。

 

エヴァ初号機が限界を超えた力を発揮した。

そして、瞬く間に量産型エヴァ2体を撃破した。

 

ありがとう、母さん。

大丈夫。

心配しないで。

ちゃんとやれるから。

 

僕はエヴァから降りてアスカを助けに行く。

エントリープラグ内にいたアスカはぐったりとしていた。

 

「アスカ!?」

 

僕はアスカを抱きかかえる。

すると、アスカは眩しそうに目を開けた。

 

「そんなに、心配しなくても生きてるわよ。」

 

「よかった…。ほんとによかった…。」

 

僕は安堵からか涙を流していた。

 

「なに、泣いてんのよ。それより、2体相手に一人でよくやったわね。」

 

「母さんが力を貸してくれたんだ。」

 

「母親が…?よく貸してくれたわね…。」

 

「うん。だから、こうして僕はアスカを助けれたんだ。」

 

「ふんっ。よかったわね。ようやくこれであんたの長い旅が終わりそうね。」

 

アスカが顔を横に向けながら言い放つ。

 

「うん。終わらせよう。アスカ、最後に一ついいかな?」

 

「何よ。」

 

僕は深呼吸をしてアスカに聞く。

 

「僕たちにもこんな未来があったのかな。」

 

アスカはこの言葉を聞くと、とても悲しそうな顔をした。

 

「アンタ…、まさか…。」

 

「うん。長い旅もこれで終わりだよ。アスカ。」

 

僕は決着をつけるための覚悟を決めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




話の辻褄が合わなくなったため、修正しました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

最終話

量産型エヴァとの戦闘の最中。

僕は母さんの声を聞いた。

 

『シンジ。あなたには本当になさなければいけないことがあるのよ』

 

母さん。

わかってるよ。

僕が本当にしなくてはいけないことがなんなのか。

だから、終わらせるね。

僕たちの未来のために。

 

「うん。長い旅もこれで終わりだよ。アスカ。」

 

アスカはおそらく気付いている。

この言葉の本当の意味を。

 

「別にいいじゃない…。こういう未来でも…。」

 

アスカは下を向きながらボソボソと話している。

 

「そうだね。でも、この未来にはあの頃の僕たちには辿り着けないよ。」

 

「そんなのわかんないじゃない!!」

 

アスカが顔をあげ、泣きそうな顔で訴えてきた。

 

「わかるよ。これは今の僕たちだからできた未来なんだ。だから、本来存在しない未来だよ。」

 

僕は諭すようにアスカに話す。

アスカは泣くのを堪えているのか、ぷるぷると震えていた。

 

「わかってたわよ…。初めから…。今回の旅で最後にするつもりだったのよ…。シンジに全部話して…。でも…。」

 

アスカは言葉を詰まらせる。

僕はアスカが話し始めるまで黙って待っていた。

 

「でも…。あんたとようやく気持ちが通じ合って、こんな未来があるなら、ずっと見ていたくなったのよ…。」

 

とうとう、アスカは泣き始めてしまった。

アスカはアスカなりにすごく悩んでいたんだろう。

こんなこと終わらせなきゃいけない。

でも、終わらせたくない。

僕と同じだ。

 

「アスカ。ごめんね。ここまで、悩ませてしまって。僕が弱かったから。自分の未来を受け入れられなかったから。でも、大丈夫だよ。僕がアスカを好きっていうこの気持ちは、どんな未来になっても変わらないから。ずっと、そばにいるからさ。だから、そんなに怖がらないで。」

 

僕はアスカを強く抱きしめる。

この気持ちがアスカに伝わるように。

 

「…。約束しなさいよ…。アンタは一生私に償いなさい。それでも、償いきれないことをしてきたんだから。今度、約束破ったら許さないんだからね…。」

 

「約束する。僕は一生アスカに償ってくよ。だから、僕たちの未来に向かって歩こう。」

 

「わかったわよ。そこまで、覚悟決まってるならいいわ。アンタに着いていくわよ。」

 

アスカは泣き崩した顔で笑みを浮かべて見せていた。

 

「シンジ。お前はそれで本当にいいのか。」

 

突然、背後から声がした。

振り向くとそこには父さんが立っていた。

 

「父さん…。」

 

「シンジ。もう一度聞く。その選択で本当にいいのか。」

 

「うん。いいんだ。アスカが一緒なら僕は大丈夫だよ。」

 

「ふっ。私もそう思っていたさ。失う時までな。だから、私は作られねばならんのだ。お前の母親、ユイを失わない世界を。邪魔をするなら、シンジ。許さんぞ。」

 

「父さん。もうやめなよ。そんなことをしたって、母さんは喜ばないよ。」

 

「お前に何がわかるというんだ。ユイを失った痛み。お前にわかるはずがない。いや、わからせてやろう。今、ここでな。」

 

父さんはそう言うと、銃口をアスカに向けた。

パァン

乾いた銃声が響き渡る。

次の瞬間、なぜか父さんが倒れこんだ。

 

「全く。逃げ足がはやいひとなんだから。」

 

声の方を向くと、そこにはリツコさんがいた。

 

「リツコさん…?」

 

「大丈夫よ。安心して。麻酔銃だから。命に心配はないわ。」

 

「どうして助けてくれたんですか?」

 

僕は素朴な疑問をぶつける。

 

「失う痛みをわかっていながら、それを息子に同じ思いをさせようとする彼を見たくなかったのよ。ただ、それだけよ。」

 

「そうですか。でも、ありがとうございます。」

 

「いいのよ。それより、行くのよね。」

 

「はい。」

 

僕は真剣な顔で答える。

 

「そう。なら、邪魔者は消えるわね。」

 

そう言うと、リツコさんは父さんを引きずりながらどこかに行ってしまった。

アスカはというと、泣き疲れたのかこの状況の最中寝てしまっていた。

もしかしたら、もう戻っているのかもしれない。

なら、待たせて怒られるのもアレなので僕も終わりにするとしよう。

僕はアスカの寝顔を見ながら言った。

 

「アスカ。愛してるよ。」

 

目の前が真っ暗になる。

意識が遠のいていく。

こうして、僕たちの最後の旅は幕を閉じたのであった。

 

 

 




あとは、エピローグを書いて終わりの予定です!
もしかしたら、納得いかなくて消すかもしれませんが、よろしくお願いします!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

エピローグ

目が覚めると、目の前には見慣れた光景があった。

どうやら、戻って来れたみたいだ。

僕は起き上がり、アスカを探す。

アスカはあの場所に横になっていた。

 

「アスカ。」

 

僕はアスカに声をかける。

 

「戻ってきたのね。」

 

「うん。」

 

「本当にこれでよかったの?」

 

「うん。」

 

「後悔は?」

 

「してない。君がいるから。」

 

「ふんっ。アンタも言うようになったわね。」

 

「アスカのおかげで強くなれたんだ。」

 

「あっそ。で、これからどうするの。」

 

アスカは顔を横に向け、遠くの方を見る。

 

「みんなが戻ってくるのを気長に待つよ。」

 

「そっ。まあいいわ。私も付き合ってあげる。」

 

「ありがとう、アスカ。」

 

「とにかく移動しましょ。ほら、私のこと丁寧に運びなさい。」

 

「わかったよ。」

 

こうして、僕はアスカを抱きかかえ、あてもなく歩いていくのだった。

 

 

………

3年後。

僕たちは、普通の暮らしをしていた。

本来、僕らは取り返しのつかないことをしたのだが、大人の陰謀に巻き込まれた子供ということで、今は監視下に置かれてること以外、特に変哲もない生活を送っている。

僕自身も驚かされたのだが、みんなが戻ってくるのは唐突だった。

朝、目が覚めると、何事もなかったかのように街があり、人がいたのである。

一般市民こそは何が起きたか全く覚えていないが、政府の関係者は流石に情報を握っていたみたいだ。

そして今に至る。

僕とアスカは今も一緒に暮らしている。

本当はマンションの部屋はアスカの分もあるのだが、僕の部屋に住み着いてる。

昔と変わったことがあるとすれば、ミサトさんがいないことだ。

ミサトさんだけではない。

サードインパクト以前に死んだ人はやっぱり戻って来なかった。

父さんは何をしているのだろうか。

生きているのか死んでいるのかもわからない。

でも、もう寂しいとは思わない。

僕には大切な人がいるのだから。

 

「シンジ〜。ご飯まだー?」

 

アスカがリビングから声をかけてくる。

 

「あと少しだから、待ってて。」

 

「はーい。」

 

数分後、僕は出来上がった料理をテーブルに並べる。

 

「あら、随分と豪華じゃない?何かあったの?」

 

アスカが並べられた料理を見て感想を述べる。

 

「今日はアスカと初めて会った日なんだ。」

 

「へぇー。あんた、そんなこといちいち覚えてるのね。」

 

アスカが呆れた顔で僕のことを見てくる。

 

「アスカだって覚えてるくせに。アスカの部屋のカレンダーに書いてあったよ。」

 

「ちょっ!アンタ何かって見てんのよ!?」

 

「ごめんて。とにかく、いただきますしよ??」

 

僕はアスカを宥め、食事を勧める。

 

「はぁ。まだ、アンタと会ってから暦上では4年しか経ってないのね。」

 

「まあ、色々なことがあったからもっと長く感じるけどね。」

 

「そうね。色々あったわね。」

 

「うん。」

 

「私といるの飽きちゃった?」

 

アスカが不安そう顔で聞いてくる。

 

「飽きないよ。何があってもね。僕はアスカのことが好きだし。ずっと一緒にいるよ。」

 

「ふーん。どうかしら。無敵のシンジ様はモテモテだものね。」

 

「そんなこと言われてもな…。僕はアスカしか見てないし…。というか、アスカの方がモテモテだよね??」

 

「私がモテるのは当たり前じゃない。何言ってるのよ。」

 

「そうだね…。」

 

「でも、安心しなさい。この惣流・アスカ・ラングレー様は一生碇シンジと一緒にいてあげるわ。感謝しなさい。」

 

照れ隠しなのか、顔を赤くしながら言っている。

 

「ありがとう、アスカ。じゃあ、いただきますしようか。」

 

「えぇ、そうね。」

 

「「いただきます」」

 

僕たちの長い旅はあの日終わりを迎えた。

しかし、僕たちの物語はまだ始まったばかりなのであった。

 

 

-END-

 

 




一応これにてお終いです。
今まで、本当にありがとうございました。
なんとか完結させられたのも読んでくれた皆様のお陰です。
次はこれの日常系か全く別物書くか迷っていますが、もし書いていたらその時もどうかよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。