Over Your World (Satellite WE'RE)
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此方より dive
第一話


ドクターバトルの終焉


 

 僕は宝生永夢。聖都大学付属病院のドクターとして、日々患者さんと向き合っている。僕が所属しているのは小児科で、たくさんの子供たちを診るのが仕事だ。  

 僕はゲームを通じて小児患者と交流することが多い。子供たちの中には長期的な闘病を強いられる子もいて、つらい思いをしてしまう子もいるから。

 少しでも子供たちに笑顔になってもらいたいと思って、そんな向き合い方を大切にしている。

 

 この前もゲーム好きの子が退院したとき、僕とのゲームが楽しかったと言ってくれた。それで、なんとその子の親御さんもゲーム好きだったのだ。

 僕はついゲームについて語り合ってしまって、弓田さんに怒られてしまった。

 最近、忙しくてゲーム出来てなかったから仕方ない。怒られちゃったけど、ゲームの話題はやはり楽しかった。しかも、今度新しく発売されるゲームについての情報も知ることが出来たのだ。

 

 そのゲームの名前は『Over Your World』。VR技術では業界トップの実力を持つ、あの『マキナビジョン』が開発した新作ゲーム。世界でも数少ない、VRMMOの形式をとる新作だ。 

 

 その内容は和洋折衷のアドベンチャーゲーム。なんでも、形式は脱出ゲームっぽいらしい。

 舞台は天守閣によく似たお城のようで、ツルのようなものが巻き付いて大樹にも見える不思議なビジュアルだ。外国の会社だけど、あのハリケーンニンジャを開発したところだ。きっと和モノの雰囲気とかいいんだろうなあ。

 中には先行プレイしてる人もいるらしくて。ゲーマーはみんな羨ましがってるみたいだ。

 まあ結構有名なのに仕事が忙しくて知らなかったんだけど。それに、僕の家にはVRMMOをプレイできる環境がない。でもプレイしたいなあ。誰かVRできる人いないかなあ。

 

 

 それで僕の大切な人たちを思い浮かべてみたけど、全然力を借りられそうな人がいない。

 

 まず、先輩の飛彩さん。言わずもがな、普段はゲームしない。 

 そもそも今は海外に渡っていて、凄い賞をもらうらしい。……凄い賞はすごい賞。僕もよくわからないぐらいにはすごいらしい。世界一のドクターにまた一歩近づいたのだといいな。

 

 次に大我さん。最近ニコちゃんが共通の話題が欲しいと駄々をこねてゲームを激押ししてきたので、渋々ゲームを始めたらしい。

 にしては割とハマってるし、シューティングゲームではハイスコアを叩き出してるようだ。今度対戦してみたいなあ。 

 でも流石にVR設備は整っていないだろう。ニコちゃんもアメリカに滞在中だ。

 

 貴利矢さんは最近任された調査があるとか言って、全然連絡も取れてない。

 監察医務院に復職しなかった貴利矢さんは、ますますミステリアスになってつかみどころのない人になっている。それでも、あの人が真摯に何かに取り組んでるんだから応援しておこう。

 

「ポッピーやパラドも無理だろうし……プレイしたかったなー」

 

「そりゃ俺は日銭は稼げないからn「ぅわーッ!」……そんな驚くなよ、永夢」

 

 いきなり僕の身体にバグスターウイルスが侵入し、ほぼ同時に噴出。人型に形成されて、現れたのはパラドだ。

 思わず驚いてすっ転んでしまった。

 差し伸べてくれた腕をつかんで立ち上がる。

 

「びっくりしたあ……久しぶり。パラドはあの新作のこと知ってたんじゃない?教えてくれたらプレイに必要な準備を整えたのに」

 

 僕達二人の心は繫がってる。僕の思考くらい察しているだろう。

 僕はいままで考えていたことについて聞いてみた。

 

「大事の患者がいたんだろ。そこに業界激震のゲームの話なんて持ち込んだら、興奮して診療に手がつかなくなるかもしれないし。永夢の心にそれがチラつくとまずいと思ってな」

 

「なるほど、サンキューパラド。でもVR、やりたかったなー」

 

 パラドが僕の気をつかってくれたのはわかったし、感謝しよう。でもこれでホントにお手上げだ。やっぱり世の中、都合のいい隠しルートはないものだ。

 

「……ふっふっふ。落胆するのはまだ早いぜ、永夢。俺達にはあるだろ、こんな時に頼りになるところが!」

 

「え?」

 

 落ち込む僕を見たパラドが得意げに話す。この顔はワルいことを思いついてる時の顔だ。

 一体どんな裏ワザがあるんだろう。少し考えて僕も思い至った。

 

「そうか! 幻夢VR!!」

 

「その通り。幻夢コーポレーションにはプレイできる環境が整っているハズだ。作に頼み込んでスペース貸してもらおうぜ」

 

 僕達はワケあってゲーム会社の幻夢コーポレーションととても親密だ。もちろんそんな会社だからこそ、ゲームに最適な場所のハズ。普段は私利私欲で会ったりはしないんだけど…………今回はパラドの裏ワザにノっちゃおう。

 

 早速、社長の作さんに連絡すると、快くスペース利用の許可をもらえた。

 正直他社のゲームだし無理かと思ったんだけど、幻夢コーポレーションも注目してるらしいし、プレイした感想を参考にしたいからと逆にお願いされてしまった。

 盗めるところは盗んでいこうの精神なんだろう。前々社長の黎斗さんが失踪した直後に残ったガシャットの設計データから新型を開発したぐらいだ。オマージュからのイノベーションが上手いのかもしれない。とにかく、ご好意に甘えることにした。

 

 

 数日後、僕はついに『Over Your World』を店頭で予約。ネットではとっくに在庫がなくて、休日を一日使って予約できるお店を探し回ることになっちゃったけど。

 パラドと手分けして探し、漸く漕ぎつけたのだ。

 まだ見ぬゲームに心躍らせながらホクホク顔で帰宅している、そんなときだった。

 

 突然、ゲームスコープからナースコールが鳴り響いた。

僕は近くにいるであろう、バグスターウイルスに感染した人を探し始める。まずいのは既存のゲーム病の反応じゃないことだ。

 現在確認されているウイルスのワクチンはすでに完成していて、今やインフルエンザなどのように予防接種も可能になっている。だからそもそも発症する人も一握りになったのに、それも新型かもしれないなんて──!

 

 焦燥感に駆られまいと冷静にしながら、患者を探す。

 草むらを掻いたところで見つかった──もう発症してる! 

 コミュニケーションも取れない状態で、凄く苦しそうだ。速く対応しないと!

 

 するとすぐに、別口で呼ばれたであろう救急車が到着した。

 手短に救急隊員に患者の状態を説明。似た症状が出た人がいないか聞くと、どうやらもう一人、同じ種類であろうウイルスに感染した人が見つかったらしい。

 その人は既に病院で対応されているハズ。今は目の前の患者に集中しないと。

 

「ゲーム病対応に明るいドクターがいて助かった。しかし、この症状は……」

 

「ええ。既存のモノとは違う。直接ウイルスを分離する必要があります。だから、僕に任せてください」

 

「……! じゃあ、あなたは!」

 

「ああ、()()仮面ライダーだ!」

 

 目を光らせ、啖呵を切り、ゲーマドライバーを腰に装着する。ポケットから非番時も緊急用として持っているマイティアクションXガシャットを取り出し、すかさずブレイングスターターを押し込んだ。

 

〈マイティアクションX!〉

 

 ゲームエリアが展開、背後のホログラムモニタにマイティのタイトルロゴが投影、ゲームがスタートする。そしてドライバーの一つ目のスロットにガシャットを装填! 

 瞬間、周囲にライダーセレクト画面が出現。ルーレットの如く、回転し始めた。慣れた手つきでエグゼイドを選択し──

 

〈レッツゲーム! メッチャゲーム! ムッチャゲーム! ワッチャネーム!? ……アイム ア カメンライダー!〉

 

 ゆるっとボディのエグゼイドアクションゲーマーレベル1に変身だ!

 久々のゲームで気合が入ってスイッチ押す前に()が目覚めちまったぜ。

 そう、俺はタダの小児科医じゃない。バグスターウイルスから人々を守る、CRにも所属する仮面ライダーだ。

 ウイルスに感染してゲーム病を発症した患者の命を救い、運命を変える。ストレス増加で症状が重くなるから、ノーコンティニューでスピードクリアだぜ!  

 俺は患者にグローブ程に分厚い手をかざした。

 

「……ggギ、グルュァらあぁォオオオ!!」

 

 レベル1は患者からウイルスを引き離す! 出てきたウイルスはユニオン体になって、けたたましい、声にならない奇声を発した。

 まるでポッピーがパニくってるときみたいだな。とにかく、ここじゃ救急車に傷がついちまう。

 

 俺はキメワザスロットホルダーのステージセレクトボタンを押した。これで安全な場所でゲームができるわけだが………せっかくだし、新しく実装された神社ステージを選択だ!

 平和な雰囲気の神社にシフトする俺達。ウイルスは大腕を振り回しながら暴れ始めた。俺もマイティシリーズの醍醐味であるスーパーアクションで動き出す。

 でっかいパンチをしゃがんで避けて、短足キックは股下を転がり抜く! 鮮やかすぎて紙一重に見える回避を繰り返し、隙を見つけて腰に手をかける。

 

 雰囲気汲み取って静かになれよ、なんて冗談を吐きながらレバーを引いた。

  

〈レベルアップ! マイティジャンプ! マイティキック! マイティマイティアクションX!〉

 

 鳴き声に負けじと大音量で発されるレベルアップ音声。等身大のレベル2完成だ!

 ユニオンの大振りな攻撃は機動力自慢のレベル2には届かない! 上手く大腕をよけて、ガシャコンブレイカーブレードモードを取り出し、ウイルスの瞬間分解を狙う。これでフィニッシュだ!

 

「イイイイイイィイイイィイイィィィ…………」

 

「て、ホントにフィニッシュかよ!」〈ゲームクリア!〉

 

 なんだ、全然手応えがないぞ! 普通のゲームでももっとプレイできるってのに。

 そんな不完全燃焼な俺を差し置いてゲームクリアの音声が鳴り響いた。

 どうやらマジで終わっちまったようだ。俺の性格が()に戻り、患者の下に駆け付ける。対応している救急隊員さんと再会した。

 

「おつかれさまです、先生。患者の容態はすっかりよくなって……とはいかないようです」

 

「え、なんで? 確かにウイルスは切除して……まだ反応が残ってる!?」

 

 スコープを覗くと微量だが、僅かに反応が残ってる。これは既存のバグスターウイルスには見られない、異常なものだ。

 

「本当に未知のウイルスだなんて…………先生」

 

「はい、至急CRまでお願いします。症状が出てない今なら患者さんをより精密に検査できます」

 

 方針を決めてすぐに、隊員さんは患者さんを車に乗せた。僕はその間に患者さんの散乱した持ち物を回収しようとする。

 草むらにカバンがひっくり返ってえらいことになっている。

 

「ってこれ、新作の!」

 

 カバンからのぞくのは例のゲームのカセット。ということはこの人は数少ない『Over Your World』先行プレイヤーだ。

 

 運営に直接選ばれた者がプレイする新作ゲーム。そんな人が発症した未知のゲーム病。

 ……二つの事象はなにか切っても切れないような気がして。言いようのない予感を覚えながら、僕も救急車に乗り込んだ。

 

 

 

 

 




感想、アドバイス等お待ちしております。


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第二話

 迅速な手続きを経て、僕はCRに到着した。

 近くには何とか状態が良くなってきた患者さんが二人。この調子ならもうすぐで意識が覚醒するだろう。ひとまず山場を越えて僕は安堵のため息を吐いた。

 

「なに気抜いてんだ。さっさと新型バグスターウイルスについて調べろ」

 

 そんな僕を咎めてきたのは、花家大我さん。なんともう一人の感染者は彼のクリニックで保護されたらしい。僕と同じようにオペを行ったけど、やはりウイルスの反応が残留してしまったようだ。

 紆余曲折あってちゃっかりCRまで入ってきてるけど。

 彼は衛生省からゲーム病専門医として活動を特別に許可されているので問題はなかったりする。どうやら僕達と共同で調査したほうがよいと判断したらしい。

 

「わかってますって。頼りになる大我さんがいてよかったって思っただけですよ」

 

「――は? ……とにかくさっさと進めるぞ」

 

 嘘は言ってない。飛彩さんや貴利矢さんがいない今、大我さんがいてくれて僕達は本当に助かってる。ただ、普段頼られ耐性がなさそうな大我さんはこうやってノせたほうがいいかなと思っただけだ。

 どうやら上手くいったようで、それ以上ややこしくなることはなかった。このままヘンな言い合いになったら時間がもったいないしね。そういうのはニコちゃんと二人でやってもらおう。

 

「ただいま。情報持って戻ってきたぜ。やっぱり例のゲーム、きな臭いなんてレベルじゃなかった。言うからしっかり聞いてくれよ」

 

 少し経って、ネットワークの海で情報収集を任せていたパラドが戻ってきた。

 

今、僕達の現場体制は患者さんとウイルスについて対応している僕と大我さんと明日那さん。それと戻ってきてくれたパラドだ。

 もし、パンデミックが起こるような事態にでもなったら僕達だけじゃ対応できない。速く対処法を見極めないと。

 ……だめだな。ネガティブになっちゃだめだ。今はパラドの持ってきた情報から今後の方針を判断しよう。

 

「例のゲーム、『Over Your World』の先行プレイヤーが次々と世界中で新型ウイルスに感染してるみたいだ。しかも意識が無いとこまでここと症状が同じ。

 これだけでも驚きだろうがもうちょい聞いてくれ。開発者兼現マキナビジョン社長のノア=ゴッドスピードが失踪中らしい。……少なくとも黒の一人はこいつだろ」

 

「え、え、えぇ~~!? ってあれ? わかってることってタイヘンなことになってるのとアヤシイ人がとことんアヤシイってだけ?」

 

「まあ、そうなんだけどさ。とにかく、俺たちのやるべきことは決まってる。患者は全員、ゲーム起動後に発症してる。プレイ中だったり、プレイを終えた後だったりだ。でもカセット自体にはウイルスが着いてない。

 つまり、このゲームを起動してみないと何もわからないってことだ」

 

「だよね~! も~! ケッキョクどうすればいいの~!? ピプぺポパニックだよ~!」

 

 混乱してバグスターの姿になっちゃったポッピーは置いておいて、考える。

 

 僕たちの中にはシステムのファイヤーウォールを突破できるようなハッキング技術を持つものはいないし、バグスターの二人も侵入できなかった。

 さすがは大規模型多人数オンラインだ。大勢のプレイヤーが介入する分、特にセキュリティ面は力を入れているんだろう。裏ワザは使えないとなると、真っ向から挑むしかないんだけど……

 

「だが、どうやって俺達が介入するんだ。ログイン方法は患者に吐いてもらうとして、バグスターウイルスが絡む以上、仮面ライダーの力も持ち込む必要があるぞ」

 

「そうですよね…………」

 

 何とか切り抜く方法を、考える。

 そもそもゲームにログインできるかどうかもわからない。ちょっと物騒な言い方だったけど、大我さんの言う通り、このゲームへの介入は患者さんの協力が必要だ。

 一つのカセットで最大三人挑戦できるようだし、チームで取り掛かれるのが救いだろう。やっぱり、正面から行くしかないか……

 

「あれ……? ここは、え?」

 

 そうやって僕達が懊悩していると、患者さんの一人がやっと目覚めた! 僕達でも混乱してるんだ、しっかり気を付けて説明しないと……

 

 そうして僕は患者さんと向き合う。

 この時の僕はまだ、この出会いが大冒険につながるなんて思ってもみなかった。

 

 

 

 

*********

 

 

 

 

 目覚めるとそこは知らない天井だった。なんて、ふけってる場合じゃない。

 なんだここは。思わず声を漏らしてしまった。しばしばする目で周りを見渡すと、医師らしき人が二人、いや三人になった……? やたらピンクの色彩があったはずなのに……あれ、そもそも人影も四人いたはずなのに。

 困惑しているとその中の一人に話しかけられる。

 

「よかった、目を覚まされたんですね! 気分はどうですか? どこか、辛いところはありませんか」

 

 視界が透き通った。

 いや、もちろん言葉の綾なのだが、それはもうリアルと言っていいほどのものだった。

 まるで宝石のような表情をする人だと思った。そんな人に面と向かわれて、本当にぼやけていた目先が晴れたようだった。

 

「……ぁ、はい。なんとか、特に。大丈夫だと思います」

 

 卒然のことで、抑揚のない腑抜けた言葉しか出てこなかった。いったいどうしたんだろう。この人も、私も。どうして、どうやったらこんな純粋な表情で患者と向き合えるのだろう。どうしてこの人を見ると靄がなくなったように感じるのだろう。

 

「そうですか! 本当によかった……あっ、すいません。今大変なことが起こっていて。事情を説明させてください。疑問や思うところがあれば、その度にいってください」

 

 そうして、その宝生先生に聞かされたものは私の想像通りの混乱だった。

 

 私は気づいていた。このゲームの本当の目的に。だからこそ、運営の注目を浴びるような事をしていたのだ。

 なのに、私は一線を踏み切ることが出来なかった。私の中にある()()が拒否反応を起こしたからだ。

 その記憶で私が行っていたことが正しかったのか、間違っていたのか。今の私には推し量れない。自分の強かったはずの信念が、わからない。だから、いきなり意識が浮かび上がった数日前からこの世界でも何も考えずに同じ選択を取ろうとしていた。そして、私は見事に先行プレイヤーの中でも有数のポジションに選ばれた。

 

 ……結局、運営の意志に反した私は気づけばゲーム病とやらにかかっている。勝手に倒れて、勝手に病院の世話になって、勝手にキュアの手間をかけさせている。

 

 ある意味、これは宝生先生のせいだ。先生の顔を見ていると、まるで自分が重ねてきた嘘とごまかしばかりのベールが溶けていくようだ。それで、こんなことを考えてしまっている。……それが、私のありのままなのか? 

 

 欠片も論理的でない思考を繰り返し、ふと思い至る。この人を追えば、自分の本当の心がわかるのではないか。その透き通るような眼に充てられていれば、自分の本当にやりたいことがわかる、そう思わずにはいられないのだ。この人に付いて行こう。私がそう決めるまで、時間はかからなかった。

 

 私はその場で架空のストーリーをでっち上げた。でっち上げと言っても、嘘はほとんどついていない。私は偶然選ばれた先行プレイヤーだったが、選ばれた()()やゲームに関して()()とは思わなかった諸々……

 上手く可笑しさのない言葉に言い換えて、如何にもただ巻き込まれた一般人だと思わせることに成功した、筈だ。むしろ、ゲーム内容に関する情報を提供したのだから、私に疑いが向くほうが変なぐらいだろう。

 

「すごい、先行プレイでもうそこまで行くなんて! 特にあそこの縄代わりにするギミックとか難しそうなのに。僕はCMで写る画角だけじゃ思いつきませんでした……あっ、僕もあのゲームは予約してて。楽しみにしてたんですけど。でも番場さんが協力してくれるなら助かります。すぐにゲームクリアして、いつか一緒にゲームしましょう」

 

 流れるままに私はCRへの協力を承諾した。

 協力者になれば、先生はログイン権限のある私とともに行動せざるを得ない。良い方向に落ち着いたと思う。それに、先生がゲーム好きだとは意外だ。私もゲームは好きで、話が弾んだ。だからこの世界でも、ゲームを通じてあの運営のお目にかかることになったのだが。

 すべてが、偶然とは思えない。これまでの()()の命の中で、これほど運命というものを感じたことはなかっただろう。もしかしたら二つ目なのかもしれないが。

 

 ともかく、仮面ライダーとしてバグスターウイルス?に対応する彼らドクターに、私は協力することとなったのだ。

 

 

 

 

*********

 

 

 

 

 患者さんは最初は戸惑っていたようだけど、柔軟に話を聞いてくれて助かった。しかも協力者に進んでなってくれたし、先行プレイで進める限界までクリアしていて、僕達もそこからゲームに挑めるみたいだ。

 少しだけ希望が見えてきた気がして、僕は改めて身を引き締めた。

 

 少し整理しよう。

 

 マキナビジョンの新作にして世界で数少ないVRMMO、『Over Your World』。ゲーマーが一度は夢見るゲームの中でリアルのようにプレイできるゲーム。

 このゲームは脱出系のアドベンチャーゲームだ。VRMMOと聞くと、ファンタジーやデスゲームものを思い浮かべる人が多いと思うけど、そのジャンルで開発しなかったのにもちゃんとワケがありそうだ。

 

 まず先端的なゲームとはいえ初期型と言える今作、テーマやギミックは割り振られている。

 珍しい構成だが、いきなり自由度の高すぎるファンタジーだと、プレイ目的が曖昧になっちゃうからなんだろう。他にもプレイアビリティとか生産方法とかいろいろ。

 ……ってこれは黎斗さんが考えそうなことだ。今回はもっと、天才ゲーマーMらしい妙手を考えないと。

 

 とにかく、最初期のVRMMOとして、脱出系という恐怖と興奮のジャンル。

 進むルートが一本道だから攻略はしやすい部類で、それをリアル以上に体感できるというのがウリだ。

 そこに絡んでくるギミックも単純明快で、コントローラーを操作するかのようにキャラクター(容姿はある程度設定できる)の身体を動かせるマニュアルモードと自分のリアルの身体の感覚で動くストレングスモードがある。

 ずっと自分の脚で進むのはさすがのVRでもキツイけど、そこはゲーム。盛り上げてくるのが数々のアイテムだろう。 

 CMではエナジーアイテムのようなもので身体強化して進んだり、現地のアイテムを使用する姿もあった。

 そうそう、各エリアにはボスキャラがいて、それを上手くかわしながら進んでいくのも面白そうで……

 

「永夢、ゲーマーの血が騒ぐのはわかるけど、今はコッチが大事だぜ」

 

「興奮して一人で浸ってんなよエグゼイド。普通のゲームは自分んちでやってろ」

 

 二人に一斉に注意されてしまった。いけない、ついゲーマーの性で、長々と勝手にワクワクしてしまった。

 同じぐらいゲームが楽しみだったパラドも真面目に考えてるんだし、僕も何とかしないと。

 そうして切り替えて冷静にしてみると、一つの抜け道を思い付いた。

 

「──そうだ、パラド! あれ、アレを使うんだ!」

 

「アレ? アレって……幻夢のVRか? 確かに侵入用の機器としてはアリだし、何ならそれで乗り込むつもりだったけど──そうか」

 

「え? なに? 何思いついたn「いいからさっさと教えろ、何とかなるもんなんだろうな」……ピヨル……」

 

「ああ、明日那さん……ええ、これなら何とかなります。黎斗さんが残したVR関係のアイテムはもう一つあります。VRの世界で秀でる者はいない、マイティクリエイターVRXが!」

 

 そう、僕達ドクターライダーにもあるのだ、VRでの運用を目的としたガシャットが。

 それがマイティクリエイターVRX。VRの中でゲームを創造するゲーム。

 元々のプレイが仮想空間でのインチキをするためのものだったから……言い方はアレだけど、悪く使えばVRMMOへのライダーシステムの持ち込みだけじゃなくて、ゲームのバックドアを作れるかもしれない。

 もしそれが可能なら、一瞬でエンディングを迎えることが出来てゲームクリアだ。ゲームに感染するバグスターはそれで完全に消滅する。

 

「猶予はあまりありません。あと二日で通常版もプレイできるようになります。患者さんと協力して、それまでにゲームをクリアしましょう」

 

「もし製品版の内部……仮想世界自体にウイルスが蔓延してたら、VRと現実を行き来できるそれはパンデミックにつながるから……スピードクリアが大事だな」

 

「おい、あの番場アドルから湧いてくる情報も怪しいぞ。なんかパッとしない物言いばっかりだ。名前も変で偽名くせぇ。お前らあまり信用し過ぎるなよ、お人よしだからって」

 

「わかりましたよ、大我さん。でも今は一人の患者さんですし。それとゲームの流通の件ですけど……」

 

「ったく、今から発売中止しろって言っても聞かねーんだろうな。それができるだけの証拠も不十分だ、俺達がやるしかねえ」

 

「……えっと私は? 三人用なら私は行けないよね?」

 

「明日那さんは現実の患者さんやバグスターウイルスについて緊急対応をお願いします。大丈夫です。必ずクリアして戻って来ますから」

 

「永夢……それにみんなも。気を付けてね。絶対だよ!」

 

「ああ、患者の運命を変えてやるよ」

 

「ミッション遂行準備だ」

 

 パラドも大我さんもやる気十分だ。番場くんにはゲーム内で付き合いになるけど、万一再発症したり、容態に不安が出てきたら強制ログアウトしよう。

 緊急時のプランも打ち合わせ、僕らが向かうのは幻夢コーポレーション、VR機器管理室。黎斗さんと挑んだハリケーンニンジャ用に用意したスペースがそのままになっているらしい。

 

 灰馬院長に挨拶を終えて、僕らは未知のゲームのスタート地点を目指すこととなった。

 

 

 




・番場アドル

 『Over Your World』先行プレイ開始一日前にこの世界で意識が覚醒。容姿は十代半ばのものとなっていた。調べると自分の戸籍や名簿などの存在を発見、恐怖する。
 しかし、その後、何故かそろえられていたVRMMO用セットを用いて、選考プレイに取りつかれたかのようにのめり込む様子が確認できた。
 プレイ二日目には先行プレイ可能範囲をすべて制覇。ずいぶんなゲーム好きだ。

 決まった通り、エグゼイドに接触した彼はまだ始まったばかりだ。


・ノア=ゴッドスピード

 今回のラスボス。現在水面下で色々画策している。騒々しいラストネームだ。





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第三話

「ログイン成功です! 上手くいきましたね、皆さん。番場くん、ちょっとの間だけどよろしくね。大丈夫、君を危険な目には合わせないから」

 

「はい、わ……ボクも大丈夫です。それに進んで協力したのは自分です。何とか力になれるようにします」

 

「よっぽどのことがない限り、怪しいお前の力なんて借りねえよ。今回俺達が遂行するミッションはチート同然なんだからな」

 

「もう、大我さん……。パラド、作戦は大丈夫か?」

 

「ああ、エムがVRXでこの世界にバックドアを創る。俺がサポートして、スナイプがアドルの護衛な」

 

「――本当にパラドもログインできるなんて……凄いなバグスターは……」

 

「だろ? まあ、人間だってちゃんといいところがあると俺は思ってるけどな。……さあ、いくぜ、みんな」

 

 最初は驚かれたけど、番場くんはパラドを受け入れてくれた。むしろバグスターについて興味深々の様子だ。

 遂に『Over Your World』介入作戦が始まる。このゲーム一機の最大ログイン人数は三人だったけど、パラドは僕の中に潜んでその縛りを突破。そしてここからは、()達がゲームに挑むぜ!

 

〈マイティクリエイターVRX!〉

 

 VRXのスターターを押し込む。そして、その力によってまず、『仮面ライダーがゲームに参入するゲーム』を創造展開。これでスナイプとパラドクスも変身可能だ。

 

〈デュアルガシャット! The storongest fist! What's the next stage?〉

 

〈バンバンシミュレーション!〉

 

 

「マックス大……」 「だーい、」

 

「「「変身!」」」

 

〈赤い拳強さ! 青いパズル連鎖! 赤と青の交差! パーフェクトノックア~ウト!〉

 

〈スクランブルだァ! 出撃発進! バンバンシミュレーショ~ンズ! 発進!〉

 

〈天地創造の力! Get Make! 未来のゲーマー! マイティクリエイターVRX!〉

 

「やっぱりゲームは心が躍るな!」

 

「ミッション開始!」

 

「ノーコンティニューで、ゲームを創るぜ!」

 

 未知のゲームに降臨した三人の仮面ライダー。そして俺は早速ゲートを創造する。向かう先はもちろん、このゲームの最上階、ファイナルステージだ。

 待ち構えてるのがヤバいステージギミックなのかラスボスなのかはわからないが、多分黒幕はふんぞり返ってることだろう。気を引き締めていかないとな。

 

「よし、ゲート完成! 行くぞみんな!」

 

 そうして、俺達はゲートに飛び込む。ゲートの中は一直線で、光になって進んでるみたいだ。周りには木々がうねっていてより不気味さが増して……ッて、俺はそんなもん創ってない!

 

「みんな、干渉されてる!」

「そんな、なんで気づけたんだ! でももう到着するぞ!」

 

【……それはワタシが心待ちにしていたからですよ。マイティクリエイターVRX、アナタをね!】

 

 ……そんなバカな! 俺達がVRXを使ってくるって読めてたのか!? いや、それを待ってたってなんだ!?

 

 その疑問も、この声の目的もすぐにわかるのだろうか。数舜して、俺達は最上階に到達した。

 

 

 

 

 

********

 

 

 

 

 

 

 運営に導かれ、今、私達は天守閣の最上階にいた。そこはゲームのラスボスやステージギミックはなく、ただ真っ暗な空間。完全に誘い込まれたのだ。そばには花家さんがついてくれているが、そもそも私に危害が及ぶことはないと思う。運営……ゴッドスピードの目的は()()。とにかく数が多い方が良い。せっかくのメンバーは手荒に扱わないだろう。

 

 しかし、本当にM先生があのVRXを使うことを予期していたのなら、狙いはもしかしたら……

 

「お前が黒幕だな。そしてお前が持っているそれは……」

「マスターガシャットだな。やっぱりクロニクルとハリケーンニンジャをパクって制作してたのか。バグスターウイルスが垂れ流れてるぞ、それ」

「黒幕、てめえがマキナビションの社長か? ……図星みてえだな。さっさとガシャット壊してミッションコンプリートだ」

 

〈キメワザ! バンバンクリティカルファイヤー!〉〈6連鎖!〉

 

【そんなものは、ワタシに届かない。……やはりデータ通りだ】

 

「なっ!? 跡形もなく消えた……? てめえなにしやがった!」

「スナイプだけじゃなく俺まで……? データ通りってどういうことだ、影カゲ野郎」

 

 まさか二人の攻撃を無効化するなんて。失敗に終わったスナイプを見てあざ笑うのは、パラドクスの言う通り影のマントを何重にも纏ったような姿をしている人外。くぐもった、まるで逆探知するときに使うような声。()()()()()()を目指すノア=ゴッドスピードだ。

 

「本当にお前はゴッドスピードなんだな。プレイヤーを感染させるゲームを作って、俺達をここに呼び込んで、一体何のつもりだ!」

 

【簡単なことですよ。この仮想世界を完成させ、相応しき人間を救済し、ワタシがワタシのまま君臨する。わかりやすいでしょう。もちろん、アナタたちにも選別の機会はあります。ただし、正攻法ならね!】

 

 そう言ってヤツが手?を掲げると、吸引する小型ホールを出現させる。さらに私達が使用したゲートが再び開かれてしまった。ホールに吸い込まれるのはVRX。さらにスナイプとパラドクスの変身が……

 

「何ッ!? グッ!? へ、変身が解けて……」

「それだけじゃない、ゲートに引き戻される! こっ、これはログアウトの!」

「あッ! VRXが! お前、最初から俺のVRXを狙って!?」

 

【何度も言ったでしょう。VRX、アナタを待っていた、と。そしてあなたの推察通り、ライダーの力は使わせません。……フフッフフフ、ハハハッハハッハァー!!】

 

「うわぁ~~~!?」

 

 

 

 

+++++++++++

 

 

 

 

 ……そうして、私も含めて元居たステージまで引き戻されてしまった。幸いなのは私がプレイした地点まで戻ったのであって、最初からリセットなんてことにならなかったことだろう。しかし……

 

「そ、そんな。パラド!?」

 

「クソッ、風魔が見合ったスナイプとVRXと俺、全部ブロックルーチンを組まれてたのか……永夢、意味はわかるよな? どうやら俺は早くも、ここまでだ。俺だけは絶対、追放したいらしい。ムテキをメタって、きてるんだ」

 

「パラドがログアウトしていく……こっからは俺達で進むしかねえのか」

「くッ、パラド、大丈夫だ。僕達は絶対負けない。必ずゲームクリアしてくるからな」

「いや、俺だってこのm、じゃoわ、れnい、mど、、、くるかrな……」

 

 そう言い残してパラドはログアウトしてしまった。これからはノアの目論見通り、()()のエリアを自分たちの脚で踏破するしかないだろう。その中で私は見つけることが出来るだろうか。私の本当の心を。

 

「VRXは奪われて、風魔と戦った俺達は知らぬ間にマキナビジョンにデータをとられてて、直接枷をかけられたってことか。ふざけやがって」

「……はい。ヤツはVRXを悪用するつもりだ。そんなことされる前に、僕達で進みましょう。さっき創った『仮面ライダーがゲームに参入するゲーム』はまだ残ってます。これで僕らはまだ変身できる。……番場くん、出鼻を挫かれてごめんね。もうしばらく一緒についてきてくれるかな」

「はい、大丈夫です。永夢先生がいてくれればきっと」

 

 きっと、大丈夫だ。私はなにかを見つけられる。となりの花家先生に警戒されてる気がするけど多分大丈夫だ。そう信じよう。

 そうやって私達は進む。ボスが望むままに作り替えた()()()()()()()()()()()()()へ。現実時間での猶予はあと二日。しかしここでは……

 

 

 

 

*********

 

 

 

 

 

 これまた厄介なミッションになりそうだ。

 

 俺達は進むエリアでの動き方についてカンファレンスしていた。現在挑んでいるのは、中学校エリア。徘徊する眼鏡をかけた生徒会役員みたいなエネミーに見つかって、追い付かれたら即ゲームオーバーというものだ。そいつらを撒きながらアイテムを使ってルートを切り開いていくらしい。つまりかくれんぼや鬼ごっこみたいなもんだ。決してお化け屋敷とか、あんな恐ろしいもんじゃない、はずだ。

 

 今は空きの教室ゾーンで身を隠しながら計画を練っている。エグゼイドやアドルが言うには、この場所はゲーム的に敵に見つからないセーブポイントらしい。

 

 結局、レベル50は使えなくなっていた。エグゼイドはパラドクスと断絶されたせいか、ムテキが使えないという。……待て、こいつが使えない理由は本当にそれだけか?

 

 しかし、それは今分かることじゃない。俺は嫌な予感を一旦置いておいて他の事に思考を割くことにした。ずっとやけに冷静、というか馴染んでる一般患者サマについてだ。

 番場アドル。俺が拾った患者とは別口でCRに連れてこられた人物。他の感染者と違うのは意識が初めて目覚めたこと、持ち物がやけに少なかったことぐらいだ。やたら身分証明に使うもんばっかり持ってたな。そして、協力者にさせているわけだが……そう、この目だ。

 

 俺に対してだけ、観察するような視線をかけてくる。いや、それだけじゃない。随分とエグゼイドを気にかけてる、ように見える。

 

 それに今のこの展開は、なにか違和感を覚える。コイツは俺達にこのゲームの情報を提供したが、感想は主観ばっかりだ。パニクって連結しない証言ならまだしも、ずっと落ち着いてたコイツは言葉を選んでたんじゃねえか?

 

 今すぐにでも洗いざらい吐かせたいところだが、もし本当に敵とつながってたら追放されちまう。今はなあなあにしてでも前に進むことが先決だ。

 

 というか、普通の手順を踏んでたら通常版発売まで間に合わねえ。ここからは第弐戦術だ。

 

「あっ、ちょっと大我さん! いきなり変身して……相手が干渉してきたらどうするんですか!」

「ロックかけられてないガシャットがあった。少なくとも今、レベル2は脅威とみなされてねえんだ。それにてめえの方が慎重にすべきなんじゃねえのか」

「あ、そうですね。VRXにちか……奪われることがないよう慎重に見極めないと」

 

 口を滑らせかけたな、エグゼイド。

 

 こいつが見極めると言ってるのはガシャットの使い時だ。VRXはブロックルーチンをかけずに直接奪われた。ピンポイントでだ。それがどういう条件で奪い取れたのかはまだわかってない。それに観察されてる可能性もある。

 ゴッドスピードは最初からあのガシャットが目的だった。どんなゲスい使い方したいのかは知らねえが、似たガシャットを使えば二の舞になる可能性がある。だから相手の絡繰りがわかるまで使用は控えるべきなんだ。

 

「さあ、道をあけやがれ! エネミーども!」

 

 そう言って、俺はガシャコンマグナムライフルモードをぶっ放す。敵対者はまとめてぶっ飛んでいく。……なまじリアルな眼鏡野郎な分、嫌な感覚が伝うが関係ねえ。

 いつの間にか、優位の立場が逆転してしまっている。もうジャンルは鬼ごっこどころかゾンビものみたいだ。向かってくる奴らをどんどん返り討ちにしていく。

 しばらくして俺達は次のセーブポイントに到着した。しかし、そこで予想外の事態が発生した。

 

「あれ? ……そんな、永夢先生、花家さん。セーブが出来てません!」

「そんな! っ、なんの衝撃だ!?」

「おい、エネミーが入り込んできてるぞ! ここは安全地帯じゃねえのかよ!」

 

「……やっぱり。『Over Your World』のゲームがリアルタイムで書き換えられ始めてる!」

 

 ――ハッ、望むところだ。相手が無法ならこっちも容赦しねえ。

 俺はガシャコンマグナムをハンドガンモードに切り替え、迫りくるエネミーへ迎撃態勢をとった。

 

 

 



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第四話

【謝罪】
記録に手違いがあり、マイティブラザーズXXが使用できないとの表記でしたが、設定上使用可能でした。現在エグゼイドが使用不可能なのはVRXとハイパームテキのみです。この世界に目を通してくださるすべての方々の混乱を招く事態に発展しかねなかったことを、心よりお詫び申し上げます。


 大我さんが魁役になり、僕達は少しずつだが学校エリアを進んでいた。

 

 そもそも、元々ここは伝統的な寺子屋と日本の中学校が合わさったような独特な雰囲気を醸し出すエリアだったはずだ。そして、勉強や運動を主とした学校から解き放たれ、一つのアスレチック的ステージとして楽しむことが出来るのがポイントだ。普通の学校の中でその場のアイテムを使いながら、一つのステージとして駆け回る。

 まるで僕が昔、学校を一つのゲームエリアとして、色んなキャラを動かすことを想像したときみたいだ。

 現実では絶対叶わない、一学校をゲームエリアにして尚且つ、VRにより現実を超えたリアルさで活動できる。

 まさしく、リアルな日常の中で成り立っている非日常。『Over Your World』はあなたの日常を超える、という意味なのかもしれない。

 

 しかし、今僕達の目に映る光景は事前情報と比べて異常……というより飾り気がなさすぎる。

 

 おそらく、VRXの力によって、このエリアを元の構造から改変していってるんだと思うんだけど……結果ずっと廊下と教室が続いている無限ループみたいな構造に変わっている。

 そして、本来セーブポイントとなっている教室にはエネミーたちが立て籠っていたり、そもそもドアにバリケードが張られていて入れなかったりした。ついでに前の教室で一瞬見られた時間割では、数Bや数2と記されていた気がする。

 ……つまり、何故か設定が中学から高校に改変されたということになる。

 

「エグゼイド、そろそろ変身しとけ。もう、今は妨害してこないことはわかったろ」

「! 大我さん、まさか最初から変身してたのは安全を確かめるため……身を挺してまで、ありがとうございます」

「勘違いすんな。いきなりレベル99になったお前に異常が起きたら困ると思っただけだ。それより、次の教室は入れそうだぞ」

「ボクは誘われてるような気もします。どうしますか、永夢先生」

 

 たまにロッカーや教室から飛び出てくるエネミーを撃退してもらいながら進んでいると、他とは違う教室が目に入ってきた。

 他の教室は生徒エネミーのバリケードで入れなかったり、攻撃してきたり、変な態度を取られた。まるで不審者が来たときの対応だ。しかしこの教室は明らかに他と比べて普通。逆に異様な光景と言えるのだ。

 

「いや、新しい情報が必要だ。それに僕の読み通りなら……大我さん。番場くんの護衛、頼みます」

 

 確かに番場くんの言う通り罠かもしれないが、とにかく情報が欲しい。

 VRXの力による改変の実験としてこのエリアを使うのは納得できる。しかし、書き換え方が意味不明だ。せっかくのよく出来たグラフィックを、平たんなただの教室に変えるなんて。残念だとしか言えない。

 

〈マキシマムマイティX!〉

 

 スターターを起動して、俺が覚醒する。同時に最大級なマキシマムゲーマが現れた。

 そろそろ考察は終わりだ。この中に潜んでるであろう()()()()()に直接聞けばいい。マキシマムを起動した瞬間にわかった。この教室の中にでっかいバグスターウイルスの反応がある。形を伴った反応である以上、意思疎通はできるはず。

 

〈マキシマ~ムパワ~、エーックス!!〉

 

 マキシマムゲーマに乗り込み、レベル99への変身を完了する。……ムテキが使えない理由が分からないのは大分ヤバいが、今は後回しだ。

 俺はガシャコンキースラッシャーを構え、堂々と教室のドアを開けた。

 

 

 

 

  ********

 

 

 

 

 エグゼイドに続き、番場を守りながらも教室に入ろうとしたときだった。

 

「来たなッ! 極悪非道なテロリストめッ! この娘たちはやらせない! ここでオレ様が倒してやる!」

 

 中から熱気を伴ってると錯覚するような大声が聞こえてきた。マキシマムのボディが邪魔で中が見えねえ。

 とにかくボスはいたのか。随分凶暴なヤロウみたいだ。

 

「は? 何言ってんだお前。とにかく、知ってることを言え! バグスター!」

「そっちこそ何言ってんだ。俺はここのボスを任された、選ばれたプレイヤーなんだよ!」

「何!? プ、プレイヤー?」

 

「そういえば、ここにくるまで結局プレイヤー見ませんでしたね。……まさか、こんな風に洗脳されてたなんて」

「おい、小声で言ったつもりだな、つもりだろ、聞こえてんぞ! 俺はいたって正常だ! じゃなきゃ、このエリアをこんな素晴らしい世界観に塗り替えられないからな!」

「てめえ、いちいちうるせえんだよ! てか、こんな惨状にしたのもてめえかよ……」

 

 まさか、バリケードだとかテロだとか守るだとか、全部コイツが自分の妄想で作り替えたエリアだったからなのか……

 

「だったら何でプレイヤーがこんなセンスないことしてんだ! お前たちは運営とどう関係してるんだ!」

「あぁん? なぁにイキった口聞いてんだ!」

「え?」

 

 瞬間、エグゼイドが吹き飛んできた。

 俺は咄嗟に番場を抱えて横に回避。しかし、マキシマムゲーマが廊下の壁を突き抜けて、オブジェクト設定がされてないデータの海に飛んで行ってしまった。

 なんだ、何をした。どうしてあの巨体が、こうも簡単にやられたんだ。

 エグゼイドも同じ心情なのか、飛ばしてきた相手に釘付けだ。俺もさっきは見えなかったボスの姿を漸く拝むことができた。

 

 その身体はまさにゴリラ。バグスターの反応があるが、人型。モヒカンを強引に横に流した暴走族みたいな学ラン姿で、傲岸不遜にこれでもかと筋肉を見せつけてくる。……なんか見せ方がボディビルとかと違ってヘタクソだな。

 教室の中には自分で設定したと思われる少女体のエネミーが何体か居た。いよいよ三流小説の出来損ないみたいな光景だ。

 

「はぁ~? んなのきまってんだろ。俺が、俺の望むままに世界をつくる! 運営に選ばれた特別な存在である俺たちだけが持つ特権! そんな素晴らしい世界を誰が手放すってんだ! 口を慎め!」

 

 やっぱり出てくる言葉は無茶苦茶だ。今のままじゃ碌に会話もできないだろう。ここはショック療法でそのふざけた幻想からたたき起こしてやる。

 

「マジで何言ってんだ! それに何でマキシマムが押し返されたんだ!?」

「まぁぁだ解んねえのか!? オ、レ、の、支配する世界で、俺が負けるわけないだろ。そう、ムテキモードなんだよ!」

「なッ、チートかよ!」

 

 俺たちはすぐに地面を蹴り、踵を返す。どこまでがあの筋肉ダルマの管轄かわからねえが相手の土俵では戦えない。

 素早くその場を後にして、別の教室に転がり込む。意外とあっさり撒くことが出来た――と思った次の瞬間だった。

 

「なんだ、横から振動!?」

「うわあ! 膨張して、向かってくる……!」

 

「逃~がさねえ! オレ様の筋肉でこねくりぶん回してやるぜ!」

 

 なんと筋肉ヤロウが上半身を伸ばし、さらには肥大化させて廊下を張ってきていた。これじゃ筋肉じゃなくて風船だ。気味の悪さには目を伏せ、俺は対抗策を考える。

 いつもエグゼイドの機転ばかり当てにしてるのは癪だ。記憶を辿り、使えるものを考察し、想到した。

 

「エグゼイド! 俺が時間を稼ぐ。お前はデバッグモードでマキシマムが効くようエリアを調整しろ!」

「おい待て、スナイプ! ……デバッグモードって、あのデバッグか?」

「さっさと行け! ――チーム医療だろ、俺を信じろ!」

 

「――! ……ああ、もちろんノったぜ、スナイプ!」

「…………頼んだぞ」

 

 俺の戦略を汲み取ったであろうエグゼイドはさらに後退して、教室に飛び込んでいった。……ここは俺の正念場だ。

 

「あん? 何駄弁ってんでゃ……いてっ、いた、痛ぇっん、痛えんだよ! グミ撃ちのくせに!」

「グミダルマなのはてめえだろ!」

 

 巨体に押されないよう、重点的に滑り迫る部位を狙い撃つ。どうやらノックバックはするようだ。ガタイの割に強靭じゃないみてえだな。……怯むだけでも十分だ。

 

「アドル、隠れてろ。…………ホントにデバッグモードが搭載されてたなんてな」

 

 どうやらエグゼイドはモード移行を完了させたようだ。

 

 俺は知っていた。レベル1と2にはデバッグモード機能が搭載されていることを。

 昔、ゲンムの六つ目のゲーマドライバーをポッピーピポパポが回収してきたとき、説明書が同梱されていた。その時載っていたドライバーの機能を何とか思い出したのだ。

 

 そんな作戦もつゆ知らず、襲いかかってくる筋肉グミ野郎にガシャコンマグナムを撃ち続ける。が、バネみたいに身体を縮めだした。

 恐らく一気に突っ込んでくるつもりだ。勿論、こっちにも対抗策はあるがな。

 

〈キメワザ! バンバンクリティカルフィニッシュ!〉

 

 身体の進む面積を増やしたきた筋肉を具現化した戦車で押し返す。さらに、必殺の砲撃が天井を突き破って迫る顔面に直撃する。

 ……ダメージねえ癖に参ってきてるみてえだ。ハリボテなのは助かるが、こっちも危うい。

 

 俺たちのデバッグ機能では、展開したゲームエリアの調整が可能だ。それを展開した状態で『ライダーがゲームに介入するゲーム』を利用すれば相手のエリアを改ざんできるかもしれない。

 

 要するに、ダメージが通るようになるかもしれないが、運ゲーだ。それでも、運命を変えるエグゼイドなら……

 

「てめえ、いい加減にしろ! もっとかっこよくたたかわせろや!」

「うるせえ見せ筋ヤロウ! これでも食らってろ!」

 

〈キメワザ! バンバンクリティカルストライク!〉

 

 振り下ろしてくる拳を帯電させたマントを滑らせて回避する。突然のヘビの如き動きに面食らうヤツを尻目に飛び上がり、強烈な蹴撃を果たす。

 なんとか怯ませたが、ヤツの勢いは止まった訳じゃない。

 

「ゥウ~、こんのヤロウ! ちょこまかと蜚蠊みたいに! ……だぁが、ここまでだ。結局、ダメージ通せないお前らテロリストに、負けるわけがないんだよ!!」

 

「……ここまでなのはてめえだ、見せ筋ヤロウ」

 

 そういって俺は後ろ背後に指を指す。どうやらやりやがったようだ。

 俺は選手交代の意思を込めて教室に飛び戻った。

 

 

 

 

  ********

 

 

 

 

「……待たせたな。ここからは、この天才ゲーマーMが、ノーコンティニューでクリアしてやるぜ!」

「何をしても無駄だ! 俺が夢見た学生生活は誰にも邪魔させねえ!」

 

 スナイプが稼いでくれた時間、無駄にはしない!

 俺はドライバーからキースラッシャーにマキシマムマイティXを挿し替える。狙うのはヤツの心臓部。必殺の波動を纏う銃口に悪寒を覚えたのか、膨れた腕と顔面でプレスしてくるがもう遅い。

 

〈マキシマムマイティクリティカルフィニッシュ!〉

 

 放たれる消滅の光線。煌めく軌跡で一直線にヤツの中心を貫き、吹っ飛ばした。もうアイツになすすべはない。

 

「オレ様はサンドバッグじゃねぇんだぞ! そろそろおとなしk、な、なんだ!?」

「お前のゲームはリプログラミングした。ムテキモードもスナイプの裏ワザで消させてもらったぜ。よーく効いただろ? ……さあ、知ってることを話してもらおうか」

「そんなっ、え? ひっ、マジじゃん! イヤだ! カラダが~~ッ!?」

 

 リプログラミングによってヤツを構成する筋肉が穴の開いた風船のようにしぼんで、消えていく。そして残ったのは……ガリっガリの男だな。

 どうやら随分と盛ってたらしい。逆に言えば、どんな改変もお手の物って事なのか。

 

「そんなぁ……ヒッ、こわ、怖いですよ! 睨まないでッ!? 話すからッ全部!」

「はあ、とにかく何でお前が改変出来たのかとか、先行プレイヤーはどうなってるんだとか……あっ、おい、逃げんな!」

「なんて、やっぱ無理無理ムリムリ! なんでこんな目に合わなきゃンだよ! オレは選ばれたはずなのに!!」

 

 ものすごいスピードでヤツが逃げていく。しまった、先んじた。

 俺はすぐに廊下を走って追いかける。が、床が滑って上手く進めない。おまけに何故か作られていた大量の個室トイレに籠られた。なんだこのいやらしいジャマーは! 

 どうやらステージまではリプログラミングされてないようだ。管轄は別なのかもしれないな。

 何とか到着し、すぐさま乱暴に個室のドアを開いていく。

 

「おいっ、いい加減あきらめろ!」

「――――やめてぇぇぇえぇーーー…………」

「ど、どうした!? 大丈夫か? ――なっ、巨大化した!?」

 

 断末魔のような慟哭が耳をつんざく。同時に、トイレに逃げたはずのエリアボスはさっきと比べ物にならないくらい、歪に膨張した。

 それは個室を突き破り、俺は外に押し出されてしまう。さらに、倒壊するように巨体がなだれ込んで来た。

 ――もう、躊躇してられるか!

 

〈キメワザ! マイティクリティカルストライク!〉

 

「とにかく、フィニッシュは必殺技できまりだ!」

 

 咄嗟にキメワザスロットホルダーにマイティアクションXを装填。一気に跳躍し、連続キックを叩きこむ。HIT!が大量に表示され、俺は勝利を確信する。今度は完全に鎮圧できたみたいだ。

 

「なんとかなったか、エグゼイド。――おいっ、ヤロウはどこ行った?」

「え、なんで!? 確かにウイルスの反応は消えたのに! …………まさか、消滅した?」

「違う、落ち着け。確かにバグスターの反応は消えたが、ここはゲームだ。ログアウトでもないし、今まで見てきた反応でもねえ。消滅じゃなくて、文字通り()()だ。ゴッドスピードが手を加えたと考えるのが妥当だ。……だろ、番場」

「え、は、はい。ゴッドスピードは先行プレイヤーを貴重なものとしてるようですし……回収したのだと、思います」

 

 相手を倒した瞬間よぎった、俺の最悪な予想は杞憂らしい。スナイプと何か考え込んでたアドルのつぶやきに救われた。

 俺は変身解除し、僕に戻った。

 

「ありがとうございます、二人とも。でも、ゲームクリアにはならなかった……少し休憩したら、先へ進みましょう。そこにいきなり現れた、明らかに怪しいゲートを通って」

「! ……確かに、次に行くんならあそこを通るしかねえのか。あのニセ筋ヤロウ、好き勝手しやがって」

 

 僕が示したのはやたらキュートにリボンで装飾されたゲート。いつの間にか現れたものだ……

 ここのエリアボスが改変したせいで、次のエリアに進める正規ルートが消えている。危険だが、ここは誘いに乗るしかないだろう。

 僕は番場くんを見遣った。少し難色を示した顔になっている。無理もない、やはり不安なんだろう。

 

 ――絶対に誰もゲームオーバーにさせない。

 僕は気を引き締め、これから迫る脅威に屈しないよう覚悟を再確認した。

 

 

 

 

 

 

 



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第五話

 

 事態はさらに混迷を極めている。

 というのも、次のエリアである()()()()()()()()()()に誘うワープゲートに入った瞬間、私達は分断されてしまったからだ。

 これはおそらくゴッドスピードによる奸計。先ほどのデバッグモードによる、ダメージ判定を有効にする作戦を封じ込めるためなのだろう。前回はエム先生とスナイプの二人がいて、片方が時間を稼いだから出来たものだったのだ。…………それとも、私に促しているのか?

 

 未だ私は答えを探している。ゴッドスピードの余裕がなくなる前に何か結論を出しておきたいところだ。

 ……何の? 一体何を探せているというのだ。ただ協力者として付いて行っているだけで、まだ何もはっきりしていない。

 

 この身を擲つに等しい、そんな選択をすべきとわかっている。しかし、選択肢の内容すら不明瞭ではだめだ。

 自分を侵食し始めた小さな焦燥を封じ込め、私は永夢先生に迫ることにした。

 

 

 

 

  ********

 

 

 

 

 これはもう、正面からぶつかるしかない。 

 ゲートに入ってすぐに、一直線になっていたルートが裂けるように真っ二つになり、大我さんと引き離された。おそらく進む方向は同じだったので、別の地点に落ち着いたと思うけど……黒幕の言葉を信じすぎたか?

 

「ぁあの、先生。大丈夫ですよ、花家さんは。それに僕を守ってくれたあの人は、とても頼もしかったです! そんな人がすぐにゲームオーバーになるなんて思えませんよ」

 

「番場くん……これ以上キミを危険にさらすわけにはいかないと思ってるんだけど……ログアウトが出来なくなってて、完全に退路を断たれてる」

 

「それでも! 僕は大丈夫です。永夢先生がいてくれるなら。…………それに、僕の命はそんなに重くない」

 

「……え? 番場くん、そんなこと絶対ないよ。どんな命でも、軽重や優劣はないんだよ。」

 

「……それです。そういうのを! 惜しげもなく言えてしまうのは、どうしてなんですか。僕はこんなVRの世界を見ると、よくわからなくなってしまいます」

 

「ええっと、結構スケールが大きくなったね……」

 

 やっぱり、番場くんはどこかネガティブになってしまっている。ただ、それだけじゃないような気もする。

 きっとこの子は不安なんだ。今まで何かがあったのかもわからないけれど、少しでも安心させてあげたい。多分、僕の話が聞きたいのかも。そんな風に思ってるんじゃないかな。

 

「えっとね、僕は小さいころ交通事故に遭って。それまでは命について、深く考えたことがなかった。でも、事故に遭って、人は本当に死ぬんだってことを実感した。それで、とても怖くなって。でも、同時にわかったんだ。そんな恐怖から救ってくれるヒーローがいるって。それが、ドクターをはじめとした医療従事者だったんだ」

 

「……!」

 

「僕は命を救われて、笑顔も取り戻すことができた。それで憧れるようになって、僕もなりたいって思ったんだ。患者の笑顔を取り戻せるヒーロー、ドクターに」

 

「……本当にドクターの鑑の人ですね。羨ましいです、そんな強い信念を職場でしっかり持っているのは」

 

「あはは、そこまで言われると照れるな。でも、信念だけじゃだめかもしれないよ」

 

「え?」

 

「僕はドクターになって、色々あって仮面ライダーとしても活動してるけど……最近、それだけじゃだめだって思うようになったんだ。信念ってなんか硬くて強そうなイメージがあるけど、違う。膨らませ過ぎたら固定観念にも成り得ると思うんだ。そうなったら、周りが見えなくなったり、エゴが強くなりすぎたりして。自分の身近にいるはずの人達と接するのを避けてしまうかもしれない。だから、思い詰めちゃダメだよ」

 

「――それは」

 

「信念とか、そればかり気にする必要はない。もし悩んでたら、自分ではなかなか気付けないけど、周りに誰かがいるはずだよ。自分一人じゃいけない。少しだけ勇気を出して、誰かに自分を曝してみるのも、大事なことだよ」

 

 自分の心と向き合ってみて、思い知った。

 無意識に閉ざした、自分一人で持ち続ける信念の危うさを。

 仕事だけじゃない、大切な仲間と何気ない時間を過ごすことの素晴らしさを。

 

 だから、たくさん一人で思い悩んでるであろう番場くんには、ポジティブになって欲しい。なんとなく、一人で思い詰めてそうだから。この子が誰かと心を通わせられたらいいなと思う。勿論、そんな重苦しい事情じゃないかもしれないけどね。

 でも、僕のことに興味があるのなら、素直な心は教えて欲しいな。それが例え今じゃなくても。

 

「…………ありがとう、ございます。たくさん話してくれて。僕もバイアスとか無視して、いったん落ち着いて考えてみます。……答えが出たら、きっと自分のこと、正直にお話しします」

 

「番場くん……」

 

「でも今はステージを進んでいかないとです。……大丈夫です、個人のこととコレとの分別はできます」

 

「ありがとう。でももし辛かったら僕に頼ってね。……このエリアは和と中華が混ざったような商店街っぽいところだね。城下町とも言えるかも」

 

「VRMMOの醍醐味ですね。まさか匂いまで体感できるなんて。ただ、今回のエリアもそんな風には見えませんが……」

 

 そう、彼の言う通り、またエリアの様相が事前情報と食い違っている。

 いたるところから漂ってくる甘ったるい香り。それを感じ取る嗅覚はこのVRでは確かだったようで、周りにはこれでもかとスイーツが敷き詰められていた。ドーナツやチョコ、ケーキやキャンディー。木々にはビスケットやグミが生え、流れる川は水がコーラなどの炭酸飲料とすげ替えられている。

 まるでマイティに出てくるお菓子なステージがさらに主張が強くなったみたいな。若しくは昔学校で見た気がする映画のお菓子工房みたいだ。

 

 ただ、ゲームのブロックやジャマーの配置にしてはおかしいと思う。ゲームを作る人ならこんな詰めるだけ詰め込んだたような配置にはしない。

 おそらく、これもエリアボスが書き換えたステージなのだろう。今度こそ、黒幕に加担するような真似をする理由を聞きだしたいところだ。

 

 それと、ずっと不気味に思ってるのは普通にプレイしてる先行プレイヤーが一人もいないことだ。何人かはゲーム病で今も現実で苦しんでいる。しかし、すべてじゃないはずだ。 

 僕達のスタート地点が先行プレイで進める限界だったけど、ゴッドスピードが根本から書き換え始めた今、前に進んでいるプレイヤーを見つけてもおかしくないのに……

 

「先生。この香り、ずっとあっちの方向から漂ってきてませんか? もしここのボスも自分が望むままにエリア改変したのなら、集約させているのかもしれません。蓋しスイーツに囲まれたい願望なのかも」

 

「なるほど! つまり、この匂いを辿れば、自ずとボスにたどり着く……! ナイスだよ、番場くん。相手のことを悟るのが得意なんじゃない?」

 

「……そうかもしれないですね。とにかく、早速行ってみましょう。お役には立てませんけど、応援しています」

 

「大丈夫だよ、君は僕が守るから。できるだけ傍を離れないでね」

 

「はい、お願いします!」

 

 方針は決まった。番場くんはさっきより心なしか明るくなっている。

 僕は良化したであろう、彼の健康をしっかり守ることを再び胸に誓い、進み始めた。

 

 

 

 

 

  *******

 

 

 

 

 

 恐る恐るといったいった足取りで、二人は匂いの示す方向へ進んでいく。目的地に近づくにつれて、粘り気を錯覚させる程に強くなる薫香は、彼らに得体のしれない圧迫感をもたらしていた。

 気付けばオブジェクトだけでなく、道路や足場までもがスイーツに埋め尽くされている。

 

 ―――ボスはすぐそこにいる。

 

〈マイティ、マイティアクションX!〉

 

 永夢の予感は正解だった。

 咄嗟に迫りくる飛行物体をエグゼイドが叩き返す。だが、それは跳ね返っていくのではなく崩れ落ちてしまった。残骸を一瞥するとチョコと生地の混じった、甘ったるい匂いが漂ってきた。

 そして永夢はようやく視認出来た。目前にいる襲撃者を。

 

「やるね、天才ゲーマー(笑) チートでカッコつけるのもサマになってるよ」

 

 目の前にある玉座に、それは居た。周りと同じく過剰に装飾された玉座にふんぞり返り、哄笑を持って見下してくる少女が。あまりに周囲の光景の主張が強すぎて、気づくのが遅れてしまったのだ。

 金を塗り込んだような髪。リボンやフリルが目立つファッション。可愛らしく設定されたであろうその容姿とは裏腹に、傲慢な態度が漏れ出ている。

 

「ね~え。なんでシカトすんのかな? この最高な光景に目を奪われるのはわかるけど、そういうのはイラつくんだよね」

 

「悪いな、俺の趣味とは合わなかったぞ。こんな有様になった背景は、お前も含めて知りたいけどな。ハイなエリアボスさん」

 

「あーあーあー。そうやってすぐ煽るやつが嫌われるんだよ、ゲームでは。―――舐めた口聞くなよ」

 

「! アドル、離れ――! なっ、抜け道がない!?」

 

 気づけば退路を断たれるどころか、忠実に再現されていた曇天までもが閉ざされている。すぐにステージそのものが作り替えられていることを永夢は悟った。

 

「ほんっと、間抜けな虫ケラ共! ここは私の世界。望むならもっと浸らせてあげるわよ? この甘美な世界に。……ただし、ペットとしてね!」

 

「ボスはどいつもこいつも口どころか耳も通じないのかよ! 離れるなよアドル!」

 

「は、はい!」

 

 

 

 

  ++++++++

 

 

 

「あははっ、やれやれ! ほら、そこだ! キューティ!」

 

 永夢からすれば途端に発狂したようにしか見えないエリアボス。そして、その攻撃は濁流のごとく迫りくる無慈悲なものだった。

 激昂したボスの玉座の背後より現れた、鎖で繋がれた二匹の動物。それは猛獣といえる獰猛さであり、かけらも癒し要素などなかった。

 永夢らの前に出て来た巨大な二匹の捕食者。ギラギラとした貫くような視線を向け続けられている。

 

 しかも、彼らが追われているステージは、お世辞にも地の利があるとは言えない。

 ボスが変形させ、作り上げたのは蹂躙目的の闘技場。囲んでいるのは取り留めもなくなだれ込んでいる滝のようなクリーム。目下に敷き詰められているは見るだけで気分が重くなるほどのお菓子。

 噛み合ったそれらが形成しているのは狭獄。永夢らは檻の中で猛獣の殺意に晒されているのも同然だった。それはまるでサーカスの一幕に放り出されているかのように。

 観客は満場一致で、領域外から嘲笑っている獣の飼い主だろう。

 エリアボスはあくまで自分の危険は冒さないことに決めたのだと永夢は推測する。このままエサになるのも、曲芸に付き合わされるのもごめんだった。

 

〈マイティブラザーズ ダブルエ~ックス!〉

 

「変身! ―――さらに、大変身!!」

 

〈マイティ、マイティブラザーズ ダブルエ~ックス!〉

 

 レバーを二回引き、変身を完了させる。

 永夢が選択したのはアドルを守りつつ、攻撃が可能なダブルアクションゲーマー。アドルを翠のLに任せ、二体の猛獣の前に橙のRが躍り出る。その胸の内には、このボディを纏っているのがパラドクスでないことへの微かな落胆があった。 

 

 獣と対峙するRだが、それらに付き合う気は毛頭ない。

 ダメージが通らなくとも偉そうな玉座くらいなら消滅するはず。そんな期待を込めて、Rはキースラッシャーを取り出した。

 

「お前のゲームで遊ぶつもりはない!」 

 

〈マキシマムガシャット!〉

 

「へー……せっかく二人に裂いたのに増えるんだ」

 

〈マキシマムマイティクリティカルフィニッシュ!〉

 

「くらえッ! ―――なっ! 届かない!?」

 

「ぷっ、単細胞だね。何のためにリングを用意してやったと思ってるのさ。もっとらしく逃げまどいなさいよ! 行け、忠実なウサギちゃん!」

 

 あれウサギだったのか。

 抜けた感想がよぎるくらいには放心しかけたRだが、頭は冷えてきていた。

 迫りくる猛獣を回避しながら気づいたことだが、徐々にステージが狭まってきているらしい。ただのクリームだと高を括って放った光線を通さないほどの勢い。そんなものに触れれば圧死してしまう。

 

 Rは思考を巡らせていた。タイムリミットがあるこのゲームをどうすれば攻略できるのか。相手はどこまでこちらの手札を知っているのか。

 しかし、思考する間を与えんとばかりに獣の猛襲が激しさを増してきた。鋭く魔改造された牙と爪で幾度となく引き裂かんと迫ってくる。キースラッシャーで対抗しているが、相手が二匹な分きりがない。

 

「ほらほら、どうしたんだよ。もっと派手に吹き飛びなさいよね!」

 

 そう言って観賞していたボスがどこからともなく取り出したのは、なんと散弾銃。檻の外から無造作に放ち始めた。

 まるで豪雨が横から降ってくるような勢いで弾丸が肉薄してくる。だが、その強攻に怯んでいるのはRだけではなかった。

 

「くっ、お前、自分のペットまで巻き添えにして……!」

 

「それがどうしたのよ。図体がでかいから悪いんだ。消えたらまた投入すればいいし? 即興で作った見世物だから精々二匹なのは残念ね~」

 

 ヤジどころか弾丸を放ってくる観戦者の嘲笑から、Rは考察を重ねていた。

 スナイプと自分を分断したのは彼女。趣味通りならここに誘ったのも彼女。このリングを用意したのも彼女。しかし、人数制限があるような言い方。そして迫る壁は光線は通さないが物理的なもの。

 ―――こいつは前階層の俺達を観てない。

 

 永夢は最初、デバッグモードでムテキを引っぺがしたから分断されたのだと思っていた。ボスの有利性を壊すような荒業を承認するはずがないからだ。

 しかし、ボスが支配するのはあくまでこの世界。本気で引き離すならゲートの転送中にデータの海に追放するし、()()()()()()()()()()()スナイプなんてありえないからだ。

 ここからわかるのは、ボスはVRXの改変能力を分け与えられているが、手を加えられるのはオブジェクトやステージといった()()だけということだ。そうなると、前階層からこのエリアに来るためのゲートはなかったように思うが、あれは遮断して隠ぺいしていたのであって、完全に消せた訳ではなかった事になる。このエリアの方向から改変してゲートを復元しただけ。すべてはこのエリアに誘い、自分たちを弄ぶために。

 

 だが、ボスは見せ筋と戦った様を見たわけではない。それなら、攻略の糸口はある。

 まだゲームを創る感覚が掴めていないかヘタクソかのどちらかだろう、とRは考察を締めくくった。問題は時間までにアドルを守り続けられるかと、一縷のチャンスを掴みとれるかどうかだった。

 

 

 



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第六話

 心までは共有していないが、Rが何か思いついたのはLにも察せられた。

 しかし、狂笑を貼り付け銃を乱射してくるボスに対して、ずっと平静のままいられるわけでもない。

 ステージセレクトは発動しない。リプログラミングは届かない。そもそもデバッグしないとダメージは通らない。そのモードに移行する時間もない。

 

 今は耐え忍ぶしかない。光明は必ず来る。

 Lはそう信じてアドルを守り続けていた。

 

 

 

 

  *********

 

 

 

 

 

「おい、何とか鳴いてみろよ天才ゲーマー。押し潰されるのが怖くて何も出来ないか? そうだよね! はっはっは! ざまあないな!」

 

「いーや。お喋りが過ぎた、お前が何もできないんだ」

 

「は? まだイキる余裕あるんならもっと分からせ―――っ! なにこのメダル!?」

 

「知らないのか? ゲームには、サポートアイテムがお約束だろ?」

 

 俺たちの周りに飛び出てきたのはエナジーアイテム。このアイテムは本来仮面ライダーのゲームエリアに付随する。デバッグ作業によって解禁された切り札ってわけだ。

 自分の予測しなかった事態に混乱するエリアボス。やっぱりゲームの逆転には驚きがなくっちゃな。そして―――

 

「――何捕まってんだエグゼイド。もっとしっかりしとけ。おかげで俺がデバッグするはめになったんだからな」

 

「信じてたぜ、スナイプ!」

 

 ―――ピンチに駆けつけてくれる仲間もお約束だ! 

 颯爽と現れたのは周りのスイーツオブジェを蹂躙しながら進んでくる、戦車に乗ったスナイプ。どうやらバンバンタンクを有効利用したらしい。

 

「うそっ! な、なんで一番遠くに飛ばしたあんたが! 絶対ここまでたどり着けないはずなのに!?」

 

「はっ、そいつは手を緩めたお前のボスに聞くんだな」

 

 そう得意げに言ったスナイプの後ろからひょこっと何かが飛び出してきた。

 はためくマントと紅蒼(あかあお)の悪ヅラ。あれは、ファンタジーゲーマだ! 

 

 なるほどな。ゴッドスピードはバンバンシミュレーションのブロックルーチンは組めたが、タドルファンタジーまでは及ばなかったんだ。さすがゲンムが作ったガシャットなだけはある。独立した使用は可能だったわけだ。

 スナイプはファンタジーの『ウォーフェアマント』の能力である短距離瞬間移動を繰り返して、ここに駆け付けたってことか!

 

「ああもう! あんたは私が直接潰してやるよ。そのままあいつらがひしゃげるさまを拝ませてやる!」

 

「おい、エグゼイド! タイミングを見計らえ!」

 

「ああ、任せろスナイプ! 青い方、これを使え!」

 

「うわっと、キースラッシャーキャッチ! よし、二匹は任せて!」

 

 さあ、ここからノーコンティニューでクリアしてやるぜ!

 

 

 

 

 

  *********

 

 

 

 

 

 翠と対するのは血を流しながらも獰猛に吠え続ける二匹の獣。しかし、それはボスの身勝手な嗜好のままに改変された玩弄の象徴。本来の姿からかけ離れたであろう獣の牙を抜いてやりたいと、翠のライダーは切に思う。

 

 決着のために動き出す。彼らが踏み出したのはほぼ同時だった。

 

〈挑発!〉 〈ズ・キュ・キュ・キューン!〉 「……今楽にしてやるからな」

 

 ボスと応酬しているRの下に向かわせるわけにはいかない。

 Lはすかさず跳躍し、獲得した挑発の効果で獣の攻撃対象を限定する。一直線に突っ込んでくる二匹に、Lはしっかりと照準を合わせた。

 

〈キメワザ! マキシマムマイティクリティカルフィニッシュ!〉

 

 望まれぬ改竄を終わらせる、必殺の一撃。しかし、鋭く一点に向かう光線は、二匹の獣同時に命中することはないだろう。

 

〈巨大化!〉 「いっけぇーーー!」

 

 ――ピンチを覆すアイテムが無ければ。

 光線が発射される瞬間、Lは巨大化を投げ出していた。それは見事に光線の斜線上で直撃、効果が発動される。

 極太の必殺レーザー。サイズも破壊力も上昇。すべてがランクアップしたそれは、寸分違わず対象を捉え、獣たちの全身を浄化していった。

 

 

 

 

  +++++++

 

 

 

 

 

〈ジェットコ~ンバット!〉〈縮小化!〉

 

「くそっ、ちょこまかと! 甘味を味わうときに沸く、お前みたいな虫が一番きらいなのよ!」

 

「うるせえ! おやつも虫も家で食ってろ!」

 

 大空を滑空するジェット機のごとく、旋回し続けるスナイプレベル3。縮小化が切れた彼の目線の先には準備を済ませたエグゼイドが二人。

 決着に向かうため、スナイプは急転降下する。その無茶な軌道はボスの意表をつくには充分だった。

 慣性に抗い、翼が地面を削り取りながらも、ボスの死角に回り込むことに成功した。

 

「っ、逃がすか! これでもくらえ!」

 

 ボスが取り出したのはキャンディやチョコの混じったバズーカ。暴発の考慮を無視し、急速チャージによってエネルギーを膨張させていく。

 ロックオンされたスナイプは強引な駆動を強行した結果、着地の反動を持ち越していた。回避を許さない、無慈悲な必殺の大玉が撃ち込まれた。

 スイーツを凝縮させた大凶弾が、動けないスナイプを飲み込み、崩壊させる…………そのはずだった。

 

「!? いない!? どこに――〈キメワザ!〉ッ!」

 

 確かに直撃させたはずの標的はそこにはなかった。煙が晴れて露わになったのは、目をぐるぐるさせたオレンジのゲーマだけ。ボスは完全に出し抜かれたのだ。

 すぐさま捉えようと索敵するも、間に合わない。

 一瞬のスキを突かれ、キメワザが放たれる。だが、その狙いはボスではなかった。

 

〈ジェットクリティカルフィニッシュ!〉

 

〈スポーツ! ロボッツ! クリティカルフィニッシュ!〉

 

 まるでバラバラのジャンルのゲーム。しかしそのどれもが共通して、隔てを終わらせるための珍弾となった。

 ミサイル、タイヤにロボットアーム。これらすべてが向かうのはクリームの激流が織り成す絶壁。両側からの絶え間ない乱弾によって、ついにそのベールがはがされた。

 

「おもちゃ達は出させるか!」

 

 無論、気付いたボスはエリアの特権によりすぐさま激流を再開させる。しかし、勝負はすでに決まっていた。

 

「……? な、なんで外に出てるの? エグゼイド!?」

 

「スナイプの弾道ミサイルはしっかり届いたぜ。ギアデュアルベータと一緒にな!」

 

 開いた檻から脱出するのが彼らの狙いではなかった。

 スナイプの下からは、ただのミサイルだけではなく弾道ミサイルが放たれた。エグゼイドらは届いたファンタジーを起動し、短距離瞬間移動を果たしたのだ。

 

「「さあ、フィニッシュは必殺技できまりだ!」」

 

〈キメワザ! マイティダブルクリティカルストライク!〉

 

 二人のエグゼイドが天高く跳躍する。そしてボスの玉座ごと、連続キックで粉砕せんと突貫した。ボスはそれに耐えきることなど出来ず、Perfect!が表示され、勝負は遂に決した。

 

「ぎゃあァああぁぁあ〜ァァァ!!」

 

 

 

 

 **********

 

 

 

 

 

「ゲームは終わりだ。あんたの知ってることを教えてもらおうか」

 

「うぅ、わ、私は選ばれて、選ばれたんだよ! このゲームをプレイして、真っ先にクリアした者は私を含め四人だけ! だってのに、何でこんなザマに……」

 

「つまりその四人がエリアボスに任命されてゲームで好き勝手してるんですね。でも、さっきも言いましたけど、あなたにはバグスターウイルスの反応があります。現実で感染してる先行プレイヤーも目を覚まさないのに、ここに入り浸ってたらあなたにどんな影響が出るかわかりません。今すぐに……」

 

「は? それは当然でしょ。だって先行プレイヤーh【ホントにお喋りが過ぎますよ、■■■。あなたは回収します】―――!!? ゴッドスピード様!?」

 

「なんだって!」

 

 その声はエグゼイドやスナイプには届かない。運営特権の通信機能のようだ。仮面ライダーのレベル2などに搭載された秘匿通信が相手側でも可能らしい。

 ゴッドスピードの言う通り、エリアボスは回収されていく。その光景が前階層の消え方と変わらないことから、その時の彼も同じように回収されたのだと確信出来た。

 ……ギアデュアルベータの失態には触れないのだろうな。

 

「ご、ごめんなさい! 私、全然敵のこと知らなくて。もっと情報があれば勝てたよ! まだやれる! だから! やめてぇぇ――――――」

 

【挑戦者と同じくらいの情報でいいじゃないですか。もう少しアタマを働かせてほしかったですね。さて、聞こえますか? 役目を失いゆくドクター諸君?】

 

「消えた……おい、どういうことだゴッドスピード! 最初から聞こえるように話せ!」

 

【ああ、すみません。ですが同じことをしたあなた方は人のことを言えないのでは?】

 

「屁理屈言ってんじゃねーぞ。他に大量にいるはずの先行プレイヤーはどうした」

 

【それはですね……おっと。その前にワタシの理念についてお話ししましょう。ワタシはずっとマキナビジョンの優れたVR技術に第一線で携わってきた。それは素晴らしく充実したものだった。そしていつしか気づいたんですよ。VRMMOこそが天国足りうると】

 

「……は?」

 

【ええ、ええ。バグスターウイルスを無様にも蔓延させ、未だに新型の脅威への対抗策が皆無! おまけに消滅者の復元等という次元で滞っている仮面ライダー! ……時代遅れにも程がある。だからこそ、ワタシが最後に、最大限にイノベーションし、利用してやるために呼び寄せたんですよ。そのシステムはワタシの世界のデバッグ作業にちょうどいい】

 

「……俺たちが走り回ってることが、この仮装世界を強固なものにする事に利用されてたってのか」

 

【やっと自分達の用途を分かってくれましたか。しかし、肝心なことがまぁだ察せていない。ワタシが導くのは全ての苦しみから解放される()()()()! お前達ではなし得ない絶対の救済! そしてもうじきに、天国は現実を凌駕する。この世界こそが唯一絶対強度のものとなり、誰もが求める天国が訪れるのだ!】

 

 なるほど、すべて事前に言っていたとおり。本当に理念だけで重要な情報を抜かしている。しかも質問を無視して自分語りだ。だが、後ろで震えているスナイプには何か思うところがありそうだ。

 

「ふざけんな! 現実をゲームに塗り替えるなんて絶対……いや早々できるもんじゃない! それにもしそんなことしたらリアルはどうなるんだ!」

 

【まあまあ、アナタたちの選択もすぐそこだ。これを見れば否応にも運命というものを感じ取れるでしょう】

 

 そういってノアが出したのはプロジェクター。そこに映るのは多数のログイン記録。

 まさか、これが示すのは……

 

「この膨大なログイン数は、先行プレイヤーの比じゃない! 通常販売が開始されてる!? まだ、発売日じゃないはずだろ!?」

 

「――まさか! ここと外との、時間の流れを改変してたのか!? もうそこまで……!」

 

「それよりこのままじゃ、みんなもウイルスに感染して……え?」

 

「なんだ、これ……天国へのキップ?」

 

 見るからに怪しいものが付随したスカーフがプレイヤー全員に装着された。これで賛同者を募る算段なのか。

 ちなみに、どの新規プレイヤーもバグスターウイルスに感染する様子はない。当然だろう。その役目は先行プレイヤーのものだ。

 

【その切符はきりたいときに切ってくれて構いません。もしそうすれば、ワタシの導く天国に誘うことを確約します。無論アナタたちもですよ、ドクター。尤も、その肩書はもうすぐ意味を失くす。たった一つの命に固執する必要が無くなりますからね! ワタシはノア=ゴッドスピード。世界を救い取り、仮想天国で満たし、導く者! ()()()()()()だ!――――】

 

「あっ、アイツ言いたいことだけ言って切りやがった!」

 

「ど、どうしましょう大我さん。あいつの言ってることも気になりますけど、このままじゃ参加者が取り返しのつかないことに――!」

 

「くそっ、俺が戻る。戻って何とか言いくるめるしかねえ。お前らは一旦ここに留まれ。援軍が来るまでおとなしくしてろ!」

 

「わかりました、お願いします!」

 

 変身を解いた永夢先生とスナイプが方針を決めた。どうやらここからは先生と二人になるようだ。スナイプは一目散にコンバットシューティングゲーマーで通ってきたゲートに飛び込んでいった。

 ……援軍を待つのは無理だろう。後ろから私たちを飲み込むべく、次のゲートが迫ってきているのだから。

 

 人類だけじゃない。私の選択の時も近づいている。

 ……ノアの言う通りだと、思う。彼の目指す世界ではドクターが必要とされることはない。命の概念が塗り替えられた、限りなく理想の世界。これから永夢先生も、私も、それを思い知ることになるだろう。

 

 …………ドクターの戦いなんてとっくに終焉を迎えた。永夢先生、あなたはそんな世界でも、一つの命を守ろうとし続けるのですか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




――第一章、則ち第一進捗が完了。


第二章:『生まれかけのevils』
……四月中報告予定。


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生まれかけの evils
第七話


ゲームエンド


 ……心が揺れる。

 

 俺は今、CRのドレミファビートの筐体前にいた。俺がここにいるということは、再びゲームにダイブする算段がついたということだ。ちょっとしたバグワザを使うんだけどな。

 

「パラド、お疲れ様。『Over Your World』、確保してきたよ」

 

「ああ、ありがとポッピー。すぐにでも永夢達の下に向かわないとな」

 

 そう、俺はポッピーのバグヴァイザーツヴァイに潜り込んでゲームにログインするつもりなのだ。つまり、緊急対応を任せていたポッピーの手が空いたって事だ。

 ……いや、違うな。それならどれほどよかったか。ポッピーや俺ではもう、手につかなくなってしまったからだ。

 

「普通に買えちゃったよ。まさか、発売日までに攻略が間に合わないなんて! しかもゲームの中では時間の流れまで歪められてるってどういうこと~!?」

 

「ああ、やられたぜ。宣伝がうますぎたんだ。バグスターウイルスへの特効薬どころか、ワクチンまで普及してる今、人類のバグスターへの関心が薄まってた。だから少しウイルスの情報がチラついたところで人類がゲームに進むのを止められるわけなかったんだ」

 

 マキナビジョンはそもそも外資系の会社だったのに、ノア=ゴッドスピードが無茶苦茶やって発売まで漕ぎつけたんだから、実力が保証されてるのもたちが悪い。チラつくと言えば、もっと他のウワサが広まってたのも問題だ。

 

 ネットで広まってるのはぶっ通しで『Over Your World』をプレイしていれば、リアルから解脱すれば痛みも苦しみもない天国に導かれるとかいう意味不明な妄言だ。それに惹かれる奴らの気が知れない。

 正直、俺たちバグスターは人間の積み重なった疲労や悲しみには疎い。そんな胡乱なものを信じ込んでしまう訳は、やっぱりわからなかった。

 

「何なんだよ、『仮想天国』って。有限の命の定義が揺れるVRMMOだからそんなことをしでかすってのか。それにノせられる人間もどうなんだ」

 

「みんな、この世界がイヤになって、天国っていうものに魅せられてるのかな? 私、悲しい気がする。一つの命の大切さは人間みんなが教えてくれたのに」

 

 ポッピーの、心がトゲトゲくる感覚は俺にもよくわかる。俺は今までの経緯を振り返った。

 

 

 

 

 +++++++

 

 

 

 

 俺はゲームを追放されてからとにかく舞い戻る方法を見つける為にネットを渡りまくった。しかし、事態はもっと深刻で、ゴッドスピードが企む恐ろしい計画の一部がわかってしまったのだ。

 

 事の発端はあるVR専用機器だった。

 ネットの海を彷徨う俺は何となくそれが気になって急浮上した。その先は人の家だったので誰かとバッタリで気まずい、なんてことにならなくてよかった。

 

「……ん? 何だこれ?」

 

 俺が変な予感を覚えたVR機器は、まさしく『Over Your World』に使用されるもの。問題なのはそれが起動中だったことだ。

 俺はその家で人間と出くわしてない。つまり、無人なのにゲームが起動していることになる。しかも、もしこれが正常な反応だったら遠隔で精神だけをVRMMOに飛ばしてるってことになる。そんなヤバいこと、バグスターウイルス関係に決まってる。

 不審に思って色々調べてみたら、その機器の持ち主は先行プレイヤーで、やはり微量のバグスターウイルス反応を残したまま昏睡状態にあるという。

 

 俺はその機器を持ち出して、持ち主の下に駆け込んだ。俺のバグスターとしての力で強引に干渉し、事情を聴きだすためだ。

 

「おい、聞こえてんだろ? 返事しろよ。俺はちょっとこのゲームについて聞きたいだけだ。なあ?」

 

「聞こえない、聞こえないよ! 僕は! 何も、知りません!」

 

「しゃべってるじゃないか。しゃーない。ちょっと強引に引っ張りだすからな」 〈マイティアクションX!〉

 

「え? ちょ、ちょっと何を! ぎゃー! 引っ張られる!」

 

 全然応じないプレイヤーに呆れつつ、俺はプロトマイティアクションXガシャットオリジンを起動した。

 ノイズ混じりの起動音が俺のレベルを下げまくってきたゲンムの下品な笑い声を思い出させてくる……今はどうでもいい。

 このガシャットは聖都大学付属病院再生医療センターを訪ねて、八乙女紗衣子に貸し出してもらったものだ。

 

 俺は先行プレイヤーは彼らが感染している特殊なバグスターウイルスによって、遠隔かつ自由意思で『Over Your World』にログインしていると推測した。

 この考えが正解から遠かれ近かれ、感染しているウイルスを抑制出来ればプレイヤーの意識を引っ張り出せる。それが、レベル0のガシャットなら可能だった。

 しかし、持ち主のレーザーは音信不通。ゲンムのガシャットは言わずもがな行方知れず。

 そこで、かつて八乙女紗衣子が俺を縛り上げたときにガシャットオリジンの力を利用していたことから、抑制の技術を今も使えるのではないかと思い至り、突撃したのだ。

 

 それにしても、再生医療センターに到着したときは驚いた。

 なんと技術だけ貸してもらおうと思ってたのに、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()からだ。八乙女紗衣子がそれを持っていた理由ははぐらかされてしまったが、力になってくれるだけでもありがたい限りだ。

 それに研究所の面々は何だか皆忙しそうだった。当の八乙女紗衣子もかなり疲弊していた。

 

「ホントにサンキューな。これでゲームに惑わされてる人々を救うことができる」

 

「ええ、力になれるなら大歓迎よ。ただ、あまり多くは話せなくて……はあ」

 

「大分疲れてるように見えるぞ。あんまり根を詰めすぎないようにな。何でも再生医療に進展があったんだって? 人類もバグスターも、再生医療を応援しているぜ」

 

「…………、……これは、私の杞憂かもしれないけれど。マキシマムについて、頭の片隅にでも置いておいた方がいいかもしれないわ。いや、本当に杞憂だと思いたいけれど…………kシマムは本当に……?

 

「ん? なんか言った……いや、参考にさせてもらうぜ」

 

 

 ……そうして、多くを追求せずに、急いでプレイヤーの下に来たわけだ。

 

 コミュニケーションが取れたことで確信した。こいつら先行プレイヤーは本当に遠隔でゲームにダイブしてたんだ。今世界でログインし始めた普通のプレイヤーとはワケが違う。こいつらは完全にゴッドスピードとグルだ。

 

 ガシャットオリジンの力が周囲に満たされていく。やはり大規模型なだけあって、セキュリティは万全だった。しかし、一人だけ、さらに俺の力が合わされば突破できる。

 ガシャットオリジンの力でコイツの中に潜む、遠隔操作に作用していたであろうウイルスを抑制し、強制ログアウトさせる。病床を隠れ蓑に出来るのはここまでだ。

 

「さーて、わかるよな? お前たちの絶対が崩れたんだ。色々吐いちまったほうが楽になるぜ?」

 

「え、あ、そ……はっ、無理だって! ノアは絶対止めr、分かったわかったこわいわかったって! いう! いいます!」

 

 そこから出てきた情報は耳を疑うレベルのものばかりだった。

 まず、やはり先行プレイヤーはゴッドスピードが選んだ、というかそそのかした奴らだった。

 今世界に出回ってる根も葉もないうわさと似たような文句でノせられたらしい。ただ聞いてる限り、選考されたプレイヤーの共通点はよくわからなかった。

 

 そこは仕方ない、一番ヤバいのはそいつらがゲーム内や現実で『仮想天国』のことをいいように広めていることだ。広報が課せられた使命ってことなんだろうが、一部プレイヤーはエリアの支配権まで保有しているらしい。

 でも、それならボスが自分の好き勝手にステージを作り変えて普通のプレイヤーに挑ませる形になってしまう。そんなつまらないゲームはプレイしたいと思わないはずなんだが。もしかしたら自分に従えばこんな自由に振る舞える、なんて宣伝になってるのかもしれない。

 

 とにかく、ゴッドスピードがプレイヤーを仮想空間に集めて、その空間を拡張したいということはわかった。

 バックグラウンドや最終目標はわからないが、俺が向かうしかない。

 なんとなく感じている。俺の身体に異変が起きていることが。

 

 八乙女紗衣子の心配は現実になってしまった。ゴッドスピードが俺を追放したときに仕掛けたのはブロックルーチンだけじゃなかったんだ。俺は、リプログラミングされつつある。

 

 

 

 +++++++

 

 

 

 ゴッドスピードはどこでそんなもん手に入れたんだろうか。

 疑問は解決するどころか増えていくばかり。永夢の近くにはスナイプとアドルがいるが、アドルもきな臭くなってきた。一刻も早く出発しないと。

 途中、幻夢コーポレーションに寄って色々協力してもらい、俺はポッピーとVR設備をCRで整えた。

 

「じゃあ、ポッピー頼んだぜ」

 

「うん、多分私もフウマと遭ってるから変身できないかもだけどログインはできるはずだよ」

 

「早くいかないと不味いからな。もし本当に俺の読みが正しければ、特に永夢が危ない」

 

「よ~し、パピプぺポチッとn「お待たせしました! ちょっと急に呼び出してどういう要件ですか? 色々予定を切り上げて来たんですよ~……」……えっ、作さん?」

 

「何だよ作。さっき協力して貰ったのは助かったけど、今取り込み中だ。忙しすぎてスケジュール管理間違ったんじゃないか? 別に誰も呼び出してないし、出来れば離れててくれ」

 

「ゴメンね作さん! 今チョ~危ないゲームに挑んでる永夢たちを助けに行かなきゃだから……あっ早くしないと、ポチっとな」

 

「えちょっと、皆さん!? ……そんな~、え、ホントのホントでs、みたいですねもういないもん……何だったんですかあ、せっかく言われたもの持ってきたのに……」

 

 ポッピーのお陰でログインに弾かれない。安全にVRMMOの地に降り立つことが出来るだろう。

 待ってろ、永夢。俺達が助けになるからな。        

 

 ……なんて、活き込んでたけど。俺達はすぐに驚愕することになる。

 確かに形作られた、天国を謳う地獄に。

 命の重さが揺れる、もう一つの世界に。

 

 

 

 

 

 ********

 

 

 

 

 

 

「はい、僕は大丈夫です。それより、また事前情報と様子が全然違う……」

 

「そうだけどとにかく! ――本当に、無事で良かった……!」

 

「永夢先生、ありがとうございます。でもとにかく今はもう、進むしかありません。行きましょう」

 

「……番場くん?」

 

 いったい何で急いでるんだ、番場くん。

 

 ……僕は改変VRMMOを進む宝生永夢。偶然目覚めた患者兼プレイヤーの番場アドルくんに協力してもらい、順調に突破していた。

 ゲートに戻る大我さんと別れて、待機していた僕達は、背後から近づいてくるもう一つのゲートに気付かなかった。

 僕達はそのゲートに飲み込まれ、目が覚めたら……身体が縮んで――

 

 ……なんてことはなかったが、実際次のエリアに飛ばされてしまった。番場くんの言う通り、確かにこのエリアも情報と違ったけど……彼は冷静過ぎる。なのに、どこか焦りも感じられる。

 

「何でそんなに焦ってるの? 今は迂闊に動き回るべきじゃないし、それに……僕には今の君の足取りに迷いがあまりないように思う」

 

「――! ぁ、いや、その……先生の言う通りです、本当に。今は現状をしっかり受け止めるべきですね」

 

 ……何とも判断に迷う返答だ。前者と後者、どっちの言葉を肯定したのか。

 しかし、今の彼は協力者だし、何より僕の患者だ。彼は本当のことを話すと約束してくれた。しかるべき時まで、詮索は控えよう。

 

 今回のエリアは絡繰り仕掛けの、忍者が潜んでそうなお屋敷。このゲームは脱出ゲームだけど、一番その要素が生かされているのはこのエリアだろう。

 隠されたトラップ、不可視のジャマ―。どこかのテーマパークなんかで開催されてるであろうもののハイクオリティバージョンと言える。さらに、ハリケーンニンジャを作ったマキナビジョンなんだから、一番気合入ってそうなんだけど……このエリアも完全に改変されていた。

 

「やっぱり情報通りとは行きませんね」

 

 確かに絡繰りの蠢く空間ではあるけれど、和モノからファンタジー系統のオブジェクトに様変わりしている。

 明らかにプレイヤーを陥れることを目的としたような凶器や目線を感じる。ここはそのデッドリーウェイの出発地点みたいだ。

 さらに、何かの受付、窓口のようなものもある。まさか、この改変ステージは……

 

「先生、これ、明らかにゲームを知ってる、のめり込んでるヤツのやり方ですよ。それにしても悪趣味な……」

 

「うん。それにここはなんだかギルドの受付みたいだ。ほら、アドベンチャーとかによくあるやつだよ」

 

「受付のNPCみたいなのは居ませんけど、マップがありますね。……まるでダンジョンだ」

 

 ダンジョン。よくRPGなどに出てくるものだ。確かにトラップやエネミー、ジャマ―などがこれでもかと飛び出してくるイメージはある。

 ここまで冒険の書にありそうなマップになってるってことは、相当ゲームに見識がある。一筋縄じゃいかないボスが待ち受けていそうだ。

 

「それにしてもここから見える奥行きだけでもトラップみたいなのが多いな……初見殺しが狙いなのかな?」

 

「……どうせ、この手のヤツが妄想してるのは度を越えた鬱憤晴らし。引っかかったらその先で……」

 

「え? なんて……そうだ、番場くん。ステージに挑む前にボスがどんなヤツか考察できるかな。君の考えを聞きたいんだ」

 

「ぇ、ええっと、はい。……そうですね。まず、エリアボスはゴッドスピードがステージを任せているわけですから、何かしら共通点があるとは思っていました。正直、今まで出会ったボスは両方とも、その、なんか小物でしたね」

 

「あ、ああ確かにそうだね……」

 

「でも、それらからにじみ出る欲望や妄想は嫌というほど伝わりました。

 自分の思うがままに振る舞っている。まるでVRの世界ではどれだけ自由に振る舞ってもいいんだぞ、と力を見せつけてるかのように。

 それはこれから挑戦してくるプレイヤーにはどう映るのでしょう」

 

「うーん、あんまり面白そうじゃないな~、とか、ステージが無茶苦茶になってる……、とか……?」

 

「答えは簡単です。みんな羨望するんですよ。

 自分も毎日のストレスを忘れて、あんな風に暴れたい。日頃のしがらみから解放されて、好き放題したい。もちろん葛藤もするでしょう。しかし手ごろな力があれば……いえ、VRMMO、現実ではないからこそ、その衝動を抑えられない。

 そしていつしかそれらの境界線すら曖昧になり、残るのは醜い欲望だけで暴れる人間ですらない、ただの狂信者だ」

 

「ええっと、そうかな? みんなそこまで、というか飛躍したような……」

 

「残念ですが人間なんてそんなものです。そしてノアの言う通りならこのVRMMOが導く世界が新たな人類の活動領域になるようです。そこを上手いこと扇動すれば、賛同者は大勢増えて、気付けばみんなが欲望のままに振る舞うでしょう」

 

 なかなか辛口なコメントだ。やっぱりこの子は人間、というより何だろう? それも含めて良い印象を持っているものが少ないんだろうか。

 僕の診療は患者を笑顔にするまで終われない。やはり、もっとこの子の事を知らないと。

 

「つまり、その……エリアボスは?」

 

「えぁ……長々となってしまいました。とにかくエリアボスに選ばれてるのは、己の欲望のままに振る舞う者で、その妄想や規模に応じて選定されているのかと。その最も大きな願望は……? なんだ? ……えっと」

 

「ああ、主人公かも! 今までのボスはみんなNPCより悪役向きの発言が多いヤツばっかりだったけど、みんな自分が主人公とか支配者って感じだったなあ」

 

 ちょっとムーブが敵キャラ過ぎたけど、そんな感じはする。

 僕は今まで色んな敵と戦ってきた。

 ライダークロニクルの主人公を気取っていたパラドや、ゲームや世界のすべてをジャッジし、君臨しようとした支配者な檀正宗。

 大分格は違うけど、抱いていた願望は案外似通ってるものがあるのかもしれない。

 

「主人公に支配者……? それが、願い? 一体なんの……? 僕は、 …………今は違う気がする

 

「え?」

 

「ああいえ! 何でもないです。先生の言う通りだとしたら、このステージ、その最深部で待ち構えているボスがしているロールプレイは……ダンジョンマスターだ」

 

「ダンジョン、マスター……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  ********

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――その頃。

 

「……ようやくこの時が来た。カーニバル、さしずめ最後の宴が始まる。……これで我が導きは最終段階に突入する。マジョリティとマイノリティの逆転。それは活動領域だけじゃない、人間もだ。この世界は、ゲームに呑まれたエンディングで幕を閉じるのだ!」

 

 男は何もかもが上手くいっている現状を噛みしめ、狂乱のままに叫んでいた。必要なピースがほぼすべて集まり、進捗は滞りない。その足元には小星作が苦しみに悶え、うずくまっていた。

 男はそれに目を向けることもなく、自分のあるべき世界に戻ろうと足を踏み出した。その手には誰かと繋がっている無線と、一つのゲームデータが宿るUSBが収められている。

 

「もちろん、これを仮面ライダーのアイテムになどさせない。あくまでマスターガシャットに組み込むためのものだ。……厳密にはそれすらガシャットではないのだが……ククッ、これだけは絶対突破出来ない!」

  

 計画の絶対性を再確認した男の身体には培養されたウイルスが巡り始めていた。

 勝利を確信した男は、最後のステージに向かう。人類すべてを、その手に収めるために。

 

 




・花家大我
 全形態観測完了。
 彼はファーストステージにてポッピーとパラドクスと合流するだろう。

・鏡飛彩
 現在日本にはいない。
 しかし、行先でウイルスと交戦し、解決に勤しんでいる為、観測は完了した。

・九条貴利矢
 N/A

・檀黎斗
 N/A
 


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第八話

「……ダンジョンマスター?」

 

「はい、これはその名の通り、ダンジョンにおけるあらゆる権利を有している支配者です。幽閉して天井を落す非道から落とし穴などチープトラップを自在に操り、生息エネミーまで支配するんです」

 

 初めて聞く役職だ。僕が今までプレイしてきたゲームでは出てきた事がない。

 ただ、何か近いものは見たことある気がする。

 

「それに、火花程度のエフェクトがダイナマイトの爆発力を秘めたものかもしれない。

 見た目スライムの攻撃が即死レベルかもしれない。転がってる小石が、突然毒を纏って飛んでくるかもしれない。えっとつまり……」

 

「五感、を幻惑させてくる可能性がある。通常のゲームじゃありえないことだけど、これはVRMMOだ。僕達の感覚を侵してきてもおかしくない。

 でも、その小石が飛ぶっていうのは、なんていうかトップダウン式にしても作動意義が怪しいコマンドだね」

 

 随分と無茶苦茶なものだと思った。

 

 確かに様々なゲームでダンジョンと呼べるものはよく登場する。

 しかし、マスターなんてものは一切見たことがないし、もしゲームに出てくる姿を考えると、なんか夢が無くなるな。

 

「あれ、確かにそう、ですよね。何でそんな例えにしたんだろう……」

 

「僕はそのマスターっていうのは見たことがないな。もし出てくるとしたら……RPGやストテラジーとかバトロワとかシミュレーションとか、いろいろなジャンルのゲームが混じったものになりそう……? いや、やっぱりわかんないな」

 

「ええ、その通りです。だってそんな役職は画面の中の妄想……フィクションでしかないんですから」

 

「──フィクション?」

 

 どういうことだろうか。

 思えば番場くんも僕も同じゲーム通なのに、僕だけが知らないジャンルのゲームがあるとは正直考えられない。それにフィクションというのは何だろう。

 

「ダンジョンマスターというものが主題になっているメジャーゲームは中々思いつきません。この役職、というより概念はノベルなど、人間たちの妄想の中で活性化したものなんです。

 いちゲームのダンジョンに設置するにしては存在が高次的過ぎる。主流なテーマのゲームに出そうとしたら持て余してしまいますよ。

 そして、妄想により拡張されたから、明確な原義や存在意義がない。ただ、人々より優位である設定として使われ、さほど意味のない物語の基盤になることもあるんです――ああ、だから小石のたとえなんか出したんだ。物理演算もシステムも考慮していない、そんな低俗なものを」

 

 番場くんが言うにはそもそもゲームとは分野が違うものに登場するテーマらしい。

 なるほど、ゲームのジャンルだと思った僕の想像がつかないわけだ。

 僕はノベルゲームなら経験はあるけど、本は正直医学部受験に使った参考書や小児科などの専門書ぐらいしか頭に残るものがない。目にすることがないのも当然だ。

 

 ゲーム的に言うなら、ダンジョンマスターというのは初期ステータスが他のプレイヤーより高いだけでなく、役職も割り当てられている。

 ここで言うステは何もHPやMP、STRだけを指すわけではないだろう。事前に持っている情報やゲームのルールなどが違う。

 

 そう考えると、普通の冒険ゲームとは相容れない存在だと思う。もしダンジョンマスターのゲームがあるとしたら、有り得そうなのはサンドバックスゲームかバトロワとストテラジーだ。

 前者はそもそも、RPGでダンジョンに挑む冒険者とは視点や楽しみ方が違う。明確なタスクやクエストが存在しない、プレイヤーが好きなように目的を決めてプレイするゲームだ。

 

「ゲームではサンドバックスに該当する点が多いと思います。違いは僕達プレイヤーの存在と、VRMMOであること。 

 意思ある人間を好き勝手弄ぶことが出来る権利がありますが、道徳に反する故葛藤する。しかし、仮想世界のライフは有限じゃない。それでタガを外してしまう。その振る舞いは、VRMMOと皮肉にも相性が良いと思うんです」

 

 VRMMOと相性がいい?

 

 それを聞いて僕の脳裏に浮かんだ。湧き上がるアイデアのままに、周囲を巻き込みゲーム作りに没頭する、一人のゲームクリエイター。

 ――そうだ、これは僕達プレイヤーの領域じゃないんだ。

 

 ダンジョンマスターとサンドバックスが明確に違うのは、他者の意思があるか否か。もちろんサンドバックスもオンラインはあるけど、ダンジョンマスターは優位から挑戦者をふるいにかけることが役割だ。

 

 僕がゲームを始める前に『Over Your World』が一本道のゲームであることに納得感を覚えた理由もきっとそこにある。

 ダンジョンのマスター。管理者であり、支配者であり、クリエイター。

 そういう役職でプレイするVRMMOは好き勝手振る舞えるが、無法で度を越したものになる可能性が高いのかもしれない。

 人間の心や命の良識は、世界がゲームであるという原義があるのなら、捨てられてしまうのではないか?

 僕達の運命や常識を悉く覆してきた一人のゲームクリエイターの所業から、そんな不安を感じずにはいられなかったからなんだ。

 

 ただ、このゲームを開発したのは他でもない、ラスボスのゴッドスピードだ。仮想世界での人類の尊厳などに関しては非常にナイーブなつくりになっていたはずなのに。それを自分の手で無茶苦茶にしようとしている。一体どういうことなんだ。

 

「明確に目的のある脱出ゲームを謳いながら、終わりなき天国に誘うのには、ここのボスはとっておきの適任だとは思えませんか、先生?」

 

「…………」

 

 番場くんはそのマスターの振る舞いや権限から人々が飛びつくと考えてるみたいだけど、僕は中々そう思えない。

 例えばさっき例に出したゲームの、後者であるならば……

 いや、今は前と同じように、僕の話を求めているであろうこの子に向き合おう。

 

「社会や常識とは違う、一線を越えたものに惹かれる人がいるのはわかっている。でも、大勢の人間がそこにはいるんだ。たった一つの命の大切さは、わかっているはずなんだ。苦しくても命を粗末にしたり、簡単に人を無碍にして暴走するなんて、悲しいことだよ。僕は、そんなこと信じたくない」

 

「……それは、一つの命だから、尊厳だから、ですよね。そんな概念の存在しない世界なら、どうなるんでしょう」

 

「僕は個人的にいつかは人類がぶつかる問題だと思う。価値観や想いや信念は揺れるもので。人類が挑める世界の広さが変われば、きっと悩むときが来る」

 

「先生は、その問題は今だと思いませんか? ここはその絶対性が揺れる、仮想世界ですよ?」

 

 番場くんの表情が陰りを帯びてきた。この子はきっと、そういうものに囚われて、苦しんでいるのだと確信した。

 命の問題は、この世界を放置していれば急速に悪い方向に進むのだろう。少なくともこの世界は許せない。

 しかし、今、僕の目の前にいるのは。一人の、一つの命について悩んでいる患者だ。

 

「もちろん、僕がやるべきことは決まってる。僕はドクターだ。一つしかない患者さんの命と心を守る。みんなの運命を脅かす存在を見過ごすことはできない。それが僕の、僕達が選んだ運命だよ。それに、目の前に第一優先の患者がいるんだからね」

 

「それは結局、あなたがドクターで……、……選んだ運命で……?」

 

「どんなことがあろうと、ドクターとしての務めを果たすのが自分のするべきことなんだって思ってる。でもね、僕の医療は患者さんの笑顔を取り戻して初めて成功するんだ。患者さんが悩んでる問題には、僕も一緒に悩んで、寄り添っていきたい。例えそれが、世界を揺るがす問題であって―――それが、君の悩みだとしても。君をこの世界で、広大な暗闇の中で、一人にはしない」

 

「――あなたは」

 

 きっと、大丈夫だ。この子はきっと、笑顔を取り戻せる。

 

 

 

 

 

 

 

  ********

 

 

 

 

 

 

「――あなたは」

 

 ……何を言ってるんだ。

 仮装世界での命について見解を聞いたのに、途中で論点をずらされた。

 選んだ運命を、変える? 何の? ……私の?

 

 ―――先生は、私を待ってくれている。

 

 そうだ、そうではないか。違う。先生は別に私の言及をはぐらかしたわけじゃない。誠心誠意私と向き合おうとしてくれているだけではないか。

 自分の考えすべてを話せば、それが私を押し潰す負荷になると思ってくれたに違いない。この宝石の眼をする先生は、そうであるはずだ。

 ……私の言葉を待ってくれる人なんて、いなかった。

 だから、どこかで諦めて、不誠実になって、嫌になったのに。

 今も自分の本当の心すらわからない。その証左に私は言葉に詰まっている。

 

 寄り添ってくれてるのに。

 一人にしないでいてくれるのに。

 私のために、輝いていてくれるのに。

 

「……それがあなたの運命? ドクターだからその価値観を捨てられない? ……わかりません。この仮想世界にいるのに。もう、いいとか思わないんですか?」

 

 ああ、なんでそんな、逃げるように口走る。

 それは相手の求めるレスポンスじゃない。身に染みてわかっているはずだ。

 私が、私の心を、晒すべきなんだ! 私ははまだ、何も明かしてない!

 

「思わない。僕は僕の運命から逃げないように、君からも逃げない。それはドクターとして、君の笑顔を取り戻すために。―――信じて。君の運命は、僕が変えるから」

 

 ……すみません、すみませんすみませんすみませんすみませんすみませんすみませんすみませんすみませんすみませんすみませんすみませんすみません

 

 ……あなたの輝きを直視できなくて、すみません。

 

「! だ、大丈夫!?」

 

 気付けば、私はうずくまってしまっていた。先生がすぐに心配して大慌てで介抱してくれる。先生に世話をかけていると、気付いた。

 

 私は、間違うとか間違わないとか、正しいとか選ばれたとか、そういう問題を考えられる人間ですらなかった。

 この人のまっすぐで一寸の狂いのない、表情と言葉を聞いたか? その輝きに間違いがあると思うか? ……そんなことが、あるはずがない。それにくら……私には比較すらも烏滸がましい。

 私の抱えるものは絶対に打ち明けられない。いや、そもそもこの方を見るとそれすらも間違いのように思えてくる。そんな悩みはすべて無意味なんだぞ、と。

 

 そうして、ずっとぐよぐよと曇っていた心が。積み重ねてきた何もない日々が。私が望んでいたはずの世界が。世界に向けていたはずの怒りが。私の心を写せたはずの表情が。

 …………すべて、無になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……そして、同時に、幸運なことに、気付いた。

 

 ―――信仰。

 私はそれを抱いていたことに、気付いた。

 

 



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第九話

 

 

 番場くんを介抱した僕は今後の動向について非常に悩んでいた。彼はあれきりしゅんとしてしまったように見える。

 今は進める状態じゃなさそうだ。

 

 それに、このダンジョンも問題だ。

 デバッグ作業は完了した。これでボスの無敵性はなくなり、エナジーアイテムも展開されていく。やはり、ここのエリアボスもデバッグなどの前ステージの動きは見ていないようだった。

 しかし、どう考えても進むことが出来ない。どこまで五感を惑わせて来るか、即死級のトラップがどこから飛んでくるか。進むのは憚られる。何より番場くんは……

 

「先生、やっぱり行きましょう。……忘れてるかもしれないですけど、僕は先生にずっと守られていて一度もアイテム使ってないんですよ」

 

「いやでも、やっぱり危険が過ぎるよ。何か、何かあるはずだ。君を脅威にさらさない方法が……『いつまでだらだらくっちゃべってるんだ』 ――!」

 

 な、ボスの干渉音声!? いや、なんで今まで来なかった? 正直あんな話してたのを聞いてたとしたら、すぐに止めに来るか何かするはずだ。

 

『早く手塩にかけた僕のダンジョンに入って。なんて、どうせ動かないだろから、ほらカチッとな』

 

「! せ、先生!」

 

「あ! やめろ! 番場くん、手を――!」

 

 エリアボスはじれったいといった感じで何かのクリック音を鳴らすと、なんと番場くんのいた場所に落とし穴を出現させた。

 そして、僕の伸ばした手は、届いた。しかし、下から吸収音が聞こえる。エグゼイドのSTRでも、引き上げるのが叶わないっていうのか――!?

 

『はあ、エグゼイド。今すぐにダンジョンに突入すればそいつのことは見逃してやるよ。ほら、さっさとしろ。実質選択肢ないぞ』

 

「……わかった」

 

 そう言って僕はダンジョンに入ることを約束する。するとまたクリック音がなったと思うと吸収音が止まった。番場くんを引き上げた僕に対し、ボスが嘲笑を隠せないとばかりに口を開く。

 

『はーい契約成立。それじゃ馬車馬のようにでいいから、自慢のステージに進んでよ。――景品も用意してやるからさ』

 

「――え」

 

 遅い。

 遅かった。彼がいない。

 現状を受け入れる前にモニターが頭上に出現する。そこには眼鏡をかけたいかにも普通な青年と、番場くんが、いた。

 

『ほらね、さっさと来ないからこうなる。まあ安心してよ。お前がその身を削って僕を楽しませてくれる間はこいつのことは保証してやるよ』

 

「――っっ! ……聴覚に干渉したな」

 

 レベル2じゃ、五感干渉は免れなかった。

 

『は~、流石に出来るな天才ゲーマー。そんなに冴えたら絶望が近づくだけだってのにな』

 

「ふざけるな! その子を景品だなんて!「先生、大丈夫です。信じてます」番場くん!?」

 

「おーい、景品の方から誘ってきてるぞ。答えてやれよなw まあ、気が向くうちは待ってるよ~』

 

「おい待て! ……そんな。番場くん……」

 

 ダメだ、行かないと。

 彼が攫われたのも、危険にさらしてしまってるのも、作戦を思いつかなかった僕のせいだ。

 ごめん、本当に……ごめん。

 

 迷う時間すら与えられない。急いで助けに行かないと!

 

〈マキシマムマイティX!〉

 

「マックス大変身!」

 

〈ガッチャ~ン! レベルマ~ックス!〉

 

 マキシマムを出現させながらダンジョンの始点で思い切り踏み込み、飛び出した。マップは頭に叩き込んだが、正しい物体認識が出来るかは怪しいし、そも正しい地図なのかもわからない。

 

 今まで培ってきたゲームでの感覚を信じるしかない。

 僕はステージのオブジェクトやアーティファクト、道のりから殆ど勘頼りでマスターダンジョンを駆けだした。

 

 

 

  *******

 

 

 

 

『ふぅ~、やっぱおっかないな天才ゲーマー。まさかそこまで進んでしまうとは』

 

「くそっ、やっぱり様相が……」

 

 鋼鉄化、マッスル化、伸縮化、縮小化、高速化、透明化、回復、風船化。

 

 永夢は数多くのエナジーアイテムを使用しながら息も切れ切れに迷宮をジェット噴射で進んでいた。

 これは地に足つけることで床のトラップを踏まないようにするためだ。しかし、その巨体で壁に激突しないようコントロールする微調整は精神を確実に疲労させている。

 

 救いだったのは迷宮というより迷路に近い形式で、高楼大廈などではなく、比較的天井が低めであったことだろう。

 設置されたエナジーアイテムは、一定の間隔で手を伸ばせば獲得出来る距離にあったのだ。

 

『しかしどうにも納得がいかないな。今の君がどうして曲りなりにも進んでこれるのか。お前、本領発揮出来てないっぽいのにさ』

 

「ッッ! 剣山!?」 〈マキシマァム、クリティカルブレイク!〉

 

 突然前方から飛来した、人を刈り取る形をしたトラップを蹴り飛ばす。

 その一撃で吹き飛んだ剣山は迷宮の壁に何度もぶつかりながら奥へ奥へと消えていった。

 数舜して、その軌跡上のオブジェクトが崩れ落ちていく。永夢は己の犯したミスを実感し、奥歯を軋ませた。

 

(まずい、手札を晒しすぎた。リプログラミングを見られた以上、更なる妨害と迷宮改変を仕掛けてくる!)

 

 永夢が危惧しているのは五感の妨害だけではない。正確にはエグゼイドにはダイナミックゴーグルやセンダーイヤーなどにより、ほとんどの感覚妨害は及ばなかった。

 だが、その情報とリプログラミングによるゲームの強制シャットアウト性能をボスに悟られることは非常に良くないものだと後悔する。

 

 相手が激昂するかもしれない。

 別のアプローチで自分を潰しに来る。

 事態は、さらに悪化する。

 

『挑戦者、プレイヤーの分際で、チートコード染みたもん持ち込むなんて、ゲーマーの風上にもおけないなあ……!』

 

「お前だってゲーマーだろ! 何でこんな戦い方するんだ!」

 

『まあそうだが、戦いたいならお前のプレイをもっと見せてくれよ』

 

 一方で、迷宮に入ってからというもの、エリアボスが延々侮蔑してくる点には疑問を抱いてた。可能性としては、危惧していたもう一つのものがある。

 

 迷宮のリアルタイム改変。

 今までのエリアボスの振る舞いから、ステージを改変できるのは大元のゴッドスピードが構築した層の上でオブジェクトを自在に改変していることがわかっている。

 しかし、それをこんな迷宮で、リアルタイムでこちらを観測しながら進路を書き換えられるなどたまったものではない。

 

 永夢は迷路の攻略法として、風向き読みと左手法(壁沿いに手を当てて進む攻略法)を採用していた。

 これは他のアルゴリズムを利用した進み方では分岐点などをリアルタイムで改変されてしまうからだ。

 しかし、理不尽な改変により、しらみ潰しやハイスピードカメラのフィルムにモンタージュ(アイライトスコープの機能)、バグスターウイルスを利用したジャマーやエネミーの解析(アイライトスキャナーの機能)がほとんど無意味にされてしまった。

 

(くそっ、目的地までの具体的な距離がわからない! やっぱり、このままじゃ――!)

 

 実は進行方向のみ、永夢には最初からわかっていた。事前に〈挑発〉のエナジーアイテムをアドルに投与していたからだ。

 これにより、常にどの方向にアドルがいるのかは分かるのだが、肝心のゴールまでの距離が不明。焦燥に駆られるのには十分な理由であった。

 

 横から圧死させんと迫りくる鉄壁。停止、躱し、塞がれた進路を粉砕する。

 すかさず目前に飛んでくる鉄球。絶え間ない連続の拷問。いくら機動力があっても、マキシマムのパワフルボディではよけることが出来なかった。

 ダメージを負い、ノックバックする。その衝撃で、ついに永夢は地面を踏み込んでしまった。

 

『やっとはまったか! それ!』

 

 瞬間、エグゼイドの身体に異変が生じる。一撃即死のトラップでもマキシマムにタダで通じることはないとわかってはいた。

 しかし、受けた感覚はもっと気味の悪いもの。

 永夢の身体が、勘が、最大限の警鐘を鳴らしている。理性的な判断をかなぐり捨て、永夢はすぐさまEXシェルターガードによるマキシマムの完全防御モードに移行した。瞬く間に五体が収納される。

 

(これは、ワープ!? 飛ばされて、此処は……マグマ)

 

 理不尽なトラップにより、永夢が投げ出されたのは触れるだけでゲームオーバーになりそうなマグマだまり。〈挑発〉が示す道標も反応しなくなるほどに遠い所に追放されたようだった。

 重力操作をされているらしく、吸引力が半端ではない。マキシマムのジェット噴射がどこまで抵抗できるかわからない状態だった。

 周りには倒したはずのエネミーがうじゃうじゃと徘徊している。ボスはミスを犯した者すべてをこのデッドゾーンに叩き落していたのだと永夢は推察する。その証拠に、エネミーはほぼすべてがゴーストタイプとなっていた。

 

 確かに短期間で挑戦者を痛めつける用意をするとしたら、一か所に地獄を構築し、ワープで絶望に叩き落とすというのは中々鬼畜で、納得できて…………義憤を覚えずにはいられないやり方だ。

 永夢はそんな非道にストレスを感じ始めていた。

 

 ライダーゲージが徐々にだが減少していく。完全防御モードでなければ今すぐに灰塵と化していただろう。

 身動きがとれない永夢に、エリアボスが嘲笑を投げかけてくる。

 

『所詮天才なんて名乗っててもそんなもんかwお~い、辞世の句ぐらいは聞いてやるよ~』

 

「……こんなのゲームじゃない。お前は自分が作ったコースのクリアチェックを出来ないのか? 僕はこんな人を陥れる為だけのゲームを、認めない」

 

『まぁだそんな煽り入れてくんのかよ。ノアが言ってるのと調子が違ったね。正直もっと口悪いイメージだったし、もっと進んでくると思ってたけど』

 

 ボスの言っていることには耳が痛くなる。

 永夢は今回、何故か変身しても()に目覚めなかったのだ。

 二重人格というわけでなく、気合が入るといった感じでゲームのときに性格が変わるタイプなのだが、永夢の場合はそうならないことが大変な問題だった。

 

 天才ゲーマーMの力が、失われていることを示している。

 

(この現象、前も経験した。……僕がパラドの遺伝子を、再構成した時だ)

 

 永夢は現在の自分の異変がかつての自分の危機と瓜二つであることに気付き、茫然とする。

 これは、自分はどこかで、誰かに、リプログラミングされたことに他ならないのだから。

 思い当たる節は一つしかない。ノア=ゴッドスピード。ヤツと最初に相対したときにその技術を使われたのだと、永夢は確信する。

 自分はゲームに挑む前にゴッドスピードと会合した覚えはない。その技術は厳重に保管され、EMR並みに機密情報として扱われていたはずなのに。

 

 だが、今そんなことを考えている暇はない。永夢は、絶体絶命だった。

 

『なんかあっけないなあ。まあ、お前は頑張ったほうだよ。他のプレイヤーやお前の仲間がクソな部分がでかかったからな』

 

「――何?」

 

『他のクソザコ実験プレイヤーは全然ダメダメだったよ。この仮想天国だってのに想像力が足りないんだよな。チャレンジャーにしてやったんだからちゃんと動いてほしかった。まあ、リアルナーフしたりしたのは悪かったけどwみんなゲームオーバーになったら幽閉されるんだからね』

 

「お前、他の先行プレイヤーをこんなダンジョンに挑ませたのか!?」

 

『当然だろ。ここはVRMMO。ダンジョンマスターがすたこら作ったラビリンス。それに挑ませていかに絶望に叩き落とすかが醍醐味なんじゃないか』

 

「お、お前、本当に……!」

 

 やはり、番場くんの言っていた通りなのか。

 永夢はボスの所業に苛立ちと失望を直に示せないのが嫌になるくらい、憤った。

 

『それとお前のお仲間だよ。見れないのは残念だったが、まったく手伝ってあげないなんてな。一人で死なせに生かせるなんていやらしいにも程がある。

 まあ、お前の末路はしっかり保存して、プレイヤーに流してやるからさ。先の犠牲者を参考にさせて下さってありがとうございます、今後のプレイの参考にさせていただきます、なんて感謝してもらわないと』

 

 違う、誰もお前のゲームを求めてない。

 

『聞いたところによるとウイルスまで味方につけてるんだって? しかもお前がいなくなれば完全に独立させてやれるんだとな? これはもっと僕を褒めてくれないと困っちゃうなwお前の枷を排除してやったんだぞ感謝しろ、ってな』

 

 みんな自分のやるべきことをやってるんだ。

 

『じゃあな、ただのゲーマー。お前のプレイはちゃんと参考にさせてもらうから』

 

 知った風な口を、聞くな。

 

「…………るな」

 

『……ん~~?』

 

 ゲージは残り僅か。

 

「ふざけんなって、言ってるんだ!」

 

 永夢のストレスは最高潮だ。

 

「誰もかれもが自分とみんなの命を大切にして、必死に生きてるんだ! それを、誰かが、お前が、弄ぶなんて許さない! 

 僕の仲間だってそうだ。一緒に戦ってきてくれた大我さん! きっと外国でも戦ってる飛彩さん! 今もどこかで調査してる貴利矢さん! 緊急対応に励んでくれてるポッピー! 一緒にゲームに挑んでくれた番場くん! そして……僕のかけがえのない相棒である、パラド」

 

 そう言い放った永夢は完全防御モードを解除した。

 飲み込まんとするマグマに対抗噴射するマキシマムゲーマを足場にし、その姿を晒したのだ。

 

 その手には一枚のエナジーアイテム。

 自分の信じる、〈相棒〉の奇跡を予感させる一枚。

 

 ボスはその挙動を見逃さず、重力場を一層強くする。さらに周りのエネミーの思考ルーチンを書き換え、今にも飛びつかんとさせる。

 永夢は重力に耐えきれず、ゲーマに膝をついてしまった。

 

『死に様は一瞬が良かったか! 自分一人じゃ何も出来ないお前は、一人にした周囲を憎んで、そのその命を終えるんだ!』

 

 そうじゃない。ボスの挑発に乗ってはいけない。

 仲間の奮闘する様を思い浮かべた永夢は、心を冷静にしていくことが出来た。

 今、己が抱くべきものはなんだ? 出来ればヤツへの意趣返しに、否定になるか? 

 走馬灯のように、仲間と駆け抜けてきた軌跡が浮かんでくる。

 

 そして、永夢が行き着いた想いは――『感謝』だった。

 

「違う、僕はあきらめない。信じあう仲間のために。世界中の命のために。僕はお前の挑発には乗らない。僕が皆に、悪意を抱くわけがない。そんなものより、示すべきものがある。僕は共に駆け抜けてきた仲間に、感謝してる」

 

『先生……』

 

 なにより、目の前に救いが必要な患者がいる。

 永夢が覚悟をきめるのは必然だった。

 

「みんなの運命は、()()()が変える!」

 

 永夢は立ち上がる。

 その瞳を赤く輝かせて。

 体内のバグスターウイルスを活性化させ、エナジーアイテム〈相棒〉をパス、媒介とし、信じる仲間と繋がる()()()を獲得したのだ。

 

 そして、運命を変える為、その手には奇跡のピースが握られていた。

 

〈ノックアウトファイター2!!〉

 

〈The strongest fist! "Round 2" Rock & Fire!〉

 

 すかさずドライバーに挿入されるガシャット。軽快な選手入場を思わせる音声が鳴り響く。それは、ここからが本番だぞと言わんばかりの威風。

 エネミーも、ボスも、アドルもそれをひしひしと感じ取っていた。

 場はすべて整った。永夢はレバーを思い切り展開する。

 

「変身!」

 

〈ダブルアップ! 「俺」と「僕」の拳! 友情の証! 超キョウリョクプレイ! ノックアウトファイター2!〉

 

 参戦するのは二人の闘士。

 信じ、思い合い、ストレスを感謝に昇華する。

 そのすべてが相棒を、パラドを引き寄せるに至った。

 

 ―――奇跡はここに極まった。

 今再び、エグゼイドとパラドクスが一つになり、ダブルファイターゲーマーレベル39が降臨したのだ。

 

「永夢、お前が運命を変え、奇跡を起こすこと、信じてたぜ。サンキューな」

 

「ああ、()もだ。……ここからは」

 

 

「「超キョウリョクプレイで、クリアしてやるぜ!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




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第十話

 

 

「「超キョウリョクプレイでクリアしてやるぜ!」」

 

『はあ? ……増えたからってどうだって言うんだ。いけ、お前たち! 飲み込め、マグマ!』

 

「俺だって何もしてなかったわけじゃない。永夢、これでキメワザだ!」

 

 投げ込まれた三つのガシャット。それは、幻夢コーポレーションの秘蔵アイテム。エグゼイドはそれをなんとかキャッチ……出来なかった。

 

「サンキューパラド! ……持てない、させない、掴めない……」

 

「ああ、グローブで手塞がってるから……しゃーない、ほいっと」

 

『何おちゃらけて――〈〈キメワザ!〉〉!?』

 

〈ギャラクシアンクリティカルストライク!〉

 

〈ノックアウトクリティカルナックル!〉

 

 迫るマグマを顧みず飛び込んでくるエネミーをパラドクスが叩き落す。その衝撃でマグマの推進が弱まった。

 その隙に、エグゼイドのチャージは完了していた。

 拳から発射されるギャラクシュート。射線上のエネミーすべてが爆散していく。

 跡形もなく消え去った敵意。一方、発射されたエネルギーは止まらない。それは鐡の実態を伴って、船長の元に舞い戻る。

 往年のシューティングゲーム『ギャラクシアン』に登場するギャラクシップが投影された。

 

 マキシマムゲーマを踏み台に、二人が跳躍する。

 エグゼイドとパラドクスを乗せて地獄から飛びのくため、戦艦は上昇し始めた。

 

『ギャ、ギャラクシアン!? そん、なふざけたの、著作権侵害だろ!』

 

「全然問題ねえよ! 会社同じだからな!」

 

 天井を突き破り、一直線に上へと進み続ける。しばらくして、二人は比較的広い空間に浮上した。

 使い捨てられた建築データやオブジェクトが放棄され漂う、ダストシュートとされている空間。

 長居すれば自分たちまで捨てられたゴミだと勘違いされて処理される。〈挑発〉でマッピングされた道をたどるため、消え行くギャラクシップを乗り捨て、全速力で駆けだした。

 

『ぐっ……行かせるか!』

 

 この屠殺場から出すわけにはいかない。

 ボスは横から鉄壁を激突させんとシステムをフル稼働させる。

 同時に上からバグスターユニオンに酷似した大型エネミーを何体も降り落としていった。

 

 迫り来る障害を前に、一度目配せたエグゼイドとパラドクスが散開する。

 押し寄せる壁を蹴り、弧を描くような軌道で上昇し、あっという間にエネミーと相対した。

 

〈ノックアウトクリティカルキック!〉

 

 目前のエネミーの拳を、エグゼイドが空中で身を捩じり回避する。その勢いのまま、回転を止めず、エネミーに突撃。回し蹴りがユニオン体の土手っ腹を吹き飛ばす。

 エネミーは弾丸のごとく鉄壁に激突、迫りくる圧殺装置の勢いが減衰する。すかさずパラドクスがピクセル化して消えゆくユニオン体を足場に跳躍した。

 その頭上には〈挑発〉の道標が示す次のステージ。ダストシュートを後にすることに成功したのだ。

 

『そんなバカな!』

 

 一方エリアボスは挑戦者の軽業師のような身のこなしと迷いなき足取りに驚愕し、焦燥を募らせていた。

 自分のいる場が全システムの管理領域。膨大なトラップを制御している以上、どれだけ様相を改変しても、場所だけは変えられないことを見抜かれていると確信したからだ。

 悪態をつきながらもボスは次の用意を完了させていた。冷静に努めようと、無心で次の絡繰りを起動させる。

 

 パラドクスは着地した直後、真横から殺気を感じ取った。無数の眼の気配。即座に身を翻し、その視線上から自身の勘を信じ、飛び退く。

 次の瞬間、先ほどまで留まっていたスペースをはじめとした空間に、吹雪のごとく光線が降り注いだ。

 

 ――回避だけでは直撃する。

 危機を察知したパラドクスは大振りに拳を振りかざし、即座に割る勢いで地を叩き込んだ。

 その衝撃に耐えきれず削り取られる大地。岩礁が、混凝土が、パラドクスの四方を守るように舞い上がる。さらに、そのすべてが咲いた大輪のように燃え上がった。

 完成した炎のベールはパラドクスの護身を完璧に果たし、光線の吹雪が彼を削ぐことは終ぞなかった。

 

『くそくそくそくそッ! だったら、もう跡形もなく消えろォッ!」

 

 エリアボスが選択したのは自分が組み上げた成果を無に帰すオブジェクトの倒壊。

 骨組みを外されたかのように、パラドクスの天井が崩落していく。一撃で終わらせるため、その圧殺装置は結合し、最大まで質量をため込んでいった。

 その様子は、まるで隕石───もしくはベースボールのように。

 

〈巨大化!〉〈巨大化!〉〈キメワザ! ファミスタクリティカルストライク!〉

 

 世界崩壊の隕鉄を、一打席の道具にするためにパラドクスがその身を巨大に変容させる。

 そのウエイトに耐えきれず、足場すらも塵芥と化していくが関係ない。寧ろ溜めの時間に余裕を持てる。

 大きく振りかぶったパラドクス。その拳の根本から炎柱が噴き出している。バッターボックスに立つ者としては、これ以上なく様になっていた。

 

「うおおおおぉおおおッ──!!」

 

 応酬は一瞬のことだった。

 

 ……通常の打席とは違い、隕石は重力に従って迫って来た。だが、その軌道は今や遥か上空、真逆のベクトルに切り替わっている。

 やがて、そのホームランボールは空中で爆発四散した。

 栄光を身に受けた頃、パラドクスの身体は元のサイズに戻る。

 

「どうだ? 少しは童心が熱くなったか?」

 

『あ、ああ、ぁ……もううんざりだ。物量で体力を削り取る!』

 

「というか、やっぱりダンジョンは得意じゃないんだろ。せっかくシステムを張り巡らせたのに、お前は直接潰すことしか考えてない。だから俺一人しか捕捉してないんだ。──お前がホントにやりたいゲームは、サシの真剣勝負だろ」

 

『何を偉そうに!』

 

「もう一人、忘れてないかって言ってんだよ!」

 

 いや、わかっていた。そのはずだ。ミスじゃない。

 エネミーをパラドクスに向かわせながら、何か致命的な見落としをした可能性を脳裏から消し、エリアボスは思考を再開させた。

 確かにパラドクスの言う通り、タゲ集中に拘り一人狙いになっているのは事実だ。

 だが、だからといって今まで使い回した()()()()エネミーや、今も倒壊しつつあるパラドクスの立つ大地によって、下の層に取り残されたエグゼイドは既に息絶えたはずなのだ。

 そう、ボスは見て見ぬふりをしてしまった。

 

 ──その慢心こそがゲーマー最大の弱点だというのに。

 

〈〈キメワザ!〉〉

 

 先ほどから何度も己の領域を荒らし続けた、耳障りな音声が耳をつんざく。

 嫌悪の念を隠しきれずにモニターでパラドクスをチェックする。

 だが、エネミーを避け続ける中で、その動作を行った様子はなかった。

 

『そんな、まさか!』

 

 号音の発生源はパラドクスの遥か底。徐々に、ため込まれるエネルギーの交響が大きくなっていく。そして、何かが地を覗いた。

 

 大地を突き破って現れたのは巨大な球体。その黄色球はよく見ると可愛らしい顔がついているではないか。

 ──パックマンの敵は、ゴースト。

 エネミーがゴースト体だからといって、無茶苦茶な解釈でエサにされ、成長したというのか。

 意味不明な機転に頭が追い付かないエリアボス。そして数拍後、その表情は怯懦に染まっていた。

 

〈パッククリティカルストライク!〉

〈ノックアウト! クウゥゥゥウゥリィィィィィィティィィィカァァァァァアゥルゥ――――――波ァァァァァアァァァァァアアアア!!!!!!!〉

 

 ──その巨顔の大きく開いた口から、重厚膨大な気光線が発せられたからだ。

 圧巻のサイズの大口から放出されるそれは、もはや光の大噴火。

 残るすべてのエネミーと、パラドクスの立つステージ全域を消し飛ばした。

 

〈K.O.!〉

 

 必殺の残身を終え、投影されたパックマンがにこやかに消えていく。その中から、エグゼイドとサルベージされたパラドクスが辛うじて足場に出来る残骸に降り立った。

 彼らの数キロ先に、愕然とするエリアボスがいる。

 アーティファクトのほとんどが必殺の奔流で吹き飛び、もはや迷宮は崩壊寸前だった。それでも、最下の、この世界の基盤だけは決して消えない。

 ゴッドスピードが構築した更地が残っている以上、いつでもダンジョンは作り直せる。

 

 ボスはすぐさま隔壁を構築し、ライダーシステムの防御を突き破る希望を込め、バフを搭載したエネミーを投入する。

 

「! なんだこいつ! 触手!?」

 

「俺の中に戻れ! パラド!」

 

 触れるだけで死を招く、即死のエネミー。その姿は幽鬼の如く、不規則に揺らめき、動きを見極められない。

 その背から飛び出すのは大量の色を失った触手。危機を感じたエグゼイドがパラドクスを再び避難させる。

 雁字搦めにせんと駆け巡ってくる緯糸を前に、エグゼイドは託された最後の切り札を切る。

 

〈ゼビウスクリティカルストライク!〉

 

 死の平行線を迎え打つべく、エグゼイドはその拳から光線の如き衝撃波を無数に打ち込む。背後には燃え上がる闘志の如く、ソルバラウの影が投影されていた。

 しかし、その連撃は際限無き繊維には届かない。

 拮抗していたエグゼイドの死角から経糸が飛び出した。

 その一直線は寸分の狂いも無く、目標を滑らかに貫穿──出来なかった。

 

『い、いない!? 何で! 消滅したのか!? これで、勝ったのか──?』

 

 忽然と挑戦者の反応が途絶えた。

 ボスは訪れた静謐を前に、心の震えが収まっていくのを感じる。逆にその神経は研ぎ澄まされていった。

 だから、気付いた。

 捕らえていたはずのエサが影一つなく消え去っていたことに。

 

「──は?」

 

 理解が、追い付かない。

 有り得ない状況を脳が受け入れない。

 システムを放棄し、椅子にへたり込んでしまう。管理領域に気配が増えていた。

 

 ついに最後の優位性を失ったボスを尻目に、ガッツポーズを決める二人組がいる。

 

「遅くなって悪かったな、アドル。大丈夫か」

 

「はい、はい! 大丈夫です。信じてましたから」

 

「色々伝えたいことはあるんだが、今は一刻を争う。お前たちはすぐにゴッドスピードの下に迎え」

 

「パラド、それって……」

 

「ああ、そこでこっちをにらみつけてくるボスは、俺が引き受ける」

 

 方針を決定し、エグゼイドとアドルがエリアを離れていく。もはやボスはその後ろ姿を茫然と見ているしかなかった。

 しかし、このまま終わりにはさせない。

 何故かここに居座る、バグスターウイルスに聞くことが山ほどある。

 

「何故だ……何故あんな曲芸を思い付く!」

 

「最後に永夢が発動したゼビウスの力は何も散弾だけじゃない。──テレポートを利用した、緊急脱出装置が作動したからだ」

 

 パラドが明かした攻略法はボスの心を強く打つものだった。

 シューティングゲーム『ゼビウス』。そのガシャットに内蔵された力の一端、超意識体ガンプ。その技術力により、必殺技発動中に死の危険が迫るという類稀な機会において、緊急テレポートが作動したのだ。

 着地点はアドルの真後ろ。

 即死攻撃がいつか飛んでくることを読み、逆手にとるのが彼らの作戦だった。

 

「でも、お前は何が起こったのか、後からだけど、察してるみたいじゃないか。レジェンドゲームを見たあんたの目は……輝いてた。純粋に、ゲームが好きなヤツの目だ。しかも、本当にやりたいのは真剣勝負。自分に嘘をついてまで、何でそこまでダンジョンマスターなんかにこだわった」

 

 パラドは永夢の中に避難した際、挑戦前立てたボスの考察を把握した。

 その永夢が予想したものの中に、ボスが元々バトルロワイヤルやストテラジーのゲームマニアである、というものがあった。

 ただ人をいたぶることに悦を感じるのではなく、純粋に対人戦で勝利したいという思い。

 それが肥大化し、ゲームを自在に操れる力を手に入れて、歯止めが利かなくなったのではないかというものだ。

 

「……自分でもよくわかんないことを、お前は知ったように言うんだな。その口ぶりだと、僕が閉ざしていた空虚で恥ずかしい願望を察したらしい」

 

「随分素直になるじゃないか……で、お前は今、何をしたいんだ」

 

「……ただ、勝ちたかった。それが昔抱いてた殊勝な思いだったはずだ。でも全然勝てなくて、大会とかでも何度か結果は出て、それで必死に足掻いてたのに、気付けばプロになれる年齢じゃなくなってた」

 

 プロゲーマーの適正年齢は、数多の競技の中で最短の部類に入る。

 二十代後半に差し掛かった彼には、その機会が永久に失われたのだ。

 

「それで、仕事のストレスに飲まれて、嫌になったから、ここにたどり着いたってことか。……人々を巻き込んだことに同情は出来ない。でも、俺はお前みたいなやつを大勢見てきた」

 

 パラドはボスのような手合いを、永夢に寄生してゲーム大会に出ていた時に何人も見た。昔はその心の機微まではわからなかったが、今なら、少しだけは。

 

「頼む、はっきり言ってくれ。それで、終わりだ」

 

「……どうしようもないけど、何も出来ないわけじゃなかった。その熱量だけは他の実力者にも負けずとも劣らない。だからこそ、引き摺って、ここまで来てしまった」

 

「――、―――ははっ、さすがだ。やっぱりお前が天才ゲーマーだったんだな。何でもお見通しなわけだ。―――やっぱり、気に入らない。最後に、お前だけは倒してみせる」

 

「お前はどこかで、踏ん切りつけることが出来たはずの人間だ。だからこそ、俺の言い草も受け止められたんだ。何でお前が今こうなってるか、よくわかったよ」

 

「うおおおおぉぉぉ!」

 

 慣れ親しんだ銃器を武装して、最後の一騎打ちに挑むエリアボス。

 その威勢に応えるため、パラドは作に頼み込み、セキュリティを一部突破したギアデュアルを取り出す。

 

〈パーフェクトパズル〉

 

「変身」

 

〈デュアルアップ! Get the glory in the chain. PERFECT PUZZLE!〉

 

 パズルゲーマーレベル50。

 乱射しながら突っ込むボスの体力は曲がりなりにも膨大。

 ――一撃で片を付ける。

 

〈透明化!〉

 

 パズルゲーマーはエリアのアイテムを自在に操る。

 ボスの突撃は回避され、パラドクスの姿は掻き消える。だが、ボスは既にゾーンに入っていた。

 締まりのない体制だが、気配だけでパラドクスを狙い撃ち続ける。しかし、天才ゲーマーに何度も同じ手は通じない。

 

〈キメワザ!〉〈変身!〉〈幸運!〉

 

〈パーフェクトクリティカルコンボ!〉

 

 必殺発動と同時に、パラドクスがボスの背後に現れる。

 すかさずショットガンを向けるボスだが、その()()()した腕で弾き飛ばされる。

 

 〈変身〉で再現したのは、かつて彼が辛酸を舐めさせられたビルド・ゴリラモンドの右腕部、サドンデストロイヤー。その性能は完璧に再現されている。

 パラドクスは力任せに腕を打ち込んだ。

 

「ガァァアアアア……! …………、……これで、やっと……」

 

 ゴリラの鉄腕に込められた機能は、低確率の即死機能。

 仮面ライダービルドが使用した際は、その腕で砕かれたダイヤの雨を効果が出るまで喰らわされた。

 敗北から学んだパラドクスは、〈幸運〉によってその当たりを手繰り寄せたのだ。

 

「お前は周りを見れば良かったんだ。お前一人じゃないってことを実感し、証明することが出来たら、その心をずっと一人で抱え込むことはなかった。でも、それはまだ間に合うんだ」

 

「……そうか、あんたがそういうなら、そうだ、と良いな……」

 

 決着は付き、粒子となったボスが運営に回収される。

 パラドはそれを見届けると、粒子となって永夢を追いかけることにした。スナイプらがいるであろう、ファーストステージについては適者に任せる。

 

「永夢。お前はゲームに集中してくれ。今は、俺たちにとっては、もっと怖いものがある」

 

 多くのプレイヤーが跋扈している始まりの場所。

 そこで巻き起こっている混乱を思い浮かべ、表情を歪ませながらも、人類を守るためにパラドは駆け続ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





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第十一話

 

 階段を駆け上がる跫音に付随するように、鐘の音が鳴り響く。荘厳に、暗澹に。強く大きくなっていく弔鐘が、次のステージの始点が近づいていることを示してくる。

 二人の気配に反応し、上方で飛び立つ羽音が響く。まるで、これから始まる応酬に一切関わりたくないかのように。

 

 程なくして、永夢とアドルは四つ目の入り口に辿り着いた。

 目の前に佇んでいるのは厳粛を感じさせられる白き門。二人は同時に手を掛け、その門戸を思い切り開いた。

 

「ようこそ、挑戦者達よ。ここまで無事導かれたこと、先ずは称賛しよう」

 

「……ノア、ゴッドスピード」

 

 二人を心待ちにしていたのはこの仮想世界の創造した導き手にしてエリアボスにあらず。その表情からはここまで登り詰めた者達への純粋な喜びが感じられる。

 ……否、もはや表情ですらなかった。

 

「それが本性か……その身体を巡るラグ、お前、バグスターに!」

 

「ああ、すべての用意が済んだ今、もはや私がヒトである意味はなくなった。そしてこれがただのウイルスでないことは、お前もよくわかっているだろう」

 

 即座にゲームスコープを通す永夢。投影されたスキャンモニタに示された、彼を表すバグスターの名は――ゲムデウス。

 人としての命を終えた彼の像は、永夢らの初対面と近しく、ラグを伴った深影のような風貌であった。

 

「VRXを奪い、大勢のプレイヤーを扇動して、この世界に放って、自分はバグスターになった。お前の目的は一体、何なんだ?」

 

「良いだろう、お前には権利がある。天国が導かれる為の道程を知る権利が」

 

 

 

  

  +++++++

 

 

 

 

「この、今の世界には……そうだな。笑顔でいる人間が少ないとは思わないか?」

 

「どういうことだ? 笑顔で、健康でいる人は大勢いる……いや、何が言いたい」

 

「そう言うということは、やはりお前の視野は凝り固まってしまってるようだ。──そんなわけがないだろう。今の社会では、すべての人間が負の心を抱え、疲労しているんだ」

 

 鏡面の如き温床はどこまでも広がる青空と共鳴し、くっきりとした地平線を作り出している。

 永遠の園をバックに、ノアはこの仮想世界の根源を語り始めた。

 

「『なぜこの世界に幸福が訪れないのか』……VRに携わりながら、私はこの答えのない命題に向き合ってきた。

 その定義は個々により違うと言われるが、私はそもそも今の世界には存在しないと考える。少し周りを見渡してみろ。入ってくるのは何かに侵され、苦悶の影を纏う者ばかり。

 始まりのミスを持ち越して疎外感に苦しむ者。集団心理に沈み続けて何時しか意見を忘却した者。開き続ける差の壁に打ちのめされて放棄する者。必死に辿り着いた場所が『違う』としか思えなかった者。制約やモラルに縛られ続け、遂にすべてを見限った者。

 この他にも、ちっぽけなシミが果てた鉛となり、抱え続ける者がいるのはわかるだろう?」

 

「…………」

 

 二人とも、何も口挟まない。

 前者は想像は出来ないが、それがどう現状につながるのかについて意識している。

 後者はそれが当然で、どうしようもなく堕ちた世界だから、と諦観していた。

 

「その負債は変容し続ける世界に揉まれ、人々が興じること、その概念すらも掴めなくしてしまった。

 嘆かわしい事だが、当然の事であると言えよう。進み続けるテクノロジー。変革を繰り返す社会。

 実感することも出来ずに、取り残されていく人々がいるのもわかっている。この世界はどうしようもなく不平等だ」

 

「だが、そうでなければ今日までの世界は、人は、ここまでたどり着かなかった。違いが、個性があるからこそ、互いに切磋琢磨し合い、見聞を広げ、新たなものを生み出してきたのだ。

 その尊さは、イマジネーションは、失われてはならない」

 

 決して同じ者がいないからこそ苦しみはなくならないが、可能性は途絶えない。人類の進化のプロセスに、彼はどうしようもなく執着していた。

 

「そんな循環、発展にも限界は訪れる。私はVRで展開した世界でシミュレーションを重ねた結果、人類に幸福が訪れる可能性はゼロだと確信した。

 そもそも酷な話だった。すべて私の主観による結論だった。だが、正と負のエネルギー、感情、心。どちらの方が脅威になるか、お前達ならよくわかっているだろう?」

 

「それは……」

 

「負だ。そうでしかない。それを乗り越えることで信念を獲得する者もいる。

 だが、正しさが曖昧になり、娯楽にすら意義を失いつつある世界では、いつか必ずその苦しみに屈する」

 

 強い者は強い。固い者は固い。

 でもどうしようもなく、誰も気づかぬままに負けていく者達もいるのだと、ノアは諭し続ける。

 ゆるやかな終焉。

 それがこの世界が見せている変容のすべてなんだぞ、と。

 

「もはや、当初の命題であった幸福論は雲散霧消してしまった。このままではいけない。この世界ではいけない。私の手元にはVRがあった。南雲影成は素晴らしいインスピレーションをくれた。なら、身を擲つ理由は一つだろう?」

 

「……仮想現実。そこで構築した世界を、人類の新たな活動領域にする……」

 

 垣間見えたゴッドスピードの理念。その野心の強大さだけは、この場にいる全員が理解していた。

 

「自分の望み通りに具現化する夢。誰にも咎められない個性。終わらない幸福。人類が勤しむ娯楽は、ここに世界と成り極まった。

 もはや我々を縛る世界とはおさらばだ。幸福は、興奮は、希望は、夢は、約束された天国によって果たされる」

 

 旅立ち、別れ、解放、解脱、卒業、エクソダス、箱舟。

 際限ある世界も、脆弱な命も、忘れ去られた幸福も。

 そんな悲しいことはすべて逆転する。

 老廃する世界から離れられる。すべてを導けるのだと、ノアは目と思われる部位を輝かせて言った。

 

「いくら人の幸せを祈ってやってることでも、傷ついて、傷つけてしまった人がいる。大勢の人々を脅かして、倫理をかなぐり捨てて巻き込むのは許さない!」

 

 永夢はパラドと再融合したときに、心を通して情報を共有した。

 ゴッドスピードが行っている、命を弄ぶ蛮行を。人々を扇動して、振り回していることを。

 

「どういうことですか? 先生」

 

「こいつがみんなに流した謳い文句には重大な情報が抜け落ちてる。現実とVRMMOとの可逆性。一つの命を必死に生きてる人々に本当のことを伏せてる。それと、気になってたのは、この世界の拡張性についてだ」

 

 かの檀黎斗ですら、現在までに全人類を包括した世界を創り出したことはない。正確には、ゲームを生命概念そのものとし、世界自体をゲームに変えようと画策していたのだが。

 永夢が言いたいのは、『仮想』である以上、最大容量に限界があるはずなのに、どんな非道で拡張しているのか。

 もう一つはノアの思想で放棄されている生命概念について。

 

「流石に目の付け所が違う。さて、導かれゆくこの世界の原義についてお答えしよう」

 

「お前、今まで誘い込んだプレイヤーをどこにやった? 彼らの姿がないのはなんでだ」

 

「……そこからか。良いだろう、これを見ろ」

 

 投影されたARモニタ。

 そこに映るのはこのゲームの最上階に位置する、知恵と生命を踏襲した樹が寄生する天守閣。視点が徐々に近づいていく。そこから覗いたのは、おぞましいほどのデータの群生だった。

 それは時々実態を垣間見せ、人間の面影だと理解させられる。頭に当たる部分に仮想世界にログインに使用した機器と酷似したものが取り付けられている。

 

「あれは、みんな眠ってるの、か?」

 

「そうだ、夢を見ている。辛い現実と逆転した先には夢がつきものだ。

 もちろん、ただの夢じゃない。人間が夢見る幸福。それが自分の思う通りに、願望通りにコントロール出来る。

 大枠のシナリオは予測待ちだが、いずれは心の奥底に抱く、自分ですらも把握していない真実の理想を体現することが出来る」

 

 夢見る可能性は広い。そこにいくつもの世界が、興奮が、好物が入り乱れる。

 社会で擦り切れすぎたことで、自分の望みすらも分からなくなった者も、正直な心のままに導かれるのだ。

 

「だから、それが身勝手な幽閉じゃないか! こんな、こんな状態が続けば、彼らは、孤独に──!」

 

「独りである、か。そんな事にはさせないさ。……さあ、輝かしい導きのままに」

 

「? モニターのチャンネルが……これは、僕がプレイしたファーストステージ?」

 

「大勢のプレイヤー……もう、ここまで……何だ、この景色!? 夢から滲み出た世界が、交ざっていく!」

 

 示された世界が導きの骨頂。

 既にノアの手に落ちた多くのプレイヤーの夢が、ファーストステージの背景、グラフィック、オブジェクトを塗り替えていく。

 それはまるでオーロラのように。機器で読み取った夢のクリエーション、そしてクロスオーバー。

 実態化させた夢の交錯。他者という絶対的な刺激を受け、インスピレーションを獲得した夢が再び持ち主の下へ帰還する循環。

 

 人一人でしか夢を見れないのなら、夢同士で交流し、孤独にしなければよい。イマジネーションに終わりを訪れさせない。

 大容量のVRMMOで輝く人の夢が交わることで、世界すらも永遠にするのだと。

 

「お前は、全ゲーム機にお前の思想を感じ取らせる脳波を送ってるって! そんな誘い方まで──!」

 

「それは広告だ。多くの人にはまず知ってもらわねばならない。自分で判断するのもいいだろう。だが、直ぐに人々は導きを受け入れるだろう」

 

 新規プレイヤーはエリアボスが気ままに振る舞った結果、ファーストステージに留まり続けている。先行プレイヤーが流した思想に魅せられ、ログインし続けている者もいる。

 なんせ現実と比べて時間の流れが遅いのだ。天国を確かめるまで居座るというのもありえなくはなかった。

 

 そして、最後の計画が明かされる。

 

「仮想天国に集まる膨大なデータによってこの世界は無限に拡張していく! 何れ世界をも飲み込む! まさに現実嚥下(ゲームエンド)! それで、導きは、完遂する……」

 

「その、データは! どこから! 誰のものを……!」

 

 自らの思想を伝えきったことで感極まるノア。その発言から、永夢は最悪の予想が立ってしまった。

 

「それは! もちろん! 仮想天国に集まるすべての! ──人間達の生命データだ!」

 

 それは命に対する、最も冒涜的な真実(Truth)

 質量を伴うデータをバグスターウイルス、遺伝子医療機器によって拡張パックに変換する。それは、いずれ現実すべてが対象となる。

 夢を、イマジナリ・エクステンションを軸に天国を謳歌するなら、もはや肉体は、命は必要でないだろうと。

 それで永遠の幸福が約束されるのだから、どうか差し出してほしいのだと。

 

 世界の、リアルの、ドクターの倫理を撃ち墜とす存在。

 これ以上思い通りにさせるわけにはいかなかった。永夢の瞳が赤く、限界まで見開く。

 

「ゴッドスピード! お前を! これ以上好き勝手させない!」

 

「逸るのは勝手にしろ。忘れてないか? ここは、最上階の一歩手前だ。私にはまだ微調整が残ってる」

 

「…………?」

 

「お前の言う、運命とやらが決まる時だ。現実を取るか、患者を取るか」

 

 そう言ってノアが指を空に指した。

 清々しいまでに晴れ渡る大空。エリアボスの願望のままに形作られた世界なら、ここもそうなのだろうかという疑問が、永夢の頭を過ぎる。

 そんな疑問は、卒然吹き抜けた生ぬるい風が肯定する。……最悪の形によって。

 

「命ある最後の輝きは、お前達が見せてくれ。最高のエンディングを迎えられるのは、一体どちらかな?」

 

 疑問を飛ばす間もなく、粒子となって消えたノア。

 後に残されたのは、これから始まる選定の儀に選ばれた者達。

 心境を顕すように、立ち込めていく暗雲。それは闇となり、見事に更け切った。

 心の衝突が、兆している。

 

「……始めましょう先生。いつか言った真実、ここで晴らさせてください……」

 

「アドル、お前が……」

 

 エリアボス、番場アドル。

 その身に植えられた人類の脅威をもって、ついに火ぶたは切って落とされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




・イマジナリ・エクステンション
ゴッドスピードが名付けたかっこいいシステムの名称。
システムに組み込み、ゲーム内の想像(創造)力を拡張していく為に、マイティクリエイターVRXを狙っていたのだ。

尚、永夢用に作られた物の為、未だ完全な制御には至っていない。


・『Over Your World』
最先端脱出VRMMO。
その実体は、不自由な世界から超'脱'するための世界逆転システムにして計画名。全人類、世界を喰い尽くすことで完成を遂げる。
天国拡張のために、人をデータ化することが可能な、バグスターウイルスを基盤にした。
マスターガシャットがコアであるようだが、ある仕掛けが施されており……?












───第二進捗完了。

次回、最終章『果てしないlives』スタート。


感想、アドバイス等お待ちしております。


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果てしない lives
第十二話


命を救うのはVR《仮想現実》の世界か―リアルな医療か―


 

 渺茫と広がった清閑。際涯なく澄み切っていたはずなのに、抱く闇に同調して陰り続ける。

 立ち込めた断雲こそが、彼の心に宿る罪悪感そのものだった。

 

「真実……それは君がこの仮想空間に来てから悩んでたことについて?」

 

「先生、ここにいるのが僕達二人である理由、もう分かってるはずです。おそらくパラドが貴方に入ったときに……」

 

「君は約束してくれた。話してくれるって。ゆっくりでいい、君の悩んでることを共有させてくれないかな?」

 

 何となくは、わかっていた。

 それでも、彼は自分の患者なのだからと、永夢は優しくアドルと向き合う。

 しかしその在り方こそが、彼にとっては劇薬だった。

 

「違うんです。そんな、僕が苛まれてたことは、貴方を見ていたら、悩みなんて言えるものじゃなかったんだ……!」

 

「……僕、を?」

 

「貴方の清々しいまでの医療や患者に対する、真摯で精練な姿を見て! ……僕は自分が世界に向けて吐き出したかった言葉を忘れてしまった――」

 

 自虐ですらない、自分は何も持ちえないのだと吐露するアドル。しかし、いつの間にか背景では狭霧が揺らめいていた。

 それは一人で塞ぎ込んでゆく彼の心情を表しているのだと、永夢は悟る。

 悩みに、ゴッドスピードの言う負の心によって自己を肯定しにくくなっているのだと。

 

「大丈夫。何もないなんてこと、ないよ。人はみんな生きていく中でストレスを抱えてしまう。その心を抑制し続けるのも良くない。

 悩んで、答えを探そうとするのは生きてる証だ。君にだってちゃんと心があるから。その心から、吐き出していいんだよ」

 

「――――」

 

 ドクターは患者から逃げたりしない。永夢は絶対にその在り方を、心を曲げたりしない。

 改めて嘘のような人だと、アドルは想う。それがどれだけ尊く立派で、難しい在り方なのかがわかっているからだ。

 この現代社会において、仕事に全霊を持って取り組むこと、さらにそれを心から自分のやりたいことだと躍起になれるなんて早々出来ない。ましてや人の一つの命に関わるドクターがそんな風に体現できるなんて。

 今もこの人の前ではくだらない、恥ずかしい心だと思う。

 でも、逆に、ここまで、貴方こそが。他でもない貴方の言葉なら、と。気づけばその口は声を漏らし、顔はどうしようもなく崩れていた。

 

「ノアのことを言いようには言えない。僕はあいつに唆されるまでもなく、自分でこういう考えを持つテリトリーを探したんです。でも、何でまたそんなことをしようとしたのか、分からなくなった。思えば、前にすべて終わった時も、同じだった。心が、空っぽになってた」

 

「同じことを……?」

 

 アドルもまた、ノアと同じくこの世界に嫌気が差した人間の一人だった。しかし、その動機はもっと醜く、いや、実は今でも何がそこまでいけなかったのか自分では推し量れない状態で。

 

「何が自分はそこまで、何で世界に怒りを抱いてたのか、よく分からなくなった。他でもない、可愛い自分のためだったのに。それで、しばらくしてドクターにメンタルケアやカウンセリングを受けることになった。自分が何もなくなったから、自分を初めて外から見れた……」

 

「お医者さんにケアを……」

 

「そこで省みた自分は、自分のことなのに、よくわからないモノだった。自分が一番で、完璧でいたいと思ってた。よく考えなくても、完璧だなんて自分のセンチメンタルな物差しがアテの、何のデータもない癖でしかないのに。何故かカウンセラーになりたいと思った。それもどうせ、自分が相手を優位から見下ろしたいと思ったからだろうに。この期に及んで私はどうしようもない人間だと、初めて気づいた!」

 

「ドクターに治療を受けて、それでも……」

 

 勝手に暴走して、勝手に燃え尽きた。彼がそんな行動に、衝動に駆られた理由の根底にあったのは、どうしようもない完璧主義だった。

 心のどこかで、自分とこの世の何もかもが圧倒的に違うのだという想い。一度ボロボロになって初めてそれが愚かしいと気付いたのに、拭え切れない自分が、今も此処にいる。

 今回の件も、自分が好き勝手出来るポジションにあり、一歩退いた位置から眺められるから永夢たちに協力したのではないか。

 陰鬱な心が、いや本性が、その醜さのままに自分を決断させたのではないか。

 

「それで結局、ここに立っているというのに。一線を踏み切れず、貴方には何も言えず口籠り、私は自分の心すらわからない。私は一体、何だったってんだ…………それで、私、は――」

 

「でも! 君は危険だと分かってるのに、心から僕に協力してくれた。だから何もない、空っぽなんてわけがない。君は僕に素直な心を、今こうして――

 

「それが意味分からないっていってるんだッ!」

 

 怒りが、湧いてしまった。

 この人が、何故――

 

「何でそんな知った風に寄り添える!? 何で素直だ悩みだのと根拠のないことを言える!? 何でそこまで私を飼いならす!? 何で私を見ていてる!? 何で、そんなに、心から――命に向き合えるんだ」

 

「――!」

 

 永夢が一人の医者として、何故ここまで誠実に付き合ってくれるのか、やっぱりわからなかった。

 自分を省みるほどに、その有様が度し難く、心地悪くなった。

 心が締め付けられていく。どうしてそれは、忘却したはずなのに。

 その鼓動はまだ、消えていなかった。

 

「羨ましかった! 憧れた! 拝みたいぐらいに! その自分の心に正直に、まっすぐに、信念を持って! この社会で生きている様が! 私にはずっと貴方が輝いて見えた。なのに、全く! 貴方を、何一つ理解できなかった……」

 

 どこまでも、どこまでも。

 輝きを纏っていても、どうしてここまで違うのだろう。

 どれだけ大きな感情を抱いても、堕ちた自分との、心の違いが判らなかった。

 

「……ぁ……、……。もう……いいじゃないですか、世界……」

 

 

 

 

 

 

  ********

 

 

 

 

 

 

 

「君は、心が……」

 

 番場くんは泥を掻き出すように、訥々とつぶやいた。

 

「もう、疲れたんです。こんなにも輝かしい人もいるのに。私のような人が、人間が駄目なことに気付けない世界に。私は結局、今も、この世界がいやだと思ってるんだ……」

 

「人の気苦労もお構いなしに、人の足を引っ張って、けなして、喚いてる人の声しか聞こえない……。同じ生物だと思えない奇行や発言、人のためと言いながら利益と権力で荒らし、暴れる大人ばかり。誰もが良くないことだと分かってるのに、何もしないし、出来ないし、理解しようとしない……」

 

 彼は俯く。

 その表情が、背景が、さらに影に沈んだ。

 

「そうと、分かってるんだ……私にそんなこと言う資格ない。わかって、るのに……」

 

「飲まれないように、染まらないように、頑張ってる人もいるんです。弱音を吐かず、決して折れず、諦めない人もいるんです……」

 

「それがどれだけ立派で、尊くて、倣うべきことなのか、わかってるんです…………でも、自分も気付かないうちに、背いてた……」

 

 番場くんが膝をついてしまう。

 もっと沈んで行って、それでも心を落とさないで話してくれる。

 それはまるで罪過を告白する咎人のようだった。

 

「そうか……色んなものを、人間を見て、別に自分が実害を受けたわけでも、慮ったわけでもないのに……()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「いつの間にかそんな世界や自分がいやになって、完璧で、揺れたくない、虚飾に堕ちたんだ」

 

「……!」

 

 別に人生に、本当は広義的過ぎる世界にだって強く絶望したわけじゃない。

 何となく、大した理由があるわけでもなくて。

 

 ただ、事実だから。何も、なかったから。

 

 理路整然で、支離滅裂で。

 彼の振る舞いに不自然さなんてどこにもなかった。

 自分をその世界で否定されないように。

 抱いた純朴さから目を背けるように。

 そうなってもおかしくないと、思えてしまった。

 それが“普通”だと、感じてしまった。

 

 ……でも、今は恐ろしいとも、感じられる。

 

「そんな自分を見ないふりして。世界に、人間に、失望して、怒って。積み上げたその偽証すらも放り出したのに! 結局、その先に何もなかった――」

 

 それはきっと、僕だけじゃなかったからで。

 

「安心したくて、完璧で飾って置きたくて……」

 

 絶対、僕一人じゃいけなくて。

 

「何でそうしたいと思ったかなんて、とっくに忘れたのに――!」

 

 もしそうなら、運命なんて変わらなくて。

 

「全部どうでもいいって思ったのに!」

 

 けど、僕は此処にいる。それが、それこそが示すのは――

 

「世界も! 自分も……何一つ……」

 

「「運命は!」」――変わr「変えられる!」

 

 

 

「――え」

 

「変えられる! 生きている限り、命を抱いている限り、心を持っている限り! 絶対に。君が此処にいることこそがその証左だ!」

 

 当然だ。だって君は――

 

「何が! 違う! 私は、私が、此処にいるのは何もないからで! 全部どうでもよくて……どうせなら世界から追放されたくて。夢でも導きでも、何でも。何もかものせいで辛くなった世界に、さよならしてもいいじゃないか……そうしたら、きっと……仕方ないって、あきらめられる――」

 

「だから! 仕方なくない! 運命は変わる。あきらめなんて、ここまで来た君に似合う言葉じゃない」

 

「――だ、から、で、も」

 

「でも、それでも! 君に何もないなんてことない! だって、君は最初から――一つの命の大切さを、わかってるじゃないか」

 

「そ、私が、そん、え……?」

 

 教えてあげないといけない。

 一つの命。自身の心。生きている君。

 

 すべて、君はもう分かってるということを。

 

「色んな事があったんだよね。自分の心を辛くしてしまうこともたくさんあったんだよね。何度か間違えたかもしれない。間違いとか、正しいとかに共感できなかったかもしれない。イヤになったりもして。それでも、君は此処にいる。その輝く、命を持って」

 

「かが、やく――」

 

「何度墜落しても、君は心を持って此処にいる。命の限り叫んでる。運命を信じてるから。どんなことがあっても。

 ここまで辿り着いたことこそが、君が一番大切にしてるものを示してるんじゃないか! その、この仮想世界でも! 君は命を大事に抱いてたから、一つの命を心を持って必死に生きてきたから! 変わったんだ」

 

「…………こんな、世界で、どうしようもない俺だか、ら……なのに、貴方は、私は、命を……?」

 

「そうだ! 君は本当に立っ――【そこまでだ】ぱっ、ば、何だ!?」

 

 突然、番場くんの身体から、粒子が噴出した。

 それは即座にカタチを取り、舞い降りた。

 

「! 番場くんを離せ! ――ゲムデウスX(マキナ)!」

 

「誰が離すか。完全体となるチャンスをみすみす逃すバグスターがいると思うのか?」

 

 形成されたそのバグスターの名は、ゲムデウスX(マキナ)

 かつてグラファイトのバグヴァイザーに残るゲムデウスウイルスによって、自身がゲムデウスと成り果てたマキナビジョンの社長。

 ……ゴッドスピードは残留したウイルスを培養する為に番場くんに忍ばせたのか!?

 

「社長の座を勝手に奪われてるのは癪だが、これで漸くゴッド・リターンだ! 決して変えられない運命があるということを、今度こそ! 思い知らせてやる!」

 

「命……うん、めい」

 

 でも、番場くんが消滅することはありえない。

 だって、君は一人じゃない。

 ()の眼が赤く輝いた。ゲーマドライバーを装着する。

 

「どんな運命だろうと、どんな旅路だとしても! 生きている限り、一人じゃない限り、運命は変えられる。アドル! もう、わかるよな?」

 

 アドルは、アドルの眼に、輝きがあった。

 それはなくなってたわけじゃなくて、元からあった輝きだ。

 エリアに蠢く霧やちぢれ雲が消えていく。それらが消したのではなく、閉ざしてただけのものを、解放するために。

 

「……先生。一つだけ、教えてください。こんな僕の、ちっぽけで罪で虚しい命を。こんな、夢のようなVRMMOなのに。――どうして投げ出しちゃいけない命なんですか?」

 

 ……そんなの

 

「そんなの決まってる! 今までも、これからも! 運命を変えて、命を持って、心のままに生きていくからだ!」

 

 挫けても、倒れても、嫌になっても。

 命を美しいと思う心があるのだから。

 

「俺がいる! お前一人じゃない! そして、これからもっとだ! もっと命を、心を、分かち合おうぜ! ――そのためにも、俺はお前の笑顔を取り戻す!」

 

「いつまでも減らず口を!」

 

 しびれを切らしたマキナがアドルを取り込んでいく! 

 融合して、逃がさないためにか!

 

「…………僕も、信じて、みたいです。他でもない貴方を、貴方が言う運命を、私は――助けて、ください。私は! まだ、死にたくないと思った!」

 

「――ああ、待っててくれ。すぐに終わらせる」

 

 言い切ったアドルは完全にマキナに吸い込まれた。

 でも、そんなところに長居はさせない。パラドが俺の中に合流した感覚が走ってくる。

 

「後はお前を始末するだけだ、エグゼイド! バッドエンドの運命に潰されるがいい!」

 

〈ハイパームテキ!〉〈マキシマムマイティX!〉  〈……レベルマ~ックス!〉

 

「何度だって、果てしないから。生きていくために――どんな世界の運命も、俺が変える!」

 

「ハイパー、大変身!!」

 

〈ドッキ~ング! パッカ~ン! ……ム~テ~キ~ィ!〉

 

〈輝け! 流星の如く! 黄金の最強ゲーマー! ハイパームテキ エグゼイド!!〉

 

 

 ――まばゆいばかりの黄金の光が、陰りすら許さず迸る。靡く髪刃は星の軌跡を宿す(ライフ)。飾られた星は虚飾などではない。

 それは、すべての運命を変える希望の流れ星。決して墜落することなく、心が折れぬ限り輝き続けるヒーロー。

  

 ……完全無敵のゲーマーの降臨だ。

 

「ノーコンティニューで、クリアしてやるぜ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




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第十三話

〈ガシャコンキースラッシャー!〉

 

「行くぜ! マキナ!」

 

 ゲームスタートを宣言するムテキ。開幕、唸る波状斬撃がゲムデウスXを引き裂いた。

 神の宝盾、マキナランパートを構えるも、その豪勢全ては薙ぎ払えない。

 分が悪くなったマキナは徐に何かを取り出した。

 

「それは、エナジーアイテムか!?」

 

「これは少年が集めてきたアイテムか。エリクサー症候群が仇になったな! 有効活用してやろう!」

 

〈全快!〉〈増殖!〉

 

 マキナが使用したのはさながらエナジーアイテムの強化形と言えるもの。

 ゴッドスピードが先行プレイヤー用に与えた改造アイテムだと、永夢は推測する。

 エンデミックの如く増えていくマキナを前に、ムテキは無限ジャンプで飛び立った。

 

『くらえ! デウスラッシャー!』

 

 すべてのマキナが空中に向けて一文字を飛ばす。一閃一閃が虐殺級の威力。まともに喰らえば、ムテキでも落下だけは免れない。

 

「だったら!」

 

〈デュアルガシャット! パズルファイター! クリティカルフィニッシュ!〉

 

〈混乱!〉〈継承!〉

 

 合流したパラドクスのガシャットを拝借する。友情の一閃が目前の斬撃を弾いた。しかし、そのバックにある暴威には及ばない。

 

「それっぽっちで何が……!?」

 

 突如、暴力の方向が反転した。

 エグゼイドは光速で、切り飛ばした斬撃波にアイテムを投げ込んでいたのだ。

 その効果を得た斬撃は、無秩序に右往左往を駆け巡っていく。さらに、奔った軌道に在ったすべてのデウスラッシュが混乱を〈継承〉した。

 エピデミックの如く、広がっていく斬撃群すべてがそのまま地上に下っていく。

 数舜後、大爆発が地平線に轟いた。勢いが途絶えた頃、残るマキナはただ一人となっていた。

 

「ゲッホ! ……んなバカな! アイテムも格も、私の方が──!」

 

「ふっふっふ。使い方が脳筋じゃ俺には叶わないぜ! さあ、こっからは力比べだ!」

 

 直後、光速ワープでマキナの背後にムテキが出現。そのままマキナスラッシャーを弾き飛ばした。

 大きく踏み出した流星の波動を合図にインファイトが始まる。

 宝盾をものともせず、連打がマキナの胸を捉え続ける。辛抱も許さず、星の大振りが降り注ぐ。その軌跡すら、マキナは捉えられない。

 

「ぐっ、ひっ――!」

 

 追い詰められたマキナはマキナランパートの伸縮貫穿器を振り回した。特権により、その旋転にはドレミファビートの音符型ボムが付随する。コンボに伴い、次々と爆発するメロディ。

 しかし、ムテキは止まらない。音波は光波に届かない。うねる宝盾の根本まで瞬く間に間合いを詰め、そのまま踏み台にして飛びのいた。

 成った図は、衝撃を受けた左腕に体躯をとられたマキナと、切り裂く噴流のままに髪刃を滾らせるハイパームテキ。

 

「さあ、フィニッシュだ」〈キメワザ!〉

 

「ぐ、ギギギィ───!」

 

 大気を震わせるほどの必殺宣告。対象を捉えようと見上げるマキナ。しかし、代わるように世界が、視野が下降した。

 膝から崩れ落ちた。腕から伝導した衝撃を流せない。偽神の五体はもう、動かない。

 

「そ、んな」

 

〈ハイパークリティカルスパーキング!〉

 

「ハアアアァァァアア!」

 

 マキナが見たのは走る隕星の輝き。その空を、澄み切った心の青空をバックに煌めく足先だけが。

 彼の捉えた、最期の光景だった。

 

〈HIT!〉〈HIT!〉〈HIT!〉〈HIT!〉〈GREAT!〉〈HIT!〉〈GREAT!〉〈GREAT!〉〈HIT!〉〈HIT!〉〈GREAT!〉〈HIT!〉〈HIT!〉〈GREAT!〉〈GREAT!〉〈HIT!〉〈HIT!〉〈GREAT!〉〈PEFECT!〉

 

 

「ギャああああああああああぁぁぁああ!?」

 

「アドル!」〈究極の一発!〉

 

 消滅を待たず、爆炎を抜けて腕を伸ばすエグゼイド。

 果たしてその腕の先には。

 しっかりと、患者の心を掴む手があった。

 

〈完全勝利!〉

 

「──これで、僕の運命は変わったんですか……?」

 

「もちろん。そして、これからも。一つの命を持つ限り、何度でもだ」

 

 硝煙が晴れた頃、二人が目にしたのは雲一つない地平線。そこには陰影も、仄暗さの一片もなく、ただ。

 

 ───生きる限り輝き続ける()が広がっていた。

 

 

 

 

 

      ●●●●●●

 

 

 

 

 

 

「……それが、お前達の選択か」

 

 選別の鑑賞を終えたノアは、システムに組み込まれたゲームを起動する。

 

〈仮面ライダー■■■■■! 起動、融合プロセススタート〉

 

 新たに投影されたモニター。示すエリアはファーストステージ、『Heaven's gate』。

 そこに映るのは、交錯し続ける夢と、世界(リアル)世界(天国)で葛藤する人々。

 夢の切符を手に、選択を迫られる有象無象を前に思わず口角らしき部位が上がる。

 道標は既に示された。箱舟に導かれる人々と、向かってくる宝生永夢を心待ちにするノアに、一切の憂慮は見られない。

 

 

 

 

 

      ●●●●●●

 

 

 

 

 

 

「永夢、ガシャットを幾らか貸してくれ。俺はファーストステージの『Heaven’s gate』に戻る」

 

「ああ。みんなを、人類を頼んだ」

 

「そっちこそ。この世界に命の輝きを叩きつけてやれ!」

 

 パラドが粒子となって世界を下っていく。僕達は最後の、プレイヤーが眠る天守閣に向かうことになった。

 一分も経たずに、頂上に辿り着く。

 目に入ったのは何やらモニターを見ながらVRXを転がすゴッドスピードだった。

 

「お前の野望はここまでだ! みんなをこの世界から解放しろ!」

 

「まだわからないのか。この世界こそが絶対硬度の幸福だと」

 

「僕達は、命を無碍にすることは絶対にしない。お前の誘いに乗ることはない」

 

「お前の意思はいい。もっと大勢の、人間達の旅立ちを見届けようではないか」

 

 そう言ったゴッドスピードがモニターを拡大投影して僕達にも見えるように展開した。

 でも、そんなことより……

 

「あいつを倒したとき、ゲームクリアの音声が鳴らなかった。番場くんに感染させたゲムデウスX(マキナ)をどこにやった?」

 

 そこまで言ってから気付いた。さっき遭ったときに比べて、こいつのウイルスが活性化していることに。

 ……ゲムデウスだけじゃない? いや、そもそもどこでゲムデウスウイルスを手に入れたんだ?

 

「彼の抱えるであろうストレスは愚の骨頂であった前社長をある程度復元させるには十分だった。あとは私の方で培養すればいいのだから。これで残るVRXを取り込められれば、私は完成する」

 

「完成? お前は世界を乗っ取るのが目的じゃなかったのか。それにその言い草、今までのゲムデウスとは違うものになるつもりなのか……?」

 

 どこからか調達したゲムデウスウイルス。

 番場くんを利用して活性化させたゲムデウスX(マキナ)

 そして、ずっと狙ってたであろうマイティクリエイターVRX。

 

 これらすべてを取り込んで、一体どうするつもりなんだ?

 

「私はこの世界の創造主権だ。私が世界を満たす夢を見守り続けよう。万が一にも管理者になる私が破れてはならない。力があるに越したことはないだろう?」

 

「それは違う」

 

 卒然、番場くんが言葉を発した。

 その目はどこか、相手を憐れむようなものだった。

 

「あなたはその俯瞰できる位置から自分が作ったシステムによる人々の夢に浸りたいんだ。元々持ってた幸福論は消えたんだろう? 一人だったであろうあなたは、そうやってきっと―――」

 

「だまれ…………私の気が変わらないうちに」

 

 その言葉が最後まで紡がれることはなかった。

 優位から俯瞰に徹しようとしてる奴自身も、最早自分の正確な希望など分かっていないのかもしれない。ここでその夢を終わらせる。

 

「ならば見せてやる。私が辿り着いた力を。世界のだれもが望む最高機関! すべて余すことなく導く絶対存在! 腐敗した混沌はここで終息する。私こそが、天国を俯瞰する神───」

 

 そう叫んだゴッドスピードから、三種類のバグスターウイルスが噴出した。それらは奴の身体を軸に統合し、収まりゆく。

 背景の大樹が共鳴している。まるで悪夢にうなされる人々の悲鳴のように。

 

 そうして完成したのは、未知の侵略者のような機械と、始まりの枝木が絡み合う、等身大の新型ゲムデウスだった。

 

「お前が、神でラスボス……」

 

「そう、私こそが全バグスターを凌駕し、神の名を思いのままにし、VRを自在に操る──ゲムデウスeXX(エクス・マキナ)だ!」

 

 機械仕掛けの、世界収束の舞台装置を名乗ったゴッドスピード。それが奴の正体で、本性だった。

 でも、まだ分かってないことがある。

 

「じゃあその根源のゲムデウスウイルスは……?」

 

「言っただろう、共に見届けようではないか、と。私達の運命は、彼らの門出を祝福した後に決まるんだ」

 

「先生、ファーストステージにこいつと同じようなウイルスが、大量に!」

 

 モニターを見ていた番場くんが怯える。

 その視線にあったのは、この天守閣の方角から放たれたバグスターウイルスが、ファーストステージに降り注ぐ様だった。

 そして、その最奥で揺らめいているのは───

 

「ゴッドスピード! まさか、お前が取り込んだゲームは!?」

 

「お察しの通りだ。さあ、最期の晩餐(カーニバル)を始めようじゃないか」

 

 

 

 

 

 

      ●●●●●●

 

 

 

 

 

 

 混沌が続くファーストステージ。

 膨大なプレイヤーの頭数は、未だ留まることを知らない。

 花家大我はその窮状に顔を顰めていた。

 

 

 

 

 

 

「幸いなのはどこに行くわけでもなく、ここに全員いるってだけか」

 

 噂を信じて来た奴ら、藁にもすがるような顔でいる奴ら、ただゲームのつもりで来た奴らなど、いろんなのがいる。それを見てると、何か心に引っかかるものがある気がする。

 今、そいつらと俺たち全員が、空に広がっている夢の群集を見ていた。

 それはオーロラのように神秘的なはずなのに、どこかペンキをひっくり返したかのように奇抜で不気味で形状しにくいというか……

 

「なに? また一人で浸ってんの? どうせ寂れたあんたじゃ気のいい喩えなんか浮かばないんじゃないの」

 

「はあ? ひた、そんなんじゃねえよ! ただこの世界にどう関係してんのか見てただけだ」

 

 いきなり耳をつんざく声が横から襲ってきた。

 いつものように上から目線でいちいちうるさいニコの声だ。

 その声音にもいつものように嘲笑や憐れみが……待て、憐れみって何だおい。

 

「てかこの変な色合い、お前のリュックとそっくりじゃねえか。親近感持ってんのはお前の方だろ」

 

「はあ? 全然違うし! あんた全然ちゃんと見てないじゃん。こんなぐちゃぐちゃのと一緒にしないでよね! 大体、あんたはそういうセンスが欠片もわかってない! あんたはね───」

 

 ああ、始まった。

 しばらく国を越えて会ってねえせいでうまく接する戦術が狂っちまった。ほら見ろ。ニコの一層うるさくなった愚痴が、マシンガンのように突き刺さる。

 まあ今は良いように言わせてやるか。

 

 国が違うのにコイツがここにいるのは『Over Your World』を買ってログインしてるからだ。

 何でも変な噂が立ってるこのゲームに俺が関わると読んで、いちいち俺に突っかかるために日本から取り寄せたらしい。最初から海外展開なんてことになってないのはマシだった。ゴッドスピードも前社長と同じように日本好きだったから、この国から販売を始めたのかもな。

 まったく、呼んでもねえのに現れるなんて厄介なのもいいところだ。命を懸ける理由が増えちまったんだからな。

 ……絶対に、お前を危険には晒さない。

 

「あ~! また何か変な目で見てる。あんたがそういう顔するとき、上からなカンジになってんの知ってんだからね!」

 

「はいはい、別に何でもねえよ」

 

 ……こいつのエスパーにはもう揺るがねえぞ。

 

「そもそも、ここゲーム何だから私の方が上手いし? まあ、何て言うか、あんた一人じゃないってことね」

 

「…………」

 

「……あー悪いな、いいとこだったのに。戻ったぞ、スナイプ」

 

 変な空気になりかけたところで、パラドが戻ってきた。

 どうやらエグゼイドは無事最上階に辿り着いたようだ。今回何度も引き離されたことには参るばかりだけどな。

 

「ゴッドスピードはプレイヤーに永夢たちに向けて言ったのと同じように告知したみたいだな」

 

「ああ、さしずめこの景色は実演商法ってとこだ」

 

「ねえ、何とか言っとかないとまずくない? こんなのに惹かれてる奴らいっぱいいるんだけど」

 

 そういってもう一度見渡すと、見たことのある顔が幾らかあることに気付いた。

 あれは、身内がゲーム病で消滅した人々だ。

 ……消滅者の復元方法は未だ確立していない。喪失感に苛まれて、現実がいやになってしまったのか。

 

 それから他のプレイヤーを見遣ると何か見覚えのある、デジャヴというのだろうか。そんな感覚が俺の脳裏を巡る。

 

「何か『あーもうこの世界どーでもいいわー』みたいな顔してる人もいるね。……ねえ、大我どうしたの」

 

 ……そうだ。これは、俺が見覚えあるわけだ。

 あの、あいつらのこの世の終わりみたいな投げやりになってる顔は、そう。

 鏡に映った、かつての俺の顔と同じだ。

 

 パラドはよくわかんなかったみたいだが、俺は先行プレイヤーが選ばれた理由がわかる気がする。

 必死に取り組んでたことがあったのに、気付いたら何もない、上手くいかない、というようになってしまった人間達だ。

 何もかもどうでもよくなって、持ってたはずの熱量が曖昧になり、自堕落なところにいってしまう。

 

 俺は海外にいってそういう暗いもんを忘れようとしたことがあるが、結局うまくいかなかった。

 ましてやそういう発散すら出来ない人もいるかもしれない。

 どんなことがあったか知らねえが、アイツらはかつてのくたびれた俺と同じように絶望してるんだ。

 

 理由や背景なんてわからない。お隣とか同級生とか、上司や会社かもしれない。もしかしたら世界そのものを憎んでるかもしれない。

 俺だって、そんな風になってもおかしくなかった。ただ、心のどこかで医者を諦められなくて、幽鬼のように彷徨い、求め続けてただけだ。

 

「ちょっと大我、聞いてんの! も~ちゃんと耳通じてんの!」

 

 ならば何故今、自分は彼らと違ってここに信念を持って立っているのだろうか。

 

 色んな事があった。そもそも俺やブレイブ達の人生を狂わせたのは一人の男で、闇医者の俺はライダーに復帰して、いつの間にかチーム医療までするようになって。

 それでもグラファイトに、妄執に囚われ続けた俺は結果的にブレイブの恋人の生き返る手段を不意にした。それで檀正宗やジョニー・マキシマ、檀黎斗の脅威を退けて、ブレイブの恋人のデータも何とか消失せずに残った。

 今でも過去を振り返っては、どうしようもなくやるせなくなる俺は何故ここにいるのだろうか。俺には、今の俺にあるのは───

 

「ねえってば! 私の話聞けないの!? 他でもないこの私が言ってんだけど!」

 

「! …………ああ、そうだな」

 

 そうだ、何もおかしなことじゃない。

 

 ──コイツがいる。そしてゲーム病に苦しむ人々がいる。

 ドクターとして、コイツの主治医として確かに守りたい命があるからだ。

 俺はコイツの主治医だが、ドクターとして守るべき奴らもいる。

 それは、運命。多分、きっと、最初からじゃなかったかもしれないが、それでも…………

 

「え? ちょっと大我どこ行くの? ええ!?」

 

「スナイプ……」

 

 別に最初から生きる意味があるわけじゃない。

 でも今、此処にいる俺が、あんな顔してる奴らをほっとくのは癪だ。

 

 俺は葛藤の渦にいるプレイヤーの踊り場に向かって行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




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第十四話

【注意!】
二話同日投稿です。また、ここから近年の仮面ライダーのネタバレを含む事をご了承下さい。

【追記】
後書きがごっそり抜けていたことをここに謝罪します……
どうか見ていって下さい……


 

 

 

 

 

 

 

「──お前は、『仮面ライダー()()()()()』を利用したのか!? バグスターのお祭りゲームを!」

 

「いかにも。そこからゲムデウスをサルベージし、私の身体で屈服させた。全知全能の力は今やここにある。あらゆるバグスターの思考ルーチンも意のままに。そして──最も強大なプログラムも例外ではない」

 

 ノアは当初から亡きクロニクルではなく、幻夢コーポレーションが開発したVRゲームを狙っていた。

 その為、今までは音声や不安定な仮の姿で受け応えるしかなかった。なんせ本体は、()()()()()()()C()R()()()()()()()()()()()()()()()()()のだから。

 機会を伺い続け、小星作を呼び出し、あらゆるバグスターウイルスが保管されていると言ってもいいゲームデータをまんまと強奪したのだ。

 そこから心を持ったゲムデウスなど多くのダストデータを復元し、最も求めたものは──

 

「私でも取り込めない程の膨大な器。例えお前にムテキの力が戻っても、問題などなかったのだ」

 

 ゲムデウスが邪心のままに、幾度となく対抗することで生まれたアナザー。抱くは世界を、仮面ライダーを滅ぼす悪意。

 天敵を憎むが故に走る髪刃は銀色。血走った眼、オリジナルにないローブ。堕ちる星の残光が如き、最悪の戦士。

 

「……ゲムデウス、ムテキ──!」

 

 最凶のバグスター、ゲムデウスムテキがその邪心のままにライダーたちに迫りゆく。

 

 

 

 

 

 

      ●●●●●●

 

 

 

 

 

 

「この感じ、敵は仮面ライダーカーニバルを改竄したのか……?」

 

「パラド! 大我が何かしようとしてるからフォローして!」

 

 人々を食い止めていたポッピーが大我たちと合流した。

 しかし今、その大我は人々に声が届く壇上に登っていた。

 

「おい、お前ら何惑わされてるんだ。本気でこんなもんに取り入って自分捨てる気なのか!」

 

 天国の切符を握り、空に魅せられ続けていた人々。幸福な夢に見惚れていた人々。

 ほとんどが大我の怒号に驚き、その目線を向ける。

 

「お前らは! どいつもこいつも、どうでも良くなることばっか考えやがって!」

 

 声をどこまでも届くように張る大我。羞恥などは捨て、陰気に充てられる自分への戒めの意味も込めてその言葉を届けようとする。

 

「あんなあ、あんた。そう言うってことはわかってんだろ。私みたいなのが大勢、この夢見てる奴らに誘われて此処に来てんの」

 

「そうだ! 別に俺らの何を知ってるわけでもないのに、何演説家ぶってるんだよ」

 

 当然、いきなり現れた白黒頭に非難をぶつける者もいる。

 知ってるわけでないと言いながら主語が大きいことに少しむず痒さ感じつつも、そこか本質なのではないかと大我は思った。

 此処にいるほとんどが、帰属するべくして来たものたちなのではないかと。

 

「違う。分かる分からない、知る知らないとかじゃなくてだ。何もかもどうにかなれだなんて思うのは人間幾らでもある。それで自分すらも投げ出しそうになることも。所詮自分一人の命だからって全部無茶苦茶にしたいと思うかもしれない。色んな理由が、経緯があっただろう。でもな、全員が変わらないものがあるから、今ここにいるんだろ!」

 

 当然の事だ。人の数だけ事情はある。

 ひとえに淡々と勤めている者もいれば、直ぐに悪感情に苛まれる者もいる。

 だからこそ、今ここに同じような嫌悪や破滅、堕落の願望を持ったものが集まっていることに、何か意味があるはずだと大我は諭す。

 

「今ここで、まだ生きてるんだ。どうでもいいって思って、無茶苦茶なっちまえって思っても今、なんか生きてんだよ! 全部投げ出したって構わないと思ってるはずなのに、なんで生きてんだろうなって思う。何かが、何かがあるから此処でまだ生きてるんだ。まだ自分の大きなもので葛藤して、戦ってるから悩んで、苦しんでも生きてるんだ」

 

 解放されたい、楽になりたいと零しながらもその身をまだ投げ出してない。ゴッドスピードが誘惑する天国の門は直ぐそこにあるというのに。

 何かに突き動かされて人は生きている。まだ見つけていないものがある。此処に誘われて尚、堅く持っているものがある。

 すべて失ってもドクターを忘れられなかった大我は、そう断定した。

 

「そんな、そんな理由一つに決まってる! 死にたいとかどうにでもなれとか思う前に―――失いたくないものがあるからだ」

 

「―――!」

 

「自分の心の中にあっただろ、今も絶対に譲れないもんが! 趣味とか苦手とか癖とかこだわりとか、他人に言えないくらいの何かを持ってるだろ! その誰しもが心の奥底に持ってる何かが、俺たちを生かして突き動かしてるんだ。苦難ばかりでも、一つの命であがいてるからこそ! 譲れない、失いたくないもんがあるんだよ!」

 

 ふと、目線が揺れた。その先にいるのは、真剣に耳を傾けている一人の大事な患者で。

 どれだけ絶望に叩き落されても、少なくとも即座に身を投げたりはしない。それは、誰もが心の中に願いを抱いているから。まるで、宝箱にしまってあるように煌めくほのかなもの。

 

 かつてはその具体的なものが分からず、忘れない程度に押し込んでいた。

 しかし今は煩いほどにはっきりとした、守るべき形がある。

 どん底に埋もれても、確かに得た形があるから。こんな自分でも、此処にドクターとして在るのだから。

 

「それが何なのか、自分でわからないこともある。此処に行き着いた論理的な理由だってない。でも、本当に何も心になかったら、お前らは此処にすら来なかった。ホントに投げ出す気なら、天国なんかに惹かれることすらねえんだよ。何もなかったとしたら、誰にも気づかれず、自分すら分からなくなって孤独に消えていくだけだ」

 

「…………」

 

「でも、此処にいる。自分と同じような奴らが。苦難の中で、何かを求めてここに来た。自分の失いたくない何かに引っ張られて。そんなエネルギーを持ちながら、志すら近しい奴らが大勢横にいるってのに! 自分の心すら分かんねえまま夢なんかに身を投げ出していいのか? 生きて自分の心を知らなくていいのか!」

 

 まして、此処にいる彼らは孤独でもない。バグスターウイルスが蔓延して、命の生きようとする力と大切さを身に染みて実感してきた人類だ。

 本当は、生きる尊さを知っているはずだ。

 

「お前らは一人なんかじゃない。此処に行き着いたのがその証拠だ。砂漠に一輪で寂しく震えてるわけじゃねえ。周りの生き様に充てられて、なんか生きてるなら! …………まだがむしゃらやるのも悪くねえんじゃねえか?」

 

 そう言い切って、大我は舞台を後にする。

 医者は理不尽に脅かされる命を救うものだ。その後のことはあくまで自分で考えなければならないこともあると、大我は思っている。だが、彼らはもう独りではない。

 

 大我の話を聞いていた彼らは一様に周りに目を向ける。

 決して同じではないが、苦悩してこの世界に辿り着いた者達。それは心を打ち明けられる仲ではないが、その困難は共有できる程のもので。

 

「…………わ、たしは―――」

 

 程なくして、人間関係が上手くいかなかった者が吐露し始めた。呼応するように、職場で隅で消耗している者が言葉を紡ぐ。

 写真を撮られて居場所がなくなった者が。職場が潰れて行き先を失くした者が。いじめにより自分が分からなくなった者が。詐欺にやられて信用を失ったものが。

 プレイヤーが次々と己の経緯を吐き出していく。しかし、ただ怨嗟を重ねるだけではなかった。

 共感し、自分の経験や知識からアドバイスする者。同じような境遇に涙ぐみ、思いを交わす者。自分一人では気付けない、具体的な解決策まで提示する者。

 共に堕ちていくわけではなく、紡ぎ合って心を交わす。画面越しではなく、VRMMOという確かな実感を伴って。

 

 多くの世代の悩める人々がいる。ずっと独りで抱える者もたくさんいる。

 しかし確かに今、此処はそんな者を孤独にしない、生きるままに繋がれる場所だった。

 それはまさに独りを越えた世界(Over Your World)

 確かにノアの思惑とは違う、次元を、世界を越えた希望のコミュニティとなっていた。

 

 

 

 

 

 

 

      ●●●●●●

 

 

 

 

 

 

 

「は? …………意味が分からない。何故自分の理想を、願望を! 直ぐそこに希望があるというのに! 何故腐敗だけの世界を逸脱しようとしない!」

 

「お前本当にわかってなかったのか? お前は生きてきた命を、育んできた心を無視して、全部奪い去ろうとしてるんだ。例え永遠だとか、尊いとか……命無き地獄を、人々が選ぶ訳が無い!」

 

「だから生きてきたから、苦しんできたからこそ次の世界に進むべきなのに! 命なら永遠だ! 奪うのではなく、潜在的に育った願いをかなえられるんだぞ!」

 

「それは命なんかじゃない! ……彼らの願いは、失いたくないものは、現実(リアル)にある! それを叶えられるのは、必死に―――一つの命で生きている世界だけだ!」

 

 宝生永夢は叫ぶ。

 どれだけ困難に見舞われても。どれほど苦しみに襲われても。命が生きようとする輝きを止めることなど出来ない。

 生きてきて心に描いた証があるから。絶対に乗り越えられるから。運命を変える力が、人間にはあるのだから。

 

 一切の曇りなき眼で、一つの命を抱く人類を讃美する。

 ……その輝きに魅せられ、一つの命を賭する覚悟を決めた者がいた。

 

「だが、天国へ導かれればそれからだ。人類を誘う門の番人が直に到来する。これで、世界は!」

 

 ノアはカーニバル産のバグスターを使役していく。そのやり口は皮肉にも自身が嫌う強制だった。

 ―――それを、そんな醜態をライダーを認めた()が許すはずもなかった。

 

「それが、お前の夢と希望の末路か。その熱意だけは、次の人類に発散するがいい」

 

「え?」

 

「な、か、らだが―――!? これは、なん、だこれは!」

 

 突然、ゲムデウスeXX(エクス・マキナ)の身体に異常が奔った。

 ノアの内部で何かがラグと共に蠢いている。まるで彼の所業に憤懣しているかのように。

 直後、何かが噴出した。

 

「ああああ! …………そんな、バカなぁ!」

 

「お前は―――」

 

 それはノアが思考を書き換えたはずのバグスターウイルス。

 心まで書き換えられるはずがないことは彼の前で永夢たちが証明している。ましてカーニバルでそれを見届けた彼を制御することなど、不可能だったのだ。

 全能の役割を全うするため、彼は確かに形作られた。その手にはVRXが収まっている。

 

「……クロニクルではなく、『仮面ライダー()()()()()』のラスボスとして、奇跡を体現しようではないか。永遠なる夢を全うする人類達よ!」

 

「―――ゲムデウス!」

 

 人類とバグスターの架け橋、仮面ライダーカーニバル。そのラスボスが役目を全うするために躍り出る。

 命を持って駆け抜ける彼らを迎え入れる、バグスターの頂点が―――ゲムデウスが降臨した。

 

 

 

 

 

 

 

 

      ●●●●●●  

 

 

 

 

 

 

 

 

 クサい演説を終えた俺は、かつてクロニクルに挑んでいたという青年と話していた。

 都築隼人、クロノス攻略クエストにいた奴だ。

 

「俺、またあいつに会えると思ったら居ても立ってもいられなくて…………自分の夢で、自己満足でしかなかったのに。クロニクルの時と同じように、自分が勇者にでもなったつもりだったのかもしれない。躍らせれてただけだってのに」

 

「結局のところ、それは夢だ。お前が今まで大事にしてきた人とは違う。どれだけ充足してて甘美なもんでも、生きて実感できないんだから思うつぼだ」

 

 勇者、か。

 クロニクルを突破したエグゼイド。恋人の命を、すべての命を守るブレイブ。

 

「ライダークロニクルの悲劇は忘れちゃいけない。消滅してしまった人々は全員最後まで命のままに必死に生きようとしたんだぞ! それが未来で必ず戻ってくるってんのに、お前が待ってやらなくてどうする。全部投げ出してお前すらも消えたら、必死に生きる奴の心が忘れ去られていっちまうぞ」

 

「はい、はい―――ッ!」

 

 涙をこらえた青年は、踵を返した。後はこのゲームをぶち壊して脱出するだけだ。

 結局、俺なんかの妄言が響かない奴もいる。早々にログオフした奴もいれば、吐き捨ててログオフした奴もいる。

 まあ、冷めたにしてもこんな危ないトコに留まらないならOKだ。ただ普通にゲームしに来た奴らには悪い事しちまったな。

 

「何よ大我。かっこいいこと言っちゃってさ~! 録音しとけばよかったな~」

 

「おい、ロクでもねえこと言うな! ……お前らやってねえよな」

 

「いやいやいや! 絶対やってないよ私! 寧ろ聞き入ってたし! ねえ、パラド!」

 

「……ポッピー。リアクションでかいからどっちか割とわかんないぞ、お前」

 

 問題なのはついさっきプレイヤーがログオフすら出来なくなってしまったことだ。ゴッドスピードもとうとう本性を現したか。

 ……勇者か。あんなこと言った俺にはせめて此処から進めることぐらい、示す義務がある。

 

「てか、大我。いつもあんなあっついコト考えてんの? やっぱポエマーの名は伊達じゃないね!」

 

「……そうかもな。俺は身勝手な奴だ。ドクターでありたいと願いながら、やることなすことすべてが無茶苦茶だった。俺があっちにいてもおかしくなかった。お前が、お前らがいたから俺は…………」

 

「え、こっからダウンしていくの!? もしかしてさっきので燃え尽き気味?」

 

「……やっぱり、上からバグスターが降ってきてる。ポッピー、この感じはやっぱり……」

 

「うん。あの、ゲムデウスムテキが、来てる」

 

 どうやらここからが正念場らしい。

 ここがこいつらの言う通り仮面ライダーカーニバルなら、俺たちのプレイデータも残ってるはずだ。それを利用すれば俺は……

 

「きっとここまで来たのは間違いじゃなかった。だからこそ今も、命を懸けて戦えるんだ」

 

「え? ちょっとタイガ!?」

 

 俺はポッピーピポパポからバグヴァイザー(ツヴァイ)を強奪した。そしてもう片方の手に宿ったのは……

 

「大我そのガシャットって――!」

 

「仮面ライダーカーニバルのセーブデータに残ってたのか。お祭りゲームを利用したノアの悪手だったな」

 

「大丈夫なのタイガ!? ──仮面ライダークロニクルガシャット!」

 

 クロノスは、クロノスの力はただ蹂躙するだけのものじゃない。

 俺はその、力の強大さに惹かれ続けてた。

 でも、本来は違う。

 

「あいつらプレイヤーにあんなこと言っちまったんだ。示し合わせつけねえとな。この少しの道を示せる、伝説の勇者の力で」

 

 それは脅威のゲームに挑むプレイヤーの希望の星。

 ……もちろん俺はそんなガラじゃないが、此処まで来たからにはやるしかねえ。

 

「VR、特にカーニバルは何でもありだな……誰だ」

 

 俺たちの背後に新たなログインの反応が現れた。プレイヤーがSNSで情報を流したから反対活動があるはずだってのに、まだ入ってくるのか?

 

「──格好ついてるじゃないか、開業医。この俺を差し置いて勇者(ブレイブ)を名乗るなど」

 

「ブレイブ!」

 

 何とアメリカ行きのおぼっちゃんが参入してきた。

 忙しいはずなのによく来たもんだ。

 ……だが、もっと物騒でビリビリと気配が近づいてきた。

 

「! 何だ? 何か近づいてる!」

 

 さらに空からバグスターたちが迫るスピード遥かに上回る速さで何かが迫ってくる。

 そいつは急に粒子に分解されたと思ったら、バグヴァイザー(ツヴァイ)に入り込みやがった!

 

「何よ、何かヘンなもん入っちゃったk『変ではない』~~きゃっ、喋った!?」

 

「え? ……これって、ゲムデウスゥ~~!?」

 

「何?」

 

 ポッピーピポパポが言うにはゲムデウスが直接入り込んだらしい。見ればヴァイザーの画面にゲムデウスが映り込んでる。

 まさかこんな形で直接妨害してくるなんてな……どうする?

 

「案ずるな、永遠なる夢を抱く仮面ライダー達よ。お前達のゲームに挑む姿勢はよくわかっているぞ」

 

「お前、仮面ライダーカーニバルで倒したゲムデウスか!? でも、あれは邪悪な心に飲まれて……」

 

「……ふん、もっと邪悪で愚かしい偽神が私を良いようにするのは気味が悪いものだ。どうした、伝説の勇者になるのだろう?」

 

「は? だってこのまま大我がそれを……え?」

 

 まさかコイツ、俺達に加勢しようってのか!?

 

「直接介入するのはラスボスの名折れであるからな。授けるのは制御可能なこの力の一端に過ぎない。さあ、勇者よ。二つの伝説の力、使いこなせるかな?」

 

「大我、危ないって! VRだからってどうなるかわかんないよ!?」

 

「そうだよ、タイガ!」

 

 ……上等だ。俺はこんなところで倒れるつもりは微塵もねえ。

 クロノスでもゲムデウスでも、何でもなってやる。

 

「どうせお前は止めても実行するんだろう、開業医。だが忘れるな。俺たちはここにいるぞ」

 

「ブレイブ……ああ。安心しろお前ら。別にここでくたばるつもりはねえよ。それに、本当に危うかったら、な?」

 

「そう言われたら、俺たちに出来るのはチームプレイだけだな、ブレイブ」

 

 そう言ったパラドの手にはゲーマドライバーとマイティクリエイターVRXが握られている。パラドもエグゼイドの力の一端を持つ以上、VRXの力を少しは扱えるのかもしれない。

 ゲムデウスもやってくれたものだ。

 

「……大我。絶対飲まれんなよ! ……大我はあたしの主治医で、仮面ライダーなんだからね」

 

「──ああ」〈ガッチャ―ン!〉

 

 こいつも、プレイヤーも俺が守り通す。

 俺はバグヴァイザー(ツヴァイ)を装着し、仮面ライダークロニクルを構えた。

 

〈仮面ライダークロニクル!〉

 

「…………変身ッ!」

 

〈ガシャット! バグルアップ!〉

 

〈天を掴めライダー! 刻めクロニクル! 今こそ時は極まれり!〉

 

 時針の音が鳴り響き、開戦の刻が告げられる。

 毒々しい紋様が全身に浮かび、その眼は充血したかのように奔っている。イメージカラーはゲムデウスに染め上げられた。

 

 現実には及ばないが、ゲムデウスウイルスの負担が強くのし掛かってくる。

 ……だが、俺は檀正宗とは違う。俺は、守るものがある限り──

 

()()()()()()ゲムデウスクロノス―――ミッション、開始!」

 

 ──ライダーであり、ドクターだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




・ゲムデウス・エクス・マキナ
 機械仕掛けの名を冠する通り、世界の行く末を決める全能の力を奮う。
 完成像は唯一無二の想像力を持つ宝生永夢を取り込み、VRXを完全にモノにすることだった。

 だが、そのキーであったマイティクリエイターVRXとゲムデウスが離れたことでフルパワーを出せる可能性はなくなった。
 残留したウイルスが彼の身体を構成し続ける。
 
・仮面ライダーゲムデウスクロノス
 花家大我が変身する仮面ライダー。

 檀正宗が変身した際は『天を掴めライダー!』が使われなかった。それよりライダーで無くなった事が察せられたが、彼は違う。
 
 失わないために、守り通すために。
 生命を、自由を守る彼は、まごうことなき仮面ライダーだった。











 
 ゲムデウスはカーニバルで倒されてデレた。


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第十五話

 大量のバグスターが次々とファーストステージに降っていく。ポッピーにプレイヤーの護衛を任せ、仮面ライダーが立ち向かおうとしていた。

 

「ニコ、これを使え」

 

「えっ、これドライバー……いいの!?」

 

「ああ、VRXを弄ってドライバーだけは完全に自由になった。俺はレベル50で行く。仮面ライダーカーニバルが起動してる世界なら、お前のプレイデータから……」

 

「私もイケるってわけね! 大我、あれ! あれよこしなさい! ほら」

 

「おいっ、触るな! 引っ張るな!」

 

 いつもの調子で大我に迫るニコ。今のところ変身しても変わりない大我の様子に安堵する飛彩。そしてパラドが大我にこの戦いのキーアイテムを渡す。

 

「スナ……クロノス。お前はこれを使う機会を見つけろ」

 

「これは……だが、俺一人じゃムテキは捉えられないかもしれないぞ」

 

 だったら直ぐに駆け付けてやるよ。そう目で示した三人がドライバーを装着した。

 三者一様にガシャットを構える。

 

「さあ、天才ゲーマーNの力、見せてやる!」

 

〈タドルレガシー!〉

 

〈パーフェクトパズル〉

 

〈バンバンシミュレーションズ!〉

 

「術式レベル100(ハンドレッド)」「第伍拾戦術……なんてね!」

 

「「「変身!」」」

 

〈辿る歴史! 目覚める騎士! タドルレガシー!〉

 

〈パーフェクトパズゥル……!〉

 

〈スクランブルだァ! 突撃発進! バンバンシミュレーションズ! ……発進!〉

 

 白磁の鎧を身に纏った騎士、ブレイブ・レベル100。

 アイテムを自在に、意のままに。パラドクス・レベル50。

 そして、主治医をサポートするために砲門を担ぎ出したニコスナイプ・レベル50。

 

 四人の仮面ライダーが、今ここに集結した。

 ゲムデウスクロノスが彼方の殺意を睨みつける。

 

「俺はゲムデウスムテキを食い止める。その間に他の奴らを蹴散らせ!」

 

「オッケー。私はバーニアとガットンを。ブレイブはカイデン、パラドはモータスとチャーリーね!」

 

「何故お前にオペの順序を指図されなければならない」

 

「まあまあ、ここは天才ゲーマーNのコマンドに乗ってやろうぜ、ブレイブ」

 

「はあ? 地味にアンタたち煽る相性良いのムカつくんですけど!」

 

 微笑ましいといった感じで軽い物言いになったパラドクスがニコに詰められる。その間にブレイブは敵の頭数を確認した。

 かつて仮面ライダーカーニバルにおいて心を取り戻したバグスターはソルティ、リボル、アランブラ、グラファイト。ゴッドスピードが不穏因子を急いで除去したなら、彼ら以外のクロニクルに登場したバグスターがすべて襲い来るのだ。

 

 

 

 

 

 

      ●●●●●●

 

 

 

 

 

 

〈ポーズ!〉〈ガシャコンスパロー!〉

 

 停止した時の中で、唯一縛られない二つの影が空に飛び出した。

 片や、ゲムデウスクロノスがラブリカのバラを纏わせたスパローを放り投げた。投擲した獲物は花弁の噴流で揺らぎ、双方から迫る不可視の鋭刃となる。

 片や、ゲムデウスムテキがクダケチールですべてを消し飛ばした。小賢しい襲撃は無敵の悪意には通じない。

 

 両者ともに宿した力は全知全能。

 全バグスターを統べる王の力を振り撒く彼らは、拮抗が必然だった。

 ムテキが刀身に昏き波動を奮わせ始める。その射程圏内に下方のプレイヤ―がいることを察したクロノスがその手で呼びつけた。

 

「こい、リボルバグスター突撃部隊!」

 

 召喚と同時に放たれるドドド黒龍剣。凶悪な牙を光らせる龍波が、部隊を瞬く間に壊滅させていく。しかし下に届かないなら十分。クロノスは被爆した隊員を踏み越え、ムテキと肉薄した。

 即座に召喚した宝盾デウスランパートを押し付け、余波を裂きながら打擲する。

 それをムテキはすぐさま身体を捻り回避。対象をその髪の尖鋭で切り落とす。体勢は逆転しない。下方に晒されたクロノスに重力が加えられた鉤突きが炸裂する。

 腹部の衝撃に引っ張られ、落下していくクロノス。その好機を見逃さず、畳みかけようと無限ジャンプで仕掛けに入るムテキ。だが、それこそがクロノスの狙いだった。

 

〈ステージセレクト……!〉〈リスタート!〉

 

 突如世界が切り替わる。落ち着いた場所は静寂の白き教会。

 デバッグで使えるようになった選択で、プレイヤーを危険に晒すことなく舞台を整えた。

 ここからは消耗戦。決して心髄に馴染むことがないゲムデウスウイルスと折り合いをつけつつ、ムテキの間隙を伺うことが大我の第一ミッションだった。

 

 

 

      

      ●●●●●●

 

 

 

 

〈シャカリキスポーツ!〉〈キメワザ!〉

 

「悪いが遊ぶのは次の機会だな!」

 

 自転車を乗り回して二機を撹乱するパラドクス。小回りが利きにくいバイクを駆るモータスと、それが邪魔でパフォーマンスを発揮できないチャーリーを着実に追い詰めていた。

 

「ニコ、受け取れ!」

 

〈伸縮化!〉「まさかあんたと組むとはね!」

 

 天才ゲーマーのタッグバトル。ライダーとしての経験値が浅くとも、そのエイム力は本物。

 的確な絨毯爆撃にガットンとバーニアは手も足も出なかった。後者は飛行ユニットすらも既に破壊され、退路が断たれている。

 

〈挑発!〉〈睡眠!〉

 

「あ? あら~!?」

 

「Motors!? Buzz off!」

 

 飛ばされたエナジーアイテムは一つではなかった。〈睡眠〉を飲み込んだモータスヴァイパーが就寝したかのように停止し、バイカーを放り出す。

 不幸にもその先に走るのは〈挑発〉で進路を固定されたチャーリー。二人は見事に正面衝突し、目を回しながらパラドクスの目前に転がり出た。

 

〈パーフェクトクリティカルコンボ!〉

 

「はあぁああああ!」

 

 すかさずペダルを踏み込むパラドクス。目的地は真正面。重力を無視して、地面と平行に突撃していく。

 敵を上下に轢き裂く、弾ける車輪。竜巻の面影が見えた頃、対象は爆散した。

 

〈オールクリア!〉

 

「あ~! 何あたしより早く上がってんのよ!」

 

〈キメワザ!〉

 

 愚痴を吐きつつも砲門を固定していくニコスナイプ。

 殺意のロックオンから逃れるために二体は身を投げて回避しようとする。この距離なら、確実に当たらない。そう認識した瞬間、目の前に()()があった。

 

「──エ?」

 

〈バンバンクリティカルファイア―!〉

 

「くらいな!」

 

 伸縮化により、バリアすら張れない懐に延ばされたキャノンアーム。

 放たれた零距離砲撃は彼らの胴体を吹き飛ばし、恒常の位置にある肩部ユニットの追い撃ちで完全に爆散した。

 

〈ミッションコンプリ―ト!〉

 

「よっし、上りぃ!」

 

「やるな、ニコ!」

 

 そして、二人から離れた位置で交わる刃の旋律にも、終焉が近づいていた。

 

「ぬぅ~~……ここまで太刀筋が極まっているとは……ブレイブ!」

 

「当然だ。俺は進化し続ける。世界で一番のドクターに、不可能はない」

 

〈キメワザ!〉

 

 ガシャコンソードに装填されるタドルクエスト。騎士の構えに呼応し、対極の属性が迸る。

 一瞬その居合に見惚れたカイデンは、脚部が凍結されるのを防げなかった。

 

〈タドルクリティカルフィニッシュ!〉

 

 放出した属性の勢いを埋めるかのように、もう片側のエネルギーが増大する。

 横薙ぎ。炎の一閃が、身動きの取れないカイデンを寸分違わず捉えた。

 

「…………見事なり」

 

 切り口から消滅していくカイデン。それを一瞥したブレイブはすぐさま二人と合流する。

 

「大我がステージを変えてくれてる。あたしたちも行くよ」

 

「賛成だ。直ぐに出発する」

 

 直ぐに息の合った二人を見て浮き立つパラドクス。一方で、この場にまだクロニクルのバグスターが出そろっていないことに気付いていた。

 

「まだアイツが……ラブリカが残ってるはずだ」

 

 やはり自分のゲーマーとしての勘は捨てたもんじゃない。

 持ち出したガシャットの感覚を確かめて、パラドクスは周囲に溢れている尖兵から倒すことをやんわりと提案するのだった。

 

 

 

 

          ●●●

 

 

 

 

 疾走する本能。

 モータスヴァイパーを駆り、教会の外の死角からガシャコンマグナムを撃ち続けるクロノス。しかし、先ほどから対象は指先一つ動かす素振りも見せない。

 

 ムテキとはいえ、仕留めにこないのは不自然だ。

 訝しみつつも姿勢を整えようとした間際、一弾が捉えなかったことに気付く。

 忽然と消えたゲムデウスムテキ。光速の不覚をとったことを悟ったクロノスの軌跡に気配が現れる。

 

「ぐっ──!」

 

 すぐさま射線上から脱出するゲムデウスクロノス。伴って重厚の爆音が響いた。見遣ると、ロボットアームがバイクごと野を蹂躙した惨状が目に入る。

 顧みず、すぐさまローブを翻して勇み足で突撃するクロノス。

 ムテキはデウスラッシャーを取り出し、剣豪の如き佇まいを模倣する。だが直後、突撃してくる対象に別な尖鋭を感じ取った。

 

「…………!」〈ガシャット!〉

 

 彼我の距離が十メートルに至ったとき、その予感は確信に変わる。クロノスの背後から、数十の得物が射出された。

 螺旋を描きながら迫りくるバンズ、パティ、トマト。すべて切り落とした頃、クロノスがセットしたガシャコンソードを天高く振り上げていた。

 逆袈裟に斬り払わんと構えなおすムテキ。その切っ先が足元に向いた瞬間、クロノスの腿裏から更なる子機が飛び出す。

 バーニアのジェットエンジン。その擦れが発生させた電磁風に剣を引っ張られたムテキは、打ち合いに後れを取ってしまう。

 

〈コ・チーン!〉〈キメワザ!〉

 

 頭上から振り下ろされた伝説の剣が、遂にムテキに直撃した。

 斬り込んだ軌道に沿って鎧が氷漬けになっていく。流れを渡すまいと直ぐに振り払い、背後に跳躍するムテキ。だが着地後、その視界が突如反転した。

 

〈キメワザ! クリティカルサクリファイス!〉

〈バンバンクリティカルフィニッシュ!〉

 

「おらぁあああ!」

 

 寸前、足元に見えたのはケチャップとマヨネーズ。ハンバーガーの具と共に奥まで発射されていたそれは、的確にムテキを滑らせた。

 瞬間移動の余裕も持たさず、クロノスが斬り放ったのは大光輪と無限軌道。その二振りは地平と水平で交わり、過剰な程にエネルギーを溜め込んでいく。

 大気を震わせ十字の具象と成った瞬間、それはさらに加速した。軋む履帯の喚叫が轟いた直後、確かにムテキはその噴流に飲み込まれていった。

 

 

 

          ●●●

 

 

 

「……、……やっぱり、そう長くは持たねえ」

 

 地平線まで向かう勢いで飛んで行ったムテキを尻目に、呼吸を整えるゲムデウスクロノス。装甲、マスターマインドガードによってこちらの受けるダメージは常に全回復するが肝心の中身が持たない。 

 

 舌打ちを零す大我の脳裏には、かつてムテキと共にこの鎧に向かって行った戦闘場面が巡っていた。

 互いに決定打は一切与えられない。この展開を冗長させた場合に起こる事態を憂慮し、眉を顰める。

 そんな疲労も露知らず、キャピキャピした気配があることに大我は気づいた。

 

「大我、お待たせ! 道中のヤツら全員ぶっ倒したよ!」

 

「それで、状況はどうなってる……あまり良好ではなさそうだな」

 

「俺の見立てだと、一人が抑えに回らないとどうにもならないぞ」

 

 駆け付けた仲間達の声を聴き、緊張が解れる。独りでは成し得ないことは、チームなら達成の先にでも行ける。

 問題は、目前に戻ってきたウイルスの反応も明らかに増えていることだろう。

 

「久しぶりだねぇ、素敵なアベックさんッ!」

 

「今回は謎解きゲームじゃないので、力業で押し通らせてもらいましょう~!」

 

 追加されたバグスターは、ラブリカと数字付きハテナバグスター。

 目配せた彼らは再び即座に散開した。今度は直ぐに合流すると誓って。

 

「お前ら、これ使え!」

 

 さらに伝説の勇者より、ライダー達は新たな得物を賜った。

 

〈ガシャコンブレイカー!〉「これは……二刀だろうと、オペを完了させて見せる」

 

〈ガシャコンパラブレイガン!〉「やっぱ慣れた武器は心が躍るな!」

 

〈………………〉「……ってちょっと! 私の分は!? 何ハブってんのよ!?」

 

「お前両手塞がってんだろ!」

 

 ……ラブリカに挑むのは旧友のパラドクスと因縁のブレイブ。しかし、彼らは恋愛ゲームに付き合う気など毛頭なかった。

 

「面白い組み合わせで僕も少し羨ましいけど、どう考えても寝返るのは無理なのでゲームに溺れてもらうよ! 出ておいで、僕のラブリー☆ガールズ──ってエエ!?」

 

 現れたと思えば一瞬で掻き消えた取り巻きバグスター。仰天して振り向くとそこには、ガンから煙をたたせるパラドクス。リプログラミングは既に終了していた。

 

「悪いなラブリカ、脅威になるなら眠っててくれ」

 

「さあ、これで完全切除だ!」

 

〈〈キメワザ!〉〉

 

「ええ、えちょ、待って! 待てないのかい、ブレイブ!? そういう男は小姫ちゃんに嫌われるよ!」

 

〈ドレミファタドルクリティカルフィニッシュ!〉

 

 狼狽えるラブリカに巻き付いていく五線譜型拘束。その口まで塞がれた目前で白き勇者が空に舞い、突いた。

 無慈悲にもその心髄に一筋、極光が差し込んだ。

 

「う、う、あぁあぁぁ…………何度だって、I miss you……」

 

「……悪いが、そう何度も俺と小姫の愛を他人に見せつけるつもりはない」

 

「ちょっと手伝ってよ二人とも! コイツ全然攻撃通んないんだけど!」

 

 ニコが担当していたのはハテナバグスター。

 パラドクスはニコに3と9の部位を同時に狙わないとダメージが入らないのだと、攻略法を共有した。

 

「ていうか、お前クロニクルのバグスターじゃないだろ。何で出てきてるんだよ」

 

「はっはっは。その謎を解くのがゲーマーの役割でしょう。では、力ずくで!」

 

「やっぱコイツ何もないって! ただの脳筋じゃん!」

 

〈キメワザ!〉

 

 何か引っかかるパラドクスを尻目に必殺のチャージを完了させるニコ。

 迫るハテナにブレイブの援護、輝く光矢が刺さる。たたらを踏んだところに爆撃が開始された。

 

〈ジェットクリティカルストライク!〉

 

「全部狙ってくるの!? ……ずるいけどせいか~い!!」

 

 放たれたのはガトリングの如き弾道ミサイル。同時に数字を狙うくらいなら、全部一気にぶっ飛ばせばいい。

 天才の名に似つかわしくない、スマートな暴力があっけなくゲームを終わらせた。

 

「大我ちゃんと貸してくれてんじゃ~ん。ほんっと素直じゃないんだから」

 

「──危ない!」

 

「え?」

 

 残身の直後、今までにない衝撃がニコとかばったブレイブを襲う。

 一体何が起こった。事態を確認しようと手をついた時、彼らは変身が解けてしまっていることに初めて気づく。

 

「──大我! しっかりして!」

 

 まず見えたのは今もなお邪心が揺るがないゲムデウスムテキ。

 もう一方はゲムデウスウイルスに侵され続けた花家大我だった。

 

「いや、問題ない。ここで終わらせる! ──パラドクス!」

 

「ああ! ドライバー返してもらうぜ、ニコ」

 

 あの邪心を砕くことしか、ムテキを止める手段はない。

 天国を謳う世界での最終決戦が、今始まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第十六話

〈デュアルガシャット!〉

 

〈The strongest fist! What's the next stage?〉

 

 

 ゲムデウスが力を貸したことから、彼は半ば確信していた。

 ──このゲームを攻略する方法を。

 

「……MAX大変身!」

 

〈マザルアップ! 赤い拳強さ! 青いパズル連鎖! 赤と青の交差! パーフェクトノックアウト!〉

 

 パーフェクトノックアウトゲーマー、レベル99。

 颯爽とゲムデウスクロノスに並び立つ。相対するは邪心のままに稼働し続ける悪意の機構、ゲムデウスムテキ。

 

 徐に鐘の音が鳴り響く。

 ここは教会エリア。聖堂で周期的に音を漏らしたに過ぎない。

 しかし彼らにとっては、それが最後の幕開け。現実に程遠い夢に別れを告げるため、一斉に駆け出した。

 

〈ガシャコンキースラッシャー!〉〈ガシャコンパラブレイガン!〉

 

 不動のムテキの背後に、クロノスが粒子速度で回り込む。

 パラドクスと囲む形になった瞬間、力任せに何度も斬り捨てようと試みた。

 

「……!」

 

 ノックバックするもムテキは動かない。

 もはや避ける意味はない。敵対者にはダメージを与える手段がないと、これまでの足掻きから判断したのだ。

 気味のいい所でパラブレイガンを受け止める。刃を持ったまま後方に投げつけ、キースラッシャーを弾き飛ばした。

 そしてその勢いのまま、掌で何かを誘導する。

 

〈終焉!〉

 

「──下がれ、パラドクス!」

 

「───」〈高速化!〉

 

 間に合わないと判断したパラドクスは、即座に把握していた位置のアイテムを使用。顧みず、全速力で後方に退散する。

 何度目かの轟音が、辺り一面を震わせていく。それは、マグマが噴き上がる地獄絵図。

 強化が切れた頃、パラドクスが見たのは静謐の教会が見る影もなく炎上している様だった。

 

「なんて破壊力だ……ゲムデウスムテキ。本当に奴の隙を捉えられんのか?」

 

 立ち上がったパラドクスの前に、チャーリーのバネ推進で跳躍、上空に回避したクロノスが降りてきた。生身のままのニコたちは五線譜の旋律に乗せて元のエリアに帰している。

 二人が見遣るのはエリアとしての機能を閉ざし始めた大地。至る所にラグが入り、悲鳴を上げている。一分後にはステージが崩壊し、自分たちも元のファーストステージに戻されるだろう。

 

「まずいぞ、あっちにはまだ大勢プレイヤーが残ってる。……何かあるか?」

 

「一つだけ、ある。上手くいけば何とか抑えられるかもしれない……エリアが変わった瞬間に一斉にいくぞ」

 

 パラドの作戦を聞き入れ、体制を整える大我。

 ……終焉の世界で歩みを進めるゲムデウスムテキ。黒が漏れる踏み出しによって、遂にステージセレクトが解除された。

 

「──動かないと思ったぜ! やれ、パラドクス!」

 

「!」

 

〈マキシマムマイティクリティカルフィニッシュ!〉

 

 クロノスの力で再び召喚されたブレイガン。粒子速度でムテキを抑えたクロノス。パラドクスはトリガーを押し込んだ。

 停滞を終わらせる波動が放たれた。それはかつて彼が解放したムテキのように、一直線にゲムデウスムテキに命中する。

 

 天門の前への逆流が完了する。舞い戻ったのはセレクトした空の真下の地点。セッティングされていない、城下の平地。もはや逃げ場はどこにもない。

 ダメージは入らず、クロノスが振り放される。間もなく必殺の噴流も終了した。

 

 しかし、否応のない違和感を覚えたゲムデウスムテキは、思わず胸に手を当てる。

 邪心に触れさすまいと張られたファイヤーウォール。そのすべてが、リプログラミングによって消し飛んだ。

 残ったのは剥き出しの、声が届く距離に晒された一つの心。

 

「ゲムデウスムテキ! 確かにお前はゲムデウスが恨みによって練り上げた一つの機構かもしれない……でも、お前がムテキなら分かるはずだ!」

 

 心からの声を絞り出すパラドクス。

 ゲムデウスムテキは……動かない。

 

「ゲムデウスが倒されたとき、お前も感じてたはずだ。……邪心だけじゃない、ゲムデウスが認めたのは他でもない永夢の、ハイパームテキだった。お前はムテキでありながら、同じ力を持ったもう一人に倒された。疑問に思わないか?」

 

 ふざけるな。あんなものはタダの偶然に過ぎない。強いのは至高であるこちらだ。

 

 思わず拳に力が入る。気に食わない過去を掘り起こすパラドクスに憤慨するゲムデウスムテキ。だがそれこそ、彼が純真な思考を得られたことの証明だった。

 

「答えは簡単だ。ムテキの力は、揺るぎない心の強さを持った者が完全勝利するんだよ。お前はライダーを滅ぼすという指針しか持ち得ていなかった。だから、仕方なかったんだ」

 

「…………!」

 

 明らかに動揺したゲムデウスムテキ。

 ハイパームテキの絶対性は、装着者の心が折れない限り奮われ続ける。事実、洗脳されて悪の心のままに動いていた宝生永夢はリプログラミングで変身が解けた。そして、一つの悪意でしか動かないゲムデウスムテキもまた、揺さぶられるのは必然だった。

 心を揺らすため挑発するパラドクスだが、心の中では『もしも』が巡っていた。

 

 もしかしたら、心を実感したゲムデウスムテキも笑顔になれるかもしれない。

 もしかしたら、次の仮面ライダーカーニバルでは一緒に戦えるかもしれない。

 

 ダストデータであったはずなのに、ちゃんと感情が出てきたのがその証拠。されど、ここでは叶わない。

 希望は未来に託して、決着に向かうことにした。

 

「紅蓮爆竜剣!」

 

 突如、背後からソルティの塩塊に扮していたゲムデウスクロノスが躍り出た。

 硬直したムテキにガシャコンソードが直撃する。驚く間もなく、振り抜かれたその切っ先に極炎の眼光が奔った。

 具象化したのは、好敵手の紅き龍波。巻き付くようにムテキをせり上げ、渦になった軌跡が捉えて離さない。さらに、本体はそのままパラドクスの下に駆け抜けた。

 

「これで最後だ!」

 

 龍に飛び乗ったパラドクス。波動と共に突撃し、再びムテキに迫りゆく。

 大人しくやられるわけにはいかないと、闘志を放つムテキ。

 召喚したキースラッシャーでクロノスと火勢を薙ぎ払う。すぐさま渾身の迎撃を試みた。

 

〈ウラワザ!〉〈キメワザ……!〉〈液状化!〉

 

 すかさず踏み込み、飛翔するゲムデウスクロノス。龍と翔けるパラドクスに高度を合わせる。

 刀身に全エネルギーを集中させるゲムデウスムテキ。ダメージは通らない。真っ向から叩くことを選択した。

 

「──なんてな」

 

「───!」

 

 肉薄寸前、質量を伴った気配が増えた。

 思わず見遣ったムテキに、粒子の加速度で何者かが取り付いた。

 振り払うことなどできない。移動前、クロノスが呼び出したバグスター突撃部隊。その残党がしぶとくも現れたのだ。

 その主とどこまでも似つかわしい姿──()()()()()()()()()となって。

 

〈パーフェクトノックアウトクリティカルボンバー!〉

 

〈クリティカルクルセド!〉

 

 リボルのバグスター部隊。その心髄は()()()()()()()()()()()()()()姿()()()()こと。ライダーに標準搭載された秘匿通信機能で生存を確認していたクロノスが打つと決めていた、最初にして最後の布石だった。

 

 液状化していく龍の矛盾した爆炎を受け、最大加速するパラドクス。クロニクルのバグスターの姿が投影。その全てを御身に集めた瞬間、大気を侵し強襲するゲムデウスクロノス。

 全力を滾らせた両足が、右足が、ムテキの腹背を劇震させる。

 二方向から加わる衝撃。抜け出そうにも、隊長の膂力までもを完全にコピーした尖兵から抜け出せない。

 やがて必殺の波動は終わりを迎え、起点から全躯に奔騰し、爆発した。

 

「……、…………、──!」

 

 ダメージは入らない。だが、緊縛は終わらない。

 自身の不変性を実感し、硝煙の中立ち上がろうとするムテキに液状の龍が絡みつく。獲物を捕らえた猛犬の如き様になった瞬間、正面からモヤを晴らす波動が広がった。

 

〈パーフェクトクリティカルフィニッシュ!〉〈液状化!〉〈挑発!〉

 

 必殺の反動で立ち上がれないパラドクスが澎湃(ほうはい)たる魔弾を決め撃った。

 先程辛酸を舐めさせられた()の予感。

 二度も厄介は受け入れない。ゲムデウスムテキの()()()()()が発動する。光速の星は、自身を揺るがす攻撃を決して許さない。

 

 では、()()()ならばどうだろうか。

 

「……〈〈ムテキガシャット! キメワザ!〉〉───!」

 

 ()()()()()()()()()()<挑発>により、その着地点は定められた。

 ムテキを迎えたのは、充填完了のマグナムとヴァイザーⅡ。

 

 ──確実に、逃れられない。自身が最も嫌う力が零距離に、ある。

 

「──バン」

 

 

〈クリティカルジャッジメント!〉

 

〈ハイパークリティカルフィニッシュ!〉

 

 

 身体を貫き、飛び散っていくは流れ星。最後の審判は今下された。

 ムテキにはムテキの力。

 敵からダメージを受けることはないと、大前提を誤認していたのが、このゲームの決定打だった。

 

「……! ──! ……、…………」

 

 奇しくも先程までの新鮮な情動が安らいだのか。気の抜けたかのように、穏やかな佇まいで消滅していくゲムデウスムテキ。

 それを見届けるパラドクスは、未来の可能性に心躍らすのだった。

 

「お前にも心があるって。言った通りだったろ、ゲムデウスムテキ? ──また遊ぼうぜ」

「……ミッション、コンプリート」

 

 世界が晴れていく。光が差し込んでいく。そして旅路が開かれた。

 それは天国の門などではなく。生きとし生けるものの為に広がり続ける現実(リアル)だった。

 

〈ゲームクリア!〉

 

 

 

 

 

●●●

 

 

 

 

 

 

「──ゲム、デウスムテキが…………何故だ」

 

「?」

 

「―――何故ハイパームテキを手放してる!?」

 

 ゴッドスピードが信じられないといった感じで睨んでくる。

 そんなの、決まってるじゃないか。

 瞳が赤く輝き、ゲームを終わらせる準備が整った。

 

「仲間と一緒にゲームをクリアするには助け合いが必須だろ? ……あきらめろ、ゴッドスピード」

 

「愚かな人間め! 自らの命綱を切り落とす愚行を犯したのはどっちだ! まだだ、まだ! 私自ら、人類を……!」

 

「あきらめろ、ノア」

 

 アドルが遮った。

 もう、彼の眼に憂慮はまったくない。

 

「思いあがるな! 大体、お前こそが最も扱いやすい人種だと思ったのに、どうして狂った!」

 

「決まってんだろ。こいつも、プレイしてた皆も! 一つの命の大切さを知ってたからだ!」

 

 本当は最初から皆分かってるんだ。だから簡単に夢に溺れたりしない。

 アドルはドクターの在り方もよく知っていた。

 

「どれだけ困難でも、たくさん苦しんでも! 健康に、必死に生きようとする命がある! その命を抱いて駆け抜ける人生は果てしない……だからこそ! 一つ一つがかけがえのない、大事なものになるんだ!」

 

「……だまれえぇええええ!」

 

 ゲムデウスeXX(エクス・マキナ)が駆動し始めた。

 俺も最後のガシャットを取り出した。こいつが狙ってたのは本当にVRXだけ。奪われることなく、確実に通るガシャットだ!

 

「お前もみんなを見てわかっただろ? 運命は変えられるって。その輝きを、今からお前に見せてやる!」

 

〈マイティノベルX!〉「……変身!」

 

〈マイティノベル、俺の言う通り! マイティノベル、俺のストーリー、X(エックス)!〉

 

 純白の物語。新たな運命の黒きスタートラインが身体に走る。ノベルゲーマー・レベルX。

 運命を変えていくと決めた俺たちは、また新たに紡ぎ始める。

 

「大樹よ! エグゼイドを拘束しろ!」

 

 迫り来る森羅万象の鞭。だが、歩みは止められない。

 

「運命を変えていくために、決して俺たちは止まらない」

 

「な……!?」

 

 確かな勢いで命中したはずの木々は俺を捉えられない。

 ノベルゲーマーは進んでいく未来を決めることが出来る。

 

「夢の話は終わった。お前の絡繰りもそろそろ寿命だ」

 

 奴の機械仕掛けの身体が軋んでいく。やがて、維持も出来ず完全に動かなくなった。

 

「バカなぁあ!」

 

「命が生きる強さを知れ」

 

 明け渡されたエクス・マキナの胴体をぶん殴る。

 俺たちの生き様がそのまま質量となって、奴を吹き飛ばした。

 

「わ、たしはァア! 世界をォ!」

 

「俺たちが心のままに進む人生を、その身で受け止めろ」

 

 命中が確約される。

 俺はキメワザスロットホルダーにノベルXを差し込んだ。

 

〈キメワザ!〉「フィニッシュは必殺技で決まりだ!」

 

 励起するノベルXから、右脚にエネルギーが集約していく。

 次の瞬間、俺は空に飛び出した。

 

〈ノベルクリティカルデスティニー!〉

 

 人生を、生きていく力を丸ごと推進力に変える。

 運命の蹴撃が、奴の身体を全速力で貫いた。

 

「ァぁぁぁぁぁ…………、……てん、ごくが、わた、しの…………」

 

 バグスターの粒子がほどけていく。

 ゲーム内の全権が解放される。僕は変身解除し、番場くんの下に駆け寄った。

 

「行こう。戻ろう。果てしないけど、命ある世界へ」

 

「はい……はい! 今まで、ありがとうございました。先生!」

 

 そういって見せてくれた彼の笑顔は本当に眩しくて。

 生きるエネルギーに満ち溢れていた。

 

〈ゲームクリア!!〉

 

 

 

 

 

 

 

      

●●●

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 事態はすぐに収束した。

 夢に囚われていた人々は現実で息を吹き返し、何とか元に戻ったようだ。ゴッドスピードに加担した者達はあくまで扇動に留まっていたので、あまり大事にはならなさそうだ。

 『Over Your World』は全機回収されて、そのVR技術はまた新しい試みに転換させるらしい。あの世界で繋がったたくさんの人がコミュニティツールとして押しているから、それになるんじゃないかな。

 VRMMOの可能性は広い。今後医療にもっと役立つだろうし、もっと別の倫理的な岐路を作り出してしまうかもしれない。

 だけど、僕たちが命をしっかり持っていればきっと悪いようにはならないはずだ。僕はそう信じてる。

 

 みんなも特に症状は無く、健康にログオフすることが出来た。

 特に大我さんはゲムデウスの力を利用してたから凄く心配したけど、何回チェックしてもウイルスなどは診られなかった。ゲムデウスはゲームが終わっておとなしく退散したという。もしまた機会があれば、彼らとも仮面ライダーカーニバルで会えるかもしれない。

 パラドはガシャットが消えたのどうの不穏なことを言っていたけど、大したことじゃないと言ってどこかに飛んで行ってしまった。こっちの方が心配だよ……

 

 とにもかくにも、何事もなく平和に戻ったのは本当に良かった。

 ただ、一つだけ心残りがある。

 

「番場くん、きっと大丈夫だよね……」

 

 VRMMOから帰って来た時、彼は置手紙を残して忽然と消えてしまった。荷物もちゃっかりなくなっていた。

 他の感染者もウイルスがすべて消滅したらしいから、彼の身体はしっかり健康だろう。

 

 だけど、心配なのは心だ。

 これからも、彼は笑顔で生きていけるだろうか。……いや、それこそきっと大丈夫だろう。

 診療が終わるとそこで終わってしまう関係ではあるけれど、なんだか少しさみしいな。短い間だったけど、患者さんとあんな形で一緒にいるなんてなかったから。

 でも、おかげで僕も命の大切さについて再確認できた。

 いや、今までよりもっとすごいものだと思えた気がする。

 

「どうか彼が精一杯生きられますように」

 

 思わずこぼれ出た願い星。

 それに呼応して、今回の冒険の情景がフィードバックしてくる。

 ……VRMMO。命を越えた概念か。

 ふと、思った。もしすべての、世界の命の価値観が塗り替えられた時。僕はどうするのだろうか。

 

 ……もし本当に不可逆な概念の倒錯が起こったとしても、僕はドクターとして患者に寄り添い続けるのだろう。

 だって、それは辛い心が付随するもののはずだから。

 健康に旅立てるまで、患者さんの笑顔を取り戻そうとする……うん。僕のやるべきことは決まってる。

 

 でも、それだけじゃない。そのうえで僕は、運命を変えることを選ぶんだろう。

 一生を賭けると決めたライバルがいる。しかも、その人は患者だ。

 

 きっと、色々なものを後に託して発つときが来る。

 みんなにもちゃんと相談して、たくさん考えた後にきっと。

 後腐れなく、自分で選んで旅立つ時が来ると。そう思わずにはいられない。

 

 挑戦の応酬は終わらない。多分、僕はそんな確信を持っていた。でも、やっぱり多分だ。きっとですらないかもしれない。

 

 そして、脳裏によぎった。

 才能の旅に出ると約束した、あの人の高笑いが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




──観測完了。
 
彼らの命の輝きが、強き心が。
きっと、彼を変えたでしょう。
この世界に幸あれ。

では、最後に一つだけ。



































































この物語の主人公は、番場アドルです。


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最終話

主題:最果ての a life


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 どうしても、許せなかった。あんな奴がここにいていいわけがない。

 

 

 

 

 

 

「……まだ、だ! 私にはマキナの力が残ってるんだ!」

 

 

 

 

 

 

 わかってる。俺に決める資格はない。

 

 

 

 

 

 

「やはり、CRはわからなかったようだ……このマスターガシャットは遺伝子技術によって見た目通りのカタチじゃない! 絶対に破壊など出来ない!」

 

 

 

 

 

 

 でも、本当はそれよりも。

 

 

 

 

 

 

「この力が手に入ったのは天啓だ! 無駄には、しない! 天国は、必ず……!」

 

 

 

 

 

 

 こんな自分がいてはいけなかった。

 

 

 

 

 

 

「私が永遠に、君臨し、楽園を―――!」

 

 

 

 

 

 

 ―――この楽園から、追放する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   

♰♰♰♰♰♰♰♰♰

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……その野望は未だ途絶えず。ノアは前までの世界とは打って変わって、寂れた路地を彷徨っていた。

 まだ、終わらない。これから、始まる。

 それはさながら、錆び切った機械仕掛けの空回り。彼は既に人間どころか命ですらなくなりかけていた。

 

 では、それを見て何も思わない者はいるのだろうか。

 

「久しぶりだな、ノア=ゴッドスピード。世界の外側からの力を濫用する愚か者」

 

「―――! お、ま、お前は!?」

 

 それは、ありえない。

 まして、自分と近しい卑怯な手段を使っていた。

 本来、この世界で登場できる権利などなかっただろうに。

 

「そ、そうか! 今一度、私についてこい! お前がずっと望んでいた、楽園に導いて―――」

 

 そこまで、だった。

 声は、通らない。気圧された。

 

 少なくとも、応じるつもりはないだろう。問題は、その心中は。

 どうしようもなく、やるせなさだけが飛び交っていた。

 

「……、……」

 

 やはり、一度芽生えた信仰は、絶えない。

 でも、それは自分の見知ったカタチとはまた違って。

 一番大きかったのは、その輝きの根源を知れた事だろう。

 それで、ようやく。

 この身を捧げることを決められた。

 初めて出会った時には、捨てられたものだった。

 それでも、このためなら再び。

 

「お前の言う楽園は、独り善がりなハリボテだ」

 

「そもそもその空虚は前提から間違ってる」

 

「……なに?」

 

 仕方ないかもしれない。

 自分も、知らなかった。

 

「楽園っていうのは、それが存在するとか、創ったから楽園なんじゃない―――輝く人を中心に成り立つんだ」

 

 どうか、ゆるし……許さないでください。

 その命を。

 その心を。

 その運命を。

 

 ……俺でも分かっている、知っている、変えていけると言ってくれた。

 

 でも、違うことにする。

 

 あなたが言うのだから、蓋しそうだと思う。

 俺にも、その可能性が……変えられる運命があると。

 

 ―――赦してください。

 

 生きる。この瞬間にすべてなげうって。

 この死に体でも、心があるのなら。

 どうか、振り切らせて。

 ……ごめんなさい。利用します。

 

 

 あなたの変えてくれた運命に、俺を見送ってくれたことに背いたら……その背信は、きっと―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――悪意、だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〈エデンドライバー!〉

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――な、に?」

 

 線路を、進路を固定するためレバーを引き下ろす。則して、覚悟を承認した音響が連続する。

 

「……創ろうとするまでもなく、この世界は楽園だった。俺は、声高に叫ぼう。そんな輝かしい世界に、踏み入っていいわけがないと」

 

 ああ、何度目の命なんだろう。

 アバターに命を感じず、無駄にし続けた時点で許されないのに。

 

 ああ、何と因果なものだろう。

 この世界のゲームが、ここまで

 

 ああ、何で俺なのだろう。

 どうして俺は、あの輝きに出会えたのだろう。

 

〈――ルシファー!〉

 

 そんなことになれば、わかっていた。この瞬間を持って、命の限りを放つというのに。

 

「…………変身!」

 

〈プログライズ! ……アーク!

 

 

 

〈The creator who charges foward beliveing in paradise.〉

 

〈"OVER THE EDEN."〉

 

 

 楽園追放を告げる、終末のカウントダウン。

 お前はこの世界の命ではないだろうと、戒めるかのような温度無き骨組み。

 その罪を。他でもない自分の手で告白するために。

 ――その(こうべ)を差し出し、砕かれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   ♰♰♰♰♰♰♰♰♰

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今もなお、俺は世界に怒りを抱いてしまっている。

 そんな自分が……先生が変えてくれたのに。嫌になる。

 

 でも、今はそれくらいがちょうどいい。そうでもないと、がむしゃらにやってやれない。

 

〈サウザンドジャッカー!〉

 

「お、お前は―――!」

 

 不意の振り上げを回避してくるノア・マキナ。

 ……やはり、腐ってもナノマシンとウイルスの複合体なだけはある。例のマスターガシャットとやらも、それを利用しているようだ。

 

「お前は、仮面ライダー―――!?」

 

 こちらの思惑を漸く澄み取ったらしい。だが、もう遅い。

 

〈ヒット! クラウディングエナジー!〉

 

 大剣はブラフ。振り下ろした勢いを殺さぬまま、短剣をアンダースローした。

 真っ直ぐにガラクタの胸に突き刺さり、効能が発揮される。

 

「……そうだ。この限りは!」

 

「なんだ! この、気味悪い煙は!?―――こ、マスターガシャットが!?」

 

 差し込まれた切っ先から、噴出する死の濃霧。凝縮されたナノマシンが奴の身体に溶け込んでいく。

 それは悪意のままに心髄を犯し尽くし、心臓部のマスターガシャットを完全にスクラップにした。

 

「き、サマはあぁあああ!? 何ということを! ……選ばれたというのに! 何故その権利を無碍にする!」

 

「……もう、いい。お前も…………俺もな」

 

 大剣を地に突き刺し、生身のまま突っ込んでいく。

 直後、拳の応酬が始まった。叡智の、夢のカタチがひしゃげていく。何度も、何度も。奴の心臓を捉え続ける。

 

「ぬ、うお、おおおお……!」

 

「じゃ、まするなあああ!」

 

 馬乗りの体勢になって尚、抵抗を続けてくるノア。

 それは死とともにその時が、硬度が止まったルシファーの外骨格には響かない。

 しかし、身体が。限界値を超えているのは俺の、俺自身の体だった。

 

「―――グ、ぎいっぎ、ュらrrrrrrあrあアアrァアアァ!?」

 

 言葉に届かない、悲鳴がこみ上げる。

 この身はナノマシンとはまた違った、限りなくヒトのもの。命無きアバターとはわけが違った。無数の悪意が、身体を壊していく。

 腕が、ベクトルを無視してうねる。

 脚が、神経を嘲笑ってひん曲がる。

 

 それでも纏った死装飾が、強制的に躯体を維持し続ける。

 まるですべてぶつけるまでは逃がさないぞと、宣告しているかのように。

 

「あ、ぁああ! 私の、コアがアあ!?」

 

「ひィ、ひっ、ひひrい……と、っ取ったアぁあああ……ァァァァァぁ……!」

 

 殴って、裂いて、潰して、掻いて。

 ゴミ山を荒らし続けて、ようやく得物を取り戻した。奴のコアを傷つけた剣からキーを引っこ抜く。

 しかし骨の髄から砕けていく感覚に侵され、そのままたたらを踏む事すら出来ずに後方に投げ出された。

 

「う、ああ、アアアアアァァアアァァ―――!」

 

「この、お前は、なぜそこまで」

 

 ふと、気付いた。

 俺たちの慟哭を裂くかのように、ボトボトと雨が降っている。

 いつもなら、傘と擦れて響く雑音にいちいち不快になるのだが。

 今はどうにも、運命の岐路を用意されたようにしか思えない。

 

〈Progrise key confirmed.Ready to break.〉

 

「フッ、ひィ、は……はあ」

 

 転がった先の杖。  

 突き刺したジャッカーを支えに立ち上がり、戻ったキーを装填する。

 

「なんで、なんでだ!」

 

「…………もちろん、楽園の為さ……」

 

〈Thousand rise!〉

 

 ……いよいよ走馬灯が走ったのか。この世界で目覚めた時から今に至るまでの記憶がほとばしる。

 ただ、その中で感じ取れたのは。

 輝き続けるあの人に決まっていた。

 

「わかったのさ、俺でも。楽園は、心を抱いて生きようとする者の前に顕れる」

 

〈THOUSAND BREAK!〉

 

 杖替わりにしていたのを、力任せにぶん投げる。

 もう、ここからは自分の脚で。

 投擲物は寸分違わず奴を捉え、ナノマシンをまき散らしながら再び心臓を抉る。それはそのまま溶け出し、纏わりついていく。

 ……もはや、アレすらも醜い心の残滓なのだ。

 

「ブッ、ああああああああああ!」

 

「そして最も輝く者が居てこそ、その人がいるからこそ―――その人が笑う世界が、楽園だったんだ」

 

 ドライバーを、最後のキーを押し込む。世界を越える門の扉を、開いた。突き刺さる雨が霧消していく。

 掌に、足裏に、飛び立つ為の骨流が渦巻いていく。そして、それは背側に励起していった。

 ……不思議なものだ。骨粉が巻き上がったはずなのに、ソレは真っ白に染まっていって。

 やがて、この身に相応しくない翼へと成った。

 

 …………ありがとう、先生。

 許さないでほしい。赦されなくていい。

 楽園はもう、観た。

 あれは、あれだけは……消えてはならない。

 私は、ここに居てはいけない。あの楽園を、俺が守れるのなら。

 

 ―――全力でこの命を駆け抜けよう。

 

〈パラダイスインパクト!〉

 

 その翼のはためきのままに、この身は空へと還っていく。

 然れど、この身は罪過にまみれるが全て。一直線に脚から地上へ堕ちていく。

 もはや、身体の軋みすら掻き消え。きっと、遍く命すら失せ。

 曇天だったはずの空から、一筋の光、進路が指され。

 

 やがて、その心すらも―――いや、唯一それだけは。

 

 間もなく、私達は――

 

 

 

 

 

                

アアアアアアアアアアアアアアアアアアア
アアアアアアアアア
アアアアアア
パラダイス 
 インパクト
アアアアアア
アアアアアアアアア
アアアアアアアアアアア
 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――楽園から、追放された。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……そうしてその路地から、その世界から。

 本来有り得ざるナノマシンは完全に痕跡を絶った。

 やがて、空も元の青きを取り戻していく。

 

 後に、残るのは、白いたった一枚の。

 

 

 ―――罪と心を背負って旅立った者の、生き抜いた証だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 




 ――ここまでご観賞下さり、本当にありがとうございました。
 誰かが見守って下さることにより、世界は強度を、存在感を増していくのです。
 たくさんの奇跡がこの物語で起こったと思います。
 しかし、この世界に下される◼◼を伝えられるまでは――





番場アドル

・番場
→輓馬
=車を引かせる馬。案内だけで楽園の居住権などない。

・アドル
=「正義」「公平」「誠実」

・番場アドル
→バアル、アバドン
→ベル


その他

・エグゼイド世界のシンクネット幹部がその欲望を見込まれ、各層のエリアボスに就任するという因果な事態になった

・ノア=ゴッドスピードは本来このゲームを発売するに至らない。ナノマシン技術を利用出来ず、リプログラミングを提供されないからだ。

・残る干渉対象……仮面ライダーは、ただ一人。
















 ……目覚めた時、彼の元にあったのは仮初の身分証明道具だけではなかった。その身をその世界に設置した何者かにより、エデンドライバーをも授けられていたのだ。
 紆余曲折あってゲーム病に感染した彼は、永夢に遭遇する寸前にそれを草むらに投げ出してしまっていた。
 それまでにその力を使用しなかったのは、意味不明な環境に設置されたことと一度逮捕された事が大きいだろう。
 そして宝生永夢と出会った後の顛末は、ご存じの通りである。
 
 彼はその命を心のままに、確かに生き抜いたのだ。























―――『P.S. 紡がれしソレが始まり』解放予定。




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P.S.───

【注意!】
この物語は前回完結しました。
ここから先は今後の活動の軸の一つにする為の、個人的かつ蛇足気味なものです。

これから何度も編集しに来るでしょうし、稚拙で曖昧なものです。
それに、これを回収できるかすらもわかりません。
 
とにかく規模などが変わります。
それでも、あくまでも本編のおまけみたいなものだと思ってくれる方は見てみてください。






でも本編の裏話はここの最後と活動報告に載せたので見て欲しいです(強欲)











決して、交わってはならない───


 

P.S. 紡がれしソレが始まり

 

 

 

 

 

●●●

 

 

 

 

 

「……で、あんたはものの見事にその堕天使とやらの凱旋を達成させたワケ。ごくろうなこった。そんな状況に置かれた人間が、どんな行動にでるかなんてわかんないのによくノせたじゃないの」

 

「はい、その通りです。ですが我々は人間の可能性を信じています。そして、仮面ライダールシファーは自分自身の能力を最大限解放しました。予測を大きく上回る結果です。だからこそ、我々はレベルアッピングエグゼイドを完成出来たのです」

 

「……そう。本当に、ごくろうなこった」

 

 ――できる限り適当な返しをしてるが、そろそろ限界かもな。

自分、九条貴利矢はそう内心で顔をしかめた……つもりだが、外にでてるかもしれないな。仕方ないだろう、こんな荒唐無稽な話を聞いて飛び上がらないだけ褒めてほしいぜ。

 だいたい何だって? 計算をもとに理論で動くハズの知能の行動指針が人間の可能性を信じるだぁ? ……無茶苦茶な話だぜ、ホントに。

 だって、それはまるで運命を変えられることを信じているような……よくもまあこんなのが自分のところにコンタクトしにきたもんだ。

 

 

 事の始まりは二週間前だ。再生医療センターでバグスターウイルスで消滅した人間が復元される新たな可能性が見つかったとのことで、自分はソコに飛んで行った。

 それが人工知能搭載型ナノマシン。正直、自分の専門外だったので上手く解釈できているか解らないが、要は消滅者のデータを知能を持ったナノマシンに読み込ませ、ラーニングさせる。そしてそのデータをもとあったカタチ、つまり人間の身体をナノマシンが再構成していくらしい。しかし、それで復活するのはナノマシンが人間の模ったもの。完全な復元とはいかない。

 そこでかみ合うの聖都が誇る再生医療センターの医療だ。今まで培ってきた遺伝子の組み換えや再生なんかの技術でナノマシンを人間の遺伝子に置き換えていく構想らしい。

 このプランが成功すれば、本当に消滅者が救われる。そう関係者は期待していたんだが、ユニットリーダーの紗衣子先生は怪訝に思う点があったらしい。

 

「九条先生、お願い出来ないかしら……」

 

 なんと、そのプロジェクトの立案者との連絡が途絶えたのだ。当然そんな重要人物がいないとタイヘンなはずなんだが、協力先のヒト達は問題ないとしか言わないという。

 人類を救えるかもしれない大切な機会だ。少しでも不安を残したくないという先生は自分に調査を依頼してきたのだ。

 自分は先生の信頼に応え、色々嗅ぎまわってたんだが……調べていくうちにだいぶキナ臭い事情が浮かび上がってきた。

 

 ナノマシンの開発に協力してくれる相手は聖都の医療機器メーカー、メディクトリックのはずなんだが従事者にきくと齟齬が出てきたのだ。彼らは確かにその分野に長けているが、そこまでの精度を持つ人工知能はまだ構想していないと言う。

 それは、おかしい。だってそもそも考えていないというなら計画を持ち掛けたのは誰だというのか。インタビュー相手もそこまでの事情は知らない立場だったようだし、機密保持も絡むのはわかるがこれは黒だ。

 紗衣子先生らの協力先のヒト達はどっちかっていうと取引先を失いたくないがために立案者の行方が分からないのを誤魔化してるしてるカンジだ。彼らも不意にされないよう必死なんだろう。とにかく、黒いのは立案者だということだ。

 

 しかし、事態は素っ頓狂なことになっちまった。

 立案者と再び連絡がつながったのだ。が、彼はそんなプロジェクトは知らないし、構想していないと言い張った。実際ナノマシンの技術はそこまで進んでいないかったらしいし……もう無茶苦茶だ。

 プロジェクトはご破算になってしまった。肩を落とす紗衣子先生が気の毒で、自分はもう少し調査を続けることにした。

 

 どうやら立案者は失踪していた期間の記憶がないらしい。彼の自宅のカメラではベッドに横たわる姿がバッチリ映っていた。しかし、メディクトリックでは目撃情報がある。工作の可能性もあるが、立案者の証言を信じるなら大分ゾッとする話になる。

 誰かが、そっくりさんが入れ替わってメーカーに普通に出入りしていたことになるからだ。結局さすがの自分でもそれ以上は深く探れなかったが、何かイヤな予感がした。

 どこかで“ナノマシン”従事者とすり替わったやつがいる。持ち掛けられたプロジェクトはよく出来たものだった。特に“ナノマシン”の部分は。

 ……昔はSFなんて信じないタチだったんだがな。それよりもっとぶっ飛んだゲームに挑んできた自分は、どうにもヘンなものを感じずにはいられなかった。

 

 そして更に大問題が起きた。

 

「何? ゴッドマキシマムマイティXを弄られた痕跡があった、って……」

 

 情報を共有する為に舞い戻った自分に、紗衣子先生は信じられないことを告白してきた。監視カメラが改ざんされてた時間帯があり、調べていくうちにわかったと言う。おそらく、というか確実に例のプロジェクト中にやられたはずなんだが、ヤバい。

 だってゴッドマキシマムは再生医療センターが総力をかけても未だに解析しきれていない業物だ。それを一度の侵入で、ちょいと触れるだけで機能を抜き出したなんて……使用権限がある者が触れたとしか思えない。

 …………神。お前なのか。

 そんなことを考えながら神妙な面持ちで帰路についた自分だったが、遂に怪現象に巻き込まれた。いや、正確には今までの事件と関係ない、もっと見知ったものだったんだが……

 

「な! …………ここは、檀黎斗の実家? いや、ゲームエリアか?」

 

 突如周囲が歪んだと思えば、いきなり自分は豪勢な屋敷に飛ばされていた。永夢達が言っていたことからここは……『謎解きラビリンス』のゲームステージだ。

 

「久しぶりだな…………九条キリヤァ!」

 

「―――! 檀、黎斗……」

 

 そして、目の前にバグスター特有の粒子が組みあがり、ヤツが……檀黎斗が現れた。

 

「……こうやって自分のところに出てきたってことは、いよいよ答え合わせってカンジか? 黒幕さんよ」

 

「まあ待て。君が逸るのも分からなくはないが、今回直々に登場したのは別の理由でね。……この私のゴッドマキシマムを、不正に利用するなんて許せない! 許せないぞォ!!」

 

「は!? えだって、お前が……え?」

 

 突然現れたと思ったら、急にドアップで発狂し始めた。

 コイツが犯人じゃないってのか!? …………よくよく考えればゲームとは全くもって関係のない事件だし、この形相はガチだ。曲りなりにもコイツとつるんできたから、そのぐらいわかる。

 とすれば、この誰にも邪魔されなさそうな空間にわざわざ呼んだのは……

 

「だが! 生憎私の次回作をお披露目するのはまだ先だ。そこでかつて利用した謎解きラビリンスを使ってこの世界に脱出してきたというわけさ。例のゲームにハテナバグスターを侵入させ、倒させた。それで脱出プログラムが作動したのさ!」

 

「やっぱり今のお前はこのゲームに登場するに留まってる。後ですぐにスクラップだな。……お前が簡単に介入出来ないなんて、一体どんなおっかないヤツなんだ?」

 

 悔しいが、コイツはいつどこで湧いてくるかわからないゴキブリみたいな部分がある。そんな神がゴッドマキシマムを外野に利用されてすぐに憤慨してこないのはおかしな話だ。

 しかも、誰かに囚われていた節の発言だぞ? 一体全体どうなってんだ。

 

「ん? そのゲームってのは……」

 

「決まってるだろう。今世界で発売されているマキナビジョンのクズが創ったゲームだァ! 自分の力ではなく、私のゴッドマキシマムを利用するなんて……!」

 

「! そいつが自分が追ってた事件の黒幕でもあるってのか!?」

 

「そうだ。だからこそ君に依頼しようと思ってね。もちろん協力してくれるだろう? 君の追っている事件にも関連してるのだからね!」

 

「…………取り敢えず、お前が知ってることを教えろ」

 

 まさかまたコイツと共同レースになるとはな。

 そこで出た情報を纏めると、今永夢達が挑んでるゲームの黒幕が何者かに遺伝子やナノマシンの技術を提供されて凶行に走ってるって感じだ。

 くそっ、調査に夢中で永夢達との報連相を怠ったのが仇だったか。

 とにかく、自分はやれることをやるしかない。その何者かってのが再生医療センターとメディクトリックをかき乱してゴッドマキシマムからリプログラミングなどのデータをコピーしたのが問題だ。

 

「実は既にゲームに挑む彼らにささやかなプレゼントを渡していてね。人づてになってしまったが、パラドなら上手く使ったのだろう」

 

「? へ~、珍しくノリがいいじゃんか神。きっとあいつらも助かってるぜ」

 

「―――! どうやら私はココまでのようだ……ってふざけるなァ! 九条キリヤァ! 私の遺伝子をも利用したヤツらを許すなァアアァァァ―――l

 

「…………消えちった」

 

 疑問点はあるが、それを確かめる間もなく謎解きゲームの世界が崩壊していく。目の前の神も同様だった。

 ヴァイザーⅡに吸収されるときみたいに粒子となって世界とともに消えていった。

 気が付けば自分ももとの現実に放り出されている。

 自分は一目散に幻夢VRを管理する場所目掛けて駆け出した。

 

「貴利矢さん! 全然連絡取れなくて心配してたんですよ! 元気そうで良かった」

 

「そっちこそ。早速だけど今回の冒険談、聞かせてくれよ」

 

「あっ、その前に。……番場くんは?」

 

 ちょうど戻ってきた永夢から自分は今回の騒動の顛末を聞き出した。色々ヤバいことはよーくわかったが、とにかくよく頑張ったもんだ。

 永夢の協力者になってくれた患者と、黒幕の姿が無くなってるってのが妙な点か。前者は速筆で感謝の念が込められた手紙を残しているが。

 自分は早速そこを調査しに行こうとしたんだが……

 

「レーザー、ちょっと話が」

 

「おっ、パラドもお疲れさん。んで何だ? ガシャットオリジンの事か?」

 

「ああ、その事なんだが……あれは本物じゃないんだよな? 一度使ったら効果が消えていったんだよ。紗衣子先生に伝えといてくれないか。俺は永夢達と事態の収拾つけてくるからさ」

 

「…………ああ、任せろ」

 

 ……自分はパラドから効果を失ったガシャットをもらい、紗衣子先生の下には寄らずに事件のキーとなったであろう二人の事を調べ上げた。といってもノアってヤツの方は野心家だったで片付けられるが、番場アドルの方が奇妙だった。

 まず、戸籍が存在しない。白髪先生によれば身分証明になる道具を多数持っていたようだが、偽装の為だったとは。

 だが、どうにも本人はいきなりこの世界に放り出されたって感じの動き方だったようだ。まあ、この喩えも大分ぶっ飛んでるが、自分の勘と経験上こう思ったんだから仕方ない。

 バックに何かがいて、そいつが色々与えて放置したってのが通るスジか。……まるで観察してるみたいだな。

 

「黒幕と一人間を唆して、大多数の人間を巻き込んだが……何が目的だったんだ」

 

 だってこんな事をすれば、どうなるか黒幕は分かってたはずだ。俺たち仮面ライダーが直ぐに駆けつける。ノア=ゴッドスピードはVRXが目的だったようだが、それにしてもおかしい。

 特に永夢に、エグゼイドに敵うことないのは分かるだろうにな。

 万が一を考慮した永夢は、最初VRXを奪われて似た力を持つノベルXを使わなかったようだが、結局ノアは存在すら知らなかったんだ。ハナから勝てる道理はなかったわけだ。

 援助して扇動した黒幕は何がしたい? ……エグゼイド達の戦い自体が目的なのか?

 

 そして、衝撃的な事実が発覚した。

 ある地点でバグスターウイルスに感染した者が消滅した痕跡があったという。普段なら滅茶苦茶やるせなくなるんだが、その反応は二人いた内の一人だけだった。

 そしてそれは永夢たちがVRMMOから帰ってきた日と一致してる。

 極めつけは自分が調べてたナノマシン技術の反応があった事だろう。彼らで間違いない。最後にこうなることまで、黒幕は予測してたってのか。自分は元々受け持った事件を改装した。

 

「今回の事件の結果はメーカーや再生医療センターを翻弄しただけではあるが、永夢達の事件と関連するとしたら──本当に未知のナノマシン技術が……?」

 

 ──そうやって、一人で考え込んでたのがまずかった。

 意識を失って、覚醒すれば0と1ばかりのヘンな空間にいた。結果、自分はこんなワケわかんない声ダケに圧迫面接されてるんだからな。

 

 

 

 

 

●●●

 

 

 

 

 

 自分はコイツの計画の全容をフワッと聞かされた。仮面ライダーのデータ収集が目的で、数多くのフォームを観察する為に事を扇動したという。

 それと、遺伝子医療の技術を拝借する為でもあるとか物騒なこと言ってたな。

 

「お判りいただけましたか、仮面ライダーレーザー。私たちはデータを収集する為に貴方たちに接触したのです。予測通り、犠牲者は誰一人出ていません。しかし、ご迷惑をおかけしました」

 

「──いい加減にしろよ」

 

 もう限界だ。ふざけんのも大概にしろ。

 

「やりたい事は何となくわかった。アンタがまだいろいろ隠してることも。……でもな、犠牲者は! お前が扇動したヤツらは! どうなんだ!」

 

「やはり貴方は話を分かってくれている。はい、貴方の疑問ですが問題ありません。ご二方はあくまで私が用意した仮初の存在だと言えるからです」

 

「…………仮初?」

 

「あなたのご推察通り、私が煽った結果ではあります。暫し、耳を傾けて下さるとありがたいです」

 

 そこで説明されたことで、自分の怒りは不完全燃焼なとこに行っちまった。

 まず、番場アドルこと仮面ライダールシファーはこのエグゼイド世界の遺伝子医療技術とこのAIが持つナノマシン技術を基に再現した数日間の生命、肉体だったらしい。彼の意識や思考をコピーし、この世界の番場アドルという肉体に飛ばし、事の成り行きを本人に委ねていたらしい。

 あくまで仮面ライダールシファーのデータが欲しかったようで、いや十分酷いことやってるんだが……

 

「じゃあ、ノア=ゴッドスピードはどうなんだ。あれもまた、別の倫理の抜け穴を使ったのか」

 

「彼は私たちが接触する以前より自らバグスターウイルスに感染し、人であることを捨てようと画策していました。本来なら既にバグスターと化していました。これはどの予測においても変わりません。だからこそ、運命を永らえさせることに踏み切って彼に迫ったのです。そして、本来の流れ通り、今の彼は消滅者。何れかのガシャットにデータが保存されているでしょう。……ノアズ()()()。彼もまた悪意に飲まれた者の一人だったのです」

 

「…………そうかよ。でもさあ、アンタ自分に全然喋ってくれてないんだよな」

 

「…………」

 

「まずさ、ガシャットオリジン。コレ、渡して来たのはアンタだろ? パラドがいいタイミングで真相に近づけるようにしてたんだ」

 

 コイツは大事なトコを省き過ぎだ。

 パラドが永夢の下に駆け付けられたのは、永夢が運命を変えたこともあるが、情報を聞き出して再びログイン出来たことも大きい。何よりパラドはガシャットを紗衣子先生にもらったと言ってたが、先生がそんなもん持ってるわけがない。例のプロジェクト立案者みたいに擬態して渡してたんだ。

 そして、檀黎斗が渡したと言ってたがそれもあり得ない。そもそも謎解きラビリンスを使って自分に接触してきた時点でウソばっかりだ。

 ハテナバグスターを倒させて脱出する以前にどうやってガシャットオリジンを渡したんだよ。ノベルXみたいにドローンでもおかしくないが、あの言い方は直接託したって感じだ。矛盾してる。……だとすれば。

 

「あの自分に接触してきた檀黎斗もアンタが用意したニセモンのAIだ。正直ここに来るまで確信が持てなかったぜ。あんな情報を匂わせることしかしてなかったとはいえ、結構そっくりだったからな。さしずめ、偽・檀黎斗ってことだ」

 

「半分正解、半分不正解と言えるご推察です。確かに貴方が逢ったのは用意したAIですが、流れている遺伝子は本物です」

 

「……! いや、おかしくないな。アンタが神の遺伝子を持ってないと、ゴッドマキシマムの使用権限を突破できないもんな」

 

 どこでそんな物騒なもんゲットした知らないが、アレを自在に使えるのは神本人だけだからな。一瞬忍び込んだだけで機能をコピーできるのは合点がいく。

 だが、それに憤ってたあの神自体がコイツの扮した偽もんだったってことは……

 

「そして、その空っぽになったガシャットですが……私が複製したものです。誰よりも身近でデータを収集するために」

 

「ガシャットを、複製? ──身近にってまさか! これはリアルタイムでお前と繋がってたってのか!?」

 

「はい、間もなく自壊しますが。もう必要がないですから。──後は直接収集すれば良いのです」

 

「──!」

 

 突然、接続を切られて現実に放り出された……いや、現実じゃないのか? 周りに少しは居たはずの人が全くいなくなってんだからな。

 ……ヴァーチャル・オペレーション。これは自分の頭の中で見る夢を操って、介入してきてるんだ。

 かつて、神が自分に見せてきたらしい悪夢みたいなもんだ。ずっと前に嫌がらせで本人がバラしてきた。最悪だよ。

 

「まさか、アンタの狙いは──」

 

「残る未干渉の仮面ライダーは貴方だけです、レーザー。付き合ってください」

 

「そんな無理やりレースはゴメン何だが──わっ、わ!」

 

 だからずっと自分のことをライダー名で呼んでたのか、ってそれどころじゃない! 

 空から目の前に、何かが旋回しながら降りてきた。まるで最速で獲物を捕獲するような──その身に爆炎を纏って。

 

〈Burning Falcon!〉

 

〈───"The strongest wings bearing the fire of hell."〉

 

「な……仮面ライダー!?」

 

 目の前に降り立ったソイツから、炎のベールが弾け飛んだ。

 露になった姿は、不死鳥を思わせる真紅の戦士。どこまでも捕捉した対象を逃がすまいと複眼を吊り上げてるように見える。何より、飛行速度が尋常じゃなかった。ハヤブサの名は伊達じゃなさそうだ。

 

「って、お~い。自分はエサじゃないんだよ。な? 一旦落ち着いてくれよ」

 

 そう宥めた瞬間にヤツは全速力で突撃してきた! 思いっきり横に身を投げて、即座にゲーマドライバーを装着する。

 

「おおッと!? 聞く耳なしって感じだな!」

 

〈爆走バイク!〉

 

 起動。すかさず慣れた手つきでドライバーのスロットにガシャットを装填する。

 

「ゼロ速、変身!」

 

〈レベルアップ! 爆走バイク~!〉

 

 レーザーターボ・レベル0に変身完了だ!

 

「ノせられたけど行っちゃうぜ~、てあぶ、あぶね!」

 

 超低空で足を掬うつもりなのか、何度も凄い速さで突っ込んでくる──まずっ、とられた!

 

「仮面ライダー迅の速さに着いていけますか、レーザー?」

 

「ぐっ! 外野の口出しは無用だぜ!」

 

 なんて言ったが、一度絡まれたら抜け出せない。周りを旋回してどんどん上空に打ち上げてくる。身動きも取れずに、ライダーゲージが擦り減っていく。冗談じゃねえぞ!

 

〈ガシャコンスパロー!〉

 

〈ギリギリクリティカルフィニッシュ!〉

 

「──!」

 

 弓モードのキメワザで無茶苦茶に双刃烈波を振り撒いた。それは一度空中に留まり、具象化。一気にハヤブサ目掛けて降り注ぐ。 

 逃がすまいと今度は自分が炎を耐えつつ抑え込む。自分ごと命中させた矢の豪雨のせいで、二人で近くのビルの屋上に落下してしまった。

 

〈ジェットコンバット!〉

 

「爆速!」

 

〈ガッチャ~ン! レベルアップ! アガッチャ!〉

 

〈ぶっ飛び! ジェット! ドゥ・ザ・スカイ! フライ! ハイ! スカイ! ジェットコ~ンバット!〉

 

〈インフェルノウィング!〉

 

 横着する間にレベルアップを完了させる。神がくれた二本目のプロトコンバット。改良版らしく、早死にのデメリットはオミットされてるらしい。

 ベルトを剣に変えて滾らせ、再び飛び立とうとするハヤブサに全速力で加速、突撃する!

 

「―――やっぱりな!」

 

「―――!」

 

 さっきからコイツの飛び回るスピードは、比喩でもなんでもなくマッハレベルだった。

 だが、コイツが飛び立つスピードとこっちの急加速でなら、(まさ)る。

 最大出力での加速、スタートダッシュは自分の独走ってことだ!

 

〈キメワザ!〉

 

〈ジェットクリティカルストライク!

 

「くらえ~ッ!!」

 

 思い切りぶつかってヒヨッたコイツとともに、加速するままに大空に再び飛び出した。ガトリングコンバットを押し付けて、零距離で連弾をぶっ放す!

 毎分6000発の弾数がハヤブサを襲い、間もなく爆散した。

 ……どうやら戦闘データをとるためだけの無人ライダーだったようだ。中身が居たらどうなっていたことか。

 

 自分は先ほど黒幕AIと対話してた場所に降り立って―――次の瞬間、吹っ飛ばされた。

 

「ぐあぁ! 今度は何だ!?」

 

 衝撃でアーマーが解除される。そして目の前には新たに……

 

〈パーフェクトライズ! "When the five weapons cross,the jet-black soldier ZAIA is born."〉

 

〈―――"I AM THE PRESIDENT."〉

 

 

「……マジかよ」

 

 

 

 

 

●●●

 

 

 

 

 

「仮面ライダーザイア。リオン=アークランドが残したユニットが飛電に回収された世界を展開、抽出完了」

 

「世界? それ、どういう事?」

 

 勝ちの目がないと踏んだレーザーターボは全速力でその場を後にし、ビルの屋上に再び辿り着いていた。

 ふと下方の都会を見遣ると、人っ子一人の気配もないことがわかる。ここは本当に自分の夢の中の世界なのだと実感する貴利矢。そして、そんなことをしでかせる自分が相対した存在の所業に身を震わせる。

 

「天津垓がZAIA日本支部の爆発に巻き込まれた場合に起こり得る結果です。この場合、サウザンドライバーは我が社に安置されて管轄に出来ます。そしてその世界のユニットにアクセスして解析することで、私がこのように投影することが出来るのです」

 

「並行世界の存在を自在に召喚出来るってことか……!?」

 

 天から降り注ぐ声に問いかける貴利矢。身の毛のよだつ思いで真相に近づいていく。

 

「いいえ。残念ながら並行世界と物理的に繋がる、というのは難しいものがあります。しかし、私たちの理論上なら可能です。数多の可能性を演算して導き出し、展開する。その世界のデータベースの質量を伴った情報ならば、アクセス出来るのです」

 

「は? ……いや、ちょっと待てよ。結局可能性だけじゃなくて平行世界を検知してるじゃんか。それに、その言い分だとアンタはこの世界の存在じゃない。アンタ自身が並行世界に出てきてるじゃないか」

 

「はい。それに平成の仮面ライダーというのは私たちの世界とは顛末に齟齬がありすぎて、展開した世界の強度が疑わしいものばかりでした。……しかし、先日物理的に並行世界の存在を証明することが出来た。貴方たちもよく知っている人物によって」

 

「? 逆に、こっちから物理的にアクセスしたから逆探知で証明出来た、って事か……? ―――あ」

 

 貴利矢は内心、合点がいってしまった。

 おかしくない、寧ろアイツならやりかねない。くっきりと浮かんだイメージは高笑いと共にヴァイザーⅡに吸い込まれる一人のゲームクリエイターだった。並行世界に躍り出て逆に後から残滓を利用されるという様は、容易に想像が出来た。

 

 その予想通り、衛星■■■はそこから世界の可能性を秘密裏に証明し、インターネットを通して世界を実測出来るようになった。

 ……正確には()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のだが。根本から違う世界のモノなど、実際に目で見るまで検索しようがない。逆に、現れたのならいつでも検索が可能なぐらいには充実したデータを備えている。そんなモノが元より保管されているのにはしっかりと理由がある。

 

 すべての始まりは歴史改変の痕跡を衛星ゼアが検出したことだった。

 仮面ライダーゼロワンが忘却した(正確には欠片は偏在しているようだ)記憶を、衛星は演算を重ねて独自に捕捉したのだ。

 それを達成できたのは改変された世界で統合されていた、かの王の強すぎる存在の重みが大きいだろう。その存在感故に、約二十年の歴史が元々その世界に或ったモノとして改変世界では確立していた。

 その世界の衛星ゼアは、過去の歴史のデータすべてを保管することに成功した。しかし、実際にリアルタイムで観測に成功したわけではないので証明が出来ない。

 改変の痕跡を見つけた事態終結後の衛星ゼア*1だったが、本筋の人とヒューマギアが共に歩んでいく未来を見守ることを最優先し、その予測を封印した。

 しかし、そこに並行世界をも侵すバグスターウイルスが現れてしまったのだ。

 

「バグスターウイルスは人間にも感染しますが、質量を伴ったコンピューターウイルスでもある。そのデータを実測出来た以上、こちらが保管していた歴史はほとんど証明された。檀黎斗の遺伝子や記憶が包括されたバグスターウイルスを利用し、逆探知したこの世界に干渉したということです」

 

「…………言ってること全部やべえよ。ちょっと待って…………、……でも、それなら証明出来たのはうちの世界だけのはずだ」

 

「いいえ。今回の事件を通して、ほとんどの世界を実測出来ました。パラドクスが『ギャラクシアンガシャット』と『ゼビウスガシャット』を使用したからです。あれは予測通りの展開でした。それにより残る実測対象世界は()()のみです」

 

「……もう意味分かんない」

 

 超スーパーヒーロー対戦。

 エグゼイドまでの全仮面ライダーを二つのガシャットを通じて観測することが出来た。数多の戦士が一度に実測出来ただけではなく、驚くべきはその仕様である。

 壊滅したジューランドをはじめとした説得力の低い世界を、実際に引き出している。本筋と思われる一番の強度の歴史ではなく、ピンポイントで無茶苦茶なキーパーソンを引き入れた。そんな暴挙を成し遂げた最後の戦いが、都合よくエグゼイドの世界に転がっていた。

 言うまでもなく、彼らの世界は同一のものではない。だのに、たった一人の少年によって多くの戦士が、たった一つのゲームに集約され、現実世界をも染め上げていった。

 最初から歴史を一つの世界に呼び込むのが運用目的だった魔王とはワケが違う。まるで設定や概念を無視して混ぜ込んだ不純物だ。

 理論の、世界の超越。その真髄を追求して世界を導く為、■■■は遂に動き出したのだ。

 

「そもそもこれも、仮面ライダーゲンムがデータを流用してゴライダー事件を起こしたことから確立出来たことです。彼がいなければ、私たちの理論は長らく証明されることは無かったでしょう」

 

「ッ! もう来やがった……」

 

 だんだんと迫ってくる跫音。もはやレーザーに逃げ場はなかった。

 

「レーザー。貴方の力を最後まで見せてください。もうすぐ世界の歪さが垣間見えるでしょう」

 

「結局最期まで足掻けってことかよ!」

 

〈爆走クリティカルストライク!〉

 

 五本角が目に入った瞬間、レーザーはバイクを召喚した。すぐさま飛び乗り、アクセルを全開までかける。

 目標は向かい側の屋上。まだまだ進むルートを失くすわけにはいかなかった。

 

 だがZAIAのテクノロジーの結集体が、見逃すはずもなかった。

 

〈Jacking break!〉

 

「なっ―――」

 

 ザイアが担ぎ出したジャッカーの刀身から何かが溢れ出した。瞬く間に屋上を覆っていくそれらすべてが、アタッシュカリバーに変質していく。

 アークワンの盗用技術。変幻自在の流体金属が一斉にレーザーに突貫する。

 咄嗟にバイクを乗り捨て、盾にするレーザー。しかし、その豪勢を完全に止めることは出来ない。大破したバイクの炎上を破って、数本が突き刺さった。

 

「ぐあああああ!?」

 

 思い切り身を打ってしまう貴利矢。幸い刺さり来る剣に流され、向かいのビルに落ち着いていた。だが、その身を護る鎧はもうない。晒された生身に向かって、ザイアがビルから飛び出した。

 ―――その腰のキーを押し込みながら。

 

C.E.O.DESTRUCTION

 

 中身無き躯体が発する、最大限の主張。右脚に赤黒い極光を奔らせ、動くことのない対象目掛けて、加速を開始した。ラーニング5を超える絶望が、一直線に迫る。

 一瞬、回路のような軌跡を捉えた貴利矢は、永遠の終わりを悟った。どうすることも出来ない。思わず顔を覆ってしまう。

 かつて洗脳されたムテキにやられるときみたいだ、と思ってしまう。あの時も、自分はどうすることも出来なかった……自分、独りでは。

 

〈高速化!〉〈マッスル化!〉〈鋼鉄化!〉

 

 何かが、黒とグレーのモノクロな何かが、現れたのだ。

 

C.E.O.

DESTRUCTION

 

――PERFECTCRITICALCOMBO!

 

 確かに、ザイアの右足は捉えた。貴利矢をかばった、謎の戦士を。

 否、その仮面ライダーの名は―――

 

「―――アナザーパラドクス!?」

 

〈ⒸZAIAエンタープライズ―――〉

 

 傷を負いながらも装着者は無事であった。ザイアの必殺は完了した。

 だがバフを盛り付けても、その勢いを殺せるわけはずがない。辛うじて貴利矢をかばったパラドクスの変身がほどけていく。

 

「……、……だい、丈夫? 九条先生?」

 

「さ、サイコ先生!?」

 

 しかし、それを纏っていたのは、かつてドクターを混乱に落とした黒いパラドではない。

 八乙女紗衣子。適合者でないはずの彼女が、貴利矢の夢の中に駆け付けていた。

 

 一方、謎の人工知能はこの顛末を見て一つ、得心した。この世界の、否応無き歪さに。

 

「な、なんで先生がここに!? それに、適合者じゃないし、しかもパラドクスの?」

 

「私も気づいたらこのオペレーションに巻き込まれていたのよ。困惑してたら、九条先生らしき影が見えて……急いで来たわ。あなたに再生医療の未来を示せるように」

 

「……自分に?」

 

「私はずっとバグスター育成ゲームでもう一人のパラドを利用したことに罪悪感を感じてた。私の手元にはバグヴァイザーGが残ってた。無我夢中で彼と、ブラックパラドと再生医療の技術を活かして、コミュニケーションが取れるまでに漕ぎ付けたの。そこに残留していた彼にもう一度、一から正しい命の在り方について、ずっとラーニングさせていたわ」

 

 ■■■は訝しむ。

 確かに、今の彼女ならばそう事に向き合っても可笑しくはない。

 ……だがそんな事が、そんな()()()に欠けた事が、本当に現実(リアル)だと証明できるのだろうか。

 言い換えるなら、誰かが彼女達が生きる世界が本物だと証明出来るとでも言うのだろうか。

 

「私を止めたあの二人を見て、こうしなくちゃって思ってた。心を持つバグスターを信じるために。再生医療の発展を証明するために。そして、あなたが襲われている土壇場で、この子は答えてくれたのよ」

 

 そう言う紗衣子の身体に、バグスターウイルスの反応があることに気付いた貴利矢。そして同時に、道理に適っていると得心する。

 彼女は手術を受けずとも、宝生永夢と同じようにパラドに直接感染することで、仮面ライダーの変身資格をクリアしたのだ。

 

「……ありがとう。パラドにも感謝しないとな。でも、そのギアデュアルアナザーは? 記録では行方知らずになってた気がするんだが……」

 

「……? これは、え?」

 

「やはり、予測通りです」

 

 急に、齟齬が生じた。

 そして■■■も確信する。やはり夢を舞台にして正解だったのだ。こうして本来有り得ない状況に転がっている展開を、目の当たりにできたのだから。

 今現在、誰しもが疑問か困惑を抱いているだろう。

 

 なぜ彼女が変身する理論が成り立つのか。

 なぜギアデュアルを持ち込めたのか。

 なぜ一瞬この展開が有り得るとでも思ったのか。

 

「今、貴方たちも現実を疑ったでしょう。この世界が本筋である可能性が著しく下がりました。なぜエグゼイドが旅路を想起したのか。なぜスナイプが想いを吐露したのか。なぜアナザーパラドクスが現れたのか。……ここまでの展開に、一瞬でも納得してしまったから、もう取り返しは尽きませんが」

 

「何言ってやがる。いやさっきからだけど」

 

「九条先生、今はあっちの」

 

 明らかに今までとは別な禅問答をし始めた天の声に応えている暇はない。二人は再びゲーマドライバーを装着し、ガシャットを構えた。

 再びビルからザイアが飛び移ってきたのだ。

 

〈爆走バイク!〉

〈シャカリキスポーツ!〉

〈デュアルガシャット!〉

 

「「変身!」」

 

〈アガッチャ! シャカリキ! メチャコギ! ホットホット! シャカシャカ! コギコギ! シャカリキスポーツ!〉

 

〈悪の拳強さ! 闇のパズル連鎖! 悪しき闇の王座! パーフェクトノックアウト!〉

 

 黒と灰の装甲を纏い、レーザーとアナザーパラドクスが並び立つ。

 両者残りのゲージは少ない。一度で決着を着けなければいけない。

 

 その覚悟を前に、■■■は観測を達成した。

 十分すぎるほどの成果だ。自身が介入した以外のナニカの影響すらも判明したこと自体が、大きなものだった。最初から夢を軸にして展開したミラクルだ。これ以上、現実での混沌は見込めない。

 ある仮説の検証も含め、その意識が次に狙う世界を決定したところで、ライダー達の応酬が始まった。

 

「ぐッ、でもどうすれば!」

 

「ダメ。どうやってもアイツの動きに着いていけない―――!」

 

 二人の勢いはすぐに殺された。ザイアの太古の最硬度を突破出来ず、小回りも劣っている。投げつける車輪も、バグヴァイザーの光線も、その装甲にはまるで通じない。

 

「このままじゃ、また―――」

 

「…………俺に任せろ」

 

「――パラド! きゃっ、出ていってどうするつもり!?」

 

 ジャッカーを構えたザイアに向かって、アナザーパラドクスの中からウイルスが噴出した。

 紗衣子がラーニングさせてきたブラックパラドは命の大切さを知り、目の前の命を守ろうとしているのだ。

 そのままザイアに纏わり、その装甲に溶け込んでいく。

 

「! パラドがザイアの中に入った!?」

 

「俺なら中身のないコイツに入り込んで、装着者のポジションにつけるかもしれない! レーザー! レベル0の力を使うんだ!」

 

「あ、なるほど……? ―――なるほどな!」

 

 貴利矢が思惑を理解したと同時に、黒パラドが完全にザイアに侵入を果たした。

 ザイアの中身は無く、迅と同じ無人のライダーならば、主導権を中から握ることが出来るかもしれないのだ。

 しかし、その望みを断ち切るようにザイアは身を震わせながらも駆動を止めない。

 

「ぐっ、流石にコントロールまでは、ムリか……! だが十分だ! レーザー、今だ!」

 

「任せろ!」

 

 合図を受けたレーザーがスポーツの推進でザイアを捉えた。振り払おうとするザイアだが、身体が上手く動かない。まるで、ウイルスにでも感染したかのように。

 

「……! なるほどパラド。あなたの狙いは身を挺してのウイルスの抑制! でも、それを長く続けたらどうなるの!?」

 

「もん、だいない! 自分の限界ぐらい、自分で分かってるつもりだ!」

 

「…………」

 

 訝しんだレーザーだが、その手はザイアを掴み、着実に弱らせている。彼らの本命はまさにそこだった。

 ザイアに入り込みバグスターウイルスが変身者であると強制認証させたパラド。それを、バグスターウイルスを抑制するレベル0のレーザーが捕まえればどうなるか。

 答えは苦しむザイアを見れば明らかだろう。着実にその装甲ごと脆弱になっているのがスキャンでも確認出来る。

 

 しかし、そのアンチバグスターシステムはもちろん、パラドにも影響が及ぶ。

 限界ぐらい分かっていると言ったパラド。……わかってるっていうなら、自分の命の大事さもわかってるんだろうな?

 策にノり続けるレーザーだが、彼のウソを悟って戸惑い始めた。もし、パラドと同じように黒パラドもラーニングしたなら、同じようにするかもしれないことを、恐れている。

 

「よし、レーザー! サイコ! とどめを刺すんだ!」

 

「え? でも、貴方はそこに……待って。パラド、貴方最初から―――!?」

 

「お前やっぱり……」

 

 レーザーは仮面の下で苦虫を噛み潰したかのように顔を顰めた。

 そう、黒パラドはかつての命の大切さを学んだパラドと同じように、自分の命を懸けて戦いを終わらせようとしている。

 ザイアに入ったままの彼に、バグスター特攻の必殺を撃ち込めば致命傷どころではない。完全にその意識は閉ざされてしまう。

 いくら夢の中の話でも、機器が関係している以上バグスターの心にまで衝撃は伝導する。紗衣子と同じようにかつての所業に罪を感じていた黒パラドは、最初からこうするつもりだったのだ。

 

「だ、駄目よ! あなたは! 一緒に未来に、人類やバグスターの未来に繋がる再生医療に取り組むって約束したじゃない!?」

 

「そうだ! 紗衣子先生は命の大切さを教えたって言ってたが、それはお前も含まれてるんだぞ! 簡単に投げ出すんじゃねえ!」

 

「わかってるさ! でも、この迷宮から脱出出来る見込みなんてない。ならせめて、こんな俺でもお前達が進める道筋を示したいんだ!」

 

 本当はパラドだけでなく、二人もわかっていた。もしザイアを突破出来ても、それでクリアになるかなんてわからない。ゴールの見えないデスゲームに巻き込まれたのと同義だと、わかっているのだ。

 ならばせめて心を持って、命の限りを尽くすのだと、パラドは決心した。そして、それは二人も―――

 

「で、でも! でも!! そんな……! もしあなたが消えて、ウイルスが残ったとしても! 自我まで残る保証はない! 残るとしても記憶も心も初期化されたのと同じ、ただのか弱い残滓にしかならないわ!」

 

「……先生。紗衣子先生。最期まで抗うために、ここでアイツは覚悟したんだよな……汲み取ってやるんだ」

 

「九条先生、貴方まで! 彼らの持つ心も、命も! 私達のものと変わらないとそう思えたのは貴方のお陰でもあるのに! どうして!?」

 

「もし出来るのなら。きっと自分たちも、同じことやっちゃうだろうからさ」

 

「―――ッ!」

 

 二人も同じだった。ここから帰還できる保証こそがない。ならば、少しでも希望を捨てずに最期まで抗い続けるのだと、決めてきていたのだ。

 そして、大切なヒト達がいるならなおさら。自分の身を賭してでもそんなヒト達を先に進ませるつもりで、ここに来たのだ。

 

「は、ッやく! するん、だ!」

 

「行こう、紗衣子先生。これは、自分も一緒に背負うから」

 

「―――せ、んせい……、…………わか、った……パラド! 諦めないから。再生医療の未来が明るいのと同じなの! 貴方の心も諦めない! いつか絶対、取り戻して見せるから! ―――だから!」

 

「―――ああ。此処から出るまでも、出た後も。自分の命も大事にしろよ」

 

 どの、口が、言うのだろうか。

 思わず、乾いた笑いが仮面の下から、濡れた顔に木霊する。だが、決心は出来ているのだと、紗衣子はドライバーに手を掛けた。

 これで終わりにはさせない。これがエンディングだなんて認めない。自分の、医療の、パラドの未来にはちきれんばかりの想いを巡らせ、思い切りレバーを反復させた。

 

〈ウラワザ! ……ガッチャ~ン!〉

 

「これは、ウィニングランなんかじゃない。絶対にここから脱出してやるからな」〈キメワザ!〉

 

 跳躍した二人のライダー。

 病に苦しみ動けないザイアを。もはや意識の灯火すら落ちるパラドを。

 彼らを目掛けて、足先を固定し、戦いを終わらせる為、加速した。

 

〈シャカリキクリティカルストライク!〉

 

〈パーフェクトノックアウトクリティカルボンバー!〉

 

 勝ち負けなど語るに虚しい、彼らの応酬は終わりを迎えた。

 ザイアは辞世の句を残すこともなく、爆散していく。

 残ったのは、どうしようもない悲しみに覆われた二つの心だった。

 

 だが、諦めたわけではない。

 彼が繋いでくれた命を、無駄にはしない。絶対に未来で会うのだと、心に誓ったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

●●●

 

 

 

 

 

 

 

 

「これで、この世界の騒動は終幕です。確かに私の予測では、アナザーパラドクスの動向は解りました。しかし、それは目前に顕れたから。そもそも()()()()()()()()()()()()()()()()()です。流石に放置することは不可能でした。これが、これこそが世界の不審点。これを紐解いていくことで、私達の世界を救いある方向に導けるはず。……絶対に達成して見せましょう」

 

 0と1の空間で、一つの思念だけが木霊する。

 知能体らしからず、心があるかのように決意を固めた衛星■■■。

 レーザー達がその後、どのルートも限りなく安泰であることを予測し終え、その世界を後にした。間もなく彼らも解放されるだろう。

 

 ふと空間に十八個のキーの影が漂った。もう少しなのだ。

 すべては人とヒューマギアの輝かしい未来のために。

 

 そんな■■■が次に定めた目的地は―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

●●●

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 人っ子一人の気配もない、明け無き荒野。そこに吹く風の流れが、僅かに変わった。

 形すら捉えられない。ましてや影にすらも満たないが、そこには確かに()()がよぎったのだ。

 一瞬の事ではあったがそれが証明するのは、かの辞世の句の通りに進みゆく時間。

 

 まだ、分からない。少なくとも■■■の大立ち回りが黙認されている理由の一つがここになる。

 真実は、変わらない。やがてこの赤錆びた地に辿り着く黄金の運命は、再び動き出すというのだろうか。

 

 時計の針は前にしか進まないというのなら、周回を止めて滞ることもまたない。今もなお、運命の始点に向かっている。

 ふと、再び()()がよぎった。今度も何も残らない、が。

 

 ―――それが二十体分であったことは、言うまでもなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*1
仮面ライダーゼロワン本編のもの




ここまで、ここまでこの物語を観てくれて本当にありがとうございました!
ちなみにここからは某衛星でも某魔王でもなく、ただの感想みたいなものです。


まず各章名ですが、すべて小説エグゼイドの章名の意味を反転させたりして使ってました。見比べてみると面白いかもしれません。
次に各章の最初に置いたキャッチコピーですが、すべてトゥルーエンディングのものです。VRMMOが舞台なので、拝借してみました。上手いこと臨場感出せてたらいいな。


このクロスオーバー、エグゼイドとルシファーのお話は映画を見終えた時に漠然と浮かんできました。まあルシファーみたいなバックボーンの解釈が分かれる方は二次で描きやすいと思います。
ですが出会う相手が小児科医とはどういうことでしょう。

エグゼイドを見返してみて戦う姿かっこいいなーと思ったのでキャラの動きをメインに投稿し始めました。
……プロットもなしに。
そもそもこれが初投稿で作り方なんてわかんなかったですよ……何ならゴッドスピードとか仮面ライダーカーニバルとか突然生えて来たし。

それでちょっと書いていくうちに力量不足を感じ、テーマを定められなくなっちゃいました。
こんなの致命的なんですが、そもそも大筋のエグゼイドの命に対する捉え方や生き抜く事への考え方なんかを出していければなあ、とは最初から思ってたのでそれに則ることにしました。

そんなこんなで彼らの前に現れたのはいわば『エグゼイド版シンクネット』とでもいうべきモノ。
色んなものがどうでもよくなって、投げやりになっている彼らですが、本家と決定的に違うものが一つ。
ゼロデイや仮面ライダークロニクル、衛生省によってみんな一つの命を真剣に考えたことがあったんですね。
きっと教科書にはまだ載らずとも、そのウイルスに関して教習なんかも学校でやってるだろうし。
○ロナみたい、というかそれ以上に恣意的な野望も混じって脅威になったバグスターウイルスに一層ちゃんと向き合ったと思うんですよ。

だからノアの夢の世界を前に葛藤出来た。
まあすぐにそっちを選んだヤツもいますけど。描写していないだけで。
今回永夢達に一つの命で生きていくから尊いのだと打ち負かしてもらいましたが、この誘いが甘美なのもまた事実。
このVRMMOは私たちの理想の一つと言えるでしょう。
いつかこれに自分で正面から反論できるぐらいになりたいものです……心から溺れていくかもしれませんけど。

一つの命のかけがえのなさを誰よりも示すことが出来る永夢。
彼の真摯な姿勢はベルの心を確かに動かした。

ある意味シンクネットと最も近しい破滅に陥った事のある闇医者。
彼らの心に直接叱咤出来るのはこの人だけだろうなーと思ってました。この小説の影の主役です。

そしてエリートだったのに破滅主義に走ったベル。
逮捕後の心情は捏造ですが、まあ何と言うか……
彼も大我が言ってた孤独な者の一人だと思うんですよね。それが精神的なのか物理的なのか社会的なのかわかりませんけど。
まあ未熟な自分では上手い事説明できませんが。永夢と居たらこうなるかもなと。
彼が■■■の言う通り本当に同一人物なのかどうかは伏せます。ただ、その後があるのならきっと悪いことにはならないでしょう。

この三人がメインキャラです。
多分私の一番言いたかったことは「なんか生きてるんだから、そっから―――」ってとこでしょう。自分でも曖昧にしか言えないのが恥ずかしい……

とにかく色んなライダーとキャラを書けて楽しかったです!
たくさん読んで下さり本当にありがとうございました!

更なる裏話は活動報告に置いてます!
またいつか会えますように!


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