史上最強の界境防衛隊員ケンイチ (みたけ)
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プロローグ
BATTLE0:格闘家気取りの防衛隊員


来月のワートリが楽しみ過ぎて衝動的に書いてしまいました。
初執筆、初投稿となります。
拙い点が多々ありますが、見て頂ければ幸いです。


(ゲート)発生、(ゲート)発生。座標誘導誤差5.83。近隣の皆様はご注意ください』

 

 三門市。

 

 四年前、人口二十八万人を有する日本の三門市は突如開いた異世界への門・ゲートより現れた異界の侵略者・『近界民(ネイバー)』と呼ばれる異形の化け物達の脅威に晒されていた。

 こちらの世界とは異なる技術を持つ近界民には既存の兵器は効果が薄く、だれもが都市の壊滅は時間の問題と考えていた。

 しかし、突如現れた謎の一団が近界民のテクノロジー『トリオン』を独自に解析して生まれた対抗兵器─『トリガー』を使用し、近界民を撃退した。

 さらに近界民が進行してくる門をかなりの精度で特定の地点に誘導することに成功し、わずかな期間で巨大な基地を作り上げ、近界民に対する防衛体制を整えた。

 

 組織名を界境防衛機関『ボーダー』と呼び、その隊員達の日々の活躍により住人の生活は守られている。

 

 

 

「三人とも、ここから北東方向距離260に敵影三つ、東方向距離340に敵影二つ。一番近い北東方向の迎撃に向かって」

 

「了解!」

 新たに現れた門に対して出した私の指示に、赤紫の隊服を身につけ、眼鏡を掛けている銃手(ガンナー)若村麓郎君が走り出しながら返事をする。

 

「東方面は大丈夫かな?分かれて対応する?」

 走り出した麓郎君の一歩前を駆けながら同じ赤紫の隊服を着た攻撃手(アタッカー)三浦雄太が自分達が向かわない方に対しての指示を尋ねてくる。

 

「そんなもん、他のやつらが対応するでしょ」

 二人と同じ赤紫の隊服を着た少女 香取葉子が夕焼けに染まった街を、二人を置いていくかの様な速さで指示ポイントへ向かっている。

 

「葉子の言う通りモニターを見る限り東方向には別の隊員が一人向かっているわ。

こっちを早く済ませて援護に向かいましょう」

「了解」

「「了解!」」

 

 葉子・雄太・麓郎君、そしてオペレーターの私 染井華を加えた4人がボーダーB級部隊香取隊。

 今日の周辺防衛任務担当部隊の一つだ。

 

 

 

 

 

「ま、こんなもんでしょ」

 現場に着き敵を確認したと同時にすぐさま麓郎君が牽制し、雄太が隙を作り、葉子がとどめを刺す。見慣れたコンビネーションであっという間に3体の敵を仕留めた。

 

「バムスターとバンダーでラッキーだったね」

「モールモッドとかが混じったらそれだけで厄介だからな」

「別に関係ないわよ、そん位なら」

「そうかもしれないけど油断は禁物だろ?」

「まぁまぁ」

 

……まだ仕事中だと言うのに。

 

「三人とも、まだ戦闘は終了してないわ。」

 早く東方向の援護へ──と指示を出そうとした、その時

 

 

 

「チェストーーー!!!」

 

 

 

 モニター越しに聞こえるほど大きな声が響くと同時に、東方向から近界兵が飛んできた。

 その顔面部には凹み跡があり、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のでは、と思ってしまうほどだ。

 凹みは近界兵『モールモッド』の急所を捉えていて、既に動く気配は無い。

 

「「「「……………」」」」

 絶句する私達。

 いや、葉子はそれに加えて顔をしかめている。

あの顔は小学生の時提出した夏休みの課題に対して、先生から「もっと工夫する様に!」と言われた時の顔にそっくりだ。

 

「…………私次行くから」

「おい、待てよ!せめて挨拶位───」

「葉子ちゃんちょっと待ってよー!」

 

 東方向から来る隊員の気配を感じたからだろう、葉子は我先にと離脱し始めた。

 雄太はそれに付いて行き、麓郎君のみがそこに残った。

 

 相変わらず自分に素直な振る舞いの幼馴染を見て私も少しは見習ったほうが良いのかと考えを巡らせ始めていた。

 

 

「やぁ、麓郎君、お疲れ様!ごめんね、そっちに()()()()()()()()。怪我は無かった?」

 

 

 そう言いながらモールモッドが飛んで来た方向から一人の隊員が現れた。

 

「お疲れ様です!誰も怪我してませんよ」

「そっか、良かったー!この辺にはもう敵影は無いのかな?」

 

 麓郎君と話をしているのを聞き、─少し息を吐き、話しかける。

 

「染井です、この周辺には反応ありません」

「そうなんだ!教えてくれてありがとう、染井さん」

 

 

 どこにでもいる様な平凡な見た目。

 それに反して強い意思を感じる瞳。

 人が自然と周りに集まってくる大木の様な安心感を与える雰囲気。

 

 

「いいえ。お疲れ様です、白浜先輩」

 

 ボーダーB級フリー隊員 白浜兼一先輩。

 今日の防衛任務に就いている隊員の一人だ。

 

 

 

 

 




小説書くのって難しいですね( ;∀;)
ご視聴ありがとうございます。


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第一章
BATTLE1:白浜 兼一


「まったく、ランニングの最中なのに急いで道場の方に来いだなんて、何なんだ一体!?」

 

 爽やかな朝日を浴びながら、そう呟くのは荒涼高校2年生 白浜 兼一だ。

 黒髪で中肉中背、寝癖なのか少し後ろ髪部分が跳ねていて、左目の下に絆創膏を貼ってある。

 挙げる点はそのくらいの至って平凡な見た目の少年だ。

 

「まぁ、あの人達の急用なんていつもの事だけど…嫌な予感しかしない」

 

 平凡な見た目の少年が呟きながら走っている。

ただそれだけだ。

───背中に自身より二回り以上大きな石でできた地蔵を背負っているのを除けば、であるが。

 

「しかも誰かが呼びに来るとかでもなく、長老の肺力狙音声(ハイパワーソニックボイス)で呼ばれるなんて」

 

 それでいながら同い年の陸上部より早く、軽快に走っている。

地蔵の重さも加わっているにも関わらず走っている音がほぼ聞こえないのだから驚きだ。

 

「見えてる地獄に飛び込む、か。…逃げたいなー」

 

 そう、一見平凡なこの少年。

実は梁山泊と呼ばれる武術道場の一番弟子である。

 

 

『梁山泊』

 

 

 そこは武術を修めた者達が集う場所。

現代のスポーツ化していく武道ではなく、()()()な武術の達人が集い共同生活を行う場所。

まさに現代社会が生んだ修羅の国である。

 

「うぅ、こんな時に限って美羽さん今日遠出してるし……」

 

 では、そこに属する白浜兼一も武術の達人なのだろうか?

───いや、違う。いずれ達人に()()()だろうが、今はまだまだその領域に至らない。

 

 何故ならこの白浜少年は『才能が無い』からだ。それも全く、微塵も、欠片もないのだ。

梁山泊の師匠達は口を揃えてその事を指摘するし、常人の数倍の努力をし、命懸けという諸刃の剣を使わねば一定の水準を越えられないとまで言われる始末。

 通常なら拷問か何かと思われる様な今の状態も、いつもの地獄の修行前のストレッチに値する。地獄の様な、ではない。地獄の、だ。

1ヶ月前の自分を「よく耐えた、頑張った!!」と褒めてあげたい位に思っている。ちなみにこの思いは毎日更新されている。

 

「言ってても仕方がない。急ごう!」

 その言葉を置き去りにするようにペースを上げ、走り去っていった。

 

 

 

 

 

 

「只今戻りましたー!!」

 

 兼一が梁山泊の居間に着くと、そこには彼の師匠達が揃っていた。

 

 哲学する柔術家 岬越寺 秋雨。

 あらゆる中国拳法の達人 馬 剣星。

 ケンカ百段の異名を持つ 逆鬼 至緒。

 裏ムエタイ界の死神 アパチャイ・ホパチャイ。

 武器と兵器の申し子 香坂 しぐれ。

 

そして───

 

「遅かったのぅ、兼ちゃんや」

 

 梁山泊の主にして『無敵超人』風林寺 隼人。

梁山泊が誇る豪傑達である。

 

「いやいや、結構急いで戻って来ましたよ、長老!!」

「ハッ!おっそいおそい!!俺なら後5分は早く戻れるぜ!!」

「おいちゃんならそれより1分は早く戻ってこれるけどね」

「バッ、バッキャロー!!!今のは間違いだ、7分は早く戻れるってーの!!!」

「ならおいちゃんは───」

「はいはい、逆鬼も剣星もお客さんの前で騒がないように」

 

 そう言って二人の言い争い(いつもの)を止める岬越寺師匠。

ってお客さん?

 

 その言葉に初めて見覚えのない人が居る事に気付く。

オールバックの髪型にスーツが似合う大人の男性だ。体格もしっかりしている。

何より自信に満ちている顔をしている。

少しばかり得体の知れない雰囲気を感じるのは何故だろうか。

 

「いえ、大丈夫ですよ、岬越寺先生。至緒君が騒いでるのは見慣れてますから」

「おいおい、そりゃないぜ、克己さん!」

「アーパパパパ!!逆鬼はカツミの前だといつも騒いでる!!!」

「うるせぇ、アパチャイ!笑うな!!」

「…………すっかり唐沢のお茶が冷えてる……。僕が新しく──」

「いや、その必要はないよ、しぐれ君。大丈夫だ、うん、ありがとう」

 

 しかも師匠達とは顔見知りの様だ。僕が梁山泊に入る前からの知り合いなんだろうか。

 

「まったく。兼一君。こちら唐沢 克己さんだ」

「初めまして。岬越寺先生には昔助けてもらってね。梁山泊とはそこからの付き合いだ」

 

 名刺を渡される。

そして手を差し出してくる。

それを受け取りながら。

 

「ご丁寧にありがとうございます。

僕の名前は白浜 兼一。

梁山泊の一番弟子をやってます。

よろしくお願いします!」

 

 自己紹介を行い頭を下げ、唐沢さんの手を握り返す。意外とゴツゴツした手だ。昔スポーツでもやっていたのだろうか?

 そう考えていると手から感情の揺らめきが伝わってきた。

 顔を上げると口をポカンと開き、信じられないモノを見たかのような表情をしていた。

 

「…は、ぁ?一番、弟子?梁山泊の!?───この子が!!?」

 

 あれだけ余裕を感じさせる態度が少し乱れた。

 

「マジじゃよ、かっつん。その子はうちの一番弟子じゃ」

「むしろ唐沢は兼ちゃんを何だと思ってたんだね」

「───てっきり美羽君のこぃ───」

「ヌハハハハハハハ!!かっつん!!下手な事は言わんでヨロシイ!!!!」

 

 突如長老の凄まじい気当たりが放たれる─。

加減しているとは言え相変わらず人外だな、そんな感想を持ってしまう。

 同時に砕牙さんが居なくて良かったとも思った。

これ以上は勘弁して貰いたいからだ。

 

 それにしてもこの気当たりに冷や汗のみで耐える唐沢さんも、流石梁山泊と関係ある人、という事だろうか。

 

 

 

「…?──!?あの、風林寺先生!!その子を急に呼んだのは、ひょっとして──!!?」

「うむ、そうじゃ。この子に任せようと思う」

「しょ、正気ですか!?」

「適任じゃと、儂は考えておる」

 

 

 ??何かとんでもなく動揺している。

 

 

「で、ですが、白浜君は、その──」

「まぁ、確かに兼一の見た目は弱そうだから不安だよな」

「ぐはっ!!」

「逆鬼、本当の事言ったらダメよ!大丈夫よ!ケンイチは見た目に比べたら強いよ!!」

「げふっっ!!!」

「安心したまえ、兼一君。君の弱そうな見た目は生まれ持っての才能だ。私達にも真似はできん」

「ぐぅわぁぁぁぁあああああ~~ーーーー!!!弟子を貶しめて楽しいのか、この血も涙もない鬼畜師匠達!!!!」

『だって本当の事だし(ね)。』

 

 全員できっぱりと言い切りやがって~~~~。

いくら本当の事とは言え、傷付くんだぞ~~、くそぅ。

あ、いかん。少し涙が。

 

「確かに兼ちゃんは見た目弱いし、実際にまだまだの腕前じゃ。その上才能もないし、おまけにすぐにヘタレる性格じゃ」

 

 長老からの追撃、兼一には効果が抜群だ。

これ以上のハートクラッシュを止めるよう、抗議しようと顔を上げたその時。

 

「でしたら──」

「じゃが心は誰よりも強く、そして優しい」

 

 

 そう語る長老の顔は───

 

 

 

「安心せい。この男なら間違いなくお主達の力になれる」

 

 

 

 ─その事を微塵も疑ってない様に─

 

 

 

「なんせ梁山泊の一番弟子じゃからな」

 

 

 

 優しい眼差しをしていた──。

 

 

 

 しばしの沈黙の後、周囲を見渡した唐沢さんは、少し息を吐きだした。

「わかりました。では、私も白浜君を信じている皆さんを信じましょう」

 

 何やら覚悟を決めた様子だ。

話の流れを掴めていないのは、間違いなく僕だけだろう。

 

「では改めて、白浜君。近界民(ネイバー)とボーダーという単語を聞いたことがあるかい?」

 

 

 

 

 

 そこから唐沢さんから話を聞いた。

三門市で起きた事。ネイバーの事。ボーダーの事。今の三門市の状況。

実際の映像も見た。

 正直何かのテレビ番組なのかと思った。

あまりにも現実離れしている。

変な怪獣に対抗する組織なんてフィクションの世界だけで充分だ。

 

 何故そんな情報が今まで知られてなかったのか?

どうやらボーダーが色々手を回しているらしい。

万が一外に漏れてしまった場合の対応策もあるとの事だ。

機密情報なので教えてくれなかったが。

─耳と足の速さだけは達人級の我が悪友なら何か知っているのだろうか?

 

 今回梁山泊に依頼をしに来たのは、どうやら約1年後に大規模なネイバーの襲撃があるらしい。

どうしてそれが起きる事を知っているのか尋ねると、これも機密情報との事だ。

余程その情報に確信があるのだろう、その瞳には確信の色があった。

 そしてその為の戦力が必要との事で、その戦力は若い年齢が適しているらしい。

中心となっている戦力も僕と同い年前後が大半で若くて中学生、一時期は小学生も居たとか。

何故若い人なのか、そもそも何故ネイバーは人を攫うのか。

その辺の詳しい話はここではできないとの事だ。

それも機密情報なのだろう。

 

 正直何が何だかわからない。

初めて聞く内容に加え、機密情報が多すぎる。

自分が混乱しているという自覚がある。

話を聞いた後ですら、何を話せば良いのかわからない。

その混乱を感じ取ったのだろう。

 

「急にこんな話を聞かされても困るだろう、日を改めて一度ボーダーを訪れてくれないかい?」

 

 ボーダーでなら機密情報を話せるから。

 恐らくそういう事だろう。

その後依頼を受けるかどうか、判断してほしい。

依頼を受けなくてもボーダー内なら対応策とやらが使える、という事か。

 

 

「────────」

 

 確かに混乱している。

何を話せば良いのかわからない。

─────────いや、一つだけ、あった。

 

 

「依頼を受けるかに関してはその──」

「いえ、その必要はありません」

 

 唐沢さんの話を遮り宣言する。

 

 

 

「その依頼受けます、受けさせて下さい」

 

 

 

 誰も声を発さない。

鳥の鳴き声だけが微かに聞こえる。

 唐沢さんは大きく開いた目を一度閉じ、─再び開いた。

 

「依頼内容をちゃんと理解しているのかい?」

「正直理解しきれていません。

ネイバーという人を攫う化け物に対抗する組織、ボーダーの一員となる。

その目的は約1年後の大規模な侵攻に対して備える為、としか理解してません」

「─怖くはないのかい?」

「いえ、滅茶苦茶怖いです」

 

 映像を見た。

間違いなく化け物だった。

あれに立ち向かう自分を想像するだけで、足が震える。

 

「じゃあ、自信があるのかい?」

「いえ、無いです」

 

 自慢じゃないが、師匠達が言うように僕には才能が無い。

あんな化け物との戦いで活躍できる自分を想像すらできない。

 唐沢さんから困惑している雰囲気を感じている。

 

 では、何故?と、表情が物語っている。

 

「僕は」

 

 正直怖い。

正直立ち向かいたくない。

なにより、戦いなんて、好きじゃない。

 

 

─しかし、譲れない想いがある。

 

 

「理不尽に立ち向かう力が欲しくて武術を学び始めました」

 

 それはかつてここで涙と共に訴えた想い。

初めて師匠達に晒した胸の内。

 

「そして理不尽に晒される人達を守るために鍛えてきました」

 綺麗事だと、谷本 夏に言われた。

 偽善だと、朝宮 龍斗に言われた。

 戦いに向いてないと、イーサン・スタンレイに言われた。

 

──それでも、───

 

「その想いが僕の信念だから!」

 

 そんな僕を認めてくれる女性がいる。

 見守り、導いてくれる師匠達がいる。

 支えあい、共に居てくれる仲間がいる。

 

「理不尽にあっている人達を見過ごすことはできない!!」

 

──そして──

 

 オレはもう美羽を守れねぇ。

 だから────

 

 こんな僕に託してくれた恋敵(ライバル)がいる。

 

 

「自分の信念を貫く為にも、僕もそこで戦います!!!」

 

 

 

 

 

 

 少し息を吐く音が聞こえ

「わかった。ではお願いするよ、白浜君」

 

 唐沢さんが笑いながら話しかけてきた。

心なしか、さっきまでより楽しそうな?

 

「詳しい話をする為にも日を改めてボーダーに招待するよ」

「はい、ありがとうございます!」

「こっちがお願いしてるんだがね」

 

 少し目線を上にする唐沢さん。

 

「では、また改めて連絡をくれるかのぅ」

「えぇ、もちろん」

「それでは、今日はここまでにしましょう」

「あ、最後に一つ」

 

 どことなく面白がっている視線を僕に向けながら

 

 

「当日は戦闘訓練があるかもしれないからその準備はしておいてくれよ」

 

 

────え?

 

「お!じゃあ、今からたっぷりと訓練しないとな!!」

「…久しぶり、に。僕も付き合う…ぞ」

 

 周囲の気が膨れあがる。濃密に感じる地獄の予感。

 

「ケンイチ、大丈夫よ!アパチャイてっかめん覚えたよ!!」

「試してみたい治療法も溜まってきていたから丁度いい」

「取り敢えず『死人すら走り出す薬』をいくつか見繕ってくるね」

 

 

 考えるより早く、僕の身体は────走り出していた。

 

「戦略的撤退だーーー!!!」

「逃がすかぁぁあああーー!!!」

 

 追いかけてくる師匠達。

視界の隅には笑っている長老と唐沢さん。

近くに感じる師匠達の気配。

 

 

 

 

 

「じぇ、じぇろにもぉ~~~~~~~~~~~~!!!!!」

 




唐沢さんとかいう便利キャラ。


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BATTLE2:ボーダー

ここまでは何とかして早くあげたくて急ぎました。



「こ、この数値は!?」

 

 何やら機械を見て驚いている。

いや、興奮しているのだろう。

徐々に顔が赤くなっていっている。

「ありえんぞ、こんな事は!」

 

 こちらを見る困惑の瞳。

信じられないモノを見るような。

理解できないと慄くような。

 

 ま、まさか。

「そ、それってどういう」

 

 声に期待が滲み出る。

 ひ、ひょっとして。

僕には途轍もない才能が───!?

 

 

 

 

「こんな低いトリオン量で戦闘員とか正気か、貴様!?

いや、戦闘員でなくとも!

普通なら入隊すら怪しいところだ!!

貴様にはボーダー隊員としての才能が致命的なまでに無いぞ!!!」

 

 

 

 

「ごぺっっ!!」

 

 

────いや、まぁ、知ってましたけどね、えぇ!!

 

 

 

 

 

 

 梁山泊で唐沢さんと出会って1週間後。

僕は三門市に居た。

 

 

「ここが、ボーダー本部」

 

 昼の日差しに照らされる大きな建物。

僅かに気圧される。

たった3年程でこれほどの規模の基地を構えるなんて。

 

「どうだい?中々立派だろう?」

 僕をここまで連れてきてくれた唐沢さんが楽しそうに話しかけてくる。

 

 いや、師匠達と顔見知りのこの人が居る組織なんだ。

不思議ではないのかもしれない。

 

「はい、それに──」

「それに?」

「いえ、なんでもありません」

 

 ()()()()から何か感じる──。

 気、に近い?

 いや、それにしてはあまりにも存在感を感じない。

まるで決して外れない分厚いベールで隠されているような──?

 

…いや、気のせいだろう。

少なくとも危険な感じはしない。

 

「さて、それじゃあ行こうか」

「はい!」

 

 

 

 その後唐沢さんに連れられて大きな部屋に案内された。

 

 部屋に居た7人の人がその視線を一斉に向けてきた。

 

 入り口から見て左右に2人ずつ座っている。

 

──右の2人は間違いなく、強い。

 

 正面に1人、明らかに立場の高い人が、真っ直ぐにこちらを向いている。

左目付近の大きな傷が目立つ。

厳しい、しかし、それだけではない何かを感じる視線だ。

まるで─

 

──最初に会った時の逆鬼師匠みたいだな。

 

 その左右に大人の男性と子供が控えている。

何を考えているのか読み取れない、底知れない眼だ。

まるで何も考えてないかの様な、無心の眼。

 

 それに対して子供の方は鋭い眼をしている。

僕の仕草等を観察している。

情報を集めようとしている、それも冷静に、だ。

かつて居たという小学生隊員なのかもしれない。

 

──この2人も強い。

 

 

 

 これが界境防衛機関『ボーダー』の人達。

 

 

 

「さて、皆さんお揃いですので始めましょうか」

 

 近くに居た唐沢さんが声を掛ける。

 

「こちら、白浜 兼一君。

今回知人のツテで紹介して貰いました」

「白浜 兼一です。よろしくお願いします!」

「さて、白浜君。今度はこちら側の紹介だ。

まずは城戸 政宗本部司令だ」

「よろしくお願いします!」

 

 お辞儀をする。

─目礼で返される。

 

「続いて右手前から

林道 匠支部長。

忍田 真史本部長。

 左手前から

根付 栄蔵メディア対策室長。

鬼怒田 本吉開発室長」

「よろしくお願いします!」

お辞儀をする。

 

「どーも」

「よろしく」

─フンっという音が聞こえた。

 

「城戸司令の右手に居るのが風間 蒼也隊長。

左手側が太刀川 慶隊長。

どちらもボーダーが誇るA級部隊長だ」

「よろしくお願いします!」

 

 お辞儀をする。

─軽い会釈をされる。

 

「さて、紹介も終わったしまずは白浜君には以前話せなかったことを話そうか」

 

 

 

 

 

 

 そこから機密情報について聞いた。

トリオンの事。

その特性。

人が攫われる理由。

若い人が多い理由。

情報漏洩に対する記憶封印措置等。

 

 

 

──────。

 トリオン以外での攻撃が有効にならない、か。

記憶を封印するのもやむを得ない、と思う。

 

 

「ここまで話を聞いて貰った。

…決心は変わらないかい?」

 

 その問いへの回答は決まっている。

 

 

「はい、変わりません!僕も戦わせてください!」

 

 

─ひと時の静粛な間が訪れ。

 

「一つ聞かせて貰いたい」

 

 どこか圧力を感じる声が響いた。

顔を上げ、正面を見据えた。

 

「確かに我々は共に戦ってくれる戦力を求めている。

君の申し出は嬉しい。

 だが、何故我々と戦う決心をしたのか。

その理由を聞きたい」

 

「理不尽な目にあっている人達を守りたい。

それが僕の信念だからです」

 

 

 先程より少し険しくなった視線と交わる。

 

 

「信念、か……。

その為になら自分の命は惜しくない、と?」

 

 視線が語り掛ける。

 

─それは命を掛ける程のモノなのか?

 

 

「いえ、惜しいです。

ですが、この信念は僕そのもの。

自分自身を見殺しにはできません。

僕は僕の為にも戦います!」

 

 

 

─そして生き延びて見せます。

 

 

 

 

 

 

 耳鳴りがするような間が流れる。

 

 不意にドアの外に人の気配を感じる。

 

「失礼します。

迅 悠一、参上しましたー」

「ご苦労」

「お、おつかれー」

 

 そこには一人の男性が右手を上げて敬礼していた。

茶色の髪色に、サングラスを首にかけた姿だ。

飄々とした態度、とでも言うのだろうか。この部屋の重圧を少しも気にしてないようだ。

 それだけではない、()()

空気を変える()()がある人だ。

 

「さてさて、ボスに呼ばれて来ましたが、何事ですか?」

「実はそこに居る白浜君についてだ」

 

 ちらり、と視線を感じる

 

「珍しく唐沢さんが推薦をして来てねぇ」

「しかも通常のスカウトとはまた違った手順、ときたもんだ」

「んで、お前さんの出番、というわけだ」

「なるほど、なるほど。唐沢さんの、ねぇ」

 

 左側に視線を向ける男性。

目を向けるといつの間にかキヌタさんの手前側に移動している唐沢さんが居た。

 

「それで、どうだ。迅」

 

 その言葉と共に向けられる透き通った青空の様な瞳。

浮かぶ感情が瞬く間に変化していく。

 この人は、僕を通して僕意外のなにかを見ている。

そう確信する位流れていく瞳の光。

 

 驚き、納得、喜び、失望、様々な感情が浮かんでは沈み、そして──

 

「うん。

是非入隊してもらった方がいいね。

それも戦闘員にするべきだね」

 

 唐突にそう言い放った。

 

「─戦闘員の方が良いのか?」

「うん。間違いなくその方がいいよ。

 

 おれの()()()()()()()()がそう言っている」

 

 

 またわからない単語が出てきた。

さいどえふぇくと?英語で副作用、だったかな?

 

 

 そのジンさんの言葉を飲み込む様に

 

「良いだろう」

 

 キド司令が告げる。

 

「白浜君を戦闘員としてボーダーに入隊する事を許可する」

 

「ありがとうございます!」

 

 これって入隊断られるとかもあったのかな?

そんな事を考えていた。

「では、早速必要な処理を進めよう。

鬼怒田開発室長どの位かかる?」

「今日は雷蔵が居るから殆ど終わらせられるでしょうな」

「わかった。

今回は(サブ)トリガーまで許可する。

その後仮想戦闘まで進めてほしい。

 唐沢くん」

「かしこまりました。

白浜君に関しては任せてください。

ひょっとしたら根付さんの力も借りるかもしれません」

「わかってますよ」

「忍田本部長、太刀川隊長、風間隊長はそのまま残っててくれ」

「はい」

「りょーかい」

「承知しました」

 

 とんとん拍子に話が進んでいく。

これまでの肩が凝る雰囲気が霧散していく。

 左から気配を感じる

 

「と、言う訳だ。

俺は迅 悠一。

実力派エリートだ。

よろしく、白浜君!」

 

差し出される右手。

 

「あ、どうも。

白浜 兼一です。

よろしくお願いします!」

 

 握り返す。

目を合わせる。

より伝わってくる。

変わらなく残る、最後に浮かんだ光が。

 

「あの」

「ん?」

 

 思わず聞いてしまった。

どうしても気になる

 

 

 

「僕に何があっても、貴方の責任じゃないですよ?」

 

 

 

────あの罪悪感にも近い責任感を放つ、鈍い眼差しが。

 

 

 

 

 

 

 耳鳴りが起きていると錯覚するような沈黙。

 微動だにしないジンさん。

 

 その静かさに。

 ゆっくりと目を瞬くその姿に。

 

「いやー、ぶっこんでくるねー」

 

 またやってしまったのか!!???

 

 己の悪癖を思い出す。

「…君、気を付けないと友達無くすよ?」

 

「ふびゃっ!!」

 

 気にしていた事を言われる。

かつて武田さんにも言われた。

いい加減この他人の逆鱗に触れる才能はどうにかしたい、と切実に思う。

 

「まぁ、いいや。

それじゃあ、これからよろしく、白浜()()

ボス、もう行ってもいいですか?」

 

「っ、あぁ、いいぞ」

 楽しそうな声。

 出ていくジンさん。

 頭を抱える僕。

 

─あぁ、どうして僕はいつもいつも、こう──。

「おいコラ、バンソーコー!」

 

 頭に軽い衝撃が走る。

 

「時間もそんなにない、さっさと行くぞ!

ついてこい!!」

「は、はい!お願いします!!」

 

 気持ちを切り替えて付いて行く。

向かった先は開発室。

色々な調査をし始めた。

初めてトリオン体とやらになり、身体測定を行った。

戦闘員に大事なトリオン量とやらを測り始めた。

 

 

………そして冒頭のリアクションに繋がる。

 

「トリオン量は最低中の最低。

トリオン体に換装してからの身体能力には目を見張るものがあるが、それにしても───」

 

 自分の世界に入り始めた。

 

 トリオン体に換装し身体測定を行った際には

「初めてでこれなら凄いぞ!」と褒めてくれていた。

 ひょっとしたらトリオン量も多いかも、となにやら期待していたようだが、結果はご覧の通りだ。

 

 いや、鬼怒田さんには申し訳ないがこの結果はわかっていた。

何故ならトリオン体での身体能力は()()()()()()()()()()()()()からだ。

まるで呼吸のできる水の中に居るかの様な感覚。

今の身体能力は、そう、まるで長老に無理矢理ビルの屋上で修業をさせられた時の─

「─ぃ!バンソーコー!!聞こえとるのか!!?」

 

「は、はい、すみません、聞いてませんでした!!」

「ったく、しっかりせんか!!

とにかく、貴様はトリオン体の操作能力は高いがトリオン量が足らん!!

迅が戦闘員、と言わなければ確実に戦場に出せんレベルだ!!!」

 

 怒鳴られる。

心配をかけてしまっているようだ。

 

「すみません」

「─ッッ!!─ッ!…っ。はぁ、しょうがない!

おい、雷蔵!」

「聞こえてますよ」

 

 少しふくよかな体型の男性が奥から出てきた。

少し期待している眼の光。

 何故だろう?よくわからない。

─でもこの人も強い、はず。

 

「この白浜に戦闘員としての基本を教えつつ、いくつかトリガーを見繕ってやれ!

城戸司令の許可もある!!」

「りょーかい」

「わしは少し仕事に戻る、後は頼んだぞ!!」

 

 足早に外に出ていく鬼怒田さん。

室長という位だし、相当忙しいのだろう。

 

「と、言う訳でよろしく。

俺は寺島。ここのチーフエンジニアだ」

「初めまして。

白浜 兼一です。

よろしくお願いします!」

「うん、よろしく。

んで、早速だけど君は動きは悪くない、むしろ良いんだ。

でもトリオン量が低いのは戦闘員としては致命的欠点なんだ」

 

 そして教えてもらった。

トリオン量が多ければ大半の攻撃用トリガーの性能が強化される。

シールドという防御用トリガーの性能も向上する。

何より戦闘継続能力が違う。

トリオン量が全てでは無いが、かなりウェイトが高いそうだ。

そんな大事な要素が低いと言われる。

 

 

 僕才能なさすぎじゃない?

いや、もう慣れてるけどさ。

 それにしても寺島さんが楽しそうなのは何故だろう?

 

「さて、そんな君に!

トリオン体の動きが良い君に!

ピッタリのトリガーがあるんだ!!」

 

「と、言いますと?」

 

「トリオンが低くても

攻撃力に優れ!

防御力に優れ!!

機動力に優れる!!!

画期的なトリガーが!!!!」

 

「!!そ、そんな夢のようなモノが!!??」

 

「そう!その名も────」

 

 

 

 

 

 

──もうこんな時間か。

陽が落ち始めている。

一度身体を伸ばし、息を吐く。

その後開発室に向かう。

 

「忍田さん」

「慶」

「俺も付いて行きますよ」

 

 何処に向かうのかわかっているかの様な口振り。

いや、わかっているのだろう。

 

「好きにしろ」

「了解。風間さんは一度隊室に戻ってから向かうってさ」

「…そうか」

 

 やはり興味があるのだろう。

あの少年に。

 強そうにはお世辞にも見えない。

 この判断に言葉に出せない引っ掛かりがある、が。

 

 なのに目に強い信念を持つ少年。

確信が持てない。

だが確実に何かがある。

 

 修羅場を経験したことがある者特有の、何か。

 

 

 

 

「お、風間さん!」

「お疲れ様です。

雷蔵に連絡を取ってみました。

今、2人で開発室の仮想戦闘室に居るそうです」

「そうか、ありがとう」

 

 3人で部屋に入ると。

 

「よし!よし!!

もういい!それでいい!!

よくやった、大丈夫だ、問題ない!!

これで君も戦闘員だ!!!完璧だ!!!!」

 

 

「「「…………」」」

 

 

 徹夜明けの様な寺島君が居た。

 

「おい、雷蔵」

「んぁ!─、なんだ風間、と。

 し、忍田本部長!!」

 

 お疲れ様です、と慌てて頭を下げてくる。

 

「いや、急に来てすまない」

 

 俺も居るよー。

 

「どうしたんだ、そんなに興奮して」

「いえ、それがですね」

 

 あれ!?無視(スルー)された!?

 

「まぁ、見てもらう方が早いか」

 

 仮想戦闘室内の白浜君の姿が映し出される。

 

「おーい、聞こえるかい!?

次の段階に進むよ!

今からトリオン兵と仮想戦闘してもらう。

さっき練習した要領で行けば大丈夫だ!」

 

 今からトリオン兵と?

随分ゆっくりだな。

 

 白浜君はポカンとした表情をしている。

 大丈夫か?

 

『??あ、はい。わかりました』

「よし!バムスター転送!」

 

 転送されるバムスター。

トリオン体に換装する白浜君。

両手に展開される──『レイガスト』。

 

「─おい、雷蔵」

「しょうがないだろ!

あの子信じられない程トリオン低いんだ!!」

 

 これを見ろ、と映し出される数値。

 こ、これは!?

 

 うーわ。こりゃ酷いわ。

 

「俺だって最初は期待したよ!!!!

あのトリオン体操作能力で低トリオン!!!

レイガストを持っても、尚高い機動力!!

ついにレイガストを使いこなせる人材が、とね!

でも、駄目だった──」

 

 疲れが滲み出ている声。

 

(ブレード)モードと(シールド)モードの切り替えができない。

切り替えようとしたら誤ってレイガストを消す。

スラスターを使えば盛大にすっぽ抜ける。

そもそもブレードを持ちたがらない。

こりゃ駄目だと思って『弧月』や『スコーピオン』を薦めても頑なに首を縦に振らない。

最終的にレイジの使い方を見せ、それで行く事になったよ……」

「─そうか。頑張ったな」

「うるさいよ」

 

 何で皆レイガストを変な使い方するんだよ、とブツブツ言い始めた。

 

「で、では今からが本格的な仮想訓練になるのか」

「あ、はい。そうです」

 

 少し立ち直った。

 

「あれだけのトリオン体操作能力です。

手段さえ決まればある程度は大丈夫でしょう」

 

 それほどか。

 

「よし!じゃあ戦闘訓練開始!!」

 

 突進してくるバムスター。

自然体で構える白浜君。

バムスターが振り下ろした右足を───。

 

『ぎゃぁああああ~~~~!!!!

怖い怖い怖い!!!!』

 

 見事、に、避け、た。

 

「「「「…………。」」」」

 

『怖い!早い!でかい!何なのコイツ!!!』

 

 バムスターの猛攻。

それを全て躱し切る。

凄まじい速さだ。

確かに初めてのトリオン体であれだけ動けるのなら期待するだろう。

 

 あの悲鳴と見るからに怯えている表情を見なければ、だ。

 

「……確かに、速い、な」

「……だろ?

あの馬鹿高い身体能力をコントロールできてる。

信じられない能力だ」

 

 確かに。

バムスターの攻撃を完全に見切ってる。

見切った上で、無駄に大きく躱している、が。

 

「身体の動かし方に慣れてるのか?」

「そんな感じだな。リアルで何かやってんじゃないの?」

 

 確か唐沢さんの知り合いの()()()の弟子、だったか?

それならあの動きも納得だ。

恐らく得物でなく、素手が得意なのだろう。

 そこまで考えて

 

─この程度、か。

 

 あの怯えた表情を冷たい目で見てしまう。

何度も攻撃を加えるチャンスがあるのに。

会議室で感じたあの輝きは───。

 

 頭を振る。

 

「確かに凄いがこれでは彼の実力は測れないな」

 

 先程から完全な鬼ごっこ状態だ。

これでは───

 

「少し酷かもしれないが、モールモッドを──」

 

 

 

 

「その必要は無いですよ、忍田さん」

 

 

 

 

 静かな、しかし力強い声が響く。

 

「ある程度動けるのはわかった。

後はその底を図るだけ。

─それならモールモッドなんて要らない」

 

 いつもの気怠そうな雰囲気はなりを潜め。

 

「俺が戦いますよ」

 

 太刀川 慶。

ボーダーA級1位部隊 太刀川隊隊長。

個人(ソロ)総合1位。

アタッカーランキング 1位。

紛れもなくボーダー戦力最高峰の一角。

その口元を歪めながら

 

「その方が面白そうだ」

 

 

 

──このやんちゃ小僧め。

 

 

 




レイガスト
「スラスターは置いてきた。
あいつは付いて来れないからな。」

スラスター
「!!??」


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BATTLE3:太刀川 慶

ご視聴して頂いている皆様、ありがとうございます!

こんな拙い小説ですが、感想や評価を頂き驚いております。
同時にワートリとケンイチが好きな人が多い事に感動してます!

もっとこのクロスオーバー小説増えてほしいです!



決着まで書きたかったですが、諦めました。
戦闘シーン難しい。



 

 ネイバー、バンダー?だったか。

からの攻撃を躱し続ける。

 動きは見えている。

大振りな振り下ろし。

今の僕に当たるはずがない。

いや、トリオン体()の僕になら可能性あるか。

 

 トリオン体の性能には慣れてきた。

いくら今の身体能力より劣るとは言え、昔に戻ったようなもの。

自分の身体なんだ、動かすだけならある程度は慣れてくる。

 

でもやはり。

 

──落ち着かない。

 

 トリオン体になって。

唐沢さんからの説明を聞いて。

ボーダー本部前で感じた妙な感覚が。

このネイバーから感じる気配こそ。

 

 これがトリオン?

 

 気とはまた違う。

纏う感覚と違い、分厚く着飾る感覚。

 気と身体をまとめてトリオンに包まれて─

 いや、圧縮されているかの感覚。

 

 早く慣れないと。

 

 何処まで()()()()すれば良いのか。

昔の感覚と今の気の扱い、そこにトリオンという要素が混じる。

自分の身体なのに威力がわからない。

少し臆病になってしまっている。

 

 それになにより。

 

 やっぱ怖いんですけど、ネイバー!!!!

 

 デカイ、という事はそれだけで力を持つ。

足がすくみ、手は震える。

生物の持つ根源的な恐怖だ。

決して僕が臆病な訳では無い、うん。

 まずは慣れる事が大事!

そう言う事にしておこう、うん!うん!!

 

 

 

 

 とは言え、流石に少し落ち着いてきた。

取り敢えず一回殴ってみよう。

威力は試してみるしかないし、うん。

そんな感じで攻撃をしてみようと決めた、その時。

 

 目の前のネイバーが消えて無くなった。

 

「え?」

 

 間抜けな声が出てしまう。

 入り口から一人の男性が現れた。

 確か─

 

「よ、バンソーコー。次は俺が相手だ」

 

 まるで挨拶のような気安さだ。

 模擬戦だからーとか。傷は付かないーだとか。

 トリガーを試す際に寺島さんに聞いた事を話してくる。

 

 だが、殆ど耳に入ってきてない。

 

──あぁ、やっぱり。

 

 薄々感じてた疑問が紐解かれていく。

 

「何、故?」

「ん?」

「何故、模擬戦を、行うのですか?」

「うん?そんなに不思議か?

実際の訓練でも隊員同士の模擬戦はあるぞ?」

 

…決定的だ。

 馬鹿か、僕は。

少し考えればわかるだろう。

 

 何故トリオンが奪われる?

必要だからだ。

トリオンを必要とする生命体にとって。

その生命体がネイバー。

その姿は?

 

 寺島さんはさっき バンダーの事をトリオン兵と言ったのだ。

ネイバーと言っていない。

僕が今まで見てきた映像内のネイバーをトリオン兵と言った。

ネイバーと明らかに区別している。

 

 何故隊員同士で模擬戦闘を行うのか?

 

 模擬戦を行うのは人型に慣れさせるため、ではないか?

人型のトリオン兵やネイバーが出てくる可能性があるからだ。

もし出た場合、躊躇せず(ためらわず)に対処する為、だとしたら─

 

「おい、もういいか?始めるぞ」

 

 構えるタチカワさん。

手には二振りの得物。

傍目に膨れ上がる気。

 

 あぁ、そうだ。

 薄々わかっていた事じゃ無いか。

 梁山泊に依頼が来たんだ。

 この任務は。

 

 

──近界民(ネイバー)との戦争、なんだ。

 

 

 

 

 

 

 旋風が巻き起こる。

鋭く、重く、正確に。

変化を混ぜながら。

二本の剣が縦横無尽に襲い掛かる。

 

「おお!やるなー、オマエ!」

 

 それを防ぎ切る。

両手に持ったレイガスト。

シールドを拳大の大きさに展開する。

まともに受ける気はない。

いつもの通りに力の流れを逸らす。

 

──攻撃に疲れが見えない!

 

 だが、終わりが見えない。

これだけの動き、少しは疲れそうなものなのに。

 

 これがトリオン体での戦闘!!

 

 厄介な事この上ない。

 それにこの間合いは相手の土俵。

防いでばかりだといずれ崩されてしまう。

一度崩されれば、そのまま飲み込まれてしまう。

 

 左下から切り上げてくる。

視界に映る()()()()()

 

 ここ!!

 

 その軌道を作る手を狙い蹴りを放つ。

 

 察知したのだろう、軌道を止め、防いできた。

予想通り。

その隙を見逃さずに距離を取る。

 

 この距離なら即追撃、とはいかないだろう。

すかさず自身の状態を確認する。

 

 手足は動く。

疲れも全くない。

その事に違和感があるが。

細かい傷が2,3ある位。

心はさっきよりは落ち着いている

剣の相手は慣れてるからかな?

─嫌な慣れだ。

 

 タチカワさんを見る。

問題なさそうだ。

防がれたとは言え、普通なら手が痺れそうなものだけど。

それすら無さそう。

自然体でこちらを見ている。

さっきより楽しそうだ。

きっと戦闘狂(バトルジャンキータイプ)に違いない。

総合的な実力はかなり強い。

いや、実力に比べて剣──

 

 

「了解」

 

 

 ──?

急に構え始めた。

まるで居合の様な──

 

 

 

「旋 空 弧 月」

 

 

 

 逃 ゲ ロ

 

 

 本能が叫んだ。

後ろに跳ねながら視える軌道線を両手で防ぎ─

 

『伝達系切断。白浜 ダウン』

 

 レイガストごと4等分にされた。

視界が()()()

 

 

 

 と同時に元に戻った。

 

 

──これ、が模擬戦の?

 

「な、大丈夫だろ?」

「…えぇ、まぁ。」

「ほら、じゃあ続き続き!」

 

 この、戦闘狂め!

 

「いや、待ってください!!

それより今のは何ですか!!??」

 

『今のは【旋空】っていう孤月専用オプショントリガーだよ。

効果は簡単に言うと飛ぶ斬撃』

 

 

 寺島さんの声が聞こえる。

飛ぶ、斬撃!?

そんなの─、達人級の技じゃないか!!

 

 

 

「いやー、使う気は無かったんだぜ。

でもオマエの実力図れってさー。

命令だしなー。

仕方ないよなー」

 

 話しかけてくる。

 最初とは違い楽しそうなタチカワさん。

 構える。

 

 

──来る!!

 

 

 

 

 

 その後。

 

 両手から来る伸びる斬撃に対応しきれずに負け。

 

 逆鬼師匠の様な空中三角飛びを絡められての猛攻に耐え切れず負け。

 

 

 黒星を重ねている。

 

─息を整える。

相手を見る。

こちらが来るのを待っている。

 

──けれど。

 

相手のリズムは掴んだ。

自分の間合いを保つタイプだ。

伸びる斬撃と直接剣で攻撃する間合いの管理に長けている。

 

──ならばそのリズムを壊す。

 

 一直線に突っ込む。

対応される。

こちらに防御させる斬撃。

これを─

 

 

「振ったねぇ」

 

 

──受けない!

 

 

 イメージするのは岬越寺 師匠。

防ぐのではなく、()()()()()()()()場所に振らせる。

人体錯覚(オニ、アクマ、アキサメ)の第一人者。

散々味わったそれを模倣する。

 

 半身ズレたところに剣が振り下ろされる。

 当然そこにはいない。

 敵が驚く。

 

 

─その隙を見逃さない。

ゼロ距離まで詰める。

敵に離脱を許さない。

膝蹴りを突き上げる。

 

 左の剣と盾で防がれる。

流石の反応。

 

「惜しかったな」

 

──ようやく

 

 防いだ事による安心。

反対の手で仕留めれる確信。

迫る刃。

 

 

──隙を見せた!

 

 

 

 

「孤塁抜き!!!!!!」

 

 

 

 

 剣と(シールド)だろうが!

まとめて吹き飛ばす!!

起き上がる敵!!!

敵の心臓付近に──

 

 

「───ぇ…?」

 

 

 ()()()()()()、の心臓付近、に大きな穴ができていた。

 

 

 

『トリオン供給機関破壊。太刀川 ダウン』

 

 

 

 冷たい声が響いた。

 

 

 

 

 

 

 まさかこれ程とは。

 

「トリオン兵より太刀川との方が動きが良くないか?」

「そうだな。太刀川君の動きを見切ってる動きだ」

 

 慶は間違いなくボーダー最高峰の一人。

その慶がオプショントリガー無しとは言え─。

 

「今まで手を抜いていたのか?」

「そんな感じじゃなかったぞ。

必死感は出てた。

ただ、今見ると。

その時に比べると─。

なんて言うか、こう……」

「『トリオン兵より対人の方が慣れている』という所か?」

「あぁ、そんな感じ。動きのキレが違いすぎる」

 

 その通りだ。

慶相手にこれ程動ける。

充分戦力になる。

 

 わかっているのに。

 

『慶』

「「…?」」

 

──その先を見たくなった。

 

全トリガー(本気)を出すことを許可する』

「「!!!?」」

 

 

─了解。

 

 

「いやいや、本部長!

相手は今日初めてトリガー使うんですよ!!

現時点で充分ですって!!!」

 

「──本部長は」

 

 真っ直ぐに向けられる視線。

 

「この先が有るとお考えですか?」

 

 

「あぁ、有ると期待している」

 

 

 

 

 

 

『孤塁抜き!!!!!!』

 

 

 

 声が響く。

白浜君の蹴りをシールドと孤月で防ぐ慶。

 

 それを、力尽くで、破った。

 

 

「──おい、─」

「いやいやいや、俺も知らないって!!

こんなの!!!」

 

 

 2人とも興奮している。

 

 

「シールドごとまとめて蹴り飛ばされるなんて今までなかっただろ!

それに白浜君も確かに高いトリオン体操作能力だったけど、それだけだぞ!!」

「…そう、だな。隠していたとか?」

「─!…可能性は、ある。けど─」

「あぁ。例え隠していたとしても。

そもそも防がれる前提の攻撃を──」

 

 

 話し込み始めた2人を尻目に

 

 

──今日一番に楽しそうな表情の慶。

 

──今日一番に青ざめている白浜君。

 

 

 その姿が気になった。

 

 

 その後慶が3本連続でダウンを奪った。

先の戦闘の半分以下の時間で。

 

 

 

 

 

 

 あぁ、心が怯えている。

目の前の暴風に集中できない。

 

─お前の拳は───

 

 かつてティーラウィット・コーキンに言われた。

その言葉が反響してくる。

 

 人を害すのかと。

あの時と変わらないのかと。

 

 タチカワさんに大穴が開いた姿を。

かつて道場で倒れていたあの人達と重ねてしまう。

 

 

 

「ひょっとしてさっきのを引きずっているのか?」

 

 

 

 暴風が静まりながら問いかけてきた。

 

 

 

「───あのさぁ」

 

「無理なら無理でよくない?」

 

「強いけど」

 

「その様なら」

 

 

「大層な信念持ってても意味ないだろ?」

 

 

 身体が反応する。

目の前でこちらを気に掛けている男を見上げる。

 

「闘いたくないのなら無理に戦場に出ないで良いだろ?

お前、向いてないよ」

 

 その通りだ。

言われても仕方がない。

自分が不甲斐ない。

心配してくれるタチカワさんに感謝する。

 

──けれど。

 

「もう僕の事を見極めたつもりなんですか?

意外と自惚れ屋さんなんですね」

 

 身の丈に合わない。

強い言葉を敢えて使う。

自分を奮い立たせる為に。

逆鬼師匠流勇気術だ。

 

 

…心配してくれている相手に失礼だが。

それでも─

 

 

──決して聞き流してはいけない言葉が聞こえた。

 

 

 迷いはある。

不安は消えない。

だけれども───!

 

 

「勝負は」

 

 

 

─その全てを静め─

 

 

 

「これからです」

 

 

 

─眼を醒ます(ひらく)

 

 

 

 

 期待感に満ちている視線を見つめて。

 

 

 

「行きます」

「来い!!」

 

 

 

 

 




そう言えば太刀川さんがグラスホッパーを戦闘に使うシーンってありましたっけ?
ブラックトリガー争奪戦かイルガー落とすときに使ってた可能性があるくらいでしたっけ?


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BATLLE4:忍田 真史

ここから独自設定がこれまで以上に爆発します。





 

◼️

 

 

 白浜君が慶に向かって歩いている。

余分な力が完全に抜けきった自然体。

ゆっくりとした足取り。

何も障害が無いかの如く。

一直線に向かっている。

 

 

『おいおい、マジかよお前!』

 

 

 慶の猛攻。

孤月が白浜君に襲い掛かる。

先と変わらない展開。

 

 変わったのはたった一点。

白浜君が孤月を受けなくなった。

先までは両手のレイガストで受け流したりしていたが。

それすら無くなっている。

 

 白浜君の動きが早くなったわけではない。

むしろ先程より遅く感じる。

だと言うのに。

 

 

『お前も未来が見えるのか!?』

 

 

 慶の攻撃が悉く白浜君からズレている。

旋空を絡めても。

グラスホッパーで位置を調整しても。

彼の薄皮を掠るのが精一杯。

ダメージは与えられていない。

 

「「…………」」

 

 2人とも静かになっている。

慶の実力を知っているからこそ。

この光景は衝撃なのだろう。

 

 

──私ならどう対応する?

 

 絶え間ない慶の猛攻。

木の葉の様に揺らめく白浜君。

 

 

 

『そんな大層なものは見えませんが』

 

 

 静かに響く。

 

 

『貴方の流れに合わせ』

 

 

 旋空を放つ態勢の慶

 

 

『その動きと一つになりました』

 

 

 

─その懐に

全く同じ態勢の白浜君─

 

 

 

──!?いつの間、──

 

 

 

『無拍子』

 

 

 

 到底打撃に適している態勢ではない。

そんな態勢で放たれる肘打ち。

 

 だと言うのに吹き飛ぶ慶。

壁にぶち当たる。

恐らく先程の蹴りより威力がある。

 

──あんな態勢で!?

 

 疑問が湧く。

素手では考えられない威力。

間違いなく致命傷。

その疑問を裏切るように目立った傷が無い状態で慶が立ち上がる。

 

 

 

『─大したものだが、──』

 

 

 

 慶の言葉。

だが、誰もそれを聞いていない。

表示されている情報に目を奪われている。

そして──

 

【戦闘体活動限界。太刀川 ダウン】

 

 

『──────は?』

 

 

──慶の敗北がアナウンスされた。

 

 

 

 

『いやいや、何で!?』

 

 

 当然の質問だろう。しかし。

 

 

「……太刀川君。君のトリオン量が急激に低下した。

戦闘体を維持できなくなる位に、だ。

─何らかの、行動が、原因だろう──」

 

 こちら側ですら到底信じられない事態。

慶は尚更だろう。

理解できてない感情が伝わる。

私達も何が起こったかはわかってない。

 

 

──だが、その原因はわかっている──

 

 

『お待たせしました』

 

 

 慶のトリオン体に傷を付けずにトリオンのみを減らす。

そんなでたらめな現象を。

 

 それを発生させたであろう少年を見る。

 

 

『準備できました』

 

 

 

 

 

 

 

 ずっと気になっていた。

気とトリオンは明らかに違う。

 なのに。

似て非なるものと感知している。

 

 

─そうであるなら。

─相手の気を吹き飛ばせるのなら!

───相手を傷つけずにトリオンを減らす事(気の掌握)が出来るなら!!

 

 

 相手を傷つけずに(戦闘不能に)できる!!!

 

 

─制空圏をトリオン体の少し外に纏い

──タチカワさんの放つ暴風に従い

───その中心に陣取る。

 

 

 僕に反応するタチカワさん。

 

 タチカワさんを覆うトリオン。

分厚いベール。

 

─その層を

 

──気の掌握と同じ要領で 

 

 

「無拍子」

 

 

───気とトリオンを()()()吹き飛ばす!

 

 

 

 タチカワさんが起き上がる。

見た目に傷は無い。

 

 けれど感じる(わかる)

 

 

 

【戦闘体活動限界。太刀川 ダウン。】

 

 

 

 その総量が減っている。

 

 

 

 

 タチカワさんに傷はない。

だが、トリオンが無くなったのだろう。

 

 これでわかった

相手を傷つけず。

相手のトリオンを減らすには。

 

 

─自身もトリオン体になり。

気とトリオンを用いて。

 

 

───気の掌握を行う事───。

 

 

 …うん、難しい。

気の掌握なんて鍛冶摩さんとの戦いで偶然できたくらい。

今回は上手くいったが、次どうなるかはわからない。

 

 

 けど

 

 

「お待たせしました」

 

 

 自分は戦える。

 活人拳の誇りを胸に。

 

──信念を貫ける。

 

 

「準備できました」

 

 

 

 

 

 

 とは言え、そんなに上手くいかず。

完全な気の掌握は当然叶わず。

クリーンヒットした打撃で相手のトリオンを削る位が限界だった。

 

 

 2勝9敗2分となったところで。

忍田本部長から終了命令が下った。

 

 

 

 

 

 

 

「こんなに遅くなってすまないね」

 

「いえ、大丈夫です」

 

「疲れてないのかい?」

 

「疲れてますけど、慣れてますから」

 

「…。もう少し待ってくれれば私が送るが?」

 

「ありがとうございます。

けど─」

 

 遠い眼をする。

 

「直接見ておきたいんです、三門市を。

───この眼で」

 

「──────。

そう、か。

わかった」

 

……

 

「─入隊日にまた会えるだろう。

その日を楽しみにしているよ」

 

「はい!

こちらこそよろしくお願いします!」

 

 

 そう言って市街地に向かっていった。

 

 

 

 

 姿が見えなくなった頃。

 

 

「あら、忍田。何をしているのです?」

 

─声が掛けられる。

 

「珍しいな、ここまで来るなんて」

 

「気まぐれですよ」

 

─だろうな、と思う。

彼女らしい。

 

「それで」

 

「ん?」

 

「何をしているのですか?」

 

「いや、何も──」

 

 

 

()()()()()()()()()()をしているのに?」

 

 

 

「……君には噓はつけないな」

 

「えぇ、そうでしょうね」

 

「─はぁ。近々仲間になってくれる少年が居るからだ」

 

「その少年を気に入ったと?」

 

「まぁ、そうだな」

 

「……戦力になるのですか?」

 

「──わからない。

しかし、─」

 

 

 

─期待している。

 

 

 

「───。

そう、ですか」

 

 

 

 

「─さて、城戸司令に報告に向かうか」

 

「それで?」

 

「ん?」

 

「その人の名前は?」

 

「あぁ、彼の名前は──」

 

 

 

 

 

 

 

 

 夜空に星が瞬いている。

梁山泊の屋根で見るこの景色は僕のお気に入りの場所の一つだ。

 

 

「───ふぅ」

 

 色々あった。

ボーダーに行った。

お偉いさんに会った。

未知の技術に触れた。

それを活用して戦った。

 

 

 こうして聞くと凄い経験をしてるな、僕。

───今更、か。

 

「兼一さん」

 

「ん?」

 

 振り向く先に。

 黄金色の髪が舞う。

 月の女神と見間違う。

 憧れの女性。

 

 

──風林寺 美羽さん。

 

 

「どうしたんですの?」

 

「…………」

 

「…。受けた任務の事ですの?」

 

「……──はい」

 

 美羽さんは僕の右隣に座り。

─そして、僕に言葉を促した。

 

 

「僕は」

 

 

「改めて」

 

 

「幸せ者だったんだなぁ、と」

 

 

 あの後三門市を見て回った。

 

 普通の人達が。

普通に生活していた。

ありふれた光景。

 

 

─ただ一点。

 

 

──その眼に

 

 

───悲しい光を携えた人が多かった。

 

 

 

 初めて聞いた時に思った。

 

 何故逃げない?

 

 何故三門市に居る?

 

 その疑問を解消する為に。

 三門市を直接見てきた。

 何か解るかな、と。

 

 3年近く前の第1次近界民侵攻。

行方不明者400人以上の被害。

─家族の()()()()

そこに残る人達。

 

 それを見て思う。

彼らは守っているんだ。

 

 行方不明の家族のため。

戻ってきたときのために。

迷わない様に。

戻ってこれるように。

その目印を守るために耐え続けている。

 

 

 

───あそこは民間人の居る戦地なんだ。

 

 

 

「だからこそ」

 

 

─そういった人達を守る為にこそ!

 

 

「それを守りたい」

 

 

─僕は武術を学んできたんだ!!

 

 

「そう思いました」

 

 

 

 

 

 

 

「なるほど、ですわ」

 

「美羽さん」

 

「相変わらず。

──他人本位ですのね」

 

 そう笑われる。

 

「いや!違いますよ!!」

 

 顔を向ける。

 

「これは僕の信念───」

「信念だから──、ですの?」

 

 楽しそうに僕の台詞を横取りする。

 

 その顔を見る。

至近距離で見つめ合う。

 

──くそぅ、可愛い!

 

 惚れた弱みかもしれない。

この人に勝てる気がしない。

でも反論位してやる!

 

 見惚れている自分の頭を振り、彼女の顔を再度見据える!

 

 そこには。

 

 

「────」

 

 

 何やら悲しそうな表情。

 

 

「美羽、さん?」

 

 

「──決めましたわ」

 

 

 何かを決めたらしい。

 

 

「──兼一さん」

 

 

「は、はい!!」

 

 

 

「わたくしも、兼一さんと同じ様に、暫く梁山泊から離れますわ」

 

 

 

──え?

 

───何故?

 

────え?

 

 

 

 言葉が出てこない。

 何で?

 

「────え?」

 

 言葉が出てきた。

いや、そうじゃない!

馬鹿か僕は!!

感じた事そのままじゃないか!!!

 

「どう、して、、?」

 

 

 

「───実は、────」

 

 

 

 美羽さんの胸の内を聞いた。

近々砕牙さんが違う国に行くらしい。

そこに美羽さんも一緒に行かないか、と。

それを受けるつもりである、と。

 

 

「でも」

 

 

 一瞬の間をおいて

 

 

「……わたくしは兼一さんと同じ任務を受けるのも良いと思ってますわ!」

 

 

 一気に言い切った。

 

 

 僕と三門市に行くか砕牙さんと同じ場所に行くか。

 

 その事を迷っていたらしい。

どちらにせよ梁山泊を離れることを気にしているのだろう。

責任感の強い女性だ。

 

 美羽さんの視線がこちらに向かう。

何かを言ってほしいかの様な表情。

 

─正直、美羽さんも三門市に一緒に来てほしい。

美羽さんが隣に居るのなら()()()()()()()()()

だから、一緒にいて欲しい、と言えば良い!

 

─けど。

 

 美羽さんの手をおもむろに掴む。

 

「美羽さん!!」

 

「─!は、はひぃ!!」

 

 

 肩が飛び跳ねる美羽さん。

 

 

 僕の想いは─

 

 

──家族と同じ場所に行くのも良い事だよ、な。

 

 

 美羽さんにとって初めての父娘の思い出!

それは大切な思い出になる!!

美羽さんには幸せになってほしい!!!

是非一緒に行くべきだ!!!!

 

 

 そんな旨を伝えた。

これで、良い。

僕は未熟だ。

 

 僕の想いは、まだ伝えるべきでない!!

 

 

 

─兼一君、君ってやつは─

─兼ちゃん、それはないね─

 

 

 

「…流石兼一さん、ですわね」

 

「──え?」

 

「───いえ、今決心しました。

今度の遠征でわたくしももっとれべるあっぷしますわ!

──覚悟していて下さいまし!!」

 

 なんか興奮し始めた。

なんの事?

 

 急に立ち上がろうとする美羽さん。

 

 立ち上がろうとした美羽さんを咎めるように。

 

 美羽さんの体幹がぶれる。

 

 何故か急に発生した突風に美羽さんが巻き込まれる。

美羽さんがバランスを崩す。

 

 手を伸ばす。

美羽さんの手を握る。

 あの美羽さんがバランスを崩すのだ。

よほど強い突風だったのだろう。

自然に発生したとは思えない。

 

──達人級の奇襲!!??

 

警戒を込めて美羽さんを抱き寄せる。

 

 

──────

 

 

 何も、無い?

てっきり達人級の奇襲かと思ったが──?

 

 

「───っ!」

 

 

 気配は感じない。

自然発生な突風なら、まだ良い。

だが、もしも、達人級の仕業なら──?

 

──どうする、どうする、どうする!!

 

 その発生源が判別つかない。

相手は超A級の達人か?

せめて美羽さんだけでも───

 

 

「兼一さん!!!

落ち着いて下さいましっ!!!!」

 

 

 その言葉と頬への衝撃に。

我に返る。

腕の中の美羽さんを見る。

 

 こっちを見据える翠色の瞳。

 

 落ち着いた。

 

「美羽さん」

 

「大丈夫です、支障はないです」

 

「わかりました。右は僕が見ます」

 

「では、わたくしが反対を見ます」

 

 

 

───何も、無い?

 

 

 少し気を抜いて、美羽さんの方を見ると。

 

 

 

「美羽さ、ーん!?」

「えぇ、何も──っ!!」

 

 

 

 目の前に女神の顔があった。

 

 

 いや、そりゃ腕の中に美羽さん居るからな。

近いはずだよね、うん。

 

 

─大きく開かれた瞳。

──少し朱色に染まった頬。

───少し、近づけたら、触れそうな、唇。

 

 

─ちぃ!もう突破したのか!?

─まずいね、このままだと妨害が成功してしまうね!!

 

 

 変な声も気配も。

全て今の僕には響かない。

 

目の前の女性に。

 

最愛の女性に。

 

「美羽さん」

 

「兼一さん」

 

 僕のすべてが─

 彼女に惹きよせられ──

 

 

─長老、いい加減認めてあげても!

 

─えぇい、どけ!秋雨くん!!

 

─梁山泊…の、武人、が─。大人、げ……ない、ぞ!!

 

─父よ、加勢します!

 

─いい加減にするね、2人とも!

 

─アパ!二人ともお馬さんに蹴られて地獄に落ちるよ!

 

─正しくはねぇが、間違っては無いな!おい、いい加減に───

 

 

「「……」」

 

 

─今の儂は我流Xじゃあ!

 

─ならば!私は我流X2号だ!

 

─頭狂っているのか、オメェー達!

 

─砕牙、君は良い友人だったよ!

 

─止めるね!それ死亡フラグってやつね!!

 

─あぱ、我流エックスが、、

 

─目を覚ませ、アパチャイ。あれは…偽物、だ。

 

 

 

 響く、いつもの、声。

 

 

 美羽さんと改めて顔を見合わせる。

 

 先程の雰囲気は既にない。

 

 苦笑が漏れる。

 

 美羽さんが立ち上がる。

 

 ぷるぷる震えている。

 

 

「何を、しているん、ですかーーーーー!!!!!!」

 

 

 本当に、あの人達は──。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして入隊日になった。

あれから──、色々あった。

 

荒涼高校と家族への説得は唐沢さんが行った。

名目は1年の交換留学。

 

 あの威厳のある、でも優しい父への説得も唐沢さんがやっている。

 

 克己君、元次さん、って呼び始めたときはびっくりした。

何なの、あの人。もはやあの人に任せておけば何も問題ないのでは、と思い始めている。

 

 

 新白連合のメンバーには適当に話しておいた。

 

 

─悪魔と、谷本君は三門、と言う言葉に反応していたが。

 

 

 

──閑話休題──

 

 

 

 入隊の挨拶を忍田さ─、忍田本部長から受けている。

その後、谷本君に劣らない顔面偏差値の人から訓練内容について説明を受ける。

 

─自分達はC級隊員である事。

─B級隊員にならないと防衛任務には出れない事。

─B級隊員になるには各自設定のポイントを4,000まで上げる必要がある事。

─そのポイントは基本1,000ポイントからスタートする事。

─仮入隊などでその才能(センス)が認められた場合、数字が上乗せされる。

 

 そんな説明を経て。

最初に案内される、戦闘訓練場。

訓練内容はトリオン兵との戦闘訓練。

制限時間5分以内にトリオン兵を倒す訓練。

早く倒した方が高い評価との事だ。

 

 多くの人が苦戦している。

 倒すのに3分以上かかる人が殆ど。

皆が苦戦している中──

 

 

『3号室、終了。記録、1分2秒』

 

 

 ニット帽を被った茶野君と

 

 

『2号室、終了。記録、1分00秒』

 

 

 もさっとした髪の藤沢君が。

 

 

───おぉーーー!!

 

 

 高い記録を出していた。

間違いなく同期で優れている。

その事実に得意気になる二人。

同期の最高記録である1分台。

 

 

 

『1号室、終了。記録、11秒』

 

 

 

──それを覆す、才能の煌めき。

 

 

 黒江 双葉さん。

 

 

 それでも自身に満足していないであろう様子。

気の強い少女。

 

 

 間違いなく同期トップクラスの人材。

見るだけで伝わる、才能の原石達。

ただただ凄いと思う。

 

『4号室用意』

 

 気が付いたら僕の出番だ。

現れるトリオン兵。

自然体で構える。

 

─未だに怖い。

だから相手が動くのを待つ。

その方が楽だ。

 

 動き始める相手。

振り下ろされる右足。

 

─それを

 

─最小限の動きで躱し

 

─振り下ろした隙を見逃さずに

 

──下顎ごと殴り上げる──

 

 

 吹き飛ぶトリオン兵。

動く気配は無い。

 

 

『き、記録、4秒』

 

 

 これなら良い成績を取れた、かな?。

 

 

 

 白浜 兼一。

所持トリガー:レイガスト

ポイント:3700

 

 

 

 白浜 兼一のボーダー生活が始まった。

 

 

 

 




最後まで悩みましたが、美羽は不参加としました。

当初は美羽に感化された照屋ちゃんが動の気を開放して
史上最強の押しかけ女房として柿崎隊をA級に押し上げるつもりでした。




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第二章
BATTLE5:同学年アタッカー


 

 

 相手の死角を縫う様に放つマンティス。

複雑な軌道。

獲物を仕留める蛇の如く迫るそれ。

 

 薄皮一枚を削るだけに留まる。

死角をついたであろう。

把握するのも困難なあの軌道を。

初見で逸らされる。

多少の驚きと。

僅かな疑問を覚える。

 

 

──ひょっとしてコイツも?

 

 

 自身の持つクソ能力。

その事を思うと同時に─。

それどころではない事を思い出す。

 

 

 迫る圧力。

─何も感じない。

 既に相手の間合い。

─何も感じない。

 両手にスコーピオンを生やす。

─何も感─。

 

 

──来る!!

 

 

 突如迫る右拳。

なんとか反応し、受け流す。

少し崩される。

追撃されるが、飲み込まれないよう応戦する。

あまり使わないもぐら爪(モールクロー)を放つ。

 大袈裟に飛び退く。

()()()()()()()()()()()()

 

 

──間違いない!!!

 

 

「見た目の割には楽しめるじゃねーか!!!!」

 

 

 構える相手に突撃する。

悲しい感情が刺さってきた。

……いや、スマン。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 入隊から1週間ちょっとが経った。

戦闘訓練の他に地形踏破、隠密行動、探知追跡の訓練を行う。

今のところ良い成績を出せている。

 

 入隊時に担当である時枝君に教えて貰った事を思い出す。

合同訓練は週2回。

この調子ならどれだけ遅くとも今月中には4,000ポイントは超えるだろう。

もっと早く正隊員になりたいなら、C級ランク戦を行いポイントを稼ぐ事もできるとの事だ。

色々丁寧に教えて貰った。

今度お礼を言おう。

 

 さて、ランク戦のロビーに着いた。

あまり足を向けたい場所でないが、その雰囲気は知っておこうと思う。

モニターに映る戦いを見る。

 

 

─真っ二つに切り裂かれる隊員。

─蜂の巣になっている隊員。

 

 様々な姿が映し出される。

それらを見ながら改めて思う。

 

 

──うん、やっぱり怖い。

 

 

 いくら傷付かないとは言え。

積極的に参加したいとは思わない。

早く正隊員になりたいけど。

しょうがないね、うん。

地道に───。

 

 

「お!居た居た!

おーい、白浜!」

 

 

 声が掛けられる。

振り向くとそこには太刀川さんが居た。

知らない人が2人いる。

 

 少し注目が集まった。

 

「お久しぶりです、太刀川さん」

「勝負しようぜ!」

 

──…………。

 

 いきなり過ぎて、黙ってしまった。

やっぱり戦闘狂タイプなんだろう。

傍に居る二人も呆れているかの表情。

 

「いや、いきなり過ぎるでしょう、太刀川さん」

「ほら、ポカンとしてますよ」

「えー」

 

 えー、ではないが。

 

「済まないな、いつもはもう少しは落ち着いてるんだが」

「いえ、大丈夫です」

「初めて見る顔だな。俺の名前は荒船 哲次。高校2年だ」

「村上 鋼だ。荒船と同じ2年生だ」

「初めまして、白浜 兼一です。僕も高校2年生です」

 

 こちらも挨拶を返す。

 

「あぁ、ひょっとして最近三門高校に来たってやつか?」

「はい、そうです」

「そう言えばクラスでも少し話題になったな。」

 

 しばらく談笑する。

早速同い年と知り合えるのは幸運だ。

 

「なー、勝負やろうぜー!」

 

 まだ言ってる。

 

「まだ言ってるんですか、太刀川さん」

「てか白浜の格好見る限りだとまだC級だろ?」

「うん、先週入隊したばかり」

「そりゃ無理だわ」

 

 呆れた顔で太刀川さんを見る2人、

 

「何だ?まだB級じゃないのか?」

「はい」

 

 むしろ何故既にB級になっていると思ったのか。

 

「んじゃあ適当にその辺の奴らとランク戦してさっさとB級になれよ。

んで、俺と闘え」

 

 ほらほら、と背中を押される。

 

──いやいやいやいや!!

 

 強引すぎる。

 

「いや、そりゃ無茶でしょ」

「ていうか何でそんなに白浜と闘いたいんですか?」

 

 あ、なんか嫌な予感がする!!

 

「入隊前にちょっと手合わせする機会があってな。

いきなり2本取られたからなー。

今ならもっと面白そうじゃん」

 

 しんっとする空気。

集まる視線。

 

「……まじか?」

「……うん、まぁ」

「その時初めてトリガーに触れたんだろ?」

「…………うん」

 

 徐々にざわめき始める周囲。

より集まる注目。

 

「ほら、そこに丁度良さそうなのが2人いるじゃん。

やって来いよ」

 

 視線を向ける。

同じC級隊員の服を着ている。

肩を大きく震わせ。

─視線を逸らされた。

 

 そりゃそうだ。

何たってA級隊員に黒星を付けたなんて情報が出て来たのだ。

しかも何やら勝負仕掛けられそうな話の流れ。

僕だって逃げる。

 

「今ポイントは?」

「えっと───」

「じゃあ、本当にもうすぐじゃないか」

「よし、何人か見繕ってくるから待ってろ!」

「え、いや、ちょっと!!」

「諦めろ、俺も荒船も少し興味湧いて来た」

「お、いいねいいね!」

 

 断れる雰囲気じゃなくなってしまった。

 

──仕方ない、か。

 

 諦める。

どうせいずれ必要になっただろうし。

その後何人かとランク戦し、無事B級になった。

 

 寺島さんの所に顔を出してトリガーをセッティングしてもらった。

初めて会った時からお世話になりっぱなしだ。

改めて挨拶に来よう。

 

 その後太刀川さん、荒船君、村上君とランク戦した。

休憩を挟みながら5本先取を何回か行う。

 その際に妙な事があった。

村上君が凄い勢いで僕の動きに対応し始めた。

実力としてはそんなに大きく変動してない筈だが?

 

「あぁ、それは俺の副作用(サイドエフェクト)の効果だ」

 

 また出てきた。

 簡単に説明を受ける。

トリオン量が高い人間に発現する超感覚の事。

そして村上君の場合は強化睡眠記憶。

睡眠をとる事で学んだ経験をかなりの高確率で自身に反映させる事が出来るらしい。

 

 羨ましいと素直に思った。

けど同時にそんな能力持ってたらあの師匠達に今以上に無茶をさせられるのでは?

─そう思うと途端に羨ましくなくなった。

 

「便利な部分もあるけど、それ以上に大変そうだね」

「!──そうか。」

 

 少しほっとした表情。

きっと苦労してきたのだろう。

 

 荒船君と太刀川さんが出て来た。

 

「さて、もう一戦お願いできるか?」

「良いよ、よろしく!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 次の日。

 

──落ち着かない。

 

 ラウンジでお茶を飲む。

少しでも心が落ち着けば、と思ったが。

焼け石に水だな、こりゃ。

 

『アイツだぞ、噂の』

『太刀川さんに勝ったって奴?』

8,000ポイント超え(マスタークラス)の荒船さんにも勝ってたって』

『まじかよ』

『何者なんだ?』

 

 なんか噂になってる、らしい。

 元々人に注目されるのは苦手だ。

早いところ席を外そうと思いお茶を一気に飲み干す。

 

「おい、お前!」

 

 声が掛かる。

 黒色のバサバサした髪の男の人だ。

黒を基調とした格好にマスクを付けている。

鋭い視線とその容貌に少し怯えてしまう。

 途端、より鋭くなる視線。

 

「ちょっと、ちょっと。もう少し違った声の掛け方あるでしょ。

ごめんね、白浜君」

 

 この人は確か。

 

「北添君、だっけ?

同じクラスの」

 

「あ、覚えててくれたんだ、ありがとう。

ほら、カゲ!」

「……影浦 雅人だ」

「白浜 兼一です」

「あ、カゲも同い年だよー」

「あ、そうなんだ。よろしくお願いします」

「ちっ!おい!本当にお前太刀川に勝ったのか!?」

 

 それが気になって来たのだろう。

一通りの経緯を話す。

 

 話している最中に髪をガシガシ搔きむしり始める影浦君。

 心なしか、イライラしてる?

 

「─あの」

「あァ!?」

 

 睨まれる。

 

「─僕、貴方に何かしましたっけ?」

 

「…ちっ。別にお前のせいじゃねーよ。」

「ごめんねー、白浜君。

カゲって感情受信体質のサイドエフェクト持ちだからさー」

「おい、ゾエ!」

「サイドエフェクト……。」

 

 簡単に説明を受ける。

自分に向けられる感情や意識がチクチク刺さるらしい。

だからギャラリーが多いとその分イライラするそうだ。

 

 

──なるほど。

 

 

 眼を見る。

こちらに怪訝な顔を向ける。

 

 

──あぁ、そうか。

 

 

「影浦君は」

 

「優しいんだね」

 

 

 

「────あ?」

 

「相手の感情がわかってしまうから。

相手を傷つけたくないから。

怖い格好して遠ざけるようにしてるんだね」

 

 ヤマアラシのジレンマみたいなもの?

それとはまた違うか。

なんかヤマアラシの格好をしている影浦君を想像してしまった。

途端に微笑ましく思えてきた。

 

「────────」

 

 固まっている影浦君。

どうしたんだろう?

具合でも悪いのかな。

 

 

「──────おぃ」

「ん?」

「今から勝負するぞ」

「───え?」

「サンドバッグにしてやる!」

「え、いや、何で!?」

「うるせぇ、来い!!」

「いやいやいやいや!

いくら照れ隠しとは言え──」

 

「いいから!!黙って!!!ついてこい!!!!」

 

 引きずられる僕。

助けを求める様に北添君を見る。

爆笑している。

助けてくれないらしい。

 

 はぁ。

仕方ない。

本当の事を言われて強引な態度を取る姿。

谷本君そっくりだ。このツンデレ────。

 

「もうてめぇは何も考えるな!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「へぇ。じゃあ白浜君って格闘技やってるんだ」

 

「うん。

昔っからどうもいじめられてたからね。

その対策として」

 

「あー、目に浮かぶな、その光景」

 

「それじゃあ、強くなって見返したりとかしたの?」

 

「いや、そんな事したら彼らと同じじゃない」

 

「おー!!カッコイイ!!」

 

「いやぁ、それほどでも」

 

「ただのお世辞に何照れてんだ」

 

「いいじゃん、褒められ慣れてないんだから。

あ、ゾエ君。ジュースご馳走様。

明日お金返すよ」

 

「いやいや、良いよ。それ位」

 

「お、3人とも何やってんだ?」

 

「あ、荒船君」

 

「個人ランク戦の帰りだよ」

 

「おめーこそ何してんだ?」

 

「チームミーティングの帰りだ。

あ、そうだ白浜。丁度いい。

これやるよ」

 

「うん?何これ?」

 

「ボーダーで使われている主要なトリガーの情報だ。

昨日見た限りお前トリガーの知識殆ど無いだろ」

 

「良いの!?ありがとう!!!」

 

「何だ、優しいじゃねーか」

 

「いずれ自分用に纏めるつもりだったからな。

鋼の分と併せてついでに作った」

 

「流石、マメだねー」

 

「これで泳げれば完璧なのによぉ!」

 

「うるせぇ、関係ねーだろ!」

 

「ありがとう、後で見させてもらうよ!」

 

「おう。

そう言えばカゲと戦ったんだろ?

どうだった?」

 

「ハッ!ボコボコにしてやったぜ!!」

 

「いやいや、ふっつーに5分5分だったでしょ」

 

 

 

 

 こうして1日が過ぎていった。

 

 

 

 

 




???「カゲさんはすごくやさしい」

???「そうだね、カゲさんはやさしいね。」


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BATTLE6:香取 葉子

 

 

 

 手をワキワキさせて近づいてくる。

 

 

───気持ち悪い!!!!!

 

 

 近づかせない様に振るスコーピオン。

器用に手首を掴み、投げられる。

着地するが崩れる態勢。

そこに放たれる右拳。

少し気の抜けている様な速度。

躱し、今度はこちらから攻める。

 

 左手のスコーピオンを振るう。

レイガストで受けられる。

 右足からスコーピオンを生やし蹴り上げる。

半歩下がり躱される。

 足を振り切った硬直をグラスホッパーでフォローする。

追撃が来るかと備えたが相手は構えている。

 

 

 余裕のつもりか?

それともアタシ程度本気を出すまでもないとでも?

 

 

 コイツの動きは見た事がある。

あの10,000ポイント超えの化け物(影浦先輩)とほぼ互角の実力。

その時の動きに比べて明らかに鈍い。 

まるで手を抜いているかの様な緩慢さ。

 

 

 

──ムカつく。

 

 

 

 浮かぶ感情が言葉に変わる。

本当はその程度の実力?

唯我と同じ。

所詮はコネ入隊。

それともアタシ程度には本気になるまでもない?

大した自信だ、と。

 

 

 それに対して。

こちらの言葉に全く動じていないように。

静かな目をしたそいつは──。

 

 

 

 

「いえ。実は僕、女性と戦うのが苦手なんです。」

 

 

 

 

 ──────。

─────────。

────────…………。

 

 

 

 

「ふ、ふざけぇるなぁぁあああーーーー!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くぁあ~、負けた~~!」

 

 ブースを出ると同時に聞こえるぼやき。

 

「いや、白浜さん、本当避けるの上手いっすね!

何であんなに避けれるんすか!?」

 

 そう話しかけてくるのは出水 公平君。

A級部隊 太刀川隊のメンバー。

この前太刀川さんに紹介された。

明るくて気さくな性格をしている。

 その上トリオン量が多く、ボーダー有数の射手らしい。

さっきの戦闘中でも僕の動きを封じるような展開を念頭に置いてるように感じた。

 実力も才能も高水準の凄い子。

シャツに書かれてる『千発百中』の文字はどうか、と思うが。

 

「うーん、、、勘?」

 

「勘っすか!?」

 

「うん。

出水君の眼をみて何となーく」

 

 後は制空圏の反応に任せる感じ。

とは言え、荒船君から貰ったデータを見てなかったら追跡弾(ハウンド)とかには対応しきれなかっただろう。

本当に助かっている。

 

「目かー。

それでわかるもんなんっすねー」

「まぁ、格闘技やってるらしいし、なんか通じるものがあるんじゃね?」

 

 出水君に話しかけているのは米屋 陽介君。

A級部隊 三輪隊のメンバー。

上がった前髪とカチューシャが特徴的な見た目。

 

 さっき出水君と話している時に加わって来た子だ。

初対面ではあったが、サバサバした性格なのか話しやすい。

 

「あぁ見えて何かの達人かもしれないぞ」

「!?目瞑ってても攻撃避けれるとか!?」

「トラトラ波ーってできるかもしれないぞ!!?」

 

 少し話したら楽しそうに勝負を挑んできた。

戦闘狂──、とまではいかないが好戦的なのだろう。

実力はかなり強い。

 

 弧月、刀の形状のトリガー、の槍バージョンを使っている。

最近使用し始めたらしい。

間合いの保ち方などはまだまだこれからと言ったところ。

 ただ、判断が早く正確だった。

すぐに強くなるだろう、そう確信する。

 

 それにしても大分ランク戦を経験してきた。

お陰でトリオンと気を混ぜての掌握に少しずつ慣れてきた。

まだまだ完璧ではないけど、相手のトリオンを減らせる量が増えてきた。

いずれは投げや組技でもできるようにならないと。

 

「白浜さん!!」

「ん?」

「力入れて服を破るとかできたりしますか!!??」

「もしくは水の上を走ったりとかは!!!??」

「……いや、できないよ?」

 

 できる人達は知ってるけど。

 

 ちぇーっと口を尖らせる。

二人とも楽しそうだ。

こう見れば只の高校生にしか見えない。

 

 

 

「そう言えば白浜さんって結構トリオン量低いんですか?」

 

 いきなりトリオンの話になった。

 

「足止め用の通常弾(アステロイド)でもレイガストに罅入ってましたし」

「確かに。

もうちょいで落とせるかなーって思ってたらトリオン切れになってたのもあったな」

「そうそう、ちょくちょく違和感があったなー」

 

 よく見ている。

まぁ、別に隠す事でも無いか。

 

「うん、僕のトリオン量は滅茶苦茶低いらしい。

鬼怒田開発室長曰く『戦場に出せない』位低いって」

「あ、やっぱそうなんですか?」

「てかそこまで言われる位なのに、なんで戦闘員になれたんですか?」

「うーん、僕もよくわからないけど、迅さんって人が戦闘員にした方が良いって言ってそれで───」

 

「「迅さん!?」」

 

 驚かれた。

それと同時になんか納得し始めた。

 

 今更だが。

 

「そう言えば、迅さんって一体どんな人?」

 

 僕その迅さんって人の事全然知らないや。

 

「迅さんはボーダーでも2人しかいないS級隊員です」

「昔からボーダーに居る古株の1人っすよ」

「それに有名なサイドエフェクト持ちですし」

 

 S級?A級のもっと上ってあるのか?

それにサイドエフェクト。

あの眼の光───

 

 

 

 

「少しいいかしら」

 

 

 

 声が掛けられる。

きつい目つきの女性が居た。

髪は少し伸びていて、毛先が跳ねている。

 

「お、香取じゃーん」

「おっす、香取ちゃん」

「…どうも」

 

 どうやら知り合いらしい。

 

「えっと、初めまして、だよね。

僕の名前は白浜 兼一。

高校2年生です」

 

「…香取 葉子。

中学3年生です」

 

 渋々っと言った様子。

?何なんだ、一体??

 

「え、っと、それで──」

「ランク戦」

 

 話を遮られる。

 

「アタシとランク戦しませんか?」

 

 えぇ…?

 

「おいおい」

「いきなり過ぎない、その言い方。

太刀川さんでも、もうすこっ、いや、どうだろう?」

 

 こちらを見据える暗い瞳。

怒り?いや、無念、未練、か?

色々な光が渦巻いている。

 

 ……はぁ。

本当は。

ホントーーーは。

嫌だけど。

 

「わかりました。

受けましょう」

「……」

 

 無言でブースに入る香取さん。

 

 本当は嫌だけど。

組手だと思おう。

うん。

 

「すみません、白浜さん」

「後で俺達から一言言っておきますので」

「僕は大丈夫だよ」

 

 これは組手。

 これは組手。

 

「それじゃあ、行ってくるよ」

 

 

 これは組手。

 これは組手。

 これは組手。

 これは組手──。

 

 

 そして始まるランク戦。

香取さんの動きは滅茶苦茶だが鋭い。

武術、とかは習ってない動きだが。

 

 流れを無視した動き。

本能に従って動く感覚派。

バーサーカーさんに少し似ている、かも。

 

 それにしてもどう対応しようかな?

スコーピオン苦手なんだよなー、組技とか出来ないから。

一回影浦君相手に組技を掛けたら、肩から突き出たスコーピオンに倒されるし。

あの時の影浦君の呆れた表情は忘れられない。

 

 ───仕方、ない。

 

 もう2度と使用しないと決めていた。

使用後、美羽さんから猛烈に批判されたあの動きを。

 

 今、解禁する!

 

「ちょわーーーーーっ!!!」

 

 馬 師父 エロモード!!

 

 掴むのではなく、只々触る事に特化した動き!!!

 これにより近づき、触ると同時に、投げる!!!!

 対女性戦に特化した梁山泊二極の術!!!!!

 

 

 いや、まぁ、これでトリオンを減らせないから態勢崩すのが精一杯なんだけど。

 

 

 一連の攻防が済む。

全然元気そうな香取さん。

うーん、どうしようか?

 

「影浦先輩とかと良い勝負してたけどさ」

 

 うん?話しかけてきた?

 

「所詮その程度の実力なわけ?」

「コネ入隊なんてして」

「所詮どっかのA級1位様と同じで大した実力も無いんじゃない?」

「それとも?」

「アタシ程度に本気出すまででもない?」

「大した余裕だこと!」

 

 うーん、なんか凄いイライラしてる?

時間が経てば経つほど敵意が増えていってるなー。

 

──さて。

 

「そう言う訳ではないのですが」

「なに、なんか言い訳でもあるの!?」

 

 鋭い眼差しを向ける香取さんに話しかける。

 

 僕だってあほじゃない。

いい加減この先の展開は慣れてきた。

正直に自分の主義を伝える必要はない。

 

 だから言葉を変える。

幸いにもボーダーのランク戦は実際には傷付かない。

 

 ならば!

 少しマイルドな表現にしたら!!

 わかってくれるはずさ!!!

 

 

「いえ。実は僕、女性と戦うのが苦手なんです。」

 

 

 

 

「ふ」

 

 

 

 

 あ、ヤバい!

 

 

「ふざけぇるなぁぁあああーーーー!!!!!」

 

 

 さっきまでの比でないほどの怒りが爆発した───!

 

 

 

 

 

 

 

 

『最近入隊した隊員が影浦先輩を倒した』

 

 そんな信じられない話を聞いた。

影浦先輩はボーダーでも数人しか居ない個人ポイント10,000超え。

そんな人に勝つ?新人が?

興味が湧いてログを見た。

 

 そいつはヘンテコな動きをしながら。

それでもあの全てを吹き飛ばす攻撃に耐えきっていた。

 

 確かに、強かった。

ほぼ互角の戦い。

その戦いを見て、尚更思う。

 

 アタシは、まだ──。

 

 最近ポイントが伸び悩んでいる。

どうすれば解決するのかわからない。

大きな壁が邪魔をしてくる。

 

 わからない。

 

 

 

 

 個人ブースにそいつが居るのが見えた。

米屋先輩と出水先輩と話してる。

 

 

 ランク戦でもしてみたら。 

何かきっかけが掴めるだろうか。

そう思い近づく。

 

 聞こえてくる言葉。

 

『戦場に出せない位トリオンが低い』

 

『迅さんが言ったから戦闘員になった』

 

 

 

 は?

 

 

 

 何それ?

 

 

 

 脳裏に浮かぶ人物。

 

 彼女は戦闘員になれず。

 コイツは戦闘員になった。

 

 華は戦闘ができない、と判断されて。

 この男は戦闘ができる、と判断された?

 

 

 途端に湧く怒り。

 

 

 ぶっきらぼうになりながら

 ランク戦に誘う。

 

 そして告げられる。

 

 

 

『女性と戦うのが苦手』

 

 

 

 

 ─────アタシらが組めば─────

 

 

 

 

 戦いたくても──

 

 

 戦えない人もいるのに!!

 

 

 コイツはーー!!!

 

 

 

 その言葉を聞いた瞬間。

 

 我を忘れて襲い掛かる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 結局。

 

 アタシの攻撃の悉くは。

 

 まるで柳の様に受け流され。

 

 惨敗した。

 

 ブースを出る。

 

 米屋先輩と出水先輩が何か話しかけてくる。

 

 けど、殆ど耳に入ってこない。

 

 ブースから出てくる男を睨む。

 

 ポカンとしている表情。

 

 これに負けたという事実。

 

 それにもイライラしてくる。  

 

 つい、言ってしまった。

 

 

「女性だからと手を抜いてくれて、ありがとうございました!!」

 

 

 結構大きな声で言った。

 

 周囲も含めてポカンとしている。

 

 早足で立ち去る。

 

 隊室が近づいてきた。

 

「あら?」

 

 親友の顔が見える。

 

「…何をイライラしているの?」

 

「べっつに!イライラしてないし!」

 

 ため息を吐く華。

 …少し落ち着いた。

 

 あの人のせいではない、と言うのに。

八つ当たりをしてしまった。

 

 しかも最後の台詞。

悪意しかなかった。

……流石に悪い事をした。

 

 いずれ謝ろう。

その前にリベンジしよう、うん。

リベンジした後に謝る事にしよう、うん。

 

 華と2人で隊室に入る。

麓郎と雄太が居る。

 

 その為にも。

 

攻撃手(アタッカー)飽きた。

銃手(ガンナー)やろっかな。

今度は」

 

「はぁ!!!????」

 

 

──あの気持ち悪い動きにはもう近づきたくない!

 

 

 

 この日より香取 葉子はガンナーの練習を始めた。

 

 

 

 

 




「実は僕、女性と戦うのが苦手なんです。」


黒江「ムカつく」

香取「ムカつく!」

木虎「ムカつく!!」

華「もぎゃぁああああ!!!!」


三人「「「!!???」」」


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BATTLE7:柿崎 国治

来月のワートリが休載との事を聞き、途中ですが投稿する事にしました。

葦原先生の体調が無事な事を祈ります。




 

 

「ふふ、さーて、何を買おうかなー!」

 

 独り言を言いながら店内を眺める。

今まで溜め込んだ感情を吐き出すかの如く。

目に映る色が部屋に与える彩りを夢想し、それを目移りする全てで行う。

 

「こんなにあると迷うなー!」

 

 あぁ、見るだけでも、迷うだけでも癒される!

美羽さんが猫を追っかけるのも納得だ。

好きな事こそが荒んだ心を落ち着かせてくれる。

 

 

 三門市にある生花店─Flower Shop 楓─。

僕は今そこに居る。部屋に癒しを飾る為だ。

 

 

「ユキダルマキング、僕の事をわかってくれるのは君だけだよ」

 

 

 そう、今僕には精神的な負担が掛かっている。

 

 

 香取さんとランク戦をしてここ数日。

ボーダー内で注目を集めてしまっている。

入隊したばかりの時とはまた違う視線の色。

 

『ほら、あいつだぜ』

『あぁ、例の』

『女性だからって手を抜くっていうやつ』

『フェミニスト気取りかよ』

 

 剝き出しの嘲笑が聞こえる。

いや、それだけならまだ良いのだ。

 

 問題は女性隊員達からの視線だ。

軽蔑の視線が増えていっている。

女性だからと手を抜く、という事を快く思ってないのだろう。

 

 

──手を抜く、なんて言ってないんだけどなー。

 

 

 そんな失礼な事はしない。

やるのであれば自分にできる全力を尽くす。

話しかけてくれれば、その旨を伝える事ができるが。

 

 

──自分で宣言するのもなー。

 

 

 話しかけてくれないのであれば、その誤解を解くのは難しい。

結果としてその誤解が広まるのを止められていないのだ。

 

 

「なーんで、僕は毎回こんな気持ちにさせられるんだ」

 

 DオブDの時にもレイチェルさんにこんな感じで噂を広められてしまった。

思い返すと小学生の時も……。

僕は何もしてないのに…。

 

 いや、今回に関してはそう言われるのも仕方ないのかな。

 

 重い息が漏れる。

 

「ん、白浜君じゃないかね。」

 

 気配の方を振り返る。

 

「えっと、根付メディア対策室長?」

「久しぶりだね」

「はい、お久しぶりです!」

 

 入隊前にお会いして以来だ。

 

「それで、どうしてここに?」

「えっと、実は園芸が趣味でして」

「ほう!そうなのかね!?」

「えぇ。前の学校では園芸部に入っていましたし」

「格闘技をやってる位だから、興味ないのかと思ってたよ」

「いえいえ。むしろ武術の疲れを癒してもらってましたよ!」

「わかる、わかるね、その気持ち!!」

「では根付メディア対策室長も!?」

 

 どうやら庭いじりが趣味らしい。

2人して花について語り合う。

周囲から少し奇妙な視線を感じるが、無視無視。

 

「む、そうだ、白浜君。この後時間あるかね?」

「?はい、大丈夫です」

「じゃあ、少し頼まれてほしいね」

 

 

 

 

 

 

 

 

「すまないね、大きな荷物になって」

「気にしないでください、鍛えてますから!」

 

 今根付さんと共にボーダー本部のメディア対策室に向かっている。

メディア対策室に観葉植物を増やしたい、との事だ。

どうやらここの所、職員が疲労しているらしい。

少しでもその気晴らしになれば、との事だ。

その為に鉢やプランター、苗、土、等を運んでいる。

何往復かは必要になりそうだ。

 

「そうか。しかし、本当に鍛えてるんだねぇ。正直あまりそう言う風に見えなくて」

 

 見た目結構な量を抱えているからか、そう言われた。

重さはそうでもないが、量が嵩張って大変だ。

 

「よく言われますよ。正直花を育ててる方が性に合っていると思いますし」

「そうだね、その方が君には似合ってる気がするよ」

 

 他愛のない会話をしながら通路を進む。

 

「根付対策室長!」

「ん?」

 

 向こうから職員が話しかけてくる。

 

「すみません、少しお時間いただけますか?」

「全く、休む暇もないねぇ。すまないね、白浜君。少し行ってくるよ」

「はい、では僕の方で持って行きますね!」

「いや、君まだ道を──」

 

「お、根付さんじゃないですか。どうしたんですか?」

 

 声のした方に顔を向ける根付さん。

 

「柿崎君!丁度良い所に!」

 

 根付さんが話しかける。

その先には短い髪で柿色の隊服を身に着けてる、しっかりとした体型の男性隊員が居た。

落ち着いた雰囲気を感じる。

 

「何してるんですか、こんな所で」

「すまないが、少し急用ができてね。彼をメディア対策室まで案内してくれないかね?」

 

 こちらに向けられる視線。

 

「了解っす」

「すまないね、それじゃあ頼んだよ!」

 

 根付さんは早足で廊下を進んでいく。

 

「それにしても凄い荷物だな」

「あ、はい。メディア対策室に観葉植物をいくつか飾りたい、との事です」

「ん?これ以外にも荷物ってあるのか?」

「はい。車に積んでます」

「そうなのか。よし、俺も手伝うぜ!」

「え、いや、いいですよ!ちょっとの往復で済みますし」

「だったら尚更2人でやった方が早いだろ!」

 

 爽やかな笑顔。

 

「すみません、ありがとうございます。」

 

 そう言えば

 

「僕は白浜 兼一と言います、高校2年生です。よろしくお願いします」

 

 少し目を開き

 

「俺は柿崎 国治、高3だ。よろしくな、白浜!」

 

 

 

─────────

 

 

 

 それから柿崎さんと話をしながら荷物を運ぶ。

話していて分かった。この人滅茶苦茶良い人だ。

 

「そう言えば高校の入学祝いの花として、なんか良いのってある?」

「えーっと、男性ですか?それとも女性ですか?」

「女性だな。2人とも隊の一員なんだ」

「あ、でしたら────」

 

 

「結構力あるのな。何かスポーツでもしてたのか?」

「いえ、武術を少々」

「へー!格闘技かー!空手とか?」

「はい、それに加えて中国拳法、柔術、ムエタイですね」

「多すぎだろ!!なんか理由でもあるのか?」

 

 

「そもそも対人の模擬戦って怖いんですよ、僕!」

「あぁ、わかる。俺も最初は何でネイバーと戦うのに対人戦するんだって思ったし」

「そう、そうなんですよ!」

「…なぁ、なんでボーダーに入ったんだ?」

「街の人を守りたい、そう思ったからです」

「!!そう、か。そうだよな!」

 

 

─────────

 

 

 全ての荷物を運び終わった。

とりあえず今できるのはこれ位かな?

 

 一息をつくと同時に。

後ろから何かが近づく。

 

「うん?」

 

 急に振り返るとそこにはジュース片手の柿崎さんが居た。

 

「格闘技やってるって本当なんだな!?漫画みてーな反応だったぜ!」

 

 どうやら驚かそうとしたのだろう。

 

「悪い悪い。ほら、おつかれさん!」

「あ、ありがとうございます!」

 

 ソファに座りながら貰ったジュースを飲む。

 

「……なぁ、白浜」

 

 隣を見る。

真っ直ぐな視線。

 

「噂でおまえが女性だからと手を抜く隊員、って聞いたんだが」

「…それは」

 

 片手で遮られる。

 

「あぁ、待て待て。おまえがそういうやつじゃないってのはよーくわかった。おまえは良い奴だ」

 

 微かな笑み。

少し確信の色が浮かんでいる。

 

「だからこそ、何でそんな話になってるのか気になってな」

 

 変わらない視線。

 

「実は──」

 

 

 

「なるほど、ね。香取がねー」

「そうなんですよ!それ以来女性隊員の視線が厳しくて厳しくて!!」

 

 ついつい項垂れる頭。

泣き言の様に愚痴を言ってしまう。

 

「すまないな、香取も悪い奴じゃないんだが」

 

 そう苦笑交じりに言われる。

別に柿崎さんが謝る事じゃないだろうに。

 

「いえ、まぁ、良いんですけどね。人の噂も七十五日って言いますし」

 

 まぁ、その間が少し憂鬱なのだが。

 

 

 

「いや、そこは大丈夫だろ」

 

 

 聞こえる強い断定。

顔を上げる。

訝しげな僕の視線に気付いたのだろう。

 

 

 

「なんたって」

 

 

 

 強い確信の色を帯びながら。

 

 

 

「ボーダーには良い奴が多いからな!」

 

 

 

 春光を思わせる笑顔があった。

 

 

 

 

 




照屋「ワートリ23巻に柿崎さんの良い所が詰まりすぎてて2万回見ました!」

隠岐「ウソつ、、いや、あり得るか」


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BATTLE8:二宮隊

皆様、お久しぶりです。
リアル生活が忙しくなり時間が作れませんでした。
半年以上投稿が無いにもかかわらず、感想やメッセージを送付してくださった方々がいらっしゃり、とても励みになりました。
心より感謝いたします、ありがとうございます<m(__)m>



 柿崎さんと出会った次の日。

ラウンジでゾエ君と話していたら話しかけられた。

 

「やっほー、ゾエ」

「あ、犬飼君に辻君。それに鳩ちゃんまで」

 

 声のする方を向く。

もさっとした髪を前方に流している男性と黒髪の男性と女性がこちらに向かっていた。

3人ともお揃いの黒スーツを着ている。

 

「ひょっとしてそちらは噂の白浜君?」

 

 人懐っこい笑みをでこちらを見据える。

 

「初めまして。白浜 兼一です。高校2年生です」

「犬飼 澄晴。同じ高2だよー、よろしく」

「辻 進之介です。高校1年生です」

「うん、よろしく。犬飼君、辻君。それに鳩原さん」

「あれ?鳩原ちゃんのこと知ってるの?」

「クラス同じだしね」

 

 話したことないけど。

今も軽く目配せする程度だ。

もう1人の黒髪、辻君からこちらを伺う視線を感じる。

なんだろ、嫌な感じじゃないけど。

 

「そう言えば白浜君さー」

「ん?」

「女性隊員に手を抜くって噂本当?」

 

 うぐぅ!!

ドストレートに来たな。しかもそこそこ大きな声で。

周囲の目のが集まる。 

 

なのに犬飼君はなんかいたずらっ子みたいな顔をしている。何なんだろう?

 

「いや、犬飼君、それは」

 

 北添君が犬飼君に話しかけるけど片手を上げて遮る。

 

「いや、手を抜くなんて事はしないよ。失礼だしね。

…けど、苦手なのは否定しないよ」

 

 正直な事を話す。

どう取られるかはもう任せるしかない。

 

「あ、そうなんだ。じゃあ、手を抜くってわけではないんだ」

「それはそうだよ」

 

 驚いた風な表情。けど全然驚いてない眼の色。器用な人だな、と思う。

 

「……白浜先輩」

「ん?」

 

 辻君がこちらに近づいてくる。眼にははっきりとした感情が浮かんでいる。

 

「俺も同じです」

 

 同類を見る眼だ。

 

「?ひょっとして──」

「そ。辻ちゃんも女の人が苦手なのさ。モテる顔してるのに勿体ないよねー」

「苦手なのはしょうがないじゃないですか」

 

 どうやら非難しにきたわけではなさそうだ。

それにしても3人ともスーツ似合うなー。

 

「3人ともお揃いのスーツ着てるけど、それって隊服?」

「そ。俺と辻ちゃんは同じ二宮隊なの」

「二宮隊って……。確かA級の!?3人とも凄いんだねー」

 

ゾエさんもA級ですよー

 

「いやいや、白浜君だって凄いんでしょ。入隊してすぐにカゲと互角の戦い繰り広げたんでしょ?」

「噂だと太刀川さんにも勝ったことがあると聞きました」

「そうそう、二宮さんも気にしてたし」

 

 なんか色んなところに話が広がってるなー。

 

「そんな有望な新人が女性隊員に対して手を抜くって聞いてさ。是非とも1回話してみたかったんだよね」

「うーん、やっぱそんな風に広まってるんだ。でも広がるのは止められないしなー」

「え?別に気にしなければ良いんじゃない?」

 

 簡単に言うなー。

 

「いや、でも凄い目で見られるし」

「気持ちはわかるけどさ。言えばいいじゃん、そいつらに対して」

「……何て?」

「文句あるなら俺を倒してみろよってさ」

 

 凄い良い笑顔で犬飼君が提案してくる。

 

「いや、それは……」

「うーん、犬飼君の言うことは乱暴だけど一理あるかなー」

「ゾエ君!?」

 

 まさかの背中からフレンドリーファイヤーが来るとは。

 

「いやいや、白浜君は気にし過ぎだよ。そもそも女性と戦う白浜君がアウトなら同じ辻君もアウトな訳で」

「そうそう。それに辻ちゃんだけじゃなくて鳩原ちゃんなんかもっと大変だよ」

 

 あぁー、確かに、と。ゾエ君と辻君が同意している。

鳩原さん?なんで?

 

「あぁ、白浜君は知らないか。うちのスナイパーの鳩原ちゃん。この子女性が苦手とかそんなんじゃなく、単に人が撃てないやつなんだけど」

「……普通じゃない、それ?」

「そうだね、戦闘員でなければ」

 

 鳩原さんを見ると自覚があるのかはにかんでいる。

……その眼には気になる暗さ(ひかり)が浮かんでいる。

何か思うところがありそうな色だ。

 確かに、人型ネイバー、だっけ?

そんなのが出て来た時に戦わないといけない戦闘員としては、その欠点はキツイかもしれないが。

 

「でもそれはやり方次第じゃない?チームなら尚更」

 

 美羽さんも僕と居る時は女性と戦うようにしてくれてたし。

それにトリガーという武器自体を破壊する、とか?

しぐれさんも武器組との戦闘時は武器を壊すようにしてたし。

 

「そうそう、そんな2人が居る二宮隊(ウチ)がA級なんだし。

メンバーに文句あるならおれ達倒してみろよってね!」

「隊長がそもそもそんなスタンスですしね」

「そう言う意味なら影浦隊(うち)も文句あるなら倒してみろよってスタンスだしねー」

 

 そう言えば影浦君もサイドエフェクトの影響で態度悪く思われてるんだっけ?

 

「だから白浜君も堂々と挑発すれば良いよ。

『文句あるならいつでも受けて立ってやるぞ』ってね」

 

 なーんかさっきから文句あるなら、を強調してない?

 

……あ、もしかして。

これって僕にでなく周囲の隊員に言ってる?

犬飼君の眼を見てみる。

僕の視線に気付いたのか、滅茶苦茶良い笑顔を浮かべて。

 

「白浜君も正面から文句言えない奴の言葉なんて聞く必要ないでしょ?」

 

 うわ、ドストレートに明言した!

周囲の人もざわざわし始めてる。

でもこれが元々の目的だったのだろう。

親切な人だな、とは思うが。

しかし同時に別のことも考えている人特有の眼をしている。

 

 嫌な予感が囁き始めてる。

厄介事に対しての僕の直感は鋭い。

こういう時って大抵──。

 

 

「じゃあ、正面から文句言わせてもらいます」

 

 

 少女特有の高い声が響く。

視線を向けると小柄な身体と特徴的な2つ結びの髪が目立つ娘が歩いてくる。

 

黒江 双葉さんだ。

 

「こんにちは」

「あ、ヤッホー」

「ぁ、ど、ども」

 

 各々挨拶を交わす。

こちらに眼を向けてきた。

……少し鋭い眼だ、嫌だなぁ。

 

「挨拶は初めまして、だよね?白浜 兼一です。よろしく、黒江さん」

「……はい、よろしくお願いします」

「あれ?2人とも知り合い?」

「入隊時期が同じなんだよ。所謂同期ってやつ」

「……白浜、先輩が先に正隊員になって、私は、本日、ようやく、ですけどね!」

 

 あれ!?

なんか地雷踏んだ!?

先程の会話の流れから、この展開だ。

 

──目的は、恐らく。

 

「それで、白浜君に文句言いに来たの?」

 

 煽る犬飼君。

 

「はい。皆さんの話は聞かせていただきました。

なので正面から文句を言いに来ました」

 

 はい、ですよねー。

 

「だってさ白浜君、どうする?」

 

 ニヤニヤ笑いながら場を仕切る犬飼君。

……これも目的かー。

 

 これまでの話の流れ的にも、周囲の視線的にも。

何より黒江さん意志的にも。

まるでこの機会を待っていたかの様な光。

 

 これは──断れない。

 

「……、、、。模擬戦、やりますか?」

「はい、お願いします!」

 

 即答されたー!

はぁ、やりますか。

 

「がんばれー2人ともー」

 

 適当な声援を掛ける犬飼君。

良い性格してるなー。

 

 

 

 

 5本先取の結果は僕のストレート勝ちだった。

あまり苦戦せずに倒せた。

黒江さんは正隊員になったばかり。

もはやC級の時と殆ど変わらない装備だったがそれはお互い様。

弧月のみだったが、それに合わせて僕もレイガスト一つの使用だったし。

 

それよりも大きな要因が一つある。

 

「……ありがとうございました」

 

 ブースから出て顔を合わせた瞬間、挨拶された。

滅茶苦茶不満気の色も出てるしすぐにでも踵を返しそうな雰囲気だが。

その前に気になることが。

 

「ありがとうございました。ねぇ、黒江さん少し良い?」

「……なんでしょうか?」

 

 辛うじて視線を向ける、といったところ。

少し傷付くが興味が勝った。

 

「黒江さんって昔棒とか枝とか、そういうの振り回して遊んでた?」

「??えぇ、まぁ」

「あぁ、道理で。長物振るのに慣れてそうだったけど、軌道が読みやすかったから。

武術習った感じが無いから多分遊びで慣れてるのかなって」

 

 振り自体は鋭いものがあったけど所謂テレフォンパンチみたいなものだった。

流石にあれには当たってあげられない。

 

「……そういうのわかるのですか?」

「うん。少し覚えがあってね」

 

 しぐれさんが戻ってから武器を振る基礎中の基礎中の基礎だけ習ったからね。

センスのかけらも無いと言われたけど。

 

「長物振り慣れてるなら、ちょっと意識するだけですぐに良くなるよ」

 

 僕と違って。

 

「……白浜先輩は」

「うん?」

「何か武道をされているのですか?」

 

 

「確か空手、ムエタイ、柔道、中国拳法に剣道だっけ?」

 

 

 横合いから声が聞こえてくる。

 

「あ、柿崎さん」

「柿崎先輩こんにちは」

 

「よ!白浜、黒江!」

 

 そこには柿崎さんと1人の女性が居た。

 

「えーっと……」

「こんにちは、熊谷先輩」

「こんにちは、黒江ちゃん。

それと初めまして、白浜先輩。熊谷 友子と言います、高校1年生です」

「ありがとうございます、白浜 兼一、高校2年生です」

 

 互いに挨拶を交わす。

 

「な、だから言った通りだろ?噂は所詮噂だって」

「うーん、ザキさんの言う通り、確かに普通に女性とも戦ってましたね」

「そういうわけで、すまんが皆に話を通しておいてくれないか」

 

 頼み込む柿崎さん。

それを聞きこちらに視線を向ける熊谷さん。

何なんだ、一体?

 

「うん、そうですね、本当に誤解そうですし。

わかりました、他ならぬザキさんのお願いですしね。

女性隊員には私や茜達でそれとなく噂が嘘ってこと話しておきます」

「わりぃ、助かる」

「貸し一つですよー!」

 

 そう言って離れていく熊谷さん。

 

「あの、柿崎さん?」

「あぁ、悪い悪い。意味わからんよな。えーっとなんて言えば良いか」

 

 簡単にまとめると僕の【女性隊員には手を抜く】という噂を修正するよう、熊谷さんに頼んだそうだ。

とは言え、当初その噂を信じていた熊谷さんはそのお願いを拒否していた。

なので柿崎さんはその誤解を解く為に、一度僕と熊谷さんに模擬戦してもらおうと連れてきたところ、既に僕と黒江さんの模擬戦が行われていた。

観戦したところ誤解が解けたので、熊谷さんが女性隊員に誤解だと伝えてくれるそうだ。

 

「昨日話して白浜が良い奴ってのはわかったからな。

気にすんなって言ってもどうせなら気になることが無いほうがいいだろ?」

「……何から何までありがとうございます!」

 

わざわざその為に柿崎さんは色々動いてくれたのだ。

この人良い人過ぎない!?

 

「何か僕で力になれることがあればなんでも言ってください」

「あ、じゃあ今度柿崎隊(うち)の隊員に弧月教えてくれよ。剣道経験者の目線というかさ」

 

 いつの間にか剣道経験者ということになってる。

まぁ、教えられる程ではないけど武器の基本中の基本だけは少し教えてもらったし。

 

「はい、力になれる範囲でなら!」

「おう、頼むぜ!」

「……白浜先輩、私も良いですか?」

「良いよ、黒江さんならすぐ飲み込めると思うよ」

 

「お、モテモテだねー、白浜君」

 

 北添君が話しかけてくる。

あれ?そう言えば。

 

「あの3人は?」

「隊長が呼びに来てたよ。なんかチームMtgだって」

 

 そうなのか。

挨拶位したかったが。

 

「あ、犬飼君が伝えてくれって」

「なんて?」

「ありがとう、と予想以上に強くて驚いたってさ」

 

 僕の実力測る目的もあったというのを隠しもしない。

喰えない性格だなー。

 

「お、もうこんな時間か。じゃあ、俺もチームMtgあるからこれで」

「私もこれから正隊員用のトリガー調整がありますので、これで失礼します」

「あ、はい。ありがとうございました、柿崎さん。またね、黒江さん」

「はい、また声掛けさせてください」

 

 2人が去って暫く後影浦君がやって来た。

 

「おう、待たせたな」

「カゲおっそいよー」

「でも良いタイミングかもね。じゃあ、影浦君の家に行こうか」

 

 3人でその場を後にする。

今日は色々あったな、と思いながら。

 

 

 

 

 

 

 黒江さんとの模擬戦から数日後。

今僕はついつい鼻歌が出てしまう位穏やかな気持ちでメディア対策室の花の世話をしている。

ついでに本部にある花も少しいじる。

 

 根付さんから時間がある時にでも花の面倒を見てほしいと言われたのと。

何より女性隊員からの目線が和らいでいるからだ。

 

 熊谷さんが話してくれたのもあるが。

黒江さんも僕との模擬戦を聞かれた際にちゃんと戦ってくれたと話してくれたらしい。

実際に黒江さんとの模擬戦を見た人が多かったのも影響しているのかもしれない。

 

 どちらにせよ数日前とは偉い違いだ。

そのお礼として今日熊谷さんと黒江さん、後柿崎さんの隊員の方に少し武器の振り方を教えることになった。

あまり期待はしてもらいたくないが、しぐれさんから指導してもらった分ある程度ちゃんと教える必要があるのがちょっとしたプレッシャーだが。その時間までの空き時間を利用して花の世話をしている。

 

 自分が何かを教える、ということに緊張しているのもあるだろう。

少し気を抜いていた面もあったのだろう。

鼻歌を歌いながら葉や花の整理をした際のゴミをボーダー外のゴミ捨て場に捨てている最中。

 

「あなたがシラハマ ケンイチですか?」

 

急に話しかけられた。

振り返るとそこには。

黒い髪に冷めた雰囲気。

そして隠し切れない、尊大な(貴族の様な)雰囲気を纏った。

綺麗な女性がそこに居た。

 

 



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BATTLE9:忍田 瑠花

コロナワクチン接種後に取得した休暇に執筆した分を投稿します。
勢いのみで書き上げました。
書き溜め?知らない単語ですねw
遅くても2週間に1回位のペースで投稿したいと思う、今日この頃です。


 

 

「着いたわよ、瑠花ちゃん」

「ご苦労様です、響子」

 

 車から降りる。

玉駒支部で陽太郎と充実した時間を過ごせた。

少し見ない間に身体が大きくなったように感じた。

あの小さかった陽太郎が今年の9月には5歳になる。

そう思うだけで幸運に感謝したくなる。

 

 本部の部屋に戻る途中響子と他愛ない話を続ける。

機嫌が良いこともあり、いつもより饒舌になっている自覚がある。

時刻が夕方近いということもあり、辺りは暗くなり始めている。

沈む夕陽に照らされた本部の外観を見て。

ふっと忍田との会話を思い出した。

 

「そう言えばですが、響子」

「ん?なぁに?」

「シラハマ ケンイチ、という少年はボーダーに入ったのですか?」

 

 数ヶ月前に忍田が期待していると言っていた少年だ。

確か少し前に入隊試験があったはずだ。

あの時の忍田の口振りからするに最短なら既に入隊しているはず。

 

「あー、入ってるわよ。珍しいね、瑠花ちゃんから特定の隊員の話がでるなんて」

「偶々ですよ。それで、どうなのですか?戦力になりそうですか?」

 

 忍田から聞いたということはぼかしておく。

 

「話聞く限りでは強いらしいよ。

トリオン量はとてもじゃないけど戦闘員になる人材じゃない程低いって」

「それほどなのですか?」

「少なくとも鬼怒田開発室長が心配する位には低いそうよ。

でも迅くんが戦闘員に推薦する位の人材なんだって」

「……あの迅が、ですか」

 

 あの暗躍が趣味のぼんち揚げ狂いが薦めるなら間違いはないのだろう。

その男に何を視たのやら。

 

「あ、でもでも実力は確かだって!

初トリガーで太刀川君に黒星与えて、入隊後早速影浦君と良い勝負をしたらしいし」

「それは凄いですね」

 

 太刀川は迅のライバルで 確か影浦、は小南も認める強さの隊員だったはずだ。

そんな男に勝てるなら、確かにケンイチは期待に値する人材なのだろう。

 

「うーん、実力はそうなんだけど……」

「?何か気になることでも?」

 

 響子が言いよどむのは珍しい。

何か言いにくいことでもあるのだろうか?

 

「うーん、その白浜くん。噂でしかないんだけど。

女性隊員に対して手を抜くって噂もあるんだよね」

「……そうなのですか?」

「噂でしかないけどねー。でも本当ならあまり良い気分じゃないよねー」

 

 そう言いながらブンブンと腕を振る様な仕草をする響子。

弧月でも持って振っている様を幻視してしまう。

その姿を見ると今でも現役の戦闘員と言われても納得してしまう凄みがある。

それにしても。

 

──女性に手を抜く、ですか。

 

 忍田が期待する人材にしてはなんとも甘い。

実際の戦闘を知らない甘ちゃんなのか、偽善者の類なのか。

それとも忍田の期待外れなのか。

 

「……そう、ですか」

 

 いずれにせよボーダーが求める人材では無さそうだ。

ただそれだけの話なのだろう。

覚えておく必要は無い、それだけだ。

 

 

 

 

 

 

 今本部を歩いている。

機嫌はよろしくない。

何故なら本日の陽太郎に会いに行く予定が無くなったからだ。

迅が忍田と林藤に今日は中止にした方が良いと言ったらしい。

理由は教えてくれない。

あの腹黒ぼんち男今度会ったら叩く。

 

──さて、何をしましょうかね。

 

 折角の休日の朝だというのに。

特にやることが無い、手持ち無沙汰だ。

本部内をぶらぶらしていると何やら楽しそうに花をいじっている見慣れない隊員が居た。

 

 

平凡な見た目に中肉中背。

特に目を惹くような雰囲気もない。

だがボーダー内では似つかわしくない、『普通』の雰囲気を纏っている。

直感で確信した。

 

 

この男がシラハマ ケンイチなのだ、と。

 

 

 特にやることも無いので暫くそいつの事を観察していた。 

忍田の期待とは異なるだろう男は何が楽しいのか。

花壇を弄り花を整えている。

 

 

 

 

一体何の為にボーダーにいるのか。

ボーダー戦闘員の自覚はあるのか。

そう思うほどに、楽しそうに花を弄るそいつの姿は。

それこそが本来の姿の様に。

 

 

とても似合っていた。

 

 

そして

 

 

「……」

 

 

その似合っている、という事実に。

イライラしている自分に気付いた。

 

 

 基地の外にあるゴミ捨て場に向かうそいつ。

ついつい後を付けてしまった。

こちらに気付く様子もない。

そのことにも機嫌が悪くなるのを感じる。

忍田はもとより、響子だってこんな素人の尾行など気付くと言うのに。

 

 

──この男に何を期待したのやら。

 

 

 負の感情が高まってついつい声を掛けてしまった。

 

 

「あなたがシラハマ ケンイチですか?」

 

 

 まず間違いないと思うが、念の為確認をする。

 

振り向くそいつは。

平凡な男は。

しかし眼だけは。

不思議な光を携えていた。

 

「?はい、僕は白浜 兼一ですが。貴方は?」

「私は忍田 瑠花と言います」

「忍田、さん、ですか。よ、よろしくお願いします?」

 

 困惑している雰囲気を感じる。

自分に何の様があるのか、といったところだろう。

 

……正直用は無い。

いや、あると言えばあるが。

しかし、これは用とは決して言わない。

 

「あなたはボーダーの戦闘員と聞いていますが」

「……はい、その通りですが」

「その割には楽しそうに花を弄ってましたね」

 

自覚がある。

只の八つ当たりだ、これは。

 

「知っていると思いますが、現在のボーダー戦闘員は侵略するネイバーと戦う役割です。

その双肩には非戦闘員、三門市の住民など、敵に何かしら奪われた人の想いを背負う立場です。

勿論諸事情により、戦いたくても戦うことが出来ない人も居ます。

戦闘員であるあなたは、ある意味その立場を選ぶ権利を持っていた恵まれた人、とも言えます」

 

自分のイライラを。

 

「恵まれたあなたが吞気に花を弄る姿を見て。

選択肢を与えられなかった人はどの様に思うのでしょうね?」

 

立場を自覚してないこの男に。

 

「あなたは三門市の外から来た人物と聞きました。

そんなあなたではボーダーの、三門市の人々の。

()()()()()を失った人々の想いや歯がゆさはあまり理解できませんか?」

 

ただ当たり散らしているだけ。

 

「そんなに花を弄るのが好きなら戦闘員など、辞めた方が良いでしょう。

戦闘員のあなたが能天気にしているだけで、失った人々はどう思うか」

 

ここ日本は玄界(ミデン)の中でも比較的に平和な国だと聞いている。

だからだろう、ついつい口走ってしまった。

 

 

 

()()()()()()()()()()()()では理解出来ませんか?」

 

 

 

それを聞き目を大きく開くケンイチ。

浮かび上がる傷付く色を見て。

 

 

──失言だ。

 

 

 初対面の人に、何も知らないのに。

いくらイライラしているとは言え、一方的に罵るとは。

 

──何故こんなにイライラしているのか。

 

 頭の片隅で疑問に思いながら。

どうせあなたは失ったことなんて無いんだろう、と。

そう言ってしまったのも同然だ。

 

 息をつき目を閉じる。

少し冷静になり、そして失言を謝ろう。

そう思い目を開くと。

 

「確かに僕の大切な家族も家も健在です。

大切な人達も友人も、戦友も今は会えて無いですが、きっと無事でしょう」

 

 

真っ直ぐにこちらを見る眼があった。

 

 

「忍田さんが仰る通り花を弄る方が僕に似合っていると思います。

戦闘が好きで戦闘員になっているわけでもないですし。

避けることが出来るなら戦闘なんて避けたいのが本音です」

 

 

不思議な色を携えているその眼の光は。

 

 

「ですが、貴女が仰る通り僕は戦う道を選択しました。

それは僕の戦う理由が理不尽に遭遇する人を守りたい。

皆が大切にしている日常と普通を守りたい。

失った人達の気持ちがわかるなんて確かに言えません。

しかし、理不尽に奪われる悔しさはわかるつもりでいます」

 

 

失い、奪われる弱者特有の儚さと。

 

 

「皆さんの気持ちを背負いきれるとは断言しませんが。

それでも想いを背負い戦っていきたい、そう思ってます」

 

 

立ち向かい、戦う強者特有の強い輝きが混在していた。

 

 

 

 

「……まるで正義の味方の様なことを言うのですね」

「そうですね。そうなりたいです」

 

 

 真っ直ぐこちらを見て迷い無く告げる。

あぁ、成程。こういう男なのか。

 

 

──忍田の期待も外れてないようですね。

 

 

 そう思うと今までのイライラも吹き飛んだようだ。

 

「……そうですか」

 

 一度目を閉じ開く。

 

「お時間頂きありがとうございます。

それと、先程は失礼しました。

これからも頑張ってください。

それではこれで失礼します」

 

 踵を返し来た道を戻ろうとする。

 

「え、あ、忍田さん、途中まで送りますよ!」

「いえ、本部に住んでいるのでお気になさらずに。

それと今後は苗字ではなく、瑠花とでも読んで下さい」

 

 自分の名前、好きなのです。

そう告げてケンイチと別れる。

 

 

 

~~~~~

 

 

「や、瑠花ちゃん」

「……迅、ですか。どうしましたか?」

 

 自分の部屋に戻る途中迅に会った。

心なしかニヤニヤしている眼をしている。

ひょっとして──

 

「いや、なに。白浜隊員はどうだった?」

「……やっぱりそれでしたか」

 

 恐らく私とケンイチを出会わせる為に今回の玉駒支部行を止めたのだろう。

相変わらずの暗躍っぷりだ。

そんなんだから小南に色々言われるのだ。

 

()()()とは良い趣味ですね」

「まぁまぁ。それで、どう思った?」

「……そうですね」

 

「忍田が期待するのも頷ける人でしたね。

頑固で真っ直ぐでそして何より不思議な光を携えた人物と見受けました」

 

 後唐沢の好みにも近そうですね。

 

「そっかそっか、よかったよかった」

 

 ニヤニヤしてこちらを見ている。

 

「……なんですか?」

「いやいや、思いの外高評価のようで。

画策した身としては嬉しいだけだよ」

「そうですね、どこかの腹黒なんかよりは断然」

「うーわ、ひでぇ!」

 

 そう言いながら変わらずニヤニヤしている。

何だ、コイツと思うが。

同時にやられっぱなしは気に食わない。

 

「そういうあなたこそどうなんですか?」

「ん?何が?」

「あまりケンイチと直接会いたくない、という眼をしてますよ」

 

 一瞬表情が固まる。

図星なのだろう、少し胸がスカッとした。

 

「……彼から何か視えたのですか?」

 

 基本善人の迅があまり会いたくないのなら。

ひょっとしたら彼の未来をあまり見たくないのだろうか?

 

「……いや、未来はあまり関係ないよ」

「あら?そうなのですか?」

「うん、ただ単純に」

 

 

「苦手なだけさ」

 

 

 

 

 

 

 

 

「すみません、少し遅れました」

「お疲れ様です。白浜先輩」

「お疲れさまでーす。忘れちゃったかと思いましたよー」

「ごめんなさい」

 

 訓練室に入ると黒江さんと熊谷さん、そして知らない男の子が居た。

 

「初めまして、白浜先輩。巴 虎太郎と言います。

柿崎さんから紹介して貰い、来ました。

今日はお願いします」

「初めまして、虎太郎君。白浜 兼一です。

柿崎さんにはお世話になったからね。今日は力になれるよう頑張るよ」

 

 今日はこの3人に武器を操る基礎の基礎を教える。

 

「さて、では早速始めましょうか。

とは言っても僕も専門ではないですし、理論を修めているわけではないので実際に身体を動かす方法ですが、良いですか?」

「りょうかーい」

「はい、むしろ助かります」

「よろしくお願いします!」

「うん、じゃあまずは武器を振る際の身体の使い方なんだけど──」

 

 

~~~~

 

 

3人に教えながら頭の片隅では先程の瑠花さんとの会話を思い出している。

あの眼と雰囲気。

ティダード王国のロナ姫を彷彿とさせる、あの姿は。

失ってしまった者特有の雰囲気。

 

何を失ったのかはわからない。

けど瑠花さんが言うように。

ボーダーの人も三門市民も。

何らかの形で日常と普通を失ってしまった人が多いのだ。

 

改めて思う。

自分は本当に幸運なのだ、と。

家族や家を失うことなく。

戦うことも自分で選ぶことが出来て。

それを導いてくれる人達に出会い。

大切な人達に多く出会えた。

そんな大切な人達を守れる力を手に入れるまで、決して逃げ出さないと誓った。

 

そして今も。

現在進行形で大切な人がドンドン増えている。

ボーダーの人も今では僕の大切な人になってきている。

 

新島にも言われたっけ。

筋金入りの苦労人だ、と。

 

多分そうなのだろう。

 

そして長老にも言われた。

敵を必要以上に傷つけずに大切な者を必ず守り抜く力とは、すなわち史上最強レベルの力が必要なのだ、と。

 

 

 

──ならば。

それならば。

 

 

手に入れよう、史上最強の力を。

 

 

それが大切な人を。

自分の信念を守り。

人の想いを背負うのに必要というのなら。

 

 

 

 

僕は、史上最強の男になる!

 

 

 




瑠花ちゃんは王族の器と感情に流される若さを備えているタイプだと思います。
陽太郎と遊ぶ瑠花ちゃん可愛い。


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幕間
それぞれ


今月のワートリは2本立てらしいですよ!
先生の体調が気になりますが、嬉しいことこの上ない!!


~~Side:梁山泊~~

 

 

「長老、ご一緒に如何ですか?」

 

 縁側に座している長老にお猪口を渡しながら問う。

冬夜ということもあり辺りは静まり返っている。

……いや、今の梁山泊は昼であってもあまり活気は無いが。

 

 兼一君が三門市に行ってから、梁山泊はいつもの活気さは失われている。

それに加えて美羽も離れている現状。つい数ヶ月前を懐かしむ位活気が無くなっている。

 

──こういう時に子供達2人の"大きさ"を感じるものだ。

 

「おぉ、秋雨君からのお誘いとはのぅ!これは珍しいものじゃ!」

「有名なものが手に入りましたので、偶には良いだろうと思いまして」

 

 長老の持つお猪口に酒を注ぐ。

おつまみは逆鬼のストックを少し拝借した。

あまり食べなれないものだが、強い酒には味が会う、ような気がする。

 

 時期を考えて熱燗にしておいて良かった。

日本酒特有の香りの強さが、温かさによってより強く感じる。

 

「それで、秋雨君は何を聞きたいんじゃ?」

「……敵いませんね」

 

 どの様に話を切り出すか考えていたが、それを汲み取ってくれたのだろう。

長老から声を掛けてくださった。

 

「では率直に。何故兼一君を三門市に行かせたのですか?」

 

 長老の眼がこちらを見据える。

 

「久遠の落日が未遂に終わった為、今兼一君が闇に狙われる可能性は低いと思い今回の任務に賛成しました。しかし、同時に今回の兼一君の参加に疑問を持っていたのも事実です」

「ほう、どういう疑問を持っていたのかね?」

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()点です」

 

 長老は静かにお猪口を傾けている。

そのまま続けても良い、ということだろう。

 

「私も精通しているわけではないですが、トリオンという技術を戦闘で扱う際に最も大事な根幹はその量であると聞いてます。

ある意味トリオン量という才能が大きなウェイトを占めると言っても良いでしょう。

その才能が兼一君にあれば良いのですが、如何せん兼一君にそれは期待できないでしょう」

「ハッキリ言うのぅ。まぁ、事実じゃろうが」

「濁しても仕方ないですからね。

今まで兼一君が戦い抜いて来れた大きな要因の一つは、その信念と心の強さ。

どんなにボロボロになっても立ち上がることができる心こそが、兼一君を今まで生き延びさせてきたと言っても良いでしょう。

……しかし、それはトリオンでの戦闘には役に立たないでしょう。トリオンが尽きれば戦えないのですから」

 

 そうなのだ。

どれだけ兼一君の心が折れなくても、トリオン量が尽きてしまうとトリオン体で無くなってしまう。

そうなればアウトだ。トリオン体でない以上、トリオン体を傷つけることは叶わないと聞いている。

そこに根性や信念等、心が介入する余地は、無い。

 

「ほっほ!まさか秋雨君の口から心の強さが役に立たないという言葉を聞けるとはのぅ!」

「はぐらかさないでください。それで、どう思っているのですか?」

 

 長老の眼は何も変わっていない。

 

「確かにとりおんとやらでの戦闘は兼ちゃんにとっては不利な面が大きいのじゃろう。

しかし、それでも界境防衛隊員になる恩恵は大きいと睨んでいる」

「……どういった部分でしょうか?」

「勿論、彼の心をより強くする為じゃ」

 

 静かにお猪口を傾けている長老。

 

「知っての通り兼ちゃん……いや、兼一君は平凡じゃ。

平凡な少年が信念を抱き、武術・戦に身を投じ、磨かれていっている。

梁山泊、友人、ライバル、そして闇。彼とは違う多種多様な立場から戦う覚悟を持った全ての者との出会いが、彼の心を強くしている。

大多数が何かしらの理由で武術に惹かれ、望んだ者達じゃ。

……しかし、だからこそ出会えていない者達もいる」

「……」

 

 長老がお猪口を床に置いた。

静かな音が周りに響く。

ここからが本題の部分なのだろう。

()()が姿勢を正す気配がした。

 

「武や戦に関わる覚悟を持たざるを得なくなった、自分と同じ平凡な同年代の少年少女。

武に惹かれたわけでも武への責任があるわけでもなく、戦を選択した。

そう言った者達が持つ様々な境遇、想い。

それと相まみえた時に兼一君がどの様に想うか、何を感じるか。

自分の事をどの様に振り返るか。

……戦う、という事をどの様に捉えなおすのか」

 

 

「三門市での、界境防衛隊員での出会いは、間違いなく彼の心に大きな影響を与えるじゃろう」

 

 

──なるほど。

 

 

 武に惹かれたわけでも、親族が武術関係者でもない、自分と同じ平凡な少年少女が戦う姿。

その姿を兼一君がどの様に思うのか、か。

彼がどの様な経験をし、どう想うかまでは我々はわからない。

 

 しかし、自分と同じだが自分とは違う想いで戦う姿は。

兼一君の心を成長させる。そしてそれは白浜 兼一という武術家にとって最大の成長となる。

長老はそうお考えになったのだろう。

 

 そう思い顔を見ると"正解"と言わんばかりの顔をしている長老がいる。

簡単に人の考えを読むのは勘弁してほしいものだが。

 

 一息つくと長老が空のお猪口を差し出してきた。

少し冷えた徳利を傾け酒を注ぐ。

 

「それに少しの間兼一君が三門市にいてくれるのは助かるのじゃよ」

「……闇、ですか?」

「うむ」

 

 それは私も気になっていた。

久遠の落日が未遂に終わった以上、暫く闇からの大掛かりな宣戦布告は無く静かな展開になるだろう。

そうなると闇はどうするか?

 

 選択肢の一つは人員の拡充だ。

その矛先は世界各地に散らばるだろう。

無論日本もその対象のはずだ。

 

……そうなった場合三門市という戦場に目を向けない理由は無い。

戦場でこそ闇の求める資質持つ者が生まれる可能性が高いから、だ。

 

「……兼一君で大丈夫でしょうか」

「なぁに、達人クラスが直接行くのは考えにくい。

平時であればあるほど弟子の育成に力を注ぐのはワシ達と変わらんよ。

ただ、その弟子の育成に三門市を利用する可能性はある。

ならその場所に気の扱いのみは妙手でも上手側の兼一君がいるのは好都合じゃ。

同じ弟子から妙手クラスに対してなら、今の兼一君の感覚は鋭いからのう」

「なるほど。それも含めての──」

「そう、彼の修行じゃ」

 

 すっかり冷えた自分のお猪口。

中にある酒を一気に煽る。

 

 

「……心配なのは変わりませんが、納得は出来ました」

「そうか、そうか」

「──と、言う訳だ、皆。そろそろ姿を出しなさい」

 

 

 その言葉を聞き次々出てくる逆鬼、剣星、アパチャイ、しぐれ。

全く気になるなら自分で聞けば良いのに。

 

 

「まぁ、長老が考えあってのことならおいちゃんは何も言わないね」

「…………不安、は変わらない、ぞ」

「全くだぜ!ひょっとしたらこれ幸いと基礎をサボってるかもしれないしな!」

「ほっほっほ!なら定期的に姿を見に行ってあげればいいじゃろう!」

「アパパパパ!アパチャイが見に行くよ!!ついでにケンイチと組み手してくるよ!!!」

「待て待て、君が行ったら収拾が──」

 

 

 

 

その後夜が更けるまで皆で酒を飲んだ。

兼一君の様子を見に行く、行かない、心配事等々。

例えその姿は無くても。

梁山泊の話題の中心にいる我らが一番弟子、白浜 兼一君。

 

願わくば。

一回りも二回りも大きくなることを信じて。

 

 

 

~~Side:ボーダー~~

 

 

「唐沢さん」

 

「迅君か、どうかしたのかい?こんな人気が無い場所を狙ったかのように」

 

「何故白浜隊員を呼んだのですか?」

 

「何か思うところでも?」

 

「三門市出身でもない、ボーダーの活動にそこまで興味をもつでもない」

 

「……」

 

()()()()()()()()()()()()()()()を何故わざわざ?」

 

「……なるほど」

 

「?」

 

「君が白浜君を苦手な理由がそれかな?いずれ居なくなるのに、と」

 

「……それとは違います。話を逸らさないでください」

 

 

煙草の煙を吐き出す唐沢。

言葉を待つ迅。

 

 

「率直に言うと本当は彼の師匠を頼ったんだ。

もしくはその秘蔵っ子だね。彼女なら戦力として間違いなく役に立つ、そう思ったからね」

 

「……」

 

「しかし彼等が推薦したのはあの少年だった。

それだけでも驚いたのに、決して弟子を取ろうとしないあの人達の一番弟子というじゃないか。

強い興味を持ったよ。

何より決定的だったのは、彼の信念。

『理不尽な目にあう人達を救う為に立ち向かう』、と。

そう言い切った彼の眼には強い光があった。まるで正義の味方のような、ね」

 

「……。

救う為に、ですか……。

綺麗事ですね」

 

「そう、綺麗事だ。

実際の戦場を知っているのに、綺麗事を言い切る。

理不尽を知っているのに、それに立ち向かうと断言する。

ボーダーの様な若い組織にこそ、彼の様な心の強さは必要だと思うよ」

 

「……」

 

「俺の意見はこんなものだけれど、何か他にあるかい?」

 

「……いえ、別に」

 

「そうか。それよりも何とかなりそうかい?」

 

「……ふぅ。

いえ、なんとも言えないですね、今の時点では」

 

「……そうか、難しいね」

 

煙草を消し背を向けて歩き始める唐沢。

 

「何処に居るんだかね、()()()()は」

 

去っていく唐沢。

1人残った迅は天井を見つめながら呟く。

 

「……本当ですね」

 

 

 

~~Side:?? ??~~

 

 

 

ボーダーを跡にして家路につく。

今日もユズルに協力してもらって鉛弾(レッドバレット)について試行錯誤した。

 

……結果活用できないだろう、とだけ判明した。

協力してもらったにも関わらずこの有様だ。

 

 申し訳ない気持ちだが、諦めるわけにはいかない。

今のチームの調子は最高だ。

A級の上位3チームのあの牙城を崩せるかもしれない。

それくらい調子が良い。

今季の遠征への切符を手に入れることができるかもしれない。

 

……自分の我儘にチームの皆が協力してくれている。

自分が人を撃てたならこのチームはもっと上に行けているかもしれないのに。

 

 

──そんなこと気にする人達じゃないけど。

 

 

 脳裏に浮かぶ。

仏頂面の隊長。

賑やかな同級生。

美人なのに慌てると可愛いオペレーター。

クールなのに女性が苦手な後輩。

 

 

──そう言えば、白浜君も女性と戦えない、とか。

 

 

 先日見た転入生の白浜君を思い出す。

入隊したばかりとは思えない実力だった。

 

……辻君がなんか衝撃受けてたけど。

 

 人を撃てない私に変な目を向けるわけでもない。

むしろ共感を示すような態度だった。

 

 なんの変哲もない見た目だったのが。

あの目の光──

 

 

「すみません、ちょっとよろしいでしょうか?」

 

 

 急に声を掛けられた。

驚いて凄い速さで振り返る。

そこには大学生位の男性が居た。

 

 

──知らない人、だよね?……私に用?

 

 

 周りを見渡すが人は居ない。

間違いなく私に声を掛けてきている。

 

 

 

 

「鳩原さん、ですね。初めまして」

 

 

「雨取 麟児と言います。少しお時間頂けますか?」

 

 

 

 



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第三章
Battle10:諏訪隊


最近の原作面白過ぎる!
いや、いつもでした…。


■■■

 

 

(ゲート)発生、(ゲート)発生!近隣の部隊はオペレーターの指示に従ってトリオン兵への対応を開始してください』

 

 本部オペレーターからの指示が聞こえる。

レーダーによると近くのトリオン兵は2体。

1体はこちらに近いがもう1体は少し距離がある。

 

「諏訪さん、どうしますか?」

「離れてる方に味方が1人近づいているから俺はそっちを片付けてくる!

日佐人は近くのトリオン兵を抑えてろ、無茶はしないようにな!」

「了解です!」

 

 本部オペレーターと連絡を取りすぐに近くのトリオン兵に向かう。

おサノ先輩以外のオペレーターとやり取りをするのは久しぶりだな、と思いながら。

敵が位置する場所に到着する直前。

 

 オレ以上の速さでトリオン兵に向かう人がそこに居た。

 

 トリオン兵、モールモッドの全身が見えた瞬間。

 

「チェストーーー!!!!」

 

 大きな声と同時に吹き飛ばされるモールモッド。

近くの瓦礫に頭から突っ込む。

視線の先にはモールモッドを殴り飛ばしたのであろう人物が居た。

 

「白浜先輩!」

 

 B級フリー隊員の白浜 兼一先輩だ。

 

「やぁ、日佐人君。1人?」

「はい、そうです!近くのもう1体の方に諏訪さんが向かってます!片付け次第こちらに向かうそうです!」

「そっか、じゃあ足止めで十分かな?」

 

 こちらを向いて話している白浜先輩の後ろでゆっくりだが、動きを再開しているモールモッド。

片腕も捥げ、見るからにボロボロの姿だがまだ活動できるのだろう。

構える自分に対して自然体で振り向く白浜先輩。

 

 立ち上がったモールモッドに対して──。

 降り注ぐキューブの雨。

 コアを貫かれ、崩れ落ちるモールモッド。

 

「おー、無事か、おめーら!」

「珍しく詰めが甘いね、ハマシラー」

「諏訪さん!」

「や、やぁ、王子君。ありがとね」

 

 キューブの飛んで来た先を見ると諏訪さんと王子先輩がそこに居た。

諏訪さんが向かった先に居た隊員王子先輩だったのだろう。

王子先輩と白浜先輩が会話をしているが、白浜先輩が少しぎこちない感じがする。

ひょっとして王子先輩が苦手なのだろうか、と思うと同時に。

 

──オレも他人のこと言えないけどさ。

 

 前期のランク戦最終戦時、王子先輩に笑顔で切り捨てられた。

その苦手意識がまだ少し残っている。

トリオン体相手とは言え、笑顔で切り飛ばす人って王子先輩と犬飼先輩位しか知らない。

 

「──そっか。じゃあまた気が変わったら声掛けてね。ハマシラーならいつでも歓迎さ!」

「う、うん、ありがとう」

「それじゃあ僕はこれで!またね、3人とも!」

 

 そう言い残して別の場所に駆けていく王子先輩。

それを見て息を吐き出す白浜先輩。

あれ?本当に苦手なのかな、王子先輩のこと。

 

「何だ、白浜。おめー王子が苦手なのか?」

 

──ストレートに聞くなぁ、諏訪さん。

 

「苦手というかなんと言うか。なーんか僕の不良っぽいやつアレルギーが反応してるんですよ」

「何ですか、それ?」

 

 相変わらずよくわかんないことを言い出す人だ。

 

「そう言えば王子とは何を話してたんだ?」

「あー、あれです。チームに入らないかっていう勧誘です」

「んで断ったのか?」

「……えぇ、まぁ、はい。そうですね」

 

 少し歯切れが悪い返事。

白浜先輩はいつもチーム加入の話になると言い淀むことが多い。

 

 

──こんなに強いのになんでチーム組まないのだろうか?

 

 

 そう、白浜先輩は強い。

影浦先輩や荒船先輩と互角以上の戦いが出来る。

トリオンは少ないが守りがとても上手い。

足を止めた白浜先輩を攻め切るのは、ハッキリ言ってマスタークラス以上でないと無理だろう。

少なくとも今のオレではできない。

 この前も模擬戦をしてもらったが、振った弧月が当たらずに向こうの正拳突きが当たった時は何が起きたのか全く理解できなかった。

 

 そんなに強い白浜先輩だが、結構誘われているのにチームを組もうとしない。

コアデラの2人も隊に勧誘していたし、弓場さんにも誘われたことがあるらしい。

 

──どこのチームに入っても問題なく活躍できると思うんだけどなー

 

「ったく。まぁチーム組むかどうかは自由だが、チームの方が採れる行動は広いぞ」

 

 諏訪さんに言われ少し考え込む白浜先輩。

こんなに悩む位だから何かしら思うところがあるのだろう。

 

「おら、任務終了だ。帰るぞ、日佐人」

「了解です。それでは白浜先輩、失礼します」

「あ、うん。またね、日佐人君。お疲れ様です、諏訪さん」

 

 

□□□

 

 

 諏訪さんと日佐人君の姿が見えなくなった。

防衛任務は終わったので僕も戻って良いのだが。

少し考えたいことができた。

 

──チームの方が採れる行動は広いぞ

 

 諏訪さんに言われたことが頭に残ってる。

そう、確かにチームで動いた方が採れる行動があるのは間違いないだろう。

特にこういった防衛任務などでは尚更、チームの方が良い。

それは今までの経験からも分かっている。

 

 ボーダーに入り3ヶ月が経った。

その間に結構多くの隊からチームに誘われた。

さっきの王子君だけでなくゾエ君とかも誘ってくれたりしたけど。

頑なに断っている理由はただ一つ。

 

 

──根本的に僕って『チーム』で動くのに向いてない気がするんだよなー

 

 

 そう、僕の最優先行動は人を守ることと自分の信念を守る戦いこそを優先すること。

それに反しない限りはチームでの行動に専念できるだろう。

 しかし、それは裏を返せば自身の信念と反する場合チームの行動に反するということだ。

いや、チームどころかボーダーという組織の命令であっても逆らう可能性が高い。

 最悪大きな組織の場合はその行動をフォローができるかもしれないが、チームというより小さな組織の場合僕というノイズは致命傷になり得るだろう。

 

 新島にもさんっざん言われている。

お前ほど組織として扱いにくい馬鹿は居ない、と。

そして僕もそれは理解している。

そんな融通の利かない僕がどうやって周りと歩調を合わせることができたのか。

 

 

──こういう時に美羽さんのありがたみを感じるなー

 

 

 そう、美羽さんの存在だ。

僕の考えを理解してくれて、足りない部分をフォローしてくれていた存在。

改めて彼女に助けられていたと思う。

 

 とは言え、彼女に頼りっぱなしで成長しないようではいつまで彼女に相応しい男にはなれない。

それを克服する為にもどこかのチームに加わるのはありなのだが……。

 

「まぁ、今すぐに答えを出さないでも良いか」

 

 とりあえず今できることをしっかりとしよう。

チームを組むかどうかも大事だが、他のチームの人達とコミュニケーションを取るのも大事と東さんには言われた。

実際何回か防衛任務に参加して他の部隊の人々とコミュニケーションを取る重要性は理解できた。

だから今はできる限り多くのチームとコミュニケーションを取れるようにしていくことも大切だ。

 

 

──こういったコミュニケーションは新島が得意だったな

 

 

 今度はアイツのコミュニケーション能力に感謝することになるとは……。

癪だがアイツなら僕の考えを理解した上で上手く運用するだろう。

そういった人身掌握術はアイツが一番だし。

 

「おっと、考えすぎてた」

 

 気が付いたら結構時間が経っていた。

僕も本部に戻ろう。

ついでに明日の防衛任務のシフトも確認しておこうかな?

 

 

 



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