【P5Rその後】地獄の女神は笑う【二次創作】 (KOMOREBI)
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第1話 再会

 本作品には以下の注意事項がございます。

・ATLAS様の「ペルソナ5ザ・ロイヤル」の二次創作作品です

・無印版ではなく、完全版の方のその後ですので、本編のネタバレが含まれています

・よく言えばスピーディー、悪く言えば展開が早すぎる

・稚拙な文章

 以上のことが許せる方はどうぞ楽しんでいってください。


 この作品はフィクションです。実在する人物、団体、事象、宗教とは一切関係ありません。


 カランコロンッ。

 

 軽快な入店音が鳴り響き、蓮は店内を見回した。

 四軒茶屋駅から徒歩1分。少し入り組んだ住宅街の隅にある純喫茶ルブランは、哀愁が漂いどこか懐かしいような空間の店だった。

 蓮とマスター以外に誰もいない小さな店内に、マスターの声が響く。

 

「……らっしゃい」

 小さなシンクで忙しく洗い物をしていたマスターが面倒くさそうにそう言い、水を止めてエプロンで手をふいた。

 時刻は午後2時。昼食のピークが終わり、丁度眠くなってくる時間だ。それと同時に、人々の気が最も緩む時間でもある。

「ご注も……ん───」

 振り返って客に注文を尋ねようとしたその時、マスターが蓮の存在に気づいた。

 

 カウンター席に座る蓮が目に入り、髭を蓄えた仏頂面を少し明るくした。

「……蓮! そうか、今日だったな。…………おかえり」

「ただいま」

 蓮が笑って答える。

 

 と、蓮のバッグがもぞもぞと動き出し、中から黒い生き物が飛び出した。

「プハッ! ワガハイもいるぞゴシュジン! 久しぶりだな!」

 何やらニャーニャーと鳴いている黒猫に目をやり、マスターは呆れた様子で言った。

「お前まだバッグに猫入れてたのかよ。かわいそうだぞ」

 

「猫じゃねぇよ!! …………いや猫だけど! ワガハイはここが一番居心地がいいんだ」

「相変わらずよく鳴く猫だな。蓮、ブレンドでいいか?」

 惣治郎はそう蓮に尋ね、店外へと出た。

 

 丁度ルブランに駄弁りに来た常連の老夫婦と鉢合わせ、老爺がマスターに話しかける。

「あれマスター、もう閉めちゃうのかい」

「あー悪いね、今日はもう閉店だ」

 そう言ってドアの札を掛け替え、さっさと店内に戻っていった。

 

 

◇◆◇

 

 

 惣治郎の淹れたコーヒーを飲み終わり、蓮は席を立った。

「双葉が帰ってくるのにもまだ時間がある。荷物は上に運んであるから、整理でもして来い」

 惣治郎が声をかけ、蓮が頷いた。

「あぁ、それと…………」

 

 階段を登りかけていた蓮を呼び止める。

「二階はそのままにしてある。ま、今更気にしねぇだろうが、自由に使え」

 

 1時間後、荷物の整理を終えた蓮はベッドの上に座り、モルガナと話していた。

 と、下から女の溌剌とした声が聞こえた。

「たっだいまー!」

 聞き覚えのある声が耳に入り、蓮はモルガナと共に階段を降りた。

 

「惣治郎、惣治郎! 聞いてくれ! 今日な───」

 満面の笑みで語りかける双葉に、惣治郎もまた穏やかで嬉しそうな表情を浮かべていた。

 1年前身にまとい波乱万丈の毎日を過ごしてきた、あの制服と同じものが双葉を包んでいる。

 

「双葉」

 双葉の話を遮り、惣治郎が声をかける。腕を組んだまま蓮の方に視線を移す。

 惣治郎につられ、双葉が階段を見た。

 

 キョトンとした顔がパッと明るくなった。ゆっくりと身体を蓮の方に向け、歩み寄る。

 まだ理解が追いついていないのか、少し怯えた様子で、確かめるように蓮に手を伸ばした。

 手と手が触れ、双葉はふわっと笑顔を浮かべた。そして一歩、二歩と歩を進め、蓮に抱き着いた。

 

「蓮っ……! 本物だ…………っ!」

「久しぶり、双葉」

 

 十分後、一度家に帰って着替えを済ませた双葉は、蓮と並んでカウンター席に座り楽しそうに話していた。

「ほんと久しぶりだなっ! 夏休み以来か?」

「こいつと杏殿は受験だったからな。先月とかヤバかったんだぜ。迂闊に話しかけられやしねぇ」

 退屈だったぜ───と、モルガナは愚痴を漏らす。

 

「今日はなんで帰ってこれたんだ?」

「大学の入学手続きだ」

 蓮が短く答える。双葉は待ってましたと言わんばかりに声を上げた。

 

「じゃあこっちの大学受かったのか!? すげー! おめでとう!!」

 礼を述べる隙も与えず、さらに続けた。

「なぁ! どこに住むんだ? ここからどれぐらい?」

 惣治郎と蓮が顔を見合わせ、何かを企んでいるような笑みを浮かべる。

 

「えっ? なになに? …………なんだよ!」

 ニヤニヤしながら惣治郎が答える。

「……ここだよ」

 

「…………へっ?」

 間の抜けた声を出し、そして目を輝かせて蓮の腕をつかんだ。

「ほ、ほほ、ほんとか!?」

 そう繰り返しながら、興奮した様子で蓮を揺さぶる。

 

「ま、ワガハイも住めるような部屋が見つかるまでだけどな。少なくとも春休みまではここに居るつもりだぜ」

「やったーーー!!!」

「聞いちゃいねぇ……」

 モルガナが呆れて言う。

 

「そう言えばすみれにはもう会ったのか?」

 双葉が冷やかすような口調で尋ねた。

「今日の練習、見に行こうと思ってる」

 

 

◇◆◇

 

 

 日が沈み始め、蓮は1人電車に揺られていた。

 半年ぶりの恋人との再会を前に、蓮は表情に出さずとも緊張していた。長い溜息を吐き、少し気持ちを落ち着ける。

 不安と期待で立っている事すら辛いほどに足が震えていた。つり革を掴む手に汗が滲み、より強く握り直す。

 

 目的地に到着したことを伝えるアナウンスが聞こえ、蓮は電車を降り、すみれが通う体育館へと向かった。

 モルガナは気を使っていつの間にかいなくなっていた。

 いつもより軽いバッグに不可思議な不安感を覚え歩いていると、気付いたときには体育館の目の前まで来ていた。

 

 ドアの前に立ち、深呼吸を何度か繰り返す。

 と、その時、突然ドアが開き見覚えのある女性が出てきた。

「あら、君は…………」

 蓮に気づき声をかける。

 

「雨宮蓮です。お久しぶりです」

「あぁ、すみれの。あの子なら中で練習しているわ。見に来たのでしょう? その様子だとあの子に内緒で」

 怖いほど自分の状況を見破る平口コーチに、蓮は脱帽した。

「入りなさい。案内してあげるわ」

 そう言われ、蓮は平口に連れられてガラス越しに練習風景を見ることのできる、観覧席に通された。

 

 レオタードを身にまとい、優雅に舞っているすみれに、蓮は目を奪われた。

 その場にあるすべてがすみれの演技のためだけにあるかのように、すみれは大胆で、尚且つ本人の繊細さが見て取れるような、美しい踊りを見せつけていた。

 演技が終わり、蓮は感動で身を震わせた。ただ見ているだけのはずなのに、鼓動はどんどん加速していく。

 

 平口の評価を聞くすみれはいつになく真剣で、恋人には見せないようなアスリートの顔をしていた。

 数十分間練習風景を観て、練習が終わり、蓮はすみれに会いに行こうと席を立った。

 すると、ガラス越しにある光景が目に入った。

 

 ベンチに座って休憩をしていたすみれの隣に、見知らぬ男が腰を据えた。女子の隣で同じく新体操の練習をし、先程演技するすみれを見てコーチに叱られていた男だ。

 蓮のいる観覧席からは何を話しているか分からなかったが、男は何やら楽しそうに話をしていた。

 男の発言に、すみれが笑う。

 

 蓮は苛立ちをぐっとこらえ、さっさと会いに行こうとその場を離れようとした。

 と、男が少し腰を浮かせ、不自然にすみれに近づき座り直した。

 次の刹那、蓮の中で何かがはじけた。

 

 自分でもなぜそんなに苛立っているのか理解できなかった。

 だが蓮は許せなかった。許すわけにはいかなかった。

 

 ゆっくりと観覧席を離れ、一歩一歩踏みしめて、すみれの所へ向かった。

 体育館の扉を静かに開き、あたりを見回す。

 ベンチに座るすみれと男が目に入った。男は先程よりもさらに身を近づけていた。

 

 別の生徒と話をしている平口を横目に、蓮はすみれに近づいた。

 後ろからすみれに声をかけると、すみれは酷く驚いた様子で振り返った。

 蓮の顔を見てすぐに表情を明るくさせ、喜びと疑問が入り混じったような形容しがたい様子で蓮に駆け寄る。

 男は困惑した表情を浮かべた後、面白くなさそうな顔をした。

 

「蓮先輩!? どうしてここに!!?」

 嬉しそうなすみれと対照的に、蓮を睨みつけていた男の顔が、少し穏やかになった。

 蓮とすみれの間には少し距離が空いていた。男は恐らくそれを見て、そしてすみれの呼び方を聞いて、恋人ではないと思ったのだろう。

 

 男の考えていることを察し、蓮はすみれとの距離を詰めた。

 少し近づいただけであるにも関わらず、すみれが頬を赤らめる。

 そして、半年ぶりに再開した愛おしい彼女を、蓮はきつく抱きしめた。

 

「えっ? ちょ、先輩!? みんな見てますよ…………!」

 今までにないほど顔を真っ赤にさせ、すみれが言う。だがそう言いながらも、すみれは抵抗することは無かった。

 気を使った平口が、すみれと蓮に気が向かないようにと、皆の注意を自分に集中させた。

 

 唯一その光景を見ていた男が怒りと悔しさで拳を震わせていた。

 激しい音を立ててベンチを立ち上がり、怒りに任せてさっさと体育館を去っていった。

 その音は注意していなければ驚いて飛び跳ねそうなほど大きかったが、すみれの耳にはもはや届いていなかった。




 お読みいただきありがとうございました。

 18禁バージョンはpixivにアップしております。許せる方はそちらもどうぞお読みください。(第1話は同じです)


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第2話 焼き餅

 本作品には以下の注意事項がございます。


・ATLAS様の「ペルソナ5ザ・ロイヤル」の二次創作作品です

・無印版ではなく、完全版の方のその後ですので、本編のネタバレが含まれています

・よく言えばスピーディー、悪く言えば展開が早すぎる

・稚拙な文章

 以上のことが許せる方はどうぞ楽しんでいってください。


 この作品はフィクションです。実在する人物、団体、事象、宗教とは一切関係ありません。


 着替えに行くすみれを見送り、(れん)は体育館を出た。とその時、何者かの殺気を感じ、即座に振り向いた。

 後方にはいつの間にかあの男が立っていた。背丈はすみれ程で、顔も少々幼い。

 

 自分を見ても一切表情を崩さない蓮を見て、男は少しばかり怯んだ。

 すぐに気を取り直し、蓮を指差して言う。

「見てろよ。お前が今、彼氏だろうが関係ねぇ。最後に笑うのは俺だ!」

 

 男はそれだけ言うと、蓮の返事も聞かずに去っていった。

 嵐が去った後をぼんやりと眺め、蓮は得体の知れない不安を感じていた。

 

 数分後、蓮は夜の街を歩きながら深く後悔していた。

 子供のような下らない嫉妬心と怒りに身を任せ、非常識な行動を取ったことを。

 少し下がって隣を歩くすみれは、まだ顔を赤らめて緊張している様子だ。時々蓮に近づいては顔を押さえて悶えている。

 周囲からは車の行き交う音や人々の話し声、道に面している店からの音楽など様々な音で包まれていたが、自分の鼓動だけがやけに大きく聞こえた。

 

 そうして2人はいつの間にか駅についていた。

 名残惜しい気持ちを抑え、すみれの方に向く。

「今日はいきなり押しかけてごめん。すみれに早く会いたくて」

「そんな! 謝らないでください! その…………私も、あ、会いたかった、です……ずっと…………」

 すみれが火照った顔を隠すように俯いて言った。

「うん、ごめん」

 

「ふふっ、なんか照れますね……」

 少しの沈黙が訪れ、少し震えながらすみれが言う。

「あ、あの…………。も、もう、一回…………ぎゅってして、く、くれませんか……?」

 蓮は言われるがままにゆっくりと手を伸ばし、すみれを抱き寄せた。

 

「すみれ、大好きだ。愛してる」

 そう耳元で囁く。すみれは蓮を抱きしめる力を一層強め、応えた。

「私も、大好きです。先輩。今日はまだ、一緒にいたいです……」

 

 時刻は午後8時20分。

 2人ははぐれないようにと手をつなぎ、ルブランへ向かっていた。

 主要道路はまだ多くの人で賑わっていたが、一本ずれた住宅街は既に人気は全くなく、街頭の明かりが不安定に明滅している。

 電線に泊まっていた鳥が蓮たちに気づきその場を飛び立った。バサバサッという音を聞き、すみれが小さな悲鳴を上げながら蓮の右腕を掴む。

 「大丈夫だよ」と蓮が声をかけると、すみれは安心したように蓮を見上げた。

 

 しばらく歩き、ルブランに着いた。

 ドアを開き、真っ暗な店内を覗きながら申し訳程度に「ただいま」と呟く。

 と、すみれがまた小さく悲鳴を上げてより強く蓮を掴んだ。

 

 すみれが怯える方向を見ると二つの小さな光が見えた。

 その光は段々とこちらに近づき───そして蓮に話しかけた。

「ワガハイ、用事が出来た。ちょっと出てくる」

 二つの光はそれだけ言うと、蓮の横を駆け抜け外へと出ていった。

 

 蓮は店内の電気を点けた。冷蔵庫を見ると丁度カレーの具材が余っていたので、2人で作り食べることにした。

 テーブル席に並んで座り、蓮の淹れたコーヒーを飲みながら談笑する。この世界に2人だけしかいないような、そんな幸せな時間だった。

 

「そう言えば……、俺が会いに行く前に話してた男の子って誰?」

 "極自然に"蓮が尋ねる。緊張が伝わったのか、すみれはくすっと小さく笑ってから答えた。

「あぁ、ひろくんの事ですか?」

 

 ひろ"くん"!? 恋人である俺は蓮"先輩"なのに!?

 蓮はそんな思いを隠そうと無表情を貫いたが、すみれには筒抜けだった。

「あの、先輩…………、もしかして……あ、わ、私の勘違い、だったら申し訳ないんですけど…………。もしかして、や、やきもち、焼いてるんですか……?」

 

 すみれに図星を指され、蓮は慌てて目を逸らす。

 その行動を不審に思ったすみれがさらに問い詰める。

「やきもち、ですよね? 先輩? 絶対そうですよね!?」

 

 寄りかかってくるすみれを何とか引き離そうと力を加える。

「きゃっ!」

 蓮の力が勢い余ってすみれを押し倒す。倒れるすみれに引っ張られ、蓮がすみれに覆いかぶさるような体勢になった。

 お互いの顔が近づき、すみれは顔を耳まで赤くする。照れるすみれを見て、蓮も同じように頬を赤らめた。

 

 少しの間沈黙が続き、蓮が訴えるように囁いた。

「やきもち、焼かないわけないだろ…………!」

「先、輩……」

 

 再び静寂が訪れる。そして静寂を打ち破るように、蓮が言った。

「誰にも渡したくない。すみれ……。キス、してもいいか?」

「……もう、そういうの、聞かないでくださいよ…………」

 

 すみれがゆっくりと目を瞑る。その姿に見惚れ、一瞬だけ硬直した。

 そうして、蓮は静かに顔を近づけ、2人は僅かに触れるだけのキスをした。

 

「……苦い…………」

「ふふっ、レモンの味、しませんね」

 

 

◇◆◇

 

 

 数分後、2人は蓮の自室でソファに腰かけ話をしていた。

「ひろ、くん、本名は島田弘樹(しまだひろき)なんですけど。あの子は去年の春頃からうちのスクールに来た選手で、前は別のとこに所属してて凄く演技が上手なんです」

 自分ではない別の男を褒めるすみれを見て、蓮は少しばかり嫉妬心を抱いた。

 

「それで、去年の夏の終わり頃。先輩といよいよしばらく会えなくなるってなって、私、少しスランプ気味になっちゃったんです」

 ───情けないですよね、とすみれが笑って言う。

 蓮の言うことを見越してか、すみれが付け加えた。

「言い訳ですけど、受験で忙しい先輩に、余計な事で心配かけたくなかったんです」

「すみれ…………」

 

「平口コーチには『あなたが会いに行けばいい』って言われたんですけど、でもそれはルール違反じゃないですか。そんな感じで悩んでた時、ひろくんが話を聞いてくれて」

 蓮は申し訳なさそうに俯きながら静かに話を聞いている。

 

「ひろくんは勿論私たちの事を知らなかったので、何というか……逆に話しやすくて。それで気づいたんです。先輩は1人で頑張ってるのに、私がこんなのじゃダメだって…………」

「ごめん。…………ずっと寂しい思いさせて……。会えなかった分、これからもっと支えるから」

 その言葉を聞き、すみれは目に少しの涙を溜めながら笑って頷いた。

 

「あ、そ、その……、ひろくんには、話を聞いてもらっただけで、ほんとに何もないですから。こういうのも変ですけど…………心配しないでください。私には、れ、蓮が、いる、ので……」

「うん、分かってる。ごめん」

「もう、謝りすぎですよ。悪いのは私なのに……」

 

 照れ隠しだろうか、すみれが徐に時計を見た。

「あ、もう9時ですね……名残惜しいですけど、さすがに帰らないと…………。先輩、次は、いつ会えますか……?」




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第3話 杏の帰国

 遅くてごめん。


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・無印版ではなく、完全版の方のその後ですので、本編のネタバレが含まれています

・よく言えばスピーディー、悪く言えば展開が早すぎる

・稚拙な文章

 以上のことが許せる方はどうぞ楽しんでいってください。


 この作品はフィクションです。実在する人物、団体、事象、宗教とは一切関係ありません。


「竜司先輩、遅いですね……」

 すみれが蓮の隣で心配そうに言う。

「あぁ、遅いな。多分練習だと思うけど」

 蓮が答え、真が呆れた顔で溜息を吐く。

「まったく……。もう随分前から決まってたことなんだから、時間の管理ぐらいしっかりして欲しいわ」

 

 時刻は午前10時。まだ到着していない竜司と、杏を除いた元怪盗団メンバーはルブランに集合していた。

 一切ブレることなく単調に進んでいく時間を見ながら、蓮たちは焦っていた。

 惣治郎がコーヒーを沸かす音と、時計が時を刻む音だけが虚しく聞こえる。

 

「もう行っちまっていいんじゃねぇのか? このまま待って杏ちゃんの迎えに送れるよりはマシだろ」

 惣治郎がそう提案し、真が口を開こうとしたその時、全員のスマホが鳴った。

 パソコンで作業をしていた双葉がチャットを読み上げる。

 

「竜司からだ。『わりぃ遅れる。走っていくから先行ってて』だってさ」

「どう考えても走っていける距離じゃないだろう。全く、集合時間を30分も過ぎて勝手な奴だな」

 "サユリ"を観ながらコーヒーを飲んでいる祐介がぼやく。その隣で春は呆れた様子で言った。

「アハハ、祐介も10分遅刻してたけどね……」

 

 

◇◆◇

 

 

 約1時間後。成田国際空港。

 蓮たちは真の運転する車に揺られ、空港に来ていた。

 竜司に関しては姿も無ければあれから連絡もない。

 

「お? なぁなぁ! 飛行機が来たぞ! あれに杏殿が乗ってるんじゃないか?」

 バッグから顔だけを出したモルガナが興奮した様子で言う。

「かもな、行ってみるか」

 皆に声をかけ、到着ロビーへ向かうことにした。

 

 到着ロビーに着き、ベンチに座りながら杏を待つ。

 杏が降りてくるはずの到着口はそれなりに賑わっていた。

「そっか、出待ちぐらいいるわよね」

 ───忘れてたわ、と真が呟く。

 

 というのも、杏は留学をしながらあっちでもモデル活動を続けていたのである。

 元々日本で獲得していたファンは、もちろん海外での活躍も知っていた。

 つまり、人気モデル様が数か月ぶりに帰国してくるという事である。それならば出待ちぐらい発生するだろう。

 

 数十人の乗客をぼんやりと見つめて過ごし、蓮は「出てきたとしてもしばらくは会えないかな」などと考える。

 竜司の姿は、未だにない。

 果たして竜司と杏、どちらが先に姿を見せるだろうか。逆に面白くなってきた。

 

 と、出待ちと思われる集団の賑わいが急激に増した。何事かと視線を移すと、到着口は既に集団に埋もれ、何も見えなかった。

 向こう側では恐らく、杏がファンの皆に愛想を振りまいているのだろう。

「うひゃー、すげぇなー杏のやつ…………」

 そう言いながら双葉は隣で祐介がポリポリと食べているじゃがりこを狙う。

 

 じゃがりこを巡って争っていると、突然後ろから声を掛けられた。

「みんな、久しぶり!」

 マネージャーらしき女性を連れた金髪の女は、声を抑えてそう言った。

「おぉぉぉ!!! 久しぶりだな杏! 会いたかったぞ!!」

 

 「久しぶり」と皆が挨拶を終えた所で、杏が異変に気付いた。

「あれ? 竜司は?」

「それが……」

 申し訳なさそうな顔で真が事情を説明する。

 

「まぁあいつの事だし、そんなに驚きはしないけどさ……。出迎えぐらい間に合わせてよ」

 ため息交じりにぼやく。

 と、マネージャーが杏に耳打ちした。

「あーそっか。ごめんね皆、これからまた撮影があって……」

 

「帰ってきたばかりなのにもう撮影? 休んだ方がいいんじゃないの?」

 真が心配そうに言う。

「ありがと、でもダイジョブ。明日はお休みだし、今日の撮影はそんなに長引かない予定だから」

 そう言うと、杏はマネージャーに何かを伝え忙しくその場を去っていった。

 

 

◇◆◇

 

 

 数分後。

「おーーーい!!!! みんなーー!!」

 こちらに向かってブンブンと両手を振りながら走ってくる金髪のヤンキーが目に入った。

 空港に似つかわしくない陸上のウェアを身にまとい近づいてくる。

 

 結構な距離があったような気がしたが、気が付いたときには既にかなり近くまで来ていた。

「いやぁ練習が長引いちまってよ! 間に合ったみたいだな!!」

 汗を拭きながら竜司が言う。

 

 だが誰も何も言わず、それどころか皆竜司を白い目で見ていた。祐介がじゃがりこをかじる音だけが聞こえる。

「えっ? どうしたんスか皆さん……」

「遅い」

 と、双葉が呟く。

 

「え? え……っと、もしかして……」

 竜司は無理に笑って見せるが、その笑顔の裏には焦りが隠しきれていなかった。

「さっき降りてきて、もう撮影に行ったわ……」

「ってことは…………」

 呆れて言う真に、竜司はおかしな汗が垂れるのを感じる。

 

「大遅刻……だね」

 乾いた笑いを撒きながら春が改めて言う。

「マジかぁぁぁぁぁあああ!!!! ちょっ、れんれん!! 杏のヤツどっち行った!?」

 酷く興奮した様子で肩を揺さぶってくる竜司に、蓮は杏が向かった方向を指差して伝える。

 

「あっちか、あっちだな!? ごめん俺行ってくる!!!」

 言い終わる前に竜司は蓮が指差した方向へと走っていった。

 "雷嵐"が過ぎ去り、再び静寂が訪れた。

 

「……行っちゃいましたね、竜司先輩…………」

「…………あぁ、行っちまったな」

 

「……じゃあ私たちは帰りましょうか」

 ベンチから立ち上がり、真が言う。

「あ、俺らはちょっと…………」

 すみれと共に少し下がり、そう伝える。

 

「なんだ、デートか」

 双葉から逃れるためにじゃがりこを高々と掲げた祐介が尋ねる。

 ただでさえある身長差に加え、頭上に上げられてしまってはもう双葉の為す術は無かった。

 恨めしそうに祐介を見つめながらピョンピョンと猫のようにジャンプしている。

 

「そ、そんなとこです…………」

 すみれが顔を真っ赤にして照れながら答える。

 と、肩にかけていたバッグから何かが飛び出るような影が見えた。

 

「おいおい聞いてねぇぞ。そういうのはもっと早めに言ってくれよ」

 双葉に抱き上げられながらモルガナが言う。

「安心しろ、モナは私が責任をもってルブランに送り届ける。楽しんでこい」

 モルガナの後頭部に顔を埋めながらそう言った。

 

「うん、ありがとう。じゃあ行ってくる」

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 ※ここから「竜司×杏」の小話です。本編に影響はないので好きじゃない方はご注意ください※

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 少し速足で歩きながら、杏はマネージャーである黒田に尋ねた。

「黒田さん、今日どこで撮影でしたっけ?」

「えーっと…………。お台場ですね」

 スーツの内ポケットから手帳を取り出し、黒田が答える。

 

「お台場かぁ、懐かしいなぁ。もう一年だもんなー」

 そう呟いて思い出に浸っていると、ポケットに入れていたスマホが小さく振動した。

 

 見てみると蓮からのチャットだった。

 彼らしい短い文で一言。

『竜司が追いかけた。よろしく』

 

「いやどういうこと?」

 人に事を伝えるには圧倒的に情報量の少ないメッセージに対して小さくツッコミを入れる。

 訳の分からないまま少し歩く速さを落とした。

 

 と、後方から自分の名前を叫ぶ声が聞こえた。

 悪い予感がし振り返ると……こちらに向かって全力疾走している金髪の青年が見えた。

 振り返った杏に気づき、嬉しそうに手を振っている。

 

「…………はぁ、恥ずかしい奴……」

 空港という事もあり多くの人がいる中で中々に目立っている。

 杏は軽くため息を吐きながら足を止めた。

 

 竜司は杏の目の前で止まり、少しだけ息を整えた。

「はぁ、はぁ……良かった、まだ行ってなかったな」

「十分遅いから!」

 

「ご、ごめん。コーチが中々帰してくれなくて」

 竜司が怒る杏をなだめるように言う。

「別に怒ってないケド……」

 そう言いつつも、杏は唇を尖らせ拗ねているような素振りを見せた。

 

「怒ってるじゃん、こっち見ろよ」

 杏の腕をつかんで言う。

「怒ってないって! 離してよ!」

 

 杏に言われ、竜司は離すどころか腕をつかむ力をより強めた。

「怒ってるだろ?」

「怒ってない!」

「いーや怒ってるね」

「しつこい!!」

 

 少しの沈黙が訪れ、杏がその場を離れようとしたその時、竜司が笑いをこぼした。

「……ははっ」

 その様子を見て杏は少し顔が綻びそうになる。

 

 急いで気を取り直し、やや冷たく言う。

「何笑ってんの」

 どこか嬉しそうに笑う竜司は、笑顔のまま答えた。

「いや、こうやって杏と痴話喧嘩できるのも久しぶりだなって、思ってよ」

 

 その言葉と笑顔に、杏は顔が熱くなるのを感じた。

 竜司は杏に向き直り、改めて言った。

「杏、おかえり」

 

「……うん、ただいま」

 優しく微笑み、そう答える。

 

 と、竜司が杏に一歩近づこうとしたその時、黒田が遮るように手を叩き、声をかけた。

「はい、そこまでですよ。撮られたらどうするんですか」

 竜司がつまらなそうに「うっす」と返事をする。

 

「それに、そろそろ行かないと撮影に間に合わないです」

 手帳を確認しながら黒田が言う。

「ごめん竜司。また明日ね」

 杏はそう言って、竜司の服を掴み少し背伸びをすると、頬に優しくキスをした。

 

 状況を解せぬままキスされた頬を抑え、竜司は顔を赤くした。

 悪戯っぽく舌を出し、杏が言う。

「じゃあね」

 

 それを見つめながら、竜司は「お、おう」と返事をするので精一杯だった。

「もう! ダメって言ったじゃないですか!!」

 黒田が怒る声が聞こえ、竜司はその場にしゃがみこんだ。

 

「くっそ……あいつには敵わねぇな…………。ずりぃだろあれは……」

 顔を熱くしたままボソッと呟いた。

 

 そして数日後、杏たちはネットで少々話題になるのだが、それはまた別の話───

 

 

 

つづく




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第4話 彼の微笑み

 長くなりすぎた。


 本作品には以下の注意事項がございます。


・ATLAS様の「ペルソナ5ザ・ロイヤル」の二次創作作品です

・無印版ではなく、完全版の方のその後ですので、本編のネタバレが含まれています

・よく言えばスピーディー、悪く言えば展開が早すぎる

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 この作品はフィクションです。実在する人物、団体、事象、宗教とは一切関係ありません。


 怪盗団のメンバーと別れ、蓮とすみれの2人は並んで歩いていた。

 空港に近い道路ということもあり比較的交通量が多い。

 

 スマホでマップを見ながら歩く蓮は、無意識に道路側に移動した。

 そんな取るに足らない事でも、すみれは蓮の小さな優しさに胸をときめかせ、「この人を好きになってよかった」と感じていた。

 

 一年前とは違いメガネをかけていない蓮の横顔に見惚れながら、手を繋ごうと蓮の右手に目をやった。

 ただでさえ極度の照れ屋であるすみれが勇気を振り絞って自ら手を取ろうとしたにも関わらず、蓮の右の手はスマホに奪われていた。

 

 中途半端に伸ばした左手を虚しく引っ込め、すみれは少々寂しそうな表情を浮かべる。

 と、蓮が徐にスマホをポケットにしまった。

「すみれ、おいで」

 少し下がって歩いていたすみれに呼びかけ、自分の右手を差し出す。

 

 笑顔で手を出す蓮に、すみれは一気に顔を赤くさせた。

 胸の高鳴りを抑えながら、「し、失礼します……!」と慌てて言い手を取る。

 蓮の大きくてごつごつした男らしい手がすみれの手を包み込む。

 

 と、不意に蓮がすみれの細い指に自分の指を絡めて繋ぎ方を変えた。所謂(いわゆる)、恋人つなぎというやつだ。

 すみれは莫大な緊張と恥ずかしさで全身から汗が噴き出るのを感じた。

「せ、せせせ……先輩!!?」

 

 すみれがあわあわしながら蓮に呼びかける。

「ん? どうした、すみれ」

 蓮が笑顔で返す。

 

「あうぅ…………そ、そんな、笑顔で見つめるの、やめてください……。はず、恥ずかしいです……」

 小さな声でぼそぼそと言う。

「ごめん、よく聞こえなかった。もう一回言って」

 

 そう言って手を繋いだまま顔を近づける。

 が、逆効果だったようで、すみれは余計に顔を赤くさせて俯いてしまった。

 聞こえるか聞こえないかの小さな小さな声でぼそぼそと何かを繰り返している。

 

「せ、先輩……!」

 やっと顔を上げたすみれが大声で蓮を呼ぶ。

「どうした?」

 

「そ、その…………そういうの、わ、私以外には……やらないで、欲しいです…………」

 耳の先まで赤くさせながらすみれが言う。

 今すぐにでも抱きしめたい衝動を抑え、余裕を持った様子を装いつつ短く答えた。

「うん。分かった」

 すみれは蓮の返答を聞き、安心したような表情を浮かべた。

 

 

◇◆◇

 

 

「ふぉぉぉぉおおお…………凄いですねこれ……」

 

 数分後、電車に乗って移動した2人はビュッフェ形式のレストランへと来ていた。

 たくさんの料理を前にすみれは興奮した様子でいた。言わずもがな、すみれは大の食事好きで大食いであった。

 

 店員に席を案内され、息をつく暇もなく、すみれは大量の料理を取ってきた。

 大食いに慣れていた蓮と、慣れているはずの店員を引かせる程に。

 

 テーブルを埋め尽くすほどに盛られた料理を前に、すみれは満面の笑顔を浮かべていた。

 どんどん減っていく料理と、幸せそうに食べるすみれを前に、蓮は笑いながらそれを眺めている。

「蓮先輩! これ、すごくおいしいですよ!」

 

 そう言ってすみれが料理の一つを箸でつかんで見せた。

 不意打ちをするように、蓮はすみれが見せてきたそれを口にした。

 咀嚼しながら口を押さえて言う。

「ん、ほんとだ。おいしいね」

 

「……あっ、あ…………はわ……わ…………………せ、せん……先輩…………」

 すみれは顔を赤くさせ、口をパクパクさせながら何とか声を絞り出している。

 

「どうした?」

 自分の分の料理を食べながら、すっとぼけたように尋ねる。

「ど、どど、どうしたって…………。どうしたもこうしたもないですよ!!」

 そう言いながら、恥ずかしがりつつも食べることはやめていないところがすみれらしい。

 

 少し時間が経ち、すみれは何も言わずに黙々と食事をしていた。

 目の前の料理が減るスピードはどんどん加速していき、ビュッフェの料理を全て食べつくさん勢いだった。

 

 すみれが何も言わない理由は一目瞭然であった。

 リスのように頬を膨らませ、蓮と目を合わせない。

 これ以上ないほど分かりやすく怒っている。

 

 だが、怒っているのは確かであったが、蓮の方をちらちらと気にしたり、美味しい料理を見つけては黙って蓮の皿に移したりと、そこまで怒ってはいないようだ。

 沈黙に耐えられなくなったのか、蓮が尋ねる。

 

「あの…………すみれさん……?」

 なぜか敬語になってしまった。

 すみれはこちらを一瞥し、直ぐに料理に視線を戻した。

 

 あからさまに怒った様子で顔を逸らしながら答える。

「……何ですか」

 箸を置き、すみれの目を見て言う。

「なんで……怒ってらっしゃるんですか?」

 

 沈黙。

 口に含んでいたものを飲み込み、すみれが答えた。

「…………………………せ、先輩が……恥ずかしい事す、する、から…………」

 

 横を向いたまま、口を押さえて顔を真っ赤にさせる。

 その様子を見て蓮もつられる様に顔を赤くした。

「ご、ごめん…………」

「ん……」

 

 

◇◆◇

 

 

 約一時間半後───

 昼飯を十分に食べ腹を満たした蓮は、まだまだ食べるスピードを落としていないすみれを見ながら幸せそうに微笑んでいた。

 店員は度々蓮たちのテーブルを見に来て、すみれの食べた量を目で測っては青ざめている。

 

「すみれ」

「ん? なんですか?」

「おいし?」

「はい! とっても!!」

「そっか」

 

 と、店員が少し怯えた様子で声をかけてきた。

「あ、あのぅ…………」

「何ですか?」

 蓮が笑顔で答える。

 

「あ、その、食べ放題の時間が……あと10分です…………」

「んん!!? んっ! んぐ!! げほっげほっ……」

 店員の発言に、すみれが喉を詰まらせる。

 

 蓮が席を立ち、水を差しだしてすみれの背中をさすった。

「残り10分ですよね。分かりました」

 すみれの背中をさすりながら蓮が答える。

 

「あと10分ですか……!!? あれとあれと……あっ、あれも食べてもない!!」

 どこまでも食べることをやめないすみれに、蓮は苦笑いを浮かべた。

「ほら先輩! いきますよ!!」

 俺はもうお腹いっぱいなんだけどなぁ、などと考えながら幸せそうな顔で自分を呼ぶ彼女の方へ歩み寄った。

 

 

 

 少しの時間が経ち、蓮とすみれの2人は駅に向かって歩いていた。

 通行人はあまり多くなく、カップルとなると蓮たちしかいなかった。

 

 と、静かな街並みに少々賑わっている場所を見つけた。

 女性中心に20人程度が並んでいる。おそらく何かのお店なのだろう。

「ねぇすみれ、あそこ何か、な……」

 すみれに話しかけ隣を向くと、よだれを垂らしながらだらしない様子で店を見ていた。

 

「す、すみれ?」

 蓮が呼びかけるが、すみれはどんどんと店の方に吸い寄せられていく。

 手を繋いでいた蓮はすみれに引っ張られる形で店に近づいた。

 

「ん? あ、なるほど。クレープか。食べるの?」

 再び蓮が声をかけると、すみれがハッとして足を止めた。

「ふぇっ? あ! いや! べ、別に……そんなことないです……。さっきの、で、お腹一杯です!!」

 

「嘘だ。分かるよ、我慢しなくていいのに」

 すみれを少し咎めるような口調で蓮が言う。

「でも…………私……」

 

 蓮はすみれの次の言葉を静かに待った。

「せ、先輩は…………その……は、恥ずかしくないんですか?」

 他者には言い難い秘密でも暴露するかのように、すみれは言った。

 

「…………恥ずかしい? ごめん、どういうこと?」

 蓮が尋ねると、すみれは少し考えてから呟くように言った。

「……私、って…………その、人より、食べる量が、かなり多い…………じゃないですか……」

 

「食べるのは、もちろん大好きです! …………だけど、あまり見ていて気持ちいいものでは、無いと思うんです……」

 思いもよらぬ言葉を聞き、蓮は言葉を詰まらせてしまった。

 少しだけ沈黙が訪れ、すみれが再び口を開いた。

「……この前も、友達とご飯に行ったときに、引かれてしまったんです…………」

 

「先輩は優しいから、何も言わないだけで……本当は一緒に食べるの、嫌なんじゃないかな……って…………」

 蓮は少し驚いた様な表情を浮かべ、そしてすぐに笑顔に変えた。

 すみれの頭に手を乗せ、優しく撫でながら言う。

 

「なんだ、そんなこと気にしてたのか。嫌なわけないだろ。俺はすみれが食べてる所見るの、大好きだよ」

 俯いていたすみれが顔を上げ、かぁっと赤く染める。

 蓮はそれに気づかないフリをしさらに続けた。

 

「すみれは凄くおいしそうに、幸せそうに食べるから。見てるだけでこっちも幸せになる」

「そ、そんな…………」

 すみれは恥ずかしさに顔を俯かせた。

 

「食べる? クレープ」

 蓮が尋ねると、すみれは何も言わずに小さく頷いた。

 

 

 数分後、店の近くに置かれていたベンチに座りすみれはクレープを食べていた。

 俺も食べるから、と言い蓮は代金を支払ったが、その実、蓮の腹にはもう水の一滴も入れられそうになかった。

 

 クレープを包む紙を剥き、嬉しそうに口を大きく開けた。

 一口、また一口、二口、三口、四口五口六七八九…………。

 

 蓮が気づいたときには、既にクレープは残り半分以下になっていた。

 と、何かに気づいた様にハッと食べるのをやめ、すみれは申し訳なさそうに蓮に言った。

「あの、蓮先輩、ごめんなさい……。美味しくて夢中になっちゃって……」

 

「た、食べますよね」

 そう言ってすみれがクレープを蓮に差し出す。

 正直匂いを嗅ぐだけでも腹が張るような感覚を覚えるが、すみれの好意を無碍にするわけにはいかない。

 

 1つ大きく深呼吸をし、蓮はすみれの持つクレープをパクっと食べた。

 すみれがまた顔を赤くさせる。

「ん? どうした?」

 

「…………もうっ、何でもないですっ!」

 首を傾げながら、すみれの顔を見つめる。

 蓮に見つめられてすみれがより顔を赤らめる。

 

 突然蓮がすみれの顔に手を伸ばした。

 すみれが認識する世界の、時の進みが遅くなる。

 迫りくる恋人の手にすみれはただ見ているだけだった。

 

 蓮の人差し指がすみれの鼻の頭を軽く撫でた。

 そのまま人差し指を口に運び、ペロッと舐める。

「クリーム、鼻についてたよ」

 

 自分の鼻を指差し、笑って言った。

 すみれはそれを見て口をパクパクさせていた。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 クレープを食べ終わった私、芳澤すみれと蓮先輩の2人は電車で数十分移動し、動物園に向かっていた。

 千葉にあるその動物園は、上野や旭山などに比べれば大きくはないがレッサーパンダが有名な比較的大きな場所。

 蓮先輩も来たことは無いらしいが、先輩はいつも完璧に私をエスコートしてくれる。今回もきっとかっこよくリードしてくれるはずだ。

 

 隣で歩く蓮先輩は大きな手で私の手を包み、時々私の方を見て気を使って歩くスピードも合わせてくれている。

 近くを車や自転車が通るたびに、少し庇うように私の前に出る。

 蓮先輩とお付き合いを初めてずっとこうだが、ここまで、か、彼女に気を使える彼氏は、世界に蓮先輩だけだと思う。

 

 こちらを見て笑いかけてくれる度に、何度も恋に落ちる音がした。

 ただ笑ってくれるだけでも一々ときめいてしまうのに、蓮先輩はいつも慣れた様子で色々と恥ずかしいことをしてくる。

 先輩も私が初めての彼女だと言っているが、その余裕はいったいどこから出ているのだろう…………。

 

 学校の話、友達の話、新体操の話、色々と他愛のない話をしながら歩いていると、いつの間にか動物園についていた。

 よく考えればほとんど私の話で、蓮先輩はずっと楽しそうに相槌を打ちながら聞いてくれていたが、少し申し訳ない気持ちが浮かんできた。

 先輩にそれを伝えると、「俺はすみれの話聞くの好きだから」と優しく言ってくれた。全く、一体どれほど私を恥ずかしがらせれば気が済むのだろうか。

 

 

 チケットを買って動物園に入場した。

 2人で揃って入場する訳にはいかないので、自然と先輩と手を離してしまった。少し悲しい…………。

 

 園内のマップが貼られた看板の前で何かを考えている先輩のところまで駆けていく。

 幸い、先輩の手は今フリーだ。私は勇気を出してえいっと先輩の手を握った。

 先輩がそれに気づいてこちらを向き、ふっと笑顔を見せる。

 

 ヤバい、イケメンすぎる…………。

 

 一年前は顔を見られないために大きな伊達メガネをかけていた先輩だったが、今はその必要もなく、メガネもかけていなければ前髪もちょうどいい長さに切られている。

 つまり、先輩の隠れていたご尊顔が露わになっているという事だ。

 

 もちろん、蓮先輩のことは顔がいいから好きになった訳では無い。

 まぁ少しはそれもあるけど……。

 それでもこの笑顔を見せられては敵わない。正直、先輩にはメガネをかけてもらい、この素顔は私だけのものにしたい。

 

 顔が熱くなるのを感じて、悶えるのをぎゅっと我慢する。

 ここは公衆の面前。理性を保て、私!!

 

 来園者には見る限り家族連れが多い。私達のような男女2人組は見当たらない。

 と、小さな男の子が私たちの所に走ってきた。

 無邪気な笑顔を浮かべながら、私たちに指をさして言った。

 

「ねぇねぇぼく知ってるよ。おねーちゃんたち、かっぷるでしょ?」

 

「へっ……?」

 突然の子供の発言に変な声が出てしまった。

 カップル……。そっか、カップル、か…………。

 なんだか凄く小恥ずか───

 

「うん。そうだよ」

「ふえっ?」

 うわぁこれだからこのイケメンは…………。

 笑顔で肯定する先輩を横目に、またもやおかしな声を上げてしまう。

 

「えっ違うの?」

 私の声を聞いて、先輩が意地悪っぽく尋ねてきた。

「い、いやっ、違くてですね! あっ、違くはないんですけど! あの、その……」

 自分の顔を見ることはできないが、恐らく真っ赤に染まっているだろう……。

 

「やっぱり!! ねぇ、おにーちゃんたちはちゅーするの?」

 ちゅ、ちゅー!!? こ、この子は、なんてことを…………!?

「そうだね、するかもね」

 ちょっ先輩!!!! 何を言ってるんですかそんな涼しい顔で!!

 あぁ、ダメだ。私が、もたない……。

 

「コラ! 大智!! 何してるの!」

 目の前の状況に追いつけずに目を回していた私に、救いの手が伸びた。

「すみません、うちの子が……。ほら大智!! あなたも謝りなさい」

 あぁお母さん、そんなに怒らないであげて……。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 大智くんと別れた私たちは、園内へと入っていった。

 園内にはたくさんの桜の木が生えていたが、まだ春と言っても始まったばかり。

 桜はツボミばかりで綺麗な花は見ることができなかった。

 

 先輩と手を繋いで歩き、ふれあい広場に入る。

 ふれあい広場はその名の通り色々な動物と触れ合うことができるエリアで、なんと展望台やバーベキュー場もあるという。

 バーベキューかぁ……。じゅるっ…………。

 

 はっ! ヤバいヤバい! これ以上食いしん坊だと思われたら…………。

 いやでも蓮先輩は、私が食べてる所……す、好き……って言ってくれたし…………。

 

「へぇ、バーベキュー場なんてあるんだ。キャンプとかも、楽しそうだね」

 バーベキューを楽しんでいる人々を横目に先輩が言った。

 蓮先輩と歩いているとどんどんやりたいことが増えてくる。

 

 そう言えば、去年の夏はあんなことがあってプールにはいけなかったな……。

 今年は、行けるといいな。

 

 と、そんなことを考えているといつの間にやら目的の場所についていた。

 ウサギやモルモットなどの小動物と触れ合える場所だ。

 モフモフした可愛らしい生き物で溢れている。

 

 私は表情を明るくさせ、先輩の腕を叩いて話しかける。

「見てください先輩! モフモフで可愛いですよ!」

「うん、可愛いね」

 先輩がふわっと笑う。少し視線を上げると、先輩のくるくるした癖毛が目に入った。

 

 わぁ、モフモフしてる。

 私がふふっと笑うと、先輩は何が何だか分からない様子で首を傾げた。

 

 

 数分後、私は膝の上にウサギを抱え、エサやり体験をしていた。

 あまり高校生がやるようなことではないかもしれないが、初めての体験だし先輩と一緒ならなんでも楽しい。

 先輩は隣に座り、スマホで撮影をしている。

 

「わっわっわっ、凄い! こんなに小さいのによく食べるんですね!」

 ウサギが食べやすいようにカットされた野菜を食べさせる。

「こういう事だよ」

 私の膝の上のウサギを優しく撫でながら、先輩がそう言った。どういう事だろう。

 

 

 制限時間たっぷり動物との触れ合いを楽しみ、私たちは別のエリアに向かった。

 カワウソやビーバーなどの小動物を見て、動物園一番の目玉のレッサーパンダの前まで来た。

 

 私はよく知らないが、ネットでも有名なレッサーパンダがいるらしい。

 私たちが見に行くと、丁度エサやりの時間だったようだ。

 モフモフとした可愛いの具現化が木の上を元気よくかけている。

 

 走りながら途中で後ろの仲間とじゃれ合ったりしている姿は何とも形容しがたい。

 くりくりとしたつぶらな瞳でこちらを見つめられれば、誰しもが一瞬で落ちるだろう。

 

 少し高い位置にあるエサを後ろ足だけで立って、前足でつかむ。

 ただそれだけなのに何でこんなに可愛いのだろう。

 

 カシャッ

 

 うん? カシャッ? 何の音?

 音につられて横を見ると、蓮先輩がこちらにスマホを向けていた。

「楽しそうだったから」

 

 先輩がスマホを向けたまま言う。

「急に撮らないでくださいよっ!」

 わざと少し怒ったような口調で言って、先輩の方に寄った。

 

「でもほら、すみれもレッサーパンダもいい顔してる。ホーム画面の背景にしようかな」

 嬉しそうにニコニコしながら先輩は写真を見せてきた。

「えっ? そ、それはちょっと…………///」

 背景にしたいと言われ、思わず断ってしまった。

 

「ダメ? 可愛いのに」

「か、可愛い…………!? 別に、ダメ、じゃ、ないです、けど…………」

 また、私の悪い癖だ。恥ずかしくて、自信が無くて、ぼそぼそと喋ってはっきりしない。

 

「…………すみれ、あそこに売店があるから行ってみようか」

 私の心情を察してくれたのか、先輩が提案をしてくれた。

 普通ならあんな私の考えを読み取るなんて無理だと思うだろうが、蓮先輩は怖いぐらい私の考えていることを的確に察して気を使ってくれる。

 やっぱり、一緒にいて一番気を許せるのは蓮先輩だ。

 

 蓮先輩に手を引かれ、売店に入った。

 色々な可愛い動物たちをモチーフにしたストラップやら文房具やらが並ぶ中で、レッサーパンダのストラップが目に入った。

 私の提案で蓮先輩とお揃いでストラップを購入した。

 また先輩との思い出が一つ増え、私は自分の心が温かい何かで満たされていくのを感じた。

 

 

 

 その後もライオンやトラなどがいる猛獣エリア、ペンギンなどがいる水系エリアなどを一通り見て回り、辺りは暗くなり始めて来ていた。

 西日が自分たちを照らし、周りの風景は赤く染まっている。

 そう言えば、日が沈み始めるこの時間帯は現世と異世界の境界が曖昧になると聞いたことがある。

 オカルトっぽく聞こえるが、人の心の世界を経験してきた私たちからすれば意外と馬鹿にできるものではないのかもしれない。

 

 とその時、先輩と繋がれていた手が突然離された。

 何かあったのかと思い先輩の方を向く。

 私の隣で蓮先輩は、苦しそうに頭を押さえていた。

 

「せ、先輩!!!? どうしたんですか!? 大丈夫ですか!!?」

 おろおろしながらどうすればいいか分からず、とりあえず背中をさすってみることしかできなかった。

 運の悪いことに周りにはスタッフどころか客もおらず、閑散としていた。

 

「ごめん、もう大丈夫だ。心配させてごめん」

 数秒が経ち、蓮先輩は何事もなかったかのようにそう言った。

 私を気遣っているのではなく、本当に何とも無さそうだ。

 

「ほ、本当に大丈夫なんですか?」

「うん、本当に大丈夫」

 先輩はそう言って私の手を取り、再び歩き始めた。

 

 まさかこの些細な出来事が、私たちを再びあの世界に招く始まりだったとは、この時は知る由もなかった───




 お読みいただきありがとうございました。

 18禁バージョンはpixivにアップしております。許せる方はそちらもどうぞお読みください。(第1話、3話は同じです)

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第5話 改心みたいな

 遅くなって申し訳ない。

 本作品には以下の注意事項がございます。


・ATLAS様の「ペルソナ5ザ・ロイヤル」の二次創作作品です

・無印版ではなく、完全版の方のその後ですので、本編のネタバレが含まれています

・よく言えばスピーディー、悪く言えば展開が早すぎる

・稚拙な文章

 以上のことが許せる方はどうぞ楽しんでいってください。


 この作品はフィクションです。実在する人物、団体、事象、宗教とは一切関係ありません。


 段々と暖かくなり始め、天気の良い日は上着がいらなくなってきたある日。

 良い陽気の休日だと言うのに「CLOSED」の札がかけられた喫茶店の中で、その店のマスターは静かに新聞を読んでいた。

 1年ぶりに帰ってきた息子とその飼い猫を一時的に店から追い出し、そろそろ始めるかと独り言をつぶやいて新聞を雑にたたんで立ち上がる。

 

 ちらりと店内の時計を見ると時刻は10時半。やはり今から作り始めれば問題ないだろう。

 冷蔵庫を開けて今日のために買っておいた食材たちを眺める。

 顎に蓄えた髭を撫でながら、頭の中で計画を練る。

 

 と、考えがまとまってきたところで、それを崩すようにドアベルが鳴った。

 振り返りながら、入ってきた客と思われるその人物に言った。

「悪いね、今日は休み……って、芳澤さんだったか。あいつならいねぇぞ」

「あ、いえ、今日はパーティーのお手伝いに来ました!」

 

 すみれは黒を基調とした動きやすそうな服に、手提げバッグを身体の前に持ち、入り口の前に立っていた。

「今日マスターがお料理作ってくださるんですよね。お手伝いできたらと思ったんですが……迷惑でしたか?」

 もちろん建前である。一年間保護者を務めた惣治郎に、自分の知らない蓮を聞こうという魂胆だ。

「いや迷惑なんてこたぁねぇよ。ちょうど始めるところだったから手伝い頼むぜ」

 

 数分後。自宅から持参したエプロンを身に付けたすみれは惣治郎と共にキッチンに並び、料理を始めていた。

「芳澤さん、こっち頼む」

「は、はい」

 惣治郎に声を掛けられ、慌てて返事をする。

 すみれ自身、そこそこ料理の腕に自信はあったがやはり職業にしている人とは比べ物にならない。

 

「おぉ、すげぇじゃねぇか、完璧だ。芳澤さんは将来いい奥さんになりそうだな」

 料理中、そんな台詞が惣治郎の口から飛び出した。

 褒められた喜びよりも先に、『奥さん』という言葉がすみれを戸惑わせた。

 

「いやでも最近はそうでもねぇか。男が専業主夫とかも普通だしな」

 後頭部に手を当てて、ポリポリとかきながら言う。

「そ、そうですね! 私よりも蓮先輩の方が器用ですし!!」

 

「ん?」

「…………えっ?………………あ! いや、そのっ、違くて…………! えっと……!」

 思わず出た言葉に少し間を置いてから気づいた。恥ずかしさにおどおどして挙動不審になりながら、何とか弁解をしようとする。

 

「へぇ……仲良くやってるみたいだな」

 顎髭を撫でてにやにやと笑いながら、惣治郎が言った。

「うぅ……」

 すみれは顔を真っ赤にして俯いていた。

 

 それから数十分の間、すみれと惣治郎の2人は料理をしながら蓮の話をしていた。

 約一時間ぶりに店内にベルの音が鳴り響いた。

「ちわーっす!」

 

「竜司声でかい! お邪魔しますマスター」

 2人の若者の声が聞こえ惣治郎が顔を上げた。

「おぉ、いらっしゃい」

 

「竜司先輩! 杏先輩! こんにちは!!」

 2人の声を聞いたすみれがエプロンを付けたまま奥から顔を出した。

 明るく元気な笑顔を浮かべてカウンター越しに2人に近寄る。

 

「すみれ、マスターの手伝い? 早いね」

「なるほど……まずは周りから固めてくってことだな」

 腕を組んでニヤニヤと笑いながら、感心するような素振りで竜司が言う。

 

「そ、そんなんじゃないですっ!」

 竜司の言葉に早急に弁解するが、無情にも効果は無く、惣治郎、竜司、杏の3人はただ笑っているだけだった。

 

 

◇◆◇

 

 

「「「かんぱーいっ!!!」」」

 

 竜司と杏が来店してから数分が経ち、純喫茶ルブランにはかつて日本を、いや世界を震撼させた怪盗団のメンバーが集結していた。

 壁には『高校卒業&ジョーカー帰還記念パーティー』と書かれた手書きの横断幕が貼られ、テーブルの上は惣治郎とすみれが腕によりをかけて作った料理や、皆が持ってきた土産などで覆い尽くされていた。

 

 料理を食べながらワイワイと騒いで十数分。

 だんだんと気分も高揚してきたところで、竜司が席を立ち上がって言った。

「よし! じゃあ近況報告といきますか! まずはもちろん我らがリーダーれんれんから!!」

 

「え、俺?」

 突然話を振られた蓮が驚いて聞き返す。

「やっぱこういうのはリーダーからだよな!」

「うむ、俺も蓮からに賛成だ。向こうの話も聞いてみたいしな」

 

 囃し立てる双葉に、祐介が援護射撃をする。

 助けを求めるように周りを見渡すも、皆うんうんと頷き、隣に座るすみれに至っては目を輝かせて期待している様子だった。

 

 逃げ場のなくなった蓮がとうとう観念して持っていたコップを置き、ゆっくりと話し始めた。

 夏休み以降の地元での出来事、受験のこと、色々な話をまとめてさらけ出し、2Lのジュースが丸ごと無くなった頃やっと話し終わった。

 

「次は俺だな!」

 蓮の話が終わり、待ってましたと言わんばかりに立ち上がる。

「リュージお前自分が話したかっただけじゃねーか」

 呆れた様子でモルガナが言うが、竜司は全く気にしない様子で既に語り始めている。

 

 

 それからみんなで色々なことを報告し合った。

 竜司は体育大学へ進学し、杏は短大に進みモデル業の幅をさらに広げている。

 祐介は国内最難関クラスの美大に推薦で進学し、コンクールでの経歴もあり界隈ではかなり期待されているらしかった。

 

「私たちは去年と変わらずよ。ね、春」

 竜司、杏、祐介の話を聞いたところで、真がそう言った。

「うん。楽しくやってるよ。そう言えば、蓮くんはまこちゃんの大学と同じところだったよね」

 

「あぁ、でもキャンパスが違う。会えるって訳でもない」

「あ、そうなんだ。蓮くんお部屋はもう決めたの?」

 また春が尋ねる。

 近況報告という本来の目的からどんどん話がズレていたが、それを気に留める者は誰もいなかった。

「何となくな。今度内見に行って、それで決めるよ」

 

 

 

「そう言えば知ってるか?」

 パーティーが始まって約2時間、午後一時を過ぎ、そろそろお開きかと考え始めてきた頃。

 竜司が思い出したように切り出した。

「何をだ?」

 少しダルそうに蓮が聞き返す。

 

「最近あった物騒な事件だよ。なんか凄い温厚な人だったのに、急に豹変して人を殺したって」

「あー……、でもそんな奴ら沢山見てきただろ」

 やはり興味がないのか、蓮は適当にそう言った。

「いやでもなんかちげぇんだって。ちょっと改心みてぇな…………」

 

「私、調べとこうか?」

 と、竜司の言葉を聞いて双葉が提案した。

「お、マジで? じゃ頼むわ」




 お読みいただきありがとうございました。

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第6話 その先に潜む影

 前回も言ったけど遅くなって申し訳ない。

 本作品には以下の注意事項がございます。


・ATLAS様の「ペルソナ5ザ・ロイヤル」の二次創作作品です

・無印版ではなく、完全版の方のその後ですので、本編のネタバレが含まれています

・よく言えばスピーディー、悪く言えば展開が早すぎる

・稚拙な文章

 以上のことが許せる方はどうぞ楽しんでいってください。


 この作品はフィクションです。実在する人物、団体、事象、宗教とは一切関係ありません。


「大丈夫? すみれ、重くない?」

 大きなバッグを持って隣に立つすみれを気にかけ、蓮は声をかけた。

「はいっ、大丈夫です! 合宿の時に比べれば全然軽い方です」

 そう言って宿泊に必要なものが入った少々重そうなバッグを軽々と持ち上げて見せる。

 

 約1週間前、蓮の合格祝いと称して2人は初めての旅行に行くことを決めた。

 高校生の短い春休みの中で唯一取れた2日の休みに、すみれは惜しげも無く蓮との温泉旅行を置いたのだ。

 泊まりどころか遠出すら初めての2人。すみれは前日からおかしな汗が止まらないほどに緊張していた。

 

 昨日の夜考えに考えて決めたファッションもすみれを緊張させる一つの要因になっていた。

 自分の意思で選び、そして蓮に「可愛い、好きだ」と言われたすみれ色のワンピース。悩んだ末、結局それに落ち着いた。

 薄茶色の細いベルトを締め、襟は杏に今流行りなのだと教えてもらったレースの付いた大きな白いものに付け替えた。

 

 蓮は小さな変化にも敏感に気づき、爽やかな笑顔でさり気なく「可愛い」とそう伝えた。

 満更でもなさそうにハーフアップにした綺麗な赤みがかった髪の毛を弄りながら、すみれは頬を赤らめた。

「いつもと違う髪型も似合ってるよ。雰囲気変わって可愛い。でもこんなに可愛いと、変な奴が寄り付かないか心配だな」

 恥ずかしい誉め言葉を息をするように言う蓮を顔を赤く染めたまま「もう」と軽く叩く。

 

 周りを見ると家族連ればかりで、すみれはなぜだか悪いことをしている気がした。

 正体の分からない誰かに見つからないように辺りをきょろきょろと見回す。その誰かは学校の友人であったかもしれないし、先生であったかもしれない。

 ただそれが誰であろうと見つかればすぐに現実に引き戻されてしまいそうな、そんな気がした。

 

 

◇◆◇

 

 

 1分も違うことなく時間ぴったりに来た新幹線に乗って数十分が経過した。

「先輩っ!! 外見てみてください! すごく綺麗ですよ!!」

 車内販売で買ったじゃがりこを片手に、すみれが目を輝かせて蓮の肩を叩く。

 すみれの視線の先に広がる雄大な自然は、東京という都会を生活の拠点にしていれば目にすることはないような酷く美しいものだった。

 

 田舎出身である蓮でもあまり見ないようなその景色は車窓に縁どられて流れ、2人を異世界へと運んだ。

 すみれに言われ窓の方を向くが、蓮の目に入っていたのはそんな景色ではなくその景色を見て楽しそうに笑っているすみれだった。

「あぁ、綺麗だな」

 視線の先にある美しいそれを見て、蓮は思わずため息を漏らすようにそう言った。

 

 それから長い移動時間を様々に過ごした。

 まだまだ尽きることのない1年間の話をしたり、二人でも楽しめるちょっとしたカードゲームをしたり、旅先のガイドブックを見て計画を立てたり……。

 出発して1時間半が経とうとした頃。すみれが小さく欠伸をした。

 

「眠い?」

「はい、少し……」

 どこか虚ろな目でそう答える。

 

「そっか、楽しみで寝られなかった?」

「は、はい…………」

 少し頬を赤らめながらすみれは俯いて言った。

 

「着くまで30分以上あるし、もし起きなかったら俺が起こすから寝てていいよ」

 隣に座るすみれの頭を優しく撫でながら小さく笑って言う。

「ほんとですか? じ、じゃあ寝ちゃおうかな……」

 頭を撫でられ少し恥ずかしそうにはにかんで言った。

 

「うん、ほら、頭いいよ」

 そう言ってぽんぽんと自分の肩を叩く。

 一瞬理解できずに固まるが、蓮の意図に気づいてぼっと顔を赤くした。

 

「し、失礼しますっ!」

 恐る恐るゆっくりと自分の頭を傾け、それを蓮の肩に預ける。

 口から飛び出してしまいそうなほどバクバクと鳴る心臓の音が蓮に聞こえてしまわないかと少しの不安を覚えた。

 

 それと同時に、こんなに好きなのは自分だけなのではないかと必要のない下らない心配さえも頭を過ぎる。

「おやすみ、すみれ」

 すぐ耳元でそう囁かれて、すみれはさらに顔を赤らめた。

 先程自分を襲った懸念などもう頭の中にはこれっぽちも無かった。

 

 

◇◆◇

 

 

 約2時間後、目的地である温泉街に着いた蓮とすみれは荷物を旅館に預け、チェックインまでの数時間を観光に当てることにした。

「もう昼か……」

 左腕を持ち上げ、腕時計を覗いてすみれに伝えるように、はたまた独り言のようにそう言う。

 

「どうする? 色々食べたりもしたし、がっつりはやめとく?」

 そう言いながら、視線を時計から自分の右隣へ移す。

 さすがに海外からの観光客も多い温泉街なだけあって、道の脇にはお土産やら名物料理やら心惹かれるようなものが並んだ店がずっと奥まで建ち並んでいる。

 視線の先にいるすみれは幸せそうに団子を頬張っていた。

 

「ふぉうふぉんはひはんでふふぁ?」

 口に団子を含んだまま蓮を見上げ、そう問い返した。

 リスの様に頬を膨らませて自分を見つめるすみれに蓮は思わず笑みを零した。

 すみれの頭に手を置き、子供を相手取る様に言う。

「飲み込んでから喋りな」

 

 蓮に笑われて羞恥心を覚えたのか、少し焦った様子で団子を飲み込む。

「も、もうそんな時間、ですか? 私はどっちでもいいですけど……、先輩、全然食べてないじゃないですか」

 心配そうにそう言って、蓮の返事を待つ。

 

「いや、俺の事は気にしなくて大丈夫だよ。すみれの好きな方で」

「で、でも……!」

「じゃあほら、新幹線の中で見たガイドブックに載ってた蕎麦屋にしない? 美味しそうだねって話してたとこ」

 

 

 1時間半後、午後1時過ぎ。

 蕎麦屋にて昼食を済ませた蓮とすみれの2人は店員に勧められた足湯へ向かおうと2人並んで歩いていた。

 

 1年前いつもポケットにつっこまれていた蓮の右手は、すみれのために外に放り出されている。

 すみれが握ってくるのを待つようにぷらぷらと不自然に揺らす。

 それに誘われて、すみれは蓮の右手に自分の左手を絡ませた。

 何も言わずに蓮がきゅっと握り返すと、隣で歩くすみれはふわりとやわらかく笑った。

 

 そうして十数分歩いたとき、すみれは段々と蓮の足取りが、僅かだがおぼつかなくなっていることに気づいた。

「ごめんすみれ、ちょっと座って休んでもいい? 食べすぎちゃったみたいで」

 その取ってつけられたような理由が嘘であることはもちろんすみれには分かっていたが、それについてはあえて言及せずに、言われた通り蓮を休ませた。

 

 食べすぎが嘘であることは分かっていたが、本当の理由は全くと言っていいほど分かっていなかった。

 ただこの前のデートの夕方に起こったことが、僅かに脳裏にちらついた。

 だがこれと言った共通点もなく、やはり原因解明には至らなかった。

 

 蓮は少し苦しそうにして頭を抑える。

 隣に座るすみれは蓮にピタッとくっついて寄り添い、心配そうな表情を浮かべていた。

 

 と、自分たちの座るベンチの前にぬっと何かが立ち塞がった。

 その影に気づいて2人がパッと顔を上げる。

「あの、大丈夫ですか?」

 

 その影と声の主は、2人のよく知る男だった。




 お読みいただきありがとうございました。

 18禁バージョンはpixivにアップしております。許せる方はそちらもどうぞお読みください。(第4話デート回の続きがあります)

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第7話 疑念

 遅い! ごめん!


 本作品には以下の注意事項がございます。


・ATLAS様の「ペルソナ5ザ・ロイヤル」の二次創作作品です

・無印版ではなく、完全版の方のその後ですので、本編のネタバレが含まれています

・よく言えばスピーディー、悪く言えば展開が早すぎる

・稚拙な文章

 以上のことが許せる方はどうぞ楽しんでいってください。


 この作品はフィクションです。実在する人物、団体、事象、宗教とは一切関係ありません。


「あの、大丈夫ですか?」

 

 頭を押さえ苦しそうにする蓮と、心配そうに寄り添うすみれに一人の男が声をかけた。

 俯く蓮には足元しか見えず、その声の主が誰なのかは分からない。

 ただこの観光客で賑わう温泉街で特に目立ったことをしている訳でもない蓮に気付き、さらに声をかけてきた者に僅かだが違和感を覚えた。

 蓮が頭をあげその顔を拝むよりも早く、すみれが驚きの声を上げた。

「ひ、ひろくん!? 何でここに!?」

 すみれの言葉を聞いてばっと顔をあげれば、そこには浴衣を身にまとった島田弘樹が立っていた。

 

 すみれと同じ新体操のスクールに通っている、すみれの後輩である島田。

 彼がなぜここにいるのか、2人には見当もつかなかった。

 本当に偶然なのか、と蓮は疑念を抱く。

「友人と温泉旅行です。まさかすみれ先輩と旅先で会うなんて…………。先輩は彼氏さんと旅行ですか?」

 島田の笑顔に少し雲がかかる。

 すみれはそれに気づいていないようで、ただ島田と遭遇したことへの衝撃と、蓮を心配する気持ちでいっぱいいっぱいになっている。

 

 島田が接近してきてから大きくなった頭の痛みを何とか耐え、なんでもない様に愛想笑いを向ける。

「そんなことより彼氏さん休ませてあげないとですね。立てますか?」

「いや……俺は、大丈夫…………だから」

 蓮がそう返すと、すみれの前に立っていた島田が蓮の顔を覗き込むように屈んだ。

「強がっても無駄ですよ。どう見ても大丈夫じゃないでしょう」

 島田が叱責するようにそう言うと、蓮は顔を俯かせて何か考えるように黙り込んだ。

「蓮先輩…………」

「………………。……すみれ。」

 すみれの方に顔を傾けて呟くように言う。

 蓮の返事を待つ島田は、何も言わずに蓮の横顔を見つめている。

 

 しばらくして、何かを察したすみれが視認できるかできないか程にこくんと小さく頷いた。

 島田の方に向き直り、申し訳なさそうに笑いながら首を傾ける。

「ごめんね、ありがとうひろくん。でも本当に大丈夫。蓮先輩、よくこういうことあって、いつも少し休めばよくなるから……」

「…………」

 すみれの言葉を聞き島田は黙り込む。

 この状況下でどうすればいいか分からず、すみれはただ笑うことしかできなかった。

 

 島田は表情を固めたまま黙るが、だが確かにそこからは蓮を本気で心配する感情が読み取れた。

 しばらくしてようやく島田が口を開いた。

「分かりました。それならすみれ先輩に任せます。……友人が呼んでるので、僕はこれで」

 言葉ではそう言うが、島田の顔にはまだ蓮を心配しこの状況を不思議に思う気持ちが残っていた。

 

「あ、そう言えば……」

 この場を去りかけていた島田が何かを思い出し振り返る。

「すみれ先輩、首の痣、治ったんですね」

 首元を押さえ、何とも無いような顔でそう言う。

 その視線はすみれではなく、なぜか蓮に向いていた。

 

「え、痣? 痣なんて…………。あっ!」

 島田の言葉を理解したすみれが慌てて首元を押さえる。

 耳まで真っ赤になってどうにか言い訳をしようとするが、それも叶わずただどもるだけだった。

 言いたいことだけ言ってすぐに背を向けてしまった島田を見つめる。

 振り返る直前、島田は酷く冷たい目をしていた。

 

 

◇◆◇

 

 

 島田が立ち去ってから数分が経った頃。

 蓮の頭痛はほとんど治まっていた。

「蓮先輩……、大丈夫ですか?」

「あぁ、もう……大丈夫」

 蓮はそう言いながら、島田が去っていった方向を見つめていた。

 

「先輩の頭痛、何が原因なんでしょう……。この前のデートでもありましたし、先輩、辛そうですし……。病院行った方がいいんじゃないですか?」

 蓮がベンチに置いた手に自分の手を重ね、不安気に尋ねる。

 それでも蓮は何か考え事をしているのか、それか何も考えていないのか、ずっと真顔で一点を見つめていた。

「先輩……?」

「…………? あ、ごめん。ちょっと考え事してて。でも……病気とかそう言うのではないと思う。確信できたら、すみれにもちゃんと話すよ」

 

「…………分かりました」

 すみれは少し納得のいかないような表情でそう短く答えた。

 それは蓮を信頼しているからこそだった。

 蓮には何か思うことがあるのだろう。

 でもそれをむやみに言ってしまっては自分を心配させるだけかもしれない。

 そう思っての言葉なのだろうと、すみれは蓮を信じた。

 

「だから、今は楽しもう。せっかく二人で旅行に来れたんだから」

「……はいっ!」

「足湯行くはずだったよね。行こうか」

 ベンチを立ち上がり、すみれにすっと右手を差し出した。

 恥ずかしそうに俯いてから、こくんと小さく頷き、そして蓮の手を取る。

 蓮がすみれの手を引き、そして二人は目的地へと歩き出した。




 お読みいただきありがとうございました。

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