ゴブリンスレイヤーと白霊 (アンゼルム・ケーニッヒ)
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1話

 女神官は怯えていた。

 仲間は惨殺され、肩には矢を受け、激痛が走っている。

 今その瞬間までゴブリンに襲われそうになっていたところを、剣の投擲と雷矢で助けてもらったのだ。

 そんな女神官の前に現れたのは武骨な鎧を纏った2人組だった。

 女神官は震える声で何者かを問う。そうすると2人は端的に名乗った。

 

「ゴブリンスレイヤー」

「火のない灰」

(ゴブリンスレイヤー、火のない灰。銀等級!)

「そろそろ時間が経つ。光のかけ直しをたのむ」

「ああ、了解した。『照らす光』」

 

 すると光の球体が火のない灰の背中に浮いて光を放つ。両手が塞がらない便利な魔術だ。その光で2人の首にかかっている認識表が銀等級なのが分かった。ギルドから信頼されている証だ。

 

「駆け出しか」

「は、はい」

「喋れるようだな。運がいい」

「ゴブリンスレイヤー、貴公は警戒を。私は治療しよう」

「ああ」

「矢を抜くよ、布を噛んで」

 

 火のない灰から渡された布を噛んで、火のない灰は矢を引き抜く。

 

「はい。んんんんんんんんん!!

 

 もし布を噛まなければ歯を砕いていたかも知れなかった。

 

「次は治療をしよう」

「あ、それよりも彼女を!」

 

 女神官は腹を刺され、毒に冒された女魔術師の方を指す。

 

「わかった。毒紫の花苔玉を食べさせて、毒を解除。女神官ちゃんもう少し近くに寄って。『大回復』」

 

 紫色の丸い丸薬を食べさせた後、奇跡を使う。魔法陣が生まれ、暖かな光が溢れ出す。すると女神官の肩の傷も、女魔術師の腹の傷も回復される。その奇跡に女神官は驚いていた。

 

(呪文の詠唱もなく、一人だけじゃなく周囲の人まとめて癒すなんて。それにこの宙に浮いてる光も使えるのも凄い)

 

「準備完了だ」

 

 ゴブリンスレイヤーは女神官に問う。

 

「大柄のやつを見たか?」

「いたと思います。けど」

「ホブだな。わたりを用心棒にでもしたか」

「俺たちはゴブリンを殺しに行く。お前はどうする?」

「行き……ます……」

「何が使える?」

「ヒールとホーリーライトを授かっています」

「回数は?」

「全部で3回、残り2回です」

「いいね。素晴らしい才能だ」

 

 ゴブリンスレイヤーと火のない灰はゴブリンの死体を切り裂きその血を体に塗りつけ始めた。

 

「何をしてるんですか!?」

「臭いを消す必要がある」

「血の臭いには慣れておけ」

「はい」

「慣れるから安心すると良いよ女神官ちゃん。この気絶した女の子は私が持とう。これでも男だ。この状態でも身軽に動ける自信がある。武器も闇ロンソと触媒だけだし」

 

 進んでいくと戦闘があった場所に辿り着いた。そこには死体があった。滅多刺しにされて原型を留めていない。女神官は吐いた。嘔吐した。火のない灰は女神官の背中をさする。

 

「大丈夫?」

「はい。ありがとうございます」

 

 火のない灰は虚空から水筒を取り出し、女神官に渡した。

 

「水がある。口元だけでも洗い流して」

「すみません。いっぱい術を持っているんですね」

「これでも銀等級の冒険者だからね」

 

 ゴブリンスレイヤーは武器を物色しながら呟く。

 

「ほら穴で振るには長すぎる」

「どうしてこんなことに」

「背後から大群に襲われたか」

 

 ゴブリンスレイヤーは指を差した。そこには横穴があった。恐らくゴブリンはそこに身を隠し、パーティが通り過ぎるのを待っていたのだろう。

 

「こ、こんな……私たちが通った時には」

「暗い洞窟で明かりは松明だけ。岩肌の影にまで注意を払うことはない。まずトーテムに目がいくだろ。駆け出しがよくやる失敗だ。いいか、奴らはバカだが間抜けじゃない。この群れはシャーマンに率いられている」

「シャーマン……?」

「上位種の呪文使いの事だよ。文字通り、呪文を詠唱して攻撃してくる」

 

 火のない灰は横から補足する。

 

「何人で来たの?」

「4人……です」

「あと1人は女か。奥に運ばれたようだ」

「命は助かるだろうけどあまり楽観的な期待はしないほうが良いよ、女神官ちゃん。ゴブリンが女を捕獲するのは孕み袋にする為だ」

「そんな! 助けないと!」

「そろそろゴブリンが出てくる。『照らす光』がある私が囮になるからゴブリンスレイヤーは援護を頼んだよ」

「ああ」

 

 女魔術師を女神官に渡し、黒騎士の盾と闇のロングソードを装備すると光り輝きながら一人で洞窟を進んでいく。するとゴブリンが現れ、短剣を投げてくる。黒騎士の盾に弾かれる。ゴブリン達は数の利を生かして大勢で襲いかかってくる。

 

 火のない灰は火炎瓶を投げて牽制した後、一直線に近づき闇のロングソードでゴブリン達を屠っていく。その場にいたゴブリンは全ていなくなった。『照らす光』によって洞窟内が明るく照らされているのでゴブリン達の位置がすぐわかるのだ。

 ゴブリンスレイヤーは安全を確認すると、道に罠を仕掛けた。簡単なロープを張ったブービートラップだ。

 

「待て。照らす光が消えるのを待つ」

「この先に親玉とその取り巻きがたくさんいるからホーリーライトで目眩しと奇襲を仕掛けて離脱する、だよね? ボブは私がやろう。シャーマンは頼んだ」

「ああ」

「あと少し」

 

 『照らす光』が消えると真っ暗になる。洞窟内に設置された松明を頼りにゆっくりと移動して、大広間の入り口に待機する。

 

「ここだ」

「行くぞ」

「いと慈悲深き地母神よ、闇に迷える私どもに、聖なる光をお恵みください。ホーリーライト!!」

 

 光が照らす。誘拐した戦利品を襲っている最中だった。そして大広間の最奥にシャーマンがいる。火のない灰は杖の触媒を持つ。

 

「6、ホブ1、シャーマン1」

「『ソウルの結晶槍』」

 

 『ソウルの結晶槍』がボブに突き刺さり上半身に風穴を開けた。ゴブリンスレイヤーは槍を投擲してシャーマンを殺す。火のない灰は女魔術師を女神官から受け取り、一気に退却を始める。

 

「退くよ」

「はい」

 

 罠を設置した地点まで来ると今度は岩陰に隠れてゴブリンが来るのを待ち構える。そして罠で転んだところを殺していく。火のない灰は闇のロングソードと触媒を上手く切り替えながら効率的に戦い、ゴブリンスレイヤーは相手を熟知した戦法で勝ちをとっていく。

 

 敵の増援が来なくやったところで、大広間へ戻り、死んだふりをしていたシャーマンを、ゴブリンスレイヤーがトドメを刺す。そして人骨の椅子を蹴り飛ばし、子供のゴブリンを全滅させた。

 

「女神官ちゃん、悪いけど被害者を集めてくれる?」

「はい、わかりました」

「ゴブリンスレイヤーも。いつものやるから」

「わかった」

 

 被害者の女性達を中央に集め、火のない灰はタリスマンを持って立つ。

 

「何をするんですか?」

「黙ってみていろ」

「はい」

「『太陽の光の癒し』」

 

 魔法陣が広がり、その中にいる人々の傷を大きく回復させた。暖かい篝火のような温もりが人の傷を癒したのだ。

 

「『治癒の涙』」

 

 再び魔法陣が展開され、毒や出血をした者達の傷が塞がる。

 火のない灰は二人に向かって手を振る。

 

「これで大丈夫。体力も状態異常も回復させたから少しはマシになっだと思う」

「凄いです! ヒールだけじやなくて状態異常も覚えているなんて。それも何度も使えるなんて!」

「ああ。俺は殺す事しか出来ないが、奴は助けることができる。俺には出来ない生き方だ」

「取り敢えずは終了だね。帰ろうか、みんな」

 

 よくある話だという。ゴブリンに村が襲われ娘が攫われたことも、新米の冒険者たちがゴブリン退治に赴き全滅してしまったことも。

 助け出された娘たちが慰み者にされたことを儚んで神殿に入ったことも。仲間を失った冒険者が故郷に引き篭もったことも。

 何もかもこの世界ではよくある話だ。

 本当にそうなのでしょうか?私には分かりません。

 私に分かっていることは2つだけ。

 もう1つは……。

 

「ど、どうも。火のない灰さん。ゴブリンスレイヤーさん」

「やぁ、女神官ちゃん。久しぶり」

「あの……教わった通り防具を買いました。鎖帷子を」

「……そうか」

「いいね、これで生存率が上がるんだよ」

「あの……今日も?」

「ゴブリンだ。来るのか?」

「はい」

 




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2話

 

 子供の頃、街へ出かける事があった。それを自慢して、自分も連れていって欲しい、というのであれば両親に頼むつもりだった。だが彼は冷たく反応して喧嘩になってしまった。そうして牛飼娘は街へ行った。程なくして自分の村がゴブリンに襲われ壊滅した事を知った。

 

 牛飼娘の朝は早い。下着だけの姿から着替えて窓を開ける。そこにはゴブリンスレイヤーがいた。柵の点検をしていた。またゴブリンの足跡がないか警戒しているのだ。それが彼をこの家に住まわせてからの日課だった。

 

「おはよ!柵直してくれたの?ありがとう!叔父さんもそろそろ起きてくるから朝ごはんにしよう」

「わかった」

「すぐ支度するね!」

 

 三人で囲む食卓は微妙な空気だった。その原因はゴブリンスレイヤーだ。彼が鎧を脱がず、反応が薄いので二人とも戸惑ってしまうのだ。

 

「んー、今日のスープも美味しくできた」

「ああ、そうだな」

 

 ゴブリンスレイヤーは無言でスープを飲む。味の感想はない。それに牛飼娘は少しがっくりする。だけどいつも通りだ。

 ゴブリンスレイヤーは懐から袋を取り出し、机に置く。中には金貨が大量は入っていた。それだけあれば街の良い宿にも泊まれるが、ゴブリンスレイヤーはあえてこの家を選んでいた。

 

「これは今月分です」

「随分儲かっているんだな、冒険者というのは」

 

 叔父さんは大切な娘の想い人が危険な冒険者になるのを良しとしていない。そしてゴブリンスレイヤーのことも哀れには思うが、危険だと思っている。だからそんな皮肉げな口調になってしまう。

 

「今日も行くのかね」

「はい」

「そうか」

 

 食事はつつがなくおわった。

 

「ご馳走様! じゃあ私ギルドに配達があるから一緒に行こ!」

「構わない」

「ああ、それなら私がに馬車をだすから」

「平気へーき、叔父さんったら過保護すぎだよ。こう見えて私も力持ちなんだから!」

 

 準備を終えてゴブリンスレイヤーと合流する。荷台には沢山のものが積まれている。それを牛飼娘は押しながらギルドへ向かう。

 

「代わるか?」

「ううん、大丈夫」

「いつもありがとうね、毎朝ゴブリンがいないか調べてくれて」

「ゴブリンは夜に動き出す朝になれば戻るが必ず偵察をする。だから奴らの足跡は見逃せない。最近は特に数が多い」

「そっか、じゃあお仕事も増えて良いね」

「いや、ゴブリンはいない方がいい」

 

 牛飼娘は反省する。故郷をゴブリンに蹂躙され、死に物狂いで生き延びて鍛錬して、そしてゴブリンを狩っている。そんな彼にゴブリンが多い方が良いなんてなんで無神経な発言だったのだろうかと。

 

「そうだね」

 

 ギルドに着くと、いかにも田舎者が受付嬢に泣きついていた。

 

「助けてけろ、助けてけろ、おらの村に小鬼が出たんよ」

「はい、依頼ですね。ではこちらの書類に必要事項の記入をお願いします」

 

 神々による戦いが長く続く昨今、怪物が世に溢れて久しい。ドラゴン、デーモン、冒涜的な大目玉、心ない山賊達、怪物達が暴れどこかの街や村が被害を受けて助けを求めてそれを解決するのが冒険者の役目だ。そして怪物の中でも一番数が多いのがゴブリン。

 

「はい、書類の内容に問題ありませんね。報酬はお持ちに……」

「な、なぁ。小鬼は女を襲って手込めにしちまうって本当か?」

「そういうケースがあるのは事実ですね」

「たのむ!たすけてけろぉ!金なら村中から集めてきたからよぉ!」

 

 広げられた袋の中身を換算する。

 

(金貨に換算して10枚あるかどうか。白磁等級冒険者を数人雇えるくらい。手数料を考えたら赤字かも)

 

 受付嬢は見る。泥と欠けたコインを。必死にかき集めたのだろう。発展していない村がそれでも必死に集めてお金だ。

 

「はい。問題ありませんね」

「ほんとけ!」

「安心してください、数日中には必ず冒険者さんがやってきますので」

「ありがてぇ、ありがてぇ」

 

 受付嬢はがっくりと肩を落として机に突っ伏してしまう。

 

「これでゴブリンの依頼三件目かぁ」

 

 ゴブリンは絶えない。子供並みの知能と腕力しかない。そしてゴブリン退治は面倒臭がって進んで受けようとする者もいない。結局は駆け出しの新人を送り込むしかないわけだが、ゴブリンはそれで退治できてしまう時もある。だから国は動かない。だが確実に死者がいるのは事実だ。

 

(熟練の冒険者は他に倒すべき相手がいるのは分かっているんですが、新人を死地に送り込むか、村が滅びるのを待つか)

 

「はぁ、胃が痛い」

「随分辛そうですね、受付嬢というのはやはり気を使いますか」

「あ、火のない灰さん」

 

 受付嬢の目の先には上級騎士姿の火のない灰がいた。彼は熟練者でありながら数少ないゴブリン退治を請け負ってくれる冒険者の一人だ。

 という事は「彼」も来ているという事だろうか?

 

「ゴブリンスレイヤーさんも一緒ですか?」

「期待しているところ悪いですが、私一人です。昨夜は都に出現したデーモンを狩っていました。彼とはここで合流する予定で、受付嬢さんが精神的にやられていたので話しかけてみました」

「それはみっともないところをお見せしました」

 

 ドアが開き、そちらを見る。すると笑顔の槍使いが入ってくるところだった。

 

「お嬢さぁん! 盗賊団を退治してきましたよ!」

「お疲れ、槍使い」

「おう」

 

 火のない灰は声をかけると手をあげて対応した。彼とは何度か共闘した事があったのだ。だから面識がある。そして受付に腕を置いて自らの武勇を語り始めた。

 

「いやぁ、苦労しました。なんせ奴ら街道に陣取ってましたからね!」

「お疲れ様でした」

「20人もの相手に切ったはったの大立ち回り!」

「体力回復には強壮の水薬がお勧めですよ」

「一本買います」

「はい! お買い上げありがとうございます!」

 

 強壮の水薬を飲んで「効くぅぅぅう」と叫んでいた。

 一方その頃、火のない灰はスタミナを回復する時は草を食っていた。

 ドアが開く。するとそこには全身鎧のゴブリンスレイヤーがそこにいた。

 

「あっ!」

「うげ、ゴブリンスレイヤー」

 

 受付嬢はさんが喜色の声を上げる。反対に槍使いは嫌な顔をする。

 火のない灰は半笑いでその様子を見る。

 

(相変わらず露骨な事だ。本人は意識していないのだろうが)

 

 受付嬢は明らかに元気になって言う。

 

「この前はありがとうございました! とっても助かりました! そうだ、お茶を淹れますから報告を詳しく教えてください」

「荷物の受け渡しの印を貰いたいんですけど」

「あ、はい! いつもありがとうございます!」

 

 ゴブリンスレイヤーは槍使いに言う。

 

「横槍してしまったなら謝るが」

「別に、もう報告は終わってるから構わねぇよ」

 

 そう言って去っていく。

 相棒の魔女がくすりと笑いながら言う。

 

「ほら、辺境最強が拗ねないの」

「拗ねてねぇー」

 

 火のない灰は手を何度か叩いて言う。

 

「さぁ、貴公。今日もゴブリン退治に行くとしよう」

「ああ」

 

 そこで、後ろから声がかけられる。

 

「先日の一件ですけど、火の秘薬で洞窟を崩すとういうのはやり過ぎだと思うんです! 山だって崩れてしまうかもしれないし!」

「ゴブリンを放置するより遥かにマシだ」

「もっと、こう、後のことを考えて」

「確かにね。女神官の言う事はもっともだ。これで山が崩れて人里に被害が出たら目も当てられない。もう少し自重や工夫が必要かもしれないね」

「それでゴブリンの襲撃の時間は覚えたか?」

「早朝か、夕方です。ゴブリンにとっての」

 

 満足げに頷き、受付嬢に視線を向ける。

 

「ゴブリンの依頼はあるか?」

「今日は三件ほど」

「北の山奥の砦に住み着いたか」

「すでに被害も出ています。善意で救助を請け負った冒険者もまだ」

「手遅れだな、だが放置もできん。今消せばこれ以上にはなるまい。それとこっちの依頼。明け方に女性を攫っていくゴブリンを目撃」

(さっきのおじいさんの)

「すぐには被害は出ないだろうが付近に住み着いている可能性がある。この二枚だ」

「ありがとうございます! もう一件は他の冒険者さんに相談してみることにします」

「そうか」

 

 牛飼娘がやってきた。

 

「お茶、ご馳走様でした」

「俺はいくぞ」

「気をつけてね」

「気をつけて帰れ」

「悪い男に捕まらないようにね、牛飼娘ちゃん」

「ははは、はい」

 

 軽口を叩いて、ゴブリンスレイヤーの後をついていく。

 

「それで、今回の作戦は?」

「山奥の砦は元はエルフの砦だ。枯れた木々はよく燃える」

「燻り出しか」

「あ、あの、私新しい奇跡を身につけたんです。聖壁(プロテクション)といって」

「どんな奇跡だ」

「光の壁を作る奇跡です」

「なら、砦に火を放ち内部を焼いた後、入り口に聖壁(プロテクション)を張れば一網打尽だ」

「ああ、それで良いだろう」

「見張りは?」

「火矢で殺す」

「了解。発火が役に立つな」

 

 そして山奥のエルフの旧砦にやってきた。

 火のない灰は矢を取り出し、地面に刺した。そしてファリスの弓をゴブリンスレイヤーに渡した。

 

「助かる」

「気にするな。発火」

 

 矢の先端を発火で燃やしてゴブリンスレイヤーに渡す。そして見張りに向けて撃つ。それは見事ヒットし、ゴブリンの顔面を貫通した。次々に放たれる火矢は枯れたエルフの砦に引火し、火事を起こしていく。

 

「作戦通りだ。もう一押しするとしよう」

 

 火のない灰は呪術の火を構えて、小さな炎を投球する。

 

「たぎる混沌」

 

 小さな火は枯れたエルフの砦の内部にに引っ付き、光を放ちながら爆発した。それが戦闘行動しようとしていたゴブリン達を吹き飛ばした。

 

「いと慈悲深き地母神よ……! か弱き我らをどうか大地の御力でお守りください! 聖壁(プロテクション)

 

 枯れたエルフの砦の入り口に聖壁(プロテクション)が張られ、入り口が塞がれる。ゴブリン達は背後からの火で炙られながら壁を叩き出ようとするが出られない。そしてゆっくりと燃やされ死んでいった。

 

「使えるな」

「閉じ込めるのは私の魔法にないから新しい戦術ができるね」

(聖なる奇跡をこんなことに使ってしまった。私は……それでも……地母神様、なぜ私にこの奇跡を)

 

 火のない灰は女神官の肩を叩く。

 

「そう思い詰めない方が良い。魔法は道具だ。その使い方は得た者に委ねられる。どう使おうが自由だ。神を信仰する君には難しいだろうが」

「はい、ありがとうございます」

「見落とした出口がないか探す。気を抜くな、うまく逃げ出した奴がいるかもしれん」

「なら、私に任せてもらおう」

 

 火のない灰は、燃え落ちた枯れたエルフの旧砦の入り口に行くと呪術の火を構えて、息を吐いた。

 

「猛毒の霧」

 

 それを発動させると、紫色の霧が一気に広がり燃えている砦内に充満した。そして色々な場所から霧が吹き出して出口を教えてくれる。火のない灰は毒咬みの指輪を渡すと、生き残ったゴブリンがいないか探索を始めた。霧が噴き出す場所を片っ端から索敵し、毒で死んでいるゴブリンに更に首を切る。

 

「今回も人間性は落とさなかったか。残念だ」

 

 ゴブリンスレイヤーは空を見ていた。女神官はその背中を見ている。

 

「どうした二人とも、そんな黄昏て。我々の勝利だ。もう少し景気の良くできないのかい?」

「ああ、そうだな。ゴブリンは殺した。だが銀等級らしく振る舞うのは難しいな」

「ギルドの評判を気にしているのかい? 気にするな、貴公は貴公だ。欲望のまま殺し尽くせば良い。ゴブリンを全て。一匹の残らず。ただ殺せ」

「ああ、そうしよう」

 

 ゴブリンを殺す。それしか知らない男ではない。人との関わりも、遊戯の楽しさも知っている。だがそれを全て捧げてゴブリンを殺すことを選んだ男。復讐か、怨恨か、何故かは問えない。ただゴブリンを殺すことだけに固執する彼が、女神官にはどうしても悲しく見えた。

 

 



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3話

 冒険者ギルドは賑わっていた。

 受付嬢に食ってかかっているエルフがいるからだ。耳が長い本物の妖精種の末裔であり、高貴な身分にある。

 そんな美しいエルフが言うのだ。

 

「オルクボルグを出しなさい!」

「オルク……?樫の木(オーク)ですか?」

「オルクボルグよ!この冒険者ギルドにいると聞いたのだけど!」

 

 妖精弓手は机に手を叩きつけて自分の主張を強く主張する。

 受付嬢は困り顔だ。どうやら本当に心当たりがないようだ。

 

「オルクボルグ……ごめんなさい、ちょっと調べてみますね」

「あ〜、及ばんわい。ここはヒュームの領域じゃい。耳長の言葉が通じるわけがあるまいぞ。かみきり丸といえばわかるじゃろう?」

「そういう方はちょっと」

「おらんのか!?」

「じゃあデーモン殺しもいないの?」

 

 新しく出てきた単語に受付嬢は首を傾げた。

 

「2本角の黒騎士の鎧を纏った騎士のことよ。大剣だったり、特大剣、大斧を使ってデーモンだけを滅ぼしていく騎士がオルクボルグと連んでいると聞いたのだけど」

「それも聞いたことないですね……」

「ちょっとどうなっているのよ」

「いるんだろうさ、ただ名前が我らと違うだけで」

「自信満々に言っておいて通じてないし、頑固で偏屈で自分が正しいと思ってる」

「なんじゃと!?いやはやこれだから森人(エルフ)は薄くて硬くて狭いのぅ。金床に相応しい心の狭さじゃわい」

 

 妖精弓手と鉱人道士の喧嘩し始めて受付嬢は慌てて仲裁しようとするが、それよりも上から声がかかった。

 蜥蜴僧侶だ。

 

「すまぬが、二人とも。喧嘩ならば拙僧の見えぬ場所でやってくれ」

 

 蜥蜴僧侶は受付嬢に軽く頭を下げる。

 

「拙僧の連れが騒ぎを起こしてすまぬな」

「いえ、冒険者さんはみんな元気が良い方ばかりですから慣れてます」

 

 受付嬢は三人のパーティを見て思った。

(珍しい。上森人(ハイエルフ)に、森人(エルフ)と種族的に仲が悪い鉱人(ドワーフ)それに滅多に見ない蜥蜴(リザードマン)の冒険者……不思議な取り合わせなパーティだこと)

 

 受付嬢は手元の資料に目を落とす。

(しかも三人とも銀級の冒険者)

 

 蜥蜴僧侶が言う。

 

「つまり、オルクボルグ、かみきり丸はその者の字名でな。生憎私も人族の言葉に明るいわけではないのだが、そう、ゴブリン、ゴブリンスレイヤーという」

「ゴブリンと言ったか?」

「呼ばれてるじゃん」

 

 ゴブリンスレイヤーは割り込んで受付嬢へ一直線だ。

 

「ちょっとそのみすぼらしいの、何割り込んで来てるのよ!今私たちが話して!」

「お話中のところ失礼」

「何処にいる?」

「ゴブリンスレイヤーさん!」

「は?」

 

 妖精弓手は汚れた全身鎧を纏う姿が、件のゴブリンスレイヤーと呼ばれた事に目を丸くした。

 後ろから女神官が言う。

 

「今帰ってきましたー」

 

 ゴブリンスレイヤーと火のない灰、他の3人は2階の応接室に行き、女神官は一階でお茶を飲んでいた。回復と治癒の涙によって体力や傷に問題はなかったが精神的に疲れているだろう、というゴブリンスレイヤーと火のない灰の判断で待機になったのだ。

 そんな女神官に声をかける者がいた。

 

「なぁ」

「あ、え、なんでしょう」

「あのさぁ、君。よかったら僕達と行かないか?」

「いえ、せっかくですけど他の方と組んでいるので」

「あのいつも鎧被っている奴らでしょ?」

「わかってるよ」

 

 話しかけた男女は言う。

 

「だからさ、声をかけたんだよ」

「だって変よ、あの人達。銀等級なのにゴブリン退治ばかりやって」

「そいつ新人を引き回して囮にしてるんじゃって」

 

 それは女神官にとって聞き捨てならない言葉だった。

 

「そんなことは!」

 

 そこで魔女が現れ、勧誘した男の方を叩く。

 

「ほ、ら、野暮は駄目、よ」

「そんなつもりじゃ」

「もう行こう?」

 

 二人があった後、魔女は椅子に座る。

 

「それ、で。貴方が彼とご一緒してる子でよいのよ、ね?」

「はい、ゴブリンスレイヤーさんとご一緒させてもらってます」

「あたし、も前に変な依頼、受けたから」

「え?」

「変なこと、想像したでしょ。スクロールにちょこちょこっとお手伝い。彼、少し変わってる、から。大変よね、彼らとごいっしょするの」

「はい、銀等級ですから。私は二人の行動を見てるだけで、何もできてなくて、今のままで良いのかなって」

 

 プカァと煙をかけられて、女神官は目がぐるぐる回る。

 

「彼ではなく、灰の事は、知ってる?」

「灰……火のない灰さんの方ですか? 知りません」

「灰は彼と一緒にいる。それこそ冒険者登録する時から」

「そうなんですか!? だからあんなに信頼し合っているんですね」

「でも、親友、じゃあ、ないかも。灰は夜は都でデーモン狩り、をしているし。ゴブリン退治も役に立つけど、世界には魔物が、いっぱい、どうして彼についていこうと思ったのか、きちんと自分で考えてみて」

「はい」

 

 

 妖精弓手はゴブリンスレイヤーと火のない灰を見ていた。特にゴブリンスレイヤーの方はじろじろとよく見ていた。

 

「貴方達ほんとに銀等級なの?」

「ギルドは認めた」

「相応の力はあるつもりだが」

「端的に言って信じられないわ。だって見るからに弱そうなのだもの」

「一応この装備は上級騎士の装備なのだがな」

 

 妖精弓手を鉱人道士が諫める。

 

「馬鹿を言うもんじゃないぞ、耳長の。わしの見立てによると革鎧は動き易さ重視、楔帷子は短剣での不意打ち防止、頭部の守りを厳重さにし、ちっこい剣と盾は狭いところで振り回すのに考えていると見た」

 

 ちらりと、ゴブリンスレイヤーから火のない灰に目を移す。

 

「そっちの火のない灰はもっと凄いぞ。手足の最低限の防具に内部にプレートが仕込まれてある。そして盾と剣はこの世の伝説の武器と遜色ないものじゃ」

「ふーん」

「私は彼と共に洞窟でゴブリンを狩るが、狭い場所でも問題なく振るえる。洞窟ごと敵を切るからな」

 

 妖精弓手は不満そうに言う。

 

「せめて兜とか鎧とか綺麗にできないの?」

「金臭さを消す為の処理だ。必要不可欠だ。奴らは鼻が良いからな」

「私の装備には匂いがないから血を被る必要はないがね」

 

 鉱人道士は妖精弓手を呆れた目で見て言う。

 

「全く、弓しか使わんから見識が狭いんじゃ。上級森人といえど退屈に飽きて飛び出したばかりの若輩者ではなぁ。もっと年上を見習わんか」

「私2000歳、貴方おいくつ?」

「100と7つ」

「あらあら、随分と老けている事。確かに見た目だけは年上だわ」

 

 蜥蜴僧侶が引き気味に言う。

 

「二人とも年齢の話はよせ、定命の拙僧らは肩身が狭い」

 

 ゴブリンスレイヤーは焦れたように言った。

 

「それで、俺に何の用だ」

 

 妖精弓手は言う。

 

「都の方ではデーモンが増えているのは知っていると思うけど」

「知らん」

「その原因は魔神の復活なの。黒の軍勢を率いて滅ぼそうとしているわ」

「そうか」

「……それで私達は……貴方達に協力を……」

「他を当たれ。ゴブリン以外に用はない」

「デーモン狩りなら協力したいところだけど、彼から長時間離れるわけにはいかないから私も無理だな」

 

 妖精弓手は怒りを露わにして、机を叩いた。

 

「わかってるの!?悪魔の軍勢が押し寄せて来るのよ!世界の命運がかかってるって理解してる!?」

「理解はできる」

「なら……!」

「だが世界が滅びる前にゴブリンは村を滅ぼす。世界の危機はゴブリンを見逃す理由にはならん」

「貴方ねぇ! だから!」

「まぁ、待て耳長の!儂等だって混沌を何とかさせにきたわけじゃなかろう」

「誤解しないで欲しいが拙僧らは小鬼退治を依頼しにきたのだ」

「そうか、なら請け負けおう」

「同じく、手伝おう。混沌との戦いも楽しそうではあるが、今は火の主の目的が最優先だ」

 

 先程とは反対に意欲的に情報を求め始めるゴブリンスレイヤー。

 

「どこだ。数は? シャーマンやホブは確認しているか?」

 

 あまりの手のひら返しに鉱人道士は笑い、妖精弓手は理解不能なものを見る目を向けた。蜥蜴僧侶は報酬について聞かれると思っていた予想を外し、少し戸惑う。

 

「夜はデーモン狩りをして状況は理解している。魔神王が生まれ世界が危機に陥った事で、各種族が集まって会議が開かれる。その使いっ走りとして貴公らが選ばれた。そしてそれには全ての種族がいなければ問題が起きる。だからゴブリンスレイヤーが選ばれた。妖精弓手の気が立っているのは森人の土地でもゴブリンが活発になっているからだろう。どうだ、違うか?」

「ええ、その通りよ。何で貴方はそれを知っているのよ。一応これを知っているのは一部の者だけなのだけれど」

「何、助言求めで大抵の状況は読めるさ。私以外に世界には火のない灰は大勢いる。心折れた者も多いがな」

「何を言っているの?」

「わからないならそれで良い。そう言う事情ならどうするゴブリンスレイヤー、貴公次第だ。私はそれに従おう」

「地図はあるか?」

「ここに?」

 

 ゴブリンスレイヤーは蜥蜴僧侶から地図を受け取って唸った。

 

「遺跡か」

「恐らく」

「数は?」

「大規模としか」

「よし、すぐに出る。火のない灰、ついてきてくれ。お前の力が必要だ」

「ああ、我が火の主よ」

「俺に払う報酬は好きに決めておけ」

 

 そう言って二人は部屋の外に出て行く。予想外だったのは妖精弓手達だ。

 

(え、ちょっと待って。一人で行くつもり!?)

 

 受付嬢に予算の話を話を通し、大規模討伐作戦の準備を進めようとしていると、受付嬢が首を傾げた。

 

「二人? ゴブリンスレイヤーさんと火のない灰さん二人で行くんですか? 彼女は」

「ああ、休ませる」

「待ってくださいゴブリンスレイヤーさん! あ、あの、依頼ですよね!」

「ああ、ゴブリン退治だ」

「ならすぐ準備を」

「いや、俺達二人で行く」

「そんな……」

 

 女神官からすれば役立たずと言われたようなものだった。彼から信頼されていないそれが辛かった。

 

「せめて、せめて、決める前に相談とか」

「しているだろう」

「ゴブリンスレイヤーの相談はわかりにくいからね。こうやって話している時点で女神官はちゃんと信頼されているよ」

「そうなんですね、選択肢があるようでないのは相談とは言いません!」

「そうなのか」

「一緒に行きます。放っておけませんから!」

「好きにしろ」

「はい、好きにします」

 

 妖精弓手は3人はゴブリンスレイヤーと火のない灰を二階から見下ろしていた。

 

「どうする?」

「見応えのある若造じゃ。それにあの神の武器を扱う者にも興味がある」

「冒険者が依頼を出してついていかぬのでは拙僧は先祖に顔向けできませぬ」

「理解できない未知の存在が二つ。全く、貴方達年長者に敬意を払うべきだと思わない?」

 

 妖精弓手はそう言って階段から飛び降りた。



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4話

 目的地に着くまで距離がある為、野営することになっていた。

 火をつけ、周囲を囲んで持ち込んだ食料を食べている。

 火のそばには肉が刺さっている。

 妖精弓手は言う。

 

「そういえばどうして冒険者になったの?」

「そりゃあ世界中の旨いもんを食べる為に決まってるだろうが、耳長はどうだ?」

 

 鉱人道士は妖精弓手に肉を差し出す。

 

「焼けたぞ」

「私は外の世界に憧れてってところね」

 

 妖精弓手を無視して鉱人道士は肉に齧り付く。

 

「旨い! なんじゃいこの肉は!?」

「ちょっと聞きなさいよ!」

 

 蜥蜴僧侶が答える。

 

「沼地の獣の肉だ」

 

 それに露骨に妖精弓手は嫌な顔をする。

 

「えぇ〜沼地?」

「それにしては臭みもないな、ぴりりと辛口で堪らんわ」

「こちらにない香辛料を使ってる故、珍しかろう」

「野菜しか食えんうさぎもどきにはこの美味さは分からんだろうよ」

 

 火のない灰は笑った。

 

「耳がいたいな。食欲睡眠性欲が無くなり、長い事スタミナ回復効果のある緑花草と回復効果のあるエスト瓶しか口にしていないからな、食べ物の美味さを感じられるというは羨ましいものだ」

「そりゃあ難儀な事だの。食事ができないと言うのは辛くないのか?」

「慣れたさ。ただ懐かしくもある」

「無理矢理食べた場合はどうなるのですかな?」

「戦う以外の機能が切り落とされているからな、ただの固形物を咀嚼するだけになるだろう」

「乾燥豆のスープもありますがどうですか?」

「頂くわ!」

 

 スープを飲む妖精弓手。

 

「んー、優しい味ね」

「ああ、スープで思い出したがジークの酒というエストと酒を合わせたものがあったのを思い出したよ」

「さて、冒険者になった理由でしたな。拙僧は異端を殺して位階を高め竜となるためだ」

「え、ええと、宗教はわかります。私もそうですから」

「地母神……か。どのような神なのか、興味がある」

 

 すると女神官は首を傾けながら言う。

 

「もし興味あるのでしたら後でお教えしましょうか?」

「ありがとう。聞かせてもらう。さて、ゴブリンスレイヤー、貴公は? 何故冒険者になった?」

「ゴブリンを殺す為だ」

 

 妖精弓手が呆れたように言った。

 

「アンタの場合は何となく想像ついたわ」

「だろうな。だがゴブリンスレイヤーとは幼少期から共にあるが、彼は一切ブレない。ゴブリンへの撲滅への執着心は狂信に値する」

「貴方はこんな風になるまで放っておいたの?」

 

 荷物の中から乾パンやクッキーのようなものを出しながら妖精弓手は火のない灰に非難の目を向けた。

 

「ああ、彼はホストだ。白霊(ゲスト)に過ぎない私はホストの意向を尊重する」

「ホスト? ゲスト? よく分からないわね。一緒にいたなら復讐以外の道も示してあげれば良いのに」

「己の生き方は好きに決めればよいのさ。そして一度、喚ばれたのならホストの使命を全力で支援する。それが私だよ」

 

 女神官が妖精弓手の出した食べ物に手をつける。

 

「あっ、美味しい。サクサクだけど中はしっとり木の実の甘みが香ばしいですね」

「森人の保存食よ、本当は人にあげてはならないのだけど今回は特別」

「森人の秘伝がでたとなればわしもこいつを出さなければなるまい」

 

 鉱人道士は背後から樽を出した。

 

「鉱人の火酒よ」

「火の、お酒?」

「おうとも。まさか耳長の酒を飲んだ事ないなど童子のような事言わんよな」

「馬鹿にしないで! お酒って葡萄のやつでしょ、飲んだことくらい」

 

 妖精弓手は爆発した。

 顔を真っ赤にして倒れた。

 

「ほれ、お前さんも飲まんかい」

 

 鉱人道士はゴブリンスレイヤーに杓を渡す。ごくんと飲み干した。

 蜥蜴僧侶が言う。

 

「そういえば拙僧も一つ気になっておったのだが、小鬼共はどこから来るのだろう? 拙僧は父より地の底に王国があると教わったが」

「そうですね、『誰かが何かを失敗すると一匹湧いてくる』っていいますね。子供の言い伝えですが」

「なんと!? それではそこの耳長を放っておけばうじゃうじゃ増えると言うことか!?」

「まぁ!? 失礼しちゃう! 明日には私の弓の腕をはっきり見せてあげるんだから」

「そいつは頼もしいことじゃわい」

 

 ゴブリンスレイヤーは静かに口を開いた。

 

「俺は月から来たと聞いた」

「月というとあの空に浮かぶ二つの?」

「そうだ、緑の方だ」

「拙僧らの説とは真逆」

「草もない、木もない、岩だけの寂しい場所だ。奴らはそうでないものが欲しくて妬ましくてやってくる」

「そのお話は初めて聞きました」

「姉から教わった」

「お姉さんがいらっしゃったんですか」

「ああ。いた。少なくとも姉は何か失敗した事は無かった筈だ」

 

 翌朝。

 目的地の遺跡。

 入り口には見張りのゴブリンが二匹、番犬がいる。

 火のない灰達は遠くの茂みに隠れていた。

 

「ゴブリンの癖に番犬まで連れちゃって生意気よね」

 

 火のない灰は強い口調で言った。

 

「犬は駄目だ。あの俊敏な動きから繰り出される攻撃、こちらの攻撃速度を上回る速度。恐ろしい。最優先で駆除すべきだ」

「駄目だ。あれは余裕のある群れだ。でなければ端から餌だ。まずは仲間を呼ばせないようにゴブリンの方を先に始末する必要がある」

「でも大丈夫? 直に夜になるんだし活動し出すんじゃない? 次の昼にした方が」

「夕方の今は奴らにとっての早朝だ。余裕のある群れは夜が一番厳重になるが早朝なら集中力も切れる」

「ふぅん、まぁいいわ。それじゃ仕掛けるから」

 

 妖精弓手は弓に矢を番える。火のない灰も弓を出現させ構える。

 

「私は番犬を狙い撃とう」

「任せたわ。じゃあ見てなさい、これが森人の腕前よ」

 

 矢が放たれた。その矢は明らかに右に逸れていた。当たらない。いやそれは間違いだ。矢の機動が曲がり、ゴブリンの首元を掻っ切っていく。そして異常に気付いた番犬に、火のない灰が放った矢が刺さって絶命している。

 火のない灰は笑った。

 

「曲がる矢とは面白い」

「ふふ、どんなもんよ」

「凄い!」

「見事ですが、魔法の類ですかな?」

「十分に熟達した技術は魔法と区別つかないのよ」

「術師の儂に言うかね」

「戦技みたいなものか」

 

 火のない灰達は遺跡の入り口に向かう。ゴブリンと番犬の死体を確認する。確実に死んでいる。

 ゴブリンスレイヤーはゴブリンの死体を剣で切り裂く。血が溢れた。死体を汚すゴブリンスレイヤーの所業を妖精弓手は咎める。

 

「ちょっといくらゴブリンだからって死体をそんな!」

「奴らは臭いに敏感だ。特に女子供森人の臭いには」

「……?」

 

 何を言っているのか理解不能な妖精弓手だったが、段々とその意味に気がついたようだ。

 つまり、臭い消しに血を被れ、と。

 

「嫌よ! 嘘でしょ!? ちょっと! ちょっ、コイツ止めてよ!」

 

 肩に手が置かれた。そして女神官が死んだ目で呟いた。

 

「慣れますよ」

 

 妖精弓手は絶望した。

 血でドロドロになった妖精弓手達の準備が終わったところで遺跡に突入する事になった。

 

「『照らす光』」

 

 火のない灰が魔術を発動させる。空中に光る球体が浮かぶ。

 

「貴方、魔法も使えたのね」

「ああ」

 

 遺跡の中を歩いて行く。

 壁には獣や邪悪な存在を仄めかす絵が描かれている。

 パーティの隊列はゴブリンスレイヤーが先頭、後に火のない灰、女神官、鉱人道士、妖精弓手、蜥蜴僧侶が続く。

 

「拙僧が思うに、ここは神殿だろうか?」

「この辺りは神代の時代に戦争があったそうですから砦か何か人の手によるものだと思いますけど」

「兵士は去り、代わりに小鬼が棲まうか、残酷なものだな。残酷と言えば」

 

 鉱人道士は視線を妖精弓手に向ける。血でドロドロになった妖精弓手は見るも無惨な姿だった。

 

「うぇー臭い。気持ち悪いよぉ」

「弓使いは血に染まる事は無いからな。前衛をやれば、嫌でも血を被る事になる。相手の血も、自分の血も」

 

 妖精弓手はゴブリンスレイヤーを睨みつける。

 

「戻ったら覚えてなさいよ!」

「覚えておこう」

 

 その時だった。

 どこからか音が聞こえた。そして全員にプレッシャーがかかる。邪悪な気配が周囲に満ちる。女神官は圧迫感に押し潰されそうになる。全員が緊張した面持ちで臨戦態勢を取る。

 

【闇霊 中指のカーク に侵入されました】

 



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5話

 『声』を聞いた火のない灰達はかなりの緊張状態になっていた。

 突然響いた謎の『声』。

 女神官が言う。

 

「何でしょう、今のは」

「分からないわ」

「闇霊や侵入者とか言うとったの」

「ゴブリンとは違う混沌の勢力であろうか?」

 

 それに答えたのは火のない灰だった。

 

「ダークレイスは様々な生命と敵対し殺戮する闇の眷属だ。侵入時に名前が宣告されると言う事はかなり数の生命を奪っている」

「何でそんなのがこんなところに!」

「ゴブリンの巣だからね。ゴブリンを引き連れて侵入者を叩けば勝率は高くなる。闇霊は基本、混沌の勢力がいる場所を好む。混沌の勢力と共闘して殺しに来るんだ」

「そんなのがいるなんて初耳なんだけど」

「珍しいからな。私もこの世界で対峙するのは初めてだ。恐らくゴブリンスレイヤーの魂に惹かれて侵入してきたのだろう」

「火のない灰、これからどうするべきだ」

「いつまでここにいても仕方ない。探索を続けよう。しかし注意は怠るな、闇霊カークが現れたら私が倒す。もしゴブリンを引き連れていたら撤退するか、君達が処理してくれ。撤退か戦闘かの判断はゴブリンスレイヤーに任せる。私は一対一で負ける自信はないが数の暴力に弱い」

「わかった、先へ進もう」

 

 火のない灰たちは一層警戒しながら遺跡の中を進んでいく。すると左右の分かれ道に遭遇した。

 

「分かれ道か」

「待って」

 

 妖精弓手がみんなを止めた。

 四つん這いになり、地面を進む。すると風景と一体化されるように塗装された糸が張ってあった。

 

「鳴子か」

「ええ、真新しいから気付けたけど気をつけて」

 

 ゴブリンスレイヤーは唸った。

 

「やはり妙だな、ここまでにトーテムがなかった」

「えっと、ゴブリンシャーマンがいないと言う事ですか?」

呪文使い(スペルキャスター)がいないなら楽で良いじゃない」

「要するにいない、というのが問題なのだろう」

「そうだ」

 

 火のない灰は再度『照らす光』を発動して、襲撃に備える。

 武器もロングソードから黒騎士の剣に、盾も草紋の盾から黒騎士の盾に装備変更する。

 

「お前さん、何処からその装備出した?」

「ソウルの業だ。私は持ち物を魂から自由に出し入れできる。それでゴブリンスレイヤー、貴公の見解を聞こう」

「この仕掛けはただのゴブリンでは仕掛けられんし早朝まで見張りがだらけないなどあり得ん」

「それに加えて闇霊が狩場とする点も気になる」

「ゴブリンを指揮するものがおると?」

「そう見るべきだ」

「小鬼殺し殿は以前にも大規模な巣穴を潰したことがあると伺いましたが、その時はどのように?」

「炙り出し個別に潰す、火をかける、河の水を押し込む、色々だがここでは使えん」

「取り敢えず左右の確認だけでもしましょう」

 

 そう言って妖精弓手と鉱人道士が壁に張り付き様子を見ようと顔を出した瞬間だった。鋭いトゲがついた直剣が飛び出してきた。鉱人道士は首を切り裂かれ、声を発することなく絶命する。続けて妖精弓手を襲おうと飛び出すカークだが、その間に火のない灰が割り込んで一命を取り留める。

 

「下がれ、闇霊の相手は私がする」

「え、ええ」

 

 カークは鉱人道士を乱雑に蹴り飛ばし、放ってくる。死体を盾で受け止め弾き飛ばす。その間にカークは距離を詰め、トゲの直剣を横長に振るう。火のない灰は『我慢』を発動し、ダメージを受けつつも強靭な意思で耐え、大剣を振り下ろす。

 カークはまともに大剣による攻撃を受けて、後方にローリングする。そしてオレンジ色の液体を飲んで傷を回復する。

 

「せいっ」

 

 火のない灰の後ろから、妖精弓手の放った矢が飛び出す。カークは盾で弾こうとするが、曲がる矢は盾を躱してカークのトゲの鎧にヒットする。だが貫通させるまでには至らない。

 

「あの鎧硬いわね、矢が通らない!」

「いや、闇霊は霊体だ。見た目は無傷に見えるが相応のダメージは蓄積している。妖精弓手は援護してくれ。三人は周囲の警戒を頼む」

「わかった」

 

 大剣を振り回してカークを近づかせない。しっかりと隙を作る事でスタミナ管理をしつつ、常に攻勢に出ることで相手の出鼻を挫いている。カークは強く出れない。

 大剣と直剣ではリーチが違う。更に戦技『我慢』によって怯ませることができないので一撃入れて回避するというヒットアンドウェイ戦法を強いられる。しかしそうしていると矢が飛んできて生命力を削っていく。

 

 霊体は一定の生命力を失うと消滅する。それは生きている者も同じだがが、霊体は実体がないため生命力が少ない。

 カークはローリングしながら近づき、直剣を振り上げる。火のない灰は盾で受け止め、そのまま殴る。よろいめいたカークの腹に向けて大剣を突き立てる。

 

 赤い粒子が飛び散り、カークの背中から大剣が伸びる。そして足で蹴り飛ばし、吹き飛ばした。カークは扉を突き破り、腐臭のする部屋に転がった。

 

「終わりだ、カーク」

 

 肩に大剣を担ぎ、盾を構えながら前進する。

 カークは尻餅をつきながら火のない灰を見上げている。カークは立ち上がると、壁に磔にされていたエルフの捕虜にトゲの盾を突き刺し、肉の盾をつくる。

 

「人質か、醜いな」

「こ、ろして。早く」

「了解した」

 

 大きく力を入れて、人質ごと両断しようとしたところ、突然ゴミ山の中からゴブリンが飛び出してきた。

 

「GOOOOOOB」

「邪魔だ」

 

 盾で殴り殺す。そしてカークを捕虜のエルフごと真っ二つに切り裂いた。血飛沫が撒き散らされる。カークは真っ二つになった死体を目眩しとして使い、火のない灰の横を通り過ぎた。

 トゲの鎧の効果で、幾つかのダメージが火のない灰に入る。

 

「妖精弓手!!」

「このっ!!」

 

 カークはローリングを繰り返し、トゲで周囲を傷つけながら鳴子の糸を切った。

 カラン、カラン、と遺跡中に鳴り響く。

 

「GOOOOOBU」

 

 叫び声と共にゴブリンの足音が聞こえてくる。凄い量だ。ゴブリンスレイヤーの判断は素早かった。

 

「撤退だ。このままでは押し潰される」

「了解した」

「はい!」

「致し方無し」

 

 火のない灰は来た道を駆け戻り、遺跡から脱兎の如く逃げ出した。そしてある程度離れたところで、身を隠し、遺跡の入り口を見た。

 

「女神官、聖壁を入り口に張ってくれ」

「わかりました。いと慈悲深き地母神よ、か弱き我らを、どうか大地の御力でお守りください。プロテクション!」

 

 遺跡の入り口に聖なる壁が出現し、ゴブリン達の道を塞ぐ。

 

「これからどうするの?」

「撤退も視野に入れるべきでしょうな、このままでは数の暴力でやられますぞ」

「……ああ、出直すべきだ」

 

 撤退で意見が纏まりそうだったが、火のない灰は否定した。

 

「いや、撤退は許されない。できないと言った方が正しいか」

「どういう事ですか?」

 

 女神神官が首を傾げる。

 

「世界に闇霊が侵入してきた場合、一定区域が通常の空間から切り離され霧がかかる。私達はもう闇霊とゴブリンを倒すしか道はないんだ」

「そんな!」

「状況は悪いが勝機はある。私の作戦通りに動いてくれ」

「わかった」

「では、そのように」

 

 火のない灰は杖を取り出し、プロテクションの前に立つ。その後ろにゴブリンスレイヤーと妖精弓手と蜥蜴僧侶が陣取る。そして最後尾に女神神官が立っていた。

 

「『ソウルの奔流』」

 

 蒼い光の奔流が火のない灰より放たれ、プロテクションを突き破り、プロテクションを壊そうとしていたゴブリン達を纏めて消滅させる。長距離用の魔術の為、後続のゴブリン達をも纏めて消し去り、遺跡へ突入する道ができる。

 だがゴブリン達の数は多く、遠くから叫び声とドタドタと走る音が聞こえてくる。

 

「突入!」

 

 三人は一気に遺跡の中に入り、ゴブリンの軍勢と対決する。火のない灰は左手に直剣を持ち、蜥蜴僧侶と共にゴブリンの戦闘集団を切り裂き、妖精弓手とゴブリンスレイヤーが後続を弓矢で撃ち殺す。

 そして赤い霊体が走ってくるのが見えた。

 火のない灰は杖を構える。

 

「『ソウルの結晶槍』」

 

 カークは前ローリングで避けて、トゲの直剣を突き出す。火のない灰はソウルの結晶槍を撃った反動で動けない。

 

「火のない灰殿!」

 

 蜥蜴僧侶が庇った。蜥蜴僧侶の腹にトゲの直剣が突き刺さる。そしてカークは連続してトゲの直剣を振るう。トゲの直剣は出血蓄積という特殊効果があり、蓄積が最大値に達すると、大きなダメージと共に血が噴き出す。そして、それは剣や盾でカードしても貯まっていくのだ。

 それを知らなかった蜥蜴僧侶は全身から血を吹き出して絶命した。

 それを察した火のない灰は杖から黒騎士の大剣を持ち出し、蜥蜴僧侶ごとカークを貫いた。そしてそのまま切り上げ、カークを吹き飛ばす。蜥蜴僧侶の死体は真っ二つになった。

 

「ちょっとアンタ、なんで味方ごと攻撃してるのよ!」

「蜥蜴僧侶は既に死んでいた。ならその体を利用して奇襲を仕掛けた方が効率的だ」

「アンタには仲間を思う気持ちっていうのはないの!?」

「生きていたらの話だ。死者はただの肉の塊だ」

「このッ」

 

 火のない灰に殴りかかろうとした妖精弓手をゴブリンスレイヤーが止まる。

 

「待て。敵はまだいる。後にしろ」

「……ッ! わかったわよ!」

 

 カークは回復を済ませ、体制を立て直していた。

 火のない灰は全身を左手に黒騎士の盾、右手に黒騎士の剣を装備し、迎え撃つ。

 

「決着をつける。ゴブリンの排除は任せたぞ」

「ああ」

「わかったわ」

 

 火のない灰は盾を構えて走り出した。



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6話

 火のない灰はカークに向かって盾を構えてタックルする。金属同士が悲鳴じみた音を上げて火花が散る。カークはそのタックルを受け止め、トゲの直剣を振るう。同時に火のない灰も黒騎士の剣を振り上げ、トゲの直剣と衝突する。

 

「力任せの戦い方、だがこの剣はそれが一番あっているんだ!」

 

 黒騎士の剣が振り下ろされ、カークの体を斜めに刻む。しかし霊体なので物理的なダメージはない。しかし生命力が削られ、消滅の時間が早まったのは確かだった。

 

 お返しとばかりにカークもトゲの直剣で二連撃を放ち、蹴り飛ばす。それに乗った火のない灰はバックステップをして距離を取る。そして懐からオレンジ色の液体、エスト瓶と呼ばれる回復アイテムで生命力を回復させる。それはカークも同じだった。

 エスト瓶を飲み、生命力を回復させる。

 

 火のない灰はカークに向かって突っ込んだ。それをトゲの直剣が迎え撃つ。そして剣が当たる直前に火のない灰は『我慢』という強靭度が上がる戦技を使用して、トゲの直剣の一撃を耐える。そしてその隙に黒騎士の剣を二度振るいカークに大ダメージを負わせる。

 生命力を大きく削られたカークはエスト瓶で回復しようと距離を取ろうとバックローリングをする。しかしそうはさせまいと火のない灰は果敢に距離を詰めて、起き上がったところに黒騎士の剣を置いておく。

 

 自分から黒騎士の剣に首を刎ねられにいくのを見ながら、火のない灰は勝利を確信した。

 闇霊の顔が憎々しいものに変わっていく。

 

「貴様程度には負けんよ」

 

 闇霊は首を刎ねられ、その体を霧散させた。

 

【闇霊 中指のカークは死亡しました】

 

 『声』が並び響き火のない灰は装備をロングソードと紋章の盾に戻す。

 ゴブリンを処理していたゴブリンスレイヤーが警戒しながら弓矢を片付け、剣を持つ。そして問いかける。

 

「やったのか?」

「ああ」

 

 殺された二人の死体はゴブリンと闇霊による戦闘によって損壊して元の状態がわからない。妖精弓手は膝から崩れ落ち、地面を叩く。種族は違えど種族を纏める大使役としてともに仕事をした仲だった。少なくない時を過ごしたのだろう。

 

「うっ……何なのよもうぉ。わけわかんない」

 

 妖精弓手は泣いている。そっと女神官が慰める。

 火のない灰は周囲の警戒を、ゴブリンスレイヤーは部屋を漁り背嚢を見つけ出した。そしてその中から地図を取り出す。

 

「背嚢の中に地図があった。あのエルフが使っていたものだ。反対側は回廊に続いているようだ」

 

 ゴブリンスレイヤーは背嚢を妖精弓手の前に落とす。

 

「お前が待て」

 

 背嚢は血に染まっていた。

 女神神官は目を伏せ祈りを捧げる。火のない灰はその場に落ちた二人の遺品とソウルを回収する。

 

「祈りは済ませたか? いくぞ」

「ちょっと、そんな言い方は!」

「いいの」

 

 妖精弓手は背嚢を拾う。

 

「行かないといけないものね」

「そうだ。ゴブリンは殺さねばならん」

 

 四人は火のない灰を先頭に、ゆっくりと遺跡を進み始めた。隠れ潜んでいたゴブリンを殺し、螺旋状の階段を降りていく。その階段下にはゴブリンが食い散らかした食料や女、武器が散乱していた。しかし肝心のゴブリンはいない。

 

「鳴子によって叩き起こされ、ほとんどのゴブリンは駆逐されたようだ。油断は」

「GAAAA!!」

「禁物だがな」

 

 暗闇から剣を突き出してきたゴブリンの攻撃を盾で防ぎ、弾き飛ばしながら踏み込みロングソードでゴブリンの首を切り飛ばした。

 女神官は妖精弓手を見る。恐ろしい目つきだ。鋭く、憎悪が滾っている。それを慮って、女神官は言った。

 

「あの、一度この辺で休みませんか? 回廊の底はもう少しですし、今のうちに」

「良いだろう。呪文は後いくつ残っている?」

「私はあと三回です」

「分からんが灰エストは後四つある。回復も攻撃も支援も規模によるが十回以上できるだろう」

 

 妖精弓手は壁に身を預けて蹲っている。女神官はそんな妖精弓手に声をかける。

 

「あの、お水……飲みますか? 飲めますか?」

「……ありがとう」

 

 ゴブリンスレイヤーが言う。

 

「あまり腹に物を入れるな。血の巡りが悪くなり、動きが鈍る」

「それは大変だな。その程度でパフォーマンスに影響があるのか」

「俺達はお前達とは違う」

「違いない」

 

 火のない灰とゴブリンスレイヤーの二人の妖精弓手の精神状態を全く考慮しない会話に女神官は怒った。

 

「二人とも! もう少し、こう! 言い方を!」

「誤魔化す必要はない。行けるなら来い。無理なら戻れ」

「体なら何度でも治そう。腕が千切れても、内臓を抉り出されても。だが心は折れたら終わりだ。心折れた者には、何もできることはない」

(もう! この人達は!)

「馬鹿言わないで私はまだ戦える。それに私はレンジャーよ、私が戻ったら斥候や罠の解除ができないでしょ」

「やれる者でやる。戻っても問題ない」

「戻る……?」

 

 妖精弓手は顔を歪めて叫ぶ。

 

「そんな事、できるわけないでしょ!? エルフがあんなことされて! 近くには私の故郷だって……!」

「心が折れた者。慢心した者。冷静さを欠いた者。運がない者。そういった者達から死んでいく。折れるな、憎悪なんか捨ててしまえ。淡々と作業のように殺せばお前の目標は達成される」

「貴方に何がわかるの!?」

「何も分からんさ。しかし今の貴公には死相が見えるぞ」

「……ッ!!」

 

 妖精弓手は前を行く火のない灰を憎々しげに見つめた。

 回廊に出る。月明かりが照らし、周囲がよく見える。どうやら地上にまでつながっているようでそこから光が入ってきているようだ。そして姿が見えやすいと言うことは敵に発見されやすいということでもある。

 壁に身を寄せ、姿勢を低く保ちながらゆっくりと周囲を見渡す。

 

「ゴブリンはいないようだ」

「全て駆除したということか。罠は?」

「見渡す限り何も。どうやらあの霧の向こうにいる親玉しかいないみたい」

「慎重に降りていく」

 

 回廊を降り、最下層までやってくる。そこには巨大な霧がかかった門があった。

 

「行くぞ」

 

 ゴブリンスレイヤーが霧の中に入る。少し遅れて他の三人も霧の中へ入っていった。

 

「ゴブリン共がやけに静かだと思えば雑兵の役にも立たんか。貴様ら、ここを我が砦だと知っての狼藉と見た」

 

 巨体。10メートルはあろう筋肉質な体。ツノを生やしている。

 妖精弓手は女神官を庇いながら、呟く。

 

「なんて事、こいつがここの親玉ってわけ? オーガ!」

 

 曰く。

 強固な盾を持つ騎士を盾ごと肉塊にして、数多の術を収めた魔術師を、それを超える術で焼き尽くしたという。

 遭遇した冒険者は口々にその恐ろしさを語る。

 

【回廊の人喰い鬼 オーガ】

 

「なんだ、ゴブリンではないのか」

「良いソウルだ。殺し慣れているな。化物が」

「狙い撃つ。狙い撃つわ!」

「目眩しと回復は任せてください!」

「貴様ら、この我を魔神将より軍を授かるこの我を!」

 

 オーガの腕が振り上げられる。

 

「ナメているなああああ!!」

 

 巨大な鉈がゴブリンスレイヤー目掛けて振り下ろされる。火のない灰は盾をターゲットシールドに切り替え、二人の間に割り込むようにしてオーガの攻撃をパリィする。

 

「なにぃ!?」

 

 鉈が大きく弾き飛ばされ、腕ごと大きく持っていかれる。そしてその隙をついて、ロングソードに黄金松脂の薬包で雷をエンチャントして致命の一撃を叩き込む。

 血が吹き出し、オーガが大きく後退する。

 

「うぬぅ!?」

「撃て。目を潰せ」

「命令しないで!」

 

 風切る音と共にオーガの両目に矢が突き刺さる。

 致命の一撃で切り裂かれた傷は自己回復によって再生されていた。両目の傷は矢は抜かなければ再生されないようだ。

 

「小癪な!」

 

 火のない灰とゴブリンスレイヤーはオーガの足を切りつける。だがすぐに再生されてしまう。

 

「ロンソでは浅いか。なら、これだ」

 

 火のない灰はロングソードからツヴァイヘンダーを取り出し、黄金松脂の薬包でエンチャントする。薬包を刀身に滑らせると、雷の力が特大剣に纏う。

 

「まずは足一本!」

 

 2メートル以上ある特大剣ツヴァイヘンダーが振り抜かれ、オーガの足を切り飛ばす。同時にオーガが目の矢が取り除かれ、光を取り戻す。そしてオーガは自分の足を切った火のない灰を見る。

 

「この!!」

 

 オーガの拳を火のない灰はローリングで避け、その流れでそのままオーガの腕に叩きつける。血が迸り、腕が地面に落ちる。オーガの攻撃をローリングで全て避けて、隙を見せた瞬間、ツヴァイヘンダーが牙を剥く。

 両腕が切り落とされたオーガは火のない灰から距離を取る。そして頭のツノを火のない灰に向ける。

 

「カリブン・クルス・クレスタント!」

「大きい……!」

 

 火球が生まれる。まるで太陽なような大きさだ。

 

「死ね! このゴミ共がぁ!」

 

 太陽が落ちてくる。このままではゴブリンスレイヤーも火のない灰も女神官も妖精弓手もみんな死ぬだろう。

 

「散って!」

「これじゃどこにいても当たります! いと慈悲深き地母神よ、闇に迷えるわたしどもに、聖なる光をお恵みください! 聖光(ホーリーライト)!」

「良い判断だ」

 

 光が放たれ、オーガが一瞬止まる。

 妖精弓手の矢が放たれ、再びオーガの目が潰れる。ゴブリンスレイヤーは女神官と妖精弓手を抱えて建物の影に隠れる。

 火のない灰は杖を取り出し、構える。

 

「きゃっ!?」

「ちょっと、貴方!?」

「黙っていろ。火球を弾く方向は?」

「分からん。運任せだ。そこで隠れていろ。あとは私がやる。『歪んだ光壁』」

「死ねえええええ!!」

 

 火球が落ちてくる。しかしそれは火のない灰が展開した『歪んだ光壁』によって弾かれる。火球は回転しながら飛んでいく。そして回廊の上層にぶち当たり爆発する。

 

「『瞬間凍結』!!」

 

 極低温の霧が発生して、オーガの体を氷漬けにしていく。

 

「『結晶魔力の武器』」

 

 ツヴァイヘンダーに杖を当てる。すると刀身が魔力を持つ結晶に包まれる。両手持ちで氷漬けになったオーガを叩き潰す。氷によって回復が阻害され、オーガの生命力を奪っていく。

 両足を切り、顔を潰し、体を両断する。しかしまだ生きていた。

 

「しぶとい」

「貴様!? 何者だ!? この強さ……人のものではない!」

「ゴブリン退治にきた、ただの冒険者だよ」

「ゴブリンだと!? ゴブリン!? たかがゴブリンを殺す為だけに貴様のような存在が!」

「火の宿主がゴブリン殲滅を望んでいる。白霊である私はそれに従うまでだ」

「火の宿主……白霊……貴様、まさか異世界の……!」

「そういう事だ。ではな、死に腐れ」

 

 オーガの首にツヴァイヘンダーを叩きつけ、完全に肢体を切り離す。生命力がゼロになったオーガは力を失い倒れた。大量のソウルが火のない灰の中に流れ込んでくる。

 それだけ生命を殺した証だった。

 回廊の影から三人が姿を見せる。

 

「終わったか」

「ああ。全て、万事、滞りなく」

「つ、疲れた」

「まさかオーガがいるなんて」

「諸君、よく戦ってくれた。さぁ、冒険はここで終わりだ。戻ろう」

 

 四人は地上へと戻る。全員無言だった。疲労がそうさせた。

 地上につくと、ゴブリンスレイヤーと女神官と妖精弓手はキャンプ地点で休息を取るようだった。火のない灰は簡易な二つの墓を作り、それに続いた。

 

「ここは見張っておく、三人は休むと良い」

 

 それに甘えるようにして三人は休息についた。

 女神官に妖精弓手は話しかけた。

 

「ねぇ、彼らいつもあんな事やってるの?」

「ええ、いっつもあんな感じです」

「そっか」

「でも、ああ見えて結構周り見てるんですよ、二人とも」

 

 妖精弓手は思う。あの二人は孤独だ。二人だが、お互いに支え合っているわけじゃない。暗黒のような作業を淡々と繰り返す。傷つき、疲れていても、あの二人は何も言わずに殺し続けるだろう。それはいつか破滅的な結果をもたらすとしても。

 

「うん、私はあの二人嫌いだわ。冒険は楽しいものだもの」

 

 未知を体験したり、新たなものを発見したという達成感。喜び。それが冒険。でもそれを知らず害虫の駆除ばかりしている。冒険の楽しさを知らずに。それが妖精弓手にとって許せなかった。

 妖精弓手は決心する。

 いつか必ず冒険させると。でなければ救われない。




AC熱が再燃している


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7話

 火のない灰は装備を整備する。

 よく使う武器と防具を取り出して『修理』の魔術を使い、耐久力を回復させる。神の武器如く強化された武器は酸の噴射でも受けない限り壊れない。何故なら篝火に触れれば世界を一度リセットされ、武器や防具の耐久力は勿論生命力や集中力を含めた全てが回復するからだ。

 

 しかし白霊として呼び出されている現在、篝火には触れられない。エスト瓶は敵を殺せば回復するし、体力や集中力も指輪や愚者派生した武器を使えば少しづつだが回復する。

 節約だ。消費アイテムである黒火炎壺や松脂は殆ど使っていない。使うとすれば闇霊に侵入された時などだろう。

 

 ゴブリンスレイヤーによって召喚されたのはまだ彼が子供だった頃、彼の村がゴブリンに襲われ、崩壊したところで召喚された。それから数年間ずっと共に歩んでいる。

 今までにない長期召喚。世界を何度も繰り返している火のない灰からすれば戯れに過ぎない。が、それでも召喚主(ホスト)は守る。それが白霊として今するべき事だ。

 

 火のない灰は上級騎士装備に身を包み、宿から出る。行くのは冒険者ギルドだ。今日は休みだ。眠らない火のない灰にとって行動しないというのは退屈な時間に他ならない。

 心折れない限り動き続けるのが火のない灰だ。

 食事も睡眠も必要ない。あるのはソウルへの渇望と使命だけ。あらゆる場面で最適解の行動をする。そして他の人物と交流を持つのは必須事項であると言えた。友好的な関係を築けば珍しい品を譲ってくれるかもしれない、未知の魔法を売ってくれるかもしれない、白霊として窮地に助太刀してくれるかもしれない。

 

 だから火のない灰は時間があり、尚且つ召喚主が安全な時は冒険者ギルドで人と交流するようにしている。縁があれば共に戦うこともある。

 冒険者ギルドに着いた火のない灰は、近くの椅子に腰掛ける。すると声をかけられた。

 

「お久しぶり、ぶり、ね。元気に、してた?」

「貴公か……何故ここに?」

 

 槍使いの相棒、魔女だ。

 紫色の長髪に泣きぼくろが特徴的な美女で、肉感的と強調されるほど抜群のスタイルを持つ。おっとりとした口調と相まって、妖艶でなまめかしい雰囲気を持っている。

 肩や胸元が大きく露出しているローブに魔女帽子を身にまとっており、身の丈ほどの大きな杖を所持している。

 

「仲間が、装備を、取りに行ってる、暇潰し。それよりも、貴方は、知っている? 鉄の、巨人の話」

「いや、知らないな」

「つい最近の、話だから、情報が出回って、ないのね。鉄の巨人は、文字通り、金属で出来た巨人、のこと。それを擁する組織が、声明を、発表したの。冒険者、と国家を、従える新たな秩序、統治企業連盟。この世界の、あらゆる種族と国家に対して、宣戦布告したの」

「それは剛気な話だ。それで?」

「主だった国は、完全制圧され、あらゆる種族を力で支配している、らしいわ」

「その割にこの辺りは平和だが……まぁ辺境だからな」

「彼らの、圧倒的な力と、組織力は、全て祈らぬ者(ノンプレイヤー)の駆除、に注いでる、みたい、よ? 支配したのも、私たちを、効率良く活かす手段でしかない、みたい」

「支配するが徴収せず、か。不明瞭だが、我々祈る者(プレイヤー)の味方をしてくれるならそれはそれで結構な事じゃないか。纏まらない世界で数少ない勇者頼みをするよりも、不自由があれど統一された軍隊の方が被害を抑えられる。戦いは数と言われるが、その真骨頂は高い質を多く得られることにある。特に神殺しにおいては数も質も必要となる。祈る者(プレイヤー)による総力戦、それを手助けしてくれるんだ。善神の化身かもしれないな」

 

 皮肉げに笑う。

 魔女は受付の上にある時計を見て「時間、ね。元気で」と残して去っていった。入れ違いにゴブリンスレイヤーと牛飼娘がやってくるのが見える。同時に昇格の話を受けていた女神官も部屋から出てきていた。

 女神官はゴブリンスレイヤーを見つけると駆け寄っていく。

 

「ゴブリンスレイヤーさん!」

「どうした」

「お体は大丈夫ですか?」

「ああ」

「あの、これ、見てください!」

「黒曜……十位から九位になったか」

「はい! 無事に昇格しました! 経験点が足りるかちょっと不安でしたがオーガと戦ったのが大きかったみたいで」

「オーガ?」

 

 そこに火のない灰は話しかける。

 

「あのデカイ人形の怪物の事だ。地下遺跡にいただろう?」

「アイツか」

「そうだ、そいつだ」

「火のない灰さん!」

「黒曜に昇格になったんだね、おめでとう」

「はい! それもこれも全部お二人のおかげです!」

「いや……」

 

 ゴブリンスレイヤーは首を振った。

 

「俺は何もしていない」

「いいえ、そんな事はないですよ! 最初に会った時に助けてくれたじゃないですか」

「だがお前の仲間は全滅した」

「それは……でも、それでも私は助けてもらったんですからお礼くらいちゃんというべきだと思うんです」

 

 女神官は頭を下げた。

 

「ありがとうございました」

 

 女神官は「神殿に報告してきます」といって去っていった。

 

「随分と複雑そうな雰囲気を出しているな。感謝されるのは嬉しいが、自分のような存在にそれだけの価値があるのか分からない。といったところか」

「その通りだ。俺はゴブリンだけを殺してきた。守るためでは無く殺す為に戦ってきた。結果的には助けられた人もいただろう。だが理由が違うのであればその感謝を受け取るのは間違っているように思える」

「どちらでも良いのさ、そんな事は。守る為に戦って殺せれば良い。殺す為に戦って守れた命があっても良い。感謝なんてものは結局は相手次第だ。勝手に感謝させておけば良い。目的はゴブリンの排除。それを見失わなければ何があっても良いのさ」

「そう、だな。その通りだ。俺はゴブリンスレイヤー。ゴブリンの天敵であろうとする者」

 

 ゴブリンスレイヤーは何かを得たようだった。

 

「これからも宜しく頼む」

「任せろ。お前の背中は俺に預けな」

「では、牛飼娘のところへ行ってくる。さらばだ」

「ああ、また明日」

 

 ゴブリンスレイヤーを見送って、火のない灰はこれからどしようかと当たりを見渡す。すると妖精弓手を見つけた。エルフ特有の長耳は垂れ下がり、落ち込んでいるのが一目でわかる。

 火のない灰は近づき、声をかけた。

 

「貴公は随分と気落ちしているな」

「そりゃあ落ち込みもするわよ。アイツらとはそれなりにパーティ組んでいたんだし」

「闇霊は戦闘力と戦術に長けている。あそこで二人が死んだのは私のミスだ。済まなかった」

「やめてよ。冒険者を選んだのは二人なんだから、それに貴方は最善を尽くしていたでしょ。今回は運がなかっただけ」

 

 ため息をついて、妖精弓手は壁に背をついてしゃがみ込んだ。

 

「汚れるぞ」

「この休みの間に、二人の死亡報告とお墓を作ってきたわ。長い間生きているから、こういう経験は過去にもあったけど、慣れないわね。辛い。泣きたい」

 

 火のない灰は膝をついて、妖精弓手を抱きしめる。

 

「泣きたいのならば泣くと良い。それも生者に与えられた権利の一つだ」

「何それ。それじゃあ貴方は生者じゃないみたいじゃない」

「その通りだ。今の私は白霊。霊体だ。ゴーストといっても良い。召喚主(ホスト)に付き従うこの世あらざる者。それが私だ」

「そういえばあの赤いの。闇霊って言っていたわよね。あれは何なの?」

「あれは生者のソウル……具体的には火の宿主を狙って異世界より侵入してくる悪しき霊体だ。私とは正反対の性質を持つ。守護ではなく殺害を目的とした存在だ」

「そんな奴がいたなら名前くらい聞いたことがあると思うんだけど、何一つ情報がないのは何故?」

「それは分からない。だが私の世界では日常茶飯事だったのは事実だ。この世界で召喚されて、何度か戦っているが、奴らが現れた時には一定の空間が切り取られ霧の壁が発生する。その中で起きた事は外部には漏れない。そして例外なく殺されていると推測する」

「過去にも闇霊はいたけど、皆殺しにされてるから情報が上がらなかって事?」

「冒険中に行方不明ならばならよくある事として片付けられてしまうだろう?」

「なるほどね。そういう事か。ありがと、教えてくれて」

「これも何かの縁だ。貴公にはお守り代わりにこれをやろう」

 

 そう言って火のない灰は妖精弓手に指輪を渡した。

 

「指輪?」

「そう、犠牲の指輪という。犠牲の儀式によって作られる罪の女神ベルカの神秘の指輪。死んだときソウルを手放さないが引き換えに、この指輪は失われる。犠牲の価値は敬う者次第だ」

「うーんと、つまりどういう事?」

「もし死亡した時この指輪を装備していたなら、死を肩代わりさせることが出来る。指輪は壊れてしまうが、欠損部位も含めて再生する」

「なにそれ!? 凄い指輪じゃないの!?」

「ああ、これを貴公にやろう。貴公はゴブリンスレイヤーに心を割いてくれている。その礼と先行投資だと思ってくれ」

「ありがたくもらっておくわ」

「……おい、何故左薬指につける。意味がわかってやっているのか」

 

 そういうと指輪を翳しながら、悪戯っぽく笑って言う。

 

「あら、知っているわよそれくらい。生まれて初めてだからね。特別感を演出したのよ。貴重なものをくれたんだもの、相応の返しをするのが礼儀でしょう? この指輪に誓って、もし貴方が困っていたらいつだって駆けつけるわ」

「そうか。まぁ良いだろう。好きにすると良い。私はこれで行こう。裏庭で新人の稽古をつけているらしい。それを見にいく。貴公もついてくるか?」

「へぇ……確かにベテランの冒険者に新人を教育させようって動きはあったけど、ここはもうやってるんだ。ついていくわ。もう用はないしね」

「好きにしろ」

 

 落ち込んでいた姿はどこへやら。晴れやかな笑みを浮かべて火のない灰の後をついていく。その妖精弓手の頬はほんのりと赤かった。愛おしげに指輪に触れる。



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