大長編ドラえもん のび太の宇宙大決戦 (はならむ)
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Part.1 プロローグ

広大な外宇宙では数多の惑星とそこに繁栄する生物が今日もまた力強い生きようとしている。

だが、そいつらはとある銀河の中にある有人惑星の全てを奪っていた。

 

「生きてる奴は1人たりとも逃がさず皆殺しだ!!」

 

 

灼熱の炎と建物が崩壊し瓦礫が散乱する街。まるで爆撃を受けたかのような散々たる状況。謎の大勢の男達がそこに住む種族を襲っていた。ある者は略奪、ある者は破壊に殺害、ある者は捕らえた女性を自分の性欲を満たす道具として使っていた。

 

 

「じじいっ、早く往生せんかい!!」

 

足の悪く、逃げ遅れた老人の頭を掴む否や地面に何度も、何度も叩きつける男。痙攣したかと思えばすぐにその老人はもはや動いていなく、それを確認するとまるでゴミのように投げ捨てた。

 

「けっ、やっぱ年寄りは殺しがいがないな。すぐに死んじまう」

 

中には、

 

「ひいいっ!!」

 

「おっとアマ、いい身体してんじゃねえか~~♪ぐふふっ……」

 

 

青色の皮膚が全身に染め、身体の全筋肉を浮き立たせた大男が逃げ回る一人の女性の髪の毛を乱暴に掴み、引っ張り、すぐ近くの家の中へ入っていき……。

 

「ヤアアァァーーっ!!」

 

中から聞こえてくる「ハッ、ハッ、ハっ」と興奮しているような断続的に息を吐く男の声、悲鳴から次第に淫らな喘ぎ声と泣き叫ぶ声の混じった女性の声……中では男が想像もしたくないコトに及ぶ光景が目に浮かぶ。

 

……途中から、『グキャッ』という首の骨へし折るような鈍い不快音が聞こえると同時にその女性の声が全く途絶えてしまった……。

 

その数分間、家から男だけが出て、疲れと満足感が混じったかのように大きく息を吐いた。

 

「いい女だ。『しまり』がよかったぜ。これでしばらくは持ちそうだな」

 

……他にも、ある男は小さな子供を燃え盛る火災が起こる家に無理矢理放り込んで丸焼きにしたり、ある男は舌を刃物で切り取って、血と吹き出しながらのたうち回る住人をいたぶり殺したりと……明らかに『人間性』が微塵も感じられない暴虐の限りを尽くしていた。

 

廃墟と化した街の中心には食糧や医療物質、金属、機械類、所謂戦利品が片っ端から集められて山のように積み重なっている。そんな中、一人の大男が先頭に立ち、並みいる荒くれ者を束ねて指示していた。

 

「よっしゃあもうすぐでこの星も制圧だ。終わったら早く酒でも飲もうぜ!」

 

男は高らかに声を張り上げると大勢が歓喜した。

 

「おおっリーダー!!」

 

リーダーと呼ばれた男は黒いタイツみたいな服に身を包み、その顔からは幾多の闘いを経験したかのような猛々しい表情をし、その真っ赤な瞳はまるで燃える野獣の瞳だった。

 

「おうユノン、まだ制圧してない所はどこだ?」

 

男は耳に装着している通信機と思われる小型機械に手をあてて喋りだした。

 

 

『120ギャロの075方位にまだ破壊されていない街があるわ。しかしそこの住民と思わしき反応は街の中心部から120メルト程の地下に密集してる……どうやら避難をしているようね』

 

通信機から透き通るようでありながら、どこか冷たい雰囲気を漂わす女性の声が流れ出る。その声を聞いた男はニィっと不敵な笑みを浮かべた。

 

「お前ら、今からまだ制圧していない街へ向かう、俺についてこい!」

 

男達はその男の言葉に従い、近くに停滞していた各飛行ユニットに乗り込み一斉に飛び始めた。

 

…そこから120キロの東南に位置する街、オーラル。その街の地下避難所では住民と思わしき人々が臆しながら身を隠していた。

 

「お母さん、こわいよぉ~」

 

「もうしばらくの辛抱よ。ここにいればなんともないわ」

 

ある母子の会話から恐怖というものがじわじわと伝わってくる。

 

「はあ……なんでこんなことに……」

 

「こんな辺境の惑星にまで奴等の手が……」

 

一人の男性がぼそっと口にした奴等とはあの男達のことだ。そう…奴等は有人惑星に突然押し入り、強奪等の悪事の限りを尽くす悪の組織なのである。

 

だがそれのつかの間、突然の爆発と共に、轟音を上げて地下避難所の天井が一気に崩れ始めた。

 

「うわあああっ、奴等がきたぁぁっ!」

 

「キャアアアッ!」

 

大勢が生き埋めになる中、ついに奴等は地下避難所にまで攻め入ってきた。

 

「ここにいたか。すまねえが全員くたばってもらうぜ、一人残らず皆殺しにしな!」

 

黒タイツの男はかろうじて生き埋めにならなかった住民達に指を指すと、男達は一斉に襲いかかる。

 

「助けてぇぇっ!!」

 

「ぐわぁぁっ!!」

 

住民の断末魔が辺りに響き渡る。しかし、男達の蛮行は止まることはない。

 

「いたぶるんじゃねえぞ、すぐ殺してやるのがせめてもののな情けだ」

 

男は左手を突きだすと、手首から計4門の銃口がついたギミックが飛び出した。

 

「クククッ、下手に逃げ回ると変なとこに当たって苦しむぜ」

 

逃げ回っている住民に狙いを定め、「ピィ!」と甲高い人口音と共にその銃口から放射された青白い光線が一瞬で住民の頭を貫通し、力なく倒れる。頭部にはピンポン玉ほどの穴が発生し、白い煙とともに脳が焼けた嫌な臭いが立ちこめた。

 

「いっちょあがりだ」

 

「リーダー、ガキがまだ生きていやしたぜ」

 

そんな中、部下の一人が生き残った子供を捕まえて男の元に差し出す。

 

「ぎゃあああっ!ぎゃあああっ!」

 

子供はあまりの恐怖のあまりなりふり構わず泣き喚いていた。

 

「このガキをどうします?」

 

すると男は平然とした態度でこう言い放った。

 

「わかってるじゃねえか?殺れ」

 

無慈悲な男の言葉に部下は躊躇し出すが、男は部下の肩に手をおいた。

 

「周りを見ろ。こいつ以外は全員死んでるぞ?考えてみな、親が目の前で死なれたままで生かせてみろよ、これほどかわいそうな話があるか?こいつの親を殺ったのも俺らだし、なら親子共あの世に送ってやるのがケジメってもんじゃねえか?」

 

「まっまあ……っ」

 

この発言に部下は納得しつつも妙に複雑な気分となっていた。

 

「それにこいつを生かしておいたら将来、俺らを憎み、敵討ちに人生をつかっちまうぞ。そんなの俺も嫌だし、こいつも惨めじゃねえか。ならいっそのこと今のうちに楽に殺してやったほうが幸せなんだよ」

 

「そ、そんなもんですかね……」

 

すると男は部下から子供を取り上げた。子供はさらに泣きわめく。

 

「無理なら俺にまかせとけって。心配すんな、一撃で仕留めてやるよ」

 

男は左手を握り込むと、その鋼鉄の手甲の先から爪のような鋭く伸びる金属の針が四本飛び出し、子供に向かってその爪を向けて構えだした。

 

「悪いなガキ。恨むなら好きなだけあの世から恨んでくれよな!」

 

男の瞬速の一閃が子供の首を横切った時、鈍い音と同時に子供の首が胴体から離れ、それは数メートル離れた場所に『ドチャ……』という生々しい音と共に落ち、一メートル程先まで転がった。

 

そして、はねた瞬間、この子の血液と思わしき濃い色をした液体が首のあった場所から噴水のように吹き上がり、男の顔に浴びせたのであった。

 

「………」

 

男は首がなくなった子供の胴体を離さなかった。その血液がポタポタ下へ滴り落ちて……男の足元に溜まりを作った。

 

「リーダー、どうするんで……」

 

すると男は子供の首が落ちた場所に移動し、胴体を首の横に添えた。

その子の顔の表情を見ると、涙を枯らして疲れはてて何も言わない、動かない、そう感じさせた。

男はそれを見て不敵な笑みを浮かべた。

 

「そのままゴミみてぇに捨てていくのも後味ワリぃし俺がやったことだ、俺自ら小僧を葬ってやらぁ」

 

男は左手を子供の死体に向かって突きだすと、さきほどの銃口のついたギミックを出して、狙いを定め、発射。光線が死体に直撃し瞬く間に子供の胴体と首は青白い炎に包まれる。そう、それは地球における火葬を思わせる弔い行為だった。

男はみるみる内に燃えていく子供を見て何を思ったのだろう。無言でただそれを見つめていた。男はそれに背を向け、部下の方に戻った。

 

「この星の制圧は完了した。戦利品を集めてエクセレクターに戻ろうぜ。今日は宴会だ、酔いつぶれんなよ!」

 

男は満面な笑顔で部下に伝えた。その笑顔で部下達は幾分救われたことか。

部下達はそのノリに乗って大声で歓喜の声を上げた。

馬鹿でかい声が辺りにこだまする。しばらくの間は男たちの声に埋め尽くされていた。

 

◆ ◆ ◆

 

一方。太陽系、第3惑星地球。多くの命が共存する緑の水の惑星が今日も新たな1日が始まろうとしていた。

 

--日本、東京都練馬区すすきが原の一角にある空き地で4人の子供達が何やら話をしていた。

 

「おおっ、これが宇宙旅行に行けるチケットか!スネ夫、これほんとか?」

 

スネ夫と呼ばれる少年は何やらチケットをペラペラはためかしている。

 

「まあね。うちのパパがNASAの所長と知り合いでさぁ。分けてくれたんだよなぁこれが」

 

一般人には滅多に手に入らない物を見せびらかして、自慢するのがこの少年の悪い癖だ。

 

「へえっ~、いいなぁ~」

 

「ほんとっ!」

 

そのチケットを見て、非常に羨ましがる三人。

 

「よかったらみんなにも分けてあげるよ。余ってるからね。まずは、はいジャイアン!」

 

「サンキュー!スネ夫!」

 

スネ夫はジャイアンと言う大柄な少年に一枚のチケットを渡す。

 

「はい、しずかちゃん!」

 

「うふっ、ありがとうスネ夫さん!」

 

もう一枚をとても清純で可愛らしい少女、しずかにチケットを渡す。

 

「今度は僕の番だ~っ」

 

メガネをかけた少年は手をコネコネしながら待ちわびている。が、

 

「はい、終わりっ!」

 

スネ夫は早々と切り上げ、少年は信じられない表情をしていた。

 

「すっスネ夫、僕のは……?」

 

少年の問いにスネ夫はまるで受け流すかのように軽く笑った。

 

「悪いなのび太、このチケット三枚しかないんだ。だからあと一枚は僕のだよ」

 

「……」

 

のび太と言う少年はそれを聞いてガクンと肩を落とす。

こういったことは一度ではないため、わかっていたことなのだが少し期待してしまうためやはり悔しい。

 

「ちぇっ、やっぱり僕一人だけダメなのかよ……いいよいいよ、僕なんかそんな宇宙旅行のチケットより今すぐにでも宇宙旅行にいってやる!!」

 

それを聞いたジャイアンとスネ夫はゲラゲラと笑い出した。

 

「わはははっ、どうせドラえもんに頼る気だろ?」

 

「いくらドラえもんでもそれは無理さ!!わはははっ!!」

 

しずか以外はのび太をバカにしている。ここまで言われると黙ってられないのがのび太の性分だ。

 

「今に見てろっ!!僕は宇宙旅行中に沢山の写真をとってきてやるからな!!銀河系の外の惑星をわんさか撮影してきてやる!!」

 

そう言い残すとのび太は三人から去っていった。

 

「あんなこといって絶対無理に決まってらぁ!さすがに銀河系外まではあまりにも遠すぎるからな」

 

そう言うスネ夫にジャイアンがこんなことをきいてきた。

 

「スネ夫、ところでこれいつ出発なんだよ?」

 

「えっとね、今から30年後かな?」

 

「はぁっ!?」

 

二人は耳を疑った。30年という気の長い年月まで待たないとダメなのかと。激昂したジャイアンはスネ夫の胸ぐらを掴み引き寄せた。

 

「おいスネ夫、30年後ってどーゆーことだよ!?今すぐじゃねーのか!?」

 

「いっ……今すぐとは言ってないじゃんっ!!しかも今の最先端科学技術でも宇宙旅行は無理なんだよぉ!」

 

「なんだとぉ!?オマエ、俺らを騙しやがったな!!」

 

……またいつもの喧嘩が始まった。全く二人は懲りてないのだろうか……。

 

「のび太さん……」

 

しずかただ一人が去っていったのび太を心配していた。

 

 

…その頃、のび太は家に向かって走っていた。

そして寄りすがるような気持ちを込めてこう叫んだ。

 

 

「ド~ラ~え~も~~ん!!」

 

 

物語はここから始まる……。



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Part.2 謎の二人組

早速家に戻ったのび太は共に暮らしている22世紀の未来からやってきたネコ型ロボット、ドラえもんに先ほどの件について頼み込んでいた。

 

「はぁ?銀河系の外宇宙旅行だって?」

 

「頼むよ~!ドラえもんだけが頼りなんだ!!みんなに写真を撮ってくるって言っちゃったんだよ~!」

 

その馬鹿馬鹿しいのび太の理由にドラえもんは目を押さえて呆れ返っていた。

 

「出来るか出来ないか、よく考えてから言ってくれよ!」

 

「ほんとにお願い!」

 

のび太は土下座までして頼み込む。非常に情けない。

 

「全く君は……のび太君、銀河系の外に出るのに一体どれだけの時間がかかると思ってるんだ!こんな暑い時にこれ以上暑くさせないでくれ!」

 

今は8月の真っ盛り、今日も非常に暑い日である。

無論、のび太達小学生は夏休みである。

 

「そうだ、どこでもドアで一気に銀河系外に出れば…?」

 

のび太は閃いたかのようにポンっと手を叩き、聞いてみたがドラえもんはさらに呆れ返る。

 

「あのねえ、どこでもドアは最大で10光年しか行けないの!それに空気のあるところで宇宙とつないじゃったらどうなると思う?ものすごい吸引力でここにあるもの全てが宇宙に投げ出されるんだよ!」

 

「じゃあ前に使ったことがある宇宙救命ボートは?」

 

「あれはドラミに点検に出してもらってるよ。そもそもあれは非常事態に使うものだから普段は使いたくないんだ!」

 

「はぁ……これだけ聞いてもだめかぁ……」

 

自分の思いつきを否定的に返答されて、溜め息をつくのび太。

 

「諦めるんだね。お~暑い暑いっ!下で冷たい麦茶でも飲んでこよ~っ」

 

そうゆうとドラえもんは部屋から去っていった。

 

「……」

 

のび太はやるせなさと暑さも相まって、もうどうでもよくなってきたようだ。

 

「もういいや!どうせ僕は誰からも旅行に招待されない不幸な少年さ!」

 

寝転んだ。次第に無気力となり段々まぶたが重くなってしまい、しまいにはいびきをかき、のび太はその場に寝てしまっていた。

 

◆ ◆ ◆

 

一方その頃、太陽系の木星付近の軌道上には地球の戦闘機をさらに洗練したようなデザインを有した謎の宇宙船が地球に向けて進んでいた。

その宇宙船のコックピットには操縦幹を握る、白と青、黄色を基調とした軍隊の物を思わせるロングコートを着用するバイザーサングラスのような眼鏡を装着した女性とピンク色のモフモフした毛に覆われた丸っこい形をした可愛らしい生物が何やら会話をしていた。

 

「ミルフィ、数時間後には地球に到達するわ」

 

「あ~あ、これで地球を監査するのも何百回目ヨォ?いいかげん飽きてきたわ」

 

その生物の発言に対し、女性は叱咤する。

 

「馬鹿なこと言わないの。これも大切な仕事なんだから。あたし達はこの銀河系と太陽系周辺に異星人が侵略していないかどうか、確かめる偵察任務を任されてるのよ」

 

「はいはい、エミリア『大尉』は本当にマジメですね~。だいたい全宇宙の中でもこんな辺境銀河系の、さらに中にある有人惑星になんか誰も侵略する気にならないヨっ」

 

「ミルフィっ!!」

 

「わっ……分かったヨ……」

 

二人は一呼吸置いて、今度はこんな会話をし出した。

 

「ねぇエミリア?地球人が銀河連邦に加入する日はいつだと思う?」

 

「まだ太陽系どころか火星にすら有人で行くのは無理そうだから少なくとも銀河系外を出るぐらいに技術の進歩がなきゃねえ。そう考えると数百年後から数千年後ぐらいじゃない?」

 

「ひえっ~っ!それまでに地球人は存在しているのかねぇ……っ」

 

「ふふっ、まあ銀河連邦もそこまで存在しているかどうかね。

さあっ、話はそれまでにして地球軌道上の偵察にも専念するわよ。ミルフィ、ソナーを」

 

「アイアイサー!」

 

この二人は一体何者であろうか。ただ会話から察する辺り、地球人に敵対する者ではなさそうだ。

 

◆ ◆ ◆

 

夕方。のび太は未だにのんきに寝ている。するとドラえもんが夕食の知らせを伝えに部屋に戻った。

 

「のび太君、ごはんだよ。起きて!」

 

「……う…んっ、ドラえもん……?」

 

のび太を揺さぶると少しずつ目を開けてきた。

 

「のび太君、もう夕方だよ。それにしてもよく寝るねぇ」

 

「夕方……もうこんな時間か」

 

「ごはんの支度ができたからママが君を呼んでこいってっ!」

 

「そっかぁ。じゃあいこっか」

 

二人は立ち上がると夕食を食べに、一階へ降りていった。

 

「ごちそうさま」

 

食べ終わったのび太の食器にはまだごはんやみそ汁、おかずが残っている。それを見たママは当然黙っているはずもなく、

 

「のび太、ちゃんとご飯を残さず食べなさい!」

 

「だって暑くて食欲ないんだもん。それに昼寝から起きたばかりだからお腹に入らないよ」

 

「せっかく作った料理がもったいないでしょ。それに食べないと夏バテ起こすわよ」

 

「明日はちゃんとご飯食べるから今日は許して」

 

と、忠告を聞かず席を後にするのび太にママは呆れている。

 

「全く、そう言ってまた残すんだから。少しはドラちゃんを見習ったらどうかしら?」

 

複雑な表情で黙々とごはんを食べるドラえもんだった。

 

……その夜、のび太のパパも帰宅し一家団欒で今のテレビを見ていた。するとこんなニュースが。

 

『次のニュースです。今日の〇〇時〇〇分に××県××市××街の路上で男性が血まみれで倒れていると通報がありました。

この男性は、すぐ近くの病院に搬送されましたがまもなく死亡が確認されました。

この男性は刃物で腹部を刺されたと思われる外傷があり、警察はこれを殺人事件として調査を進める方針です。この男性の身元確認を……』

 

その不吉なニュースに全員、寒気を感じた。

 

「いやね……こんな真夏に……」

 

ママを頬に手を当てて心配そうな表情をとった。

するとのび太はパパに顔を向けてこう言った。

 

「パパ、なんでこんなことが起きるのかな? 人を殺すなんてっ……」

 

「さあねぇ……余程の恨みか衝動的なのかわからないけど殺人は絶対にしてはいけないことだよ。どんな理由があってもね」

 

「………」

 

雰囲気が何となく重くなり、ドラえもんはのび太にこう言った。

 

「のび太君、そろそろ上に行こうよ」

 

「うん」

 

のび太は頷くと二人は二階に戻っていった――。

 

◆ ◆  ◆

 

それから数時間後、先ほどの宇宙船が地球間近まで接近していたが、何やら宇宙船の挙動がおかしい。

『ヴィーーッ!!ヴィーーッ!!』と船内では大音量のサイレンが鳴り響き、二人に衝撃が走っていた。

 

「ひゃあああっっ!!後部搭載スラスター部損壊ッ!!制御が効かないヨっ!!」

 

「ミルフィ!あんたがよそ見しているせいでこうなったのよ!」

 

「うるさぁいっ!エミリアだってあのときちょっぴりうたた寝してたじゃないかァ!」

 

 

――何が起こったのか説明すると、5分前、宇宙船は順調に推進していたのだが会話であった通り、二人のふとした不注意が災いし、ちょうど宇宙船の重なる位置に進んでいた隕石が後部の推進スラスターの一つに衝突、破損したのだった。

 

 

「喧嘩してるヒマはないわっ!この推進軌道だと地球圏に突入するわ!?ミルフィ、覚悟して!」

 

「うええん!死ぬんだったら最期に恋人を探すんだったヨォぉ!!」

 

二人が焦りに焦っている内に二人を乗せた宇宙船はそのまま引力作用により大気圏に入っていった。

 

「「いやああああっ~~~っ!!」」

 

宇宙船がまるでロケット花火のように火吹を上げて地球に落ちていった。しかも地球のどこに落ちたかというと……。

 

◆ ◆ ◆

 

夜中12時過ぎ、のび太達はぐっすり熟睡していた。のび太が寝返りをうったその時、『ズドォォーン!!』という小学校の近くにある裏山の頂上付近で何か巨大なものが衝突したような大音量の騒音がした。

 

「う……んっ……?」

 

のび太がその音に目が覚める。しかし、かなり眠たそうな顔をしていて半分意識があるかどうかわからなかった。

 

「のび太君……一体なんの音……?」

 

ドラえもんもふすまを開ける。のび太と同じなのか眠たそうな顔をしている。

 

「さあっ……。ふぁぁっ……あう……。」

 

二人は何事もなかったかのように自分の布団に戻っていった。



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Part.3 発端

その翌日の午前中、空は快晴で相変わらずの炎天下の中のび太は憂鬱そうな顔で空き地に向かっていた。それはジャイアンとスネ夫に呼ばれたからだった。

 

「はあっ……どうせ写真撮ってきたかどうか聞かれるんだろうなぁ……」

 

そうぶつぶつ言いながら歩いていると、道端の電柱の真下にふと目を通した。

 

「んっ?こんなところに花が……」

 

よく見ると、大部分がアスファルトに覆われている地面のそこに、一輪の花が咲いていた。

しかし連日に続く猛暑の影響で、しかもあまり人には目立たない場所に生えているためかろくに水分をとっていないのだろう、その花は萎え始めており今にも枯れてしまいそうだった。

 

「…………」

 

のび太はその花を少し眺めた後、何を思いたったのか二人がいる所とは反対の方向へ走っていった。

……数分後、のび太はまた同じ所に戻り、家から持ってきた小さなスコップを使って、運よくアスファルトに侵されてなく素の土が剥き出しているあの花がある地面を掘り出した。

 

のび太は花を傷付けないように慎重に地面を削っていき、ついには無傷な状態で花を取り出した。

 

それをすぐさま自分の家の庭の片隅に持っていき、それを植えた。

水を上げると、花の葉から雫が一滴、二滴、地面から落ちる。

それを見たのび太は優しい笑みをこぼした。

 

「……これで元気になるといいね」

 

純粋なのかお人好しなのか、この一連の行動は彼の良い部分の性格を表したとも言えるだろう。

 

すると、

 

「おーいのび太ぁ~!!」

 

塀の外からジャイアンの声が聞こえる。

 

「そっそういえば二人に呼ばれてたんだっ!急がなきゃ!」

 

すぐに玄関に向かうとそこにスネ夫とジャイアン、しずかが待っていた。

 

「あれっ?しずかちゃんまでどうしたの?」

 

するとスネ夫が腰を低くした状態でのび太に近寄った。

 

「あのう……のび太、昨日は僕が悪かった、謝るよ。実は折入って頼みがあるんだ……」

 

「え?」

 

◆ ◆ ◆

 

「ええっ?どこでもドアで宇宙へ連れてけって!?」

 

ドラえもんは昨日ののび太が言ったのと同じ頼みごとをされて、すっかり呆れかえっていた。

 

「昨日のび太君に話したけど、どこでもドアは10光年の範囲でしか使えないのっ!!」

 

「じゃあ、その10光年先に連れていってよ。それならいいでしょ?どっかの惑星に降り立ってみたいし。」

 

彼らの頼みこみにドラえもんはため息をついた。

 

「……10光年範囲には大した珍しい星なんかないけど……いいの?」

 

その言葉にコクッと頷くのび太達。ドラえもんはやれやれと言わんばかりに重い腰を起こしてのっそり立ち上がった。

 

「……たくぅ」

 

早速全員は裏山へ向かう。ドラえもん達は人口的に作られたと思われる森の広場に移動し、四次元ポケットから『どこでもドア』を取り出した。そこはとりあえず何が起こっても大丈夫とは言えないが家で開けるよりは幾分安全だったからだ。

 

「いい?すぐ戻ってくるんだよ。何が起こるか分からないから。その前に……」

 

ドラえもんは四次元ポケットを探り、あるものを取り出した。

それはピストルのような形状をした秘密道具だった。

 

「『テキオー灯』、これをかけておかないと向こうは地球とはワケが違うからね」

 

ドラえもんはのび太達にテキオー灯の光を照らす。この光によってどんな環境、状況下においても影響を一切受け付けないのが凄みである。その効能は24時間有効である。

 

「じゃあいこうか!」

 

のび太は興奮しているのか、震える手でどこでもドアのドアノブを握り、グッと開いた――が。

 

「「「「「…………」」」」」

 

ドアの向こうは地球とは違う異様な景色だった。空は暗く、地面は鉄のような金属質に覆われ果てしなく広がる世界だった。

のび太達はドアの向こうに赴いてみる。

何もない。それだけの世界が地平線の如く拡がっているのみであった。

 

「こんなとこじゃ寂し過ぎて面白くなぁ~い!」

 

地球に戻り、ドアを閉める。

 

「のび太じゃダメだ!俺にやらせろっ!!」

 

今度はジャイアンがのび太をはねのけて、ドアノブを握って開いた。

 

「「「「「!?」」」」」

 

そこはさっきよりはかなり明るくなったが、ドアの向こうから不気味な色をしたガスが充満し、こちらに流れこんでくる。

ジャイアンは危険を察してすぐにドアを閉めた。そのガスに間違いなく有害性があると。テキオー灯を浴びた身体なら影響はないが、そんな所にいっていたら頭が狂いそうだ。

 

「ほらね?10光年内の惑星には何の面白みもないだろ?」

 

結果が見えていたドラえもんが諦めさせようと促すが、それが逆効果だった。

 

「僕にもやらせてよぉ!」

 

「いいやっ!!僕だよ!」

 

「お前らには役不足だ!もう一度俺に!」

 

のび太ら男三人がドアの主導権について取り合いしていた。それを見たドラえもんはいっそう情けなく感じたことか、深くため息をついた。

 

「もう三人とも、やめましょうよっ!」

 

見かねたしずかは三人に叱咤した。が、いっこうに治まる気配はない。三人はドアノブをガチャガチャ回し、開けては閉め、開けては閉めを頻繁に繰り返した。

すると、ドアの枠から『バチバチっ!』という音と共にスパークのようなものがほどばしり始める。

 

「うわあ、それ以上乱暴にやるとドアが壊れる!三人ともやめろぉ!!」

 

ドラえもんは慌てて三人の所に駆け寄り止めようとするが三人はさらにヒートアップし、その拍子にドアを強引に引き開けた。

だが次の瞬間『ゴオオオオオッ!!』とドアの中からまるで掃除機のような、いやブラックホールのような超重量による引力が発生し、辺り一面の物を強力な吸引力でドアの中へ飲み込もうとする。

 

 

 

「「「「「うわあああああっ!!!(きゃああああっ!!!)」」」」」

 

 

5人は吸い込まれそうになり、地面に這いつくばるがあまりにも吸引力が強すぎて少しずつ、少しずつドアに近づいていく。

 

「ううっ……早くドアを閉めないと全員飲み込まれてしまう……っ」

 

ドラえもんはやっとの思いでドアに近づいて締めようとするが、力が入らずなかなか閉めることができない。

ここで力を緩めればたちまち吸い込まれてしまう。そうなればどこに飛ばされるかわかったものではない。しかし、ついに……。

 

「きゃああああっ!!」

 

しずかは力つきてしまい、手を離してしまった。宙を舞い、強力な吸引力になすすべもなくドアに向かって吸い込まれた。

 

「しずかちゃんっ!!」

 

のび太はしずかを助けようとして自分も手を離して共にドアへ吸い込まれてしまう。

 

「のび太君っ!!しずかちゃんっ!!」

 

「のび太!!」

 

「しずかちゃんっ!!」

 

三人が叫ぶが時すでに遅し、虚しくのび太としずかはドアの向こうへ吸い込まれてしまった……。

ドラえもんが必死で頑張ったかいもあり、やっとドアが大きな音を立ててが閉まり、瞬間に吸引が停止した。

が、ドアから何やら焦げ臭い匂いがし、よく見るとプスプスと煙があちこちに立ち上っていた。

 

「ヤバい爆発するっ!!みんな離れろぉっ!!」

 

三人は急いでドアから離れよう走り出した。次の瞬間、『ドワァ!!!』と言う強烈な閃光が辺りを包み、同時に衝撃と爆炎が周囲を襲った。幸い誰もいなく、周囲にはあまり物がなかったお陰で地面が少し焦土と化しただけだった。

 

「ううっ……ドラえもんの道具はホントに役に立たねえなぁ…っ」

 

爆心地から少し離れた場所にいたジャイアンが顔を上げ、辺りを見回した。すると左の方向に丸いシッポが突き出ていて、もぞもぞ動いていた。

 

「ドラえもんっ!」

 

ジャイアンはソレに近づいた。どうやらドラえもんらしきモノの首が地面に埋まっているようだ。

 

「抜いて……早く抜いてっ……」

 

その声を聞いたジャイアンはすぐに体をしっかり掴み、力任せで上に引っ張った。すると、ボコッという音と共に真ん丸なドラえもんの顔が飛び出した。

 

 

「ぺぺぺっ、ふう……」

 

酷い目にあったドラえもんは起きあがるなり、ジャイアンを見るとぐっと睨み付けガミガミと怒りをぶつける。

 

「たくうっ、乱暴にいじっちゃって!いいかい、僕の道具はデリケートなんだ。強引に使用したら壊れるに決まってるじゃん!どうしてくれるの!?もうどこでもドアが使えないじゃないか!」

 

それを言われてさすがにシュンと縮こまるジャイアン。

 

「ドラえもん、なんであんなことになっちまったんだ?」

 

ドラえもんは腕組みをして頭を傾げた。

 

「う~ん、多分強引にいじりすぎたせいで空間と空間を繋ぐ装置が狂って暴走したかあるいは……」

 

すると、

 

「ドラえも~んっ!!ジャイア~ンっ!!こっちにきて~っ!!」

 

山の頂上付近から二人を呼ぶスネ夫の声が聞こえる。二人は急いでスネ夫の所まで駆けつけた。

 

そこには、三人は驚愕した。裏山を象徴する『千年杉』と呼ばれる大きな木の付近はに多くの木が薙ぎ倒されて、のび太の家の二階ほどある巨大な金属物体が地面に突き刺さっていた。

しかもこの金属は地球では見たことのない材質だ。

しかし形状はいくつかの相違点があるにせよ、地球における軍戦闘機に酷似していた。

 

「なっ……なんだこれは……っ」

 

三人とも、開いた口が塞がらずその場で硬直していた。一体これは何なのか、いつにどこからやって来たものなのか想像出来なかった。



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Part.4 極悪宇宙海賊『アマリーリス』

「う……く……」

 

暴走したどこでもドアに吸い込まれたのび太は気を失っていたが今やっと目が覚めて起きあがる。辺りを見回すが辺りは真っ暗で何も見えない。

 

「ここは……どこっ……?」

 

のび太は寝ぼけているのか全く状況を把握していない。

とりあえず、右も左も分からない暗闇の中で這うように手探る。

 

「わっ!」

 

暗くてよく分からないが目の前に何かがあるのが分かる。さわさわと触ると何やら生暖かく柔らかい……よく触ると布のような感触がする。

 

「なにこれ……?」

 

何かふっくらしていて柔らかい、例えるならそれは発達中の女性の胸のようだ――が。

 

「がはっ!」

 

「バチィン!」とのび太は頬に平手打ちをかまされたような痛みと衝撃をくらい、顔が酷く歪んだ。

 

「もうっ!!エッチっ!!」

 

そこから声がする。それはのび太には聞き覚えのあるどころか毎日聞いている、というか先ほどまで自分のそばにいた女の子の声だった

 

「その声は……しずかちゃん!?」

 

「えっ!?のび太さん!?」

 

声の主はしずかだった。どうやら二人共、運よく同じ場所に飛ばされたらしい。二人は無事を祝ってエッチなのび太と手を繋いだ。

 

「ああっよかった!けどここは何処なんだ……?」

 

「そっそういえばドラちゃん、タケシさんにスネ夫さんは?あたしたち……どうなったのかしら……?」

 

二人はさっぱりワケが分からない。あの時、なぜあんなことが起こったのか、今何時でここは一体何処なのか?

二人は立ち上がり、のび太は手を前に出しながら一歩、一歩とゆっくり歩き始めた。しずかはのび太に寄り添っている。数メートル歩いた地点で突然、自動ドアが開き一気に光が射し込むと。どうやらここが出入口のようだ。

 

「なんだここは……っ!?」

 

「…………」

 

そこから出た二人は驚愕した。どうやら通路のようだが今まで見たことのない形は金属質で形成された壁に覆われ、たったひとつのライトで広範囲を照らせるほどの非常に明るく過ぎる照明。通路を見ると左右に別れていて、どちらも奥が見えない。

見る限り、何十メートル、数百メートル、いや何キロ程の果てしない距離がありそうだった。

 

「とりあえず歩いてみようか……」

 

「ええっ……」

 

二人は右側の通路を選び、一体ここがどこなのか、これから

先に何が待ち受けているのか分からない未知の領域に恐怖しながらも恐る恐る歩いていった。

 

◆ ◆ ◆

 

一方、ドラえもん達3人は例の金属物体を調べていた。

 

「これはスゴい……地球の金属や科学技術じゃ作れない『オーバーテクノロジー』だ」

 

ドラえもんは驚きを隠せない声を張り上げる。これが一体どこからきたのかわからないが、分かったことは『地球の物ではない』ことだった。

 

「ドラえもんっ、こっちに来てっ!!」

 

スネ夫の声にドラえもんとジャイアンは彼の元に向かった。

 

「これって扉じゃないかな!?」

 

スネ夫が指す先には謎の金属が立ちはだかる……装甲らしきフォルムの側面部に四角のラインがあり、そこだけ出っ張っていた。

 

「……よし、開けてみよう!」

 

ドラえもんはそこに近づき、立ってみた。

 

……………動かない。壊れているのか、そもそも扉ではないのか?

 

「こうなったら……『通り抜けフープ』!」

 

ドラえもんはポケットからフラフープのような物を取り出し、装甲に張り付ける。

すると装甲を通り抜けフープの中だけ金属がなくなり、大穴が出来上がった。

 

「僕が中に入って確かめてくる、二人は外で待ってて」

 

ドラえもんは穴の中に入っていった。

 

「…………」

 

内部は非常に広い。しかも地球では到底造れなさそうな装置や見たことのない金属で出来たオブジェがあちこちに配置されていた。

 

「んっ?奥に何かあるぞ」

 

地面に突き刺さっているため、内部の位置が上下になっているハズなのだがどんな技術でこうなっているのか内部は平面になってるような感覚だ。ドラえもんは奥にあるドアらしきモノの前に立ち止まった。するとガシュッと音を立てて、それが上に向かって開いた。

 

「あっ!」

 

その奥には沢山の精密機械と装置、操縦幹が設置されており、操縦室と思われる。

しかし、その床で淡いクリアブルー色のミディアムヘアーの女性らしき人物と体毛がピンク色のもこもこした丸っこい不思議な生物がぐったりと倒れていた……どうやら気絶しているらしい。

 

「たっ大変だ、早く救出しなきゃ!」

 

ドラえもんは急いで外に飛び出てジャイアンとスネ夫に助けを求めるのであった。

 

◆ ◆ ◆

 

そしてのび太達は果てしなく長い通路をひたすら歩いていた。

だが全く先の見えない通路を歩き疲れて二人は体力の限界に来ていた。

 

「いっ……いったいどこまで続いてるんだろう……」

 

「ちょっと休みましょう……」

 

二人はその場で立ち止まり座り込む。同時にため息をつき、額の汗を手で拭った。

 

「一体ここはどこなんだろう?」

 

「そもそもここは地球なのかしら?見たかぎりどこかの基地か何かの中にいるみたい……」

 

二人は正直、不安だらけだった。無理もない。

歩いても歩いても先が見えない通路、全くといっていいほど人のいる雰囲気が全くなく、ここは誰もいないのかと疑いたくなる。

 

しかしさっきの自動ドアにしても照明にしても、明らかに無人とは思えず、もし人がいたとしてもそれが地球人なのか……いや、そもそも味方なのか敵なのか全く予想がつかなかった。それでも人がいれば話せば分かってもらえるかもしれない。二人はそう考えていた。

 

「そろそろいこうか」

 

二人は立ち上がり、再び果てしない通路を歩き始める。そして数分後。

 

「んっ?」

 

先が見えない奥から何か緑色に光る物体が高速で近づいてくる。

 

二人は急に安心感を覚え、顔を向き合い頷いた。すぐにその光に向かって走りだすのび太達。それと同時に光る物体も高速でのび太の方へ近づいていく。しかしそれが全ての始まりだった。

 

「何者だキサマら!」

 

のび太達は目を疑った。宙に浮く円盤のような乗り物の上に立ち、まるで奇妙ともいえるペイントを施した赤色の全身タイツに身を包み、顔はまるでトカゲとも言える爬虫類のような鱗に覆われる顔をした男だった。しかし、言葉を流暢に扱う様を見ると非常に知性は高い。そう……地球人ではなく、異星人だ。

 

「ひいっ!!僕たちは決して怪しいものではぁ!」

 

「あわわわっ……」

 

のび太達は酷く動揺し慌てふためいている。

しかしこの行動がさらにこの男を逆撫でることとなる。

 

「侵入者だ!覚悟しろ!」

 

男はぐっと睨み付けて腰のガンホルダーから拳銃らしきものを抜き出しのび太達に向けた。

 

「ヤバい!しずかちゃん逃げよう!」

 

のび太達は即座に振り向いて走り出した。

男はトリガーを引くと銃口から赤色の光弾が発射し、のび太がいた場所の床に命中、火花が辺りに飛び散るとすぐに消えた。

そしてすぐに内部に大音量のサイレンが鳴り響く。その中でのび太達は必死で逃げていた。

 

「うわあああっ!!ドラえも~ん!!」

 

のび太は走りながらドラえもんの名を呼ぶが来てくれるワケもなく、サイレンの音にもみ消された――。

 

そしてのび太達のいた所からかなり離れた場所の一角の部屋には豪華そうなオフィスチェアに寛ぐように座る大男、そして隣に立つ一人の女性……中央の巨大3Dモニターに映る人の映像を見ている。

 

『ラクリーマさん、艦内の第25格納庫通路付近で侵入者を発見しました。相手はヒューマンタイプの子供二人、一人は男、一人は女です』

 

男はこれは面白いと言わんばかりにニィと笑んだ。

 

「そいつらを捕らえてブリッジに連行してこい。どうやって入ったかは知らねえが子供二人がこのエクセレクターに侵入したとは大した奴らだ。そいつらの顔を拝ませてもらうぜ!」

 

男は立ち上がり、隣にいた女性に視線を向ける。背が高くエメラルドグリーン色のロングヘアーで頭部には犬の耳のような突起物がある非常に美人の女性だった。しかしその女性の瞳から放たれる光は非常に冷たい氷のようだった。

 

「行くぜユノン!」

 

「…………」

 

ユノンと呼ばれる女性は何も喋らず、男についていく。二人はそのまま司令室に出ていった。

 

そしてのび太達は今も必死に走り逃げるが体力が持つはずもなくへとへとになっていた。特にのび太は……。

 

「もっ……もうらめっ……走れない……」

 

のび太はついにその場でへたりこんでしまう。しかししずかは疲れているが顔に出さず諦めまいとのび太を起こそうとする。

 

「頑張ってのび太さん!でないと私達一体何されるかわからないわよ!」

 

「へええっ……」

 

 

しかし、そこまでが運のツキだった。

 

 

「お前らをリーダーの元へ連行する。連れてけ」

 

ついに追い付かれてしまうのび太達。沢山の男達が集まり二人を囲む。男達を見ると種族が違うのか様々なタイプの顔と皮膚をした男達。しかし共通して言えるのが、全員いかつい顔をした悪人顔そのものだった。

 

「いやあっ!離してぇ!」

 

「……」

 

二人は円盤に乗せられて連行される。見知らぬ所に飛ばされ、見知らぬ男達に捕縛され、どこかも分からぬ所に連行されようとしているのび太達二人。

 

「あっ……あたし達どうなるのかしら……?」

 

「さっ……さあっ……?」

 

二人が不安と恐怖の声を漏らしていると、

 

「私語は慎め!」

 

「「ひいっ!」」

 

男のドスの利いた脅し口調の怒鳴り声が二人を萎縮させる。

 

円盤に乗りまるで迷宮のような複雑な構造をしている内部を移動していると、とある行き止まりにたどり着いた。

周りを見ると非常に広く3つの円盤型の装置が置かれている。それは数十人くらいなら容易に乗れそうな大きさだ。

 

 

二人と男達はその内の一番上にある装置に乗る。すると上空から、

 

『行き先を呼応してください。現在エリア10からエリア22は都合の為、移動することは出来ません。そちらへ移動する場合は――』

 

音声が入り、男の一人が大きな声をあげる。

 

「エリア5に移動する。急いでいるので迅速に頼む!」

 

『了解。ワープに移行するため、この範囲中から出ないで下さい』

 

すると、装置内に凄まじい光が全員を包み、飲み込まれる。目にも見えぬ速さで全員がその場から消え去った。

 

「「……」」

 

二人は驚きのあまり唖然とした。数秒間の出来事でさっきとは異なる場所に移動していた。

 

「ここ……もしかしたら宇宙船内か何かじゃないかしら……」

 

「どうしてわかるの?」

 

「だってあたし達が乗ってるお皿みたいな乗り物にしてもさっきの装置にしても……地球の科学力じゃ到底造れないくらいの進んだ科学力よ。あたしの勘だけど……ここ全体が移動してる感じがする……」

 

「えっ?」

 

そう二人がこそこそ話していると、横にいた男が持っていた拳銃をのび太の方へ向ける。

 

「喋るなと言わなかったか?これ以上喋るなら今ここで死んでみるか?」

 

「「ひいっっっ!?」」

 

二人はさらに萎縮する。この男達を怒らせると本当に発砲しかねない。二人は恐怖に怯え、沈黙し連行されていくと不意に円盤が停止。そこには……。

 

「「うわあああっっ…………」」

 

まるで快晴の日中のような明るさで非常に広い。広いってもんじゃない、小さな村一つは入りそうな空間で周りには膨大な数の精密機械が至る所に配備されてある。中央には巨大な司令搭が置かれている。

天井には巨大なウインドウが多数張り巡され、そとからは様々な惑星が写る宇宙が非常によく見える。

まさに壮大、圧巻としかいいようがない。そして、しずかが言ったことが的中した。ここは宇宙船内部である。

 

「リーダー、連れてきましたぜ!」

 

「「うわっ!(キャッ!)」」

 

男達に乗り物から蹴り落とされて地面に倒れ込んだ。

二人は上を見上げると、その高くそびえ立つ司令搭から先ほどの大男と女性が二人を見下ろしていた。すると男はそこからなんと飛び降り華麗に地面に着地、見下ろしながら二人の元へ歩いてくる。

 

「「…………」」

 

二人はその男を見て顔が恐怖でひきつっていた。黒いタイツで全身を纏う膨れ上がった筋肉の身体つき、ぼさついた銀髪で顔の至るところに無数の切り傷が目立つがそれさえなければ非常に端正な顔立ちで、まるで自分たち地球人のような顔である。

しかし、その瞳はまるで紅蓮のような赤い瞳で狂ったかのような螺旋状である。

そして男からは身体中が震え出すほどの威圧感と殺気を帯びるオーラを放っている。

 

「あなたは……一体誰……?」

 

しずかの問いに応えると思いきや、男は左手をしずかに向かって突きだした。左手をよく見ると人間の皮膚ではなく、鈍い銀色の金属で精巧に作られた手……義手であった。

 

「えっ……?」

 

それだけでも充分驚きだがのび太達は突然何をするのか不思議がっていると、『ガシャ!』と男の手首から4つの銃口のついたギミックが四方、しずかに向けて突きだした。

 

「なっ……なに?」

 

何をし出すか分からない男に対し、しずかは恐怖のあまり尻餅をついたまま後退りはじめた――が。

 

「キャアアアアッ!!」

 

「しっしずかちゃんっ!!?」

 

その銃口の一つから発射された青白い光線がしずかの右太ももを貫通し、鉛筆の幅ぐらいの穴と血管を突き破り、おびただしい量の出血。

 

「しずかちゃんっ!!しずかちゃん!!」

 

「いっ……いつ……」

 

のび太はなりふり構わずしずかを必死でゆするが、しずかは全身に大量の汗をかいて足を押さえてうずくまっている。このままでは大量出血でしずかの命が危ない。

 

「なんてことをするんだ!?女の子だぞ!?」

 

のび太は男にぐっと睨み付けるが、それを見もせず今度はしずかに近づき、

 

「いやあああっ!!」

 

なんと男はしずかの貫通した傷口を足でぐいぐい踏みにじる。彼女はあまりの激痛に大粒の涙を流してしまった。

 

「やめろぉぉぉぉっ!!」

 

のび太は踏んでいる男の足を抱き抱えて止めようとするが、男は即座にのび太の頬に強烈な裏拳をかまし、のび太は吹っ飛ばされて床に倒れ込む。すると今まで黙っていた男がついに口を開く。

 

「キサン誰にモノ言ってやがる?」

 

のび太は悶絶しながら頬を押さえる。そして男の方へ見ると男はのび太に尖った歯を剥き出しにした狂気の笑みを浮かべていた。

 

「お前たちはここをアマリーリスの母艦、エクセレクターだと知って侵入したのか?本来なら、見つかった時点で殺されても文句は言えんぜ」

 

それを聞いたのび太は不思議そうな顔をして立ち上がる。

 

「あっ……アマリ……リス……?エクセレ……クタ……?」

 

聞いたことのない名前である。男もあどけない彼の顔を見てきょとんとなった。

 

「なんだ、俺らの事知らねえのか?よほど辺境の宇宙から来たのか。お前らどこの惑星からやって来たんだ?」

 

その問いにのび太は間を空けた後、震える声でこう言った。

 

「ちっ……地球から……」

 

それを聞いた男は驚いたような表情を取った。

 

「地球だと?ならお前らは地球人か?」

 

のび太はコクッと頷いた。すると男は周りにはいた大勢の部下の方へ向いて高笑いしだした。

 

「わはははっ、お前ら聞いたか!こいつら地球人だとよ!」

 

それと同時に部下達も笑いはじめる。

 

「ギャハハハッ、こりゃあ奇遇だなぁ!!」

 

「なんて奇跡だよっ!?イヒハハハッ!!」

 

周りのざわめきを全く理解できないのび太。辺りを見てキョロキョロし出す。すると男は笑い涙を浮かべて、のび太にこう言った。

 

「実はちょうど今、地球に向かってる最中だったんだよな」

 

「え、何で地球に……なっ、なんで?」

 

のび太の問いに男の口からとんでもない返答が。

 

「当然、侵略するためにな!」

 

のび太は耳を疑った。【侵略】……ということはこいつらは悪の組織なのか。自分達の地球がこの謎の組織に狙われているという事実を知ってしまったのであった。

 

「し、侵略!?どうしてっ!?」

 

「別に星自体はいらねえが食糧とか色んなもんを片っ端から略奪するからに決まってんだろ?まあ、あと俺らは常に血と女に飢えてんだよ」

 

のび太は絶望する。侵略されたら自分たちどころか、両親、友達、いや地球人全員が殺されかねない。

それだけじゃない、そうなったら未来世界も改変され、残酷で劣悪な未来となりうるかもしれない。そう気づいたのであった。

 

「まあ運がなかったとしか言いようがねえな。安心しな、てめえらは死んでも親やダチは後で地獄で逢えるだろうぜ!わはははっ!」

 

男は豪快に笑いまくる。この男の人間性の感じられない残虐性、傍若無人さにのび太は絶望もあるが同時に激しい怒りも膨れ上がる。

だが、自分の力では何もできないのが現状であった。この男、見る限りただ者ではない感じがして、周りにも自分達より能力にしても装備にしても絶対的多数である。しずかも大怪我でその場から動けない、それらがのび太にあまりにも無力だということがイヤというほど思い知らされるのだった。

 

◆ ◆ ◆

 

のび太達が今大変な目にあっていることをいざ知らず、ドラえもん達はすぐに謎の二人組を外に運び、木陰の下にその場で看病をしていた。

 

「どっドラえもん……この人達……どこから来たんだろ?」

 

「さあっ……けど多分……宇宙人だと思う」

 

「けっけどさ……この女の人、かなり美人だよなっ……」

 

女性の方はロングコートと言うべきものか丈の長い、白、青、黄色などの基本色を基調とした、ビシッとした軍服らしき服装であった。

顔は地球人と酷似しており、しかも誰もが見とれてしまうほどの美人であった。

 

一方、不思議な生物はモコモコしたピンク色の毛が印象的で、ウサギのような耳と手と足がある。シッポは……なさそうだ。

 

「うっ……うん……」

 

その時、ついに女性が意識を取り戻したようだ。それを見て喜ぶ三人。女性は少しずつは目を開いていく。しかし、

 

「きゃあっ!!」

 

突然、女性は目を手で押さえてうずくまり始めた。

 

「だっ大丈夫ですかっ!?」

 

すると女性は震える声でこう言った。

 

「サン……グラスは……どこっ……?」

 

それを聞いたドラえもんは何か気づいたのか、手をポンと叩いた。

 

「もしかしてこれですかっ!?あの中に落ちてました」

 

ドラえもんは彼女のつけていたバイザーサングラスを取りだし、女性に渡してサングラスをつけるとゆっくりと起き上がった。

 

「た、助かったわ。ありがとう……あっ!」

 

すると女性は何か思い出したか、辺りをキョロキョロ見る。そして地面で寝ている生物に気づくととっさに生物を揺さぶった。

 

「ミルフィ大丈夫!?」

 

するとそれに応えるかのように生物の目を開き出した。

 

「えっ……エミリア……?」

 

その生物も起き上がる。寝ぼけているかボーッとしている。が、すぐにそんな状態が終わる時がきた。

 

「ああっ!?エミリア、ここはっ!?」

 

この生物の能力なのか、風船のように宙にふわふわ浮かんでくるくる回っている。

 

「ここは地球よ。どうやらあたし達はここに不時着したようなの……」

 

「なんですって!?」

 

「全く、あんたがあの時ちゃんとしていればこんなことにならなかったのよ!」

 

「エミリアだって人のこと言えないでしょ!」

 

三人をほっといて口論をおっ始める二人。

 

「あのぅ……話の途中に割り込んで悪いですけどいいでしょうか……?」

 

ドラえもんが恐る恐る声をかけてみると、二人はハッと気付き振り向いた。

 

「あっ……ごめんなさいっ!焦ってたもので……っ」

 

「エミリア、この人達は?」

 

「どうやらこの子達が私達を助けてくれたのよ」

 

「へえっ、いい子達なのね~っ。ありがとうございました~♪」

 

二人はドラえもん達に対して深くお辞儀をする。それに対し三人は急に照れくさくなった。

 

「いやいやっとんでもない!ところであなたたちは……?」

 

すると二人はドラえもん達の方へ行き、手を差し出した。どうやら握手のようだ。

 

「あたしはエミリア・シュナイダー、銀河連邦所属のこの銀河系及び、太陽系周辺の偵察と保護を担当する部隊の隊員よ。エミリアと呼んでくれたらいいわ」

 

「あたしはミルフィ。このエミリアのパートナーで銀河連邦所属のオペレーターヨ!よろしくね♪」

 

二人は自己紹介するが三人は初めて聞く言葉にポカーンとなっていた。

 

「ぎっ……銀河……連邦……?」

 

三人とも頭を傾げる姿を見たエミリアは苦笑いをした。

 

「わっ…わかったわ、分かりやすいように教えるわ……」

 

銀河連邦とは宇宙の平和と秩序を守る正義の連邦組織のことで、いわば宇宙規模を誇る軍隊警察である。

全宇宙から集まった多数の様々な先進種族で成り立ち、様々な部隊に分かれていて、エミリア達はドラえもん達のいるこの銀河系周辺と太陽系内の保護、偵察を担当する部隊に所属する。

 

「すっ……すっげぇっ!!カッコいいじゃん!!」

 

「ぼっ僕も入りたいなぁ!!」

 

歳相応の男の子らしくスネ夫とジャイアンは凄く関心を持っていた。

 

「ここでのび太もいたらさぞかし羨ましがるだろうな?」

 

「そうそう、のび太が……?」

 

ドラえもん達は約三秒くらい沈黙したあと、

 

 

「あ゛あ゛あ゛あ゛っ!!思 い 出 し た あ ぁ ぁ ! !」

 

三人は突然、大声を上げて慌てふためきだした。それを見てびっくりする二人。

 

 

「忘れてたっ!!のび太としずかちゃんはどこに消えたんだ!?」

 

「ドラえもん、何とか探し出せないの!?」

 

「ちょっと待ってて、えっとあれでもないこれでもない!!」

 

ドラえもんは慌ててポケットから物を出すがワケの分からないものがたくさん出てくる。

 

「こんな時に焦んなっつうの!」

 

ジャイアンとスネ夫は情けなくなりひどく呆れている。

 

「あったぁっ、『タイムテレビ』っ!!」

 

手応えを掴んだドラえもんはポケットから多数のボタンがついた液晶テレビみたいな道具を取り出した。

 

「とりあえずどこでもドアよりは遥か先まで見渡せるけど……上手く映ってくれるかな?」

 

ドラえもんはタイムテレビを出して操作をする尻目にエミリア達はとても不思議がっていた。

 

「ねえっ、これはなに?」

 

「これはどの時代、どの場所でも入力した所を映し出してくれるドラえもんのひみつ道具だよ」

 

「どの時代って……あなた何者?」

 

「ドラえもんは22世紀、つまり今から100年後の未来からやって来たネコ型ロボットなのさ」

 

それを聞いた二人は驚きの表情を隠せなかった。

 

「100年後の……未来からですって……?」

 

「ひゃあ~っ、君はスゴいんだねぇ」

 

その間にドラえもんは必死で操作していると少しずつだが何かが映りこんできた。

 

「んっ?なんだ?」

 

「よく見せろよっ!!んっ?」

 

画面の砂嵐から徐々に視界が良くなってくる。しかし、その後にみた全員が目を疑うこととなる。

 

「なっ何なんだこれは……っ?」

 

「しずかちゃんが……倒れている!?」

 

「あと、こいつらは一体何者なんだ?」

 

画面に映ったのは、とても広大な場所に無数の装置と機械が置かれた場所でのび太としずかは謎の男達に囲まれていた。

しずかは倒れたまま全く動かず、すぐそこにもっこり黒タイツを着用した筋肉隆々の体躯の男が対峙しているのび太を追い込んでいた。

 

「こっこれは一体……?」

 

三人が驚くなか、突然エミリアがドラえもん達を割り込んで画面を覗いた。

 

「こっ……この男は……まさかっ!?」

 

エミリアの身体はぶるぶる震えだし、顔もだんだん険しくなってくる。まるでこの黒タイツの男に対して憎悪を剥き出しにしているかの如く。

 

「エミリア、もしかしてこいつらはっ!?」

 

ミルフィも画面を見て、顔色が変わった。どうやらこの二人はこの男達の素性を知っているようだ。

 

「……アマリーリス……あいつは……ラクリーマ……ラクリーマ・ベイバルグっ!!」

 

エミリアは震えながらそう言いはなった。そしてその声からは憤怒の感情もこもっていた。



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Part.5 ラクリーマ・ベイバルグ

「そろそろトドメを刺してやらぁ。まずはこのガキからだ!」

 

男は足の怪我で倒れているしずかの頭部に狙いを定める。

彼女は激痛により、意識が朦朧としていて、ハッハッハッ……っと、短い間隔で弱々しく吐息している。

 

「一撃で仕留める。すぐ楽になるから安心しろ。まあ、聞こえてんのかわかんねえがな」

 

銃口に青白い光が収束していく。それに伴い男の義手全体から『ゴウン、ゴウン』と機械が作動している音が聞こえてくる。

 

「死ねや!」

 

男が不敵な笑みを浮かべた。しかし、

 

「!?」

 

なんとのび太は勇気を振り絞って男の左腕を体当たりでずらした瞬間に光線が発射され、間一髪、彼女の横の床に直撃。間一髪で彼女の頭を貫かれるのを防いだのび太。

 

「てってめえッ!?」

 

男が驚きの声をあげる。のび太はそのまま男の前に立ちはだかると両腕を左右いっぱいに広げた。

 

「こっ……これでも男だっ!僕はっ……僕はしずかちゃんを守るっ!!」

 

のび太にしては勇敢な台詞を言うも、それとは裏腹にのび太は恐怖から身体がガタガタ震えている。男はそんな彼を見てほくそ笑んだ。

 

「おまえ、ブルブル震えてんじゃねえか?そんなんで守るって言っても説得力ねえぞ」

 

「そっ……そんなの……しかたないじゃないかっ……!!」

 

のび太は男に反論する。確かにその通りだ。

小学生がこんな窮地に立たされるのは滅多にないことだ。しかも相手は殺すことに何のためらいも持たない男、恐怖するのは仕方がないことだった。彼は自分なりに友達で好意を持つ少女、しずかを守ろうとしているのだから。

 

「…………」

 

だが男はすぐに無表情になる。そのまま十数秒間のび太を見つめる。

 

一方、それを見ていた男の部下達は男と同じくクスクス笑っていた。

 

「あいつガタガタ震えてやがるぜ?クックック」

 

「まあ相手が俺らのリーダーだからな。仕方ねえけど」

 

そんな言葉が飛び交う中、男は突然、ニイッと歯を出して笑い、のび太にこう言った。

 

「小僧、俺が憎いか?」

 

「えっ?」

 

突然の質問にのび太は動揺する。すると男は周りを見渡し大声を張り上げた。

 

「なあ、誰か実弾銃持ってねえか?もしあったら俺に貸してくれ、勿論弾入りのな!」

 

その言葉を聞いて部下達は初めは「なぜなんだろう?」と困惑するが、すぐに自分の銃を探し出す。すると一人の部下が自分の銃を掲げた。

 

「リーダー、これを使ってください!」

 

「おう、ワリィな!」

 

部下が銃を投げ渡し、男は銃を右手で受け取るとマガジンを抜き、弾丸を一発だけを残して床に置く。マガジンを再び銃に装填し慣れた手つきで素早くコッキングしてそれをのび太に差し出す。

 

「えっっ!?」

 

のび太は銃を持てと言わんばかりの男の手にある銃を見て焦り始める。

 

「ほれ、銃を持て。安全装置は外してあるがまだ撃つなよ?」

 

「えっっ!?えっっ!?」

 

男は無理矢理のび太の手に銃を置いた。ズシンと重い本物の銃がのび太の触感を刺激する。男はのび太から10メートルほど離れのび太の方へ向き、そしてこんなことを言い出した。

 

「今からお前と俺、どっちが早撃ちできるか勝負だ。もし俺を見事に殺れたら地球まで送ってやるよ」

 

「ええっ!?」

 

なんと男はのび太に早撃ちによる決闘を申し込んだのだった。それは誰もが予測していないことだった。

 

「りっリーダー!!何考えてるんスかっ!?」

 

「そんなガキ、もう殺りましょうよぉ!」

 

部下達から反感を買われる男。なぜなら今までこんなことはなかったからだ。

 

「いいじゃねえか。たまにはこんな余興も必要だ」

 

男は気軽にそんなことを言う。

 

「もし万が一、リーダーの身に何かあったらどうするんで?」

 

男への心配から飛び出した発言に男は質問した部下にニイッと笑って受け答えた。

 

「俺が死ぬわきゃねえだろ?まあ万が一、俺がくたばっちまったら……ユノン!」

 

男は司令搭のてっぺんから二人を見下ろしている謎の女性、ユノンに向かって声をかけた。

 

「その時は……お前が俺の後を引き継ぐんだ。なあに、お前の頭脳と知識なら充分やってけるさ!」

 

「…………」

 

ユノンは何も言わず、ただ男を見つめているだけだった。部下たちも悲しげに男の言葉を聞いていた。

 

「リーダーっ……」

 

男は再度のび太の方へ向くと、また不敵の笑みを浮かべた。

 

「そういうワケだ。約束は絶対に守る、思う存分自力を出しきってくれ。お前らも、もし俺がやられたらこいつらを地球に送り届けてやれ、いいな!」

 

それを聞いてここにいる者全員が静まりかえる。間違いない、この男は本気で自分の命を賭けにきている。その気迫と自信が十分に感じられた。

 

「あわわわわっ……」

 

のび太の身体中ぶるぶる震えている。もう生き残るか死ぬかの二つしか選択肢がないように思えたからだ。生死をかけた決闘に彼の顔には嫌な汗がだらだら流れてきている。

それを見た男はのび太を奮い立たせたいのか、こう言い放った。

 

「小僧、この女を守りてえんだろ?勝ったらこいつの傷を治してやる。お前も男なら命をかけて女を守ってみろってんだ」

 

「……けっけど僕は小学生の子供だよ!こんないきなりの決闘なんて!」

 

「けっ!なら二人ともここで死ぬか?俺は容赦なんぞしねえがな」

 

のび太の顔が青ざめる。それに反して男はさらに追い打ちをかける。

 

「子供だろうがなんだろうが、ここはそんな肝っ玉のちいせえ男は生きる資格がねえんだ。てめえみたいになよなよしてるヤツはこの俺が自ら地獄へ送ってやらあ。さあどうする?やるかやらねえのか……どっちだっ!」

 

その言葉からはしてもう逃げ場などなかった。例え命乞いをしても逆に男に怒りを買い、殺されてしまう。ということは……。

 

「ほ、ホントに勝ったらしずかちゃんを治して、地球へ送ってくれるんだね……っ?」

 

ついに覚悟を決めたのび太。それを聞いて男は嬉しくなりニィっと笑みを浮かべた、

 

「おうよ、それにもう地球には関わらねえと約束する。命の賭け合いをするんだ、そのくらいの条件はつけねえとな」

 

それを聞いたのび太はうなづいた。すると男はある部下の方へ向いてこう言った。その男はのび太達を最初に発見し、発砲した身体中に鱗を持つ男である。

 

「おうレクシー、お前の手叩きの合図で勝負する。タイミングはお前に任せるぜ」

 

レクシーと言うその男は頷き、震え声で男にこう言った。

 

「リーダーっ……無事を信じてますぜ……!」

 

男は自信げにガッツポーズをとった。一方、のび太は倒れているしずかをもの悲しげに見ていた。

 

「しずかちゃん……負けたら僕たち死んじゃうけど……その時はごめんね……っ」

 

言ったことを後悔し始めるのび太。なぜこんなことになったのか、もし負けたら自分達は、ドラえもん達は、地球は……。

 

しかし、のび太にあることがよぎった。

 

(なっ……何考えてるんだ僕は……僕には、僕には射撃という誰にも負けない特技があるじゃないか!?)

 

普段は何をやってもダメな小学生、のび太。しかし彼にも非凡な才能を持っている。居眠り、あやとり……その中でも際立っているのがそう『射撃』である。

 

彼はかつて様々な悪や敵と戦った。崩壊寸前のコーヤコーヤ星で対峙したガルタイト鉱業の用心棒で宇宙の殺し屋ギラーミン、その圧倒的戦力で地球人を奴隷にしようと企んだメカトピア星の鉄人兵団……etc。そんな戦いを助けてくれたのはこの才能のおかげと言っても過言ではなかった。

 

そう……のび太は自分の才能に全てを賭けようとしていたのだ。そんなのび太を見て、

 

「お前、ただのガキじゃねえな。銃の持ち方と今の雰囲気からして戦い慣れしてんじゃねえか……おもしれえ!」

 

辺りに緊迫した空気が辺りを包む。両者とも互いに睨み合う。勝負は一瞬、どちらかの発砲で全てが決まる――。

 

その静寂を破り、ついにレクシーが力強く手を叩き合図が聞こえた瞬間、両者とも己の武器を同時に上げ、そして。

 

「……………………」

 

甲高い発砲音がこのエリア内に鳴り響いた。全員がまるで時の止まったように静止している。もちろん、二人も静止していた。しかし同時に男の頬の部分に横一筋のかすり傷ができ、そこから男の血液が少し流れ出ていた。

 

「はあっ……はあっ……」

 

のび太は息が酷く荒れて、銃を地面に落としそのまま膝をつく。一方、男は頬にかすったような痛みが走り指を当てると濡れた感触がして、見てみると自分の血がついている。

 

先に撃ったのは実はのび太だった。しかし、男を殺せなかったのはのび太の優しい性格が無意識に男の身体に銃弾を撃ち込まれなかったのかもしれない。

 

「クククッ……わはははははっ!!」

 

急に男は馬鹿みたいに大声で笑いだす。それをその場にいた全員がポカーンと見ている。

男はしずかをお姫様みたいに抱き抱えると、周りに聞こえるようにこう言った。

 

「こいつをメディカルルームに連れていって治してやれ。今ならまだ間に合う!」

 

その言葉は全員を驚愕させる一言だった。部下全員がざわめき出した。

 

「ちょっとまってくだせえ!しょ……勝負は!?」

 

部下の問いに男はのび太に向かって指を指した。

 

「勝負はあいつの勝ちだ。だから条件通りにこいつらを地球に送り帰す、地球侵略もやめだ!」

 

部下は一層ざわめきだした。なぜならどっちも死んでいない、つまり勝負は決まっていないのに男はのび太に勝利を宣告したのだから。それを男は部下に説明する。

 

「見ろよ、この俺の顔の傷を。あんなガキがこの俺より先に撃ったんだぜ、それだけでもすげえとは思わねえか?

しかも、殺す殺す言ってた俺さえもこいつは俺を殺さなかった。アマちゃんだと思うやつはいるかもしんねえけど俺からしたら大したガキだよ」

 

それを聞いた部下達は全員呆れ返る。しかし、レクシーただ一人はニヤニヤした顔で拍手をし出した。

 

「リーダーの言った通りだ。こいつの勇姿を見せてもらったぜ。地球人てのは案外やるかもな、ハハハハハッ!」

 

レクシーの言葉と笑い声に賛同したのか他の部下たちも、

 

「んだなっ!!ギャハハハハッ!!」

 

なんということだろう。今までの重い空気と違って今はうるさすぎるほどの笑い声の合唱に周りは急に明るくなったのだ。

その中、男は膝をついて放心状態ののび太の方へ足を運び、前に立つと手を差し伸べた。

 

「お前の勝ちだ。よかったな」

 

のび太は顔を上げるとそこには爽やかな笑みを浮かべた男が手を出している。

 

「えっ?僕……勝ったの?」

 

「その通りだ。今からこいつをメディカルルームで治療する。この程度の傷なら治すのに時間はかからん。付き添うか?」

 

するとのび太は急に安心感を得たのか、大きなため息をついて力が抜けたのかヘロヘロになった。それを見てニヤッと笑う男。

 

「俺はアマリーリスの総リーダー兼この宇宙船エクセレクターの艦長を務めるラクリーマ……ラクリーマ・ベイバルグだ。お前は?」

 

のび太は恥ずかしいのか頭をかいてこう言った。

 

「僕は……野比のび太。みんなからのび太って呼ばれてるよ」

 

「ほう、のび太か。随分と変わった名前だな、よろしくな!」

 

ラクリーマと名乗る男はのび太に右手を出した。どうやら握手のようである。

 

「あはっ!」

 

のび太も笑いがこぼれてラクリーマと握手を交わす。のび太はあの決闘で勝利を勝ち取ったのだ。

 

◆ ◆ ◆

 

「うっ……うん……」

 

しずかは意識を取り戻したようだ。視界がぼやいていたがすぐに見えるようになった。

 

「しずかちゃん!」

 

「のっのび太さん……?」

 

しずかはベッドから起き上がると辺りを見回した。さっきの広い所とは違い、水色に光る証明にアクアマリン色をした謎の装置が至る所に置かれている奇妙な場所だった。

 

「ここはっ……それよりあのあとどうなったの!?」

 

不思議がるしずかにのび太は笑顔でこう答えた。

 

「ここは治療室。ここの人達は僕たちを受け入れてくれたみたい」

 

「ええっ!?どうやって!?」

 

「そっそれは……」

 

二人が会話していると、足音が聞こえて段々近づいてくる。

 

「よおっ!足の具合はどうだ?」

 

「ひいっ!」

 

現れたのはあの男、ラクリーマであった。彼を見たしずかは当然怯えてのび太の背中にさっと隠れる。

 

「悪かったって、そんなに怯えなくてもいいだろ!」

 

ラクリーマは苦笑いした表情でしずかをなだめようとする。

 

「ラクリーマが僕たちを地球に送っていってくれるって!」

 

「ほっホントに!?」

 

驚くしずかに深く頷くラクリーマ。

 

「お前らは客人扱いだ、ここからだと地球までちいと日にちがかかるが旅だと思ってゆっくり楽しんでいってくれ。お前たちの部屋も手配するし、あとで部下に頼んでエクセレクター艦内を案内させる」

 

それを聞いたしずかは何か気の毒そうな顔をした。

 

「いいんですか……?そこまでしてもらって……っ」

 

「礼ならのび太に言ってくれ。元々お前らはあの場で殺すハズだったがこいつの行動がお前らを救ったんだ。俺はただ約束を果たすまでだ」

 

それを聞いたしずかはのび太を見つめる。

 

「のび太さん……何があったの?」

 

「そっそれは……まあ男同士の約束かなっ?ハハハ……」

 

「え?男同士の……?」

 

ワケがわからず頭を傾げるしずか。すると男は二人にこう言った。

 

「数時間後に食堂で宴会やるからお前らも参加しろ。それまではお前らはここで待機しているといい。部下がお前らを案内する。まあ……お前らの歓迎会みてえなモノだな。俺は仕事があるから戻る。体を休めとけよ、じゃあな」

 

そういうと手を振りメディカルルームから出るラクリーマ。

そのまま司令室へ向かおう右へ向くとそこにはあの女性、ユノンが壁を背に寄りかかり、腕組みして待ち構えていた。

 

「ねえ、どうゆうつもりなのラクリーマ……?あんな子供たちを受け入れた挙げ句、せっかくの地球侵略を棒に振るなんて……なに考えてんの……?」

 

睨みを利かせる彼女の口から出た言葉は非常に冷たい言葉だった。ラクリーマにそれを不敵の笑みで返した。

 

「いいじゃねえかユノン、宇宙は広い。地球よりもいい星が宇宙中にごまんとあんだろうが」

 

二人は並んで長い通路を歩きだした。

 

「のび太さあ、ビビって震えてたが俺に立ち向かってきやがったろ?今までの奴らは俺の前では命乞いをしたり、ただビクビクした小物だらけだった。そんな奴らにはうんざりしていたところだ。

だがあいつはしずかを守るために体を張って俺に反抗した。で、俺はこう思ったんだ。『ただ殺すには惜しい』ってな!」 

 

彼女はその理由に呆れ返った。

 

「……あんたのその馬鹿な考えについていってらんないわ、アホらしい……っ」

 

その言葉に対しラクリーマは不敵な笑みを浮かべてユノンを見つめた。

 

「へっ、俺はそんな馬鹿な考えを思い付くのが大好きだがな。まあ気にすんな。他の星の侵略作戦の立て直しといこうか!」

 

するとユノンはラクリーマにこう問いかけた。

 

「……ところであんた、もし自分が死んだらあたしに引き継げっていってたけどあれ本気だったの……?」

 

「おう、俺は嘘はつかねえよ」

 

「……」

 

二人はそんな会話をしながら、果てしない通路を歩いていった。



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Part.6 宇宙へ

――時と場所は遡り、数時間前の地球では。

 

「あっアマリーリスだって……?」

 

「のっのび太達はそんなヤバい連中の所にいるのか!?」

 

エミリアとミルフィから全てを聞いた。アマリーリスのことも、そのラクリーマのことも。

ドラえもん達は驚きと恐怖で開いた口が塞がらない。

エミリアは眉間にシワを寄せて、震えるような声でこう言った。

 

「あなた達の友達がアマリーリスにいるなんて本当に危険すぎるわ。もしかしたら殺されるかもしれない……っ」

 

「なんだってえ!?」

 

それを聞いた三人はびっくりして飛び上がる。

 

 

「ドラえもん、お前のせいだぞ!のび太達に何かあったらどうすんだよ!?」

 

「ジャイアン達こそ、どこでもドアをあんな乱暴に扱うからだっ!!どうしてくれんのぉ!!」

 

ジャイアンはドラえもんの首輪に掴み、二人は激しくもめあう。

 

「二人ともやめなよ、それよりどうしたら二人を助けられるか考えなきゃあ!」

 

「「元はと言えばスネ夫のせいだろ!!」」

 

「ひいっ!?」

 

仲介するつもりが逆に責められてしまうスネ夫。一方、エミリアは自分の宇宙船の方へ向き、ミルフィにこう言った。

 

「ミルフィ、ヴァルミリオンに戻るわよ!奴らを発見したと報告しなきゃっ!」

 

するとミルフィは困った顔をして顔を横に振った。

 

「ちょっ……ちょっと待ってヨ、よく考えたらあたしたち『アレ』にひっかかってないかしらっ?帰還してもしバレたりでもしたら……っ」

 

「……今はそれどころじゃないっ!さっきのタイムテレビってモノを見た限りアマリーリスは近くにいるっ!これほどチャンスの時はないわ!」

 

「そもそも偵察機があんな姿になってちゃんと起動するの?直せるの?でないとあたしら帰還できないよ!?」

 

「あ……」

 

それを聞いて、やるせなくなりその場でへたりこむエミリア。

 

「ああっ……せめて地球に専用ドッグ、いやメカニックマンがいればなぁ……救難信号を出せば必ず来てくれるけど……完全に違犯で裁判かけられるなぁ……そうなったらあたしたち……っ」

 

絶望に明け暮れるエミリアとミルフィ。それを見かねたのか、ついさっき揉め事から立ち直ったドラえもん達はエミリアの傍に向かう。そしてドラえもんはあの偵察機を見て、何か決意したのコクッと頷いた。

 

「よし、あの宇宙船を直そう!!」

 

それを聞いたエミリア達は顔を上げ、ドラえもんに注目した。

 

「えっ……?直せるの……っ?」

 

「いっいくらなんでもムリだヨ!!」

 

二人は諦めじみた発言をするがドラえもんはニコッて笑ってポケットに手を入れた。

 

「まあまあっ、見ててください。まずは……あの宇宙船を引き揚げなきゃ……『かるがる手袋』!」

 

ドラえもんはポケットから青い手袋を計3双取り出すとそれをスネ夫とジャイアンに渡した。

 

「二人とも手伝って。まずはあれを地中から引き揚げるんだ!」

 

二人はコクッと頷く。さらにドラえもんから『タケコプター』を渡されると下からドラえもん、ジャイアン、スネ夫の順で宇宙船の胴体に配置した。

 

「いくよっ!僕の合図で一気に上げるんだ、せ~のっ!」

 

ドラえもんの掛け声と共に三人は一気に力を入れた。

なんということか。土が盛り上がり、地中に隠していた残りの胴体が現れてくる。スネ夫達はその手袋の凄さに驚き、興奮していた。

 

「こりゃあスゴいや~っ!!」

 

「こんなデカイ物がまるで空の段ボールみたいに軽いぜっ!」

 

一方、その作業を見ていたエミリアとミルフィも『驚愕』という表情を隠せなかった。

 

「な……なんてことっ……あんな巨大なモノがいとも簡単に……」

 

「みっ未来の道具はスゴいなぁ……あたしも何か欲しいカモっ……」

 

流石に宇宙規模を誇る銀河連邦もこんな摩訶不思議の道具は本隊にないどころか見たこともなかった。エミリア達が驚くのも無理がなかった。

 

「ストップストップ、今度は胴体をまっすぐ横にして地面に着陸させるよ!」

 

やっとコックピットのある前部が現れた。泥まみれになっている以外はへこみなど、気になる傷はない。

 

少しずつ、少しずつ下へおろし、ついに宇宙船と思われるモノの全体が姿を見せた。

 

「すっすげえっ!こんなデザイン見たことないぜ!」

 

「ぼっ……僕にも操縦できるかなぁ……っ」

 

二人が初めて見る宇宙船に眼を輝かせてはしゃぎ回っている中、ドラえもんはエミリアの方へ向かう。

 

「エミリアさんっ、故障した部位はどこですか?」

 

「ミルフィ、案内してあげて」

 

「アイアイサー、あたしがそこに案内するわ、ついてきて♪」

 

エミリアの指示を受け、ミルフィがウサギのようにピョンピョン跳ねながらドラえもんを損傷部位に誘導する。

 

全長、幅は主翼、尾翼含め、のび太の家二階以上はある大きさだ。こんなものがここに不時着して、よく爆発を起こさなかったものだ。

 

ドラえもんはそう思いながらミルフィについていくて、彼女は後部にある推進スラスターの場所に止まった。

 

「あちゃあっ……これはひどいわぁ……っ」

 

二人はその変わり果てた姿に唖然とした。左右ある内の片方はちゃんとした形を保っていたが、もう片方はそれは何か巨大な物体にぶつかったのか金属が深くへこみ、引きちぎられてボロボロに朽ち果てていて、スラスターとは全く言えない醜い物と化していた。

 

「……隕石の衝突でスラスターがやられて、ついでにエンジンにも支障があったから、アナタ達でも流石に直せるかどうか……」

 

しかしドラえもんはまるで直せると確信しているのか、笑顔でまたポケットに手を探り当てた。

 

「『復原光線』、ミルフィちゃん、見ててよぉ」

 

「?」

 

なにやら懐中電灯に模した物を取り出し、その壊れた部位に向ける。ボタンを押すとレンズから蒼白の淡い光が損傷部を被いはじめる。すると、

 

「ひゃああっ!!スゴいスゴいヨぉ!!」

 

なんということだろう。あのボロボロになっていたスラスターが段々、削れてなくなったミクロ単位の金属部分が増殖し始め、そして連結、へこみも汚れもなくなり間もなく隕石に衝突する前の……いわゆる壊れる前の状態に戻ったのだった。

 

「うひゃあああっ、エミリア、見てみて!!」

 

ミルフィは馬鹿にはしゃぎながらエミリアの元へ去っていった。その声にエミリアも駆けつけて、その直った姿を見に行くと。

 

「スゴい……スゴすぎるっ……」

 

エミリアももはや、いい意味で呆れかえっていた。二人はすぐに入り口に移動する。エミリアは扉に手を当てると、まるで金属がまるで流れる滝になったのようにサラッと液体と化し、下へ流れて内部の道が開かれた。

 

「入り口がこうなってたんだ、スゴいやぁ!」

 

「ドラえもん、やっぱりあれは宇宙船なのか?」

 

「……うん。しかもとんでもなく進んだ文明の産物だよ」

 

いかに未来からきたドラえもんにしてもその技術の前に驚かざるおえなかった。

 

一方、エミリア達はコックピットでボタンやレバーを押して動かしていた。

反応はしているが、全く起動をしようとしない。モニターで損傷部位を見ると後部の中央付近に赤い光が点滅している。

 

「やっぱり、エンジンがイカれてる……」

 

「ドラちゃんに直してもらおうヨ!」

 

いいタイミングで三人もコックピットに入ってきた。

 

「マンガで見たのと同じだぁ……」

 

「地球には見たことのない機械でいっぱい……」

 

「エミリアさんどうしたんですか?」

 

二人は何か頼みごとをしたそうな顔でドラえもんを見つめている。それを強烈に感じ、苦笑いする。

 

「ドラえもんさん、お願いがあります。あなたの不思議な道具でエンジンを直してほしいのっ!」

 

「どうか……お願いできないでしょうか?」

 

ドラえもんは顔を赤くして丸い頭を撫でた。

 

「わっ……わかりました、そこに案内してください。スネ夫達はここで待ってて」

 

そうゆうとドラえもんとエミリア達はそのエンジンルームへ向かった。

 

細い通路、装置がたくさん詰まった部屋の奥に設置してあるエンジンに明かり一つも見当たらない。傷は見たところなさそうだ。

 

「多分、中の動力炉が破損したんだと思うわ」

 

それを聞いたドラえもんは何かひらめいたかのように手を叩いた。

 

「待てよ、前に確かこんな出来事あったような……確かこれは……『タイムふろしき』!!」

 

「なっなにこれ?」

 

ドラえもんはポケットから時計の絵が描かれたふろしきを取り出し、エンジンにかぶせた。

 

「これをかけたモノは時間を遡ることができるんです。だから壊れる前の時間に遡れば……」

 

ドラえもんが分かりやすく二人に説明する。すると描かれた時計の針がグルグル回り始め、「ギュオオオオっ!」と起動音と共にエンジンが動き出し、周りの証明とランプがライトアップ。それを見た二人は満面な笑顔になった。

 

「やったわっ!これでこの子を動かせるわ!」

 

「よかった、よかったヨっ!!」

 

無事に宇宙船が直り、エミリアとミルフィは三人に深くお辞儀をして感謝を述べた。

 

「どうも本当にありがとうございました。これであたし達は帰ることができます」

 

「アナタ達、地球人は本当に素晴らしいヨ。なんとお礼を言ったらよいか……」

 

その言葉に三人はデレデレして頭をかいている。特にエミリアみたいな美しい女性にお礼を言われて嬉しくないワケがなかった。

 

「いやぁ~それほどでも!」

 

「てっ照れるなぁ!!」

 

するとエミリアは何か思いついたように手を叩いた。

 

「そうだ、あなた達に何かお礼をしなくちゃね」

 

「そうだヨね、命の恩人だもの!」

 

それを聞いたドラえもん達は三人で顔を見合ってコクっと頷いた。そう、三人の考えは一致していた。三人はゆっくり深呼吸して声を合わせてこう言った。

 

「「「エミリアさん達と共にのび太達を助けに行きたいですっ!!」」」

 

「「!?」」

 

笑顔だったエミリア達の表情は一転して顔がいっそう険しくなった。

 

「……ダメよ。アマリーリスに挑むつもり?危険すぎるわ!」

 

「……」

 

それを聞いた三人、とりわけスネ夫とジャイアンは納得できるハズがなかった。

 

「ちょ、ちょっと待ってくれよ!?さっきお礼をするって言ってたじゃないかよ!」

 

「そうだそうだ!!」

 

文句を言うジャイアンとスネ夫にエミリアは、

 

「ふ、ふざけないで!!あなた達にアマリーリスは何なのか教えなかったかしら……?奴らは……人を殺す、強奪などの暴虐に何のためらいも持たない極悪人の集団なのよ!

あたし達、銀河連邦でも手こずってる相手なのにあなた達に何ができるっていうの!?」

 

それ聞いたドラえもんも負けじと反論する。

 

「僕たちはのび太君としずかちゃんを助けたいんだ。僕の持ってるひみつ道具は使えるものを全部持っていく!絶対あなた達の役にたつはずだ!」

 

エミリアは黙り込む。確かにこの偵察機をいとも簡単に直したドラえもんの道具は目に見張るものがある。これらを上手く活用すればもしかしたらアマリーリスを……。

しかしエミリア達は警察官であり軍人、ドラえもん達、特にジャイアンとスネ夫の二人は地球という保護区域惑星の一般人で子供。

そんなワケで一般人を巻き込むのは銀河連邦にとってはもってのほかであった。

 

「気持ちは非常にありがたいケド……あなた達地球人はあたし達銀河連邦に保護される立場なの。しかも、あなた達に助けてもらったからにはあなた達をなおさら危険な目に遭わせたくない……」

 

するとジャイアンが前に出て、エミリア達の目の前で頭を深く下げた。

 

「お願いだっ!二人は……二人は友達なんだっ!友達が危険な目に遭ってるってのに自分達は何もできないなんて俺は嫌だっ!!」

 

さすがジャイアン、友達のこととなると今までの乱暴者と違って友情を大切にする頼もしい少年だ。それに感化されて二人もその場で深く頭を下げる。

 

「お願いします!!どうかっ、僕たちもお供させて下さい!!」

 

「のび太君達を助けるためならあなた達の役に立てるように必死に頑張ります。どうか!!」

 

明らかに半端な気持ちで言っていない、その気迫に圧倒されるエミリア達。

 

「えっ……エミリア……どうする?」

 

エミリアは腕を組んで目を瞑る。数十秒間悩んだ末、エミリアは三人の前に立って手を差し伸べた。

 

「あなた達の根気に負けたわ。あなた達がそこまで友達を助けたいならわかった。ついてきなさい!」

 

「エミリア……っ!」

 

それを聞いた三人は顔を上げて満面な笑みをして飛び上がった。

 

「「「やったあああっ!!」」」

 

するとエミリアはまた腕組みをして三人に対して真剣な表情をした。

 

「しっかり聞いてね、これは遊びじゃない。生死をかけた救出だってことを忘れないでね?しかもあなた達のその友達は最悪の場合、もう殺されているかもしれないわ。その時は覚悟なさい?」

 

真面目な話に三人の顔は真剣な表情と化し、コクっと頷いた。

 

「母ちゃんのところに行ってちょっと旅行に行くって言ってくる!」

 

「あっ僕も!!」

 

「そうだね。エミリアさん、僕たちはちょっと親に数日離れるって言ってきます。待ってて下さい」

 

そう言うと三人は山から降りて行った。それをただ無言で見つめるエミリアとミルフィ。

 

「エミリアっ……本当にいいの?」

 

「ふふっ……あの子達、その友達はよほど大事なのね。大丈夫、全責任はあたしがとるわ」

 

「けど……提督やみんながなんて言うか……」

 

「……何とか説得してみせる、だから心配しないで」

 

そして、裏山の頂上に集結する三人。様々な思いを込めて、エミリアの宇宙船に乗り込む。

 

「ちゃんとベルトで固定して。一気に宇宙に飛び出すわよ!!ミルフィ、エネルギーゲージ、各機能を確認!!」

 

「アイアイサーっ、各機能オールグリーン!いつでもいけるヨ!」

 

エミリアが操縦幹をぐっと引くと同時に宇宙船も瞬間に飛翔。向きは大空に向かって進路をとった。

 

「最大出力でいくわよっ!歯をくいしばっててね!」

 

ペダルを踏み、左出前のレバーを一気に前に押し込んだ。

 

 

「「「ムギィィァっっ!!」」」

 

急発進と共に超高速のスピードでぐんぐん上昇する。しかしコックピット内では、エミリアとミルフィの二人を除いた三人の顔は酷く歪んでいた。それを見て、エミリアとミルフィは「ついやりすぎた」と苦笑い。

 

「アナタ達には少々キツかったかしら……」

 

「……ちょっとやり過ぎたわね……っ、少しスピードを落としましょっ」

 

少しスピードを緩める頃には、もう地上がかなり小さくなり、日本列島全体が見えていた。

 

「うわぁあっ……もう地球の丸い部分が見えてるぜっ!」

 

「ある意味最高の旅行かも♪」

 

「まったく……緊張感ないんだからもう……」

 

成層圏を飛び出し、エミリアは全員にこう言った。

 

「今からワープで一気に銀河系の外まで出るわよ!数十分間ワープホール空間の中を超高速で通るから酔うかもしれないけど何とか頑張ってね!」

 

「「「はいっ!!」」」

 

三人は身を引き締めベルトを握り締めた。

 

「ミルフィ、NP(ニュープラトン)エネルギーを収束して目標の座標にワープホールを形成して!」

 

ミルフィは前にある端末機を高速で打ち始める。可愛らしい姿とは裏腹に恐ろしい速打ちだ。さすがは銀河連邦所属の隊員である。

宇宙船の前方にまるで渦巻きのような超空間の穴、ワープホールが発生した。

 

「行くわよ!!」

 

エミリアの掛け声と共に宇宙船はワープホールへと突入していった。その瞬間、ワープホールはすぐに消えてなくなった。

 

……今頃、のび太達は酷い目にあっていると思い込んでいる三人。真相を知らずに果たしてドラえもん達はのび太達と合流することができるのだろうか……?



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Part.7 歓迎

アマリーリスの母艦『エクセレクター』内の大食堂では。

 

「お前ら、今日から数日間、共に暮らす地球人ののび太としずかだ。こいつらはエクセレクター内のことはわからねえことばかりだから優しく教えてやれ。

あと仲良くしてやってくれよ、こいつらを痛みつけた奴はぶっ殺すからな!覚えておきやがれ!」

 

「了解しました大将!」

 

ラクリーマは馬鹿でかい声で横の席で着席しているのび太達を説明し、その部下たちもラクリーマに負けないくらいの大声で応える。

 

「よっしゃあっ!!なら酒を飲めっ!!飯を食えっ!!今日は無礼講じゃああっっ!!」

 

「イエァァァーーッッ!!」

 

大歓声の中、ついに来る宴会が始まった。普段は荒くれ者の極悪人の大群が恐い素振りを見せず、満面な笑顔で酒を飲み、大食いし、仲間同士で喋りあったりして周囲は非常に熱い熱気がこもっていた。

 

「すっ……すごいや……ははっ……」

 

「えっええっ……」

 

さすがにのび太達も、その物凄いノリについていけるか心配していた。その証拠に二人とも表情が苦笑いである。

 

「お前らも飲め、ほらよ」

 

ラクリーマはのび太達に酒と思われる綺麗な赤色の飲み物が入ったコップを押しつける。が、流石の二人は未成年なので飲めるハズがなかった。

 

「ぼっ僕らお酒飲めないの!子供だしっ!」

 

「……ええっ、悪いですけどちょっと他の飲み物に替えてもらっても大丈夫ですかっ……?」

 

二人は無理という意味で手を横に振る。ラクリーマはポカーンとした顔をした。

 

「酒飲めねえのか。俺はお前らの歳にはもうガンガン飲んでたけどな。まあいい、ならあそこのマシンに行けば何かお前らでも飲めるモンがでてくっから行ってこいよ」

 

壺のようなヘンテコな形をした機械がある所に指を指し示した。二人は立ち上がり、そこに向かう。

 

「レクシー、ちょっとこい」

 

ラクリーマが大声で呼ぶと、席で大酒をくらいながら仲間と楽しく話をしていた彼はすぐにラクリーマの元を向かった。

 

「何か御用で?」

 

「明日、あいつらを連れて艦内の案内を頼む。大丈夫か?」

 

直々の指命にレクシーはコクッと頷いた。

 

「承知しました。リーダーのご命令とあらば!」

 

「おいおい、そんな堅苦しい言い方はやめようぜ。まあお前は他の奴らと比べて真面目で義理堅い所が良い所なんだがな、気合い入りすぎてあいつらを置いてきぼりにすんなよ?」

 

「へへっ、すんません……っ」

 

レクシーは顔を赤くして頭をポリポリかいでいた。

するとラクリーマはのび太達の方へ向いて、大声でこう言った。

 

「二人共、ちょっとこい!」

 

その言葉に彼の元に向かう二人。するとレクシーがのび太達を見つめていた。

 

「紹介してなかったな。こいつはレクシー、並みいる組織員の中でも俺が最も信頼できる奴だ。明日こいつに艦内を案内させるから挨拶しとけ」

 

のび太達は若干、引き気味だった。のび太達を最初に発見し、自分達に本気で発砲してきたあの男だ。ビクビクしている二人を見て、レクシーは満面な笑みをして二人の肩をバンバン叩いた。

 

「おいおいっ、シャキッとしろよ!!明日は俺が艦内を案内するからよろしくなっ!ワハハハハッ!!」

 

あの時の態度と逆転しており、苦笑いするのび太達。

 

「よっ……よろしくお願いします……レクシーさん」

 

「ははっ……」

 

「分からないことがあったら俺に聞くといい!リーダーがお前らを地球に送るといったからにはたとえこのエクセレクターが大破しようと絶対お前らを生きて帰してやるよ!」

 

その時、怒ったラクリーマの右拳で本気で頭をかち殴られ頭を押さえてうずくまった。

 

「いってええーー!!!!」

 

「レクシー、縁起のワリィこといってんじゃねえっ!!ホントにエクセレクターが大破したらどうすんだぁ!?たくう……おめえはいつも先走りすぎなんだよっ!少しは落ち着けってのっ!!

……とまあ、こいつのいう通りだ。約束は絶対守る、だから安心してここを楽しんでくれ」

 

それを聞いた二人は安心感と二人のコントみたいなノリの良さに表情が緩み、笑いだした。

 

「ぷぷっ……ハハハッ!!」

 

「うふっ、ふふふふっ!」

 

それを見たラクリーマとレクシーもつられて笑いだす。

 

「そうだっ!笑え笑えっ!!」

 

「いいぞいいぞ!ワハハハハッ!」

 

 

すると笑い声につられて周りの部下達ものび太達の元へやってきた。

 

「なあっ!地球のことをいっぱい教えてくれよ!」

 

「俺も俺も!!」

 

全員がのび太達に期待を寄せて造り笑顔ではなくごく自然の笑顔で寄ってくる。それを見た二人は嬉しくも恥ずかしくなり、顔を赤くして顔を下へ向いた。

 

「あっ……いやぁ……はははっ」

 

そんな光景を尻目にラクリーマは何故か一人食堂から出ていった。彼は長い通路の先にあるワープ装置『テレポーター』を使い、自分の部屋である司令室へ戻る。

真っ暗な司令室内の奥をみると、青い光を出している場所がある。

ラクリーマはその光の場所に行くと、ユノンがただ一人仕事用のコンピューターを無言で動かしていた。それを見たラクリーマはフッと笑って彼女の隣へ移動した。

 

「俺たち野郎組は宴会で楽しんでる時に一人で仕事とは偉いな、ユノン」

 

しかし彼女はラクリーマを見もせず、ただ黙々と画面に集中している。

 

「……邪魔をしないで、仕事中よ」

 

いつも通りで素っ気ない返事を返す。ラクリーマもいつも通りのことなので「ふん」と軽く笑い隣のイスに座った。するとラクリーマはこんなことを聞いた。

 

「お前、のび太達をどう思ってる?」

 

彼女は少し間を空けて静かに口を開いた。

 

「……別に。あんたの決めたことだから口出しはしないわ」

 

「ふっ、そうかっ」

 

「……けど、正直あたしは納得できないわね。あんたが身勝手なことを言うから今こうやってあたしが全ての予定を大幅修正するハメになってんの、わかってる?」

 

「ああ、いつも苦労かけてすまんな」

 

二人の間に気まずさというか異様な雰囲気が漂う。本来、彼女は無口なため、ほとんど話が続かない。しかし加入時と比較すればこれでも喋るようになったほどである。これはアマリーリスの全員が承知していることであるので特に問題ではなかった。

 

「ふぅ……」

 

ユノンは立ち上がるとラクリーマに背を向けた。

 

「どこへ行くんだ?」

 

ラクリーマの問いに彼女は立ち止まり長い髪を掻き寄せる。頭上に生えている犬の耳がピクピクと動いている。

 

「休憩よ」

 

突然ラクリーマは立ち上がるとユノンの所へ向かい、彼女を掴むとすぐそこにあった自分の使うベッドへ押し倒した。初めはびっくりしていたが、徐々に『ナニを』したいのか分かると彼女はため息をついた。

 

「あんた……まさかしたいの?」

 

ラクリーマは優しい笑顔を彼女に見せた。

 

「ああっ……最近ムラムラしていてな。久々にヤらねえか?」

 

彼女は珍しく軽くだが笑い顔を見せた。

 

「……あらっ、今日はきっぱりと言うのね?いつもはあたしを口説こうとするのに……」

 

「お前に口説きは通用しないことがよぉくわかったからよ。いいじゃねえか、今は誰も近くにいねえしよ?」

 

彼女の膨らんだ胸へ彼の右手の人差し指が伝って来ている。左の義手で彼女の顔を優しく触り、まるでホストが女性客を口説いて高い酒をオーダーさせる時のように自分なりに甘い笑顔で彼女を見つめる。

犬の耳にある通り、祖先が犬であり人間のように劇的に進化した異星人であるため、その特徴を少なからず受け継いでいる彼女、ユノンは誰もが認めるほど美しい女性である。

 

冷めた部分も彼女の美しさをいっそう際立たせている。

 

「ふふっ、いいわっ……けど優しくしてね……?」

 

彼女は静かに瞳を閉じる。ラクリーマもついにその気になったと感じ、自分も目を閉じて唇を彼女の唇に近付ける。

二人の熱い吐息が互いに当たる。二人の唇が重なる距離はもう数センチほどであった。しかし、ユノンはゆっくりと瞳を上げて、

 

「@∇Ο&★◆■▽※っ!!」

 

彼の急所……もとい男なら誰でもわかる泣き所、『局部』に彼女は強烈な膝蹴りをおみまいしたのだった。

ラクリーマはあまりの激痛にベッドから転げ落ち、のたうち回っている。一方、ユノンは何事もなかったかのように立ち上がると彼に背を向けてこう言いはなった。

 

「うふっ、気が変わっちゃったの……また今度ねっ……」

 

「ちくしょう……その気にさせといてあんまりすぎんぞ……」

 

「さっきの一撃であんたのアソコ萎えたでしょ?それじゃあね……」

 

そう言うとユノンは司令室から去っていった。ラクリーマはやっとの思いで立ち上がるとベッドにドサッと座った。

 

「あのクソアマ……覚えておきやがれ…………っ!」

 

その顔は痛みもあるがその『生物ならこその欲求』を成し遂げられなかったことに対する不機嫌な表情が浮かび上がっていた。

 

◆ ◆ ◆

 

数時間後、宴会が終わりのび太達はレクシーに各部屋へ案内された。

 

「うわぁぁっ……」

 

広い。あまりにも広い。例えるならホテルのツインルーム、いやそれ以上ある。ベッドはともかく、地球におけるトイレや風呂と言える概念の設備も完備していた。

あと個人用のデスクやパソコンのような不思議な装置までも配置されている。

のび太達はその充実感あふれる部屋に圧倒されていた。

 

「これが各個人の部屋だ。んっ、どうした?」

 

レクシーは頭を傾げる。目が点となっているのび太達を不思議と思ったのだろう。

 

「こっこれが……一人一人の部屋なんですか……っ?」

 

「ああっ。何を不思議がってるんだ?」

 

それを聞いたのび太達は徐々に笑顔になっていき……、

 

「いいっっやっほぉぉっ!!」

 

「サイっコーーっ!!」

 

歓喜を上げながら二人で部屋内を駆け回る。レクシーはそんな二人を見てフッと笑い、頬を掻いた。

 

「で、ここは誰の部屋にするんだ?」

 

レクシーがそう聞くと二人は顔を見つめあった。

 

「しずかちゃん、どうぞ」

 

「の……のび太さんこそどうぞ」

 

「いやいやしずかちゃんが」

 

「いえのび太さんに!」

 

引こうとしない譲り合いにレクシーがついに痺れを切らした。

 

「おめえら、この部屋だけじゃねえんだっ!!変な小競り合いしてんじゃねえ!」

 

「「あっ…………」」

 

二人は苦笑いして、レクシーを見つめた。彼も呆れてため息をつく。そして二人に部屋の案内が終わり、

 

「そうだ、二人ともついてきなっ。近くにいいとこがあんだ、連れていってやるよ」

 

突然、手招きされ、彼についていくのび太達。また長い通路をコツコツと歩いていく。

 

「レクシーさん……どこへ行くんですか?」

 

彼はのび太の問いに、ニイッと笑って二人の方へ振り向いた。

 

「お前ら、絶対に驚くぜ」

 

そして数分後、彼らの着いた場所は……。

 

「うわあああっ、すっ……すっごぉ~~いっ!!」

 

それは360度全体、辺り一面外の宇宙が見えるように張り巡らされたウインドウ。広さはざっと自分達が通う小学校のグランドの二倍、いや三倍の面積を誇る広大な広場、のび太達はその圧巻な風景に目を疑った。

 

「ここは休憩広場だ。俺達はもちろんリーダーやユノンさんも近くにいる者はよく来るぜ」

 

三人はその中に足を踏み入れる。外は、惑星や銀河が見える宇宙空間ではなく、淡く静かに辺りを照らす蒼く不思議な粒子が流れる神秘的な空間だった。それを不思議に思ったしずかがレクシーにこう聞いた。

 

「レクシーさん……この外は……宇宙なんですか?」

 

「いや、今はワープホール空間の中だ。俺たちは普段、百万光年単位であちこち移動するからこのワープホールを使って一気に空間をすっ飛ばして進むんだ。この調子だとあと数日で地球のある銀河系まで辿り着けるだろう」

 

「わ……ワープホール?」

 

頭を傾げるのび太にレクシーはため息をつく。

 

「ワープホールも知らねえなんて、どれだけ文明の遅れた惑星だよ、地球は……」

 

するとしずかが何かを閃いたのか、手を叩いてこう言った。

 

「あたしもよくわかんないけど……どこでもドアみたいな原理じゃないかしら?」

 

その発言にのび太は納得したのか手を叩いた。

 

「なぁんだそういうことかァ!それを早くいってよぉ!」

 

「ははっ……」

 

一人で盛り上がるのび太に対して、苦笑いする二人。三人は中央部に行くとソファーがあったのでそこに座った。しかし、レクシーは座らず二人にこう言った。

 

「今から俺はちょっと用事があんだ。ここにいるならいていいぞ。あとはお前らで帰れるな?」

 

それを聞いて二人はコクッと頷いた。

 

「明日は早いぞ。俺がお前らを迎えに行くからな、ちゃんと起きてろよ!」

 

そう言うとレクシーは二人から去ろうとする。すると、

 

「レクシーさん!」

 

「あ?」

 

のび太がレクシーを呼び止め、笑顔でこう言った。

 

「今日はありがとうございます。明日はよろしくお願いしますっ!!」

 

「レクシーさん、本当に今日はありがとうございましたっ」

 

しずかもつられて二人はレクシーに深くお辞儀をした。するとレクシーは照れ笑って二人に対し、こう言い返した。

 

「嬉しいねえ、けど礼ならリーダーに言いな。俺はあの人の命令に従っただけだ」

 

「「えっ?」」

 

するとレクシーは最後にこう言った。

 

「リーダーはマジで尊敬に値する人だ。あの人に気に入られて損はないぜ。それじゃあなっ!」

 

そう言うとレクシーは二人から去って言った。

 

「どっどうゆうことだろ……?」

 

「……さあ……っ?」

 

二人はその言葉の意味も理解出来るハズもなく、悩んでいた。すると、

 

「なんだお前ら、いたのか」

 

二人は横を振り向くとラクリーマが二人を見ながら立っていた。

 

「あっ……」

 

「ラクリーマさん……」

 

ラクリーマは二人の横に座り込むといつもの不敵の笑みで二人を見つめた。

 

「宴会は楽しかったか?あとここはすげえだろ?」

 

「うん」

 

「ええっ」

 

二人をそう返事をするとラクリーマは上の天井を見上げる。

 

「それはよかったな」

 

その後、三人はしばらく沈黙する。しかし、のび太が何か思ったのかラクリーマの方へ向いてこう言った。

 

「ラクリーマ……?」

 

「なんだのび太」

 

のび太は少し暗い表情をしてこう聞いた。

 

「……あの時、地球を侵略するとか言っていたけど……今まで侵略とかしてたの……?」

 

「えっ……地球……侵略……?」

 

しずかはその事を初めて聞いたのか、耳を疑った。ラクリーマはそれに対して笑みを絶やさずこう言い返した。

 

「おう。これまでに数えきれんぐらいに侵略、他の宇宙船を襲ったりしたぜ。そこにいた奴らを皆殺しにした、略奪した」

 

「「え!?」」

 

「現に俺はあの時お前らを殺そうとしたろ。俺は誰だろうと敵と見なしたら容赦せず殺す、それだけだ」

 

ラクリーマの表情からして全く反省の色を示していないようだ。のび太達はそれを聞いて徐々に怒りを募らせた。

 

「幻滅したか?まあそう言うことだ」

 

すると、震えるのび太は立ち上がりラクリーマにこう叫んだ。

 

「ひっ酷いよ!!あんた達は……あんた達は命をなんだと思ってるんだぁ!?」

 

「そっそうよ、あなた達はそれをすごく悪いことだとは思わないの!?」

 

確かにそうだ。平和と共存を愛する地球人の二人がそれを黙っているわけがなかった。しかしラクリーマは笑みを全く消さなかった。

 

「へっ、俺らにとっちゃそれが仕事でも生活でもあるからな。お前らがなんと言おうと何にも感じねえよ」

 

すると彼は立ち上がり、二人を見下ろしてこう言った。

 

「俺らはこれしか生きていく道はねえんだよ。たとえ心までお前らの言う悪で心身染めようと、相手の物を奪ってでも、殺して血まみれになろうと、生きるためならなんだってする!それが俺達『アマリーリス』なんだよ!」

 

「「……」」

 

二人は青ざめた表情で黙り込む。何か説得力がありそうで、それに自分たちの思いがかき消されてしまいそうで複雑な気分になる。そんなのび太達を見てラクリーマはこう言った。

 

「別にのび太達が悪い訳じゃねえ。お前らにはそれが正しいからそう思うんだ。俺らには俺らのやり方があるだけだからな」

 

それを聞いた二人を顔を上げて、彼を見つめた。すると目を瞑り、フッと軽く笑って静かに口を開いた。

 

「お前らと俺らは根本的に考えが違う。そんな俺らがこうして出会ったんだ。これほど面白いことがあっかよ?」

 

「お……面白い?」

 

「……?」

 

二人は『面白い』という言葉を理解出来ず、頭を傾げる。それを見たラクリーマはニヤッと笑うと二人に背を向けた。

 

「わかんねえならそれでいいさ。なら俺は戻るぜ、じゃあなっ」

 

そう言い残し、手を振りながら彼は二人から去っていった。

 

「どっ……どういう意味だろう……?」

 

「けどなんか……ラクリーマさんて確かに悪い人なんだろうけど、どこか不思議な感じがするわ……」

 

二人はそれぞれ複雑な考えと共に、段々彼が遠くなっていく姿をただただ見つめていた。



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Part.8 不安

「ドラえも~ん!」

 

「のび太君どこにいってたんだい、心配したんだよ!」

 

二人は裏山で再開を果たす。抱き合った後、互いの手を掴み、ぐるぐる回り始めた。

 

「それがさあ!僕、すんごい宇宙旅行をしてきたんだよぉ!」

 

「ええっ!?どっどうやって!?」

 

ドラえもんは驚いたような口振りをする。のび太は後ろへ振り向いて、指を指した。

 

「僕ね、後ろにいるラクリーマっていう……あれっ?」

 

のび太の後ろには誰もいない。

 

「あれっ、おかしいな……?確か着いてきたハズなのに……」

 

その時だった。のび太の住む町の方から「ドワァッ!」と爆弾が爆発したかのような大音響が鳴り響き、驚いた彼はすぐに町の方へ振り向いた。すると……、

 

「はあっ……ああっ……」

 

なんと町は紅蓮の炎に包まれて、見るも無惨な姿に成り果てていた。家は倒れ、ビルは崩れ落ち、人々が悲鳴を上げながら逃げ回っている光景を目にした。

 

「どっ……どうしてぇ……あれっ、ドラえもん?ドラえもんは!?」

 

さっきまでいたハズのドラえもんがまるで神隠しにあったかのように綺麗さっぱりいなくなっていた。

 

「ドラえも~ん!!」

 

ドラえもんを呼ぶ声が辺りにこだまする。が、本人の返事はすることがなかった。

 

「よお、のび太ぁ!」

 

「!?」

 

どこかで聞き覚えのある声に、彼はすぐにその方向へ振り向いた。それは……、

 

「らっ……ラクリーマ……レクシーさんっ……」

 

そこにいたのはラクリーマとレクシー、その他一同のアマリーリスの組織員がのび太に殺気を込めた視線を注いでいた。

 

「のび太、ワリィなっ!!地球侵略はしねえっつったけどありゃあウソだわ!」

 

「なっ……なんだってっ……!?」

 

のび太は耳を疑った。それはあまりにも衝撃が走り、それと同時に恐怖や怒り、それ以上の悲しみが込み上げてくる。

 

「ラクリーマひどいよ!!よくも僕の町をオォ!!」

 

その訴えに反し、ラクリーマはニイッと笑ってこう言いはなった。

 

「けっ、あんな約束を守る奴がどこにいるか?俺らはこれでも幾多の惑星を侵略したアマリーリスだぜ?騙される方がワリィんだよ!」

 

のび太の瞳から涙が込み上げてくる。周りではのび太を憐れんでいるのかニヤニヤと笑っている連中がほとんどだった。

 

「どっドラえもんはっ!?」

 

「なんだそいつは?ああっ、この青タヌキのロボットか?」

 

するとラクリーマはある部下を呼び、のび太の前に立たせた。しかし、その手に持っていたのは……、

 

「どっ……ドラえもんっ!!?」

 

なんとドラえもんの顔以外は全て無くなっていて、いわゆる生首のような無情の様と化していた。

のび太は家族であり親友のドラえもんがあのような姿になったことに絶望、それにしか頭になく、涙すら出てこなくなった。

 

「どっ……ドラえもん……っこんな……」

 

のび太は膝をつき、顔を下げて無気力と化した。そんなのび太を見て、ラクリーマ達は牙を剥き出しにする。

 

「心配すんな、すぐにしずかやおめえの仲間と再開できるぜ。地獄でなっ!ギャハハハハッ!!」

 

ラクリーマ達の狂喜の笑みが加速し、辺りには暴虐の晩餐と化していた……。

 

◆ ◆ ◆

 

「のび太ぁぁっっ!!」

 

「うわあああああっっ……あれっ?」

 

のび太は気がつくと、部屋のベッドに寝転がっていた。目の前にはレクシーが歯ぎしりを立てて彼を睨み付けていた。

 

「れっ……レクシー……さんっ?」

 

「たくっ、いつまで寝てンだ!?何回叫んでも起きなかったじゃねえか!!」

 

のび太はすぐにベッドから起き上がる。さっきのは夢だったのか、体が汗でびっしょりで肌寒かった。

しかし、夢だと考えたら安心感になりつつも何か複雑な心境だった。多分、昨日のラクリーマの話を聞いたせいなのかもしれない。

 

「案内するから早く着替えろ。しずかが待ちくたびれてるぜ!」

 

「はっはいっ!」

 

のび太はパンツとシャツだけだったのですぐに服に着替え、廊下に出た。そこにしずかがクスッと笑って待っていた。

 

「ホントのび太さんはねぼすけさんね!」

 

「いっ……いやあっ……」

 

のび太は顔を赤くして頭を撫でる。するとレクシーが二人の前に立ち、手を腰につけて胸を張った。

 

「っしゃっ、なら行くか。間違ってもはぐれんなよ、艦内は非常に広いから探すのに骨がいる」

 

二人はうなずき、長い廊下を歩き出す。するとのび太がこう質問した。

 

「レクシーさん、あの円盤みたいな乗り物には乗らないんですか?そのほうが速く進めるんじゃあ……」

 

「あれは艦内の巡察とかの仕事や緊急時用なんだ。俺たち戦闘員は身体能力が資本だから、あんなもんに頼ってちゃ体が鈍る。だから全艦内エリアを仕事で回る時以外は使用禁止だ」

 

「そうですかぁ……っ」

 

のび太はがっかりして肩を落とす。レクシーはそんなのび太に励ますように促す。

 

「まあ、この艦内にはそのためにテレポーター行きとか各エリアへの最短ルートが沢山あるし1日で色んな場所に行けるから安心しろ」

 

それを聞いて彼は安心したのか大きな息を吐いた。

 

「まあのび太さんたらっ、ふふっ」

 

しすかも彼を見てクスッと笑った。

 

「なら最初は中央部、エリア5へ行くか。お前らとリーダーが初めてあった場所、ブリッジがあるところだ」

 

レクシーは右腕をぐるぐる回し、張り切りながら陽気に二人を率いて行った。

 

エリア5。この巨大宇宙船エクセレクターの中心部でいわば、ここで管制、管理、運営が行われている場所である。またのび太がラクリーマと決闘した場所、ブリッジがあるエリアである。

のび太達はそのエリアの通路を歩いていると誰かが向こうから近づいてくる……どうやら見たことのある女性に見えるが。

 

「ユノンさんだ、お疲れさまです」

 

彼女であった。彼女は右手にパネル機器のようなデバイスを持ち、こちらを見ている。レクシーは足を揃えてお辞儀をした。

 

「……ラクリーマの隣にいた人だっ……キレイな人だなぁ……」

 

「ほ……ほんとに美しい人だわぁ……」

 

のび太どころか同性であるしずかでさえ、見とれてしまうほどの美しさだった。しかしその瞳は寒気がするほどの蒼い瞳をしていた。

 

「…………」

 

彼女は何も言わず、レクシーに軽くうなづくと三人とは反対方向へすれ違っていった。

 

「あの女の人、なんか気難しそうな雰囲気だったけど」

 

「ええっ……」

 

「あの人はアマリーリスの副リーダーでリーダーの補佐を務めるユノンさんだ」

 

「ええ~っ?あの人が副リーダーっ!?」

 

「あんな美しい人が……っ?」

 

あまりのギャップに二人は驚きの声をあげる。彼の説明はさらに続く。

 

「クククッ、確かにな。あんな美人さんが俺らより立場が上だなんて信じられないだろ?けどな、あの人もホントに出来る人だからな、リーダーや俺ら野郎組もあの人を非常に信頼してるぜ」

 

三人はまた歩き出し、彼はユノンについて話はじめる。

 

「あの人は俺らの仕事である侵略作戦をリーダーと作成するのが主な仕事だ。

それに副艦長としての立場もあるから侵略、戦闘時で俺らが赴いてる時はエクセレクターの代理艦長を務め、艦内の指示や戦線にいる戦闘員に指示をする役目も兼任してる。

リーダーは俺達と同じく、侵略地に赴いて戦闘しながら俺らに直接指示するからサポートしきれないところや、不明な点を調べ、俺たちに指示してくれる。

それ以外の仕事は備品の管理や運営面、雑務、艦内で調査、各エリアの巡察などの色々な仕事をしている。まあ……本当に忙しい人だな」

 

言葉を失うのび太達。話の聞くかぎり多大な役割を任されていると知ったが、小学生ゆえか、全く想像がつかない。しかし、どうしても二人に『侵略』という言葉が頭の中で引っ掛かる。やはり昨日の会話が問題であった。

 

――するとレクシーは腰を低くして、二人の耳元でこう呟いた。

 

(気をつけろよ、あの人無口でホント冷めてるけど、キレると下手したらリーダーより怖いからな……)

 

(ええっ……ホントですかぁっ……?)

 

(ああ、通路のど真ん中でリーダーがユノンさんに正座させられて説教されてるのはもはや日常茶飯事だからな。仕事上はともかく……まあ……たわいないことをしてだなぁ)

 

(あっあのラクリーマが……たわいないことって……?)

 

するとレクシーは珍しく落ち込んだ表情をして、ため息をついた。

 

(………リーダーはあんなナリから想像できないぐらいに遊び心が有り余るいたずら好きでな。特にユノンさんの部屋に忍びこんでイタズラしたりセクハラかましたりしてな、リーダーは何回やって、バレて説教されても全く懲りねんだよ)

 

((…………))

 

二人はラクリーマのことに対して、非常に呆れ果てて、何と喋ったらいいのかわからなかった。

 

「そろそろブリッジだ。昨日見たしそんなに説明することはねえから、大まかなことを教えて次のエリアに行くか」

 

三人は数分後、目的地に着いた。周囲には沢山の組織員が各モニターや装置を扱っていた。どうやらここではこの艦の操作も担当しているらしい。レクシーは二人にそう教えた。

 

「よおレクシー、あいつらのおもりか?わはははっ!」

 

「うるせえ、案内だ!」

 

彼は仲間達の所へ行き、笑い声を上げなら話をしている。そんなレクシーを見て、微笑ましく思うしずか。

 

「レクシーさん、楽しそうよね。ねえ、のび太さん……?」

 

しかしのび太は妙に落ち込んでいるような表情だった。顔はにっこりとしているも何か腑に落ちないかのようだった。

 

「のび太さんどうしたの?考え事?」

 

「うん。ドラえもん達、今なにしてるかなって……っ」

 

「あっ、確かにそうだわ。けど、日にちはかかるけど地球には帰れるんだし、あんまり心配しなくてもいいんじゃないかしら?」

 

「そうかな……?」

 

二人でしんみりとした話をしている矢先、レクシーがのび太の元へ帰ってくる。

 

「わりいわりいっ!!ついあいつらと話が長くなってなっ……んっ、どうしたんだお前ら?」

 

妙に暗い雰囲気ののび太達を感じて、レクシーが声をかけるも、二人はすぐに首を横に振る。

 

「なっなんでもないです!!」

 

レクシーは首を傾げてきょとんとした表情をした。しかし、すぐに手招きをして歩き出した。

 

「次は訓練エリアだ。俺ら戦闘員にとってこの艦内の仕事場と言えるエリアだ。多少、汗臭いかもしれないがまあ……いいだろ」

 

「はあ……っ」

 

「汗……臭い……っ」

 

妙に乗り気ではないのび太達。まあ……男の汗の匂いなんかわざわざ嗅ぎに行く気にもならないだろう。しかし、案内してもらっている立場で行きたくないと発言するのも気が引けるのだった。

 

そう思いながら、二人はレクシーと共にブリッジをあとにした。



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Part.9 追憶

――エリア10、訓練エリア。

 

ここでは各戦闘員が侵略や戦闘に備えて体力や戦闘技術などを向上させ、生き残るために日々鍛練している。様々な訓練ルームがあり、射撃場、座学施設、トレーニング場、アマリーリスの所有する戦闘機、戦闘ユニットの操縦シミュレーション場などがある。

 

「よお、レクシー!!」

 

その中の一つ、トレーニング場へ足を踏み入れる三人。中で必死にトレーニングしている者が活動を停止して声をかける。

 

「うわぁ……」

 

「スゴい熱気……」

 

辺りは男達が密集してトレーニングしているものだから、汗臭いわ暑いわで、体験のない二人にとって暑苦しくむせる。

 

「二人は見たとこ、こんな風景は初めてそうだからある意味いい体験だろ?」

 

「えっええ……」

 

二人は苦笑いする――その時、

 

「いいっっっっ!!!?」

 

のび太の真天井から何者かが落下、瞬間にのび太に首を掴みナイフを彼の顔にチラチラかざす。

 

「てめえらが例の地球人だなぁ。許可があればこのオレが八つ裂きできたのによお!」

 

その男はまるで昆虫のような複眼の持ち主で、全体の皮膚は緑色の体は痩せ型。雰囲気には巨大な蟷螂のようだ。

 

「キャアアアアッ!!」

 

しずかはとっさに悲鳴をあげる。当ののび太も何がなんだか分からず身体がぶるぶる震えている。あと刃物を顔にちらつかせているのも恐怖意外の何事でもなかった。

 

「おいユーダ、お前リーダーの言葉を忘れたのか?こいつらに手を出したら反逆罪で即死刑だぞ!」

 

レクシーの忠告にユーダと言う男はのび太を放し、不気味な笑みを浮かべてこう言った。

 

「……冗談だよ冗談。けどリーダーが何でこいつらを生かしているのか疑問だったんでな。いつもなら侵入者は即排除だろ」

 

「それはリーダーにも考えがあったからだ。ともかくのび太達には手を出すなよ?」

 

「へいへいっ、わぁったよ!」

 

そう捨て台詞を吐くと、ユーダは三人から去っていった。そんな彼をもの悲しい目で見るレクシー。

 

「あわわわわわっ……」

 

「のび太さん大丈夫っ!?」

 

力が抜けてへたりこむのび太に声をかけるしずか。すると、レクシーはのび太に手を差しのべた。

 

「驚かせて悪かったな。あいつはユーダってんだ」

 

のび太は彼の手を借りて立ち上がる。しかしレクシーはどこか悲しい雰囲気を漂わせていた。

 

「あいつは俺達、戦闘員の中でも一番の問題人物なんだ。

殺しに対しての躊躇のなさはリーダーと匹敵するかそれ以上だ。

けどあいつはすぐに仲間を裏切る癖があってな。今まで数々の侵略で仲間の窮地をどれだけ見捨てたことか……リーダーにはまだバレてないんだけどいつかあいつはまじで消されるぜ……」

 

それを聞いた二人は複雑な気持ちになる。

 

「俺らアマリーリスは互いの仲間意識が非常に強い。だからどうしようも得ない時は除いて仲間を見捨てる、裏切る行為は反逆罪で犯せばリーダー自らがそいつを殺すんだ。オレはその場面を一度だけ見たことがある」

 

「…………」

 

二人の暗い表情をして沈黙はさらに続く。しかしレクシーはそんな二人を再び笑顔になり、こう励ました。

 

「お前らは何気にすることがあんだ?これは俺達のことだ。お前らはただ無事に地球に帰ることだけを考えればいいのさ!!」

 

彼の表情を見て、少しずつ笑顔に戻っていく。レクシーは二人に背を向き、明るい声でこう言った。

 

「次は射撃場だ。どうだのび太、俺と射撃で競わないか?リーダーに勝った腕前を見たいんでな!」

 

それを聞いたのび太は得意分野である射撃がやれるのが嬉しいのか、心が奮え上がってくる。

 

「うっうんっ!!」

 

笑顔で返すのび太にレクシーも満面の笑みを浮かべる。そんな二人をまるで兄弟に見えたのか、しずかもニコッと笑った。

 

そして三人は射撃場に足を踏み入れる。ここでは実弾銃用射撃場とレーザー銃などのエネルギー銃用射撃場の二つあるが、片付けや破壊した的の回収がある実弾銃用射撃場は面倒な為か、あまり使われない。のび太達は当然、エネルギー銃用射撃場に移動する。

 

「ええっと、使うのは威力が弱いタイプにしないとな……」

 

レクシーはエネルギー銃射場の中心に設置してあるパネルのようなデバイスをカタカタ動かす。するとこの場の全照明がライトアップし一気に明るくなった。

 

「まっ的が全く見えないよぉっ」

 

一直線に続く的への射程距離は300、いや500メートルはゆうにありそうだ。するとレクシーは二つの小型銃を持ち、その一つをのび太に投げ渡した。

 

「ほれ、お前の銃だ。目の前にレールがあるだろ?あそこに立って射撃するんだ」

 

二人は各射場に立って的のある方向に目を向ける。しかし、あまりにも遠いのか全く見えない。

 

「レクシーさん?的が遠すぎて全く分からないんだけど……」

 

しかしレクシーは何を言っているんだ?と言わんばかりに不思議そうな表情でのび太にこう告げた。

 

「はあっ?的はまだ出てないぜ」

 

「えっ?じゃあもうすぐ出てくるの?」

 

するとレクシーは遥か向こうの左右の壁に指を指してのび太に説明した。

 

「あそこの発射口から的が飛び交うからそれに狙いをつけて撃ち落とすだけだ。簡単だろ?」

 

それを聞いて安心するのび太。上を見上げると何やら時間表情された機器が0に向けて数字が動いていた。

 

「あれが0になったら、開始アラームと共に、的が飛び出す仕組みだ。時間は1分間だ、終わりもアラームで知らせてくれる。そろそろ始まるから準備しろ」

 

そう言うと二人をレールを前に立ち、神経を集中する。あの時と同じ雰囲気が辺りに漂い始め、その中でしずかが後ろで手を合わせて二人の安全に願いを込めている。

 

「ビーーーーーッ!」と甲高いアラームが鳴り響くと同時に二人は一気に所持している銃を構えた。が、アラームが鳴ったにも関わらず的が全く見えない。

 

「えっ!?えっ!?」

 

のび太はわけが分からず、ただあたふたしているだけだ。一方、レクシーは全く見えないにも関わらず平然と発砲している。発射された何発もの光弾が瞬く速度で遥か先の的場へ飛んでいく。もしかして的はもう発射されているのか……?

 

「も、もう発射してるの!?」

 

あたふたしている内に終了アラームが鳴り、二人は手を下げる。しかしのび太はきょとんとしていた。一体なんだったのか全く理解出来ていない。

 

「ハハハッ、全く見えてなかったか?あれでも戦闘員の標準レベルだ。まあのび太にはちとキツかったかな……んっ?」

 

レクシーはモニターを見て、何かに気づいたのかすぐに駆け寄った。すると彼は徐々に汗が流れはじめ、身体が震えている。すると彼は二人の方へ戻り自分の頭を撫でて、苦笑いしながら二人にこう言った。

 

「わっ……わりぃっ。どうやらこれ自体が故障してて的が発射されてなかったわ……っ」

 

「「あららっ……」」

 

どうやら的の飛び交うスピードに慣れていたレクシーは勘違いして撃ち続けていたようで二人はたちまち脱力して肩を落とした。

 

「誰だ壊したのはっ……、直しとけってんだっ!!」

 

機器に愚痴をつけて、二人をホイホイ射場から押し出すレクシー。

 

「まっまあ……次のとこに行こうぜ!!ははっ……」

 

「……」

 

しずかはともかく、のび太は不機嫌そうにムスッとしている。

 

「悪かったって!代わりといっちゃあなんだが近くの格納庫に行くか、二人ともびっくりするぜ」

 

「格納庫……何があるんですか?」

 

「まあ見てからのお楽しみだ」

 

そう言われてレクシーの連れられて向かった先でのび太達は度肝を抜かれる。

 

「「うわぁあ、す、スゴ~~いっ!!」」

 

都市一つは収まりそうな凄い広大な空間には無数の赤色を基調とした巨大戦闘機、そして漫画やアニメから飛び出してきたかのような白色を基調とした二足歩行型の、まるでビルのような高さの巨大ロボットが荘厳にみっちりと統制して並んでおり、そこには大多数のメカニックマンがそれぞれ整備を行っている。

 

「赤色の戦闘機は『ツェディック』、白色の機体は『スレイヴ』。俺らアマリーリスの主力戦闘ユニットだ」

 

「戦闘ユニット……?」

 

戦闘ユニットとはアマリーリス、銀河連邦などの先進技術を持つ組織が所有する機動兵器の総称である。小型、中型、大型に分類されスレイヴは中型戦闘ユニットである。

 

「俺らは惑星侵略するばかりじゃない。宇宙船を襲撃したり宇宙空間で敵と対峙することも多々あるからな。その時はこれに乗り込んで出撃、交戦するんだ。扱いには多少難があるがその分性能はかなり高いぞ」

 

まるでロボットアニメの世界に入り込んだかのような衝撃を受け圧巻させられる二人。特にのび太は男の子なだけあって物凄く目を光らせて羨ましがっていた。

 

「レクシーさんもこれらを操縦してたんですか?」

 

「そりゃあ戦闘員だからな、操縦できなきゃ意味がない。アマリーリスでは徹底的にこれらの操縦技術を叩きこまれる。俺も入りたての頃はリーダーにこっぴどく叱られながら教えられたっけか」

 

「ラクリーマさんもこれに乗るんですか?」

 

「ああ、リーダーもこれらに乗り込んで前線で指揮する。はっきりいってリーダーの操縦技術、センスは本当に誰が見てもやべえぐらい凄いからな。二人にも見せたかったなあ」

 

「そ、そんなにですか?」

 

「俺達アマリーリスの頂点に立つ人だからな。流石の一言だよ」

 

彼の底知れね実力に凄いと思うと同時に畏怖のような気持ちも生まれる二人。このアマリーリスは地球とは比較にならないレベルのとんでもない技術と戦力を兼ね揃っていることが分かる。もしこんな戦力を持って地球に侵略されていたらと思うと……。

 

あらかた説明が終わり、格納庫を後にする三人。

 

「次のエリアは……そうだ!しずかのような女が喜ぶところへ連れていってやるよ」

 

その言葉にしずかは非常に興味津々となる。

 

「えっ、あたしが喜びそうな所っ?なんか素敵ぃ!」

 

次に向かった先はエリア8、多目的エリア。

 

様々な施設があるが、のび太達が向かった先は。

 

「ここは……なんですか?」

 

二人は何の説明もなくある施設のドアの前に立たされる。 

 

「とりあえず入ってみな、今にわかるぜ」

 

レクシーは二人の背中をどんと押した。二人は前によろめいた瞬間、ドアのセンサーが反応して開放された。二人がみた施設内は……。

 

「うわあ……っ」

 

「ああ………っ」

 

見渡す限り植物や花の、緑や鮮やかな色が拡がる自然。トレーニング場や射撃場、格納庫などさっきまでの無機質の雰囲気とはまるで別世界に入ったかのような違和感というか、衝撃が二人を襲った。

 

「ここはプラントルームだ。この艦内で唯一、有機物でありふれてるトコだ。ほれ、奥に行こうぜ」

 

のび太達は促され、その施設の奥へ入っていく。地球で見たことがある植物類は勿論、見たことのない奇妙な形の植物、花が見渡す限り咲いている。そしてここの特記する点は、非常に空気が澄んでいることだ。さっきの訓練エリアや格納庫と比べたら雲泥の差である。

 

「すごい……けど誰がこれを……」

 

「のび太さん、あそこに誰かいるわっ」

 

どんどん奥に進んでいくと広場になっている場所で、一人の男が植物に向かって何かをしている。しかし、近づき姿が明確になるに連れてどこかで見た覚えのあるような身体つきをしている。その人物とは……。

 

「あの人ってもしかして……っ」

 

「ラクリーマさんっ!?」

 

しずかの声に反応し、男が三人に向かって振り向いた。

 

――ラクリーマであった。二人はすぐに彼の元に駆けつける。

 

「お、今レクシーに艦内を案内されてんのかい?」

 

相変わらずの不敵な笑みを浮かべてこちらを見てくる。両手にはそれぞれ袋とホースを持っていた。

 

「ラクリーマ、今何してるの?」

 

「なにって……水やりだが?」

 

それを聞いた二人は強烈な違和感を感じたのか、口が開いたまま塞がず、呆然とした表情だった。

 

「これの水やり……もしかして全部……?」

 

ラクリーマはのび太の発言に理解出来ず、不思議そうな表情をとる。

 

「だからどうした?」

 

しばらくするとのび太は腹に手をで押さえ、うつむく。体が微妙に震えはじめ……。

 

「くっくっく……あはははははっ!!」

 

突然、のび太は大声で笑い、辺りにこだました。

 

「ら、ラクリーマみたい人が花の世話っ……くはははっ!」

 

「のっ、のび太さん……失礼よっ……ぷっ……」

 

注意するしずかもなんだかんだで笑いかけている。そんな二人を見たラクリーマは腕組みをして不機嫌そうな顔をしてこう言った。

 

「……何がそんなにおかしいんだ?」

 

するとレクシーも彼らの場所に辿り着き、のび太達が腹を抱えて笑っていることを目にする。

 

「リーダー、どうしたんですかい?」

 

「こいつら、俺が水やりしてるって言ったら急に笑い出したんだが」

 

レクシーも少し間を置いたのち、その意味に気づいたのかクスクス笑い出した。

 

「……かもしんねえっ、くっくっく…」

 

三人がクスクス笑い出し、痺れを切らしたラクリーマはついに左手を彼らへ向けて突きだした。

 

「……今ここで全員死んでみるか?どうする?」

 

「「「あっ……」」」

 

さすがにやりすぎたのか、三人は一気に冷めてその場で固まった。

 

エリア2、住居エリア。三人は一端戻り、昨日レクシーに連れられてきた広大な休憩広場で食事をとっていた。

 

「うわぁ、こんなもの始めて食べたけどおいしいな~」

 

「ホントよねぇ!」

 

二人が初めて見る携帯食料を美味しそうに食べる姿を見て、レクシーは軽く笑った。

 

「嬉しいねぇ、気に入ってもらえて」

 

――ウィンドウから見える景色はワープホール空間から抜け出し、広大な宇宙空間が垣間見れる。沢山の惑星、沢山の小惑星が無限大にちりばめられ、まさに地球人が夢見た世界とも言える。ここの休憩広場には大勢の人々が行き交う。仲のいい者同士でゲラゲラ笑ったり、外を眺めながら歩く者、デバイスを片手に持ち、仕事をしているのか、はたまた勉強をしているかのような仕草を見せる者、みなそれぞれであり、まるで学校の休み時間における廊下での風景を再現しているかのようであった。

 

そんな中、のび太はレクシーにあることを聞いた。

 

「あの植物や花は全部、ラクリーマが育てたんですか?」

 

しかしレクシーは顔を横に振る。

 

「あれはな、元々リーダーのカノジョが育ててたものなんだよ」

 

「「えっ?」」

 

二人は顔を赤くした。彼にも恋人がいたなんて知ってしまうと、思わず恥ずかしくなってしまうのだった。

 

「その人はランって名前でな。ユノンさんがアマリーリスに加入する前の副リーダーみたいな役柄で、あの人とは反対にとぉにかく気が強くてじゃじゃ馬でリーダーも手を焼いてたなぁ……」

 

「あのラクリーマさんが?」

 

レクシーはうなずくとさらに話を続ける。

 

「けどあの人は超がつくほど花や植物が大好きでな。侵略した惑星で気に入った花や植物を持ち帰って嬉しそうに育ててたよ。それにあの人らは自他認める相思相愛だった。ちょうどお前らが座っている場所でキスしてたっけか?」

 

「ええっ!?」

 

「まあっ!!」

 

二人はさらに顔を赤くし、その場所から少しずつ座りながら離れようとしていた。それを見てレクシーはふっと笑う。

 

「その人は今どこにいるんですか?」

 

その質問にレクシーは手を組み、表情は笑っているもののどこかもの悲しそうな瞳をしていた。

 

「ランさんは……もうこの世にいないんだ」

 

この世にいない。死んでいるという意味を持つその言葉に耳を疑い、そして言葉を失うのび太達。すこし沈黙したあと、レクシーは静かに口を開いた。

 

「さっき格納庫でも言ったが俺たちはこんな仕事をしている以上、生死に関わることが度々ある。他の先進種族と交戦することは日常茶飯事だ。数年前だったかな、確か……」

 

レクシーは思い出を語り出した。

 

◆ ◆ ◆

 

今から約4年前。デルタ・エリダヌス宙域第3惑星エデン。

そこに滞在する先進種族の軍事国家が、偶然その惑星に攻め入ろうとしていたアマリーリスの存在を感知し、衝突。

あまりの激戦にさすがのアマリーリスも相手の圧倒的戦力差を前に窮地に追い込まれ、敗退せざる得なかった。しかしあちらもこちらの逃亡を許すはずもなく、追跡を行ってきたのだった。

そんな中でラクリーマがツェディックに爆弾を大量に積み込んで相手の母艦めがけて特攻すると言い出した。

 

部下達は慌ててそれを止めようとしたが彼は、

 

「エクセレクターをここで墜とさせるわけにいかない」

 

そう言い張り、振り切った。だが、彼が格納庫に到着した頃にはもう爆弾の積んだユニットはカタパルトから射出されてもうなかった。

ラクリーマは誰があのユニットに乗っているのか突き止めたところ、それは彼の恋人であるランであった。彼女の乗ったユニットは敵の弾幕が降り注ぐ中、大破されながらも敵母艦のブリッジに突撃し……。

 

◆ ◆ ◆

 

「あの時、彼女があのような行動を取らなければ俺たちは全員死んでいたな」

 

なんと言葉をかければいいのだろう。二人はそれしか考えられなかった。

 

「実はあの後、リーダーのところへ駆けつけたらな……窓の外を見ながら何をしていたか分かるか?」

 

二人は首を横に振る。するとレクシーから信じられない言葉を聞いた。

 

「あの人はいつも通りに笑っていたのさ。「見事だった、ラン」ってな」

 

「!!?」

 

二人は信じられないような表情をとった。大切な恋人が死んだのに笑っていられるなんて……正気の沙汰ではない。

 

「なっ……なんで好きな人が死んだのに笑っていられるんだよ……おかしいじゃんっ!僕だったら絶対悲しくて泣いちゃうね!」

 

のび太は立ち上がり、レクシーに訴えた。無理もない、のび太の言うことは一番マトモな答えなのだから。するとレクシーは、

 

「まあさすがの俺もどうかとは思った。あれでリーダーを軽蔑しそうになったけどその時リーダーの右手を見た瞬間、そんな考えも一瞬で消し飛んだよ」

 

「みっ右手?」

 

「……?」

 

レクシーはあの時のことを再現するかのようにのび太達の目の前で右拳をぎゅっと握りしめた。

 

「リーダーの右手から……血がポタポタ流れて落ちてたよ。そして止まることなく手が震え続けていたのさ」

 

「ちっ血が……?」

 

レクシーはコクっとうなずく。

 

「力いっぱい握りしめて爪が手のひらに食い込んだんだろう。

あの人も実際は悲しくて泣きたい気持ちでいっぱいだったんだろうけど、悲しむ姿を見せたら俺らの士気が下がると思ったんだろうな……まああくまで俺の予想だが、あれを見た時、「この人に一生ついていこう、この人のためなら命を捨てる覚悟はある」。そう決意したね」

 

「「…………」」

 

「俺たちは今までにどれだけの仲間やたくさんの人間を犠牲にしたのかもわからんが、そのたびにリーダーは『生物いつか死ぬ。それが早いか遅いか、運が良いか悪いか、それだけだ』と言っていたな。その意味の捉え方は人それぞれだが、俺らからしたら最高の励ましかもな」

 

二人は心温かいことを聞き、自然と笑顔になっていく。どうやら自分達は彼に対して疑い過ぎてたと思うて何だか恥ずかしくなってくる。

 

「お前ら何かしんみりしてんだ?」

 

噂をすると花の世話が終わったラクリーマが三人の元をやってくる。

 

「ラクリーマ……っ」

 

何か縮こまっている二人を見て彼はニヤッと笑う。

 

「てめえら、何か俺に隠し事をしてるな?」

 

すると、

 

「ラクリーマさん、ちょっとこれ見てくださいよぉ!」

 

離れた所にいる数人の部下に呼ばれて「おう!」と元気よくその場へ走っていく。ラクリーマは彼らに辿り着くと、上下関係など一切ない親友同士と言わんばかりに満面な笑顔でゲラゲラ笑い、部下の首に腕をかけてじゃれあったりと楽しく話をしている。

三人はそんな彼に安心感で満たされて温かい目で見つめている。するとレクシーは二人はこう聞いた。

 

「なあ?二人はこう思わねえか?」

 

「えっ?何をですか?」

 

「あの人は実際、俺らでも考えねえようなくだらねえことや馬鹿なこと大好きだし、ああやって部下と絡んでるけどあれでもここで一番上の立場なんだぜ?なんか威厳がないだろ?」

 

「まっ……まぁ……っ」

 

すると彼は立ち上がるとラクリーマを見つめてニコッと笑った。

 

「けどな、俺達はそんなリーダーが大好きなんだ。あの人は自分よりも他人のことを常に考える人だからーー」

 

のび太はそんなラクリーマを見て彼をやっぱり信用しようと強く思い始める。

 

「楽しそうだね、ラクリーマ」

 

「ええ。なんかあの自然な笑顔を見るとあたしたちもいつのまにか笑いたくなるわね」

 

そんな微笑ましい一時を送っていた瞬間、

 

「ラクリーマァァっ!!!」

 

突然、馬鹿でかい怒号が休憩広場に響き渡る。その声の主はなんとあのユノンであった。しかし、いつもの冷たい印象とはうってかわり、眉間にしわをよせ非常に怒りに満ちた表情をしている。

しかもなんとロケットランチャーと思わしき物騒な重兵器を抱え持っていた。

それを見た全員がその場でドン引きし、さらにラクリーマもびっくりしてその場から全速力で逃亡した。

 

「やっべぇっ!!そういやぁあいつから逃げてたんだ!!」

 

逃げる彼を彼女も全速力で追いかける。

 

「あんたまたあたしの部屋に忍びこんで下着を漁ったでしょーーーっっ!!パンツとか数枚なくなっているけどどこにやったのよっ!!?」

 

その破廉恥な理由にのび太としずか以外の全員がまたかと呆れて果てている。のび太達も情けなさすぎて彼に対しての評価が著しく下がるのだった。

 

「絶対コロスっ!!」

 

するとユノンは膝撃ちの態勢を取り、ランチャーの砲口を彼に向けバレル上の照準サイトを彼に合わせて発射態勢に入る。振り返ったラクリーマはそれを見て、さらに慌て出した。

 

「ユノン!!ホント悪かったからやめてくれえ~~っ!!」

 

しかしそんな謝罪で許すような彼女ではなく、容赦なく彼女はラクリーマに向けてトリガーを引き、重厚な発射音と共に野球ボールほどの大型弾頭がラクリーマめがけて駆け抜けていき、ラクリーマについに直撃し、大爆発。

 

「のわああああーーーー!!!!!」

 

爆風と共に彼の断末魔が辺りに響き渡った……。

 

「あわわわ…………」

 

この光景に全員が唖然となっており、レクシー、のび太、しずかも例外ではなかった。

 

……このあとユノンは丸焦げとなってノびているラクリーマをズリズリ引きずり、去っていく。自業自得と云うべきか、レクシーに言われた教訓をこの目で見たのび太達は彼女に対する恐怖を覚えたのだった。

 

◆ ◆ ◆

 

レクシーによるエクセレクター艦内の案内が一通り終わり、それぞれ部屋へ戻る。のび太はベッドに寝転び、天井を見ていた。

歩き疲れて眠たいのは山々なのだが、どうしても気になっていることがあった。それは、

 

(ドラえもん、ジャイアン、スネ夫……僕達のことを心配してるのかなぁ……っ)

 

やはりドラえもん達のことが気になって眠れない。

今何をしているのか、心配してくれているのか、ただそれだけを彼は思い続けていた。



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Part.10 不穏

エクセレクター艦内のエリア15区域。ラクリーマは広大な兵器開発・メカニック部門の研究エリアへ訪れていた。

 

「ようサイサリス、相変わらず精が出てるな!」

 

彼は奥の巨大なマシンが配置されているドッグで助手と話をしている一人の女性に声をかけた。白衣を纏い、金髪でポニーテールが印象的な、見たかぎりのび太達と同じ種族の綺麗な女性のようだが……。

 

「おう、ラクリーマじゃねえか。試作品のテストをしに来たのか?」

 

「まあな」

 

「結構たまってきてるから少しでも減らしてくれや。開発スペースが無くなる」

 

このサイサリスと言う女性の口調はまさに男性そのものだ。

 

「相変わらずこんな所に引きこもって研究してるねぇ。少しは外の空気吸ったらどうだ?」

 

「うるせえな。あたしゃ、兵器開発や研究に人生をかけてるんだよっ!」

 

ラクリーマはヘラヘラ笑い、彼女を馬鹿にするかのようにこう言った。

 

「へっ、オマエの場合『いかに大量の生き物を一撃でぶっ殺せるか』の研究じゃねえか?」

 

次の瞬間、彼女は彼の右足のスネに向かってスパナをぶん投げて直撃させる。

 

「ギャオオオッッ!!?」

 

「てめェはわたしの研究にケチつけにきたのか!?あ゛あ゛っ!?」

 

地球人における『弁慶の泣き所』が彼にもあるらしく、激痛のあまりスネを押さえ、尻餅をついてブルブル震えている。

 

「……こっ……この年増のオトコ女めっ……よりによって人の弱点をマジで狙いやがって……っキレイな名前と性格がまったく合ってねえじゃねえか……っ」

 

だが彼の前には恐ろしい形相でサイサリスが巨大なライフルの銃口をこちらに向けて構えている。

 

「そうか、ならこの最近開発したこの子の的になってみるか……ん?」

 

さすがのラクリーマも彼女のあまりの恐ろしさに手を上げた。

 

「いっいえっ……アナタ様の凄さに敵いませんですわ……ははっ」

 

「けっ!」

 

やっと痛みがなくなり、立ち上がると頭をポリポリ掻いて、彼女にこう聞いた。

 

「とっところで『アレ』の開発経過を見に来たんだけど、どうだ?」

 

「『アレ』か?ついてこいよ」

 

そう言われ彼女についていくと、隣の兵器開発エリアの中央には2つの何かおぞましい兵器が巨大なガラス管の中に入れられたくさんのチューブで連結されていた。

 

ひとつはまるで、熊のような巨大な特殊な金属の腕、手、爪、それを包みこむようなトゲトゲして禍々しい装甲。

 

もうひとつは……例えるなら戦艦の主砲。凄まじい全長とバスケットボール一つを軽々と飲み込めるほどの巨大な口径、それは人間には絶対に撃つどころか持つことさえもできなさそうな巨大な大砲だった。

 

「『ログハート』は完成に近いんだがな、『セルグラード』はまだ出力調整と反動吸収耐性ができてない試作段階だ。完成すれば銀河連邦相手でも真っ向から挑めるだろう」

 

「そうか、それは楽しみだな」

 

二人はその兵器をただ黙って見つめる。これは一体何なのか、一体誰がこんな代物を扱うのか?するとサイサリスは手で口を押さえてクスクス笑い始めた。

 

「クククっ……早くお前に使ってもらいたくて毎日、身体中がもう興奮してんだよ。どれほどの威力を発揮するか……あっそうだ、これが完成したらこの子達で破壊した、殺した相手のマシンや生き物の死体を収集してあたしの所へ持ってきてくれ、サンプルにしたいからよぉ、むふふふ……っ」

 

非常に逸脱した発言にラクリーマは苦笑いをする。

 

「あんまいい趣味してねえやな……」

 

「おい、なんか言ったか?」

 

「いっいやっ、なんでもねえよ!」

 

言葉を濁す彼は次にここで開発された試作の実弾、エネルギー系の各ライフルやショットガン、拳銃、マシンガン、ランチャーなどの重火器が配置された近くの射撃場に赴く。彼女の部下である開発スタッフから動作説明を聞き、それぞれ持ち構えて射撃テストを開始する。

 

地球でも使われているような形状、まさに近未来を思わせる流線型、エイリアンが使いそうな有機物が混ざったような形状などの様々な銃火器を何の問題なく余裕綽々で扱う彼は、何の問題もなくほぼ全弾ターゲットのど真ん中に命中させた。

 

「こいつは威力と速射性はいいがリコイルが酷くて精度がガタガタだ。それにこれは照準の位置が右に気持ち0.3ほどずれてるぞ。あとこれは――」

 

彼はそれぞれの試作品の欠点をスタッフに伝える。アマリーリスの運営や管理はユノンが担当しているのに対し、ラクリーマはここで開発された戦闘ユニットを含めた兵器、そして戦闘に関する全てを統括し、今行っている試作兵器の射撃テストも専ら彼の仕事である。

 

その様子を近くで見ていた見ていたサイサリスは手をパチパチ叩く。

 

「相変わらずえげつない腕だな。正直、お前相手に射撃で勝てる奴なんかいねえだろ」

 

「いや、そうとも限らねえぜ」

 

「どういうことだ?」

 

「それよりも、まだまだ改善の余地はありだな。これじゃあ戦闘員はまともに扱えられないぜ」

 

サイサリスやスタッフと結果と改善点、今後の開発計画などを真剣に話し合う彼が普段のくだらない、馬鹿ないたずらをしているとは思えないギャップを感じるのであった。

 

ここでの仕事が一通り終わった彼はサイサリスのデスクに散らばっている試作兵器やマシン、デバイスを持っていじっている。こんなマッドサイエンティストが開発した代物だ、どんな性能を持つのか分からない。すると、彼女はラクリーマの隣に移動し、こう呟いた。

 

「聞いたぞ、何でもここに侵入した地球人を受け入れて送り帰すんだって?珍しいな、お前は敵と判断した奴は見境なく殺しにかかるのにどんな風の吹き回しだ?」

 

「いいだろ別に。まあ、あの2つの完成を急がせてくれ。俺も早く使いたいからよ?」

 

ラクリーマは研究所から去ろうとするとサイサリスは大声で彼にこう告げた。

 

「『ブラティストーム』をたまには私に見せにこいよ。いくらアイツが造ったものでも使いすぎるといつ故障するかわからんからな」

 

「へいへいっ、気が向いたらな」

 

そう言い去ろうとする彼に、続けて彼女が声をかけた。

 

「あとその命知らずをなんとかしろよな。エルネスの遺志を引き継ごうとしてるかしらんが、身体を壊してみんなはもちろん、ユノンちゃんにまで心配かけるようなことはすんじゃねえぜ。みんなはあんたを頼りにしてんだからよ」

 

「けっ、そこはよけいなお世話だ」

 

まるでまじめに聞いてないかのように笑みを浮かべると、彼はそのエリアから去っていった。

 

「ちっ、人がせっかく心配してんのに……」

 

彼女はまた舌打ちをかました――。

 

◆ ◆ ◆

 

銀河系外宇宙。地球人にとっては全くの未知なる宙域。まるで見たことのない星や小惑星郡、銀河が所々見えている。その宙域、なにやら亜空間の穴が発生している。

次の瞬間、「ドンッ!」とその穴から巨大な金属物体が超高速で飛び出した。それはドラえもん達を乗せたエミリア達の宇宙船であった。その内部では。

 

「うへえ~~っ。もうだめだぁ~~」

 

「気持ち悪すぎて、マジでヤバ……うっ!」

 

ドラえもん達は初めてのワープホール空間内で体験した異常な重圧、加速力、スピードに身体中がへなへなに崩れて今にも死にそうな様子だ。エミリア達は三人が気の毒すぎて口を開けたまま震えていた。

 

「やっぱりキツかったかしら……?」

 

「けどっ……アタシたちも始めはあんな感じだったし……まあ大丈夫じゃない……ははっ……」

 

宇宙船は徐々に安定した速度を保ち始める。それに伴って内部の重力も少しずつ安定してきていた。

 

「あと一回ワープするわよ。そしたらヴァルミリオンに到着するわ」

 

またワープすると聞いて、三人の顔は徐々に青ざめていく。

 

「もうやだやだやだ~~っ!」

 

「母ちゃ~ん!!俺はもういやだ~ぁ!」

 

喚くジャイアン達二人をよそにドラえもんはエミリアに質問した。

 

「ところでエミリアさん、ヴァルミリオンって何ですか?」

 

エミリアはニコッと笑い、ドラえもんの方へ振り向いた。

 

「銀河連邦の、あたし達の部隊の母艦よ。まあ……見ればわかるわ」

 

「ふふっ、アナタ達地球人は初めて見るだろうから腰を抜かすかもね?」

 

腰を抜かす?その意味が分からずドラえもんの頭の中はクエスチョンマークでいっぱいだった。

 

「さあ行くわよ。あと一回だから辛抱してね」

 

エミリアが左のレバーを力いっぱい押し込む。ミルフィの端末操作で前方にまたワープホール空間の入り口が発生した。

 

「ちょっ……まだ心の準備がぁ!」

 

「もうどうにでもなれぇっ!!」

 

大声で叫びまくるスネ夫とジャイアンにドラえもんを含む、エミリア達はそろそろ呆れてきたのか沈黙し始める。そして、宇宙船はまたワープホール空間へ入っていった――そしてドラえもん達がついた先は。

 

「みんな着いたわ。ようこそ、これがヴァルミリオンよ」

 

「「「なっ……なんじゃこりゃああああああっ!!?」」」

 

三人は驚愕の声を上げまくる。その大きさは、エミリアの宇宙船からの視界から端から端まで見えない。それどころか、自分の正面に見える一部分の装甲の大きさは自分達の乗る宇宙船の何百倍、いや何千倍の大きさがあるか全く予想つかない。

むしろ、この一部分で大都市1つは入りそうだ。宇宙船の目の前にある物体は、それは想像もできないほどの全長を誇る、エミリア達、銀河連邦の超大型旗艦『ヴァルミリオン』であった。

 

「ヴァルミリオンはアナタたちの住んでる島国よりもデカいのヨ!」

 

「にっ日本よりぃぃっ!!?」

 

あまりにも衝撃的事実、日本列島よりも大きいなんて……三人の空いた口が塞がらない。

 

「ふふっ、驚いた?じゃあ帰艦するわよ」

 

宇宙船はフルスピードでこの艦の後ろへ向かう。果てしない長さの胴体が横に写っている。その異様な光景で三人は沈黙している。

 

「偵察機型式ー0475685XTFーエミリア大尉、ミルフィ中尉、帰艦しました”」

 

エミリアがモニターに向かって帰艦報告をすると、

 

『型式認証しました。お疲れ様です、エミリア大尉、ミルフィ中尉』

 

モニター越しから声が聞こえ、同時に前方にある巨大な装甲がゆっくりと上に向かって開き始めた。

 

「アレが後部ハッチよ。中に入ると偵察機専用格納庫があるわ」

 

「ひぇ~~っ、なんて技術なんだ……」

 

「これじゃあ地球が何十年たっても同じものが造れるか分かんないなぁ」

 

「いやぁ、僕の時代でもさすがにここまでは造れない代物だぁ……」

 

さすがは銀河連邦と言ったところか。何故なら先進種族の科学の粋を集めて造られた偉大な産物なのだから。

 

「なら入るわよ。全員、衝撃に備えてっ」

 

宇宙船はハッチにつくと、ゆっくりとした速度で入っていった。長く、辺りは赤くライトアップされた通路を通り抜けると、一大都市はすっぽり入るほどの広大な空間を持つ格納庫へと到着した。

 

「オーライ、オーライ!!」

 

下で作業員が宇宙船を元の位置まで誘導している。それに伴い、微調整移動をする。そして元の位置に配置し、完全に停止。エミリアは操縦幹を離し、立ち上がる。

 

「着いたわ。降りるわよ」

 

全員が立ち上がり、宇宙船の外へ移動する。すると、作業員が駆け寄りエミリアに向かってビシッとした態度で敬礼をした。

 

「エミリア大尉、ミルフィ中尉、偵察ご苦労様でした。んっ……この子達と青いタヌキみたいな……?」

 

「ぼっ僕はタヌキじゃな~~~いっ!!22世紀のネコ型ロボットだ~あっ!!」

 

タヌキ呼ばわりされて大声で反論するドラえもん。その彼を必死で抑え込むスネ夫とジャイアン。

 

「まっ……まあちょっとしたことがあってねっ……それより提督は?」

 

「提督なら今、中央デッキにいます。何か重大な事実があったそうなのですが?」

 

「重大な事実?」

 

作業員の発言が非常に気になるエミリアとミルフィ。二人はドラえもんの方へ振り向きこう言った。

 

「今からヴァルミリオンの艦長、カーマイン提督のいる所へ向かいます。少々かかるけどついてきなさい」

 

「「「はっはいっ!」」」

 

さっきまでとは違い、キビキビとしたエミリアの口調に三人同時にビシッと返事をする。

 

5人は近くに配置されていた円盤のような乗り物に乗り込む。

そのまま真っ直ぐの通路へ入り、速度約70キロ程度で進んでいく。体が露出しているのにそのスピードで進んでも風に煽られることは全くない。これもこの乗り物で何か技術が働いているのか。

 

「……エミリアさん、そのカーマイン提督ってどんな人なんですか?怖いですか?」

 

スネ夫がそう聞くとエミリアは優しい笑みを放ち、三人を見た。

 

「あたし達の直属の上官で優しくて素晴らしいお方よ。仕事には非常に厳しい人だけど心配しないで」

 

「アタシ達が誇る、本当に尊敬できる人ヨ」

 

二人の話を聞いて、安心感丸出しにする三人。

 

「よかったぁ……怖い人だとどうすればよかったかぁ……」

 

「なんだスネ夫、びびってんのかよ?」

 

「そっそうゆうワケじゃないけどさぁっ!」

 

スネ夫はそう否定するが、それをうかがわせるような表情は隠せてないのがよくわかる。

 

「さあ、艦内でもワープを繰り返して中央デッキへ向かうわよ!」

 

5人はテレポーターを使い、各エリアを渡っていく。そして十数分後……五人は中央デッキへたどり着いた。

 

 

「「「………………」」」

 

 

三人はあまりの凄さに言葉を失った。周りはさっきの円盤の乗り物がさらに巨大化したような物が広大な空間にいくつも浮かんでいる。その円盤は左右上下移動をしながら乗っているたくさんの人達を運んでいる。

装置や機械は見たところなさそうだが、上空にはまるで3Dのような映像が空間上に浮き出ている。

地球人から見たら、一体どうなっているのかと言いたくなるほどであった。5人は動く円盤に乗り移りながら更に奥に進んでいくと、赤色のビシッとした軍服を着用した男性が上空の映像を見ている。

 

「提督っ!」

 

エミリアが叫ぶと、その男性がこちらへ振り向いた。

見たかぎり地球人の中年男性と全く大差ない姿をしている。が、その顔から威厳と正義感溢れるオーラがひしひしと伝わってくる。どうやらこの人物が艦長、カーマイン提督のようだ。

 

エミリアとミルフィは彼の円盤に辿り着くとすぐに向かい、目の前に立ち、ビシッと敬礼をする。

 

「エミリア大尉、ミルフィ中尉、ただいま帰艦致しました!」

 

「おかえりエミリア、ミルフィ。ご苦労であった」

 

カーマイン提督は優しい笑顔を見せた。するとエミリアが間を入れず、彼にこう質問した。

 

「ところで作業員に聞いたのですが、重大な事とは?」

 

すると彼はさっきの笑顔とはうってかわって真剣な表情へ変えた。

 

「うむ。どうやらあのアマリーリスが太陽系のある銀河系へ向かってきているというのだ」

 

それを聞いた全員が驚愕する。エミリア達、ドラえもん達にとってはこれほど都合のいいことはなかった。

 

「そっそれは……もしかして地球を狙ってるということでしょうか?」

 

「間違いない。あの銀河系内で知的生物が生存しているのは地球ぐらいだからなっ……ん?」

 

彼はエミリア達の後ろにいるドラえもん達の存在に気づいた。

 

「エミリア、ミルフィ、あの子達は一体?」

 

エミリア達は急に焦りだし、顔を苦笑いしながら口を開いた。

 

「あっ……あの子達は地球人で……ワケがありまして……っ!!」

 

「そっそうですっ、ちょっと事情がっ……!!」

 

カーマイン提督は被っていた赤色の正帽を持つとエミリアの頭に軽く叩いた。

 

「馬鹿者っ!!」

 

「ひいっ!!」

 

「うひぃっ!」

 

彼は並々ならぬ恐ろしい形相でエミリア達を大声で叱りつけた。その声と威圧感も尋常ではなく、彼女達はもちろん、後ろにいたドラえもん達、回りにいる部下達も一気に彼に注目した。

 

「お前とあろう者が、自ら『異星人文化干渉法』を違反してどうするんだ!?お前の部下達にどう示しをとるつもりだ?」

 

「……そっ……それは……っ」

 

エミリアは何も言えなかった。彼の言うことに間違いなどなかった。するとミルフィはエミリアを弁護するかのようにこう言った。

 

「ですが提督、あたしたちもあの子達もワケがありましてっ……けっしてエミリア大尉だけの責任ではっ!!」

 

「ミルフィは黙っとれっ!」

 

「ひいっ!」

 

ミルフィも彼には逆らえなかった。一方、後ろではドラえもん達も何やら嫌な予感を感じとっていた。

 

「……なんかヤバくないかな……?」

 

「う……うん……っ」

 

「エミリアさん……どうしたんだろうな……っ」

 

三人はいつの間にかひそひそ話をしていた。

 

すると彼は帽子を被り、エミリアに対してこう言った。

 

「理由はどうあれ、違反した者はどうなるかわかっておるな?

処分が決まるまで自室謹慎だ。ミルフィもそれなりの覚悟をしておくように……以上だっ」

 

「……っ」

 

「……はいっ」

 

そう言われ、二人は静かに彼から去っていく。

 

「えっ…エミリアさん……」

 

「俺達……どうなるんですか……?」

 

ドラえもん達は彼女に心配そうに声をかけるもただ何も言わず、うつむきながら三人から去っていく。

しかし、エミリアは両手をこれでもかと言うくらいに握りしめて、ぶるぶる震えている。彼女から感じられるのは悔しさなのか失望なのか、それとも怒りなのか……。

 

「……エミ……リア……っ」

 

ミルフィはドラえもん達と共にトボトボ去っていくエミリアを悲しい目で見ていた。

 

一体何が起こったのだろうか?ただ、全員に感じたことは『唖然』と言う言葉、ただ一つだった。



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Part.11 エミリアの過去①

「おっ、俺達をここからだせぇっ!」

 

ここはヴァルミリオン艦の留置所エリア内の留置室。逮捕した罪人や捕虜、反乱分子達を本部隊へ送致するために一時的に閉じ込める場所である。

三人はあの後、カーマイン提督の命令により隊員に連れられていった場所がここであった。

 

「僕たちっ……どうなるのかなぁ?」

 

「……わからない。けどあの様子だとタダごとじゃあなさそうだ」

 

一人で空しく抵抗しているジャイアンをよそに、座ってショボくれている二人。

しかし三人共、共通していたのは何の説明もないまま、ここに入れられたと言うことに対する怒りと疑問だった。

 

「なあドラえもん、このまま俺達は黙ってていいのかよ!ここから抜け出す道具を出してくれよ!」

 

「落ち着いてよジャイアン!ここから抜け出してどうしようって言うんだよ?」

 

「決まっているじゃんかよ。カーマイン提督に直接会って頼み込むんだよ、俺達も参加させてくれってなっ!」

 

ジャイアンのその発言に仰天するドラえもんとスネ夫。

 

「むっ、ムチャいうなよ!もし僕らが抜け出してここの人達に見つかっちゃったらどうするんだよ!?」

 

「僕は絶対反対だからねっ!」

 

二人は断固拒否するが、それでは引き下がれないのが彼の性であった。

 

「なんだとォ、俺達になにも教えてくれないでこんなとこに閉じ込めるあいつらが悪いんだぜ?」

 

「そっそれだよ、僕の言いたいことは!」

 

「「え?」」

 

理解できないスネ夫とジャイアンにドラえもんは二人にこう説いた。

 

「去っていく時のエミリアさんはいつもと何か違ってた。しかもカーマイン提督の叱り方も尋常じゃなかった。これには何か深いワケがあるんだよ。

それを何も知らない僕らが今何を言ったって聞いてくれないと思うんだ……せめて、あの時の状況を教えてくれる人がいてくれれば……っ」

 

「…………」

 

三人はその場で沈黙する。確かに今は完全に『井の中の蛙』状態で手も足もでなかった

せめて少しだけでも教えてくれる人がいてくれたら……。

三人はそう気がして仕方がなかった。

 

しばらくすると、

 

「……みんな、大丈夫……?」

 

突然、ドア越しから聞いたことのある声がしてくる。

三人はそれに気づいてすぐドアに向かい、耳を傾けた。

 

「みっミルフィちゃんなの!?」

 

「ここにいても大丈夫なのか!?」

 

声の主はミルフィだった。しかしいつもの彼女らしい明るい声ではなく、非常に暗く悲しい声だった。

 

「うん、アタシは何とか。話をさせてって言って警備員を下がらせたの。みんな……ごめんねっ、こんなことになったのも全部アタシ達の責任だヨっ……」

 

「違うよ、元々ここに来たいと言い出した僕らが悪かったんだよ、ミルフィちゃん達は悪くないよ」

 

深く謝罪する彼女に対して、代表して彼女を励まそうとするドラえもん。

 

「なあ、教えてくれ。あの時エミリアさん達に何があったのか?しかもどうして俺達に何の説明もないのにここに閉じ込めるのか?」

 

「そうだよそうだよ!あと僕らはこれから一体どうなるんだよ?」

 

「ちょっと落ち着いてよ二人とも。ミルフィちゃんに失礼だよっ!」

 

彼女に質問責めを行うスネ夫達二人をたしなめようとするドラえもん。すると、ミルフィのほうからしずかに口を開いた。

 

「……わかったヨ。この後アナタ達は今までの記憶が一切なくなるんだからこの際、話してあげるわ……っ」

 

「えっ?」

 

するとミルフィは三人にこう説明した。

 

「あたし達はね、黙ってたけど本来アナタ達地球人には逢ってはいけない立場なの。『異星人文化干渉法』に基づいてねっ」

 

「異星人……文化……干渉法……?」

 

「なっなんなのそれっ?」

 

――異星人文化干渉法とは、『銀河連邦の定めた法律の一つで主に発展途上惑星や未開発惑星において、まだ発展希望のある種族が存在する場合、その種族の自力の発展を尊重し、先進種族の科学技術等の文明、文化を持ち込まないと言う法律。

厳密にはその種族と接触により文化に影響を与えるものと考えられているため接触はおろか、目撃される、感知されるのも禁止である(例え、事故で対象惑星に不時着しようと例外ではない)。

この法を破ると重刑に処せられる。その対象となるかならないかの基準は全て本隊が取り決めている』というものだ。

 

「何だって……っじゃあ……っ?」

 

「俺たちと話すどころか会っただけで?」

 

「そこでアウトってこと……?」

 

ミルフィは小さな声で返事を返す。

 

「うん。アタシたち偵察部隊の任務は地球とかの対象惑星に他の先進種族や知的生物が介入しないか確め、発見した場合はすぐに本艦に連絡し、捕まえて取り締まるのが本来の目的……それをアタシ達自らが破ったこととなる……」

 

あまりにも厳すぎるその法に納得する三人ではなかった。特にジャイアンは……。

 

「こんな無茶苦茶なことあるかよぉ!エミリアさん達のはどうみても事故じゃねえか!!」

 

「落ち着いてジャイアン、ここにはここの法律があるんだ。僕らがどうこう言っても仕方がないよ!!」

 

するとスネ夫はミルフィにこう聞いた。

 

「じゃっ……じゃあ、その法を破ったらどうなるの?エミリアさん達は……?」

 

その核心的な発言にミルフィはしばらく黙ったあと、こう言った。

 

「……エミリアとあたしはその法を違反したことで一番重い罰を受けるのは当然、責任者のエミリア。

多分、本隊で軍事裁判がかけられて、良くて階級降格、下手したら懲戒免職、または逮捕されて懲役になりかねない。あたしもほとんどの行動が制限されるかも……っ」

 

三人はその凄まじさに唖然とした。なぜそこまで酷いのか理解出来なかった。

 

「おいミルフィ、俺らを出して提督に会わせてくれ。エミリアさんとミルフィを許してくれるように頼み込んでやる!もしダメって言われたらこの俺がぶん殴ってやるっ!ミルフィだって助かりたいだろ!?」

 

彼の大胆かつ乱暴な発言を聞いた全員はびっくりして飛び上がる。

 

「そっ、そんなことしたら、かえって立場が悪くなるじゃないかぁ!?」

 

「乱暴もいいとこだよぉ!」

 

二人が彼を静めようとする中、ミルフィは身体をぶるぶる震えてついに怒りを彼にぶちまけた。

 

「かってなこと言わないでヨぉ!!」

 

ミルフィのキレた声を初めて聞いて萎縮する三人。彼女の瞳から涙が浮かび上がっている。

 

「タケシ君、ここはアナタがいつもいる地球じゃなく、ここは銀河連邦、アナタ達の地球で言う……警察であり軍隊なのヨ。

 

もし提督にむかってそんなことをしたらどうなると思うっ?

危険人物としてあなたは即死刑、一緒に行動したドラちゃん達にまで何らかの刑に処せられてあなた達地球人の印象が本当に悪くなるのヨ!

アナタの勝手な行動で全員を陥れるなんてドラちゃん達にとっても絶対もってのほか、そんなのあたしはもちろんエミリアも絶対望んでないし、彼女自身の顔に泥を塗ることになるのヨ、それでもいいの!?」

 

「……」

 

ついに何も言えなくなるジャイアン。今気づけば今までの発言は非常に自分勝手で回りを一切考えないことばかりだ。

さすがの彼もそれもわからないようなバカではない。

 

ミルフィも言い過ぎたのか、シュンとなり目を瞑る。

 

「ゴメンナサイ……ちょっとカッとなってしまって。アナタ達の気持ちは本当にありがたいわ。私だって……たった一人のパートナーであるエミリアを裁判沙汰にしたくない。けど、これは銀河連邦が定めた法律なのヨ。

これを違反したエミリアはもちろん、その直々の上官でかつ艦長であるカーマイン提督、その艦に所属する隊員全員にも恥をかかせたのと同じになるの。

 

アナタ達はまだ子供だから分からないかもしれないけど、軍隊では自分勝手な行動をする兵士が一人でもいるだけでその部隊は全滅してしまうだけでなく、隊全体に影響を及ぼす危険性は非常に高いの。だからアタシ達の処遇は決して間違っていないの、そこだけはわかってちょうだい……」

 

「ミルフィちゃん………」

 

ドラえもん達はそれに気づいてしまった。ここは地球と違い、自分たちの思い通りに行くところじゃない、銀河連邦という正真正銘の軍隊だということを。わきまえた行動や発言をするべきだったと特にジャイアンは思うのだった。

 

するとドラえもんは思っていたことをミルフィにこう聞いてみた。

 

「ねえミルフィちゃん、一つ聞きたいことがあるんだけどいいかな?」

 

「……どうしたの?」

 

「エミリアさんのことなんだけど、そのアマリーリスって組織と何かあったの……?今思い出したんだけど地球で僕がタイムテレビで見てた時の一緒に見たあの人の表情と言い方が非常に怖かった。

かなりの恨みや怒りを持っているとしか思えないし……もしよかったら僕達に教えてくれないかな?」

 

「それは…………その」

 

ミルフィはその質問に答えづらいのか、しばらく沈黙したが、コクっとうなづくと静かに口を開いた。

 

「……いいヨ。何があったか教えてあげる」

 

◆ ◆ ◆

 

その頃、エミリアは自室に待機していた。彼女はデスクに置いてあった写真立てを持ち、中の写真をたたひたすらに見続けている。

その写真には、二人の睦まじき恋人が仲良く抱きつき合い、笑顔で写っていた。見るかぎり、その女性の方はエミリア本人のようだが……?

 

「…………っ」

 

彼女のサングラスの下から一滴の雫が流れ出す。それは涙であった。

彼女も軍人とは言え、いち女性である。泣きたい時には泣いてしまうのは性ではあるが、彼女は仕事上、誇り(プライド)があるため普段は滅多に泣かなかった。

そんな彼女が泣いているのはなかなかないことだった。

 

その時、ドアのチャイム音が鳴り、涙を拭いドアを開けるとそこに立っていたのは彼女を叱りつけたカーマインであった。

 

「……提督?」

 

彼はさっきの怖い表情とは異なり申し訳なさそうな表情をしていた。

 

「エミリア、さっきは人前で叱って本当に悪かった。だがわかってくれ、あれはーー」

 

「わかっております。あれは私の独断で招いたことですから……それでご用件は?」

 

「久々にお前と話したくなってな。お前の好きな飲み物を持ってきたし、落ちついてここは階級を忘れてお互い人間同士で話したいと思うのだが、大丈夫か?」

 

「……本当にありがとうございます。もちろんよろしいですわ、ではこちらへ」

 

彼を自室のソファーへ案内すると彼はスッと座り込み、持参した飲み物のボトルを前のデスクに置いた。

彼女も彼の前のソファーに座り込む。

しかし、彼女はもの悲しい表情で顔を下へうつむいている。

それを見て、カーマインは軽くため息をついた。

 

「……気にするのなら無理に話さなくてもよいが、良ければ地球の偵察中に何があったか教えてくれないか?いつもより遅く帰還し、地球人の子供達をここに連れてきた理由も……」

 

「……わかりました」

 

エミリアは地球であったことを全て彼に打ち明けた。自分たちの偵察機が自分達の不注意で地球に不時着したこと、ドラえもんという未来から来たロボットの持つ不思議な道具のお陰で偵察機を修理できて無事、帰艦できたことを。そして、なにより重要なことはその彼らの友達がアマリーリスの本拠地にいることも。

 

「……そんなことがあったのか……。なんと悲惨なことであろうか……」

 

「…………っ」

 

二人に静寂で重々しい雰囲気に包まれる。確かにそうゆう理由なら今までの出来事に全て辻褄が合う。彼はそう思った。

 

「なら彼らは私達と協力してアマリーリスにいる友達を助けたいというのだな?」

 

「……はいっ、しかしここで私の不甲斐なさでこんなことになったことに深く反省しております。やはりあの時は断固としてあの子達がついてくるのを止めさせるべきだったのです」

 

カーマインは腕組をして、深々とソファーに背もたれる。少し黙りこんだあと、彼女に対してこう言った。

 

「実は別部隊の連絡により、今アマリーリスがこちらに向かってきているということで作戦を作成しているのだが……今回の作戦ではお前を外そうと思っていた」

 

「……え、どういうことですか」

 

――その理由を彼は少し黙った後こう言った。

 

「ホントは言いたくはないがお前、まだ立ち直ってないだろう?あの時の惨劇からな……」

 

「…ううっ………」

 

その言葉で彼女はあの忌々しい記憶が蘇ろうとしている。思い出すだけで怒りと憎しみ、そして悲しみの三大負の感情が自動的に沸き上がり、もう何がなんだか分からなくなる。

 

そう……それはあの時、三年前に遡る――。



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Part.12 エミリアの過去②

――三年前、ヴァルミリオン艦内では。

 

「お疲れ様です、大尉、少尉」

 

当時、大尉に昇任したばかりのエミリアとまだ少尉だったミルフィはいつも通りに偵察から帰艦し、カーマインに結果報告へ向かう途中だった。二人は円盤の乗り物に乗りながらイチャイチャ楽しく話をしていた。

 

「エミリアも5ヶ月後に結婚式かぁ。いいなぁアタシも彼氏が欲しいヨ~ぉ」

 

「うふっ、あなたも早く男……いやオスを捕まえて楽しい楽しい恋生活を送りなさい♪」

 

「もお、他人事だと思ってぇ!」

 

そんな話をしながら、中央デッキへ向かう二人。すると途中で彼女の部下に出くわした。

 

「おっ、エミリア大尉、偵察ご苦労様でした!」

 

「あなたもお疲れ様っ」

 

部下は元気な声ですぐに敬礼するとエミリアも笑顔で敬礼する。

 

「いやあ、大尉もついに結婚とはねぇ。ここだけの話ですけど実は俺、あなたを狙ってたんですけどね……くやしいぃ!」

 

それを聞いてエミリアはクスッと笑う。

 

「あらっ?あなたも彼女がいるんじゃなかったかしら?」

 

「……今の彼女はちょっとわがままなんですけど慣れればかわいいもんですよ」

 

「ふふっ、あなたもその彼女を甘やかしすぎて後悔しないようにね。女は怖いわよ♪」

 

「大尉なにいってんですか!?けど、忠告ありがとうございます♪」

 

二人で恋話に盛り上がる中、ミルフィはため息をついて疎ましく感じていた。

 

「あ~あっ……恋人のいる人はいいこと……」

 

エミリアが結婚をすると言う話題は艦内でもすでに持ちきりのようだ。

彼女は美人なうえ性格も良いため、かなりの男性隊員から狙われていたのだが、既に彼氏がいてさらに結婚すると聞かされどれだけの隊員が落ち込んだことか……。

 

部下との話が終わり、二人はすぐさま中央デッキに向かう。そして二人は提督の方に到着するといつも通りに偵察報告をした。

 

「ご苦労だった。特に何もなかったな?」

 

彼の問いに深くうなづく彼女達。

 

「はいっ!」

 

「特に異常は見られませんでしたぁ♪」

 

すると彼は優しい笑顔でエミリアにこう聞いた。

 

「……結婚式はもうすぐだな。レイド君とは順調か?」

 

エミリアは恥ずかしいのか顔を赤くしつつも、笑顔で応える。

 

「はいっ……今度休暇を頂いたら私の惑星に帰省して二人で結婚指輪を……」

 

それを聞いて彼はクスッと笑う。どうやら彼女の種族も地球人と同じく、結婚指輪をつける形式のようだ。

 

「そうか、なら私からもエミリアに何か結婚祝いで何か贈らないとな。何がいい?」

 

「とっ、とんでもないです!そのお気持ちだけで本当に嬉しいです!」

 

彼女は慌てて手を振りそう答える。

 

「今度、艦内の全員でお前の祝いパーティーを開こうと思っている。もし空いてる時間があったら教えてくれ」

 

「はいっ、本当にありがとうございます」

 

エミリアは彼に深々とお辞儀をする。ミルフィはそんな二人を見て、さらに羨ましく思い、少し嫉妬するのであった。

 

この後、彼女は使用した装備品を整備しに、中央デッキを後にした。

ここでは隊員皆、各人使用した基本装備品は自分で武器庫内で整備するようになっている。これも不備を起こさないようにすることもあるが、いつ如何なる時に不調をきたしても構造を理解して、自分でも処置出来るようにするためでもある。

 

「ところで提督、最近、謎の異星人組織を知っていますか?次々に色々な有人惑星を襲撃するという……」

 

ふと言った副艦長の言葉にカーマインは一度沈黙するも、頷いて口を開く。

 

「……ああ」

 

「犯罪はなくならないものですね。我々銀河連邦もかなり発展して今や広範囲で拡大してるというのに……」

 

「生き物全員が善とは限らんからな。だが少なくとも宇宙に住む生物全員が安心して暮らせるように我々が努力せねばな。そのために銀河連邦は存在しえると言えるだろう」

 

「……提督のおっしゃる通りです。しかしながら少しその組織が気になります。まだ逮捕したという報告はされていないようですし」

 

「ふむ……我々も気を引き締めないとな。もしかしたら地球のあるこの銀河系も狙われるかもしれんからな――少しでもこの宙域で不審の動きがあれば直ちに連絡、対処するようにしよう」

 

「了!」

 

◆ ◆ ◆

 

今日の仕事が終わり、エミリアは自室へ向かう途中に二人の隊員とすれ違う際、こういう不吉な話を耳にした。

 

「セクターα宙域にある2号星『ドグリス』が突然、壊滅状態だってさ……っ。生存者はほとんどゼロらしい……」

 

「知ってる、どこかの悪徳異星人集団による侵略、虐殺って報告らしいね。なんて名前だったかなっ……確か『アマリーリス』だっけ。幸いこっちの部隊にはそこが故郷の人はいなかったらしいけどさぁ……なんか故郷を狙われたらどうしよう……」

 

「大丈夫だって、我々銀河連邦を敵に回したらきっとその『アマリーリス』ってふざけた名前の組織なんかイチコロだよ!」

 

アマリーリス……耳にしたことのない組織の名前だ。

全宇宙には色んな種族の組織がいる。平和を愛する友好的組織はもちろん、逆に悪事を重ねる極悪組織も多数確認されてきた。

しかしそのような組織は銀河連邦相手には歯が絶たず、壊滅するか逮捕されて解散するかのどちらかだった。なのでその『アマリーリス』も銀河連邦によってその末路を辿ると誰もが思っていた。今の時点では……。

 

自室に戻ったエミリアは、コンピューターをいじっている。

しかし内容は仕事関係ではなく『新婚旅行の行き先』について調べていた。

 

「はあ……ここの惑星はリゾート地が結構あるんだけど一つ一つ高いしなぁ……ここの惑星は安くてなかなか……あっ、直射日光が強いって書いてある……これも却下っ」

 

地球とは雲泥の差である。先進種族にとって各銀河、各惑星へ行くこと自体が地球人における、海外へ行くような感覚なのだろう。

 

「まあ焦ることはないけど早く決めることに越したことはないわね、いいとこないかしら?」

 

溜め息をつき、コンピューターから手を離す。

彼女はとなりにある写真立てを持つと、入れていた写真を見つめる。それはエミリアと彼氏のレイドとのツーショットだった。

その時のエミリアの表情はあどけなさが残るが可憐な印象が残る、屈託のない笑顔に満ち溢れていた。

それを見ながらクスッと笑う彼女は非常に幸せな気持ちだった。

 

しかし二人の隊員が言っていた例の組織の名前が妙に頭に残っていた。

 

「…………」

 

するとエミリアはまたコンピューターに手をつけ、興味本位でアマリーリスについて調べてみた。彼女の内にある正義感が働いたのか、気になって仕方がなかったのだ。

 

「あら、あったわ……?なになに……っ」

 

調べていく内に実はとんでもない組織であることがわかってくる。

 

「なっ……その組織の艦が……『ランクS級』のエネルギーを観測したですって……?うっ、嘘でしょっ……ヴァルミリオン級と同じじゃない……っ」

 

ランクとは基地や宇宙船、艦の持つエネルギーの質量を上から『S』『A』『B』……と言った具合に格付けした用語である。

大概の組織から観測されたエネルギー質量は『B』級、高くて『A』級であるため、現時点で『S』級クラスのエネルギー質量を持つ組織はNP(ニュープラトン)エネルギーをほぼ独占している銀河連邦以外に考えられない。

 

そしてこのNPエネルギーとは主に銀河連邦が独占、利用している『ニュープラトン』という宇宙鉱物から抽出できる新世代エネルギーである。

全宇宙で最も希少な鉱物とされ微量でほぼ無限大なエネルギーを発生させることができる、まるで夢のような資源であった。

 

しかし近年、とある宙域の惑星で鉱脈が発見されて以来、大量に採取されるようになり銀河連邦等の組織は著しく科学技術を発展することが出来た。

核エネルギーとの相違点は放射線などの危険物質を一切放出せず、さらにこのエネルギー自体が一度作り出せばほぼ永久的に無尽蔵で使用できるという、まさに神のごときエネルギーである。

 

しかしこれを悪用されては全宇宙を破滅に導きかねない。

なので平和利用するという目的で銀河連邦が独占するようになったのであるが……。

 

「この艦の攻撃を受けた惑星はただじゃあすまないわね。さすがの銀河連邦でも手こずるかも……うちの惑星も大丈夫かしら……?」

 

そんな不安を持ちつつ、さらに調べまくるエミリア。

 

「首謀者……ラクリーマ……?変わった名前ねぇ」

 

生存者の証言から割り出された組織の名前と首謀者の名前……。彼女はその時はまだ、理解した程度しか感じなかった。その内にこの組織も壊滅、逮捕されるだろうと思っていた。その時までは……。

 

◆ ◆ ◆

 

それから3ヶ月後、エミリアは休暇を貰い、自分が所有している宇宙船で故郷惑星へ帰省しようと専用の格納庫にいた。

 

「エミリア、お土産よろしくね♪」

 

「大尉、気をつけてお帰りなさいませ」

 

ミルフィ含む、同性の彼女の同僚や部下達が見送りにきていた。

 

「あんた、帰ってカレシと毎日夜、子作りに励むんでしょ?せいぜい力尽きないようにガンバってね♪」

 

「もうなにいってんのよっ!?」

 

冗談なのか、同僚の下ネタ丸出しの発言を顔を赤くして強く否定するエミリア。

 

「もう行くわ。また一週間後会いましょ!」

 

そう言うと彼女は宇宙船に乗り込み、カタパルトから射出されて飛び出していった。一方、中央デッキでは彼女の同僚がカーマインと仲良く話をしている。

 

「そうか。もう行ったか」

 

「はい、しかしエミリアはもう結婚気分ですねっ。なんかもう毎日が楽しそうだから」

 

それを聞いて提督もニコっと笑う。

 

「……あの嬉しい表情を見てると昔の私を思い出すよ。確かに結婚が近づくと……」

 

「おっ、提督もそんな初々しい思い出があったんですか?このこのっ♪」

 

「……オホンっ!」

 

冗談まじりで提督に茶々を入れる同僚に、珍しく顔が赤くなるカーマインだった。

 

◆ ◆ ◆

 

3日後。セクターεの第4惑星モーリス。ここはエミリアの種族である、モグラを祖先とした温厚種族『モーリアン』のいる惑星である。

 

大気成分、表面温度、重力等、地球にほぼ酷似している惑星であるが、太陽に相当する恒星から地球の位置より少し離れている場所にあるため昼間なのに夕暮れ時ほど暗い。しかし祖先と比べて視力は劇的に向上しているが未だ光に弱い彼らにとっては住み心地のよい環境である。

地球と違い、大陸同士が離れていない巨大大陸の平和国家で成り立ち、主に土に関与する機械や物など、独自の文明ではあるがその科学技術は地球より遥かに越え、銀河連邦の加盟惑星でもある。

 

その惑星の大陸に東に位置する大都市『リアエント』。

 

その都会にエミリアと彼氏であり婚約者のレイドは自分達のエンゲージリング……いわゆる結婚指輪を決めに専門店に来ていた。

 

「ねぇ、あたし達これが似合うんじゃないかしら♪」

 

「ならつけてみる?すいません、つけてみてもいいですか?」

 

見るも恥ずかしく彼氏の右手を握り、はしゃぐエミリア。仕事では真面目で冷静と定評のある彼女もプライベートではこんなものだ。

そんな彼女を優しい笑顔で見る彼は、元々エミリアとは幼なじみで互いに想いあっており、最終的に彼から告白されてから付き合いはじめ、ケンカすることもあったがそれでも睦まじい交際の末、結婚まで辿り着いたのだった。

 

「あたしこれにしたい、いい?」

 

「エミリアがこれでいいなら。これでお願いします」

 

この惑星でしか取れない貴重な天然石を使い、淡い赤色光を放つ金属の指輪が非常に目立っている。彼女はその輝きに魅せられたのだろう。エミリアは満面な笑顔で彼の手を握ってブンブン振る。

 

「レイドぉ♪ありがとぉ!!」

 

「ハハッ……」

 

……彼女達はこの後、合間に地球でいう、いわゆるカフェに入り、休憩している。仕事の時のビシッとした清潔感溢れる外見とは異なり、今はこの惑星の流行ファッションで固め、バンバンにメイクを施したエミリアは今までと良い意味で雰囲気が違っている。

 

「ねえレイド、前から買いたかった服あるしついてきて!」

 

「いいよ。しかしまあエミリアはモーリスに帰ってきたばかりなのにすごいハリキリようだな、まるで溜まってたストレス吐き出しているみたいに」

 

「だってこっち帰ってくる日とか仕事が仕事だから限られてるワケだし、帰ってきたら家で休んでるわけにはいかないでしょ、あ、それから次にこのお店にいこうよ♪」

 

「はいはい、今日はお姫様に付き合いますよ」

 

彼女のはしゃぎっぷりも無理はない。ヴァルミリオンからこの宙域までかなり遠く、さらに彼女の仕事上、いつでも帰れるわけではなかった。

なので、もし結婚すれば彼女ほどの階級であれば近くの住める惑星に移住し、そこから通勤することも可能なのでそこに呼び寄せようと考えていた。

 

本当に二人は自他認める相思相愛の仲であった。

これがいつまでも続けばいいと彼女たちはそう思っていた。

 

◆ ◆ ◆

 

その頃、ワープホール空間。あのアマリーリスの母艦、エクセレクターがとある方向に空間跳躍していた。内部のブリッジでは、

 

「リーダー、あと7時間後で惑星モーリスのあるセクターεに到着しますぜ!そのままモーリス軌道上へ!」

 

当時、ユノンはアマリーリスに加入したばかりであり、今よりやや幼い容姿で今よりも無表情、無口で非常に冷たい雰囲気を漂っていた。そして彼女の横にいたあの大男、ラクリーマが不敵な笑みを浮かべて仁王立ちしていた。

 

「ユノン、お前の初仕事だ。緊張してねえか?」

 

「…………」

 

彼女は無表情で何も言わないがコクッと頷き、それをチラ見した彼はニイッと歯を出して笑った。

 

「上等!各員、作戦内容を確認する。まずワープから抜け出たらすぐさまリバエス砲と光子ミサイルの一斉砲撃で惑星モーリスの各主要都市を吹き飛ばす。

その後、俺を先頭に戦闘員は惑星圏内へ突入する。今回は俺とレクシーの二人の班で分けて行動する。

目標は惑星モーリスの使える資源を全て奪うことだ。惑星の住人は全員殺せ、生き残らせとくと色々厄介だ。

艦内オペレーター、その他の艦内の者はユノンの指示に従って行動、俺達を通信でサポートしてくれっ!銀河連邦が駆けつける前に終わらすつもりで行くぞっ!」

 

「おおっっ!!」

 

ラクリーマの命令に全員が大声で呼応した。

 

「なおリバエス砲発射後、各員衝撃に備えよ。それまでは休憩、待機。作戦決行までに配置を完了せよ!今回はユノンの初作戦だ、大丈夫だとは思うが出来る限りサポートしてやれ」

 

ラクリーマは部下に伝えると、ユノンの方へ向いてこう伝えた。

 

「いつでも主砲と光子ミサイルが放てるように今の内にエネルギーチャージしとけよ。あとは教えた通りにすればいい。お前はこのエクセレクターのノウハウをたった数ヶ月で全て覚えた天才だ、いけるな?」

 

「…………」

 

ユノンはさっきと同じ、何も言わず無表情のままコクッと頷いた。

 

「期待してんぜ、新人副リーダーさんよぉ!」

 

ラクリーマは彼女に向かってグッと親指を上に突き上げた。そしてレクシー達、各戦闘員は格納庫で自分のチームと作戦を確認していた。

 

「よし。俺らは大陸の西側から攻める。各都市を制圧したら東側にいるリーダーのチームと合流して後は共に行動だ。各人武器とアーマー、通信機を忘れるなよ――」

 

全員が真剣そのものの顔であった。

 

「レクシー、ユノンさん今日初めてだろ。いけると思うか?」

 

「……さあな。彼女は俺らみたいにはなっから悪人じゃなく元一般人だからな。侵略を指揮するのは何かと抵抗ありそうだが今回いければ一皮むけるだろう。よし今から準備期間だ。あと危なくなったら無理せず絶対助けを呼べよ、分かったな!」

 

「おうっ!!」

 

戦闘員の決意を込めた気迫が格納庫内に響き渡った――。

 

◆ ◆ ◆

 

数時間、惑星モーリス、一大陸の左端に位置する町『ヤゴ』。すっかり夜になり彼女達はレイドの実家にいた。彼女達は彼の親が用意してくれた部屋で仲良く一つのベッドで寝ながら話をしていた。

 

「ねえっ、結婚したら旅行どこいこぉか?」

 

「ん~っ、海かな?けど光が強いとこは嫌だけどエミリアは?」

 

「もう、それいっちゃあどこも同じじゃない!あたしこれでも仕事の合間とか自由時間を使って探してるんだからっ!」

 

「そんなことばっかして、仕事に集中していないとかやめろよ?」

 

「へへんっ、あたしは『仕事は仕事、休みは休み』で割りきってるから安心ですぅ♪」

 

「たくぅ、敵わないや。エミリアには……」

 

そんな風に楽しく話している内に段々眠くなり……。

 

「もう寝よっかあ……。それは明日二人で考えよぉ」

 

「そうだね。じゃあお休みぃ」

 

こうして二人は就寝する。が、エミリアは何故か妙な胸騒ぎがして眠れなかった。

それが結婚するという実感に対しての興奮なのか嫌な予感なのかはわからないが……。

レイドはもう完全に睡眠しているのにエミリアは何回寝返りうっても眠れない。

 

(もう……何なのかしら……っ)

 

彼女は起き上がり、彼を起こさないようにそっと歩いて窓の外を見た。地球とは違い、月に相当する衛星がないため本当に真っ暗闇な世界である。

 

しかし彼女達モーリアンは暗い土の中で育つモグラから人間並みに著しく進化した種族であり、それに伴い地上で生活し始めてから幾分生態や特徴が変わったがその名残として、たとえ暗くても感覚で自分の場所を把握できるのである。

 

「あたしもついに結婚かぁ……。今まで色んなことあったけど……これからもレイドと上手くやっていけるよね?」

 

エミリアはクスッと笑い、ベッドに戻ろうと振り向いた。その時、

 

 

『カッッッッッ!!』

 

 

突然、辺りが眩いほどの金色の光に包まれ、段々それが強力となりそして、

 

《ズ オ ォ オ オ オ オ ォ っ ! !》

 

今まで味わってことのない轟音と同時に遥か彼方の地表がめくり上がりながら一瞬の内にエミリアの住むヤゴを直撃した。生まれてきてから一度も味わったことのない想像を絶する爆風、そして衝撃波に襲われて、彼の家はおろか同時に中にある家具も一気にその衝撃波で吹き飛ばされていく――。

 

「キャアアアアァ――――!!!!」

 

「エっ、エミリアァァァ!!」

 

レイドもベッドごと吹き飛ばされ、それぞれ二人は離ればなれで吹き飛ばされた。

 

外ではその衝撃波でほとんどの家が薙ぎ倒されている。生き埋めになる人、かろうじて外に出たが全身重症になって歩けない人、外に放り出される人……しかし一番多かったのがやはり死体である

一体何が起こったのか、それはこの惑星に住む住民は気づく暇もなく、ただパニックに陥るだけであった……。



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Part.13 エミリアの過去③

数時間後、ヴァルミリオン艦内の中央デッキでは。

 

「てっ、提督っっ!!」

 

オペレーターが慌てて彼を呼び、すぐに駆けつける。

 

「どうしたっ!?」

 

「そっそれがっ!?」

 

オペレーターの顔を見ると非常に青ざめた表情で、ただならぬ状況であることを物語っていた。

 

「先ほど本隊から連絡がありまして数時間前、セクターεの第4惑星モーリスが突然、正体不明の異星人組織によって強襲を受けたということですっ!!」

 

その瞬間、その場にいた全員に衝撃と緊張が走った。

 

「な、何だとお!!?」

 

あの冷静なカーマイン提督でさえ驚きと焦りを隠せなかった。

あのエミリアが今、故郷であるその惑星に帰省していたのだから……。

 

「それで被害状況は!?」

 

「はっはいっ!!今調べます………これはっ!?」

 

オペレーターが急いで3Dスクリーン状のコンピューターで状況を確認すると、恐るべき事実が発覚した。

 

「信じられませんっ!惑星モーリスの……全大陸の3分の1が消滅、惑星の中心に巨大な空洞が発生しているそうです!エネルギーランクは……S級のエネルギー質量を観測したっ!?」

 

「なっ……ということはNPエネルギーか!」

 

「間違いありません。そんな破格な威力のエネルギーを生み出せるのはそれ以外考えられません!」

 

「なっ……なんということだっ……エミリア……っ」

 

その事実を知ったカーマインは絶望し、頭を押さえる。

 

「どうにかしてエミリアと連絡はとれないか!?」

 

「……駄目です、直接でも一向に繋がりません!!」

 

「彼女が所持している通信機は!」

 

「むっ無理です。ここからセクターεまで約220万光年離れています。大尉が常に所持している通信機の送受信範囲はせいぜい50万光年が限界ですよ!」

 

「くうっ……っ!」

 

中央デッキ内はエミリアの安否についてざわめいていた。

ヴァルミリオン所属で提督直々の部下で尚且つ、優秀で期待されていたエミリアにもしものことがあったら……。

もうこのデッキ中は緊迫な空気と焦り、そして絶望で満たされた。

 

「各員落ち着け、起こったことは今さらどうにもならん!それより今はモーリス内の生存者、及び彼女の安否の確認を優先しろ!」

 

彼の一喝により、周りの兵士は正気を取り戻す。さすがはこのヴァルミリオンの艦長だ。

 

「近くにいる救援部隊は?」

 

「はいっ!現在セクターεへ向かっているとのことです。ですが、もうその組織の反応はないとのこと!」

 

「……私はこれからモーリスに向かう。宇宙挺の用意を早く!」

 

「提督が自ら!?危険です、おやめ下さい!」

 

「彼女は……エミリアは私の大切な部下だ、誰がなんと言おうと私が彼女を迎えに行く!」

 

「わ、わかりました。只今宇宙挺の手配を!」

 

彼はもう彼女が生きていること、ただそれだけを願い、デッキから去っていった。

 

一方、その事件は当然艦内でも放送され、エミリアの同僚や後輩たちは……。

 

「うっ……うそでしょ………っ」

 

絶望と悲しみのあまり、頭が真っ白になり立ちつくす者や、

 

「いやぁぁぁぁっエミリアがぁぁぁぁっ!!エミリアぁぁぁぁ………っ!」

 

 

その場で泣き叫ぶ者までいたのだった。ましてやパートナーであるミルフィには知らせを聞いて、いてもたってもいられなかった。

 

「あたし、提督に会ってくるわっ!!」

 

「ミルフィっ!?」

 

皆の元からなりふり構わず走り去って行った。

 

「エミリア……お願い……無事でいて……っ」

 

彼女も悲しみのあまり泣きたくてしょうがないがそれを押し殺し、今は彼女が生きていることだけを願って、カーマインの元へ向かっていた。

 

「提督っ!!」

 

「ミルフィ!?」

 

偶然二人は遭遇し、お互い駆け寄る。

 

「提督、エミリア大尉は!?」

 

「……私は今から惑星モーリスへ向かう。もし先の救援部隊が彼女を発見できなければ私ひとりでも探すつもりだ」

 

「提督、もしよければアタシも同行させてください。提督と共に捜索したいです!!」

 

しかし彼は苦渋の表情でミルフィを見つめる。

 

「ダメだ。S級クラスの質量のエネルギーが惑星に撃ち込まれたんだ、エミリアも巻き添えを食らって消し飛んだ可能性が高い。

直撃圏内から離れていたとしても万が一、願ってない姿で発見された場合、彼女のパートナーであるお前には見せたくない。ここに残ったほうがいい」

 

彼なりに彼女への気遣いから出た発言だが、ミルフィはそこで黙っていられるわけではなかった。

 

「お願いしますっ!私は……私はエミリア大尉のパートナーですっ!彼女の生死がわからないのにただここでじっとしていられませんっ!同行させてください!」

 

ミルフィは彼に深く顔を下げる。ただならぬ思いを感じたのか彼はその小さい体を持ち上げて、彼女の顔を見つめた。

 

「……ミルフィがそこまでいうのなら……同行を許可する。ついてきなさい」

 

「提督……っ、ありがとうございますっ!」

 

こうして二人はすぐに宇宙挺のある格納庫を向かい、すぐに乗挺。カーマインは操縦席、ミルフィはとなりの助手席に座り込む。

 

「目標、セクターεの第4惑星モーリス、もしかしたらまる数日かかるかもしれん。私の不在中、本艦を頼むっ!」

 

『了解。提督、叶うなら必ずエミリア大尉を帰艦させてください。これは本艦にいる隊員全員の願いです』

 

「分かっている。だから皆に伝えて安心させるように言ってくれ!」

 

『ええっ。提督も無理はなさらないでください。ではカタパルト射出します』

 

宇宙挺は射出され、宇宙空間に出ると、進路を惑星モーリスの方向へ超高速で駆け抜ける。

 

「ミルフィ、ワープを繰り返し約数時間で惑星モーリスへ向かう。前方へNPエネルギーを収束開始」

 

「了解っ!!」

 

彼女はすぐさまコンピューター端末を使い、キー入力する。

すると前方にワープホール空間の入り口が発生した。

 

「中に突入する。衝撃に備えよ。エミリア、どうか無事でいてくれよ……!」

 

彼らの乗る宇宙挺はワープ空間へ突入していった。二人の考えは全く同じ、彼女の生存を信じて……。

 

◆ ◆ ◆

 

その頃、惑星モーリスでは見るもおぞましい地獄絵図と化していた。惑星自体がエクセレクターから放たれた主砲と光子ミサイルが残した巨大な痕が宇宙軌道上からよく確認出来る。

 

惑星内はさらに凄惨な状況だった。直接主砲の直撃下でなかった場所も超衝撃波と膨大な熱量で広範囲の殆どの町、大都市が壊滅的被害を受けていた。

 

しかし、一番気になるところは死体である。主砲の直撃により消し飛んだ人はもちろん、直後で発生した衝撃波や熱量による外傷や全身火傷で命を落とした人はまだわかる。

 

しかし、中には鋭利な刃物で真っ二つにされたような遺体や首のない遺体、さらにドリルかなにかの突貫物で体全体を抉られたような遺体、身体中、銃で撃ち抜かれたような遺体、明らかに主砲によるものではない不自然な遺体があちこちに散乱している。

 

それは主砲直撃後、ラクリーマ率いるアマリーリス戦闘員による大虐殺が行なわれた証拠である。

 

そして、ヤゴの町では……。真っ赤に燃えさかる町の中、レイドの実家はすでに破壊されており、倒壊ではないものの見るかげもない状態となっていた。しかしその家の瓦礫の隙間から人の手のような物が飛び出し、カチャカチャと音を立てた。そこからズリズリと這い出る一人の女性が。

 

「あ……ああ……っ」

 

エミリアだった。右手だけで這いずりながらも彼女は何とか無事であった。吹き飛ばされた直後、周りの家具が彼女の周りに集まり、体はもちろん、奴らから守ってくれたのだろう。

しかも、その瓦礫もボロボロだったので、彼女一人でも容易に出てこられたのである。

 

「いっ……痛い……っ」

 

と言っても、全身打撲や切り傷、火傷でボロボロで至るところから出血し彼女の左腕は激痛を発し、全く動かない。どうやら骨折してしまったようだ。

 

「…………眩しいっ……サングラスは……っ?」

 

光に弱い彼女は火炎が発する光があまりにも強く、もはや目を開けられない状態だった。彼女は必死で手当たり次第サングラスを探す。しかしそんな小さい物は瓦礫に埋もれてしまい見つかるハズがない。

 

「はあっ……はあっ……っ熱い…………っ」

 

痛みと周りの火災の熱が彼女の残り少ない体力を容赦なく奪う。このままではいつ意識がなくなってもおかしくはなかった。

一体何が起こったのか、周りがどうなっているのかわからない。しかし、あたりになにかが燃えてむせるような匂いが立ち込めるのがわかったので火災が起きているのはわかった。

 

そして次第にこう考えるようになった。

 

『タダゴトではない』と。

 

「レイドぉ……助けてよぉ……熱いよぉ……どこにいるのよぉ……お願いだから返事してよお!!」

 

彼の名を泣きながら必死に叫ぶが返事が全く返ってこない。

 

「ううっ……だっ誰かいないの……誰かいるなら返事してぇぇ!!」

 

こんなに叫んでも人の声も聞こえない。聞こえるのは燃えさかる炎の音だけで、エミリアは段々と最悪な予感を感じた。

 

“誰も生きていないのでは”と。

 

しばらく手探りをしていると……。

 

「……?」

 

何やら不気味な柔らかい感触と共に、手が濡れたような触感を味わった。生々しい音と共に粘着性のある感触に気持ち悪さを覚える。目が使えないエミリアは手の臭いを嗅ぎ、それは何かを確かめてみた。

 

「う……え……」

 

生臭く鉄のような生理的不快感を催す臭いがする。指をこねてみると次第に液体が凝固していく。そう……それは人の血液であった。

 

「これ……これって……あたしの触ったモノって……もしかしてぇ……」

 

エミリアの触ったモノ……それは内臓どころか体の真ん中がミキサーでぐるぐる粉砕されたかのように見るも背けたくなるような無残な姿に成り果てた死体だった。

 

それを想像しただけで彼女の顔は青ざめていき、挙げ句の果てには……。

 

「ああっ……あ……ぐっ……げぇぇっっ!」

 

エミリアはとっさに口を押さえたが時すでに遅し、その場で嘔吐してしまう。

 

「はぁ……はぁ……うぐうっ!!」

 

さらに嘔吐し続けるが、しばらくするともう何も口から出てこない。胃にぐっと激痛が走る。骨折した患部の激痛と気持ち悪くなる一方で意識が段々と朦朧としてくる。

 

(あたし……死ぬのかな……っ。レイド……どこにいる……の?だれか……助けてっ……)

 

エミリアは涙を流し、そのまま意識を失ってしまった。

 

◆ ◆ ◆

 

「……エミリア……エミリアっ!!」

 

「…………っ!」

 

彼女は目を覚ますと一気に起き上がる。辺りを見渡すと記憶のある前の場所とは違い、とても空気の澄んだ、四角い空間の一室のベッドの上にいた。

 

「エミリアっ大丈夫!?」

 

「てっ提督……?ミルフィ……?」

 

エミリアはそこにカーマインとミルフィがエミリアの横に座っていた。

 

「……あたしは一体っ……つぅ……」

 

エミリアは左腕を見ると包帯と三角巾で固定されている。他の火傷や打撲等のケガはここの医療技術のおかげで治療がすでに完了していた。

 

「ここは救援部隊の所有している艦内のメディカルルームだ。崩壊したヤゴの一角の廃墟でお前が倒れているのをここの部隊が発見してな、私たちはモーリスに着くなりお前を保護、救助したことを聞いてここに来た。よかった、お前は助かったんだ……」

 

「エミリア……前腕部骨折だけは治らなかったけど……無事でなによりだヨ……」

 

エミリアは全く理解出来なかった。廃墟?救援部隊?ヤゴの町が崩壊?一体何が起こったのか全くわからない。

 

「どっどうゆうことですか……?ヤゴが崩壊したとか……全く何がなんだか分かりません、教えて下さい!」

 

二人はあの時、惑星モーリスに何が起こったか全てエミリアに話した。

 

「…………………」

 

それを聞いたエミリアは恐怖と悲しみのあまり、顔を青ざめ体をぶるぶる震わせていた。しかし、さらに追い打ちをかけるようにカーマインは彼女にこう告げる。

 

「……本隊が調べた結果、惑星モーリスを強襲した組織は『アマリーリス』という名前だそうだ。惑星内のほとんどが壊滅、生存者もお前を含めて数えるくらいしかいなかったらしい……」

 

「そんなあ……じゃあ……あたしやレイドの両親も、友達も、知り合いも……っ」

 

「……」

 

アマリーリス……あの時調べた組織が今度は自分の故郷を襲ったなんて……信じられない……いや信じたくない、故郷のこともあるが、何より結婚を控えた自分たちの幸せな時間が一撃で崩壊するなんて……。

 

「…………レイドは……っ?レイドはどこっ!?」

 

「……」

 

その質問に二人とも沈黙する。何も喋ろうとしない彼らを見て、エミリアは何かを悟ったのか、さらに表情が深刻になっていく。

 

彼女は青ざめた顔で震える右手で彼の手を掴み、強く揺さぶり始めた。

 

「提督っ、レイドはどこですか!?生きているのですかっ!?教えて下さい!!」

 

しかし彼らは何も言わずにただ黙っている。しかしミルフィは瞳に涙を浮かべている。これは……?

 

すると彼が静かに口を開くと震えるような声でこう言った。

 

「エ、エミリアが倒れていた隣と近くに……三人の遺体が発見された……っ。しかしその遺体は……撃ち抜かれたような痕跡と、何やらドリルのような回転物によって見るも無惨なズタズタな状態だったらしい……身元不明だが……隣にいた遺体はお前と歳の近い青年だったそうだ……っ」

 

彼女は耳を疑った。三人の遺体……自分の触ったあの不気味なものは……まさか……。

 

「そんな……あたしが……触ったあれは……ああっ!!」

 

彼女は顔を酷く歪ませ右手で頭をぐっと押さえ、そして。

 

「い や あ ぁ ぁ っ っ ! !」

 

……彼女はついに悲鳴を挙げて錯乱した。

 

「落ち着けエミリアぁぁっ!!」

 

カーマインとミルフィは必死でエミリアを押さえようとする。が、彼女はまるで子供のように泣き叫び、わめく。

 

「あたしのレイド返してよぉぉっ!!なんでよぉぉっ!!」

 

故郷を滅ぼされ、最愛の恋人までも失った……信じがたい悲しい現実。落ち着かせようとする二人の顔も悲しみに溢れて、ミルフィは涙を流していた。

 

「どうしましたかっ!?」

 

この叫び声を聞こえ、救護隊員がすぐに彼らの元へ駆けつけた。彼がその場で見たものはベッドの上で泣きわめくエミリアを必死で押さえ込むカーマイン提督とミルフィの姿だった。

 

「すいませんが医師の方に頼んで鎮静剤の用意をっ!!」

 

「はっはいっ!!」

 

隊員は急いで医師を呼びに去っていった。

一方、彼女の錯乱はさらに加速していく。

 

「あ゛あ゛あ゛ーーっ!!いやあああっ死んじゃやだぁぁぁっ!!」

 

「エミリアお願いだから落ち着いてヨぉぉっ!!」

 

必死に押さえているミルフィの願いも今の彼女には聞こえていなかった。

 

「レイドがいないならいっそのことあたしも死なせてええーー!!」

 

その瞬間、カーマインは本気で彼女の頬に平手打ちをかました。彼の顔は今、怒りに満ちている。

 

「馬鹿者ぉぉっっ!!」

 

「ひいっ……!?」

 

「ああっ……っ」

 

エミリアは彼の威圧に鎮まりかえる。ミルフィも驚き、その場で立ち止まった。

 

「お……お前は助かっただけでも幸いなのに自分から死にたいだとぉ……?それでも私の部下かっ!?」

 

静寂とした雰囲気に包まれ、彼は彼女にさらに話を続ける。

 

「お前の気持ちは痛いほどわかる……だがこうやって泣き叫んでも彼は戻ってきやしない。それに死にたいなど自暴自棄の言葉を吐くんじゃない。

彼氏が死んだから自分も死ぬ?ワガママもいいとこだ。私はともかくお前の無事を願うものたち、ここにいるパートナーのミルフィにまで心配をかけるな」

 

エミリアはミルフィの方を見ると、彼女は悲しみに暮れ、何も言わず涙をただ流している。

 

「ミルフィ……」

 

「…………」

 

するとカーマインはエミリアの肩に手をおいてこう言った。

 

「エミリア、ヴァルミリオン艦長である私が今から発する命令に従うように」

 

「……提督……?」

 

「『生きろ』。お前にはちゃんと帰るところがある。彼、ご両親、友人……惑星モーリスで犠牲になった人達の分まで生きて人生を全うしろ。これが私の命令だ」

 

「提督……っ」

 

エミリアの瞳から大粒の涙が溢れる出す。彼はそんな彼女の右手をぎゅっと握り締めていつもの優しい笑顔で彼女を見つめ、こう言った。

 

「私やミルフィ、いやヴァルミリオン艦の全員がお前を絶対守る。だからそんな悲しい顔をするな」

 

彼女はうつむき、涙がポタポタ落ちる。彼の温かい優しさに触れたのか……彼女はまた泣いてしまった。

 

「……うっ、ううっ……ああああああ……っ」

 

「エミリア………っ」

 

二人のやり取りを心配でたまらないような目で見つめるミルフィ。

 

「……アタシもあなたのココロの支えになるからもう悲しまないで……っ」

 

「ミルフィ……っ」

 

その励ましにエミリアは彼女を右手でぎゅっと抱きしめた。

 

「ごめんね……っ。あたし大尉になったばかりでしっかりしないといけないのに……恥ずかしいトコ見せちゃったわね……」

 

「エミリア…………っ」

 

そんな中、やっと医師と助手数人が三人の元へ駆けつけてきた。急いで走ってきたのか息が切れている。

 

「はぁ…はぁ…おやっ、落ち着きなさいましたか?」

 

「ええっ、お騒がせして誠に申し訳ありませんでした」

 

「そうですか、それは本当によかった。また何かあったらお呼びください。すぐに駆けつけますから」

 

「本当にありがとうございます」

 

医師達は安心すると笑顔で去っていった。提督は安心したのち、立ち上がると彼女達に向けてこう言った。

 

「エミリアにはしばらく休暇を与える。その怪我と心身を完全に癒してまた元気な姿で仕事に励んでくれ。ミルフィはそれまで艦内オペレーターとして頑張ってもらう。数日ここで休んだら帰艦しよう。本艦にはそう伝えておくから安心しなさい」

 

「……はいっ」

 

「了解」

 

二人はやっと多少落ち着いた表情で返事をする。こうして悪夢のような1日にやっと終わりを告げたのだった。

 

そして数日後、心身共に怪我を負ったエミリアはカーマイン、ミルフィと共に帰艦した。

 

彼女は休養するよう言われ、自室に戻る途中、どれほどの隊員が彼女とすれ違うたびに憐れんだことだろう……。

エミリアは俯きながら顔すら上げず、何も言わず、その息が詰まりそうなくらいに重い雰囲気を纏い、決して彼女に声をかけられる状態ではなかったと言う。

 

エミリアの部屋前を通ろうとすると、彼女のすすり泣く声が部屋から静かに聞こえてきたと言う人も。同僚や部下も彼女を元気にしようと、励まそうとお見舞いに行ったり、遊びに誘ったりもした。しかし、それでも以前よりも明るさを失ったと言う。

 

しかしそうしている間、その組織『アマリーリス』は数々の銀河に押し入り、さまざまな惑星や宇宙船を襲撃していた。

しかし奴らとは全く出くわさない。

これが不思議でならない。いつ、どこに現れるもやもさっぱり不明で次第に銀河連邦にとっては頭の痛い存在となってきた。

 

「セクターγ宙域にある惑星ロパが謎の組織に襲撃を受けたとの本隊から知らせが……生存者は怪我人に含めて数十人。こちらもまたS級の質量を観測したとのこと……」

 

「ええっ!!そんなぁ……」

 

中央デッキ内で何人かの隊員が驚愕と絶望の声を上げた。彼らはその惑星出身であった。

 

「ああ……あっ……故郷に恋人が……っ」

 

「私の家族がぁ……ううっうああっ!!」

 

彼らは絶望し、その場で泣き叫ぶ。近くにいる者はすぐに慰めようと、落ち着かせようと必死であった。

直接ではないが彼らもエミリアと同じ苦痛や悲しみを味わされたのである。

 

「…………」

 

カーマインは額に手を押さえて絶望した。

 

……次は誰の故郷、同種族に惨劇が起こるか分からない。明日になったら自分の故郷かも知れない状況……。

最早、誰にも予測不能で本当に全宇宙は危険にさらされようとしていた。そして、銀河連邦本司令部は宇宙全域に駐屯している各部隊、加盟惑星に緊急発足。

 

『なんとしても各惑星に侵略している謎の組織アマリ―リスを徹底的に捜索、感知し、発見した場合は直ちに本部に連絡、対処せよ』

 

そして各部隊はそれぞれ次の標的になりそうな惑星を予測して、その周辺を警戒を開始。

 

しかし、それが読まれているのか予想外な惑星に姿を表し、侵略。駆けつけてみればすでにもぬけの殻だったりと。

 

さらに惑星全域を侵略したりすれば、逆に何区域だけを襲撃してだけで、そのまま逃亡と明らかにこちらを挑発しているようなやり方さえあった。次第に加盟惑星から、まったく逮捕できない銀河連邦に対して「一体何をやってるんだ!?」などと批判の声も上がり、信用などの問題も出てきた。

 

連邦はもはやどうすればいいのか分からない状況であった。

 

しかし、これだけは言える。

 

『必ず逮捕しなければならない。それは全宇宙の平和や秩序を守る者として、そしてその誇りにかけて、どんな手段を持ってしても奴らの暴虐を止めなければならない』

 

……そしてエミリアは部屋で一人静かにコンピュータを操作し、アマリ―リスの情報を徹底的に調べていた。眉間にしわを寄せて、憎しみを込めた恐ろしい形相をしながら……。

 

(許さない……絶対に許さない……こんな酷いことをする悪魔どもを私は死ぬまで一生恨んでやる。目の前に現れたら、この手で……仇を討つ!!)

 

◆ ◆ ◆

 

「そっ……そんなことがあったなんて……」

 

「エミリアさん……っ」

 

ミルフィからエミリアの過去を聞かされ、言葉を失うドラえもん達。

凄惨な事実に彼女が受けたであろう衝撃と悲しみ、アマリーリスに対しての怒りも混ざり、非常に気分が悪くなるのだった。

 

「あれから数年経ってエミリアも回復したし、故郷に訪れて亡くなった人達の弔いもしたわ。だけどそれと同時にそのアマリーリスも以降ますます知名度を上げて、今や特一級指名手配にまでになった。これは今までにないほどヨ。

奴らには頭のいい仲間がいるのか私達銀河連邦が駆けつけてくるまえにはもういなくなっているのヨ。これは綿密な時間計算、戦略を考えないと不可能なことヨ」

 

「のび太としずかちゃんは……そんな奴らの本拠地の中にいるってのかよ……っ」

 

「大変なことになってきた……っ」

 

ことの重大さに気付き、段々恐怖に襲われる三人。

 

「……けど……アナタたちにはもう関係なくなるわ。そろそろあたしも戻らないといけないし……サヨナラ……っ」

 

悲しい顔をしてそこから去ろうとするミルフィにドラえもんは最後にこう聞いた。

 

「ミルフィちゃんっ、僕たちはこれからどうなるの!?」

 

彼の問いに彼女は立ち止まると振り向いてこう告げた。

 

「心配ないわ。アナタたちは私達の勝手で連れてきたから、何の罰を受けることなく地球へ帰れるヨ。けど『異星人文化干渉法』にある通り、アナタたちは知りすぎてしまった。これからアナタたちには記憶操作で今までの記憶を全て消してもらうわ。

つまりあたし達とは始めから会わなかったことになるのヨ」

 

「何だって……それじゃあ……ここのコトやのび太達の居場所も……」

 

「全て消されるって……こと?」

 

そしてミルフィはまた振り返り、最後にこう告げて去っていった。

 

「本当にごめんなさい……」

 

その言葉の前になすすべもなく三人はその場で固まる。

そして周りには重苦しい雰囲気に包まれたのだった。



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Part.14 行動開始

うす暗い留置所の中、ドラえもん、ジャイアン、そしてスネ夫の三人は悩んでいた。ミルフィの話を聞いて今の自分たちにとって、どうするべきなのかを。

 

「ドラえもん、やっぱりカーマイン提督にあって俺達も参加できるように頼んでみようぜ!ミルフィの話を聞いて黙っていられるかっ!?」

 

ドラえもんは腕を組んで悩んでいる。

 

「う~ん……と言ってもねえ。さっきも言ったけど、抜け出して万が一見つかったりでもしたらそれこそ……」

 

「そうだよそうだよ、無事に帰れるんならここで静かにしといたほうがいいんだよ!のび太達だってきっとここの人達が助けてくれるよォ!」

 

ドラえもんに賛同するスネ夫。確かにその方が安全かつ正論で現実主義者の彼らしい発言だ。

 

「スネ夫、お前裏切るつもりか!いつもなら嫌がるお前がついてきたのも俺達と同じ考えだったからだろ?

 

ここまで来たからには今さら後には引けないぜっ!」

 

するとジャイアンはその曇りなき眼で二人を見て、こう言った。

 

「……たとえ一人でも行ってくる。のび太達のこともあるけどエミリアさんの助けになりたい。俺は……そういう困っている人を見たら助けてやらないと気がすまないからな。ドラえもん、ここから抜け出す道具をだしてくれ!」

 

いつもは乱暴な少年だが、こういう事態になったら無謀だけど、直情的で人情味溢れる彼の良い性格面が顕れるのはたいしたものだ。

 

すると、

 

「……ジャイアンだけじゃ危険だ、なら僕も行く!」

 

「「ドラえもん!?」」

 

なんとさっきまで迷っていた彼自身がジャイアンに「協力する」と宣言したのであった。

 

「実は僕もミルフィちゃんの話を聞いてのび太君としずかちゃんはモチロン、エミリアさんの辛い思いから救ってあげたくなっちゃった。それにこっちはひみつ道具があるんだし何かあったらこれを使おう!」

 

それを聞いたジャイアンは大喜びし、ドラえもんの手を握った。

 

「おお~っ心の友よ~!」

 

「えへへっ、それにもし捕まっても一人より二人の方が気は楽だろ?」

 

「そうだな。で、スネ夫は?」

 

二人はスネ夫の方を見つめる。彼はキョロキョロ目を動かし、迷い抜いた末、

 

「わっ、わかったよっ、いけばいいんでしょ!?」

 

一人になるのが怖かったのか、仕方なくもドラえもん達と行動することを決めたようだ。

 

「なら決まりだな!!」

 

――こうして三人は力を合わせてここから抜け出しカーマインに会って説得するための作戦を考えはじめる。

 

ドラえもんはポケットを探りはじめる。

 

「『モーテン星』とか『石ころ帽子』は今ドラミに預けてあるから使えないけどあれなら……っ」

 

ポケットの中から取り出したのは何と、如何にもな形をした巨大な潜水艦だった。

 

「『潜地艦』、これに乗り込んで下から進もう」

 

「せっ潜水艦じゃないの…?」

 

「『地中に潜る』から潜地艦なの。そんなことより早く乗り込んでっ!」

 

……あまりパッとしないが、とりあえず艦の中に乗り込む三人。考えたらこの巨大な宇宙艦の中でまた小さな艦の中に入るのはおかしな話だ。

しかしそんなことを思っている暇などない、早く脱け出さないといつ警備員がここに来るかはわからない。

 

「じゃあ、行くよ。ちなみにこれはゼンマイ式駆動だから500メートルくらい進んだら地上に上がってまたネジを巻かないとダメだから二人とも、その時は協力をお願いね!」

 

「「はあっ?」」

 

二人は唖然する。いちいちそんな面倒臭いことをしないとダメなのかと思うのだった。

 

「もしネジを巻いてる時に見つかったらどうするんだよ!?」

 

「動かさなければネジは切れないんだから有効に動かせばいいんだよ。この双眼鏡から見れば地上を見れるし……さぁカーマイン提督のいた場所まで戻ろう!」」

 

「……そんなんで上手くいくかなぁ……?」

 

不安に思う二人をよそに、ドラえもんはボタンを押すと、潜地艦はまるで海の中へ潜るかのように地面へ沈んでいき、そしてその場から姿を消した。

 

「よし出発だ。幸いここから中央デッキまであまり遠くなさそうだから、時間がかかるけど急ごう!」

 

床下の謎の空間内では潜地艦が動き出し、留置場から脱出した。

果たしてこの三人は無事に彼の場所までたどりつけるであろうか……。

 

◆ ◆ ◆

 

一方、エミリアはやはり過去のことを忘れられないのか、彼女は何も言わず、ただ涙を流し続けている。そんなエミリアを黙って見つめるカーマインはついに口を開いた。

 

「やはりまだ立ち直りきれてなかったんだな……」

 

「……」

 

彼はため息をつき、腕組みをする。だがこればかりはしょうがない。いくらあれから数年経つとは言え故郷を滅ぼされ、自身も酷い目に遭わされた上に友人、ご両親、さらには自分の最愛の人まで失ったのだから心に深い傷として残るものだ。

しかも、それらが悪の組織『アマリーリス』の欲望の犠牲になったのだから奴らへの憎悪は計り知れない。

 

「……エミリア、なぜ私がお前を今作戦から外すと言ったか分かるか?」

 

彼女は顔を横に振ると、彼は持っていた護身用の拳銃を前のテーブルにそっと置いた。

 

「仮にだ。私がそのアマリーリスの人間だとしよう。目の前に仇がいる、お前の手の届く場所に銃が置いてある、お前ならどうする?」

 

「えっ……?」

 

「発砲はもってのほかだが持つのは自由だ。持ちたかったら持てばいい、銃口をこちらへ向けたければ向ければいい」

 

「あっ……あたしはっ……」

 

すると彼女は銃へ手を伸ばす。震える手で少しずつ近づいていく。ついに銃のグリップを掴み、そして彼女はさらにぶるぶる震えながらもカーマインの方へ銃口向け始めた。

 

「これだ、お前を作戦から外す理由は」

 

瞬時に彼女から銃を取り上げて元に場所に戻す。

 

「どうゆう……ことですか……?」

 

「確かにお前は普段は冷静で優秀なのだが、私情に駆られて独断専行的行動がよく見られる。あの子達をここに連れてきたのはまさにそれではないのか?」

 

「はっ……!」

 

確かに一度はあの三人の同行を拒否したものの、彼らの懸命な願いに心が揺れて結局は連れてきてしまった。思い直せば、あの時はアマリーリスに彼らの友達がいることを知って、つい私情も絡んでしまったのかもしれなかった。

 

「エミリアのような士官が情に振り回されて勝手な行動をするとどうなる?部下はお前についてくると思うか?」

 

「いっ、いいえ……」

 

「しかもな、あの子達を巻き込んで何かあったらどうするつもりだったのだ?その不思議な道具を持ち、協力しに来たと言われても保護対象の地球人でしかも、か弱い子供達とロボットだぞ」

 

色々指摘されて何も言い返せないエミリア。

さすがに言い過ぎたのか彼は口を出すを止め、立ち上がると彼女が座っているソファーの横に座る。

 

「最後にこの質問だけ答えてほしい。お前はもし奴らにくわしたら復讐したいと思うか?」

 

エミリアは彼の方を向いてコクッと頷く。

しかしこのあと彼から出た発言は思わぬ言葉だった。

 

「……そうか。ならなおさらこの作戦に出させるわけにはいかなくなったな」

 

「え……それはどういうことですか?」

 

「エミリア、『復讐するは我にあり』って言葉を知っているか?」

 

「……?」

 

『復讐するは我にあり』、新約聖書に登場する言葉で『悪を報いるは神であり、人間自らの手で報いてはならない』という意味である。それを法律的に今の置かれた状況で説明すると『アマリーリスは銀河連邦の法律で裁きを受けるべきで、復讐と言う名でエミリア自身が直接手を下してはいけない』という意味になる。

 

「敵討ちなどと自ら手を汚すように個人的な報復は間違っても考えてはいけない。あくまで我々は軍人であり警察だ。

アマリーリスという組織を組んで侵略や虐殺などの悪の道へ突き進むのを止めて、彼らを正しい道へ導くのが銀河連邦の本来の在り方だと私はそう思う」

 

彼の考えは最もだと思う。が疑問を抱く彼女は口を開く。

 

「……奴らには更正するという考えがあるんでしょうか?

私はそう思えませんが?」

 

「なら時間をかける。時間をかけてかけて少しでも変われるようにこちらが努力すればいい。人間の可能性を信じることだ」

 

『罪を憎んで人を憎まず』を信念としている彼らしい考えだ。

 

「ですが……あたしのこの気持ちをどこにぶつけたら……っ」

 

彼女は忘れようとしていたアマリーリスのことを思い出してあの惨劇の記憶が完全に甦ってしまっている。エミリアの一番の弱点はここだ。

 

元々彼女は感情の起伏が激しく感受性の強い、いわゆるセンチメンタルな性格である。

気になることがあると頭に残りやすく考え込んでしまい、それが元で熱が入りやすくなかなか冷めず、しかし落ち込むときは一気に落ち込むという不安定な精神の持ち主で、これは軍人という立場から見たら非常に危険な性格なのである。

 

しかも数年経ってるとはいえ、あの事件で心に深い傷を負った彼女のアマリーリスへの憎しみは倍増していると思われる。よって彼らを目にしたら、感情が高ぶり彼らの命を平然と奪いかねない。

 

確かに「悪人に対して慈悲などない」と言う声もかなりある。しかし、感情のままに殺していては報復どころかそれはただの『獣』であり最悪の場合、銀河連邦の誇りやモラルを放棄した『ただの人殺し』のレッテルを貼られることとなる。

 

エミリアの事情を一番知る彼からしてみれば彼女にはそんなものを一生背負ってこれ以上惨めにさせたくない。

 

これがエミリアを作戦から外す本当の理由である。

 

「気持ちは分かるが奴らがどんなに悪であろうと命は命だ、殺すことは私が許さん。ただ奴らはこちらに向かってきているのは幸いだ。私達が必ず奴らを逮捕するから安心しなさい」

 

するとエミリアはうつむいた状態で彼にこう聞いた。

 

「あの子たちは?」

 

「記憶操作でここの事や私達のことなどの記憶を全て消して、無事に地球へ帰す。彼らのその友達もまだ生きてるのであれば必ず保護して地球へ送り帰すつもりだ」

 

「……ありがとうございます。あたしが軽卒なばかりにこんなことになってしまって……誠に申し訳ありませんでした」

 

「……」

 

深々と謝礼する彼女の姿を哀しげ目に見つめる。

本当は彼女に言いたくないが、規律に違反した以上は上官直々として言わざるをえなかった。

 

 

だがその時「ビィ―っ!!ビィ―ィ!!」と艦内に警報が響きわたる。カーマインはすぐに自分の持っていた通信デバイスを開くと、その場で部下の映像が浮かびあがった。

 

「何事だ!」

 

『提督、留置場へ入れられていたはずの地球人の子供達とロボットが突然姿を消しました。脱走です!』

 

「なっ!?全エリア区域内を検索、彼らの居場所を逆探知し、通路を封鎖しろ!」

 

彼はデバイスを閉じると、すぐにエミリアの自室から出ていこうとするが、

 

「てっ……提督……っ!!」

 

エミリアは彼を呼び止め、震えるような声でこう言った。

 

「……同行させてください。こんなことになったのも全て私の責任です。なので私自ら出向いてあの子達を……」

 

彼女の必死な願いにも提督は『それを否定するかのように』首を横に振る。

 

「お前も行って事を大きくするんじゃない。それにお前は今は自室謹慎中の身だ。これ以上違反して罪を重くするんじゃない……ここに残りなさい」

 

そう言うと彼は部屋から出ていった。しかし彼女はそれで治まるような人物ではなかった。

 

「やっぱりあたしが行かなきゃっ……」

 

彼女なりの罪滅ぼしと考えたのだろう、今のエミリアの頭の中にはそれしかなく、しばらくして彼女もまた自室から彼らを探しに出ていってしまった。

 

◆ ◆ ◆

 

一方、ドラえもん達三人は床下から中央デッキに向けて進んでいた。しかし双眼鏡でしか確認出来ないためか、上では何が起きているのか分からなかった。しかも、周りを見渡しても誰もいないので不思議に感じていた。

 

「おかしい……急に人がいなくなったけど……」

 

「一回、地上へ上がってみようぜ!」

 

ドラえもんは正面の赤いボタンを押すと、艦は浮上し始める。

上がるとどうやら通路のようだ。

三人は外に出て周りを確認すると、前にはさっきまでなかったはずの分厚い金属壁が先の通路を塞いでいる。

 

後ろを見ても同じく金属壁で塞がれている。

 

「どうなってんのこりゃあ?」

 

「まるで閉じ込められたみたいだな」

 

「閉じ込められた」というジャイアンの言葉にドラえもんはあることに気づいた。

 

「まっ…まさか……ヤバいっ、早く乗り込んで二人とも!」

 

彼は急いで中に入るように促し、二人をすぐに潜地艦へ乗り込んだ。

 

「ドラえもんどうしたんだ!?」

 

ドラえもんはすぐにすぐ横の青いボタンを押し、沈ませる。

 

「僕らの脱走がバレたんだ。だから通路を塞いで僕らを行き道をなくしたんだと思う」

 

「なにっ、もうバレたのか!?」

 

「これでもしさっきの僕達が浮上していた時に探知されてたら完全に僕らの負けだ!!」

 

「ええっ!?どうして!?」

 

スネ夫が聞くと彼の額から汗が流れ出た。

 

「探知されてたらあの人達が駆け付けてその周辺を監視されるかもしれない。そうなったら浮き上がったところを発見されてしまう。しかも……」

 

「「しかも?」」

 

するとドラえもんは前の操作盤にあるメーターを指す。たぶん燃料に位置するネジの残量を表したものだろう。それを見ると、もう針が『E』の部分に近づいていた。

 

「見ての通りもうネジがない。少し進んでもまたゼンマイを巻きに上がらなければいけない。けどその時にもう待ち構えてかもしれないし、されてなくてもその間に探知される可能性は非常に高い!」

 

「「…………」」

 

どの方向にも少ししか進めない状況でどっちに転んでも絶望的。もはや覚悟するしかないのか……。

 

一方、カーマインは中央デッキに戻り、オペレーターとモニタリングしていた。

 

「エリア5行き通路に謎の小型艦と地球人の子供達を確認、そのあとまた艦に乗り込んで床に沈んでいきました……。これは一体……」

 

……やはり三人は探知されていた。

 

「各員に次ぐ、エリア5通路からその周辺に集合し待機、発見次第すぐに捕縛せよ。

なお、エミリアの話によると彼らの中に何やら未来から来たロボットがその時代の道具を所持、使用している模様。決して油断するな!」

 

艦内に命令を流し、大勢の隊員が銃を構えてそこに移動する。

 

「私も出向いてあの子達に直接説教を……オペレーターは引き続き捜索を続行し、情報を送るように」

 

「了解!」

 

彼もまた中央デッキから去っていった。そしてドラえもん達は床下に停滞している艦内で暗い顔で話し合っていた。

 

「だから僕らはあの場所で静かにしとくべきだったんだよ。記憶を消されても助かるならそれでよかったんじゃないか!」

 

「うるせぇ、もうここまできたんならしょうがないだろうが!」

 

二人は言い争っているなか、ドラえもんは考えた末、こう練り出した。

 

「こうなったら最後の賭けだ。わざと発見されて捕獲されたら多分、提督と会うだろうから、その時に説得するしかもうチャンスはないと思う」

 

「……俺もドラえもんに賛成だぜ。スネ夫は?」

 

「…………」

 

スネ夫は黙り込んでしまう。元々あまり乗り気じゃなかった彼だ。賛同しにくいのは無理もない。

するとジャイアンはスネ夫を見つめて右肩に手を置いてこう言った。

 

「考えたら俺が無理やりお前を誘ったんだからな、それは謝る。けどな、お前だってのび太達を助けるためやエミリアさんやミルフィの力になるために嫌々ながらもここまでついてきたんだろう?男なら潔く決めてくれ。俺だって怖い、お前一人だけじゃないんだからな」

 

「ジャイアン……」

 

やたらカッコいい台詞でスネ夫を説得する。

その言葉に感化されたのか、数秒間間を置いた後、スネ夫は何回も頷く。

 

「わかったよ。僕も協力するよ」

 

やっとスネ夫もその気になり、三人の心は一つになった。

 

「じゃあドラえもん、上がろうぜ!!」

 

「うん!!」

 

ドラえもんは浮上ボタンを押し、艦は上に浮かび上がる。

 

しかしその瞬間、そこにはたくさんの隊員が手持ちの銃を構えて周りに待ち構えていた。

 

「抵抗しなければ何もしないからすぐに出てきなさい!」

 

警告を前に三人はこそこそ中から出てくる。隊員達はすぐに三人の体を調べあげている間、やはりドラえもん達は恐怖で震えていた。

 

あのジャイアンも子供なのだから怖いのは当たり前だ。

 

すると三人の前にカーマインが駆けつけてくる。しかし彼の表情は苦渋だった。

 

「なぜ脱走ということを考えた?答えなさい……!」

 

彼の並みならぬ威圧が三人へかけてくるのであった。

 

するとジャイアンは突然、頭を下げて大きな声で彼にこう言った。

 

「おっお願いがあります。どうか俺たちをそのアマリーリスとか言う組織にいる友達を救うために協力させて下さい!!」

 

その事実を聞いたその場にいた兵士全員が耳を疑い、ざわめき始めた。さらにあとに続いてスネ夫、ドラえもんも頭を下げる。

 

「お願いです!絶対にあなた方の役に立てるように必死に頑張りますから!」

 

「お願いします!」

 

しかしカーマインはそれを無表情で首を横に振った。

 

「断る。君達はなんとかなるだろうと思っているのか?遊びじゃない、生死に関わることだ。あまりにも危険すぎる」

 

しかし三人は引き下がろうとしない。なぜならもう三人の決意は固かったからだ。

 

「どうかお願いします、友達を助けたいだけじゃなくてエミリアさんの辛い思いから救ってあげたくて脱走したんです!」

 

「な!?」

 

その言葉にカーマインは無表情から一転して焦りの表情へ変わった。

 

「も、もしかして彼女の過去を知っているのか……?」

 

「……」

 

すると、

 

「ドラちゃん!!スネ夫くん!!タケシ君!!」

 

なんとミルフィもここに急いで駆けつけてきた。走ってきたのかなり息を切らしている。

 

「ミルフィちゃん!やっぱり僕ら、エミリアさんの助けになるよっ!」

 

「そうだぜっ!ミルフィが全て話してくれたおかげでこっちもやる気が出てきた、ありがとな!」

 

その発言を耳にしたカーマインはミルフィにグッと睨み付ける。

 

「ミルフィっ!お前まさかこの子達にエミリアのことを!?」

 

「も、申し訳ありません……どうせ記憶を消されると思ってつい……しかしまさか脱走するとは!?」

 

「つい、じゃない!どうして軽々と彼女の事情をばらしたのだ!?この馬鹿者!」

 

「ぴいっ!!」

 

ひどくしかりつけ、完全にミルフィは萎縮してしまっている。

そして彼はドラえもん達の方を見て、こう言いはなった。

 

「知ってしまった以上はもうしょうがない。だかなエミリアはもうこの作戦に参加させないと決めたんだ。第一彼女はもう……」

 

しかし突然、

 

「お待ちください提督!!」

 

「なっ!?」

 

全員が振り返るとそこにはあのエミリアがここに歩いてきていた。その時の彼女は思い詰めた表情をしていた。

 

「自室謹慎と言ったハズだ!破ってさらに罪を重くするつもりか!?」

 

しかし彼女はその言葉を無視して彼にこう言った。

 

「……この子達と話をさせて下さい。あたし自ら言い聞かせます!」

 

「………っ!」

 

そのまま彼女は三人の方へ向かうと彼らを見つめた。しかし、徐々に眉間にシワを寄せ始める。

 

「えっ……エミリアさん……」

 

「ああっ……っ」

 

すると、

 

「「「あてっ!」」」

 

なんと彼女は右手で三人の頭をペシ、ペシ、ペシと軽く叩いた。

 

「脱走なんかバカなことをして何かあったらどうするのよ!?場所と立場をわきまえなさい!」

 

彼女は三人をひどく叱った。しかしそれで反省するような彼らではなかった。

 

「俺たちはエミリアさんの助けになりたくて提督に頼み込んだんだ!なあ二人とも!!」

 

「「うんっ!!」」

 

その力強い声からは意志が強いことがはっきりわかる。

 

「あっあたしの……?」

 

驚く彼女にミルフィがこう伝える。

 

「実はアタシ……留置場でエミリアの事情を話しちゃって……その、本当にごめんなさい……」

 

「なっ……なんですって…っ!?じゃあ……っ」

 

すると今度はドラえもんが彼女にこう言う。

 

「うん。僕たちはミルフィちゃんから全てを聞いてあなたの助けになれたらなと思ってつい……僕たちそういう人を見かけたら助けずにいられないタチだから」

 

「……」

 

彼女の瞳から一筋の雫が流れる。

 

……それは涙だ。

 

彼女は涙を拭くと、提督の向かってお辞儀をした。

 

「謹慎中の身でありながら、無断に出てきてまことに申し訳ありません。ですがお願いがあります、彼らをここで許してもらえないでしょうか?この通り悪気があって行ったのではありません。どうかお願いします」

 

「エミリアさん!?僕達が勝手に脱走したのにあなたが謝る必要ないよ!」

 

「そうだよ!僕達はただ協力できればいいなと思って言いにきたのに!」

 

彼らはエミリアを弁護するが、彼女はニコッと笑って顔を横に振った。

 

「ありがとう。私のためにここまで考えてくれるなんて……その気持ちだけで充分嬉しいわ。けど私はもう違反した以上、もうどうすることもできないのよ。本当にごめんなさい」

 

「エミリアさん……っ」

 

三人はもちろん、周りにいる全員が言葉を失った。

三人のその強い意志と優しさはここにいる兵士達に強く突き刺さっていた。それはカーマインにさえ同じだ。

しかし違犯は違犯、それはどうあれ変えることはできない運命であった。

 

「……………」

 

するとカーマインは被っていた帽子のズレをしっかり直して彼女の肩に手を置いた。

 

「……落ち込んでる暇はない。お前には今作戦で頑張ってもらわないといけないからな」

 

「……えっ?」

 

その言葉に全員が耳を疑った。すると彼は彼女に背を向けた後、こう言った。

 

「お前に特別任務を与える。その地球人の子供達と協力して今作戦時、アマリーリスにいると思われる彼らの友達を救出、保護する任務を附与する。もちろん、パートナーのミルフィもだ!」

 

それを聞いたエミリアとミルフィ、三人は顔を輝かせて彼にこう聞いた。

 

「そっ……それじゃあ……あたしは……!?」

 

カーマインはエミリアの方を向いて普段と同じ、優しい顔で返す。

 

「この子達はお前に全てを託す。君達もエミリア大尉の指示をちゃんと聞くんだぞ、わかったな?」

 

そう言うと彼はその場から去っていった。

 

それから少し沈黙した後……。

 

「やったああああっ!!」

 

「エミリアさんよかったなぁ!!」

 

その場にいた隊員が一気に大歓声を上げた。そしてエミリアとミルフィ、そしてドラえもん達三人はあまりの吉報に体を震わせていた。

 

「信じられない……まさか……こんな……っ」

 

ミルフィはすぐにエミリアへ飛び込んだ。

 

「エミリアよかったヨぉ!!提督は許してくれたんだぁ!!」

 

ミルフィは嬉し涙を流して顔を擦り付ける。

 

「ミルフィ……」

 

彼女も涙を流して二人で喜びを分かち合う。

 

一方、三人は安心したのか一気に体が崩れその場に座り込んだ。

 

「よっよかったぁ……」

 

「ホントに一時はどうなるかと思ったよ……」

 

「けど俺たちが必死に頼みこんだおかげだな」

 

そう言っている三人に元にエミリアとミルフィが笑顔で手を差し伸べた。

 

「あなた達地球人は本当に不思議ね。けど本当に感謝してるわ。ありがとう!」

 

「私たちより地球人の方が数段たくましいんじゃないかしらぁ♪」

 

二人の感謝と誉め言葉にデレデレになるドラえもん達。

 

「いやぁ……」

 

「えへへっ……」

 

そしてエミリアは張り切って彼らにこう言う。

 

「提督から指示を受けた通り作戦時、あなた達はあたしの指示に従って行動すること、決して自分勝手な行動はしないこと。わかったわね?」

 

「あとここではアタシはともかくここの人たちの言うことは絶対に従うことヨ。軍隊なんだからネ?」

 

凛々しい口調で言われ、ドラえもん達もビシッとする。

 

「「「はっ、はいっ!!」」」

 

それを見た彼女はクスッと笑った。かくして三人の純粋で懸命な思いがここの雰囲気をグンと変えるという偉業を達成したのだった。

 

一方、中央デッキでは。

 

「エミリア大尉を許したのですか!?」

 

異例の措置にデッキ内の部下達は驚きの声をあげる。

 

「ああ、あの子達の行動や姿を見てると昔の私を思い出してな。あの頃はただひたすらに正義感溢れていたな……。今は立場上そんなことも忘れて法律だの規則だのを気にするようになっていたようだ。エミリアの可能性を含めて信じてみようと思う」

 

彼の表情は非常に清々しかった。

 

「しかし違犯は……」

 

「実際あれは本隊に伝える気はないよ。あの叱咤はエミリアを反省させる意味で言ったのだからな。実際に私もあの法には理不尽な部分を感じるしな」

 

それを聞いた部下達は脱力しため息をついた。

 

「なんだ……心配しすぎて損した。あれは嘘だったのかぁ……」

 

「ゴホン……っ」

 

少し皮肉の混じった小声が聞こえ、咳き込むカーマイン。しかしすぐに真面目な表情へ変える。

 

「問題はここからだ。あのアマリーリスがこちらに向かっているということに注目しなければならん……」

 

「そうですね。作戦会議はいつになさいますか?」

 

「……今から8時間後だ。あとあの子達の部屋を手配してくれ。彼らはこれからエミリアと共に行動させる」

 

「了解」

 

◆ ◆ ◆

 

あのあと三人はエミリア達からここの基本的な規律や行動などを全て聞かされた後、各部屋へ案内された。

エミリアは作戦会議に出向いている間、彼らは疲れたのか部屋のベッドで寝ていたのだった。

 

ジャイアンは完全に爆睡、スネ夫は地球にいる母親に思いを馳せ、ドラえもんは……。

 

「のび太君、しずかちゃん……大丈夫かなぁ……?」

 

やはりドラえもんは二人が心配で眠れなかった。ちゃんと生きてるのだろうか?生きているにしても酷い目に遭っていないだろうか。ただ不安が募るばかりであった。



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Part.15 戦闘訓練①

ーーエクセレクターの司令室ではユノンがラクリーマに対して苦言を漏らしてる。

 

「やはりどう転んでも銀河連邦を避けるのは無理ね……」

 

「…………」

 

ラクリーマは腕組みをして椅子にもたれかかる。ため息をつき、目を閉じる彼に彼女はさらに追いうちをかける。

 

「……調査した結果、あの銀河系周辺にランクS級のエネルギー反応を確認したわ。それほどの質量を持つ反応はNPエネルギーを使用する銀河連邦の主力艦以外には考えられない。向こうも馬鹿ではないからこちらの行動をすでに逆探知しているハズよ」

 

「ということは……連邦は応援を呼び寄せて俺達がワープホール空間を抜け出した瞬間、艦隊ではさみうちするってワケか、クククッ」

 

明らかにアマリーリスにとっては望ましくないことに何故かラクリーマは笑っている。

 

「何が可笑しいの?ともかく……侵略するならまだしもリスクを負ってまで、ただあの子達を地球まで送るなんてあたしは反対だわ。こちらにはなんのメリットもない」

 

彼女が反対するのも当たり前だ。ランクS級は自分たちの母艦、エクセレクターと同等のエネルギー質量を持っている。

銀河連邦はさらに『ランクA』、『ランクB』級戦闘艦をほぼ無限に近いと言っていいほどの数を所有している。

 

そんな銀河連邦艦隊に包囲されれば、圧倒的にこちらが不利なのは彼本人でもわかっていた。

 

「こっちも対策を考えてある。それが通じるか通じないかは……五分五分だがな。だが通じれば両方とも後腐れがなく解決するだろう」

 

「……?」

 

彼はユノンにその対策方法について話す。

 

「……ねえ、もしそれが通じなければ?」

 

「……その時は強行突破だ」

 

その発言に逆撫でされてユノンは「バンッ!」と机を力いっぱい手を叩きつけてラクリーマにギラッとした目で睨み付ける。

 

「……あんたふざけてんの?そんな適当に考えて……もしエクセレクター……いいえアマリーリスに何かあったら責任とれるの?」

 

対しラクリーマは自信げに満ちた笑みで通している。

 

「へっ、俺達は今日死ぬか明日死ぬかの毎日だろうが。今さら危険なことをおかすことに躊躇しねえよ。あと、のび太達の約束を守るって言ってしまったしな、何回も言うが俺は嘘をつくのがキレェなんだよ」

 

彼女は頭を押さえてため息をついた。

 

「ハァ……あたしはあんたのそういうトコが嫌いよ。もう少し真面目に考えて……」

 

「ユノン、お前は肩に力入りすぎてんだよ。一度は気を楽にして考えろよ。そんなんじゃあ気が滅入って体壊すぞ?」

 

ラクリーマは彼女をなだめるようにいったが、それが彼女の神経を逆撫でし彼の胸ぐらを掴んで馬鹿でかい声で激怒した。

 

「あんたねえ!!他人事みたいに言ってェっっ!!」

 

彼女は怒りのあまり、彼をぐっと持ち上げる。

 

「……大体あんた、リーダーのくせにいつもいつも変なイタズラしたり、くだらないコトしか考えないから常にあたしが苦労してんでしょうが……わかってんの!?」

 

彼は怒らず無表情でこう答えた。

 

「ああっ、お前には何から何までいつも感謝してるよ。俺だっていつもヘンな事を考えてるわけじゃねえ、常にどうすれば最小限でかつ効率的に物事がうまくいくか考えてる。

 

……ひとつ言っておくが、俺は元々侵略や交戦の時は最前線に立って戦闘に参加しながら戦闘員に直接指揮する肉体労働的役目、お前は艦長として俺らをサポートしつつ、艦内の部下を指揮するいわば司令塔的役目。俺とお前は全く考えが別だし作戦練ってもその通りに上手くいかねえのがほとんどだから、そこはケース・バイ・ケースで今までもそうやってきたんだろうが。違うか?」

 

「…………」

 

ラクリーマは不敵な笑みを浮かべて、彼女にこう言いきった。

 

「のび太達を絶対地球へ送る。それは部下達も承知しているんだ、変更はしねえ。なんならここにあいつら全員かき集めて多数決を取ってみるか?それならお前も納得すんだろ?」

 

ユノンはそれを聞いて静かに胸ぐらを掴んだ手をゆっくりと放す。軽く息を吐き、いつもの冷静さを取り戻すと彼に背を向けた。

 

「……悪かったわ、ついカッとなって……。確かにあんたみたいに柔軟な思考をしないといけないのかもしれないわね。けどあたしはアマリーリスを壊滅させたくない気持ちでいっぱいなの。そのあたしの気持ちをわすれないでね……」

 

「ああっ、そこは同じ考えだ。俺だってあいつらが生き残る為に体張ってんだ。お前と俺でフォローしあえば充分いけるさ」

 

「フフっ……」

 

彼女は軽く笑うと、司令室から去っていった。ラクリーマは天井を見上げて鼻をほじりなから口笛を吹いている。

 

その数分後、彼は立ち上がり腕をブンブン振り回して歩き出した。

 

「さあて、今日は何人あいつらをしごいて泣かそうかなっ?ククク……っ」

 

ラクリーマは歯を剥き出しにして笑い、司令室を出ていく。『しごいて泣かす』……いったいどう言うことなのか?

 

◆ ◆ ◆

 

このアマリーリスはほぼ男性の数で割合を占めている。しかしユノンを初め、開発部門のサイサリスなど少なからず女性は在籍している。それもあり組織員の中にはその女性員とカップルになることが度々あり、休憩時間や非番時にプライベートを過ごすのだ。もちろん……彼も例外ではなかった。

 

「レクシーさんっ!」

 

艦内でぶらぶら散歩をしていたのび太としずかは休憩広場に立ち寄り、偶然そこにいたレクシーに話しかけた。

 

彼の横には一人の女性がレクシーと仲良く話をしている。

 

「よおお前ら。散歩か?」

 

「うん!」

 

軽く挨拶をしたあと、のび太達は彼の横にいる女性に目が止まった。

地球人にほとんど大差ない姿のユノンとは違い、その女性は猫をそのまま人間にしたような姿をしており、ドラえもんがこの場にいたら一瞬で惚れてしまいそうだ。そんな彼女ものび太達を興味津々に見つめている。

 

「へえ、あんた達が例の地球人ニャ?可愛い顔してんじゃないのぉ♪」

 

甘い声を発し、妖麗のような笑みを浮かべた彼女はのび太の方へに寄り添い顔を近づける。

 

「いいっ……」

 

「レクシーさん……この人は?」

 

レクシーは頭を押さえて、照れくさそうにこう答えた。

 

「こいつはジュネ。アマリーリスのオペレーター担当でその……」

 

「あたいのカレシだニャっ!」

 

「「ええっ!!」」

 

二人は大声を上げて驚く。

 

「ジュネっ!人前でそんなこと言いふらすんじゃねえっ!」

 

「なあに恥ずかしがってるんだい?あんたと付き合っているなんてここの全員知ってるのに別にこの子達に教えてもいいじゃニャいか?」

 

顔を真っ赤にし、ため息をつくレクシー。いつもは明るい彼だが恋愛に関してはどうやら奥手なようだ。

 

「レクシーさん……」

 

「ふふっ」

 

そんな彼を見て和む二人。すると彼女はのび太としずかの肩に手を伸ばしてぐっと引き寄せた。

 

「ちなみにあんた達二人を互いにどう思っているのかい?聞いてみたいニャ~あっ?」

 

その言葉に二人は一瞬で顔をレクシー以上に真っ赤にし、あたふたし始める。

 

「いっいやっ僕たちはぁ!!」

 

「そそっ、そんな関係じゃありませんっ!」

 

動揺している二人を可愛く思えたのか、ニヤッと笑う。

 

「そう?ちなみにあたい達くらいになるとプライベートタイムは激しいんだからぁ♪あんなことやこんなこと……ふふっ…っねえレクシぃ~♪」

 

「ばっバカ!子供にまだそんなこと言うなよ!」

 

まだ無知な二人は彼女の言っていることが理解できていないのが幸いだった。

 

「激しいって……どうゆうことだろ?」

 

「さあ……っ」

 

すると彼女は両腕を使い二人の肩に置きグッと引き付けて自分の顔へ近づけさせた。

 

「……あんた達はまだ知らなさそうだから今度あたいの部屋にきなさいなぁ。オトナの世界をたっぷり教えてアゲルからニャあ♪」

 

なんと彼女は二人を頬にキスをし出す。すると今度はジュネはのび太に抱きつき、彼の胸、股間をイヤらしい手つきでサワサワ触れまくる。

 

「ひいっ!」

 

「特にあんたは男だし経験を先に済ませるつもりであたいがイイ気持ちにさせてあげましょうか~~♪︎」

 

なんと大胆というか……うらやましいというか……ともかく、のび太をアブナい世界へ誘惑しようとする彼女に対してレクシーは、

 

「い、いい加減にしろっ!こいつらはお前の趣味に合わん!」

 

ジュネはのび太達を離して立ち上がると、レクシーに向かって皮肉まじりの笑顔を見せる。

 

「冗談冗談。けどあんただってあたしと二人っきりになったらケモノになるクセに、そうやって人前になったら急に恥ずかしがってシュンとなる性格をなんとかしたら?」

 

「…………」

 

何も反論できなくなるレクシー。そんな彼女も彼を見て溜め息をついた。

 

「……ちょっと言い過ぎたニャ。けどわかってちょうだい。あたいはそんなあんたのことを死ぬほど愛してるんニャからね♪」

 

「ジュ……ジュネ!」

 

彼らの前で、レクシーへの愛を恥ずかしげもなく宣言する彼女は本当に大したものだ。しかし彼もそこまでいってくれる彼女が好きで好きでたまらないのであった。

 

「よせやい……のび太達が聞いてるじゃないか……」

 

そんな二人を見てのび太達、特にしずかは憧れるかのように輝いた目で注目している。とても女の子らしい本能だ。

すると彼女は背を向け、ニコっと笑い、顔だけ彼らへ向いてこう言った。

 

「そろそろあたい、休憩終わるしブリッジに戻るわ。それとあんた達、レクシーをあんまり困らせるんじゃないよっ」

 

彼女はそう言うと彼らから去っていった。

 

「あいつ……本当にメンドくせえ女だぜ……」

 

そんなことを言ってるが彼自身はとても嬉しげな表情をしている。そして二人も顔を赤くしながら彼女の後ろ姿を見ていた。

 

「あの人……なんかいい人みたいだね……っ」

 

「ええっ……かなり大胆すぎる人だけど……」

 

そんな二人をレクシーが割り込み口を開いた。

 

「まあそんなとこだ。お前たちはこれからどうするんだ?今日は非番だしお前らに付き合うぜ?」

 

それを聞いた二人は大喜びする。

 

「本当ですかぁ!?」

 

「やったあ!」

 

レクシーはのび太達から気に入られてしまったようだ。すると、

 

『連絡します。非番以外の戦闘員はすぐに訓練エリアの模擬戦場に集合。リーダーがお待ちです』

 

突然の放送が流れ、その場にいた休憩中の戦闘員がその場で凍りついた。

 

「まさか……あの……」

 

「ひええっ!!いやだぁ!」

 

全員が謎の嘆きの声をかけてすぐにそこから走り去っていく。

それを見ていたのび太達は全く理解できずただ呆然と見ていた。

 

「どうしたのかなぁ。やけに嫌そうな顔だったけど……」

 

「今から訓練エリアのそこで何か始まるんじゃない?」

 

そんな中、レクシーはニンマリした笑顔で、

 

「よっしゃあっ!!今日は非番だったから良かったぜヒャっハァァっ!!」

 

その場に子供みたいにはしゃぎ回る彼に全く訳の分からないのか目が点になっているのび太達。

 

「レクシーさん……どうしたんですか……?」

 

彼はヒイヒイ笑いながら二人にこう告げた。

 

「ワリイワリイ♪そうだ、今から訓練エリアで見物しにいくか?超おもしれえものが見れるぜ!?」

 

「面白いもの?」

 

「何をするんですか?」

 

彼は自分の拳と拳をガツンと叩き合わせた。

 

「今からそこでリーダーの超絶鬼指導の戦闘訓練が始まるぜ。これがマジで死にそうになるんだよなっ!」

 

「ええっ!?」

 

「せっ……戦闘訓練っ……!!」

 

二人はまるで軍隊の訓練をするのかと思うと言葉を失う。『死にそうになる』と想像しただけでただ事じゃなさそうだからだ。

 

「いくか?」

 

レクシーが聞くと考えこむ二人。ちょって見てみたい気もするが、その過酷そうに思える訓練を見てドン引きしそうな予感がしていた。

 

しかし、二人はこうも思いっていた。あのラクリーマが直々に指導している姿を見てみたいと。

なので二人は互いを見つめ、頷きあうとレクシーに伝える。

 

「みっ見たいです!」

 

「ラクリーマさんがここの人達に教えてる所を!」

 

レクシーは嬉しげにくいくいと指で来いと合図する。

 

「なら行くぜ。訓練が始まる前に行くぞ!!」

 

そう言って三人は訓練エリアへ向かう途中、のび太は走りながらこう考えていた。

 

(ラクリーマって……いつも何してるんだろう……)

 

◆ ◆ ◆

 

……訓練エリア内の施設の一つ、模擬戦場。対局地戦、対多人数戦など、『戦闘シミュレーター』と呼ばれる機械を用いてありとあらゆる様々な戦闘を想定して訓練する場所である。ここはどちらかと言うと生身を駆使した格闘、銃器を使用した訓練が行われる。

 

三人が到着した模擬戦場は大きな街1つ分はある広さの空間の中には見学用の安全スペースがある以外は機械や機器が全く置いていない、本当の意味で地平線のように感じるほど広いと感じることができる場所である。

これは訓練中の障害及び、怪我の原因にならないようにしているためである。

その中心部でラクリーマが大勢の戦闘員にプロテクター付きのアーマーを装着させて何かを指示している。しかし戦闘員の方は非常に思い詰めた表情をしていた。

 

レクシーとのび太達はそこに移動するとそこに設置してあるイスに座る。

 

「あちらの内容はすべて前方に出てくる空間モニターで映るようになっているから遠く離れてもわかるようになっている」

 

「へえ、便利な機械だね」

 

「ねえのび太さん、ラクリーマさんがこっちに来るわ」

 

するとラクリーマはのび太達のいる所に走ってくる。すると三人に気づいたのか手を上げてニヤッと笑った。

 

「よお、お前らは見学か?」

 

「うん。こっちにきてどうしたの?」

 

「上着が邪魔になるから脱ぎに来ただけだ。ここに置いとくぜ?」

 

すると彼はとっさにタイツの上着を脱ぐと上半身が裸になる。

しかしそれをみた二人は……。

 

「うわあっ!!」

 

「信じられない……っ」

 

驚愕の声を彼に浴びせる。その鍛えぬかれた盛り上がった屈強な筋肉はもちろんであるが、その身体からは幾多の闘いを潜り抜けたことを物語るおびただしい傷痕が至るところに刻まれていた。そして二人が一番注目した所はその左腕全体である。

 

タイツからだと左手首までしか義手だとしか分からなかったが、上半身裸になり左腕がさらけ出されるとそれより上の肩、左胸部まで鈍い銀色の金属で作られた義手であった。そして左胸には巨大な青色のレンズを組み合わせた丸い機器が埋め込まれている。

彼はいわゆるサイボーグだと今初めて二人は知ったのだった。

 

「おい、そんなに人の身体をじろじろ見んなよ。ならいってくっぜ!」

 

そう言い、ラクリーマはすぐに戦闘員の元へ走っていった。

 

「ラクリーマってなんか……」

 

「ロボットみたい……」

 

唖然としている二人にレクシーは二人に説明する。

 

「驚いたか。無理もねえやな、俺も初めてみた時びっくりしたわ。ちなみにあれは『ブラティストーム』ってな、あの人の強さの秘密だ」

 

「ぶっ……ブラ…………っ?」

 

「ス……トーム……?」

 

聞き取れてなかったのか、上手く語呂を言えないのび太達に彼はゆっくり喋る。

 

「『ブラティストーム』だ。お前らも初めてリーダーと会った時にも使ったが、あの人の義手であり且つ強力な兵器でもあるんだ。まあっ……訓練始まったら今にわかるぜ」

 

「…………」

 

二人は気になっていた。このアマリーリスの総司令官たる男、ラクリーマはどれほどの強さを持っているのか。

訓練が始まるのを静かに待っていた。



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Part.16 戦闘訓練②

「よし、なら画面を出すぞ」

 

レクシーは椅子の肘掛けに設置してある四角いボタンを押すと三人の目の前に巨大な立体映像が現れる。それを見ると数十メートル離れた場所にいるラクリーマと戦闘員が何やら話している姿が映し出されている。どうやらこれからの訓練内容を伝えているようだ。

 

「クククッ、あいつらマジで嫌そうだな」

 

レクシーは今から訓練を受ける戦闘員を見て笑っている。

 

「なんか……あの人達の顔色がおかしいよ」

 

「どうしたのかしら?」

 

のび太達二人もそれに気づいた。戦闘員全員がもうやる気がなさそうにへなへなしていた。映像を拡大し徐々にラクリーマ本人の声が大きく聞こえてくる。

 

「……というわけで、今からは対多人数戦闘訓練を開始する。2チームに分けてそれぞれ役割を決めてくれ。状況は言った通りだ!」

 

「…………」

 

何故か部下達は黙り込んでいる。それを見た彼は徐々に苛立ちを募らせる。

 

「てめえら返事しねえかっ!!嫌なのかオラァ!?」

 

「へっへいっ!!」

 

彼の一喝に反応して戦闘員達はとっさに返事をする。

 

「ちっ、ビクビクしやがって。訓練が嫌な奴がいるなら今すぐ出ていっていいぞ。だがそんな奴は二度と俺にそのツラ見せんじゃねえ!」

 

しかし部下達は必死に首を横に振る。

 

「なら早くチームを作りやがれ!!早くしねえとチーム決める時間がねえぞ!」

 

そう言われ、彼らはすぐにチーム分けを始めた。そんなやり取りを見てのび太達はラクリーマの過激さに唖然としていた。

 

「うわあ……キツいこと言うなぁ……ちょっと言い方がヒドくない?」

 

しかしレクシーは頭をポリポリかきながら二人にこう諭した。

 

「しゃあねえよ、遊びでやってるわけじゃねえんだし。あの人も好きであんなこと言ってるわけじゃねえ、ここにいる戦闘員全員のために言ってるだからな……あっ、そういう俺も戦闘員だった」

 

するとのび太はレクシーにこう訊ねた。

 

「ラクリーマって普段この中で何の仕事をしてるんですか?」

 

「リーダーは元々俺達と同じ戦闘員から成り上がった人だからな。そんなわけで侵略作戦の計画作成以外では俺ら戦闘員の戦闘指導や鍛練を担っている。あの人も仕事の時は戦闘指揮官になるから、自分の訓練がてら、自ら参加して部下を指導するんだ」

 

「へえっ、ラクリーマも……」

 

「確かにあの人達と混ざってもホントに違和感がないわねぇ」

 

二人は妙な納得感を得る。

 

「それ以外ではアマリーリス全体の統括、エクセレクターの全搭載武装や格納庫でお前らに見せた戦闘ユニット、俺達戦闘員の装備品の管理、武器や装備品の開発における総責任……とまあ戦闘面に関わることは全てあの人の管轄だ。ユノンさんとは別ベクトルで忙しい人だな」

 

「……ラクリーマさんも大変なんですね」

 

「そりゃあアマリーリスの総リーダーだからな。俺達みたいにただ命令聞いてその通りに動けばいいってわけにはいかないし何から何まで自分で考えて組み立てねえといけねえんだ。しかしまあ、あの人以外じゃ俺含めてここのリーダーに絶対務まらねえわ」

 

ーーそんな中、やっとチーム分けが終わり、全員がラクリーマに注目する。

 

「終わったか。各人アーマー、プロテクターをちゃんと装着できているか、手持ちの武装に異常がないか最終確認しとけよ!」

 

全員が彼の指示に従って、全員が身の回りを確認し始める。

しばらくすると全員が彼に向かって親指を突き上げる。それは確認終了を意味する合図だ。

それを見たラクリーマはそのチームリーダーに目を合わせて向こうの広い場所へ指を指した。そのチームは一斉に指した方向へ移動する。

 

「お前らはここに待機、なお俺も途中で参戦する。だがどこのチームに加担するかはあえて教えねえ、俺も全力で行くからそのつもりでな!」

 

するとラクリーマは一番端に移動し、耳に装着していた通信機に手を当てて、話し出した。

 

「準備完了した。戦闘訓練を開始する。戦闘シミュレーター起動、想定場所は市街地」

 

『了解。想定場所、市街地ーー』

 

次の瞬間、二人は目を疑った。今まで何もなかった広い模擬戦場が一瞬で家やビルなどの建物が出現、一気に尽くされ、本物さながらの街へと化した。これは実体なのか、はたまた虚像なのか?

 

「うわああっ、これはスゴいっ!!」

 

「一体こんなのどうやって!?」

 

驚くばかりである。実際もうさっきまでいた2つのチームが完全に建物に隠れてしまい見えなくなっている。

ラクリーマは端の壁に寄りかかりニヤリと笑いながら、通信機を通して全員にこう告げた。

 

「なら戦闘訓練を開始する、制限時間は30分。スタート!!」

 

彼が訓練開始の合図を告げた瞬間、

 

「うおおおおっっ!!」

 

「おおおおっっ!!」

 

2チーム全員が一気に走りはじめる。総勢百人は裕に越えていよう2チームとも、二手、三手に別れて建物の間に溶け込んでいく。

 

そして各人がそれぞれの建物に配置し、各チームリーダーの指示で動き、そして!!

 

「うぐうっ!!」

 

「きえっ!」

 

この中は完全に合戦状態と化した。建物や壁を利用して狙撃を行う隠れ蓑戦法を使う者や迂回して挟み撃ちにしようと行動する者、タッグを組んでライフルを構えて直接敵陣に突撃する者……銃火器を駆使して遠距離戦法を使用する者、ナイフや格闘などの白兵戦法を駆使する者、さまざまな多種多様な戦法を使い、この訓練の幕が上がった。

男達は真剣で必死な思いを胸に大量の汗を流しながら、訓練ではあるけれど本当の戦闘さながらの迫力を醸し出している。無論、そんな熱き男達の戦いぶりにのび太としずかは誰も死なないか心配しつつも心のそこから感心するのであった。

 

「かっ、かっこいいなぁ……」

 

「ええ…っ。スゴい熱気が私たちのところにも伝わってくるわ。けど……あれって全部本物の武器なんですよね?あの人達大丈夫かしら……?」

 

心配を口にするしずかに対し、レクシーは腕組みしながら口を開く。

 

「大丈夫だ。身体中にみっちりアーマーとプロテクターつけてンだろ?あれは特殊合金を使用してるからあの程度の攻撃じゃあ一切通用しねえのさ。衝撃耐性もバッチリだから余計な心配すんな」

 

「よかったあ……」

 

それを聞いて彼女は幾分安心感を得る。

 

「けど訓練ってようは練習でしょ?たかが練習なのにあそこまで本気でやるのかなぁ……」

 

のび太の疑問にレクシーはフッと鼻で笑い、こう説いた。

 

「当たりめえじゃねえか。これは侵略時に起こりうる交戦を想定してやってんだ。侵略される側だって黙ってやられるわけなく抵抗してくんだし、それにやられねえ為だよ」

 

「…………」

 

やっぱり侵略って言葉に引っ掛かるのび太。まあしょうがないことだが……。

 

そして半分の時間が経った時、ラクリーマがついに首を回しはじめ、腕を振り回した。

 

「そろそろ俺も行くかな!」

 

そう言うとラクリーマは全速力で走り始め、物凄いスピードで入り汲んだ道を駆け抜けていき、そしてついに戦闘区域に到着する。

 

「よっしゃ、俺はこのチームに参戦だ。お前らは俺を中心にして左右に展開、俺が注意を引き付けるから回り込んで狙い撃て。建物や遮蔽物を有効に生かして行動、戦闘せよ!」

 

ラクリーマの指示と共、彼の加担したチーム全員は彼の指示通りに行動を開始する。

 

「やべぇ、いきなりラクリーマさんが敵かよぉ……っ!」

 

「じょっ冗談じゃねえぞ!」

 

一方、もう1つのチームはラクリーマが参戦したことにより動揺し始めていた。

 

「来たぞ、リーダーだ!」

 

見学場所では三人はついに彼の参戦に注目し始めた。

 

「お前ら、リーダーを囲んで攻撃するぞ!」

 

そして相手チームの複数人が彼に向かってくる。どうやら接近戦に持ち込もうとしているようだ。しかし彼はそれに臆することなく自分からも進んでいくーー。

 

「手加減はしねえぜ、戦いは常に先手必勝!」

 

ついに彼らはかち合う。部下達は銃器のグリップやメリケンサックのような武器で一斉に四方から殴りかかる。が、ラクリーマは余裕で素早く掻い潜り、彼らの包囲陣を抜け出した。

 

「なっ!」

 

間を入れず彼はぐっと構え、その鍛えぬかれた筋肉から繰り出される気の入れた右拳のストレートが部下の顔に直撃。「ゴキャ!」と下手したら頭蓋骨を陥没しかねないほどの勢いと共に鈍い音が聞こえ、部下は苦痛に帯びた表情で吹き飛んだ。

さらにその丸太のような太く堅い筋肉の足による全力を込めて振り抜いた蹴りが相手の腹部に直撃し、アーマーを着こんでいるにも関わらず「ぐえっ!」と悶絶して身体がくの字に折れた。

 

「うらぁ!」

 

二ィッと狂喜の笑みを浮かべて両手を合わせてハンマーのように全力で脳天から叩き込み、力ずくで地面にねじ伏せた。

これでもいつも鍛えている荒くれ者達であるにも関わらず反撃の隙も与えず、彼の恐るべき戦闘力を前に歯が立たなかった。

 

「てめえらそれでも毎日鍛えてんのかァ!?」

 

彼らは特殊合金製アーマーを身につけているにも関わらず、瞬時に『隙間』を見つけてピンポイントで攻撃している。なんと言う視野の広さを持っているのか……?

 

「ぐはぁ!!」

 

瞬時に相手の懐に飛び込み彼の放った右ボディーブローが相手に直撃し、泡を吹いて悶絶し膝が折れて地面に崩れ落ちる。見るからにかなり苦しそうである。

今度は敵が手持ちのコンバットナイフをラクリーマへ向かって振りかぶったが義手でがっちり受け止めていなした。その時に生じた隙を見逃さず彼は相手の顔を軽くジャブをかまし怯んだ隙に顔をグッと掴み、勢いに任せてそのまま地面へ顔を叩きつけた。

なんて剛腕なのだろうか……もしこれがのび太であったなら間違いなく地面にめり込んで顔がザクロのように潰されていただろう。

 

「あわわわ………」

 

のび太達はその凶悪な強さに呆然としている。しかしそんなものはまだ序の口、このあとさらに驚く光景を目にすることとなる。

 

「よし、後はお前らでここを制圧しろ。俺は別の場所を掻き回してくる」

 

通信機で味方チームにそう命令し、彼はまた走り出して他の敵の密集地に赴く。

建物の角から敵の数を確認するとすぐさま飛び出して姿を晒した。だが彼はすぐ建物の壁を蹴りあげて、所謂三角飛びの要領で隣の建物にまた三角飛び、そしてまた三角飛び、とまるで忍者のように建物の上まで駆け上がっていき空中で鳥のように華麗に舞いながら左義手『ブラティストーム』を突き出すと手首から4つの銃口のついたギミック……そう、しずかに怪我を負わせた内蔵武装の一つ、小型NPビーム砲を突出させ、約40m先の真下にいる4人に狙いを定めて発射された青白いNPエネルギーの光線が瞬く間に突き抜け、全弾直撃した。

 

「ぐわっ!」

 

エネルギー出力を最小限に弱めていたのか貫通せずに後方へ吹っ飛んだだけであったがそれでもその威力だ。

軽やかに地面に着地した彼に休まず4人の敵が追い討ちで突撃してくるがさらにそこからバク転やとんぼ返りで回避し後方へ行くと、まるで踊るかのように左右に高速ステップを繰り出して相手を翻弄する。

そこからまるで野猿のように機敏に、そして縦横無尽に駆け回りながら4つの銃口を展開、彼らへ向かって4門一斉に光線を発射し、寸部狂わず全て命中した。

 

「「「「がはっ!!」」」」

 

直撃した四人は一斉にその場に倒れる。これも出力を弱めていたので衝撃だけで済んだのだった。

 

「うそ……な、なんであんなに速く動けるの……?」

 

下半身ならまだしも上半身まで盛り上がった筋肉の塊であるラクリーマだが、普通は素早さが落ちそうであるがそれどころか脚力、瞬発力、反射速度、俊敏性がトップアスリート以上の機動力を持ち、例えるならまさに『猛獣』である。

 

「ぐわはははははっ!!」

 

それ以降も敵側の止まない攻撃を余裕で掻い潜り、受け止め、そして重い一撃で次々に沈めるラクリーマはこの通り、その外見に違わぬ怪力と獣のような高い機動力、そして様々な武器、火器を詰め込んだ左義手『ブラティストーム』を引っ提げてのび太とほぼ同等の卓逸した射撃能力から繰り出される高い命中精度……さらには味方を常に指揮しながらこれだけのことをやってのけている彼がアマリーリス最強の存在と言われる由縁がまさにこれである。

 

「終了、ここまで!!」

 

制限時間が過ぎてラクリーマの声と共に周りの建物は一瞬で消え去り、何もない最初の広い空間に戻った。

 

「はあっ……はあっ……」

 

「ぜえっ……ぜぇ……っ」

 

死力を尽くしたのか、戦闘員達はかなり疲れはててぐったりしている。しかし、そんな彼らを気にせずラクリーマはすぐに全員を集めて何かを話し出す。

 

「見ただろ、あれがリーダーの実力だよ」

 

「あんなの……誰も勝てないよ……」

 

「ええ……」

 

一方、見学サイドではのび太達は驚きのあまり開いた口が開かなかった。強そうとは思っていたがまさかこれほどだったとは……と、まさに驚愕だった。

 

「驚くのはまだ早いぜ。これはリーダーにとっちゃあ肩慣らしにもなってねえんだからよ」

 

「えっ?」

 

モニターを見ると、ラクリーマは何やら部下に指差して何かを言っている。聞こえているのだが二人は全く理解出来ていない。

 

「今何を言ってるんですか?」

 

「さっきの戦闘訓練の評価だ。各チームの良かった所、悪かった所を指摘してるんだよ」

 

「へえっ」

 

評価が終わり、ラクリーマは戦闘員をまた集めてこう言い出す。

 

「なら引き続き戦闘訓練を実施する。内容は同じだが想定場所を変更する!」

 

「はっ……はい……っ」

 

休憩させる暇も与えず、また訓練続行を宣言する。

 

 

「すぐに前とは違うチーム分けと役割分担を決めろ。出来るだけさっきと同じ奴と組まないようにな」

 

急いでまたチーム分けを開始する。そんな光景に二人はある疑問点が思い浮かぶ。

 

「休憩はしないのかな?」

 

「あんなにぐったりしていてあの人達は大丈夫かしら」

 

その問いにレクシーはまた溜め息をついて話し出す。

 

「ここからだよ。本当の地獄は……」

 

「?」

 

そしてすぐにチームが決まり、1チームを向こうに移動させ、ラクリーマはまた端に移動する。

 

そして、

 

「訓練実施する。想定場所は草原地帯だ」

 

『了解』

 

今度は建物などの巨大な障害物は一切なく、あたり一面にのび太の身長くらいはある青草が生い茂っている。

2チームは上半身だけはもう飛び出ているので遠くからでも互いが分かりすいようになった。

のび太としずかはこの『戦闘シミュレーター』の凄さにもはや呆れ果てている。

 

「あはっ、ちょっと僕もあの中に入ってみようかなぁ」

 

「のび太さんっ!?」

 

そう言うとのび太は即座に立ち上がった。しかし、

 

「やめろっ!」

 

出ていこうとしたのび太にレクシーが叱咤する。

 

「お前、今から訓練始まるってのに何もつけずにいくつもりか?死ににいくようなもんだぜ。

あと訓練の邪魔をすんな。もし無断に入ってリーダーに見つかってみろ、あの人はガチギレするぞ」

 

その言葉にのび太はさすがに空気を読まなかったと思ったのか、静かに椅子に座る。

 

「カンベンしてくれよ。ここで何かやらかしたら怒られるのはお前だけじゃなく俺もなんだからな?くだらねぇことで人を巻き込むのはくれぐれもやめてくれ」

 

「うん……」

 

のび太は深く反省する。ここで自分の身に何かあったら自身ともかく、しずかにもレクシーにも迷惑がかかると痛烈に感じたのだった。

 

 

「のび太さん……」

 

シュンとなっているのび太を心配するしずか。

 

そんな中ついに、

 

「なら戦闘訓練実施する。制限時間はさっきと同じだ。スタートっ!」

 

訓練開始の合図と共にチームは行動を始める。

 

それぞれのチームはガサガサと草を分け入り、向こうへ移動したチームはそれぞれ四手の組みに別れ、挟み撃ちをしようとしているのか四方向から相手チームへ忍びよる。一方、片方のチームはその場から動かず各員、それぞれ向かってくる組の方向へ向いて迎え撃とうとしている。

 

ーーさきほどのように合戦へと発展する。しかし今回は銃器は使わず、ナイフや格闘などの近接攻撃が主体で進んでいく。

だがラクリーマはそんな彼らを腕組みをしながら段々と険しい表情になっていくが………。

 

「……やべえな」

 

「えっ?」

 

レクシーが突然、そう言う。彼の表情もラクリーマのように非常に険しい。一体何があったのか……?

 

……訓練も中盤に差し掛かろうとしたその時、

 

「てめえらそのまま止まりやがれっ!」

 

ラクリーマの馬鹿でかい声が辺りに響き渡り、それと同時に全員の動きが止まる。

 

「訓練を一時中止する。一旦リセットだ」

 

そう言うと生い茂っていた一面の草原は一瞬で消えて何もない空間に戻り彼はすぐに戦闘員の元へ向かう。しかしその顔は怒りに満ちた表情であった。戦闘員全員が息を切らしながら、そして怯えているかのような表情でラクリーマへ視線を集中して到着を待つ。

 

「いきなりどうしたんだろ?レクシーさん、なにかあったんですか?」

 

「…………」

 

のび太は質問するが、レクシーは珍しく何も説明せずにただ映像を見つめている。

 

二人はそんな彼を見て、ただ事ではないと感じたのか深刻な表情へ変えて、再び映像に注視する。そしてラクリーマが到着するなり戦闘員達をぐっと睨み付ける。腕組みをして右手の人差し指をトントンと叩きながらしばらくした後、口を開いた。

 

「……今の訓練中、少しでも手ぇ抜いていた奴は正直に手を挙げろ。まあ、あげなくても俺は分かるがな」

 

ラクリーマの問いに、手を恐る恐る挙げていく人物が一人二人と段々増えていき、最終的にはほぼ半数近くが手を挙げていた。ということは約半数の戦闘員が手を弛めていたことになる。

 

「……分かった。手を下げろ」

 

それを見たラクリーマは目を瞑り、沈黙し始める。だが数十秒後、再び目を開けると彼らにこう言った。

 

「手を抜いた者はさらに訓練続行、それ以外はレクシーとのび太達のいる見学室で休憩及び、見学してろ。わかったか?」

 

「………………」

 

また黙り込む彼らにラクリーマはついに憤怒した。

 

「てめえら、また返事なしか!?そんなにやる気ねえんだったらさっさとこっから出ていきやがれっ!!」

 

なんと彼はとっさに手を挙げた一人の戦闘員の首元をぐっと掴むと引っ張り出してそのまま地面へ叩きつけたのだった。

 

「ううっ!!」

 

戦闘員は体を震わせて立とうとする。その震えはくやしい思いからなのか、疲れはてて動けないという意味なのかはわからない。

 

「お前のような腰抜けはここにはいらねえよっ!戦闘員なんかやめて雑用係でもすりゃあいい。てめぇらもそうだ、俺のやり方が気に入らねえ野郎はこいつと仲良く雑用してやがれっ!」

 

彼ら含めて、その場にいる全員に罵言を吐きまくる。その異様な一連のやり取りにのび太達も信じられないかのように顔を青ざめて見ていた。

 

「ヒドすぎる……っ!」

 

「ああっ……」

 

さすがにここまでするのはやりすぎではないのかと二人の考えは一致していた。するとのび太もムッとした顔で立ち上がり、そこから飛び出していった。

 

「ちょっ、のび太待て!!」

 

「のび太さんっ!!」

 

レクシーとしずかも慌てて立ち上がり、すぐにのび太の後を追いかける。

 

「…………」

 

のび太の怒りは頂点に達していた。こんなやり方はあまりにも可哀想すぎる、彼の優しさがラクリーマの乱暴なやり方に黙っていられなかったのだった。

 

「ラクリーマ!」

 

「のび太?」

 

ラクリーマ達はこちらに走ってくるのび太に目を向ける。彼自身もそこに辿り着くと、さくほどラクリーマによって倒された戦闘員の前に立って庇いはじめた。

 

「なんでこんなヒドイことをするの!?この人だって頑張ってたじゃないか!?」

 

その姿を見た全員がギョッとなった。

 

「「のび太(さん)っ!!」」

 

レクシー達ものび太の元に辿り着くとすぐさま彼を抑え着けた。

 

「リーダー、話の邪魔させてすいません!あとでこいつにみっちり言い聞かせるんで許して下さい!」

 

彼はのび太に代わり、ラクリーマに必死で謝りはじめたが当の本人は抑えこまれながらも必死で訴えた。

 

「悪口言って投げ飛ばして、そんなのただのイジメだよ!しかも休ませないでみんな疲れきってるのにあんまりだぁ!」

 

「のび太ぁ!まじでやめねえとお前ただじゃすまなくなっぞ!」

 

「のび太さんやめて!」

 

しずかさえものび太を止めようと介入しはじめ、辺りは異様に思い空気に包まれた。

 

「レクシー、のび太を放せ!」

 

「へっ?」

 

怒っているどころか冷静に話すラクリーマに唖然とするレクシー。

 

「ちいとのび太と話をしたい。放してやれ」

 

彼の命令に戸惑いながらもコクッと頷き、すぐにのび太から手を離した。

 

「…………」

 

「…………」

 

互いに向き合ったまま何も話さない両者。そしてそんな二人を心配そうに見守る全員。一体ここからどんな事態へと発展していくのであろうか……誰も予測できなかった。



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Part.17 戦闘訓練③

「のび太?」

 

静寂な雰囲気の中、先に口を開いたのはラクリーマだった。そして彼はなぜかのび太に手を差し出している。握手のつもりなのか……?

 

「これって……?」

 

「何って?見りゃあわかんだろ」

 

のび太もその不可解な行動に全く理解できないが、とりあえずこちらも手を差し出してみた。互いの手がもう数センチでふれ合おうとした所まで来たその時、

 

「ところでよ」

 

「え?」

 

彼のふと発した一言でのび太の目が前に向いたその一瞬の隙にラクリーマは右足を横に振り切り足払いをかけた。見事に引っかかったのび太は足元を掬われて視点が真正面から横にずれてそのまま下へ落ちていき床に倒れる。

ラクリーマはすかさず右手で彼の口を押さえ込み、今度はブラティストームの内蔵武装の一つである手の甲から鋭い鉤爪を突出させ、

 

「ああっ!?」

 

その場にいた全員に緊張が走る。彼の放った鉤爪がのび太の眼孔の前で寸止めされていたのだった。

 

「ムッムムッ!!?」

 

のび太は突然過ぎて何が何だか分からなかったが次第に恐怖に駆られて今すぐにでも抜け出したいが、今ジタバタすれば目の前にある4つの鈍い光を放つ鋭利な刃物のエジキになりかねない。本能的にそう感じたのか、のび太は身動き出来なかった。

 

「キャアアアアッ!?」

 

しずかはとっさに悲鳴を挙げる。彼女も突然の出来事に何をしたらいいのか分からなくなった。

 

「心配すんなしずか、別にのび太を殺すわけじゃねえよ」

 

「え……?」

 

ラクリーマは彼女を落ち着かせるかのようにそう伝え、押さえこんでいるのび太の方へ目を向ける。

そのあと彼は、いつも通りの笑みを浮かべてのび太にこう質問た。

 

「お前、もしこんな状況になったとしたらここから抜け出せることができるか?」

 

「?」

 

彼はのび太を離し、鉤爪も引っ込める。のび太はゆっくり立ち上がるとラクリーマに目を向けた。

 

「どっ、どうゆう……こと?」

 

その意味を聞こうする彼に、ラクリーマは分かりやすく説明した。

 

「さっきみたいに絶体絶命な状況に陥っても気を保っていられるかってことよ!」

 

「……」

 

のび太は考え込む。しかし先ほどの事態を想像すれば、どう考えてもまず自分の能力ではどれほど抵抗してもなす術もなく、殺されていただろうという考えに行き着くのであった。

 

「俺らはどんな状況下にも屈せず、生き残るために訓練してんだ。だがな、訓練ごときで手ぇ抜いて、本番になったら手を抜かないと胸張って言えると思うか?」

 

彼の言葉が戦闘員全員の心に強く突き刺さる。さらにラクリーマはその場にいる全員にこう説く。

 

「侵略、特に戦闘時の勝敗は実力もあるが、なにより心理面、つまり強気か弱気か、気ぃ抜くか抜かないかで大きく左右されるもんだ。

確かに疲れてくると気が散漫になる。だからと言ってさっきみてえに押し倒されて凶器が自分の目の前に迫っていて、『ああ、もうダメだ』って弱気になっちまったらもうオダブツになるのは当たりめえよォ。

ちなみに俺はこれに限らずどんなに窮地の状況になっても切り抜けられる自信はある。俺はやるときは常に全力だからな、自然にいくらでも方法は思いつく」

 

勉強にしても、スポーツにしても得意ではない、好きではないことにはすぐに手を抜いたり諦めたりするのび太とはまさに正反対の考えだ。

 

「あとさっき握手だと思って油断してたろ?俺がいきなり手を差し出して不思議と思わなかったのか?それともあれは単につられて手を出したのか?」

 

「あっあれは……」

 

「……すぐ言えねえとなると、つられたんだろうな。お前ら地球人のことは知らんが実際そんな手取り足取り親切にしてくれる世の中じゃねえぜ。

お前みたいにお人好しでホイホイ人を信用しているとそれが仇となっていつか自滅すんぞ」

 

ラクリーマの言う通りである。世の中はのび太が思っているほど甘くない。現実はもっと汚く、騙し合いが常の弱肉強食の世界なのである。実際に地球でもそれが日常茶飯事に起こっているのである。

 

のび太は良いも悪いもお人好しですぐに人を信頼してしまうことがあり、それが元で貧乏くじを引かされるのは度々あり、時には窮地に陥ったことが度々あった。

ラクリーマは短期間でのび太のその性格を見抜いていたのである。

 

「どうだ、俺は間違ったことを言ってるか?これもみんなこいつらにそうなってほしくねえから言ってるんだ」

 

「けっけど、さっきの訓練にしたって頑張って疲れてる人に向かってさ、『雑用でもしてろ』とか言ったり、地面に叩きつけるなんて……いくらなんでもヒドいとは思わないの?大体疲れてる時に気が抜けてくるのは当たり前じゃん、僕だってそうだよっ!」

 

のび太は負けじと反論する。

 

「それに言うけど、ラクリーマのやり方はこの人達を休憩なしでただ疲れさせてるだけにしか見えないんだけど……」

 

「ばっバカっ!!」

 

「……」

 

次の瞬間、ラクリーマはのび太の胸ぐらをぐっと掴み、憤怒の表情で睨み付けた。

 

「ケツの青いガキが知ったようなことぬかすんじゃねえ!」

 

「ひいっ!!」

 

のび太はこの男の気迫に圧倒されてしまう。しかし彼はそんなことをお構い無しでぐっと持ち上げ始めた。

 

「キサンがそんな口をきくとこを見ると、いかに今まで楽して生きてきたかよおくわかるんだよ!血ヘドを吐かせてやろうか、そうすれば同じことが二度と言えなくなるハズだ!」

 

「…………」

 

「気が抜けている奴が一人でもいると訓練の意味がなくなるだけじゃねえ、真剣にやってる奴に対して失礼なんだよ!邪魔なんだよ!

訓練てのは疲れてるからこそ気を引き締めたほうがよっぽど効果あるんだよっ!!」

 

ラクリーマは胸ぐらを離すとのび太はペタンと尻餅をつき、彼の方を見上げた。

 

「俺らが助けたとはいえテメェは部外者だろうが。俺らのやり方に口出しすんじゃねえよ、わかったか?」

 

「……ううっ……ひっくっ……」

 

ついにのび太は泣き出してしまった。子供でましてや泣き虫である彼にこんな悪人面した大男が怖い顔をしてそこまで叱咤すれば泣くに決まっている。そんな彼を見かねたラクリーマはのび太を肩をギュッと掴んだ。

 

「泣くな、男だろ!しずかが横にいんのに恥ずかしいと思わねえのか!!」

 

「ラ……ラクリーマ……」

 

「俺はすぐ泣くやつは大嫌ぇだ!!そんな奴見てるとマジでぶっ殺したくなるんだよ!」

 

「…………」

 

「のっ……のび太さん……」

 

彼らのやり取りにつられて今にも泣きそうになるしずかはのび太の方を心配そうに見つめていた。

 

「ううっ……ラクリーマさん……絶対真面目にやるのでもう一度やらせてくださいっ!!」

 

「……」

 

さっき倒された部下が起き上がり、ラクリーマに深くお辞儀をして頼み込む。

しかしのび太は立ち上がると彼の元を行く。

 

「けっけど……疲れてるんなら……また休めば……」

 

「のび太だっけ……お前みたいなガキに庇われちゃ俺はもうおしめぇよ。けど……ありがとな……」

 

「……」

 

ラクリーマは腕組みをして部下の方をギロッとした目で彼を睨み付けた。

 

「次に手を抜いてみやがれ、その時はお前を八つ裂きにするからな。てめえらもだ、俺がまた気ぃ抜いたと悟ったらどうなるか覚えておけよ!」」

 

「はっはいっ!!」

 

戦闘員一斉に大きな返事をした。

 

「レクシー、手を煩わしてすまなかったな。のび太としずかを見学室に連れ戻してやれ。訓練参加者は少し休憩をやる。もっかい気を入れ直して訓練を始めるからな!」

 

レクシーは頷くとのび太としずかを連れて見学室へ歩き出した。

 

「のび太さん……大丈夫っ……?」

 

「うん……しずかちゃんに恥ずかしいとこ見せちゃったね……っ」

 

「そっそんなことないわ、あたしも少しラクリーマさんの指導はやり過ぎかなと思ってたから……」

 

「……」

 

レクシーは二人の会話を黙って聞いている。彼は今、何を思っているのだろうか、全く分からなかった。

三人は見学室に近づくにつれて、何やら人らしき姿がうっすらと見えてくる。それは、意外な人物であった。

 

「ユノンさんだ!」

 

見学室では彼女は座席に座らず腕組みをしながら後ろの壁に寄りかかり、映像を見ていた。のび太達が近づいても全く彼らの方を見ようとしない。

 

「珍しいですね、ユノンさんがこんな所へ来るなんて。座らないんですか?」

 

「……いいわ。仕事が一段落ついてあいつのむさ苦しい姿を見にきただけだから……」

 

「……そうですかい」

 

レクシーとユノンは素っ気ない会話して三人は座席に座り込む。

 

映像にはそれぞれヘタって崩れるように休憩している戦闘員達の横で、絶え間なくシャドーボクシングのように拳と蹴り技を猛烈に繰り出すトレーニングをするラクリーマの姿が映っていた。

一発一発に気を練り込んだ拳突き、蹴り技の素振り、連携、その彼の瞳を見ると、真剣そのものでものすごく集中しているのがよく分かる。

 

「…………」

 

 

しずかはもちろんのび太でさえ、その姿に惚れてしまいそうだ。

 

「……吸ってもよろしいかしら?」

 

「あっ……はいっ」

 

「……?」

 

ユノンはレクシーから承諾をもらい、しずかの横に設置してある円い穴のついたオプジェに前に立つと懐から何やら細く短い棒を取り出すとそれを口に加えた。それはのび太達も普段見かける物、煙草であった。

 

ライターらしき物で火をつけ、上へ向かって「フゥ……」とカッコよく煙を吹かす。

 

それを見たしずかは、まるで恋をしたかのように「ドキッ……」と胸が急に引き締められるような感覚に襲われる。

 

(こっ、この人タバコ吸うんだ……不良みたい……けど……)

 

その姿を何回もチラ見してしまう。横から見るユノンの煙草を吸う仕草、吹かす仕草が実にサマになっていて、同じ女性であるにもかからわずとても美しく且つカッコよく見えてしまう。

 

「……何か用かしら?」

 

「いっいえっ!なんでも!!」

 

ジロジロ見てるしずかに気づいたユノンは彼女をじっと見つめる。しずかは焦り、すぐに目をそらすもやっぱりその姿が焼きついてしまっていて何度もみてしまいそうになる。

 

「……のび太君だったかしら?いい見物を見せてくれてありがとね」

 

「えっ?」

 

レクシー達三人とも驚いて一気に彼女に注目する。

普段はあまり自分から話さないユノンがのび太に声をかけた。組織員でもなかなか話さないのに部外者である彼に話をするということは今までにないことだった。

 

「彼に反抗するなんて……あなた、底なしのおバカさんのようね」

 

「なあっ!?」

 

しかし期待を大きく反して、平然な顔でバカ呼ばわりされたのび太は多大なショックを受けた。

 

「ちょっと酷くないですか!?のび太さんは勇気を出してラクリーマさんに言ったんですよ!?」

 

「しずか!?」

 

「しずかちゃん!?」

 

のび太を庇うしずかの姿に当の本人とレクシーは驚いた。

しずかからしてみれば、大切な友達である彼に罵言を言われて黙っていられるわけがなかった。しかしユノンはこちらを見るどこら全く顔色を変えないでただ映像を見つめている。

 

「まあ、よかったところもあったわ」

 

「良かったところ?」

 

ユノンは目をつむり、軽く笑う。

 

「あなたの泣きっぷり。鼻水まで垂らしててとてもカワイかったわ」

 

「…………」

 

ほめているのかバカにしているのか全く分からず、のび太の頭の中がモヤモヤする。

 

彼女は言ったことを気にする様子はなく、残り少なくなった吸いがらを穴の中へいれるとそのまま模擬戦場から去っていった。

 

「……っ!」

 

しずかは珍しく苛立ちを募り、体をプルプル奮わせている。そんな彼女をよそに、レクシーはのび太に励ましの言葉を送っていた。

 

「のび太、気にすんな。きっとあの人なりの誉め方なんだよ。普段あんまり話さないからな」

 

「そうなんですか?」

 

「多分な」

 

二人の会話を聞いていたしずかは多少落ち着くが頭の中は考えが複雑に絡みあってすっきりできない。

 

優しい性格で労ることを知っている彼女からしたらユノンの発言に悪気があったどうかはともかく、友達であるのび太を明らかに見下すような言い方に気にさわっていた。

それもあるがなんといっても先ほどのただ煙草を吸う姿があまりにも印象が残り過ぎて忘れられず、その結果、モヤモヤとなってしまう。そんな中、画面では休憩が終わり再び訓練が始まろうとしていた。

 

「よっしゃあっ、なら気を取り直して始めるぜ!てめえら準備はいいか!!」

 

「おおっ!」

 

さっきの一件で戦闘員も始める前よりも気合いが溢れて全員が大声を出す。これものび太とラクリーマのおかげであろう。

 

「俺を感心させてくれよな。では訓練再開だ!」

 

そして訓練が再び始まり、全員が一丸となって励む。その内容や全員の頑張る姿は初めの訓練以上に覇気伝わるものなり、非常に熱き展開へと進んでいく。そんな姿を端から目視していたラクリーマは心を揺さぶり嬉しくてたまらないのであった。

 

「やりゃあできるじゃねえか!これなら俺も死ぬ気で頑張れるもんよぉっ!」

 

ラクリーマも満面な笑みを浮かべて自ら訓練に参加していく。その訓練に参加するラクリーマの顔はなんて楽しそうな顔なんだろう。

 

それは見学室にいたのび太としずかにも伝わっていた。

 

「ラクリーマ、本当に楽しそうに訓練してるなぁ……」

 

「あの人達もさっき以上に活気に溢れているわ。これものび太さんとラクリーマさんのおかげね!」

 

「しずかちゃん……いやぁ……えへへっ!」

 

「しかし本当にヒヤッとしたわ。もうあんな心臓に悪いことはやめてくれよな……」

 

思い人であるしずかに誉められデレデレしているのび太、そして肝を冷やして顔色の少し暗いレクシー。

 

「次々行くぞ、ついてこいよ!!」

 

「はっはいっ!!」

 

戦闘が終わるとまた戦闘と……休憩なしの連続地獄が始まる。

様々な戦闘場所を変えて、彼らは疲労しきり、今にも死にそうな顔をしているが、指導しているラクリーマを失望させまいとただ気合いと根性で乗りきっていく……。

 

「うわあ……これで何回めだよ……?」

 

「かっ、数えただけで9回目よ……。ホントにキツそうよね……頑張って……っ!」

 

のび太としずかはそんな彼らに同情している。

この訓練一回につき制限時間30分なため、計6回は約3時間は全く休みなしでこなしているということになる。

だとしたら彼らの疲労はすでにピークを迎えてると思われるが……。

 

「言ったろ、マジで死にそうになるって……。俺も前にあれをやらされたときは終わったあとその場で『ドサッ』だったな。あんなのもう意地と体力の張り合いだぜ……っ」

 

「…………」

 

二人の血の気は引いて、青ざめる。本当にアマリーリスに所属していなくてよかったと思うのだった。

 

その最中、しずかは不可解な点を見つける。それはラクリーマのことに関してだった。

 

「レクシーさん、ラクリーマさんを見てて思うけど、あの人あんなに動き回ってるのに全く疲れてないみたいなんですけど……」

 

彼女の質問にレクシーは半分彼に対して呆れたような表情をし、腕組みをした。

 

「リーダーは俺達戦闘員のなかでもぶっちぎりで体力がある上に三度の飯より戦うコトが大好きだからな。あんだけ動いても疲れると感じてねえんだろうぜ。見てみろよ、あの顔を」

 

そう言われ、二人は映像を見ると途中参加であるものの、ぶっ続けで訓練している部下達と劣らぬくらいに動き回り、指揮し、闘っている彼の表情は疲労しているどころか逆に楽しんでいるかのように生き生きしている。

 

「こんなこと言うとリーダーに失礼だけど、あそこまでいくとどんな神経してんだよと思うぜ……っ」

 

「「…………」」

 

――そして、その訓練地獄にも終わりが……。

 

「これでこの訓練は終了する。てめえらよく頑張ったなっ!!」

 

ラクリーマの終了合図に参加者ほぼ全員がその場にドサッと倒れた。

 

「やっ……やっと終わった……っ」

 

皆、心からそう思うのだった。

 

「おいおい、そのまま倒れんなや、歩きながら深呼吸しろ。でねえと死んじまうぞ」

 

 

「……はい……ぜぇ……ぜぇ……っ」

 

しかしそれを実行したのは少人数だけで、それ以外は疲労しきり、立つことさえもかなわなかった。

 

「ご苦労さんっ、てめえらやれば出来んじゃねえか!まあ実際はこれもある意味のび太のおかげかもなっ、あいつに礼言っとくか?」

 

彼は本当に嬉しそうな笑みで部下達を見つめている。

 

「……すごかったなぁ」

 

「ええっ、あの人達も本当に頑張ったよねぇ……っ」

 

のび太達は感動したのか知らず知らずに涙を流していた。

彼らの頑張りは二人の心に大きく印象に残り、良いものを見れたと心からそう思うのだった。

 

「何か嫌な予感がするぜ……っ」

 

「……?」

 

レクシーは何かに気づいたのか、険しい表情している。

画面を見ると、ラクリーマがまた素振りとさらにフットワークを開始していた。

 

これはまさか……。

 

「お前ら、早く呼吸を整えとかねえと次がキツいぜ?」

 

「…………へ?」

 

「次は格闘技場で組手やるぜ、あと10分くらい休憩したら移動しろよ?」

 

「こっ……これで終わりじゃないんですかい……?」

 

「誰が終わると言った?甘ったれたこといってんじゃねえよ」

 

彼のその言葉に全員が耳を疑った。これで終わりではないのかと……その場にグニャっと脱力する。

 

それはのび太達も同じであった。まだやるのかと二人も目を点にして口が開いたまま塞がらないのであった。

 

「こっ……心に火がついちまったようだな……ハハッ……」

 

レクシーもただ苦笑いするしかなかった。



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Part.18 戦闘訓練④

格闘技場は先程の模擬戦場の横にあり、広さは4分の一程度である。その中は沢山の戦闘員が詰め込まれるように密集し非常に暑苦しかった。

 

「うおおおぉっ!!」

 

《バキっ!!ズサーっ!》

 

「次ぃっ!」

 

「ダリャアアッ!」

 

《ドゴっ!!ズサー……っ》

 

「次ぃっ!」

 

ラクリーマ直々に組手を行っているのだが、彼の前には全く歯が立たず、立ち向かっていく戦闘員達は全員返り討ちにあい、サンドバッグ状態。これでは組手と言うよりただの一方的な殴り合いだ。

それを他人事のように見ているレクシーの足首を倒れこんでいる一人の戦闘員が掴んだ。

 

「頼むレクシー、俺と代わってくれぇ!」

 

「ふっ、ふざけんじゃねえよっ!?今日俺は非番じゃあ!!」

 

交代を要望されて首を横に振るレクシーだったが、

 

「レクシーっ!!」

 

見ると、彼はニヤニヤしながら「来い」と言わんばかりに指でクイクイ呼んでいる。それを見たレクシーは一気に顔が青ざめた。

 

「え……まっ……マジ……っ?」

 

呼ばれたからには行かないワケにはいかず、

 

「ぎゃああああっ!」

 

当然敵うハズもなく、見事にボコボコにされてのび太としずかの目の前で倒れながら震えている。

 

「レクシーさん……大丈夫ですか……」

 

「な、なんで俺がこんな目に…………ううっ」

 

そんな状態が続き、格闘訓練が終わった。参加者ほぼ全員が顔中アザだらけでへばっているのに対し、ラクリーマ自身は全く無傷で相変わらず元気に素振りしている。

 

「はあっ……マジでもう終わんねえかなぁ……」

 

「腹殴られて吐きそうだ……っ」

 

「俺達を殺すつもりなのか……あの人は……っ」

 

どこからか不満や弱気な声が出始めている。

それをラクリーマは彼らをチラ見するも、黙って素振りを続ける。

 

……数分後。

 

「お前ら集合。最後の訓練を始めるっ!」

 

休憩していた参加者全員を召集させる。「またキツい訓練やらせれるんだろうな」と彼らはそう思っていた。

しかし、このあとラクリーマの訓練指示は誰もが理解できないことだった。

 

「1時間の猶予をやる。休憩及び、今から各人完全武装してもう一度模擬戦場に集合な!」

 

「……えっ!?」

 

「リーダー……何の訓練を……っ?」

 

「それはその時のお楽しみだ。さあ、お前ら準備にかかれ!」

 

そう言って彼はまた素振りに入る。部下達は一向に分からず、頭を傾げるのであった。

 

「リーダー、何をするか教えくれまーー」

 

「うるせえっ、早く準備しねえか!ちなみに遅れた奴はマジでどうなるか覚えとけよ?1時間という多大なサービスをしたんだからな!」

 

「…………」

 

そう言われ、部下達はすぐにそこから去っていく。ラクリーマは手を止めて、見学しているレクシー達の方へ向かった。

 

「リーダー、一体何をするんで?」

 

ラクリーマはドヤ顔をし、こう告げた。

 

「俺一人対あいつら全員の実戦訓練……まあ、ガチの殺し合いだ」

 

「! ?」

 

その無謀すぎる内容にレクシーは唖然とする。

 

「ちょっと待ってくださいよ!リーダー1人で100人以上いる完全武装した戦闘員(あいつら)とやり合うなんて、いくらなんでも無理ありすぎますよ!!」

 

「今日は俺のワガママに付き合ってもらったからな。あいつらも不満溜まってるみてえだし、俺も多少は痛い目食らおうかなってな……クククっ」

 

尋常ではない発言をするラクリーマ。一体何を考えてるのか?

 

「あいつらに本気で攻撃するように言うし、モチロン俺も本気でやる。なんならレクシーも入っていいぜ?」

 

「きょっ、今日はやめときます!!」

 

ラクリーマは彼の隣にいるのび太としずかを見ると、二人はこれから何が起こるのか理解できずキョトンとしている。

 

「あいつらにヤル気を出させた礼だ。のび太にしずか、お前らに見せてやるよ。俺の本気ってモンをな!」

 

そう言い、彼は三人の元から離れて、また素振りの続きを始める。

 

「本気……?」

 

「リーダー……マジでやるんですかい……っ」

 

「…………」

 

一時間後、模擬戦場にはレクシーの言った通り、完全武装した戦闘員が100人以上が集結、訓練内容を聞かされ全員が唖然とした。

 

「ちょっ……なに考えてるんですかい……っ!?」

 

「さすがの俺達でもラクリーマさんに本気で手ぇかけるのは無理ですよっ!!リーダーの身に何かあったらどうするんですか?」

 

あまりにも無茶苦茶な訓練。部下達はすんなり受け入れるワケがない。

 

「お前らには今日、俺のしごきを耐えた褒美だ。俺を殺すつもりでかかってこい、いいなっ!」

 

「しっ、しかし……っ!」

 

「しかしじゃねえっ!!お前ら……いつも俺に不満持ってるヤツも少なからずいんだろ。どうだ?もし俺を討ち取ったらリーダーの席譲るぜ?うめぇ条件と思わねえか?」

 

「…………ゴクっ」

 

『席を譲る』という言葉に反応する一人の男がいた――そう、ユーダである。

 

「二度と言わせるなよ?分かったらさっさと動け!」

 

納得できない彼らだがこれ以上反論するとラクリーマがキレそうなのでそそくさと散開する。

 

「なら始めるぜ。お前らは全員で集中砲火するのもよし、全員で突っ込んで俺をボコボコにするのもよし、どんな手ェ使ってでも殺しにこい!わかったな!」

 

彼の指示で回りに囲むように配置させる。

 

「制限時間は1時間。想定場所はなしだ!お前ら各人の実力を見させてもらうぜ、クックック……っ」

 

彼は目をギラギラさせて笑っている。明らかに彼が不利な状況なのに。『まともじゃない……っ』全員がそう思うのだった。

 

「今から何を……?」

 

「…………」

 

レクシーは何も言わず、ただ映像を見ている姿は緊張と焦りを感じさせる。のび太としずかも彼の表情からただならぬ事態であると感じさせていた。そして、

 

「さあて始めるか。俺を楽しませてくれよ、来なぁ!」

 

「もうやるっきゃねぇぇぇっ!!」

 

「ウオオオッ!!」

 

彼の合図と共に一斉に大勢の戦闘員が一気に襲いかかる。四方八方から攻めてくる彼らを前にしてラクリーマは……。

 

「きやがれぇっ!!」

 

彼は全く臆することなく猛進し、一撃で大人数を前方へ吹き飛ばした。

 

「グアハハハァッッ!!」

 

まるで鬼か悪魔か、そんな恐ろしい形相の彼の雄叫びが辺りにこだまし、全員が畏怖する。一方で約十数人の部下が手持ちの火器を彼に狙いを定めて砲火する。が、ラクリーマはすかさず義手を前に出して、飛んでくる弾丸や光線をはねのける。

しかし、さすがに全て跳ね返せるハズがなく何発かは彼の体にかする。これはラクリーマの反射神経がよいのか発砲者が彼の身を案じてワザと外してくれたのかはわからない。

 

「ちいっ!」

 

かすった所が出血し、彼が少し怯んだ隙を見逃さず、戦闘員が彼に襲いかかる。

 

「のぼせるなぁ!」

 

彼は休む暇もなく高くジャンプし、空中に逃避する。が、地上では幾数の戦闘員がバズーカやランチャーなど大型火器で空中のラクリーマに狙いを定め一斉に発射。大型弾頭が彼に向かって勢いよく向かっていく。

 

「けっ、面白れぇ!」

 

だがラクリーマは全く焦っておらず、ブラティストームを前に突き出すと太い上腕部の装甲からハッチと思わしき円い門が上部と下部に開き、中から野球ボールほどの物体が二つ飛び出した。

野球ボールのようなそれは重力に従って落ちる否や、いきなり空中分解し中からは何と無数のマッチのような棒状が一気に飛び散り、まるで雨のように拡散する。それはなんと超小型のミサイルの束であり、数えても50発くらいは裕にありそうだ。

 

「ミサイルがくるぞ、全員防御しろ!」

 

ミサイルは飛んできたバズーカの弾頭に直撃し誘爆。残りは全て真下の戦闘員に向けて無情にも降り注ぐ。その一本一本小さいながらも小型爆弾並の威力を誇り、『ドワォ!』と広範囲に渡って爆炎と硝煙の海と化した。

 

「うわああっ!」

 

巻き込まれた部下たちは完全武装していたため爆風、熱を受けてもかなり優秀なアーマーとヘルメットによりなんとか事なきを得る。

 

「全員無事か!」

 

「なんとかな。それよりもリーダーはどこだ!」

 

煙により視界が遮られて周りが全く見えない。一方ラクリーマはそのまま煙渦巻く地帯からかなり離れた場所に着地すると、すぐに右手でブラティストームをグッと掴む。

 

「のび太達を驚かせてやるか!」

 

『ブチっ……ブチブチっ……ブチぃっ!!』と何と上腕部ごと力ずくで義手を引きちぎりだしたのだ。チューブや回線を無理やり引きちぎる嫌な音が辺りに響きわたる。

 

「まさかラクリーマさん、あれを飛ばす気か!」

 

「全員、構えろ!」

 

引きちぎった義手を部下達の密集地へ全力で投げつけた時、内部の自律システムが作動。

それがまるで意思を持っているかのように内蔵しているビーム砲、鉤爪などの武装を一気に展開、自由自在にそして高速で空中を飛び回りNPエネルギーのビームを無差別にばら蒔き、そして高周波振動で更に切断力を高めた鉤爪で体当たりするように突撃して彼らに襲いかかる。

 

「誰でもいいからあれを撃ち落とせ!」

 

部下達が撃ち落とそうとするが物凄いスピードで飛び回り、しかも特殊合金性の堅固で柔軟な義手は生半可な銃撃など通じず翻弄、疲弊する戦闘員達。

一方で義手のなくなったラクリーマはちょうど足元に落ちている部下の落としたアサルトライフルを右足で器用に拾い上げて右手に持つと弾倉を歯で噛み持ち、「ガチッ!」と強引にズレを直した。

 

「ほれ、早く何とかしねえと今から本命がいくぜ?」

 

ラクリーマはアサルトライフルを地面に向けて数発撃ち、不具合がないか確認するとそこから全力で駆け出した。

 

「リーダーが来るぞお!!」

 

気づいた部下の声が全員の注目を外に向けた。不敵な笑みを浮かべて走り込んでくる彼はいきなりスライディングし、滑り込みながら右手だけでライフルを持ち構えて辺り一面に弾をばら蒔き始めた。

 

「行くぜオラァ!」

 

こんな大きいライフルをこんな体勢でさらに片手撃ちしても全くぶれず、確実に標的に命中させると言うとんでもない芸当を見せているラクリーマ。これも彼の怪力、射撃能力、なにより彼の熟練した銃の扱いの上手さから為せることである。

さらには未だに空中で飛び回りながら攻撃するブラティストームの連携攻撃により、彼らの陣形は跡形もなく崩壊し、もはや彼の手中である。

 

「……あ?」

 

豪快にばら蒔いたせいで弾が切れて使えなくなり、それをチャンスとみた戦闘員が襲いかかってくるが全く焦ることなく今度はクルッと回すようにグリップから銃身部へガッシリ持ち替え、身を低くしてそのまま勢いに任せて下から全力で振り上げた。

 

「うおぉぉるああ!!」

 

鈍器と化したそれが見事に直撃し「ぎゃあ!」と断末魔を上げて吹き飛ぶ部下。先ほどの一撃でひしゃげてしまったライフルをその場に捨てると今度は前にいる戦闘員を獲物として襲いかかるラクリーマ。

 

「や、やべえ!!」

 

それに焦った戦闘員は腰元のホルダーから青白いレーザー刃を発振する光学ナイフを構え持ち、横一線に振り込んだが彼の恐るべき超反応によるダッキングで当たることなく空を斬る。

そのままラクリーマは懐に飛び込み、すかさず右ボディブローを喰らわせると「ぐはッ!」と泡を吹いて悶絶してくの字に折れた。

しかしラクリーマは体勢を整え、後ろへ少し下がり間合いを取るとどっと腰を低く構えた。

 

「グオアッ!」

 

修羅のような顔をした彼の、そのまま勢いに任せて腰を上げると同時に渾身のアッパーを放ち戦闘員のアゴめがけて全力で振り上げた。

戦闘員は直撃を食らい、ヘルメットを貫通し『ズドォ!』と強烈な打撃音と血飛沫と共に勢いよく空中で縦に2、3回転してその地面に叩きつけられた――。

 

「せっ……せぇいっ!」

 

一人がラクリーマの顔面に拳突きをいれようとしたが、あまりにも力が入ってなくスレスレでかすった。しかし、その行為が彼を苛立たせる要因となった。

 

「おいてめえっ、もしかして俺だと思って手ぇ抜きやがったなコラァ!」

 

「ひいぃぃっっ!」

 

逆に彼の顔面に本気で拳を入れるラクリーマ。その場に倒れ、激しく悶絶する。

 

「『敵はためらわず殺せ』と教えなかったか?今の俺はおめえらの敵じゃあ!」

 

ラクリーマの勢いはさらに加速を増し、もはや誰にも彼を止められない。縦横無尽に動き回り、誰たった一人で何十人を蹴散らす彼の実力、例えるなら『戦神』の名にふさわしい。

 

「ああっ……」

 

「何てこと……っ」

 

その様子を呆然と見ていたのび太としずかはその様にもはや言葉に言い直せないほどの衝撃を受けていた。無論、レクシーもである。

 

「いやぁ……こりゃあ驚いた……。ここまでスゲぇなんて……」

 

彼は今、歓喜している。さっきの訓練とは比べ物にならず、一発攻撃するごとに悦びが一層高まっているのがわかる。

なんて楽しそうに闘っているのだろうか。それは彼は根っからの『戦闘狂』だからである。

 

 

――だが訓練も中盤に差し掛かり、

 

「ぐぐっ……」

 

さすがの彼も次第に疲れが見えてきたのか「ハァ…ハァ…」と息を切らしているのがわかる。

 

まるで獣のように突撃しているので防御はほとんど考えておらずラクリーマも攻撃、被弾を受け、至るところから出血を起こし、よくここまで動いていたものである。

 

(くくっ……まぁこんなもんか。けどなぁ、そんなじゃあまだ俺を殺せねえぜ!)

 

また右手で一撃でなぎ払おうと力を込め、振ろうとした時。

 

「ぐう!?」

 

突然あばら骨に『ズキッ!』と激痛が走り、その場に止まる。

 

しかし戦闘員達はそれをチャンスと言わんばかりに彼に飛びかかり、彼を四方八方から殴り続けた。鈍い不協和音の演奏と共にそして彼は力なくその場に倒れる……。

 

「あ…………」

 

さすがにやり過ぎたのか、全員が手を止めてラクリーマを見つめる。

 

「ラクリーマ……さん?」

 

一人が声をかけるが全く反応しない。まさか……とは思うが。

 

『リーダーっ!!」

 

「ちょっと冗談はなしですよ!!」

 

しかし、返事をするどころか指一つ動こうとしない。そんな彼を見て、一瞬で全員の表情は青ざめる。

見学室にいる三人もその事態にいても立ってもいられなかった。

 

「お前らはここでじっとしていろぉ!!」

 

「レクシーさんっ!?」

 

すぐに彼の元へ向かう。『死なないでくれ』と心の底から思うのだった。

駆けつけたレクシーはすぐに戦闘員達を押しのけて、ラクリーマの元へ辿り着いた。

 

「……リーダーぁ……」

 

凄惨であった。身体中打撲傷や銃創らしき痕で血まみれであった。見るからに生きている可能性は……限りなく低いと誰の目でも分かるのだった。

 

「オメーらっ!!リーダーをメディカルルームに運ぶのを手伝えっ!!」

 

レクシーが指示するが、例えラクリーマの命令に従ったにしても誰もが自分たちのしたことに後悔し、茫然自失している。

しかしそんなことをしている暇などない、早くしなければ本当に取り返しのつかないことになる。

 

そんな中、あのユーダが小笑いしている。

 

「ケッケッケッ……これで俺がリーダーになれるチャンスができたかもなぁっ!!」

 

「ユーダっ!?」

 

空気を読まない発言が彼を逆撫でし、ユーダをグッと睨み付ける。

 

「このヤロぉ、こんな時にふざけたこと言ってんじゃねえよ……っ」

 

「もともとリーダーがそう言ったんだろうがぁ、ならいいんじゃねえのかよ?訓練参加してねえ奴がしゃしゃり出てくんなよ?」

 

「……お前死にてぇのか、あ?」

 

「それはこっちの台詞じゃボケぇ!」

 

二人は険悪なムードになり、今にも本当のケンカが勃発しようとしていた。

 

「二人とも落ち着けよ!!」

 

「今そんなことしている暇なんかねぇだろうが!」

 

仲間の一部が二人を仲介しようとするが、そんなものでは止まらなかった。

 

「放せェェっ!!このクソヤロウを一発でもぶん殴らねえと気がすまねえんだァァァ!」

 

「オメェのよいこ振りにはもううんざりなんだよ!!」

 

「なんだとォ!?今すぐ殺してやんよぉっ!!」

 

「上等だコラぁっ!!」

 

さらに激化する二人を取り押さえるも精一杯である。

この場はラクリーマそっちのけで一気に修羅場と化しつつあった。その時、レクシーの足首に何かに掴まれたような感覚がする。下を見ると、

 

「りっ、リーダーっ!!」

 

意識がなかったはずのラクリーマは彼の足首を掴んでいる。徐々に握り具合が強くなっている。

 

「おっおい、リーダーはまだ生きてるぞ!」

 

全員がそれを聞いて、徐々に歓喜の表情を浮かべる。満面の笑みで大声を張り上げる。全員が一安心し、気が一気に緩んだ……だが、

 

「クックック……」

 

「リーダー?」

 

「クククッ……キヒっ!」

 

ラクリーマの身体中ぶるぶる震えた後、何事もなかったかのようにすぐ立ち上がった。その瞬間、全員はその場で静止した。

 

「ラクリーマさん……?」

 

さっきまでの彼とは何が違うとほぼ全員が悟った。

 

「……さすがは俺の部下だ……めっちゃ楽しいぜ……だがナ……」

 

突然、無関係であったハズのレクシーの腹部に猛烈な蹴りを入れて彼を吹き飛ばした。苦痛に帯びた彼は前方10メートル辺りで地面に落下し倒れ伏せた。

 

「わっちゃあら死にさらせやァァァァァァっ!!!」

 

「ひいいいいいっ!!?」

 

完全に鬼と化したラクリーマを目の当たりにし、恐怖に戦いた戦闘員達はすぐその場から一目散に逃げ出した。しかし彼は逃亡を逃がすハズがなかった。

 

「クカカカァ!!ヒャハハハハハハっっ!!」

 

すぐに彼らに追いつき、これでもかというくらいに殴る、蹴るの暴行を開始、次々に戦闘員を地面に沈めていく。先ほどまで離れていた義手が何事もなかったかのようにそのまま元の位置に連結、すぐに高く飛び上がりそのまま地上の彼らの方へ金属の指を向けるとなんと5本の指全てがまるでサボテンのように針山と化し瞬間、ドリルのように高速回転を始める。

 

「ゲシゲシにイワシてやるらぁ!!」

 

なんと回転する指がまるで少なくとも10~20メートルはある長いワイヤーのように伸び、鞭を扱うかのようにそれをブンブン振り回し始めた。

 

「ドォリドリドリドリドリドリドリドリドリドリドリドリドリドリドリドリーーっっ!!」

 

ドリルと鞭を組み合わせたとんでもない鬼畜武装を駆使し広範囲に渡り、彼らの装甲、地面に直撃し抉りに抉り、火花を散らす。

 

「やべえ!!あのヒト本気で俺達を殺す気だぁ!!」

 

「誰かリーダーを止めろぉぉ!!」

 

しかし誰もラクリーマを止められる者はいない。狂気に身を任せ暴走する彼はもはや『戦神』ではなく、『悪鬼羅刹』そのものである。その瞳は『戦闘』を楽しんでいる目ではなく、『殺す』ことを楽しんでいる目である。

 

「誰か助けてくれぇっ、殺されちまう!!」

 

「落ち着いてくだせえリーダーっ!!」

 

部下の懸命な思いも彼には全く届いておらず、ただひたすらに暴走する。ひたすらに……。

 

◆ ◆ ◆

 

『緊急事態、緊急事態!!非番時含めた各戦闘員は速やかに武装して模擬戦場に集結せよっ!!繰り返すーー』

 

艦内に一気に放送され、休んでいた非番戦闘員はもちろん、何があったか知りたい無関係者までもが移動する。

 

一方、ブリッジで部下と雑務をしていたユノンも……。

 

「模擬戦場で何が起こったの!?」

 

「それが……リーダーの身に何かが!?」

 

「……分かりました、あなた達はそのまま作業を続けて!!私はそこへ向かいます」

 

「了解!!」

 

彼女もその場を後にし、全速力で模擬戦場へ再び向かった。走り様の彼女は歯軋りを立てて苛立っていた。

 

(あいつ……何やらかしたのよ!?)

 

◆ ◆ ◆

 

「ラク……リーマぁ……」

 

「イヤァァァっ!!!!」

 

のび太としずかも彼の変わり果てた姿にオロオロするくらいしか出来なかった。部下達は打ちのめされて100人以上いたハズの参加者はもう20人以下の人数しか立っていない。

誰もが彼を止めようと試みるが、悪鬼羅刹と化した彼の恐るべき戦闘力に暴走が拍車をかけて、接近するのも困難であった。

 

「あっ、あれがリーダーか……?」

 

「ウソ……だろっ……?」

 

駆けつけてきた野次馬も彼の狂乱する姿に驚愕している。そなの時、ユノンもすぐに駆けつけて野次馬を押しのける。

 

「どうしたの!?」

 

「副リーダー、ラクリーマさんがっ!」

 

暴れている彼の姿を見た彼女の表情は戦慄に変わった。

 

「うっ……ウソでしょ……っ!?」

 

あの普段冷静な彼女でさえ動揺からか額から冷や汗が流れ出る。

 

「……理由はあとで聞きます。まずは彼を……っ」

 

彼女は冷静になり、耳元の通信機を起動させ、向かう途中の訓練非参加者の戦闘員にこう告げた。

 

「直ちに遠距離用のトランキライザを装備し、集結した後、ラクリーマを包囲して鎮静剤を発射せよ!迅速に行動して!」

 

『ユノンさん、何が起きているんですか!?』

 

「説明はあとよ。今はただその命令に従って!」

 

『了解しましたっ!!』

 

通信を切り、野次馬に向かってこう言う。

 

「今からあたしが彼を無人地帯へ誘導します。あなた達を危険な目にあわせたくないけど、あたし一人じゃ無理だから誰か協力お願いします」

 

「無茶だっ!ユノンさんにまで何かあったら……」

 

「そうですよっ!やるなら俺達が!」

 

説得しようとするも、彼女は首を横に振る。

 

「……副リーダーたるものが安全地帯からただ指示するわけにはいかないわ。それにラクリーマなら私の声に反応してくれるかもしれない。もう一度しか言わないわ、協力してちょうだい……」

 

彼女の断固な決意に、ぞろぞろとユノンの前に集まってくる。

 

「わかりやした。ユノンさん、指示をお願いしますっ!」

 

「みんなこうなったら死ぬ覚悟でリーダーを止めようぜっ!!」

 

男達は意志を一つに結集し、腕を高らかに手を上げた。

 

「……ならいくわよっ、あたしについてきなさいっ!!」

 

彼女率いる、20人ほどの集団が一斉に行動を開始する。まず彼女が暴走している彼の注意を引き付けるため、彼の近くに接近するよう指示を出す。

 

「あたしが行くわ。8人はサポート、残りは誘導地帯で待機してっ!」

 

「うっすっ!!」

 

それぞれ別れて各指示の元に行動し始める。

 

「ユノンさん助けてくれぇっ!!」

 

立っている参加者は10人以下である。辺りにはラクリーマにボコボコにされた戦闘員によって埋め尽くされている。生きているようだが、ほぼ全員が気絶している。

 

「ダァアアアッ!!」

 

彼自身はまだ満たされていないのか、悪魔のような恐ろしい顔で獲物を探し求め、さ迷っていた。

 

「あなたたちはすぐにわたしの後ろへ!」

 

「ありがてぇっ!」

 

ユノン達が近づき、逃げ続けていた戦闘員はやっと彼らの後方へ移動する。

 

「ラクリーマっ!!」

 

「!?」

 

声をかけると彼は視線はユノンに向いた。

 

「あたしはここよ……。来るなら来なさい……さあっ!」

 

「グガアアッ!!」

 

その瞬間、血に飢えた野獣が彼女へ向かって全速力で向かってくる。ラクリーマはもう……ユノンだと認識していないのか?彼のスピードは桁違いであり誘導不可能と察知した彼女はすぐに防御の構えに入り、8人の男がユノンを守るように囲む。

しかし、

 

「えっ!?」

 

何と彼は彼女達を飛び越えて後方にいる戦闘員に向かって突撃した。

 

「どっ、どうなってんだコリャア!?」

 

彼らはすぐに彼の猛攻から逃げ出した。そんな中、ユノン達でさえ全く理解できず立ち尽くしていた。

 

「どっどうして!?」

 

ユノンは振り返り、彼を見ると何かおかしいことに気づいた。

 

よく見ればラクリーマはまだ立っている戦闘員だけを襲っている。暴走しているのなら床に倒れふせる戦闘員をも色んな手段を使って惨殺しているはずである。彼の性格上で考えるなら。

しかし、倒れている戦闘員はただ気絶しているだけで死んではいない。

しかも暴走しているのに対し、その攻撃全てがワザと急所を外しているようにも見える。そして自分達を襲わなかったこと……そう考察するとある考えが思い浮かぶのだった。

 

「あっあいつまさか……っ!?」

 

「副リーダー!?」

 

ユノンは前に出ると苦虫を噛み潰したような表情で彼をグッと見つめた。

 

「止まりなさい!!」

 

「……!?」

 

彼女の放った一言でなんとその場で制止した。

 

「あんたっ……ホントは意識あるんでしょっ?答えなさい!」

 

「……」

 

彼は数秒間間を置いた後、彼女の方へ向いた……。

 

「……ああ、普通にあるぜっ」

 

この模擬戦場にいた全員が驚愕した。するとラクリーマはフッと軽く笑い、こう呟いた。

 

「……まあ、もうすこしで理性がなくなりそうだったがな。その前に止めてくれてありがとな……ん?どうしたユノン?」

 

「…………っ!」

 

彼女は怒りの表情を露にし、彼の方へ向かうとすぐさま彼の頬に強烈な平手打ちをかまし、辺りにその打撃音が辺りに響きわたった。

 

「いい加減にしなさいよぉ!!こんな騒ぎ起こして、彼らをあんなにまで痛みつけて……リーダー失格だわっ!!」

 

「…………」

 

ユノンの叱咤が彼はもちろん、辺りは一気に静寂と化する。本当に彼女の怒りもごもっともだ。

 

「……ユノン、どうだったか?」

 

「……はっ?」

 

「意識があったとは言え、マジでキレてみた俺は怖かったか?」

 

「…………」

 

ラクリーマは倒れている戦闘員の方へヨロヨロしながら向かうと運ぼうとしているのか、気を失っているレクシーの手を肩に通している。

 

「へへっ……いやあ、いっぺんブチギレてみるのもいいもんだ。マジで爽快モンだぜ……っ」

 

レクシーもやっと目を醒まし、彼へ微笑む。

 

「りっリーダー……意識が治ったんですかい……よかったぁ……」

 

「レクシー……本当にすまなかったな。お前が一番関係なかったのに攻撃して……ふがいねえ……」

 

「へへっ……あんなリーダー見たことなかったですぜ……っ、今だにハラがいてぇや……ハハッ……」

 

二人の会話から一応の安心感が。それと同時に彼らは思い知ることとなった。

 

『彼を本当にキレさせると恐ろしい』ことを。

 

『もし完全に理性のタガが外れるとどうなるのか……』と。

 

 

「これで……訓練を終わる。全員……こいつらをメディカルルームへ連れていってやれ……っ、急所を外してあるからしん……ぱい…し……」

 

「リーダーァァっ!!」

 

最後まで言えずラクリーマはレクシーと共にその場で倒れた。すぐに駆けつけるとレクシーはともかく彼は痙攣しながら白目を向いて、今度こそ意識を失ったようだ。そりゃあんなにボコボコされて出血多量な状態で馬鹿みたいに動き回れば疲れ知らずのラクリーマでも燃えつきるのだ。

 

「ただいま到……ありゃ?」

 

ようやく到着した武装戦闘員達もその状況を見て、頭を傾げる。中央へ駆けつけるとラクリーマと多数の部下達が気絶している。

 

「はっ早くリーダーを……っ!」

 

「全員集合、協力してその場で気絶している彼らをすぐにメディカルルームへ!」

 

ユノンの指示でその場にいる気絶者を運び出す。こうして地獄で危険な戦闘訓練が終わりを告げるのであった。

 

一方、のび太としずかは……。

 

「「うえぇぇぇん!!」」

 

見学室内でふたり、ラクリーマのキレた表情、行動があまりにも怖すぎて大声で泣いているのであった……。



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Part.19 秘話

――あれから数時間後、気絶者も復活し、各人休養を与えられて部屋へ戻っていった。

 

しかし、メディカルルームではユノンと横でイスに座るサイサリスが眉間にしわを寄せてとある映像を見ており、その横でラクリーマがベッドで静かに寝ている。

 

「……こりゃあひでえな」

 

「……」

 

その映像はなにやらレントゲンのような人体図を映し出している。地球人と酷似している骨格、筋肉部位、内臓に位置する場所に赤、黄色に点滅している場所が多数確認されている。

 

「あばら骨、左肋骨数ヵ所、右胸骨数ヵ所……にヒビ。右上腕二頭筋、三角筋が炎症、打撲傷、銃創、切創……っよくこんな状態でまあ……」

 

「…………」

 

「とりあえず治療したが……さすがにここまでくると完治できねえからしばらくは絶対安静だな。これ以上無理するとただじゃすまねえぜ」

 

「……バカよラクリーマ。自分の体を大事にしないから……リーダーとしての自覚があるのかしら……?」

 

ユノンは彼を冷めた目で見つめ、ため息をつく。

 

「だいたい……なんなのあの訓練……?。彼らに聞いたら自分を殺しにこいやらリーダーの席を譲るやら、身勝手もいいとこだわ。一体何を考えてるんだか……っ」

 

するとサイサリスまでもがため息をつきだした。

 

「これもあいつのせいかもな」

 

「あいつ?」

 

「ユノンちゃんは知らねえんだっけ。エルネスっていうアマリーリスの前身、『宇宙海賊』のキャプテンだった奴だよ」

 

「宇宙海賊……初耳ね?」

 

「そいつはあたしと同じ出身地の科学者でな、ラクリーマの義手『ブラティストーム』やエクセレクターの設計、開発主任で、あたしとは別ベクトルで超天才だ」

 

ブラティストームはともかくこの巨大宇宙船エクセレクターを開発したなんて…彼女はこう考えた、『よほどの天才なんだろう』と。

 

「性格はラクリーマと瓜二つだ。つかこいつがそのエルネスから影響を受けてる。なんせ生まれは違えど無二の親友……兄弟みたいな関係だったからなぁ」

 

親友……と言われても彼女は全くピンとこない。自分にはそんな親友はおろか友達などいなかったせいなのかもしれない……と思うのであった。

 

「私とそいつはここからだと……約1000万光年離れた『マッドウイング』っていう星雲内にある第1惑星『ラグラ』っていう惑星出身なんだがな。

実はその近くの無人第2惑星『エリゴル』にはニュープラトンの鉱脈があって、それを採取し、初めてNPエネルギーを抽出した惑星にして、それを利用し『神の軍団』などとほざいてたが確かに強大な軍事国家だった」

 

ニュープラトン……まさか、そんな所にあったなんて……しかしまあ、このエクセレクターもNPエネルギーを動力とし、超兵器ばかりを搭載したこの巨大宇宙船を建造できる技術を持つ勢力は全宇宙を探しても数えるほどしかいない。そう考えると無理にでも納得せらざるえなかった。

 

「わたし達はその神の軍団の軍事研究、開発機関で働いていた。あたしは主に火力などの攻撃面を重視した兵器開発、エルネスは汎用性重視のデバイスや兵器開発担当だったんだが、ある事情であいつが組織を結成して反乱を起こしてな。

その際エクセレクターを強奪し、その時にあたしと手ぇ組んだってワケよ。今から約15年ぐらい前かな」

 

「反乱……強奪……ですか?」

 

なかなか興味深い話だ。彼女もその話に食いついたのか、珍しく目をパッチリ輝かせている。

 

「聞きたいのか?」

 

「まあちょっとは……っ」

 

「副リーダーだしな、知らないワケにはいかねえし教えてやるよ」

 

サイサリスは彼女の方に向き、こう答えた。

 

「あいつはな、実は技術開発の他に様々な人体実験も担当していたんだよ」

 

「人体……実験……っ?」

 

「あたしはあまり知らないんだがな、毎日のように被験者達は悲鳴を挙げてたそうだ。その被験者達てのは死刑を宣告された極悪人、他の惑星から捕らえてきた戦争の捕虜や人身売買で買った奴隷、誘拐拉致してきた人間達でな。だがあいつの性格だ、その悲惨さ、凄惨さ、その非人道的行為にマジギレしたんだ、「もう我慢ならない」ってな」

 

「…………っ!?」

 

ユノンはその壮絶な事実に唖然とする。

 

「救いようのない極悪人までも助けるなんざ、あいつは優しいのかただのバカなのか。まああたしらも言えた義理ではないが……まあそれであたしとエルネスは実験体になろうとしていた奴らと手を組んで反旗を翻したわけだ。

そもそもあいつ、神の軍団のやり方は気に食わないっていつも言ってたからな。実験艦だったエクセレクターを強奪した後、すぐに宇宙圏に飛び出し、リバエス砲を『神の軍団』の本拠地に撃ち込んで惑星ラグラごと消滅させたんだ」

 

「惑星が消滅したって……リバエス砲は最大出力でも惑星が半壊する程度ですよ……なんでまた……?」

 

「さあな……。逃げることに無我夢中だったから何とも言えん。まあその後、この艦初めてのワープを実行して逃亡。それからあたしらは銀河連邦から追われる身になり紆余曲折あって宇宙海賊が誕生したってわけよ。連邦のヤロウ、ラグラがなくなった途端にチャンスと言わんばかりにニュープラトンを根こそぎ横取りしやがって……」

 

「そんなことがあったなんて……同情するわ……っ」

 

「けっ、同情なぞいらねえよ。わたしだってあいつと組んだ方がさらにスリルで破壊まっしぐらで楽しくできると思っただけだかんな。あたしはマトモな生き方は合わねえからよぉ」

 

「…………」

 

いかにもサイサリスらしい考えだ。同情して損したと思うユノンであった。

 

「そのエルネスって人は……」

 

「……死んだよ、5年前に難病を患っちまってな。死に間際、当時戦闘員で一番能力が高かったラクリーマに全権と自分の部下達を託したんだ。そこからアマリーリスに至るわけだよ」

 

「え…………?」

 

「こいつもよくここまできたとあたしでも思うよ。親友とはいえイチ戦闘員からいきなり全てを押し付けられて重圧もハンパではないだろうに。エルネスも仲間を本気で大事にする奴だったし、あいつと同じように仲間を死なせたくない気持ちで必死で悩んでるんじゃねえかな?」

 

そのとりとめのない考察にユノンは腕組みし、頭を傾げる。

 

「そうかしら……彼の普段を見てるとそうは思えないし……」

 

「まあこいつは最愛の彼女、ランちゃんも立て続けで亡くしてるからな、間違いなく多大なショックを受けているのは確かだ……こいつ、無意識に自分の死に場所を求めるような気がするんだが。お前さんなら思い当たるふしがあるだろ?」

 

彼女はその『死に場所』という言葉になにかピンとくる。

 

侵略、戦闘の際は部下達の盾となり、庇ったと度々報告されている。その証拠に帰艦の際は、ほとんど彼だけが傷だらけである場合が多かった。最近ではのび太と決闘した時には『自分が死んだら後を引き継げ』と言っていた。そして先ほどの戦闘訓練での発言……。

 

それらの行動と彼女の言葉を照らし合わせると辻褄が合う。死ぬことを考えていない人間がそんな行動をとったり、そんな台詞を吐くとは思えない。

 

「…………ラクリーマ」

 

彼女は哀しげにうつむく。サイサリスはそんな彼女に軽い笑顔で見る。

 

「まあ心配しなさんな。ただこいつがバカなだけかもしんねえし、こいつが死ぬ姿なんか想像できねえって!」

 

「…………」

 

珍しく彼女を気遣うサイサリス。

 

「ユノンちゃん、こいつの支えになってやれ。二人ならこのアマリーリスをさらに繁栄させることができるだろうぜ!実際、あんたらを見てたらまるで姉と弟だな。確かユノンちゃんの方が歳上だったろ?」

 

「……なに言ってるんですか……っ」

 

冗談まじりでそういう彼女をぼそっと否定するユノンは少し間を置き、こう聞いた。

 

「……サイサリスさんってラクリーマとは古い付き合いなんですよね?彼っていつからここにいるんですか?」

 

「お、ユノンちゃん、気になるのか?」

 

「ま、まあ……」

 

するとサイサリスは腕組みしてラクリーマを見つめる。

 

「こいつと初めて会ったのは……大体13年くらい前かな。その時はまだ本当に小さいガキでな、エルネスがある惑星の調査のついでに拾ってきたんだが……」

 

「拾ってきた……?」

 

その言葉に反応するユノン。

 

「実はな……出会ったその時は全く言葉を話せなかったんだよ」

 

「え……?」

 

その事実に彼女は耳を疑った。

 

「言葉は「ウウ……」とか「ウガア……」とかの呻きや叫びだけで話せない、当然読み書きもできない。行動からしてまさに獣だったよ。

身体中傷だらけでうす汚れていたから虐待か病気かそういうのを疑ったが、そんなんじゃなく実に健康的でウザいぐらいに元気で純粋だったからつまりこいつは――」

 

……所謂、野生児である。恐らく彼の育ってきた環境の影響だろう。

 

「だがこれじゃあまともにここで生活を送れないと、それでエルネスは人並みに戻そうとして付きっきりでいろんな教育を施したんだが……とんでもないことが分かってな」

 

「……とんでもないこと?」

 

「こいつ、たった数ヶ月で言葉と文字を全て覚えてしまったんだよ。半年後くらいにもう私達みたいに普通に喋れるようになっちまってたし文字を理解してた」

 

「な、何ですって……?」

 

「それに常識、礼儀作法、このエクセレクターのノウハウ、メカニック面、戦闘ユニットや兵器の扱いなどの戦闘技術……その他もろもろの知識を短期間で全てマスターしちまったのさ。

一回テストや検査をしてみたがこいつは順応性、適応力、知識の吸収率が常人を遥かに越えていることがわかった。そういう意味ではあたし達を遥かに越えてるかもしれん」

 

驚愕の事実に言葉を失う。しかし、確かに真面目な時の彼の知性の高さや頭の柔軟性や回転が早いことは彼女も知っている。

まあ普段はバカなことや下らないことをしているのであまり頭がよさそうには見えないのだが……。

 

「エルネスはそんな成長を遂げるラクリーマに対して「とんでもない逸材を手に入れた」と大歓喜していたが、その一方で「生物を超越した何か得体のしれないモノを感じる」と不安と恐怖をもらしてたな」

 

「……」

 

「あたしもたまにこいつについてそう考えてしまうこともある。一体どこまで成長するのか、その先に一体に何がどうなるのか……まあそれを見続けて知りたいとも思ってる。あたしの研究者としての気持ちがな」

 

普段の彼女らしくない冷静な口調でそう告げる。ユノンもこのラクリーマの底知れない能力に興味、そして不気味さを含んだ複雑な気持ちが入り交じる。

 

「……まあ、本質は底無しの暑苦しいただのスケベでバカだがな」

 

「フフ……そうですね」

 

二人は仲良く笑う。するとサイサリスはイスから立ち上がり、一息ついて二人から去っていく。

 

「ちょっと開発エリアに戻る。ちょっとラクリーマを見といてくれなぁ!あと、二人っきりになってヘンなコトすんじゃねえぜ?」

 

「……っ!!」

 

「ワリィワリィ!なら邪魔者は消えるぜぇ!」

 

茶々をいれ、サイサリスはメディカルルームから去っていった。

 

一人残されたユノンは寝ている彼の横に座り、じっと見つめる。まるで子供のような寝顔をし、なんの悩みもないかのようにすやすや寝ている。まるでさっきの考察が的外れだったかのように……考えすぎなのであろうか?

 

「ふふっ……憎たらしいほどいい寝顔してるわ。さっきまでの様子とは大違い……」

 

彼女は普段、誰にも見せたことのない穏やかな笑顔をつくる。

誰もいないせいか、安心していつもの自分ではない表情でしていられる。

 

『俺の本気でキレた姿は怖かったか?』

 

あの言葉が心に残っている。確かに彼は訓練や仕事中はさすがに厳しく行っているが、それでも彼はへらへらとしている部分があり、それまではキレるという一線を越えた所までは見たことはなかった。あの時の彼の姿は本当に未曾有な光景だったと言える。

 

(もしかしたら……溜め込んでたストレスとかを吐き出してたのかもしれないわね……っ)

 

彼女は彼の右手をギュッと握り、視線を下に向け、目を瞑る。

 

(……支えるかぁ……そんなことは全く考えてなかったわ。

務まるかしら……こんな無愛想で人付き合いもろくにできないあたしが……)

 

――すると、

 

「ううっ……」

 

「ラクリーマ?」

 

彼は額に汗を流しうめき声をあげ、彼女はすぐさま横にあったタオルで彼の汗を拭う。

 

「ラ……ン……っ」

 

「……?」

 

「……ラン……行くな……っ」

 

どうやら亡き恋人ランの夢を見ているようだ。しかし彼の表情を見るかぎり、あまり良い夢ではなさそうだ。彼女はどこかもの悲しい表情に変える。

 

「……あたしのことは……眼中にないってワケね……ってなに考えてんのよっ!?」

 

顔を真っ赤にして頭をブンブン振るという彼女にして非常に珍しい行動をとっている。

 

「……?」

 

突然、彼が自ら彼女の手をぎゅっと強く握りはじめ、寝ているにも関わらず、穏やかな表情となっていく。

 

「……ユノン……?」

 

「……えっ……起きてる……?」

 

彼女を呼ぶ声に反応にすぐに応える。だが、彼は続くように、

 

「好きだ……っ」

 

「えっ……?」

 

「…………ずっと……俺のそばにいてくれ……っ」

 

「えぇっ!?」

 

そう言うとまたすやすや眠りはじめる。どうやら寝言だったようだ。一体彼はどんな夢を見ているのか不思議だ。

 

「…………」

 

彼女の顔が真っ赤だ。熟したリンゴのように真っ赤だ。

彼女の心臓の鼓動が高鳴り続けて今にも破裂しそうだ。

 

ユノンはすぐに立ち上がり、室外に出ると壁に寄りかかりそのまま座り込む。

 

「~~~~っ!!」

 

額を押さえ、非常に息づかいが荒い。

 

(っ……あたし、何取り乱してんのよ……っ。単なる寝言じゃない……)

 

息を整え、立ち上がる。しかし鼓動の音は高く、もう一度メディカルルームに入るも、ラクリーマに一歩近づくごとにまた強くなっていく。

 

「……………っ!」

 

なんとも言えない複雑な心境に立ちくらみを起こし、イスにたどり着くとドサッと座り込む。

 

「……ん?ユノン?」

 

「はっ!?」

 

ラクリーマは目を覚まし、大きな欠伸をしながらすぐに起き上がる。起きた直後なのか不思議そうに馬鹿面で彼女に視線を注ぐ。

 

「お前……風邪ひいたのか?顔がやけに赤いが……っ」

 

「~~~っ!」

 

けが人にあるにも関わらず、『バチィ!』とおもわず彼に強力な平手打ちをかましてしまう。

 

「どわぉ!!」

 

いつもは冷静で飄々と接する彼女がまともにラクリーマと目を合わせられない。

 

「ばっ……バカぁっ!!」

 

罵るといなや、彼女はまるで犬のような速さでその場から去っていった。

 

「あのクソアマぁ……起きたなりに何しやがるんだ……ほぉ~イテぇ~!」

 

赤くなった頬がジンジンする、優しく撫でるが一向に痛みが引かない。

 

「つ…………」

 

彼はベッドを出て、立ち上がる。……横腹と右腕全般が少し痛い。気にするほどでもないが彼はそこを優しく押さえて苦笑いする。

 

「ちいと無理しすぎちまったな……っ、情けねェぜ」

 

そう言い残し、誰もいない室内から早々に去っていった。

 

 

ユノンはというと自室に戻り、ソファーに座りながら頭を押さえていた。

 

「…………」

 

いまだに顔を赤くし、溜め息ばかりついている。

ラクリーマの寝言が非常に気になっていたのだ。

 

(なんなのよ……この感じ……っ?ああ……モヤモヤして気持ちわるい……っ!!)

 

そのままソファーに寝そべり、目を瞑る。

 

胸の鼓動が止まらない。さっきよりは遅くなったが、『ドクっ、ドクっ』と音を立ている。

 

(寝言でも……あんなこと言われたの……はじめて……ラクリーマ……どうゆうつもりなの……?)

 

 

『好きだ、ずっと……俺のそばにいてくれ……』

 

何を思ってあんなことを言ったのか彼女は全く理解出来なかった。

 

少し経って彼女は立ち上がり、クローゼットへ移動すると中から下着と着替えをとりだし部屋を出ていった――。

 

「ラクリーマ……ユノンちゃん……あいつら……っ」

 

そしてメディカルルームにサイサリスが戻ってきたが、当の本人とユノンはもういなく、無人と化していた。徐々に苛立ちが募り、彼の寝ていたベッドをガツンっと蹴る。

 

「もうどうにでもしやがれっ!!せっかく気ぃ使ってんのにぃ。こうなったら腹いせに……また新兵器を開発して犠牲者をバンバン増やしてやるわぁ、ワハハハハッ!!」

 

狂気じみた発言を吐いたのち、彼女もメディカルルームから去っていった。

 

◆ ◆ ◆

 

のび太は下をうつむきながら通路を歩いていた。

 

「ハァ……」とため息をつき、不安そうな表情だった。

 

(あの時のラクリーマ……ホントに恐かったな……っ。あれで僕たちを襲っていたら……ひいっ、イヤだぁ!!)

 

身体に寒気が走る。考えただけでもゾッとする。しかし、あれでも自覚があったというのは驚きだ。

 

「……大丈夫だったかなぁ……見たかぎり大ケガみたいだったけど……っ」

 

それでも彼のことを心配するいかにものび太らしい性格だ。

 

……そんな暗いテンションで歩いて曲がり角を曲がろうとした時、

 

「のび太?」

 

「ラクリーマ?」

 

偶然にも二人は出くわす。

 

「ラクリーマ……その、身体は大丈夫なの?」

 

「ああっ。ちいと身体を痛めちまったようだが……まあ心配すんなっ」

 

のび太はその言葉を聞いてホッとする。

 

「しずかは一緒じゃねえのか?」

 

「しずかちゃんなら大浴場に行くって」

 

「大浴場かぁ……クククっ、そういやぁユノンもそこに行ったってことをさっき聞いたな……こりゃあ面白いことを考えたぜ!」

 

「どうしたの?」

 

突然ラクリーマはのび太の腕を掴み、のび太が歩いてきた方向へ引っ張っていく。

 

「どこに連れていくんだよぉ!?」

 

「のび太、お前にいい体験させてやるよ。名付けて『目の保養及び、女の体について』って奴をな!」

 

「ええっ!?」

 

明らかに嫌な予感しかしない……のび太を無理矢理連れていく彼は一体なにをしでかそうとしているのだろうか……?



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Part.20 交流

「この宇宙船にもこんな大きなおフロがあるなんて感激だわ……フフっ♪」

 

地球人に限らず異星人にも入浴という概念があり、艦内にもちゃんとした大浴場があるのだ。最もここは女性専用であるが。

 

「はあ……いい匂いのするお湯だわ。気持ちいい~っ」

 

入浴しているのはしずかとその他、非番の女性員の十数人ほどである。

 

「どお、気に入ってくれた?」

 

「はいっ、お風呂大好きですから」

 

「へぇ、やっぱ異星人でもそこらへんは女なのね、あたしも大好きよ♪」

 

彼女は女性員達と楽しく会話をしている。

やはり種族や思想が違えど同性ならではの趣味が合えば話が合うものである。

 

そんな中、入り口のドアが開くと入ってきたのはユノンであった。

 

「あれユノンじゃない?」

 

「ホントだ、こんな大勢がいる時に来るなんて珍しいね」

 

その場にいる全員が彼女に注目する。無論、しずかも、

 

(うわぁ……ユノンさんだ……。なんて美しいのかしら……っ)

 

彼女の裸体は見る者を魅了する。身長176センチという女性にしては高くさらに皮膚はまるで白く、その豊潤な膨らみをもつ乳房、そして程よい肉付きでありつつも、スラッとした体躯。

誰が見ても非の打ち所が全くないプロモーションである。

 

(キャーーっ!犬みたいなシッポがあるわ!!しかも横にフリフリ振っているぅ……かっカワイイ……っ)

 

ユノンの腰下に生えている尾を見て、美しさとギャップがあるのか彼女は笑いそうになり口を押さえる。彼女は犬の血を引く種族だ。耳と尾は先祖がえりであり別に驚くことはない。しかし……しずかは彼女の左手首を見て不審に思う。

 

(え……なんかリストバンドしてる……ここはお風呂なのになんで外さないのかしら……)

 

そんな疑問をよそにユノンはサッと体を洗い流してこちらへ近づいてくる。

 

「へえ、あんたが今ここにくるなんて珍しいね?」

 

「ええっ、急にたまらず湯船に浸かりたくなってね」

 

お湯に浸かり、なぜかスッとしずかの横へ移動する。

 

「…………」

 

「…………」

 

全く二人は口を開こうとしない。

目を瞑ってリラックスしているユノンに対し、しずかは非常に気まずくなり今すぐにでもその場を離れたいのだが……。

 

(何なのこの気まずさ……。なんで色んな所が空いてるのにわざわざあたしの横に……)

 

「あなた、模擬戦場の見学室でのび太君の隣にいた子よね?名前は確か……」

 

「……えっ、はっはい!源静香(みなもとしずか)です!!」

 

黙っていたユノンが突然、しずかに質問し、彼女もあたふたするも返事を返す。

 

「あの時、あたしにたてつくとは……いい度胸してるじゃない?」

 

「えっ!?」

 

「忘れたのかしら?あたしがのび太くんのことを言ったら反論したこと?」

 

「あっ……あれは……っ」

 

忘れるわけがない、彼女がのび太のことを罵ったことを。

 

「自分の立場を分かっててあんなことを言ったのかしら……?だとしたらよほどの礼儀知らずね」

 

「なっ!?」

 

「アマリーリスはあなた達が思うほど優しくないの。ラクリーマはあなた達に手を出すなと言ってるけど本来ならとっくの間に処刑よ。わたし達はたとえ女子供でも容赦しないのよ?わかる?」

 

「…………」

 

しずかは理解できなかった。彼女は一体何を言いたいのか。

しかし、彼女は平然とした態度で一方的に話を続ける。

 

「生かしてもらっているだけでもありがたく思ってくれなきゃねぇ……。さらに地球にまで送ってもらえるなんて……なんて幸運なのかしらぁ……フフっ」

 

次第にしずかも苛立ちを募らせ、体を震わせる。

 

「……さっきから何が言いたいんですか……っ?言いたいことがあったら言えばいいじゃないですか!?」

 

ユノンは彼女の方へ向き、その妖麗の如き笑みを浮かべる。

 

「なら率直に言わせてもらうわ。あたしにとって……あなた達はとんだいい迷惑なの」

 

「なっ……なんですって……」

 

ショックを受け、お湯に浸かっているにも関わらず、氷づけにされたようにその場で固まった。

 

「あなた達がここに来たことによって地球侵略がおじゃんになったどころかその他の予定が大幅に狂った。しかも地球へ送るためだけに危険をおかすこととなった。本来なら懲罰したいところ……それほど罪は大きいわ」

 

「そ、そこまで言わなくてもいいじゃないですかっ!?わたし達は好きでここに来たわけではないんですよ!ちょっとした事故があって――」

 

だがユノンはしずかの言い分を無視し、彼女の下ろした髪を無理やりグッと掴み、引きつけると卑下するような笑みに変え、見下す。

 

「ひいっ!」

 

「あらっ……またあたしに逆らって。これだけ言ってもわからないかしら、自分たちに置かれている状況を。わたしは優しくないの。たとえラクリーマにも容赦せず制裁を与える女よ?あなたごとき、この場で痛みつけることも可能なのよ?フフっ……やってほしい?」

 

「うっ…ぇ………」

 

しずかは今にも泣きそうだ。ユノンというこの女性……外見は相当な美貌の持ち主だが、中身は冷酷そのものだ。

 

「ゆっ、ユノン、なにも子供相手にそこまで……っ」

 

「黙ってて。これはあたしとこの子の問題よ」

 

見かねた女性員が止めようと入るも彼女はそれを否定する。

 

「あんた達だってこんなに仲良くして……理由はどうあれ侵入者よ。こんなに情をかけて、それでもアマリーリスの一員?それともこの子の情が移ったのかしら?」

 

「…………っ!」

 

言いくるめられ、何も口出せなくなる。すると今度は美人の顔から一転してまるで犬が威嚇するかのように、牙を剥き出し眉間にシワを寄せて、グッと睨み付けるユノン。

 

「あたしはこう見えて副リーダーよ、またナメた口したら……あんたを噛み殺してやるから!」

 

「ひくっ……」

 

しずかの涙が一滴、二滴水面に落ち、波紋が周りに広がる。

 

(せっかく好きなお風呂に入りにきたのに、こんなことされるなんて考えてもなかった……)

 

そんな彼女をユノンはため息をついた後、髪を離し、元の位置に戻った。

 

「――悪かったわ。ちょっと気疲れしてて……」

 

「…………」

 

「あたしもさっぱりしたくて入りに来たのにあなたを見たらさっきのことを思い出して。あなたみたいな子供相手にムキになるようじゃ、わたしもまだまだね……」

 

……と、謝罪と思われる言葉を口にするも、表情からして本当に悪そびれてなさそうな様子だ。

 

『苦手な人だ』

 

心底そう思うのは生まれてはじめてかもしれない。

 

 

「……まだなにか言いたそうね?」

 

「いっ……いえっ!!」

 

必死で顔を横に振るしずかを見て、お見通しと言わんばかりにクスっと軽く笑う。

 

「フフっ……気に入ったわ。そんなに言いたいのなら……わたしの部屋にきなさい。好きなだけ話させてあげるわ」

 

「ええっ!?」

 

「逃げようとしてもムダよ。あたしはくだらないことでも、むやむやにするのは大嫌いなの。とことんさせてあげるからお楽しみに♪その代わり……」

 

「その代わり……ですかぁ…?」

 

何か条件をつけるつもりなのか、たかが話すぐらいで。しかしそれはあまりにも理不尽なことだった。

 

「そうねぇ……あたしを納得させるようなことができなかったら……死んでもらおうかしら?」

 

「ええ~っ!!?」

 

その場で大声を張り上げてしまう。周りの女性員は全員、しずかの方へ視線を集中させる。

 

「……なんてね。ならあとで放送で呼ぶからきてよね、楽しみにしてるわよ……うふっ♪」

 

「…………」

 

そう言い、彼女は体が熱たのか湯船から上がり、座り込む。

 

(やっぱり、この人はホントに苦手だわ……っ)

 

しずかは口を湯中に入れ、ブクブク泡を立てる。

 

すると、女性員数人がしずかの周りに集まり、耳元でこう呟いた。

 

(やるじゃない……あんた……っ)

 

(どっ…どーゆうことですか?)

 

(ユノンが自室に招待するなんて……滅多にないことなの、一匹狼だからね)

 

(そうなんですか……?)

 

(そうだよ。確か、ユノンの部屋に入ったのはリーダーぐらいじゃないのか……最も、説教かあんなことやこんなこと……っ)

 

(あんなことやこんなこと……っ?)

 

(教えてほしいかい?それは……)

 

 

「あんた達、あたしが聞こえてないと思ってんの?」

 

(あっ…………)

 

こそこそ話が気づかれ、彼女らはその場で静止する。彼女を頭上の犬耳をピクピク動かしているのは本来誰も聞こえないような小さな音などを聞き取るためであり、これは犬の『聴覚』が優れるという特徴を受け継いでる証拠である。

 

◆ ◆ ◆

 

一方、のび太とラクリーマは、大浴場でいう側面の位置する壁の裏側にいた。『コンコンコン』と金属壁を軽く叩き、厚みを調べている。

 

「このぐれぇなら俺でも開けられるな!」

 

嬉しそうにしている彼に対し、のび太自身はあまり乗り気ではなく、むしろ挙動不審となっている。

 

「やめようよ!いくらなんでもここから風呂場に乗り込むなんて!」

 

実際、彼も女性の裸、特にしずかの裸を見たいのは同感だが、今から行うのは明らかに背徳行為であり、身が引ける。そして大好きなしずかに「のび太さんのエッチっ!」と言われてビンタされ、嫌われるのが目に見えている。

 

「うるせぇっ、あそこで俺に出会ったのがワリィんだ、運命だと思って覚悟するんだな!逃げたらぶっ殺すからな!!」

 

「けどなんでこんな手の込んだことするんだよお!!」

 

「普通に入り口から侵入してもなんの面白みもねえからに決まってんだろ」

 

「けど、どうやってこんな硬そうな壁を開けるんだよーっ!」

 

「そんなの簡単だ。これで突貫させるのよぉ!」

 

ラクリーマはブラティストームをのび太の前に差し出した。

 

「それは確か……ブラッ……」

 

「『ブラティストーム』だ。こいつの性能ナメんなよ?」

 

あの戦闘訓練の時と同じように義手の四指をまるでドリルのように高速回転させ、壁に向かって構えた。

 

「のび太、下がってろ。俺の今まで培った指テク……じゃなかった、指ドリルで正面からぶち抜いてやらぁ!」

 

そういいニヤニヤしているラクリーマ。確かにサイサリスの言う通り、スケベ心丸出しの馬鹿であった。

 

◆ ◆ ◆

 

そして大浴場では更に意外な人物までもやってくる。

 

「あれっ、サイサリスさんじゃない?」

 

「ほぇ~っ、今日はホント珍しい人ばかり来るね」

 

今度はサイサリスもやってくる。四十路の彼女もユノンに劣らぬプロモーションを持っているが、彼女は何故かピストル型銃器を持ち込んでいる。護身用のつもりなのか?

 

「サイサリスさん……銃を風呂場に持ち込んで……なに考えてるんですか……?」

 

「ああ?あたしゃ、何があってもいいように常備してんだ。あと、この子が大のお気に入りで……クックック……っ」

 

「……………」

 

全員がドン引きしている。銃をまるで我が子のように扱い、優しくスリスリ撫でる様は彼女の異常性を示している。

 

「……おや、お前さんはもしかして例の地球人の?」

 

彼女はしずかに気づき、興味をもったのか前へ移動した。

 

「あなたは……?」

 

「あたしはサイサリス。ここの技術開発や兵器開発を担当してる女だ」

 

「あっ、あたしはしずかです」

 

「しずかかぁ。まあ、地球までの短い期間だがゆっくりしていってくれ」

 

「ありがとうございます」

 

彼女は笑顔で応える。どうやら『この人は良い人みたいだ』と安心した――が。

 

「え?」

 

サイサリスはニヤニヤしながら持っていた銃をしずかの額に押し当てた。

 

「ワリィが、これがちゃんと発砲するかどうか的になってくれ。最近使ってなかったねえからジャムってないかどうかな」

 

「~~~~~~!!」

 

いきなり眉間に銃口を向けられ、しずかはガタガタ震える。

さっきまで良い感じで喋っていたのはなんだったかと思う。

 

 

「わはははっ、冗談だよ!!どおだ、あたしのとっておきのジョークは?」

 

「…………」

 

(この人……おかしい……っ)

 

心の底からそう思うのだった―ーーー。

 

 

「…………?」

 

 

揚がろうとしていたユノンの足は止まり、耳をピクピク動かしている。

 

彼女の耳からは『ガリガリガリ――!』と金属が削られているような、嫌な音が聞こえてくる。しかも、段々と……その音が大きくなっている。

 

「なっなに、この音……?」

 

「ううっ、なんなのこれぇ?」

 

浴場内に居るもの全員にも聞こえるようになり、その不快音にほとんどの者が耳を押さえている。

 

「! ?」

 

壁から小さいドリルが計四本、飛び出し回転が止まる。そのままゆっくりとそれが引っ込み、約10秒くらい静かになった時、その穴から徐々に半円を描くように壁か『バチバチ』と焼き切れていく様子が見える。

 

「ね、なんなの一体!?」

 

焦りに焦る女性陣達。半円に焼き切った壁の一部がゆっくり倒れ、大きな空洞が発生、湯気が突き抜ける中、見覚えのあるガタイのいいシルエットが登場。

 

「これはこれは入浴中の女性陣の方々。拝みに来たぜ!!」

 

ついにラクリーマが大浴場に堂々と乗り込む。そのどや顔からは、いかにも『してやってぜ!』と感じさせる。

 

「キャアアアアアッ!!」

 

女性員はとっさに自身の秘部や胸を隠し、脱衣場へ逃げようとするが。

 

「うへへへっ、色っぺぇ体しやがって、のび太行くぞ!!」

 

「いええっ!!」

 

 

彼はのび太をグイグイ引っ張って入っていく。

 

「…………ぶっ!!」

 

「おいおいのび太、鼻血出すの早すぎんぞ!!」

 

当たり前だ。いくらなんでも小学生ののび太にはあまりにも刺激が強すぎる。しかしそのにやけた顔を見るかぎり、まんざらでもなさそうだ。

 

「よおユノン」

 

「…………っ!!」

 

ラクリーマはのび太を離し、目的であるユノンを発見し接近した時、彼女はとっさにまた平手打ちをかまそうとするが、さすがに手を読まれていたのか、いとも簡単に止められてしまう。彼女はラクリーマをこれでもかというくらい睨み付ける。

 

「おう、お前の超絶スタイルの裸を見にきたぜ。へへっ、いつみても魅力的な身体つきしてんじゃねえかよお」

 

「あんた……ここまで変態だったとは思わなかった……っ、サイテーよ!」

 

啖呵を切るが、彼は全く何も思っていないのか笑みを絶やさない。

 

「まあそんなに怒んなや。せっかくのべっぴん顔が台無しだぞ?」

 

「それバカにしてんの!?」

 

「バカにしてねえよ。お前は『キレやすい』とこを何とかすれば素晴らしい女なんだがな……。まあっ……その怒った顔もかわいいがな♪」

 

「…………っ」

 

すると彼は右手でユノンの濡れた髪を掻き分けて優しい顔で見つめる。

 

「ユノン、もし俺の恋人だったら……オマエは俺に全てをさらけだせるか?」

 

「なあっ!?」

 

彼女はカァッと顔を赤くする。

寝言で言っていたあの言葉がまたぶり返す。

ラクリーマはもしかして――?

 

「かっ……からかってんじゃないわよぉ!」

 

「仮の話だ。どうなんだ?」

 

「あっ、あたしは……っ」

 

なんだろう……っ、この質問。どう答えれば良いのだろう。

 

彼女は聞かれたことのない質問内容に戸惑いを隠せない――すると、

 

「ん?」

 

ラクリーマの後頭部に何か突き当たっている。

 

「よおラクリーマ、ぶっ倒れたばっかでよくそんなにはっちゃけれるたぁ大したもんだ」

 

「サイサリス……っ、いたのかよ……っ?」

 

後ろでは鬼の如く形相をして銃を構えたサイサリスと憤怒している女性員達が手をコキコキ鳴らしている。

 

「いやいや、みなさん……っ。随分と恐い顔でいらっしゃる。で、これからどうするおつもりで?」

 

サイサリスは眉間にシワを寄せて銃をグイグイ突きつけ、全員でラクリーマを囲む。

 

「さあて……、全員の入浴を邪魔した挙げ句にあの壁を破壊した多大なツケを払ってもらおうか?」

 

彼はこんな絶対絶命のピンチにも関わらず、不敵な笑みを浮かべている。

 

「クックック、どうやらみんな、俺に抱きつきたいらしいな。非常に嬉しいが、抱きついてくるのは一人で十分だあ!」

 

ラクリーマは高くジャンプし、その場から逃げようとするが、

 

「ギャン!」

 

サイサリスは逃がすかと持っていた銃をラクリーマにめがけて投げ、後頭部に直撃しそのまま落下。

 

「全員、あのクソヤロウをとっちめちまえーーっ!!」

 

「ちょっ、何する!?やめっ……っ!」

 

サイサリス達女性陣に袋叩きにされるラクリーマ。その頃、のび太は……。

 

「のび太さんのエッチ!!ヘンタイ!!もぉ大っキライっ!!」

 

「ぶへっ!!」

 

彼自身は悪くないのに同罪と見なされてしずかからキツい制裁を与えられていた。

 

「しっ……しずかちゃ~んっ!!」

 

すぐに脱衣場に去ろうとする彼女に彼は説明しようと呼び止めようとするが、彼女はカンカンなのか全く振り向こうとしない。のび太は落胆し、落ち込む。

ラクリーマも全員から制裁され、その場でノビている。

女性員は気が済み、そのまま脱衣場に戻っていく。

無論、サイサリスとユノンもである。

 

「…………」

 

「…………」

 

その場に残された二人をすっかり冷えきった風呂場の冷たい風が彼らを包む。

 

 

……その後、のび太とラクリーマの二人は。

 

「のび太、俺の合図で持つぞ。いち、にい、さん!」

 

「おっ、重~い!!」

 

サイサリスの厳重監視の元、二人揃って壊した壁の修理をするはめになったのだが――。

 

「ぐわあああーーっ!!よりによって鉄板のカドを足の親指に落としやがってぇーーっ!!」

 

「うわーーん!!」

 

『お前ら、遊んでねえで早く直しやがれぇ!!』

 

この通り、まるで収拾のつかないカオスな光景となっていた……。



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Part.21 二人

なんやかんやで壁の修理が終わり、ラクリーマとのび太の二人はプラントルームの中央にあるベンチで黄昏ていた。ラクリーマは傷だらけでまだ制裁された所が痛いらしく、絆創膏を至るところに張り付けていた。

 

「ちっ、にしてもあいつら、ただ風呂場に入ってだけで本気でボコりやがって……手加減てモンを知らねえのか?」

 

その横ではのび太はため息をついて酷く落ち込んでいた。

 

「ああっ……しずかちゃんに嫌われちゃったかも……っ」

 

ラクリーマはそんなのび太を、まるで悪そびれてないかのようにニカッと笑う。

 

「いい経験になったじゃねえか。なかなかよかったろ?」

 

「よかったじゃないよ!!僕は何にも悪くないのにしずかちゃんにビンタされるし、壁を修理させられるハメになるし、どうしてくれんのさあ!?」

 

「うるせえ!てめえも何だかんだでハナ血噴き出してニヤついてたクセに言える立場かコラァ!」

 

実に情けない。下らない口論へ発展するが、元はと言えばラクリーマが全ての原因である。

 

「こんなしょーもない口喧嘩してても仕方ねえや。これで止めにしようじゃねえか!!」

 

「ちょっ、それで終わらすつもり!?」

 

「うるせえなぁ。なら『俺がワルかった。許してください』。これでどうだ?」

 

「くぅ……っ」

 

その謝罪の言葉からは全く誠意が感じられない。のび太は納得できるハズがなかった。

 

「本当にしつけぇヤロウだな。なら俺がしずかに謝っといてやるよ。それでいいだろ?」

 

「わかったよ……っ」

 

渋々、承諾するのび太。ラクリーマは溜め息をついてのび太に対して不満そうな目付きで見つめる。

 

「けっ、こっちはお前らを地球に無償で送るってのに、なんだその態度は?」

 

「なっ!?」

 

「あ~あっ、ユノンの言う通りやっぱり地球に送んのやめよっかなぁ?」

 

彼の約束を放棄する発言に、のび太はその場で慌てふため始める。

 

「じょっ、冗談はやめてよぉ!その時はどうなるんだよ!?」

 

「まあ、てめえらはここにいても役立つことしなさそうだし……まあ死ねや」

 

「! ?」

 

顔色が一瞬で真っ青に。いくらなんでも無茶苦茶だ。

 

「クカカカッ!!冗談だよっ!」

 

「…………」

 

高笑いするラクリーマに対して、のび太は顔を膨らまして冷ややかな視線を送った。

 

「しかしなぁ、ただ送るのもこっちには全く利益ねえし……なら条件つけようか!」

 

「条件……?」

 

そう言うと、ラクリーマは腕組みをして考え込む。一方、のび太の方はあまりいい気じゃなく、心配そうな顔をしている。

 

もともと地球侵略を計画していた極悪組織、アマリーリスの頂点に立つ男だ。とんでもない条件をつけてくる……のび太はそう思っていた……その一分後。

 

「よっしゃあっ、決まったぜ!!お前らに2つの約束を果たしてほしい」

 

ラクリーマは顔を上げて、のび太の方へ向くと不敵な笑みを浮かべる。

 

「2つの……約束……なっ、何?」

 

「まずは第1……っ」

 

のび太は息を飲む。あからさまに無理なコトを言われたらどうしようか……。

 

「俺はともかく、あいつらに地球のうめぇメシ、食わせてやってくんねぇか?」

 

「え……っ?」

 

「どうした?無理か?」

 

「な、なんか凄く以外……ラクリーマのことだからもっとメチャクチャなコトを言われるかと思った」

 

「ああっ、地球に興味持ってる奴は沢山いるからな。そんかわり、たらふく食わせてやれよ、あいつら大食いだからな」

 

意外にものび太にでも出来そうなことだった。ただ人数分的には無理があるが、そこはドラえもんの道具を使えばなんとか出来そうだ。

 

「もうひとつは……俺個人の頼み事だ」

 

「え?」

 

「地球の花や、植物を少し分けてくれ、どうだ?」

 

「どっ、どうして?」

 

ラクリーマは周りに元気に生い茂っている花や植物を見渡す。その時の顔は普段の彼からは全く考えられないような穏やかな表情をしていた。

 

「地球の植物を、ここの仲間に加えてやりてぇんだよ。別に地球の生態系を崩すほど持っていかねえからよ?」

 

「…………」

 

「この二つを果たすと約束すれば、お前としずかをちゃんと地球へ送りかえす。どうだ?」

 

のび太はそれを聞いて段々奮いだち、笑顔になり、そして得意満々な表情とラクリーマをグッと見つめた。

 

「わかったよ!!それでいいなら僕にまかせて!!とびきりのおいしい料理食べさせてあげるし、かわいい花を探しだして渡すよ!」

 

「それは楽しみだな。期待してんぜ大将!」

 

ラクリーマはのび太に向かってとびきりの笑顔でガッツポーズをする。仲良く話し合うこの二人は生まれは違えど、端から見るとまるで仲のいい兄弟だ。それは誰が見ても承認するだろう。

 

「ラクリーマを見てるとなんか毎日が楽しそうだね」

 

のび太はそうボソッと口にする。

 

「本当にそう思うか?」

 

「うん」

 

「それはありがとよ」

 

するとラクリーマはズボン(というよりタイツ)のポケットに手を突っ込み、姿勢を正すと上を見上げる。

 

プラントルームはいつも明るいわけではない。

ちゃんと植物が育つように、朝夕夜になるよう照明が設定されていて地球さながらの朝焼けや、夕暮れが再現できるのである。

今はちょうど夕方あたりで、この室内は夕焼け色に染まっていた。

 

そうした中、ラクリーマは静かに口を開く。

 

「けど、それは違うな」

 

「えっ、違うの?」

 

「ああ、こんな楽しくできる時間はほんの僅かなだけだ。俺らは様々な銀河、星々、たまに他の種族の宇宙船を巡っては侵略、略奪を繰り返す、いわば海賊行為をやっている。ほぼ毎日はそれに費やしてるっていっても過言じゃねェぜ?」

 

「…………」

 

「大体、今はお前らを地球に送るためだけに動いているからこんなに自由な時間があるが、俺とユノンはいつも徹夜してまで侵略や交戦の作戦を練っているから寝てねえんだ」

 

「……徹夜してまで大事なことなの?」

 

「前に言わなかったか、これは仕事、生活のためだって?やるからには当然、効率のいい方法を考えねえといけねぇし極力、最短で低消耗、仲間の犠牲を出したくねぇしな?」

 

「…………」

 

実際、のび太はあまり想像できていなかった。そういう行為をしたことのないためか、それとも単に理解出来なかったか、あるいは……。

 

「犠牲を出したくないって……侵略してるってことは住んでいる人達の物を奪ったり殺したりするんでしょ?なんか……言ってることが矛盾してるような気がする」

 

「けっ、そんなの敵は敵、味方は味方だろうが。俺ら以外にも同じような奴らは宇宙にわんさかいるぞ」

 

「けどさぁ……」

 

ラクリーマは息を入れ直して、顔を下げているのび太のこう説いた。

 

「あのよ、俺達だってむやみやたらに侵略してるわけでもねえよ。向こうと話が通じるなら交渉だってしてるぞ。まあ……ほとんど脅しだがな」

 

「そうなの?」

 

「何回も言うが俺らだって生活がかかってるんでな。侵略だってただでできるわけじゃねえし利益出ねえことばかりしてるんじゃ俺らはジリ貧になってのたれ死だ。だから最小限の労力で物資を奪うに越したことはねえんだ」

 

そう、彼はのび太にこう説く。

 

「それによ、侵略は一概に全て悪いワケじゃねえんだ」

 

「……どうゆう……コト?」

 

「教えてやろうか。『移民』だ」

 

「移民?」

 

彼に自信げな表情でそう言った。

 

「……この宇宙にはな、異常気象、天変地異、戦争……何らかの理由で故郷の惑星をなくし、宇宙をさ迷っている種族がゴマンといるんだ。俺らは惑星を移住する気はない、謂わば海賊だ。

 

『俺らが侵略し、根こそぎ取る。しかし惑星自体は無人になり、肥やしとなる。そしてさまよっている移民種族がその惑星を見つけ、移住する』。

 

つまり、俺達はそいつらが移住できるよう、一役買ってるってワケだ」

 

……なるほど、ある意味では一理ある考えだ。しかし、それには数々の問題が出てくる。

 

『そのために狙った惑星に生存している者、全てが犠牲になってもよいのか?』

 

『引っ越してきた移住種族が住む惑星をもう襲わないと言いきれるか?』

 

……などなど、挙げるとキリがない。

 

「移民……コーヤコーヤ星を思い出しちゃった。ロップル君やチャミー、あとクレムちゃんやモリーナさんやあそこに住む人達は今、元気かなぁ?」

 

コーヤコーヤ星。以前、のび太達が行ったことのある『ガルタイト』と呼ばれる鉱石が採掘できる開拓途上惑星で、そこに移住した少年、ロップルとそこに住む人々と仲良くなり、友情を育んだ。

 

そしてそのガルタイトを狙う悪徳企業『ガルタイト鉱業』の悪巧みにより一時、惑星崩壊の危機に遭うも、のび太達の活躍により、その危機は救われたのだった。

 

そう言えば、ロップルたちも他の惑星から移り住んだ移民種族だ。

 

「ほう、コーヤコーヤ星を知ってるのか?地球から相当離れた惑星だぜ」

 

「えっ、ラクリーマ知ってるの?」

 

「ああっ、ガルタイトが採れる惑星だろ?行ったことはねえが話は聞いてる」

 

するとのび太はおそるおそる彼にこう質問した。

 

「……まさか、コーヤコーヤ星を襲うワケないよね?」

 

「へっ、襲わねえよ。あんなとこ、襲ってもなんの利益になんねえし。ガルタイトなぞ、せいぜいBランクのエネルギーしかならねえからな。ニュープラトンさえあれば事足りる」

 

「ニュー……なんかよくわからないけど……襲わないんならよかったぁ……」

 

のび太は安心し、大きなため息をついた。しかし、

 

「だがな、今後、俺らに一目置かれるような発展をすれば……侵略するかもな」

 

その言葉が、のび太の一瞬で顔色を変えた。

 

「やっやめてよ!!あそこに友達がいるんだよ」

 

「……友達だと?」

 

……のび太は彼に教えた。コーヤコーヤ星のことを、ロップルたちのことを、全てうち明かしたのだ。

 

「………そうか」

 

「…………」

 

二人の会話は止まり、静かになった。

ただ聞こえるのは、機械によって植物に与える水を振りまいている音だけだった。

 

「ワリィが……たとえ友達がいようが、そこまでは守れねぇな」

 

「ええっ!?どうして!?」

 

「こっちにもやり方ってもんがある。お前にどうこう言われる筋合いはねえし変える気もねえ。所詮、全ての生き物は繁栄したらいつかは必ず没落する。そんなもんだ」

 

 

「ーーーーっ!」

 

のび太は、今にも泣きそうな顔をして彼にこれでもかというくらいに睨み付けた。

 

「なんだ、文句あんのか?」

 

「……くくっっ!」

 

それとは逆に、ラクリーマは平然とした態度をとっている。

のび太はさらに怒りを募らせるのであった。

 

「ーーなら、取引すっか?」

 

「……取引?」

 

突然、ラクリーマはのび太の右腕を掴み、ベンチ上に押しつけたのだ。

 

「うわ!」

 

鈎爪を突出させ、その右腕へ向けた。銀色の光を放った鋭い爪が照明によってさらに輝きを放っている。

 

「てめぇの右腕を切り取って俺に差し出せば、コーヤコーヤ星には近づかねぇと約束する。これで手を打とう」

 

「ええっ!?」

 

のび太は目が飛び出るほど、驚愕した。

 

「右腕が嫌なら左腕、それも嫌なら片方の目ん玉か足でもいいぜ。それでも嫌ならしずかに代わってもらう」

 

「むっ、むりだよぉ!!」

 

ラクリーマはまるで鬼のような形相で、彼に悪夢のような選択を押しつけた。

 

「それでも嫌なら、俺を今すぐ殺すか。ある意味そっちのほうが手っ取り早いか。最も、その場合は俺もお前を容赦なく全力でぶち殺すけどな!」

 

「あ……ああっ……」

 

「俺はこのまま待ってやる。時間はいくらでもあるから好きなだけ考えろ。ちなみに逃げたらどうなるか……わかってんだろうな?クックック……っ」

 

ラクリーマはニヤニヤ笑いながら鈎爪を構えている一方、のび太はあまりの恐怖でガタガタ震えている。

 

……決められるワケがない。

 

どっちを転んでも地獄だ。自分が苦痛を食らうか、もしくはしずかに……いや、これは男として 、いや人間として最低な行為だ。

殺そうにも、その時はラクリーマは本気で襲いかかってくる。

あの訓練で見た通り、この男の戦闘能力は桁違いだ。射撃を抜いたら能力など軒並み以下であるのび太には天と地が転ばない限り、勝ち目はない。

 

逃げたら間違いなく……。

 

もう完全に八方塞がりな状態である。

 

「お前、そんなに大切ならここまでする覚悟があるんだろうな?さぁ、どうする?俺はどちらでもかまわんぞ」

 

彼の眼を見ると、冗談で言ってるようには思えない。

 

『本気だ』

 

痛烈に感じさせる。

 

「へっ、ただ五体のどれかを捧げるだけで、その友達はおろか、コーヤコーヤに住んでいる奴らの存亡の脅威が一つ減るんだ。

そう考えたら安い取引じゃねえか?もし俺がお前の立場なら、喜んで右腕を差し出すがな」

 

見せられる度胸の違い。子供だろうが大人だろうが関係ない。

 

「きっ……決められないよぉ!」

 

「…………」

 

のび太泣きべそをかきながらそう回答した。

 

「……フフッ、こえェだろうなぁ。まだ子供のくせに身体の一部を失うかもしれねぇなんて……考えられねぇだろうな。

だがそれはのび太が決めたことだ、俺はお前からその『決意表明』をもらえばそれで済むがな」

 

ラクリーマの笑みはさらにのび太を追い込むことになる。

 

「なんで……こんな……」

 

「なんでかって?クククッ……」

 

彼は震えるのび太にこう答えた。

 

「『こんなこと』を平然とやるのが俺たちなんだ。わかってんのかのび太?」

 

夕陽の陰に隠れたその彼の顔はまさに悪党そのものであった。だがラクリーマは取り押さえていたはずの右腕を離し、鈎爪も引っ込ませた。

 

「あれ……やめるの……?」

 

「こんなんじゃあ全く決まらなそうだ。もういい」

 

「じゃ……じゃあ……?」

 

「もちろん、取引不成立だ。何にも変わらねえぜ」

 

「ううっ……」

 

彼はまた泣き出してしまう。ラクリーマも彼の泣き顔を見て、とても情けなく感じるのだった。

 

「けっ、俺はこんな泣き虫に早撃ち負けたのか、情けねェぜ」

 

「…………」

 

今度はどんよりとした空気が二人を包む。しかし、ラクリーマにとって、そんな雰囲気が耐えられないのであった。

 

「あ゛ーーっ、こんなしみったりぃ話はやめようぜ!そうだ、お前らに聞くの忘れてたが……どうやってエクセレクターに乗り込んだんだ?」

 

「それは……っ」

 

のび太は彼に経緯を全て話した――。

 

「未来からきた……ロボットだと?」

 

「う……うん……」

 

正直信じてもらえないだろうとは思っていたのび太だが、彼の反応は違った。

 

「ま、まじかあ――――――!!!!」

 

「えっ?」

 

ラクリーマは非常に興味津々な表情で聞き、もう深紅の瞳がさらに輝きを放っている。

 

「未来から来たロボットかぁ。そりゃあいい、俺もぜひ会ってみてぇな!のび太、地球に寄ったらぜひ会わせてくれ!!」

 

「うっ、うん……」

 

「イイ奴だな、お前はよお!!くああ、楽しくなってきやがったあああっ!!」

 

のび太の首に腕を掛けて、引き寄せる彼は幾分の年下であるはずののび太が恥ずかしくなるほど、子供のようにはしゃぎまくっている。しかし、これこそが本来の彼の姿なのである。

 

「そのドラえもんてのは、友達なのか?」

 

「うん。ケンカしちゃうこともあるけど、僕の大切な親友だよ!」

 

のび太のはきはきした声からは、嘘ではないことを物語っていた。

 

ラクリーマはそんなのび太を何か暖かい眼で見つめる。

 

「……ラクリーマ?」

 

「……」

 

彼はとある思い出を追憶していた。

 

◆ ◆ ◆

 

5年前、まだ宇宙海賊だった頃。キャプテンであったエルネスは難病にかかり、もう余命幾ばくもない時。複雑な表情のラクリーマは彼の部屋で看病しながら話をしていたーー。

 

「なあラクリーマ、俺が死んだ後の後釜についてだがーー」

 

ベッドに臥せているエルネスはずっと真上を見ながらこう口にした。

 

「そんな生きるのを諦めたように言うなよ、お前らしくないぜ。エルネス以外に宇宙海賊のキャプテンは務まらねえよ。だから最後まで生きる希望を持て、サイサリスがどうにかしてくれるからーー」

 

「いやっ、自分の身体だから分かるんだ。俺はもうじき死ぬ。それにあいつももう分かってるはずだ、あれだけ最善を尽くしてもどうにもならないってな」

 

「…………………」

 

表情に影を落とすラクリーマ。そんな彼を落ち込ませまいとニヤッと不敵の笑みを浮かべるエルネス。

 

「気にすんなラクリーマ。俺達だってこれまで沢山の命を奪ってきたんだ、俺らだけ死なないってそんな都合の良いわけがないんだ。生き物はいつか死ぬ。早いか遅いか、運が良いか悪いかーーこれは運命だ、それはお前らも例外ではない」

 

「け、けどよ……!」

 

「それによ、俺はもう後継者を決めているからもはやこの世に未練はないんだ」

 

「後継者だと……?」

 

「おうよ。ラクリーマ、お前がやるんだ」

 

それを聞いて彼は仰天する。

 

「お、俺かよ!?冗談がキツいぜエルネス、俺は戦うことしか能のない人間だぜ?そういう器じゃねえよ」

 

「いや、俺はお前を拾ってきてからずっと見てきたが、お前は誰よりも無限大の可能性を持っている。サイサリスのヤロウやラン、部下はお前になら必ず従い、助けてくれる。だから自信を持て!」

 

「エルネス…………」

 

「だから仲間を、サイサリスを、ランを絶対に大事にしろよ!お前の兄であり、そして親友からの最後の約束だーー」

 

◆ ◆ ◆

 

「……ラクリーマ?」

 

「おっ、おおっ!?どうした?」

 

のび太の呼びかけに反応し、慌てて返事を返す。

 

「ぼぉーっとしてたけど、どうしたの?」

 

「いっ、いやなんでもねえ。そろそろ俺は行くわ。お前はまだここに居たいならゆっくりしてな」

 

「うん。そうする」

 

ラクリーマは立ち上がり、のび太に背を向け、歩き始めるーーすると、

 

「のび太?」

 

「え、何?」

 

彼は顔を振り返り、歯を剥き出して不敵の笑みを浮かべてこう言った。

 

「取引不成立とはいったが、終了とは言ってねえからな。その気になったら俺んとこに来な、その時は喜んで取引してやる」

 

「え……っ?」

 

「もし俺を殺したかったらそれでもいいぜ。部下から銃を借りるなりなんなりして……いつでも殺しにこい。ちなみに俺にはビーム、レーザーの類いは一切効かねえから実弾銃を使え。俺は逃げも隠れもしねえからよお」

 

「ラクリーマ……」

 

「確かに射撃に関してはお前のほうが上かもしれん、だがそれ以外はお前に負けるとは全く思っちゃいねえからよ。もし俺に本気で勝ちたいと思うならどんな手ぇ使っても自分の土俵に持ち込むことを考えろよな」

 

何をここまでこだわるのか、のび太には全く理解できない。彼の真理は全く図りしれないーーその時だった。

 

 

《ズ ド オ オ オ ッ ! !》

 

 

「うわああああっ!」

 

「なっ、何事だ!!」

 

突然、艦内に激震が発生する。

 

『緊急事態、緊急事態。各員戦闘準備!リーダー、副リーダーは直ちにブリッジへ集合、繰り返すーー』

 

サイレンと共に放送が入り、艦内に緊迫が走る。

 

「のび太、お前はここから動かずじっとしてろ。ここは安全だから心配するな!」

 

ラクリーマはのび太をそこに置いて、すぐにプラントルームから飛び出していった。

 

(敵か……もしくは何かが衝突したか……?)

 

一体何が起こったのだろうか。しかし、彼はこんな状況にもかからわず笑っていた。

 

「まあ何にせよ、ワクワクしてきたぜ!」

 

まるで何か楽しみ一つを見つけたかのように。だが、今はそんな暇などない。

 

――彼は嬉しそうにひたすら目的地へ走っていった。



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Part.22 三つの心を一つにして

ラクリーマはブリッジに到着し、すぐにオペレーターの元へ状況を確認する。

 

「どうした!?」

 

「敵です。ワープホールから抜け出した瞬間、攻撃されました。どうやら、ワープを感知して待ち伏せしていたようです!」

 

モニターには、エクセレクターの前方軌道上から右舷方向にかけて、数千キロ……いや、数万キロ以上ある宙域に、まるでアリの大行列のように、おびただしいほどの赤い物体が蠢いているのが確認できる。

 

「敵はエクセレクター直線上から右舷方向かけて距離80000!データにないアンノウン……どうやら巨大なバクテリア生命体群のようです。中央に存在する本体と思われるポイントから多大なエネルギー反応確認。質量は……ランクA以上!?」

 

「ほう、敵さんもなかなかのモンを持ってんな。被害状況は?」

 

「艦首及び、前右舷部、底に奴らが数万匹へばりついています!!」

 

「……さっきの衝撃もこいつらがぶつかってきたせいか……。てことは、奴らはエクセレクターの装甲を喰い破る気だな」

 

ラクリーマはモニターを見ると、全長3、40メートルはある、蛭とは似て非なる異形な姿をした赤く身が軟体そうな生物どもが至るところにざわざわ蠢いている。

どうやら持ち前の牙、体内で形成される強力な溶解液を駆使して、艦の頑丈な装甲を破壊しようとしているようだ。

 

「アンノウン、徐々に艦の甲板を破壊しつつあります!」

 

「対艦レーザー砲、大型光子ミサイル、全砲門一斉発射しろ!」

 

エクセレクターの両舷、下方に搭載されている砲門を一気に開門、100発以上の青白く眩い光を放つ極太の光線、そして直径10km以上あろう巨大なミサイル…いや、光弾が一斉に発射され、へばりついていた生物体も巻き添えを食らい消滅。

 

光弾は遥か先にいるアンノウンの大群へ伸びるように行き、着弾。

 

「光子ミサイル、目標に着弾ーー!」

 

『ボボボ………っ!』と光弾はまるで球体のように膨張し、それが広範囲を包むように広がった。その生物達と巻き添えにして。その光景はまるで太陽のように強烈に輝いている。

 

「一気に反応が消滅しましたが、数が多すぎてあまり効果がありません!しかもまだ装甲にへばりついている反応も多数……ああっ!」

 

「どうした?」

 

オペレーター達はモニターとセンサーの反応に驚きふためいている。

 

「消えたはずの反応がさらに、本体を中心に数万単位で増加しました!」

 

「なんだと?じゃああの本体が産み出しているということか?」

 

「間違いありません」

 

「やっぱ光子ミサイルとレーザーだけじゃ無理みたいだな。こうなったら、リバエス砲発射用意。直接本体に撃ち込んでやる!」

 

「了解、NPエネルギーを全反応炉から主砲内増幅炉に送入。エネルギーチャージ開始します!」

 

エクセレクターの特徴である美しい女性の顔を象った艦首部が一気に真っ二つに割れて開門。その中から口径あるのかと思うほどの、長方形状の超巨大な砲身がゆっくりと姿を現した。

 

「セーフティ解除。出力は……」

 

「最大出力だ。奴らに目にものを見せてやる!」

 

ラクリーマはとっさに司令塔に移動し、中央部に行くと、淡い青色の光を放つレンズが垂直に出現していた。そのレンズに手をおいて、巨大な3Dモニターを確認する。

 

「ターゲットロック。目標、アンノウンの本体及び、リバエス砲射線上の大群!」

 

モニターには、正面からアリの行列のようにこちらに向かってきている。あと20キロほどでエクセレクターに到着しそうだ。

 

「リーダー、アンノウンの大群がこちらに向かってきています!!」

 

「まかせろ、本体ごと消し飛ばしてやる!」

 

砲門内にはまるで虹色のような鮮やかな光が収束し、いまにも暴発しそうだ。

 

「艦内に告ぐ。対閃光防御、対衝撃態勢に移行せよ、繰り返す!」

 

「NPチャンバー内正常加圧中、出力、70、80、90、100、130%ーー!」

 

ラクリーマは全力でレンズを垂直に下へ押した。

 

「リバエス砲、行くぜ!」

 

 

ーーーーーーだが、

 

 

『ーーリバエス砲、操作ミスにより発射中止します』

 

と気の抜けた音声が流れて全員がその場でずっこけた。シリアスな雰囲気が一気に崩壊してしまった。

 

「誰だぁ、操作ミスった奴はぁ!?」

 

すると一人の男性オペレーターが手を上げた。

 

「へへっ、すんません。手を滑らせて中止ボタン押しちゃいました……」

 

「バカヤロー、こんな時にボケかましてんじゃねえ!お前、あとで俺と二時間くらい組手な?」

 

「ええっ!?」

 

「そんなこと言ってる場合じゃないでしょう!」

 

ーー気を取り直して。

 

「出力、100%」

 

「リバエス砲、発射!」

 

 

《ド ギ ャ ア ア ァ ッ ッ オ オ ッ ! !》

 

 

砲門から一直線状の高密度の光輝く微粒子が、拡散するかの如く宙域を包み、襲う。それは1光年先からでも肉眼でも捉えられるほど。例えると地球から見る流星のよう――。

 

「目標到達まで、あと数十秒――」

 

射線上のアンノウンもその粒子の前には跡形もなく消滅、このままいけば、敵の本体に直撃だ。しかし、

 

「リーダー、本体の前方にまた破格の数の反応が出現。100万は裕に越えます!!」

 

「なにぃ!?」

 

モニターには、まるでサザエのような巻き貝で全長、数百Kmを誇る本体から、一秒間に何千、何万という数の『子』が吐き出され、周辺に集まっていくーー。まるで城を防護する砦壁のように。

 

「こ、これは……」

 

直撃した。確かに一瞬で多大の反応は消滅したが、壁の厚さの方が勝ち、本体の直撃にはならなかった。

 

「主砲、残念ながら本体には届きませんでした」

 

「あいつら……とんだ食わせモノだ。惑星の半分以上を消し飛ばしちまうリバエス砲が効かねえなんて。おもしれぇ……っ」

 

「リーダー、何笑ってるんスか!」

 

――そんな中、レクシーの恋人ジュネが彼にこう伝えた。

 

「あと数分後に、へばりついている大量のアンノウンが艦内へ侵入しますがどうします?戦闘員達にスレイヴ、ツェディックに搭乗、待機させていますが出撃させて駆逐させますニャ?」

 

「……無理だな。ざっと見た限りあいつらは一個体につき40メルト以上はある。もしへばりつかれたら約半分程度しかない大きさの二機では間違いなく捕食されてしまう。といっても、このままでは――。」

 

「リーダー、副リーダーが到着しました」

 

そんな中、ユノンも先ほど到着し、司令塔へ向かう。こんな危機的状況にも関わらず、全くと平然な態度をしている。

 

「よう。お前、来てくれて助かったぜ!困ったことあんだけどな――」

 

「…………」

 

しかしユノンはラクリーマを全く見ようとせず、モニターを確認する。いつも同じ態度だが、明らかに様子がおかしい。

 

「……お前、まさか風呂場の件で怒ってる?」

 

「…………」

 

しかし、彼女は全く無反応だ。ラクリーマはそんな彼女を見て、ムスッとなった。

 

「けっ、そうですかぁ?リーダーの問いかけにも無反応ですかぁ?勝手にしやがれ!!」

 

そうやって私情を持ち込まれるほどの余裕はないのに何をやっているのか……。ともかく、このままではエクセレクターは危険だ。

 

「解決策は直接、本体に攻撃する以外他ないわね……しかも近距離で……」

 

「近距離で本体に……っ」

 

彼女が発した言葉がラクリーマはある方法を思い浮かぶキーワードとなった。

 

「……そうか。あれを使えってことだな!」

 

彼は艦内放送用のレンズのような機器に手を置く。

 

「艦内にいる者につぐ。衝撃体勢をとれ。本艦はこれより――」

 

内容を聞いた艦内全員が、すぐさま衝撃に備え始める。

 

オペレーションセンターでは、各員がそれぞれ作戦に対応した行動を始めた。

 

「リーダー、編成はどうするんですか?」

 

「本形態は俺が操縦する。第2形態はユノン、第3形態は……ジュネ、やってみるか?」

 

ジュネはメロメロとしたような態度をとった。

 

「ウワァオ♪リーダー直々のご指名とあ・ら・ばっ♪」

 

「よっしゃあ。久々に大暴れしてやるか!」

 

……そして三人は指令塔に集まり三角形上に配置された水晶のような平べったいレンズが3枚、それぞれ表面に手を置いた。

 

「まずはジュネ、お前がへばりついてる奴と向かって来ている奴を全員蹴散らせ。そのあとユノン、どうするか分かってるだろ?」

 

「………」

 

「ちっ……作戦確認までシカトかよ。まあいい、お前は言わなくても分かるだろうからな。じゃあ作戦開始だ!」

 

三人は息ピッタリにレンズを同時に押し込んだ。すると、三人の周りがNPエネルギーの素粒子の包まれていく――。

 

「――それぞれ、配置したか?行くぜ!」

 

「…………」

 

「いつでもいいニャ♪」

 

三人はそれぞれ別の場所に移転する。

 

それぞれ共通しているのは、三人の周りに見えるのは手前に各一人ずつのレンズのついた台……操縦幹の役割を果たすデバイスがあるだけで、果てしない宇宙空間が広がり、周りにあのアンノウンの姿が視界の至るところに映っている。

ジュネはさっそくデバイスのレンズ上に手を置き、遊ぶようかのにウキウキした態度でこう叫んだ。

 

「エクセレクターチェンジ、タイプ3。行くわよぉ♪」

 

――なんと言うことだろう。エクセレクターの前部、中央部、後部が均等に切り下がれたように三頭分に分離を開始したのだった。同時にくっついていたアンノウンも切り離しと同時に無理矢理剥がす。

 

瞬時に、各分離部の先がアニメーションさながらのモーフィングで別形態へ変形、

さらに後部、が一番前に先行し、続いて前部、後部とまた直列に並びーーなんと三機合体。

 

くっついていたアンノウンの大半は、サンドイッチのように挟まれ、無惨に潰れまくる。

 

ホントに……常軌を逸脱したアクションである。前部と後部がそせぞれ前後にお折り畳み、前頭部に最初と打って変わって、今度は怒りに狂った顔をした男の顔を露呈し、変形と言う過程が終了する。

 

「ふふっ、ごめんあそばせ……っ」

 

その姿は例えるなら巨大な亀。どこから攻撃しても死角のない難攻不落な要塞を思い浮かべる。

 

ここまで至るまでにかかった時間は約数分。この全長を考えるとあり得ないほどの速さである。

 

「エクセレクター、全方位空間上のアンノウンをターゲットロック!」

 

艦の全装甲のありとあらゆる場所から砲門らしきを穴が一気に展開した。

 

「反撃開始ぃ♪」

 

彼女の声に反応して全ての砲門からNPエネルギーの粒子ビームを発射。本艦を取り巻く広範囲の宙域を光線の嵐で埋め尽くした。

 

「うふ~いい気分ニャァ♪虫けらを一掃するって!」

 

この一撃で周辺と向かってきていたアンノウンが一気に消滅した。

 

『よっしゃあ、次はユノン。お前だ!』

 

「…………」

 

ユノンはあいからわず無口で忽然とした態度をとり。レンズをぐっと掴み、ゆっくり目を閉じる。そして重い口を開いた。

 

「エクセレクター、タイプ2へと移行する。各員衝撃に備えよ」

 

先ほどと同じように分離、合体へ移行を開始。元形態の後部が最前に移動し、また直列に並んだ。

 

「……」

 

ーー合体変形に成功。瞬間、真空状態である宇宙空間が震えている。それはエクセレクターに秘めている膨大なエネルギーが放散しているのである。そのエネルギー量は、惑星どころか太陽系を消し飛ばすほどの――。

 

「タイプ2変形成功ーーーー」

 

前方に丸い砲門、両舷には空間をも切断しそうな巨大な羽翼を誇る怪鳥の姿だった。

 

「これより、アンノウン本体に突撃する。全エネルギーを前方に収束――」

 

エクセレクターはついに前方へ発進す。その推進力、加速度、最大速度は普段の形態と比べると格段に向上していた。

 

「本体を倒せばもう子供は産み出せない。守っている子供ごと全て潰す……」

 

前方の砲門からエクセレクターを包むようにエネルギー状の青い幕を展開、さらに加速を増した。一方、本体の子供は危険を察知し、一気に集まり、自分の周りを取り囲み始める。どうやらあの生物は攻撃本能だけでなく、母を守る『防衛本能』も兼ね備えているようだ。

 

子供達で構成された壁は、さらに厚みを増し、まさに鉄壁と化していた。それはまさに『最強の矛と盾』のようであった。

 

「アンノウン密集地帯に激突するまで、あと200……このまま突貫する」

 

両者激突まであとわずか、それぞれエネルギーと壁を厚みを

増加させた。

 

「突撃する。全員、対衝撃態勢をとれ」

 

そして――ついに激突。瞬間に子供達はエクセレクターの突撃により、粉々にされていく。それは土を掘り進むようにドリルのようだ。

 

あまりの強引さの前に、さすがのアンノウンも驚いたのか、さらに子は前に出すが、勢いに乗ったエクセレクターには歯が立たなかった。

 

「よっしゃ、ここからは俺の出番だ!!」

 

奥に潜んでいた本体の姿が表した。エクセレクターはそのまま突っ切り本体を豪快に前に吹き飛ばしすーーやっとついにお待ちかね、あの男の出番が回ってきた。

 

《エクセレクタァァァチェェェェンジっっ!!タイプ、ワァン!》

 

アンノウンどころかその宙域全土を震撼させるその声(ボイス)はまさしく、ラクリーマ・ベイバルグのものだった!!

 

「コンマ0.1も狂いなし、いいタイミングだ!」

 

もはや説明不要。元の陣形に戻りガツンっと高速合体し、初期の形態へ移行、すぐさまリバエス砲を発射へ移行ーー。

 

「グワハハハッ、死ねぇぇっ!!」

 

放たれた超高密度のNPエネルギー粒子がついに本体と残りの子供を包み、分子レベルまで分解し始めた。段々姿、形が無くなっていく……。

 

『かけら一つ残さず、根絶やしにする。我々の邪魔をする者はどんな相手でもーー!』

 

「アンノウン……、完全に消滅しました。各個体も全てボロボロに崩れていきます」

 

「よっしゃあ!!」

 

アンノウン撃破に成功し、艦内の者は全員歓喜した。

 

「しかしまあ、ちょっとヤバかったな今回……っ」

 

『あたいはいけると思ってたよ。なぜなら、リーダーと副リーダーが一緒なら負ける気がしニャいから。それにしても、リーダーの叫び声にあたい、ホント惚れ惚れするよ♪』

 

「ありがとよジュネ。なあユノン、よかったろ?」

 

『…………』

 

しかし相変わらずユノンは無反応でモニターを見ても、そっぽ向いている。

 

「けっ……、ホントに乗らねえ女だぜ……」

 

だがよく見るとラクリーマが苦しそうに胸を押さえている……戦闘訓練のケガが響いているのだろうかーー。

 

『リーダー、なんか顔色悪いですぜ。大丈夫ですかい?』

 

 

「ああっ…、ちいと叫びすぎて胸がキツくなっただけだ。なあに心配すんな」

 

「……………っ」

 

ラクリーマはそう言うが全員が心配そうに見ているのに対してユノンだけはあいかわずな態度をしている。相当ご立腹のようである。

 

◆ ◆ ◆

 

一方、のび太としずかは……。

 

「「き、気持ちわるい~~っ!」」

 

のび太はプラントルーム、しずかは自室で目を回しながら倒れていた。

あんなガッタガタに艦内が動き回れば誰でもキツいのはわかっているのだが、分離、合体、変形すること自体、知らない二人に衝撃体勢など、できるワケがなかったのだった。




次回は久々にドラえもん側の話です。


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Part.23 それぞれの思い

ーーその頃、ヴァルミリオンのお偉方専用の応接間ではカーマインと一人の男性が対談をしていた。

 

「……ご協力感謝いたします」

 

「いえいえ。あのアマリーリスの進路を捕捉したと聞いて、嬉しい限りです」

 

その男性は白色のカーマインと同じ軍服を着用しており彼は遥か遠い宙域に位置する銀河連邦の本隊から派遣されたアマリーリス撲滅編成隊長である。

 

「カーマイン殿、私だけでなく、先行部隊の隊員をこの艦内に招待していただき、ありがとうございます」

 

「めっそうもございません。その隊員達は今どこに?」

 

「今、本艦の隊員にヴァルミリオン艦内を案内されています。長い道のりでしたので、休憩がてら自由行動を取らせたので」

 

「そうですか。ゆっくりしていってください」

 

「ありがとうございます。私達の後に続いて対アマリーリス編成部隊がもうすぐで到着いたしますので、短い期間中ですが……」

 

「ええっ、こちらこそーー」

 

二人は笑顔で握手を交わした。二人は豪華なソファーに座り、雑談している。

 

「しかしながら、我々銀河連邦が総力を挙げても捕らえられなかったあの謎の極悪組織、アマリーリスを今回でついに逮捕できるかもしれないまたとないチャンスをついに……」

 

「ええ、ただ……我々銀河連邦の部隊がここの駐屯していることを向こうも恐らく知っているとは思います。しかし自らこちらに近づいているのは気がかりです」

 

「確かに……いや、まあ向こうから進んで来てくれるのならいいに越したことはありませんか」

 

「そうですが……実は何か妙に胸騒ぎがしてまして。アマリーリスの宇宙船らしきものからSランク級のエネルギーを観測してますからーー」

 

ーー二人は黙り込む。そして部隊長はカーマインにこう聞いた。

 

「カーマイン殿、もしアマリーリスと対峙した際、彼らは素直に投降するとおもいますか?」

 

「さあ……分かりません。流石に向こうも我ら銀河連邦の戦力を知らないわけがないはずです。私自身としては無駄な抵抗はせず大人しく投降してほしいと心から願っていますーーが」

 

「もし投降に応じなければ…………」

 

カーマインは間を置き、ふうと息を吐いてこう答えた。

 

「もしも戦闘になれば……両勢とも、多大な犠牲は避けられないでしょうーー」

 

彼は複雑な表情であった。

 

◆ ◆ ◆

 

「…………」

 

何もない空間でエミリアは精神統一をしている。

静寂で、暗闇の空間の中心部で神経を研ぎ澄ましている。

 

突然、四方八方の空間から丸いモノが総計50個ほど出現し、瞬時に彼女は腰の両端に装備している二挺の白銀の拳銃を取りだした。

 

『スタン、スタン』とタップを踏み、柔軟な足腰の筋肉を駆使した、まるでダンスのような軽やかな身のこなしは見るものを魅了する、所謂『ガン=カタ』と呼ばれる動きである。

 

しかし、そこから放たれる光線は丸いモノ、的を的確に捕らえていた。

 

「ふっ、ふっ、はっ、はっ、はっ――」

 

息でリズムで刻み、さらにスピードアップ。こんな美人からは、とても想像できない動きだがとても美しい。

 

直撃した全ての的はその場で消滅。それはたった10秒間の出来事だった。

 

「あと一つ!」

 

彼女は立ち止まると、二挺の銃を直列に連結。二挺の拳銃が、まるで長身のライフルへ変化した。

 

「………………」

 

最後の一番離れた的に照準を合わせ、息を潜めトリガーを引く。発射されたピンポン玉の光弾が徐々に野球ボールほどの大きさに膨張し、的へ向かって駆け抜けた。

 

ーーそして貫通、光弾はそのまま先の壁に直撃し、そのまま消滅した。

 

「…………」

 

その場で銃を下ろし、連結を解除。元の二挺に戻る。それと同時に『パチパチパチパチ!』と後ろのガラス越しの見学室ではドラえもん、ジャイアン、スネ夫が眼を輝かせて握手をしていた。

 

「すっすげえっ!!」

 

「さすがエミリアさん!あんな銃さばき見たことないよ!」

 

三人の横にいたミルフィはエヘンっと誇りそうな顔をしている。

 

「これでもエミリアは戦闘訓練ランクA+なのヨ!」

 

「それってスゴいの?」

 

「当たり前ジャン、最大ランクはSだけど、この艦内でそのランクをもつ隊員は数人ぐらいしかいないわ。ましてやエミリアは女性だから、本艦の全隊員達を比べても上位クラス、女性隊員の中ではダントツトップよ!」

 

「エミリアさんはやっぱりスゴいやぁ。で、ミルフィは?」

 

スネ夫の質問に彼女は瞬間、顔を赤くしてそうボソボソとこう言った。

 

「……D……」

 

「で……でぃー?ぷっくく……っあははははっ!」

 

「こんな丸っこい体じゃ何にも出来ないもんな!わははは!」

 

「二人とも、笑っちゃミルフィちゃんに失礼だよ!」

 

スネ夫とジャイアンはヒイヒイ笑い出した。

 

「何よォ!アタシはオペレーション担当なの!戦闘出来なくても、十分やっていけますゥ!!」

 

……そんな話をしている矢先、エミリアが戻ってきた。

彼女は顔中に汗をダラダラ流していた。

 

「ふう、やっぱりこの訓練は疲れるわね……ちょっとバテた」

 

彼女は訓練で動きやすいようにラクリーマのような黒い全身タイツのような戦闘スーツを着用していた。ちなみに胸がぺったんこなのが残念だが、とてもスレンダーな体格をしている。

 

「あらタケシ君、どうかしたの?」

 

「エミリアさんて……全くおっぱいがなーー」

 

瞬間、失礼な発言をしたジャイアンは顔をプンプンした彼女に『ポコっ』と軽く叩かれた。

 

「た、タケシ君、それは女性に対してものすご~く失礼な発言だから気をつけなさい……っ」

 

「………………」

 

そんな中、スネ夫がエミリアの二挺拳銃に興味を持ち、今にも欲しそうな顔をしている。

 

「エミリアさん、その2つの銃、カッコいいですね!」

 

「えっ?ああっ、これね?」

 

彼女は銃を三人の前に差し出した。2つともグリップ含めて白銀で、違う点は一つは重量感がありそうな大型拳銃で、もう一つも大型だがシャープで銃身が長い。

 

特撮やアニメでヒーローが使う銃器のように機械的で単純にカッコよく、男子ならすぐ欲しがることだろう。

 

「フフっ、持ってみる?」

 

頷くと、彼女はスネ夫の手に直接握らせた。

 

「かっ……軽い。持ってる感じがしない……」

 

「すっスネ夫、俺にも貸せ!!すげえ、わたあめみたいに軽いぞ!」

 

見るかぎり、一挺4、5キログラムはありそうな重厚なそれらは想像できないくらいに軽量であった。子供で、ましてや腕力の低いスネ夫でさえ手を踊らせながら持っているのでその軽さが分かる。

 

「これね、あたし専用の銃なのよ。軽いから扱いやすいと思いがちかもしれないけど、これがなかなか上手くいかないのよね」

 

「そうなんですか?」

 

「ええっ、試しに的に向かって撃ってみる?ホントは一般人に持たせたらダメなんだけど……まあ、持ち主のあたしがいるし許可するわ」

 

「「はっはい!」」

 

「なら、最初は誰が撃つの?」

 

ミルフィを除いた三人は互いの目を見つめ合う。

 

「……ここはもうジャンケンで決めようか?」

 

「そうだな、さすがにここで取り合いしたら撃たせてもらえなくなりそうだし……」

 

「……て、ちょっとまってよ!考えたら僕、グーしか出せないよ!」

 

「ならドラえもんは抜けだな!!」

 

「…………」

 

あんまり納得のいかないドラえもん。しかしまあ、手の形に問題があるので何とも言えないが。しかし、そんなやり取りに見かねた彼女は、

 

「順番で撃たせてあげるから、早く決めなさい」

 

その言葉を聞いた三人、特にスネ夫とジャイアンは即座にエミリアの前に出始めた。

 

「なら僕から先に!」

 

「いいや、俺が最初だろ!!」

 

「ジャイアンばかり自分勝手すぎるよぉ!」

 

「うるセェ!俺が始めに決まってンだろ!」

 

「「「…………」」」

 

予想通りのことが起きて、エミリア、ミルフィ、ドラえもんの三人は呆れて言葉が出ない。

 

「取り合いするのなら撃たせてあげないわよ!!」

 

「「あっ……」」

 

……とりあえず、順番はスネ夫、ジャイアン、ドラえもんという形になり、最初のスネ夫が彼女に連れられて訓練場に入場した。

 

 

「ならスネ夫君。向こうにある的を狙ってみましょう。命中したら的は消滅するから判定は当てるだけよ」

 

エミリアの指を指す方向に約50m離れた先に2つの的が平行に並んでいる。

 

「ワクワクしてきた……よおし!」

 

スネ夫は渡された二挺を的に向かって構えた。

 

(軽いなぁ。これなら僕も扱えるかも……でも扱いにくいなんて)

 

そう考えながら両手を真っ直ぐ前に固定し、ゆっくり的に照準を定め引き金を引き、発射した。2つの銃口から蒼白く細い光線が瞬く間にはるか奥に到達した。

 

「ーーあれ?」

 

とっくの間に着弾したと思われたが的が消滅していない。

ということは命中していないのであった。

 

「…………」

 

「スネ夫、なにやってんだよ。あんなのも当てられないのかよ!!」

 

戻ってきたスネ夫は首を傾げていた。

 

 

「エミリアさん、この二つ銃口曲がってませんか?」

 

「そんなことないわ。じゃあ次はタケシ君ね、渡してあげて」

 

「よっしゃ、まかせとけ。俺が当ててきてやる」

 

スネ夫は渋々渡すとジャイアン大ハリキリで腕を回していた。

 

その隣でミルフィは微笑している。

 

「フフフ、あの銃の本質に気づくかしら……?」

 

「…………」

 

ドラえもんはそう呟く彼女を見て、何かを考えていた。

 

 

「当たらなかった。どうなってんだこりゃあ……」

 

「ジャイアンも全く命中してないじゃないか!!」

 

案の定、的に命中せず、やる前とは一転して少し落ち込んだ様子で戻ってきた彼も首を傾げている。

 

「なら、最後はドラちゃんね」

 

ドラえもんはジャイアンから渡される。見た感じ、そんな指もない丸い手でどうやって撃つのか不思議だが構造上、指があるかの如き動作が出来るのである。

 

「…………」

 

そしてドラえもんは訓練場に入り、銃を構える。

 

(もしかしたら、ドラちゃんなら……)

 

二人とは違う真剣な顔が集中しているとエミリアにはわかった。

 

「「ああっ!!」」

 

ドラえもんは2つの的の右側の的が瞬間、消滅した。

 

その瞬間をこの目でみたスネ夫とジャイアンは驚きを隠せなかった。

 

「さすがドラちゃん、初めての一回で当てるなんて」

 

「エヘヘ。何となくこの銃の特性がわかったんです。確かに扱いにくいですね」

 

二人は戻り、その場の三人は駆けつけた。

 

「ドラえもん、どうやったの!?」

 

「俺たちに教えてくれ!」

 

「この銃、軽すぎてフワフワしてるだろ?だから的を狙っても知らず知らずに腕が上に上に上がっちゃうんだよ」

 

「「へっ?」」

 

「つまり、凄く軽くて逆に腕が固定しにくいから照準が定まらないんだ。二人はもうすこしそれを考慮して狙わないから照準がずれて当たらないんだよ」

 

エミリアとミルフィは笑顔でドラえもんに拍手した。

 

「ドラちゃんは頭がいいわね。大正解よ!」

 

「未来のロボットはやっぱり敵わないヨ!ステキー!」

 

「エヘヘ……ゴロニャーん…」

 

誉められて人目気にせずデレデレしている彼を尻目に、

 

「ちぇっ、ホントはポンコツロボットのくせに……」

 

「あんなにデレデレしちゃって……」

 

二人は嫉妬していた。

 

「この二挺は特殊な金属素材を使ってるから非常に軽量で丈夫、かつ特殊なのよ。わたしはこの二つを『テレサ』、『ユンク』と呼んでるわ」

 

「銀河連邦では優秀者にその人の象徴として、本人が使いやすいデバイスや武装、戦闘ユニットを開発、受領されるようになってるの。エミリアは確か…大尉になってすぐにもらったんじゃない?」

 

ドラえもんら三人は納得し頷いていた。

 

「……エミリアさんはやっぱり優秀なんだなぁ」

 

「ドラえもん、今度はエミリアさんにひみつ道具を使わせてあげようよ!」

 

「そうだね。そうだ、タケコプターなんか……」

 

ドラえもんはポケットからタケコプターをエミリアに差し出した。

 

「これは……地球であなた達が使った道具ね」

 

「はい。『タケコプター』って言って、頭に着けて念じると空を飛べるようになるんです」

 

「へえっ。初めて使うけど大丈夫かしら?」

 

「どうぞどうぞ。さっきのお礼です」

 

エミリアは早速、訓練場に入り、頭上に着けて黄色い小さなプロペラが回転を始めたーーが、

 

「きゃああああっ!」

 

「「「「うわああああっ!」」」」

 

上体を倒しすぎたせいで地面に引きずられるように走っていき、慌てて彼女を止めようと全員が駆けつけるが、遅くも頭が壁に激突し、エミリアはそのままピクピク震えている。

 

「エミリアさん、大丈夫ですか!!」

 

「ううっ……やっぱり難しいわね……未来の道具は……」

 

ドラえもん達は心配しつつも、こう思っていた。

 

『今のは……まるでのび太だ』と……。

 

 

(もしかして……エミリアさんて不器用……?)

 

 

今、エミリア除く全員が同じことを考えていたのだった。

 

◆ ◆ ◆

 

その後、彼女のタケコプターの飛行テストは失敗に終わり、5人はエミリアの顔の傷を治しに治療室へ向かっていた。

 

「いたたたっ……」

 

「エミリア、大丈夫?」

 

「大丈夫よ。まさかあんなことになるとは……っ」

 

顔の頬が擦りむけて赤くなっている顔を見るかぎり、かなり痛そうだ。

 

「いやあ、びっくりしたぁ~。いきなりあんなことになるなんて……」

 

「しょうがないよ。初めてつかったんだし……」

 

「ふふっ、けどすごく興味深いわ。もしよかったらまた出してくれないかしら?」

 

「いいですよ。けど今度は安全な道具を出しますよ」

 

「こんどはエミリアさんでも扱えるような物を出せよな!」

 

「でもってどうゆう意味よ!」

 

「アハハハッ!」

 

全員の笑い声が通路に響き渡った。

 

「お疲れ様です!」

 

「ご苦労様!」

 

「「「お疲れ様でーす!!」」」

 

兵士とすれ違い、全員が互いに敬礼をした。三人はこれでもかと言うくらいに大きい声で返す。

 

「おっ、君たちいい声してるね。ここに入る資格あるよ!」

 

「ホントはですか!」

 

「ああっ、ところでエミリア大尉、その顔の傷はどうしたんですか?」

 

「ちょっ、ちょっとね!」

 

「早く治してくださいね。あなたのその美人顔が台無しですから」

 

「台無しって、失礼よ!」

 

「ああっ、すいません!!ではこれで失礼しました!」

 

兵士はそそくさと去っていき、彼女は彼を嫌な目で見つめていた。

 

「もう!」

 

……すると、

 

「これはこれは、エミリア・シュナイダー殿ではないか?」

 

振り向くと、二人の男が我が物顔で立っていた。一人はキツネをそのまま人間にしたような男、もう一人はまるでゴリラのような顔つきで肌の黒い、身長2mあるかないかの大男がその男の後ろにいた。

 

「…………」

 

エミリアはキツネの男をグッと睨み付け、男は彼女に対してニヤニヤしている。

その一方、ミルフィとゴリラの男は何か懐かしむような顔で互いを見つめていた。

 

「こっ、コモドスじゃない?」

 

「ミルフィか!」

 

二人は笑いながら、かけより手を繋いだ。

 

「前期教育以来じゃないかぁ!元気にしてたか?」

 

「うん!コモドスこそ元気?」

 

「ああっ」

 

二人はワイワイ話していると、

 

「ミルフィ、みんな、行くわよ」

 

「えっ!?」

 

エミリアは突然、無愛想となり、彼らに背を向けた。

 

「エミリアさん?どうしたんですか?」

 

「…………」

 

ドラえもんの問いに全く答えず、さっさと行こうとする。さっきまでと雰囲気が違う彼女の表情に4人は突然、恐怖した。

 

「おいおい、久々に会ったってのにそれはないんじゃないか?」

 

男がそう聞くと、エミリアは立ち止まった。

 

「何よサルビエス。あんたに話す言葉なんてなにもないわ」

 

「ちっ、いつからそんな偉そうに言えるようになったんだ。しかも……そんな下等生物を率いれて遠足でも行くのか?」

 

徹底的に彼女含めた5人を軽蔑するサルビエスという男。エミリアと一体どんな関係が――。

 

「クククッ、相変わらずそのメガネがないと何も出来ないのかぁ?無様なもんだなぁ」

 

「てめぇ、よくもエミリアさんを馬鹿にしやがったな!」

 

「ジャイアン!!」

 

黙ってもいられなくなったジャイアンはサルビエスに襲いかかろうとしたが、もの一人の男、コモドスが彼の前に出る。

 

「はなせぇ!」

 

「…………」

 

さすがのジャイアンもコモドスの並外れた怪力の前に歯が立たず、掴まれてしまう。

 

「ケケケッ、これくらいにしておけコモドス」

 

「……はい」

 

コモドスは彼をまるでドッチボールのように前へ投げつけた。

 

「ジャイアン!!うわあああっ!」

 

ドラえもんとスネ夫は彼を受け止めようとしたが、勢いが強すぎて、三人は吹き飛ばされた。

 

「みんな大丈夫!?」

 

「いたたっ……っ」

 

「…………」

 

エミリアは怒りの表情を露になり、拳をギュッと握りしめた。

 

「俺様に逆らうからこうなるんだよ。大体、お前みたいな奴がよく大尉になれたもんだな。なあ『泣き虫モグラ』ちゃん?」

 

「…………」

 

「エミリア、『泣き虫モグラ』ってどうゆう……」

 

サルビエスは突然、高笑いし彼女に指を指し、こう話し出した。

 

「ヒヒハハハ、教えてやろうか?こいつはな、俺と入隊、前期教育は同じなんだが、いつもこいつのおかげで連帯責任かけられたんだよ!!」

 

「エミリアさん……?連帯責任って」

 

「…………」

 

エミリアの心にその言葉が鋭い刃の如く、奥まで突き刺さった。

 

「いっつもトロくてドジばっかしてたから俺たち仲間に多大な迷惑をかけてたんだぜ?

基本装備品を装着するのに一人だけてこずって集合時間には間に合わないし、行進訓練で違うことするし、挙げ句の果てには訓練中に教官に怒られて、その場でワンワン泣き出して……訓練の進行を邪魔してたな。だから『泣き虫モグラ』ってな」

 

ーーエミリアは、入隊時は会話の通りの女性だったのだ。彼女にとっては決して思い出したくない過去の一つである。

 

「今回の標的、アマリーリスなぞに故郷を滅ぼされて……モーリアンとはさぞかしノロマで貧弱だったんだろうな、ヒァハハハ!!

そんな種族に比べたら、我が種族『フォクシス』はあらゆる種族の中で最も気高く優れた種族だな」

 

『レイシスト』。彼を一言を表すならそれである。

 

「けけっ、悔しいか?だが所詮、モーリアンとはこんなもんだ。土臭くて、鈍重で、マヌケで……」

 

「……何よ。言いたいことはそれだけ?」

 

「はあっ?」

 

彼女はサルビエスの前に移動すると、胸ぐらをグッと掴んだ。

 

「ぐうっ!」

 

「確かに……私は同期の仲間には多大な迷惑をかけたわ。どうしても上手く行かないし、途中で何度も退職しようかなと考えたりもしたわ……」

 

さらに顔同士が当たりそうなくらいに引き付けて、彼の目をその怒りを込めた視線を送った。

 

「けど、周りの人々に支えられて、励まされて私は必死こいて頑張った。人一倍、いや二倍くらい努力したわ。あたしも努力してここまで辿り着いたのよ。あんたみたいに……人を馬鹿にすることしか考えない奴に分かるワケがないじゃない」

 

エミリアは胸ぐらを放し、その場で低くドスの利いた声でこう言い放った。

 

「ナメんなよ、クソヤロウ」

 

「…………」

 

エミリアは彼に背を向けて去っていく。

 

「行きましょう」

 

「エミリアさん……」

 

「……みんなに見苦しい所見せて悪かったわね」

 

5人はエミリアの指示通り、行こうとする。その中でミルフィとコモドスは互いに悲しい目で見つめあっていた。

 

「コモドス……」

 

「…………」

 

一方、サルビエスは歯ぎしりを立て、エミリアに対して怒涛の怒りを起こしていた。

 

「ちぃ、モーリアンふぜいが……生意気にぃ……」

 

「大尉、我々ももう行きましょう……」

 

コモドスがそう促すが、彼はギロッと睨み付ける。

 

「おいコモドス、誰に命令してるんだ?いつからそんなに偉くなったんだ?」

 

「…………」

 

「まあいい、どいつもこいつもムカつく奴らだぜーー」

 

悪態をつきまくるサルビエスにオドオドしているように見えるコモドス。二人はどのような関係があるのだろうかーー。

 

◆ ◆ ◆

 

ーーその後、仕事でエミリア達と別れ、ドラえもん達三人は休憩所で落ち込んでいた。もちろん、あの二人とのイザコザについてで。

 

「あの時のエミリアさん……怖かったね」

 

「ああっ。けどあんな奴に馬鹿にされたら」

 

「なんか……ここも色んな人がいるんだね……」

 

銀河連邦内でも様々な種族や人種がいる。

しかし、それが全て友好的な人物だけでなく、中にはサルビエスみたいな思考の人物もいる。

 

それを強く思い知らされる三人なのであった。

 

「あら、あなた達いたの?」

 

エミリアが三人の元へ現れる。

雰囲気が重い彼らに優しい笑顔で一人ずつ頭を撫でた。

 

「ごめんなさい。サルビエスの言っていたことは気にしないでね。あいつは元からあんな感じだから」

 

「けど、あんなに馬鹿にされて悔しくないんですか?」

 

「……悔しいわ。けどね、気にしててもしょうがないでしょ?あなた達は何も気にしなくてもいいのよ」

 

「けど……」

 

そう言う彼女も気にしているか、どこか浮かない表情をしていた。

 

「……エミリアさんて、どうして銀河連邦に入隊したんですか?」

 

「入隊動機?」

 

ドラえもんの問いに、彼女は恥ずかしそうに指をコネコネしながらこう答えた。

 

「……人の役に立ちたかったから。わたし、泣き虫でドジだったから鍛え直したいって思いもあったけど。

あたしでも役立つ仕事は何かなって考えた末、これに決めたわ。

幸い、故郷も連邦に加盟していたからすぐに志願できたの。親も彼氏もはじめは反対してたけど、行きたいと押し通したら承諾してくれた」

 

彼女はさらに話を続ける。

 

 

「けどね、現実は厳しかったわ。あいつが言ってたことは本当よ。あたしのせいで連帯責任になって罰を与えられた数は多すぎて数えられないわ。

同期生はあたしを冷たい目で見てた時もあった。あたしは情けなくなって、何度も泣いたこともあったの。

 

けど、親や彼氏、仲良しの同期に励まされて死にもの狂いで頑張った。自由時間や休日を使って勉強や自主練習した日もあった。そうじゃないと迷惑がかかるから……」

 

三人が真面目に話を聞いている。本当は彼女は元から優秀ではなかったのだ。下手したらのび太に匹敵するくらいの不器用である。『大尉』という階級になるのにどれほどの努力をしたのか計り知れない。

彼女は「人の役に立ちたい」という願いを叶えるため、本当に苦労していたんだなと思うと無性に涙が上がってくるのであった。

しかし、次第に彼女は体をブルブル震わせていた。

 

「けどサルビエスなんかよりも一番許せないのは……人の全てを虫けらのように踏み潰し、奪うアマリーリスを……わたしは絶対許さない!」

 

その怒りようは尋常ではなかった。あんな悲劇が起きれば誰でも憎悪するは無理もなかったのだが……。

 

「ところでミルフィちゃんはどうしたんですか?」

 

「あっ……ミルフィは今、オペレーターとしての作業をしているわ」

 

……その頃、ミルフィは中央デッキのコンピューターの前で、本業であるオペレーターの仕事をしていた。

 

 

「はあ……っ」

 

「ミルフィ中尉どうしたのですか?」

 

「いやっ、なんでもないヨ。引き続きアマリーリスの進路を追跡及び、この宙域に到着する時間を確定させるわ」

 

「了解しました」

 

後輩オペレーターと連携を取り、真面目に仕事をする彼女は何かギャップがあり、いい意味で違和感がある。

 

 

(コモドス……どうしてあんな人の付き添いをしてるの?)

 

彼女も浮かない顔をしていた――。



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Part.24 ユノン

『あたしは……なんのために生まれてきたんだろうーー』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちきしょっ!!また男に逃げられたぁ……ひっくっ!」

 

 

とある街の片隅のアパート。壁にはラクガキやシミだらけで、もはや『綺麗』という言葉は合わないような建物の一室内では。

 

「酒がなくなった……。あんた、今すぐ買ってきな」

 

家の中は酒の瓶やゴミに溢れ返り、足の踏み場もないほどであった。酒のニオイや生ゴミのニオイが混ざり、今すぐにでも気絶しそうなほどの臭気に満ちている。

 

そんな部屋の一室から一人の薄汚れた少女が涙を浮かべて酒に溺れている女性を見つめていた。

 

「まっ……ママッ……っ」

 

女の子の身体はアザだらけであった。強く殴られた痕や煙草の火を押し付けられたヤケド、刃物か何かに中途半端に切りつけられた痕……汚れた衣服で隠れていない部位を見ても、数えるとキリがない。何をしたらこんなことになるのかと思うくらいであった。

 

「ひいっ!!」

 

母親と思われる女性は空き瓶を少女へ向けて投げつけた。直接は当たらなかったものの、割れて飛散したガラスの破片が辺りに散乱し、彼女にまた恐怖という思念が込み上げる要因ともなった。

 

「さっさと買ってきなさいよぉ!!」

 

母親は彼女の元に行くと酔っているか、躊躇せず彼女を蹴る、殴るの暴行をこれでもかというくらいに与え始めた――。

 

「ごめんなさいぃぃぃっ!!ごめんなさい!!ごめんなさい!!ごめんなさい!!ごめんなさい!!ごめんなさいごめんなさい、ごめんなさい――!!」

 

少女はただそれだけを発しながらひたすら暴行に耐えている。しかし、母親は彼女に向かって唾を吐き、頭上に付着した。なんという親なのだろうか。

 

「怯えやがって……。そんなにあたしのことが怖い?誰のおかげで生活できるとおもってんだァ!?」

 

母親は彼女の長い緑の髪をグッと掴み、無理矢理顔を合わせる。

 

「あんたがいると男は作れないし、作っても逃げられるし、とんだ疫病神だよ!」

 

しかし恐怖のあまり、彼女はおもらしをしてしまう。

 

「まァたおしっこなんかもらして……たくもお!!」

 

下半身がびしょびしょになった少女は羞恥と悲しみ、そして恐怖で、涙と鼻水でもう顔がグシャグシャな状態だった。

 

「なんでこんな手間のかかる子を産んだんだ……っ?こいつの父親は逃げちまったし、たくっ、育てるあたしの身にもなってよお!」

 

すると少女は震えるような声で母親にこう言った。

 

「おサケ……かってきますから……いうことききますから……もうたたかないで……おねがい……します……っ」

 

その言葉を聞いて母親は掴んだ髪を離し、少女はそのままうずくまった。

 

「ふん……、さっさと買ってきな。お金はないからいつも通りツケておくようにいいなさいよ?」

 

「…………ひくっ………」

 

彼女は、母親から下僕のように扱われていた。こんな母親でも他に身寄りがいないため、いなければ生きていけない。従う以外、道はなかった。

 

 

ーーある日のこと、母親は男を捕まえたらしく、キレイに部屋を掃除して連れ込んだ。

母親は珍しく上機嫌で満面の笑みを浮かべていた。

少女はそれを見るたびにこう思っていた。

 

『この笑顔が……もう消えないでほしい』と。

 

 

母親にニコニコしながら、外に買い物に行った。

どうせ、男からもらった金だろうに。部屋の中には一人で静かにしているその少女と男の二人、何か嫌な雰囲気だ。

 

「いいものあげるからこっちにおいで……」

 

「……?」

 

男が隣の部屋から少女を呼び、トコトコ彼の所へ向かう。人見知りなのか、初めは壁越しに隠れなからその男を覗いていたが非常に気のよさそうな笑顔で信用したのだろう。

なんの疑いなしで出向いていった。しかし、

 

「!?」

 

突如、男は彼女の口元を押さえて、押し倒す。その優しい笑顔は徐々に悪魔のような凶悪な笑みと化した。

 

「へへっ、あのバカ女に金を貸した代わりだ!よく見ると可愛い顔してんなぁ、こいつは楽しみがいがあるってもんだ!」

 

(こわいっ……こわい!!こわい!!)

 

少女の表情は青ざめ、ぶるぶる震えている。助けをよぼうにも、力ずくで口を押さえていて声が出せない。

それ以前に、助けを乞おう人さえもいなかった。男は……彼女の服の中にその汚ならしい手を突っ込んで、耳元でこう呟いた。

 

(緑色の長い髪、かわいいよ、名前は確か…………っ)

 

(や……め……て……っ)

 

その発達しきれてない幼稚な身体中を否応なしに触られ、全身をナメクジがはい回ったような強烈な嫌悪感、そして吐き気が襲い、大粒の涙を浮かべて……そして。

 

 

「ユノンちゃん♪」

 

 

(や め て え ぇ ぇ ぇ ぇ ぇ っ っ ! ! )

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

「…………!!?」

 

ユノンは自室のベッドからすぐに起き上がる。身体中が汗でびしょびしょであった。

 

「……がっ……はっ……っ!!」

 

異常な嫌悪感に自分が押しつぶされそうとなり、息が出来なくて喉元をグッと押さえ彼女はすぐに立ち上がり、デスクに向かうと引き出しを開いてあるものを取り出した。

 

「~~~~~~っ!!」

 

……あるものとは、ナイフであった。

 

それを左手首にグッと押し当てる。だが、

 

「あ……ああっ……っ」

 

彼女はまるで地震を受けているように激しく震え、顔をひきつった。自分の今やろうとしていることの過ちを認識したのだ。

 

「あ゛あ゛ーーーーっ!!」

 

ナイフを床に叩きつけ、彼女のその場で座りこみ、震える両手で顔を押さえた。

 

「あたし……なにまたやろうとしてんのよ……やめると決めたじゃない……っ」

 

ゆっくり立ち上がり、ふらつくようにソファーへ移動するなりドサッと座り、体育座りをして静かにうずくまった。

 

「…………」

 

ノースリーブ状のインナーを着ている彼女は露出している左腕の手首を確認する。

その綺麗な素肌の内側をよく見ると、何やら刃物か何かで傷つけた痕らしきモノが所々ある。

 

「…………」

 

その切創は明らかに不自然だ。まるで✕のような形もあれば、平行でしかも一定の間でできているものもあった。

 

これはどうみても他人から切りつけられた傷ではない。

 

「なんでまたあの夢を……っ」

 

普段以上に暗い顔をしている。彼女の目が揺れている。そんな状態が数分間続いた。

 

「…………」

 

ふとユノンは立ち上がり、隣の青い壁へ向かうと、静かに触れた。

 

すると、壁がまるで自動ドアのようにゆっくり開き、中から冷風が一気に彼女を包む。

 

開ききったそれは、何段もの棚に――『酒』と思われる液体の詰まった瓶や壺が何種類にも綺麗に統制されて並べられていた。

 

彼女は上から二段目の右端にある瓶を取ると、それをもってソファーの前にあるデスクに静かに置いた。

 

『トクトク……っ』と持ってきたグラスに静かに注ぐ。液体の色はまるで鮮血のように明るい赤色で、地球で言う、赤ワインのようである。

 

ある程度コップに入れ、それを時間をかけて口の中に含む。

 

「……ふう」

 

安心し、妖艶な声と共に息を漏らすと、今度は勢いよくグビグビ飲み始める。

 

彼女は組織内でも有数の酒飲みであり酒豪でもある。強さはラクリーマより劣るが、組織員と引けを取らない程で、酒に対するこだわりは他の追随を許さない。

 

彼女の唯一の楽しみである酒は、各惑星の侵略時に入手しているのである(それらはラクリーマや部下に頼んでいる)。

 

その日の気分で酒の味を変えているあたり、多種類持っていることが伺える。

 

「…………」

 

段々、彼女の顔が赤くなってくる。彼女はこの時、いわゆるほろ酔い時が至福の時なのである。

さすがに毎日は仕事に支障をきたすため、非番な日に好きなだけ呑むようにして、それ以外の日は呑まないようにしている。

 

宴会などを嫌い、一人晩酌を好むユノン。

邪魔されたくないため、この時に人が部屋、いわゆるテリトリー内に入ってくることを極度に嫌うのである。

それが例えラクリーマであろうと絶対に許さない。

なので、組織員は彼女の非番時には部屋に近付こうとしないのである(最も、ラクリーマはそんなのお構い無しに部屋へ入り、彼女からこっぴどく制裁されて、放り出されるのはもはや名物である)。

 

 

……ゆっくり、ゆっくりと時間をかけて飲んでいるのだが、「ハァ……っ」と幸せな一時なはずなのに、不安らしげにまたため息を吐く。

 

(情けない……。あんなクソ親と同じく、酒でしか満たせないなんて……)

 

コップの残りを飲み干すと立ち上がり、クローゼットからいつも着ている青い着物のような上着を取り出した。

 

すぐに着用し、そのまま部屋から出ていった。

 

◆ ◆ ◆

 

現在、あのアンノウン達がエクセレクターの装甲をボロボロにし、修理をするため約2日間だけ、その場で停滞していた。

無論、のび太としずかにそのことを話し、二人はしょうがないと快く納得してくれたのだった。

 

そんなに問題こそはないのだが……先で待ち構えているであろう銀河連邦艦隊を考慮しての決断だった。

 

「…………」

 

ここは艦内の喫煙所。ユノンただ一人がゆっくり煙草を吸っている。

 

実は、意外にも喫煙者はユノンを含めて、十数人くらいしかいなかった。

 

『煙草は俺たちみたいに肉体労働者には毒すぎる』というラクリーマ本人の指示によるものであった。

 

証拠に、喫煙者はオペレーターなどの頭脳と神経を使う者たちで限られている。

 

 

「フゥ……」

 

彼女の口から吐き出される煙はたちまち天井の換気扇に吸い込まれていく。

 

それを見ながら彼女はぼーっとしていた。

 

(そういえば喫煙するようになって何年経ったかしら……。確か、大学に入る前から吸ってたから……7年くらい?)

 

彼女は短くなった吸いがらを灰皿に捨て、喫煙所を出た。

ポケットに手を入れて、長い通路をひたすら歩いていく。……しばらく歩いていると前方から仲の良い部下が歩いてきた。二人で通路内に響き渡るような笑い声で話をしている。

 

「「あっ、お疲れ様です!」」

 

「…………」

 

互いに軽く挨拶し、すれ違う。その時――。

 

「……そいつさぁ、配線の修理中に手を滑って、手首切っちゃったんだとよ!!」

 

(!!?)

 

その会話が耳に入り、その場で立ち止まった。

 

「うわぁ……バカだなオイ。どう間違ったらそうなるんだ?」

 

「でさ、めっちゃ血が流れて大変だったんだぜ!」

 

二人はそのまま去っていった。しかし、彼女はそのまま立ち止まり、何故かブルブル震えている。

 

「てっ……手首を……切った……っ」

 

(ドクン……ドクン!ドクン!)

 

心臓の鼓動が強くなるにつれて、彼女の顔も青ざめていきーー。

 

「――――――っ!!」

 

彼女はなりふり構わず一目散にその場から走り、急いで自分の部屋に入った。

 

「…………っ!!」

 

彼女はドアに寄りかかり、頭を押さえてその場でうずくまった。その時の彼女の表情は、いつもの冷静さを完全に失い、何かに恐がっているようにも見えた。

 

(ヤバい……また切りたく……ダメよ、ダメ!!またやったらあの頃のあたしに――!!)

 

抑えきれない危険な欲望が彼女の脳内を駆けめぐり、もう何がなんだかわからない状態だ。

 

「ううっ……!!」

 

そしてあの壁に手を当てて、あの酒の貯蔵庫を開けると手当たり次第に酒をかき集め――。

 

「うぐ……うぐ……はぁ!!」

 

なんと瓶ごとそのまま飲み干していくではないか。あの冷静の彼女の姿はどこにいったのであろうか……。

 

“まだ……まだ忘れられない!!飲まないとぉ!!”

 

それから一升、二升とただの空き瓶を作っていくユノン。一体どうしたのだろうか?

 

◆ ◆ ◆

 

その頃、ラクリーマはというと、彼女の部屋へ向かっていた。

何か言いたそうな顔をしているが――。

 

「ラクリーマさん、どこいくんですか?」

 

通りかかった部下に話しかけられて足を止める。

 

「おう、ユノンの部屋にな」

 

「……ユノンさんの部屋はやめた方がいいんじゃないですかぁ?あの人非番だから、酒飲んでるんじゃ?」

 

「いいじゃねえか。俺が行くのは勝手だろ?」

 

「けどですね……あなた、毎回ユノンさんの部屋に行っては追い出されてるじゃないですか」

 

「けっ、こっちは用事があるんだ。それなのに追い返すあいつがおかしいんだよ」

 

「そうですけどね……。まあ、気をつけて下さいな」

 

「ああ、それじゃな」

 

そう言い、彼は手を振り去って行く。

 

「けど、ラクリーマさんらしいや!」

 

部下はそんな彼に呆れつつも、暖かい目で見つめていた。

 

一方、ラクリーマは考えごとをしているのか、うつ向いて通路を歩いていく。

 

(……あいつを怒らせとくと色々めんどくせーから謝っとくか……、元々俺がワリィし)

 

そう考えながら、彼女の部屋へたどり着く。

 

「ユノン、いるか……うっ!」

 

部屋の中は酒の匂いで充満している。酒に強い彼でさえ、思わず鼻が押さえてしまうほどであった。

 

「さっ、酒くせえ……。あいつなにやって……おわあ!!」

 

彼は目を疑った。デスクには酒が入っていたと思われる空き瓶が何本も倒れていて、ソファーには彼女が顔を真っ赤にして、泥酔状態となっていた。

 

「おい、大丈夫か!!」

 

暑いのか、下着だけになっていて、あまりにもはしたない姿になっている彼女にすぐに駆け寄った。

すると彼女は目を開けて、虚ろな瞳でラクリーマを見つめた。

 

「あら~~来たの~っ♪ウレシイわぁ~♪」

 

「お前、なんだこれは……?」

 

さすがの彼も、この部屋の惨状と彼女のへべれけ状態にはもはや、呆れて言葉が出なくなり、手を額に押さえていた。

 

「ウフフ……いいじゃないのぉ♪ラクちゃん、まさかあたしを襲いにきたのぉ?」

 

「らっ……、ラクちゃんだとォ?お前なぁ……っ、いくら非番だからって量を考えろよな……」

 

「いいでしょ~~!あたしの楽しみはこれしかないんだからぁ。それを否定されちゃあ、あたし泣いちゃいますよ~っ」

 

「…………」

 

もうらちがあかない。ラクリーマは寝かそうと彼女を持ち上げた。

 

「んふ~~♪いい気分……♪」

 

「へいへい、そりゃよおござんした!」

 

彼はお姫様のように抱き抱えて、ベッドへ運ぼうとする。ご機嫌なのか、パンツからはみ出ているシッポをフリフリ振って彼の腕にぺしぺし当たっている。

 

「エヘヘ……ラクちゃんて、意外と可愛い顔してんのねぇ。お姉ちゃんがナデナデしてあげまちょ~かあ?」

 

「うえっ、お前が姉貴とか、気持ち悪くなってきた……っ」

 

そして彼女をベッドの上に下ろし、寝かそうとする。

 

「なぁ!!」

 

その時彼女はラクリーマをグッと引き込み、彼を倒した瞬間、寝返って彼を下にし、彼女がのし掛かった状態になった。

 

「お前……本気なのか?」

 

「フフっ、今日はあたしを好きにしてわよ……ウヘヘッ……っ」

 

「……それは非常にウレシイが、俺はそんな酔っぱらいとヤる気になれないんでね、お前の酔いが醒めたらな!」

 

「へ~~えっ、たらしでヤリ○ンのラクリーマが拒否るなんて……あたしの処女奪ったのもあんたなのに……」

 

「だっ、誰がヤ○チンじゃあ!?」

 

いい加減うざくなり、彼女をどかそうとするが、完全に足や手を絡みつかせて離そうとしない。

 

「おい、離せ!もう寝やがれ!!」

 

「フフっ、せっかく来たんだし、楽しもうよ~~っ♪ん~~……」

 

「まじかよ……っ」

 

彼女は唇をラクリーマに顔に近づけ、そして……、

 

(ペロッ…)

 

「へっ?」

 

(ペロペロペロペローー)

 

「うわあああっ、くすぐってえ!!」

 

突然、彼の顔中を舐め始めたのだった。その様はまるで犬のよう……考えたら、彼女は犬だ。普段の彼女からは考えられないほどの醜態を晒している。

 

「ちょっ、酒くせえし、きたねえし、いい加減にぃ――」

 

しかし彼女は止めようとしない。次第に彼の顔は唾液まみれに――。

 

「どっ、どうしたんですかリー……ダァァァァッ!」

 

偶然、そこを通りかかり声を聞きつけたレクシーはすぐに駆けつけてきたが、二人の状況の前に、顔が真っ赤で大声を出してしまった。

 

「しっ、失礼しやした!!」

 

「おっ、おいレクシーまて、こいつを止めてくれぇ!!」

 

『最中』だと勘違いし、彼は急いで部屋から飛び出していった。

 

「レクシーさんどうしたんですか?」

 

「そんなに顔を赤くして……中で何が……」

 

「いっいや、今すぐこの場から去ろう!!」

 

彼はのび太としずかと一緒で、二人を引っ張って猛スピードで去っていった。数分後。

 

「く…………っ」

 

彼女はやっと離し、満足したのかポワポワしていた。が、ラクリーマの顔は彼女の唾液だらけでふやけており完全に不機嫌となり、タイツでゴシゴシと唾液を拭う。

 

「ちぃ、こんなことなら来なけりゃよかったぜ!!」

 

「えっ、もう行っちゃうの?」

 

彼は今にもキレそうな顔で起き上がり、ベッドから降りた。彼女もそれに反応して起き上がる。

 

「晩酌の邪魔して悪かったなぁ!!今すぐにでも去ってやらぁ!」

 

突然、彼女は彼の腕を掴み、引っ張り始める。

 

「おい、またか!!そろそろ俺もキレ……ん?」

 

彼は振り向くと、彼女はさっきの陽気な表情とは一転して、瞳が震え、非常に悲しそうな表情になっていた。

 

「……そんなさみしいこと言わないでくだちゃい……」

 

「おっ、おい?」

 

「ラクちゃんは……あたしから去るなんてユルさないでちゅよ~……っ」

 

彼女はラクリーマを見つめる。しかし彼女はまるで寂しそうに暗い雰囲気で見つめていた。

まるで……捨てられて、自分を見つけてくれた新たなご主人に『行かないで』と眼差しを送る子犬のように――

 

「いなくならないで…………」

 

「ユノン……?」

 

彼女はそのままうずくまり、ブルブル震えている。

 

「だいっ、丈夫か……?」

 

ーーその時、

 

「うっ……うえっ……気持ち悪い……吐きそう……」

 

「なぁ!?」

 

彼女は両手で口を押さえている。これはまさか――。

 

「ちょっとまてぇ、その場で吐くなぁ!」

 

彼はすぐに彼女を抱き抱えるとすぐに部屋のトイレへ向かった。

 

「おええええっ!!」

 

トイレから聞きたくもない汚ならしい声と音が響きわたった。

――どうやら間に合ったようだ。

 

やっと終わりを告げ、ユノンはそのまま爆睡。彼女をベッドに寝かせ、周りの瓶をせっせと片付け始めるラクリーマ。あんな目に遭いながらも、彼女を放っておけないのは彼の優しさか……。

 

全てが終わり、部屋を出る彼の顔は腑に落ちない顔をしていた。

 

「ユノン……」

 

しかし、彼は前の壁に移るとその場でうずくまった。彼の額から脂汗が流れ、身体を抱えて震えている。

 

(くう……っ、身体中がいてえ……これしきのことでぇ……)

 

彼は必死で立ち上がり、息を整えて壁を伝って歩き出した。その一歩一歩がぎこちない歩き方であった……。



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Part.25 本音

ラクリーマはサイサリスの部屋に訪れていたのだが……。

 

「おっ、どうした?」

 

「よお……って下着ぐらいはきやがれバカヤローっっ!そんなきたねえマ〇コ俺に見せんなオラぁ!!!」

 

「きたねえとはなんだコラァァ!!!!!!!!」

 

ここに一番の猛者がいた。ドアを開けると彼女はなんと全裸で真正面のソファーにおっぴろげで股を広げてどっしり構えて座っていた。恥ずかしがる様子もなく堂々と彼の前に全てをさらけ出しているのだから堪ったものではない。

 

「ちっ、何しに来やがった?……言っとくが、わたしに性欲求めても無駄だからな。そんなものはとっくの昔に捨ててるんでね!」

 

「……テメエらは俺がそれしか考えてねぇとしか思ってねえのか……俺はただ昔からの馴染み同士、話をしてえだけだ……っ」

 

「話だと?まあ入れよ」

 

「あと前隠せ!」

 

彼は頭を押さえてため息をついた。

 

(まじ萎えたぜ……だいたいあの歳でパ〇パンはあり得ねえだろ……?ユノンでさえ毛ぇ生えてるってゆうのによ……)

 

部屋を入り、辺りを見回す。研究資料や訳のわからない物が辺りに散乱していて、汚い部屋だ。身の回りが整頓されて、清潔感溢れるユノンの部屋とは大違いである。

 

「お前、無理してるだろ?顔色悪いが大丈夫か?」

 

「ああっ?お前自身が俺を心配とか、寒気がするぜ」

 

「……けっ、なんだその言い方は?まあいい、座れや」

 

ラクリーマはソファーに座り、ゆっくり息を吐く。彼女はやっと上下に下着をつけ、どこから持ってきたのか、酒の入ったボトルとコップを彼の前に差し出した。

 

「飲むか?」

 

「ああっ、ありがとよ」

 

二人は置かれたコップに酒を注ぎ込む。その無色透明色でまるで清酒のようだった。

 

「んで、話とはなんだ?」

 

ラクリーマは酒を少量、口に含み、ゆっくり飲み込む。コップを持ちながら下へうつむき、やっとこさ口を開いた。

 

「なあ、ユノンについて何か知ってるか?例えば過去とかな」

 

「……ユノンちゃんの?さあな、興味ねえし」

 

「そうか。お前らは仲良さそうだから何か知ってるんじゃねえかなってな」

 

「……あの子は自分から話すような娘じゃねえのはお前でも知ってるだろ?しかし、どうしたんだ?」

 

「いや……そのことで聞きたかっただけだ」

 

彼女はグイッと一気飲みをして、到底、女とは思えないほどに豪快に息を吐いた。

 

「ラクリーマ、もしかしてユノンちゃんのことが……っ」

 

「……ああっ、隠す気はさらさらねえぜ」

 

サイサリスはまたコップに酒を注ぎ、手に持ちながら彼を見て、軽く笑った。

 

「クククッ、お前は根っからの女たらしだがランちゃんにだけは愛情注いでいたから何だかんだで一途かと思ってたが、やはりたらしだったか」

 

「うるせえ。まあ、たらしなのは認めるがな。それに……」

 

コップを起き、視線を下げて一呼吸置く彼からは何か哀しそうな雰囲気を出していた。

 

「ランなら……今頃、あの世でエルネスと幸せにしているだろうぜ」

 

「……それはどうゆうことだ?」

 

彼女はピクッと手を止めて、ラクリーマをちら見した。

そして彼から驚くべき言葉を口にした。

 

「あいつも、ランのことが好きだったんじゃねえかなあ」

 

「なんだと……っ?」

 

サイサリスはすぐにコップを置き、彼もさらに話を続ける。

 

「エルネス、俺と違ってすぐに顔に出るタイプだからな。あいつ、俺とランが一緒にいた時、どこか淋しそうな眼をしていたよ」

 

「…………」

 

「最も、あいつはランが好きとも言ってなかったし、俺がそう感じただけだが。しかしあいつと俺はほとんど一緒につるんだ仲だしな、何か分かるんだよな」

 

「……お前らまさかとは思ってたが、そうゆう関係だったのか……キモチワリィ――っ!!」

 

「何か勘違いしてねえか?」

 

あのサイサリスが気味悪がるほどに引いている。しかし、彼はホモではない。

 

「あとな、死に間際、ランに気にかけたことを言ってたし、『エルネスもランのことが……』ってな。俺は……それからランに手を出していいのか分からなくなってな。実際、アマリーリスになってからはあいつにはキスぐらいはしたが、それ以上はしてねぇよ」

 

「……呆れたぜ。お前、そんなに心の複雑な奴だったのか。獣みたいにヤりたいときはヤる、本能に忠実の男だと思っていたがな」

 

まるで見損なったかのような冷ややかな眼を送る彼女を、ラクリーマは気分を損ねる。

 

「へっ、ならサイサリスはどうなんだ?お前、まともに恋をしたことがあんのかよ?」

 

「あたし?おうよ、あたしも20代の頃は本気で人を好きになったことあったし実際にカレシもいたよ。まあ、最終的にはスカしたがな」

 

その意外なことを聞いた彼は、驚きを隠せなかった。

 

「おい、なんでそんなに驚いた顔をしているんだ?」

 

「……殺戮兵器にしか愛情を注がねえ男同然のお前にもそんなことがあったなんて……っ、想像できねえ」

 

「ちっ、あたしだって女なんでな。軒並みの女らしい感情はあるんだよ。ならなコホン、『うふ♪あたし、あなたのことが好きよ。付き合ってくれない?』」

 

「…………」

 

彼女の猫なで声にラクリーマは血の気が引き、青ざめて、口を押さえた。

 

「……うぷ、キモチ悪くなってきた……。女みてえな言い方して、お前から付き合ってくれだなんて……」

 

「ん だ と コ ラ ァ ァ ! !」

 

サイサリスは憤怒の表情で立ち上がった。確かにもう四十路であるが美人の類である。

だがとてもじゃなく女性と思えない性格の彼女からその言葉が出たら、100人に聞いたら、殆どは気持ち悪いと思うだろう。性格と振る舞いで印象が帳消しどころかマイナスになる人物だ。

 

……気を取り直し、二人は話を続ける。

 

「……まあランも特攻で死んで、俺はもうこんなに辛いなら恋なんぞしたくねえと思ってた矢先にユノンと出会った。

あいつはいい女だよ。幼児体型のランと違って超絶美人でスタイル抜群だし、仕事はできるし……ただ性格はランと違ってキツいがな、俺はベタ惚れしたってわけだ」

 

「……ならユノンちゃんに告白しねえのか?お前なら普通にできるだろ?」

 

ラクリーマは腕組みをして、眼を閉じた。背もたれして数秒間沈黙した後、

 

「……あいつは俺のことをどう思ってるか知りてぇし、それまでは……。ランはストレートで素直だったからよかった。しかしあいつは一匹狼だし、プライド高いしな。

あいつには色々イタズラしてきたから俺のことを好きじゃねえのかもしれねえし……」

 

「けど言わねえ限りは進展しねえぞ。ユノンちゃんから言うなんて考えられねえし、結局、お前が思いを伝えないといけねえんだよ」

 

「……だよな。わかったよ、けどまだだ……」

 

彼女は溜め息をついて呆れ果てている。『こんな奴だったんだ』と。

 

「大変でございますね、ラクリーマさんは!」

 

「けっ。ところで話は変わるが、『ログハート』と『セルグラード』の開発状況はどうだ?」

 

「『ログハート』はもう97%完成してるよ。『セルグラード』は……せいぜい80%くらいかな。ククク……あれはお前専用の対銀河連邦の決戦兵器だ、早く完成させて真っ先に使わしてやるから楽しみにしてな」

 

「そうか。楽しみにしてるぜ」

 

彼はコップの残りを飲み干し、大きく息を吐いた。数秒後、彼女にこう質問した。

 

「……なあ、現状況で銀河連邦と対峙したら勝てると思うか?」

 

その質問にサイサリスはソファーの肘掛けに寄りかかり、考えてるのか沈黙し、段々顔を歪ませていった。

 

「連邦は全宇宙でも相当の戦力を持つしな。エクセレクター級戦艦を何十隻も所有していて、さらにあいつらは宇宙の至るところに配置しているし、これ一隻であいつらとまともにやりあうとか正気も沙汰じゃないだろ」

 

「……だよなぁ。しかし、この2つが完成したとしたら……どうなる?」

 

「………まだ何とも言えないが。多分一個大隊規模ならまともにやりあえるだろう。だがさっきも言ったように、それでも奴らとの戦力差はありすぎる。やるとしてもゲリラみたいに戦って一個ずつ潰していくしかねえな。下手に長期戦に持ち込まれると不利だ」

 

「……そうか。さすがは連邦だな。だがな、やってみなけりゃわかんねえからよ。部下の為ならこの身をボロボロにしても守ってやる」

 

「……ラクリーマ、お前本気でそう思ってるのか?」

 

「ああっ、あいつらを守れるのなら俺の命など、安いもんだ」

 

「……………ふふっ、ふはははっ!!」

 

彼女は馬鹿デカイ声で笑い声を上げた。……が、

 

《キサマぁ、ふざけたこと抜かしてんじゃねえぞ!!》

 

次の瞬間、彼の胸ぐらを掴み、これでもかというくらいに恐ろしい形相で睨み付けた。

 

「……サイサリス?」

 

「おい、何が俺の命など安いだ。そんな自分の命を軽く見る奴が組織のボス務まると思ってんのか?ああっ!?」

 

「てめぇ、何が言いてえんだオイ」

 

「あいつらはお前を頼りにしてんの知らねえのか?お前の身に何かあったら……あいつらはどうなるんだ!?」

 

「そんなもん、ユノンがいる。あいつの能力なら俺がいなくても十分やってけるさ。テメェは俺を心配する暇あるんなら銀河連邦ぐらい、一撃でブッ飛ばす兵器を作れってんだ!」

 

サイサリスはさらに苛立ち、空いてる左拳を上に掲げた。これは明らかに彼を殴ろうとしている動作だ。

 

「てめぇの頭イカれてんじゃねえのか?お前をボコってその思考変えてやろうかオラァ!?

お前はエルネスの親友だから優しくしてるだけであって、ホントならお前の命など知ったこっちゃねえんだぜ?」

 

「ならそれでいいじゃねえか。余計な心配すんなって何度もいってんじゃねえか!」

 

「……お前、ユノンちゃんが好きなんだろ?あの娘が好きなのに、なんでそんなに死に急ぎたがるんだ!?」

 

「…………」

 

さすがのこればかりは、ラクリーマもなにも言えなくなってしまった。しかし、ラクリーマは体をぶるぶる震わせている。

 

「……るせえよ。俺の……何が分かるんだよ!!」

 

「な! ?」

 

ラクリーマもついに怒りをぶちまけ、その驚異的な握力、腕力でサイサリスの首元をグッと掴み上げた。

 

「ぐぐっ…ぎぎ…っ」

 

「俺はいつ死んでもいいように全力で毎日を生きとんのじゃあ!!ガキんときからずっとな!!それをお前に言われる筋合いはねえんだコラぁ!」

 

ついに圧倒され、今度は彼女が窒息しかかり苦しがっている。

 

「それになあ、こうでもしねえとエルネスやラン、いや今まで死んでいった仲間に対して申し訳たたねえんだ!!あいつらを死に追いやった原因は……これも全て不甲斐ねえ俺にあるんだからよぉ!!」

 

叫んだその時、彼の身体中にまた激痛が走り、彼はその場でうずくまった。

 

「ぐう……!」

 

彼女もやっと手を放されてドサッと座り込む。

 

「見ろ……てめぇ、戦闘訓練のケガだけじゃねえ、これまで身体を酷使してきた分無理がたたりすぎて身体中にガタがきてんだよ……。

一番、体を大事にしねぇといけねえ立場のお前が、そんなんでアマリーリスのリーダーをやっていけるんか……?」

 

「…………」

 

サイサリスは痛みで震える彼の肩に手を置いて、なだめるような口調でこう言った。

 

「なあラクリーマ。理由がどうあれ、自分自身をいたわれ。部下のことは気にしなくていいんだから自分の思う通りに命令すればいいんだ。

あたしらはどう転んでも、自分たちの意思でお前についていくし……それほどの信頼と器がお前にあるんだぜ」

 

助言を受け、ラクリーマはフッと鼻息を出し、笑う。

 

「……心配すんな。別に今すぐ死にてぇわけじゃねえよ。ユノンに告るのもあるが、俺にはまだしねぇといけねえことがあるんでな。ランの……」

 

「ランちゃんの……?」

 

ラクリーマはゆっくり立ち上がり、ふらふらと部屋のドアに移動した。

 

「……せっかく話をしに来たのに喧嘩沙汰にしてすまなかった。お前も非番だろ?ゆっくり休んで、そして早くあの2つを完成させてくれよな!」

 

そう言い、ラクリーマは部屋から出ていった。彼女は立ち上がり、ソファーに座ると、またコップに酒を入れる。コップを持ち、ちひちび啜るように飲んでいく。

 

(ラクリーマ……あいつもすっかり変わったもんだ。以前はガキ臭くてアホだがそれ以上に可愛いげのある奴だったのに……これもリーダーとしての責任を感じて……エルネス、どう責任とるつもりだ。あいつ、このままじゃあ取り返しのつかねえことになるぞ)

 

彼女はコップをテーブルに静かに置くと、横にある設計図を見ながら溜め息をついた。

 

「はあっ……これじゃあ、あの2つの能力を100%引き出すのは無理だな。現状のあいつにゃ、使いこなせねぇ代物だ。治す気なさそうだし……どうするんやら……」

 

◆ ◆ ◆

 

数時間後……。

 

「う……ん……」

 

ユノンは目を覚まし、ベッドから起きあがった。

……全く記憶にない。何をしていたのだろうか……、全く思い出せなかった。

 

「…………?」

 

下着姿でキョロキョロ辺りを見渡す。いつも通りに周りは整頓されている。

 

……酒を飲んで、そして煙草を吸いに行った所までは覚えている。しかし、そこから何をしたか全く思い出せない。

 

 

「……そう言えば、あの子を呼ばないと……」

 

立ち上がり、ふらふらとデスクに向かうと丸い球体の形をした通信機に触れた。

 

しばらくして……。

 

『地球人のしずか、副リーダーがお呼びです。直ちに部屋にお越しください。繰り返すーー』

 

艦内にこのような放送が流れ、ほぼ全員がビクッと体をひきつった。

 

『なにやらかしたんだ……?』

 

それしか思い浮かばなかった。

 

しかし、その呼ばれた理由はしずかはよく知っていた。

 

「…………」

 

しずかは急いでユノンの部屋に向かっていた。しかし、彼女は非常に不安な顔をしていた。

 

なんせ、あの大浴場の一件でユノンに恐怖を抱いていたからである。

 

『慎重に行動しないとタダではすまない』と考えていた。

 

 

そして、しずかは彼女の部屋の前に立ち、大きく息を吸って心を落ち着かせた。

 

(こうなったら……行くしかないわ……)

 

「失礼します!」

 

ドアが開き、背筋を伸ばしてキチキチとぎこちない歩き方で入った。

前を見ると、ソファーに肘を持たれて座る彼女が飄々とした態度でしずかを見つめていた。

 

「こんにちわ、しずか。あの約束を果たしてもらおうかしら……?」

 

「…………」

 

ユノンは威圧をかけてくる。そのせいでしずかは恐怖からか身震いし、血の気が引いていた。

 

「ふふっ、ここに座りなさい」

 

「…………」

 

しかし、緊張で何もしゃべらないしずかに対し、ユノンは彼女を威嚇するかのように睨み付けた。

 

「返事ぐらいしなさい!」

 

「はぁっ、はいっ!!」

 

びっくりし、慌てて大声を上げ、ユノンは呆れて溜め息をついた。

 

「……緊張してるからと言って、目上の人が話をして、返事を返さないのは失礼極まりないことよ。覚えておきなさい」

 

「……はい……」

 

と、アドバイスしてしずかを前のソファーに座らせた。

 

「緊張しなくていいわ。ただ、あなたと女同士の話をしたいだけよ。何か飲む?」

 

「いっ……いえ……」

 

「そう。遠慮しなくてもいいのに」

 

そして彼女らは対面した。

 

「……」

 

「……」

 

全く二人とも喋ろうとしない。時間だけが何秒、何十秒と流れていく。

しかし、しずかからしたら一秒一秒が長く感じるのだった。

……二人の誰かから話さないのは話題がないからなのか、それとも……。

 

「……あなた、あの時何か言いたかったのでしょ?喋らないの?」

 

「……そっ、それは……」

 

しずかは何を言おうとしていたか忘れていた。今思えば、どうでもよかったかもしれない事だと思えてきた。

 

 

……それにしてもなんだろう、この空気、雰囲気。

 

 

もし、相手がラクリーマやレクシーなら自分から進んで話をできるのに、彼女だけは……。

 

それはそうだ、彼女は彼らとは正反対の雰囲気を持つ女性だ。

悪く言えば、このような組織では絶対に浮いてしまうような存在なのだ。そして、しずかをあることに疑問を抱いていた。

 

「……もういいわ。ならしずか、あたしに聞きたいことがあったら質問して。答えられる範囲内なら答えてアゲル……」

 

それを聞いたしずかは待ってましたと言わんばかりに彼女にその疑問を話した。

 

「……ユノンさんは、どうしてこの組織に入ろうとしたんですか。自分から進んで加入したんですか?」

 

「…………」

 

ユノンは黙り込んだ。もしかしてあまり教えたくないのか、徐々に顔を歪ませる。

 

「……その質問の理由は?」

 

「理由……ですか……。何か……あなたはここの人達からしたら違う雰囲気ですから、失礼な話ですけど……いやっ、そうゆうわけではないんですけど……なんかですね……」

 

完全にテンパっている彼女を可愛く思えたのか、ユノンはクスッと笑った。

 

「……いいわ。その質問でいいなら教えてあげる。あたしはね、まだ故郷の惑星にいた時、侵略されたのよ。このアマリーリスにね」

 

「え……っ」

 

しずかは信じられないような顔をした。

 

(侵略……ならユノンさんも被害者……?けどそれならその時に殺されているのでは……)

 

ユノンはさらに話を続ける。

 

「その時、惑星一の名門大学を首席で卒業したばかりで確か……あれは約3年も前になるわね……」

 

ユノンはあの頃を思い出す。しかしそれは同時に、彼女からしたらとても苦い過去であった――。



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Part.26 ユノンの過去①

「今日、いっしょに飲みに行かない?」

 

「…………」

 

街中でチャラチャラした男に声をかけられる一人の女性。

 

緑色の髪に頭上に生える尖った耳、そしてこの上ないほどの美形の顔、背が高く、スラッとした理想の体格、どんな男性からでも狙われそうなモノを持つ女性。そう……ユノンである。

 

「…………」

 

彼女は返事すらせず男から去ろうとする。

 

「ちょっと待ちなって。キミみたいな美人と仲良くなれたらなって……」

 

「…………っ!!」

 

見るもの痛々しいほどに、彼女は男の局部を蹴りあげた。

 

「ブハッ!!」

 

男はその場に倒れて悶絶、額には脂汗が出ていた。

 

「…………」

 

ユノンは男を睨み付けて、その場から去っていくーー。

 

「ちくしょ……覚えてやがれぇ!」

 

周りの通行人はそんな彼を見てクスクス笑っていたのだった。

よく見ると、全員の頭にはユノンと同じく犬の耳を生やしていた。

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

セクターα内の2号星、『惑星ドグリス』。ここは主に犬の血を引く知的種族『ドグリス人』が存在している惑星である。

 

彼らの特徴は共通して聴覚、嗅覚が優れて、なんらかの一能力が高いことである。

例えば、瞬発力が優れるとか、知能が優れる、腕力が優れるなど、これだけなら地球人とかわりないが、違うところはその一能力が地球人を遥かに上回るほどである。

 

実は発達した科学技術を除けば、地球を真似したとしか思えないほどの類似している。

簡単に説明を入れれば、環境はもとい、政治、思想、宗教、貧富、人種……等が種族独特ではあるが、根本的には地球での内事情と変わりない。

 

それに伴い、人間環境も地球人と同一性を持ち、建前と本音は当たり前、差別やいじめ、そして自殺など、心に潜む闇もまた存在するのであった……。

 

ちなみに地球よりはおろか、惑星モーリスよりも遥かに凌ぐ科学技術を持つが、銀河連邦には加盟せず、警察、軍隊で惑星を治安しているのである。

 

ここは、その惑星のアメリカと同じ座標に位置する巨大体陸『リューベン』の真ん中から西側にある大都市『ユマ』。

 

彼女は自分の通う大学の寮に帰って自室に入る。鍵をかけて、きちんと整頓されたデスクでまた勉強を始める。

 

……彼女の年代なら可愛いぬいぐるみやオシャレな家具など置きたくなるハズだが、彼女の部屋には全くない。

 

あるのは、来たばかりに配置してあるベッドとテーブル、そして勉強に使うデスクだけだった。そして見ただけで狂いそうになるほどの教本とテキスト、大学レポートの山のみである。

いくら勉強好きでも、ここまでくるとさすがに異常だ。

 

「…………」

 

飄々とした態度で勉強に励む彼女。休日と言うのに遊びにいかずにひたすら頑張っている。

 

……実は、友達がひとりもいないのであった。

大学に通うなら普通に友達一人や二人はできるハズであるが、全く輪に入ろうとしなかったのであった。

 

彼女にとっては、友達ということに興味を持つこと、いや、人と馴れ合う自体、この上ウザく思っていた。

 

彼女が大学に入った理由も、『勉強するため』。決して、楽しいキャンバスライフを送るためではなかったのだ。

 

……ゆえ、同級生たちからは敬遠されて、変な噂までつけられる始末。

 

しかし、彼女は全く気にしなかったのでどうでもいいことなのであるが。

 

「……ふう」

 

数時間経ち、彼女は立ち上がると、自室の冷蔵庫から飲み物の入った缶を取り出した。

……酒である。中央のテーブルに持っていき座ると、開けてグビクビ飲み始める。

 

彼女を癒してくれるのはこれぐらいである。

しかし、段々飲んでくると妙な虚しさや淋しさがやってくるのであった。

 

そんな時に彼女を癒す……いや、安心させてくれるのが……。

 

『プツ……プツ……っ』と彼女は手首をナイフで軽く切り、切り口から少量の血液がにじみ出た。

 

(こうでもしないと安心できないわたしは……やっぱり気持ち悪い女だ……)

 

なにもしていないのに罪悪感でいっぱいになり、うずくまり涙を流し始めるのであった。しかし、彼女はこうすることで幾分、救われるような気がするのであった。

 

これが彼女の日常である。今でこんな状態なのだから、それまでどんな生活をしてきたのか、大体察しがつく。

彼女は幼年期から心を閉ざしたまま、成長してしまったのだから……。

 

――大学内でも。

 

「君、僕らの研究会に入らない?」

 

同年代の学生から、こういう誘いを受けても、

 

「…………」

 

一言も喋らず、『関わらないで』と言っているかのような嫌そうな表情で見た後、学生から離れていく。

 

「……あの子やめた方がいいよ」

 

「どうして?」

 

「だって無口だし、暗いし、勉強にしか興味なさそうだし。

あと、なんか人を見下してるような表情するしムカつくんだよ。自分が美人だからって調子に乗ってるんじゃね?」

 

「うんうん。話しかけてもうんともすんとも喋らないし気味が悪いんだよね。まあ、この上ウザいのは間違いなし!」

 

「あ~あっ、死ねばいいのに……」

 

……言われ放題だ。日本の学校でもありそうな人間関係だ。

しかも様々な土地の優秀者で集まったこの大学でそう言われるということはタダゴトではない。

 

周りの人からの印象は『頭は申し分なく素晴らしいが、社交性、協調性が壊滅的』、『勉強にしか興味がない引きこもり女』、『一生独身』……等々、ひどい有り様だ。

 

それでよくこの大学に入れたと言われることがあるが、彼女の学力は非常に高い。

推薦が通り、入学することができ、学費は特待生なので学費を免除してもらうことができたのだ。

 

「…………」

 

喫煙所で一人でタバコを吸っていっても、

 

(あんな美人が汚ならしい煙吐いてさぁ、みっともないね……)

 

(ほんとほんと、幻滅だな…)

 

ひそひそ話で悪口で言われるのだから、堪ったものではない。

 

「…………!!」

 

彼女にはしっかりと聞こえていたので、その二人をグッと睨み付ける。

 

「…………」

 

二人はそそくさと去っていった。

彼女はまた何食わぬ顔で吸い続ける。

 

(自分に居場所がない。この惑星一の大学に来たってのに全くこれまでと変わらない。みんな、あたしを嫌うんだ、あたしを不気味と思ってるんだ。だって……)

 

……と、またこんなことを考えてしまうんだから、また部屋に戻り、また『プツ……プツ……っ』と切ってしまった。死にたいわけでもないのに。しかし、こうでもしないと安心できない、落ち着かない。

 

自分の血を見ないと安心できない暗い女、あの母親と同じ、タバコと酒でないと満たせないうす汚い女……。

彼女はいつも憂鬱であった。

 

◆ ◆ ◆

 

そして、大学を卒業。しかも首席で、というとても輝かしい栄光であるが、彼女は全く嬉しがることもなかった。

 

それは、この先どうするかで悩んでいたからだ。

 

彼女はこれといったやりたいことがない。

学者になりたいわけでもなく、就職にしてもこんな性格ではどこも雇ってくれないだろう。

現にバイトでさえ、ことごとく落とされてるのに就職など不可能に近い。

 

そんなわけで、彼女は近くの公園のベンチで黄昏ていた。

 

これからどうしようかと……自分の育った施設に……いや、大人になって、また戻るなんて……、いや、そんなこといってる場合ではない。

 

人脈などない彼女は寄りすがる相手などなくあまり金がない。このままではホームレス……しかし、それだけは避けたい。しかし金がなく、行き場所すらない彼女はどうすればいいのかわからなかった。

 

(……あたしって情けないなぁ。一体なんのために大学に行ったんだろう……?考えてみれば、必死に勉強してきたのもただ虚しさを埋めるためだったからなぁ……。こんなくだらない人生になるんだったら、あの時死ねればよかったのに……)

 

夢も希望もない彼女とは無関係にただ時間だけが過ぎていくーー。

 

「あの女だ……!」

 

……しかし、そんな彼女を遠くから謎の男3人が彼女を見つめていた。

 

「……見つけたぜ。あの時のお返しをたっぷりさせてやる。お前ら、ショータイムだ!」

 

男達を仕切る一人はどこかで見たことのある顔であるが……。

 

――その夜、彼女は街を歩いていた。

しかし、目的地など何もない。 ただ、無意識にフラフラとさ迷っていた。

 

「…………」

 

 

同期生は皆、夢があり、それぞれの道を歩み始めた。しかし、彼女はそれがない。卒業してしまったため、もう寮には戻れない。と、いっても行くあても帰る場所もない。

 

イルミネーションが輝き、夜であるにも関わらずまるで昼間のように明るい。

 

町中には様々な人や車が行き通り、恋人達や会社員、いまから遊びに行こうとしているのか、若者達がワイワイ騒いでいる。

 

……彼女にとって非常に苦痛である。彼らを疎ましく思えてくるのであった。

 

(……バカにしてるのか?)

 

普段の光景も、今の彼女からしたら腹立たしくなるのであった。

しかし彼女が怒ろうと何だろうと、何の意味の示さない。

 

そうして段々、自分が情けなくなっていくのである。

 

……彼女は人気のない街の河川沿いを歩いていた。

 

今日は月が出ていないが、街灯があるため幾分明るい。

 

(生きてても何の希望も夢もない……けど、死ぬ勇気もない……どうすれば……)

 

ユノンは考えていた。

 

 

ーー突然、

 

 

「!?」

 

何者かが彼女の背後を取り押さえ、口から鼻にかけて白い布を押し当てた。

 

「…………!!」

 

彼女は必死に抵抗するが、次第に強烈な睡魔が襲い、そして――。

 

「……動かなくなったぜ。ならこいつを運ぶか……」

 

あとから数人の男が眠りについた彼女へ駆けつけて、持ち上げた。

 

近くにある車のトランクに入れてその車は走り去っていった。

 

 

◆ ◆ ◆

 

「!?」

 

彼女は目を覚ました。しかし、何も見えない、体が動かない。

何か手錠みたいなもので束縛されているかのようだった。

 

「~~~!!」

 

口に何かを入れられて、声も発すことも許されない。徐々に彼女を恐怖感が襲いかかる。必死で抜け出そうとするが、彼女の力ではそれは敵わなかった。

 

「……やっとお目覚めか」

 

男の声が聞こえ、真っ暗だった視界に光が入った。

 

「ようこそ」

 

彼女の目の前には、4~6人の男がニヤニヤと笑いながら彼女を見つめている。目の前の男は以前見たことのある顔だ。

 

「……あの時はよくも俺の大事なトコロを蹴りあげてくれたな。その礼はたっぷりとさせてもらうぜ」

 

その男は1、2年前に彼女のキツい攻撃を喰らったあのチャラい男であった。彼女はハッと思い出したのだった。

 

……部屋全体がコンクリートに覆われ、周りは何もなくどんよりとした空気が立ち込める空間だった。

後ろには廃材と化した金属製のベッドがあり、彼女はフットボードに手錠を巻き付けられて、動けなくさせられていた。

 

「ああっ……」

 

無口だった彼女も恐怖からか、ついに声を出してしまう。

 

「へえっ、なかなか可愛い声してんじゃん?楽しみがいがあるなぁ」

 

「……いやっ……イヤっ!!」

 

これから起こるであろう最悪の事態に察知し、震える彼女を男達は興奮し、追いつめていく。

 

「……あとで、飢えた奴らがいっぱいくるから楽しみにしてな……。まず俺らで楽しもうか……」

 

「ああっ……ああっ……」

 

男はナイフをとりだし、彼女の顔にちらつかせた。

 

「へへっ、ションベンでも漏れそうなのか?」

 

「だっ……誰か……助けてーーっっ!!」

 

彼女は叫ぶが、全く意味を介さず辺りにこだまするだけであった。

 

「今さら叫んでも誰もここにこねぇーつーの!」

 

「こんな気持ち悪いところになぁ!!ギャハハハハハっ!」

 

「ここはナァ、何年も前につぶれた病院なんだ。しかも街から離れた場所にあるから誰もいねェんだよ」

 

「…………」

 

それを聞いた彼女は絶望のドン底に突き落とされ、無気力となってしまった。

 

「……諦めたか。ならおっ始めるか……」

 

「へへっ、物凄くかわいいからさぞかしヤりがいがあるだろうな!」

 

男の一人が彼女の口元を押さえて、こう呟いた。

 

「緑色の長い髪……かわいいよ……」

 

「……!!」

 

その言葉が、彼女の顔色を徐々に青ざめた表情に変貌していく――強烈な嫌悪感と吐き気に襲われて……。

 

「ぐ……ぅ、げええっ!!」

 

「うわあああっ!!こいつゲロ吐きやがったぁぁ!」

 

「汚ねぇっ!!」

 

そこで粗暴してしまい、物凄い臭いと状況にこの部屋内は大混乱と化した。

 

「…………………っ」

 

ユノンは気を失った。しかし、男達の怒りは頂点に達していた。

 

「このアマ……こんなトコで吐きやがって……許せねえ!」

 

その男はナイフを彼女の方へ向けて、中にいる全員にこう叫んだ。

 

「こんなゲロ女にはもう萎えた、殺せ!!」

 

全員が一斉に襲いかかる。しかし彼女は全く起きる気配がない。男達の振り上げた拳やナイフが彼女の頭上に振り下ろされようとしていたーー。

 

 

 

 

 

 

突如、

 

 

 

《ズオオォオオっ!!!》

 

「うわああああっ!!」

 

聞いたことのない爆音がこの部屋へ響き渡り、男達は驚き、部屋を出ていった。近くの窓から顔を出して街の方を見ると……。

 

「うそだろっ…………?」

 

なんとさっきまで何ともなかった街が一瞬で火の海と化している。これは一体……?。

 

「な、何が起きているんだ!」

 

「街へ急ごう、こいつはもうほっとけ!」

 

全員は彼女をそっちのけで去っていき、彼女は取り残されたのだった。

 

しかし、彼女は気を失ったままで動こうとしなかった。

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

「う……ん……」

 

気がつき、彼女は目をゆっくり開けた。だが、

 

「え……っ?」

 

目を疑った。賑やかだったあの街が跡形もなく廃墟と化して所々建物に火炎が上がっている。よく見ると、辺りには無惨な死体の山が散乱し、まるで地獄のような光景であった。

そして、周りにいるのがあの男達ではなく全員が様々なタイツのような服に身を包んだ謎の男達でその容姿はドグリス人ではない、異星人だ。

 

(なっ、なによこいつら!?)

 

謎の男達に取り押さえられて振りほどこうとしても圧倒的にこいつらの方が力は上で動けない。

 

「ほお、目覚めたか。大人しくしときな」

 

それより全くワケが分からない。何が起こったのかさっぱりだ。

 

「へへっ、こりゃあ上物だ、リーダーはきっと喜ぶぜ」

 

「ああっ。もうこの惑星全土を焼きつくしたからすぐに戻ってくるだろう」

 

惑星を焼きつくした?こいつらは一体何を言っているのか。

 

「けど早くしねえと銀河連邦がやってくるぜ。いくら加入してねえ惑星だからってエネルギー量で感知されるからな」

 

「ああっ、俺達アマリーリスがここで捕まるわけにはいかねえ」

 

……アマリーリス?聞いたことのない名前だ。まさか街がこんなことになってしまったのもこの男たちの仕業か。

 

「おっ、リーダーが帰ってきた」

 

向こうから男の群れがこちらにやってくる。合流すると笑顔で彼らを迎えた

 

「お帰りなさいっス。どおっスか、そっちは?」

 

「もう生存者はいねえよ。惑星軌道上から全砲門ぶっぱなしたからな、あの時点で壊滅だ」

 

ユノンはリーダーと呼ばれる男を見た。ぼさついた銀髪に顔にはおびただしいほどの切り傷。筋肉隆々の身体が黒いタイツから浮き出ている。しかし若者特有のはち切れんばかりの精気で溢れている。そう……ラクリーマであった。

 

「ん?どうした、この女?」

 

「ここからずっと先にある廃墟の一室で束縛されてました。気を失ってたみたいですけど」

 

彼はしゃがんで彼女を見つめる。

 

「…………」

 

「…………」

 

これが二人の初めての対面である。不敵な笑みを浮かべているラクリーマに対し、彼女は……。

 

(な、なんて殺気と威圧感なの……さっきの奴らとは比じゃない……っ)

 

彼から感じるモノ、それは恐ろしいものであった。笑っているが、その奥からは何か狂気じみた何かを感じる。

 

「……べっぴんじゃねえか。束縛されてたってことは、ヤられる前だったってわけか。なら俺が代わりに……」

 

すると、

 

「リーダー、生き残りを発見しました!」

 

向こうから、彼の部下達がある男一人を連れてきたのだった。部下達は男を地面に叩きつけて、足蹴にしている。

 

「ちくしょう!!おっ、俺らの仲間を全員殺しやがってぇ!!」

 

その男は、彼女を襲おうとしていたナイフを持っていた中心人物であった。しかし、彼も戦闘員達にボコボコにされたのか酷い有り様である。

ラクリーマはその男に近づき、髪の毛をグッと掴んで睨み付けた。

 

「かわいそうに、大事な仲間も殺されてなあ。けど安心しな、俺がお前を今すぐ仲間の元へ向かわしてやるからな」

 

「へっ!?」

 

威圧をかけ、男は徐々に口を震わせている。

こんな恐怖を味わったことは今まで一度もなかった。

 

「ああっ…………助けてくれ……っ」

 

「助けてくれ?無理だな」

 

「ええっ……?」

 

許しを乞おうもラクリーマは一切拒否し、金属製左手の甲の先から鉤爪を突出させ――。

 

《うぎゃあああああぁ――っ!!》

 

なんてことだろう……。ラクリーマは男の顔の側面に鋭いその爪を突き刺し、円を描くようにそのまま一周、そのまま右手で顔の皮膚を掴むと一気に剥いだのであった。

もはや痛みと言う言葉は形容できないだろう。男は気が狂いそうな悲痛の断末魔を上げた。

 

「次は目か?耳か……鼻かァ?」

 

もはやこの男、ラクリーマの行動はスプラッターに登場する殺人鬼のように狂気に満ちていた。次々と各部を剥いでいく――。

 

「なぁ、ドグリス人てのは元々犬なんだろ?噛みつきとかさぞかし強いんだろう!?てめえら、ちょっと俺の噛みつき見てくれよ」

 

全員が注目する中、ラクリーマは大口を開けて牙のような歯を剥き出し、まるで猛獣のような目で男を見ていた。

 

――そして、肉を引きちぎる音と共に男の血が辺りに飛び散り回る。

凄惨の一言でしか言いようがない。

 

「…………」

 

ユノンもその光景に目を背け、そして最大の恐怖と絶望を経験した。

 

『こいつら……人じゃない、鬼だ、悪魔だ』

 

それしか形容できない。次第に、こう思うようになった。

 

(次は……あたしだ……)

 

残虐行為が終わり、彼は飛び散った血液を腕でぬぐっている。

 

「クックック……さすがリーダーだぜ。やることが一味違うぜ」

 

「けっ、それはありがとよ。あ~あっ、口んなかと周りが血だらけだぜ。さて、まずは……」

 

ラクリーマはあの義手の手首からビーム砲全てがせりだし、見るも無惨と化した男【だった物】に狙い定め、そして、

 

4発の蒼白いビームが直撃し、一瞬で燃え上がった。ラクリーマと部下はそれを見て不気味と笑っていた。

 

(命を……クズみたいに扱って……何とも思ってないのか……っ)

 

さすがの彼女も徐々に恐怖から怒りを募らせる。

 

しかし、今の自分は何もできないという状況に無力すぎて腹立たしくなるのであった。

 

周りはユノンを囲み、威圧をかけてくる。

ラクリーマも彼女の髪の毛を掴み、無理やり目を合わせた。

 

「最後に、お前さんはどうゆう死に方がお望みかな?クックック……」

 

そう聞く彼に対し、彼女は……。

 

「ぺッ!」

 

なんと彼女は彼の顔面に唾を吐いたのだった。

 

 

「なっ……何よ……あたしはアンタ達にビビると思ったら大間違いよ………っ」

 

彼女のとった行動と言動は明らかに彼に対する冒涜だ。

部下はそれを許すハズがなかった。

 

「この……クソアマ……リーダーになんてことを……」

 

「リーダー、そんな女、八つ裂きにしましょうぜ!」

 

「…………」

 

部下に促されるも彼は黙ったままだ。本当は彼の性格なら怒りに怒り、すぐに行動に移すハズなのだが。

 

「……ど、どうせもう……誰も生き残っていないんなら、あたし一人いてもしょうがない…………殺したきゃ殺しなさいよお!!」

 

あの彼女がここまで感情的になるなんて初めてのことだ。彼女自身もここまで喋るなんて思ってもみなかったことだ。

 

「……フフ、てめえのその不屈の根性、気に入ったぜ」

 

「えっ……?何……?」

 

ラクリーマは彼女を持ち上げて、声高らかにこう叫んだ。

 

「よっしゃあ、こいつをエクセレクターへ招待する。お前ら、帰ったら歓迎会だ!!」

 

部下達と彼女は数秒間、黙り込み、

 

「え え え っ ~ ~ っ っ !?」

 

全員が大声を上げて、驚愕したのだった。

 

さっきまで殺すと言っていたラクリーマが、突然手のひら反したかのように彼女を招くとは。

 

「いいじゃねえか。考えればこんな美人を殺すのも勿体ねえし。早く帰ろう。連邦が到着する前にずらかるぜ!」

 

……やはり誰も、彼の真意は計り知れないのであった。



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Part.27 ユノンの過去②

「乾杯ぃ!!」

 

――ユノンを連れ去って、艦内の食堂では大量の酒や食べ物をテーブルに置かれ、騒ぎに騒いでいた。

 

「…あっ………あ」

 

ラクリーマの隣の席には彼女は目を点にしながら座っていた。

なにがなんだかさっぱりわからない、部下達の騒ぎ声が耳に入らずあたふたしているだけだ。

 

「お前、酒飲めないのか?」

 

「! ?」

 

彼の声にやっと我に帰り、振り向く。しかし、あまりにもワケがわからない状況で声を発せれるどころか、気分が悪くなる。

 

「あの時の威勢はどうした?そんなに固くなっちまって」

 

「…えっ…あっ……」

 

当たり前だ。殺されるかと思っていたハズどころか、自分をこんなむさ苦しいに招待されて歓迎されるなぞ思ってもみなかったことだ。

 

「へへっ、ネエチャン楽しんでるかぁ!?」

 

「ひいっ……!」

 

酔っ払った部下の一人が彼女に絡んで来たが、当の本人は見るからに嫌そうな顔をしている。

 

「おいおい、嫌がってるじゃねえか!お前はあいつらと楽しくしてな!」

 

「へへっ、すんません」

 

一体、なんだこの空気は。一人の方が楽である彼女にとっては精神的に辛い。

次第にその疑問が徐々に怒りに変わり、拳をグッと握りしめた。

 

「な……何なのよ……いったい……っ!!」

 

そのいらだちが募り、ついに、

 

「いい加減にしてよ!!」

 

彼女は両手で机を強く叩きつけて全員に睨み付けた。

周りは一瞬で静まりかえる。

 

「意味がわからないわ……どうしてあたしを助けたの!?あの時は殺る気満々だったのに……!」

 

「……あの小娘、言わせておけば……」

 

部下達も徐々に殺意を湧きはじめ、一触即発な雰囲気となりつつあった。

 

が、ラクリーマは部下に向かって手を前に出し、彼女を目を細めて見つめる。

 

「まあ、お前ら落ち着け。……おい、娘。名前は?」

 

「…………」

 

彼女は答えようとしない。しかし彼にはそれで納得するハズがなかった。

 

《人の質問に答えられねぇのかァァァーーっ!!》

 

「!!」

 

彼の怒鳴り声は、その場にいる全員を震撼させた。

 

「お前、名前を忘れたワケじゃねえだろ?なあに、聞いたからって何もしねえよ」

 

「…………」

 

彼女は震える唇を少しずつ開けて、動かし始めた。

 

「……ノン」

 

「何だって?聞こえねえなあ」

 

「……ユノン」

 

「そうか。なら、ユノン。お前に聞きたいことがある。助けて悪かったか?」

 

「なぜ……」

 

「なぜだと?もう、てめえの故郷と生物は全滅して、てめえ一人生き残ってなんの意味がある?」

 

「…………」

 

そんなこと言ったって、あんたらが自分の星を壊滅させたのにその質問はおかしくないか?

 

「もう一つ聞きたいことがある。お前、夢とかやりたいことがあるか?」

 

「夢……?」

 

彼女の答えはNOだ。でなければ、今頃こんな人生になってはいなかった。

 

「…………」

 

「……答えられねえか。まあいい。そういえば俺の名前を、教えてなかったな。俺はラクリーマ・ベイバルグ。このアマリーリスのリーダー兼この宇宙船エクセレクターの艦長を務めてる」

 

 

ラクリーマ・ベイバルグ……。なんだこの名前、珍しすぎるのもほどがある。そんな名をつける親も恥ずかしくなかったのか。

 

「俺達はいままで数多くの星を侵略し略奪してきたんだ。何故かわかるか?」

 

「さ、さあ…………」

 

「……生活のためだ。俺らが生きていくにはこれしかねえからだ。こいつらはそれぞれの惑星ではならず者、荒くれ者や重罪を犯してきてマトモには生きられねえ奴らよ。つまり社会不適合者の集まりだ」

 

荒くれ者、犯罪者の集まり……にしては、仲が良すぎるような気がするが、どうしてだろうか。

 

「こいつらには夢や希望がねえ。だがな、生きたいという意思はあるんだ。だからこいつらにはここがお似合いというわけだ。

ちなみに俺は戦闘や殺戮、そして性欲を満たせればそれでいい。だからこの組織は居心地がいいぜ」

 

こいつ、一体何を言っているのか。頭がおかしいんじゃないか。

 

「話は変わるが……お前、どうする?ここに連れ込んだのも、雑用、性欲を満たせる役にさせようかなと思っていたが、嫌か?」

 

「…………!!」

 

彼女は拳を握り、睨み付ける。自分を『奴隷』として扱おうとしていた。

 

「クククッ、まあ嫌だろうな。けど、そうしないとここでは生きていけねえぞ。最も、戦闘やオペレーション、メカニック関連が得意ってんなら話は別だがな」

 

「なんて……最低な男なの……っ?」

 

「ここは誰かを招待できるほど余裕がねえ、全員が生きるのに必死なんだよ。お前、生きる意志がないんなら殺す価値すらねえ、近くにある小惑星にでもおろしてやるよ」

 

「…………」

 

「クックック、今日は俺が連れ込んだから義理で1日くらいは休ませてやる、明日になったらどうするか考えろ」

 

「…………」

 

ラクリーマは笑っていた。彼女にとっては屈辱であるが、同時に今の自分では、まさに無力だと嫌というほど分かるのであった。

 

……その後、彼女は個室に案内された。しかし、案内のされ方も丁寧ではなく『連れてきてやった』みたいな扱い方だった。

 

(あたし……どうなるんだろ?)

 

部屋はきれいに整頓されている。こんなむさ苦しい所でもここだけは別世界のように思えてくる。

とりあえずソファーにゆっくり座り、背もたれして目をつぶった。

 

……フカフカしていて座り心地は最高だ。

 

空き部屋のハズなのに、目のいきどおる先まで綺麗にされているのは明らかに不自然だ。

 

「はあ…………っ」

 

しかし、彼女はそんなことを思っている暇などない。あの男から課せられた選択肢を選ばないといけなかった。

 

食べ物や水はおろか、空気すらない小惑星におろされるのは、すわなち死を意味している。

 

……汚れてでも生きるか、それが嫌でおろされて死を選ぶか。確かに死ねれば、もうくだらなかった自分の人生に終止符が打てる。だが、本当にそれでいいのか、それでは何のために生まれてきたのかわからない。

でも、ここでやらされることは苦痛以外に何事でもないことだ。

 

何度も悩む、二つに一つ、選ぶしかない。そんな中、

 

「よお、お気分はいかがかな?」

 

「!!」

 

ラクリーマが突然、押し入る。彼女は怯え、体を丸めて震えはじめる。

 

「おいおい、そんなにおびえなくてもいいだろ!明日、もうひとつの惑星を侵略するんだが見に来るか?」

 

「…えっ……?」

 

突然の誘いに耳を疑う。

 

「俺らがどんなことをするのか見ておくのもいいと思ってな。最も、お前がここで生きていくのならな?」

 

……侵略という悪の行為を見に行くに気が引ける。

すなわち、彼女の目の前で自分の故郷と同じ目に遭わされるのをただ黙って見させられるということなのだ。

 

「……まあいい。戸惑ってるんなら強制見学だ。それでいこう!」

 

「……はっ?」

 

「明日は早いからよく寝とけよ?じゃあな!」

 

「ちょっ――」

 

彼は部屋から出ていった、しかも満面の笑みを浮かべて。

 

彼女は納得できるはずがなかった。

 

『あたしの意見ぐらい聞けぇっ!!』っと……。

 

ますますわけのわからない展開に進み、頭を押さえて溜め息をついた。

 

……数十秒後、ふと彼女は立ち上がり、部屋から出る。

 

左右には果てしなく長い通路があるだけだ。同じような部屋へのドアもいくつかあるが、密集しているとはいえない。

簡単に言えば、孤立しているようなものだ。

 

(これを見ると、ここは相当広いのね……。宇宙船のようだけど初めてだわ……)

 

惑星ドグリスの技術力は普通に宇宙旅行を海外旅行と同じ感覚……とまではいかないがそれに近似するほどで、様々な宇宙船が建造され、一般人でも用意に近くの宇宙に進出できていた。

 

彼女の場合、それとは無縁だったために乗ることがなく、この宇宙船エクセレクターが人生初めての宇宙進出であった。かといって、今に置かれている状況上、嬉しいわけがなく、本当に形容しがたい複雑な気持ちである。

 

「あんたかい、リーダーに連れてこられたって女は?」

 

振り向くと、そこには一人の男が立っていた。

 

顔中に爬虫類のようなウロコを持ち、ラクリーマのように筋肉の浮き出た赤いタイツが目立っている。

 

――若りし頃のレクシーである。

 

「へえっ、確かに美人だな。これならリーダーも気に入るのも分かるな」

 

「…………」

 

「俺はレクシーってんだ。明日、侵略する際にあんたと一緒に行動させるってリーダーに言われたから挨拶に来たんだ。名前は……ユノンだっけ?」

 

彼女は数秒後、コクっと頷いた。すると、彼は何を思ったのか微笑し、こう言った。

 

「――あんた、人と話すのが苦手だろ?」

 

「!」

 

ズバリ的中することを言われた彼女は驚き、顔をひきつった。

 

「雰囲気からして分かるぜ。別に悪く言うつもりはない、ただそう思っただけだ」

 

彼は彼女を通り過ぎ、振り向き様でまた口を開いた。

 

「明日は早いぞ。今の内にいっぱい寝とけ。

 

――あと、この部屋は自由に使っていいがあんまり汚すなよ、そこはリーダーの元カノの部屋だからな」

 

「えっ……?」

 

彼はそう言い残し、まっすぐ通路へ去っていった。

 

(……あいつに彼女がいたんだ。あんな男にも……)

 

意外に感じつつも、悔しい気分となっていた。

 

あの男が宴会で話していた通り……ここは犯罪者や荒くれ者、いわゆる各種族の人間社会からのけ者にされた奴らで構成された組織だ。夢も希望もないのに……自分とは違い、明らかに楽しそうだ。まあ、悪事が仕事だからそうかもしれないが。

 

 

――自分とは違う。

 

『ゴソゴソ……』とポケットに手を偲ばせ、中からカミソリを取り出す。それは普段、彼女を『安心させる』ために使うものだった。

 

(……あたしはこれがないと……。気持ち悪いのはわかっている……けど……)

 

彼女はおもむろに手首に当てて……。気付いたら左手首にはもう新たな切り傷が出来ていた。

 

ドロッとした赤い血液が皮膚を伝って下へ雫のように落ち始めた。

 

彼女はその様子を魅了されたかのように見続けていた。

 

 

(……あたしがこんなことしてるって知られたらどう思われるんだろ……)

 

 

多分、全員が気味悪がるか『馬鹿』や『気持ち悪い』と一蹴されるに違いない。

今まで誰にも見せたり教えなかった彼女からしたら知られたくない。もしも知られたら……。そう考えた矢先……。

 

『ドクン!!』

 

「うっ……うえっ……!」

 

口を押さえて、すぐに部屋に入り込んだ。

 

切羽詰まった表情で辺りを見回し、ある場所へ直行した。

 

「うえええっ!!えっえっ……」

 

……ある場所とは当然、トイレである。彼女はまた気持ち悪くなり、吐いてしまったーー。

 

「はあ……っ、はあ……っ」

 

彼女の瞳から一筋の涙が流れ落ちた。悔しさと自負の念が込み上げて唇をギュッと噛みしめ、うずくまった。

 

 

(あたしは気持ち悪い、異常だ。死ぬ勇気もない、こんなことしかできない。

けど、こうでもしないと生きていけない。

どうすればいいのよ……)

 

その思いは誰にも伝わるハズがなく、伝えることもできず、ただ虚しさと哀しさに染まるだけだった。



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Part.28 ユノンの過去③

『……やめて!』

 

彼女は耳を塞いでいる。何故なら、

 

(気持ち悪いんだよ、そんなに自分の血を見るのが好き?)

 

(趣味ワリィなぁ~~っ)

 

(死ねばいいのに!!)

 

『ううっ……。あたしだって好きでしてるワケじゃない!!

こうでもしないと――!!』

 

周りには今まで彼女を馬鹿にした奴らの顔が浮き出て、高笑いしながら視線を彼女に注目する。

 

(へへっ、美人がそんなことして……知られたらさぞかし変な目で見られるだろうな……)

 

(おいおいっ、やめろよ♪可哀想だろ……ってか、止めれないくせに♪)

 

(俺達が手伝ってあげましょうかぁ~♪気持ちよくなるために……)

 

彼女の顔は一気に歪み、このままで本当に心が病んでしまいそうだった。

 

(チクショォォっ!!どいつもこいつもあたしをバカにしやがってぇぇっ!!全員死ねっ!死ねぇっ、死ねぇぇぇぇぇ!!)

 

◆ ◆ ◆

 

目を覚ますと、部屋のベッドの上だった。

 

「~~~~~っ!!」

 

休むために寝たはずが返って夢のせいで精神的に異常をきたしていた。反射的にまたカミソリで手首に当てて切ろうとするが……。

 

「あっ……ああっ!?」

 

いつもならもう切っているのだが、今の彼女には色々な思念が混ざり合い、思いを遂げるのを遮っていた。

 

「ハァ……ハァ……っ」

 

カミソリを床に叩きつけ、腕に歯形がつくほど噛みついた。

 

(気持ち悪い、そんなのわかってる!)

 

 

また涙を流してしまった。彼女は自分が一体何がしたいのかわからなくなってしまっていた。

 

「よお、起きてるかぁ!?」

 

「! !」

 

レクシーが起こしに部屋へ入る。彼女は汗だくで青ざめた顔をしていた。

 

「おっおい、どうした?大丈夫か?」

 

彼の気遣いに反して、彼女は挙動不審そうな視線をしながら頷いた。

 

「……ならいい。もう作戦開始だからいくぞ!」

 

そういえば別の惑星を侵略するってラクリーマが言っていた。

彼女は今思い出した。

 

「起きたなりで悪いがついてこい。格納庫に案内する」

 

今日の彼の声は恐ろしいほどに怖かった。昨日のような優しそうな柔らかい声ではない。

それは目標惑星の住民にとっては惨劇となることを物語っていた。

 

彼女は言われるままにレクシーについていく。彼は全く喋ろうとしない、それは今から始まる仕事に集中している証拠であった。

 

「…………」

 

彼女は歩きながら、左腕をギュっと握っていた――。

 

――長い通路を抜け、二人がやって来た場所は戦闘ユニットの格納庫であった。

 

(うわぁ…………)

 

彼女の口は空いたまま塞がらなかった。無限と思えるような無機質の空間には横にズラっと統制されて配置している、全長20メートルはあろう白色の巨大ロボットが何十、いや百は越える数が並び、全体が赤色のさまざま兵器が搭載してそうなフォルムを有する戦闘機がやはり、それらと平行になるよう並んでいる。

 

(すごい……初めて見たわ……)

 

驚きを隠せないユノンに対し、レクシーは自慢そうな表情で彼女を横目で見た。

 

「すげえだろ?あの巨大なメカは『スレイヴ』ってんだ。けど、今回は惑星侵略だからこの『ツェディック』を使用する、早く乗るぞ」

 

 

レクシーに連れられて、『ツェディック』と呼ばれる例の赤い戦闘機に乗り込んだ。

 

『パチっ……ウィーン……』

 

不思議なほどに広く感じる操縦席に座り込むとセンサーが反応して自動的に起動した。

しかし、レクシーは目の前の操縦幹を握ろうとせず、モニターに目を通していた。

 

『戦闘員、配置は完了したか?』

 

モニターに映るのはラクリーマであった。どうやら彼も別の同機体に乗り込んでるようだ。

 

「89号機レクシー、配置完了しました」

 

その旨を伝えると、突然ラクリーマはニヤっと笑った。

 

『レクシー、ユノンはいるか?』

 

「へい、隣に着座させてます」

 

『そうか、ちょっと変わってくんねえか?』

 

「了解。おい、リーダーがあんたに話があるそうだ」

 

レクシーが前のボタンを押すと、彼女の前にあるモニターが起動した。

 

彼女はそのモニターを見ると、ラクリーマはいかにも楽しそうなウキウキ目をしながら彼女を見ていた。

 

『よお、ここでの朝のお目覚めはどうだ?』

 

「…………」

 

悪いに決まってる。こんな状況且つ、あんな夢を見たのなら。

 

『……あんまり良さそうじゃねえな。まあ、それもあと一時間後にはキレイさっぱり吹っ飛ばしてやる。もしかしたら新たな快感味わえるかもよ、破壊や殺戮によ?』

 

「…………」

 

この言葉が彼女をゾッとさせる。この男は異常な神経を持っている。

 

『よし、あと30分後に目標惑星に到着するぞ、それまでは待機だ。ユノン、それまでレクシーに聞きたいことがあったら好きなだけ聞いとけ、こいつは真面目だからちゃんと受け答えしてくれる』

 

そう言い、彼は通信を切ってしまった。

 

「…………」

 

「…………」

 

……案の定、全く喋ろうとしない二人には非常に気まずい空気に包まれていた。

 

(喋った方がいいのかな……。けど……何を聞けば……)

 

質問内容を見つけようとして考えようとモジモジしている彼女を彼は急にため息を突きだした。

 

「そんなに気を使わなくてもいいさ。まあ、あんたのその性格だとしょうがねぇのかもしれんが、そんなんじゃあここではやっていけねえぞ。全員のノリはハンパじゃねえからな」

 

――てか、もう自分をここに入れる方向に進んでいる。彼女の意思とは無関係に前に行くのは何か腹立たしかった。

 

ついに、

 

「……ねぇ……?」

 

「おっ、ついに喋ったか。どうした?」

 

声は小さかったがユノン本人から話しかけたのだった。

これは自分でも驚いている。

 

「……確か……アマリーリスって名前よね……。凄い技術……使ってるようだけど……どっ…どんなエネルギーを使用してるの……?」

 

「いきなりエネルギーの話か?あんたはそれ関連のことに詳しいのか?」

 

「ええ……まあ……」

 

「なら話は早い。アマリーリスの技術を支えているのはNPエネルギーってもんだ」

 

「NPエネルギー……ですって……」

 

彼女は驚愕した。

 

「知ってるのか?」

 

大学の授業で聞いたことがあるとてつもない産物。けど確かあれは銀河連邦が独占していて他の種族には使えないハズでは……。

 

「――くくっ、美人で且つ頭がいいなんて恵まれてんな。羨ましいぜ。あんたがここに入ってくれればもしかしたら――」

 

「えっ……どうゆう……」

 

「――もうそろそろ始まるぞ。まず惑星に主砲撃ち込むから、揺れに気を付けろよ」

 

「主砲……?」

 

そしてまた、モニターが入り、彼が画面に現れた。

 

「目標惑星に到着した、すぐさまリバエス砲を撃ち込む。各員、衝撃態勢をとれ」

 

「了解!」

 

レクシーはすぐさまベルトを締め始める。

 

「あんたも早くベルトを締めろ。もう行くぞ!」

 

「えっ……ああっ……」

 

言われた通りにすぐに締め、身体を固定する。

 

次の瞬間、格納庫が地震の直撃を喰らったかのように震え出した――。無論、戦闘機内部である。

 

「きゃああっ!!」

 

揺れに翻弄されて彼女に対し、彼は全く動揺せず、落ち着いていた。

これは彼、いやここにいる全員にとって日常茶飯事であることを物語っていた。

 

……数十秒後、揺れが治まり、全体が落ち着き出した頃、

 

「~~~~~っ!!」

 

「……初めてなら無理もないか。だが何回も味わえば、じきに慣れるもんさ」

 

ユノンはまるで二日酔いにあったかのように頭を押さえてうずくまっていた。生まれてきてからこれほどの震動は味わったことがなかった。

 

しかし、その横でピンピンしている彼の姿に唖然とした。

 

『やっぱりこいつらはおかしい』と心底思うのだった。

 

『よおし、惑星に主砲を撃ち込んでほぼ壊滅状態だ。俺がいつも通りに先頭に出る。順番に発進だ!』

 

 

「了解、よし出るぞ!」

 

 

慣れた手つきでパネルを操作した後、操縦幹を握りしめた。

 

前方を見ると、格納庫の出入口が全部閉まり、ターンテーブルのように全機体が回転、壁の方に向く。すると壁が上下に開き、一機分が通過できるほどの空洞が現れた。

 

 

「ツェディック89号機、発進!」

 

「っ…………っ!」

 

急発進し、物凄いスピードで空洞を駆け抜ける。

その内部衝撃も、ベルトや気を緩めたらたちまち体ごと吹っ飛ばされそうだ。そして、宇宙空間に突入。速度も安定し、広大な光景を前にしているにもかからわず、彼女はそれを見る余裕はなかった。

 

「ううっ……気持ち悪い……」

 

「おいおい、ここで吐くのはホントにカンベンしろよ。深呼吸して外でも見てろ」

 

言われた通りに大きく息を吐き、横のウィンドウを眺める。

 

……まともに見る初めての宇宙空間はどんな心境だったんだろうか。彼女はまるで心を奪われたかのように見つめている。

 

「ユノン、逆を見なよ。俺らの母艦だ」

 

「…………えっ?」

 

次の瞬間、彼女は息を飲むことになる。一面の白銀がどこまでも続いている。前を見ても船首か船尾か分からないが、とにかく終わりが全く見えないのだった。――その方面の上を見ても下を見ても宇宙空間らしきものが全く見えない。

 

――この宇宙船……とてつもなく巨大だ。彼女は確信した。

 

「デケェだろ?」

 

「………………」

 

頷くしたできなかった。表現のしようがない。「デカイ」しか思い浮かばなかった。

 

「なら、惑星に向かうぞ。大気圏突入するから、また衝撃に備えろよ」

 

またか……さっきの気持ち悪さがまたぶり返ると思うと気が引けてくるのであった。

 

 

 

……そして、やっと船首を突き抜け、惑星が見えかかった時、

 

(……ああっ……なんてこと……)

 

 

彼女は惑星の凄惨さに思わず口を押さえた。丸い表面の3分の1がなくなっている。どういう風に?そのままの意味である。

 

巨大な丸い石をハンマーで叩きしたらその上の部分が割れたように例えるのが分かりやすい。そんな感じだ。この有り様では直撃を外れた惑星内の土地は壊滅的な被害を受けているに違いない。

 

『よし、惑星に降りるぞ。作戦の通り、今回はチームに分けないで固まって行動だ。着陸したら各員は俺を中心に周りを散策だ。降りる場所は一都市だが、そんなに大きくはない。すぐに終わらして別の場所に移動するぞ!

 

ちなみにレクシー、ユノンがいることだしお前は俺と一緒に行動な。保護しながら俺をサポートしてくれ』

 

 

「うっす!……つうワケだ。俺らから、はぐれんじゃねえぞ?いいな?」

 

「…………」

 

今から何が起こるのかは分からない。しかし、絶対地獄の見るのは確かだ。

 

元々、強制的に連れてこられた彼女からすればトラウマを植え付けられるかもしれない……喉が乾く、唇も乾く、まだ二十歳の女性がなぜこんな目に遭うのかと思いたくなる。

 

――思えば生まれてきてから全くいいことがない、空虚で不幸な人生だ。今に始まったことではないが彼女はもう、泣きたい思いである。

そしてラクリーマ率いる戦闘員の搭乗する各機はその惑星に突入していった。

 

◆ ◆ ◆

 

激震する惑星内、主砲の一撃でどれだけの命を奪ったか計り知れない。

しかし、直撃圏内でない土地も多大な被害を受けていた。

地形が大幅に変わったことにより、地震、津波などの二次災害も発生し、平和な世界が一瞬で終わりを告げたのだった。

惑星内のとある土地の上空、黄緑色をした空をしたなんとも奇妙な光景である。

しかし、雲がないことからこの周辺は快晴であることをしめしていた。

 

『ここに降りるぞ、降りたら俺の合図で出てこい、そこから作戦開始だ!』

 

「ユノン、聞いたか……って」

 

彼女は完全にへばっていた。体を鍛えてない彼女には度重なる衝撃の前にはいくらなんでもきつすぎたのだった。しかし、彼はもういい加減見飽きたのか、歯ぎしりを立てだし……。

 

「シャキッとしねえか!!」

 

突然の渇に彼女はビクッと起き、ひきつった顔でレクシーを見た。その時の彼の表情は威嚇しているような恐ろしい顔だった。

 

「いい加減にしてくれ!あんたがそんなんじゃオレのやる気も失せる。守られるお前はまだしも、俺はお前を守りながら行動しねえといけねえんだぞ!」

 

「~~~~~っ!」

 

――私を勝手に連れてきたくせにその言い方はなんだ――。

 

反論したい、一発殴ってやりたい……ところだが、見ての通り、ここは上空だ。事故を起こしたら墜落して完全にあの世行きだ。

しかも、彼は武装をしている。興奮させてケンカ沙汰になれば、丸腰の自分では明らかに勝ち目はない。

彼女は震える手をギュッと握りしめて何とかこらえたのだった。

 

……降り立った場所は、この星にとっては『都市』と言える場所であった。

が、地震のあったせいか、見るも無惨に倒壊した建物があちらこちらにたたずんでいる。

全機を着陸させる広大な場所が見当たらないため、彼らは上空を飛び回っていた。

 

“各機へ、今からXK方位の50メルト先の所に光子ミサイルを撃ち込む。退避しとけ!」

 

彼の命令に、各機はラクリーマの乗る機体から散開する。

 

『ターゲットロック、ハデにぶちかましてやる』

 

紅の戦闘機ツェディックの二分割された機首の砲口にエネルギー粒子が急収束、瞬間に巨大な蒼白色の光弾が放たれ、50メートル先にある、郊外と思われるあまり建物の密集していない土地に向かって弧を描きながら飛んでいき、着弾。半球体に膨張、回りにある物質全てを包んでいく。

 

 

光子ミサイルはNPエネルギーを高密度に凝縮し、発射する光学兵器で、威力は使用する機体に内蔵するNP炉心のエネルギー出力に比例するが、地球における核兵器かそれ以上の破壊力を持ち、エクセレクターやヴァルミリオンなどの戦艦級ともなれば一発だけでも戦略兵器級の威力を持つ。

恐ろしいことに、それが銀河連邦、アマリーリスなどのNPエネルギーを使う組織には標準装備であることだ。実はNPエネルギーが産出される前にもこの兵器は存在したが、そこまでの威力は生み出せず、射程距離が短く、エネルギー出力の関係上、使用する機体も限られていたため難航をきわめた兵器であった。つくづくNPエネルギーとは本当に素晴らしいと認識できる。

 

その光子ミサイルを装備した機体、ツェディックはサイサリスが開発したアマリーリスの汎用型戦闘機である。操縦性は少し難があるが、性能は非常に高く、武装面も強力なNPビーム砲、多連装ミサイルポット、エネルギーを弾丸として発射する機関砲など充実している。しかし武装ゆえに後方支援向きであり、前線ではもう一つの機体である人型戦闘ロボット(通称、戦闘ユニット)、スレイヴが担うことになる。

 

――数十秒後、光の膨張が今度はしぼみはじめ、眩しくて見えなかった着弾地点がやっと直視できるようになった。

 

そこにあった建造物や森林、道路などの「元々あった」物が全て消滅していた。あるのは最低1平方キロメートルはあう広大な何もない平地であった。

 

『よっしゃ、あそこに着陸するぞ』

 

そして全機がそこに向かい、次々と着陸する。全機が各配置し終えた時、ラクリーマは待ちわびた今から始まるであろう「自分たちの仕事」に対しての笑みを浮かべて……。

 

「全員、行くぞ!!作戦開始!」

 

《オオーッッ!!》

 

一斉に戦闘員達が降り出し、レクシーも彼女を引っ張るように降りた。各人、身の回りに固めた重武装を展開すると一斉に密集地帯に突入していく――。

 

「ユノン、人生でいい経験になるだろうぜ。俺らの仕事内容を高見の見物と思って見とけよ!」

 

「…………」

 

――ラクリーマがそういうが嫌だ。そんなの経験どころか悪影響だ。しかし、ラクリーマとレクシーの二人はそんなのはお構い無しで彼女を強引に引っ張っていった。その都市では倒壊した建物があちらこちらにあり、まるで廃墟だ。火災も上がり、逃げ遅れた、この不運なる惑星の住民のさまざまな原因の死体、死体、死体――の海だ。

 

「…………」

 

「やっと治まった……?」

 

運よく助かった人達は避難していたあまり崩れていない建物から這い出し、辺りを見渡す。

がそこには謎の男たちが悪魔のような笑みを浮かべて、所持していた重火器をこちらに向けていた。

 

「焼け死ね!」

 

銃口から放たれる巨大な灼熱の火炎が一瞬で彼らの身体を呑み込んで、消し炭となり、その業火は次第に建物さえも呑み込んでしまった――。

 

別の場所では、

 

「たたっ……助けて……」

 

「こわいよぉぉ!!」

 

他の戦闘員が生存者達を発見し、すぐさま追いかけまわした末、逃げ場のない路地裏に連れ込んだのだった。

 

「…………」

 

「来るなぁぁ!!さもないとぉ!!」

 

生存者の一人の男がそこにあった鉄パイプを持って立ち向かおうとする一方、その戦闘員は臆することなく――ただ無言で追い詰めていく。

 

「ひい……ひい……」

 

恐怖からか、止まらない震えを押さえてパイプを振り上げた。

が、戦闘員は瞬時に男の頭をグッと掴み込み、容赦なく壁に顔から叩きつけた。

グシャっと生々しい音と共に血や体液が辺りに飛散し――男はそのまま地面に倒れて動かなくなった。

 

 

「まずは一人め。次は……」

 

戦闘員は所持していた巨大ライフルを生存者全員に向け――。

 

「いやあああっ!!」

 

女性の断末魔を響き上がったが最後、連続的な銃声と共にもう何も発することはなかった。

 

そして、ラクリーマとレクシー、ユノンは堂々と都市の中止部を歩き回っていた。どうやら戦利品を集めに探索をしていたらしい。

 

「あのビルに誰か居そうじゃねえか?なあレクシー?」

 

「同感っスね。どうします、調べてみますか?」

 

「いや、もう別の場所に移動する。あいつらもそろそろ戻ってくるだろう。まあ、ここまでしたからにはキレイに片付けるとするか」

 

彼は、前方にある巨大な建物、ビルらしき物をを見つめた後、左腕を折り曲げて肘をそれに向けた。折り曲げた肘の先が何と、野球ボール一つ入りそうな穴を展開、半身の姿勢で空いた右手で左腕を掴んで固定した。

 

「二人とも今すぐ離れな。あのビルを一撃でぶっ飛ばす!」

 

「えっ!?」

 

するとレクシーはとっさに彼女を連れて、ラクリーマは遠ざかっていった。肘の穴が青白い光が収束し、それを建物に向けて放出したのだった。

肉眼では捉えられない速さで突き抜けて、直撃した。

閃光と共に、建物は一瞬にして崩壊、ガラガラと破片落ちはじめて、衝撃と砂ぼこりが広範囲に広がった。

 

「…………」

 

撃った瞬間、すかさずその場から離れた近くの建物に身を潜めていたラクリーマは見事、崩れさった建物を見てニヤッと笑った。あの中に人がいたのならもはや生きていないだろうと確信する。

 

「なら戻るか」

 

ラクリーマは通信を使ってレクシー達を呼び、合流した。

 

「さすがはリーダーだ。一撃で破壊するとは」

 

「だが、これ使うとすぐにオーバーヒートするし、まだるっこしいんだよなぁ」

 

そんな会話をする中、彼女はあることに気づいた。

 

(左手が義手だったの……)

 

ラクリーマの機械化された左手、義手だと今気づいたのであった。しかし、本当の手みたいに動作することから、その義手はかなり精巧で作られている。

自分の故郷、ドグリスの技術にしてもここまで再現することはできない。

 

超技術で造られた金属義手だ――。

 

彼女は息をのんだ。全員、各機に戻り、集まった。その横で、襲撃した都市から集められた戦利品が集められていた。

使えそうな機械や金属素材、そして食物など、様々だった。

 

「よくやった。怪我人はいねえか?」

 

全員が横に首を振っている。――どうやらいないみたいだ。

 

「よしっ。ならここから違う場所に移動するぞ!」

 

「おおっ!!」

 

彼らの雄叫びが誰もいなくなった土地に響きわたる。

そして――戦利品を積み、次なる場所へ移動を開始した。

 

――そして、 行く土地の町、村、都市を全て地獄へと変えていった。そしてそこに生きとし生ける者全てを根絶やしにした。

しかし、彼らは何も思っちゃいない。これが彼らの唯一の生きる道なのだから。

 

しかし、これでは警察や軍隊などの治安組織が黙っちゃいないのは当たり前だ。だが、最初の主砲でそんなものは消しとんでいる。これも彼らの戦略なのである。そして最後の場所、制圧していない場所へ向かった。データを見る限り、どうやら小さな町のようだ。

 

「ここで最後だ。全員、早く終わらせるぞ。これが終わったらしばらくは休みだ、辛抱してくれ!!」

 

「よっしゃああっ!」

 

最近は連戦続きで疲れがたまっている彼らにとっては嬉しい知らせだ。最後の制圧場所に着陸し、気合いを入れて、一斉に飛び出した。

 

「最後の制圧場所だし、俺も動こうかな!」

 

そう言い、ラクリーマは指をパキパキ鳴らして腕を振り回している。そういえば、今日は彼は探索ばかりで本業の戦闘はしていなかった。なので、身体が鈍っていたのである。彼も戦闘員と混ざり、街へ進行していった。

 

――こんな小さな町が耐えられるハズがなく、完全に奴らの思うつぼであった。建物は破壊され、そこの住む人々や家畜は全て惨殺。必要なものは好きなだけ略奪など、もはや、やりたい放題であった。

それらをここにきてから直視していたユノンはもはや言葉を失った。

こんな酷いことを少しでも気にするどころか、悪そびれてないような笑みを浮かべて行使する彼らが理解できなかった。

 

そんな中、一人の部下がここの住民であろう、一人の子供をここに捕まえて連れてきた。その子は酷く怯えている。暴れる気配は全くない。

 

「こいつ、俺の指に噛みつきやがったんですぜ!」

 

ラクリーマはその子供を、無言で見つめ――。

 

「うっ……うっ……」

 

子供の瞳から涙がこぼれだした。普通の人ならそこで憐れに思って助けるかもしれない。

 

ユノン自身もそこまでは……と思っていた。が、残念ながら彼は『普通』ではない。義手の指が高速回転、いわゆる『ドリル』と化し、子供の方に向けた。まさか……そんな……。

 

そして悲劇は起こった。彼の指は子供の顔面を貫いた。血と体液、脳髄が、彼はもちろんのこと、近くにいた部下、彼女の所まで飛沫した。そして、無惨に転がる子供だったものを見下ろす彼は血塗れの中、狂気とも言える笑みを浮かべた。

 

「うう……う……う」

 

一部始終を見てしまったユノンの脳裏にその光景が焼き付いてしまった。

 

「うわあああああっ!!」

 

「ユノン!?」

 

限界に達した彼女はなりふり構わず逃げ出してしまった。無我夢中で先もわからぬ道へ逃走する彼女に対し、

 

「お前ら、ここで待機だ。レクシーもそこにいろ!!」

 

「リーダー!!」

 

ラクリーマも、彼女を追って全速力で走っていった。

一方、彼女は襲いかかる気持ち悪さを必死に堪えながら、彼らから少しでも離れようとする。

 

(あ……あんな奴らと一緒にいたら本当に気が狂いそうだ……!!戻るのは嫌だ!!)

 

身を隠せる場所につくとそこにうずくまり、身を隠す。

 

「はあ……はあ……」

 

タバコが吸いたい……気を落ち着かせたい……。そういえばあれから全く吸っていない。思い出すと余計に吸いたくなった。

ポケットに手を突っ込み、漁る。が、

 

(なっ……ない……落とした……)

 

来る前に入れておいたハズが落としたのか、無くなっている。最後の手段である腕を切ろうにも、カミソリは艦内のあの部屋の中であった。完全に絶望し頭を押さえて震え出したのだった。

 

(こわいよぉ……こわいよぉ……)

 

まるで子供のように怯える彼女の姿は今まで見たことがない。しかし、今の彼女には手取り足取り手を貸してくれる者などいなかった。

 

『ザッ……』とその時、どこからか音がして彼女はそれに反応する。随分、遠いところから聞こえたようだが、聴覚が優れる彼女はすぐに聞き取れた。

 

聞こえたところはどうやら奴らから離れた場所にいる。

 

――もしかして……生存者……?

 

彼女はそれを救いの手と思い、その場から走り出した。

聴覚に加え、優れる嗅覚、鼻をクンクン動かして、必死で音のした場所へ向かう。近づくにつれて奴らとは違うニオイがする。

――生きた人のニオイだ。彼女はそれを頼りにそこに向かった。

 

「…………」

 

ついた場所は瓦礫に埋もれた所だ。しかし、辺りには人らしい姿はどこにもいない。

間違いだったのか?いや、確かに人のニオイはした。それを辿った場所がここだ。実際、ニオイがここから強く発している。

キョロキョロ辺りを見回していたが突然、

 

「!!」

 

なんと瓦礫がぶっ飛び、中から人が飛び出した。鍛えられた全身の筋肉と顔から、男性のようだ。

 

「あっ……あの!!」

 

気が緩み、すぐに男性の元へ向かうが、それに反して男性は彼女をグッと睨み付けた。

 

「あいつらの仲間だな、覚悟しろ!!」

 

「えっ!!」

 

彼は持っていた刃物を掲げて彼女に襲いかかった。

 

「ひいいっ!!」

 

驚いた彼女はその場所でへたり込み、男が振った刃物が空を切った。

 

「この町を……俺らの全てを奪いやがって……絶対許さねえ!!」

 

「ちっ……ちがっ」

 

勘違いされている。私じゃない、そう言いたいが喉が引っ掛かり、上手く発音できなかった。男はまた刃物を振り上げて、足がすくんで動けないユノンに狙いを定めた。

 

「死ねえ!!」

 

「いやああああっ!」

 

彼女は目を閉じて、覚悟を決めた。もう終わりだ――何もかも――。

 

 

(あれ……痛くない……どうして……)

 

 

彼女に痛みが伝わってこない。というより刺された感触すらない。

恐る恐る目を上げた。すると……そこには、目の前にあの男、ラクリーマが二人に間に割り込むように立っていた。

 

「つ……だいじょうぶか……?」

 

「ああっ……あんた……」

 

男の方へ構えた彼の右腕はバッサリ切られて痛々しいほどの深い切傷と相応の血液が流れ出ていた。しかし男が再び刃物を振りかざした。

 

「おのれえっ!!これでくたばりやがれ!」

 

彼はとっさに振り向き、左手首の銃口から放たれた光線が男の頭を貫通、男はその場でドサッと倒れた。

 

――死んだことを確認すると、彼は彼女に金属製の左手を差し出した。

 

「ユノン、ケガはないか……?」

 

呆然としていた彼女は、彼は声に我に返った。

 

「あっ……あれ……?」

 

「あの男ならもう始末した。勝手に行動すんじゃねえよ、何かあったらどうすんだ……っ」

 

彼を見ると酷く息づかいが粗い。理由は右腕を見れば一目瞭然だ。

 

「う、腕が……ヒドイ……」

 

「こんなもん、俺にとっちゃあ日常茶飯事だよ、大したことねえって……」

 

「たっ……大したことって……!!つかどうして助けたの!?逃げだしたんだよ、あたし……!?」

 

その問いに彼の声は息が荒れているも普段と同じく明るい声だった。

 

「……お前がまだここにいる間は殺させるわけにはいかねんだよ。俺がここに連れてきたんだからな……俺の唯一の礼儀だ」

 

「…………」

 

「死ななくてよかった。お前を助けられて俺は嬉しいぜ……」

 

『死ななくてよかった』、最も彼からは微塵も似合わないその言葉を言われて、彼女は……。

 

「ユノン……?」

 

彼女は涙を流していた。しかしいつもの嫌な気持ちではない。今まで感じたことのない、『嬉しい』とも言える感情から流れた涙だ。

 

「……なんなのこれ、止まってよ……なんで止まらないのよ……」

 

「ククク……っ」

 

ラクリーマはふと微笑したのだった。

 

「……それよりどうする?このまま、また逃げるか、俺についてくるか……お前が決めろ」

 

「…………」

 

彼女は立ち上がり、傷ついた彼を支えた。

 

「……答えはそれでいいのか」

 

「……助けてもらったし……恩を返さないと……」

 

 

「ふふっ……そうか……なら行くか……」

 

そう言い、彼らはフラフラと帰りを待つ部下の元へ去っていった。

 

――仕事が終わり、大量の戦利品と共に彼らはエクセレクターへ帰艦した。

 

すぐさま宴会が行われ、部下たちはワイワイ騒いでいる最中、ユノンは通路をさまよっていた。

 

(……あいつ、どこいったんだろ?)

 

いつもなら参加するはずの彼は場所に宴会場にいなかった。彼を探しに歩き回っていた。彼女は礼が言いたかったのだった。宴会どころではない。すると、

 

「あんた、見かけねえツラだな。誰だ?」

 

「……?」

 

彼女は一人の女性と出会う。白衣を見に纏い、メガネをかけてポニーテールの美人である。しかし、ポケットに手を突っ込んで歩き方ががに股に近いなど女性の品ではなかった。。歳は自分より幾分年上に見える。

 

彼女はサイサリスである。

 

「……あの……ラクリーマは……」

 

「ああ?宴会にいなかったか?なら司令室で寝てんじゃないのか?」

 

「司令室?」

 

「知らねえのか?なら私が連れていってやるよ、ついてきな」

 

彼女の手招きに応じ、ついていく――。長い通路を二人は並んで歩いていく。

 

「あんた、ここに来て何日目だ?」

 

「……昨日……」

 

そう彼女はボソッと口にした。

 

「昨日!?わはははっ、そりゃあわかんねえよなあ!」

 

「…………」

 

バカ笑いするサイサリスに対し、眉をひそめるユノン。

 

「ワリィワリィ。だが昨日きたあんたがあいつになんの用があるんだ?大事なことか?」

 

「…………」

 

「言えねえか。もしかしてあいつと付き合いてえのか?」

 

「なあ……!」

 

藪から棒にそんなことを言われて首をブンブン振る。

 

「……しかしまあ、あんたみたいな美人が彼女になってくれれば、あいつの心の傷も癒せるんじゃねえのかなってな」

 

「心の傷……とは?」

 

「……実はな、あいつ、つい最近最愛の彼女を交戦で亡くしてんだ」

 

「え……ええ!?」

 

「その子、敗退したこの艦を守るために敵の母艦に特攻したんだ。それ以来、あいつも以前と違い、元気を無くしていてな」

 

そんなことがあったなんて……。てこはレクシーの言っていた元カノの部屋ってまさかその女性の……。

 

しかし、じゃあなんであの部屋をあたしに使わせたんだろう。

最愛の人のなら使わせたくないハズだが。

 

「こんな暗い話はもうやめとこう。そうだ、言っておくぜ。あいつ、かなりの女たらしでイタズラ好きのアホだから気をつけな……クックック」

 

それを聞き、彼のイメージが一瞬で崩れ去った。

 

――そして司令室につき、サイサリスと別れた。

 

彼女は一呼吸置いて、ドアへ足を踏み出した。中に入ると広く感じるが、ついているのがコンピューターの光位で暗く、あまり見えない。

 

「……ラクリーマ……いる?」

 

呼びかけるが、全く返事がない。奥に進み、周りを見る。彼のニオイは強いことからここにいるのは確かだ。

そして、奥に唯一明かりが発している所が見えて、そこに向かう彼女。しかし、すぐに目を疑うものを見ることになる。

 

「ひいっ!!」

 

「おわああっ!」

 

そこにいたラクリーマと、二人とも大きな声を上げた。

 

「どうした、お前?」

 

「そ、その傷だらけ…………」

 

彼はベッドに座っていたが、上半身裸を見て、絶句する。

――至るところに傷で埋め尽くされている。おぞましいってものではない、見てて気持ち悪くなりそうなほど直視できないほどであった。

 

「これか?今までの戦いの証って奴かな」

 

「…………」

 

彼女は一歩ずつ足を踏み入れ進んで彼の身体を見に行った。全体が機械化された左腕もさることながら、その傷は自分の傷以上だ。さすがにここまではつけない、つけたくない。

それは彼がどれほど戦い、死線を潜り抜けてきたのかわかる証拠だ。

 

「情けねえだろ。こんなに傷がついちまって……まだまだ俺は未熟ってこった。まあ……守るべきものが守れねえで俺はいつまでたっても未熟なのかもな……」

 

「…………」

 

守るべきもの……それが彼女が聞いた話と重なりあった。

 

「で……何しに来た。宴会やってんだろ?」

 

「……宴会は嫌い。あたしは今日の礼を……」

 

「礼ね。今日助けたときのあれか」

 

「……ええっ……」

 

――突然、

 

「きゃあっ!」

 

彼女を両手で掴んで、お姫様のように抱き抱えた。

 

「…………」

 

二人は近い距離で互いに見つめ合う。彼女は突然すぎて身体中がカチコチに強ばっている。

 

「なあ、お前も夢や希望がないんだったらここで働いてみないか?

俺らはそういう奴らを歓迎している。ここにいたら新たな生き甲斐が見つかるかもしんねえからよ、どうだ?」

 

「…………」

 

「数ヶ月間、アマリーリスやエクセレクターについての必要最低限の要素を覚えてもらう。それからはお前の能力次第でお前のやりたい役割をやらせてやる。メシあり、酒あり、部屋ありと優遇だ。どうだ?」

 

彼女は数秒後、決意したのかコクっと頷いた。

 

「……いいわよ。もう戻るとこないんだし、拒否れば死ぬしかないし、やってやるわよ…………」

 

「……決まったな。ならよろしくな、ユノン」

 

彼は突然何を思ったか、

 

「なあユノン」

 

「な、なによ?」

 

「ヤらせてくんね?」

 

当然彼女は反応は。

 

「いやっ!」

 

右手で彼の頬に強烈な張り手を食らわした。

 

「いってええ!!!何すんだコラァ!!」

 

「あ、あんたねえ、出会って間もない女にいう言葉なの!?」

 

「へっ、悪かったな。俺はこういうヤロウなんでな!いいじゃねえか、減るもんじゃねえし」

 

彼女は少し怯えている。恥ずかしさからではなく、恐怖だ。証拠に、顔が少し蒼白だ。彼は気づいた。

 

「お前……まさか……処女……?」

 

「…………」

 

そのまんざらではない顔に、彼の開いた口が閉じなかった。

 

「嘘だろ……そんなべっぴんが……っ」

 

すると、ラクリーマも一呼吸置き、彼女にこう問いた。

 

「俺が初めての男になってやろうか?」

 

「はあ!?なっ……なにいってんのよ……っ」

 

「イヤならイヤで強制はしない。どうだ?」

 

「…………こわい……」

 

彼女がぼそっとそう言う。

しかしこの女たらし、ラクリーマ。それで納得出来るワケがなかった。

 

「……優しくしてやるからよ?ただお前が美人すぎて欲情しちまってな」

 

彼もある意味犬である。そっちに関しては。すると彼女は顔を赤めらせて……。

 

「……もうどうでもいいわ。この際……」

 

「えっ、ホントにいいのかよ!?」

 

「……早くしないとやめるわよ……」

 

「カカッ、お前は最高の女だぜ!」

 

そして二人は楽しい楽しい(?)時間を過ごしたのであった。

 

――長い一夜が明けた。次の日から、ユノンはラクリーマや部下達によってここのノウハウを教えられた。

 

しかし、部下達は驚いた。彼女の物覚えが早すぎたのである。約一週間くらいでほぼエクセレクターのノウハウを全部理解してしまった。

 

さすが惑星ドグリスの名門大学を首席で卒業しただけのことはあった。それに、ラクリーマと部下数人が作戦作成に頭を悩ませている最中、

 

「…………」

 

「ユノン?」

 

急に割り込んで、コンピューターの作成データを覗いた。すると眉を潜めて――。

 

「……これじゃあ効率悪すぎだわ……」

 

彼女は瞬時にコンピューターを動かし、新しい戦略をデータに叩き込んだ。その内容にラクリーマ含めた部下は驚愕する。

 

「うわあすげえ……こんなやり方あったなんて……」

 

終わると、彼女はその場から退いた。

 

「……これなら低消費、時間の短縮、そしてリスクを少なくできるわ……」

 

「ユノン、すげえ。サイサリスと違う意味で天才だ……」

 

ユノンはなにも言わず、去っていったが、ラクリーマは何か閃いたかのように手をポンと叩いた。

 

――数日後、司令室。ユノンはラクリーマに呼ばれていた。

 

「お前、副リーダーにならないか?」

 

「副リーダー……?」

 

「ああっ、俺の補佐みたいな役目だ。お前の能力、特に頭脳は俺らが予想した域より遥かに上だ。お前の頭脳はアマリーリスの中で断トツだろう。俺や部下を全面サポートしてくれないか?」

 

「…………」

 

彼女はどうするか悩んでいるが、彼は肩に手を置いて真面目な顔ぶりで見つめた。

 

「かなり優遇だぞ。ちいと忙しいが権限は俺と同じだ。俺が惑星侵略している最中、このエクセレクターの艦長を努めて欲しいんだ、お前みたいに冷静で頭もいい奴にはうってつけだ。

ちなみに部下達にそれを聞いたら満員一致でお前を指した。どうだ、自分の能力をフル活用してみたくないか?」

 

「…………」

 

彼女はそして――コクっと頷いた。

 

「よっしゃ、なら頼むぜ!ユノン」

 

――そして、全員集められて、彼女を中心に取り囲んだ。

 

「今日からアマリーリスの副リーダーを努めるユノンだ!お前ら、よろしく頼むぞ!」

 

「オオーーっ!!よろしくな副リーダーっ!!」

 

なんと言うノリの良さだろうか、打ってかわって彼女は恥ずかしそうに顔を俯いている。

 

「……よろしく……お願いします……」

 

もぞもぞしている彼女をラクリーマは――。

 

「なあに恥ずかしがってんだよ、ほれっ!」

 

瞬間、部下達の鼻から一斉に鼻血が吹き出た。この男は彼女の履いていたスカートを引きずり下ろしたのだった。

しかもスカートどころか、勢い余って下着までずり下げた。そう、今の彼女は下半身すっぽんぽんである。

 

「~~~~~~っ!!」

 

「ぎゃはははは!」

 

必死で下着を上げている最中、ラクリーマはバカ笑いしている。

 

「ああっ……ああっ……」

 

「うわあ……」

 

全員の顔が恐怖にひきつっている。その理由は……。

 

「ラクリーマ……」

 

「へっ?」

 

そこには、今まで見たことのないような恐ろしい形相をした彼女が指をバキバキ鳴らして睨み付けている……。

 

さすがの彼も、危険を感じたのか一気に血の気が引いた。

 

「……ユノン……まて……俺が悪かった……っ」

 

しかし、彼女の怒りはそれで治まるハズがない。

 

「問 答 無 用 ! !」

 

その日、その場にいた全員は、我らがリーダー、ラクリーマがユノンという一人の女性に完封なきまで叩きのめされる『悪夢』を見ることになった。

 

そして部下達はこの日に誓った。彼女をユノン「さん」と呼ぶことを……。

 

◆ ◆ ◆

 

ユノンはそれを恥ずかしそうに思い出しながらしずかにこう告げた。

 

「……まあ色々とあったけど、私はここで生きていくことに決めたわ。少なくともあたしは感謝してる。こうやって、あたしの能力を生かせるとこがあって……」

 

「そうだったんですか……」

 

しずかはうんうん頷きながら聞いていた。

 

「あなたもラクリーマに気をつけなさい。あいつ、仲間やあなたたちみたいに気に入った人間には優しいけど、結局は極悪の塊だから。それに女たらしでスケベでバカでアホで単細胞で……」

 

そんな悪口を言うユノンだが、しずかはふとこんなことを言った。

 

「……ユノンさんはラクリーマさんのことになると熱く語りますね……」

 

彼女はギロッと鋭い目付きで睨みこむ。しずかは一瞬身体がすくんだ。だがすぐにユノンは睨みを解除し、軽く笑った。

 

「ふふっ、そうかもしれないわね。あいつと一緒に仕事してて飽きないもの。ネタに尽きないし」

 

「そうですね、実際あの人と一緒にいたら楽しい気分になれますから」

 

すると、今度はユノンがしずかに対して質問した。

 

「ならあたしから聞きたいけど、あなたはずっとのび太くんと一緒にいるけど……もしかして好きなの?」

 

その問いに、しずかは顔を真っ赤にして手をブンブン横に振った。

 

「ち、違います。あたしはそんな関係ないです!!」

 

「あら、顔を赤くしちゃって……。図星……?」

 

「…………」

 

黙り込む彼女にユノンは口を押さえて笑いだした。

 

「フフフ……あなたかわいいわね。ますます気に入ったわ」

 

「もう……酷い……」

 

しかしながら何だかんだで、もう打ち解けあっている。最初の緊迫した空気は一体どこにいったのか。あのユノンとこうやって盛り上がれるのはここでは快挙である。さらに話はどんどん進み、

 

「――それで、その地球にいったら温泉とか連れていってくれないかしら?」

 

「いいですよ。一緒に温泉巡りしませんか?」

 

「いい酒が飲めそうで楽しみね……フフッ」

 

話を聞いていると彼女の意外な一面が見えてきた。実は自分と同じくお風呂が大好きなこと、お酒の他に好物が肉類であること、特に骨付き肉が大好きなことなど、ラクリーマでも知らないことをしずかは聞けたのである。

 

誰でも打ち解けられる一面を持つ彼女である。



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Part.29 男として

ユノンとしずかが仲良く話をしている一方でのび太は食事しに食堂へ。

中に入ると、ガランとしていたが前方向こうに二人の男性が向かいあわせでゲラゲラと大声を上げて笑い話をしていた。近くにいくとそれが誰なのか分かった。

 

「あっ、ラクリーマ、レクシーさん!」

 

「お、のび太じゃねえか!」

 

「こっちにこいよ!」

 

彼らであった。のび太はすぐに二人の元へ向かう。

 

「お前一人か?」

 

「うん。ご飯食べようかなって」

 

「そうか、なら早く飯持ってこいよ。三人で仲良く話そうぜ」

 

すぐにトレーに飯を盛り付け、ラクリーマの隣の席に座る。ラクリーマ達の前は空のトレーが。もう先に食べたようだ。

 

「のび太、ここにはもう慣れたか?」

 

食べるのを止めて、飲み込むと頷く。

 

「ここの人達って悪い人達しかいないかなと思ってたけど案外優しいんだね」

 

「「…………」」

 

どうやら二人は照れているようだ。

 

「こいつ、言ってくれるじゃねえか」

 

「俺らは御天道様に顔を合わせることのできねえ存在なんだがな、優しいと言われるのはなんか心外だ」

 

「けどさ、ラクリーマって凄くエッチだよね。女風呂に突入したり――」

 

「リーダー聞きましたよ、あんたらそれでサイサリスさん達に散々シメられたって」

 

「けっ、男に必要なのはそれやるくらいの度胸とチ〇ポのでかさよ!」

 

「うわあ、汚い言葉……っ」

 

のび太はドン引きした……。段々と昼食をとろうと人々が入りこみ、賑やかになっていく食堂。三人は仲良く会話を弾んでいた。

 

「僕、ラクリーマやレクシーさんみたいに強い男になりたいな……」

 

「ほう、俺らみたいにか。そりゃあ嬉しいもんだな。だがいきなりどうしたんだ?」

 

「いやあ、よくみんなからバカにされたりするから……悪い人にはなりたくないけど二人のように男として……」

 

「……確かにのび太は非力感が否めないもんな、なよなよしてるし」

 

「どうすれば強くなれるかな?」

 

のび太の問いにラクリーマは、

 

「まあケンカで勝ちたいんなら、手始めに武器使うなりなんなりして、どんな手を使ってでも10人くらいぶっ殺してこい、それで度胸とハクがつく」

 

「…………」

 

あまりの無茶苦茶さにのび太は唖然とした。

 

「そんなリーダーや俺らじゃあるまいしそんなことできますかいな?のび太でっせ?」

 

「違うのか?こいつ射撃の腕いいからそれ使えばいいじゃねえか」

 

レクシーはため息をついてのび太にこう聞いた。

 

「なあのび太、お前はどういう強さを求めてんだよ。ただ身体的に強くなりたいのか、それともナメられたくないのかどっちだよ?それによっちゃあ答えがだいぶ変わるぞ」

 

「どっちもかな…………っ」

 

のび太はボソッとそう答える。ラクリーマは突然のび太にメンチをかました。

 

「ひいっ!!」

 

「ビビってんじゃねえよ、こんなくらいでいちいちすくむくれぇならいつまでたってもナメられるままだぞ」

 

「…………」

 

「身体を鍛えたいのなら毎日運動、筋トレすりゃあいい。そんなのは誰だってできる。だがナメられたくなけりゃ相手より優位に立たなきゃならねえ。そうするにはお前の場合……根本的なとこから変えねえといけねえな」

 

「…………?」

 

「訓練時にも言ったが俺から見たのび太、お前は女々しいんだよ。グズでビビりでドジで泣き虫で甘ったれでお人好しだあ?そんなんじゃ他の奴らから見ても自分は劣っているとは思わんだろう、なあレクシー」

 

「ですね。けどお人好しな面はのび太の良いとこかもしんないですが」

 

のび太は痛い所ばかりつかれて意気消沈している。

 

「まあとりあえず今は飯食ってから話そうや、なあのび太」

 

「うん……」

 

しばらくして、

 

「ごちそうさま」

 

「おい、なんだこれは?」

 

トレーを見ると嫌いな具材なのか、おかずを隅っこによせて残している。ラクリーマ達の目はそれを捉えていた。

 

「だって味がイヤだもん――」

 

「のび太、そこがてめえのダメなとこだよ」

 

「え?」

 

「初めてその具材、口にしたのかもしんねえが好き嫌い、食べ残すのはいけねえな。別にこれ食ったら死ぬような体質じゃねえんなら食え、もったいねえ」

 

「けど……」

 

「あと見てて感じたが食い方汚ねえな。もうちっとキレイに食えねえのか?」

 

「…………」

 

ラクリーマは真剣な眼差しでのび太を見た。

 

「お前、当たり前のことが出来てねえようじゃナメられても文句いえねえぞ。 人ってのは他人に無関心そうで些細な所作も見逃さん。そしてそれが至らない人間を見下すんだ。

つまらんことで相手の風下に立つようなことしてんじゃねえよ、わかったか」

 

のび太はおろかレクシーはキョトンとしている。

 

「おい、レクシーまで何拍子抜けしたような顔してんだよ」

 

「いやあ、リーダーがこんな礼儀作法を語るなんてっと思いまして……」

 

「うるせえ」

 

ラクリーマは頭をポリポリ掻く。

 

「まあのび太。まずその「当たり前」ができるようにしろ、それが必要最低限だ。それが出来たら、お前の欠点を埋めるなり長所を伸ばす努力をするなり何でもしてみろ、それだけでもお前は幾分変わると思うぞ」

 

「僕に……できるかな……?」

 

「やるかやらねえかはお前次第だ。だができるかできねえかと言われたらできないわけねえだろ、お前も男なんだからな」

 

「ラクリーマ……」

 

彼からの深い助言に震撼と共に共感するのび太。

 

「あとよ、強くなるかわからねえが良いことを教えてやるよ」

 

「え……?」

 

「別に運動が苦手でも、力が弱くてもいい、男に一番必要なのはーー」

 

ラクリーマはのび太の胸に握った右拳を軽く押し当てた。

 

「え……」

 

「心だよ。何でも受け入れる大きな心といざという時の勇気、そして覚悟を持てる心があればお前も一人前だ」

 

「心…………かあ」

 

「あと……女にモテたいならそれプラス……」

 

「え……?」

 

「これだあ!」

 

ーー瞬間、ラクリーマはのび太の股間をグワシっ!と握ったのだ。

 

「うわあ!!!な、何すんだよ!!」

 

「ギャハハハハ!!!」

 

顔を真っ赤にするのび太とバカ笑いするラクリーマがじゃれあっているその光景にレクシーは二人を暖かい笑みを浮かべた――その時である。

 

『リーダー、すぐに訓練エリアのトレーニングルームに急行してください!繰り返す!』

 

食堂全体に彼を呼ぶ放送が入り、さらにサイレンがうるさいほどに響く。ラクリーマはすぐさま立ち上がり、席を後にした。

 

「俺一人で行く、お前らはここにいろ!」

 

「「ラクリーマ(リーダー)!!」」

 

取り残されて途方にくれる二人。一体、そこで何が起こったのだろうか……?

 

……訓練エリアのトレーニングルームでは、なにやら騒ぎが起こっていた。

 

「てめぇ、いい加減にしやがれっ!!」

 

「うるせぇっ!!てめぇが言い出したのがワリイんだよ!」

 

どうやらユーダと戦闘員の一人、シースがケンカをしているようだ。

その他の者は二人を取り押さえたり、仲介しているのだが一向に終わる気配はなかった。

 

「どうした、お前ら!?」

 

そしてラクリーマも駆けつけ、全員が彼に注目した。

 

「リーダー、こいつらが急にケンカし出して、暴れまくってたんですよ!」

 

「ケンカだぁ?」

 

情けなくなり、彼は頭を押さえて落胆した。溜め息を吐いて、二人を見つめる。

 

「何が原因なんだ?」

 

「こいつが俺のこと、バカにしたんですよ。「弱ええ」だの「カス」だのほざきやがったですぜ!」

 

「俺はホントのことを言ったまでだ、何が悪い?」

 

「なんだとコラぁ!?」

 

ユーダの言葉が彼の怒りを買うことになり、ラクリーマはそんな二人をなだめるように割り込んだ。

 

「だからちょっと待て、俺が聞きてえのはなんでそんな話になったかだ。落ち着いて話してくれ!」

 

二人から事情を聞いた。それは前の戦闘訓練にて、この二人が対戦した時のことで、その時はユーダが優勢で、結果、彼が勝利した。

それで、今のトレーニング中にその事をユーダが持ち出したために起きた揉め事だと言うのだった。彼は情けなく感じる。まあ、本人達にしたら大事なのかもしれないが、彼からしたらくだらないことだった。実際、彼はトレーニング中に誰かが大ケガしたとか、倒れたとしか思っていなかった。しかしケンカはケンカ、止めないことには解決しないのである。

 

「……しょうがねえな。悪いのはユーダ、お前だ」

 

その言葉に彼はムスッとした態度をとった。

 

「こんなケンカしたのも、お前がそんなこと持ち出したのが原因だろ。弱えぇとか言ってても、また再戦したら次はお前がやられるかもしれねえぞ。実際、俺から見たらお前らの実力は大差ねえんだよ」

 

そう言われ、いらだちからか、ユーダは拳を握る。

逆に、シースは笑顔でガッツポーズをとり、喜んでいた。しかし、ラクリーマはシースの方を向くと、睨み付けるような細い眼で彼を見た。

 

「シース、そんな挑発に乗ったお前にも問題があるぞ。弱いとか言われたなら、また再戦してこいつを負かせばいいじゃねえか?」

 

「へ……っへい。言われてみればそうですね……気をつけます……」

 

指摘されて彼はガクッと落ち込んだ。

 

「たくぅ……。そんなことで俺を呼ぶんじゃねえよ。ケンカするのは勝手だが、仲間に迷惑をかけるようなことすんな」

 

ラクリーマは後ろを向き去ろうとした時、

 

「ちっ……、偉そうなこと言いやがって……っ」

 

誰かの囁きにラクリーマは聞き逃すはずはなかった。次の瞬間、振り向き、ある男へ向かうと胸ぐらを掴んだ。

 

「オイ、今なんて言った……答えろ!」

 

「…………」

 

その男はユーダである。

 

「リーダー!!」

 

全員がラクリーマを抑えようとするも、彼はそれを振り払った。

 

「ユーダ、俺に不満あるんなら素直に言ったらどうだ?」

 

「…………」

 

しかし、彼はふてくされているのか、視線を反らしている。しかし、ラクリーマにしたらこの上ない嫌悪感を抱くのであった。

 

「てめぇ、俺をナメるのはかまわんが、そんな小声で言わねえで直接言えばいいじゃねえか。俺に不満をぶつけりゃあ、改善する努力をするぞ。俺がキレる前に素直に話せ」

 

「……別にありゃしませんよ……」

 

「…………」

 

返事はするが、言い方から全く改めていないユーダ。そんなナメ腐った態度の彼を、ラクリーマは左手指をドリルへと変えて、それをユーダの目の前に押しやった。

 

「最後のチャンスだ、これ以上しらを切るなら今ここで本当にお前を殺るぞ」

 

「……」

 

まさに一発触発の状況。その場にいる全員が息を飲んだ。

 

「だいたいお前、侵略ん時に仲間が危険な目に合ってるって時にわざと見捨てたって情報が俺の耳に入ってきてんだがお前、ここの鉄の掟知ってんだろ?

そんな奴はどうなるか、知っててやってんのか……どうなんだ!?」

 

しかし、ユーダはこんな状況にも関わらず、笑みを浮かべていた。

 

「……冗談はよしてくださいよ。第一、証拠はあるんですかい?」

 

「……証拠だと?」

 

「こん中の誰から聞いたか知らないですけどそんな情報を信じるんですかァ?

もしかしたらそう見えただけかもしれないですぜ?それにリーダー自身が見てないのにそうやって決めつけるのはおかしくないですか?……ククッ、俺の言ってることは間違ってますか?」

 

――数秒後、ラクリーマはユーダから手を放し、ドリルの回転を止めた。

どうやら、彼から手を引いたようだがその苦渋の表情からは納得していないようである。

 

「ああ、確かにお前の言う通りだ……。本当かどうかもわからないことを、疑ってすまなかった……」

 

素直に謝るなど、ラクリーマらしくないのだが、信憑性がない以上、これ以上は手出しはできないのであった。

 

「そりゃあウレシい限りで」

 

しかし、ユーダから全く反省の色を示さないままで、表情はさっきと同じであった。しかし、彼の顔は次第に憤怒の表情へと変えて、ユーダに警告とも言える発言をした。

 

「だが、そういう情報がある以上はお前の疑いが晴れたワケじゃねえぞ。

今はなかったことにしといてやるが……もし、次の侵略時にお前のそういう所を目撃した暁には……」

 

《八つ裂きどころじゃすまないと思えよ!!》

 

「…………」

 

ここにいる全員はもちろん、さすがのユーダも彼の殺気に恐ろしい寒気が走った。

 

「ここにいる全員もそういう情報はあったらドンドン教えてくれ!そんなことをする奴に情けをかけて隠ぺいするとかなしだ。むしろ、そんなことする奴も即反逆者扱いするからな、覚えとけ!!」

 

そう言い、彼はトレーニングルームから去っていった。

 

「…………………」

 

黙り込む戦闘員達。しかし、全員の視線はユーダに向けられる。それも冷たい視線で。

 

「なんだよ、その目は?」

 

「ユーダ、お前本当にいい加減にしとかねえとリーダーに殺られるぜ」

 

「へっ、余計なお世話だ」

 

「なんだと!?心配してんのによォ!」

 

戦闘員の一人がユーダに突っ掛かるが、本人は軽くあしらった。

 

「てめえらの『おままごと』みてぇなお付き合いには飽々なんだよ!」

 

「オイ、ユーダ。それはここにいる全員にケンカ売ってんのか?」

 

「売ってるも何も俺は本心を打ち明けたまでだ。ならお前らに聞くが、なんでアマリーリスに加入したんだ?こうやって友達作りするために入ったのかよ?」

 

「なっ……!?」

 

その言葉が全員に心に突き刺さった。そして更に彼は話を続ける。

 

「殺して、奪って、全員はそうやって生きてきたんだろうが。俺からしてみりゃあ『友達?仲間?なんじゃそりゃ?』だ。

なぜかって?当たり前じゃねえか。本来なら、ここにいなけりゃ全員、敵同士だからな」

 

彼らに返す言葉が見当たらなかった。確かにその通りだ。

 

アマリーリスの掟の上で仲良くしているだけであって、元から仲がよいわけではない。

 

むしろ、普通は互いを敵と思うべき存在だ。

全員犯罪者であり、改心する気もない彼らが同じ時間、同じ部屋に集まっても、そりゃあ気が合う人間がいるかもしれないが、やはり合わない人間もいるわけだ。

全員が仲良くなるのはまずありえないのだ。

普通の人間でもそうなるのだから、彼らならなおさらだ。このアマリーリスという組織はそういう観点からみたら、かなり異質だと言えるだろう。

 

「へっ、わかったか。俺は元々、こんな素晴らしい仕事ができるから加入しただけだ。

好きなだけ殺して、好きなだけ奪って、これ以上の幸せがあるものか、お前らもそろそろ考えを改めた方がいいぜ」

 

そう言い、彼もトレーニングルームから去ろうと歩き出した。しかし、その戦闘員の中の一人が突然、前に飛び出した。

 

「ユーダ、一つ言っておくぞ。お前のいうその素晴らしい仕事ができるのもこのアマリーリスのおかげだと思えよ。

お前だって、元々死刑囚で刑務所から脱獄して、捕まる寸前でリーダーに助けられたんだから、少なくともあの人の恩を忘れるなよ?わかったな?」

 

「…………」

 

彼は何も言わず、そのまま去っていく。しかし、彼の後ろ姿から感じるのは『孤独』、それだけだった。……そして、ユーダの姿は見えなくなると、気が緩み、何人かはため息を吐き出した。

 

「あいつ、ホントにわからねえヤツだ……」

 

その言葉はほぼ全員に考えに当てはまっていた。



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Part.30 暗雲

トレーニングルームでの一件の後、彼は休憩広場のソファーに腰掛け腕組みをし、複雑そうな表情でウインドウ越しの宇宙を眺めていた。

 

すると、

 

「ラクリーマ!」

 

「お前ら?」

 

のび太としずかが彼を見つけて駆けつけてきた。

二人から見たラクリーマはいつもみたいに陽気ではなく、落ち込んだ様子に感じられた。

 

「訓練エリアで何があったの……?」

 

「……なんでもねえよ」

 

「けど、今のラクリーマさん、なんか落ち込んでるみた――」

 

「なんでもねえっていってんだよっ!!」

 

「「ひいっ!!」」

 

つい怒鳴ってしまい、完全に萎縮している二人。

 

「あっ……ワリィ……っ、ちょっと考え事していてな」

 

「考え事?」

 

「まあいい、二人とも横に座れや」

 

二人は言う通りに、ラクリーマの横に腰掛ける。彼は二人を見ようとせず、ただ前を見ている。

 

(やっぱりさっき何かあったのかな?)

 

(この人が考えこむほどよ、よほど深刻に違いないわ……)

 

二人はこそこそと話をしていた矢先、

 

「なあ、二人とも。ちいと質問があるんだが、いいか?」

 

「えっ!?」

 

二人とも、びっくりしてすぐに振り返った。すると、彼は依然と前を見たままこう口にした。

 

「わかりあえない奴とはどうしたら理解しあえるんだろうな?」

 

「…………?」

 

その意味深しげな質問に一瞬、戸惑う二人。

 

「ラクリーマ、どうしたの一体……?」

 

「いや、わからなければいいんだ。ただそれを聞きたくてな」

 

「……」

 

互いに沈黙し合う。……なんか、いつもの彼ではない。いつも明るくて熱苦しい彼しか見たことのない二人からしたら、不気味だ。いや、不安という感情さえもあった。

 

しばらく、誰も声を発しない状況が続き、気まずくなりかけた時、

 

「……正解かどうかわからないけど、いっぱい接してあげたらどうかしら……?」

 

「「しずか(ちゃん)……?」」

 

しずかが沈黙を破り、彼女なりの意見を伝えた。

 

「わたしならわかりあえるまでその人と接し続けるわ……前にそういうことがあったの――」

 

そう、しずかは思い出していた。

鏡面世界にて、瀕死の傷を負ったメカトピア星のスパイロボット、リルルのことを。初めは、愛国心が強いゆえに地球人を下等生物扱いし、しずかとの対話もほぼ拒絶するという絶望的な状況だったが、彼女のあきらめない心と労りがやがて、リルルの心を突き動かすことになった。

 

その結果、ついに攻めてきたメカトピア星の軍隊、鉄人兵団の目的『全地球人奴隷化』を食い止める突破口となり、地球を守ることに成功したのだが……。

 

 

「――その人のことを理解することが一番、大事だと思う。その上で、めげずにあきらめずに優しさを持って接すれば、いつかはその人も……」

 

「…………」

 

ラクリーマは静かに目を閉じている。

腕組みをして、考え込んでるようだ。

 

「……そうか。いい助言聞かせてもらったぜ。礼を言うぜ、しずか!」

 

「ラクリーマさん……」

 

お礼と共に微笑みを見せるラクリーマに、彼女は嬉しくなり、もじもじする。

 

「そういえば、お前らホント仲いいよな。まさか、互いに好きなんじゃあ……」

 

「「なあっっ!!?」」

 

二人は顔を共に顔を赤くした。これで言われるのは何回目なのか。のび太はともかく、しずかは同じことをついさきほどユノンにも言われていた。

 

「だ か ら違います!!あたし達はそんな関係じゃないですっっ!!」

 

「ちょっ……そこまで否定しなくてもいいのに……」

 

「クククッ……ワハハハハッ!!だがよ、お前らほどお似合いなカップルはいねえぜ!!ホントはどうなんだ?」

 

豪快に笑う彼の問いに二人とも互いにチラ見し、すぐに下にうつ向いた。

 

「……まんざらでもない顔しやがって。それじゃあ俺もお前らに教えてやろうか!」

 

一呼吸置き、恥ずかしがることなく二人にこう告げた。

 

「俺は、ユノンのことが好きだ」

 

「「ええっっ!?」」

 

「もう一度言ってやろうか?あいつのことが好きで好きでたまらねえんだよ」

 

「「…………」」

 

のび太としずかはさっき以上に頬を真っ赤に染めていた。

こうやって恥ずかしがらずに公言するのは、あのジュネと同じだ。

 

「けどなぁ、あいつあんな性格だろ?なかなか伝えづらくてよ。困ってんだけど、どうすればいい?教えてくれないか?」

 

「えっ……いやっ、ちょっと!」

 

一方的に質問してくるラクリーマに困惑ぎみののび太達。告白なんてしたことがないのにわかるわけがない。

 

「なあんてな、けど俺はあいつのモノに出来ればこの上嬉しいことはないな!」

 

二人は分かった。彼は本当にユノンが好きだと言うことを。その屈託のない笑顔をみたら嘘ではないことがわかった。次第、二人は目を輝かせて……。

 

「ラクリーマ、僕たち応援してるから!」

 

「ユノンさんに思いが伝わることを!」

 

それを聞いたラクリーマは、嬉しくなり二人に向かってガッツポーズをとった。

 

「お前らは最高だ、殺さずに助けてよかったとホントに思うぞ!!」

 

そうやって素直に喜べるのは彼の良い部分の一つである。

最初の重苦しい雰囲気が一転したのは、この二人(特にしずか)のおかげとも言えるだろう。

 

――しずかは部屋に戻ると言い、のび太とラクリーマから去っていった。二人ともソファーに座ったまま話をしていた。

 

「ラクリーマ……ユノンさんが好きだったんだね」

 

「あいつ超美人だしな?だがあいつ、今まで男と付き合ったことがないしな」

 

「……そうなの?」

 

「あんな性格じゃあ誰とも付き合えねえよ。それにあいつ、どこか人間不信なとこがあるからな」

 

「……」

 

「まあ多分ワケありな人生送ってきたんだろうな、俺らも人の事を言えねえが。あいつの過去なんざ知るよしねえし、教えてくれそうにねえし……どうすることも出来ねえンだが」

 

「……ユノンさん、何があったんだろうね?」

 

「そんなの気にしてもしょうがねえし。さてと、俺もそろそろ司令室に戻ろっかな――」

 

ラクリーマが立ち上がり、同時にポケットから突っ込んでいた手を出すと、拍子にポケットから何かが落ち、のび太の足元に転がった。

 

「ラクリーマ?何か落ちたよ」

 

「おっ、ありがとな」

 

落ちたそれは円く小さいケースだった。まるでプラスチックのように透明な素材で作られたケースの中から見えるのは、敷き詰めた綿と何やら植物の種らしき小さな豆粒が数個入っていた。

 

「ラクリーマ、これは……?」

 

のび太の問いにラクリーマはフッと軽い笑みを見せた。

 

「これか?これ一粒で何十万と言う人間を一撃で消し飛ぶ程の威力を持った殺戮兵器だ」

 

「え え ~ ~ っ っ! ?」

 

のび太は顔面真っ青となり慌ててそこから後退ろうとしたが、ラクリーマはヘンに高笑いしていた。

 

「ギャアハハハハッ!!嘘に決まってンだろォ!!そんなもん俺だって持ちたくねえよ!!」

 

「……」

 

嘘をつかれてプンプンした顔で彼を睨み付けるのび太。

だがこの男がそんなヤバイ兵器を持ってても可笑しくないと思えてくるのだった。

 

「本当のことを教えてやるよ。俺と付き合ってた女の形見だ」

 

「えっ……」

 

のび太は思い出した。ラクリーマには彼女がいたことを。しかしその彼女はもう……。

 

「確か……ランって人……?」

 

「なんだ、知ってんのか?」

 

「前にレクシーさんが話してくれた……」

 

「あのヤロウ、ペラペラ喋りやがったな……まあいい、これは『アノリウム』っていう花の種でな。あいつの故郷の惑星で古代に咲いていた花らしい――」

 

「……古代に……咲いてた花?」

 

「ああっ。もう絶滅したと言われたらしいがランが色んな手段を使ってやっとの思いで手に入れたらしい。だがその惑星は元々酷かった環境汚染がかなり進んでもはや住めなくなってな、あいつが宇宙へ脱出の際に持ってきたんだとよ」

 

「……」

 

のび太はその事実に言葉を失った。

そしてラクリーマは突然、こんなことを彼に告げた。

 

「実はな、お前らの惑星、地球に侵略したかった理由の一つにこの種を撒こうと思っていてな……」

 

「えっ……」

 

「実はこの『アノリウム』が育つ環境を調べた結果、お前らの地球みたいなトコが一番適用してると分かったんだ。

ランは『咲かせたい、早く咲かせたい』といつも口癖のように呟いていたからこれであいつも無念を晴らせるだろうなと思ってな……」

 

のび太は何か心の中が暖かかった。こんな『花』とか微塵も似合わないような男がこんな真剣に話しているなんて……誰が予想できようか。

しかしラクリーマはそういう男である。少しも可笑しいとは思えなかった。

 

「けど地球に撒くのは諦めたわ。地球に撒いても咲くまでにはいられないし、それに……」

 

「そっ……それに……?」

 

「宇宙はこんなに広いんだ。地球みたいな星はいくらでも見つかるさ!……て俺なに話してんだ。こんなのユノンとかに話したら絶対ドン引きされるぜ」

 

しかしのび太は優しく屈託のない表情をしていた。

 

「その……ランって人の約束を果たせるといいね……」

 

「のび太……ありがとよ」

 

彼もとても嬉しく思っただろう。のび太に感謝の気持ちを述べた。

 

◆ ◆ ◆

 

一時間後、ユノンはタバコを吸いに通路を歩いていた。曲がり角辺りで、

 

「ユノン?」

 

「…………!!」

 

彼女はラクリーマと出くわす。しかし、彼女はムスッてしたまま無言のまま通り過ぎようとする。……まだ怒っているようである。

 

「ユノン待てよ、まだ怒ってるのかよ!?」

 

全く無反応な彼女についにしびれを切らしたラクリーマはとっさに彼女の左腕を掴んだ。

 

「なあユノン、俺が悪かった。あんなイタズラはもうしねえからよぉ……許してくれねえか?」

 

「あんた、またそんなこと言ってやるくせに……信用できないわ」

 

「なあ、マジで悪かったって!だからな……ん?」

 

彼女の腕を目をやると何かに気づいた。

 

「お前……どうしたこの切り傷?」

 

突然、彼女の顔色が一変し、青ざめた。次第に体もぶるぶる震えていた。しかし、ラクリーマは不思議そうにその腕を見続けた。

 

「一つだけじゃねえな……2つ、3つ……なんか不自然な傷痕だな……」

 

彼女は強引に振り払い、壁に寄りかかった。

 

「おっ、おい……。どうした?」

 

彼から見た彼女は顔をひきつって、異常なほどに身体全体が激震していた。まるで何かに怯えているかのように。

 

「いや……いやぁ、いやぁぁっっ!!」

 

「まっ、待てユノン!!」

 

彼女はなりふり構わずその場から走り去っていった。

 

「あいつ、何なんだ一体……」

 

彼は全く理解出来ず、目を点にしていた。ユノンも部屋につくなり、何かにとり憑かれたのように頭を押さえてへたり込んだ。

 

(見られた……傷を見られた、見られた、見られた、見られた見られた見られタ見らレタ!!)

 

震えが止まらない、冷や汗が流れ、一気に嫌悪感の塊に押し潰されそうになり、錯乱したかのように自ら頭をベッドに叩きつけた。

 

「うう……っ、あああ……っ」

 

彼女はまた引き出しに手を出し、中からあのナイフを取り出した。そして、

 

《グッ!!》

 

ついにやってしまった。封印していたハズのあの行為を。左手首の真ん中に新たな切り傷と共に、赤い血液が一筋の流れを作った。

 

(まだだ……まだ足りない!!もっと、もっと、もっとぉっ!!)

 

勢いに任せてさらに一つ、2つと新たな傷を作っていく彼女はもはや、いつもの冷静さを失っていた。

 

「ああっっ!!」

 

勢いが強すぎて静脈付近を深く切りつけてしまい、激痛と共に夥しいほどの血液が流れ出してしまった。段々、床や服にも垂れた血液で染めはじめる。

 

(いたっ!!ヤバい……このままじゃあ!!)

 

彼女は何を思ったのか、部屋のシャワー室内に向かい、ありったけの水を出してその傷を洗いはじめた。

 

しかし、一向に出血が止まる気配がない。

 

(なんで……なんで止まらないのぉ!?)

 

逆効果である。水はともかくお湯では一向に傷口は塞がらないのである。

 

頭の良い彼女ならそんなことは認知しているが、それはいつもの「冷静」の時である。今の彼女は完全に「錯乱」している。次第に彼女の意識が遠のき……朦朧していた――。

 

「ああっ……あっあ…だっ……誰……か……っ」

 

……5分後、ユノンが気になって仕方がないラクリーマは彼女を探し回っていた。

 

「あいつ、どこいったんだ!?こうなったらあいつの部屋へ言ってみるか」

 

すぐさま彼女の部屋に向かい、中へ入ったが、ソファーにもベッドにもいなかった。

 

「これは……」

 

床を見ると、血痕と思われるあとがある。ほぼ全体が凝固していることがわかることから結構時間がたっていることがわかる。

 

「これは……まさかあいつの……!?」

 

彼にとてつもない不安感が襲い、辺りを見渡した。すると、床には血の痕が部屋のシャワー室まで連れて付着していることに気づいた。

ラクリーマに寒気が襲い、すぐにシャワー室の扉を開けた。そこには蛇口からお湯を出したままユノンがぐったりと倒れている。周りには血と水が混ざりあった赤い池が彼女を浮かばせているようにみえた。

 

「お、おいユノンっっ!!しっかりしろっ!!」

 

彼女を抱き抱えるが、意識がない。顔面蒼白で、そしてお湯を浴びているにも関わらずやけに身体が冷たい。

 

胸に耳を当ててみると、微かに鼓動はあるが、とてつもなく早い。

 

――出血性ショックを起こしている。彼はすぐさま、所持していた通信機を取りだし、焦り口調で喋り出す。

 

「きっ、緊急事態だ、大至急ユノンの部屋にボードを持ってこい!あと、サイサリスにメディカルルームに行くよう伝えてくれ!」

 

『どっ、どうしたんですかリーダー!?』

 

「ユノンの左手首から大量出血して今にも死にそうな状態だ、迅速に行動してくれ!」

 

『ええっっ!?わかりました、艦内放送で伝えます!』

 

「頼む!」

 

通信を切り、見たところ、出血が弱まっているのでいち早く、彼女へシャワー室から出そうと持ち上げた時、

 

「あがあああっっ!!」

 

持ち上げた拍子で彼のあばら骨に激痛が走り、ガクッと膝をついてしまった。

 

「はあああっ!!かはっ!!」

 

彼は苦痛を交えた表情をしているが、それをこらえてまた彼女をぐっと持ち上げた。

 

「うぐ‥‥ぐぐぐっ!!」

 

歩くごとに激痛が走るが、歯を食い縛り、また一歩、また一歩と歩く。相当な苦痛を味わっているはずなのだが、今の彼には休む余裕などなかった。

 

――部屋へやっと飛び出した所、ようやく部下達があの移動用円盤に乗り、駆けつけた。

 

しかし、ラクリーマの腕に抱えられてぐったりとした彼女の変わり果てた姿に表情が一瞬で真っ青となり、言葉を失った。

 

「おっ……お前ら……早く……ユノンをっ」

 

よくみるとラクリーマの様子もおかしい。大量の汗を流し、今にも彼女を落としそうなくらいに震えていた。

すぐさま、彼女を円盤の上に乗せた瞬間、彼もその場で倒れ込んだ。わき腹を押さえて悶絶している。

 

「リーダー、本当に大丈夫ですか!?」

 

「お、俺は大丈夫だ、それよりユノンを早くメディカルルームにぃ……急げ……っ」

 

「…………っ」

 

心が引き裂かれる思いで、彼の言う通りにユノンを乗せた円盤は猛スピードで通路をかけていく。果たして、彼女は助かるのであろうか……。



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Part.31 真実

ユノンは運ばれてすぐさま、心配する部下達が見守る中、サイサリスの元、即座に輸血、傷の治療が始められた。

失血死が心配されたが幸いにも、発見した時間が比較的早かったため、懸命な治療の末、なんとか一命をとりとめることに成功した。

その後、部下達を安心し、解散した。

しかし、そのメディカルルームには痛みがやっと収まり、駆けつけたラクリーマとサイサリス、そして心配して駆けつけてきたレクシーとのび太としずかが、静かに眠るユノンを見つめていた。

 

「くそっ、ユノンに何があったんだ……。いきなり手首を切るなんて……そんな自殺まがいなことを……」

 

一方、サイサリスはずっと彼女の左手首を見続けている。

 

「……」

 

「どうしたサイサリス?」

 

「なあラクリーマ、最近彼女に異変が見られなかったか?」

 

「いや、特には……どうした?」

 

サイサリスは彼女の腕を持ち、皮膚を見えるように着替えさせた服の袖をめくり、全員に見えるように注目させた。

 

「これを見なよ」

 

その場にいる全員がユノンを腕を近づいて見ると……。

 

「なんだこの無数の傷は……?」

 

ラクリーマ達は目を疑った。それは無数の切り傷の痕が至る所に浮き出ていた。近づいてみるとよくわかる。ついさっき作った新しい傷とは違い、古い年季のはいった傷が圧倒的に多い。しかも、明らかに自分がつけたとしか言い様のない不自然な切り方だ。

 

「リストカットだよ」

 

「リストカット?なんだそれ……」

 

「知らねえのか?まあ確かにお前には無縁なものだな。まさかこんなことをしてるなんて……」

 

手首自傷症候群(リストカットシンドローム)。

文字通り、『手首を切ること』で、自傷行為の一つである。派生として腕を切ることを『アームカット』、脚を切ることを『レッグカット』とも言うことがある。物、場所、人などに不満や本音をぶつけにくい内向的な人、うつ病患者、特に女性にその傾向が多い。

 

動機については三種類あり、一つ目は何かしら愛情に飢えていて、それをして、注目されて誰かに愛されたい、かまってほしいという欲求から。

二つ目は、それにより生きているという存在意義(アイデンティティー)を作るため、または快楽、安心感を持たせるため。

3つ目は現実を逃避する人格(解離した別人格)が作用していることから始まる行為などがある(リストカットした記憶がない、気づいたらできていたなどがある)。

それらの原因が、子供の時に親から愛情を受けずに成長した、虐待を受けた、トラウマになるような出来事があったなど、過去に受けた精神的な傷から来ることが多い――。

 

サイサリスは『ハァ……』とため息を吐いた。

 

 

「……厄介だな。はっきり言ってユノンちゃんは心の病気だ。

ウイルスとか病原菌などから来る肉体的な病気なら、薬治療や栄養補給、安静にしてればほぼ絶対に完治するが、精神的な病気だと、下手したら一生治らねえかもしんねえぜ」

 

全員が絶句した。リストカットは一般的に病気だと認知されないこともあるが、精神的な面から来る立派な病気だ。例え治ったとしても、また精神が不安定になれば再発する可能性が非常に高い。

 

この場合、これに限らず精神病系統には薬物治療、カウンセリング治療を施すのが一般的に効果的なのだが、結局は患者本人が乗り越えなければ意味がないのである。

 

「俺、あいつの腕を掴んだ時、切り傷があったからそれを見たら突然豹変した。何か怯えているようにも見えた」

 

「そうなのか。彼女からしてみたら絶対見られたくなかったんだろう、それで錯乱したというワケか」

 

ラクリーマはこれで今までに思い当たる疑問を思い出していた。それは彼女の行動や仕草についてであった。

 

(そういえばユノンが常に長袖しか着なかったし、あいつリストバンドをしてたのは知っていたが風呂場でもつけてたことにも疑問だったが……まさかこれを隠すためか……)

 

ラクリーマは苦渋な表情を浮かべた。

 

「ちぃ!!ユノンとて悩みか何かあったんなら、なんで俺に打ち明けてくれなかったんだ!?……だがそれ以上に俺が情けねえ!!こいつがこんなになるまで気づかなかった俺が一番情けねえぜ!!」

 

「ラクリーマ……」

 

「リーダー……」

 

ラクリーマは責任を感じていた。ほぼ一緒に行動していながら彼女の心情を察知してやれなかったことを。そして彼女のことが好きである彼からしたらなおさらである。

 

「お前のせいじゃねえよ。この子はあたしらと違って内向的だしそれに羞恥心ってもんがあるだろ。

『リストカットしています』なんて、たとえあたしでも人前で言えねえよ」

 

「くっ、せめて原因がわかれば何らかの対処ができるのによ……っ」

 

「サイサリスさん……。ユノンさんを救う方法はないんですか?」

 

サイサリスは目を閉じて、数秒間、また目を開けて顔をラクリーマに向けた。

 

「こうなったら最終手段だ。アレを使おう」

 

「アレってなんだ……?」

 

「ちょっと待っててくれ。開発エリアからあるものを持ってくる」

 

サイサリスは立ち上がると、メディカルルームから去っていった。

 

……数分後、戻ってきた彼女の手に球体のような水色の機械が2つ、ひとつは野球ボールほどの大きさで、もうひとつはドッチボールほどの大きさを持っている。

 

「なんだこれは?」

 

「これは人の精神を映像として具現化する機械だ。これで彼女の心の闇を引っ張り出せる」

 

「本当にできるのかそれ……?」

 

「ああ」

 

サイサリスはユノンにその野球ボールほどの機械を両手で持たせる。

 

「これからユノンちゃんの精神を読み取り、もう片方のこれからその内容を空間モニターで映写してくれる。その内容から適切な治療法を考えよう」

 

「お前、すげえな……」

 

「へっ、作成にはホントに苦労したよ。まあ、こんなデバイスがあっても面白いと思ってな」

 

苦労したとはいえ、そんな代物を作り出すとはサイサリス恐るべし……。

 

「……ラクリーマ、これを使う前に一つ忠告しておくぞ。これを使うとここにいる全員がユノンちゃんの全てを知ることになる。お前、その意味がわかるか?」

 

「……どういうことだ?」

 

「彼女の人に見られたくない部分まで映像化されるんだぞ。

見ている間はユノンちゃん自身には影響はないが……あたしらはともかくお前、どんな内容でも彼女の全てを受け入れられる覚悟があるか?」

 

ラクリーマは何の迷いなく頷いた。

 

「ああっ!全てを受け入れる覚悟はとっくの間に出来てるぜ!大事な仲間だからな!」

 

「ならいい。あとお前ら三人にも約束してほしい。どんな内容だろうと、決してユノンちゃんに失望したり、軽蔑するなよ。守れねえのなら今すぐここから出ていけ」

 

レクシー、のび太、しずかも状況を受けて止めて、約束すると言う意味で首を縦に降った。

 

「よし。なら読み込むぞ。あと、この事はあまりユノンちゃんに言わないほうがいいかもしんねえぜ。ここからは彼女のプライバシーの領域だ、もし知られたら――」

 

「…………」

 

そして、読み取り終了の合図と思わせる『ピピピッ……』と機械音が聞こえ、サイサリスはそのデバイスをユノンの手から取り上げた。

彼女は次に、もう一つのデバイスの頂点に触れると、一気に花の蕾が咲いたかのように動作、変形。

先ほどの読み込んだデバイスをその中に入れるとまた、閉じて丸型に戻った。

 

「よし、これで動機がわかる」

 

全員に不安と緊張感が走る。そして、サイサリスはデバイスの横にあるボタンを押した――。

 

デバイスの頭上に膨大な青い粒子が拡散、停滞し映像らしきものが映った。――が、

 

「二人とも見るな!!」

 

すかさずレクシーがのび太としずかを体で覆い、映像を遮った。ラクリーマとサイサリスも目を震わせている。

そこに映し出された内容とは……。

 

◆ ◆ ◆

 

《ガシャアアアッ!!》

 

そこはどこかのアパートである。その一室では、一人の女性と男性が壮絶な口喧嘩を繰り広げていた。次第に家具や食器を投げ合い、辺りはその破片で散乱し凄惨な状況である。

その隅っこの部屋で必死に耳を塞ぎながら耐え忍んでいる少女の姿が。

……そう、小さい頃のユノンである。痩せ細り、汚れたその身体からはろくに食事、入浴させてもらっていない荒んだ生活であることが分かる。

 

そして皮膚には異常なまでに生々しく、痛々しい傷やアザ、切傷、そして火傷が多数……多分身体中いっぱいであろう。彼女は暴力を受けているのがよく分かった。

 

……これらが日常茶飯事であった。ケンカをしている女性がユノンの母親である。母親に男運がないらしく、いつも男に寄り添っては最終的に逃げられる、または喧嘩の末に暴力を振るわれるといったことが度々であった。その度に酒に溺れ、悲しみや怒り、ストレスの捌け口に向けられたのが――。

 

「いたい、いたいよぉいたいよぉォーーっ!!!」

 

聞こえてくるのはユノンの痛々しい悲鳴であった。

 

「まだ泣くかこのお!!」

 

彼女が泣くたびに一発、一発と本気に近いビンタが飛び乾いた音が響き渡った、次第に彼女の柔らかい両頬には赤いアザができた――それでもワンワン泣くのを止まらないユノンに対し、

 

「ギャアッッ!」

 

タバコの火をユノンの顔に押し付けた。いわゆる『根性焼き』である。

 

『泣いたらまた叩かれる、殴られる』

 

必死で泣くのをこらえている彼女を突然、母親は優しく抱き抱えた。

 

「ユノンごめんね……。またあんたにこんな酷いことを……あたし最低だね…………」

 

震える声と鼻をすする音が母親から聴こえる。彼女は自分の犯した過ちに気づいて泣いていたのだった。

ユノンは母親の服にギュッと握りしめ、また瞳に涙を浮かべ――。

 

「……なかないで………ママは……わるくないの……」

 

悪くないはずのユノンが謝ってしまった。また暴力を振るわれるのを恐れているのもあるが、それ以上にこんな母親でもやはり『愛されたい、見捨てられたくない』と思う子供の心境なのであろう――。

しかし、その願いとは裏腹に、これがほぼ毎日繰り返されられるために、結局は負の連鎖は止まらないのであった――。

そして……この日。

 

「ユノン!!こっちおいで!!」

 

ある日、母親はユノンを呼び出す。彼女の前には見知らぬ男性がいた。また、何処からか引っかけて来たのだろう。

 

「こんにちわ……」

 

「…………」

 

笑顔が似合い、柔らかな口調で喋る辺りは、見る限り優男のように思える。

しかし、ユノンは怯えたように身震いし、素早く部屋の奥へ隠れた。

 

「ご……ごめんね!!あの子人見知りなの!!」

 

「いいんだよ。まだあんなに小さいんだから」

 

二人は笑い話になるが、ユノンからしてみれば男を連れてくる……恐怖そのものであった。

 

何故なら今までにも沢山の男性を連れ込んでいた。

そのあとのやりとりは、大体二人が酒を呑み、酔い始めて男が母親の身体をイヤらしく触り、そんな母親もまんざら嫌でもなく、寧ろ喜んでいる。その行き着く先は……。

 

 

 

「ああっんっ……あっあっ!!んいいっ!!いいよォっ!!もっとおま〇こ突いてェーーっ!!」

 

 

ユノンは寝室でこの場面を何度も目撃したことがあった。

二人とも裸になり男の大きくなった局部を母親は口で奥までくわえむしゃぶり、四つん這いになって高らかに喘いでいる。

 

その時、男は彼女の後ろで気持ちよさそうに腰を前後に振っているのを……。

ユノンは隣の部屋で耳を押さえて目を瞑る。まだ純粋で何も知らない何をしているのか分からなかったがこれだけは感じていた。

 

『得体の知れない嫌悪感に襲われる』

 

そして結局は、何かトラブルで大喧嘩、果てに苦痛が苦痛を呼ぶ虐待シナリオへ行き着くのであったから――。

 

「長い緑色の髪……かわいいよ……」

 

(やめ……てぇ……っっ)

 

……その日、母親が連れ込んだ男に押し倒されて、その汚い手で身体中を触られ、弄ばれて――、

 

「ぐっ……ゲェェェッ!!」

 

彼女は男が一瞬、口を押えてた手を放したと同時に、嘔吐物が吹き出し、男の手に付着した。

 

「うわあああっ、汚ねぇっっ!!吐きやがった!!」

 

男はすぐに立ち上がると、手を洗うために水道へ向かった。

その時、ご機嫌だった母親も帰宅し、異臭と男の慌てように目の色を変えた。

 

「と、どうしたの!?」

 

「おっ、お前んとこのクソガキが俺の手にゲロ吐きやがったんだよ!!」

 

「! !」

 

「せっかく、寂しそうだから遊んでやろうとしたのに……もうこんなとこいられるかぁ!」

 

「ああっ、ちょっと待ってよぉっっ!!」

 

男はドアを乱暴に蹴り飛ばして出ていってしまった――。

 

「…………」

 

震えたまま立ちすくむ彼女は数秒後、怒りに満ちた顔である方向に見つめた。

無論、自分の娘である。

 

「…………ぶぇっ……きもちわるいよぉ……ママ……たすけてぇ……っ」

 

嘔吐物で上着と床を汚し、口を押さえて倒れてるユノンの姿が見えた。涙を浮かべて、震える声で自分に助けを求めている。が、

 

「ユノン、吐いちゃったの?ならキレイにしないとねえっ!!」

 

母親は乱暴にユノンの首もとを掴むと引きずって行く。……ついた場所はどうやら風呂場のようだ。しかし浴槽に張る水を見ると透明どころか酷く黒ずんでいて、ぬめりや髪の毛などのゴミや汚れが所々浮かび上がっていて清掃していないと思われる有り様だ。

 

――最後の入浴から一体、どれだけの日にちが立っているのだろうか。そんな状態の浴槽に、なんと母親はユノンを裸にさせてその汚水に体を浸かせた――。

 

 

ヌルヌルする浴槽の底、冷たく臭いが酷い汚れた水の感触がユノンにさらなる不快感と嫌悪感が一気に襲った。

 

「うえっ……げぇっっ!!ゲホっ!ゲホっっ!」

 

その場にまた嘔吐してしまった。しかし、母親はそれを見過ごすハズがなかった。彼女の頭を掴むと、母親は顔を水の中に押し込んだ。

目、耳、鼻、口……必死にもがくユノンの顔の穴という穴全てに汚水が入っていく。ゆっくり顔を引き揚げると鼻水や涙とも言える液、さっきの汚水が混じったその顔は激しく咳き込みうめき声を上げて死にかけに近い表情を浮かべていた。

 

「言わないの?ほら、『ありがとう、ママ』は?」

 

しかし、その返答に返ってきた返事は……。

 

「……し……しんじゃう……」

 

その言葉が母親の癪に触り、さらなる怒りを呼んだ。

 

「あんたホントにムカつくガキねぇ!!誰のせいでこうなったんだぁ!!」

 

ユノンを浴槽から出すと、床に押し倒し、そして!!

 

「あんたみたいな親不孝のガキなんかもういらない、今すぐ殺してやる!!」

 

「ぐ……ぇっ」

 

最悪の事態が起こった。母親が自分の娘の首を両手で締めたのであった。その腕と手に伝わる強さは完全に殺気を込めている。

 

“ころ……され……る………どうして……あたしが……わるい……から……?”

 

泡を吹き始め、窒息し意識のなくなりかけた時に、母親が放った一言……それは。

 

「あ ん た な ん か 産 ま な き ゃ よ か っ た ! !」

 

そして彼女の意識は闇の中へ沈んでいった――。

 

……ユノンは目覚めた時にはとある白い壁に包まれた部屋のベッドの上で寝ていた。ここは病院のようである。

 

彼女は奇跡的に生きていた。どうやらあの後、運よく気づいた人が警察に通報してくれたみたいだ。母親は逮捕されて、事情聴取を受けているらしい。

しかし、『あの子のせいで人生を狂わされた』、『産みたくなかった』などと供述した末、もうユノンとは会いたくないと――。

 

偶然、それを耳にしたユノンの心にトドメを刺された。それはヒビの入り、脆かったガラスが一気に粉砕されて跡形もなく崩壊したように。

あんな人間でもたった一人の親であり、愛されたかった彼女にとってはもう親に捨てられたと。彼女は知ってしまったのだ、孤独になるということを……。

 

(もう……ひとりぼっちなんだ……ママにすてられたんだ……)

 

……そして彼女はその日から心を閉ざしてしまった。

 

 

退院後は施設へ入った。虐待で出来た傷や痕はドグリス人の医療技術のおかけで綺麗さっぱりなくなり、前の生活と比べたら段違いに良くなったが、それだけでは彼女の心までも良くなることはない。彼女の同年代の子どころか誰とも接しようとしなかった。

片隅でずっとうずくまっていて、その様子を見ていた人々や施設員の証言では『いつも今にも泣きそうなくらいに悲しい顔をしていた』、『接しようとするとひどく怯えて逃げていく』、『警戒心がとても強く、誰とも心を開こうとしない』など。

 

しかし、彼女も勇気を出して友達と接し、遊ぼうとしたことはあった。

だが、彼女は一人になることを拒み、仲良くなった子だけに執拗に付きまとうために次第にうざがられて結局彼女から離れていく。その度に彼女の心をさらに傷つけることとなった。

 

(みんな……あたしがきらいなんだ……だからみんなあたしからはなれていくんだ……)

 

心がボロボロとなり、それからはもう彼女は誰とも自ら関わることをしなくなった。

そんな彼女がそのまま成長したことにより心情や境遇、さまざまな葛藤に伴い、更なる闇も広がっていた。その過程で生んだ行動の一つがそう、『リストカット』である。

 

『プッ……プツ……』

 

彼女はもはや自分を傷つけないと『存在意義』を生み出せないほどに心が病んでいた――。

 

(あたしはなんのためにうまれてきたの……?くるしいよ……いまにもきえてしまいそうだよ……。だれかぁ……たすけてよぉ……)

 

◆ ◆ ◆

 

映像はここで終わっている。

 

「………………」

 

その内容に誰も声を発することなど出来なかった。

 

「これじゃあ心が病んでもおかしくねえな……っ」

 

「…………」

 

……彼女が普段人と関わらない、関わろうとしないのは、子供の頃に受けた心の傷もあるが『本当は孤独を嫌い、誰かにかまってもらいたい、一緒にいたい心情を裏返した形』なのでは。または誰かと一緒にいても突然捨てられてまた孤独になるのを恐れているのでは……。

 

 

『いなくならないで……』

 

 

彼女が酔っていたあの時に放った言葉の疑問が理解できたような気がする。あれが彼女の本音だとすれば……。するとラクリーマは何かを決意したかのようにコクっとうなづいた。

 

「くくっ、めんどくせえ女だなユノンは。こうやって自分から閉じこもって……挙げ句の果てには自分自身を傷つけることしか生きる意味を見いだせなくて……俺ら戦闘員なんか生きるために嫌でもケガしてんのに……バカな女だ」

 

突然、彼女を罵るような言い方をし出すラクリーマに全員が疑うような目をして彼に注目した。

 

「おい、わたしの忠告を忘れたのか?罵るなんてやめろって言ったハズだ!!」

 

しかし、その顔から反省するどころかむしろ当然な表情をしている。

 

「ひっ、ひどいよラクリーマ!!」

 

「そうよ、いくらなんでもユノンさんにあんまりよぉ!!」

 

のび太としずかもラクリーマに非難の声を浴びせた。

 

「ラクリーマ、今すぐここから出ていけ……今すぐだ!てめえみてぇな約束破りはもう――」

 

「だが!!」

 

突然、彼の大きい声がサイサリスの声を掻き消した。

 

「そんな女を好きになった俺は……こいつ以上のバカだ」

 

「おっ……お前……」

 

「言っただろ、とっくに受け入れる覚悟は出来てるってな。さっきの内容を見て、俺はもっとこいつのことが好きになった。決めたぜ、俺は一生、こいつの重いもんを背負って幸せにしてやる!」

 

怒りを露にしていたサイサリスや非難をしたのび太達は彼の決意にまた沈黙した。だが、サイサリスは徐々に笑い始め……。

 

「クククっ、カッコつけやがって。だが現実は大変だぞ?」

 

「けっ、心配は無用だ。で、少し二人っきりになりたい。お前ら出ていってくれないか?」

 

「……わかった。みんなここから出ていこう、あとはこいつに任せる」

 

彼女の言葉に従って、のび太達はメディカルルームから出ていった。



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Part.32 拒絶

「ユノン……」

 

ラクリーマはいまだ目を覚まさない彼女の隣に座り、見つめていた。

 

「う……うう……っ」

 

「ユノン……?起きたか!?」

 

彼女から呻き声を発し、すぐに寄りかかる。

少しずつその重たい目を開けて、虚ろな瞳が現れた。

 

「……ここは……ラク……リーマ……?」

 

「ここはメディカルルームだ。バカヤロウ心配したんだぞ、死んだらどうすんだ!」

 

「…………」

 

やつれたような顔をし、ラクリーマをじっと見ている。どうやら状況を把握できていないようだ。

 

「あ……たしは……」

 

「…………」

 

身体を起こす仕草を見せた彼女を彼が手伝おうと手を差しのべ、支えた。

 

「起きれるか?」

 

「…………」

 

起こすと彼はユノンの右手を優しく握り、口を開いた。しかし彼の発言が後に大波乱を巻き起こすことになろうとは――。

 

「ユノン、お前がこれからまた腕を切りたくなったら俺に言え。俺の相棒なんだからな」

 

「……え……っ」

 

「お前は親に捨てられても……俺はお前を捨てたりしないから安心しろよ」

 

その発言がユノンの顔色を一瞬で変えた。

 

「なっ……なんで……あんたがそんなこと……知ってんのよ……っ?」

 

黙り込むラクリーマに彼女が納得いくはずがなかった。

 

「……答えなさいよ!!なんであたしが……親に捨てられたってことをあんたが知ってんのよ!?」

 

――暴露。彼は断片的に映像で見た彼女の過去をあっさりと口にしてしまったのであった。

果たしてそれはうっかりなのか、はたまたなにか考えの上なのかは分からない。

 

「実はな――」

 

ラクリーマはこれまでの経緯を全てを打ち明けた。

しかし、段々彼女の顔が険しくなっていった……。

 

「……あんたたちは……勝手にあたしの全てを……」

 

「ああ。だがな、お前を救うためにこうするしか――」

 

彼女の顔は唖然としていた表情から徐々に憤怒の表情へ変貌し、

 

「………………今すぐあたしの前から消えろ!」

 

「……おい、どうしーー」

 

《ここから出ていけえーーっ!!》

 

「ゆっ、ユノン!?」

 

彼女の怒号の声が部屋どころか通路にまで響き渡り、ラクリーマも呆気をとられている。

 

「おっ、おい!?」

 

「出ていけって言ってるのがわからないのかぁ!!に、二度とあんたの顔なんか見たくない!!」

 

歯ぎしりを立てて、眉間に深いしわをよせている彼女は今までに見せたことのない表情だ。

 

「ユノン、落ち着けよ!!そんなに怒らなくてもいいじゃねえか!!」

 

「……見られたんだよ?あんたたちの思い勝手でわたしの全てを、見せたくないコトまで……わたしを踏みにじったんだァ!!」

 

……救うためとは言え、彼女からしたら屈辱と羞恥以外の何事にもない。この方法を思いついたサイサリスも快く思っていなかった。

 

「どいつもこいつも……あたしを汚しやがってぇ……っ!」

 

ブツブツ一人事を言い出す彼女から危険な雰囲気が漂った。

 

「ユノン、だから落ち着……」

 

心配する彼が彼女に手を差し伸べたが彼女が振り払い、拒絶した。

 

「触るな、汚らわしい!!早く出ていかないと本気で張り倒すわよ!!」

 

「……っ!!」

 

とっさに彼女の腕を掴み、冷静な態度で見つめた。

 

「ユノン、そんなに気にしているんなら俺が謝る。殴りたいのなら好きにすればいい!」

 

「…………!」

 

「なら俺も本当のことを教えてやる。今までお前にイタズラや破廉恥ばかりしてきた理由を」

 

「……なっ、なによ!?」

 

「それはな……確かにお前が美人すぎてつい手が出てしまったのもある。だが本当はお前を明るくさせようとして行ったことだ」

 

「どういうことよ!」

 

「お前は加入して以来、このアマリーリスには場違いなくらいに暗い雰囲気を持っていた。いつも冷たい態度で誰ともつるまないし、つるもうとしない、ずっと一人のお前を俺なりにお前を楽しませようとした」

 

彼が行ってきた彼女に対するイタズラは全て、彼女のためであり、少しでも彼女の雰囲気を明るくさせようと彼なりの気遣いが生んだ行動であった。

なので、彼女からどんなに制裁されようが説教されようが、懲りずに行ってきたのはそのためである。

 

「~~~~~っ」

 

「俺はお前のことを思ってやってきた。そのことだけはわかってく……」

 

《余計なお世話よっ!!》

 

無情にも、彼女はラクリーマを否定してしまった……。

 

「あんたは人の気持ち考えたことあんの!?あんたにとっちゃあ親切かもしんないけど、わたしからしたら不快極まりないのよ!

そうやって自分勝手な思い込みで人に迷惑をかけるなんて愚の骨頂だわ。そんなヤツがリーダーをしているなんて笑い話にもならない!!」

 

「…………っ」

 

彼女に一方的に責められる彼は拳をぐっと握りしめた。しかし、彼女の罵言は止まらない、それは今までにうっぷんを晴らすかのように。

 

「ホントにラクリーマはつくづくムカつく奴ね、はっきり言ってやるわ!」

 

《神経逆撫でされるのよ!!あんたって男は!!》

 

「~~~~~っっ!!」

 

ここまで言われたら普通の人ならへこむかキレるかのどちらか。表情と震えかたを見ればキレる方へ傾いているが、何とか感情を押し殺し、一線を越えずにいた。

 

「ああっ……っ」

 

「ユノンさん……っ」

 

心配になってまた戻ってきたのび太としずかはその一部始終を聞いており、その異様な光景に絶大な恐怖を抱いていた。見たことないユノンの表情、必死に感情を抑えているラクリーマ、こんな二人は見たことがない。そして、二人ものび太達の存在に気づき、注目した。

 

「お、お前ら来るな、早く部屋から出ていけ!」

 

ユノンは二人をまるで『敵』を前にしているかのように瞳を細くして睨み付け、歯ぎしりを立てて威嚇する。

 

「あたしをバカにしにきたのか……?きさまら今すぐに出ていかないとホントにぃ!!」

 

言葉使いも悪くなり、あの美人だった顔も、今はひとかけらもなくなり今の彼女は例えるなら……『狂犬』。

 

「ユノン落ち着けっていってんだよ!!お前、おかしくなってんぞぉ!!」

 

「もおきさまら全員死ねぇ、今すぐあたしから消えてしまえぇぇぇっっ!!」

 

完全に狂乱し、暴れる彼女はラクリーマに捕まれながらもデスクにあったコップを握りしめ、のび太の方へ本気で投げつけたのであった。

 

「「ひいいぃっっ!」」

 

狙いが甘かったのか、二人に直撃せずに壁に激突したが、粉々に粉砕し破片が辺りに散乱した。

 

《このクソアマアアっ!!》

 

耐えていたラクリーマもついに激怒、彼女の首根っこを本気で掴み、引き付けた。その時の彼はまるで般若のような凶悪顔に変貌していた。

 

「オイ、ワレ何ガキみてぇにギャアギャアわめいとんのじゃ?」

 

その言い回し、ドスの利いた脅し方はまるで日本のヤクザのように思える。

 

「俺はお前のために行ってきた、別に恨もうが何しようがてめえの勝手だ。俺が許せねえのは、そうやって自分の殻に閉じこもろうとするお前がムカつくんだよ。見てるとヘドが出そうなほどによお!!」

 

ユノンは彼の手を首から強引に引き離し、まるで見下すような態度をとった。

 

「私の何がわかるのよ……あんただって……あんただっていつまでも死んだ女に未練がましいくせに!」

 

「な!?」

 

その瞬間、ラクリーマは氷漬けにされたように硬直した。

 

「どんなに好きだったかわかんないけど、もうこの世にいない女よ!いい加減忘れたらどうなの!?そういうあんたを見ているとあたしもムカついてくんのよ!」

 

彼はついに激昂し彼女にビンタをかました。彼女は頬を押さえてうずくまる。

 

「思いあがるな!何も知らねえくせに……俺に説教ぶんじゃねえよ!」

 

「……ぶたれるのは平気よ!子供の頃、死ぬほど殴られたんだからァ!!」

 

今度は彼女がラクリーマに返しのビンタを叩き込んだ。頬を押さえて、これでもかと言うくらいに睨み付けた。

 

「……っ!!」

 

「……ふふっ、ただ一発殴ったぐらいで私が屈するとは大間違いだわ!あんたみたいな男はランって死んだ女のことを死ぬまでウジウジ未練たらしてればいい!」

 

「ユノン……てめえ」

 

「今のあんたなんて意気地無しのクソヤロウだ、どうせあたしを本気で殴れないくせに無様なものねえ!」

 

だが次の瞬間、ラクリーマの頭の中の何かが『ブチ……!』と切れた音がした。そして横で怯えていたのび太としずかはさらにその光景に目を疑った。

ユノンは口元を押さえられて、ラクリーマにのしかかられている。脱け出そうとするが、彼の異常に力を入れているのか全く動けない。

 

「ラ……クリーマ……なにを……」

 

のび太の問いに彼はギロッとした目で二人の方へ向いた。

 

「二人とも、見たいなら見とけ。これが……男と女の行き着く先だ!」

 

まだ無知なのび太達が見ているにも関係なく彼の空いた手で彼女の下半身に手を忍ばせ、彼女の耳元でこう呟いた。

 

(お前のその緑色の長い髪……かわいいな……)

 

「! ?」

 

ユノンは一瞬で顔色が真っ青となり身体中が震えて、大粒の涙が浮かび上がった……そう、彼女にとってのトラウマが今ここに再現されようとしていた。

 

(あ……あ……や……め……てよ……おねがい…………だから……っ!)

 

ラクリーマの指先は彼女の下着に潜りーー。

 

「覚悟しろや、のび太達に見られながらヤるのはそそられてさぞかし快感だろうなァッ!」

 

彼は完全にキレている。本当に事に及ぶつもりだ。

 

(……ああっ……ああっ!!イヤだ!!イヤだ!!イヤだァァァっ!!)

 

「イ ヤ だ ぁ ぁ ぁ ぁ っ っ ! !」

 

彼女の悲痛な叫びが、それはまたこの室内どころか通路までも響き渡った。

 

「…………」

 

彼は立ち上がると、今度は彼が彼女を見下すような態度をとった。

 

……彼女はガチガチに震えている。誰の目から見ても非常に怯えているのが一目瞭然だ。

 

「……本気で失望したぜ。てめえが……そこまでクソな女だったとはよぉっ!!」

 

ラクリーマは背を向けて、メディカルルームの出入り口に移動した。そこで止まり、彼女にまるで『敵』とみなしたようなギラッとした瞳を向けた。

 

「てめえみたいな奴はもうアマリーリスには不要だ。一緒にいると俺ら全員の士気が下がっちまう。……2時間後だ。それまでにお祈りでもしてけ」

 

「えっ……?」

 

「ラクリーマ……さん?」

 

そこで放たれた彼の言葉とは。

 

「2時間後、ブリッジにて俺の手でお前を殺してやる。全員が見ている前でな!」

 

のび太としずか、ユノンの三人がまるで凍てついた氷のように固まった……彼は好きだったユノンを自らの手で処刑すると言うのだった。

 

「俺は本気だ。部下を通じて連行させる。お前ら、ユノンに最後のお別れでもしてろ。もし処刑を見たいんならこい」

 

しかし、ユノンはともかくそれでのび太としずかは『分かった』とうなづけるハズがなかった。

 

「あんまりだ!!ユノンさんを殺すなんていくらなんでも酷すぎるよ!!」

 

「そうよ、ユノンさんともっと話あえば絶対にわかってくれるわ!お願いだから処刑なんて惨いことやめてえぇ!」

 

二人の懸命な訴えも彼の堅い決意が揺らぐハズがなく、

 

「……酷いだと?この女はもはや仲間でもなんでもない、ここには必要ないヤツだ。

今すぐにでも無理矢理引きずって宇宙空間に放り出したいところだが、こいつは今まで俺らに尽くしてくれた。せめてもの礼に俺が自ら手を下すんだ。逆に感謝してほしいもんだな。

よかったなユノン。お前、最期は孤独にならずに死ねるんだからな」

 

そう言い残し、ラクリーマはメディカルルームから去っていった……。

 

「ああっ……ラクリーマぁ!!」

 

のび太はラクリーマを追って、ルームから飛び出してすぐさま離れていく彼の元へ向かった。

 

「ラクリーマ……ホントにユノンさんを……」

 

「ああ。俺は初志貫徹する男なんでな」

 

「けどラクリーマはユノンさんのこと……」

 

その言葉に彼は黙り込んだが、長くは続かずにすぐに口を開いた。

 

「のび太、見ただろ。あいつは……多分一生あのままだ。お前らと一緒に地球に降そうと考えたが……あんなに心を閉ざしてたら、どこにいてもやっていけないだろう。

あいつは死ぬまで本当に惨めに生きるハメになる。そんなことになるくらいなら……今ここで死なせてやったほうが幸せなんだよ」

 

「ラクリーマ……」

 

ラクリーマは一人、長い通路を寂しく歩いていった。

そういう冷たい言葉を放つ彼もまた、両手の拳をこれでもかというくらいに握りしめて震えていた。まるでいつぞやのレクシーが言っていたランという最愛の恋人が死んだ時のように……。



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Part.33 告白

……ユノンを処刑するという事実は艦内に瞬く間に広まった。

 

「ええっ!?本気ですかリーダーっっ!?」

 

「ああっ、場所はブリッジだ。後の処理の用意しとけよ」

 

彼の周りには部下達が一斉に集まっている。全員は疑っているような表情であった。

 

「ユノンさんはさっき重症を負ったばかりなんですよ!?いくらなんでもあんまりじゃないですか?」

 

「あいつはもうダメだ。戦力外どころか俺らの士気まで下げかねん奴だ。そんな女をいつまでもここに置いとくわけにいかねえ。くせぇやつは元から断たないといけねえんだよ」

 

と、彼は平然と断言する。

 

「一体、ユノンさんと何があったんですか……?」

 

「……」

 

「なら代わりは誰がするんで……」

 

「候補はレクシーだ。頭もいいし、統率力もある。なによりあいつなら俺と相性がいい。上手くやってけるだろう。

……以上だ。もし別れを言いたい奴がいるなら好きにしろ。それ以外は各人、時間まで持ち場に戻れ!」

 

「…………」

 

誰も反論できなかった。アマリーリスの総リーダーである彼の宣言は絶対であるからだ。命令を無視または逆らうことはすなわち反逆を意味する。

 

説得しようにも、彼は決めたことには断固として曲げない性格なのは全員がわかっていた。もはや誰にも止めることはできなかった。

 

「俺はちょっと疲れた。少しだけ、部屋で仮眠してくる。誰も起こしにこなくていいからな」

 

そう告げ、ラクリーマは部下達から去っていった……。

 

「はあっ……はぁ……っ、ユノンさんを処刑するって本当かぁ!?」

 

「レクシー?あとのび太も!」

 

ちょうどレクシーも彼らの元へ駆けつけてきた。その後ろにはのび太も一緒で息を切らしているのを見ると急いできたのがよく分かる。

 

「のび太に聞いたらリーダーがこっちに向かったと聞いてな!」

 

「あの……ラクリーマは……」

 

「……部屋に戻った。時間まで仮眠を取るって……」

 

「次の副リーダーはレクシー、お前だそうだ……」

 

レクシーは頭を押さえて苦渋な顔をした。

 

「まさかこんなことになるなんて……」

 

「レクシーさん……」

 

のび太は事の重大さを前にしても何も出来なかった。

今日さっきまでいた、しかもラクリーマという悪党であるが自分たちを地球まで送ってくれる云わば、恩人が思いを寄せている女性が2時間後には……。

そう思うとあまりの無力さに胸が締め付けられるような気持ちになる。

 

「僕に……何かできないかな……?」

 

彼はそう思っていた――。

 

一方、サイサリスにも部下達を通じてその情報が耳に入り……。

 

「……そうか、わかった」

 

「サイサリスさん、どうかリーダーを説得できないんですか?」

 

「……あいつが決めたことだ、口出しはしない。もう戻っていいぞ」

 

「サイサリスさん!!」

 

「戻れって言ってんだろ!!でねえとぶっ殺すぞ!!」

 

「……っ!!」

 

部下はそそくさと自分の持ち場に戻っていた――。

 

「ダメだったか……しかしまあ、これも互いのことを考えたらこれでいいのかもしれねえな……」

 

そうボソッと呟く彼女だった。

 

◆ ◆ ◆

 

一方、メディカルルームでは取り残されたしずかとユノンは無言のまま、ただ来るべき時間まで身を任せているだけであった。ユノンはベッドでしずかとは反対方向に寝そべっていた。

まるで顔すら合わせたくないかのように。

 

「ユノンさんいいんですか……?このままじゃ、あなたは本当に……っ」

 

「…………」

 

ユノンは何も喋ろうとしない。そんな彼女をしずかは。

 

「ラクリーマさんは……あなたのことを心配しているんですよ?だから少しだけでも理解して…っ」

 

「うるさい!」

 

「! ?」

 

「あたしはもう終わりなのよ!もう最期まで誰とも会いたくない!」

 

「ユノンさん!」

 

「出ていきなさいよォ……。もう同じ空気を吸っていると思うだけでも吐き気がする……」

 

あまりにも自暴自棄な発言にしずかにもついに……。

 

「どうして……どうしてそんなに拒むんですか……?あなた、あの人に殺されるかもしれないんですよ!?なんで許してもらえる方法を考えないんですか!?」

 

「……ムダよ」

 

「どうして!?」

 

「あいつは決めたことには一歩を退かない頑固者なのよ。もう、誰にも止められない。それに……あたしはもう人生に疲れてね。いっそのこと、一思いに殺してくれれば……」

 

しずかは拳を震わせて、目頭を熱くさせていた。もちろん、興奮などしていない。今の彼女はあまりに弱々しくての苛立ちである。

 

「ユノンさん、あなたは前から逃げてるだけだわ!このままじゃ……あなたは本当に死ぬまで孤独のままよ!!それでもいいの!?」

 

「…………っ!!」

 

「それにあなたが処刑されるなんて、あたしやのび太さんはもちろん……ここの人たち全員は絶対望んでないわ!!

ラクリーマさんだってあなたを本当は処刑なんてしたくないハズよ!」

 

「……黙れぇ……」

 

「お願いだから心を開いて!!あなたの気持ちはわかるわ!けどあなたが変わらないことには……」

 

《黙 れ っ て 言 っ て ん で し ょ ク ソ ガ キ ! !》

 

「ひいっ!!」

 

ユノンはベッドから降りて、殺気を込めた瞳でしずかに睨み付けた。

 

「……前に言わなかったかしら、あたしにナメた口きくとどうなるかって……。どうやら本当に痛い目に遭いたいようね!」

 

「ああっ……あ」

 

「わたしはねぇ、あんたみたいにのうのうと気楽に生きてきたような奴を見るとすごぶる腹が立つのよ……。

何が気持ちがわかるだ。自分がそういう経験をしてないのにいかにも分かったようなツラしやがって……」

 

「ユノンさん……?」

 

ユノンの様子は明らかにおかしかった。心の奥底に溜まった黒い部分を全面に押し出しているように、今の彼女は醜く見えた。

 

「何が孤独よ……ならあんたも一緒に来てくれるかしら……あたしと地獄にねえっ!!」

 

ユノンはしずかに飛びかかり、首根っこを両手で本気で握り掴み、そのまま床に押し倒した。

 

「が……かはぁあ……っ」

 

「どうせあたしはもう死ぬんだ。あんたも道連れにしてやる……っ!!」

 

 

ユノンはしずかを殺す気だ。その握力、殺気、全てが物語っている。

 

……幼い頃、母親が自分に手をかけた同じ方法でーー。

 

 

「やめ……てぇ……、ユノン……さ……ん……」

 

「あ ん た だ け は 許 さ な い ……。 絶 対 に ……」

 

しずかは悲しかった。彼女は本気だ、そこまで自分を……。

 

(わからない。わたしはユノンという女性がわからない)

 

しずかが見た彼女の顔はどす黒く汚いモノが顔中に目や鼻、口が見えないほどにべっとりつき、どんな表情をしているのかもわからなかった。

 

「~~~~~っ」

 

ユノンの力はさらに増して、このままではしずかの命は危ない。

 

(……ふざけ……る……な。なんで……あたしがァァ……っ)

 

怒り、悲しみが頂点に達したしずかは火事場の馬鹿力と言うべきか、渾身の力で彼女の腕に掴み、首を起き上げた同時に右腕に噛みついた。

 

あまりの激痛にユノンは「ギャア!」と叫びをあげて大きく後退った。噛まれた部位を押さえうずくまり、しずかを睨んだ。

 

「このガキィ……よくもあたしの腕をォォ!!」

 

「ゲホっ……ゲホゲホっ!!なっ……何よぉ……。人がせっかく親切にしてるのに……あなたみたいな分からず屋はホントに見たことがないわ……っ」

 

しずかは咳き込みながらゆっくり立ち上がり、涙まじりの目でユノンをグッと睨み付けた。

 

「もうあなたなんて知らない!そんなに殺したきゃ殺せばいいじゃない!!やりなさいよぉ!!」

 

「このぉ……言わせておけば!!」

 

「けどそんなんじゃ……あなたはラクリーマさんの気持ちなんて死ぬまでわからないでしょうね!!」

 

「はあ!?あいつの気持ち?意味が分からないわ!?」

 

「この際だから言うけどラクリーマさんはねぇ、ユノンさん、あなたのことが好きなのよぉ!!」

 

次の瞬間、ユノンの険の表情がなくなった。

 

「いっ、今……なんて……っ」

 

「聞こえなかったの!?ラクリーマさんはあなたが好きなのよ!!」

 

「ええっ……ウソ……でしょ」

 

「ウソなんかじゃない!あたしとのび太さんはこの耳でしっかり聞いたわ!ラクリーマさんはあなたのことが好きで好きでたまらないって!」

 

「……!!」

 

「けどそうやって頑なに拒もうとするから……あの人はあなたに好きと言いたくてもできないのよ!」

 

「あ……ああ……っ」

 

「ラクリーマさんはあなたをどうしたら救えるか、幸せにできるか本気で悩んでたのよ!それなのにあなたは……あなたって人はァァ!!」

 

しずかは泣きながらユノンにその事実を伝えた。

 

すると、彼女は真っ青となり、ぶるぶる震えて両手で顔を押さえ――、

 

《あ゛ あ゛ ー ー ー っ っ ! !》

 

今まで聞いたことのない悲しく痛みが混じった叫び声が辺りに響きわたった。その場で顔を押さえながらへたりこんだ。

 

「ユノンさん!?」

 

「もう……何がなんだかわからないの……」

 

彼女は泣いていた。それも悲しみのドン底に叩き落とされたかのようだった。

 

 

「苦しいよぉ……誰か……助けてよぉ……もういやなのよぉ…………」

 

 

本当に哀れだ。まるで映像内で泣いていた幼い頃の彼女と重なって見えた。

 

――居場所がなく、恐怖と苦痛に苛まれて泣き続けているあの頃の彼女に――。

 

しずかは少し後悔まじりの表情でユノンに近づき、肩に優しく手を置いた。

 

「……ユノンさん、言い過ぎてごめんなさい。

けど、あなたが変わらないと何も変わらないと思う。あなたはラクリーマさんのこと……どう思うの?」

 

ユノンはやっと冷静さを取り戻し、今まで記憶や思い出を振り返った。

考えてみれば……ラクリーマがいたからこそ、今までなかった自分の生きる場所、能力の活用できる、いわば『居場所』をもらえた。

人見知りで誰とも心を開かなかった自分がアマリーリス、彼のおかげで少しずつだが感情を引き出してくれた。

証拠に今は昔と比べて喋るようになったし、本音を言えたり、尚且つ色んなことをさらけ出すことができた。

 

そしてしずかが教えてくれたこと――。ラクリーマは自分のために本当に頑張ってくれていたのだと今、初めて実感した。そしてユノンは震えた声で言った。

 

「……ラクリーマの……こと……自分の気持ち……わからないケド…………わたしも好きよ……好きぃ……」

 

「ユノンさん!」

 

しずかは今すぐにでも飛び上がりたいほどに嬉しく感じた。あのユノンが初めて……彼に対する本心を今ここで打ち明けてくれたのだった。

 

「けどどうすればいいの……このままじゃあたしは……っ」

 

「ユノンさん、あたしも恋なんてしたことないからよくわからないけど……あの人のことが好きならその思いを自分から伝えたみたらどうかしら?」

 

しずかはユノンの手をギュッと握り、コクッと頷いた。

 

「しずか……あなた、ホントにいい子ね。本当にごめんなさい、ヒドイことをして……」

 

涙を浮かべて謝っている彼女をしずかはこう諭した。

 

「あたしは大丈夫。それよりも今ならラクリーマさんにちゃんと自分の気持ちを打ち明けて謝れば絶対に許してもらえるわ。

思うの、あの人はそれで許してくれないような酷い人じゃないから」

 

「ええっ……わたし、行ってくるわ!!」

 

しずかに後押しされ、急いでメディカルルームから去っていった。

 

「ユノンさん、頑張って……っ」

 

しずかは彼女の後ろ姿を暖かい目で見守った。

 

「はぁ……はぁ……っ」

 

ユノンはラクリーマを探して艦内をさ迷っていた。もう時間など関係ない、今はもう彼に本当の気持ちを伝えることしか考えていなかった。

 

「「ユノンさん!?」」

 

――途中でのび太とレクシーに出会い、足を止めた。

 

「はぁ、はぁ……らっ……ラクリーマはどこ……教えてっ!!」

 

わけがわからず焦り出す二人。

 

「リ……リーダーは……」

 

「ラクリーマは……司令室で少し休むって!」

 

「……ありがとう。助かったわ」

 

彼女は休む暇なく、また走り去っていった。

 

「どうなってんだ一体……!」

 

「レクシーさん!!ユノンさんを追いかけよう!」

 

「おっおう!!」

 

二人も彼女を追って全速力で走り出した。

……そして彼女は司令室にたどり着き、ユラユラ歩きながら中へ入っていった。

 

「ラクリーマ……あたし……っ」

 

彼はベッドで寝ていた。疲れがたまっているのか、ぐったりしているようにも見える。ユノンは彼にたどり着くと瞳を震わせて見つめる。

起こそうと彼に触れようとしたその時、

 

「……ラン……っ」

 

「! ?」

 

突然、あの名前が彼の口から飛び出した。

 

「……ラン……俺を一人にするな……」

 

寝言だ。だが彼女にとってまるで絶望の渕に立たされたような気分であった。

 

「……まだ死んだ女のことを……ううっ……」

 

彼女はまた涙を流し、引き下がった。

 

……女の嫉妬である。たとえ寝言でも好きな男性から昔の彼女の名前を出されたら不快極まりないのである。それはいまだに忘れていない証拠。そう……ユノンもそういう心境でだった。

 

「……ううっ……うああああっ!!」

 

彼女は泣きながらそこから後にした。部屋から出ると、なりふり構わず駆け出した。

 

「「ユノンさんっ!!」」

 

ちょうど駆けつけたのび太とレクシーは大泣きながら走り去っていく彼女とすれ違った。

 

「…………」

 

「どうしたんだろ……っ?」

 

「お前ら、どうした?」

 

当の本人もさっき目覚め、眠たそうな顔をしてのび太達の後ろに立っていた。

 

「さっきユノンさ……」

 

「ラクリーマさん!!」

 

「しずかちゃん!?」

 

今度はしずかが三人と合流を果たした。彼女も走ってきたのかえらく息切れしていた。

 

「はぁ……はぁ……ラクリーマさん、ユノンさんがこっちに来なかったですか!?」

 

「き、来てないが……あいつがどうしたんだ!?」

 

「あの人、ついに本心を打ち明けてくれたわ。ユノンさん、あなたのことが好きだって!今、思いを伝えに行くって!!」

 

それを聞いた三人、特にラクリーマに強い衝撃は通った。

 

「なんだとお!?……それでユノンはどこに!?」

 

「それが……っ」

 

「ユノンさんなら向こうへ泣きながら走り去っていきましたぜ!!」

 

レクシーが指を差し、ラクリーマは状況をゆっくり受け止めて、三人の方を見た。

 

「……わかった。あいつを追う。お前らも手伝ってくれないか!?」

 

「……リーダー、処刑は……」

 

「なしにきまってんだろオ!!!俺もあいつの本当の気持ちを聞きたい!!頼む、力を貸してくれ!!」

 

三人は互いに見つめあい、同時に頷いた。

 

「わかりやした!」

 

「僕たちも手伝うよ!!ねぇしずかちゃん!」

 

「ええっ!」

 

「……恩にきるぜ。レクシー、二人を連れて向こうを探してくれ。俺は反対側から探す!多分、テレポーターを使うからどこに行くかわかんねえ。

あいつを見つけたら通信機で伝えてくれ!俺も見つけたらお前に連絡をとる」

 

「了解しやした。仲間を総勢させますか?」

 

「いや、全員はちいとマズい。あいつ感づいて隠れちまったら面倒だ。

キツいがお前らと最小限の人数だけで探してくれないか?」

 

「わかりました。なら、二人とも行くぞ!!」

 

「「はいっ!」」

 

のび太達はラクリーマの反対方向へ去っていった。

 

「ありがとよ……お前ら」

 

彼は彼女の走り去った方向へ振り向いた時、

 

「つ……うっ!」

 

また怪我している患部に激痛が走る。しかも段々悪化し痛みが増していた。

 

「くそっ!!こんな痛みなんぞ……あいつの心の傷と比べたらぁ!!」

 

ラクリーマはわき腹を押さえて走っていった。

 

――彼らはユノンが行きそうな所へ向かった。自室、休憩広場、ブリッジ、開発エリア、etc……しかし、どこにも彼女の姿はなかった。部下たちに聞いても証言が定かではなく、まさに五里霧中であった。

 

「ちぃ、ユノンの奴、どこに行ったんだ!?」

 

ラクリーマは未だに見つからない彼女を探して艦内の至る所を走り回っていた。休みなしで走っていたためか、顔じゅう汗だらけである。しかし、それだけでないようである。

 

「はあっ……はあっ……っ!!」

 

息を切らし、わき腹と胸を押さえて立ち止まった。

 

「……ワリィな、無理させちまって……だが、耐えてくれよ!!」

 

一呼吸おいて、また走り出そうとした時、

 

『リーダー……リーダー、聞こえますか!?』

 

通信機からレクシーの声が聞こえた。

 

「レクシーか?どうだ?」

 

『聞いた話によるとユノンさんはどうやらプラントルームにいるようですぜ!』

 

「プラントルームだと?わかった、今すぐそっちに向かう!お前らもそこで合流だ」

 

――そして、多目的エリアのプラントルームで4人は再開した。

ブリッジに連絡を取り、オペレーターがモニターで確認すると彼女らしき人物がベンチに座っているのが確認され、未だ出ていないらしい。

 

「……あとは俺の出番だ。お前らには本当に感謝しねえとな」

 

「いやいや、これもリーダーのためですから。それに……」

 

のび太、特にしずかは何かを期待しているように輝かしい目をしている。

 

「ラクリーマ……ユノンさんに上手く伝わるといいね」

 

「わたし、信じてるわ。二人の思いが伝わることを……ガンバってください……」

 

「お前ら……っ。ククッ、照れるじゃねえか。なら行ってくる、三人は解散してくれ」

 

そう言い残し、彼はプラントルームのドアをまたいでいった。

 

◆ ◆ ◆

 

ユノンはプラントルームの中心のベンチで一人、黄昏ていた。

 

(やはり、自分より死んだ女のほうがいいのだろうか……。

確かにあたしみたいにこんな根暗で心の病んでいる女より、はるかにいいかもしれない。

その女が生きていたら諦めるかもしれないけど、今はもういない。なら自分の気持ちはどうなるの……?やっぱり、あの時なにも知らずに死んでいれば……っ)

 

これではしずかの言ったことが嘘だと感じ、彼女はため息をついた。

 

「ユノン、ここにいたか!」

 

「! ?」

 

ラクリーマがついに彼女と対面した。

 

「探したぜ。お前、まだ病み上がりのクセに無茶すんじゃねえよ!」

 

ユノンは顔を真っ赤にして、立ち上がると彼に背を向けた。

 

「おいおい、待てよ。こんな機会なかったから二人で話さねえか?」

 

「…………」

 

ラクリーマはユノンを無理やり座らせて、彼も隣に座った。

今の室内は夕焼けがかかり、オレンジ色の光が二人を包んでいた――。

 

「ここの花や植物すごくねえか?これは昔の恋人が咲かせたもんなんだぜ。まあ、ここまでは俺が大事に育てたがな」

 

「…………」

 

しかし、彼女は手を握り震えている……。

 

「俺はな、死ぬまでこいつらを育てるつもりだ。もし万が一、俺が早く死んだらお前がここを引き継――」

 

「何よ、あんたはあたしにその死んだ女の話をしてどうしたいのよ!」

 

「ユノン……っ!?」

 

「そんなにその女が好きなら早く死んであの世へ行けばいいじゃない!けど……あたしにどう責任とるつもりよぉ!?」

 

彼女は大粒の涙を浮かべた。そして唖然としているラクリーマに対して、ついに――

 

「あたし……あたし、あんたが好きなのよ!好きで好きでたまらなくなってしまったじゃないのぉ!!どうしてくれんのよォォっ!?」

 

「……ユノン……お前」

 

「けど……あんたはそのランって女が好きなんでしょ!!忘れられないんでしょ!!あたしの気持ちはどこに向けたらいいの!?」

 

「…………っ!!」

 

あのラクリーマが顔面蒼白となっていた。そう……ユノンも好きだがランのことがどうしても頭から離れられない。これが仇になった瞬間だった。

 

「おっ、俺はぁ……っ」

 

「無理しなくていいわよ。どうせあたしみたいに……性格悪くて無愛想で……根暗で……リストカットするような女が人を愛する資格なんてないのよォォ!!」

 

「ユノン!!」

 

彼女から涙が溢れだし、立ち上がるとすぐさま走り出した。彼も慌てて彼女に追い付き、腕を掴んだ。

 

「だから待てよ!!俺の話を聞けよ!!」

 

「離してよォ!!もうあんたと顔も合わせられないのよ!!処刑するなら今すぐしなさいよお!!」

 

「ユノン……」

 

「できないなら今すぐ自ら死んでやる!!」

 

ラクリーマは泣きじゃくり暴れる彼女の両肩を掴んで無理矢理焦点を合わせ、互いが見つめ合うような状態になった。

 

「なら俺も今ここで伝えてやんよぉ!ユノン、俺はお前が好きだ!!お前のその容姿、体格、声、性格、行動全てが愛しくてしょうがねえんだよぉ!!」

 

「…………」

 

彼女はその場て静かになった。ただ、「ハァ、ハァ」と息を小刻みに吐いている。

 

「ユノン、俺の前では女らしくなってくれないか?」

 

「キャア!」

 

彼女をお姫様抱っこをし、ベンチに座った。数十秒ほど経って、互いに顔も見ず、静かだった周りの空気が彼の声で途切れた。

 

「ああ、確かに俺はそのランって女が好きだった。情けねぇことに未だに夢の中に出てきては俺から離れていくんだよ」

 

彼の目はいつになく淋しさを伴っていた。

 

「前任のボスもランが好きだったらしくてな、そいつの気持ちを考慮して、俺はあいつを死ぬ直前まで、十分愛してやれなかったからかもしんねえ……」

 

「……あんたって極悪人だけどそこは人間くさいよね……」

 

「だから頼みがある。どうしてもランのことが頭から離れられなくて本当に困っている。

だからお前の力を貸してくれないか?俺の中にある「しこり」を追い出し、お前しか見れないようにしてくれ」

 

「あたしは……そんなことできる自信がない。第一恋愛したことが……」

 

「そんなの関係ねえよ、好きになったモン同士がな。俺はお前を幸せにできるように努力する、毎日好きなだけ愛してやる!」

 

ラクリーマに優しい笑みを浮かべて近い彼女の顔を見つめた。

 

「もう一度言うぜユノン。お前が好きだ、俺と付き合ってくれないか?」

 

「ほんとにあたしなんかでいいの……?」

 

「当たりめえじゃねえか。俺にはお前みたいなしっかり者が必要なんだよ」

 

彼女も笑みを浮かべていた。それも今まで見たことのない優しい笑顔で。それは美人である彼女をさらに引き立てることになった。

 

「……ふふっ、あんたってまるで甘えん坊の子供みたいね……」

 

「ククッ、そうかもしんねえな。だから頼むぜ、俺の……大好きなお姉ちゃんよお」

 

「……うん」

 

 

 

……そして室内は夜のように暗くなり、特殊なスポットで再現した月明かりの下で静かに濃厚な口づけを交わす二人の男女の姿があった。やっと二人の思いは重なり、至福の時を迎えた。

 

『嬉しい……っ、嬉しい……っ』

 

彼女は絶対離さないくらいに彼を強く抱きしめていた。そしてラクリーマもまた、やっとユノンと一緒になれて死ぬほど嬉しかった……二人は今ここで誓い合うーー。

 

 

「やったあああっ!!」

 

そしてブリッジではその様子を見ていた大勢の組織員は一斉に歓喜と祝福を上げた。しかしここまで綺麗にいくとは誰も思いもしなかった。

その中で、のび太、しずかも二人の姿に嬉しさと喜びが溢れかえっていた。

 

「二人とも似合ってるね……よかった」

 

「ええ、ラクリーマさんとユノンさん……ホントにきれい……」

 

「僕らもああいうふうになりたいね」

 

「ええっ……って!?どういう意味よのび太さん!?」

 

「どっ、どういう意味ってしずかちゃん……」

 

――ラクリーマは口づけを止め、彼女にこう言った。

 

「どうする?もしかしたらあいつらがこの中見てるかもしんねえぜ?続きは司令室でするか?」

 

その問いに彼女はクスッと笑った。

 

「……バカっ……」

 

 

 

 

 

――そして、モニターを眺める組織員達は何かを期待しているようにニヤついていた……。

 

「もしかしたらここで……うしししっ……」

 

「そりゃあたまんねえや!!」

 

「こうなったら全員で一部始終を観ようぜ!!」

 

「オオーーっ!!」

 

「やっ、やめろお前らーーっ!!いくらなんでも二人に失礼だろ!!それにここにのび太としずかがいるんだぞ!!」

 

大勢の息が合うなか、レクシーだけが顔を真っ赤に染めて慌てふためいていた。

 

「いいじゃねえか。それにのび太達にも勉強ということで!」

 

「だから二人にはまだ刺激が強いっていってんだよ!俺は絶対許さねえぞォーー!」

 

なんやかんやもめ事を言ってるうちに突然、プラントルームのモニタリングが切れ、映らなくなった。オペレーターがパネル操作しても全く反応がない。原因は……すぐに全員気づいた。

 

「あ~あっ……。リーダーの仕業だ」

 

「よく見たらドアもロックされてるみたいだな。これじゃあ観れねえぜ……」

 

「ちぇっ……」

 

落胆の言葉とため息が辺りに飛び交う。まあ、これで二人のプライベートは守られたわけで一件落着である。

当然、のび太達は一体中でどんなことが行われているのか想像できなかった。

 

一方、開発エリアでもこの映像が流れており、その様子にサイサリスは安心していた。

 

「…………」

 

だが少し、腑に落ちないような雰囲気も出していた……。

 

◆ ◆ ◆

 

次の日、エクセレクターの修理を終えてついに再発進した。ラクリーマによると、あと1日で地球のある銀河系の手前の宙域に行けるという。のび太達二人にとってはとても待ち遠しいことだ。しずかとのび太は通路を歩いていると前方から女性の姿がこちらに近づいてくる。

 

「ユノンさんだ」

 

「あっ!」

 

彼女はいつも通りの仕事に戻り、いつもと同じく飄々と歩いている。

 

「「お疲れ……さまです」」

 

「…………」

 

何も言わず、軽くお辞儀しただけで互いの横を通る。そこから数歩歩いた後、

 

「しずか?」

 

「はっ……はい!?」

 

「ありがとう、心の底から礼を言うわ。また……あたしの話相手になってくれないかしら?」

 

なんと彼女から感謝と誘いの言葉を言われて、二人はすぐに振り向いた。そしてしずかは嬉しさのあまり、顔をにんまりさせた

 

「ユノンさん……はい喜んで!」

 

「フフ……っ、楽しみにしてるわ。それからのび太君、戦闘訓練の時は本当にごめんなさいね」

 

彼女からの謝罪に彼は思わずびっくりして、

 

「い、いえ!それよりもユノンさんが元気になって僕も嬉しいですっ、あと僕もよければユノンさんとお話したいです!」

 

「のび太君……本当にありがとう。あなた達とはもっと早く出会うべきだったのかもしれないわね」

 

「ユノンさん……」

 

「なあんてね。じゃあまたーー」

 

彼女も笑い、歩き出した。今度はしずかが彼女に、

 

「最後にユノンさん?」

 

「……?」

 

「ラクリーマさんとお幸せにぃ!!」

 

満面な笑みで彼女に祝福の言葉を浴びせた。

 

「…………」

 

ユノンは二人の方へ振り向き、なんとピースサインをしてとびっきりの満面の笑みを返した。

美しく、可憐な印象を伺わせるほどで、それは彼女が心を開いたことを表す出来事であった。

それを見た二人はどれほど嬉しい事だろうか。言葉にできないほどであろう。

 

 

 

ーー長かったのび太達の旅もようやく終わりを迎えようとしていた。しかし、向こうには宇宙屈指の強大組織『銀河連邦』が待ち構えていることを、二人は知るよしもなかった。




次回から後半部になります。


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Part.34 決戦前夜

「うわああっ!!凄い!!」

 

「これが……エミリアさんの……」

 

「専用機かぁ!!カッコいい~~っ!」

 

エミリアはドラえもん達に艦内の隔離された格納庫の上空にて、とある戦闘機を見せていた。

 

それは彼女達が乗っていた偵察機とは違い、全体が綺麗なサファイア色のカラーが施され、左右に展開された折り畳まれた、まるで鳥のような特徴的な両主羽翼と尾翼、スラスター。まるで無駄な部分を省いたすっきりした胴体。燕そのもののフォルムだ。全長は、見る限り20メートル前後はありそうだ。

 

「これはあたしの専用機『イクスウェス』よ。あたし達はこれに乗って作戦に参加するわ」

 

三人はこのイクスウェスの勇姿に見とれていた。

 

「ふえっ~~。これはどのくらい速いんですか?」

 

スネ夫の質問に、何故か彼女は苦笑いしていた。

 

「これね……はっきり言って最高速は不明なのよ……っ」

 

「ええっ!!どうしてですか!?」

 

「……実はね、あたし半分の出力しか上げたことないの。機内にとてつもない衝撃がかかってね、テストした際にあたし……半分だけの出力でもあまりの衝撃で血を吐いちゃって……気絶しちゃった」

 

「「「…………」」」

 

その事実に三人の顔は生気を失ったように白くなった。血を吐く……傷から血が出るとかそんなもんじゃない。文字通りの意味で口から血を吐き、それは内臓に傷つけてしまい、下手をしたら潰れてしまう危険性が高いということである。

 

そんなことを引き起こす代物に自分達が乗り込むなんて……エミリア本人も耐えられないのにいくらなんでも無茶苦茶だ。命を捨てるようなモノである。

 

「けどね、今作戦にはこれを使う必要があるの。もし戦闘になれば確実に激戦は避けられないから、こちらもより強力な機体を使わないといけないのよ」

 

ジャイアンとスネ夫はその場でへたりこんだ。

 

「あっ~あ……。これで俺たちの短い人生も終わりかぁ……」

 

「最後に……最後にママの手料理たべたかったなぁ~~」

 

「だ か ら、ここでドラちゃんの道具を使うのよ。ねえ、何かないかしら?」

 

「何か道具は……そうだ、『テキオー灯』を使おう。これなら多分、衝撃に耐えられると思うよ」

 

ドラえもんはポケットからテキオー灯を取り出た瞬間、さっきまで落ち込んでいた二人は急に立ち上がり、キラキラした瞳をした。

 

「おおっ、あるじゃねえか!!」

 

「さすがはドラえもん!!」

 

落ち込んだり立ち直ったりと全く、忙しい奴らである。

 

「ただ問題は……あなた達の友達の安否が心配だわ。最悪の場合も充分考えられるし……」

 

そう言えば忘れていた。のび太としずかの生存状況を。二人のいるところは幾多の惑星の全てを奪う、凶暴で残虐性を特化した極悪宇宙海賊の本拠地である。

 

「そっそう言えばのび太としずかちゃんは……。ドラえもん、『タイムテレビ』は!」

 

「ちょっと待って……ええと、ええっと……ん?ああっ!!」

 

ドラえもんはポケットの中に手を入れたが、数秒後に大声を上げたがこれは……。

 

「どうした?」

 

「ああっ、ない、ない!!タイムテレビがどこにも見当たらない!!裏山に出しっぱなしだったぁーーっ!」

 

「「ええ~~っっ!!?」」

 

これでは二人の安否を確認しようにもできないではないか。

ジャイアンとスネ夫は怒りを炎のように燃え上がらせてドラえもんに突っかかった。

 

「このポンコツタヌキロボット~~っ!!」

 

「こんな時に役に立たないんだからぁ!!」

 

「うるさぁい!!なんで僕ばかり責任を押し付けるのさぁ!」

 

「…………」

 

モメ合いとなったとドラえもん達を尻目にエミリアは呆れるように「はあ~~っ」とため息をつき、

 

「いい加減にしなさいっっ!!」

 

「「「! ?」」」」

 

彼女の一喝にシーンと静まりかえった。

 

「ここに来る前に言わなかったかしら?『もしもの時は覚悟してね』って。あなた達はそれを理解した上でここに来たんでしょう!?」

 

「けど……のび太達に何かあったら……っ」

 

心配し、うつむくジャイアンにエミリアは。

 

「はっきり言って、その友達が生きている確率は非常に低いと思う。奴らは命を奪うことを、まるで作った積み木を崩すかのように何とも思っていない極悪集団よ。

あの時『タイムテレビ』を見る限り……その子達は侵入者扱いされてると推測できるわ。

あんな状況で助かるってよほどの運か勝算がない限り無理よ」

 

「…………」

 

彼女から無情な現実を突きつけられて三人は多大なショックを受ける。最もな正論である。まだ子供であるジャイアン、スネ夫にとっては精神的にキツい言葉であった。

 

「……だけど、『確率が非常に低い』だけで全くないわけじゃないからね。もしかしたら人質にされてるかもしれないし、または捕らわれているかもしれない……ということもあるから」

 

「エミリアさん……」

 

「とにかく希望は絶対捨てないこと。あきらめたらそこで終わりよ。一緒にその友達が無事であることを祈りましょう」

 

彼女から諭され、励まされ、落ち込んでいた三人は次第に表情が明るくなっていく。

 

「……そうだね、エミリアさんの言う通りだ。少ない可能性でも信じてみよう、二人とも!!」

 

「だな!!」

 

「エミリアさんはいいこと言うなぁ!」

 

「フフっ、そうよ、元気を出して前を見ましょう。私もあなた達を全力で守るつもりだから安心して」

 

ようやく活気が出始めて、雰囲気がよくなった三人はエミリアと共に希望を見いだした。のび太達が生きていることを信じて……。

 

「…………」

 

しかし、エミリアはどこか浮かない表情をしていた……。

 

(とは言うものの、現状況で作戦が上手くいくかしら。あまりにも戦力的にキツいし……)

 

……それはドラえもん達がヴァルミリオンに到着した日、何故かこちらに向かっているアマリーリスの銀河系進行阻止作戦の会議が開かれた。

 

――作戦室。本艦の各部隊の隊長と特殊任務を付与されたエミリアは、艦長カーマインを中心に中央部に配置されている作戦モニターを見ていた。

 

「アマリーリスがこちらに向かっていると言うことで我々が対処しなくてはならなくなったのだが……」

 

「本隊に連絡したところ、こちらに『ヴァールダイト級宇宙戦闘艦』5隻、『グラナティキ級宇宙巡洋艦』12隻、『ローレライス級宇宙運送艦』2隻、そして新型試作機と共に援護に向かわせたとの報告が……」

 

隣にいた副艦長の報告にカーマインはなんとも渋い表情をとり、顎をつまんだ――。

 

「一体本隊は何を考えているのだろう……。それだけの数で万が一戦闘になればアマリーリスを食い止められると思っているのか……」

 

援護支援にくる宇宙戦闘艦『ヴァールダイト級』はランクA級、宇宙巡洋艦『グラナティキ級』はランクB級のエネルギー質量しかもっていない。『ローレライス級』は主に戦闘機や戦闘ユニットの運用や積載目的の輸送艦船であり、武装は施されておらずS級の質量を持つアマリーリス艦、エクセレクターに真っ向から挑むには明らかに戦力不足であった。

 

「本隊の連絡によると、別の作戦によりランクS級宇宙艦は全て使用中ということで、これだけで対処してくれ……と。提督、これをどう考えます?」

 

「多分嘘も混じっている。上層部は“まあなんとかだろう”としか思ってないんだろう」

 

「それではまるで……」

 

「我々にどれだけ被害が出ようが代わりはいくらでもいると思っている」

 

全員が沈黙したままだった。これでは多大な被害と犠牲は避けられない。

アマリーリスは連邦にとってあまりにも未知数な勢力であり、どういう兵器、武装を装備し、どういう戦術で攻めてくるのかわからない。

ただわかっているのは……奴らの本拠地である宇宙艦が本艦と同等のエネルギー量と火力を有することだけであった。

 

「あまりにも理不尽かもしれないが任務は任務だ。現状況で作戦を遂行しなければならない。それでみんなの意見を聞きたい、何かいい案がないか?」

 

「はい。こちらの戦力が少ない以上、短期決戦に挑むのが望ましいと思います。相手の艦に集中砲火して撃沈させるのは……」

 

一人の隊員が提案するが、カーマインは納得いかない顔をしている。

 

「短期決戦は私も同意だが、話によるとなんでも地球から来たあの子たちの友達が手違いがあって、そこに乗り込んだらしい。安否が不明な以上、むやみに手を出せない、第一、撃沈というはあくまで最終的な手段だ」

 

「…………」

 

それから色々な意見が飛び交うが、どれも決定に至らず、難航をきわめていた。そんな中、一人の隊員が恐る恐る手を上げた――。

 

「案ではないのですが……その宇宙艦のエネルギー質量がS級ならば現時点でNPエネルギーしか考えられないと思うので超新星爆発に耐えうるほどの強力なバリアを展開すると推測できます。艦に配備されている機体で近づこうものならバリアに衝突し、一撃で消滅してしまうと思われるんですが……」

 

「うむ……っ。そのことなんだが、本司令部直属の科学部隊の実験があったのだが……どうやら同質量のNPエネルギー同士が衝突すると中和されると結果が出ている。なので、本艦の主砲を使用すればバリアを一撃で消滅させることができる」

 

「しかし、消滅させたとしてもNPエネルギーは半永久的に増加します。またバリアが復活するのは時間の問題です!」

 

「副長、バリアが解除された場合、再展開される時間は分かるか?」

 

「……本艦の科学部隊長によりますと、本艦と同性能であるならば、無から艦全体を覆うまで約5分かかります」

 

「ということは……主砲が直撃した瞬間から5分以内でアマリーリスの本拠地に突入しなけばならないわけだ。そう考えると『ホルス』、『アルスタシア』では不安だな。エミリア、イクスウェスの調整は?」

 

「はっ……はい、一応は。ですがテスト以来全く使用していません。情けないことですがあたしには到底使いこなせない代物でして……」

 

「そこでだ、あの子たちの道具を使用する。脱走で見せた、あの摩訶不思議な現象を起こせるのなら、必ず役立てるだろう」

 

「……そうですね。ドラちゃん達の力を借りれば……何とかなりそうですわ」

 

……そして様々な提案を組み、カーマインは両手を後ろに組み、コクッと頷いた。

 

「……なら、作戦はこうだ。こちらが警告し、降伏、投降に応じなければ今作戦を決行する。

まずは本艦が主砲の発射準備に移る。そのエネルギー収束中はこちらが無防備になるので、攻めてくるアマリーリスには支援する艦と戦闘ユニットで壁になってもらい時間を稼ぐ。

そして主砲発射し、アマリーリス艦のバリアを消滅させ、そこからエミリアとミルフィ、そしてあの子達の特別隊が5分以内でアマリーリス艦に突入し、生きていれば友達を救出、保護。そして奴らの行動阻止及び、機能停止させる。そこから我々が次々と突入し、組織員を逮捕する――。この作戦が賛成ならば拍手をしてくれ」

 

『パチパチっ……』と大勢の隊員の手を叩く音が聞こえた。

 

「よし。なら作戦はこの内容で可決する。なお、細部詳しい内容や情報はまた後ほど伝達する。以上だ。各自解散し、各隊に戻ってくれ」

 

全員はカーマインに一斉に敬礼した後、ずらずらと去っていく。エミリアもそれに乗って作戦室を出ようとした時、

 

「エミリア?」

 

カーマインはエミリアを呼び止め、彼女はすぐに彼の方へ振り向いた。

 

「さっきも言ったがお前にはアマリーリス艦に突入してもらう。自分とあの子達の分のシールドと予備のカートリッジを所持して参加してくれ」

 

「了解です」

 

「それに、あの子達の力を借りるといったが、あくまで保護対象の子供達だ。お前ばかり無理な事を押し付けて本当にすまないがあの子達を守ってやれ、いいな!」

 

「はい!!命に変えてもあの子達を守ってみせます!!」

 

ぱっちりとした瞳とハキハキした口調からやる気は十分感じられる。だが、彼の方は何か心配そうな表情をしていた。

 

「……そしてお前も絶対に無理をするな。もしも万が一、何かあったら私は……」

 

「提督?」

 

「いや、なんでない。早くあの子達の所へいってやれ」

 

「はっ……はい」

 

彼女は首を傾げて作戦室を後にした。

 

◆ ◆ ◆

 

エミリアとドラえもん達は武器倉庫に向かっていた。

 

「今からあなた達にシールドの使い方を教えるわ。これで大概の対人用エネルギー兵器、実弾兵器を防げるようになるの」

 

「シールド?」

 

「詳しくは武器倉庫内で教えるわ。私とあなた達は奴らの本拠地に直接乗り込むことになったから、死なないためにも身を守る物を持ちましょう」

 

「乗り込む?そのアマリーリスの艦にですか?」

 

「ええ。詳しい内容はあとでみんなに伝えるわ。危険だけど力を合わせて頑張りましょ!!」

 

「「「…………」」」

 

急な不安と恐怖に駆られる三人。死なないためと聞かれたら、やっぱり下手したら死ぬんだ……。

危険てのはわかってたけどいざそう言われたら平然といれなくなる。

 

「と、ところでミルフィちゃんはどこに?」

 

「さあ……そういえば見かけてないわね」

 

彼女達は前方の幅広い十字路に差し掛かった時、

 

「ちょっ……どうゆうことヨ!!」

 

四人の耳に聞き覚えのある甲高い女の子の声が入ってくる。

左側の通路にそっと覗き見るとそこにはミルフィとあの男、コモドスの二人が会話をしていた。しかし二人の様子を見るかぎり、どうやら楽しい会話ではなさそうだった。

 

 

「コモドス……あなた……っ」

 

「…………」

 

コモドスは顔色一つ変えないで黙っている。

 

「コモドス、あなたはあんな人の言いなりになる必要なんかないヨ!!」

 

「……しょうがないんだ。でないと……」

 

二人の会話は意味深しげなことばかり聞こえてくる。

 

「すまない、ミルフィ……」

 

「ああっ、待ってヨ!!」

 

去っていく彼にミルフィはその場で立ち尽くしていた。

 

「ミルフィちゃん……どうしたんだろ?」

 

「さあっ……」

 

「……今は話しかけられる雰囲気じゃないわね。行きましょう」

 

四人はミルフィとは反対方向へ曲がり、その途中でエミリアは彼女の方へチラッと振り向いた。

 

(ミルフィ……)

 

その後、宙に浮きフラフラ漂いながら去っていく彼女の後ろ姿は、どこか悲しさがにじみ出ていた。

 

……武器倉庫。艦内の全隊員の装備品一式が保管されている場所である。拳銃やライフル銃、光学兵器や重兵器などの武器系統は勿論、、ガスマスクや弾装、弾薬やエミリアの言っていたシールドといった装備品なども保管されている。彼女の専用武装『テレサ』、『ユンク』も普段はここに保管してある。ドラえもん達が彼女に連れてこられた場所は、何やら高さ、幅……はわからない位に広くそびえ立つ金属の箱だ。

 

よく見ると、『とって』がないが引き出しのような四角い区切りがあるのが分かる。彼女はリフトを使い、約4メートル程の高さに上り、その『引き出し』部分に手を当てた。

『ウィィーン……』と静かに引き出しが開き、中にはまるで昔のレコード盤の似た、分厚く幅広い円盤と四角い電池のような金属物質が納められていた。それらを取りだし、引き出しを閉めて三人の元に戻る。

 

「これがシールドよ」

 

その2つを三人に見えるように掲げた。

 

「これがシールド……ね」

 

「どうやって使うんですか?」

 

「使い方はいたって簡単よ。まずこれをお腹の部分につけて固定する。そして、真ん中のボタンを押すだけ」

 

彼女がその通りに動作するとその円盤の四方から淡く蒼白い光が放出し、彼女を取り巻いた。

 

「これでシールドは展開されたわ。試しにタケシくん、あたしにパンチしてみて?」

 

「いいんですかホントに……」

 

「ええっ、本気でもかまわないわ」

 

「なら……うおりゃあ!!」

 

彼は本気で彼女に拳を振り込んだ。が、エミリアの周りにエネルギーの膜が展開されて、拳が膜に衝突した瞬間に弾け飛んだ。

 

「うわあっ!!バチバチしたぁ~~っ」

 

「すごぉい!!」

 

三人はシールドの効果に目を奪われた。

 

「これで大体の対人兵器は防げるわ。けどあまりにも威力が高い攻撃や連続で攻撃を受け続けるとエネルギー切れでシールドが破壊されて効果がなくなるから注意が必要よ。もしエネルギーがなくなったらこのカートリッジで回復させることが可能よ」

 

突然、ドラえもんは急に大きく息をはいた。

 

「よかったぁ、『バリヤーポイント』は点検でドラミに預けてたからどうしようかと思ったよ」

 

「たくぅ。こういう時に限っていい道具を持ってきてないんだから……」

 

そうスネ夫は本人に気付かない声で愚痴っていた……。

 

「それであなた達も何か武器を持った方がいいわ。けどあなた達には殺生をさせたくないから、なんか気絶させられる程度の武装があれば……」

 

「それならえっと、『ころばしや』、『ショックガン』、『空気砲』、『アタールガン』、『コエカタマリン』、『時限バカ弾』、『ふわふわ銃』、『ペンシルミサイル』、『ひらりマント』…………『マイク』……『こしょう』……?」

 

ドラえもんはポケットから色々な道具を引き出したが中には変な物も混じっている……。

 

「二人とも、好きな道具を選んで。これで気絶か一時しのぎぐらいならなんとかなるはずだ」

 

「サンキュー、ドラえもん!」

 

ジャイアンとスネ夫はそれぞれの道具を選び持っだ。が、

 

「おお、マイクがあるじゃねえか。何か歌いたくなってきたなぁ。ならここは景気づけに一曲……」

 

「「うわあああっ!!」」

 

ジャイアンがマイクを手に取った瞬間、ドラえもんとスネ夫は急に慌てふため始めた。

 

「ジャイアン!!今は抑えて!!ねっ!?」

 

「ここじゃなくてもっと良いとこで歌いなよ!!」

 

「そうか……」

 

二人に説得され、彼は手を下ろす。止めたことで二人は内心ほっとしていた。それもそのハズである。

ジャイアンは歌うのが好きなのだが、肝心の歌のほうは壊滅的に音痴であった。

たまに空き地でリサイタルを行うが、そのたびに呼んだ人を恐怖と絶望のどん底に叩き落す。中には『これだけで人を殺せる』と言った人がいるほどであり、二人が止めたのは正解である。

 

「…………?」

 

そのやりとりを事情の知らないエミリアはただポカーンと見ていた。

 

「ようエミリア!」

 

一人の男性隊員が彼らの元に現れた。皮膚が赤く、髪の毛がない代わりに鬼のような角が生えてる以外はジャイアン達地球人とほぼ同じであった。顔立ちは凛々しくはつらつとしており服装はエミリアと同じで違う所は襟元の職種を表す職彰の形が違う所である。

 

「あらクーちゃん。装備品の整備?」

 

「ああ、エミリアは?」

 

「この子達にシールドの使い方を教えてたのよ。みんな紹介するわ。彼は……」

 

「俺が自分で紹介するよ。俺はクーリッジ。ヴァルミリオン艦所属の第82光特科小隊長を勤めてる。君らは例の地球人だな、どうか今後ともよろしく!」

 

特科とは砲兵器主体で戦闘、後方支援攻撃を任されている部隊のことである。『光』と言うのは光学兵器のことであり、つまり、光学系の砲兵器を使用する部隊である(ちなみにエミリアとミルフィは偵察部隊であり、カーマインは艦長兼偵察部隊長である)。

 

その好男性の第一印象を持つ彼、クーリッジは爽やかな笑顔で手を差しのべた。

 

「「「はじめまして!!よろしくお願いします」」」

 

「元気でいい声してるな。それができれば上出来だよ」

 

笑顔で握手を交わす三人。あのサルビエスのように性格が悪くなさそうだ。現にエミリアの表情は和やかである。

 

「それにしても大変な任務を任されたな、エミリア」

 

「ええっ……」

 

クーリッジは彼女の肩に優しく置いた。

 

「無理すんなよ。俺はお前に死んでほしくない。友達を失うのは嫌だからな……」

 

「クーちゃん……」

 

「三人とも、どうかエミリアと今はここにいないがパートナーのミルフィの助けになってやってくれ。心から頼むぞ」

 

「「「はい、任せてください!!」」」

 

「君らならあまり心配なさそうだな、安心したよ!」

 

三人は仲良く話すエミリアとクーリッジの二人を見て、和むであった。

 

「いい人みたいだね」

 

「うん。エミリアさんもいい顔してるね」

 

それもそのはず、彼はエミリアの同期生の一人で且つ、ボーイフレンドの中でも一番仲の良い人物であった――。

 

◆ ◆ ◆

 

一時、探知していたアマリーリスの動きが止まり、勘づいて進路変更するかもと騒がれたが、それもなく2日後にはこちらの方へ動きだしたのを確認され、一応の作戦が狂わずに済んだのであった。

 

……そして、奴らがあと1日でこちらの宙域に到着するとミルフィ達オペレーターによって確定され、それぞれ迎え撃つ準備に取りかかった。

中央デッキでは、カーマイン以下、直属の兵士達がモニターに映る、この宙域周辺の映像を見ていた。

 

「各艦、配置完了しました」

 

「了解、だが油断するな。進路変更する可能性は十分考えられるからな」

 

モニターを見ると、ヴァルミリオンを中心に左右にヴァールダイト級5隻、両端側にはグラナティキ級12隻、両最端にはローレライス級の計二十隻がお互いが衝突しないように距離を空けながら弧を描くように並んでいた。A級、B級クラスであるヴァールダイト、グラナティキの全長はヴァルミリオンよりサイズは小さいがやはり超巨大である。

日本列島と同等であるのだから、普通の人間からしてみればとても想像できるわけがない。ローレライス級に至ってはこの二隻よりも大きく、積載出来る戦闘機、ユニットの数は約二万機と途方もない。

 

銀河連邦はそれらを無数に所有しているため、全宇宙でも屈指の戦力を持つのである。

 

「本艦の各兵器、戦闘ユニットの方は?」

 

「ほぼ全機、整備完了とのことです」

 

「そうか、このあと艦内で簡単な壮行会を開こうと思ってる、多少の料理と酒を出そうかなと、どうかな?」

 

「いいと思います。きっと隊員達の気晴らしになると思いますよ」

 

「わかった。これない者も何か差し入れでもしよう」

 

その場にいる隊員達はそれを聞いて大いに喜んでいる。

……しかし、微笑ましい話の最中、彼は目を瞑り、こう言った。

 

「犠牲は避けられないな……今作戦を決行すれば……」

 

「…………」

 

明るい声が聞こえる中、彼と副長は無言になる。

本当なら犠牲者を出したくないがS級の攻撃を受けたらこちらもただでは済まないのはわかっていた。ましてや相手は極悪組織だ、戦闘になれば情け無用の攻撃を仕掛けてくるだろう。

今作戦の総司令を務めるカーマインからすれば、所属隊、種族は違えど仲間である隊員たちの命をここで散らせたくないのである。

 

「……大丈夫ですよ。どんな結果になろうとあなたについていきます。少なくとも私や本艦全員は善を尽くせれば本望ですよ」

 

「副長……」

 

副長の励ましに彼は目を開いて小さく頷いた。

 

「頼むぞ、副長。私に力を貸してくれ」

 

「はい!」

 

二人は心を一つにして心に決めた。必ずやアマリーリスを逮捕、壊滅させることを――。

 

◆ ◆ ◆

 

その頃、アマリーリスはワープホール空間へ移動していた。

訓練エリア、座学室内では。

 

「……お前、本気か?」

 

「ああっ」

 

中でレクシーとユーダがなにやら話をしていた。

 

「なんで脱走なんか……?」

 

「ここの奴らが気に食わん。気持ちワリィぐらいに馴れ合いなぞしやがって……リーダーからしてあんなんだ。ここは俺の居るべき場所じゃない」

 

ユーダはどうやら脱走を企てているらしい。

 

「……けどお前、今まで生きてこれたのもアマリーリスのおかげだぞ!脱走がバレたら今度こそリーダーに抹殺されるぞ!!」

 

「へっ、隙を見てバレねぇようにすんだよ。レクシー、誰にもいうじゃねえよ。もし言ったら真っ先にお前を殺してやるからな」

 

「……仮に脱走に成功したとして外に行ってももうお前に居場所なんかねえよ。俺らみたいに大罪を犯しまくった奴はどこにいっても、仲間外れにされて惨めな思いになって……最終的にまた捕まって死刑になるのがオチだよ、特にお前みたいに人を絶対に信用しないヤツはな」

 

「けっ、余計なお世話だ」

 

「それに比べたらここは天国みたいなもんじゃねえか。悪い事は言わねえ、脱走なんかやめとけ!」

 

レクシーが必死で説得するが、ユーダは全く聞いていない。

 

「もういい。お前と話しても意味がない、俺は行くぜ。誰にもいうんじゃねえぞ、分かったな?」

 

脅し口調で言った後、ユーダは去っていった。

 

「あのバカが……。なんで分からねえんだ……」

 

レクシーはすっかり落胆して深くため息をついていた。

 

◆ ◆ ◆

 

数時間後、ヴァルミリオン内では艦内の者だけで即席の壮行パーティーが開かれた。

 

酒は一杯くらいしか飲めなかったが、今まで作戦準備で気を張り続けていた隊員達にとって、幸せの一時であった。

もちろん、エミリア、ドラえもん達も参加し、色んな隊員達と話したりと大いに楽しんでいた。

 

……そしてパーティーも終わり、なにもない隊員達は明日に向けた休眠をとりはじめていた頃――艦内の中央フロア。

エクセレクターの休憩広場のように広く、天井一面に張り巡らせたウィンドウから見る宇宙はなんとも壮大で幻想的である。

その中の隅のソファーではエミリアが何か思い詰めた表情しながら座っている。

そこはあまり明るくないため、彼女はサングラスを外していた。

 

「……エミリア?」

 

「あっ、提督……?」

 

偶然、カーマインが姿を現し互いに目を向き合う。

 

「眠れないのか……」

 

「ええっ……」

 

彼女の声に元気がないことを彼は感じ取っていた。

 

「となりに座っていいか?」

 

「どうぞ……」

 

彼は彼女の横に座るとゆっくり息を吐いた。……沈黙の時間がただ流れる。二人ともなぜか口を開こうとしなかった。が、

 

「提督……」

 

「どうした?」

 

エミリアは悲しそうな表情で彼の方へ向いた。

 

「私……自信がないんです。あの子達をちゃんと守りきれるどうか……それに……」

 

「それに?」

 

「私は奴らを、アマリーリスをものすごく憎んでいます……。

レイドを……同胞を……わたしの全てを奪ったあの悪魔達を……わたし、絶対に憎しみに負けて殺してしまうかもしれないです……。提督はそれを望んでいないでしょう……?わたし、どうしたら……」

 

彼女は打ち明けた。口に出さなかったが彼女は今までそれを悩んでいた。彼女は奴らの被害者。犠牲になった人達、そして殺された恋人の敵討ちをしたくてたまらない。だが、彼女は軍人であり、警察の役目を持つ役職でその考えはあまりにも個人的な報復行為である。

 

「……実はな、私もお前をこの任務につかせることに今も悩んでいる」

 

「……どういうことですか?」

 

「この任務は一番危険だ。命を失う危険性が非常に高い。

まして、あの子達の命までも危険にさらさせるなんて……私は提督失格だな。現に私はこの作戦が終われば全ての責任を背負って辞表を出そうと思っている、人によっては逃げたと思われるがそれでもいい。だが万が一、お前達にもしものことがあれば、私も一緒にお前のあとを追う覚悟だ」

 

「えっ……そんな……っ」

 

「実はもう妻と子に遺書を書いて遺してる。私はそれほどまでに覚悟を決めている。だからエミリア達を信じてこの任務をつかせたのだ」

 

「提督……」

 

彼はエミリアの肩に手を触れて、優しい笑顔をとった。

 

「奴らを殺すか殺さないかはお前の判断だ、私はもう何も言わない、自分で決めろ。

私の願いはただひとつ、絶対に死ぬな、そしてあの子達を守りぬいてくれ

あの子達と心を一つにして協力すれば、善は絶対にお前達を導いてくれるハズだ」

 

「提督……ううっ……」

 

彼の優しい言葉に彼女は涙を流していた。

 

「エミリア……頼んだぞ」

 

「はっ……はい!!」

 

その返事は十分に気合いのこもった発音であった。彼女は気持ちを入れ直し、来るべき明日へ心を決めたのであった――。



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Part.35 対峙

そして来る日。ワープホール空間。エクセレクター艦内、ブリッジでは部下達と共にラクリーマ、隣にのび太があとわずかに迫った地球を心待ちしていた。

 

「お前らにはホント世話になった。これはアマリーリスのリーダーとして礼を言う。

といってもしてやれることは地球に帰すことぐらいだけだが……」

 

「いやぁ~~それほどでもないよ」

 

のび太は見るも恥ずかしいくらいにデレデレしている。

 

「もう少しで地球に到着する。のび太との約束事を果たして、連邦がこないうちにずらかるか」

 

……のび太は突然、こう言い出した。

 

「また……会えるよね?」

 

「のび太?」

 

「僕、またラクリーマやここの人達と一緒に宇宙や色んな惑星へ旅をしたい!!今度はしずかちゃんの他に友達を連れてさぁ!ねえ、いいでしょ!?また地球に立ち寄ってよ!!」

 

どうやらここにいる間にのび太はアマリーリスを気に入ってしまったようだ。

彼はそうせがんでいるが、ラクリーマはまるでまともに受け取ってないかのように鼻で笑った。

 

「はっきり言って無理だ」

 

即答であった。

 

「ええっ!どうして!?」

 

「理由?あたりめえじゃねえか」

 

「…………」

 

「俺は地球に襲わないと約束したが、それはもう二度と訪れないと言う意味も含めて言った。また来ると地球を侵略したくなるかもしれんからな」

 

「けど……」

 

「それに前に言わなかったか?俺らとお前らは根本的に考えが違うとな」

 

そういえば、ここに来た時に彼がその「互いは根本的に違う」を言っていたのを思い出した。しかし、のび太はあまり意味は深くないと気にしてなかった。

 

「元々、お前らは侵入者で対面した時に俺が殺すはずだったが、早撃ち勝負でお前が勝ったから義理で助けて地球に送っている。本当なら俺達から見ればお前ら二人は敵同士で、絶対に相容れない存在だ」

 

「けど……僕らはここの人達に優しくしてもらったよ!?敵だなんて……思いたくない……」

 

「これだけは言っておく。お前らが俺らに対してどんな印象を抱いてるか知らねえが結局はそりがあわねんだよ、俺達は『悪』だ。

もし万が一、またお前と出会ったらその時は俺は今度こそ容赦しねえ。お前を絶対に殺す。約束を果たしたらもう今までのことはなかったことになるからな、これは特例と思え」

 

「そんなぁ……」

 

「それになぁ、あんまり行きたくねえんだよ。地球周辺にはな」

 

「……えっ?」

 

「多分……今に分かるぜ」

 

その時の彼は、何処か思い詰めているようにも見えた。

 

「リーダー、ワープホール空間からでます」

 

オペレーターの指示があり、彼はモニターを見上げた。

 

「艦内に告ぐ。いつでも戦闘に移行できるよう、素早く準備しろ。各戦闘員は格納庫で待機、それ以外の者はそれぞれ持ち場につけ!」

 

突然、戦闘準備を命令するラクリーマ。一体何が起きたのだろう……。甲高いサイレンまで鳴り響き始め、辺りは騒然となっている。

 

「ユノン、仕事を切り上げて早くブリッジにこい。本命のおでましだ!」

 

彼の言う本命とはモチロン……。

 

……この巨大な宇宙船はワープ空間という次元の裂け目からまるで王者がお出ましたようにゆっくりと勇ましく抜け出した。が、それはスグに終わりを迎えた。

 

「ラクリーマさん、前方12000ギャロの左右に計二十隻の宇宙艦が展開しています!

エネルギー質量『ランクB級』12隻、『ランクA級』7隻、そして『ランクS級』が1隻……もしかしてコイツらが!!」

 

「そうだ、俺達の最大の敵『銀河連邦』だっ!!」

 

ついにかち合う両勢力、今まで対立どころか対面さえなかったこの時を、特に銀河連邦は待ちわびていた。

 

「これがアマリ―リス艦……」

 

連邦側から見たエクセレクターの印象は女性の顔を呈した艦首は、妖しさもあり、そして不気味さを感じさせた。

そしてさることながら、ヴァルミリオンと同等といっていいほどに巨大と思わせるほどの存在感と威圧感を放ち、隊員たちを畏怖させていた。

 

無論、アマリ―リスもその自分達より戦力が圧倒的に上である銀河連邦に対面してしまったことにより、戸惑いを隠せずにいた。モニターには20隻の銀河連邦艦が自分達を睨み付けているようにこちらの方へ向いている。

 

逃げ道などない、背を向けて逃げようにも無理がありすぎるし、そうしようものならたちまち集中放火を受けて、完全に宇宙のチリと化してしまうだろう。

 

「ワープしようにも敵艦より向こうでないと空間を形成できません!!」

 

「……さすがは連邦だな。まさかとは思ってたが俺達のワープ到着地点をピンポイントで計算して待ち伏せだなんて……恐れ入ったぜ」

 

「これじゃあ袋小路ですよ!」

 

オペレーター含む、周りの部下たちは徐々に焦りはじめている。ラクリーマただ一人だけがいつもと似合わず冷静さを保っていた。

 

「とりあえず策はある……連邦にこちらの映像を送れるか?」

 

「……なんとかやってみます!」

 

オペレーター達はパネルとキーをカタカタ動かし始めた――。

……一方、連邦もこちらからアマリ―リスに警告を出す作業に取りかかっていた。ヴァルミリオン艦内の中央デッキではカーマイン筆頭にドラえもん達、エミリアとミルフィ含む、各主要人物が宇宙空間で静止しているエクセレクターを捉えたモニターを見ていた。

 

「あの中に……のび太としずかちゃんが」

 

「……僕、なんか怖くなってきた……」

 

「…………」

 

ドラえもん達三人は不安であった。

のび太達はちゃんと生きているのか、もし生きているとしても見事、救い出せるのかが心配でたまらなかった。

 

「エミリア……大丈夫?」

 

「えっ、何を……」

 

「…………」

 

また、ミルフィも憎い敵を前にして顔を深くしわを寄せているエミリアを心配していた。

 

「提督、急にモニターが!」

 

「どうしたことだ!?」

 

……突然、モニターがザーザーと言う音と共に歪みだし、モニターを見ていた全員が驚愕する。オペレーターは必死で直そうと試みるが。

 

「一体原因は……アアッ、何かがモニターに割り込んできます!!」

 

「何だと!?」

 

乱れていたモニターから何か人間の顔のようなシルエットが浮かび上がり、徐々にその姿が明白に表れ――。

 

『ご機嫌よう、銀河連邦の方々。初のご対面かな?』

 

浮かび上がったその顔はボサボサした銀髪、真紅に燃えた螺旋の瞳、顔の至る所にたどたどしく浮かび上がっている傷、まるで状況をわかってないのか、それとも何か絶大な自信があるのか理解し難いほどに不敵な笑みをとる男の顔がモニターに映り込んでいた。

 

『俺はこのアマリーリスのリーダーのラクリーマ・ベイバルグだ』

 

彼の堂々とした名乗りに見ている者全員が驚きを隠せなかった。この男は若い。自分達が想像していたのと比べて遥かに若く見えた。張りのある肌に、傷だらけであるが若者特有のはち切れんばかりの精気が感じさせる。

 

……10代後半から20代前半ぐらいの歳と思われる。こんな青年がこの極悪組織をまとめていると考えたら……恐ろしい以外に何事でもなかった。

カーマインはその彼の通信映像を冷静に見つめ、静かに口を開いた。

 

「自ら名乗り出るとはなかなかの度胸を持っているではないか」

 

『別に隠す気はないんでね。むしろ宇宙屈指の銀河連邦『さん』に俺の名を覚えてもらうこと自体が光栄だ』

 

「そんな心配はいらない、今にお前達の名が全域に知れるようになる」

 

『…………』

 

「大人しく投降しなさい。我々は無益な武力行使は行いたくない。素直に応じればお前達の罪は絶対軽くなるぞ。応じない場合はどうなるか、わかるだろう?」

 

彼の要求にラクリーマは一旦、沈黙する。しかし、次第に閉じていた唇が開くとそこに並んだ真っ白い歯が閉じており、壁のようにその奥を遮っていた。

 

唇は左方向に向かって斜め上に引き上っていた。

 

……彼は笑っていた。

 

『実はな、こちらには二人の地球人のガキが入り込んでいてなあ?』

 

その発言にドラえもん達、エミリアとミルフィが敏感に反応した。

 

「……のび太達だ!!」

 

「間違いないよ!!」

 

「やっぱり乗ってたんだ……」

 

三人は確信した。そしてエクセレクターではついさっきブリッジに到着したユノンと一緒のしずかはすぐにのび太達の方へ向かう。ユノンは相変わらず焦る素振りを見せず、冷静に歩いてくる。

 

「のび太さん、ラクリーマさん、これは一体……」

 

「僕もよくわかんないんだよ……」

 

状況が全く掴めていない二人にラクリーマが手招きする。

 

「二人共、ちょっとこい」

 

「「?」」

 

二人はラクリーマの指示で彼の前に立たされた。

 

「のび太君としずかちゃんだ!」

 

「アアッ、ホントだ!!」

 

モニター越しであるがドラえもん達の目の前でついに姿を見せるのび太達。

 

これで連邦全員にとって、一つの不安はなくなった。

 

「いっ、生きてたんだ……よかったぁ~~っ!」

 

ドラえもん、ジャイアン、スネ夫の三人はどれほど嬉しいことか……。しかも二人には傷ひとつ見あたらないのはこちらからは正に奇跡としか言い様がなかった。

 

『コイツらには傷一つもつけてねえぜ。 そこでよ、取引しねえか? 』

 

「取引……だと?」

 

『なあに。別に難しいことじゃない、俺らもこんなとこで御用になりたくないんでね。今回限りでいいんで何もせず俺達を見逃してくれればそれでいい』

 

「…………」

 

『この要求を飲んでくれれば今すぐにでもこの二人をそっちに明け渡そう。約束は必ず守るつもりだ』

 

「もしその要求に応じなければ……」

 

『その時はこいつらがどうなるか、そっちもわかるだろう?クククッ……』

 

警告を与えるつもりが逆にあちらから交渉という予想だにしなかった出来事である。

 

『まあ、俺達は別に急いでなければ焦ってもねえし、どれだけでも待ってやる。せいぜい悩んで決めな。俺はどちらでもかまわないがなるべく互いに穏便且つ後腐れのねえよう済ましたいもんだな。それじゃ取りあえず一時間後にまた聞きにくるから楽しみにしてるぜ』

 

そしてラクリーマの顔は消えて、普通のモニター映像へ戻った。辺りは静かであるがどこからかひそひそ話も聞こえてくる。

 

「提督、奴らの要求を受けますか?」

 

「…………」

 

はっきり言ってカーマインは悩みに悩んでいる。

 

要求を無視してアマリ―リス逮捕を実行しようものならそれこそ、ドラえもん達の友達を見殺しにすることになる。それではこの子達の約束を破ることになり、憎まれるかもしれないし提督としての信頼を一切失うことになるかもしれない。

しかしここで捕まえなければ、さらなる惑星、生物が危険にさらされることになる。

今回はかなり奇跡に近い、あちらから出向いてくると言う絶好の機会を逃せばいつまた対面するか分からない。

宇宙中の至る宙域には様々の部隊が駐屯しているにもかかわらず、一回も出くわさなかったのだから、次にまた見つけるのは至難だ。

 

それにこちらの信頼や誇りにも関わる問題など、考えたらキリがない。

 

……心を鬼にして仕事を優先するか、その場の情を選ぶか……。

本来なら情より任務を優先させるのが正しい。それは彼でも分かる。

しかし後ろに振り返るとあの子達が友達を何とか助けてほしいと言いたそうな瞳で自分を見ている。それが彼を戸惑わせる要因になった。

 

「提督、奴らの要求に応じなければこの子達の友達は……」

 

「しっ、しかし奴らを見逃せばますます被害と犠牲者が増えるぞ!!」

 

「じゃあ何かいい案でもあるのか!?」

 

「今考えてるんだよ!」

 

中央デッキ内ではあれでもないこれでもない討論が巻き起こり、ピリピリと緊迫感が充満する空気が蔓延した。

 

 

《静まらんかぁっっ!!》

 

シビレを切らした提督の力強い渇がこの中を一瞬で鎮まりかえらせた。

 

「時間をくれ。ここにいる全員と各艦長と相談した上で最終的に私が決める。これは私一人の独断ではいけない……」

 

今の彼は平然とした態度でいるが、内心は切羽つまっていると考えられる。ここにいるほとんどの者がそう思えるのであった。

 

「君達、少し待っててくれ。私もあの二人を助けたいのは山々だ……わかってくれ」

 

ドラえもん達にそう尋ねるカーマイン。

本人達も彼からただならぬ真剣で苦しい思いが伝わり感じている。

 

スネ夫、ジャイアン、そしてドラえもんの三人は互いに見向き合い、うんと頷くと彼に目を向けた。

 

「分かりました。僕たちもあなたの考えに全てを委ねます。こんな時にワガママを言うつもりはありません!」

 

「けど、出来ればのび太達を助ける方向で……」

 

「そこは俺もスネ夫の考えに賛成だ。けどドラえもんの言うとおり、俺達はここの人たちと協力するつもりでここに来たんだ、自分勝手なことは言わない。

それに……あんな悪党どもを逃すほど許せるわけないからな!カーマイン提督、頼みます」

 

三人の意見に彼も少しであるが表情が和らいだ。

 

「ありがとう君達。もう一度言う。全員に悪いと思うがどうか時間をくれ。考えて考え抜きたい、そして最良の決断を下したい」

 

……誰も否せず全員は一斉に賛成の意を込めて首を縦に降った。



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Part.36 開戦①

「やっぱり連邦だったの?」

 

「ああ。お前の言うとおり、奴らとの接触は避けられなかったよ」

 

エクセレクターのブリッジの空間モニター前で、ラクリーマとユノン、そしてのび太としずかが遥か前方で待ち構える連邦艦隊を凝視している。

 

取りあえず、こちらからは交渉を出し、考えさせる時間を与えている間はこちらももしもの時の為に策を練らねばならなかった。あちらも絶対に自分の要求を飲むとは言えないからである。

 

「すまねえな。お前の忠告をちゃんと聞いてれば……」

 

彼は空いていたイスに腰かけてフウっとゆっくり息を吐く。

 

「過ぎたことはもうしょうがないわ。それよりアレ、連邦に通じた?」

 

「今、その返答を待っているトコだ。とりあえず一時間後に返答を聞きにまた連邦と通信するつもりだ」

 

ユノンは腕組みし、横目で彼を見ると目を瞑っている。

 

「連邦が要求を飲むか飲まないかでこちらの命運が変わるな。万が一、ここで戦闘になれば最悪の場合……アマリ―リスはここで終わりになるやもしれん」

 

ラクリーマらしかぬ弱気な発言を吐く。今の彼はとても苦悩しているに違いない。

 

「フフっ……いつもなら前向きに事を見据えるラクリーマが弱腰とはね。あんたらしくないわ」

 

「ユノン?」

 

顔を見上げると彼女は目を閉じて微笑している。

 

「私達全員はあんたを頼りにしているからついていってるの。別にあんたのせいだなんて思ってないわ。いつかは向こうと出くわすと思ってたけど……それがたまたま今日だったってだけよ」

 

「だが……」

 

「ラクリーマ、あんたは自分の思った通りにやればいいの。リーダーなんだから。それより今はどう切り抜けるか考えるのが妥当であって?」

 

「ユノン……、確かにお前の言う通りだ」

 

あのユノンから励ましの言葉を貰う彼は不思議と嬉しい気分になった。

 

「お前、ホントに変わったな!」

 

「礼ならあの子らに言ってくれないかしら?」

 

ラクリーマは、これから何が起こるのか分からず、心配しているのか浮かない表情でモニターを見ているのび太としずかの二人に目を向けた。

 

「なあ二人とも」

 

彼のかけ声にビクッと反応した。

 

「ラクリーマ……?」

 

「はっ、はいっ……?」

 

そんな二人を彼に頭の後ろに両手を回し、普段しているようなニヤっとした笑みをとる。

 

「何をそんなに心配してんだ?」

 

「これから……一体何が……」

 

「……起こるんですか?」

 

質問する二人をまるで心配するなと言わんばかりな態度でこう告げた。

 

「俺達はどんなカタチになろうが、お前らを絶対地球に帰してやるから安心しろ!」

 

「…………」

 

「そうだ。交渉成立した時にこいつらを明け渡す準備でもしておくか。たしか二人乗り用の脱出ポッドがあったハズだ」

 

オペレーターはすぐにコンピューターで艦内を検索する。

 

「……第15格納庫に配置してあります。ならもう起動させておきますか?」

 

「おう。あと格納庫にいる戦闘員にしばらく待機するよう言っといてくれ」

 

「了解」

 

「あとはあちらが素直に応じてくれるのを信じて待つかーー」

 

そして彼は深くイスに持たれかけた。

 

「ラクリーマ……聞きたいことがあるんだけど」

 

「どうしたのび太?」

 

「前にいるずらりと並んでるのって一体……」

 

「あれか?そういやあお前らに教えてなかったな。あいつらは『銀河連邦』ってな?」

 

「銀河……連邦……」

 

「ようは宇宙の至る所にアミを張ってる軍隊警察だよ。俺らワルの天敵だ」

 

「じゃあ……もしかして」

 

「ああっ、運悪くそいつらとご対面しちまったワケだ。まあお前らにしちゃあ味方だがな」

 

のび太は何か悪いことをしたような気分に陥った。その理由とは……。

 

「もしかして……あたしたちを地球に送ろうとしたばかりに……」

 

申し訳ない気持ちを込めてそう尋ねるしずかに、彼は、

 

「だから心配すんなと言っただろ?ここまできたのは俺たちの意思だ。だからお前らが気にするのは無事に帰れることだけにしろ、わかったな!」

 

「ラクリーマさん……」

 

気にする二人にとってはとてもありがたい言葉である。

彼が言うのだからそう甘えたいが、やはり自分たちのせいでこんなことになってしまったのでないだろうかと心底思えてしまうのであった。

 

「あなた達の気持ちは分からないでもないわ。けどね、子供は大人の親切を素直に受け取ること。わかった?」

 

ユノンはしずかの頭を優しく撫でた。

 

「ユノンさん……」

 

しずかの頬はポッと赤くなった。

 

……そして一時間後。

 

『どうだ?素直に応じるか?』

 

再び、モニター映像で彼らの前に現れるラクリーマ。相変わらず、憎いくらいに余裕のある表情だ。

一方、うってかわりカーマインは非常に真剣そのものの眼で映像を凝視していた。

 

「確かにそこにいる地球人の子ども達の命は大事だ。しかし、ここでお前たちを逃せば、他の惑星そのものやそこに住む生物達にさらなる惨劇が起こるのは確かだ!」

 

『…………』

 

「私たちはお前達アマリ―リスがこれ以上悪事を働くことを断じて許すわけにいかないのだ!」

 

彼の張り上げた勢いのある決意。それは交渉の決裂を意味していた。

 

『……返答はそれでいいんだな、連邦さんよ?』

 

「悪いがそういうことになる」

 

『ーーそうか。まあ分かっていたが見逃してくれる気はさらさらなかったワケだ、なら俺達も覚悟決めねえとな。無論あんたらもだ』

 

「言われなくてもそのつもりだ」

 

『へっ、楽しみにしてんぜ。あんたら連邦の実力をな!』

 

何故か余裕そうな顔のラクリーマの映像はブツリとすぐに消えた瞬間、アマリ―リス、銀河連邦全員の各道は一つに搾られた。

 

カーマインは全員に振り向いて、拳をギュッと握りしめた。

 

《今作戦を決行する。第一種戦闘配備、それぞれ配置につけ!!》

 

「了解!」

 

全員が一気に敬礼し、すぐさま一斉に行動を開始した――そしてアマリ―リスでは、

 

「連邦は俺達の交渉を拒否した!今すぐ戦闘準備だ。各戦闘員を『スレイヴ』、『ツェディック』に搭乗させて発進準備させよ!!」

 

「りょっ、了解!!」

 

ラクリーマの命令により、もはや避けられない激戦に向けて艦内は慌ただしなり始める――。

 

「オペレーター、今すぐサイサリスを呼んでくれ」

 

オペレーターはすぐに開発エリアの映像に移し、サイサリスを画面に呼び込んだ。

彼女も全く焦る気もなく、落ち着いているように見受けられる。

 

『ついに来たな。連邦と対決とは……勝算はあるのか?』

 

「さすがに真っ向から挑んだらこちらが不利だ。ワープホール空間に逃げ込むための強行突破を実行する」

 

『それであたしになんの用だ?』

 

「激戦になるのは必須だ。そこで『ログハート』と『セルグラード』の起動及び、実戦投入を行う。サイサリス、今すぐに準備しろ!」

 

しかしサイサリスは乗り気ではない表情をしている。彼女なら喜んですぐに取りかかるハズなのだが……。

 

『……ダメだ。認めることはできない』

 

「……何故だ?」

 

『『ログハート』はともかく『セルグラード』はまだ完全に調整されてないぞ。そんな状態で使ったら……』

 

「『一発』ぐらいなら使用できるだろう。これで戦況を覆せるのなら出し惜しみはしない。壊れたらまた造り直せばいい!!お前ならできるハズだろ?」

 

『わたしは心配してるのはそれじゃない、お前自身だ!!』

 

「俺自身だと……?」

 

『お前、今なにもしてなくても身体中に痛みが走ってるだろ?』

 

「…………」

 

彼は言い返せなかった。彼女の指摘はズバリ的中していた。ラクリーマは右肋骨を押さえている。

 

 

『お前は本来、絶対安静にしなければならない怪我人だ、そんな体で何が出来る?あの二つはラクリーマが体調万全であることを前提に開発したもんだ。

それを今の身体で使用したらどうなる……貴様、完全に体がイカレちまうよ』

 

「今はそんなことを言っている場合じゃねえだろ!!『殺るか殺られるか』だ。それに、その点はちゃんと考えてるよ」

 

『その点……だと?』

 

「……『BE-58』を投与する」

 

彼の発言は、その場にいる全員を動きを止め、凍りつかせた。

 

『『BE-58』……だとォ!?バカヤロォ、あんな危険なモン使って死ぬ気かァ!?』

 

「けっ。痛みなんぞ、ガキん時からもうイヤになるほど慣れてるんでね。耐えてみせるぜ!!」

 

『BE-58』とは軍事用に開発された即効性の麻酔薬である。これは全身麻酔ではあるが、打ち込んだ人間が例えどれだけ負傷していようと今すぐ行動できるよう、特別な方法で開発してある。

これにより、身体中の痛みは一瞬で無くなり、どれだけ攻撃を受けようと全く痛みを感じなくなる。が、個人差があるが大体二~三時間立てば一瞬で効果がなくなり、さらに蓄積された痛みが数倍となって一気に襲いかかるという、まさに『諸刃の剣』と言っても差し支えのない劇薬である。

効能が切れれば……並の人間はそのあまりの苦痛に耐えきれずに発狂するか最悪の場合、ショックで即死に至るのどちらかである。

 

効果中は痛みや感覚すら感じなくなるため、出血していることすら気づかずにそのまま失血死することも充分考えられる。

 

……など、デメリットがあまりにも多すぎるのであった。

 

「こうなった以上、使うしかねえよ。俺はアマリ―リスをこんなとこで壊滅させたくねえんだ!!」

 

『お前、今度こそ命の保障はできねえぞ!?お前は……』

 

「俺は死なねえよ、まだまだ人生長いし。それに……俺が死ぬと悲しむ奴らがいるみたいだしな」

 

ラクリーマは顔を後ろへ向けた。

その視線の先には沢山の部下やのび太としずか、そしてユノンがいた。

 

「頼むサイサリス。あの二つを起動させてくれ。リーダーの命令だぞ!」

 

(考えたら……こいつは言い出したらもう一歩も引かない奴だった)

 

サイサリスはついに諦めた風な深いため息をついた

 

『……わかった。そこまで言うならお前のその心意気を尊重しよう。今すぐ開発エリアにこいよ。あの子達の封印を解いてやる!!』

 

「よっしゃーっ!!」

 

歓喜を上げ、ただちに走り出した。が、

 

「ラクリーマ!」

 

「ユノン!?」

 

突如、向かおうとしていたラクリーマの前に彼女が立つ。ニィっと彼女らしくない笑みを浮かべ、こう言った。

 

「あたし、今回『デストサイキック・システム』を使用するわ。発動キーを貸して」

 

「お前、それを使ったら……っ」

 

「最近体が鈍っててね、久々に体を動かしたくなったのよ。それに……」

 

「それに……?」

 

「あの子達を地球に送り帰すんでしょ?なら、あたしも頑張らないとね?」

 

「……本当にいいんだな?」

 

「ええ、以前より上手くやってみせるわ」

 

「……分かった。だが絶対無理すんじゃねえよ」

 

ラクリーマはコンピューターの前に行き、彼からは想像できないほどの早いタイピング、画面をスライドしてコードを入力する。すると中央のレンズからアクアブルー色の玉子の形をした物質……オーブが浮かび上がり、それを取ると彼女の元に行き、渡した。

 

「なあユノン、もし生きてこの宙域から脱出できたら一度二人だけで話しながらゆっくり酒でも飲まねえか?もっとお前のことを知りたいしよォ」

 

クスっと軽い笑うユノン。

 

「死ぬかもしれないようなこと言って……何弱気なこといってんのよ?言ったでしょ、ラクリーマらしくないって。けどまあ、その時はとびっきりの最上級酒を用意しておくわ」

 

それを聞いたラクリーマはついに吹っ切れたのか、表情が本来の不敵な笑みへと変貌した。

 

「これで思い残すことはねえや。今は互いに尽くそうぜ」

 

「ええ!」

 

二人は軽く手をタッチしギゅッて握りしめて、互いの健闘を祈った――これから始まるであろう大激戦に向けて。

 

――互いに交差し、彼は開発エリアへ向かおうとした否や、

 

「すまん、これ借りるぜ」

 

近くにいた部下の持っていた拳銃を取り上げ、のび太の方へ向かう。

 

「ほらよ、のび太!!」

 

「えっ!?」

 

それをのび太に投げ渡したのだった。

 

「ラクリーマ……これは……」

 

「まあねえとは思うがもしものときのためだ。これでしずかを守ってやれ、いいな!」

 

ラクリーマは心配するなと普段と変わらぬ笑みでのび太を見た。

 

「ラクリーマ……気をつけて……絶対に死なないで!」

 

「ああっ!!お前との約束を果たすまでは死なねえよ!!」

 

自信満々な返答をし、彼はすぐに走り去っていった。一方、ユノンは既に真剣に表情となっており、高らかに右手を上げた。

 

「艦内にいる者全員に告ぐ。私はこれより『デストサイキック・システム』を発動させる。本艦の全ては私に任せて、各オペレーター、その他の員は戦闘員のサポートに尽力せよ!」

 

「頼みましたよユノンさん!!」

 

「決して無理しないで下さい!!」

 

熱い励ましを受けて、彼女は一気に中央の司令塔に登り詰めた。その中、しずかは恐る恐る近くにいたジュネにこう聞いた。

 

「あの……一体何が始まるんですか?」

 

「すばらしいことだニャン♪」

 

ユノンはあのレンズが置かれた台座に到着すると、ラクリーマから渡されたあのオーブをレンズの中央に静かで置いた。すると、レンズがまるで水のように波紋が発生、オーブを飲み込んでいく。

瞬間、その台座の左右の床から二つのバスケットボール程の無透明の水晶が置かれた台座が出現。

 

手が置ける高さに到達し、彼女は腕を交差し天を突き刺すように高くあげた。

 

「いくわよォォォっ!!」

 

渾身の力で両腕を左右に降り下ろし、その二つの水晶を握り込んだ両拳で豪快に叩き割った。

 

《ガシュイイイッ!!グシャグチャグチャギチッ――――》

 

それは目を疑うような現象が発現した。

 

「うわぁアアッ!?ユノンさんが……!!」

 

「何がどうなってるんですか!?」

 

破壊された水晶の台座の中から数十、数百、いや、数千という怒涛の数の機械やまるでウネウネと生きているかのような金属で形成された触手が彼女に絡み、そして体の中に入り込んでいく――。

 

着ていた衣服が全て剥ぎ取られ、その露呈された彼女の素肌全体に容赦なく機械やその触手が入り、取り込み……そう、彼女は今、機械とナノレベルで融合を遂げ、次第にこのブリッジを覆い尽くす程の巨大な大樹を形成させていく。その中央部の半球状のコアが開くと、完全に半身生身、半身金属機械と化して組み込まれたユノンは閉じていた青い瞳をパッチリと開けた。

 

《シンクロ率100%……本艦の全管制掌握……各NPエネルギー反応炉、循環開始……》

 

彼女の声と聞いたことのない男性の声の二重の声へと変貌し、その重々しい異様な姿と化したユノンは例えるなら……まるで『機械化した女神』とも受け取れる神々しい姿であった。

 

「あわわわ………………」

 

その姿に恐怖感を抱き、ガチガチに震えながら立ち尽くすのび太としずか。そんな二人をジュネが安心させるためか柔らかい口調と表情で二人に接した。

 

「このエクセレクターには『デストサイキック・システム』てのがあってね。アレを発動することで本艦の全管制……つまり攻撃や防御、行動全て副リーダーの思いのままとなるのニャ。

……簡単にいったら名実共に副リーダーはこの艦と一心同体化したことになるのさ」

 

「一心同体ですか……?」

 

「ここにいる全員が副リーダーの体内にいるってことになるの。あたし達が踏んでる床でさえ、今ではあの人の内臓だよ?」

 

「「うええっ~~!?」」

 

もうワケがわからなさすぎて理解のしようがない。

 

……いや、ここにいる者でなければ絶対理解できないと思う。

 

「それに本艦の合体変形が全て単独で行えるようになるの。この艦の奥の手ね。けど……使用するに至って気をつけなければならないことがあってね……」

 

「気をつけなければならないこと?」

 

「一心同体化したってことはつまり、この艦の被弾は全てあの人の痛みとして伝わるんだよ。

 

まあ強力なバリアがあるから大丈夫だけど、もし艦の装甲に穴が空くようなことがあれば、それこそ彼女の体に穴が開いたと同じ苦痛が襲うのニャ。もしそうなったら……」

 

二人はたちまちゾッとなり身震いする。

 

「それじゃ、これ……凄く危険じゃないですか!?」

 

「ヘタをすればユノンさんは……死んでしまうってことですよ?!」

 

「……このシステムを使うのは本当にどうしようもない時の最終手段なのニャア。相手が連邦だから実際にウチラがあまりにも不利……つまり窮地に立たされているの。まさに生き残れるか死ぬかの頂上決戦ってワケね……」

 

「「…………」」

 

連邦相手には中途半端な攻撃は通じない。こちらも命をかけて挑まなければならないのであった……。

 

一方、連邦も攻撃準備に急いでいた。ヴァルミリオン内の中央デッキでは。

 

「本艦の主砲『ユピテルス砲』のエネルギーチャージを開始しました。各員、それぞれ配置完了とのこと。各機『ホルス』、『アルスタシア』、『クイスト』、『アークェイラス』、『ゼウシウス』は全て発進準備完了!」

 

副長が頭上の巨大モニターの方へ向いているカーマインにその旨を報告。

 

「……ついに来るとこまで来たな。生存者の証言を元に名前と首謀者以外が全く不明であったあの組織……。

私達、銀河連邦の誇りにかけて全宇宙で生きる惑星や人々の幸福のために長年追い続けた悪の組織アマリ―リス……ここで決着をつけてやる!!」

 

「ええっ!!」

 

「我々も全力で戦いますよ。あんな悪人達をこれ以上野放しに出来ません!」

 

部下やオペレーターの決意を胸に振り向き、その曇りなき眼で真っ直ぐ見極めた。

 

「諸君、時は来た。今作戦は全宇宙の平和のためであると私は信じている。これまで諸君は我々連邦の誇りとこの宇宙の秩序のために大変よく貢献してくれた。我々は雌雄を決する戦場の中にいる。

そして、私は誓う。必ずや、あのアマリ―リスを壊滅させんことを!!全隊員の健闘をいのる!!」

 

「了解!」

 

《よし、全機、発進せよ!!作戦開始だぁ!!》

 

彼の命令は本艦、そして各艦に伝達された。

 

◆ ◆ ◆

 

ヴァールダイト級3番艦『ルイナス』、戦闘ユニット用格納庫では。

 

「なんですって……嘘ですよね大尉……」

 

「ああ。もしそうなった場合は実行しろ、コモドス」

 

サルビエスとコモドスがこんな時にかからわず何かコソコソ話をしていた。

 

「上司に危険が迫ったら体を張って守るのが部下達の役目だろ?違うか?」

 

「…………」

 

コモドスはブルブル震えている。何か恐ろしいことを聞いたような恐怖感に駆られていた。

 

「……無理です。こればかりは自分ではあまりにも……」

 

「上司の命令に逆らうのかぁコモドスっっ!?」

 

コモドスの胸ぐらを掴み、グッと睨みつけるサルビエスは彼を罵るような下品な笑みを浮かべていた。

 

「おい……キサマ……この俺に逆らえるような身分か?」

 

「いっ、いや……しかし……」

 

「俺がやれっていったらやれ!!さもないとお前の家族全員がどうなるか、分かるだろうな?」

 

「…………っっ」

 

「ケッケッケ……憐れよのォ。だがお前ら『コンガース』が我らにたてつこうなんぞ到底構わねえんだよ。奴隷は奴隷らしく素直に主人の言うことを聞いてればいいんだ!」

 

サルビエスは彼を離すとすぐさま何事もなかったかのように自分の機体に搭乗した。コモドスはギュッと握りしめて機体へと戻っていった。



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Part.37 開戦②

一方でエクセレクターの開発エリアではラクリーマは例の麻酔薬『BE-58』を右胸部に打ち込んでいた。

 

「くくっ……っ」

 

上半身裸で右胸部に太い針を直接打ち込んでいるので、彼にかなりの激痛が走る。見るほうもかなり痛々しく感じさせる。

 

「どうだ、効いたか?」

 

「……ああっ。今までの痛みが嘘みてぇに感じなくなった。あとアーマーはどこだ?」

 

「持ってきたぜ。ホラよ!」

 

現れたサイサリスは彼に袖のない鎧のような装着物を渡す。銀色の金属質であるが彼女が持てることは相当軽いことが伺える。すぐにそれを上半身に装着し、体に合わせてフィットさせる。

 

「こい、『セルグラード』はもう少し調整させてからあとで部下の誰かに届けさせる。それまでは『ログハート』で頑張ってくれ」

 

彼女についていくと、巨大なガラスに閉じ込められたあの禍々しいほど爪と熊のように巨大で禍々しい装甲と出くわした。

 

彼女はその真下にあるパネルキーを叩くと、張っていたガラスが上に向かって開放する。

 

「ラクリーマ、右腕を出せ。『ログハート』を装着させる」

 

彼女の言う通りに右腕をログハート近づけた。するとそれは虫のようにガサガサ動き出し、ラクリーマの右腕に方向を指したその時、彼の右腕に飛びかかった。装甲が平らに展開し、右腕に噛みつくように合体した。

 

「グっっ……右腕が熱くなるような感覚だ……」

 

「今、ログハートの全回路がお前の神経を蝕んで同調している。じきに済むから安心しな」

 

「だが……なんて重さだ!!?」

 

あまりの重みでラクリーマの右腕が下に傾いている。

 

「実はコイツが完成していない理由がまだ軽量化していないんだ。まあ外に出れば無重力でそれもなくなるだろうがな」

 

あまりの重さに顔を歪めている。力をグッと入れてバランスを平行にするが、彼の力でさえやっとである。

 

……その姿は左腕が機械的で無機質を感じさせる義手『ブラティストーム』、右腕がまるで悪魔のように鋭く鈍い光を放つ爪と拳、熊のような巨大な剛腕『ログハート』。

 

肩から横へ突き出る無数の翼のような突起物も禍々しい。

金属であるが有機物を思わせる右腕の左右非対称だ。まるで彼が神話に登場する邪神かなにかの姿に酷似していた。

 

「よく聞け、初起動ってこともあるが、お前の身体を考えてリミッターをかけてある。もしいけそうなら私が遠隔操作で解除する。各内蔵武器、機能は……ん?」

 

よく見るとラクリーマの身体が震えている。

 

「どうしたラクリーマ!?震えているがまさか痙攣か……」

 

「はあ?何いってんだよ。なんかよぉ、こんなヤベぇ時になってるのにも関わらずワクワクしてんだよ」

 

「何だと?」

 

「身体中にマグマが暴れて煮えくりまわるようでな。全然負ける気がしねぇ……クックック……」

 

「…………」

 

 

彼は笑っている。それも気味悪いほどに静かだが止まろうとせずに。

ソワソワして落ち着きがなくなってきているが、まさか……。

 

 

「落ち着けよ。いつもみたいに、いきなり敵の密集地に突っ込むような無茶なことだけはするな?」

 

「わかってるわかってる。よし、いってくるぜ!!」

 

やはり重いのか、ヨロヨロふらつきながら彼女から離れていく。しかし、数メートル歩いた地点で彼は立ち止まる。

 

「そういえばサイサリス、前に言ってたよな?サンプルが欲しいからこれで破壊した、殺した奴、機械を持ってこいと」

 

「あっ……ああっ」

 

振り向きサイサリスに向けて……こういった。

 

「とってきてやんよォ。何がいい?機械なら装甲か回路か?人間なら脳ミソでも内臓でもちぎりとってこようか……キヒっ!」

 

その時の彼の顔と発言は狂ったサイコ同然であった。まともではない。 さすがのサイサリスもこれには背筋がゾッと寒くなったのであった。

 

「なんてな。なら行ってくる。早くセルグラードの調整を終わらせてくれよ!」

 

彼は去っていった。しかし、サイサリスはまるで恐怖感とも思える感情を抱いていた。

 

「あいつ、なんかヤバいぞ。一体これから何が起こるんだ……?」

 

……彼はすぐにブリッジに戻ってきた。彼の異様な右腕にその場にいる全ての者が唖然となった。

 

「これが……サイサリスさんの開発した例の……」

 

「そうだ。ユノンもついに発動完了したみたいだな。

こりゃあ面白くなってきやがったぜ……一世一代の大勝負か!!」

 

自分達が生きるか死ぬかの瀬戸際で面白いなどというが、一体どうしたらそんな楽観的な発言ができるのか。

 

「オペレーター、艦内の全員に通信を繋げろ。作戦内容の確認と話がある」

 

「はいっ!!」

 

中央モニターにはエリアの員、格納庫の各機体に乗っている戦闘員の顔が一斉に映り込み、その者たちも各モニターで本人を真剣な眼差しで見ていた。

 

そしてブリッジにいるユノン以外の者全員が起立し、ラクリーマを注目した。

 

「……ついにきちまったな。ここで全員に謝りたい。 こんなことになっちまったのも俺の責任だ。俺の意思でのび太達を助けて、こいつらを地球へ送ると約束し、行動した結果、銀河連邦とかち合ってしまった。

絶対に戦死者は出る。いや、アマリ―リス存亡に関わることだ……。俺に恨み事がある奴は今ここで言え!!

俺はそれを受け入れる、そして……お前たち全てを俺が背負ってやる!!お前たちが生き残れるように俺が命をかけて戦う!」

 

彼の熱演は全員に響き渡った。さらに彼は話を止めず。左拳を握りしめて全員に見えるように掲げた。

 

「頼む。全員の力を貸してくれ!!こんな絶望的な状況になっても生きたいと思う奴、あんな奴らに捕まりたくない奴、まだ悪さをしたい奴、そして……のび太達を無事地球に送れることを願う奴は……俺についてこい!その気持ちを敵にぶつけたいやつは武器をとれ!!」

 

その力強い発言を言い切ったその時、モニターに映るレクシーが笑いはじめ……。

 

『クククッ……リーダー、何カッコよく決めちゃってんですか?俺らは全てアマリーリスの、リーダーの為に働いてんですから!!』

 

『レクシーのいう通りだ!!あいつらに一筋縄ではいかないってことを教えてやりやしょう!!』

 

戦闘員や各員も次第に彼を持ち上げる発言をしはじめ、

 

『てめえら、のび太としずかが無事に地球に帰れるように命をかけて、そして力を合わせようぜ!いいな!』

 

《ウ オ オ ッ ッ ー ー ! !》

 

一気に艦内が盛り上がり、鼓膜が破れるくらいの歓声と気合いが響き渡った。

 

「みんな!」

 

「のび太さん……ここの人たち……最高ねっ」

 

のび太としずかはこれを聞いて嬉しくないワケがなかった。ラクリーマもブルブルと震えて拳をあげてギュッと握りしめた。

 

《よっしゃあああっ!!天下の連邦野郎に俺らの底力を見せてやろうじゃねえか!!》

 

……そして、戦闘員とラクリーマは素早く作戦内容を確認を開始した。

 

「作戦の最終確認だ。連邦はモニターで見る限り、各艦と無数の戦闘ユニットで総攻撃を仕掛けてくると思われる。だが、俺らのやることはエクセレクターをワープホール空間を形成し、逃げ込む為の強行突破させることだ。

全機を相手にするな、前方、左右から向かってくる敵だけを迎い撃て!

そして段々前方へ押し上げ、エクセレクターの突破口を作るだけでいい!なお、各機は絶対孤立するな。その瞬間、死ぬと思え!」

 

全戦闘員が一斉に頷いた。

 

「俺の合図で全機発進せよ!いつも通り俺が先頭に出る、俺の後に続け!!いいな」

 

『了解!』

 

ラクリーマは上を見上げてユノンを見た。もはや無表情で何も言わぬ彼女は既に戦闘に集中している証拠だ。

 

「ユノン、俺を外に出してくれ。それじゃあ全員、健闘を祈る!」

 

彼の真下に光輝く円陣が発生、一瞬でラクリーマの姿が消えた。オペレーターはすぐに、モニターに宇宙空間の前部甲板を映し出した。そこには彼が巨大な甲板上に仁王立ちしている。

 

「リーダー、宇宙空間へ移動しました」

 

のび太達もそのモニターに注目した。

 

「ラクリーマが宇宙空間に……て………」

 

「「え え っ っ ー ー ! ! ?」」

 

なんとラクリーマが生身で宇宙空間に出ているのである。

宇宙服や何もつけずに、真空状態下の中でも窒息している様子も見られず、平然としていた。

無重力にも関わらず、自分の力場を保持し、浮いているワケでもなくちゃんと甲板に足をついて立っていたのであった。

 

「ど、どうしてラクリーマさんは宇宙服も何もつけてないのに宇宙空間へ出られるの!?」

 

全く理解できない二人にジュネがこう説いた。

 

「驚いた?これもリーダーの特徴でね。宇宙空間でも生身で維持できる特殊体質で実際にあの人、無呼吸でも生きていけるんだよ。リーダーはある意味では生物の概念を超越した存在なんだニャ」

 

彼の戦闘力といい、今の光景といい、もはや唖然である。

 

「そういえばあんた達地球人はヒューマン……つまり人類なのよね?」

 

「はっ、はい。けどそれが何か……」

 

するとジュネは何かを考察しているように沈黙した後、口を開いた。

 

「……もしかしたらあんた達、地球人類の行き着く未来のひとつなのかもね」

 

「えっ?」

 

――ラクリーマは立ったまま見つめる遥か先の無数に蠢く光……20隻の巨大な銀河連邦艦隊を背に数万、いや20万という圧倒的数の連邦製戦闘ユニットと戦闘機が既に一斉に出撃。

まわりに配置され、ついに幕をあける超決戦の開始を『ゴング』が鳴るのを待ちわびていた。

そんな中、彼は歯を剥き出しにして、笑っていた。あたかもこの時を待ち望んでいたかのように……。

 

「いくぞ!!銀河連邦艦隊の包囲網を突破し、エクセレクターの突破口を開く!!」

 

《ガシャァッ!!》

 

前に突き出したログハートが装着した時よりもさらに肥大化し、その狂気な笑みと共に高らかに名乗りを上げた!!

 

「俺 た ち は ! !」

 

 

 

 

《5 0 0 0 0 0 0 光 年 よ り こ の 宇 宙 へ や っ て き た ア マ リ ー リ ス だ ! !》

 

 

 

 

 

《ラクリーマ・ベイバルグ率いるアマリ―リス、アマリ―リス撲滅編成銀河連邦艦隊と激突す!!》

 

 

 

 

 

 

 

『第 一 部 完 』




というのは嘘ですね笑。

まだまだ続きます。


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Part.38 激突!アマリーリス対銀河連邦①

「行くぜ、全機発進だ!!」

 

ラクリーマは甲板を踏み込み前に飛び出し、その直後ログハートから連なるまるで悪魔の翼のような後ろの突起物、ブースターから青白い粒子を放出しついに満を喫しラクリーマは発進。しかし肉眼で捕らえたのはスタートの一瞬でそれ以降はまるで消えたような錯覚に襲われる。

 

そのスピードはなんと音速(マッハ)に遥かに超えるという破格な速度を叩き出していた。

 

その後に続いて、アマリ―リスの戦闘ユニット『スレイヴ』、戦闘機『ツェディック』も発進、彼の後を必死に追いかける。がこの二機のブースターをもってしても、その異常の速さについてこれない。

 

『リーダー、前方距離2000ギャロから連邦の戦闘ユニット部隊と思われる多数の反応確認、数は520機!』

 

超高速の中、オペレーターから敵の位置に関する通信が入った。彼の前方から『スレイブ』と同サイズの人型の機械の巨人、それよりさらには10メートル以上大きく、さらに分厚い装甲、両肩部、両手首に搭載された砲身等、多装備した巨人……連邦の戦闘ユニットの大群がこちらに向かって来ている。

 

「きやがったな、まずはお手並み拝見といこうか!」

 

右拳に全神経と力が結集して、殴りかかるような姿勢をとった。

 

「サイサリス、お前が宇宙最強の兵器開発の天才ってことを奴らに証明させてやるぜェ!!」

 

そして両者が激突まであとわずかにせまった。ラクリーマは前方の一機に狙いをつけた。

彼とその機体のサイズ差はまさに虫と人のようであまりにも彼が不利な状況であったが臆するはなくついに!!

 

「く ら え ェ ェ ェ っ っ ! !」

 

ラクリーマの放った全力の右パンチがその機体の腹部に直撃した。その機体は拳の接着した腹部からやがて機体全ての装甲がまるで空き缶のように一瞬で潰れ、そしてちぎれとんだのであった。無論、コックピットも完全に潰れてパイロットはもはや生きていないだろう。

 

ラクリーマはその威力に一瞬、驚愕したがすぐに快楽な笑みへと変わった。

 

「こりゃ面白れぇや……ヒヒッ」

 

アマリ―リスにとってはさい先の良いスタートであった。

 

……連邦側のこの部隊はやられた見るも無惨な機体の姿に、動きが止まり、焦り、恐怖などが全員に広がった。

 

『一機やられただとォ!!』

 

『バカな!!誰にやられてたんだ?攻撃を受けたように見えなかっ――』

 

刹那、周りの機体は全て、さっきの機体と同じように潰れて、粉々になってゆく……そして、アマリ―リスの戦闘ユニット達も駆けつけ、その光景に歓喜と高揚の声を上げた。

 

『ヒュ~~。スゲーやラクリーマさん!!俺らも後に続けェェっ!!』

 

『おうっ!!』

 

そしてアマリーリスの戦闘ユニットも介入し、その宙域は激戦と化した。

 

『スレイブ』の両肩部から突き出した二装の長砲身から放たれる蒼白の光線、同サイズである連邦の中型戦闘ユニット『クイスト』が携行している大型ライフルからのビームが無数に飛び交い、その周辺を色鮮やかに染めて、両者の装甲を抉っていく――。

 

『連邦野郎、覚悟しやがれ!!』

 

『この極悪党共め、今こそ一網打尽にしてやる!』

 

互いにスラスターを駆使し、真空の宇宙空間360度を器用に小刻みに飛び回りながら攻撃を繰り出す。どうやらスレイヴの方が性能が上でありクイストは今一歩劣っている。

 

しかし、連邦にはもう一つの機体が侮れなかった。連邦が誇る量産型大型戦闘ユニット『ゼウシウス』である。

ダルマのような姿をしたこの機体はその二機より約二倍近い全長を持ち、さらに多武装を施された機体だ。さらにそれに加えて全身に張りめぐされた追加装甲が、こちらの攻撃を一切遮断するように思える。

 

『くそっ、硬てえぜこいつ!!』

 

案の定、スレイヴがまともに攻撃してもその装甲の前には歯が立たない。

そんな中、ゼウシウスは装備している手首に固定された砲身を天に掲げた。

その丸い砲門から10メートル程、光線を直線に放出しまるで剣のように発振。それを前方で自分に一瞬背を向けて他機の相手をしていた一機のスレイヴに向けて……、

 

『後ろ来るぞっっ!!』

 

『何ぃっ!?』

 

その光の刀身が降り下ろされてその機体の脳天から完全に叩き割った。

完全に二つに分断されて爆発はしていないがコックピットさえも見事に直撃、焼ききれ溶けた金属が全てを物語っていた。

 

『応答しろ!!応答しろ……くそっやられたぁ!!』

 

通信をかけたが全くの無反応。さっきの一閃で乗ってた戦闘員は完全に蒸発していた。

 

『くそっ、オペレーター、前方のダルマみたいな機体のデータ分析してくれ!!あいつの弱点を知りたい!!』

 

『了解!!』

 

分析している間、戦闘員達はゼウシウスの攻撃を避けるのに精一杯であった。各両肩、両手首、両腰に装備された計6門のNPビーム砲による多角方向の砲撃近づくものなら、並の攻撃全てを受け付けない重装甲、先ほどの斬撃の前には歯が立たない。

 

後方にいる『ツェディック』が光子ミサイルで支援しようにも敵どころか味方機にまで巻き添えを受けてしまう。

 

奴の欠点で今のところ判明したのは、その全身に張り巡らせた多装備のお陰で旋回力、制動力……つまり機動力を犠牲にしていることだ。

 

『分かりました、この機体は強固な装甲で覆われていて並大抵の武装では効き目がありません。

しかし、背中部には動力炉と思われるジェネレーターボックスが存在します。そこをスレイヴの高出力のエネルギーソードで貫けば、エネルギーが暴走し内部から誘爆します。そこだけは特殊装甲で守られておらず、剥き出しになっているのでなんとか貫通可能です!!』

 

『わかった、俺がやる!!お前らは俺を援護してくれ!!』

 

『レクシー、頼んだぜ!!』

 

レクシーは卓越した操縦能力でゼウシウスの攻撃範囲を回避し、見事後ろへ周り込んだ。オペレーターの言っていた通り、背中には剥き出した真四角の箱型の出っ張りを見つけた。

右手首部の砲口からゼウシウスのような5メートル程の蒼白の光輝く剣を発振、右腕を引き、狙いを定めた。

 

《おんどりゃァァっ!!》

 

刀身はその出っ張りを軽々と貫通、深々と突き刺した。

 

瞬間、『バチバチっ』とスパークが機体全体にほどばしり、その機体のガチガチと小刻みに挙動した。レクシーと他の戦闘員はすぐにその場から退避した。

 

予想通り、エネルギーが暴走し内部からNPエネルギーと思われる蒼白光が漏れ始め、次第に機体さえも呑み込んだ。

 

『うわああああっ――!!』

 

ついに機体が暴走したエネルギーに耐えきれずに崩壊、爆散。戦闘員はこれに勝どきを上げた。

 

『よっしゃーっ!あいつの弱点は装備し過ぎによるノロマなのと背中だ!!お前ら、このまま流れに乗って一気にここの集団をブッ潰すぞ!!』

 

『おうよ!!』

 

戦闘員達の士気はさらに上がり、そして、エクセレクターでも、

 

《対艦レーザー砲、光子ミサイル、全砲門発射用意……》

 

ユノンのまるで人形のように感情のこもってない声がオペレーションセンター内に響いた。

 

『全機、副リーダーが一斉砲撃を行います。射線上にいる各機は速やかに退避せよ』

 

その射線方向で交戦している戦闘員達はすぐにその場から退避した。

 

60門の発射管から巨大な光子ミサイルに加えて、エクセレクターの両舷にある人間の手の形をした部位の指全てから一直線の極太の光線が発射され、射線軌道上に取り残された連邦の部隊に直撃、これを一瞬で殲滅。

しかし多数の光子ミサイルはその部隊だけにとどまらずに前方方向に無差別に降り注ぎ、辺り一面を破滅の光と光で埋め尽くす地獄の宙域と化した。この一撃でこちらに到着、交戦していた連邦のユニット部隊の大半を粉砕、消滅せり。

 

「先ほどの敵艦の集中砲撃で、第2、5、18、4、…………の多数の戦闘ユニット小隊が一瞬で壊滅…………」

 

「く………っ」

 

それをモニターで見ていたカーマインはさらなる苦渋の表情を浮かべる……。

 

「グラナティキ級、ヴァールダイト級艦、主砲準備。前方のアマリ―リスの戦闘ユニットがいる宙域に集中砲撃!!」

 

「はいっ!各艦長に告ぐ。これより前方5800ギャロ、XX88方向へ一斉に主砲を発射する。直ちに発射準備にかかれ!」

 

――そしてラクリーマはというと。

 

「だありゃあああっ!!」

 

ただ一人、別の敵部隊でその猛威を奮っていた。一撃の殴打だけで機体ごと粉々に潰している。

 

ログハートに搭載された新技術『ニュートロン・ディカプラー』。

 

それは触れた物体の分子結合を一瞬で無効化にするという恐るべきモノである。これにより戦闘ユニットとのサイズ差どころか完全に圧倒、覆す事態が発生した。

 

『うわぁ!!どこから攻撃してるんだぁぁ!!』

 

『まるで……透明人間と闘っているよう……ぐわああっ!!……』

 

戦闘ユニットから見れば小虫程度の生身の身体、そしてログハートのスラスターを駆使したあまりの速さにラクリーマの姿を捕らえきれない連邦隊員達は次々に撃破されていく。

連邦のレーダーに反応されていないのはステルス機能が取り入れており、攻撃される側からしたらこれ以上の恐怖はない。

 

「花火をばらまいてやらあ!」

 

ラクリーマはその場に急停止、上着を強引に引き破き、あのアーマーを完全に露出。両腕を顔の高さまで上げてクロスした。

 

「くらえ!ミサイル全弾発射ぁ!!」

 

アーマーに無数の穴が出現。彼の叫び声を合図にそれから一斉に爆炎が上がり、無数の小型ミサイルが全方向にむけて放たれた。

ミサイルが彼を中心に広範囲に拡散、そして着弾した。辺りは眩しいほどの光と衝撃、熱を放ち全くその周辺が見えない。

 

『くっ、ミサイル攻撃か!!』

 

『しかし機体自体は全くと言ってほど損傷していない……牽制か……?しかし、どこからこんなに放たれたんだ……?』

 

戦闘ユニットのモニターはその爆発による光により視界不能であった。が、

 

『なあっっ!!?』

 

その機体のモニターには光の中から突然、高笑いしている若い男の顔がモニター一面に映し出されその刹那、モニターが割れ、コックピット内がバチバチと放電し、内部の温度が急激に上昇……。

 

『にっ、人間だとぉぉぉっっーー!?』

 

『……さっきの無差別攻撃も……無数のミサイル攻撃も……まさか…………っ』

 

……爆発の光が弱まり周りがやっと見え始めた時、歯を剥き出していて笑っているラクリーマが背にした機体全ては一気に粉砕、または爆散するというあまりにも異常な光景であった。

 

『どうだ、新型NP炉心と新技術を搭載したログハートの使い心地は?』

 

突然、サイサリスから通信で評価を聞かれる。

 

「サイサリス、お前は天才だよ。こんな楽しい遊びができるオモチャを作れるなんて……これでまだリミッター解除してねえんだろ?凄まじすぎて評価のしようがねえぜ!!」

 

『クククッ……、まだそれにあたしの『とっておき』が結構あるんだ……ん?多角方向約2500ギャロ距離から敵部隊の群れが来るぜ。その数、戦闘機含めて5000機以上だとよ?』

 

「次から次へと……さすがは数でモノを言わせる連邦か……さすがにさっきみたいに暴れるとくたびれそうだ」

 

『そうか。なら取っておきの一つを使えや。ログハートの左側面にグリップがあるだろ?それを左手で握って右手を前に突きだしな!!』

 

彼女の言われた通り、右腕の横に突き出た『グリップ』を左手で握り敵部隊の来る方向へ、右手を向けると手首部から、ブラティストームの小型ビーム砲のような四つのギミックが出現。

 

しかし、その形状は銃口のように円筒ではなく、ドリルのように尖っていた。

 

『まだ遠い。あたしの合図があるまで敵を引き付けろ!!』

 

向ける先には、先ほどのクイスト、ゼウシウスに加えて全体銀色の雀(スズメ)、翼を大きく開いた鷹に似た戦闘機も無数に混じり、混合した怒涛の大軍団がひしめき合い、ラクリーマを囲むように移動、配置に追い詰めるように向かってきていた。そして、その全体が徐々に近づいた時、

 

『今だ、グッと握れ!!そうすれば放てる!』

 

グッと握り込んだ瞬間、ドリル状のギミックが時計回りに高速回転、先に青い光が収束した。

 

……それは地球上における重兵器『機関砲』のようであった。目にも見えぬ高速に回転している四つの尖ったギミック先に収束した光が巨大な光弾となって一斉に発射。

 

数十、数百の数えきれないほどの光弾が無差別に前方に飛来、そしてそれらがその近づいた大軍団に直撃した。

その爆発、球状に膨張する輝く太陽のような丸い光、直撃した機体をその光に次々に消滅させるその威力……そう、あの兵器であった。

 

「すげぇ……光子ミサイルを連射するのかよ……」

 

『だろ?弾数無制限でかつ敵に当たるまで永遠に追尾してくれるオマケつきだぁ!!』

 

「サイサリス、やっぱオメェの武器開発の技術は全宇宙最強だぜ!!」

 

なんという武装であろう……最低でも戦術核兵器級の威力を持つ光子ミサイルを連射する機構なんて……例えるなら『核弾頭のガトリング砲』であった。

 

「よっしゃあ!!これは天下無敵やぞォーーっっ!!」

 

ラクリーマは連射しながら自分もコマのようにグルングルン回り始めた。

 

――それは連邦のその部隊からすれば悪夢同然である。一分間に1000発前後の光子ミサイルが中央の一点から一気に全方向へばらまかれたのだから。しかもサイサリスの言う通り、その光弾が意思を持っているかのように機体が光弾の軌道から回避しても、自ら旋回、狙った獲物を当たるまで追尾した。

 

そして直撃し、その機体は消滅、しかし膨張した光は近くにいた機体や戦闘機を巻き添えにして粉砕。戦艦級が装備しているクラスの威力であり、『大量破壊兵器』の名にふさわしい代物であった。

 

しかし、大量に撃ちまくっているにも関わらず彼が何の被害もないのは、サイサリスがそれを考慮して、ログハートから発しているNPエネルギーが膜を作り、常にラクリーマの身体中を包む防護障壁『NPバリア・フィールドシステム』を組み込んでいるためであった。

さらに宇宙空間であるにも関わらず普通に通信会話ができるのもこのバリアのおかげである。

 

この攻撃でその大軍団が一分たらずで全て宇宙のチリと化したのであった。ラクリーマはその素晴らしさを前に満足げに大きく息を吐いた。

 

「サイサリス、お前が敵だったらこれほど恐ろしいことはないぜ……」

 

『照れるじゃねえか。まあ……ありがとよ!!』

 

「よっしゃーっ!!次行くかぁーっ!!」

 

もはやまるでいいオモチャを与えられて楽しく遊んでいる子供のように見える彼の姿をサイサリスは彼が映るモニターを眺め、声を出さず、笑っていた。

 

(ラクリーマ、あたしは最高にして最強の殺戮武器を作るのが仕事だ。だがな、そのポテンシャルをフルに引き出すのは使う奴の仕事だ。

お前のために作ったあの子は今、最高に喜んでいるぜ!いけえっっ、ラクリーマ!あたしをもっと興奮させろ、もっと感じさせやがれぇ!)

 

 

一方、ヴァルミリオンでは、

 

 

「第9、10、11戦闘ユニット小隊が一瞬で消滅……なんで……?」

 

「レーダーには何も反応無し……モニターにも映らないところから突然の攻撃……」

 

その不可解な現象を前に、たじろいでいた。その原因、正体が先ほどモニター越しで余裕をかましていた男だとは未だに気づいていない。

 

「全艦、いつでも主砲を撃てる体勢へ移行しました」

 

「よし、射線上の部隊全員に退避させて初砲、右艦隊から主砲発射用意!!」

 

「了解、各部隊に告ぐ!!これよりヴァルミリオンより右側の艦隊から攻撃を開始する。速やかに射程範囲から退避せよ!!」

 

――アマリ―リスと交戦していた連邦部隊が突然、戦闘をやめて一斉にその宙域から離れていった。戦闘員達は辺りをキョロキョロ見渡し、呆然としていた。

 

『どうしたんだあいつら……いきなり戦闘をやめて……』

 

『もしかして俺達の力の前にビビって……なんてな』

 

『なんか嫌な予感がするぜ……』

 

そんな中、オペレーターから各員に通信が入った。その内容は……。

 

『各員、敵艦隊の位置から膨大なエネルギー反応を多数確認。それぞれ、B級大12、A級大5……これは敵艦隊の主砲です!』

 

『な、なんだとお!!』

 

その内容は戦闘員全員の心を一気に凍りつかせた。

 

「右側全艦、主砲放てぇーーっっ!!」

 

カーマインのかけ声を合図にヴァルミリオンの右側の艦全隻の前部に展開された巨大な砲門から想像を絶するエネルギー量のエネルギー粒子が同一方向へ向けて、一斉に放たれた。

そのあまりにも膨大なエネルギーの余波で周辺の空間が歪んでいるほどであった。

 

グラナティキ級の主砲はNPエネルギーではなく第五世代エネルギーであるプラズマエネルギーの源、プラズマ反応炉から発生するエネルギー……つまり旧式の反応システムからのエネルギーであるため、NPエネルギーを使用するヴァルミリオン、ヴァールダイトの主砲より威力は劣るがそれでも戦闘ユニット相手なら余りある破壊力を持っている(なお、地球産の原子力エネルギーは第三世代エネルギーに相当する)。

 

――多数の膨大なエネルギーを拡散した嵐が空間を喰らいながら急接近し、戦闘員に焦りと動揺が。

 

『うわああああっ!!避けきれねえよっ!!』

 

『エクセレクターの後ろへ回るんだ!!』

 

『無理だ、距離が離れすぎてもう間に合わん!!』

 

気付いたのが遅く、もはや逃げ切れない状況へ追い込まれた。全員がもうだめかと目を瞑り、覚悟を決めた――。

 

「全員、俺の後ろへ下がりな!!」

 

『リーダーっっ!!?』

 

彼等の目の前にラクリーマが現れた。焦りの表情は見られないどころか、明らかに楽しそうに笑っている……。

 

『ラクリーマさん!!来るのは敵艦隊の主砲ですぜ!!どうする気ですかい!?』

 

「決まってんじゃねえか!!俺が全部受け止めてやるぜ!!」

 

『いくらなんでも無茶だぁ!!俺ら戦闘ユニットでも一撃ですぜ!?ましてや生身のラクリーマさんが……』

 

こんな状況にも関わらず彼は全くビビっていない。寧ろ、出来て当たり前のようにも感じさせている。

 

「まあ見てな!!防げなければ俺らの負けだ……だが防げたら俺らはチャンスだ。俺に賭けろ!!」

 

『リーダー……』

 

心配しつつも、彼の言う通りに後ろへ退避する戦闘員達。

 

「サイサリス、言った通りでいいんだな!」

 

『おうよ、ログハートに搭載されてる『シンクロシステム』はお前の気合いの込め具合で炉心の出力が左右されるが出せば出すほどその限界点はない。それはこの『NPフィールド・リアクター』にも比例するぜ!!』

 

「よっしゃああっ!!うおおおっ!!」

 

彼の凄まじい気合いがログハートの機能するシステムをフル稼働させて、右腕を前に突き出した。すると、ラクリーマを中心に薄透明の青を含んだ球状のエネルギーの力場が発生し、最初はラクリーマを包むぐらいの大きさがたった1秒で一気に膨張、そして味方の全戦闘ユニットを包み込むほどに膨張!!

 

 

《来いやァァァァーー!!》

 

 

ついに各主砲攻撃がラクリーマが展開したバリアに直撃。超エネルギー同士の衝突の余波が周辺の空間をグニャリと歪めるほどであった。しかし、ラクリーマの高ぶる感情が爆発、それが拍車を掛けて、炉心に組み込まれたシステムも活性化、さらにバリアの範囲を増大させた!!

 

《グ オ オ オ オ ォ ァ ァ ァ っ っ っ ! ! !》

 

その時の彼は完全に野獣そのもの。顔中の血管がおぞましいほどに浮き出て、その鋭い牙を剥き出しに自分の持つ原始的本能を全面に押し出ていた――。その時、ヴァルミリオンの中央デッキでは……。

 

「全主砲……到達地点で突然、膨大なエネルギーから発生した力場と衝突、相殺されました!!」

 

「何だとぉっ!?その地点をモニターに出せ!!」

 

問題の地点を確認する。そこにはアマリ―リスの戦闘ユニット全機が何の損傷もなく密集している以外は特に変わったことは確認できない。しかし、よく見ると何やらそれらの前方に豆粒ほどであるが小さい何かが映っていた。

 

「オペレーター、拡大しろ!!何かいる!!」

 

モニターの倍率を上げて、カーマイン含む、その場にいる全員が目を凝らした。 そこに映り込んだのは……。

 

「こっ…これはぁ……」

 

「アマリ―リスの……あの男なのか……」

 

見た者全てはその光景に驚愕し、そして畏怖した。 アマリ―リスのリーダーと名乗ったあの若い男、ラクリーマが右手を突きだして立っていたのであった。

 

生身で宇宙空間に存在し、さらにその右腕、左腕はあまりにも人間のものとはかけ離れた異質であった。ほぼ全員から見た男の第一印象はこれである。

 

「生身で宇宙に……しかもあの禍々しい両腕は……まるで……」

 

「ばっ……『化け物』じゃないか……っ」

 

幾多の戦闘経験を積んだカーマインでさえ、その姿に寒気を漂わせるほどであり、他の者からすれば精神的恐怖であった――。

 

一方、アマリ―リスでも戦闘員達も彼の異常すぎる現象に目の当たりにし、呆れて開いた口がふさがらなかった。

 

『すごいっ……スゴすぎる……ああっ……』

 

『戦艦級の……しかも多数の主砲を全部消し飛ばしやがった……』

 

驚いて操縦レバーを動かすことが出来なかった。その時、ラクリーマは彼らの方へ向き、こう言った。

 

「いっただろ?受け止めてやるって。このまま一気に押し上げるぜ、今は俺達の方が優勢だ、ついてきやがれ!」

 

彼の宣言に彼等はブルブル震えて歓喜した。

 

『……いける。これはイケるぜぇ!!!』

 

『何だか負ける気がしねえっ!!リーダーがいるからか!』

 

『全員、ラクリーマさんに負けねえよう、今以上に奮闘しよう、そしてエクセレクターを何としても突破させるんだぁ!!』

 

『う お お っ ! !』

 

彼らの気合いのかけ声がこの宇宙空間に響き渡った。そしてラクリーマは味方の戦闘ユニット、そしてエクセレクターを背にして連邦に対して啖呵を切った。

 

「きやがれ!!てめえらなんぞにエクセレクターにひとつたりとも触れさせねえぜ!!」



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Part.39 激突!アマリーリス対銀河連邦②

「ああ………………」

 

エクセレクターのブリッジではのび太としずかは目の前に映る壮絶な戦闘に複雑な表情、瞳を震わせていた。楽しいわけがない、目の前で沢山の人の命がいとも簡単に散っていくのだから……。

 

それは……ドラえもん達も同じであった。

 

エミリアとミルフィ、そしてドラえもん、スネ夫、ジャイアンの特別編成隊は『イクスウェス』専用格納庫にある巨大なモニターでその一部始終を見ていたのであった。そこには各機の通信も聴けるため、搭乗者が喋る内容……そして断末魔も……。

 

「ああ……あっ……」

 

「ホントに人が……」

 

「ぼっボク……気持ち悪くなってきた……っ」

 

同じ光景を見ている5人にはあまりにも現実であり、残酷であった。これは本当の戦争であり、テレビゲームや番組、アニメではない。

 

『人は死ぬ時は簡単に死ぬ』。嫌でも思い知らさせるであった。

 

一方、エミリアやミルフィも身体中を震わせている――そして二人とも涙を流していた。

 

「私達の仲間が……次々に死んでいく……っ」

 

「………………っ」

 

――この宙域の全てを巻き込む両陣営の総力戦は苛烈をきわめていた。

戦火が渦巻き、光と光、実弾兵器が隙間なく飛び交う地獄と化した宇宙、至る所に漂っている互いの機体の残骸に無重力で水玉になって浮遊する潤滑油、搭乗者の無惨な死体、果てには体が吹き飛び、飛び出した内臓なども回収されずに漂っていた。

 

「一人でも多くの負傷者を救助、帰還させるんだ!」

 

連邦では救護部隊や整備部隊の後方支援部隊も駆り出され、大破した機体から隊員の救出、機体の応急措置や武器交換などの任務に尽力するが全く追いつくはずもなく、戦いに巻き込まれてなすすべなく全滅した支援部隊もあった――。

 

「これで味方の約5分の1が壊滅……」

 

「…………」

 

ヴァルミリオン艦内の中央デッキにいるは隊員のほとんどの顔が真っ青だ。

そして全員が痛感した。アマリーリスは……あの組織、そして……あの男は危険だ。ここで止めなければ本当に全宇宙の平和が、秩序が一気に崩壊すると悟る。

 

「本艦主砲のエネルギーチャージ率は!?」

 

「現在68%!!」

 

「……左側の全艦に命令せよ。一斉射撃を開始する。二射目はヴァルミリオン艦も光子ミサイルで援護する、再び射程範囲から味方部隊を退避、確認した後、さらに対広範囲宇宙機雷を前方へ射出、散布せよ!」

 

表にでは冷静に指揮を取るカーマインだが内心は非常に焦っていた。

 

(このままでは…………だがやらねば、さらなる犠牲が、そしてここで死んでいった者が報われんのだ!)

 

……さらに戦闘、激しさを増し、ついに停滞していたエクセレクターが前進。

 

《エクセレクター・タイプ3へ移行する。各員、衝撃体勢……》

 

ユノンの発言と共に、艦がアンノウン戦のように三機のブロックへ分離、後部、前部、中部の順で一直線に並んだ。

その速さは……なんと一分足らず。アンノウン戦時よりさらに速く合体。これも『デストサイキック・システム』により彼女の神経にトレースしているためである。

 

《タイプ3、変形完了ーー》

 

合体。あの亀の姿に模した形態を完成させた。そこから全く動こうとしない。まるで敵の攻撃に備えているかのように――。

 

《防御体勢……各戦闘員は本艦の後方へ退避せよ……》

 

『各員、今すぐエクセレクターの後方へ退避せよ!!』

 

そして戦闘員達は次々とエクセレクターの真下を通り抜けていく。

全長が日本列島よりも長いエクセレクターだが、幸い少しずつだが前進しているため、さほどの時間がかからずに底部付近へ到着することができた。

 

「アマリ―リス艦、別形態に変形。さらに敵ユニットが艦の後方へと後退しました!!」

 

彼等が見るアマリ―リス艦は、先ほどの女性の顔をした船首ではなく、怒り狂っている憤怒の男性の顔となっている。さらに全体的に丸みを帯びた装甲、前方の腕のような左右の巨大な砲身、後方には脚、尾のような丸い装甲から突き出た推進機関……その姿、まさに『亀』である。

 

そして……船首や砲身、推進機関を『甲羅』と化した装甲にしまい、防御態勢に入った。

 

「全艦隊、一斉射撃開始せよ!撃て!」

 

――そして二度目の集中砲撃。各主砲に加え、今度はヴァールダイト級、ヴァルミリオンから凄まじい数の巨大な光子ミサイルがエクセレクターに向けて、雨のように降り注ぐ。軌道上の宙域は光線と光弾に埋め尽くされ、あまりの眩しさに直視すれば絶対に失明は免れないだろう。

 

《艦内、敵艦隊の集中砲火に備えよ……》

 

ユノンの命令に艦内のいる者全員は気を入れた。

 

「各艦の主砲、光子ミサイル、敵艦到達まであと10秒……」

 

前方からはまたもや主砲、上方からは無数の光子ミサイルが弧を描くように飛来、そして直撃。艦内はその衝撃でグラグラ揺れる。

 

「くあっ!!」

 

「きぎっ!!」

 

オペレーションセンター内でもその揺れに翻弄される者が多数いた。

 

《うろたえるな。我が体は、そう簡単に墜ちはしない……》

 

全くバリアを張っていなく直撃したにも関わらず、できたのは焦げあとぐらいであまり損傷がない。この丸みのある装甲が角などの死角がないために破壊できる箇所が非常に少ないのである。

さらに実弾兵器、光学兵器なども直撃せず受け流せる等、防御に関しては非常に合理的な形をした装甲である。

これでバリアを展開するエネルギーを消費しないため、節約できる等の長所もあり、まさにこの形態は『難攻不落の要塞』であった。

 

ただ難点は防御を重視したために推進力、旋回性が三形態中最低であること。

そして、バリア無しではさすがにS級質量の攻撃(ヴァルミリオン級の主砲)には耐えられないことだ。

 

――程なくして砲撃の光が弱まり、二度目の集中砲火はエクセレクターになんの決定打を出せずに終わった。

 

「艦砲射撃、失敗に終わりました。次に各艦が攻撃に移れるのは各炉心の冷却合わせて21分後です」

 

カーマインは何か疑問があるのか全く口を動かさない。

 

(おかしい……なぜ敵艦はあれ以来攻撃を仕掛けようとしない?まるでコチラの様子を伺っているようだ……)

 

カーマイン含め、全員がアマリ―リスの作戦をまだ気づいていなかった。一方、エクセレクターは先ほどの態勢を維持したまま、動こうとしなかった。

 

《本艦、この形態を維持し、状況を判断して次の行動を開始する……》

 

共に、戦闘員達はすぐさま行動を開始し、左右に展開しながらまた前方へ戻っていく――。

 

「敵ユニット部隊……また前方へ上がって行きます!!」

 

「宇宙機雷を広範囲に散布開始せよ、こちらに近づけさせるな!」

 

ヴァルミリオンの前方両舷にある巨大な発射口から、約数千発……いや数万以上を超える直径3m程の黒色の球状機械が一斉に発射され、それが連邦の前方の四方八方を中心に拡散された。

 

『へへっ、このまま前に押し上げるぞ!!行くぜ!!』

 

戦闘員達はそのまま勇敢に前進。狙いは約30km先の連邦ユニット部隊。しかし、あちらもこちらの動きを掴んでいるに違いないのだが、連邦隊員は全く動こうとしない。自分達を待ち伏せをしているみたいだ。

 

『俺らを迎え撃つつもりか……面白れぇ、ならそのケンカ……買ってやんよぉ!!』

 

血の気の多い戦闘員の一人が興奮し、操縦レバーを一気に前に倒し、それに連動してユニットもフルスピードで突撃。しかし、彼のモニターに映る直線上数十メートル先には丸い球が……。

 

『ん?』

 

気付かずにその機械に衝突した。しかし、その瞬間!!

 

《ド ワ っ っ ! !》

 

強烈な光と共に大爆発、彼の乗っていたスレイヴはその光の中に消えていった……。

 

『おいっっ!!応答しろ!!応答しろォ……』

 

『やられた……しかし、一体……っ』

 

その後ろについて来ていた仲間はその事態にすぐに急停止した。

 

『どうした!?』

 

『仲間一機が前方で突然爆発した。レーダーにもセンサーにも反応しないんだが!!』

 

『少し待て……その前方を調べてみる!!』

 

オペレーターがすぐにその宙域をスキャンし、モニターを見ると驚くべき事実が。

 

『トラップだ。前方宙域に無数の丸い物体が浮遊している。機雷に違いない!』

 

『なにぃ!!しかしモニターには何も見えんぜ!?』

 

『完全に宇宙空間と同化していて分かりにくいんだ。しかもこちらのレーダーやセンサーには反応しない特殊機雷だ』

 

『どうする!!攻撃してみるか?』

 

『やってみよう。各機集合、前方宙域に一斉掃射だ!!』

 

次々と仲間が集まり、約1000機ほどが密集。そして前方に向かって各機全砲門を展開!!

 

『いくぞ!!ぶちかませぇ!!』

 

――全機の砲門が火を吹き、集約された無数の光線が前方の範囲、射程距離を許す限り、駆け巡った。

これほどの集中砲火なら連邦の一個中隊規模なら一太刀浴びせれるだろう。

 

……が、狙いの『機雷』に直撃していると言われたらそうではなかった。何故なら光線そのものを弾いているからであった。威力関係なくである。

 

『どうやら機雷は光学兵器が効かないようにコーティングされている』

 

『なにぃ!さっきの攻撃は無意味だってことか……』

 

『ということは……連邦からしてみれば機雷はトラップにもなるし、俺らの攻撃を防ぐ盾にもなってくれるワケだ……。これじゃあむやみに前方に進めねえぜ!』

 

ここでアマリ―リスの弱点を露呈してしまった。実はスレイヴには実弾兵器は装備されていなかったのである。NPエネルギーに頼り過ぎたことにより、各武装の威力は高いが臨機応変な攻撃が出来なくなったことであった。

これも銀河連邦の光学兵器を逆手にとった戦術の一つである。

 

『こうなりゃツェディック部隊を呼ぶしかーー』

 

『いや待て。リーダーが来たぞ』

 

ちょうどそこにラクリーマも到着、巨大なスレイヴの横に並ぶ。

 

「お前らどうした?」

 

「それがーー」

 

ちょうどその様子を開発エリアの巨大モニターで観察していたサイサリスは頭をポリポリ掻いて『ちっ……』と舌打ちする。

 

「あちゃあ、これはミスったな。全機にミサイルポッドを外さんときゃあよかったぜ。まぁ、今さら後悔すんのもしゃあない。ラクリーマ、聞こえるか?」

 

全く焦った様子もなく彼を呼び出した。

 

『どした!?』

 

「今どこにいる?」

 

『今、部下のとこに駆けつけたとこだ。どうやら前に厄介なトラップがあるらしいな』

 

「そのことだが、お前、突っ込んで破壊しろ」

 

『はあ!?俺に死ねってか!?』

 

あまりにも無茶苦茶すぎる発言であった。

 

「大丈夫、そのためのログハートだ。バリアもあるしまあ……万が一なんかあったら死に水はあたしがとってやるから安心しろ♪」

 

『他人事みたいに言いやがって……。まあいい、わあったよ!!なら、なんかあったらホントに俺の骨、拾っといてくれ』

 

そして彼は右腕を突き出して突進する体勢になり、

 

「各員、今から俺が前方のトラップを破壊して敵をかき回してくる。合図と共に前進しろ」

 

『分かりました。お願いしますぜリーダー!』

 

通信でそう伝えるとラクリーマは発進、機雷原に慎重に侵入。

……確かに彼より一回り大きい球状の物体があちこちに浮いている。ラクリーマは目を凝らしながら周りを見渡し、慎重に行動する。

 

「近くにいかねえとわかんねえくらいに黒いな。サイサリス、どうすればいい?」

 

『右手の爪を前に突き出せ。ブラティストームのドリルと同じ感覚だ』

 

言われた通りに爪を真っ直ぐ伸ばすと長く真っ直ぐ尖った5本の爪が左手のドリルのように高速回転を始め、5本全部が一斉にログハートから放たれた。

 

それらがまるで意思を持ってるかのように自由自在に動き回り、駆け巡り、そして機雷に狙い定め、突撃。まるでドリルと化した爪が次々に浮遊している機雷を軽々と貫通し、爆破させていく……。

 

「なるほどそういう機能か。なかなかあいつもいい趣味してんじゃねえか!!」

 

ラクリーマは右腕をブンブン振り回して自ら機雷へ突撃した。

 

「うらあっ!!」

 

爪がなくなった右手を握りこんで機雷を殴打する。そしてすぐにそこから離脱し、すぐに次の機雷へ向かう。

 

……殴られた機雷はセンサー反応を起こし、爆破。まるで大量の花火が炸裂しているように機雷の散布された宙域を光で染める。

 

――連邦のモニターにはその光景が堂々と映し出され、見ている者全員が呆気をとられている。

 

「なっ……なんてやつだ……」

 

「各部隊、アマリ―リスのリーダー、ラクリーマという男を全力で止めろ!!そのデータを一斉に送信する、本艦に近づけさせるなァ!」

 

全部隊に一斉に命令。それほどまでにあの男は危険であり、恐怖の象徴であった。

 

……その宙域の機雷はものの数分間で多数爆破され、戦闘員達も奮いだった。

 

『各員、いいぞ。前進しろ!』

 

彼から連絡が入り、全員が一斉に操縦レバーをグッと握った。

 

『よっしゃーっ、これで俺らも前進できるぜ!ラクリーマさんを援護だ!』

 

そして次々に戦闘員は前方へ進撃を開始。急いで戻ってきた多数の連邦部隊と再びぶつかったーー。

 

「グアハハハッーーーー!ちゃんと狙えや!」

 

――超高速で広大な宇宙を自由自在に翔け、敵戦闘ユニット部隊の猛攻さえもことごとく回避するラクリーマの姿はまさに韋駄天であった。

 

『うわあああっ!!あの男を止めるんだ!!やられるぞ!』

 

宇宙戦闘機の最高速度を遥かに上回りジグザグで蛇行飛行する彼の姿に畏怖する連邦隊員達はそれでも何とかしようと勇敢にも立ち向かっていく。

 

 

 

『銀河連邦主力中型戦闘ユニット『クイスト』。連邦初のNP炉を搭載した制式採用機。汎用性、拡張性に優れ、さまざまな兵装に換装できる良量産機』

 

 

 

そのクイスト200機の両腰にマウントされた多連装の発射管から無数の実弾ミサイルが一斉に発射され、それがラクリーマに向けて隙間なく四方八方から飛び交うミサイルが彼を包囲して突撃していくーー。

 

「俺にミサイルなんぞ、ただの動く的にしかなんねえぞ!」

 

彼はブラティストームの小型ビーム砲を全て展開、三次元機動の要領で高速で飛び回りながらビームを高速連射して追ってくるミサイルを全て撃ち落としていく。

 

「墜ちろォーーーー!」

 

次々に爆散するミサイル。だが突然、彼はピタリとその場に停止し向かってくるミサイルへ右手を突き出した。

 

「クカカッ!!いいぞ、もっと来いや!!」

 

ミサイルが右手のひらに直撃し爆発……だが全く効いていない。ミサイル一つ一つの全長がラクリーマと同サイズでそれが全方位から無数で襲いかかっているにも関わらず、右腕全体がもげるどころか、焦げ、傷ひとつもついてない。彼自身もバリアのおかげで爆風が全く届いておらず、無傷だ。

 

『やったか……!?』

 

連邦は爆光を弱まり、その望みをかけてモニターを凝視した……が、その願いが叶うハズもなかった。

多数のミサイルが命中し、爆発した中心部からそう、あの男が何の影響もなく存在していたのだから……。それも今度は狙いをつけているように睨み付けながら……。

 

「ばっ……化け物だぁァ――!!」

 

完全に畏れをなしている連邦隊員達。宇宙服も装備もしていない生身の人間が宇宙空間にいることでさえ異常であるが、連邦の戦闘ユニット……いわゆる巨大な機動兵器の武装を持ってしても全く通用していないのは考えられない。夢を見ているのかと疑いたくなるほどであった。

 

『いただき!』

 

その時、横から割り込んだスレイヴの集団が、絶望したのか動こうとしないクイストの胴体をあのエネルギーの刀身で斜め上から次々と一刀両断し、すぐにその場から離脱。

 

クイストの金属の胴体が焼ききれて半分に分断され……強烈な光を内部から発し、そして『ボボボッ!』と鈍い音を放ちながら爆発。

ラクリーマは皮肉まじりな笑みを浮かべて通信機越しに。

 

「おいおい、それは俺の獲物だぜ!」

 

『クククッ、すんません。まあいい的だったんで許してくだせえ』

 

『たまには俺らにも勝ち星くださいよ、リーダー♪』

 

「まあいい、お前達は向こうを頼む。なんかあったらスグに駆けつけるからな、あんまり離れすぎんなよ!!」

 

『了解!リーダーもあまり無茶しないで下さいよ!』

 

仲間がまた次なる戦場へ赴くところを見届けるラクリーマ。しかし、彼をよく見るとわき腹を左手で優しく撫でている。

 

(……どうやら耐えられなくなっちまってる。痛みは感じねえが……かなり軋んでるのがよくわかるぜ……だが勝つためにやるしかねえんだ!!)

 

渋い表情をして彼も旅立っていく。クイストとゼウシウス、二大連邦戦闘ユニットとホルスと呼ばれる戦闘機が前線に赴いている中、後方では両機とは異なるフォルムの戦闘ユニットが約2000機近く横並びに配置されていた。右手に巨大なランチャーと思わせる太い筒状の大砲、両肩にはゼウシウスのモノよりも更に長い砲身が遥か前に向いていた。

 

 

『連邦製支援攻撃用中型戦闘ユニット『アークェイラス』。前線で対応できるクイスト、ゼウシウスとは異なり、中長射程攻撃に特化した機体。クイストと異なり、機能や武装が全て固定である』

 

 

そのアークェイラス部隊の光子ミサイルランチャーが遥か前方へと向けていた。

 

『各機、光子ミサイル砲撃用意』

 

部隊長の命令と共に砲内に金色の光が集まる――。

 

『前方7500ギャロ、XX方位の各機は速やかにその宙域から脱出せよ。アークェイラス部隊はこの域に光子ミサイル攻撃を行う』

 

――その宙域にいた連邦戦闘ユニット部隊は一斉に各四方から離れていく――。

 

『なんだ、また奴らが離れていくが……』

 

『いやな予感がする。俺達もそこから離れよう!!』

 

連邦の行動にさすがに何か来ると察知した各スレイヴ、ツェディックも急いで後退する。その時、遥か向こうから緑色の光弾が上方から弧を描くように近づいてくる。

 

『あれは光子ミサイル!?』

 

戦闘員の一人が光弾の特徴で光子ミサイルだと感ずいた。

 

――その宙域に光子ミサイルが到達すると爆発。球体のように膨張する光はまるで巨大なメロンである。

 

『ふう……あれで逃げてなけりゃあ全員オダブツだったぜ……』

 

難を逃れて安心をする戦闘員だったが、

 

「っしゃあ!!」

 

『リーダーっ!!』

 

なんとラクリーマが彼らとすれ違いに膨張中の光の中へあえて突撃していく。

 

(本当にバカだあの人は……っ)

 

全員そう思っていた……。



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Part.40 激突!アマリーリス対銀河連邦③

アークェイラスの両肩の長射程砲、さらに胸部から極太のビーム、小型ミサイルの雨が隙間無しに埋め尽くす中、ラクリーマは全く避けようとせずにバリアを張りながらそのまま突っ込み、ボロボロと化したアーマーを脱ぎ捨てた。

 

「うああああァァーーっ!!」

 

雄叫びを上げるラクリーマはアークェイラス部隊近くに急接近し、上方へ飛翔。ログハートの光子ミサイル連射砲を展開し、狙いを定めた。

 

「消し飛べや!!」

 

右腕のギミックが高速回転し、下方一帯に光子ミサイルをばらまき、一面を破滅の光に包み込んで文字通りに消し飛んでいく多数のアークェイラス。

 

「第107アークェイラス中隊、大量の光子ミサイルの直撃を受けて壊滅……」

 

「何だ……何が起きているんだ……?」

 

あんな生身の人間からどうやって戦艦級の光子ミサイルを無限に発射できるのか全く理解できなかった。

それも彼らはアマリーリスには15年前に滅んだ『神の軍団』に所属していた最強の天才科学者サイサリスがいることを知るよしもないが。

 

とにかく、あの男が更に調子に乗らないうちに何としても止めなければ……どうすればいいか、カーマイン達は頭をフル回転させていた。

 

「面白いことを考えたぜ!」

 

一方、ラクリーマはブラティストームの炉心を積んでいる肩の側面と上部の金属穴から細長いチューブがニュルニュルと5~6本飛び出し、それがログハートの炉心を積んでいる翼のような突起物へと伸ばして、着くとそのまま直結した。

 

「よし、試しに……ちょうど敵部隊が……」

 

彼の前方からはまた別部隊がこちらへ向かってきている。どうやら……連邦の宇宙戦闘機だけで構成されているみたいであるが。

 

ブラティストームの小型ビーム砲の全銃口をその戦闘機に向けて狙いを定めてビームを撃った。

出力が普段よりも高く、発射された極太の光線が目にも見えぬ超スピードで一直線に駆け抜け、戦闘機は避ける暇もなくまともに直撃。しかし、その光線はその機体どころか後ろにいた機体さえも貫通、さらに貫通と遥か彼方まで伸びていった――。

 

『うわああっ!何があっーー』

 

爆発、その四面にいた戦闘機さえも巻き込んで誘爆した。

 

―ラクリーマは閃いた。『これは使える』と。

 

「やっぱりな。二つの炉心を連結させるとそれぞれ炉心の出力が上昇するようだ……こりゃあいいことを見つけたぜ!」

 

ニィと笑う否や、ブラティストームを天に突き上げて、4門の銃口も真上に向いた。各銃口から光線がどんどん伸びていき……長いってもんじゃない、一体何千キロメートルあるのかと思うほどの先が見えないくらいに極太の4つの光線を放ったままそれを維持し……まるであのスレイヴやゼウシウスのような……いやいや、そんなものとは比べ物にならないほどの全長を誇る光の剣であった。

 

《ぶったぎってやらぁ!!》

 

途方もない長さの4つの長いNPエネルギーの光で輝く剣を形成し銃口を、左から右へ横振り、その銀河連邦製宇宙戦闘機『ホルス』、『アルスタシア』の編隊へ豪快に薙ぎ払った。

破格の全長を誇る光刀身一本が計四本縦にしているためその範囲は凄まじく、直撃した機体は全機、切れ目と共に上と下に分断、爆発したのであった――。

 

『ほ~~う、ラクリーマ~~やるじゃんか♪こればかりはあたしも考えてなかったよぅ♪』

 

「へっ、変な声を出すんじゃねえよ!!」

 

サイサリスから猫なで声で賞賛され、気味悪がる彼だが。

 

 

『ラクリーマは戦闘に関したら素晴らしいねぇ~~、センスいいねぇ~~♪憎いねぇ~~っ、このこのぉ♪オマエだけでなくあたしにもやらせろぉん♪』

 

「やらせろってオマエ……」

 

『クククッ……ここでとっておきだ!!まあ見てな!!』

 

……開発エリア。サイサリスはどこから持ってきたのか謎のゴーグルを装着し、右手には拳銃のグリップとトリガー型デバイスを持っていた。

 

彼女が右手を前に伸ばすとそれに連動して、ラクリーマの意思とは無関係に右腕も同じ行動を取った。

 

『さっ、サイサリス?右腕が勝手に動いてんぞ!?』

 

「心配すんなラクリーマ。今だけログハートはあたしの掌握下だ」

 

サイサリスに映るゴーグルの画面にはラクリーマと同じ視点で、先ほどの斬撃で倒せなかったホルス、アルスタシアの残機を何やら赤く丸で囲み……標準を合わせている。

 

「くくっ……ロックオン……目標、画面全体の敵軍団……NPエネルギー収束開始、死ねやイカレチ〇カスどもぉ!!」

 

持っていたデバイスのトリガーを力強く引いた――その時。

 

『!?!』

 

ログハートの機械や回路が一気に活性化した時、その瞬間であった。

前方の全ての機体が突然、一斉に爆散。一瞬で回りにバラバラになった胴体の破片や内部の機械が飛散しまくり、よくみるとパイロットの肉片や内臓も見るかげすらなく浮かんでいる。

ラクリーマは一体何が起こったか瞬きもせずにただ茫然と見ていた。

 

『どうだ!?この威力はァ!!』

 

彼女の声にやっと我に帰り、ラクリーマはハッと大声を上げた。

 

「お前、一体何をした!?」

 

『クククッ、ワープホールの応用さ。高出力のビームをターゲットロックした対象物の内部へ空間移動させて直接撃ち込むっつう機構だ。最も、試験的に取り入れた機構だからさっきの一発しかもう使えねえが、もし生き残ったらそれが実用化できるように改良してやるよ。お前自身でも使えるようにな!』

 

「…………」

 

ーーつまり高出力のビームをワープさせてコックピットのパイロットに直接撃ち込む、という鬼畜兵器である。さすがのラクリーマも彼女のあまりの凄さに口が震えていた。

 

「……ホントに敵に回したくねえ奴だなオメェはよ……こんなの連邦でも考えつかねえぜ……」

 

『けっ、このぐらい用意させてもらわねえと同じ土俵に立てねえぜ。なんせ相手は連邦だからよ』

 

確かにログハートがなければ確実に大苦戦を強いれていただろう。ブラティストームだけではさすがに相手にならず、たとえ戦闘ユニットに乗っていても、無数の数で攻めてくる連邦相手には分が悪すぎる。

 

実際にログハートを装着しても、苦戦するとラクリーマは考えていたのだから、さすがはサイサリスの持てる全技術を全て注ぎ込んだ最強の殺戮兵器だ。

 

……次第に彼は身震いし始め、右腕をぎゅっと握った。

 

「サイサリス……?」

 

『……どうしたラクリーマ?』

 

「俺、楽しすぎて今までにない快感を味わってる……なんだろう……理性のタガが外れそうなんだ」

 

『お、おい?落ち着けよ!?』

 

「ああっ……分かってる……だが」

 

……あの時からだ。ログハートを装着した時から彼はおかしい。

 

ラクリーマには、先天的に持って生まれた常人を遥かに超える身体能力、戦闘的センスもさることながら、戦闘訓練で垣間見せた凶暴な本能も兼ね揃えている、いわば『生まれながらの闘犬』と言える。

 

だが彼には理性がある。部下達ですらやらないようなくだらないイタズラをやらかすのが好きではあるが決して頭は悪くなく、証拠に前線の戦術指揮もできる。

 

しかし、ログハートを装着した際、旅立つ際に彼女へ放った言葉は何か危ない言葉を放っていた。それは普通の思考ではまず口にしない言葉である。つまりである。彼は本性を隠している。今までに誰も見せたことのない本当の姿が……。

 

『ラクリーマ……お前のアリのままが見てえぜ。私も自分が作った武器で敵を殺戮する光景を見るのが大好きだ。

だから……全力でいけ!奴らを残虐に、無惨にブっ殺してやれ!そのログハートで……私のアソコを濡れさせやがれ!!』

 

……彼女もかなり逸脱した発言をしているが。まあ二人とも思考がよく似てる。

 

「クククッ……お前が男にフラれた理由がよぉくわかったぜ。テメェは真性の殺キチじゃねえか!!」

 

『けっ。勘違いしてもらうと困るがフったのはあたしの方だ。ところで見る限りリミッターを解除してもイケそうだな……どうする?』

 

「もうちっと慣れてからその時に頼む!」

 

『分かった。もうちっと楽しんでこいや』

 

この二人は本当に楽しそうだ。一番ラクリーマと気が合うのはもしかすればサイサリスなのかもしれないーー。

 

『くそ、ガーダルがやられた!』

 

『こっちも援護してくれ!本当にキツイ!』

 

――その頃、戦闘員達は度重なる宇宙戦闘に段々と疲労していた。破壊しても破壊しても次々とやってくる連邦部隊を前にして、もはや底なし地獄である。

 

『くっ……さすがに頭が痛くなってきた……』

 

レクシーもなんとか生き残っているが、いつ終わるやも分からない迎撃に頭痛を発していた。

 

彼の乗っている機体も装甲がすり減っていつやられるかも知れない状況にあった。もちろん、他の戦闘員達の機体も同じである。

もう現時点で、総計5万機近くあった機体の数がもう半分近く減っていた。機体が破損し、戦線を離脱し帰艦した者はもちろん、敵の攻撃で大破し、命を落とした者も。

 

仲間意識の高い彼等からすればその光景を見るのはあまりにも辛いことであった。

 

――そして、今彼らと交戦している銀河連邦、第110戦闘ユニット部隊……あの二人がいる部隊であった。

 

『ケッケッケ、よくもここまで好き勝手に暴れてくれたな!!俺様のアデリーンで貴様らを制裁してくれる!!』

 

迎え撃つはサルビエス。彼の搭乗するこの機体は不気味である。

 

全長は大型クラスであり、さらに狐の顔を模した頭部、限界まで装甲を削り、スマートすぎる胴体、そして後腰部には金属でありながらまるで尾のようにユラユラ揺れる柔軟性をもった物体が計9本……。

 

それ姿はまるで中国の妖怪である『九尾狐』の姿と酷似していた。

 

 

『……他の戦闘ユニットと違って嫌な感じがするぜ……全員、あの戦闘ユニットに気をつけろ!』

 

 

レクシーのかけ声に仲間は分散し、サルビエスの駆る『アデリーン』を四方八方取り囲んだ。

 

『全員、一斉攻撃だ!!』

 

彼の合図と共に、両肩から長く突き出た砲身から放たれる一点集中型の光線をアデリーンに撃ち込んだ。しかし、光線が突如アデリーンの全身から緑色の粒子が放出、エネルギーの力場が発生され、全方向からの光線がいとも簡単に弾かれた。

 

『クックック……お前らの攻撃なんぞ利くわけねえだろうが』

 

コックピットで余裕こいて高笑いしているサルビエス。

 

『ならこちらからも行くか……全機、俺様を援護しろ!』

 

『了解……』

 

周りの部下の返事が何か元気がない。それはコモドスも同じであった。

 

『あいつ、バリア持ちか……これはヤバイなぁ……』

 

レクシーは歯ぎしりを立てている。

こんな独特のフォルムはどうみてもクイスト、ゼウシウスのような量産機ではなく専用機だ。

後方にはもう一機、他の機体とは形状が違うゴリラをそのまま機体にしたデザインの重量感ある戦闘ユニット。全長はスレイヴと同等である

そして彼等の前に立ちはだかるサルビエス率いる攻撃部隊、果たしてレクシー達の運命やいかに……。



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Part.41 合体!その名はシルバリオン

『お前らみたいな社会のゴミはこの世から抹殺してやるぜ!』

 

アデリーンが上方へ飛翔。約70メートル程で急停止し後部にある9つの尾を模した金属筒を前方まで伸ばし、それら全てがまるで銃口のような丸い穴を展開、緑色の光線を一斉放射。

それは撃った瞬間、光ったとしか見えないほどの、肉眼では認識仕切れないほどの速度で一気に前方のスレイヴ数機を撃ち抜き、行動不能にさせていった。

 

『……俺……撃たれたのか……ああ……っ』

 

『おいっ、しっかりしろ!!早く脱出しろっ!!』

 

撃たれた戦闘員はワケが分からず震えながら自分自身に問いかけていた。

しかしその時、アデリーンの後方にいたゴリラを模したマッシヴな機体が背部のブースターを噴かして急発進、一気にその戦闘不能と化したスレイヴにコックピットに向かって、その握り込んだ剛拳で殴り潰した。

 

『…………』

 

見事にコックピットがぺちゃんこに潰れてついに返答がなくなった。それにレクシー含む、彼らの機体がその場に立ち尽くす。

 

『ケッケッケ、無様だなぁ。コモドスよくやった』

 

『…………』

 

その機体の乗っているのは彼であったーー。

 

 

 

『コモドス専用中型戦闘ユニット『エンリケ』。白兵戦、近接近戦に特化した機体。アデリーンの護衛を目的に開発された兄弟機』

 

 

『行くぞ全機!奴らを皆殺しにするぞ!!』

 

そして襲いかかるサルビエス率いる第110戦闘ユニット部隊。レクシー達はすぐにそこから退避するが、

 

『こいつ速ええ!!大型ユニットのクセにスレイヴと同等だと!?』

 

アデリーンの機動力はレクシー達の想像より上であった。

 

機動性が売りであるスレイヴと互角であったのだ。同じ速度、同じ制動、同じ旋回能力でこちらに動きについてきている。

こんな一回り大きいのに全く劣ってない。寧ろ、あちらのほうが全てにおいて性能が上であった。

 

『お前らにいいものを食わせてやる!!』

 

サルビエスは右操縦レバーの横についていたボタンを押した瞬間、後ろの『尾』が一斉に宇宙空間に放たれた。

 

有線式。エネルギー供給線が伸びる限り九つの尾が各敵機へ追いかけ回し、的確に狙いを定め、機体を撃ち抜いていく。

 

『ちい、隙がねえ……』

 

レクシーは敵の猛攻を必死に避けていた。彼は戦闘員の中でも操縦能力、判断力が特に優れているが、厳しい状況であった。

 

一方、コモドスと部下も第一線で戦っていた。まるでアデリーンを護衛する家来のように。

 

『サルビエス大尉には触れさせん!』

 

コモドスの駆るエンリケはまるでボクシングのピーカブースタイルのように両手を構えて、敵機に密接して拳を人間で言う脇腹、頭部、そしてコックピットのある胸の部分をその強力な金属拳で素早く強打。

一撃で装甲が凹み、コックピットに直撃した戦闘員はものの見事に押し潰される。

 

スレイヴの一機が離れた場所からエンリケの真後ろから右手首から突き出ている砲門を向けて、発射。

光線が突き抜けエンリケに直撃しようとするも緑色の光の膜が機体全体に覆い、光線をいとも容易く吸収、消滅した。

 

『なにぃっ!アイツもバリアを』

 

するとコモドスもその機体に気づき振り向くと右拳を向けて、なんと拳を発射。ブースターがうなりを上げて飛んでいく。

 

『拳がこっちに飛んでく……ぐわああっ!!』

 

避けられずに直撃。貫通はしてないが胸部を当たり陥没、機内はグラグラ揺れた。コックピットは……何とか無事みたいだ。

 

『……ただ殴るだけが取り柄じゃねえってか……』

 

飛んだ拳はちゃんと元の場所へ戻り、連結。

それはまさにアニメに登場するロボットが装備している定番の武器『ロケットパンチ』を再現しているようであった。

 

『一旦ここから抜け出す!!』

 

仲間が敵の密集地帯から離れようと上方へ退避したその時、一瞬だった。コックピット部分に大穴が開き、機体は完全に動かなくなった。これが戦闘員達をさらに混乱させることとなる。

 

『おい、どうしてやられたぁ!!』

 

『分からない!!ヤバイぜこれは……』

 

その中、

 

『レクシー、大丈夫!?』

 

「ジュネか!」

 

レクシーのモニターに最愛の恋人ジュネが映る。

 

『気をつけて、奴らの後方に約500機の狙撃手がいるニャ!』

 

サルビエス達の後方100キロメートル地点では長銃身の銀色で施された身の長程の長さを持つ巨大なスナイパーライフル、取り付けられた専用の照準スコープに目を傾けて息を潜めるクイストの姿が……。

 

ライフルの銃底から繋がる供給線が背中に搭載されているランドセルのようなジェネレータへと繋がっている。

 

『早く出てこい、早く出てこい』と言わんばかりに銃を構えたまま不動であった。

 

『むやみに四方へ逃れるのは危険だニャ、その瞬間的にされるよ!』

 

『クソ、ならホントに逃げ場なしかよ……』

 

……次第に追い詰められる戦闘員。

 

立て続けに連邦は次々とホルスとアルスタシアを投入していく。

ホルスの動力源はNPエネルギーではなくグラナティキ級と同じプラズマエネルギーで動いている旧式の宇宙戦闘機である。だが性能面、操縦性に優れた傑作機であり、どの隊員でも扱いやすいためクイストやゼウシウスと同じく第一線を張る機体である。

 

それに対してアルスタシアはホルスよりもサイズの大きく攻撃面に重視した次世代機で機首部の大型プラズマビーム砲、両主翼下のミサイルポット、胴体の底部に搭載された巨大なミサイル……対艦ミサイルを携え二機が左右に散開、各敵機に攻撃を仕掛け始めた。

 

『くうっ、ちょろまかと動きやがって……』

 

ホルスの優れた機動力、両主翼に装備された実弾ではなく、エネルギーを弾丸として撃つ機関砲、胴体の真下に装備された速射式エネルギー砲を駆使した一撃離脱戦法を得意とする、後方支援が主のツェディックとはまた違った戦術だ。エネルギー上、戦闘ユニットと比べたら少し頼りない気がするが、すでに疲労しきったアマリ―リス勢相手には数押しで有効な手段である。

一方のアルスタシアはプラズマビームとミサイルポッドで弾幕を張りながら混乱するスレイヴに接近して対艦ミサイルを次々に直撃させて破壊させる単純な爆擊で押し通していく。

 

『本当にまずいぞこれは!』

 

『一旦引くか!?』

 

『バカ、奴らに背を向けたらそれこそ蜂の巣にされるぞ!』

 

その戦力を前にアマリ―リスの機体は次々に撃破され、もはや数十機……百機以上の機体が破壊された。

 

警察の役目を果たす銀河連邦の理念に反するのではないかと思うが、彼らアマリーリスは襲いかかってくる。つまり、自分自身を守るための最終手段……いわゆる正当防衛、という体で行っている。

 

『……もうだめかもしれん……』

 

レクシーもあきらめかけて気が緩み、機体の動きが鈍くなった。

それをサルビエスは見逃すはずもなく、狙いをレクシーへ向けた。

 

『へへっ、諦めたか。それにしても貴様達の機体には華がないな。いくら性能が高かろうが武装が標準装備のクイストと同レベルじゃねえか。クックック……全く拍子抜けだぜ!!』

 

サルビエスは不気味な笑みと共に勝利を確信。

 

『俺がトドメを指してやらぁ!!』

 

ついに突撃し、九つの尾全てをレクシーの機体に向けた。

 

『南無三……』

 

万事休す、レクシーは向かってくる巨大な狐の前に瞳を震わせていたーーが。

 

 

《ド ワ ッ ! !》

 

 

突如、アデリーンの前方が爆発、機体の動きが止まった。

 

『くっ、なんだ!!どうした!!』

 

サルビエスがモニターを前方を確認すると、狙いを定めていた機体の後方には紅い戦闘機の群が。

 

『紅い……戦闘機……?』

 

アマリ―リスのもうひとつの機体である『ツェディック』のお出ましである。

 

『おいレクシー、腐ってんじゃねえよ!!』

 

彼の通信から聞こえてくるのはあの問題男、ユーダであった。

 

『ユーダ!助けに来てくれたのか!!』

 

『勘違いすんじゃねえよ。お前らがあまりにも不甲斐なさ過ぎるから腹が立ったんだ。あんな奴ら、今すぐぶっ飛ばせねえのかよ!』

 

『……できたらとっくの間にやってるよ!』

 

『……まあいい。レクシー、仕方なくだ。『アレ』するぞ!!』

 

『アレってまさか……』

 

『早くこい。俺だってあんましたくねえんだが……やらねえと倒せねえんだろ?』

 

『…………』

 

二人の言う『アレ』とは一体……。

 

『ちい、よくも邪魔しやがったな!!俺がまとめて相手してやらぁ!』

 

サルビエスは待ってくれるはずもなく、すぐにまた尾をレクシーと今度はそのツェディック達の方へ向けた。

 

『レクシー、来るぞ!!』

 

「おうっ!」

 

そして九つの光線が一気に放たれたが、軌道上にいたレクシーとユーダはすぐに退避、そして二人の乗せた二機は合流した。

 

『行くぞレクシー!!』

 

『……わかった。こうなったらどこまでイケるかやってやる!!』

 

 

《合 体 だ あ っ ! !》

 

 

ーースレイヴとツェディックの真価はここである。それは連邦からしてみれば信じがたい光景であった。

 

ツェディックの二分割りした機首部が分離し、それそれがスレイヴの両手首に装備されているエネルギー砲の砲身と連結。

そして残ったコックピットと主翼、動力炉がある主胴体の金属分子が増殖して別形態へ変形、スレイヴの背中にあるV字型の推進器に合うように下から合体、残った二つの尾翼は角のように頭部の真ん中に連結。コックピット内では、レクシーの座席が上に上昇し、その下からユーダが潜り込んだ形で設置。

 

単座式から複座式へと変わり、スレイヴとツェディックの本領の姿が今ここに出くわした。

 

『二機が……合体しただと!?」

 

前に立っていたのは両腕部に突き出た10メートルの真紅の長砲身、背部にはスレイヴ、ツェディックのを複合させた巨大な羽翼とスラスターのバックユニット、そして頭部は天を刺すよう突き出た角はまるでおとぎ話に登場する『鬼』のようであった。

 

スレイヴの白色の胴体、ツェディックの紅いパーツ、その姿は目立つくらいの存在感を放っていた。

 

『久々だなこれ……上手く扱えっかな?』

 

『そんな心配はいいから早く操縦しろ。俺は早くあいつらを殺したくてしょうがねえんだ』

 

『へいへい、ユーダさんは怖いでっせ。なら行くぜシルバリオン!』

 

レクシーが勢いよく操縦レバーを前に押した時、瞬く間に目の前のクイスト一機がすでに真っ二つに胴体が分断されて、その後方には、右手を振り切った『シルバリオン』の姿があった。

 

『何だとォ――!!』

 

先ほどの動きとは全く違う。その機体は疾風の如く、モニターやレーダーが捕らえきれないほどの超高速で駆け巡り、翻弄し、連邦の機体を一機、また一機とバタバタ薙ぎ倒していった――。

 

「見せてやるぜ、音速を超えた闘いって奴をな!!」

 

NP炉心を二基、直列連結で搭載したシルバリオンの性能たるや、先ほどの苦戦が嘘のようであった。

 

『このアデリーンが……捕らえきれないだと!!?コモドス、あいつをどうにかしろォ!!』

 

『…………っ』

 

シルバリオンの機動力はスレイヴと比べて桁が違うほどで接近しなければまともに攻撃できないエンリケからすれば、非常に相性の悪い相手である。

 

「今までの分を倍返しで返してやるぜ!」

 

ログハートを装備したラクリーマのように、スレイヴ、ツェディックの複合型ブースター、スラスターで縦横無尽に動きまわりながらツェディックに搭載されたミサイルを雨のようにばら蒔き、次々にクイストの大軍へ直撃、爆散させる。

 

「400機撃破!ユーダ、バテるなよ!」

 

「それはこっちのセリフだレクシー!」

 

二人の息のあった連携プレーで次々とクイスト部隊を大破させるシルバリオン。高出力のNPエネルギーのビームで容易く撃ち抜き、多連装ミサイルランチャーで弾幕を張りながらエネルギーソードで片っ端から切り捨てていく……スレイヴとツェディックの二機から引き継ぎ、更に出力が大幅に強化された全ての武装を駆使して瞬く間に殲滅していく。

 

――突然、シルバリオンはその場で停止し、ある方向へ向くて両手を前方へ突き出した。

 

「ユーダ、頼むぜ!!」

 

「てめえに言われるまでもねえ!!」

 

ユーダの嬉々と攻撃用レバーを握りしめ、モニターを確認する。その方向とはあのスナイパー機の確認された方向であった。

 

「行くぜ、高出力光子ミサイル発射!」

 

左右の腕部から長く突き出た紅い砲身から巨大光弾が同時に発射、平行に並び弧を描きながら遥か前方へ飛んでいった。一方、狙撃部隊も上方からこちらに何か光る物体が二つ確認され……。

 

『光子ミサイル!?』

 

『いかん!!すぐに退避するんだ!!』

 

時すでに遅し、二発の光子ミサイルは回避する間もない程の速度で向かってくる。

 

『避けきれません!!』

 

爆発し、一気に膨張。その範囲は各ミサイルに直径数百キロメートルに及び、そこに存在した機体、小型隕石郡とは膨張した光に巻き込まれ、消滅した。それはレクシー達からの距離からでも十分確認できるほどであった。

 

『よっしゃ、もう狙われる脅威はなくなった。あとは……』

 

二人はニィと笑いなから振り向き、残ったサルビエスの部隊を睨み付ける。

 

『レクシー、ユーダ、あのユニットの弱点が分かったニャ!!』

 

再びジュネから通信が入り、モニターに注目するレクシー達。

 

『あいつの弱点はあの九つの尾だよ。あれ以外に武装はないから、つまりあれさえ破壊すればもはやバリアだけが取り柄のウドの大木だニャ!!』

 

「そうか、なら……」

 

「あのしっぽをなんとかすりゃあいいってわけだな!」

 

先ほどの両砲門のからスレイヴよりも10m長く幅も増量した刀身……まるで太刀な長さを誇る光を放ち、攻撃態勢に移る。

 

「早くしっぽを伸ばしてこい、クククッ……」

 

対するサルビエスはと言うと自分の部隊を先ほどの攻撃を受けて怒りに満ちていた。勿論、仲間を倒されたことによるワケでなく、自身の持つ崇高なプライドを汚されたという意味である。

 

『このぉ、調子に乗んじゃねーーっ!!』

 

『たっ……大尉!!』

 

頭に血が上り、単機で突進。実に愚かだ、二人の策など知るよしもなく、九つの尾を伸ばしてシルバリオンに狙いをつけ、射出した。

 

それらは古事記に登場する大蛇の化物『ヤマタノオロチ』のようで、そして生物のようで醜態な金属達の怒涛の勢いであった。

しかし、レクシー達はそれらを目の前にしても、臆するどころか逆に嬉しそうな表情であり、グッとレバーを前に押した―――。

 

「なん……だとっ……」

 

それは閃光のような一瞬でその九つの尾に繋がっていた供給線全てが狙った敵の前で切断され、尾のような物体が辺りに散乱し浮いている。さすがのサルビエスもこればかりは血の気が引いていた。

 

「トドメと行きますか、先ほどのツケを倍に返してやんぜぇ!!」

 

瞬間、シルバリオンは急発進。数秒後にはなんとアデリーンの右腕や両足が切断されていたのだ。

 

『バリアが貫通されただと……!?』

 

『大尉!!』

 

急いでエンリケが向かうも彼らの機体の前にはもはや赤子同然、アデリーンと同じく反応できぬ間に左腕と脚部を斬り飛ばされてしまった。

シルバリオンは姿を現すと両手を組み、アデリーン率いる部隊のいる前方へ腕を伸ばした。

その瞬間、両肩の砲身も敵のいる前方へ自動的に調整。そして、あの両手首の紅い長砲身同士が平行に重なった時、『バチバチ』とスパークのようなものが砲身にほとばしった。

 

『ヤバイ、おいコモドス!!今だ、あれを使え!!』

 

焦りに焦っている彼は、コモドスに何か命令を出すが、本人は何かを畏れているのか急に顔色が悪くなった。

 

『大尉……っ、やはり自分には無理です……』

 

『キサマァ!!ホントにお前、絶望のドン底に叩き落とされたいんだな!!』

 

『……………っ』

 

コモドスはガタガタ震える手で、コンピュータパネルの右手前にある『ツマミ』を触り、グッとつまんだ。

 

『やれぇぇーっ、コモドス!!』

 

……そしてツマミの方向は真下から真上へ変わった。

 

『なっ、なんだぁ!?』

 

『制御が効かない!!ナゼだぁぁ!!』

 

近くにいたクイスト達が突如、ガチガチに固まったと思いきや、とっさに移動を開始。 アデリーンの目の前に行くと、一機、また一機とまるで盾になるかのように多数の機体が覆い被さっていったが。

 

「ユーダ!!奴らの動きはおかしいぞ!」

 

「構うこたあねえ、あんなに固まってもらえりゃかえってやりやすいぜ。行くぞ、全砲門一斉発射!!」

 

シルバリオンの展開した両肩、そして平行にした両腕部の砲門から莫大なエネルギー質量を持つ極太の蒼白の光線が前方に向けて解き放たれた。

それが拡散しはじめ、広範囲を包み、喰らいながら、ついにはあの謎の固まったクイストの大群までも……。

 

《ぎゃああ………》

 

まともに直撃し、外側にいた機体は全て完全に粉々に……それが段々内側にも襲いかかり、装甲が消し飛ばされ内部もさらされ粉々になっていく。

 

………出力が弱まり、段々前方の視界が見えるようになった時、残っていたのはかろうじて残ったクイストの残骸、あの二機、エンリケとアデリーンと射程範囲から逃れたクイスト数機のみであった。クイストの『塊』で何とかアデリーンとエンリケだったがもはやどちらも戦闘できる状態ではない。

 

『くくぅ……、本部隊は戦線離脱する。各機、帰艦せよ!!コモドス、俺を引っ張ってくれ……おい、コモドス!!聞いてんのか!!』

 

……しかし本人はそんなところではなかった。眼から涙をポタポタ落ち、これでもかと言うくらいに手を握り込んでいた。彼は自分のしたことを悔やみに悔やんでいる……。

 

「俺は……最低で残忍な男だ……っ」

 

しかし、もはや取り返しのつかないことであった。自分の上官の命令とはいえ、あまりにも非人道的で非道な行為。

エンリケに仕組まれたそれはサルビエス部隊に機体限定で極秘に内蔵された制御装置であり、使用するとパイロットの制御全てが一切遮断されてしまいサルビエスの身代わりとなって動くという卑劣極まりないシステム。当然部下には伝えておらず、知るよしもない。これはサルビエスがメカニックマンに『コネ』を使って行なった行為であった。

 

……そして残った機体は急いで後退していく。かろうじてまだ推進装置が無事であったエンリケはアデリーンを身体で押すように去っていった。

 

「ちい、逃げやがった!!追いかけろレクシー!!」

 

「いや、単機で追いかけるのはやめよう。リーダーが言ってた通り、孤立はホントに危険だ」

 

「けっ、これを好機を逃すってんだよ。このまま逃してまた態勢立て直されたらどうすんだ?」

 

「あんなボロボロにさせてやりゃあしばらくは出撃無理だ。それに俺らの目的は全機を相手にすることじゃねえんだぞ、あくまでエクセレクターを突破させることだ」

 

「ちっ……」

 

周りを見渡すと、味方の数が少ない。先ほどの強襲でこちらも大打撃を受けた証拠だ。

レクシーは額の汗を腕で拭い、安心の息を吐いた。

 

「ありがとよ、お前が来てくれなかったら全滅だったぜ……」

 

「へっ、だからお前がしょうもなさすぎたから見てられなかったんだよ」

 

「……にしても今回、合体してよくここまでいけたよなぁ。いつもなら絶対噛み合わないでわやくちゃになるのによォ」

 

シルバリオンはスレイヴとツェディックの二機が揃えば合体できる。寧ろこの二機の本領であり、そのポテンシャルが凄まじい。ではなぜ全機がこの形態にならないその理由はその操縦システムである。

 

シルバリオンは見た通り複座式であり、スレイヴの搭乗者は機体の操縦管制、ツェディックの搭乗者は火器管制を担当するため、二人の技量と同調で性能が左右される機体なのである。

 

つまり乗る二人によっては全く使いこなせないため、戦闘員は使いたがらないのであった。

ちなみにこの機体を開発したのはあのサイサリスであり、いかにもパイロットより性能面を重視したがる彼女らしい発想である。

 

「もう合体なぞ二度とやりたくねえぜ。人に力を貸すってのがあんま好きではないんでな」

 

「ふふっ、ユーダらしいぜ。まあ、こんな長話しててもしゃあねえや。不利な仲間のどこに助太刀に行く。分離するか?」

 

「けっ、とかいって分離してまた危なくなったらどうすんだ?俺はもうゴメンだぜ」

 

「キヒヒ、だな。近くにいる全員、今から圧されている仲間の援護にいくぞ」

 

「わかった、後れをとるなよ!」

 

案外仲の良さそうなレクシー達は次なる別の戦場へ向かっていった――。



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Part.42 鬼神

一方、ラクリーマは相変わらず一人でドンパチやらかしていた。目の前に現れたクイストのコックピットの前に立ち。力ずくでハッチをバリバリ剥がし始め――。

 

「よう、ご機嫌ですかなァ?」

 

「ヒィィィィィっっ!!」

 

コックピットに侵入してパイロットとご対面。分厚い宇宙服とヘルメットを着用していてどんな顔をしているのか分からないが相手は混乱し、挙動不審となっている。

 

「挨拶してやんよ、ホレ」

 

……コックピット内は肉がグチャグチャに掻き回される生々しさ、骨がすりつぶされるような鈍い不協和音と共にパイロットの血液と思われる青い液体の海と化した。

それをまるで待ち望んでいたかのように歪んだ笑みを繰り出すラクリーマ。

 

かなりえげつない攻撃だが彼らしいやり方である。そのコックピットから飛び出し、通信機に手を当ててこう叫んだ。

 

「各機全員集合、フォーメーション攻撃を開始する!!」

 

『了解!!』

 

合図と共に、各機体は彼のいる方向へ一斉に集合。早急にスレイヴは全方向に向くように4機で輪を作り、腕部で組み合う。

その状態を一段、また一段と縦一列に重なり合っていく。

 

ツェディックはその最上、最下に移動し、こちらも全方向にむくように輪を形成していった。

 

「なっ……なんだこれは……」

 

その光景を目にした連邦のパイロット達は度肝を抜かれた。

アマリ―リスの機体が果てしなく縦一列に重なりあって……まるで巨大な塔を思わせるフォーメーションをとっていたのであった。そしてラクリーマはまるで彗星のように光の尾を引きながら最上部に到着、真上に立つとログハートの新型NP炉心と連結させたブラティストームを天に突き上げた。ビーム砲全てを展開し、四方に向けた。

 

これで準備が整った。その孕んだ狂気と熱さをもった笑みと共に!!

 

「行くぞ!!全機、全方位一斉発射ァァっ!!」

 

命令から1秒後にはこの宙域全土は蒼白光によって支配された。

 

全長数キロ以上はある縦一列、そして全方向に配置された全機体の全砲門、ログハートの炉心と連結したブラティストームの小型ビーム砲から放たれた光線がこの周辺の連邦ユニットへ無差別に襲いかかる。

 

「ウオォォォォオオ!!アアアアアアアアっっ!!」

 

感情が高ぶったラクリーマが叫びに叫ぶ。怒涛の勢い、そして……。

 

「……………」

 

ヴァルミリオンの中央デッキ内ではもはや言葉を発する者はいなく、誰もが唖然としている。奴らの戦法がやりたい放題過ぎて、こちらのペースが掻き回されているように見受けられた。

 

「くぅ……ユピテルス砲はまだか!」

 

「今95%です。もう少しでチャージ完了します!!」

 

「嫌な予感がする、その前に本作戦を実行しなければ……」

 

「提督?」

 

彼は感ずいていた。敵艦の主砲らしき攻撃がないし、まだ奴らは何か隠していると。その考えは的中していた。

 

「全機解散、また集団行動をとれ!!」

 

一斉攻撃が終わり、フォーメーションを解除。

あれだけの光線を無差別に放射したら、さすがに敵もただでは済んでいるワケがない。相当な被害を受けていた――。

 

 

そしてそこから約600キロメートル離れた位置に駐在していた部隊。大口径の大砲を携えているクイストが計1000機、その中央でクイストと異なるフォルムを有する機体。クイストと同サイズであるがそのマッシブな体格に頭に巨大な角、まるで日本のカブトムシを人型にしたようなフォルムだ。クイストの武装であるライフル銃を2丁、両腰にマウントされている。

 

『各機に告ぐ。これより第82光特科小隊は長距離砲撃を行う。直ちに砲撃体勢に移れ!!』

 

その機体に乗っているのはそう、クーリッジであった。

 

『クーリッジ専用中型戦闘ユニット『ルーベルジュ』。光学兵器だけを装備した光特科部隊を象徴する機体。可変機構を持つ』

 

その機体『ルーベルジュ』は突如、手足を折り畳み別形態へと変形。完成させたのはなんと巨大な口径、砲身を持った大砲『形態』であった。

 

『全機、一斉発射用意。目標、前方距離2000ギャロの敵部隊!』

 

砲口内から眩い程の緑色光の塊が集まり、今にも放たれようと砲門から出ようとしていた。

 

『撃てェ――っ!!』

 

合図と共にその機体群の砲兵器、そして変形したルーベルジュの『大砲』から、大多数の巨大な光弾が発射された凄まじい勢いで前方へ飛んでいく――。

そしてその射線上にいたスレイヴとツェディックの機体200機――。

 

『XX方位、距離2000ギャロから無数のエネルギー反応がこっちに向かってくる!?』

 

『全員今すぐ退避だ!!』

 

『速すぎる!!無理だ』

 

しかし彼らにはそんな余裕はなく、その『エネルギー反応』は一瞬でその場所に到達した。

 

……多数の機体を一撃で貫通し、光弾は弱まることなくそのまま遥か彼方へ伸びていった。

直撃を受けた多数の機体はコックピットや胴体に巨大な穴が発生し、戦闘不能、爆発した。

直撃こそしなかった機体も通り過ぎた多大なエネルギー弾の余波で内部の機械に異常が発生、混乱状態に陥っていた

――そしてルーベルジュ率いる光特科部隊はモニターでその敵部隊がほぼ戦闘不能に陥ったことを確認すると、休憩することなく次の砲撃に備えていた。

 

『よし、我々は次の砲撃準備だ。今の内に使用した砲の冷却及び、終わり次第エネルギーチャージを開始せよ!』

 

クーリッジは表情的に平常であったが。

 

(ちい、主砲はまだかよ……こちらもかなり被害をうけたってのに……このままじゃさらに増える。エミリア達だってまだ発進していないんだぞ、ヴァルミリオンは何をしているんだ?)

 

内心は穏やかではなかった。

 

◆ ◆ ◆

 

そしてついにラクリーマは満を喫してサイサリスに通信を取る。

 

「サイサリス!!いいぞ、リミッター解除だ!!」

 

『いいんだな本当に!』

 

「ああっ、これはもはや俺らのペースだ。さらに奴らを一網打尽にしてやらぁ!!」

 

『よし!なら頑張ってこい、行くぞ!!』

 

サイサリスは持っていた画面パネルを素早く動かして、真ん中を力強く拳を叩きつけた。

 

「リミッター解除!!行ってこいラクリーマァァ!!」

 

次の瞬間、ログハートの推進機である無数の突起物がグニャグニャに融けて全てが一つに融合、まるで光輪のような巨大なスラスターへ変形し膨大の蒼白いNPの粒子が吹き出して辺り一面を恒星の如く強烈に光を照らした。そして腕全体もさらに変化を遂げて巨大化、見た目もかなり生物的な物となり腕の内部の機械がさらに活性化した。

 

「行くぜ!!」

 

突然彼は消えた。そのままの意味でその場所から姿を消したのであった。一体彼はどこに……。

 

――ここから艦隊方向約280km離れた宙域にとどまっていた敵部隊。クイスト、ホルス、アルスタシア、ゼウシウスの混合部隊でその数は何と15000機。大隊クラスだと思われる。

 

『我々が何としてでもアマリーリスを、あの男を止めるんだ。全機、最大全速で突撃するぞ』

 

前方では仲間が圧されて今度は自分達の番であると感じ、移動開始の命令を待っていた。

だがその時、この部隊の中から複数の機体が爆発を起こし、全機が警戒態勢へ移るが、さらに何機、何十、何百機と一瞬で大破されていく。

 

『な、なんだ!?』

 

センサーには反応しない、姿が見えない。敵がいるとは思えないのに一秒一秒で機体が破壊されていくのだから、対処のしようがなかった。

 

「ん……!?これは!!」

 

この部隊の隊長がふとモニターを確認したら小さい何かが映っている。拡大すると……。

 

「ああっ!!いつの間にいたんだ!!全機、あの男がそこにいるぞ!!」

 

部隊全員がモニターを一斉に確認した。その部隊の中心部でラクリーマがいた。先ほどの右腕が完全に別物で異形の姿であった。

 

「全機、攻撃開始だ。なんとしてもここで食い止めよ!」

 

すぐにラクリーマへ狙い定めて攻撃を開始。周りを気にせず光線を彼一人だけに撃ち込んだ。

しかし、彼はまたその場から消えて多数は光線はすれ違って飛んでいき、その軌道上にいた機体に直撃する。

 

「なあ!?」

 

だがすぐ近くに姿を現し、右手刀を横に振り構えるーーその一秒後にはホルス、クイスト、ゼウシウスの計40機が数秒で胴体が縦と横に真っ二つとなり、右手の手刀を振り切っているラクリーマの姿が。

そこから彼はなんと遥か上方へ急発進し、普通の人間には……いや、あまりにもムチャクチャな機動力で宇宙を駆け巡り、隊員全員を目を奪った。

 

それはあの『UFO』を彷彿とさせる慣性の法則を無視した急制動、急旋回の幾科学的運動であった――。敵を翻弄、掻き回すが突然、ピタッと止まりログハートを後ろへグッと引き込んで殴り込む体勢へ持ち込んだその時、ログハートの内部に想像を絶するほどの膨大なエネルギーが集約され、

 

「ムオオっ!!」

 

右腕全体が紅く光った時全力で拳を部隊にいる方向を突きだした――。

 

 

《ズ ギ ャ オ オ ォ ォ ― ― ― !!!》

 

 

右拳から放たれた強大なエネルギーの衝撃波が前方全てを覆いつくす。

 

『ウワアアアッ!!』

 

10000機近くの大軍を直撃、一瞬で宇宙のチリに変えた。だがそれだけに留まらずさらに範囲を拡大し、射線上にある隕石、小惑星群全てを喰らい、無に還していく。そしてその先にあるのは左側に隣接していたグラナティキ級5番艦『オールドラディアン』、ヴァールダイト級4番艦『エスタルティア』。

 

「艦長、凄まじいエネルギーの波動がこちらに向かってきます!!質量は……『S』級!?」

 

「何だとォォーー!!艦内の総員を退避させよ!!」

 

「間に合わなませ……うぎゃああっ!!」

 

そのエネルギーの波動はついにグラナティキ級、ヴァールダイト級の2隻さえも覆い喰らいブリッジに直撃、全てを消し飛ばして艦内にいる何百万という数の乗務員が逃げることも出来ないどころか、それを察知すらしていない者もいたが、非情にも全部爆発に飲み込まれていく――。

 

装甲が原子レベルまで分解、艦自体が粉砕されて形がなくなっていき、そしてそのエネルギーと共に全てが消し飛ばされた――。

 

「グ……グラナティキ級5番艦、ヴァールダイト級4番艦……Y351方向、5500ギャロ方向から発生した強大なエネルギー波によって反応が消滅……しました……ランクS級のエネルギーを観測……」

 

その事実が矢のようにヴァルミリオン艦内に突き抜け、激震と絶望を与えさせた。

 

「いっ、今すぐそこのモニターを映せ!!」

 

焦り口調で命令、オペレーターも急いでモニター視点を変えた。そこにドヤ顔でガッツポーズを決めるラクリーマの姿があった。

 

「ああ……まさかあの男がぁ……」

 

見る者、知る者全てを震撼させた。しかしそれは連邦側であり、アマリ―リス側にしてみれば相当の吉報である

 

『おい、リーダーが戦闘艦2隻を破壊したとよ!!』

 

『なんて人だ!やっぱラクリーマさんには敵わねえや!』

 

グラナティキ級、ヴァールダイト級という日本列島サイズの超巨大な戦艦を、しかも2隻をたった一人の男によって、しかも一撃で消滅させられたという前人未到の事実が各組織に伝わった。

 

「う、嘘だろ……我らの誇る銀河連邦の戦艦がたった一人の人間に…………っ」

 

「わ、悪い夢でも見ているのか……………」

 

連邦からしてみればまさに絶望、アマリ―リスからしてみれば、希望であった。

 

『これ、もしかしたら突破どころか奴らに勝てるんじゃないか………?』

 

『あ、ああっ、いけるかもしれん!今のリーダーなら間違いなくランクS級艦すら撃沈できるかもな!』

 

『全員、リーダーに続けえ!!俺達の恐ろしさを奴らに刻みつけてやろうぜ!!』

 

《オ オ ッーー!!》

 

彼の士気は更に急上昇し、完全に圧制の波に乗った!

 

 

エクセレクターのオペレーションセンター内のモニターにはそのラクリーマの勇姿を追っており、のび太としずかは彼に寧ろ恐怖心さえ抱いていた。

 

「ラクリーマ……あんなに強いなんて……」

 

「宇宙にこんな人がいるなんて……なんて恐ろしいこと……」

 

近くにいたオペレーターの一人が二人の横に立ち、モニターを見上げながら腕を組んだ。

 

「二人とも、なんであの人がこのアマリ―リスのリーダーをしているか分かるか?」

 

という質問をし、二人を悩ませる。

 

「えっ……もの凄く強いからじゃないですか?」

 

「まあそれもあるな。だがな、ぶっちゃけそれぞれ個別の能力って面で言えばあの人より優れる奴は実は戦闘員の中でも結構いるぞ」

 

「えっ……なら生身で宇宙に出られることですか?」

 

「う~ん……それも間違っちゃいねえがな。それよりも大事なことがあるんだよ」

 

「大事なこと?」

 

「なっ……何ですか?」

 

モニターには暴れに暴れまくっているラクリーマの姿があった。

 

「あの人、自分で立てた作戦自体守らねえからな。とぉにかく一人で先陣に突っ込んで孤立するタイプだからよ。これはリーダーとして見れば完全に失格だよ。

だけどな、ラクリーマさんを見てて分かるんだよな、『負ける気がしねえ』てな」

 

確かに今はログハートを装着しているから強いからであって、装着していなければただのものすごく強い『人間』止まりである。

それで先ほどの宇宙戦闘に出ていれば間違いなく戦闘ユニットに握り潰されてしまうであろう。

 

それに敵を見つけるとすぐさま襲いかかる獣のような本能である。もし敵側に策士がいて、罠を仕掛けていたら絶対に引っ掛かるタイプであり、これは組織のボスとしてはあまりにも相応しくない。しかし彼にはそれを補えて余りあるのはまさにオペレーターの言ったことであった。

 

「銀河連邦という俺らより明らかに強い勢力を前にしても全く屈しない、臆しないその屈強な精神。圧倒的戦力差を力ずくでねじ伏せ覆すその勢い。だからどうにかなるってな。

あの人にはそういうモノを持ってる。俺ら頭の悪い奴らにとってのカリスマ的存在なんだよ」

 

「「…………」」

 

――もはや誰も彼を止めれる者はいなかった。目に見えた機体を片っ端から攻撃し、無惨に沈めている。しかし、彼の顔には人間性など全く感じられないほどに酷く歪んでいた。

 

「グアァァっ!!」

 

あの戦闘訓練に見せた凶暴さがさらに磨きを掛かったようである、阿修羅というか不動明王か。

これがラクリーマの真実の顔……即ち仮面を脱ぎ捨て本性を露にした『狂暴にして狂悪』であった。

 

 

《ケアァァーーーハハッハハハっっ!!!ギャアアアアアアッーー!!!》

 

 

叫ぶ、声が渇れるくらいに叫ぶ。食欲に餓えた野獣がさらに牙を向けて咆哮する。なんて本当に楽しそうだろうか……こんなラクリーマは戦闘員でさえみたことのない表情だーー。

 

「グウォォアアアーー!」

 

右手をグッと握り締めるとログハートの装甲が時計回りに高速回転、まさにドリルのようになるとラクリーマは急発進ーーその速度はなんと限りなく『亜光速』。そんなとんでもない速度で直進しながら進路上の敵機全てに次々に突撃、そして粉砕。

 

いきなりその場で急停止、更に拳を握り締めるとさらに腕が高速回転し『バチバチッ』とスパークがほどばしる。すると装甲からなにやら虹色を帯びた光を纏い始めーーそれが眩しいほどに輝くとそのまま別方向に向けて、

 

「吹き飛べェーーッッ!!」

 

なんと虹色の光を帯びた超巨大なエネルギーのトルネードが発射されて前方全てを呑み込んだーー。

 

『な、なんだこの竜巻はーーーー!!!』

 

『うぎゃアアアア!!!』

 

虹色のトルネードに呑み込まれた全ての機体は原子レベルで分解されていき消滅。それどころか通過した余波でさらに広範囲に渡ってエネルギーの衝撃波が拡散、トルネードの直撃を受けなかった機体も全て爆散。この攻撃で約40000機の連邦の機体が全て宇宙のチリと化したーー。

 

リミッターを解除して真の姿となってログハートは、シンクロシステムが彼の限界突破した気合いに呼応して出力を制限なく上がり続けてついにランクS級のエネルギーを身に纏い、限りなく亜光速に近い速度でUFOのような急制動、急発進、急旋回を繰り出しながらこの宙域を飛び回り、その拳を叩きつけて粉々にし、戦艦級のビーム、光子ミサイル、そして先ほどのエネルギー衝撃波、そしてトルネードで何もかも無に還していく。

 

 

それはもはや戦神を通り越して……『鬼神』であった。

 

 

そして開発エリアではセルグラードの調整を任せて必死で働く助手達を反対にただそのモニターを見て眺めたまま動かないサイサリスに痺れを切らした助手の一人が彼女の方へ向かった。

 

「サイサリスさん、少しはあなたも手伝ってくれませんか……ん?」

 

彼女は震えている。何か彼女の様子がおかしいことに気づき、もっと近づいてみると何か独り言を喋っていた。

 

「スゴい……これだよォ……あたしが求めてきたのは……。ラクリーマが持っている原始的な破壊、殺戮本能、身を凍りつかせるほどの孕んだ狂気……ああっ……見ただけでゾクゾクする……アソコがジュンジュンしてきたぜ……」

 

「うわあ…………」

 

見てはいけないものを見てしまった。アブない発言を繰り出しながら彼女は絶頂を迎えて完全に表情が昇天してしまっている。次第に右手の指を自分の股間に持っていき、偲ばせて『ジュクっ』と何やらイヤらしい音を立てている。

 

そして糸を引いた液のついた指を『ハァ、ハァ』と喘ぎに近い吐息し興奮しながらペロっとなめた――。。

それを目撃してしまった助手は寒気と同時に気持ち悪さを覚えてしまう。

 

『こ、こんな人なんだ……』

 

今、そう考えていた。

 

「ん?」

 

サイサリスは横にいる助手に気づくと、これでもかと言うくらい睨み付けて、

 

「オメエ、何サボってやがる!!一刻も早くセルグラードを調整しろゴラァアアア!!」

 

「ヒイイイイッ!!」

 

彼女はビビって逃げる彼を追いかけていく。一体こんなときに何をやっているのだろうか……。

 

そしてヴァルミリオン艦のエネルギーが最高潮に達した。

 

「エネルギーチャージ完了しました!!」

 

「……よし、直ちに主砲発射に移れ!!」

 

「了解!」

 

ヴァルミリオンのエネルギーチャージがついに完了。すぐさま主砲展開へ移行しはじめる。

艦首が上下に割れて、その内部から口径がエクセレクターのリバエス砲と同等の巨大な丸型の砲門が姿を顕した。

 

「目標、前方12000ギャロに位置するアマリーリス艦。射程範囲内にいる全部隊に退避命令!!」

 

「了解!『全部隊に命令する、これよりヴァルミリオンは主砲発射態勢へ移行する、射線及び影響範囲内にいる味方機は直ちに退避せよ、繰り出すーー』」

 

カーマインは耳に付けている通信機にスイッチを入れた。

 

「エミリア、聞こえるか!?」

 

『提督、はい!』

 

「これより主砲を発射する。お前たちも直ちに出撃準備にかかれ!」

 

『了解しました、直ちにイクスウェスの発進準備を!』

 

「頼んだぞ、全てがお前達にかかっている。健闘をいのる!」

 

彼女との通信を切る。息を飲んでモニターを静かに見守っていた。

 

(頼む、成功してくれ。もはや多大な被害を受けた私達の一番の賭けだ。エミリア、あの子達……頼んだぞ、そして友達を絶対に救ってやれ……)

 

彼、いや全隊員の望む考えは全て一致していた。これで戦況を覆してほしい、これで全てを終わらせるきっかけとなってくれればと。誰もがそう願っていた。



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Part.43 セルグラード到着

――そしてイクスウェスの格納庫内。水色のピチっとしたパイロットスーツを着込んだエミリア、ミルフィ、ドラえもん、ジャイアン、スネ夫の5人は互いに向き合っていた。

 

「いよいよ執念場ね。みんな準備は良いかしら?」

 

「…………」

 

エミリアがそう言うが4人は沈黙していた。

 

「ホントに……助けられるのかなぁ……」

 

スネ夫がいつものように弱気である。彼ならまだわかる。

 

「あ、あんな無茶苦茶すぎる奴の前を通っていかなくちゃダメだし、もし追ってきたら……」

 

ドラえもんまで不安の声が……。しかし、目の前であの男、ラクリーマの恐ろしさをモニター越しではあるが直に見せられて何も思わないが寧ろおかしかった。

 

「み、みんなしっかりしろよ!のび太達を助けたくないのかよ!?」

 

「じゃ……ジャイアンだってそんなこというわりに凄く震えているじゃないか!?」

 

強気で励まそうとするジャイアンもやっぱり怖いのであろう。

 

「大丈夫。このイクスウェスの最大速度なら無事振りきれるハズよ」

 

「けど……エミリアさんは怖くないの?もしかしたら死ぬかもしれないんですよ!?」

 

スネ夫の問いにエミリアは口を塞いでしまう。

 

「……スネ夫君の言う通り、確かに怖いわ。正直な話こんな悲惨なことになって……わたしも逃げ出したいくらいよ。

けどね、あたし達の任務が出来るだけ成功しやすいように沢山の隊員達が犠牲になったの。いかなければ死んでいった仲間達の苦労が水の泡よ」

 

「エミリアさん……」

 

「あなたたちだってやっと友達二人が無事だってことがわかった。ならあとは救い出すだけよ、そのために今まで頑張って来たのならここでやらなければいけないのよ。チャンスを棒に振ることだけはやめて、いい?」

 

「…………」

 

「ミルフィ、アマリ―リス艦内に侵入の際、サポートをお願いね」

 

「うん……」

 

ミルフィまであまり元気ではなさそうだ。そんな四人に見かねたエミリアはついに……。

 

《い、いつまでもウジウジしてんじゃないわよォ!!》

 

「! ! ?」

 

キレて怒鳴り声を張り上げる彼女に全員がビクッと応えた。

 

「……シールド持った?ちゃんと各装備を所持した?ちゃんと自分で確認してから搭乗してね!」

 

 

ぶっきらぼうに口調で言うさま、すぐにイクスウェスの方へ向おうとするエミリア。しかし彼女は背を向けたままサングラスを外し、腕で目をゴシゴシ擦る仕草をする。

 

それを見た四人は感ずいた。彼女は泣いているということを。

 

……よく考えたら彼女は一番苦労している。自分達の面倒、そして護衛と、この特別編成隊の隊長である彼女は今、どれだけの重圧、責任感を感じているのか計り知れない。さらに先ほども隊員達の最期を前にしながら涙する姿もあった。

 

彼女はもう精神的に限界なのかもしれない。しかし、それを無理矢理押し潰して任務を遂行しようとしている。彼女でさえ辛いのに自分達が不安ばかりいっていれば責任者である彼女も怒濤するのも当たり前だ。

 

(なんか……酷いことしちゃった……)

 

四人とも反省している。

 

……そんな気まずい雰囲気のまま、全員がイクスウェスに搭乗し、各座席についた。

 

「各人、ベルトを固定。ミルフィ、今すぐ安全なルートを検索して!!」

 

「了解」

 

あの偵察機より空間が広く感じる操縦室では操縦席にエミリア、助手席にミルフィ、後ろの各席には当然、あの三人が着席する。

 

「NP炉、プラズマ反応炉、正常稼働、ツインハイブリッド・ドライヴ起動開始。リアクターエンジン、各機能、各武装……問題なし……」

 

とてつもなく険しい目付きで各ボタンとパネルを作動させるエミリアとその横で必死でコンピュータを動かすミルフィ。とてもじゃなく声が駆けられない。ついに機体が起動。室内がライトアップし、彼女は天井から出現した専用ヘルメットを直ぐ様被り、中央の四角い操縦レバーをグッと握り込み。息を大きく吸った。

 

「あとは主砲発射を待つだけ。それまで待機……」

 

機内は静まりかえり、来るその時に向けて緊張が走っていた――。

 

《本艦前方より膨大なエネルギー反応感知。ランクS級攻撃と予想。直ちにエクセレクター・タイプ2へと移行する》

 

ユノンはすぐさまヴァルミリオンの主砲攻撃を感知、すぐさま分離、合体変形へ移行を開始。甲羅状態を解除して、元の形態に戻すと三等分に分離を始め、今度は一番後ろの部分が最前列へ移動、そのまま合体へ。

 

最前列に移動した部位の側面がまるで液体化したかのように左右へドロドロ伸びて、あたかも両方とも500キロメートル以上はある巨大な主翼のような形状へ変化させて硬直。後部も同じように巨大な尾翼に変化させ、その異様な姿を連邦に見せつけた。

 

《前方にエネルギーを収束、ランクS級攻撃の防御態勢に移る。速やかに敵攻撃射線上から味方を退避させよ。もう一度繰り返す、これは敵艦のランクS級攻撃である》

 

「りょっ、了解!!」

 

オペレーターはすぐに戦闘員達に退避命令をかける。

 

『S級攻撃だと!?なら早く離れねえと!!』

 

『全機、出来るだけ遠くまで離れるんだ!!でないと通過時の余波だけでも消滅するぞ!!』

 

戦闘員が迅速に八方へ散開し、離れていく。

 

「敵艦、また別形態へと変形。さらにエネルギー質量がさらに増加、全敵部隊が次々と射線上から四散して離れていきます」

 

「……気付いたか。しかしこちらにとっては好都合だ。よし、ユピテルス砲発射用意!!」

 

「了解、ユピテルス砲発射態勢に移る。主砲内増幅炉内のエネルギー供給率100%、セーフティ解除!!」

 

ヴァルミリオンの前部から展開された巨大な砲身内からリバエス砲のように、エネルギーの粒子が少しずつ前へと押し出されている。

エクセレクターでも来るべき連邦最大の主砲撃に備えて、各員が衝撃体勢に移る、それはのび太としずかもまたしかり。

しかし鼻から上すべてが金属機械と化し、あの特徴的な緑色の長い髪さえも完全に機械に組み込まれてもはや、異形と化しているユノンは歯を剥き出して不気味と……笑っていた。

 

《クックックっ……さあこい。我が策に落ちていることも知らずに……》

 

エクセレクターの艦首……いや、巨大な円クレーター状の砲門から高密度のエネルギーの粒子を放出、壁の形に展開した。連邦の予測通り、バリアを展開し、こちらの主砲を待ち構えいる模様だ。

 

「……敵艦、NPエネルギー障壁を前方に展開。予測通りです!!」

 

カーマインは一呼吸置き、高らかに叫んだ。

 

「行くぞ!!ユピテルス砲発射!!」

 

彼が叫びと同時にその封印が今、解かれた。砲身から放たれた、グラナティキ級、ヴァールダイト級をも遥かに上回る莫大な質量のエネルギー粒子が全て放出された。

マスカットのような薄い緑色の、あたかも大津波が押し寄せる如く、直線的に怒涛の勢いで突き抜ける粒子がエクセレクターに迫っていた。

 

《敵艦S級主砲接近。なおバリアを展開しているが各員、衝撃体勢及び、失明を恐れにより直視を避けよ》

 

気の利いた彼女の指令にモニターを見ている全員が目を瞑り、身体を固定させ、ついにエクセレクターの展開したバリアにS級エネルギーの塊が直撃。同質量の同エネルギー同士にぶつかり合いが空間自体を深く歪み、そしてその余波で周辺に漂流する何キロと言う巨大な隕石郡が次々に粉砕されていく。

 

「くっあああーーっ!!」

 

生じた強烈な衝撃波が艦内全てに襲いかかり、左右に大きく揺れ、翻弄されるも彼らは必死で耐えしのぐ。

 

「きゃああっ!!」

 

「うわああっ!!」

 

のび太としずかは揺れに耐えきれずに共に倒れこんだ。しかし、

 

「キャア!!エッチィ!!」

 

「ぶはっ!!」

 

彼の手はなんとしすがの胸に押し当てていた。ワザとではないのだが、取りあえずビンタをかまされた。

 

――互いの膨大なエネルギーは相殺され、ヴァルミリオンから放たれたエネルギーは消え、エクセレクターに何の決定打をつれれなかったが、同時にバリアも相殺されて完全に消滅した。

 

《……バリア相殺……エクセレクター……タイプ1へと……移行する……ううっ……》

 

ユノンの様子がおかしい。今にも倒れそうなほどに疲労しきって表情が歪んでいた。のび太達を異変に気づき、彼女の真下へ向かった。

 

「ああ……ユノンさんが……キツそうな表情だ……」

 

「どうしたのかしら……」

 

すると何人かが二人のいるところへやってきて心配そうな顔で上を見上げた。

 

「ユノンさん!大丈夫ですか!!」

 

「ここは解除した方が……」

 

しかし、ユノンは歯ぎしりを立てて彼らをぐっと睨み付けた。

 

《黙れ、そんな心配は無用だ。オマエ達こそ何をしている……?すぐに自分の持ち場に戻れ!》

 

怒りを込めた声が辺りに響きわたり、彼らに体に突き抜けた。

 

「ああ……っ」

 

彼らは彼女の言われた通りにすぐに自分の席に戻っていく――。

 

「ユノンさん、一体どうしたんですか!?」

 

しずかが近くにいた女性オペレーターに尋ねると、重い口を開きこう解いた。

 

「実はね、デストサイキック・システムは使うだけでもユノン自身に大きな負担がかかるんだよ」

 

「え…………!?」

 

「あのシステムはかなり危険でね。少しでも精神が乱れると機械が拒絶反応を起こしてユノンを取り込んで二度と元の姿に戻れなくなってしまうんだ。精神崩壊まで起こしかねないという『いわくつき』で……」

 

その言葉がしずかの体に電撃が走ったような衝撃が襲い、一瞬、寒気がおそった。

 

「……だからこのシステムは事実上、アマリ―リスの中で扱えるのはユノンただ一人だけなの。冷静で……作戦時はまるで人形のように無感情で、何事にも動じない彼女ならこそ為せることなのよ」

 

彼女はため息をつき、目を瞑る。

 

「かなり前、一度だけ彼女が試験的に使ったことがあって初めてってこともあったけどあまりにも負担がかかりすぎて解除したらその後、丸2日ぐらい寝込んじゃって。今回は助かっても一週間ぐらいはいきそうね」

 

「いっ……一週間っっ!!?」

 

これではもし地球へ帰れても彼女と別れの挨拶すらできない。

――しずかは悲しくなった。やっと彼女と仲良くなれたのに…… 落ち込みかけたしずかに彼女は気を察して、静かに肩を置いた。

 

「あんた達、リーダーとユノン、そして全員に感謝しなさいね。命をかけてまで二人を地球に帰そうとしてるんだから落ち込んでちゃ失礼よ」

 

しずかはモニターを見つめる。ラクリーマはもちろん、戦闘員達はただそれだけのために、自分達を地球に送り帰すだけに命をかけて戦ってくれている光景を。

 

――はっきり言って馬鹿な話だ。あらゆる悪の限りを尽くす組織がこんな善行をすること自体あり得ない。

しかし、現実に彼らがこうしてくれているのだ。もしかしたら、彼らの唯一の良心が生んだ行動なのかもしれない。しずかはコクッと頷いて決心した――。

 

エクセレクターは休む間もなく分離を開始。各部位が繰り上げる形でまた直列へ並び、合体態勢へ。

 

《エクセレクター、タイプ1へと移行する。すぐさまエネルギーチャージへ移行する……》

 

すぐさま合体。最前部がモーフィングで美しき女性な顔へ変形、両舷からレーザー砲の役目を担う手の形をした砲門へと変化させた。

 

一方、ラクリーマは主砲で離脱した敵機を追いかけ回し、撃墜するという無茶ぶりをしていた。

しかし連邦はもはや敵わないと察知し、ラクリーマを振り切り、エクセレクターへ突貫を開始。

バリアが解除された以上、あとはまたバリアを再展開されるまえに近づくだけであった。しかし、目にした獲物は絶対に逃がさない思考の彼はすぐに追い抜くクイストの大軍をUFO機動で追跡し始めた。

 

「いかせるかァーーっ!!」

 

クイストの大群は従来の推進力より大きく上回っている。脚部が無く、代わりに巨大な推進ブースターが取り付けられていて、背中にも戦闘で見られなかった大型の推進機関が取り付けられている。これはクイストのバリエーションの一つ、『長距離航続兼、高機動型』であり、戦闘よりも戦線突破を目的とした形態だ。

 

その機動力だけならシルバリオンに匹敵するかもしれない程だが、リミッターを解除したログハートの超スピードには勝てるハズもなく一瞬で追い抜かれてしまった。そのスピードのまま彼はクイストの方へ向き、両手を高く掲げ、それぞれ手の平を平行に合わせた。するとその間に高エネルギーの塊が発生、徐々に大きくなっていった。

 

「ムオン!!」

 

膨大なエネルギーが収束、それを巨大化させた。

 

「蒸 発 さ せ て や ら ァ ! !」

 

 

《ド ワ オ ! !》

 

ラクリーマは莫大な球状の光を全力で投射し、前方の軍団を無惨にも薙ぎ払いながら飛んでいく。一見、光子ミサイルに似ているが、これは弾道が直線型である。

 

光子ミサイルは曲線型であるため分類できない。『エネルギー弾』であった。しかし、そのエネルギー弾は消える事なく超高速で突き抜けていき、

 

「前方から巨大なエネルギーの塊が飛んできます!!」

 

「なに!!?」

 

エネルギー弾の弾道先にはヴァルミリオンの右端に配置していたグラナティキ級11番艦『ヤーマル・シュルリ』、ヴァールダイト級5番艦『メィーフィー』、そしてローレライス級1番艦『クレストリア』が。

 

「すぐにバリアを展開!!急げ!!」

 

艦全体にNPエネルギー粒子で構成させた障壁が覆う。どうやら連邦で使用されるNPエネルギーの粒子は全て緑系統色で発生するみたいだ。これも使用する装甲材、金属とエネルギーの化学反応で生じることなのである。

 

――エネルギー弾は一定の大きさに保ったまま、超高速で飛来し、艦のバリアに衝突。瞬間、金色の閃光と共にエネルギー弾が炸裂、強烈の光と衝撃波が隣接する3隻の艦へと拡散、襲いかかった。

 

「あ、ああ……………」

 

まるで衛星のような大きさの光の球体に膨れ上がり、真っ暗な宇宙にまるで日中のような明るさを放ってこの宙域を照らした。そして直撃を受けたこの3隻は………。

 

「……ぐ、グラナティキ級11番艦……ヴァ、ヴァールダイト級5番艦、ローレライス級1番艦、反応消滅……っ」

 

またしてもこの男にこの3隻を宇宙の海蘊と化してしまい、連邦隊員全員を絶望のドン底に叩き落としたーー。

 

一方、直撃を免れた他の艦ではブリッジにいた艦長含む、その他の乗員はその光を直視してしまったために目を押さえてうずくまった。

そして周辺に艦の護衛していた各戦闘ユニットの部隊も衝撃と閃光が襲い始め――。

 

『何も……見えない……』

 

ヘルメットをかぶっているが役立たず、パイロットの目を容赦なく襲い、開けられなくした瞬間、

 

『ひゃあっっ………』

 

二次被害として衝撃が襲い、機体が次々と爆発、大破されていった。次第に衛星級サイズのエネルギー弾も段々縮小していき――消滅。離れていた他の艦には何の影響がなかった。が、実はそれよりブリッジにいた全員が異常をきたしていた。

 

「助けて……何も見えない……」

 

ブリッジ内は悲惨であった。あの閃光にもたらされたのは未だ、目を開けられずその場にひれ伏せる者、痙攣を起こしその場に倒れる者、強烈な吐き気を催し、その場で嘔吐する者、頭痛を発しうなだれる者……ほぼ全員が異常を訴えていた。

 

ーー劣勢かと思われていたアマリーリスがラクリーマの鬼神の如き活躍に事実上の逆転現象が起きた。だが当の本人は次第に苦渋の表情となっていく。その理由とは。

 

「ちい……そろそろ右腕がやべえ気がする……」

 

いくら無重力だからといってもログハートを酷使し続けた彼の右腕が限界に近づいていた。

 

(多分……肋骨何本かはもういっちまってる……身体中が変な感覚だ)

 

『BE-58』を打ち込んでいるので痛みや感覚などないが、本当なら彼はもはや闘うどころか動くことさえも危険な状態であった。

常軌を逸脱した高速戦闘が初めから彼の傷ついた体に負担を掛けすぎていた当然の結果である。

 

しかし、ついに待ちに待った連絡が通信機から受信された。

 

『ラクリーマ、セルグラードの調整が終わったぞ!!今、スレイヴに積んで持って行かせている!』

 

「やっとか、遅いぜ!!」

 

『待ってな!!奴らにもっと絶望を与えてやれぇ!!』

 

――そして、一機のスレイヴが彼に近づき、軽く握りこんでいた巨大な手から、コンテナを取り出しラクリーマへ差し出した。

 

『リーダー、持ってきやしたぜ!!』

 

「おう!!ありがとよ!!」

 

スレイヴは去っていく。コンテナが自動的に開き、中から姿を現したのは開発エリアでログハートの隣で同じく巨大なガラス菅で封印されていた巨大な大砲で、人間ではとてもではなく扱えなさそうな代物であった。

 

「……改めて近くで見るとでっ……でけえ……こんなのを俺が扱えってか……」

 

ラクリーマでさえ困惑している。そんな中、サイサリスから通信が……。

 

『届いたようだな。早速使い方を教えるぜ。まずセルグラード本体の後部に回れ。そこに接続口があるからログハートを差し込め。砲身にあるグリップをブラティストームで握って身体と砲身を固定しろ!!』

 

ラクリーマは言われた通りにセルグラードの後部へつくなり、『接続口』に右腕を突入させ、左の『とって』を同時にグッと握り込んだ。ブラティストームから飛び出した触手のようなチューブがログハートの炉心部に伸び、直列に連結した。

 

『セルグラードはブラティストーム、ログハートの炉心、そして本体の増幅炉2基の4基直列連結することにより初めて使える。チャージに少し時間がかかるが我慢しろ』

 

各炉心が一気に活性化、全エネルギーをセルグラードへ送りこんでいく――。

 

果たしてこの砲兵器はどれ程の威力を持つのだろうかーー。



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Part.44 銀河連邦、悪魔の新型機

――その頃、ヴァルミリオンの右隣に位置するヴァールダイト級1番艦『セラーミア』のブリッジでは……。

 

「艦長、新型試作重戦闘機一号機『リヒテラ』、二号機『リテレメ』発進準備完了しました!」

 

「よし、直ちに発進させよ!!」

 

「了解!!」

 

すぐにヴァルミリオンへと通信を繋ぎ、カーマインへこう言った。

 

「カーマイン殿、これより新型機の実戦投入を行います。直ちに前方の部隊を退避させて下さい!」

 

『新型機か……しかし、なぜ退避させる必要があるのです?』

 

「それには少し理由がありまして――」

 

ついに連邦は新鋭機を投入するが、その訳(ワケ)とは一体……。

 

――連邦部隊が次々と後方へ去っていく。その様子をアマリーリス員は見逃すハズがなかった。

 

『どうしたんだ?奴ら、また下がっていくが……』

 

『また……敵の主砲攻撃か……?』

 

様々な憶測が飛び交う中、突然オペレーターから通信が。

 

『全機、前方約7000ギャロ……ランクA級艦から新たな敵影感知、こちらへと前進してきます。その数は二機』

 

『二機……たったの二機か!?』

 

『二機ぐらいなら俺らで仕留めてやるぜ!!』

 

『待ってください……これは……』

 

『どうした?』

 

『今までの敵機と異なった形状……新型機です。エネルギー質量は……『ランクC級』!?』

 

その事実が全戦闘員に衝撃が走った。従来の戦闘ユニットでは到底辿り着けないエネルギー量で、連邦の惑星内運用艦級の質量だ。シルバリオンでさえランクE級である。

 

『し、C級だと!?』

 

『オペレーター、映像を送ってくれ!!』

 

『了解!』

 

――そして送られてきた映像内に映る二つの機体……どうやら戦闘機のようなフォルムのようだが……。

 

『戦闘機に見えるが……確かに見たことねえフォルムだ』

 

『けどここに向かって来てんならどの道倒さねえいけねえ!!速攻で潰しにかかるか!!』

 

『……だな。戦闘機なら全員で束にかかりゃいい!!ただ新型ってのが気になる。十分警戒して行くぞ!!』

 

『おう!!』

 

全機が一気に総攻撃をかけようとその二機の元へ飛び立っていく。だが近づくにつれて戦闘員の表情を一変、絶望させることとなる。

 

『う……うそだろ……これが戦闘機なのか……』

 

『でっ……でかすぎる……』

 

彼らが目にしたモノ、それはまさに巨大であった。全長は……少なくとも50キロメートル以上はある、だがどうみても戦闘機にしか見えない流暢な形状……戦闘機と言うより巨大な機動要塞と言っても違和感のない存在感を放っていた。

 

そう……これが連邦の新型試作重戦闘機、『リヒテラ』、『リテレメ』である。

 

ちょうどそこにレクシー達シルバリオンと数十機のスレイヴとツェディックも駆けつけてくる。

 

『な、なんてデカブツだ!!』

 

『気をつけろ。あの二機、なんかイヤな予感がする』

 

その二機がこちらに近接した時、機体の全装甲面から無数の発射口のようなものが出現、しかし全てがこちらに向けているのではなく、様々な方向に向いていた。

 

『来るぞ!!全機警戒せよ!!』

 

レクシーの掛け声で各機がその場から散開、すぐに警戒体勢に入った――刹那、一瞬でこの宙域は閃光で埋め尽くされる地獄と化した。

その二機の無数の発射口から放たれるモノ――それは巨大な光弾、ゆっくりとそして曲線を描きながら四方八方へ降り注がれた。

 

「こ、光子ミサイルだとォォーーっっ!!?」

 

約1000発以上の光子ミサイルが全方位に、そして無差別に一斉に放たれ大爆発。

それが二機合わせて約2000発以上の光子ミサイルがアマリーリスの戦闘ユニット郡に猛威を振るい、その火力の前に次々と消し飛ばされていく機体と戦闘員達。

 

「ここは一時退避だ!!」

 

レクシー達は近づいて攻撃を与えるのは困難だと察知、すぐに四方へ退避。

しかしその二機『リヒテラ』、『リテレメ』はそれを逃がすハズがなかった。

両側面と中央部、そして主翼上下に搭載された砲台が二機共50門、計100門が彼らに狙いを定めた。

 

――放たれるは両側面と主翼の計35台の砲台から連射性の高い緑色の巨大光弾、中央部の計15門の極太の高エネルギーの光線。彼らに退避させる時間など与えず追撃を開始。

 

『くああーーっ!!なんちゅう火力じゃァァ!」

 

シルバリオンの機動力でなんとか集中砲撃を回避しているがいつ直撃するやも分からない。

 

「レクシー、あんな奴らに背を向けんじゃねえ!!やられるぞ!」

 

「ふざけたことぬかすなユーダ!」

 

スレイヴ、ツェディックはもはや格好の的であり、この砲撃で次々に落とされていった――。

 

『ちい、こうなったら……直接操縦席に狙いをつけてやる!!オペレーター、敵パイロットのいる位置をスキャンしてくれ!俺らがやってみる、他機はこのまま後方へ下がれ!』

 

レクシー達の駆るシルバリオンがまた二機のいる方向へ戻っていく。

 

『リヒテラ』、『リテレメ』はどうやら同武装しかしていないようであるが超火力であることは間違いない。

しかし、シルバリオンの機動力、レクシーの操縦技量も相まって集中放火をかいくぐりながら接近していく――。

 

「よっしゃっ!!パイロットにドぎつい挨拶をしてやらぁ!!早くしやがれ!!」

 

「ユーダ、そんなに興奮すんな!こっちは避けるのに精一杯だってのにイイ気なモンだぜ!」

 

あと数百メートルにまで接近した時、オペレーターからついに通信が。

 

『スキャンした結果なんですが……』

 

「どうした?」

 

『エネルギー質量は感知できるにも関わらず、あの二機ともパイロットの生体反応を感知出来ませんでした……っ』

 

「なんだと……?じゃあまさか……」

 

――この両機自体が自律回路によって動く所謂『無人戦闘機』であったのだ。

レクシー達は慌ててまた退却していく。

 

「ちいっ!ならあの両機体自体を破壊しなけりゃあいけねえじゃんかよ!」

 

「こうなったら光子ミサイルの集中放火で消し飛ばしてやらぁ!!」

 

「……それしかねえな。今、リーダーは新型武器のエネルギーチャージ中で手が離せねえしエクセレクターの射程範囲外だ。ツェディック全機集合せよ!これより光子ミサイルで総攻撃をかける!」

 

レクシーのかけ声でツェディック群が集結。敵機の射程範囲外から各砲門を前方の一機『リヒテラ』に向け、照準を合わせた――。

 

『いくぜ!!全弾一斉発射っっ!!』

 

シルバリオン、ツェディックから無数の光輝く光弾、光子ミサイルが前方へ飛んでいく。

それらが皆、まるで流星群のように目標である機体へ向かっていった。

肝心の『リヒテラ』はと言うと回避する動きもなくゆっくりと前進している。さすがにこの巨体では機動性は高くないようだ。

 

――そして着弾。リヒテラはバリアらしき障壁を展開していないようだ。

光弾は爆発により膨張、機体を瞬く間に包み被っていく。広範囲にかけて全てを破壊する光子ミサイルをこれだけ撃ち込めばタダではすまないだろう――。

 

「よし命中した。これで消滅してくれたらいいが……ん?」

 

膨張する輝かしい光の中からゆっくりと何かが出てきた。

それは戦闘機の前部であった。あれだけの集中放火を受けたにも関わらず破壊どころか傷ひとつもついていなかった。

光の弱まり、まるで何事もなかったかのような新品同然のキレイな装甲が姿を現したのであった。

 

『きっ、効いてない……』

 

唖然とする戦闘員達。戦闘ユニットの中でも高威力であるこの武装をもってしても効かないとなると最早茫然である。

再びオペレーターから通信が受信された。

 

『解析しました。あの二機共はどうやら特殊装甲が使われている模様。敵大型戦闘ユニットにも使われていない装甲です!』

 

「特殊装甲だと!?」

 

『その装甲は光学兵器どころか物理攻撃による熱、衝撃全てを吸収、それをエネルギーに変えて装甲をさらに活性化させる効果を持っています!』

 

恐るべき事実である。つまりこちらの攻撃は全てその装甲をさらに強力にさせる糧となってしまうのである。

これこそ連邦が開発した試作装甲『リベジュダース』。この二機に使われている装甲がまさにこれであった。

 

――今度は後方にいた『リテレメ』の底部から多数の何かがこちらに飛来。

 

『何か来るぞ!!』

 

モニターで確認するとそれは実弾のミサイルであった。しかし、一つ一つがクイストに装備されていた物よりかなり大きい。それは戦闘ユニットと同じサイズであった。

すぐに各機は散開するが、それと同時に両機は再び砲攻撃を開始。この宙域を戦火で染めた――。

 

多数のミサイルはどうやら追尾性があるらしくツェディック、スレイヴ群に直撃し爆発、機体はことごとく大破。逃れても今度は集中砲撃の魔の手が、そして光子ミサイルの全方位無差別攻撃もあり、戦闘員達は打つ手がなかった――。

 

その両機の活躍に連邦側は僅かながら希望を取り戻し、段々と士気が上がっていった。

ヴァルミリオン艦の中央デッキでもこの二機の性能に驚愕とともに歓喜の声を上げていた。しかし、カーマインたた一人だけが何故か苦渋の表情を浮かべていたのだった。

 

(違う……こんなのは違う!なぜ警察の役目を果たす我々がこんな代物を造る必要があるのだ?

これは我々銀河連邦の理念を異なるもの、『殺戮兵器』ではないか……本隊は一体何を考えておるのだ……?)

 

なぜ前方部隊を退避させたかを彼はやっと理解できた。

この二機はもはや無差別に攻撃を行い完全に『殺戮兵器』と化しているため、

確実に隊員までを巻き添えにしてしまうためである―。

 

 

――二機の集中砲火により次々に撃墜されていくスレイヴとツェディック。この攻撃で約1000機以上は破壊されただろう。レクシーとユーダももはや顔が尋常ではないほど余裕を失っていた。

 

「くそっっ!!打つ手はねえのかよォ!!」

 

「おいオペレーター!!なんとか弱点を探しやがれぇ!!」

 

シルバリオンの機体にも限界が訪れていた。炉心部がオーバーヒートを起こしかけ、このままでは炉心が暴走し機内から爆発するのは時間の問題であった。

 

『……何とか打つ手はあります』

 

「あるのか!?教えてくれ!!」

 

『この装甲の衝撃吸収にも許容があります。どこか一点に莫大なエネルギーや衝撃を連続に与えれば、吸収しきれずに装甲の結合分子が崩壊を始めます』

 

「つまり……装甲の一ヶ所に何か奴より上回る攻撃をしまくければ装甲は破壊されるってことか!?」

 

『その通りです!』

 

さすがはレクシー、戦闘員の中でも頭がいい。あの時だけとは言え、ラクリーマが副リーダー候補で指名してただけのことはある。

 

「だが……俺らにそんな攻撃力を持った武装がない。現時点で遥かに上回るのはリーダーかエクセレクターぐらいだが……」

 

すると今度はオペレーターとは別にサイサリスから通信が入る。

 

『よう二人とも、生きてるか?』

 

こんな状況にも関わらず、焦っておらず寧ろ楽しんでいるような表情をとっていた。

 

『話は聞いたぜ。どうやら連邦のヤバイ新型機に手こずってるようだが?』

 

「サイサリスさん!!なんかいい手はないんですか!?」

 

その問いに彼女はいかにも待ち望んでいたようにニヤっと笑った。

 

『クックック、『そんなこともあろうかと』ちゃんと用意してあるよん♪二人とも、一旦エクセレクターの近くまで戻ってこい。いいプレゼントをくれてやる!!』

 

「プレゼントって!?それを使えばあの化物を倒せるんですかい!?」

 

『当たり前だろ?あたしを誰だと思ってやがる?』

 

彼女の自信満々気の返答にレクシーとユーダは徐々に不敵な笑みへと変わっていく……。

 

「よし。全機、俺は一端エクセレクターへ戻る。サイサリスさんが何かいいモノをくれるらしい。それまで時間稼ぎを頼む」

 

『おうよっ!!早く戻ってこいよ二人とも!』

 

『楽しみにしてんぜレクシー。全機、これよりあの二機を撹乱させるぜ。二人が戻ってくるまでの辛抱だ!』

 

彼らの心強い言葉を聞いてシルバリオンは猛スピードでエクセレクターへ飛んでいった。

 

「頼むぜお前ら!!」

 

……そしてエクセレクター付近に到着するシルバリオン。辺りをキョロキョロ見渡した。

 

「サイサリスさん、つきやしたぜ!」

 

『レクシー、今『プレゼント』がそっちへ向かっているから待ってな!』

 

するとエクセレクターから一つの機影がシルバリオンへ近づいてくる。コックピットのモニターでも段々姿がはっきり見えてきた。

 

「なんだありゃあ……っ」

 

それはまるでツェディックのような縦に二分割したような機首部、それも先に砲門らしき穴がある。しかし胴体の幅はツェディックより広い。

中央胴体は四角い箱形のようであるが、その四方は角がなく、なんと巨大なドリルのような物体が計4機取り付けられていた。そして流けいな主翼、尾翼と、ツェディックとは似てことなる銀色の戦闘機であった。

 

こんなヘンテコな不思議な形状はまるで見たことのない。全長はツェディックより一回り大きい。

 

『これはあたしが開発したシルバリオン専用強化兵装パーツ『セルゲイナス』だ。レクシー、後ろを向け。『セルゲイナス』を合体させる』

 

「合体って……これ付けるんですかい!?」

 

二人とも驚いていた。スレイヴとツェディックの二機を合体させたシルバリオンをさらに合体させるのかと……いくらなんでもやり過ぎなのではと思ってしまう。

 

『つべこべ言うな。ほら、さっさとしやがれ!!』

 

二人とも黙りこんでしまう。まあ、あの彼女ならやりかねないことだから仕方がないことだが。その『セルゲイナス』に背を向けるシルバリオン。

 

その機体はそのまま接近し――セルゲイナスはまるでツェディックのように金属粒子を増幅させて別形態へと変形、シルバリオンの巨大な紅い翼の間に下から取りつくようなガツンと合体した。

 

「なんて……出力だ……っ」

 

「嘘だろ……ランクC級以上にはね上がりやがった……っ」

 

レクシーたちはモニターに映る自機のメカニズムを確認。その内容を見て驚愕した。

 

『当たりめえだろ?なんせ、シルバリオンの搭載した炉心二基、そしてセルゲイナスには計五基の、あわせて七基のNP炉がこの機体に全て共有、循環してんだからな。

名付けて『シルバリオン・セルゲイザー』だ。ただ武装と機能の詰め込みすぎで機動力が若干下がると思うがなんとなるだろうぜ。追加武装については移動中にちゃんと教えてやるからよ♪』

 

レクシー達はブルブル震えている。しかし恐怖からではない、『なんとかなる』という希望と興奮から来る震えであった。

 

「これはァ……いけるぜェ!!」

 

「よっしゃーっっ!!レクシー、早く行け!!早くコイツの武器をお見舞いしたいぜ!!』

 

「なら行くか!!頼むぜ、『シルバリオン・セルゲイザー』!!」

 

 

こうしてレクシー、ユーダの新たなる力、シルバリオン強攻型『シルバリオン・セルゲイザー』はまたあの二機の元へ向かっていった。今までのツケを全て払わせるためにーー。



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Part.45 シルバリオン・セルゲイザー

レクシー達が新たな力を得たその頃、他は戦闘員達は力を合わせてなんとか二機の撹乱に尽力していた。

 

しかしその圧倒的火力と隙間のない四方八方の砲撃により次々に機体を破壊されてその作戦が無意味になりつつあった。

 

『ちい、このままじゃ全滅すんぞ!!』

 

『ちょっとまて!?あれはレクシー達じゃねえか!!?』

 

その時であった。モニターにはあのシルバリオンらしき機鋭が映り、段々こちらへ近づいてくる。

しかしその姿は異なっていることを近くなるごとに段々ハッキリ見えた。

 

『よっしゃーっ、戻ってきたぜ!!お前らよく頑張ったな!!』

 

ついに彼らが戻ってきた。その強化された機体の勇姿を全員を見せつけている。

 

『レクシー、これがシルバリオンか……?』

 

『ああっ、サイサリスさんからのプレゼントで強化された【シルバリオン・セルゲイザー】だ!』

 

見る者全てを圧倒させる。重装化したこの機体は一回り大きくなり左右の腰部付近に折り畳み式砲身の追加により、両肩、両手首、両腰の計6門の砲身となり背中にはツェディック、追加された『セルゲイナス』の動力炉のある胴体に生えた主翼と尾翼がまるで『X』を描くかの如く。

そしてその形に合わせるかのように設置された一番存在感のある四基の大型ドリル、これ一つでも貫通されたら間違いなく戦闘ユニットでもミンチになりかねないほどの威力はありそうだ。

 

『今までの俺らではないことを見せてやる!!ユーダ、存分に暴れてくれ!!』

 

『お前に言われなくてもそうするつもりだァァ!!』

 

そう言うとシルバリオンはなんと何も考えていないかのように単機で両機に向かって突撃していった。レクシーとは思えないような無鉄砲な行動だが秘策があるのか、それほどこの機体は強力なのか……。案の定、『リヒテラ』、『リテレメ』はレクシー達を素早く感知、全砲口を向け――一斉発射。

 

しかし、レクシー達は避ける様子もなくもはや直撃することを前提に猛スピードで突撃していた。

 

『ひゃっはァーっ!!地獄への超特急ってか!?』

 

『レクシー、お前にしちゃあノリノリじゃねえか!』

 

明らかに彼らの顔は笑っていた。諦めからなのかそれとも……。

 

その様子をモニター越しで見ていた戦闘員達は……。

 

『あいつらバカか!!?死ぬ気かよ!!』

 

『レクシー、はやまるなーーっっ!!』

 

この行動が理解できず、引き止めようと必死で叫ぶが二人はもはや聞いてはいなかった。

 

そして直撃……。シルバリオンはその砲火の光の中へ消えていった――。他の者は射程範囲外の遠くからモニターを通じてその光景にワナワナ震えていた。それは『絶望』である。

 

『あのバカ共……ん?』

 

彼らはすぐにレーダーを確認する。機体の姿はないがその位置には膨大なエネルギー反応が一点残っていた。

 

『おい、この反応は……』

 

――彼らは目を疑っていた。これはまさか……。

 

《そんなんじゃあ俺達を消せねえぞーーっ!!!》

 

光の中から機体が颯爽と出現。

 

『レクシー!!?』

 

シルバリオンであった。機体には淡い青色の光を纏い、それが機体を保護していたのだ。強化前には装備されてなかったあのログハートと同じNPエネルギー障壁である。

 

『よし、なら反撃開始といきますか!!』

 

ユーダの操作で四方に装備された大型ドリル全てが宇宙空間に射出された。

 

『次に攻撃する箇所は……あの位置だ!!』

 

ユーダの操縦に連動して左手首の砲身を定めた方向へ指した。するとその砲口から細い光線が一瞬で伸び、『リヒテラ』の広大な装甲面の一部分に到着した。

それと同時に射出された4基のドリルがブラティストームのように、意思を持つかのように高速回転と共に一斉に行動を開始、光線が指している部分の装甲面に向かってブースターを点火して一気に突撃を開始した。

 

――この光線は地球における『レーザーポインター』の役割をはたすもので、ドリルを誘導させることが出来るのである。元々、空間認識能力が高い者が使用すればドリルを上手く活用できるが、低い者でも誘導できるようサイサリスによって組み込まれた救済機能である。

 

ついに4つのドリルが『レーザーポインター』の位置へ衝突。装甲を強引に突貫しようとするがそれを堅固に防ごうとする特殊装甲『リベージュダース』。結合分子がさらに活性化、削れるどころか傷ひとつもついていない。やはり効かないのか……。

 

だがシルバリオンは今度は右手首の長砲身を突撃しているドリルへと向けた。

 

『まだ終わったワケじゃねえぜ。ホレ、たっぷりとエサを味わえ!!』

 

ユーダは右操縦レバーの横にあるボタンをグッと押した。

すると砲口から今度はレーザーとは違い、まるで懐中電灯のように広範囲へ蒼白光を照射、ドリル全機に万べんに浴びせた。

 

各ドリル内回路に組み込まれたチップが反応し、同じ内部に搭載した小型NP炉心の増幅装置が始動、光を吸収してさらにエネルギー量は大幅にはね上がった。それに連動してトルクがさらに高速回転、ドリルの回転数を劇的に増大させ、ついに装甲の衝撃吸収が追いつかずに少しずつ、また少しずつと削れていくではないか。

 

シルバリオンから発しられる光は止めることなく照射され、ドリルにさらなる恩恵をもたらす。

次第に直撃している装甲面に小さな穴が発生、ドリルの強引さで押しこんでいく――。

 

『もう少しだ!ユーダ、手を緩めるなよ』

 

そしてその攻撃が功をなし装甲面が破壊され、ドリルが次々と内部へ突入していく。そうなってしまえばもはやドリル達の独壇場。勢いに任せてドリルはまるで寄生虫のように内部のありとあらゆる回路、機械を全て貫通、粉砕……『食い潰して』いく。これにより『リヒテラ』に異常が発生。行動、攻撃が停止したのであった。

 

「動きが止まったぞ!」

 

「ではトドメといきますか!」

 

セルゲイナスの内部のウェポンラックから折り畳み式の長い砲身を取り出して右腕のビーム砲に差し込むように連結、それをその場で止まったリヒテラに向けた。

 

「エネルギー充填、180%!」

 

「NPバスターキャノン、発射ァーー!!」

 

20メートル以上はあろう長い砲身の先にある砲門から青白い膨大なエネルギーの塊が怒濤の勢いで吹き出し、それが極太の光線となってリヒテラに直撃、リベジュダース装甲の活性化が追い付かず崩壊を始めて剥がれていき、原子レベルまで分解されていく。

 

「ウオアアァーーー!!」

 

ユーダの気合いの入った雄叫びに呼応してNPエネルギーのビームの範囲が広くなり、ついには50キロメートルある超巨大な胴体を覆いつくしてしまい、装甲、内部全てを原子分解していきーーついに完全消滅した。

 

「よっしゃァァ!!なら次は……」

 

「あいつか」

 

二人は残る後方のもう一機『リテレメ』に狙いを定めた。

 

『リテレメ』はシルバリオンに向けて、先ほどの実弾ミサイルを一斉に発射。全てが彼らへ向かっていく。しかし強化したシルバリオンに搭乗している彼らに怖いものなどなかった。

シルバリオンの後部にあるセルゲイナスの主翼の装甲面が突然、スライド式で上下に開門し――無数の小型ミサイルが発射された。

 

その数はリテレメのミサイルよりも遥かに多く、怒涛のごとく宇宙空間に飛び交った。

 

互いのミサイル同士は衝突、次々に爆発していく。

撃ち落とせなかったミサイルはそのままシルバリオンへ向かっていくが、両腰部の位置にある折り畳み式の砲身部が展開、追ってくる大型ミサイルへと向け――まるで『機関砲』のように小さなエネルギーの弾丸を連続掃射。

 

今度はレクシーもレバーを動かし、行動を開始。アクロバットさながらの華麗な軌道を描きながら攻撃、ミサイルを撃ち落としながらリテレメへ接近していく。

 

『うひょーっ♪さすがはサイサリスさんだぜ!!』

 

『よくもこんな素晴らしい武装をつけてくれたもんじゃァァァァ!!』

 

二人はまるでラクリーマのように面白いオモチャを手に入れた如く歓喜している。

そして『リテレメ』はこちら接近させまいと各砲で応戦するがもはや勢いに乗った彼らを止められなかった。そしてリヒテラを食い潰したドリル達が元の位置へ戻りシルバリオンと連結。そのまま今度は左腕をリテレメへ差し出した。

 

左腕から直結した長い砲身の先にある丸い『穴』に膨大な量の粒子が収束した。

 

「くらいやがれ、全炉心のエネルギーを集約したその威力を!!」

 

ユーダが叫び、レバーをグッと前に押した。それは凄まじい威力であった。砲口から放たれた『リテレメ』のエネルギー砲より遥かに極太で高出力の光線があの特殊装甲に活性化させる余地なく一撃で貫いた。光線は機体の底を突き抜けるも途切れることはなかった。

 

「これで終わりと思うなァァ!!」

 

何ということであろう。光線放射を維持し、そのまま砲身を上を突き上げた。光線は動きに合わせて上に向かってゆっくりと進んでいく。装甲と内部を焼き切りながら――。

 

「だ あ あ り ゃ ァ ァ ー ー っ ! !」

 

ユーダの力強い叫びと共にレバーを全力で押し出した。まるで巨大な剣を振り上げるが如く――切り裂いた内部から次々と爆発、それが徐々に波紋のように拡大しながら。

シルバリオンはすぐさま攻撃を止めてこの宙域から脱出。リテレメ全体は爆発箇所が増加、機体そのものを覆い始めその宙域はすべて吹き飛ばす光と衝撃に埋めつくされた。

 

「やったな……」

 

「ああ」

 

レクシー達はその光景を幾分離れた場所で見ていた。二人とも喜びと余裕の表情を取っていた。そして他の者もすぐに彼らの元へ移動、集まってきた。

 

『二人ともすげえな!!あんなヤバいデカブツをいとも簡単に破壊しやがったぜ』

 

『全くだ。お前らがあの時くたばってたら完全に俺らも消し飛んでたぜ』

 

仲間達から感激されて照れているのかレクシーは頭をポリポリ掻いていた。

 

「いやあ、サイサリスさんのおかげだぜ。……にしてもこれといい、リーダーの武装といい、サイサリスさんってあれだな……」

 

『ああ……俺でも絶対に敵に回したくねえぜ、あの人だけは……』

 

ほぼ全員、ラクリーマと同じことを述べていた。しばらくすると爆発が弱まり、肉眼でも確認出来るほどに見えるようになった。二機のあった宙域には爆散した際に弾けた装甲の一部、内部回路、機械類がただ浮遊しているだけであった。

 

「よし、休んでる暇などねえぜ。また奴らが戻ってくるハズだからまた各チームでそれぞれ迎撃に行くぞ、危なくなったら近くの仲間を呼べ!!」

 

『おう!!』

 

レクシーの合図で各機はまた各チームを編成、それぞれの戦場へ向かっていった――。

 

銀河連邦側は唖然としていた。先ほど戦果を上げていた試作機が突然現れた謎の敵機によって破壊されたのだから……。

後退していた連邦各部隊が戦線に復帰、各敵機密集地帯へ戻っていく。しかし連邦の戦闘ユニット達に大きな行く手を阻む機体が存在した。

 

レクシー、ユーダの駆る機体『シルバリオン・セルゲイザー』である。

 

この機体は戦闘ユニットとしては規格外、オーバースペックであった。

あの超巨大な機体の集中砲火攻撃までも耐えた強力のバリアを装備、新たなる追加武装、そしてそれに見合う一撃の超火力。どれをとっても他の追随を許さなかった。

 

ただサイサリスの言った通り、重装備化したことに機動性は鈍くなったようだがレクシーの操縦技量で補えられる。

この機体は『単機で戦況を覆すことができる』ほどであった。

 

「ユーダ、一気に前方の敵を消し飛ばすか!」

 

「おうよ!」

 

シルバリオンはゼウシウスのように両肩、両手首、両腰に装備された計六門の砲身をすぐに展開し前方に照準を合わせた。狙いは遥か前方に位置する連邦部隊。

コックピット内ではユーダがモニタリング照準し、不気味と笑みを繰り出していた。

 

――画面には紅い丸がそこに映る敵影全てを囲んでいる。

 

「行くぜ、光子ミサイル全弾一斉発射!!」

 

全砲門から濃縮させた高エネルギー球を同時に発射。一瞬で狙いの定めた位置まで向かっていき、爆発。爆発範囲が桁違いであり、前方宙域全てを消し飛ばしたのであった。

さらに連邦機体の密集域に突撃。集中攻撃を受けるもシルバリオンを取り巻くNPエネルギー障壁の前には通用せず、中央にたどり着く否や、両手を広げる。

すると二本蒼白の極太の光線を発振、一キロメートル以上はある異常とも云える長さを持つ光の刀身と化して、四方八方に無差別斬撃。一瞬で周辺の機体がバラバラに散った。

 

「なっ…………………」

 

連邦側はさらなる脅威である。

 

 

――銀河連邦とサイサリスの戦闘ユニットにおける概念は違っている。

連邦側は兵器としての量産性、汎用性を主とした性能を重点に置いている。各機の性能は平均並みであるが隊員の操縦性と安全性を考えた構造で誰でも扱いやすいように開発されている。パイロットには好かれやすい設計である。

 

それに対し、サイサリスは『単機で状況一転』を主とし、性能面を追求した設計、開発している。

合体変形で強化されるあたり特異性が目立つが、シルバリオンである通り非常に扱いづらい操縦性であるためパイロットからは嫌われやすい。つまり戦闘ユニットありきのパイロット面ガン無視であるため非常に強力であるが使いこなせなければそれまでであり所謂『ピーキー機』である。

レクシーとユーダがそのシルバリオンというピーキー機を使いこなしているため、連邦製ユニット全般の上を行く性能を持ち、さらにセルゲイナスという重装ユニット装着により、さらに強化された本機の性能はまさに『異常』であった。

 

あの大型ドリルが自由自在に宇宙空間を動き回り、敵機を次々と貫通、ズタズタにしている。

 

ゼウシウスのように多角方向の強力な長距離射撃が可能となり、ランクB級艦の主砲並の威力を持つ『NPバスターキャノン』、無数の実弾ミサイルを装備、そして白兵戦ではより強力になった高出力のエネルギー剣を発振できるなど、その姿は『人型武器弾薬庫』。大火力且つ高性能と言う彼女の戦闘ユニット概念の『一つの完成形』とも言える機体なのである。

 

連邦部隊はこの機体により次々に撃破され、更なる劣勢を強いられることとなった――。

 

だが、ついに作戦を決行する時がきたエミリア一行。モニターには全てを託すような眼差しを送るカーマインの姿があった。

 

『エミリア、アマリーリス艦のバリアが消滅した。奴らがまたバリアを展開する前に今すぐ発進だ!!』

 

「了解、これよりエミリア・シュナイダー大尉以下、5名の者はアマリーリス艦の侵入任務を開始します!!」

 

『……よし。全員、作戦前に私の話を聞いてくれ!!』

 

ミルフィとドラえもん、ジャイアン、スネ夫はすぐにモニターを注目した。

 

「……まず、地球からきた君たちに謝りたい。こんなことに巻き込んでしまった私を許してくれ……いや許されるハズなどない。……これは命がけの任務である。下手をすれば君たちまでもが……」

 

彼の暗い表情を見る限り、かなり責任を感じている様子だ。

 

「しかし……どうかエミリア達に力を貸してやってくれ。

これは私の、いやここにいる全員の頼みだ」

 

「「「カーマイン提督……っ」」」

 

「これは今作戦最大の任務だ、失敗は即ち今作戦全ての失敗を意味する。だがドラえもん君、君の未来の道具があれば……必ずや任務遂行できると信じている。

そしてその使い方を一番よく知っているタケシ君、スネ夫君、君達の力も必要なのだ!!」

 

とてつもなく信頼を置かれ、段々自分達の心が奮い起こされていく。

 

「……分かりました!!僕達に任せて下さい、必ずエミリアさん達の役に立てるよう頑張ります!」

 

「ここまで来た以上、やるしかないぜ!!のび太達を救って、あの悪党を懲らしめてやろう、なあスネ夫!!」

 

「うん!!」

 

三人の力強い声が決意を固くまとめる証拠となった。

 

「……頼んだぞ君達、それにエミリアとミルフィ、これは直属の上官としての話だ。そしてこの子達をカバーしてやってくれ、そして必ず生きて帰ってこい。いいな!」

 

「「了!」」

 

「なら……健闘を祈る。全員生きて……また会おう!」

 

その言葉を最後にモニターは途切れた。

 

「発進するわ。各人用意……」

 

「エミリアさん!!」

 

突然ドラえもんが彼女を呼び止め、すぐに振り向く。

 

「エミリアさん……さっきはごめんなさい。あんなに不安な声ばかり洩らしたり、ショボンとしたり……。だけどもう泣き言なんか言いません!」

 

彼は深く謝罪し、それにつられてジャイアン、スネ夫も、

 

「俺たち、絶対にエミリアさん達を守ってみせる。そしてエミリアさんの辛い思いから救ってあげたいんだ!」

 

「ジャイアンの言うとおりだよ。ドラえもんの道具があればどんな奴でもイチコロさぁ!」

 

エミリアは軽く頷き、いつものような優しい笑みで三人を見つめた。

 

「……あたしこそごめんなさい。あなた達は本当なら関係ないのに無理矢理付き合わちゃった上にあんなに怒鳴って……。大丈夫、あたしもあなた達を全力で守ってみせるわ、私からすればあなた達は守るに値する大切な人達よ!」

 

「アタシも突入したらこの機内から全力でサポートするヨ!!これ以上、奴らの好き勝手にさせないんだから!!」

 

これで5人の意思は再びまとまり、頑なに強い決意をモノとする――。

 

「発進するわよ!!各人ベルト固定しっかりできてる!?」

 

「「「大丈夫です!」」」

 

「ミルフィ、安全な進路を算出した!?」

 

「OKヨ!!もう既にイクスウェスにインプットしてあるわ!!」

 

「了解!!」

 

エミリアはモニターを開くと画面上にはヴァルミリオンからエクセレクターまでの確定された進路を詳しく表示されている。それを確認した後、自動的に前方がハッチが開放、目の前に宇宙空間が広がった。

 

「『NPエネルギー』チャージ完了、『プラズマエネルギー』チャージ完了、『ツインハイブリッド・ドライヴ』、『リアクターエンジン』オールグリーン!

エミリア・シュナイダー大尉以下5名の特別編成隊、及びイクスウェス、発進します!!」

 

ついにカタパルトから射出され、宇宙空間に飛び出したイクスウェス。

 

「対衝撃保護用NPエネルギーフィールド展開。目標……12000ギャロ、XX88方向のアマリーリス艦!」

 

急旋回で方向を確定させ、主翼部を鋭く展開、機体全体に緑色のエネルギー膜が発生、包みこんでいく――。

 

「イクスウェス、ただ今発進しました」

 

「うむ……」

 

カーマインにその旨を伝え、モニターに移る彼女らの乗るイクスウェスをまるで我が子供のように温かい目で見守っていた。

 

(頼んだぞ。最後の希望である五人の勇者たちよ……)



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Part.46 破滅の閃光

◆ ◆ ◆

時間は遡り、開戦前。ラクリーマの要求を応じるか応じないか決断を迫られていた時のことである。

 

中央デッキでは、選択に迫られつつも疑問視されていることがあった。

 

「……これはどうもおかしい。彼らの友達があんなに元気だなんて……」

 

「しかも……表情を見る限り怯えているどころか恐怖のひとかけらさえ見受けられなかったようですが……」

 

 

怖がってなく、むしろあの表情は状況を全く理解していない様であった。そしてドラえもん達三人もそれについてコソコソ話をしている。

 

(ドラえもん、どう思う?)

 

(う~ん。エミリアさんの言うことが本当ならとても二人に何の危害が及んでいないとは考えられないけど……)

 

(あの男の話だと手を出していないっていってたよ。何か裏がありそうだね……)

 

一方、大人組も色々と考察している最中であった。

 

「もしかしたら……奴らはあの子達を殺す気ないんじゃ……」

 

「……ならなんでわざわざこちらに出向いてきたんだ。あの二人を人質として捕らえたんじゃないか?」

 

「そもそもアマリ―リスは何のためにここにきたのかが分からん。地球侵略などと予測したがそれはあくまで我々の予想の範囲だ。それに奴らも我々の存在を感知していただろう。なのになぜ危険を冒してまで……?」

 

「……ますますワケ分からない」

 

……憶測ばかりが飛び交うデッキ内。確かにこれは不自然で不気味である。

 

「全員、静まれ!」

 

またもやカーマインの一声で一蹴された。

 

「我々はそんなあてのない考察を追求する暇などない。考えることはアマリ―リスの要求を飲むか飲まないかだ」

 

またもや全員が沈黙する。判断が難しいトコだ。

 

『カーマイン殿、いかがなさいましたか?』

 

通信を通して別艦の艦長たちまでが現れる。彼らにその先ほどのやり取りを詳しく説明した。

 

『……奴らも考えましたな。人質を使うとは……』

 

『しかし最終的には決めなければならない。私自身はその地球人の子供達を見殺しにしたくない……』

 

『だが、奴らをみすみす見逃せばそれこそ大変なことになるぞ!』

 

他の艦長もここにいる隊員達と同じ意見を述べている。

 

「皆さん、落ち着いてください。時間があるわけですから全員で最良の選択を考えましょう」

 

……そんな中、意外にもスネ夫がこんなことを言い出した。

 

「……カーマイン提督、ふと思ったことがあるんですが……」

 

「……スネ夫君?どうしたのかね?」

 

「もしかしたらなんですが……あの悪の組織を捕まえることになるんだったら、のび太達はすぐ殺されると思いますか……?」

 

その意味深しげな発言に全員がスネ夫に注目した。

 

「どっ……どういうことかね?」

 

「つまりその……そうなったら奴らは焦って殺すどころじゃなくなるんじゃないかなぁ……って思いました。捕まりたくないって言ってたから……」

 

根拠のない発言である。ほとんどが『そんなこと、あるわけが……』と思いかけていた時、

 

「……いや、彼の言うとおりかもしれませんよ提督」

 

一人の女性隊員が彼に賛同する。ウサギのような長い耳が目立ち、赤い短髪のボーイッシュ。その赤い瞳からは鋭い眼光を放っている。

 

……彼女は本艦所属の第26実特科(実弾の砲兵器のみを扱う、光特科部隊と対をなす部隊)中隊長、メレウル少佐である。

 

「アマリーリスは我々、銀河連邦を恐れている。今まで遭遇しなかったのも我々と対峙したくなかったため……と私は思います。そしてついに対面してしまい、奴らも内心焦っていることでしょう」

 

彼女はさらに腕組をして、まるでほくそ笑むような表情をとった。

 

「だとすれば、彼らのその友達の殺害は後回しにして、我々の対処に最優先する可能性も十分考えられます。最も、仮の話ですが。まあ下手をすれば奴らの要求を拒否した瞬間、即抹殺されるかもしれませんがね……フフッ」

 

その場の全員が唖然となる。ドラえもん達がいるにも関わらず、不安めいた発言を繰り出す。現に本人達も落胆とも受け取れる複雑な表情をしていた。

 

「メレウル少佐、やめないか。この子達も聞いておるのだぞ!」

 

カーマインの注意に耳を貸さず、さらに話を続ける。

 

「私は要求を飲まない方に賛成です。情を優先して奴らを逃してしまっては元も子もありません。 ですが、賭けてみる価値はあります。最悪、アマリーリスを逮捕すればこちらの勝利ですから」

 

……まさに軍人の思考だ。

 

「助け出すのならまさに時間が勝負。作戦である通り、エミリア大尉、ミルフィ中尉、そしてこの子達がアマリーリス艦に突入成功し、いかに早く友達を発見できるかにかかってきます。そのために彼女らの突破口を開くために我々も精力せな、いけませんが」

 

彼女の意見は聞く者ほとんどを同感させた。

 

「ドラえもん、どうする?」

 

「確かにこの人の言うとおりかもしれない。奴らがスンナリのび太君達を返してくれるとは思えないし、戦闘になればどの道時間勝負になると思うから」

 

……次々に彼女を賛同する声が聞こえてくる。カーマインは回りの様子を確認し、うんと頷いた。

 

「……なら全員に聞く。アマリ―リスの要求を受け入れないことに賛成の者は賛同の拍手を叩いてくれ」

 

何百との手を叩く音が響き渡った。そしてカーマインは心を据えて、深く頷いた。

 

「よし。我々は奴らの要求に応じない選択で決定する。なお、戦闘への移行が必須であると思われる。あの男がまた現れる前に各部隊の隊長は各部下に連絡、準備をさせよ!!」

 

「了解!」

 

すぐに彼の命令に取りかかる各部隊長。エミリア達も作戦について何やら話をしている。

 

「私達は作戦開始次第、すぐに各装備品を携行した後、すぐにイクスウェスの格納庫に移動。指示があるまで待機よ」

 

「ドラえもん、今の内に『テキオー灯』をかけておこうよ」

 

「そうだね、忘れない内にと……」

 

ポケットから『テキオー灯』を取り出して、まずジャイアンとスネ夫にその光を浴びせ、次に自分に向けて光を浴びる。

 

「次にエミリアさんとミルフィちゃん、今からテキオー灯を浴びせます」

 

ドラえもんはそれを二人に向けるがエミリアは少しビクビクしてように見える。

 

「エミリアさん、大丈夫ですか……?」

 

「え、ええ、早くして!」

 

考えたら彼女は光に弱い、本能的に恐れるの当たり前か。

テキオー灯を放射し、明るい光が彼女らを包む。そして彼自身も光を浴びて、テキオー灯をポケットにしまった。

 

「エミリア!」

 

突然、あのメレウルから声をかけられ5人は彼女へ顔を向けた。

 

「メレウル少佐?」

 

「おや、いつもみたいに班長って呼ばないのか?」

 

「いや……今は任務中ですから……」

 

エミリアは少しタジタジしている。

――メレウルは艦内において彼女ら女性隊員の内務全般をまとめる班長も務めている。

 

「お前、この作戦がとても重要と自覚しているか?」

 

「はい……」

 

「班長として私はお前に選ばれて光栄に思っている。決して奴らに臆したら敗けだぞ、今から十分気合いを入れてけ、いいな!!」

 

「はい!」

 

「あとミルフィ、この子達含めて全員が要領よく行動できるように導くのはお前の仕事だ。集中してサポートしな!」

 

「了解です!!」

 

そんな彼女は突然エミリアの両頬を優しく掴み、顔を近づけ……。

 

「「「う……うわわあっ!!」」」

 

思わず、ドラえもん達は驚愕と羞恥の混ざった表情と、頬を赤くし、大きな声を上げた。

二人は女性同士であるにも関わらず、熱い口づけを交わしていたのだから……しかもねっとりと深く。

 

「むむっ!!」

 

エミリアは顔を真っ赤にしてジタバタし、ミルフィもその光景が恥ずかしいのか顔を真下に伏せている。

 

「エミリア、絶対に死ぬなよ。あたしはお前のことが『好き』なんだからな。お前がいなくなっちゃ寂しくて死んでしまうよ」

 

「…………」

 

「なんてな。なら私は行く。みんな準備を怠るなよ!」

 

そういうとメレウルは歩きながら去っていった。当然、5人は呆気に取られている。ただ言えることはドラえもんとジャイアン、スネ夫からすればとても刺激的な光景であった。

 

「な……なんだあの人は……」

 

「初めて見た……きっ……キスするとこなんて……しかも女の人同士が……」

 

一方、口づけをされた本人も我を振り返り顔をブンブン横に振った。

 

「……班長……考えたらあんな人だった……キャーーっ!!」

 

顔を頬を両手で押さえて恥ずかしそうに絶叫する。

 

「なあミルフィ……あの人って一体……」

 

ジャイアンの問いに彼女は恥ずかしそうにこう答えた。

 

「……メレウル少佐はね、ちょっと変わった趣味を持ってるの……」

 

……いわゆる彼女はレズビアンだ。特にエミリアを気に入ってるらしく、いつか二人で……と常に狙われていたりするのであった。

 

◆ ◆ ◆

 

――そして、エミリア達が発進する少し前。連邦艦隊から前方100キロメートル離れた宙域で駐留していた多数の機体。

 

中央に専用機と思われる戦闘ユニットの姿が――サイズは大型クラス、マッシブな体躯に両肩、両手首、両腰部に長方形のコンテナが装備されている。一見、ゼウシウスのようにも見えるが、どちらも砲門から丸い弾頭らしき物が見える……ミサイルだ。その左右全体に上下と前、後列に分かれたクイストが自機以上の全長、そして超口径という巨大な砲台を操作している。

 

その数なんと……6000機で砲台も合わせると12000機も及ぶ無数の機体が遥か前方宙域に目を見据えていた。

 

「前列、後列の順に後方支援攻撃を開始する。全機、前方XXYY方向、4500ギャロ、高度158に砲台を調整!!メイガニウム榴弾発射用意!!」

 

その大型戦闘ユニットから命令を下すはあのメレウル少佐であった。

 

――ここは銀河連邦艦隊、最終防衛ライン。第26実特科攻撃中隊が務める最後の砦であった。そして彼女の乗る機体、『エルファイスマンガリー』は上方へ移動、左右の肩から突き出た巨大なミサイルコンテナを同じ方向へ向け、ミサイル弾頭が前に浮き出てくる。

 

「今中隊はこれよりメイガニウム榴弾、グラストラ核広範囲殲滅ミサイルの順に発射する!!前方部隊は後退し敵を引き付けよ、そして発射同時に退避だ!!」

 

特殊なインカムを通じて一斉に通信、指定された前方の宙域にいる連邦ユニット達は再び一斉後退を始めた。

 

『また奴ら下がりはめたぞ!?』

 

『構わねえ!!今がチャンスだ!!』

 

逃がすまいと戦闘員達も追いかける。

連邦は後退しながら攻撃してくる。彼らは掻い潜り、どうにかして奴らに接近しようと必死だ。

 

 

……しかし、気づいていなかった。これが作戦であることを……それに気付いたのはエクセレクターのオペレーターであった。

 

『全機、今すぐ緊急退避!!奴らの後方には約3000機以上の巨大砲台がこちらを狙ってるぞ!』

 

『なにぃ!!?』

 

瞬間、スレイヴの動きはピタッと止まった。しかし、気づくのは遅かった。

 

「前列砲台、メイガニウム榴弾発射!!」

 

彼女の掛け声と共に角度調整されたその砲台からその数、発の巨大弾丸が目にも見えぬ速度で一斉に発射され、グングン彼らの宙域に向かっていった。

 

その瞬間、連邦ユニットも全力で離脱し戦闘員達だけが取り残され―――逃げる隙もなかった。その超高速で飛来したソレは彼の肉眼で捕らえきれなかったのである。

 

そして直撃。機体の大部分を削るほどに貫通または弾頭が破裂。内部にある特殊な液体火薬が爆発した衝撃で、外の包む装甲が無数の破片となって拡散。

 

『榴弾か!!』

 

周囲にいるスレイヴに容赦なく突き刺さった。しかし、これで終わりではなく後列の砲台も砲撃準備を整えて、待機していた。

 

『後列砲台、一斉発射!!』

 

メレウルの装置している特殊なゴーグルは遥かに前の敵機を完全に捕らえていた。

 

――二度目の砲撃。数十秒後に再び、彼らにその弾丸が休む間もなく襲いかかる。しかし今度は彼女の駆る機体の両肩のミサイルが起動していた。

 

『グラストラ核広範囲殲滅ミサイルを発射する。爆発範囲にいる機体は迅速で退避せよ!』

 

その二基の細長いミサイルはついに発射された。弾道速度はそこまで速くなく、一定速度で前方へ進んでいく。

 

一方、直撃した機体に大穴が空き、ズタズタに装甲を突き破る。そして破裂した金属の破片も深々と突き刺さり、次々に機体の不調、戦闘不能へ陥らせた。

 

『マズイ、奴らの策にハマったか!!』

 

『一旦、退避しよう』

 

動ける機体は動けないが無事の仲間を助けて撤退しようとするが、ここに一本の通信が。

 

『各機要注意。今度はミサイルがこちらへ接近中!!』

 

『ミサイルだと?』

 

モニターを拡大すると確かにこちらに向かってくる二つの何かを捕らえていた。

 

『榴弾よりは遅くてまるわかりじゃねえか。撃ち落としてくれる!!』

 

一機のスレイヴが両手をその『ミサイル』へ砲口を向け、狙いを定めて発射。しかしその瞬間、またオペレーターから通信が……。

 

『撃つな!!それは――』

 

『なに!?』

 

時すでに遅し、二本の光線はミサイルに見事に直撃したその時、惨劇がおきた。ミサイルからこの宙域全てを覆うほどの白銀の光が発生、そして瞬間、超高熱、超衝撃波が広範囲に渡って一気に襲った。

 

『ぐわああああっ――――!!!』

 

逃げるどころか、何もすることすらできず全てを光の中に飲み込み、跡形もなく焼きつくし、粉々に――。

それはまるで地球におけるあの最悪の兵器“核兵器”のようであった。その光景を見ていたオペレーターセンター内の全員は驚愕と唖然、そして息を飲んだ。

 

「そっ……その宙域にいた1850人の戦闘員の生体反応……一瞬で消えました……。」

 

「……その宙域周辺から高濃度の放射線を検出。連邦の戦略核兵器攻撃と思われます……」

 

彼らからすれば絶望的な報告である。

 

「キャアアアアッ!!」

 

「しずかちゃん!?」

 

しずかはその光によって真っ白に映るモニターを見て、悲鳴を上げていた。

 

「ひっ、ひどい……どうしてこんな……ううっ……」

 

悲しみにくれているしずかにジュネは手を差しのべた。

 

「やっぱり、あんたたちはあたいたちとは住む世界が違い過ぎるんだよ……」

 

「…………」

 

のび太はラクリーマの言っていたあの言葉がふと脳裏に浮ぶ。

 

 

『お前らと俺らは根本的に考えは違う、相容れない存在だ』

 

 

その意味が分かったような気がした――。



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Part.47 報復

……開発エリアでもサイサリスはその光景をキツイ目付きで凝視していた。

 

「グラストラ……核エネルギーだと……?連邦の野郎、あんな危険なモン使ってやがったか……」

 

――先ほど放たれたグラストラ核広範囲殲滅ミサイルとは連邦の保有戦略核弾頭ミサイルであり、その破壊力、爆発範囲は従来の光子ミサイルが足元に及ばない程だ。

 

しかし当然、放射能まで発生し、二次、三次被害も凄まじく、使用が限られる武装であり、この『エルファイスマンガリー』に積んでいる両肩のミサイルはまさにこれであった。

 

グラストラ核エネルギーは『グラストリウム』と呼ばれる放射性物質から取り出される核エネルギーであり、ウランやローレンシウムのようなアクチノイドと同じような物である。だが核分裂で地球産の物質以上の膨大なエネルギーが発生し、瞬間的な増量率はNPエネルギーをも上回るが、当然放射能も発生する。

 

しかしこの放射能は特殊でほとんどの金属(厚さ、性質関係なく)を貫通するため、動力としての使用は確実に被爆し自殺行為であり、利用不可能である。

そして最大の特徴はNPエネルギーと化学反応を起こすとさらに爆発的な増幅値、強力な毒性も帯びることである。それを利用したのがこのミサイル兵器である。

 

扱いにくく、その危険な性質からか連邦内でも『もはや平和や秩序すら破壊しかねない』と使用禁止を訴える声も多数上がっている代物である。そんな悪魔のようなミサイルが先程、現実で使われた瞬間であった――。

 

「あたしらでさえ扱えきれなかったものを……連邦ごときが……」

 

苦虫を噛み潰した表情を取る彼女。

 

サイサリス、エルネスの故郷であった惑星ラグラ……『神の軍団』はNPエネルギーと共同で研究が進められていたのだが、その放射能があまりにも毒性が強く、どれだけ多くの人間を被爆、犠牲にしたか分からない。

 

そして、エルネスの行なっていた人体実験の一つにこれを被験者に直撃照射するという余りにも非道な実験を行っていた。当然、良い結果が出るハズもなく被験者全員が重度の放射線障害により即死に至った。

 

彼女達でさえ扱える代物ではなかったのだ。本来ならNPエネルギーと共に新世代エネルギーを担うハズであったが――惑星ラグラが消滅した原因も実はこのエネルギーとNPエネルギーの化学反応によるものである。最もサイサリスはその事実は知らないが

 

――被爆の危険性で一時退避していた実特科中隊は再び隊列を編成する様、弾薬の補充、装填を行う。

 

「ムーリア軍曹、私の機体も補充だ」

 

彼女の機体の後方から一機の戦闘機が向かってくる。ホルスとは違い、無骨なフォルムで至る所に数々のミサイルが取り付けられている……あの核弾頭も一緒であった。

 

『サーペイザー、ムーリア軍曹到着しました』

 

「ムーリア、核弾頭だけ補充を頼む!!いつまた来るやも分からん」

 

『…………』

 

しかし、その戦闘機『サーペイザー』の搭乗者ムーリアはどこかおどおどした表情であった。童顔であるその顔が凄く頼りなさそうな印象である。

 

「少佐……あの……」

 

『どうした?早く補給を開始しろ!』

 

「我々は……あの核弾頭を使用してしまってよかったでしょうか。あれは間違いなく必要以上の大量破壊兵器ですよ……?」

 

その問いにメレウルは……。

 

『ムーリア、甘ったれたこと言うな!』

 

彼女のドスの聞いた怒号が中隊の全通信機から響き渡った。

 

「ここは戦場だ、今は殺るか殺られるかしかない。連邦とて綺麗事ばかり言ってるワケにはいかないんだよ!!」

 

『しかし……』

 

「よく聞け。世の中には『必要悪』て言葉があってな、平和を守るためにも時には悪魔にならねえといけねえんだよ」

 

……まさに『毒を以て毒を制す』とよく言ったものである。

 

『エミリア大尉がたった今、出撃した模様です!』

 

その情報を耳にした彼女の目の色が変わった。

 

『よし、エミリア大尉の突破を邪魔する障害物や敵を排除する。弾薬を装填した砲台から再び砲撃準備を開始しろ。ムーリア軍曹は補給後は本機の後方で待機ーー』

 

力がこもった声が張り上がり、部下も急いで準備を始めた。しかしその直後……。

 

『メレウル少佐、無数の敵戦闘ユニットが左右に展開しながら急接近!!中にあの男も混じっています!』

 

モニターを見るとレクシー、ユーダが駆るシルバリオン・セルゲイザー他、スレイヴ、ツェディック、そしてセルグラードを持ったラクリーマが最終防衛ラインへ突進していた。

 

5000機を超えるその数を見ると総力戦に持ち込むと見た。

 

『装填はまだか!!』

 

『ま……間に合いません!!』

 

『全機、今すぐ戦闘準備。一機たりともこのラインから艦隊へ行かすな!!』

 

命令と共にクイストは砲台をその場に放棄し、両腰部分にマウントされたライフルと、擲弾頭発射装置付きの長身バレルを合体させ、即座に各左右に銃口を向けていた。

 

――一方、ラクリーマ達は先程の核攻撃に対して報復しようと突撃していた。

 

「核なんぞ使いやがって!!各員、死んでいった仲間の弔い合戦だぁ!それ以上の破壊力をてめえらに味あわせてやる。レクシー、ユーダ、俺は突破してセルグラードで連邦艦隊を攻撃する。お前らで全員を指揮して近くの敵部隊の相手を頼む!」

 

『了解!!』

 

徐々に近づきつつあるアマリーリス勢についにメレウルの機体『エルファイスマンガリー』も動き出し、両手首の円形状の固定型砲身を各左右に向けた。

 

『ライフルは一点射撃から連射撃モードへ切り替え、十分引き寄せよ!!』

 

銀色のロングレンジバレル、銃口。その真下に取り付けられた擲弾発射器。そして鈍い光を放つ刃の銀色の銃剣。クイストの標準装備であるレーザーライフルとは全く異なったデザイン、構造だ。

 

『敵部隊、射程圏内に入りました!』

 

『クイスト全機、一斉射撃。撃て!』

 

――無数の弾丸が高速で飛び交う。エネルギーではなくこちらも実弾であった。そしてエルファイスマンガリーから放たれるはライフルのような弾丸ではない、小型の実弾ミサイルがまるで機関砲のように連射されながら左右の敵機を次々と追っていく。戦闘員はすぐに散開。クイストのライフルはフルオート連射、無数のミサイル同時に攻撃しているため、この宙域は弾丸で埋め尽くす銃撃戦の応酬と化した。

 

さすがの戦闘員も避けきれず圧倒的数の弾丸、そして『エルファイスマンガリー』から放たれる無数の小型ミサイルが直撃を繰り返し、装甲が陥没、または爆発により強度の弱い部分を破壊された。

特にミサイルは追尾してくるため避けることは困難であり、スレイヴやツェディックの全武装をもってして撃ち落とそうとするがその数が余りにも多すぎために追いつかない。誘爆させようにも他機のライフル攻撃で邪魔される。

 

何十機かのクイストはライフルを横に傾け、グリップ部分を縦から掴んだ。

 

トリガーを引くと銃口の下に設置された擲弾発射口から拳二個分の弾体が発射。先が何とドリル状となっており、発射と同時に回転を始めた。遅めの弾道でヒュルヒュル飛び、一機のスレイヴの胸部に直撃。ドリルにより金属を削りながら内部へ入り込み――。

 

「!?」

 

コックピット内に到着した同時に動きは停止、彼の膝の上にポトッと落ちた。

 

「まさかこれは……」

 

その戦闘員は息を飲んだ。

 

《ドワっっ!!》

 

コックピット内が突然爆発を起こし、その機体は静止したまま二度動かなかった……。

 

「くう……直撃すれば死んじまう……」

 

ラクリーマは向かってくる弾丸の嵐の中、決死の思いで前進する。セルグラードにログハートのエネルギーをほとんど供給に回しているためバリアが張れず、さらに鈍足となっていた。

 

『リーダーを守れ、何としても突破させるんだぁ!!』

 

各機が即座に彼の周囲に配置し、盾のように防衛に入った。

 

『全機、まずあの中心部にいるデカブツを真っ先に破壊しろ。あれがおそらく隊長機で倒せば部隊はバラバラになる!!』

 

レクシーはメレウルに狙いを定めて、速攻で全機を向かわせたそして彼女も自分が標的になっていることが分かると攻撃用レバーを全力で手前に引いた。

 

『図にのるな!!全機、エルファイスマンガリーからすぐに退避せよ!!』

 

エルファイスマンガリーの手足含む全装甲から直径1mの丸い孔が大量に出現。両手、両足全てを広げて大の字のような形になるや、部下達は攻撃を止めて彼女の周辺から離れていく。

 

『ミサイル、全方位全弾発射っ!!』

 

――展開された穴からおびただしい数のミサイルがハリネズミの毛針のように爆炎と共に全方位に向けて一斉に飛び出した。

あのラクリーマが身につけていたアーマーのミサイルより遥かに多く、大きい。次々とスレイヴに直撃するミサイル。みるみる内に大破されていく機体。

 

『これで終わりと思うなよ!!』

 

今度は両腰に装備されたミサイルコンテナが起動、メレウルはすぐに近くにいた敵機に照準を定めて発射。発射された四基のミサイルは巨大だ。

 

『撃ち落とせ!!』

 

すぐにレーザー砲でミサイルに狙いを定め、撃ち込むが何とミサイルがまるで意思を持っているかのように自ら光線を避けたのであった。

こちらがどれだけ攻撃しても軌道、位置、全てを読み取って素早く避けで追っていった。『なんちゅうミサイルだ!!』

 

避けるのに必死であった。そして退避していた多数のクイストも駆けつけてくる。

 

『さあどうするアマリーリスさんよぉ!!このままだと直撃しちまうぞ!!』

 

彼女の駆る戦闘ユニット『エルファイスマンガリー』は実弾ミサイル『だけ』を身体中に無数搭載した機体で云わば『機動ミサイル砲台』である。それゆえ補給が必須であるが、戦闘ユニット全般を遥かに上回る超火力を持つ。

 

『うはははは、あたしに近づくヤロウは全部消し飛ばしてやるよォォーーっ!!』

 

彼女は人格が変わったかのように高圧的になっていた――。

 

『おい、ちいとオイタしすぎるんじゃねえか!?』

 

『!?』

 

エルファイスマンガリーの背後に回り込んだ機体がいた。

 

レクシー、ユーダの駆るシルバリオンであった。両手首のエネルギー剣が真上からエルファイスマンガリーの両肩へ降り下ろされ、両手、両腕が胴体から離れた。

 

『何い!!』

 

もはや二人にとってここまでコケにされて我慢の限界であった。

 

『ダルマにしてやる!!』

 

瞬間、シルバリオンは下へ移動、今度は両脚まとめて横の一閃を浴びせ、切断。言葉通り、ダルマの姿そっくりとなった。

 

『~~~~~~~~っっ!!』

 

すっかり顔色を一気に変えてもはや余裕の顔がなくなった彼女、そのモニター前には彼らの機体が現れ――。

 

『ユーダ、とどめだ!!』

 

『言われるまでもねえよ!!』

 

刀身を形成したまま右腕を引く。コックピットを貫こうとしていた。

 

『ちいっ!!』

 

メレウルは素早く操作レバーを引き付け、連動て後部スラスターが点火。後退して避けようとした。が、三機のスレイヴに逃げれないように取り押さえた。

 

『このぉ離せぇーー!!』

 

メレウルはレバーを前後へ乱暴に動かすが降りきることはできない。

 

『往生際がワリィんだよ』

 

『レクシー、ユーダ!!やれえ!!』

 

仲間の呼びかけに応じて、シルバリオンは突進。右腕を突き出し――。

 

『うあああ――――っ!!』

 

超高熱を帯びた長刀は装甲を溶かして胸部を見事に貫いた……。

 

『中隊長――ーっ!!』

 

部隊員全員が叫ぶが彼女の返事はなかった……スパークがほどばしるとすぐにレクシー達はその場から離れ――大爆発。

中の残っていたミサイルも誘爆して、凄まじくそしてキレイさっぱりバラバラとなってしまった。

 

『よし、隊長機を倒した。あとは部下達だ。全機、焦るな。一機ずつ確実に破壊しろ!!』

 

そして彼らはメレウルの部下に狙いを定め、手をバキバキ鳴らす。先程の仕返しをしようとしていた。一方、彼女の部下は……指揮官がいなくなったことにより混乱に陥っていた。

 

『メレウル少佐が死んだ……』

 

『嘘だろォ……あの人が……』

 

もはや士気が著しく低下していた。しかし、アマリーリスはそれを好機として逃すはずがなかった。

 

『全員、チャンスだ!!かかれ!!』

 

レクシーの合図に襲いかかるアマリーリス軍団。逃げ惑う機体、彼女の仇を討とうと特攻する機体……どうすればいいか分からずあわふたしている内に攻撃、巻き添えを食らって吹っ飛ぶ機体……もはや部隊として成り立たなくなってしまった。

 

 

『う……うわああああっ―――っ!!』

 

サーペイザーが突然、自分の部隊を置いてきぼりにして艦隊へ戻っていった。

搭乗者でメレウルのパートナーである彼、ムーリアはすでに情緒不安定と化していた。

 

――そして中央デッキでも……。

 

「……メレウル中隊長の生体反応消滅……。第26実特科部隊はもはや壊滅するのも時間の問題です……」

 

「…………」

 

……彼女の死は誰も信じがたいことであり、誰もなんと言葉を言えばいいかも分からなかった。



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Part.48 宇宙光

しかし、さらにそれだけでは終わらなかった。

 

「て……提督!!」

 

「どうした!!」

 

震える声、体。オペレーター、副長の様子を見る限り、ただごとではないことが感じられた。

 

「あの男……アマリ―リスの総司令を名乗る男が艦隊へ突っ込んできます。それも正体不明の巨大な砲兵器を携行しながら!」

 

ラクリーマがついにこちらへ迫ってきていた。サイサリスのもうひとつの作品であり、決戦兵器である『セルグラード』を携えながら。カーマイン含む、全隊員を震撼させた。まだ隠しだまを持っていたのかと――。

 

そして、セルグラードへ繋いでいた供給チューブが自動的に解離した。

 

『ラクリーマ、ついにセルグラードのエネルギーが満タンになったぞ!これでいつでもぶっ放せるぜェ!』

 

「行くぜ銀河連邦さんよ!いっぱい味わってくれよ、サイサリスのもうひとつの傑作をよぉ!!」

 

それを聞いた彼はこの時を待ちわび、本当の意味で熱く、そして狂気を帯びた満面な笑みを繰り出した。

 

◆ ◆ ◆

 

そしてついに発進したエミリア達は、突撃する寸前にメレウルの戦死したという事実が通信機から流れていた。

 

「そんな……メレウル班長が……」

 

「………っっ!!」

 

五人は想像を絶するほどの衝撃が稲妻のように身体中を一気に突き抜けた。しかしエミリアは歯を食い縛り、操縦桿をさらに強く握りこんだ。

 

『……行くわよみんな!!ツインエネルギー最大、エンジンフルスロットル!!』

 

操縦桿を力の限り前へ押し倒した――。

 

 

《ズ ド オ ォ ォ ― ― ― っ っ ! !》

 

「「「ムギィィァァ―――っっっ!!!」」」

 

エクセレクターへ向けて発進したイクスウェス。

しかしその加速力、速度、全てが異常であった。あのログハートでもこのスピードは追いつけないほどで、限りなく『光速』に近づいていた。テキオー灯を浴びていたため、何とか体は無事であるが余りの速度で今、自分達がどこにいるのか窓からでは何がもう分からない。全てはエミリアの前にあるモニターが頼りであった――。

 

「ん?」

 

その時である。ラクリーマは何かが横を通りすぎたような気がした。それがエミリア達であることを彼は知るよしもなかったが――。

 

だがそんなことに気を取られて暇などない。そして銀河連邦の旗艦ヴァルミリオンについにセルグラードを……………いや、なぜか向けず右側の艦隊へ向けるラクリーマ。

 

『ラクリーマ、右腕に力いっぱい握りしめろ、それで発射だ、頼むぜえ!』

 

そしてついに――。

 

《いっぺんあの世から出直してこいやァァ――――っっ!!》

 

彼の轟きと共に巨大な大砲『セルグラード』から放たれたのは蒼白色の極光。だがそれがまるで宇宙を覆うが如く、それが何百キロ……いや何千、何万キロ、それ以上という桁違いの範囲内全てを覆い尽くし、消し飛ばしていった。

 

「ぐおおーーーっっ!!」

 

宇宙空間であるにも関わらず、発射による凄まじいという言葉が可愛く思えるほどの反動がラクリーマの身体に襲いかかった。体の骨が全て粉砕される感覚だ。こんなバカらしい超衝撃は生まれて初めてであった――。

 

『ミキ……ベキ……』

 

ログハートも悲鳴を上げている。装甲が段々削られて剥がされていき、まさかこれほどまでとは……。

 

そして射線、影響範囲内にいた全ての艦隊は……。

 

「エネルギーの塊がこちらへ向かってきます!!質量は……計測不可能!!?」

 

「なんだと!!?」

 

一瞬であった。右側全てがそのエネルギーの光に飲み込まれていったのは。

 

もはや破壊という言葉では収まらない。本当の意味で消滅していった。跡形もなく。

その一撃のどれほどの数を命を消し飛ばしたであろう。勢いが止まらずその射線軸、射角、そのエネルギーの射程範囲に存在した物体、それどころか衛星、惑星、恒星、何百光年先に存在した全ての物がその光によって飲み込まれ、粉々に消し飛ばしていく。

 

まるで――宇宙創世の爆発『ビッグバン』を再現したようであり――セルグラードの射線上から広範囲にかけて全てが無と化した瞬間であった。

 

「ほ、本艦の右側の全ての艦隊が……………消滅…………しました」

 

ヴァルミリオンの右側全ての艦隊全てはもう宇宙に存在していない。本艦もスレスレで直撃は免れていたがその影響も色々出ていた。

 

「……その射線軸、全方位に存在した物体全てが消滅……また本艦のバリアを一切無視し、かすめていった左側全ての外装甲が消滅した模様……被害は不明です……。戦闘はとりあえず継続可能ですが、こちらのバリア展開が一切不可能となっています……それから――」

 

次々に叩き出される被害報告。見たことのない光景、そしてそれがもたらされた現実により、ほぼ全員が茫然自失に陥っている。カーマインだけが何とか自意識を保っていたが本人でさえこう思っていた。

 

(さ……最悪の事態だ……っ)

 

――アマリ―リスがここまで強大だとは誰も考えつかなかった。今作戦に参加した隊員誰もが次第にこのような考えに陥らせた。

 

『本当にこんな化け物相手を捕まえられるのか……』

 

……と。

 

しかし一番可哀想なのは先程の攻撃で自艦を無くし、帰る場所を失った隊員達である。問いかけても何の返事もない、返ってこない。

その隊員から涙が溢れている者、放心している者、激しい怒りが沸き上がる者――だが、

 

「提督、アマリ―リス艦から膨大なエネルギー反応確認、S級質量を観測!!」

 

「しかしバリアを再展開せず、さらにエネルギーだけ上々しています!!」

 

「……どういうことだ!?」

 

予期せぬ出来事である。これは一体……。

 

◆ ◆ ◆

 

一方、開発エリア。セルグラードの生みの親であるサイサリスは大歓喜……いや、それどころかその光景に顔が青ざめており口を押さえて絶句していた。

 

(な、なんだこの威力は……っ)

 

目の前のパネルにはセルグラード発射による影響、状況が表示されている。

 

(想定外だ……あたしの計算ではランクS級はともかく単一惑星を破壊できるかどうかだったが……射線上1000光年先の全ての物体が消滅……だと?)

 

サイサリスでさえ、予想だにしなかった結果だった。

 

(そういえば……前々からNPエネルギーの出力関連でラクリーマが単独で他の奴らより圧倒的に出力が上回ることがよくあったな。あまり気にしてなかったが……なんだ、単純にNPエネルギーとアイツは相性がいいのか……それとも――)

 

以前、スレイヴ、ツェディックのNP炉心の出力調整テストの際、ラクリーマと部下達がそれぞれ乗り込み行っていたのだが部下達は特に問題なく順々に出力が上がったのに対しラクリーマは一瞬でNPエネルギー量が跳ね上がり、出力計が振りきれ、炉心がオーバーロードを起こして爆発しかけたことがあった。

その他にもブラティストーム、彼の左肩の中にある小型NP炉心も同じことを引き起こしたことが取りつけた初期には何度もあった。今ではラクリーマは何とか自分の意思で制御しているのでそのようなことは起こらなくなったが……。

 

しかし、今のセルグラードの想像を遥かに越えた破壊力を見て彼女はそれらを思いだし、そしてこう考えた。

 

『NPエネルギーにはまだまだ自分達の知らない未知な部分がかなりあるのでは?』とーー。

 

◆ ◆ ◆

 

 

そしてラクリーマは宇宙空間に力なく漂っていた。先程のセルグラードによる攻撃の凄まじさは連邦に与えただけではなかった。

 

「……くくっ……サイサリスの野郎……俺を殺す気か……」

 

その超衝撃が彼自身に甚大な被害を与えていた。セルグラード本体は衝撃に耐えきれず完全に大破、ログハートも先程の一撃が決定打となり、完全にボロボロと化していた。

 

『リーダー、大丈夫ですか!?』

 

レクシーから通信が入り、彼はその乾いた唇を静かに動かした。

 

「……ああ……ちいと無理しちまった……迎えにきてくんねえか?どうやら少し休まねえと動けそうにねえ……はは……」

 

『了解!!今すぐ向かいます!』

 

通信が終わり、ラクリーマはこんな状態にも関わらず『ニィ……』と笑う。

 

「ユノン、トリはお前に任せるぜ……」

 

そしてエクセレクターのユノンも同じく笑っていた。

 

《リバエス砲発射用意。目標、銀河連邦、ランクS級艦……》

 

連邦側でも副長から放った一言がさらなる恐怖を絶望を与えた。

 

「アマリーリス艦、主砲きます……」

 

――全てはこの時のために。ユノンの狙いはこれであった。主砲展開に移るエクセレクター。NPエネルギーの粒子が砲門へと収束されていく。

 

「なぜだ!?なぜバリアを消滅したのにこんなに早くエネルギー上昇率が高いんだ!?」

 

――ヴァルミリオンの主砲を放つ前にエクセレクターは形態を変えていた、あの『タイプ2』に。

 

あの形態では前方にしかバリアを展開しないため、その分炉心にエネルギーを節約でき、リバエス砲へのエネルギーに回せる。これも変形を利用した応用技である。

連邦はまんまとそれに引っかかったのであった。

 

そしてイクスウェス。その事実が5人にも……。

 

『エミリア、アマリ―リス艦の主砲攻撃が来るぞ!!』

 

「なっ……何ですって!!?」

 

「聞いてないヨ――!!?」

 

パニックに陥る機内。しかしそれだけではなさそうだ。

 

「第1動力炉出火!!これ以上の……スピードでは……」

 

本人でさえ上げたことのない最大速度が本機全てを軋ませ、それが原因で一気に速度も低下していた。

 

「ドラえもんどうするんだよぉ!!?」

 

「どっ、どうするって言ったって――っ!!」

 

「このままじゃ――」

 

イクスウェスの今の位置では確実にリバエス砲の射程範囲内にいた。発射させれれば確実に消滅は避けられない。

 

「バリアを展開できないのか!?」

 

「無理です。機能しません!!」

 

「残った艦隊の主砲攻撃は!!」

 

「間に合いません!!ただいま冷却が終わったばかりです!!」

 

「たっ、直ちに艦内全員に退避命令!!早くしろ!!」

 

「ど、どこに逃げるんですかぁ!!それに退避している間に主砲が直撃しますよ!!」

 

追い詰められた連邦。もはやカーマインも平常心を保っていられなかった。

 

「負けるのか……我々は……善が負けるというのか……」

 

その間にもリバエス砲内のエネルギーの塊がさらに巨大になっていく。それがヴァルミリオンからでもよく見え、破滅への道が一歩一歩迫っていた。

 

《リバエス砲……発射まであと10秒……本艦、衝撃態勢をとれ》

 

もはやヴァルミリオン、すなわち司令艦破壊は今作戦の基盤を失い、連邦の大敗を意味していた。

 

イクスウェスもエクセレクターまであと少しという距離に近づいていたが、これでは間に合いそうにない。……機体ももはやバラバラになりそうなほどにまで軋んでいる。

 

証拠にエンジンルームから火災が発生していた。止まろうとも今さら止まることなど出来なかった。

 

「せ……せめて時間が止まってくれればぁ――!!」

 

エミリアの現実であり得ないほどの願いがスネ夫に頭に何かを閃かせた。

 

「そうだドラえもん!時間を止めるひみつ道具あったでしょ!」

 

彼の発案にドラえもんはすぐに目を輝かせて、すぐにポケットにいれた。

 

「サンキュー、スネ夫!!えっと……今回『タンマウオッチ』はドラミに預けてあるから……これで……」

 

「早く出してよ!!」

 

急かせるスネ夫とジャイアン。そしてポケットから取り出すは丸い形をしたストップウォッチのような物であった。

 

「『ウルトラストップウオッチ』!!僕、外に出てくる!!」

 

「ドラえもん!!?」

 

なんと高速航続中のイクスウェスの上部ハッチを開けて宇宙空間に飛び出したドラえもん。

外装甲にへばりつきながら前部に行こうと少しずつ前に前進する。吹き飛ばされそうになるが何とか自力で耐えしのぐ。

 

目を凝らして前をよく見るともう目の前にはエクセレクターの砲門から蒼い光の塊は放たれようとしていた――。

 

「チャンスは今しかない!!時間よ止まれ~~っ!」

 

ドラえもんはストップウオッチの真上にあるボタンを押した。

ドラえもんを中心に機体含む少しの範囲外は全て動きは止まっていた。

人は全く動こうとしない、硬直したままだ。宇宙から全く何も伝わってこない……。声も何も通信機から聞こえてこない……戦火も光っている途中で止まっている。……そして主砲が全く発射されていない。光の輝きすら放っていない。

 

――そう、機体以外の全ての時間は全て止まっていた。

しかし、ドラえもんはそれだけでは終わらず直ぐ様ポケットからあの地球で使った『通り抜けフープ』と赤い懐中電灯を取り出した。

 

「一か八かだ、だけどやるしかない。『ビッグライト』、『通り抜けフープ』!!』」

 

ドラえもんは即座に立ち上がり、迫るエクセレクターの装甲に向かって走り、通り抜けフープをかざしながらビッグライトをそれに照らした。通り抜けフープは一気に巨大化し、イクスウェスが入り込める大きさまでに拡大された。

 

「うああああっーー!!」

 

そして……見事に通り抜けフープはエクセレクターの装甲へくっつき、空間の入り口が発生、イクスウェスはついにエクセレクターへ突入した。しかし、その速度で突っ込んだせいで機体は大破しながら長い直線通路をずり走っていった。

その時にドラえもんの持っていたあの『ウルトラストップウオッチ』が壁にぶつかり、頭上のボタンがもう一度カチリ、そしてこれも大破。また時間が動き出したのだが……。

 

 

《ぎぃゃあああああぁぁ――――っっっ!!!》

 

 

オペレーターセンター内。ユノンから巨大な悲鳴が響き渡った。

 

「ユノンさん!?どうしました!?」

 

「くっ……苦しんでる……」

 

恐れていたことが起こった。イクスウェスが内部に突入した時の直撃で、それらの損傷が全て彼女に一気に襲いかかった。

 

《あがががぐげえぇぇ……ぎきぃ……!?》

 

聞いたことのない叫び共に彼女の顔は醜いほどに歪み切っていた。

 

「一体何があった!!」

 

「……艦内、第一エリア近くの通路に謎の物体が……」

 

モニターにその場所を映すとそこには見たことのない戦闘機『だった』ものが大破し、煙を上げて朽ち果てている。

 

「なんだこれは……?」

 

明らかにこちらの技術で造られた物ではない、だがのび太達以外の全員がすぐに気付いた。それが銀河連邦の機体であることを……。

 

「ああ……ユノンさん……!?」

 

その光景をのび太、特にしずかは口を押さえて瞳を震わせていた。今にも泣きそうなほどに――。

 

 

《ぐえぇ……ぐぼおゲェっっっ!!!》

 

 

彼女の口から血が吹き出した。恐ろしい程のどす黒い液体がまるで雨のように降りかかる。しぶき音が響き渡り、それを見た全員の顔色が蒼白となる。

彼女は危険な状態だ、早く助け出さないとあのシステムの副作用が……そして死んでしまうことを……。

 

「うっ……!!」

 

「すぐにユノンさんを助けるんだ!!」

 

すぐに彼女の元に駆けつけようと行動する艦内員、そこにオペレーションそっちのけで行く者、中にはジュネも混じっていた。しかし、彼女を取り込んでいた機械や金属が不安定となった精神と拒絶反応を起こし、またもやおびただしい程の数で彼女の体を取り込み、蝕んでいく――。



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Part.49 起死回生

ヴァルミリオン、中央デッキでは……。

 

「エミリア大尉がついに突入成功しました。が……」

 

「アマリーリス艦、主砲を発射する様子がありません……。それどころか敵艦のエネルギー質量が大幅に低下。これは一体……」

 

今、エクセレクター内では大変な事が起こっていることも知らず、様々な憶測が呼ぶが、カーマインはそれを最後の希望を感じとり、再び眼を輝かせた。

 

「これは神が我々に与えてくれた最後のチャンス!!この好機を逃すつもりはない。動ける機体は直ちにアマリーリス艦に突入せよ。敵ユニットは相手にするな!!」

 

最後の奇跡か、その事態に希望と活路を見出だす銀河連邦。諦めかけていた全員はまた元気を取り戻し、全力で行動を開始した。

 

「二人に連絡取れるか?」

 

「それが全く応答無しです!!」

 

「く……エミリア、ミルフィ……なんとか無事でいてくれ。あの子らも一緒なんだぞ……」

 

◆ ◆ ◆

 

宇宙空間ではアマリーリス側はその異常な光景に目を奪われていた。

 

「何がどうなっているんだ!?」

 

「ヤバイぞこれは!!」

 

大多数の連邦のユニットが自分達を完全に無視してエクセレクターへ突撃していく。

 

『各員聞いてください、先程連邦製の戦闘機が本艦内部に突如突撃されました!』

 

『なにぃ!?』

 

まるで嘘のような事だ。何も彼らのモニター上には通っていくのは分からなかった。だがそんなことより心配だったのは、

 

「ゆ、ユノンさんは!?」

 

『た、大変危険な状態です、大量に吐血して彼女に取り込んでいた機械達がさらに彼女を取り込もうと……』

 

一気に血の気が引いた。さっきまで優勢で興奮状態による熱気の汗が一気に絶望となり冷や汗へと変わった。

 

「まさかあいつらは……」

 

彼らも気づいた。今や無防備となったエクセレクターへ連邦は艦内に突入しようとしていることを。

 

「……冗談じゃねえぞ!!これ以上入られたら俺らの艦が……」

 

「バカヤロォ、そんなことよりユノンさんが死んじまう!なんとしても妨害するんだ!」

 

スレイヴ、ツェディックに乗った各戦闘員達は急いでエクセレクターの方向へ向い始めた――。

 

そして救出されたラクリーマ、レクシー、ユーダもその状況を聞き、耳を疑った。

 

「……なんてこった……リーダー、どうしますか!!」

 

何とか助けられ、コックピット内レクシーの後部座席で座るラクリーマだが、身体が酷くボロボロで疲労困憊でぐったりしていた。

ログハートもこんな有り様では使えないだろう……ついにログハートがボロッと崩れるように床に落ちて本来の右手が露出した。そして震える右手で通信機に触れて、ゆっくりとした動きで口を開いた。

 

「……戦闘員全員に告ぐ。直ちに撤退だ。俺らの艦を……防衛に移る……各員、個人武器を携行して連邦兵と応戦せよ……あの数ではどのみち侵入は避けられない……なら徹底抗戦に移った方が効率がいい。レクシー、エクセレクターに帰艦だ」

 

「はいっ!!」

 

エクセレクターへ向かおうとするがシルバリオンが突然、分離を開始。ユーダの座っている席が後ろへ引っ込み、ツェディックとスレイヴ、セルゲイナスの三機に戻った。

 

「ユーダ!てめえ何のつもりだぁ!!?」

 

『クククッ……この時を待ってたぜ。もはやアマリーリスは終わりだ、ならもう見切りをつけねえとな!』

 

……彼はここで彼らを裏切ってしまった。この最悪のタイミングである。

 

「まっ、待てユーダァァ!!」

 

『へ、待てと言われて待つ奴はいるか?せいぜい頑張んな、 

 

彼の乗ったツェディックは何処かへ飛び去っていく。レクシーは耐え難いほどの怒りを顕にし、歯をギリギリ鳴らしていた。

 

「あんのクソ野郎ォォーーっっ!!」

 

「レクシー……あいつはもういい。今はエクセレクターの防衛だ」

 

「くっ……」

 

彼の裏切りにより、複雑な心境となった二人は優先すべきことを先決し、すぐにエクセレクターへ向かった。

 

「…………」

 

しかし、ラクリーマは寒そうに身震いしている。身体中にものすごい量の冷たい汗が……。しかし今度は彼の鼻からだらだら血が流れてくる……ぶつけてもいないのに、ましてや興奮していないのに、だらだら血が流れてくる……。

 

(……まさか……)

 

彼にある不安が横切り、すぐに頭の髪の毛を掴んだ。すると。

 

「…………」

 

不安が的中した。軽く引っ張っただけでゴッソリ髪の毛が抜けたのであった。それをレクシーにバレないようにポケットの中に入れた。

 

「レクシー、お前身体は何ともないか……?」

 

「いっいえ特には……どうしたんですか?」

 

「……いや、なんでもねえ、早く急ごう」

 

しかし彼は目を瞑り、軽い笑みを浮かべたまま痙攣しているかの如く、ブルブル震えていた。

 

「……私もアマリーリス艦に出向く、宇宙艇の用意を!」

 

――ヴァルミリオン、中央デッキ内。カーマインは突然そう言い放つと部下達は狼狽した。

 

「なっ……何を馬鹿な事を言っているんですか!!余りにも危険過ぎます!!」

 

「そうですよォ!提督にもしものことがあったらどうするんですか、アナタは艦長なんですよ!」

 

全員が彼の行動を止めようと説得、抑えようとするが彼は聞かなかった。

 

「艦長ではないっっ!!」

 

ついに自分を否定する発言を口にしたカーマイン。

 

「……こんなに甚大な被害を出してしまった私は艦長でいる資格はないのだ。……完全に作戦不足であった。もう少し慎重に作戦を練り、行動、指揮していれば……」

 

彼の発言には後悔だらけであり、重苦しい雰囲気を漂わせている。

 

「……覚悟はすでに決めている。どのみち私はこの作戦の後、退職するつもりだ。もし死ぬときは艦長としてではなく一人の隊員として全うしたい。本当に皆にすまないと思っている。こんな身勝手すぎる艦長で……こんな無能な指揮官で……っ」

 

彼は副長に全てを託すような目で見つめた。

 

「副長……後は君が指揮をとれ。君なら私以上の活躍をしてくれる」

 

「……」

 

本人は何とも複雑な表情をしている。彼は決して冗談など言う人物ではない。一言全てが真剣であるカーマインは本気であった。

 

「私、カーマインはこれよりアマリーリス艦に突入する!!」

 

カーマインは背を向けて向かおうとした時。

 

「カーマイン『提督』!」

 

一人の隊員が彼を呼び止めた。

 

「一人では危険です。私を護衛として同伴させてください!!」

 

「なっ!?」

 

「よければ自分も!!」

 

「私も志願する!!」

 

その言葉を発端に、次々と名乗り上げる隊員達。

 

「ダメだ、あまりにも危険すぎる!君達はまだ若い、命をムダにするもんじゃない!」

 

「提督が何と言おうと私達からすれば艦長は貴方しかいません。私達は提督を信頼してここまで来たんですから、ここで貴方を失ったら私達は誰の指揮に入ればいいんですか?」

 

「……君達は副長の指揮下に入ればよい!!」

 

しかし副長は首を横に振っている。

 

「……私もここにいる全隊員に賛成です。私は提督がいたからこそここまでこれたのです、殉職した隊員達は全員死ぬ覚悟で挑んでいたでしょう。それに提督とあろう方がそんなふざけたことを言わないで下さい。

私が今、指揮を任されたと言ってもこんな急では何をしていいのか全くわかりません」

 

「…………」

 

「艦長、少なくとも今作戦は最後まで提督の指揮下で動きます。我々は一歩も下がる気はありません……」

 

「副長……」

 

彼はグッと手を握りしめ、身体中を微動させていた。しかしそれもすぐに治まりすぐに顔を正面に向けてキリっとした眼で隊員達へ向けた。

 

「私はこれよりアマリーリス艦へ突入し、内部で私が指揮を取る!!誰か護衛、及びサポートを頼む!」

 

「提督……はいっ!!」

 

各員が準備をする中、カーマインは副長にこういった。

 

「すまなかった、わたしとあろう者が取り乱してしまったようだ。副長、これより本艦で待機及びアマリーリスの動向、監視を頼む。途中、私の指示により応援を」

 

「了解しました。提督、私はあなたに死んでほしくありません。絶対に無理をなさらないでください」

 

「……うむ!」

 

笑顔と活気を取り戻し、今度は連邦が士気高揚し始めた。

そして、何人かの部下を連れて格納庫へ向かうカーマイン。あの円盤の乗り物で高速移動していた。

その途中、前方から何台かの同じ円盤が近づいてくる。

 

……どうやら艦内の医務官達のようでその横の円盤には誰かが仰向けに寝ている。それは患者のように思える。互いに敬礼し、目を合わせた。

 

「提督、どこへ!?」

 

「私はこれよりアマリーリス艦内へ移動し、指揮をとる。ところで彼は……?」

 

「……先程の戦闘で心身不安を訴えている患者です」

 

その『患者』は自分より遥かに若く、彼の着用している宇宙服の襟にある軍章を見るとそれはあのメレウル少佐が所属していた『実特科』を顕すマークであった。

 

本人はガタガタ震えてその目には精気が全く感じられず、ひどく怯えている様子である。

 

言葉も「あう……あう……」という赤ん坊みたいな片言しか言っていない。彼はメレウルのパートナー、ムーリアである。

 

「彼は完全に自分の殻に閉じこもってます。もはや戦闘できる状態ではありません……」

 

彼の姿に一行は絶句した。

 

「なら私達は医務室へ向かいます。どうか提督達はお気をつけて……」

 

そして彼らは通り過ぎていった。カーマインは数秒間振り向き、ムーリアの安否を心配したがすぐに前へ向き、格納庫への移動を再開した。

 

――そしてエクセレクターへ到着した大軍の連邦ユニット。 それはあのクーリッジ率いる第82光特科部隊であった。自分達がこんなに近づいているにも関わらず、何も攻撃するどころか行動何一つする気配すらない。

 

これは明らかにおかしいが彼らにとっては最大のチャンスでしかなかった。

 

「よし、装甲を破壊する。クイスト、ゼウシウス、アークェイラス、『フォージガン』発射用意!」

 

クーリッジの命令と共に、数十機の戦闘ユニットの右手に携行していた大型分子破壊砲『フォージガン』をエクセレクターの側面、及びに底部の一点に狙いを定めた。その丸い砲口から放たれたのは光線。

 

しかし途切れず放射を維持し、広がることなく一直線に集中している。それはまるで懐中電灯のようであった。装甲に直撃すると、まるで熱が伝導するかの如く赤へ変色し拡がった。『バリっバリっ』とガラスが割れるかのように金属が粉砕され、クイスト一機分が入れそうな穴が発生した。

 

しかし、それだけではとどまらず、次々その光を当てて装甲を粉砕していった。

 

「よし、内部に突入せよ!」

 

――そして一機、また一機とエクセレクターへ突入していくクイストとゼウシウス。

 

《ががぁ……ぎぎぎぃぃっ……ぎゃああ!!》

 

激痛のあまり、さらに暴れに暴れる彼女。それを助けようとして必死である艦内員。

 

「やべえ、機械達がさらに取り込もうとしているぞ!!」

 

「血圧、心拍数が急上昇……このままでは彼女は壊れます!」

 

「おい、誰かサイサリスさんを呼んでこい!俺らでは対処できん!」

 

そんな中、更なる追い打ちが彼らに襲いかかった。

 

「た……大変です!連邦のユニットが艦内へ次々に突入してきます!」

 

オペレーションセンター内はさらに慌ただしくなり、まさにパニック状態に陥ってしまった。

 

「のび太さん……どうしよう……ユノンさんがぁ……」

 

「ど、どうしようってったって……」

 

青ざめた表情ののび太達はどうすればいいか分からず、ただ状況に流されるだけであった。しかしこうしている間も彼女に更なる苦痛が……。

 

《ひぎぃぃー◎■Å☆γ#※‰ーーっ!!》

 

言葉すら成立していない支離滅裂な発音を伴った叫びが彼女の口から暴発していた。

 

――艦内に侵入していく連邦ユニットはその武装を持って、無理矢理艦内を荒らしに荒し、破壊し、まるで寄生虫が内臓を食い荒らすような行為がユノンに強い苦しみを与えていった。



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Part.50 突入

ドラえもんの大胆な行動でついにエクセレクターに突入、通路内で大破したイクスウェス内では壊滅的であるがかろうじて原型を留めている操縦室でドラえもん除く4人は巨大な水玉に包まれていた。

 

「……つ……みんな……大丈夫っ……?」

 

「……なんとか……」

 

「死ぬかと思ったよ~~っ」

 

どうやらその水玉は衝撃を吸収するもので大破した瞬間に作動し、発生するみたいだ。

 

「あちゃ~……こんな状態じゃあ、もう機能しないヨ……」

 

周りを見て落胆するミルフィ。とりあえず前のコンピュータに触ってみるところ、反応はしているが機能は異常をきたしている。これでは機内からのサポートは不可能だと悟った。

 

「せめてこの内部だけでもドラちゃんに直してもらいましょう」

 

「そうだね、ドラ……」

 

一瞬、全員が静まり返ったがすぐにそれが破られることになる。

 

「あ゛―――っっ!!ドラえもんは一体どこだ!!」

 

「そ、そう言えば、甲板に出るって言ってたわよね!?まさかあの超高速移動中に……」

 

段々、嫌な予感しかしなくなる。

 

「早く探そうヨ!!」

 

四人は直ぐ様ここから脱出しようとするも操縦室には窓がなく、唯一のドアがぐしゃぐしゃに凹み、歪んでいてとても出られる気がしなかった。

 

「どうやってここから出るんだよ!!」

 

「ちょっと待って!!」

 

エミリアはその『ドア』だったモノを拳で軽く叩くと僅かに軽い音がした。

 

「下がって!」

 

ジャイアン達を下がらせると彼女は腰元に巻かれたベルトの左ガンホルダーから彼女の専用拳銃の一つ、銃身、グリップ……縦横幅が大きい方を取り出し、その銃口をドアに向けた。

 

「『ユンク』、エネルギーチャージ開始!」

 

彼女の声に反応して、『ギュオオッ!!』と鈍い音が鳴り響くと共に銃全体が赤に染まり始めた。数秒後、その『ユンク』がまるで血のように真っ赤に染り、彼女はトリガーをグッと引いた。

 

《ドワァ!!》

 

その銃口からはピンポン玉程の光球が放出し、瞬時にドアに直撃し貫通。その強力な衝撃と光球に蓄積したエネルギーが全体に拡散し、ドアを構成した金属内部から粉砕し、これを破壊した。

 

「「おおーーっスんゲェ!!」」

 

ジャイアンとスネ夫はその威力に見とれているが、エミリアは彼らを手でクイクイ招く。

 

「足場が悪いからゆっくり出ましょう!」

 

発生した大穴から急いで出るも、後部もかなり酷い。天井や床が歪みすぎて気持ち悪くなりそうだ。

 

そんな状況でも怪我をしないように慎重に移動する。

 

しばらく歩いていると行き止まりに差し掛かるが、壁とは違う四角いしきりと出くわした。しかしそれもかなり凹んでいるが。もう一度、叩いてみるとギシギシ揺れているのが分かる。

 

「多分、衝撃を与えれば簡単に破壊できるわ」

 

「ここは俺に任せてくれ!」

 

とっさにジャイアンが身を構えて、距離をとり、助走を付けてその壁に体当たりをかました。

 

鈍い音と共にその壁は前に押し出されるように吹き飛び、つられてジャイアンも一緒に前に倒れかかった。

ついに外に通じる道ができ、急いで三人は外に出て、倒れている彼の元へ駆けつけた。

 

「タケシ君大丈夫!?」

 

「な、なんとか……」

 

ジャイアンを起こすとすぐにイクスウェスの方へ振り返る全員。

 

――その凄惨な姿に言葉を失う四人。もはや飛行機という形をしていなく、ボロボロと化した巨大な鉄の塊とも言える物体が通路を完全に塞いでいた。よく自分達は助かったなと心の底から思う。

 

「あ~あ……あたしの機体が……」

 

「ドラえもんの復元光線なら治してくれるよ!!早く探そう!!」

 

「反対側も探す必要があるヨ。向こうへいけるかしら……」

 

見渡すと、イクスウェスに塞がれた通路の左端に一人分なら通れる隙間を見つける。

 

「あそこから反対側に行けそうね、私が向こうへ行ってみる。ミルフィ、通信機を渡しておくわ」

 

エミリアはミルフィにコイン状の小型通信機を渡した。

 

「すぐにかかりましょう。もしかしたらアマリーリスの奴らが私達を感知してこっちに向かってくるかもしれないから、いざと言うときはいつでも武器を使えるように備えてて。ミルフィも何かあったらすぐに連絡して」

 

「「「はい!!」」」

 

「今からシールドを使いましょう。ここから何が起こるかホントに分からないわ。使い方は知っているわよね?」

 

四人はシールドを取り出し腹部に押し当て、真ん中にある丸いボタンを当てた。あの時のように淡い光の塊が各個人を包み込んだ。

 

「いいわね。なら行動開始よ」

 

――それぞれ4人はドラえもんの捜索を始めた。周辺は通路であるらしく直線上に真っ直ぐ延び、先は全く見えない辺りはどこかヴァルミリオンと同じ雰囲気だ。ジャイアン、スネ夫、ミルフィの三人で辺りをキョロキョロ見ながら行動していた。

 

「いないな……どこだよドラえもんは……」

 

「こんなに狭いんなら探す場所限られるハズなんだけど……」

 

「もしかしたら宇宙に放り出されたか、もしくは突入時にイクスウェスに潰されたカモ……」

 

瞬間、三人の背筋が一気に凍った。

 

「ふっ不吉なこと言うなよっ!!」

 

「けどあんな超高速移動中に勝手に外に出て無事だったら逆に不思議だヨ!!」

 

「けどもしかしたらってことがあるかもしれないだろ!?」

 

「そのもしかしたらって一体何を根拠にして言ってるのヨっ!!」

 

「ぐぬぅ………」

 

「二人ともやめなよ!!」

 

声を張り上げて、口論へと発展し、スネ夫が見かねて仲介しようと二人の中に入っていくが一向に治まらない。しかし、その時であった。

 

「誰だそこにいるのは!!」

 

「連邦かぁ!!」

 

「「「いいっ!!」」」

 

渋い男の声が通路の奥から響き、走る音が段々、こちらに近づいてくる。

 

「うわあ、どうしよどうしよぉ~~!!」

 

「落ちつけスネ夫!!!!」

 

「どうすんだヨ~っ!!」

 

三人は慌てふためき慌てているが段々と足音がもうここまで迫っていた。

 

………足音の正体は二人のアマリーリスの戦闘員であり、三人のいた場所へ辿り着くが人の姿も何もなかった。不審に思った彼らは携行していた拳銃を構えて狭い通路の奥に目を凝らした。

 

「……誰もいない。確かに大声がしたはずだが……」

 

「敵かもしれん、十分注意しろ」

 

彼らは焦っていた。連邦の奴らが艦に侵入した今、いつ襲ってくるかわからず、ラクリーマという頼もしい指揮者がまだ帰還していない状態で集団で攻められたらひとたまりもない。二人の顔に緊張が走った。

 

……何か煙り臭い匂いがする。この奥からだ。二人は周辺を警戒しながらこの匂いの後を辿っていく。

 

「これは…………」

 

二人の目に入ったもの、それは以前、『戦闘機だと』思われる巨大な金属の残骸が壁のように奥へ続く通路を塞いでいた。

 

「……明らかに我々と違う技術と金属で作られたモノだ。ということは……」

 

「近くに連邦兵がいる可能性が高い!」

 

「どうする、中に入ってみるか?でないと奥に行けないぜ」

 

彼らは互いに見つめコクッと頷くと一人ずつゆっくり壊れかけた入り口へ入っていった。

 

……もの見事に潰れて今にも崩れそうな内部空間、プスプスと所々上がる煙が鼻につく。内部は外見に反して広く感じた。

 

「なあ……もしかしたら俺達はここで……」

 

「バカなこというんじゃねえよ!ここは俺らの唯一の城だ、何としても守らねえといけねえだろぉが!!」

 

「ワリィ……」

 

迫力のある叱咤が響くもどこか不安げな心情が感じ取れる。ただ不安をぶちまけるよりか幾分マシであろうと思ったのだろう。

 

だがそれは心に余裕のないことを意味していた。

 

一方、ジャイアン達はと言うとその二人が今いる機体内部の中に隠れていた。隙間と化した空洞と化した僅かな隠れ穴に三人は窮屈そうに無理矢理押し入り、敵二人が過ぎ去っていくのをジッと堪えていた。

 

(せまい~~息苦しいよ!!)

 

(我慢しろよ!!音たてたら見つかるんだぞ!!)

 

ミルフィに至っては身体が今にも潰れてしまいそうな状態であった。

その僅かな空間を圧迫しているのは何を隠そう、体格が一番大きいジャイアンであった。

 

息苦しさに加えてむせかえる暑苦しさが三人の不快感を与え、体力を奪っていく。そんな時である。ジャイアン自身にある危険極まりない信号が彼の体に襲った。それは……。

 

(……ヤバい……屁がしたくなった……けどここで音を立てたら!!)

 

生理現象であるが何という運命のいたずらであろうか。段々眉間にシワを寄せていく。しかしスネ夫とミルフィは全く気づいていない。

 

(ヤバい……耐えられそうにない……)

 

これでもかと言うくらいに顔を歪ませて堪えているが、もはや彼は我慢の限界であった。ついに。

 

(………………………)

 

ついに解き放ってしまった。幸い音がなかったがその場合はまさに最悪のパターンであった。

 

「「「!!!?」」」

 

ジャイアンから解き放たれた「ソレ」は三人の鼻の中へ、それぞれの嗅覚に容赦なく襲いかかる。三人は一目散にその隙間から飛び出しのたうち回った。

 

「ゲホっ!!ゲホぉ!!誰だよオナラしたのは!!」

 

「サイッテーーッ!!」

 

ただ一人何も言わないジャイアンに二人が彼に向かって疑うように目を細める。しかし、

 

「だっ、誰だ貴様らは!!」

 

振り向くと先ほどの二人がこちらに敵視した眼でこちらを見ていた。

 

「ひいいいっ!!」

 

三人はとっさにピンと背筋を伸ばし、後退る。しかし男達はすぐに銃口を三人に向ける。

 

「タケシ君、スネ夫君早く武器を!!」

 

二人は急いで幾つかの武器の一つを出そうとするが慌てていてどれにするか決まっていない。しかし相手は待っていてくれるほど優しいハズがなかった。

 

「死ねえ!!」

 

引き金を弾いた瞬間、二つの銃口が一瞬光り、白熱の一本筋がそれぞれジャイアン、スネ夫の胴体に到達。

 

だが、淡い光が二人の体から発光し、その光線を一瞬でかき消した――。

 

「なにぃっ!!」

 

すぐにジャイアンはドラえもんから借りたひみつ道具『ショックガン』を持ち、すぐにその二人組に向け、トリガーを引いた。

 

「ぐあっ!」

 

青白い光弾2発が見事、二人に直撃、『バチバチ』と電気がほどばしるような音がした後、白眼となり前に倒れた。

 

「はあ……はあ……っ」

 

「あわわわっ……」

 

「タケシ君、スネ夫君!!」

 

青ざめた表情、酷く息を荒らしてその場にへたり込む二人。が、直ぐに息を整えて、互いに目を向き合いゆっくり頷いた。

 

「……さすがはエミリアさんの言った通り、スゴい効き目だなコレ……」

 

「う……うん。シールドがなかったら……僕達はきっと……」

 

改めてこの『シールド』の素晴らしさを思い知った瞬間であった。

 

その時である。ミルフィが身につけていた通信機から何かが聞こえたのは。

 

『……フィ……ミルフィ、聞こえる!?』

 

「エミリア!?」

 

声の主はエミリアであった。三人はすぐに通信機に耳を傾ける。

 

『……ドラちゃんを見つけたわ』

 

瞬間、過剰に反応し三人は互いに笑顔で見つめる。しかしエミリアの声は明るくなかった――。

 

『…………とりあえず合流しましょう。三人はあたしのいる方へ向かって――』

 

「エミリア……?」

 

三人はすぐに彼女の方へ向かった。だが、そこに待っていたのは……。

 

「………………」

 

三人は言葉を失った。確かにこのまん丸でずんぐりむっくりな体躯で青色の表面をした体はドラえもんである。

原型は留めていたものの、全身がボロボロであり目が完全に白目であった。呼び掛けても何の反応も示さなかった。

 

「発見した時は大丈夫そうだから安心したけど……多分、体内の回路が完全に……」

 

「やっぱり……あんな行動は無茶すぎたんだヨ……」

 

その暗い口調にスネ夫とジャイアンは……。

 

「ドラえもん、ドラえもん!!」

 

「起きろよ!!おい!!」

 

二人は必死で何度もさするが一向に返事はなかった。

最悪のことが頭に浮かび、段々とエミリアとミルフィの顔は青ざめていく。

 

地球からとは言え、今から100年後という遠い未来から来たドラえもんはエミリア達銀河連邦とは異なる技術で造られているため、全て直すには至難である。ましてや専門外である二人からすれば全く構造が解るハズなどなかった。

 

「こうなったら!」

 

スネ夫は突然、ドラえもんの腹部にあった四次元ポケットに手を突っ込み、無我夢中で漁りまくる。

 

「何か……ドラえもんを治せるモノ……出てよ、出てよ!!」

 

やたらめったらに動かす彼の手にふと、何か暴れるように動くものが触れた。

 

「え……何か動いてる……何これ?」

 

スネ夫はグッと掴み、引き抜いたーーそれは。

 

「ドララ~~♪」

 

全員、特にエミリアとミルフィの目が点となった。何とポケットから出てきたのはドラえもんを小型化したようなロボット。体の色は赤色である。

 

「なに……この……ドラちゃんをちっこくしたみたいなロボット……?」

 

「『ミニドラ』だ!」

 

それはドラえもんのサポートロボット、『ミニドラ』だ。当然知っているスネ夫とジャイアンはその『ミニドラ』に助けを求めるような目で見つめた。

 

「ど、ドラえもんがどうやっても起きないんだ!!」

 

「ミニドラ、どうかドラえもんを助けてくれ!!」

 

「ドララ……ドラァ♪」

 

彼は『任せとけ!!』と言わんばかりにポンと胸を叩いた。

するとミニドラは自分のポケットから何故かホイッスルを取り出し、ドラえもんの前に立つと、『ピーーーーッ!』と高らかに鳴らした。それに応えるように、

 

「ドラ、ドラ!」

 

「ドララ♪」

 

一匹、また一匹とそれぞれ緑、黄色のミニドラがドラえもんのポケットから飛び出した。しかも彼らはもう修理道具を携えていた。なんと用意周到なのだろうか。それを見ていたエミリアは顔を真っ赤にして口を押さえていた。

 

「かっ……可愛い……あたしも欲しいかも……っ」

 

「え、エミリア……」

 

不謹慎ながらそう発言する彼女に冷たい視線で見つめるミルフィ。

 

出てきた黄色、緑色、計2匹のミニドラが最初に登場した赤いミニドラに注目した。

 

「ドードーカーカーワーワーナーナー」

 

……何を喋っているのか分からないが、今に置かれている状況説明と目的、そして各人、どの故障箇所へ向かうのかを話しているのは全員すぐに理解できた。

 

すぐに彼らの会議が終わり、赤いミニドラ……「赤ドラ」は自身のポケットから懐中電灯を取り出した。

それを二匹に向けて光を照射すると、小さかった体が更に縮み、まるで豆粒のようになった。そして直ぐに自分も光を当てて彼らと同じサイズに変化した。

 

「ドララ~~!」

 

豆粒と化した彼らは手を使ってスネ夫に向かって何かをジェスチャーしている。……どうやら自分達をドラえもんの口の中に入れて欲しいと言っているようである。

 

スネ夫は指示通りに手の平に三匹を乗せてドラえもんの口の位置まで移動させた。

 

「ドラドラ、ドラ!」

 

今度はジャイアンに視線を向け、丸い手ををドラえもんの口に示している。

 

「お、そうかわかった!!」

 

彼の口が閉じていることに気づいたジャイアンはすかさず強引にこじ開けた。

 

「ドララ!」

 

赤ドラを先頭に三匹は口腔内へ飛び降り、突入していった。

 

「これで直るといいけど……」

 

するとエミリアは腰の弾帯に装着されたホルダーから2丁拳銃『テレサ』、『ユンク』を取り出した。

 

「あたし、ドラちゃんが直るまで周辺の警戒と地形把握をしてくるわ。スネ夫君とタケシ君の二人でわたしの反対側の見張りをお願いするわ。ミルフィはあの子達が出てきたら通信機で連絡して、あたしも二人を呼びに行くわ」

 

「「「はい(了解)!!」」」

 

「あと二人とも、もし危険になったらすかさず大声で呼ぶこと。すぐに駆けつけるわ。ミルフィも二人の声が聞き取れたら中継して!!」

 

――そして各人はすぐに指示の通りに行動を開始した。



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Part.51 異変

ラクリーマとレクシーは戦闘ユニットの格納庫に到着し、直ぐ様機体から降りた。

 

「レクシー、他の奴らと合流して突入した連邦と応戦するぞ……」

 

「リーダー、ユノンさんは!?」

 

「ユノンならあいつらとサイサリスが何とかしてくれる……俺ら戦闘できる奴は徹底駆除だ……」

 

しかしレクシーは彼の様子を見て何か感ずいた。様子がおかしい、と。

 

「リーダー、大丈夫ですか!?顔色がえらく悪いですぜ!!」

 

「う、うるせえ!今はそんなのどうでもいい、俺のことよりアマリーリスの存亡だけを気にしろ!!」

 

「……」

 

レクシーは少し黙り込んだ後、ラクリーマへグッと見つめた。

 

「リーダー、やっぱりユノンさんの所へ向かって下さい!」

 

「なんだと!?」

 

「俺は……ユノンさんはあなたしか助けられないと思います。あの人だって多分、必死であなたに助けを求めてるハズです……」

 

「…………」

 

「……ユノンさんにはあなたしかいないんですよ。もしリーダーが助けにいかなかったらあの人は……」

 

レクシーの懸命な想いがラクリーマの心を揺らし始める。

 

「ここは俺らだけで十分スよ。俺らは悪さと戦うことだけが取り柄ですから!だからリーダー、一刻も早くユノンさんの所へ!」

 

彼も目を震わせていた。そして、目を軽く閉じて軽い笑みを浮かべた。

 

「けっ、俺がお前に指示されるなんてな……だが俺はお前を一番信用しているからにはそれに従わねえとな!」

 

「リーダー!!」

 

「レクシー、仲間と合流したらお前が指揮をとれ。俺はブリッジへ向かう!!」

 

「了解しやした!」

 

彼に笑顔が戻り、すぐに馬鹿デカイ声で返事をした。

 

――そして互いに別れ、それぞれ走っていった。駆けるラクリーマだが、レクシーの言った通り様子がおかしかった。顔色が蒼白であり、感覚がないのにも関わらず、顔中が冷や汗だらけであった。

 

(ぐっ……胃から何かが込み上がってくる感じだ……)

 

そう感じた矢先、

 

「ぐぼァっかっ!!」

 

口から血が吹き出し、ポタポタと滴り落ちはじめ――。

 

「……っ」

 

身体中が大変なことになっている、まだ痛覚がないだけなんとかもっているがもし麻酔の効果が切れたら……。すぐに彼は手の甲で口を拭き、また走り始めた――。

 

長い通路を必死ではしっている途中、ついに反対側から大人数の足音がこちらへ向かってくる。

 

「いやがったな!!」

 

彼は歯ぎしりを立てた。向かってきたのはアマリーリスとは違う服装、パイロットスーツと武装をした集団……連邦隊員だった。

 

「あの男だ!!発砲準備!!」

 

彼らはラクリーマを発見し、警告することなく携行していた銃をあの男に全て向け、引き金をグッと引いた。銃口から何発もの光弾が発射され、瞬く間ラクリーマと所へ到着した。

 

その時である。彼の左胸部に埋め込まれていたあの巨大なレンズ全体が紅くなり、光弾が全てそのレンズに吸い込まれていった。

 

「俺に光学兵器が効くと思ったのかァ!!!」

 

刹那、吸い込んだレンズから無数の蒼白光弾を前方へ拡散するように放射。連邦隊員達に一気に襲いかかるもエミリア達と同じ、シールドを装備していたおかげで全て弾いた。

しかしこれで終わるラクリーマではなかった。

 

「おどれら勝手に人様の家に上がり込んで挨拶もしねえかァ!!!」

 

左義手の四指を高速回転、さらにあの戦闘訓練で見せたあの鞭のようにワイヤーを射出。

 

「な、なんだこれは!?」

 

『最悪の凶器』と化した四指が無差別に連邦隊員達へブチ当てた。怒涛の勢いと強引さがシールドを包んだエネルギー膜を無理矢理破壊した。

 

「ぎゃああああっ!!!」

 

そうなってしまえば手がつけられず、その回転するワイヤーと針山と化した指部分が彼らの身体に食い込み、そして無惨に抉る。肉と骨が削れる鈍い不協和音と断末魔、そして血液や体液が辺りに飛散する凄惨さが一瞬、ただの肉塊となった――。

 

「はあ……はあ……くくぅっ」

 

やはりラクリーマの様子がおかしかった。身体が痙攣しているようなブルブル震えて今の彼は異常に弱々しかった。

 

(くそぉ……身体が重く感じる……吐き気もする……)

 

血まみれと化した壁にヨロヨロと寄りかかり、深呼吸する。こんな辛そうなラクリーマは見たことがないほどだ。

 

(だが……それより早く……早くユノンの所へいかねえと……頼む、言うこと聞いてくれ!)

 

休む暇もなく、一刻も早く彼女の元へ向かう途中、先へ進むと通路に現れる数々の敵、仲間の死体、交戦したと思われる壁や床に残された痕跡。

敵はともかく仲間の変わり果てた姿を目にした彼は一体どんな心境だったのであろうか――。

 

(ん…………?誰かこっちに近づいてる)

 

そんな中、ラクリーマは先の右曲がり角で何か気配を感じ、すぐに壁に張り付いた。……確かに足音がこちらへ向かってくる。しかも駆けているように断続的である。息を潜めてジリジリと角へ忍びより、左手をグッと握りしめた。

 

「誰だ!!」

 

ラクリーマは出ると同時にブラティストームを突き出した。 そこに立っていたのは……。

 

「さっ、サイサリス!?」

 

「ラクリーマ!?」

 

彼女であった。しかも息を切らして自分の身の丈ほどありそうな巨大なライフルを二丁携えていた。

 

「お、お前なにしてんだ!?」

 

「今からブリッジに向かおうとしてたとこだ!ユノンちゃんが今ヤバい状態らしいからな、あいつらでは手に負えんらしい」

 

「……ちょうど俺も向かってたとこだ。つかお前、なにこんなヤバそうなもん持ってんだよ……」

 

「ああ?連邦野郎が入り込んだんだ、ならあたしも害虫を駆除しなくちゃな!!ちなみにこれはバリアごと、生物を木っ端みじんにできるあたしの傑作品だ、ワハハハハっ!!」

 

自分に劣らぬ悪魔のように高笑うサイサリスに対し苦笑いするラクリーマ。だが『こいつなら心配しなくていいだろう』とそう思わせる彼女の安心感は凄かった。

 

「連邦野郎が次々に入り込んでるからどこに出くわすかわからん。あたしもついに本気を出すときが来たようだ」

 

すると彼女は着ていた白衣を脱ぎ捨てると、そこには紫色を基調としたピチピチの戦闘スーツ、鈍い銀色のプロテクターとアーマーを着こんだ本当にセクシー……いや凛々しい戦乙女がいた。

 

「よし、早く行こうぜ。お前の大切な彼女を助けねえとな!」

 

「……そうだな。俺に後れを取るなよなサイサリス?」

 

「そりゃあこっちのセリフだぜ。では、いっちょおっ始めますか?」

 

二人は互いに見つめ、ニイっと笑みを見せ合う。それは今から始まる連邦への『殺戮ショー』にウキウキワクワクしながら……仲良く隣同士に並んで全速力で走っていった。

 

◆ ◆ ◆

 

一方、スネ夫とジャイアンはエミリアに言われた通り、彼女の反対側、すなわちあの朽ち果てたイクスウェス付近で警戒していた。

まだ、敵は来ていないようだがいつ襲ってくるかはわからない。

 

証拠に二人、特にスネ夫はかなり不安なのか体をブルブル震わせていた。

 

「スネ夫、怖いのか……?」

 

「ち、違うよぉ!!」

 

本人はそう言うものの全く説得力がない。しかし今、敵地に、ましてや右も左も分からないような場所に子供二人がそこに立っているというのはあまりにも精神的に辛いものがある。

もしこれで一人で見張りをさせられたらどれほどの恐怖と重圧が襲いかかるだろうか。

 

「のび太としずかちゃん、この中にいるんだよね、ホントに無事なのかなぁ……」

 

「……大丈夫さ。さっきまで元気だったからきっと俺たちの助けを待ってるよ」

 

……先ほどから二人はこそこそ話をしてばかり、すっかり周りの警戒が散漫となっていた。

 

「二人とも!!」

 

「「! ! ?」」

 

突然の怒鳴り声に即座に振り向くと、そこにエミリアが腕組みをして、キツイ目付きで二人を見つめていた。

 

「ダメじゃないの、ちっとも見張りしないで話ばかりして!これでもし来たのがあたしじゃなくて敵だったらどうするつもりだったの?」

 

「「ご、ごめんなさい……」」

 

二人は彼女に謝る。彼女は深く息を吐き、呼吸を整えた。

 

「まああなた達が無事だったからいいわ……それはそうと、あの子達がドラちゃんから出てきたの」

 

「ミニドラ達が?」

 

「ええ、さあ長居は無用よ。早くドラちゃんの所へ行きましょう」

 

三人はドラえもんのいる所へ向かった。到着した時、ミルフィとあのミニドラ三人がドラえもんを囲んでいた。

 

「ドラえもんは?」

 

「それが……」

 

彼はまだ倒れたままだ。ボロボロだった体はキレイになり、見るからに今にも動きそうであったのだが……。

 

「あれから何度も呼びかけしているんだけどやっぱり起きないのヨ~っ!」

 

ミルフィは困りはてている。ミニドラ達も三人揃って腕組みをして困っているようだ。

 

「おい、ちゃんと治したのかよ!?」

 

「ドララ、ドラ!!」

 

……やはり何を言っているのか誰も理解できず、さっぱりだ。だがスネ夫は何か気づいたのか、おもむろにまた四次元ポケットを探り始めた。

 

「ん~、あればいいけどな……これかな?」

 

彼はポケットから何かを取り出した。それは長方形の灰色の弾力性がある……『食べ物』であった。

 

「あった、『ほんやくこんにゃく』!」

 

彼は一口食べて、飲み込む。これを食べることにより、異なる言語や言葉を知らなくても理解できるようになり、相手に食べさせれば聞き手と同じ言語に変換してくれるという優れものだ。早速、彼はミニドラ達に事情を聞いた。

 

――彼らによると内部の故障部位は全て修理したのであるが、彼の電源スイッチであるしっぽが壊れていて、入れなければ起動しないという。しかもそこだけは未来へ行って新しい部品と交換しないと無理らしい――。

 

「スイッチ…………かあ」

 

全員が絶望した。今は未来に帰っている暇などない。

ましてやここは敵の本拠地。自分達が乗ってきた機体がもはや大破し、ここから脱出できるのかも危うい状況であった。

 

「ドラドラドララ!!」

 

「ん?スネ夫、何ていってんだ?」

 

すぐに耳を傾け、うんうんと頷いている。

 

「何か強烈なショックをドラえもんに与えれば電源を入れるのはここでも可能だって……」

 

「強烈なショック……かあ……一度頭をぶん殴ってみるか?」

 

と、そう言いジャイアンは腕をぐるぐる回し始めるが、

 

「やめてよ、そんなことやって余計におかしくなったらどうするのさぁ!!」

 

「そうヨそうヨ!!」

 

全員がその方法を納得するハズもなく、彼を止めた。

 

「電気的な何かで……それとも……」

 

エミリアは大真面目で考えているが、一向にいい案が思い浮かばない。しかしそんなことに時間を使っている暇などない。こうしている間にいつ敵が現れるか分からない。しかしそんな中、スネ夫が手をポンと叩いた。

 

「もしかしたらこれなら!!」

 

「えっ!?方法を思い付いたの!?」

 

彼はすぐにドラえもんの駆け寄り、耳の部分でこうささやいた。

 

「ネズミがドラえもんのドラ焼きかじっているよ!!」

 

何を思ったのか、ドラえもんにワケの分からないことを話している。エミリア達は沈黙する中、スネ夫だけが さらにこう吹き込んだ。

 

「周りに大量のネズミが囲んでいるよ。ドラえもんの腕をかじっているよ!!」

 

……そんなバカな……と全員が考えていた。が――そのまさかが起こった。

 

『ぴく……ぴく……』

 

「えっ!?」

 

なんとスネ夫の言葉に反応し、微かにだがドラえもんの身体は確かに動いた。

 

「ほらネズミが鼻をかじろうとしてるよ!」

 

確かにまたピクピクと反応し、次第に強くなっていっている。スネ夫以外は信じられないような目と表情をしていたが、今それが現実に起こっている――そして全員が確信した。

 

「ドラえもん、ネズミが!ネズミが!」

 

「ミニドラ、ネズミの鳴き声出せる道具ないかよ!!」

 

「ドララ!!」

 

そしてエミリアとミルフィも、

 

「ドラちゃん!!早くしないとネズミが追いかけてくるわよ!!」

 

「ああァ、ネズミが!!」

 

何とも異様な光景である。全員がドラえもんに向かって『ネズミ』を使った発言を繰り出していた。しかし先ほどの効果を見て、使わずにいられない。

 

『ネズミ』というたった三文字の言葉に全ての希望を込めた――。

 

その効果もあって、先ほどより身体がぶるぶる震えている。完全に稼働しはじめていた。

 

《ドラえもん!!ネズミが目の前にいるよ――っ!!》

 

全員揃って大声で張り上げたその時であった、

 

 

《ぎゃあああああっ!!ネズミ~~~っっっ!!!》

 

 

ついにドラえもんが飛び上がり、辺りに駆け出し始めた。

 

「ドラちゃんやったわ!!」

 

「ドラえもん!!!」

 

ついに目を覚めたドラえもん。全員が安心に酔いしれ顔が緩んでいた。

 

「ね、ネズミいやネズミいや!!いやだ―――っっ!!」

 

しかし本人は明らかに動揺し、錯乱している。

 

「ドラえもん、ネズミなんていないよ!!」

 

「あれは嘘だよ!!」

 

スネ夫とジャイアンはすぐに彼を落ち着かせようと近づいていった。一方でエミリアとミルフィはふとこう思っていた。

 

「なんでドラちゃんは『ネズミ』って言葉に反応したのかしら……?」

 

「さあ……」

 

――ドラえもんにとってネズミはまさに天敵である。ネコ型ロボットのくせにであるその理由は、簡単に言えばドラえもんには元々耳のパーツがあったのだが、昼寝中にネズミロボットに耳をかじられて酷い目を味わったからである。

彼にとってネズミはトラウマでしかないため、毛嫌いしているのである――。

 

「……ネズミホントにいない……?」

 

「ここは地球じゃないのにどうしたらネズミが出てくんだよ!!」

 

「……そう考えたらそうだね……エヘヘ」

 

やっと落ち着かせることに成功した二人は彼を連れてエミリア達の元へ戻ってきた。

 

「ドラちゃん、心配したのよ!!」

 

「けどこうして動いている姿を見れてなによりだヨ!」

 

彼女達は笑顔で迎え、彼は周りを見回している。

 

「エミリアさん、ミルフィちゃん、ここは……」

 

「ここはアマリーリス艦内よ。あたし達は突入成功したわ」

 

エミリアはこれまで何があったか詳しく説明した。

 

「……そうだったんだ。みんなありがとう、あとミニドラも♪」

 

「ドラドラ♪」

 

これでやっと全員が無事に揃い、もう一度ここに集結した。

 

「みんな聞いて。とりあえず周辺を警戒、把握してみたけどアマリーリス員は人の気配はあったけど誰一人とこなかったわ。豪快に突っ込んだみたいだからあたし達の存在に気づかないワケがないハズだけど」

 

「ということは……?」

 

「多分、あたし達の後に連邦、つまり仲間の隊員達が次々に突入したんだと思う。内部戦力をそちらに向けてると思うわ」

 

「それじゃあ!!」

 

エミリアは確信したかのように首を縦に振った。

 

「これはチャンスよ。あなた達の友達を探し出すために動きやすくなったわ。けど、この中を動き回れば敵と遭遇しないワケではないけどね」

 

ついに連邦へ傾きつつある形勢。5人はこれに希望を持った。

 

「エミリア、仲間と連絡とれる?」

 

「それが通信機がノイズばかりで……そこまで遠くなければ使用できるみたいだけど、調子が悪いようね。

ドラちゃん、ミルフィがオペレート出来るようにイクスウェスを修理して欲しいのよ」

 

「わかりました、早く行きましょう」

 

急いでイクスウェスへ向かう途中、ミルフィの動きが止まった。

 

「ミルフィ?」

 

振り返ると彼女が悲しい顔をしていた。

 

「メレウル班長が……っ」

 

考えてみれば自分達の同性の先輩が戦死したのである。悲しくないワケがない。しかしエミリアはミルフィの顔を優しく触った。

 

「ミルフィ……これ以上犠牲が出ないためにも今から頑張らないといけないのよ、わかった?」

 

「エミリア……」

 

――五人はイクスウェス内部へ戻るがそこにいたのは……。

 

「これは……敵?」

 

ジャイアンが倒したあの組織員二人がその場で倒れていた。まだ気絶しているようである。

 

「ジャイアンが倒したんだよ!!」

 

「エミリアさんの言った通り、このシールドのお陰だけどな」

 

エミリアは自慢するスネ夫、ジャイアンの頭を優しく撫でた。

 

「無事でよかったわ。けどあまり無理しないでね……」

 

「「エミリアさん……」」

 

――一方、ドラえもんはミルフィと共に自分専用のコンピュータパネルを取って調べていた。やはり反応は皆無である。

 

「せめてここだけでも直せればサポート出来るんだけど……」

 

「任せてよミルフィちゃん!」

 

ポケットからあのひみつ道具『復原光線』を取り出し、光を当て始める――。が、その時。

 

「ぐっ、ぐく……」

 

あの倒れていた組織員の一人がうめき声を上げながらゆっくり起き始め……。

 

「……連邦野郎……許さねえぞ……」

 

虚ろな目で銃を拾い上げ、それをエミリアへ向けようとしている。

 

「うわあっ!!後ろ後ろーー!!」

 

それに気づいたスネ夫が一気に指を指して大声を張り上げた。

 

すろと即座に振り向いたエミリアは拳を握り込み、起き上がった戦闘員に隙を与えることなく腹部へ容赦なく強打。

 

「ぐはあっ!!」

 

男は悶絶し、その場でまた力なく倒れ込んだ。

 

「あわわわ……っ」

 

「ゴクっ……」

 

エミリア以外の四人はビクビクしている。本人も突然すぎて息が少し乱れていた。

 

「……危なかったわ。スネ夫君ありがとね……」

 

「エミリアさんて……銃を使わなくても強いんだね……」

 

「えっ?ええっ、ただの護身術よ……」

 

彼女は顔を赤くして照れている。

 

――そしてコンピュータパネルが直ったらしく、ミルフィは喜びに満ちている。これでやっと準備は整った。五人はこれからのことについて話を移す。

 

「これより私達はあなた達の友達救出任務を決行する。私が先導するからついてきなさい。絶対にはぐれちゃダメよ、その時は死を覚悟してね?」

 

ドラえもん達は真剣な表情で頷いた。

 

「ミルフィ、ここでサポートお願いね。危なくなったら隠れて」

 

「アイアイサーっ!」

 

するとドラえもんはポケットから『通り抜けフープ』のような輪を取り出した。

 

「『即席落とし穴』。ミルフィちゃん、もし敵が近づいたらこの中に入ってね」

 

すぐに床に設置すると輪の中の下に広い空間が出現。

 

「なら任務開始するわ。互いに生き残れるよう、そして無事救出できるよう頑張りましょう!」

 

エミリアは手を差し出し、全員も手を彼女の手に重ねるように置いた。

そして互いの顔を見つめあった。絶対に任務を成功できるよう祈りを込めて――ミルフィを除く四人はエミリアを先頭に遂に旅立っていった。



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Part.52 別れ、そしてーー。

ラクリーマとサイサリスが向かっている場所、ブリッジ内では……。

 

「副リーダー、脈数低下……このままでは……」

 

絶望的な報告に次第に騒いでいた声が静かになり始め――。ついに、

 

「しずかちゃん!!」

 

ついに見るに耐えかねたしずかが駆け出した、行き先は……ユノンのところである。

 

まるで野次馬とかしている司令塔に自ら入り込んでいく彼女。人を必死にかき分け、やっと思いでユノンの元へ辿り着くしずか。しかし彼女がそこで見たものとは……。

 

「ゆ……、ユノンさん……」

 

おぞましいものであった。最初は半分以上が露出していたユノンの身体が最早、異形と化した機械類によって全て取り込まれて、残っていたのは彼女の顔の部分、即ち目と鼻と口がうっすらと見える程であった。だがその時の表情はもはや無。まるで死んでいるかのように生気が全く感じられなかった。

しずかは大粒の涙を浮かべて、彼女の両頬に位置する部分を優しく触れた。

 

「ユノンさんしっかりして!!ユノンさぁん!!」

 

大声で必死に呼び続けるしずかに後ろで見ていた全員がただ呆然と見ているだけであった。

 

「ユノンさん死んじゃいやよ!あなたやっと孤独じゃなくなったのにこのままじゃあ!」

 

しずかは我を忘れ、無我夢中でユノンを叫び続けた。

 

◆ ◆ ◆

 

「はっ!!?」

 

ユノンは突然、目覚めた。しかし周りは真っ暗で何も見えない、何もいない。

 

「ここは……」

 

次第に恐怖に駆られる彼女。そして走り出す。息を切らしながら、あてもなくただ走り出す。しかし全く何も見えてこない。あるのは暗闇だけである。

 

「あ、あたしは一体……」

 

頭がズキズキする。身体が焼けるように痛む……こんな気分は生まれて初めてである。

 

「みんなは……どこ?ラクリーマは……ラクリーマは!?」

 

必死で誰かにすがりたい。特に、特にアマリーリスのみんな、そして自分の彼氏であるラクリーマとまた会いたい、抱きしめられたい。その気持ちでいっぱいであった

 

(いったいどこなの、なんで誰もいないのよ!!あたしをたすけてよォ!!)

 

そんな思いで走っていると前方に突然、まばゆい光が……。ユノンは一目散にそれを目指して一気に駆け出した。だが!!

 

「! ! ?」

 

後ろから気持ちの悪い何かが彼女の腕を掴み止めた。

それはあの金属の触手である。

 

(ああ……あっ!!)

 

次第に彼女の体を捕縛し、また暗闇へ引きずりこもうとしていた。

 

(いやっ!!いやよイヤァァっ!!)

 

脱出しようと必死にもがくがさらに彼女に絡み寄せて、どんどん引きずり込んでいく。

 

(だ、誰か助けてえ、もう独りになるのはいやよ……ラクリーマ……)

 

彼女は涙を流し、あの光に手を差し伸べようとしたが距離は遠くなっていく。しかし、

 

(……さん、ユノン……さん)

 

突然、光から自分を声が呼ぶ声が。それは暖かく、優しさの籠った聞いたことのある女の子の声である。

 

(だっ……だれ……)

 

ユノンのその光に刮目した。その中からは……。

 

《ユノンさん!!》

 

(し……しずか!?)

 

そう、しずかが自分を懸命に呼ぶ姿が見えた。

 

「ユノンさん!!戻ってきて!!お願い!!」

 

瞬間、触手の絡みは弱まりユノンはその隙に抜け、無我夢中に光へ走り出した。

 

(しずか!!助けて、助けて!!)

 

しずかも手をこちらへ差し伸べ、ユノンも手を出し、互いに掴もうと必死であった。少しずつ、少しずつ近づいていきそしてついに――互いの手を取り合った。

 

◆ ◆ ◆

 

ついにデストサイキック・システムが解除され、機械が次第に元の場所へ戻っていく。それに伴いユノンの身体も少しずつ現れている。そして全部が見えた時、その場から落下、慌てて近くにいた一人が彼女を受け止めた。

 

「ユノンさん!」

 

全員が彼女の元へ集まる。裸であり、剥ぎ取られた服を上から被せる。

 

「ユノンさん……」

 

次第に彼女の目は開き、虚ろであったがすぐに駆けつけたしずかに手を差し向けた。

 

「し……しずか……また、あなたに……助けられたわね……っ」

 

優しい笑顔で迎える彼女にしずかは手をギュッと握り、涙を浮かべてウンウン頷いた。

 

「ユノンさん……ホントによかった……」

 

「しずか……」

 

のび太も駆けつけて全員が彼女らを囲む。

二人の触れ合いを見て、一時の安息と喜びに酔いしれていた。

 

◆ ◆ ◆

 

一方、サイサリスとラクリーマは。

 

「うらあっ!!」

 

「死に腐りやがれェ!!」

 

行く先に現れる連邦隊員を全て蹴散らしていく。あのサイサリスも手持ちの大型ライフル二丁でド派手に撃ちまくり、直撃を受けた者は字の通り粉々に粉砕されて辺りに肉片と血飛沫が飛び散る。

はっきりいって本当に四十路の女性なのかと疑いたくなるほどの勇猛ぶりであった。

 

「ちい、キリがねえぜ!!」

 

「くそぉ、一体何があったんてんだ?あの時までは本当にあたしらの完全な優勢だったってのに……」

 

二人は傾きつつある形勢にだんだん不安となっていく。

 

「しかしまあ、あのコらどうだった?」

 

「ああっ……あんな化け物兵器を造るたぁ大した奴だよオメェはよお……」

 

「よせやい、照れるじゃねえかよ!!」

 

「…………」

 

サイサリスは高圧的な笑みな対し、ラクリーマの表情は笑っているがどこか無理しているようであった。

 

そんな中、二人の通信機に連絡が入る。

 

『サイサリスさん、リーダー、ユノンさんの救出に成功しました!しずかのおかげです!』

 

「ホントか!」

 

それを聞いたサイサリスは拳をグッと握り、ガッツポーズをとった。

 

「ラクリーマ、聞いたか!!ユノンちゃんが救出……ん!?」

 

しかし、本人は喜んでいるどころかフラフラ壁に寄りかかるなり……。

 

「ぐえぉぇェーーっ!!」

 

その場で嘔吐。しかしただの嘔吐ではない、大量の血も含んだおぞましい光景であった。

 

「ラクリーマァァ!?大丈夫か!?」

 

仰天した彼女はすぐに駆け寄ると彼の身体には紫色の斑点が所々浮かび上がっているのが見えた。

 

(こいつまさか……?)

 

サイサリスは彼の顔を掴み、すぐさま顔を合わせる。

 

彼の顔は疲れ、窶れきっていた。そして口の中を見ると、歯茎からも出血し、今にも歯が抜けそうな状態であった。

 

今の彼は……苦しそうであった。サイサリスの額に冷や汗が流れる。この症状はまさか……。

 

「ラクリーマ、今すぐメディカルルームにいくぞ!お前を治療しに行く!」

 

サイサリスは無理矢理引っ張ろうするがラクリーマは力ずくで拒否。

 

「い……っ、今はそんなことしてる暇なんぞねえっ!!ユノンが無事なら今から心起きなく徹底抗戦だ!!」

 

《テメェふざけたことぬかすじゃねえよ!!》

 

真剣の口調で鳴り響く怒号の後、辺りが静寂した。

 

「……お前、連邦の核ミサイルが爆発してすぐに、あの爆心域通ってきただろ?髪の毛簡単に抜け落ちなかったか?」

 

「……」

 

彼女の問いに黙り込むラクリーマ。彼女は確信した。

 

「今、お前の身体は何がどうなってるか教えてやろうか!?連邦の放った核弾頭が爆発した時に生じた放射能を急激に受けて……お前、ヤバいレベルで被曝してんぞ!!」

 

「……だからどうしたってんだよ!!そんなの今じゃなくても治せんだろ!!」

 

彼は頑なに治療を否定するがその瞬間、サイサリスに叱咤された。

 

「おい、なにやせ我慢してんだよ!!お前、このままだと精々持って数日がいいとこだ!今すぐ治療すればもしかすれば助かるかもしれないんだぞ!」

 

「だから、そんなことしている間に連邦の奴らがここに乗り込んでんだぞ!?このままじゃアマリーリスはここで――」

 

「しかも貴様、ログハートを駆使しまくったおかげで身体中がヤバい状態なんだ。いくらなんでもここまで来ちまうともう治せねぇかもしんねえ。

そんな状態でもまだ動けるっつうことはまだ『BE-58』の効果切れてねえんだな……副作用でさぞかし地獄すら生ぬるいほどのとんでもない苦痛が全て襲いかかる――いくら体力バカのお前でもその時はどうなるか分かるだろ?

そうならないよう今のうちに痛みを軽減させてやろうというんだ、素直にあたしの親切を受けやがれ!!」

 

サイサリスは深く息を吐いた。

 

「……確かにお前のアマリーリスに対する愛情や守りたい気持ちは物凄く分かる。お前の家、家族そのものだからそれが今や壊滅されるかもしれないんだ、命にかけて守りたくなるのはあたしだってそうだ。

だがそんなじゃあエルネスやランちゃん、今まで死んでいった仲間達は絶対に喜びやしねえぞ。お前あってのこの組織だ、お前が本当に無理した挙げ句に死んでここの奴らや特にユノンちゃんはどうするつもりだ?

彼女をまた傷つけるつもりか、幸せにするって約束はその場だけのデマカセだったのか?」

 

「……」

 

「そろそろいい加減にしやがれラクリーマ。お前に前言わなかったか、『自分自身をいたわれ』とな。これでも嫌だというならお前を今すぐボコボコにしてでも連れていくぞ!」

 

彼女のその冗談とは思えない断言に、彼の口からは、

 

「……わかった。なら早く行くぞ!」

 

「ラクリーマ……分かってくれたか。なら急ぐぞ、あたしが先頭に行く。連邦野郎はまかせな!」

 

「……」

 

二人は進路を変えて、メディカルルームの方へ向かった。その途中、いくつかの通信が二人に耳に入った。

 

『ラクリーマさん、こっちもヤバいっす!敵の数が多すぎて、仲間が段々減っていくばかりでこれじゃあ持ちこたえれません』

 

『リーダー、劣勢と聞いてオペレーションセンターにいる者も戦闘に加わろうと思いますが、よろしいですか!?ユノンさんは衰弱してるのでのび太としずか、他数名に託して今艦内の安全な場所へ移動させています……何か指示を……』

 

『リーダー、何か命令を!』

 

『リーダー、リーダー!!』

 

彼に必死にすがろうとする声が耳元で鳴り響くたびにラクリーマの表情はさらに苦渋となっていく――。

 

「ラクリーマ、気にすんな。そんなもんあいつらが甘えているだけだ。今はお前の治療が先決に決まってる、お前らだけで持ちこたえやがれとでも伝えろ!」

 

さすがはサイサリス。こんな状況になってもこのような判断ができるのは素晴らしいものである。

 

――そしてメディカルルームに辿りつき、ラクリーマをベッドに寝かす。サイサリスは早速コンピュータで彼の身体状態を調べ上げる。

 

「…………っ」

 

彼女の顔は段々と渋い表情となりつつあった。

身体中の細胞があの放射能により、大部分が破壊されてガン細胞に変化。

白血球の数も膨大になり、リンパ腺の異常、そしてあの症状……急性白血病と免疫低下により、何らかの合併症を引き起こしている可能性が高かった。

さらに元々安静にしなければいけないほどに怪我をおった身体をさらに無理させたため、もはや身体中の骨格、肉体共々致命的なダメージを被っていた。やはり動けるのはあの麻酔のおかげでありその効能は凄まじいものがあるが、当然しっぺ返しもどれほどのモノか想像がつかない。

 

正直な話――もはや手の施しようのない、いつ死んでもおかしくない状態であった。

 

「ちくしょォっ、あたしを誰だと思ってやがる!!こんなぐらい治せねえで何が天才科学者だよ!!」

 

彼女は僅かな可能性を捨てず、彼を治すことに全神経を集中させている。その時の彼女からは凄まじいほどの覇気がジンジンと伝わってくる。

 

その時、近くから爆発したような轟音が鳴り響き、走る音が一つ、二つ、三つ……複数聞こえた。

 

「ちい、こんなときに敵か!?」

 

コンピュータキーから手を離し、再び火器のグリップを掴む。

 

「サイサリス!?」

 

「寝てな、あたしが始末してやる!!」

 

そう言い残し、彼女は颯爽とメディカルルームから飛び出していった。

 

彼女が通路の音のした方向へ向くとそこには六人ほどの武装した集団がいた。

しかし、アマリーリスとは違う銀色のパイロットスーツ姿でピストル、ライフル等の銃火器を携行している……彼らは連邦隊員であった。互いに対峙し、連邦側は彼女に銃口を向けた。

 

「今すぐその火器を地面に置いて、手を上げろ!我々は無益な殺生はしたくない。しかし抵抗するならば排除対象と見なす!」

 

その警告に対し、サイサリスはこんな状況にも関わらず笑みを浮かべている。

 

「……るせえよ。あたしは元々死ぬ気でいるんだ……例えこの身が吹っ飛ばされようとも一人残らずテメェらを地獄へ道連れにしてやんよぉ」

 

彼女はその憤怒した顔で携行火器を彼らに向けた。

 

《わたしは伊達に四十年生きてきたわけじゃねえんだコラァーーーっっ!!》

 

……大多数の銃声が通路内が鳴り響く。その結末は。

 

「がっ……」

 

サイサリスの腕に光弾と実弾が数発擦り、その場にうずくまった時、連邦隊員は彼女の元に駆けつけ、強引に取り押さえ、その場で倒し伏せた。

 

「逮捕だ!」

 

しかし彼女はこんな状況にも関わらず、相手に弱さを見せなかった。

 

「へへっ…貴様らに捕まるくらいならここで……」

 

彼女はすぐさま舌を出すと歯に挟んだ。これはまさか……彼らはその場で慌て出した。

 

「やっやめろーーっ!!」

 

「アバヨっ!!」

 

彼女は歯に力を込め立てたその時、

 

 

《サイサリス!!》

 

 

後ろから自分を呼ぶ声が聞こえる。全員が振り向くとそこにはラクリーマがまるで鬼のような顔つきでこちらに殺気を送っていた。

 

「お、お前はまさか!?」

 

「あの男だ!!」

 

全員が警戒の余地なくすぐにこの男に銃口を向けた――。

 

「キサンら、俺の大事な仲間に手ェ出しやがってェ!!かち殺したるわァァァァっ!!」

 

だがラクリーマは一気に飛びかかり、反撃させることなく次々と相手を血祭りに上げた。まるで狂っているかのように暴れ、八つ裂きにし、高らかに奇声を上げるその様はまさに『狂人』そのもの。自分の視点から見た彼に対し、彼女はそう思った。

 

「はあ……はあ……くっ……」

 

……そして残虐行為が終わり、辺りはまるで血の池と化し、肉塊が辺りに散乱する通路内でラクリーマは一呼吸を置いて、サイサリスに駆け寄った。

 

「おい大丈夫か!?」

 

「……腕に弾丸がかすっただけだ。寝てろといったのによくもまあ……」

 

しかし、ラクリーマも今度は彼女に胸ぐらを掴み、こう言い放った。

 

「何死のうとしてんだよ!!てめえも人のこと言えねえじゃねえか!!」

 

「ククク……」

 

彼女は突拍子で笑っている。

 

「……何だ?ついにお前、頭狂ったか……?」

 

「……ラクリーマ、あたしはお前と同じで悪行でしか生きられん。捕まって死ぬまで退屈な人生送るくらいならってな……」

 

「サイサリス……」

 

「心配すんな。お前はあたしが命に変えても守ってやる。お前はエルネスの……あのバカ野郎の大事な忘れ形見なんだからな……それに……」

 

「それに……」

 

「あたしにとっても……かわいくて誇らしい息子(チビ)だーー」

 

本人はその想いに無言になる。どう思っているのか分からない。

 

――その時、レクシーや部下が通信が入る。

 

『リーダー、次々に敵が攻めてきてもう戦力的にも体力的にも限界です!どうすれば!』

 

『リーダー、もう持ちこたえれません!!場所はエリア2通路付近です、助けてください!』

 

それを聞いてラクリーマは立ち上がるが、サイサリスは腕を掴む。

 

「まて!まだお前を治療してねえんだ。行くならせめてその後だーー」

 

「サイサリス、すまねえ……」

 

突然謝る彼は、流れるように彼女の腹部をその拳で強打した。

 

「ぐぅ…………ラク……リーマ……」

 

顔を歪め、その場に倒れ伏せるサイサリス。全く動かない様子を見ると気を失っているようだ。彼は彼女をゆっくり担ぎ、軽く跳ねてしっかり固定した。

 

「お前みてえな奴がそんなこと言うとかどうかしてんぜ。だがな、お前は本気で命を捨てかねん女だ」

 

ラクリーマはゆっくりとその場から歩き出した。

 

「……ワリィな。お前まで死なれたらそれこそエルネスに顔向けできねえよ」

 

――しばらくして到着したのは近くの戦闘ユニット専用格納庫。その最端に配置してある小型宇宙挺へ移動し、ボタン操作で扉を開放。中に入り、サイサリスをその床に寝かせ、手前のコンピュータパネルのキーを器用よく打ち込む。

 

動作が終わると、機械化した左肩のハッチが開放し中から何やらコンピューターチップのような物が姿を現してそれを取り出すと気絶しているサイサリスの手の平に握らせた。

 

(……お前にエクセレクターに関する全ての技術、ノウハウが詰まったデータを託す。お前ならそれを参考にエクセレクター以上のモノが造れるはずだ……)

 

ラクリーマはそこから出て、また扉を閉める。

 

「もう二度とお前と会えねえ、生きろサイサリス。いちいちうるせェ奴だったが一緒に仕事できて本当に心から感謝している……じゃあな!」

 

彼はその場から離れたその瞬間、サイサリスを乗せた小型宇宙挺は起動。ターンテーブルが上昇し、壁のハッチが開放したと同時にその奥へ移動していった。ラクリーマはそれを見届けて感傷に浸っていた、その時。

 

「ぐぼぁっ!!」

 

口を押さえるも血が吹き出してボタボタ滴る。息が荒れるも深呼吸し、落ち着かせて息を吐くーーしばらくして、彼はギロッとした視線をある方向へ向けた。

 

「……おい、隠れてねえで出てきやがれ。いるのは分かってんだぞ」

 

「……バレたなら仕方ねえな」

 

視線の先にある小型挺の陰から現れたのは……先ほどアマリーリスを裏切ってどこかへ去っていったあの男、ユーダであった。そして彼は今の彼を見て弱みを握ったかのように、自信ありげにへらへら笑っていた。

 

「へへっ、あんた大丈夫ですかい?やけに弱々しいですぜ?」

 

「へ、心配無用だ。俺は柔な身体じゃねえのは前から知ってんだろ?」

 

ーーついに二人は対峙する。互いから伝わるのは……殺気しか感じられない。

 

「アマリーリスを裏切ったお前がなんでここにいる?誰がエクセレクターの敷居を跨いでいいっつった?」

 

「そりゃあ食糧とか武器とか逃亡に必要な物を取りにきたんでさあ。その途中偶然あんた達を見かけたもんだから後をつけて来たんですよ。サイサリスさんを逃がして他の奴らは逃がしてやらないんですかい?」

 

「…………」

 

一呼吸置き、ユーダは卑屈な笑みを浮かべてラクリーマを見下す。

 

「今だからはっきり言わしてもらうがリーダー、俺はアマリーリス、特にあんたが気にくわなかった。バカみたいに馴れ馴れしくて人のテリトリーにズカスカと踏みよってくるのが苦痛だった……本当にヘドが出そうによお!」

 

「ほお、そいつはすまねえな。だがそれは俺の元からの性分だ」

 

「けっ、俺はまだまだ悪さできると思ったからアマリーリスに加入したまでで友達作りをするためじゃねえ、こんな気持ち悪いぐらいに甘ったるいとこに拾われたのが間違いだったーー」

 

「……なら俺は、刑務所から脱走して射殺寸前のお前を助けて悪かったか?」

 

「別に助けてほしいなんて俺は言った覚えはない。あんたが勝手に手を差しのべてきたから俺はそれに乗っかっただけだ。まあ命は助かったという意味では感謝してるがな」

 

するとユーダは腰のベルトから大振りのナイフを取り出してラクリーマに向ける。

 

「……ユーダ、本気か?」

 

「前まではどうやっても勝てそうになかったが、今の弱りきったアンタになら勝てそうだ。数日前の戦闘訓練の時に言ったよな?『俺を討ち取ったらリーダーの席を譲る』って。アマリーリスのリーダーの肩書きなんぞいらんが、最強のアンタを討ち取ったとなるとかなり男を上げれるからな」

 

そんなユーダにラクリーマは馬鹿馬鹿しいのかフンと失笑する。

 

「……確かに俺はもう身体がしんどくて今にもやべえんだわ。だがそんな男を討ち取って勝ち誇れるとでも思うのか?」

 

「アンタがかなり弱っているなんて知ってるのは今は俺しかいねえしいくらでも理由がつけられるしな。俺は勝つためならどんな手段も選ばん、そこはアンタだって同じだろ?」

 

「確かにな。そこだけはお前と気が合うなーーだがまあ、結局分かり合えなくて残念だぜ。お前は能力は他の奴らより優秀だとは認めてたんだがな」

 

ユーダはぐっと構えて戦闘態勢に入ったーー。

 

「あと、最後に教えてやるぜ?確かに俺は侵略時、戦闘時にピンチになったあいつらを容赦なく見捨てたぜ。この世は弱肉強食の世界だ、生き残れない奴が悪いんだよーー」

 

「……………」

 

自分から自白する彼にラクリーマは何を思っているのか。無表情のままであるがやはり良からぬ感じなのはすぐに感じ取れたーーすると、

 

「こいよユーダ」

 

「は?」

 

ラクリーマは戦闘態勢に入るどころか棒立ちになり、余裕そうにニヤッと笑った。

 

「別にお前にナメられるのは構わんが、裏切り行為を働いた以上は俺はお前を生かしておけねえ。あの時に言ったよな、『俺がお前の裏切りを知った時は八つ裂きどころじゃすまない』と。

だが何がなんでも俺を討ち取ろうとする心意気には感動した、だからチャンスをやるよ」

 

「チャンス……だと?」

 

「俺はここから一歩も動かねえからどこからでもかかってこい、なんなら銃を使っても構わねえよ」

 

「な……なんだと?」

 

自身が弱っているにも関わらずさらにハンディキャップをつけるラクリーマに彼は動揺している。

 

「どうした、攻撃しねえのか?俺を討ち取りてえんだろ?せっかくチャンスをやったのに先ほどの威勢はどうした?」

 

「……………」

 

「ほれ、早くしねえと俺から行くぞ」

 

と、ラクリーマはブラティストームからビーム砲を展開してすかさずユーダの足元にビームを撃ち込んだ。彼は反射的に後ろを後ずさった。

 

「俺は動かねえが攻撃しねえとは言ってねえからな。流石のお前も俺の射撃の腕知ってるだろ、次はてめえの脳天をぶち抜く、クククッ!」

 

「~~~~~!!!」

 

「逃げたり隠れようとしてもいいがその時はブラティストームを飛ばして地獄の果てまで追わせるからな」

 

彼はニヤニヤと笑っている。完全にナメられているユーダは燗に触られ業を煮やして「うああああっ!」と雄叫びを上げながらナイフを振りがざして突撃した。

 

物凄い速さで走り抜け、瞬く間にラクリーマに接近し右手の大型ナイフを振り下ろしたーー。

 

「死ねえええ!!!」

 

凶刃がすぐそこまで迫ってきているが彼は全く焦っていない。むしろ笑っていたーー。

 

「残念だったな、ユーダ」

 

「!?」

 

すかさずラクリーマは右手でその怪力から生まれる握力を全力で彼の細い右腕を掴み、そして全力で骨ごと握りつぶした。激痛のあまりユーダは「ギャアアアアア!」と絶叫を上げてのたうち回った。

 

「あれだけ大口叩いといてこの程度かよ。つまんねえぜ」

 

「こ、この野郎!!!」

 

「まだ左手残ってんだろ?来いや」

 

しかしそれだけでは諦めず歪んだ表情の彼は無事の左手にナイフを持ち構えて決死の反撃を繰り出した。今度はついにラクリーマの右胸元にナイフをグッと突き立てた。

 

「っ!」

 

「このまま奥まで突き刺してやる!くたばりやがれェーーっっ!」

 

そのまま力を入れていき、ナイフがどんどん深く胸を貫いていくーーいや、全然進んでいない。彼の膨れ上がった固い胸筋と力を入れているおかげでその場で止まっていた。

 

「あ、ああ………」

 

どれだけの力を入れているか左手に力を入れても全く奥まで押せない、引こうとしても全く微動だにしない。

 

「ぬんっ!」

 

さらにラクリーマは胸に力を入れるとなんとナイフに鈍い光を放つ刃に縦筋のヒビが入り、そしてそのままバリィッと言う耳につく金属音とともに折れてしまった。それを目の当たりにした次第にユーダの表情は絶望へと変わっていく。

 

「おうどうした?もう終わりかーーなら俺の番だな」

 

まるで鬼のような顔をした彼はユーダの顔を両手で掴むと親指を両目に押し当て……ぐっと押し込んだ時、ブチッと言う音と共に血が吹き出て両目が完全に潰れてしまった。

 

その瞬間、右腕が潰された時以上の痛々しい悲鳴がこの格納庫に響き渡った。

 

「クカカカ!!!まだまだ終わりじゃねえぜ、たっぷり楽しめよユーダさんよお!」

 

まるで狂気的に高笑う彼の声に続けて、聞くのも痛々しい打撃音、引きちぎる音、潰される音の恐らくこの世で最も深いな音のオーケストラが響き渡った。それらが数分間続くとシーンと静かになり、しばらくすると格納庫から全身血塗れのラクリーマがまるで悪魔のような顔で出てきたのであったーー。

 

 

(ユーダの言う通り、もはやアマリーリスは終わりだろう……自分でまいた種は、自分で枯らせる。だがその前に……)

 

 

その時の彼は例えるなら『リーダー』としてでなく『一人の戦闘員』として、『一人の極悪人』としての雰囲気を漂わせていた。



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Part.53 遭遇

「さあこっちよ!!」

 

四人は艦内を走り回っていた。ドラえもんは右手に『空気砲』、ジャイアンは『ショックガン』、スネ夫は『アタールガン』を装備していた。そして彼女は慣れた様子でドラえもん達三人を上手く先導している。

 

『エミリア、前方30メルト先右側に分岐通路があるヨ。その先50メルトから5人程の生体反応確認。こっちにゆっくり近づいてきているわ。反応が連邦とは異なる信号……どうやら敵のようね』

 

「了!」

 

通信機を通してミルフィのサポートナビを受けて直ぐ様、彼女は三人に指で指示を出し、さらに速く駆け出す。

ミルフィのナビ通りの位置へ辿り着き、エミリアは曲がり角の手前でストップ、静かに覗くと確かに複数の足音が少しずつこちらへ近づいてきた。エミリアは三人の方へ向き、小さな声でこう指示した。

 

(この通路から敵が来るわ。あたしが敵の対処をするからあなた達はその場で前後通路の安全確認をお願い……)

 

『わかりました……っ』

 

四人に緊迫した空気が包む。本気で自分達を殺しにかかってくる敵がこちらへ向かってきているのだ。

しかしのび太達を助けるためには泣き言は言っている訳にはいかない。生き残るには彼女を指示に従う以外、道はなかった。

 

――エミリアは『ユンク』と違う、もう一つの拳銃を口元へ上げた。

 

「『テレサ』、フルバースト射撃……オン」

 

銃がエミリアの言葉に反応し、銃身が『カチ』と音がした。

 

……段々近づいてくる足音。エミリアは目を瞑り、息をゆっくり飲み込み、吐かずにそのまま止めた。

 

その時、エミリアはすぐにそこから飛び出して通路へ入ると直後に伏せ、『テレサ』を前に寝かせた左腕で固定、照準を合わせた。そして向かってきたのは武装したアマリーリスの戦闘員達。彼らも前に誰かいるのを確認、目をこらすと銃口を向けた人間が自分達を狙っている。

 

「なっ!敵か!?」

 

この時すでに遅し、エミリアは一気にトリガーを引くと、針のような極小の光が目に見えぬ速さで連射。戦闘員達の脚部に容赦なく突き刺さり、次々と倒れていった。

 

「ぐぐっ!!」

 

足に激痛が襲い、立つことができない。 しかし彼女はすぐに立ち上がり、彼らの元へ向かうなり持っていた火器を足で蹴り飛ばして武装解除。

火器を一ヶ所に集めて、もう一つの銃『ユンク』でそれらへ連続発砲。 直撃し、火器はみるみる内に破壊、溶かされ、誰がが見てももはや使用不可能と分かる。

 

「…………」

 

エミリアは彼らを見ながら拳をギュッと握りしめて、睨み付ける。奴らは彼女にとって憎悪の対象だ。今すぐにも復讐、報復したい、殺してやりたい……ところだが、カーマインの言葉が頭に浮かんだ。

 

 

『いくら悪者であろうと命は命だ』

 

 

それを胸に秘めているのと、後ろの三人がそんな恐ろしい光景を見たら……そして友達救出を最優秀であることを考えると何とか一線を越えずに済めたのである。

 

『エミリア、最初の通路へ戻ってまたまっすぐよ。今いる通路の先はどうやら逆戻りするみたい』

 

通信を受けて、まだ戻っていく彼女。三人とまた合流し、異常がなかったか聞く。

 

「エミリアさん、敵は……」

 

「ええっ、戦闘不能にしたわ。しばらくは身動きとれないハズよ。さあ、先を急ぎましょう」

 

彼女は彼らを安心させるように優しく笑い、再び通路を走っていく。

 

――しばらくして、今度はY字通路と出くわした。まるで迷路みたいに複雑化している。足を止めて、ミルフィに通信を入れた。

 

「ミルフィ、 二つの分岐があるんだけどどうすればいい?」

 

『そ……こ……に……あ……れ、つう……しん……あれ……』

 

「ミルフィ!?まさかもう通信が……」

 

どうやら通信がノイズばかりで聞こえなくなってきたようだ。エミリアは一度通信を切り、腕組みをした。右か左か……どちらへ行けばいいのか……。

 

「困ったわ……こうも早くミルフィのナビが使えなくなるなんて……」

 

「ドラえもん、なんかいい道具ないのか?」

 

「こうなったら……『ミチビキエンジェル』は今はないしこれで代用だ!!」

 

ドラえもんがポケットからまるで杖のようなひみつ道具を取り出した。

 

「『たずね人ステッキ』!的中率が7割だけどないよりはマシだ!!」

 

ドラえもんは『たずね人ステッキ』を分岐通路の手前に立てた。

 

「ステッキよ、のび太君としずかちゃんに会えるにはどこの道に行けばいいか?」

 

そう告げ、手を離すとステッキは左側の通路を指すように倒れた。

 

「左側に行ってみよう。当たるかはどうかは分からないけど今の状況はこれが頼りだ、エミリアさんこっちです!」

 

「ええっ、ありがとうドラちゃん」

 

ステッキの導き通り、全員が左側通路に走っていった。

 

長い通路をひたすら走り、そしていつまた敵と出くわすか分からないという緊張と不安が三人の体力を奪い、すでに息を切らしているが今はそんなことより早くのび太達を見つけることが先決だ。

 

ただひたすらに――エミリアの後をついていったのであった。

 

その最中、向かい側からまた複数の足音が聞こえた。敵か……それとも味方か……、全員が気を引き締めてその場で止まった――が、そけに現れたのは。

 

「エミリア!?」

 

「クーちゃん!?」

 

何と現れたのは連邦隊員達。その中に彼、クーリッジが混じっていた。二人は喜びを分かち合い、直ぐ様抱きついた。

 

「よかった、無事だったんだな!」

 

「ええっ、クーちゃんこそ無事で嬉しいわ!」

 

「ミルフィはどうした?」

 

「今、大破したイクスウェス内部でナビをしてもらったんだけど、急に通信が出来なくなって……」

 

「そうか。なら俺らがミルフィを助けにいくよ、場所はわかる。あと提督も今、この艦内にいるぞ」

 

「て……提督も!?」

 

「ああ、この中で指揮をとってる。今では俺達の方が優勢だ!」

 

それを聞いた彼女は安心し、表情が柔らかくなった。

 

「なら、俺らは行く。エミリア達も早くあの子らの友達を救出できるといいな!君達も今が正念場だ、絶対に気を抜くんじゃないぞ」

 

クーリッジ率いる集団は彼らから去っていった。

 

「クーちゃん、ミルフィをお願いね」

 

安直の一時を過ごしていたが、すぐに気持ちを切り替える。

 

「みんな、私達が有利な状況になったわ。今からさらに気合いを入れていきましょう!!」

 

「「「はいっ!!」」」

 

彼女のかけ声で三人の気迫はさらに上昇。もしかしたら本当にのび太達を助けられるかもしれない。それしか考えられなかった――。

 

◆ ◆ ◆

 

一方、のび太としずかは数人の戦闘員と共に避難できる場所を探していた。その中にユノンもいたが彼女はシステムの副作用でかなり衰弱しており仲間の一人の背中に担がれていた。

 

「く、くそっ!!このままでは……」

 

彼らの疲れた表情を見る限り、かなり走り回った様子だ。

 

「なあ……」

 

「どうした?」

 

仲間の一人がのび太としずかを見つめていた。

 

「今ならのび太としずかを連邦に保護してもらえるんじゃねえかな……てな」

 

「……そうか。確かにそうだな」

 

こんな状況にも関わらずに二人のことを考えてくれる彼らは……一体悪人なのか善人なのか……。

 

「二人とも、多分その場にいればきっと連邦の奴らが見つけてくれて保護してくれる。そうしとけ!」

 

彼の問いに二人は困惑する。確かにその方が安全だし、これで自分達は地球に帰れる。

そして彼らがいった『地球に帰す』と言う約束は完結されるのでこれで後腐れがなくなるだろう。

 

だが――。

 

「やっぱり……僕達、おじさん達についていくよ!」

 

「わたしも!」

 

二人の揺るぎない答えに彼らは二人を疑うような目をする。

 

「バカかお前ら!!これで助かるってのに」

 

「俺らみたいな悪党についてきて何の意味があるんだよ!?」

 

その問いに二人から出た理由とは――。

 

「僕達、ここの人たちに優しくしてもらったし……そのまま何もせずに地球に帰るってのも……」

 

しかし、一人の男がギラッとした眼光でのび太を睨み付ける。

 

「……おい、何ふざけたこといってんだよ?」

 

のび太の胸ぐらをグッと掴むと一気に引き寄せた。

 

「はっきり言ってやろうか?お前らは足手まといなんだよ。お前らさえいなけりゃ今すぐにでも――」

 

「お願いです!!わたしものび太さんと同じです!!」

 

「しずか!?」

 

「何かできないかなと思っていたんです、だからあなた達に役立てることをしたいんです!」

 

「……お前らみたいなガキどもに何ができるってんだよ。それに……そうなるとお前らは俺ら悪人に加担することになるんだぞ。悪いことは言わねえ、大人しくここでーー」

 

しかししずかはユノンの元へいき、彼女に優しく触れた。

 

「それに……ユノンさんのことが心配なんです。お願いします……あたし達もついていくことを許してください」

 

「ぼっ、僕もお願いします。しずかちゃんだけついていって僕だけ残るのもイヤです……」

 

二人の懸命な願いに黙り込む。確かに疲労困憊している彼女はしずかが近くにいれば安心しているかのように表情が和らいでいるように見える。ラクリーマがいない今、落ち着いているのはもしかしたらしずかのおかげであるかもしれない。

 

――そんな二人に彼らはあきれた顔をして、ため息を吐いた。

 

「――けっ、どうなっても知らねえぞ。それでもいいならついてこい」

 

「えっ……?」

 

「早く行くぞ!!その代わり足手まといになるようだったら今度こそお前らを置いていくからな、早くしやがれ!!」

 

二人はだんだんと笑顔になっていき――、

 

《はいっ!!》

 

高らかに元気のある返事をした。他の全員もあきれた表情をしているが、まんざらでもないようにも感じられた。

――全員はまた動き出し、長い通路を走っていった。

 

◆ ◆ ◆

 

一方、ラクリーマに指揮を任されて仲間と合流したレクシーは仲間と合流した後、徹底抗戦していたが度重なる戦闘により窮地に追い込まれようとしていた。次々と仲間が捕まり、戦力的にも自分達の体力も限界であった。

 

「もう……本当にだめかもしれん……」

 

敗走の最中、仲間が弱気な声でそう呟いた。

 

「し、しっかりしろよ!!諦めんなよ、リーダーがそれ聞いたらキレるぞ!!」

 

「だがよ、もう俺らさっきから逃げ回ってばかりだぜ!?

それにリーダーに助けをよんでも来ねえなんて……もしかして――」

 

全員に嫌な予感がよぎった。

 

「なっ、何ふざけたこといってんだよ!?リーダーは今まで俺らを助けなかったことあったか!?」

 

「確かにそうだけどよ……」

 

「もう、何のために戦っているかどうかもわかんねえよ……」

 

次第に士気が無くなりつつあるレクシー達。もしこの状態で連邦隊員に囲まれたら一網打尽だ。そんな状態にレクシーがついに苛立ちから震えはじめ……。

 

「てめえらいい加減にしろ!!そんなにイヤなら今すぐエクセレクターから逃げやがれ腰抜け野郎共!!」

 

「はあ!?」

 

その言葉が気に触れたのか、仲間の一人がレクシーに突っかかった。

 

「レクシー、もういっぺん言ってみやがれ!!」

 

「何度でも言ってやんよォ、今のお前らはヘタレに成り下がってんだよ!!」

 

「おい、殺されてえのかオラァ!」

 

「上等だ、殺れるもんなら殺ってみろよ!!

 

……ついに互いに対立する二人。他の仲間は全員仲介に入るが一向に止まることのない。だが、

 

「そこにいるのは誰だ!?」

 

彼らの後方から大声が聞こえ、全員が注目する。

次第に見えてきたのは自分達とは異なる服装をした集団。

――連邦隊員達であった。

 

「やべぇっ!!奴らだ!!」

 

「逃げろォ!!」

 

一目散に逃げ出す。もはや纏まりがなくなった以上、どうすることも出来なかった。

 

――追い付かれ、次々に取り押さえられる仲間達。レクシーと数人はかろうじて逃げ切るも最早、その顔から絶望しか読み取れなかった。

 

(リーダー、何してんスか……早く来てくださいよ。こうしている間に仲間が……仲間が……)

 

彼の思いはラクリーマに届いたのであろうか……いや、届いてないだろう。でなければ今すぐにでも彼なら駆けつけるハズである。アマリーリスは衰退の一途を辿っていた。

 

◆ ◆ ◆

 

そしてエミリア達はまだ艦内を走り回っていた。『たずね人ステッキ』を駆使してもまだのび太達に会えないでいた。

 

「もう……疲れた……」

 

スネ夫が息を切らして立ち止まった。

 

「スネ夫、しっかりしろよ!!」

 

「もう少しの辛抱だよ!!」

 

ジャイアンとドラえもんが彼の引っ張ろうとするが本人の足がもはやガクガクに震えていた。そしてジャイアン達も全く疲れていないとは言い切れない。顔中、汗だらけであり辺りに熱気が立ち込めていた。

 

「少し休みましょう。焦ることはないわ……」

 

エミリアもかなり息を切らしているが、まだ冷静でいられるようだ。

 

「そうだ、あなた達にもレーションが受領されてたの忘れてたわ」

 

彼女は腰に装着している弾帯の小型ポシェットから3つの液体の詰まったパックを取り出し、三人に差し出した。

 

「これはなんですか?」

 

「これはレーションって言って、戦闘中とか食事できない時に、いつでも食べれるようにした軍事食料よ。味は……あんまり期待しないほうがいいけど今のあなた達は摂っておいたほうがいいわ」

 

その『レーション』を彼らに渡した。どうやら銀河連邦では固形ではなく飲料系のようである。辺りをキョロキョロ見渡し始めた。

 

「あなた達は飲みながらここで休んでて。あたしは敵がこないか確認、警戒してくるわ」

 

ドラえもん達は彼女の働きぶりにすごく感心していた。

 

「エミリアさんって……スゴいね」

 

「ああっ、女性なのに俺達より頑張れるなんて……なんか恥ずかしいなぁ」

 

まあ、彼女は軍人であったし偵察隊員だけにこういう任務は得意分野である。

 

「僕達もエミリアさんに負けないように、あと心配させないように今から頑張らないとね!」

 

――三人は『レーション』の吸飲口をくわえて一口飲んでみた。が、

 

「うえっ!!ナニこれ~~っ!!」

 

「変な味するし……」

 

「濃すぎる!!」

 

全員の評価は最悪である。

 

元々『レーション』は戦闘や行軍による過度の疲労やそれで失われる塩分補給を想定して保存性、高カロリー、高タンパクの三要点で作られるため味が濃いのは当たり前である。

 

それにここは地球ではない。自分達には分からない素材を使っていてもおかしくない、変な味がするのはそのせいである。証拠にエミリアの言う通り、味には期待できず隊員達の評価も著しく低い。つまり空腹時にはあるだけましだと思わなければならない代物である。

 

……三人はこれをどうするべきか悩んでいた。

はっきり言って自分達にはキツくて飲めない。まるで毒を飲むようなものであるが、せっかく彼女からもらったものを「飲めません」と言うのも気が引ける……。

 

「あら、どうしたの?」

 

「「「いいっっ!!?」」」

 

タイミング悪くエミリアが戻り、三人はとっさにレーションをグッと飲み干した。

 

「これ、あなた達にも合わないかなと思ったから無理だったら飲まなくてもよかったのに……」

 

「へっ……」

 

飲んでしまったからにはもう遅かった。が、三人とも顔がひきつっているも、無理に笑顔を作った。

 

「だっ、大丈夫ですよォ……とても美味しかったです……ねえ、ジャイアン……?」

 

「そうだよ……なあスネ夫?」

 

「う、うん……ははっはは……」

 

「……?」

 

とは言うものの……あんなキツイ飲料を一気に飲んだせいで胸焼けと吐き気が彼らに襲うが、彼らは意地でも吐くことはなかった。

 

「――なら、行きましょう」

 

しっかり休憩を取り、5人はまた走り出した。しかし何やかんやで『レーション』を飲んだおかげか確かに疲れがとれたような気がした。寧ろ、あの不味さが彼らの活性剤となってくれたのかもしれない。

 

――しばらくして辿り着いた場所は広大な広さと周りには様々な精密機械が至る所に配置されて、その中央には巨大な塔がそびえたっていた。

ここはブリッジである。しかし、もぬけの殻であり誰一人といないようであるが……。

 

「ここは一体……」

 

「見たところ……この艦の重要場所であることには間違いないようだわ……ヴァルミリオン艦でいう中央デッキといったところかしら……?」

 

周りを見渡すがやはり静かで何か不気味だ。

 

「気をつけて……何が起こるか分からないわ……」

 

気を引き締めて周辺を注意深く観察する……突然――。

 

「え!?」

 

明るかった自分達を中心に丸い影が現れた。上を見上げるとそこには……。

 

「「「「! ! ?」」」」

 

その場で全員が硬直した。まるで時間が止まったかのように。

見えるは上半身裸の筋骨隆々の大男。まるでこちらを嘲笑うかのような下品な笑みをし、鈍く光る左手で殴りかかるかのようにこちらへ落下してきている。

 

そして、その顔は開戦前にモニターで見た憎たらしいほどの余裕と威圧感をもった史上最悪の被害を出した張本人、そしてエミリアにとって不倶戴天の男……ラクリーマであった。

 

「あ、危ない!」

 

エミリアは急いで彼らを全力で突き放し、自分もその勢いでその場から離れた瞬間、

 

《ズドォオオーーっ!!!》

 

奴の握りしめた金属の左拳が地面に直撃。轟音と共に地面が激震した。すぐに体を起こし、彼女達にその獲物を見つけたかのような野獣の瞳で狙いをつけた。

 

「……ここで待ってた甲斐があったぜ。絶対にてめえら連邦がここに来るってわかってたからなァ!!」

 

ついに彼らは対峙する、凶悪宇宙海賊『アマリーリス』の総大将、ラクリーマ・ベイバルグ。その並みならぬ威圧感と殺気に早速圧倒されるドラえもん達。

 

「この男が……あの」

 

「う……ん」

 

「あわわわわ……っ」

 

人間とは思えない紅蓮の眼光が妖しく光っている。エミリアもいつでも戦闘へ移せるように拳銃に手を忍ばせていた――。そして当のラクリーマは……。

 

(何だ……あの青いタヌキみたいな奴とガキ共は……奴ら保育でもやってんのか?)

 

連邦隊員であるエミリアよりもその後ろにいる彼らが気になっていた。

 

するとドラえもんは自ら前に出て、勇気を出して彼にこう問い詰めた。

 

「の……、のび太君としずかちゃんは一体どこにいるんだ!!?」

 

「「「ドラえもん(ドラちゃん)!?」」」

 

いつもなら出しゃばることのない彼が先に立って二人の居場所について問うのはかなり珍しい。

彼はそれほどまでにのび太としずかが心配だったのだろう。

 

しかしラクリーマは一向に喋らない。だが本人も少し驚いていた。

 

(ドラえもん……だと?あの時のび太が言ってたドラえもんとはまさかこいつのことか……じゃあこのガキ共はまさか……っ)

 

ラクリーマの表情は段々とにやけてくる。

 

(そうか。こいつらはのび太達を助けにわざわざ地球から……あいつらもなかなかいいダチ達を持ってるな……だがな)

 

考えの鋭い彼だが、心には一つしかなかった。

 

(ワリィなのび太。お前らは地球に帰れてもコイツらとはもう二度と会えねえわ。なぜなら……)

 

 

 

 

 

 

 

《俺に立ちはだかる奴は誰であろうが全て敵だからな!!》



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Part.54 対決!ドラえもんチーム対ラクリーマ

……互いが警戒だけで動こうとしない。エミリアは奴の動きを探ろうとするが全く掴めない。余裕たらして棒立ちしているものだから何を考えているやも分からない。

 

「……なにが目的でこんな残虐非道の悪事を重ねる……宇宙征服か!?」

 

彼女は彼に今までの悪行の動機について尋問する。それに対し、ラクリーマは口を開かないが、すぐに笑みと共に『クックック……』とあざ笑うのような小さな声を漏らした。

 

「宇宙征服……クックックックッ……ワハハハハっ!!」

 

「なあ!?」

 

「宇宙征服とかそんなたいそうなこと考えるワケがねえだろ!!教えてやろうか?楽しいからに決まってるだろ」

 

「たっ……楽しいからですって……」

 

「侵略するとき、略奪する時、相手を殺す時、俺はナニを考えてるか……?クックック……この手を加えることで相手の全てを奪えると考えるとゾクゾクするんだよ」

 

「……………………」

 

「殺される奴の断末魔や苦しみ、悲しみ、それが全て俺の身体にまるで雷が突き抜けるように駆けわたるんだよ、快感となってなぁ……」

 

牙をむき出しにしてそう語り――、

 

 

《俺は人殺しが楽しくて楽しくてしょうがねえんだよ!!それがワリィかよ!?ええっ!?》

 

 

その傲慢な表情、その高らかな笑み……まさしく『外道』であった。4人はもはや弁解の余地なしと悟った。コイツこそ悪の権化、快楽殺人鬼、そして――平和を愛する者にとって、最大の障害であると――。

 

「おい、そこの青いタヌキ!テメェの言ってるのはあの地球人達のことか?」

 

「ぼっ……僕はタヌキじゃないっっ!!ネコ型ロボットだァ~~!!」

 

またタヌキ呼ばわりされて腹を立てるドラえもん。 しかし耳があってもなくても確かにタヌキにしか見えない容姿ではあるが。

 

「あの二人なら生きてるぜ」

 

と、彼はそう答えた。

 

「えっ!?無事なの!?」

 

「ああ、俺は嘘つかねえよ」

 

嘘か誠か、のび太達の生存を伝える。しかし、何の意図があってみすみす答えたのか……。

 

「じゃあ、どこにいるんだ!?」

 

「さあな、どこにいるかまでは分からん。俺の部下が連れていってるんじゃねえかな?それに――」

 

彼の顔は豹変、急に殴りかかる体勢になり、

 

 

《テメェらはここでくたばるから二度と会うことねえぞォーーっ!!》

 

 

「「「いいっ!!?」」」

 

何の予兆なしに全力でドラえもんに向かって突進し襲いかかった。

 

「くたばりやがれェーーーーっっッ!」

 

あの『鉤爪』を突出させ、降り下ろす――しかし、

 

「「「エミリアさん!?」」」

 

彼女は鉤爪をなんと2丁拳銃を盾にして受け止めて鉤爪の餌食になるのを阻止した。だが男と女の力の差か、持ちこたえているも顔を歪めていた。

 

「くぅ……あっ、あなた達は危ないから後ろに下がってぇ!」

 

ラクリーマは余裕溢れる様子で左拳を押し出そうとさらに力を入れた。

 

「やるじゃねえか。あのガキ共の盾になるとはさすがは正義感溢れる連邦よのォ」

 

「…………子供相手に……本気なんて……最低ねぇ!!」

 

「くっくっく……けどな!!」

 

左手首からビーム砲が4門が同時に出現、銃口が自動的にエミリアへ全て向けられた。

 

「な!?」

 

4発のビームが一斉発射され、彼女に全発命中するもシールドの作用で光の膜が光線をかき消した。

 

「バリアだと!?」

 

「あんたみたいな極悪党にはこのくらい準備が必要なのよ!!」

 

すぐに彼女は2丁拳銃のグリップをまるでトンファーのように逆手に持ち、素早い打撃と蹴り技を繰り出した。

 

「はっ、はあ!」

 

「ほう、女のクセになかなかやるな」

 

それに合わせてラクリーマも応戦、まるでアクション映画さながらの白兵戦の応酬を重ねる。女性でありながらここまで軽い身のこなしとその素早い格闘術をくり出すとは、さすがは『戦闘ランクA+』保持者である。

 

対するラクリーマは戦闘の鬼。幾多の敵を葬ってきたその常人を遥かに超える身体能力と戦闘センスを併せ持つ『闘犬』。

まるで軽くたしなむように余裕で彼女の動きに対応している。

正直言えば彼の方が実力は遥かに上なのだが、今の二人は互角のように思えるのはどうしてだろうか――。

 

「そらよっとォ!」

 

右手で彼女の打撃をいなし、左義手の指全てが高速回転。ドリルと化して彼女に不意打ちを浴びせる。

 

「!!?」

 

ガリガリと削りに削り、バリアを意図も簡単に破壊。しかし彼女の優れた反射神経でその場でしゃがみ、胴体が貫かれる難を逃れ、休む暇もなく彼の腹部に右手に持つ銃を突きつけた。

 

「観念しなさい!!」

 

「けっ、それで勝ったつもりか!!」

 

銃を右手で払い飛ばし、後退。彼女もすかさず銃を拾い上げ、ラクリーマへ向けた――。

その様子を後ろで見てたドラえもん達は唖然としていた。瞬間的な動きが多すぎて動体視力がついていけなかったのである。

 

「すげぇ……エミリアさん」

 

「あの男と対等だ……」

 

エミリアも息を切らしながらも、少しずつ整えようとする。

 

(……おかしい。この男、手を抜いているように思えるけど……あたしの勘違いかしら?)

 

そしてラクリーマは無表情である。息を切らしている様子もなく。

 

『ジリっ……』と足に力をいれると彼女に向かって一気に駆け出した。彼が突き出した右の張り手が彼女の顔に向かってくる。避けようと後ろへ後退するが、

 

「えっ!?」

 

なんと右手が伸びたように後退したはずの彼女の顔を捉えて、直撃と共に一撃で押し離した。

乾いた音が鳴り響き、後ろに弾き飛ばされるエミリア。しかしラクリーマはすぐに追撃を開始、吹き飛ばされた彼女の腹部を狙って強烈な右拳で殴打。地面に叩きつけた。

 

「げえっ!!ゲボッッ!!ゲホッ!!」

 

泡を吹き悶絶、咳き込んで苦しそうであるが、容赦することなく彼は彼女の腹部を足蹴にした。

 

「なあ、俺って優しいだろ?誰だろうと差別しねえにしたこともないぜ」

 

全てのビーム砲を悶絶する彼女の顔に向けたーー。

 

「殺す時は老若男女、種族関係なく平等だ」

 

絶体絶命のエミリア。ドラえもん達は手持ちの武器をすぐにラクリーマへ向ける。だが気づかれているのか横目で睨まれる。

 

「手助けしたかったら早くこいよ。どの道お前らを二度と朝日拝めねえようにしてやっからよォ」

 

完全に殺気を丸出しにしている彼に全員が圧倒されるも、彼女を助けないワケにはいかない。

 

「え……エミリアさん死んじゃうよ!ドラえもん、ひみつ道具!!」

 

「ああっ、待ってあれでもないこれでもない!」

 

「こんな時に焦んなよもう!」

 

またポケットからたくさんの道具を手当たり次第に出すが、全く今の状況で役立つ物が出てこない。あの時に出た、『マイク』や『コショウ』など日用品なども飛び出した。

 

「そっ、そうだ。ジャイアン、今こそマイクを取って歌うんだ!!」

 

「こんな時に何いってんだよ!!」

 

「ジャイアンの美声を聴かせるんだ!!そうすればアイツも心を奪われるハズだ!!」

 

苦しまぎれの提案だが、一か八かの大勝負である。

 

「そうだよ、ここなら心起きなく歌えるよ!!早くジャイアン、歌って!!」

 

スネ夫も便乗し、二人でジャイアンを煽ると段々その気になり、すぐにマイクを手に掴んだ。

 

「分かった。一か八か、あの男に俺の声で心を掴んでやるぜ!!」

 

ドラえもんとスネ夫は直ぐ様耳を塞ぎ、その場で伏せた。そして彼はマイクを口元へ持っていき、大きく息を吸った。

 

 

《ホゲ~~っっ♪ボエ~~~っ♪♪♪》

 

 

ついに放たれたジャイアンの最大の武器、歌声。音量、ダミ声が凄まじい程の超音波となりブリッジ全域に響き渡った。その影響下にいたラクリーマも無事ではなかった。

 

「ぐああああーーっ!!何だこの声はぁ!!こ、鼓膜が破れそうだァァ!!」

 

明らかに効いている。耳を押さえてもはや攻撃どころではなかった。

 

「ジャイアンもう止めて、効いてるよ!!」

 

「そっ、そうかっ!?」

 

すぐに止めに入り、ジャイアンは歌うのをやめる。ドラえもんはまたポケットに手を突っ込み、取り出すはまるで釣竿のような棒と糸の先には巨大な白い手袋がついていた。

 

「『ノビールハンド』、エミリアさんに届け!!」

 

それを倒れている彼女に向かって勢いよく振ると糸が伸びて一瞬で到着。手袋が彼女を掴み、そのままドラえもんの元へ引き寄せた。しかし、ドラえもんは休むことなくポケットに手をやり、今度は小さなアンテナのようなモノとラジコンの送信機を取り出した。

 

「『ラジコンアンテナ』、スネ夫、頼むよ!」

 

『ラジコンアンテナ』をコショウに取り付け、スネ夫に送信機を渡す。

 

「よおし、僕だって!」

 

その卓越したラジコン操作でコショウが宙を舞い、ラクリーマへ向かっていった。

 

「なっ……なんだこれは!?」

 

ジャイアンの歌を聞いてフラフラとなった彼の真上に見たことのない形の容器が制止、逆さまにして振ると中から黒い粒々……すなわちコショウが振り撒かれた。

 

「なんなんだ……ゲホッ!!ゲホッ!!ゲホッ!!ハハハ……ハックショイ!!!」

 

コショウ攻撃により、目や鼻に入りクシャミや咳きが止まらなくなる。

 

「効いてる……」

 

この凶暴な男でも、所詮人の子であった。

 

「エミリアさん!!大丈夫ですか!?」

 

「ぐっ……ええっ……お腹を殴られただけよ……大丈夫……っ」

 

起き上がるも腹部を押さえて苦しそうである。

 

「いっ、今すぐみんなであの男に攻撃して!!」

 

「ええっ!?」

 

「……あなた達の武器なら気絶で済むハズ。攻撃してこない今がチャンスよ、早く!!」

 

ジャイアン、スネ夫はショックガン、アタールガン、ドラえもんは空気砲で ラクリーマに狙いを定めた。

 

「くそぉ……謎な攻撃ばっかしてきやがって……?」

 

やっとクシャミが収まった時、彼が涙目をこらしてよく見ると三人が武器を向けている。

 

「いくよ二人とも!ドッカーーン!!」

 

その声に反応し、巨大な口径から圧縮された空気圧、そしてジャイアンとスネ夫の銃口から放たれた光弾と何やら目のついた丸い弾がまとめてラクリーマに命中。

しかしショックガンの光弾は瞬間、左胸部のレンズが起動し、全て吸い込まれたが空気圧と丸い弾だけは吸収できず、直撃。後ろへ吹き飛ばされて豪快に倒れこんだ――。

 

「つ、ついにやったわ……」

 

彼は仰向けに倒れて全く動く気配がない。それを様子を見た全員は段々、高揚し――。

 

《やったァァ――!!》

 

大声を張り上げて全員で手を繋ぎ、歓喜を上げた

 

「……みんなよくやったわ、ありがとう!!」

 

「エヘヘっ!!」

 

「どうだ俺様の強さ思いしったか!!」

 

「ぼ、僕も頑張ったんだよ!!ねえっ!!」

 

勝利に酔いしれる4人。あの最強最悪の男をついに自分達の手で打ち負かしたのである、嬉しくないワケがない。

 

「ただ、あれほど猛威を奮った男がこんなにあっけないのは少し気がかりだけど、倒したことに変わりないわね。さあ、あの男が起きない内に急いで捕縛するわよ、手伝って!」

 

全員、急いであの男の元へ走って向かう。が――、

 

「「「「! ! ?」」」」

 

寸前に近いたその時、さっきまで倒れて動かなかったラクリーマが瞬時に立ち上がる。まるで何事もなかったように……。顔から鼻血と口からも少々血が流れている以外は。

 

「お前ら最高だな。こんなに俺を楽しませてくれんのは……ククク」

 

身震いしながら笑っている。まるでさっきの攻撃が効いていないかのように。そして彼らに見せたその表情とは……。

 

「今度は俺がてめえらを楽しませてやんぜ!!」

 

殺気以外は何も感じられない笑み。それは十分に彼女達に伝わった。

 

「「「う、うわああああッ!」」」

 

「みんなはっ離れて!!」

 

再び後退し、身を構える。するとラクリーマは右手で左腕を握りしめると、戦闘訓練の時のようにブラティストームをまた強引に引きちぎった。

 

「ひ……左腕が……うわあ……っ」

 

初見の者にとって、あまりにも驚愕な光景。全員、同じことを思っていた。

 

「ほれ、行くぜ。せいぜい可愛がってくれよな!」

 

ラクリーマは引き離した『左腕』を全力で振り投げた時、内蔵された自立回路が起動、ビーム砲、鉤爪、ドリル、使用できる内蔵武装全て展開、まるで先ほどのラジコンのように空中に飛びながら4人へ向かって突撃。まるで生きてるかのように次々と攻撃を繰り出すブラティストーム。

 

4門の手首から突き出たビームで一斉掃射、高周波振動の鉤爪、ドリルで突撃……シールドがみるみる内に削られてドラえもん達は怖れおののき逃げるに必死だ。エミリアは攻撃を掻い潜り、二丁拳銃で撃ち落とそうと必死で発砲するが、空しく光線を簡単に弾くほど頑丈だ。今はなんとかシールドで守られているも、そろそろエネルギー切れが起こりそうでそうなれば……先ほどまでの戦況が一変した。

 

「こうなったら、これでもくらえ!」

 

ドラえもんはすかさずストップウォッチのようなひみつ道具、『時限バカ弾』を取り出して、タイマーを5秒に設定してラクリーマに目掛けて投げつけた。しかし彼は何かが飛んでくるの察知してすぐさまとんぼ返りで後ろへ移動したと同時に爆発。不思議な煙に包まれた。

 

(のび太曰く未来から来たロボットだっけか……どんなもんかお手並み拝見といくか!)

 

まるで獲物を追い詰めた猛獣のような恐ろしい顔で戦闘訓練に見せたような軽やかなサイドステップと野猿のような小刻みな機動でドラえもんを中心にしてぐるぐる回り始めた。ドラえもん達はそれぞれの武器で狙いをつけるが全く定まらず、撃っても当たらない。スネ夫の持つアタールガンの弾は百発百中のハズなのだがラクリーマの強力な回し蹴りで空しく払われてしまった。

 

「は、速い……!」

 

「ほ、本当に人間かよコイツ!!?」

 

高くジャンプし、着地したらまたまたジャンプし交差したりなどその常人を遥かに逸脱したスピード、身のこなしは全員を翻弄する。そもそも彼はもはや死に体であるにも関わらずまだこのような素早い動きが出来るとはもはや驚愕ものである。

 

突然、左腕が攻撃をやめて彼の元へ移動、引きちぎった箇所と連結。

 

「はっ!」

 

ラクリーマは鉤爪を突出させて再びドラえもんへ突進する。

 

「こうなったら……!」

 

ドラえもんはすかさず四次元ポケットに手を突っ込み、取り出したのは金色にキラキラ輝く日本刀のような武器。

 

「『名刀電光丸』、来るならこい!」

 

覚悟を決めてぐっと構えるドラえもんと鬼のような形相で襲いかかるラクリーマはついに激突。高周波振動により強力な切断力を持つ鉤爪ととてつもなく頑丈な電光丸が火花を散らしてぶつかり合う。

 

「くっ、はあ!」

 

「ほお、なかなかやるな」

 

まるでチャンバラ映画の殺陣のような、ラクリーマから繰り出される疾風怒濤の攻めに追従し捌いていくドラえもん。これは電光丸の中にある高性能センサーとレーダーが相手の攻撃の軌道を読んでいるためである。

 

するとラクリーマは突然攻撃を止めて、咄嗟に後ろへ素早くステップし距離をとる否や再び突撃。ドラえもんは身構えるーーが、

 

「えっ?」

 

向かってきたはずのラクリーマがふっと消える。あたふたするドラえもんだったが、

 

「ドラえもん、後ろにヤツが!」

 

ジャイアンの声にハッとなり振り向くとそこには自分を飛び越えていた彼がぐっと右足を引き込みーー、

 

「おぅるらあ!!」

 

全力の後ろ蹴りを繰り出し、ドラえもんの顔面に直撃。物凄い勢いで吹き飛ばされた。

 

「うわああ!!」

 

サッカーボールのように激しく転がり地面に叩きつけられてやっと静止。だがラクリーマは着地した瞬間に休む間もなく倒れ込むドラえもんへ突撃。

 

「ドラえもんっ!!」

 

「ドラちゃん!!」

 

エミリア達が叫んだ時には既に遅く彼の振り込んだ左義手の拳がドラえもん目掛けていたーーが、

 

「たああっ!!!」

 

かろうじて離さなかった電光丸がそれに反応して瞬時に盾となり腕が伸びきる前に拳を受け止めて事なきを得る。どっちも一進一退せずまるで引かない様は鍔迫り合いのようだ。

 

「ぐう………!」

 

「へっ、甘めえぜ!」

 

だがラクリーマは咄嗟に左足を軸にして超低空からの素早い足払いをかけてドラえもんを地面に転ばせた。

 

「うわあ!」

 

倒れた彼の目の前にはラクリーマが握り締めた金属の左拳を振り下ろしていた。

 

「死ねやあっ!!」

 

しかしそこは雷光丸、センサーの作用で咄嗟に腕が動き、刃が自動的に振り下ろしてきた拳を止めた。

 

「くう……………!」

 

互いに力ずくで押し合う二人ーーだが、徐々にラクリーマの方が力が勝り押し込んでいく。

 

「ほう、それがあいつの言ってた未来の道具ってのか」

 

「!?」

 

ドラえもんは耳を疑った。何でひみつ道具のことを知っているのかと……すると。

 

「面白れえ。尚更殺しがいがあるなあ……!!!!!」

 

「あ、ああ……………っ」

 

ドラえもんの目に映ったのは殺気に満ちた赤い螺旋状の瞳、顔中に浮き上がった血管、猛獣の牙を思わせる歯を剥き出しにして楽しんでいるそれはまるで阿修羅のような羅刹のような……とても人間とは思えないおぞましい形相をした大男がいた。

 

「グアアアアアア!!!!!」

 

野獣の叫びも相まって、それを目の当たりにしたドラえもんは強烈な寒気を襲わせる恐怖を感じて圧倒され、段々と押されていくーー。

 

「「ドラえもん!!」」

 

「ドラちゃん!!」

 

外側ではジャイアン、スネ夫、エミリアが手持ちの銃を構えて、ラクリーマに向けている。それに気づいた彼は焦ることなくその場から並外れた脚力によるバックステップでかなり離れた安全地帯へ下がる。

 

「大丈夫か!」

 

「う、うん!」

 

駆けつけてきたジャイアンの差しのべた手を掴んで起き上がるドラえもん。

 

「あいつ……本当に危険だ。みんな気をつけて!」

 

ドラえもんは先ほどの対峙で感じ取っていたーーあんな凄まじくそして狂気じみた殺気は今まで味わったことがないと。

 

彼らはこれまでにも様々な悪人と対峙し、戦った。世界征服、私利私欲、復讐、世界統一、救済……それぞれが道は外れどまだ人間味のある自身の目的のため、正義を掲げて立ち向かってきた。

 

しかしこの男は……だれであろうが無差別で殺すことを快楽としている、これまでとは一線を画した目的の男だ。明らかに人間性など感じられない『悪魔』であったーー。

 

「……えっ!?」

 

ラクリーマはいきなりエミリアの元に飛びかかり急接近。その瞬間、着用していたサングラスを強引に奪い取った。

 

「きゃあああああっっ!!」

 

視力の弱いエミリアにとって最大の弱点。普通の人なら平気であるここの明るさでも彼女にとってはあまりにも眩しすぎたのである。

 

「エミリアさん!!」

 

彼女はもはや目を開けられず、自分の場所を失っている。何も見えなくなるほど怖いものはない。

 

しかしあの男は情け容赦なく彼女の髪を乱暴に掴むとその丸太のような太く、固い脚で蹴り飛ばした。彼女は床に叩きつけられ転がり倒れた。

 

「なんでそんなもん着けてンのかと思ってたがやっぱり視力が弱いのか。クカカ、兵隊のクセに目が悪いのは致命的だぜ」

 

ラクリーマはサングラスを一瞬で握り潰し、彼女の元を移動。彼女はその場に倒れ伏せて、蹴られた痛みと何も見えぬ恐怖からかひどく怯えているようであった。

しかし相手は敵と見なしたら誰だろうと何も思わない男。平然とした顔で、無抵抗の彼女を蹴りまくる。

 

「ひぐう!!あがっ!!」

 

痛みのこもった悲鳴を上げるエミリア。それを見たドラえもん達に絶望と恐怖、それ以上にこの男に対する憤怒が込み上がった。

 

「やめろォォーーっっ!!」

 

蹴るのを止めて彼女の胸ぐらを掴み、右手で一気に持ち上げた。

 

「まずは女から殺すか。楽に殺してやるから安心しな!」

 

「エミリアさんを離せ!!」

 

「このヤローっ、俺がぶん殴ってやる!!」

 

ジャイアンは突撃しようとするが、ラクリーマは何と彼女の離さず持っていた銃の一つ『ユンク』を左手で奪い取り、ジャイアンに向け――発射。

 

「うわぁ!!」

 

「ジャイアン!!」

 

命中するもシールドのおかげで身体の直撃は免れたが、被っていた光の膜が完全に消えた。三人は立ち止まる。

 

「ほう、この銃もの凄く軽いな。使いにくいがまあいい、借りるぜ」

 

三人は各武器を向けるがラクリーマはエミリアの背を彼らの方へ。それは彼女を盾として使うつもりである。彼の汚いやり方に三人は激怒し、

 

「ひ、卑怯者――っ!!正々堂々と戦え!!」

 

「そうだそうだ!!」

 

怒号と非難を浴びせるが、本人は全く憤怒する様子が全く余裕そうな表情であった。

 

「卑怯者か……ククク……いい響きじゃねえか!」

 

「なっ何だと!?」

 

「卑怯とか正々堂々とか言えるのはまだキサンらがマトモな闘いをしてない証拠よォ。正々堂々てのも響きはいいがそれで死んじまったらそこまでじゃねえか、勝負にあるのは勝つか負けるかなんだよ」

 

 

《卑怯だろうがなんだろうが敵を殺せればなんだっていいんだよ!戦いってのはどれだけ相手をブチのめしてナンボなんじゃあ、わかったかガキ共、ギャハハハハハッ!!》

 

 

……まさに外道という言葉が彼に似合う。だが、間違ってはいないところもいくつかある。

悪くいえば所謂『卑怯者、外道』だが、『戦闘に関してはシビアで合理的』とも言える。それは彼が今まで経験した幾多の戦闘から学んだことなのかもしれない。

 

「ところでどうすんだコイツ?てめえらが撃てば俺がトドメ刺さずに済むんだがな?」

 

「くう……」

 

「これじゃあ……手が出せないじゃないか……」

 

早くしなければ奴のエジキに。今すぐにも助けたいが、ラクリーマが彼女を完全に盾にしている。

先ほどのドリル攻撃によりシールドは完全に破壊されているため発砲すれば確実に被弾し、ショックガンと空気砲は殺傷能力はないのだが、彼女に苦痛を与え、気絶、ケガをさせるかもしれない。そうなれば奴の思うツボである。

 

「あ……あたしは……どうなっても……いいから……あの子達だけは……っ」

 

震える声で嘆願する彼女に彼の反応は……。

 

「無理だな」

 

迷うことなく即答であった。

 

「ガキだろうが俺は敵と見なしたら絶対にブチ殺す。あいつらも楽に殺してやるから安心しろよ♪」

 

「この……外道がぁ……」

 

涙を流し始める彼女にラクリーマはニヤリと笑っている。

 

「外道ね、誉め言葉として受けとるわ。クックック……、じゃあ死ねや!!」

 

ラクリーマは彼女から奪い取った銃の口を頭の横に押し付けた――。

 

「ああっ、やっやめろ――!!!」

 

叫びも空しく、銃のトリガーに指をぐっと引――。

 

(…………っ!!)

 

――ラクリーマの指が引かれなかった、なぜ?それは彼の身体に今起きているあの『症状』であった。

 

(また――血が込み上がってきやがった……だがこんなことに時間を取られるワケには……っ)

 

必死にこらえ、震える指で再び引き金を引こうとした――その時だった。

 

 

「そこまでだ!!」

 

 

彼の後ろには赤い軍服を着用した威厳の持つ中年男性とその周りにはその数、百人は超える連邦隊員の集団がラクリーマに向けて、全銃口を向けていた。ヴァルミリオン艦艦長であり提督の階級を持つ男、カーマインの登場であった。

 

「リーダーっっ!!」

 

別の方向からレクシーと残り百人程の戦闘員、その中にはオペレーター達とジュネ、ユノン、そしてのび太としずかもいた。

 

彼らの後ろからさらに連邦隊員の集団がぞろぞろ現れて、アマリーリス員全員はラクリーマのいるところに追いやられ、怒涛の数の連邦隊員に囲まれる状況となった。

 

「お……お前ら無事か!?」

 

ラクリーマはエミリアをその場で離し、彼らの元へ駆けつけた。

 

「本当にすまん、助けにいけなくて……っ」

 

「リーダー、俺らよりユノンさんを!!」

 

すぐさま彼女をその身で抱き抱えた。そして本人も彼の声に反応し閉じていた重い眼を開けた。

 

「ユノン、大丈夫か!?」

 

「ら、ラクリーマ……ごめんね…………最後の最後で役に立てなかった……っ」

 

謝る彼女に彼は必死で首を横に振った。

 

「そ……そんなことねえよ!無事で何よりだ、本当に、本当によかった!!」

 

彼女をこれでもかと言うくらいに抱き締めるラクリーマは先ほどの凶暴さはどこへいったのか、戦闘以外の時のような熱い青年で溢れていた。

 

一方、エミリアもカーマインとクーリッジ、そしてミルフィに駆けつけられて庇護を受けていた。

 

「エミリア、すまない。早く駆けつけていれば!!」

 

「大丈夫エミリア!!?」

 

「しっかりしろ!!」

 

カーマインはこのことを想定していたのか、所持していたスペアのサングラスを彼女の目に取り付けた。

 

「提督……ミルフィ……クーちゃん…………わたしは……」

 

「よくがんばったな……エミリア。生きててなによりだ……」

 

「ああっ……」

 

再開を喜ぶ三人。そして本命の再開はここにあった。

 

「の……のび太君、しずかちゃん……」

 

「だよね……?」

 

ドラえもん達の声にのび太達も三人に眼を奪われた。

 

「ドラえもん……スネ夫……ジャイアン!!」

 

「みんな!」

 

ついに5人は再開し、互いに寄り合い、喜ぶ。

 

「無事だったかぁ~っ!!心の友よ!!」

 

「心配したんだからもお!!」

 

「ケガしてない!?ヒドイ目遭わされなかった!?」

 

「うっ、うん……」

 

「大丈夫よドラちゃん……」

 

過剰に心配するドラえもん達にのび太としずかは苦笑いした。

 

「けど、どうして3人共ここに?」

 

「どうしてって!?二人を助けにきたんじゃないか!?」

 

「え?助けに?」

 

何故か話が噛み合わない五人がそうしている中、カーマインはついに追い詰めたラクリーマ達に注目した。

 

「お前達はもう逃げられまい。先ほど仲間も大勢捕まり、彼らと同じくこのまま大人しく逮捕されることを私は願う。

お前達を……このような悪の道から救えればと、心から願っている。だがそれでもまだ抵抗するというのなら――」

 

彼の重みの効いた最後の警告が静かな空気に響き渡った――果たしてついにアマリーリスに終焉の時が訪れるのであろうか……。



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Part.55 終着点

「う……くく……」

 

サイサリスは目覚めた。腹が痛い……殴られたような不快感が残っている。

 

「つ……何があった…………」

 

ゆっくり起きてまだ寝ぼけている頭をゆっくり馴らすように辺りを見回す。

小型挺の内部のようだが……。

 

「なんで……あたしがこんな中に……」

 

外を見ようとモニターを見ると、

 

「ワープホール……空間……だと!?」

 

おかしい、なぜ自分がこの中にいるんだ?彼女は記憶にある全ての映像を脳内で再生した。

連邦隊員に捕縛され自害しようとした時、ラクリーマに助けられて、自分の思いを伝えて謝られて……そこから全くなかった。彼女は段々と何がどうなったか思い出すと……。

 

「あ……ああっ!!あのバカぁァァっ!!?」

 

ラクリーマの思惑に全て感づいた彼女はすぐに手前のコンピュータパネルをカタカタ叩きまくる。何とかしてエクセレクターへ戻ろうとするも、

 

『キー入力、受け付けません、なおこの行き先は……』

 

彼女は必死に打ち込んでもコンピュータに拒否された――。

 

「嘘だろ……なんでだよ……」

 

彼女は諦めずに叩き込むも、全く先ほどと同じ反応であった。

 

「何であたしが押してもダメなんだよ……!?」

 

これもラクリーマがサイサリスのことだろうから必ずや戻ろうとする、そうさせないために彼しか知らないアクセスコードを仕込んでいたーー彼が出来る最後の親切であった。

 

《戻れといってんだよォォオォォーーっ!!》

 

キーを乱暴に拳を叩きつけるもそんな行為は全くの無意味であった。彼女はその場でへたり込む、ブルブル震え始め――。

 

《ち……ちくしょぉォォオオーーーーっっっ!!!》

 

彼女の嘆きは誰にも届くことはなかった……。

 

 

◆ ◆ ◆

 

「リーダー……」

 

彼らには完全に逃げ場などなかった。彼らにはもう完全にもう包囲されていて集まってきた連邦兵に銃を突きつけられている。

 

「……」

 

ラクリーマは辺りを見回すが……自分一人だけなら逃亡は容易い。が、仲間を放っていくことは彼の性格上、考えられないことだった。そしてついにラクリーマが決断を下す――。

 

「……わあったよ。今度こそホントにお手上げだ」

 

ラクリーマは似合わぬ穏やかな笑みで両手を上げた。それは降参を意味していた。

 

「リーダー……」

 

隊員達が彼の身体を徹底的に調べ上げ、手錠の様なものを両手にかけられる。

 

「おいあんた、こん中で1番偉いのはあんただろ?」

 

「あ、ああ。一応そうだが」

 

「俺から頼みがある……聞いてくれないか?」

 

「頼みだと?」

 

突然、カーマインに何かを要望を述べる彼にここにいる全員が注目した。しばらく沈黙するがゆっくりと口を開く。

 

「……俺の仲間達を許してやってくんねえか?」

 

銀河連邦、アマリーリス員全員が驚愕、狼狽した。突然、何を言い出すのかと……。

 

「今までの悪行は全て俺が命令した。こいつらは俺の命令に従ってやってただけだ、全責任は俺にある。

……とはいえ手を出しちまったのは事実なワケだし無罪にしろだなんて都合のよすぎることは言わねえ……だが、せめてもの罪を軽くしてやってくれないか?」

 

「…………」

 

「その代わり、俺がこいつらの罪全てを背負う。拷問やら何やらしたければいくらでも受けてやる。だから――」

 

彼がそう言っていることは軽い気持ちとは思えなかった。

その表情からは本気でそう思っていると思える。

 

「リーダー、何ふざけたこといってんですか!?」

 

「俺らはこいつらに助けられることを微塵も思っちゃないですぜ!!」

 

「うるせえ、少し黙ってろ!!」

 

訴える彼らを一喝で黙らせ、話を続ける。

 

「今こそはどうしようもない悪人でバカな奴らだが、まだ俺よりかは改心できる希望がある。だからどうにかコイツらを更生させてやってくれ……頼む!」

 

何ということだろう……その彼からは信じられないような嘆願についに部下達は唖然とした。

 

「リーダー……あんた何言いさらすんですかい……!?」

 

「俺らは悪さが好きでアマリーリスに入ったんだ!!今さら更生なんて絶対に嫌だ!!」

 

「リーダー、俺らがここに加入する時にこう言いましたよね!?

「俺らはもう悪さすることでしか生きられん、なら死ぬまで俺らのやりたいことして楽しもうじゃねえか」って!!

俺達はそれを理解、承知の上で入ったんだ、それをあんたはなに今さら撤回しようとしてんだよ!!」

 

しかし今度はラクリーマが、彼らにこう問う。

 

「なら聞くが、お前ら侵略の際、女子供、年寄りを殺そうとした時、少しは情けをかけたことあったろ?」

 

反論できず、口ごもる彼らの様子を見るとその通りのようである。

 

「数日前、俺対お前らの実戦訓練にしても、ユノンを処刑すると言った時のお前らの反応にしても、今までの全ての行動を見てるとな、自意識なくても心の底でそういうとこがあるってのが俺には丸分かりなんだよ。だがな、お前らにはまだ改心の余地があるって証拠だよ」

 

「リーダー、しかし……」

 

「それに言っておくがな、俺は何もてめえらを助けたいためだけにこう言ってるわけじゃねえ。なんか……虚しくてな……」

 

「虚しいですって……」

 

するとラクリーマはここにいる全員を見渡すように眼を動かした。

 

「俺は連邦、アマリーリス、そしてその地球人達含めてここにいる全員に感謝している。今回の戦闘は生きてきた中で一番楽しく暴れられたことにな。

戦っている最中、これ以上の幸せなんかあるもんかと思ったわ。けどもし終わってしまえばもうこんな戦闘はできねえと考えるとなんかなってな……。

だってそうだろ?もし勝ったりでもしたらもう二度とこんなことなんか巡ってこねえよ。ただでさえ戦力的に少ない俺達がまた再戦となりゃあ……それこそ組織を壊滅しかねんからな」

 

全員がラクリーマという男の本質を知る。

この男『生まれからして戦闘狂』であると。

彼は自分達とは違う別次元の存在であったのだ――。

 

「こんなこと考えているなんてやっぱり俺にはリーダーなんて向いてなかったな。証拠にアマリーリスという俺の組織をここで終わらせることになっちまった」

 

カーマインの方へ身体を向けるとすぐさま正座のようにその場に座り込んだ。

 

「だから頼む……偽善だのなんだの蔑んでもいい、虫が良すぎるのは俺でもわかる。それでもだ、どうかあいつらを救ってやってくれ!!俺の心からのお願いだ!!」

 

目にする者全員が狼狽する。彼は頭を地面に付けて嘆願する。それは地球でも見る『土下座』であった。

 

レクシー含め、部下達はその姿に呆然だった。なぜそこまでして自分達の事を……。彼の行動が理解できなかった。

 

「ラクリーマさん、やめてください!!そんなみっともないことを!!」

 

「そうですよ!!プライドってもんがないんですか!!?」

 

しかし彼は頭を上げず、こう答えた。

 

「俺は今まで、やりたいようにやってきたからプライドなんぞ初めから持ってねえよ」

 

「リーダー……」

 

「こんな俺に幻滅したか?それでいいさ、むしろそうしてくれた方がお前らも諦めがつくぜ」

 

 

彼の堅い決意はもはや曲げることは出来なかった。そんな時、

 

「くっくっく……確かに都合が良すぎるんじゃねえか?」

 

突然、彼の前にある隊員が現れた。それはどこかで見たことのある卑屈な笑み、そして狐の顔――サルビエスである。

 

「お前らみたいに悪さばっかして何の役にも立たねぇクズ共が、『はい、わかりました』と納得できると思ってんのか、なあ?」

 

サルビエスの汚く濁った瞳で彼を見下す。

 

「貴様ら悪人はこの世からいなくなればいい。俺ら銀河連邦が唯一無二、最強の『正義』なんだよ、わかったか?」

 

「……ぐっ!」

 

ラクリーマの下げている頭を足蹴にしてグリグリと踏みにじるこの男、サルビエス。しかし、カーマインは黙っているはずもなく、

 

「馬鹿者っっ!!貴様、それでも連邦隊員か!!?」

 

「カーマイン提督、こいつらに何の情けもいらないですよ。今まで散々非道なことしてきたんですから寧ろ、これでも軽いほうじゃないんですかァ?ええ?」

 

あまりにも空気を読めておらず、行きすぎた横暴。最早正気の沙汰とは思えない。

 

「テメェ!!リーダーになんてことを!!」

 

「このやろぉ!!ぶっ殺すぞゴラァァっっ!!」

 

案の定、激昂し今すぐにでも襲いかかろうとするが、

 

「やめろお前ら!!」

 

「リーダー!!」

 

「……ここで暴れてみろ。それこそお前らの罪が重くなる。俺の嘆願で助かると思うならここは抑えやがれ……分かったか……」

 

彼らの動きは止まった。しかし、サルビエスはその様子をほくそ笑み――、

 

「くくくっ、ならこれならどうだァァァァ!!」

 

――彼らを挑発するように蹴る、蹴る、蹴りまくる。

本人は彼の暴行に憤怒せずひたすら耐えている。両勢ともあまりの横暴に見るに堪えなくなった――。

 

「やめてください大尉!!」一人の大柄の隊員が切羽詰まった表情で彼を止めに入る。部下のコモドスであった。

 

「コモドス……キサマ……」

 

「大尉、見苦しくて堪えられません。お願いです、もうやめてください!」

 

直属の部下の願いにも関わらず、サルビエスは彼を睨み付けた。

 

「ほう……貴様、誰にその偉そうな口を聞いてんのか分かってんのか……?」

 

「し、しかし、これ以上はアナタの信用にも関わります!!ですから――!!」

 

《誰に口を聞いてんのかっていってんだろうがァ!!》

 

甲高い怒号が周囲に拡がり、より緊迫とした空気に……。

 

「俺は一体誰だ?答えてみろコモドス?ええ?」

 

「……」

 

「お前の言う通りここで止めてもいい。だがな、俺の機嫌を損ねたお前の一族がどうなるか……覚悟しとけよ!!」

「……!!」

 

脅しをかけるサルビエスと恐れているのかビクビクしているコモドス。彼らの間に一体何の関係が……。

 

「な……なんだよ……?一族がどうなるとかどういうことだよコモドス、それに大尉!?」

 

近くの数人の隊員が二人に注目し、瞳を震わせている。彼らはコモドスの同僚と後輩であった。

 

「コモドス、俺は前からおかしいと思ってた。いつもお前は大尉にばかり付き添うし、パシリやら何やらばかりされて……何か恐れているのかオロオロしてばかりで……これじゃあまるで『奴隷』みたいじゃないか……」

 

「……」

 

本人の口から何も出なかったがあのサルビエスが彼に代弁するように平然とした表情で口を開いた。

 

「奴隷?何を言っている?俺がそんなことしないだろ?なあコモドス?」

 

彼は否定するもそれだけでは彼らは納得するはずなどない。

 

「コモドス!!なぜ何も話してくれないんだ!?」

 

「そうですよ中尉!!大したことないんならそんな表情しないハズでしょ!?」

 

問い詰められるコモドスは心を揺さぶられ動揺している。

しかし、便乗してミルフィまでもが前に飛び出す。

 

「お願いコモドス!!あたし達はあなたが心配なのヨ、ここで言わなかったらこれからもっと苦しむかもしれないんだヨ!?」

 

――次第にサルビエスも苛立ちが募り、歯ぎしりを立てて彼らを威嚇する。

 

「キサマら……いい加減にしないと……」

 

その時であった――。

 

「大尉……もういやです……」

 

「コモドス!?」

 

コモドスの震えた声が彼を引き留めた――泣いていたのである。

 

「自分は……自分は普通に生きたいんです……こんないつもビクビクしながら……自分の家族を人質みたいに取られ、いつ惨い目に遭わされるかもしれない恐怖の地獄みたい毎日を過ごすのはもう……嫌なんです……」

 

「キサマァ!!」

 

ついに自分の本音を打ち明けはじめた。良いも悪くも連邦勢の空気が一変する。「コモドス、今こそ教えてくれ!!大尉とお前の関係を!!」

 

「実は……」

 

――サルビエスの種族『フォクシス』は中世の階級制度、貴族制をとっておりであり、サルビエスの家系もまた上流貴族のであった。フォクシスの貴族は代々、自分達より劣る下等種族を各惑星から無理矢理連行して奴隷、召し使いにするのが主流であり、彼の一族が連れてきた種族と言うのが皮肉にも、『コンガース』でありコモドス達一族だったのである。

 

過酷な労働、家畜以下同然の扱いを受けた彼らはついに耐えきれなくなり、脱走を企てるも敢えなく失敗。

全員が処刑されかけたが当主であり銀河連邦に入隊していたサルビエスの耳に入り、彼の提案により、コモドスを自分の永久従者になれば免罪するということであった。

 

……その事実を知った彼らは絶句する。

 

「知られちゃしょうがねえな。だがな、それは俺ら気高き種族『フォクシス』の決まりなんだよ!!

俺らより劣るゲス以下の奴らは俺らに使ってもらえるだけ有り難く思え!!さあコモドス、今すぐこの男のようにひざまずき許しを乞え!!そうすれば先ほどの反抗を許すのを考えてやる!!ギャハハハハハッ!!」

 

彼の高笑いする声が辺りに響き渡る。しかし、周りにいた隊員達、特にコモドスの友人や部下達は徐々に怒りを顕しにし、

 

《今すぐそいつを捕まえろォォっ!!》

 

「おおーーっ!!!」

 

なんということか、大集団がサルビエスへ雪崩れ込む。

 

「なっ、なんだ貴様らァーーっ!!!?」

 

数の暴力、強引に彼を押し飛ばし、倒れこんだ隙に囲む。

 

「な……なんなんだ!!こんなことしてただで済むとでも思うかっ!!?」

 

 

「黙れ大尉……いや大尉なんぞ呼べるか!あんたは……銀河連邦隊員の風上にも置けないヤロウじゃないか!!」

 

指の関節をパキパキならしながら、彼を睨み付ける。

 

「この……屑どもが!!」

 

サルビエスは手持ちの拳銃を震えながら彼らに向け始めた。

 

「いい加減にしろよ。黙って見てりゃあイイ気になりやがって……コモドス!!今すぐ俺を助けろ!!そうすれば今までのはなかったことにしてやる!!だから!!」

 

どこまで意地汚いのか、彼に助けを求めるが本人は――。

 

「……」

 

「コモドス、お前は昔から身体に似合わず気が小さくてお人好しすぎるのはわかってんだ。

脱走の時も恐れて一人だけ残り、俺に服従する時も嫌がらずにすんなりと承諾したお前は俺を助けないワケないよな……早くこいつらから助けろ!!」

 

コモドスを従者にした理由も彼の性格を知った上であった。

彼は家族愛が強いゆえ、家族を人質にすれば絶対に反抗できないようにすることができるからである。

事実、先ほどの宇宙戦闘の際、過剰な程の攻撃、そしてあの『命令』を実行させたのも彼の弱みにつけこんだからである。コモドスは口を開かず無表情だ。

 

手をぐっと握りしめ……戸惑っているのであろうか?

 

「コモドス、これ以上あんな人の言うことを聞いちゃダメだヨ!!」

 

ミルフィも必死に叫ぶ。彼女も彼にこれ以上、同じ仲間として、そして仲のいい同期生として苦しんでほしくないのである。

 

だが、サルビエスの方へ歩いていく。辿り着くとその怪力で囲む隊員達を強引に押し避けた。

 

「コモドス……いい奴だなお前は……」

 

「……」

 

コモドスは手を差しのべ、彼の手を握り掴んだ。

 

「!?」

 

コモドスはその強力な握力でサルビエスの手を潰しにかかりメキメキと鈍い音が聞こえた。

 

「ぎゃああああっ!!やめろ、やめろ!!!」

 

誰が見ても痛いと思わせるような表情で悲鳴をあげるも全く力を抜こうとしなかった。その時のコモドスの顔は誰も見せたことのないほど怖かった。

 

「大尉、確かに自分はバカがつくほどお人好しです。しかしこれ以上はもはや黙っていられません……。もし、また家族をだしにして脅してくるのなら、その時は……」

 

言われる本人は完全に萎縮してしまっている。コモドスは手を離し、サルビエスを見つめる。

 

「……もうサルビエス『大尉』を追い詰めるのはやめましょう。これ以上は何の意味もありません」

 

これでも制裁を与えないのは彼の情けでもあった。

しかしサルビエスからすれば今まで味わったことのないような屈辱であった。

 

「なっ……なんでだよ……っ。奴隷なんて親父や『フォクシス』の貴族全員そうやってるのに……なんで俺だけこうやって責められなけりゃいけないんだよ……っ!くそっ、くそっ!!」

 

「……」

 

辺りに虚しいほどの静寂感が漂う中、カーマインはまだ頭を下げているラクリーマの肩に手を置いた。

 

「顔を上げなさい、男の顔が泣くぞ」

 

彼はやっと顔を上げて、カーマインの顔を見上げた。その時の彼は平然とありつつもどこか悲しそうな表情をしていた。

 

「部下の罪の軽減は……多分難しいだろう。だが出来る限りの努力をするつもりだ」

 

それを聞いたラクリーマは彼に敬意をはらった。

 

「……ありがとよ。恩にきるぜ。あんた、本当にいいヤツだな」

 

ラクリーマは立ち上がると自分の部下達のところへ向かい、全員に聞こえるよう、こう伝えた。

 

「全員、アマリーリスはここで解散だ。俺は……もう死刑は免れないがお前らが助かればそれで十分だ。もし罪が軽くなって無事釈放できたら俺のことは忘れろ、そして俺の分まで第二の人生を楽しんでくれ。それが俺の最後の命令だ」

 

「リーダー……」

 

「本当にすまん。今はそれしか言えん。死んでいった奴らに報いることはできなかったが俺があの世で土下座してでも謝っておくからお前らは何の心配すんな」

 

仲間の瞳が震えていた。絶対に信じたくないが彼の言葉で現実に戻されてしまう。それほどまでに重みがあった――。

 

ラクリーマは次にドラえもん達の地球人5人の方へ向かった。段々近づいてくる彼にドラえもん、スネ夫、ジャイアンは顔を険しくして何があっていいようにすぐに身を構える。だが、

 

「「ラクリーマ(さん)!!」」

 

「「「へっ?」」」

 

のび太としずかの二人だけが心配するような顔をして彼の元へ駆けつける。ドラえもん達の目が点になっている。さっきまで自分達を本気で殺そうとしていたこの男に二人はまるで仲良しのように気軽に声をかける、それが不思議でならなかった。

 

「のび太君、そいつ危ないよ!!」

 

「早く離れろ二人とも!!」

 

忠告するがのび太、しずかの方はキョトンとしていた。

 

「一体この男と何の関係があるの!?」

その問いにのび太は……。

 

「実は僕達、地球へ送ってもらう途中だったんだ」

 

それを聞いた連邦勢、そしてドラえもん、ジャイアン、スネ夫の全員が驚愕し、ざわめいた。

 

「最初は色々あったけど……僕としずかちゃんはすごく楽しかったよ!ここの人達にはすごく優しくしてもらったし、色んなことを教えてもらったし、ねえしずかちゃん!」

 

「ええっ、この人達とはまた会いたいと思ったわ!」

 

「特にラクリーマやあそこにいるレクシーさんはホント僕にやさしくしてくれたよ。なんかお兄ちゃんみたいな感じでさあ――」

 

二人の輝く瞳とハキハキと喋る様から全く嘘ついているとは思えなかった。

開戦前、ブリッジでモニター見た二人く傷ひとつなかったのも、怖がっている様子がなかったのもそれなら検討がつく。

 

「じゃあ……なら別に心配しなくてもよかったってこと……?」

 

「あ~あっ……今までの奮闘は一体なんだったんだろ……?」

 

三人はへなへなになり、その場でへたりこむ。安心もあったがそれほどショックだったのだ。

 

「のび太、しずか、ワリいな。お前らの大事なダチを殺そうとしちまったぜ。俺らは悪行ばっかしてきたからこんなこと思われても仕方ないんだろうな」

 

「……」

 

のび太としずかは黙り込む。そんな二人に彼は――。

 

「おいおい、何意気消沈してんだよ。やっとお前らは安心して地球に帰れるんだ、少しは喜ばんかい!」

 

「ラクリーマ、本当にこれでいいの……?」

 

「なんでお前が俺の心配するんだよ。俺は悪人だ、まあこうなるのは運命だったってだけだ」

 

「けどあの人は……ユノンさんは一体どうなるの……?」

 

「仕方ねえよ。俺よりあいつらの方が大事だ、こうするしかなかったんだよ。それからのび太、お前に一つ頼みがある、俺の右ポケットからある物を取り出してくれ」

 

「……」

 

のび太はすぐに彼のポケットに手を偲ばすとどこか知っている感触があった。

取り出すと、それは以前見たことのある『アノリウムの種』の入った小さなカプセルであった。

 

「これはあの時の……」

 

「お前にこれを育ててほしいんだ」

 

「僕に……?」

 

「俺はもう無理だ、だからこれを託す。お前との約束もおじゃんになったが、これを俺とお前の約束にするぜ」

 

「……」

 

のび太は腑に落ちない表情でそれを自分のポケットにしまう。

 

「なあに、お前ならこの花を咲かせることができると信じている。頼んだぜ、のび太。それにしずか、お前のおかげでユノンが今まで以上に明るくなったこととデストサイキック・システムからあいつを救いだしてくれたことに心から感謝してんぜ、本当にありがとよ!」

 

「ラクリーマさん……」

 

笑顔でそう言う彼だがなお一層悲壮感が高まる。

 

――彼らのやり取りに銀河連邦勢全員が呆然としている。

今の彼は優しさに溢れた好青年のようだ。だがそれを受け入れられずに動揺している者がいた。

 

「……ふっ、ふざけるな……こんなことがあってたまるか!!」

 

――エミリアである。

 

「エミリア!!」

 

なんと彼女は前に飛び出し、持っていたもう一つの銃をラクリーマに向けた。その震える身体、歪んだ顔の筋肉。彼女は今、気が動転していた。以前、忠告しカーマインが恐れていたことが今起きたのである。

 

「い、い、……今まで、その愚かなエゴのために殺された人達、惑星モーリスの、そして殺されたあたしの恋人の仇……今ここで晴らす!!!」

 

自分の写るラクリーマという男は、救いようのない悪人であると、だが今の彼はまるで180度変わったかのように――彼女は受け入れられなかったのだ。

 

「惑星モーリスだと……お前まさかあの星の生き残りか!?」

 

「き、貴様達のせいであたしの……大勢の人達の人生が狂わされたんだぁ……!!今ここで恨みを晴らす……今ここで!!」

 

それを聞いたラクリーマは笑み、彼女の元へ向かった。

 

「そうか、ほぼ全員ぶっ殺したと思っていたがまさか連邦隊員の、しかもこの女が生き残りだったとはな」

 

彼女へ向かう彼に全員が警戒する。カーマインは彼女の前に立ち、彼の進行を遮る。

 

「まさか彼女を……」

 

「いや、そういうワケじゃねえ。この女に詫びいれてやろってな」

 

「何だと?」

 

彼をどかし、彼女の前に立った。

 

「な……何よ!!」

 

「お前があの惑星モーリスの生き残りなら生かしてしまった俺が悪いな。なら、仇をとらせてやる」

 

平然とした態度でそう言うとその銃口を自らの眉間に当てた。

 

「さあ遠慮なく撃ってくれ、これでお前が今まで果たしたかった願いが叶うぞ」

 

「え……ええっ!!?」

 

彼のその申し出に戸惑いを隠せないエミリア。周りの人間も狼狽していた。

 

「やめろ!!何を考えてる!!」

 

「別に罪滅ぼしとは考えてねえよ。ただどの道、死刑になるのは免れねえなら、それまで無駄な時間過ごすぐらいならここで終止符打ってくれたほうがいいかもってな。あと、この女の仇もとれて互いに後腐れがなくなっていいじゃねえか」

 

彼はまるで死をおそれていないように全く怖がる様子もなく、むしろ嬉々としていた。

 

「それに彼女は我々銀河連邦の隊員なんだぞ!!彼女がもし撃ったら――」

 

ごもっともである。もし撃ってしまえば彼女が無抵抗の犯人を殺したことになる。そうなれば彼女は間違いなく『人殺し』になってしまう。

それに死ねば全て済むという問題ではない、何を考えているのかこの男は……。

 

「へっ、俺はただ仇を討たせてやると言っただけだ、撃つか撃たないかはこいつ次第だ。さあ……どうすんだ、撃つか、撃たないのか!?」

 

「あんた……本当にバカなんじゃないの……」

 

「ああっ、俺は大バカだよ。そんなバカな男の考えた結果がこれなんだ。だが俺はこう見えても心が繊細なんでね、お前を生かしてしまって反省してんだよ」

 

「反省……ですってぇ?どういうことよ!!」

 

「俺は殺す時は徹底的に殺す理由が今お前の抱いている感情にある。いま俺らに憎しみしかないだろ?今まで、仇を討ちたくてここまできたんだろ?

今まさに俺に復讐して気がすむならそれでいい。だがな、もし今回俺らとお前らが遭遇しなかったらお前は俺……いやアマリーリスに一生怨みを抱いているだろ?

俺も嫌だしお前も人生ずっとそんな『不快感』持ったまま過ごしたかねえだろ?」

 

「……」

 

「だから俺は殺す時は誰だろうと全力で潰す。憎しみもたれる前に殺してやったほうがそいつも楽だろ?」

 

『憎み、一生負の念を持たれるぐらいなら本人のためにも根本的から断つ』。

 

彼の言っている理屈は正直、狂気の沙汰であるが彼なりの気遣いなのであろう。

 

「心もとないのなら俺も手伝ってやろうか?」

 

ラクリーマは彼女の手を貸すように、一緒に銃のグリップを掴んだ。

 

「し、死ぬのが怖くないのか……あんたは……?」

 

「へっ、当たりめえよ。俺はガキん時からいつ死んでもいいように全力で生きてきた。生き物はいつか必ず死ぬ、早いか遅いか、それだけだ!」

 

その言葉で聞く全員が感じたこと。『異常者』

 

他にもそれに近い感想だった。

 

「うっ……うっ……」

 

震えるばかりで全く思いを遂げようとしない彼女にしびれを切らした彼は――。

 

「けっ、めんどくせえな、引き金を引いてやるぜ!!」

 

「ええっ!?待って!!」

 

手にグッと力を入れて彼女の指が無理矢理引き金が後ろへ下がり――。

 

「イヤアアアアァァッ!!」

 

――しかし、弾は放たれなかった。彼女は引かれる前に焦って持ち手を離してしまったのだ。そのまま放心し、座り込むエミリアに対してラクリーマは無表情であった。

 

「俺が言うのもなんだがあんた、絶対にこの職業は向いてないと思うぜ」

 

彼は振り向き彼女から去っていく。彼の後ろ姿はどこか哀しく感じられた。

 

「けっ、胸ぐそワリィ。なんで俺はあの時、もう少し確認して生き残りを探さなかったんだ……こんなことになるんならな」

 

――そのまま彼はある女性の元へ向かった。

 

「ユノン……」

 

「あ……あんた……」

 

彼女も瞳を震わせていた。そして何か言いたそうに。

 

「すまねえな。お前を十分愛してやれずにこうなっちまって……だがこれでよかったじゃねえか」

 

「よ……よかったって……!?」

 

「元々お前は俺らみたいな悪人じゃなく無理矢理拐ってきた一般人だ。だから俺は正直お前を幸せにできるのかってずっと思っていてな、だがこれでお前も晴れて自由の身だ」

 

「………………」

 

「お前は殺人とかやってねえからこの中で一番罪が軽い……いや無罪になれる。俺らから無理矢理奴隷にされたと言え、そうすればお前は大丈夫だ」

 

「ど……どういうことよ……っ?」

 

「今のお前なら心配ねえよ。俺よりいい男はこの広い宇宙にたくさんいる、そんな誰かと結ばれて本当の幸せ掴めよ!」

 

彼からのねぎらいの言葉とは反対に彼女の顔も少しずつ青ざめていった。

 

「俺は死ぬまでお前の幸せを誰よりも一番願っているからな」

 

そう言い彼は背を向けて去っていく。そしてカーマインの元へ向かい、その気が済んだような屈託のない顔でこう言った。

 

「もう思い残すことはねえ。連行してくれ、あとあいつらも頼む」

 

「……わかった。私が彼を……」

 

数人の隊員とカーマインに捕まれてゆっくり歩き始めたその時であった。

 

《ふ……ふざけんじゃないわよォォーーっ!!》

 

ユノンの悲痛の叫びが響き渡った。

 

「ああ……あんた……何それ……そんな言葉で……許されると思ってんの……!?」

 

彼女の今にも倒れそうなくらいにガクガクの足を必死で踏ん張っている。しかしその表情はエミリアと同じく完全に動揺していた。

 

「なんか言いなさいよ、バカ!!アホ!!」

 

「…………」

 

「……い、イヤよ!!あんたが死刑になるんだったら……あたしも一緒に刑を受ける、一人にしないでよォ!!」

 

とんでもない発言をするが全く何も返事を返さないどころか反応すらしない彼についに彼女は……。

 

「ラクリーマ見なさい!!」

 

「ユノンさん!!?」

 

なんとポケットからナイフを取り出して自らの喉に突き当てたのであった。

再び緊迫した空気が蔓延する。

 

「や……やるわよ、今すぐ喉元切って死んでやるわよぉ……また捨てられるくらいなら……自ら命を断ってやるんだから!!」

 

彼女のワガママにラクリーマはついに、

 

《バカなのはてめえだユノン!!》

 

「! ! ?」

 

やっと反応したがそれは彼女に対する怒号であった。

 

「お前、それじゃあ前と何も変わってねえじゃねえか。

少しは今の状況を読みやがれ、何べんも言わせんなや!!」

 

そう吐き捨てるとまた歩き出し、彼女はナイフを落とすと同時に力尽き、そのままペタンと座り込んだ。

 

「お願いだからそんなコト言わないでよ……あたし、あんたがいない世界なんて……とてもじゃなく生きていけないよォ!!」

 

ウルウルと涙を浮かべて彼にそう伝えるもやはり無反応のまま歩き去っていく。

 

「うっ……うっう……うあああああ…………」

 

――そして彼女は泣き崩れ、その悲しい声だけが辺りに響き渡ったのだ……。

 

「彼女は……?」

 

「俺が奴隷として捕まえたドグリス人の生き残りの娘だ。可哀想なことに、俺に惚れちまったらしい。何もしてねえから自由にしてやってくんねえか」

 

カーマインにそう伝える彼はどことなく寂しそうであった――。



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Part.56 最悪のシナリオ

――連行されるラクリーマ、泣き続けるユノン、その二人の姿にレクシーはもはや平常ではなかった――。

現実に耐えきれなくなった彼がついにとった行動とは――。

 

「おい、今すぐリーダーを離せ……さもないとこいつの命はねえぞォ!!」

 

「まっ、ママァァァァっ!!」

 

何ということだろう。レクシーはスネ夫を人質として捕まえて彼の頭に拳銃を突きつけている。

 

「レクシーっ!!?」

 

「「「スネ夫!!」」」

 

両勢が彼に注目した。無論、ラクリーマも。今の彼は追い詰められたようであった。

 

「レクシー、やめろ!!」

 

さすがのラクリーマも彼の予想外の行動に仰天、すぐに止めようとするも全く収まる気配がない。

 

「リーダー、俺にはあんたの考えが全然理解できないんです。なんで俺らみたいなバカどものためにそこまで身を挺するんですかい?」

 

「俺は……お前らのことを思って……」

 

「うるせえ、そんなのリーダーの思い勝手だ!自己満だ!少なくとも俺はあんたの為に死ねればそれでよかったんだ!!」

 

「俺のためだと……?」

 

「リーダーは……リーダーは……俺達のことを『人間のクズ』だの『カス』としか扱ってくれなかったこんな世の中で一人の人間として、一人の男として見てくれた、たった一人の人間だ!!」

 

彼は震えながらこう語る。

 

「……確かに俺は散々悪さをしてきたさ。そのせいで同種族からも見放されて『生きる価値なんてない』と堕ちるとこまできたのはしょうがねえ。だけどこの人は違った。

この人は俺ら以上の悪人だがそれ以上に人間臭くて、俺達仲間にはすごく優しくて……果てには俺らを助けるために土下座までして……こんなお人好しな人は今まで見たことないぜ!」

 

「……」

 

「お前らだって俺みたいな扱いされてた時にリーダーと出会って、その魅力に惹かれてアマリーリスに加入したんじゃねえのか!?

掃き溜めみてえな、ゴミみてえな人生をここまで楽しくできたのもアマリーリスの、この人のおかげじゃなかったのか!?」

 

アマリーリス員は沈黙しているがその複雑な表情を見る限り、間違ってないようである。

 

「リーダー、ユノンさんを連れて逃げて下さい。この人を幸せに出来るのはあんたしかいねえんだ。ここは俺達が何とかするんでリーダーは遠慮せず俺達を見捨ててください!」

 

「レクシー……お前っ」

 

「俺だってリーダーやユノンさんがこれ以上惨めになるのを見るのは嫌なんです!だからお願いします!

なんでリーダーばかりそうやって貧乏くじを引きたがるんですか。これ以上あんたが苦労する必要なんかねえ、俺らに分けてくださいよ……」

 

彼の懸命な思いにラクリーマは……。

 

「ありがとよレクシー、お前がそこまで思ってくれてたなんてな……俺はお前と一緒に仕事できて本当に最高だった。

だがな、もう終わりなんだ。さっきも言ったが俺はお前らが生きてくれればそれでいい。レクシー、お前みたいに真面目で気さくな奴はシャバに出てもきっと上手くやってけるぜ、だから俺を忘れて生きてくれ」

 

「リーダー、だから俺は……」

 

「うるせぇ!!何べんも同じこと言わせんなっつっただろ!!もうお前と俺は今から知らねえ赤の他人だ、わかったな!!」

 

彼のその断固として曲げない意思がレクシーを絶望させた。

 

「……なんでだよ、なんで分かってくんねえんだよ……俺ら悪党にはここしか居場所がねえのに……どこに行けっていうんだよ……俺はそんなの嫌だ――」

 

《嫌だァァァァっっ!!》

 

「レクシー!!!!はやまるなァァァァ!!!」

 

レクシーが狂い、ついに引き金に手をかけて引こうとしかけたその時だった。一人の隊員の銃から一発の甲高い銃声が鳴り響き、同時にレクシーはスネ夫を抱えたまま後ろへ力なく倒れた……。

 

「れっ……レクシー……?」

 

全員がその場で静止し静寂した数秒後に。

 

「レクシィィィっっっ!!!」

 

アマリーリス員としずかとのび太が大急ぎで駆けつけた。

 

「うわああっ!!」

 

「スネ夫!!」

 

スネ夫は慌ててレクシーの腕をどかし、とっさにそこから逃げ出した。

 

「レクシー……嘘だろ……っっ」

 

レクシーはもう動くことはなかった。頭のど真ん中を一撃で撃ち抜かれて脳髄が飛び散り、瞳孔が開き、身体の筋肉はピクリとも動いていない。

 

――彼は即死であった。

 

のび太としずかも彼の成れの果てにもはや取り乱していた。

 

「ああ……ああっ!!」

 

「レクシー……さあん……いや……いや!!」

 

彼らより一番錯乱している人間がいた。――最愛の恋人ジュネである。

 

彼女はレクシーの元へ駆けつけて我を忘れて彼の動かない身体を何度も、何度も揺さぶる。大粒の涙を流しながら……。

 

「レクシー……嘘だよね……起きてよ……ねえっ!!ねえってば!!!ふざけんじゃねえよォォォ!! あたいをおいて先に死ぬなんてェェ!!うわあああああ―――っっ!!!」

 

 

……最悪の事態と化した瞬間である。ラクリーマとユノンの二人は口を開けたままその場で茫然自失していた。

そしてカーマインも発砲した隊員の元へ駆けつけ、怒涛の如く胸ぐらを掴んだ。

 

 

《この馬鹿者ォォォォーー!!!なぜ殺す必要があったんだあ!!!?》

 

 

あの穏健であるカーマインが完全にキレている。発砲した本人は顔面蒼白で大量の冷や汗を流していた。

 

「う……撃たなければあの子が……しかし私も殺すつもりは……」

 

恐らく極度の焦りで咄嗟に構えたことで照準の先は不幸にも彼の眉間だった。しかしスネ夫の身の危険を考えればこれは責められることではない、むしろ最良である――だがこの直後、彼の行動がこの場が地獄へと変わる起爆剤となった。

 

「ふざけんじゃねえぞ……おい……っ!!!」

 

アマリーリス員はその怒り全てを連邦隊員全員に向け、ジュネも顔を鬼のようにして立ち上がった。

 

「許さニャい……お前ら絶対に許さニャアアアいっっ!!」

 

『うおォォォォっっ!!!』

 

――アマリーリス員による暴動が勃発した。殴り合い、手持ちの銃で撃ち合い、刃物が持つものはそれで切り刻み、この場は血で血を洗う修羅場と化したのであった。

 

ドラえもん、ジャイアン、スネ夫はその光景を避難した場所からガタガタ震えながら見ているだけしか出来なかった。のび太としずかはそれぞれラクリーマ、ユノンの近くにいた。

 

「何なんだよこれは……どうしてこうなったんだ……」

 

ラクリーマが絶望しきった表情を浮かべている。一方、ユノンはその場で震えながら身を丸くしていた。

 

「ひいいいいっっ!!」

 

「ユノンさん!!?」

 

「しずか……こ、こわい、こわいよぉ……」

 

まるで子供のように怖がる彼女にしずかは寄り添い強く抱き締めた。

しかし彼女もその凄惨な状況に耐えられそうにもなかった。

 

「なんで……なんでなの……っ?」

 

ミルフィは逃げ損ねて周りであたふたしていた。

 

「大丈夫かミルフィ!!」

 

「コモドス助けてえ!!!」

 

コモドスが彼女を見つけ、抱き抱えるとそのまま安全地帯へ。二人もこの状況になすすべなくただ瞳を震わせているだけであった。

 

そしてカーマインはいまだ放心状態のエミリアを連れ添い、枯れるほどの大声を張り上げた。

 

《お前たちもうやめろ、やめるんだァ!!!!》

 

しかし最早暴走とそれを食い止めようと決死する両勢を止めることなど不可能であった。

 

「ニャアアアアアアっ!!」

 

ジュネは持ち前の鋭い爪で隊員を切り裂こうとするも、複数の銃を向けられて、

 

「えっ……?」

 

彼女の身体に一発の穴が、さらに二発、三発と前後に穴ができ、その場で倒れた。

 

「がはあ……」

 

残る力を振り絞り、レクシーの遺体へ身体を這いずり行った……。

 

「……レク……シー……、あたいと一生……幸せに……いようね……………」

 

彼女は彼の動かない手をグッと握る否や、その場でもう二度と動かなくなった――。

 

「ジュネェェっっ!!!お前らもうやめろ!!!やめろっていってんのがわからんのかァァ!!!」

 

暴力と狂乱の宴と化したこのオペレーションセンター内ではラクリーマの声もすぐにかき消された。

 

「あぐぅ……」

 

「おい大丈夫か!?しっかりしろ!!」

 

ラクリーマはすぐ側の血まみれで倒れて最早虫の息であった一人の戦闘員に駆けつけた。

 

「ラクリーマさん……ユノンさんを連れて逃げてください……これは俺ら全員の願いです……」

 

「しゃ、喋るな、キズにさわるぞ!!」

 

「……ラクリーマさん……らしいや……けど……レクシーの言った通り…こんなクソみたいな人生を楽しく暮らせてこれたのも……リーダーの……おか――」

 

最後まで言うことなく彼は事切れてしまった。ラクリーマさえも今の周りの状況をただ見てるしか出来なかった。

 

(やめろ……やめてくれ……俺はこんなのは望んでない……お前らが死ぬなんぞ……望んじゃいねえっっ!!!)

 

――仕掛けたのはアマリーリス側であるがシールドなど武装している連邦隊員と違い、殆ど丸腰で明らかに戦力不足であり、次々とアマリーリス員が倒されていく。ラクリーマはのび太と目が合い息を飲んだ。

 

「ラクリーマ……?」

 

彼は掛けられていた手錠をその怪力で無理矢理引きちぎり、のび太をすぐに取っ捕まえて小型レーザー砲を突出させた。

《テメェら!!!》

 

何ということだろう。彼はレーザーを連邦と自分の仲間に発砲。撃たれた本人達は撃ち抜かれてその場でドサッと倒れた。

 

「ラク……リーマ……なんで……」

 

その場で全員の動きが止まった。

その視線は今度はのび太を人質に取ってるラクリーマへと向けられた。

 

「「「「のび太(さん)(君)!!!」」」」

 

「リーダー!!」

 

右手でのび太を抱え、左義手でレーザー砲と鉤爪を出してそれをのび太の頬にチロチロかざした。

 

「いい加減にしろよ……せっかくの俺の好意を台無しにしやがって……」

 

その顔はまさに阿修羅。それは連邦側だけでなく仲間であるアマリーリス側にその敵意を向けていた。

 

「リーダー!!のび太を人質にして何やってんすか!!?」

 

瞬間、レーザー砲を言った本人の足に発砲、貫かれて悲鳴を閑古、その場でうずくまった。

 

「うるせぇ!!キサンらは俺の仲間でも何でもねえ、俺の敵じゃあ!!」

 

もはや全員に敵対宣言するラクリーマに仲間は絶望のどん底に叩き落とされた。

隊員達も銃を向けると彼は少しずつ後退る。

 

「おい、こいつがどうなっても知らねえのか?ククク……俺はガキだろうと容赦しねえ男だぜ……」

 

そんな中、のび太もワナワナ震えながらも彼にこう言った。

 

「ラクリーマ……お願い……こんなこと……やめてよ……」

 

小声でそう必死に伝えると今度は彼がのび太の耳元で……。

 

(のび太、よく聞け……すぐに俺がお前を前に突き飛ばすから、そのまま連邦に保護してもらえ……いいな……)

 

(……ええ……ラクリーマは……?)

 

(……こんなことになったのは俺が責任だ。なら俺が止めねえとな……。のび太……お前らに出会えて楽しかったぜ……そして、二度と俺を思い出すな!!)

 

ラクリーマはそう言い残すとのび太を全力で前に投げ飛ばした。連邦側へ行ったのを確認すると彼は顔が一変した。

 

「あのガキ、噛みつきやがった……くそっ!!」

 

彼はすぐに背を向けて一目散にその場から走り去った。しかしそれを黙って見逃すワケにはいかない連邦隊員達。

 

「止まれ!!止まらなければ発砲する」

 

大人数の隊員が彼に銃口を向けるがそれでも止まらない。

警告を無視したラクリーマについに。

 

《こうなったら……全員撃てえ!!!》

 

――多数の光弾と実弾が彼に向かって飛んでいく。彼に必死にかいくぐるも何発かは左足と右腕に被弾しその場で倒れ込む。

しかしラクリーマはゆっくり立ち上がり、足を引きずりながらも逃亡した。

その時、のび太はしずか、ユノンの元にいたがラクリーマの傷ついていく姿に涙を流して取り乱していた。

 

「ラクリーマがぁ……ラクリーマが自分で責任を全てとるってえ!!」

 

「なんですって!!?」

 

――それを聞いたユノンは彼が段々傷ついていく姿に最早黙ってはいられなかった。

 

「やめて……撃たないでぇ……」

 

ユノンは立ち上がり、そのおぼろ気な足どりで彼の方へ走っていった。

 

 

《撃たないでェーーーっ!!!》

 

「ゆ、ユノンさん!!!」

 

 

彼女は彼の直前上に立つと彼の盾になるかの如く手を広げた。

 

「キャアアアァァァァっ!!」

 

銃の射線上にいた彼女の身体に数発の弾丸が擦り、苦痛にまみれながら震えていた。同時に彼女の出現に驚愕した連邦は発砲をすぐに中止。

 

「ユノン……ユノン!!」

 

ラクリーマの耳にも彼女の悲鳴が届き、その場で止まり振り向いた。

 

「ユノンさん、ユノンさん!!しっかりして!!」

 

しずかは慌てて彼女の所へ駆けつけて必死にすがった。

しかしユノンはその穏やかな笑みで彼女を微笑んだ。

 

「しずか……頼みがあるの……これ以上、ラクリーマを……あいつを追い詰めないであげて……。自分で全て抱え込もうとしてるから……」

 

「ユノンさん……」

 

「どうかあいつを救ってあげて……あたし達より救われるべき人間はラクリーマなのよ……。こんな頼りなくてどうしようもない女でホントにゴメンね……けど、あなた達だからこそ頼めることよ……」

 

「……」

 

「……あなたと出会えて本当によかった。あたしからしたらあなたは生まれてきてからたった一人の大切の友達よ。だから……頼んだわよ!!」

 

彼女はしずかを持てる力を持って全力で押し飛ばした。

 

「ユノンさァァん!!」

 

しずかはすぐそこにいた連邦に保護されるもユノンの助けようと暴れに暴れる。一方、ユノンは着物の中から拳銃を取り出して向かってきた隊員の足元に向かって警告発砲し、動きを止めた。

 

「ここから先は行かせない!!お前らみたいな奴にラクリーマを捕まえさせたりしない……させるものかぁ!!」

 

「バカなマネはやめろ!!あいつを庇って何の意味がある!!?」

 

「あたしはねえ、アマリーリスの副リーダーを務めていた女よ。絶対にお前らなんかに屈しないんだから……」

 

その事実に驚愕する連邦勢。彼女は銃を彼らに向けたまままるで見下すように卑屈した笑みを浮かべ、姿勢を正した。

 

「ホントにガキくさい男でさ……スケベで……どうしようもないバカで……あんな男でも相当の苦労人でね。あたし達仲間のために身を挺した挙げ句、心身ボロボロなのよ。

あたしの……あたしの過去なんか比べものにならないほどに苦労してきたんだよ。

……そんな男が今も苦しんでるって時に、助けるためならわたしがどんなに腐ったオンナでも……」

 

 

 

《命くらいはれるのよォ!!》

 

 

 

彼女は豹変したかのように凄まじい殺気を放ちながら拳銃を彼らに向かって連続発砲した。

 

「ああっ!!」

 

……ついにやってしまった。その一発が不遇にもシールドが解除されていた隊員の心臓部を貫通し、即死。彼女はこの手で直接、殺人を犯してしまったのであった。

 

隊員は彼の亡骸を抱き抱えるとユノンに向けてその怒りを込めた。

 

「キサマァァ……!!」

 

しかし彼女は戸惑うことなくまるでヒステリックのよう拳銃を乱射するも彼らのシールドでほとんど塞がれたーー。

 

「最終警告だ、直ちに攻撃を止めろ!さもないとーー」

 

だが彼女は一向に止める気配はなかった。隊員達は彼女を危険人物と認定し、一斉に銃を向けたーー。

 

「射撃用意ーー!」

 

「や、やめてええええっ!!!」

 

――しずかの嘆願も虚しくついに隊員達が一斉に発砲。無数の弾丸と光弾が次々と彼女に撃ち込まれ、貫通していく。彼女はまるでその場で舞っているようであった――。

 

「ユノォォォォォンっっ!!!」

 

 

その姿はのび太、しずか、カーマイン、そしてラクリーマ……いや全員の目に焼き付いた。彼女はそのまま膝が折れて倒れるかと思いきや。

 

「がはっ」

 

彼女は踏ん張り倒れなかった。致死量の弾丸が撃ち込まれたにもかかわらず……大量の血を吐きながらその虚ろな瞳で彼らをぐっと睨み付けた。

 

「……どうしたの……ほら……かかってきなさいよ……。怖じ気づいたかこのイ〇ポ野郎どもォォ!!」

 

彼女の口からとは思えない下品な言葉を吐きまくる。もう正気を失っていた。

彼らは彼女の気迫に圧倒されて少しずつ後退しはじめる。が、あのサルビエスが苦虫を噛み潰したような顔で登場した。

 

「ちい、こんなドグリス人の小娘相手になに臆してやがる!!なら俺が引導を渡してやらぁ!!」

 

彼は弾帯から何やら懐中電灯のような物を取り出すとグッと握る。すると細長い、まるであの戦闘ユニットのような光の刀身を形成したと同時に両手で持ち、彼女へ突撃した。

 

「死ねえぇっ!!」

 

「大尉!!」

 

コモドスが叫ぶも時すでに遅し、彼の突き放った刀身が彼女の腹部をいとも容易く貫いた。

 

「か……かかぁ……」

 

「痛いか?そうだろうな。刃が完全に貫いているんだからな。ならこれならどうだぁ!?」

 

《ぎゃああああああ――――っ!!!》

 

刀身を突き上げると彼女の口から『ゴボゴボっ』と黒い血を溢れ出て悲鳴ともつかない声をあげた。

 

「かか……か……かった……わねぇ……」

 

なんとユノンは最後の力を振り絞り、すかさず彼を抱き締め始めた。彼は離そうとしても一向に離れようとしない。

 

「なにぃ!?離せぇ!!」

 

ユノンは震える右手ですぐにまた腰元へ手を伸ばし、取り出したのはスティック状の金属物。その先にある円いボタンを震える手でグッと押し、歯で噛み持った。カーマインは彼女の取った行動にいち早く察知した。

 

《ぜっ全員!!その女性からいますぐ離れろ――――っっ!!!》

 

彼の叫びで全員がそこから一斉に退避。しかしサルビエスだけが彼女につかまえられて逃げられない。

 

「離せぇ!!頼む、誰か助けてくれぇぇぇっ!!」

 

力ずくで離そうと暴れに暴れるサルビエス、その刺さった刀身をさらにやたらめったに動かし彼女の身体をもはや見るもおぞましいほどにぐちゃぐちゃにするも全く離さそうとしない。

 

(さよなら……サヨナラ……この世で一番愛した人……)

 

彼女の口に加えたスティックの突然カッと光り――。

 

 

 

《ドワオォォォォォ―――ンっっ!!》

 

 

 

まばゆい閃光が彼女らを包む同時に、この部屋を激震させるほどに大爆発。辺りに爆風が襲いかかった。

全員がその場で伏せ爆風が止み、前を見ると爆心地だけが燃え上がっている。

 

ユノンとサルビエスの姿はおろか肉片すら残ってなかった。

 

「…………ユノンさん!!ユノンさんは!!?」

 

彼女は立ち上がると青ざめた表情で、無我夢中で燃え上がる所へ駆け出した。しかし、その途中の足元を見るとひとつの拳銃が落ちていた。

グリップには人の手形のような黒い跡が残り、しずかはそれが彼女の今使っていた拳銃だと分かった。

 

「ああ……ああっ!!ユノンさんが……ユノンさんがぁ………!!」

 

 

 

《イヤアアアアアアアァァァァァァァァッ―――――――っっっ!!!》

 

 

 

――しずかの泣きわめく悲痛の叫び声だけがこのオペレーションセンター内に響く。それはこの場にいる全員の耳に突き抜け、この場を本当の絶望へと追いやった。

 

カーマインはそのまま膝を突き、唇が開いたままであった。

 

――彼女の選んだ道はこれでよかったのだろうか。彼女はたった一人の男、ラクリーマという悪人を守るために、自ら人生の終止符を打ってしまった。それほどまでに彼女は彼を『愛してしまった』のであった。

 

「こんなの……あんまりだ……っ」

 

のび太もその場で崩れ落ちて、ポタポタと涙が落ちている。 しかし一番絶望している人間が何を隠そう、この男であった。

 

「……ユノン、なんで……なんでお前まで……っ」

 

 

 

《ギャアアアアアアアアアアァァァァーーっっ!!!》

 

 

 

 

ラクリーマが絶叫、顔を酷く歪めた。

 

「あがぎぎぎぎっ!!!ぐおえええええっ!!?」

 

もはや言葉ではない奇怪な叫びがのび太へ振りむかせた。

 

「ラクリーマ……ラクリーマァァ!!」

 

彼にはもう悪夢しかなかった。もう……守るべき者までも失ったラクリーマは……まるで電源が切れたオモチャのようにその場で倒れ込んだ。その目からはもう生気が感じられない。

そしてやっと我に戻ったカーマインは動かない彼を目を向けた。

 

「い、今の内に彼を捕まえるんだ!!これ以上、負の連鎖が起きないためにも!!」

 

彼の命令を受け、数人の隊員がラクリーマの元へ向かい、彼の両手を掴んで身体を起こした。これで全てが終わったと誰もが思った――。

 

 

 

『ラクリーマヲキズツケルヤツ、ケナスヤツハ、ダレデアロウト、ゼッタイニユルサナイ』

 

 

 

 

ラクリーマの義手『ブラティストーム』の内部機械が突然、一気に活性化を始めた。

 

「何だこの音は……?」

 

「おい、こいつの左義手、勝手に動いてるぞ!!!」

 

 

その隊員たちはいち早く異変に気づいた。本人は動いていないのに金属質の左手 がまるで虫のように激しく動作していた。手首からレーザー砲全門を自動的に射出、瞬間に掴んでいた手を振りほどき、天へグッと突き上げた時、

 

《ぎゃあああああっっーー!!!》

 

誰もが予想してなかった出来事が起こった。四発の光線がたちまち近くにいた隊員達に撃ち込まれて、その膨大な熱量が彼らの身体を自然発火、一気に燃え上がらせた。

 

しかしそれだけにはとどまらず、今度は前へ向き、レーザー砲をグネグネと動く。カーマインは4つの銀色に光る何かを見た。

 

「全員、今すぐ伏せろォォっ!!」

 

――その一秒後、前方に無数の蒼白光線が飛来、あるもの全てが光線の餌食となった。

避けられない者全て、次々に襲い貫き、次々とバタバタ倒れていく。敵味方関係なく、いわゆる無差別攻撃であった。

 

「しずかちゃん!!」

 

のび太はまだ泣きながらうずくまる彼女を抱くように身体全体に覆い被さり、光線から守ろうとしていた。

 

「のび太君、しずかちゃん!!『ひらりマント』!!」

 

二人の危険を察知したドラえもんがのび太の前に立ち、赤いマントをまるで闘牛士のように広げると生地に直撃する光線はいとも簡単に弾くではないか。

 

「くう……」

 

「ドラえもん!!」

 

のび太は前で盾になっているドラえもんの隙間からラクリーマを覗く。遠くてわからないが何かがおかしい、いち早く察知した。

 

「ラクリーマァァァァ、もうやめてよ!!」

 

しかし今の彼は全く意識がなく、動いているのは義手だけであった。

 

「お願いだからもうやめてぇぇーー!!」

 

懸命な叫びについに、

 

「はっ!?」

 

ラクリーマの意識が戻り、すぐに左手を注目した。

 

(なあ……左手が勝手に動いているだと!!?)

 

勝手にレーザー砲を乱射しまくる左手にラクリーマは止めようと必死だ。

 

「止まれ!!止まりやがれ!!!」

 

しかしブラティストームの異常な反発力により、右手で下げようとしても、ラクリーマの怪力を持ってしても全く下がらない。

 

《言うことききやがれえ!!クソがああァっっ!!!》

 

顔中の血管を浮き出してまでの彼の顔はその凄まじさを物語っていた。しかし、すぐにレーザー砲は何事もなかったかのようにピタッと止まり、やっと腕が下がりと同時に彼は前方を見て、唖然とした。

 

大多数人の隊員だけでなくアマリーリス員までもがその光線の餌食になり、まるでゴミが散乱しているように死体ばかりであった。それにここはブリッジだ。

 

このエクセレクターの全てを司るブリッジにある司令塔、機械やコンピュータが全て、先ほどの無差別攻撃により破壊されていたのであった。

 

(俺が……全部やったと言うのか……っ)

 

彼はやりきれない表情をしたすぐに、何を思ったのかその場からまた逃げ去っていく――。

 

「ラクリーマ待って!!」

 

のび太はラクリーマを追いかけようとするがすぐ隣にいたドラえもんに腕を掴まれた。

 

「ドラえもん……」

 

「のび太君、行っちゃいけない!!本当に危険だ!!」

 

「なんで!!?」

 

「なんでって……君も見ただろ!?あいつ、僕たちみんなを殺そうとしてた。あいつは……君に何をしでかしてくるか分からない!」

 

「何もしないよ、ラクリーマは……そんな奴じゃない!」

 

「どうしてそんなことが分かるんだ!!君おかしいよ、どうしてあんな悪党のためにそこまで関わろうとするんだ!?」

 

その言葉についにのび太は泣きじゃくりながらドラえもんにブチキレた。

 

「ち……違うったら違うんだあ!!ラクリーマは……ラクリーマは……僕を人質にとったのも自分が責任とるってわざとあんなことをしたんだあ!!」

 

それを聞いたドラえもん……いや、その場にいる全員が凍りついた。

 

「ここの皆はラクリーマの顔を見た!?あんな辛そうな顔をしているの初めて見たよ!!」

 

のび太は両拳をギュッと握りしめて俯く。

 

「……ラクリーマやここの人達はホント悪い人だと思うよ。僕たちが最初にここについた時、地球を侵略するって言ってたし、しずかちゃんを殺そうとしたし……それを嘲笑って……けど僕は早撃ち勝負で勝って、約束通りにしずかちゃんを助けてくれたうえに地球へ送り返してくれようとした!!僕らに優しくして色んなことを教えてもらった!!

だから僕はその恩返しをしたいんだ、それをしちゃいけないの!?悪いの!?

僕は何もできずにただ地球に帰るなんてそんな薄情なことはできないよ!!」

 

彼の懸命な訴えに全員が心を打たれる。

 

「それでものび太君、行かないで……やっと会えたのにもし何かあったら僕は……」

 

「ドラえもん、ごめん。けど行かないとラクリーマが……」

 

「のび太君……」

 

 

――のび太は未だ嗚咽するしずかの所へ行き、こう言った。

 

「しずかちゃん……行こう」

 

「……」

 

しかし彼女は全く顔をあげようとしない。それに対しのび太は彼女は激しく揺さぶった。

 

「しずかちゃん!!レクシーさん達やユノンさんはもう……けどラクリーマの方が一番辛い思いしてるんだよ!!」

 

やっと涙と鼻水まじりの顔を上げるしずか。

 

「ひくっ……のび太……さん……?」

 

「ラクリーマが……本当に辛そうだった、今にも泣きそうな顔をしてた……だから行こう」

 

のび太は優しい笑顔で手を差しのべた。

 

「今度は……僕らがラクリーマを救う番だよ、ね?」

 

しずかは身体を起こして、やっと立ち上がると涙を吹いて彼に微笑んだ。

 

「……そうね、一番辛いのはラクリーマさんだものね……行きましょうのび太さん!!」

 

「しずかちゃん……うん!!」

 

しずかは彼女が遺した拳銃を持ち、それを見つめた。

 

(ユノンさん、どうか安心して……あの人を、ラクリーマさんを絶対に救ってみせるわ!)

 

彼を救う、そう決意し全力でラクリーマが逃げていった方へ走っていった。

 

「のび太君!!しずかちゃん!!」

 

ドラえもんの声は届いておらず、二人はこのオペレーションセンターから姿を消した。何とか無事であったジャイアン、スネ夫もドラえもんの元へ駆けつけた。

 

「ドラえもん、どうするんだよ!!」

 

「どうするったって……」

 

「下手したら二人とも……」

 

しかしそんな事を言い争っている場合じゃないのは三人は理解していた。

 

「ドラえもん、二人を追いかけよう!!それしかない!!」

 

「うん、それしかないね!!」

 

「正直怖いけど……こうなったら僕も行くよ!!」

 

三人はカーマインと共に無事であったエミリアを見たが、膝をついて俯いていて一緒に行くのが無理だと悟る。

 

「エミリアさんがいなくて不安だけどしょうがない!!」

 

「うん、ならすぐにいこう!!」

 

三人は二人を追って走っていった。この中は残りわずかの連邦隊員とアマリーリス員が残されていた。彼らはもはや茫然自失と化していた。

 

一方、エミリアは静かに笑っていた。まるでおかしくなったかのように……。

 

「ふふ……あたしって一体今まで何のために頑張ってきたんだろ……」

 

自暴自棄と化している彼女にカーマイン静かに手を肩に置いた。

 

「エミリア、まだ任務は終わってないぞ」

 

「……えっ……?」

 

彼女は呆気をとられた顔で顔を上げた。

 

「お前にはまだあの子達を守って、友達を救出するっていう使命があったハズだ」

 

「提督……」

 

するてミルフィも駆けつけて二人は合流する。

 

「ミルフィ……」

 

「エミリア……まだアタシ達は終わってないんだよ。あの子達を守るって大事な任務がね。しっかりしなくちゃ、あたし達は誇りある『銀河連邦隊員』なんだからね♪」

 

ミルフィの明るい励ましに静かに涙を流した。

 

「言ったでしょ、アタシはエミリアの支えになるって。これからどんなことがあってもエミリアの味方だから!」

 

「ミルフィ……」

 

涙を吹いて立ち上がると明るい顔を取り戻すエミリア。

 

「ありがとうミルフィ。あたしにとってはミルフィは永遠のパートナーよ!」

 

「エミリア……!」

 

「すっかり暗い空気にしちゃったわね。じゃあ今から気を取り直して任務再開よ!」

 

「了解!!」

 

気合いが入った二人はカーマインにビシッと背筋を正し、敬礼した。

 

「提督、これよりエミリア・シュナイダー大尉、ミルフィ中尉の二名は子供達の保護及び、救出の任務を続行します!!」

 

彼はまるで親のような優しい笑みを浮かべた。

 

「頼んだぞふたりとも!必ずや彼らを無事、連れて帰ってきてくれ、そして可能であればあの男も連行してくるように!!」

 

「「了っ!!」」

 

二人はすぐに彼らを追っていった。

それを見届けたカーマインは残りわずかのアマリーリス員に目を向けてこう言った。

 

「お前たち、あの男の言う通りにしなさい。これ以上、自分のリーダーに迷惑かけたくないだろう?その気持ちが残っているのなら命を粗末にするな」

 

「…………」

 

彼の言葉についにその場に諦めて武器を落として膝をつくアマリーリス員。やっと状況が穏やかになりつつあった。

 

「さあ各員、キツいと思うが負傷者全員に手を貸してやれ、それ以外の者はアマリーリス員の逮捕、そして遺体の回収の作業に当たってくれ、私も行う。なお、それが終わり次第エミリア大尉達が戻ってくるまでここで休憩及び待機だ」

 

各作業に移り出す隊員達。そんな中、カーマインはこんな事を思っていた。

 

(きっとあの子らのような人間が銀河連邦隊員になるべきなのかもしれんな。だがラクリーマというあの男……あれほどの度量を持ちながらどうしてこんな悪の道に進んだんだ……?

彼ほどの人間ならきっと他の分野でも貢献できるほどの器を持っているのに……)

 

彼はそう腑に落ちない疑問を抱いていた――。



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Part.57 涙

ラクリーマは艦内をさ迷っていた。どこに行きたいのかもわからず……彼の顔から感じるのは『絶望と不信』であった……。

 

(おい、一体何があった!?なんでこんなことになった!?

俺があいつらの罪を全て背負って死刑になればそれで済むはずだったのに……なんで俺じゃなく仲間やレクシー、ユノンが死ななくちゃならねえんだ!?なんでまた俺が生き残らねえといけねえんだ!?おかしい、おかしいだろ!!特にユノンはこれから幸せになるべきなのに……なんであんな死に方しねえといけねんだ!!?)

 

自分自身に向かって残酷なまでにこう問う。

 

 

(俺は一体なにをやらかしたんだ!!?)

 

 

ラクリーマの完全に混乱に陥っていた。それもそのはずである。

 

『仲間のためならいつも自分が犠牲になればいい』、その信念が生んだ悲劇。

 

ラクリーマの思念、レクシー、ユノン含む、仲間達の思念がすれ違った結果が先ほどの暴動であった。

そう、死んでいった彼らも、愛する彼女ユノンの非情な死も、彼の過剰なまでの仲間に対する自己犠牲精神によってもたらせた、自分が持つその信念によって、裏切られた結果であった……。

 

《ズドォォ………っ》

 

この艦内が激しく揺れている。先ほどのブラティストームによる無差別攻撃でブリッジ、所謂中枢が破壊されたことにより、制御が利かなくなったことを意味していた。最悪の場合、この艦は崩壊、爆発するかも知れない。

 

 

……撃たれて引きずる足を止めて壁に寄りそり左手で頭をぐっと押さえうなだれた。

 

(どっ……どうすればいいんだよォ……もう何が何だかわかんねえよォ…………っ)

 

あのラクリーマとは考えられないくらいに絶望にうちひしがれ、怯えていた。その時の彼を例えるなら、まさに見知らぬ地で親とはぐれてしまった子供のようである。

 

どうあがいてももう変えられない。全ては自分が招いたことだと――しかしその時、

 

「うぐっ……うげえ……あがぁ―――っ!!うわあああっっ!!」

 

突然、彼は倒れて痛々しいほどの悲鳴を上げながらのたうちまわる。

 

 

(麻酔が……切れやがったぁぁ……っ)

 

 

あの『BE-58』の効果が切れて、副作用が発現したのであった――全ての代償がこの最悪のタイミングで……。

 

 

「ががァァ……あぐああああっ!!」

 

もはや痛みではない。全身に刃物が貫かれたような、全身を炎で焼かれるような苦しみ……いやもはやそんな言葉では違う形容のできないものである。今、死ねたら本当に楽であろうほどに。

 

――彼は今ここで、本当の『生き地獄』を味わっていたのであった。

 

(……なぜだ……痛みなんぞ……ガキん時から嫌になるほど経験してんのにぃ……)

 

しかし痛みは治まるどころか更に激しさを増し、ついには口からの大量の血が洪水のように吐き出される。血だまりに顔を埋めている今の彼は本当に哀れだ。

 

(……別に死ぬのは怖くねえ……このまま死ねたらどれだけ楽になれるか……。だが……なんでこんなに悲しい気持ちになんだよォ……なんでこんなに気分がワリいんだよォ……)

 

彼は気づいていなかった。肉体の痛みだけなら彼はまだ耐えると思える。しかし、今の彼はそれに加えて心、精神的にも多大な痛みを被っていたのだから。

しかし、彼最大の悲劇はなまじ普通の人間より身体が丈夫な分、即死できなかったことであった。

 

(……誰か教えてくれ……俺のやり方は間違ってたのか………………)

 

彼は哀しいほどに自分で自分に問い詰め、今の彼の頭中には今まで生きてきた全ての追憶が流れていた――。

 

……荒廃した大地、環境。治安など一切ない無法世界。まとめな食べ物はほとんどなく、水は汚染されて、同じ種族同士が殺し合って屍肉を貪る日々。

 

生き残るために、次々と自分の種族を共食い続ける、いつ自分が殺されるか分からない、気が休まらない日々。そしてある時、空から見たことのない巨大な物が降りて、その中から出てきたのは白衣に身を包んだ謎の男と数人の男達。その男らに突然、連れられて――。

 

宇宙船という右も左も分からない未知の世界に入り、言葉も全く喋れない獣同然の自身に言葉を教えてもらい、人としての常識、礼儀そしてここの生き方、ノウハウ、武器の使い方、戦闘技術、全てを教えられた少年時代――仲間というかけがえないのないものを手に入れ、血にまみれ、傷付くキツい時もよくあったがそれ以上に楽しく飽きない刺激的な今日までの人生――。

 

彼は今、走馬灯のように流れていた――。

 

「くくぅ……ぐぬぅ……」

 

全身に苦痛の走る体を堪えて再び立ち上がり、壁に伝いながら歩き出す。しかし彼の顔をもはや若々しい精気など感じられず、もう数十年も経ち老けたように感じられるほど、弱りきっていた。

 

(クククっ、俺はもう何も残ってねえ……まさかこんな結末になるなんざ考えてもなかった……。アマリーリスのみんな……ホントにゴメンよ……ゴメンよぉ……)

 

ラクリーマの表情がかなり暗く、そして弱々しかった。

 

それほどまでに後悔と罪悪感にまみれていたのである。

 

突然、真天井が爆発、ライトが一斉に粉砕された。彼はもうこの程度の衝撃にも耐えられずに倒れ込んだ。

 

(エクセレクターはもう限界なのか……あいつから預かったモノを俺は……)

 

ラクリーマは立とうとしなかった。次第にその瞳は閉じていく……。

 

(もう……疲れたぜ……いい加減に死なせてくれよ……もう自殺したほうが楽だ……)

 

ラクリーマは左腕にそう念じる。だが、いつもなら左腕は彼の思考に反応してすぐに動くが、こう言う時に限って全く無反応である。

 

(お前も俺に苦しんで死ねってか……)

 

――そして目が完全に閉じてしまい、彼の命が尽きかけた。

しかし、その時の脳に浮かぶは今まで死んでいった部下達が必死な表情で彼を残酷なまでにこう引き立てる。

 

(リーダー、俺らの分まで生きてくだせえ!!)

 

(俺らのことは心配しなくていいっスからどうか自分のために生きてくださいよ)

 

それが頭に響き渡り、彼の命を繋げていた。

 

(なんでだよ……なんでお前らは俺を死なせてくれねえんだよ……俺はお前らを死に追いやった張本人だぞ……)

 

……しばらくして彼はゆっくりながらも立ち上がり、また歩き出した。

銃創の出来た、痛みでガクガクであり、いつ崩れるてもおかしくないほどのボロボロの右足、血まみれであり多量出血で視界が霞み、倒れそうになるたびにまた部下の叫びが頭に響き、彼を無理矢理に意識を保たせる。

それが彼にとっては天の声なのか悪魔の囁きなのかは分からない。彼は目的地もないまま歩いていった――。

 

◆ ◆ ◆

 

ドラえもん、スネ夫、ジャイアンはのび太達を探しに通路内を走り回っていた。しかし彼らがどこにいったのか全く分からない。

しかも先ほど近くの通路から爆発する轟音が連続で聞こえ、この艦内は近い内に崩壊すると三人とも感づいていた。

 

「ドラえもん、このままじゃあ……」

 

「しょうがない……ノビールハンドを……」

 

ドラえもんはポケットに手を突っ込み、中身を取り出すが調子が悪いのか変なモノばかり出てきてしまう。

 

「おい、またかよ!!」

 

「何やってんだよもう!!」

 

二人に急かされるもそう簡単に出てこない。

 

「ええっと……あった!!『ノビール……』」

 

《ゴオオーーっっ!!》

 

手前の横の通路壁が突然爆発し崩壊、同時に巨大な炎が吹き出し、ドラえもんの腹部をかする。

 

「うわああああっ!!!」

 

三人はびっくりして後ろへ尻餅をつくが、運よく通路に伝わるほどには強くなく、すぐに弱まり引っ込んだ。

 

「アチチ……ホントに危なかった……んああっ!?」

 

「ドラえもんどうしたんだ!?」

 

「さっ、さっきので四次元ポケットが燃やされたーーっ!!」

 

「「何だってえぇぇっ!!?」」

 

先ほどの噴出した炎がドラえもんの腹部を通過したせいでポケットが焼失してしまった。これではもう、ひみつ道具が出せないではないか。

 

「ふ、ふざけんなよドラえもん!!なんで必要な時に限ってだせねんだよ!!」

 

「道具の出せないドラえもんなんてただのポンコツロボットじゃないか!!」

 

『触れてはいけないタブー』を口にしたスネ夫に対し、ドラえもんはついに……。

 

「も、もう一回いってみろ!!僕だって好きでこうやってるワケじゃないんだァァ!!」

 

涙目で顔を赤くしながら彼の服をグイグイ引っ張るドラえもん。それを止めようと必死なジャイアン。

 

またいつもの取っ組み合い、悪く言えば『子供のケンカ』をまた性懲りもなくしていると、

 

 

《アナタ達何やってるの!!!?》

 

馬鹿デカイ声女性の声が聞こえ、後ろに振り向くとエミリアとミルフィがこちらへ向かってきているではないか。

 

「エミリアさん!!?それにミルフィちゃん!!」

 

駆けつけると彼女は三人の頭にポコっと軽く叩いた。

 

「あなた達ねぇ……もう少し仲良く出来ないの!?」

 

「ホントにもう、今の状況わかっているのかしら!!」

 

エミリアのミルフィは呆れに呆れているが、

 

「だってスネ夫がぁ!!」

 

「ドラえもんの方こそ――っ!」

 

また揉め合う二人に、エミリアはついに……。

 

「いい加減にしなさい……さもないと本気で殴るわよ……」

 

「「ぴいっ!!」」

 

彼女のドスのきいた低い声と睨み付けるような鋭い瞳、眉間にシワを寄せたその顔は今まで見たことのない恐さを二人は一気に畏縮した。

 

「エミリアさん……大丈夫なんですか?」

 

ジャイアンの気遣いにエミリアは先ほどの恐い表情から一気に恥ずかし混じりの笑みを浮かべた。

 

「……ごめんね。あたしがしっかりしないといけないのにね……けどもう大丈夫、一刻も早くあの子達を追跡しましょう」

 

「ドラちゃんの道具を使おうヨ!!」

 

「それが……」

 

……二人に先ほどあったことを話すと仰天した。

 

「なんですって……ならもうドラちゃんの道具が……」

 

ドラえもんはシュンと落ち込み、申し訳なさそうな表情をしている。

 

「過ぎたことはもうどうすることもできないけど……これじゃあ二人を探すのは絶望的だわ……」

 

この艦内の通路、構造を理解していない自分等にとって、今いる場所は未知の領域である。

 

「エミリアさん達、よく僕たちのいるトコ分かりましたよね?」

 

「……実ははぐれた時のことを考えて、密かに三人の服に発信器をつけておいたの。ミクロサイズの特殊品だから今は取れないけどね」

 

準備のいい彼女に三人は本当に感心している。

 

「今はそれよりどうにかしてあの子達の居場所を突き止めないと……」

 

「そうね。今の艦内状況見るとこの艦も下手したら崩壊するかもしれない。それまでに最低、あの子達を発見して脱出しないとそれこそ任務失敗を意味するヨ」

 

悩んでいる中、ドラえもんは地面に散らばっている、先ほど出した道具を漁り出した。

 

「とりあえずあるにはあるけど……この状況で役に立つモノは……『たずね人ステッキ』ぐらいだな……けどこれで何とか基盤はできる!」

 

不幸中の幸いか、『たずね人ステッキ』があったおかげで二人を探す可能性を生まれた。

 

――そして5人はまた集結し、互いに見つめ合う。

 

「みんな、ここから本当の執念場よ。まさに時間勝負になるわ」

 

「全ての頼りはドラちゃんの残り少ない道具。みんな持てる知恵を振り絞って行動ヨ!」

 

三人は頷いた。

 

「ホントにキツい現状だけど、やるしかないんだ。せっかく会えたのにここまできてのび太君としずかちゃんが死ぬなんてそんなのイヤだしね」

 

「ああっ!」

 

「だね!」

 

「なら行くわよ。所々爆発が起きてるから常に自分の周りを意識し警戒して。あたしもカバーしきれないからここからは自分の身は自分で守ること、分かった?」

 

「了解!」

 

「「「分かりました!!」」」

 

改めて5人の決意を固くひとつにし、二人の発見を信じ、長い通路を走っていった。

 

◆ ◆ ◆

 

――そしてのび太としずかの二人もラクリーマを追って走り続けていた。ドラえもん達とは違い、ここの内部構造はよく知っているため今、どこにいるかはわかっていた。

 

「ラクリーマ……どこに行っちゃったんだろ……」

 

のび太達は彼を本当に助けたい気持ちでいっぱいであった。それがのび太にとっては恩返しの為に、しずかにとってはユノンが死に間際、彼女に託した願いを果たす為に、一刻も早くラクリーマの元へ辿り着きたい、そう思っていた、いやそれしか考えられなかった。

 

「のび太さん、ラクリーマさんが行きそうな場所わかる?」

 

「ラクリーマの……行きそうな場所……」

 

二人は考える。あののび太も今は真剣に考えてる。彼らが今まで行ったエクセレクター艦内のエリア、ルーム、場所全てを記憶から引きずり出す。休憩広場、司令室、食堂、訓練エリア……等思い浮かぶが、二人の一番気にかかる場所が一つ共通した。それを互いに言うと違うことなく一致したのであった。

 

「――行ってみよう!!しずかちゃん!!」

 

「ええっ!!」

 

二人はそこに彼がいることに希望を求め、駆けていった。二人の共通した場所とは一体……?

 

◆ ◆ ◆

 

「…………」

 

そしてラクリーマはプラントルームのベンチのある中央広場にいた。彼にとっては色々と思入れのある場所……。

 

最初の彼女ランが育てた花の育成場所であり、そしてユノンと愛を誓い合った場所である。

 

しかしここも爆発の被害にあい、水の蒸留装置が壊れ、今や済んだ空気が煙に包まれて完全に汚染、それが原因でデリケートな花や植物は早速枯れはじめていたのであった。

 

それを光景を目にしたラクリーマをさらに絶望へと追い込む。

 

 

(ラン……俺のせいか……俺のせいでこうなったのか……本当にすまねえな、あの世にいったら謝らねえとな……せっかくお前の育てたお前の大切な物を……)

 

もはやプラントルームとも呼べないこの室内でも今は彼にとって、全てを失ったと思い込む彼が寄りすがれる唯一の場所であったのだから……。

 

「ぐ……ぐえぇっ!!」

 

強烈の吐き気に襲われ、その場にうずくまる。髪の毛も少しずつパラパラ落ち始め、ぼさついてた大量の髪がもう短髪になりかけていた。

 

口を押さえた手には血がべっとりとついているのを確認すると、タイツで拭った。

全身倦怠感、吐き気が今なおも治まらず額を押さえて疲労困憊のように激しく息を乱し、内臓痙攣が起こる放射能障害に冒された身体、無理をし過ぎたせいで内臓や筋肉、骨格がボロボロであり痛感神経をもろに刺激、息をするだけでも苦痛である身体を無理矢理我慢してのそっと立ち上がる。

こんな状態になってもまだ立っていられるとは……よほどの精神力がないと無理である。

 

だが彼は――死ぬのはもはや時間の問題であると悟った。

 

その時、入口ドアが開く機械音が聞こえ、すぐに茂みに入り、息を殺す。

 

(連邦野郎か……こうなったら俺の命尽きるまでぶち殺し続けてやらぁ……)

 

彼はドラえもん達と対峙した時のように再び闘争本能、殺戮本能を燃え上がらせた。が……。

 

「ラクリーマ、いる!?」

 

「ラクリーマさん!!お願い、いたら返事してぇぇ!!」

 

プラントルームに響く聞きなれた子供の男、女の声。 そう、のび太としずかであった。

 

(あいつら……何しにきやがった!?のび太には俺のことを忘れろといったハズだろ!?)

 

瞬間、彼の表情が一変、がく然となる。彼の思いに反して、二人はここに向かって来ていた。

 

「しずかちゃん、中央のベンチの所に行ってみよ!!」

 

「そうねっ!」

 

段々と近づいてくる彼らについに苛立ちが募らせた。

 

(てめえら……そんなに俺に殺されてえのか……よお!!)

 

……そして二人は中央広場に着くとそこには……。

 

「ああ、ラクリーマ……」

 

「ラクリーマさん……」

 

広場の中央に設置してあるベンチには彼がいた。しかし彼らに背を向けて無反応であったが。

 

「……てめえら……何しにここに来やがった?」

 

彼の口調には『怒』がすごく混もっていた。

 

「僕達は……ラクリーマに……何か恩返しがしたくて……」

 

「……恩返しだと?」

 

「あたし達、ラクリーマさんの辛そうな顔をしているのを見て……何か助けになれたらなって……」

 

《何馬鹿げたこといいさらすんじゃボケェ!!》

 

彼の凄まじい怒号が二人を威圧、畏怖させた。

 

「仮にも俺は殺戮と破壊することしか考えてない救いようのねえ悪人だぜ?そんな俺に助けになりたいとはな……お前ら、ここまでアマちゃんのお人好しだったとは思わなかったぜ……現にお前らがここに来たのも俺に殺されにきたのかと思ったぜ!」

 

ラクリーマは振り向くとその殺意の沸いたオーラを放ちながらで二人を睨む。

 

「大体のび太、お前に言ったよな?俺のことを忘れろと。どいつもこいつも……俺の言う通りにしてりゃあ後腐れなく、安全に済んだものを……本当に不愉快だ……っ」

 

「「…………」」

 

「俺が全て背負って犠牲になって、あいつらが大人しくしとけばそれで何もかも穏便に済んだんだ!

それなのにレクシーといい、ユノンといい、俺に関わった人間はすぐ何かしら俺に生きろとほざいて……頼んでもねえのに俺の身代わりになって自ら命を捨てやがる、全くくだらなすぎてヘドが出そうだぜ!!」

 

自暴自棄すぎる言葉に二人は震えて涙を浮かべた。

 

「ひ、酷すぎる……ラクリーマ、それはあんまりすぎるよ!!」

 

「そうよ!!レクシーさんやユノンさん達、今まで死んでいった仲間の人達はラクリーマさんをすごく信用してたからこそあんな行動とったのよ!でなきゃ、命を自ら捨てる行動なんかとらないわ!」

 

その言葉にラクリーマはほくそ笑むような態度をとった。

 

「なら俺だってな、お前らに本音ぶちまけてやんよお!本当は俺はリーダーなんぞやりたくなかった!」

 

「なっ……何だってぇ……?」

 

「……ただ好き勝手に暴れまくって、誰であろうと片っ端から殺しまくって……気に入った女を犯しまくって……死ぬときは戦って死ねればそれが俺の本望だ!

だがな、組織のリーダーになった以上はそんな考えをもってると組織自体を破滅に追い込む。こんな自分勝手な俺が人の上に立とうなんざあり得ねえのは誰からの目から見ても一目瞭然なんじゃあ!」

 

彼の募りに募った気持ちを知り、かける言葉が出なくなる。しかし彼は震えていた。

 

「……だが、あの馬鹿共はそんな俺を慕ってきやがった、ついてきやがった!そしてこんな俺の為に命を捨てやがった!そんなどうしようもないあの馬鹿共でも――」

 

 

《あいつらの命は俺の命そのものなんだよ!!!》

 

 

彼の今言ったことはまさしく本心であると確信した。彼は仲間という存在を心から大事にしていたことがよく分かる。

 

「けっ、もう今さらそんなことはどうだっていい!!こんな状況になって俺には何もない、後戻りすらできねえんだよ、なら――」

 

《もうキサンらも直々に殺してくれるわーーっ!!》

 

 

だが完全に血が上り、錯乱したラクリーマに何を言っても無駄であった。

 

「ラクリーマ!?」

 

彼はのび太に突っ込み、その勢いに乗って彼の頬に全力の裏拳を放った。当然、その唐突さに避けることなど出来ずにまともに受け、横へはじき飛ばされ、地面に転がり倒れた……。

 

「のび太さぁん!!!」

 

のび太はピクピク動くだけで全く起きようとしない。しかしラクリーマはそんな彼に向けて右手の指関節をバキバキ鳴らす。

 

「ククク……のび太、今すぐ楽にしてやるから安心しな!!」

 

その顔は戦闘訓練で見せた時のように悪鬼羅刹であり、彼の前に立つ者全て、敵と判断してしまっていた。

トドメを刺そうとのび太の元へ向かおうとするラクリーマにしずかは大粒の涙を浮かべ、彼の足へ飛び込み必死にしがみついた。

 

「ラクリーマさん、ダメ!!のび太さんを殺さないで!!」

 

彼女の必死の説得に解せず、今度はしずかへその狂った視線を向けた。

 

「しずか、最初出会った時にお前を殺しておけばよかったよ。こんなことになるんならなァァァァ!!」

 

「ひいっっ!!」

 

なんとしずかの縛った髪を乱暴に掴むと左手甲から鉤爪を出し、それをゆっくりと彼女の顔面に突き刺すように構える。

 

「のび太はしばらく起きやせん。てめえをぶっ殺した後、あいつも血祭りにしてやらぁ!!」

 

「ああ……ラクリーマさん……ユノンさんが……ユノンさんがあなたに……」

 

「もうユノンなんぞどうでもいい、もう喋れないようにしてやらぁ!」

 

馬耳東風となり暴走するラクリーマ。そんな中、倒れていたのび太が悶絶しながらもゆっくりと起きた。

頬が真っ赤に腫れ、眼鏡を吹き飛ばされたが幸いにも近くにあったので震える手で手探りで探し当て、着けた。

 

「しずかちゃん……しずかちゃん!!?」

 

今にもラクリーマの手に掛けられようとしている彼女の姿に慌てふためく。

 

「ラクリーマ!!しずかちゃんに手を出すと許さないぞ!!」

 

だがラクリーマはもう彼女を殺すことにしか目に見えてない。彼は凄く焦り散らしていると、

 

『カチャ……』

 

後ろのポケットから何かが床に落ちた。それは拳銃である。これは銀河連邦との開戦前、ラクリーマがこれでしずかを守れと渡された拳銃であり、彼はそれを短パンの後ろポケットに突っ込んでいたのを忘れていた。

 

それを見たのび太は突然、ある究極の選択肢を迫られることになった。

 

 

(僕は……ラクリーマを……撃てるのか……)

 

 

これを使えばしずかを助けられるかもしれない、この近距離から撃てば彼の射撃の腕なら確実にラクリーマに命中させることができる。だが、それは下手をすれば殺しかねないし、良くてもケガは免れない。彼を助けるどころか返って苦痛を増やしてしまうことになるのだ。

 

二つに一つ、しかしもはやそんな時間などない、早くしなけばしずかが……けどラクリーマを助けたいのにこれでは……と、のび太の心を深く抉ろうとする選択であった。

 

 

(どうすればいいの!?誰か……誰か教えてよ!!)

 

 

彼は心の中で必死にそう叫んだその時、

 

 

(……気にしないで撃って!)

 

 

どこからか声がした。それは女性の声であるがその主はユノンではなく、明るめの甲高い声質であった。

 

(えっ、だっ誰なの!!)

 

(そんなことより早く拾って撃ちな!でないとあの子がラクリーマに殺されるんだよ!)

 

(けどそれじゃあラクリーマが!!)

 

(あの子だけじゃない、ラクリーマ自身にも本当に取り返しのつかないことになるんだよ!!二人を救えるのはあんただけよ、早く銃を構えて!)

 

(けどどうやって!!)

 

(あいつの左腕に弱点があるからあたしがそこに照準を合わせてあげる!!そこを狙えばあいつを一切傷つけることなく動きを止めれる。あんたは引金を引くだけでいい、早くして!)

 

のび太はその声の言う通りに銃を拾い、ラクリーマに向けるとなんと銃口が彼の意思と関係なく左腕の、肘部に露出する回路線へ向けたではないか。

 

 

(ラクリーマごめんね。あんたがこれ以上、一人でもがき苦しむのはわたし、もう堪えられないの。だから……あたしが苦しみから解き放ってあげる!)

 

 

一体この声の主は誰なのか知りたいが今はそんなことを思っている暇などなかった。

 

そしてラクリーマは左腕を引き、全力で鉤爪を押しだそうとしていた。彼女の顔にその鈍い銀色の爪を向けて……

 

「死ねえしずかああああああっっ!!」

 

「イヤああああっ!!」

 

刹那、一発の発砲音が鳴り響いたと共に、ラクリーマの動きは止まった。左腕がそのまま力を無くしたかのように落ち、彼自身もその場でガクガクになった。

 

「あぐあぁ……………っ」

 

横を見ると深く息を乱したのび太が今にも落としそうな銃口を自分に向けていた。

 

「の……のび太……?」

 

が、彼にのび太の後ろにいるはずもないある人物がのび太を支えている姿がはっきりと見えた。のび太より少し身長が高く、左右には金色の翼を高らかに広げ、その顔は幼い顔立ちで金髪のパーマが似合う女の子のようであり、ラクリーマ自身が何よりも知る人物であった。

 

(ラン……?お前か!!?)

 

それはラクリーマの最初に愛した女性、ランであった。しかし彼女は何も言わず、彼を見つめる。それも……。

 

(なんでだよ……なんでそんなに今にも泣きそうな顔するんだよ……なんで俺を憐むような表情するんだよ……俺は……お前らのために身体をボロボロにしてでも頑張ってきたのに……なんでだよ……?)

 

しかし彼もすぐに現実に戻されることになった。

 

「うう……ひくっ……っ」

 

「し……しずか?」

 

前を見るとしずかが泣いていた。しかも自分の右手には彼女の髪を今にも引き抜きそうなほどに強く掴んでいた。

やって正気を取り戻したラクリーマは次第に自分をしようとしたことに気づき、顔面が一気に蒼白と化した。

 

「お……俺は……なんて……ことを……っ」

 

ラクリーマはついに力無くして、その場で倒れこんでしまった……。そのまましばらく互いに言葉すら出ずに沈黙が続くも、のび太はすぐに立ち上がりしずかの元へ向かった。

 

「しずかちゃん、大丈夫!?」

 

「のび太さん……ああ、のび太さん!!」

 

互いに無事を喜び、抱き合うがそれもすぐにある方向へ視線を向けた。

 

「ラクリーマさん大丈夫!?」

 

「うぐぅ……」

 

彼らのそばで倒れ伏せている彼だが、うめき声を上げていることから何とか意識はあるようだ。二人は急いで彼を起そうとしたが振りほどかれた。

 

「やっ、やめろ!!俺はお前らに助けられる資格なんかねえ!!」

 

「な、何を言って……」

 

「俺は……お前らを地球に送り返すと言ったのに……逆に殺そうとしてしまった……俺は……俺はぁ……最低のクズ野郎だぁ!!」

 

顔を上げず、自分自身を貶すその様子はいつも彼からは想像できないことであった。

 

「……殺せよ。お前の持ってるその銃で今すぐ俺を殺してくれ!!」

 

「ラクリーマ……なんで……そんなこと言うの!?意味が分からないよ!!」

 

「殺せっていってんだよ!!俺はお前らを本気で殺ろうとしたんだ、お前らにしちゃあ正当防衛だろうが!!」

 

「ラクリーマさん……」

 

「頼むよ……もう……俺は生きていること自体が苦痛だ……お前らが俺を助けたいと言ってたがそれが今の俺の救いだ……」

 

彼はもう身体的にも精神的にも朽ちていた。しかしだからと言って、「殺せ」と言われても二人の性格からして到底不可能な行動であり、願いでもあった。そんな二人に見かねたラクリーマは……。

 

「……だよな。お前らのようなアマチャンにはそんなこと出来るわけねえよな。なら仕方がねえ……」

 

ラクリーマは突然、のび太の持っていた拳銃を奪い取り、それを自ら自分の頭に押し当てた。

 

「「うわあああああっ(キャアアアアアっ)!!!!!!?」」

 

二人は狼狽するも彼は一向にやめる気配などなかった。

 

「……今まで自分の全てをなげうってまでアマリーリスを、あいつらのために尽くしたのに……それが何の意味もなかった……俺のやり方が全て間違ってたんだ……」

 

「「………………」」

 

「ククク……全くよぉ、ホントに笑い話にもなんねえよな。俺が良かれと思ってやったことが仲間からしたらそれが返って迷惑だったとはな……それじゃあアマリーリスが壊滅するワケだ……」

 

ラクリーマはついに指を引き金にかけた。

 

「だがこれで全てが終わるんだぁ!!」

 

引き金を引く瞬間、のび太、しずかの二人の力で拳銃を力ずくで逸らした直後拳銃から弾丸が発射され、樹を貫通した。

 

「キサンらなにしやがんだァァァァ!!」

 

二人は銃を撃たせないように持てる力で銃を地面に擦り付けていた。

 

「僕は……ラクリーマに死んで欲しくない。僕からしたら最高のお兄ちゃんだから……これからも仲良しでいたいから……」

 

「あたしもよラクリーマさん。あなたほど、ここまで仲間を大切にする人はいないと思うわ。けどあなたは何から何まで自分で抱えこもうとしてたのがいけなかったのよ……」

 

「しずか……」

 

「……ユノンさんがね、死ぬ前にあたしへこう頼んだの。

 

『これ以上ラクリーマさんを追い詰めないであげて、どうか救ってあげて』って……。

 

ユノンさん、レクシーさん達アマリーリスの人達はあなたの苦労を分かっていたからこそ、あなたをこれ以上、苦しませないために自ら命を張ったと思うの……」

 

「なんだと………?」

 

「……それでレクシーさん達だけでなく、ユノンさんまでもが……けどラクリーマさん、どうかあなたまで死のうとしないで、お願い……」

 

しずかは涙声で彼に嘆願した。

 

「僕からもお願い、もう自分を強く責めないでよ……」

 

「のび太…………」

 

「ラクリーマらしくないよ。そんな辛そうな顔してたら僕らまで悲しくなるからいつもみたいに明るい顔をしてよ……」

 

「…………」

 

「大丈夫、僕らはラクリーマを守ってあげる。ねえ、しずかちゃん!」

 

「ええっ、あたし達はずっとあなたの味方よ!!」

 

二人の純粋なまでの優しさと励ましを受けた彼についに変化が……。

 

 

「う……うう………うう……っ」

 

 

彼の赤い瞳から大粒の涙が溢れ、ポタポタと流れて出ている……彼は泣いていた。二人は彼を包み込むような優しく触れた――。

 

「ラクリーマ……辛かったら泣いていいんだよ。今は僕ら以外は誰もいないからいっぱい泣いて楽になろうっ」

 

「うう……うわあああああ……ァァァァ………」

 

あのラクリーマが大声を出して泣いた。まるで子供のように……。

 

「ラクリーマ……」

 

「死んじまった……レクシー達だけじゃなく……ユノンまで…………みんな……みんな……俺からいなくなっちまう……一人ぼっちにされちまった……」

 

彼からの悲痛の本音。のび太としずかはその変えようのない現実に涙がこみあがったが抑えた。

 

「ラクリーマ……本当に辛かったんだね。けど僕達がいるから安心して……」

 

「あたし達が……あなたの一生の友達になるわ!」

 

そう彼を元気づけ、励ます二人。思えばあの男、エルネスの死から始まった悲劇。

 

彼の託した『仲間を大事にしろ』という遺志は、常に全力投球する彼がそれを真に受けてしまった結果がこの結末となってしまった。彼はそれほどまでに『純粋』すぎたのである。

 

アマリーリスという極悪人の大人数で成り立つ宇宙海賊の総リーダーとしての責任感と重圧、そしてエルネスの遺志を全てを背負い、数々の葛藤や想像を絶するほどの苦難に苛まれながらもめげずに最後まで熱く、全力でここまで頑張ってきたラクリーマというこの男は極悪人ではあるが、実は誰よりも本当の意味で優しすぎた男だったのかもしれない……。



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Part.58 脱出

「のび太君、しずかちゃん!!」

 

入口ドアが開き、複数の駆け足音と共に息を切らしながらプラントルームにかけつけてきたドラえもん達五人。あの『たずね人ステッキ』の道標が見事、的中したようである。

 

「ドラえもん、スネ夫、ジャイアン……と、この人達……誰?」

 

「もう心配したんだか……うわああっ!!」

 

彼らはそこにラクリーマがいるのに今気づき、顔を引きつかせた。

 

「大丈夫だよ、もう落ち着いてるから、ねえラクリーマ?」

 

彼は目を瞑り、クスッと笑う。

 

「全くお前らはよぉ……だが、いいダチを持ったな」

 

誉められて嬉しくなり顔を赤くするのび太としずか。そんなやり取りにキョトンとしている三人。

 

そんな中、エミリアは近くに落ちていた拳銃を拾い上げると眉間にシワを酷く寄せ、歯ぎしりを立てながら拳銃をラクリーマの頭に突きつけている……この銃のグリップには黒い手の跡が。しずかが持ってきたユノンの遺品である拳銃だ。

 

「……やっと、ここでケリがつけれそうねぇ……」

 

「エミリア!!」

 

彼女は今ここで思いを遂げようとしている。

しかし、それでは提督の命令に背くと同時に彼女の積み重ねてきた栄光を全て消すことになってしまうが……。

 

ドラえもん、ジャイアン、スネ夫、ミルフィの四人に緊張が走る中、のび太としずかはラクリーマの前に立ち、庇うかのように手を広げた。

 

「撃たないで!もし撃つなら……代わりに僕を撃って!」

 

「のび太、何をいってんだよ!?」

 

のび太の発言に仰天する三人だが、

 

「あたしものび太さんと同じよ。この人の代わりにあたしが!」

 

しずかも負けじに言い張る。しかし、エミリアは彼らに困惑しているのかさらに顔を歪める。

 

「二人とも、すぐにどきなさい。この男は庇う価値すらない悪人……それほど今までに数えきれない人々に恐怖と不幸のドン底へ叩き落としてきた極悪の人間なのよ!」

 

「だからって殺していいわけじゃないよ!!お願い、どうかラクリーマを殺さないで!」

 

「あなた達の間に何があったか知らないけど……なんであなた達がそこまでこいつを庇おうとするのか私には全く理解できないわ。

見たでしょ、こいつは反省の色もなければ改心する気持ちがこれっぽっちもないのよ!」

 

「それでも、命は命でしょ!そんなむやみに殺したらあなたも同じじゃない!」

 

「…………」

 

……そんなやり取りにラクリーマはついに動き出した。

 

「二人とも、悪党を庇うようなカッコワリイことすんな」

 

「ええっ!?ラクリーマだめだよ!!」

 

二人を強引に押し退け、エミリアの前に出る。

 

「確かに、俺は改心する気がこれっぽっちもねえんだわ。俺は悪行が死ぬほど好きだからな、今さらよい子ちゃんになるより俺はこっちのほうがずっといい」

 

「ラクリーマさん……」

 

「それに俺はどのみち、このまま捕まっても死刑、よくても終身刑は免れねえよ。俺は待つのが好かないんでな、今すぐ殺ってくれたほうが退屈しなくて済みそうだ」

 

その時のラクリーマは本当に清んだ顔をしていた。

 

「お前らに教えておくぜ。生き物全てはいつかは死ぬんだ。

明日には我が身かもしんねえ、ならそれまでどの道転ぼうとも自分の思うようにやればそれでいいと思うぜ。

俺は如何運が悪かったから、ここが俺の『終着点』だ。だが俺は悔いはない、それは最後の最後でお前らに助けられたからな……本当にありがとよ、のび太、しずか」

 

「「ラクリーマ(さん)……」」

 

彼らはもうどうしようもないことをラクリーマの言葉で知る。そして――ラクリーマはエミリアに向けてこう言った。

 

「やっとその気になったか。さあ、殺りたいなら殺りやがれ。

これでお前の苦労も報われるぞ、それとも……また『撃てません』と泣きつく負け犬になるのか?」

 

「…………」

 

拳銃を持つ彼女の腕はブルブルと震えている。

 

《殺れえぇぇーーっ!!》

 

……瞬間、発砲音が数発響いた。その後の静けさ、十数秒だけ続いた。しかし、

 

「え………っ?」

 

エミリアの銃口は真上に向いていた。そしてラクリーマは倒れるどころか怪我一つもついていなかったのだ――。

 

「あたしはあんたを絶対に許さない、一生憎んでやる。本当なら今すぐにでも殺したいくらいに……。

だけど、どうやらあんたみたいな奴でも死んだら悲しむ子達がいるみたいだし……」

 

彼女はのび太達を見つめると一呼吸置き、静かに銃を床に置いた。

 

「それにあんたはもの凄く死にたがりのようだから、このまま殺してもあんたのご都合だし、かえってあたしが大損だわ。

……決めたわ、あたしはたとえ一人だけになろうと裁判であんたを弁護してやる。絶対に死刑になんぞさせやしない、させるものか。命という重みを……一生かけて無理矢理にでも教育してやる!!」

 

その断固たる宣言に彼は微笑した。

 

「くくくっ……馬鹿なこと考えやがって……いいのかそれで?俺には拷問しようが何しようが何の効果もないぜ?いくら何でもお前一人だけでするつもりか?」

 

「そこは提督や色んな人が理解してくれて協力してくれると思うわ。あたしがそうなるようたくさん努力する、それでもだめならさらに努力するわ。

絶対にそのねじ曲がった性根、叩き直してやるんだから。ふふ、改心した時のあんたが生涯一番の見物ね」

 

「あ~あっ、やっと死ねると思ったのによ……まあ、無理だと思うがせいぜい頑張れや」

 

……和解とまではいかないが状況が本当の意味で落ち着き、全員が安堵した。

 

「……考えたら、宇宙旅行に行きたいと言い出したのが全ての始まりだよな……」

 

「う……っ」

 

「まあ、結果的に未知の宇宙にいけたからいいんじゃないかな?ははっ……」

 

ドラえもん達は今までの経緯を思い出し、ここまでの苦労を感傷に浸っていた。

 

(死んでいった仲間よ、お前らんとこに行くのがどうやら先延ばしになったようだわ。

特にユノンにはいっぱい甘えさせてやりたかったとこだが……、まああいつらもいるし大人しく待っとけや)

 

ラクリーマは見上げて想いを送っていた。天の光となった彼らに……。

 

「上がどうかしたの?」

 

のび太はそんな彼を不思議そうに見つめていた。

 

「お前らとは別の形で会いたかったぜ」

 

「?」

 

――だがその矢先恐れていた通り、艦内は一気に激震した。大爆発が次々に起こり、内部が次々に崩壊されていく。

ブリッジにいたカーマイン率いる連邦隊員その震動と崩壊に翻弄されていた。

 

「総員、すぐにこの艦から脱出せよ!崩壊するのは時間の問題だ!」

 

隊員達はすぐに自分達の乗ってきた機体の待機位置へ走っていくが、カーマイン、コモドス、クーリッジらは一向に戻らないエミリアとミルフィ、そして地球人の子供達の安否が心配でならなかった。

 

(エミリア、何してんだ!!早くしないとこの艦が爆発するんだぞ!!)

 

(ミルフィ、早く戻ってきてくれ!!死んでしまうぞ!!)

 

彼らはただそれだけを思っていた……そしてドラえもん達のいるプラントルームも同じく緊張が走っていた。

 

「エクセレクターが……この艦が崩壊する……」

 

「何だって!!?」

 

「ママ~~ぁっ!!こんなとこで死にたくなぁい!!」

 

案の定、パニックに陥るドラえもん達。エミリアとミルフィも挙動不審のように辺りを絶えず見回していた。

 

「一刻も早く戻って提督達と合流しましょう!」

 

「その方がいいわね!!」

 

しかしラクリーマは信じられないような顔をした。

 

「バカかお前ら!?いつこの艦が全崩壊するか分からんのに今さらブリッジに戻るとか自殺行為だ。

もう恐らくテレポーターは使えないだろう。それならここから最短の格納庫にある脱出ポッドに乗った方が安全だ!」

 

「……言われてみれば確かにそうね。未だに通信機の調子悪いしあちらがどんな行動してるか分からない……提督達はもしかしたら脱出準備に移行しているかもしれないし……」

 

「それに戻る途中で爆発に巻き込まれでもしたら……」

 

彼の提案に全員がうんと頷いた。今は一刻も早く且つ、安全に脱出したほうが妥当である。そう彼は立ち上がると真剣な眼差しで全員を見る。

 

「俺についてこい、格納庫の脱出ポッドは詰めれても五人しか乗れないが数だけは沢山あるから俺と女、着いたら操作方法を教える。そこから二機に分かれて脱出だ。

早く行かねえと下手したらこの艦の空気が外に吸いだされて俺は大丈夫だがお前らは窒息するぞ」

 

しかしエミリアは彼に対し猜疑心丸出しの目をしている。

 

「あんたのその言葉……信じていいわけ?」

 

「信じるか信じないかはお前の勝手だが、俺は脱出ポッドに向かう。信用できないならこの艦内を死ぬまでさまよえばいい」

 

彼女は拳をギュッと握りしめ、コクッと頷いた。

 

「なら行きましょう、全員が無事脱出できるよう、みんなで協力よ」

 

そして全員がプラントルームから出ていこうとした刹那であったーー。

 

「ぐっ……ぐぐっ……」

 

ラクリーマが突然、うめき声を上げてその場に口をグッと押さえて膝をついた。

 

「ラクリーマ……?ラクリーマァァ!!!」

 

「どうしたの!?」

 

彼の異様なうなり声を聞きつけ、全員が彼の元へ向かった。

 

「ラクリーマ大丈夫!?」

 

「ぐえっ、のび太、俺に近づくな……」

 

今の彼は明らかに異常だ。先ほどの穏やかな顔から一転、顔面蒼白であり、寒いのか身体を震わせている。冷や汗も大量の流れ出ていてこれはどうみても『正常』ではない。

 

「ぐゲェェェっっ!!!がはっ!!がはっ……!!」

 

大量の吐瀉物、いや、大量の血が押さえている手を決壊させ、溢れ落ち、手を放すとおびただしいほどの血と共にぐらぐらであった歯が数本、その根ごと取れて撒き散らした。彼の異常に全員が絶句した。一体何が起こったのかと。

 

「ああっ……うああ……」

 

「なんて……こと……」

 

するとエミリアは急いで弾帯から何やらトランシーバーのような長方形状のデバイスを彼の身体に接触させた。

 

「エミリアさん、これは!?」

 

「これは触れた人の身体状態を調べる物よ。これで今、身体で何が起こっているのか解るわ!」

 

苦しそうにうなだれるラクリーマ。こんなに多く血を吐くなんてことはただ事ではない。

すぐにデバイスを離し、その小さな画面に映し出された内容を確認すると、瞬間に彼女の顔も青ざめたのであった。

 

「あ……あっ…あんた……一体……何をしたらそんな身体になるの……?」

 

「えっ、そんなに酷いんですか!?」

 

彼女は恐怖のあまり唾を飲み込む。そしてその口から放たれた言葉とは……。

 

「もう……酷いってレベルじゃないわ。身体中がもうメチャクチャ……一番ひどいのは、症状は重度の放射線障害……、それに加えて肋骨数ヶ所が完全に折れて近くの内臓を酷く傷つけてる……はっきり言って、今生きてるのがおかしいくらいだわ!」

 

その内容に全員、特にのび太としずかは絶望した。

 

「放射線……障害って……?」

 

「……被曝したってことよ。あなた達に分かりやすく言えば放射線をたくさん浴びてもう……助からないかもしれない……」

 

被曝……地球でもよくある原発の事故、核兵器による破壊の次に襲いかかる放射能による恐ろしい二次被害。身体を蝕み、ボロボロにし、そして苦しませて死に至らしめるという悪魔の産物である。

 

「……まさか……メレウル班長が使用した核弾頭……」

 

「お前らが放った核の爆心域……爆発直後に通ってきたからな。どうやらモロに放射線を喰らったらしい……」

 

そしてエミリアはふとあることに気づいてしまった。

 

「じゃあ、まさか……あんたはさっき、そんな酷い状態であたしやドラちゃん達と戦ったってこと!?」

 

ドラえもん、ジャイアン、スネ夫もその意味に気づき唖然となった。対峙の際、エミリアと互角に見えたのは彼がそこまで弱っていたからである。

 

「あんた本当にバカじゃないの!!なんでそこまでして自分の身体を!?」

 

「……俺には勝つか負けるかしかないから俺の身体状態などどうでもよかった。俺は勝つためならたとえ死んでも勝つ」

 

「そういう考えがバカだって言うの!仮にも両親から授かった大切な身体と命でしょ!?」

 

「けっ、俺は物心ついた時から天涯孤独の身。親なんぞまったく知らねえよ」

 

ラクリーマから放たれたその事実にそのいる全員の心が抉られた。

 

「第一、『ラクリーマ・ベイバルグ』って名前は俺を拾ってくれた前任のボスがつけてくれた名前だ。本当の名前なぞ俺は知らねえんだよ」

 

「名前を知らないって……あんた、どこの惑星出身なのよ……?」

 

「お前がそんなこと知ってどうすんだ……!?」

 

「答えなさいよ!!そんなに答えづらいことなの!?」

 

出身を答えるだけなのに言い渋るラクリーマだが……。

 

「……セクターαにある、惑星トラシュだ」

 

「トラシュ……ですって……」

 

「ウソでしょ……」

 

エミリアとミルフィは耳を疑った。

 

「二人共、何か知ってるんですか!?」

 

彼女達もラクリーマと同じく言い渋っている。気を落ち着かせるように一呼吸置き、その口を開いた。

 

「……その昔にかなり高度な文明があったけど最終的に強力な細菌兵器による全面戦争によって完全に崩壊、その劣悪した惑星環境と凶暴で野蛮な種族ばかりが蔓延り、ついには保護不可能と断定されて銀河連邦からも見放された惑星よ……そこ出身だったの……?」

 

「けっ、何が見放しただ。『見捨てた』の間違いじゃねえのか?」

 

「「…………」」

 

「まあ、別に恨み事をいう気はないぜ。この世の地獄のような地で生きてきたからこそ今の俺があるからな、逆に感謝してるぜ……」

 

「けど……確かあの惑星は10年ほど前に大量の小惑星が激突したって話よ。もう生き物全てが全滅、住めない死の星と化したハズ……」

 

その情報を知ったラクリーマはフッと笑った。

 

「そうか。ついにあの星もおっ死んじまったか。あの星から出たのが約13年前だから少なくとも俺はトラシュの奴らより運がいいな」

 

「13年前って……あんた何歳なの?」

 

「そんなの数えたことねえしわかんねえよ。だが……もう二十歳いくかいかないかぐらいだろうよ」

 

「二十歳ですって!?あたしより8歳若いじゃないの!じゃあ、あたしの惑星を襲った時はまだ……17歳くらいの時ってこと!?」

 

……この男はなんとエミリアより幾分若くのび太達と大して歳は離れてなかった。

地球人なら成人になったばかりの彼は名が知れる程の極悪人になり、悪の組織『アマリーリス』の頂点に立つ男であったのだ。そして全員が多大なショックと共に疑問が生まれた。

 

『今までどんな環境で育ってきたのか』と。

 

「へっ、考えてみりゃあ物心ついた時から本当に凄まじかったな。毎日が食べ物や物資の奪い合い、殺し合いで、生き延びるために人間の血肉を貪ってたっけな。

ガキん時からの興味も『どうやったら相手を簡単に殺せるか』だもんな。

俺がのび太、しずかに言った『お前らとは根本的に考えが違う』とはこのことなんだよ」

 

平和な世の中でごく普通に生まれ、ごく普通に育ってきたのび太達地球人、エミリア達とは違い、ラクリーマは小さい頃から常に死と隣り合わせで生き残るために、そして殺し合い、戦うためだけに生きてきた男。

 

そんな『人生』について価値観が全く違う彼らがこうやって出会ったのであった。

 

「……もうこんな話はもうやめて今すぐ脱出だ!早く行くぞ!」

 

彼は立ち上がるが完全に身体が弱りきっており、よろけて倒れてしまう。エミリア、のび太、しずかは慌てて彼に手を貸して支えた。

 

「ああっ!!もう動いたら死んじゃうよォ!」

 

「もう無理しないでラクリーマさん!!」

 

「あんた本当にもう顔からして今にも死にそうじゃない!!」

 

しかしラクリーマは救いの手を振りほどき、ふらふらながらもゆっくり立ち上がる。

 

「俺は……のび太としずかを地球へ送り帰すと約束した。

ここで死なすことは命を張ってでもさせねえ!何故なら――」

 

 

 

《こ の ア マ リ ー リ ス の 首 領 (ド ン) の つ と め だ か ら だ ァ ! ! !》

 

 

 

 

――たったそれだけであった。しかし彼の発言には聞くものを無理矢理にでも解らせる説得力というものがあった――。

 

「……行くぞ」

 

プラントルームから出ていく途中、ラクリーマは振り返り枯れ果てた植物を見つめる。

 

(あばよ……っ)

 

そしていつ事切れるか分からないほどに衰弱したラクリーマを頼りにドラえもん、スネ夫、ジャイアン、のび太、しずか、エミリア、ミルフィの集団は最寄りの格納庫を向かうべく計8人は長く果てしない通路を走っていった。もう崩壊の時が近く、通路自体がもう火災とひび割れが発生し、いつ潰れてもおかしくない状況だ。

 

「はあ……はあ……っ」

 

ラクリーマは息を切らしながらも必死で走った。その痩せこけ衰弱しきった顔、出血多量で最早焦点が合わない虚ろな瞳、今にも倒れて事切れてしまいそうな彼がここまで尽力する強靭な精神力はどこから生まれるのであろうか――。

 

「ぐあ……げぇえっ!!」

 

立ち止まりその場で少量だがまた吐血を始め、フラッと倒れそうになるラクリーマを全員が彼を必死で支えた。

しかし、彼は歯を食い縛り、足を踏ん張り、ゆっくりと前に前に進もうとする。

 

そんな彼をエミリアはもの悲しい眼で見つめた。

 

「なんで……なんであんたはここまで頑張れるの……。こんな男が……どうして人殺しとか侵略とか酷いこと出来るわけ……?」

 

理解し難い光景であった。幾多の惑星、その文明、そこに住む人々の命をまるで弄ぶかのように手をかけてきた悪党の親玉が今は自分達の脱出のために、いつ死んでもおかしくないような状態の身体を無理して奮闘してくれているのは一体何故か――。

 

「こ、こっちだ、このまままっすぐ行けば右側に格納庫があるぞ……」

 

脱出まであと少しという所まで来た。全員は一気に駆け出したが――。

 

「うわあ!!!!」

 

突然の不幸か、通路自体が轟音を上げて二分割に前後に分断。格納庫側にドラえもん、ジャイアン、スネ夫、エミリア、ミルフィ、その手前側はしずかと……。

 

「ぐう………………!!」

 

「だっ誰か助けてぇっ!!」

 

なんとラクリーマとのび太が通路の割れ目に落ちてしまった。が、下を見るとかろうじてのび太はラクリーマの義手に捕まり本人は右手ででっぱりに必死で掴んでぶら下がっているもいつ落ちても仕方がなかった。

 

「大変っ!!何か……何かないかしら!?」

 

「うわあああっ!!どうしよどうしよ~~っ!!」

 

「ドラえもん、何か助ける道具残ってないのか!?早くしないのび太達があ!」

 

「えっと……えっと……ど、どれも役に立たないぃぃっ!!」

 

ドラえもん側はのび太をどう助けるか苦悩していた。それはしずかも同様であった。この状況にどうすることもできず、あたふたするばかりだ。

 

「ラクリーマさんとのび太さんがァ!ど、どうすればいいの!?」

 

そしてラクリーマとのび太は……。

 

「のび太、絶対に下を見るな、絶対に手を離すなよ!」

 

ブラティストームに必死に捕まり、今にも落ちそうになり怯えるのび太に彼は勇気づける。

 

「のび太、俺の背中まで上ってこれるか!?」

 

しかし彼は怯えて目を瞑ってそれどころではないことが分かる。そこでラクリーマは取り外しできる義手を利用し、上腕部を外して自律回路を起動、ぐるって左腕を無理やり後ろに回して背中までのび太を引き上げた。

 

「のび太、早く俺の背中に掴まれ!」

 

「ら、ラクリーマ……!」

 

「早く掴まれ!」

 

のび太は言われた通りにラクリーマの背中におんぶするように抱き掴まったーー。

 

「し、心配するなよのび太……必ず助けてやるからな……!」

 

左腕を元に戻して今度は左手も近くの出っ張りに掴まり、後はそのまま力ずくで上がってくるだけだーーが、それが出来なかった。

普段の彼ならのび太をおぶって上がってくるのは正直容易い。しかし今の彼は衰弱しきって気力だけで持っている状態。上がってこれるだけの力はもはやなかった……。

 

(くそ…………いつもならこんなの朝飯前なのに……力が入らねえ………)

 

こうしている間にラクリーマの握力が弱まっていき……。

 

(く……っ、このままじゃあーー)

 

真下は何も見えない真っ黒い空間。落ちればすなわち『死』を意味する。そんな空間へついに手が離れてしまい、暗い闇の中へ飲み込まれようとしたーーもはや彼らがここまで這い上がってくることは叶わないのか、全員が目を塞ぎ、全てを諦めた――が。

 

「うぐぐ……………ぐあああああッ!!!!」

 

 

なんとラクリーマはそこから登り始めたのであった。もう死に体であるにも関わらず、彼の強靭な精神力による気合いと最後に残されたわずかな力をフルに使い、少しずつ、少しずつよじ登ってくるではないか。

 

「な、なんてこと………!」

 

「ラクリーマさん……!」

 

その壮絶な光景に全員が唖然となる。いつ死んでもおかしくないこの男はのび太を背負って何が何でも助けようとしていた。宇宙戦闘の時のような猛獣のような恐ろしく、顔そして身体中の血管が浮き出て今にも切れそうである。

 

「ラクリーマ……!」

 

のび太もそんな彼を見てもはや怖くなどなかった。寧ろそんなことでは彼に失礼だと勇気と希望を抱いた瞬間だった。

 

(言っただろのび太、お前らを絶対に死なせねえってな……)

 

この光景を全員が刮目、そして盛大に喜んだ。

 

「ラクリーマさんっ!!」

 

ゆっくりとゆっくりと這い上がり、ついにしずかの元に辿り着く二人は倒れ込む。

 

「だ、大丈夫か………のび太……………?」

 

「うん、本当にありが……ああ!!」

 

「ら……………ラクリーマ………さん………!!」

 

二人は彼の顔を見て寒気が襲い、顔がひきつった。何故なら彼の両目から赤い涙……血が流れていたのだから……。

 

「だ、大丈夫!?目から血が流れてるよ!?」

 

「心配すんな……ちいと顔に力が入りすぎただけだ」

 

二人を心配させまいとそう言うが本人はもはやすでに……。

 

 

(……両目とも逝っちまったか……もうほとんど見えねえ。あとは俺の感覚と記憶に頼るしかねえな……っ)

 

 

一瞬だけの安堵が全員にもたらせるがすぐに現実に引き戻される。ドラえもん達はそのまま格納庫へ直行できるがのび太達、三人は完全に来た道の通路に取り残されていた。みるみるうちに通路同士が離れ、渡ることなど到底不可能である。

 

「みんなぁ!!」

 

「のび太君!!しずかちゃん!!」

 

また彼らは離ればなれになってしまったーー。

 

「女ァ、そいつらを連れてもういきやがれ!!」

 

「あ、あんた達はどうすんのよぉ――っ!!」

 

「俺らは別の格納庫を使う、だから早く――」

 

のび太、しずか、ラクリーマの三人はそこから退避、姿が見えなくなった。

 

「もう行きましょう!早く脱出しないと私たちも危ないわ!」

 

「のび太達はどうするんですか!?」

 

「……あの男を信じましょう。ほら、あなた達も急いで!!」

 

言われるままに振り返り、すぐに格納庫へ向かうドラえもん一向。たどり着いた格納庫は戦闘ユニットは宇宙戦闘でもはや無いに等しく、十分広く見渡せるほどである。

 

その端には脱出ポッドと思わしき小型機が無数に配置されている。しかしその大きさは詰めても数人ぐらいしか入れるほどしかなかったがもはや一刻の猶予もない。

 

5人全員が簡略化された操縦室の中に詰めて入ったため、空間を無理矢理圧迫していた。

 

「みんな狭いけど我慢してね!!」

 

「は、はい!!」

 

エミリアとミルフィが操縦パネル側に立ち、確認するがボタンやパネルが膨大すぎてどれを触り、どれを動かせばいいのか全く分からなかい。

 

「どっ……どのボタンを触ればいいの……?」

 

「アタシもさすがに分からないわ……っ」

 

完全にお手上げである。ラクリーマに操作方法を教えてもらう前にまた分断されてしまったのだから起動できるハズがない……。

 

しかし、ついに爆発の被害は格納庫までも及び、爆風や衝撃波が突き抜けて、早くしないとこちらもその餌食となってしまう。

 

「ドラえもん、残りの道具で何か使えるのはないのかよ!?」

 

「待って!!えっと、えっと……!!」

 

風呂敷の中にまとめた数少ないひみつ道具を狭い空間で探し始めた。

 

「ドラえもん、これ……何?」

 

スネ夫がふとある道具に手をつけた。それは幅の広い、勉強嫌いな人間なら見るだけで気絶しそうなほどの巨大さを持つ百科事典のような道具であった。

 

「これは『宇宙完全大百科端末機 』だ……もしかしたらこれなら!!」

 

ドラえもんはその『宇宙完全大百科端末機 』の袖を持つと全てを賭けるほどの気持ちでこれを一気に開いた。

 

「この脱出ポッドの操縦方法……お願い、出ろ!!」

 

ついに開かれたページには……。

 

「嘘でしょ……っ、ちゃんと載ってるなんて……」

 

そのページにはこの脱出ポッドの構造、操作方法全てが分かりやすく表示されていたのであった。

何と凄い物であろうか、何故ならこれは人物、物体、時代、出来事、果てには全宇宙規模の事柄を全てインプットした『アカシックレコード』のような物であった。

 

「ミルフィ、あなたの出番よ!!」

 

「アイアイサーっ!」

 

早速、ミルフィはその内容を全て速攻で覚え、直ぐ様操作を開始する。その速さはまさに達人の如く、全く無駄のない手さばきと足を駆使してパネルやレバーを作動させる。

 

瞬間、ポッド全体がついに起動しライトアップ。前方のハッチが一瞬で開門した。

 

「全員、脱出するわよ!!」

 

エミリアが中央のレバーを前に押し込んだ時、一気にハッチの中へ射出された。

ハッチ内の長い専用通路を一瞬で通り、ついにドラえもん達を乗せた脱出ポッドは宇宙空間へ吐き出されるように飛び出した。

この中から見るエクセレクターは崩壊が広がり、外装までもが剥がれ、あちこちに小規模の爆発が起きている。

 

これ程の全長を持つものがもし全体爆発したら……その衝撃波の威力は計り知れない。

 

「のび太君!!しずかちゃん!!」

 

全員はその崩壊していく艦を見ながら、ただのび太達の安否を祈ることしかできないことに無力感を漂わせていた……。

 

◆ ◆ ◆

 

……そして、あの三人はやはり艦内に取り残されておりラクリーマももはや体力の限界が訪れて、膝が折れて床に倒れ伏せた。

 

「はあ……はあ……っ」

 

身体中汗だくであり酷く息を荒らしており、これ以上動けるのかすら分からない状態であった。

 

「ラクリーマ……焦ることはないよ、ちょっと休もう!」

 

「そうよ!これじゃああなたがもたないわ!」

 

「うっうるせえ、そんな暇があるなら早く格納庫に向かえ!いつこの艦が吹き飛ぶかわかったもんじゃねんだぞ!」

 

しかし彼はもうのび太としずかに支えられてやっと立っている状態、倒れてしまえば二度と立てなくなってしまうかもしれない。残る気力を振り絞り、ただひたすら前に行こうとしている。

 

(ここからだと近いのが……第15格納庫か……そこの脱出ポッドは確か連邦との交渉中に起動させておいたハズだーー)

 

突然、彼は前方に指を指した。

 

「……この先にT字路があるからそこを右に行け……そこ真っ直ぐいけば格納庫があるぜ……ここから一番近いのはそこしかねえ……」

 

「えっ……ここから真っ直ぐ行って……」

 

「右に曲がって真っ直ぐね。ラクリーマさん、頑張れる?」

 

「ああっ、それぐらいの体力なら残ってるぜ……へへっ……」

 

二人は息を乱しながらも無理に笑う彼を見て、悲しくなった。

実際、ラクリーマはのび太達から見ればかなりの大男だが、それに反し二人がかりとはいえ、子供である自分達が支えているのに重く感じないのであった――。

 

何故、ここまで自分達の為にこんなに我が身をボロボロにしてまで……のび太としずかは段々悲愴感にまみれてくるのであった。

 

そしてT路を無事に曲がり、あと真っ直ぐ行けば脱出できるポッドのある第15格納庫が待っていた――。

 

彼が倒れないように左右に支えなからゆっくり歩くのび太としずか、二人に負担を掛けないようになるべく自分で歩こうとするラクリーマ。

幸い、まだここは被害が少なく、ひび割れや所々煙が出ているが通路であると言えるほどの形は保っていた。ふと前方通路の壁にガラス張りがある。そこは隣の通路が見える、艦内でも数少ないモノである。

 

そこを通りかかる直前、ラクリーマにふと変な予感がよぎった――。

 

(なっ……なんだ……このイヤな感じは……)

 

ラクリーマは直ぐ様辺りを見渡したが風景は変わりない。だが不安感が募るばかりで決して穏やかにはいられなくなる。

耳をすましてみると何か『ゴオーッ!!』と何が燃え盛るような音がこちらへ向かってくるかのように段々強くなる。これは一体……。

 

(……まっ、まさかぁ……っ!!)

 

ラクリーマは見つめた先はあのガラス張り。そこから何か不吉な予感が彼の勘に共鳴した。

 

「ふ、二人とも、今すぐここから離れろ――!」

 

「えっ!?どうしたの!?」

 

のび太としずかは当然、その『予感』に感知するハズもなく、突然の彼の焦りようと『離れろ!!』という言葉を理解できずあたふたしているだけであるが、ラクリーマはそれに見かねついに彼らを全力で前に押し飛ばした。

 

「ぐっ………はあ……!!」

 

しかしその急な動きが彼の体に負担がかかり、また吐血しかけて口を押さえた同時に――ガラス張りが粉砕され、その破片がラクリーマの体に容赦なく突き刺さり、さらに追いうちで破壊されたガラス張りの枠からは地獄の業火、爆風、衝撃波が一瞬で彼を包み、そして後ろの壁に叩きつけたのであった……。



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Part.59 約束を果たす時

のび太としずかはゆっくり立ち上がる。しかしこの通路は急激に暑くなり汗がだらだら流れ出てくる。

 

「……あつっ、な……何が……ああっ!!」

 

「ラクリーマさん!!?」

 

振り返ったそこに至るところに散乱したガラスの破片、そして壁に寄りかかり朽ち果てているラクリーマの姿が……。

 

「ああ……ラクリーマァァァァ!!?」

 

「しっかりしてラクリーマさ……ああっ……いやああっ!!」

 

……先ほどの爆風と熱で顔、首から上半身にかけて大火傷で顔に至ってはもはや熱で半分以上が皮膚がただれていた。

そして割れたガラスの破片が追いうちをかけて身体中、そして顔中に突き刺さり、両眼さえも……。

 

「しっかりしてよぉーっ!!!」

 

「いやよ!!イヤイヤっっ!!」

 

のび太達の問いかけに応え、微少ながらも反応した。

 

「お……お前……ら……大……丈夫……か……っ」

 

その痛々しく変わり果てた彼の姿に二人はもうかける言葉はなかった。

 

「せっ……せっ……かく……の……色…男が……台無し……さねぇ……情け……ねえこと……にぃ……もう……動け……ねえ……何も……見え……ね…えぜ……」

 

もはや喋ることさえも億劫となっていた彼にのび太は――。

 

「ばっ……バカだよ……本当にバカだよラクリーマはァ!!どうしてそんなに自分のことより僕たちのことを!!」

 

「言った……だろ……俺は……お前……ら……を、地球……に帰す……てなぁ……」

 

彼はゆっくりと義手を上げて、今にも落ちそうになるくらいに震えながらも先の通路に指をさした。

 

「……ここ……から、まっすぐにぃ……いけ……。そう……すれ…ば脱出……ポッドに……」

 

「ラクリーマ……は?」

 

「……二人……とも、ここで……お別れだ……俺は……もういけそう……に…ねえ……」

 

「ええっ!!?い、イヤだよ!!ラクリーマも一緒に脱出しよう!!」

 

「……のび太……しずか…………お前らに……アマチャンとか……お人好しと……言ったが……俺がぁ……一番アマチャン……だったわ……」

 

「「…………」」

 

「……二人とも……今は自分が……助かることを……優先にしろ……。俺みたいなアマチャンは……こんな道を辿る……助かるためなら人を……切り捨てるくらいの……非情さを持て……」

 

二人はその現実にうちひしがれた。もう、どうにもならないことに。

 

「……お前らに会えて……楽しかったぜ……」

 

「ラクリーマ……」

 

するとしずかは突然、のび太をグイグイ引っ張り始めた。

 

「のび太さん、行きましょう!!」

 

「しずかちゃん!!?」

 

彼女の引く力にのび太はどんどん足が前へ動いていった。

 

「ちょっと待ってよ!!ラクリーマは……ラクリーマはどうするんだ!?」

 

「ラクリーマさんはもうそのままにしてあげましょうよ!!」

 

「しずかちゃん……?」

 

彼女から出た発言、それは彼をその場で見捨てるということであった。

 

「こんな酷い状態のラクリーマさんをこれ以上どうしようって言うの!?無理に動かそうとすれば苦痛以外何もないじゃない!それなら……いっそのことこのまま静かに……っ」

 

「けっけど……っ」

 

「のび太さん……もう私達にはどうすることも……どうすることもできないのよ……」

 

しずかはその座り込みまた泣き出してしまう。彼女の言う通りであった。ラクリーマはもう立ち上がることはおろか、もう命の火が消えかかった状態である。このまま静かに死なせてあげることは彼にとって一番の安楽だろう。

 

これは地球でも似たようなことがある。災害や戦争時に大勢の負傷者がいた場合、危篤状態の患者よりまだ助かる見込みのある患者を優先的に救助する。この方が効率的に且つ、救助できる人数を増やせるのである。これを『トリアージ』を呼ばれる。

 

今は怪我人はラクリーマだけであるが本人は完全に危篤状態、しかも今の状況から行くとのび太達は彼を助けようものなら自分達が逆に危険にさらされるうえ、危篤患者からはまさに死人に鞭である。つまりここは二人だけで脱出するのが適した選択なのだがのび太は納得しきれていない。

 

「……確かにしずかちゃんの言う通りだと思うけど……僕、どうしてもラクリーマを見捨てることはできない!!」

 

その言葉を聞いたしずかはついにのび太をキッと睨みつけた。

 

「のび太さん、あなたは本当にバカよ!そんなにラクリーマさんを苦しませたいの!?」

 

「銀河連邦って人達が治療してくれるかもしれないし、だめならドラえもんの道具でもしかしたら治るかもしれないじゃん!それにラクリーマがいないとその脱出ポッドの操作がわからないんだよ!?」

 

「………………」

 

「僕はバカだよ、お人好しだよ、アマチャンだよ!けど……ラクリーマが死ぬなんて僕にはどうしても考えられないんだ!しずかちゃんだって死なないでって言ってたくせに嘘をつくの!?」

 

「のび太さん……っ」

 

「レクシーさん達やユノンさんはラクリーマに生きてほしくて……それを託された僕達が叶えないといけないんじゃないか!それがここの……アマリーリスのみんなの願いだよ!」

 

のび太はしずかに背を向けて、ふるふる身体を微動させる。

 

「僕は一人でも助ける。ラクリーマが動けないなら僕が足になる、目になる。しずかちゃんは嫌なら先に行ってて……」

 

のび太は倒れているラクリーマの元に向かい、しずかはその場で途方にくれていた。自分も彼を救いたい、できるなら生きてほしい、だがこんな子供二人で一体何が出来るのだ……。

 

「のび太さんっ……あなたはホントに……」

 

しかし、彼の今の姿を見ていると嫌でも奮い立たせられる。そして彼女の選んだ道は……。

 

「ラクリーマ、聞こえる!?」

 

「……のび太……何やってんだ……早く……行け……!」

 

「僕がラクリーマの助けになってあげるからやっぱり一緒に脱出しよう!」

 

「……な……っ、バカ……ヤロォ……っ」

 

のび太はラクリーマの腕を強引に肩に掛けて持ち上げようとするもさすがに子供一人では力不足であり、立ち上がれない。しかし、そこにしずかも現れて……。

 

「のび太さん、反対側はあたしがもつわ!」

 

「しずかちゃん!?」

 

何としずかまでもがそのか弱い身体を無理してのび太と同じように腕に肩に掛けた。

 

「……俺……のことはいい……から早く……」

 

のび太は彼を励ますように優しくこう言った。

 

「やっぱり、僕はラクリーマの言う通り超がつくほどのバカでお人好しだし、アマチャンだよ。けど……僕にはそれが似合ってると思う。もしあのままラクリーマを見捨ててたら僕が僕で無くなるような気がするから……」

 

「…………」

 

「ごめんなさい……あたしもさっきあなたを見捨てようとしたけど……のび太さんの姿を見てやっぱりこのままは耐えられないと分かったの。だから――」

 

もう原型を留めていない顔のラクリーマはすでに表情は喜怒哀楽に変えられないがその心境はどんなものだろうか――。

火事場のバカ力というものか、二人の力を合わせてラクリーマを一気に立ち上がらせた。

 

「ラクリーマ、きっとあの人達やドラえもんが治してくれるよ。だからちゃんと気を持って!!」

 

「なるべくラクリーマさんに負担をかけないように歩くから安心して!!」

 

のび太としずかの励ましにラクリーマは……。

 

(お前ら……ホントに、あいつら以上のバカヤロウだな……だが、お前らのそういう性格は嫌いじゃないぜ!!)

 

なんてことだろう。二人の力に応えるようにラクリーマ自身が少しずつ、少しずつ足を前に出して歩こうとしている。

そう、ラクリーマは生きることに活力を見出したのであった。

絶対に生きて脱出する。三人の考えは1つにまとまり、ゆっくりと格納庫へ近づいていった。

 

内部温度が急激に上昇、そして空気が少しずつ失われつつあり、そしてラクリーマを支えながら歩くのび太もしずかも見るからに疲労困憊であるが諦めることなくひたすら歩き続けた、汗だくになりながらも、激しく息を切らしながらも――そしてついに三人は目的地である第15格納庫へ到着した。

ドラえもん達が向かった格納庫のように戦闘ユニットはほとんどなく、がらんと広い空間があるだけである。

しかしここも崩壊の刻が迫り。地震のような震動と至るところに火災や爆発が起き、ぐずぐずしていられない。

 

「脱出ポッドは……」

 

「……右の端だ……」

 

「右端ね!!」

 

小声しか出せなくなっているも、しずかとのび太はちゃんと聞き取り、彼の示した方向へ進路を取り、向かう。

広い空間を必死に歩き続けて着いた場所は格納庫内でも最端、そこに並ぶはいくつもの小型機、脱出ポッドと射出用カタパルト、そして外に出る空間ハッチであった。その中の一機には最初から照明と機械音が微かに聞こえる。

 

「……あれに乗れ……あとは……お前らでも……動か……」

 

次第に言葉も途切れていくも二人にはあれに乗れと理解できた。扉が開いていたので何の躊躇なしに乗り込み、その場で大胆に倒れて大きく息を荒らす三人。

 

「ちゅう……央の……レバーを…………」

 

「レバーをどうするの!?」

 

「前……に……倒せ……」

 

「それでどうなるの!?」しかしラクリーマは何も反応しない。慌ててすぐに確認すると、返事はしてないが首を縦に動かす動作をとっている。

 

のび太はコクッと頷くとすぐに操縦パネルの中央の巨大レバーに手をかけた。

 

「しずかちゃん、ラクリーマ……いくよ!!」

 

のび太はレバーを全力で前に押し出した時、ポッドの扉が閉まり、空間ハッチが開放、それに伴いカタパルトを少しずつハッチへ近づいていく。

 

「やったあっ!!これで助かったんだぁ」

 

「ええっ!!」

 

ついに脱出できるとのび太としずかは喜びに満ちていた。

 

 

(エクセレクター、みんな……じゃあな……)

 

 

ラクリーマは今までの全ての思い出を振り返っていた。

仲間との触れ合い、そして数々の戦闘、そして恋愛、全てをここで捨てなければならなくなった彼だがもう未練はなかった――あとはポッドが射出されればそれで脱出完了であり、三人は希望に溢れていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

《ガタっ!!》

 

脱出ポッドが大きく揺れてそのまま停止、全く射出の気配がなかった。

 

「う、嘘!?なんで!!?」

 

その訳が分からず慌てているのび太達にパネルから突然、音声が……。

 

『緊急事態、緊急事態、射出カタパルトに異常が発生、直ちに修理を開始してください、繰り返す……』

 

最悪の事態である。爆発の影響でカタパルトが故障、射出装置が壊れてしまった。

最後の最後で不幸が襲いかかった。今さら修理する時間などないし二人には仕方が分からない、ラクリーマはこんな状態……かと言ってこのままいても三人とも、エクセレクターと共に宇宙のチリになってしまうだけだった。

 

「うわああん!!せっかくここまで来たのにーーっ!!」

 

「あ……あたし達、もう終わりなの……っ?」

 

こればかりはどうすることもできない、のび太としずかは完全に絶望した。

 

それはラクリーマも同じであった。

 

(……情けねえ……結局……こいつらを助けられねえ運命だったってのか……っ)

 

息を弱くなり、段々と意識が遠のいていく彼は今度こそ命の火が消えかかり、走馬灯が脳内に流れる……それは死ぬ直前であることを意味していた。

 

(ああっ……今度こそ……死ぬのか……っ)

 

ついに彼は息も止まってしまった――。

 

◆ ◆ ◆

 

『ラクリーマ、今から義手を移植するぞ』

 

『ああっ、いいぜ』

 

今から6年前。これはエルネスがまだ生きていた時の頃、開発エリアにある実験室でラクリーマにブラティストームを移植しようとした場面である。

 

『ホントにいいのか?せっかくの左腕がなくなっちまうぞ?』

 

『ああっ、強くなるならそれでかまわないさ、なんつったってお前の最高傑作だからな』

 

手術台に寝かされて、左腕を切断するために麻酔をかけられようとしていた。

 

『これをつける前に言っておく。ブラティストームは俺が造った作品の中でエクセレクターに次ぐ傑作品を思っている。

サイサリスの野郎にも劣らないくらいの誇れる代物だとな。だからラクリーマ、決して粗末に扱わないでくれ、これは俺とお前の『親友(ダチ)の証』だとな』

 

『わかった。これが破壊される時は俺が死ぬ時だ、そのくらいの覚悟が無ければわざわざ義手の移植に志願したりしねえよ』

 

エルネスは『ブラティストーム』を両手に持ち、誇らしげに眺めた。

 

『こいつに大事にしてもらえ、お前とラクリーマなら相性はいいハズだ。

じゃあラクリーマ、移植に成功したらまず炉心に火を灯してやる、そこから少しずつリハビリで義手を馴らしていけ。お前の神経と無理矢理繋ぎあわせるから、リハビリ中にちいと激痛がくるかもしれん耐えてくれ』

 

『大丈夫だ、俺だって早く使いたいんだ、痛みなんぞ屁でもねえよ』

 

『あとこのNP炉心は超小型だがかなり強力な出力を引き出せる、もし暴走して爆発でもしたら周囲一体は吹き飛ばす威力はある。くれぐれも扱い、出力調整には十分気をつけてくれ。では麻酔をかけるぜ。今はゆっくり休みな』

 

『頼んだぜ、エルネス……』

 

そして彼は眠りにつき、記憶はここでなくなった……。

 

◆ ◆ ◆

 

(もっ……もしかしたらこれなら……)

 

彼の意識が戻り、微動しながらその焼けて爛れた口をゆっくり開いた。

 

「の……び太、しずか……」

 

突然二人を呼ぶ声に、すぐに駆けつけた。

 

「……俺を外に……出して……くれ……っ」

 

「どうして!?もう外は危険なんだよ!!」

 

「……早く、しろ……脱出……できる方法が……」

 

「脱出できる……の!?」

 

彼は僅かに頷いている。一体どんな方法が……。

 

しかし、彼にその秘策があるのならそれしか希望はない。二人は彼に望みを掛けた――。

 

「じゃあ行くよ……」

 

ラクリーマを立ち上がらせ、二人の渾身の力でポッドから降りる。しかし爆風、炎がとうとうこちらまで迫り始めていた。

 

「脱出ポッド……の後ろに……ハッチの反対側……だ」

 

――そして指示された場所に彼を連れていった。

 

「…………どうするの……?」

 

「…………」

 

すると彼は急に喋らなくなった。これはまさか……。

 

「ラクリーマどうしたの!?死んじゃいやだよ!!」

 

ところが、

 

「のび太、しずか……俺をここに置いて……脱出ポッドに……乗るんだ……」

 

突然の指示に二人は耳を疑った。

 

「ええっ!!?なんで!!?」

 

「いやよラクリーマさん!!あなたをここに置いていけないわぁ!!」

 

「……早くしろ……全員……死んじまう……」

 

「そんなあ……せっかく……せっかくラクリーマと仲良くなれたのに……」

 

本当の意味での別れ、それはもう生死の意味で二度と会えなくなってしまうことであった。涙を流す二人に彼は優しく二人にこう語りかけた。

 

「……二人とも……俺らの分まで……元気で……生きてくれ……………っ」

 

「「…………」」

 

辛い別れの挨拶を終え、悲しみにくれたのび太、しずかは脱出ポッドに乗り込み、窓越しから立ち往生寸前のラクリーマの最後を見届けようとしていた。

 

そしてラクリーマは『ブラティストーム』にこう念じるのであった。

 

(相棒、最後の仕事だ……頼んだぜ……)

 

左手が切り離されて自立回路が起動、宙に浮かび上がった時、左肩の炉心の扉が開放、蒼白く光る小型NP炉心が露出した。

 

『ギチ……ギチギチ……ギチュ!!』と、露出した炉心を無理矢理引きずり出そうとする左手。それに伴い、連結してい数々のチューブが生々しく内臓のように飛び出した。

そしてまるで太陽のように輝く炉心を取り出しのび太達に堂々と見せつけた。

 

「ラクリーマ……それは……っ」

 

「これって……っ、ああっ!!」

 

二人は気付いた。彼が何をやろうとしているのか……。

 

そしてラクリーマも露出する炉心から発するまばゆい光をもはや目が見えなくなっているがしっかり感じとっていた。

 

(こ……これがニュープラトンの光か……あったけえ……っ)

 

彼の考えた方法……それはブラティストームの動力炉である小型NP炉心の出力を急激に上昇、暴走させて爆発、その衝撃で脱出ポッドを押し出すということであった。

 

しかしそんなことをすればラクリーマ自身はただではすまない。現に出力を一気にあげているが、その生み出た凄まじい熱によってラクリーマの身体が少しずつ溶けていく。

 

その姿にのび太達は目を背けたくなるも、こらえてそれを見続けたのであった。生きるということを捨てる代わりに自分達に託したその思い、なんで目を反らすことなどできようか。

 

(もう……ダメ……だ……)

 

だが、その超高熱に耐えきれずラクリーマが膝が折れてしまう……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『リーダー、何一人で頑張ってんスか?俺らにも手伝わせてくだせえな!!のび太としずかを助けるんでしょ?』

 

突然、ラクリーマの耳に聞き覚えのある声が……。

 

(れっ……レクシー……か……っ)

 

『あたいも手伝うニャア♪レクシー、みんな、ここは力を合わせる時だよ!!』

 

『おうっ!!』

 

彼には分かった。自分も周りに大人数の仲間が自分を支えているのが……。ジュネ、ラン、レクシー、エルネス……死んでいった仲間達が彼の身体を支えて、炉心に力を与えている姿が……。のび太達には何も見えていないのは彼だけの最後に見た……いや、幻想なのか……。

 

(お前ら…………俺に力を貸してくれるのか……)

 

それは、ラクリーマの守護するように集まる彼等はまさに神々しい光景である。

 

(こ、これは……………………っ)

 

そして、ラクリーマの背中に優しく抱擁するある美しい女性の姿が……。何も見えないハズの彼にはしっかりと誰なのか分かっていた。

 

(…………ユノン、お前か)

 

彼女は何も喋らないが、まるで無垢の子供のように屈託のない満面の笑みを彼に見せた。それは彼女が本来、できるはずであったその表情に……。

 

(お前も手伝ってくれるのか……俺は、いつもお前に助けられっぱなしだな。本当にありがとな……俺の人生で一番愛した哀れな女よ)

 

炉心に膨大なエネルギーが収束した時、それが一気に解き放たれた――。

 

《ラクリーマァァァァーーーっ!!!!!》

 

のび太は泣きながら喉を枯らすほどに叫び、そして彼の最後の思い、それは……。

 

 

 

《――ありがとよ、ダチ公!!》

 

 

 

――義手が炉心を握りつぶしたその時、閃光を拡散させ爆発。その光にラクリーマは飲み込まれていった。そして生じた強烈な衝撃波がその周囲一帯、のび太達の乗った脱出ポッドも含めて全て吹き飛ばした――。

 

エクセレクターがついに崩壊し、内部から暴走したエネルギーが光となって宇宙へ放散。瞬時に艦全体を覆った。それはまるで超新星爆発のような閃光と衝撃波がこの宙域全てに放れたのであった……。

 

「これがアマリーリス艦の最後か……」

 

脱出後、すぐ救出されてカーマイン達と共にヴァルミリオンの格納庫のモニターでその光景を見ていたドラえもん達。しかし、のび太達の姿などなく、少しずつ不安を抱いていた。

 

「のび太君……しずかちゃん……」

 

「……死んじゃったのかよ……二人とも……」

 

「そ、そんな……っ」

 

誰もが信じたくないことに頭を抱える中、カーマインの通信機に副長から連絡が。

 

「どうした!!」

 

『それが……ここから150ギャロ、XXY方位の宙域に謎の小型機の反応と2つの生体反応を感知。エミリア大尉達の先ほど搭乗していた機体と同型です!』

 

その報告に全員が驚愕すると同時に再び希望が湧いたのであった――。

 

そして直ぐ様、その小型機の回収作業を開始、ドラえもん達のいる格納庫へとサルページされた。そして中を開けると……。

 

「ああっ、のび太君達だ!!」

 

「けど……あの男がいない……じゃあ……」

 

ラクリーマの姿がなく、のび太としずかは中の床で隣同士で仲良く静かに眠っていた。彼らの顔は酷く泣いたのか目の下が赤くなっているも、その表情は穏やかであった……。

 

 

かくして……この一連の騒動は事実上、アマリーリス壊滅というカタチで幕を閉じたのであった。



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Part.60 エピローグ

――あれから数ヵ月。無事、地球へ戻れたはずのドラえもん達だがさすがに良い気分にはなれなかった。

 

特にのび太、しずかは地球に帰ってからは両親、特に母親にこれでもかと言うくらいに甘えた。

これは精神的に辛いことがあったこともあるが何よりユノンの悲惨な過去を知っていたので自分達にはしっかりした母親がいることに感謝し、そして彼女が自身の母親に甘えることが出来なかった分も含めてそれが彼女に対する供養になるのでは、なってくれればと思えるのであった。

 

のび太に関しては普段は途中で投げ出してしまう宿題は勿論、家の手伝いなどを積極的にするようになったり、泣き言などはあまり言わなくなった。

これはラクリーマと言う悪人ではあるが最期まで熱く突き抜けた男の生きざまにかなり影響を受けたことにあった。

 

そして他にも色々なことがあった。アマリーリスは壊滅、全宇宙にとって喜ばしいことであるがこちらも多大な被害と犠牲が出てしまった。

この戦乱にドラえもん達含め、隊員達は全く喜びの酔いに浸れることなどできず、大人数の心に大きな傷を負わせた(因みにこの激戦は後に『第一次ラ=グース戦役』と名付けられることなるのは先のことである)。

 

カーマインは宣言通りに全ての責任を取ろうと辞表を提出したが、部下達からの猛反対されてそして本隊からもそれは受理されなかった。それは彼の功績を讃えてのことであったが彼はそのことに頭を抱えて悩んだ。

しかしラクリーマの『部下を救ってやってくれ』という願いを思い出し、それを受け入れた。

これからは再びヴァルミリオン艦の提督として職務を全うすると共に、アマリーリス員が善の道に進めるように彼らとたくさん触れ合うことを決意する。

 

そしてエミリアとミルフィはアマリーリスに拉致された子供達を救出し、守り抜いた功績によりめでたく昇進。それぞれ少佐、大尉となることが決まり、エミリアはヴァルミリオンの提督兼偵察部隊長のカーマインを補佐する偵察部隊副隊長に任命、戦死したメレウルに代わり、女性隊員の内務班長にも任命された。ミルフィも今度入隊してくる新隊員の教育官の一人に選ばれた。

 

コモドスは自分がしたあの行為を自ら自白。実際は上官であるサルビエスの命令であるに加え、その事情を話せば罪は重くならないと仲間は言ったがコモドスらしく、そこはケジメをつけたいと言う理由で連邦刑務所の服役が決まった。

 

しかし、コモドスが奴隷制度について暴露したことで『フォクシス』は今や多大な批判を受けている。彼らも銀河連邦に加盟しているため、無視すれば今まで受けてきた援助は全て遮断されてしまう。近い内に奴隷にされた人々が解放されるのも現実となりつつあった。コモドスも服役が終え、もし家族が解放されていれば軍を退職して、実家に戻り、静かな暮らしに戻りたいらしい……。

因みに、メレウルのパートナーであったムーリアは精神は落ち着いたものの、元々両親から無理矢理軍に行かされたこともあり、退職すると決意し、そして受理、除隊された。

 

アマリーリス側では生き残ったのは僅か数十人。だが、捕まったことを素直に受け入れられなかった者は少なからずおり、自殺を図る者や暴れる者なども現れた。が、結局はラクリーマの言葉を思い出し、受け止め、今は大人しくしている。これからの処遇が決まるのに時間がかかりそうだ。

 

ただ……サイサリスの所在が分からなくなっているが、連邦もこの彼女については全くの無知な為に気づいていない。

そしてあの男、ラクリーマも死亡と判断されている。

 

……これらの出来事が数ヶ月間の間に激動していた。

 

そして……家に戻ったのび太は家の庭でせっせと花鉢に水やりをしていた。何を育てているのかというとそう、ラクリーマから託されたあの花の種『アノリウム』である。

 

実は帰ってきてから、育てているものの、方法が間違っているのか次々に枯れて今育てているのは最後の一粒であった。しかし少しずつであるが着実に成果を出し、前のは蕾まで行き着いたのだから今度こそは……と彼自身も意気込みが凄い。

なぜならラクリーマという自分の尊敬する『兄』から頼まれたことを決して破りたくない、それは男と男の約束であった。

 

「最近、ずいぶん花にハマってるのね。そういえばのび太、最近なんか凄く行儀よくなったわよね、あまりごはんやおかず残さなくなったし宿題や家の手伝いもちゃんとやるようになったし」

 

茶の間の縁側からのび太のママが彼の真剣な姿に感心していた。

 

「ふふっ、あの子にも夢中になれるのが出来たのなら応援してあげなくちゃね……」

 

ママはそんなのび太に激励し、微笑ましい顔で去っていった。

 

◆ ◆ ◆

 

一方、ドラえもん、スネ夫、ジャイアンはというと裏山である女性2人と会っていた。

 

「エミリアさん、ミルフィちゃん!」

 

「みんな久しぶりね!!」

 

「「「はい!!」」」

 

「元気でなによりだヨ!」

 

なんと彼女達が彼らのことが心配でわざわざ見に来てくれたのであった。だが『異星人文化干渉法』のこともあり、いられるのはほんの僅かであるという。

 

五人は上から街を見渡せる場所から下を眺めていた。

 

「……あのラクリーマって男、不思議な奴だったわね。のび太君達から話を聞いたけどホントに悪人かどうか疑うほどの優しい人間だったらしいし……」

 

「そうですね……」

 

「悪事は好きだったけど仲間に対しては過剰すぎるほどの自己犠牲……だけど、それが仲間との考えがすれ違った結果がアマリーリスという組織を壊滅することになったわけネ……。

こんな言い方はアレだけど悪人らしく仲間を見捨てて自分だけ逃亡すれば助かったかもしれないのに……まさに哀れな末路だヨ」

 

「…………」

 

すると黙っていたジャイアンはこう言った。

 

「……けど、あいつの仲間を大切にするっていう気持ちと覚悟は俺達も見習わないといけないと思うぜ!」

 

「確かにそうね。あの信念は銀河連邦にも通ずるものがあるしわたし達に必要なことだわ。

あいつの犯した罪は絶対に許せないし、結局最後まで改心させれなかったけど……自分たちよりも素晴らしい物を持っていたということに関しては感心できる」

 

ーー少し重い空気になりつつあったが。

 

「そういえばエミリアさん、ミルフィ、昇進おめでとうございます!!」

 

スネ夫の激励に二人は顔を赤めらせた。

 

「ふふっ、ありがとうスネ夫君。みんなもよく頑張ったわね。そうだ、そういえばあたしやミルフィ、そしてカーマイン提督やクーちゃん、他一同の隊員達からドラちゃん達へ頑張った御褒美があるわ、はい」

 

彼女が三人に渡したのはそれは銀河連邦を象徴するマークと特殊な軽金属で出来たエンブレムであった。

 

「これはあたし達銀河連邦とあなた達地球人の友好と信頼の証、特注品なんだから♪」

 

「キミらの勇気が認められたって証拠なんだヨ、絶対に大切にしてね♪」

 

「「「はいっ!!ありがとうございます!!」」」

 

嬉しくないハズがない。ヴァルミリオンにいた時のように元気でハキハキとした態度で礼をした。

 

そうやって時間を過ごしている内についに彼女達と別れの時が……。

 

「じゃあ、もうヴァルミリオンへ戻るわ。これからはもう滅多に会えなくなるけどあたしとミルフィは君たちの地球……いやこの銀河系の保護に日々精力を尽します!」

 

「ワタシもみんな平和で元気で過ごせるように祈っているヨ。また……機会があったら会いましょう♪」

 

……エミリアとミルフィはあの時と同じ、偵察機に乗り込むと瞬時に上昇、宇宙へ帰っていった。

 

手を振る三人は見えなくなると手を降ろし、空を眺めていた。その時の彼らは希望に満ち溢れていた。

 

◆ ◆ ◆

 

――数日後、しずかはのび太の家で彼と共にアノリウムを植えた植木鉢の前に立っていた。

 

「しずかちゃん、ほら、ついに花が……」

 

「あら本当、綺麗ねえ♪」

 

ついに咲かすことに成功したのび太。その黄色に輝き、精一杯花弁を広げるその姿は元気そのものであった。しかし、のび太はふと腑に落ちない感じをした。

 

このアノリウム……どこでもドアの暴走でアマリーリスに飛ばされる前にどこかで見た覚えがあるが思い出せない――それよりものび太としずかは空を眺めて、想いを向けていた。

 

どこに、誰に、もう言わずもがな、それぞれラクリーマ達であった。

 

(ラクリーマ見て、ついに咲かせたよ。僕ついに咲かせることができたよ。これもみんなラクリーマのために頑張ったんだから……だから安心して休んでね)

 

(レクシーさん達やユノンさん……今頃ラクリーマさんと一緒にいるのかしら……。もしそうなら私は祈ってます、これから末永く共にいられるように……)

 

――のび太にはこれ以上の満足感がなかった。男と男の約束が果たされたこの時であった。

 

(けどラクリーマ……何故かな……どうしてもまだ死んだって思えないんだ……僕……)

 

彼にはそう思えるのであったーー。

 

◆ ◆ ◆

 

……それから年月は流れ、13年後。セクターβ、惑星ファーガス。

 

この惑星のとある重工の巨大建造格納庫にて、一人の開発スタッフがとある女性博士の元へ訪れていた。

 

「もう少しで完成ですね」

 

「ああっ。この子達はあたしの造った中でも最高傑作かもしれん、早く久々に宇宙へ進出してえなあ」

 

その男みたいな口調、声質……そう、サイサリスであった。

 

彼女はあのポニーテールはやめて今やウェーブのかかったショートヘアになっていた。歳はもう50歳を越えているが、アマリーリスにいたときよりも何故か若く見える彼女もある意味で化物である。

 

「そういえばサイサリスさんってあの元々どこ出身なんですか?」

 

「聞きたいか?」

 

「ええっ、まあ……」

 

彼女は相変わらずのニヤリとした笑みをとった。

 

「アマリーリスって組織だ」

 

「アマリーリスって……あのアマリーリスですか!!?」

 

もう過去の話であるアマリーリスという組織は宇宙でも伝説の語り草になっているようだ――。

 

開発スタッフとの話が終わり、彼女が向かった先はとある室内。そこの中央に設置している等身大の培養カプセルの元へ向かうと中を覗き込む。

その中には筋肉隆々、端正な顔立ちでぼさついた銀髪の男性が液体に満たされたこの中で静かに眠りについている。この人物はまさかではあるが……。

 

「もう少しで再び宇宙へ出航するぜ、ラクリーマ」

 

信じられない事実であった。この男はまさしくラクリーマ本人である。両腕がないが身体中の傷どころか顔の傷すら全く消えてすっきりしている。そして今にもはち切れんばかりの精気を漂わせた完全な状態である。

 

「何があったか知らねえけど、お前が宇宙を漂流していたのを物資調達に行っていた仲間が見つけてもう5年か。どういうわけか……お前の身体は健康体そのものなんだぜ。

脳波も異常ないし……まさに奇跡としか言い様がねえな。だがなんで目覚めねえんだよ?寝過ぎで身体が鈍ってるだろ?」

 

サイサリスは彼にふと悲しそうな目を見せた。

 

(アマリーリスが壊滅し……死亡者の中にレクシー達やドグリス人の女性……まさかユノンちゃんまで死んだって情報聞かされた時は私も耳を疑ったぜ。皮肉な話だ、自分が命を賭けて守ろうしていた人間が逆にお前を残して死ぬなんてな……本当にとことん報われない奴だな、ラクリーマ)

 

一呼吸し、軽く息を吐くとまた平然とした態度をとった。

 

「だがもうお前一人で苦労する必要なんかねえ。だから今はゆっくり休んでくれ……」

 

彼女はそう言い残し、部屋から出ていった――。

 

◆ ◆ ◆

 

そしてまた月日は流れ、ついにこの時が来た。惑星の海中から突然、あのエクセレクターと同等の全長を持つ巨大宇宙船が何と三隻、怒濤の水しぶきを上げて一気に飛び出し、遥か上空へ飛翔していく――。

 

その三隻の一番の先頭に立つ宇宙艦の内部、ブリッジに位置する広大な場所。そこに集まる万を裕に超える大人数、その中心部の司令塔にはサイサリスが二人の側近をつけて演説していた。

 

「耳の穴かっぽじってよく聞け、てめえら!!私達はこれより壮大な宇宙へ進出する。

このあたし達が建造した三隻の巨大宇宙船、『アーセクター』、『グランダル』、『オールストロイ』があれば怖いものなどありはしない!!はっきり言っておくが、あたし達の目標は銀河連邦打倒だぁ!!あちらもこちらよりさらに強大だろう。だが、それでも奴らを打ちのめしたい奴は……あたしについてきやがれぇ!!!」

 

《おおーーっ!!》

 

高らかに歓喜を上げる幾ぜいの男達。彼らも彼女と同じ悪人同士であった。

 

「ならあたし達、新生『アマリーリス』は今、最初の一歩を踏み出す!!最初の目標はここから240万光年離れたイクリプス銀河の有人第2惑星トリオン、今の内に侵略準備開始だぁ!!」

 

なんと彼女が率いるは新たな構成で生まれたあの組織、アマリーリスであった。

 

その時の彼女はまさに覚悟を決めて、戦場に向かう戦士のようであった――。

 

(ラクリーマ、もしもお前が目覚めることがあったらまた一緒にやり直そう。ユノンちゃんがいなくて意気消沈するかもしれないが悲しむ暇はないぜ。

なぜならお前はわたしと同じくこの道しか生きられねえからな。だから……それまでゆっくり休め。お前の両腕を造っておくからよ、ブラティストームより強力なやつをな!)

 

彼女は不敵な笑みで前を見据えた。まるであのラクリーマのように――。

 

 

「あたし達、アマリーリスはまだ終わっていない、戦いはまだまだこれからだ!!」

 

 

 

 

 

《首を洗って待ってやがれ、銀河連邦―――っっっ!!!》

 

 

 

 

 

~Fin~



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あとがき

『お人好しって極限に達するとどうなるのかな……慈悲かな……それとも……』

 

 

この作品はドラえもんと言う国民的キャラクターを使って『正義と悪』、『居場所』、『自己犠牲』をテーマにしてみました。

 

大長編では胸躍る大冒険やファンタジーSF、環境問題とか人種間の問題などを多く扱ったりしてますけど、この手のテーマはなかったりします。

なので二次創作として書いてみようかなと思いました。

 

この作品のコンセプトは、

 

『もしドラえもんの世界で『虚無戦記』をやらかしたらどうなるか』

 

と言うものでした。ちなみに虚無戦記とは故・漫画家『石川賢』先生(マジンガーZやキューティーハニーで有名なダイナミック・プロに所属していた漫画家で、合体ロボット物の元祖、ゲッターロボの原作者の一人であり、永井豪先生の親友であり戦友である漫画家)の短編を繋げ、さらに加筆を加えたが、あまりの壮大さに結局完結しなかった全宇宙規模のSF漫画です。元々、石川賢先生の大ファンであるためオマージュした表現や言葉が出てきます。ストーリー展開もこの御大から影響を受けています。

 

ラクリーマ達一部のキャラクターもその要素を持たせて書いたつもりですがどうだったでしょうか?ちなみに一部キャラクターに様々なモデルやモチーフがあります。

 

例えば、ラクリーマのコンセプトは、

 

『古き良き熱血少年漫画の主人公を敢えて悪役に持ってきたら面白そうだ』

 

『大長編ドラえもんのゲストキャラクターはドラえもん達と友達になるケースが多いけど、特にのび太の兄貴分的なキャラクターはいないな』

 

という考えから生まれたのが彼で、モデルは石川賢先生のSF作品『5000光年の虎』の主人公『ウルガ虎』であり、性格面では石川賢作品に登場した主人公キャラと『ドラゴンボールシリーズ』に登場した主人公、孫悟空の父親であるサイヤ人、バーダックから多大な影響を受けています(好戦的だが仲間意識が強い、宇宙(?)戦にて生身で大量の敵になぎはらったその強さ)。

その他では『装甲騎兵ボトムズ』の主人公『キリコ・キュービィー』、漫画版ゲッターロボサーガの神隼人など(二人の共通点としては自分ばかり生き残り、周りの大切な人間は次々と死んでいく、つまり置いてきぼりにされてしまうことですね)。

 

 

ユノンのモチーフは『ルパン三世 ワルサーP38』に登場した悲劇のゲストヒロイン、エレンというキャラクターの影響が強いです。それに加えてすえのぶけいこ作品『ライフ』(いじめがテーマで有名な作品)に登場する主要キャラ3人(容姿は準主人公『羽鳥未来』、性格、行動は主人公『椎葉歩』、悪役『安西愛海』の特徴的な一部分)+レディコミのようなドロドロした要素を組み合わせてできたキャラクターで、ヤンデレ気質なキャラクターを目指しました。

 

 

エミリアはPS2用ゲームソフト『スターオーシャン3』に登場する女性キャラクター『マリア・トレイター』をモチーフにしています。

 

 

ミルフィは大長編ドラえもん『のび太の宇宙開拓史』に登場したキャラクター『チャミー』を元にしてます。

 

 

取りあえずモチーフ説明は主要キャラクターのみに留めてきますが、他キャラも色々元ネタがあるので探してみてください。

 

さて、この物語を書きたかった理由が三つ。それは、

 

『ドラえもんを通して一人の悪人の生き様を書きたかった』

 

『もし優しい人間と悪人が出会い、意気投合し仲良くなってしまったら……』

 

『超スケールの戦闘を書いてみたかった』

 

ことにあります。はっきり言ってこれは別にドラえもんで書く必要性がないワケでオリジナル小説で書けばいい話なのですが、色々な理由がありますが一番はやはり『ドラえもんが好きだから』です。

 

ひみつ道具という誰もが欲しがる物、キャラクター性、魅力……etc。

 

それを全て踏まえてのことです。しかしストーリー展開は全くドラえもんぽくないのが最大の欠点だと思います。しかし、ストーリーを書く前に構成はすでに決まっていたので、この小説を書いていて自分自身は楽しかったです。

 

最後になりますが、この作品は誤字、言い回しが使い回しばかりでくどいのです。これは自分自身の実力の無さが目立つことで、文章で楽しむというより、その内容で楽しむ小説です。読みにくいと思った方々、まことにすいませんでした。あと勢いで内容を考えたのでツッコミ所満載ですがそこはこの小説の持ち味としてご了承下さい。

 

最後までこの小説をお読みになった方々、最後までお付き合いいただきありがとうございました。

 

【はならむ】

 

 

 

 

『追記』

 

この作品は今からちょうど10年前に書いた作品であります。久々に読んでみましたがあまりにも下品で文章力の酷さや突っ込みどころが多すぎて笑ってしまいました。

あと「全然ドラえもんしてねえな笑」と思いつつもひたすら執筆していた当時の懐かしさを思い出しました。

 

2021年 5月5日 はならむ



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