アーシアしか勝たん (min-can)
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旧校舎のディアボロス編
第1話。しちゃいました、憑依!


初投稿です。よろしくお願いします。
アニメは見ておりますが、ただいま原作を一巻から追いながらだらだら執筆しているので、設定の矛盾や違和感などあるかもしれません...ご容赦ください
修正できればその都度修正するつもりですが、無理だったら消えます...


「あ──...今日も、致すとしますか」

 

 今日も今日とて俺は、一人寂しく自慰をすることにした。

 オカズは俺の性癖たるシスター物だ。

 シスター物は良い。優しく穢れを抜いてもらうも良し。性に疎いのをいいことに卑猥な行為をさせるも良し。無理やりしてやるのも良し。淫らに堕としてやるも良し。

 とにかくなんとなく神聖かつ清廉であるシスターというものに興奮を覚えていたのだ。恐らく自分は薄汚れていると自覚していることが原因だろう。気持ち悪いし。

 

 かくして己のイチモツをしごくことしばらく、俺は信じられない出来事に相対した。それは発射と同時に訪れた不幸である。

 信じられないくらい特濃のお○液が信じられないくらいの勢いで飛び出した。

 そして口の中に入った。喉に詰まった。

 

「ガッッ!!カハッッ!!なんだこれ...!息が...!!」

 

 突然呼吸ができなくなってしまった。苦しい苦しい苦しい...!!

 だんだん視界が暗くなって、苦痛が薄まってきた...

 

 え?俺、こんな間抜けな理由で死なないといけないの?人類史上初めてなんじゃないか?こんな死に方...

 

 俺は色々な意味で涙を流しながら意識を失っていった。

 

 スマホの画面からは、金髪碧眼のシスターがこちらに笑みを浮かべていた

 

 ────────────────────────

 

「んっ...ん゛ん゛あ゛ぁ゛...あ?あれ?」

 

 気がつくと知らない場所にいた。何処だここ?

 知らない部屋だな...ってかあれ?体の調子がいつもと全然違うな...?小さくなってる?

 

「なんだこれ...って声も違──う!!」

 

 なんだこれなんだこれ気持ち悪い。鏡...あった!っては???誰だこれ?いや...俺はこの顔を知っている...気がする...

 

 多分...兵藤一誠...だよな?

 二次元から三次元になってるからちょっとわかりにくいけど、この髪の毛のわけわからん跳ね具合と謎の襟足...目もツリ目だし...そうだよな...?

 年は...中学生くらいか?結構若そうだな...

 

 えっ?憑依みたいな事?絶対嫌なんだが?ムリムリムリムリ!おっぱいで頑張れるほど簡単な性格してないよ俺。ヤダヤダヤダヤァァダァァァ!!!!死ぬ死ぬぅ!!!

 俺はベッドで体をジタバタとさせて暴れた。

 

「ふぅ...ちょっとは落ち着いたな...」

 

 にしてもこれは問題だ。この世界は全く優しくない。おっぱいによってどんどん強くなっていく主人公ですら毎回毎回ボロボロになってしまうような世界...

 おっぱいで強くなれるビジョンが全く見えない俺がインフレについて行けるのか...?

 それともリアス・グレモリーと出会えば俺におっぱいへの飽くなき欲求が生まれるのか...?いや、むしろ太もも派の俺ではそこまでおっぱいに固執できないぞ...

 

「となると...少なくとも原作開始までに、体を鍛えて赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)の扱いにも慣れて、少しでもアドバンテージを持たなきゃだ...」

 

 それでもインフレの波に一瞬で追い付かれるだろうけど、それはもう主人公たるこの肉体に期待するしかねぇ...

 

 というか下手に体を鍛えていいのか?神器(セイクリッド・ギア)の反応とやらが出て原作よりはるかに早く出て堕天使とかに襲われるのでは...?

 いや、動かないのは悪手か...?

 

「だぁぁぁああ!!わからん!!こんなもん考えても仕方ねぇ!!!とにかく体を鍛えよう!!ついでに神器(セイクリッド・ギア)も目覚めさせるぞ!!」

 

「うぉおおおお!!来い!ブーステッド・ギアぁ!!!来ねぇ!!えぇっと...じゃあ、かめはめ波!!!いや、ここではドラゴン波か?ドラゴン波ぁ!!!」

 

「イッセーうるさい!!!日曜だからってそんなに元気が有り余ってるなら外行きなさい外!!!」

 

 下から怒声が聞こえた。恐らくイッセーのママだな..

 てか今思うとめっちゃ煩かっただろうな今の、あ──恥ずかしくなってきた...何考えてんだ俺...それともイッセーの思考回路に犯されちゃったのか...?

 

「ごめんなさい!!すぐ出ます!!」

 

 俺は急いで家を出た。ごめんなさいイッセーの母さん、ご近所の皆さん。でも許してください。俺は今尋常じゃない事態に相対しているのです...

 最寄りの公園へとたどり着き、俺は早速運動をすることにした。

 

「確か某一撃男は毎日10キロランニングと腕立て腹筋スクワットを300回だっけ?筋トレとかしたことないし、しばらくはそれを目標にするか...」

 

 俺は走った。ひたすらに走った。そして死んだ。

 

「あ゛ぁ゛!ぐる゛じぃ゛!じぬ゛ぅ゛!ぜぇ...はぁ...がぁ...あぁ...」

 

 死にたくないからと変に頑張れたのが仇となったな...

 道端に倒れ込み休むこと数十分、ようやく落ち着いた。

 

「10キロ走れたのか...?わからん...できてなさそう...てかこの後筋トレは無理がある...」

 

 今日はこれで終わろう...筋トレは明日だ明日...

 

 俺は家に帰って、シャワーを浴びて、イッセーの家族と飯を食った。

 味は美味しかったけど、申し訳ない気持ちでいっぱいになった。俺はこの人達の息子を殺したも同然なんだよな...

 

 ベッドの上で俺は物思いに耽った。

 

 顔に出てしまっていたのか心配されてしまったな...

 昼頃の奇行も相まってかなりいつもと様子が変だと思われてしまったらしい。その場ではなんとか誤魔化したが。

 

 というか神器(セイクリッド・ギア)は魂に結び付く物のはず...もしかしなくてもブーステッド・ギアは既にこの体に宿ってはいないのではないか?

 そう考えるととたんに怖くなった。あの神器(セイクリッド・ギア)無しで俺みたいな一般人が生き残れるわけがない...いや、むしろ無いなら裏の世界と関わらなくて済むじゃないか!!むしろその方がはるかに安全だ!

 いやいやそうじゃなくて、今は一誠の魂を殺したかもしれない事が問題で...あぁクソ!なんでこんな事になったんだ...

 

 元々ベッドの上では色々と考えてしまう人間だった。日中は突然の事で思考が働かずかなりハイになっていたが色々とおかしすぎるだろ...

 どうすればいいんだ...誰か相談できる相手が欲しい...なぁブーステッド・ギア、ウェルシュドラゴン、ドライグ...お前はここに居るのか...?

 それとももう何処かへ行ってしまったのか...?

 

 日中走り回った事もあって、気がつくと眠ってしまっていた。

 

 ────────────────────────

 

 気がつくと薄暗い何もない場所にいた。

 

「何処だここ...」

 

 いや、居る。見えないし聞こえないし感じないが確かにそこに存在する。目の前に存在している。

 赤い何かを感じる...一切知覚できないのにどうしようもなく恐ろしく感じる...もしかしてこれが...

 

『........オマ......................ダ.......』

 

 突然何かが聞こえた。ひどく聴こえづらく何を言ってるのかは全くわからなかったが、確かに聴こえた。

 そうか、お前はいるのか。俺の中に変わらず居てくれるのか。良かった...

 

 ────────────────────────

 

「ちょっと、早く起きなさいよ!起きないともう知らないんだから!...ほら、起きてくれるなら何してもいいから...」

 

 昨今のツンが限りなく薄いなろうのツンデレヒロインみてぇな目覚ましで目を覚ました。ひでぇ目覚めだ。

 てかなんだこの目覚まし、原作読んでる時も思ってたけど趣味が悪すぎる...どこに売ってるんだよこんなの...普通のやつ買ってこよう。

 

 でも...目が覚めて、あの夢で一瞬声だけでも知覚できたからこそわかった。俺の左手には確かにあいつが宿っている。

 

「なら...俺は!やってやる!!強くなって!どこまででも強くなって!!おっぱいだろうがふとももだろうがなんだろうが触りまくってやる!!!」

 

 それがこの体への...兵藤一誠へのせめてもの償いだ!!!!

 嘘です触りたいだけですはい。

 

「そうだ!!アーシア!!!この世界にはアーシアがいる!!」

 

 そうアーシア!!!

 俺の初めての嫁!!アーシア・アルジェント!!!

 そうだアーシアが居るんだ...会いたいな...

 そうだ!居るんだ!!!

 理想がこの世界にあるんだ!!

 アーシアがこの世界には居るんだ!!

 折角なら出会ってあんなことやこんなことできるまで死ねるかよ!!!!

 てかそれくらいできないとこの世界で生き残れるだけのやる気が維持できない気がする...

 

「絶対に生き残ってやるぜぇぇぇ!!!!!」

 

「イッセーうるさぁぁい!!!!今日は学校でしょ早く降りてきなさい!!!」

 

 ごめんなさいイッセーの...いや母さん、ご近所の皆さん...でも俺...やります!やってやります!この世界で生き残って見せます!




主人公は突然の異常事態によって、非常にハイになっています。


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第2話。しちゃいます、覚醒。

書き貯め全然ないけど、折角なのでもう一話ぶん投げます。




 皆さんこんにちわ。俺は兵藤一誠。に憑依している者だ。

 気がつけば何故か憑依していたが、紆余曲折悶えながらも目標も見つけてなんとかこの無駄にシビアな世界で生き残るべく修行中の身である。

 

 あの日から一ヶ月が経って、今ではランニングも筋トレも余裕...というわけにはいかず毎日のように血反吐を吐きながら頑張っています。

 嘘ですちょっとサボったりしてます、でも毎日何かしら運動はしているからそこだけでも褒めて欲しいと思うのですよ俺は! 

 

 なんて考えつつなんとか僕は元気です。

 因みにブーステッド・ギアに関しては進捗はありません。ただまぁこればっかりは悪魔に転生してようやくの一誠の体だし、多少頑張ったとて原作開始までに発現することはないかもしれない...

 

 今は中学二年生の春だから、後三年近くで原作が始まるし、場合によっちゃ堕天使の襲撃はもっと早くなるかもしれない。

 いつ来るかわからないのはかなりストレスだけど頑張るしかない。

 生き残るには強くなるしかないのだから...

 

 ────────────────────────

 

 そして時は流れ、現在高校入学前の春休み期間。

 ついに転機が訪れたのだ...

 

 あっ、無事に駒王学園には合格できました。ここで躓いたら話にならないしな。前世では腐っても大学生になれていたんだ、やる気を持って勉強すれば余裕余裕。嘘です結構忘れていて数学とかしんどかったです。

 その日は最近お気に入りのエロ本でお致し申し上げた後、ベッドですやすやと眠るいつもの夜でした。

 

 ────────────────────────

 

『ようやく成ったか...ここまで時間がかかったものだ...なぁ宿主よ』

 

 この声は...! 覚えてる!! ドライグだ!! 

 はっ! じゃあさっきまでいっぱい俺の穢れを抜いてくれていたエロエロシスターは夢だっていうのか!!? 

 

『そうだエロガキ。まったく...お前はわけのわからない奴だな...

 ふざけたやつかと思えば、この世界の裏側の事や俺の事、未来の事も"原作知識"とやらで理解していると言うではないか...おっぱいドラゴンだのとふざけた話だ全く』

 

 その"原作知識"や前世に関しては、まじで絶対に誰にも話せない。こんな情報持ってるのがバレるだけで裏の世界全てから狙われること間違いないんだしな。絶対誰にも言うんじゃねぇぞ! 

 

『それぐらいわかっている。全く...こんな相棒前代未聞だぞ...大体、相談相手が欲しいと願っていたのはお前だろうに。俺にこんな荒唐無稽な話を押しつけやがって』

 

 それは本当にごめんなさい。だけどまぁもうしょうがないのですよこればっかりは...

 

『あぁわかっている。全くどんな因果だと言うのか...だがまぁお前が俺の相棒であることだけは間違いない。こうやって会話できている事からもわかる通り、お前の器はようやく成った。これからはお前の神器(セイクリッド・ギア)として共に居てやる。精々死なないように俺を使いこなしてみろ』

 

 あぁ...ありがとう...! 俺.お前がおっぱいドラゴンなんて呼ばれないように頑張るから!! しっかり赤龍帝として強くなってみせるから!!! 

 

『それはまじで頼むぞ相棒。切実に。絶対に』

 

 このドラゴン相当嫌がってるな。可哀想に、俺が救ってやるからな...

 

『ここから相棒を見ていた限り、あまり安心できないんだが...? 本当に頼むぞ...?』

 

 俺が? まさかまさか...おっぱいで覚醒したりなんてしませんよまさか...ハハハ! 

 

『時間だ...とにかく頼むからな!!!』

 

 最後の最後まで、念には念を込めて赤い龍は消えていった。

 

 ────────────────────────

 

「起きて下さい! 我が主よ!! むぅ...これでも起きないと言うのならば、我が剣が牙を剥きますよ」

 

 全く物騒な目覚ましだ...

 え? 買い換えるって言ってたじゃないかって? 

 買い換えよう買い換えようと思っている間に変な愛着が湧いてしまったのだ。

 普通に前世では欲しいと思ってたし...

 

「さて、夢の内容が本当なら...こい!! ブーステッド・ギア!!!」

 

 ...出ない。

 これはあれか? あれしかないのか? 

 

「ドラゴン波ぁぁぁぁ!!!!」

 

「イッセー!!! うるさい!!!」

 

 母に再び怒られた。ごめんなさい母君、近所の御住民様方、でも僕はついに念願を叶えたのです。

 

 俺の左腕に赤い籠手が装着された。

 ようやく...ようやくこの時が来たのか...結構長かったなぁ。

 

「しかしこれで神器(セイクリッド・ギア)は完全に覚醒した。いよいよもって堕天使とかに襲われる事を覚悟しないとな」

 

 今日は折角の休日、どんどんこいつを使って少しでも練度を上げないと!! 

 

 ────────────────────────

 

 俺は人っ子一人いない山の中へと来た。

 最近の修行場所である。草木溢れて地面も不安定なこの山で動き回るのは結構な体力を消費する。ついでに木をサンドバッグにもできる。ごめんよ木君、でもこれも生き残る為なんだ...

 

「来い! ブーステッド・ギア!!!」

 

 籠手が装着される。

 

『Boost!』

 

 よし問題なく動きだした! 力が溢れてくる...

 こいつぁすげぇや! 今なら色々できそうだ!! 

 木を殴る! 

 

 バキィ!! っといい音を立てて木に少し亀裂が入った。

 

「よっしゃこの調子で!! もう一回!!」

 

 20秒待って2度の倍化が発生する。

 

『Boost!』

 

 四倍!! すごい力だ! けど力に振り回されてるのがわかる...

 

『Explosion!』

 

 倍化を止めて...よしよし! すごい速さで動ける!! 

 

「すげぇすげぇ!!」

 

 俺はどんどん加速していき...

 

 ゴチィィン!!!! 

 

 木と正面衝突した。

 

「がぁぁぁぁああ痛てぇぇぇぇぇ!!!!」

 

 ブーステッド・ギアからバカにしたような思念を感じる気がした。

 

「この野郎...にしてもこりゃ想像以上に難しい力だな、倍加した状態に慣れないとまともに動けないぞ...? やっぱりイッセーは最弱だのなんだの言われながらも天才だったのでは??」

 

 ぶつくさと言いながらも検証の為にもう一度倍化を始める。

 

『Boost!』

 

 現在2倍、問題なし。

 

『Boost!』

 

 4倍...ちょっときついかも...

 

『Burst!」

 

 キャパシティを越えた!! 

 

 体からとたんに力が抜けて動けなくなる。

 

 現状たった2回しか倍化できないのか...

 生身の人間だからってのもあるかもだけどこれはきついな...もっと強くならないと...

 堕天使やはぐれ悪魔に襲われたら勝てないぞこれじゃ...

 

 俺は気を失ってしまった。

 

 ────────────────────────

 

『無様だな相棒...2回しか倍化できないだなんてなぁ? まぁもう少し慣れれば多少は安定するだろうよ』

 

 うるせぇこの野郎! 自分でもわかってるよ!! 

 

『悪魔になる前に死なないといいなぁ相棒』

 

 切実だからやめてくれドライグ...

 なぁ、譲渡の力と神器のオーラみたいなものを隠す術をくれないか? 

 

『譲渡の方は相棒の成長次第だ。とはいえ俺がきちんと目覚めたんだ、ここからの成長は今までがむしゃらにしていたトレーニングの物とは大きく変わるだろうさ』

 

 オーラ隠しは? 

 

『無理だな。腐っても龍のオーラだ、それなりに高度な術でもなければ隠しきれんさ』

 

 そっか...

 

『まぁ今のお前が戦えるとすれば、末端の雑魚くらいのもんだ。油断さえしなければそれほど脅威にはならんだろうよ』

 

 それって雑魚以外では勝負にならずに瞬殺って事ですよね? 

 

『そうとも言うな。まぁ努力を怠らん事だ。倍化するお前の元の力が1から2になるだけで爆発的に強くなれる。その上倍化できる回数も増えいくのだから言わずもがなだろう?』

 

 それはまぁ...

 

『そろそろ目を覚ましそうだな...また会おう相棒』

 

 あぁ、早く現実でもお前と話せるようになりたいよ

 

『フッ...直にそうなるとも』

 

 ──────────────────────ー

 

 目を覚ますと夕方になりかけていた。

 

「あー、体がだりぃ...結構時間経っちゃったな」

 

 今日の修行はここまでだ...すごい充足感がある。

 

「そうか...ついに俺も赤龍帝かぁ...感慨深いなぁ」

 

 ここまであっという間の一年だった.

 俺はここからどんどん強くなってやる.

 生き残る為に! 

 そして折角のハイスクールDxDの世界! アーシアとあんな事やこんな事をしてやるんだ!!



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第3話。しちゃいました、入学!

原作まではポンポン時を飛ばしていきます。


 本日、入学式!俺が憑依する前から友人だった松田と元浜の二人と共に登校することになりました。

 

「いやぁ、ついにこの時が来たなぁ!駒王学園!!」

 

「あぁ、俺は...俺達はこの学園で手に入れるんだ!!

 モテモテスクールライフを!!」

 

「よっしゃああ!気合入ってきたぜぇぇぇ!!」

 

 二人がうるせぇ...

 

「なんだよイッセーノリ悪りぃなぁ、お前だって楽しみにしてただろ?」

 

「まぁそうなんだけどさ、いざとなるとちょっと緊張するっていうか...」

 

 主に悪魔的な意味で。

 

「フッ、案ずるな心の友よ。俺も同じく緊張している。誰だってそうさ、緊張するに決まっている。だが、俺達はそれしきの事で止まれる男じゃないだろう?俺達の夢は!緊張などというくだらない感情に阻害されるほどやわじゃないだろう!!」

 

「そうだとも、今日この日から俺達の戦いは始まるのさ。やってやろうじゃないか!」

 

「お前ら...」

 

 ちょっとノリについていけない時もあるけど、こういう時めちゃくちゃ頼もしいぜ!

 

「よぉぉぉし!やってやる!!いざ行かん我等が戦場へ!!そして掴むぜモテモテスクールライフ!!!!」

 

「良く言ったイッセー!!!!よぉぉぉし!!円陣組むぞぉぉぉ!」

 

「「「おおおおおおおお!!ファイ!!!おぉぉぉっおお!!!!」」」

 

 どこまでも近所迷惑な奴等だぜ、自分の事だけど。

 ごめんなさい通学中の生徒達、通学路の住民の皆様、でも俺はむさ苦しい青春を謳歌しています。

 エロバカ三人組は切っても切れない腐れ縁なのだ。俺がイッセーに憑依したくらいで消える仲じゃなかった。

 

 そしてしばらく歩き、学校の門を潜った。

 

 ────────────────────────

 

 おっ!あれは木場!!現実で見るとすげぇイケメンだなぁ!

 おっとあそこにいるのは匙か?匙だ!ほぉ...

 

「おいおいイッセーあの女の子、めっちゃかわいくね?」

 

「いや...あのロリもなかなか...ほうほう」

 

 こいつらは平常運転で非常に安心する...

 さてさて...

 

「ばかやろう!それを言ったらあの子が一番だろ!?」

 

「うぉぉかわいい!!さっすが駒王学園!!滅茶苦茶クオリティ高いぜ!!!」

 

 ヒソヒソと声が聞こえる。

 早速、問題児として注目を集めてしまっているな.

 まぁこいつらと騒ぐのは誠に遺憾ながらちょっと楽しいので気にしないが...

 

「っと、そろそろ移動しないとまずそうだな!」

 

 俺は二人に声をかける

 

「仕方ない...リスト作りは明日以降に持ち越そう...」

 

 初日からリストってお前は末恐ろしいやつだな元浜.犯罪だけは犯すなよ...?

 三人揃って同じクラスだったので、そのままぺちゃくちゃしゃべりったり、クラスの女の子を品定めしながら過ごすことしばらく、入学式は無事に終わった。

 てか俺らが品定めって女の子に失礼だな。ごめんよクラスの女子達。

 

 元浜達は残って、更衣室を覗く場所を捜索するそうだが俺は帰ることにする。修行も続けなければいけないしな。

 

 赤龍帝の贈り物(ブーステッド・ギア・ギフト)だけでも習得できれば、かなり戦略の幅が広がるんだが...

 

 そういやリアス部長や朱乃さんには出会わなかったな...

 いや、出会わなくて正解なのか?難しいな...ただまぁ実物を見てみたいという欲求はあるんだけど、ブーステッド・ギアの事がバレたら面倒だしなぁ...一応原作通りのタイミングで眷属になりたいんだが...

 

『今までさんざん危機を避けようと過ごして来たのに、原作知識とやらの時期になれば動くだなんてそう上手く出来るとは思えんな。染み付いた逃げ腰は払拭するのに時間がかかるぞ?はぐれとでもそろそろ戦っておけよ?堕天使でもいいぞ?それか教会に殴り込むか?』

 

「どれも却下だよばかやろう!大体まだ神器(セイクリッド・ギア)覚醒してから1ヶ月も経ってないんだぞ?

 せめて後半年ぐらい修行させてくれよ?」

 

『やれやれ、強者すらも喰らっていくくらいの気概がなければ白いのにも勝てんぞ?既に目覚めているのだろう?おまけにルシファーの子と来たもんだ。俺はお前が勝てるビジョンが見えなくて心配だよ』

 

「うるっせぇ!俺には俺のスケジュールがあるんだよ!もう少し強くなればしっかり実戦も経験するから!」

 

『まぁ良い、お前の好きにすればいいさ。どうしたって赤龍帝の元には力が集まる定めなのだからな』

 

「あぁ...わかってる...」

 

 そう、ドライグはついに現実でも会話できるようになったのだ!最近は容赦なく辛辣な言葉をかけてくるので少々仲は険悪だが...とはいえ言ってることが正論なのは認める。俺が怖がっているだけだ、いつかはやらなきゃいけない。でも...もう少しだけ...後少しだけ勇気が...自信が欲しいんだ...

 戦って勝てるという自信が...

 

 ────────────────────────

 

 なんて言っている時期が僕にもありました。はい、遭遇しました。はぐれ悪魔さんです。しかも出会ったのは原作でイッセー君が刺される例の公園です。フラグ回収が速すぎるぜ!なにも入学式当日に出くわさないでも...

 あ──ちょっと調子のって修行時間を伸ばしたらこれだ!やですよもおぉぉぉん!!!

 

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!」

 

 男っぽいはぐれ悪魔は四本の腕を太く、長く伸ばしてきている。

 もう既に5mくらいは伸びてそうだ。

 

「オマエ...ニンゲン...クサイ...クウ...」

 

 クサイなら食わんといてください.

 俺は嘆きながら籠手を装着する。

 

『Boost!』

 

 とにかく時間を稼いで倍加を貯めないと話にならん!

 俺は逃げ出した。

 

「マ...マテ...マテマテマテテテテテテアアアアアアアア!!!!!」

 

 ひえぇ気持ちわりぃ...!!勘弁してくれ!!

 

 逃げること数秒

 

『Boost!』

 

 二回目の倍化!

 

「なぁドライグ!俺は3回の倍化であいつに勝てると思うか?」

 

『さぁ?正直五分五分じゃないか?お前は遠距離攻撃を持っていないからな。ただまぁ、あの腕を潜り抜けて懐に入ることができれば十分勝機はあるんじゃないか?』

 

 一昨日やっと三回目の倍化ができるようになって喜んでいたくらいのにいきなり実戦かつ、ギリギリの戦いとは...

 やっぱつれぇわ...

 

 俺はなんとか倍加を解除されない程度に押さえながら襲いくる腕を捌いていく。避けて、弾いて、殴って、逸らして...

 

『Boost!』

 

 よっしゃきた!!!

 

『Explosion!』

 

 これで倍化を固定できた。

 

「うぉおおおおおおおお!!!」

 

 俺は果敢に懐へと飛び込もうとするが、腕が邪魔をする。二本はなんとか避けられる。だが、三、四本と増えると一気に難易度が跳ね上がる...

 まずい...リセットまでそんなに時間がない...

 

 いや...俺はここに来てもまだ逃げ腰だった...

 もっと果敢に攻め込まなければ...骨の一本や二本犠牲にできるくらいの気概がなきゃ命を取られるだけだ...そういう世界だ...!

 

 俺は再び突撃した。

 一本目の腕は上から俺を押さえつけようと伸びてくる。横に一歩ステップして避けた。

 避けた先に二本目が前から押し出すように飛んでくる。

 籠手で上に逸らして下に潜り込む。

 三本目。後ろから俺を掴もうと腕が伸びてくる。

 一瞬止まって少しジャンプし、その手を踏み台に加速する。

 四本目。加速した俺には追い付けなかった。

 

 よし!懐に入った!!!

 これでこいつを殴れる!!!

 

「メェェェェェェェェ!!!」

 

 すると突然胸から腕が一本。他のに比べれば細いが脅威には違いない。

 ダメだここで避けたら他の腕がまた殺到する...

 今、この腕をどうにかして本体をやるしかない!!

 俺は右腕を盾のようにして腕を逸らさせる。

 いや、腕をへし折って拳があらぬ方向へと飛んだというべきだろうか。

 

 目の前にたどり着いた!!

 

「このやろう!!テメェ!!覚悟しろよ!!!」

 

 俺は全力で左手を顔面へと振り抜いた。

 はぐれ悪魔は少し吹き飛んで倒れた。

 

「ゴパッッ!!キエエエエエエエエエ!!!!」

 

「うるせぇ!このやろぉ!!俺は勝つぞお前このやろう!!」

 

 マウンティングの体制を取って何度も何度も顔面に拳を振り下ろす。

 そして気がつけばはぐれ悪魔は動かなくなっていた。

 

『なんとか倒せたじゃないか相棒。まぁ初陣にしては良くやったんじゃないか?』

 

「あぁ...死ぬほど痛いけど...なんとかはなった...な...ハァ...ハァ...」

 

『逃げるつもりなら早くした方がいいぞ。そう時間はかからずどこかの勢力の者が来るはずだ』

 

「あぁ...勝手に仕事を奪ったかもしれないしな...危険因子として処分とか...あまりいい対応はしてもらえなさそうだ...」

 

『ならばとっとと足を動かす事だな』

 

「わかってる...あぁぁ!痛てぇ...」

 

 俺の初陣は辛勝というなんとも微妙な結果に終わった。

 

 あっ、余談ですがその日の入り夜に治癒能力を高めたいという俺の切なる、本当に切なる願いに答えて譲渡の力が目覚めました。

 もっと早くしてくれよこの野郎、うそうそ感謝してますありがとうございます...!

 

 ────────────────────────

 

「これは...」

 

「もう既に誰かに始末されてしまったようですね」

 

「顔面がぐちゃぐちゃだわ。何度も何度も殴ったのでしょうね」

 

「あらあら、如何いたしますか?」

 

「下手人が誰かわからない以上、しばらくは静観するしかないでしょうね」

 

 死体を残している時点で裏と繋がりがないような単独犯の可能性が高い...

 はぐれを倒すことができて、どこにも属していない存在...

 

「ちょっと厄介な事になるかもしれないわね...」



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第4話。過ごします、日常。

エロバカ3人組は書きやすいです。


 あれだけの事件を起こしたのだし、何処かしらからのコンタクトはあるはずだと考えていたのだが、どういう訳かそういった事は一切なかった。

 

『お前が赤龍帝だと言う事は既に堕天使どもにはバレているだろうな』

 

「だよな。まじでいつ堕天使に襲われてもおかしくないんだよなぁ...なんでこないんだ?」

 

『まぁそれならそれでいいだろうよ。その間に少しでも強くなればいい話だ。』

 

「まぁそりゃそうなんだけど、それが難しいって話だろ?」

 

 強くなりたいです、だから強くなります

 みたいな話をされても困るのですよこっちは...

 

 因みに右腕はまだ治っていません。譲渡でちょこちょこ回復力を倍加させているんだが、いかんせん持続時間が短いのでそんなに都合良く回復はできねぇ...

 

 あぁ...切実にアーシアに会いたい...アーシアさえいればこの傷もあっという間に回復するというのに...

 アーシアに出会えたなら聖母の微笑(トワイライト・ヒーリング)無しでも回復出来る自信がある...天使に会いたい...

 

『まぁ倍化と譲渡の練習にはなるんだから、せいぜいきちんと治るまでそっちに集中するんだな』

 

「はいはい、わかってますよ」

 

 あのはぐれ悪魔は実際の所めちゃくちゃ弱いと思う。特に魔力を使われる事はなかったし、ちょっと腕四本のインパクトに押されたけど理性を失っていたのもあって扱いが死ぬほど雑だった。もっとも、しっかり考えてあの腕を使われたらあっという間に捕まっていただろうけど...

 

「まっ反省はしても後悔はしないってのが上手く生きていくコツだな...次に生かしていくしかねぇ!」

 

「おいおいイッセー!右手に包帯つけてきて、今度は独り言か?右手に封印されてる龍にでも話しかけてるのか?病を患うにはちょっと年を食ってるぜ?」

 

 意外に近くてびっくりだな...

 

「誰が中二病だよ!まじでケガしてんだから心配してくれたっていいだろうがよ松田!」

 

「お前が美少女ならいざ知らず、お前みたいなやつを心配したって不快になるだけだが?」

 

「言ってくれるな元浜も!!いいぜお前ら!お前らもケガさせてやるよこの野郎!」

 

 左手を使って松田の肩を強く握る。

 

「あだだだだだだ!お前無駄に鍛えてるんだから痛てぇよ止めてくれ!!!」

 

「ざまぁみやがれ!!お前もだ元浜ぁ!くらいやがれ!」

 

 ちょっと痛い程度に押さえてけつを蹴ってやった。

 

「おぅ!このッ...やってくれるッ...!!」

 

 俺達は通学路いっぱいに広がって三竦みになった。

 メチャクチャ通行人に迷惑をかけている。

 ごめんなさい通学通勤している皆さん、通学路付近在住の皆さん、でも俺は今復讐に燃えているのです...

 

「イッセーを叩くぞ!来い!」

 

「おう!」

 

 二人が同時にかかってきた。

 右手はしっかり避けてくれる辺り優しさを感じてお兄さん泣きそうだよ...

 

「あだだだだだ!!」

 

 運動神経抜群の松田が俺の背後を取り、腕を押さえている間に元浜にこめかみグリグリされた...

 これ普通に痛いんだよな...

 こいつらゆるざん!!

 

「いい加減にっっていっッッッッ!!」

 

 右腕を押さえてうずくまる。

 

「あっイッセー悪い!大丈夫か?」

 

 心配そうに声をかける松田

 

「引っ掛かったな!阿呆め!!」

 

 俺は松田の頭を抱き寄せて逆側のこめかみに左手を当てる

 

「こいつがどうなってもいいのか元浜ぁ!」

 

「くっ...騙し討ちからの人質とは卑怯な...!」

 

「勝てばよかろうなのさ...さぁ降伏を宣言するんだ!」

 

「ぬぅ...わかった。俺は戦いを降りる...ただし降伏は宣言しない!そんな人質に欠片も価値はない!煮るなり焼くなり好きにすればいいさ...」

 

「なっ!お前俺を売るってのか!」

 

「はっ!お前なんかを売って生き残れるのならいくらでも売ってやるよ」

 

「そうか...懸命だな元浜。じゃあ、執行!」

 

「あだだだだだだだだ!!!」

 

 松田の叫び声が響く...

 

 そして当然のように俺達三人は遅刻した。

 

 ────────────────────────

 

 入学式の日から4ヶ月ほど経過して、ようやく俺の腕は完治した。

 全治6ヶ月って言われてたし一応効果はあったのかな?治癒力の倍化って感覚があんまりなくてよくわからなかったから結果に現れてくれて嬉しい。

 

 治療期間の間もスクワットなど出来るトレーニングはするようにしていた。

 ブーステッド・ギアの方は全部治療に回していたけれど、それでもかなり体が倍化に慣れている感覚がする。

 

『いよいよ本格的な修行を始める事ができるな?』

 

「あぁ...まずは右腕のリハビリと失った体力を戻さないとな...」

 

 今回の件で両親にはかなり心配をかけてしまった。

 山でトレーニングしていたら滑り落ちて木で腕を折ったという設定で誤魔化したがちょっと無理があったもんな...

 とりあえず山に行くのは禁止だと言われてしまった。

 

「よぉし、やるか!」

 

 ランニング、各種トレーニングを終えた俺は結局山の中でブーステッド・ギアを起動した。

 だってここが一番人目につかないし、もしもの時に逃げやすいんだもの...

 ごめんよ母さん...

 

「なぁ、今は大体何回くらい倍化できるかな?治療中は安牌を取って4回で押さえてたけど...」

 

『さぁな?ただまぁ5回までは可能だと思うぞ?』

 

「5回か...32倍...すげぇ数字だな...助かるぜ相棒!さて、今日からはエネルギー射出の訓練を始めたいと思う。遠距離攻撃がないのは苦しいからな...エネルギー弾みたいなのが使えればもっと安定した戦いができると思うんだ」

 

『まぁ出来なくはないだろうがな、お前はそもそもの才能が乏しい...悪魔ではないから魔力はないし、神器のオーラだけで破壊力を持ったエネルギーの塊を作るのは今のお前には少々難しいぞ...?』

 

 確かにおっしゃる通りだが、できないことはないはず!魔力があれば手っ取り早いんだろうけど、結局魔力を手に入れた時にこれができれば魔力と混ぜて強力な一撃になると思うし...

 とにかくなんでもできるに越したことはないだろう。

 それに...

 

「秘策があるのだよドライグ君...まずは力を限界まで蓄えるだろう?次に俺のオーラに譲渡する!そうすればいくらオーラが少ないと言っても、きちんと認識できて、オーラの感覚もわかると思うんだ!」

 

『そんなことをして大丈夫か?ガス欠の状態で居場所を伝えるような物だぞ?まぁ既に手遅れだろうが...』

 

「あー、考えてなかった...いや、でも逆にここまで見逃して貰ってるなら逆にいけるのでは?」

 

『全く...ついこの前まで来ないでくれ来ないでくれと言っていた癖に...まぁ好きにするといい。そろそろ二回目の実戦も悪くないだろうしな...』

 

「二度目はないっつの!」

 

 まじで勘弁してくれ!ようやっとケガが治った所なのに...!

 

『Boost!』

 

 倍化を開始する...

 そして5度目の倍加が終了した所で

 

「よし!俺のオーラに譲渡しろ!」

 

『Transfer!』

 

 俺のオーラと思われる物が一気に増大した。

 

「わかる!これがオーラか!なるほど...これを集めて...集め...いやムズいなこれ...」

 

 全然上手くいかない...操作する感覚がわからない...

 だが!やるしかねぇ!

 溢れ出るオーラをなんとか籠手の方へと少しづつ集めていって...集めて集めて...

 

 俺は気絶した。

 

 ────────────────────────

 

『オーラを放出しすぎたな。体力を全て持っていかれたようだ』

 

 目を覚ました俺にドライグが語りかける。

 上手くいかないもんだな...でもなんとなくイメージは掴めたし!反復練習していくしかないな...

 

 体がメチャクチャ怠いけれど、両親を心配させるわけにもいかない...早く帰らないとな...

 

「ん?ここいらでそこそこ大きめの龍の気を感じた気がしたんだがな...?」

 

 声が聞こえた。俺は動けない...

 ただでさえオーラを大量に使って体力がないんだ

 どこの誰だか知らないが居場所がバレたら確実に殺される...

 

 ドライグ...できるかわからんがなるべく存在感を消してくれ...!

 

『やってみてやろう』

 

 ちょっとだけオーラが減った気がする...

 けど気休め程度だ...

 声の主との距離はそれなりにある...

 それでも感じるこの死の予感は、俺とこいつの実力差の現れだろう...

 認識されてしまったら死ぬしかない...!

 

「んー、まぁいいか。俺達の前に立ったその時に消せばいいだけの話だ...所詮は人間、大した力でもないだろう...」

 

 翼の音と共に、緊張感は少しずつ薄れていった...

 

「行った...か?」

 

 俺は大量にかいた冷や汗を拭った。

 

『直前にオーラを使いまくったのが不幸中の幸いだっただろうな。真剣に探索されればバレていただろうが、お前のオーラは森にいる獣程度まで落ち込んでいた...残留するオーラも相まって上手く紛れ込む事ができたんだろう。』

 

 なるほど...?

 原因によって救われたってのは複雑な気分だが、まぁ生き残れたんだから良しとすべきだな...

 

『今まで直接的な動きがなかった故に、少し調子に乗ってしまっていたな。まぁ今回の事で勉強になっただろう?この力はいずれ神をも滅するほどに成長するが、最初は皆こんなもんだ。危険視はされないように、しかし時には大胆に、経験と実力を積み重ねていくのだ...まぁいずれはどこかの勢力に保護してもらうのが常套だがな。お前は裏側の話をかなり理解しているようだからアドバイスなどは控えめにしていたが、少々危機感が足りなかったようだな、相棒。』

 

「あぁ...今回でしみじみと反省したよ。そしてやっぱり堕天使は桁違いだ...いや他の勢力の奴らもやばいんだけどさ...やっぱりこの人の身ではあんな化け物どもを倒していくには実力も経験も何もかもが足りない...今回の遭遇とも言えないすれ違いで嫌と言う程に理解したぜ...」

 

『ならばどうする?相棒。』

 

「やることは今までと変わらない...俺の持つ数少ないアドバンテージである知識を活用するためにも、原作の流れからはなるべく外れたくない...だからこそ俺という異分子によって起こる改変を無理やり押し通せるくらいの力を手に入れる...!」

 

 結局修行をするしか言えないよな...

 慎重、かつ大胆に...いい言葉だぜ

 矛盾する言葉って実現できたらメチャクチャかっこいいと思うの。

 

 やってやるぜ!少しでも強くなってやる!

 

 なお、帰宅が遅くなったため普通にお母様に怒られた。

 



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第5話。現れました、運命!

ここからようやく原作開始です...
ストック貯まってきたので連投します(油断)


 あれから特に危ない事態に陥る事はなく、トレーニングもしっかりして、本当にたまにはぐれの悪魔に出会った時に逃げたり、戦って勝利する毎日を過ごした。はぐれ悪魔現れすぎじゃないですかね?流石駒王町。

 

 そしてついに、二年生になったのである!

 

 ────────────────────────

 

「いよいよ、原作開始が近づいてきたな...」

 

『それは構わないが、本当に堕天使からの接触なんてあるのか?わざわざ今さら殺しに来るとは思えんが...原作とやらからはかなり離れた行動をしているだろうしな?』

 

「いやまぁそれはそうなんだが...ただまぁ、なんとなく...原作の通りの展開になるっていう予感がするんだよ。...ほんと感覚なんだけどな」

 

『不安を誤魔化す為の錯覚じゃないといいなぁ?相棒』

 

 こいつは少しは緊張している俺に対して励ましの言葉とかないのかよ...

 

『まぁ安心するといいさ、相棒がフルに倍化すれば中級悪魔よりそこそこ下程度の実力はあると思うぞ?戦えんことはないだろうさ』

 

「まっっったく安心できない数値ですけど...」

 

 あっ、そういえば学園で生活する中でオカルト研究部のメンバーはすれ違ったり見かけたりしている。

 全員顔面偏差値がすごいことになっている...

 実力もすごい差を感じる...

 日常生活では押さえているであろうにも関わらずだ...

 まぁ今のところ特にアクションはなかったし、多分見逃されているんだろうな...

 ここまできて管理者であるリアス・グレモリーにバレていないなんて事はないだろう...

 自分でもそこそこ暴れた自信がある...

 

「まぁ本当に最悪の最悪、一週間前に手に入れたこの魔方陣を使えば接触の機会は訪れるんだから、そこからなんとか軌道修正するしかないだろうな...」

 

 念のためにポケットに常備するようにしている。ハンカチかよ...

 

 ────────────────────────

 

 それから数日が経ち、いよいよその時が訪れてしまった。

 

「あなたが兵藤一誠さんですよね...?」

 

「ッ...!えぇ...そうですけど?」

 

 あまりに唐突でつい言葉が詰まってしまったが、なんとか返事を返すことができた。

 

 レイナーレだ。ついにこの時が来たんだ...

 実際に見たらかわいいな...本性知ってるし揺らがないけど...

 

「あのっ!私、天野夕麻っていいます。こんにちわ...」

 

「はっはい...こんにちわ...」

 

「あの、もしよかったらなんですけど...少しついてきてくれませんか?お話したい事があるんです...」

 

 ん?付き合って下さいじゃないのか?まさかもう今日殺すつもりなのか...?

 

『ハッハッハ、早速差異が出ているじゃないか』

 

 うるせぇ笑ってんじゃねぇよ!このやろう...

 

「あぁっと...うん!いいよ?でもここじゃダメなのかな...?」

 

「はい...ごめんなさい!できれば人気のない所でお願いしたくて...誰にも聞かれたくないんです...恥ずかしくて...」

 

 顔を赤くして恥ずかしがっているように見える

 

 あーこれ完全に告白しますムードじゃん...

 手口知らなかったらまじでほいほい着いていっちゃいそうだなぁ...

 まぁでもこのイベントは数日くらい早まっても問題ないだろう。

 というかむしろ1日でも早く終わらしたい。地味にストレスなんだよ...いつ来るかわからない死亡フラグを抱えるのは...

 

「それじゃあ、着いてきて下さい...」

 

 彼女は俺の手を少し握って引っ張り始めた。

 これから人払いの結界がある場所へと連れていくのだろう...

 

 だがまぁ問題ない、この魔方陣さえあれば...あれ?魔方陣?あれ?????

 いつもポケットに入れていたのに無いぞ!!まって?まずいまずいまずい...

 

『おうおうおう!やらかすじゃないか相棒!!ククク!面白いやつだなお前は。さぁ命の危機だぞ?どう切り抜けるんだ?』

 

 面白がってる場合じゃないだろう!!まずいってこれ...

 レイナーレと正面からやりあって勝てるとは思えないぞ...?

 

『やってやればいいだろう?先手必勝さ...』

 

 ぬぅうううううう!!!!!肝心な時に何やってんだマジでぇぇぇぇぇ!!!!

 そうだ!昨日魔方陣ってどんな仕組みなのか見てればわかったりしないかな?とか言いながら机に置きっぱにしたわぁぁぁぁぁぁ!!!

 

「あの...どうかしましたか...?」

 

 まずい、動揺を悟られてしまったか...?

 いや、チャンスじゃないか?

 

「あーっと、ごめんね!ちょっと携帯を学校に置き忘れちゃったのに気付いてさ!!ちょっとだけ取りに戻ったりしてもいいかな?」

 

「すぐに終わりますから、その後じゃダメですか...?」

 

「あ──ー、財布も一緒に置いててさ、お金取られたらまずいし、その?ね?少しだけ!必ず戻ってくるから!!ね?」

 

「...........」

 

 無理か...?ダメか...?

 

「..........あぁイライラする。もうここでいいわめんどくさい...」

 

 まずい...殺意を感じる...やるしかねぇ!

 

「来い!」

 

 ブーステッド・ギアを呼びだす。

 

「ウフフ、やっぱり目覚めているのね...神器(セイクリッド・ギア)に...

 なら...死んでくれる?」

 

 レイナーレが光の槍を生み出してこちらに投擲する。

 

「ぬんっ!!」

 

 俺は辛うじてそれを回避する、それと同時に

 

『Boost!』

 

 一回目。やばいぞこれ...溜めきる時間は絶対ないな...

 

「あら、今のを避けるなんて...やるじゃない...のっ!!!」

 

 二度目の投擲。

 俺は前に飛び込んで辛うじて避ける。

 

「チッ!...ちょこまかと!」

 

 前に飛び込んで前回りした俺に蹴りを入れようとしてくる。

 俺は籠手でそれをガードするが吹き飛ばされた

 

「ッ...!ンガッ!!」

 

 後頭部を地面にぶつけた...痛ってぇ...

 

 体勢を立て直す...

 

『Boost!』

 

 二度目の倍化!よし!これで少しは逃げに徹するだけの余力が生まれる!

 

「そろそろ死んでくれないかしらッ...!ねぇ!!!」

 

 さっきよりも速い投擲...!

 

「ぎぃぃぃ!!」

 

 避けようとしたが、右腕の一部をえぐられてしまった...

 

「カスッたか...でも、大体わかったわよ?あなたの実力...次は足を潰してあげる」

 

 次の投擲、右膝を貫かれてしまった!

 

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!」

 

 痛い痛い痛い痛い!!!!

 

 心のどこかで俺は思っていた。自分はそれなりに強くなった。もしかしたら勝てるかもしれない。なんとかなるかもしれない...

 

 だがそんなものは幻想でしかなかった。

 現実は残酷だ。

 弱者は強者にただいたぶられる。

 わかっていたつもりだった...ただのつもりだったのだ...

 

 今の一撃で倍化も解除されてしまった。

 

「あら?もう終わり?まぁしょうがないわね、下等な人間ごときが、少々神器(セイクリッド・ギア)を持ったからって私達に勝てるわけないもの...」

 

 全くその通りだちくしょう...

 あ──、兵藤一誠を押し退けて、新たな人生を得ても...それでもなお下らない理由で死ぬのか俺は...

 

 こんな...下らない...忘れ物だなんてそんな理由で...

 

「ふざ...けるな...」

 

「は?」

 

「ふざけるな...!こんな理由で死んでたまるか...ふざけるな...!!!クソクソクソクソ!!!!!」

 

「はぁ...喚かないでよ下等生物。うるさいのよ。」

 

 こんなので...まだ、何も...何も成し遂げていないのに...

 このまま俺が死んだら...アーシアはどうなる?他の皆はどうなる?赤龍帝がいないこの世界はどうなる?

 なにより...俺自身はどうなる...?

 

「ちくしょうちくしょう...死んでたまるかぁぁぁああああああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!」

 

 心の底から叫んだ。俺はまだ生きている。最後の一瞬まで、命を燃やすんだ!!

 諦めるわけにはいかないんだ...!!

 

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!」

 

『Dragon booster!!』

 

 宝玉が強く強く光輝いた。

 

「なっ...!なんなの...!!?」

 

『Boost!Boost!Boost!Boooost!!!」

 

 身体中に力が駆け巡る

 

「死んで...たまるかぁぁぁぁあああ!!!」

 

 左足に力を入れて全力で飛び込む。

 

 足を負傷して、次の一撃が最後の一発。終わったら倒れる。奇しくもイッセーと同じ状況になってしまったな、なんて下らない思考が一瞬頭をよぎった。

 

「おおおおおおお!!!」

 

 籠手で殴りかかる。

 

「なんなのよお前はぁぁぁぁぁ!!!」

 

 相手も光の槍を突き刺そうとする。

 

 お互いの攻撃が同時に突き刺さった。

 

「ごぱっっ...!」

 

 血を吐き出す...

 思いっきり腹に穴が開いた...

 間違いなく死ねる...

 あぁ...くそっ...でも...

 

「へっ...最後に一発いれてやったぞこのやろう...」

 

 はぁ...すまなかったなドライグ...ダメな宿主で...

 

『いいや、気にするな相棒。お前は良くやった。今はゆっくり休め。』

 

 はっ...最後くらいは慰めの言葉をかけてくれるんだな...

 

 ..........

 .....

 ...

 .

 

 ────────────────────────

 

「くそっ...!!!このガキッ...!!!下等生物ごときがッ!!!あろうことか私を殴っただと...!!?」

 

 苛立ちがピークに達する...

 こいつはそもそもからムカつく奴だった。

 どこか見透かしたような目。

 猿の癖に一切顔も赤らめないし...

 

 ムカつくムカつくムカつく...

 ただ殺すだけじゃ満足できない!!

 どうやって死体を弄んでやろうか...!

 

「ごきげんよう、堕ちた天使さん...?」

 

 現れたのは、緋色の髪を持つ悪魔であった...



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第6話。なっちゃいました、悪魔!

今3巻まで書き貯めているのですが、何がなんだかわからなくなってきました...


「んッ゛ッ゛!ん?あ...あれ?」

 

 目を覚ましたら部屋の中にいた。

 どういうことだ?俺は確か死んだはず...

 

『目覚めたか相棒』

 

「ドライグ!!え?どういうことだ?え?」

 

『慌てるな、きちんと説明してやる。まず、お前は確かに死んだ。いや死にかけたが正確だな。だが、その後現れたのさ、リアス・グレモリーがな...』

 

「なっ...!なんで!?魔方陣はなかったのに...」

 

『大方お前達の戦いを嗅ぎ付けて事態の収集を図りに来たって所だろう。管理者なんだろう?この町の。』

 

「確かに...それならありえるのか...?」

 

『そしてお前の目論見通り、悪魔の駒を用いた転生によって無事に転生悪魔へと生まれ変わったというわけだ。良かったな相棒、念願の悪魔だぞ?』

 

「うぅ...寝起きからこんな話聞かされてもついていけねぇ...」

 

『お前の"原作知識"だのなんだのの話よりはずいぶんと現実的だと思うが?』

 

「まぁ確かにそうかもしれない...」

 

 しかしそっか...そうなのか...なったのか...悪魔...

 

「そういえばレイナーレはどうなったんだ?」

 

『あいつは逃がされていたとも...まぁあの場でリアス・グレモリーに殺せというのも無理があるだろう...せいぜい強めの警告程度だ。』

 

 それもそうなのだろうか...

 まぁ考えるのは後にしよう...

 今は純粋に、生き残る事ができた喜びを噛みしめなければ...

 

 ────────────────────────

 

 朝日が辛い...体が怠い...

 

「あぁ...これ結構きついんだな...早く慣れてしまわないとまじで遅刻常習犯になっちまう...」

 

 ふらふらとしながらなんとか学校に到着した。

 

 松田と元浜がいつものようにお下劣トークをしているが、生憎俺にはそれに付き合えるほどの体力が今はない...

 

「なんだよイッセーノリ悪りぃなぁ!折角のお宝作品だぞ??」

 

「うーん...悪い...今日ちょっと調子悪いんだよ...勘弁してくれ...」

 

「なんだ風邪でもひいてんのか?ならよぉ知ってるかイッセー?病気してる時はオ◯ニーすると免疫が高まるらしいぜ?」

 

「ちょっとエロバカども!朝から気持ち悪い話しないでよ!!」

 

「うるせぇ!俺はイッセーを想って猥談してやってんだよ!!これは立派な治療行為だ!!」

 

「きもーい!!」「サイテー!!」

 

「おいおいおい!言われてるぞイッセー!お前の為を想って頑張る友人に!外野から理不尽な罵りが投げられているぞ!何か言う事があるんじゃないのか!!?」

 

「あぁ?あー...俺は眠る...頑張ってくれ...」

 

 眠すぎるのでそのまま寝た。

 

 ────────────────────────

 

 気がつけば放課後になっていた。

 

「どんだけ寝たんだ俺...授業時間ほとんど寝てたな...」

 

『悪魔になった弊害という奴かもな。それで、どうするんだ?リアス・グレモリーに挨拶でもするのか?』

 

「んー...いや、向こうから接触してきた時でいいかな。リアス・グレモリーの駒になった以上、焦らなくても問題ないと思うし...それより夜目が聞くようになったし、これからは夜に修行する事にしようか。それならわざわざ森に行かなくとも人の目が少なくて済むし。」

 

『そうだな。とはいえ、その時間帯は裏の時間帯だ。今までとは比にならんレベルで何かしらと遭遇する事になるかも知れんぞ?』

 

「それも悪くないかなって。原作から考えて、悪魔になれた以上、しっかり倍化すれば弱い上級悪魔レベルの実力は持ってると思っていいと思うし、最悪の場合は間違いなく今度こそリアス・グレモリーが接触してくれるはずだ。」

 

『まぁお前の判断に従おう。では帰るか...』

 

 ────────────────────────

 

 時刻は丑三つ時。

 

「おぉ...今までのトレーニングが嘘みたいに軽いな...やっぱり悪魔に転生すると肉体のスペックが全然違うな、まぁ今が夜ってのはあるかもしれないけど...」

 

『そうだな、何かしら方法を考えなければ効率の良いトレーニングはできんだろうな』

 

「まぁそういった器具なり魔法なりは存在してるだろうし、今日はとりあえず倍化の上限でも調べるか...」

 

 .....

 

 

『Boost!』

 

 16回目の倍化、倍率にして約65000...桁がおかしい事になってるな...

 

『そろそろ限界が近いと思うぞ』

 

 原作イッセーはライザー戦では十数回を普通に出してたからもっと行けると思ってたんだがな...

 

『そう簡単にはいかんだろうよ。ただまぁ、今までとは一線を画しているのは間違いない。これからも励む事だな...』

 

『Explosion!』

 

 よし、今日はこれで動く練習だな。

 これだけ倍化しても勝てない相手が無限に転がってるんだからほんとこの世界は嫌になってくるな...

 

 一発目の倍化が解けるまで動き回った。突然強くなってしまうと体が慣れないな...

 

『Reset!』

 

「あ──、まぁ今日はこんな物にするか...初日だし...変なのに捕まったらめんどくせぇ」

 

 といって、タオル等をしまって帰ろうとしたその時...

 

「このような地方の市街で貴様のような存在と出会うとは、数奇な事があったものだ...」

 

 スーツを着た男がこっちを見ていた。

 

「うわぁ...確実に堕天使じゃん...」

 

『ハッハッハ!お前のいうフラグ?とかいうのはいつも綺麗に作動するなぁ!』

 

 うるちゃあああああい!!!

 ほんとに勘弁してくれよ!心の準備をくれよ!!

 なんなんだよ全く!!!

 ああああもう!

 

「来い!ブーステッド・ギア!!」

 

『Boost!』

 

「ほう?神器(セイクリッド・ギア)に目覚めているのか?面白い...」

 

「主は誰だ?こんな辺鄙な場所を縄張りにするような輩だ、階級が低いか、物好きかのどちらかだな」

 

「な...なんの話かわからないなぁ...?」

 

「惚けるなよ下級風情が...おまえの属している主の名を早く言え。こんな所でお前達に邪魔をされると迷惑だ...こちらとしてもそれなりの...いや、まさかお前、「はぐれ」か?主が居るのならそれを答えるはずだものなぁ...勝ち目がないことぐらいおまえのような下等な者でもわかるだろうしなぁ!」

 

『Boost!』

 

 二度目の倍化。

 

 そもそもの身体スペックも上がってるし、もうちょっと時間を掛ければ戦う事は厳しくても逃げて時間を稼ぐ事はできるはず。そこまでいければ後は勝てる所まで倍化するだけだ!

 

「さぁ...主はいるかもしれないぜ...?俺がお前に語っていないだけでいるかも...」

 

「下らない事を言うな。主の気配も仲間の気配もなし。消える素振りもなければ、魔方陣の展開も行わない。お前は間違いなく「はぐれ」だ。例えそうでなかったとしてもここまで何もしないような無能なら相手じゃあない。」

 

『Boost!』

 

 三度目だ。ちょっと厳しいけどいけるか...?

 

「さて、さくっと殺るか...」

 

 男はこちらに手を向けて光の槍を形成する。

 射出!

 

「ふっ!」

 

 俺は難なく避けた。

 悪魔になって身体能力も動体視力も上がっている。所詮はレイナーレに従う程度の堕天使、このままの調子で行けば勝てるはず...!

 

「避けるか...!しかも貴様...!魔力が出会った瞬間と比べて大きく肥大化している...!それがお前の神器(セイクリッド・ギア)の力か!なるほどずいぶんと危険なものを持ってるじゃないか!なおさら殺してやろう!!」

 

 まずいな、本気にさせてしまったか?

 

「ほらほらほらほら!」

 

 連続で光の槍を投げられる。

 一発でも当たれば光の力で動きにくくなる...

 跳んだりしゃがんだりしながら少し大袈裟に避ける。

 

『Boost!』

 

 四度目。これで奴と同等か少し下ぐらいにはなっただろう...

 

「貴様ぁ!その神器(セイクリッド・ギア)!短時間でどんどん上昇していくその力!まさかブーステッドギアか!!?おのれぇぇぇ!!!」

 

「今さら遅せぇ!!倒してやるぜ!お前をなぁ!」

 

 俺は一転攻勢、果敢に攻めに行くことにした。

 

『Boost!』

 

 五度目!これで実力は完全に追い抜いた!

 

 いや、槍が当たる可能性を考えればもう少し上げても良いはずだ...

 

「おのれおのれおのれぇ...!!」

 

 闇雲に槍が投げられる。

 

「そんな適当な狙いで当たるわけねぇだろ!」

 

 俺は避けながら男に近づいていく。

 

『Boost!』

 

 六度目!もう十分だ!爆発しろ!

 

『Explosion!」

 

 一気に加速して男の目の前に飛び込む。

 

「一発くらいやがれ!」

 

 顔面に拳を叩き込んだ。

 

「ぐぉおおお!!!お...のれ...っ!!」

 

「おら!もう一発!」

 

 もう一度ぶん殴って地に落とす。

 マウント体勢を取った!

 

 てか俺、マウント大好きだな...お猿さんかよ...

 

「オラオラオラオラ!!!おるっ...!痛てぇなこのやろう!」

 

 オラオララッシュを殴りながらするのは難しいな...

 舌を噛んだ恨みを籠めて殴る...

 堕天使さん悪くないのに可愛そう...

 

「二人ともそこまでよ!!」

 

 声が聞こえた...

 

 赤よりも赤い緋色の髪を持った美しい女性が現れた。

 

「リアス...グレモリー...」

 

「あら?私の名前を知っているのね?兵藤一誠君...いや赤龍帝さん?」

 

 やっぱりばれてーら

 

「うごっ...貴様...その...紅い髪...グレモリー家の者か...」

 

「えぇそうよ。ごきげんよう。さて、早速なんだけれども、今回の事はお互いに不幸な間違いであったという事でなかったことにして貰えないかしら?」

 

「なっ...ふざけるなよ...俺は...こいつに殴られて...」

 

「おいおい!いきなり攻撃してきたのはお前だろ!?正当防衛ってやつだぜ!」

 

「おのれぇ...!」

 

「はぁ...私はあなたの為を思って言っているのよ?私の眷属に負けてしまったというのに、ここで私も同時に相手取ると言うのかしら?今ならお互いなかったことにできると言ってるのよ?」

 

 リアス・グレモリーから凄まじいオーラの迸りを感じる。

 

「ふざけるなぁ!悪魔ごときがぁぁぁぁあ!!!」

 

 堕天使は光力を身に纏い突撃してくる。

 

「まったく...私の忠告を無視するからこうなるのよ?」

 

 リアス・グレモリーが魔力を手に集める。消滅の魔力だ。

 間近で感じると凄まじいプレッシャーだな...

 

 魔力が放たれる。

 

「おおおのぉおおれぇぇぇぇぇええええ!!!!」

 

 堕天使が消えてしまった。

 流石は魔王の妹。凄まじい力だな...

 まぁこの人より強い奴がいくらでもいるのがこの世界なんですけどね。

 

「さて、問題も解決した事だし、兵藤一誠君?私に着いてきて貰って構わないかしら?話したいこと、聞きたいこと、色々あるの。赤龍帝さん?」

 

「わ...わかりました...」

 

 ついにこの時がやって来たか...

 まぁ既に眷属になってるんだし、なるようにはなるだろうけど...

 なるべく好印象になるように頑張るぞ!



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第7話。入りました、オカ研!

今日は結構頑張ってストック作れたので連投です(慢心)


 リアス・グレモリーと共に魔方陣の中に入り、瞬間移動した。

 

「さて、着いたわ」

 

 ここは...オカルト研究部の部室か。

 木場、子猫ちゃん、朱乃さん...全員集合してるみたいですね...

 

「さて、どこから説明しようかしら...とりあえずソファーに座って頂戴?」

 

「あっ、わかりました」

 

「まずは兵藤一誠くん。イッセーって呼んでもいいかしら?」

 

「はっはい!どうぞ!」

 

「ありがとうイッセー。それじゃああなたは私達の事をどれくらい理解しているのかしら?二度手間になってもしょうがないし、あなたの持つ知識を教えてもらえると助かるのだけれど」

 

「え?えぇっと、そうですね...まず、貴方達は皆さん悪魔なんですよね?そして、僕も...昨日堕天使に殺されかけた所を、貴女の悪魔の駒(イーヴィル・ピース)によって転生させて貰ったって事で合ってますよね?」

 

「えぇ間違っていないわ。イッセー...貴方の役割は兵士(ポーン)。間違いなく私の眷属になったわ。にしてもそこまでわかっているのなら、私達に会いに来てくれたっていいじゃないの...挙げ句他の堕天使と問題を起こして...」

 

「すみません...突然の事だったので正直どう挨拶すればいいのかわからなくて...堕天使の事は悪魔に転生して、自分の力がどれだけ上がったかを確かめようとトレーニングしていた所を襲われちゃったものですから...」

 

「...まぁそれで納得してあげるわ。それで?三大勢力や神器(セイクリッド・ギア)についても理解していると思って構わないのかしら?」

 

「三大勢力は天使、悪魔、堕天使の三竦み。神器(セイクリッド・ギア)は人間に神から与えられた物で、俺が持つ神器(セイクリッド・ギア)はブーステッド・ギア、神滅具(ロンギヌス)と呼ばれる神器の中でも更に特異な物である...て事でいいですかね?」

 

「そうね...困ったわ。あなたに説明する事がほとんど無くなってしまったじゃないの...ちなみにその知識はどこで手に入れたのかしら?」

 

「はい、この神器(セイクリッド・ギア)に眠っているドライグから教わりました」

 

「赤き天龍、ウェルシュドラゴン...意外に俗世にも詳しいのね...悪魔の駒(イーヴィル・ピース)の事も知っているとは...」

 

『おい...俺はバカにされていないか...?』

 

 そんなこたぁないと思うけど?

 

『いや...天下の二天龍ともあろうものが貶められている気がする...』

 

 気のせい気のせい!

 

「さて、大体理解できているようだけれど...何か質問はあるかしら?」

 

「あーっと...じゃあ、なぜ俺が今まで見逃されていたかだけ教えてもらえますか?」

 

 正直かなり気になっていた。はぐれを倒したり、山の中で好き勝手鍛えたり、どの勢力に見つかっても殺されておかしくないような過ごし方をしていた気がする...特に、何の才能もないただの人間にも関わらず、ブーステッド・ギアを持っている事が原因で原作のイッセーは殺されたのに、俺が早期にブーステッド・ギアを目覚めさせたにも関わらず、原作開始のあの時まで見逃されていたのがどうにも不自然に感じていたのだ。

 

「はぁ...危険な事をしていた自覚はあったのね...そうねぇ...堕天使側はよくわからないけれど、私達の立場としてははぐれ悪魔を狩っている様子からも、普段の過ごし方からも、別段危険性があるとは考えていなかった、という所かしら。後は正直こちら側に引き込む事が出来ればなという下心があった事は認めるわ。そして見事に今の状況になった」

 

 なるほど...要観察ではあるが問題は無しと判断されたのか...

 

「堕天使側も基本的には私達が監視している事も込みで、傍観の姿勢を保っていたのだと思うわ。恐らく貴方を殺したあの堕天使は独断、もしくは何かしらの理由があって堕天使側が方向転換したか...まぁあくまで想像でしかないけれどね。」

 

 それならまぁわからないでもないか...?

 堕天使上層部は俺が修行してる様子と悪魔側の監視を加味して、分不相応な神器(セイクリッド・ギア)を保有しているがとりあえずは要観察程度で下に俺の事を伝えていて、レイナーレが聖母の微笑(トワイライト・ヒーリング)以外の功績を求めて、ついでの添え物程度に俺の事も消そうとした...みたいな?いやこれは妄想がすぎるか...?

 まぁ基本的に悪魔も堕天使も要観察で押さえていたって事でいいのかな...

 

『まぁお前は俺を目覚めさせて割りとすぐに使いこなそうとしていた。なんせどういう能力を持っているかはしっかり理解してるんだからな...それ込みで今は安定してるから、下手な奴にブーステッド・ギアが移動するよりお前の方が扱いやすいと判断したのかもな?赤龍帝の力は暴走すれば取り返しがつかないレベルの被害を出すことがあるのはお前も解っているだろう?』

 

 なるほど...

 

『まぁどれもこれも想像でしかない。それこそ堕天使本人に会わなければわからんだろうよ。』

 

 確かに...

 

「さてイッセー、他に質問はないかしら?」

 

「えぇと...はい、とりあえずこれだけで大丈夫です!」

 

「そう、なら次は自己紹介を始めようかしら。始めは私ね。私は公爵家であるグレモリー家のリアス・グレモリーよ。ここにいるみんなの主だわ。改めてよろしくね、イッセー。」

 

「よろしくおねがいします!リアス・グレモリー様!」

 

「あら、眷属だからってそんなに畏まらなくて結構よ?あなたはここ、オカルト研究部の部員にもなるのだから、是非『部長』と呼んで欲しいわ。」

 

「わかりました!えぇ...部長...!よろしくおねがいします!」

 

「えぇよろしく」

 

「三年生、姫島朱乃ですわ。役割は女王(クイーン)。今後ともよろしくお願いいたしますわ。あっイッセー君とお呼びしてもよろしいですか?」

 

「はい、勿論です!えっと、よろしくおねがいします!」

 

「僕は木場祐斗。君と同じ二年生だよ。役割は騎士(ナイト)。よろしくね」

 

「あぁ...よろしく!」

 

「....一年生、搭城小猫です。よろしくおねがいします...役割は戦車(ルーク)です」

 

「よろしく!」

 

「次は貴方の番よ?イッセー。」

 

「はい!改めまして兵藤一誠です!一応、赤龍帝です!これから同じ眷属としてよろしくお願いします!!」

 

 俺は頭を下げた。

 

「えぇ、これから私達の仲間として、ついでにオカルト研究部の部員としても歓迎するわ!」

 

「はい!よろしくお願いします!」

 

「じゃあ早速なのだけれど貴方に仕事を言い渡すわ、イッセー」

 

「はい!ばっちこいです!」

 

「あらあら、元気一杯ですわね」

 

 朱乃さんに笑われてしまった...

 美人だから許せるね。

 

「貴方にはチラシ配りをしてもらうわ!」

 

 ────────────────────────

 

 あれからいかにチラシ配りが重要なのかを説明された俺は、当日からチラシ配りに奔走させられた。

 

 部長曰く 、

 

「悪魔になった初日から堕天使と喧嘩するぐらいだし、元気があり余っているのでしょう?今日から頑張って頂戴ね?」

 

 だそうだ、解せぬ。

 

 とはいえ、どうせ明日からやらなければならない事だし、今日から始めたって損はないだろう。

 悪魔謹製の機器を利用して、マップに表示される場所にチラシを配っていく。

 

 あっちなみに自転車は使っていません。

 走って配ってます。

 悪魔としてのお仕事でトレーニングの時間が削られてしまうからね、仕方ないね。

 

「ハァハァハァ...流石に疲れてきたな...一番効率の悪そうなルートを選ぼうとしたあの時の自分を殴りたい...」

 

『体力は戦闘において最も重要だ。精々頑張るんだな』

 

「わかってるよ相棒....ハァハァハァ...」

 

『なんなら倍化すればいいじゃないか、すぐ終わるぞ?』

 

「もし誰かに見られたら車以上のスピードで高速移動するびっくり人間扱いだぞ...」

 

『こんな夜道を全速力で走り続けている時点で既にびっくり人間じゃないのか?』

 

「ドライグにツッコミを入れられるとは...世も末だな...」

 

『貴様なぁ...』

 

 まぁこんな感じで結構ドライグと雑談できるからそんなに退屈ってわけでもない。

 

「後10枚...やるかぁ...」

 

 そうして夜は更けていった...

 

 ────────────────────────

 

 それから数日経ったある日の放課後、俺はオカ研の部室に入ってすぐに、部長に魔方陣に入るようにと言われた。

 

「何事ですか?」

 

「イッセー、あなたのチラシ配りはもう終わりよ。今までよく頑張ったわね」

 

「もう終わりですか?」

 

「えぇ...それで、今日からは本格的に悪魔としての仕事を始めてもらうわ。」

 

「契約取りって事ですか?」

 

「えぇそうよ?実は今日小猫に二件の予約が入ってブッキングしてしまったの。その片方を貴方に任せる事になるわ」

 

「....よろしくお願いします...」

 

 小猫ちゃんがぺこりと頭を下げていた。

 

「それじゃあ、今からあなたの刻印を魔方陣に読み込ませるわ。朱乃、よろしくおねがいするわね」

 

「えぇ...かしこまりました」

 

 朱乃さんが何かを詠唱して魔方陣が光り始める。

 その後部長によって手のひらに魔方陣が描かれた。

 

「今描いたのが依頼者の元へ瞬間移動する為のものよ。契約が終われば部屋に戻ることができるわ」

 

「はい!ありがとうございます!」

 

「よし、準備は完了したわ。それじゃあ朱乃、お願い」

 

「はい、部長」

 

 魔方陣が輝き出す。

 

「それじゃあイッセー、行ってきなさい!」

 

 そういえばこれってイッセーの魔力が子供以下の魔力しかないってのがわかるイベントだったような...

 

 光が収まった時視界に写ったのは部室であった。

 やっぱりダメだったか...

 

「....イッセー?」

 

「はい...」

 

「この魔方陣はね?子供程度が持つ魔力量で十分ジャンプできる程度の物なの...それができないって事は...あなた魔力量が子供以下って事なのよ...」

 

「そうですか...」

 

「...無様」

 

 小猫ちゃんひどいよ...

 

 くっそ戦闘力なら倍化で雑魚上級悪魔くらいまで上げてやれるってのに...

 ん?待てよ?

 

「あらあら...どうしますか部長...?」

 

「困ったわね...」

 

「あの...少しいいですか?」

 

「何かしら?イッセー」

 

「あの...俺のブーステッド・ギアで能力を底上げすればジャンプできるかなって...」

 

「.......なるほどね。それなら可能かもしれないわ!やってみて頂戴?」

 

「はい!」

 

「来い!ブーステッド・ギア!」

 

『Boost!」

 

 待つこと少々...

 

「そろそろいけると思います!」

 

「えぇ、それじゃあ今度こそ行ってきなさい!」

 

「はい!行ってきます!」

 

 眩い光が収まった頃には知らない部屋に立っていた。

 

 ────────────────────────

 

「あれ?僕が呼んだのは小猫ちゃんのはずなんだが...?」

 

「あー、すみません...他の契約とブッキングしてしまったようでして...」

 

「なんだって!!?それで来るのがこんな男なんて!せめて女の子が来て欲しかったよ!!」

 

「それはもう...すみません...男でごめんなさい...」

 

「なんだよ...そんな暗い目をしないでくれよ悪かったって...」

 

 それから召喚者、森沢さんと暫く語らい合い、契約に移ろうとしたが、無事破談しましたとさ。

 こいつもうちょい自分の身の丈にあった願い考えとけよ...ハーレムだの金持ちだの...

 

 ────────────────────────

 

 次の日も魔方陣で飛んだ。

 目の前に居たのはミルたんだった。

 

 まごうことなきミルたん。圧倒的存在感。圧倒的筋肉。圧倒的魔法少女。

 

 俺は言葉が出なかった...

 

「魔法少女にしてほしいにょ」

 

 開口一番これだ。俺は恐怖で震えた...

 

『こいつは驚いた...これほどの強者がこんな所に隠れていたとは...』

 

 ドライグ...俺の勇気を倍化してくれ...怖いよ...

 

 ちなみに結局、魔法少女ミルキースパイラルを朝まで鑑賞することとなった。

 感動してしまった...

 他のシリーズも全部見ることを誓った。

 

「また次も一緒に見るにょ」

 

「あぁ!ミルたん!約束だ!!」

 

 俺たちは固い握手をした。手が潰れるかと思った。

 

 ────────────────────────

 

「イッセー...2日連続で契約を失敗してしまったのね...?」

 

「すみません部長...」

 

 謝ることしかできぬ...

 けどちょっと向こうにも問題あると思わない?

 俺に何ができたというのか...

 いやまぁそんな事言うのは怖いから言わないけど...

 

「チラシ裏のアンケートでは結構高評価なのがなんとも言えないわね....とはいえ悪魔に重要なのは確実な契約なの。次こそはしっかりと契約を取って来るのよ?」

 

「はい、頑張ります...」

 

 次こそは契約を取らなければ...

 というかミルたんとの契約の次の日ってアーシアとの遭遇の日じゃなかったか!!?

 まずい!全然考えてなかった!とにかく動き回るしかねぇ!!

 アーシアと出会えなかったらシャレにならん!

 主に心が死ぬ!!

 私的な意味でも、戦力的な意味でも、私的な意味でもアーシアの癒しが切実に欲しい...!

 

 そうと決まれば全力でお外を探し回るぞ...!!!

 

 



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第8話。出会いました、至高!

いよいよアーシア登場です...
出るまで長かったな...


 俺はアーシアを見つけるべく外へ出た。

 待ってろよアーシア...!

 

 ────────────────────────

 

「居ねぇぇぇえええええええ!!!!」

 

 俺は頭を抱えて叫んだ!

 

 まじで見つからない...

 あれ?今日じゃなかった?

 待って待って?アーシア?待って?

 ムリムリ...

 俺...わりとまじでアーシアに会えるのが楽しみだからここまで頑張れた所ありますよ?

 アーシアを守るために強くなろうって思ってた部分めっちゃありますよ?むしろそれしかないよ?

 え?死ぬよ?俺死んじゃうよ?

 

「くっそ...まじでどうするんだ...」

 

 おいドライグ!!アーシアの気配を探知する能力をつけてくれ!!!!

 なんだってやるから!!!

 頼むぜ!!!!

 まじで!!!

 

『無理だ。直接出会った事があればまだ希望もあるんだが...』

 

 神器(セイクリッド・ギア)は持ち主の思いに答えるんじゃないのぉおおおお!!!???

 

 オレ...セツジツ...マジデ...ネガッテル...

 

『素直に諦めるか、次の機会を狙ったらどうだ?』

 

 無理だよ!一刻も早くご尊顔を拝みたいよ!

 もう一回探す!!!!

 

 ────────────────────────

 

「い...居ない...」

 

 まずい...心が...死ぬっ...!!

 助けて...

 俺はベンチでうずくまった...

 

『まぁなんだ相棒...まだ諦める時間ではないんじゃないか?』

 

 でももう...疲れたよ...もう夕方も終わりかけだぜ...?

 俺は半分諦めていた...

 

 うっうっ...あーしあ...

 ぴえん...

 

「あっ...あの...大丈夫ですか?」

 

 透き通るような声が聞こえた。

 俺は顔を上げる。

 次の瞬間

 

「~~~~~~~~~~~~ッ!!!!??!?!」

 

 天使が居た。

 

「どこか具合が悪いのですか...?」

 

「あっ...えっ...あっ...だ...大丈夫...です...!はい!大丈夫!ほら!」

 

 俺は勢いよく立ち上がって、力こぶを作った。何してるんだ俺。

 あ──ー、やばい...めっっっっっっっっっちゃ可愛い...

 

 他のオカ研メンバーもめちゃくちゃ可愛いんだけど、なんというか、こう...アーシアは胸とか脳とか色々そういうのに突き刺さった。

 絵として見るのとは情報量が違いすぎる...!

 

 端的に言って、一目惚れというやつだ...

 チョロいな俺...

 

「そうですか!なら良かったです!!」

 

 ニッコリと笑いかけてくれた。

 あっ...昇天する...浄化される...俺悪魔だけど、天界は受け入れてくれますか?

 天使を見て死ぬならやっぱり天国に行くべきだと思うんです。

 だめ?そらそうだ。

 

「あーっと、心配してくれてありがとうね?その荷物...旅行で来たの?」

 

「いえ、実はこの町の教会に今日から赴任することになりまして...あなたもこの町の方なんですね。これからよろしくおねがいします。」

 

「うん...よろしく...」

 

「でも良かったです...私、日本語がうまくしゃべれないので、道に迷っていたんですけれど、なかなか言葉が通じなくて...ようやくきちんとお話できる方を見つけることができました!これも主のお導きですね...」

 

 悪魔の自動言語変換機能まじで便利だよな...

 音声限定らしいけど

 

「道に迷ってたんだ...どこに行きたかったの?」

 

「教会の方に行きたかったんです...」

 

「あー、教会ならわかるかも...」

 

 この日の為にリサーチ済みだ...

 どうやったらなるべく自然に遠回りできるかまで把握している...

 

「本当ですか!あの...よろしければ案内をお願いする事はできないでしょうか?」

 

「うん、勿論だよ!」

 

 本当は良くないけどな...

 キョウカイ、アクマ、アブナイ

 まぁ言っても堕天使数人だし、しっかり倍化すりゃどうにかなるかな...

 にしてもまじで人を疑う事を知らない子だな...

 俺が悪いおじさんならどこへ連れていかれるかわからないのに。

 ぐっへっへ...心は悪いおじさんだけどね...

 アーシアが眩しすぎて、心のおじさんがショタにまで浄化されてしまった...

 

 ────────────────────────

 

 歩くこと数分、おじいさんが寝転んでいた。

 

「だ...大丈夫かおじいさん!」

 

 俺とアーシアはかけよった...

 

「うぅ...痛い痛い...」

 

「おじいさん!どこが痛いんだ!?」

 

「こ...腰が...!」

 

 ギックリいったか...!?

 

「おじいさま、少し我慢してくださいね!」

 

 アーシアが手のひらから光を出しておじいさんの腰をさすっていた。

 

「おぉ....痛みが引いていく...なんということだ...お嬢さん...ありがとうよ...」

 

 そうだぞ、アーシアは天使なんだ

 もっと褒め称えろ!

 ってあっ!アーシアに翻訳してあげないと...

 

「お嬢さんのお陰で楽になったってさ」

 

「そうですか!良かったです...!」

 

 おじいさんはさっきのギックリ腰が嘘のように軽快な様子で帰っていった。元気だなオメー...

 

「...その力って...」

 

「はい、治癒の力です。神様から頂いた素晴らしい物なんですよ...」

 

 少し寂しげに微笑んでいた。

 アーシアの過去はかなり辛い...

 悪魔を治療して、魔女扱いからの追放だ...

 おまけにその悪魔がシスターを堕とすのが興奮するとかいう変態貴族悪魔なんだから...

 そいつの策略によってアーシアは追放されたのだ...

 ムカついてきた...あいつまじで戦う時はぜってぇボコボコにしてやる...

 

 しばらく歩いた所に教会があった。

 

 あ──、やっべぇ...

 思ったよりもすごい殺気だな...

 まじでシスターの案内という名目がなかったら即座に攻撃されてそうだ...

 ブーステッドギア起動なんてしたら即戦闘だなこれ...

 

「あ!ここです!良かったぁ」

 

 アーシアが嬉しそうだし、こんな殺気どうってことなくなったな...可愛い。

 でも、入るわけにはいかないな。

 今すぐアーシアに危害があるわけでもなし...

 

「良かったよ。じゃあ...俺はこれで」

 

「待ってください!どうかお礼をさせてくれませんか?」

 

 滅茶苦茶誘いに乗りたいけどここは断るしかないな..

 

「ごめんね?ちょっと用事を思い出して...」

 

「...でも、それでは」

 

「えぇっと、俺は兵藤一誠!周りにはイッセーって呼ばれてるから、そう呼んでくれると嬉しいかな。」

 

「わかりました!イッセーさん!私はアーシア・アルジェントと言います!アーシアと呼んでください!」

 

「了解!アーシア、また機会があれば!」

 

「はい!イッセーさん、必ずまたお会いしましょう!その時こそお礼させて下さいね?」

 

「楽しみにしておくよ!それじゃ!」

 

 お互いに手を振って別れた。

 

 あ──、可愛かった...

 俺は決意を新たにした。

 絶対にアーシアは守ってみせる...!

 

 ────────────────────────

 

 部長に教会に近付いたことを怒られてしまった...

 まぁ仕方ないね...

 でも、部長の怒りなんて目じゃないくらいの出会いを果たした俺にはこれくらい屁でもないね...

 嘘、ちょっとこえぇ...

 

「兎に角、以後は気を付けるようにね」

 

「あらあら、お説教は終わりましたか?」

 

 後ろに朱乃さんがいた。

 

「朱乃、どうしたの?」

 

「大公から討伐の依頼が届きました」

 

 ────────────────────────

 

 はぐれ悪魔の討伐依頼が来たようだ。

 原作ではここで駒の役割と特性を説明されたんだっけ?

 

「さて、イッセー。いい機会だから、あなたの実力を見せてくれないかしら?」

 

「俺のですか...?」

 

「えぇ...人間の時も勝手にはぐれを倒していたようだし、負けることはないだろうけれど...あなたの力を教えて欲しいわ?」

 

「わかりました...来い!ブーステッド・ギア!!」

 

『Boost!』

 

 早速起動した。

 

 その瞬間悪魔が近付いてきた。

 うん...これくらいなら余裕で勝てるな。

 

「不味そうな臭いがするぞ?でもうまそうな臭いもするぞ?」

 

「はぐれ悪魔バイザー。あなたを消滅しにきたわ。」

 

 部長がいい放つ。

 

 すると気持ち悪い笑い声が響いた。

 相変わらずはぐれはきもちわりぃ化け物が多いな...

 

 女の上半身に爬虫類っぽい下半身を持った異形が居た。

 両腕に槍を持っている。

 

『Boost!』

 

 部長が何かしらの口上を言っている。万死に値するだの、グレモリー公爵の名においてだの...

 それ毎回おっしゃるのでしょうか?

 言ってる間に攻撃されませんか?

 まぁされても眷属が守ってくれるみたいな事かな...

 後はああやって口上を述べることに何かしらの魔法的な意味があるとか?

 

 化け物もなにかしら喚きちらす...

 頭に入らん...もっと簡潔に述べろようるせぇ!!

 

 今日は天使の美声を聞いてるから余計に気になるんだよ!!

 

『Boost!』

 

「さぁイッセー!やりなさい!」

 

「了解です!」

 

 化物が振るった槍を片手で捉える。掴んだ槍をそのまま引っ張って奪い取る。

 そのままぶん投げて相手に突き刺す。

 

「ぎゃああああああああああああ!!!!」

 

 うるせぇぇ...

 

 俺は化物の目の前に飛び出ると顔面を蹴りあげてやった。

 

「んげえええええ!!!」

 

『Boost!』

 

「よし、エネルギー弾に譲渡だ!」

 

『Transfer!」

 

 魔力とかオーラとか適当に混ぜたエネルギー弾に倍化を譲渡して威力を高める。

 朱乃さんに魔力の事とか教えて貰って、なんとか物にしたのだ。

 

「ドラゴンショット!!」

 

 悪魔に直撃した。爆発を起こす。

 煙が晴れると、悪魔が腹部を大きく欠損して死に絶えていた。

 

「そんな事もできるのね...堕天使相手にマウント取れるくらいだしそれなりにできるとは思ってたけれど...その譲渡っていうのは他の人間にも可能なのかしら?」

 

「はい。物でも、他人そのものにでも可能です。多分俺ができると思えばできます。感覚的な話ですけど。」

 

「なるほど...そうなら色々と取れる手段が増えるわね...ありがとうイッセー。参考になったわ。」

 

「はい、それなら良かったです」

 

 眷属の皆の前でみせる初めての戦闘は無事に終わったようで良かった...

 

 はぁ...これくらいなら軽く倒せるようになったの自慢したいけど

 まっっっっったくできないんだよなぁ...

 もっともっと強くならなきゃとか...

 やっぱこの世界辛れぇわ...

 

 でも俺には天使がいる...

 アーシアの為ならなんだってやれる...!

 そんな気がする...!

 やってやるぜ!!

 



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第9話。守ります、天使!

ようやく話が動いてきました...


 あれからまた数日が経った。

 その間俺は、魔力の修行と翼の利用の修行に明け暮れていた。

 どちらもアーシアを助けるためには使えて損はないはずだしな。

 まぁ羽は禁手(バランス・ブレイク)になれば無用の長物になるけれども...

 魔力に関しては成果は見えづらいが、翼はある程度馴れてきた。今ならフルで倍化からのゴットバードとかできると思う...ぜってぇ痛てぇだろうな...

 

 などといって過ごしている間にも仕事は舞い込む物で、遂にその時が来たのだ...

 転移した先は灯りがついておらず、人の気配もなかった。

 確か、ここで例のはぐれエクソシストと出会うんだよなぁ...

 

 まずい...アーシアはどの時点で助け出せばいいんだ?

 教会でってのは論外だ。アーシアが死ぬところなんて見たら俺は自分が許せない。

 なんの為に彼の体を奪ってまで生き延びているのかわからなくなる。

 今ここで助けるか...?

 それともアーシアがレイナーレに連れていかれる、あのベンチ付近だろうか。

 ここで助けるには堕天使が集まって来ているという、オカ研の意見を無視して、複数の堕天使及びエクソシストと皆を巻き込んで戦う流れになってしまう。

 俺はそれでもいいけど、他のメンバーと軋轢が生まれてしまうかもしれないな...

 主の命令をガン無視するわけだし...

 その点次の機会なら、レイナーレ一人ぶっ潰せば解決だし、確かあの時はアーシアは教会から逃げていたはずだからアーシア保護の名目も誤魔化しは効くか...?

 

 うん、やはりここは次の機会に回そう...

 一目惚れした相手を助けたいってのにずいぶん計算高くて自分で自分が嫌になる...

 やっぱり俺では"兵藤一誠"にはなれないな...

 彼なら無鉄砲に突貫するだろう。

 良し悪しはおいて...

 

 ただまぁ少なくとも今はまだ、修行の貯金があるから多少のムリは通せる...ライザー編以降は無理だろうけど...

 儚いな、俺の3年間...

 

 なんて考えている間にリビングに到着した。死体を弄んだ残骸が壁に張り付いている。

 はぐれ悪魔とか殺してきたし、今さら殺生についてどうこう言うつもりはないけれど、やっぱりこれは酷いな...

 

「ブーステッド・ギア」

 

『Boost!』

 

 俺は力を貯め始める。

 

「んーんー!こんな所に悪魔くんがいるではあーりませんかー!」

 

 フリードが現れた。

 変な歌歌ってるな...

 

『Boost!』

 

「俺の名はフリード・セルゼン。とある悪魔祓い組織の末端でござい。あぁ~俺が自己紹介したからってお前はしなくていいよ?どうせ数秒後には死んでるんだから。てかそれ神器?神器ちゃんですかぁ!?全く...悪魔ごときが神器を持っちゃってからに調子にのって...そんなんだからすぐ死んじゃうんざんすよ~?」

 

『Boost!』

 

 なんか...疲れるやつだな...

 喋るの面倒だし無視でいいか...

 

「あらあら、無視!?無視ですか!?おいおいおい悪魔ちゃんに無視されるなんてこんな経験初めてでござんすよ~!?俺、寂しい...!やっぱどうでもいいや!今から死ぬんだしな!!ぶっころちゃんですよ~~!!」

 

 フリードは剣の柄と拳銃を抜いた。

 

「どっちがいい?ねぇどっちがいい?剣でプスプスグリグリ刺されたい?それとも弾丸で身体中を末端から撃ち抜かれたい?ねぇどっち?答えた方でやってやるよ!!」

 

『Boost!』

 

「あ?あー...じゃあ剣で。」

 

「了解、了解、了解で~っす!ってなわけでドーン!」

 

 うわこいつ銃使いやがった!

 避けるけどさ...

 

「なぁ~にびっくりした顔してるんですかぃ?クソ悪魔のお前が剣って言ったなら銃使うのが当たり前ざんすよ~?てか避けんなよクソ悪魔。黙って撃たれて死にやがれクソが!」

 

『Boost!』

 

「おらおらおら!!」

 

 何度か撃ち込まれる弾丸全て籠手で弾いた。

 良くやったな俺...一発でも当たれば大ダメージだってのに...

 

「てめぇ!それじゃ俺が気持ち良くなれないだろうがよぉ!動いてんじゃねぇぜぇ!!?」

 

『Boost!』

 

「やめてください!」

 

 聞き覚えのある天使の美声が響いた。

 

 俺はクソ神父と視線をそちらに向けた。

 

「アーシア...」

 

「おんや、助手のアーシアちゃんじゃあーりませんか。結界ちゃんはもう張り終わったんですかなぁ?」

 

「ひっ...きゃぁぁぁぁ!!」

 

 アーシアが遺体を見て叫んでいた。しまった...先に消し飛ばしとけば良かったな...

 アーシアごめんよ、気が利かない男で...

 

「かわいい悲鳴をどうもですねぇ!よーく見るんですのことよ?これが悪魔に魅入られた者の末路ちゃんですからねぇ!」

 

「そ...そんな...」

 

 アーシアがこちらを見た。涙目のアーシアも可愛いよ。泣かせたフリードは許さんけど...

 

「フリード神父...その人は...」

 

「人?ハハハ、違う違う違ーう!こいつは悪魔くんですぜぇ?」

 

「イッセーさんが...悪魔...?」

 

「なになに?キミたち知り合い?悪魔とシスターの許されざる恋とかそういうの?マジ?やばくね?

 ってかさ...悪魔と人間は相容れないんだよね~ん。特に悪魔と教会関係者なんてさ!てなわけでアーシアちゃんこんなクソ悪魔はさっさと記憶からデリデリして、ばいちゃーしましょうねぇ!?」

 

 神父が再び構えを取る。

 俺も構える。

 

 すると間にアーシアが飛び込んだ。

 

「おいおい...マジかー?アーシアたん、キミィ、何してるかわかってんのー?おい?」

 

「...はい。フリード神父、お願いです。この方を見逃して下さい」

 

「アーシア...」

 

「おいおい、バカ言ってんじゃねーでございますですことよ?オマエ、悪魔はクソだって教会で散々習ったでしょーが!頭にウジでも湧いてんじゃねぇか!?」

 

「悪魔にだって、いい人はいます!」

 

「いねぇよボケがっ!!」

 

「キャッ!」

 

 アーシアが拳銃で横なぎにぶっ叩かれた。

 頭が沸騰する。

 

「堕天使のおねーさんからキミは絶対殺さないように言われてるけどねぇ。ちょっとムカつきマックスなんで強○まがいの事してもいいですかねぇ?それぐらいしないと俺の心がイタイイタイで癒せないぜぇ...」

 

「おい...」

 

「あ?なんだよクソ悪魔くぅん?」

 

「おい...お前...お前お前お前お前ぇぇ!!!」

 

『Dragon Booster!!』

 

『Boost!Boost!Boost!Boost!』

 

「なんだ?お前?やる気かよ?お?やるか?」

 

「アーシアの顔を殴ったなお前...殺すぞ!!!」

 

「殺されるのはお前だっつーの!!おら!死ね!」

 

 剣を振るってくる。

 俺はそれより早く奴の顔面を殴り抜いた。

 

「ぎょぺぇぇぇええええ!!!!」

 

 壁に穴が空いて隣の部屋まで吹き飛んだ。

 

 俺はゆっくりと吹き飛んだ奴の元へと歩いていく...

 やつの襟袖を掴んで引き上げる、叩きつける。

 

「ぐえぇぇぇ!!」

 

「おいお前、大概にしろよ?...お前自分が何やったのかわかってんのか?おい...」

 

 アーシアを傷つけるなどあってはならない...

 許さない。許さない。

 

「ぐぅ...こ...の...クソ悪魔...が...」

 

 俺はもう一度地面に叩きつける

 

「おい...お前...」

 

「やめてください!イッセーさん!もう大丈夫ですから!」

 

「アーシア...」

 

 アーシアが俺の腕にしがみついてきた。

 

「でも...こいつはアーシアの事を...」

 

「はい...でも大丈夫です...もう充分ですから...これ以上は死んでしまいます...」

 

 アーシアが神器(セイクリッド・ギア)を使って神父を治していた。

 気絶しているから、治療したとてすぐに起き上がる事はないだろう。

 

『Reset』

 

「...アーシアすまん...俺...ついかっとなって...」

 

「いいえ...イッセーさんが私の事を思ってそうしてくれたって事はわかってますから...」

 

 アーシアが微笑んでくれる。

 

「アーシア...」

 

 まずい...ようやく思考回路が正常に回りだした...ああああああどうしよう...アーシアに嫌われたか...?

 そうでなくても、暴力的なやつだとは思われたよな...ああああ...

 

「イッセーさんは、悪魔だったんですね...」

 

「うん...黙っててごめん...」

 

「いえ、気にしてませんよ?それにさっきも言いましたけど、イッセーさんのお陰で悪魔にもいい人が居るって知ることができました!」

 

「そっ...か...」

 

「はい...あの...イッセーさん、私...これからどうしたらいいのでしょうか...私...私...」

 

 アーシアが沈痛な面持ちを浮かべる

 

「アーシア...その...」

 

「あら?どうやらもう終わってしまったようね」

 

 後ろから声が聞こえる

 

「部長...」

 

「転送した先にはぐれのエクソシストが居るとの情報を掴んだから急いで来たものの...また随分派手に暴れて...まったく...」

 

「すみません...」

 

「...ッ!部長、この家に堕天使らしき者たちが複数近づいていますわ。このままではこちらが不利になりかねません」

 

「そう、ならイッセーを回収しだい、本拠地に帰還するわ。ジャンプ準備を」

 

「はい」

 

 朱乃さんが詠唱をはじめた。

 

「部長、そのジャンプってアーシアを...この子を同伴させることはできないんですよね?」

 

「.....そうよ。魔方陣を移動できるのは悪魔だけ。おまけにこの魔方陣は私の眷属以外ジャンプできないわ。」

 

「...すみません部長。俺、自分で脱出します。アーシアを置いていけません。」

 

「イッセー時間がないわ。わがまま言わないで。こっちへ来るのよ?あなただけ置いていけるわけないでしょう?あなた一人のわがままで私達全員を危険に晒すつもり...?」

 

「イッセーさん...」

 

「すみません部長。眷属として最低な事言ってるのはわかってます。でも俺、無理です...アーシアが堕天使の教会でどんな扱いをされるのか心配でなりません。奴らの元に返せません。」

 

「イッセー、あなたねぇ!」

 

 部長が怒りを露にする。

 でも俺だって引けない。

 部長の目から視線を離さない。

 

「...あぁもう!祐斗!イッセーについてあげて。私達は脱出するわ!...イッセー、お説教は後にするわ。あなたが言ったのだから、責任を持って必ずやり遂げるのよ。後でしっかり罰を受けてもらうから。わかったわね?」

 

「はい!」

 

「まったくイッセー君...こういう事はこれっきりにするんだよ?」

 

「ごめん木場...皆さんすみません!後で煮るなり焼くなり好きにしてください!だから...だから今だけは失礼します!」

 

『Boost!』

 

 倍化を始める。ある程度貯まったら木場と自分自身に譲渡して8割強化をするつもりだ。

 

「イッセー君飛べるのかい?」

 

「あぁ...精密には動けないけど、普通に飛ぶ分には問題ない!」

 

「そうか...じゃあ、行くよ!」

 

 木場と共にリビングの窓から飛び立つ。

 

「アーシア!これから結構なスピードで飛ぶから、しっかり目と口閉じて俺にしがみつけよ!」

 

「はっはい~~~!!」

 

 全速力で飛行する。

 

「おい!あそこから悪魔が飛び出して来たぞ!!」

 

 堕天使の声がする。

 

「やっぱり見つかってしまったようだね...」

 

「あぁ...」

 

 ドライグ...最悪の場合だが、俺の腕を喰わせるって言ったらすぐに禁手(バランス・ブレイカー)になれるか?

 

『一度きり、30秒だけだ。それならば今すぐにでも叶えてやろう?やるのか?』

 

 いや、すぐにできるならまだ大丈夫だ。

 

 俺達は全力で飛ぶ。木場がたまに後ろに魔剣で攻撃してくれているようだ。

 

「木場ぁ!倍化が充分貯まった!譲渡するぞ!」

 

「あぁ...!」

 

『Transfer!」

 

 俺達二人は一気に加速する。

 俺は更に倍化も始める。

 

 堕天使はやがて見えなくなった...

 

「ふぅ...うまく撒けたようだね?」

 

「あぁ...ありがとう、木場...助かったよ...」

 

「あの様子だと僕の付き添いはいらなかったかな?」

 

「そんなわけあるか!お前が牽制してくれたから俺は安心して倍化に集中できたんだ!」

 

「それなら良かったよ。...まぁ部長が叱ると言っていたから細かい事は言わないけれど...あまり皆を困らせる物ではないよ?」

 

 木場が困ったように微笑んでいた。

 

「本当に面目ない...」

 

「うん、それじゃあ戻ろうか。」

 

「あぁ...アーシア?大丈夫か?」

 

「うぅ~...は...はいぃ...なんとか大丈夫れす...」

 

「ごめんなアーシア、結界なんて張れないから、一応しっかり固定してたつもりだったんだけど...」

 

「いえ...もう大丈夫ですから...」

 

 アーシアが微笑んでくれる。

 

「ごめんなアーシア、その...お前の意見を聞かずに勝手に連れ出しちまった...その、良かったか?教会に居たかったり...したか...?」

 

「...いえ...私....私、あの教会に戻りたくありません...人を殺すような所へは戻りたくないです...」

 

「.....そっか。じゃあ一度、俺達の本拠地に向かうけど、大丈夫か?」

 

「はい!一緒に行きます!」

 

 俺達は三人でオカ研の部室へと向かった。



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第10話。できました、宝物!

ようやっと一章も終盤です...


「まずは...良く無事で帰って来たわ二人とも...」

 

 部長に俺と木場は抱きしめられる。

 俺は命令を無視したのに心配をしてくれる部長に頭が上がらない...

 

「まぁ、立ち話もなんだし、皆座りましょうか」

 

 皆で座る。アーシアは俺の隣に座った。袖を軽く掴んでいる...可愛い。

 やっぱり悪魔の本拠地は頭で大丈夫とわかっていても怖いのだろうか...?

 俺も神聖な場所とか物とか見ると嫌な気持ちになるもんな...

 ちなみにアーシアは神聖だけど別です。種族関係なく至高の存在ですから。

 

「さて...じゃあイッセー?説明してもらえるかしら?今回の事を...」

 

 さっきのやさしさ溢れる雰囲気が一気に厳しくなった。

 怖い...

 でも、ここは毅然として答えなければ...

 ここに来るまでに考えた言い訳が火を吹くぜ!

 

「はい。まずアーシアとの出会いは先日お話した教会に行った時です。」

 

「やっぱりその子が例のシスターだったのね...」

 

「はい、そして、今日ジャンプした家であの神父と、結界を張っていたアーシアと出会いました。神父が俺を攻撃しようとした時に、アーシアが庇ってくれて...いい悪魔だっているんだって言ってくれて...その言動に対して神父が怒ってアーシアを殴ったんです。それでかっとなって俺は神父をボコりました。そこからは部長達が来て...という流れです。」

 

「そう...顛末はわかったわ。でも、この子をあぁも危険な真似をしてまで助け出す理由にするにはちょっと弱いんじゃないのかしら...?」

 

 部長の真剣な目が俺を貫く...

 俺は今試されている...

 

「アーシアは...アーシアは、俺がほんの少し喋って一緒に過ごしただけでもわかるくらい...純粋で...優しい子なんです...俺が悪魔だって知っても庇ってくれるくらい...優しい子なんです...

 だから...アーシアを堕天使の元に置いておきたくありませんでした」

 

「あなた...それは...」

 

「それに...!それに、アーシアには他人の怪我を治療する神器(セイクリッド・ギア)があります。ぎっくり腰の老人がすぐにスキップできるようになるくらいすごい力です!そして神父は堕天使のおねーさんにアーシアは絶対に殺さないように注意されたと、語っていました。」

 

「治癒の力...!それは...」

 

「そしてこれはあくまでも予想ですが、堕天使のおねーさんというのは、俺を殺したあの堕天使の事だと考えます。」

 

「そうね...その可能性が高いわ...」

 

「あの堕天使は俺の事を下等生物と言っていました。人間を思いっきり見下している奴です。神器(セイクリッド・ギア)を持っていても所詮は人間...そうも語っていましたね。なのに、アーシアは絶対に殺さないようにと語った...アーシアには使い道があるから?そんな思考を持ってる時点で既に許しがたいですが、あんな奴がそんな単純な所で終わるとは思えません...堕天使は現在、神器(セイクリッド・ギア)研究に熱心だと部長に貰った裏の世界の参考書にも書いてありましたよね。例えば...神器(セイクリッド・ギア)を抜き取る技術なんて物もあるんじゃないんですか?」

 

「.....つまり貴方は、この子が堕天使に神器(セイクリッド・ギア)を狙われている可能性が高いと、そう言いたい訳ね?」

 

「はい...公的な理由としてはこれを挙げます。」

 

「あら、ぶっちゃけた物ね。」

 

 部長はクスッと笑う。

 

「はい、それは建前で、本心は最初に語った物です!」

 

「そう...わかったわ...正直憶測が多いけれど、可能性は考慮しないとね...それに、こうして動いた以上は対処しなければならないでしょうし...イッセー、こき使うから覚悟しなさい?」

 

「はい!」

 

「それで...アーシアさん?あなたはどうしたいかしら?」

 

「私...ですか...?」

 

「えぇそうよ?ここまであなたを抜きに話を進めてしまったけれど...あなたの気持ちが一番大事だわ。あなたに示せる道はいくつかある...一つはこのまま教会に戻る。とはいえこれはオススメできないわね。堕天使の教会にいるということは...教会は既に追放されてしまっているのよね?」

 

「は...はい...」

 

「なるほど...では次に、私達の保護下の元多少不自由な生活になるかしれないけれど、人間として生きていく事よ。」

 

「そして最後に...私の眷属として、悪魔に転生することよ?」

 

「悪魔に...?」

 

「えぇ、正直私の立場ではこれを一番オススメするわ。私の眷属になればグレモリー家という後ろ楯が付くから、今より随分安定すると思うわよ?」

 

「グ...グレモリー家...?そんな悪魔の名門じゃないですか...」

 

「ふふ、そうね。だからこそ後ろ楯としてはこれ以上ないわよ?」

 

「.......」

 

「私...私は...かつて、聖女と呼ばれていました...」

 

 そこから語られる彼女の経緯....

 治癒の力を使う聖女として祭り上げられ、友人は誰一人できず、物のように見られ、ある日目の前に現れた怪我をした悪魔を治療した事によって魔女認定され、カトリックに捨てられる...その後はぐれエクソシストの組織に拾われて現在に至る...

 

「きっと...私の祈りが足りなかったから...これも、きっと主の試練なんです...私がダメなシスターだから修行を与えてくれているんです。」

 

 アーシアの瞳から涙が流れる

 

「お友達も...いつか...いつかたくさんできると思ってますよ...私、夢があるんです。お友達と一緒に花を買ったり、本を買ったり、おしゃべりして...」

 

 見ていられない...

 

「アーシア!」

 

 俺はアーシアの手を握りしめる。

 

「アーシアの祈りが足りなかったなんてそんな事あるはずない!あってたまるか!それに...それにアーシアの夢だってきっとすぐに叶う!いや、俺が叶えてやる!友達なんていくらでも作れる!アーシアの事きっと皆好きになってくれる!だから!自分を責めるな...!アーシアは...アーシアは何も悪くない!」

 

「で...でもイッセーさん...私...」

 

「なら俺が一番最初だ!俺達はもう友達だ...!まだ出会ったばっかで、遊びに行った事もないけど!友達になれる!俺は悪魔だけど...そんなの関係ない!種族だとか...勢力だとか...関係ない!いつでも俺を呼んでくれて構わない!5秒でアーシア元に駆けつける!なんだってしてやる!俺は...俺は!アーシアの事が大好きだ!優しくて、純粋で、清楚で、悪魔だとか関係なく人の事を見てくれるし!それにめちゃくちゃ可愛いし!アーシアが俺の事どう思ってるかはわからないけど!少なくとも俺はアーシアの事が...」

 

「あっ...あぅ...」

 

「こーら、イッセー?アーシアが困ってるわ...?」

 

「あっごめん...」

 

「あらあら、お顔が真っ赤ですわ」

 

「ふふっ...イッセーってこんな情熱的な一面もあったのね?ちょっと意外だわ?」

 

 うっ...恥ずかしくなってきた...

 

「あっ...あの...アーシア?」

 

「えぅ...あの...イッセーさん...私...嬉しいです...!そんな事一度も言われた事無かったから...だから...私、もっとイッセーさんの事が知りたいです!もっとイッセーさんと一緒に居てみたいです...!」

 

「アーシア...」

 

 やべぇ...友達としてなのはわかってるけどめちゃくちゃ嬉しい...

 顔が真っ赤っかになってるのが自分でもわかる...

 

「ふふっ、答えは決まったかしら?」

 

「....はいっ!私をあなたの眷属にしてください...!」

 

「えぇ、それじゃあ早速儀式を始めましょうか。ここに寝転んでくれるかしら?」

 

「はっ...はい!あの...イッセーさん、手を握ってくれませんか...?」

 

「えっと...こうか?」

 

「はい!ありがとうございます!えへへ...ちょっと怖かったので...でもイッセーさんが手を握ってくれるなら安心です...」

 

 そ...そんな事を言われたら...可愛すぎる...!

 

「いくわよ...我、リアス・グレモリーの名において命ず........」

 

 アーシアの胸へと駒が沈んでいく。

 

「これで...終わりですか...?」

 

「えぇ、これで今からあなたは私の眷属。役割は僧侶(ビショップ)よ?これから末永く宜しくね?」

 

「はい...!よろしくおねがいします!!!」

 

「部長...ありがとうございます!!!」

 

「あら、私はこの子の治癒の力が是非欲しいと思っただけよ?」

 

 本当はアーシアの為だろうに...やっぱり部長は優しい方だ...原作とか関係なく、この人の眷属で良かったと思う。

 

「さて、イッセー?とりあえず一段落着いた訳だし、そろそろあなたの命令違反の罰を与えないとね...?」

 

 訂正だ。この人は恐ろしい...

 

「お尻100発でいいかしら?それともムチ?ふふっ...しっかり痛みを刻まないとね...?」

 

 俺は震えることしかできない

 

「あっあの!私にイッセーさんの罰をわけてください!イッセーさんは私を助けるために...」

 

 アーシアが涙目でそんな事を言ってくれる...

 お兄さん感動で泣きそうだ...

 でもダメだ...アーシアに痛い思いをさせるわけにはいかない...

 

「大丈夫だアーシア!これは俺のケジメなんだ!気持ちは嬉しいけど、俺が全部受ける!」

 

「あら、殊勝な心掛けね。これでアーシアに分けるだなんて言ったら罰二倍にする所だったわ?」

 

 こえええええ...

 

「じゃあ今回はおしりぺんぺんにしましょうか...お尻を出しなさい?」

 

 部長の手に魔力が集う...

 

「あの...おしりぺんぺんに纏わせていい魔力じゃないと思うのですが...」

 

「いいから!」

 

 スパーン!!!

 

「痛てぇ!!!」

 

 

 俺の叫びが夜の学園に響いた...

 

 ────────────────────────

 

「さて...アーシア個人の問題はこれで解決でいいでしょうけれど、まだ堕天使の問題が残ってるわね...」

 

「俺が責任持って倒してきます...」

 

「あら?あなたの責任とやらは先ほどの罰でもう帳消しよ?だからここからは、私達全員の問題だわ」

 

「部長...!!」

 

 再び撤回。最高の主だ...

 

「アーシア?教会にはどれくらい堕天使がいたのかしら?」

 

「三人でした...」

 

 あれ?四人じゃなかったっけ?あぁそっか、一人は部長が消してたな...

 

「やはり少人数なのね...ちょっと探りに行ってきましょうか...朱乃、着いてきなさい?」

 

「かしこまりましたわ。」

 

「あの...俺は...」

 

「イッセー、あなたは今はアーシアと一緒に居てあげなさい?大丈夫よ、何かあったとしても所詮大した力のない堕天使ばかりだもの...」

 

 原作でも描写外でさっさと倒してたもんな...

 

「じゃあ行ってくるわ。皆お留守番頼むわね?」

 

 二人は飛んでいってしまった...

 

 ────────────────────────

 

「さて、僕らは自己紹介できてなかったね?僕は木場祐斗。役割は騎士(ナイト)だよ?」

 

「...搭城小猫です。役割はです...」

 

「はい!アーシア・アルジェントと申します!よろしくおねがいします!」

 

「それにしても、イッセー君。君にあんな一面があるとは僕も意外だったよ。」

 

「うっ...なんだよ...俺がああいう事するのは似合わないってか?」

 

「いいや?むしろ妙にしっくり来たよ。なんならいつもの様子の方が違和感を感じるくらいだ」

 

 あー...確かにちょっとまだ緊張してるんだよな...浮世離れしてて、取っ付きにくいというか...

 

 すると木場が俺の耳元に顔を近づけてきた。

 

「あの様子からして...アーシアさんの事が好きなのかい...?」

 

「なっ!お前...!絶対誰にも言うなよ...!」

 

「もちろん言わないとも...まぁ最も僕が隠したところで無駄だろうけどね?」

 

「.....そんなにわかりやすかった...?」

 

「そりゃあねぇ、君があんなに感情を露にする事があるとは思わなかったよ」

 

「うぐっ...」

 

「まぁさっきも言ったけど、そっちの方が自然で僕は好感が持てるよ?」

 

「うるせぇ!どっちも俺だっての...」

 

 全く...でも、確かにもう少しリラックスというか、自分を出すことを意識した方がいいかも知れんな...

 これからずっと一緒にいる関係なんだし...

 死ななかったらだけど...

 

「あの...イッセーさん...その...もしよろしければ、この件が終わったら一緒にお出かけしませんか?」

 

「え?行く行く!どこにでも行くよ!」

 

「えっと...この町をご案内して貰えたらなぁって...」

 

「わかった!...色々...それはもう色々考えとく!」

 

「ありがとうございます!」

 

 アーシアが笑ってくれた。

 可愛い...嬉しい...好き...

 

「...イッセー先輩デレデレしすぎです。」

 

 うぉ!地味に小猫ちゃんから初めて突っ込まれたかもしれぬ...

 

「あはは...申し訳ない...」

 

 おい木場!やれやれ、みたいな顔してるんじゃぁない!

 

 それから雑談することしばらく...

 

「裏が完全に取れたわ。今回は完全に数人の独断のようね...私の管轄でこそこそと何かされているのは、あまり気分がいいとは言えないし...堕天使の総意でないというのなら、ささっと処理しにいきましょうか...」

 

 部長が帰って来た...

 物騒な事言ってらっしゃる...

 

「じゃ...早速行きましょう...アーシアを強奪した以上、速攻で決めないと面倒になるわ?」

 

 間違いないです。早く解決してアーシアとデート行きたいです。

 

「それじゃあ魔方陣に入って...行くわよ!」

 

 俺達は堕天使の根城、廃教会へと瞬間移動するのであった...

 



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第11話。倒します、宿敵。

イッセーはアーシア関連で軽率に倍化します。


 教会にたどり着いた。

 先ほど、部長が情報収集に行った際についでとばかりに情報源の堕天使を倒してきたようなので、残りは二人である。

 

「さて、イッセー。あなたには女の堕天使、レイナーレの方を任せるわ。一応、リベンジマッチという事になるのかしら?」

 

「そうですね...しっかり倒してきます」

 

「残りのメンバーでもう一人とエクソシストの相手をするわ。」

 

「あの...私、イッセーさんの方に着いていってもいいですか?」

 

「アーシア?」

 

「イッセーさんが怪我をしたら大変ですから...」

 

「そう?まぁイッセーの今の実力なら問題はないと思うけれど、アーシアがそうしたいのなら構わないわ?イッセーもその方が喜ぶかもしれないわね?」

 

 滅茶苦茶喜んでます...よっしゃ...アーシアにかっこいい所を見せちゃる..!!

 

「イッセー?可愛い後輩があなたを助けたいって言ってるんだから、しっかりと先輩として守ってあげるのよ?」

 

「はい!頑張ります!」

 

「それじゃあ...行動開始!」

 

 俺達は駆け出す。するとすぐに転移してきた俺達の事を察知してきたエクソシスト達が襲いかかってくる。

 

「いくぞドライグ!」

 

『Boost!』

 

「ここは僕と小猫ちゃんに任せて」

 

 木場がそう言ってくれる。

 

「任せた!アーシア!しっかり捕まるんだぞ?」

 

「はいっ!」

 

 アーシアが俺に捕まってくれたので抱きしめて、エクソシスト達の頭上を飛び越える。

 うおぉ...!アーシアの柔らか女の子ボディが...!!

 

『Boost!』

 

 あっ...アーシアの御体が最高すぎて倍化が漏れちゃった...

 

『相棒...そんな事でルールを歪めないでくれ...』

 

 うるせぇ!アーシアの体の感動が神器(セイクリッド・ギア)のルールに勝ったんだよ!

 

『おい...おっぱいドラゴンにはならないんじゃなかったのか...俺は心配になってきたぞ...』

 

 着地した後ゆっくりとアーシアを離し、再び駆け出した。

 

「イッセーさん、どうかしたんですか?」

 

「いや?なんでもないよ...」

 

 悲しい...アーシアをずっと抱きしめていたい...

 

 なぁ俺、アーシアのおっぱい触ったら禁手(バランス・ブレイカー)になれる気がしてきた...

 

『おい...おい相棒...なぁ相棒...相棒...俺は泣くぞ?泣いていいのか俺が?二天龍の一角なんだぞ?』

 

 冗談だろうが...ドライグ...俺がお前を悲しませた事があったか?

 

『....』

 

 いやなんか言えよ...

 

 ........

 

 さて、エクソシストどもを越えて、道なりに進んだ先にいたのは堕天使二人とエクソシスト数人であった。

 

「さて、手筈通りいくわよイッセー!」

 

「はい!」

 

「あらあら...グレモリー家の悪魔さんがなんの用かしら...?」

 

「ごきげんよう?あなた達が私の管轄域でこそこそと何か企んでいるでしょう?そろそろちょっと煩わしいから処分しなきゃと思っていたのよ...」

 

「言ってくれるわね悪魔ごときが...いいわ...やってやろうじゃない!」

 

「あら、ごめんなさい?あなたの相手は私じゃなくて彼だわ?」

 

「よぉ、堕天使さん?暫くぶりだな...」

 

「クソ猿...あんた悪魔になってたなんてね?ただでさえ鬱陶しかったのに...これ以上不快になってどうするつもりなの...?」

 

「どうするもこうするも、お前を倒すだけだ!」

 

「はぁ?お前...悪魔になったその姿見てこれ以上ないくらい不快な気分だったのに、更にムカつくなんて不快感が天井知らずね...おまけにアーシアまで着いてきて、あんたまで悪魔ぁ?まったく...ほんっっっとうにムカつくわ下等生物ども...!!

 あんた達のせいで私の計画が台無しなのよ!!!」

 

 レイナーレが翼を広げる。

 

「ぶっ殺してやるから。覚悟しなさい?」

 

「ドライグ、もういいぞ」

 

『Explosion!』

 

 ライザーとの戦いを含めこれ以降は、俺が人間の時に貯めていた修行貯金なんて塵芥程度に思えるような強敵ばかりになる...

 楽勝な戦いはこれで最後かな...悲しい...

 

 レイナーレが光の槍を投げる。

 俺はそれを籠手で殴って消し飛ばした。

 

「ちっ...!忌々しい!!」

 

「行くぞ!おら!」

 

 俺は駆け出してレイナーレに近づく。

 

「ッチィ!」

 

 レイナーレも接近し、ゼロ距離で掌から槍を生み出そうとするが、その腕を掴んで下に向け、発射させる

 

「このっ!小賢しい...!」

 

 レイナーレが俺の手から逃れようとするが、力が足りない。

 

 俺はレイナーレをそのまま一本背負いの要領で地面に叩きつけた。

 

「ガハッ!」

 

「あんまり女を殴りたくはないんだが、やらせてもらうぜ!!」

 

 顔面に重いのを一発ぶちこんだ。

 更にもう一度顔面を殴る。

 レイナーレは完全に沈黙した...

 

「ふぅ...」

 

 俺は一息つく...呆気なく終わっちゃったな...

 

「イッセーさん、お怪我はありませんか?」

 

「ん?あぁ、ちょっとここ光が当たっちゃったかも」

 

 本当に軽いやけど程度だが、一応治してもらう。アーシアの生治療受けたい。

 アーシアの手が淡い光を放ち、あっという間に回復する。あったけぇ...

 

「ん、もう大丈夫!ありがとうアーシア!」

 

「良かったです」

 

 アーシアにっこり。俺ほんわか。

 

「そちらも終わったようね?」

 

「はい!」

 

「ふふっ...あなたといいアーシアといい、優秀な子が眷属になってくれて私は嬉しいわ?」

 

「ありがとうございます!」

 

「おや、そちらももう終わったのかい?」

 

 木場と小猫ちゃんがこっちに来た。

 全員あっさり終わらしちまったな...

 

「さて、さっさと後処理を終わらせて帰りましょうか」

 

 部長が堕天使とか諸々冥界に飛ばしたり、消し飛ばした。

 消滅の魔力って便利そうだなぁって思いました。

 

 ────────────────────────

 

 次の日の朝は、部長から集まるように言われていたので早めに家を出た。

 

 その道中

 

『さて、相棒。お前の言うところの原作知識、見事にその通りの展開になったな。お前の動きによって多少過程に違いはあったが、結末はほぼ同じと言うわけだ...それで?思った通りに事態を動かせた感想はどうなんだ?』

 

「あ?全然思った通りに行ってねぇだろ...散々ミスやら突発的な行動やら...でも、アーシアをあそこで救えた事は後悔してない。今はそれだけだ。」

 

『ふっ、そうか...それで?ここからはどうするつもりなんだ?』

 

「まじで難しい所だな...部長の結婚騒動、部長にはお世話になってるし、願いを叶えてあげたいけれど...」

 

『それには、力が足りない...か?』

 

「あぁ...フェニックスを倒すならやっぱり禁手(バランス・ブレイカー)が必要だ...」

 

『あれは欲しいと言って至る物ではないからな。爆発的な意思の力が必要だ...』

 

「そうなんだよなぁ...まぁなるように...まじでどうしよう...」

 

『まぁ悩むがいい。それができるだけお前は恵まれているのだからな』

 

「まぁ未来を知ってるのはデカいよなぁ...お陰で絶望しか見えないけど。」

 

『俺は常にお前と共にいる。お前が力を望めば、自ずと道は開けるさ...』

 

 そう言ってドライグの意識は沈んでいった。

 

「はぁ...幸先不安しかねぇ...」

 

 俺は悲しい気持ちになった

 

 ────────────────────────

 

「おはようございます、部長」

 

「えぇおはようイッセー。」

 

 部長がにこやかに挨拶を返してくれる。

 

「今日早めに集まったのはどういう用事ですか?」

 

「ふふっ、それはね?来なさいアーシア」

 

「イッセーさん、おはようございます!」

 

 俺に電流走る。

 

「アーシア...その格好...」

 

「に、似合いますか?」

 

 アーシアが恥ずかしそうに首を傾ける。

 制服!アーシアが制服!!!

 かわいい!かわいい!かわいい!

 Fooooo────!!

 俺の脳内で祭りが繰り広げられる。

 

「イッセーさん...?」

 

「はっ!ごめん!すっごく似合ってるよ!かわいい!最高!」

 

「ふふっ、イッセーは本当にアーシアが大好きね」

 

「あっ...ごめん...」

 

「いえ...ありがとうございます...」

 

 アーシアは顔を赤くしていた。

 そりゃ恥ずかしいよな...部長も変なこと言わないで欲しいぜ...事実だけど...

 多分俺が悪いけど...

 

「アーシアにもこの学園を通って貰う事になったわ。イッセーと同い年みたいだからクラスも同じにしておいたわ。転校初日という事になるから、しっかり先輩としてフォローしてあげなさい?」

 

「よろしくおねがいします、イッセーさん!」

 

 アーシアがぺこりとお辞儀する。

 

「あぁ!困ってる事とかあったらなんでも言ってくれ!絶対力になるから!」

 

 そうこうしている内に、他のメンバーも集合した。

 

「さて、全員が揃った所でささやかなパーティーを始めましょうか」

 

 テーブルにケーキが出現。プロ顔負けだな...

 

「たまには皆で集まってこういうのもいいでしょ?新しい部員もできたことだし、ケーキを作ってみたから皆で食べましょう?」

 

 部長が照れくさそうにそう言っていた。

 

 ちなみに滅茶苦茶美味しかった...

 クオリティたけぇ...

 

 ────────────────────────

 

 アーシアがクラスの仲間になって数日。あっという間に人気になった。

 アーシアが嬉しそうで俺も非常に満足だ。

 

 だが、アーシアはとても良い子なので、積極的に俺にも話しかけてくれて、俺は泣きそうだ...

 クラスに馴染めば教室では絡む機会も減るかと思っていたが、思いの外アーシアが話しかけに来てくれる。嬉しい。優しい。

 

 昼食も他の女子達に誘われて一緒に食べる場合が多いが、誘いを断って、俺と食べたいと誘ってくれる時もある。

 その一時が幸せすぎる...

 

 お陰でクラス男子からの視線が痛いけど...

 特に元浜と松田。最近あいつらは暴力を覚えたようで積極的に俺に攻撃してくる。

 そんなに痛くないから甘んじて受ける。モテない男の嫉妬を受け止めるのもモテ男の定め...

 

 冗談です。全くモテてません...とはいえ実際の所アーシアが自分をどう思ってくれているのかはあまり自信がない...

 俺には兵藤一誠のような魅力があるとは思えないし...そもそも、アーシアが好きになるのは原作のイッセーであり、俺はその功績を掠め取った泥棒でしかないのでは...とかそこらへんを考えると非常にナーバスになるので今は無視するようにしている。

 

 でもいつかは向き合わないといけないだろう。

 俺が兵藤一誠を乗っ取ってしまったという罪を...

 彼の過ごすべき日常、人生を簒奪してしまった罪を...

 いや、したくて憑依したわけじゃないけど...

 まじでなんでこんな事になったんだ...

 誰が何の目的でこんな事をしたんだ?

 それとも偶然に偶然が重なった現象なのか...?

 

 そういえばドライグ、お前的にはどうだったんだよ?魂に宿るなら異物が入った感覚とかがあったんじゃないのか...?

 

『いいや?特に何も感じなかったが...なにかが入ってきたようにも、魂が変質したようにも感じる事はなかったな...』

 

 ますまわからん...

 

『よっぽど上位の存在の仕業かもな...それこそ神よりも上位の存在だとか...それならば俺が全く気づけない事にも説明がつく。そういう存在がいるなら、だが。』

 

 なんの為にだよ...

 

『それがわかれば苦労しないだろうが...ただまぁ、本当にそうならばいずれ接触の機会があると考えていいんじゃないか?』

 

 だといいがな...

 俺は...どうするべきなんだろう...この世界で起こる出来事を知ってしまっている以上、それらを無視するわけにもいかないが...

 でも...

 

「ッセーさん?...イッセーさん?」

 

 アーシアの声が聞こえた。

 

「っ!ごめんアーシア!ちょっとぼぅっとしてて...それで、どうしたんだ?」

 

「そうですか...どこか辛そうなお顔をしていたので、何かあったのかなって...」

 

 アーシアに変な所見られちゃったな...

 

「いんや?なんでもないよ?」

 

 俺は誤魔化す。

 

「そうですか...?でも、もし何かあったならいつでも私に相談してくださいね!私...役に立たないかもしれないですけど...お話を聞くくらいはできますから!」

 

「ありがとうアーシア...嬉しいよ」

 

 アーシアが微笑んでくれる。

 

 

 

 俺はアーシアが好きだ

 自分でもびっくりするくらいにコロッと一目惚れしてしまった

 でも...だから、この気持ちだけは俺の物だから...

 本物だから...



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第12話。行ってきます、デート!

ようやく1巻の話が終わるので連投です。(大油断)


 アーシアが転校してから初めての休日。その土曜日俺はアーシアと出かける事になった。

 デートだ。滅茶苦茶嬉しい。

 

 とはいえ実は、アーシアのチラシ配りを手伝っている際に色々と町の事を説明しているからそこまで多く説明できるものがあるわけでもない。

 精々、店が営業してるか否かくらいだ...

 

 なんで残さなかったんだ俺は...バカかよ...

 

 なので主に、ショッピングモールとか回りつつ、買い物やらをしつつ、ショッピングモールが終わったら美味しい食べ物とか、公園とか回ろうかなとか...

 かなりその場の成り行きに任せる予定になってしまった...

 だってデートなんて前世でもしたことないんだもん!

 わかんねぇよ!何すればいいか!町の外ならまだ選択肢があるけどアーシアには町の案内って言われてるし...

 

 なんて考えているうちに土曜日が来てしまった。

 集合は学校にした。アーシアは今旧校舎の一室で住んでるはずだし、集合にあんまり歩かせる事もないだろうと思ったのだが、もう少しそれっぽい雰囲気の所を集合にすれば良かったかな...

 しまったな...

 

 ちなみに2時間前に到着した。

 今は校門で瞑想しながら今回のデートが上手くいくことを願っている。

 ってかデートって勝手に言ってるの俺だけだよな...

 アーシア的にはお友達とのお出かけだ。

 アーシアの夢第一号になるって誓ったのに、俺ばっかり舞い上がって変な下心とか見えちゃったらアーシアに幻滅されないだろうか...

 そうだ、今日はお友達とのお出かけなんだ!アーシアが楽しめる事を第一に考えるんだよ!それ意外は煩悩だ!!

 

 後30分で集合時間だ...

 落ち着け...俺...

 あくまでも友達として...

 アーシアの願いを叶える以上に大事な事はない...

 アーシア...マイ...フレンド...

 

「あれ?イッセーさん?」

 

 アーシアが居た。私服アーシア。至福アーシア。

 

 少しフリルのついた白いTシャツに、薄手の灰色のロングカーディガン。濃いめのジーンズを七分丈にして、茶色で厚底ヒールサンダル...

 

 これはアーシアさんが選んだのでしょうか...?部長や他の方が選んだのでしょうか...?

 どちらでも構いません。死ぬほど可愛いです。

 死にます。最高...

 

「あの...似合うでしょうか...?部長さんには可愛いと言って貰えたのですけど...」

 

 アーシアの顔がほんのり赤い。可愛い。

 そして部長の采配でしたか...グッッジョオオオオオオオブ!!!!

 

「あぁ...!滅茶苦茶似合ってる!語彙力が足りなくて悔しいけど、すっごく似合ってるよ!かわいい!」

 

 精一杯伝えようとするが、如何せん語彙力が足りない...!この光景をどうすれば言語化できるのでしょうか!!?教えてアザエモン!!!

 

「あっ...ありがとうございます...イッセーさんとお出かけするならお洒落しないとって、部長さんや皆さんがコーディネートしてくれたんです...でも、本当にイッセーさんが喜んでくれるか少し心配だったので、良かったです!」

 

 アーシアが少し恥ずかしそうに微笑んでくれる。

 まずい...目が...!眩しすぎる...!

 

「滅茶苦茶喜んでるよ!俺はこの光景を一生忘れない!」

 

 心のアルバムに確実に記録された。

 

「アハハ...」

 

 アーシアが少し困っていた。

 ごめんよアーシア...でも、最高だから...

 

「あぁっと...じゃあ集合できた事だし、行こうか!」

 

「はい!」

 

 ────────────────────────

 

「わぁ...これ、可愛いです...」

 

 可愛いとはしゃぐ君が可愛いよ...

 とりあえずショッピングモールに来た俺達は数店舗を回って現在、雑貨屋に来ている。

 

「イッセーさん...こういうものって特に使う予定がないのに妙に欲しくなってしまいますよね...」

 

「わかる...わかるぞアーシア...100円ショップとかでも良く起こる現象だ...」

 

「100円ショップ...?」

 

「あぁ、100円ショップとはな...色々な物が100円で売られている素晴らしい場所なんだ...そして100円だからと色々買って気が付いたら結構なお値段になっている、恐ろしい場所でもある...」

 

「そ...そんな所が...日本にはまだまだ私の知らない場所があるのですね...」

 

「この後行ってみるか?結構近くにあるからさ。」

 

「はい!是非!」

 

 はい、可愛い。

 今日1日で何回可愛いって言ったかわからんな...

 可愛いの暴力。可愛いのインフレ。世界は可愛いの過剰供給によって可愛イインフレスパイラルに陥ってしまっているようだ...

 過剰供給なのに価値が上がるとはこれいかに。

 アーシアだからだね!可愛いね!

 

「なんだか...デートみたいですね...」

 

 アーシアがそんな事を言った...

 ん゛ん゛!(心肺停止)

 

 俺は口をパクパクする事しかできない

 限界オタク、ここに極まれり。

 

「あ...あぅ..い...今のは忘れて下さい...!口にするつもりは...」

 

 アーシアが顔を赤くしてそんな事を言う...

 アーシアさん!それって...そういう事でしょうか!?そう思っていいんでしょうか!!?

 

 などと考えていると

 

「イ...イッセーさん!次のお店に行きましょう!!」

 

 アーシアに引っ張られた。が俺はしばらく放心してしまった...

 

 かくしてしばらく...

 俺達はゲームセンターに来ていた。

 

「ほら、赤が来たら面を。青が来たら縁をこうやって叩くんだぞ?」

 

「はっ...はいぃ!」

 

 太鼓の廃人をプレイしていた。

 こうやって、彼女と(彼女じゃない)太鼓叩くのって夢のひとつだよね...

 幸せすぎる...

 

 曲が終わった。

 

「イッセーさんお上手ですね...私はなかなか...」

 

「俺も最初はそんな感じだったよ。何回か遊べばすぐにできるようになるって」

 

「そういうものですか...」

 

 他にもゲームを物色していると、アーシアがクレームゲームの台の景品に釘付けになっていた。

 

「ラッチュー君か?」

 

「え!いえ、そ、その...」

 

 恥ずかしそうにしている。可愛い。

 こんなの見て取らない選択肢ねぇだろ!

 

「よし、次はクレーンゲームしようか!」

 

「えっ!で、でも...」

 

「ほら、行くぞ?」

 

 100円をぶちこんで始める。

 ちなみにクレーンゲームに自信はない。

 でもやる!こういうの華麗に取ってあげるのって理想だよな...!

 

 一回目、スカ。二回目、スカ。三回目、スカ。

 

 まずい...

 

「イッセーさん...?」

 

 アーシアが不安そうな顔をしている...!

 まずい...!唸れ!俺の全神経!!!

 

 四回目、来た...!けど途中で落とした!

 五回目、失敗したけどいい向きに動いた!

 六回目、しっかりとアームが入って、見事に取り出し口に着地!

 

「よし!」

 

 俺はラッチュー人形を取り出してアーシアに手渡す。

 

「あ...ありがとうございます、イッセーさん!この人形大事にします!」

 

 嬉しそうなアーシアを見れたことで俺は非常に嬉しい。だから俺は貢ぐ...

 なんだこれ永久機関か?ノーベル賞は俺のもんだなぁ!!

 

 ────────────────────────

 

 ショッピングモールを後にした俺達は昼御飯を食べる事にした。

 お洒落な所で食べようかとも思っていたけど、今日のアーシアの様子からして、逆にファミレスとかの方が新鮮で面白いかもしれないな...そうしよう!

 

 てなわけで来ました、ゴスト。

 

「アーシア、好きな物食べていいからな。」

 

「はっはい!あぁっと...和食も洋食も...色々とあるんですね...」

 

「あぁ、そしてここにはドリンクバーと呼ばれるシステムがあってな?あそこにある機械からどの種類も何度でも好きなだけ、飲み物を注いで飲むことができるんだ」

 

「なんと!そ...そんな事があってよいのですか...」

 

「いいんだ...中学生どもはドリンクバーとポテトで数時間粘るんだ...」

 

「そんなに...!すごいですね...」

 

 ...

 

 アーシアは魚の定食にしていた。

 俺はチーズハンバーグ。安定。うまし。

 

 するとアーシアがこちらを...ハンバーグを見ているのに気が付いた。

 

「ちょっと食べるか?」

 

「えっ!いいんですか...?」

 

「あぁ勿論!好きなだけ持っていってくれ」

 

 俺はアーシアにならいくらでも貢げる自信があるね!

 

「じゃあすみません...少しだけ...代わりに私のお魚も食べて下さい!」

 

「ほんとか?じゃあお言葉に甘えて...」

 

 アーシアの魚を少し貰った。

 ふふふ...アーシアの魚...これはもう逆説的にアーシアを食べているのと同義では?何を言ってるんだ俺は。

 

「美味しいです!ふふっ、こうやってお互いのごはんを交換できる日が来るなんて...嬉しいです!」

 

 そっか...アーシアは友達とおかずの交換だなんて、そんな当たり前の事も今までできなかったんだもんな...

 

「これからはいくらでもできるぜ?他にもなんだって...!アーシアはもう、自由なんだから!」

 

「はい...!」

 

 その笑顔は今日一番だった。

 

 ────────────────────────

 

 気が付けば夕方になってしまった。

 

「色々な所に行きましたね...」

 

「あぁ、ちょっと疲れたかもな...」

 

「でも、すっごく楽しかったです!」

 

「あぁ、俺も楽しかった!ほんと、あっという間に夕方になるくらい...」

 

「そろそろ帰らないとですね...」

 

「あぁ...」

 

 少し物寂しい...まぁ今日の深夜にまた会うんだけどね...

 

「イッセーさん、また...私とお出かけしてくれますか?」

 

「おう!何回でも、何処へでも、アーシアが誘ってくれても誘ってくれなくても、というかむしろ俺が誘うよ。だから、また一緒に出掛けよう!」

 

「はい!」

 

 夕日に照らされて輝く黄金の絹と、輝くような笑顔が何処までも、どこまでも美しく俺の脳内に焼き付いた。

 

 ────────────────────────

 

「部長さん、ただいま帰りました!」

 

「おかえりアーシア。それで?デートは楽しかったかしら?」

 

「デ...デートなんて...」

 

 ふふっ。すぐに赤面して、とっても可愛いわ...

 

「あら?デートじゃなかったのかしら?」

 

「わ...わかりません...でも、楽しかったです!」

 

「そう、楽しそうで何よりよ。良かったわね、アーシア」

 

「はい!」

 

 私の眷属である、アーシアとイッセー。出会ったばかりだっていうのに二人ともお互いに好意を持ってて、とっても初々しくて微笑ましい。

 

 私も...そんな風な恋をしてみたいな...

 

 私には...

 

 

 



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戦闘校舎のフェニックス編
第13話。来ました、ホームステイ!


いよいよ二巻の内容に入ります!
よろしくおねがいします。


 現在4時、目を覚ました。

 俺は結局トレーニングの時間を朝にした。

 いや、夜って結構悪魔の仕事があって集中できないんだよな...

 神器(セイクリッド・ギア)の扱いとか魔力とかは時間がある時に旧校舎の近くで修行する事にして、基礎的なトレーニングを朝やることにした。

 魔力に関しちゃ部長や朱乃さんに聞く方が効率良さそうだし...

 それに朝運動するのは意外に爽快なのである。

 朝走る人の気持ちが良くわかる。

 ほとんど人はいないし、涼しくて空気が気持ちいい。

 まぁ朝ランニングって心臓に悪いらしいですけどね。

 

 現在俺は部長に頂いた、重りを着けてトレーニングをしている。

 重りというよりは拘束具か。

 魔力による偽装が行われているので一般人には認知されず、いい感じに動きにくい。

 非常にありがたい...

 

 部長曰く、

 

「眷属が強くなろうとしてくれるのは大歓迎よ?特にあなたの神器(セイクリッド・ギア)は基礎能力が非常に重要になるものね。協力できる事ならなんでもしてあげるから、どんどん言って頂戴ね?」

 

 だそうだ。今度重力室と精神と時の部屋をお願いしようかな...

 下手したら作れそうなのが怖いよグレモリー家...

 

「ハァ...ハァ...ハァ...」

 

 負荷がかかると一気に変わる物で、想定よりもあっという間に体力が底をついた...

 

 休憩したら筋トレだな...

 

 この拘束具、ボタンひとつで掌サイズに戻るのでまじで悪魔の技術力に感嘆せざるを得ないぜ...

 

「イッセーおはよう。精が出るわね。」

 

「イッセーさん、おはようございます!」

 

「アーシア!、部長、おはようございます」

 

 はて?特に約束をした覚えはないんだが...?

 

「あっ、イッセーさん!お茶です!」

 

「えっ!ありがとう!!」

 

 喉カラカラだったので、非常にありがたい。

 更にアーシアが作ってきてくれたと言うのだからもはやこれは聖水に等しい。いや聖水なら死ぬけど...

 

「それで、二人はどうしてここに?」

 

「えぇ、あなたの家に用事があったのよ。そろそろ荷物が届いている頃だわ。」

 

 あ...今日がアーシアホームステイの日なのか...

 そっか...そっか!?

 ちょっと待って、ちょっと待って...

 それはまずいだろ...

 全然部屋とか片付けてないし..

 アーシアを家に迎え入れるならば、万全に万全の準備を重ねて、ようやっとだろうに!!

 あー、でもアーシア俺の家を選んでくれたのか...嬉しいな...

 これはひょっとしてひょっとするのか...?

 わからぬ...わからぬ...

 

「さ、行くわよ?イッセー、アーシア」

 

「あっ.....」

 

 俺に待ったをかける権利は存在しない。

 

 ────────────────────────

 

 自宅に到着すると、玄関前に大量の段ボールが...

 

「さぁイッセー。この荷物を運んであげなさい?」

 

「なんの荷物ですか...?」

 

 わかりきってるけど一応聞いておく。

 

「アーシアの荷物よ。今日からアーシアはあなたの家に住むの。」

 

「あの...よろしくおねがいします!」

 

 アーシアがぴょこりと頭を下げる。可愛い。

 

「えっっと...よろし...く?」

 

 なんと言えばいいかわからず、そんな答えになってしまった。

 

 ────────────────────────

 

「イッセーのお父様、お母様、初めまして。私、リアス・グレモリーと申します。イッセーの所属する部活の部長をやらせて頂いております。」

 

「初めまして!アーシア・アルジェントと申します!イッセーさんのお父様、お母様、よろしくおねがいします!」

 

「は...はぁ、よろしくおねがいします?」

 

 困惑するお父さん。そらそうだ、突然息子の部活の仲間だと二人も外国人(美人)(日本語ペラペラ)(実は悪魔)が現れたら理解が及ばんだろう...

 二人の共通属性だけで既に属性盛り盛りなんだが?

 

 ..........

 

「というわけで、このアーシア・アルジェントのホームステイをお許しいただけませんか?」

 

 どういう訳だ。一応話聞いてたけど内容が入ってこない。

 だって、緊張しているアーシアが可愛いから。

 大丈夫だよ?アーシア。この二人に緊張する必要はないと思うよ?きっと後数分もすれば、俺よりも可愛がるようになるよ?

 

 その後もいくらか問答があったが、アーシアによる純粋波動攻撃と部長の魔力による言葉の暴力で、二人は懐柔されてしまった。

 

 部長の花嫁修業発言のせいで両親の中でアーシアが嫁になることが確定してそうだけどアーシア大丈夫?俺は大丈夫。

 大丈夫じゃないわ。アーシアが嫁...嫁...妄想でもう限界...くはっ

 

 ────────────────────────

 

 アーシアと一緒に登校するようになって、周りからの噂は拡大していった。

 

 やれ「アーシアさんの弱みを握ってる」だの「アーシアさんの純粋さに付け入った」だの「アーシアさんが日本に慣れていないのを良いことにあんなことやこんなことをする最低のクズ」だの...

 

 いや、いいよ?別に...気にしないけどさ...

 こう...心にチクチク来るんだよな...

 なんか、もしかしたら俺はアーシアにひどいことをしてるんじゃないか?って気になってきてしまうのだ...

 同調圧力に屈する典型的な日本人の鏡...

 

 とはいえ、当の本人が

 

「イッセーさんと一緒に暮らせて嬉しいです!」

 

 ってな様子なのでそんな事を考えるだけ無駄だろうが...

 アーシアが楽しいならオールオッケーです。

 

 ────────────────────────

 

 その日の夜は、とうとうアーシアが初めて契約デビューをする日であった。

 

 まぁ俺はアーシアに危険がないことはわかってるし?グレモリー家に変な契約が来ないのはわかってるし?依頼の中から更にアーシアの為に厳選してるの知ってるし?全然心配じゃないですけどね?

 

「もうイッセー...そんなにそわそわしないの...そんなにアーシアが心配なの?なら、あなたも着いていったらどう?」

 

 部長が仕方ないわね...といった感じでそう仰った。

 

「いやでも...」

 

 個人的には、大事なアーシアの初契約だしアーシアが一人でしっかりこなしてこその物だと思っている。

 嘘です、滅茶苦茶心配です。でも、それはそれでアーシアを信用していないようで嫌だなとも考えるわけでして

 

「イッセーさん...あの、少しだけ不安なので、最初の一回だけでいいですから...着いてきてくれませんか...?」

 

「行きます!」

 

 その間0.25秒。自分でもびっくりするくらいの即答だ...クイズ大会にでも出場するか?

 

「全く...それじゃあ二人とも、魔方陣に入って。はい、いくわよ?」

 

 ────────────────────────

 

 アーシアは無事、契約を取ることに成功した。

 問題なく初めての契約が取れたので、アーシアはルンルンだった。

 アーシアが嬉しそうで俺も嬉しい。

 アーシアは先にシャワーを浴びるそうだ。

 

 アーシアがシャワーを浴びた後に入って俺は無事に生存することができるのだろうか...?

 だってアーシアが入ったって後って事はアーシアが入った後って事だぞ!!?

 そんなの耐えられそうにないんだが...?

 アーシアは絶対そんな邪な事を考えない。

 風呂に入る順番で興奮するような変態は俺ぐらいだろう...

 それはないな男性の7割くらいは興奮しそう。

 逆説的に俺は悪くないのでは...?

 

 こんな下らない無駄な思考を既に百は行っている。

 なぜなら我が家にアーシアが居るからだ。

 

 俺は日々悶々とするこの気持ちを、頭を使うことで消費しているのだ。

 あぁアーシア...こんな不純な気持ちを抱く俺をどうかお許し下さい...

 

「イッセーさん!上がりましたー!」

 

 アーシアの声が聞こえた。

 

 さてと...行きますか...(戦場へ向かう男の顔)

 

 ────────────────────────

 

 シャワーを浴びるはいいものの、全く落ち着かなかった俺は急いで体を洗って退出した。

 

 匂いを堪能しようという俺の邪心は、アーシアへの強烈な罪悪感で吹き飛んでしまった。

 

 俺には...無理だ...!

 これがチェリーの限界なのだろうか...

 アーシアとくんずほぐれつは夢のまた夢か...

 

 俺は一人涙を流した...

 

 次の日の朝、というか毎朝アーシアは俺のトレーニングに着いてきてくれる。

 俺的にはアーシアにはゆっくり好きなだけ眠ってほしいのだが、アーシアに

 

「イッセーさんが頑張ってるのに、私だけ何もしないなんて嫌です!せめてイッセーさんのお手伝いをさせて下さい!」

 

 とまで言われてしまうと、俺も興奮してついその場でオッケーを出してしまったのだ...

 ランニングが終わった後、アーシア謹製の聖水(※お茶)を飲み休憩している時だった。

 

「イッセーさんは、どうしてそんなに毎日一生懸命トレーニングなさってるんですか?」

 

 ちょっと前までは、死にたくないから、アーシアとくんずほぐれつしたいから、だったけれど。

 最近は変わってきていた。結構真面目な目標だ...

 

「あー、守りたい人を守れる力が欲しいから...かな?」

 

「守りたい人を...」

 

「うん、大事な人が居るから...その人を守りたいんだ。」

 

 アーシア、君の事だよ。とは流石に言えないが。

 というかここで言えるやつはちょっと真剣に尊敬するのでご指導下さい...

 

「その大事な人って...」

 

 ドクン!と心臓が跳ねた。

 その質問は...核心を突く物だ...

 

「ア...アーシア...?」

 

「.....っいえ!やっぱりなんでもないです!それじゃあそろそろ筋トレを始めましょうか!しっかり回数数えますから。今日は何回やりますか!?」

 

「あっ...と...100回づつで...」

 

「わかりました!」

 

 誤魔化されてしまった...

 いや、それでいいだろ。

 俺自身だってなんの心の準備もできてないんだから...

 アーシアの事は大好きだ。

 でも、俺はアーシアにこの気持ちを伝えていいのか迷ってる...

 だって俺は本当の兵藤一誠ではないのだから...

 この迷いに決着をつけるまで、俺は前に進む事はできない。

 

 だが、この気持ちには早く決着を着けなければならないだろう。

 そんな迷いを抱えて生きられるほど、この世界は甘くない。

 

 

 ...俺は、この時密かに決意した。

 ライザーとの戦いが終わるまでに、決着をつけよう...

 



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第14話。お出ましです、焼鳥。

R15ってどこまでエッチな事書いていいんですかね?原作レベルならオーケーなのでしょうか?


 放課後になり、アーシアと部室に向かう。

 途中で木場と合流した。

 

「そういえば、部長さん最近元気がありませんよね...」

 

 アーシアが心配そうに語る。

 確かに、部長は今婚約者問題を抱えているのだ。

 

「部長がどんな問題を抱えているかまだ何も語ってくれないけれど、きっといつか部長は僕たちに話をしてくれるさ。その時に力になれるように考えていればいいと思うよ?」

 

 木場がそう語った。

 確かに部長がこうなっているという事は、ライザーが襲来して説明がなされる日も近いだろう。

 

「....僕がここまで来て初めて気配に気づくなんて...」

 

 木場が目を細め、顔を強ばらせる。

 俺が部室の扉を開けると、機嫌の悪そうな部長、顔だけにこやかな朱乃さん、部屋の隅で居心地悪そうな小猫ちゃん、銀髪メイドのグレイフィアさん。

 

 今日なんかい...ライザー襲来...

 雰囲気が重すぎる...

 怖すぎますよ...

 

 アーシアも雰囲気が悪すぎて、不安そうに俺の制服の袖をつかんでいる。

 可愛いよアーシア。

 

「大丈夫だぞ?」

 

 俺はアーシアに声をかける

 

「は...はい...」

 

 返事はしてくれたけど不安そう...袖を握る力が更に強くなった。

 

「さて、全員揃ったわね。では、部活の前に少し話があるの」

 

「お嬢様、私がお話しましょうか?」

 

 グレイフィアさんがそう尋ねるが

 

「結構よ」

 

 部長は冷たく突き放した。

 

「実はね....」

 

 部長が何かを語ろうとした時に部室の魔法陣が輝きだす。

 いよいよお出ましか...

 

「フェニックス...」

 

 木場が呟く。

 魔方陣が燃え上がり、室内を熱気が包み込む。

 あっつ!魔方陣に近くて軽く火傷した。

 

「ふぅ、人間界は久しぶりだ」

 

 スーツを着崩したホストっぽい金髪のイケメンが現れた。

 

「愛しのリアス、会いに来たぜ?」

 

 ────────────────────────

 

 部長とライザーが数度言葉を交わした後、グレイフィアさんから部長の婚約相手である事が語られる。

 

「リアスの女王が淹れてくれるお茶は旨いなぁ」

 

「痛み入りますわ」

 

 ソファーに座る部長にベタベタと触るライザー。

 くそ...俺もアーシアにあれくらい出来れば...!

 やはり卒業してる奴とそうでないものにはどうしようもない隔たりがあるのか...!

 

「イッセーさん、どうしましたか?」

 

 アーシアが俺に問いかける。

 しまった、アーシアを見すぎたな...

 ごめんよアーシア。変なこと考えて...

 それにやっぱり良く考えるとアーシアにあんな風にベタベタしたら罪悪感で死ぬと思うし、当分無理だ...

 

「....卑猥な妄想しないで下さい」

 

 小猫ちゃんに怒られた...

 流石は小猫ちゃん...バッチリ思考を読まれてしまった。

 

「またアーシアさんかい?」

 

 木場が嘆息する。

 

「私?」

 

 木場君...お黙りなさい...!

 

「いい加減にしてちょうだい!」

 

 部長が激昂する。

 

「ライザー、以前にも言ったけれど私はあなたと結婚しないわ!」

 

「あぁ、聞いたな。しかしリアス、そういうわけにもいかないだろう?君の所の御家事情はうちと違ってそれなりに厳しいはずだが?」

 

「余計なお世話!私が次期当主である以上、婿の相手は自分で決めるわ!」

 

「そうもいかないさ。君のお父上も心配なんだよ。御家断絶なんてわけにはいかないだろう?純血の上級悪魔の血がどれだけ重要か知らないわけではなかろう」

 

 まぁ、ライザーはいけすかない奴ではあるけど、貴族悪魔として当然の考えでもあるんだよな。割とそこら辺は真剣というか...こいつなりにちゃんと考えているというか...結構悪いやつでもないってのが正直な所だ。

 俺は意外に嫌いになれない。

 

「でも、あなたとは結婚しないわ。私は私が良いと思った者と結婚する。私にだってそれぐらいの権利はあるわ」

 

「...俺もな、リアス。フェニックス家の看板背負った悪魔なんだよ。この名前に泥を塗られるわけにはいかんのだ...ほんとは人間界なんて来たくなかったんだしな...この世界の風と炎は汚ならしい...炎と風を司る悪魔として耐え難いんだよ...!それでも来てやってるんだ。」

 

 ライザーの周囲を炎が駆け巡る。

 

「俺は君の下僕を全て燃やし尽くしてでも君を冥界に連れて帰るぞ...?」

 

 は?

 

「おい...お前今なんつったおい...?」

 

「は?誰だお前...」

 

「お前今アーシアを燃やすとか言ってたよな?おい...」

 

「誰だと言ってるだろ、お前もアーシアとかいう奴も知らん。」

 

「知らなくていいぜ?今すぐぶっ殺してやるから」

 

 俺はブーステッド・ギアを起動する。

 

「来い、ブーステッド・ギア」

 

『Boost!』

 

「何を言うかと思えば...お前...俺が誰だかわかってるのか...?」

 

「知らねぇよ燃えカス野郎...」

 

 俺がライザーにデコを当ててガンつけた。

 

「なっ!この下級悪魔が!!上級悪魔に対する態度がなってないぜ!リアス!下僕の教育はどうなってんだ!?あ?」

 

「ちょっとイッセーやめなさい!」

 

「イッセーさん、やめてください!!」

 

「アーシア...」

 

 俺は神器(セイクリッド・ギア)をしまう...

 

「全く...今の無礼についてだけは謝罪するわ。ほらイッセーも謝りなさい」

 

「.....無礼を働き、申し訳ありませんでした...」

 

 内心ムカムカするが、間違いなく俺が悪いことくらいはわかるので謝罪した。

 

「ちっ...まぁいい。所詮は転生したてのバカ下僕だ。おいリアス、下僕の教育くらいしっかりしておけよ?お前の品位が下がるってもんだぜ...お前も!神器(セイクリッド・ギア)が優秀だからって調子に乗るんじゃないぜ?ブーステッド・ギア...いくらその神器(セイクリッド・ギア)がすごくたって、宿主が雑魚なら宝の持ち腐れなんだからな...所詮は下級悪魔のクズだ。せいぜいリアスに恥かかせないように気を付けるんだな!」

 

「ご忠告感謝するわ。けどね、私の可愛い下僕をバカにしないでくれるかしら?」

 

「はっ...もう少しましな奴を下僕にした方が良かったんじゃないかぁ?リアスぅ!」

 

 二人がバチバチになる。オーラとオーラ、魔力と魔力が迸る。

 

 一方...

 

「イッセーさん!あんな危ない事しないで下さい!私...怖かったんですから...!」

 

 アーシアが俺に涙目でしがみつく。

 

「ごめんアーシア...もうしないよ...」

 

「約束ですからね...?」

 

「あぁ...」

 

 俺はアーシアの頭を撫でた。

 すると少しは安心してくれたのか、アーシアは俺から離れた。とはいえ隣で袖を強く握ってるけど...

 

 可愛い...けど今そういうの考えるのはアーシアに失礼だな。こんなに心配してくれてるのに...

 

「アーシアありがとう...」

 

 俺がそう呟くと

 

「はい」

 

 アーシアが微笑んでくれた。やっぱ可愛い。

 

「なんなんだいこの不思議空間は...」

 

 木場が頭痛そうにしていた。

 

「...いつものイッセー先輩に戻りましたね」

 

 小猫ちゃんにそう言われた。

 それいい意味?悪い意味?

 

「お二人とも落ち着いて下さい。これ以上は私も黙って見て居られなくなりますよ...?」

 

 グレイフィアさんが静かに威圧する。

 それだけでこの空間の温度が20℃くらい下がったような気がした。

 

「最強の女王であるあなたにそんな事を言われると俺も流石に怖いな。」

 

 ライザーは肩をすくめ、魔力を止めた。

 部長も同じく。

 

「こうなることは両家共に重々承知でした。正直に申し上げますと、これが最後の話し合いの場だったのです。ここでもなお決着がつかなかった場合の為の最終手段が用意されております。」

 

「最終手段?」

 

「えぇ、お嬢様、ご自身の意思を押し通すのであれば力を示さねばなりません。ライザー様との「レーティングゲーム」にて決着をつけていただきます。」

 

「そう...そう来るわけね...いいわ。ゲームで決着をつけましょう、ライザー。」

 

「へぇ?受けるのか?俺は構わないぞ?だが、いいのか?現在の俺の戦績、8勝2敗の意味がわからないお前でもあるまい?それでもやるのか、リアス?」

 

「やるわ。あなたなんて消し飛ばしてあげる!」

 

「いいだろう!そちらが勝てば好きにしろ。ただし、俺が勝てば即俺と結婚してもらうからな。」

 

「承知いたしました。私が両家立会人として、ゲームを取り仕切らせていただきます。よろしいですね?」

 

 二人が了承する。

 

「かしこまりました。両家には私からお伝えいたします。」

 

「なぁ、リアス。ここにいる奴らがお前のフルメンバーか?」

 

「だとしたらなんなの?」

 

「これじゃ話にならないんじゃないのか?」

 

「言ってくれるじゃない。ライザー...」

 

 リアス部長から再び魔力が少し迸る。

 

「どうどう...落ち着けリアス。しかしそうだな...このバカ下僕君を少しでも使いこなせるようになれば面白い戦いもできるかもしれん...」

 

 ライザーは俺を指差した。

 

「そうだな...ゲームは10日後でどうだ?君ならそれだけ日数があれば下僕をどうにかできるだろう?」

 

「...私にハンデをくれると言うの...?」

 

「屈辱か?しかし君の感情だけで勝てるほどゲームは甘くないぞ。下僕の力をしっかり引き出せなければ即敗北だ。特に君は下僕の数も少ない事だしな...初めてのゲームに臨む君に修行期間が用意されていてもまったくおかしくない。俺は数々の才能ある悪魔が実力を出しきれずに負けていった様を見てきたぞ?」

 

 これだ。こういう所だけは嫌いになれない。

 上級悪魔としての高貴なプライドというか、そこから来る誠実さと言うか...

 ヤンキーが捨て猫助けてギャップ萌え理論だなこれ...

 やっぱ好きじゃねぇわ。あいつ。

 

 ────────────────────────

 

 その日は解散になった。

 部長と朱乃さんは作戦会議だそうだ。

 

 俺はベッドの上で、どうやってライザーを倒せばいいのか考えていた...

 恐らく、俺ができて唯一有効な攻撃は聖水か十字架等の神聖力を譲渡で高めてぶつけるくらいになるだろう。

 しかし...多分フル譲渡一回じゃライザーの精神は折りきれない...今日相対してなんとなくわかった...腐ってもフェニックスの上級悪魔だ、そう簡単にはやれないだろう。

 

「あー考えるのは後にして風呂入るか...」

 

 あまり頭が回らないので、一回頭を冷やすことにした。

 

 服を脱いで浴室の扉を開いた時だった。

 

「あっ...」

 

 アーシアがいた。裸の、アーシアが、居た...

 全身濡れて、金の髪が白い肌にぺったりと張り付いている。

 

 まずい...!目を瞑るか、別の場所を見ないといけないのに、目が離せない...!動けない...!

 理性がやめろと言っているのに、体が、脳がこの光景を少しでも記憶に納めようと抗っているのだ...!

 

 アーシアはアーシアで動けないようだ。

 そして、アーシアの視線はゆっくりと降りていって...

 

「あっ...」

 

 アーシアが顔を真っ赤にした後に、手で顔を隠した。

 待って、もっと別の場所隠して。俺、動けないから...

 お願い...

 

 ....良く見たら指の隙間から可愛いおめめが見えておりませんか?

 っ...まずい!ようやく体が動き出した。

 主に俺の相棒もとい◯棒が動き出した...

 

「っっっっっ!ごめん!俺...すぐ出るから...!ちょっとビックリして動けなくなっただけだから!」

 

 俺は急いで浴室を出ようとするが、アーシアが俺の手をつかんだ。

 

 なんですとぉ!!

 

「す...すみません...そ...その、男性のゴニョゴニョを見たのは初めてだったので...」

 

「お...俺もごめん...女の子の、その...色々見るの初めてだったから...」

 

 沈黙が痛い...

 

「その!ほんとごめん!確認もせずに...!ほんと、申し訳ない...」

 

 俺はもう謝罪する事しかできない...

 

「いえ、わかってます...その...日本には裸のお付き合いというものがあると聞きました...大切な関係になりたい人と一緒にお風呂に入って交流を深めるのだと...わ、私...イッセーさんと...イッセーさんと裸のお付き合いで関係を深めたいです!!!」

 

 グハッ!裸のお突き合いで関係を深めたいだとぉ!

 なんてハレンチな...

 嘘ですわかってます。でもこれは...色々と...まずい...

 鼻血が溢れてきた...

 この体での初鼻血だよ...

 

 いいのか...ここでゴールしていいのか...!?

 もういいんじゃないか!!?

 

 アーシアはきっと受け入れてくれる...!

 

「...........................」

 

 すぅっと、頭が冷静になった。

 ダメだ。今はそんな事をしていいはずがない...

 俺はまだ、解決しないといけない問題があるはずだ...

 

 俺はアーシアの方を向き直った。

 

「アーシア」

 

「はい...」

 

「後でアーシアに話したい事があるんだ。とても大事な話がある...後な、裸のお付き合いは同性とするものなんだ...だから、男にそういうことを言っちゃいけないんだよ...」

 

「そ...そうなんですか...?」

 

「そうなんだよ...今日の夜、アーシアの部屋に行くからさ。そこで俺の話を聞いてくれないか...?」

 

「は...はい...」

 

 急に様子が変わった俺にアーシアは若干狼狽しているようだった...

 

「アーシアちゃん、バスタオル...」

 

 母の視界に写ったのは、素っ裸で向き合う裸の男女。

 

「お、おとおさ...ま...孫ができるわぁぁぁぁあ!!!」

 

 し...締まらねぇ...

 



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第15話。 話します、隠し事!

オリ設定、オリ技が出てきます。
すぐにインフレに飲まれる一回限りの物なので、ご不快になられるかもしれませんがどうかご容赦をば...


 アーシアと浴室アクシデントがあったその日の深夜。

 俺はアーシアの部屋を訪ねた。

 これでアーシアが寝てたらちょっとへこむな...

 

「イッセーさん、どうぞ!」

 

 アーシアの声が聞こえる。

 

 そう、俺はアーシアに自分が憑依している事を話すことにしたのだ。流石に原作知識の事は言えないけど...

 自己満足なのはわかりきっている。嫌われるかもしれない。

 でも、俺は...好きな人に、アーシアに、これを言わないと前に進めない気がしたのだ。

 

「アーシア、こんな夜にごめんな?」

 

「いえ、イッセーさんの頼みですから!」

 

「ありがとう...」

 

 アーシアの部屋は、意外に可愛らしい部屋だった。

 元シスターだし質素な部屋かなと思っていたが、自分の好きなように部屋を飾り付けたのだろう。いい事だ...

 ラッチュー君がベッドで横たわっている...

 

「アーシア、さっき言ったように、君に聞いて欲しい話があるんだ...」

 

「はい...」

 

 アーシアはシスター服を着ていた。なんとなく、俺の様子から懺悔のようなものであると察っしていたのかもしれない。

 

「突拍子もない事かもしれないけど、聞いて欲しいんだ。俺は、兵藤一誠だけど、兵藤一誠じゃないんだ。」

 

「え...はい?」

 

「わけわからんよな。一から説明するよ。俺には、前世の記憶っていうのかな。そういうのがあるんだ。理由はちょっと言えないけど確かに事故で死んだはずなんだ、ちゃんと覚えてる。そして気がつくと、俺は兵藤一誠になっていた。中学生の頃だったな。違う体に俺の意識が入っていたんだ」

 

「そ...それは...」

 

「俺はさ...その後、争いを呼ぶようなすごい神器(セイクリッド・ギア)が体に眠ってるって知って、その時は死にたくない...死なない為に強くなりたいって考えてさ...結構危ない目にあったりもしたけど...でも強くなりたいからって、そう思ってなんとかやってきたんだ」

 

「イッセーさん...」

 

「...でも最近考えるんだ...俺が今生きているこの人生は本当の兵藤一誠の為の物なのに...俺が奪ったんじゃないかって...俺に...兵藤一誠の人生を奪った...兵藤一誠を殺した俺に、生きる資格はないんじゃないのかって...でも、死にたくなくて...!」

 

「イッセーさん!」

 

 アーシアが抱きついてきた。

 

「イッセーさん...!私、難しい話は良くわかりません!でも...これだけはわかります!イッセーさんは悪くありません!!」

 

「アーシア...でも俺は...」

 

「イッセーさん...いえ、あなたは、自分で望んでそうなったわけじゃないんでしょう?なら!あなたは悪くありません!!」

 

「アーシア...」

 

「それに!私は...私にとってあなたはとっても大切な人です!私をあの教会から助けてくれました!初めてのお友達になってくれました!色んな事を教えてくれました!私...あの時のあなたの言葉にどれだけ救われたか...だから!今度は私の番です!」

 

「イッセーさん!あなたは悪くありません!!私もイッセーさんの事が....あなたの事が大好きなんです!だから...イッセーさんに居なくなってほしくありません!!ずっと一緒に居たいです!!!」

 

「アーシア...俺...いいのかな...一緒にいて...生きていいのかな...?」

 

 涙が溢れてくる...

 

「はい、ずっと一緒にいましょう?」

 

「ありがとう...ありがとうアーシア...うん...ずっと一緒だ...一緒にいてくれ...」

 

 アーシアの胸に抱かれる。

 涙が止まらなくて、心がこんなに暖かい...

 そっか...いいのか...生きてていいのか...

 これでも俺、結構悩んでたのに...好きな女の子に一言言ってもらえるだけでこんなに心が軽くなるんだな...

 そうだ...俺もアーシアとずっと一緒にいたい...!

 

『相棒!...相棒!』

 

 うるさいドライグ...今一番いいところだろ...

 雰囲気とか...わかるだろ...

 

『そんな事言ってられるか...!新しい力が目覚めたんだ!!』

 

「なにっ!!」

 

 俺は叫んでしまった。

 

「イッセーさん?」

 

 アーシアがびっくりしていた。

 

「うっ...ごめん、ドライグが...俺が新しい力に目覚めたって...」

 

「そ...そうなんですか?」

 

 それでどんな力なんだよ...

 

『一度だけ、たった一度だけだがマックスまで一気に倍化できる力だ。』

 

 そんな力が...すごいじゃないか...!

 

『ただし、デメリットがある。まず、その特殊な倍化が終わるとまる1日神器(セイクリッド・ギア)は完全に機能停止する。そして最大限まで倍化する事しかできない。途中で止めるだとか、加減するとかは無理だ。次に、大量に体力を消費する...恐らく、禁手(バランス・ブレイク)の方が効率が良いくらいには消費するぞ。はっきりいってこの力は禁手(バランス・ブレイカー)以上に不安定なバグのようなものだ。今のお前では、一度使えば体力がほぼ無くなると言っても過言じゃない。』

 

 おぉ...厳しいが...禁手(バランス・ブレイク)に至れない俺にはありがたい力だ...!

 

「イッセーさん?どんな力が目覚めたんですか?」

 

「あぁ...なんでもデメリットはあるが、一瞬で最大まで倍化できる力らしい....」

 

「お...恐ろしい力ですね...」

 

『恐らく、その女に心の内を告白して心の迷いが晴れた事で禁手化(バランス・ブレイカー)への道が開きかけたのだ。ほんの入り口だが...しかし間違いなく大きな一歩だ...』

 

 そっか...

 

『そして...そして発動条件は、そこの女と接触している事だ...』

 

 アーシアと...?

 

『あぁ...全くお前は...結局...いや、おっぱいよりはましか...?少なくともおっぱいドラゴンではないな...?なら良いのではないか...?いやほんとにいいのか...?ん?』

 

 ドライグが困惑している...

 まぁいいや、ドライグだし。

 

「アーシアが俺の悩みを聞いてくれたからこの力を手に入れる事ができたんだ!ありがとう!アーシア!!

 本当にありがとう...俺、ずっと迷ってたけど...アーシアのおかげで迷いが晴れたよ!!」

 

「たまにイッセーさんが深刻そうな顔をしていた時はこの事を考えていたいたんですね?」

 

「ん...まぁ...」

 

「それじゃあ、これは二人だけの秘密ですね...?ありがとうございますイッセーさん、相談してくれて...私嬉しかったです!ずっと...イッセーさんに何かお返ししたいと思っていたんです...だから...イッセーさんが私を頼ってくれて嬉しいんです...」

 

「そんな...こっちこそありがとうだよ...まだ、考えなきゃいけないことはあるけど、でも...これで...前を向いていける...!」

 

 本当に晴れ晴れしている...!新たな力にも目覚めて!最大の懸念だった事にも、解決はしてないけど、納得する事ができた。思えば答えはとっくの昔に出てたんだ。ただ、誰かに背中を押してもらいたかったんだ...

 

「後はライザーをぶったおして、ゲームに勝つだけだ...」

 

 俺は決意を新たにした。

 

「あの...イッセーさん...今日は一緒に寝てもいいですか...?」

 

「アッ...アーシア!?」

 

「その...き...今日はイッセーさんと一緒に居たいんです...」

 

 アーシアが顔を赤くして、俺の腕にしがみつきながらそんなことを言った...

 

「あっ...お...」

 

 なんでそんなに可愛いことをいいますかねこの子は──!!!

 滅茶苦茶嬉しい...

 いいのか...いいだろ!さっきも一緒に居たいって言ってくれてるんだ!アーシアがそう願ってるんだから!そうしよう!!そうだろ!!

 

「おう!一緒に寝よう...!」

 

 迷いの消えた俺は積極的なのだ。積極イッセーなのだ...

 

 ────────────────────────

 

 アーシアは俺の左腕に抱きついて眠っている。

 それはもうすやすやと...

 可愛い寝顔だ...

 流石に、俺もこんなに俺を信頼してくれているアーシアに襲いかかるような事はしない...

 

 しないけど...!

 

 アーシアの匂いが...体温が...体の感触が...!!おっ...おっぱ...!!!

 っっっっ眠れん...!!

 アーシアの可愛い寝息が俺の肩にかかっている...

 こんな幸せがあって良いのでしょうか...?

 

 俺は数時間悶絶したのち普通に眠った。眠れるんかい...

 

 ────────────────────────

 

「全く...イッセーが部屋にいないから何をしてるのかと思ったら...起きなさい!二人とも!」

 

 んん...?部長の声...?

 

「ぶ...部長!?」

 

 俺は一気に目が覚めた。

 

「同じベッドで一緒に眠るなんて、ちょっと見ない間に随分と関係が進んでしまったようね?イッセー...」

 

「チ...チガマス...!手は出してません...!」

 

 何を言ってるんだ俺は...

 

「そういうことではないのだけれど...ふふっ、まぁ貴方達の仲が深まるのはとっても素敵なことだわ?はぁ...あなたたちはこんなに幸せそうなのに...主の私の春は来る気配もないわね...」

 

「そんなこと...!部長ならすぐにいい出会いがありますよ!」

 

「そう?...そうならいいのだけれどね...まずはその為にもライザーを倒して、自由を勝ち取らなければならないわ。だから...今から修行しに行くわよ!」

 

「んん...イッセーしゃぁん...?」

 

 アーシアが目を擦る...起こしてごめんね。でもねぼすけアーシア可愛いよアーシア...

 

「アーシアおはよう?さっきイッセーにも言ったのだけれど、今から修行しに行くわ?二人とも、準備なさい?」

 

「ぶ...部長さん...!?しゅぎょ...準備...あわわ...」

 

 寝起きで突然襲いかかってきた情報量に混乱しているようだ...

 

「とりあえず顔を洗ってくるんだアーシア、後で説明するから....」

 

「は...はいぃ...」

 

 アーシアはとてとてと洗面所へと向かった。可愛い。

 

 そういえば、修行に行くイベントがあったなぁ... 楽しみだ...

 新しい力も手に入れたし...

 やってやるぞ!!打倒、ライザー!!!

 



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第16話。 しちゃいます、修行!

原作読み進めてるんですけど...インフレの波がすごいです...
ちゃんと逃げきれるんでしょうか...


 俺は現在、例の拘束具を着けながら、部長、朱乃さん、そしてアーシアの荷物を持っていた。

 重すぎる...何入れとるだ...

 

 木場と小猫ちゃんはすいすい登っていく...

 ちくしょう...置いていかれる...

 

「イッセーさん!私、お手伝いはできませんけど...一緒に登りましょう!」

 

「アーシア...!」

 

 俺は感涙の涙を流した。

 流石はアーシアだ...!的確に癒してくれるぜ...!

 

 お陰でやる気MAX!

 俺は一歩一歩踏みしめながら山を登っていくのであった。

 

 ────────────────────────

 

 グレモリー家の別荘に着いた俺達は荷物を置いて、早速修行すべく服を着替えるのであった...

 

「僕も着替えてくるよ...覗かないでね?」

 

 なんて木場が言っていたが、俺は結構限界なのでツッコミすら入れられなかった...

 無言で手をシッシ!と振ってやった。

 

 少し休憩したら、ジャージに着替えて修行開始だ。ゲームまで時間がないからめちゃくちゃハードスケジュール...!

 

 俺は不安でいっぱいになっていたが、アーシアのジャージ姿を見てそんな気持ちも吹っ飛んだ。

 可愛いよアーシア。君はなんでも似合うね?

 

 俺が一番最後だったようだ...

 早速修行が始まった!

 

 ちなみに俺は、今回の修行はコカビエル戦を飛び越えヴァーリ戦の事まで考えて修行するつもりだ...

 

 正直、今回のライザー戦は新しい力込みなら、既に勝利のビジョンが見えている。コカビエル戦も俺がと言うよりは他のメンバーが頑張る戦いだ...後はヴァーリがやってくれる...

 しかし問題はそのヴァーリ...

 三勢力の同盟を邪魔すべく現れる「禍の団(カオス・ブリゲード)」の一員として途中で裏切って俺と戦う事になる...

 あいつはもう既に覇龍(ジャガーノート・ドライブ)まで使えるからな...

 正直どれだけ修行してもまっったく勝てるビジョンは見えない...

 ヴァーリさえ越えれば、夏休みでまとまった修行がつけられるんだけど...

 俺...ヴァーリに一撃入れられるんだろうか...

 まぁやるしかないんけどな...

 あいつ、親を殺してやるだのなんだの...ほんと洒落にならんからな...

 

 というわけで、今回の俺は拘束具を着けた状態で皆の扱きを受けることにしている。

 はっきり言って地獄でしかない...が、やるしかない...!

 根性ぉぉぉぉぉぉ!!!

 

「ふん!ん!んら!!」

 

 俺は木刀を木場に向けて振り回し、悉くを捌かれる。

 

「ほら、剣だけじゃなくて相手や周囲も見るんだ。そうしないと、剣が木に当たった、とか足場が不安定で体のバランスを崩した、なんて理由でやられかねないよ?」

 

「わかってるけど...!実際にやるのは...!!だぁぁぁぁい!!」

 

 木場は俺の縦の大振りを華麗に避けて、そのまま俺の脇腹に一撃ぶちこんだ。

 

「ッッガハッ!!!」

 

 これも、修行の一環として俺は皆に積極的に攻撃してもらうようにしている...

 痛みにも慣れないと...

 なんでこんなに頑張ってるんだ俺...

 泣きたくなってきた...

 

 木場との剣の修行という名の耐久試験は無事終了した...

 めちゃくちゃ木刀で殴られた...

 アーシアが癒してくれる...

 

「イッセーさん...こんなにアザを作って...」

 

 アーシアが心配そうに顔を窺う。

 

「大丈夫!というかこれくらいはやらないと...俺には才能ってやつがないからな...」

 

「...!なら私が何度でも治しますから!イッセーさんいっぱい修行頑張って下さい!」

 

 アーシア...逆説的にいっぱいボコボコにされてくださいって事なの、わかってる?

 でも頑張るぜ!アーシアの応援で元気100倍だ!

 

 ────────────────────────

 

 次は朱乃さんとの魔力の修行だ。

 

「できました!」

 

 アーシアが手のひらに大きな魔力の塊を作っていた。

 

「流石はアーシアだ!すごいぞアーシア!」

 

 俺はアーシアを褒めた。

 

「ありがとうございます!」

 

 アーシア満面の笑み。可愛い。

 

「はいはい、イッセー君は自分の修行に集中してください?イッセー君はそもそもの魔力量が少ないですから...とはいえ、悪魔になってから地道に修行しているようですし、成長は見られますわ?このまま頑張っていきましょうね?」

 

「はい...!」

 

 現状の俺の目標はテニスボールくらいの魔力の塊をサッカーボールくらいまで大きくする事だ。

 

 アーシアは魔力の性質変化の修行を始めていた。

 

 むむむと水を魔力で動かそうとするアーシアが可愛い。

 一生懸命うんうんと唸っているのも可愛い。

 可愛いよアーシア...

 

「イッセー君?集中してくださいね?」

 

「す...すみません...」

 

 そんなやりとりを数回繰り返して、魔力の修行は終わった。

 

 ────────────────────────

 

「ぐはっ...ごっ...んがっ...!」

 

 俺は今、小猫ちゃんに無限に殴られてる...

 この子、もうちょっと手加減とかないの...?

 

「ぐっは!」

 

 木に叩きつけられちゃった...

 

「....イッセー先輩、私結構丈夫ですから気にせず攻撃してください。そんなのでこれから女の子の眷属と戦うとき攻撃できるんですか...?」

 

 うっ...だって、女の子を殴るってなんか絵面がやばくて...特にロリ...

 

「.......まぁ徒手格闘の防御練習だってならそれでも構いませんが。」

 

「わかった...頑張るから...ちょっと待って...」

 

「.....さ、後10セットですよ。」

 

 俺の3年間の修行がいかにぬるい物であったか改めて理解させられた...

 

 ────────────────────────

 

 次は部長による扱き...と思いきやそうではなかった。

 

「基礎的なトレーニングはいつもの様子をみる感じサボらないでしょうし、私は戦術の勉強をするわ。代わりにあなたにこれをプレゼントするから、頑張ってね?」

 

「なんですかこれ?」

 

 変な球体があった。

 

「こうするのよ?」

 

 部長が魔力を込めると光の縄が溢れだし、俺の体全体を縛り上げていく...

 

「おっっっっっも!!!!」

 

 気が付くと身体中に紋様のような物が刻まれていた。

 

「これはあなたに適切な負荷をかけ続ける特殊な術式よ?この状態でトレーニング頑張ってね。終わったら外すわ。」

 

 重すぎるんですけど...て...適切...?

 

「んぎぎぎぎぎぎぎぎ!!!!」

 

 腕立て、腹筋、スクワット...どれも地獄の様相である...

 待って...?これ疲れきったら、重さで死なない...?

 大丈夫....?

 適切って事は、疲労が貯まっていけば軽くなるんですよね...?

 

 そして見事に全く動けなくなりましたとさ。

 

 ────────────────────────

 

「美味い!!!食事は体の資本...!!!」

 

 俺は一心不乱に飯をかきこんだ...

 食って食って少しでも肉にしないと、今日1日だけでどれだけの地獄をみたのか...

 細胞一つ分でも多く力になってくれないと報われない...!!

 あまりの苦行に俺の情緒は壊れた。

 

 ふと見ると、机に並んでいる料理とは少し雰囲気の違うスープがあった。

 飲む...素朴で優しい...疲労しきった体や心に染み渡るようだ...

 これアーシアが作ったスープだよな。1000杯飲めるわ。胃袋壊れる。

 

「このスープ、アーシアが作ったのか...?」

 

「は...はい...お口に合いましたか...?」

 

 不安そうにこっちを見ている...

 

「あぁ...こんなに暖かい気持ちになるスープは人生で初めてだ...ありがとうアーシア...是非おかわりを下さい...」

 

「本当ですか!良かったです...すぐに注いできますね!」

 

 そのアーシアの笑顔もあって、俺の情緒は無事回復した。

 流石聖女。流石アーシア。全ての行動に癒しの力が込められているのではないだろうか?

 

 ────────────────────────

 

「さて、食事も終わったし、お風呂に入りましょうか。ここは温泉だからとっても風情があるのよ?」

 

 温泉...アーシアと混浴したい...混浴温泉にアーシアと行きたいよ...

 

「....イッセー先輩、卑猥です」

 

「なんだって、小猫ちゃん?俺はあくまで純粋な気持ちでだね...」

 

「はは...イッセー君は何を考えているのか手に取るようにわかるね」

 

「俺の基本的人権が犯されている気がするんだが...」

 

「悪魔だからね...」

 

 そうだったわ。ならしょうがないな...んなわけあるか。

 

 ────────────────────────

 

 夜は夜で修行した。術式つけた状態で木場や小猫ちゃんともう一回修行だとよ。

 部長は俺に恨みでもあるのか...?

 勿論昼より動けないので、まじで死ぬかと思いました。しかも術式のせいで避けられないからパンチとかもろに体に突き刺さる。

 まじで戻すかと思った。アーシアのスープが入ってなかったら戻してたな...

 

 次の日の朝は休憩がてら、アーシアと悪魔としての常識、各勢力のお偉方の名前等勉強した。

 一応、顔も思い出せる面子ばかりなので比較的早く覚えれた。堕天使は難しいけど...堕天使だけ、難易度おかしくない?多すぎない?

 

 次にアーシアのエクソシスト講座だ。

 教師アーシア可愛いよ。色々教えて欲しい...いやむしろ教師アーシアに色々教える事の方が興奮するのか...?

 

「.....」

 

 無言で小猫ちゃんに殴られた。

 いや待ってくれ...こんな生活で、色々と限界なんだよ...そっちに思考を振りきらないと俺のガラスの心が砕ける...ちょっと待ってそれ以上は俺の肋骨が砕けちゃうからごめんなさいごめんさい...

 

 そしてアーシアによる、聖水作成講座が行われた。

 

「なぁ、アーシア。この中で一番強力な聖水ってどれになるんだ?」

 

 俺はアーシアの耳元でそう聞いた。

 他の人には聞かれたくないからな...

 

「強力なですか?一応これになりますけど....」

 

「今度の戦いで二つ聖水が欲しいんだが、用意ってしてもらえるかな?材料とか必要だったら俺が用意するからさ」

 

「それはできますけど...」

 

「ありがとう!頼むな!」

 

 ────────────────────────

 

 それからは修行が終わるまで、特筆することもなく淡々と進んでいった。

 

 様々な作戦のパターンも練習した。

 

 やれることはやったと思う...

 信じられないくらいしんどい修行したし...

 

 後は勝つだけだ...!!

 

 



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第17話。 始まります、ゲーム!

次回でライザー編終わるので今日は二本投稿です。
二本目はいつも通り7時くらいに投げます


 いよいよ決戦当日。

 俺は自室で寝転んでいた。

 

「ドライグ、調子悪いとかないよな?」

 

『勿論俺はいつでも問題ないが、あんな作戦本当にやるのか...?俺はあまり賛成できんが...』

 

「まぁな...でも、俺頭悪いし、それしかないと思ってる。」

 

『そうか...まぁお前がそう決めたのなら従うだけだ。』

 

「ありがとうドライグ...」

 

 すると、部屋をノックする音が聞こえた。

 どうぞ、と言うとアーシアが入ってきた。

 久しぶりにシスター服を見たな...やっぱりアーシアはこの服が一番似合うな...

 

「アーシアはやっぱりシスター服なんだな」

 

「はい、やっぱり...私が着るとしたらこれかなって」

 

「うん、よく似合ってる。けど、久しぶりに見た気がするよ...アーシアのシスター服」

 

「私はもう聖職者じゃないですから...でも、長年着ていましたからやっぱりこれが一番落ち着くんです...」

 

「あぁ、一番着たいものを着るべきだな」

 

「そうですね」

 

 アーシアが微笑んでくれる。

 

「あの...イッセーさん、そばに行っていいですか?」

 

「!...あぁもちろん」

 

 すると横に座ったアーシアが腕に抱きついてきた。

 

 おぅ!?アーシアさん!!?体が密着して...!

 

「私、今から始まる戦いを思うと怖くて、少し震えが止まらなかったんです...でも、イッセーさんがそばにいてくれるととっても安心できるんです...あの...しばらくこうしていてもいいですか...?」

 

「...あぁ...好きなだけしてくれ!」

 

「ふふっ、ありがとうございます」

 

 俺はなんとなく手持ち無沙汰だったので、アーシアの頭を撫でることにした。

 さらさらの髪がめっちゃ気持ちいい...

 

 アーシアがおでこを少しグリグリと押し付けてくる。

 なんだこの生物可愛すぎか?俺は悶絶した。

 

 その後しばらく俺達は一言も喋らず、互いを慰めあったのである...

 

 ────────────────────────

 

 既に部室に集合していた俺達は各々の方法でリラックスしながら待機していた。

 

 開始十分前、グレイフィアさんが現れ、サーゼクス様や両家の皆が視聴していること、戦う場所は壊しても問題ない戦闘用の空間である事など、細やかに説明された。

 グレイフィアさんによる説明が終わるとちょうど時間になったので、俺達は転移した。

 

 転移した先は全く同じ部室であった。

 そう、今回のフィールドは部長へのハンデとして、駒王学園が選ばれたのである。

 

 俺達は旧校舎、オカ研部室が本陣であり、ライザーは新校舎、生徒会室が本陣である。

 

 お互いの兵士はその本陣に入らなければプロモーションで他の駒に変化できない。

 しかし兵士が女王になると、被害が拡大する。女王は最強の駒なのだ。全てを兼ねる女王が増えるなど恐怖以外の何物でもないだろう。

 だから阻止するし、自分達は積極的に狙うのだ。

 

 朱乃さんから通信機器が配られた所で、レーティングゲームが始まった。

 

 ────────────────────────

 

 開始早々、部長達はお茶の準備を始める。

 レーティングゲームは長期戦なので、今急いでもしょうがないという事らしい。

 

 学園の地図を机に広げての作戦会議が始まった。

 俺は戦術的な事は難しくて参加できないので、他のメンバーの作戦会議を黙って聞く。

 

 結論から言えば、序盤は木場と小猫ちゃんが最初に旧校舎に面する森にトラップを仕掛ける。その後朱乃さんによって霧と幻術が森含め空まで全域に撒かれるのだそうだ。

 中盤以降の作戦も語られていく...

 

 木場達は早速準備にかかった。

 しかし俺とアーシアはやることがないので、今のところ待機である。

 

 と、ここで部長に声をかけられた。

 

「イッセー、あなたに施した封印を解くわ。」

 

 そういって部長が俺の胸に手を当てた瞬間、体の底から力が沸き上がってきた。

 

 そう、俺は兵士(ポーン)に転生する時に駒8つ全て利用したのだ。駒は転生させる存在の強さや価値によって必要な個数が変わってくる。

 俺はブーステッド・ギアの価値が非常に高いせいで、全て利用することになった。

 それ故にただの人間である俺の体が駒8つ分の力に耐えられなかったのだ。

 だがそれも、昔の話。今なら解放しても扱えるとの判断の元、封印解除に至った。

 

「イッセー、プロモーションは女王(クイーン)になるのよ?あなたが女王(クイーン)になれれば戦況は優位に傾くわ。」

 

「...わかりました」

 

「そうだ、アーシア」

 

「どうかしましたか?イッセーさん?」

 

「アーシアに頼んだ聖水、一つはアーシアに持っていて欲しいんだ。必要になったらアーシアを呼ぶから持ってきて欲しい。ライザーとの戦いでの話だ。危ないかもしれないけど、絶対守ってみせるから!」

 

「はい!きっとイッセーさんに渡してみせます!」

 

 ────────────────────────

 

 準備が終了し、現在は俺と小猫ちゃんで重要拠点である体育館へと向かう。

 木場は別動隊だが、途中までは一緒に向かう。

 朱乃さんも別動隊だ。今はどこかに潜んでいる。

 部長とアーシアは俺と小猫ちゃんがきちんと役割を果たせれば出陣する。

 

「じゃあ、先で待っているよ」

 

「俺達が先に着くかもよ?」

 

「まさか、そんな事があったら最速の騎士の名が泣いてしまうよ...」

 

「泣かしてやろうか?」

 

「それは困ったな...なら、僕も本気で急がないとね...!」

 

 なんて雑談しながら別れた。

 キザなセリフも木場が言うと滅茶苦茶似合うな...

 

 ────────────────────────

 

 裏口からこそこそと二人で体育館に入った。しかし、

 

「そこにいるのはわかっているわ!早く出てきなさい!」

 

 と言われてしまった。一応隠密していたつもりだったんだが、意味はなかったようだ...

 

 俺達は姿を表す。

 

 相手はチャイナドレスの女の子一人、チェーンソー双子ロリ、小柄な女の子一人。チャイナが戦車で残りが兵士だ。

 

「....イッセー先輩は兵士をお願いします。私が戦車を倒しますので。」

 

 二手に別れて戦う。

 

「来い、ブーステッド・ギア」

 

『Boost!』

 

 こいつらは三回の倍化までだ...

 なるべくライザー戦まで体力を温存しないと...

 

「解体しまーす!」

 

 チェーンソーロリ二人が攻撃を仕掛ける。

 それを避けるが、今度は後ろから棍で攻撃される。

 籠手で受ける。

 

『Boost!』

 

 やっぱ余裕だから二回でいいや。

 

『Explosion!』

 

 回避と軽い攻撃を繰り返す。いい感じに三人をイライラさせる事ができてるな...そうする事しばらく、部長からの連絡が来たので俺と小猫ちゃんは体育館から退出した。

 

「ちょっと!ここは重要拠点なのに逃げる気なの...!!」

 

 相手が叫ぶ。

 

 その瞬間。轟音と共に大量の雷が体育館へと降り注いだ。

 

「撃破ですわ」

 

 朱乃さんの声が響いた

 

『ライザー・フェニックス様の兵士(ポーン)三名、戦車(ルーク)一名、戦闘不能。』

 

 アナウンスが響く。

 

「上手くいったな」

 

「....はい」

 

 今回の作戦は、新旧校舎を繋ぐ重要拠点たる体育館に相手を釘付けにした所で急に俺達が体育館を退出。

 相手が困惑している所を朱乃さんの魔法で体育館もろとも吹き飛ばすという物だ。

 取り合いになる重要な拠点ならむしろ消し飛ばして、更に相手を数人撃破する。

 部長らしい、いい作戦だ。

 俺達の被害もゼロ。体力の消費もほとんど無し。

 理想的な一手である。

 

 部長からも称賛、及び次の指示が通信機器を通して伝えられる。

 

 あっ...そういえばここいらで小猫ちゃんが不意打ちされるはず...

 

 ....っ!来た!

 

「危ない!」

 

 俺は小猫ちゃんを抱えてジャンプ。なんとか回避できた。

 

「お前は女王(クイーン)だな?」

 

「あら、よく避けたわねボウヤ...まさか不意打ちが避けられるとは思わなかったわ...でも、今度こそ当ててあげる!」

 

 その後数度の魔法による爆撃を受けたが、全てなんとか避けてみせる。一回かすったけど...イテテ

 

「あらあら、あなたのお相手私がいたしましてよ?」

 

 そうしているうちに朱乃さんが現れた。

 

「イッセー君と小猫ちゃんは祐斗君の所へ向かいなさい。ここは私が引き受けますから...」

 

 朱乃さんが雷の魔力を帯びる...

 すごいオーラを感じる...

 知ってるか...?これで更に堕天使としての光まで混ぜて雷光とか言い出すんだぜ?

 

 俺達は運動場へと駆け出した。

 運動場は木場との集合場所だ。

 向かっている間に...

 

『ライザー・フェニックス様の兵士(ポーン)三名、戦闘不能』

 

 というアナウンスが響いた。

 

「.....多分祐斗先輩ですね。」

 

「やっぱりか。流石だな。」

 

 俺、結構今まで本気で修行してきたつもりだが、未だに木場のスピードには全く着いていけない。

 フルで倍化したらまた少し話は変わるけど...

 フルで倍化なんて、そうそうできるもんじゃないし...

 だからこそ禁手化(バランス・ブレイカー)は強いんだよなぁ...

 

 向かう途中で小猫ちゃんが

 

「...前方に祐斗先輩がいます...」

 

 と言うので減速すると木場が現れた。

 

「僕の方が先だったようだね。」

 

 雑談の事覚えてたか...

 

「流石は最速の騎士(ナイト)だな...完敗だ。」

 

 と言ってやると、無言で微笑んでいた。イケメンか。イケメンだわ。

 木場の口から、運動場に騎士(ナイト)戦車(ルーク)僧侶(ビショップ)、一人づつ居ることが明かされた。

 

「ここが正念場だ。きちんと勝ちきるよ...」

 

 木場がそんな事を呟く。

 木場はなにしても様になるのでイケメンはやっぱりイケメンだ...

 

「...はい」「あぁ!」

 

 なんて決意を固めていると...

 

「私はライザー様に仕える騎士、カーラマイン!リアス・グレモリーの騎士よ!腹の探り合いはもう飽いた!いざ尋常にお相手願おう!!!」

 

 相手の騎士がそう叫んだ。頭悪そう。

 

「名乗られてしまっては、騎士として、剣士として、隠れているわけにもいかないな...」

 

 そういって木場は悠然と歩いていく。

 仕方ないので俺達もそれに追随する。

 

「リアス・グレモリーが騎士、木場祐斗」

 

「同じく兵士、兵藤一誠」

 

「....戦車、搭城小猫」

 

「リアス・グレモリー眷属にお前達のような戦士が居たこと嬉しく思う!正面から出てくるやつなど...よっぽどの強者かバカだけだ...そして、私はそんなバカが大好きだ!...さて...いざ、尋常に...」

 

 騎士二人が互いに剣を抜く...

 

「「勝負!!!」」

 

 二人の騎士がぶつかり合う。

 高速での斬り合いは目にも止まらない...

 もう火花しか見えないな...

 たーまやー...

 

「暇そうだな?」

 

 顔の半分だけ仮面を着けた女が現れた。確か、戦車だったはず。

 そして僧侶たる金髪縦ロール女も現れた。レイヴェル・フェニックスだ...

 

 なんかめちゃくちゃぶつくさ文句言ってる...

 

「...私は戦車と戦います...イッセー先輩は僧侶をお願いします」

 

「わかった...」

 

「あら?私は戦いませんわよ?戦いだなんて...か弱く美しい私には似合いませんわ?」

 

 そういやこの時はそういうやつだったなお前は...

 

「.....ならイッセー先輩は体力を温存しておいて下さい」

 

 そういって小猫ちゃんが戦車同士殴り合いを始めた。

 うぉお...インファイトでバチバチの殴り合いだ...

 

 なんか俺...いいのかな...

 でもライザー戦はなるべく無傷で戦いたいんだよな...

 

 木場と敵の騎士も手を変え品を変え変幻自在にバトルしていた...

 

 てな所で俺に声をかける奴らが現れた。

 

 兵士2人、僧侶1人、騎士1人...

 相手の下僕さん大集合だな...

 

 俺は神器(セイクリッド・ギア)を起動する。

 

『Boost!』

 

「ねー、そこの兵士くん、ライザー様があなたの所の姫さまと一騎討ちするんですって。」

 

 と言われた。

 よく見たら新校舎屋上にアーシアと部長がいる...

 まじか...部長が負けたら負けるんだが...?

 アーシアは...今すぐは大丈夫か...?

 部長が守ってくれるはず...

 そしてライザーは心を折るために、部長の全部を受け止めるつもりだろうし...

 今しばらくは大丈夫か...

 

 今の俺達の仕事はここにいる全下僕を、三人で倒す事だ...

 特に...ここまで温存させて貰った俺が頑張るしかない!

 

「よっしゃ、かかってこい!!」

 

『Boost!」



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第18話。倒します、ライザー!

これにて二巻の分が完結です。
長いような短いような...


 二度目の倍化の声を合図に、戦いは始まった。

 

「相手は既に二回倍化してますわ!体育館での戦いから考えても、後一回倍化されるともう手に負えなくなると考えて構いません!全員全力で速攻をしかけなさい!!」

 

 フェニックス妹の一声で、獣人二人が飛び出してくる。

 俺は右から来た方の獣人の拳を左足を下げ半身を反らす事で避ける。その後籠手で顔面を殴り抜いて地面に叩きつけた。

 その間に逆からきたやつが俺の横腹に拳を入れていた。しかし...

 

「効かねぇ...よ!!」

 

 何回小猫ちゃんに腹パン決められたと思ってんだ...

 とかいいつつしっかりダメージになってるんですけどね...痛いよ...

 あのサンドバッグは何の意味があったんだ...

 そのまま獣人の方を向き直り、右足で相手のガードごと顔面を蹴り抜いた。

 とかやってるうちに背中から僧侶が炎の魔法を使う。

 

 急いで横に飛んで回避するが、まぁ普通に背中が燃えた...痛い...

 回避した先に騎士が斬りかかる。俺はそれを更に転がって回避して後退する。

 

 仕切り直しだ...

 

『ライザー・フェニックス様の戦車一名、リタイア』

 

「...イッセー先輩お待たせしました」

 

「小猫ちゃん!」

 

 めちゃくちゃいいタイミングで小猫ちゃんが帰って来てくれた!

 でも、結構ボロボロだな...今までずっとインファイトで戦車同士殴りあってたんだもんな...

 こっわ...

 

『Boost!』 三度目だ。

 

「小猫ちゃんは獣人二人を頼む。二人とも一発重いの入れたから今の小猫ちゃんでも大丈夫だと思う...俺は騎士と僧侶をぶちのめす。」

 

「....了解です」

 

 小猫ちゃんが二人に向けて駆け出す。色んな意味でキャットファイトが始まった。内情ただのガチ殴り合いだけど...

 

 俺も騎士に向かっていく。

 騎士は剣を振るうが、相手が悪いな。

 そんな大剣振り回されても全く怖くない

 

 剣によって風が発生する前にしっかり下に潜り込んで、腹に一発拳をぶちこんだ。

 あんまり女性に暴力は振るいたくないけど、割りと切羽詰まってるからやらせてもらうぜ!

 

 腹パンで吹き飛んだ先に走っていって、もう一度腹を蹴り抜く...

 

 字面が主人公じゃない...

 でもやらないと勝てないもん...

 

『ライザー・フェニックス様の騎士、一名リタイア』

 

「次はお前だな僧侶...」

 

 俺は悪役感たっぷりに僧侶へと詰め寄る。

 

 しっかりと腹パンして決めさせていただきました...

 なんか俺、女の顔面と腹しか殴ってないんだが大丈夫...?

 

「ライザー・フェニックス様の僧侶、騎士各1名、リタイア」

 

「イッセー君、君も丁度終わったんだね?」

 

「木場!体力後どれくらいだ?」

 

「しっかり余力を残したつもりだよ?」

 

 一ヶ所斬られてるのが少し不味そうだけど、まだ動けそうではあるな...

 

『ライザー・フェニックス様の兵士二名、リタイア』

 

「...楽勝でした」

 

「小猫ちゃん...は結構消耗してそうだね...」

 

「....まだやれます...」

 

 すごい闘志だ...

 

『リアス・グレモリー様の女王、リタイア』

 

「なっ!!?」

 

「驚いてる暇はないぞ...!来る!!」

 

 爆発が起こるが、全員なんとか回避する...

 

「ちっ...また避けたわね...あんた達...」

 

 空に相手の女王が浮かんでいる。

 あいつを倒さないと、ライザーとの戦いに乱入してくるかもしれないな...

 ただ、ここに誰かが残っている限りライザーの元へは向かわないだろう...

 ライザーは一対一を宣言してるんだし...

 

「なぁ木場...小猫ちゃん...ここ、任せてもいいか?絶対ライザーの事ぶっ倒してくるからさ...」

 

「....いいよ。任せてくれ...イッセー君!」

 

「倒さなくてもいい、時間さえ稼いで貰えれば...俺のライザーとの戦いは短期決戦で決まるはずだ!」

 

「わかったよ...行くよ!小猫ちゃん!!」

 

「...イッセー先輩....頼みます...」

 

「ありがとう!絶対勝つから!!!」

 

 俺は全速力で駆け出した。

 

 さっきの戦いや会話の間もブーステッド・ギアは起動しっぱなしだった...

 既にもう、25回は倍化している。

 

『相棒...もうすぐで限界だ。』

 

「了解...!」

 

 俺は屋上へと飛んで行った。

 

 ライザーと部長が戦ってる。

 

「プロモーション、戦車!!」

 

 俺は戦車に昇格した。

 今回の作戦はとにかく防御力が欲しいのだ。

 部長には申し訳ないが勝手させてもらう。

 

 たどり着く頃には、丁度ライザーが部長に一撃をいれようとしているところだった。

 俺は突撃して、攻撃を中断させる。

 

「お待たせしました!部長!!!」

 

「イッセー!!」

 

「イッセーさん!!!」

 

『Explosion!』

 

「リアスの兵士か...全くやってくれるぜ。俺の可愛い可愛い下僕達が軒並みダウンだ...」

 

「知るかんなもん...行くぞ...!」

 

 俺はライザーをぶん殴る。

 が、やつの体は炎になってダメージにならない。

 

「俺はリアスと一騎討ちしているつもりだったんだがなぁ?まぁいい。今のリアスよりは楽しめそうじゃないか...」

 

 俺は全速力で移動して、ライザーの背後へと回る。

 こいつは調子に乗って、こっちを見ようともしない...

 

 バカが!!!

 

『Transfer!!』

 

 俺は制服に隠し持っていた聖水の瓶を取り出し、倍化を譲渡する。

 

 原作でも使われていたあの手だ...!

 ただ、悠長にかけられるほど、隙だらけってわけでもない...!

 

 俺はライザーの背中を瓶ごと籠手でぶん殴る!

 

「がああああああああ!!!!なにぃぃぃ!!!!」

 

「ああああああああぐぅううううう!!!!」

 

 俺の体にも跳ね返ったり、ライザーの熱で沸騰したり蒸発したりした聖水がかかって二人ともダメージを受けた。

 

「っ゛っ゛っ゛アーシア!!」

 

 アーシアが走って聖水を持ってきてくれる。

 

 受け取った。

 

「イッセーさん!なんであんな...!!」

 

「アーシア...手を握ってくれないか?」

 

「え...はい...!こうですか!!?」

 

 アーシアの掌から暖かみを感じる...

 聖母の微笑(トワイライト・ヒーリング)を使ってくれているようだ...

 これならいける!!!

 

「よし、行くぞドライグゥゥゥゥゥゥ!!!」

 

『Welsh Dragon Balance Distortion!!』

 

偽・禁手化(バランス・ディストーション)!!!」

 

 左手の籠手が肩まで伸びてくる...

 一部だけの禁手化(バランス・ブレイカー)って感じか...

 

 って!!

 

「あががあああああ!!!!」

 

 身体中に凄まじい激痛が走る!!!

 

『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost!!』

 

『相棒...!一回目の聖水が想定以上のダメージだ!ほとんど余裕はないぞ...!』

 

「ぎぃいいいい!!!!」

 

『Transfer!!』

 

 二本目の聖水に譲渡する。

 

「がぁぁぁああああ...くう...おい...ま...て...そんなものをもう一度ぶつけられたら...!!おい...!

 俺を殺す気か貴様...!!」

 

 ライザーがもがきながら叫んでいる

 

 ブーステッド・ギアは完全に機能を停止した。

 無理な倍化で身体中に痛みが走るし、左腕は完全に動かない...

 ダメージがでかいのでもう殆ど時間の余裕はないだろう。

 

 でもこれで勝てる...

 

「一緒に逝こうぜライザー...ハァハァ...」

 

 片腕死んでる今の俺が瓶を悠長にあける時間はない...俺はもうすぐリタイアだ...

 俺は瓶をライザーの胸元へ叩きつけて割った。

 

「「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!」」

 

 

『リアス・グレモリー様の兵士一名、リタイア』

 

『ライザー・フェニックス様、リタイア』

 

『勝者、リアス・グレモリー様!』

 

 ────────────────────────

 

「.......っ...どこだ...?」

 

 目が覚めたら知らない場所にいた。

 

「っっ!!!イッセーさん!!!目が覚めたんですね...!」

 

「グエッ!!!」

 

 何かに飛びかかられた。

 アーシアが抱きついていた。

 

「私...心配したんですよ...?イッセーさんの怪我をどれだけ治してもなかなか起きてくれないから...」

 

「....どれくらい寝てた...?」

 

「丸々2日です...私...私だけじゃありません...皆さんもすっごく心配したんですよ...?私...このままイッセーさんが目覚めなかったら...どうしようって...うぇっ...グスッ...」

 

「ごめん...アーシア...心配かけたな...もう、大丈夫だ。」

 

 アーシアの頭を撫でる。

 

「イッセーさん...グスッ...」

 

「イッセー!目が覚めたのね...!」

 

「部長...」

 

「どうしてあんな危険な事をしたの!!?今回の戦いは私のワガママだったのに...!危ない所だったのよ!!?どうしてあなたが命をかけてまで...!」

 

「部長...、部長の問題なら...俺達眷属にとっても問題です...それに、もう既にたくさんお世話になったり、迷惑をかけたりしてきました....きっとこれからもいっぱい迷惑かけると思います...だから、返せる時に返さないとなんです。後はまぁ、単純にあいつがムカつくんで、やり返したかったんですよ...」

 

「そんな...いえ、わかったわ...その代わり、もっとたくさん私に迷惑かけなさい?全部解決してみせるわ...!あなたは私の大事な眷属なんだから当然よ?」

 

「はは...覚悟しといて下さい...」

 

「あなたの無事も確認できた事だし、それじゃあ、今日の所は一旦戻るわ?まだまだいっぱいお話があるでしょうしね...」

 

「お話...?」

 

「グスッ...イッセーさん...」

 

「この子、ずっとあなたに付きっきりだったのよ?すっごく心配してたんだから...」

 

 アーシアが付きっきりで看病...!?なぜ寝ていたんだ俺の体...

 

「それじゃあね、二人とも...」

 

 部長は去っていった...

 沈黙が流れる...

 

「その...アーシア...ありがとな...退院したらさ...また遊びに行こうぜ。次は町の外だ。遊園地とか水族館とか...!」

 

「...はい!!楽しみにしてます!!」

 

 やっと笑ってくれた...やっぱりアーシアには笑顔が似合う...

 あぁ...なんか、よく分からないけど...今、ハイになってるからなのかわからんけど...いける気がしてきた...

 

「なぁアーシア。」

 

「なんですか?イッセーさん?」

 

「俺と付き合ってくれないか?」

 

「......へ....?」

 

 アーシアがキョトンとしている...。

 

「.............」

 

「.............」

 

 沈黙が痛い...痛すぎる...?

 あれ?今しかないって思ったのに...なんで思ったの?全然今じゃないじゃん...

 

「あ...あの...アーシア...?」

 

「へ?あ...あの...あっ!あぁっと...あの...その...」

 

 アーシアの顔がどんどん赤くなっていく...

 これは...どっちなんだ....?わからん...ダメだったら死のう...

 

「あの...その...わ...私...てっきり...もう...そういう関係...なんだと...思って...たので...」

 

「.....へ?...」

 

「あ...あの...!だって、あの日の夜...ずっと一緒にいようって...だから..その...」

 

 アーシアはなんかもう真っ赤っかだ...

 俺も絶対今顔赤い...

 

 あれは確かに間違いなく告白...というかプロポーズのセリフだな...

 アーシアが勘違いするのも...勘違いか?合ってるんじゃね?

 

「いや...確かに...そういう意図も籠めて言ったか...も...ただ、はっきりと言ったわけじゃないから...その、改めてというか...」

 

「は...はぃぃ...」

 

 アーシアがなんかもうすごいことになっている...

 たじたじだ...

 俺もたじたじだ...

 

「じゃ...じゃあ、その...改めて...俺と、付き合ってくれませんか?」

 

「は...はひ...よろしくお願いします...」

 

 なんだか、いまいち締まらないが...

 無事、アーシアと恋人になることができた...!

 

 



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月光校庭のエクスカリバー編
第19話。刻みます、日常!


エクスカリバー編に入る前に少しだけ短編的な感じです。


 ジリリリリリリリリ

 

 目覚ましがなって俺は目を覚ました。

 そう、俺はついに普通の目覚ましを購入したのだ!なぜならアーシアがいるから...!

 好きな子にああいうの見られるのは恥ずかしいのだ...さよなら、全てのオタクグッズ...

 

 ってあれ?なんかベッドに違和感が...

 

「むぅ...イッセーさん...おはようございます...」

 

 むくりとアーシアが起き上がった。

 なんだアーシアか...

 

 アーシア!!?なんで?アーシアなんで!!?

 

「ア...アーシア...?」

 

「あっ...すみません...昨日なかなか寝付けなくて...イッセーさんとなら寝れるかなと思って、忍びこんじゃいました...」

 

 えへへ、とはにかむアーシア。可愛い。

 

「あの...嫌...でしたか...?」

 

「まさか!アーシアと寝るのが嫌だなんて!むしろ嬉しい!!」

 

「そ...そうですか...ふふ、なら良かったです...」

 

 アーシアが俺の腕にすり寄ってくる。

 アーシアさん...ちょっと...俺のキャパが限界なので...そろそろご勘弁を...

 

 そう、先日正式に俺とアーシアはお付き合いする事になったのだが...二人きりの時のアーシアの甘え方がちょっと限界すぎる...俺は毎日限界なのだ...

 皆がいるときの甘え方もまたいじらしくて限界なのだが...

 でも、これが無くなったらそれはそれで俺はひどく悲しむと思うので、成すがままにされている。

 

「...と、イッセーさんは朝のトレーニングがありますから、そろそろ起きましょうか!」

 

「お...おう...」

 

 アーシアはぱたぱたと自室へと戻っていった...

 アーシアさん...切り替え上手ですね...俺にはそんなに器用な真似できませんよ...

 

 外に出た俺は早速トレーニングを始めた。

 アーシアはマネージャーさんだ。アーシアがマネージャーしてくれるのまじで嬉しい...可愛い...

 疲れが吹っ飛ぶ...

 

 ちなみに山での修業の術式を部長に頂いているので、それを使っている。

 ランニングに使ったら一瞬で体力を使い果たすので、今は筋トレだけだが...ほんと、器具使わない自重トレだけで十分鍛えられるから、部長のトレーニンググッズ様様だ。

 

「イッセーさん!後5回ですよ!」

 

「んぎぎぎぎぎぎぎぎ...!」

 

 後5回ってやってる本人からしたらまだ後5回よね...

 辛い...辛いよ...

 

「イッセーさん!頑張って下さい!!」

 

「頑張ります!うぉおおお!!!」

 

 我ながら単純である。

 

 ────────────────────────

 

 最近のドライグは何やら悩んでばかりである。

 

『ぬぅ...あの娘が起点になってしまった事は、神器(セイクリッド・ギア)に確実に影響を与えているな...このままではおっぱいドラゴンの再演になるのではないか...?いや、少なくともおっぱいではないし、たかだか娘一人がトリガーになるくらいなら許容するべきなのか...?しかし俺ともあろうものが...ムムムム...』

 

「なぁドライグ...うるさいんだけど...」

 

『なんだと貴様!俺が...俺がこんなにも真剣に悩んでいるというのに...!相棒!俺はおっぱいドラゴンだけは嫌なんだ!それはお互いに認めあっただろう...!お前は誓っただろうが...!』

 

「少なくとも俺は太もも派だぞ?まぁおっぱいも魅力は大いにわかるけど...」

 

『お前の趣味嗜好なぞ聞いていない!』

 

「まぁさ、よくないか?アーシアが最高って、それでいいと思うんだ、俺は。それ以上に何か必要なのか?いいじゃないか、俺なんとなくだけど...禁手(バランス・ブレイカー)に至るとしたらアーシア関連だと思うんだ。」

 

『それはわかっている!既に偽・禁手(バランス・ディストーション)の因子としてあの娘が刻まれてしまっているんだからな!だからこそここで修正しなければ取り返しがつかんのだ...!』

 

「アーシアドラゴンとか...良くない?語呂悪い?」

 

『うぉおおおおおおん!!相棒!!!俺は女関連で力を解放してほしくないんだよぉぉぉ!!真面目にやってくれぇぇぇぇぇ!!!』

 

「大いに真面目だろうが。アーシアへの気持ちがふざけているだと...?俺はそこだけは真剣なんだが?」

 

『...地雷を踏むつもりはなかった...』

 

「地雷言うな...」

 

 すまんなドライグ...でも憎しみとか、覇龍(ジャガーノート・ドライブ)からの死亡ルートしか見えないので結構です...

 

「というか、ぶっちゃけ俺は禁手(バランス・ブレイカー)に至れるってんならなんでもいいんだよ、アーシアが傷つくような事以外でなら...こういう風に禁手(バランス・ブレイカー)に至りたいとか言ってられないだろ?最悪腕食わせるけど...」

 

『うむ...確かに禁手化(バランス・ブレイク)は急いで行わなければならないな...』

 

「でも、自発的になるってのも難しいだろ...?今は基礎的な力を蓄えるしかねぇんだよ...ヴァーリ戦までには腕食わしてでもなってみせるからもうちょっと待ってくれよ....」

 

『わかった...相棒...』

 

 かわいそうなドライグ...なるべく頑張るから許して...?

 

 ────────────────────────

 

「アーシアちゃん、和食も上手くなってきたわね!」

 

「はい、ありがとうございます!」

 

 朝御飯の時間。アーシアはお母さんに料理を教わっている。元々できないわけじゃないからメキメキ上手くなっているのだ...

 

「ほら、イッセーも褒めてあげなさい?」

 

「あぁ、アーシアの料理ならなんでも最高なんだけど、最近は本当に上手になってきて、もう感無量だよ!」

 

「ふふっ、ありがとうございます!」

 

 笑顔のアーシア可愛い。

 

「父さん、こんなに可愛い子にご飯作って貰える時が来るとは思わなかったよ...イッセー、アーシアちゃんを離すんじゃないぞ?」

 

「言われなくても離さないっての」

 

「頼むぞほんと....」

 

 ふとアーシアを見ると恥ずかしそうにうつむいていた。可愛い。けど俺は最近アーシアにたじたじなのでいい仕返しだぜ...

 

 両親とも、なんとかいい関係を築いていると思う...

 正直罪悪感は消えないけれど、正直に自分の事を言うべきなのか、隠し通すべきなのか...

 俺は答えを出せない。

 

 とはいえ、この二人ははっきりではなくともなんとなく気付いていそうな気もするんだよな...

 わかっていて、それを隠してくれているような...

 いくらイッセーの事を知っているといっても、所詮物語に抜き出した物だし、中身は別人だ。隠し通せるものでもないと思う...

 でも、言ったら最後全てが壊れるかもしれない...それが怖いから言い出せない。

 俺はもう、この人達が大好きだから...

 

 アーシアが机の下から手を握ってくれる。

 

「...ありがとう。」

 

 俺は小さく呟いた。

 

 アーシアは小さく微笑んでくれた。

 

 ────────────────────────

 

「イッセー、お前変な噂が流れてるから気をつけろよ。」

 

「突然なんだよ...元浜。」

 

 勿論多少は把握している。俺は密かに泣いているのだ...

 

「美少女をとっかえひっかえしている野獣イッセー。裏でリアス先輩と姫島先輩の弱みを握り、裏で鬼畜三昧のエロプレイ。毎日のように旧校舎にてお嬢様二人の淫乱調教祭り...」

 

「なんだその意味わからん噂...」

 

 そんなことしたら、二人に速攻殺されますけども...

 絶対しないけどね。だって俺にはアーシアがいるから!!!

 

「まだ続きがある...ついには学園のマスコットアイドル塔城小猫ちゃんのロリボディにまで毒牙を向けて、未成熟な体を貪るケダモノは彼女の体を壊しかねない激しい行為を繰り返す...」

 

 定期的に壊されてますよ?俺の体が...

 

「そしてそのおぞましいほどの性衝動はついに一人の天使へと降りかかる...転校初日のアーシアちゃんへと襲いかかり、日本の学校のルールを教えてやるよゲヘヘと、純粋無垢な天使に調教三昧。ついには悪魔の家に囲い込まれ、天使は堕とされていく.....!」

 

 俺...アーシアの彼氏なのに...これでも一途なのに...こんな噂が流れているなんて...

 

「ま、俺達が流してるんだけどな」

 

 元浜と松田がそう言った。

 

「お前ら...俺はさ...アーシアの彼氏なんだよ...やめてくれよ...俺はどう言われてもいいけどさ、アーシアが可哀想だ...」

 

 俺は二人を諭そうとする。

 

「だからだろうがバァァァァカ!!!裏切り者!偽善者が!!ゴミ!!!!俺達は既に嫉妬を通り越して復讐の民なんだよ!!!どんな手段を使ってでもお前を再び非モテの地獄へと引き摺り下ろさなければ!!気が!!!済まないんだよ!!!!」

 

「はっはっはぁ!ちなみに木場とのホモ疑惑も流してやってるぜぇぇぇ!!!」

 

「この野郎お前ら!!!俺の噂全部お前らじゃねぇか!!!」

 

「いくらでも噂なんか流してやるぜ!!!」

 

「俺達はな...キレているんだ...クラスの女子がアーシアちゃんに噂の事聞いたときなんて言ったと思う...!!?「イッセーさんとはずっと一緒に居ますから、そんな事絶対にしていませんよ?それに、イッセーさんは...わ...私だけを愛してくれています...」だとよぉぉぉぉぉ!!!!」

 

「アーシア!そんな事を...!ありがとうアーシア...!!」

 

「許さねぇぜイッセェェェェェ...必ず...必ず再びこの底無し沼へと引き摺り込んでやるぅぅぅぅぅ.....」

 

「この頃付き合い悪くて、俺達とエロトークもしてくれなくなってきてるじゃねぇかぁぁぁ....俺達はポイ捨てか?え?体ばっかり鍛えやがって...イメチェンか?イメチェンなのか?おい...筋肉があれば美少女がよってくるのかぁぁぁぁ????」

 

「ゲーッッゲッゲ!!!!イッセー...オマエ...コロス...!!!」

 

「お前ら...そこまで堕ちちまったのか...待ってろ...アーシアを呼んでやる!アーシアは癒しの力を持っているんだ!!」

 

「ノロケ話する気かイッセ────!!!???それとも目の前でイチャイチャするってのかぁぁぁぁぁぁ!!!??」

 

「決まってるだろ?両方だよ」

 

「「キエェェエエエエエエエエエ!!!!」」

 

 二人は血涙を流しながら叫ぶ...

 俺の知らない間に松田と元浜が化物になっていた...

 すまん...俺がお前らを見ていない間に...

 俺はお前らを救えない...!

 

 

 あっちなみにいつもは割りと普通に喋ってます。俺達仲良し!!



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第20話。勝ってみせます、球技大会!

こういう話が一番書きやすいと気づきました...


 その日は旧校舎で大掃除があるからと、俺の家でオカルト研究部会議が行われることになった。

 

「ごめんなさいね?イッセー、アーシア。二人の愛の巣にお邪魔しちゃって」

 

「そんな...愛の巣なんて...」

 

 アーシアは恥ずかしそうだ。

 

「勘弁してくださいよ...」

 

 最近の部長は俺達二人をからかう事がトレンドのようだ。

 まぁ学生なんてそんな物なのかも知れない。

 俺も友達が彼女作ったら絶対からかう。

 

「それじゃ、皆お邪魔させて貰いましょう?」

 

 ────────────────────────

 

「こっちが小学生の頃のイッセーなのよー」

 

「あらあら、全裸で海に」

 

「.....イッセー先輩の赤裸々な過去」

 

「もう...好きにしてください...」

 

 というかこれは厳密には俺じゃないから、いまいち恥ずかしいという感情が湧かない。

 一応、昔の旅行の事とか尋ねられたら怖いから自分でも何度か見てはいるしな...

 アーシアも、そこら辺の事情はわかっているからか、あんまり興味はなさそうにしてくれていた。

 

「ふふ、イッセーは小さい頃はこんな感じだったのね?」

 

 部長が微笑ましそうにしている。

 

 木場もニコニコ顔でアルバムを捲っている。

 

 俺は居心地が悪いので部屋の片隅でお茶を飲んでいた...

 するとアーシアが隣に来てくれた。

 俺がアーシアの頭を撫でると嬉しそうにしてくれる。可愛い。

 

「イッセー君。仲睦まじい所悪いんだけど、この剣に見覚えはあるかい?」

 

「剣?」

 

 そこには子供時代の兵藤一誠と茶髪で短髪の子供。及びその親が写り込んでいた。

 後ろに剣が立て掛けてある。

 紫藤イリナとその父、及び聖剣か...

 

 あーそういえばここから、聖剣騒動が起こるんだったな...

 だんだん記憶も薄まってきた...いやまぁ重要な事は覚えているから大丈夫なはずだけど...

 でも気を付けないとな...

 

「覚えはないな...かなり昔の事だし」

 

「そっか...でも、こんな事もあるもんだね。思いがけない所で見かける物だ...」

 

 木場の目に恐ろしいほどの憎悪が満ちる。

 

「これは聖剣だよ」

 

 ────────────────────────

 

 オカルト研究部メンバーは今日、野球の練習をしている。

 来週に控える駒王学園球技大会の部活対抗戦の練習だ。

 

 部活対抗戦はどの球技か当日まで発表されないので、色々な球技を練習しているのである。

 それが今日は野球という事だ。

 

「こらイッセー!あれくらいの球はしっかり取りなさい!!」

 

 部長に怒られた。ちなみになぜか俺だけ い つ も の 術式をつけた状態で練習させられてる。

 まじで意味がわからない...部長はどういう恨みを俺に持っているんだ...!

 

「んぎぎぎ...」

 

 俺は後ろに飛んでいった球を追いかける...

 

「次はノック練習よ!グラウンドにばらけなさい!」

 

 部長はイベント事が大好きらしく、真剣そのものだ。

 

「ほら、アーシア行くわよ!」

 

 甲高い音をたててボールがアーシアの方へと飛んでいく。

 

「はいぃ!はぁ...ん!あぅ!」

 

 ボールは見事にアーシアの股をトンネルした。

 運動は苦手なアーシアも可愛いよ。

 

「アーシア!取れなくても諦めずに追いかけるのよ!」

 

「はっはい!」

 

「次、イッセー!」

 

 アーシアの時とは比べ物にならないぐらい、外れた場所に飛んできた...

 くっっそ!言われ放題でたまるか!!

 

「ぬおぉおお!!ふんぐ!!」

 

 俺はなんとか地面に飛び込んでボールをキャッチした。

 

「いいわよ!イッセー!その調子よ!もっとビシバシ行くから!」

 

「はぁい!!」

 

 部長にボールを投げ返す。

 術式のせいで泥の中で鉄球投げるくらい体が重い...

 

「イッセー!返すまでがノック練習よ!!」

 

「ぐっっっ...はい!!!」

 

「いい返事ね!次!佑斗!」

 

 木場の方にボールが飛ぶが、木場は心ここに在らずといった様子でうつむき、頭部にボールが直撃した。

 

「祐斗、大丈夫?最近ボウッとしてあなたらしくないわよ?」

 

「すみません...」

 

 木場は例の写真を見てから、こうして放心することが多くなった。いや、むしろ色々考えているのか...

 

 とはいえ、今のところ何かできるわけでもなし。

 そのまま練習が再開された。

 

 ────────────────────────

 

 次の日の昼休み。

 

「くっそ!アーシアちゃんの手作り弁当か...!ちょっと寄越せよイッセー!!」

 

「駄目だ!ここにはアーシアの愛情が入っているんだ、一片たりともやれないな!!」

 

「ちくしょ────!!!!」

 

 なんて下らない話をしながら、いつものおバカ三人組で飯を食っていた。

 

「今日も部活か?」

 

「あぁ、球技大会にむけて練習中なんだよ」

 

「はー、オカルト研究部がボールかよ。でも、おまえんところの部員ってみんな身体のスペック高いよなー」

 

「顔のスペックもな...!」

 

「おいイッセー、さっさと退部しろよ。顔面偏差値の平均値がお前のせいで駄々下がりだぜ?」

 

「うっせぇ!っと、そろそろ部活の集まりあるからここで抜けるわ。」

 

「おーおー精が出ますなー。アーシアちゃんにいいところ見せたいってか?」

 

「練習では、散々地面とキスしてるけどな...」

 

「はっ!ざまぁねぇぜ!」

 

「にしても変わったよなお前...中学の頃からだっけか。トレーニングしだしてな。部活に入ってるわけでもねぇのに何してんだと思ってたけど...」

 

「それで見事にアーシアちゃんをゲットしてるんだ!やっぱり時代は筋肉なんじゃないか!!?」

 

「なるほど...俺達も、一肌脱ぎますか...!」

 

「おう...!」

 

「はいはい、頑張ってくだせぇ。俺は行くぜ?」

 

 アーシアは...教室の隅の方で他の女子とご飯食べていたようだ。

 

「アーシア。ご飯もう食べたか?」

 

「アーシア、ダーリンが呼んでるよ」

 

 アーシアと食事していたメガネ女子、桐生がいやらしい表情で言う。

 

「あっ...イッセーさん!」

 

 アーシアも逞しくなったもんだ。ちょっと前まで、桐生に俺との事をからかわれたらあたふたしていたのに 、今では堂々としたもんだぜ...

 

「えーもう...アーシアつまんなーい!もっとあたふたしてよー!」

 

「す...すみません...」

 

「んー!アーシアが可愛いから許す!」

 

 そこは非常に同意できる。アーシアになら何されても許しちゃうね。浮気、不倫は許す許さないの前に即死しますので関係ありません。それにアーシアに限ってそんなこと!

 

「それで?あんたたちもう合体してんの?ん?若い男女が一つ屋根の下で夜にすることと言ったらねぇ。むふふふ」

 

「あぅ...そ...そんなことしてません!!......まだ」

 

「へぇ~、以外にそういうところはしっかりしてんだー。やるじゃんあんた。...いや?これはむしろヘタレだからと見た...!ん~?ほらほら~、アーシアが引っ張ってあげないと進まないんじゃないの~???そこんところどうなのよアーシアちゃ~ん??」

 

「あぅあぅあぅ...そ...それは...はぅ...」

 

 アーシアが真っ赤になっている。

 それはもう真っ赤っかだ...可愛い。

 でも助けないと...!

 

「うるせぇ!俺達には俺達のペースってもんがあるんだよ!これ以上アーシアに変な事吹き込むんじゃねぇよ!」

 

「へぇ~、無垢なアーシアは俺が自分好みに染めるから余計な事するなって事~?ふ~ん...良かったじゃんアーシア~。兵藤がぜ~んぶ仕込んでくれるってさ!」

 

「あぅあぅあぅ...」

 

「ぐぬぬ...」

 

 そんなこと言ってね~~~~!!!

 俺も顔が赤くなってきた...

 

「あっはっは、ほんとあんたら面白~!高校生にもなって初々し...ほんっと弄りがいあるわー!」

 

「うっうるせぇ!アーシア早く行くぞ!俺達に勝ち目はねぇ!」

 

「は...はいぃぃぃ...!」

 

 二人で急いで教室を敗走した。

 

 ────────────────────────

 

 部室に入ると、部活メンバーだけでなく、生徒会長と、匙が座っていた。

 

 そっか、今日が顔合わせの日なのか。

 匙はヴリトラの神器(セイクリッド・ギア)を持つ、根性のあるやつだ。

 原作イッセーは匙に禁手化(バランス・ブレイカー)を使って負けていた。引き分けか?

 

「こら、イッセー、アーシア、ずっと立っていないで早く座りなさい?」

 

 部長に注意された。

 

「はい」

 

 俺達は着席する。

 

「それでは、早速自己紹介といきましょうか。私はソーナ・シトリーと申します。この学園では生徒会長をしています。これからよろしくお願いしますね?さて、サジ、挨拶するんですよ?」

 

「は、はい!匙元士郎。会長の兵士だ。よろしく...」

 

「あぁ、俺も部長の兵士、兵藤一誠。よろしく。」

 

「....なんだよ、変態三人組の一人にしちゃ随分おとなしいな。」

 

「うるせぇ!あいつらとは腐れ縁なだけなんだよ...俺は一緒に居るだけだ。最近は特にな...」

 

「そういや、最近は二人の犯行が多いな...けどお前もちょっと前まで参加してたろうが!」

 

「そりゃお前!友達付き合いってやつだ!」

 

「友達付き合いで覗きするやつがあるかぁ!」

 

「イッセーさん、覗きしてたんですか...?」

 

 アーシアが悲しそうな顔をする。

 

「待ってくれアーシア!俺はしてない!あいつらが覗いてる間の周囲の警戒しかしてない!断じて覗いてない!」

 

「同罪だろ兵藤!」

 

「お前!わざわざこんな所で言わんでもいいだろうが!」

 

「おっ?やるか?こう見えても俺は駒4つ消費の兵士だぜ?最近悪魔になったばっかりだが、兵藤なんぞに負けるかよ」

 

「サジ。お止めなさい」

 

「し、しかし会長!」

 

「今日ここに来たのは、上級悪魔同士、最近下僕にした悪魔を紹介し合う為です。私の眷属なら恥をかかせないこと。それに、サジ、今のあなたでは兵藤君に勝てません。フェニックス家の三男を倒したのは彼なのですよ。駒8つ消費したのは伊達ではありません。」

 

「8つ!?ってか、フェニックスをこいつが!!?俺はてっきり木場か姫島先輩が倒したものだと...」

 

「ごめんなさい、兵藤一誠君、アーシア・アルジェントさん。うちの眷属もまだ悪魔になったばかりなので、失礼な部分が多いのです。よろしければ同じ新人の悪魔同士、仲良くしてあげてください」

 

 会長がそう言った。

 

「はい、よろしくお願いします!」

 

 うちの天使がニッコリとあいさつをする。可愛い。

 

「アーシアさんなら大歓迎だよ!」

 

 匙がアーシアの手を取った。

 俺はそんな事で嫉妬したりはしない。

 だって俺はアーシアの彼氏!!!!(ここ重要)だからな!!!

 全っ然気にならんが?むしろ?それくらいで目くじら立てる方が??ダサいっていうか??余裕ないっていうか???

 

「な...なんだよ兵藤...ちょっと握手しただけだろうが...」

 

「アハハ...」

 

 アーシアが苦笑いしている。

 

「お互い大変ね」「全くです」

 

 会長と部長が嘆息していた。

 すみません...

 

「まぁ、ルーキーの顔合わせはこの辺で良いでしょう。それでは私達はこれで失礼します。」

 

 会長は立ち上がり、この場を後にする。

 部室を出る直前、こんなやり取りがあった。

 

「リアス、球技大会が楽しみね」

 

「えぇ、本当に」

 

 バチりと視線の先に火花が散る。

 仲良さそうな中に大きなライバル意識を感じる一瞬であった。

 

 ────────────────────────

 

 球技大会が始まった。

 

 部活対抗戦は最後の方なので、まずはクラス対抗戦などが行われる。

 

 俺はここ数日の地獄の特訓を思い出す...!

 術式に体を縛られた状態での、鬼の1000本ノック...1000本シュート...1000本ダンク...

 アーシアの応援が無ければ間違いなく俺は死んでいた...

 

 絶対に全てぶち殺してやる...殺戮祭りだ...

 俺は部長への恨みを敵に向けることに決めた...

 俺は今修羅、修羅龍帝なのだ...

 

 部長が部活対抗戦の種目発表から帰って来た。

 

「ふふふ、勝ったわこの勝負!」

 

「なんだったんですかぁ...部長ぉ...」

 

「ど...どうしたのイッセー、怖いわよ?」

 

「なんでもないです....っすぅぅぅぅぅぅ」

 

「そ...そう...?競技はドッチボールよ?」

 

「そうですか...ヤレル...!コロセルキョウギ...!!」

 

 木場は今聖剣ぶっ殺すマンだし、俺は今全員ぶっ殺すマンだし、ついでにギャスパーも引きこもり女装野郎なので、現在オカ研男子は全員やべぇやつになっている...頭おかしなるで

 

 クラス対抗戦は、絶対殺すマンの俺、リア充絶対殺すマンの松田、元浜三人の一時的な停戦協定及び同盟によって、恐ろしいまでの殺戮模様と化した。元浜は足手まといだったけど。

 ざまぁみやがれリア充ども...活躍なんかさせてやらねぇぜぇ...ケッケッケ...!!

 

 ────────────────────────

 

「ア....アーシア...」

 

 部活対抗戦の前にどこかへと消えたアーシアが帰って来た時に着ていたのはブルマだった。

 

「ん゛ん゛!ブハッ!」

 

 俺の怨嗟は鼻血と共に全て流れていった...

 

「イッ...イッセーさん!大丈夫ですか...!?」

 

 アーシアが俺の鼻を治療してくれる。

 

「あぁ...大丈夫だよアーシア。俺は今満たされている...そうだよな。復讐は復讐しか生まないんだ。でも、アーシアのブルマ姿を見て気付けたんだ...そうだ、俺がすべきは復讐なんかじゃない...世界中にこの幸せな気持ちを届ける事だったんだ...」

 

「イッセーさん...?」

 

 アーシアが困惑している。

 

「ごめんごめん、本当に大丈夫だから、ちょっとアーシアのブルマ見て興奮しちゃって...」

 

「そ...そうですか...あの桐生さんが、イッセーさんが喜ぶからっておっしゃっていたので...その通りだったみたいで良かったです...」

 

 アーシアが恥ずかしそうにそう言った。

 

「イッセー?体操着が血まみれだけど大丈夫なの...?」

 

「はい!アーシアのお陰で治りました!」

 

「そう...気合い入れなさい?頑張ったらご褒美あげるから。」

 

「ま...まさか...新たな特訓方法よ!とか言わないですよね...?」

 

 俺は震える...

 

「?いいえ?これよ?」

 

 部長が二枚の紙をヒラヒラとさせる。

 

「ケーキバイキングのチケットよ?アーシアと行ってあげなさい」

 

「うぉおおお!!流石部長!!!全員ぶっ倒してみせます!!!」

 

 絶対全員ぶっ殺すマン、再誕!!

 

 ────────────────────────

 

 VS野球部は地獄の様相と化した。

 

 野球部の野郎どもは、女性メンバーは攻撃できない。木場は女子が怖くて攻撃できない。

 俺にしか投げることができないが、俺は絶対殺すマン。

 悉くを受け、悉くを滅ぼす。俺は修羅!!

 

「ふしゅううううううう!!!!!!」

 

「悪魔だ...!悪魔が現れたぞ...!」

 

「誰かあいつをぶち殺せ!!アーシアちゃんを悪魔から解放するんだ!!」

 

「アーシアちゃんを元の世界に返しやがれ!!」

 

「お願い...!誰か兵藤を殺して...!これ以上お姉さま達が汚されるのにもう耐えられない...!!」

 

「ケェーッッケケケ!!!やってみやがれ野郎共...!!!全員返り討ちじゃ──!!!」

 

 俺は相手を煽ってやる。

 

 しかし、痺れを切らしたやつがまさかの木場にボールを投げる。

 

 ばか野郎!木場に当てたらお前の高校生活がどうなるかわからねぇんだぞ!女子に殺されるぞ...!!

 

 俺はつい、木場を庇った。

 いや、野球部員を庇った。

 

 ボールは急に上に曲がって、俺の顔面に突き刺さった。

 

「ンゴッ!」

 

 俺はそのままの勢いで後ろに倒れた。

 歓声が聞こえる...

 

「やっったあああああああ!!!!」

 

「「「せーの、ざまぁぁあああみやがれぇぇぇぇぇぇぇぇええええ!!!!」」」

 

「良くやった中田!!!!お前は学園の英雄だぁぁぁぁあ!!!!」

 

 良かったな中田。お前は英雄だ。俺を犠牲にして英雄になったんだ...

 

「兵藤...お前...!まさか...!」

 

 いいんだ中田君。君は英雄。それでいいじゃないか。

 俺は首を振った。

 

「兵藤...!!!おぉ...」

 

 中田君は感動で蹲ってしまった...

 

「イッセーさん!!!」

 

 アーシアが駆け寄ってくる。

 

「アーシア...後は任せたぞ...」

 

「イッセーさん!!」

 

 アーシアが俺に抱きついてくる。

 ぐはっ...ふともものやわらか素肌が...!

 

「ぬうううううう!!!!」

 

「外野でも構わん!!!兵藤を殺せぇえええええ!!!」

 

 アーシア...悪化しちゃったよ...

 でもいいや、アーシアが可愛くて優しい事が世界の真理。

 

 そこから俺は菩薩の気持ちで全てのボールを外野で受け続けた...

 何故か俺だけ顔面セーフが適応されなかった...

 

 ────────────────────────

 

 この試合は見事にオカルト研究部の勝利。そらそうだ。

 内野から俺にぶちあてて、ギャラリーに飛んでった球がギャラリーから俺にぶち当たるのだ...

 

 それが繰り返され、試合時間が終了した。

 そら負けるわアホか。

 

 でも学園の皆は試合に負けて、勝負に勝ったって感じの顔だから...まぁ良かった良かった。

 その後も破竹の勢いでオカルト研究部は優勝した。

 ちなみにケーキバイキングは、俺の周りからの評価に同情した部長によって無事手渡された。

 

 ────────────────────────

 

 パン

 

 と音を立てて部長が木場を叩いた。

 

「どう?少しは目が覚めたかしら?」

 

 部長は木場が非協力的だった事をひどく怒っているようだ。

 まぁわからんでもないけど、たかが球技大会で叩くんかいとも思ってしまう。

 

「もういいですか?球技大会も終わりました。球技の練習もしなくていいでしょうし、夜の時間まで休ませて貰います。少し疲れましたので放課後の部活も休ませて下さい。球技大会ではすみませんでした。どうにも調子がよくなかったみたいです。」

 

 流れるように語った...めっちゃ棒読み...感情ゼロやん...

 

「木場...大丈夫か?」

 

「君には関係ないよ」

 

 ヒエッ...こっわ...

 

「そ...そっか...」

 

「そうだよ」

 

「ま...まぁ、あんまり、無理すんなよ?相談なら乗るからさ、仲間だろ?」

 

「仲間...?」

 

「え?...そうだろ?」

 

「君は優しいね、イッセー君。僕はここの所基本的な事を思い出していたんだよ。」

 

「なんだよ...」

 

「僕の戦う理由さ。僕は復讐の為に生きている。聖剣エクスカリバー。それを破壊するのが僕の戦う意味だ」

 

 そう語る木場の顔は、復讐心と強い決意で歪んでいた。

 

 



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第21話。 現れました、聖剣コンビ!

若干原作キャラのアンチ・ヘイトが入りますが、一瞬の事なのでお許しください...


 その日、部室にて部長による木場の生い立ちの説明が行われた。

 

 要するに、木場は聖剣に適応する人間を作る為の研究施設の生き残りであるということである。

 なぜ生き残りと言われるのかというと、聖剣に適応できなかった人間は殺処分されてしまったからだ。

 

「....そんな...主に仕える者がそのような事をしていいはずがありません...」

 

 アーシアは涙を浮かべている。

 俺はアーシアを軽く抱きしめてやった。

 

「兎に角、しばらくは見守るわ。今はぶり返した聖剣への想いで頭がいっぱいでしょうから...いつものあの子に戻ってくれるといいのだけど...」

 

「そうですね...俺も根気強く話しかけてみます。なにもないよりはマシかもですから...」

 

「そうね、お願いするわ。下手に私が行くより、あなたの方が祐斗も話を聞いてくれるかもしれないし...」

 

 ────────────────────────

 

 次の日、俺とアーシアは一緒に帰宅した。

 あまり喋らずに手を繋いで歩いている。

 ちょっと前までならこういう時、一生懸命話題を探していたんだが、アーシアにこうやって何も喋らずにただ手を繋ぐのも嬉しい、と言われてからは無理に喋らないようにしてる。

 

 なんとなく、わかる。何も話さなくてもいい関係性というか...こう、上手く言語化できないけれど、安心する。

 

 家に着いて、玄関の扉を開こうとしたときに、寒気を感じた。

 アーシアも感じているようで、俺の手をぎゅっと握り締めてくる。

 

 誰かが...なにかが居る...

 俺はアーシアに外で待つように伝え、家に入った。

 

 なるべく足音を消して、侵入する。神器(セイクリッド・ギア)の起動は無しだ。気付かれる...

 

 俺は音を立てないように、一歩一歩確実に近づいていく。

 リビングの方の電気が付いているようだ...

 

 リビングの方に向かうと、母さんの声がした。緊迫している様子はない。普通にお喋りしているだけだ。

 あっそっか、これ聖剣持ち二人との邂逅か...

 まずい...本当に細かい所を忘れてきている...

 まぁ全く知らないのが普通なので、だいたい知ってるだけでも滅茶苦茶ありがたいんだが...

 

 俺は玄関に戻り、アーシアに危険性がないことを伝えて二人で家に入る。

 

「あら、イッセー、アーシアちゃん、おかえりなさい。」

 

「ただいま。」

 

 アーシアはいまだに少し怖いのか、俺に引っ付いている。そりゃそうだな、元凶はまだ居るんだから...

 

「こんにちわ、兵藤一誠君」

 

 俺に栗家色の髪の女の子が声をかけてくる。

 イリナだ。

 隣の緑メッシュがゼノヴィアだな...

 

 この二人は割りとアーシア以外のキャラの中では好きだった記憶がある...

 まぁ今はそんなこと関係ないけどな。

 

「こんにちは、紫藤イリナさんでいいのかな?」

 

「わぁ!ちゃんとわかってくれるんだ!昔は男の子っぽかったのに、良く気付いたね!!嬉しい!!でも、お互いしばらく会わないうちに色々あったみたいだね。本当、再会って何があるかわからないものだわ。」

 

 イリナは意味深な感じでそう呟く。

 

「本当にそうだな。わからないもんだ...」

 

 ────────────────────────

 

 その後母親と普通に談笑して帰っていった。

 そらそうだ。流石に一般人巻き込んでドンパチはやらんじゃろう...

 一応俺とアーシアには上に上がっておいた。

 アーシアはなるべくこいつらに会わせたくないんだよなぁ...

 

 というか部室でこいつらがアーシアに暴言吐く時、俺大丈夫だろうか...

 ちょっと会う前会った後含め自分の中でアーシアがでかすぎて、アーシア関連に心のブレーキがかからないんだよな...

 かなり問題だわ。

 いや、わかってんなら治せよって話なんだが...

 でも、この前アーシアと約束したし...

 うん、なるべく頑張ろう...

 

 一応この事を部長に電話で報告する。

 

「そう...まずはあなた達が無事で本当に良かったわ。部活動が終わってからソーナに聖剣使いの教会関係者が潜り込んでいると話を聞いていたの。だから、誰か私の下僕が危険な目にあったらどうしようって気が気じゃなかったわ...」

 

「でも...あんまりいい状況じゃないですよね...今の木場と接触したらまずいんじゃ...」

 

「祐斗の理性を信じるしかないわね...実は明日の放課後にその聖剣使い達から私達に交渉したいと連絡が入っているのよ。こちらに一切危害を加えない事を神に誓ったらしいわ...」

 

「なるほど...明日含め、一応気をつけておきます。」

 

「えぇ、そうして頂戴。」

 

 ────────────────────────

 

 次の日の放課後、グレモリー眷属全員と、聖剣コンビが部室に集合した。

 

 部長と朱乃さん、聖剣コンビ以外は部屋の端で会話を聞いていた。

 木場はちょっとやばそうだな...殺意マシマシで二人を見ている...そら、復讐対象が二本もあればな...一応俺はいつでも木場との間に割り込めるように注意しておく事にした。

 

 また、アーシアは置いていきたかったが、部長から全員集合との召集がかかっていたので仕方なく連れてきた。こうなったら俺が守るしかない...確かに、別に言わせるだけ言わしてもアーシアは死にはしないだろう。だけど、確実に傷つく。俺はそれが我慢ならない...はっきり言って俺も教会が嫌いだ。アーシアを傷つけた諸悪の根元。その理由を知っていようとなお許せない。いやまぁ、だからって特に何かするわけじゃない。喧嘩売るつもりもない。気に食わないだけだ...

 

 聖剣コンビから、エクスカリバーが奪われた事、強奪犯がこの町に居ること、その犯人がグレゴリの幹部コカビエルであること、聖剣の回収または破壊が今回の任務であること、悪魔には任務中一切介入しないで欲しいことが伝えられた。

 

 部長と数度問答を繰り返し、納得したようで、二人は帰る準備を始めた。

 

 そして...

 

「兵藤一誠の家で出会った時、もしやと思ったが『魔女』アーシア・アルジェントか?まさかこの地で会おうとは。」

 

 という声が聞こえた。アーシアはびくりと体を震わせる。

 

「あなたが一時期...「おい、そこまでにしてもらおうか」

 

 俺はイリナが話始めた所で遮った。

 

「お前らが何言おうとしてるか知らねぇけど、それ以上喋らないでくれ。話し合いは終わっただろ。黙って帰れよ...」

 

「ほう?随分な口を叩くなぁ、兵藤一誠。」

 

「喋るなって言ったんだが?」

 

「なぜ、私が君の言うことを聞かなければならないんだ?君にそんな権限も力もあるようには見えないが...それに、私はかつて同じ主を信じていた者に少しアドバイスしてやろうかと思っただけだよ...」

 

「余計なお世話なんだよ。アーシアに関わるな。話はそれだけだ。帰ってくれ。それくらい小学生でもできるだろうが。」

 

「気に食わないな兵藤一誠...さっきからその態度...」

 

「気に食わないのはこっちだ...大層な剣持ってる割りに細かい事にうるさいやつだな...」

 

「イッセーやめなさい。あなたも、私の眷属にとやかく言わないで欲しいわね。今日の所はこれで終わりにしましょう?用事は済んだでしょう?」

 

 部長が厳しめに声を発する。

 

「全く..魔王の妹にまでお小言を頂戴してしまうとは...よっぽど招かれざる客というわけだ...」

 

 お前らの態度のせいだろうが。茶も菓子も一切手着けてねぇし...

 

「わかったわかった、これで退散するよ。もう何も言わない。これでいいだろう?兵藤一誠。」

 

「あぁそれでいい。じゃあな。精々任務頑張ってくれ。」

 

「ふっ。悪魔の激励などいらんさ...」

 

 そのまま、帰っていった。

 

 クソ...良くないのはわかってるけどむかつく...。

 

「イッセーさん...」

 

「アーシア...ごめんな。もうちょっとスマートにどうにかできれば良かったんだが...」

 

「いえ、ありがとうございます...」

 

 お礼は言ってくれるがやっぱり少し悲しそうだ。

 俺はアーシアの頭を撫でる。

 

「イッセー、あなたがアーシアをどれだけ大切に思っているかはわかっているつもりだし、私も彼女の発言によっては激怒していたかもしれないから強くは言えないけど、もう少し堪える事を覚えなさい。我慢しようっていう努力は伝わるけど...正直、負の感情が駄々もれよ...」

 

「すみません...似たような事があったら次はもう少し頑張ります...」

 

 内心全く納得してないけど、自分が悪いことくらいはわかるので謝罪はしておく。

 

「ふぅ...嫌な問題が舞い込んできたものね...」

 

 部長はやれやれといった様子だった...

 

 アーシアを慰める事しばらく、突然木場が立ち上がった。

 

「僕は、グレモリー眷属を離れます。今までお世話になりました。失礼します。」

 

 俺達はぎょっとしてしまった。あまりにも突然の事だったからだ...

 

「ちょっと待ちなさい、祐斗!私の元を離れるなんて許さないわ!あなたはグレモリー眷属の騎士なの!はぐれになってもらっては困るわ!戻りなさい!」

 

 最初に動いたのは部長だった。

 

「....僕は、同志たちのおかげであそこから逃げ出せた。だからこそ、彼らの恨みを魔剣に込めないといけないんだ...」

 

 そういって出ていってしまった。

 

「祐斗...どうして...」

 

 いやほんとどうしてなんだ...

 いきなりすぎて動けなかった...

 アーシアも固まってしまってるな...

 

 ────────────────────────

 

 俺は迷っていた...

 原作なら、確かこの後匙を誘って、小猫ちゃんも着いてきて、聖剣コンビに龍のお手伝いという名目で聖剣の破壊の協力を約束するはずだ。

 しかし...正直、今の精神状態では難しいものがある。

 今はあの二人はちょっとダメだ...

 言わせなかったけど、あの後何を言うつもりか知っているのが余計に悪化させている。

 いや、いい子なのはわかってるんだけどね...こればっかりは時間の問題だな...

 

 あまり気分は良くないけど、木場が心配だしやっぱり原作通りの流れで行う事にした。

 

 まぁ匙は誘うのやめてやるか...可哀想だし...

 

 ────────────────────────

 

 俺は次の日出かける事にした。アーシアには、嘘をついて家に待機して貰った。

 ごめんアーシア...でも巻き込めないよ...

 聖剣コンビにも会わせたくないし...

 

 小猫ちゃんも別にわざわざ呼び出してまで関わらせる事はないだろう。

 承諾を得るだけなら俺一人で充分だ...

 

 一時間後...

 見事に小猫ちゃんに捕まった。運命かな?

 

「....イッセー先輩から不穏な感じがします。何するつもりだったんですか?」

 

「いえ...別に...」

 

「....嘘ついてもわかりますからさっさと答えて下さい。」

 

「はぁ...俺は今から、あの教会の二人に聖剣破壊の許可を貰おうと思ってる。三本も奪われているんだし、一本くらいはやらせて貰えるかもしれないだろ?確実に向こうの手が足りないのはわかってるんだから...」

 

「....その一本を祐斗先輩に破壊して貰うって事ですか?」

 

「そう。一本だけでも破壊できれば少しは溜飲も下がると思うんだ...」

 

「...イッセー先輩にしては悪くありませんね。その作戦乗ります。」

 

「ほんと?ただまぁ問題があるんだが...」

 

「...あちら側が許可してくれるかどうかですね...?難しいかもしれませんね...」

 

「あぁ...俺はただでさえ、ゼノヴィアってやつと喧嘩しちまってるし、むしろ関係悪化もありえる... けどまぁ一応やるだけやっとこうかなって...」

 

「...そうですね。何もできないのは...嫌です...」

 

「じゃあ探すか...」

 

 俺は小猫ちゃんと二人を探した。

 確か物乞いをしてたはず...物乞いは失礼か?まぁいいや...大分目立ってるはずだ...

 

 数十分後...

 

「これだからプロテスタントは異教徒だって言うんだ!価値観が違いすぎる!!」

 

「何よ!古臭いしきたりに縛られてるカトリックの方がおかしいわ!!」

 

 宗教戦争を道のど真ん中で行う聖剣コンビを見つけた。

 何やってるんだ...

 

「なぁお前ら...」

 

「イッセーくん!?どうしてここに...?」

 

「兵藤一誠...」

 

「俺の話を聞いてくれるなら飯奢ってやるから、着いてきてくれないか?」

 

「なんだと?私が悪魔の施しなど...」

 

 グーと大きな音がなった...

 

「ほれほれ、店の商品ならなんでも食っていいぞ?」

 

「くっ!!悪魔めっ...!!」

 

 ────────────────────────

 

 あっさり陥落したこいつらは一心不乱に飯を掻きこむ...

 まずい...余裕持ってるつもりだったけど金がなくなるかも...

 

「ふぅ、落ち着いた。悪魔に救われるとは世も末だな。」

 

「ご馳走さまでしたー。あぁ主よ、心優しき悪魔達にご慈悲を」

 

 イリナが十字を切った。

 

「痛って...」

 

「あー、ごめんなさい、つい十字を切ってしまったわ!」

 

 ついで切るな...このやろう...

 

「で?話とはなんだ?食わせて貰った以上、約束は守ろう」

 

 ゼノヴィアが切り出す。

 

「そうだな、まずはお前に謝るよ。昨日はすまなかった。俺にとってアーシアは誰よりも大切な人だから、アーシアが傷つきそうな事を言いそうなお前らを見て、ついカッとなってしまったんだ。」

 

「なるほど?...うん。謝罪は受け取ろう。で?まさかそれだけじゃないだろう?」

 

「あぁ...エクスカリバーの破壊に協力したい。一本だけでも構わない、任せてくれないか?」

 

 二人は驚いたような顔をした後に、お互いの顔を見合わせていた。

 

「...そうだな、一本くらい任せてもいいだろう。破壊できるのならね。ただしきちんと変装してくれ。君たちと関わりがあるようには上にも、敵にも思われたくない。」

 

「あぁわかった。ありがとう」

 

「いやいや礼には及ばんさ。こちらも願ったり叶ったりだ」

 

「ちょっとゼノヴィア!いいの?悪魔の力を借りるなんて...」

 

「悪魔の力がダメなら、ドラゴンの力ならいいか?」

 

 俺はブーステッド・ギアを回りに見えないように起動する。

 

「なんと...かの赤龍帝がこんな極東の地に居たとは...しかし、なるほど...?屁理屈だが、一理あるな?」

 

「ちょっとゼノヴィア!そんな適当な...!あなたの信仰心って少し変だわ!」

 

「変で結構。私の信仰心は柔軟に変化する物なのでね...それに、正直私達二人では限界が見えていた。勝算を少しでも上げて生存することもまた信仰であると私は考えるが...?」

 

「それはそうかもだけど...」

 

「よし、なら決定でいいか?」

 

「構わないとも」

 

「じゃあ、もう一人仲間を呼ばせてくれ」

 

 ────────────────────────

 

「話はわかったよ...正直、エクスカリバー使いに破壊を承認されるのは遺憾だけどね。」

 

「前回の話し合いでも随分と殺気を放っていたが、言ってくれるね。はぐれなら即刻切り捨てていたよ?」

 

 ゼノヴィアと木場がバチバチだ...こえぇ...

 

 そういえば、聖剣計画の首謀者の名前がわかるのってここだっけ?

 まずいな...木場と聖剣計画の関係なんて二人は知らないぞ?

 俺がフォローしないとか...?

 

「あぁと...木場は、聖剣使いを研究する施設にいたんだが、見込み無しって事で仲間がみんな殺されたみたいでさ...それでエクスカリバーに恨みを持ってるんだよ...」

 

「イッセーくん、どこでそんな話を...はぁ..部長だね?それで?なんで今そんな話をするんだい?」

 

 木場がこちらを睨む。

 うっわ木場怖いよやめて...

 

「こいつらは教会関係者だ。なんか木場の知らない情報もあるかもじゃん。教えて貰おうぜ?」

 

「ふむ。いいだろう、その事件は私達の間でも最大限嫌悪されたものだ。処分を下した責任者は異端の烙印を押され、いまや堕天使の手下となっている。」

 

「堕天使だって?その者の名は?」

 

「バルパー・ガリレイ...それが奴の名だ...」

 

「そうか...いい情報を貰ったよ。代わりに僕も情報を提供したほうがいいかな...僕は先日、エクスカリバーを持った男に襲撃された。名をフリード・セルゼン...」

 

 アーシア殴った奴な。もう一回やっとくか...?

 ゼノヴィアからフリードの略歴が語られる。まぁ天才エクソシストだったけどやりすぎたから異端認定ってことだ。あいつは戦闘狂の快楽殺人鬼だからな...

 

「うん、了解した。お互い、いい話し合いができたね。ではこれからエクスカリバー破壊の共闘戦線と行こうではないか。」

 

 ゼノヴィアが連絡先を書いてよこした。

 

「何かあったらここに連絡をくれ。」

 

「わかった。俺の番号は...」

 

「ん、イッセー君の番号は私がおばさまから頂いてるから大丈夫よ?」

 

「そ...そっか...わかった!じゃあそういう事で。」

 

「それではまたな、赤龍帝、兵藤一誠」

 

「まったねー!イッセー君!」

 

 二人を見送った俺達は一息ついた。

 あー疲れた...精神的に...

 

「イッセーくん、どうしてこんな事を...」

 

「どうしてって、そりゃお前が居なくなったら悲しむ奴がいっぱいいるからだよ。かといってお前の気持ちを蔑ろにすることもしたくないし、いい折衷案だろ?」

 

 あまり納得していなさそうだったが...

 

「...祐斗先輩、私、先輩が居なくなるのは...嫌です...お手伝いしますから...居なくならないで」

 

 小猫ちゃんが木場にしがみついてそう呟いた。

 目には涙が浮かんでいる。

 これをされたら男なら受け入れるしかあるまい。

 俺もアーシアにそんな事されたらなんだってしちゃうぜ。

 

「まいったな...小猫ちゃんにそんな事を言われたら僕も無茶できないよ...わかった。今回は皆の好意に甘えるよ...真の敵もわかったことだしね...」

 

 木場の顔に少しはいつもの光が戻ったようで少し安心した。

 

 ふぅ...なんとかなったな...

 

 ああああもう疲れたぁぁぁぁああああ!!!

 アーシア欠乏症だ...家に帰ったらアーシアにいっぱい甘えてやる...!!

 

 なおアーシアはクラスの子と出掛けたようで、俺は一人寂しく自分を慰めた...

 

 



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第22話。 再会します、神父!

 数日経った。

 連日、俺、木場、匙、小猫ちゃん、アーシアの5人で夕方にエクスカリバーを捜索している。

 神父の格好で夕方徘徊しまくって襲われる機会を待っているのだ。

 なんでアーシアがいるかって?

 俺がアーシアにこれ以上嘘つけないからだ。

 毎日のようにアーシアに嘘をついて自分は他の奴らと外に出掛けるなんて、どれだけ高尚な理由があってももう耐えられない。

 アーシアの少し寂しそうな顔を見た瞬間に俺は懺悔してしまった。

 

 部長にこの作戦がバレる可能性とアーシアの笑顔なら、一瞬でアーシアに軍配が上がるのは当然の帰結だ。

 そしてホントの事を話せばアーシアが着いて行きたいというのは必然で、それはもうこうなるだろうというわけだ。

 絶対にアーシアは傷つけさせるわけにはいかない。アーシアを守る為なら俺はなんだってやる。

 

 というわけで、肉壁を増やす為に匙に連絡した。木場の生い立ちを説明してやれば、匙も熱く感動しながら、手伝ってくれる事を約束した。暑苦しい...

 すまん匙、アーシアと比べたらお前のケツとか心底どうでもいいから肉壁頼むぜ...第一肉壁は俺がやるからさ...

 

「よっし!いい機会だ!ちょっと俺の話も聞いてくれ!共同戦線張るなら俺の事も知ってくれよ!」

 

 匙は告白する。

 

「俺の目標は!ソーナ会長とデキちゃった結婚することだ!でもな、デキちゃった結婚ってモテない奴にとってみたらハードル高いんだぜ?でも、俺はいつかそれを乗り越えてやってみせるんだ...」

 

「匙...お前...!」

 

 この前覗きの事アーシアの前でばらした野郎のセリフとは思えないぜ!最低だ!

 でも、お前の熱意だけは買ってやれる...!

 

「匙...デキちゃった結婚への憧れ...わかる...わかるぞ...!すごくわかる...でもだ!俺はそれを敢えて否定してやる!!!」

 

 俺は突き付けてやった。

 

「なんだと!?俺の夢をバカにするのか!!?」

 

 匙が叫ぶ。

 

「違うな。それは素晴らしい夢だ。男の夢をバカにする男など居てたまるか...だけどな、俺は少し視野を広げてやりたいんだ...確かに、そういった行為は背徳感による興奮を生む。しかし、だがしかしだ...!俺は敢えて合法的に、きちんと結婚してからのそういった行為にこそ真理が隠されていると思っている...!!」

 

「どういう事だよ...」

 

「俺はアーシアと交際している...しかしアーシアは敬虔なクリスチャンだ。婚前交渉について厳しいのは知ってるだろ?だから俺はアーシアとは結婚するまでそういった行為をするつもりはない...!アーシアを悲しませたくないからな!それでだ...俺は思うんだよ...しっかりと交際して、結婚して...長い年月の間心を寄り添わせたその先にある光景...辛く、苦しいだろう...アーシアに手を出さないのは死ぬほど苦しい戦いになるだろうさ...!でも!それを乗り越える事で!試練を乗り越えた真の男になった事によって見られるその頂の景色は...!いったい...どれだけ美しいんだろうな...」

 

「なっ...!兵藤...!お前...!!!そんなにも...そこまで見据えて...俺は...俺は...!目先の快楽に憧れて...!」

 

「いいや匙!それもまた覇道だ!!俺はどちらもありだと思ってる...!ただ...そう、俺の夢も知って貰いたかっただけなんだ...これはあくまで思想の一つ...お前がそれに準ずる必要は全くない...でも他人の思想は人を変える事もある...現に俺もちょっとデキちゃった婚に惹かれている...」

 

「ばか野郎!兵藤!!お前!それは誘惑だ!!登り始めた山を転がり落ちるつもりか...!戻れ!兵藤!!」

 

「はっ!すまん匙。俺は取り返しのつかない事をする所だった...!」

 

「いいんだ兵藤。確かにデキちゃった婚に憧れる気持ちに変わりはないが、視野が広がった気がする。ありがとう兵藤。俺は、目の前しか見ていなかった。世界はこんなに広いというのに...」

 

「いいんだ匙、共に...共に戦おう...別の道を行く戦友よ!」

 

「あぁ!」

 

 俺は匙とがっしり握手する。

 ちなみにアーシアとそういう事をする機会は全然狙ってる。すまん匙、あれは嘘だ。

 

「......なかなか来ないから何をしてるのかと思ったら...」

 

「こ...小猫ちゃん...!?」

 

「....さっきから全部聞こえてましたよイッセー先輩...随分楽しそうでしたね...」

 

「ひっ...!」

 

 小猫ちゃんから殺意が見える...

 

「....死んでください」

 

 小猫ちゃんのボディブローが突き刺さる。

 

「ごっっっっ...!」

 

 ちょっと体浮いたんですけど...!!?

 

「....祐斗先輩が大変な時に変な事してる罰です。しばらく苦しんで下さい。」

 

「兵藤ぉおおお!!!」

 

「....会長の兵士さん。イッセー先輩を運んで下さい。」

 

「わ...わかったよ...」

 

 俺は匙に背負われながら集合場所に向かった。

 その日も聖剣は見つからなかった...

 

 ────────────────────────

 

「最近難しい顔ばっかだなイッセー。」

 

 元浜が話しかけてきた。

 

「そりゃ俺にも考えることがいっぱいあるんだよ。」

 

「あれか?部員の誰を調教してやろうかって...」

 

「お前なぁ...俺がアーシア一筋なのわかってんだろ?いい加減にしないと怒るぜ?」

 

「はっ。怒ってみろよ。と言いたい所だが、お前結構変わったよな。あれだけ可愛い部員が居たらてっきりハーレムを作ってやるぜ!!とか言うもんだとばかり」

 

「あぁ...まぁあれだ。人を好きになったら変わるってやつだよ」

 

「けっ!リア充自慢に付き合う暇はねぇよ!ボケが!」

 

「所でイッセー、例のボウリングとカラオケをする会どうするんだ?」

 

 俺はこいつらに頼まれて(主に元浜)アーシア、桐生、木場、小猫ちゃんと休日を半日使って遊び倒す計画を立てていたのだ。アーシアもそういった施設はまだ行ったことないはずだからきっと楽しいだろう。

 

「皆来るよ。きっとな...」

 

 木場もきっと大丈夫だ。あいつなら乗り越えられる。

 俺は知ってるからな。

 

「うぉおお!アーシアちゃんと塔城小猫ちゃん!テンション上がるぜぇぇぇ!!」

 

 松田が叫ぶ。

 すると松田の頭を叩く奴がいた。桐生だった。

 

「悪かったわね、私も行くことになって」

 

「ふっ、お前は所詮アーシアちゃんのオプションだ。メガネ属性は元浜で間に合っている...」

 

「ちょっとやめてよ、属性が穢れるわ?」

 

「こいつ!元浜のメガネは女子の体のサイズを正確に数値化できる特殊なものなんだぞ!お前とは違うんだ!」

 

 松田がそう叫ぶと、桐生はニヤリと笑った。

 

「まさか、その能力が元浜だけの物だとでも言うつもり?」

 

 そう呟いた桐生は俺の股間を見てきた。

 

「ふぅん、なるほどなるほど...?ふふふ、私のメガネは男子のアレを数値化できるのよ...?長さから太さまでね...?」

 

 そういやそんな能力持ってたな...

 こいつやべぇ奴だったわ。忘れてた...

 

「大きすぎても小さすぎても女性は困るけど...ふふふ、良かったわねアーシア、充分満足できると思うわよ...?アーシア体の大きさ的にもちょうどいい感じかもね」

 

 ボンとアーシアは赤くなった。

 

「おい!アーシアに変な事教えるなって!」

 

「えぇ...?もう遅いかなぁ...ね?アーシア~?」

 

「あぅあぅ...」

 

 アーシアが真っ赤だ...こいつまじで何を吹き込んでいるんだ...?俺は怖くなってきた。

 

 ────────────────────────

 

 その日の放課後も神父の格好でお散歩していた。

 しかし今日も無為に時間が過ぎていく...

 

「くっそ、今日も収穫なしか...」

 

 実は結構本気で手伝ってくれている匙。わかってたけど普通にいい奴だわ。

 覗き暴露の件は今回のお手伝いで帳消しだ。むしろプラスである。

 

「....祐斗先輩」

 

 小猫ちゃんと木場が立ち止まる。

 何事かと考えた所で俺も認識する。

 殺気が近づいてきている...!

 

「上だ!」

 

 匙が叫ぶ。

 木場が魔剣を取り出してフリードの一撃を防いだ。

 

「クソ神父...!」

 

「その声はあの時のクソ悪魔かぁ?これまた珍妙な再会でござんすねぇ!こうなりゃあの時の借り返してやっから覚悟しといてくだちゃいな!!けどまずはお前だな!イケメンくぅん!!」

 

 といって木場と斬り合う。

 俺達は神父の服を脱ぎ捨てた。

 

「あっれ~?そこにいるのはアーシアちゃ~んじゃありませんか~??あれあれ~?まさか悪魔になっちゃったんですかぃ?ケケケ流石は魔女さんですなぁ~!」

 

「おいテメェ!!」

 

 俺はブーステッド・ギアを起動する。

 

『Boost!』

 

 ぐっ...ぶん殴ってやりたいけど、あくまで木場の弔い合戦だ。俺は準備だけして待機する。

 

「伸びろ!」

 

 匙の手元のトカゲのような神器(セイクリッド・ギア)から黒く細い触手のような舌が飛んでいった。

 

「ウゼェな!!」

 

 フリードが聖剣で払おうとするが、触手は下に曲がってフリードの右足に張り付いてグルグル巻き付いた。

 フリードも剣で斬ろうとするが、すり抜けてしまった。

 

「そいつはお前には斬れないぜ!木場!こいつはもう逃げられねぇ!思う存分やっちまえ!」

 

 やっぱり匙を連れてきて正解だったな...

 匙のの神器(セイクリッド・ギア)はすごく有能だ。

 

「助かる...よ!」

 

 木場とフリードは何度も斬り合う。お互いスピードタイプだ。どんどん剣戟は加速する。

 

「ハイハイハイハイ!やりますなぁ!でも、俺様の持ってるエクスカリバーちゃんはそんじゃそこらの魔剣ちゃんじゃあ勝てやせんぜ!!」

 

「ぐっ!」

 

 木場の魔剣が折れた。再び新しい剣を作って戦う。

 

「へぇ...色んな魔剣が作れるんざんすねぇ?もしかいして魔剣創造(ソード・バース)ってやつでございますか??わーぉレア神器(セイクリッド・ギア)!なかなか楽しませてくれるじゃあーりませんか!!」

 

 木場の剣は数度刃を交える度に砕け散る...

 それを何度か繰り返した所でフリードが聖剣に纏わせるオーラを強くさせて、木場の剣を一撃で砕くとすぐに二撃目に入る。体勢が悪くなった木場は辛うじて避けているだけだ。

 

 俺は急いで二人の間に入ってフリードに不意打ちを決めようとしたが、避けて下がられてしまった。

 

「イッセー君!」

 

「今危なかっただろ...!悪いが勝手に使わせてもらうぜ?」

 

『Transfer!』

 

 俺は木場に力を譲渡する。

 

「貰った以上は使うしかないね...魔剣創造(ソード・バース)!!!」

 

 周囲一帯から刃が生えてくる。さながら針地獄だ。

 木場はそれらを足場にしながら高速で動き回る。

 

 フリードは襲いかかる剣を破壊するのに手間取っている。しかし目だけはしっかり木場を認識していた。

 

「クハハ!いいねいいねぇ!でもさぁ!!俺様のエクスカリバーは天閃の聖剣(エクスカリバー・ラピッドリィ)!速さ勝負じゃ負けないんだよッ!」

 

 フリードは魔剣を砕き尽くし、木場と再び剣戟を演じる。しかし相性が悪い...先ほどと同じ展開になる。

 

「じゃあね!!悪魔く~ん!!」

 

 フリードが木場の体勢が崩れた所で斬りかかろうとする。

 

「やらせるか!」

 

 匙がラインを引っ張ってフリードの体勢を崩す。

 同時にラインは光輝く...

 吸収能力だ!

 

「...これは...俺様の力が流れていく...!」

 

「どうだ!これが俺の神器(セイクリッド・ギア)黒い龍脈(アブソープション・ライン)!!こいつに繋がれた以上、お前はもう終わりだぜ!ぶっ倒れるまでお前の力を吸ってやる!!」

 

「匙!流石だぜ!!そのまま吸い倒せ!」

 

「おぅ兵藤!やってやらぁ!!」

 

「...ドラゴン系神器(セイクリッド・ギア)...あぁ!めんどくせぇ事この上ねぇな!!」

 

「木場!とりあえずこいつはぶっ倒そう!こいつをこのまま放置してたら会長とかにまで害がありそうだ!!一気に叩くぞ!」

 

 匙がそう叫ぶ。

 木場は不本意そうだが...頭は理解しているはずだ...

 

「.....ここで君を始末するのには同意するよ。奪われた聖剣はまだある。そっちに期待する事にしよう。」

 

 俺も参戦準備で構えを取る。

 木場が止めを刺そうとすると...

 

「ほう、魔剣創造(ソード・バース)か。使い手の技量しだいでは大きな力を発揮する神器(セイクリッド・ギア)だ。」

 

「....バルパーのじぃさんか...」

 

 フリードがそう呟く。

 

「まさか...バルパー・ガリレイ!!!」

 

 それを聞いて木場は激昂する。

 本当の敵が目の前に現れたんだもんな...

 

「いかにも。私がバルパー・ガリレイだ。...フリードなんだこの様は」

 

「じいさん!この訳わからんベロが邪魔で逃げられねぇんスよ!」

 

「ふん。まだまだ聖剣の扱いが不十分ではないか。お前に渡した因子をもっと有効活用してくれたまえ。体に流れる因子を聖剣の刀身に込めるのだよ」

 

 まずい、逃げられる。そう思った俺はフリードの元へ駆け寄る。

 

「なるほどざんすな!...おらよ!!」

 

 ラインを切断してフリードは解放された。

 

「行かせるか!!」

 

「おうおうクソ悪魔君、リベンジマッチだなぁ!!」

 

 俺が殴りかかろうとしたときに...

 

「逃がさん!」

 

「ぬぅわあぁ!!」

 

 凄まじいスピードで何かが飛んで来て、フリードとの衝突のエネルギーで俺は吹き飛んでしまった。

 

「ヤッホー、イッセー君。大丈夫?」

 

 イリナがいた。

 

「ん...あぁ...なんとか...」

 

 俺はでんぐり返しの状態でそう返した。

 アーシアが駆け寄って俺に回復してくれる。

 

「フリード・セルゼン、バルパー・ガリレイ。反逆の徒め。神の名の元に断罪してくれる!」

 

「めんどくせぇ!!そうは問屋が卸しませんぜ!ここは退かせていただきやすよん!おらよ!じゃあな!教会と悪魔のクソども!」

 

 フリードが光の球を地面に叩きつけると、眩い光が辺りを包み込み、視界が潰れた。

 視力が回復する頃には逃げられていた。

 

「追うぞイリナ」 「うん!」

 

 聖剣コンビが駆け出す。

 

「僕も追わせてもらう!!」

 

 木場も駆け出した...

 取り残された俺達は戦闘態勢を解いて、一息ついた。

 これからどうするか相談することしばらく...

 

「力の流れが不規則になっていると思ったら...」

 

「これは、困ったものね」

 

 後ろから声が聞こえる。

 俺は気付いてしまった。

 この後の展開に...

 

 ────────────────────────

 

「...エクスカリバー破壊ってあなたたちね...」

 

 部長はひどく呆れた様子であった。

 

「サジ、あなたはこんなにも勝手な事をしていたのですね?困った子です...」

 

「うぅ...すみません会長...」

 

 匙の顔色は真っ青越えて真っ白だ。

 

「祐斗はそのバルパーを追ったのね?」

 

「はい、教会の二人と一緒だと思います。」

 

「そう...全く...小猫?どうしてこんなことを?」

 

「....祐斗先輩が居なくなるのは嫌です...」

 

 小猫ちゃんの言葉に部長は困惑するようであった...

 まぁ小猫ちゃんはあんまりそういう事しそうなタイプに見えないもんな...

 

「まぁ過ぎた事を言っても仕方ないわね。ただ貴方達がやったことは、かなりの大事になってもおかしくなかったのよ?」

 

「すみません...」「はい...」「はいぃ...」

 

 アーシアは初めての部長からのお叱りでかなりショックなようだ...

 ごめんアーシア、俺が言わなきゃ関わらなかったのにね...

 

 向こうからおしりを叩く音がする。音だけ聞いても結構なダメージだ...

 後でアーシアに治してあげるよう伝えるか...

 

「うわぁぁあん!ごめんなさいごめんなさい!許して下さい!!」

 

 パァン!パァン!

 一撃一撃に恐ろしい威力が込められている...

 あいつ...罰が終わる頃にはお尻が無くなってるんじゃないのか...?

 

「全く...使い魔を祐斗の捜索に出させたから、発見しだい部員全員で迎えにいくわよ?そこからの事はその場で決めるわ。」

 

「「「はい...」」」

 

「さて、イッセー。罰は何がいいかしら?お尻はもう叩いたものね...?そう言えば、ふふっ...こんな物があったわね...」

 

 部長が手に取ったのは球体だ。俺は知っている。例の術式の球だ...しかし少し違うぞ...?

 

「これはいつもの物の次世代型よ?そろそろイッセーもあれに慣れて来たと思うし、最大負荷が倍の物を用意してあげたわ?」

 

「待ってください部長。おかしいですよ部長。ここは普通お尻叩きとかそういう罰でしょう?おかしいですよ部長...?前から思ってましたけどいったい俺にどんな恨みがあると言うんですか...?」

 

「いいえ?可愛い下僕に少しでも強くなってほしいという私の優しい優しい思いやりよ?まぁ強いて言うなら...毎日のようにアーシアとのイチャイチャを見せられるこちらの気持ちにもなってみなさいという所かしら...?」

 

「ひぃ!じゃあ改善できないじゃないですか...!」

 

「改善しなさいよ...まぁいいわ。今日はこれを着けて帰宅なさい?」

 

 え?俺...もしかして死ぬ?

 

「イッセーさん...!あの...部長さん!私も悪いことをしましたから!私にも罰を下さい!!」

 

「そうね...じゃあ............してあげなさい?」

 

 部長はアーシアに耳打ちする。

 アーシアがかぁっと赤くなった。

 いったい何をすると言うのだ...

 お兄さんは心配だよ...

 

「じゃあいくわよイッセー。」

 

「待ってくださ....おっっっっっっっっも!!!!え?ちょっと!!!無理です!!!立てません!!!!」

 

「勿論神器(セイクリッド・ギア)は使用禁止よ?頑張りなさい?」

 

 部長は去っていった。アーシアも部長に連れていかれた。

 

 俺の苦悶の声と匙の絶叫だけが響く...

 なんだこの地獄...

 

「んぎぎぎぎぎぎ...!」

 

 俺はなんとか立とうとするが、腰を上げきる前に地面に墜ちる...

 体がミシミシいってる...!これ...!ちょっとぉ!!?

 前のやつはなんだかんだ動く事はできたじゃん!え?適切な負荷ってのの定義も新しくなってます?

 明らかに過重ですけど...?

 俺は芋虫のように這って少しづつ動いていた。

 

 しばらくすると匙がこっちに来た。

 

「俺さ、お前ん所の部長はなんだかんだ優しいと思ってたんだけどさ...ちょっと認識改めるわ。じゃあな...頑張ってくれ!兵藤!」

 

 それだけ言い放って帰ってしまった。

 

 匙ぃいいいいい!!!あいつぅぅぅぅぅ!!!

 この恨み絶対に忘れてやらねぇ!!!

 くっそ...!やってやらぁぁぁぁあ!!!!

 

 何度も何度も何度も何度も泣きそうになりながら、地面を這ったり、ハイハイしながら...俺はなんとか家に着いた。玄関にたどり着くと、術式は消えた。謎技術ェ...

 

 少し明るくなってきている...朝の5時くらいか...?

 俺は疲労がピークになっていた...あかん...もう...死ぬ...

 

 生まれたての小鹿のような足取りで何度も倒れながら玄関を開ける....

 

「っっっっっっんな!!!アーシア!!!???」

 

 そこに居たのは女神であった。

 否アーシアであった。

 メイド服を着ていた...

 

「イッセーさ...ご主人様...お帰りなさいませ!!あの...その....私!ご主人様をお癒し致します!!その...メイド...ですから...!」

 

 アーシアは恥ずかしそうに...でも頑張ってそう語りかけた。

 恥ずかしいけど一生懸命メイドになりきるアーシア可愛い

 フリルいっぱいの可愛いだけを考えた、実用性の欠片もないメイド服...

 なんだこの衝撃は...!!!!

 

 ....拝啓、リアス・グレモリー様。貴女は本当に食えないお方です。私は貴女への怨嗟をこれでもかと溜めて帰ってきたのに...そこに待っていたのは貴女からの、これ以上ないほどのご褒美だと言うのですから...

 

「さぁ...こちらに来て下さい...!イッセ...ご主人様...!」

 

 アーシアは座布団の上に正座してこちらを手招きする。

 イッセーと間違えかけるところまで含めてポイントが高すぎる...!!

 

「でも...アーシア...俺、汗とか汚れとかで...」

 

「大丈夫です...イッセーさんになら...どれだけ汚されても大丈夫ですから...」

 

 俺は鼻血を噴出した...

 アーシア...それは殺し文句だ...!!

 

 俺はふらふらとアーシアの膝のもとへと歩いていく...

 

 膝枕してもらった。

 それだけでもう...満たされた。

 

「アーシア...」

 

「はい、ご主人様...よく頑張りましたね...」

 

 アーシアが俺の頭を撫でてくれる...

 

「うぅ...俺頑張った...頑張った...」

 

「はい!ご主人様は頑張りました!」

 

 アーシアの笑顔が見える...

 あっ...聖母の微笑み(トワイライト・ヒーリング)で回復もしてくれている...

 疲れが...痛みが引いていくようだ...

 

 本来ならアーシアの膝枕など大興奮なのだが...

 

「ごめん...アーシア...寝ちゃっていいかな...?」

 

「はい、ずっとこうしていてあげますから!」

 

 圧倒的安心感と母性と癒しに包まれて、俺は眠ってしまった...



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第23話。 戦います、コカビエル!

 膝枕の後。数時間で目を覚ました俺は、シャワーを浴びた。浴室から出るとアーシアはメイド服を脱いでいたので少しさみしい...でも、精神的な疲労は全回復した...

 

 結局その後もベッドで寝て。起きた頃には夕方だった...アーシアも一緒に寝てたらしい...

 俺が寝た後に潜り込んで来るの、すげぇ嬉しいけどちょっと恥ずかしいんだよな...

 学校は休んだ。行ってられるか!あんな重労働させられて...

 

 その後夜までアーシアと適当に過ごして、部室に向かおうとしたが、部長から今日の部活は中止だと連絡が来てしまった...1日使い魔に捜索させて見つかっていないから、本格的に探すのだろう。

 俺にはここまでの大事になるとは思わなかったから厳しいトレーニングを与えてしまった。今はなるべく体を休めていつでも動けるようにしなさいと言われてしまった...

 確かにタイミングが悪い...多分今日辺りだよな?とはいえアーシアの神器(セイクリッド・ギア)で回復したし、今日は残り時間ゆっくりストレッチでもして待とう...

 

 柔軟も済んで、体の調子を整えていた所で、部屋に魔方陣が開いた。

 

「イッセー!アーシアは居る!?」

 

 部長に問いかけられる。

 部長が抱いているのは傷だらけのイリナだった。

 俺はすぐにアーシアを呼んで治療してもらう。

 

 その間に部長から説明がなされた。

 なんでも部長の住む家の近くに、神の子を見張る者(グレゴリ)の幹部の一人、コカビエルが現れたらしいのだ。そして、駒王学園を中心としてこの町で暴れてやるとの宣言があったそうだ。サーゼクス様を呼びたいらしい。戦争を起こすのだと...

 

 うぉぉ...俺が家にいる間に凄く色々な話が進んでるな...

 

「二人とも、学園へ向かうわよ!」

 

「「はい!」」

 

 イリナはアーシアの部屋に寝かせておいた。

 

 ────────────────────────

 

「学園を大きな結界で覆っています。これで余程の事がない限りは外に被害は出ません...」

 

 匙が現状報告をしてくれる。

 駒王学園近くの公園でグレモリー、及びシトリー眷属が集結していた。木場は居ないけれど...

 今はゼノヴィアと行動してるはずだ...無事で居てくれよ?

 

 会長から、コカビエルが力を解放しつつあること、それはこの町全域に影響があるレベルであること。自分達は結界を全力で維持するから、グレモリー眷属で中の事態に対処してほしいことが挙げられた。

 

 朱乃さんがサーゼクス様を呼んでいたようで来るのは一時間後だそうだ。もっとはよ来れないものか...

 まぁ魔王だし、これよりやばい案件とかも抱えてるのかもしれないな...

 所詮は人間界のとある国のとある町の事件...ということか?でもリーアたんの危機ゾ?やっぱ急いでなおそれだけかかるのだろう...

 

『クックック、相手はコカビエルか...いいじゃないか...目にもの見せてやろう、相棒。』

 

 珍しくドライグもやる気だ...

 最近ちょっと元気無さそうだったしよかったね。

 

 ────────────────────────

 

 正面から入ったと同時に、俺は女王にプロモーションする。プロモーションってゲームより野良の戦いの方が圧倒的に使い勝手いいよな...どうでもいいですねはい。

 

 校庭には四本の剣が光を発しながら宙に浮いており、それを中心に怪しい魔方陣が校庭全体に描かれていた...

 

「これはいったい...」

 

 部長が呟く

 

「四本のエクスカリバーを一つにするのだよ」

 

 バルパーが答えてくれた。

 

「バルパー、後どれくらいで統合できる?」

 

 空中にいたコカビエルから声が聞こえた...

 やっぱりやべぇ...まじで桁違いだ...

 見るだけでわかる...強えぇ。

 

「5分もかからんとも、コカビエル」

 

 バルパーの声が聞こえた。

 

「そうか。では頼むぞ。それで?一人くらいは魔王も来るのか?」

 

「お兄様とレヴィアタンさまの代わりに私たちが...」

 

 部長がそう言った瞬間爆音と爆風が撒き散らされた。

 爆風が落ち着くと、体育館が消し炭になっていた...

 

「つまらん...」

 

 コカビエルが光の槍を放ったらしい。

 心底体が震える...これがグレゴリ幹部の力...

 

「さて、では暇潰しに俺のペットと遊んで貰おうか」

 

 虚空に開いた穴から三首の十メートルはある巨体の化け物が現れた。

 

「ケルベロス...」

 

「やるしかないわ!消し飛ばすわよ、皆!」

 

 部長が叫ぶ。

 

「イッセー、貴女はサポートに徹して。譲渡の力で仲間をサポートしなさい。」

 

「はい!ブーステッド・ギア!」

 

『Boost!』

 

「ところでイッセー、譲渡は何回使用可能かしら?」

 

「限界まで高めた物を5回までです。」

 

「そう、少しは余裕があるのね。時間があればだけど...」

 

 部長はそう言うと朱乃さんと共に空を舞った。

 部活の女子メンバーで連携して攻撃するが倒しきれていない...

 結構ダメージ入ってそうなのにタフすぎん?

 

 などと考えていると後ろから恐ろしい気配を感じる。

 

 もう一匹のケルベロスが現れたのだ。

 咆哮を上げて俺とアーシアの所に駆け出した。

 俺は即座にアーシアを抱いて翼を生やす。

 飛んで逃げようとしたところで...

 

 ケルベロスの首が一つ切り落とされた。

 

「加勢に来たぞ」

 

 そう呟いたのはゼノヴィアだった。

 言うや否やケルベロスの胴体を聖剣の力で斬り飛ばす。止めとばかりにもう一度胴体に深々と突き刺して、ケルベロスは塵芥と化した。

 聖剣が魔に属するものに特効を持っているとはいえ、恐ろしい力だな...

 俺に刺さったらと思うと恐怖でいっぱいだ...

 

『相棒、そろそろケルベロス程度なら充分だと思うが?』

 

「そうなのか...」

 

 自分の倍化はともかく、他人への譲渡はどれくらいが適量がわかりづらいから助かった...

 

「部長!もう充分です!」

 

「イッセー、あなたの譲渡は複数に対しても有効なのよね?」

 

「はい!可能です!」

 

「なら私と朱乃に渡しなさい!!」

 

「了解です!アーシア、ここで待っててくれ。」

 

 俺は飛んで二人に力を譲渡した。

 二人の魔力が迸る...

 

 朱乃さんが雷撃を食らわせようとすると、ケルベロスが回避しようとした。

 しかし、ケルベロスの体を複数の剣が貫く。

 

「逃がさないよ」

 

「木場ぁ!」

 

 木場が来てくれたのだ。魔剣創造(ソード・バース)でケルベロスの動きを封じる。そこに雷撃が殺到し、ケルベロスは見事に消し炭となった。

 

 一方部長は巨大な消滅の魔力を迸らせて、コカビエルに向かって発射する。

 しかし、コカビエルはその一撃を片手で防いでしまった。

 

「なるほど?赤龍帝の力があればここまで力が跳ね上がるのか...」

 

 などと、コカビエルが楽しそうに笑っている時に

 

「完成だ!」

 

 バルパーの声が聞こえた。

 圧倒的な光量によって校庭全体が見えなくなる。

 

「クックック...エクスカリバーが一本なったことで下の術式も完成した。後20分もせずにこの町は崩壊するだろう。解除するにはコカビエルを倒すしかないぞ?」

 

 は...?

 町が崩壊する...?

 そんなこと...

 でも、確かに術式からは信じられないほどの力を感じる...

 

 町が壊されるだと...?

 つまり...こいつらは...

 駒王町の人々を殺してやるとそう言ってるのか...?

 

 ドクンと神器(セイクリッド・ギア)から波動を感じる...

 

 それにその術式の起動地点はここだ...

 それはつまり、ここにいるメンバーがそれだけの破壊に中心として巻き込まれるって事だろう...?

 

 誰が生き残れる...?

 それってアーシアが死ぬって事じゃないのか...?

 アーシアが...死ぬ...?

 

 神器(セイクリッド・ギア)から鈍い輝きが発される...

 

「イッセーさん...?」

 

 隣からアーシアがこっちを心配そうに見ている。

 愛しのアーシア。俺の大切な人。

 

 アーシアの命が脅かされているんだぞ...?

 ヴァーリに任せるだと...?原作では助かっただと...?

 ヴァーリが絶対に来る保証がどこにある?

 

 大体原作がどうした...今までだって俺のちょっとのミスや行動で周りの行動は変化してきただろうが...!!!!

 

 なのになんで俺は今回は皆に任せれば大丈夫などと安心していた...?

 そんな事ない...常に...いくらでも脅威はある...

 そういう世界だろうが...知ってるだろうが!!

 

 内心思ってた...原作の兵藤一誠よりも、少しは強いって...だからちょっとは余裕があるって...

 調子に乗ってたんだ...

 バカか俺は...!!!

 自分で余裕がないなんて言いながら!

 内心は大丈夫だって考えてたんだろ...

 自分は未来を知ってるって...賢者にでもなったつもりで...

 原作にある程度沿っていれば大丈夫だって...!!

 俺は今まで本当の強者と対面したことがなかった...

 だから今までわかってなかったんだ...!

 奪われる恐怖を...!

 勝てない恐怖を...!

 俺はバカだから...本当の死の恐怖を知らなかったんだ...

 クソ!!コカビエルなんか倒せるわけが...!!

 

「イッセーさん!!!」

 

「!!」

 

 アーシアが抱きつく...

 

「イッセーさん...大丈夫です...私がずっと一緒にいます...だから...そんな顔しないで下さい...」

 

「アーシア...」

 

 さっきまで、怒りや恐怖でぐちゃぐちゃになっていた心に暖かい物が流れ込んでくる。

 

 いつもそうだった...どんなに怒ってたって、怖くたって、悲しくたって...

 アーシアの一言で...アーシアの体温で...アーシアの存在で救われてきた...

 

 この世界に来てから...急に怖くなった夜はアーシアに出会える事を夢見て、不安を掻き消した。辛い事も、アーシアを守れる力を付ける為だと我慢した。

 兵藤一誠を消してしまった罪の意識もアーシアに救ってもらった...今も...

 

「アーシア...大丈夫...ありがとう...」

 

「イッセーさん?」

 

 俺を生かしてくれたのはアーシアだ。なら俺の全てはアーシアの為にある。アーシアの為にならなんだってできる。アーシア為なら何にだってなってやる...

 

「ドライグ...いけるな?」

 

『........あぁ...後はきっかけだけだ。』

 

「そうか...」

 

 俺はアーシアに向き合う。

 

「......なぁ、アーシア...キスしてもいいか?」

 

「.......へ?」

 

 俺はアーシアの肩を掴む。

 

「あ...あのイッセーさん...?」

 

 アーシアの顔がどんどん赤くなっていく。

 

「と...突然なんで...?えっと...あぅあぅ...イッセーさん...?」

 

「アーシア...愛してる...」

 

「あっ....イッセー...さん.....んむ」

 

 俺の唇とアーシアの唇が触れあう。

 

 脳ミソにスパークが走る...

 これが...これがキス...

 やわらかい...

 唇を当てるだけの軽いキスだ...

 それでも胸と唇の先がどうしようもなく熱い...

 それだけの事がどうしようもなく嬉しい...

 

 数秒の後、俺は唇を離した...

 

「あっ...」

 

 アーシアが上目遣いでこっちを見ている。

 耳まで真っ赤にして、しっとりと涙で目尻が濡れている。

 

「ありがとうアーシア...これで、俺は飛べる...!!」

 

「イッセーしゃん...?」

 

『Count down!3 minutes!』

 

 俺はアーシアを抱きしめる。

 

「アーシア...俺はいつもアーシアに助けられてきた。...だから、俺はアーシアを守れる男になりたい...アーシアを守れる力が欲しい...」

 

「イッセーさん...」

 

「だから...見ていて欲しいんだ。今の俺を...これからの俺を...俺はたった今アーシアを守るために生まれ変わった...俺という人間の全てはアーシア、君のためにある。愛してる...好きだ...アーシア...」

 

「はぅ...あの...私も...私もイッセーさんの事が大好きです...」

 

「ありがとう...これからも変わらず...あの日の約束を守っていく...ずっと一緒にいよう!」

 

「はい!」

 

 俺はアーシアから少し離れて、コカビエルの方へと歩きだした。

 残り時間数秒、俺は駆け出した。

 

「うぉおおおおおおおお!!!アーシアぁあああああ!!!愛してるぞぉおおおおおお!!!!」

 

 そうだ...俺の中にある、大きな感情なんてアーシアへのこの愛以外に存在するはずがないのだ。

 

『Welsh Dragon over Booster!!!!』

 

 俺の叫びは校舎全体に響き渡り、それと同時にブーステッド・ギアから赤い光の奔流が溢れ出る...

 

 赤き龍のオーラが身体中を包み、龍の鎧を生み出す

 

『Welsh Dragon Balance Breaker!!!!』

 

禁手(バランス・ブレイカー)赤龍帝の鎧(ブーステッド・ギア・スケイルメイル)!!」

 

『相棒!正式な禁手化(バランス・ブレイカー)ではあるが、未だ不安定だ!実力が少し足りない!!この状態で15分。譲渡を使った場合、倍化し直す度に6分近く分のエネルギーを利用する!!実質譲渡はニ回だ!他にも戦闘行為でエネルギーを大量に消費する!ほとんど時間がないと思え!』

 

「文句は言ってられねぇ!!!俺の全部ぶつけるだけだぁぁあああ!!!」

 

 俺は部長の元へと飛んでいった。

 

「部長!全ての魔力を注ぎ込んだ一撃を出して下さい!力を譲渡しますから!!!」

 

「イッセー!?なんなのそれは...!それに急に叫んで...」

 

「いいですから!!」

 

『Transfer!』

 

「んんもう!わかったわよ!やってやるわ!!ちょっと時間かかるわよ?」

 

「ありがとうございます!じゃあ俺行きます!!」

 

「コカビエルぅぅぅぅぅぅぅ!!!!!」

 

「来るか赤龍帝!!いいぞ!!来い!!!」

 

 俺は全速力で飛んでコカビエルに殴りかかる。

 二撃、三撃と顔面を殴るが効いていない...

 

「この程度かぁぁあ?お前の力はぁぁぁぁ!!」

 

 コカビエルに蹴られて、ものすごい速さでグラウンドに衝突した。

 

「がっっっっっは!!!!ぐぅぅぅぅうぅ!!!」

 

 すぐに飛び立った。さっきいた場所にコカビエルの光の槍が降る。恐ろしいほどの破壊が撒き散らされる。

 

 空高く飛び上がった俺はコカビエルに向かって突撃し

 た。

 

「おらぁあああああああああ!!!!」

 

 コカビエルは受け止めるつもりのようで構えを取った。

 

「なめんなぁぁぁぁぁぁぁああ!!!!」

 

 もの凄い勢いで衝突する。

 

「ぐぅぅぅぅう!!!やるではないか赤龍帝!!だが!まだ足りんわ!!!」

 

 完全に勢いを殺されて、そのまま腹を蹴り飛ばされる。

 

「ごっっっっっぱ!!!」

 

 大量の血を吹き出して上空に吹きとばされる。

 腹部の鎧が完全に砕け散っている...

 

「そうら!避けろよ?死にたくないだろう?」

 

 コカビエルが光の槍を何本も投げる。

 

 俺は霞んだ目で辛うじて避けていく...

 くっそ!!全然敵わねぇな...!!

 

「うぉおおおア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ージア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!!」

 

 宝玉が光り輝く。

 

『Boost!Boost!Boost!Boost!Boost!Boost!』

 

 肉体の限界を超えて倍化が行われる。

 体はもうまともに動かない...

 なら後はオーラと魔力を使うだけだ!!!

 

 部長の極大の魔力が飛んできた。

 これを絶対にコカビエルに当ててやる...!!!

 

 俺は悪魔の羽を使って飛行する。

 

「コカビエルぅぅぅぅっぅっぅ!!!!!」

 

 俺は持ってるもの全てを込めた一撃を譲渡で倍化する。

 

「くらえぇぇぇぇええええ!!!!」

 

 コカビエルが俺の一撃に対応する。

 難なく止められた。

 しかし逆から部長の魔力が迫る...

 

 両方を片手で受けられるか!!?コカビエル!!!

 

「ぐぅううう!!!!ぬぉおおおおお!!!!!!」

 

 大爆発が発生する。

 ざまぁみやがれ!!!!

 

 俺は鎧が解除されて、そのまま墜落する。

 墜落しながら見えた光景は、ボロボロになりながらも、健在であるコカビエルの姿であった。

 

「くっっっっっっっそ!ちくしょう!!」

 

 もう飛ぶ力も残っていない。

 後は墜ちていくだけだ...

 

「ぐえっ!!」

 

 突然何かに抱き抱えられた。

 そちらを見ると純白の鎧が視界いっぱいに広がった。

 

「白...龍...皇...?」

 

「それくらいはわかるようで安心したよ。俺の宿敵君?」

 



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第24話。 現れました、白龍皇!

三巻の内容はこれにて終了です。こうして振り返ると結構な話数を使ってますね...



 聖剣の統合まで時は遡る。

 

「バルパー・ガリレイ。僕は聖剣計画の生き残りだ。いや、正確には悪魔に転生して生き永らえた。」

 

「ほう?計画の生き残りか...数奇なものだな?こんな極東の地で出会うとは縁を感じるな。ふふふ」

 

 バルパーは語り始めた。

 

「私はな。聖剣が好きなのだよ。しかし、私には聖剣使いの適性がなかった。絶望したよ...私がどれだけ聖剣を渇望していたのか...貴様らにはわかるまい。」

 

「しかし、使えないからこそ、使える者を人工的に作り出す研究に没頭するようになった。そして聖剣を使うのに必要な因子があることに気付いた私は、聖剣を使うに足り得ない人間から因子を抽出し、集める事を思い付いた...」

 

「なるほど。読めたぞ?聖剣使いが祝福の際体に入れられるのは...」

 

 ゼノヴィアが呟く。

 

「そうだ。結晶化した聖なる因子だとも。」

 

「同志たちを殺して、因子を抜き出していたと言いたいのか...?」

 

 木場が殺気を込めて尋ねる。

 

「そうだとも。この結晶はその時の物だぞ?3つほど使ったがね。これが最後の1つだ。」

 

「俺以外のやつは因子に耐えられずに、死んじまったけどな!ケケケそう考えると俺様ってマジすげー!!」

 

「バルパー・ガリレイ...貴様は自分の私利私欲の為にどれだけの命を...」

 

「ふん。それだけ言うのならこの結晶はくれてやる。既に量産体制は整っているのだ。今さらこんなもの1つ不要だとも」

 

 木場は地面を転がった因子結晶を手に取った。

 愛おしそうに、懐かしそうに...悲しそうに...

 

 木場は涙を流していた。

 その時、結晶が光を発する。それに合わせて地面から光が漏れでて、人のような形となった。

 

「この戦場に漂う様々な力の因子が球体から魂を解き放ったのですね...」

 

 朱乃さんが語る。

 

「僕は...!僕はずっと思っていたんだ!僕よりも生きたかった子がいたのに!僕よりも夢を持った子がいたのに!僕だけが生きて良いのかって!」

 

 霊魂が木場に何かを語りかける。

 木場にはそれが伝わったのか、涙がこぼれ続ける...

 

 木場と周囲の霊魂は聖歌を歌い出す。

 彼等が辛い研究所での生活で持っていた唯一の希望...唯一の生きる糧...

 それが聖歌であった。

 本来聖歌を聞けば悪魔はダメージを受けるが、この歌はただただ、全ての者に届いた...

 

 木場はやがて、決心したように立ち上がる。

 

「悪魔として生きる事が主の、僕の願いだった。でもエクスカリバーへの恨みだけは忘れられなかった。同志の無念を晴らさなければと...でも...そうじゃなかった。同志達が望んでいたのはそんな事じゃなかった...僕が...僕だけでも生き残る事だった!」

 

 木場の体から力が溢れる...

 怨嗟を越えた男の姿がそこにはあった。

 

「でも、終わりじゃない。バルパー・ガリレイ。あなたが消えない限り、この怨嗟は他の者へと続いていく...だから...僕は貴方を倒してみせる!!」

 

 皆の応援する声が聞こえる...

 そうだ。僕は一人じゃない...

 仲間がいるんだ!!

 

「僕は剣になる。」

 

禁手(バランス・ブレイカー)双覇の聖魔剣(ソード・オブ・ビトレイヤー)。聖と魔を有する剣。その身で受けるといい。」

 

 ────────────────────────

 

 フリードと木場は剣戟を重ねる。

 しかし、木場の剣はもう折れない。

 同志達の...仲間たちの想いが彼に力を与える。

 

 フリードも負けじと聖剣の権能を活用し、形を変え、速度を上げ、刀身を隠す...

 しかし木場はそれでもなおフリードを完全に圧倒する。

 

「この刃に宿りしセイントの御名において、我は解放する。デュランタル!!」

 

 横から本物の現存する聖剣たるデュランタルをもって乱入したゼノヴィアによる一撃は、フリードの聖剣を吹き飛ばし、砕き、その姿を露にさせる。

 

 木場はエクスカリバーの伸びた刀身が砕けてしまった事実に一瞬惚けるフリードに向かって、剣を振り下ろす。

 フリードもエクスカリバー本体で防御しようとするが、エクスカリバーは無惨にも砕け散った。剣はそのままフリードの横腹を抉り斬る。

 

「見ていてくれたかい?僕らの力はエクスカリバーを越えたよ...」

 

 ────────────────────────

 

「聖魔剣だと...!あり得ない!反発し合う二つの要素が混じり合うなんてありえないのだ...!」

 

「バルパー・ガリレイ。お前はもう終わりだ。」

 

 木場はバルパーへと剣を向ける。

 

「...そうかわかったぞ!聖と魔!それらを司る存在のバランスが大きく崩れているなら説明はつく!つまり魔王だけでなく神も...!」

 

 バルパーは突然、光の槍を受けて一瞬で死んでしまった。

 

「バルパー。お前は優秀だ。神の不在...最大の禁忌までたどり着くとはな...だから死ぬんだ。」

 

「まて...今なんと言った!!?」

 

 ゼノヴィアが激昂する。

 

「あ?しまった...口が滑ってしまったか...フフ...だがよい!どうせ冥土の土産になるのだ。いいか?かつての大戦で神は死んだのさ!」

 

「そ...そんな事あるわけが...ならば、神の愛は...」

 

「そんなもの既にないわ。ただまぁ、ミカエルが上手く「システム」を運用しているようだ。最低限システムさえ起動していれば祝福も、悪魔祓いもなんとか機能するからな...」

 

「そんな...」

 

 ゼノヴィアは呆然としてしまう...

 

「俺は戦争がしたいんだ...それぞれの長が死んで、どこの勢力も弱腰よ。アザゼルすら戦争はしないと言う始末...!もはや戦争はこれくらい派手にやらかしてやらないと発生しないのだ...お前たちの首を土産にィ!俺だけでも大戦の続きをしてやるよ!!さぁ誰からでもいいぞ?死にたい奴はかかってこい!!!」

 

 コカビエルが力を解放する。

 圧倒的な絶望がそこにあった...

 敵うわけない...心のどこかがそう思ってしまう...

 

「うぉおおおおおおおお!!!アーシアぁあああああ!!!愛してるぞぉおおおおおお!!!!」

 

 イッセーの声が響きわたる...

 赤き光が放出され、莫大なオーラが拡散される...

 

「イッセー君...君も至ったんだね...禁手(バランス・ブレイカー)に...」

 

 先ほどまでの重苦しい雰囲気は、不思議と彼の愛の告白で消えてしまった。

 

「全く...イッセーったら...」

 

 僕らは苦笑してしまった

 

 ────────────────────────

 

 俺はヴァーリに地面に下ろしてもらった。

 というか、ある程度高度が下がった所で放り投げられた。

 

 アーシアが駆け寄って来てくれる...

 かっこいいこと言いながら結局負けるなんてな...

 ダサいことこの上ないな...

 

「イッセーさん!私...ちゃんと見てました!!イッセーさんがコカビエルさんと戦っている所...!ちゃんと見ましたから!!」

 

 アーシアが泣きながら言ってくれる...

 

「ボロボロに負けたけどな...」

 

「でも...かっこよかったです」

 

 アーシアが微笑みながらそんなことを言ってくれる...

 

「....ありがとう。」

 

 俺は恥ずかしくてアーシアから顔を逸らした。

 逸らした先ではヴァーリがコカビエルを淡々と追い詰めていた...

 

『Devide!』『Devide!』『Devide!』

 

 あぁ...くっそ...やっぱ強えぇなぁ...ヴァーリ...

 かっこいいな...あんな風に...勝ちたいな...

 

 ヴァーリの拳がコカビエルの腹部を貫いた。

 コカビエルは沈黙する...

 

 意識を失ったコカビエルを担いでいるヴァーリは、フリードも回収しようとこちらに歩き出す...

 アーシアが俺の事を抱き締めてくれる...

 

 無言で通りすぎた...

 

『無視か?白いの』

 

 ドライグがそう言った。

 

『起きていたのか、赤いの』

 

『折角あったのにこの状況ではな』

 

『あぁ。そんなフラフラの貴様とやっても楽しくないわ』

 

『間違いないな。まぁ、いずれ戦う運命だ。こういうこともあるだろう』

 

『あぁ、ではな』

 

『あぁ』

 

 因縁の二天龍は、数度言葉を交わして黙ってしまった。

 

「じゃあね、赤龍帝。今度会うときはもう少しマシになってることを期待するよ。」

 

「ん...あぁ、白龍皇。時間かかるかもだけど待っててくれ...」

 

「ふっ...」

 

 ヴァーリは飛んでいってしまった。

 

 ────────────────────────

 

 アーシアのお陰でなんとか立てるようなった俺は木場と話に行った。

 

「良かったな、木場。聖魔剣だなんてすげぇじゃん...」

 

「イッセーくん、僕は...」

 

「しっかり過去に折り合いつけれたんだろ?なら俺から言えるのはおめでとう!それだけだ」

 

「うん...」

 

「祐斗、よく帰ってきてくれたわ。」

 

「部長、僕は...皆に...何よりも命の恩人であるあなたを裏切ってしまいました...お詫びする言葉が...」

 

「いいのよ。あなたが帰ってきてくれた。それだけで充分だわ。あなたの同志たちの想い、無為にしてはだめよ?」

 

「部長...僕はここに再び誓います。あなたの騎士として、あなたと仲間達を終生お守りします。」

 

「ええ、ありがとう。」

 

 麗しい主従関係が繰り広げられる。

 

 なんとか、全部うまく行って良かった。

 木場が帰って来てくれたことも素直に嬉しい。

 それに、俺もついに禁手(バランス・ブレイカー)に至れたし...!

 

「それにしても、イッセー...あなたはもう...なんというか...」

 

 部長に呆れられている。

 

「はは、結界の外にまで響いていたんじゃないかな?君の愛の告白は...」

 

「はぅ...」

 

 アーシアが顔を赤くしている。

 

「俺も誓ったんだ。お前のように、アーシアをずっと守る存在になるってな。だから...まぁ、一緒に頑張ろうぜ!」

 

 俺が拳を突き出すと、木場もそれに合わせてくれた。

 

「それじゃ、祐斗。勝手な事をした罰よ?お尻叩き1000回ね?」

 

 木場のお尻は死んでいた。かわいそうに...

 

 ────────────────────────

 

 コカビエルの事件から数日後、部室にゼノヴィアが座っていた。

 

「やぁ赤龍帝。」

 

「よぉ...悪魔になったんだな...」

 

「あぁ...神が居ないと知ってしまったのでね、破れかぶれで転生した。騎士の駒を頂いたよ。で、この学園にも編入させてもらった。よろしくね、イッセーくん♪」

 

「は?」

 

「イリナの真似をしたのだが、うまくいかないものだな」

 

「そりゃキャラが違いすぎるだろ...」

 

 流石にキャラに乖離がありすぎて厳しいぜ...

 ありのままのがいいですよ?特に君みたいな子は。

 

「まぁ、これから仲間なんだろ?ちょっと一回いざこざもあったけど、水に流してこれからは仲間としてよろしく頼むぜ。」

 

「そうだ。仲間。私は悪魔だ。...これで良かったのか?うん?だが神が居ないのなら、私の人生は...しかし...むむ」

 

 一人で悩み始めた...

 俺との会話はどこへいったんだ...

 

「そういやイリナは帰ったのか?」

 

「ん?あぁ、私のを合わせた聖剣5本とバルパーの遺体を持って本部に帰ったよ。」

 

「そうか...まぁあいつは知らないんだもんな。」

 

 俺とアーシアはちょっと俺のせいでコカビエルとの話し合いを全然聞いていなかったから、後で部長から説明された。アーシアはやっぱり相当ショックだったようだ...頑張って慰めたがその日は浮かない感じだった。

 

「そうだね。イリナは幸せだよ。私は神の不在を理由に上げたらすぐに異端扱いだ。簡単に教会から追い出されてしまった。」

 

「教会は今回の事で、悪魔側に堕天使の動きについて不透明だから連絡を取り合いたいと打診してきたそうよ?」

 

 部長が話に入ってくる。

 

「そうなんですか?」

 

 いよいよ三勢力の同盟が近いというわけだ...

 

「今回の事は堕天使の総督アザゼルから真相が伝わってきたわ。といってもコカビエルの単独犯です、なので罰として永久冷凍しました。で終わりだけどね」

 

「白い龍を介入させて、自分達の問題を自分達で納めた形になっているからね」

 

「近いうちに三大勢力の長同士で会合が開かれるらしいわ。私も今回の事件の参考人として招かれてしまったの」

 

「胃が痛くなりそうな役回りですね。俺なら絶対やりたくないです」

 

「あら?勿論あなたも連れていくわよ?なんならあなたが報告するかしら?」

 

「勘弁してくださいよ!」

 

「あはは...」

 

 ふと、ゼノヴィアの視線が俺の隣のアーシアに移る。

 

「アーシア・アルジェント。君に謝罪しよう。赤龍帝が居なければ君に見当違いの発言をする所だった。君を傷つける所だったよ」

 

「いえ...イッセーさんが守ってくれましたから...それに私は今の生活にとても満足しているんです。大切な人もできました...悪魔ですけど、この出会いにはとっても感謝してるんです!」

 

「そうか...これでクリスチャンで神の不在を知ったのは私達二人だけというわけだ。異端視か...あの視線はなかなか堪えるものがある...君も辛かったろう」

 

「いえ...もう過ぎたことですから...」

 

「そうか...では、私は失礼するよ。まだまだこの学校について知らねばならないことが多すぎる...」

 

「あ、あの!今度の休日皆で遊びに行くんです!ゼノヴィアさんも一緒に如何ですか?」

 

「今度機会があればね。今回は興が乗らないかな...ただ....今度私に学校を案内してくれないか?」

 

「はい!」

 

 アーシアが笑顔で答える。まぁ原作みたいに仲良くなってくれることを期待しよう。

 ゼノヴィアは去っていった。

 

「さ、ようやく全員がまた揃ったのだから、部活動も再開よ!」

 

 ────────────────────────

 

 無事、全員揃って休日に皆で遊ぶことになった。

 

 アーシアも、こんな大人数で遊んだ事はないようで楽しそうだ。可愛い。ボウリングでガーターになって落ち込むアーシアも、初めてのストライクを俺に嬉しそうに報告してくれたアーシアも、ボールを重そうにふらふら運ぶアーシアも最高に可愛かった...

 可愛いよアーシア...

 

 今はカラオケボックスに居るのだが小猫ちゃんは食べてばっか。でもわかるよ。カラオケの料理ってチープでジャンクで美味しいよね。木場は優雅にコーヒー。君はこんな所でも優雅でかつそれが映えるんだから素直に尊敬するよ。アーシアは楽しそうに手拍子。可愛い。可愛すぎる。

 歌ってるのはバカ3と桐生だけだ...

 なんなら俺も手拍子アーシアが可愛くてあんまり歌えてねぇ。見るのに集中したいんだ俺は...

 半分歌ってねぇな...カラオケってなんだっけ?

 

 しかも、今日のアーシアはゴスロリ衣装なのだ!桐生プレゼンツ!悔しいが俺は奴に称賛の嵐を起こさざるを得ない...

 可愛いよアーシア...褒めたら嬉しそうにしてくれた。

 是非、今度は二人きりの時に着てくれ...

 

 匙も誘ったが、「異性交遊を禁止されている」と泣く泣く断っていた。あいつなんだかんだ生徒会メンバーにモテてるんだよな...完全に囲い込まれておる。

 

 アーシアが恐る恐るタンバリンに手を出している様を見ていると、木場が隣に座ってきた。

 

「どうした?」

 

「うん...君に一言だけお礼が言いたかったんだ。ありがとう。」

 

「よせよ、俺なんか大したことしてないって、お礼なら部長とか小猫ちゃんにしとけって」

 

「イッセー君...」

 

「ほら、お前も歌えよ!ドラグ・ソボールの主題歌くらいは歌えるだろ?せっかくだし一緒に歌おうぜ?」

 

「わかったよ...」

 

 木場も楽しそうにしてくれてた。

 皆で楽しく遊べる...

 こんな日常を守れる力が欲しい...

 俺は、もっともっと強くなってやる...!

 

 



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停止教室のヴァンパイア編
第25話。 見つめます、自分!


エッチなのってどれくらいまでセーフなんですかね?
これくらいだったら問題ないんでしょうか...?


 今日も今日とて、学習しない俺はアーシアの居る洗面所に突撃してしまった。

 裸のアーシアとご対面。

 

「イッセーさん...」

 

「あ...アーシアすまん!悪気はなかったから!違うから!ちょっと今後の人生について考えていただけだから...!」

 

 俺は顔を逸らして洗面所を出ようとする。

 でも今回はすぐに対応できたぞ!アーシアの体は5秒くらいしか見てない!ガン見やんけ...

 

「あの...イッセーさん!今度こそ裸のお付き合いをしませんか...?お背中お流ししますよ?」

 

「ア....アアアアーシア!?いや...それはちょっと...!」

 

 俺の耐久値的に限界突破しちゃうから...!!

 

「お嫌ですか...?」

 

 アーシアが俺の腕に捕まってこちらを上目遣いで見つめる。

 若干涙目なのがよりいじらしさを演出している...

 

「アッ...アーシア...」

 

 俺は体の動きがカチコチになってしまう...

 衣服の上からの接触はようやく少しづつ慣れてきたが...(本日5敗)

 生の柔肌が...!まずい...!!鼻から煩悩が流れ出す...

 

「イッセーさん...私、イッセーさんになら...何をされても大丈夫ですよ...?」

 

 アーシアが恥ずかしそうにそう言った

 

 ぬおおおお...!!!それは殺し文句ですよ...!!

 

 ────────────────────────

 

「痒い所はありませんか?」

 

「ハイ....ダイジョウブデス...」

 

 俺は今アーシアに髪を洗ってもらっている...

 なんだこれなんだこれ...!

 すっげぇ恥ずかしいけどすっげぇ嬉しい...!

 

「~~♪」

 

 アーシアは鼻歌歌いながら俺の髪を洗ってくれている。

 アーシアの柔らかく繊細な手が優しく俺の毛髪と頭皮を撫でる...

 あっ気持ちいい...

 

「流しますね?」 「オネガイシマス...」

 

 泡が洗い流される...

 

 ちなみにお互いにタオルを巻いている。

 流石に何も無しだと限界を迎えてしまうこと間違いなしなので、最後の砦なのである...

 

「次はお体洗いますね」

 

「アーシア!!?体くらいは自分でやるから...!」

 

「イッセーさん...私イッセーさんにもっといっぱいお返ししたいんです...イッセーさんともっと...」

 

「ア....アーシア...」

 

「だから私が洗います...!」

 

「ハヒ...オネガシマス...!」

 

 俺は目を瞑って待機する...

 恥ずかしくて目を開けて鏡なんか見られねぇ...!!

 でもすっげぇ期待してる自分もいる...!

 

 ううううう...

 

 ってかあれ?遅いな...そろそろお背中に着手して頂いても...

 

「....ンヒッ!」

 

 変な声出た。

 

「ア、アア...アーシ...ア?...」

 

 アーシアは裸で俺の背中にぴったりと引っ付いているのある...

 アーシアは体を動かして俺の背中を蹂躙していく...

 

「イ...イッセーさぁん...気持ちいいですか...?」

 

 アーシアが恥ずかしげに尋ねてくる...

 気持ちいいどころの騒ぎじゃねぇ!

 これは....まずい...!

 アーシアの柔らかい肌が背中全体にその感触を一切逃がす事なく伝えていく...!

 泡で滑って、特に柔らかいお...おっぱ...!おっぱが肩甲骨辺りを殺しにかかってきている...!

 おまけに...ちょっとだけこりっと固い この異物は...!

 ぬああああ!!!

 これはまずい...!意識が...!飛ぶ...!!

 

「ア...アーシア...こんなこと誰に教わったんだ...!」

 

「桐生さんが、イッセーさんにこれをしたら喜ぶと...」

 

 あの女...!!

 称賛を贈りたい気持ちと、勘弁してほしいという気持ちがせめぎあっている...!

 

「ま...前も洗いますね...!」

 

 アーシアの指が俺の胸へと伸びてくる...

 ゾクゾクゾクゾクっと背中に電流が走る...!

 

「アーシア!前は...前はまずいよ!!」

 

「ふふっ...イッセーさんとっても筋肉質です...いつもトレーニング頑張ってますもんね...」

 

 ああああああアーシアあああ!!!

 やばいやばいやばいやばい...!

 もう完全に俺の相棒はスタンダップ!臨戦態勢だ..!

 

 アーシアの指が腹に向かう...

 

「お腹もこんなにカチカチです...」

 

 お腹以外もカチカチだから勘弁して...!!

 

「う...アーシア...!ここからは...!ここからは自分で洗うから...!」

 

 息も絶え絶え、このまま行くところまで行くべきだという数多の誘惑を乗り越えてアーシアにそう伝える...

 

「イッセーさん...わたし...イッセーさんになら...」

 

 アーシアが潤んだ瞳でこちらを見つめる。

 もはや顔が熱すぎて自分がどんな顔をしているかわからない...

 

「っ...!う...あ...っと...」

 

 俺は動けない...

 するとアーシアが俺の腕を持って、自分の胸へと誘導していく...

 

「イッセーさん...」

 

 むにんと見た目以上に存在感のある感触が手のひらに伝わる...

 

 あっ............さよなら....俺のチェリー...

 

「アーシアちゃん!タオル置いとくわよ!」

 

 母の声!!

 

「のあああああああ!!!!」

 

 俺は叫んでしまう...

 

「ちょっとイッセー!アーシアちゃんと入ってるの!?あ...あぁ...今度こそ孫がぁぁぁあ!!式の準備をしなきゃああああ!!!」

 

「あっ....うっ....」

 

 しまった...やってしまった...完全に雰囲気が...

 

「...!あぅ...えっと....あの!えへへ、私もう出ますね!それでは...!」

 

 アーシアがざばんと浴槽の水で体を流して急いで出ていってしまった...

 

 俺はしばらく浴室で呆然としてしまった...

 

 ────────────────────────

 

 俺は自室で死んでいた...

 

 ぬぅうううう!!!絶対行くところまで行けてたのにぃぃぃぃ!!!

 ばか野郎!!!!この!!!

 

 俺は兵藤一誠になって初めて、母親を憎んでいる...!

 

 あんなタイミングで!!いやでも俺が叫ばなければ...緊迫感でもっといいムードになったかもだし...俺のあほぉぉぉぉ!!

 のぉぉぉぉぉぉんんぉぉおおおん...!!!

 

 バカバカバカバカバカバカバカ!!!

 

 俺はベッドでのたうち回る...!

 風呂から出た後アーシアとだいぶ気まずかったし..!

 アーシアが俺とすれ違ったのに声をかけずに自室に入っていくなんて初めてだぞ!!!

 んおぉぉぉん!!!

 

 だめだ...今日はもう寝よう....。

 

 ────────────────────────

 

 次の日の朝、トレーニングにアーシアは来てくれた。

 

「その...昨日はごめんな...?その...さ、アーシアとぎこちないのは悲しいから...できれば元通りって事に...できないかな...?」

 

「い...いえ...私が急にあんなことをしたのがいけなかったんです...でも、私...イッセーさんと...もっと...もっと深く結ばれたいって思って...」

 

 う...めちゃくちゃ嬉しい事言ってくれてる...

 

「う...うん...ありがとう。俺も...もっとアーシアと深い関係になりたいよ。でもさ、今すぐじゃなくてもいいかなって...そうも思うんだ。ほら、俺達これからもずっと一緒だろ?だから一歩ずつっていうかさ...」

 

「うぅ...はい...イッセーさんがそうおっしゃるなら...」

 

「じゃあ、これで仲直り?っていうか...まぁ!一旦水に流すって事で!」

 

「は...はい!えっと...それじゃあトレーニング初めましょうか!」

 

 アーシアは笑ってくれているけど、やっぱりどこかぎこちないな...

 そりゃあんな事あってすぐにはな...

 だめだ...!ここは俺が男を見せないと...!!

 俺が...俺からアーシアに...手を...出すんだ...!!

 

 アーシアは俺達の関係に次のステップを望んでいる...!

 なら...!今すぐにでも...

 いや?それで合ってるのか?本当か?

 大体どうやっていい雰囲気って作るんだ?

 そういう雰囲気は自然と生まれるものなのか?自分で作るものなのか...?

 わからぬ...アーシア以外恋人いたことないんだもの...わからぬぅ...

 

 大体...実際にやろうとして拒否されたら俺は死ねるぞ...?でもアーシアからあれだけやってそれはないか...?むむむむ...

 

 アーシア...

 

 それからしばらく、仲が悪いという事はないんだが、お互い妙に意識してしまって若干ぎこちなさが生まれてしまっていた...

 今までより強く、男女であることを意識してしまうというか...

 

 だめだ...ぎこちないままなのは嫌だけどどうすればいいのかわからん...

 

 ────────────────────────

 

 思えば俺は、アーシアからのスキンシップを受けるだけで、あまり自分からアーシアに何かをすることがなかった。

 腕を組むのもアーシアから。手を繋ぐのもアーシアから。抱き締め合うのもアーシアから。一緒に寝ようと誘うのもアーシア。あの風呂場での事だって...いつも積極的なのはアーシアだった。

 俺から自発的にした事といえば、告白と、キスくらいだ。いやまぁ結構おっきいイベントだけど...

 こう日々のスキンシップというかそういう事だ。

 アーシアが俺にスキンシップしてくれているから、自分だけ通じあっている気になっていたんだ。

 でも、それじゃだめだ。アーシアはきっと少しだけ不安になってしまったんだろう...

 

 だから、俺は。

 

 ────────────────────────

 

「アーシア、今度の週末出掛けないか?」

 

「お出かけですか?」

 

「あぁ。デートだ。アーシア動物園は行ったことあるか?」

 

「小さい時に一度行った記憶はあります...あまり覚えてないですけど...」

 

「そっか。じゃあ行こうぜ!勿論アーシアがよければだけど。」

 

「はい。行きたいです!」

 

 アーシアは笑顔でそう言ってくれた。

 

 ────────────────────────

 

 休日になり、俺とアーシアは一緒に家を出た。

 

 家を出て早々、俺はアーシアの手を握って、恋人繋ぎにする。

 

「イッセーさん?」

 

「ほら、行こうぜアーシア...」

 

「...はい」

 

 アーシアは嬉しそうに、少しだけ俺の腕に寄りかかってくれた。

 

 電車に乗ったが、休日だけあって人がいっぱいいた。

 

「ほら、アーシア。人いっぱいだしこけたら危ないから俺に捕まっとけよ?」

 

 そういってアーシアを片腕で抱き締めた。

 

「イッセーさん...!?」

 

「どうしたアーシア?」

 

「い...いえ...」

 

 アーシアは少しだけ顔が赤くなっていた。可愛い。

 

 動物園に到着した。

 結構人がいっぱいだな。

 手は相変わらずしっかり繋いでいる。

 体もぎゅっと寄せている。

 今日は、しっかりアーシアに俺の気持ちを行動で形にして伝えるんだ。

 とはいえ、経験は全くないので大したことができるようには思えないが...

 しかし、今日自発的に色々しようと思って改めてわかったことだが、恥ずかしい!!

 自分からのアプローチがこんなに恥ずかしいなんて知らなかった!アーシアはすごいな...

 だから、俺も少しはアーシアに負けないくらい頑張らないと...兎に角今はアーシアを楽しませることを考えよう。

 

「ほら、あそこにマップがあるから、どうやって回るか決めようぜ?アーシアはなんか気になる動物いるか...?」

 

「はい...えぇと、むぅ...」

 

「はは、難しいか?それなら、普通に右回りで見ていくか!最初は鳥ゾーンだ。」

 

「はい!」

 

 .........

 

「わぁ可愛いです!」

 

 アーシアはレッサーパンダのコーナーで楽しげな声をあげていた。

 アーシア的には動物園に行ったのは記憶が朧気なくらい昔の話らしいし、実質初めてと一緒だ。

 どの動物を見ても、興味深そうで、とても楽しそうだった。

 ここ最近はあまりアーシアの心からの笑顔を見れていなかったから、俺も嬉しい。

 後普通に動物園は好きなので楽しい...

 

「イッセーさん!ふれあいコーナーがあるみたいですよ!!」

 

 しばらく歩いた所でふれあいコーナーのあるエリアに入った。

 ここではウサギやモルモットなんかが触ったり抱っこしたりできるみたいだ。

 

「よし、行くか!」

 

 俺とアーシアは一緒にふれあいコーナーに入った。

 ウサギ可愛い...けど、ウサギを愛おしげに撫でているアーシアはもっと可愛い。

 ちなみに俺はウサギを抱こうとしても、手を蹴られたり逃げられたりで全然抱かせてくれなかった...

 それを見たアーシアが少し可笑しそうにしていたので、まぁアーシアの笑顔に繋がるなら許してやるぜウサギども...

 

「あっという間でしたね...」

 

 アーシアは少しだけ寂しそうな顔をしていた。

 

「大丈夫だよ、また何度でも来ようぜ?季節によってはイベントとかもあるみたいだし。」

 

「そうですね。またイッセーさんと来たいです!」

 

 アーシアはそういって笑顔を見せてくれた。

 

 ────────────────────────

 

 動物園から出た頃にはいい時間になっていたので、ちょっとだけ背伸びした店で食事をした。

 アーシアが幸せそうに食べていたので満足だ。

 

 腹も満たして、いい感じの時間になった。

 後は帰るだけって感じの時間だ。

 

 俺はアーシアと公園を歩く事にした。

 

「今日は楽しかったな。」

 

「はい!動物園があんなに楽しい場所だなんて知りませんでした!」

 

「また、色んな所に連れていくよ。俺も知らない楽しい所もいっぱいあるだろうし」

 

「はい!」

 

「....なぁ、アーシア。疲れてないか?あそこにベンチがあるし座ろうぜ。」

 

「そうですね...」

 

 心なしかアーシアの顔が赤い気がする。

 流石にちょっとあからさますぎたか?

 でも、スマートな誘いかたなんてわからねぇ!!!

 

 ベンチに座った俺達は再び他愛もない話をする。

 薄暗くなってきて、周囲に人影は見当たらない。

 公園の街灯が俺達だけを照らす。

 

 ふと会話が途切れた時に俺は切り出す事にした。

 

「そ...その、アーシア?キ...キス...しないか?」

 

 んもぉぉぉぉん!どもるなよ!キスくらいスマートに誘えないのか俺は...!

 

「......はい...」

 

 アーシアが目を瞑って待ってくれている。

 俺は気合いを入れ直した。

 アーシアの顔に片手を沿わせて、唇を重ねる。

 5秒ほどキスをして、唇を離す。

 

「...イッセーさん」

 

 アーシアが物欲しそうな目でこちらを見る。

 俺はもう一度アーシアにキスをした。

 今度はアーシアの口の中に優しく舌を入れる。

 するとアーシアもそれに答えて舌を絡ませてくれる。

 ゆっくりと...ねっとりと...お互いの気持ちを確かめ合うようにキスをした。

 

「はぷっ...ちゅぷ...んぷ...ん...はぁ...」

 

 アーシアと俺の間に細い糸が垂れる。

 

「はぅ...今日のイッセーさんは...その...積極的ですね...」

 

 アーシアが顔を赤くしながらそんなことを呟く。

 

「あぁ...最近ちょっとアーシアとギクシャクしてただろ?それで...俺なりにどうしてこうなっちゃったか考えてたんだけど...俺はアーシアがスキンシップとか積極的にしてくれるからさ...勝手に満足してたんだ。俺もアーシアに返さないといけないのにさ...

 だから、今日は...今日からはもっとアーシアに俺の気持ちを行動で伝えないとって、そう思ったんだ...。」

 

「...イッセーさん...私...わかってたんです。イッセーさんが私の事愛してくれてるって...でも、ちょっとだけ不安だったんです...イッセーさんは私の事、女の子として見てくれてるのかなって...だから...とっても嬉しいです!」

 

 アーシアは少し涙を湛えながら、微笑みかけてくれた。

 

「ごめんな、アーシア...不安にさせて...誰よりも愛してる...大好きだ...」

 

 俺はアーシアを抱きしめた。

 

「はい...!私も大好きです!」

 

 その日は久しぶりにアーシアと一緒に眠った。

 久しぶりって言ってもまぁほんの数日だけど...

 エッチな事とかはしてないけど、何よりも心が満たされたような気持ちになれる1日だった。

 

 

 



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第26話。 開きます、プール!

「よー、悪魔くん。今日も悪いな」

 

 そういって俺に声をかける呼び出し主は、金髪と黒髪が混ざった、ワル風イケメンの男であった。

 

 そう、何を隠そうアザゼルさんである。

 この人、全く怖くない...実力を全く感じさせないのだ。

 それが怖すぎる...

 わかってる事だけど超絶格上という事である。

 

 アザゼルさんは俺に、おつかいさせたり、釣りに行かせたり、マッサージさせたり...どうでもいい契約ばかり持ちかける。

 まぁ気が楽でいいけどな...

 おつかいにバカ高い絵画とか、宝石とか、代償として欠片も釣り合わないからそこは勘弁してほしいけど。

 今日はレースゲームだと。

 モルオカートがしたいらしい。

 

「俺は初めてだからお手柔らかに頼むぜ」

 

「俺もそんなに経験ないんでお手柔らかに」

 

「あ?そうなのか?ならいい勝負できるかもなぁ」

 

 始まったゲームは序盤俺が優勢であったが、中盤からあっという間に追い抜かれて、アザゼルさんの優勝である。遺憾だ。

 

「どうやら俺の勝ちだな悪魔くん」

 

「参りました...初心者があんなプレーしないでくれません?」

 

「あ?そりゃ悪かったな赤龍帝くん?」

 

「.......」

 

「ありゃ?驚いてくれると思ったんだがな...」

 

「毎度毎度あんなバカみたいな代価貰ってたら何かしらやべぇ人だとは思いますよ...」

 

「あん?そうはいったってあんなのくらいしかねぇんだからしょうがねぇだろうが。そこら辺に転がってたんだ。」

 

「名画を転がさないでくれません?」

 

「あ?ったくこまけぇ奴だなおめぇは...て、話を逸らすなよ悪魔くん?」

 

「.....あなたのお名前を教えて下さい。」

 

「俺の名はアザゼル。堕天使どもの頭をやってる。よろしくな赤龍帝の兵藤一誠」

 

 アザゼルさんが背中から12枚の翼を展開する。

 その瞬間、俺の体を悪寒が駆け巡る...

 これでも間違いなくアザゼルさんの実力のほんの一欠片だ。堕天使である事を証明するための最低限の実力を出してるつもりなんだろうけど...

 

「ヨ....ヨロシクオネガイシマス」

 

「あん?ったくつまんねぇやつだなお前は...もっと驚けや」

 

 勘弁してください...

 

 ────────────────────────

 

「全く...三勢力のトップ会談が行われるからって、堕天使の総督が私の縄張りに侵入して営業妨害してたなんて...」

 

「まぁいいんじゃないですか?あんな軽い契約であんだけ良いもの貰えたんですし...騙してた謝罪みたいなもんも込めてるんじゃないですかね?なんかちょっと会っただけでそんな事しそうな方でしたよ?悪戯が好きそうというか...だけど最後には納得させてきそうと言うか...何枚も上手そうと言うか...」

 

「それを言われると、ちょっと納得しちゃったわね...それにしても何の目的なのかしら...まさかブーステッド・ギアに興味を持って?」

 

「白龍皇って堕天使側でしたよね。わざわざ俺にも興味持ちますかね...?」

 

「....イッセー、最近ちょっと余計な一言とか口答えとか多くないかしら...?またこうしてあげるわ?」

 

 そう言って俺にいつもの術式を起動する。

 

「んぐっっ!!!そういうことするからじゃないですかねぇ!!!」

 

 俺は地面に崩れ落ちた。

 

「教育的指導よ?甘んじて受けなさい」

 

「ちくしょう...」

 

「あらあらイッセー君」

 

「まぁどんな理由だとしても安心してくれよイッセー君。僕がきっと君を、仲間を守ってみせるさ」

 

「頼もしいこった...なら今助けてくれないか?」

 

「それはできないかな?」

 

「騎士の誓いはどこいった木場ぁ!」

 

 といつものように漫才をしていると

 

「アザゼルは昔からああいう男だよ、リアス」

 

 突然声が聞こえたので、そっちへ視線を移すと、赤い髪の男が微笑んでいた。

 アーシアとゼノヴィア以外は跪いた。俺はすぐにこの人が魔王サーゼクス様とわかったので、アーシアとゼノヴィアに魔王様だと言ってやる。

 二人が驚いた顔をしたあと、二人は跪いた。

 ちなみに俺は最初から土下寝している。この中で一番平伏してるぜ?

 

「お、お、お、お兄さま!」

 

 部長が驚いた顔をしていた。

 

「先日のコカビエルのような事はしないさ。彼は悪戯好きなんだ。しかし、予定よりも随分早い到着だな...」

 

 と魔王様が呟く。あっ後ろにグレイフィアさんも居る。お久しぶりっすね、関わりないけど。

 

「くつろいでくれたまえ皆。今日はプライベートさ。しかし我が妹よ。年頃の娘が集まるにしてはこの部屋は少々殺風景ではないか?」

 

「どうしてここへ...?」

 

 部長は困惑していた。

 

「それはね。授業参観とやらがあると聞いたからさ。私も参加しようと思ったのだよ。安心しなさい、父上もちゃんとお越しになられる」

 

「そうではありません!魔王が仕事を放り出して一悪魔を特別視するなんて...!」

 

 でも魔王ってシスコンじゃないとなれないんじゃなかったでしたっけ?

 サーゼクス様とセラフォルー様だけ?半数そうなら四捨五入だよ。

 

「いやいや仕事でもあるさ。ここで三すくみの会談を開こうと思ってね。下見も兼ねている」

 

 それからしばらく他の奴らと言葉を交わし、去っていった。

 

 あんなに人当たりがよくて優しいのに、やってる事は嵐のような人だな...突然現れて、去っていったぞ...

 流石超越者...

 あの...部長、いい加減術式を...

 

 ────────────────────────

 

 今日はプール掃除の日だ。

 正直めんどくさいけど、アーシアの水着が見れるなら大歓迎だ!

 

 俺はアーシアと手を繋いで一緒に出たが、ゼノヴィアと合流すると離されてしまった...!

 

 あぁ...!ご無体な...!

 

 結局ゼノヴィアとアーシアは見事に仲良くなった。アーシアも喜んでいるようなので満足だが、アーシアが俺から少し離れてしまったようでちょっと寂しい。

 

 ........

 

「イッセーさんとプールで遊べるなんて楽しみです!」

 

 アーシア満面の笑み。俺、満面の笑み。

 

「あぁ!いっぱい遊ぼうぜ!」

 

 アーシアはスクール水着だった。

 なんでも桐生に相談した所、学校のプールなら普通の水着よりもスク水の方がいいと言われたらしい。お前は俺の何を知ってるんだ桐生...全部知られてそうで震える...あいつ、俺のツボを尽く貫きやがる...

 アーシア関連の俺のツボが広すぎるとも言える。

 

「アーシア!スクール水着も似合うな!最高だ!」

 

「ありがとうございます!」

 

 特に太ももがいいよ。ヒップが素晴らしい...

 流石はアーシア...

 そして健康的な笑顔が環境衣装全てにマッチしている...!金の髪も最高のアクセントだ!全体的に輝いてる!!

 

「あら?私たちには何かないのかしら?」

 

 部長と朱乃さんが現れた。

 

「え?あぁ似合ってますよ。キレイキレイ」

 

 俺は適当に答えた。プール掃除に気合いを入れるアーシアの観察で忙しいのだ。

 

「イッセー?もう少し女性の扱いを学んだ方が良いのではなくて?」

 

 部長がいつもの球体を持ち出す。

 

「部長!なんでそんなもん持ってきてるんすか!知ってたらもうちょいおべっか言いましたよ!やめてください!」

 

 俺はプールサイドとキスさせられた...

 

 ────────────────────────

 

 今俺は部長の命令でアーシアと小猫ちゃんの水泳授業を行っている。

 授業を命題づけるからにはアーシアも小猫ちゃんも平等に真剣に指導する。

 アーシアとの水遊びはプライベートでプールに行こう...

 

「......悪かったですね。お邪魔して」

 

 小猫ちゃんがそんな事を言ってきた。

 

「いやいや、ゲームで水の中での戦いとかあるかもしれないし、泳げない二人が少しでも泳げるように頑張って指導するぜ?」

 

「......そうですか。よろしくおねがいします」

 

 以外に素直に返事してくれた。

 

 ちなみにアーシアはクロールまでできるようになったが、小猫ちゃんはそんなに進まなかった。猫だから?

 

「まぁ小猫ちゃん...一度ついた苦手意識はなかなか取れないから、時間が解決してくれるのを待つしかないさ」

 

「....はい。また今度頑張ります...」

 

 ちょっと悲しそうだった。

 

「まぁでも!ばた足で一回25m泳げたじゃん!間違いなく前進してるよ!」

 

「....はい。ありがとうございます」

 

 少し恥ずかしそうにしていた。

 

 今日は練習を終わりにした俺達三人は、プールサイドで休憩する事にした。

 

 アーシアはかなり疲れてしまったようで、うとうとしていたので、腕枕を貸してあげた。

 アーシアは俺に体を寄せて寝転ぶと、すぐに眠ってしまった。

 可愛い...けど!やっぱりパジャマとスク水じゃ感覚が...!

 パジャマはそろそろ、愛する人と抱きしめ合える安心感みたいなのを感じるようになってきたけど、スク水は新感覚...!!眠れん!!

 まぁいいや、俺はアーシアの枕。枕一誠。

 

 横で小猫ちゃんは本読んでた。濡れない?大丈夫?

 でもプールサイドで読書ってちょっと夢があるよね。

 絶対家とか図書館の方が快適なんだけど、外で読みたくなる気持ちはわかる。

 そして小猫ちゃんはそういうロマンとか意外にわかる質の悪魔だ。

 

「兵藤一誠。アーシアは寝てしまったのかい?」

 

「ん?あぁゼノヴィア。遅かったな。アーシアは結構泳いだから...まぁ軽い昼寝だよ。じきに目を覚ますだろうからその時に遊んでやってくれ。」

 

「わかった。しかし君は本当にアーシアと仲睦まじいのだな。あの時君が私に突っかかってきた理由が良くわかるよ。」

 

「そうだな。ってかあの時の事はお互い水に流すって言ったろ?忘れろ忘れろ」

 

「そうだったね。にしても、ここの眷属は女性ばかりだな...男だから強いだの女だから弱いだのと言うつもりは全くないが、もう少し男が居てもいい物じゃないのか?」

 

「そりゃお前、裏の世界知ってりゃ性差なんて気にしてられねぇぜ。皆強えぇもん...何回女の顔面殴ったかな...あれ?やっぱり俺って最低?」

 

「いいや?問題ないだろう。そんな事を気にする女は戦いの場に現れんさ。変に気にする方が失礼だと思うが?」

 

「それもそうか...一理あるな。よしこれからも俺は女の顔面を殴っていくぜ!」

 

「......字面が最低です...」

 

 小猫ちゃんにつっこまれた。

 

「んん...イッセーさん...?」

 

「あぁ悪い、アーシア。起こしちゃったか?」

 

「いえ...ゆっくりできましたから」

 

 アーシアが上目遣いで俺にそう微笑む。可愛い。

 

「ほら、ゼノヴィアがアーシアと遊びたいってよ。行ってこいよ」

 

「はい!ゼノヴィアさん、行きましょう!」

 

「ん...ああ!」

 

 アーシアが行っちゃった...いや行かせたんだけど。

 まぁいいや、このままプールサイドでアーシアが遊ぶ姿を楽しむとしよう。

 

「あら、イッセー。お姫様の枕は終わりかしら?」

 

「なんですかその嫌味な言い方...怖いんですけど?」

 

「ふふ...直感が鋭くなってきたわね。そうよ、今からは特訓よ?」

 

 俺は部長にプールへと投げられると同時に術式を起動された。

 

「溺れ死なないように頑張ってね?」

 

「このやろぉぉぉぉぉぉ!!!!おぼぼぼぼ!!!ブハッ!!死ぬ!!!ぐぶぶぶぶぶ!!!」

 

 俺は何をさせられてるんだ...?

 部長は俺をどうしたいんだ...?

 

 ────────────────────────

 

 奇跡の生還を果たした俺は水着を着替えて、校門の方へ歩いていた。

 すっげぇ美少年が銀髪を風に靡かせて校舎を見ていた。ヴァーリやんけ...

 

「やぁ、いい学校だね?」

 

「そうですね」

 

 俺は適当に返す。

 

「俺はヴァーリ。白龍皇、白い龍だ」

 

「....この前ぶりだな。まだ全然強くなってないんで帰って貰えますか?」

 

「連れないな...今日はそういうつもりじゃないんだが」

 

「なら良かった。戦いじゃないならなんでもいいぜ?何が目的だ?」

 

「キミはこの世界で自分が何番目に強いと思う?」

 

 唐突だな...強い上級悪魔だろ?最上級悪魔だろ?超越者だろ?たくさんの堕天使にたくさんの天使に、他にも大勢の野良強者だろ?他の神話体系も居るし、数多すぎてわからんな。

 って何真面目に考えてるんだろ...

 

「あー...5000とかか?」

 

「へぇ意外にいい線行くじゃないか。まぁもう少し上でもいいけれど、大体そんな感じだ。」

 

 絶対もっといそう...

 

「この世界には強い物が多い。超越者と呼ばれるサーゼクス・ルシファーですらトップ10に入らない。だが、一位は決まっている。不動の存在が。」

 

DxD(ドラゴン・オブ・ドラゴン)。グレートレッドだろ?ドライグに聞いたよ。」

 

 まぁDxDも一位じゃないけど。

 

「へぇ...キミは僕が思っていたよりは利口みたいだね。ほんの少しだけ評価を修正してあげるよ」

 

「バカいえ。ドライグが物知りなだけだ...」

 

「ふぅん。まぁいいや。二天龍と関わった者は皆ろくな生き形をしていない。あなたはどうなるんだろうね?リアス・グレモリー」

 

 部長と皆が出てきた。

 そんなに心配しなくてもいいのにね。

 敵意とかは全くないし。

 まぁ白と赤が揃ったら戦うってのが裏の常識か...

 

「余計なお世話よ?白龍皇。それで?何をしに来たのかしら?」

 

「彼にも言ったけど、今日は戦いに来たわけじゃない。アザゼルの付き添いで来日していてね。ただの退屈しのぎだ。まだ、赤い龍とは戦わない。俺にはやることが多いんだ。じゃあね赤龍帝、また会おう。」

 

「え?あぁ...じゃあね?」

 

 ヴァーリは帰っていった。

 え?何しに来たの? 



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第27話。 現れました、吸血鬼!

 今日は授業参観の日であった。父さんまでアーシアを見るために来るらしい。気持ちはわかる。仕事とアーシアなら間違いなくアーシア優先だ。

 

「イッセー、アーシアちゃん。後でお父さんと一緒に行くからね!」

 

「アーシアの事しっかり撮ってくれよ!アーシアの席は俺より後ろ側だからアーシアの授業風景見れないんだよ!頼むぜ!!俺だってアーシアの授業参観したいんだからな!」

 

「言われなくてもしっかり全部納めてみせるわ!」

 

「絶対だからな!俺にかけるリソースも全部アーシアに回すくらいの勢いで頼みます!!」

 

「あらあら、そういうわけにもいかないわ。あなたも大事な息子だもの。」

 

「.......そっか。...なら、俺とアーシアで1ずつならアーシアに1.5くらいで頼むわ。」

 

「え?アーシアちゃんに1.9よ?」

 

「さっきの感動返してくれない!?」

 

 アーシアはクスクス笑っていた。

 

 ────────────────────────

 

 教室につくなり、桐生が俺達に絡んできた。

 

「おはよう二人とも~。今日は授業参観だし、しっかりイッセーの御両親さんに二人の学校での熱々具合を見せてあげないとね~~!」

 

「はん...!学校でやってる事なんて家では日常茶飯事だっての。既に俺達にとっちゃ日常だぜ。」

 

「へぇ~...そうなんだぁ...ふぅん...?」

 

「な...なんだよ...!」

 

「いやいや~。でもさ~、ふふふ...2日前の2階の廊下...」

 

「なっ!!」

 

 ちょっとアーシアといい雰囲気になって、周りに誰もいないからってキスしてしまったあの日の事か...!!なんで知ってるんだ!!!

 

「んふふ~。順調に進んでるようでお姉さん嬉しいよ~。そういえばアーシアー?お風呂で誘惑するってのはどうなっちゃったの~?ん~?」

 

「う...はぅ...」

 

 アーシアは顔が赤くなってしまった。

 勿論俺も真っ赤っかだ...

 

「ん~。ありゃ...失敗しちゃったか~...でもあれ~?それにしては関係が進展してな~い?ふふふ、そういえばちょっとぎこちない感じの時あったよね~。その後だったかな~二人がもっと仲良くなったの。んん?二人で試練を乗り越えて、より愛を深め合ったみたいな~?」

 

「うっ...」「はぅ...」

 

 俺は...俺とアーシアは一生こいつのおもちゃになるのだろうか...

 だって最初は参観の話だったのに...

 強すぎる...

 

「んふふ。まぁ今日はこんな所にしといてあげようかな?もうちょっと待った方が美味しそうだし~」

 

 何を待つと言うのだ...!!

 俺は恐怖した。

 

 ────────────────────────

 

 授業参観は英語の授業だ。粘土を使って好きなものを作るのだそうだ。これもまた英会話らしい。

 英会話は奥が深い...んなわけあるか。

 

 俺が好きなもの...アーシア。

 でもアーシアを作ろうとしても多分うまくいかない...不完全なアーシアを作るくらいなら何もしない方がましだ。

 

 アーシアは早速作業に着手している。

 

「アーシアちゃんファイトよ!」「アーシアちゃん可愛いぞ!」

 

 俺の両親だ。完全にアーシアの親と化しているな。

 アーシアも気付いて嬉しそうにしている。

 可愛い、可愛いぞアーシア。

 

 って後ろばっか見てるわけにはいかねぇな。

 俺も何か作らないと...

 

 ん────ー...やばい...俺は何が好きなんだ...?

 あれ?アーシア以外に俺の生活って何かなかったっけ?あれ?

 俺ってアーシアが居なくなったら無になっちゃう?

 あれ?

 

 俺が好きなもの...

 

 考えても浮かばないのでドラゴンを作る事にした。

 ドライグにはお世話になってるからな!!

 ちなみに全然下手くそだった...

 まぁそうだよな...俺手先器用じゃないもん。

 

 ────────────────────────

 

 昼休み、部長、俺、アーシア、朱乃さんが集合していた。

 自販機前でばったりだ。

 少々雑談していると、更に木場が入ってきた。

 なんでも、魔法少女が撮影会をしているらしい。

 それ、魔王少女じゃないの?

 

 体育館に入ると、大量のフラッシュが焚かれていた。

 すごい人だかりだ...!コミケでレイヤーを囲む集団と全く同じものが出来ている...!

 

 これは...!ミルたんと見た「魔法少女ミルキースパイラル7オルタナティブ」のミルキー!!!

 

 色んな意味で忘れることが出来ない名作だ!!

 思い出す度にミルたんへの恐怖で体が震える!!

 なぜか直接ミルたんと会っている時は一切恐怖を感じないのに、記憶のミルたんは俺に恐怖を刻んで来るのだ...

 

 震える俺をアーシアが引っ付いて慰めてくれる...ありがとうアーシア...

 

「オラオラ!天下の往来で撮影会たーいいご身分だぜ!解散解散!こんな所で騒ぎを起こすな!」

 

 匙が現れた。後ろから他の生徒会メンバーも現れる。

 カメコは渋々帰っていった...

 残ったのは俺達と魔王少女と生徒会...

 

「あんたもそんな格好しないでくれ...親御さんですか?」

 

「えー、でも、これが私の正装なんだもん☆」

 

 きっつ...いや顔は可愛いんだけど、これが魔王なのきっつ...

 これで俺よりめっっっっっっっっちゃくちゃ強いのきっつ...

 

 などと考えていると、後方から会長先導でサーゼクス様と部長のパパ上が現れた。

 

「ソーナちゃん!見つけた☆」

 

 魔王少女は会長を抱擁する。

 

「セラフォルーか。君も来ていたんだな」

 

 サーゼクス様は見慣れた物のようだ。同類ですしね。

 

「セラフォルー様、お久しぶりです」

 

「リアスちゃん☆おひさ~☆元気にしてましたか?」

 

 きつい...!可愛いのは認めるし、似合ってるのも認めるのに感じるこのそこはかとないきつさはどこから漂って来るんだ...!

 

「イッセー。ご挨拶なさい。」

 

「え?あ!は、初めまして...兵藤一誠です。リアス・グレモリー様の兵士です。よろしくおねがいします...」

 

「はじめまして☆私、魔王セラフォルー・レヴィアタンです☆よろしくね☆」

 

 う...うるせぇ....セリフがキラキラうるさすぎる...

 

 あー、アーシアが魔法少女の衣装来てくれないかなー。

 シスターベースでさ、敵を自慢の天使の笑顔で浄化するんだ...いいなぁ...みたいなぁ...

 そして俺も浄化してくれ...

 

「うぅ、もう耐えられません!」

 

 会長が逃げていった。可哀想に...魔王少女がそれを追いかける...

 

 どさくさに紛れて、サーゼクス様が部長の事リーアたんとか言ってる...

 同類に再会して化けの皮を剥がすな。

 お父さんもリーアたん呼びで怒っている部長の顔を撮影して喜んでいた。

 こいつなんで約束破ってライザーとの婚約進めたんだ?

 

 やっぱり魔王関係者とは関わりたくないなと思いました。

 部長や会長はまともなので問題ないです。

 

 ────────────────────────

 

 家に帰った俺とアーシアは家族で撮影された物を視聴する事になった。

 あぁアーシア...動画でもアーシアの素晴らしさは全く衰えないね?

 一生懸命粘土を弄るアーシア可愛い。

 一生眺めていたい...そして俺は粘土になりたい...

 

 こういうのって結構恥ずかしいものだけど、アーシアは喜んでいた。良かった。これで恥ずかしいですとか言われたら俺は断腸の思いでデータを破壊しなければならない所だった...

 後でデータ複製してもらお...

 

 ────────────────────────

 

 次の日の放課後、部室に行くと空かずの教室、つまりはギャー助の部屋に連れていかれた。

 

 あぁそういう時期か...まじでヴァーリとの戦いが近いな...

 一応努力はしてるけど、まぁそんなに短期間で強くなれるものでもない...

 

『今なら20分は稼働できる。』

 

 5分しか変わってねぇ...いや5分もと言うべきか...?

 

『お前の言う2号での訓練が役にたっているな...あれは間違いなくお前の体力を急激に上昇させている...』

 

 まじか...ありがとうございます部長...でも恨みは絶対忘れません...

 

「さて、扉を開けるわ」

 

 扉にかかっていた刻印が消え去って、扉が開かれる。

 

「イヤァァァァァァァァァァァァァ!!!!」

 

 うるっっせぇ!!叫びすぎだろ...

 

 中で部長と朱乃さんとギャスパーが喋ってるらしい。

 

「やですぅぅぅぅぅ!ここがいいですぅぅぅぅぅ!!!外に行きたくない!人に会いたくないぃぃぃぃい!!!」

 

 めっちゃ叫んどるな...

 そのバイタリティーを外出に当てるんだギャスパー!

 

 他の部員メンバーも木場を先頭に続々と入っていく。

 中には可愛らしい部屋と、部屋のど真ん中にある場違いな棺、その中にうずくまる、金髪赤目美少女風女装引きこもり神器持ちハーフ吸血鬼がいた。属性が多すぎる...

 

「女の子なんですね!私も僧侶なので嬉しいです!」

 

 アーシアが言う。

 

「見た目女の子だけど、この子は紛れもなく男の子よ?」

 

「へ?」

 

 アーシアが困惑している。

 

「女装趣味があるの。」

 

「そ...そうなんですか...?」

 

 アーシアの頭にはてなが浮かんでいる。可哀想にアーシア...こんな属性もりもりのわけわからん奴に突然出会って混乱しちゃってるよ...でも混乱アーシア可愛い。

 

「あ、あ、あの、この方達は誰ですか?」

 

 ギャー助が俺達を見てそう言った。

 

「新しく増えた眷属よ?兵士のイッセー。僧侶のアーシア。騎士のゼノヴィア。」

 

「ヒィィィ!人が増えてる!!!」

 

「お願いだから外に出ましょう?もうあなたは封印されなくていいのよ?」

 

 部長がそう言うが、ギャスパーは嫌だ嫌だと首を振るだけだ。

 

「そういえばなんでこいつは封印されてたんですか?」

 

 俺は話を進める為に質問する。

 

「この子がもつ神器(セイクリッド・ギア)は視界に写した全ての物体の時間を一定の間停止できる神器(セイクリッド・ギア)なの。ただ...興奮すると暴走してしまうのよね...それが危険で、私の力では制御しきれないだろうという事で、封印されていたの」

 

「なるほど...」

 

 ────────────────────────

 

 俺達はギャスパーの説明を一通り聞いた。

 

 生きてるだけで禁手(バランス・ブレイカー)に至る可能性があるとか...その才能を俺にちょっと分けてくれよ...

 

「ぼ、ぼくの話なんてしないでくださいぃぃぃ...」

 

 段ボールから、声が聞こえる。

 段ボールヴァンパイア伝説の始まりだ...

 

「ただ、能力としては朱乃の次なんじゃないかしら?ハーフとはいえ、吸血鬼の名家の家柄だし、強力な神器(セイクリッド・ギア)も人間としての部分で扱える。吸血鬼の力にも、人間の魔術にも秀でている。とてもじゃないけど僧侶の駒一つで手に入る人材じゃないわね。」

 

 はえ~としか言いようがない...

 

 小猫ちゃんがかなり辛辣な一言で抉っている...

 他にも皆結構好き勝手ズバズバ言ってんな...こういう引きこもりだのは時間をかけた相互理解がだな...

 

「私と朱乃、祐斗の三人は三すくみのトップ会談の用事があるから、それまでの間だけでも皆でギャスパーの教育を頼むわね」

 

 丸投げかい...いや、会談のがはるかに重要だからいいんだけどね。

 まぁ俺らの顔合わせと同時に仲良くなっときなさいって感じかな?

 

 三人は出ていってしまった。

 

「さて、どうしようか...」

 

「兵藤一誠、私がこいつを鍛えよう。軟弱な男はダメだ。それに吸血鬼の扱いには理解がある。何度も殺してきたからな。」

 

 ゼノヴィアがまさかの立候補。

 殺す技術は全く必要ないと思うよ?

 

「...ちなみに何をするつもりだ?」

 

「健全な肉体にこそ健全な精神は宿るのだ。」

 

 ..........

 

 ゼノヴィアがデュランタダルを振り回してギャスパーを追いかける...

 

「ヒィィィぃぃぃぃ!!!殺されるぅぅぅぅ!!!」

 

 ギャー助...可哀想に...

 

「私と同じ僧侶さんにお会いできて光栄でしたのに、目も合わせて貰えませんでした...ぐすっ」

 

 アーシアが少し泣いている...

 は?ギャー助お前...

 

「おおおおおおい!!ギャスパー!!!ちょっっと面かせやぁぁぁああ!!!」

 

 俺はギャスパーをゼノヴィアと一緒に追いかける。

 なんならゼノヴィアはギャスパーに合わせているが俺は合わせないのですぐに捕まえた。

 

「ひっっ...ひぃぃぃぃぃ!!!!」

 

「おいおい落ち着け...別に取って食いはしねぇよ。ただな?...お前と同じ僧侶にアーシアって子がいてな?お前に無視されたって泣いてんだよ。」

 

 俺はギャスパーの肩をつかんだ。

 

「お前が引きこもりなのはわかった。そこは考慮してやる。だが、アーシアには挨拶しような?わかったか?」

 

「ヒィィィぃぃぃぃ!!わかりましたぁぁぁぁぁぁ!!!わかりましたから離してくださぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!」

 

 うるっせぇ!鼓膜が...!

 

 俺は離してやった。

 アーシアが俺を追いかけて来た。

 

「よし、あの金髪の天使がアーシアだ。」

 

「天使なんですかぁぁぁぁぁ!!??」

 

「物の例えだろうが!じゃああの金髪の最高に可愛い女の子がいるだろう?あれがアーシアだ。さ、挨拶くらいしてやってくれ。ホントに同じ僧侶の事楽しみにしてたんだ。」

 

「うぅぅぅぅぅはいぃぃぃぃぃぃ...」

 

「イッセーさん!はぁはぁ...急に走ってどうしたんですか?」

 

「ほらギャスパー。」

 

「うううう...僧侶のギャスパーです...よろしくおねがいします...」

 

「はい!同じ僧侶のアーシア・アルジェントと申します!よろしくおねがいしますね!」

 

 アーシアはぱぁぁと顔が明るくなって、挨拶をした。

 

「良かったなアーシア!」

 

「はい!」

 

 可愛い。

 

「悪かったなギャスパー怖がらせて、でも挨拶くらいはしっかりしようぜ?悲しむ人もいるんだからな?」

 

「は...はいぃぃぃ...」

 

「おっ...その子が例の引きこもり眷属か?」

 

「ん?おぉ匙!そうだぜ。ちなみにオスだ」

 

「は?」

 

「女装趣味だ」

 

「まじか...引きこもりで女装とか大分きめてんな...」

 

「へぇ。魔王妹の眷属の悪魔さん方はここで集まってお遊戯してるわけか」

 

「アザゼル...様?さん?総督?」

 

「あ?アザゼルでいいよ。俺はお前の上司でもなんでもねぇんだしな」

 

「兵藤!アザゼルって!」

 

「ん、あぁ...そのアザゼルだ」

 

 匙が戦闘態勢に入る。ゼノヴィアも同じく。

 

「やめとけやめとけ。コカビエルにも勝てなかった奴らが俺に敵うわけねぇだろが。...なぁ聖魔剣使いはいるか?ちょっと見に来たんだが」

 

「木場は今居ないですよ」

 

「あ?んだよつまんねぇな...おい、そこに隠れてるヴァンパイア」

 

 ギャスパーがびくりと体を震わせて草むらから出てくる...

 

停止世界の邪眼(フォービドゥン・バロール・ビュー)の持ち主なんだろ?神器(セイクリッド・ギア)の補助具で不足している要素を補えればいいと思うんだが...あー悪魔は神器(セイクリッド・ギア)の研究が進んでなかったな」

 

 アザゼルは匙の方を見る。

 

「お前のその神器(セイクリッド・ギア)黒い龍脈(アブソープション・ライン)でこのヴァンパイアに接続してやれよ。余分なパワーを吸い取りつつ発動すりゃ暴走も少なく済むだろうぜ」

 

「...お、俺の神器(セイクリッド・ギア)、相手の神器(セイクリッド・ギア)の力も吸えるのか?ただ単に敵のパワーを吸いとって弱らせる物かと...」

 

「かー!これだから最近の神器(セイクリッド・ギア)保有者は自分の力を録に知ろうとしない。そいつは五大竜王の一匹、「黒邪の龍王」ヴリトラの力を宿している。そいつはなんにでもラインを接続して、力を散らせるんだ。成長すればラインの数も増えるぞ?そうすりゃ吸い取りの出力も本数だけ倍になる」

 

「まぁ神器(セイクリッド・ギア)の成長で一番手っ取り早いのは、そこの赤龍帝の血を飲むことだ。ヴァンパイアには血でも飲ましてりゃ強くなるさ。後はお前らでやってくれ」

 

 そういって去っていった。

 アドバイスだけして消えていく...!

 流石はアザエモンだ!!的確なアドバイスですごいぜ!



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第28話。 貰います、聖剣!

 アザエモンが去った後、ギャスパーに匙がラインを着けての特訓が始まった。

 

 俺やアーシアが投げるボールが視界に写った瞬間に停止する。

 停止した物体はだいたい数分間完全に停止する。

 停められたのが生き物なら、その意識まで停止するので停められてる間の記憶はないし、何をされても知覚されない。

 まぁシンプルに強い...

 一応ギャスパーよりもかなり強い奴には効かないらしいけど。

 自分との距離によって停止させられる時間は変化するらしい。

 あっアーシアが暴投した。可愛い。

 

 ギャスパーは現在視界に写るもの全部を停止させているので、ふとした拍子に事故が起こる。

 

 俺は今、頭以外停められてしまった。

 俺を心配して近づいたアーシアは完全に停められてる。

 

 これ...結構ひどい拷問とかできそうですけど...大丈夫ですか?

 

「どう?練習は捗っているかしら?」

 

 部長が降りてきた。

 俺達の為にサンドイッチ作ってきてくれたらしい。

 アーシアほどじゃないが普通に旨い。

 

 匙も喜んでいた。

 

「リアス先輩も帰ってきたし、俺はそろそろ自分の仕事に戻るぜ」

 

「おう、ありがとな匙。助かったわ」

 

「ん、おう。まぁ俺も神器(セイクリッド・ギア)について収穫あったからな。いいって事よ!じゃあな!リアス先輩も失礼します!」

 

「えぇ、ありがとうね匙くん。」

 

 匙は去っていた。

 

「さて、私も一緒に練習に付き合うわ。」

 

 部長がそう言ったので、俺は

 

「あの、じゃあ俺自分の特訓に行っても良いですかね?ギャスパーの特訓に付き合うのも大事ですけど、部長がいるなら十分でしょうし、俺もっと強くなりたいんです」

 

「そう?ふふ、白い龍に当てられたのかしら?まぁなら、好きになさい。これも付けてあげるから」

 

 部長が2号を起動した。

 

「ありがとうございまっっっっっっんん!!んぎぎぎぎ...」

 

 俺はまともに動かない体を引きずって地面を這いだした。

 少しでも強くならないと...

 ヴァーリの戦いを見て、あの時俺が感じたのは憧憬であった。

 あいつのように強くなりたい...

 あいつに一泡吹かせてやりたい...

 

「イッセーさん!私も一緒に行きます!」

 

「アーシア!ありがとう!よっしゃ!!!んぎぎぎぎぎ!!」

 

 俺はその時...ついに立ち上がる事ができた!

 

「すごいですイッセーさん!!」

 

 アーシアが褒めてくれる...

 

「ぬん!んぐぐ...ふん!」

 

 俺は一歩一歩踏みしめるように歩いていく...

 

 5歩歩いた所で地面とキスした。

 

 まだまだぁ!!!

 

「イッセー先輩...」

 

 ギャスパーがこちらを見ていた....

 

 ────────────────────────

 

 その日の夜、俺はギャスパーを連れて仕事に向かった。

 

 森沢さんは男の娘フェチだったようで、大いにギャスパーを震え上がらせてしまった。

 森沢さん...あんた公務員なんじゃないのか...

 ショタを襲おうとするんじゃないよ...

 

 見事にギャスパーの神器(セイクリッド・ギア)の餌食になっていた。

 

 ........

 

「ギャスパー、出てきてちょうだい。無理してイッセーに連れて行かせた私が悪かったわ。」

 

「ふぇぇぇぇぇぇぇえん!!!」

 

 例の部屋に閉じ籠ったギャスパーは大声で泣き喚いている...

 まぁ、こいつも可哀想な奴だ。吸血鬼の名家で、こいつは化物だとネグレクトされ続けていたのだ。ギャスパーのもうひとつの姿を知らない奴からも、ハーフだの化け物だのと虐められて来た...

 

「ぼ...僕はこんな神器(セイクリッド・ギア)要らない!だ、だって皆停まっちゃうんだ!僕だって...!仲間を停めたくない!皆の停まってる顔を見るのは嫌だ!!」

 

 まぁ、気持ちはわからないでもない。俺も兵藤一誠に憑依したとわかって暫くたった頃はベッドの中でどうしてこんな事に...神器(セイクリッド・ギア)が発現したら殺されるかもと、怖がっていた時期もあった。

 まぁ俺の場合は話の先行きがわかっていたから、動くしかないと決めれたけれど...

 

「困ったわ...この子をまた引きこもらせてしまうなんて、王失格ね...」

 

「そんな事ないですよ」

 

「あら、慰めてくれるのかしら?」

 

「まぁ、部長にはお世話になってます。部長はこれから打ち合わせですよね?俺が引き継ぎますんで、そっちに行ってください。こっちは俺に任せてくださいよ」

 

「....お願いするわね?」

 

「はい」

 

 部長が向こうに行ったのを確認すると、俺は扉の外からギャスパーに話しかけた。

 

「なぁギャスパー。お前は神器(セイクリッド・ギア)が怖いか?俺は...俺も最初は怖かったぜ?」

 

「......」

 

「俺はなんの力もないただの人間だったのにさ、神滅具(ロンギヌス)なんていうとんでもない神器(セイクリッド・ギア)が引っ付いてるってわかってさ...まぁいつ誰に狙われるかってビクビクしてたよ...でも、死にたくないから頑張って少しでも強くなろうって...今までやってきた。結局堕天使に殺されて悪魔に転生したんだけどな」

 

「.....先輩はどうして、前を向けたんですか?」

 

「あ?全然向けてなかったぜ、その当時は。死にたくなかっただけだ。でもさ...今は違う。アーシア、わかるだろ?あの子だ。あの子は俺の恋人なんだ。何に代えても守りたい大切な人だ。だから俺は頑張れる。前を向ける」

 

「せんぱい...」

 

「まぁ、お前も何か守りたいものを見つけろって事だ!それは力になる。原動力になる。仲間でもなんでもいい。少なくとも部長とか眷属の皆の事は好きだろ?」

 

「でも...僕じゃご迷惑をお掛けするだけで...神器(セイクリッド・ギア)もまともに使えないし...」

 

「俺もまともに使えてねぇんだぜ?俺のライバル、俺の対になる神器(セイクリッド・ギア)を持ってる白龍皇は俺よりずっっっっっと強いんだ。俺が死力を尽くして、部長に協力してもらってようやくダメージを与えたような奴を、あっという間に、赤子の手を捻るように倒してた。それを見た俺は悔しかったし、なにより憧れた...」

 

「だからさ、一緒に強くなろうぜ?俺も協力するからさ。神器(セイクリッド・ギア)も体も魔力も...全部まっっったく足りないんだ。俺もお前と一緒だよ。いや、お前の方が前に進んでるな!お前はすごい力を持ってるし!」

 

「イッセー先輩...」

 

「俺の血飲むか?アザゼルも言ってたし多分神器(セイクリッド・ギア)の扱いがマシになると思うぜ?」

 

「怖いです...生きた人から直接血を吸うのは...これ以上何かが高まったらと考えると僕は...」

 

「大丈夫だよ、お前なら。きっとすぐなんでもできるようになるさ」

 

「イッセー先輩に僕の何が...!」

 

「わかるよ。だってお前は今日ずっと籠っていた部屋から出た。ゼノヴィアから逃げてた。神器(セイクリッド・ギア)の修行を匙や皆とやってた。人と会いたくない、部屋から出たくないって言ってたお前がだぞ?確かに怖くて必死だったのかも知れないが、それでもお前はそれだけの事ができたんだ。お前はすごいんだぜ?俺が保証してやるよ」

 

「イッセー先輩...」

 

 ギャスパーが出てきた。

 

「ほらな?今お前は自分から部屋を出れた。やっぱりお前はすごいよ。俺なんか何年も体鍛えてるのに、一向に強くなってる気がしないんだぜ?」

 

「僕...まだ怖いですけど...もう少し頑張ってみます...イッセー先輩みたいに、頑張ってみたいです!」

 

「おう...一緒に頑張ろうぜ」

 

 まぁ、ギャスパーが少しだけでも前を向けたようで良かった。

 説得とかあんまり柄じゃないからな...

 ちょっと恥ずかしかったけど、言いたいことは言えたし、まぁなんとかなったかな?

 

 ────────────────────────

 

 次の日の休日、朱乃さんに呼び出された。

 

 部活メンバーで朱乃さんだけいまいち接点がないんだよなぁ...

 まぁ魔力について教わるくらいだ。

 

 これは確か...アスカロンを貰うイベントだったか?

 ヴァーリ戦、絶対に必要になるはずだ...

 あっても勝てないのに、貰わない手はない...

 

「いらっしゃいイッセーくん」

 

「朱乃さん、こんにちわ」

 

 朱乃さんは巫女服だった。

 

「ごめんなさいね、急に呼び出して」

 

「いえ、それは構わないんですけど、用件はなんですか?」

 

「この先に着けばわかりますから、いきましょうか?」

 

 俺は黙ってついていく...

 確か、ここが朱乃さんの家なんだっけ?

 

「彼が赤龍帝ですか?」

 

 神社から声が聞こえる。そちらを見ると、黄金の12枚の羽を持つ、天使のわっかを携えた、美少年がいた。

 

「私はミカエル。天使の長をしております。なるほど...このオーラの質、まさしくドライグですね。懐かしい限りです」

 

 おい、ドライグ、謝っとけよ、迷惑かけたんだろ?

 

『バカ言うな。こいつらが俺達の戦いに横やりをいれたのだろうが...』

 

 絶対お前らが三すくみの大戦に横やり入れたんだけどな...まぁさすがに冗談だ。てか今さらお前が謝ったらめっちゃ困惑しそうだよな。やっぱ見たいからしてくれよ。

 

『貴様なぁ!』

 

 ────────────────────────

 

「実はあなたにこれを授けようと思いまして...」

 

 ミカエルさんがそう言うと、宙に聖剣が浮かんでいた。

 

「これはゲオルギウス、聖ジョージの持っていた龍殺しの聖剣アスカロンです。特殊な儀礼を施しているので悪魔のあなたでも扱えるはずです。あなたが持つというよりはその神器(セイクリッド・ギア)に同化させるといった形になるでしょうが」

 

 できるよな?ドライグ...

 

『当然だ。やってやろう...』

 

「聖剣だなんてすごくありがたいですけど、本当にこんなすごいものを貰っていいんですか?」

 

 日本人らしく、そんな!貰えません!ムーブをかます。

 

「それは悪魔側へのプレゼントです。こちらも噂の聖魔剣をいくつか頂きましたし。後は...願掛けですね。私たち三勢力が歴史上唯一共闘した、二天龍の討伐。そのうち一匹を宿す神器を持つ君に、願掛けするのですよ。日本的でしょう?まぁ後は...歴代最弱の宿主と言われるあなたに補助武器をと思いまして」

 

 これまじで思ってたけど今までの赤龍帝はどんな力持ってたんだよ...

 

『少なくとも、初めからお前より体はできていたし、闘気を纏ったり、魔術や魔法を使う奴もいた。まぁ単純にお前は俺なしでの戦闘能力が低すぎるんだ。そういう意味でもこの武器はいい補助になるだろうさ。まぁそれすらも俺と同化するわけだが。ククク、本当にお前は俺が居ないとダメだなぁ?相棒』

 

 いっつもそう思ってるっての。まじで感謝してるよお前には。戦闘力的にも、精神的にも....

 俺が一番大切なのはアーシアだけど、お前は間違いなく最高の相棒だ。一番頼れるぜ。

 

『........そうか』

 

 ドライグはそのまま意識を沈めた。

 恥ずかしいこと言っちゃったな...まぁ事実だけど。

 

「この剣はここで最終調整しました。各勢力のトップの皆様の術式が施されていますから、イッセー君でも触れますわ?」

 

 俺は恐る恐る剣を掴んだ。

 よし、大丈夫っぽいな。

 

 俺はブーステッド・ギアを起動すると、剣をゆっくりと籠手に刺していく。

 ドライグが黙って剣と同調してくれるので、俺はそれを取り込んでいく...

 

 赤く光ったと思ったら、籠手から剣が生えていた。うぉお、長さが調整できる!

 俺が調子に乗ってウィンウィン剣を動かしていると

 ミカエル様は苦笑いしていた...

 

「と、時間です。そろそろ行かねば」

 

「あの...ミカエル様!一つ言いたいことがあったんです!会談後で構わないのでお時間いただけませんか?ほんの一瞬で終わりますから!」

 

「いいでしょう。それでは会談の席で」

 

 特に朱乃さんとの話はなかった。

 まぁあんまり関わりないし、堕天使のハーフ云々の話はアーシアでいっぱいいっぱいの俺には荷が重い。俺は"兵藤一誠"ではないのだから、自分で乗り越えて貰うしかないだろう...

 

 ────────────────────────

 

 今日も今日とて、ギャスパーの神器(セイクリッド・ギア)の訓練だ。

 アーシアがボールを投げる。

 俺は2号を身に纏い、ギャスパーにガクガクになりながらボールを投げる。

 一球投げるだけですごい負荷だ...!

 一緒に頑張ると約束した以上、この時間は俺はギャスパーと一緒に修行するぜ!

 

「イッセー先輩...疲れましたよぉ...!」

 

「バカ言うな...!まだまだやるぞ...!見ろ!この生まれたての小鹿のような俺の足を...!それでもやるんだよ!!」

 

「は...はぃいぃいいぃ!!」

 

「イッセーさん!ギャスパーくん!頑張って下さい!」

 

「うぉおおお!!頑張るぞギャスパー!まさかアーシアの激励を貰っておきながら頑張らないなんて事ないよなぁ!!」

 

 俺はギャスパーを睨む。

 

「ひぃぃぃぃい!!!怖いですぅぅぅ!!頑張りますうぅぅぅぅ!!!」

 

 俺達の特訓は俺が倒れるまで続いた。

 いや俺が先に逝くんかい....



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第29話。 倒します、ヴァーリ!

 今日はついに三大勢力の会談の日だ。

 学園全体が強力な結界で覆われ、結界の外には大量の悪魔、堕天使、天使...

 恐ろしいな....誰か一人がやらかしたら全員で戦争になるぞ...?

 怖すぎる...

 

 ギャスパー以外は会談の舞台へと向かった。

 会議室には特注の豪華な机があり、それをそれぞれ、サーゼクス様、マジカルレヴィアたん、ミカエル様、女の天使、アザゼルさん、ヴァーリが囲んでいた。

 

 はっ、美人なのは認めてやるが、所詮は種族が天使なだけの女。概念が天使のアーシアには到底敵わないな!

 とか思ってたら睨まれた。ひえっ、ごめんなさい...

 

 俺達はサーゼクス様に言われて、壁際の席に着席した。

 

 アーシアがガッチガチに緊張していたので、手を握ってあげた。

 アーシアも握り返してくれる。可愛いね。

 

「全員が揃った所で、会談の前提条件を一つ。ここに居る者は皆「神の不在」を知っている。間違いないな?」

 

 サーゼクス様がそう言った。

 

「ではそれを認知しているとして、話を進める。」

 

 

 ............

 

 三すくみの会談はアザゼルさんがうっすらグレーくらいの発言を繰り返し、全員をびくりとさせる以外は特に問題もなくつつがなく進んでいった。

 

「さて、リアス。そろそろ先日の事件について話してもらおうかな。」

 

 部長は手を震わせながらも、毅然と顛末を話し始めた。

 流石は公爵家の娘。がんばえー

 などと考えていると一瞬部長に睨まれた...

 ひえっ!ごめんなさい...小猫ちゃんじゃないのに心読まないで...

 

 部長の話が終わると、アザゼルさんにサーゼクス様が事実かを確認し、アザゼルさんはそうだと答えた。

 ミカエル様からの堕天使の神器(セイクリッド・ギア)集めの真意についての質問も、研究の為だ。なんなら研究資料を渡してやってもいいという発言で乗り越えた。

 ほんとアザゼルさんは飄々としているな...

 すごいぜ...

 

 そして、

 

「お前らなら先代よかましだと思ってたが、結局お前らもめんどくせー奴らだな?あーわかったよ、和平を結ぼうぜ?元々そのつもりだったんだろ?」

 

 そうして、魔王と天使の合意により、無事和平は結ばれた。

 

 はい、結びましょうの一言の為に更に何度も喋ってたけど...お偉いさんは難しい事ばかりで大変そうだ...

 

 その後は具体的な勢力図についてや、和平の諸問題についての話し合いが行われ、会談開始から一時間ほどで一段落ついたようだ。以外に短かったな...

 

「さて、話し合いも片付きましたし、そろそろ赤龍帝殿のお話を聞いてもよろしいかな?」

 

 ミカエル様が俺に尋ねてくれる。

 

「お時間頂き感謝致します」

 

 俺はそう答えた後立ち上がった。

 

「アーシアやゼノヴィアを異端扱いとして、追放したこと。特にアーシアに関しては思うところはありますが、恐らく何かしら理由があっての事だと思います」

 

「そうですね、私たち熾天使(セラフ)がシステムを十全に扱うのは現在困難極まります。あなたたち二人を追放したのは、現在ようやくの状態で回っているシステムに不具合がこれ以上起きないようにするためです。神の不在の知識、悪魔や堕天使を治療できる神器。これらは信徒の信仰に影響を与え、システムに異常が発生する恐れがありました。故に異端としたのです。二人には申し訳ない事をしたと思っています」

 

 ミカエル様は二人に頭を下げた。

 

 ゼノヴィアは首を振り、今の生活に満足しているので頭を下げないでほしいと告げた。

 

 アーシアも...

 

「ミカエルさま、私も今を幸せだと感じております。大切な人達が...愛する人ができて...それに、憧れのミカエル様とお会いできて光栄です!」

 

 そう言ってくれた。俺は少し顔が赤くなった...

 

「あなたたちの寛大な心に感謝します。デュランダルはゼノヴィア、あなたに一任します。下手な輩に使われるよりは安心です。それで?それだけではないのでしょう?」

 

「はい...その、この二人が主に祈ることを許して欲しいんです。折角こうして和平も成ったのですし、悪魔になっても信仰を忘れない二人です。きっと悪影響にはなりません」

 

 ミカエル様は少しだけ驚いた顔をすると、

 

「...いいでしょう。二人くらいならなんとかしてみせましょう。二人とも、神は不在ですが、それでも祈りますか?」

 

「....!はい!主が居られなくともお祈りを捧げたいです!」

 

「同じく、主への感謝とミカエル様への感謝を込めて...」

 

「わかりました。二人くらい祈りを捧げる悪魔が居ても面白いかもしれません。こうして和平も締結されようというのですしね」

 

 そう答えてくれた。

 

「寛大なお心遣い、感謝致します!」

 

 俺は感謝の言葉を述べる。

 

「...!イッセーさん!ありがとうございます!!」

 

 アーシアが俺に抱きつく。俺はアーシアの頭を撫でてやる。

 

「良かったなアーシア...」

 

「はい!」

 

「兵藤一誠。感謝するよ。これで私も祈れる」

 

「気にすんな。アーシアのついでだ。それと、言い忘れてたけど、もう仲間だしイッセーでいいんだぜ?」

 

「ついでとは言うじゃないか...あぁ、わかったよイッセー」

 

 俺達が和やかな雰囲気を出していると、アザゼルが話しかけてきた。

 

「俺の所の部下が、そこの娘を騙そうとしたらしいな。ま、赤龍帝に見事に救出され、返り討ちだったらしいが。」

 

「それはまぁ解決しましたし、その堕天使を倒したんでいいんですけど...そういえばアザゼル様、気になってたんですが、なんで俺の事すぐに殺さなかったんですか?いや結局死にましたけど。」

 

「あん?まぁ、そこのサーゼクスの妹さんがお前を虎視眈々と狙ってたからな。お前も順当に強くなろうとしてるようだったし、まぁなんの力もねぇ一般人が赤龍帝の力をどれくらい扱えるようになんのか観察すんのも一興かなと思ってたんだ。危険だと思えば即座に殺していいとは部下に伝えてたけどな」

 

 やっぱりそうだったのか...

 他の堕天使さん結構辛抱強く待っててくれたんですね...

 いや、アザゼルさんが一興とか言ったからか?

 

「なら、俺がしばらく好きにできてたのはアザゼル様のお陰ですね。ありがとうございます」

 

「ハ、俺はお前を殺したのと同義だぜ?なに感謝してるんだよ」

 

「いえ、間違いなくアザゼル様のお陰で俺の人間としての寿命は延びました。だから感謝します」

 

「そうかよ。まぁじゃあはい終わりですってわけにもいかねぇし、俺は俺にできることでそこらへんの埋め合わせはしてやるつもりだ」

 

「はぁ、ありがとうございます...」

 

「さて、そろそろ世界に影響を及ぼしそうな奴らに意見を聞こうか。無敵のドラゴン様にな。まずはヴァーリ。お前は世界をどうしたい?」

 

「俺は強い奴と戦えればいいさ」

 

 ヴァーリは微笑んだ。

 

「お前はどうなんだ赤龍帝」

 

 ここでアーシアの事を言うのは、リスクがあるかもしれない。ヴァーリが居るし。でも俺はあえてここで誓う事にした。

 それが俺なりのけじめだ。

 

「俺は...この世界に数多く存在する脅威から、愛する女の子を...アーシアを守れるだけの力が欲しいです。アーシアを何があっても守ってみせます。それが俺にとっての全てで、俺にとっての決意です」

 

「へぇ、言うじゃないか赤龍帝」

 

 アザゼルが面白そうにそう呟く。

 アーシアは顔を真っ赤にしてあたふたしている。ごめんアーシア...でもこれだけは言わなきゃいけない気がしたんだ。

 

「まぁまだまだ弱いんですけどね!でも、この神器(セイクリッド・ギア)に...相棒ドライグに...恥じない力をつけたいと、そう思っています」

 

 俺はあえてこの場にいる全員に向けて、そう断言してやった。

 ヴァーリも少し面白そうにしている。

 でも...それでいい。お前は俺の憧れだ。ライバルだ。嘘はつきたくない。

 

 そう宣言した所で、時間が停止した。

 

 ────────────────────────

 

 俺はなんとか停止せずに済んだ。

 

 アーシア、朱乃さん、小猫ちゃん、会長さんは停止していた。後は皆動ける。

 

「テロか...」

 

 アザゼルがそう呟く。

 

 外を見ると校庭から空中まで、至るところにローブを着た魔術師が現れていた。こちらに攻撃してくる。

 

「いつの時代も勢力と勢力が和平を結ぼうとすれば、それをどこぞの集まりが嫌がって妨害するもんだ」

 

 今はサーゼクス様、ミカエル様、アザゼルで結界を張って防御しているらしい。

 強すぎる...なんだこの布陣...

 

 ギャスパーが神器(セイクリッド・ギア)の効果を増幅する神器で、暴走させられている可能性が高いそうだ。

 

 部長もオーラを迸らせて怒っている。

 

「校舎の外を取り囲んでいた堕天使、天使、悪魔の連中も停止してるみたいだぜ?まったく、リアス・グレモリーの眷属は恐ろしい限りだ」

 

 そういったアザゼルが手を振り下ろすと、無数の光の槍が降り注いだ。

 テロリスト達は防御結界を張るがなんなく貫かれる。

 あんたのがずっと恐ろしいよ...

 

「まったく...用意周到なこった。かなりこちらの内情に詳しいようだし、案外この中に裏切り者がいるかもなぁ」

 

 などと喋っていると、サーゼクス様が俺達にギャスパーを回収するようにおっしゃった。

 部長は未使用の戦車の駒を利用してキャスリング...王と戦車の位置がえを行うようだ。

 更にグレイフィアさんのお陰でもう一人ついて行けるようなので、俺も一緒に行くことになった。

 

 アザゼルさんが俺に二つの腕輪を渡した。

 

「一つはヴァンパイア用の神器(セイクリッド・ギア)制御装置だ。これをつけてやれば多少は力の制御に役立つはずだ。もう一個はお前の分だ。コカビエルとの戦いで正式に禁手(バランス・ブレイク)には至れたようだが、如何せんお前は魔力が少なすぎる。はっきり言って致命的だ。だから、これはまぁ言っちまえば魔力タンクだ。そんなに多くはねぇがないよりはましなはずだぜ?ったく...しっかり反省しろよ?宿主が役立たずだと神器(セイクリッド・ギア)も力を発揮できん。特に禁手化(バランス・ブレイカー)なんてな...」

 

 すみません...これでも頑張ってはいるんです...

 ヴァーリはアザゼルさんの指示で、オトリをやるそうだ。

 ヴァーリは禁手化(バランス・ブレイク)して、飛んでいった。

 

 すげぇなぁ...禁手化(バランス・ブレイク)にカウントダウンもなけりゃ、一日何度でもいつまでも禁手化(バランス・ブレイク)になれるんだろうな...

 

『お前もいずれはあれくらいできるようになるんだぞ?』

 

 あぁ頑張るよ...

 

 俺と部長はグレイフィアさんの作った陣によって、二人で部室にキャスリングした。

 

 ────────────────────────

 

「ここに転移してくるとは!」「悪魔め!」

 

 部室に飛んですぐに暴言言われた。

 

「ぶ、部長!イッセー先輩!」

 

 ギャスパーは椅子にくくりつけられていた。

 

「部長...もう嫌です。僕は死んだ方がいいんです...この眼のせいで、皆に迷惑をかけて、臆病者で...」

 

「バカな事言わないで!私は言ったはずよ?自分の満足できる生き方を見つけなさいと!」

 

「....見つけられなかっただけです。迷惑かけてまで...生きる価値なんて...」

 

「バカ言うなギャスパー!!!お前はすごいやつだって何度も言っただろうが!勝手に自分に失望してんじゃねぇよ!」

 

「イッセー先輩...でも...僕...」

 

「でももだってもねぇ!!男なら立ち上がってみせろギャスパー!!!」

 

「...!!」

 

 俺はアスカロンを出すと、自分の腕を切って血をギャスパーの方に飛び散らせた。

 

「いけ!ギャスパー!!」

 

「....はい!」

 

 ギャスパーは口元に飛んだ俺の血を舐める。

 次の瞬間、ギャスパーは大量のコウモリとなり、こちらに飛んできた。

 更に気がつくと、魔術師の影から手が伸びて影の方に引きずりこんでいる。

 どうやら魔力を吸っているらしい。

 そして突然敵は動かなくなった。

 神器(セイクリッド・ギア)を使ったのだろう。

 

 ギャスパーは一瞬で全員制圧してしまった。

 

「ほらな!お前はすげぇ奴なんだ、自信持てよギャスパー!俺達皆、お前の事が必要だ!お前の事が大切だ!だからもう勝手に諦めようとすんなよ!」

 

「....はい!」

 

 部長が魔術師達を転送すると、俺達は旧校舎を後にしようとした。

 玄関手前で何かがすごいスピードで吹き飛んでくる。よくみたらアザゼルさんだった...

 

「この状況下で謀反か、ヴァーリ...」

 

 ヴァーリがやったらしい。

 いよいよだな...

 

 アザゼルさんがヴァーリに禍の団(カオス・ブリゲード)に入った理由などについて問答する。

 

 ヴァーリはアースガルズとの、他の神話体型との戦いを望み、裏切ったということだ。

 また、ここで旧ルシファーの血を持つ人間と悪魔のハーフであること。過去現在未来永劫において最強の白龍皇となるであろうことなどが語られる...

 

 旧レヴィアタンの血族の女、カテレアもそちらはそちらでアザゼルと問答を繰り返す。

 

 話も佳境といった所でアザゼルさんは短剣を取り出す。

 人工神器(セイクリッド・ギア)を暴走させて、禁手化(バランス・ブレイク)する。

 恐ろしいほどのプレッシャーを感じる...

 文字通り次元が違う。

 

「流石はアザゼルだ!やっぱりすごい!」

 

 ヴァーリは笑う。

 

「ヴァーリ、お前も相手にしてやりてぇが、まぁ赤い龍とよろしくやってな。」

 

「でもアザゼルとやった方が楽しそうだ」

 

 ヴァーリは言う。そうだな...確かにそうかもしれない。

 でも...俺は...ここでヴァーリに立ち向かう。

 そうしなければいけない気がする。

 原作どうのこうのじゃない...神器(セイクリッド・ギア)が...俺の心がそう叫んでいる気がする。

 それに...ここでなにもしなければ、男が廃る...!!

 

「ドライグ、行くぞ...」

 

『あぁ...ここが正念場だな...』

 

『Count Down!3 Minutes!』

 

 俺は禁手化(バランス・ブレイク)の準備に入る。

 

「イッセー?」

 

「なぁギャスパー。俺はさっき、お前に逃げるなって言ったよな...そしてお前は見事にやってみせた。なら、次は俺の番だよな...」

 

「イッセー。ここはまずいわ。巻き込まれてしまう」

 

「部長、ギャスパーを連れて逃げて下さい。俺は...俺はここで戦います。プロモーションの許可を下さい!」

 

「イッセー?何を言ってるの?」

 

「ギャスパー俺も逃げない!戦うからな!!」

 

「は...はい!」

 

「あぁもう!プロモーションを許可するわ!」

 

「ありがとうございます。プロモーション、女王!!」

 

 俺の力が増幅した。

 

 上空では、アザゼルが片腕を切断して、カテレアの自爆による爆発を防いでいた。

 

「ヴァアアアアリィィィィィ!!!!いくぞぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

 

『Welsh Dragon Balance Breaker!!!』

 

 俺の体が赤き鎧に包まれる。

 

 ヴァーリは俺の方を見て、こちらを向き直った。

 

「へぇ来るんだ。赤龍帝」

 

 俺は悪魔の翼と背中の魔力噴出口を利用して奴に突撃する。

 

 が、完全に見切られてるな...

 俺は奴に衝突する直前で下に向けて魔力を噴出して、上に飛び上がる。

 

 ヴァーリは動かない。

 くっそ舐めやがって...!俺は一発ドラゴン・ショットを上からお見舞いする。

 

『Transfer!』

 

 巨大な魔力弾がヴァーリを襲う。

 

『Divide!』

 

 奴が手を上に伸ばして俺の全力のドラゴンショットを半減させ、受ける。

 ダメージは無さそうだ...

 

「バカみたいに突っ込まないのはいいけど、それじゃ俺には勝てないよ?」

 

 ヴァーリは大量の魔力弾の弾幕を展開する。

 俺は大きく回りながら飛んで避けようとするが、あっという間に捕らえられた。

 

「がっぐぅぅぅぅぅぅ!!!!」

 

 弾幕を防御している俺に、ヴァーリは近づいてきて俺の事を蹴り飛ばした。

 

「ぐぅぅぅぅ!!がっっ!!!」

 

 地面に叩きつけられる。すぐに追撃が来た。

 俺はブースターで横に避ける。

 ヴァーリが高速で俺が居たところに突撃する。

 爆音と共に大きく土煙が発生する。

 俺は反転して即座にヴァーリのいる場所に飛んでいく。

 一度ぶつかった後、インファイトで殴り合う。

 顔面一撃入れれば腹に一撃を入れられる。

 蹴りを腹に入れれば、顔面を殴られる。

 

『Divide!』『Boost!』『Divide!』『Boost!』

 

 殴り合いの度に半減と倍化を繰り返す...

 

 ....先に膝を着いたのは俺だった。

 

「ぐっっ....!!」

 

「ふぅ...弱いね、キミ。会談の場でなんて言ってたっけ?女を守る?そんなに弱いキミに何が守れるのかな...あの子なんだっけ...まぁいいや、あの子を殺せばキミも少しはマシになるのかな?」

 

「.....あぁ?」

 

 俺はヴァーリに蹴り飛ばされた。

 

「っっ......ぐぅ......」

 

 言うと思ったぜヴァーリ...

 わかってた...そう言うのは...

 それでもわざわざあの場で言ったのは、お前に嘘をつきたくなかったからだ...

 強いお前に憧れを抱いたからだ...

 あれが俺の全てだからだ...

 後悔はしてない...けど...

 

「アーシアに指一本でも触れてみろ...!ミンチにしてやるぞヴァァリィィィィィ!!!!!」

 

『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost!!!!』

 

 俺の身体中から紅蓮のオーラが迸る。

 身体中を限界知らずの倍化が迸る。

 

「ハハ、たった一言で随分と強くなったじゃないか!」

 

「ドライグ、魔力ブースターへ譲渡しろ!!」

 

『何を言ってる相棒!!!魔力が一瞬で底を着くぞ!!!』

 

「いいから!」

 

『Transfer!』

 

「あああああああああ!!!」

 

 魔力ブースターが甲高い音を立てて爆発する。

 俺は神速でヴァーリに突撃する。

 

『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost!!!』

 

 失った倍化を一瞬で取り返す。

 

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」

 

 俺はヴァーリに直撃した。

 衝突のエネルギーでヴァーリの鎧にヒビが入る。

 

「ガハッッ!!!ぐぅぅっぅぅぅぅぅぅぅ!!!」

 

 ヴァーリは受け止めきれずにドンドン後ろに吹き飛んでいくが、すぐに持ち直して俺の衝突の勢いを地面を抉りながら、翼の噴出エネルギーで勢いを殺す。そして俺の腹を殴る。

 

「ガブッッッッッッグッ!!!」

 

 俺は大量に血を吐いた。鎧ごと内蔵を潰された!!

 

『Divide!』『Boost!』

 

 すぐに倍化する。

 接触してる今しかチャンスは無い!!!

 

「アスカロン!!!!」

 

『Blade!!』『Transfer!』

 

 俺はヴァーリの腹に向かって譲渡で龍殺しの力を高めたアスカロンを突き立てる。

 

「ぐぅ!!!!ガハッ!!!お前!!!」

 

 そのまま俺は横に剣を薙いで、再び突き立てようとする。

 

「このっっ!!!!」

 

 ヴァーリは俺に特大の魔力をぶつける!!

 

『相棒!まずい!!』

 

 俺は咄嗟にアスカロンと腕を盾にするが、あっという間に吹き飛ばされた

 

「がぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

 

 恐ろしいほどの熱量と圧力が俺の体を押し潰す...!

 

 俺は残りの魔力全てを込めて少しでもヴァーリの魔力弾を弱める。

 

 大爆発が起きた後、グラウンドに大きく開いたクレーターと、鎧がボロボロになった俺だけが存在していた。

 

「ぐっ...ドライグ...鎧を修理しろ...」

 

『わかった。』

 

 魔力はもう底を着いている。俺の体力を大量に消費して鎧が修復されていく。

 

 そこにヴァーリが飛んできて、俺の腹に拳を突き刺す。

 治りかけの鎧が再び壊れた。

 

「ぐっっっっっっっっっ!!がぼぉぉ!!」

 

 大量の鮮血が腹から口まで逆流する。

 

「やってくれるな、赤龍帝...まったく...まさか、そんなものを持っているなんてね...」

 

「はっ...ぐぅ...結構痛手負っただろうが...」

 

「まったくだ...ぐぅ...弱いからと油断しすぎたな...」

 

 ヴァーリも鎧の隙間から止めどなく血が流れる...

 当たり前だ。龍殺しの聖剣で脇腹を内蔵ごと斬ってやったんだ...

 普通なら致命傷だ...

 

「はっ...ざまぁみやがれ...ゲホッ...ゴボッ...あ゛ぁ...ぐぐぐ...」

 

 俺は立ち上がる。

 

「二回戦と...いこうぜぇ...お互い...致命傷だろ...」

 

 俺は構えをとる。

 

「もうフラフラだろう...君じゃ勝てないよ」

 

 ヴァーリは俺に魔力弾ぶつける。

 

「ガハッ!!」

 

 俺は吹き飛ばされる...

 なんとか立ち上がってヴァーリの元へ向かう。

 

「あ゛あ゛あ゛あ゛あああああ!!!!」

 

『Boost!Boost!Boost!Boost!Boost!』

 

 俺はお前に勝ちたいヴァーリ、白龍皇!!

 だから!!この一撃に残りの全部込めてぶん殴る!!!

 

「いいぞ、兵藤一誠。来い!」

 

 ヴァーリも応戦してくれる。

 

 ドゴバキィ!!!

 

 互いの拳が互いの顔面に直撃する。

 俺は地面に叩きつけられた。

 

 最後に立っていたのはヴァーリだった。

 

 ────────────────────────

 

「赤龍帝、兵藤一誠。いずれ再び戦うときは、更に激しくやろう。もっと強くなる事だ...キミの目標とやらの為にもね...その時は...」

 

 そんな声が聞こえた気がした。

 

 ...............

 

「.....さん....ッセーさん....イッセーさん!!」

 

 アーシアの声が聞こえて目が覚めた。

 

「イッセーさん!良かった!目を覚ましました!!」

 

「アー...シア?」

 

「無理なさらないで下さい!フェニックスの涙を使ったのですが、無理な神器(セイクリッド・ギア)の使用で失った体力は戻ってないんです。」

 

「.......ヴァーリは...」

 

「あいつなら帰ったよ。ったく、手酷くやられやがって。まぁ向こうもそれなりに重症っぽかったけどよ」

 

「アザゼルさ...」

 

「まぁ今は寝てろよ。ちゃんと回復したら説明してやる。」

 

「はい...」

 

 俺は再び意識を手放した。



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冥界合宿のヘルキャット編
第30話。 向かいます、冥界!


アンケート結果的に需要ありそうなので、短編系も書けるものは書きたいと思います


 病院できちんと意識を取り戻した俺は、アザゼルさんから説明を受けた。

 ヴァーリの仲間、孫悟空の子孫である美猴が現れてヴァーリを回収していったこと。

 つつがなく戦後処理は終わった事...

 

 アザゼルさんがオカルト研究部、顧問になったこと。

 これから俺含めオカ研メンバーを鍛えてくれること。

 これからはアザゼル先生だ...!

 

 ────────────────────────

 

 無事ベッドの上から回復して、家に帰って来た俺は現在、玄関でアーシアに抱きしめられ、動けなくなっていた。

 

「イッセーさん...私!心配したんですよ!!また、危ない事になって...私...私...」

 

 アーシアが涙を流している。

 

「ごめんアーシア...」

 

 俺は謝る事しかできない。とはいえ、これからも俺はこうやってボロボロになってしまうだろう...

 その度にこうやってアーシアを悲しませるのか...?

 そんなのダメだ...もっと強くならないと...!

 その為にも!夏休み!最大限に活用して強くならないと!!

 少しでもヴァーリに追い付くんだ...!

 

「イッセーさん...キス...したい...」

 

 アーシアが顔を赤くしながらそう言って目を瞑る...

 くはっ...病み上がりの体にこの興奮は毒だ...!!

 

 しかし俺はしっかり答える!!

 しっかりディープな方だ!!

 ぎゅっと抱きしめ合って、体をしっかり密着させる。

 

「はぷ...ちゅぷ...んぷ...ぬぷ...ちゅぷ...イッセー...しゃぁん...ちゅぷ...」

 

 アーシアの熱い吐息が俺の口内を蹂躙する。

 お互いの存在を確認するようにキスをし続けた。

 

「ちゅ...はぁ...」

 

 20秒近くキスしたあと、ようやく離れた。

 アーシアはとろんとした顔でこちらを見つめる...

 

「イッセーさん..」

 

「アーシア...」

 

 俺はアーシアの胸に手を伸ばす...

 

「おっお前らやってるな!」

 

「おわぁぁぁぁあ!!」「きゃあ!」

 

 俺とアーシアは叫んでしまった。

 

「なっ...なっなっ...なんでアザゼル先生ここに!!?」

 

「あ?ちょっと用事あったんだよ。あぁ気にすんな。俺はリビングで待ってるから、お前らはそのまま気が済むまでやってろよ。」

 

「できるわけないでしょ!!それで?なんの用ですか?」

 

「あぁ...いや、今のお前の神器(セイクリッド・ギア)のデータが欲しくてよ。ついでにアーシア。お前もだ。」

 

「はぁ、データですか?」

 

「あぁ、それによって色々と計画が変わるからな...じゃあ俺の質問に答えてくれよ?」

 

 .......

 

「よし、以上だ二人とも。まぁなんだ、邪魔したな?それじゃあな!」

 

 アザゼル先生は帰っていった...

 まじであれだけかよ...

 

「帰っちゃいましたね...」

 

「あぁ...」

 

 それ今日の今じゃないとダメでしたか???

 

 ────────────────────────

 

「夏休みは冥界に帰るわ?」

 

 部室に集合した俺達は部長に突然そう言われた。

 

「もちろん貴方達にも着いてきてもらうわよ?毎年の事なの。長期旅行の準備をしておいてね」

 

 ついに来た...!タンニーンさんと会えるのか...!

 一杯修行付けてもらうんだ...!あぁでも数十日アーシアと会えないのか...

 

 でも!強くなるためだ!!我慢するしかない!!

 

「勿論俺も同行するぜ?お前らの先生だからな...」

 

「アザゼル先生!」

 

「おう、お前らの特訓メニューもしっかり作ってある」

 

「こちらで行きの予約をしてよいのかしら?」

 

 部長が尋ねる。

 

「あぁ頼む。悪魔側のルートは初めてだから楽しみだぜ」

 

 夏休み...存分に力を上げたいが、それ以上にアーシアと最後の一線を踏み越えたい...!

 なんだか最近そういう雰囲気になる度に誰かに邪魔されてる気がするけど...今度こそ!

 

 ────────────────────────

 

 出発の日、俺達がまず向かったのは、最寄り駅だった。なんでも、この駅のエレベーターで特殊なカードを利用すれば、悪魔用のホームに到着するらしい。

 

「楽しみですね!イッセーさん!」

 

 アーシアは初めての友達との旅行を楽しみにしていた。

 後は...初めての恋人との旅行も...自分で言うと恥ずかしいな...

 

 皆が降りると、部長の先導のもと歩きだした。

 だだっ広い空間だ...

 ここでなら散々暴れても問題なさそうってくらいには広い...

 

 アーシアがゼノヴィアと別れて俺の方に来てくれた。

 ので、俺はアーシアの手を握った。そうするとアーシアは俺に体を寄せてくれる。

 これがいいんですよ...なんかもうここまで無言でできることにかつてないほどの幸せを感じるね。

 

 しばらく歩くと独特なフォルムの列車が現れた。

 はえぇ、でっかい...

 

「これがうちの保有する列車よ」

 

 部長が答えてくれた。

 

 部長は主なので一番前、眷属は中央以降という決まりがあるらしい。

 なので俺達は部長と別れて中央の車両に乗っている。

 

 俺はアーシアと二人で座った。対面には人がいない。

 他の皆も思い思いの座りかたをしてる。

 アザゼル先生は速攻寝た。

 

「アーシア、俺今からちょっと潜ってくるから、手握っててくれるか?」

 

「はい!」

 

 そう、俺は最近ドライグ補助の元、歴代神器(セイクリッド・ギア)保有者の集まるあそこに潜るようにしている。

 覇龍(ジャガーノート・ドライブ)になる気は一切ないので、早め早めで動く事にしたのだ。

 

 ...........

 

「こんにちわ!今日もよろしくお願いします!」

 

 俺は声をかけるが勿論無視だ...

 

『まぁ、お前も返事が来るとは思ってないんだろう?』

 

「まぁな、でもやらないよりはましだろ...俺は覇龍(ジャガーノート・ドライブ)は絶対に嫌だ...そもそもそうなる状況になりたくないし...けど、覇龍(ジャガーノート・ドライブ)を使う事で得た特典って結構あるんだよな...なんか合法的にその特典貰う方法ないかね?」

 

『実直に鍛えて行くしかあるまい。そもそもお前は原作とやらと同じ道を行くのか?行けるのか?』

 

「無理だろうな...既にディバイディング・ギア手に入ってないし、いずれは俺だけの道を選ぶしかない...」

 

「もしもーし、こんにちわ!俺は兵藤一誠って言います!俺が好きな人にアーシアって子がいるんですけどね....!」

 

 そこから十分ほどアーシアの魅力について耳元で語ってやった。

 何かしらアクションは...勿論なかった...

 

『相棒、そろそろ限界だ』

 

「わかった...」

 

 俺は意識を浮上させる...

 これ意味あるのかな...

 でも、俺がこの人達を説得できるだけの熱意を持ってる事ってアーシアの事くらいだからな...

 ...........

 

「アーシア...」

 

「イッセーさん、おかえりなさい」

 

「あぁただいま。じゃあまぁ今日も日課は終わったし、素直に列車旅行楽しもうぜ!」

 

「はい!」

 

 アーシアと一緒に他のメンバーの所へ行ってトランプとか始めた。

 

 などと言って過ごしていると、部長が車掌さんっぽい方を連れてきた。

 

「初めまして。私はこのグレモリー専用列車の車掌をさせていただいているレイナルドと申します」

 

 新人眷属皆で挨拶を返した。

 挨拶が済むと車掌さんが変な機器で俺達を照合していた。

 なんでも、正式な入国の為に本人照合ができる機械らしい。

 これで入国手続きも同時にできたらしい。便利だ...

 

 発車からしばらく、次元の壁を突破したとのアナウンスの後、ようやく景色が見えるようになった。

 これが冥界の景色!!

 

 紫の空に、人間界と似てるようでどこかおかしい木々の数々!

 すっげぇ自然!!うお!でっかい鳥!!!

 あっちには町もある!

 

 ついついはしゃいでしまった。

 

「わぁ!すごいです!!」

 

 アーシアもはしゃいでた。可愛い。

 

「ここは既にグレモリー領よ?」

 

 部長が自慢げにそう言った。

 

「部長さんのお家の領土ってどれくらい大きいんですか?」

 

「そうね...日本でいうと本州くらいの大きさかしら」

 

 流石公爵...規模がすげぇ。

 まぁ地球と同じくらいの大きさなのに海がないから未開の土地まみれらしいけど。

 

 そして部長は眷属に土地をプレゼントするといって地図を与えてくれた。

 俺とアーシアは、平地で何かと便利そうな隣り合った場所を選んだ。

 

「まもなくグレモリー本邸前。皆様御乗車ありがとうございました。」

 

 アナウンスが聞こえる...

 

「皆、降りる準備をしてちょうだい?」

 

 部長の一声で皆準備を始めた。

 アザゼル先生はそのまま乗って、魔王領に行くらしい。

 

 俺達が駅のホームを降りると、パレードが始まった。俺とアーシアはあまりにも突然な状況に固まってしまう。

 大丈夫、二人で身を寄せ合えば...少しは緊張がましになるよ...

 

 ギャスパーはびびりまくっていた。

 

 グレイフィアさんがメイドさん街道から現れて、俺達にめちゃくちゃデカイ馬車に乗るように指示した。

 

 馬車は真っ直ぐに伸びたデカイ道を進んでいくようだが、その先にあるびっくりするほどでかい城が恐らくグレモリーの城なのだろう...

 それに気づいたアーシアは俺に引っ付いてびびっていた。俺はもう考えることをやめた。

 

 ────────────────────────

 

 豪邸にたどり着いて、赤いカーペットを歩く...

 カーペットの側には永久に男女のメイドや執事がびっしりきっちりと並んでいた。

 これ、まだ外なんだぜ?

 

 小市民にはこの光景はきつい...

 俺はアーシアと抱き合いながら進んでいった。

 

 するとメイドの列から子供が飛び出した。

 ミリキャス君だ。

 

「リアスお姉さまおかえりなさい!」

 

「ミリキャス!ただいま!大きくなったわね!紹介するわ。この子はミリキャス・グレモリー。お兄様の子供、私の甥よ?」

 

「ミリキャス・グレモリーです初めまして!」

 

「初めまして!」

 

 俺達はしっかり挨拶を交わした。

 数度門を越え、ようやっと玄関ホールにたどり着いた。

 もう何も言うまい。でかすぎんだろ...

 

 グレイフィアさんから部屋に案内すると言われた所で一人の女性がやってきた。

 部長そっくりで茶髪の女性。あぁ部長のお母さんか。

 

 部長が母親と挨拶を交わす。

 俺達を案内してくれるそうだ。

 恐れ多いですね...

 

 ────────────────────────

 

 数時間後、ダイニングルームにて大量の豪華な食事が次々と皿に盛られてやってくる。

 

 遠慮なく楽しんでくれたまえとの部長の父親の一声で食事が始まった。

 

 どう食えばいいかまったくわからん。テーブルマナーなんて知らないよぉ...

 

 アーシアとゼノヴィアは様になってる...

 流石教会組...なんならアーシアはある意味お嬢様みたいなもんだったんだもんな...聖女だし...

 

 小猫ちゃんはまったく食事に手をつけない。

 あー...そういえばここで自分の種族云々の問題が本格化するのか...

 

 俺は部長の一眷属でしかないので、特に問題やらなにやら起こらず、つつがなく食事会は終わった。

 

 食事も終わって、自分に当てられた部屋に戻る。

 自分というか俺とアーシアの二人になっちゃったけど...

 アーシアはバカでかい部屋が寂しくなったと俺の所に来てくれた。俺も寂しかったので非常に嬉しい。

 

「それじゃあ、おやすみなさい、イッセーさん」

 

「あぁおやすみ...」

 

 俺とアーシアは眠る。

 夏休みの間に一線を越えたいと言ってはいるが、人様の家の人様の客人用ベッドでそれはさすがにちょっとまずいと思ったので、普通に健全に眠る事にした。

 

 ....眠れん。こうもベッドが広いと気になっちゃうな...

 

「イッセーさん眠れませんか?」

 

「アーシア...うん、アーシアもか?」

 

「はい...ちょっと緊張してしまって...」

 

「そうだよな...なぁ、アーシア...キスしよう」

 

「....はい」

 

 少し驚いた様子のアーシアだったが、キスに応じてくれた。

 最初は軽い触れるだけのキスを繰り返す。

 何度かしたら、今度は俺がアーシアの唇を少し舌で弄び、すぐにアーシアも舌を合わせてくれる。

 

「れる...んちゅ...んぷ...ふ...」

 

 始めはゆっくりと....段々激しさを増していく。

 

 一旦離れると、唾液の糸が俺とアーシアを繋いだ。

 

「はぁ...アーシア...」

 

「はぅ...イッセーさん...」

 

 いい感じに普段の気分になってきたな...

 あぁ、そういえばアーシアに聞きたいことがあるんだった。

 

「なぁアーシア。アーシア的には婚前交渉ってどうなんだ?」

 

「こ...ここ...婚前...交渉ですか!?あの...あぅ...」

 

 アーシアが顔を真っ赤にしてしまう。

 

「アーシアの率直な気持ちが知りたいんだ。これからの俺達の関係にとっても大事な事だし...アーシアの事は何より大切だからさ...」

 

「あぅ...あの....私は、やっぱりそういう事は結婚してからなのかなと...でも桐生さんは早めにしておいた方がいいとも仰っていましたし...あぅ...私も...イッセーさんと、そういう関係になりたいという気持ちもあります...けど...」

 

 何教えとるだあの女...

 

「そっか...ありがとう、アーシア。そうだよな!やっぱり結婚して、しっかりパートナーになってからだよな!」

 

「あの...イッセーさんはしたかったですか...?」

 

 アーシアが顔を真っ赤にして尋ねてくる。

 

「そりゃしたい気持ちはあるけど!やっぱりアーシアを大切にしたいよ。世界でたった一人、大事な人なんだから...」

 

「イッセーさん...」

 

 アーシアが俺に抱きついてくれる。

 俺も抱きしめ返す。

 確かにアーシアとしたいけれど、めちゃくちゃしたいけれど、こうやってアーシアと触れあうだけでいくらでも心は満たされる。

 

 俺はここに貞操を二人で守り抜く事を決意した!

 良かったな!俺の貞操、予約は決まったから後は時を待つだけだぞ...!



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第31話。 出会います、強敵!

 俺達は今日、若手悪魔の顔合わせに向かっている。

 

 行きに使った列車を使って魔王領にはいる。更に長距離ジャンプ用の魔方陣も何度か潜り抜けて列車は進んだ。

 どんだけ遠いんじゃ...

 

 列車に乗ること30分、都会っぽい所に出た俺達は地下鉄に乗り換えて会場に向かうらしい。

 ホームを降りてすぐ部長を呼ぶ大歓声が聞こえた。

 アーシアがあわあわしている。可愛い。手を握ってあげた。

 ギャスパーもびびってたけどギャー助は知らん。頑張れ。

 

 朱乃さん曰く、部長は魔王の妹かつ美人故にさまざまな悪魔から憧れの的らしい。

 そらそうやね。

 おーい!!うちのアーシアも見てあげてー!!!

 部長より可愛いぞー!!!

 

 ひえっ部長に睨まれた...心を読まないで...

 

 ────────────────────────

 

「もう一度確認するわ。何が起こっても平常心でいること。何をいわれても手を出さない事。上に居るのは将来のライバルよ、無様な姿は見せられないわ」

 

 部長、ディオドラ見たらヤバイかもです。

 あいつほんっと、一瞬でもアーシアに触れたら許さねぇ!アーシアが穢れる...見るのも極力許さん...

 

「....不服そうねイッセー、何かあるのかしら?」

 

「いえ、すみません。何もないです。問題を起こす気も一切ないです!本当です!だから術式は勘弁を...」

 

「頼むわよ?」

 

 エレベーターを降りるとあの人がいた...

 サイラオーグさん!会いたかった...!!

 この人も俺が打倒したい相手の一人だ...

 原作でも最高に熱かった。

 

 姿を見るだけで体が武者震いするようだ...

 かっこいいな...俺もあんたのようになりたいぜ。

 

「久しぶりだな、リアス。」

 

 部長と握手していた。

 

「ええ、変わりないようで何よりよ。彼はサイラオーグ。私の母方の従兄弟でもあるの。」

 

「俺はサイラオーグ・バアル。バアル家の次期当主だ。」

 

 それからサイラオーグさんが、喧嘩が始まったから出てきたと語った。

 非常につまらなさそうだった。

 そらそうだ、あの中に今サイラオーグさんを倒せる奴はいない。

 だからこそ、俺が同じ所まで登ってみせる...

 それに最近は引き分けたり、負けてばっかりだ...

 いい加減勝利のイメージを付けたい...

 サイラオーグさんくらい、立派で強い男に勝ちたい...

 なんか最近戦闘狂みたいになってきたな...

 でも、アーシアをこの世界で守り抜くってのはそういう事だろう...!

 

「ん?どうした、リアスの眷属君。随分楽しそうじゃないか...」

 

 俺はびくりとしてしまった。やべ!!

 

「すみません!なんでもないです!」

 

「はは、闘志が漏れてたぜ?うん...いいな、君。今はまだまだ未熟なようだが、心地いい闘志だ。強くなれよ?楽しみにしておいてやろう」

 

「....!ありがとうございます!いつかきっとあなたに恥じない強さを手に入れてみせます!」

 

「イッセー、平常心と言ったでしょう?」

 

「はは、いいじゃないか元気があって。君に会えただけでも収穫だったかな?君、名前は?」

 

「兵藤一誠です!リアス・グレモリー様の兵士、赤龍帝です!」

 

「...!君が噂の悪魔になったという赤龍帝か...ますます楽しみになってきたな」

 

 ククと少し楽しそうにしてくれる。俺はそれが嬉しかった。

 なんかこう、胸が熱くなってくる...!

 

「では、掃除ついでに君に俺の力を少しだけ見せてあげよう」

 

 そういうと、サイラオーグさんは広場で喧嘩する二人の間に割って入った。

 

「アガレス家の姫シークヴァイラ、グラシャラボラス家の凶児ゼファードル。互いに矛を収めろ。...これは最後通告だ。次の言動次第で問答無用に行かせてもらう」

 

 恐ろしいほどのプレッシャーが広がる。

 すげぇ!!これが一端とはいえ、サイラオーグさんの力...!

 

「バアル家の無能がっ!」

 

 恐ろしいほど鈍い打撃音と共にゼファードルは壁にめり込んだ。

 

 ゾクゾクと背中に何かが迸る...

 怖い...すごい...かっこいい...強い...勝ちたい...!

 サイラオーグさんがチラリとこちらを見てくれる。

 

 サイラオーグさんはゼファードルの眷属に介抱を指示すると、スタッフに広間の掃除も指示した。

 

「赤龍帝、俺とやり合いたいなら、これくらいはできるようになってくれよ?」

 

「...!はい!ありがとうございます!!」

 

 俺は直角に頭を下げる。...こんなに弱い俺にも真摯に相手してくれる...!やっぱり凄い人だ...!!

 

 後で部長にしばかれた。ごめんなさい。

 

 ────────────────────────

 

 大広間は無事に修復され、若手悪魔の皆で挨拶が始まった。

 

「僕はディオドラ・アスタロト。アスタロト家の次期当主です。皆さんよろしく」

 

 ディオドラ...ムカつくけど、さっきやらかしたばかりなので今回はきちんと抑える...

 優しげなイケメンって感じだ...

 これが鬼畜趣味なんだから世の中ほんとわからねぇな。アーシアに手を出そうとしたら殺すけど。

 

 準備が整ったようで、使用人のアナウンスで俺達全員は会場に案内された。

 俺達よりかなり高い位置に三段ほどの舞台があり、一番上の段に魔王様四人がいた。

 セラフォルー様は今日は流石にレヴィアたんではなかった。良かった、まだ威厳あるよこれなら。

 

「よく、集まってくれた。これは次世代を担う貴殿らの顔を改めて確認し、見定める会合である。」

 

「早速やってくれたようだがね...」

 

 苦言、といった感じでお髭の悪魔が語る。

 

 その後あーだこーだと話が進んでいった。

 最後にそれぞれの今後の目標が語られる事になった。

 

 サイラオーグさんは魔王になること。この人は並々ならぬ意思でこれを叶えようとしている。

 

 部長はグレモリー次期当主として生き、レーティングゲームの各大会で優勝する事と語った。

 

 会長は冥界にレーティングゲームの学校、それも下級や転生悪魔が通える学校を作るというものだった。

 頭のお堅い悪魔様達はそれについて嘲笑したり、うだうだ言っていた。匙がそれにキレる。気持ちはわかるしよくやったと言いたいけど、それは主の評価を下げる...

 しかし止められる位置にいないし、俺が止めに入るのでは更に会長の評価が下がるだろう。

 静観する。

 会長が自ら匙を沈めると、セラフォルー様がソーナちゃんをいじめないでとぷんすこと怒っていた。威厳ねぇ...でも発言力はピカ1だな!

 

 などと思っているとサーゼクス様が

 

「ちょうどいい。では、若手同士のゲームをしようじゃないか」

 

 などと言い出した。まぁ予定調和なんだろうけど。

 アザゼル先生が集めた各勢力のレーティングゲームファンが観戦する若手の試合、そして俺達の修行の総仕上げでもある戦いの相手として選ばれたのが会長だという事だ...

 部長、会長の二人はバチバチに燃えている。親友兼ライバルだもんね。

 

 ────────────────────────

 

「シトリー家と対決とはな...しかも対戦までは20日程度か...」

 

 アザゼル先生がそう呟く。

 明日の朝から修行が始まるらしい。

 ヴァーリ、サイラオーグさん...既にこれだけのライバル...まぁ今は勝負になってないが、あえて、ライバルと呼ぼう...ライバルが出来たんだ!

 奴らに勝つためにも、この修行のうちに俺だけの新しい可能性に行き着きたい!

 

 といった所にグレイフィアさんから温泉の用意ができたと連絡があった。

 

 アザゼル先生は鼻歌を歌いながら温泉に浸かっている。俺もすっげぇ気持ちいいからゆったりだ...

 

 ギャスパーが入り口でうろうろしていたので、俺は引っ張ってくる事にした。

 

 ギャーギャーうるさかったが、浴室に入れてやれば黙った。湯船にも入らず浴室の隅でいじいじしてるが...まぁ中なら温かいだろうしもうなんでもいいや。

 吸血鬼は流水が苦手とかあった気がするし。

 

「ところで、イッセー。もうアーシアとはヤったのか?」

 

「ぶっ!急に何言うんですか!!」

 

「あん?ただの雑談だろが。で?やったのか?」

 

「まだですよ...そもそもアーシアは敬虔な信者なんです。婚前交渉はしないと二人で決めました!」

 

「まじかよお前...よくやるなぁ...じゃあこのままずっと結婚するまでお手つき無しか?我慢できるのかよ...」

 

「それはっ!....難しいかもですけど」

 

「けっ、まぁ頑張るんだな。あぁアーシアがどれくらい真剣に考えてるかによるが、寛容になってくれるってんなら前戯くらいなら許してくれるんじゃないのか?」

 

「ぐっ...アザゼル先生!下世話な話はやめてください...向こうに聞こえてしまいます!」

 

「あ?んなもん聞かせてなんぼだろ。おいアーシアー!」

 

「やめてくださいって!!あーあーあーあー!!!」

 

「ったくお前はつまんねぇ奴だなぁ。俺達の前で大口叩いた野郎とは思えねぇぜ」

 

「今日サイラオーグ様にも大口叩いたよね」

 

「木場ぁ!あれは違うんだよ...!憧れっていうか、いつか倒したいっていうか!」

 

「あれにも何か言ってきたのか...お前は度胸が有るんだか無いんだかよくわからん奴だな。ま、頑張れよ。強くなるんだろ?」

 

「はい...頑張ります!」

 

「お前には特別厳しい修行つけてやるよ」

 

「ばっちこいっす!」

 

「言ったな...ククっ、実際に見たときどんな反応するか楽しみだぜ」

 

 ────────────────────────

 

 次の日の朝、グレモリー家の庭に集合した。

 データらしき物を持ってるアザゼル先生が俺達に語りかける。

 

「今回のトレーニングメニューは将来も見据えている。すぐに効果が出るものもいれば、長期的に見なければならない者もいる。ただ、お前達は成長中の若手だ。方向性を間違えなきゃグングン成長してくはずだぜ」

 

「はい!」

 

「まずはリアス、お前は才能、身体能力、魔力、すべて高スペックだ。普通に暮らしても大人になる頃には最上級悪魔候補だろう。だから、基礎だけで力を高められる。トレーニングはこれだけでいいから、レーティングゲームについてもっと知ることに集中しろ。王としての判断力、それを生み出す為の知識を増やせ」

 

「次に朱乃。お前は自分の血を受け入れろ。お前が雷光を、堕天使の力を使えばフェニックス家の女王なんざ敵じゃなかったはずだ」

 

「私はあんな力に頼らずとも!」

 

「最後に頼れるのは自分の体だけだぞ?自分を全て受け入れられてようやくスタートラインだ。それが出来ないならば今後お前は戦闘で邪魔になる。わかったか?」

 

「..........」

 

 朱乃さんは答えない。

 

「はぁ...次に木場。まずは禁手(バランス・ブレイク)を一日持たせてみろ。それになれたら実戦形式の中でも一日持たせるんだ。後はお前も才能溢れる悪魔だ。基礎トレーニングで事足りる。剣術は自分の師匠に習うんだったな?」

 

「はい、1から指導してもらうつもりです」

 

「次、ゼノヴィア。お前はデュランダルを使いこなせるようにしろ。後はもう一本の聖剣にも慣れてもらう。もう一本については後で説明してやる」

 

「わかった」

 

「次にギャスパー。お前はまず人前に慣れろ。心身さえ鍛えれば才能もあるし、いくらでも強くなれる」

 

「ひぃぃぃぃ!頑張りますぅぅぅぅ!!!」

 

「次にアーシア。お前も基礎トレーニングで体と魔力を鍛えろ。そしてメインは神器(セイクリッド・ギア)強化だ。オーラを拡大したり、オーラを飛ばしたりして回復できるように修行してもらう」

 

「はい!」

 

「お前の神器(セイクリッド・ギア)はこのチームの要だ。だからこそ体力トレーニングもしっかりこなすんだぞ?お前の体力がそのままチームの生命力だ」

 

「頑張ります!」

 

 アーシアはペコリと頭を下げる。可愛い。

 

「次に小猫。お前も他の連中同様、基礎の向上をしておけ。後はお前も朱乃と同じだ。自分を受け入れろ、話はそれからだ」

 

「........」

 

「最後はイッセー、お前は...」

 

 と言ったところでデカイ影が現れた。

 大質量が着地し、地面が揺れる。

 

 俺はあまりのデカさ、そして暴力的なまでのオーラに開いた口が塞がらない。

 

「こいつはタンニーン、魔龍聖(ブレイズ・ミーティア・ドラゴン)。最上級悪魔、かつかつての龍王だ」

 

「久しいなドライグ。聞こえるのだろう?」

 

『あぁ、懐かしいなタンニーン』

 

 ドライグが喋り出す。

 

「タンニーン、このガキにドラゴンの力の使い方を1から教えてやってほしいんだ」

 

「わかった。ドラゴンの修行といえば元来から実戦方式。俺にこの少年を苛め抜けということだな?」

 

『手加減してくれよタンニーン。こいつはあまり強くないんだ』

 

「死ななければ問題あるまい?」

 

 恐ろしい会話が繰り広げられる...

 でも...この地獄を乗り越えて、俺は強くなるんだ!!

 

「期限は20日ほど。基本的にはタンニーンに追いかけまわされながら生きる事が修行になるが、お前には一日一回、禁手化(バランス・ブレイク)して攻勢に出てもらうぞ。その際必ず魔力を限界まで使いきれ。後はまぁ死なない程度に気張れや」

 

「ぐっ....はい!!」

 

 俺は弱音を飲み込んで返事した。

 まずい、早くアーシアとお別れの挨拶をしないと、多分俺は拉致されてしまう...嫌な予感がするもん...

 

 俺はアーシアの方に駆け寄って抱きしめた。

 

「アーシア!俺、頑張るから!死ぬかもだけどなんとか生きてみせるから!アーシアも頑張れよ!一緒に強くなろう!」

 

「はい!」

 

「アーシア!死ぬほど寂しいけど俺、頑張るから!」

 

「はい!私も寂しいですけど、頑張ります!」

 

「アーシア!!!」

 

「もういいか赤龍帝の少年」

 

「あぅ...すみません。もう大丈夫です」

 

「イッセーさん!」

 

 俺はアーシアに呼ばれ振り返ると、キスされた。

 一瞬だけのキス...

 

「行ってらっしゃいのチューです...」

 

 アーシアが恥ずかしそうに顔を赤らめ、口を手で隠しながらそう言った。

 最高かよ...やる気1000倍だぁぁぁ!!!

 

「アーシアありがとう。俺、強くなるからぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 喋ってる途中でタンニーンさんに握られた。

 無慈悲。

 

「リアス嬢。あそこに見える山を借りるぞ」

 

「えぇ、存分に...限界まで鍛えてちょうだい?」

 

「任せろ」

 

「アーシアァァァァ!!!!」

 

 俺は拉致された。

 地獄が...俺が未だかつて見たことのない地獄の特訓が始まったのだった...



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第32話。 始まりました、修業!

 ドゴォォォォォォォォォン!!

 

「あっっっっっっぶねぇぇぇえ!!!死ぬぅぅぅ!!!」

 

「ほら小僧。もっと気張らないと灰になるだけだぞ?」

 

「嫌だぁぁぁぁあ!!!」

 

 かれこれ数時間全速力で逃げ続けている。

 倍化してもいいんだが、如何せん時間が短いし、全然余裕で着いてくるし、倍化がリセットされて急に減速した時に死にかけるしでいいことが少しもない。

 めっっちゃ吹き飛ばされて身体中ボロボロになった...

 倍化せずに避ける方が安全ってなんなんだ...

 空を飛んだ時もあったが、如何せん空の覇者たる龍に勝負を挑むには未熟すぎた。あっという間に捕捉されて、軽く炙られた。

 

『相棒、禁手化(バランス・ブレイク)が可能になったぞ』

 

 現状禁手化(バランス・ブレイク)は一日一回しかできないので、毎日同じ時間に禁手化(バランス・ブレイク)するようにしている。

 

『Count down! 2 minutes!』

 

 カウントは2分に短縮されたが、関係ない...そんなことに喜ぶ余裕がない...!

 

『Welsh Dragon Balance Breaker!!!』

 

「だぁぁぁぁああ!!!」

 

 俺は一転攻勢、ブースターに火を吹かせて空に急上昇する。

 

「おらぁあああああ!!!!!!」

 

 上からタンニーンさんの背中に向かって突撃する。

 

「ぐぅぅぅぅ!!!!」

 

 翼で弾き飛ばされて、地面に叩きつけられる。

 すぐに起き上がって、全力のドラゴンショットを2つお見舞いする。両方にマックスで譲渡している。

 しかし余裕で相殺される!

 

「くっそ!」

 

 俺は地面スレスレを飛び、腹へと攻撃しようとする。

 

「あっっっっっずぃぃ!!!!!ぎゃああああ!!!」

 

 タンニーンさんは下に向かってブレスを吐く...

 ブレスの勢いで吹き飛ばされる。

 

 俺は、ブースターに譲渡する。

 自分でも制御できないほどのスピードで突撃する!

 唯一ヴァーリの鎧にダメージを負わせた攻撃だ!

 ブレスを切り裂き、タンニーンさんの足へと突撃する。

 

 バキィィィィン!と音を立てて俺の鎧が砕けた。

 

「がぁぁ!!!固ってぇぇぇぇ!!!!」

 

「ほら」

 

 タンニーンさんが爪で俺を弾く。

 

「ぐわぁぁぁあああ!!!!」

 

 それだけで何十メートルも吹き飛ばされる...

 

「ぐぅ...くっ...!」

 

 なんとか立ち上がり、再びブースターを起動しようとするが...

 

『相棒、魔力切れだ』

 

「うっ...もうか...」

 

『もうかってあからさまに使いすぎだろう...特にブースター...あれは諸刃の剣だ』

 

「でも、現状あれが一番点での攻撃力が高いから...」

 

『それでもタンニーンの鱗には傷ひとつつかなかったがな...』

 

「わかってる!魔力がないなら、体力でカバーするんだよ!!」

 

 俺は全力で駆ける。

 

「もう魔力切れか?全く...お前は魔力が低すぎるな...」

 

 と言いながら俺の事をハンバーグの空気を抜くようにバシバシと左右に飛ばしながら叩く。

 

「がぁぁぁあ!!ぐぅぅぅ!!ぎゃぁぁぁ!!!」

 

 最後に一発吹き飛ばされると、俺は鎧が保てなくなった...

 

「今日は終わりだな。後は基礎トレーニングをしておけよ...」

 

 タンニーンさんは俺とタンニーンさんが過ごす住居エリアに戻っていった。

 住居エリアを設けないと住む場所が無くなる...

 既に山の大部分が焼け野原や溶岩地獄だ...

 なんだこの修羅の山...

 

 基礎トレーニングは2号を着けての筋トレだ。

 走り込みはタンニーン鬼ごっこでいいらしい。助かった。助かってない。

 

「んぎぎぎぎぎぎ!!!!」

 

 ただでさえ、身体中ボロボロなのに...更に筋トレで酷使させられる...

 それでも...ヴァーリはとんでもない血筋を持っている。強敵との戦いに常に身を置き実力を高めている。

 サイラオーグさんは狂気的なまでのトレーニングで信じられない次元まで肉体を高めている...

 少しでも追い付かないと...!

 

「がぁ!はぁ!はぁ!はぁ!あぁ!!はぁ!!」

 

 トレーニングも終わって、一応一日の修行はこれで終わりになる。

 後は禁手化(バランス・ブレイカー)の副作用からドライグの意識が帰ってきたら中に潜って、飯を自給自足で入手して寝るだけだ...

 

 ────────────────────────

 

 今日も今日とて、いつもの場所だ。

 

「こんにちわ、今日も来ましたー。」

 

「今日はあなたにしますね。えっと、この前はアーシアとの出会いからアーシアとのファーストキスまでの話をしましたよね。次はアーシアのとのデートの話をします。ふふふあれは...」

 

「...........龍に嬲られているのか」

 

「...!!」

 

 俺が声をかけていたおっさんが声を発した。

 

「はい!龍に毎日ボロボロにされています!」

 

「..........憎くないのか。破壊してやりたくないか。殺してやりたくないか」

 

 初めてのコンタクトだ!絶対にこの機会を逃さない!!

 

「憎くありません。破壊したくありません。殺したくありません。俺は覇龍(ジャガーノート・ドライブ)にはなりません。俺はあなたのようにはなりません」

 

「.....殺せ、破壊し尽くせ、全てを壊せ、滅ぼせ、滅しろ、焼き尽くせ、消し飛ばせ、殴り殺せ...」

 

「どれもしません。どれも必要ありません。もう恨む必要はありません。あなたはもう解放されていいんです」

 

「...我、目覚めるは覇の理を神より奪いし二天龍なり」

 

『相棒!まずい、呑まれるぞ!!』

 

「いい加減にしろ!!!あんたはもう死んでるんだ!あんたの復讐はもう終わったはずだ!!生きてる次の赤龍帝を取り込もうとするな!!もう解放されていいんだ!!お前の戦いはとっくの昔に終わってるんだよ!!!」

 

「...無限を嗤い、夢幻を憂う」

 

「俺はアーシアとずっと一緒にいるって誓ったんだ!!お前の呪詛なんかに囚われてたまるかよ!!!俺はアーシアをずっと守るって誓ったんだ!!」

 

「....我、赤き龍の覇王となりて」

 

「あんたにも大切な人が居たんじゃないのか!!?守りたかったんじゃないのか!!?だからここに居るんじゃないのか!!?なぁ!!!俺は...絶対にお前らなんかに屈してやらない...俺は!!アーシアを守るんだ!この無駄に厳しい世界でアーシアと一緒に暮らすんだ!!!邪魔をするな!!!!」

 

「....汝を....紅蓮の.....」

 

 声が止まった。

 

「..........君は...守れるのか...」

 

「守ってみせる!!絶対に!!!」

 

「........そうか。ならば私は行くとしよう...」

 

 そういって、その男は立ち上がった。どこか彼方へ歩いていく...

 

『一人、行ったか...』

 

「....あぁ」

 

『奴は目の前で愛する者を失った事で覇龍となり、死に絶えた。きっとお前の声に影響されたのだろう』

 

「そっか....」

 

『だが、ここには信じられんほどの復讐心や殺意を持つ者もいる。これからも似たような方法で呪詛を否定できるとは思わん方がいいだろう...』

 

「そうだな...」

 

 ────────────────────────

 

「おい小僧大丈夫か?」

 

「タンニーンさん...?」

 

「突然龍の気が肥大化したから、よもや何かあったのかと思ったが...」

 

「いえ、なんとか大丈夫...です」

 

「そうか...まぁ今日はもう休め。食糧くらいは取ってきてやろう」

 

「...ありがとうございます」

 

 滅茶苦茶疲れた....

 多分寿命を削ってるとかそういうわけじゃないと思うけど...ほんの一瞬覇龍(ジャガーノート・ドライブ)になる前段階になってたって感じか...

 

『かなり危なかったぞ相棒』

 

 やっぱり?まぁ...なんとかなったし...一旦寝る...

 

 ..............

 

『よもや、言葉だけで呪詛を一人分とは言え否定してしまうとは...クク...やはりこいつは面白い』

 

 ────────────────────────

 

 次の日はあまり力が入らなかったので、タンニーンさんに魔力の扱いを習っていた。

 ブレスも習った。できたけど...なんか人間を辞めた気がしてきた...悪魔だけど。

 

 次の日は無事回復したので、ボロボロにされてしまった。

 

 更に次の日、滅茶苦茶に追いかけられていると声が聞こえた...

 

「おーおー、やってんなぁ!」

 

 アザゼル先生だった。

 アーシアが作ってくれた弁当を持ってきてくれたらしい。

 久しぶりのアーシアの味に、久しぶりの人間の食事に俺は感涙の涙を溢す...

 

「うっうっ...うまい...うまい...生きてる...うぅ...アーシアぁぁ...先生...アーシアに会ったら、俺が滅茶苦茶感謝してたって伝えて下さい...」

 

「泣きながら食うなよ...ったく、あぁ伝えといてやるよ。それにしても、まぁ体は元から悪くなかったからいいんだが、魔力もちったぁマシになってきたんじゃないか?」

 

「そうですね...毎日魔力を全部使い尽くすなんて経験したことないですし...全部実戦形式ですし...かなり成長できてる気はします」

 

「そうか...そういや龍の気が一瞬暴走したらしいな。一体何をしてるんだ?」

 

 アザゼル先生が真剣な顔で俺に尋ねてくる。

 

神器(セイクリッド・ギア)の中に眠ってる歴代の赤龍帝と対話しようとしてます。俺は覇龍(ジャガーノート・ドライブ)の力は絶対に使いたくないので...それで、昨日ようやっと一人が話を聞いてくれて、ちょっと危うく覇龍(ジャガーノート・ドライブ)になりそうだったんですけど、その人の分の呪詛を消して貰えたんです」

 

「へぇ...随分危ない橋を渡ってるんだな。だがまぁ覇龍(ジャガーノート・ドライブ)に関しての意見は俺も一緒だ。ヴァーリのように膨大な魔力を代用できるものでも覇龍(ジャガーノート・ドライブ)に長くなり続けるのは命を削る。お前なんかが使えばあっという間に寿命が尽きるぜ?それに対話ってのも悪くない。魂を封印するタイプの神器には有効だ。特に、新たな力を得たいってんならな。お前もお前なりに考えてるってわけだ...」

 

「まぁはい。あんまりそっちの進捗は...ようやっと少しって感じですけど。」

 

「ま、頑張ってくれや。お前がヴァーリに勝ちたいってんなら、兎にも角にも体力も魔力もどこまでも上げるしかねぇんだからな」

 

「頑張ります!」

 

「よくいった小僧...では早速続きを始めようか」

 

「ひぃぃ!後少し!アーシアの弁当が完全に俺の胃のなかに入るまで待ってください!!そこまでいったら死んでも吐きませんから!!」

 

 俺は再び死ぬほど追いかけられた。

 

 ────────────────────────

 

「こんにちわ!今日も来ました。」

 

 俺が神器の中に入ると、消えたはずのおっさんが俺の近くに立っていた。

 

「!!なんでいるんですか!?もう消えたはずじゃ...」

 

「....君を...君と想い人を見守る事にした」

 

「そ...そうなんですか...ありがとうございます!」

 

「.........頑張りたまえ....」

 

「.....!はい!」

 

 俺は他の人にアーシアを布教しようとしたが、今日も無視され続けました。でも、全く効果がない訳じゃない!根気よくだ...!

 

 ────────────────────────

 

『Welsh Dragon Balance Breaker!!!』

 

 その日は修行最終日だった。

 俺はタンニーンさんと全力で戦う。

 

 今の俺の現状は

 

 禁手化(バランス・ブレイク)までの時間1分。禁手(バランス・ブレイク)維持時間2時間。一日一回しか使えず、使った後はしばらく神器(セイクリッド・ギア)が機能しないのは相変わらずだ。

 

 自分で言うのもなんだが、かなり強くなったと思う。

 

「おらあああああ!!!!」

 

 俺はタンニーンさんのブレスを譲渡したドラゴンショットで打ち消す。

 

 ブースターから火を吹かせ接近。タンニーンさんの顎に突撃して殴る。更にドラゴンショットを譲渡してぶつける。

 

「ぬぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!」

 

 俺は腹に潜りこんで更に攻撃しようとするが、

 

「ちょこざいな!」

 

 タンニーンさんは倒立のような体勢になって、俺にブレスを放つ。

 俺はブースターに譲渡して、タンニーンさんの口元までなんとかたどり着く。

 身体中が焼き付く感覚があるがお構い無しだ!タンニーンさんの口の中でもう一度ドラゴンショットを放つ。即座にブレスと混ざって大爆発を起こす。

 

「ぐぅぅぅぅ!!!」

 

 俺は黒煙を上げながら吹き飛ばされる。

 

「がはっ!!」

 

 タンニーンさんも口から煙を吐いている...

 

「ったく...鬱陶しい事ばかり考えよって...」

 

「あんたの鱗が固すぎてまともにダメージ入らないからだろうが!」

 

「一発ぐらい、鱗の上からでも入れてみたらどうだ。なんなら動かずに受けてやろうか?」

 

 タンニーンさんが挑発する...

 

 俺はずっと考えていた。トリアイナではないが、それらしい事ならできるんじゃないかと...

 ドライグに相談した結果、片腕だけなら龍剛の戦車(ウェルシュ・ドラゴニック・ルーク)のような事ができるかもしれないとの事だった...

 

「ちょっと時間かけますけどいいですよね?挑発したのはそっちですからね!」

 

「あぁ構わんとも」

 

「頼む、ドライグ!!!」

 

『わかった。』

 

『Move Burst Impact Booster!』

 

 鎧の装甲の一部が浮き出し、装甲が俺の左腕に集まっていく。背中のブースターも俺の肘に移動した。

 更に装甲が生成され、俺の左腕は通常の何倍も分厚くなる。

 

 紛い物の模造品。そう呼称するしかない代物だ。

 

 身体中の装甲が薄くなり、左腕に集まる。

 防御力が激減し、左腕にオーラが集約される。

 スピードは落ち、バランスも悪い。

 この状態への変形におよそ10秒。

 欠陥品に等しい仕上がりだが...

 ただし、その左腕の一撃には必殺の威力が宿る。

 

『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost!!!!』

 

「行くぞぉぉぉぉぉ!!!!!」

 

 俺は肘のブースターを起動させ、タンニーンさんの元へ接近する。

 

 タンニーンさんの足元に到着した後、ブースターに譲渡して過剰なパワーの供給によってブースターが炸裂する。

 

『Transfer!!』

 

 バゴンとブースターが爆発し、神速で放たれた拳はタンニーンさんの鱗を砕く。

 その衝撃の反動で俺も吹き飛んだ。

 

「ぐぅ!!」

 

 タンニーンさんが苦悶の声をあげる。

 

 増幅した俺の左腕は砕けて元の大きさに戻り、鎧も元の形に戻る。

 ただし、今の一撃で俺の体力は殆ど持っていかれた。

 禁手化(バランス・ブレイク)を維持できる時間はもう殆どない。

 

「ぐぅ...なるほど。左腕に力を集中し、たった一撃に込めるのか...更にブースターを爆発させて威力を上げる...欠点はいくらでも挙げられるが、もしまともに食らえばと考えると少し恐ろしいな」

 

「まともに食らって、余裕そうですけど!??」

 

 俺はつい叫ぶ。

 

「そうでもないぞ...鱗を砕きよって。しかしこれは驚異的な事だ。お前は誇っていい。数週間特訓をつけてやった俺に最大級のお礼というわけだ...いい物を見せて貰ったぞ兵藤一誠。その技は実戦ではすぐには使えんだろうが、可能性の一端というわけだ」

 

「まぁ...はい」

 

「よし、これにて最終試験も終了だ。よく頑張ったな兵藤一誠。見違えるようだよ。お前はもう立派なドラゴンの端くれだ」

 

「そうだと嬉しいです...その!ありがとうございました!!!」

 

 俺は頭を思いっきり下げて感謝する。

 

 俺の修行は大成功と言って過言じゃないと思う。

 歴代との対話も可能性の一端を見せ、体力魔力も上昇し、最後には新技も開発できた。新技というかトリアイナの戦車の劣化版だが...

 

 早くアーシアに会いたい...今すぐ会いたい...

 あぁアーシア...アーシア...アーシアと触れあいたい...

 



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第33話。 再び集合です、眷属!

「では俺はこれで。魔王主催のパーティーには俺も出席する。また会おう兵藤一誠、ドライグ」

 

 タンニーンさんはそういって飛び去っていった。

 タンニーンさんはパーティーに俺達を背にのせて連れていってくれるらしい。優しい龍だ...たった数週間だったけど尊敬できる方だった。

 

「やあ、イッセー君」

 

 木場が現れた。木場もかなり鍛えたようで見違えるようだ。

 

「イッセー君、かなり鍛えたようだね」

 

「お前もな。見違えたよ」

 

「はは、自分で言うのもなんだけど、結構頑張ったよ」

 

「お、イッセーと木場か」

 

 そう声をかけたのはミイラ女...ゼノヴィアだったわ。包帯巻きすぎたらしい。

 怪我しすぎでは?人のこと言えねぇけど...

 

「ゼノヴィア久しぶり。どうしたんだそれ?」

 

「いやぁ、怪我をして包帯を巻いてを繰り返していたらこうなってしまった」

 

「後でアーシアに治して貰えよ...アーシア...アーシアに会いたい...もうすぐ...」

 

「はは、かなり堪えたみたいだね。アーシアさんとはずっと一緒だったもんね」

 

「限界間近だったぜまじで...」

 

 そわそわしながら待つこと数分...

 

「イッセーさん、皆さん!」

 

 この声は...!!!

 

「アーシア──ー!!!!会いたかった!!!」

 

「私もです!イッセーさん!!」

 

 俺達は抱擁を交わそうとしたが...

 しまった!今の俺、ボロボロドロドロでまともに風呂にも入れてないしくっせぇ!ダメだ!

 

「アーシアストップ!!」

 

「イッセーさん?」

 

「それ以上近付いちゃ駄目だ...今の俺滅茶苦茶汚いし、臭いし...」

 

 って言ったのに構わず抱きついてきた!!

 

「全然気にしません!それよりずっとイッセーさんと...こうして、触れあいたかったんです...」

 

「アーシアぁぁぁぁぁ!!俺も会いたかった!!!すっごく会いたかった!!!でも頑張ったんだ!!!アーシアも頑張ったか!!?」

 

「はい!頑張りました...!イッセーさんも...すごく筋肉がカチカチですね...」

 

「あぁ...!地獄のような日々だったんだ...」

 

「!イッセーさん!いっぱい怪我も火傷もしてるじゃないですか!!」

 

 アーシアが神器(セイクリッド・ギア)で回復してくれる。

 あ──アーシアのオーラあったけぇ...

 心が癒される....!

 

「ありがとうアーシア。神器(セイクリッド・ギア)の回復速度も上がったんじゃないか?こんなにすぐ治るなんて...」

 

「はい!いっぱい頑張りましたから...」

 

「...!偉いぞアーシア!そうだ!お弁当ありがとうな!!貰える度にすっっっっごく嬉しかったし、何より元気が沸いてきた!!!」

 

「ほんとですか...?一生懸命、イッセーさんの事を思って作ったので、嬉しいです!」

 

 あぁアーシア...!なんて可愛い事を!そしてなんて可愛いんだ!

 これだよ!歴代の皆様!こんなに可愛いアーシアを見てまだ復讐だのなんだの言うんですか!こんなに世界は幸せで満ちているのに!!!

 

 俺とアーシアは離れた時間を埋めるかのように抱き締め合った...

 

「やたらと外がうるさいと思えば外出組は皆帰ってきたようね。」

 

「部長...」

 

「さて、皆シャワーを浴びたら報告会よ」

 

 俺は久しぶりに暖かいお湯を浴びた。

 嘘ついた。水の中に逃げて、熱湯にされてたわ。

 あれはまじで死ぬかと思ったな...

 あそこからだったんだよな...隠れるんじゃなくて、動いて逃げる方が生存率が高いと気付いたのは。

 

 あぁ~汚れが落ちていく...!

 

 ────────────────────────

 

 皆で報告会をしたが、明らかに俺だけ内容がおかしかった。俺だけが文化的な生活を送れていなかった。

 

 アザゼル先生には

 

「まぁいいじゃねぇか。無事、ドラゴンに近付けたって事でよ!野生化したんだよお前は!」

 

 って言われた。

 アーシアに頑張ったんですね!って頭なでなでされた。

 あぁ~アーシアぁ...好き...もっと撫でて...甘えさせて...

 

「ま、今回の修行で一番成果を持って帰って来たのもお前で間違いない。すげぇ経験したんだぜ?誇っていいよお前は。」

 

 とか言われたので、照れるしかなかった。

 

「しかし、欠陥品だが龍王の鱗をも破壊する新技か...末恐ろしいな」

 

「まぁなんとか実戦に持っていけるように頑張ります...」

 

 ────────────────────────

 

 その日の夜

 

 俺とアーシアはもうずっと引っ付いていた。

 あぁ...失ったアーシア分が補給されるぅ...

 

「アーシア...好き...撫でて...」

 

「はい...ふふ、今日のイッセーさんは甘えんぼですね。」

 

 聖女の微笑みで俺の頭を撫でてくれる...

 あぁ好き。

 

 俺はアーシアに甘えるという事を覚えてしまった。

 これはまずい!底無し沼のようだ...

 アーシアのバブみが予想外に高いのだ。

 あぁ~でももういいや、今はアーシアの優しさに浸かりきりたい...

 

「甘えんぼのイッセーさんもいいですけど...私もイッセーさんに甘えたいです。イッセーさんほどじゃないですけど...私も頑張ったんです!だから、ご褒美が欲しいです...」

 

 アーシアが俺に身を寄せて、そんな事を言いながら上目遣いでこちらを見つめる...

 ぐっ...可愛すぎる...!

 でもご褒美ってなんだ!!?

 何をすればいいんだ!!?

 

 とりあえず俺はアーシアを抱き締めて、頭を撫でる...

 

「よ~しよし...アーシア偉いぞぉ...オーラを広げて遠距離で回復できるようにもなったんだよなぁ...ほんとすごいよ。もうアーシアは俺が守るだけの存在じゃないな...これからもいっぱい頼るよ。よろしくなアーシア」

 

「....イッセーさん...!ぐすっ...私嬉しいです...戦いの時、いつも...私は後ろで皆さんが傷つくのを見ることしかできなくて...この前も気がついたらイッセーさんが死んじゃうんじゃないかってくらい傷ついてて...ぐすっ...イッセーさん...私、これで戦いでもお役にたてますか...?」

 

「あぁ...間違いなく頼りになるよ...。俺なんか特に、いっつもケガばっかりだからさ...アーシアの回復をいつでも受けられるなら、こんなに頼りになることはないよ!」

 

「イッセーさん...!」

 

 アーシアが泣き止むまでずっと抱きしめてあげた。

 

 アーシアは泣き止むと、決意を新たにしていた。

 俺も頑張らないとな!

 

 ────────────────────────

 

「こんにちわ!ってあれ?何人か居なくなってる?」

 

「......君の想い人に浄化された...アーシアたんバンザイ...だそうだ...」

 

「は?まじで言ってます?おかしくなってません?」

 

「.....事実だ。奴らも呪詛を吐き出しきれば、やがてここに戻り、お前を...お前と想い人を見守るだろう...」

 

『....嘘は言っていない。お前が久しぶりにあの娘と再会したその喜び、感動に感化され、お前に毎日のようにあの娘の素晴らしさを聞かされていた者達の一部が真にその心を理解して屈したのだ。俺は何を言ってるんだ...?なぁ相棒、俺は今何を言った?うぉぉぉん...意味がわからんぞ...!!誰か説明してくれぇ!!』

 

「「「「アーシアたんバンザイ。アーシアたんバンザイ」」」」

 

 あっ消えた人達が帰ってきた...

 まじじゃん...怖...カルト宗教かよ...でもわかるよ...

 俺も参加しよ。

 

「「「「「アーシアたんバンザイ!アーシアたんバンザイ!」」」」」

 

『んおぉぉぉぉん!お前達...!それでいいのか!!本当にいいのか!!?』

 

「「「「「アーシアたんバンザイ!!アーシアたんバンザイ!!」」」」」

 

『んおぉぉぉぉぉぉぉぉん!!もういやだぁぁぁ!!!結局こうなるんじゃないかぁぁあああ!!!』

 

 ────────────────────────

 

 ....ひどい事になってたな...

 

 アーシア...君の魅力はやがて、全てを包み込むのだろう...俺!頑張って布教するよ!アーシア!!!

 歴代皆をアーシアで浄化した時初めて、俺の...俺だけの道が開く...確信した!!

 

 待ってろよ...!全員!アーシア教に落としてやるぜ!!

 

「....イッセーさん?」

 

 アーシアを起こしてしまったようだ。

 

「アーシア...アーシアの魅力は縦軸でも横軸でもグローバルだったよ」

 

「....??」

 

 全然意味わかってなさそう。俺もわからない。

 誰も意味がわからない。

 ただひとつの事実は

 

 アーシアたんバンザイ!アーシア可愛い!

 

 これだけだ。

 

 ────────────────────────

 

 次の日、魔王主催のパーティーに行くための準備が始まった。

 このパーティーで子猫ちゃんが黒歌に連れていかれそうになるんだよな...

 助けにいかない手はないんだが...

 アーシアを置いていくのは心配だ!

 後もうしばらくずっと一緒に居たい!

 でも、アーシアをあんな危険地帯に連れていくわけにも...

 うん、どうしようもないな...アーシアにはきつく言い聞かせて、ゼノヴィア、木場、朱乃さん、ギャスパーに警護させればなんとかなるか...

 

 俺は無理を言ってタキシードを着せて貰った。

 アーシアがドレスで着飾るなら最低限俺もそれに合うような服にしたい!

 あんまり似合ってない気もするけど、アーシアが側に来てくれればアーシアの華やかさでなんとかなるだろ。

 

「兵藤か?」

 

「ん?匙?どうしてここに?」

 

「いや、会長がリアス先輩と一緒に会場入りするってんでついてきたんだけど、やることもないから屋敷をぶらぶらしてたんだよ。にしてもお前タキシード着るのか、気合い入ってんな。」

 

「あぁ、アーシアがドレス着るって言ってたから、俺も最低限横に立っても恥ずかしくない格好したいなって思ってよ。」

 

「なるほどなぁ...そんなこと考えてもなかったぜ」

 

「もうすぐゲームだな」

 

「あぁ...」

 

「俺、会長の作った学校で兵士の先生になるのが夢なんだ...お袋もさ、先生になりたいっつったら、泣いちまってよ...でも、なんかよかったわ。お袋の安心した顔ってのも。」

 

「そっか...俺も。俺の夢はな、アーシアをこの世界のどんな脅威からでも守れるくらい強い男になることなんだ...そんで、何百年でも、何千年でも...最後の瞬間までずっと一緒に居ることなんだ。もういっぱいライバルや目標ができちまった。あっお前も俺のライバルだからな!油断なんか絶対してやらないぜ?お前は厄介な奴だからな。いい意味で戦いたくない。」

 

「....なんだよそれ」

 

 匙がちょっと顔を赤くしていた。

 

「だから、絶対に勝つ。...お前にも、他の奴にも」

 

「バカいうな!俺達も負けるわけにはいかねぇよ!」

 

 お互いに好戦的な笑みを浮かべる。

 

「イッセーさん!タキシードすごくかっこいいです!!」

 

「アーシア!!なんだそれ!!どこのお姫様だよ!!!可憐すぎないか!?大丈夫か?誰かに狙われたりしないか!?」

 

「....もしそうなっても、イッセーさんが守ってくれますから...大丈夫です」

 

「~~っ!!アーシアぁぁぁ!!絶対どんな奴からも!どんな変態からだって守ってやるからなぁ!!」

 

「はい!」

 

 俺はアーシアと抱き合う。

 

「おいおいお熱いなお前ら...くっそぉぉぉ俺も会長とっ...!!」

 

「私が何ですか?」

 

「かっっかかか会長!!?」

 

 匙が飛び上がっていた。

 

 ────────────────────────

 

 俺達は今、タンニーンさんとその眷属の背中に乗せて貰っている。

 俺はアーシアと一緒に、タンニーンさんの頭...特等席だ!

 なんか...アーシアがドレス着てるのも相まって、ファンタジー世界の王子とお姫様みたいな気分になってくる...あぁいいなぁこういうの...

 アーシアは俺の腕に引っ付いて景色を楽しんでいる。

 怖がらない子で良かった。楽しそう...

 

 ドライグも久しぶりに、龍の飛ぶ景色が見れて感慨深そうにしていた。

 

 タンニーンさんは確か、ある植物を餌にしていたが、その植物が絶滅しかけて、種が消えそうになっていたドラゴンを助けるために悪魔になったんだよなぁ。まぁ戦いも理由の一つらしいけど。本当にタンニーンさんは素晴らしいドラゴンだ。この人に修行をつけて貰えて良かった。心底そう思う...なんだかんだ死にはしなかったし!死にかけたけど!

 

 会場にたどり着くと、すごく豪華なフロア一杯に悪魔と食事が広がっていた。

 うへぇ...挨拶めんどくさそう...

 一応俺は伝説のドラゴンらしいので、部長の挨拶にそこそこ付き合わされた...めんどくさかった...

 

 挨拶が終われば、俺はすぐにアーシアの元に駆け寄った。

 俺は今会場のはじっこでアーシアと食事をとっている。

 

「はい、イッセーさん!あーん」

 

「あーん!うまい!アーシアが食べさせてくれるから美味しさ100倍だ!」

 

「本当ですか...?あの...イッセーさん...私にも、食べさせて下さい...」

 

「おう!アーシア...あーん!」

 

「あーん...」

 

「お前達、そんなに仲良かったか?いや、前からそうといえばそうなんだが、前にもましてというか...」

 

「ばか野郎ゼノヴィア!俺がどれだけアーシアに会いたいと願っていたか知らないわけじゃないだろう!!」

 

「私もイッセーさんにずっと会いたかったです...」

 

「これからはずっと一緒だ!!」

 

「はい!」

 

 俺はアーシアとぎゅっと抱きしめあった...

 幸せだ...

 

 するとどこかから視線を感じた。

 女の子がこっちを睨んでいる。あぁレイヴェルか...

 

「お、お久しぶりですわね、赤龍帝」

 

「お久しぶりですね、ライザーの僧侶さん」

 

「レイヴェル・フェニックスです!全く、これだから下級悪魔は頭が悪くて嫌になりますわ」

 

 ぷんすこ怒っているが、俺はお前に自己紹介されたことがないんだからどうしようもないのでは?

 

 アーシアもちょっとムッとしている。

 ごめんよアーシア。折角の二人の時間が...

 

「悪かったな。そういえば、お兄さん元気?」

 

 禁手化(バランス・ブレイカー)にやられた訳じゃないから、どういう感じになってるかわからないし一応聞いておくか...

 

「....あなたのお陰で塞ぎ込んでしまいましたわ。よほど敗北がショックだったようです。ま、才能に頼って調子に乗っていた所もありましたから、良い勉強ですわ」

 

「そうだったのか...まぁ早く立ち直れるといいな」

 

「そうですわね」

 

「それで?何か用事でもあったのか?」

 

「...あぁと、いえ!見知った顔が居たから声をかけただけですわ」

 

「そっか、じゃあまたな」

 

「えぇ、ごきげんよう...」

 

 レイヴェルは少し寂しそうな背中を見せて去っていった。

 すまんな、俺にはアーシアが居るのだよ。

 

 ふと視線を動かすと、小猫ちゃんが切羽詰まった表情で会場から出ようとしていた。

 まずい、そろそろ行かないと...

 

 あぁでも...アーシアと離れたくない...でもアーシアを危ない場所に連れていけない...うぅ...って迷ってる暇はまじでないぞ...行くしかねぇ!すまんアーシア

 

「イッセーさん?何かあったんですか?」

 

「ん?いや、なんでもないよ。それより俺、ちょっとだけ用事があるからさ、ここで皆と待っててくれないか?あっ!変な奴に付いていくなよ?皆もアーシアの事頼むからな!!」

 

「はい...?」

 

 アーシアが不思議そうにしていた。

 

「それじゃ!」

 

 俺は急いで小猫ちゃんを追いかける...

 俺がエレベーターに乗って、地上階を押した所で、アーシアが部長と一緒にエレベーターに入ってきた。

 

「アーシア!部長!なんでここに...」

 

「イッセーさんが会場から出るときに、部長さんも同じように急いで出ていらっしゃったので、何かあったのかなと思って付いてきちゃいました...」

 

「私は小猫の様子がおかしかったから...イッセー貴方も?」

 

「えぇはい...」

 

 エレベーターもう降り始めちゃった...

 アーシア連れていくしかないか?もう...

 でももしかしたらアーシアの神器(セイクリッド・ギア)のオーラで皆を守れるかもだし...

 

「あの...イッセーさん。私、大丈夫です!いっぱい頑張って修行しました...役に立ってみせます!」

 

「アーシア...あぁ、任せた!」

 

「はい!」

 

 俺はアーシアを撫でる。

 

 アーシアは修行によって、強くなったようだ。心も、身体も。

 俺がアーシアを連れていくか迷ってる所まで、読まれてしまった...

 ダメだな、頼りにするっていいながら避けようとして...

 

 地上階についたら、外に出て部長が使い魔を飛ばした。見つけたようだ。

 森の中を行くが、アーシアは初めてのドレスで慣れていないようだったので、お姫様だっこで連れていってあげた。

 

「アーシア、しっかり俺につかまってろよ。」

 

「はい!...あの、イッセーさん、重くないですか...?」

 

「アーシアが重いわけないだろ!羽のように軽いよ!というか最高だ!」

 

 お姫様だっこってこんなに密着するのか...

 ドレスで着飾っていつもと雰囲気の違うアーシアなのもあってドキドキしてしまう...

 あっ...アーシアが俺の首に掴まって、頭を俺の肩に持ってきた...密着感がより増した!!これはすごいな...!首にアーシアの息がかかる...!

 うぉぉぉぉ!!!

 

 俺は元気いっぱい小猫ちゃんのいる方へと走り出すのだった...

 

 

 



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第34話。 撃退します、黒猫!

 森を進むこと数分、小猫ちゃんが黒い着物を着た猫耳と対峙していた。黒歌だ...

 

「.......姉さま。どういうつもりですか...」

 

 小猫ちゃんはお怒りモードだ。

 

「怖い顔しないでよ。ちょっとした野暮用よ。悪魔さん達が大きな催しをしてるっていうからさ、ちょっと気になっちゃって。にゃん♪」

 

 にゃんだとよ。状況が相まって全く萌えないな。

 結構強そうだしそんな気分にもならん...

 アーシアがにゃんとか言ったら死ねる自信あるけど...

 どうしよう、もう禁手(バランス・ブレイク)のカウント入った方がいいか?黒歌の事だからどうせ気付いてそうだしなぁ...

 俺はカウントダウンを始めた。

 

「ハハハハ、こいつ、グレモリー眷属かぃ?」

 

 美猴!そういやこいつも来るんだったな...

 

「無駄無駄。仙術知ってると気の流れでだいたいわかるんだよねぃ。出てきなよ。」

 

 美猴がこちらを指さす。

 やっぱりばれてるよな...

 俺達は姿を現した。

 

「....部長、アーシア先輩、イッセー先輩」

 

「お前が赤龍帝かぁ。ヴァーリが重症負ってたからどんなかと思ったけど...んー微妙だねぃ」

 

 悪かったな!禁手(バランス・ブレイク)したら覚えとけよお前!

 

「黒歌~帰ろうや。どうせパーティーにも参加できないし、つまんないぜぃ...」

 

「そうね、帰ろうかしら...ただ白音はいただくにゃん。あの時連れていってあげられなかったからね」

 

『Welsh Dragon Balance Breaker!』

 

 やっべめっちゃタイミング悪い!!!

 

「おっ?やる気かぃ?」

 

 まず~い!美猴が戦闘モードに入りそうだ...!

 

「待て!お前らが帰るってんなら戦う気はない。ただまぁ戦う可能性も無きにしも有らずかなと思って準備してたんだ。タイミングの問題だ!」

 

「なんだぃ。じゃあその子連れてさっさと帰ろうや...」

 

「再び語弊がある!小猫ちゃんは連れていかせない!!小猫ちゃんは俺達の仲間だ!二人だけで帰ってくれ!」

 

「勇ましいのはいいけどねぃ...黒歌と俺っち相手にするつもりかぃ?その娘だけくれりゃおとなしく帰ってやるよぃ」

 

「この子は私の眷属なの!指一本触れさせないわ!」

 

 部長が勇ましく叫ぶ。

 

「その子は私の妹。上級悪魔様なんかにはあげないわよ」

 

 黒歌がそういうと、空間に違和感を感じた。

 結界で封じたらしい...

 なんでもできるなこいつ。

 

「リアス嬢、兵藤一誠、アーシア・アルジェントが森に入ったと報告を受けて来てみれば、結界で封じられるとはな...」

 

「タンニーンさん!」

 

 我らが元龍王!!味方になればこんなにも頼りになるのか!!安心感がすごい!

 

 美猴はタンニーンの登場に大興奮で、如意棒ときん斗雲を呼び出して、空中大決戦が始まった。

 タンニーンさんのブレスをもろともしていない...

 やっべぇなあいつ。俺なんか手加減の上、鎧着てようやくなのに...

 

 そちらに気をとられている隙に、黒歌からドス黒いオーラが滲み出てきた。

 

 やば...さっさとぶっ倒さないとアーシアに危害が...でも小猫ちゃんと部長と、黒歌でお話始まっちゃった。

 ここで殴りにかかるのは流石に空気読めなさすぎか。

 

「...姉様。私がそちらに行きますから、皆さんは見逃してあげて下さい」

 

「何言ってるの小猫!あなたは私の大切な眷属なのよ!勝手は許さないわ!!」

 

「...ダメです。姉さまの力は私が一番よく知っています。姉さまの力は最上級悪魔に匹敵するもの。ここにいる皆で倒せるとは思えません...」

 

 実際どうなんだろうか...本気の戦いなら厳しいのかな?

 

「それでも絶対に渡さないわ!あんなに泣いていた小猫をあの猫又は助けようともしなかったもの!」

 

「だって、妖怪が他の妖怪を助けるわけないじゃない。今回は手駒が足りないから白音が欲しくなっただけ。そんな紅い髪のお姉さんより私の方があなたの力を理解してあげられるわよ?白音」

 

「...イヤ、あんな力いらない...黒い力なんて...人を不幸にする力なんて要らない!!」

 

「黒歌...力に溺れたあなたはこの子に一生消えない心の傷を残したわ。この子はあなたに裏切られてから、ずっと辛いものばかり見せられてきた。だから私がこの子にたくさん楽しい物を見せてあげるの!この子はリアス・グレモリーの戦車!搭城小猫!私の大切な眷属なの!!」

 

 それを聞いた小猫ちゃんは涙を溢れさせる。

 そうだな。小猫ちゃんは俺達の大切な仲間だ。

 仲間を傷つけるやつは許すわけにはいかないな。

 

「....行きたくない!私は塔城小猫。私は部長と一緒に生きる!生きるの!」

 

 小猫ちゃんが叫んだ。

 

「じゃあ、死ね」

 

 黒歌がそういうと、霧のようなものが発生する。

 この霧は...かなりまずそうだな。

 

「アーシア!神器(セイクリッド・ギア)のオーラで部長と小猫ちゃんを包んでくれ!!早く!!」

 

「...!はい!」

 

 アーシアが自分込み三人をオーラで包み込む...

 霧の範囲に入ったが、今の所大丈夫そうだ...

 

「すごいぞアーシア!!流石だ!!すぐにあいつ倒してやるから!そのまま耐えてくれ!!」

 

「任せてください!!」

 

 アーシアがむん!と気合いを入れている。可愛い...

 

「あんたは赤龍帝だから効かないのかしら?それで、向こうはあの神器(セイクリッド・ギア)の効果か...にしても、厄介な奴もいたものね。回復担当だなんて...先に殺そうかしら」

 

 ビキリと俺の血管が音を立てた。

 

「.......は?おいお前...今アーシアを殺すって言ったのか?.....殺すぞ、クソ猫!!」

 

『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost!!』

 

「おぉ怖い怖い...でも、力だけで勝てるほど私は簡単じゃないのよねん♪」

 

 部長が魔力を打ち出した。

 黒歌にぶつかるが、体が霧散する。

 幻影を大量に作りだした...

 クッソ!どれを殴ればいいんだ!全くわからん!!

 いっその事全部ふきとばすか...?いや、アーシア達が巻き込まれる!!あぁぁ!!くっそ!!!

 怒りの矛先が定まらん!!!

 

 幻影の一つがアーシアに魔力弾を打ち込んだ。

 俺はすぐにアーシアの壁になって、守る。

 

「てめぇぇぇぇ!!!!まじで殴る!!!絶対に!!!」

 

『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost!!!』

 

 複数箇所から、魔力の弾が飛んで来る。

 ドラゴンショットを撃ったり、殴ったり、庇ったりで全部受け止め切る。

 

「おい!ぶりっ子クソ猫女ぁ!!!こんな雑魚みてぇな攻撃ばっかちまちま撃ってねぇで大技撃ってこいよ!大技!!!欠伸が出るぞ雑魚がよ!!!びびってんのか!?大した力もねぇもんなぁ!!」

 

 俺はただでさえ少ないボキャブラリーが怒りによって悪化して、めちゃくちゃ頭悪そうな煽りを繰り出す。

 

「ガキッ!!調子に乗りやがって!!!」

 

 黒歌が妖力やらなんやらを大量に込めているのがわかった。

 バカにバカにされたらムカつくよなぁ!!

 

「おらクソがぁ!!方向わかりゃこっちのもんじゃ!!!」

 

 俺はオーラと魔力を混ぜて、譲渡してその方向にぶちかます!!!

 

 ドガガガガガガガ!!!!

 

 はるか向こうまで恐ろしいほどの破壊が繰り広げられる。

 斜線上の悉くが蹂躙され、灰塵と化していく。

 あぁ、すっきりした。

 今の一撃で、結界だの霧だの全部吹き飛んだ。

 俺も...怪獣の仲間入りだな...

 タンニーンさんとの修行の成果だ。ありがとうタンニーンさん。

 まぁまだこれでも弱いんですけど...

 どんだけ皆強いんじゃ...勘弁してくれ...

 

『クハハハハハ!!これこそ赤龍帝の一撃よ!久々にすっとするようだ...』

 

 ドライグも嬉しそうだ。良かったね。

 ちょっとアーシア教のせいで不安定になってきてたもんな...

 あいつら、俺が居ない間にも他の歴代に延々とアーシアたんバイザイ!!って言い続けてるんだってよ...怖すぎる...何が彼らをそこまで駆り立てるんだ...

 アーシアだね。アーシアたんバンザイ!!

 

「イッセー!無闇に土地を破壊しないで!!」

 

 部長に怒られた...

 すんません...

 

「な...なんなのよあんた...!クソッ!」

 

 黒歌は上手く避けたみたいだ。

 びびってるみたいだけど...

 

「おい...次にアーシア狙ったら、肉片一片残らず全部消し炭にしてやるからな...わかったか...」

 

 俺は黒歌に近づいていく...

 

「ぐっ...このっ!!」

 

 黒歌は多段攻撃を仕掛けてくる...

 自分で言うのもあれだが、あの一撃を見てなお立ち向かってくるのは流石としか言いようがないな...

 

 まぁ知らんけど。

 俺は攻撃全部無視して近づいていく...

 

「一発キツいの入れてやるからお勉強するんだなぁ!!」

 

『Move Burst Impact Booster!!!』

 

 俺の左腕に装甲が集まっていく...

 攻撃痛くなってきた...イテテテテテテ!

 よし!準備完了。

 

 俺は黒歌の座っている場所の近くに拳を振り下ろした。

 本人を狙わないのは温情だ。

 キィィィィィィンと音を立てた後にブースターが爆発する。

 

 バゴォォォォォォォォォォォン!!!

 

 地面が大爆発して、地表に大きなヒビが入った。クレーターもそこそこ大きいのができた。

 黒歌は吹っ飛んだらしい。俺も吹っ飛んだ。

 この技反動で俺も吹き飛ぶんだよな...

 ぶん殴ってやろうと思ったけど、まぁさっきの攻撃ですっきりしたし、ぶん殴って飛んだ石礫で充分だろう。

 

「そこまでです、皆さん。悪魔がもうすぐ来ます。」

 

 メガネの聖剣使い、アーサーがどこからともなく現れた。

 聖王剣コールブランドー、及び最強のエクスカリバー、支配の聖剣(エクスカリバー・ルーラー)の使い手。

 二つともやべぇ聖剣なので、恐ろしいほどの悪寒が駆け巡る...

 

「おまえ、ヴァーリの付き添いじゃなかったかい?」

 

「黒歌が遅いので見に来たのですよ。まったく、何をしておるのやら」

 

 アーサーは呆れた様子で佇んでいる。

 こいつと戦うのは流石に無理ゲーくさいから勘弁してほしいんだが...

 

「赤龍帝さん、そちらの聖魔剣の使い手さんと、聖剣デュランタルの使い手さんによろしく言っておいてくださいますか?いつか剣士として戦いたいと...」

 

「こいつら連れて帰るなら言っておいてやるよ」

 

「もちろんです。では行きましょうか...」

 

 アーサーは皆を連れて帰った。

 あっという間に回収していったな...

 仕事ができる有能イケメンとか、どんだけポイント高いんだ...

 

 騒ぎを聞き付けた悪魔の皆さんによって、事態の収集が行われた。

 もちろんパーティーは中止だ。

 

 俺は今、無闇に自然を大量破壊した事をアーシアに怒られている。

 ぷりぷりと怒っていた。

 人が居たら大変な事になっていましたと言われる...

 ごもっとも...!

 可愛かったけど、アーシアに怒られるのはかなり辛いというか...悪いことした感がすごい。

 

「ごめんなさい...」

 

「イッセーさんも反省したみたいですし、もう大丈夫ですよ?それに...ちょっとやりすぎだとは思いましたけど...イッセーさんが守ってくれて、嬉しかったです...」

 

 アーシアは俺を抱きしめてくれた後に、恥ずかしそうにそう耳元で囁いてくれた。

 背中がゾクゾクした...また何かに目覚めそうだ...

 アーシアASMRとか...5万でも買います。

 

 ────────────────────────

 

 会長とのゲーム前夜、俺達は最後のミーティングと洒落混む。まぁ俺は戦術とか難しいので居るだけだ。

 

「イッセー、お前の禁手(バランス・ブレイク)は間違いなく使うが、一度使えばもうゲーム内で使えなくなるのは痛手だ、更に数時間神器(セイクリッド・ギア)も使えなくなる。通常状態での戦闘が必要になる場面も必ずあるんだから、タイミングにはしっかり注意しておけよ...」

 

「はい、気を付けます」

 

 気を付けるったって、どうすりゃいいかわからんけどな...

 とりあえず匙の攻撃だけは注意しないと...

 今回のゲームは関係ないが、普段のゲームならサクリファイス的な思考で、序盤で禁手(バランス・ブレイク)して大暴れしてなるべく敵に甚大な被害を与えるのも悪くないし、終盤の火力として残るのも悪くないんだよな。

 まぁ部長に任せよう。俺は指示待ち兵士だ。

 

「リアス、ソーナ・シトリーはグレモリー眷属の事をある程度知ってると思っていいんだな?」

 

「えぇ、大まかにはそうね。それにイッセーは先の禍の団(カオス・ブリゲード)襲来の大暴れで、修行の成果を見られたと思っていいでしょうね...ちょっと痛手だわ。まぁフィールド如何によってはデメリットにすらならないだろうけど...恐らくパワーバランスから考えてもイッセーのような大火力を防ぐルールが適応される可能性が高いわ...」

 

 実際そうだ。俺は暴れすぎずに敵を倒さないといけない...

 結構むずかしそうだな...やっぱ火力調整的にも通常状態の方がいいかもな。

 くっそ...修行では永遠と、怪獣大バトルしてたから周りの被害とか考えるのが難しいぞ...

 これだからレーティングゲームは難しいのだ。

 

 相手は八名、数は一緒にだな。

 しかしアーシアは戦闘要員ではない。

 アーシアの分も考えれば、少なくとも俺は2,3人潰す事ができれば駒相応の働きができたという事になるのか...?

 いやまぁ誰を取るかで話は変わるだろうけど、大まかに目標をですね...

 

 などと考えているとアザゼル先生が俺達の事をタイプ別で図解してくれた。

 

 部長、ウィザードタイプ、魔力全般に秀でている。まぁそのまんまだな。

 

 朱乃さん、同じくウィザードタイプ。

 

 木場、テクニックタイプ。技や特殊技能で翻弄できる。木場は特にスピードが凄い...

 

 ゼノヴィア、スピードに秀でたパワータイプ。こいつはこいつで結構素早いもんな。木場には敵わないって感じだったけど...まぁ代わりに大火力がある。

 

 アーシア、ウィザード寄りのサポートタイプ。一生懸命修行したから体力も魔力も増えて、ウィザード側にもズレたらしい。流石アーシア!

 

 ギャー助、テクニック寄りのサポートタイプ。まぁ神器(セイクリッド・ギア)がサポートで能力がテクニックだからだな。

 

 小猫ちゃん、パワータイプ。そのまんま。まぁ仙術も使うならテクニックにも化けるかもね、って感じか。

 

 最後に俺。パワータイプ、ただし譲渡でサポートにも回れる。まぁ言わずもがな。

 

 満遍なく居て、バランスは悪くないんだろうけど、どうにも脳筋バカ集団と言われてる気がしてきた...

 木場、ギャスパー、アーシアくらいじゃないか...頭使ってそうなの...

 

「お前ら、特にイッセー!パワータイプが気を付けるべきはカウンターだ。テクニックタイプのカウンターは、かなり厄介だと考えておけ...攻撃の威力によっては全滅もありえると自覚しろよ?」

 

「カウンターならば、力で押しきってみせよう。」

 

 勇ましいなゼノヴィア。でもわかるぜ、カウンターする事を許さない大火力で倒すとか気持ち良さそうよな...

 

「それで乗り切れる事もあるが、相手がカウンターの天才ならば話は別だ。できるだけ攻撃を避けて、パワー以外のタイプに戦わせるんだ。まぁ相性の問題だ。」

 

 アザゼル先生がまとめとばかりに立ち上がる。

 

「お前達が今回のゲームで勝つ可能性は80%以上と言われている。俺もお前達が勝つと思っちゃいるが絶対とは思わない。俺は長く生きてきた中で、1割...果ては1%の可能性を掴んでいった者達を知っている。奴らは恐るべき執念と根性で勝利を勝ち取ったんだ。まぁ、どんな奴らでも油断すんなよって話だ。いつだって足元を掬われるのは強者ってのが世の常だ。特にイッセー、急激に火力が上がったからって調子に乗るんじゃねぇぞ?」

 

「乗れませんよ...ただでさえ俺より強い奴が後どれくらい転がってるんだかわかったもんじゃないんですから...」

 

「それがわかってるならいい。ま、お前らならいけるさ、頑張れよ。」

 

 それだけ言ってアザゼル先生は帰っていった。

 その後、先生以外のメンバーで夜遅くまで戦術を話し合うのだった...

 俺には難しかったのでアーシアと手を握りあって静かにイチャイチャしてた。

 

 ちゃんと話は聞いていたのであしからず。

 



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第35話。 始まります、シトリー戦!

 決戦の日、俺達は部長の城の地下にある巨大魔方陣に集合していた。

 アーシアはいつものシスター服。ゼノヴィアは例の戦闘服。後のメンバーは学園の夏服だ。

 俺もなんか戦闘服考えようかな...

 正直制服ってあんまり動きやすかないんだよな。気になるほどでもないけど。

 

「次期当主として恥じない戦いをしなさい。眷属の皆さんもですよ?」

 

「頑張って、リアス姉様!」

 

 部長の家族が激励を送ってくれる。

 俺はアーシアの手を握った。

 

「頑張ろうな、アーシア」

 

「はい!」

 

 アーシアは笑顔でそう返してくれる。

 前回の戦いは不安でいっぱいといった感じだったが、アーシアも強くなったなぁ、感慨深いぜ。

 黒歌との戦いの時も、アーシアのお陰で部長達はダメージを負わなかったし。

 

 魔方陣で転移する。

 ついた先はテーブルだらけの場所だった。

 見覚えがある。アーシアとの初デートの場所でもある...思い出のショッピングモールだ。

 

「ここって...」

 

「あぁ、俺達の初デートの地が舞台らしいな...まぁいつも一緒に来てるけど」

 

「そうですね...」

 

 時間にすれば数ヶ月なのだが、内容が如何せん濃すぎてはるか昔のように感じる...

 俺とアーシアはぎゅっと身を寄せあった。

 

「ちょっと...今から戦いなのよ?」

 

 部長が頭を痛そうにしている...

 木場も苦笑い。

 

「.....バカップルすぎて緊張感が出ません」

 

 小猫ちゃんにまで言われた。

 うっせぇわい!俺達なりのリラックス法じゃい!

 

「でも、なんかこれを見ると心が落ち着きますね...」

 

 ギャー助...お前の精神安定に繋がるなら良かったぜ。

 というか、みんなの緊張をほぐしてるし最適解なのでは?ならこれからもずっとアーシアとイチャイチャしよ。そうに違いない。

 

「.......呆れてるだけです」

 

「小猫ちゃん、今日もキレッキレだね」

 

 元気そうで何よりです。

 

 などと喋っているとグレイフィアさんからアナウンスが入った。

 今回もグレイフィアさんが審判らしい。

 

 俺達の本陣は二階の東側、会長達の本陣が一階の西側だそうだ。

 結構範囲がアバウトだな...プロモーションしやすいのか?

 

「今回は特別ルールがございます。本陣にある資料をご確認下さい。フェニックスの涙は両チーム一つづつ支給されます。作戦タイムは30分です。この時間内の相手との接触は禁止されています。」

 

 俺達はフードコートで作戦会議を始めた。

 

「今回の特別ルール、バトルフィールドを破壊し尽くさないこと...やっぱりこう来るわけね」

 

「....私や副部長、イッセーにとってはかなり不利な戦場だな。思いきった攻撃ができん」

 

 ゼノヴィアが言った。

 

「確かに...俺なんか禁手化(バランス・ブレイク)したら、物理攻撃以外は大体なにかしら壊しそうだもんな...あれ?俺ってもしかして破壊の権現にでもなりかけてる?」

 

「イッセーさん!大丈夫ですよ!」

 

 アーシア...何が大丈夫なんだい?

 でもアーシアが大丈夫って言ってるし大丈夫だな!うむ!

 

「私もだ。デュランダルでの攻撃は考えて打たなければ...」

 

「ギャスパーの眼も使用禁止よ。まだ完全に使いこなせていないから、ゲームの進行に影響を与える可能性がある以上容認できないとの事よ...アザゼル印の神器(セイクリッド・ギア)封印メガネの着用が義務づけられたわ」

 

 なんというか...俺達がごり押しで勝てないようにあからさまに規制がかけられてるな。

 まぁそれを乗り越えて勝てって話なんだろうけど。

 観客が望んでいるのは破壊による虐殺ではなくて、手に汗握る緊迫した頭脳戦、熱い戦いだ。

 

 話し合いが続く中、木場が立体駐車場の視察をしてくると言って出ていった。まぁ間違いなく戦いになる場所だしな...

 

「ギャスパーもコウモリになってデパートの各所を飛んで頂戴。序盤はこちらに状況を逐一報告してほしいの。」

 

「り...了解です!」

 

 色々と話し合いながら一応のゲームプランが整った。

 残り15分との事で、5分前までリラックスタイムだ。

 

 俺、アーシア、ゼノヴィアの三人でハンバーガーショップの前で喋っている。

 俺は中に入って、ドリンクを勝手に注いで飲んだ。

 バーガーショップのバイトなんてしたこともないからちょっとわくわくした。ポテトもつまんでやったぜ。うめぇ。

 アーシアもやってみたいと楽しそうにしていた。非常に可愛い。

 アーシアがゼノヴィアにも飲み物を注いであげている。

 アーシアとゼノヴィアが仲いいから必然的にこのメンバーで絡む事が多くなって来たんだよなぁ...

 まぁこれはこれで悪くない。アーシアも楽しそうだし、ゼノヴィアも話せばいい奴だし。ちょっと脳筋臭がする所も地味に意見が合う。

 まぁアーシアとのイチャイチャを邪魔される時もなきにしもあらずだが、ゼノヴィアもそこら辺はわかってるのか割りと空気読んでくれるし...

 

「イッセー。お互い不自由な戦いになりそうだが、なんとかやってやろう」

 

「ん?おう、頑張ろうぜ。アーシアも、終盤戦で頼りにしてるからな?」

 

「はい!任せて下さい!」

 

 フンフンとアーシアが気合いを入れている。可愛い。

 

 ほんとはずっとアーシアの護衛をしたいが、俺の役割は兵士。一番槍で突っ込まないとなんだよなぁ...

 

「アーシア...抱きしめていいか?」

 

「?...いいですよ?」

 

 アーシアがハグしてくれる。

 俺の胸の中から熱い力が沸いてくる...

 

 ちなみに現在の歴代のアーシア教侵食率は20%だ。こっわ...スピードが早すぎる。

 まぁアーシアが可愛いから仕方ないね。

 まぁそういうわけで、こうしてアーシアと触れあっていると洗脳済みの先代達が信仰の力で俺を強化してくれるのだ...ちなみに俺が一番アーシアを信仰してるので俺が一番自分を強化してる形になるが。

 俺はこれを便宜上、アーシニウムエネルギーと名付けている。

 原作の乳パワーみたいなもんだ。多分違う。

 でも、これを使いこなしたら俺はもっと強くなれる気がする...!

 ただし、ドライグの精神が少し削れるので注意が必要だ...

 

「ありがとう!これで充分にアーシアの力を貰えた!」

 

「...?」

 

 アーシアは不思議そうだ。

 

「イッセー、君はどこに向かっているんだ...?」

 

 俺の力の増大を感じたのかゼノヴィアにそう言われた。俺が知りたい。

 

『んおぉぉぉぉぉん!やめてくれえぇぇぇ!お前だけがバカなのは我慢できる...!だが過去の赤龍帝まで汚さないくれぇぇぇえ!!!』

 

 すまないドライグ...でも!この力を十全に扱えれば俺は!最強の赤龍帝にきっとなれる!!

 

『相棒!!俺は赤き龍なんだ!!誇り高き二天龍なんだぁぁ!!』

 

 ごめんって...でも覇龍(ジャガーノート・ドライブ)以外の可能性を模索してる俺にはこの力は多分必須なんだよ。

 わかってくれ...申し訳ないとは思ってるよ。

 俺だってこれでもそこそこバトル好きだし、気持ちはわかるけど...

 でもアーシアが可愛いんだから仕方ないだろ!!?

 

『........俺もアーシア教に入ればわかるのだろうか』

 

 そう語るドライグの声はどこまでも切なかった...

 

 ────────────────────────

 

 時間になり、俺達は再び集合した。

 

 グレイフィアさんから、三時間の短期決戦であることがアナウンスされる。

 

「さっきの指示と変わらないわ。イッセーは小猫と一緒に、祐斗はゼノヴィアと一緒に行動して頂戴。ギャスパーはコウモリになって監視と報告。戦いが進んでいけば私と朱乃とアーシアでイッセー側のルートを通って進むわ!」

 

「木場、切れ味優先で短剣作ってくれないか?」

 

「いいけどどうして?」

 

「いや、俺が譲渡すれば匙のラインも切れるかなって...アスカロン持ってるのが一番確実なんだが、ゼノヴィアに渡すだろ?」

 

「なるほどね、じゃあこれをどうぞ。」

 

 木場に剣を貰った。

 

「サンキューな!」

 

 かくして俺達は出動した。

 

 作戦としては、俺が女王になるべく進行する事を読んでいると考えて、逆に俺を囮にして木場達が主戦力として敵本陣を攻める...との事だ。

 

「イッセーさん!頑張ってください!いっぱい怪我しても絶対私が治しますから!!」

 

「ありがとうアーシア!!!絶対勝ってやるぞ!!!」

 

 俺が怪我するのはアーシアの中で確定なのね...

 

 小猫ちゃんと定期的に前方を探りながらゆっくりと進行していく。

 小猫ちゃんは自分の力を使うつもりらしい。

 やっぱりどうしても部長の役にたちたいと覚悟を決めたそうだ。

 

「まぁ、小猫ちゃんがもし暴走しても、絶対止めてみせるからさ、大船に乗ったつもりでドンと構えてくれよ!」

 

 俺がそう言うと

 

「....イッセー先輩の船だなんて、アーシア先輩の分しか席がなさそうですね」

 

「それは否定できないかもしれない...」

 

「....でも、ありがとうございます」

 

 と言っていた。決意は固いようで安心だ。きっと小猫ちゃんなら問題なく力を使える。

 

「....まっすぐ来てる者が二人」

 

 小猫ちゃんは仙術を使って、気を探っていた。流石は猫魈...

 

「....後10分ほどで会敵します」

 

 いよいよ準備しとくべきだな...俺は神器(セイクリッド・ギア)を起動した。

 

『Boost!』

 

「....!上から来ます!」

 

 小猫ちゃんが叫ぶ。

 

 天井から、匙がターザンみたいに飛んで来た。

 匙に女が一人引っ付いている。

 

「兵藤か!まずは一撃!!」

 

 匙が俺に勢いそのままに蹴りを入れてくる。

 

「ぐっっ!!」

 

 俺は籠手でガードしたが、少し飛ばされる。

 まぁすぐに体勢は立て直したけど。

 

「匙!序盤から来てくれたな!行くぞ!!」

 

『Count Down!1 Minutes!』

 

 匙とやるなら禁手化(バランス・ブレイカー)にはなっておくべきだろう。

 

 よく見ると匙の神器(セイクリッド・ギア)はかなり変わっていた。

 神器(セイクリッド・ギア)が進化したみたいだな。

 2つのラインが俺に繋がり片方は俺の神器(セイクリッド・ギア)と匙の神器(セイクリッド・ギア)を繋ぎ、もう片方は俺の右腕と遥か彼方を繋ぐ。

 確か血液を吸ってるんだったか...?

 あんまり悠長にしてると失血で体力を削られるな...

 

『リアス・グレモリーさまの僧侶一名、リタイア』

 

「やられたのは恐らくギャスパー君だよ」

 

 匙がニヤリと笑う。

 

「ギャスパー君を不審な動きで誘って、食糧品売場にてニンニク攻撃してやったのさ...」

 

「よくもギャスパーを!この野郎...行くぞ!」

 

 匙もこちらに距離を詰めてくる。

 俺は匙の蹴りを籠手で受け止めて、逆に匙の腹を殴ろうとするが、籠手がラインで引っ張られて上手く踏ん張れず微妙なパンチになってしまった。

 くっそ...わかっちゃいたが俺って対人戦の経験が薄いな!匙の方が上手だ!

 

 俺が再び匙を攻撃しようとすると、ラインがライトに伸びていった。

 

 突如閃光が巻き起こる。

 俺は眼を瞑ったが少し遅く、視界が持っていかれた...

 腹にパンチが入る。ぐっっっでも俺は腹への攻撃なら今まで何度も食らって来てるぜ!!内臓が破裂した事だってあるんだ!!このぐらい!!

 

 視界が少し回復した時点で見えたのは俺の顔面を殴ろうとする匙であった。

 俺は拳を籠手で防ぐ。

 

 少し下がった所で時間が来た。

 

『Welsh Dragon Balance Breaker!!!』

 

 禁手化(バランス・ブレイク)したばかりの俺を襲うのは匙の魔力弾だった。

 

「ぐっっっ!!!」

 

 威力自体はそんなに無いが、体内に深く衝撃が行き渡る...!

 良く見れば匙の心臓にラインが繋がっていた。

 

「命を削った一撃って所か...?」

 

「あぁそうだ。魔力の低い俺が火力を出すにはこれしかなかった。文字通り命懸けだぜ...兵藤、俺はお前を...赤龍帝を絶対に倒してみせる...!!」

 

 すごい覚悟だ...でも、負けるわけにはいかない!

 アーシアと合流しなきゃならんからな!!

 

 そうしてる間に子猫ちゃんが敵を倒していた。

 仙術を使って気の源泉にダメージを与えたそうだ。改めて聞くと怖すぎ...

 

「....匙先輩、ごめんなさい。」

 

 そういって兵士の子は消えていった。

 

『ソーナ・シトリー様の兵士一名、リタイア』

 

「....イッセー先輩、加勢します。」

 

 小猫ちゃんがそう言う。

 

「悪い、小猫ちゃん。ここで共闘なんて匙に対して恥ずかしすぎて顔向けできなくなっちまう...あいつは命をかけて俺を取りに来てる。それに答えるのが友達ってもんだ!!」

 

「ありがとう、兵藤...いくぞ!!」

 

 俺は匙の腹を殴る。

 

「ガッッッッッ!!!」

 

 怯んだ匙に蹴りを入れようとするが、地面に伸ばしたラインを引っ張り回避した。すぐに俺の腕に別のラインを伸ばし、逆側を俺の足元に張り付ける。

 ぐっ!!匙から離れてるのに強度が強い!!

 

『Boost!Boost!Boost!Boost!』

 

 俺はなんとか引きちぎったが、その頃には匙が全力の魔力をこちらに飛ばしていた。

 回避できない!!なら!!

 

 俺は後ろに体重をかけながら右手でドラゴンショットを作り出し、譲渡無しでぶつける。匙の魔力弾が打ち勝ち、俺に飛んで来る。

 しかし威力はそいだので、左手で魔力弾を殴る。

 

 左手がじくじくと痛む...

 強い意志が籠っている一撃...

 

 俺は再び匙に接近して顔面を殴る。

 匙はすぐに立て直し、俺の腹の装甲を蹴る。

 今度は俺が横腹を蹴る。

 殴る。蹴る。殴られる。蹴る。蹴る。蹴られる。

 

 匙はラインを防御に使いながらもなんとか立っていた。

 既に腕も足もボロボロだ。根性だけで立っている...

 

『厄介な奴だな...』

 

 あぁ。根性だけで立つ奴は、どこまでも立ち上がってくる...

 

『それに、一撃一撃に恐ろしいほどに決意が籠っている...響くだろう?相棒、こういう奴はこちらが決定的な一撃をぶつけなければ勝てんぞ...』

 

 あの時の、最後のヴァーリの拳のように...意識を、精神を折る一撃が必要だ...

 

「....勝つんだっ!今日俺は...!お前を倒して夢の一歩を掴む!!」

 

 匙は俺に再び...愚直なまでに襲い掛かる。

 

 正直、避ける事はできる。

 だけど避けない。ここで避けたら負けたのと一緒だ。

 これは精神の戦いだ、だから逃げない!

 

 匙は殴りかかり、俺は顔面を匙の鼻に打ち付ける。

 

「がっっっ!!!ぶっ!!」

 

 匙の鼻から鮮血が舞う。

 たたらを踏みながら、俺の足元にラインを引いて、それを引っ張って戻ってくる。

 匙が俺の腹に蹴りを入れる。

 

「....ぐっ!!」

 

 俺はそれを受け止めて、匙の腹を撃ち抜く。

 

「ごばっっっっ!!!がっ....!!」

 

 匙は崩れ落ちた。

 しかし、まだ消えない...こいつはまだ戦えるから。

 よろよろと立ち上がり、俺の方へと歩いていく...

 

「.....俺は....お前....を......」

 

 匙は俺の元まで歩いてきて、俺の顔面に拳をぶつける。もうほとんど威力はない。

 

「匙.....お前は良くやったよ」

 

 俺は匙への敬意を込めて、匙の顔面を殴り地面へと叩きつけた。

 

「ソーナ・シトリー様の兵士一名、リタイア」

 

「...........」

 

 俺は数瞬立ち尽くした...

 匙...お前はすごい奴だ。

 正直パワーの差は歴然だったが、そんなもの感じさせないくらいの気迫と根性だった。何度も立ち上がってきて、正直恐ろしかった。

 攻撃を受けた箇所から鈍い痛みが響く...

 

「あぁ...これ、切らないと」

 

 俺は木場に貰った短剣の切れ味に力を譲渡して、ラインを切断した。

 血液が飛び散る...

 ラインは儚く消えていった。

 

 アドレナリンが収まってきて感じるのはふらつき。

 貧血の症状だ。視界が暗く、耳鳴りがする...

 

「匙....すまん、でも、俺は負けるわけにはいかない。」

 

 匙の決死の作戦を予め知っていて、それを無惨に切り捨てる事に若干の不快感を感じた。

 ズルいやつだ、俺は。

 でも...アーシアが反転でダメージを受ける可能性がある以上、ここで止まるわけにはいかないんだ...

 俺がアーシアを守る。

 



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第36話。 終幕です、決戦!

きりが悪いので連続投稿です。


 俺は近くの自販機を蹴り壊して、飲み物を確保した。

 

「くそ...気持ち悪...」

 

 戦闘不能というほどではないが、かなり血を抜かれた。

 貧血の症状だ...気分が悪い...耳鳴りもするな。

 少し休憩したい所だが、あまり悠長にしていると禁手化(バランス・ブレイカー)が解除されてしまう。

 

「....イッセー先輩、大丈夫ですか?」

 

 小猫ちゃんが少し心配そうにしてくれる。

 

「問題ないよ。そろそろいこうか...」

 

「......はい」

 

 さっきのアナウンスでこちらの騎士が一人やられたと連絡があった。

 多分ゼノヴィアだな。木場は最後まで残ってたと思うし...

 

「オフェンスの皆、聞こえる?私たちも本陣に向かって進軍を始めるわ」

 

 部長からの連絡が聞こえた。

 

 しばらく進むと、ショッピングモールの中央広場みたいな所に会長と僧侶二人がいた。

 

「ごきげんよう兵藤一誠君。搭城小猫さん。なるほど、これが直に見る禁手化(バランス・ブレイカー)の姿ですか、凄まじいほどの波動ですね」

 

 会長は結界に覆われていた。

 確かこれはデコイで屋上に本体が居るんだったっけ?

 ....まぁなんでもいいや。今は気分が良くない...

 会長はどうでもいい。用があるのは僧侶だけだ。

 

 少しして、会長の女王が現れて、それを追うように木場が現れた。同時に部長達も到着する。

 

「中央に堂々と出てくるなんてね...」

 

「そういうあなたも王がここまでやってきてるじゃない」

 

「それにしても...私の予想とは随分違った結果になったのね...」

 

 部長と会長が声を掛け合う。

 

『相棒、少し血を失いすぎだ。そんな体調ではあまり禁手化(バランス・ブレイカー)を維持できないぞ?』

 

「そうか...」

 

 時間がないなら、アーシアへの攻撃だけは絶対に防がせもらう。どっちが反転かわからねぇから僧侶二人はここで潰す...ここでアーシアの回復が反転されたのが、ディオドラ戦でアーシアが捕まった理由のひとつでもあるんだからな...

 

『Boost!Boost!Boost!Boost!』

 

 俺はブースターを使って急接近した。

 僧侶の一人は慌てて俺の攻撃に対応しようとするが、遅い。

 俺は腹を殴って戦闘不能にした。

 どうせ会長はデコイだ。次の僧侶を攻撃しようとしたところで、女王が俺に襲い掛かってきた。俺は無視して僧侶にドラゴンショットをかます。

 女王に斬られる。

 装甲に阻まれたが、衝撃は結構来た...

 俺は反転して女王の顔面に裏拳を繰り出す。

 女王は刀で防ごうとするが刀ごと吹き飛ばした。

 

『ソーナ・シトリー様の僧侶、2名リタイア』

 

 あぁくそ...気持ち悪い...

 気分が悪いので寝転んだ。

 禁手化(バランス・ブレイカー)も解除された。

 アーシアが駆け寄ってくる。

 

「イッセーさん!大丈夫ですか!!?」

 

「アーシア...俺はもう動けないから回復なしでいいぞ」

 

「だめです!!!」

 

 アーシアは俺を治療してくれる。

 あったけぇ...

 でも全然血は増えねぇ...

 

 ────────────────────────

 

「....え?」

 

 突然の事態に困惑してしまう。

 突然イッセー君が飛び出したと思ったら僧侶二人を倒して、真羅先輩を殴り飛ばした。

 

 更に会長は消えてしまった...恐らく幻影か何かだったのだろうか?

 僕達は突然の事にいまいち反応できなかった。

 

「えっと...」

 

 部長も困惑している。

 真羅さんもダメージを追っているようだ。

 これは...倒していいのだろうか?

 

「ぐっ!!!」

 

 無言で小猫ちゃんが女王に一撃をいれていた。

 

『ソーナ・シトリー様の女王、リタイア』

 

「後は....ソーナだけ...?」

 

 いざ最終決戦と思っていたのに、イッセー君がほとんどやってしまった...

 

「.....屋上の方に会長さんの気配がします」

 

 小猫ちゃんがそう言った。

 

「えぇと...じゃあ、向かいましょうか」

 

 僕達は少し微妙な雰囲気で屋上へと登った。

 

 ────────────────────────

 

 残りのメンバーで屋上に向かう。

 部長、朱乃さん、小猫ちゃん、はほぼ無傷。僕も軽い怪我と体力の消費だけで特に支障はない...

 イッセー君はさっきの場所で休憩だ。リタイアまではいかないようだが、今すぐまともに戦闘はできないとの事だ。アーシアさんはイッセー君を介抱している。

 

 到着した。

 

「ソーナ、どうして屋上に?」

 

「最後まで王が生きる。それが王の役割でしょう?」

 

「それはそうね。じゃあ、決着を着けましょう。」

 

 部長は1対1がご所望のようだ。

 

「危険を感じたら助けに入りますから。」

 

 ...........

 

『投了を確認。リアス・グレモリーさまの勝利です』

 

 ────────────────────────

 

 試合が終了して、転移させられる。

 今は皆で休憩中だ。アーシアはギャスパーやゼノヴィアの治療に向かった。

 休憩することしばらく、アザゼル先生がやって来て俺達に総評を語った。

 俺達は勝ったけど圧倒的と予想されていただけに、微妙に評価が下がってしまったようだ。

 特に開始早々のギャスパーと、赤龍帝の俺がダウンしたのは良くなかったらしい。後、最後っぺで出したドラゴン・ショットの威力が若干高すぎたそうで、破壊が起きて失格ほどではないが俺の評価は更にダウンだそうだ。まぁ3.5人という大量奪取である程度帳消しにはなったらしいけど。

 逆に匙は俺を一人でかなり追い込んだと評価アップだ。

 まぁ評価はどうでもいいけど。ぶっちゃけ上級とか中級とかも特に興味ないしな...

 アーシアと暮らせるならそれでいい。

 しかし、折角ちょっとは強くなったと思ったのに前途多難だな...

 まぁ今回は素直に匙の根性と会長の作戦が恐ろしかった。特に匙の気迫には目を見張る物があった。

 

 しかし...いよいよ次の戦いはディオドラどもか。

 一応今回はアーシアに反転を使わせなかったけど、多分作戦に変更はないんだろうな。

 絶対ぶっ倒してやる...

 アーシアに傷ひとつでも着けたら消し炭にする...

 などと考えているとアーシア達も帰って来た。

 

「イッセーさん!もう大丈夫なんですか?」

 

「アーシア!まぁ只の貧血だからな。しっかり休めば大丈夫だ」

 

「そうですか...」

 

 アーシアが俺の手を握ってくれる。

 

「私に血液も増やせるような力があれば良かったんですけど...」

 

 アーシアが悔しそうな顔をする。

 

「気にすんなよ!匙との戦いで痛かった所とかはバッチリ治ったし!気持ち悪さも軽減された。それに、アーシアの回復は絶対に必要だ。だからそんな顔しなくてもいいよ」

 

「イッセーさん...」

 

「...すまん口下手で上手く言えないんだけど、でも!アーシアはグレモリー眷属のヒーラーとしても絶対に必要だ!気にすんな!黒歌との戦いでは大活躍だったろ?」

 

「...はい!」

 

 ようやく笑ってくれた。

 俺はアーシアの頭を撫でる。

 

 休憩も終わって今からは反省会だ...

 

 ────────────────────────

 

 夏休みも終盤、俺達はグレモリー本邸から人間界へ帰る事になった。

 

 帰りの列車では宿題をやる羽目になった...

 いや、本邸にいる間にアーシアとちょこちょこやってたんだけど、少し残ってしまったのだ。

 まぁ後はこの数学の参考書を指定のページ数解くだけだ。

 ちなみにアーシアは終わっていた。解せぬ...

 見せてと言ったら

 

「イッセーさん!宿題は自分でしないといけませんよ!」

 

 と言われてしまったので、一生懸命自分でやっている。

 わからない所はアーシアに教わる...

 おいおい俺は復習のはずなのになんでアーシアに教わっているんだ...

 でも、アーシアに教わりながらの勉強は最高に楽しいのであっという間に終わってしまった。

 

 ────────────────────────

 

 俺達は地下のホームについて無事に人間界へと帰還した。

 アーシアと手を繋いで歩いていると、

 

「アーシア・アルジェント...やっと会えた」

 

 後ろから声が聞こえた。

 俺は後ろを振り返って、危うくキレそうになった。

 

 ディオドラ・アスタロトだ...

 まだ、ダメだ...こいつは決定的な事を為していない...殴れない...

 

「アーシアに何の用だ、ディオドラ・アスタロト」

 

 俺はアーシアを守るように前に出て詰め寄る。

 

「僕はアーシアに話しているんだけどな...どいてくれないかな?赤龍帝君」

 

「俺を通せって言ってるんだが?何の用なんだよ!」

 

「.....アーシア、僕を覚えていないのかい?」

 

 俺を無視して上の服をはだけさせた。見えたのは深い傷痕。

 

「....!その傷は...」

 

「そう!僕はあの時の悪魔だ!」

 

「──...!」

 

 アーシアは言葉が出ないようだった。

 

「おい、いい加減にしろよ、なんの用かって聞いてるんだよ!!」

 

 俺はディオドラの服を掴んで睨む。

 

「....離してくれないかい?汚れてしまうよ...」

 

「ちょっとイッセー!そんなでも一応魔王の血筋なのよ?問題になるわ...」

 

「部長!こいつ絶対ろくでもない事言いますよ!!言わせたくありません!!」

 

 俺は部長に怒鳴る。

 

「アーシア!僕は君を迎えにきた!僕と君の出会いは運命だったんだと思う...」

 

 こいつ!俺に捕まれたまましゃべり出しやがった!!

 

「アーシア!僕の妻.....」

 

 俺はそこでディオドラの足を蹴り飛ばして地面に叩きつけた。

 

「お前今アーシアに何言おうとしやがった!!!ふざけてんのかお前!!!あぁもうむかつく事が多すぎてどれから言えばわからんわ!!!」

 

「...貴様...汚ならしい龍の分際でぇ!!」

 

 ディオドラがキレてくる。

 

「うるせぇよ!アーシアがお前を治療した事でどれだけ辛い目にあったと思ってんだ!!突然出てきただけでもムカつくのに!!!挙げ句プロポーズだと!!?なめてんのかお前は!!!お前が本当にアーシアの事を愛してるってんなら!!!順番ってもんがあるだろうが!!!何すっとばしてんだよこのストーカー野郎!!!大体なぁ!アーシアへの初プロポーズは俺のもんだ!!ぽっと出野郎が勝手に奪おうとしてんじゃねぇよ!!!」

 

「~~~~~~~~!!!??!?!」

 

「二人ともいい加減にしなさい!!」

 

 部長が俺達の間に割って入ってくる。

 

「イッセー、これ以上はあなたの不利になるわ。一旦落ち着きなさい。アスタロト、貴方もよ。いくらなんでも常識がなさすぎるわ。イッセーの言っていた事ももっともよ?少し調べたらわかる事だけれど、アーシアは今イッセーと交際してるの。私の眷属達がそういう関係になっていて、私はそれを大いに祝福しているわ?言いたいことわかるわよね...引きなさい。貴方が本当にアーシアを愛していると言うならね」

 

「.........わかりました。一旦引かせて頂きます」

 

「一旦じゃねぇよ!一生...」

 

「イッセー!!控えなさい」

 

「ぐっ....!!」

 

「じゃあね、アーシア。きっと君を迎えにきてみせるから」

 

「...あのっ!私はイッセーさんのものです...だから...だから!あなたの好意は受け取れません!」

 

 アーシアが俺にしがみつきながらそう叫んだ。

 

「アーシア...」

 

「ふふっ...それでは失礼します。」

 

 ディオドラ・アスタロトはそのまま去っていった。

 

 不穏な影が俺達の生活へと伸び始めたのであった。



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体育館裏のホーリー編
第37話。 転入します、天使!


 俺は身体中から血を流し、体が全く動かない...

 アーシアが俺の目の前で闇に包まれる...

 最後の瞬間、アーシアは泣いていた。

 闇が収まるとそこにはもう何もない。俺の目の前から全てが消え去ってしまった...

 アーシアはもう...どこにもいない...

 殺す...殺す...!アーシアを殺した奴を許さない!!

 破壊してやる...復讐してやる...消滅させてやる...!!

 

「アーシア...アーシア...!アーシア!!!あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!!」

 

 我、目覚めるは

 覇の理を神より奪いし二天龍なり

 無限を嗤い、夢幻を憂う

 我、赤き龍の覇王となりて...

 

 突如体が温かい光に包まれる...

 

 アーシアたんばんざい!!アーシアたんばんざい!!

 アーシアたんばんざい!!アーシアたんばんざい!!

 

『相棒...相棒...!相棒...!!』

 

 ────────────────────────

 

「ぐっ...あっ...ん...夢...?」

 

「イッセーさん!!大丈夫ですか!!?突然苦しみだして!!私、一生懸命治療したんですけど...」

 

 身体中に温かいアーシアのオーラが満ちている...

 

「アーシア...あぁ、もう大丈夫だ...ありがとう。」

 

「イッセーさん!」

 

 アーシアが俺に抱きついてくれる。

 それだけで心が暖かくなる。

 

『相棒...お前は今、神器(セイクリッド・ギア)の中にある怨念に引き込まれそうになっていたのだ...だが、例の...あの宗教がお前を怨念から解放した...そこの娘と接触していたのも幸いしたな...その...アーシニウムエネルギーが...うぉぉぉぉん!!!あれが満ちていたのだ!!もう嫌だ...!!』

 

 ドライグ...!!無理をするな...!!言わなくていい!!

 でもそうか...ありがとう...

 お前の声も聞こえてたよドライグ、助かった。

 

『そうか...まぁ相棒は赤龍帝として特異な存在だ。こんな事で失うのは勿体ないからな...ただ、気を付けろよ?いよいよ怨念側も切羽つまって来ている...例の宗教が予想以上に恐ろしいスピードで歴代を染め上げているんだ...既に半数を越えてしまった...お前の少しの負の感情でも引き摺り込もうとするだろう...』

 

 そう言ってドライグは意識を沈めた。

 

 そんな事になっていたのか!

 確かに最近入信のペースが早いと思っていたんだが...

 っと、今はアーシアにも感謝しないとな。

 

「アーシア、ありがとう。俺結構危ない状況みたいだった...でもアーシアが俺の事を温かいオーラで包んでくれたから、助かったんだ!」

 

「そうなんですか...?えへへ、イッセーさんのお役にたてたみたいで良かったです!」

 

 アーシアが俺に抱きつきながらそんな可愛い事を言ってくれる。

 ああああ可愛すぎる!!

 神器(セイクリッド・ギア)の中の信徒の皆からも歓喜の波動を感じる...!!

 

 というかなんなんだあの夢は...

 冷静に考えて頭おかしすぎるだろ。

 

 俺はアーシアと抱き合って再び眠った。

 次はアーシアとお花畑をデートする夢を見ました。

 

 ────────────────────────

 

 ディオドラとの一件からはや数週間。

 あいつは俺の家に手紙や商品券、映画のチケットなどを送って来ている。

 アーシアは日に日に申し訳なさそうにし始めている。

 残してもしょうがないし、俺は使いたくないので、今のところ全部オカ研に持っていって寄付している。

 主に小猫ちゃんが使用してるらしい。小猫ちゃんのそういう逞しい所結構好きだよ。

 ラブレターはギャスパーが裏をメモ用紙に使っていた。チラシの裏かよ...

 まぁ物は悪くないものね。悪いのはディオドラだ...

 しかしまぁ、顔は見せていないし、この前の件についても問題にはなっていないらしいし、今のところは俺も落ち着いてきた。

 次会ったらわからんけど...

 

 かくして2学期が始まった。

 現在は9月のイベントである、体育祭の準備に入っている。

 

「おぉい!イッセー!元浜!情報を得てきたぞ!」

 

「興味ないっつの」

 

「このっ!お前はアーシアちゃんがいるからって!!どうせヤりまくりなんだろこのクズが!!」

 

「バカ言うな!!アーシアは婚前交渉無しなんだよ!!だから俺はまだ...童貞なんだ!!」

 

「まじか...でもアーシアちゃんならそうかもしれんな...大変だな、イッセー。初めてちょっと同情したわ。普段あんなにイチャイチャしてるのに、ヤれないとか」

 

「バカ言うな!!!俺のアーシアへの愛はそんな劣情よりもでかいんだよ!!!結婚するまでちゃんと我慢してみせるわ!!!」

 

「童貞の戯れ言はどうでもいい!そんな事より吉田だ!!あいつ決めたらしいぞ!!!しかも三年のお姉さま!!!」

 

「くそったれ!!リア充が!!!....やっぱイッセーもムカつくわ!!!あんなに可愛い天使が彼女なだけで既に誰よりもリア充じゃねぇか!!死ね!!!」

 

 俺は元浜と松田に暴力を振るわれる。

 でも気にしない。まじで痛くないからノーダメだ...

 

「あー童貞臭...」

 

 俺達を嘲笑いながら桐生がやって来た。

 

「俺達を笑いに来たのか!!」

 

「どうせあんたらの事だから意味のない夏を過ごしたんでしょ?」

 

「うるせぇ!!」

 

 お前らがうるせぇ...

 

 なんて言っていると、

 

「おい!大変だぁ!!!」

 

 クラスの男子が叫びながら教室に飛び込んで来た。

 

「このクラスに転校生が来る!!女子だ!!!」

 

 ────────────────────────

 

「えー、このような時期に珍しいですが、転校生の紹介です。どうぞ、入ってきて下さい」

 

 入室してきた子に男子は色めき立つ。

 栗毛ツインテール美少女だもん。普通は興奮する。

 俺はアーシアがいるのでそうはならんが!

 

 アーシアやゼノヴィアは滅茶苦茶びっくりしているみたいだった。

 びっくりアーシア可愛い。

 

「紫藤イリナです。皆さんよろしくお願いします!」

 

 元言いっぱいに挨拶していた。

 

 ........

 

 一通り、クラスメイトの質問責めを受け流すと、なんでここに来たのだろうとひそひそしゃべっていた俺達の方へ歩いてきた。

 

「イッセーくん、ゼノヴィア、アーシアさん、久しぶり~!」

 

 イリナがゼノヴィアに抱きつく。

 

「立場上複雑だけど、素直に会えて嬉しいわ!元気そうでなによりよ!」

 

「ああ、久しぶりだねイリナ。その、胸の十字架がチクチク痛いので離れてくれないか?...それで、どうしてここに?」

 

 ゼノヴィアが質問する。

 

「ミカエル様の命で使いとしてここに転校してきたの!詳しくは放課後に旧校舎でね!」

 

 と言われた。

 

 松田と元浜にまたお前は美少女と知り合いなのかぁぁ!!!とキレられた。

 知らん。なんでこんなに美少女ばっかやねん...

 こっちが聞きたいわ。あっメタ的なの無しで!

 

 ────────────────────────

 

「あなたを歓迎するわ。紫藤イリナさん。」

 

 部長が挨拶をする。

 

「はい!初めましてとそうでない方が居ますが、よろしくおねがいします!紫藤イリナです!天使様の使者としてこの学園に来ました!」

 

 パチパチと皆で拍手する。

 

「ここに来たって事は、聖書の神の死は知ってるんだよな」

 

 アザゼル先生が尋ねる。

 

「勿論です。あの時の話は全て認識しています」

 

「意外にタフだね。てっきりショックを受けるものと思っていたよ」

 

 ゼノヴィアがそう話すと

 

「ショックに決まってるでしょぉぉぉ!!」

 

 と号泣を始めてしまった。

 

 アーシアとゼノヴィアがわかるわかると抱き合う。

 教会三人娘がここに誕生した。

 俺、アーシアと話す機会更に減るかも...

 女の子同士の話って割り込むのムズいんだよな...

 大体俺がそわそわしてる所をアーシアに招き入れて貰うのだ。ごめんよアーシア不甲斐ない彼氏で...

 

 アザゼル先生がイリナにここに派遣された理由を聞いている。なんでも現地スタッフが派遣したかったらしい。

 イリナは祈りのポーズをとると、背中から天使の翼を生やした。

 

「お前、天使に転生したのか!確かに理論上は可能だと言われてきていたが...」

 

「はい。ミカエル様の祝福を受け転生天使となりました。熾天使(セラフ)の上層部の方々はトランプに倣った配置で12名の配下を作ることにしたのです。私はミカエル様のエースを任されました!あぁ、もう死んでもいい!これほど光栄な事はないわ!!」

 

「ほぉ、面白いことを考えたもんだな、トランプって事はジョーカーも居そうじゃねぇか...ククク」

 

 アザゼル先生は面白そうにしていた。

 

 いずれは天使と悪魔でレーティングゲームのような物も行うらしい。

 天使さん全員俺達に特効の力持ってますけど大丈夫ですか?それ...

 

 なんだかんだと話は進み、イリナの歓迎会が始まった。

 

 ────────────────────────

 

 イリナが転校してきてから数日、一瞬でクラスに溶け込んでいた。まぁ明るい奴だしな。

 

 今は体育祭の競技決めだ。

 結局教会三人組が仲良くなると、まるで結界でも張られているのかというくらいには話しかけづらくなってしまった。

 家ではたくさん喋るけど、外でアーシアと関わる機会が大いに減ってしまったのだ...

 辛い...でもあの三人組に割り込む勇気はない...

 それによってバカ3で喋る機会が増えてしまったので、倦怠期なのではなどという噂がクラスに蔓延り始めた...ふざけんな!

 元浜と松田にも、そろそろ別れるか?別れろ!そして俺達の元に帰ってこい!!

 などと言われる始末...

 俺は悲しい!

 なんかアーシアに話しかけるのに躊躇いを覚えている事実が悲しすぎる...

 ちくしょう...ちくしょう...

 

「兵藤!」

 

「はい!」

 

 考え事をしていた俺は突然呼ばれた事にびっくりしてしまった。

 

「あらー元気な返事ねー。じゃあ兵藤っと。」

 

 桐生は俺の字を黒板に書いていた。

 二人三脚の欄だった。

 勝手に書くんかい...

 

「じゃあ相方はアーシアね!」

 

 アーシアの方を見るとおずおずと手をあげていた。

 

 まぁどの競技に出たいかと言われればアーシアと二人三脚か、何かしらのリレーでアーシアにかっこいい所見せたいなくらいしか考えてなかったので、問題ないんだが...

 

 アーシアがこっちを見て微笑んでいた。

 アーシアが嬉しそうなので問題なしです。

 よっしゃ頑張るぜ!!

 

 ............

 

 体育祭の練習の時間、グラウンドではゼノヴィアとイリナが競争してた。

 早すぎ...人間に合わせてあげて?

 

「....しかしあれだけ高速で動かれると、おっぱい動きが把握しずらいな...これじゃあ興奮できん」

 

「その点俺はロリコンだから、そんな状況でも興奮できるけどな」

 

 バカがバカな話をしている。

 なんかどの作品が、とかどの女優がとかの話なら乗れるんだが、クラスメイトが云々となると話に入れないし入りたくないのでこいつらと一緒にいるのは害悪でしかない。なんで一緒にいるんだろ...

 

「おっ兵藤」

 

 匙が声をかけてきた。

 戦いの後、俺は少々匙に対して気後れしていたんだが、匙本人が

 

「俺は全力で戦った、そして負けた。それだけだ!お前が気にしてんじゃねぇよ!同情なんかいらねぇ!」

 

 と言いながら小突いてくれたので、普段通り接する事ができている。

 匙...いい奴だ...正直大好きだぜ、友達として。

 

 と、匙の腕に包帯が巻かれていた。

 

「怪我したのか?アーシア呼ぼうか?」

 

 と言ったら

 

「あぁこれはな、」

 

 と匙が包帯を外してくれた。黒い蛇みたいなアザがびっしりと小さな宝玉のようなものがあった。

 

「お前の血を吸ったから、赤龍帝の力に影響されたみたいだ。」

 

「まじか...なんかすまんな。治るのか?」

 

「さぁ?まぁ体に別状はないらしいから、問題はないかな?」

 

 などと喋っていると、匙は会長に呼ばれてスタこらさっさと走っていった。

 頑張れ匙、お前の恋が報われるまで...

 

「アーシア!夏休みでちょっとおっぱい成長したんじゃな~い?揉まれたの?揉まれちゃった~?」

 

「桐生さ...!やめてください!」

 

 ふと後ろを見るとアーシアが桐生にセクハラされていた。

 てめぇ!俺ですらほとんど揉んだことないのに!!

 

「こら桐生!アーシアにセクハラしてんじゃねーよ!!」

 

「兵藤~。ちゃんとアーシアの事可愛がってあげてるの?夏休みで関係進むかと思ってたのにさー。全然じゃーん...甲斐性ないんじゃないの?」

 

「ぐっ...!!」

 

 俺は言い返せない。心に深いダメージを負ってしまった...!

 

「あちゃ~こりゃダメだわ。アーシア~...アーシアが引っ張ってあげないといつまで経っても進まないよ~?」

 

「はうぅ...が...頑張ります...!」

 

 アーシアがやる気を出していた。

 ごめんよアーシア、甲斐性無しで...

 

「アーシア...そろそろ練習しよう。」

 

「は...はい!」

 

 俺はアーシアと足を紐で結んで体をぴったりとくっつける。お互いに腰に手を回して準備万端だ。

 

「最初はゆっくり行こうな、それいっち、に、いっち、に」

 

「いっち、に...いっち、に...」

 

 アーシアが頑張っている。頑張りアーシア可愛い。

 

「アーシア、ペースとか歩幅大丈夫か?多分俺がアーシアに合わせた方が速いと思うから、アーシアがやりやすいようになんでも言ってくれよ?」

 

「大丈夫です!頑張ります!」

 

 アーシアは気合いを入れていた。

 

「よし、じゃあ行くぞ!いっち、に、いっち!!」

 

「キャッ!」

 

 アーシアとタイミングがずれてアーシアが倒れそうだ...!

 まずい!助けないと!

 

 俺はアーシアの下に潜りこんで、アーシアの下敷きになった。

 

「あぅ!」

 

「ぬっ!」

 

 無事、受け止められた。紐を緩くしていて良かった。きつくしてたら俺の足をえぐい角度で捻って下に入るしかなかったぞ...足首壊れるわ。

 アーシアを抱き締めて、完全に衝撃から守りきった。

 

「アーシア、大丈夫か?」

 

「は...はい...」

 

 アーシアが恥ずかしそうにしている。

 

「ヒューヒュー、お熱いねー!」

 

「死ねー!兵藤!!」

 

 外野がうるさい...

 

「と、悪いなアーシア、外野がうるさいな。俺注意してくるわ。」

 

「いえ!大丈夫です!」

 

 アーシアが笑みを浮かべる。

 

「そうなのか?まぁアーシアがいいならいいんだが...」

 

 いつもは外野にとやかく言われるのを恥ずかしそうにしているんだが...

 まぁアーシアにも何かしら心境の変化があったのかもしれん。

 俺達は何度かどやされたり、転倒しながら練習を重ねていった。

 俺の背中どろどろだな...とはいえアーシアを守った故の汚れと思えばとても誇らしい。

 

 桐生にアーシアに抱きつきたいからわざとこかしてるんじゃないかと言われたときは憤慨したが...

 

 ────────────────────────

 

 放課後、部長やその他メンバーが不穏な雰囲気を出していた。

 

「イッセー、アーシア、ゼノヴィア。次のゲームの相手が決まったわ。...ディオドラ・アスタロトよ」

 

 まぁそうだよな...わかっていても俺はついつい眉間に皺がいってしまう。

 というか、ディオドラは多分普通に倒せるんだが、問題はシャルバだ...

 オーフィスの蛇ありきで旧魔王レベルの力らしいが...俺はもし戦いになったら勝てるだろうか...

 いやまぁ、勝つんだが...!!勝たないとアーシアをやられる可能性がある。

 というかなんでアーシアが狙われなきゃならんのだ...

 くそっ!ムカムカする...!

 でも、この感情は戦いのその時まで溜めるべきなんだろう...

 

 アーシアが心配そうに俺の手を握ってくれる。

 

「...ありがとうアーシア。大丈夫だぞ」

 

「はい...」

 

「アーシアこそ大丈夫か?」

 

「....どうでしょうか...私、あの人を助けた事は後悔してません。でも、急に目の前に現れて...運命だとかよくわからない事を言われて...正直困惑してます...でも、イッセーさんとずっと一緒にいたい...それだけは変わりありません。だから...あの人とはもう...関わりたくないです。」

 

「アーシア...あぁ、絶対に離したりなんかするもんか。絶対ずっと一緒だ」

 

 俺はアーシアを抱き寄せた。

 

 正直ちょっとびっくりした。アーシアが思ったよりも強めの否定の言葉を発してくれたからだ。

 でも、嬉しい。そして改めて決意が固まった。

 アーシアは絶対に守りきってみせる。

 俺からアーシアを奪おうだなんて考えたこと、絶対に後悔させてやる...!!

 



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第38話。 なりました、教祖様!

説明のつかない事や、不可思議な事は大体アーシニウムエネルギーの力という事で説明がつきます。便利すぎる...


 ディオドラとの戦いが決まってから数日経ったある日の夜。

 後は寝るだけという時間になのでいつものようにアーシアを俺の部屋に招き入れる。

 最近はずっと一緒に眠っている。

 部屋に入って少しした所から動かないので、心配して近づくとアーシアは無言で俺に抱きついてきた。

 

「ア...アーシア?」

 

「イッセーさん...イッセーさんは私の事、絶対に守ってくれますよね?ずっと一緒にいてくれますよね?」

 

「当たり前だろ?俺はアーシアの...その、彼氏なんだから!」

 

 ちょっとどもってしまった...

 

「ありがとうございます...でも、私...少しだけ不安なんです...イッセーさんになにかあったらどうしようって...」

 

「バカ!あんな奴に俺がやられるわけないだろ?絶対倒して、二度とアーシアに近づくなって言ってやるよ!」

 

「はい...わかってるんです...でも、どうしても不安が拭えなくて...だから、イッセーさん...私を...私に、イッセーさんの物だって証を下さい...」

 

 アーシアが少し涙を湛えて、顔を赤らめてこちらを見つめる。

 

「ア...アーシア...?それってどういう....」

 

 アーシアが俺の事を強く押した。俺は抵抗できずにベッドの上に倒れこんでしまう。

 

「イッセーさん...」

 

 アーシアが俺の上に跨がった。

 

 ....え?ちょっと待って??え?

 まさか...そういう事ですか!!?

 

 え?え?え?...でもアーシアは婚前交渉ダメって...

 

 あっ...アーシアの顔が近づいてくる...

 

「ん...ふ...ちゅ...じゅ...ちゅく...」

 

 アーシアが俺の舌を貪る。

 やばい...急な事で頭が回らん...!

 俺の貞操はここで奪われてしまうのか...!?

 

 アーシアの指が胸から下腹部へと少しづつ降りていく...

 ぬおぉ!抗えないけど!今のアーシアはちょっとおかしい!!こんなのは...ダメだ!!

 

 俺はアーシアを逆に押し倒して体勢を入れ換えた。

 

「アーシア...ハァ...急にどうしたんだ...?」

 

「イッセーさん...私を抱いて...欲しいんです...怖いんです...大丈夫ってわかってても!変な人に目をつけられて...変なこと言われて...だから...だから...証拠が欲しいんです...私をイッセーさんだけの物にして下さい...!」

 

 アーシアは不安でいっぱいといった様子だった。

 急に変な奴が出て来て、不安になってしまって、俺と肉体関係を結べば安心できるんじゃないかとすがってしまったのだろう...

 そんな状態のアーシアは抱けないよなぁ...

 やっぱりするなら最高に幸せな時がいいや。

 俺はアーシアを抱きしめる。

 

「アーシア...心配しなくていい。絶対に、何があったって守ってみせるし、ずっと一緒だ...だから、そんな不安そうな顔をしないでくれよ。そんな事しなくたって、俺とアーシアはしっかり繋がってるだろ?」

 

「イッセーさん...グスッ...私...」

 

「ほら、今日は朝までこうしてるから、安心していいぞ?」

 

 俺はアーシアにしっかりと存在を伝えるように、強く抱き締めて頭を撫でる。

 

「イッセーさん...はい...」

 

 アーシアも抱き返してくれる。

 アーシアは、やがて安心したのか眠ってしまった。

 

 なんとか落ち着いたかな?

 それにしてもびっくりしたな...急にあんなこと言い出すんだもん...

 にしても、内心かなり不安だったみたいだな。

 そりゃそうか...ストーカーに付きまとわれて、変な贈り物だの、ラブレターだの、冷静でいれる女の子なんてほとんどいないだろうな。

 おまけに相手がディオドラとか...

 俺がしっかりしないだ...

 ちゃんとアーシアを安心させてあげないと...

 

『相棒、忙しそうな所悪いんだが、歴代がお前を出せとうるさいんだ...入ってやってくれないか?』

 

 えぇ...?こんな時になんなんだ...

 

 ────────────────────────

 

「教祖様だ!」「教祖様が現れたぞ...!!」

「おぉ!」「教祖様──!!」

 

 な ん だ こ れ は ?

 

「き...教祖って俺の事?」

 

「当然です!我々に道を示してくれたのは貴方ではないですか!!」

 

「そう...ですか?そ...それで、何の用でしょうか...」

 

 俺の知らないうちに、歴代達は壮絶な何かを繰り広げていたようだ...なんかすっごい散らかってる...

 しかもチーム怨念がもう少数派じゃないか...

 隅の方で固まってるじゃん...

 なんか可哀想に見えてきた...

 

「教祖様!なぜ抱かなかったのです!!あそこは絶対に抱くべきでしょう!!体を重ねて安心させてやるのも男の甲斐性でしょうが!!」

 

「いいや!あそこはあれでいいんだ!!大体教祖様に意見しようなんざ100年早いんだよ!!」

 

「死んでるんだから100年も糞もないだろ!」

 

 なんで喧嘩してるの...?

 もうやだ...怖いよ...

 ドライグ...なんなのこれ?

 

『知らん。知りたくもない。しーらない』

 

 ドライグが拗ねた...

 

「教祖様!なぜあのような選択をなされたのですか!!」

 

「え?あー...アーシアはあの時冷静じゃなかったし、やっぱりそういう事はお互いの合意の元やるべきでしょう?冷静じゃないアーシアとそういう事をして、後でアーシアが後悔したら...」

 

「ほらな──!!教祖様はアーシア様を何よりも寵愛なさってるんだ!わかったか!!」

 

「ぐっ....しかしあそこまでされて手を出さんのは正直男として...」

 

「グハッ!」

 

 突然俺にクリーンヒットした...!

 

「安心して下さい!教祖様、我々はついに全勢力の70%を掌握しました!我々、先の失態を反省しまして、急速に勢力を拡大させたのです!これで教祖様がよっぽどの憎しみや怒りを抱かない限り、覇龍(ジャガーノート・ドライブ)は発動させません!!更に我々の別動隊は神器(セイクリッド・ギア)の奥深くに侵入し、現在神器(セイクリッド・ギア)のブラックボックスの改変を行っている最中です!」

 

『なんだと!待て!変なことをするな!!最悪俺が機能停止するぞ!!』

 

「ハハハ、一応気を付けておりますとも!」

 

「一応!?ちょっと待ってくれ!まじで、次の戦いはアーシアの命かかってるから!変なことしないで!!?」

 

「ハハハ、しかし上手くいけば我々の力は新たなステージへと向かうことができます!!」

 

「笑ってる場合じゃねぇ!止めてきてくれよ!!」

 

「申し訳ありません...深部に侵入できるメンバーは限られておりまして、現在全員出払っております!」

 

「連絡係とか用意しろよ!!え?待って?怖いんだけど??」

 

『ぬわぁぁぁん!!お前のせいだぞ相棒!!!お前が悪いんだ!!なんだこの大惨事は!!挙げ句神器(セイクリッド・ギア)を残留思念が改変するだと!!?洒落になってないぞ!!!』

 

「うるさい!ドライグ!!お前の歴代の宿主だろ!!お前が集めたメンバーだろうが!!お前の責任もゼロじゃないはずだが!!?」

 

『違うわ!!!お前が変な宗教を始めたのが悪いんだろうが!!大体俺は自分の宿主選べないし──!!!悪くないし──!!!』

 

「ハハハ!お任せください!あそこの隅で固まっている愚か者どもも、すぐにアーシア様の素晴らしさを理解してくれるはずです!!おい!お前ら!!今日の分始めろ!!」

 

 そう言われた信者達は、隅にいるメンバーにぶつぶつと何かを語りかけ始めた...

 多分アーシアの事を語ってるんだろう...

 怖い...これもうあいつらが呪詛なんじゃないの?

 

 正気の歴代達が震えてるじゃないか...!

 可哀想に...

 まさか俺が覇龍に飲まれそうになった時もああやって恐喝してたのか...?

 

「と...とにかく!変なことはよしてくれよ!!」

 

「わかりました!きちんと新たな力を目覚めさせてみせます!!」

 

 全然わかってねぇ!!

 

「ちょっとおっさん!助けてくれよ!!」

 

「....私はただお前とお前の想い人を見守るのみ...」

 

「目見て言って!?目逸らさないで!??自分でもやばいことになってると思ってるんでしょ?助けてよおっさん!!」

 

「........無理だ」

 

「そんな...おっさん...」

 

『ぬわぁぁぁん!んおぉぉおおおおん!!!』

 

 ドライグの泣き声だけが響いた...

 

 ────────────────────────

 

 気がついたら朝になっていた。

 

「嫌な夢だったな...」

 

『相棒、現実を見ろ。目をそらすな』

 

 ドライグ...やっぱり現実なのか?

 

『あぁ...残念な事にな...ちなみにちょっとまずいかもしれん』

 

 なんだよ...

 

神器(セイクリッド・ギア)のロックのような物が一部分の欠片程度だが解除され初めているのだ...恐らく、解除されたら封印された俺の力が一部解放されるのだろう...だがそれによって何が起こるか未知数過ぎる...最悪神器(セイクリッド・ギア)がお前の魂ごと爆散するかもしれん...』

 

 こわ...でもお前の力が解放されるのは結構嬉しいんだが?

 

『まぁな。それだけならいいが...副作用が本当に未知数だ...』

 

 まじか...なんとか頑張ります。何を頑張れと?

 

『わからん...もう奴らは無理だ。止まらん。諦めて運命に全てを委ねよう』

 

 えぇちょっと...怖すぎんよ...

 けど強化チャンスではあるんだよな...

 アジュカ様の駒の改変は期待できないし、新しい力って意味ではうってつけかもしれない。

 ここからまじで怒涛のインフレだからな。今のままじゃすぐに追い付かれる。

 

「...イッセーさん?」

 

 アーシアが起きたみたいだ。

 

「アーシアおはよう」

 

 俺はアーシアを抱きしめる。

 

「あっ、あの!き...昨日の事は!その...」

 

「大丈夫、わかってるから」

 

「は...はぃ...」

 

「アーシア、俺がいつまでも守ってみせるから。だからアーシアも俺から離れないでくれよ?」

 

「...はい!ずっとイッセーさんのお側にいます!」

 

 アーシアが笑ってくれた。

 やっぱりアーシアにはいつも、笑顔でいて欲しいな。

 その為にも頑張らないとだ...

 

 ────────────────────────

 

 次の日の放課後、眷属皆で他の若手悪魔の試合記録の視聴を始めた。

 

「ライバルの試合なんだ、しっかり見ておくんだぞ?こいつらがこれからのお前らの相手だ」

 

 アザゼル先生が俺達にそう言った。

 

「まずはサイラオーグとグラシャラボラス家の試合よ」

 

 部長が映像を再生する。

 

 その試合はとにかく圧倒的だった。

 眷属同士の戦いも終わり、いよいよ王同士の戦いとなる。

 

 グラシャラボラス家..ゼファードルの魔法の悉くが拳によって弾き返される。最後にはゼファードルの防御結界ごと拳でぶち破ってサイラオーグさんが勝利した。

 サイラオーグさんの攻撃は外れても、押し出された空気でフィールドを破壊するのだ。それほどの威力...

 今の俺では多分、例の新技でも押し負けるだろうな...

 ......強い。それしか言葉が出ない。

 ゼファードルは完全に心を折られていた。

 

「リアスもサイラオーグも、王なのにタイマン張りすぎだ。駒に戦わせりゃいいのによぉ、バアル家の血筋は脳筋なのか?」

 

 アザゼル先生が苦言を呈した。

 

「お前らも気を付けておけよ?あいつは本気で魔王になろうとしてる。つけいる隙なんてないと思えよ?」

 

「そうは言ってもまずは目先の試合ね。アスタロトもシークヴァイラ・アガレスを倒したという話だもの」

 

 そういって部長が映像を再生しようとした時だった。

 転移用の魔方陣が輝きだす。

 

「アスタロトの紋様...」

 

 朱乃さんがそう呟いた瞬間に俺はアーシアを守るように前に出た。

 

「ごきげんよう、ディオドラ・アスタロトです。ご挨拶に来ました」

 

 ぬけぬけとそう語った。こちらを見る。

 なんだよ...文句あるなら聞いてやるぞ...

 

 にこりと笑顔になって、こちらから目を逸らした。

 

 ────────────────────────

 

 部長とディオドラ、ついでにアザゼル先生が座って話を始めた。

 

 俺達は部屋の隅で待機だ。

 アーシアの前に俺とゼノヴィア、木場とで立って完全にアーシアを隠す。

 

「リアスさん。単刀直入に言います、僧侶のトレードをお願いしたいのです」

 

 そういってディオドラが自分の僧侶のデータを部長に渡そうとしたが...

 

「ごめんなさいね、トレードは一切受け付けないわ。あなたの僧侶が釣り合わないとかそういう事ではなく、私は眷属をだれ一人手放すつもりはないの。それに、アーシアの事は何がどうなろうとあなたには任せられないわね」

 

 部長がきっぱりと断る。

 

「...わかりました。今日はこれで帰ります。けれど僕は諦めませんので」

 

 ディオドラがこちらに近づいてくる。

 俺は奴を睨む。

 

「ねぇ赤龍帝、次のゲーム、僕が君に勝ったらアーシアを譲ってくれないかな?」

 

「は?死にたいのかお前...?」

 

「はは、薄汚い龍の分際でなめたこと言ってくれるじゃないか。次のゲーム、覚えているといい。必ず君に後悔させてあげるよ」

 

「言ってろクズ野郎。速攻でぶち殺してやるよ...」

 

 ディオドラは帰っていった。

 

「イッセーさん...」

 

「大丈夫。絶対にアーシアには指一本触れさせない」

 

 幸い俺は奴らの計画を知ってる。

 出鼻から挫いてディオドラをぶち殺す。

 後はシャルバがどう動くかだな...

 俺らの前に立ちはだかるなら、どちらにせよやってやるよ...!

 

 

 



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第39話。 始まります、戦い!

 俺達は現在冥界にいる。

 何故かと言うと、テレビ収録があるからだ。

 グレモリー眷属全員にオファーがあったのである。

 

「お待ちしておりました。リアス・グレモリー様。眷属ご一行様。こちらへどうぞ」

 

 スタッフの方に連れられて、ビルをエレベーターで登っていく。

 

 廊下を歩いていると、サイラオーグさんがやって来た。

 

「リアス、そっちもインタビューか?」

 

「えぇ、あなたも?」

 

「あぁ、恐らく別のスタジオだろうな。...試合、見たぞ。クク、お互い素人臭さが抜けないものだな」

 

 サイラオーグさんが苦笑する。

 そして俺の方を見た。

 うーん...会長戦はなんとも言い難い結果だったからな...プラマイゼロというか...ゼロだからこそマイナスというか...

 

「赤龍帝、前回の戦いはいまいち奮わなかったようだな。」

 

「はい...そうですね...」

 

「まぁそういう時もあるだろう。相性も重要になるからな。ただ、お前とは一切制限のない殴り合いがしたいものだ...」

 

 サイラオーグさんが俺の胸に軽く拳を当てる。

 

「...!ありがとうございます!!」

 

 それしか言えない...

 まだ力は足りないけど、絶対に追い付いてみせる...

 

 それからスタジオへと案内されて、スタッフやアナウンサーと番組の打ち合わせが始まった。

 

 主に部長に質問が行って、木場や朱乃さんにも質問が飛ぶらしい。この三人は人気だからな。

 ちなみに俺は...その、元々の二天龍のイメージと...容赦なく不意打ちで女の子やボロボロの匙を殴る姿とか、パーティー会場近くの森を破壊したせいで...これぞ龍、みたいな扱いをされているらしい...グレモリー眷属の凶犬ないし凶龍、赤龍帝ってのが俺のイメージだ...

 お陰で一部のマニアとか悪役好きには受けてるらしいけど...

 乳よかずっとましだけど、なんか...ちょっとだけ悲しい。

 スタッフさんも俺が赤龍帝とわかると怖がってた...

 

 アーシアが慰めてくれなかったらお豆腐メンタルが死んじゃってたな...

 

『ククク...これでこそ二天龍...赤龍帝...俺は畏怖されるべき存在なのだ...何がアーシア教だ。これこそがあるべき姿だというのにククク』

 

 まぁドライグが久し振りに楽しそうで良かったです。

 

 ────────────────────────

 

 収録後、皆ぐったりしていた。

 俺も辛かった。唯一の質問に対して、台本が用意してあって...

 

「俺の龍の力で滅ぼしてやりますよ...」

 

 とか言わされて正直泣きそうだった...

 しかも思ったより中身普通の人っぽいですから、鎧着てもらっていいですかね?だとよ...

 お陰で俺だけ顔出し無しというな。

 いや、いいんだけど...

 

 アーシアも緊張してたみたいで、今はストローでジュースをちみちみと吸っている。可愛い。

 

 アーシアも一つだけ質問をもらっていた。緊張してカチカチになりながらも一生懸命答える様はきっと、新しい信者を冥界に生んだ事だろう...

 

 ────────────────────────

 

 夏休みの間に部長が、駒王町に大きめの豪邸を建てた。

 なんでも、これからの事を考えるとこういった眷属皆で集合できる家があった方が便利だ、との事だ。

 部員全員分の部屋、客室、はたまた大浴場からプールまであり、たまにアーシアと利用させて貰ってる。学園に家より近いしな...

 まぁ住んでいるのは実家の方だが。

 一度俺達も移住するかどうかという話になったが、アーシアはうちの両親と暮らしたいと言っていたので、そうすることになった。

 住んでいるのは、部長、小猫ちゃん、ゼノヴィア、イリナだけである。

 まぁ家として利用しているメンバーはそれだけだが、主に部員の憩いの場、またはトレーニング施設として使われている。

 思いきって戦える場所ってこの町にはあんまりなかったからな...

 まぁ、実質原作イッセーの家である。

 現在俺はトレーニング施設で木場と模擬戦をした後に、ゼノヴィアとも模擬戦をした後だ。

 木場の戦い方がいやらしすぎる...

 俺が直線でしか奴に追い付けないのをいいことに、ひらひらと曲がりまくって、曲がるついでに俺を攻撃するのだ。

 その癖俺の攻撃はほとんど避ける...

 今はまだ決定打になる威力を持っていないけど、名のある魔剣、聖剣を手に入れたり、龍殺しの聖剣を作れるようになりだしたら本格的にガチでやりあっても負けそうだな...

 ゼノヴィアはまだ、脳筋バトルできるので楽しいんだが...

 一回まじでトレーニング場に穴が空いて怒られた。

 今は木場とゼノヴィアで模擬戦だ...

 ただまぁこいつらは数少ない禁手化(バランス・ブレイカー)で戦える面子だからな、貴重だ。特に木場。

 

 アーシアは少し遠くで俺にオーラを投げる練習をしている。

 なんでも俺に投げる方が上手くいきやすいのだそうだ...可愛いことを言ってくれる。

 あっ...また当たった...アーシアのオーラってすっごく気持ちいいんだよな。例えるなら冬にキンキンに冷えた体をコタツで温めているかのような快感。

 

 俺はアーシアにグッドのポーズをする。十分にオーラを受け取れたというサインだ。

 アーシアはこちらに駆け寄って喜んでいた。可愛い。

 

 ────────────────────────

 

 いよいよ決戦の日が来た。

 俺は、心の準備を決める。

 

 深夜にグレモリーハウスに集まった。

 アーシアとは十分に抱き合ったし、アーシアはまだ少し不安そうだが問題はない。

 アーシアの不安は、危機は、俺が晴らしてやるんだ...

 

 転送の時間が近くなる。

 俺はカウントダウンを始めた。

 

 転送が完了し、見えたのはだだっ広い空間だ。一定間隔で柱がたっており、神殿といった様相である。

 

『Welsh Dragon Balance Breaker!!』

 

「イッセー!?なんでもう禁手化(バランス・ブレイカー)に!?」

 

「すみません。でも俺は奴を信用していないので...」

 

「何を言って....いえ、確かに少しおかしいわね。アナウンスが来ないわ」

 

 俺は周囲を警戒する。

 アーシアには俺の少し横に来てもらった。

 アーシアを拐うべくやってくるディオドラを殴る。

 それが狼煙だ...

 俺は今日まで溜めてきた怒りを解放するように力を上げる。

 

『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost!!!』

 

 紅蓮のオーラを迸らせる...

 すると、前方に大量の魔方陣が現れて、大量の悪魔が出てくる。

 多分原作ではこれに気を取られてアーシアを拐われたのだろう...

 

 部長達があーだこーだ言ってるが俺はそれどころじゃない...

 周囲に気を配る。

 

 来た!!!

 

 体の向きを反転した俺のパンチがディオドラの腹に突き刺さった。

 

「ぐああああああぁぁ!!!!」

 

「なっ!!!」「ディオドラ!!?」

 

 皆が驚いているが俺はそれどころじゃない。

 ここで確実に殺す、もしくは精神を砕く。

 話も聞かない。待たない。速攻でやる。

 

 ディオドラを吹き飛ばした俺は再び殴りかかる。

 防御障壁を作ってはいるが...

 

「なめてんのかおらぁぁ!!!!」

 

『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost!!!』

 

 障壁を紙のようにぶち破り、ディオドラの腹に再び拳を叩き込む。

 

「げぇぇぇぇ!!!」

 

 ディオドラが血と吐瀉ぶつを吐く。

 

「がっっっ!!!糞!!!薄汚い龍ごときが...!!!いつもいつも俺の邪魔ばかりしやがって!!!ガハッ!!!折角アーシアを俺の物にしようと計画を立ててたのに!!!レイナーレの時も!!!今も!!!邪魔しやがって!!!」

 

 ディオドラが魔力をこちらに打ち出すが、全て無視して肉薄する。

 

「黙れぇぇぇぇぇ!!!」

 

 俺はディオドラの顎を殴り、吹き飛ばした。

 

「ゴッッッッッブ!!!!」

 

 くっそ...油断も隙もない...アーシアは知らなくていいんだ...!こいつの糞みたいな性癖と、自分がその被害者であることは...!!!

 

「あああああ!!!!!僕が!!!魔王の血筋たるこの僕がぁぁぁぁぁ!!!」

 

「うるせえぇぇぇぇえええ!!!!死ね!!」

 

 ディオドラが立ち上がる。

 俺は即座に顔面に一撃入れる。

 地面に顔を埋めてやった。

 地面に大きくヒビがはいるほどに全力でねじ込んでやる。

 

 ボガァァァァァン!!と土煙が上がる。

 

 ...気絶したようだ。

 俺の拳から奴の血が滴る。

 くっそ!!こんなの殴っても全然気が晴れねぇ!!

 ...まぁいい。こいつは一旦ここまでだ。

 旧魔王派の計画を出鼻から挫いてやったんだ。

 修正の為にシャルバが表れるだろう...来ないならこれで終わりだ。その他大勢の構成員なら俺が潰せる。

 

 俺はディオドラを引きずりながら部長の方へ歩いていく。

 

「イッセーさん...」

 

 アーシアが俺の方に駆け寄ってくる。

 

「ごめんアーシア...こいつに二度とアーシアに近づくなって言う前に気絶しちまったわ...」

 

「良く気付いたなイッセー」

 

「イッセーくん。ディオドラを倒したのは流石の一言だけれど、今はもうそいつに構ってる暇はないよ?目の前の敵をなんとかしなければ...」

 

 目の前の大量の悪魔達が、それぞれ巨大な魔力弾を作り出していく。

 ....これ全部処理するのか...

 

『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost!!!』

 

「部長!朱乃さん!ゼノヴィア!このメンバーなら広域的な攻撃ができますよね!譲渡します!!」

 

 などと言っていると、キャっと声が聞こえた。

 ローブ姿のおじいさんが朱乃さんにセクハラしていた。

 オーディン様か...

 勝ったな!そういえばそういう展開だったわ!

 

「うむ、良い尻じゃ。」

 

「オーディン様!どうしてここに!」

 

 部長が驚きの声をあげる。

 アーシアもオーディンと聞いてびっくりした様子だ。

 誰でも知ってるくらい有名だもんね。

 

「まぁ、一言で言うなら、禍の団(カオス・ブリゲード)にゲームを乗っ取られたのじゃ。今は各勢力の面々が協力態勢で戦っておる。とはいえ、お主らにも救援は必要じゃろう?しかしこのフィールドは強力な結界に覆われているのでな、なかなか入るのは難しい。そこでわし自ら来てやったというわけじゃ」

 

「敵は北欧の主神だ!討ち取れぇぇ!!」

 

 旧魔王派の悪魔が攻撃をしかけるが、オーディン様はそれらを全て消し去ってしまった。

 ぞくりとする。凄まじい力だ...

 強すぎて比較ができない...流石主神クラス。

 

「とりあえずこれは渡しておくわぃ。アザゼルの小僧からのおつかいじゃ」

 

 そう言われた俺達はオーディン様から小型の通信機を貰った。

 

「さてさて、そろそろうざったいし消すかのぉ?」

 

 オーディン様が左手に槍を携える。

 

「グングニル」

 

 突如、圧倒的なまでの巨大なオーラが放出され、目の前の悪魔は百人ほど消滅してしまった。

 

「ここからは小僧の指示を受けて退避するんじゃな。では、わしはこっちを相手するとしよう...」

 

「お願いします!」

 

 俺達はオーディン様から離れるように、自分達の陣地の方へ歩いていった。

 

「アザゼル!!聞こえる!?」

 

 部長が叫ぶ。

 

「リアスか?よし、無事に渡されたみたいだな。色々言いたいこともあるだろうが、まずは聞いてくれ。最近、現魔王に関与する人間の不審死が相次いでいただろう?グラシャラボラス家もそれの一つだ。首謀者として挙がっているのは旧魔王の子孫どもだ、まぁカテレア・レヴィアタンは俺が学園で始末したが...やはり旧魔王派の連中が現魔王政府に抱く憎悪は大きいようだぜ...お前ら含め、現魔王の関係者をここで殺して開戦の狼煙にでもするつもりなんだろう。だが、予見はできていた。それゆえに一網打尽のチャンスでもあったんだ。今は各勢力のお偉いさんで旧魔王派閥をボコボコにしてる所だ」

 

「.....このゲームはおとりってわけね?」

 

「悪かったな。お前達にも危険な目に遇わせた」

 

「ほんとですよ...危うくアーシアがディオドラに連れ去られる所だったんですから」

 

「....ということは撃退したのか?」

 

「はい、今は気絶してるので引きずってます」

 

「よし、そいつは一応参考人だ。思うところもあるかもしれんが、なるべく殺すな。抵抗すれば構わんけどな。っと...話が逸れたな。まぁ作戦に巻き込んだのはすまなかった。これ以上お前らを危険な場所に置くわけにもいかない。そこは戦場になるからな、どんどん敵も送られてきている。お前らの陣地の神殿には隠し地下室が設けてあってな、かなり丈夫な作りだから戦闘が静まるまでそこで待機しててくれ。後は俺らがテロリストを始末する...」

 

「...わかったわ。一度そこまで引きましょう。行くわよ皆」

 

 部長がそう言った所でだった。

 光が俺やアーシアを包む。

 

 俺は瞬時に反応して、アーシアを光の範囲から抱いて脱出させる。

 閃光が撒き散らされた。

 光が収まると、ディオドラは消えてしまった。

 恐らく光で消し飛んだか、次元の狭間に飛んだのだろう。

 どちらにせよ死は免れない。

 つまり、こいつは...アーシアを殺そうとしたってことだ...

 ビキリと血管が浮き出る感覚がした。

 

「全く...ディオドラ・アスタロト。貴公は余りにも愚鈍だ。私が力を貸してやったというのに、出鼻から挫かれてしまっているではないか...この程度の仕事すらままならんなど、あまりにも愚かすぎる...まぁ貴公も偽りの魔王の血筋...所詮は出来損ないか。これでは計画の再構築が必要になるな...いや、まだそこの娘を回収すれば間に合うか...そうだな、そうしよう」

 

「誰なの貴方は!!」

 

 部長が尋ねる。

 

「お初にお目にかかる、忌々しき偽りの魔王の妹君。私の名はシャルバ・ベルゼブブ。真の魔王であるベルゼブブの血を引く、正統なる後継者だ。さて、サーゼクスの妹君、もののついでだ。そこの娘の回収ついでに貴公にはここで死んでいただこう」

 

「....死ぬのはお前だ、シャルバ...!!」

 

『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost!!!!!』

 

 俺の体を力が駆け巡る。

 

『相棒!少し落ち着け!!覇龍(ジャガーノート・ドライブ)にならないのではなかったのか!?感情が荒ぶりすぎだ!!』

 

 うるさい、ドライグ...こいつはこの世界にとって害悪だ...

 それに...アーシアを連れていくと言った...こいつは、ここで倒さなければあの装置にアーシアを繋いで、アーシアの神器(セイクリッド・ギア)を暴走させるつもりなんだ...!!

 ここで...確実にぶち殺す!!!

 

「シャルバァァァァァアアアアアア!!!!!」

 

 俺はシャルバの元に突撃する。



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第40話。 倒します、蝿の王!

連投です。


 シャルバの元へ飛び込んだ俺は、殴りかかる。

 

「らぁぁぁあああ!!!」

 

 防御障壁に防がれる。2撃目、3撃目。全ての拳に必殺の威力を込めるが破壊しきれない。

 

「赤い汚物。貴様ごときが私に触れられるわけなかろう?視界に写るな。不快だ」

 

 シャルバが魔力弾を打ち出し、俺の腹に直撃する。

 

「がぁぁぁあああ!!!!ぐっっっ!!!」

 

 俺は途中で姿勢を変えて受け流す。

 すぐに再突撃しようとするが、後ろからゼノヴィアのデュランタルの斬撃が飛び込んでくる。

 俺は譲渡のオーラを射線上に設置する。

 

『Transfer!』

 

「ぐっっっっっ!!おのれ!!」

 

 シャルバは流石に受け止めきれずに、斬撃を逸らして避ける。

 

 態勢の崩れたシャルバに俺は殴りかかる。

 防御障壁はまだ展開されていない!

 

「ん゛ん゛っ!!!らっ!!!」

 

 腹に拳が突き刺さり、そのまま殴り飛ばす。

 

「ぐっっっ!!!おのれ!!!汚物がぁぁぁあああ!!!」

 

 シャルバが魔力を解放する。

 恐ろしいほどの魔力が俺達を包もうとする。

 

 まずい!!こんなの食らったらアーシアは一たまりもないぞ!!!

 

「ふざけるな糞がああああああ!!!!!!」

 

『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost!!!』

 

 俺は全力でアーシアの下に突撃して、向き直り、迎撃の構えを取る。

 全力のドラゴン・ショットで吹き飛ばす!!!

 俺は少ない時間で出しうる魔力とオーラを全て球体に込めて、譲渡して放つ。

 

「らぁあああああああ!!!!!」

 

 爆音。恐ろしいほどの衝撃と破壊が撒き散らされる。

 莫大なエネルギーとエネルギーのぶつかり合いはこの場の全てを貪り尽くそうとする...

 

「はぁ...はぁ...はぁ...がぁ...くっ...」

 

 俺はアーシアの壁となり、なんとかアーシアを無傷で守りきった。

 だが、先程の衝突は余波ですら俺の体を破壊してあまりある一撃だった。

 鎧が修復を始める。

 他の皆もかなり危ない奴が数人いるな...すまん...

 

「イッセーさん!!!」

 

 アーシアが俺に手を当てて治療してくれる。

 あっという間に身体中の痛みが消えていく。

 

「ありがとうアーシア!!他の皆も治癒してくれ!俺はもういける!!」

 

「はい!!」

 

 アーシアがスピード重視で皆にオーラを投げて回復させる...

 ほんと、頼れる子になってしまった...

 流石はアーシアだ...

 

 煙が晴れ、シャルバの憤怒にまみれた表情が見えた。

 

「汚物のドラゴンごときが!!!」

 

 シャルバに何かさせれば、皆が危ない!!!

 俺がシャルバを引き付ける...いや、殺す!!!

 

「シャアアアアルバァアアアアアア!!!!!」

 

『相棒!!どうするつもりなんだ!!?』

 

「殴り殺す!!!」

 

 ブースターを全力で噴かせて俺は、シャルバに接近して、殴る。蹴る。殴る。

 

「くっっっっそ!!!」

 

 防御障壁が単純な拳じゃ砕ききれない!!

 

「所詮は薄汚い龍だ!!!貴様など即座に殺してやる!!!」

 

 シャルバが光の魔力を俺の方に打ち出す。

 みんなの方にいってはいけないので、俺は上に上に避ける。

 

「ジリ貧だな...ドライグ!!!新技だ!!」

 

『わかった。しかし、それを使えば魔力も体力もかなり消費するぞ...?』

 

「気にするな!どうせこのままじゃ魔力で押し殺される!!!」

 

『Move burst meteor booster!!』

 

 俺がなんとかシャルバの攻撃を自分の翼で避けながら姿を変えていく。一発わき腹にかすった...

 装甲がパージして、俺の肩に集まり首も固定される。

 イメージはアメフトの防具!!

 ブースターは二つになってサイズも一回り大きくなる。

 ちょっと不恰好だが、これが俺が現在出せる点での最高火力だ!!

 

「ああああああああ!!!!」

 

『Transfer!!』

 

 ブースターが甲高い音を発し始め、やがて爆発する。

 俺ですら認識できないほどの高速でシャルバに突撃する。俺の得意技、全力での正面衝突!!!

 二個のブースターを譲渡させた上で爆発させるこの一撃は圧倒的な速度と破壊力を生み出す。

 

「おらぁぁああああああああ!!!!!!」

 

 シャルバの防御障壁をなんとか破いて突撃する。

 一瞬で地面に激突した。激突してもなお、勢いは止まらずに地面を砕きながら奥へ奥へと潜っていく...

 

「がぁぁぁ!!!!!」

 

 シャルバの口から鮮血が吹き出し、俺の鎧を染め上げていく。俺の体も、あまりの勢いと衝撃に悲鳴をあげて血を噴き出す。鎧も砕けていく...

 

「んぐぐぐぐぐ!!!!」

 

 ギリギリまで押し込んで、やがて停止した。

 

「がばっ!!!ごっ!!!....おのれ!!!」

 

 シャルバが血を吐きながら俺に手を向ける。

 

「....!?クソッ!!まだ生きてんのかお前!!!」

 

 シャルバの魔力の衝撃波で穴の外へと吹き飛ばされる。

 

「がぁぁぁあああああ!!!!」

 

 吹き飛ばされた俺は、アーシア達の元へとどしゃりと墜落する。

 

「げほっ!!」

 

「イッセーさん!!!」

 

 アーシアが駆け寄って治療してくれる...

 温かいオーラに包まれて、傷は治っていく...

 

 やがて、シャルバが浮いてきた。

 

「この...ガハッ!!...この...俺をぉぉぉ!!!汚物がぁぁぁあああああ!!!」

 

 シャルバが再び魔力による光線を打ち出す。

 まずい!アーシアに当たる!!

 

「危ない!!!」

 

 アーシアを押し出して射線から離す。そして

 

「がばっ!!!」

 

 俺の腹を大きく貫いた。

 俺は口から、腹の穴から...大量の血を吐き出す。

 

「イッセーさ...イッセーさん!!!イッセーさん!!!いやぁぁぁぁぁ!!!」

 

 アーシアが泣きながら治療を開始してくれる。

 が...間に合うかわからないな...これ...

 俺は意識を失ってしまった。

 

 ────────────────────────

 

 ここは....

 神器(セイクリッド・ギア)の中...

 

「奴を殺せ...」「全て破壊してやろう...」「殺せ...殺せ...」「悉くを消滅させればいい...」

「終わらせよう...」「覇の力を使うのだ」

 

 呪詛が俺を包み込む。

 突如として恐ろしいほどの負の感情が爆発する...

 

 あぁそうだ...あのクソヤロウを破壊しなければ...気が済まない...ハカイ...シテヤル...コロシテ...!

 

「......君はそれでいいのか...?」

 

 ダレダ...オマエハ...

 

「....君の手はなんの為にある?」

 

 ハカイノタメダ...!

 

「.....違うな...君の足はなんの為にある?」

 

 フミツブスタメダ...!!

 

「.....それも違う...君の胸はなんの為にある?」

 

 コトゴトクヲケシサルハメツノ...

 

 体が温かい何かに包まれる...

 誰かの声も聞こえる...

 

「イッセーとアーシアをなんとしても守るわよ!!」「よくもイッセーを!!」「イッセー君とアーシアさんには近づけない!!」「...よくもイッセー先輩を...」「イッセー君を...許しませんわ?」「イッセー先輩!!!」

 

 そして...何よりも大好きな声も...

 

「イッセーさん!!イッセーさん!!いやです!!イッセーさん!!やだぁ!!」

 

 泣いている...

 

 オレノ...オレの...俺の、胸は...

 

「.....アーシアを...悲しむアーシアを抱きしめる為にある...」

 

「....そうだな。」

 

「俺の手はアーシアを守る為にある...俺の足はアーシアと共に歩む為にある!」

 

「....そうだ。ならば、わかるな?」

 

「うん...ありがとう、おっさん」

 

 サッと視界が開ける。

 

「教祖様!!!教祖様がご帰還なされたぞ!!」「流石は教祖様だ!!!」「当たり前だ...アーシア様を唯一寵愛する事の許された男...この程度で死ぬわけがあるまい」「やったぞ!!!覇を打ち破った!!」

 

 皆が喜んでいた...相変わらずこいつらは...

 

 信徒のリーダー格がこちらにやってくる。

 

「必ず...必ずお戻りになられると確信しておりました。さぁ教祖様...既に神器(セイクリッド・ギア)は我々の手によって変化しております。さぁ!かの者を討ち滅ぼすのです。我々の力で...あなたの愛の力で!!」

 

「....あぁ!行ってくる!!!」

 

 ふと見ると、おっさんが満足そうな顔でこちらを見つめていた。

 

 ────────────────────────

 

 身体中から恐ろしいほどの力が漲る。

 

 起き上がる。

 

「イッセー...さん...?イッセーさん!!イッセーさん!!!わぁぁん!!イッセーさぁぁん...!!!」

 

 アーシアが俺に抱きついてくれる。

 俺はアーシアを抱きしめ返す。

 

「アーシアありがとう...ずっと、アーシアの声が聞こえていたんだ...アーシアの温かい力が俺を包んでくれたんだ...」

 

『....!なんだこのオーラは!!俺のオーラのようで...少し違う!!!しかし...やはり懐かしいこの感じは...間違いなく俺の...天龍たる俺本来のオーラだ...なのに....なんで金色なんだぁぁぁああ!!!んぉおおおおおん!!!うぉおおおおおおん!!!』

 

「ドライグ...これはお前本来のオーラに俺のアーシアへの愛とアーシア教の信仰によって生まれたアーシニウムエネルギーが込められているんだ。だから金色なんだ。アーシアの色だ!!」

 

『Destroy!』『Dragon!』『Diabolos!』『Disaster!』『Asia!』『Asia!』『Asia!』

 

『DDDDDDDDディッ!ガガッ!AAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!!!!!』

 

『んおぉおおおおおおん!!俺のオーラなのにぃぃぃぃ!!!赤龍帝のオーラが黄金など前代未聞だぁぁぁぁぁあ!!!』

 

「これがっ!!!アーシアへの愛の力だぁぁあああああ!!!!!」

 

 黄金のオーラが遥か高くまで立ち上る...

 

「イッセー!!目覚めたのか!!」「イッセー君!!」「イッセー!!」「あらあら」「...イッセー先輩...」「イッセー先輩!!」

 

 皆の顔が見える。かなりボロボロみたいだ...でも、俺とアーシアをちゃんと守ってくれた。

 おのれシャルバ...

 

「アーシア...俺にプロモーションの許可をくれ」

 

「私が...ですか?」

 

「あぁ、アーシアの許可で俺の力は解放される。この力はアーシアを守るためのものだから!」

 

「イッセーさん...わかりました!許可します!!」

 

「ありがとうアーシア...」

 

 身体中に力が漲るのがわかる...

 

「行くぞシャルバァァァアアア!!!今度こそ止めを指してやる!!!」

 

 俺が開発した2つの新技は、装甲を形成する時間以前に決定的な弱点があった。

 

 トリアイナの戦車を意識した方は、バランスが悪く、スピードが足りなすぎる。動いている敵に追い付いて当てることが困難だ。

 突撃する方は、俺の体があまりの衝撃と勢いに耐えきれなかった。だから、全力で突撃しきれない...

 

 だからこそ、これを上は騎士。下は戦車にプロモーションすることで補うのだ。

 これによって二つの技は実戦に投入可能な次元まで引き上がる...

 

山吹に爆ぜし二叉成駒(ブロンディッシュ・バースト・バイデント)!!」

 

 溢れだす黄金のオーラを利用する事で、換装の時間は極限まで短縮され、装甲のパージも不要となる。代わりに増設する装甲は黄金になるけど。ごめんドライグ...許して...

 

 だが、黄金の鎧は俺のアーシアへの愛そのものとも言えるので、俺のアーシアへの愛に勝るほどの威力や意思の力でもない限りは砕ける事はない...!

 最強最硬の龍の鱗だ!!

 

『Change burst meteor booster!!』

 

赤龍帝の爆裂戦車(ウェルシュ・バーステッド・ルーク)!!」

 

『Transfer!』

 

 俺の上半身が増設された黄金の装甲によって輝き、背後で黄金色のオーラが爆発する。

 

「ぐぁぁぁああああああ!!!」

 

「くらえぇぇえええええ!!!」

 

 一瞬でシャルバの元へとたどり着くと、そのまま地面に突撃する。自分でも制御できないほどの速度で、水切りのように何度も跳ねては突撃していく。

 

「がぁぁぁ!!!ぐぁああああ!!がぁぁあ!!!ごぉおお!!!」

 

 最後に思いっきり地面に突撃すると、俺は装甲を換装した。

 

赤龍帝の爆砕騎士(ウェルシュ・バーステッド・ナイト)!!」

 

『Change burst impact booster!!』

 

『Transfer!』

 

 俺の両腕が肥大化して、肘にブースターが装着され、黄金に輝く。

 

「食らえ!!シャルバァァァアアア!!!!!」

 

 両肘のブースターで吹っ飛んだシャルバに近づいた後に、肘が爆発して音速の拳がシャルバに突き刺さる。

 

「ガホッッッッッッ!!!」

 

 シャルバの口から血が噴き出し、内蔵に大きくダメージを与える。

 が、まだ決定打にはなっていない...!!

 

「もういっぱつぅぅぅぅぅぅ!!!!!」

 

『Transfer!』

 

 バゴンと深く深く拳が突き刺さる。

 

「ゴボッッッッッッ!!!」

 

 シャルバの口から鮮血が吹き出し、シャルバの意識は途絶えた...

 エネルギーが尽きて鎧が解除されてしまった俺は、そこから数歩歩いた所で動けなくなってしまった。

 

 やった...なんとかシャルバを倒せた...

 所詮は下級の転生悪魔や汚物だと、蝿も出さずに攻撃を受けてたからなんとか倒せたけど...

 もしまともに戦えば負けてたんだろうな...

 やっぱり蛇ってのは恐ろしいもんだ...

 それに...

 

「はぁ...はぁ...この力は...すごいけど...体力魔力の消費が恐ろしすぎる...後アーシニウムエネルギーが大量に必要だな...ここしばらく貯めてきた分が全部無くなった...実戦では仲間に守って貰いながらイチャイチャするしかないな...」

 

 なんだそのひどい絵面は...

 

「イッセーさん!!!」

 

 アーシアが駆け寄ってきた。後ろには皆も居る。

 

「イッセーさん!イッセーさん!イッセーさん!!私...私...!イッセーさんが居なくなっちゃうって!!グスッ!!うぇぇぇぇん!!」

 

「アーシア...大丈夫だ。俺は絶対にアーシアを置いて消えたりしない。ずっと一緒だ...」

 

「はい...!ずっと一緒です!!」

 

 ぎゅっと抱きしめる。さっきは鎧で味わえなかったアーシアの体温や柔らかさが、俺を包んでくれる...

 

「アーシア...愛してる」

 

「私もです...」

 

 アーシアと唇を重ねる。舌は絡ませないが、長く...互いを確かめるようにキスをする。

 

 大丈夫だ、アーシア...きっとどんな敵からだって守ってみせるから...ずっと一緒にいるから...



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第41話。 出場します、体育祭!

「ほう、油断していたとはいえ、蛇を使っているシャルバを倒したか。やるじゃないか赤龍帝」

 

 俺とアーシアはびくりとしてキスを中断した。

 

「ヴァ...ヴァーリ!!?」

 

「久し振りだな。キミに受けた傷がうずくようだよ」

 

「イチャイチャしちゃって、羨ましいねぃ」

 

「美猴!!」

 

「しかし...赤龍帝が黄金のオーラに黄金の装甲か...キミは予想外の事を仕出かしてくれるな、素直に面白いよ」

 

「うるせぇよ...」

 

『ドライグ...どういうことだ...?』

 

『アルビオン...すまん...今だけは放っておいてくれないか...?俺は...おぉぉぉぉぉん!!!』

 

「ごめんってドライグ!!大丈夫!換装する所以外は赤色だから!!」

 

『どうせお前は最後には全身黄金にするに決まってる!!!俺は二天龍だぞ!!?赤き龍だぞ!!?なんで黄金なんだ!!!嫌だぁぁぁあ!!!うわぁぁぁあああん!!!!おおおぉぉぉぉん!!!』

 

「ごめんってば!!!本当に申し訳なく思ってるよ!!!」

 

「......大変なんだな。可哀想に」

 

 白龍皇に慰められるドライグ...

 

「カカッ!まぁ面白くていいじゃねぇか!」

 

 美猴は楽しそうだ。

 

「それで?何しに来たんだ?まさか俺達を殺しに来たわけじゃないだろ?」

 

「あぁ、むしろキミに関してはどこまで行くのか見てみたくなってしまったよ。今殺すなんて勿体ない。俺達はこれを見に来たんだ」

 

 それを聞いて後ろの皆からプレッシャーが消えた。てか全然皆居たのに思いっきりキスしちゃった...まぁいいか。

 

 バチリと空に大きな穴が開いた。

 

「良く見ておけ、兵藤一誠。あれこそがグレートレッド。真なる赤龍神帝(アポカリュプス・ドラゴン)だ。」

 

 視界に写る真龍は、余りにも雄大で、余りにも強大だった。これが生グレートレッド...!すっげぇ!

 

「俺達の目的はこれを確認することでね、シャルバ達の作戦は正直どうでも良かったんだ」

 

 ヴァーリはグレートレッドを見つめながら語った。

 

「俺が最も戦いたい相手があれだ。俺は真なる白龍神皇になりたいんだ。赤には最上位が居るのに、白には居ないなんて格好がつかないだろう?だから、おれはそれになる」

 

「グレートレッド、いつか我は必ず静寂を手にいれる」

 

 突然声の聞こえた方に視線を向けると、オーフィスが居た。

 ひえっ...なんじゃこいつ痴女かよ...こいつにそういう考えは無さそうだけど。

 

 アーシアに目を塞がれる。大丈夫、アーシア以外の裸体で興奮はしないよ?

 

 バサリという音がして、アーシアが俺の顔から手を離すと目の前にアザゼル先生とタンニーンさんがいた。

 

「タンニーンさん!お久しぶりです!」

 

「1ヶ月経ったかどうかくらいではないか?まぁ久し振りだな。兵藤一誠」

 

「しっかしイッセー。シャルバをやるなんて大金星じゃねぇか!オマケに...ククッ!黄金の装甲って!!クハハ!!!赤龍帝なのによぉ!ファーブニルじゃねぇんだから!!!アハハハハ!!!好きな女の色だってよ!!」

 

 アザゼル先生は大爆笑だ。まぁこんなびっくり変化起こせるやつ今までいなかっただろうしね。俺も驚いてるわ。

 にしてもファーブニルか...アーシアを愛する民としてはシンパシーを感じなくもないんだが...

 それはそれとしてアーシアのパンツを匂うような奴には...

 でもアーシアを守ってくれるし...まぁ今考える事じゃないか。

 

「久し振りだなアザゼル。クレルゼイ・アスモデウスは倒したのか?」

 

「クハハハ...あ?あぁ、旧アスモデウスはサーゼクスがちょちょいとな。結界もジジィが破壊したようだし、サーゼクス達は観客席に戻ったよ」

 

 そっか、俺がドレスブレイクで壊さなかったから...代わりにオーディンさんがやってくれたのか。

 まぁ起動してない結界くらいなら、あの人なら余裕か...

 

「オーフィス、旧魔王派の連中は退却及び降伏した。事実上残ってるのは英雄派だけだな?」

 

「それもまたひとつの結末」

 

 オーフィスはあっけらかんとしていた。

 流石無限の龍...俗世には興味無しだな。

 

「さーて、オーフィスやるか?」

 

 アザゼル先生が構える。

 

「....我は帰る。....タンニーン。龍王は再び集まりつつある。楽しくなるぞ」

 

 そう言い残した後、ちらりとこちらを一瞥するとオーフィスは消えていった。

 

「...兵藤一誠、俺を倒したいか?」

 

 気がつくと退却準備を終わらせたヴァーリが俺に尋ねてくる。

 

「...あぁ倒したいさ。コカビエルとの戦いで見たお前の姿は俺の憧れだ。だから...お前を倒して、俺は夢を叶える。アーシアをどんな奴からでも守れる男になってみせる」

 

「そうか、俺はキミ以外にも倒したい奴がいっぱいいるよ。だが、キミにも興味が沸いてきた。もっと強くなってくれ、そして俺の前に立ち塞がってくれよ。その時は...」

 

「あぁ、待っててくれ。ヴァーリ」

 

「木場祐斗君、ゼノヴィアさん。私は聖王剣の所持者であり、アーサー・ペンドラゴンの末裔。いずれ聖剣を巡る戦いをしましょう。では」

 

 そういってヴァーリチームは消えていった。

 

「...アーシア...俺、ちゃんとできたよな、アーシアを守り抜けたよな?」

 

「はい!イッセーさんは私を守ってくれました!!かっこよかったです!!」

 

 アーシアが俺を再び抱きしめてくれる。

 

「そうだよな...あぁ、俺はちゃんとアーシアを守ってみせた...!」

 

 正直勝てるか怪しかった...けど、歴代や皆の...何よりアーシアのお陰で、なんとか乗り切れたんだ...

 

「帰ろっか...二人三脚、頑張らないとだもんな!」

 

「はい!いっぱい練習しましょう!」

 

 俺とアーシアがイチャイチャしていると...

 

「私達は無視かしら?」

 

「部長...いいところなんですから勘弁してくださいよ」

 

「そういえば新型の4号がそろそろ届くような...」

 

「はい!部活メンバー皆仲良し!!皆とお話しします!!」

 

「ハハハ、それにしてもイッセー君はすぐに遠い所へ行ってしまうね。僕も負けていられないよ」

 

「木場...お前はもうちょっとゆっくりでいいんだぜ?まじですぐ追い抜かれそうだし...」

 

「そんなことはないさ。全速力で駆け抜けなければ君には追い付けないからね」

 

「そんな事言うなよ。お前の強さは模擬戦しまくってる俺が一番わかってるんだからさ」

 

「そう言われてしまうと、なおさら頑張らないとね」

 

「イッセー、ついにアーシアへの愛は神器(セイクリッド・ギア)やオーラすら変質させてしまったのか...」

 

「ゼノヴィア...今ドライグが繊細な時期だし、まじで悪い事したとは思ってるからさ...今は...言わないでやってくれないか?」

 

「そうなのか...それは失礼した。それにしても流石はイッセーだ。私の出る幕もなく、アーシアを守りきってしまった。私も友人として...いや、そ...その、し ...親友として、アーシアを守りたかったのだが...」

 

 ゼノヴィアが恥ずかしそうにそう言った。

 

「そんな事ないだろ。俺が寝てる間、ゼノヴィアや皆が俺とアーシアを守ってくれたから生き抜く事ができたんだ。そうだろ?」

 

「はい!ゼノヴィアさんは私の親友です!!大事な方です!ゼノヴィアさんは私を守ってくれました!」

 

「アーシア!!!ありがとう!!!嬉しいよ!!!」

 

 ゼノヴィアとアーシアは抱き合う。

 仲良き事は美しきかな...

 

「うふふ、それにしてもイッセー君は今回も叫んでましたわね?「これがアーシアへの愛の力だー!」でしたかしら?」

 

 朱乃さんがSオーラを出している...

 

「改めてそういうのは恥ずかしいんで勘弁してください...」

 

 アハハと談笑した俺達はなんとか皆無事で帰宅するのであった。

 ちなみにイリナは向こうで活躍していたらしい。流石ミカエル様のA。

 

 ────────────────────────

 

 実はあの後、シャルバは姿を消したのだそうだ...

 俺達が勝利の喜びに浸っている間にいつのまにか消えていたそうだ。

 そこは先にシャルバを回収しといてくれよと思わないでもないけど、まぁ既に遅い事だな...

 それにグレートレッドが出てきたりてんやわんやで気づけなかったんだろう。

 腐っても蛇込みなら旧魔王と同等の実力を持ってる奴だ。

 多分、原作通りかそれ以前かはわからないが、再会する事になるんだろう...

 その時にはもっと強くならなければ...

 今回は倒せはしたが、勝利はしてないと思ってる。

 圧倒的慢心に付け入ることができただけなのだから...

 

 ただ、それでも今は...素直にアーシアを守りきれた事を喜びたい...

 

 ────────────────────────

 

 体育祭当日がやってきた。

 俺はアーシアと一緒にゼノヴィアとイリナが出場するリレーを応援する。

 

「頑張って下さい、ゼノヴィアさーん!!イリナさーん!!」

 

 アーシアが一生懸命応援している。可愛い。

 

 ゼノヴィアとイリナは見事に圧勝していた。だから人間に合わせてあげて...

 

 部長や朱乃さんも三年生の部で活躍して大いに観客を盛り上げていた。小猫ちゃんやギャスパーもだ...木場も...

 

 はは、皆人気だなー。いやいいんだけどさ、俺だけ...学園でも...冥界でも...印象が悪い...悲しい...

 

「イッセーさん!そろそろ準備しましょう!」

 

 アーシアはやる気満々だ。可愛い。今日までいっぱい練習したし、絶対大丈夫だ。

 

「おぅ、行くか!」

 

 ..........

 

 二人三脚が始まって、いよいよ俺達の番だ...

 

「イッセー、アーシア!頑張りなさい!!」

 

 部長が応援してくれる。

 他の皆もだ。

 一部男子は俺に罵声を浴びせる...

 パパとママ来てるから勘弁してくれ...

 肝心のパパママはアーシアに夢中だけど。

 

「行くぞアーシア!」「はい!」

 

 走り出す、俺達は二番手で中盤を折り返した。

 まずい...アーシアがこんなに一生懸命頑張ってるのに一着じゃないなんて嘘だ...!

 

 先頭が転けた!!やった!!焦ったな?おめぇら!

 俺とアーシアは息ぴったりだから絶対に転ばないぜ!!

 

 見事に一着!!

 

「やったな!アーシア!!」

 

「はい!」

 

 アーシアが俺に正面から抱きつこうとして、足がくっついているので体勢を崩す。くっつけている紐は都合良くほどけた。タイミングが良すぎる。

 

「きゃ!」「わっ!」

 

 アーシアが俺の上に倒れ込んだ。

 

「アーシア...大丈夫か?」

 

「...イッセーさん」

 

 起き上がったアーシアは顔を真っ赤にしながら俺の腕を地面に押さえつける。

 

「.....!!?」

 

 そして俺にキスをしたのだ!皆の前で!!

 アーシアさん!?何を...!?

 

 観客もキャーキャー言ってるメンツと、呪詛を吐き散らすメンツで二分化してる...!

 

 しかも結構本気のキスだな!!完璧に皆に見られてるよ!!

 

 あぁ!シャッター音が響き渡る...

 アーシア...嬉しいけど...恥ずかしいよ...

 アーシアも顔真っ赤じゃないか...至近距離でもわかるくらい赤い...

 

「ぷは!」「はっ!」

 

 俺とアーシアの間に唾液の糸が伝う。

 

「ア...アーシア...?」

 

 俺は顔を真っ赤にして名前を呼ぶ...

 

「イッセーさん...大好きです...だから...だから!イッセーさんは誰にも渡しません!」

 

 アーシアの言葉に会場は沸き上がる!

 特に女子がすごい...!

 アーシア...イケメンがすぎるよ!

 そういうのって男の子がやるんじゃないの...?

 

 指笛と拍手と呪いが俺達を包み込む...

 

 閉会式、俺達は最優秀バカップルで賞を受賞した。

 そんなもの去年は無かったですけど...

 表彰式では、アーシアが顔を真っ赤にして表彰状を受け取っていた。

 なんか悔しかったので、アーシアをお姫様だっこして表彰台から降りてやった。

 優勝した組よりも声がでかいんだが...呪詛も...

 アーシアは真っ赤っかで爆発していた。可愛い。

 こうして、俺とアーシアは学園公認の大型バカップルとなったのである。

 

 まぁアーシアとの事だし、なんでもいいや。

 幸せだ...

 

 後日、桐生から最大限にからかわれ、事あるごとにキスの写真を出されたのはご愛嬌だ。

 嘘、恥ずかしすぎる...主にアーシアがダメージを受けていたが。

 

 なんでも桐生が、俺が夏休みが開けて更に体つきや顔つきに磨きがかかって女子からの評価が少し上がった、このままじゃ愛しのイッセーさんを取られるかもよ?などの煽りを筆頭に、手を変え品を変えアーシアにひたすらに発破をかけまくっていたらしい。

 アーシア...頑張りすぎだよ...俺は絶対アーシアと一緒にいるのに...まぁ嬉しいからいいや。

 

 こうして体育祭は終了するのであった。



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放課後のラグナロク編
第42話。 来日です、オーディン様!


 昼休み、俺と教会三人組、桐生、松田、元浜の7人で昼御飯を食べていた。

 最近は教室でも一緒に食べる時にアーシアがあーんしてくれるのが嬉しすぎる。

 可愛い。美味しい。アーシアは俺をこれ以上惚れさせてどうするつもりなんだ...?

 

 アーシニウムエネルギーの貯まりもどんどん良くなって来ている...

 精神的に充足して、戦力にもなるとか最高かよ!流石はアーシアの魅力。

 

「そういや班決めないとな。とりま俺ら三人組は決定だな」

 

 松田は悲しそうに語る。

 こういう時嫌われ者の自覚が出るんだね?

 ちなみに俺は結構前から他の男子に誘われていた。

 なぜなら俺と班を組めば少なくともアーシアが付いてきて、そのアーシアにと一緒に他の教会メンバーも来るとわかっているからだ。ゼノヴィア、イリナを狙う男子は多い。

 まぁこいつらはそれをあんまり歓迎してない様子なので、申し訳ないが断る事にしている。

 変にあんまり喋ったことがない男子が来るより、好き放題サンドバックにできて適当に扱えて、無視できて、確実に眼中にない松田、元浜の方が安心なのだ。

 こうしてなんだかんだこのメンツで喋ってるしな。

 ごめん二人とも、好き放題言っちゃった。まぁ事実だし問題ないな。

 

 結局ここにいるメンツで組みたいという話になった。

 アーシアは修学旅行をとても楽しみにしているようだ。

 俺も楽しみだ。アーシアと旅行とか楽しくないわけがない。

 あぁでも...修学旅行...曹操...うぅ、考えたくない...

 楽しい事だけ考えたい...

 それ言い出したらそろそろロキとフェンリルと戦う事になるんだがな。

 あ──...一歩間違えたら確実に死ぬからな...

 少なくともヴァーリが噛まれるくらいには危ないもん...

 

 ────────────────────────

 

 深夜、俺達はとある廃工場に来ていた。

 

禍の団(カオス・ブリゲード)、英雄派ね?私はリアス・グレモリー。この町を任されている上級悪魔よ」

 

「存じ上げております。魔王の妹君、我々の目的は悪魔どもを浄化して町を救う事ですから」

 

 そういって男は敵意を剥き出しにする。

 最近の俺達は毎日のように英雄派の送り込んでくる刺客と戦っている。

 その刺客は大体神器(セイクリッド・ギア)を持っているので、どんな神器(セイクリッド・ギア)か判明するまでは下手に攻撃できない。

 カウンター系だと被害が拡大しかねないからな。

 それなら俺がタンク役で黙って攻撃を受ける方がマシなのだ。俺が一番防御堅いのはわかってるけど解せぬ。

 

 けど安心だ!なぜならただいまギャー助が操作している機械でどんな神器(セイクリッド・ギア)か検索できるからね。

 流石はアザエモン。こういう時は本当に頼りになる。普段は変な実験だとか変な道具とか使わせようともしてくるが...そういう時は大惨事になってばかりだ。やっぱあの人糞だわ。

 

 俺達は部長の指示で、各個撃破に走る。

 

 っは!!アーシアに危機が迫っている!!!

 

 そう!俺はついにアーシアに危機が迫るとそれを検知できる力を手に入れたのだ!

 これでいつでもアーシアの危機に反応できる!!

 俺はこれをアーシグナル・コールと名付けた。

 

 俺はアーシアの元に走って、壁になる。鎧には傷ひとつ付けられなかった。

 

「お前らぁぁ、よっぽど死にてぇみたいだなぁあぁああ!!!!」

 

 俺は力を解放して、相手がふき飛ばない、かつ確実に内臓にダメージがいくように殴ってやる...

 人間と戦ってばかりのせいで妙に下らない力の抑え方を学んでしまった。

 最初は内臓グッチャグチャになって、アーシアに治療してもらうとかざらだったからな...

 

 なんとか全員殲滅した。

 

「ふぅ、やっぱりアーシアさんに危害が加えられそうになると、撃破数で負けてしまうね」

 

「木場...普段はお前の方が多いだろうが」

 

「そうだね、でもやっぱりアーシアさんが関わってくると正直手を付けられないよ...」

 

 木場が困ったといった風だった。ほっとけ...

 

 部長と朱乃さんが魔方陣で冥界に転送する。

 倒して転送、倒して転送の繰り返しだ。

 ちょっと疲れるんだよな...体力というより精神が辛い。

 神器(セイクリッド・ギア)相手だから注意しないといけないんだよなぁ...

 

 ────────────────────────

 

 家に帰って俺はアーシアと一緒に眠る。

 最近はもう特に引っ付いて寝ている。

 それはそれはもうぎゅうっと密着して眠るのだ。

 正直俺のゲフンゲフンがエレクチオンしてしまうのだが、アーシアはもうあまり気にしなくなってしまった。

 逞しくなって...お兄さん嬉しいような悲しいような...

 まぁ流石に生で見るのは恥ずかしいそうだが...

 なんでわかるかと言われれば、アーシアとお風呂に入る機会も増えたからだ...

 しかもアーシアは俺が入ってるときに、お邪魔しますと乱入するのだ。

 最初はめちゃくちゃ狼狽して興奮していたが、いまや慣れたものだ。嘘今も恥ずかしいです...

 アーシアのすべすべもちもちの背中が俺の胸にくっついて来るのが、とても気持ちいい。肌触り的な意味で。

 なんというか...私生活全体的にアーシアが更に俺に引っ付いて来るようになった。

 どういう理由があるのかわからないが...あれかな?なるべくくっついていたいみたいな?可愛すぎて死にますけど?

 俺は無駄に煩悩を抑える力に長けるようになってしまった...悲しい。

 一見完全に据え膳なのに、実は据え膳じゃないのだ。

 まぁ...アーシア抱き締めるのめちゃくちゃ気持ちいいし、いい匂いするし、やわらかいし、可愛いし...なんかもう、満足です。

 

 ────────────────────────

 

 次の日、俺達はグレモリーハウスに呼び出された。そこに居たのはオーディン様であった。

 

 日本に用事があって来たらしいが、護衛に居るのだ...バラキエルさんが...

 朱乃さんの雰囲気がやばい。

 アーシアが怖がるくらいだ...俺も怖い。

 

 どれくらいやばいかと言えば部長がお茶を出すくらいにはやばい。朱乃さんがストライキしてる...

 

「にしても相変わらずでかいのぉ...そっちもいいのぉ...」

 

 オーディン様が部長と朱乃さんの胸を見てそう言った。

 アーシアが自分の胸を見ている。

 違うんだアーシア。アーシアの胸には無限の可能性が眠ってるんだよ?気にしなくていいんだ...

 これから大きくなっても、大きくならなくても、アーシアのお胸は最高なんだから...

 

「オーディン様!いやらしい目線を送ってはなりません!」

 

 ロスヴァイセさんがぷりぷり怒っていた。やっぱ実際に見たら美人だなぁ、部員の皆に言える事だけどさ...

 早速オーディン様の紹介で彼氏居ない歴=年齢とばらされて余計に怒っていた。

 そしてこちらに対して非常に恨めしげな視線を感じた。

 アーシアが少し怖がって俺にしがみつく。

 視線がより強くなった...

 俺はアーシアを抱きしめる。頭もポンポンする。

 ロスヴァイセさんはキィキィ言ってらっしゃる。オーディン様のからかいと同時に俺達カップルを見せられて憤慨してらっしゃるんですね?可哀想に...

 可哀想な生き遅れヴァルキリー...誰か嫁に貰ってあげて?優良物件なんですよ?いや冗談抜きで。

 

「爺さんが日本にいる間、俺達で護衛することになってるんだが、俺も最近忙しくてな。ここに居れる時間も限られてるから、その間バラキエルが俺の代わりだ」

 

「よろしく頼む」

 

 バラキエルさんは寡黙な方だ。最低限しか喋らない。これでドMなんだからほんとよくわからないよなぁ。皆は俺の事をとやかく言うけど、絶対俺なんかよりやべぇやついっぱいいる世界なんだって声を大にして言いたい。

 

 アザゼル先生がオーディン様にちょっと来るのが早くないかと苦言を呈すると、国で厄介なやつに批判されてるから今にうちに日本の神々と話をしておきたかったとの事だ。

 難しいお上の話はよく分からないが、まぁ色々大変なのだろう...

 

 次の話題として、最近の英雄派の絶え間ない攻撃は、手っ取り早く禁手化(バランス・ブレイカー)に至らせる為に強者が揃う重要拠点を襲撃させて、死んでもいいやの精神で危険な目に合わせようといった作戦を展開しているのではないか、という事らしい。

 そんな事言われても、今と異なる対応は少なくとも俺には思い付かないな。

 

 英雄派はさまざまな英雄や勇者の子孫が集まり、様々な神器(セイクリッド・ギア)が揃っている。

 筆頭はやっぱり曹操だな...恐ろしいぜ全く。

 

 などと話していたくせに、少しボケッとしてる間にアザゼル先生とオーディン様でおっパブに行く話になっていた。わけわからん。

 

 おっパブねぇ...アーシアのおっぱいならいくらでも揉みたいけどな。

 自分の胸でならもう数えきれないくらい感じて来ているが、それは服の上からの事だし、手で直に触ったことは実はあんまり無いんだよなぁ...

 だって...!アーシアは婚前交渉ダメなんだもん...!

 おっぱい触ったら多分止まれないもん...!

 

「.....卑猥なこと考えないで下さい」

 

 小猫ちゃんに小指を踏まれる。痛ってぇ!

 

「イッセーさん...いやらしいこと考えていたんですか?私...私がイッセーさんを満足させてみせますから!私以外でそういうことは考えないで下さい...!」

 

 アーシアが俺に抱きついてくる。あっアーシアのお胸が顔に...

 

「.....そこは問題ないですアーシア先輩」

 

 小猫ちゃんは呆れた様子だ。

 

 アーシアちゃん...そんな言葉誰に習ったの...桐生だね...?もちろんアーシア以外では考えないよ...?

 

「アーシア...大丈夫。アーシアの事考えてたから。アーシア以外でいやらしい事は考えないから」

 

「....ほんとですか?」

 

 アーシアが涙目で顔を赤くしてこちらを伺う。

 

「当たり前だろ?俺にアーシア以外がいるわけないじゃないか。ずっと一緒で、ずっと大好きなのはアーシアだけだぞ」

 

「イッセーさん...はい!」

 

 アーシアがもう一度俺を抱きしめる。

 アーシアはディオドラとのいざこざ以降、より積極性といじらしさに磨きがかかっている。

 正直、困惑しているぜ...

 だってアーシア誘惑してくるんだもん!我慢するのにも限度がある...!

 実は手を出していいんでしょうか!?それともそれでもなお耐えるようにと試練を課しているのでしょうか!?ちょっとおつまみくらいは許されるんでしょうか!!?

 

 あーあー!生き遅れヴァルキリーさんがめちゃくちゃ苛立ってるよ!!

 これ以上アーシアとイチャイチャしてたらいい加減不味そうだな...ちょっとからかい気分だったけどそろそろやめておこう...

 

 などと俺らがふざけている間に、バラキエルさんと朱乃さんはバチバチの雰囲気になっていた...

 主に朱乃さんが怒っていた。バラキエルさんが恐る恐る話しかけても一切取り合わず切り捨てている。

 これに関しちゃ、あんまり朱乃さんの事悪くいうのもあれだが、バラキエルさんが悪いとも言えないからな。誰も悪くない。強いて言うなら襲撃者が悪い。

 まぁこれも、自力でなんとかなすることを願うしかないな。

 俺はハーレム王ではないんだから、仲間として以上の助け舟は出せないし、そんな俺の言葉でどうにかなるもんでもないだろう。

 

 ────────────────────────

 

 次の日、俺達はグレモリー家主催の冥界イベントに参加していた。

 握手とサイン会である。

 部長の前には大量に男女様々。木場の目の前には大量の女性。朱乃さんの前には大量の男性。小猫ちゃんの前にも大量の男性。ゼノヴィアも結構多いな、まぁ流石に4人ほどではないが...ゼノヴィアは男女混合なんだな。まぁ女の子も好きそうよね、ゼノヴィアみたいな子は。

 ギャー助の前には男の娘が好きそうな男性が...(偏見)ただ、普通に女性も多いな。学校でも女子に人気と聞いている。

 そしてアーシアの前には...男性が多い。

 わかってる。大丈夫。大丈夫なんだけど...こう...独占欲が暴走してしまうのだ...

 くっ...我慢だ...皆がアーシアの良さを理解してくれているって事なんだ!!

 

 そして問題...俺の前には...もう人がいない...

 最初の方に、

 

「次のゲームでも、女の子のお腹全力で殴ってね?期待してるから...!」

 

 とかいうようなリョナ野郎何人かと...

 

「敵役っぽい感じがかっこいいです!これからも頑張って下さい!!」

 

 という割りと純粋なファン十数人と握手して終わった。

 

 俺だけ皆より遥かに早く終わった...

 俺は鎧の下で一人静かに泣いた。

 ここでも俺は鎧を付けることを強制されたのだ...いいけどちょっと悲しいよ。

 

 ふとアーシアの方を見たら...

 

「兵士の方とお付き合いなさってるんですよね...!私密かに応援してます!頑張って下さい!」

 

「....はい、ありがとうございます!」

 

 なんていうやりとりがあった。

 アーシアのファンなんだろうけど...なんか、俺も応援されているような気分になって嬉しかったな。

 けどやっぱり基本的にはあまり快く思われてないらしい...アーシアの列から俺へと負の視線を感じるぜ...

 あっ泣きそう...

 DV男とでも思われているんだろうか?むしろアーシアに暴力を振るおうとする奴を滅ぼす側ですが?

 

 .......

 

「イッセーさん!お疲れ様です!」

 

「アーシア...お疲れ様」

 

「イッセーさん?元気ないですね...お疲れですか?」

 

「いや...なんか、俺って...敵役みたいな感じじゃん?なんかアーシアに悪いなって...一応俺とアーシアが付き合ってるのは公式に発表されてるしさ...いやまぁだからってどうするって訳でもないんだけど」

 

「....戦いはどうしても非情にならないといけないですから...そういう風に見られてしまうのかも知れません。でも!私はイッセーさんがどんなに優しい方なのか知ってます。イッセーさんの事が大好きです!...だから...それじゃダメですか...?」

 

 アーシアが俺を抱きしめてくれる。

 

「大丈夫です!!アーシアさえいれば問題ないです!!!」

 

「...それに、今のままでもいいかなって...私、自分が思っていたより独占欲があるみたいなので...イッセーさんの良さが他の方に知られちゃったら、嫉妬しちゃうかもしれません」

 

「...!アーシア...!大丈夫!!絶対アーシア以外には振り向かない!もしアーシアが嫌ならもう女性とは口利かない!!」

 

「イッセーさん、そこまでは言ってないです」

 

「アーシア...最近イッセーをどんどん手玉に取っていないか?いや、むしろイッセーが取られに行ってるのか?」

 

「まぁそういう形の方がこの二人には案外合ってるのかもしれないわよ?知らないけど」

 

「ハハ、アーシアさんは大変だね」

 

「.....ただのヘタレです」

 

 散々な言われようだな...事実だけど...

 そうして握手会は終了したのであった。



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第43話。 現れました、悪神!

 ディオドラ戦で頑張った褒美として、冥界に俺達は巨大なトレーニングルームを貰った。

 滅茶苦茶広いし、壁とか壊しても問題ないって言われた。

 正直グレモリーハウスの練習場よりも使い勝手が良いので最近はいつもこっちで練習だ...

 

 ゼノヴィアとのバトルが一番楽しい...

 お互いに好きなようにばかすか攻撃するのだ。楽しくないわけがない。

 やはり気が合う。アーシアの良さをしっかりわかってくれる辺りからもわかりやすく気が合う。

 木場とは戦いたくない...木場君、ちくちく攻撃してくるもん...攻撃当たらないし...

 まぁだからこそ木場と戦うんだが。

 でもやっぱり俺は脳死攻撃が大好きなんだ!

 

「おいイッセー、もう一戦いくぞ!」

 

「おう!木場との戦いの鬱憤晴らしてやるぜ!!」

 

「それはこちらの台詞だ...!」

 

「頑張ってください!イッセーさん!ゼノヴィアさん!」

 

「よっしゃやるぜぇぇ!!」

 

「アハハ...随分嫌われちゃったみたいだね...」

 

「でも、祐斗先輩が一番イッセー先輩といい勝負してますよね...」

 

「そうだといいんだけど...まぁ僕は僕の道を行くだけだよ」

 

「なんかかっこいいです!」

 

 バゴンバゴンと地面を破壊しながらゼノヴィアと模擬戦をする。

 やっぱりこれだよこれ!!力こそパワー!!

 

 ────────────────────────

 

 俺達は既に数日間に渡って、オーディン様の観光を護衛している。

 色んな所に行くが、大抵高校生は入れないので俺達はお留守番だ。

 皆疲れてきた...ご褒美とか何も無しなんだもの...

 俺にはあるけどね。アーシアが俺にもたれかかって眠っているのだ。可愛い!これだけでいくらでも頑張れる...

 

「オーディン様!そろそろ旅行気分は止してください!このままでは帰国したときに怒られます!」

 

「お前は遊びを知らん女じゃな。そんなだから男の一人もできんのじゃ...」

 

「そ、そ、それは関係ないじゃないですかぁぁぁ!!」

 

 可哀想な生き遅れヴァルキリー...いや冷静に考えたらまだまだ若いし美人なのになんで生き遅れ扱いしてるんだろ?むしろこれからなのに...

 ロスヴァイセさん自身から諦めっぽい雰囲気も感じるからかな?

 

 などと思っていると、馬車が急停止した。

 危ない...危うくアーシアに痛い思いをさせる所だった...

 

 俺達は戦闘態勢で馬車を飛び出す。

 カウントダウンも始めておく...

 

「はじめまして諸君!我こそは北欧の悪神ロキ!」

 

 うわぁぁ、ロキ来ちゃったぁぁ...

 あぁ...くそっ...まだ完全には安定してないけど、バイデントを使うか?

 

「これはロキ殿。何用ですかな?この馬車にはオーディン殿が乗っておられる。それを周知の上での行動だろうか?」

 

 アザゼル先生が問いかける。

 

「いやなに、我らの主神殿が我ら以外の神話体系に接触していくのが耐え難い苦痛でね。邪魔しに来たのだよ」

 

 などと、アザゼル先生はロキとごちゃごちゃ喋っている。

 要するに、他の神と接触とかムカつく!同盟だのなんだのあんまりふざけた事言ってると主神様でもぶち殺すよって事か..?

 

 などと考えていると、ゼノヴィアがロキに攻撃を繰り出して早速開戦した。

 ゼノヴィア名物!当たらない先制攻撃だ!!

 勿論防がれる。

 

 ロキとアザゼル先生の話し合いの間にさっさと禁手化(バランス・ブレイク)していた俺は、ロキに突っ込こもうとする。

 

「赤龍帝か。いい調子のパワーだが...まだ足りんな!!」

 

 ロキが衝撃波のような物を飛ばしてくる。

 ものすごい威力だ...

 こんなもんアーシアに当たったらどうするつもりなんだ!!!

 

『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost!!!!』

 

「おらぁぁぁぁああ!!!!」

 

 俺は全力のドラゴンショットを譲渡してぶつけた。

 大爆発が起こり、周囲は衝撃波で破壊されていく...なんとか俺の一撃はロキの元へと飛んでいったが、流石に消されてしまった。

 やっぱ神ってのはきついな...存在の格が違うよ。

 

「ほう...いいじゃないか赤龍帝!溢れんほどのパワーだ...!面白い!ふははは!」

 

 部長や他のメンツも出て来て、それを見たロキは数的不利を悟ったのか、何かを召喚した。

 

 まぁはい。フェンリルですね...

 やっべぇ....まじで怖すぎないか?

 すげぇプレッシャーが...

 獣の目ってやつが俺達を睨み付けている...

 

『相棒...もうあれでいいから、全力を出したほうがいい。戦うなと言いたいくらいだ』

 

 ドライグは最近元気がないみたいだ...すまん。

 

「そうだな...!アーシア!!プロモーションの許可を!!」

 

「き...許可します!!」

 

 ちょっと緊張してるアーシア可愛い。

 

「うぉおおおお!!唸れ!!アーシアへのこの思い!!!山吹に爆ぜし二叉成駒(ブロンディッシュ・バースト・バイデント)!!!」

 

 俺の体から黄金のオーラが巻き上げられる...

 

『...気を付けろ相棒...恐ろしいほどのエネルギー消費だからな...くっ...アーシニウムエネルギーは数分しか持たんからな...!!』

 

 ほんとすまんドライグ!!!でも苦しみながらも俺にエネルギーがどれくらいで尽きるか教えてくれる辺りほんと大好き!!やってやるぜ!!!

 

赤龍帝の爆裂戦車(ウェルシュ・バーステッド・ルーク)!!!」

 

『Change burst meteor booster!!』

 

 肩が肥大化し、黄金に輝く...

 2つのブースターが連続で爆発を起こし、超高速でフェンリルに接近、制御もままならないながらに、フェンリルの横へとなんとか飛んでいき、そのまま90°方向転換して、フェンリルの横腹へと突っ込む。

 

「らぁぁぁあああああ!!!!」

 

 ドゴン!!と音が鳴り、フェンリルの横腹に突き刺さる...!

 

「オォオオオオオオオ!!!」

 

 硬ってぇ...筋肉が鋼のようだ...けど!フェンリルだってかなり痛そうだ...!!!行ける!!!

 

「これも喰らえ!!!」

 

『Change burst impact booster!!』

 

赤龍帝の爆砕騎士(ウェルシュ・バーステッド・ナイト)

 

 突撃によって少し離れてしまったがすぐにブースターで追い付いて密着する。

 

 肘のブースターが爆発し、フェンリルの横腹に追い討ちをかける。

 

「キャウン!!!」

 

 フェンリルが苦しそうだ...!!!もう一発!!!

 反動で少し吹き飛んだ俺はブースターを吹かせて再び接近する。炸裂。

 

 バゴンと音を立てて、横腹に一撃を入れる。

 

「オオオオォォォォォォオオオン!!!!」

 

 フェンリルが少し血を吐き出しながら悶える。

 内蔵まで響くのを一発入れてやった...!

 

「おのれっ!!赤龍帝...!!」

 

 ロキが俺に魔法で攻撃をしかける。

 

「ぐぉおおおお!!!!!」

 

 俺はなんとかガードするが...!この位置で防御はまずい...!!!

 

「....!!ガッッッッッッバファ!!!!!!」

 

 俺は腕の防御を一瞬で崩され、腹を抉られた。

 フェンリルの爪だ...!!

 

 俺はそのまま吹き飛ばされる。

 

「イッセーさん!!!」

 

 アーシアが俺に回復のオーラを投げて、そのオーラで回復している間に近づこうとする...

 

「そうはさせん!赤龍帝!お前は危険だ..!今のうちに始末しておく...!!」

 

 まずい...!このままじゃ!俺を殺しに来たフェンリルがアーシアを殺す...!!

 動け...!!動け動け...!!早く...!!!

 

「ガハッ...グォオオ!!!ア゛ア゛ア゛ォ゛!!」

 

 血を撒き散らしながら立ち上がる。

 既にバイデントは解けてしまっている...

 

 俺はなんとかオーラと魔力をかき集めて...!!

 

 上空からバラキエルさんとアザゼル先生の光の槍がフェンリルに振り下ろされる。

 しかしロキの展開した魔方陣がそれらを完全に防御する。

 ロスヴァイセさんが同じく魔方陣を展開して攻撃するがそれもガードされる。

 俺の最後の力を振り絞った渾身のドラゴンショットも同じくだ...くそっ!!

 

 ロキがフェンリルに命令しようとしたその瞬間...

 

『Half Dimension!』

 

 フェンリルを包むように空間が大きく歪んでいく...が、すぐに噛み千切られていた...

 

「兵藤一誠...無事か?」

 

 ヴァーリが降りてきた...

 

「これが無事に見えるなら無事だわ...ゲホッ!」

 

「そうか...なら大丈夫だな」

 

 ヴァーリがニヤリと笑う。

 

 アーシアが直接治療してくれる。

 やっぱ直に触れてもらう方が速度は速いな...

 あっという間に命の危機は脱した...

 

「イッセーさん...!ぐすっ...」

 

 アーシアは涙を堪えながら一生懸命治療してくれる...

 

「すまん...ありがとうアーシア」

 

「おっと!白龍皇か!!」

 

 ロキは嬉しそうにする。

 

「初めまして悪神ロキ殿。俺は白龍皇ヴァーリ。貴殿を屠りに来た...」

 

「いいぞ!やろうか!...あぁ....いや、やはり二天龍を見て満足した。今日は一旦引き下がろう!!しかし!日本の神々との会談の日、再び邪魔させて貰う!!今度こそオーディン!貴殿の喉笛このフェンリルが噛みきってみせる!!」

 

 ロキとフェンリルが消えて、一気に静寂が訪れた...

 

 ────────────────────────

 

 俺達は突然現れて助太刀してくれたヴァーリ一味とお話することになった。

 アーシアは俺にぎゅっと抱きついている。

 俺はアーシアの頭を抱き止せる...

 心配かけちゃったもんな...ごめんよアーシア。

 毎度毎度ボロボロになったり、腹に穴開けたり血反吐吐きまくって気が気じゃないよな...

 ほんと申し訳ない...俺が毎度毎度死にかけるから神器(セイクリッド・ギア)の扱いどんどん上手くなってる節ありますよね。

 今日のオーラ飛ばしも滅茶苦茶速かったし...

 というかよく考えたらこれって俺の体はアーシアのオーラで構成されていると言っても過言ではないのでは?ちょっと興奮してきた...

 

 っと、今は話し合いでしたね。

 

「オーディンの会談を成功させるにはロキを撃退しなければならない。しかしこのメンバーでは厳しいだろうな?しかし今はどこも英雄派のせいで大騒ぎだから新たな人材も割けない...困ったものだね」

 

 ヴァーリがこちらに語る。耳が痛い話だ...

 

「そして、残念ながら俺達もロキとフェンリルは同時に相手できない。......だが、二天龍が組めば話は別だ。違うか?俺は今回の一戦、お前と共に戦ってもいいと思っている、兵藤一誠」

 

 ヴァーリが俺を指差す。

 

「ヴァーリ...」

 

 確かフェンリルをゲットしたいんだよな...

 でも正直、そのフェンリルもいずれこちらの利に使われる予定だし、それ以前にロキとフェンリルとフェンリルのガキがやばすぎるから協力以外の手はないんだよなぁ。

 

「俺も...皆の意見は知らないけど共闘したい。片方ならまだ光明が見えなくもないが、両方は絶対に無理だ...」

 

 俺は手をヴァーリに差し出す。

 

「ちょっとイッセー?」

 

 部長が軽率だと苦言を呈そうとしたが、

 

「まぁいいじゃねぇかリアス。二天龍が一時とはいえ共闘だぜ?超歴史的瞬間じゃねぇか!...それに、二人の言ってることは事実だ...ここは手を取るしかないぜ?」

 

 とアザゼル先生。

 

「ふっ、よろしく頼もう、赤龍帝」

 

 そういってヴァーリは俺の手を無視した。

 えっ...悲しい...

 俺は自分の掌とヴァーリを何度も見比べた...

 

 アーシアが慰めてくれた。

 やっぱり俺にはアーシアしかいないな...

 ありがとうアーシア...好き。

 

 ...........

 

 現在グレモリーハウスに皆で集合している。

 シトリー眷属も来ている。

 

 先程は二天龍の共闘だと少し興奮していたアザゼル先生だが、まぁやっぱりどう考えても何かしら企んでいるのは間違いないので、そこらへんに釘を刺していたがヴァーリはお好きにどうぞといった感じだった。余裕だな...

 

 一応共闘については、サーゼクス様も交えた上で話し合って纏まった。なので次に、ロキとフェンリルの特効装備を知るために五大龍王の一角、終末の大龍(スリーピング・ドラゴン)、ミドガルズオルムを意識だけ召喚してお話を聞こうという話になった。ミドガルズオルム自体もロキによって作られた龍であるため、そこら辺の知識に詳しいはずなのだ。

 

 二天龍に、龍王たるファーブニル、ヴリトラ、元龍王であるタンニーンさんが集まっている...タンニーンさん便利に使われすぎてませんか...?

 まぁそういうわけで無駄に豪華メンバーが揃っているので、意識くらいなら余裕で召喚可能だ。

 

 ふと側を見れば、イリナはアーサーと聖剣談義、木場とゼノヴィアはその様子を警戒しながら観察。

 朱乃さんはバラキエルさんを意識しまくってバチバチ。

 アーシアは...ちょっとヴァーリが苦手みたいだな...

 まぁヴァーリとの戦いの俺はトップレベルで重症だったしな...当時のアーシアの神器(セイクリッド・ギア)の練度的にも、サーゼクス様の持ってたフェニックスの涙が無かったらまじで死んでてもおかしくなかった。

 俺にしがみついて警戒してる。むぅぅとどこぞの小動物かというくらい可愛い威嚇もしてる...可愛い!

 一方小猫ちゃんと黒歌さんも無言でバチバチだ...

 ギャー助がびびって小猫ちゃんにしがみついておる...お前は小猫ちゃんの前に立たんかい。

 

 なんか...ある意味平和と言えば平和なんだが、いまいち平和感がないな...半分くらいギッスギスだぁ。

 

 などと考えていると

 

「ん?なーにこっち見てるのかにゃー?」

 

 などと黒歌がこちらに近づいてきた。

 

「あん?いや、まぁ小猫ちゃんとお互いに意識しまくってるのはわかるけど、もう少し仲良くできないものかなと思ってただけだよ」

 

「ふ~ん...ペロッ」

 

「なっ!イッセーさんに何を...!」

 

 突然頬を舐められた。なんだこいつは?

 アーシアは憤慨しておる。すぐにハンカチで拭ってくれた。流石アーシア...良き妻になれるよ。

 

「うーん。この味は子供かにゃ?」

 

「ほっといてください」

 

「ねね、一ついいかにゃ?私と子供作ってよ」

 

「お断りします」

 

「....!!駄目です!イッセーさん!!」

 

 俺とアーシアは同時に断った。流石だぜ、息ぴったりだ...

 アーシアは俺をぎゅうっと抱きしめる。強い強い...それはもうぎゅっと抱き締めてくれる。愛を感じる...好き。

 

「え~...私、とびきり強いドラゴンの子が欲しいの。ヴァーリに頼んだんだけど、断られちゃって...遺伝子提供者が欲しいにゃん。それに...この前の森では酷いことされちゃったし、少しくらいお詫びしてくれてもいいんじゃにゃい?」

 

「お詫びって言うなら、お前が殺そうとしたこのアーシアにすべき事だろ。お前がアーシアを攻撃したから俺は迎撃した。それだけだ!そして更に言えば俺はアーシア以外を異性として見る気はない!!」

 

 堂々と言い返してやり、俺はアーシアを抱き返す。

 

「んん...あ~...こりゃ駄目だにゃ...完全にお互いで囲い込んでるわね...あーあ!宛てが外れちゃったニャ~...チョロそうと思ったんだけど、これならまだヴァーリの方が希望がありそ...じゃあねん」

 

 などと言ってふりふりとこっちに手を振ってヴァーリの方へ行ってしまった。

 

「イッセーさん...」

 

 アーシアが抱きついたまま俺を上目遣いで見つめる。

 

「アーシア...ごめんな。嫌な気分になっちゃったか?」

 

 アーシアは無言で首を振った。

 

「でも、イッセーさんの周りに居る皆さんはすごく魅力的な方ばかりなので、時々少し不安になってしまいます...」

 

「その中でとびきり魅力的なのがアーシアなんだぞ?俺はアーシア以外に目移りする気はないし、アーシア以外とそういう関係になるつもりもないよ。俺の一番で唯一はアーシアだけだから...」

 

「あぅ...イッセーさん...」

 

 アーシアが顔を赤くして俺にぎゅうっと身を寄せる。

 可愛すぎる...

 

「........流石学園一のバカップルですね。雰囲気も場所もお構い無しです」

 

 小猫ちゃんから一言を頂戴する...

 

「ぐっ...確かに最近の俺達はTPOへの配慮が少し欠如していた...」

 

 衝撃だ...あんなにバカップルなんて爆発してしまえと電車の中でイチャイチャするカップルに対して考えていたはずなのに、気がつくと俺はそうなっていたというのか...

 恐るべしアーシアの愛らしさ。これもういつでもどこでも愛おしすぎるアーシアが悪いのでは...?

 俺が悪いですね...すみません...

 

「ごめんよ小猫ちゃん...もう少し周囲に配慮できる人間になれるよう頑張るよ...」

 

「す...すみません...」

 

 アーシアも顔を真っ赤にして謝罪する。思い出して恥ずかしくなってしまったのだろう...

 

「....いえ、正直さっきのは助かったので...私は何も言えません」

 

 小猫ちゃんがそう呟いた。

 一応黒歌と距離を開けてあげた事になるのか?まぁあれはあれで小猫ちゃんを黒歌なりに心配してるんだし、そこら辺はわかってあげて欲しいと思わないでもないけど、俺には関係ないな...

 

 などといった風に各々好き放題にグレモリーハウスでの夜は更けていくのであった...



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第44話。 召喚します、ミドガルズオルム!

 冥界に移動した俺達は早速ミドガルズオルムを召喚する。

 トレーニング場に使っている地下だ...

 アザゼル先生指示の元、皆で配置について、魔方陣が輝き、映像が写し出される...うっわ、でっっっっっかい蛇だな。

 

 めっちゃ寝てはる...流石は終末の大龍(スリーピング・ドラゴン)。世界の終焉まで海の底で眠ることを指示された龍王さん。

 逸話の恐ろしさのわりにのんびりした感じの喋り方だけど。

 

 アザゼル先生の質問に間延びした声で答えてくれる。

 

 フェンリルは、ドワーフの作るスレイプニルという鎖があれば足止めができる。ロキはミョルニルというハンマーで殴れば倒せるらしい。

 まぁ原作通りだな。俺がミョルニルを使いこなせないといけないわけだ...

 

 情報を喋るとすぐに寝てしまった。どんだけ寝るの好きなんだ...俺は二度寝とか案外苦手だからある意味羨ましいかもしれない。

 

 ────────────────────────

 

 てなわけで翌日、俺達はミドガルズオルムを呼び出した地下に再び集合した。

 そろそろ会談が近いから準備しなきゃならんそうだ。

 

 俺にはミョルニルのレプリカが渡された。

 ロスヴァイセさんに言われてオーラを流すと、あっという間に巨大化して持てなくなった...

 

「ぬぉっ!!重すぎ...!こんなの実戦で使えないですよ!!?」

 

「あー...とりあえず一旦ストップだ、手を離せ」

 

 アザゼルに指示されて手を離すと元の大きさに戻った。

 

「レプリカっつっても本物に近い力を持ってるからな。バラキエルのお陰で悪魔でも持てるようになってるが、下手に使えば一面雷で焼け野原になる。気を付けろよ?」

 

 気を付けろじゃなくて、気軽に持たさないでくださいよ、そんなやべぇ広域破壊兵器...

 

 それからアザゼル先生によって作戦が言い渡された。

 

 会場にロキ達が来たら、シトリー眷属の力で暴れてもいい採石場跡地に転移して、二天龍でロキを、フェンリルを残りのメンバーで潰すらしい。

 

 作戦ガバすぎませんか...?

 いやまぁ緻密な戦略なんて立てようがないんだろうけど...

 

 などと考えていると、匙がグレゴリに連れていかれる事になっていた。

 今はアザゼル先生に引っ張られている。

 

「あー匙、お前がサイボーグ改造悪魔になって戻ってこない事を祈るよ。最悪外見だけは人間っぽくしてもらえよ!!」

 

 ちょっとだけ盛っておいた。大体合ってるけど。

 

「兵藤!!そんな怖いこと言うなよ!!え?アザゼル先生!!?改造とかマジですか!!?」

 

「アッハッハ。じゃあ行くぞ!匙!」

 

「えええ!!助けてぇぇぇぇぇぇ!!!」

 

 俺は黙って敬礼した。

 さらば匙、お前が龍王として戻ってくるのを待ってるぜ...!

 

 それからしばらく、ドライグからそわそわするような感覚を感じた。

 

「どうしたんだドライグ...?そういやさっきから全然出て来てなかったけど、やっぱり二天龍で協力なんて嫌だみたいな?」

 

『いや...それはまぁ今代は両方とも特殊だし、そういう事もあっていいのかもしれんとは思っているが...』

 

『....特殊...?お前のそれは特殊で済ましていいのか?いつから私の宿敵は金色になったというのだ...?』

 

『待て!!俺は悪くない!!こいつと!!歴代の精神体が勝手に俺を弄ったのだ...!!俺だってこんなの嫌なんだ!!!嫌なんだぁぁぁ!!ふざけるな!!何が好きな女の色だ!!限度があるだろう限度が!!乳龍帝にはならんと言った癖に!!!』

 

 ばっか!お前!!変なこと言うな...!!

 

『.......乳龍帝?』

 

『...!ゲフンゲフン!!なんの事だ?そんな事はいっていないが??言ってないんだが??』

 

『....本当に大丈夫か?...おい今代の赤龍帝、私達は誇り高き二天の龍なのだ。あまり...私達を貶めるような事はやめてくれないか...私はあまりの惨状に少し泣きそうだ...よもや宿敵が色違いになるなど...』

 

『泣きたいのは...俺の方だ...!こんな!俺の誇り高き赤の鱗を...!こいつは...!うぉぉぉぉぉぉぉぉん!!!』

 

「あーあー!!ごめんなさい!!でも俺だけが悪い訳じゃないだろ!?確かにアーシア教を設立して教祖になったのは俺だけど!!歴代を最初に洗脳したのは俺だけど!!神器(セイクリッド・ギア)の改造とか諸々勝手にやったのはあいつらじゃん!!!俺だってこんな事になるとは思ってなかったもん!!!」

 

「...とんでもなく頭の悪い会話が聞こえてきたのだけれど...」

 

 部長が近づいて来た。

 

「部長!!俺はどうやったらドライグを慰める事ができますか!!?」

 

「ど...どうって、そんなの知らないわよ...ドラゴンと言ったら供物や宝物だけど...神器(セイクリッド・ギア)の中にいるんだしわからないわ?」

 

『金色になるのを止めればいいだけだ相棒!!!』

 

「でもあれがないとこれからの強敵に勝てないんだよ!!!」

 

『んおぉぉぉおん!!!どうしてこんなことにぃぃぃぃ!!』

 

『ぐすん...嫌だ...金色の赤いのなんて赤いのじゃない...』

 

「また泣いているのかアルビオン...せめて本人の前では気丈に振る舞うと言っていたじゃないか...」

 

 ええええ!アルビオンも案外ダメージ受けてた!!

 こいつら精神脆すぎだろ!いいじゃん!!ちょっと鎧が金ぴかになるだけじゃん!!全然よくないな!!!

 

「すみませんでしたぁぁぁ!!」

 

 俺はアルビオンとドライグに土下座した。

 特に効果はなかった。可哀想な二天龍。

 ドライグ的には乳龍帝とどっちが嫌なんだろうか?

 どっちも嫌って言われそう。

 

 ────────────────────────

 

 ようやく二天龍が落ち着いた頃に、ヴァーリが話しかけてきた。

 

「キミは本当によくわからない奴だな。赤龍帝としての自覚があるのか疑わしいくらいだ」

 

「これでも赤き龍のつもりです...」

 

「まぁ、だからこそ面白いよ。キミは間違いなく今までの赤龍帝とは違う成長をしている。まぁ、こんな成長を他の赤龍帝にされても困るけどね...とはいえ、キミのそれは間違いなく強みだ。非力非才の癖に、突拍子もない進化を遂げ始めている」

 

『本当に厄介な奴だ。ただでさえドライグが鬱陶しいのに、宿主がこれだなんて...おい、私の神器(セイクリッド・ギア)の中の歴代もあの女を見ると若干落ち着きをなくすのだが、お前は私まで穢すつもりなのか?』

 

「そんなつもりはないですけど...アーシア教の門戸はいつでもどこでも誰にでも開かれていますよ?」

 

 俺はアルビオンの宝玉に話しかける。こちらの歴代からも勧誘の念を感じるぜ...

 どうせならもうアルビオンの歴代も堕とせば万事解決しそうじゃね?

 

『やめろ!!勧誘するんじゃない!ヴァーリ!こいつに不用意に近づくな!俺まで鱗を変色させされたらどうする!』

 

「そうだな、少し離れておくとしよう」

 

 ヴァーリから距離を取られた。

 

「...しかしそうだな。今思いついたんだが、将来俺のチームとキミのチームでレーティングゲームみたいな事をするのも面白いかもしれない。予想外の君なら、とんでもないチームを作り出しそうだ」

 

「待てよ、俺は別に上級悪魔になるつもりはないぞ?チームを作るつもりも一切ないし...」

 

「まぁそれはそれで構わないさ。その時はグレモリー眷属と戦うだけだよ。もちろん個人戦でも構わない。でも、多分キミはなると思うよ?もしキミの目標が変わっていないのならば、キミがいずれ手に入れていく力は、今のまま下に置かれることを許さないだろう。しばらくすればキミはきっと上級以上の悪魔になるよ」

 

「........」

 

 そうなるんだろうか?でも、確かにいずれはそうなってしまうのかもしれないな...そういう事も考えないといけないのかもしれない...まぁしばらくは目先の事が重要なんだが。

 

「そうだな、もしそうなったのなら...やってみたいかもな、レーティングゲームとか」

 

 俺はそう呟いた。

 

 ────────────────────────

 

 その日の夜、俺はアーシアとベッドに入っていた。

 

「アーシア...多分明日の戦いでもいっぱい怪我すると思うから、頼りにしていいか?」

 

「はい...どんな怪我でも治してみせます!...だって...イッセーさんが居なくなってしまったら私...」

 

「アーシア...大丈夫!怪我はいっぱいするかもしれないけど!絶対に死にはしないよ!!アーシアや皆の力はいっぱい借りるかもしれないけど、絶対に最後には生き残ってみせる。だってアーシアとずっと一緒に生きるんだからな!」

 

「はい」

 

 アーシアが俺の胸元にすりついてくる。

 あったかい。

 

「アーシア...俺に勇気をくれないか?」

 

「イッセーさん?」

 

「どうせ怪我するのはわかってるし、アーシアを守るためだったらどんな痛みも苦しみも我慢できると思う。けどさ、やっぱり全く怖くないって言ったら嘘になるから...少し勇気が欲しいんだ」

 

「...イッセーさんがこうやって弱音を吐いてくれるなんて珍しいですね」

 

「かっこ悪いか?」

 

「いえ!私には何でも言って欲しいです、相談して欲しいです。私は...イッセーさんの、彼女ですから...」

 

 恥ずかしそうにそう言ってくれた。

 

「ありがとうアーシア」

 

 俺はアーシアとキスをして、しばらく甘えさせてもらった。

 英気を養うとはまさにこの事。

 

 ────────────────────────

 

 現在放課後、オカ研は学園祭の出し物を決めようとしている。

 

「男子禁制でアーシアの可愛さを解説し続ける展示がいいです!!」

 

「イッセー真面目に考えて頂戴」

 

「真面目に考えていそうなのがイッセー君の恐い所だけどね...」

 

「なんだと木場!真剣に決まってるだろ!」

 

 皆が俺を呆れた様子で見つめる...

 

「あの...イッセーさん。恥ずかしいのでそういうのはちょっと...」

 

「ごめんなさいアーシア!!二度と言いません!!」

 

「全く...他の皆は?何か意見あるかしら?」

 

 それからも様々な意見が出るが全く決まらなかった...

 一応俺も脱出迷路とかの当たり障りのない物も提案しておいたが、なかなか部長のお気に召す物はなかったようだ...

 原作では何したんだったっけ?覚えてないな...

 

 時は無情に過ぎて、夕方も終わりという時間になってしまった。

 

「...黄昏か」

 

 アザゼル先生が珍しく黄昏る...

 

神々の黄昏(ラグナロク)にはまだ早い。気張っていくぞ...!」

 

「「「「「「「「はい!!」」」」」」」」

 

 そうして決戦の夜を迎えた。



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第45話。 放ちます、ミョルニル!

 俺達は会談が開かれる予定のホテルの屋上で待機する。

 タンニーンさんやらバラキエルさんも居るし、ほんと凄いメンバーだな...

 

「小細工なしか...恐れ入る」

 

 そうヴァーリが呟いた。

 するとホテルの上空に穴が開き、ロキとフェンリルが現れる。

 

 即座にシトリー眷属が魔方陣を起動する。

 ロキはあえて対応しないといった様子でここにいる全員が無事転移された。

 

 第一段階は問題なし。後は倒すだけだ...

 

『Welsh Dragon Balance Breaker!!!!』

 

『Vanishing Dragon Balance Breaker!!!!』

 

 俺達も禁手化(バランス・ブレイク)する。

 

「二天龍がこの俺を倒すために共闘するというのか!!!こんな戦いができるのは我が初めてだろうな!!」

 

 ロキが心底楽しそうに笑う。

 

「ヴァーリ!初手ぶっぱ頼むぞ!!」

 

『Transfer!』

 

 俺はヴァーリに譲渡すると、すぐに倍化を取り戻してロキに突撃する。

 バイデントはまだ使わない...

 短期決戦なら使うが、フェンリルやらなんやら勢揃いの今、最初からガス欠になるわけにはいかない!!

 

「おおおおおぉぉぉぉぉ!!!!」

 

 ロキが魔方陣で膨大な防御結界を作り出すと、すぐに攻撃用の魔方陣も生成して俺とヴァーリに光の玉を大量に発射してくる。

 

 今の俺なら無視できる威力なのでそのまま突貫して、結界をぶん殴る。

 

「ぬおぉぉぉらぁぁぁ!!!」

 

 バキリと音を立てて結界は崩れた。

 

「やるじゃないか」

 

 そうヴァーリが呟くと、今だかつて見たことがないほどの大爆発が巻き起こった...

 俺の全力のドラゴンショットの何倍なんだ...

 

 俺もかなり巻き込まれた...

 いきなりフェニックスの涙使う事に...しかもフレンドリーファイア...

 

 煙が晴れると、割りとボロボロっぽいロキが出てきた...でもよく見たら体はそんなに傷ついてないのか...

 あれ直撃で死なないの怖すぎるだろ...

 

「ふははは!!これが二天龍の共演!!恐ろしいほどの威力だ!!!笑いしか出てこない!!」

 

 ロキは心底楽しそうだ...余裕だなちくしょう...

 

「そろそろこちらも動かせて貰おう!!行けフェンリル!!」

 

 と言った瞬間に黒歌の力によって、異空間から取り出された魔法の鎖たるグレイプニルをタンニーンさんやらバラキエルさんやら皆でぶん投げて見事にフェンリルを捕らえていた。

 やっぱ神格は逸話の弱点が抜群に効くなぁ...

 まぁ俺も龍殺し食らったら死ねるから他人事じゃないけど。

 

 ロキは若干不愉快そうにしていたが、すぐにフェンリルの子供を召喚した。

 

「スコル!ハティ!父を捕らえたかの者達を食い千切れ!!」

 

 そうロキが叫び、二匹は動き出した。

 タンニーンさんが火を吹くが、子フェンリルはそれを受けながらも怯まず動き回る...

 ダメージは入ってるはずなのに止まらないな。

 

 などと考えていると

 

「よそ見か!?赤龍帝!!」

 

 とロキに魔力弾を放たれた。

 

「ぐおっ!!!」

 

 なんとか避ける。

 他を気にする余裕なんてなかった!今はこいつを!!

 

 ヴァーリが魔力や覚えた北欧の術式を織り交ぜながら遠距離攻撃を繰り返す。

 いいなぁ、俺もそろそろ遠距離考えないと...

 そのうち、そこそこはロキが撃ち漏らして直撃するが、まぁダメージにはなってなさそうだ...

 それでダメージになるならさっき死んでたもんな...

 

 俺はヴァーリの攻撃が止むのを待たずにロキに突撃する。

 一応ヴァーリと挟む形で動いている。流石に横からヴァーリの攻撃食らってたら攻撃どころじゃないし...

 

「らああああああ!!!」

 

 再びロキの防御術式を砕いて肉薄する。

 

 全力を込めて殴る蹴るを繰り返すが、ロキには受け止められる。

 だがまぁそれでも構わない。その間ヴァーリの攻撃はロキに当たりまくる。俺にも当たるけど...

 

「ぐっっっ!!!やはり赤龍帝も侮れん!!!なかなかに重い一撃だっ!!」

 

「まだまだ行くぞ!!!」

 

 俺は目の前でドラゴンショットを爆発させると、少し後ろに下がる。

 思ってたより手応えあるし、やっぱり早めにロキを潰した方がいいな!

 

「ア──シア──!!!許可くれ──!!!」

 

 俺が叫ぶと

 

「許可しま──す!!」

 

 と可愛い声が聞こえてきた。可愛い。

 

「しゃああああ!!!!解き放たれろ!!迸る愛情!!!!山吹に爆ぜし二叉成駒(ブランディッシュ・バースト・バイデント)!!!」

 

 身体中に力が漲った後、俺の体から黄金のオーラが解放される。

 

「これは...!先の戦いよりもオーラが...!」

 

 ロキが少々驚いた顔をしている。

 理由はわからないがアーシニウムエネルギーはどんどんと量が増えてきている。アーシアといっぱいくっついてるからか?

 まぁなんにせよ、今や俺の魔力体力に次ぐ第三のエネルギー源だ!!

 

『Change burst impact booster!!』

 

赤龍帝の爆砕騎士(ウェルシュ・バーステッド・ナイト)!!!」

 

『Transfer!!』

 

 下段から伸びる黄金の腕が、肘のブースターを爆ぜさせることでロキの腹に勢い良く突き刺さった。

 

「ぐおっ!!これはっっ!!」

 

「もう一発行くぞ!!!!」

 

『Transfer!!』

 

 ドゴッッッッ!!!

 

 鈍い音を立てて今度は顔面に一撃が入る。

 しかし、ロキは強めに殴られたくらいの反応だ...!

 

「ぐっ!いいぞ!!素晴らしいパワーだ!!!」

 

 ロキが俺に襲いかかろうとしたその時

 

「俺を忘れてもらっては困る」

 

 そういってヴァーリがロキの背中に膝を突き刺した。

 

「ぐはっっ!!」

 

『Devide!!』

 

 いける!!!

 

 俺は再度肘を爆発させて横っ面を殴り抜く!!

 

『Transfer!!!』

 

 確かな感触!!いい感じに入った!!

 吹き飛んだロキはしばらく転がった後にむくりと立ち上がった...

 

「ぐっっっ!!流石は二天の龍....なかなかのダメージだぞ...!!」

 

『Change burst meteor booster!!』

 

赤龍帝の爆裂戦車(ウェルシュ・バーステッド・ルーク)!!!」

 

 俺が背中のブースターを起動し一瞬で加熱され、いざ爆発するというその瞬間

 

「まずっ!!」

 

 いつの間にやら鎖を脱したフェンリルの牙が俺を噛み砕かんと迫っていた...!

 

 突如後ろから強い衝撃を受けて吹き飛ぶ。

 

「がっっっっ!!」

 

 すぐに振り返ればヴァーリが横腹を噛まれていた。

 俺を庇ったんだ!!

 

「クハハ!まずは白龍皇を噛み砕いた!!」

 

「ヴァーリ!!!お前!!!」

 

 俺は一瞬で方向転換して、ヴァーリを解放すべくフェンリルの横腹に全力で突き刺さる。

 

 が、フェンリルは苦しそうにはしても口は一切開かない...

 

「くっそ!!もう一発!!!」

 

『Transfer!!』

 

 背中が爆ぜて、再びフェンリルに突撃した。

 

「~~~~~~~!!」

 

 やはり口は開いてくれない...!!

 

「くっそ!!」

 

 三度目の突撃の前、ブースターに力を装填するまでの一瞬の隙を突かれて俺はフェンリルに蹴り飛ばされた。

 

「ガバッッッッグッッッ!!」

 

 数十メートル吹き飛ばされる。

 ついでとばかりに爪で腹を深く抉られた...

 口と傷から血が噴き出す...!

 

 タンニーンさんが火を吐いてフェンリルを攻撃してくれるが...

 フェンリルが遠吠えをあげると無残にもブレスは掻き消され、高速で動くフェンリルに身体中を蹂躙されていた。

 

 しかし、タンニーンさんにヘイトが向かったお陰で俺はフェニックスの涙を使用できた。

 ボロボロに引っ掻かれたタンニーンさんもすぐにフェニックスの涙を使用して回復する。

 アーシアの回復も飛んで来た...

 ありがとうアーシア...

 心も体も温かい!

 

「ついでだ!こいつらの相手もしてくれたまえ!」

 

 ロキがそう叫ぶとミドガルズオルムの縮小版みたいなのが五匹くらい出てきた。全員で出て来て早々にブレスを放つ。

 

 それらのブレスをタンニーンさんはブレスで迎え撃ち、返り討ちにしていた。

 本物の怪獣大決戦...!!

 

 子フェンリルも各々のチームで袋叩きにしている...

 やはりフェンリルとロキをどうにかしないと...!

 というか、そういえばそろそろヴァーリがフェンリルと飛んでくれるか?

 

「.....兵藤一誠、ロキやその他はキミと美猴に任せる。代わりにこのフェンリルは俺が確実に殺そう」

 

 噛まれてプラプラしながらかっこいいことを言ってくれる。

 

 そして覇龍(ジャガーノート・ドライブ)の詠唱を始めた。

 よし!後はヴァーリが転移するのを待って、ロキをミョルニルでぶっ叩く!!!

 

 詠唱が終わり、光輝いているヴァーリが黒歌に転移させろと叫ぶ。

 無事消えたようだ...

 

 といった所で部長の声が聞こえた。

 

「朱乃!!」

 

 振り替えると朱乃さんが子フェンリルに襲われそうになっていた。

 まずい、朱乃さんが噛まれる!!

 俺は背中を爆ぜさせて突っ込もうとするが...

 

『ガス欠だ...魔力、体力を温存するためにと例の力を使いすぎだ』

 

 俺の黄金の装甲が解除される。

 確かに大盤振る舞いだったけど!!!

 アーシニウムエネルギーが一番多いからって比率かなり多めで使ったけど!!

 

「このタイミングでかよ!!!!」

 

 思わず叫んでしまうが、ないものは仕方ない...

 せめて間に合えとブースターを噴かせる。

 

「がら空きだ!!」

 

 ロキが背中を狙って一撃を放つ。

 

「ぐっっっ!!」

 

 俺はそれを振り返ってなんとか防御する、が致命的に体勢を崩した。

 その後すぐにタンニーンさんとロスヴァイセさんの援護射撃が朱乃さんを狙うフェンリルに殺到するが、少し遅い...!朱乃さんに牙が届く...!

 

 その瞬間朱乃さんがやさしく突き飛ばされる。

 朱乃さんが噛まれる直前バラキエルさんが間に入って朱乃さんを守ったのだ。

 

 流石バラキエルさん!!!子フェンリルはタンニーンさん達の攻撃にたまらず牙を抜く。

 

「アーシア!!回復を!!!」

 

「はい!!」

 

 バラキエルさんがアーシアが投げたオーラで回復していく...

 

 朱乃さんは困惑しているようだ。バラキエルさんが優しく語りかけている...

 これで少しでも二人の関係が良くなればいいが...

 

 いい場面なんだが...!今はとにかくアーシニウムエネルギーが欲しい!!!多分あれがないとミョルニルが起動できない!!

 

「すみません!!タンニーンさん!!ロスヴァイセさん!!!少しの間でいいのでロキを抑えてくれませんか!!」

 

「構わんが何をするつもりだ!!!」

 

「アーシアとイチャイチャしてきます!!!」

 

「は...?この非常時に何を言ってる!!!!」

 

「なんですって!!??こんな場所でも見せつけると言うんですか!!!??キィィィィィィ!!!」

 

 ロスヴァイセさんがぶちギレだ!!!

 

「ごめんなさい!!!でも必要なんです!!!お願いします!!!」

 

 俺は二人を置いてアーシアの元に飛んで行く。

 

「ぐっっっっ!!やるしかない!」

 

「この妬みそのままぶつけてやります!!!!」

 

 背中から恐ろしいエネルギーを感じる...主にロスヴァイセさんの...!!

 

「ア──シアあああああ!!!」

 

「イッセーさん!!?」

 

 突然目の前に飛んで来た俺にアーシアがびっくりする。

 俺は禁手化(バランス・ブレイカー)を解除すると、アーシアの肩を掴んでこう言った。

 

「アーシア!!キスするぞ!!」

 

 俺はアーシアの顔を真剣に覗き込んでそう叫ぶ。

 

「へ...?あの...ふぇ!?」

 

 アーシアが一気に紅潮していく。

 ...がそれどころじゃない...!すまんアーシア!!

 

「あっあの...!イッセーさ...!...んむ!」

 

 俺はアーシアを抱きしめて、アーシアの口に強引に舌を入れる。

 濃厚なディープキスを敢行する...!

 

「戦場のど真ん中で何してんだ!!!」

 

 美猴に突っ込まれる。

 

「イッセー!!!何をしてるの!!?」

 

 部長があまりにもあんまりな光景に叫ぶ。

 

「イッセーくん、ついにそこまで行ってしまったんだね...」

 

 木場は諦観している...

 

 ここにいる全ての存在が、子フェンリルですらこちらを見る...

 時が止まっているようだ...

 そらそうだ、こんなのわけわからん。

 

 でもやるっ...!!

 注目されているこの状況を恥ずかしがる事でよりアーシアは輝く!!

 

「じゅるちゅる...んむむ...!んはっ!...イッセーしゃ...!なにを...!」

 

 アーシアが顔を真っ赤にして俺に抗議しようとする。

 俺は再び口を塞ぐ...

 

 少しすると、アーシアもスイッチが入ってきたみたいだ...

 俺をぎゅっと抱きしめ返して、舌を絡めてくれる。

 

 うおぉぉぉぉおお!!!高まってきた!!!!

 可愛い...!愛おしい...!アーシア!アーシアアーシアアーシアアーシアアーシアアーシアアーシアアーシアアーシア...!!

 

『んおぉおおおおん!!せめて戦いだけは真面目にやってくれぇぇぇぇ!!そこは最後の砦だろうがぁぁぁぁぁあ!!!』

 

 ドライグの叫び声だけが虚しく響く...

 ごめんよドライグ...でも...必要なんだ...!

 

 キスを終えて顔を離す。

 戦いで口内が乾き気味だったからか、ねっとりとした唾液の糸が舌を繋ぐ...

 アーシアは目尻に涙を溜め、顔をとろんと蕩けさせて...完全にスイッチが入った顔だ...!

 

 可愛いすぎる...!エッチすぎる...!アーシアにこんな顔をさせることができるのは俺だけなんだ!!!

 

「イッセー...しゃぁん...」

 

 アーシアは腰が抜けたように俺にもたれ掛かる。

 上目遣いでこちらを見つめ、媚びた声で俺の名前を呼ぶ...

 ぬぉおおお!!!

 

「ありがとうアーシア...俺は今、これ以上ないくらいに高まってる...」

 

「そうなんですか...?」

 

「あぁ、アーシアのお陰で力が漲ってるよ」

 

「なら、良かったです...」

 

 俺はアーシアをゆっくりと地面に座らせる。

 

「おおおおおぉぉぉぉぉ!!!!!!!」

 

 俺は少し離れた所で再び禁手化(バランス・ブレイク)して、オーラを解放する。

 莫大な黄金のオーラが天を突く...!!

 これでまだまだ戦えるぞ!!

 

 といった所で突然黒い炎が巻き起こり、敵のみを包み込んだ...!

 ヴリトラの炎!匙が帰って来たんだ!!!

 

 すぐにグレゴリの副総督であるシェムハザさんから通信が入った。

 

 匙にヴリトラの神器(セイクリッド・ギア)全部くっつけたらヴリトラの意識が復活して暴走したから、ドライグを通じて匙の意識に語りかけろとの事だ。

 

「ドライグ頼むぞ...」

 

『ぐすっ...あぁ...任せてくれ相棒...うぅ...』

 

 ごめんなさいドライグぅぅぅ!!!!

 泣き疲れてる!!でも今はそれどころじゃないから後で話をゆっくり聞かせてください...!!

 

『匙!聞こえるか!?俺だ!兵藤一誠だ!!』

 

『うぅ...俺、今どうなってるんだ...?なんか...』

 

『今お前はヴリトラが暴走してる状態なんだ!だけど上手く敵だけを捕まえてる!!感覚がわかるか?』

 

『あぁ...なんとなく...』

 

『それを意地でも離すな!!後は皆がやってくれる!意識が消えそうになったら俺にすぐ言ってくれ!この回線は繋いだままにしておくからな!』

 

『うぐ...わかった!やってみせる...』

 

 後は俺がロキをぶん殴るだけだ...!

 

 俺はアーシアとのキスで補充したエネルギーを全てミョルニルに送り込んで譲渡する...!!

 アーシアへの俺の愛という純度100%の感情が込められたオーラだ!!これならミョルニルもきちんと起動するはず!!!

 

 ハンマーは巨大化し、恐ろしいほどの雷の蠢きを感じさせる...!

 これを放てば絶対にロキを倒せると、そう確信できるだけのエネルギーだ...!

 

 俺は残るオーラと魔力を背中のブースターに注ぎ込んでロキの元に突撃する...!!

 

 ロキが黒炎から抜け出そうとするが...!

 

 空から大量の雷光が降り注ぐ...!

 上を見たら朱乃さんとバラキエルさんが雷光で同時攻撃をしたようだ...!

 良かった!なんとか仲直りしたのかな...?

 それにロキが対処している間に、匙が更に強固にロキを炎で包み込んでいく。流石!!

 

「食らえロキィィィィィィィィィィィ!!!!」

 

 全力で振りかぶったハンマーがロキの脳天に直撃し...

 突如全てを包み込むかと思わせんばかりの雷が解放された。

 

 地面が崩壊する....あまりの閃光と爆音と衝撃で俺の五感はもれなく機能不全を起こす...

 当たり前のように俺は反動でボロボロになって吹き飛んだ。これ武器として欠陥品では?

 

 煙が晴れた時には、クレーターのど真ん中でボロッボロの炭と化したロキが立ち尽くしていた...

 

「...こんなふざけた男に...お...のれ...」

 

 それを最後に気絶した。

 本当にごめんなさい...

 

 後ろを見れば、匙の炎で捕まってる子フェンリルを他のメンバーが倒していた。コピーミドガルズオルムもいつのまにかタンニーンさんとロスヴァイセさんで駆逐していた...

 

 俺達の...勝利だ!



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第46話。 仲間入りです、戦乙女!

 無事、戦いも終わり良かった良かった大団円と行きたい所なのだが、俺は今正座させられている。

 

 罪状は戦場のど真ん中でアーシアに無理矢理キスした件である。

 

 アーシア本人は

 

「イッセーさんの力になるのでしたら、私は何でもしたいですけど...その...あぁいう事はあらかじめ言っていただけると...はぅ...」

 

 と顔を赤くして供述していた。可愛い。

 本人がいいと言ってるのに何で怒られてるかと言われれば、ロスヴァイセさんが滅茶苦茶怒っているのだ...

 眷属の皆には俺の力の事は一応説明してるので、懇切丁寧にエネルギーが足りず、あのままではミョルニルが起動できなかったと言えば...まぁなんとか納得してもらえたのだが...

 それはそれとして、若干幻滅された節はある。

 悲しい...けど、俺が悪いので何も言えない。

 特に木場のなんとも言えない顔がなんとも言えない...

 ごめんよ木場...お前、俺の事ライバルと思ってるってこの前言ってくれたもんな...こんな男でごめんな?

 でも俺はこういう男です...

 なまじ今までそこそこ真面目に戦ってきたのが、ギャップとして俺の今回の行動を悪目立ちさせる...

 

 ロスヴァイセさんには、やれ不純だの、戦いの最中に前代未聞だの、そんなエネルギーなど信じられないだの、そんな力でミョルニルを起動するなど侮辱ではないかだの、滅茶苦茶色々言われてしまった。

 多分ここ数日で溜まっていた、オーディン様の事も俺の事も含めて一気に爆発してしまったのだろう...わりと自業自得である。

 にしても口うるさいけど...こりゃモテんわ...

 嘘ですごめんなさい何も考えていないので睨まないで下さい...

 俺は黙って話を全て受け入れる。

 こういうのは1反論すれば100返ってくるからな...

 

 結局罰として、この採掘場の修復作業を俺だけでやるという事で決定した。解せぬ。まじで意味わからん...

 まぁやるけど...

 

 一人寂しくえっちらおっちら作業していると、タンニーンさんがアーシアを乗せてやってきてくれた。

 流石に一人は物理的に無理だし、罰としては十分働いたからここからは手伝うとの事だ。

 

 やはりタンニーンさんは最高のドラゴンだ...好き...

 そしてアーシアは俺にお茶とお弁当を作ってくれたらしい。

 嬉しすぎる...滅茶苦茶旨かった...

 正直フェニックスの涙より効いている気がする。

 しかもアーシアも手伝ってくれたのだ。作業量そのもので言えば微々たるものだが、そういう事じゃない。

 アーシアが一緒に手伝ってくれることが何よりも嬉しいのだ...やる気100倍。

 

 終わる頃には次の日の昼になっていた...

 アーシアは随分前に帰したけど。

 流石に徹夜作業にアーシアを付き合わせるわけにはいかん...

 それに、こういう単純作業は得てして考え事に最適だからな。

 

 主にドライグへの謝罪と今後の新しい力についての話し合いに使われた。

 女王はなんとなく見えている。まぁ原作みたいな感じで今までの集大成って感じになると思う...

 だが、今プロモーションが一種類腐っているのだ。

 僧侶である。

 さっきの戦いでも思ったが、俺はそろそろ遠距離攻撃も欲しいのだ。今ドラゴンショットしかないし...

 ただまぁ、折角なら原作と全く一緒ってのも芸がないから、ロマンを追い求めたいと思ってしまった...

 

 そう!ファンネルみたいなのが欲しい!!

 背中にそれらしい物がぶっささってて、オーラを補充して、射出して、操って極太ビームをぶちこみたいのだ...!必然的に多少でかくなると思うが、それもまた一興。ソードビットみたいにも扱えてお得だ。

 

 操作については俺の魔力を費やして、物を自由に操作できる力を手に入れるのだ...!ドライグ結構器用だし、案外現実味があるのではないかと思っている。

 

 そうドライグに相談すると、ずっと文句を言ったり泣いたりしていたのに、突然機嫌を直した。

 

『なるほど...いや...待てよ?そうだな、できなくはないと思うぞ?いや、必ずやってやろう...クク...』

 

 なんか少し不穏な気配がするが、できると言うのならありがたい。

 俺は操作の魔力の修行を始める事にしよう。朱乃さんや部長にコツを聞かないとな...

 

 ────────────────────────

 

 次の日、当然のようにロスヴァイセさんがオーディン様に放置されていた。

 かわいそう...こうして目の前でこの人を見てるとちょっと真剣に可哀想に思えてきた。

 そして部長の圧倒的勧誘力もとい福利厚生によって見事に眷属にされていた。

 役割は戦車だ。これでようやっとグレモリー眷属フルメンバーが揃った。

 流石は保険のお姉さん。

 部長...それほどの福利厚生は、俺にはないのでしょうか?

 それとも大人になったら、諸々の福利厚生が始まるのだろうか?...そうっぽいな。

 というかよく考えたらもう土地貰ってたわ。

 厚かましすぎる...

 

「あの...あなたには昨日、少し言い過ぎましたね。必要な事だと頭では理解したのですが...どうにもちょっと...」

 

 突然ロスヴァイセさんが切り出してきた。

 

「あー...いえいえ!常識が欠如していた自覚くらいはあるので大丈夫ですよ?なんというか...ロスヴァイセさん苦労してそうですし...まぁ俺なんかを怒るくらいで少しでもストレス発散できたなら、問題ないですよ」

 

「そう言って貰えると助かるわ...にしても、あなた達は本当に仲睦まじいのね...羨ましい...私なんか...私だってぇぇぇぇ!!うぅぅぅぅぅ!!」

 

 うぉ...めんどくさい波動を感じる...

 

「大丈夫ですよ!ロスヴァイセさんにもすぐにいい人が見つかりますって!!ほら!顔は美人ですし!!」

 

「顔....は...?」

 

 あっ...

 

「性格ブスって言いたいんですか!!?うわぁぁぁあぁあん!!!」

 

「そんな事言ってないです!!!誓って言ってません!!!ストップストップ!!!」

 

「ううううぅぅぅぅぅ!!酷い!!」

 

「あああああ言ってねぇぇぇぇ!!!」

 

 二人して頭を抱えた...

 ダメだ...リア充云々以前に相性が悪そうだ...!

 俺は割りとうっかりとか、口が滑ってとかやりがち...

 ロスヴァイセさんはそういう細かい所に目が付く人...

 こりゃダメだな...

 

「アーシア...助けて...コミュニケーションが円滑に図れない」

 

「イッセーさん...今のはイッセーさんが悪いですよ?」

 

 ぐっ!アーシアにまで言われてしまった...

 

「ロスヴァイセさん、今のは失言でした...ただ決してそういう意図で言った訳ではないので...どうかそこはご了承を...」

 

「うぅ...はい...こちらこそ早とちりを...」

 

「あぁっと...では、これからよろしくと、仲直りの印と言うことで握手をしましょう...」

 

「はい?まぁ...はい」

 

 俺はロスヴァイセさんと握手した。

 よしよし、大体握手したら話は終わるのだ。

 これで終わり!閉廷!!

 

「では、これからよろしくお願いします!俺は...あーと...修行!行ってくるので失礼しますね?」

 

「え...えぇ...」

 

「では!」

 

 俺は逃げ出した。あんまり関わらないようにしよ...

 

 ────────────────────────

 

 ドライグに言われたので、今は冥界のトレーニングルームにいる。

 アーシアも連れてくるように言われた。

 

『相棒が少し前から言っていた遠距離タイプのプロモーションなんだがな...歴代にも働かせて、なんとかおおまかな形は完成したぞ』

 

「本当か!?仕事が早すぎないか!?俺の神器(セイクリッド・ギア)が有能すぎる件...」

 

『まぁ既に二種類の前例があるからな...今回も...くっ...例のエネルギーはふんだんに使う事になるが』

 

「そりゃあな、正直アーシニウムエネルギーの有無は俺の継戦能力に大きく関わってくるからな...」

 

『あぁ...そういう事だ。正直あるものはなんでも使わなければな。ではいくぞ?』

 

「アーシア、プロモーション許可ちょうだい!」

 

「はい!許可します!」

 

「よし!山吹に...」

 

『待て!相棒。今回のものはその系譜ではないのだ』

 

「ん?どういう事?」

 

『まぁ俺に任せてくれ相棒。うぬぬ...これをこうして...こうだ!!』

 

 俺の体から溢れる黄金のオーラが全て背中に集まりだす...

 

『完成だ』

 

 近くにある鏡を見る。

 普通の禁手化の背中に半径30cmくらいの円形っぽい赤いステーションがあって、そこに黄金のファンネルっぽい物が6つ刺さっている。

 なるほど...背中のステーションみたいな所でエネルギーを補充して、射出、適宜使用して回収するって感じか...いいよドライグ!!!

 かっこいい!!肝心のファンネルは大きさで言うと50cmほどの大きさで、筒状の発射装置を先端が尖った黄金でゴツゴツの装飾のような物が包んでいる。

 ソードビットみたいな感じでビームを発射しないでそのままこれをぶつけてもいい感じでダメージになりそうな形だ...!

 

「おぉ!いいな!すごいぞドライグ!!」

 

『肝心なのはここからだ。今のお前にはこれらを操作する力はないから、取り敢えず射出だけするぞ?』

 

「おう!」

 

 バシュンと音を立てて、6つのファンネルが各々の方向に射出され、地面に墜落した。

 

「ふんふん、これが落ちるまでに制御するんだな?」

 

『あぁそうだ。そしてよく見てみろ!!今のお前には黄金の部分が一つもない!!まさに赤龍帝!!この際射出されて離れる物にとやかくは言うまいよ!!どうだ相棒!!ちゃんと全身赤だぞ!!』

 

「ドライグ...お前....!」

 

 そこまで...そこまで悩んでたのか...!

 俺は涙が出そうになって左手を抱き抱えた...

 

「イッセーさん、あまりドライグさんをいじめちゃ駄目ですよ?」

 

「アーシア...そんなつもりはなかったんだけど...ちょっと予想以上に追い詰めていたのかもしれない...ごめんな...ドライグ...」

 

『気にするな。もう諦めたんだ俺は...どう考えてもあの力はお前に必要で...あれがお前の望みだったのだろう...だから、これは俺のささやかな最後の抵抗なんだ...俺は赤き龍だっていう...ささやかな...』

 

 ドライグ...達観してしまっている...

 

「すまないドライグ...!俺!すぐにこれを使いこなせるようになって!なるべくこのモードで戦うから!!」

 

『あぁ...この形態の名は、|六条の龍穿つ僧侶《ヘキサ・ドラゴニック・ブラスター・ビショップ》としてくれ...』

 

「ありがとうドライグ...この形態だけは大切にすると誓うよ...ドライグの要望通り、特別枠としてバイデントにも組み込まない!これ単体の形態として扱う!!」

 

『そうか...ありがとう相棒...』

 

 試しに一本打つと、なかなかにぶっとくてえぐい黄金に輝くオーラのビームが打ち出された...

 大爆発を起こす...

 なるほど...ファンネル作成と背中のステーションにアーシニウムエネルギーをほぼ全部といった勢いで装填してるのか...

 どうりで今俺から出てるオーラは純粋なドライグのオーラだと思った...

 

 そりゃ威力高いわ...

 ゴリゴリエネルギー使うなこれ。

 多用したら一瞬でガス欠になりそう。

 ごめんドライグ、使い道が狭まったよ...

 

 ────────────────────────

 

 次の日、俺は久しぶりに神器(セイクリッド・ギア)の中に潜ることにした。

 なぜ最近潜ってなかったかと言われれば単純に怖かったからである...あいつら何してるのかわからん...

 正直関わりたくない。ハイになってないとついて行けないんだよ...

 でも一切会わないのも何してるかわからなくて怖い。

 

「教祖様!!お久しぶりでございます!!」

 

「「「「「お久しぶりでございます!!」」」」

 

「お...お久しぶりです...」

 

「我々!教祖様がご帰還なさるのを今か今かと待ち構えておりましたのに!姿を現して頂けないとは...しかし!それでもなお一心に信仰を捧げるのが信徒の役目!我々一心不乱に祈っておりました!!」

 

「「「「「アーシアたん、バンザイ!!」」」」」

 

「ついに歴代はほぼ全て信徒と化しました!残るは神器(セイクリッド・ギア)の奥深くにいらっしゃるという、歴代最強と、女性歴代最強のお二方のみです!現在少数精鋭の捜索隊でしらみつぶしに神器(セイクリッド・ギア)内を捜索しており、発見次第アーシニウムエネルギーの直接注入による覚醒を成していただきます!!」

 

「アーシニウムエネルギーの直接注入...?それで信徒になるというのか...?」

 

 俺のアーシアへの愛情が精神に直接注入される...?

 それで覚醒...?何を言ってるんだ???

 

「あぁ!問題ありません!教祖様の生み出される純粋なるアーシニウムエネルギーは一切利用しておりません!注入しているのは我々の信仰で生み出された穢れあるアーシニウムエネルギーのみですから...」

 

 俺の知らない所で穢れだのなんだのと知らない概念が生まれてる...なんだそれは??なかなかアーシア教に染まらなかったメンツはそれで染めたって事か...?

 

「あー...その二人には、少し話したい事があるから...注入せず、丁重に扱ってくれ...下さい...」

 

 よくわからないけど、そんなの可哀想すぎる...

 

「はっ!かしこまりました!!」

 

 こいつらは一体どこに向かってるんだ...

 恐ろしすぎる...

 

「あーと、早速で悪いけど...色々とやることがあるからまたしばらくこれないと思う...おとなしくしててね...?」

 

「「「「「「アーシアたん、バンザイ!!!」」」」」」

 

 ────────────────────────

 

 神器(セイクリッド・ギア)の中から意識を浮上させる...

 

「なんなんだあれは...俺の内だけ世界観が違うんじゃないか...?そりゃ装甲の1つや2つ色も変わるわ...」

 

「んぅ......イッセーさん...?」

 

 おっとアーシアを起こしてしまったようだ...

 

「ごめんアーシア。なんでもないよ?」

 

「そうですか...?...おやすみなさい...」

 

 アーシアは俺を抱き直して寝入った。可愛い。

 

 俺は何も見なかった事にした。

 ドライグも何も見なかったことにしている。何も言わない。

 それで良いのだろう...だってあんなのシラフで関わりたくないし...

 

 今日もアーシアが可愛い平和な1日でした!

 終わり!!!

 



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アクマの日常編
第47話。 見つけます、使い魔!


二巻終了後、ライザーを倒した後の話です。


 ある日の事、俺とアーシアは部長に呼び出された。

 

「あなた達はまだ使い魔を持ってなかったわよね?」

 

「使い魔ですか...?」

 

 アーシアがこてんと首をかしげる。可愛い。

 俺とアーシアは付き合いたてホヤホヤのカップルだ!

 我ながら電撃交際だと思うが、まぁ先に同居するくらいだし問題ないだろう。自分で言うのもあれだが、お互いチョロすぎると思う。でもアーシア可愛いもん!

 俺がアーシアに愛想尽かされないように頑張るだけだ...

 

「これが私の使い魔よ?」

 

 そう言って部長は赤いコウモリを生み出す。

 そうそう、確か俺もチラシをこいつに貰ったんだよなぁ...

 結局家に忘れて死んだけど...

 

「私はこの子ですわ」

 

 朱乃さんは手乗りサイズの小鬼を呼び出した。

 

「....シロです」

 

 小猫ちゃんは白い子猫を抱いている。

 

「僕はこの子だよ」

 

 そう言って小鳥を出した。

 なんか...木場っぽいなとしか...

 

「わぁ...可愛いですね...!」

 

 アーシアが喜んでいる!アーシアの方が万倍可愛いよ!!!

 

「使い魔は悪魔にとって基本的な物なの。主の手伝いから、情報伝達、追跡にも使えるわ。とにかくいろんな雑用に必要だから、イッセーとアーシアも手に入れないといけないわ」

 

 使い魔ねぇ...龍帝丸が後々手に入るだろうし今回はスルーでいいかなぁ?

 まぁ良さげな奴がいれば手に入れようかな。

 

 などと考えていたら朱乃さんが魔方陣の準備をしていた。

 

「というわけで、さっそくあなたたちの使い魔をゲットしに行きましょうか」

 

 ────────────────────────

 

 視界が戻ると、森の中であった。

 

「ここは悪魔が使役する使い魔がたくさん住みついてる森なのよ。ここで今日イッセーとアーシアには使い魔を手に入れてもらうわ」

 

 なんか暗くてじめじめしていてあんまり好きじゃねぇなぁここ...

 

「ゲットだぜ!!」

 

 後ろから叫び声が聞こえる。

 

「きゃっ!!」

 

 アーシアが俺の背中に隠れて引っ付いてくる。

 大丈夫だよアーシア...こいつはただのやべぇ奴だから...駄目じゃん。

 

「俺はマダラタウンのザトゥージ!!使い魔マスターを目指して修行中の悪魔だ!!」

 

「ザトゥージさん、例の子たちを連れてきたわ」

 

「ほう?冴えない男と金髪の美少女さんか。OK!任せてくれ!!俺にかかればどんな使い魔でも即日ゲットだぜ!!」

 

 アーシアがちょっとだけむぅと威嚇してる。

 俺が冴えないって言われたからか?可愛すぎないか?死ねる...

 

「イッセー、アーシア。彼は使い魔に関するプロフェッショナルよ。今日は彼にアドバイスをもらいながらこの森で使い魔を手に入れるわよ!」

 

「はい」「うす」

 

「さて、どんな使い魔がご所望かな?」

 

「どんなと言われましても...」

 

「そうかい...?ちなみに俺のオススメはこれ!龍王の一角!「天魔の業龍(カオス・カルマ・ドラゴン)ティアマット」!!伝説のドラゴンだぜ!!龍王唯一のメスでもある!いまだかつてこいつをゲットできた悪魔はいない!魔王並みに強いって話だからな!」

 

 色々問題がありすぎてツッコミを入れる気にもならない...

 

「伝説のドラゴン同士なら意気投合できそうだわ?頑張ってみなさい」

 

「あんたは俺を殺す気ですか!?一瞬で消し炭ですよ!!」

 

「大丈夫だよイッセー君。いけるいける」

 

「お前がゲットできたら考えてやるよ木場...」

 

 木場を睨む...

 

「あの...もう少しまともなのないですかね?」

 

 俺が尋ねると、

 

「ならこれだ!ヒュドラ!」

 

「名前で既にアウトだよ!!さっきから俺への殺意しか感じねぇよ!!」

 

「そりゃさっきからそこの美少女ちゃんとイチャイチャしてるのがひどくムカつくからね...ぶち殺してやりたいと思うのも致し方ないだろう...何したんだよお前、洗脳でもしてんのか?」

 

「黒い所見せてんじゃねぇよ!!部長!!俺このままじゃ殺されちゃいます!!」

 

「いいじゃない、確かこの森の奥にいるわよ?ヒュドラ」

 

「俺の味方がアーシアしかいない!!」

 

「注文の多いガキだなぁ...じゃあなんだったらいいんだよガキが...」

 

「せめて取り繕って!?...そうですね...小回り効きそうで大人しいやつなら何でも...」

 

「はぁ...?男の癖になんだそれは!?男なら使い魔にロマンを求めろ!!少しでも強い使い魔を手に入れようとしろよ!!本気でやるなら同じ種類の使い魔を何体も捕まえて能力の高いオスメスを交配させてだなぁ!」

 

 うるせぇ...もうお前永遠にたまごマラソンでもしてろよ...

 

「私も小さくて可愛いのがいいです」

 

 アーシアが俺の背中からひょこりと顔を出して言う。

 

「うん、わかったよ!」

 

 ザトゥージさんは満面の笑みで答える。

 気持ちは大いにわかるが釈然としねぇ...

 

 ────────────────────────

 

「いいかい、この泉には精霊が集まるんだ」

 

 ザトゥージさんが声を殺しながら言う。

 

「この泉に住み着く水の精霊ウンディーネはあまり人前に姿を現さないんだ...だが、清い心と美しい姿を持った癒し系の乙女な存在でね...」

 

 漢女の間違いじゃないのか...?

 

「ウンディーネが姿を現すぞ!」

 

 ザトゥージさんが泉を指差すと、泉が光だした...

 そして現れたのはまさしく漢女だった。

 知 っ て た

 

「あれがウンディーネだ!これはなかなか強そうだぞ!レア個体だ!是非ゲットをオススメしよう!」

 

 いらねぇ...

 

「清い瞳をしています。きっと心の清らかな女の子に違いありませんね」

 

 アーシアが微笑む。

 

「アーシア?何か術にでもかかったか?どう見ても男じゃないか」

 

「あれは女性型だぞ、失礼なガキだな」

 

 ザトゥージさんに怒られた...解せぬ...

 

「あ、もう一体現れました」

 

 もう一体巨漢が現れた。もうやだ。

 両者が睨み合うと、殴り合いが始まった...

 互いの肉体を破壊しようと恐ろしいほどの威力の拳が交差する...

 

「縄張り争いだ。しかもどちらも歴戦の猛者だぞ...!これは見物だ!!おいガキ!!勝った方がキミの使い魔だ!」

 

「要らねぇよ!!こいつらの使い道が浮かばねぇもん!!」

 

「な、名前はウンディーネのディーネちゃんでいいんでしょうか?」

 

「アーシア落ち着け!!こんなの使い魔にしたらアーシアがどうなるかわかったもんじゃないぞ!!」

 

「で...でも、ディーネちゃんはきっと孤独に生きてきたに決まってます...私とイッセーさんであの子に家族の温もりを教えてあげたいんです...」

 

「うっ...そんな事言われたら...」

 

 そんな事言われちゃったら否定できな...

 

「いや待て!教えられるのは俺の方になるんじゃないのかそれ!?自分の血の温もりを教えられそうだぞ!!」

 

「おい!ディーネちゃんがピンチだ!助けてやれよ!二人の子供なんだろ!?」

 

「こんな子供が居てたまるかぁぁ!!」

 

 結局、この場は後にして別の場所に行く事になった。

 

 アーシアが

 

「私とイッセーさんの子が...」

 

 などと言っていたので、とりあえず抱きしめておいた。

 

「あの子に母性を感じなくていいんだよアーシア...あの子はもう一人立ちしている立派なウンディーネなんだ。俺達はきちんと俺達2人の子供を大切にしような...断じてあれは俺達の子ではないんだ」

 

「...はい...イッセーさんとの子供がほしいです...」

 

 さっきまでは不快感を感じていたはずなのに、なぜか涙がでてきた...

 うぅ...さよならディーネちゃん...達者でな!!

 

「...あれはプロポーズでいいのかしら?」

 

「お互いその気は無さそうですわね」

 

「ガキが...ちゃんと幸せにするんだぞ?」

 

 何か勘違いが生まれていた。

 いやまぁいずれはそうしたいんだがまだ早いですよ...

 

 ────────────────────────

 

蒼雷龍(スプライト・ドラゴン)?」

 

「あぁ、最近この辺りを子供が飛んでいてね、ゲットするには今しかない...成熟したら龍王には劣るが、ドラゴン族の中でも上位クラスの存在になるからね」

 

 ラッセー君か...うぐ...アーシアが俺以外のオスと...でも子ドラゴンごときに嫉妬なんて...うぐぐ

 

「難しい顔ですね、どうかしたんですか?」

 

 アーシアが尋ねてくる。

 

「あー...いや、なんでもないよ?」

 

「あれが蒼雷龍(スプライト・ドラゴン)だ!!」

 

 ザトゥージさんが叫ぶ。

 居た!小さいけど確かにドラゴンだ!すげぇ、実際に見ると綺麗な鱗だなぁ...

 

 などと考えていると

 

「きゃっ!!」

 

 アーシアの悲鳴が聞こえる。

 

「アーシア!!」

 

 アーシアがスライムに襲われていた!服が溶け始めている...!!

 

「お前!!アーシアの裸を俺以外の男に見せてたまるか!!やめろこの野郎!!」

 

 俺は必死でアーシアからスライムを離そうとするが...くっそこいつら!意外にしつこい!!

 

「イッセーさぁん...助けてくださぁい...!」

 

「アーシア!!危ない!!」

 

 触手がアーシアを襲おうとしていたのだ!!おのれ!!俺より先にアーシアの分泌液を吸わせてたまるか!!

 

「ブーステッド・ギア!!」

 

『Boost!!』

 

 俺は触手にドラゴンショットをお見舞いする!

 

「あぅ...イッセーさぁん...」

 

 アーシアの服がもうボロボロだ...!

 後ろを見たら木場とザトゥージさんは別の場所をみてくれていた。良かった...意外に紳士だザトゥージさん...

 他の女子メンもやられているようだが、まぁどうでもいいな。

 

 服を溶かしきったスライムはアーシアから離れていく...

 俺はなるべく見ないようにスライムを全て弾いたので、アーシアに俺の服を渡す。

 

「とりあえずこれで大事な所を隠すんだ!!」

 

「ありがとうございます...」

 

 くっ...アーシアの柔肌を触ってしまった...!興奮がすごい...!!こんなのもしも...もしも裸で抱きあったら...!くはっ!

 

 鼻血が噴き出す...

 といった所で俺は衝撃に襲われた...!

 

「アババババババババ!!!」

 

 身体中を電撃が走る...!

 

「イッセーさん...大丈夫ですか...?」

 

蒼雷龍(スプライト・ドラゴン)は外敵と判断した相手にしか雷撃のダメージを与えないんだ。その娘さんは敵ではないと思ったのだろう」

 

 黒焦げのザトゥージさんが答えてくれる。

 突然降り立った蒼雷龍(スプライト・ドラゴン)はアーシアの胸にすがりついている。

 

「おのれ!!蒼雷龍(スプライト・ドラゴン)!!アーシアの胸は俺の物だぞ!!」

 

「ガウ」

 

 うっ!!こいつめ!!余裕ありげな顔で俺を見やがって!!

 

「アーシアは俺の物なんだばばばばばばばばばばばば!!!!!」

 

 再びの雷撃に俺は撃沈した...

 

「メッですよ!イッセーさんは私の...その...彼氏さんなので...酷いことしちゃいけません!」

 

「ガゥ...」

 

 アーシアが少し顔を赤くしながらそう言ってくれる...

 蒼雷龍(スプライト・ドラゴン)も反省しましたって感じの顔だ...

 

蒼雷龍(スプライト・ドラゴン)は心の清い者に心を開くと言う。完全にその子に懐いたようだな」

 

 ザトゥージさんが言った。

 

「あ...あの、このドラゴンくんを使い魔にしてもいいですか?」

 

 アーシアが気まずそうに尋ねる。

 

「イッセー次第かしらね。イッセー、どうなの?」

 

「うぐぐ...アーシアが望むのなら俺は...我慢します...」

 

「大丈夫ですよ...その...私の一番はイッセーさんだけですから...」

 

 アーシアが頬を赤く染め上げながらそう言ってくれる...

 

「アーシア!!」

 

 アーシアを抱きしめにいったら再び雷撃に襲われた...

 おのれラッセー...!!

 

 ────────────────────────

 

 アーシアは朱乃さんの補助の元、無事契約を完了していた。

 あっ衣服は朱乃さんの魔力で直されていました。

 

 契約が終わるとすぐに蒼雷龍はアーシアにじゃれつきだした。

 

「うふふ。くすぐったいです。ラッセー君」

 

「ラッセー?」

 

 部長が言う

 

「はい...雷撃を放つ子ですし...後、イッセーさんからお名前を頂きました...ご迷惑でしたか?」

 

「いや...全然そんなことは...まぁ、よろしくな?ラッセー...」

 

 俺がラッセーに触ると、アーシアにバレないように微量の電気を流しながら不快そうに俺に撫でられた。

 こいつ...!

 

「ちゃんとイッセーさんにも心を許してくれました!良かったです!」

 

 アーシアが満面の笑みを浮かべる。

 ...駄目だな、ちゃんとアーシアの使い魔として祝福してあげないとな。

 そうだ、アーシアを大事に思うという一点に関しては俺とこいつは共通してるんだ...!

 気がつけば雷撃も止まっていた...

 

 俺はちょっとだけラッセー君と仲良くなれたような気がした...

 これからよろしくだぜラッセー君!!



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第48話。 始まります、地獄のテニス!

4巻、ヴァーリとの戦いの後の話です。


 俺達は生徒会室に行った部長を待って休憩中だ。

 今はソファーに寝転んでアーシアに背中をマッサージして貰っている...

 気持ちいい...

 アーシアの手ってすべすべふわふわで最高なんだよなぁ...はぁ好き...

 腰に伝わるお尻の感触が俺を狂わせる...

 

「イッセーさん気持ちいいですか?」

 

「あぁ...最高だよ...アーシアもこの後マッサージしようか?」

 

「えと...じゃあお願いします...」

 

「よし、任せとけ!」

 

「イッセー君、アーシアちゃん、お茶いかが?」

 

「ありがとうございます朱乃さん」

 

「ありがとうございます!!」

 

 マッサージは中断してお茶の時間だな...

 朱乃さんは将棋してる木場とゼノヴィアにも段ボールにうずくまるギャスパーにもお茶を配っていく...

 

 ギャスパーは手だけ段ボールから出して、器用に中に取り込んでいった...

 なんだあの新種の奇生物は...

 

「ただいま。今帰ったわ」

 

 部長が帰ってきたので部活再開だ。

 

 ────────────────────────

 

「部の活動報告書を提出しないといけないのよ」

 

「あれ?さっき提出しに行きませんでしたか?」

 

 アーシアが尋ねる。

 

「表向きのオカルト研究部としての活動報告書はね。問題は悪魔としての方なのよ。最近色々と事件が起こるものだからすっかり期限を失念していたわ」

 

 木場が付け加えてくれる。

 

「本当なら純血種たる部長は冥界にある上級悪魔が通う学校に行かなければならないんだ。そこを特待生枠で日本に留学してるんだ。本来取得しなきゃいけない悪魔の学校の単位を駒王学園で取っておかないと強制帰国させられてしまうんだ」

 

 朱乃さんも補足してくれる。

 

「単位の取得は、部長の場合は人間との契約の他に、日本における魔物、妖怪の類いを研究することで得ていたのです。実は私達眷属もそれに協力することで活動の自由をある程度許されているのですわ」

 

 そうなのか...そうやって考えたら俺とアーシアがこうやって自由に交際できているのも部長のお陰なわけだ...頭が上がらないな...

 

 部長を拝んだら頭痛が起こるので、普通に頭を下げた。

 

「?」

 

 部長はよくわかっていなさそうだ。

 

「そういうわけで、今から冥界に提出する活動報告書を作成するわ。この町に住む魔物や妖怪の近況を知りたいわね。まずは町外れの沼に棲む物知り河童に話を聞きに行きましょうか」

 

「部長、あの河童は故郷に帰りましたよ。実家のキュウリ栽培を継ぐと言っていました」

 

「...そう、実家に戻ったのね。ここでラッパーを目指すよりは堅実だわ」

 

 聞き捨てならない単語が出てきたな...

 

「河童のラッパーってなんだよ...」

 

 俺がそうこぼすと、

 

「キュウリ農家を継ぐのが嫌で家を飛び出した河童がこの町に住み着いていたんだよ。ラップを嗜んでいてね、よく彼の曲、尻子玉ラプソディーを聞いたものだ」

 

「....皿が乾くような都会に光、伝えきれない俺の怒り、おまえの尻子玉抜いてみたり」

 

 小猫ちゃんが突然歌いだした。

 

「小猫ちゃんは彼のファンだったんだ」

 

「そ...そうだったのか...」

 

 混乱が止まらない...

 

「でも、お父さんが皿縮小病にかかって、故郷に戻ったそうなんだ。彼のおうちは今時でも珍しい昔ながらの妖怪式農法でキュウリを育てていてね、まぁこれで伝統が保たれるよ」

 

 ...?全くついていけないな...

 アーシアもよくわからなくて首をかしげている...

 

「では、四丁目の噂好きのデュラハンね」

 

「デュラハン?」

 

「首なしの鎧騎士の事だ。巨驅の馬に乗っていて手に自分の首をぶら下げているんだ。死を予言する魔物で主にヨーロッパにいる。私も何度か倒した」

 

 ゼノヴィアが教えてくれる。

 

「倒したのか...流石ヴァチカンの元エージェント...」

 

 すると木場が分厚い本を置いてくれた。

 

「これは魔物大図鑑と言ってね、見たい魔物の名前を言うと、自動でページが開くんだ」

 

「はえぇ...すっごい。ハイテクなのかローテクなのか微妙だけど」

 

 木場が試しにデュラハンと言うと、ページがバラバラと開かれて、とあるページでぴたりと止まった。

 悪魔文字か、一切覚えてないんだよなぁ...

 そろそろ覚えないとだよな...アーシアと勉強しよ。

 あぁアーシアに漢字教えるの楽しかったなぁ...一生懸命で可愛くてさ、もうアーシアが勉強している様をすぐ側で見られるだけで幸せだわ。

 でもアーシアに勉強教えられるのも最高なんだろうなぁ...そろそろ教科によってはアーシアの方が賢くなりそうだし、その機会も生まれそうだ。アーシアまじめで記憶力もあるし、普通に優秀だよな。

 アーシアが悪魔文字習得してから教えて貰おうかな...

 いやでも一緒に勉強していくのも捨てがたい...

 

「あのデュラハンは先日、重度の頚椎ヘルニアになって専門の病院に入院していますわ」

 

 朱乃さんが言う...

 頚椎ヘルニアに突っ込みたいんだが、情報元にしてる妖怪が居なくなりすぎだろ...

 もうちょっと留まれないのかこの町に...

 

「わかったわ...他の手段を採りましょう」

 

「他の手段?」

 

「この学園には魔物の知識が豊富な人間が居るのよ」

 

 そういえばそんな存在いたなぁ...ぶっちゃけ全然覚えてないけど...

 

 ────────────────────────

 

 俺達は今、テニス場に来ている。

 待ち合わせより早めに来たそうなので、俺達はベンチに座って待機だ...

 今はアーシアにお礼のマッサージをしている...

 

 アーシアは華奢なので、撫でるように繊細なタッチで肩や首回りをゆっくりほぐしていく...

 慎重に...丁寧に感謝を込めてマッサージするのだ...

 

「ん.....ふ.....んん.....はふぅ...」

 

 アーシアから艶かしい声が漏れ出る...

 うぅ...ちょっと変な気分になりそうだ...

 

「イッセーさんありがとうございます...」

 

 アーシアが気の抜けた声で言ってくれる。

 

「気持ち良かったか?」

 

「はい!すっきりしました」

 

「なら良かった」

 

 アーシアのマッサージを終えたので、アーシアを膝の上に乗せて座っていると、パカパカと蹄の音がした。

 

「オッホッホッホ!ごきげんよう、リアスさん!あなたがここに来るなんて珍しいわね!歓迎するわよ!」

 

 馬にまたがっていたのは典型的としか言い様のないお嬢様だった。

 縦ロールがすごい...

 維持めんどくさそうだな。

 

 お嬢様の後ろには首なしの騎士が座っており、よく見れば馬も眼光がすごくてかなりヤバそうな馬だ...

 

 アーシアが怖がって俺の胸に顔を埋める。

 怖いよな...大丈夫だアーシア...俺が守るよ!

 

「ウフフ、いい馬でしょう?先日デュラハンのスミス氏のお首が入院したので、その間預かる事になりましたの。こちらはスミス氏の胴体くんですわ」

 

 胴体君はスイカを片手にペコリと上半身を下げる。

 スイカて...首の代わりだってか?

 

「安倍さん。魔物を学校に連れ込むのは校則違反よ」

 

 部長が至極当然の事をいう。ただの馬でもアウトだろ...

 

「お首が入院中、胴体君は単独行動できないでしょう?だから私の所で馬ごと預かっているの。だけどタダ飯はよくないと思いましたので、テニス部のマスコット、デュラハンの「ノーヘッド本田君」という役割を与えましたの!」

 

 こいつ頭おかしいのか...?

 

「マスコットなら仕方ないわね」

 

 部長もおかしかった。

 

「会長も認めて下さいましたわ」

 

 会長もおかしかった。

 

「キャー!本田君!西洋的な甲冑が興味光ってるぅ!」

 

「首がないなんて斬新なマスコットだよね!かわい~」

 

 テニス女子から黄色い歓声が聞こえる。

 そうだった、おかしいのはこの学園だった。

 

 この学園に比べればノーヘッド本田なんてただのマスコットなわけないだろ!!どう考えてもおかしいじゃん!!俺も危うくこの異常に飲まれる所だったわ!!

 

 部長が安倍先輩に研究の協力を要請するが、悪魔と安易に契約は結びたくないと断固拒否する。

 めんどくせぇやつだな...俺はアーシアと早く部室に戻って今度はアーシアの背中を重点的にマッサージしたいんだが...

 

 すると安倍先輩が突然

 

「私いいことを思いつきましたわ。私の使役している魔物とリアスさんとオカ研のメンバーでテニス勝負をするの。勝ったほうが言うことをタダでなんでも聞くというのは?」

 

「あら、おもしろそうね。私もテニスならできるわ。私達が勝ったら活動報告書作成の為に、あなたにはインタビューに協力してもらうという事でいいかしら?それで、あなたが勝ったら何を望むの?」

 

 そういうと安倍先輩は俺の方を向く。

 

「....もしかして、あなた、今業界で噂の赤龍帝?」

 

「はぁ...違いますけど」

 

 嫌な予感がするので嘘をついた。

 

「いいえ、この子は赤龍帝よ。イッセー嘘つかないで」

 

「ちょっと部長!!俺嫌な予感しかしないんですけど!!」

 

「決めましたわ!!私が勝ったらしばらく彼を貸してくださる?レアなドラゴンなんて最高ですわ!!」

 

「駄目です!!!」

 

 アーシアが俺に抱きつく...

 アーシア...!ありがとう...!

 

「いいわよ。ただし、その場合この子も連れていってあげてくれる?この子赤龍帝とカップルなの。ほら、彼女としては見知らぬ先輩に彼氏が連れていかれるなんて心配でしょう?」

 

「あー...いいですわよ。私もそういうつもりは微塵もありませんし。ただ珍獣を飼ってみたいだけですから、飼育員の一人や二人受け入れますわ!!」

 

「アーシア...ごめんなさい、そういう事だから許してくれる?」

 

「私も一緒でいいなら...大丈夫です!」

 

「俺の許可は!?俺に選択権はないんですか!?」

 

「もちろんないわよ珍獣さん?」

 

「部長!!あんた見損なったぞ!!これでも眷属としてそこそこ尊敬してたのに!!うわぁぁあん!!珍獣だなんて酷い!!」

 

「イッセーさん、大丈夫ですよ?イッセーさんは珍獣じゃありません...」

 

 アーシアが俺を慰めて頭よしよししてくれる...

 ちゅき...

 

 そうして決戦の日を迎える...

 

 ────────────────────────

 

「ウフフ。逃げずに来たことは褒めて差し上げてよ」

 

 安倍先輩とさまざまな怪物が俺達を迎え入れる。

 ノーヘッド本田はこちらに手を振ってくれる。

 アーシアと俺は振り返す。

 

「試合形式はシングル2戦、ダブルス1戦の3試合。2勝した方の勝ちですわ。私とリアスさんは選手として確定ですから、残りはくじ引きで決めましょう」

 

 俺は今日禁手化(バランス・ブレイク)をしてでも勝つつもりだ...!

 目の前の化物どもを見てより決心がついた!

 

 くじの結果、朱乃さんとゼノヴィアがシングル。

 俺と部長がダブルスになった。

 よっしゃ...珍獣とか言ったこと後悔させてやるぜ安倍先輩...

 

 一回戦、朱乃さんVSハーピィの女の子の試合が始まった...

 試合はあっという間に朱乃さんが勝利。流石お姉さま。お姉さまが履修してそうな事は大体できるのだ!

 

 二回戦、ゼノヴィアVSラミア族の女の子の試合は、ゼノヴィアも奮闘するも、僅差で負けてしまった。

 アーシアも一生懸命応援してたから残念そうだ...

 

「私のパートナーは雪女ですわ。おいでなさい、私の可愛い雪女ちゃん!」

 

 俺はその瞬間そこはかとない嫌な予感を感じた。

 そう...例えるならウンディーネを見ていた時のような...

 そう...例えるならミルたんを見ている時のような...そんな予感なのだ...

 

「ホキョオオオオオオオオオオッッッ!!!」

 

 俺の目の前で巨大なゴリラが咆哮を上げる。

 ドラミングもし始めた。

 え?普通に威圧感やべぇ...

 

「紹介しますわ。雪女こと、イエティのメスのクリスティよ」

 

「イッセー...雪女の冷凍ビームは強烈よ...食らえばたちまち氷像と化すわ!!」

 

「テニスするんじゃなかったんですか!!?あぁもう!!俺は知りませんから!!ドライグ!!」

 

『本気でこんな茶番の為に禁手化(バランス・ブレイク)するのか...?』

 

「するに決まってるだろ!!俺はまだ死にたくない!!」

 

『わかった...』

 

『Count Down!3 Minutes!!』

 

「イッセーさん、応援します!クリスティちゃんに負けないで!」

 

「アーシア!!!あんなゴリラ一捻りにしてやるぜ!!!」

 

「ウホホ(笑)」

 

「お前なめやがって...!絶対腹にテニスボールぶちこんでやる...!!」

 

「よく言ったわイッセー!それでこそ私自慢の珍獣よ!!」

 

「珍獣言うな!!!」

 

 試合が始まった...!!

 

 ────────────────────────

 

 部長サーブで試合が始まる。部長と安倍先輩のラリーが続き、俺とクリスティは何もせずひたすら殺意をぶつけ合う...何してるんだろ俺...

 

「クリスティ!そちらに行きましたわ!蹴散らしなさい!!」

 

「ウホッ!!」

 

 ゴリラがボールを打ち返すと信じられない速度でボールが飛んで来た...

 でも反応はできる!!

 

 俺が全力をもってラケットで打ち返そうとすると

 

 バゴォォォォォン!!!とボールと俺のラケットが炸裂した...!!

 

「何ィィィィッ!!」

 

「イッセー!道具は大事に使いなさい!!」

 

「あんなバカみたいな球食らって大事にも糞もあるか!!」

 

 ふざけるのも大概にしろ!!

 

「木場!!ラケットの聖魔剣を作ってくれ!!」

 

「そんな便利道具扱いしないでくれよ...できるけど」

 

 できるんかい...

 そこからは怒涛の展開だった...!!

 

 俺の聖魔剣ラケットがクリスティからの豪速球を叩き返しては壊れたり、クリスティのブレスで俺の鎧がガチガチに氷ついて、その隙にクリスティの豪速球を腹に叩き込まれてちょっと血を吐いたり...

 

 その度にアーシアに癒しを求めた...アーシアのオーラは効くなぁ!

 そして最後の一球...!!

 クリスティのサーブだ...!

 

「イッセー!ここで決めたら私達の勝利が確定するわ!!」

 

「はい!!」

 

 俺は聖魔剣ラケットを盾のようにして、防御姿勢を取る。

 クリスティのサーブに身体ごと当たりに行って相手コートに弾き返す。

 対クリスティ戦ではこれが最適解だと気付いたのだ...

 代わりに俺の体は衝撃をモロ受ける...痛いよ...

 安倍先輩の甘い返しを部長が冷静にスマッシュで返して...無事試合は終了した...

 

「私達の負けですわ。仕方ないですわね、インタビューにお答えします」

 

 安倍さんはそう言った。

 アーシアが俺に駆け寄って治療を施してくれる...

 

「イッセーさんお疲れ様です!」

 

「...ありがとうアーシア...まさかテニスで怪我する事になるとは思わなかったよ...」

 

 クリスティならライザーくらいは倒せるんじゃないだろうか...

 衝撃的な強さだったんだが...

 鎧はもう解除した。

 

 クリスティが俺の方に寄ってくる。

 何だ...?

 クリスティが俺に握手を求めた。

 

「お前...!」

 

 そうだな...戦いが終われば俺達はもう友達だ...!

 右手を差し出すと握り潰された。

 

「イデデデデデデデデ!!ギャアアアア!!!」

 

「ウホホホ(笑)」

 

 なんて奴だ!!普通あそこで攻撃するかよ!!

 俺はクリスティを絶対に許さない事を心に誓った...!!

 次会ったら覚悟しやがれ!!



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第49話。 増殖します、俺!

5巻、シトリー眷属とのゲームの後の話です。


 俺は今謎のカプセルにぶちこまれている。

 廊下で出会ったアザゼル先生が俺の側に来たと思ったら、俺に何かしたのだ。

 気がつけばここに入っていた。多分眠らせる魔法とかそんなのだ...

 カプセルを叩こうにも身体が全く動かない...

 口だけは動くのでアザゼル先生に文句を言う!

 

「何をする気ですか先生!!事によっちゃ訴えますよ!!」

 

「ちょっと試したい事があったんだが、実験材料が足りなくてよ...リアスに聞いたらイッセーなら良いって言われたんだ」

 

「あの人そういう所あるなほんと!!俺はこれでもたった一人の兵士なのに!!もう少し大事にしてくれてもいいじゃないですか!!」

 

「あ?兵士なんてゲームじゃ犠牲(サクリファイス)の筆頭じゃねぇか」

 

「俺は犠牲になること前提ですか!!教え子に慈悲の心とかないのか!!?あんたの所の堕天使で良いじゃねぇか!!」

 

「やだよ。なんでうちの戦力で実験せにゃならんのだ、実験ってのはなぁ、丈夫な龍でやるって相場が決まってるんだよ。ってかまじでもう実験始めるから、じゃあな!達者でな!」

 

「死にたくないぃぃぃ!!アーシアぁぁぁぁ!!」

 

 爆発が起こる...

 

 ............

 

「ゲホッ!ゴホッ...!...とりあえず死にはしなかったか...くっそ...関わりたくなかったのに、回避不能の実験とかどうすりゃ避けられるんだ...」

 

 辺りを見渡すとカプセルが壊れていて、部屋は爆発の影響でぐちゃぐちゃになっていた...

 アザゼル先生は既にいないので、結構な時間が経ったのかもしれない...

 

 あの野郎...いくら堕天使のボスだからってやっていいことと悪い事があるだろうが...

 

 俺はなんとか起き上がって部室に向かう...

 アザゼル先生にも文句が言いたいが、俺は何より部長に文句を言いたい...

 

 部室に向かって歩いていると、何やら騒がしい声が聞こえた...

 運動場の方だ...

 

「わっしょい!わっしょい!わっしょい!わっしょい!」

 

『言いたい事があるんだよ!』『なになに?』

『やっぱりアーシア可愛いよ!』『なになに?』

『好き好き大好きやっぱ好き!』『なになに?』

『やっと見つけたお姫様!』『なになに?』

『俺が生まれて来た理由!』『なになに?』

『それは、アーシアに出会うため!』『なになに?』

『俺と、一緒に人生歩もう世界で一番愛してる!!』『なになに?』

『あ、い、し、て、る~~!!!!』

 

 どこにあったのかわからない大きな神輿を背負った数十人の俺を囲んで数百人の俺がガチ恋口上していた...

 神輿の頂上のデカイ椅子にはアーシアが乗っていて涙目で揺れに耐えている...!

 

「な....なんだ...これは...!」

 

 俺はあまりにもあんまりな状況に動く事ができない...

 いや!アーシアが怖がってる!!俺が助けに行かずにどうするんだ!!

 

「アーシアぁぁぁ!!!」

 

 俺は悪魔の翼でアーシアの元にたどり着いた...

 

「ひっ!」

 

 アーシアに怖がられた...あっ...死のう...

 

「イ...イッセーさんですか...?」

 

「そうだ...!本物のイッセーだよ!!」

 

「...イッセーさん!!わぁぁあん怖かったです!!」

 

「アーシア!!」

 

 俺達は抱き合う。

 

「おい俺!!!アーシアたんに抱きついてるんじゃねぇ!!!ぶち殺すぞ!!!」

 

 下の俺に怒鳴られた。

 声は広がり、やがて罵倒は俺全体に広がっていった...

 

 一旦アーシアを連れて逃げるしかねぇ!!

 俺は翼を生やして飛び去る。

 うわぁあ!大量の俺が地面を走って追いかけてくる...!!ゾンビ映画かよ!!

 俺を足場にした俺を足場にした俺といった感じで俺が俺に迫ってくる...!!!

 なんだこれ怖い!!!怖い!!!

 

「おっ!イッセー!目が覚めたか!」

 

 気がつくとアザゼル先生が俺の横を飛んでいた。

 

「目が覚めたかじゃないですよ!!何したんだあんた!!」

 

「詳しくは後で説明してやる!今は逃げるんだ!!」

 

 ────────────────────────

 

 現在、遠回りで迂回して旧校舎に戻った俺達はアザゼル先生が即座に旧校舎に結界を貼ることで立て籠っている。

 

 最初は張り付く俺をアザゼル先生が結界の中からプチプチ潰していたんだが、学習した俺は現在学園中に散らばってアーシアが結界から出てくる時を待って潜んでいるらしい...

 意味がわからない。

 

 今は部室で緊急会議が開かれている。

 

「学園中、イッセーだらけよ」

 

 部長がため息をつく。

 部員皆で双眼鏡を使って新校舎を見ると、大量の俺がこちらを双眼鏡で見ていた。

 

「イッセーを覗く時、イッセーもまたこちらを覗いているのだ...」

 

 アザゼル先生が呟く。

 

「つまんない事言わないで下さい!!あんたが原因でしょうが!!いったい何しやがったんだ!!」

 

 アーシアは大量の俺に追いかけ回されて、神輿に担がれて、大量の俺にコールされ続けて軽くトラウマになってしまったようだ...

 一瞬だけ追いかけられた俺ですら怖かったもん...

 今は俺に抱きついてようやく落ち着いてきた所だ...

 

「いやー、ドッペルゲンガーの実験中に暴走してな。実験体のイッセーが増えた。ま、すぐ学園を覆う結界を発生させたし、アーシアがここにいる以上外には出ないだろ。被害は最小限だ」

 

「アーシアが心的外傷を負ってますけど!!?大体こんなに大量の俺どうするんですか...」

 

「そりゃ全員殺すしかねぇだろ。安心しろ、一定以上のダメージを受ければ煙になって消えるから、スプラッタにはならねぇよ」

 

「それで...何人くらいに増えたんですか...」

 

「まぁざっと300人かな!」

 

『300人!!?』

 

 ここにいる全員が驚いた。

 なんだその数は...

 

 アザゼル先生が小さな魔方陣を展開して、タッチパネルのように操作する。

 それが終わるとこう言った。

 

「とりあえず今学校にいる生徒は全員眠らせておいた。その上で小規模な結界を張っておいたから、まぁドッペルイッセーが多少暴れたり、俺達の攻撃の流れ弾を少々食らってもダメージにはならねぇよ」

 

 そして先生は、まるで演説者のように大振りなジェスチャーで俺達にこう言ってきた。

 

「ま!体のいいサンドバックが出来たと思って楽しもうぜ!」

 

「...そうですね」

 

「小猫ちゃん!?」

 

「確かに最近のイッセーのいちゃつきは目に余る物があるものね...」

 

「部長!!?」

 

「あらあら...少し血が騒ぎますわね...うふふ」

 

「朱乃さん!?」

 

「仲睦まじいのは良いことだが、それはそれとしてこちらも少々思うところはあるな」

 

「ゼノヴィア...」

 

「僕は...イッセー先輩がたくさんは流石に気持ち悪いです...」

 

「ギャスパー...地味に一番傷付いたぞ...」

 

「ひぃぃ!すみません!!!」

 

「イッセー君は一人だけでいいもんね。何人ものイッセー君にアーシアさんとイチャイチャされたらこちらの身が持たないよ」

 

「私は本物のイッセーさんとしかしません!」

 

 アーシアが顔を少し赤くしながら堂々と言ってのける。

 アーシア...嬉しいけどそういうことじゃないよ...

 

「皆...そんな風に思ってたのか...」

 

 俺は悲しくなってきた...

 普通に俺が悪いけど。

 

「俺も内心イライラしてたからな...ちょっとだけ暴れさせて貰おうかな...」

 

 アザゼル先生がコキコキと肩を鳴らす。

 

「あんただけは言うんじゃねぇよ!!わざと暴走させたんじゃねぇだろうな!!」

 

「あ?んなことするわけねぇだろが」

 

 もう先生の事信じてられないよ...

 

 そこから始まったのは...俺の虐殺劇だった...

 

 ────────────────────────

 

 俺達は運動場でアーシアを囲むように円を作って、アーシアを餌に俺をおびき寄せた...

 

 みんなの魔力が、剣が、拳が、俺を惨殺していく...

 いや、煙になるだけなんだが...

 俺も禁手化(バランス・ブレイク)して自分を殴る...

 何が悲しくて自分で自分を殺さなければならないんだ...

 

「おっと手が滑った」

 

 アザゼル先生が俺に攻撃してくる。痛い。

 

「.....」

 

 まず間違いなく故意だが...

 もしもがあるかもしれない...

 我慢だ我慢...

 

「おーっとっとぉ!また滑ったぁ!」

 

「痛っっった!!先生!!流石に無理がありますよ!!」

 

「うるせぇ独身に見せつけやがって!なまじイッセーを殴ってるから本物もやりたくなったんだよ!ちょっとぐらい発散させやがれ!」

 

「モテモテなんだから堕天使で可愛い子見繕えばいいでしょうが!」

 

 俺は先生に殴りかかる。

 もう限界だ!!

 

 俺は先生と殴り合いの喧嘩を始める。

 流石に本気でやりはしないけど流石に痛い目にあって貰わないと了承できない!!

 

「ちょっとイッセー!アザゼル!穴を開けたら!!」

 

「あそこに隙間ができてるぞ!!」

 

「アーシアたんを奪還しろ!!!」

 

『おぉおおおおおお!!!!!』

 

 まずい!こんなことしてる暇はなかった!!

 

「ぬぉっ!!抑えきれない!!!」

 

 腐っても俺のドッペルゲンガー...

 神器(セイクリッド・ギア)はないけど素の身体能力はほぼ同じだ...

 サイラオーグさんとかに使ったら世界征服できそうだな...

 

「おらぁああああ!!!」

 

 俺は全力で俺に掴みかかっているドッペルゲンガーを殴り飛ばそうとするが...

 くっそ!一定のダメージで煙になるから一人吹き飛ばして巻き込むみたいな事ができねぇ!!

 

「アーシアたん!!捕まえた!!」

 

 ドッペルゲンガーの一人がアーシアの手を握った!

 

「アーシア!!」

 

「いや!助けて下さいイッセーさぁん!!」

 

 なんか俺がアーシアに拒否されている風景はちょっと心に来るものがある。

 アーシアが既に三人に捕まっている...!ドッペルゲンガーの触り方は無駄に紳士的だが...

 

「俺のアーシアを離せ!!」

 

 急いで三人を殴り殺してアーシアを抱き抱えブースターで素早く飛び去る。

 

「イッセーさぁん...グスン...」

 

「ごめんアーシア...先生がどれだけちょっかいかけてきたって無視すれば良かったんだよな...」

 

「いえ...助けてくれましたから...」

 

 下を見ると皆が俺に飲み込まれていた...

 あっ皆が集まった俺を吹き飛ばしてこっちに飛んで来た...

 

 俺に踏まれたのかちょっとボロボロだ...

 

「いくら神器(セイクリッド・ギア)なしのイッセーと言えどもあれだけ数が揃うと意外にきついわね...まぁ貴方達が喧嘩しなければ陣形は崩れなかったのだけれど」

 

「すみません...」

 

「ほら、運動場の分全員殺しといたから許してくれや」

 

 この人仕事できるから怒るに怒りきれないよね...

 グレゴリの皆さんの苦労がわかるな。

 ...いや、やっぱり初めからやれやと、俺はそう言いたい。

 

「結構な数殺ったけどまだ足りないだろうな...残りの小賢しいイッセーはどうしてくれようか...」

 

 アザゼル先生は顎に手を当てて考える...

 

「現状イッセーを釣れるのはアーシアだけだものね...」

 

「これ以上アーシアを俺に触られたくありません!!」

 

「...わかってはいるけど混乱するわね...」

 

「イッセーさんとドッペルさんは全然違います!イッセーさんは私の事をちゃんと考えてくれます!あんな強引なことはしません!...後ドッペルさん達より触り方が少しだけエッチです...」

 

 うっ...ちゃんと違いをわかってくれるのを喜べばいいのか、エッチだと言われたのを反省すべきなのか...

 

「.......」

 

 部長は呆れた顔をしている...

 なんか色々すみません...

 

「そうだなぁ...今の陣形で出てこないってことは、かなり辛抱強い連中が残ってるんだろう...そうだ!俺にいい考えがあるぜ...」

 

 アザゼル先生が嫌な予感をさせる笑顔になった。

 

 ────────────────────────

 

『シ...シスターアイドル、アーシア・アルジェントでーす...!!き...今日は私の初ライブに来てくださってありがとうございましゅ!!い...一生懸命...歌いますので...き...聞いてください!!』

 

 アーシアがフリフリのシスター服っぽいアイドル衣装を身に纏い、どこからともなく現れたアイドルっぽい舞台で挨拶をする...カンペをガン見しながら。

 

「あ...アザゼル先生...俺、今日貴方にそろそろ殺意を持ちそうだったんですけど...こ...こんな...こんな素晴らしい光景が広がるなんて...!」

 

「だろ?俺は教え子の事を何よりも考えてるんだぜ?お前にとってはこの景色は何よりも素晴らしいだろう?」

 

「先生!!!」

 

 俺は先生に抱きつく...

 

「はぐらかされてるわよイッセー...」

 

「ほら、混ざってこいよイッセー。最高のライブにしようぜ!」

 

「はい!!」

 

 俺は最前列に立つ。

 続々と俺も集まってきた...

 間違いなく残りの俺全員が揃っただろう。

 アーシアのライブを聞きに来ないならもう俺じゃねぇ!

 

 曲が流れ始める...

 アーシアがどうしようどうしようと慌てている。何歌うかとか一切決めてないもんね。でも慌てている様も最高に尊い...

 

「よっしゃいくぞ──ー!!!」

 

『タイガー!ファイヤー!サイバー!ファイバー!ダイバー!バイバー!ジャージぁあああああ!!!』

 

 大爆発が巻き起こる...!

 

「グハッ...な...何が...!」

 

 かなり吹き飛ばされてしまった...

 俺が辺りを見渡すと、死屍累々といった様子だった...

 たった数人の俺を残して俺は全滅していたのだ...

 

「フハハハハハ!アーシアのライブは俺がジャックした!アーシアを解放して欲しかったら俺を倒すんだな!!」

 

 気がつけばアーシアは棒にくくりつけられていた。

 なんてやつだ!!最低だよ先生!!

 それだけはやっちゃ駄目なやつだろ!!

 

「おのれ先生!!裏切ったな!!...今度という今度は許さねぇ!!行くぞお前達!!アーシアを助けるんだ!!」

 

『おぉ!!!』

 

 俺達は突撃する。

 

「はっ!イッセーが何人束になったって脅威にはならねぇよ!」

 

 そういうと、アザゼル先生は光のビームを何発も発射する。

 それを俺達は辛うじて避けていく...

 

 しかし、どうしても避けられない面子が出てくるが、消えかけてもなお果敢に少しでも前へと進もうとする...

 ボロボロになりながらも少しづつ前に前に...!

 

「アーシアを助けるんだ!!」

 

「あの悪逆非道のクズを引きずり下ろせ!!」

 

「一発ぶちこんでやれ!!」

 

『おおおおお!!!』

 

 突如俺達を淡い光が包み込む...

 

「...私を助けて下さい!」

 

 アーシアがそう言った。

 俺達の身体中に力が漲る...!

 

 果敢に攻め込むがそれでも、一際大きい光線が俺達を消し去ろうと近づいてくる...

 くっそ!ここまでか...!

 

 突如2つの人影が俺達の前に現れる。

 

「木場!ゼノヴィア!!」

 

「...なぜだかわからないけど、体が動いてしまったよ」

 

「私もだ。なぜか助けなければと思ってしまった」

 

 他の皆も俺達の側に駆け寄ってくれる!

 

「よーく考えれば、やっぱりアザゼル先生が元凶ですわ」

 

「....たまには先生にもお灸を据えましょう。充分発散出来たしね」

 

「ぼ...僕も協力しますぅ!!」

 

「みんなぁ...!!」

 

 俺は泣きそうになった...!!

 

「さぁ、行くわよ皆!アザゼルを打ち倒しましょう!!」

 

 部長が鼓舞する!!

 

『おおおおお!!!』

 

「あいつら、手を結びやがったぞ!こ...この俺が!こんな所で!!ぎゃあああああ!!!」

 

 アザゼル先生は悪の親玉らしい断末魔を発して、俺達に捕まった。

 

 ────────────────────────

 

「イッセーさん...」

 

 解放されたアーシアが俺に抱きつく...

 

「アーシア...皆も頑張ったんだ。確かに強引だったり、怖かったりしたかもしれないけど、アーシアの事を思ってる気持ちは皆一緒なんだ。だから...労ってやってくれないか?」

 

「はい...皆さん助けて下さってありがとうございます!!」

 

 アーシアの満面の笑みを見て満足したのか、俺のドッペルゲンガー達は大きく頷きながら消えていった...

 

「チッ。大勢で俺をいじめやがって」

 

 顔に絆創膏をたくさんつけた先生が涙目で毒づく。

 

「少しは反省しなさいな、先生」

 

 部長に言われてアザゼル先生はぐぅの音も出ないといった様子だった...

 

「それにしても大変な事になってたなぁ...」

 

 疲れた...

 けどまぁ、アイドルアーシアが最高に可愛いかったので今日はもうなんでもいいや...

 先生には賠償として衣装を貰った。もうこれだけで許せる。

 家でアーシアに着てもらって、いっぱい楽しませて貰おう...

 

 ちなみにその後、アザゼル先生が生徒皆の記憶を消したが、全て消すわけにはいかないようで、俺が双眼鏡でどこかを覗いていただとか、運動場で大暴れして迷惑をかけたみたいな変な認識が残ってしまって俺はしばらく白い目で見られた。

 

 解せぬ...



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第50話。 暴かれます、秘宝!

7巻、ロキ戦の後の話です。


 それは、私とゼノヴィアさんとイリナさんと桐生さんとでご飯を食べている時の事でした。

 いつもはイッセーさん達とも一緒に食べるのですが、桐生さんが今日は女子会だと言って、三人を追い払ってしまいました。

 イッセーさんと食べられないのは寂しいですが、女の子のお友達同士で食べるのもとても楽しいです。

 

「アーシア...兵藤とそろそろそういう事してもいいんじゃな~い?」

 

「そういう事...ですか?」

 

「エッチな事よ」

 

「はぅ...!そ...それは...あぅ...」

 

「そうやって赤くなるのも可愛いけど、そろそろ動いた方がいいかもよ~?いつ泥棒猫ちゃんが現れても知らないわよ?」

 

「ど...泥棒猫...そういえば...」

 

 黒歌さんが、イッセーさんの子供が欲しいって...イッセーさんはすぐに否定して下さいましたから、何事もありませんでしたけど...

 

「およ?心当たりでもあった?なら、なおさら危ないじゃない!そうじゃなくてもさ、アーシアって顔も中身もすっごく良いし、女子力も高いからぶっちゃけ女の子としてのランク滅茶苦茶高いのよねー。で、そんな子の彼氏ってだけで普通より無駄に評価上がっちゃったりするわけよ。あの男を落とせば、アーシアに女として勝ったみたいな事考える悪ーい女もいないでもないしね?」

 

「そ...そんな事...」

 

「まぁ確かに、あれだけ一途な所を見てるとアーシアさんが羨ましいなって思う事も結構あるわよねー」

 

「んー?イリナっちそれってもしかしなくても奪い取ります宣言?」

 

「違うわよ!!桐生さんが言ってる事も一理あるかもなって思っただけよ!アーシアさんの前で変な事言わないで!」

 

「へぇ~...ふぅ~ん」

 

「ちょっとやめてよ!私とイッセー君はただの幼馴染!絶対に無いから!」

 

「イッセーはイリナとの思い出をほとんど忘れていたようだけれどね」

 

「ちょっとゼノヴィア!それはイッセー君が悪いだけでしょ?私は覚えてるもん!」

 

「だがまぁ、イリナの言うこともわからんでもないな。私もアーシアが居なければイッセーとの子を欲しがっていたかもしれん」

 

「え?」「へ?」「ゼノヴィアさん!?」

 

「なに、女の幸せと言えばやはり子を成す事だろう?私はせっかくなら、できるだけ強い子が欲しいのでね。その点イッセーは優秀だ。ま、あくまでもしもの話だよ。今はそんな事考えてはいないさ」

 

 赤龍帝の子供というのは、やはり特別なのでしょうか...?

 私はただ、イッセーさんと幸せな家族が作りたいとしか考えていませんでしたけど...

 もし...もしも、私以外の人がイッセーさんと子供を作って...イッセーさんが私以外の人に笑いかけて...嫌です...そんな事考えたくもないです...

 でも、黒歌さんみたいな人が他に居てもおかしくないんですよね...?

 

「ゼノヴィアっちすっごい爆弾発言...ほらほらアーシア、身近にも危ない子がいたじゃーん!今のうちに兵藤を完璧に骨抜きにしておかないと危ないんじゃな~い?」

 

「骨抜き...ですか...?」

 

「そうそう、骨抜き!アーシアに完全に依存させちゃえばいいのよ!」

 

「...イッセーは既にそうじゃないか?」

 

「ゼノヴィアっちシャラーップ!いい?アーシア...いくら心で繋がってるって言ってもね、人間の心はいつコロッと変わってもおかしくないのよ?兵藤だって、今はアーシアが居るから完全になりを潜めてるけど、なんだかんだエロバカ三人組の一角なのよ?ちょっと悪い女の人に誘惑されたらどうなるか分かったもんじゃないわ!」

 

「そんな事...!!イッセーさんは私だけを...」

 

「今はそうでも、何年、何十年と経てばどうなるかわからないわよ...?」

 

「そ...それは...」

 

「うわぁ...桐生さんすっごく悪い顔してるわね...」

 

「おい桐生、あまりアーシアをいじめないでやってくれ。安心しろアーシア、私はこれでもイッセーを買っている。事アーシアに関しては間違いなく信頼できる男だ」

 

「そうよ!イッセー君がアーシアさん以外に振り向くだなんて想像できないもの!二人は運命の赤い鉄製ワイヤーで結ばれているのよ!」

 

「確かにそうかもね。でも...既にアーシアの中に不安の種は撒かれたわ...!さてアーシア...愛しのイッセーさんとより深ぁく繋がりたくはないかしら...?」

 

「ふ...深くですか...?」

 

「そ...簡単な事よ...?それはね...」

 

 .........

 

「早速今晩にでも探してみればいいわ」

 

「そ...そんなに上手くいくのでしょうか...?」

 

「大丈夫大丈夫!散々煽っといてなんだけど、兵藤はアーシアの事しか見えてないから、アーシアがちょーっときっかけを作れば上手くいくわよ!」

 

「そうねー。アーシアちゃんなら絶対上手くいくわよ!桐生さんの煽り方は褒められた物じゃないけど、二人の関係を応援する気持ちは一緒よ!」

 

「そうだな。アーシア、私も応援しているぞ!」

 

「は...はぃ!頑張ります!」

 

 恥ずかしいですけど、イッセーさんが他の方に取られちゃうのは絶対に嫌だから...

 頑張ります!!

 

 ────────────────────────

 

 それはある日の夜であった。

 俺は疲れからか、リビングのソファーで眠ってしまい、夜中に目を覚ましたのだ。

 

「あぁ...体痛て。ベッドで寝直さないと...」

 

 アーシアは流石に自分の部屋で寝てるかな?アーシアの部屋お邪魔しようかな...

 俺の自室で寝ててくれると嬉しいんだが...

 なんかもうアーシア無しで眠れるビジョンが全く見えない。アーシアの温もりがないと眠れない体になってしまった...

 

 俺は階段を登り部屋の方に向かうと、俺の部屋から光が漏れていた。

 

「.....イッセーさ.......です...」

 

 およ?アーシアまだ起きてたのか?

 俺はアーシアを少し驚かせてやろうと思い、バレないように扉を開けていった。

 

 すると視界に入ったのは、俺の秘宝もといエッチな漫画を見ているアーシアの姿だった...

 

 人生オワタ

 

 えっ...ちょっとまじか。どうしよ...やばいやばい、普通に死ねるんだが?

 しかもアーシアに出会う前に、アーシアに会いたい気持ちを少しでも紛らわそうとシスター物を多く取り揃えたラインナップだ。

 更に言えば陵辱物や快楽堕ち物もそこそこあるんだが...

 あんなの見られたら死ねるぞ?

 というか引かれてジ・エンドなのでは...

 

 はわわわわわわ、どうしよどうしよ...

 とりあえず、もう少し観察するか?

 

「.....イッセーさんはこういう事をしたいのでしょうか?」

 

 したいけど!!アーシア!!落ち着いてくれ!!!

 

「はぅ...こ...こんな事も...で...でも、私これでも元シスターですから!きっとイッセーさんも喜んで...」

 

 どんな事!?どれ読んでるかわからないけど怖いよ!!!

 というか思考がだだ漏れだよアーシアさん!お口チャック!!

 

 しかし不味いぞ、アーシアの勘違いがどんどんエスカレートしていきそうだ...!一概に勘違いとは言えないけど...

 あんなの見てたらアーシアが歪んだ性知識を身につけてしまうのでは!!?

 どうやって止めればいいんだ!こんな状況陥った事ないぞ!!陥った事ある人いたらアドバイス頂戴!!

 

 そうだドライグ!!こういう時はどうすればいいんだ!!

 

『俺が知るわけないだろ...大体なんで恥ずかしがっているんだ?他人に宝を荒らされたから、激怒して殺すというなら理解できるのだが...あの娘はお前の番なんだろう?別にいいではないか』

 

 そんなドラゴン的価値観出さなくていいんだよ!!

 ここぞとばかりドラゴンアピールしやがって!!

 お前神器に馴染みすぎて最早そんなにドラゴンっぽくないだろ!!

 

『なんだと貴様!これでも俺は二天龍として名を轟かせた赤き...赤...金...おぉぉぉぉん!!』

 

 自滅して泣くなよ...

 ごめんってドライグ!でももうああいう形に俺の可能性は成ったんだから仕方ないだろう?

 

『わかっている...わかっているが無理なんだ!!頭が受け付けても心が受け付けないのだ!!んぉぉおおん!!』

 

 駄目だ...ドライグは役にたたない。

 そうだ!歴代の皆なら何か参考になる意見があるかもしれない!!

 

 ────────────────────────

 

「皆さん!!緊急事態なんです!!相談に乗ってください!!」

 

「教祖様!如何なさいましたか!!」

 

「実はアーシアに俺が隠し持ってるエロ本を見られているんです!!どう対処すべきか教えて下さい!!」

 

「....?」「別にいいのでは?」「むしろそのまま押し倒せばよいのでは?」「いいなそれ、これと同じ事をしてやるよって言いながら...ありだ...」

 

「あんたらも駄目じゃないか!!おっさん!おっさんはどうしたらいいと思う?」

 

「...見守るのみ....」

 

「困ったらそれしか言えないみたいなフリすんなよ!この前滅茶苦茶色々言ってくれてたじゃん!!今こそあの時のように的確なアドバイスを!!」

 

「.....めんどくさいから押し倒せ」

 

「えっ...すみません」

 

 急に素を出してきたな...

 ちなみにそういうのが一番怖いからね?

 

「というか教祖様。別にヤってしまってもいいと思うのですが?」「一生一緒にいると約束していますし、結婚してるのと変わらないのでは?」「これだけ愛し合っていながら、そういう行為をしていない方が不自然では?」「今時そんな律儀に守ってる人居ませんよ、大体当の本人が興味津々なんじゃないですか。いけますって」

 

「お前ら今時なんて知らないだろ!というかなんでそんなに押せ押せなの...?ついこの前俺に同調してくれたメンツはどこに行ったの?」

 

「あの精神状態のアーシア様を抱くのは反対だと言うだけで、より愛を深め合った今ならむしろ推進派ですよ?」

 

「そうなのか...?え?みんな賛成な感じ?ヤっていいのか...?むしろヤった方がいい感じ?」

 

「ヤっちゃいましょう!!」

 

 皆が俺にGOサインを出す...

 いいのか...やってしまっていいのか...!?

 うぉおお!!

 

 ────────────────────────

 

 神器から意識を浮上させる。

 ...行くか...行っていいのか?行くぞ?行くんだぞ!?

 

「...よし!少しだけ練習しましょう!」

 

 アーシアの声が聞こえる...

 そぉっと覗くと、アーシアが俺の毛布を丸めて抱き締めながら、漫画を見ていらっしゃった。

 な...何をするつもりなんだ...?

 

「イ...イッセーさんの...お...おち......で...私の...その...お...お...~~!!」

 

 アーシアは言いきれずにパタパタと暴れている!

 グッハ!!やばいやばい!!これもう破壊力がやばすぎる!!鼻から血が...!!

 なんだこの状況は!!あざとすぎるよアーシア!!

 天然でこれとかどれだけ可愛い存在なんだ!!

 そしてその毛布は俺の代役ですか!!そういう事ですか!!

 

 俺の好みを知るために俺のオカズを探して、それを真似して俺を誘惑する練習だと...!?

 見てるだけで萌え死にしそうだッ...!!

 というか...もし本当にアーシアに誘惑されたら...アーシアがエッチな事を言いながら誘惑してきたら俺はどうなってしまうんだ!??

 

「例え私の体がどれだけ穢されようとも、私の信仰まで...?私がイッセーさんに穢される...?どういう事なのでしょうか?」

 

 確かに俺とアーシアは交際している以上、陵辱系はあんまり噛み合わないよね...というかアーシアにくっ殺されたり嫌がられたら普通に悲しくなりそう...

 というか、まずい...この空間に今から飛び込んでアーシアを襲うなんてできないぞ...?

 もうこの光景を眺めているだけで限界なんだが...

 

 そもそもこれは...止めるべきなのか...?

 アーシアがエッチな事に積極的なのはむしろ歓迎すべき事なような気が...

 というかアーシアはどうやって見つけたんだ俺のお宝を...

 アーシアが探しそうにない所に置いていたつもりだったんだが...

 まさか、俺が取り出して一人で致してる所をアーシアに見られていたのか?それなら死ねますね!

 にしてもアーシアがこういう発想を得るとは思えないし...こういう時は大体桐生の差し金だ...!!

 勘弁してくれとグッジョブのスレスレを狙うゲームでもしてるのかお前は!!ありがとうございます!!

 

 それからもアーシアの練習は暫く続き...耐えきれなくなった俺は静かにリビングへと帰るのであった...

 

 無理だ...!あんな状況で入っていけるほど俺は勇気溢れる人間じゃない...!

 ごめんなさい歴代の皆さん。俺は不甲斐ない男です...

 

 ────────────────────────

 

「...セーさ...イッセーさん。起きてください」

 

「ん...アーシア...?」

 

「はい、おはようございます...」

 

 体を起こす。もう朝か...眠れないと思っていたが、そう思ってる間に眠れるもんだな...

 そうだ!アーシアがあんなことやそんなことを練習して...!うぅ...アーシアを直視できない...!

 

「イッセーさんどうかされましたか?」

 

「い、いや!なんでもないよ!おはようアーシア!」

 

「はい!」

 

 アーシアは俺の腕に抱きついてくる。

 

「昨日はイッセーさんがこちらで寝てしまわれたので、私一人で少し寂しかったんですよ?」

 

 ぐっっ!!アーシアの恐い所はこの天然のあざとさだ...!可愛すぎる!!

 昨日の練習だって破壊力は恐ろしい物だったが、これはこれで別の意味ですごい破壊力だ!!

 

「ご...ごめんアーシア。今度からは叩き起こしてくれて構わないから!一緒に寝よう!」

 

「わかりました!これからイッセーさんが他の場所で寝ていたら、きちんとベッドで寝るように起こしますね?」

 

「あぁ...お願いするよアーシア」

 

 そこからはいつものように学校に行く準備をして、登校して、部活して、修業して、悪魔のお仕事をしてといつも通りの日常が過ぎていった...

 家に帰る頃には忘れていたのだ。

 昨晩アーシアが何を練習していたのかを...

 

 ────────────────────────

 

「イッセーさん、そろそろ寝ましょうか」

 

「そうだな。明日も早いし寝るか」

 

「私、着替えてから来ますね」

 

「え?あぁ...了解」

 

 アーシアはパタパタと自室へ走っていった。

 

 俺はなんの疑いもなくベッドに入り込んだ。

 ん、ベッド?

 瞬間思い出す昨晩の出来事...

 

 やべ...なんの心の準備もできてないんだが...

 いや...流石に昨日の今日でそういう事にはならないか??

 

 アーシアが入室してくる。

 シスター服に着替えていた...

 

「ア...アーシア...?」

 

「イッセーさん...」

 

「は...はい!」

 

「私、今はもう違いますけど...元シスターなんです」

 

「そ...そうだな!」

 

「イッセーさん...私...いいですよ?」

 

「...へ?」

 

「本物のシスターにいやらしい事はしちゃいけませんけど...私は元シスターですから...私の事...押し入れの本みたいに...いえ、好きなようにして下さって構いません。なんだってします!イッセーさんになら、どんな事をされたって受け入れます...その...愛してますから...!」

 

 アーシアはそう言うと、俺の手を胸へと誘導した。

 むにゅりと存在感ある感触を俺の掌が押し潰した。

 

「アーシア!?ストップストップ!!気持ちは嬉しいけど!!急にそんな!!」

 

「イッセーさん...私じゃ興奮できませんか...?」

 

「そんなわけっ!!ないけどっ!!あのっ...婚前交渉は駄目って!」

 

「ごめんなさい...確かにあの時はそう言いましたけど...やっぱりイッセーさんと繋がりたいです...イッセーさんの全部が欲しいです...駄目...ですか?」

 

「そっ...はぁ、はぁ...!そんなこと言われたら...!!」

 

 俺はアーシアを押し倒す。

 

「イッセーさん...私のはじめて、貰って下さい...」

 

「う...おう...」

 

 ..........

 

 アーシアは疲れたようで、終わって少ししたら眠ってしまった...

 ...なんかもう...すごく良かったな...

 できるだけ優しくしたつもりだし、アーシアも最初少しだけ痛そうにしてたけど大丈夫だっただろうか...?最後にはほとんど体の緊張もなくなって良さげだったし、大丈夫と信じたい。

 ...アーシア...可愛かったなぁ...

 最初はぎゅっと目をつぶって祈るように手を組んでいたのに、だんだんそれらが緩んで、最後には完全俺を受け入れてくれた感じがもうね...最高にエッチだったね...

 アーシアは、勉強の成果を活かす余裕は無さそうだったな...俺も全然余裕なかったし、気持ちはわかる。

 にしてもそっか...ついに卒業しちゃったか...

 感慨深いような呆気ないような...

 でも...やばいな。アーシアへの愛しさが留まる所を知らない...

 眠っているアーシアの頭を起こさないように優しく撫でる。

 そっか...アーシアとしちゃったか...

 ....俺も眠くなってきたな...今アーシアから離れるとか無理だし、このまま寝よう...

 

 ────────────────────────

 

 いまだかつてない程に清々しい朝を迎えた。

 やばい...ニヤニヤが止まらない...

 そうなんだよなぁ...ついにアーシアと最後までしちゃったんだよなぁ...

 

「ん...イッセーさん...?」

 

「...アーシア...おはよう」

 

「は...はぃ...おはようございます...」

 

 アーシアが毛布に顔半分を隠して挨拶する...可愛すぎか?

 

「あ...あの...イッセーさん。その...しちゃいましたね...」

 

「...しちゃったな...」

 

「その...ありがとうございました...」

 

「むしろこちらこそ...って、なんだこの会話」

 

「すみません...その...どうしたらいいかわからなくて...!」

 

「お...俺もわからないけど...いつも通りにすればいいんじゃないか...?」

 

 なんで俺もアーシアもこんなに緊張してるんだ...?アーシアと一緒に起きるいつもの朝だってのに...

 そうですね、しちゃったからですね!

 

「そ...そうですね...!」

 

「その...アーシア...?」

 

「はい?」

 

「ありがとうな。嬉しかったよ...その...改めてこれからもよろしくな?」

 

「はい!末永くずっとよろしくお願いします!」

 



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修学旅行はパンデモニウム編
第51話。 前哨戦です、サイラオーグさん!


気がつけば50話の大台に乗っていました...
拙い作品ですが、これからもよろしくお願いします!


 修学旅行を控える現在、部長に眷属がついに全員揃ったという事でグレモリー本邸に挨拶に来ている。ついでにイリナも付いてきた。

 

 今はロスヴァイセさんが部長のお父さんに将来の展望について語っている。すごいなぁ...やっぱり色々考えてるんだな...しっかりしていらっしゃる。

 俺はもう目先の事でいっぱいいっぱいで将来なんて全然考えれてないわ...

 アーシアと結婚してずっと一緒に平和に暮らしたいなぁ...くらいのもんだ。

 

 隣に座ってるアーシアが俺の手を握ってくれた。

 同じような事を考えてるのだろうか?

 なら嬉しい...

 絶対幸せにしてやるからな...

 まぁでも悪魔の寿命ってバカみたいに長いし、他の...それこそ寿命の大半を使えるくらいの目標がないと、最後には植物みたいな生き方になるらしいからな...おいおい考えないとだ。

 

 一方部長のお母さんは、部長ほどではないが日本が好きみたいで京野菜のお漬け物がうんたらと喋っている。

 お土産で欲しいなー誰か買ってきてくれないかなーみたいな波動を感じる....

 

「あ...あの、皆で買ってきましょうか...?お漬け物...」

 

「あら...そういうつもりで言ったのではないのだけれど...ごめんなさいね、気を遣わないでよろしいのよ?」

 

「いえ...グレモリー家の皆様には大変お世話になっておりますから...」

 

「そうかしら...あまりお断りするのも無粋ですね。お願いできますかしら?」

 

「はい、質の良いものを探して参りたいと思います...」

 

 俺は部長の母親の無言の圧に負けた...

 まぁグレモリー家には滅茶苦茶お世話になってるし普通にお土産は買うんだが...

 となっては、そこらのお土産屋はまずいのかな...?

 それとも学生として身の丈に合った場所でいいんだろうか...タンニーンさんにも贈りたいなぁ...

 難しい...まぁ後で部長に聞くか。

 

 お茶会は無事に終了し、いざ帰ろうという時にサーゼクス様が実家に戻ってきたとの知らせを受けたので、そちらにも挨拶をしようという事になった。

 ミリキャス君も同行するらしい。パパだもんね。会いたいよね。

 

 部長の先導で屋敷内を歩いていく...

 にしても初日はあんなにあたふたしてたのに、この屋敷にも慣れたもんだわ。

 メイドさんや執事さんが廊下の端でお辞儀してても気にせずに歩けるようになってきた。

 アーシアもだいぶ落ち着いたもんだ...今は教会三人組で楽しそうにお話中だ。

 目的地までまだ結構距離がある。

 やべ...誰と喋ればいいんだ...?

 教会三人組はクラス一緒だし結構気軽に話しかけられるんだが、今は三人で結界を作ってるし...

 まだ話しかけやすい方の木場はロスヴァイセさんと喋ってるし...

 ギャー助はたまにツッコむくらいしかしないし...

 小猫ちゃんは逆に向こうからのツッコミくらう事が多いけど、雑談自体はそんなにしないし...

 朱乃さんなんてまじであんまり接点ないし...今は部長と話してるし...

 

 ....あれれ?俺ってもしかしなくても眷属の皆とあんまり喋ってない...?例えるなら友達の友達くらいの距離感...

 

 衝撃の事実に気付いてしまった。これは由々しき事態なのでは?

 いやまぁ所詮同僚だと言われればそうなのだが...

 グレモリーって情愛の深い眷属なんだよね?皆仲良しなんだよね?

 よく考えたら俺はアーシアを除き、今まで話しかけられてそれに答えていただけだ...それは皆が優しくてコミュ強であるというだけの事。

 こちらから話しかける機会があまりない事に気づいた...

 アーシアや修行にかまけて、あまり積極的に会話をしてこなかったのだ...ぬおお...

 あれ?あれあれ?俺まじで全然自発的に話しかけに行ってなくね?

 こういう時どうしてたっけ?アーシアが居てくれたんだったね。アーシアが居なくなると途端に俺はこうなってしまうのか...

 やばい...ちょっと心が辛くなってきた...

 なんか...話しかけられたり、ハイになる事ができればある種何かを演じる感じですいすいおしゃべりできるんだが、ローテンションだと一気に陰気な本性が出るんだよな...

 なんでだろ?

 

「イ...イッセー先輩どうしたんですか...?」

 

「ギャスパー...いや、眷属の仲間に話しかけるのですら、少し躊躇っている自分がいる事に気付いて少しな...」

 

「!...ぼ...僕もです!皆で歩いてるのに、誰に何を話せばいいのかなって...少しイッセー先輩の様子が変だったんで、これなら話題が作れるかもって...!!」

 

「ギャスパー...!お前も...そっか、仲間がこんな所に!!そうだよな!こういう団体移動って難しいよな!俺アーシア居なくなったらどうすればいいかわからないもん!」

 

「はい!難しいです!!わぁ、イッセー先輩もそういう事で悩むんですね!僕、てっきりイッセー先輩はそういうのに縁のない人だとばかり...!!」

 

「いやいや、ちょっと自分でもネジ飛んでるなと思う時はあるけど、根っこの部分で陰気な所もあるんだぞ?まぁあれだよ、初対面より下手に顔見知りの方が話しかけにくい理論だ...」

 

「わかりますわかります!!はぁ...すごく親近感が!」

 

「ギャスパー!!俺もだ!!」

 

 俺達は漢の握手を交わした。

 陰キャって二人居て、それが仲良くなったら無敵なんだよな...

 これからはギャスパーに積極的に話しかけよう。共依存陰キャ同盟を結成するのだ...!

 

「イッセー...ギャスパー...」

 

 部長に可哀想な子を見る目で見られた。

 他の皆からも残念な子を見る視線が注がれる...

 

「うっ...へんだ!俺にはギャスパーがいるもんね!」

 

 俺はギャスパーを抱きしめて陰キャ同盟を誇示する。

 

「ごはっっっ!」

 

「......ギャー君に変なこと吹き込まないで下さい」

 

 小猫ちゃんに横腹を殴られた...

 

「イッセーさん!」

 

「ぬぉっ!」

 

 殴られて怯んでいる俺にアーシアがタックルをかます...

 

「ア...アーシア?」

 

「イッセーさん...私だけじゃ満足できませんか...?」

 

 涙目でそんな事を尋ねてくる。

 どういう事...?あれですか?ギャスパーが見た目美少女だから、俺が取られるみたいな...?

 なんだそれは可愛すぎか??

 え...?尊死する。

 

「アーシア...!いえ!アーシアだけいれば満足です!!」

 

「イッセーさん!」

 

 アーシアとぎゅっと抱きしめ合う。好き...

 

「僕はアーシアさんにも問題があると思うんだ...」

 

「なんというか、あそこまで行くと羨ましいとか以前ですね...いえ...でもやっぱり羨ましい...くっ!」

 

 木場とロスヴァイセさんが語る。

 

「ちょっと!今からお兄様に会いに行くんだからそろそろ皆気を引き締めなさい!」

 

 部長に怒られる事でようやくグダグダの空間が落ち着いた。

 流石部長...なんか部長っていうより引率の先生みたいだな...ごめんなさい幼稚園児で...

 

 部長に一瞬睨まれた...ひえっ...失礼な事考えてすみません...

 

「お姉様の眷属の皆さんは面白い方々ですね!」

 

 ミリキャス君が楽しそうだからいいや。

 ...........

 

 ようやくサーゼクス様のいらっしゃる場所に到着した...っと、サイラオーグさんも居る!

 

「お邪魔している。元気そうだな、リアス。っと、赤龍帝も居たのか、久しぶりじゃないか」

 

 挨拶してくれる...嬉しい...

 

「お...お久しぶりです!!サイラオーグ様!!」

 

 挨拶の後は、部長とサーゼクス様、サイラオーグさんで会話を交わしている。

 やっぱりサイラオーグさんは強いな...

 戦闘態勢じゃないのに、生命力が漲っている...

 戦いになったらバイデント込みでトントンくらいかもな...

 そして、サイラオーグさんにも禁手化(バランス・ブレイカー)がある...

 使われたらまず負けそうだけど、それ込みで勝ちたい...正直禁手化(バランス・ブレイカー)無しのサイラオーグさんと戦うだけならそれほど価値はないだろう。全身全霊でこそ価値があると思う。すっげぇ調子に乗った事考えてる気がするが、多分間違ってない。

 それに女王の駒が覚醒するとしたら、やはり禁手化(バランス・ブレイカー)したサイラオーグさんとの戦いだと思う。これは確信だ。最近の俺の予感はよく当たるからな...

 今までの強敵は、大体油断してたり、俺が特効武器を持っていたりで、まともに勝ったことがないんだよな...

 そういう意味でもサイラオーグさんは決して油断をしない。特効武器もない。初めてガチンコ勝負をする強敵...

 そんなの勝ちたいに決まってる。

 

「軽くやってみたらいい。天龍の拳、その身で味わいたいのではないかな?」

 

 へ?まずい聞いてなかった...

 

「魔王様がおっしゃるのでしたら、断る理由はありません。イッセー、いけるわね?」

 

「は...はい!」

 

 俺はよくわからないがとりあえず答える。

 

「では、私に二人の拳を是非みせておくれ」

 

「存分にお見せいたしましょう、我が拳を!!」

 

 サイラオーグさんが好戦的な笑みを浮かべる...

 

 あああああこれ!!サイラオーグさんとの前哨戦か!!!...まぁいい!ちょっと心の準備ができてないけど、俺もサイラオーグさんと軽く手合わせしたい!

 

 ────────────────────────

 

 いつものトレーニングルームで戦うようだ。

 ここって、グレモリーだけの秘密の特訓場所じゃないの?いやいいんですけどね、別に見られて困るものはないし...

 

 サイラオーグさんは上着を脱いで、アンダーウェアの戦闘モードだ...

 普通の服の下にアンダーウェアって野球部みたいな人だな...

 

「ドライグ」『任せろ』

 

 俺はカウントダウンを始める。

 神器(セイクリッド・ギア)が弄られてドライグの本来のオーラが解放された事で、俺は現在カウントダウンは10秒になっている。もはやあってない物だな...

 神器(セイクリッド・ギア)がテン!ナイン!エイト!とうるさい。何故か10秒になってからカウントに音声が入りはじめた...謎だ...

 

『One....!』

 

『Welsh Dragon Balance Breaker!!!』

 

 紅蓮のオーラが体を包み、俺は鎧を纏った。

 今回の戦い、俺はアーシニウムエネルギーは使うつもりがない。サイラオーグさんだって術式で体を縛ってるんだしお互い様だ...こんな場所で実力全ては見せられない。

 というか俺がいつも使ってる術式ってサイラオーグさんが使ってるのと同じなんだろうか...?似てる気がする...

 意外な事に気付いてしまったな...

 

「どうした、来ないのか?」

 

「すみません...行きます!!」

 

 俺は紅蓮のオーラを解放する。

 

『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost!!!』

 

「ほう...これが赤龍帝か...見違えるほどにオーラが増大したな」

 

 俺はブースターを吹かせて突撃する。

 サイラオーグさんは動かない。

 

 くっそ!!初撃は受けてやるってか!!?

 やってやる!!

 

「だらぁぁぁぁぁあ!!!」

 

 サイラオーグさんの腹に拳をぶちこむ!!鈍い音が響く。

 

「ぐっっっっ!!....いい拳だ!」

 

 サイラオーグさんが俺を殴りかえす。

 俺は咄嗟に逆の腕を挟むが、圧倒的な威力によってそのまま吹き飛ばされた。

 

「ぐぉぉぉぉおお!!!」

 

 少し転がってすぐに立ち上がる。

 ぐっ...左腕が砕けそうだった...

 鎧を砕いた所で衝撃はある程度削られたらしい...

 すぐに鎧を修復する。

 

『恐ろしいほどの破壊力だな。これほど極端に破壊力を追求した拳...面白いじゃないか。なぁ、相棒』

 

 面白くねぇけど気持ちはわかる!!

 くそ...やっぱり素の俺では完全に劣勢だな...

 

「部長!許可ください!」

 

「許可するわ!」

 

「プロモーション、騎士!!」

 

 普通のプロモーションもアーシアにしてもらった方が強くなれるけど、流石にここでやるのはいかんでしょ。

 悪魔の駒(イーヴィル・ピース)のルールフル無視ですもん。ミスミス情報を渡すつもりはない。

 ほんとは戦車で攻防を上げたい所なんだが、サイラオーグさんの恐ろしいところはそのスピードだ。

 見失ったら一瞬で致命的な一撃を入れられる。

 それなら騎士で速度をあげて、ついていくしかない。

 

「騎士だと...?」

 

 サイラオーグさんは怪訝そうな顔をする。

 

「行きます!!」

 

 俺は再びサイラオーグさんに突撃して攻撃する。サイラオーグさんは避ける事無く真正面からの打ち合いになる。

 腕で防御される。殴り返される。

 もう片方の腕で防御する。

 一発一発にやばいくらいの威力が込められていて、鎧が治りかける度に破壊される...腕ももうボロボロだが...!連打についていけてる!致命的な物はまだ受けていない!!

 俺だって攻勢に出てる...今の所は俺が少し劣勢くらいだ...!

 嵐のような攻防が続く...

 お互いの顔面を殴って、一旦離れる。

 

 やっべ...顔面の一発で視界が白く飛んだ...

 腕もなんとか形を保っているし骨は無事だが、肉が結構ぐちゃぐちゃだな...

 

「なぜ、騎士になったんだ...?女王や戦車ならまだ理解が示せるんだが...」

 

 サイラオーグさんが尋ねてくる。

 

「俺があなたに関して一番警戒してるのはそのスピードです。殴り合いならまともに受けなければなんとか戦える。現にあれだけの殴り合いを腕二本半壊で切り抜けられました...」

 

「なるほど...?ならば要望に答えて、俺のスピードも見せてやろう」

 

 サイラオーグさんが俺の後ろに回り込もうとする。

 ついていける!!

 俺はブースターを吹かせて横を走るサイラオーグさんに蹴りかかる。

 

「ぬっっ!!」

 

 普通に防御された。が関係ない!

 

『Transfer!!』

 

 俺はドラゴンショットを生成して譲渡、発射する。

 

「ぬぉおおお!!!」

 

 サイラオーグさんは至近距離にも関わらず、見事に対応して拳で俺のドラゴンショットを消しきった。

 なんだそれは...

 

「なるほど...きちんと俺のスピードに対応したようだな。あながち騎士という選択も間違いではなかったらしい。カウンターも食らってしまった」

 

 拳から煙が出てるだけにしか見えませんけど...

 

「ふむ...ここからが本番だ!と言いたい所だが...この勝負はレーティングゲームまでお預けにしよう。これ以上やっては最後まで楽しんでしまいそうだ」

 

「......そうですね...本番が楽しみです!」

 

「あぁ...俺も俄然楽しみになってきた。ついこの前とは見違えるようだ。それに、まだまだ隠している力があるんだろう?」

 

「サイラオーグさんも...ですよね?」

 

「当たり前だ...よし、次こそは本気で...最後まで殴り合おう!兵藤一誠」

 

「...はい!」

 

 サイラオーグさんが俺に拳を向ける。俺はそれに拳を合わせた。

 めっちゃ優しい...嬉しい...

 これが陽キャパワー...

 

 結果としては、俺が腕半壊、サイラオーグさんは特に怪我なし...

 やっぱりサイラオーグさんが一歩先を行ってるな...

 けど、今日殴りあってわかった。勝てない相手じゃない...

 滅茶苦茶強いけど...希望はある。俺でも届く。

 まぁ問題は禁手化(バランス・ブレイカー)なんだが...

 でも、やっぱり負けてもいいから全力の獅子王と戦いたいな。

 

 アーシアがこちらに駆け寄って俺を治癒してくれる。ふう...やっぱりアーシアの治癒は極楽だ...

 

「うん、もう大丈夫。ありがとうアーシア」

 

「いえ!イッセーさんの為ですから!」

 

 そうこうしているとサイラオーグさんが服を拾って着た。

 

「再び相見えよう、リアス、リアスの眷属達。次に会うのは夢をかけた舞台だ。来い、俺は全力でお前達を打ち倒す!」

 

 サイラオーグさんはそう、かっこよく語ると去っていった。

 かっこよすぎんか...?

 でも、だからこそ勝つ!!

 

 俺は決意を新たにした!サイラオーグさんとの闘い!何が何でも勝ってみせる!!サイラオーグさんの夢に俺の夢が負ける道理はねぇ!



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第52話。来ました、京都!

 グレモリー家から帰還した次の日の夜、いよいよ修学旅行前夜である。

 俺はいつものようにアーシアとベッドで横になっていた。

 

「アーシア、ちゃんと荷物は確認したか?」

 

「はい!ばっちりです!イッセーさんも大丈夫ですか?」

 

「おう、二回確認したからな!まぁ何かなかったとしても最悪現地でどうにかできるとは思うけど...」

 

「楽しみですね...修学旅行!」

 

「そうだなー...京都かぁ...」

 

 前世では沖縄だったからなぁ...

 3泊4日も京都でやることがあるのか?と一瞬思ったけど、予定を立て始めたら案外足りないくらいとわかったんだよなぁ...流石は京の都。

 

「日本での旅行は初めてなので、すごく楽しみです...」

 

「そうだな!いろんな所回らないと!」

 

「はい!」

 

「明日の為にも今日はもう寝ないとな」

 

「そうですね...おやすみなさい...」

 

「ん、おやすみ...」

 

 チュッと軽くキスをする。

 そう、最近はおやすみのチューをしてから寝ているのだ。おはようのチューもする。そういう事もかなり自然にできるようになってきた。バカップルも板についてきたな...

 アーシアといつも通り抱きあって眠る。

 もちろん今日はしないけど、アーシアとベッドに入る際にエッチするという選択肢が存在するのが嬉しすぎる...

 まずい...そろそろ落ち着かないとアーシアに嫌がられるかもしれんし、もうちょっと余裕を持たなければ...

 

 ────────────────────────

 

 無事、朝を迎えて余裕をもって家を出た。

 やっぱり旅行とかは余裕のある計画を立てるべきだよな!

 人生の計画も余裕を持ちたいのですが、これから出てくる強敵の皆さん勝手に死んでくれませんかね...ダメ?ダメだよなぁ...はぁ...

 

 バスとか使って、現在集合の東京駅の新幹線ホーム。

 グレモリーメンバーはホームの隅の方に隠れるように集まっている。部長が京都の神聖な場所の悪魔用フリーパスを配布してくれるのだ。部長が居ることバレたらちょっとまずい。

 なら前日に渡したらいいのにとは思うが、万が一忘れたり紛失したら、洒落にならないとのことだ。ごもっともすぎる。

 

 そうなんだよな...アーシアと気軽に旅行って言っても下手な場所に行ったら問題が発生するってのが若干めんどくさいんだよな...

 まぁ一番は行く暇がないって所なんだが...

 

 といった所でアーシアの携帯が鳴った。

 桐生から集合の連絡が来たらしい。

 

「じゃあ、いってらっしゃい皆」

 

 部長が送り出してくれたので、皆で手を振って別れる。

 

 ────────────────────────

 

 新幹線が動き出した。

 俺は一番後ろの席で、前に松田や元浜。通路の向こう側にゼノヴィアとイリナがいる。

 アーシアは桐生と一緒にゼノヴィア、イリナの前に座っておる。

 あぁ...俺一人...悲しい...

 まぁしょうがない。桐生とのアーシア争奪じゃんけんで負けてしまったのだ...なんでさ。

 

 俺は一人寂しく睡眠の準備に入った。首にかけるタイプのクッションを持ってきているし、きっと快眠だ...というか寝ないと寂しくて死ぬ。

 

 といった所で肩を叩かれた。

 

「ん?...おぉゼノヴィアか」

 

「あぁ、実は今、私はデュランタルを天界経由で錬金術師に調整してもらっていてね...丸腰なんだよ」

 

「そうなのか?」

 

「そうなんだ。それでだね...」

 

 妙によそよそしいな。なんだ?

 

「...あぁ!有事の際にアスカロン貸して欲しいってこと?オッケーオッケー。そんなに気にしなくてもいくらでも貸すって、俺より使いこなせるだろ?」

 

「すまないな。いつもあの剣を借りてしまって」

 

「いいよいいよ。どうせ貰い物だし、ドラゴン相手でもなかったら俺が活用するタイミングねぇからな。ゼノヴィアが是非使ってやってくれ」

 

「そういってもらえると助かるよ。じゃあ」

 

 そう言って去っていった。

 いや、別に長居されても困るけどあまりにも友人としての世間話すらなくてちょっと悲しく...

 

 まぁいいや寝よ...

 

 いい感じに眠れそうになったその時、再び肩が叩かれた...なんだよ...寝たいってのに...

 

「隣いいかな?」

 

「ん...?木場?あぁ...大丈夫だけど」

 

「向こうに着いたときの行動を聞きたくてね。一応有事の際にどこにいるか知っておきたいんだ」

 

「なるほど。ほら、これが予定表。写メ取るか?」

 

「そうさせて貰うよ。一応僕の所のも取るかい?」

 

「そうだな、取らせてもらっとくわ」

 

 パシャパシャと撮影する。

 

「うん...この予定だと3日目は渡月橋辺りで会えるかもね」

 

「そうだな、まぁ会えたら合流とかしてもいいかもなー」

 

「そうだね」

 

 沈黙が流れる...

 

「そっ...そういえばさ!サイラオーグさんとの戦い、外野から見た感想とかってあるか?」

 

「そうだね...君の鎧をも容易く破壊する彼の攻撃力は正直脅威的の一言だね。スピードも、最後にみせたあれは相当な物だった。一対一でまともに戦える眷属は多分キミくらいのものだと思うよ...僕じゃ防御力があまりにも足りない...」

 

「...でも木場は全部避けるつもりで修行してるんだろ?防御は考えなくていいんじゃないか?」

 

「そうだね、理想を言えばそうだよ。ただまぁ道は長いけどね。そういう意味でも是非これからも僕と模擬戦をしてほしいな。君との戦いは毎回得るものが多いんだ」

 

「俺もだよ、今まで戦ってきた中で一番やりにくいのがお前だからな。ちょっとムカつくくらい攻撃当たらないし...」

 

「ハハ、これでもこちらはヒヤヒヤしてるんだよ?一発でも貰えば致命傷になりかねないからね...」

 

「アーシアがいるから大丈夫だ。遠慮なく殴られてくれ...」

 

「残念だけど、お断りさせてもらうよ。それじゃ、いい修学旅行にしようね?」

 

 木場は困ったようにはにかんで、帰っていった。

 

 .....寝るか...。

 いい感じに話しかけてもらって寂しさも紛れた。

 これで現地まで気持ち良く寝れるだろ...

 

 .....

 

「んん...あぁ良く寝たな...今何時だろ...」

 

 腕時計を確認しようとすると、腕が重かった。

 

「ア...アーシア!?」

 

 アーシアが何故か俺の腕に捕まって寝ていた。

 

「んぅ...イッセーさん?...おはようございます...」

 

 アーシアが目を擦って起き出す。

 

「お...おはよう...桐生の所じゃなかったか?」

 

「はい...そうなんですけど、こういう乗り物に乗る機会があまりなかったものですから、寝ようにもなかなか寝付けなくて...」

 

「それで俺の所に...?」

 

「はい、イッセーさんとならどこでも寝られそうです!」

 

 なんだそれは...かわいすぎか...?

 俺もアーシアとならどこででも寝られそうだ!!

 

「それで俺も快眠だったんだな。俺だって座りながらぐっすり寝れるわけじゃないぜ?」

 

「そうなんですか?...なら、良かったです」

 

 そういって俺の腕をぎゅっと抱きしめてくれる。

 はぁ可愛い。

 

「あっそうでした!これを渡しにも来たんです!」

 

 アーシアが鞄から取り出したのは可愛らしいプラスチックの箱だった。

 開けたらおにぎりが3つ入ってた...神かな?

 

「あの...イッセーさんもしかしたら食べるかなって思っておにぎり握って来たんです...」

 

「食べる!すっげぇ嬉しい!丁度小腹が空いてたんだよ!」

 

「ほんとですか?じゃあ...よいしょ...はい、あーん」

 

 アーシアがラップを取って俺にあーんしてくれる。

 アーシアも一緒になってあーんって口開けてるのが可愛すぎる...

 

「あーん...ん!...うまい!流石アーシアのおにぎり!塩加減も抜群!」

 

「まだありますから、いっぱい食べて下さいね?」

 

 アーシアが微笑みながらそう言ってくれる...

 幸せだぁ...こんな幸せがあっていいのでしょうか...

 なんでもないことが幸せってこういうことなんだろうなぁ...

 

 勿論全部食べた。ただ流石にちょっと腹が...まぁアーシアのおにぎりと自由行動での昼飯ならアーシアのおにぎりに一瞬で軍配が上がるので、全く問題ないけど。

 

 ふと前を見ると松田と元浜から怨嗟の視線を感じた...

 悪いな...いくら世界広しと言えど俺より幸せな人間はこの世に居ないのだよ。

 なぜならアーシアは世界に一人で、その彼氏が俺だからな!アーシアと恋人であることよりも幸せな事を俺は知らない。

 

 ────────────────────────

 

 アーシアとイチャイチャすることしばらく、無事京都駅に到着した。

 教会三人組はとてもはしゃいでいる。

 まぁでっかいもんなぁこの駅...ここらへんは前世の記憶とそう変わらないようで安心するようなしないような...

 桐生が引率してホテルへと向かう。

 こういう時まとめ役の女子ってすっごい頼りになるよね。

 京都駅を出て歩くこと数分、早速ホテルに到着した。

 

「京都サーゼクスホテル...」

 

「すぐそこにあるのは京都セラフォルーホテル...」

 

 そんなコンビニみたいな戦い方しなくても...

 なんでコンビニってすぐ近くに二件立ったりするんですかね?

 

 ホテルに入ると、バカ二人と桐生は驚いていた。

 まぁすっげぇ豪華だもんな。

 でも俺達はグレモリー本邸のせいで変に耐性付いちゃったよ...

 

 ホテルのホールで先生からの注意事項を聞く。

 ロスヴァイセさんが百均について熱弁する。

 気持ちはわかるけど...案外百均の方が割高な物ってあったりするんだよなぁ...

 そうでなくても脆かったり、まぁ場合によりけりなだ。

 もちろん基本はお買い得だし、わりと俺も利用するけど。

 

 その後皆が鍵を受け取っていく。皆は担任の先生から受け取ったのに、俺だけアザゼル先生からだった。

 まぁ理由は知ってる。俺だけ謎の小さい和式部屋なのだ。

 まぁいいよ、畳好きだし。旅行くらいしか布団で寝る機会ないし。

 嘘です...一人寂しい...無理...

 最近はずっとアーシアと寝てたから、アーシア無しで眠れるだろうか...

 

 当たり前のように松田と元浜に弄られた。それはもう日頃の恨みを晴らすかのようにお部屋マウントを取られた...ぐぬぬ...

 

 荷物を置いて落ち着くこと暫く、元浜に伏見稲荷に行こうと言われた。

 本来予定にない行動はしてはいけないが先生の了承も取ったから行こうぜとの事だ。柔軟な対応だ...

 

 ..........

 

 現在千本鳥居を潜りながら進んでいる。

 元浜は死にかけだ...運動しろよ運動...

 桐生がちらほらと豆知識を披露してくれる。こういう奴いると観光が楽しいよな...

 

 皆でてっぺんまで歩ききった所で、どこかから強い害意を感じた。

 他の皆も感じてるらしい。

 

「悪い!ちょっと俺行くところあるから!ここで待っててくれ」

 

「あっ...私も行きます!」

 

 アーシアがついていてくれるらしい。アーシアが居ないとプロモーションできないしありがたい。

 

「それじゃ、ゼノヴィア、イリナ、頼むぞ」

 

「あぁそちらも気を付けてな」

 

 流石に一般人も居るのに攻撃はしてこないだろう。

 俺とアーシアだけ離れれば来るはずだ。

 

 森の中に入って少々、声をかけられた。

 

「貴様、余所者だな...?かかれっ!」

 

 獣耳のロリが叫ぶ。九重か...のじゃロリ...のじゃ口調だったっけ?やべぇ思い出せない。

 天狗と狐のお面の神主が何人も襲いかかってくる。

 

「母上を返せ!!」

 

「なんの話だ!俺達は関係ないぞ!」

 

 神器(セイクリッド・ギア)を起動する。

 

『Boost!』

 

 俺はアーシアを背に、攻撃してくる敵を殴り飛ばす。

 本当なら皆で戦いたかったんだが、桐生や松田、元浜がいる以上、最悪あいつらを守れる人材も必要だ...

 俺とアーシアはプロモーションなどの関係でセットだし、実質動けるのが三人ならあいつらを守るのが優先だ。

 余裕はないから少し乱暴になるけど、向こうから襲いかかってくるんだから知ったこっちゃない...

 

「不浄なる魔の者共め!神聖な場所を穢しよって!!」

 

 一対一では敵わないと理解したのか、複数で連携攻撃をしてくる。

 

「ぐっ...すまんアーシア、きつくなってきた!」

 

「はっ...はい!イッセーさん、許可どうぞ!」

 

 アーシアが俺にプロモーションの許可をする。

 

「おし、プロモーション、騎士!」

 

 体に力が入り、動きやすくなる感覚がした。

 俺は全力で動きまくって、タックルからパンチやらキックやらなんでもありで敵の数をどんどん減らした。

 

「....撤退じゃ。おのれ!邪悪なる存在め!母上は必ず返してもらうからな!!」

 

 そういって、俺が気絶させた奴らを回収しながら逃げていった。

 やっぱのじゃ口調で合ってたな。

 

「な...なんだったのでしょうか...?」

 

 アーシアが困惑している。

 

「わからない。ただまぁ母親が拐われて、俺達が犯人と間違えられたって感じじゃないかな?」

 

「あの子大丈夫でしょうか...」

 

「俺達は襲われた側だぞ?アーシアは優しいな」

 

「いえ...でもあんなに焦っていらっしゃいましたし、少し心配です...」

 

「まぁ、ひとまず後で報告するとして、今は皆と合流しよっか」

 

「はい」

 

 ────────────────────────

 

 合流した後は、ホテルに戻るまで何事もなく時間が過ぎていった。

 現在晩飯を食い終わった所だ。美味しかったです。

 

 オカ研メンバーで俺の部屋に集まったので、今回の事を話した。

 アザゼル先生やロスヴァイセさんは困惑してた。

 そりゃちゃんと向こうから了承貰った上での観光なのに襲われちゃあな...

 

 とりあえずは様子見するという事で決定した。



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第53話。 入ります、裏京都!

 夕食から時間がたって、そろそろ風呂に皆入り終えたかなといった時間帯にアザゼル先生から連絡があった。

 

 セラフォルー様にお呼び出しされたのだ。

 料亭に居るらしい。

 ホテルから皆で抜け出すと、料亭に入ってアザゼル先生の先導の元、セラフォルー様のいる部屋へと歩いていく。

 

「ハーロー!リアスちゃんの眷属の皆、ひさしぶりー☆」

 

 着物着て、雰囲気はいい感じなのになお薄れてしまう威厳...和服なのが相まってなおキツいな...

 着物似合ってるのに漂うこのキツさの正体はなんなんだ...

 

 あーアーシアが和服着てくれないかな...絶対似合うのになぁ...和服のアーシアと京デートしたい...

 

 匙含め会長眷属の二年生も集合して、料亭料理を楽しむ。アーシアも流石にこういう所ではあーんしてくれない...悲しい...まぁ美味しいからいいや。

 ってか今日1日何食してるんだ俺は...

 結局アーシア謹製おにぎりを食った後も、皆との昼飯普通に食ったし...5食か...まぁいいや。天狗とか相手に動いたしセーフ。

 

 それからしばらく、セラフォルー様が京都に来た理由を語りだした。

 京都の妖怪と協力体制を敷くために来たのだそうだ。そして、九尾の御大将が行方不明な件も語られた。

 アーシアがはっとした顔をする。

 そういう事なんだよな...

 

「ここのドンである妖怪が拐われたってこった。関与したのは...まぁまず間違いなく禍の団(カオス・ブリゲード)だろうさ」

 

 アザゼル先生が言った。

 

 大正解。曹操...戦いたくねぇ...

 黄昏の聖槍(トゥルー・ロンギヌス)の持ち主...やばいぞ!能力あんまり覚えてないな...

 確か、禁手(バランス・ブレイカー)が亜種で、七種類の球体があって...破壊力あるのと、攻撃を別の敵に受け流すのと、女の能力を封じるのと...やべ...後4つ忘れた...

 後は覇輝(トゥルース・イデア)とかいって、聖書の神の意思によって曹操に都合のいい効果が現れるんだよな...

 能力多すぎるんだよ...しかも聖属性だから俺達悪魔はダメージでかいし。

 くっそ...最低でも足止めは出来ないとといけないんだぞ...?

 

「まぁ、お前らにとっちゃ貴重な修学旅行だ。俺達大人がなるべくどうにかするから、今は京都を楽しめよ」

 

 考え事してたら話が進んでいて、アザゼル先生がそう言ってくれていた。

 そうだな...今はとりあえずその時が来るまで素直に旅行を楽しむしかないだろう。

 アーシアと京都で旅行できる機会なんて次にいつあるかわからないしな...

 

 ────────────────────────

 

 昨晩はアーシアが居なくて、とても寂しかったがなんとか寝ることができた。

 そして翌日の朝、俺はアーシアとホテルの屋上に来ている。

 いつもの如くトレーニングだ。アーシアはマネージャーしてくれる。ありがたい...とはいえ、筋トレはそこそこで今は魔力で物を操作する感覚の育成に重点を置いている。

 ファンネルを突撃させて、ゼロ距離でビーム発射とかしたいからな...

 ドライグの為にも早く操作の魔力を物にしないと。

 

 俺の魔力の使い道として選ばれた操作は今のところ、対象に触れて魔力のマーキングをすることで操作できるようになる代物だ。ただし大きい衝撃を受けると解除されてしまう。またマーキングの耐久度に関しては操作する物の耐久性によってマーキングの強度が変わる...といった感じだ。俺のオーラで出来ている物ならそのまま操作できるけど、他の物質は一回触らないといけないのがめんどくさい。

 今は四つのボールを操作している。

 俺の体の回りをクルクル高速移動させる。

 今の所自分に近ければ近いほど操作力が上昇して、最大射程が15m程度だ...

 まぁ譲渡して強化すれば使い物になるかもしれない...

 後、一つ操作するのに、腕一本動かすのと同じくらい思考に負荷がかかるので、戦闘中に使おうと思ったら最大腕8本同時に動かすくらいの集中力が必要だ...

 まぁ全部同じ動きさせたらもっとマシになるから一概には言えないけど...

 多分今の感じだと、自分も全力で動きながらだと2パターンまでが操作の限界だな...

 

「イッセーさん、そろそろ休憩しますか?」

 

「ん?あーそうだな...体力はいいけど、ちょっと頭使いすぎて疲れたかも...」

 

「じゃあ...はい、どうぞ!」

 

 アーシアが女の子座りして手招きする。

 

「それは...膝枕という事でしょうか...?」

 

「はい...その...昨日はイッセーさんと眠れませんでしたから...」

 

 俺とイチャイチャしたいという事でしょうか!?

 なんだそれ最高かよ可愛すぎかよ興奮してきた!!

 

「じゃあ...失礼しまーす...」

 

「はい、どうぞ」

 

 アーシアの柔らかい太ももに頭を乗せる...

 あぁ...天国...

 

「寝心地いかがですか?」

 

「最高...好き...」

 

 俺は体を反転させてアーシアのお腹に抱きつく。

 あ──...アーシアの匂いが...体温が...俺を包む...

 

「きゃっ...もう、イッセーさんは甘えん坊さんですね」

 

 そう言いながら俺の頭を撫でてくれる。好き...

 

「これは邪魔しちゃったかな?」

 

 声が聞こえたのでそちらを向くと、木場とゼノヴィアがいた。

 

「おぉ、木場、ゼノヴィア。おはよう」

 

「おはようございます」

 

 俺はアーシアに抱きついたまま挨拶をする。

 離れられない...重力場が形成されてる...

 んおぉ...アーシアが立ち上がろうとするから離れるしかなくなった...

 

「そうだ、ゼノヴィア。有事の時はこれを使うといいよ」

 

 そういって木場はゼノヴィアに短剣を渡した。

 

「ふむ、これなら鞄に隠せるな。ありがとう」

 

「イッセー君やアーシアさんもいるかい?」

 

「俺はいいや。自分の体があるし」

 

「私も、イッセーさんが守ってくれますから」

 

「アーシア!絶対指一本触れさせないからな!」

 

「はい!」

 

「ハハ...この二人は平常運転で安心できるね」

 

 木場が苦笑いしていた。

 

「あー、ここに来たって事は朝トレ?」

 

「うん。そうだ、イッセー君。軽く模擬戦しようよ」

 

「いいけど、俺ちょっと操作の実戦練習もしたいから中途半端になるかもだぞ?」

 

「構わないよ。どのみちここじゃあ全力は出せないからね」

 

「うし、じゃあやるかぁ」

 

「私も参加していいかな?」

 

 ゼノヴィアが木刀を振り回す。

 

「おっゼノヴィアも来るか?...じゃあさ!三つ巴で戦おうぜ。俺は動きながらボール操作するから、それが当たったやつは負け。お前らは剣で攻撃して当たった奴は負け。どうだ?」

 

「うん、いいよ」「問題ない」

 

「よし、じゃあアーシア、スタートの合図よろしく」

 

「はい!じゃあ...よーい...どん!」

 

 アーシアの合図と共に俺達は動き出す。

 俺は二人から離れながらボールを操作して二人の体を狙うが見事に剣で切り払われる。

 

「ふっ!」

 

 あぁ!全部切り落とされた!速すぎる!!

 

「これでイッセー君は丸腰だね」

 

「まずは一人やっておくか」

 

「おいおい!寄って集ってひどいぞ!俺はお前らの戦いにボールで茶々を入れようと...」

 

「問答無用!」

 

 ゼノヴィアが斬りかかって来る。

 ただまぁ手加減してるの込みでゼノヴィアの振りはかなり大きいので良く見ればギリギリ避けれる。

 デュランダルだったらこうはいかないけど、ただの木刀だからな...

 

「ふっ!ほっ!とっ!」

 

 俺は三連撃を避けきってゼノヴィアの足元を転がりながら通過する。

 切り払われたボールにタッチ!

 すぐさま体勢を整えて二人から離れる。

 

「くっそ...やっぱりなかなか上手くいかないな...接近して使わないと操作が覚束ない...」

 

 木場がゼノヴィアに斬りかかる。

 やっぱりこの二人で戦うと木場が有利なんだな。

 まぁあくまで同じレベルの剣で戦うならって話だが...

 

 俺も二人の方に駆け出す。

 二人の後ろを通して、こちらからもボールを操作して挟み撃ちの形にする。

 二人とも対応するが...

 よっしゃ!ゼノヴィアには当たった!

 まぁ今のは木場が上手かったな...

 俺のボールを切り払うついでにゼノヴィアに攻撃をいれてたからゼノヴィアの防御が崩れた。

 

「くっ...油断した...」

 

「...これで君と一対一だね」

 

「あぁ...行くぞ!」

 

 一瞬で一発入れられました。

 木場が強すぎる...まじこいつ禁手化(バランス・ブレイク)前提の強さだわ...

 

「僕の勝ちだね。うん、そろそろいい時間だしお開きにしようか」

 

「そうだな...行こうぜアーシア、ゼノヴィア」

 

「あぁ...」「はい」

 

 運動した後の飯は格別に美味しかったです。

 バイキングだったので、ついついいっぱい取ってしまった...でもアーシアがあーんしてくれたのがとても幸せだった...

 

 ────────────────────────

 

 現在清水寺に向かっている。

 道中の坂道で桐生が

 

「この坂は三年坂って言って、転んだら三年以内に死ぬらしいわよ?」

 

 などと言ったせいでアーシアが大層怖がってしまった。俺に抱きついてくれたのでグッジョブだ...

 最悪アーシアが転けそうになったら俺が転けてでもアーシアは転けさせないぜ...

 俺はアーシアをぎゅうっと抱き寄せて歩く...

 ゼノヴィアも怖がってイリナに引っ付いていた。

 

 清水寺の舞台に行った後、境内にある小さな社に向かった。

 

「兵藤、アーシアと恋愛くじやってみたら?」

 

「えぇ...俺おみくじとかはあんまりなんだが...」

 

「なに?アーシアとの相性が悪いかもしれないってビビってんの?」

 

「ビビってないが!?相性抜群なんだが!?よし、アーシア!目に物見せてやるぞ!!」

 

「はい!」

 

 一緒にくじを引いた。

 

「ほらなー!大吉!将来安泰!永遠のパートナーですだとよ!当たり前だろ!アーシアと俺だぞ?なぁアーシア!」

 

「はい!ずっと一緒です!」

 

 俺達は抱き合う。

 

「流石は学園最大のバカップル...」

 

「...こういうバカップルって結構すぐ別れたりするんだけど、この二人がそうなるビジョンが全く見えないわね...はいはい御馳走様です」

 

 桐生が呆れていた...お前が焚き付けたんやろがい...

 

「兵藤がアーシアさんと別れるか死にますように...!!」

 

 松田が祈っていた。この野郎...

 

「うるせぇ松田!アーシアと別れるくらいなら死んでやるわ!」

 

「じゃあ死ね!!」

 

「なんだとこの野郎!」

 

 俺は松田とポカポカ殴り合った。

 非常に無為な時間であった...

 

 ────────────────────────

 

 清水寺の後は銀閣寺に向かった。

 ゼノヴィアは銀閣寺が銀色に輝いていない事に大層ショックを受けていた。何も知らないと初見はこうなるよね。

 逆に金閣寺が金ピカなのを見て大興奮していた。

 そういう所は年相応でいいと思います。

 

 今は近くのお茶屋で休憩している。

 あー...お茶うめぇ...

 

 横で教会三姉妹が記念お祈りしてる。

 記念祈りってなんだ...?

 

 俺は特にやることもないので、だらだらとお茶とお菓子を飲み食いする...

 あー...こうやってだらーっと永遠に過ごしたい...

 

 そう思っていると松田達チーム一般人が眠っていた。

 ありゃ?

 

 気がつくと、周囲が獣耳の人まみれになっていた。

 ゼノヴィア達が臨戦体勢に入る。

 しまったな...ちょっと気が緩みすぎだ...

 神器の起動すらしてないぞ俺...

 

 といったところでロスヴァイセさんがやってきた。妖怪達と和解したので、向こうが謝罪したいとの事だ...

 

 狐の妖怪の女性が俺達を案内してくれるらしい。

 

 ...........

 

 裏京都にやってきた。

 古い家の扉や窓から、あるいは通りを歩いている様々な妖怪がこちらを見ている。

 物珍しいのだろう。俺らも妖怪なんて物珍しいしな...

 

 しばらく歩いた所で大きな屋敷が現れた。

 洋風の豪邸には慣れたが、和風の豪邸の耐性はついてないらしい...圧倒されちゃうわ。

 玄関にアザゼル先生とセラフォルー様がいた。

 

「九重様、皆様をお連れしました」

 

 そう言って案内の女性は消えてしまった。

 

「私は表と裏の京都に住む妖怪達を束ねる者、八坂の娘、九重と申す。先日は申し訳なかった。お主達の事情を知らずに襲ってしまった。どうか許してほしい」

 

 そう言って九重が謝罪してきた。

 

「あー、まぁ俺も一人で対処したから結構天狗さんとかに荒く攻撃しちゃったし、お互い様って事でいいか?アーシアもそれでいいよな?」

 

「はい!平和が一番です」

 

 間違いねぇ...早く平和になってくれ。

 

「私達は特に被害を受けていないしな...」

 

「そうね。誤解が解けてくれたならそれでいいと思うわ!」

 

「...ってなわけで、そちらからこうして正式に謝罪もして貰えた訳だし、皆も怒ってないから大丈夫だぞ?むしろ俺が殴った人達は大丈夫なのか?」

 

「そうか...そう言って貰えると助かるのじゃ...奴らはもう回復しておる。気にせんで良いのじゃ」

 

 そういって、少しほっとしたような顔をした後、再び辛そうな顔でこう叫んだ。

 

「その...咎のある身で悪いのじゃが...どうか!母上を助ける為に力を貸して欲しいのじゃ!」

 

 そこからアザゼル先生による解説が始まった。

 

 九尾の狐である八坂が帝釈天から使われた使者と会談をする為に屋敷を出た後に行方不明となってしまったらしい。護衛は一人死にかけで帰って来たが、まもなく死亡。事態は全くよろしくない。

 

「ただまぁ、不幸中の幸いに八坂の姫と誘拐犯はまだ京都を出ていない。九尾の狐が京都を離れれば、京都の気が乱れて異変が起こるはずだからな...そんで、こんな大事件起こす奴らの心当たりはって言ったらもうわかるだろ。禍の団(カオス・ブリゲード)、英雄派だ」

 

「私の方でも人員をある程度動員してるけど、まだ成果が出てないのよ」

 

 セラフォルー様が普通に喋ってる...これこれ、こういうのですよ。キラッ☆とか要らないんすよ、あぁでもなくなったらセラフォルー様じゃなくなる...?うぅん...まぁいいや魔王は変人ということで諦めよう...

 

「お前達にも動いてもらうことになるかもしれん。今は圧倒的に人員不足だ。特に、対英雄派の際には協力を頼むかもしれんからな。悪いが心の準備をしていてくれ。まぁとはいえこれは大人の事情だ。基本的にこれまで通り、動きがあるまでは観光を楽しんでいいからな」

 

「「「「はい!」」」」

 

「どうかお願いじゃ...母上を助ける為に協力してくれ...」

 

 九重が涙を流して懇願する。

 

「あぁ...きっとお母さんは大丈夫だ。俺達も出来ることがあったら全力で頑張るよ。だから、気をしっかり持つんだぞ?」

 

「ありがとう...そうじゃな...母上はきっと大丈夫じゃ...」

 

 九重はようやっと、少しだけ笑ってくれた。

 

 英雄派...曹操...

 いよいよ戦いの時も近いな...

 禁手化(バランス・ブレイカー)覇輝(トゥルース・イデア)は使われないだろうが、槍と技術だけで絶対強いもんなぁ...

 まぁやるしかないが。

 アーシアは絶対に傷つけさせない。俺が守るんだ...!!

 



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第54話。 入ります、押し入れ!

 裏京都から帰って、食事風呂を済ませた俺は現在布団に寝転んでいる。

 風呂はめんどくさくなって自室の小さいので済ました。

 はぁ...一人で寝るの寂しすぎる...

 一人で眠るのが憂鬱すぎて、夜は一気に気分が暗くなってしまう...タンニーンさんとの修行はなんかもうそれどころじゃなかったし、泥のように眠れたから良かったんだが...

 アーシアの変わりに布団を抱いて寝てるけど虚しいだけだ...

 アーシアの体温が欲しい...

 アーシア来てくれないかな...でも、アーシアの友人関係だって大切だからな...というか女子は男子の方来れないし。

 今頃桐生にまた変な知識を植え付けられてるんだろうか?

 くっそ...あいつめ...といいたい所だがアーシアと俺の関係が深まっていく要因として、あいつのアーシアへの入れ知恵が大いにあるのが非常に腹立たしい...

 最近はアーシアも若干余裕が出てきて、色々と試してみる感じになってるからな...

 それもまた嬉しくて可愛くていっぱいしたくなっちゃうんだよなぁ...治まれ俺の劣情...

 

 などと考えていると部屋の扉がノックされた。

 誰だろ...松田達か?

 

「はーい」

 

「イッセーさん、遊びに来ました!」

 

 アーシアだ!!あれ?男女って先生が階段を封鎖して接触できないようになってなかったっけ?

 あぁ、そうだ、アザゼル先生とロスヴァイセさんがいつでもここに集まれるようにって、この部屋になら来れるように特殊な認識阻害の結界を張ってるんだった!

 

「どうぞ!!空いてます!」

 

 扉を開けてパジャマ姿のアーシアが入ってきた。

 

「えへへ、来ちゃいました...」

 

 アーシアがはにかみながら部屋に入ってくる。

 

「アーシア!ありがとう...俺寂しかったんだ...アーシアが来てくれて嬉しいよ...」

 

「私も少し寂しかったです...」

 

 そういってアーシアは俺の胸に身を寄せてきた

 あぁ...これ...アーシアの体温...

 シャンプーリンスボディーソープがいつものと違うから少し匂いが違うのもまたグッド...

 

 俺達がお互いの体温を味わっていると...

 

「イッセー!」「ついに見つけたんだ!!」

 

 松田と元浜の声が聞こえてきた。

 俺達はビクリとしてしまう。

 

「イ...イッセーさん!あちらに...!」

 

「ア...アーシア...?」

 

 アーシアに押されて俺は押し入れに逃げ込んだ。

 アーシアも入ってくる。

 うぉお狭いから密着感が...!体の逃げ場がない...!

 少しして扉を開ける音がした。

 

「イッセーいないな...」

 

「くっそ...イッセーにいつもの見張り兼用心棒を頼みたかったんだがな...ちくしょう!どうせアーシアちゃんのを見放題なんだから覗きくらい協力してくれてもいいだろ!!タイミング悪いな!」

 

「まぁ居ないなら仕方ない...俺達二人でやるしかない!」

 

「よし!善は急げだ!行くぞ!」

 

 二人が走り出す足音が聞こえた...

 あいつら俺の事用心棒扱いかよ...

 まぁ行ったとしても覗かないからそうなるだろうけど...

 今度俺達の関係について話し合いの場を設けないとな...

 

「イッセーさん急にすみません...」

 

「アーシア、いや全然大丈夫だけど...」

 

 うっ...この狭い密室に二人で入ってると、アーシアの吐息や体温がより熱く感じてしまう...

 

「その...今は二人きりの時間を邪魔されたくないなって...」

 

 アーシアがこちらを見つめる。

 やばい...さっきまで寂しかったのもあってめちゃくちゃ気分が高まってきた...

 

「アーシア...」

 

 俺とアーシアはキスをする。

 アーシアをぎゅっと抱き寄せながら、たっぷり舌を絡ませてキスをする。

 やばい...なんか背徳感がすごい...

 修学旅行で、隠れてこういうことをするというのが相まって興奮が加速する...

 

「んはっ...」

 

 顔を離すと、お互いの荒く熱い息が混じり合う...

 酸素が薄い...

 

「アーシア...その、してもいいか?」

 

「あぅ...はい、来てください...」

 

 ..........

 

 狭い密室での行為は、少々やりにくかったがそれもまたスパイスとなって、非常に興奮した...

 酸素も薄くて急激に上昇する温度によって思考が鈍くなり、興奮を加速させる...

 アーシアの口から漏れる嬌声は、キスで口を塞いで閉じ込めた。

 俺が動く事でギシリと鳴る木の音と水音だけが響く..

 

 今は全部終わって襖を開けた所だ。新鮮な空気が火照った体を急速に冷やしていく...思考もクリアになっていく...

 お互い汗でぐっちょぐちょだな...

 

「はふぅ...涼しいです...」

 

「あぁ...なんで押し入れの中で全部しちゃったんだろ...」

 

「でも...イケナイ事してるみたいで少し楽しかったですね」

 

「正真正銘イケナイ事だけどな...っと」

 

 アーシアを抱いて、押し入れから出した。

 その後しばらくピロートークを楽しみながら、一緒に風呂に入った。

 今は風呂から上がってゆったりタイムだ...

 

 はぁ幸せ...

 

 といった所で来客だ。

 臭いは...ファブりまくったから多分大丈夫!換気もしてる!後処理はしっかりできてるはず!

 問題があるとすればアーシアと俺が明らかに風呂上がりってくらいだ...

 

「は...はーい...」

 

「イッセー。アーシアはいるか?」

 

「ゼノヴィア?イリナも...」

 

 二人が現れた。アーシアに用事か...

 

「あ...あぁ、アーシアなら居るけど...」

 

「そうか、では失礼させてもらうぞ」

 

「お邪魔しまーす!」

 

「おぅ...」

 

 止める間も無く、二人が俺の横をスタスタと通っていった。

 

「やぁアーシア」

 

「ゼノヴィアさん、イリナさん?」

 

 アーシアがあれ?といった顔をしている。

 

「いや、アーシアが部屋に居なかったのでな。イッセーの部屋にいるのかなと思って来たんだ。少しホテル周辺を散歩しようと思っていたから誘おうと思ったのだが...その...まぁなんだ。お邪魔だったかな?」

 

 ゼノヴィアが少しだけ顔を赤くして言う。

 君達皆で一緒に風呂に入ったらしいのに、また俺とアーシアで風呂に入ったなんてどう考えてもそうだね。完全に事後だね!

 イリナもわぁ...しちゃったんだー!みたいな顔をしてる。

 

「い...いえ!そんなことは...」

 

 アーシアが顔を真っ赤っかにして答える。

 

「イッセー君!ちゃんと責任を取るのよ!高校生で子供ができちゃったら大変だわ!」

 

「言われなくても取るけど!わざわざ言わないで!!」

 

 頭を抱えてしまった...

 二人はその後少しだけ滞在すると、お邪魔しましたーお幸せにーなどと言いながら出ていってしまった。

 あいつら野次馬根性芽生えて来てないか...?

 最近は桐生だけでなく、あいつらもアーシアにそういう話を聞いてる時がある...

 まぁ年頃だもんね。間近にカップルが居たらそういう話になるのか...?

 なんでガールズトークを盗み聞いてるんだだって?松田達の話が糞どうでも良い時はアーシアの方に聞き耳を立てているからです。

 

「あの...イッセーさん。今日はこちらで眠ってもいいですか?」

 

「俺は良いけど、点呼とか大丈夫なのか?」

 

「はい、桐生さんには連絡しました!」

 

「そっか...ありがとう。正直俺もアーシアとまだ一緒に居たかった」

 

 そういえばわざわざ認識阻害の結界を張ろうと言ったのはアザゼル先生だったが...

 俺がこういうことをすると予想して張ってくれたのだろうか...

 ありがたかったけど、行動を完全に予想されている感じがちょっと辛い...

 

 

 

 ────────────────────────

 

 次の日、朝ごはんを食べるために集合する。

 

「おやおや兵藤さん、アーシアさんと朝帰りだなんてお二人で何をしていらしたのかな?」

 

 桐生がわざとらしく俺に話しかけてくる。

 

「やめてください桐生様...」

 

「何をかな~?」

 

「おい...イッセー!朝帰りってどういう事だよ!」

 

「まさかアーシアちゃんと...したのか!!大人への階段登っちゃったのか!!?」

 

「ノーコメントで」

 

「絶対したんじゃないか!!この裏切り者!!修学旅行で初体験なんて!滅茶苦茶羨ま死ね!!」

 

「お前なんかもう友達じゃねぇ!」

 

「うるせぇ!お前らどうせ女子風呂覗きに行ったんだろ!顔面パンパンに腫らしやがって!犯罪者に言われたくねぇよ!」

 

「これは名誉の負傷だ!!」

 

「名誉...?」

 

「疑問符付けてるんじゃねぇ!!」

 

「あーそうそう!兵藤とアーシアとっくにやることやってるわよ?」

 

 桐生が追加の火薬をぶちこむ。

 

「既に卒業していただと...!?お前...俺達に報告すらしなかったのか...?この薄情者!!いつ頃やったんだ!!」

 

「え...?やだよ言いたくない」

 

「二週間前くらいだったかしら?」

 

「言うなよ!!人様のプライベートを勝手に公開しやがって!」

 

「結構前じゃねぇか!!今度という今度は許せん...!!一発殴らせろ!!」

 

「そうだそうだ!!」

 

「....わかった、一発な。一発だけだぞ」

 

「やけに物わかりいいじゃないか...行くぞ元浜!」

 

「おう!」

 

 二人は俺の腹と胸をパンチする。まぁ、もうこんなので痛がるような体はしていない...

 

「よし!これでこの話はおしまいな!さっさと飯食って観光だ観光!!」

 

「畜生!全然効いてないぞ!!」

 

「卒業している者とそうでない者でこれほどの差が生まれるというのか...」

 

 二人が絶望していた。

 お前らももうちょっと真面目になればなんとかなると思うのにな...

 まぁ既に中学から少しは真人間にしてやろうと試みたが、諦めてアーシアが来るまで同調してた人間だからあんまり言えないんだけど...

 

 ────────────────────────

 

 あの後ホテルを出発して、天龍寺に到着した。

 そこで九重と合流する。

 

「おぉ、お主達、来たようじゃな!今日は約束通り、嵐山方面を案内するぞ!」

 

「おぉ!すっごく可愛い女の子じゃないか!またイッセーお前は美少女と交友関係を持ったのかちくしょう!」

 

「...ちいさくて可愛いね...ハァハァ...」

 

「やーん!可愛い!」

 

 チーム一般人は思い思いの反応をしている。

 特に桐生と元浜は大興奮だ。

 元浜いい加減にしておけよ...妖怪に殺されるぞ...?

 

 それから九重の案内で様々な観光名所を案内され、現在は湯豆腐屋で昼飯を食べている。

 

 うめぇ...

 

 教会三人組も美味しそうに食べている。

 皆で食事をしていると、木場の班に声をかけられた。

 

 木場の班もここで飯を食べるらしい。

 俺達も木場の班も食事を終えて、店を出ようとした所でアザゼル先生にも出会った。ロスヴァイセさんもいる。

 ロスヴァイセさんはアザゼル先生の昼酒に文句をつけたかと思うと、自分で飲んで、一瞬で酔っぱらってアザゼル先生にめっちゃくちゃうざ絡みしていた。

 酒入ったロスヴァイセさんには死んでも近づかねぇ...

 アザゼル先生も心底めんどくさそうだ...

 

 しかしご都合主義かってくらい全員集合したな...

 いよいよ渡月橋を渡ったら英雄派とバトルか...

 

「ロスヴァイセちゃんやばかったな...」

 

「ありゃ相当ひどい酒癖だぞ...」

 

 人気で可愛い教師の意外な一面に松田と元浜は困惑していた。

 俺も困惑したわ、あんなひどいのか...

 

 渡月橋に到着した。

 

「そういやアーシア!渡月橋で振り返ったらカップルは別れちゃうらしいわよー?」

 

 桐生が突然叫ぶ

 

「絶対振り向かないで下さいね...」

 

 アーシアが俺の腕をぎゅうっと抱きしめる。

 意地でも俺を振り向かせないという意思を感じる。

 可愛い。絶対振り向かないよアーシア。

 例え英雄派に背中から攻撃されても振り向かない。

 というか最早俺とアーシアの関係は迷信程度で邪魔できる物じゃないけどな!!

 

「クソ、こんだけ見せつけられるともう嫉妬どころじゃなくなってくるな...あぁ!彼女欲しい!!」

 

「イッセーに呪詛ばかり送っているから俺達の幸せは消えていくのかもしれん...ここは逆にこのバカップルを祝福することで幸せにあやかれるのでは...?」

 

「それはあるかもしれん。ここ京都だし、神様が見ているかも...」

 

「おーい!イッセー!アーシアちゃーん!末永くお幸せになー!」

 

「幸せを俺達にも分けてくれー!!」

 

「お前らに分ける幸せはねぇ!」

 

「なんだとイッセー!この野郎!」

 

「ちょっと迷惑だからやめなさいバカども...」

 

 桐生に怒られた。ごもっとも。

 

 無事に渡りきる事ができた。

 アーシアもほっとしているようだ...

 

「これでずっと一緒だな」「はい!」

 

 そうやってイチャイチャしていた所で、突然生温い奇妙な感覚が全身を襲った。

 

 ついに来た...英雄派...

 第一陣はまだ余裕があるが、それにしたって普通に危ない。

 気合い入れろよ...!



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第55話。 来ました、英雄派!

 周囲にはオカ研のメンバーと九重しかいない。後でアザゼル先生と泥酔してるロスヴァイセさんが来てくれるはずだ...

 

 皆は周囲の警戒をしている。足元に霧が立ち込め出した。絶霧(ディメンション・ロスト)か...

 

「お前ら無事か?」

 

 アザゼル先生が飛んできた。

 よし、一旦これで曹操の事はスルーできるはず...

 後は...あーそうだ、魔獣造(アナイアレイション・メーカー)によるアンチ悪魔モンスターが出てくるんだ...そしてルフェイが次元の狭間のゴーレムを持ってきて、それが暴れたから一旦お開きって流れだったよな...?

 

「ここは恐らく絶霧(ディメンション・ロスト)を使って作り出された、レーティングゲームのフィールドのように渡月橋一帯を模している擬似フィールドだな。絶霧(ディメンション・ロスト)は霧で包み込んだ物を他の場所に転移させることができるからな...ほとんどアクション無しでこんな離れ業をしやがる。これだから神滅具(ロンギヌス)はよぉ...」

 

 先生が愚痴る。

 すると俺達とは反対側の霧から複数の気配が現れた。

 

「はじめまして、アザゼル総督、赤龍帝」

 

 曹操だ。手には既に黄昏の聖槍(トゥルー・ロンギヌス)が握られている。嫌な気配だ...起動前からこれほどか...

 

「お前が英雄派を仕切ってるっていう男か」

 

「曹操と名乗っている。一応、三國志で有名な曹操の子孫さ...」

 

「...全員、あの曹操とか言う男の槍には気を付けろ。あれは最強の神滅具(ロンギヌス)黄昏の聖槍(トゥルー・ロンギヌス)だ。冗談抜きで神を殺せる槍だぞ」

 

 教会メンバーが驚く。

 そりゃあな...ロンギヌスの槍なんて一般人でも聞き覚えあるもん...

 

「あれが聖槍...」

 

 アーシアが虚ろな目になっていた。

 

「アーシア!アーシア!」

 

 俺がアーシアの肩を揺らすと

 

「あれ...?私何を...」

 

「信仰のある者はあの槍を強く見るな!心を持っていかれるぞ!」

 

 アザゼル先生が叫ぶ。

 

「母上を拐ったのは貴様らか!」

 

 九重が怒りを露にする。

 

「左様で。少々我々の実験に付き合って頂いているのですよ...スポンサーの意向でしてね。無下にするわけにも...」

 

「オーフィスの事か...それで?急に俺達の前に現れたのはどういうつもりだ?」

 

「隠れる必要がなくなったのでね、実験の前に少しお手合わせをしておこうと思いまして...」

 

「なるほど、分かりやすくて結構。九尾の御大将は返して貰うぞ...」

 

 アザゼル先生から膨大なオーラが溢れ出る。

 俺もアスカロンを抜いて、ゼノヴィアに渡してすぐに禁手化(バランス・ブレイカー)の準備に入った。

 

『Ten!Nine!Eight!』

 

「レオナルド、悪魔用のアンチモンスターを頼む」

 

 曹操がそう言うと、少年の足元から影が漏れだしてだんだんと形を成していった。

 

 そして、百を優に越えるアンチモンスターが吐き出された。

 

『Welsh Dragon Balance Breaker!!!』

 

「アーシア!許可頼む!」

 

「許可します!」

 

「よし、行くぞドライグ!!対軍戦闘だ!!」

 

『あれを使うのだな!!!』

 

 嬉しそうだなドライグ...

 

『Change Dragonic Funnel Blaster!!』

 

「|六条の龍穿つ僧侶《ヘキサ・ドラゴニック・ブラスター・ビショップ》!!!」

 

 背中に6つの黄金のファンネルが形成されて、背中に装着されている。

 ファンネルは俺のオーラで作られているので、マーキングせずとも操作可能だ。

 

 ばしゅんばしゅんとファンネルが発射されて、俺の後ろに待機する。

 

魔獣造(アナイアレイション・メーカー)...上位神滅具(ロンギヌス)4種中、3種が英雄派に集っているのか...ったく、魔獣造(アナイアレイション・メーカー)のガキはまだ未熟にしたって恐ろしい限りだぜ...」

 

「あららら。流石は堕天使の総督。この子が未熟なのもバレてしまいましたか。でもね、この子はひとつの方面に非常に優れておりまして...相手の弱点をつく魔物、アンチモンスターを生み出す力に特化しているのです」

 

「各陣営に刺客を送っていたのはアンチモンスター創造の為のデータを集める為か...?」

 

「半分正解ですね。禁手(バランス・ブレイカー)使いを増やしつつ、情報を集める...それが襲撃の目的ですよ」

 

「さ、戦闘だ。はじめよう!」

 

 曹操と言葉を合図に戦闘が始まった。

 前の方のアンチモンスターが光のブレスを発射する。

 

「させるか!!砲撃六門全力展開!!」

 

 俺はファンネルを上空に浮かせて、全ての砲門が黄金に光輝く。

 

「撃て!!」

 

 六条の膨大なオーラが各々の方向に発射される。

 アンチモンスターのブレスをも貫いてアンチモンスター達を蹂躙していく。

 およそ4割を削りきってやった。脆いなこいつら...

 結界に歪みが生まれる...はー気持ちいい...

 

「しゃあ!!これだよこれ!!ファンネルからのビーム!!!楽しい!色んな場所も狙えるしまじで使えるぞ!!」

 

「イッセーお前!!そんな力作ってやがったのか!!?不覚にもちょっとかっこいいじゃねぇか!!」

 

「ありがとうございます!!」

 

「....赤龍帝...今代は異常な変化を見せているというが...これほどか...」

 

 曹操が驚いている...

 へっ!今のでアーシニウムエネルギーそこそこ失ったけどな!!

 

 木場とゼノヴィアも動きだし、アンチモンスターの残党を狩っていく。

 俺は現在ファンネルにエネルギーを再装填しながらアーシアと九重を守れるように移動する。

 

「生徒にあんなもん見せられちゃ、先生として黙ってるわけにはいかないな!!」

 

 アザゼル先生が人工神器(セイクリッド・ギア)を暴走させて黄金の鎧を装着し、曹操に突撃する

 

「赤龍帝も気になるが、やはりあなたの方がいいな!行くぞ!」

 

 曹操が神器(セイクリッド・ギア)を起動する。

 瞬間この空間に恐ろしいオーラが駆け巡った...

 アザゼル先生の光と黄昏の聖槍(トゥルー・ロンギヌス)の光がぶつかり合いながら離れていく。

 アザゼル先生が誘導してくれてるのだろう。

 

 俺は装填途中の三門に譲渡のオーラをぶちこむ。

 

『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost!!』

 

「木場!ゼノヴィア!イリナ!受けとれ!!」

 

 赤いオーラが発射される。

 三人に無事当たった。

 

「全力で暴れてくれ!特にゼノヴィア!!」

 

「あぁ!!」

 

 ゼノヴィアはアスカロンの聖なるオーラを爆発させる。

 木場も地面から大量の聖魔剣を生成して攻撃。

 イリナも光力を増大させて恐ろしいほどの一撃を放つ。

 魔獣も英雄派の戦闘員も次々に倒されていく...

 レオナルドが頑張ってアンチモンスターを作ってはいるが、生成は追い付いていない。

 

「まずいドライグ...やりたかった事が綺麗に決まって予想以上に楽しい...力に溺れてしまいそう...」

 

『気持ちはわかるが、各門後2発くらいで例のエネルギーが尽きるぞ...?』

 

「魔力と体力だけでこの砲撃を維持するのは厳しいな。最後に一発を放ち次第、俺はゼノヴィアと交代で前線に行く」

 

『わかった...急いで装填しようか...』

 

 皆の倍化も解けて、再びアンチモンスターが増え出して来ている。

 

 だが!

 

「もういっぱぁぁぁぁつ!!!下がれ皆!!!」

 

 俺の叫びに前線三人が下がる。

 

「ファイヤァァァァ!!!」

 

 再び放たれる六条のエネルギーは敵陣営を蹂躙しつくす...

 ついでにレオナルドも狙ったけど、何かに防がれてしまった...

 

 俺は通常状態に戻る。

 一応バイデントを使えるだけのエネルギーは残しているが、ただの禁手(バランス・ブレイカー)でいけるならそれに越したことはない。

 

 といった所で膨大なエネルギーがこちらに飛んできた。

 俺は急いでアーシアと九重を抱いて飛び避ける。

 あっぶねぇ!!

 

 今のは...ジークフリートの攻撃か...あの野郎!!

 

 魔帝剣グラム...さっきレオナルドを守ったのもこいつだな...

 

「さて、僕も動こうかな。初めましてグレモリー眷属。僕は英雄シグルドの末裔、ジークフリート」

 

「お前は...魔帝(カオスエッジ)ジーク...悪魔祓いの我々の元同胞だ」

 

 ゼノヴィアが言う。

 

「ジークさん!あなた教会を裏切ったの!?」

 

 イリナが叫ぶ。

 

「そうなるかな。まぁいいじゃないか、僕が居なくたってまだ教会には最強の戦士が残っている。さて、やろうか、デュランダルのゼノヴィア、ミカエルのA(エース)紫藤イリナ、聖魔剣の木場祐斗」

 

 そういって三人に宣戦布告する。

 3対1の剣戟が始まった...ぶっ殺してやりたいけど、皆に任せよう...

 一見圧倒的有利だが、ジークは龍の手(トゥワイスクリティカル)の亜種を持ってるし、三本の手にそれぞれ伝説の魔剣を携えるからジークの方が優勢だ...

 

 くっそ...アンチモンスターだって増え出してる...そろそろ削りに行かないと一方的に光のブレスで蹂躙されるぞ...でもアーシア達を守れる面子が今居ない!

 くっそ...人員不足が響くな...

 ガス欠覚悟でもう一発砲撃撃つか...?

 一応剣士メンバーの戦いの余波でアンチモンスターがある程度削れてるのが不幸中の幸いだな...

 つーかいい加減バテてくれよレオナルド君...

 超獣鬼(ジャバウォック)作れるくらいだし無理か...

 

 といった所でアザゼル先生と曹操が帰って来た。

 ふと横を見るとおぞましいほどのクレーターの数々が出来上がっていた。

 一瞬調子に乗ってたけど俺の砲撃なんてまだまだだな...はぁ...悲しい...

 

『これから強くなればいいんだ相棒』

 

 ありがとうドライグ...

 

「いい眷属悪魔の集団だ。もう少し楽に戦えると思ったんだが、意外にやってくれる。特に君は警戒に値するよ、赤龍帝。そんな形態は一切データに存在しない。大体なんだあの黄金のオーラは。君は赤龍帝じゃなかったのか」

 

「クハハ!それがこいつの強みなんだよ!愛する女の色に神器(セイクリッド・ギア)を染めるほどの愛の力。それが今代の赤龍帝なのさ。愛の力ってなんなんだよククク...」

 

 笑わんといて下さいアザゼル先生。これでも真剣に戦ってるんです...

 

「ひとつ聞きたい。英雄派の目的はなんだ?」

 

「俺達の活動目的は非常にシンプルだ。人間としてどこまでいけるのか、知りたい。それだけさ」

 

「英雄になりたいって事か?」

 

「弱っちい人間のささやかな挑戦だよ」

 

 二人の登場で一度停止した戦況が再び動き出そうとする。

 

 すると戦場のど真ん中に魔方陣が現れた。

 現れたのは金髪に魔法使いの帽子を被る女の子。

 ルフェイだ。良かった、間に合った...

 

「初めまして!私はルフェイ・ペンドラゴンです。ヴァーリチームに属する魔法使いです。以後お見知りおきを!」

 

「ヴァーリの所の者か。それでどうしてここに来たんだ?」

 

 曹操が尋ねる。

 

「はい!ヴァーリ様から伝言です!『邪魔だけはするなと言ったはずだが?』...というわけで罰を与えちゃいます!」

 

 そう言ってすぐに地面が大きく揺れると、巨大なゴーレムが出てきた。

 

「ゴグマゴクじゃねぇか!!なんなんだ今日は...!二人の弟子がそれぞれロマン見せてくれやがって...!!よし!俺もこの件が終わったらロマンを作ってやるぞ!!」

 

 アザゼル先生がめちゃくちゃ高まってる...

 それもそのはずこのゴグマゴク、次元の狭間に遺棄されている古の神が創造したとされる破壊兵器ゴーレムなのだ。そんなのかっこいいに決まっている...

 

 ゴーレムがアンチモンスターを拳で一掃する。強えぇぇぇええ!!!

 

「ハハハ!ヴァーリはお冠か!いいぞ、伸びろ!」

 

 曹操は槍を伸ばしてゴーレムに襲いかかる。

 おいおい!曹操が一瞬でゴーレム倒してるじゃねぇか!使えねぇ!!

 アザゼル先生もゴグマゴクがぁ!と叫んでいる...

 おのれ曹操!よくもロマンを!!

 

 などと考えていると、後ろから気配を感じた。ロスヴァイセさんだ...目が据わっている...

 

「なんなんれすかうるさいれすね...全部ぶちこわしますよ?ったく...この...!静かにしなさぁぁああああい!!!」

 

 ロスヴァイセさんが大量の魔方陣を起動してあらゆる属性の大量の魔法が放たれていく...

 爆音が炸裂する。

 

 あああああうるせぇぇぇええ!!!

 ロスヴァイセさんの砲撃の方が絶対うるさいよ!!

 すわ英雄派は全滅かと思われたが、霧が英雄派戦闘員を包んでいた。

 

 ゲオルグか...

 

「これくらいで一旦引こうか...我々は今夜、この京都という特殊な力場と九尾の御大将を使い、二条城で大規模な実験をする!ぜひとも我らの祭りに参加してくれたまえ!!」

 

 ゲオルグがそう言うと、視界全体が霧に包まれた。

 

「お前ら!空間が元に戻るぞ!武装解除しておけ!!」

 

 先生が叫ぶので急いで鎧を解除する。

 霧が解除された頃には元の観光地である渡月橋付近に戻っていた。

 

 良かった...皆いる...

 とりあえず第一陣はなんとかなったな...

 

 うぅ...まずい...アーシニウムエネルギーを大量に使うと、禁断症状のようにアーシアとの接触を求めたくなってしまうのだ...

 

「アーシア...!」「きゃっ...イッセーさん?」

 

 俺はアーシアをぎゅっと抱きしめる。

 あー...柔らかい...何回抱きしめてもこのアーシアの柔らかさには飽きないな...でもぽっちゃりとかそういう事では一切なくて、本当に女の子としての黄金比率と言うべき感じでやわらかさとしなやかさを両立しているんだ...

 何が言いたいって最高...

 

「ごめんアーシア...しばらくこうさせてくれ...」

 

「...はい」

 

 アーシアも俺を抱きしめてくれる。

 

「見せつけてんじゃねぇよ!イッセー!!」

 

 松田にキレられる。

 

「違うんだ松田...理由は言えないが切実な理由でこうしてるんだ...」

 

「そうなのか...?いったいどういう理由だってんだよ...」

 

「アーシアに抱きつきたくて仕方なくなる症状が発症して...」

 

「見せつけてるだけじゃねぇか!バカップルめ!!ちくしょう!!!」

 

 松田は走り去っていった。帰って来た。Uターン早すぎ...

 

「....ふざけたことを言いやがって!京都で実験だと...?舐めるなよ若造が!」

 

 アザゼル先生がぶちギレだ...一瞬俺の事かと思って焦った...

 

 九重も泣きそうになっている。

 そうだよな...普通ここはシリアスな場面だよな...

 木場とゼノヴィアとイリナは心底呆れた顔をしている...ほっとけ...

 これでも真剣なんですよ...アーシニウムエネルギー急速充電しないと戦えない...

 

 あの後急遽二条城を観光して、ホテルに戻ることになった。一応二条城を確認しないとだからな...

 桐生達も特に反対ではなかったようなので行かせてもらった。特に収穫はなく二条城を楽しんだだけで終わったけど。

 今はホテルに戻って飯を食い終えて、観光メンバーで写真の鑑賞会をしている...

 

 松田、結構俺とアーシアがイチャイチャしてるのも撮ってくれてるんだな...そういう所が友人やめられないよ。

 まぁ基本的には教会三人組の写真だが...

 まぁ綺麗所だもんな...傍目に見ても見目麗しくて素晴らしい三人組だと思います。特にアーシア。

 後で現像してもらおう...

 

 次に桐生が私も写真があるんだと言って様々なショットを表示した。

 

 新幹線での俺とアーシアとで寝ている写真から始まり全編俺とアーシアの写真だった...

 お前はどんだけ俺達カップルが好きなんだ...

 

 うわ!誰もいないと思ってこっそりアーシアとキスしたの激写されてる!!こいつめ!!

 

「桐生お前!!どんだけ撮ってんだよ!!完全に盗撮じゃねぇかこれ!!」

 

 アーシアも顔を赤くしている...

 

「えー?隙を見せるのが悪いんだよー?あんた達は私の掌の上なんだから...もうさっさと諦めた方がいいわよ?私の趣味だもん」

 

「趣味にしてんじゃねぇよ!!」

 

 ったく...後で全部現像して貰わないと...

 

 それからもしばらく談笑したり殴られたりしながら時を過ごした...

 いよいよ決戦が近い...

 アーシニウムエネルギーもばっちり充電できた。

 後は作戦会議をして戦うだけだ...

 

 曹操...やってやる...

 修学旅行は無事で終わらせてみせる...!



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第56話。 現れます、最強の歴代!

 現在グレモリー眷属、シトリー眷属、イリナ、アザゼル先生、セラフォルー様の面子で俺の部屋に集まっている。

 めちゃくちゃ部屋が狭いのでアーシアには俺の膝の上に座ってもらっている。アーシアの太ももの感触が気持ちいい...好き...

 ロスヴァイセさんは酔い醒ましの薬を自分で調合して飲んでいるみたいだが、速効性はなさそうだ...

 これだけ技術が発達してるのに酔い醒ましは発達していないのか...

 

「じゃあ作戦を伝えるぞ。現在、堕天使、悪魔、妖怪の関係者を総動員して二条城を中心に警戒体制を敷いている。未だ英雄派は動きを見せないが、京都の各地から不穏な気の流れが二条城を中心に広がっているのを計測している」

 

 アザゼル先生の言葉に皆がうなずく。

 

「そこでだ、まずシトリー眷属は京都駅付近で待機だ。このホテルを守るのも仕事だからな。次にグレモリー眷属とイリナ。お前達には英雄派と戦って貰う。とはいえ殲滅しなきゃいけないわけじゃない。最優先は八坂の姫の救出だ。それさえできればとんずらで構わん。外の指揮はセラフォルーに任せている。お前らは安心して目の前の敵と戦うことだけ考えてろ」

 

「先生、もう少し人が欲しいです。昼の戦いもルフェイの割り込みがなかったら危なかったんですよ?」

 

「そこは安心しろ。テロリスト相手のプロフェッショナルを呼んでおいた。それが加われば救出はかなり現実的な物になると思うぞ」

 

 初代孫悟空と五大龍王の一角、玉龍(ウーロン)か...

 さっさと来て欲しいもんだ...

 

「そしてこれは悪い報せだが、フェニックスの涙は3つしか支給されなかった。世界各地で禍の団のテロが発生していて需要が高まっているんだよ...」

 

 無駄遣いは一切できないというわけですね...

 

「フェニックスの涙の不足に付属する話なんだが...これは機密事項なんだけどよ、現在各勢力が血眼で聖母の微笑(トワイライト・ヒーリング)所有者を捜してる。確かにレアだがアーシア以外の所有者が世界に何人かいることはわかってるからな。スカウトの目的は回復系の神器(セイクリッド・ギア)の需要が高まっている事も勿論あるが、何よりテロリストに回復要員を押さえられない為だ。何が言いたいかわかるか?イッセー」

 

「はい、絶対にアーシアは俺が守り抜いてみせます。テロリストどもには指一本触れさせません」

 

「ま、言うまでもなかったかな。そうだイッセー、お前の力は全てそこに起因している。絶対にアーシアは守り抜けよ?俺達三勢力の長の前で誓ったんだからな」

 

 アザゼル先生がニヤリとこちらを窺う。

 

「はい!」

 

 アーシアをぎゅっと抱きしめる。

 

「あと匙!お前はグレモリー眷属の方に着いていけ。龍王形態がきっと必要になる。イッセー、しっかり匙の意識を繋ぎ止めろよ?天龍なんだから龍王の一匹や二匹制御してみせろ」

 

「頑張ります...」

 

「まぁ俺からの作戦は以上だ。まぁ大した事は言えてねぇが、臨機応変に対応してくれ。修学旅行は帰るまでが修学旅行だ、絶対死ぬんじゃねぇぞ!」

 

「「「「「はい!!」」」」」

 

 ────────────────────────

 

 俺は特に準備することもないので、集合場所のロビーで座っていた。

 

『相棒、歴代に呼ばれているぞ』

 

「また?...今はあんまり行きたくないんだが...」

 

『そう言ってやるな。俺だってあんなの見たくないが、あれでもお前の事を考えてくれてるんだ』

 

「......ドライグの言うとおりだな。最初は怨念だったんだもんな...それが今やアーシア教の信徒か...おっさんが周りに合わせてアーシアたんバンザイしてる所は見たくなかったけど...うし、行ってくる」

 

『では行くぞ...』

 

 意識を神器(セイクリッド・ギア)へと沈めていく...

 

 ............

 

「教祖様!大変お久しぶりでございます!!そしておめでとうございます!!」

 

 いつものリーダーが声をかけてきた。

 パンパンとクラッカーが鳴る。どっから用意したんだ...

 空間の上の方に、「祝、卒業」とかかれた横断幕が貼ってある...余計なお世話だわ...

 そういえばここしばらく潜ってなかったな...

 卒業してから初めてか。

 

「お久しぶりです...それで、今日はどんな用で?」

 

「はい!最強の二人をここにお連れすることができたのです!あっ!勿論洗脳はしておりません!」

 

 洗脳って認めやがったなこいつ...

 あそこにいるのが歴代最強の二人か...

 

「こんにちわ...あなたがこの惨状の元凶である現赤龍帝ね?私はエルシャ。横にいる彼はベルザード」

 

 ベルザードさんがコクりと頷く...

 

『...ベルザードと共にもう出てこないと思っていたが...いや、出ざるを得なかったのか...』

 

「そうよ全く...本当にひどい事になっているわ。神器(セイクリッド・ギア)だってちょっとまずい状態だったのよ?イタズラしちゃいけない場所をずけずけと改造しまくって...それでなぜかきちんと動いている所が心底怖いのだけれどね」

 

「それはあいつらが...いえ、俺のせいです!すみませんでした!!」

 

 そんな事になっていたのか...恐ろしすぎる。

 

「まぁ安心なさい、私達二人でグチャグチャに拗れながらも稼働していた部分をなんとか整理してきたから...にしてもアーシニウムエネルギーでしたっけ?本当に便利ね...修復できたのは例の力を使わせて貰ったお陰なの。まぁ修復作業で力をほとんど使ったから私達はもう消えかけなんだけれどね」

 

 エルシャさんの顔が呆れで陰る...

 それでアーシニウムエネルギーがここ最近どんどん強くなっていったのか!

 流れがスムーズになっていたんだな...

 

「ありがとうございます!!そしてすみませんでした!!」

 

 俺はもう謝る事しかできない。

 

「まぁいいのよ。これでも一応貴方には期待してるの。貴方なら全く新しい赤龍帝になれるって...既に怨念を吹き飛ばしてしまっているようだしね...並大抵の事じゃないわ。その原動力が好きな子の為ってのも...まぁ嫌いじゃないしね」

 

 エルシャさんはようやく少しだけ笑った。

 

「貴方の可能性の扉は既に開かれ、覇の理を捨てた新たな境地にたどり着こうとしているわ。今はまだ到達しきっていないようだけれど、本当にもうすぐだと思う。きっと貴方ならそこにたどり着いて...更に突拍子もない成長をするんじゃないの?そのあたりはあんまり考えたくないわね...」

 

 エルシャさんが再びため息をつく。なんでや!好きな子の為に頑張ってるだけだもん!

 

「でも、貴方にはドライグと、仲間と、ライバル、ここにいる信徒の皆...何よりも愛する人がついている。だからきっと大丈夫。私達はもう消えることにしたの...これ以上アーシア教になんか付き合いきれないもの。本当に大変だったんだから...」

 

「うぐぐ...誠に申し訳ありません」

 

「いいわよ。形はどうあれこんなに理解不能な物を見る経験、なかなかできないもの。冥土の土産としてなんだかんだ楽しかったわ。さ、本当にもう時間がないからベルザード、最後に何か彼に言ってあげたら?」

 

「.....護れ。それが君だ」

 

 良かった...アーシアたんバイザイって絶対言うと思ってたから!!まともだ!!嬉しい!!!

 そして護れか...うん、アザゼル先生も言ってたな。それが俺の根源だ...

 

「ありがとうございます!!!」

 

 エルシャさんが俺に黄金のオーラを放つ緑の宝玉を渡してきた...

 

「...これは私達の最後の置き土産よ。アーシニウムエネルギーを次の次元へと引き上げる為の鍵。あなたと彼女がより深く繋がった事でこの鍵は生まれたの。まぁ上手く使いなさい。じゃあね?現赤龍帝、ドライグ」

 

 エルシャさんが手を振る。

 

『あぁ、さようならだ』

 

「何から何までありがとうございました!!!」

 

 俺は頭を下げる。深く下げる...

 顔をあげた頃には二人は居なくなっていた...

 どんだけ俺のために色々やってくれてたんだ...

 ほんと...歴代には頭が上がらないな...

 

『あぁ、皆俺の大事な元相棒達だ...今は見る影もないが...』

 

「そうだな...よし!じゃあ最後の置き土産、使ってみるか...!」

 

 宝玉が光輝き、気がつくと消えてしまった。

 

『....あぁ、確かに神器(セイクリッド・ギア)内の何かが変質した。だが...何がかはわからないな。まぁいずれ分かる事だ。今は戦いの事を考えないとな』

 

「わかった...よし、皆!改めて今までありがとう!そして...これからもよろしく頼むよ!!」

 

 なんとなく、歴代の皆に感謝したい気持ちだった...

 

「いえ!我々これからも獅子奮迅、全力で信仰を捧げます!!」

 

「「「「アーシア様バンザイ!!」」」」

 

「「「アーシアたん可愛い!!!」」」

 

「あれ?何人か可愛いって言ってなかったか...?」

 

「はっ!それが...聖女アーシア様を純粋に尊いと信仰する者と、聖女アーシア様を推している者とで若干の教義の違いによるいざこざがありまして...今はお互いに不干渉で信仰だけはきちんと送り続けようという話になっているのです...」

 

 宗教戦争が起こっていたのか...

 

「あーっと、俺はどっちの気持ちも大いに理解できるので...皆仲良くお願いします...教徒云々以前に皆さんは同じ人を思う同志なのですから!」

 

「「「「「ありがたきお言葉!!!」」」」」

 

『....こいつらは本当に俺の元所有者なのか?』

 

 ドライグ...俺もちょっとさっきの若干感動した気分が台無しになってるから。一緒に何も見なかったことにしよう...

 もうとっくに俺達の手には負えないってわかってただろ?

 

『そうだな...俺達は何も見なかった』

 

「「「「「いってらっしゃいませ!!!」」」」」

 

 俺は無言で手を振って意識を浮上させる...

 ごめんなさいエルシャさん、ベルザードさん...これ絶対めちゃくちゃ迷惑かけてましたね...

 

 ────────────────────────

 

「.....イッセーさん?」

 

 目を開くとアーシアの顔が近くにあった。可愛い。

 

「アーシア...どうかしたか?」

 

「いえ、少し辛そうなお顔をしていらっしゃったので...何か嫌な夢でも見たんですか?」

 

「いや...何も見なかったよ。集合まで後どれくらい?」

 

「後15分くらいですよ?」

 

「そっか...そろそろ起きないとな」

 

 俺はロビーのソファーから立ち上がる。

 既に大体のメンバーが揃っているようだ...

 後はロスヴァイセさんか...

 これはゲロ吐いてるな?

 

 ロスヴァイセさんが帰って来て、いざ出発といった所で、匙が仲間に激励を受けていた。

 モテモテだね、匙君。

 

 ふとゼノヴィアを見ると魔術文字が記された布に包まれた得物を持っていた。

 

「デュランダルか?」

 

「あぁ、先ほどようやく届いてね。まぁぶっつけ本番というのも私達らしいだろう」

 

「間違いないな。調整された力、楽しみにしてるぜ」

 

「あぁ、しかと見せてやろう」

 

 匙が帰って来て、いよいよ出発だ。

 京都駅からバスで二条城に向かう。

 アーシアと手を繋いで待っていたところ後ろから声をかけられた。

 

「赤龍帝!私も連れていってくれ!」

 

「九重?なんでここに」

 

「私も母上を救いたい!頼む!連れていってくれ!!」

 

 九重の切実な願いに、どう対応すればいいか困惑する...

 正直、アーシアも九重もって守れる自信は全くないのでお帰り願いたいが、この子がどれだけの思いで裏京都を抜け出して直談判しに来たかはわからないでもない...うーん...

 

 などと考えていると足元に霧が立ち込めてきた...

 

「まずい!!皆くっつけ!!」

 

 俺が叫ぶが遅かった...

 アーシアには抱きついたが後はわからない...

 

 気がつけば駅のホームだった...

 アーシアは横にいる。...けど、九重が側にいない。

 参ったな...

 

 俺は電話をかける

 

「もしもしゼノヴィア?お前今どこにいる?お前らも無事か?あぁ...そっちに九重は居るか?良かった!...あぁ、あぁ、アーシアはこっちにいる。よし...そうだな。ここはそれほど二条城と離れていないし、現地集合にしよう。奴らが転移させたんだから、刺客とかわんさかいるかもしれない。気を付けろよ?」

 

 電話を切ってすぐに木場に連絡する。

 イリナ、ゼノヴィア、九重以外の面子は木場の方に居るらしい。良かった...

 木場にも二条城集合の連絡を伝えて携帯を切った。

 

「皆さん一旦無事だったみたいで良かったです...」

 

「そうだな、けど何が襲ってくるかわからない。俺から離れるなよ」

 

「はい...」

 

 俺は禁手化(バランス・ブレイク)を行っておいた。

 前方から敵意を感じる。刺客か...たった一人みたいだけど。

 

「アーシア、俺の後ろに...」

 

「はい!」

 

 敵はゆっくりとこちらに近づいてくる。

 

「こんばんわ。赤龍帝殿。俺の事は覚えてくれているかな?」

 

「わからない...すまん」

 

「まぁそうだろうな。あんたにとっちゃ俺なんか雑魚の一匹だろうさ。けどな、あの時得た力で俺はあんたと戦えるようになった」

 

 男は足元から影をうねらせて身に纏っていく...

 あっ思い出した...そこそこ強い影使いのやられ役か...

 なんか申し訳ないけど、弱点知ってるし、あんまり時間ないからさっさとやるか...

 

 俺は腹の中で魔力の火を起こして蓄積する。

 譲渡で火力を底上げしてブレスを吹き出す...

 

「ぐぉおおおおお!!!熱い!!くそぉぉぉぉ!!!」

 

「悪い!やらせてもらうぞ!!」

 

 男がもがいている内に近づいて、影が薄まっている腹辺りを殴り飛ばす。

 

「がはっっっっっ!!!」

 

 男は倒れた。ごめんよ...結構悲惨な過去持ってたはずだけど。

 余裕があるならもうちょっとまともに戦っても良かったんだが...

 アーシアを護るためなら卑怯も厭わないのが俺の流儀...

 アーシアもちょっと引いてる...

 ごめんよアーシア。

 

 その後もアンチモンスターに襲われたりはしながらも無事に進んでいった。

 地下鉄から出ると、既に他のメンバーは集まっていた。

 

 ロスヴァイセさんは電柱でゲロ吐いてる...

 ロスヴァイセさん...いったいどこまで堕ちるつもりなんだ...俺は少し悲しいよ

 

 アーシアが怪我してる面子に回復をかけていた。

 俺は無傷なので問題なし。

 

 全員揃っていざ行こうといった所で巨大な門がひとりでに開きだした。

 

「あちらもお待ちのようだよ。演出が行き届いているね」

 

「要望通り返り討ちにしてやろうぜ...」

 

 俺達は門をくぐって決戦の舞台へと歩を進めた。



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第57話。 戦います、曹操!

 門をくぐりしばらく進んだ先で声をかけられた。

 

禁手化(バランス・ブレイカー)使いの刺客を倒したか。やはり君たちは脅威となりえるようだな...」

 

 曹操が屋根の上にいた。周りの建物から構成員が姿を現していく...

 側には八坂の姫もいた。

 

「母上!九重です!お目覚めくだされ!!」

 

 九重がかけよって声をかけるが、八坂の姫は微動だにしない...

 

「無駄ですよ、我々の実験に協力していただくのですから」

 

 曹操がそう言って槍の石突きで地面を叩くと

 八坂の姫が悲鳴をあげながら巨大化していく...

 最後にはフェンリルほどの大きさの九尾の狐へと変化した。

 

「君達はいったい何をするつもりなんだい?」

 

 木場の問いかけに曹操は答える。

 

「この京都を模した特殊な空間と九尾の狐の力を利用して、この空間にグレートレッドを呼び出すのさ。それから事は...まぁ後で考えるよ。かの龍はいまだ生態すら不明だからね。調査するだけでも大きな収穫になるだろう。「龍喰者(ドラゴンイーター)」がどれくらい通じるかも知りたいしね」

 

 そう語る曹操を尻目に、ゼノヴィアが剣を曹操に向ける。

 鞘がスライドしていき変形した。

 刀身を聖のオーラが包み込み、刃が巨大化したように見える。

 

「貴様たちの目的はいまいち理解が及ばんが、その思想は私達の周囲にに危険を及ぼす物だ。ここで屠ってやろう」

 

 ゼノヴィアの言葉に皆が臨戦態勢に入る。

 俺も再び禁手化(バランス・ブレイク)する。

 

 匙も身体中に黒い蛇を纏わせて、黒い炎を噴出させる。

 

「ヴリトラ、力を貸してくれ。兵藤がフォローしてくれるから今日は暴れられそうだぞ?」

 

『我が分身よ。獲物はどれだ?どれでもよいなぁ...我は久方ぶりの現世で心地よいのだよ。どうせなら眼前の者共全て焼き尽くしてくれようか...』

 

 ヴリトラが物騒な事を語っている間にゼノヴィアが聖のオーラを解放する。

 十メートル以上あるかというオーラの刀身を振り抜いた!

 

「初手だ。食らっておけ!」

 

 どこぞのセイバーかというくらいのビーム攻撃に眼前の建物は見事に消滅していた。

 

「ふー、気持ちいい」

 

 ゼノヴィアは少し息を荒げて、汗を拭っていた。

 

「いいぞ!ゼノヴィア!もっとデカいのかましてやれ!!」

 

「あぁ!昼の戦いでのイッセーの攻撃は見応えがあった...あれくらい派手な物をかましたかったのだ!」

 

 ゼノヴィアがにっこりしている。

 

「イッセー君...ゼノヴィアは騎士なんだ。テクニックを覚えるべきなんだ。これ以上パワーのごり押しだけさせたくはないんだよ...今から変えていかないといけない時期なんだ...あまり刺激しないでくれ。それに君も君だよ?パワーばかりでテクニックにあまり進歩が見られないじゃないか...」

 

 木場に怒られた。

 すっげぇ思うところがあるみたいですね...

 

「すみません...」

 

 ゼノヴィアは木場の方には目もくれず

 

「エクス・デュランダル。そう名付けよう...」

 

 などと顔を恍惚とさせながら呟いていた。

 

 しかし、地面から英雄派の構成員達は這い上がってくる。

 薄い霧が体にかかっているので、多分絶霧(ディメンション・ロスト)で守られていたのだろう。

 

「キミ達、もうトップクラスの上級悪魔の眷属と比べても遜色がないね。魔王の妹君はいい眷属を持った。レーティングゲームに本格参戦すれば十年くらいでトップランカーに入っちゃうんじゃないか?末恐ろしいよ...シャルバ・ベルゼブブはこんな連中を良くバカにできたもんだ。本当にアホだったみたいだな」

 

「古い尊厳にこだわりすぎて、目がどうしようもなく曇っていたんでしょ。さて、どうするの?僕、今の食らってテンションがおかしくなってるんだけど?」

 

「そうだな...とりあえず実験はスタートしよう。ゲオルグ!!」

 

「了解」

 

 ゲオルグが手を突き出すと大量の魔方陣が生み出された

 

「....ざっと見ただけでも、北欧式、悪魔式、堕天使式、白黒魔術、聖霊魔術...なかなか豊富な術式が使えるようですね...うぷ」

 

 ロスヴァイセさん!ようやくまともに動き出した!!

 でもやっぱり気持ち悪そうだ!

 

 九尾の下に巨大な魔方陣が展開され、九尾は絶叫をあげる。苦しそうだな...

 

「グレートレッドを呼ぶ魔方陣と贄の配置は良好。後はグレートレッドがこの都市のパワーに惹かれるかどうかだな...曹操、俺はこの魔方陣から離れられない、そっちは頼むぞ」

 

「了解っと。さてどうしようか。魔獣造のレオナルドは外の連合軍とやりあってるし、彼らがどれくらい時間を稼げるかな...グレゴリの総督に魔王レヴィアタン、セラフのメンバーも来るらしいしね...よし、ジャンヌ、ヘラクレス」

 

 金髪で細い刀剣を持った女とデカい男が前に出てきた。

 

「さて、皆で誰が誰とやるか決めようか」

 

 ジークフリートは木場とゼノヴィアに剣を向ける。

 

「じゃあ私は天使ちゃんにしよ。可愛いし」

 

「なら俺は銀髪のねぇちゃんだな!随分気分が悪そうだけどよ」

 

「なら、俺は赤龍帝っと。そっちのヴリトラ君はどうするの?」

 

 曹操が尋ねる。

 

「匙、お前は怪獣大決戦をしてくれ。お前なら九尾を解放できると思うんだ」

 

「無茶言うぜ兵藤。ま、やってやるけどよ!」

 

龍王変化(ヴリトラ・プロモーション)!!」

 

 黒炎が燃え上がり、黒く巨大なドラゴンが生まれた。

 九尾と黒炎の龍が火を吹き噛みつき襲いあっていた。

 

 よし...俺は曹操となんとかしないと...

 

「アーシア、頼む」「はい!許可します!」

 

 黄金のオーラが立ち上る。

 

「いいね赤龍帝。ちょっとは本気でやったほうがいいかもなぁ」

 

 曹操はニヤリと笑う。

 

山吹に爆ぜし二叉成駒(ブロンディッシュ・バースト・バイデント)!!!」

 

 黄金のオーラが噴出する。

 

赤龍帝の爆裂戦車(ウェルシュ・バーステッド・ルーク)!!」

 

『Change burst meteor booster!!』

 

 俺の肩は黄金に輝き、ブースターを爆発させる。

 

『Transfer!!』

 

 一瞬で曹操の元に移動して、そのまま突撃する。

 

「ぐっっっっっ!!このスピードはっ!わかっていても避けられないな...!!」

 

 そんな事をいいつつきちんと槍を盾にして防御してやがる...

 一旦槍を消して、再び呼び出し、俺を攻撃しようとしてるがさせるわけねぇ!!

 

「なめてんなよ!!!」

 

『Transfer!!』

 

 そのまま急降下で地面に激突してやる。

 槍を防御に使ったようだが、どのみち俺と地面のサンドイッチで大ダメージだろ!!!

 

「がはっっっっ!!!」

 

 曹操が少し血を吐き出す。

 

赤龍帝の爆砕騎士(ウェルシュ・バーステッド・ナイト)!!!」

 

『Change burst impact booster!!』

 

 即座に換装して、両腕が黄金の極太籠手に切り替わった。

 

『Transfer!!』

 

 しかし、拳の攻撃に曹操の神器(セイクリッド・ギア)のオーラ放出が間に合い、大爆発が発生する。

 

 吹き飛んだ俺は一旦下がって、体勢を立て直す。

 ぐっ....聖属性のダメージが...

 鎧の赤い部分がボロボロになってしまった...

 アーシアのオーラが飛んで来た。

 ...回復した。いける!

 

「ぐっ...実際に食らうとまた違うものだな...恐ろしいもんだ」

 

 曹操は立ち上がる。曹操から感じるオーラがより一層強くなった。

 禁手化(バランス・ブレイカー)覇輝(トゥルース・イデア)まではまだ見せないだろうけど、俺ももう一段階切り替えないといけないな...

 

 曹操が神速でこちらに突撃してきて、槍を突き刺そうとする。

 

 俺は籠手で防いだ。

 バキリとヒビが入る。

 すぐに逆の腕で攻撃する。

 

『Transfer!!』

 

 曹操は槍を俺の攻撃に再び合わせてオーラを爆発させた。

 

「ぐぅぅぅ!!」

 

 今度は最初に殴った方の腕で防御体勢をとっていたのでそこまでダメージにはならなかった。

 痛いけど...

 

「恐ろしいな...まともには受けられそうにないよ。上手く逸らそうにも速度が速すぎてタイミングを合わせるのが難しい...オーラを放つ広範囲攻撃で相討ちにするしか術がないとはね...でも、その激突の衝撃波だって、生身の俺にはダメージになるし...ちょっとこのままじゃまずいかな?」

 

「言う割にしっかり大ダメージは避けてんじゃねぇか!くそっ!この装甲にヒビ入れたのお前が初めてなんだぞ!!」

 

「それは光栄だ。次は完璧に砕いてみせよう」

 

「やってみやがれ!赤龍帝の爆裂戦車(ウェルシュ・バーステッド・ルーク)!!」

 

『Change burst meteor booster!!』

 

『Transfer!!』

 

 背中のブースターを再び爆発させて、今度はすぐには突撃せず、地面に激突したりもしながら周囲を全力で数度飛び回って一瞬の隙を窺う...

 

 ここだ!!

 

『Transfer!!』

 

 ブースターが爆発し神速で突撃するが、ギリギリ反応された...!

 けど、曹操からは肩しか狙えないはず!

 そのままぶつかってやる!!

 

 曹操は槍をこちらに構えてオーラを解放した。

 無視してそのまま衝突してやる...!!

 

 ばごぉぉぉぉぉぉん!という破壊音と共に土煙が舞い上がった...

 

「ぐっっっっ!!」

 

 肩の装甲を貫いて、少しだけ槍が刺さったようだ...

 まじでやりやがった...あいつ!!

 

「アーシア!!」

 

 アーシアの回復のオーラが投げられて、傷が再生する...とはいえ、聖槍の傷なので治りは非常に遅い...

 

「......おいおい、なんとか反応できたから、本気で突いてやったつもりなんだけどな...ぐっ...ほとんどの力を装甲の破壊に持っていかれたのか...」

 

 吹っ飛ばした曹操は血を出してボロボロといった雰囲気で立っている。

 

 もう一発!!

 

『Transfer!!』

 

 俺は曹操に突撃する。

 

「ぐぅぅぅ!!!」

 

 曹操は堪えきれずに浮き上がった。

 今...!

 

「アスカロン!!」

 

『Blade!!』

 

 ヴァーリの時と同じようにアスカロンを籠手から出して、曹操の腹に突き刺す。

 

「がっっ!!」

 

 そのまま再び地面に激突してやった。

 同じように防御された。

 

「ぐはっっっっっっ!!おのれっ!!」

 

 曹操が槍のオーラを大放出して俺を吹き飛ばす。

 

「ぐぅぅぅううう!!」

 

 かなり吹き飛ばされてしまった...

 まずい...意識が...聖属性のダメージで...

 

「イッセーさん!」

 

 アーシアがかけよって治癒してくれる。

 聖属性のダメージなので治りは遅いが、直接の回復なので着実に治っていく...

 

「ぐっ...ありがとうアーシア...」

 

 アーシア達を戦闘に巻き込む訳にはいかないので、急いで飛び出そうとしたところでアーシアの叫び声が聞こえた。

 

 横を見ると、ジャンヌが血まみれのイリナを抱えていた。ヘラクレスは血塗れのロスヴァイセさんを、ジークフリートが血まみれの木場とゼノヴィアを抱えていた。もう全員やられたのか...!!

 

「おいおい曹操!ボロボロじゃねぇか!かーっ!俺が赤龍帝とやればよかったぜ!」

 

 ヘラクレスがそう言う。

 曹操はフェニックスの涙を使っていた。

 

「それなりに本気でやってたつもりだったんだけどね...やっぱり禁手化(バランス・ブレイク)しないと生身の人間に天龍退治は難しいかな...」

 

 そうやってしゃべっている間に、敵が皆をこちらに投げ捨てる。

 アーシアが駆け寄って必死でみんなを治癒している。

 皆血を垂れ流してボロボロだ...それを...雑巾みたいに投げ捨てやがった...

 ....今までこんなにも皆がボロボロにやられる事がなかったから知らなかったけど...こんなに怒りが沸くもんなんだな...

 

「てめぇら....」

 

 身体中から紅蓮のオーラが立ち込める...

 

『Change Dragonic Funnel Blaster!!』

 

「殺してやる...!!」

 

『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost!!!』

 

 6つの砲門が射出され、敵を向き、バジリバジリと赤いプラズマを発する。

 

『Transfer!!』

 

 ファンネルが赤く輝く...

 

「消し飛べぇぇぇぇぇぇ!!!!」

 

 六条の黄金と紅蓮の砲撃が放たれる。自分でも驚くくらいの規模のビームが放たれた!

 

「まずい...!!」

 

『槍よ、神を射抜く真なる聖槍よ。我が内に眠る覇王の理想を吸い上げ、祝福と滅びの間を抉れ。汝よ、遺志を語りて、輝きと化せ!』

 

覇輝(トゥルース・イデア)

 

 恐ろしいほどの輝きを周囲を包み込むと、俺の砲撃は消失してしまった。

 更に俺の体から鮮血が噴き出す...!

 

「なっ...!げほっっっ...」

 

 込めれるだけの力を込めた全力の一撃が消え去った...

 俺は通常の禁手化(バランス・ブレイカー)になってしまう。それすらも維持するのが限界だ...

 

「おい、曹操...覇輝(トゥルース・イデア)を見せるほどの一撃だったのかよ?今のはよぉ」

 

「あぁ...あれは正直まずかったぞ...俺達がまともに受ければ消し飛びかねなかったし、あれを相殺するような規模の攻撃はこの空間が耐えられない。避けてもどの道この空間が崩壊していた...それほどの一撃だったよ。消えてくれなかったら計画がおじゃんだったかもしれない」

 

「まじかよ...でも赤龍帝はもうダメっぽいな」

 

「当たり前だ。あんなバカみたいな火力を出して、それでもなおピュンピュン動かれたら困るよ」

 

 くっそ...!ちくしょう!ちくしょう!ちくしょう!!!

 ふざけんな!!なんだよあれ!!

 こんな事が許されるのか...!!!

 

「残念だったな、赤龍帝。君達じゃ俺達には届かなかったようだ。楽しかったよ、まさか覇輝(トゥルース・イデア)を使わされる羽目になるとは思わなかったけどね」

 

「...あの子、治癒の力を持ってるみたいだけどどうする?ほっといたらまた立ってくるかもよ?」

 

「そうだな...まぁ無視してもいいんだが、再起した者に再び邪魔されても面倒だ。今のうちに潰しておくか...?」

 

 ....なんて言いやがったあいつ...!

 ふざけるな...!!動け...動け...!動け!!!

 

 ジークフリートがおもむろに魔剣を一振する。

 

「ああああああああ!!!!!!」

 

 俺は背中のブースターや羽、手、足、使えるもの全て使ってアーシアの前に飛び出す。

 

「んぎぎぎぎぎぎぎ!!!!がぁ゛ぁ゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛!!!」

 

 残りカスの力を使って、両手を黄金に輝かせる。

 オーラを受け止める...

 

「ぐぅぅぅぅぅ!!!づっ...!がはっ!!」

 

 手の装甲を破壊されて、胸から腹にかけて袈裟斬りにされる...

 血が大量に噴き出す。

 けど...アーシアは守れた...

 鎧が解除される。

 

 ダメだ...!まだ倒れるな...!死んでもアーシアを守れ...!!肉片ひとつでも残ってる間はアーシアを守りきれ!!!

 

「イッセーさん!!」

 

 アーシアが俺に抱きついて、支えながら治癒の力を使ってくれる...

 

 絶対にアーシアは傷つけさせない...!

 何があっても護りきってみせる!!!

 

「はぁぁぁぁ.....!ゲホッ....!あ゛ぁ゛ぁ゛ぁぁ....!」

 

『....!相棒!!オーラが急速に回復しているぞ...!』

 

「は...?どういう事だよ...」

 

『教祖様...!教祖様!聞こえますか!!?』

 

「リーダー?なんだよ急に!!?ってか表層で喋れたのか...」

 

『その急速に高まっていくオーラは、アーシニウムエネルギーが新たな段階へと昇華した結果なのです!!』

 

「........どういうことだ...?」

 

『愛とは本来与え、与えられる物...!今までの力はいわば与える側だけの物だったのです!!しかし歴代最強の二人の置き土産!二人がより強固な契りを交わした事により、貴方は山吹の聖女の献身を...愛を...大いなる力へと変換できるようになったのです!!』

 

「つまり...アーシアの治癒を受けるとオーラが回復するって事か...?」

 

 そういえば、今日はさっきのビショップでの全力の一撃を含めて明らかに俺のエネルギー総量以上の力を使っていた...

 アーシアの治癒でオーラが回復していたのか...

 

『はい!聖女の無垢なる愛を一身に受ける事で、貴方は何度でも立ち上がることが可能なのです!!』

 

 なんだそれは...でも...そうか...

 そりゃそうだ。

 俺がアーシアを愛するように、アーシアも俺を愛してくれてるんだ...

 ならば、その愛を受けて俺が立ち上がることができるのは道理だな...

 

「アーシア...ありがとう。俺はアーシアを護れる存在になりたいって言ってるのに、なんだかアーシアに守られてばかりだな」

 

 アーシアの頭を撫でる。

 

「いえ!私だって何度もイッセーさんに守って貰いました!それに...私達は恋人ですから...ずっと支えあって、寄り添って生きていくんです!」

 

 アーシアは少し頬を赤く染めながら答えてくれる。

 

「そうだな...当たり前の事だった。俺がアーシアを守って、アーシアは俺を支えてくれる。そうやって生きていくんだ...それがパートナーってもんだよな...」

 

『相棒...お前はほんとに...ハァ...もういいや。...これでまだ戦える!いくぞ相棒!』

 

「おう!まだまだやってやる!!」

 

『Welsh Dragon Balance Breaker!!!』

 

 赤き鎧の龍は再び立ち上がった。



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第58話。 帰ります、駒王町!

『Welsh Dragon Balance Breaker!!!』

 

 赤いオーラが爆発する!

 

「アーシア!!許可くれ!」

 

「はい!」

 

「うし、プロモーション女王!」

 

 更にオーラが拡大する...!!

 

「...まじで立ち上がりやがった...」

 

「なんなんだこれは...キミは間違いなく先の一撃で全てを出し尽くしたはずだ...なのに今溢れているこのオーラはなんだ...!?道理が合わんだろうが!!」

 

「道理なら合うぜ!!!俺とアーシアの愛の力だぁぁぁぁぁあああああ!!!!」

 

『Welsh Dragon Over Booster!!!』

 

 紅蓮の閃光が周囲を埋め尽くす...!!

 

「曹操ぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

「ククク...!なんだそれは!!?面白い!!面白すぎるぞ!!来い!!!」

 

「ぁぁああああああああ!!!!」

 

 ブースターを全力で噴かせて突撃する。

 曹操は槍を突き出すが、刃じゃない部分を殴って避ける。少し肩に刺さったが無視だ!!

 

 腹を蹴る...!!

 

「がはっっ!!!」

 

 あの一瞬で槍を間に挟めたのは脅威の一言だが!衝撃までは消せねぇだろ!!

 

 再び接近してドラゴンショットを放つ。

 

『Transfer!!』

 

 大爆発が起こる

 曹操は槍で防いだようだ。

 

「ハハハァ!先ほどの黄金の鎧に比べれば脅威ではないが、素晴らしい気迫だ!!舐めてかかればこちらが死ぬな...!!」

 

「だらぁぁぁああ!!!!」

 

 何度も何度も殴って蹴る。

 攻撃の隙は与えない!!

 ここで殺る!!!

 

「ぐっ!!」

 

 少し体勢が崩れた...!

 

『Change burst impact booster!!』

 

 右腕だけ黄金の籠手にして殴り込む...!

 

『Transfer!!』

 

「がっっっっっは!!!」

 

 曹操の槍ごと腹に拳を埋めてやる。

 曹操は血を撒き散らしながら吹き飛んだ。

 

「ハァ...ハァ...二本目の涙はあんのかぁ?曹操...」

 

「ぐっっ...がはっ!はぁ...油断したなぁ...まだそれ使えたのかよ...」

 

「一発だけな...はぁ...ぐっ...」

 

 あいつ、あれ食らった癖に吹き飛ぶ直前に俺の脇腹に一撃入れやがった...どんだけだよあいつ...

 アーシアの回復が飛んで来る。

 オーラが沸き出す...

 

 横からジークフリートの魔剣のオーラが飛んで来る。

 ドラゴンショットで相討ちにする。

 ヘラクレスの爆弾も飛んできた。これもドラゴンショットで打ち消す。

 ジャンヌの聖剣が地面から襲いかかる。大半を砕くがいくつかが鎧を超えて肉に刺さる...

 

 アーシアのオーラで回復しつつ下がる、曹操が飛び込んでくる!ギリギリで避けながら再び隙を見て殴りかかるが、槍でいなされてカウンターされる。

 ドラゴンショットを暴発させて吹き飛びなんとか回避する。

 

 くっそ!!敵の人数が多過ぎて避けるだけでエネルギーの消費が恐ろしい事になってる!!

 まずい...怠くなってきた...

 

「俺も楽しませてくれよぉ!!」

 

 ヘラクレスが襲いかかる。

 俺はドラゴンショットをお見舞いするが、構わず進んで来やがった!!

 

 爆発が起こり俺は吹き飛ばされる。

 アーシアのオーラが俺を回復する...

 

 曹操が俺の胴を斬り飛ばす!

 

「ぐはっっ!!」

 

 俺はそのまま転がってしまった。

 

「動きが鈍いな赤龍帝。もうバテたか?」

 

「バテるに決まってんだろ...こっちはもう180%くらい力使ってんだよ...はぁ...はぁ...」

 

「そりゃそうだ。キミは一度全て使い果たしたんだからな。今こうやって動いているのがおかしいんだ」

 

 曹操は俺を蹴り上げて、槍で俺の肩を抉り抜いた。

 

「がぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 意識が飛ぶ...!!アーシアの回復も飛んで来るが間に合わなそうだ...

 俺はフェニックスの涙を使った。

 

「ようやく涙を一本使ったか...なんだか負けた気分になるよ...」

 

禁手化(バランス・ブレイク)使ってない癖に良く言うぜ...はぁ...くっ...」

 

 膝を着いてしまう。もう肉体が限界だ...

 すると、バジッバジッっと空間が裂ける音がした。

 

「どうやら始まったようだぞ?」

 

 曹操が嬉しそう笑う。

 へっ...こっちの援軍だっつの...あー...来るの遅いわ...くっそ...

 

「...違う、グレートレッドではないのか?」

 

西海龍童(ミスチバス・ドラゴン)玉龍(ウーロン)かっ!」

 

「大きな『妖』の気流、それに『覇』の気流。それらによってこの都に漂う妖美な気質がうねり狂っておったわ」

 

 歳老いた老人が現れた。

 初代孫悟空...

 

「久しい限りじゃい。聖槍の。あのクソ坊主がでかくなったじゃねーの」

 

「これはこれは闘戦勝仏(とうせんしょうぶつ)殿。まさか貴方がここに来られるとは...」

 

「赤龍帝の坊や。よぉ頑張ったのぉ。だが、もう無理はしなくていいぜぃ。相当無茶しよったろう?気がぐっちゃぐちゃになっとる...儂が助っ人に来たからにゃ安心せぃ」

 

「ありがとう...ございます...」

 

 俺は鎧を解除して、ゆっくりと皆の居る方に歩いていく...

 

 そこからは圧倒的な戦いだった。

 玉龍が初代の指示で、ブリブリ文句を言いながらもヴリトラに協力して九尾を押さえつける。

 初代は襲いかかるジークフリートやゲオルグ、曹操を軽くいなして殴り飛ばす...

 強すぎる...もうこの人だけでいいんじゃないかな...

 あぁもう安心だわ...駄目だ...疲れた...

 

「イッセー...さん...」

 

 アーシアもふらふらだな...

 そりゃそうだ。皆の治療だけでなく俺に何度も何度もオーラを飛ばしてくれた...

 

「アーシア...アーシアのお陰でなんとか生き残れたよ...ありがとう」

 

「...はい...私もイッセーさんに守ってもらえました...」

 

「アーシア...」「イッセーさん...」

 

 俺達は二人で抱き合ったまま気絶してしまった。

 きちんとアーシアの下敷きになったことだけは覚えてる。

 

 ────────────────────────

 

 目が覚めると駒王町に帰っていた。

 まじか...おみやげ買ってない...最終日まるまる寝てたのか...まぁしょうがないな。

 

 しかしなんと、アーシアは起きてからずっと俺の側に居てくれていたと言うのだ...!

 アーシアに最終日皆とおみやげ買いに行かなくて良かったのかと聞くと、

 

「イッセーさんがいないのに、私だけ楽しむなんてできません!何があったってずっと一緒ですよ?」

 

 なんて言われてしまった。思わず抱きしめたね。

 可愛すぎる...愛おしすぎる...いよいよもってアーシアたんは俺の嫁が現実の物となってきたな...

 

 目が覚めてしばらく、アザゼル先生に色々お話を聞かせてもらった。

 

 まず俺が丸1日寝ていたのは間違いなくアーシアの力でオーラを回復してたあれのせいらしい。

 まぁ存在しないオーラを何度も巻き起こすので体に無理な負担がかかっていたらしい。そういえば途中から頭がぼぅっとしてたな...

 そしてその負荷を回復する為に体の機能がシャットダウンしたのだ。

 まぁ本来ならアーシニウムエネルギーが補助するはずの所を、一回エネルギーをすっからかんにしてから受けていた事で悪化したのだと思う。

 アーシニウムエネルギーの万能性について今度真剣に考えなければならんな...

 グレゴリでは解析不可能と言われたけど...

 

 事の顛末に関しては、あの後初代孫悟空が英雄派の全員をぼこぼこにして撃退。

 八坂の姫を仙術によって治療して、ついでに俺の気も少し整えてくれたらしい。

 それがなかったらもうちょっと寝込んでいたんだとか...

 

 結局、初代の介入で全部終わりましたちゃんちゃんという結末だ...

 なんかもう...もうちょっと早く来てほしかった...

 

 九重も八坂さんも俺にお礼を伝えてくださいとの事だ...

 最後に挨拶できなくてちょっと残念だな。

 

 ────────────────────────

 

 俺が目覚めてから早々、グレモリーハウスに集合となった。

 俺は重い体を引きずって家へと向かったのだが、そこには正座させられている俺とアーシア以外のメンバーがいた...

 

「イッセー、アーシア。お帰りなさい。じゃあ、座って?」

 

「はい...」

 

 二人で皆の横に正座する。

 

「さて、皆も集合したところで...なんで知らせてくれなかったのかしら?と言いたい所だけど、こちらもグレモリー領で事件が起こっていたものね...」

 

 俺達は素直に謝罪する。

 

「ご心配おかけして申し訳ありませんでした...」

 

「全くよ...イッセー、貴方に至ってはまた意識を失っていたようだし...他の皆もかなり危なかったと聞いたわ?...本当に心配したのよ?」

 

 部長は悲しそうな表情をする。

 本当に心配してくれた事が伝わるようだ...

 すごく心配をかけてしまったようだ...

 俺達はごめんなさいと項垂れる事しかできない。

 

「まぁ、なんとか無事に帰って来てくれたのだからここまでにしておきましょうか。さて、もうすぐ学園祭よ。貴方達がいない間にも準備は進めていたけれど、ここからが本番だわ」

 

 そう、学園祭がもうすぐあるのだ...

 ここから急いで準備しないと間に合わない。

 

「それだけじゃなく、サイラオーグ戦もあるわ。改めてそちらの準備にも取りかかりましょう!」

 

「「「「「「「「はい!」」」」」」」」

 

 ────────────────────────

 

「はぁ...なんとか修学旅行無事に乗り切れたな...」

 

「はい...あんなに大変な事になるとは思いませんでした...」

 

 いまだに疲れが抜けた感じがしない...

 

「でも...色々ありましたけど、楽しかったです!」

 

 アーシアはそういって笑った。

 すごいよアーシア...俺はあんな戦いの後に楽しかったとはとても言えないぜ...

 

「そうだな...戦い以外は最高だった」

 

 それは間違いない。今度余裕が出来たら絶対アーシアと旅行行こっと。

 

「そろそろいい時間だし寝よっか」

 

「そうですね」

 

 二人で俺の部屋に入る。

 電気を消してベッドに入る。

 もちろんベッドに入った後にアーシアと抱き合う。

 

「じゃあおやすみ」「はい」

 

 おやすみのちゅーをして眠る。

 やっぱり平和が一番だ...こんな時間がずっと続けばいいのになぁ...

 一つの危機を乗り越えたらすぐに新しい危機がやってくる...けど、今だけはこの幸せに浸っていたい...

 

 俺達は疲れもあって、すぐに眠ってしまった...

 



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学園祭のライオンハート編
第59話。 準備します、学園祭!


「それじゃあ今日も作業開始よ」

 

 部長の掛け声で今日も学園祭の準備が始まる。

 オカルト研究部は皆の様々な意見を取り入れて、「オカルトの館」とかいう喫茶店だのお化け屋敷だの色々な物を旧校舎全体を使って開く事にしたのだ。

 

 色々な作業で魔力を使えば簡単に済みそうな物だが、部長はできるだけ手作りでやりたいと言っていた。

 

 まぁ言いたい事はわからんでもないけど、この作業量を時短無しでやれというのはなかなかに厳しい物があると思う...

 まぁそんな無粋な事を言えるような雰囲気じゃないんだが。

 

 今は黙々と木場と二人でトントンカンカン工作作業をしている。

 乳翻訳(パイリンガル)とか持ってる訳じゃないし、ドライグも鬱っぽいけど、乳龍帝よりはまだマシだというのが根底にあるからか、カウンセラーを頼むわけでもなく、はぁとたまに溜め息をついているだけなので、特に何かイベントがあるわけでもなくひたすら作業に没頭していた。

 

 まぁなんだかんだ単純作業は好きなんだよな...

 

「イッセー君、これ支えてくれるかい?」

 

「おう」

 

 今は俺が木材を押さえている間に木場がノコギリでギコギコやってる所だ。

 

 はぁ...そろそろサイラオーグさんとの戦いが近いんだよなぁ...

 バイデントは禁手化(バランス・ブレイカー)無しの曹操には届いたって感じだったからな...

 しかし、改めて考えると俺自身がパワー押しが好きだからって技が全体的にエネルギーを大量に消費しすぎなんだよなぁ...

 サイラオーグさん相手にどれだけ通用するのやら...まぁこの前戦った感じでは、しっかり攻撃が当たればかなりの有効打にはなりそうなんだが...

 

 新しいアーシアからのオーラ供給が生まれたからある程度は継戦能力も生まれたけど、それにしたってだよなぁ...

 これによって更にアーシニウムエネルギーが貴重なエネルギーになってきたな。

 黄金の装甲形成にオーラ回復による肉体への負荷の代替、ファンネルでのビーム攻撃とくれば使い道が多過ぎて間に合わない...

 曹操との戦いも最後はただの禁手化(バランス・ブレイカー)で戦うことになったし...いやまぁ充分すぎるけどさ...

 まぁ...本番までできるだけ鍛えて、自分の出せる全てを出すしかないな。

 

「どうしたんだい、イッセー君。浮かない顔だね」

 

「木場...いや、今度のゲームの事考えててさ。俺の技って全体的にかなり力押しで消耗が酷いから考えて動かないとなって」

 

「そうだね...イッセー君の超火力は間違いなく戦力なんだけど、だからこそカードを切る場所を間違えれば劣勢になってしまうだろうね」

 

「まぁ今回はサイラオーグさんっていう間違いなく切るべき場所があるんだが...それ以外の眷属にだって切らなきゃ勝てない可能性はあるからな」

 

「まぁ少しは僕達も頼ってよ。京都では不甲斐ない所を見せてしまったけれど、なるべくイッセー君の消費を押さえて、最高の状態でサイラオーグさんの前に立たせてみせるから」

 

「...おう、頼りにしてる!その代わりサイラオーグさんは絶対に倒してみせるぜ...!」

 

「うん、頼んだよ」

 

「よし...その為にも、少しでもトレーニングしないとな...」

 

「そうだね。僕も新しい力を考えていてね、是非君に協力してほしいんだ」

 

「それは勿論いいけど...」

 

「ありがとうじゃあ、早速今日のトレーニングからよろしく頼むよ」

 

 木場はニッコリ笑う。

 

「おう、任せとけ!」

 

 木場が俺に頼んできたのは、聖剣しか使わない状態の木場を全力で倒しにいくという事だった。

 聖剣創造(ブレード・ブラックスミス)禁手化(バランス・ブレイク)したいんだそうだ。

 俺は水を得た魚のように木場に攻撃してやった。

 普段当たらないから憂さ晴らしも込みだ。

 まぁ木場も一切手加減は望んでないだろうし、多分死ぬくらいの危機を感じないと短期間で禁手化(バランス・ブレイカー)になんて至れないだろう...英雄派のやり口と一緒だ。

 それに、流石に聖剣だけの木場には後れを取れないからな...

 とはいえ最初の方はボコボコにしすぎてアーシアに少しだけ怒られちゃった...

 

 ────────────────────────

 

 数日後の夜、サイラオーグさん達と合同の記者会見があるとの事でグレモリー領にある高級ホテルに集合していた。

 

 基本はサイラオーグさんと部長に質問が行くらしいが、他の面子にも来なくはないらしい...

 とはいえ俺には何も来ないんだろうな...

 人気ないだろうし...悲しい。

 まぁ逆に言えば適当に座ってりゃいいんだけど...

 もちろん今回も鎧着て下さいと言われた。

 しかも今回に至っては一切喋らないでくださいだとよ。

 メディアの皆さんは俺をなんだと思ってるんだ...赤龍帝ですね。

 なんか、悪魔って言っても人間と大して感性が変わらんのよなぁ...

 敵役なんてめちゃくちゃ人気になりそうなもんだが、普通にヒーローとかが人気になるからな...

 これもうわかんねぇな...

 

 アーシアはメイクさんにお化粧してもらってる。

 すっぴんのアーシアでも既にありえないくらい可愛いから化粧しなくても大丈夫だよと言いたいけれど、まぁマナーとかそんな感じだろうな。

 後、化粧で若干雰囲気の変わったアーシアもめちゃくちゃ可愛い。

 化粧の途中で既に可愛いんだから完成したら最高に決まっている...

 

「イッセーさんは準備しなくていいんですか?」

 

 化粧を終わらせたアーシアに声をかけられた。

 

「あぁ...俺は...鎧着けろって言われてるから」

 

「イッセーさん...」

 

 アーシアがちょっと可哀想な子を見る顔になった...

 やめて...そんな目で見ないで...!

 

「それよりアーシア!お化粧すっごくいい!!可愛い!!いつものアーシアとはまた雰囲気が変わってすごくいい!!こりゃあまたアーシアのファンが増えちゃうな...!」

 

「本当ですか?でも...こんな機会でもないとする事もあまりなかったでしょうから、イッセーさんに見て欲しくてしっかりお化粧してもらったんですよ...?」

 

 アーシアが俺の腕にすりよってくる。

 上目遣いでこちらを見つめる。

 なんて破壊力なんだ!!

 これ以上俺を惚れさせてどうするつもりなんだアーシア!!

 

「ぐはっ...!アーシア!!そんな嬉しいことを言ってくれるなんて!!あぁ!すっごく似合ってる!!俺の最高の彼女だ!!」

 

「ありがとうございます!」

 

 アーシアの化粧や髪を崩さないように気を付けながら抱きしめる。

 はぁ好き...

 

「はいはい、もうすぐ会見が始まるからイチャイチャはここまでにしなさい?」

 

 部長が呆れながら注意してきた...

 

「すんません...」

 

「イッセー先輩とアーシア先輩のイチャイチャ見てたらちょっと落ち着いてきました...!」

 

「良かったなギャスパー」

 

「はいぃぃ...なんとか段ボールには入らずとも頑張れそうです...!」

 

 そんなこんなしてる内にスタッフの方に呼ばれた。

 

『Welsh Dragon Balance Breaker!!』

 

 俺以外のメンツは普通に制服を着ている。

 これ、新手のいじめでは?

 神器(セイクリッド・ギア)になる前なった後含め散々暴れている二天龍への報復だったりします??

 

 通路を進んでしばらく

 

「あ、リアス先輩に...なんで禁手化してんだ?兵藤...」

 

「スタッフの人に言われてるんだよ!!俺だって普通に写りたいのに!!キミはぁ...鎧着ててくれないとちょっとイメージが変わっちゃうからさぁ...とか言われるんだよ!!」

 

「そうだったのか...なんか...可哀想にな」

 

 匙からも可哀想な子を見る目で見られた...

 

「うっ...もういいんだ...どうせ俺は悪逆非道の赤龍帝なんだ...」

 

「あれ、そうなのか...?雑誌では...」

 

「俺のファンはなぁ...ヴィラン好きとリョナ好きで構成されてるんだよ...!確かにお前らとの試合はちょっとあれだったけど...でも匙の作戦と根性にやられて、あんまり動けそうになかったから...最後に少しでも挽回しないとって...そうしたら、何の躊躇いもなく不意打ちで女性の腹部を殴り魔力弾で襲いかかる悪魔のような悪魔とか赤き凶龍とか言われてたんだよ...!客観的に見たら間違ってないけど!その節は申し訳ありませんでした!!」

 

 匙の後ろにいる僧侶二人に謝罪する。

 

「いえ...勝負の世界ですし」

 

「油断してたのは私達ですから」

 

 優しい!でも内心思うところめっちゃありそう!!ごめんなさい!!

 

「まぁ、気にすんなよ兵藤。ちゃんと皆はお前の事わかってるからさ!俺達は誰も気にしてないって!」

 

「うぅ...匙ぃ...ありがとう...」

 

「元ちゃん、行きましょう、そろそろ遅れちゃうわ。リアス先輩、それではごきげんよう」

 

「えぇごきげんよう。ソーナによろしくね」

 

 生徒会メンバーは去っていった。

 

「イッセーさん...そんなに気にしてらっしゃったんですね」

 

「だって...なまじ事実しか述べられてないから否定できなくて...」

 

「イッセー、そんなに気にしなくていいわよ?ゲームなら別にあれくらい普通なんだから。確かにちょっと赤龍帝って事で偏見が混ざってるのは否定できないけど...あなたは私にとって自慢の眷属なのよ?それにね...」

 

「ありがとうございます部長!!!」

 

 あら?何か言いかけた...?まぁいっか。

 なんて優しいんだ部長は...!でもそれはそれとして家に帰ったらアーシアに慰めてもらおう...

 

 歩くことしばらく、会場に到着した。

 

『お着きになられたようです。グレモリー眷属の皆さんの登場です』

 

 拍手に迎えられながら、入場する。

 入った瞬間から感じた。

 サイラオーグさんからの闘気...すごい圧迫感だ...

 でも...俺だって負けられない。

 毅然として席に着席する。

 

 記者会見が始まった。

 まずは最初に、王二人に対して質問が飛んでいく...

 二人は毅然と答えていく。

 

 会見はつつがなく進み、各眷属の注目選手への質問へと移り変わっていく...

 朱乃さんも木場も、落ち着いて丁寧に質問に答えている...

 

「次に、グレモリー眷属僧侶、アーシア・アルジェント選手に質問です」

 

 おっ!アーシアに質問だ!頑張れ!!

 

「アーシア選手は、最近巷で噂になっている謎多きダークヒーロー、赤龍帝の兵藤一誠さんと交際関係にあるとの事ですが、普段はどのようにお過ごしなのでしょうか?」

 

「ど...どのように...ですか?」

 

 は?なんだそれは?謎多きダークヒーロー!?

 巷で噂...?まずい...自分の悪評は見たくないって冥界の雑誌とか一切見てないから全然わからねぇ...!

 そんな事になってたのか...!?

 

「悪神ロキや曹操を撃退した事は冥界でも結構なニュースになっていてね、貴方の活躍も大々的に取り上げられて、ダークヒーローって感じになっていったのよ...地味に注目を集めているわ」

 

 部長が小さい声で教えてくれる。

 そ...そんな事になってたのか!

 な...なんかむず痒いな...

 

「あぅ...あの...えっと...」

 

 あぁ!アーシアがどんどん赤面していく!

 大丈夫だアーシア!適当に流していいから!

 頑張れアーシア!俺には発言権がないんだ...!

 

「赤龍帝とアーシアは非常に深く愛し合ってるんですよ?人間界の学校では、学園一のバカップルとして有名で毎日のように所構わずイチャイチャとしてるんです。さっきも控え室で抱きしめあっていたんですから...」

 

 部長がアーシアに助け船を出したけど、それは逆効果では...!

 うっ...部長から普段のお返しよみたいな視線を感じる...!

 所構わずイチャイチャしてすみません...

 

「おぉ!では、アーシア選手に危害を加えようとした存在は一切の慈悲なく破壊されてしまうというのも事実なのでしょうか...!」

 

「事実です。アーシアを狙った者は悉く赤龍帝によって、二度と立ち上がれないほどに打ちのめされています」

 

「ちょっと部長!嘘言わないで下さい!!」

 

 俺は小声で部長に訴えるが全然無視される...!

 大体俺がボコボコにされてるんだから勘弁してくれ...!

 

「なるほど!では、アーシア選手が赤き龍の逆鱗であるとの噂は事実なんですね!」

 

「まさしくその通りです」

 

「ありがとうございます!では次の質問は...」

 

 ...........

 

 会見後、俺は部長に文句を言いに行った。

 

「ちょっと部長!なんだったんですかあれ!?いやダークヒーロー云々からよくわからないんですけど...!」

 

「それに関してはね、お兄様の意向も少しあるのよ?折角かの赤龍帝が私の眷属となって一生懸命戦ってくれているのに、悪評がたっているのでは可哀想だという事でね、ちょっと印象操作をしようとしたらしいのだけど、どんどんダークヒーローって方向に流れていったらしくてね...もうその方向で貴方を持ち上げる事にしたのよ」

 

「そ...そんな経緯があったんですか...」

 

 サーゼクス様...そんな事考えてくれてたんですね...

 おみやげ結局皆に任せてしまったのが申し訳なくなってきた...いやまぁ意識失ってたからしょうがないんだが。

 

「それはわかりましたけど、逆鱗云々の方ですよ!嘘じゃないですかあれ!」

 

「そうかしら...?アーシアが狙われたらいつも激怒してるじゃない」

 

「それは...滅茶苦茶してますね...」

 

 ぐぅの音も出ない。でも勝ってない方が多いんだよなぁ...

 

「それに、アーシアを守る意味でも悪くないアピールなのよ?赤龍帝の逆鱗って貴方が思ってるよりずっと触れたくないものだもの」

 

「そうですか...」

 

「そうなのよ。まぁ普段イチャイチャを毎日毎日見せられている報復も含まれていたけれどね」

 

「含んでるんじゃないですか!!」

 

 知らぬ間に、大変な事になっていた...

 これからは冥界の雑誌とかも読も...

 

 ────────────────────────

 

 会見が終わった次の日、俺達は部室で集合していた。

 

「よし、今からミーティングを始める」

 

 アザゼル先生が切り出した。

 

「とは言っても、まずミーティング前に今の情勢について話したい事がある。英雄派の奴らがな、英雄派に属していない一般人や悪魔の転生者の神器(セイクリッド・ギア)持ちに禁手化(バランス・ブレイカー)に至る方法を伝え始めてるって話だ。」

 

「それって...」

 

「あぁ。神器(セイクリッド・ギア)保有者には迫害や差別なんかで不遇な環境で過ごす者は少なくない。そんな連中が禁手化(バランス・ブレイカー)なんて圧倒的な力を手に入れてしまったら...まぁ色々考えられるわな。全くしてやられたってわけだ...これからいつ起こるともわからない暴動に対応するために内側にも目を向けなくちゃならなくなった...ただでさえ人手が足りないってのにな」

 

 禁手した奴らの暴動か...

 どう考えてもめんどくさいことこの上ない...

 

「...と、悪かったな。今日来たのはサイラオーグ戦のアドバイザーとしてだった」

 

 そこから、部長の解説も混ぜ合わせながらサイラオーグ戦に向けた各選手の考察などがなされていった...

 

 ────────────────────────

 

 その日の夜、俺は神器(セイクリッド・ギア)の中に潜っていた。

 戦闘とかに関して相談すると、リーダーが意外に親身に答えてくれるのだ。

 

「バイデントにもかなり慣れてきたし、そろそろ女王へのプロモーションも考えないとな...」

 

「そうですね...女王へのプロモーションはまさしく集大成となるでしょう。神器(セイクリッド・ギア)のシステム的な所は既に変更されていますから、後は意思の力とそれを具現化する詠唱が必要ですかね...」

 

「詠唱か...適当に唱えたらいいってもんじゃないんだろうな...うぅん...」

 

「まぁそう無理に考える事ではありません。詠唱は心の具現化、その時になれば自ずと浮かぶものなのです。覇龍であろうとなかろうと、詠唱とはそういう物ですから...」

 

「逆に言えばその時まではどうしようもないってことか...」

 

「そうなりますね...」

 

『今はとにかく、二種と一種のプロモーションの練度を上げることを考えるんだな。各駒の成長が女王の駒に影響しているのを感じる...』

 

「そっか...うし、今回は基礎を固めて行くことにするわ...」

 

 ────────────────────────

 

 それからは淡々と日々が過ぎていった。

 まぁトレーニング内容はかなり過酷なわけだが...

 学園祭の準備とトレーニングと悪魔の仕事の両立は無駄にしんどかったが...

 

 そしてついにゲーム当日となる。舞台はアガレス領にある空中都市、アグレアスだ!



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第60話。 始まります、バアル戦!

バアル戦は自分でダイス転がした上で話が通るように改造したので、少しだけ原作と内容や戦いの順番が変わります。
まぁ、重要な部分は一緒なんですが...


 俺達は会場の空中都市に向かうためにゴンドラに乗っている。

 雄大な景色をアーシアと楽しんでいたら、アザゼル先生から無粋な話を聞かされた。

 

 やれ会場をどこにするか現魔王派とバアル派で揉めに揉めてしまって間を取ってアガレス領になっただの、裏では魔王ルシファーと大王バアルの代理戦争だと思われているだの...

 

 そして英雄派の攻撃があるかどうかについては、ヴァーリから「サイラオーグとグレモリー眷属の戦いは俺も注目している。兵藤一誠の邪魔はさせないさ」との伝言が届いていたから大丈夫じゃないかとの事だ。

 

 ヴァーリ...ちょっと嬉しいのがむかつく...

 

 ゴンドラを降りると出待ちが広がっていた。

 大量のフラッシュを焚かれながら、あらかじめ用意されていたリムジンに乗り込む。

 アーシアはあまりの人の多さとフラッシュの量にびっくりして俺にしがみついていた。可愛い。

 

 会場であるアグレアス・ドームのすぐ横にあるホテルへと移動した。

 試合開始は夜なので、それまでホテルで各チームに当てられた部屋で待機するのだ。

 

 ボーイさんに案内されて通路を歩いていると、恐ろしい雰囲気を放つ集団が現れた。

 先頭にいるのは骸骨だ...

 

 これがハーデスか...バイデントってハーデスの槍なんだよなぁ...

 ちょっと親近感沸くけど、この世界のハーデスはかなり糞なので関わりたくはないな。

 

『これはこれは紅髪のグレモリーに堕天使の総督』

 

「これはこれは。死を司る神ハーデス殿。死神(グリムリッパー)をそんなに引き連れて上に上がってきましたか。しかし、悪魔と堕天使を何よりも嫌うあなたが来るとは...」

 

 そこからは皮肉の応酬であまり聞くに堪えなかった。

 アーシアが怖がっているので抱きしめる。

 勘弁してくれよ...まじどっか行ってくれ...

 

『赤い龍か。白い龍と共に地獄の底で暴れまわっていた頃が懐かしい限りだ...』

 

 俺を見ながらそう言ってきた...

 

 おいドライグ!なにしたんだよ!

 

『いや...ちょっとな...』

 

 ちょっとってなんだ...

 

『まぁ良いわ。今日は楽しみにさせてもらおうか。せいぜい死なぬようにな。今宵は貴様達の魂を連れに来たわけではないのだから』

 

 そう言うと、俺達の元を通りすぎていった。

 

 ふぅ...心臓に悪いわ...ったく...

 

「アーシア、大丈夫か?」

 

「は...はい...」

 

 まだ少し震えてるな...ぎゅっと抱きしめると、落ち着いてくれた。

 

 次にゼウスとポセイドンがやってきてアザゼル先生に絡んでいた。

 他の神様もみんなこれくらい気さくだと安心できるのになぁ...

 

「来たぞお前達」

 

 この声は...!

 

「タンニーンさん!こんにちわ!!」

 

 その後タンニーンさんは俺達を激励してくれた。

 よっしゃ!頑張るぞ...!

 タンニーンさんからの応援がアーシアの応援の次に嬉しい...!

 タンニーンさん好き...

 

 などと考えていると、オーディン様が通りがかったので、ロスヴァイセさんがぶちギれて追いかけ回していた。

 部長に止めるように言われたけど、多分あれは発散させた方が良いと思います...

 

 待機部屋には、お茶お菓子付きのテーブルからトレーニング器具までなんでもござれだった。

 

 俺はアーシアとイチャイチャしながら過ごす...

 一応戦力的な意味でも重要だ。

 アーシニウムエネルギーをギリギリまで貯めなくては...というのは建前でアーシアとイチャイチャしたいだけだ。

 心を落ち着かせる意味でも、やる気を上げる意味でもね...

 ロスヴァイセさんは俺達をガン見しながら、調整していた...多分リア充への怒りを溜めているのだろう...

 

 途中でライザーがやってきて、部長に叱咤激励していた。そういう所は良い奴だと思うよ。

 敗北も知ったし、しっかり精神的に成長できて、後は力を付ければ案外部長と釣り合うのではないだろうか。

 流石にないか...?まぁどうでもいいや。

 

 いよいよ試合の時が近づく...

 

 ────────────────────────

 

 俺達は今、入場ゲートの通路で待機している。

 基本的に皆は駒王学園の制服(防御力の高い特別製)なんだが、ゼノヴィアは戦闘服、ロスヴァイセさんはいつもの鎧、アーシアはシスター服だ...

 俺もアーシアに合わせて神父の服にしようかなぁ...

 でも信仰も糞もないのに、着てはいけないだろうな...

 あー...あの時俺も祈って良いようにお願いしてれば今頃アーシアに教えを説かれながらイチャイチャできたのになぁ...

 ミカエル様に怒られそう...

 

 なんてアホな事を考えていると部長が口を開いた。

 

「....皆、これからは始まるのは実戦ではないわ。レーティングゲームよ。けれど実戦にも等しい重さと空気があるわ。観客に囲まれながらだけれど、臆さないようにね!」

 

 その後すぐにサイラオーグさん達がアナウンスに従って入場した。

 大歓声が巻き起こる...

 

「緊張しますぅぅぅ!!」

 

「大丈夫だギャスパー。俺とアーシアでギリギリまでお前の前でイチャイチャしてやる」

 

「ほんとですか...?ちょっと安心かも...」

 

「そんな事で安心しないでちょうだい...全く...どこに行ってもイッセーとアーシアは平常運転ね...」

 

「アーシアとイチャイチャする以上に大事な事はないですからね!」

 

「イッセーさん...」

 

 アーシアがぴとりとくっついてくれる。可愛い。

 

「全く...これでも緊張してたのに貴方達のせいで台無しじゃない...フフッ。.....皆、改めてここまで私に着いてきてくれてありがとう。さぁ、行きましょう!やるからには勝つわよ!」

 

「「「「「「「「はいっ!」」」」」」」」

 

『リアス・グレモリーチームの入場です!!』

 

 ゲートをくぐり抜けると大歓声が俺達を迎える...

 イリナの声も聞こえるな...

 結構特徴的な声だし...

 あっ、あそこに居た!しっかり応援に来てくれたらしい。

 流石は教会三人組の一角、ええ子や...

 

 視界に写るのはだだっぴろいフィールドに浮かぶ二つの岩、岩の上部は人数分の椅子とダイス用の台、移動用の魔方陣があった。

 

 どうやらルールは俺が知ってる物と変わらないみたいだな...

 

『ごきげんよう皆様!今夜の実況は私、元七十二柱ガミジン家のナウド・ガミジンがお送り致します!!更に、今夜のゲームの審判(アービター)役にはレーティングゲーム、ランキング7位!リュディガー・ローゼンクロイツを迎えております!!』

 

『そして特別ゲスト!解説として堕天使の総督アザゼル様にお越し頂いております!どうも初めましてアザゼル総督!』

 

 アザゼル先生が解説...なんか、三勢力の和議を目の当たりにした身からすると、ちょっと感慨深いよなぁ...いやまぁ別に和平前のいざこざとか実際には全然知らんからそんな気がするくらいだけど...

 

『更にもう一方お呼びしております!レーティングゲーム、ランキング第一位!現王者!皇帝!ディハウザー・ベリアルさんです!』

 

『ごきげんよう皆さん。ディハウザー・ベリアルです。今日はグレモリーとバアルの一戦を解説する事になりました。どうぞよろしくお願い致します』

 

 ディハウザーさん...まぁ今考えることじゃないな。

 

 それからルールが説明される。

 

 今回のルールは「ダイス・フィギュア」。王二人がそれぞれのダイスで出した目の合計が持ち点となって、チェスにおける兵士を1とした駒の価値が眷属それぞれのコストになる。例えば女王である朱乃さんはコスト9だ。王であるサイラオーグさんや部長の価値は委員会が総合的に判断して決定したそうだ。そして、一戦するたびにダイスを振り直して最終的に王を取った方が勝ちだ。

 ただし、同じ選手が連続出場する事は叶わない事に注意しなければならない。

 

 こんなルールで戦略考えるとか無理ゲーでは?

 少なくとも俺には無理だ...

 

 ここでグレモリー眷属の価値を整理しておこう。

 

 木場、ゼノヴィア、アーシア、ギャスパーは価値が3だ。

 小猫ちゃんとロスヴァイセさんは価値が5。

 俺と部長は価値が8。

 朱乃さんが価値9。

 

 兵士が俺しかいないので基本的に少数または一人で戦う事になる。

 ちなみにサイラオーグさんは12。やばすぎ...

 部長や木場曰く、レーティングゲームはパフォーマンスも求められるので序盤に最大値の12が出てもサイラオーグさんは出場しないと考えられるそうだ。

 ワンマンチームは評価が下がるのだ。サイラオーグさんもただの脳筋マンパワー男とは思われたくないからなるべく終盤に自分を持ってくるはずらしい。

 

「アーシアを出すのは悪手になるわね。今回貴女にはここに残って皆の治療をしてもらうわ。試合に出してあげられなくてごめんなさいね?」

 

「いえ...」

 

 アーシアは少しだけ寂しそうな顔をしていた。

 俺も寂しいけど、このルールでアーシアを出すのは良くない事くらいわかる。それにアーシアの回復は大きなアドバンテージだ!

 

『それでは運命のゲームがスタートとなります!両陣営、準備はよろしいですね!?』

 

『これより、サイラオーグ・バアルチームとリアス・グレモリーチームのレーティングゲームを開始致します!ゲームスタート!!』

 

 ────────────────────────

 

 最初のダイスは、合計が3となった。滅茶苦茶出目少ない...

 

『作戦タイムは5分です。その間に出場選手を選出してください。なお兵士のプロモーションはフィールドに到着後、昇格可能となります』

 

 陣地が特殊な結界で覆われて、防音され口元にも魔方陣が展開されて読唇術も防がれる。

 

 正直あまり覚えてない...

 最終決戦では生き残ったメンバー全員出動って話になったことと、途中でサイラオーグさんが木場、ゼノヴィア、ロスヴァイセさんに腕を切られたことしか覚えてない...

 まぁそれを知ってるだけでも充分すぎるわけだが...

 というか同じ流れになるのだろうか?

 

 うちの眷属は僧侶が二人ともサポートタイプなので、こういう時には木場かゼノヴィアしか選択肢がない。

 

「やはりここは祐斗で行きましょう。ゼノヴィア単体ではテクニックタイプにやられる可能性もあるし、勝てたとしてもエクス・デュランタルの仕様がバレてしまうかもしれないもの。序盤で切るには勿体ないわ」

 

「それじゃあ行ってくるよ」

 

 木場は颯爽と魔方陣まで歩いていった。

 頑張れよ木場...

 

 木場が転移した先は緑の平野だった。

 相手は青白い炎を撒き散らす馬に乗った甲冑の騎士だ。

 

『キャアアアアア!木場きゅううううん!!』

 

 女性ファンが爆発した。流石は木場。グレモリーのイケメン担当だ!

 ちなみにグレモリーチームの人気順は、部長がトップ、そのちょっと下くらいに朱乃さんと木場、更に少し下に小猫ちゃん。そこから結構差が空いてギャスパー、アーシア、俺、ゼノヴィア、ロスヴァイセさんだ...今まではダントツで下が俺だったのだが、ダークヒーロー云々でちょっと株が上がったらしい...

 ロスヴァイセさんはそもそも眷属になったばかりなので今回の戦い如何でファンも増えるのではないだろうか...?

 後アーシアのファンはもっと多くていいのに。でも増えないで欲しい。葛藤だ...

 

「私は主君サイラオーグ・バアル様に仕える騎士、ベルーガ・フールカス!」

 

 相手は名乗りを上げる。流石騎士。

 

「僕はリアス・グレモリー様の騎士、木場祐斗です。どうぞよろしく」

 

 アザゼル先生の解説で相手の乗っている馬が地獄の最下層、コキュートスの深部に生息するという高位の魔物であるとの解説があった。

 

『第一試合、開始して下さい!』

 

 試合が始まると同時に、相手は突撃してくる。

 恐るべきスピードだ...木場は着いていっているけど...

 火花が散り、幾度となく斬り交わす。

 

 木場が足場を封じる為に、大量の剣を生やした。

 しかし馬は空を駆けてそれを避ける...

 なんでもありだなあの馬...

 

 木場はすかさず雷の聖魔剣で攻撃するが、相手は手持ちのランスを捨てて避雷針にする。

 その後、空間から新しいランスを取り出す。

 うぉお!初戦からすっげぇハイレベルな戦いだ!

 しかも相手は大量に分身して皆で攻撃する!

 しかもちゃんと一個一個が攻撃できるのか...!

 木場は分身にじわじわと押されていく...

 

「...初手から手の内を見せるのは嫌だったんだけど、出し惜しみをしていたら逆にスタミナを消費してしまうそうだ...」

 

 そう言った木場は聖剣を構えて呟いた。

 

禁手化(バランス・ブレイク)

 

 地面から聖剣が出現して、どんどんと甲冑の形になっていく...

 

聖剣創造(ブレード・ブラックスミス)の亜種禁手化(バランス・ブレイカー)聖覇の龍騎士団(グローリィ・ドラグ・トルーパー)です...」

 

 そう!見事に木場は禁手化(バランス・ブレイク)を果たしているのだ!

 良かったな木場...俺もお前を殴ったかいがあった。

 

 この龍騎士団は木場と同じスピードと技量を持っているのだ。恐ろしすぎる。

 完成した後にいっぱい攻撃されちゃった...

 木場も流石に鬱憤が少し溜まっていたのだろう。

 自分でやれと言っておきながらそれはどうなのだろうか...

 

 龍騎士団と幻影が衝突する。

 木場はしっかりと敵本体を斬っていた。

 見事と言う他ない。流石は木場。

 

『初戦を制したのはグレモリーチーム!さぁ次はどうなるのでしょうか!』

 

 次の合計は6だった。

 

「さて...戦車のどちらか一人を出すか、ゼノヴィアとギャスパーに出てもらうか...相手はどう出てくるかしら...」

 

「ゼノヴィアとギャスパー君のコンビでいいんじゃないでしょうか?もし相手の戦車が出たならギャスパー君のサポートが光りますし、騎士、僧侶のコンビなら片方をギャスパー君が止めている間にゼノヴィアが高火力で攻められます」

 

 木場が言う。説得力のある言葉だ...

 

「そうね...」

 

「いいものを見せてもらったからね、是非次は私に戦わせてくれよ」

 

 ゼノヴィアが言う。好戦的だなぁゼノヴィアは...

 

「....わかったわ。ゼノヴィア、ギャスパー、頼んだわよ!」

 

「はいぃぃぃぃぃぃぃ!!」

 

「頑張れよ!ギャスパー!ゼノヴィア!!」

 

 俺はグッドサインをする。

 

「任せてくれイッセー」「頑張りますぅぅぅ!!」

 

 ギャスパー大丈夫か...?

 二人は魔方陣に乗って消えていった。

 

 頑張れよ...二人とも!!



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第61話。決まります、覚悟!

 相手はリーバン・クロセルという騎士と、コリアナ・アンドレアルフスという僧侶だ。

 

 第二試合が始まった。

 

「ギャスパー、騎士を止めなさい!」

 

「はぃぃぃぃぃぃ!!」

 

 部長指示でギャスパーが騎士を神器(セイクリッド・ギア)で停止させようとするが...!

 

「キミも目を使うタイプの神器(セイクリッド・ギア)だろう?俺もさ!だからこそ弱点も知ってるよ!」

 

 そういって魔法で鏡を生み出す。

 これは不味い!!

 

「えっ...」

 

 ギャスパーが止まってしまった!

 すかさず相手の騎士はゼノヴィアを見る。

 あいつはギャスパーと同じ視覚を介した重力の神器(セイクリッド・ギア)を持ってるんだよな...

 

「ぐっ...!!おのれ...!」

 

 ゼノヴィアは重力に捕らわれ、抵抗しようとしてるけどなかなか動けないようだな...

 

 そのまま僧侶がギャスパーを攻撃して、ギャスパーはリタイアしてしまった...

 まさか鏡を生み出すとは...

 

「おのれっ!よくも後輩を...!」

 

 ゼノヴィアが激怒する。

 

「君はもう動けないだろう。このまま俺達にやられてくれたまえ」

 

 騎士は勝利が確定したといった様相だ。

 

「...例え動けなくとも、貴様くらいなら、倒せる...!はぁぁぁぁぁあああ!!!!」

 

 ゼノヴィアはデュランダルのオーラを解放する。

 そのまま射出した!振らなくてもそんな事もできるのか...

 

 油断している騎士に直撃して、騎士はリタイアした。

 

「後はキミだけだな...借りは返させて貰おう!」

 

 魔法が使えるだけの僧侶に勝ち目はなく、勝者はゼノヴィアとなった。

 ...しかしいきなりギャスパーがやられちまうとは...

 

「...すまなかった。私がギャスパーを守らなければならなかったのに」

 

「...いいえ、私の采配ミスよ。あの騎士が目の神器(セイクリッド・ギア)だというのはわかっていたのだから、光による目潰しに対処する術として鏡を持っていても全くおかしくなかったもの...ギャスパー...」

 

 部長は序盤で仲間を一人失ってしまって非常に悔しそうだ...

 眷属思いの部長はあまり見たくない光景だろう。

 とはいえ、そんなもの予想できる人がどれだけ居るというのか...居るんだろうなぁ、悪魔の世界には。

 

 畜生...ギャスパーだってすごい力を持ってるのに、やっぱり相性や対策は大事なんだな...

 とはいえ、ここで終わるわけじゃない...

 ギャスパーの無念を背負って次の戦いに繋げなければ...!

 

 ────────────────────────

 

『それでは、運命のダイスロール!三回目です!!』

 

 出た目の合計は9だった。

 

「9...序盤でこれは少し難しいわね...戦車二人のどちらかと祐斗が無難かしら...?」

 

「...私が行きますわ」

 

「朱乃...?まだ中盤にも差し掛かっていないのよ?少し早くないかしら...?」

 

「いいえ、恐らく相手は女王で来ますわ。既に三人も撃破(テイク)されている現状、あちらはこれ以上の駒の消費を押さえて一度こちらの戦力を削ぎたいはず...万一女王じゃなくても私なら広域攻撃が可能ですから、複数相手取るのも問題ありませんわ?」

 

「...そうね。貴女にならここを任せられるわ。ここで勝利できれば間違いなく大きなリードになる...」

 

「では、行ってきますわね?」

 

 朱乃さんはそう言って魔方陣へと向かった...

 かっけぇ...流石は朱乃さん...

 

 現れたのは、見立て通り女王のクイーシャ・アドバンさんだった...

 (ホール)という厄介な能力を使う人だ...

 この序盤で女王対決...結構な分かれ目だぞ...?

 

「あら、いきなり貴方が来るのね、雷光の巫女さん?」

 

「ええ、よろしくお願い致しますわ」

 

『それでは、第三試合開始して下さい!』

 

 開始と同時に大量の魔力の撃ち合いが始まった。

 今の所は両者互角だが...

 お互いまだ魔力攻撃以外を見せていない...!

 

 朱乃さんが雷光を放つと、相手の女王は穴を発生させて吸収していく。

 

「ここですわ!」

 

 朱乃さんは更に雷光の範囲を広げて、もはやフィールド全土を覆うほどに広げられた爆撃は...しかして大量の穴を作る敵女王に全て喰われてしまった!

 穴は何個でも色んな大きさで作れたのか...!

 

 そのまま、吸収した雷光から雷の要素を抜いた光の魔力が朱乃さんの後ろに生成された穴から放出され、朱乃さんはその威力にリタイアしてしまった...

 

 くっ...朱乃さんが短時間でやられてしまった。

 痛手だ...しかし、女王が何個でも穴を広げられるとか、カウンターに使えるって情報は知らなかったのでそれだけでも価千金の価値だ...!いや普通に朱乃さんをここで失ったのは痛い!!

 

「...気を取り直すわよ。朱乃が必死で私達に残してくれた情報、生かさない手はないわ!朱乃の為にもね...!」

 

 部長は無理やりといった感じで叫ぶ。

 自分の眷属が次々にやられる様は部長にかなり精神的なダメージを与えているんだろう...

 おまけに一番信頼している朱乃さんだからな...俺も内心ショックだ。なんだかんだ頼りになる先輩として見ていたからな...

 

 次のダイスは合計5だった。

 

「これは...戦車しか選択肢がないわね...相手戦車との単独での戦闘を考えるのなら...小猫、いけるかしら?」

 

「....はい、行けます」

 

 一言に十二分の闘志が含まれている...

 ギャスパーや朱乃さんの敵討ちだ...!頑張れ小猫ちゃん!

 

 小猫ちゃんは静かに魔方陣で飛んでいった。

 

「サイラオーグ様の戦車、ガンドマ・バラム」

 

「...リアス・グレモリー様の戦車、搭城小猫」

 

 二人は口数少なく名乗りを上げて、構える。

 

『それでは第4試合、開始して下さい!!』

 

「相手が相手なので初っぱなから行きます」

 

 そう言うと、小猫ちゃんは猫耳を生やして、尻尾が二本に別れる。

 

 小猫ちゃんの新技猫又モードレベル2!全身に纏った闘気でパワーと身体能力を底上げする!

 

 小猫ちゃんは俊敏な動きで肉薄し、相手の顔面を殴る。

 かなり鈍い音が響くが、いまいちダメージは入っていなさそうだ...

 

 バラムが反撃する。威力自体は高いがスピードはないので難なく小猫ちゃんも避ける。

 

 これは...長期戦になりそうだな...

 小猫ちゃんは仙術による防御無視の内部破壊で時間をかけるしかない。バラムは自分の体力が削られきる前に一撃でも入れられたら小猫ちゃんに大きなダメージを与えて、そこからは恐らく一方的な物になるだろう...

 更に言えば小猫ちゃんの体力勝負でもあるな。

 

 ただ、ここで小猫ちゃんを選んだのは正解だったな。

 ロスヴァイセさんでは、この防御を崩す策が出ないかもしれない...

 この前ヘラクレスにやられてたしな。

 

 そこからはまさに蜂VS熊といった様相だった...

 何度も何度も小猫ちゃんが仙術で攻撃して、バラムは撃ち落とそうとするが小猫ちゃんがひらりと回避する...

 遂にはバラムが口から血を流し始めた...自慢の防御力もかなり削られているようだが...

 

「....はぁ...はぁ...はぁ...」

 

 ただ、小猫ちゃんの疲弊もかなり酷くなってきた...

 更に言えば石礫などの攻撃の余波もじわじわと小猫ちゃんの体を蝕んでいる...

 このままでは猫又モード2が解けてしまいかねないな...

 猫又モード無しでこの戦車と戦うのはかなり厳しい物があるだろう。

 

 お互い後が無くなってきた。

 

「ぬぅぉおおおおお!!!!」

 

 相手の戦車が全力で地面を打ち付ける。

 小猫ちゃんは足元が急に崩れたせいで反応しきれていない。

 

「ぐっっっ!!」

 

「がぁぁぁぁ!!!!」

 

 バラムの蹴りが小猫ちゃんに当たった!!

 一応腕で防御はしていたようだが...壁に打ち付けられる。

 

「かはっ!!」

 

 小猫ちゃんは倒れてしまった...

 くっそ...でも、頑張ったよ小猫ちゃん...!

 もはやバラムは出すだけコストの無駄ってくらいには消耗してる!相手にはアーシアみたいな回復役がいない以上リタイアも同然だ...!

 

「小猫...!もう...大丈夫...貴女は充分に活躍したわ...だから...!だから...!」

 

 部長は泣きそうになりながら叫ぶ。俺はモニターの先にいる小猫ちゃんの目を見た。

 ...違う。小猫ちゃんの目はまだ死んでない。

 まだ動く...やるつもりなんだ...

 

「小猫ちゃんはまだ立ちますよ。貴女の為に立つんです部長、見てあげてください」

 

 俺はついそう言ってしまった。

 

 やはり小猫ちゃんは立ち上がる...フラフラと立ち上がる。

 俺だって見るに耐えないけど...俺は知ってる。

 小猫ちゃんの気持ちがわかる。

 どれだけ体が傷つこうとも、内蔵が破裂しようとも立ち上がるんだ。ただ守りたい物の為に...勝利をもぎ取る為に!

 

「.....まだ...やります...やれます...!」

 

「もう一発ぶちかませ!!小猫ちゃん!!!」

 

 俺はつい叫んでしまった。

 

「....はい!」

 

 小猫ちゃんは駆け出す。

 恐らく小猫ちゃんの残りの全てをこの一撃に込めているだろう。

 食らってみろバラム。今からの一撃は自慢の防御も関係ないぜ。意思の力が限界まで乗った渾身の一撃だ...!!

 

「ぬぉおおおお!!!」

 

 バラムも攻撃しようと振りかぶるが遅い。

 

「はぁぁぁあああ!!!」

 

 ドゴンと小猫ちゃんの拳が戦車の腹に突き刺さった。

 戦車は血反吐を吐きながら壁に突き刺さり、リタイアしていった...

 

「....やり...ました...」

 

 小猫ちゃんも倒れてリタイアする。

 

『第4試合の結果は引き分けです!!素晴らしいバトルでした!!しかーし!まだまだ勝負の行方はわかりませんよぉ!?それでは、第5試合のダイスをお願いします!』

 

「...小猫。それにギャスパー、朱乃...あなた達の覚悟、あなた達の思い、無念...しかと受け取ったわ...私はまだ覚悟が足りなかったみたいね。...いくわよ皆、三人の分も!私達は絶対に勝つんだから!」

 

「「「「「はい!!」」」」」

 

 部長はダイス台まで歩いていく。

 

「ほう、リアス。顔つきが変わったじゃないか」

 

 サイラオーグさんがリアスさんに話しかける。

 

「えぇそうね、情けない限りだわ。眷属皆の覚悟を見てようやく覚悟を決められただなんて...」

 

「それはお前の美点でもあろう。だが、覚悟を決めたというのなら全力で叩きのめす!それだけだ!」

 

「こちらのセリフよ!消し飛ばしてあげる...!!」

 

 部長とサイラオーグさんがバチバチしている...

 でも、部長の顔から悲しみや後悔は消えた。戦う者の顔だ。ここからが本番だぞ...

 

『ダイスの合計は8です...!それでは作戦タイムをどうぞ!!』

 

 ────────────────────────

 

「相手が出せるのは残っている僧侶と戦車だけだわ。兵士や女王の可能性も無くはないけれど、女王は私達のほとんどと相性が良い。迂闊には切れないはず...兵士も恐らくこちらのイッセーと同じように、最後の最後まで温存したいと見えるわ。駒7つの時点でまともではないもの。...となると生粋のサポートタイプと生粋のアタックタイプを相手取るには...」

 

「私に行かせてくれないか。皆がやられていく中で黙っていられるほど、私はできた人間じゃないのでね」

 

「ゼノヴィア...いえ、そうね。どちらにせよこちらもロスヴァイセと騎士二人のどちらかを合わせるしかないのだもの。ロスヴァイセの範囲攻撃と俊敏に動く祐斗では少しだけ相性が悪いわ。どうせならゼノヴィアとロスヴァイセ二人で火力に特化した方が消費も少ないかもしれない」

 

「そろそろ俺は出なくていいんですか?」

 

「イッセー、貴方にはまず何よりサイラオーグを倒して貰うわ。貴方がサイラオーグに負けるのでは、結局どう足掻いても私達に勝ちの目はない。それに、女王を倒す算段がついてるのも貴方くらいなの。ロスヴァイセ、ゼノヴィアは朱乃と同じようにやられるかもしれないし、祐斗も生粋のウィザード相手に立ち回るのは少し厳しい物があるわ。範囲攻撃を食らえばよけきれないかもしれない。そして恐らくあの女王はそれができるわ...となると、物理攻撃のみで穴を封じて、かつあの女王の魔力を正面から受けられるイッセーが適任なのよ」

 

「な...なるほど...」

 

 全然そんなに考えてなかったわ...

 

「本当ならサイラオーグだけに集中してもらいたかった所だけど、女王も貴方に倒してもらう事になるわ。更に言えば兵士だっていい加減出てくるかもしれない...だから、なるべく消耗は避けて欲しいの。貴方はいわば最終兵器よ。祐斗、ゼノヴィア、ロスヴァイセ...あなた達残りのメンバーで確実に次の僧侶と戦車を倒して、サイラオーグや兵士に対してイッセーが有利に立てるような傷跡を残すのよ!!」

 

「「「はい!!!」」」

 

 皆気合いっぱいだ...俺が最終兵器か...

 皆の覚悟を受け取って、その時が来たら俺も頑張らないとな...

 ...サイラオーグさんに、俺の拳は届くのだろうか...

 

 ふと、アーシアが俺の手を握りながら胸に抱く。

 

「イッセーさん...イッセーさんなら大丈夫です!それに、皆さんが...私だってイッセーさんの為に全力で頑張ります...!だから、安心してください!」

 

「アーシア...ありがとう、肩の力が抜けたよ」

 

 アーシアを抱き寄せる。好き...

 

「全く...私達がお前の為に頑張ろうという時にまでイチャイチャしてくれるとは...」

 

 ゼノヴィアが呆れたといった感じの顔をしている。

 

「だがまぁ、ギャスパーの気持ちもわからんでもない。お前達を見ていると、こう...少し心が落ち着くよ」

 

「私は心中穏やかではないですけどね...」

 

 可哀想なヴァルキリー...まじで誰か貰ってあげて...普通にめちゃ優良物件なので...まじで美人だし真面目だし...

 このままじゃ非リア思考に染まっていっちゃうよ!

 

「ゼノヴィア、ロスヴァイセさん!頑張って!二人なら余裕でボコボコにできる!!」

 

「任せろ!」

 

「ようやく出番ですからね、少しくらいは活躍しないとリアスさんに顔向けできないもの」

 

 二人は意気揚々と魔方陣へと向かっていく。頼もしい...

 

『それでは、第5試合開始です!!』



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第62話。 激化します、戦闘!

 第5試合の会場に二人が転移した。

 相手はやはり僧侶と戦車だった。

 

「バアル眷属が僧侶、ミスティータ・サブノック」

 

「同じく戦車、ラードラ・ブネ」

 

「グレモリー眷属が騎士、ゼノヴィア」

 

「戦車、ロスヴァイセ」

 

 全員で手短に名乗りを上げる。

 

『それでは、第5試合開始です!!』

 

 アナウンスが流れると同時にゼノヴィアがデュランダルの一撃を放つ。

 

 相手は両者それを回避して僧侶は魔力を放つ。

 ロスヴァイセさんが相殺ついでに攻撃する為に大量の魔方陣で爆撃するが、僧侶の前に戦車が立つと体をボコボコと盛り上がらせて、ドラゴンへと変身した!壁役となる。

 更に僧侶は怪しげな力を高めていく...

 

「...ブネは悪魔でありながらドラゴンも司る一族...けれど変化できるのは家の血を引く者でも限られているはず。それに今まで彼にそんな情報はなかったわ...つまり、鍛え上げて覚醒させたといった所かしら...」

 

 ゼノヴィアは聖剣で斬りかかるが、なかなかダメージを与えられないようだ...

 ロスヴァイセさんの砲撃ももろともしない。

 ドラゴンの鱗って普通にやばいからな...フェンリルのガキとフェンリルが簡単にタンニーンさんの鱗破壊出来てたのはあいつらが特殊なだけだ。

 ゼノヴィアのデュランダルビームなら倒せるんだろうけど、溜めに時間がかかるからな...

 

 後は動きがない僧侶が怖い、何をしてるんだ?

 ゼノヴィアが溜めを始めると、僧侶が叫んだ。

 

「ここだ!聖剣よ、その力を閉じよ!!」

 

 僧侶の杖が不気味に光り、その光がゼノヴィアを包み込んでいく...

 ゼノヴィアは動かなくなり、ついには剣を地面に下ろしてしまった...

 

「...これは...デュランダルが反応しない!」

 

 僧侶は急激にやつれていた。

 

「僕は人間の血も引いていてね...神器(セイクリッド・ギア)異能の棺(トリック・バニッシュ)。僕の体力や精神力を極限まで費やすことで、特定の相手の能力を一定時間完全に封じるんだ」

 

「それでデュランダルの力を封じたと言うのですか!?」

 

 ロスヴァイセさんが叫ぶ。

 

 ドラゴンが動けなくなったゼノヴィアに襲いかかるが、ロスヴァイセさんの魔方陣をフルバーストさせた攻撃で少し怯む。

 その間にロスヴァイセさんがゼノヴィアを回収して飛び去った。

 

「.....すまない。私は役立たずになりそうだ」

 

「いいえ、私の魔法でなんとか解呪してみせます。その後存分に活躍してください」

 

「どこだぁ!!!」

 

 ドラゴンが暴れまわる。見つかるのは時間の問題だな...

 

「ロスヴァイセ、解呪できそうかしら?」

 

 部長が聞く。

 

「はい、これくらいならなんとかしてみせます」

 

 そう言ってロスヴァイセさんは複数の魔方陣を起動して、ゼノヴィアを包み込んでいく...

 

「....少し、時間がかかりそうですね。私はこの間にドラゴンの気を引きながら、僧侶も狙ってみます」

 

「...助かった。解呪され次第、私がデュランダルであのドラゴンを消し飛ばしてやろう」

 

「お願いしますね。では行ってきます」

 

 ロスヴァイセさんは飛び立つ。

 

「ほう、ヴァルキリー1人か。あの騎士を今のうちにやらねばならんので貴様に構っている暇はないのだがなぁ!!」

 

 ドラゴンがブレスを吐いて攻撃するが、ロスヴァイセさんは防御術式を使って逸らす、上手い!

 そのまま魔方陣をドラゴンに向けながら、数個だけ別の方向に動かす。

 

「まさか貴様!!」

 

 ドラゴンが叫ぶが遅い...

 魔方陣が輝きあらゆる属性の魔法が放たれる。

 

 魔力も体力も削りきった僧侶はそのまま抵抗できずにリタイアだ...

 

 ドラゴンも防御姿勢で動けない...

 

「流石ロスヴァイセさん!!そのままやっちゃって下さい!!」

 

「おのれぇぇぇぇぇええ!!!」

 

 ドラゴンはロスヴァイセさんに向けてブレスを吐く。

 ロスヴァイセさんは再び逸らそうとしたが、あまりの威力に逸らしきれなかった...

 

「ぐぅぅぅぅ!!」

 

 煙に包まれて墜落していく...

 とはいえ、リタイアではないようだ。

 ロスヴァイセさんの防御術式と戦車の防御力は伊達じゃない!!すぐに浮き上がってきた...

 

「流石はドラゴンといった所ですね...でも、あなた達の負けです」

 

「なんだと!?」

 

 ドラゴンの後ろには聖剣のオーラを充分に蓄えたゼノヴィア...!

 

「これで終わりだぁぁああああ!!!」

 

 大質量のオーラがドラゴンを包み込み、体力を削りきる。

 

『第5試合勝者!ゼノヴィア選手、ロスヴァイセ選手!!』

 

 ────────────────────────

 

「良くやったわ、二人とも。これで残るは女王とサイラオーグと兵士だけ...人数だけで言えばかなり追い詰めてるわ」

 

 ロスヴァイセさんはアーシアの治療を受けている。

 

「そろそろ俺の出番ですね...」

 

「まだ、僕達の出番も残っているよ?」

 

「あぁ...!わかってる!木場!ゼノヴィア!ロスヴァイセさん!!皆ならきっとサイラオーグさんにだって通用する!」

 

「そうだね...腕の一本や二本は頂くつもりだよ」

 

 そう言った木場の顔には一応笑顔が浮かんでいるが、それでもなお隠せない怒りを感じさせた。

 そりゃそうだな。ずっと一緒にいた眷属の仲間がやられてるんだ。

 

 ────────────────────────

 

『続いて第六試合のダイスです!』

 

 二人がダイスを投げる。合計は9!

 

「...いよいよね。イッセー!相手は女王か、兵士か...どちらでも貴方が倒すのよ!!」

 

「はい!...皆の思い、きっと背負ってみせます!!倒します!!」

 

「イッセーさん!頑張って下さい!!」

 

「あぁアーシア!!絶対に勝つぜ!!」

 

 俺は魔方陣に立った。かなり終盤でようやく俺の出番だ...!

 フィールドに立つとやはり女王が来ていた。

 

『それでは第6試合、開始して下さい!!』

 

『Count down! Ten!Nine!Eight!』

 

「リアス・グレモリー様が兵士、兵藤一誠」

 

「サイラオーグ・バアル様の女王、クイーシャ・アドバン」

 

 自己紹介も終わり、空白の時間が流れる...

 俺が禁手化(バランス・ブレイク)するまで待つつもりか?

 

『One!』

 

『Welsh Dragon Balance Breaker!!!』

 

「あなたがどういうつもりで俺の禁手化(バランス・ブレイク)を待ったかは知らないですけど、行かせてもらいますよ?」

 

「えぇ、どうぞ」

 

 俺はブースターを噴かせて突撃する。

 最高速よりは少し下だ。ホールの能力が人間を吸い込む可能性もあるからな...!

 

 女王は俺に魔力をぶつけてくる。

 ...残念だけどロキの魔法に比べたら全然怖くない...

 無視して突貫だ!!

 

 そのまま肉薄して、腹に一撃を入れる。

 

「かはっっっっっっ!!!」

 

 女王は壁まで吹き飛んだ。

 

「....あなたはサイラオーグ様が必ず下すわ...」

 

 女王は消えていった。

 あの様子だと、穴は人間を取り込める訳じゃなさそうだな...

 弱点は純粋な物理攻撃だったってわけか...

 朱乃さんは完全に出すタイミングを間違っていたって訳だな...

 まぁゲームだ。そういう事もあるだろう。

 .....

 

「お疲れ様です!イッセーさん!」

 

「あぁ、アーシア!まぁ疲れてはないけど...」

 

 アーシアが念のためと回復してくれる。

 単純に体がぽかぽかするし、禁手化(バランス・ブレイカー)でつかったエネルギーも回復していく...

 

「ありがとうアーシア。これで一切消費無しで女王を下したのと一緒だ!」

 

「はい!」

 

「....話には聞いていたけどすごい力ね...あなた達は一体どこに向かっているの...?」

 

「アーシアと俺の愛のなせる技です!」「はい!」

 

 アーシアとぎゅっと抱き合う。

 

「.....まぁいいわ。お疲れ様、イッセー。これで残るは兵士かサイラオーグ...できるだけ削るわよ、皆!」

 

 部長が真剣な顔で呟く。

 そりゃそうだな。なるべく削ってこいなんてサクリファイスと何ら変わらない。

 でも、それを言えるだけの覚悟を今部長は持っている...

 眷属愛溢れる部長がここまで覚悟を決めているんだ。皆だって俺や部長のために...勝つために死ぬ覚悟だ。

 それに答えられないなら俺は今すぐにでも眷属をやめるべきだろう。

 気合いれろよ...俺...!

 

『では、ダイスを振って下さい...!』

 

 二人がダイスを投げる...

 

『おぉっと!!ここでまさかの12!!最大値です!!』

 

 ここで引いてくるか...流石サイラオーグさん。

 まぁもちろんサイラオーグさんが出てくるな...

 

「じゃあ、行ってくるよ」

 

「任せたぞイッセー」

 

「後は頼みます」

 

「任せてくれ...!必ず...必ず倒してみせる!!!」

 

 俺にはそう言う事しかできない。

 

 ────────────────────────

 

 フィールドには、仁王立ちするサイラオーグさんと、それを見上げる三人の姿があった。

 

「リアスの案か?」

 

「.....」

 

「そうか、やはりこのゲームで一皮むけたようだな。さて、お前らでは俺には勝てないが...いいんだな?」

 

「ただでは死にませんよ。最高の状態で貴方を赤龍帝に送り届けます」

 

「いい台詞だ!お前達はどこまで俺を高まらせてくれる...!?」

 

『第7試合、開始して下さい!』

 

 サイラオーグさんは体に術式の紋様を浮かべると、それを破壊した。

 その瞬間から溢れでてくるのは恐ろしいほどの闘気...!

 これがサイラオーグさんの本気...!!

 

「一切油断はしない!貴様らは覚悟を決めた戦士だッ!生半可な相手じゃない。ならば!俺も本気で立ち向かうのが礼儀だ!!!」

 

 そう言うとサイラオーグさんは駆け出す。

 

 ロスヴァイセさんが魔方陣で掃射する。

 しかし、サイラオーグさんは高速で動き回り、殴り付けて魔法を回避していく...!

 やがてロスヴァイセさんに接近すると、その腹部を殴りはるか後方まで吹き飛ばした...!!

 

 リタイアの光が見える...

 

 そうこうしているうちにゼノヴィアがサイラオーグさんに正面から斬りかかるが、サイラオーグさんは一瞬でゼノヴィアの背後に回るとゼノヴィアに蹴りを放った。

 ゼノヴィアはすんでの所で回避するが、蹴りの先の湖が裂ける...!

 

 木場がすぐにゼノヴィアとサイラオーグさんの間に聖魔剣で壁を作るが、ガラスのように砕かれしまった。

 木場は全力で逃げようとするが、サイラオーグさんはその速度についていってそのまま木場を聖魔剣の防御ごと打ち砕いた。

 ゼノヴィアが溜めの短いデュランダルの波動を放つと、それを真っ向から受け止めて闘気で消し飛ばす。

 

 ゼノヴィアと木場の同時攻撃も最小の動きで避け続ける。

 木場が聖剣に持ち変えて放った龍騎士団も、あっという間に砕き尽くされた...!

 瞬間サイラオーグさんは二人の間に体をねじ込んで拳をゼノヴィアの腹に、蹴りを木場の横腹にぶち込む。

 

 骨が砕ける音がして二人は吹き飛ぶ。

 しかし、まだ立ち上がる...

 

「まだ楽しませてくれるのか?」

 

「...あぁ!楽しませてやるさッ!」

 

 そう言った瞬間、サイラオーグさんの背後にロスヴァイセさんが現れた。

 

「油断しましたね!近距離からのフルバーストならどうですか!!」

 

 そういうと、ほぼ0距離から魔方陣を起動して大量の魔法が放たれる...!

 流石のサイラオーグさんも直撃にはそれなりのダメージを受けたようだ。体から煙が上がっているだけだけど...

 

 部長曰く、ゼノヴィアがエクス・デュランダルから切り離した擬態の聖剣(エクスカリバー・ミミック)透明の聖剣(エクスカリバー・トランスペアレンシー)をロスヴァイセさんに預けて、サイラオーグさんに擬態したロスヴァイセさんを殴らせてリタイアと思わせた所で透明になって油断する瞬間を待っていたようだ。

 

 さらにはより騙す為に、擬態した物にリタイア演出っぽい物を出す魔法をつけたり、聖剣を持つために何重にもダメージを緩和する魔方陣を張っていたりなどといった工夫も、ロスヴァイセさんによって一瞬の間に行われていたらしい。流石はロスヴァイセさん!!

 真剣な戦いではめっぽう強いな!!

 

「....見事だお前達。俺は敬意を払うと共に、これを贈る事にしよう」

 

 そう言った瞬間に三人は後ろに飛び退く。

 サイラオーグさんの拳が放たれると、後ろに居たはずのロスヴァイセさんがリタイアの光に包まれていた。

 拳圧だけでロスヴァイセさんを倒したのか...!

 

 ロスヴァイセさんの最後をみることなく駆け出していたゼノヴィアがサイラオーグさんの右腕に斬りかかる!

 ....が、薄皮を斬るに留まった。

 しかし木場が加勢に入って、二刀流の聖魔剣でデュランダルを押し込む!

 二人の力によって、ついにサイラオーグさんの腕は切断された...!!

 

「....見事だ。右腕はお前達にくれてやろう。これで俺はフェニックスの涙を使わざるを得なくなった。万全の態勢で決戦に望みたいからな」

 

「かはっっっっ!!!」

 

 そう言うと、ゼノヴィアの腹に拳をぶちこんで一撃で意識を刈り取った。

 更には木場の所へ急接近すると、木場の横腹を蹴り抜く...!

 たってはいけないような音がして木場は吹き飛んだ...

 

「....見事としか言いようがない。お前達と戦えた事に感謝する」

 

 サイラオーグさんはそう言い残して帰って来た。

 

 ────────────────────────

 

「........」

 

 俺は何も言えない。皆は良くやってくれた。サイラオーグさんの腕を斬るなんて大金星だ。

 だけど...違う。

 サイラオーグさんは真剣に皆と対峙して、真剣に戦った。誠実な人だ。

 だけど...あぁ、京都の時と一緒だな...

 皆が無惨に痛め付けられている所を見ると、どうにも収まりがつかない...

 

「...サイラオーグ....」

 

 俺は奴を見つめる。

 あちらも俺を見返す。

 言葉はいらない。視線だけで充分だ。

 それだけで言いたいことは伝わる...

 

 今すぐにでもお前を地に伏せさせるッ...!!!



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第63話。 決戦です、サイラオーグさん!

 サイラオーグさんがこちらを不敵に見返す。

 闘志が具現化して俺を押し潰すようだ...

 ...だからなんだ?俺が逆に潰してやるんだろうが...

 

「俺は...赤龍帝と拳を交える瞬間を俺はずっと待っていた。委員会に問いたい、もういいだろう?俺とあいつがルールによって、精神的に最高の今この状態で戦えないなどという愚があってよいのだろうか!!俺は次の試合こちらの全部とあちらの全部で団体戦を希望するッ!」

 

『おぉっと!ここでサイラオーグ選手からの提案が出てしまいました!!』

 

『確かにこの後の展開は容易に読めてしまう。それではあまりにつまらないという点はありますね』

 

『それならば、消化試合を垂れ流して流れを切るより次を団体戦にしてケリをつける方がわかりやすいし、何よりも盛り上がるだろうな...仲間をやられて怒りに燃えるイッセーと右腕を斬られるほどの戦いをして最高に滾っているサイラオーグ...ククッこっからでも二人が視線だけでぶつけてるプレッシャーが見えるようだぜ』

 

『いま、委員会から報告を受けました!認めるそうです!次の試合は決勝戦となる団体戦です、両陣営残りのメンバーでの総力戦になります!!』

 

 会場が沸き立つ...

 

「...だそうだ。やりすぎてしまうかもしれん。死んでも恨むなとは言わんが、死ぬ覚悟だけはしてくれ」

 

「...俺は死にませんよ。アーシアと寿命までずっと幸せに生きるのが夢なんでね。...俺を殺すと言うのなら、あんたの夢が体ごと砕け散る覚悟はしておいて下さい」

 

「...!...いい殺気だ...たまらないなッ!」

 

 .......

 

 魔方陣で飛ぶ直前の事だった。

 

「イッセーさん、部長さん...私も連れていって下さい!」

 

「アーシア?今からするのは文字通りの殺し合いなんだぞ...?危ないからここで待っててくれ...」

 

「なら...尚更連れていって下さい...!!私だってイッセーさんとずっと一緒に居たいんです...!イッセーさんの夢は私の夢です!だから...そんな場所に向かうのなら、私を連れていって下さい...!痛いのだって我慢できます!どんな目にあっても大丈夫です!だって、イッセーさんが守ってくれますから...!だから...私にもイッセーさんを守らせて下さい...」

 

 アーシアが涙目でこちらを強く見つめる。

 その目には覚悟が...強い意志が込められていた。

 

「....アーシア...」

 

「...どうやら決意は固いようね。これは貴方とアーシアの問題よ?好きになさい」

 

「アーシア.....そうだな。俺とアーシアはずっと一緒だ。....アーシア...俺と一緒に戦ってくれるか?」

 

「はい!何処へだってついて行きます!」

 

 アーシアが俺に抱きついてくれる。

 そうだ。俺が愛する女は...アーシアは、もう守られるだけの存在じゃない。

 俺と共にいてくれて、俺を支えてくれるパートナーだ。

 ならばこそ...よりいっそうの覚悟を持てよ兵藤一誠。俺がアーシアを守るんだ...

 絶対にアーシアには攻撃させるな...

 

 ────────────────────────

 

 団体戦のフィールドには既に立っている。

 何もないひたすら広がる平野だ...ありがたい。

 これならば確実にアーシアの危機を察知すればすぐに飛んでいける。

 俺はもう禁手化(バランス・ブレイク)して、準備万端だ。

 

「アーシア...プロモーションの許可をくれ」

 

「はい...!許可します!」

 

「全く...それは私の仕事なのよ?...まぁプロモーションの許可をほとんどしたことがない王ってのも面白いかもしれないけど」

 

 部長が呆れている。

 

「アハハハ...俺のこの力はアーシアを守る為に生まれた物なので...」

 

「わかってるわよ。だからこその成長なのでしょうしね...さて、アーシア。貴女は常にイッセーの後ろにつきなさい。私が兵士を抑えるわ。もし危なかったらリタイアしても構わないし、私がリタイアさせるわ。まぁ、貴女のナイト様が守ってくれるでしょうけど...」

 

「はい...!部長さんも傷ついたら言ってくださいね!すぐに治しますから!!」

 

「お願いするわ...そろそろ雑談も終わりましょうか...いよいよ決戦よ!」

 

「「はい!」」

 

 俺は今持てる全てを解放する。

 

『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost!!!!』

 

「...いい威圧感だ、兵藤一誠。なるほどな...これは冗談抜きでお互い無事には済まなそうだな」

 

「その割りには楽しそうですね...」

 

「当たり前だろう!これほど昂る事があるだろうか...!!」

 

「なら、本気で来てくださいね。俺も本気で行きますから...」

 

「勿論だ...」

 

 サイラオーグさんが闘気を解放する。

 

『バアルVSグレモリーの若手頂上決戦もついに最終局面です!...それでは、開始して下さい!!』

 

 俺とサイラオーグさんはまだ動かない。

 先に動いたのは兵士と部長だった。

 

 兵士が仮面を取り払うと、体を変形させていく...

 最終的に出来上がったのは巨大な一匹の黄金に輝くライオンである。

 

『まさか...ネメアの獅子か!?いや、あの宝玉はまさか...!!』

 

『と言いますと?』

 

『あれは恐らく神滅具(ロンギヌス)...!獅子王の戦斧(レグルス・ネメア)!!所有者がここ数年行方不明との報告は受けていたが...まさかバアル眷属の兵士になっているとは...!』

 

「残念ながら、所有者はもう死んでいる。俺が見つけたときには既に怪しげな集団に殺された後でな。神器(セイクリッド・ギア)である斧だけが無事だった。所有者が死ねば消えるはずの斧は、あろうことか獅子に化けて所有者を殺した集団を根こそぎ全滅させていたんだ。俺が眷属にしたのはその時でな...獅子を司る母の血筋が呼んだ縁だと思ったのだ」

 

『所有者抜きで単独で意志を持って動く神器(セイクリッド・ギア)...それも神滅具(ロンギヌス)だと!?更に悪魔に転生した!獅子がすごいのか悪魔の駒(イーヴィル・ピース)がすごいのか...どちらにせよ興味深い!!サイラオーグ!今度その獅子を俺の研究所に連れてこい!すげー調べたい!!』

 

「所有者無しの状態だからか、力がとても不安定でな。このゲームまでとてもじゃないが出せる代物じゃなかった。敵味方見境なしの暴走状態では勝負どころじゃないからな...今回出せるとしたら俺と組めるこのような試合だけだった。いざというときに止められるのは俺だけだからな」

 

「....何にせよ私の相手はその神滅具(ロンギヌス)って事ね」

 

 部長と獅子も構える。

 

「さて、待たせてすまなかったな...行こうか、兵藤一誠」

 

「....はい」

 

山吹に爆ぜし二叉成駒(ブランディッシュ・バースト・バイデント)赤龍帝の爆砕騎士(ウェルシュ・バーステッド・ナイト)

 

『Change burst impact booster!!!』

 

「...赤龍帝が金の装甲...?」

 

「これは俺のアーシアへの思いの具現化です...そう易々と打ち砕けると思わないで下さい...砕きたければ俺の想いを越えてみせる事です!」

 

「フッ...その形態になって更にオーラが増大した...!なるほど...愛されているじゃないかアーシア・アルジェント!」

 

「アーシアが最高の女だってだけですよ。俺の自慢の彼女です...」

 

「あぅ...あの...ありがとうございます...」

 

 アーシアは顔を赤くしていた...

 

『おぉっと!陣地では何度も何度もイチャイチャする様を我々に見せつけていた赤龍帝!戦闘間近のここですら見せつけるのか...!!』

 

『ハハハッ!だが、こうなったイッセーは強いぞ...?あいつはアーシアに関わる事になると人が変わったように強くなるからな...!にしても何回見ても面白いぜ!!赤龍帝が黄金って!!ワハハ!!ドライグがまた泣くなぁ!!』

 

『んおぉぉおおおん!!考えないようにしてるんだからほじくり返すなぁぁぁ!!!』

 

「行きます...!」

 

「来い!!」

 

 俺はサイラオーグさんに肉薄すると、その腹に一撃をぶちこむ...!!

 

『Transfer!!』

 

 肘のブースターが爆発する...!

 

「グハッッッッッ!!!ぬぉおおお!!」

 

 サイラオーグさんの体がくの字に曲がり、少し血を吐くがすぐに立ち直って俺の顔面に一撃を入れようとする。

 俺は逆の腕を挟んで防御した。

 

「くっ...なんという威力...そしてなんという固さだ...!!これがお前の愛だと言うのか...!なんという濃密な意志の塊ッ...!!もはや執念と言っても過言ではない!!」

 

「まだまだこれからですよ...!!!」

 

「当たり前だ!!!もっと来い!!!」

 

赤龍帝の爆裂戦車(ウェルシュ・バーステッド・ルーク)!!!」

 

『Change burst meteor booster!!』

 

『Transfer!!』

 

 背中を爆発させて、サイラオーグさんに突撃する。

 

「グッッッッッ!!!ぬぉおおおお!!!」

 

 サイラオーグさんも地面を抉りながら全力で踏ん張っているが...負けるわけにはいかねぇ!!!

 

 ついには浮かせて、そのまま地面に急降下する。

 サイラオーグさんの背中で地面を抉りながら突き進む...!!

 

「ガッッッ!!グッッッッッ!!!ゲホッッッ!!!」

 

 サイラオーグさんはこんな状態でも俺の横腹を殴り付ける...!!

 口から血を吐く。まずい...!内臓が破壊される...!!

 

 俺はサイラオーグさんを離して形態を変える。

 

六条の龍(ヘキサ・ドラゴニック・)穿つ僧侶(ブラスター・ビショップ)!!!」

 

『Change Dragonic Funnel Blaster!!』

 

 俺は二つのファンネルにだけオーラを籠める...

 残り4つはそのまま突撃させる...!!

 

 サイラオーグさんが起き上がると同時に二本ずつ発射する。

 一発目を両の手で殴り飛ばし、二発目も弾き飛ばす。

 しかし腕の位置が外側に向かったので、三発目が腹に突き刺さる。

 とはいえ今の俺の魔力による操作はそれほどの威力は出せない。だが、それは問題じゃない。

 

「バーストォォォォォォ!!!」

 

 サイラオーグさんの腹に刺さった二つが砲撃を放つ...!!

 

「ぐぅぉおおおおおお!!!!」

 

 サイラオーグさんは闘気を爆発させるが、それくらいで...ゼロ距離から消し飛ばせるほど柔な砲撃じゃないぞ...!!

 

 砲撃が終わった頃には、腹から煙と血を流すサイラオーグさんの姿があった...

 まじか...ゼロ距離で肉を多少抉っただけなのかよ...!!

 

「はぁ...ぐぅ...!...恐るべき力だ...!これほど...これほどとはッ...!!いいぞ!兵藤一誠!!!もっと来い!!!俺に全てをぶつけてみせろ!!」

 

 サイラオーグさんが叫ぶ。

 あれだけ食らってまだこんな元気があるのかよ!!

 俺はこれでも結構消費してんだぞ!!

 

 と考えているとアーシアからの回復のオーラが当たる。

 急速にオーラと体が回復していく...

 

「...オーラが増大...いや、回復したのか...?ククク...ハハハ!!なんでもありだな兵藤一誠!!!面白い!!まだまだ楽しめるな!!」

 

 くっそ...間違いなく今追い詰めてるのは俺なのに、このままじゃ負ける気がする...!!

 

赤龍帝の爆裂戦車(ウェルシュ・バーステッド・ルーク)!!!」

 

『Change burst meteor booster!!』

 

 俺はサイラオーグさんに突撃しようとしたが、突如頭に危険信号が浮かぶ...!!

 アーシグナル・コールだ!アーシアが危ない!!

 

 俺はサイラオーグさんに背を向けて、アーシアの居る方向へ飛ぼうとする。

 爆発する一瞬前にサイラオーグさんに背中を蹴られた。呼吸が上手くできないが今は関係ない!!

 

『Transfer!!』

 

 神速でアーシアの方向へと突撃すると、今にもライオンに噛まれそうになっていた。

 

「だぁぁあらぁぁぁああ!!!」

 

 ライオンの横腹に突撃して十数メートル後方まで吹き飛ばす!!

 

「ぐぅぅぅぅぅっぅ!!!!」

 

「イッセーさん!!」

 

「アーシア!!怪我はないか!!?」

 

「はい!!でも部長さんが!!」

 

 よく見ると部長が血だらけで倒れていた。

 

「ぐっ...回復役をやり損ねたか...!まぁいい...おい赤龍帝!このままでは貴様の王はリタイアだ!!涙を使え!!」

 

「お前!!アーシアを狙いやがって!!!魂ごと消し飛ばすぞ!!!!二度と神器(セイクリッド・ギア)として起動できないようにしてやろうか!!!」

 

「イッセーさん!!今は早く涙を使って下さい...!!私の回復のオーラでは多分もう間に合いません...!」

 

「うっ...すまん!」

 

 俺はアーシアを抱いて飛んでいき、部長に涙を使う。

 アーシアも回復のオーラを直接当てていた。

 

「....情けないわね...私があなた達の枷になるなんて...」

 

「大丈夫です、部長さん!!すぐに回復します!」

 

 サイラオーグさんもこちらに追い付いた。

 

「...なるほど...余計な事を、と言えば俺の王としての資質に疑問が生まれるな。いいだろう、それは認める。だが、赤龍帝との一戦はやらせてもらうぞ。後、アーシア・アルジェントへの攻撃も禁止だ。兵藤一誠が俺に集中してくれないからな、ただし神器(セイクリッド・ギア)を使えば攻撃していい。それで充分抑止力にはなるだろう」

 

「...わかりました。申し訳ございません、主を思ってこその行動です」

 

「....アーシア...今からは神器(セイクリッド・ギア)を使うな...」

 

「...はい...」

 

 ギリリと歯軋りする。

 あいつ...アーシアをなるべく傷つけない配慮なのはわかるけど場合によっちゃアーシアに危害を加えるって言ってるのと一緒だ...!

 

「サイラオーグ様!私を身に纏って下さい!!あの禁手化(バランス・ブレイカー)ならば、貴方は赤龍帝を遥かに超越する!勝てる試合をみすみす本気も出さずに...」

 

「黙れッ!あの力は冥界の危機に関してのみ使うと決めた物だ!!この男の前であれを使って何になる!?俺はこの体のみでこの男と戦うと決めたのだ!!」

 

 その言葉を聞いた時...ブチりと俺の頭の中で血管が切れる音がした。俺はあんたとの戦いをこれでも楽しみにしてたんだ...!あんたとの夢をかけた戦いを...!!意地の押し付け合いを!!!

 

「おい...あんたそれ本気で言ってんのかよ...あんたがそんな事を言うのかよ...!!」

 

「兵藤一誠...?」

 

「あんたはすごい人だと思うよ、尊敬できる人だ。だけど...だからこそ今の発言で俺はあんたに心底失望した...!!己の身一つだと...!?何になるだと...!!?ふざけるな...ふざけるなサイラオーグ...!!」

 

「...!」

 

「あんたはこの戦いを夢をかけた舞台だと言ったな!!あんたの夢はその程度か!!?本気で夢かけてんだったら何だって使って勝ってみせろよ!!俺の夢は...!!俺は!!本気だ!!アーシアの力だって神器(セイクリッド・ギア)の力だってなんだって使ってやる!!!絶対にアーシアを守りきって、アーシアと一生幸せに暮らせる生活を手に入れてみせる!!!俺はその夢をかけてここに立った!!あんたの夢がどれだけ崇高だか知らないけどな!!俺の夢をバカにしてるのか!!!!」

 

 気がついたら感情を全て吐露していた...

 

「.......すまなかった兵藤一誠....俺が間違っていた...そうだったな、ここは夢をかけて全身全霊で戦うべき舞台だ...俺は未だ生半可な覚悟でここに立っていたようだ。なんと愚かな事か...ッ!!」

 

 サイラオーグさんからかつてないほどの闘気が迸る...

 

「このような戦いを終生一度あるかないかと想像すらできなかった自分があまりにも腹立たしい!!レグルスゥゥゥ!!」

 

「ハッ!!」

 

 黄金のライオンは光の奔流となりサイラオーグさんを包みこむ...

 

「では行こうか!ちなみに俺の夢は魔王となる事だ!!そして俺はお前の夢を決して笑わない!!!...俺は今日この場を死戦と断定するッ!お前の夢がここで砕けても恨むなよ、兵藤一誠!!」

 

「あんたこそな!!!!」

 

 俺はつい鎧の中で笑ってしまった。

 これでこそだ...全身全霊全てを使い尽くして戦わなければこの戦いには何の意味もない!!

 あんたに勝った事にならない!!

 

 いよいよ正念場だ...!文字通り全てをかけろ...!!ここが俺の分水嶺だ!!



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第64話。 決着です、バアル戦!

「我が獅子よ!ネメアの王よ!獅子王と呼ばれた汝よ!我が猛りに応じて、衣と化せぇぇぇ!!!」

 

「「禁手化(バランス・ブレイク)ゥゥゥゥゥ!!!」」

 

 まばゆい閃光が辺り一帯を包み込む。

 視界が回復した頃に現れたのは黄金の鎧を纏うサイラオーグさんだった。

 

獅子王の戦斧(レグルス・ネメア)禁手化(バランス・ブレイク)獅子王の剛皮(レグルス・レイ・レザー・レックス)!兵藤一誠...俺に本気を出させてくれた事、心から礼を言おう!!!では...行くぞ!!」

 

 一瞬でこちらに近づくと、俺に殴りかかる!

 

『Change burst impact booster!!』

 

赤龍帝の爆砕騎士(ウェルシュ・バーステッド・ナイト)!!!」

 

『Transfer!!』

 

 俺の全力の拳とサイラオーグさんの拳がぶつかり合う...!

 バキバキと音を立てて俺の金の装甲が砕けていく...!!

 

「ぐっっ...!がぁぁぁああ!!!」

 

 それでもなお力を入れようとするが、押し負けた。

 拳の骨が砕ける...!!

 

「今のが俺の力だ。...どうした兵藤一誠!!お前の想いとやらはこんな物なのか!!?」

 

「まだだぁぁぁああ!!!」

 

 俺は逆の腕で殴りかかるが、サイラオーグさんは一切避けない...!!

 バゴンと重い音が鳴るが、サイラオーグさんの腹の装甲に少しヒビを入れるに留まった...

 

「やはりいい拳だ。この鎧を纏ってなお俺の体に響く...!だが、今の俺を相手取るには全く足りん!!!」

 

 そう言ってサイラオーグさんは俺の腹に拳をぶっさした。

 

「がぶっっっっ!!」

 

 鎧が砕かれ血を噴き出す...

 更に拳を俺の顔面に叩きつけた。

 

「ぐっっっ...うぎっ...!!」

 

 数メートル飛ばされた俺は、ぐわんぐわん回る視界の中なんとか体勢を立て直した。

 

赤龍帝の爆裂戦車(ウェルシュ・バーステッド・ルーク)ッッ!!!」

 

『Change burst meteor booster!!』

 

『Transfer!!』

 

 俺はサイラオーグさんに突撃する!!

 

「甘い!!」

 

 サイラオーグさんは両手で俺の突進を受け止めて、そのまま俺の腹を蹴り抜いた...!

 

「ガボッッッッッ!!」

 

 血反吐を吐き、バイデントが解除され、うずくまる俺の顔面を蹴り飛ばす。

 

「.....!!!」

 

 視界がスパークして、俺の意識は暗転した。

 

 ────────────────────────

 

 気がつけば真っ暗で何も見えない場所にいた。

 意識だけがうっすらと残っているのだろう...

 

 ダメだ...早く立ち上がらないと...!

 まだ戦わないと...!!

 このままじゃ次にやられるのはアーシアだ!!!

 俺が守るんじゃないのか!!?

 立てよ!!動けよ糞ッ!!!

 

 どれだけ念じても体が動く事はない...

 糞っ!!糞っ!!こんな肝心な所で!!!

 

「.....イッセーさん」

 

 声が聞こえる...

 

「....起きてください!!イッセーさん!!」

 

 体全体に優しい温もりを感じる。アーシアのオーラだろう...

 

「....何だってします!!!キスでも...エ...エッチな事でも...なんでもします!!だから...だから!負けないで下さい!!!嫌です!!イッセーさんが負ける所なんて見たくありません!!」

 

 アーシア...!!わかってる!!俺だって勝ちたい!!夢を否定されたくない!!!

 

 頬に暖かい物を感じる...

 アーシアの涙だろうか...

 

「イッセーさん...愛してます...大好きです...だから...」

 

 アーシアの唇の感触がする...

 暖かい...こんなに愛されているのに...

 こんなに大好きで、かわいくて、純情で、意外に積極的で、すぐ顔を赤くして、たまに抜けてて、優しくて、愛おしくて、温かくて、強くて、綺麗で、清らかで、いい匂いがして、笑顔が素敵で、料理が上手で、吸い込まれるように美しい瞳で、可愛らしい声で...体だって最高で至高だ。特に太ももとお尻が素晴らしい...そんでもって....甘えてくれて、甘やかしてくれて、支えてくれて、助けてくれて、いつも気に掛けてくれて、俺のために涙を流してくれて、今日だって俺の為に危険を省みず付いてきてくれた。...こんなに...こんなにも特別で、大切で....

 

 こんなに最高の女の子が俺とずっと一緒にいたいって言ってくれてるのに...

 こんなに愛してる女が立ってくれって言ってるのに...

 こんなに愛してくれる彼女が一緒に戦ってくれてるのに...

 今立ち上がらないで、いつ立ち上がる...

 今守れないで、いつ守れる...!!

 そうだろう...!今この瞬間出来ない奴に次の機会なんてあるわけないだろうが!!

 

 身体中の感覚が戻ってきた...もう、大丈夫だ。

 

 ────────────────────────

 

 俺はアーシアを抱き寄せて半身を起き上がらせる。

 

「...!イッセーさん!!」

 

 アーシアの顔は涙で濡れていた。

 俺にまたがって治療や...キスをしてくれていたみたいだ...

 

「全部聞こえてたよアーシア...ありがとう...アーシアのお陰で戻ってこれた...」

 

 アーシアをぎゅっと抱きしめる。

 ...こうしてるだけで無限に力が沸いてくるようだ...

 

「なぁ、アーシア」

 

「はい、イッセーさん」

 

「もう一回、キスしてくれるか?」

 

「...はい!イッセーさんとなら何度でも!」

 

 アーシアと口づけを交わす。

 観客が見ていようが、敵が目の前に居ようが関係ない。俺は今アーシアとキスがしたい!!

 愛おしい...好きだ好きだ好きだ!!大好きだ!!

 

 10秒ほど、互いを貪るような濃厚なキスをしてから口を離す...

 俺達を繋ぐ唾液の糸が切れた瞬間、俺の体から信じられないくらいの力が溢れだした。

 

「ありがとうアーシア...何回言っても言い足りないけど...愛してる。大好きだ。ずっと側にいてくれ。俺はもうアーシアが居ないと生きていけないんだ」

 

「私もイッセーさんが居ないと生きていけません...ずっとお側にいさせて下さい!大好きです!!」

 

 俺はアーシアを最後にもう一度だけ抱きしめて、その場を離れた。

 

「いくぞドライグ...」

 

『俺は嫌な予感しかしないからやりたくないのだが...』

 

「いくぞドライグ!!」

 

『わかっている!!もう知らん!!!どうにでもなってしまえ!!』

 

 ドライグの叫びが響き渡る。

 

 ブーステッド・ギアの宝玉が赤く輝きだす...!!

 

『教祖様ー!!!!我々の祈りを今!!解放するのです!!!』

 

『アーシアたんバンザイ!!!』『アーシアたんバンザイ!!!』

『聖女様バンザイ!!!』『聖女様バンザイ!!!』

『アーシアたんすこすこ!!』『アーシアたんくっそすこ!!』

『L!O!V!E!ラブリー!アーシア!!』

 

 宝玉から赤色の人型のオーラが数十体ほど現れると、祈りを始めた...

 アーシア教の祈りが会場に響き渡る...

 アーシアは人生で一番困惑していそうな顔だ。

 アザゼル先生はマイク越しで大爆笑してるのが伝わる。

 部長は頭を抱えてうずくまった!

 

『...アーシアたん...バンザイ...アーシアたんバンザイ!!』

 

 ドライグがついに壊れた。ごめんなさいドライグ...

 

 詠唱が頭に浮かぶ...いや、自然と口から漏れでてくるようだ...

 人型のオーラが俺の詠唱に答えてくれる。

 

「我、目覚めるは愛の律にて理を蹂躙せし赤龍帝なり!」

 

『極点の愛を捧げ、無垢なる愛を纏いて、ただ平穏を望まん』

 

「我、仇なす一切に滅尽をもたらす者。唯一絶対たる我が聖女の守護者と成りて!」

 

「「「「汝を我等が安寧の礎へと沈めよう!!」」」」

 

 人型のオーラが黄金に輝き俺の元に集まり、紅蓮の光が全てを飲み込む。俺の体を新たな鎧が包み込んでいく...

 

 光が収まる頃には全てが終わっていた。

 

 全身の鎧は全体的に大きく、厚くなって、金の鎧に変化した。

 その代わりとばかりに立ち上るオーラは完全にドライグのものだ...

 この状態はアーシニウムエネルギーを鎧全体に注ぎ込む事で、最強最硬の鎧を生み出している。

 代わりにこの状態でのエネルギー運用は全て自分の体力やオーラなどになる。

 装着してるだけでもおぞましいほどのエネルギー消費だが...

 ドライグのオーラで金の鎧が赤く赤く輝く...

 これもう実質赤と一緒だろ。だからドライグ許して...?

 

 名付けるなら...!

 

聖女守護せし(ブロンディ・ウェルシュガーデ)山吹の赤龍帝(ィアン・プロモーション)とかかな...」

 

『おぉっと!赤龍帝が赤いオーラに包まれたと思ったら!!新たな鎧を身に纏ったぁぁぁ!!というかこれは本当に赤龍帝なのか!!?赤くないぞ!!』

 

『アッッハハハハハハ!!!あいつまじでやりやがった!!!全身金ピカじゃねぇか!!!ククククク...!!!ダメだ...!!興味深い以前に笑い死ぬ...!!!』

 

『教祖様...』

 

「ドライグ...やめてくれ...俺が悪かったから、今度アザゼル先生にカウンセラー頼もうな?だから今は落ち着こうぜ?」

 

『...はっ!...意識を失っていた...うぅ...ぬわぁぁぁあああん!!!ついにやってくれたな相棒!!!お前は絶対にこうすると思っていたんだ!!!覚悟していても辛い!!!心が張り裂けそうだ...!!』

 

「待ってくれドライグ!!客観的に見てみろ!!今の俺達のオーラは真っ赤っかだ!外から見れば俺の体は赤みたいなもんだ!!だから赤龍帝だろ?」

 

『鎧は金だろうが!!!うわぁぁあああん!!んぉおおおおん!!!俺は赤い龍なんだぁぁぁあ!!!』

 

 流石に無理があったかぁ...

 

「ごめんドライグ、この事は一度じっくり話し合うとして、サイラオーグさんを待たせてるから戦おうぜ」

 

『グスン...わかった。この戦いが終わったら絶対だからな...!!嘘ついたらストライキしてやるからな...!』

 

 天龍の口からストライキなんて言葉が出るとは...

 

「すみません...長らくお待たせしてしまいました」

 

「いいや構わんさ。お前が何かに羽化しようとしていたのは、お前が倒れてからすぐにわかった。お前が俺に全てを出せと言ったんだぞ?お前が全てを出すのを待つのは当然だろう!俺だって全力のお前をねじ伏せてやりたいんだからな!!」

 

「ありがとうございます!!」

 

「会場も色々な意味で盛り上がっている。この光景を...今のお前と相対するこの時の為ならばいくらでも待てたとも!...しかし!散々目の前でお預けさせられていたんだ...!餓えに餓えた俺のこの力!どうか受け止めてくれよ!!?」

 

「そちらこそ!!行きます!!!」

 

 俺達は衝突する。

 普通にブースターを起動したつもりなのに一瞬でサイラオーグさんの元にたどり着いていた。

 そのまま衝突する。

 

「がっっっ!!!」

 

 サイラオーグさんが少し吹き飛ぶが、すぐに立て直して俺の顔面を殴る。吹き飛ぶ事も、鎧が砕ける事もなく、すぐに静止した。

 俺はそのまま拳を顔面で押し返し、サイラオーグさんに肉薄する。

 腹を殴る。鎧が砕けて内部にまで響いた感触がある!!

 

「ぬぅぅぅ!!ガハッ!!」

 

 すげぇ...!あらゆる行動の出力が自分でも制御できないくらいに上がっている...!!

 防御力も...!サイラオーグさんの拳で鎧がびくともしていない!!まぁ多少内部に衝撃は響くが...

 

『あぁ...だがそれ故にあっという間にこの状態は解除されかねんぞ...あまりに高出力過ぎる...!』

 

 そうだな...この鎧はバイデントが最初から付属しているんだ...出力が高すぎる...!!

 それ故にエネルギーの消費が酷すぎるんだ...

 維持するので精一杯レベルだ!!

 

「なら!今のうちに削れるだけ削る!!」

 

 俺はサイラオーグさんの右の拳を腹にあえて受けて、二の腕に肘を叩き込む!

 

「ぐっっっっ!!!」

 

 予想外に大きい痛みに怯んだようだな!!

 

「それは皆が俺にくれたアドバンテージだ!!もう一発!!!」

 

 同じ場所を蹴りあげる!!

 激痛で動けないサイラオーグさんの顔面に、もう一発真正面から拳をぶちこむ!!

 鎧が砕ける感触を感じる。

 

「がっっっっ!!!」

 

 サイラオーグさんは数メートル吹き飛んですぐに立ち上がる...

 右腕をぷらんと垂らしながら...

 

「づっ...なるほど...フェニックスの涙でもまだ完治していなかったわけか...流石デュランダル...いや!お前の仲間達だと言っておこう!!俺の右腕はしばらく使い物にならず、今の所攻撃も通じず俺の鎧が砕かれるばかりか...たまらないなッ!!!これほどの逆境!!燃え上がらない男がいるものかッ!!!」

 

「らぁああああ!!!!」

 

 サイラオーグさんは飛んで来た俺に対して真正面から腹に膝蹴りを突き刺す。

 

「ぐっっ!!!だらぁぁ!!!」

 

 俺はそれを耐えてサイラオーグさんの胸に拳を叩き込む

 

「がはっっっ!!!」

 

 よろめいたサイラオーグさんの太ももに蹴りをぶちこみ、顔面を拳で撃ち抜く!!

 

 それでもサイラオーグさんは立ち上がる。

 

「グクッ....いいぞ...兵藤一誠...!これほどの拳は...生涯食らった事がない!!もっと来い!!」

 

 フラフラしながらもそう言ってくる。

 くっそ...!まだ倒れる気配はないな...!!

 

 俺は再び肉薄すると、サイラオーグさんの顔にアッパーを入れようとしたが、気がつくと地面に倒れていた...

 

「.....顔面殴られて...一瞬意識が飛んでたのか...」

 

 顔面の鎧が修復される感覚がある。

 やっぱり一筋縄でいけるほどサイラオーグさんは甘くないな...

 さっきまで間違いなく俺が圧倒していたのに...急激にパワーアップしやがった...

 

『いや、それもあるが相棒、ただでさえダメージを受けて血を吐きすぎている。お前の体力が減りすぎているのだ...今は俺がなんとか鎧の出力を大幅に抑えて、辛うじて維持させているにすぎん。とはいえそれも俺の集中力がいつまで保つか...』

 

 そっか...ありがとう。負担かけてすまんな...

 ...早く決着つけないとな...

 

『気にするな。勝つぞ相棒!!これで負けたら絶対に許さんからな!!!』

 

「あぁ!!行くぞサイラオーグゥゥゥぅ!!!!」

 

「兵藤一誠ぃぃぃぃぃぃ!!!」

 

 お互いの鎧を砕き合いながらの殴り合いが始まった。

 俺も防御を極力捨てて、攻撃に集中している。

 内臓は破裂して骨にヒビが入り肉は叩き潰される...

 それはサイラオーグさんも同じだ...!!

 ただひたすらに互いの体を破壊し尽くしていく...

 くっ!右腕が逝った...!!

 だけどもう痛すぎてどこも痛くない...ならまだ殴れる!!

 

「ゲェェェッ..!!げぼっ!!はぁ...あ゛ぁ゛...」

 

 血反吐が大量に喉を逆流して呼吸の邪魔をする...

 

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!」

 

 俺の拳が顔面に突き刺さる。

 数メートル吹き飛んだサイラオーグさんはそのまま動かなくなった。

 

 だが...消えない。まだ戦えるんだ...

 きっとすぐに立ち上がるだろう。

 

 アーシアが駆け寄って回復してくれる...

 妙に回復が遅いな...オーラもあまり回復してくれない...

 

「ア゛ージア゛...だい゛...じょぶ...」

 

 喉が逝ったのか声が出ない...俺はアーシアの頭にぽんと手を置いて、治療をやめさせる。

 多分...サイラオーグさんの俺をうち砕き勝利するという狂気にも近い執念が呪いと化して俺の回復を阻害してるんだ。

 

 アーシアは無言で俺に一度抱きついて後ろに下がった...

 ありがとうアーシア...また、ちょっとだけ力が沸いてきた...

 

 サイラオーグさんが立ち上がる。

 原作みたいにお母さんに立てって言われてたのかもな...

 だって...獅子王の輝きが更に増している。

 これがサイラオーグ...俺が打倒すべき漢...!!

 

「オ゛オ゛オーオオオ゛ーオオオ゛オオ゛オ゛オオオオオ゛──オオッッ!!!!」

 

 血反吐を吐きながらの...お世辞にも綺麗とは言えない獅子の咆哮が響き渡る。

 でも...その咆哮は、サイラオーグさん自身だけでなく、俺すらも奮い立たせた。

 もう、ほとんど動けないと思ってたのに再び身体中に力が漲る...

 

 ....俺だってもうボロボロなのに...もう一度ぶつかり合えだなんて、ひでぇ人だ...

 

「~~~~──ーッッ!!!」

 

 声にならない叫びを上げて俺はサイラオーグさんと再びぶつかり合う。

 

 何度も何度も、互いのぐちゃぐちゃになってる体を破壊し合う。

 額をぶつけ合って、互いにたたらを踏んでよろめく...

 くっそ...!!もう立っているのが精一杯だ...

 

 後一発...!一発だけ当てれば勝てる!!

 もうお互い死にかけだ!!!

 一発だけ...!!

 

 お互いに体を正面からぶつけ合う。

 もはや腕は機能していない。ならば使えるのは体だけだ...

 これでは抱き合ってるのと変わらない...

 それでも懸命にお互い体を押し付け合う...

 

「オ゛オ゛オオ゛オ゛ォォォ!!!」

 

「ア゛ア゛──ァア゛ァ゛!!!」

 

 突如背中に衝撃と温もりを感じる

 アーシアが俺に飛びついて神器(セイクリッド・ギア)を使っているんだ...!

 今度はだんだんと体が回復していく...

 今の衝撃でサイラオーグさんは倒れこんだ。

 

 アーシア...そうだな!!例えどれだけサイラオーグさんの執念がすごいからって、俺とアーシアの愛に勝てるわけないんだ...!!

 俺とアーシアの二人ならどんな困難だって乗り越えられるのだから!!

 

「サイラオーグさん...俺一人じゃ絶対に貴方には勝てませんでした...けど...俺とアーシア...二人で支え合う事で俺達は強くなってきたんです...だから...これで終わりです...」

 

「.....あぁ...お前達の愛とやらに...俺は負けるんだな...だが...存外悪く...ない...もんだ...」

 

 俺はサイラオーグさんに最後の一撃を...感謝を込めた一撃を叩き込む。ありがとうございました!!あなたのお陰で俺は...夢への更なる一歩を踏み出せました!!あなたの夢は俺が喰い破りましたが...俺は知っています。あなたは必ず立ち上がる。だから...

 

『サイラオーグ・バアル選手、戦闘不能!!ゲーム終了です!!勝者!!リアス・グレモリーチーム!!!!!!』

 

 会場が歓声に包まれる...

 

「イッセーさん!!!」

 

 俺は鎧を解除して振り向き、アーシアを抱きしめる。

 

「アーシア...ありがと...」

 

「きゃっ!」

 

 俺はアーシアに覆い被さるように気絶してしまった。

 初めてアーシアを下敷きにしてしまったな...大失態だな...



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第65話。 迎えます、学園祭!

 目が覚めると、いつもの天井が見えた。

 

「病院か...」

 

 案外体はスッキリしている...

 勝ったん...だよな?

 

 横を見るとサイラオーグさんが寝ていた。

 自分で言うのもなんだが、かなりぐちゃぐちゃに殴り合ったはずだが、やっぱり冥界の医療は進んでるのだろうか...?

 いや、アーシアが治療したのかも...

 あれだけの戦いをしたにしては体が軽いし。

 

「....!イッセーさん!おはようございます!!」

 

 アーシアが扉を開けて走って俺に突撃してくる。

 

「ぐふっ!アーシアおはよう。...どれくらい寝てた?」

 

「半日くらいです!」

 

「そっか...アーシアが治してくれたのか?サイラオーグさんも?」

 

「はい、病院に着いたらすぐに」

 

「そっか、ありがとうアーシア。戦いでもアーシアにはいっぱい助けて貰ったな」

 

「お礼なんて言わないでください。私達はこれからもずっと支えあっていくんですから」

 

 アーシアはにこりと笑ってくれる。

 

「そうだな!俺とアーシアは最高のパートナーだからな!」

 

「はい!」

 

 ぎゅっと抱きしめる。

 はぁ好き...好き好き...

 

「全く...起きて早々見せつけてくれるじゃないか」

 

「サ、サイラオーグさん!おはようございます!」

 

「あぁ、それにしても、あれだけの戦いをしたのにもうほとんど怪我の面影もないとは...体力は戻っていないようだが。君の力なんだろう?全く...リアスを羨ましく感じてしまいそうだ」

 

「そんな...私なんて...」

 

「いいや、誇っていいともアーシア・アルジェント。君は間違いなくグレモリー眷属における重要人物だ。おまけにそれを守るのが赤龍帝なんだからな。そこらの奴らじゃ立ち向かう事も出来んだろうさ。フッ...それにしても、こんなにも充実した負けは初めてかもしれん...」

 

「俺も...最高の気分でした。アーシアと共に、貴方を打ち倒せて...これほどの歓喜はないです」

 

「言ってくれるじゃないか。だがまぁ、俺もお前達と戦えて最高だった...今でもまだ昂りが収まらないようだ...」

 

「俺もですよ」

 

 本当に、今でも手が震えるようだ...あれほどの戦いが今後あるだろうかと思えるほどの一戦だった。

 

「失礼するよ」

 

 紅髪の男が入室してきた。

 

「サ...サーゼクス様!?」

 

「こんにちわ、兵藤君、サイラオーグ。本当にいい試合だった。私も強くそう思うし、上役も全員満足していたよ。若手組の将来が楽しみになる一戦だった」

 

「ありがとうございます...」

 

「さて、兵藤君。君に話があるんだ。サイラオーグ、しばし彼と話をしていいだろうか?」

 

「俺はかまいません。...席を外しましょうか?」

 

「いや、構わないよ。アルジェントくん。君も同席で構わない。君達二人を離れ離れにさせて、恨まれては困るからね」

 

 サーゼクス様はクスリと笑いながらそう言った。

 

「サーゼクス様!ご冗談はお辞め下さい!!」

 

 俺はついつっこんでしまう。

 

「ハハ...朝刊で話題になっていたよ?冥界一のバカップル誕生か?ってね。天龍の巫女と山吹の龍帝くん?」

 

「て...天龍の巫女ですか...?」

 

 アーシアが恥ずかしそうにしている。

 

「あぁ...またドライグが病んでしまうな...ごめんよドライグ。わかってる。色々終わったらちゃんとお話するから...」

 

『.....あぁ...』

 

「話を戻そうか...兵藤君。君に昇格の話があるんだ」

 

「昇格...ですか?」

 

「正確に言うと君と木場くんと朱乃くんだが。ここまで君達はたくさんのテロリストの攻撃を防いでくれた。三大勢力の会談テロ、旧魔王派のテロ、神のロキですら退けた。そして先の京都での一件と今回の試合で完全に決定がなされた。近いうちに君達三人は階級が上がるだろう。おめでとう。これは異例であり、昨今では稀な昇格だ」

 

「でも俺...昇格は...」

 

「大方、アーシア・アルジェントと共に生きられればそれで良いとでも考えているのだろう?受けろ、兵藤一誠。お前は...いや、今回は君は評価が足りなかったようだが、お前達二人はそこで収まっていい存在じゃない。それに、階級が上がるのもそう悪い事ではないぞ?アーシア・アルジェントを守る時に、地位が必要になる時が来るやもしれんだろうしな」

 

 サイラオーグさんに言われる。

 

「そう言われると確かに...」

 

 そういう考えはしたことがなかったが、充分あり得る話なのか...

 

「そ...それでは、謹んでお受け致します」

 

「うむ。詳細は改めてそちらに連絡するよ。会場の設置やらなんやら、諸々の事柄も進めなければならないからね」

 

 そう言い残して魔王様は去っていった。

 

「おめでとうございます!イッセーさん!」

 

 アーシアが我が事のように喜んでくれる。

 

「ありがとう。まぁまだ合格が決まった訳じゃないだろうけど...悪魔の勉強ちょっと疎かになってるし」

 

「明日から一緒に勉強しましょう!」

 

「アーシア!わかった!明日からいっぱい勉強する!!」

 

 アーシアとならいっぱい頑張れるぞ!

 

「まぁ安心しろ、昇格試験は落ちたとしてもまた受け直せる。なんなら少しだけなら俺が面倒見てやってもいいぞ?」

 

「それはありがたいですけど、流石にサイラオーグさんに悪いですよ...」

 

 それからしばらく俺達は談笑して、ドクターさんの最終確認の検査を終えると退院した。

 

 冥界の朝刊を見ると、まじで天龍の巫女とか山吹の龍帝、金龍帝などのワードが並んでいてびっくりした...

 一個だけキス龍帝と書いていたのは見なかった事にした。

 にしてもやっぱりすごい注目度なんだな...

 これからはアーシアと俺のペアでオファーとか来るのだろうか...などと妄想してしまう。

 

 ────────────────────────

 

 その日の夜、俺はドライグに少しでもストレスを吐き出して貰うために話し合いの時間を設けた。

 流石に今までのも重なって限界が近いみたいだからな...

 

「よし、ドライグ。腹割って話そうぜ」

 

『あぁ...とはいえ、何をどう言ったものか...』

 

「俺はカウンセラーでもなんでもないからな。とはいえ、ドライグの精神に多大な負担かけてるのはわかってるから、なんとかはしたいんだが...」

 

『......頭ではわかっているのだ...お前が力を求めて、行き着いた先があれなのだと。これがお前の...ブーステッド・ギアの新しい可能性なのだと理解は出来るんだ。だが...だが、赤は俺が俺である証明なんだ。許せない気持ちと、相棒が進む道を見たい気持ちで板挟みなんだよ...』

 

「そっか...辛いよな。ごめんよ、元凶が何を言ってもしょうがないかもしれないけど、これでもドライグには感謝してるし、大切な相棒なんだと思ってるんだ...俺が選んだ道を進むのを助けてくれたのもドライグで、道を開いてくれたのもドライグだ。だから、蔑ろにしたい訳じゃないのだけはわかって欲しい。いや、結果的になってるのは否定できないけど」

 

『お前の気持ちは、きちんと俺の中に流れて来ている。お前がそれを本心で言ってることぐらいわかる。すまんな...俺の精神がこんなにも脆弱なのが悪いんだ。二天龍として名を轟かせたこの俺が、こんなにも脆いとは知らなんだ...』

 

「そんな悲しいこと言うなよドライグ。お前だけが悪いなんてあるものか。俺達は少なくとも死ぬまで一心同体なんだから、少しくらい俺に頼ってくれてもいいんだぜ?というかこの件に関しちゃほんとに俺が悪いし...」

 

『いいや、お前は気にしなくていい。お前の道を行ってくれ。新しい力も、莫大なエネルギーの消費という点さえ克服できればかなりいい塩梅だ。後は俺の心の問題なんだ...』

 

「ドライグ...」

 

『少しだけ心が軽くなった。ただ、できればカウンセラーの調達はお願いしたい...』

 

「そりゃもう!明日にでもアザゼル先生に聞いてみるよ!一番のカウンセラー見つけて貰うから!」

 

『頼んだ...』

 

 ドライグ...着々と追い詰められているな...

 どうにかしてあげたいんだが、やはり二天龍の和解くらいのビックイベントじゃないと対症療法にしかならないのかもなぁ。

 まぁしょうがない...明日、いの一番にカウンセラーをお願いしに行こう。

 

 ────────────────────────

 

 今日は学園祭。

 やる気あるクラスなら早朝から最終準備だろうが、俺達オカ研は昨日の深夜のうちに終わらせているので普通に登校している。

 

「イッセーさん!今日は楽しみですね」

 

「そうだな!アーシアのウェイトレス姿撮影するためにばっちりカメラ準備したからな!いっぱい写真取らせてくれよ?」

 

「はい!イッセーさんのお写真も取らせて下さいね?」

 

「俺?俺はいいだろ...」

 

 恥ずかしいから勘弁してほしい...

 

「でも...私もイッセーさんのお写真欲しいです...」

 

「はい!いっぱい撮られます!!何枚でも撮ってください!!」

 

「おいイッセー!学園祭に彼女無しで挑む俺達の気持ちとかちょっとは考えねぇのか!!」

 

「そうだそうだ!!せめて俺達がいない所でやってくれ!!」

 

「なんだよ、教室じゃ一緒なんだから別登校で良くないかって言ってるのに拒否してるのはお前らだろうが...自己防衛しろよ自己防衛」

 

「嫌だね!お前のアーシアちゃんとわかっていても毎朝美少女に挨拶される喜びは捨てられない!!」

 

「そうだそうだ!むしろアーシアさんだけ残してお前は消えてくれ!!」

 

「お前らにアーシア預けたらアーシアが汚されるわ!」

 

「言ったなイッセー!!このっ!!」

 

 頭を叩こうとしてきたので軽くあしらった。

 

「くそぅ...イッセーが冷たい...」

 

「しょうがないさ。あいつは裏切り者だからな...俺達なんざ興味ないんだ...」

 

「間違っちゃいないがそこまでは言ってねぇ...」

 

 などと喋ってる間に学校に着いてしまった。

 朝の時間に教室で点呼したら、後は自由時間みたいなもんだ。

 一応クラスの出し物もあるんだが、まぁ桐生がかなり張り切ってしっかり役割分担その他諸々してくれたのでわりと余裕はある。

 学校行事に関して有能すぎん?

 俺とアーシアがずっと一緒に居られるように調整もしたとも言われた。

 そういう所が憎めないんだよなぁ...

 アーシアがあれだけ弄られてもなんだかんだ友達でいるのも納得だ。

 

 まずはオカ研での仕事だ。

 ぶっちゃけオカ研の仕事は激務だ...

 大量に人が来るのはわかりきってるし、人数も少ないし...

 まぁやるしかないんだが。

 

 今はアーシアが廊下で列整理をしている。一生懸命声を出していて可愛い。

 あっ!あいつアーシアがあんなに頑張ってるのに無視しやがったな...

 殺気を向けてやれば大人しく列に並んだ。それでいいんだよ阿呆め...

 

「イッセーくん。アーシアさんの事見たいのはわかったからこっちを手伝ってよ」

 

 木場が呆れた様子でこちらに呼び掛ける。

 

「すまん木場!10秒だけと思ってたんだけどずっと見てしまってた...」

 

「それじゃあ僕は喫茶店の方に戻るから、仕掛けのことはよろしくね」

 

「了解、ありがとう。そっちも頑張ってくれよ」

 

 俺はお化け屋敷のフランケンシュタインのメイクをして持ち場に着く。

 

「わー!」

 

 俺が飛び出しても、

 

「........あぁ兵藤...」

 

 みたいな感じでスルーされる。

 多分他の部員が驚かすのを期待してたんだろう。

 だってギャスパーの所ではキャーキャー歓声が上がっているもの。

 

 いやいいんだけどさ...せめて驚いて欲しいんだが...

 

 ────────────────────────

 

 お化け屋敷の仕事を交代して、今はチケット販売の仕事をしている。

 とはいえそれも完売して今は増産中なのだが...

 大量にコピーされたチケットをチョキチョキハサミで切って一枚のチケットにしていく。

 まぁこういう作業嫌いじゃないし、接客よかはるかにマシだ。

 なんだ...兵藤かよって落胆の目はもう見たくない!!結構精神にくる!!

 

「よぉイッセー、大盛況だな」

 

「アザゼル先生。こんな所に来てどうしたんですか?」

 

「ん?あぁ、ドライグのカウンセラーが見つかったからよ。それの報告に来たんだ」

 

「ほんとですか先生!ありがとうございます!!良かったなドライグ!!」

 

『...あぁ...』

 

「ったく...俺は面白れぇからいいけどよ、あんまりドライグ泣かすんじゃねぇぞ?これでも世界に二匹しかいない天龍なんだからな...俺達が苦労させられた時とはえらい違いだぜ...」

 

 アルビオンとの和解が成されれば、それが一番手っ取り早いんだろうけど、そうならない可能性も充分あるからな...

 ここまでドライグが追い込まれた以上、カウンセラーは必須だろう。

 

「てなわけでまた今度連絡先教えるから、イッセー。しっかり面倒見てやれよ?」

 

「はい!悪気が無くても自分が原因なのはわかってるんでちゃんとします!」

 

 それを聞くとアザゼル先生は去っていった。

 

「よし...チケット販売頑張るか...」

 

 チケットの増産が終わった俺は再びチケット売場へと動き出した。

 

 ────────────────────────

 

 仕事も一段落して、今は休憩時間でアーシアと色々な店を回っている。

 さっきクレープを購入したので一緒に食べ歩き中だ。

 

「おっ...アーシア、クリーム付いてるぞ」

 

 アーシアの口元のクリームを取ってあげる。

 

「あっ!すみません!私ったら...」

 

「アーシアいっつも食べ方綺麗だから珍しいな。いや可愛いから全然いいんだけど」

 

「ちょっと難しいです...」

 

「確かに、クレープって形崩れやすいし大きいから食べ辛いよな。大体こういう学園祭の出店だと簡単で食べやすいサイズなんだけど、妙に本格的だからな...」

 

「そうなんですか」

 

「そんなもんだと思うぞ?...そうだ、今度のデートは食べ歩きできそうな所に行ってみるか」

 

「行きたいです!」

 

「うし、よさげな所探しとくよ」

 

 はぁ、こういうなんでもない会話が幸せだ...

 その後も、お化け屋敷ではアーシアが俺にしがみついて非常に可愛かったし、脱出ゲームでうんうん唸るアーシアも、射的で景品が取れて喜ぶアーシアも、どれも素晴らしかった...

 写真もいっぱい撮ったので、アーシアルバムVol.15が埋まってしまうな...

 断腸の思いで厳選してるのに結構な量になってしまう...

 

 休憩時間が終わると、再びお仕事地獄の始まりだ。

 とはいえ、あっという間に時間は過ぎ去り、後夜祭の時間となってしまった...

 ほとんど仕事してた気がするんですけど...なんか思ってた学園祭と違う!

 部活と教室両立するとこんなにしんどいのか...

 

 今は後夜祭に参加して、キャンプファイヤーを囲んでオクラホマミキサーだ!

 アーシアと踊るのは最高に楽しかったが、アーシアが他の奴と踊るのは嫉妬心ががが...

 などと考えていたが、アーシアはとても楽しそうなのでそんな事を考えるのは野暮だな、俺も素直にダンスを楽しもう。

 前世ではやるわけねぇ!と思ってたけど、素直になれば存外楽しいもんだな。

 名も知らぬ女子にちょっと嫌な顔された時は辛くなっちゃったけど...

 

 ────────────────────────

 

 無事、学園祭は終了した。

 なんだかんだ楽しい学園祭だった。

 アーシアも非常に満足しているようで良かった。

 アーシアの写真もいっぱい撮れたし、思い出もいっぱい出来た。

 来年もまた、アーシアと学園祭を楽しむ為にも頑張らないとだ!!

 



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進級試験とウロボロス編
第66話。 受けます、昇進推薦!


今日の夜から明日の朝にかけて大量投稿したいと思います。


「ん...ふぁあ...」

 

 目が覚めた。いい朝だ...

 隣でアーシアがすやすやと眠っている。

 もう何度思ったかもわからないけどアーシアが可愛い!!

 もうとにかく可愛くて仕方がないね。本当にこんなに可愛い子が俺の彼女でいいのかと心配になるくらいには可愛い...俺以外には絶対に一切触らせないけど。

 

「んむ...イッセーさん...おはようございます」

 

 アーシアも目を覚ましたようだ。

 

「おはようアーシア。そろそろトレーニングの準備しないとだな」

 

「そうですね...あの...もう少しだけこうしていてもいいですか?」

 

 そう言いながらアーシアが俺に身を寄せる。

 

「勿論...」

 

 アーシアの頭を優しく撫でる。

 しばらくアーシアの抱擁を堪能する...

 

「ん...ありがとうございます!それじゃあ準備しましょうか!」

 

 アーシアがそう言って、洗面所で一緒に歯磨き洗顔寝癖直し...お互いの部屋で運動着に着替えて集合だ。

 アーシアと出会ってからそれなりの期間が経つが、この習慣だけはほとんど変わらない。

 そういうのって良いよなぁ...

 やはりアーシアと過ごす日常こそが至高...

 

 現在は術式君も10号機となっている...

 そう考えると感慨深いものだなぁ...

 こいつにはお世話になった記憶もあれば苦渋を飲まされた記憶もある...

 そしてこの前サイラオーグさんに聞いたらやはり同じブランドの物だった。

 けどサイラオーグさんは最新型らしく、何号機だっけ...50までは行って無かったと思うけど俺の使ってる物が凄く型落ちなのは確かだ。

 つくづくドライグが居ないと俺は駄目なんだと実感する。

 かくいうドライグは、カウンセラーから貰った点滴で少しづつ精神を回復している。

 そうは言ってもまだ、何かの拍子に鬱になってしまいそうでヒヤヒヤしているが...

 今の所は守護者のプロモーションもなんとか受け入れて、修行に付き合ってくれている。

 頭が上がらないなほんと...

 

「んぐぎぎぎぎ!!!」

 

「イッセーさん!後10回です!」

 

「よし!!んんん!!ふぅぅぅぅ!!」

 

 ゆっくりと...しっかり負荷をかけられるようにトレーニングする。

 守護者のプロモーションはあっという間にエネルギーを消耗してしまうからな...

 少しでも体力を増やさないといけない。

 万全の状態で、出力を下げずに稼働するとおよそ20分程度しか保たない。戦闘で更に力を使うので、実質的には10分といったところだろうか。

 なんだか昔に戻った気分だ。20分と言えばヴァーリと戦った時の時間制限だったかな?懐かしいようなついこの前だったような...

 まぁアーシアのオーラで回復もできるからもう少し延びるんだろうけれども...

 

 トレーニングを終えると、俺はシャワーを浴びる。

 その間にアーシアは母さんと共に朝御飯を作ってくれる。ついでにお弁当も...弁当だけは俺の分全部アーシアが作ってくれる。なんだそれは健気すぎて萌え死ぬ...

 そして、朝食を食べ終えて学校に行く準備を整えて出発。

 

 これが俺とアーシアのモーニングルーティーンだ。

 はっきり言って幸せすぎる。アーシアと出会えて本当に良かった...

 何故これほどまでに日常の幸せを噛み締めているのかと言うと、ぶっちゃけ中級試験の後に俺または冥界が終わりかねない大事件が起こるからだ。

 なんであの時シャルバ殺しきれなかったんだろ...

 いや、限界だったんだけどさ...まぁ後悔しても後の祭りだな。

 

 ────────────────────────

 

 その日の夜、俺達はグレモリーハウスに召集がかけられた。

 グレモリーハウスにサーゼクス様とグレイフィアさんが訪ねて来るのだ。

 グレモリーハウスと言えば新たな住民としてロスヴァイセさんも加わったんだよな...

 二人を通して、VIPルームにご案内する。

 

「先日も話した通り、兵藤君、木場君、朱乃君の三名は数々の殊勲を挙げた結果、昇格の推薦が発せられた」

 

 サーゼクス様が話し始めた。

 

「本来ならば上級悪魔相当の昇格が妥当なのだが、昇格のシステム上、まずは中級の昇格試験を受けて貰う」

 

 まぁ戦闘力だけで言えば並みの上級より上だもんね。妥当な所なんだろうさ、学力とかは...考えちゃいけませんね。

 

「昇格推薦おめでとう、イッセー、朱乃、佑斗。あなた達は自慢の眷属だわ」

 

 部長がそう言ってくれる。若干俺に対して変な視線を感じた気がしないでもないが、気にしないでおこう。

 他の眷属の皆も祝福してくれる。

 うぅ...あの場ではサイラオーグさんに言われてついやりますって言っちゃったけど本当はあんまり受けたくない...悪魔の勉強全然できてないもん。

 一応、あの日からアーシアと勉強してるんだけど...逆にアーシアの学力上昇がめざましいくらいだ。今や完全に教えられる側と化している。

 教師モードのアーシアにイタズラしたら普通に怒られた。教師と生徒って感じで興奮すると思ったんだもん!それ以降は真面目に教えて貰っている...

 

「ま、この三人以外にも直に昇格の話が来るさ。お前らがやってきた事は大きいからな。強さって点で言えばほぼ全員が上級悪魔クラス。そんな強さを持った下級悪魔の眷属チームなんてレア中のレアだぜ?」

 

 アザゼル先生がそう言った。

 すると、木場と朱乃さんが立ち上がって一礼する。

 

「この度の昇格のご推薦、まことにありがとうございます。身に余る光栄です。リアス・グレモリー眷属の騎士として謹んでお受け致します、魔王サーゼクス・ルシファーさま」

 

「私もグレモリー眷属の女王として、お受け致します。この度は評価して頂きまして、まことにありがとうございました」

 

 あわわわ俺も何か言わないと!!

 慌てて立ち上がる!

 

「こ!この度は身に余る推薦まことに感謝致します!!リアス・グレモリー様が兵士として、一生懸命お受けさせて頂きます!」

 

 全力でお辞儀する。

 これで失礼はないだろうか?わからん!

 

「うむ、頑張りたまえ」

 

 サーゼクス様は優しい声色で俺達にそう言ってくれた。

 良かった!無事に済んだ。サーゼクス様と話すのすっごく緊張するんだよな...冗談抜きで大統領とかと話すのと一緒だからな...

 

「てなわけで来週、三人には冥界で昇格試験に参加して貰う。それが一番近い試験日だからな」

 

「まじですか!普通一ヶ月後とかじゃないんですか!!?」

 

「そう焦るなイッセー。進級できるか心配なのはお前だけだ。後二人は余裕だろうからな、早い方がいいだろう」

 

「俺は危ないじゃないですか!!待ってください!勉強全然足りてませんよ!!」

 

「おう、死ぬ気で頑張れ!まぁ最悪落ちてもまたチャンスはある。推薦が取り消されることは滅多にないからな。大丈夫だって!周りにいっぱい頭良い奴らが居るだろ?」

 

「任せてよイッセー君。こんな時くらい存分に僕を頼ってくれないかい?」

 

「木場!ありがとう!!滅茶苦茶頼りにします!」

 

 ふと服の裾を握られる感覚がした。

 アーシアがこちらをぷくりと頬を膨らませて見ている。可愛すぎる...!じゃない!

 

「勿論アーシアに一番頼るよ!むしろアーシアにしか頼らないまである!」

 

「任せて下さい!」

 

「アーシア!」

 

 ぎゅっと抱きしめ合う。

 

「アハハ、余計なお世話だったかな?」

 

「いや、レポートとかは本当に頼りにしなくちゃいけないと思うから木場にも頼らせて...」

 

「わかったよ。...そうだ、折角だし皆で一緒に勉強会でも開こうか。副部長も来て頂けると嬉しいのですが」

 

「勿論ご一緒致しますわ。折角受けるのなら、イッセー君にも合格してほしいですもの。どうせイッセー君の事ですから、直接教えるよりもアーシアちゃんに教えて、アーシアちゃんからイッセー君に教えた方が吸収率良さそうですし、貴女もご一緒くださる?」

 

「元よりそのつもりです!」

 

 アーシアがふんすと気合いを入れている。俺より気合い入ってそうだなぁ...可愛い。

 

「そこまでするなら全員で勉強合宿でも開きましょうか?学校の試験も近いのだし、眷属皆で勉強ムードを作ればイッセーも机に向かうしかなくなるでしょう?」

 

 部長が提案する。

 

「非常にありがたい申し出ですし、是非開催をお願いしたいですけど、流石に真面目に勉強しますよ?そんなに疑われなくても...」

 

「今まで悪魔の勉強をサボって来たのはどこのどなただったかしら?」

 

「すみません!俺が悪かったです!!」

 

 反論の余地が無さすぎる...

 

「すみません。その合宿辞退させて頂きますね」

 

 ロスヴァイセさんが切り出した。

 

「ロスヴァイセさん!そんな...!学校の方の勉強期待してたのに!なんでなんですか!?」

 

「あなたに勉学の素晴らしさを教えたいのは山々なのですが、元から北欧へ一旦帰る予定だったのです。グレモリー眷属は強者と戦う機会が多いですので、今のままでは役立たずになりかねませんから...戦車の特性を高めに行こうと思っているんです」

 

「そうだったんですか...余計な事を言いました」

 

「いえ、出発する前にあなたに自習用のドリルを差し上げますから。絶対に解いて下さいね?」

 

「俺だけですか!?」

 

「成績優秀でないのはこの眷属であなただけなんですよ?...私の手作りですから少し贔屓っぽいですし、担当外の教科も込みになりますが、一応試験に必要な知識を網羅している物になっています。昇格試験を同時に抱えている故の特別な措置ですからね?これ以降の試験では期待しないで下さいね?」

 

「ロスヴァイセさん...!ありがとうございます!!ありがとうございます!!誠心誠意解かせて頂きます!!そしてお時間を取らせてしまって申し訳ありません!!ありがたやありがたや...」

 

 なんだこの人いい人すぎないか!!?

 俺はただただ感謝する事しかできない!ロスヴァイセさんを拝み倒す...

 

「後はまぁ...アーシアさんに教わって下さい。それで学校の試験は問題ないはずです」

 

「はい!きちんとイッセーさんにお教えします!」

 

「アーシア...何から何まで頼りきってごめんよ...俺絶対学校の試験も悪魔の試験もしっかりやるから!」

 

「はい!一緒に頑張りましょう!!」

 

 アーシアは俺の手を両の手で握ってくれる。

 逆に新鮮だ!いつもは抱き合うか腕に抱きつかれるかとかだから...でもこういうのもいい!!

 

「はぁ...どこかに将来有望なイケメンの男は転がっていないのかしら...私だって彼氏欲しい...イチャイチャしたい...」

 

 誰か貰ってあげて!!本当に優良物件なんだぞ!!?

 

 それからしばらく雑談をして、サーゼクス様達は帰っていった。

 魔王の前でネタに走るんじゃなかったと今さら後悔している...

 まぁ特に不快な感じは出してなかったし大丈夫かな?

 大丈夫じゃなかったら俺が死ぬだけだ。絶対嫌だ...

 

 早速今から合宿が始まる事になるので、一旦家に戻って荷物をまとめるという事になった。

 次の日の早朝に荷物を持ち出して、そのまま学校に行って...といった予定だ。

 両親には部活で勉強合宿があると言うと、快諾された。一週間近くの外泊を二つ返事で許すのか...

 聞いたらアーシアが側にいるなら何の問題もないとの事だ。

 俺の信頼度よ...

 まぁなんだかんだ近場というのもあるだろう。たまには顔を見せに戻るつもりだし。

 

「それにしても、皆でお泊まりなんて楽しみですね!」

 

「そうだなぁ...あれか?女子同士でパジャマパーティーとかしたりするのか?」

 

「どうなんでしょう?」

 

「まぁもしするってなったら俺の事は気にせずそっちに行って大丈夫だからな?」

 

「はい...でも、イッセーさんと眠れないのは寂しいので、寝る時は帰って来てもいいですか?」

 

「もちろん!アーシアの好きなようにしておくれ!!俺はいつでも受け入れ準備万端にしておく!!」

 

「ありがとうございます!それじゃあ出発しちゃいましょうか」

 

「そうだな。行くか!それじゃあ父さん、母さん、行ってきます」

 

「行ってきます!!」

 

「行ってらっしゃいイッセー、アーシアちゃん!!アーシアちゃんと会えないのは寂しいけど、なんとか我慢するから...!!」

 

「相変わらず俺の扱いが雑だな!...気持ちは大いにわかるけども」

 

「いいじゃない。もうアーシアちゃんは私達の娘同然だもの」

 

「そうだな。アーシアちゃんは最高の娘だよ...」

 

「そ...そんな...」

 

 アーシアは恥ずかしそうにしている。

 

「そうだ!前から言おうと思ってたのだけどね、これからはイッセーさんのなんか付けないで、お義母さんって呼んでもいいのよ?なんならママでも構わないわ!」

 

「抜け駆けは許さないぞ!!お義父さんと是非呼んでくれ!パパでも構わん!むしろパパと呼んで欲しい!!」

 

「えっと...その...お義父様、お義母様...行ってきます!!」

 

 アーシアが顔を赤くしながらそう言った。

 なんか俺も恥ずかしくなってきたな...いや、もはやアーシアと結婚するのは俺の中で確定してるんだが、改めて認識させられるとこう...良いな!!

 

「「行ってらっしゃい」」

 

 二人にそう言われて、アーシアは嬉しそうだった。

 玄関を出て、グレモリーハウスへと出発する。

 

 結婚か...

 絶対にしたいんだけど、いつになることやら...

 なんなら今すぐしたいくらいだ...!!

 でも...難しいな...婚約くらいなら高校生でも大丈夫だと思うんだが...

 タイミングの問題がなぁ...でも正直今すぐにでもしたいくらいには思っている。

 

「イッセーさんどうかしましたか?」

 

「ん?いや...さっきの光景がなんか良かったなーって思ってさ」

 

「そ...そうですね...お義父様とお義母様だなんて...少し恥ずかしかったですけど...でも...」

 

「うん...ちゃんと言葉にして、行動にしてアーシアに伝えるからさ。もう少しだけ待っててくれるか?」

 

「はい!いつまでもお待ちしてます!...でも、あんまり遅かったら私から言っちゃうかもしれません...」

 

「うぐっ!そこは男として!しっかり俺がアーシアに言ってみせるよ!!」

 

「楽しみにしてますね?」

 

 アーシアが微笑みながら俺の腕に抱きつく。

 うん、今はゴタゴタと慌ただしくて戦う度に死にかけるような毎日だから難しいけど、収まったらきちんとアーシアに伝えよう。

 ともかく、今は目先の進級試験と...本気の曹操達とシャルバと...うぐ...だが!!絶対に生き残ってみせる!!こんな所で死んでられるか!!



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第67話。 始まります、勉強合宿!

 グレモリーハウスに到着する。

 とはいえ、正直何度かお泊まりはしてるし、日帰り含めたら第二の家みたいなもんだからそれほど感慨深い物でもない。

 この部屋ゲームが最新機種揃ってるんだよなぁ...

 たまにアーシアとゲームしに来るのだ。

 

「よし、さっさと荷物置いて...」

 

「朝のスキマ時間も勉強ですよ!」

 

「そ...そうだな!」

 

 少しだけゲームしようと言おうとしたのにバレてしまった...

 

「駄目ですよイッセーさん!ゲームはお預けです!」

 

「はい...」

 

 リビングに向かうと、もうほとんど皆集合していた。

 後は木場とギャー助の二人だな。

 

「こんちゃーす。今日からよろしくお願いします」

 

「よろしくお願いします!」

 

「えぇ、いらっしゃい二人とも、歓迎するわ。朝御飯は食べて来たのかしら?」

 

「はい、食べて来ました」

 

「そう、じゃあお茶だけ用意するわ。一応この家でのルールとかも説明したいから、ここで一旦集合よ。荷物を置いてらっしゃい」

 

「「はい」」

 

 荷物を置いて、そのままお茶を貰いに降りると木場とギャスパーも到着したようだ。

 

「おはようイッセー君、アーシアさん」

 

「おっおはようございますぅ!!」

 

「おはよう二人とも」

 

 皆で着席する。

 朱乃さんが皆にお茶を配ってくれる。

 

「ありがとうございます」

 

「後、イッセー君にはこれですわ」

 

 単語帳が手渡される。

 

「学校に行くまでに覚えて下さいね?」

 

「まじですか!今からルールの説明って...」

 

「アーシアちゃんがイッセー君の分も聞いてくれますわ?イッセー君は勉強を優先して下さいね」

 

「はい...」

 

「イッセーさん!お任せ下さい!」

 

 最近アーシアが元気一杯だ。いっぱい俺の役に立てるのが嬉しいんだって。そんな可愛いこと言ってくれる人間がこの世に存在していたなんて...

 一生一緒に居てくれ...

 

「えぇと...72柱の32柱目はなにか...えぇと...」

 

 俺は必死になって単語帳をペラペラと捲っていく...

 

「だからお風呂は女子は6:00から、男子が7:00からという事にするわ」

 

「えぇと、新魔王が誕生したのは冥界歴何年の事であったか...」

 

「あの...イッセーさんとお風呂に入りたいです...」

 

 アーシアがおずおずと手を上げる。

 

「ぶっ!!アーシア!俺も一緒に入りたいけど一週間くらい我慢しよ?こんな皆がいる場所で言うことじゃないよ!!」

 

 突如俺の体に走る微弱な雷...!

 

「あばば!!」

 

「イッセー君はお勉強に集中してくださいね?」

 

 んなご無体な...

 

「しょうがないわね。イッセーとアーシアは一応8:00からの入浴よ。男子皆が上がっていたら、早くなってもいいわ」

 

「ありがとうございます!」

 

 やった!アーシアと入れないと思って内心辛かったからこれは嬉しいぞ!!

 

「イッセー君。さっきの問題に戻って答えてみて?」

 

 木場に言われる。

 

「え?っとぉ...うぐ...すみません」

 

「アーシアさんとのお風呂が楽しみなのはわかったから、ズルはいけないよ?困るのはイッセー君なんだからね?」

 

「はい...」

 

 皆からため息が聞こえる...

 悪かったな!!

 その後も何度か注意されながら、なんとか単語帳の内容を一度は頭にぶちこめた。

 明日には抜けてそうだけど、それを繰り返すのが勉強だろうさ。

 というかこんな場所で勉強させるのが悪くないですか!?自室ならもうちょっと...いや、皆の監視がある方がいいのか...?

 

 ────────────────────────

 

 あれから数日経っている。

 今は学校だが、10分休憩や昼休みだって勉強タイムだ...

 いやちょっとハードすぎませんか?勉強してなかったのが悪いですね。

 にしてもさぁ!勉強の息抜きがトレーニングだけってどうなのさ...!!

 いやまぁ、体もまじで鍛えないと死ぬんだけど...

 部長に精神と時の部屋みたいな物はないのかと聞いたら、無くもないけど使わせるわけにはいかないと言われてしまった。なんでさ!そしてなんであるのさ!!

 悪魔の謎技術は恐ろしいな...それより発展してる堕天使はいったい何者なんだ...

 悪魔稼業を俺だけ中断してもらっているので文句は言えないし言わないけど。

 なんだかんだまじで迷惑かけてお世話になってるから、サボるわけにはいかない。

 

「えぇ...悪魔に必須とされる四大思想はなんであるか...」

 

「おいおい、イッセー!珍しく勉強してると思ったのになんだそれは...勉強してるアピールでもしてんのか?にしても内容がひでぇけど...」

 

「うるせぇ!こっちは真剣なんだ!テストが終わるまで放っておいてくれ!」

 

「そんなつれないこと言うなよイッセー。ほら...最近はこういうの見てないんだろう?俺の家で鑑賞会しようぜ?」

 

 そうなのだ。アーシアにお宝が見られたので、手遅れとは思いつつもこれ以上の被害を拡大させない為、こいつらに俺の宝を一部託したのだ。

 最悪アーシアが見ても問題ないのと、俺のお気に入りだけ残してある。とはいえ最近は使う機会もほとんどないので別にいいっちゃいいんだが...

 それに正直、インターネットでどうとでも拾えるから問題ないな。

 問題なのは最近アーシアがインターネットに興味を持って、俺の履歴から俺の好きなプレイを模索しようとしている事だ。

 俺は止めたいが止められない...

 アーシアが俺の為に頑張ってくれているのが嬉しいのもあるし、アーシアがそういうのに積極的になっていくのも正直興奮して止められない...

 アーシアが俺好みに染まっていく感じが征服欲を凄く満たしてくるのだ...

 最低な事考える彼氏でごめんなさい。

 

「ごめん。お前らにはふざけてるように見えるかもしれないけど、これに関しては真剣にやってるんだ。周りに迷惑もかけて教えて貰ってるし、その厚意を無下にはできねぇわ。誘ってくれてありがとうな!」

 

「そうか...その冗談みたいな問題はなんかの為の勉強なんだな。わかった!そこまで真剣ならば止めまいよ!!」

 

「あぁ!俺達二人でこの激レアエロDVDを見るだけだ!!」

 

 二人が見せて来たのは、俺が様々な手段で手に入れようとしてついぞ手に入らなかった、シスター物のエロアニメだった...

 

「ぐっっっ!!俺は勉強するんだ...!!」

 

「まじで誘惑を断ち切りやがった!アーシアちゃんと恋人になってもなお探し求めていたはずだというのに!!」

 

 二人が驚愕している間に誰かがエロDVDを取り上げる。

 桐生だった。アーシアも隣に居る。

 

「あらあら、テスト前だってのにあんた達はお盛んね。へぇ...ほらアーシア、これもシスター物だってさ」

 

「はぅ...」

 

「良かったわね!これも見ればより一層愛しのイッセーさんの事が知れるんじゃない?」

 

「そ...そうなんですか?」

 

「そうなのよ。兵藤が持ってる物を参考にするってのもちょっとは上手くいったんでしょう?」

 

「えぇと...あぅ...」

 

 アーシアが顔を赤らめる。

 困惑したけど、正直凄く良かったです...

 なんというか、シチュエーションエッチも最高だなって!

 

「おい桐生!そのDVDの価値をお前は知らないんだ!!なんでイッセーを喜ばせる為に使われねばならんのだ!!」

 

「そうだ!!大体イッセーお前!!アーシアちゃんに何教え込んでるんだ!エッチな本やDVDの歪んだ知識を無知なアーシアちゃんに仕込むなんて最低最悪の鬼畜じゃないか!!」

 

「俺...!!?どう考えても桐生がアーシアに悪影響与えてるんだろうが!!いや...それはそれでお世話になってるんだけど...」

 

「きぃぃぃ!!見損なったぜイッセー!!」

 

「これは返して貰うからな!!」

 

 元浜がアーシアからDVDを奪取すると消えていった。

 

「あの...イッセーさん!私も一生懸命勉強しますから...!」

 

「アーシア!!気持ちは嬉しいけど!後数年は普通でいいと思うんだ俺は!!」

 

「アーシア、そんな事では駄目よ?常に向上していかないと...泥棒猫はどこに潜んでいるのかわからないわよー...」

 

 桐生がぼそりとアーシアに呟く。

 

「あっと...あぅ...いっぱい頑張ります!!」

 

「良く言ったアーシア!」

 

 あれぇ?彼氏の俺の言葉より、桐生の言葉が優先されていませんかぁ?

 

「ふっふっふ。そう簡単にあんた達に落ち着いた交際はさせてあげないわよ?精々私が居なくなるまでドタバタして楽しませて頂戴?」

 

「お前!!アーシアが誤った知識を手に入れる度に修正するのは俺なんだぞ!!アーシアに悪影響だ!!」

 

「いいじゃない別に。彼氏さんの役目でしょ?それに、あんた甲斐性ないもん。アーシアに動いて貰わないと全然進まないって夏休みに気がついたのよ」

 

「うぐぐぎ...」

 

 全くもって正論で反論できない...!

 桐生が居なかったら、今でも俺とアーシアは健全な関係だっただろうな...

 その方が良いのでは?いや...アーシアとエッチできる方が嬉しいです。嘘はつけない...

 

「イッセー、桐生...あまりアーシアに酷いことはしてくれるなよ?大切な親友なんだ」

 

「ゼノヴィア...お前の目に俺がどう写っているのか心配になってきたぞ...」

 

「大丈夫よゼノヴィア!イッセー君はアーシアさんを何よりも大切にしているもの!きっと宝物のように扱われているんだわ!そうよね、アーシアさん?」

 

「.....あぅ...」

 

 アーシアが顔を真っ赤にする。

 何を思い出したんだろうか...あれか。合宿前の夜の事か...

 しばらく出来ないからってちょっと激しくしちゃったもんな...だって!アーシアが可愛かったんだもん!!

 あんな姿を見せられて、自制しながらなんて...今の俺には無理だ...!!

 ただ神に誓って乱暴はしていません!!神様居ないけど。

 

「あれ...?そうでもなかった?」

 

「この話は終わりだ!!真っ昼間からする話じゃねぇ!!解散解散!!」

 

 俺は無理やり皆を散らす。

 

「アーシア...詳しく話を聞かせて貰えるか?なに、悪いようにはしないさ」

 

 ゼノヴィアは完全に勘違いしてそうだな...

 

「わ...私もちょっと気になるかも...」

 

 それでいいのか天使さん。

 アーシアは桐生やゼノヴィアに連れていかれた...

 多分今から、アーシアは俺との性活を根掘り葉掘り暴かれるのだろう...プライバシーはどこに行ったんだ...

 俺は諦めて勉強することにした。

 

 っとそうだ、お薬の時間だった...

 俺はトイレの個室に行って、ドライグの宝玉に点滴を注ぐ。

 

『ふぅ...もうほとんど持ち直したぞ。これからは薬も要らんかもしれん』

 

「ばか、そうやって治りかけで薬をやめるのが一番駄目なんだぞ?」

 

『そういう物なのか...しかし、白いに今の俺はどう写るのだろうか...』

 

「今度会ったら、一度面と向かって話し合うのもいいかも知れないぜ?お前らならきっと仲良くなれるさ。だって何万年も戦い続けてるんだろ?それもう逆に親友みたいなもんだぞ?」

 

『...お前が言うこともある意味正しいのかもしれん。だが...お前の言うとおり俺達が親友だとするなら、争い合う事こそが奴との友情なんだろうさ...』

 

「なるほどな...そう単純な事でもないわけか。ごめんよ。お前らの事勝手にとやかく言って」

 

『構わんとも。少なくともお前の言うあり得た未来ではそうなっていたのだろう?』

 

「そうなんだけど...まぁ今は目先の事を考えないとな...」

 

 ────────────────────────

 

 次の日の夜、勉強を終えてようやっと眠れるという事でアーシアとベッドに入った。

 正直精神的に疲れ切っているので、エッチする気分じゃない...というかこんな場所じゃ出来ないし。今はただひたすらにアーシアに抱きついて甘えたい...

 

「アーシア...疲れた...」

 

「お疲れ様です、イッセーさん。良く頑張りました」

 

 アーシアは俺の頭を胸に抱き、なでなでしてくれる...

 はぁ癒される...

 

「ありがとうアーシア...疲れがあっという間に無くなっていくようだ...」

 

「ふふ...それなら良かったです」

 

 このアーシアの慈愛の笑顔は何にも代えがたい絶大な破壊力があるよなぁ!!

 ああああ好きすぎて好きが破裂しそう...

 

 ふと、ギッと音が鳴った。ドアの方からだ。

 

「?」

 

 俺がドアを開くと、ゼノヴィアとイリナがいた。

 

「何してるんだお前ら...」

 

「いや、何。アーシアから話は聞いていたが、実際どんなものなのかと少し興味が沸いてしまってね。観察させてもらおうかと思ったんだよ」

 

「わ...私は、まぁ...アハハ」

 

「.......」

 

 声が出ない...なんという事を...

 

「皆がいる場所でするわけないだろ!!自分の部屋に帰りなさい!!」

 

 いつからそんな野次馬根性が芽生えたんだ!おじさん悲しいよ!!

 

「はーい」

 

 などと宣って二人は帰っていく...

 全く...油断も隙もあったもんじゃないな!

 

「....鍵し忘れてましたね」

 

 アーシアが笑顔で言うが、少しだけ怖い。

 これは結構お怒りアーシアだ!!

 二人は明日怒られるのだろう!

 精々アーシアに怒られちまえ!!アーシアに怒られるとなぁ!全く怖くないしむしろ可愛いとさえ感じるのに、恐ろしいほどの罪悪感に苛まれるんだぞ!!



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第68話。 襲来します、オーフィス!

 合宿が始まって数日経った頃だった。

 最近は序盤の詰め込みが過剰だったお陰で、予定に若干の余裕が見えてきたので、少しは自由時間が出来た。

 俺ってYDKだったんだね...じゃあ最初からやれという話ですね。

 

「リアス、明日この家にとある訪問者を呼ぶ予定だ。了承を貰いたい」

 

 さっき突然訪問してきたアザゼル先生が部長に尋ねる。

 

「...随分突然なのね」

 

「あぁ、ちょっとな...お前達はその訪問者に確実に不満を漏らす。いや、殺意すら抱きかねないだろうな。だが、それを承知の上で迎えて貰いたいんだ」

 

 オーフィスですね。まぁ正直悪感情は俺にはない。なんというか...龍神って感じの存在よね。

 だがまぁ、明日ちょっと大事な用事があるので勘弁して欲しいのが内心なんだが...

 

「正体については今言ってもしょうがない部分があってな...明日の朝会えばわかる。特にイッセーに...いや、ドライグに聞きたい事があるみたいでな。俺の願いとしては決して攻撃を加えないで欲しいんだ。ただ、それだけだ。話だけ聞いてくれればそれでいい。上手く行けば情勢が変化する大きな出会いになるかもしれない。俺も明日の朝、もう一度来る。だから...頼む」

 

 アザゼル先生は真剣な表情でこちらに頭を下げる。

 そこにいつものおちゃらけた雰囲気は無い。

 だからこそ、皆は受け入れることにしたのだった。

 

 ────────────────────────

 

 次の日の朝、チャイムが鳴った。

 現れたのはゴスロリ衣装のやべぇ女。

 そう、やはりオーフィス。

 

「久しい、ドライグ」

 

 ドライグが勝手に神器(セイクリッド・ギア)を起動した。

 

『...あぁ、そうだな』

 

 龍二人は短い挨拶を交わす。

 皆は戦闘体勢に入る。アーシアも俺にしがみついている。ん?そのまましがみつくのかと思ったら視界を隠された。

 あぁ、見るなって事ね...可愛いか!!

 

「ほらほら!昨夜言っただろ!攻撃は無しだ!こいつもお前らに危害は加えねぇ!やったとしても俺達じゃ束になっても勝てやしないっての!」

 

「あの...オーフィスさん。もう少し肌の露出を押さえて貰えると非常に助かります」

 

「何故?」

 

「このままじゃまともにお話もできないので」

 

「そんなの初めて聞いた」

 

「それでもお願いします」

 

「....わかった」

 

 それから少し...アーシアが手を離すと、普通のゴスロリ衣装を身に纏ったオーフィスが居た。

 

「これでよい?」

 

「あぁ、ありがとう」

 

 ふと周りを見渡すと皆がまじかこいつらといった様子であった。

 

「お前らはお前らでその反応はどうなんだ...?攻撃するなとは言ったが普通そこまで受け入れるかよ...てかもっと驚けや」

 

 アザゼル先生に言われた。

 

「だって、先生があれだけ真剣に念を入れて言ってきたんですから、相当やべぇ奴が来るのはわかってましたし...先生が自ら連れてくる以上は身の危険はないと思っていいでしょうから」

 

「私もイッセーさんが敵視していない以上は...」

 

「.....おう、そうか...」

 

 アザゼル先生は呟く。

 

「....それにしたって非常識だわ!同盟にとって重要となっているこの町にオーフィスを入れるなんて!この町を警備する者達も騙して入れたって事よね!?どうしてそこまで...!」

 

 部長はようやく調子を取り戻すと怒りを示す。まぁ当然の意見だわな。

 アザゼル先生は黙って部長を見つめ返す。

 

「....このオーフィス訪問には、同盟崩壊の危機を背負ってでもやる価値があると...そう思っているのという事かしら?」

 

「そうだ。俺はこいつをここに招き入れる為に色々な物を現在進行形で騙している。だが、こいつの願いはもしかしたら、禍の団(カオス・ブリゲード)の存在自体を揺るがすほどの物になるかもしれないんだ。...改めてお前達に謝り、願う。こいつの話だけでも聞いてやってくれないだろうか?」

 

 先生が再び俺達に頭を下げる。

 皆も渋々といった様子で受け入れる。

 

「それで、上にあげてお茶でも出せばいいのかしら?オーフィスだけなの?例のヴァーリチームは?」

 

 部長がそう尋ねると玄関前で金色の魔法陣が光りはじめた。

 そこから現れたのはルフェイと小さくなった(大型犬サイズ)フェンリルだった。くっそ...ちょっと可愛いな...お手して欲しい...

 などと考えていたら吠えられた。ごめんよ可愛いなんて思って...

 

「ごきげんよう皆さん!ルフェイ・ペンドラゴンです。京都ではお世話になりました。こちらフェンリルちゃんです!」

 

 更にもう1つ魔法陣が展開すると、黒歌が現れた。

 

「おひさ~白音!元気にしてたかにゃ?」

 

 小猫ちゃんはムッとしている。

 黒歌はずけずけと入っていく...

 おいおい、部長の了承くらいは受けんかい...

 アーシアが俺をぎゅっと抱き締めて黒歌を警戒している。

 可愛い。

 

 ────────────────────────

 

 VIPルームで対面する俺達とオーフィス+ヴァーリチーム。

 俺はソファーのど真ん中、オーフィスの真ん前に座らさせられているにも関わらず、単語帳をペラペラさせられている。

 どういう事だってばよ...

 

 朱乃さんがお茶を配ってくれて、オーフィスはど真ん中に鎮座し、ルフェイは礼儀正しくお茶を飲み、黒歌はお茶請けを食べまくり、フェンリルはルフェイの側で眠っている。

 

 対するこちらは部長がお茶を飲み、俺は単語帳、アーシアは定期的にあーんと言って俺の口にお菓子を入れてくれる...好き...

 

 対して、後ろの皆はかなりの警戒態勢だ。

 小猫ちゃんはギャスパーとどっかに行ってしまった。まぁお姉さんと居たくないんだろうね。

 

 にしても全く頭には入らない...こういう根性論は勉強に当てはまらないと思うんだ。

 え?普段サボっていて、ギリギリならばある程度有効?ぐぅの音も出ないですね。黙って頑張ります...

 しかも、ドライグが神器(セイクリッド・ギア)起動するから単語帳が持ち辛い...!!

 

「......」

 

 オーフィスは無言で俺を見つめ続ける...

 

「あの...イッセーさんにどんなご用なのでしょうか?」

 

 アーシアがオーフィスに尋ねる。

 

「ドライグ、天龍やめる?」

 

『なんだと?どういう事だ...』

 

「宿主の人間、今までと違う成長している。我、とても不思議。いままでの天龍と違う。ヴァーリも同じ。不思議。とても不思議」

 

 駄目だ...それ以上喋られるとドライグの精神にダメージが...まぁいいか別に。

 

「シャルバとの戦い、バアルとの戦い。ドライグ、違う進化した。鎧、金色になった。そんなの初めて。我知らない。絶対おかしい」

 

 アザゼル先生が少し吹き出した。

 

「だから、訊きたい。ドライグ、何になる?」

 

『.....わからん。俺はこいつの意思によって勝手に変えられただけだ。だがまぁ...少しは...ほんの少しはそれでもいいのかもしれんと...思いつつあるんだ...!うっ...はぁはぁ...』

 

「ドライグ!!落ち着くんだ!!」

 

 俺は点滴を緊急注入する。

 

『はぁはぁ...助かった相棒...』

 

 多分俺が原因だと思うんですけど。

 

「二天龍、我を無限、グレートレッドを夢幻として、『覇』の力を呪文に混ぜた。ドライグ、なぜ覇王になろうとした?」

 

『....力を求めた結果だろうな。その末に俺は滅ぼされたのだ』

 

「我、『覇』わからない。禍の団の者達、『覇』を求める。わからない。グレートレッドも『覇』ではない。我も『覇』ではない」

 

『お前達のように最初から強い存在には覇の理なぞ、理解できるはずもない。お前達は存在からして別次元なんだろうさ。オーフィスよ、次元の狭間から抜け出てこの世界に現れたお前は、この世界で何を得て、なぜ故郷に戻りたいと思ったのだ?』

 

「質問、我もしたい。ドライグ、なぜ違う存在になろうとする?『覇』、捨てる?その先に何がある?」

 

『.......』

 

「ドライグ、ファーブニルになる?」

 

『なるわけないだろう!!俺のどこがファーブニルなんだ!言ってみろ!!』

 

「金色」

 

『うぅ...はぁはぁ...ふぅ...ふぅ...はぁ...ふぅぅぅ.......いいや!俺はファーブニルにはならん。もしも相棒が何かになると言うのならば...そこの女を護る存在とやらだろうさ。それが相棒の意思だからな』

 

 ドライグが持ち直したぞ!!

 

「そこの女?...お前?」

 

「はっ...はい!」

 

 アーシアがオーフィスに指さされてびくりとする。

 

「そこの女、ドライグの番?」

 

『俺のではない。相棒のだ!!本当に勘弁してくれ...』

 

「ドライグの所有者、番...金色...。わかった、そこの女、ドライグ変えた」

 

「私...ですか?」

 

『正確には、相棒とこの娘の愛とやらだ。正直俺にもついていけてないんだ。頼むから俺にその件は訊かないでくれ...』

 

 ドライグが情けない声を出す。

 

「ドライグの所有者、女、なぜドライグ変えた?どうやって?」

 

「どうやってって...わからないけど...アーシアが大好きで、アーシアを護りたいって必死で頑張って来たから?」

 

「?....よくわからない。でも、我、見ていたい。ドライグの所有者と番の女、もっと見たい。知りたい」

 

 オーフィスが俺達をじぃっと見つめる。

 先生が俺の肩に手を置く。

 

「てなわけで、数日間だけこいつらをここに置いてくれないか?オーフィスはお前達を見ていたいんだとよ。そこに何の理由があるかまではわからないが、見るぐらいならいいだろう?」

 

「俺は構わないですけど、皆は大丈夫なんですか?なんなら俺とアーシアは自分の家に帰りましょうか?」

 

「いえ、何かあってはいけないもの。ここで面倒を見れないのならお断りするしかないのだから、あなた達の好きなようになさい?」

 

「アーシアは大丈夫か?」

 

「はい...イッセーさんと一緒なら大丈夫です!」

 

 アーシアがニッコリしてくれる。俺はアーシアを撫でる。

 

「じゃあ決まりだな。ただでさえお前は勉強しなきゃなのに更に負担をかけて悪いが、これはチャンスなんだ。どうか頼む...!」

 

「はい!それに...ここまで皆に協力してもらっている以上本気で勉強して受けますけど、本当に最悪の場合再受験すればいいんですから、オーフィスの方が重要度高いですよ」

 

「すまない...特にアーシア。イッセーが勉強してる以上、オーフィスの興味はお前に向かうかもしれん。なんとか頑張ってくれ」

 

「いえ、何となくですけれど...大丈夫な気がしますから!きっと仲良くしてみせます!」

 

 アーシアさん...めちゃくちゃ肝が座ってらっしゃる...

 

「あ...あの!この間のバアル戦!感動しちゃいました!差し支えなければお二人の写真を撮ってもいいですか!?」

 

 話が纏まった所でルフェイがそんな事を言い出す。

 

「え?俺はいいけど...アーシアは?」

 

「はい...ちょっと恥ずかしいですけど、大丈夫ですよ?」

 

「やった!それじゃあこう...お互いに抱き締め合って貰って...えぇとほっぺたもくっつけてくれますか?そうです!じゃあ行きます!はいチーズ!」

 

 パシャリと音が鳴った。

 

「ありがとうございます!」

 

「はは...喜んで貰えてなによりです」

 

 バアル戦以降、俺とアーシアのカップルに対するファンレターが増えた。

 なんだかんだでアーシアのファンにも受け入れて貰えたようで良かったです。

 ガチ恋勢も意外に寛容だったとかなんとか...あれだけの戦いをできる男になら任せられるという事らしい。

 ただまぁ、俺のファンとアーシアのファンでは客層が違いすぎていざこざがあったりなかったりするそうだが...

 

 ────────────────────────

 

 俺はみんなと勉強している...

 たまに木場や朱乃さんから突発的な問題が来るけど、かなり答えられるようになってきた...

 

 黒歌はたまに小猫ちゃんにちょっかいかけつつ、適当に過ごしている。

 ルフェイは基本的にいい子なので、フェンリルと遊んだりしつつも、落ち着いて過ごしていらっしゃる。

 

 オーフィスは今アーシアと一緒にお菓子を食べている。

 仲良くなりすぎでは?確かに、一切敵意ないし悪い子じゃないと思うから優しくしてあげてとは言っておいたけど...

 未だに禍の団(カオス・ブリゲード)のシンボルであることは変わらないのに既にマスコット的位置に立っていらっしゃる。

 恐るべし順応能力...いや恐るべしアーシアの包容力...

 

 昼間は問題ないんだ。黙って俺をじぃっと見つめたり、アーシアにポツポツと質問したり、アーシアに口元を拭かれたり...龍神の威厳よ何処...

 

 問題は夜なのだ...

 オーフィスさん、俺とアーシアの眠る部屋に潜り込んで来るのだ!

 そして...

 

「二人、交尾する?」

 

 とか訊いてくる!!俺達はその度に慌てて眠れなくなる予定だったんだけどなぁ...

 2日目にはもう間に挟んで川の字で眠る事になってしまった。いやオーフィスさん馴染みすぎでは?

 なんか...本当にある意味子供っぽいから、ちょっと保護欲みたいな物が...いや、戦ったら瞬殺なんですけどね。

 特にアーシアがすごい。もう抱きついて眠ってる。当たり前のように受け入れるオーフィスもオーフィスだけど...

 そこは俺の席なのに!!ちくしょう!!!!

 まぁなんか、子供が出来たらこんな感じなのかもなとちょっと考えてしまう。

 それにオーフィスがアーシアに予想以上に懐いてくれているのは...なんだが結構鼻が高い思いだった。

 



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第69話。 契約です、ファーブニル!

 次の日、俺とアーシアはアザゼル先生にグレゴリの研究所へと呼ばれた。勿論オーフィスと一緒だ。....

 アザゼル先生、首が飛ぶ云々言ってたくせに結構アグレッシブにオーフィス連れて回しますね。

 

「悪かったなイッセー。余裕が出てきてると聞いたんでよ、お前にも一緒に来て貰ってちょっとアーシアに試して欲しい事があったんだ」

 

「私ですか?」

 

「あぁ。アーシア、お前は前から攻撃または自衛手段が欲しいって言ってただろ?イッセーの負担を軽くしたいって」

 

「はい...」

 

「アーシア...気にしなくて良かったのに」

 

「その...これからも戦いがあるかもしれないじゃないですか...そんな時に、イッセーさんの手助けが出来るような力が欲しいなって...」

 

「そっか...ありがとなアーシア」

 

「はい!」

 

 俺達は抱きしめ合う。

 

「はいはいごちそうさんっと。それでだ、本来ならもうちっと後の予定だったんだが、オーフィスとあっという間に仲良くなってる様子を見て、早めにやる事にした」

 

 まさか...

 

「アーシア、お前には俺の契約龍、ファーブニルと契約を結んでみて貰う」

 

「わ...私が五大龍王のファーブニルさんとですか!?」

 

 アーシアがびっくりしている。

 俺もびっくりだ...このタイミングでなのか...

 

「お前は蒼雷龍(スプライト・ドラゴン)と契約を結んだな。その時点でかなりの契約...それもドラゴンとの契約の才能があると思っていた。イッセーと出会ったのも、イッセーとそこまで深い関係になったのも、その才能というか巡り合わせが働いていると俺は考えてる。そして極め付きにオーフィスだ。これだけの龍とあっという間に親交を深められるお前なら、きっとファーブニルとも契約が結べると思うんだ。もちろん無理でも構わないさ、チャンスはいくらでもあるからな」

 

「イッセーさん...どうしましょう...!」

 

 アーシアは非常に困惑しているようだ。確かに、突然こんなこと言われたら困惑するだろうな...

 

「受けてみようアーシア!もし何かあっても絶対俺が護るから!!きっとアーシアにとって大切な契約になると思う!」

 

「イッセーさん...わかりました!私、頑張ってみます!」

 

「アーシア、ファーブニルと契約する?」

 

「はい!やってみます!」

 

「なら、我、少し手伝う」

 

 オーフィスがそう言うと、アーシアを何かが包み込む。けど、嫌な感じではない。

 

「我の加護あげる、これで契約結びやすい」

 

「おいおいまじかアーシア...!オーフィスの加護なんて受けた人間今までほとんど居ないぞ!!?今度研究...」

 

「俺同伴でお願いします!!」

 

「わかってるよ...!お前にするみたいな非人道的な実験はしないっつの。今までもずっとアーシア呼ぶ時はお前も同伴だろ?」

 

「ならいいですけど...」

 

 いや良くないよ...アーシアにしない姿勢は認めるけど俺にも非人道的な事しないで?

 

「じゃ、早速呼ばせて貰うぜ...来い、ファーブニル!」

 

 アザゼル先生が叫ぶと、黄金の巨体が現れた。

 

「これが...ファーブニル...!」

 

 すごい...!やっぱり現役のドラゴンはガチで強いな...!!すげぇオーラだ!!タンニーンさんにも全然劣ってねぇ!むしろ...いや!タンニーンさんだってすごいんだもんね!!

 アーシアもすごいすごいと喜んでいる。わかるよ...ドラゴンってかっこいいんだよな!更に言えばファーブニルって金ピカで見た目もかっこいいもんね。

 

「イッセーさんと同じ金色です!かっこいいです!」

 

「そっ...そうか...ありがとう...」

 

 ちょっと恥ずかしくなっちゃった。

 

「アザゼル、なんで呼んだ?」

 

「あぁ、今日はな俺との契約を解除してもらって、新しい奴と契約してもらおうと思ってたんだ」

 

「なんで?めんどくさ....っ!!」

 

 ファーブニルは笑顔でファーブニルを見つめるアーシアを視界に入れると突然フリーズした。

 まさか...一目惚れか...?気持ちはすごくわかる。アーシアを見た時の衝撃ってすごいよね。でもアーシアは絶対にやらん!!アーシアは俺のもんだ!!

 

「君、名前は...」

 

 固まる事数十秒、ようやく動き出したファーブニルがアーシアに顔を近づけて尋ねる...

 

「アーシア・アルジェントです!」

 

「アーシア...アーシア...アーシアたん!」

 

「ファ...ファーブニル?」

 

 アザゼル先生がすっとんきょうな声をあげる。

 

「アザゼル、契約って、この子の事?」

 

「え?あ...あぁ、そこのアーシアと契約して欲しいと思ってな...」

 

「するする、するけど、代価は頂戴」

 

「えらく話が早いな...ほら、ここに宝石が...」

 

「そんなの要らない、俺様、アーシアたんのお宝が欲しい」

 

 まさか...!!言うつもりなのか...!?ドライグが死んでも知らないぞ!!

 

「アーシアたんのおパンツ頂戴?」

 

「パ...パンツですか!?」

 

「ファーブニル!?どうしたんだ!?」

 

 アザゼル先生も、アーシアも驚きの声を上げる。

 ああああ絶対言うと思った!!でも、俺はここでこいつにアーシアのパンツを渡すわけにはいかない!お互いの妥協点を見つけ出すんだ!!

 

「おい!ファーブニル!アーシアとの契約に乗り気なのはありがたいけど、アーシアのパンツは全部俺の物だ!!悪いがお前にはくれてやれない!!」

 

「イッセーさん...!」

 

 エッチの時、アーシアのパンツをゆっくりと下ろすのが俺の楽しみなんだ!!そこは譲れない!!

 アーシアの神の太ももと最高のシナジーなんだ!!ブラならギリギリ譲歩して諦められなくもなくもないけど!パンツはダメだ!!やっぱブラも嫌だ!!

 

「ん?あっ、ドライグ、それにオーフィスも!久しぶり」

 

「ファーブニル、久しい」

 

『おい...相棒!!ファーブニルはこんなのじゃなかったぞ!こいつまでお前の女か!!こいつまでアーシア教なのか!!?黄金を見るだけで辛いのに...!こんなの...!!はぁはぁ...く...くるちい...!!』

 

「ドライグ!!点滴を...!!」

 

 宝玉に急いでお薬を多めにぶちこむ。

 

『はぁ...はぁ...ふぅ...ふぅ...』

 

「ゆっくり深呼吸をするんだ...!ほら吸ってー吐いてー...吸ってー吐いてー...」

 

『スゥゥゥゥ──、フゥゥゥ──、スゥゥゥゥ──、フゥゥゥ──...うぅ...少し落ち着いたぞ...』

 

「ドライグの所有者、アーシアたんの何?なんでお宝お前の?」

 

 ファーブニルが俺に少し敵意を向けてくる。

 

「アーシア、赤龍帝の番」

 

「...!!?」

 

 オーフィスが言い放った。

 瞬間ファーブニルが揺れだす...

 

「アーシアたん...ドライグの...アーシアたんは他の男の番...アーシアたん...アーシアたん...はぁ...はぁ...頭が...脳が壊れる...!!」

 

 ファーブニルが自分の頭を抱えて呻きはじめた。

 

「おいイッセー!!お前は龍の精神殺しの術でも持ってんのか!!?ファーブニルがただでさえぶっ壊れてたのに、余計に壊れたぞ!!」

 

「まずい...!!そっちに行っちゃ駄目だ!ファーブニル!!話し合えばわかるから!!戻ってこい!!その先は地獄だぞ...!!」

 

 俺は必死で叫んだが既に遅かった...

 

「アーシアたんはドライグの所有者の番...なんだこの感覚...胸が苦しくて...なのに興奮する...!!うっ...はぁ...はぁ...!」

 

「ひっ...!」

 

 アーシアが怖がっている...

 

「大丈夫だアーシア!すぐになんとかなる!!」

 

 俺はアーシアを安心させようと咄嗟にアーシアに抱きついてしまった。それが決定打になるとも思わずに...

 

「アーシアたんが...番の男と抱き合ってる...はぁはぁ...これが...これが...!!NTR!!」

 

 厳密には「寝とれず」だ...それもちょっと違うか?しかし口には出さない。出せない...それにどうせNTRだし。

 

「おいイッセー。これはかなり不味いんじゃないのか?」

 

 アザゼル先生が俺に問いかける。

 

「不味いなんてもんじゃないでしょうこれは!!」

 

「ったく...夫婦でゴールデンドラゴンコンビ!とかやらせてぇなーくらいのつもりだったのによ...まさかこんな大惨事になるとは。お前をなめてたぜイッセー...いや、龍を誑かすアーシアが悪いのか?龍特化のやべぇフェロモンとか出してるんじゃないだろうな?」

 

「アーシアをそんな悪女やサキュバスみたいに言わないで下さい!!アーシアは最高に天使で聖女で最高なんですよ!!?いくら先生でも殴りますよマジで!?」

 

「冗談だろうが!ったくほんとアーシアに関しちゃ冗談通じねぇ奴だなお前は...」

 

「はぁはぁ...アーシアたんの番...名前...」

 

「え?...俺?...兵藤一誠...」

 

「イッセー...イッセーか...はぁはぁ...イッセー...アーシアたんと、その...はぁはぁ...番っぽいこと...してくれないかな...?それを見たら契約結ぶから...」

 

 まずい...俺はとんでもないモンスターを生んでしまったようだ。

 寝取られは一般性癖?ドラゴンが一般枠だと言うのか??まぁ正直パンツの時点で終わってるけどさ...

 

「イッセーさん...私...」

 

 アーシアが不安そうな目で見てくる。そりゃそうだ。こんな変態と契約なんておぞましすぎる...

 

「うぐ...正直もはや、ここまで壊れたファーブニルと契約を結ぼうとは言えない...」

 

「...いえ、結びます...!」

 

「アーシア?」

 

「少しでもイッセーさんのお役に立ちたいです!!龍王であるファーブニルさんの力をお貸し頂けるなら...!」

 

 アーシアが俺の唇を奪う...!

 ファーブニルは俺達の側に顔を近づけて、鼻息を荒げながらガン見している。

 アーシアは舌もしっかり絡ませる気合いの入れようだ...!

 アーシア...決意は堅いんだな!!なら俺もとことんやってやる...!!

 

 アーシアの背中に手を回してぎゅっと抱きしめながらキスを重ねる...

 唾液の水音とファーブニルの鼻息の音だけが響く...

 

「はぁ...はぁ...はぁ...!!」

 

 ファーブニルの荒い息が俺達にかかる...

 めっちゃ生温い...

 

 俺とアーシアがキスを止めると、ファーブニルは立ち上がった。

 

「....契約は成された。俺様、アーシアたんに貢ぐ...」

 

 ファーブニルはどこかすっきりしたような様子で語った。

 賢者タイムか...?

 

『教祖様!!そこにファーブニルがいらっしゃいますよね!!』

 

 教徒のリーダーに突然話しかけられた。

 

「え?い...いるけど...」

 

『ファーブニルにアーシニウムエネルギーを注入するのです!!おそらくかの龍王がアーシア教に入信すれば、無類のパワーと化すでしょう!なんたって金色ですし!!』

 

「バカ野郎!!なんてあやふやな理由なんだ!!これ以上ファーブニルが壊れたらどうしてくれるんだ!!やらないぞ俺は...!!」

 

「アーシア教...?イッセー、なにそれ」

 

 あああファーブニルが興味を持ってしまった...!!

 

「ア...アーシア教は...アーシアを信仰、または愛する集団の事だ...」

 

「....入る。俺様、それ入る!!」

 

 ファーブニルがフンフンと鼻息を荒くする。

 

『はぁ!はぁ!はぁ...!駄目だ!!やはり金は駄目なんだぁ!!金色は俺を殺すんだぁ!!』

 

「ドライグ!!一旦意識を飛ばすんだ!!もうお前の精神じゃ耐えられない...!!」

 

『きゅう.......』

 

 言わずとももう限界だったのだろうか...ドライグは物を言わなくなってしまった。

 

『教祖様!守護者のプロモーションの状態でファーブニルの頭に手をお乗せ下さい!!』

 

「え?えぇっと...あぁ!!もうどうにでもなれ!!アーシア!プロモーション許可をくれ!」

 

「....へ?...えっと...は、はい!許可どうぞ...」

 

 アーシアも意味不明すぎてトリップしていたようだ。

 

「我、目覚めるは愛の律にて理を蹂躙せし赤龍帝なり!」

 

『極点の愛を捧げ、無垢なる愛を纏いて、ただ平穏を望まん』

 

「我、仇なす一切に滅尽をもたらす者。唯一絶対たる我が聖女の守護者と成りて!」

 

「「「「汝を我等が安寧の礎へと沈めよう!!」」」」

 

 俺は全身金色の鎧を纏った。

 

「ドライグ、なんで金色?俺様と一緒?」

 

 ドライグは気絶しているので答えない。

 

「これは、アーシアの色なんだ。俺のアーシアへの愛の結晶なんだ...」

 

「...!イッセーも、金色。アーシアたんも、金色、俺様も、金色...これがアーシア教...!!」

 

「正解だ!!すごいぞファーブニル!!ほら、これでいいのか?」

 

 俺もわからないけどこういうのはノリだ!!

 

『それで大丈夫です!!行きます!!』

 

 黄金のオーラが俺からファーブニルへと行き渡り、ファーブニルからも莫大なオーラが立ち上ぼり混ざり合っていく...

 

「これが...アーシニウムエネルギー。俺様、完全に理解した....アーシアたん、バンザイ!!」

 

 ファーブニルがそう唱えた途端、恐ろしいほどのオーラが俺とアーシアを包みこんだ...!!

 

「こ...これは!?ファーブニルのオーラが俺達を包んで...!!」

 

 あり得ないほどの力が溢れ出す!!

 

「イッセー...いや、教祖様!アーシアたんの為なら、俺様、いっぱい力貸す。教祖様の物だけどアーシアたんを、守る!アーシアたん、バンザイ!!」

 

『教祖様!一部の信徒がファーブニルの元に行きたいと言い始めました!!なんでも同好の士と語り合いたい、共にありたいのだそうです!!』

 

『NTR...なんと甘美な響き...ハァハァ...』

 

「え?...えぇっと良いんじゃないでしょうか?」

 

 そんな奴らも居たのか...まぁガチ恋勢居たもんな...

 性癖歪む奴らも居て当然なのか?

 

『ありがとうございます!』

 

 数個の人型の赤いオーラがファーブニルの元へ飛んでいく...

 

「君達...同じ。仲間、ハァハァ...」

 

 ファーブニルが少し嬉しそうだ...歴代のオーラも嬉しそうに揺らめいている。

 良かったな、性癖を語り合える仲間が出来て。

 

「それじゃあ、アーシアたん、いつでも呼んでね。すぐ駆けつけるから...その代わり教祖様と...はぁはぁ...また...イチャイチャしてね...ハァハァ...」

 

「....は...はい...」

 

 そう言うと、ファーブニルは何処かへと消えていった。

 ファーブニルが消え去れば、恐ろしいほどの静寂が周囲を包む...

 

「赤龍帝、やはり理解不能。面白い」

 

 オーフィスが呟く...

 

「イ...イッセーさん。私...どうなるんでしょうか?もう何がなんだか...」

 

 アーシアが俺にすがり付いてくる。もう鎧は解除した。

 

「アーシア...多分アーシアだけは絶対に大丈夫だから安心してくれ。大丈夫じゃなくても絶対俺が守るし!」

 

「はい...イッセーさんがそう仰るなら、信じます」

 

「ありがとうアーシア。何も気にしなくていいからな?一言で言えば、俺含め皆アーシアが大好きって、それだけだから...」

 

「そ...そうですか...」

 

 アーシアを抱きしめる...

 

「なぁイッセー...俺はお前とアーシアの起こす摩訶不思議現象を笑っていたんだけどよ、今回はちょっと意味不明すぎるわ。なんか...すまんな。ほんの出来心と、アーシアの願いを叶えてやろうっていうそれだけの軽い気持ちだったんだが...」

 

「いえ...その、ある意味俺もアーシアも強力なパワーアップが出来たので...もう、考えるのは止めにしませんか?真剣に考えたらドライグみたいになりますよ?無心で素直にこのパワーアップを喜びましょう!!」

 

「....そうだな!結果だけ見れば大成功だ!よーしお前ら!!さっさと向こうに戻って勉強再開だぞ!!お前らのパワーアップ記念にケーキでも買ってやろう!!」

 

「はい!」「はい...」「ケーキ...美味しそう」

 

 みんなの精神(主にドライグ)に多大な負荷をかけて、ファーブニルとアーシアの契約は成ったのであった。ファーブニルさんはいったいどこまで堕ちていくのだろうか...?



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第70話。 受けます、昇進試験!

 遂に迎えた試験日当日、気分は運転免許の試験だ。

 なんか何回でも受け直せる所とか、もう一回受けに行くのはめんどくさいから一発合格したい感じとか、かなりそっくりだと思います。

 しかし...試験の後いよいよ決戦が始まるんだよな...

 

 試験会場の昇格試験センターの近くのホテルに皆で転移して、俺、木場、朱乃さんの三人で会場に向かう。

 ちなみに皆と言ってもギャスパーはグレゴリの研究所に行ってしまった。ギャスパーも修行して頑張っているのだろう。

 

「イッセーさん!木場さんに副部長さんも!試験頑張って下さい!」

 

 アーシアがオーフィスを膝に乗せながら応援してくれる。

 流石に短期間で仲良くなりすぎて若干怖いんだが...

 まぁいいや!流石はアーシア!!

 

「おう!頑張ってくるからな!」

 

 すると、アーシアはオーフィスを膝から下ろすと俺の方に駆け寄ってきた。

 

「アーシア?」

 

 アーシアは俺の耳元に口を寄せると、こう呟いた。

 

「ちゃんと合格出来たら、イッセーさんにご褒美あげます...」

 

「ま...まじですか!?」

 

「はい!」

 

「よっしゃあああ!!絶対合格するからな!!」

 

「頑張って下さい!」

 

「おう!!」

 

 俺はやる気いっぱい試験会場へと駆け出した。

 

 ────────────────────────

 

「ようこそお出でくださいました。リアス・グレモリー様の眷属の皆様ですね?お話は伺っております。念のため、確認のできるものをご呈示下さい」

 

 試験会場に入って早々、スタッフの人にそう言われたので推薦状等を見せると、今度は受付に案内された。

 

「そちらの受付で必要事項を記入の上、受験票をお受け取り下さい。その後はそのまま上階の筆記試験会場に向かっていただいて結構です。お持ちのレポートも筆記試験の前に担当官に提出してください。では、私はこれで失礼致します。良い結果を」

 

 スタッフの人は何処かへ行ってしまったので、俺達は早速書類に取りかかる。

 回りを見渡すが、ほとんど人は居ないようだ。

 

「....あんまり受験者はいないんだな」

 

「そりゃね。昇級試験に臨める悪魔なんて、今の平和な冥界ではごくごく珍しいんだよ。上級悪魔の方はもっと少ないと思うよ?」

 

 そうなんだよなぁ...普通はコツコツ仕事で手柄を得たり、レーティングゲームで活躍して試験を受ける資格を手に入れるのに、なんでこんなに事件に巻き込まれるんだろ。主人公だからですね。

 

 必要書類も書き終えて、いよいよ試験会場に向かう。

 俺は受験番号12だ。木場は11で朱乃さんが10。

 三人で並んで座っていると、ひそひそ噂されている事に気付いた。

 

「あれって、グレモリー眷属だよな?」「魔王様からの推薦ってマジだったんだな...」「天龍の巫女は一緒じゃないのか...俺、結構ファンなんだけどな」「バカお前!赤龍帝の前でそんな事言って殺されても知らねぇぞ!!」

 

 アーシアのファンを殺すなんてとんでもない!むしろばっちこいですよ...というか未だになんだかんだ俺は凶悪キャラで通ってるんですね。その程度で殺すのは悪魔にしてもやばすぎませんか?

 

「うふふ、言われてますわよイッセー君」

 

「朱乃さん...俺の評判はどこへ向かっているんでしょうか?」

 

「さぁ?まぁイッセー君らしくて良いんじゃないかしら?」

 

「何処がですか...」

 

「アーシアさんに関しちゃ、イッセー君は本当に何をしでかすかわからないからね。サイラオーグさんとの戦いで起こった現象なんて、あまりの意味不明さに冥界の研究者が全員匙を投げたそうだよ?」

 

「そんな事になってたのか...そういえば最近アザゼル先生も俺の神器(セイクリッド・ギア)見せろって言わなくなっちゃったな...」

 

 などと喋っていると、試験官が現れてレポートを回収した後に筆記試験が始まった。

 

 ────────────────────────

 

「あぁ...ようやっと終わった...」

 

 今は皆と食堂でご飯タイムだ。

 俺はもちろんアーシアの手作りお弁当だ。

 おいしい...疲れた体に染み渡る...

 

「お疲れ様、イッセー君。ちゃんと解けたかい?」

 

「え?あぁ...まぁ、みんなのお陰で7割くらいは自信あるかな?後はちょっと怪しいかもしれない」

 

「あらあら、まぁ筆記の合格圏内はおよそ8割ですから、残りの正答率に期待ですわね?」

 

「はい...しっかり自信ありますって言えれば良かったんですけど、まぁ詰め込んだ割には頑張ったんじゃないでしょうか」

 

 どうせ二人は余裕なので聞くまでもない。

 食事を終えると、次の会場に向かった。

 

 あっまずい、お薬忘れてた...

 

「ドライグ、薬の時間だぞ?」

 

『あぁ...ありがとう』

 

 ドライグはファーブニルの件以降、今まで以上に精神的に参っていた。腐っても強大な龍同士、仲間意識があっただろうにあの壊れ様ではな...

 

『ふぅ...よし、少しづつ落ち着いて来たぞ。この前は随分醜態を晒してしまったがな、少しづつ整理できてきたぞ。あいつはもう龍王とは思わん。あいつはお前の同類だ、真剣に考えると損をすると俺はいい加減学んだのだ』

 

「そうだな。ファーブニルの事はもう考えない方がいいよドライグ。これからは四大龍王で行こうな。逆にタンニーンさんをぶちこむか?」

 

『四大龍王と思うことにする』

 

「そっか...」

 

「ねぇ、イッセー君。アーシアさんがファーブニルと契約したとは聞いたけど、何かあったのかい?」

 

「え?えぇと...端的に言うと、ファーブニルがぶっ壊れてて、最終的にアーシア教に入信したって感じかな」

 

「ねぇイッセー君。君は一度自分のしている事を振り返った方が良いんじゃないかな?これ以上ドライグを傷つけたら可哀想だよ?」

 

「俺だってこんな事になると思ってなかったよ!!そもそも最初からファーブニルはアーシアのパンツを求めるくらいに壊れてたんだよ!更に壊れるのも時間の問題だろうが!」

 

「それは...うん、まぁなんだろう。本当に同類だったんだね。金色同士通じ合う物があったのかな?」

 

「否定しきれないのやめて...」

 

「あらら、アーシアちゃんも大変ね」

 

「はい...今度アーシアとゆっくりお出かけしようと思います。アーシア教だのなんだの、アーシアもかなり困惑してるようですし、苦労をかけてるみたいですから...」

 

「ぜひそうしてあげてくださいな」

 

 などと言っている間に会場へと到着した。

 今は他の受験者も各々、ストレッチしたり体を温めている。

 やがて、試験官が現れて、説明を始めた。

 

「実技試験は至ってシンプルです。受験者の皆さんで戦闘してもらいます。ただし、総合的な戦闘力などを見るので、負けたとしても合格の可能性はあります。ルールは特にありません。ただし、明らかに故意で殺害した場合は失格とさせていただきます」

 

 とりあえず俺は殺さない事だけを考えておこう。

 

「中級悪魔の試験は上級悪魔と違って戦略面の試験がないので案外シンプルですわね」

 

 朱乃さんが言う。戦略ってまじかめんどくせ...魔王様とサイラオーグさんに言われたから頑張って試験受けに来てるけど、上級は断ろうかな...戦略が一番苦手なんだよ俺は。

 

 試験が始まってしばらく、俺の番が来た。

 

 俺は守護者のプロモーションを手に入れてから、ついに禁手化(バランス・ブレイカー)にカウントダウンが必要無くなったんだ!

 すごく嬉しい!もうあのうるさいカウントを聞かなくて良いだなんて!!

 

「それでは試験を初めて下さい!!」

 

 相手はさっきのアーシアファンの男性だな。禁手化(バランス・ブレイク)は流石にしないと負けそうだけど、プロモーションは必要なさそう。

 

『Welsh Dragon Balance Breaker!!』

 

 相手は魔力弾を大量に撃ってくる。

 俺はそれを無視して突撃、そのまま腹に一撃を入れる。

 

「がはっっっっ!!」

 

 男は倒れた。すまぬ同志よ、どうしても合格したいので高得点狙わせてもらうぞ!

 

「...兵藤一誠選手の勝利です!」

 

 試験官が告げる。

 なんか周囲の反応が静かだな。また俺何かやっちゃいましたか?

 やべ...流石にちょっと可哀想だったかな...でも筆記が点数心配だからここで点稼がないと不味いんだもの。

 黙祷...

 

「お疲れ様、イッセー君。瞬殺だったね」

 

「そうだな...不味かったのか?」

 

「うーん、どうだろう。君のイメージという意味では不味かったかもね」

 

「まじか...」

 

「次の試合は....」

 

 試験官さんは冷静に進行してくれるので、だんだんと元の雰囲気に戻っていった。良かった良かった。

 あの微妙な雰囲気には耐えられそうになかったもん。

 

 二人は俺よりもう少し、魅せながら戦っていた。

 しまった...瞬殺よりそっちの方が点数高いのか?

 でも俺が魅せる戦いってどうすればいいんだ...?

 相手の攻撃全部受けるとか...?

 

 なにはともあれ、無事に試験は終了した。

 

 ────────────────────────

 

「うし、試験お疲れさん。乾杯!」

 

 アザゼル先生は既にワインをボトル二本開けていた。

 飲むなぁこの人...

 俺達はホテルのレストランを部長が貸し切りにして、そこでご飯を食べている。

 

「イッセーさん、試験どうでしたか?」

 

「うーん...筆記はちょっと微妙かもしれない。7割くらいは自信あるんだけど、後はちょっと怪しくて...」

 

「そうなんですか...でも、きっとイッセーさんなら合格してます!」

 

「ありがとうアーシア。そうである事を願ってるよ」

 

「主にお祈りしておきますね!」

 

 アーシアは神様に祈ってくれた。痛い痛い...!!

 

「アーシア!!頭痛が...!!」

 

「ご、ごめんなさい!!」

 

 アーシアが祈りを止めると頭痛が止まった。

 

「大丈夫ですかイッセーさん!!ごめんなさい!私ったらすっかり忘れてて!」

 

 アーシアが神器(セイクリッド・ギア)で頭を回復してくれる。

 

「ん、大丈夫大丈夫」

 

 アーシアは少ししょんぼりしていた。

 

「大丈夫だって!祈ってくれて嬉しかったよ」

 

 アーシアを抱きしめる。

 

「イッセーさん...!」

 

「はいはい、ごちそうさん!折角いい気分で酒飲んでんだから余所でやってくれよ...」

 

 先生に苦言を呈される。

 

「....赤龍帝、我もアーシア教入れば、グレートレッド倒せる?」

 

 突然オーフィスが話しかけてきた。

 

「え?いやぁ...それはどうだろう...」

 

『バカなオーフィス!!お前まで!お前までそっちに行ってしまうと言うのか!!』

 

「おうおう!入れ入れ!もう禍の団(カオス・ブリゲード)なんかどうでもいいだろ!お前もイッセーとアーシアの摩訶不思議パワーにあやかっちまえオーフィス!!」

 

 アザゼル先生いい感じに酒入ってんな...

 

「わかった、我入る。赤龍帝、何すればいい?」

 

「ちょっと待ってください!流石に見逃せませんよ!大体何ですかアーシア教って!」

 

 ルフェイが抗議する。

 

「アーシア教はアーシアを崇める宗教だよ。アーシアが好きならそれはもうアーシア教徒だ」

 

「え?何ですかそれは...」

 

 ルフェイは軽く引いている。

 

「赤龍帝、我何すればいい」

 

 オーフィスが俺の服をぐいぐい引っ張る。

 

「えぇと...アーシアたん、バンザイ!って」

 

「アーシアたん、バンザイ」

 

 オーフィスが無表情で手を上げる。

 

「...何も起きない」

 

「それはオーフィスのアーシアへの思いが足りないんだよ」

 

「イッセーさん...恥ずかしいです...」

 

 アーシアに抱きつかれる。

 

「アーシア...ごめん、オーフィスもアーシアに懐いてるようだし、ファーブニルみたいな感じでオーフィスにも力になって貰えるかなって」

 

「我、アーシア嫌いじゃない」

 

「オーフィスさん、ありがとうございます...でも、とにかくイッセーさん!あまり人前でアーシア教の事は...恥ずかしいんですよ?」

 

「そ...そりゃそうだよな!ごめんアーシア!!なんでもするから許してくれ!!」

 

「イッセーさんや皆さんのお気持ちは本当に嬉しいですけど、私なんかにそんな...」

 

「そんななんて言うんじゃないアーシア!!アーシアはここに居る誰よりも魅力的なんだ!!」

 

「あぅぅ...うぅ...」

 

 アーシアが顔を真っ赤にしてあたふたしている。

 可愛い!!

 代わりに周りの視線が少し痛いけど。

 

「どうだオーフィス!!アーシアは可愛いだろうが!!なにかこう...!胸に来るものがないか!?」

 

「....わからなくも、ないかもしれない」

 

「オーフィスさん!?」

 

 などとどんちゃん騒いでいると、突然ぬめっとした気持ち悪い感覚に襲われた。

 これは...!絶霧(ディメンション・ロスト)の結界に包まれる感覚...!

 

「ありゃりゃ、ヴァーリはまかれたようにゃ。本命がこっちに来ちゃうなんてね」

 

 黒歌が呟く。

 いよいよ、曹操との戦いか...

 まじで気を引き締めないとな...!

 ここからは今までと比較にならない大戦争だ...!!



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第71話。 現れました、サマエル!

 俺達はレストランから出るが、一切人影がない...こりゃ俺達だけがぶちこまれたパターンだな。

 ロビーまで行ってようやく二人居た。

 まぁ曹操とゲオルグなんですけど...

 その瞬間、俺の頭に危険信号が立ち上る!

 アーシグルナル・コール!!

 俺はすぐにアーシアの前に立つと、アーシアの方に魔力弾が飛んで来た。

 

『Welsh Dragon Balance Breaker!!』

 

 俺が魔力弾を弾き飛ばそうとすると、オーフィスが更に俺の前に立って魔力弾を消し去った。

 

「アーシアたん、バンザイ....やはりよくわからない」

 

 オーフィスは首を傾げている。

 まじでアーシア教加入するつもりなんですか?オーフィスさん...

 

「ありがとうオーフィス...」「ありがとうございます!!」

 

 曹操がこちらに近づいてくる。

 

「やぁ、久しいな赤龍帝、それにアザゼル総督。京都以来だ。いきなりの挨拶をさせてもらった。先日のデュランダルのお返しだ」

 

「曹操...」

 

「この間のバアル戦、いい試合だったじゃないか。禁手化(バランス・ブレイカー)の鎧を纏った者同士の壮絶な殴り合い。戦闘が好きな者からすれば聞いただけで達してしまいそうな戦いだ。それに...ククッ、君の神器(セイクリッド・ギア)はどうなっているんだい?亜種という訳でもないのに、本当に面白いね」

 

「そうかよ...」

 

「それで?またこんなフィールドを別空間に作ってまで俺達を転移させた理由はなんだ?どうせろくでもないことなんだろう?」

 

 アザゼル先生が尋ねた。

 

「やぁオーフィス。ヴァーリとどこかに出かけたと思ったら、こっちにいるとは。少々虚を突かれたよ」

 

 アザゼル先生はフル無視かい...

 

「にゃはは、こっちも驚いたにゃ。てっきりヴァーリの方に向かったと思ったんだけどねー」

 

「あっちには別動隊を送っている。今頃よろしくやってるんじゃないか?」

 

 よくわからず困惑している俺達に 、ルフェイが説明をしてくれる。

 オーフィスが何者かによって狙われている事に気付いたヴァーリチームは、オーフィスを守る為にオトリ作戦を決行して偽物のオーフィスを連れて外出、本物のオーフィスは本人の希望もあって俺達の所に連れてきた、ということだ。

 

「ヴァーリの事だから、オーフィスをただ囮にするだけってのはないだろうと思っていた。オーフィスが二天龍に興味を持っていたのも知っていたから、もしやと思って二手に別れて奇襲する事にしたんだ。そうすれば見事、俺はオーフィスと対面できたと」

 

 曹操が語る。まずいな...サマエルがある以上、余計な事をすれば即座に死にかねない。

 

「曹操、我を狙う?」

 

「あぁ、オーフィス。俺達にはオーフィスが必要だが、今のあなたは必要ではないと判断した」

 

「わからない。けど、我、曹操に負けない」

 

「そうだろうな。あなたはあまりに強すぎる。正面からじゃどうやっても勝てないだろうね」

 

 曹操は困った困ったといった様子だった。

 

 すると突然、黒歌とルフェイの足元の魔方陣が生まれた。

 魔方陣の中心にフェンリルが立つと、光の奔流が辺りを包む。それが終わる頃に魔方陣に立っていたのはヴァーリだった。

 

「ご苦労だった、黒歌、ルフェイ。面と向かって会うのは久しいな、曹操」

 

「ヴァーリ、これはまた驚きの召喚だ」

 

「曹操がこちらに赴く事もある程度予想はしていた。さて、お前との決着をつけようか。しかし、ゲオルグと二人だけとは随分と余裕だな」

 

「俺とゲオルグの二人だけで十分と踏んだだけだよ、ヴァーリ」

 

「強気なものだな。例の『龍喰者(ドラゴン・イーター)』なる奥の手を有しているからか?大方、英雄派が作り出した、龍殺しに特化した神器(セイクリッド・ギア)所有者か、新たな神滅具(ロンギヌス)と踏んでいるんだが」

 

「違うなヴァーリ。『龍喰者(ドラゴン・イーター)』は現存する存在に俺達がつけたコードネームみたいなものさ。聖書に記されし神によって既に作られていた」

 

「曹操、やるのか?」

 

 ゲオルグが言葉を発した。

 

「あぁ、頃合いだ。無限の龍神に二天龍がいる。これ以上ない組み合わせだ。呼ぼう、地獄の釜の蓋を開けるときだ」

 

 曹操がそう言うと、ゲオルグが巨大な魔方陣を起動する。直後、恐ろしいほどのプレッシャーが襲いかかる...

 

『...この気配は、ドラゴンだけに向けられた圧倒的なまでの悪意!!』

 

 ドライグが声を震わせる。

 魔方陣から十字架に磔にされている、大量の拘束具をつけられた気持ちの悪い存在が現れた。

 上半身はグルグルで血涙を流す堕天使、下半身は蛇のおぞましい姿だ。

 カチカチと歯が震えてしまう...

 こんなに恐ろしいのか...!感じるのは圧倒的なまでの死の予感。アーシアが俺に抱きついてくれる。

 それでも恐怖は拭いきれない。

 

「オオオオオオオオオオオオォォォォ...」

 

 サマエルが血反吐と唾液を撒き散らしながら叫んでいる...

 

「こいつは...なんてものを!コキュートスの封印を解いたのか!!」

 

 アザゼル先生が叫ぶ。

 

「曰く、神の毒。曰く、神の悪意。エデンにいた者に知恵の実の食わせた禁忌の存在。いまは亡き聖書の神の呪いが未だ渦巻く原初の罪。『龍喰者(ドラゴン・イーター)』サマエル。蛇とドラゴンを嫌った神の悪意を一身に受けた天使でありドラゴンさ」

 

 聖書においてアダムとイブに知恵の実を食わせた存在があれだ...

 唯一故に本来はあり得ないはずの神の悪意。その呪いを一身に受けたサマエルはまさに究極の龍殺しと化している。

 

 説明を受けた皆も恐ろしさを理解したようだ...

 話を聞けばどんなバカでも、どれだけやべぇやつかはわかるもんな。聡明な皆ならもっとだろう...

 

「ハーデスの野郎は何を考えてやがる!!...まさかっ!!」

 

「そう、ハーデス殿と交渉してね。何重もの制限を設けた上で彼の召喚を許可してもらったのさ」

 

「...野郎!ゼウスが各勢力との協力体制に入ったのがそんなに気にくわなかったのかよっ!!」

 

 先生は激怒している。当然だな、こんな裏切りが許されてたまるか...

 

「というわけで、アザゼル殿、ヴァーリ、赤龍帝、彼の持つ呪いはドラゴンを確実に食らい殺す。君の持つアスカロンなんか彼に比べれば爪楊枝だ」

 

「喰らえ」

 

 曹操が指示すると、ギリギリ認識できるほどの高速でサマエルの口から黒い触手が伸びた。

 目の前に立っているオーフィスを飲み込む。

 俺はすぐにアーシアを抱いて、後ろに下がる。

 俺自身も不味いが、アーシアもかなりの龍と関係を持ってる!下手したら影響を受けるかもしれない!

 

「オーフィス!大丈夫か!!」

 

 声をかけるが返事は一切ない。

 

「祐斗!斬って!!」

 

 部長の指示に従って木場が斬りかかるが、聖魔剣は触手に当たった部分を消失させてしまう。

 何度やっても同じ結果だ。

 

『Half Dimension!!』

 

 ヴァーリが白龍皇の光翼(ディバイン・ディバイディング)を起動すると、半減する空間を作り出した。

 俺もあらゆるものを倍化させる空間とか作れるのかな...

 って、そんな事考えてる暇は無かったな。

 やはりヴァーリの攻撃も意味を成さない。

 

「消滅の魔力なら!!」

 

 部長の魔力も意味を成さない。

 ぶっちゃけサマエルの触手は、それこそ『黄昏の聖槍(トゥルー・ロンギヌス)』でも斬れるか怪しいだろうな...

 

 ゴクリゴクリと飲み込む音が鳴り、何かがオーフィスの方からサマエルの方へと流れていく...

 

 俺も一応攻撃するか...?アーシニウムエネルギーなら、あるいは...!

 

「待てイッセー!お前はそのまま控えていろ!絶対にあれに近づくなよ!!最初に退避したお前の選択は正しい。それよりサマエル以外の事を考えろ!!」

 

 アザゼル先生が叫ぶ。要するに曹操との戦いに備えろって事だな。

 

「アーシア、許可くれ!」

 

「はい!許可します!!」

 

 守護者のプロモーションに成りたいが、あれは大量にエネルギーを消費するし、一度変化すると丸1日はプロモーションが出来なくなる!今後を考えると今はバイデントまでだ!!

 

山吹に爆ぜし二叉成駒(ブロンディッシュ・バースト・バイデント)!!」

 

 黄金のオーラが立ち上る。

 俺が戦闘準備をしている間にゼノヴィアが素早く飛び出し、デュランダルをサマエルの方に振り払うが、曹操に斬り防がれる。

 

「またキミは開幕からいい攻撃をしてくれるな。だが、二度はいかないさ」

 

「絶妙なタイミングで放ったつもりだったが、私の開幕デュランダルはわかりやすいのか?」

 

 正直、分かりやすいと思います。オーラ駄々盛れですし...気持ちはすっごくわかるけどね!

 

 ヴァーリも鎧を纏う。

 

「相手はサマエルに上位神滅具(ロンギヌス)所有者二人。不足はないな」

 

 ヴァーリが不敵に笑う。先生は鎧を着ずに戦闘態勢だ。アーシアにファーブニルとの契約を渡しちゃったからな。

 戦力ダウンと見るべきかアップと見るべきか...

 でも、あの時のようにファーブニルのオーラを纏ったパワーアップがあると考えると案外プラス説はある。

 鎧無くても先生強いもん。

 ファーブニルそのものを呼び出せる点もアーシアはポイントが高い。

 問題は今出せばサマエルの餌食という点ですね。

 

「このメンツだと流石に俺も力を出さないと危ないな。何せハーデスからは一度しかサマエルの使用を許可してもらってないんだ。ここで決めないと俺達の計画は頓挫する。ゲオルグ!サマエルの制御を頼む。俺はこいつらを相手にしよう」

 

「わかった」

 

禁手化(バランス・ブレイク)

 

 曹操がそう呟くと、槍が眩い光を放ち、背中に輝く輪っかが現れて、七つの球体が曹操を囲むように現れた。

 

「これが俺の『黄昏の聖槍(トゥルー・ロンギヌス)』の禁手化(バランス・ブレイカー)、『|極夜なる天輪聖王の輝廻槍《ポーラーナイト・ロンギヌス・チャクラヴァルティン》』。まぁまだ未完成だけどね」

 

「亜種の禁手化(バランス・ブレイカー)か!自分が転輪聖王とでも言いたげだな!」

 

「俺の場合は転輪聖王の転をあえて天として発現させた。そっちの方が格好いいだろう?」

 

 何を言ってるのかさっぱりわからない...

 

「気を付けろよ、あの禁手化(バランス・ブレイカー)は『七宝』と呼ばれる力を有していて、神器(セイクリッド・ギア)としての能力が七つある。あの球体一つ一つに能力が付与されているわけだ」

 

 知ってる。何度か思い出そうと頑張ったんだけど3つしか思い出せてない。純粋なパワーを持つ球、攻撃を流す球、女性の異能を封じる球の三つだ。

 正直これだけ時間がたって、三つ覚えてるだけ上等と言いたいが、全く情報が足りない。

 

「ヴァーリ!何種類知ってるんだ!?」

 

「3だ。空を飛ぶ物と、分身を生み出す物、破壊力に特化した物だ」

 

「こらこらヴァーリ、ネタバレは良くないな。まぁ今から残りの物を見せてあげるつもりだったから構わないけどね」

 

 よし、後たったの二種類だ!とはいえわかったからって対応できるもんでもないんだが...

 

赤龍帝の爆砕騎士(ウェルシュ・バーステッド・ナイト)!!」

 

『Change burst impact booster!!!』

 

 俺は両腕を黄金の装甲で固める。

 

「さて、さっそく一つ目だ。輪宝(チャッカラタナ)

 

 曹操がそう呟いた瞬間、球体が消え去り破壊音が響く。

 振り返るとゼノヴィアのエクス・デュランダルが破壊されていた。

 

「...!エクス・デュランダルがっ!!」

 

輪宝(チャッカラタナ)の能力は武器破壊。これに逆らえるのは相当な手練れのみだ」

 

 曹操がそう呟くと、ゼノヴィアの腹部に穴が空いて鮮血が舞う。

 

「アーシア!!」

 

「ゼノヴィアさん!!」

 

 俺が叫ぶより先にアーシアが急いでゼノヴィアに近づき、治療を開始する。

 

「ついでに輪宝を槍へと形状変化させて貫いた。今のが見えなかったとしたら、キミでは俺には勝てないな、デュランダル使い」

 

「曹操てめぇ!」

 

 俺が曹操に突撃しようとすると、曹操が俺に話しかけて来た。

 

「うーん...ねぇ赤龍帝、俺はこの場においては君をかなり警戒している。ともすればヴァーリよりもね。君ははっきり言って理解不能だ。戦って負ける気は一切しないけど、追い詰めた君が何をやらかすのかわかったもんじゃない。また、京都みたいに君を怒らせてバカみたいなパワーでサマエルの操作や空間に影響を出されても困るし、それ以外にも何か予想外の事をされるのも怖いな」

 

「急に何言ってるんだ?お前...」

 

 突然話しかけられて、梯子を外された気分になる。

 くっそ!こっちはゼノヴィアが重症負ってるんだぞ?なめた事言い出し始めやがって...!!

 

「だからここに宣言してあげよう。俺は力の行使を最小限にしてサマエルの儀式へと影響を与えず、更に言えばここにいる全員を殺さずしてこの場を御しきってみせる。特に君の逆鱗とやらには一切触れないと約束してあげようじゃないか、赤龍帝。それくらいは聖槍に選ばれた人間としてこなさないとね」

 

 曹操がニヤリと笑う。

 

「随分なめてくれるじゃないか」

 

 ヴァーリが苛立ちを見せる。そりゃそうだわ、どう考えても俺よりヴァーリや先生の方がやべぇもん。

 

「チッ...いい所突いてきやがるな曹操。これでイッセーは100%以上の力は出せなくなるだろうさ」

 

 先生が吐き捨てる。そんな事はないと言いたい所だけど、正直ボルテージが一つ下がった感覚がある事は否めない。

 くそっ!盤外戦術ってやつか?案外効くもんだな...

 

「曹操ォォォ!!」

 

 俺と木場で同時攻撃を仕掛けるが、槍でさばかれる。

 くっそ!!禁手化(バランス・ブレイク)すれば俺のバイデントの拳もまともに対応できるのかよ!!

 

『Transfer!!』

 

 肘のブースターを爆発させて、高速で飛び込む拳に曹操はきちんとタイミングを合わせて正面から槍をぶつける。

 

 ガキィィィィンと音が鳴った後、拮抗するベクトルが逸れて俺の拳はいなされた。

 

「おや?京都の時より更に固くなっているね。ヒビを入れられないとは...まぁならこうするだけなんだけどさ」

 

 曹操がそう言うと、槍を無防備な俺の腹にに突き刺そうとする。

 俺は無理やり左腕を間に挟んだ。

 

「ぐっ!!」

 

 キィィィィンと甲高い音が鳴って槍と黄金がぶつかり合い、俺は吹き飛ばされた。

 

「....いいね。想定よりいい反応をしてくれる」

 

 曹操はそんな事を呟きながら木場の剣を弾き、避け、破壊する。

 部長と朱乃さんが俺が吹き飛んで空いた隙間に攻撃を打ち込もうとする。

 

「下らない横槍はよしてくれ。女宝(イッティラタナ)

 

 二人の目の前に飛んでいった球体が輝き、それが収まると二人は手を突き出したまま困惑していた。

 

「女宝は異能を持つ女性の力を一定時間、完全に封じる。これも相当な手練れでもない限り無効化できないよ」

 

 黒歌とルフェイがサマエルとゲオルグの方に魔力や魔法による攻撃を加えようとする。

 駄目だ!そういうわかりやすいのは七宝で良いように使われる!!

 

馬宝(アッサラタナ)、任意の相手を転移させる」

 

 黒歌とルフェイが転移して、アーシアの方に向く。

 

「てめぇ!!」

 

 俺がアーシアの方に駆け寄ろうとして態勢を崩した時に視界が変化した。

 あいつ!走り出す直前の無防備な俺を二人とアーシアの間にぶちこみやがった!

 

「ぐはっっっ!!」

 

 背中に二人の攻撃が大量にぶち当たる。

 途中でなんとか後ろに腕を回してガードしたが、それでも結構なダメージを受けてしまった...!

 

「そら」

 

 腹に槍が突き刺さる。

 

「がはっっ!!!うぐっっっ!!!」

 

 腹の中が焼かれるように痛い...!!

 

「最初は予想外の反応と換装の速度で少しだけ驚いたよ。まぁそれならそれでやりようなんていくらでもあるんだよね」

 

 くっ...アーシグナル・コールが無かった時点で...いや、あぁされたら絶対に俺は間に入るしかないな。

 槍がゆっくりと抜かれて、俺は倒れこんだ。

 

「イッセーさん!!」

 

 アーシアが俺の方に駆け寄って治療してくれる。ゼノヴィアの治療は終わったのか?

 ...暖かかいオーラが俺の体中を暴れまわる激痛を抑えてくれる。

 

「うぐぐっ...ゲホッ...」

 

 まずい...全く動けない。アーシアに治療されてるとはいえ、聖のエネルギーが体を蹂躙している。

 意識がだんだん...くっそ!まだ動かないと...駄目...な...



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第72話。 語ります、アルビオン!

 目を覚まし半身を起き上がらせると、ベッド上にいた。

 

「イッセーさん!良かった!!目を覚ましました!!」

 

 アーシアが涙を湛えながら俺に抱きつく。

 

「ありがとうアーシア。もう大丈夫」

 

 アーシアを抱き返して、頭を撫でて上げれば落ち着いてくれた。

 

「皆は無事なのか?」

 

「はい、怪我をした方はたくさんいましたけど、皆さん命に別状はありません!」

 

「そっか、良かった。他の皆はもう治したのか?」

 

「はい、ヴァーリさん以外の皆さんはもう起きていらっしゃいます。イッセーさんだけ治療してもなかなか起きて下さらなかったので...」

 

「そうか...俺につきっきりで看病してくれたんだな?ありがとうアーシア」

 

 ヴァーリはサマエルの毒だろうな。流石にアーシアでもどうしようもないだろう。

 

「イッセーさんが起きてくださって良かったです!その...実は今」

 

 アーシアが何かを俺に話そうとした所でドアが開く音がした。

 

「よぉイッセー、ようやく目が覚めたか。まぁ聖槍のオーラを体内に注入されたんだ。殺さないように手加減されたにしても、結構危なかったんだぜ?」

 

「アザゼル先生!その...今はどういう」

 

「あぁ順を追って説明してやる。まずはお前が気絶してからだな」

 

 俺がやられた後に、アザゼル先生とヴァーリで攻撃するも、今度は先生が刺されてダウン。ヴァーリの魔力攻撃が七宝で黒歌に直撃して黒歌もダウン。更にヴァーリはサマエルの毒をくらってダウン。といった感じでまさに完封されたらしい。一応今回の戦いで使われた他の球の力も教えてもらった。

 

 そして、曹操の目的はサマエルの毒によってオーフィスの力を分割して奪い取り、傀儡とできる新たなオーフィスを作り出す事で、それを見事に完遂した曹操とゲオルグは逃走。

 その際に死神(グリムリッパー)の一団とジークフリートが呼び出されてしまったらしい。目的はこちらに残っている方のオーフィスの回収だそうだ。

 よって今はホテルの中層の階層一つを丸々結界で覆って陣地にして立てこもっているそうだ。

 

「ま、ようするに俺達の勝利条件は全員無事でオーフィスと共にこの空間から逃げるという事になるな。ったく...ガキがなめたことしてくれやがるぜ」

 

 アザゼル先生が吐き捨てる。見事に原作みたいにしてやられちゃったわけだな。

 

「あぁそうだ、お前が起きたら連れてくるようにヴァーリに言われてたんだ」

 

「俺をですか?」

 

「あぁ、アーシアも一緒にな。起きて早々悪いが来てもらえるか?」

 

「はい...」

 

 俺達はアザゼル先生に連れられて、ヴァーリの元へと来た。

 

「ぐっ...すまないな、兵藤...一誠...来てもらって助かるよ」

 

 ヴァーリは脂汗を浮かべながら俺に話しかける。

 

「おいヴァーリ!大丈夫かよ!」

 

「...無事とは言えないな。...ほら、アルビオン...兵藤一誠が来たぞ...」

 

『...赤龍帝。頼みがある...その...私の歴代の一部がだな、お前を連れてこいと...連れてくればヴァーリの苦しみを緩和できるとうるさいのだ...』

 

「そうなのか...?」

 

『初めまして赤龍帝...いえ、教祖様!私、アーシア教アルビオン支部のリーダーを勤めている者でございます』

 

「はい?」

 

 アルビオンの宝玉が輝いたと思ったらやべぇ奴が話し始めた。ついにそっちまで侵略しちゃってたか...

 

『...アルビオン...お前!!』

 

 ドライグが声を震わせる。

 

『ドライグ...私も...私の歴代も手遅れだったんだ...うぅ...おぉぉぉぉん!!』

 

『すまない!!うちのバカがすまない!!俺だけならまだしもお前にまで!!!うぉぉぉぉん!!』

 

 二天龍の慟哭が響く...

 なんだこの惨状は...

 

『どうかお願いします。現白龍皇は危険な状態なのです。お力をお貸し下さい!』

 

 アーシア教アルビオン支部リーダーの切実な声が聞こえる。

 

「貸すって言ったってどうすればいいんだ?」

 

『お恥ずかしながら、我々はアーシア教を名乗っておきながら偉大なるアーシニウムエネルギーの生成ができないのです。しかし、かのエネルギーさえあれば、呪いに蝕まれるだけの現状に変化を起こせると我々は確信しています!!』

 

「と言うと?」

 

『聖女様を媒介として、例のエネルギーをこちらに流して頂けませんか?それでなんとかなるはずです』

 

 えぇ?まぁやるだけやってみるけどさ...

 

「アーシア...今から俺が流すエネルギーを込めながらヴァーリを治癒してくれないか?」

 

「や...やってみます!」

 

 俺はアーシアにアーシニウムエネルギーを注ぎ込む。

 

「...うっ...ふ...んん...イッセーさん、これ...!」

 

 アーシアから艶かしい声が漏れ出す。

 

「ど、どうしたアーシア!!」

 

「体が、変なんです...熱くなって、イッセーさんの事が...あぅ...」

 

 アーシアがピクピクと震え始める。

 何か緊急事態か!?急いでアーシニウムエネルギーを吐き出させないと!!

 俺は心配になってアーシアの肩を掴んだ。

 

「ひぅ!」

 

「アーシア!!早くヴァーリにそのエネルギーを流して治療を施すんだ!!」

 

「は...はい!」

 

 ふにゃりとしながらもアーシアは神器(セイクリッド・ギア)を起動する。

 いつもは緑のオーラなのに、今は黄金のオーラになっていた。

 

『うぐっ!!なんだ...この気色の悪いエネルギーは!!こんな物で!!うぅっ!!ぬぉおおお!!やめてくれぇぇぇ!!!』

 

 アルビオンがうめき、宝玉から黄金の輝きが漏れ出す。

 

『これが!アーシニウムエネルギー!!これならば!!はぁぁぁぁあぁあ!!』

 

 支部リーダーが叫ぶ。後ろからも数人分の叫び声が聞こえる。まだ人数は少ないのかな?まぁ一人生まれたらもはや時間の問題だろうけど。

 

『聖女様バンザイ!アーシアたんバンザイ!!』

 

『やめろぉぉぉお!!お前達がそれを言うなぁぁ!!』

 

 アルビオンは叫ぶ。

 ヴァーリの体を黄金のオーラが包んでいく...

 やがて、オーラはヴァーリの体へと染み込んでいき、やがて無くなった。

 

「これは...体が少し軽い。それに、魔力で少しづつだが呪いを打ち消せるようになっただと...?」

 

 ヴァーリが呟く。

 

『ありがとうございます!!聖女様!教祖様!!このご恩は必ずやいつか!!それでは私達は作業に戻ります!!』

 

 宝玉は輝きを失った。歴代白龍皇のアーシア教メンバーよ...お前達の祈り、アーシアにも届いたぞ。

 

「はふぅ...」

 

 アーシアが俺の方に倒れこむ。

 

「アーシア、大丈夫か?」

 

「はぃ...でも、少し腰が抜けてしまって...しばらくイッセーさんに掴まっていてもいいですか?」

 

「それくらいいくらでもしてくれ!お疲れ様、アーシア」

 

「ありがとうございます...イッセーさんイッセーさん...はふ...」

 

 そしてアーシアは俺の腕の中で、俺にすりすりと身を寄せる。可愛い...

 ちょっと様子がおかしいけど、甘えてくれるアーシアが可愛いからしばらく堪能させてもらおう。

 特に嫌な感じもしないし、しばらくすれば落ち着くだろう。

 

『はぁ!はぁ!!なんだ...なんなんだこの惨状は!!く...くるちぃ!!』

 

『ふっ!うぅっ!はぁはぁ!!アルビオン!!すまないぃ!!俺が!!うちのバカが!!』

 

 今度は二天龍が大いに苦しみ出した。

 

「二人とも!薬を!!」

 

 元凶たる俺が二人の宝玉に多めに薬をぶちこむ。

 

『うっ...心がスッとして...』『ふぅ...いつもの薬か...やっぱり効くなぁ!』

 

 落ち着いてくれた...良かった良かった。流石は二天龍。今度から薬漬けドラゴンって呼ぼうかな、まじで呼んだら二人の心が死にそうだけど。

 しばらくの沈黙の後、アルビオンが語り始めた。

 

『....なぁドライグよ...私は最初お前を憐れんでいた。変な宿主を引いてしまったなと、私の宿主は過去最高と言っても過言ではないのにざまぁないと...』

 

 アルビオンが語りだす。

 

『そして次にお前を恨んだ。勝手に鱗を金色に変えて気持ち悪くなったお前をライバルと認めたくなくなったし、その頃から私の中の歴代が数人挙動不審になり始めた。そして結果はアーシア教アルビオン支部が作られる始末...私は精神を病み、お前を呪った』

 

『アルビオン...』

 

『だが、違ったのだなドライグ。お前が...お前こそが誰よりも被害者だったんだ』

 

『アルビオン!!わかってるくれるのか!!』

 

『あぁ...私がすべきだった事はお前を呪う事ではなかった。お前と苦しみを分かち合う事だったのだ!!辛かっただろうなぁ、鱗をついには全部金に変えられてしまって...私もさっき黄金のオーラを無理やり出させられたよ、それだけでもこんなにも嫌な気持ちになるというのに...』

 

『おぉアルビオン!!この辛さに優劣などあるものかっ!!俺達は誇り高き二天龍なんだ!こんな...こんな侮辱を受けていいはずが...!!でも...俺の相棒はどこまでいっても相棒なんだ!!嫌いじゃないのが余計に腹立たしい!!』

 

『そうか...板挟みで辛かったんだなドライグ。なぁ...もう少し...いや、少しと言わず互いの傷が癒えるまで語り明かさないか?もうお前を見ていられないんだ。同じアーシア教被害者だからこそ、二天龍だからこそできる話もあるだろう!!』

 

『...ありがとうアルビオン!!俺は...俺は!!ファーブニルにも!オーフィスにもアーシア教だのなんだのと言われて!!もう龍に俺の味方はいないのだとばかり!!うぉぉぉん!!』

 

『ファーブニルにオーフィスまでだと...それは辛かったなぁ!さぁ、私の方に来るんだドライグ!こちらはまだほんの数人しかアーシア教がいない。話をするならば、お前の中よりは安心できるはずだ...』

 

『うぐっ...ありがとうアルビオン...理解者とは...良いものだな』

 

『そうだなドライグ...俺達は世界で唯一。二天龍だからな』

 

 二匹は宝玉の中へと意識を沈めていった。

 

「これは...サマエルの毒に変化が起きた時点で衝撃なのに、まさかこんな事が起こるとは...二天龍の和解と見ていいのか?だとしたら教科書に載るレベルの大事件なんだが...これは...どう記録すればいいんだ?」

 

 アザゼル先生が呟く。一文だけでいいんじゃないでしょうか?そんな、俺のせいで精神を病んだ二匹が慰め合ってとか書かれたらたまらん。

 

「なんだ...まぁ、ひとまず少し楽になったよ。ありがとう兵藤一誠...アルビオンについては思うところもあるが...」

 

 ヴァーリに話しかけられる。

 

「それはすみません...」

 

「まぁいいじゃねぇか!イッセーとアーシアの摩訶不思議パワーは遂に二天龍すらもあそこまで変えたってこった!まじで龍殺しじゃあないが、龍特効の精神攻撃兵器かなんかなのか?恐ろしい奴だなお前は...にしてもアーシア教はもう新勢力と言っても過言じゃねぇな。二天龍、ファーブニル、オーフィスって、他人が聞いたら卒倒する面子だぜ全く...」

 

「俺を入れるのはやめて欲しいんだが」

 

 ヴァーリが呟く。完治って感じでは断じてないけど、だいぶ楽になったっぽいな。

 まだまだ顔色は悪いけど立ちやがったし。

 ....俺にはできない芸当だろうな。アーシニウムエネルギーが潤沢とはいえ、流石にサマエルの毒は駄目だろう。魔力という贄がバカみたいな量あるヴァーリだからこそだな。

 

「あん?どうせお前の歴代も時間の問題だろうさ。アーシア教の感染力をなめるなよ?それによぉ、あの貧弱だったイッセーが今やここまで強くなったんだぜ?アーシア教、強さに貪欲なお前なら一考の余地はあるだろ」

 

「先生はなんでそこまでアーシア教を拡大させようとしてるんですか!」

 

「その方が面白そうだからな!考えるのは止めた!ドラゴンの一大勢力を作ってくれよ!!んで世界を征服するんだ!!俺も入っていいか?」

 

 アザゼル先生まで壊れだした。まぁこの人はノリで言ってるだけでまじでやり始めたらすぐに止めると思うけど。

 

「ふむ...確かに赤龍帝にできる事が白龍皇にできない道理はないな」

 

「なっ!アーシアは死んでも渡さねぇぞ!」

 

「バカ言うな、いらん」

 

 いらんはいらんで失礼なやつだな!!

 

「イッセーさん...私はイッセーさんじゃなきゃヤです...!イッセーさんイッセーさん...」

 

「アーシア!俺もアーシアじゃなきゃ嫌だぞ!...というか、本当にちょっと様子が変だぞ?大丈夫かアーシア?」

 

「はい?...大丈夫ですよ?確かにちょっと体がポカポカして、イッセーさんと離れたくない気分ですけど...」

 

「あー...あれじゃねぇのか?イッセーのアーシアへの思いの塊であるアーシニウムエネルギーを直接注入されたから、一時的にアーシアもイッセーへの感情の抑えが効かなくなってるんじゃないか?」

 

「なるほど...」

 

 確かにこれはアーシアが最上級に俺に甘えて来る時みたいだ。アーシアが人様の前でここまで甘える事はまずないもんな。

 

「赤龍帝、いる?」

 

 オーフィスが室内に入ってきた。

 

「オーフィス、俺に用か?」

 

 オーフィスはコクりと頷くと部屋を出ていった。

 俺も付いていく事にする。勿論アーシアもべったりくっついたままだ。これはこれで最高に可愛いけど、そろそろ元の調子を取り戻して欲しいな...まぁ原因俺なんですけど。

 オーフィスは人の居ない所を見つけると、そこで俺達の方を向き直った。

 

「我、今の力、全盛期の二天龍より二回りくらいしか強くない。とても弱くなった」

 

「そ...そうなのか。残念だったな...」

 

 突然なんの話だろうか?

 

「とても残念。...赤龍帝、イッセーと呼んでよい?」

 

「え?あぁ勿論!」

 

「アーシア、イッセー。我、もう力無くなった。グレートレッドも倒せない。次元の狭間に帰ることも叶わない。我、これからどうすればいい?」

 

 そうか、もうオーフィスは願いを叶えられないんだな...そう思うと少しあれだな...

 

「なら...私達と一緒に暮らしませんか?」

 

 アーシアが言う。

 

「何故?」

 

「何故って、ここ数日間オーフィスさんと過ごして、オーフィスさんの事が好きになりました!オーフィスさんに行く宛てがないのなら、私達と一緒にいて欲しいです!まだまだオーフィスさんとしたい事だってあるんですよ?」

 

「...そうだな、もう英雄派の連中と付き合う理由もないだろうし、アーシアも俺も歓迎するからさ、どうだ?」

 

「それ、何かお得?」

 

「そりゃあお前!俺とアーシアの生活を特等席で見れるんだから、俺達の進化の秘訣とやらがわかるかもしれないぜ?」

 

「もうそれ、わかっても仕方がない。でも、イッセーとアーシアと一緒に暮らすのも、悪くないかもしれない」

 

「あぁ!俺達もうなんだかんだお前の事大好きだからさ、家族と思って一緒にいてくれよ」

 

 たった一週間くらいしか一緒に過ごしていないんだが...なんか放っておけないというか、俺とアーシアの間にぬるりと入ってきたというか...まぁ家族は些か急な気もするけど、でもまだ一緒に居たいと思ってしまった。多分アーシアも同じ...いや、アーシアは特に懐かれてたしもっとかもしれないな...

 

「...家族...我、それ知らない。けど、イッセーとアーシアと一緒に居るの、嫌じゃない。これからよろしく」

 

「おう!」「はい!」

 

 こんな追い詰められているタイミングだが、二天龍の和解だのオーフィスと暮らす事が決まったりだの、色々と事態が動いてしまった...

 だからこそ、俄然頑張るしかなくなった...よし!ここからが正念場だ!!絶対に生き残ってやる!!



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第73話。 殲滅します、グリムリッパー!

 現在俺達は、休憩中のヴァーリと黒歌、黒歌の看病に小猫ちゃん、といったメンバーを除いた面子で作戦会議だ。

 小猫ちゃんは黒歌に庇われたのだそうだ。これで互いのわだかまりが少しは解消されればいいんだが...

 ちなみにアーシアはオーフィスと一緒に暮らす宣言していた辺りでだいぶ症状が回復した。

 良かった良かった...今は別室で休憩中だ、いっぱい治療して疲れただろうしゆっくり休んで欲しい。俺も添い寝しようかと思ったらアザゼル先生に引っ張られてこの部屋での作戦会議に参加させられている。解せん。

 

 最初にルフェイが切り出す。

 

「本部から正式に通達が来ました。砕いて説明しますと、ヴァーリチームはクーデターを企て、オーフィスを騙して組織を自分の物にしようとした。オーフィスは英雄派が無事救出。残ったヴァーリチームは見つけ次第始末せよ、との事です」

 

「そういう事になったか。英雄派に狙われていた上に、オーフィスの願いを叶えようとしたヴァーリチームの末路がこれか、難儀なもんだな」

 

 先生も嘆息する。

 ルフェイ曰く、英雄派にとって力を持ちながら好き勝手動くヴァーリチームは目障りだったらしい。

 

「オーフィス曰く、現在この空間はオーフィスが出られないようになっているらしい。まぁ力を逃がしてある程度残せたとは聞いたが、少なくとも有限になってしまったのは確実だからな...どうとでも対処出来てしまう」

 

 それでも俺より何倍も強いんだよなぁ...

 

「ルフェイ、お前は空間に関する魔法に秀でてたよな?どうにかして外に応援を呼んだり、少人数だけでも逃がす方法はないのか?」

 

「あることにはあるのですが、黒歌さんがダウンしている現状、私だけでは恐らく二人が限界ですね」

 

「あー...このメンバーで選ぶなら...イリナ、お前が先に行け。サーゼクスと天界に英雄派の真意とハーデスのクーデターを伝えるんだ。護衛としてゼノヴィアを連れていけ。お前にはこの場に残ってもらうよりも、天界に行ってエクス・デュランダルを修理してもらう方がありがたい。この戦いはこれだけで終わりそうにないしな」

 

「...了解した。イリナの護衛、やってみせよう」

 

 てなわけでルフェイが別室で術式を構築していく。なにやらその間にルフェイからゼノヴィアへと支配の聖剣(エクスカリバー・ルーラー)の受け渡しなどもあったらしい。

 これでようやくエクス・デュランダルもひとまず完成か...

 

 その後は部長と先生と朱乃さんで作戦会議をするそうなので、各自警戒しながら自由行動との事だ。

 勿論俺はアーシアの休む部屋に直行だ。寝ていたら諦めるけど、起きているならもうちょっとイチャイチャしたい。

 

 音をたてないようにゆっくりとドアを開く。

 

「...イッセーさん?」

 

「アーシア...起こしちゃったか?」

 

「いえ、眠れなかっただけですよ」

 

「そっか、そっち行ってもいいか?」

 

「はい、どうぞ!」

 

 アーシアの寝ているベッドに入り込む。

 俺はアーシアを抱きしめた。

 今回の戦い、シャルバをあの時殺し切れなかった俺にも責任が少しはあると思っている。

 だからこそ俺は最後まで戦うつもりだが、それ故にまぁいつもの事と言えばいつもの事なのだが、冗談抜きで死にかねない。

 死ぬ気はさらさら無いが、もしもを考えると少し怖くなる。

 

「イッセーさん...不安ですか?」

 

「うん...こうしてアーシアの温もりを感じないと落ち着けないんだ」

 

「私も、イッセーさんの腕の中じゃないと安心できません...しばらくこうして居てもいいですよね?」

 

「あぁ、俺もこうしていたい」

 

 やっぱりアーシアと抱き合っていると自然と心が落ち着いて暖かくなっていく。

 うん、もう大丈夫だ。後はこうしてゆっくり本番まで休憩しよう..

 

 .........

 

「アーシア!イッセー!起きなさい!!」

 

 毛布が取り払われる。

 

「!?...あっ...部長?」「....んにゅ?...」

 

 んにゅ?ってそんなの初めて聞いたぞアーシア...可愛すぎか?

 

「あなた達ねぇ...これから戦いって時に...別にいいけれど、ハァ...平常運転にも程があるでしょう...」

 

 部長は頭が痛そうにしている。

 

「すみません...」「部長さん...?」

 

「もうすぐ作戦が始まるから、ちゃんと目を覚ましなさい?あなた達が作戦の要なんだから、きちんとしてもらわないと困るわよ?」

 

「大丈夫です!コンディションはバッチリですから!」

 

 俺は胸をバシンと叩く。アーシアもむんとやる気一杯だ!可愛い!

 

「ならいいわ。行くわよ二人とも!」

 

 俺達は部長に連れられて部屋を出た。

 

 ────────────────────────

 

 お外には死神(グリムリッパー)がたくさん居た。こいつら大量にぶっ倒さないといけないんだよな...

 

 先生が作戦の説明を始める。

 

「作戦は単純だ。まずはこの空間を維持している核を破壊する。何をどうしようとこれが成されなければ話にならん。それにイリナ達の脱出も不可能だ。現在核は三ヶ所に存在している。まずはイッセー、駐車場にある強固な核は後回しで他二つを破壊する。お前の砲撃が必要になる。頼むぞ...」

 

「はい!」

 

「アーシア。お前はイッセーが砲撃を放ち次第オーラを回復させてくれ。イッセーの火力が命綱だ。ヴァーリ、体調はどうなんだ?」

 

「魔力体力を使い尽くせば毒もかなり消せそうなんだが、この場でそれをするわけにもね。まぁそれなりには動けるよ」

 

「そうか...絶賛不調の中悪いが動けるならお前も対応してくれ」

 

「もちろんだ。俺は白龍皇だからね、赤龍帝に情けをかけられておきながら、むざむざ後方に居られるほどお利口じゃない」

 

「はっ、良く言うぜその体で...よし、それが終われば一気に殲滅戦だ。とにかく広域的な攻撃で死神を倒し続けろ。物量には面の攻撃で押し返せ!作戦開始だ!」

 

『はい!!』

 

 ────────────────────────

 

『Welsh Dragon Balance Breaker!!』

 

「イッセーさん、許可をどうぞ!」

 

「ありがとうアーシア!」

 

「|六条の龍穿つ僧侶《ヘキサ・ドラゴニック・ブラスター・ビショップ》!!!」

 

『Change Dragonic Funnel Blaster!!』

 

 よし...準備は整った。

 いや、そう言えばドライグはどうしたんだ?まだ帰ってきていないけれど...

 

『すまん相棒!!間に合ったか!?ちょっとアルビオンと話し込みすぎたのだ...!』

 

 ハイテンションのドライグが神器(セイクリッド・ギア)に滑り込みダイブしてきた。

 

「おっおう...いや、作戦には間に合ってるから大丈夫だけど...大丈夫なのか?」

 

『あぁ!薬など目ではないくらいにスッキリしている。金色だろうとなんだろうと、バッチ来いだ!!アーシア教!?受け入れてやろうとも!!それが天龍としての度量という物だ!!』

 

 えぇ...すごいけど、逆に大丈夫か?ドライグ...

 まぁいいか、こんなに生き生きしたドライグは久しぶりだ。良かったな...元気になって。

 正直俺はすごく嬉しいよ。

 

『今ならなんだって出来そうだぞ。死神ごときに遅れを取るわけもない、全て消し飛ばしてやろう相棒!!』

 

「おう!!ドライグが元気な戦いは久しぶりだけど!なんかこう...神器(セイクリッド・ギア)の調子が良いな!ホントになんでも出来そうだ!」

 

『任せてくれ』

 

 ドライグがこんなに頼りになるのは久しぶりだ...

 あっなんか感動してきた...

 

「....先輩、すみません。場所がわかったので聞いてください。特定できました。そっちとこっちです」

 

「っと、ごめん小猫ちゃん。あそこの方とあそこの方な?」

 

 俺は小さい魔力弾で跡を付ける。

 

「...そうです。ではよろしくお願いします、イッセー先輩、アーシア先輩」

 

「おう!」「はい!」

 

 小猫ちゃんはいつも通りっぽい雰囲気だけど、黒歌とはどうなったんだろう?ちょっとは関係が改善していると良いんだが...

 

「術式組み終わりました!」

 

 ルフェイの元気な声が聞こえる。

 

「イッセー、撃ちなさい!!」

 

 部長の合図で作戦が開始する。俺の一撃は狼煙だ!!

 背中のファンネルには既にパンパンにオーラが詰まっている。

 

 ファンネルを発射して、三門ずつ目標に向けて展開しておく。

 

「発射!!!」

 

 三門中、一門が結界の核を穿つように細く凝縮され、残りの二門が核周囲の死神も見据えて広めに発射される。

 

 ズガガガガガガと大音量の破壊音を撒き散らして結界の核と周囲を穿った。

 

「予定どおり、周囲の死神も結界も破壊されました!残るは駐車場の一つだけです!転移の準備も整いました!」

 

 俺はファンネルと背中のステーションに戻してオーラを急速充電する。アーシアのオーラによって溢れ出るオーラをそのままぶちこんでいく...

 

「皆、死ぬなよ」「必ず天界と魔王様に伝えてくるから!」

 

 ゼノヴィアとイリナがそう言い残し、消えていった。

 

「よし!これで後はあいつらと装置をぶっ壊すだけだ!!いくぞお前ら!俺が壁をぶち抜くと同時になるべく広域を消し飛ばせ!!」

 

『はい!!』

 

 俺は再びファンネルを発射して、乱雑に向ける。

 死神は空中も含めてそれこそどこにでもいるので、皆も手を向ける方向は様々だ。

 

「撃てぇぇえ!!」

 

 そう叫んでアザゼル先生が壁を巨大な光の槍でぶち抜く。

 俺達も各々死神達を消し飛ばす。オーフィスも撃ってくれたんだが、オーフィスのが一番やばいな...

 MVPはオーフィスです。

 

「...おかしい。加減、難しい」

 

「オーフィス!多分サマエルの影響で上手く力が使えなくなってるんだ。今からは攻撃するなよ!敵味方関係なく吹き飛んじまう!」

 

 アザゼル先生が言う。

 オーフィスは黙って体育座りした。

 

「よし...行くぞ者共!残党狩りじゃぁぁ!!」

 

 結構楽しそうなアザゼル先生の言葉を受けて俺達は戦場へと突入していく!

 

 後衛として、黒歌、小猫ちゃん、アーシア、部長、朱乃さんが残った。

 今回の戦いはひたすら俺がファンネルで暴れ回るので、俺のオーラをアーシアがサポート。

 部長と朱乃さんは空中の敵を中心に爆撃。

 俺や後衛の攻撃を避けたり耐えたりしながら戦える面子が前衛に立って各自殲滅する。

 

 俺は一応、皆が居なさそうで死神の多い所を狙って何度も撃ち込んでいく。

 

 ズオォオオオ!!と音が鳴って死神達を消し飛ばす。

 他の皆も死神をどんどん倒していく。あっと言う間に殲滅してしまった...

 なんだこの惨状は...駐車場がバッキバキのボロボロだ。

 ジークフリートはゲオルグの霧によって守られていた。

 ジークフリートは背中から四本の腕を生やしてこちらに近づいてくる。

 

「久しいね、赤龍帝...京都の時も思ってたけど、本当、勘弁してくれないかな?これでもかなりの数を用意したつもりだったんだけど...」

 

「これで足りるだなんて随分なめてるんだな、俺達を」

 

「あれでも中級悪魔くらいの実力はあるんだけどね...ヴァーリもサマエルの毒まともに食らったって聞いてたのに普通に動いているし、なんだかなぁ...どうせキミなんだろう?あの毒をどうにか出来るような術者は居ないはずだ。全く...曹操がキミに厳重注意しろって言ってたのもよくわかるよ」

 

「そりゃどうも...それで?ここからどうするつもりなんだ?」

 

「あぁごめんね?言ってなかったけど、おかわりはいくらでもあるんだ、それと特別ゲストもね」

 

 ジークフリートがそう言った瞬間、なにかが起こった。

 

『死神をなめてもらっては困りますね』

 

 不穏な声が聞こえた。空間に歪みが発生して、その中からそこらに転がってる死神より明らかに強者っぽい奴が現れた。

 

「お前はっ!」

 

 アザゼル先生がびっくりしている。

 

『初めまして、堕天使の総督殿。私はハーデス様ぶ仕える死神の一人、プルートと申します。あなた方はテロリストび首領オーフィスと結託して、同盟勢力との連携を陰から崩そうとしました。それは万死に値します。故にここで対処させていただきましょう』

 

「なるほど、今回はそういう事にするつもりか。そういう理由をでっち上げて俺達を消す気か!その為にテロリスト共と戦っていた俺達に襲いかかったと!どこまで話が進んでるんだ!この道化師どもが!!」

 

『いずれそんな理由づけも要らなくなりますが、今回は一応の理由を立てさせて頂いただけです。さて、それでは偽物という事になったオーフィスをいただきましょう』

 

 プルートがそう言った所でヴァーリが飛び込んできた。

 

「最上級死神プルート。コンディションは最悪だが、戦わない理由にはならないな!」

 

「ヴァーリ!無理するな!!」

 

 アザゼル先生も飛び出して共闘と相成った。

 すさましい戦闘音がなり響く。

 

「さて、君をフリーにしたら折角の増援もたちまち消されてしまうな。行かせてもらう!!」

 

 ジークフリートがこちらに魔剣を向けるが、木場が飛び出してきた。

 魔剣を木場の聖魔剣が逸らして受ける。

 

「悪いねイッセー君。彼は僕がやる!!」

 

「木場祐斗か!今はキミに構っている暇はっ!!」

 

「京都であなたに圧倒されたのが個人的に許せなくてね...リベンジさせて貰おう!」

 

「邪魔しないでくれないかな!!」

 

 二人の剣戟が始まる。

 ジークフリートは木場に任せて大丈夫だ。

 俺をフリーにしてくれているみんなの為に俺が今すべきはプルートと一緒に現れた死神どもを殲滅する事だ!!

 

 ファンネルを木場とジークフリートのいる場所以外に叩き込む!!

 俺はアーシアのオーラを受けながら何度も何度も砲撃を撃ち続ける。

 俺は定点砲台と化しているので、アーシアもオーラを送りやすそうだ!!

 まだまだ撃てるぞ!!死神どもは増えても増えても俺に消し飛ばされる...!!

 もはやゲオルグを狙う余裕すら生まれてきたぜ!!

 なんだ!?いくらアーシアのオーラがあるとはいえ、こんなに俺って強かったっけ??この後の戦いを考えた温存までできているぞ!?

 

『アーシニウムエネルギーを真に受け入れるとはつまりこういう事!!これこそが俺の相棒の真の力!!俺の心が今まで相棒を無意識に邪魔していたんだ!!いいぞ相棒!!俺の心はもう死なぬ!!死んでもアルビオンがいる!!無敵なのだ!!!』

 

「あぁドライグ!!二天龍の和解!そしてドライグの完全復活を記念した祝砲だあああああ!!!」

 

 俺は六門全てをゲオルグに向ける!

 

「待て!!これ以上はこの空間が!!!」

 

 俺の砲撃がゲオルグと維持装置を狙い撃つ...!!

 急遽ジークフリートが木場に背中の腕を2本切られても構わずに飛び込んできて、魔剣を放つ!!

 

 なんとか防御されてしまったらしい...

 だが、ゲオルグもジークフリートもボロボロだ。

 このままシャルバが来る前にぶっ倒して!!

 

 と思った所で、空間に再び穴が空いた。

 そこから現れたのはシャルバだ。

 噂をすればなんとやらだな...

 俺はフェンネルを戻して、もう一度エネルギーを装填する。出来るかわからないが、レオナルドに当てればもしかすれば超獣鬼(ジャバウォック)とかの登場を防げるかもしれないし。

 

「久しいな赤龍帝、それとヴァーリ...」

 

 気がつけばプルートはあちら側に、先生とヴァーリはこちら側に降りてきていた。

 

「シャルバ...報告は受けていたけど、まさか本当に独断で動いているとは」

 

 ジークフリートが一歩前に出る。

 

「それで?ここに来た理由は?」

 

「なに、宣戦布告をと思ってね」

 

 シャルバがマントを翻すと、レオナルドがいた。

 悪いが知ってる以上防がせて貰う!!

 多分死なないし!死にかけてもアーシアがいる!!

 

 全部にチャージャしきれていないので、終わった3本のファンネルを発射して一気に狙い撃つ。

 ...が、シャルバのハエに止められてしまった。

 

「全く貴様はつくづく腹立たしい...まるで知っているかのように対処してくれる。まぁ前例があったお陰で今回は防げたがね。これでも私は反省しているんだ。貴様のような雑魚に殴り倒されたという、拭おうにも拭いきれぬ人生の汚点をなぁ!!」

 

 シャルバが唾を撒き散らしながら激怒する。

 

「故にもう慢心はしない。速攻で決めさせて貰おう!!」

 

 自分とレオナルドを防御の為にハエで包むと、中からレオナルドの絶叫が聞こえる。

 

「ふはははははは!!現れろ!!怪物よ!!」

 

 ハエの塊の後ろから200メートルを越そうかという巨大な化物が現れた!!

 更にその後ろに100メートルを越す一回り小さい化物が生まれていく...

 

 ヴァーリとアザゼル先生がハエに向かって攻撃する。俺も残り3本を撃ち放つ...が、なかなかハエを消しきれない...!!

 なんだこの防御力は!!

 

「無駄無駄!!どうせ攻撃されるだろうとあらかじめ準備しておいた物だ!そのような攻撃で抜ける訳がなかろう!フハハハ!!今からこの魔獣達を冥界に転移させて暴れさせる!!これだけの規模のアンチモンスターだ!!さぞかし楽しい景色が見れるだろうよ!!」

 

 化物は転移の光に包まれていく。俺達はそちらにも追撃をかけるが、モンスターは全て消えてしまった...

 フィールドが崩壊していく...ゲオルグとジークフリートもレオナルドを連れて退却するそうだ。

 

「...くそっ!!」

 

 どうすれば良かったかと言われれば何も浮かばないけど!!何か出来たかもしれなかったのに!!

 俺は!!

 

『相棒、気にするな。お前にどうこう出来た問題じゃない』

 

 わかってるけど!!それでも俺は...俺が自己保身で知ってる知識を出さなかったから、こうなったんじゃないのか...

 

『お前がそう言うのなら俺も何も浮かばなかったし、何も言わなかった。同罪だよ相棒』

 

 ドライグ...

 

『存分に後で後悔すればいい。だが今は前を向け。お前が今すべき事は後悔か?下を向くことか?』

 

 違う...この場でシャルバを殺す事だ...

 

『そうだろう。ならば動け、力は貸してやる』

 

 うん...ありがとうドライグ。

 

「ヴァーリ!!赤龍帝!!いいや全ての悪魔ども!!全く...気に入らない物が多過ぎて困るな!!だからこそ私は呪いと化してやろう!!冥界全てを覆い尽くし、全てを滅ぼす呪いとなってやるのだ!!二天龍のクソ共!!貴様らには特に念入りに地獄を見せてやるからな!!」

 

 俺とヴァーリは突撃しようとする。

 ....が、ヴァーリが倒れた。

 っ!!いくらマシになったからって無理しすぎたんだ!!

 

「どうしたヴァーリ!!情けない姿を見せてくれるなよ!!」

 

 シャルバが魔力をヴァーリに撃ち出す!!

 

『Change burst impact booster!!』

 

 俺は金色の両腕でガードし、ヴァーリの壁になる...!

 シャルバは片手で俺達に攻撃しながらもう片方の手を後衛の方に向ける。

 

「私の欲しいものはまだあるのだ!!」

 

 シャルバの腕から高速で放たれた魔力はオーフィスを捕らえた。

 

「ほう!情報通りだ!!今のオーフィスならば私の力でも捕らえられる!!このオーフィスは真なる魔王の協力者への土産だ!!いただいていくぞ!!」

 

 シャルバはオーフィスを引き寄せると、俺達への攻撃をやめて後ろへ下がっていく。

 もうこれ以上この空間がもたないから、俺達が退却するとわかっているのだ。

 皆も退却準備をしている。ヴァーリは先生が引っ張った。

 

「イッセー!転移するわ!こっちへいらっしゃい!!」

 

 部長が叫ぶ。

 

「すみません。俺はここに残ってシャルバを殺します」

 

「何を言ってるの!!」

 

「オーフィスも助けないと。一緒に暮らすって決めたので、もう家族みたいなものですから」

 

「イッセーさん!だめです!!早くこっちに!!」

 

 アーシアが叫ぶ。

 

「ごめんアーシア、でも...行かないと。これだけは例えアーシアの頼みでも聞けない。俺がやらないといけないんだ」

 

「もう限界にゃん!今飛ばないと転移できなくなるわ!!」

 

 黒歌が叫ぶ。

 

「...お前ら、イッセーは置いていくぞ。後で龍門(ドラゴン・ゲート)を開いてお前とオーフィスを召喚する!それでいいんだな!!?」

 

「すみません先生。お願いします」

 

 俺がそう言うと同時に、転移の光が溢れて...一つだけ影を残して光は弾けた。

 そこに居たのは俺の愛しい人だった。

 

「.....アーシア...?」

 



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第74話。 倒します、シャルバ!

「....アーシア...?」

 

 俺は目に前の状況に理解が追い付かなかった。

 

「な...なんで...なんで飛ばなかったんだアーシア!!ここがどうなるのかわかってるだろ!!」

 

 俺はアーシアに怒鳴る。初めてアーシアに怒鳴ったかもしれない...

 

「わかってないのはイッセーさんです!!私...今度という今度は許しませんから!!」

 

 怒鳴り返された...何を言って...

 

「イッセーさんは...私の事をパートナーって言って下さいました。私、本当に嬉しかったんです!イッセーさんに守られるだけで終わりたくないって...そう思っていましたから...だから、頼りにしてるって言って貰えて、イッセーさんのサポートをできる力も授かって、闘いでもイッセーさんの役に立てるんだって...嬉しかったんです...」

 

 アーシアがポロポロと涙をこぼしながら語る。

 

「サイラオーグさんとの闘いでもそうでした。守られてる癖に何を言ってるんだって思われるかもしれませんけど...イッセーさんは、本当に危ない戦いでは、私を置いていこうとしました。さっきだって...私は、嫌なんです。ヴァーリさんとの戦いで...私の知らない間にイッセーさんが死にかけていて...すごく...すごく怖かったんです...」

 

「アーシア...」

 

「私、死ぬのなんか怖くないです。痛いのも怖くないです。何よりも...イッセーさんが居なくなるのが怖いんです...私が何もできない場所で、私の居ない所でイッセーさんが苦しむだなんて嫌なんです...」

 

「...ごめ...」

 

「謝らないで下さい!!私...私、もうイッセーさんの言うことは信じません!!私はイッセーさんがどんなに反対したって、どんなに拒否したって、何処へだって勝手に、イッセーさんの行く場所に着いていきますから...!!絶対に一緒に行きますから!!イッセーさんが今日死ぬのなら私も今日死にます!!それくらいの覚悟、ずっと前に出来てます!!」

 

「...俺はアーシアに傷ついて欲しくなくて...」

 

「わかってます。でも、私だってイッセーさんに傷ついて欲しくありません。でも、イッセーさんは止まりませんから。何度でも怪我しちゃいますから。だから...せめて私が治せるように付いていきたいんです。それに...私は死にませんよ?私が死ぬのはイッセーさんが死ぬ時ですから、イッセーさんを私が死なせなければ良いだけです!」

 

「そんな暴論...ったく...そんな事言われたら...」

 

 涙が溢れてきた...そうか、俺の思いはアーシアを傷付けていたんだな...

 確かに、俺だってもしもアーシアが俺の居ない所で大怪我をしたって聞いたらどうにかなってしまいそうだ...

 アーシアは何度か言ってくれていたのに...ちゃんと行動で示してあげてなかった俺が悪い。

 言うこと信じないって言われて当然だわ...

 口先だけでは頼りにしてると言っておきながら、最初は遠ざけようとして、結局押しきられてアーシアと一緒に戦って、戦いではアーシアに何度も助けられて...

 とんだ嘘つき野郎だわ...

 

「...今度こそ本当にわかった。心に刻み付けた...もう謝らない。迷惑かけて当たり前なのが俺達なんだもんな」

 

「はい!そうです。...大体イッセーさんばかりズルいんです。私だってイッセーさんを守りたいのに...」

 

 アーシアがぷくりと頬を膨らませる。可愛い。

 

「アハハ...正直アーシアが居なかったら10回以上は死んでたと思うけどな」

 

「フフ...私だってイッセーさんが居なかったら何回死んでたかわかりませんよ?」

 

「うん...じゃあ、行くか!」

 

「はい!オーフィスさんはもう家族ですから!私達で助けないと!」

 

「そうだな」

 

 俺達はシャルバの居る方へと歩いていく。

 

 ────────────────────────

 

 不味い忘れてた...アーシアは特に次元の狭間では活動できないんだから事前に準備しとかなきゃだった...

 

「アーシア、今こそファーブニルを呼ぼう!このままじゃアーシアが次元の狭間の無に当てられてしまう。ファーブニルのオーラならしばらく保つだろ」

 

「はい!イッセーさんの強化も出来ますしね!」

 

 アーシアがそう言って詠唱を始める。

 

「我が呼び声に応えたまえ、黄金の王よ。地を這い、我が褒美を受けよ。お出でください!黄金龍君(ギガンテイス・ドラゴン)!ファーブニルさん!!」

 

 アーシアの目の前の金色の魔方陣からファーブニルが現れた。

 

「...アーシアたん、教祖様、この前ぶり」

 

「お久しぶりです!」

 

「久しぶり!!ファーブニル悪い!!ちょっと思ったよりも時間が無くなったんだ!!お前に召喚の代償をあげる時間がねぇ!!とにかくアーシアを守ってくれないか?アーシアが死ぬのはお前も嫌だろう?」

 

「えー、...わかった。その代わり、次の召喚ではいっぱい要求する」

 

「それでいい!それじゃあ行くぞ!!」

 

「はい!!」「おー」

 

 最初からフルスロットルだ!最速でシャルバをぶち殺して、さっさと帰る!!

 

「我、目覚めるは愛の律にて理を蹂躙せし赤龍帝なり!」

 

『極点の愛を捧げ、無垢なる愛を纏いて、ただ安寧を望まん』

 

「我、仇なす一切に滅尽をもたらす、無垢なる聖女の守護者と成りて!」

 

「「「「汝を我等が平穏の礎へと沈めよう!!」」」」

 

『Blondy Bursted Full Drive!!!』

 

「聖女守護せし山吹の赤龍帝(ブロンディ・ウェルシュガーディアン・プロモーション)!!」

 

 俺の体は黄金に包まれる。

 

「俺様も頑張る...アーシアたん、バンザイ!!」

 

 俺とアーシアはファーブニルのオーラに包まれて、一気にパワーアップする!

 

 アーシアはファーブニルに乗って、俺と一緒にシャルバの方へと突撃していく。到着したらアーシア達には少しだけ下がって貰ってシャルバと一対一だ!!

 ファーブニルにはアーシアの防御に最大限集中してもらう。アーシアは俺のサポートだ。

 

「貴殿が来たか赤龍帝。ファーブニルまでいるのは気になるが...まぁ良い。それにしても聞いていた通り、全身金色の鎧だな。汚物の龍が己の誇りすら捨てて何を残すというのやら...」

 

「アーシアへの愛が残ってる!!それさえあれば充分だ!!」

 

「愛などと下らない...最も下らないまやかしだ!!この場で貴様らを最大限まで蹂躙して、なぶり殺し、冥界での殺戮劇の練習台としてやろう!!」

 

 シャルバが大量の蝿を操り、大量の陣を作って極大に魔力を放つ!!

 

「正面から受け止めてやるよ!!」

 

『Dragonic Funnel Blaster!!』

 

 俺の背中の翼が8つのファンネルへと変形して、それぞれシャルバの方を向く。

 

「バースト!!!!」

 

 魔力と俺の砲撃は真正面からぶつかって、大爆発を起こす...!!

 

『相棒!!こいつを倒すだけのエネルギーは充分にある!!後ろにあの娘も居るしな!!一切遠慮せずにぶちかましまやれ!!』

 

「なぁドライグ!!こんなに頼もしい事があるか!?お前が全面的に協力してくれて!ファーブニルのオーラの補助に!後ろにはアーシアが待機してくれていつでも俺のオーラを回復してくれる!!これで負ける訳がねぇよ!!!」

 

『あぁ...天龍の...相棒の力、奴の冥土の土産に見せつけてやれ!!』

 

 背中のブースターを爆発させる!

 神速でシャルバに近づいて、腹に拳をぶちこむ!!!

 

「ぐはっっ!!!」

 

 吹き飛んで、地面に叩きつけられたシャルバの元に、背中のブースターを再び爆発させて接近し、腹に膝をぶっさす!!!

 

「げぇぇぇぇぇ!!!」

 

 血反吐を吐き出す!!

 俺は少し浮いて、ドラゴンショットを叩き込む!!!

 

 大爆発が発生して、俺は一旦下がる。

 シャルバがボロボロの体を引きずって立ち上がった。

 

「貴様...ごときが...なぜ...真の魔王たる私を...!!」

 

「お前には決定的に意思の力が足りない!なにかを成したいのなら、それを叶えるだけの決意がなければ、例えどれほどの実力があろうと届かないんだよ!!」

 

「戯れ言をぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

 シャルバが魔方陣を展開する。突如感じる濃密な殺意。

 矢か!!だがわかってれば余裕で避けられる!!

 

 .....そして感じる危機信号

 

「...ッッ!!てめぇ!!!」

 

 俺はアーシアとシャルバの射線上に右腕を伸ばした。

 瞬間右腕に突き刺さる矢。

 

「ぐぅぅぅぅぅ!!」

 

『Blade!!』

 

 最悪の場合を考えていた俺は即座に反応して、アスカロンを展開し、肩から右腕を斬り捨てる!!

 間に合ったか...!?

 

「ぐぅぅぅぅっぅ!!!」

 

 龍殺しの聖剣で腕を切り落とした痛みが身体中を駆け巡る...!!

 

「き...さまは...!!何故なのだ!!!何故わかった!!あり得んだろうが!!!貴様さえ...貴様さえ居なければぁっぁぁぁぁあ!!!!!」

 

 シャルバが血反吐を吐きながら叫ぶ。

 

「ドライグ...止血...」

 

『わかった!』

 

 鎧が切り口を包んで圧迫する。

 

「イッセーさん!!」

 

 アーシアの回復も飛んでくる。

 

「悪いなシャルバ...俺は最初から知ってたんだ...だから、お前にはここで死んでもらう...恨むなら、全うに生きなかった自分を恨め...」

 

『Dragonic Funnel Blaster!!』

 

「嫌だ...おのれおのれおのれぇぇぇぇ!!!!こんな事があって良いはずがないだろうが!!!私は真なる魔王なのだぞ!!!冥界を滅ぼす呪いなのだ!!!それをぉぉぉぉぉ!!!」

 

「終わりだぁぁぁぁぁあ!!!!」

 

 ファンネルから、極大のエネルギーが吐き出される...

 

「嫌だぁぁぁぁっぁ!!!」

 

 それを最後に大爆発が発生し、シャルバは消滅した。

 

 ────────────────────────

 

「イッセーさん!!」

 

 オーフィスを伴って歩いていく俺に、アーシアが駆け寄って治療してくれる。まぁ腕が生えるわけはないが...

 

「なんで腕を!!」

 

「あいつが放った矢の先に、サマエルの毒が塗ってあったんだ...」

 

「そんな...!!じゃあもう...腕は...」

 

「...命があるだけ儲け物だよ。それに、左手だけでもあればこうやってアーシアを抱きしめられる」

 

 アーシアを抱き寄せた。

 

「イッセーさん...」

 

 顔だけ鎧を解除した俺はアーシアにキスをする。

 良かった...腕はやってしまったけど、なんとか生き残れた...

 

「オーフィス、大丈夫か?」

 

「我は問題ない。でも、イッセー腕無くなった」

 

「俺は大丈夫だ、今度アザゼル先生にでも義手を作って....あれ...?」

 

 俺は座り込んでしまった。

 

「イッセーさん!?」

 

「おか...しいな...あれ?...げほっ!!!」

 

 俺は血を吐き、鎧が解除されてしまった。

 アーシアが治療してくれる。

 ...が、一向に治らない。

 

「ごぷぷぷ...げほっ!!あ....?」

 

『不味い!!サマエルの毒が既に回っていたんだ!!』

 

「そんな!!」

 

 アーシアが一生懸命治療してくれる。

 しかし、気持ち悪さと痛みはどんどん広がっていき、倒れてしまった。

 

「アー....シア...」

 

「ダメですイッセーさん!!絶対助けますから!!!」

 

「もう...これは...」

 

「嫌です!!イッセーさんが死ぬなら私も死にます!!だから駄目です!!」

 

「駄目...だ...生き...て...」

 

 いや...そうだ...俺が生きるのをあきらめてどうする...

 

「うぐぐ...げほっ!!」

 

 死にたくない...まだ...アーシアにプロポーズできてないんだ...!この闘いが終わったらしようと思ってたんだ...!!

 子供だって...たくさん...アーシアと田舎で畑しながらゆっくり...

 そうだ...まだ、死にたくない...!!

 

「我、イッセーの体から毒取り出す。でもそれ、体ボロボロに壊す。アーシアが治し続けなければ、すぐに死ぬ」

 

「何でもします!!私ができる事ならなんでもしますから!!やってください!!」

 

「わかった。イッセー、痛いけど我慢する」

 

 オーフィスが俺の右腕の切り口に手を突っ込む。

 

「がああああああ!!!」

 

 何かが...!!どんどん体内に流れ込んできて...!!

 体組織をぐちゃぐちゃに蹂躙して...!!!

 

「...!!....!!?.........」

 

 俺は意識を手放してしまった。



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第75話。 至ります、禁手化!

「イッセーさん!イッセーさん!!絶対に助けますから!!治してみせますから!!」

 

「アーシア、これじゃ足りない。このままじゃイッセー死ぬ」

 

『相棒...!!おい!アーシア教のお前らもどうにか出来ないのか!!』

 

『アーシニウムエネルギーを総動員して、魂だけは死守しています!!ただ、体まで手が回らないのです!!』

 

 私が...!私がイッセーさんを守るって言ったのに!!さっき誓ったのに!!

 

「アーシアたん...泣いちゃ駄目」

 

「ファーブニルさん...」

 

「俺様、考えがある。アーシアたんのおパンツ頂戴?」

 

「ファーブニルさん!今はそれ所じゃ!!」

 

「違う、俺様真剣に言ってる。アーシアたんのパンツがあれば、教祖様救える」

 

「....わかりました!!私のパンツで少しでも状況が変わるのなら!!」

 

 急いでパンツを脱いでファーブニルさんに手渡します...

 

「すぅぅぅぅぅぅ!!ふぉおおおお!!!お宝!!禁忌のお宝がここに!!!ぬぉおおおおお!!!漲ってきた!!!ドライグの中の皆さんもご一緒に!」

 

『アーシアたん、バンザイ!!!』

 

 私の体を黄金のオーラが包み込んでいきます...

 どんどん力が溢れて...

 

「これなら!!」

 

 イッセーさんに向けて、全力で神器(セイクリッド・ギア)を使い続けます...

 けれど、イッセーさんの調子はなかなか良くならなくて...

 

「アーシア。本当に不味い、もうあまり時間ない」

 

「そんな!!これでも...!!」

 

 嫌だ...嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!!

 

「アーシアたん、違う。俺様達のオーラ、無駄に使っちゃ駄目」

 

「へ...?」

 

「教祖様、アーシアたんへの思いだけで至った。更に次の次元までも昇っていった。なら、アーシアたんがするべき事は一つ」

 

「.....私も...禁手(バランス・ブレイカー)に至る...」

 

「そう、アーシアたんの思いも全く負けてない。ならば出来ない道理はないはず。...はぁはぁ...すぅぅぅぅぅぅ!!聖女おパンツ...禁忌のパンツ...アーシアたん、バンザイ!!」

 

 再びファーブニルさんが私にオーラを分けて下さいます。

 

禁手化(バランス・ブレイカー)...どうやって...」

 

 ならなきゃイッセーさんを...大好きなイッセーさんを失って...!!

 でもどうやればいいのか...!!

 強い心...世界の法則を変える程の心が必要だと聞きました...どうすれば...

 

 ...イッセーさんが初めて禁手(バランス・ブレイカー)になった時はキスをしてくれました。

 他にもイッセーさんがなにかをする時はいつもキスをして下さいました。

 アーシニウムエネルギーが欲しいからって...

 

「私が...!イッセーさん教を!!」

 

 イッセーさんイッセーさん...

 大好き...ずっと一緒にいたいです...

 こんな所でイッセーさんを失うわけにいきません...!!

 

「イッセーさんバンザイ!!イッセーさんバンザイ!!」

 

 うぅ...特に何か起こるようには...いえ!まだ、キスをしていないです...!!

 

「イッセーさん...」

 

 イッセーさんの唇は血の味がしました...

 ...こんなキスが最後だなんて絶対に嫌です...

 

 まだまだイッセーさんとしたい事がたくさんあるんです!

 イッセーさんのプロポーズ。イッセーさんが守ってくれた私の最初で最後のプロポーズ、ずっと楽しみにしてるんです。

 イッセーさんと将来暮らしたい場所もお話しました。私がのどかな所が良いと言ったら、イッセーさんも二人で畑仕事がしたいなって言ってくださいました。

 こ...子供だって、いっぱい欲しいです...イッセーさんはエッチなので、きっといっぱいできちゃいます...きっと皆イッセーさんに似て、いい子に育ってくれます...

 イッセーさんとの将来を思い描くと、すごく暖かい気持ちになります。

 ...胸の奥も温かくなってきて...

 

「ごはっ...ア゛ーシ゛ア゛...けっこ...ん...」

 

「イッセーさん!!」

 

 意識が戻った訳では無いようですが...

 イッセーさんも、意識を失いながらも、私と同じ事を思ってくれてるのでしょうか?

 なら...それほど嬉しい事はないです...

 こんなに胸が温かくなる事は...!!幸せな事は...!!

 そうです...私はイッセーさんが居ないと生きていけないんです...

 だから、イッセーさんだけは失いたくない。ずっと一緒にいたい、二人で幸せになりたい!!

 

「アーシアたん、至った。おめでとう!!」

 

 ファーブニルさんのオーラがなければ至れませんでした...

 ありがとうございます、ファーブニルさん。

 

「比翼の聖龍巫女の慈愛(インセパラブル・トワイライト・アフェクション)!」

 

 私の体が、黄金の鎧に包まれました。

 イッセーさんとお揃いの金で、嬉しいです...

 でも、今はそんな事よりも...この力ならば!!

 

「はぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 イッセーさんの体を片翼の金の龍の形をしたオーラが包み込んで、さっきよりもずっと顔色が良くなって行きます!!

 ぐちゃぐちゃになっていた体もどんどんと癒えて行って...!!

 

「...!アーシア、これならイッセー救える」

 

「本当ですかオーフィスさん!!」

 

「事実。急いでサマエルの毒を抜き出す」

 

 イッセーさんの体がボコボコと膨れて、破壊されてしまいますが、私のオーラが即座にそれを回復させます!!

 

 それが続くこと数分...

 

「毒は全部抜いた。これでイッセー死なない」

 

「ほんと...ですか...?」

 

 初めての禁手(バランス・ブレイカー)で体力が...

 

「アーシアたん、教祖様も、次元の狭間から守ってあげるから、寝て良いよ?」

 

「すみませ...お願いします...」

 

 私はそこで意識を手放してしまいました。

 でも...イッセーさんが助かって...イッセーさんといつものように側で眠れることが...何よりも...

 

 ────────────────────────

 

「...ん...んあ?」

 

 俺は目を覚ました。

 

「死んで...ない...?」

 

 横に、アーシアが寝ている。

 ...あそこから助かったのか...

 

『相棒!ようやく目を覚ましたか!』

 

「ドライグ...おはよう?」

 

『あぁ、早速だが、どうなったか気になる所だろう。説明してやる』

 

「あぁ...と、その前にちょっと...」

 

 折角生き残る事が出来たんだ!寝てる所申し訳ないけど、アーシアを抱きしめたい!!

 

「あ...あれ?」

 

 右腕が埋まって...え?右腕は切断しなかったか?

 俺は自分の下を見ると、真っ赤な大地が広がっていて、そこに右肩から埋まっていた。

 

「え?え?これってまさか...?」

 

『あぁ、グレートレッドの背中だ』

 

「...まじかぁ...え?じゃあ!俺の右腕ってもしかして!?」

 

『あぁ、絶賛製造中だ。良かったな相棒』

 

「まじか!!滅茶苦茶嬉しい!!そっか...諦めてたんだけど、右腕帰って来るのかぁ!」

 

「イッセー、起きた」

 

「オーフィス!俺の腕を作ってくれてるんだって?」

 

「アーシアに聞いたら、是非やって欲しいと言ってた、だから我、アーシアと契りを結んで、腕生やす約束した」

 

 契り...?いや、今はいいか...

 

「そっか、ありがとうオーフィス。...ありがとうアーシア...」

 

 正直もう駄目だと思ってたから、嬉しいな...

 そっかぁ、まだ生きていられるんだ...

 アーシアと...まだ...

 

「そういえばファーブニルは?」

 

『あぁ、あいつならお前達がグレートレッドの背中に乗って、俺とオーフィスがグレートレッドの力を借りて生身でも生存できる空間を作った後に疲れたといって帰ったぞ』

 

「そうか...だいぶ無理して貰ったんじゃないか?」

 

『あぁ、そこの娘の禁手(バランス・ブレイカー)も手助けして、何度もオーラを貸し出していた。今回は何も支払っていないし、次回の取り立てが怖いなぁ?』

 

「待ってくれ!アーシアの禁手化(バランス・ブレイカー)だって!?」

 

『あぁ、あの娘の禁手(バランス・ブレイカー)がなければお前は間違いなく死んでいた。お前の為に作られたと言いたいような禁手(バランス・ブレイク)だったぞ?サマエルの毒に犯されているとは思えないほどの凄まじい回復だった』

 

「まじか...」

 

 やっぱり亜種なんだな...どんな感じなのかな?

 

「んん...」

 

 アーシアが寝返りをうつ。

 体力を使い果たしたみたいだな...お疲れ様、アーシア...

 

「なんか、ごめん。説明受けずとも気になったこととか聞いてたら大体流れがわかったわ」

 

『そうか...まぁ相棒、お前もついさっき死にかけてたんだ。今はおとなしく眠っておけ』

 

「...そう言われるとまだしんどいような...」

 

 もう一度寝ることにしよう。次に起きたらアーシアも起きているかもしれないし...

 

 ────────────────────────

 

「...ん..」

 

 二度寝から覚めると、目の前のアーシアの顔と目が合った。鼻先数ミリの距離だ...可愛い。

 俺の頬に手が添えらている。

 

「...!?イッセーさん!あ...あぅ...イッセーさん!!!!良かったです!!」

 

 アーシアが抱きついてくる。

 

「アーシア...うん、ありがとう。いっぱい頑張ってくれたんだろ?」

 

「はい...ファーブニルさんやオーフィスさんに、アーシア教の皆さんにドライグさんに...皆でイッセーさんの為に頑張ったんです!!」

 

「あぁ...本当に皆にもお世話になったよ。お陰で生きてる...」

 

「はい!...あの...ごめんなさい、私のパンツ...ファーブニルさんに渡してしまいました...」

 

「...まじ?」

 

「あのっ!でも...私が禁手化(バランス・ブレイク)するのを手助けしてくれて、グレートレッドさんの背中まで守ってくれて...だからその...」

 

「あぁ、今回は本当に助けられたし、ファーブニルが欲しがったのなら文句なんて言いようがないって...それよりおめでとう、禁手(バランス・ブレイカー)に至ったなんて凄いじゃないか」

 

「イッセーさんの為ですから!」

 

「そっか...ありがとう。今回ばかりは本気でヤバかったけど...アーシアのお陰でまだまだ生きていけそうだよ」

 

「はい!ずっと一緒です!」

 

 アーシアが俺にキスをしてくれる。

 幸せだ...本当に今回ばかりは死ぬなと思ったから、こうやってアーシアや皆のお陰で命を繋げられた事に感謝しないとな...

 

「アーシア...良かったよ。こうしてまたアーシアの温もりが感じられるなんて...すごく幸せだ」

 

「私もです...」

 

「あ...そういえば、龍門(ドラゴン・ゲート)ってどうなったんだ?開いたのか?」

 

「開いた、けどイッセーもうグレートレッドに埋めてた。アーシアも疲れて寝てた。だから我、そのまま閉じた」

 

「そうだったのか...生きてるって連絡くらいはしたかったけど、しょうがないな。今は腕を治すことを考えるよ」

 

「アーシア、そろそろ時間」

 

「あっはい!」

 

 アーシアが立ち上がる。

 そういや今ってアーシアノーパンって事だよな!!見えっ...なかった。残念。

 アーシアは俺に治癒を施す。

 

「ありがとうアーシア...けど特に怪我してないぞ?」

 

『相棒の体は俺を宿しているとはいえ、基本的にはただの悪魔だ。そして、今生成している腕は、グレートレッドの体とオーフィスの力で構成されている物となる。はっきり言って存在の重さが違いすぎて、くっつかない所の話じゃなく、腕に一瞬で肉体を食い散らかされかねない。だが、そこをサマエルの毒を抜くときに体内に残していったオーフィスの残滓を活性化させて、お前の肉体側の抵抗力を上げる事でなんとか安定させている状態なんだよ』

 

「オーフィスの残滓?まさか、俺の体からサマエルの毒抜いた方法って、オーフィスの蛇で俺の体の毒に犯されてる部分を食い散らかしながらアーシアに回復させる事だったのか?」

 

『あぁそうだ。お前の体はある意味ほとんど作り替えられている』

 

「我、足りない部分には蛇残して補強した。イッセーの体、一部は我の蛇」

 

「聞いてるだけでもヤバそうな状況だな...」

 

 なんだそれは...

 

「はい。そういうわけで、私が定期的に治療しながらイッセーさんの体とオーフィスさんの残滓を融合させている所なんです...後はアーシア教の皆さんも頑張って拒絶反応を抑えて下さっています」

 

「え?じゃあ...」

 

『教祖様!我々、全身全霊で教祖様の肉体を安定させてみせますので!ごゆるりとお待ち下さい!!』

 

 おぉ!皆、ちゃんと生きてたのか!!良かった...!!

 

「イッセーの体、1割くらい、我のもの」

 

 オーフィスがそう言った。なんというかもうやばすぎ...俺の体どうなってるのん?

 

「まじか...なんというか、凄いな...」

 

『無限の龍神の欠片で夢幻の真龍の肉を繋いでるんだ。やってる事は滅茶苦茶だから、どうなるかわからんが...まぁアーシニウムエネルギーで補強しているんだし、そこの娘も居るしどうとでもなるだろう』

 

「そんなふわっとした感じで大丈夫なのか?」

 

『問題ないだろう。もうここまで来ると笑うしかない。だがまぁ、これもお前達二人が引き寄せた物なのだろう...ならばその事実以上に信頼出来る事はないだろうさ。愛の力で奇跡を起こし、全て乗り越えて行くのだろう?』

 

「そうだな...にしても俺とアーシアの愛のパワーでついにここまで来ちゃったんだなぁ...自分でもびっくりだわ...」

 

「はい!イッセーさんと一緒なら何だって出来ます!...もしもイッセーさんに何かがあったとしても、絶対に治してみせますから!!」

 

「アーシア!!ありがとう!なんかもうその言葉だけですっごく頼もしいよ!」

 

「はい!...その、イッセーさん。私、すごく頑張りました。いえ、皆さんで頑張ったんですけど...でも、私も頑張ったんです!」

 

「あぁ、話を聞く限りアーシアが一番頑張ってたと思うよ。何度でも言うけど、ほんとに感謝してるし嬉しいよ。アーシア...ありがとう」

 

「はい...あの...だから、イッセーさんからご褒美が欲しいんです」

 

「我も頑張った、菓子を所望する」

 

「おう!アーシアの為なら何でもやるぞ?オーフィスも、向こうに戻ったらいくらでもお菓子でもなんでも買ってやるよ」

 

「わかった」

 

「ありがとうございます!それでですね...その...」

 

 アーシアが顔を赤らめながら、俺に体を擦り付ける。

 ぬおお...

 

「イッセーさん...その...したいです...」

 

「ブッ!!アーシアさん!?」

 

「本当に怖かったんです...だから、イッセーさんが生きてるって...ちゃんとここに居るって証拠が欲しいんです...」

 

「アーシア...」

 

「それに...もう一週間もしてません...私だって...したいんですよ...?」

 

 アーシアが顔を紅潮させながら、言った。

 なんだそれは!可愛すぎる!!

 そんな事を言われたら...するしかないだろ!!

 

「アーシア...するか!!...けど、右腕が埋まってるので、アーシアが上になってくれると...」

 

「はい...じゃあ、失礼しますね...?」

 

「我は少し離れて観察する。龍の交尾見るの久しぶり」

 

 オーフィスさん...見ないでください...

 

 ........

 

 滅茶苦茶搾り取られた...

 アーシアがこんなにエッチな子に成長していたなんて知らなかった...

 いや、素質はひしひしと感じていたけど...

 けどまぁ、あれですね...

 アーシアに攻められるって最高ですね!!

 

「イッセーさん...こんなにいっぱいしちゃったら、赤ちゃん...出来ちゃうかもしれませんね?」

 

 ぎゅっと抱きしめられながら、耳元で囁かれる。

 やべぇ...ゾクゾクしてしまう...

 そんなセリフ、アーシアみたいな子に言われたらまじで昇天してしまう...!!

 どういう事だ...今日のアーシアは攻めが強いぞ...!

 正直すごく興奮する。

 

「子供ができれば、イッセーさんも危険な所にすぐ飛び込んでしまうのをやめてくれますか...?」

 

「それは...わからないけど...うぅ...」

 

「私...イッセーさんとの子供、欲しいです...絶対に凄く可愛いですよ?きっとすごく幸せな家族になれます...」

 

「俺も...アーシアと幸せな家族を作りたい...」

 

「はい...じゃあ頑張らないとですね...イッセーさんイッセーさん...ずっと一緒ですから...絶対に離しませんからね...?」

 

「あぁ...俺もアーシアとずっと一緒に居たい...」

 

「愛してますイッセーさん...」

 

「俺も愛してる...」

 

 キスをする。

 なんか...この瞬間、俺とアーシアの関係性が確立してしまった気がする...

 俺...攻められる方が性に合ってたんだな...

 そしてアーシアは攻める方が意外に得意そうだ...

 

「メスが上だなんて珍しい。やはりイッセーは不思議」

 

 オーフィスさん勘弁してください...




アーシアの禁手化は、イッセー専用になっています。イッセー以外回復させられませんが、それ故に異常なほどの力となっています。
体がある程度原型を残していればすぐに元に戻せるくらいにはすごいです。
四肢の欠損は傷を埋める形で対処してしまうのは、通常状態と一緒ですが...


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補習授業のヒーローズ編
第76話。 帰還します、冥界!


今日も今日とて連投でストック大放出です。


 僕達は現在、アザゼル先生やタンニーン様の協力の元、龍門(ドラゴン・ゲート)を開く為の魔方陣を用意していた。

 疑似空間に取り残されてしまったイッセー君とアーシアさんを救出する為だ。

 ファーブニルが消えた穴を埋める為に急遽匙君にも来て貰った。

 それゆえに少し時間がかかってしまったけど、大丈夫。向こうにはアーシアさんと契約したファーブニルも、オーフィスも居る。それに、イッセー君とアーシアさんが一緒に居て無事じゃない訳がない。

 

 あの後、『魔獣創造(アナイアレイション・メーカー)』の規格外のモンスター達は現実の冥界に出現し、各都市部に向けて進撃を開始しているらしい。

 話では進軍のついでに大量のアンチモンスターを産み出しているらしい。

 そこに旧魔王派の残党も合流して、周辺の町や村を襲っているのだそうだ。

 あまりの事態で、魔王様方も各勢力へと協力を打診しているそうだけど、曹操の槍がネックになってなかなかトップ陣を動かせないらしい。

 神をも殺す槍。手加減されていてなおあれほどの強さだったんだ。本気を出せば本当に神クラスの存在も消してしまうだろう。

 ゼノヴィアとイリナさんは無事、顛末を上層部に伝える事が出来て、彼女達は現在天界でデュランダルの修復に入っているという。

 僕達もイッセー君達を救出し次第、すぐにアンチモンスターの対処に当たらないと...

 

「よし、繋がった!」

 

 先生がそう叫び、巨大な魔方陣に光が走る。

 力強く輝く魔法陣はより一層その輝きを増そうとして...突然消え去った。

 

「な...どういう事だ!?龍門(ドラゴン・ゲート)は間違いなく起動したはずだ!!それが召喚失敗ではなく、閉じた!?」

 

 アザゼル先生が叫ぶ。

 

「....何か大きな力によって無理やり閉じられたようだ。あそこに居るメンバーで龍門(ドラゴン・ゲート)を相手にそんな事が出来るのは...オーフィスくらいではないか?」

 

 タンニーン様が呟く。

 

「つまりなんだ?オーフィスは無事に救出できたが、イッセーかアーシア、または両方に何かしらのアクシデントが起こって、向こうで対処している途中って事か...?」

 

「...それくらいしか思い付かんな」

 

「くそ...それじゃあまた時間を開けて召喚するしかねぇってのか...?生死不明のこの状況で!?あいつらが居るのは次元の狭間なんだぞ...!」

 

「...冷静になれ。オーフィスは救出されていて、それでもなお出てこないという事は少なくとも、兵藤一誠は死んでいないという事には違いあるまい。無論無事とは言えないだろうが...そして兵藤一誠が死んでいないのならアーシア・アルジェントもまた死んではいないだろう。あれはそういう男だ、理屈ではない」

 

「...アーシアが死んで、イッセーが覇龍を越えたおぞましい何かになってオーフィスが襲われてるとかかもしれないだろうが...楽観的に考えすぎだタンニーン!」

 

「お前こそ悲観的すぎるぞアザゼル。落ち着け、何をそこまで焦っているんだ?大体奴はそう易々と死ぬたまじゃないだろう...」

 

「くそっ!!」

 

 アザゼル先生は苛立たしげに地を蹴る。

 

「...今話してた通りだ。イッセーとアーシアは現在生死不明。俺もあいつらの奇跡とやら信じたいが...お前ら、最悪の覚悟はしておけよ」

 

 アザゼル先生がこちらに近寄って一言そう呟いた。

 

「そんな...」

 

 小猫ちゃんは一言そう呟くと下を向いてしまった。

 ...イッセー君...君に限って、そんな事ないよね?どうせ、ひょっこり帰って来るんだろう?...アーシアさんと腕を組んでイチャイチャしながら、待たせて悪かったなって...

 きっとそうだ...そうじゃなきゃ困るよ。

 イッセー君とアーシアさんが居ないと、調子が狂っちゃうじゃないか...

 

「.....落ち着きなさい皆」

 

 部長の一言が僕らを冷静にさせてくれた。

 

「イッセーとアーシアは生死不明だそうね。なら...あの子達なら絶対に大丈夫。死ぬわけないわ!だってあの二人だもの。どうせ次元の狭間でイチャイチャでもしてるわよ...でも、それでいいのだと思うわ。あの子達はもう充分頑張ったと思うの。あの子達が居ないと何もできないだなんて思われていいのかしら...?私は嫌よ。今度の危機は私達でしっかり解決して、次元の狭間から帰還したあの子達を労ってあげましょう!!」

 

『....はい!!』

 

 僕らは力強く返事した。

 そうだ、イッセー君とアーシアさんが二人で居て、奇跡が起こらない筈がない!

 絶対に帰って来るに決まってる!!

 僕達はイッセー君達が帰って来た時にしっかり迎えてあげられるように、少しでも冥界の危機をなんとかしなければ!

 

「...ったく、ガキどもの方がよっぽど立派じゃねぇか...あぁそうだな!解析不能、摩訶不思議があいつらの得意技だったな...!」

 

 アザゼル先生もようやく表情を少し緩める。

 

「現在冥界は未曾有の危機に陥っている。猫の手でも借りたい現状、お前らの力は確実に必要だ。イッセー達に関してはこっちで色んなアプローチを考えみる。お前らは戦線に参加しろ!」

 

『はい!』

 

 僕らもちゃんと頑張るから...なるべく早く帰って来て、安心させておくれよ?イッセー君...!

 

 ────────────────────────

 

「うっ...腹減った...」

 

「はい...お腹空きました...」

 

「我もお菓子食べたい」

 

 現在俺達は未曾有の食糧難に襲われていた。

 まじで腹減った...

 

「オーフィス...俺の腕は後どれくらいで完成するんだ?」

 

「とっくに完成してる。今はイッセーに馴染むの、待ってる」

 

「まじか...え?じゃあ抜いても良かったの?」

 

「良い。結構前から抜いて良かった」

 

「まじかよ...」

 

 俺は腕を抜こうとする。アーシアも引っ張るのを手伝ってくれる。

 ずるずると抜けて出てきたのは、赤6割黒3割金1割の鱗に彩られた異形の腕であった。トゲ生えてる...

 爪もめちゃくちゃ尖ってて痛そう...

 なんかドクドク蠢いていらっしゃるし。粘液が滴って気持ちわりぃ...乾いたらマシになるかな?

 そして俺が埋まっていた穴は何もなかったかのように埋まってしまった。

 流石夢幻の龍神...

 

「ドライグ、グレードレッドにありがとうって言ってくれないか?」

 

『あぁ...随分世話になったからな』

 

 しばらくすると、グレードレッドが咆哮を上げた。

 

『気にしなくていいだとさ』

 

「そっか...それにしても...めっちゃドラゴンの腕やん...」

 

 グロくなってしまった自分の右腕を見つめる。

 まぁ何かしらくっついてるだけでもありがたい。

 それに抜いてはっきり知覚できたが、侵食されるってオーフィスが言ってたのも良くわかる。

 何かがすごい勢いで俺の腕から胴体へと飛び出そうとして、それを俺の中のすごい力の何かが悉く受け止めているのだ...

 多分前者がグレートレッドの力で後者がオーフィスの力だな...

 え?ちょっと俺の体内爆弾になってません?どっちか暴走したら死ぬのでは?

 

「イッセーさん...大丈夫なんですか?」

 

「うーん...大丈夫かはわからないけど、とりあえず腕はしっかり繋がってくれてるみたい」

 

 ちょっと違和感はあるけど、ちゃんと動いてくれるな。

 

「そういえば、後は調整だけならここじゃなくていいし、向こうに帰れるんじゃないのか?」

 

「帰れる。イッセー帰りたい?」

 

「当たり前だろ!龍門(ドラゴン・ゲート)でもなんでもいいから向こうに帰って飯食いたい!オーフィスもお菓子食べたいだろ?」

 

「我、今、力不安定。龍門(ドラゴン・ゲート)開けない」

 

「ダメなんかい!」

 

「イッセーさん!オーフィスさんは一生懸命頑張ってくれてるんですよ?」

 

「アーシア...ごめん、嫌な事言っちゃったなオーフィス。許してくれ」

 

「気にしてない...ん?...お菓子あった」

 

 オーフィスがボキットカットを取り出した。

 

「おぉオーフィス!でかした!」

 

「我、食べたい」

 

「違う違う...ごめん、勿論基本はオーフィスの物だ。好きにしてくれていいんだけど...割って一本だけ、アーシアに渡してあげてくれないか?」

 

「...わかった。一本渡す、その代わり戻ったらいっぱい欲しい」

 

「勿論!一週間はお菓子漬けにしてやろう!!ありがとうオーフィス!!」

 

 一本貰った。優しすぎる...オーフィスはもうどこに出しても恥ずかしくないうちの子よ!

 

「さぁアーシア、食べてくれ。俺の治療でかなり体力消費したろ?」

 

「それを言うならイッセーさんが食べて下さい!イッセーさんは死にかけたんですから、少しでも栄養を取っていただかないと!」

 

「いやいや、アーシアが...」「いえいえ、イッセーさんが...」

 

 俺達は譲合いを始めてしまった。

 

「簡単。二人で食べればいい」

 

「オーフィス?」

 

「アーシアの読んでた本に書いてた。二人で両側から食べればいい」

 

 ポッキーゲームをバキットカットでやれだと!?近すぎて一瞬でキスまで行っちゃうぞ!?

 でも正直そういうのもアーシアとやりたいよね!

 

「このまま譲り合ってる訳にもいかないし...やってみるか...?」

 

「はい...」

 

 アーシアがバキットカットを咥えてこちらを向く。うぐっ...なんか普通にキスするより緊張してきた...

 

 俺も咥えて、ゆっくり少しづつ食べ始める...

 あっという間に近づいて、もうすぐキスするぞ...といった所で閃光が俺達を包んだ。

 

「あっ、龍門(ドラゴン・ゲート)開いた」

 

 え?まじでか!?

 オーフィスがそう呟くと光が収まって、気がつくと何処かに居た。

 

 ............

 

「兵藤!!アルジェントさん!!良かった!!生きてたのか!ってなにしてんだお前ら!?」

 

 キスする直前で俺は口を離した。折角ならキスまで行きたかったけど流石にここでは不味いだろ。

 聞き覚えのある声が聞こえてそちらを向くと、色んな奴が居た。

 匙にヴァーリに、黒歌にルフェイに美猴、タンニーンさんにアザゼル先生。

 このメンツで龍門(ドラゴン・ゲート)開けてたのか...

 

「イッセーさん!!ここって...!」

 

 モグモグした後にアーシアが話しかけてくる。

 

「あぁ!帰ってこれたみたいだ!」

 

「お前ら!散々心配かけさせやがった癖に!!イチャイチャしてやがったなこの!!」

 

 アザゼル先生が俺のこめかみをグリグリとする。

 

「あだだだだだだ!!すみませんすみません!!」

 

「...?おい、その腕どうしたんだよ?」

 

 匙の声が聞こえる。

 アザゼル先生もグリグリをやめて俺の腕を掴む。

 

「なんじゃこりゃ...なんか、やべぇ物ってのだけは分かるんだが...」

 

「あぁと...すみません...食べ物貰えませんか...?腹が限界で...」

 

「あ?あぁ...わかった。まる1日は経ってるもんな。飯食いながら話聞かせてくれや」

 

 ────────────────────────

 

「...ちょっと待ってくれ...整理する時間をくれ...」

 

 アザゼル先生が難しそうな顔をする。

 現在、俺達は冷凍食品的な物を食べさせて貰っている。食べるというか、爪とか棘のせいで右手が使い物にならないので、アーシアに食べさせて貰っているが正しいけど...いつもとそんなに変わらないな。

 まぁ今は冥界が危機的状況だし、まともに店は空いてないだろうからな。暖かいだけでも本当にありがたい...

 オーフィスもお菓子をポリポリと食べている。

 ヴァーリチームは俺の無事を確認すると、さっさと何処かへ行ってしまった。

 

 ヴァーリにお礼を言うと、

 

「俺はキミに2つ貸しがある。サマエルの毒の件と、シャルバの攻撃から守られた件だ。キミに貸しだなんて気持ち悪いからね、さっさと返したいんだ。これで1つ分だ。もう1つもすぐに返すさ」

 

 そう言って去っていった。素直に受けとればいいのに、ちょっと可愛いですわね...

 まぁ自分でそう言ってるんだし、もう一個も期待しておこうかな。

 

『ではまた会おうドライグ、次会う時は戦えるといいな』

 

『あぁ、お前の事は最高の理解者であると思っているが、それとこれとは別だ。理解者であるお前だからこそ戦うのだ』

 

『当たり前だ。我ら争ってこそ二天龍。戦いたくないなどと言われたらどうしようかと思ったぞ』

 

『バカを言うな、それこそが我らの楽しみであろうが...では、またな』

 

『あぁ...』

 

 ドライグとアルビオンは仲良くなって和解したけど、したからこそ戦いたいって感じか...

 いい意味でライバルって感じに落ち着いたんだな。

 そんでまたどっちかが精神病んだら慰め合うのだろう。

 ある意味理想的な関係かもしれない。

 

 あの後すぐに部長達に連絡をしたら、急いでこちらに向かうとの事だ。

 心配かけてしまって申し訳ない。

 ただまぁ、部長達は前線でアンチモンスターの大群を相手取っていたらしいので、原作みたいに女性メンバー皆が動けなくなるみたいな事態は無かったようで安心だ。俺はアーシア一筋なのでそりゃそうなんだけどさ...なんでも部長達の担当箇所は相当な快進撃らしい。皆いつも以上に気合いが入っているとか...

 頼もしい限りだわ...流石グレモリーメンバー。

 とはいえ、戦局的に見るとかなり分が悪い。

超獣鬼(ジャバウォック)』と『豪獣鬼(バンダースナッチ)』が倒せないからだ。

 とはいえ、しばらくすればアジュカ様の術式でダメージが通るようになるはずだから、それまでどれだけかの化物共と、豪獣鬼(バンダースナッチ)の産み出すアンチモンスターを駆逐出来るかって所だろう...

 改めて考えると滅茶苦茶めんどくさいメンツだよな。

 ただし、超獣鬼(ジャバウォック)に関しては一発限りの大技で倒せる可能性がある。オーフィスにも太鼓判貰ったし...

 

「よし、一旦飲み込んだ。本来なら詳しく調べてやりてぇ所なんだが、俺はちょっと行かなきゃならん所がある。人を待たせてるんでな...腕に関してはオーフィスとドライグがなんとかしてくれるんだろ?お前は今回の騒動は休んでろ。そんな爆弾持ったまま戦わせる訳にはいかねぇ」

 

「いえ、戦います!それに...一回限りですけど、超獣鬼(ジャバウォック)に対抗できる技があるんです!」

 

「それは...腕に関係する事か?」

 

「はい!...冥界の為にできる事があるならなんでもしたいです」

 

 アーシアとの田舎生活には冥界が必須なのだ...

 

「...わかった。ただし、今日1日だけは休め。腕の調節も終わってないんだろう?」

 

「それは...はい。そうしておきます!アーシアもかなり無理してしまったようですから」

 

「まぁなんだ。サマエルの毒にやられたって聞いた時はびっくりしたし、とんでもない方法で生還したと聞いて正直あんまりついていけねぇが...お前らが無事で本当に良かった」

 

 アザゼル先生がそう言ってくれた。

 

「ケッ...ガラでもねぇ!俺はもう行く!つい昨日死にかけてんだから変なことするんじゃねぇぞ!」

 

 先生は走り去っていった。

 

「...にしても兵藤...俺は嬉しかったぜ...!!お前らが生死不明だって聞いてよ!本当に心配したんだぞ!?それで生きて帰って来たか!って思ったらキスしてて困惑しちまったが...お前、まじで皆に謝った方がいいぜ?お前らの心配を無理やりねじ伏せてリアス先輩達は頑張ってたんだからよ」

 

「それはもう申し訳ないです...ありがとうな匙、本当は会長の方に居たかっただろうに」

 

「バカ言うなよ。ダチ救えるかもしれないなら来るに決まってんだろ?一回目は失敗したけど、ちゃんとこうやって帰って来てくれたしよ!」

 

「...ありがとう!ヴァーリじゃねぇが、貸しだとでも思ってくれ。お前が困ってる時は呼んでくれたら、アーシアに何かある時以外はすぐ駆けつけてやる!」

 

「おう!貸しだなんて思わないけど、遠慮無く頼らせて貰うぜ...んじゃ、飯も食ったし俺は会長の所に戻るわ、じゃあな!兵藤、アルジェントさん!」

 

「おう!」「はい!」

 

 匙も帰って行った。

 今この場に居るのは俺、アーシア、オーフィス、タンニーンさんだ。

 

「にしても兵藤一誠、お前のその腕はどうなっているんだ?」

 

 タンニーンさんが話しかけてくる。

 

「えぇっと...グレートレッドの肉で構成されていて、オーフィスの欠片とアーシアの力で俺に繋がってるみたいな...?すみません俺もよくわからなくて...」

 

「我とアーシアとグレートレッドの三位一体。イッセー専用の龍の腕...」

 

「その並びだと、アーシア・アルジェントが恐ろしく強い存在のようだな...」

 

「えぇ...!そんな私なんか...」

 

「いや、ある意味バカにできんか?赤龍帝、ファーブニルと来てオーフィスと友好的であり、兵藤一誠が居たのを加味してもグレートレッドすら次元の狭間で呼び寄せた...案外グレモリー眷属最強は龍の巫女たるアーシア・アルジェントかもしれんな」

 

「アーシアが戦うとなればもれなく俺とかファーブニルが出てきますからね。オーフィスはどうなんだ?」

 

「むぐむぐ...我もアーシア、守る」

 

「決定だな。グレモリー眷属最強はアーシア・アルジェントだ...」

 

「そんな...あぅ...」

 

「まぁ冗談はさておき、そろそろグレモリー眷属が集まって来るだろう。部外者の俺はさっさと戻って戦線に参加するとしよう」

 

「タンニーンさん!ありがとうございました!」

 

「構わん。ロキとの戦いでは正直唖然としたが、バアル戦を見て考えを改めた。愛とやらもあそこまで突き抜ければ、恐ろしいほどの力に変化するのだとな...お前はそのままでいい。強くなれよ、一応俺の弟子なんだからな...」

 

「...はい!ありがございます!師匠!」

 

「師匠はやめろ。では、また会おう二人とも」

 

 タンニーンさんは飛び去っていった。

 タンニーンさんも言ってた通り、アーシアの元にはやべぇ龍が大集合してるからな...

 天龍の巫女は伊達じゃないぜ...!!



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第77話。 倒します、超獣鬼!

 俺とアーシアとオーフィスは食事も終えて、皆を待っている。

 

 そういえばドライグ、アルビオンと和解出来たのかわからないけど、もしそうならお前本来の力の透過が使えるようになるんじゃないのか?

 あれ今からの曹操との戦いで滅茶苦茶欲しいんだが...

 

『透過か...わかった。神器(セイクリッド・ギア)の更に深くを歴代の奴らと潜ってみよう。少しは何か分かるかもしれん』

 

 頼みます...

 

『我々も精鋭の神器(セイクリッド・ギア)改変部隊をドライグと共に突入させますので、良い報告をお待ち下さい!あぁ勿論右腕の方も問題ありません。現在はある程度落ち着いて来たので、余裕が出てきております』

 

 そうか...よろしく頼む!あれの有り無しで今回の戦いが一気に変わってくるからな...

 あと聞き捨てならないセリフが聞こえたんだが...

 

『気にするな。もう頼りにすればいいだろう...お前の望むままに神器(セイクリッド・ギア)を改変する自慢の仲間だと思っておけ。それに、自分で言うのもなんだが、あれは強力な力だからな...特にあの曹操とかいう男に対しては非常に頼りになる武器のはずだ』

 

 わかりましたドライグさん...

 そうだな...原作と違って、曹操はメデューサの目なんか持ってないからな、そもそもサマエルの毒持ってないし...

 純粋な一対一になると思う。

 まぁ付け入る隙があるとすれば、一対一でなら負ける気がしないっていう慢心かな...?

 

『そうだな。では行ってくる』

 

 ドライグの意識が深く潜っていった。

 

 さてと、そろそろ皆が来る頃かな...?

 と考えた瞬間に、転移の光が辺りを包んだ。

 

「...イッセー!アーシア!」

 

 部長が光からこちらに駆け寄ってくる。

 俺達を抱き締めた。

 

「全く...いつまで経っても安心させてくれない子達なんだから...」

 

 部長の目には少し涙が浮かんでいた。

 やべ...なんか急に罪悪感が...

 

「すみませんでした部長...」「ごめんなさい...」

 

「いいのよ...貴方達が無事で帰って来てくれたのだから...それで十分よ」

 

「やぁイッセー君、アーシアさん。帰って来てくれて嬉しいよ。本当に...心配したんだよ...?」

 

 木場がイケメンスマイルで少しだけ涙を浮かべる。

 小猫ちゃんや朱乃さんも俺達を見て、心底安心した様子だった。

 ....すっごく心配かけてしまったな。

 

「皆...本当に心配かけてすみませんでした...!!でも...三人でなんとか帰って来れました!」

 

「えぇ...お帰りなさい」

 

 そこからしばらく談笑して、俺の腕の話になった。

 

「ちょっと待って頂戴...飲み込むのに時間が欲しいわ...」

 

 部長が目頭を押している。

 

「えっと...?サマエルの毒で攻撃されて、右腕を切断して、結局毒が回って死にかけて、アーシアが禁手化(バランス・ブレイク)してオーフィスと共にイッセーを治療して...?通りがかったグレートレッドの背中で、グレートレッドの肉とオーフィスの力とアーシアの力で生み出したのがその右腕....って事よね?」

 

「はい。非常に簡潔だと思います」

 

「....たった1日の間でどれだけの事が起こっているのよ...」

 

「なんというか、もう笑うしかないね」

 

 木場が苦笑する。

 

「とりあえず、その腕は大丈夫なのね...?」

 

「ぶっちゃけ夢幻と無限の力がせめぎあってる爆弾装置をアーシニウムエネルギーとアーシアの力で覆っているだけなので、暴走したら終わりますね」

 

「大丈夫じゃないのはわかったわ...イッセーとアーシアは今回の戦いは休んでおきなさい。そんな爆弾持った状態で戦わせる訳にはいかないわ」

 

「...いえ、実は一つ、超獣鬼(ジャバウォック)を殺せるかもしれない手立てがありまして、それだけ試したいんです。それに、流石に今日1日は休みたいですけど、明日からは動きますよ。冥界の危機なんですから!」

 

「...なんですって?あれはお兄様の眷属の皆でも倒せていないのよ?...」

 

「信じて下さい。必ずあの化物を...殺し切れずとも致命傷は与えてみせます...」

 

「......わかったわ。貴方がそこまで言うなら信じてみましょう。グレイフィアに言っておくわ」

 

「ありがとうございます...!」

 

 その後はグレモリー家の方に飛んで、英気を養う事となった。連絡では明日ゼノヴィアとイリナも合流するらしい。

 まぁ俺はアーシアとグレイフィアさん達のチームに混ざるので会う暇は無さそうだが...

 

 今はベッドでアーシアと戦いの前にいつもしているイチャイチャだ。これ、ライザーとの戦いの時からやってるけど、まじでメンタルに影響するんだよな...

 

「イッセーさん...絶対に私がイッセーさんを死なせませんから、安心して頑張って下さいね?」

 

「おう...オーフィスも入れた三人であの化物ぶっ倒して、オーフィスと一緒に家に帰ろうぜ」

 

「はい...!」

 

「と...そういえばオーフィスは?」

 

「我、ここにいる」

 

 クローゼットに入っていた。変な所に入る奴だな...

 

「よし...じゃあ明日も早いし、今日はさっさと寝るか。オーフィスはこっち来ないのか?」

 

「我、ここがいい」

 

「そうですか...」

 

 よく分からないけど本人が良いならそれでいいか。

 俺達はその後すぐに眠った。

 

 ────────────────────────

 

 次の日の早朝、俺とアーシアとオーフィスは皆に見送られて、グレイフィアさんと出立しようとしていた。

 

「じゃあイッセー、アーシア、行ってらっしゃい。絶対に無事で帰って来るのよ?」

 

「「はい!」」

 

「イッセー君...無茶はしないでね?アーシアさん、イッセー君を頼むよ」

 

「任せて下さい!」

 

「...イッセー先輩、アーシア先輩...気を付けてください」

 

「二人とも、無理はしないで下さいね。せっかく生きて帰って来てくれたのに、こんな所でお別れだなんて許しませんからね?」

 

「小猫ちゃん...朱乃さん...はい!任せて下さい!俺はアーシアと寿命まで生きるんですから!こんな所でくたばれませんよ!」

 

「はい!絶対無事で帰ってきます!」

 

「あらあら、それを聞けると途端に安心感が生まれますわね」

 

「...イッセー先輩は死んでも死ななそうですね」

 

「小猫ちゃんそれは褒め言葉?」

 

「....さぁ?どちらでしょうか...」

 

「兵藤さん、アルジェントさん。そろそろ向かいましょうか」

 

 グレイフィアさんに声をかけられた。

 

「は...はい!すみません!すぐに行きます!...それじゃあ皆、超獣鬼(ジャバウォック)倒したらそっちに合流するから!またな!」

 

 俺とアーシアは駆け出した。

 

 ────────────────────────

 

「最終確認です。私達は現状通り超獣鬼(ジャバウォック)の足止めに徹して、貴方達の合図があった後、超獣鬼(ジャバウォック)を上空に打ち上げればいいのですね?」

 

「はい!お願いします...!あの...もしも仕留め損ねたらその時は...」

 

「わかっております。貴方の一撃で突破口さえ作って貰えれば確実に私共が屠ってみせます。例え失敗に終わっても何ら問題はありませんから、貴方達はあまり気負わず存分に力を奮って下さい」

 

「はい!すごく心強いです!」

 

「そう言って貰えると幸いです。では、飛びますよ」

 

 俺達は転移した。

 遥か前方には超獣鬼(ジャバウォック)がいる。やっべぇ...すげぇ迫力...

 グレイフィアさんは超獣鬼の方に向かって加勢している。

 うおおお!すっげぇ攻撃!!守護者のプロモーションでも多分勝てねぇ!!ルシファー眷属ってやっぱりまじでやばいんだな...

 

「我が呼び声に応えたまえ、黄金の王よ。地を這い、我が褒美を受けよ。お出でください!黄金龍君(ギガンテイス・ドラゴン)!ファーブニルさん!!」

 

 アーシアが早速ファーブニルを呼び出す。

 これが第一段階だ。

 

「教祖様、アーシアたん!お宝!前回の分も込みでお宝!」

 

 現れて早々、テンションが無駄に高い...

 

「あー...何かリクエストとかあるのか?」

 

「うーん...一通りアーシアたんをクンカクンカした後、教祖様がアーシアたんに...いや、そこは教祖様のお任せの方が興奮できそう...はぁはぁ...」

 

『なぁ相棒、ファーブニルはどうすれば元に戻るんだ?正直見ていられないんだが...』

 

 ドライグには一旦戻って来て貰っている。

 ドライグ無しで作戦がうまく行くとは思わないからな...

 

 にしても!!こいつアーシアのパンツで元の変態性も取り戻してるじゃねぇか!一通りアーシアを楽しんだ後に俺とアーシアの絡む様を楽しむだと...!この糞ドラゴン悪化してるじゃねぇか!

 

「あぅ...わ...わかりました...ファーブニルさんの好きなだけ...」

 

 アーシアが体を差し出そうとする。

 ...何かすっごく嫌だ!!!アーシアは俺の女なんだ!!いくらファーブニルにお世話になったって言ったってそんなのは無理だ!!

 

「アーシア!やっぱり駄目だ!!ファーブニル!確かにアーシアはお前優位の形で契約してるのかもしれないがな!だからってアーシアをお前の好きにしてやるか!!アーシアは俺のものだ!!アーシアを好きにできるのは俺だけの権利なんだ!!」

 

「...イッセーさ...っ!」

 

 俺はアーシアを抱きしめてキスする。ファーブニルからアーシアを守るように背を向けて、アーシアは俺だけの物だと主張してやる!!

 アーシアも!俺のアーシアなのに簡単にファーブニルに匂いを嗅がせようとして!危機感が足りないぞ!!俺だけのものだってわからせてやる!!

 

「...はぁはぁ...なんだか俺様、もうどこで興奮してるのかわからなくなってきた。けど...良い!」

 

『同志よ!このどうしようもなく付け入る隙が無さそうな感じが...完全に二人で完結してしまっている感じがどうしようもなくやるせなくて良いよな...』

 

「なるほど...わかりやすい。流石同志...」

 

『さぁ同志よ...このどうしようもなく複雑な感情を噛み締めるのだ...うぅ...』

 

 後ろでファーブニルと奴についていった歴代が語り合っている...

 同志とか呼びあってるのかあいつら...

 

「....対価は頂いた。仕事が終わったら思い出しながらじっくり楽しむ。教祖様、アーシアたん...俺様何をすればいい?」

 

 突然真面目になったファーブニルに困惑する。

 

「イッセーさん...はい...私はイッセーさんだけのものなのに、勝手な事をしてすみませんでした...」

 

 アーシアも話しかけてくる。

 う...なんか、ちょっと違う...アーシアは俺の大切な人なのに、物扱いは良くなかったな...

 でもアーシアは俺だけのものなんだ!

 日本語って難しい!

 

「いや...ごめん、ちょっと乱暴な言い方しちゃった。アーシアを物だなんて思ってないのに、俺の所有物だみたいに...」

 

「いえ...私の全部はイッセーさんのものです!だけど...イッセーさんの全部も私のものですからね...?絶対誰にも渡しません...ずっとずっと私だけのイッセーさんです...」

 

 アーシアが俺を抱きしめる力をぎゅぅっと強くする。

 

「あ...あぁ...勿論、俺の全部アーシアに捧げてるよ...」

 

「はい!」

 

 なんか、アーシアさんこの前からちょっと愛が重くなってませんか...?

 正直滅茶苦茶嬉しいのでバッチこいだけど!

 アーシアの愛をビシビシと肌に感じる...!

 

「はぁはぁ...追加で対価貰っちゃった...俺様今日はサービスする...!」

 

 そうだ、ファーブニルを放置してた!ってかまじ戦場のど真ん中でやる事じゃねぇ!

 よくみたらサーゼクス様の眷属の方がこっち見てる!

 何やってんだって視線を感じるぜ...!

 

「ファーブニル、アーシアに力を貸し続けて」

 

 オーフィスが呟く。

 

「わかった。任せろ」

 

「次にイッセー、アーシア。禁手化(バランス・ブレイク)する」

 

 オーフィスが仕切ってくれるらしい。非常にありがてぇ...スムーズだ。

 

「おう!」「はい!」

 

『Welsh Dragon Balance Breaker!!』

 

「比翼の聖龍巫女の慈愛(インセパラブル・トワイライト・アフェクション)!」

 

 アーシアが金色の鎧に包まれる。おぉっ!ちょっと俺の知ってるのと違う!けど可愛い...てかエッチだ!!ビキニアーマーってこんなに最高なのか!

 おっぱいも太もももおしりもお腹も...アーシアの守るべき場所が最低限しか防御されていない...!なんて最高なんだ!!めちゃくちゃ滾って来た!!!

 後、後ろに黄金の翼が片翼だけ付いてる。

 ...まさか、比翼連理ですか...?

 確かにこの前、アーシアにこの言葉教えて俺達にぴったりだなって言ったらアーシアが気に入ってたけど...

 

 ドライグ!今すぐ俺の翼も片翼だけにするんだ!!

 

『勝手に収納すれば良いだろうが...』

 

 それもそうですね。すみませんドライグさん...

 

「イッセーさん...どうですか?」

 

 アーシアは少し恥ずかしそうにこちらを見つめる。

 

「正直めちゃくちゃ似合いすぎてて最高...なんか、もう...最高...」

 

「本当ですか?...嬉しいです」

 

 アーシアがこちらに寄り添ってくれてるのに、鎧で何も感じられない。悲しい...

 けど抱きしめよう...

 

「って!なんじゃこりゃ!!」

 

 右腕の鎧が侵食されて、生えてるのと同じような見た目になってしまっている...!

 なんか違和感がすごい...

 

『落ち着かんな...俺の鱗が龍神と真龍の力にまで変えられてしまうとは...まぁ、なんとか制御してみせよう』

 

 頼みます...俺もなるべく頑張るから...!

 

「イッセー、金色になる」

 

「わかった。アーシア!」

 

「はい!お願いします!」

 

「我、目覚めるは愛の律にて理を蹂躙せし赤龍帝なり!」

 

『極点の愛を捧げ、無垢なる愛を纏いて、ただ平穏を望まん』

 

「我、仇なす一切に滅尽をもたらす者。唯一絶対たる我が聖女の守護者と成りて!」

 

「「「「汝を我等が安寧の礎へと沈めよう!!」」」」

 

『Blondy Bursted Full Drive!!!』

 

「聖女守護せし山吹の赤龍帝(ブロンディ・ウェルシュガーディアン・プロモーション)!!」

 

 俺は金色の鎧に包まれて、アーシアとお揃いになる。

 アーシアの翼は右翼なので、俺は右翼を収納した。

 ...なんかめちゃくちゃやる気上がってきた!

 なんか、気分とかの問題ではなく本当にこの状態の方が調子が上がった!!

 アーシアの禁手化(バランス・ブレイク)と何かしらシナジーが発生しているのかもしれない...最高か?まさに比翼連理やん。

 黄金になってなお、右腕は侵食されてるけど...

 

「これで準備完了。後は我とドライグが調整するから存分に力を高めればよい」

 

「うし!ありがとう...!アーシア、ドライグ、オーフィス...後ファーブニル!頼むぜ...!」

 

「はい!」

 

 アーシアだけ返事してくれた。悲しいけどアーシアはしてくれたから嬉しい。

 オーフィスは俺の右腕に手を当てている。

 アーシアは俺の背中に手を当てている。

 アーシアが俺をオーラで包んだら開始だ...!

 

「イッセーさん!行きます!!」

 

 突如信じられないほどのオーラが俺を包み込む...!

 これが...!ドライグが言ってたのもわかる!本当に俺という人間一人の為にアーシアの治癒の力が全て向けられているんだ...!すごい勢いでオーラが溢れだす...!

 

 よし!!

 

『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost!!!』

 

 俺は最大まで倍化する。

 よし...失敗したら死ぬけど、大丈夫...!アーシアが付いてる!

 

『Transfer!!』

 

 俺は体内にある夢幻と無限の力に譲渡した。

 瞬間、右腕から何か莫大なエネルギーが胸の方に侵食していき、あっという間に全身を染め上げた。

 鎧も全体が右腕と同じようになってしまった。

 バキバキと体が砕ける感覚があるが、アーシアの治療が崩壊を防ぐ...

 オーフィスの蛇が鎧内部の俺の体を包んで、俺の体と鎧が肥大化していく。

 右腕同様、俺の鎧は全体が有機的なフォルムになった。

 

『Fantasm Infinite Drive!!!!!』

 

 これは...!なった事がないからわからないけど、覇龍(ジャガーノート・ドライブ)に近い状態...いや、覇龍(ジャガーノート・ドライブ)と龍神化の中間みたいな感じか...?

 わからないけど、とにかく信じられないほどの力が溢れ出してくる...!

 

『あぁ!龍神化とやらがどうなのかはわからんが、覇龍(ジャガーノート・ドライブ)に近い物も感じる!...というよりは単純な龍化と言った所か。今の所寿命云々は問題ないようだ』

 

 そうか...それは良かった。流石にちょっと覚悟してたから...

 

『あえて名付けるなら、黄昏の覇龍神(トワイライト・アポカリュプス・ディバインドライブ)と言った所か...?』

 

 随分とご大層な名前だな...

 

『相棒達は今それだけ大層な事を今しているんだよ』

 

 確かにおっしゃる通りですね...

 

 俺はここでアーシニウムエネルギーを解放する。

 無限の力と夢幻の力とアーシニウムエネルギーが融合し、オーラという形で外へとどんどん漏れだす。

 無限に増大する夢幻のアーシニウムエネルギーがドームのように周囲一帯を包み込む...!!

 やばすぎる...どれだけ莫大な力なんだ...!!

 これ全部集めて放出しなければ俺が死ぬどころか周囲一帯消し飛びかねない...!!

 

「オオオオォォォォォォオオオン!!!」

 

 俺の口から出たとは思えない、龍の咆哮が響き渡る。

 

『相棒!ここからが正念場だ!気合いをいれろよ!』

 

 おぉ!!やってやる!!

 

 胸の鎧がガシャガシャと変型して、砲口が現れる。

 胸の砲口へと、周囲に拡散しているエネルギーを集めていく。

 

 砲口からプラズマが迸り、黄金に光輝く...

 

『装填率20%だ!まだまだぶちこむぞ...!!』

 

「ぐぉぉおおおおおおお!!!」

 

 ちっぽけな俺の体に集まってはいけないほどのエネルギーが集まっていく...

 それをオーフィスが外骨格のように蛇で俺の体そのものを補強し、元々の俺の体内の無限の力と肉体の強度を底上げしてくれて、アーシアの治癒があまりのエネルギーに消滅しかねない俺の体を治療し続ける...

 サマエルの毒なんか目じゃないほどの体の崩壊速度にも、アーシアはしっかり食らいついてくれる。

 だが、尋常じゃないほどの痛みが身体中を包み込む...!!

 

『相棒!!もうすぐ全部集まるぞ!!意識を手放すなよ!!」』

 

 大丈夫だ!!すぐそこにアーシアの暖かいオーラを感じてる!!お前の声もしっかり聞こえてる!!

 オーフィスもそこにいる!!

 こんなにみんなの力を借りてるのに!また次元の狭間みたいに気絶するわけにはいかないだろ!!

 

「ぎゅるおおぉおおおおおおおん!!!!」

 

『装填率100%だ!!いつでも撃てる!!』

 

 最初赤と黒と金で染まっていた俺の鎧は金一色に輝きだした。

 アーシニウムエネルギーが充満したのだ。

 今にも暴発しそうなエネルギーを、必死で体内に押し止める...!!

 アーシアが合図の信号弾を打ち上げてくれた。

 

 超獣鬼(ジャバウォック)はあっという間に足を切断され、上空に打ち上げられた。

 行ける!!

 

『アーシニウム・オーバーロード・ブラスター!!!!』

 

『Longinus Vanishing Blaster!!!!!!!』

 

 砲口という出口を手に入れたエネルギーが我先にと放出されていく。

 世界全てを染め上げるかのごとき極光が撃ち放たれ、宙に浮く獣が黄昏の如く染め上げられた。

 超獣鬼(ジャバウォック)は胴体を完全に俺達の砲撃で消し飛ばされ、末端である手と足を残して消失した。

 落ちていった手足は、即座にルシファー眷属の皆さんによって地面に落ちる前に処理されていた。

 

 一方俺は...

 

 大量の煙を出しながら、俺の鎧が灰色に染まっていく。

 やがて鎧はポロポロと崩れ、オーフィスが俺の体を補強していた蛇を回収すると、生身の俺が出てきた。

 右腕も、ほんの少し鱗のような跡を残してはいるが人間の手に戻っている。

 ありゃ?右腕全く動かないんですけど...まぁあんな事してなんの代償も無しってのは虫が良すぎるか...

 

「イッセー、成功した。腕の夢幻の力も、体内の無限の力も使い果たして停止してる」

 

「そっか...上手くいったのか...」

 

「イッセーさん!」

 

 アーシアが俺に抱きつく。

 ぬおっ!ビキニアーマーの硬い部分とアーシアの柔らかさが素晴らしいギャップを生んでいる...!

 ぎゅっと抱き返すとより一層素晴らしい...

 本来なら滅茶苦茶興奮する所だが、正直今は全部使い果たしてヘトヘトだ...

 だけど、無事に一石二鳥作戦が上手くいって本当に良かった...

 

 今回の作戦の発端は、さっさと体内の爆弾を処理したいという所から始まった。

 夢幻と無限がぶつかり合って互いを押さえている現状は、どちらかが暴走したら俺が大爆発を起こして死ぬのと同義だった。

 そもそもオーフィスとグレートレッドの力や肉をそのまま俺の体にくっつけたからそういう事態になったわけで、無限と夢幻という莫大なエネルギーを放出すればある程度安全になって、俺の体に上手い具合に吸収されるんじゃないかという話になったのだ。

 そして都合良く、ふたつのエネルギーを放出するに値する化物が暴れていたのだから願ったり叶ったりだったという訳である。

 

 この後曹操と戦うとか考えられないくらい使い果たしてるけどな...

 

「見た目は大丈夫そうですけど、一応回復しておきますね!」

 

 アーシアがオーラで包んでくれる。

 ぬぉおおお!一気に体力魔力が回復していく...!

 なんだこのエリクサー...アーシアが強すぎる...

 

「ありがとうアーシア...疲れきった体に染み渡るようだ...」

 

「はい!いっぱい癒します!」

 

 アーシアがそのまま俺に抱きつきながら治療してくれる。

 なんだこの天国は...

 

「俺様、もう眠い...」

 

 ファーブニルが消えようとしていた。

 ファーブニルにも滅茶苦茶お世話になったもんな。

 

「ありがとうファーブニル!本当に助かった!」

 

「ありがとうございました!」

 

「うん...じゃあおやすみ...」

 

 ファーブニルはそのまま消えた。

 なるほど、あのチートじみた回復速度の維持はファーブニルのオーラを全力で使いまくったからこそだったのか...とはいえ、今の素のアーシアのオーラも凄まじい回復速度ではあるけど...

 

『相棒、寿命は特に削れていないようだ。まぁ右腕は仕方あるまい。あれだけの事をして生き残れただけでも儲け物だ』

 

 間違いないな。右腕一本で使えるような力じゃなかった。

 

『さっきの力は厳密にはオーフィスとグレートレッドの力だからな。今のお前がもう一度あの状態をやろうとすれば大幅な劣化版かつ寿命を全て失ってしまう物になるだろうさ』

 

 なるほど...そういえば夢幻と無限の力って完全に消えたのか?

 

『いや。エネルギーは使い果たしたが、停止した状態で因子はしっかり残っている。オーフィスの蛇も同様だ。お前の力を利用して、時間をかけてまた少しづつ力を貯めていくのだろう。今は人間の腕だが、また力が高まればあの龍の腕になると思うぞ?』

 

 え?じゃあまたいつかさっきの形態になれるのか?

 

『なんとも言えん。さっきも言ったが、寿命や何かを削る上に劣化した物になるだろう。先ほどの力はオーフィスから切り離されたばかりの蛇とグレートレッドから切り離されたばかりの肉片だから生み出せた物だ。今のお前のその腕と体で力を溜めきってもかなり劣化してしまうと思う。その頃には龍神の肉片ではなく、龍神の肉片で生み出した相棒の体になっているだろうからな。ただし、それを補って余りある力をお前が付ければ同等の事も出来るようになるだろうが...』

 

 なるほど...まぁよっぽど強くならない限りは考えない方がいい技って事か...

 

『そうなるだろうな。さてと、俺も流石に力を使い過ぎて眠いが、再び神器(セイクリッド・ギア)の奥に潜ってくる。もう一戦しなければならないのだろう?』

 

 あぁ...助かる。ありがとうドライグ...

 ドライグは再び潜っていった。

 

 さっきまで抱きついて治療してくれていたアーシアが少し離れて俺の右手を握る。

 ぷらんと浮いてしまう。

 

「あの...イッセーさん。その...右腕は...」

 

「あー...ごめん。全く動かないわ...」

 

「そんな!私がどうにか...」

 

「アーシア、それは無理。時間経つの待つしかない」

 

「それって、夢幻と無限の力が貯まったらまた動くようになるって事か?」

 

「そういうこと」

 

「そっか...」

 

 なら、そんなに悲観的になることもないかな?いずれは動かせる算段があるってわかれば十分だ。

 

「アーシア、俺の右腕しばらく使い物にならないみたいだ。これから頼りにしていいか?」

 

「もちろんです!私がイッセーさんの右腕になります!困った事があったら何でも言って下さい!これまで以上に一緒に居ますから!私が全部お世話します!」

 

「ありがとうアーシア...嬉しいよ。アーシアも俺に出来る事があったら何でも言ってくれよ?」

 

「はい!じゃあ早速一ついいですか?」

 

「おう!もちろん」

 

「遠慮無く私を頼って下さい。イッセーさんの為ならなんだってできますし、イッセーさんの力になれるのが何より嬉しいんです。だから、イッセーさんの右腕として、ちゃんとたくさん使って下さいね?」

 

「う...おう!何よりも頼りにさせて貰うよ!ありがとう!...でも、それだけじゃ忍びないから俺にもちゃんとお返しさせてくれよ?」

 

「はい!...お返し、楽しみにしてますね」

 

 突然耳元で囁かれた。

 滅茶苦茶ゾクリとしてしまう。

 耳弱いから勘弁して...そして意味深で怖いよ...

 何を要求されてしまうんだ...興奮する。

 

「イッセーさん!オーフィスさん!皆さんの所に戻りましょうか!」

 

「おう!」「我、疲れた。イッセー運んで」

 

「はいはいっと」

 

 オーフィスを片手でおんぶしてアーシアとみんなのいる方へ向かう事にした。

 

 正直寝てしまいたいが、確か今日辺りで英雄派が来るはずだ...

 曹操と決着を付けてしまわないとな...あいつと戦うのは俺だ。もう疲れたとかそういうのは関係ない、そういう運命だと思う。だから...今日ここで倒してみせる...!!



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第78話。 倒します、ジークフリート!

 俺とアーシアはゆっくり歩きながら皆の元へ向かおうとしたが、グレイフィアさんに捕まった。

 やっちまった。完全にグレイフィアさんとかの事忘れてたぞ...普通に今回も無理言って連れて来てもらったりしてるのに挨拶無しとか失礼が極まってる...

 

「先ほどの一撃、本当にお見事でした。超越者として数えられてもおかしくないほどの一撃でございましたよ?」

 

「アハハ...もう2度と使えないんで勘弁してください。それに、サーゼクス様の眷属の皆さんと、ここにいる皆とグレートレッドとファーブニルの...ほんとにおんぶに抱っこして貰ったお陰ですから...その、本当に名誉とか結構なので...変に勘違いされたくないので、どうか俺が関わったのは秘密にしてくれませんか?」

 

「それは...いえ、確かにあなたの夢を考えればむしろ不利益になりかねませんね。わかりました、そもそも貴方達に頼らなければ勝てなかった我々の落ち度です。汚名を被るつもりでそうさせて頂きましょう」

 

「そうですか...ご厚意感謝致します!!」

 

「...お疲れのようですし、お嬢様の元までご案内致しましょうか?すぐに後処理等に向かわなければなりませんので、お嬢様の前に顔を出すわけには行きませんが...」

 

「あー...すみません、お願いしていいですか?」

 

「勿論構いませんよ。貴方達は今回のMVPと言っても過言ではありませんからね。あの超獣鬼(ジャバウォック)をほとんど消し飛ばしてしまうなんて...ルシファー眷属としては情けない限りです。まぁ、リアスの義姉としては貴方達のような眷属が居てくれる事はこの上なく誇らしいのですけどね」

 

 グレイフィアさんが少しだけ笑みを浮かべた。しっかり公私を分ける人なのに、そういう事を言ってくれる事に少し驚いた。

 アーシアも嬉しそうだし、素直に受け取らせて貰おう。俺達を誉める為のサービスなのだろう。

 

 転移した先はグレモリー家だった。

 そうか、眷属が揃いそうだから、しっかりフルメンバーになってから再び戦場に向かうって言ってたな。

 戦場で合流とかにならなくて良かった...

 

「グレイフィア様、ありがとうございました!」

「ありがとうございました!」

 

「いえ、お嬢様に宜しくお伝え下さい。それでは失礼致します」

 

 そう言うと、再び転移していった。

 

「イッセー!アーシア!」

 

 部長達が駆け寄ってくる。俺達の転移に気づいたのだろう。

 

「ここからでもあなた達のオーラを感じたわよ?全く...凄まじい一撃だったようね...」

 

「一度きりの技なんで、俺達と言うよりグレートレッドとオーフィスの力ですし...」

 

「それでもすごいわ。まだ終わったわけではないけれど、貴方達のお陰でこの戦いに一気に終わりが見えてきたもの。...本当にすごかったわ、貴方達は私の誇りね...」

 

「「ありがとうございます!」」

 

「二人とも、ゆっくり休んで頂戴?後は私達に任せて...」

 

「すみません...俺達も連れていくだけ連れていってくれませんか?」

 

「え?」

 

「多分戦いも基本ほとんど皆に任せる事になると思うんですけど...それでも一緒に行きたいんです」

 

「駄目よ!ついさっきあれほどの攻撃を放って、貴方達は全部使い果たしたはず....はぁ、わかったわ。頑固な貴方達の事だもの。テコでも動かないんでしょう?」

 

「すみません...」

 

「その代わり戦闘は極力させないわよ?これ以上無理させる訳にはいかないわ」

 

「はい、それで大丈夫です!」

 

「...イッセー君。その右手、治ったのかい?」

 

「あー、いや。オーフィス達の力を使いきったから見た目が人っぽくなっただけで、ぶっちゃけ治ってはないかな。まぁ逆に昨日までの爆弾状態でもなくなってるし、そういう意味では大丈夫!」

 

「...動くのかい?」

 

「あー...動かないな。いずれ動くようにはなるらしいが、いつになるかもわからん」

 

「そっか...まぁ次元の狭間からだって帰還できるイッセー君達ならなんとかなるよね?」

 

「...すごい説得力です」

 

「アハハ」

 

「でもイッセー君。片腕が使い物にならない状態なんだから、決して無理はしないでおくれよ?僕達が付いてるから、安心して後ろで待機しててほしい。絶対に君達を守ってみせる」

 

 木場が真剣な表情で言う。

 

「おう!お姫様上等ってな具合で騎士様に守られてやるよ。ちゃんと守ってくれよ?」

 

「イッセー君がお姫様だなんて、冗談キツいね」

 

「マジレスやめて!そういうの一番傷つくんだぞ!?」

 

「勿論冗談だよ、僕のプリンセスさん?」

 

「ぐぬぬ...」

 

 といった感じで雑談をしながら他のメンバーを待った。

 

 ────────────────────────

 

「すまない、遅くなったな」

 

 いつもの戦闘服を身に纏ったゼノヴィアとイリナがやって来た。

 ゼノヴィアはいつもの天界の布にデュランダルを包んでいる。

 イリナも新しい剣を持っていた。

 

 二人が来たので、現状の説明の為に部長がテレビを付けた。

 中継は希望に満ちた様子であった。

 そりゃそうだな。絶望的だった所から、アジュカ様とアスモデウス様の対抗術式によって各勢力の援軍やレヴィアたんが豪獣鬼(バンダースナッチ)をボコボコにしている様が映り、ついには皇帝(エンペラー)ベリアルによって豪獣鬼(バンダースナッチ)が討ち倒されたようだ。

 

『ついに豪獣鬼(バンダースナッチ)も討たれました!!化物の親玉!超獣鬼(ジャバウォック)も先ほどルシファー眷属によって討たれたとの情報が入ってきています!!冥界の平和は目前です!!』

 

「良かった!中継とかで下手したら撮られてたんじゃって不安だったんだ...」

 

「全く...貴方達の名声なのに、全て差し出すなんて普通ならどうかしてると言う所なんだけど、まぁ貴方達にはそんな物より平穏の方が大切だものね」

 

「はい...後単純に俺がルシファー眷属でも倒せなかった怪物を倒したとか思われたら絶対録でもない事になると思ったので...」

 

「それもそうね...まぁあくまで民衆用の中継には映ってなかっただけで、上層部の悪魔なんかは把握してるでしょうけどね」

 

「それはもう仕方がないです...グレイフィアさん達に上手いこと言って貰えたらなって...」

 

「そうね。私からもお願いしておくわ」

 

「皆さんお揃いのようですね...私が最後ですか」

 

 声のした方を振り替えるとロスヴァイセさんが居た。

 待ってたよロスヴァイセさん!

 俺はロスヴァイセさんにどうしても言わなければならない事があったのだ...!

 

「ロスヴァイセさん!お久しぶりです!!あのドリルすごく役に立ちました!ありがとうございます!!」

 

「え?えぇ...それは良かったですけど...このタイミングですか?」

 

「どうしても言いたかったんです!滅茶苦茶分かりやすかったです!テスト勉強に余裕があったからこそ昇格試験の勉強に余裕が生まれました!!肝心の昇格試験は...まぁ微妙なんですけど、テストは頑張りますから!」

 

「まぁ役に立ったようなら作った甲斐があったという物です。昇格試験はまぁ結果に期待しましょう」

 

「ほんとありがとうございました!」

 

「まずは冥界の危機が...って一番の功績を残してる子に言えるセリフじゃなかったわね...」

 

「イッセー、アーシア、大手柄だったんだな!仲間と親友として誇らしいぞ!」

 

「二人の愛の力が人知れず冥界を救った!だなんてすごくロマンチックだわ!流石はイッセー君とアーシアさん!」

 

 などと喋っていると、

 

「お嬢様!」

 

 メイドの方の一人が乱入してきた。

 

「大変でございます!首都で活動中のシトリー眷属の皆様が禍の団と戦闘に入ったとの連絡がございました!」

 

「なんですって!...皆、すぐに出発するわよ!ソーナ達の加勢に行きましょう!」

 

『はい!』

 

 慌ただしい事この上ないが、いよいよ英雄派との決着が近いようだ。すぐに転移の魔方陣の元にみんなで集まった。

 

 ────────────────────────

 

 冥界の首都リリスのとある区域に飛んだ。

 ビルの屋上に転移したようである。

 あっ、もちろんオーフィスにも来て貰ってます。

 

「み、皆さん!よ、よかった!」

 

 するとそこにはギャスパーが居た。

 

「ここにいれば皆さんが来るって堕天使の方々に言われたんですけど、来なくて寂しかったんですぅ!」

 

 涙目で叫んでいる。よっぽど寂しかったみたいだな。

 

「ギャスパー、トレーニングの成果、期待するわよ!」

 

 部長にそう言われていた。

 

「は...はぃ...頑張りますぅ...」

 

 さっきまでギャーギャー騒いでいたのに突然しおらしくなった。どないしたんじゃろ...?

 

「....あれ!」

 

 小猫ちゃんが指差した方を見ると、ヴリトラが暴れていた。

 あそこで戦ってるんだろう...

 皆で翼を生やして現場へと飛んでいった。

 

「グレモリー眷属!」

 

 声が聞こえたのでそちらの方向を向くと、タイヤの外れた一台のバスを守るようにシトリー眷属の皆さんが立っていらっしゃった。

 バスの中には大勢の子供達がいる。

 

「状況は?」

 

「このバスを先導している最中に英雄派に襲われてしまって...今は会長と副会長と元ちゃんが...!」

 

 シトリーの騎士の人が涙目でそう叫んだ。

 

「あれを!」

 

 ロスヴァイセさんが指差した方には、ヘラクレスに首を掴まれている匙と 倒れている会長。

 副部長がジャンヌと戦っていた。

 その後ろにはジークフリートが静かに佇んでいる。

 

 ヘラクレスが嘲笑いながら匙を投げ捨てる。

 

「んだよ、レーティングゲームで大公アガレスに勝ったっていうから期待してたのによ。こんなもんかよ」

 

「ふざけないで!子供の乗ったバスばかり執拗に狙って来た癖に!!それを庇うために会長も匙も実力を出しきれなかったのよッ!」

 

 副会長が激昂する。

 

「あの野郎!!」

 

 匙を卑怯な手でボコボコにしやがって!許さねぇ!!

 俺が神器(セイクリッド・ギア)を起動しようとすると、木場が剣で俺を止めた。

 

「イッセー君。ここは僕達に任せてくれ。わかってる、僕も同じ気持ちさ...君の分も僕達が彼らに報いを受けさせる...」

 

 木場の低く怒りを感じさせる声で少し冷静になった。

 そうだ...俺は曹操をぶっ倒す為にここにいる。

 ただでさえ足りないのに、これ以上消耗するべきじゃない。

 頭ではわかってるけど...!!っく!

 

「わかった!代わりにこれを受け取ってくれ!」

 

 俺はアスカロンを木場の足元に射出した。

 

「ありがとう、すごく心強いよ。...安心してイッセー君。僕が...僕達がここにいる全員守ってみせる」

 

 木場は全速力で走りだし、アスカロンと聖魔剣からオーラを飛ばす。

 ジャンヌとヘラクレスが避けた所を木場が即座に副会長、会長、匙を龍騎士団に回収させてこちらに向かわせる。

 そのままジークフリートに斬りかかった!

 三体の龍騎士はアーシアの元に三人を運ぶと消えた。

 アーシアはすぐに治療を開始する。

 アーシアも流石にちょっとしんどそうだな...

 俺からアーシアへと力を分ける事ができればいいんだが...

 

「...やるね、あの状況から三人を救いだし、そのまま僕と戦闘に入るだなんて」

 

 つばぜり合いを終えて、木場はジークフリートと向かい合う。

 

「龍殺しの聖剣を赤龍帝から貸して貰ったようだね。本当に彼は...嫌な所ばかり突いてくれる...超獣鬼(ジャバウォック)の件もそうだ。彼はいくらなんでも異常すぎるね。あんな世界のバグみたいな存在を放置していては、これから先も計画を妨害され続けかねない...今は先の超獣鬼(ジャバウォック)への一撃で消耗してるだろうし最優先で殺っておきたい所なんだけど、キミは許してくれそうもないね」

 

「当たり前だろう?イッセー君も皆も僕が守る。僕はグレモリー眷属の騎士だからね。それに...君達は絶対に許さないよ...ここで必ず止めてみせる!!」

 

「怖いなぁ...今のキミとの戦いは正直、少し分が悪いかもしれないね。後ろにはグレモリー眷属のフルメンバーもいる...退散したい所だが、アジュカ・ベルゼブブへの勧誘も失敗に終わったし、これ以上失態を見せるわけにもいかないんだよね...うん、これを使わせて貰おう」

 

 ジークフリートは注射器を取り出し、首に液体を注入する。

 

「聖書に記されし神が生み出した神器(セイクリッド・ギア)に、真の魔王の血を加工して注入した場合どのような結果を生み出すのか。そんな研究が僕たちの組織では進められていてね...その成果がこれなのさ」

 

 体が脈動して、背中から四本の腕が太く太く肥大化していく。指が退化して魔剣と融合を果たした。

 本人もまた変形していき、最終的には蜘蛛の化物のような姿になった。

 

業魔人(カオス・ドライブ)この状態を僕達はそう呼称している。神器(セイクリッド・ギア)の性能と体の性能、どちらも極限まで高めてくれるんだ...君が龍殺しの聖剣を持っているにも関わらず神器(セイクリッド・ギア)の...龍の力を底上げした理由がわかるかい?そのリスクを背負ってでも、禁手化(バランス・ブレイカー)状態でグラムを十全に使える方が有利だと考えたからだ...全力のグラムを振るえる今の僕に立ち向かえるかな...?それじゃあ、いくよ!!」

 

 ジークフリートが魔剣を振るう。

 その度に魔剣の絶大な効果が発揮され、次元の裂け目が生まれるほどの衝撃が発生する。

 

 だが、木場はそれを全て紙一重で回避していく。

 グラムが振るわれた時だけはオーラの余波ですらダメージを負っているようだが、木場の動きを止めるには足りない。

 何度も何度も木場は魔剣の一撃を回避していく。...まぁあれだけ大振りだと木場にとっちゃかなり避けやすいだろうな...

 

 ヒット&アウェイでちくちくと斬っていた木場が、ついに腕の一本をアスカロンで斬り飛ばした!

 

「ぐぅぁぁああああ!!くっっ!!流石と言っておこう!だが、これならどうかな!!」

 

 ジークフリートが木場の着地に合わせて氷の魔剣を振るう。足元を氷で繋がれた木場は即座に炎の聖魔剣を作り出し、氷を溶かしながらもう片方の手でアスカロンからオーラを放出し、ジークフリートの振り下ろした別の魔剣を持つ龍の手を消し飛ばした。

 

「...僕は今イッセー君の力を借りているんだ!!獣に墜ちた今の貴方なんかに負ける訳にはいかない!!」

 

 木場はジークフリートが落とした魔剣を拾い、ジークフリートの横腹を切れ味重視の魔剣、ノートゥングで切り裂く!

 

「ぐはっっ!!何故だ!!俺の魔剣をなぜキミが振るっている!!」

 

「魔剣が僕を呼んでいたんです。貴方は見限られたんですよ...人間である事を誇りとしていた英雄派でありながら、ここに来て人間を辞めたのが間違いだったようだね」

 

 ジークフリートの持つ魔剣達が震えだす。

 龍の手の肉から解き放たれて、全て木場の元に集結する。

 

 ジークフリートは必死にグラムを押さえようとするが、既に見限ってしまった所有者に対して、龍殺しの力が十全に発揮される。

 

「がああああああ!!!」

 

 ジークフリートは身体中から煙を出しながら悶え、やがてグラムすらも失ってしまった。

 木場はグラムとアスカロンを手に持ちジークフリートの元へと近づいていく。

 

「龍殺しの力をもろに受けて苦しいだろう?...今楽にしてあげるよ」

 

「....英雄の子孫を誇りながら...最後の最後に人間の代表たる英雄であろうとする心すら失った...それが...」

 

 木場はグラムでジークフリートの首を斬り飛ばした。

 

「そうですね...それが貴方の敗因です」

 

 木場はそう呟いて、ジークフリートを背にして歩き出した。

 ジークフリートは体を崩壊させ、やがて完全に塵へと変わってしまった。

 ...やっぱり木場ってとんでもなく強いな...流石は俺のライバル。名だたる魔剣も手にしてまじで手が付けられなくなりそうで怖い...



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第79話。 倒します、英雄派!

 木場がジークフリートと戦っている間、他のメンツは戦わなかった。いや、戦えなかったと言う方が正しいか。

 ジークフリートの振るう魔剣の暴風でそれどころじゃなかったのだ。

 それを真正面から全て避けきった木場の異常さがよくわかるな...

 

 今ようやくアーシアが三人の治療を終えて、帰って来た木場の治療を始めた。

 

「匙...大丈夫か?」

 

「兵藤...情けない所見せちまったな...」

 

「バカ野郎!あの糞野郎共から子供達を守りきったんだろうが!お前は...シトリー眷属の皆は立派にやりきってみせた!」

 

「...そうだな。だけど...やっぱり悔しいぜ...俺にもお前みたいな力があればって...そう思っちまう」

 

「...なら、一緒に強くなろうぜ。今まではライバル眷属同士だからやってなかったけどよ、この戦いが終わったら模擬戦とかいっぱいやろう!」

 

「...あぁ!すぐに追い付いてやるよ...!」

 

「おう!っと...そろそろ行かなきゃか?」

 

「...そうだな。ここはお前達に託す!子供達は任せてくれ!!」

 

 匙と拳をぶつける。

 部長と副会長との話し合いで、シトリー眷属の皆は子供達の脱出に専念する事となったのだ。

 メンツ的にはグレモリーの方がこの場面では戦闘に適しているので、脳筋バトルができるように子供達の避難をしてくれるとありがたい。

 悔しいとは思うが、シトリー眷属の分も俺達が返せばいい。

 

 といった所でゲオルグが転移してきた。

 

「すまない、少し遅れた。ヴリトラの炎の解呪に思ったより時間がかかってしまったのだ...と、ジークフリートはどうした?」

 

「ジークフリートなら倒したよ」

 

 木場が言う。

 

「....そうか...英雄派の正規メンバーがやられ続きか。グレモリー眷属に関わると根こそぎ全滅しかねないな...」

 

「あんな奴に負ける時点でたかが知れてたってだけだろうが」

 

 ヘラクレスが嘲笑うような顔をする。

 敵ながら、仲間をなんとも思わない発言に皆ついつい顔をしかめてしまう。

 

「さて、そろそろ私もやらせて貰おうか。祐斗にばかりいいところを取られてしまっていては、騎士の名が泣いてしまう」

 

 ゼノヴィアがデュランダルから布を取り払う。

 エクス・デュランダルの完成形だ。一つ足りなかった前回よりも完成した今の方が遥かに強力なはずだ。

 

「こっちもいいのを貰って来たんだから!」

 

 イリナが剣を抜き出す。木場が驚いたような表情をしていた。

 

「そうよ!これは木場君の聖魔剣から作り出された量産型の聖魔剣なの!木場君の聖魔剣ほど多様で強くはないけど、天使が持つ分には十分だわ!」

 

 イリナとゼノヴィアはジャンヌの方に剣を向ける。

 

「あらあら、それじゃあ私も参戦しようかしら。先ほどの業魔人(カオス・ドライブ)とやら、彼らも使えると見ていいでしょうから」

 

「三人も相手してくれるんだ。おもしろいわ!禁手化(バランス・ブレイク)!」

 

 ジャンヌが背後に聖剣によって作り出されたドラゴンを出現させる。

 

「このエクス・デュランダルは7つに分かれたエクスカリバーの能力を全て付加されている。使いこなせば更なる強さを手に入れられるだろうが...そうだ、この前イッセーにいい言葉を教わったんだ。私はいわゆる脳筋という奴でな。テクニックには疎いんだ...だから今は破壊のエクスカリバーとデュランダルのパワーで十分だ!」

 

 ゼノヴィアがエクス・デュランダルを振るうと、凄まじい破壊が撒き散らされた。

 ひえっ...めっちゃ威力上がっていらっしゃる...

 

 木場が嫌そうな目でゼノヴィアを見る。頑張って君がテクニックを教えてあげて...俺はそれを横目にゼノヴィアを脳筋の園へと誘い続けるけど...

 

「ついてらっしゃい!悪魔に天使に堕天使だなんて!私はモテモテね!」

 

 ジャンヌ達はどこかへ行ってしまった。

 あの三人を一人で相手取るってすげぇ自信だよな...

 俺はそんな事できる自信無いです。

 

 などと考えていると、アーシアが俺を治療し始めた。

 

「アーシア?」

 

「イッセーさん...また戦うんですよね...?なら、私に今できるのは少しでもイッセーさんの力を高める事なので...」

 

「...ありがとう」

 

 まぁバレバレよね。正直すごくありがたい。

 曹操と戦うなら、少しでも力が高まってる方がいいに決まってるからな...

 

 アーシアを抱きしめる。アーシアも抱き返しながら治療してくれる。

 はぁ...ハグしながらの治癒はまた何とも言いがたい幸福感を与えてくれる...

 

「なぜ、あのバスを狙った?というよりなぜ首都リリスに居るんだい?」

 

 木場がゲオルグに話しかけていた。

 

「見学だよ。曹操があの超巨大魔獣がどこまで攻め込む事ができるかその目で見たいと言い出してね。まぁ首都にはほとんどダメージを与えられなかったようだが...まぁそこは素直にルシファー眷属とそこのバカップルに称賛を贈ろう」

 

「バカップル言うな!!」

 

「...その体勢で言っても無理があると思うが...」

 

「イッセー君少し静かにしてくれないかな?...じゃあなんでバスを狙ったんだい?」

 

 木場がプチギレしてた。怖...

 

「あぁ...偶然だよ。ヴリトラの匙元士郎とシトリー眷属が乗っていたんだ。お互い顔を知っているんだから、自然と相対する事になるのは当然だろう?」

 

「俺が煽った面もあるぜ?偶然あのヴリトラに出会ったんだ。魔獣の見学だけじゃ物足りなくなってよ、ガキ狙われたくなきゃ戦えって言ってやったんだよ」

 

「英雄派は異形との戦いを望む英雄の集まりだと聞いていたが...どうやらただの外道が居たようだ」

 

 そう言いながら、一人の男が降り立った。

 黄金の獅子を引き連れた男。

 

「サイラオーグさん!」

 

「この前ぶりだな、兵藤一誠、アーシア・アルジェントも。相変わらずのようで安心したよ。...素晴らしい一撃だった。遠くからでも肌が震えたぞ...お前達のあの一撃は冥界に希望を取り戻させたのだ!大いに誇れ!」

 

「....ありがとうございます!!」

 

「あっ...ありがとうございます...」

 

 サイラオーグさんにそう言って貰えると、なんだか心が震えるようだ。

 まぁほとんど龍神二人の力だから俺の功績じゃないんだけど...それでもサイラオーグさんに誉められると素直に嬉しい。

 

「さて、俺がライバルと認めた者達にあれほどの物を見せられたのだ。滾って仕方がない!英雄ヘラクレスの魂を継ぎし者よ、俺が相手になろう!」

 

「バアル家の次期当主か。知ってるぜ?滅びの魔力が特色の大王バアル家で、滅びを持たずに生まれた無能な次期当主。悪魔の癖に肉弾戦しかできないって言うじゃねぇか。ハハハ、そんな訳のわからねぇ悪魔なんざ初めて聞いたぜ!」

 

 ヘラクレスが煽る。

 すると、サイラオーグさんから漲っていた闘気が落ち着きを取り戻した。

 

「...どうやら俺は勘違いをしたようだ。貴様のような弱小な輩が英雄の筈がない」

 

 ヘラクレスの額に青筋が浮かび上がる。

 

「へっ、赤龍帝と殴打戦を繰り広げたらしいじゃねぇか。だせぇな!悪魔って言えば魔力だ。魔力による超常現象こそが悪魔だと言っていい。それが一切ない赤龍帝とあんたは何なんだろうな?」

 

 ヘラクレスはひたすらに煽っていく。

 ...なんか、三下ムーブが凄すぎるよ...そこまで来るとむしろ煽りとして失敗してるって...

 

「元祖ヘラクレスが倒したというネメアの獅子の神器(セイクリッド・ギア)を手に入れているって言うじゃねぇか。皮肉だな、俺に会うなんてよ!」

 

「...貴様ごときには獅子の衣は使わん。どう見てもお前が赤龍帝より強いとは思えん」

 

「ハハハ!俺の神器(セイクリッド・ギア)で爆破できねぇ物はねぇんだよ!あんたが御大層な闘気に包まれてたって関係ねぇんだよ!」

 

 ヘラクレスがサイラオーグさんの腕を掴み爆発させた。

 表面が爆ぜて血が少し吹き出す。

 

「....こんな物か」

 

「言ってくれるじゃねぇか!じゃあこれでどうよ!」

 

 ヘラクレスは地面を殴りまくって、サイラオーグさんを爆撃で包み込む。

 

「ハハッ!ほら見たことか!これだから魔力もねぇ悪魔は出来損ないだってんだよ!まだちょっとはある赤龍帝のがマシなんじゃねぇか?」

 

「...奴が強いのは認めるが、他人を使った比較に何か意味があるのか?」

 

「....!!?舐めんなクソがっ!!!」

 

 ヘラクレスが直接サイラオーグさんを殴ろうとするが、先にサイラオーグさんの拳が腹に突き刺さった。

 

 その場で跪き、大量の血反吐を吐き出す。完全に内臓が逝ったな、あの出血量は内臓ぐちゃぐちゃシェイクコースだ...

 

「どうした。お前がバカにした赤龍帝の山吹の鎧は、この殴打で傷一つ付かなかったぞ?」

 

「....ぐぐぐ...ふざけるなぁ!!クソ悪魔ごときがぁぁ!!ただの打撃ごときでこの俺がぁ!!」

 

 ヘラクレスは禁手化(バランス・ブレイク)して、身体中から大量のミサイルを発射する。

 無数のミサイルは周囲を破壊し尽くしていく。

 こちらにも飛んで来たので、アーシアを抱えて避ける。

 サイラオーグさんは全部殴って弾いてるけど。

 

 ミサイルの一発が子供達の方に飛ぶが、ロスヴァイセさんが防御魔方陣で受け止めていた。

 

「新しい防御魔法です。私の戦車の特性を活かす為に故郷で強力な防御魔法を覚えて来ました。特性を活かしつつ魔法を使えば禁手化のミサイルでも余裕で受け止められるようです。ヘラクレス、貴方の攻撃はもう私には効きませんよ。この十倍でも防ぎきってみせましょう!」

 

 ロスヴァイセさんが高らかに叫ぶ。

 あの時負けたのは二日酔いだったからじゃないの?とは口が裂けても言えない。

 一瞬ロスヴァイセさんに睨まれた気が...怖...

 

 サイラオーグさんは容赦なくヘラクレスを殴っていく。

 ヘラクレスはたたらを踏むと、ポケットをまさぐり注射器を取り出した。

 

「クソッタレ!!」

 

 毒づきながら注射器を首元に当てるが、手は動かさなかった。

 

「どうした、使わないのか?使いたければ使えばいいだろう。それで強くなったとしても、俺はそれを越えるだけだ」

 

 ヘラクレスは悔しさに顔を歪ませ、涙すら湛える。

 

「ちくしょぉおおおおおお!!!」

 

 大声で叫んで、注射器を捨てると、サイラオーグさんに殴りかかった。

 

「最後の最後で英雄としての誇りを取り戻したか。悪くない。...だが、これで果てるがいいッ!!」

 

 サイラオーグさんが腹部にもう一撃ぶちこむと、ヘラクレスは意識を完全に刈り取られた。

 

 ゲオルグがこちらを見て呟く。

 

「強い...これが現若手悪魔か。バアルのサイラオーグ、リアス・グレモリー率いるグレモリー眷属。まさか先日会ったばかりでここまで力を増して来るとは...赤龍帝も何があったのか理解できないが、あれほどの一撃を放った...この調子ではそこの猫又やヴァンパイアも得ている情報通りとはいかないか?」

 

 ゲオルグに視線を向けられたギャスパーは表情を青ざめさせていた。

 

「...ギャスパーどうかしたの?」

 

 部長が尋ねる。

 すると、ギャスパーはポロポロと涙を流し始めた。

 

「...すみません、皆さん。...僕、グレゴリの研究施設に行っても...強くなれなかったんです!!」

 

 ギャスパーの告白に皆が驚いていた。いや、そんな短時間で成長できると思ってるのもどうかと思いますぜ...ちょっとうちの眷属がインフレしすぎなだけで...それにギャスパーには内なる力があるからな...

 

「皆さんのお役に立ちたかったから...強くなりたかったのに!...今のままではこれ以上は強くなれないってグレゴリの方に言われて...僕は...僕はグレモリー眷属の恥なんです...っ!!」

 

「...そうなのか...つまらんな。他の眷属は皆何かしら驚異的な変化をしていると言うのに、君はグレモリー唯一の汚点という訳だ、興味が削がれた」

 

「....っ!!うぅ...」

 

「お前っ!!」

 

 このっ...!ギャスパーはすげぇ奴なのに!!闇の力さえ引き出せばお前なんか目じゃねぇくらいの力持ってるんだ!

 なのにギャスパーをバカにして、挙げ句汚点だと!!

 ギャスパーがその言葉でどれだけ傷つくと思ってるんだ!!

 くっそ...でも俺にできる事...いや、あるか?

 やってみる価値はあるはずだ。

 今ギャスパーは悔しくて涙を流してる。今の所レーティングゲームでは軒並み即退場で、あいつが誰より悔しがってたのは知ってる!

 それになんだかんだ後輩だからな。

 先輩として、次のステージへと羽ばたく手助けくらいはしてやれるはずだ。

 俺はギャスパーに近づいて小声で語りかける。

 

「ギャスパー悔しいか?」

 

「えぐっ....はい!悔しい...ですぅ...ぐすっ...!」

 

「あの野郎を見返してやりたいか?自分の力を解き放つ覚悟はあるか...?」

 

「イッセー先輩...?...いえ、見返してやりたいです!!グレモリーの汚点だなんて...言われて悔しくないわけないじゃないですか!!」

 

「なら、気張れよ。俺が手伝ってやる」

 

「...え?」

 

 俺は禁手化(バランス・ブレイク)して、ギャスパーに手を当てる。

 

『Transfer!!』

 

 ギャスパーの内なる力に譲渡する。

 

「な...にを...~~~!!?」

 

 ギャスパーの体から闇が漏れだす。

 やがて闇がギャスパーを包み込んだ。

 

『...赤龍帝、随分乱暴な事をしてくれるね』

 

「悪いな。でも見てたなら分かるだろう?お前をバカにしたあいつに目にもの見せてやってくれないか?」

 

『...いいよ。僕もさっきの言葉は到底許容できないからね』

 

 ギャスパーを包む闇がゲオルグの方へと飛んで行き、ゲオルグの魔方陣も霧も食い尽くす。

 

「なんだこれは!!...!赤龍帝!!貴様何をした!!」

 

「ギャスパーの力を少しだけ目覚めさせたんだよ。これがお前がバカにしたギャスパーの力だ。よぉく心と体に刻み付けろ」

 

「なんだ...!くそっ!!神器(セイクリッド・ギア)でも魔力でもない!!俺の魔法も霧も全て消される...!!なんなのだこれはぁぁぁぁ!!!」

 

 ゲオルグは闇に包まれて、飲み込まれていった。

 転移魔法陣が起動できたかどうかはわからないが、重症は間違いないだろう。

 

 ギャスパーはそれを見ると意識を手放した。

 俺は受け止めてやる。

 

「イッセー!貴方ギャスパーに何をしたの!!」

 

 部長が俺に詰め寄ってくる。

 

「ギャスパーの中に眠っている力に譲渡の力で働きかけました。ギャスパーがバカにされてるのがどうしても我慢出来なかったんです...」

 

「そんなことが...じゃああれがギャスパーの本来の力だと言うの...?」

 

「はい。一度だけ見たことがあったんです。ギャスパーと二人で修行している時に、ほんの一瞬でしたけどさっきみたいな闇が漏れだして...」

 

 なんかポンポン嘘が出る自分がちょっと嫌になるぜ...

 

「なんで報告しなかったの!!」

 

「普通に生きる分には呼ぶ起こすべきでないと思いました。でも、あの悔しそうな顔を見て...強くなりたいと願うギャスパーの目を見て、ギャスパー自身にあいつをやらせるべきだって...ならあの力しかないって、そう思ったんです...」

 

「そう...この子について、ヴァンパイアに訊かなければならない事が色々出来たわね。...イッセー、これからはそういう事はきちんと報告なさい。...こんなにギャスパーに無理をさせて、起きたらちゃんと謝るのよ?」

 

「それははい。勿論です」

 

「全く...いつもの事だけど、ここ数日はいつも以上にイッセーに振り回されるわね...」

 

「すみません...」

 

 部長はギャスパーを抱き寄せた。

 ちょっと悪い事をしたとは思うけど、ギャスパー...お前は誰よりすごい奴なんだって皆に知って貰いたかったんだ...やっぱりお前は凄かったぜギャスパー。



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第80話。 魅せます、ヴァーリ!

 ゲオルグもどうなったかはわからないが、消えて後はジャンヌのみと言った所で後ろから声が聞こえた。

 

「あらら、ヘラクレスがやられてしまったようね。ゲオルグも...?これはまいったわ」

 

 そこに居たのは全身ボロボロのジャンヌだった。小さな男の子を抱えて人質にしている。

 

「待てジャンヌ!」

 

「卑怯よ!子供を人質に取るなんて!」

 

「...やられましたわね。まさか、あんな所に逃げ遅れた親子がいたなんて...」

 

 ゼノヴィア、イリナ、朱乃さんが合流してきた。

 大きな怪我は見られないし、大方ボコボコにしてた所で子供を人質に拐って逃げてきたのだろう。

 

「卑怯だな」

 

 サイラオーグさんが呟いた。

 

「悪魔が言うものではないんじゃないかしら?ま、義理に厚そうな貴方なら言うのかもね。とりあえず曹操を呼ばせて貰うわ。貴方達、強すぎるのよ。私が逃げの一手になるなんてね。てなわけで、この子は曹操が来るまでの間の人質よ」

 

 人質の子供は必死で涙を堪えていた。

 まずい...ジャンヌが気を取られるような何かをしなければあの子供は救出できないだろうな...

 

 などと考えていると、ジャンヌの背後から黒炎が飛び込み、子供に当たらないようにジャンヌの上半身だけを包み込んだ!

 

「ぐぅぅぅ...!!」

 

 ジャンヌはたまらず身動ぎする。子供を手放した!

 

「木場!!!」

 

「わかってるよ!」

 

 木場は一瞬で子供の元に走りだし、辛うじて攻撃してきたジャンヌの剣をしっかりといなして戻ってきた。

 

「やっぱりあのまま退場なんて出来なかったからなぁ!戻ってきて大正解だったぜ!」

 

「匙!!最高のタイミングだぜ!!」

 

「このっ!!」

 

 ジャンヌは黒炎を聖剣の力で消し飛ばそうとするが、黒炎はジャンヌを絶対に離さなかった。

 

「逃がすわけねぇだろ!」

 

 匙がより一層炎の力を高める。

 ジャンヌが注射器を取り出そうとするも、匙の黒炎は注射器とその中身を燃やし尽くす。

 ...流石はヴリトラの炎だな。

 

 やがてジャンヌは動けなくなった。

 

「匙!最高のタイミングだったな!正にヒーローって感じだ!ってかかっこよすぎだろお前!!」

 

「よせよ兵藤、柄じゃねぇっての!」

 

 匙は少し恥ずかしそうにしていた。

 

「お兄ちゃんが助けてくれたんだよね...?ありがとう!黒い炎かっこよかった!」

 

 人質になった子供が匙にお礼を言う。

 匙は嬉しそうに子供の頭を撫でた。

 

 といった所で匙に通信が入ったようだ。

 滅茶苦茶頭を下げて謝っている。

 ...多分会長の言うことを聞かずに飛び出しちゃったんだろうな...

 最後には嬉しそうに一回ありがとうございます!って言ってたし誉められたんだろうけど。

 良かったな匙。

 

「匙君。本当に助かったわ...貴方がいなければあの子を救えなかったかもしれない」

 

 部長がお礼を言う。

 

「いえ!たまたま俺が出来たってだけですから!」

 

「匙!まじでかっこよかったぜ!」

 

「痛って...おう!サンキューな!」

 

 匙の背中をバシンと叩いてやった。

 

「....一応、これでこの場の英雄派メンバーは全員撃退したって事でいいのかしら...?」

 

 部長が呟く。

 

「そうだな。よし、この場はここで解散して各自持ち場に戻ろうか」

 

 サイラオーグさんがそう言った瞬間、何かがこちらに飛んできた。

 

「やぁ、兵藤一誠、グレモリー眷属。サイラオーグ・バアルにヴリトラも居るのか...なかなかの顔ぶれだ」

 

 曹操がやって来たのだった。

 倒れる仲間を見て、目を細める。

 

「...魔人化(カオス・ブレイク)を打ち倒したと言うのか。兵藤一誠にばかり目を向けていたが、他の眷属も十分...いや、今までの赤龍帝と同じくらい驚異的だな」

 

 次に俺の方を見て来た。気持ち悪い物を見るような視線だ。

 

「崩壊したフィールドに、サマエルの血を持ったシャルバと残ったと聞いていたんだがね。腐っても魔王の血筋、まさかキミに使わずにやられるほどのへまはしないと思うのだが」

 

「あぁ、ちゃんと使われたぜ。右腕に血が入った瞬間に右腕を斬り飛ばしたんだがな、結局毒は回っちまって死にかけた...だがまぁそれでも、アーシアとオーフィスのお陰でこの通りだ」

 

「...アーシア・アルジェント、赤龍帝の逆鱗。常に兵藤一誠の異常な成長の側に居続けた者か...どちらが異常なのか、はたまたどちらも異常なのか...」

 

「さぁな?だがまぁ、アーシアが居る限り俺は死なないし、俺がいる限りアーシアは死なない。きっちり理解しておけよ?」

 

「あぁ、嫌と言うほど理解したとも。それにしても、切り離した右腕はどうしたんだ?聞く限り毒で朽ちたはずなのに、なぜ生えている?」

 

「あぁ...たまたまグレートレッドが通りかかってさ、次元の狭間から俺達を守ってくれた上に、体の一部を分けてくれたんだ。アーシアの治癒の補助によってくっついたグレートレッドの肉とオーフィスの力と、あとついでにオーフィスの蛇で出来てるのがこの腕だ。まぁ今は力を使い果たして動かないんだが」

 

「...ちょっと待ってくれ。なんだって?グレートレッドが通りがかって、保護ついでに体の一部を貰って腕を作り出した...?君は簡単に言ってくれるが、そこにどれだけの奇跡と理不尽と異常があると思っているんだ?」

 

 心底理解出来ない物を見るような顔で俺を見つめる。

 

「つまりなんだ?あのモンスターを消し飛ばしたのはグレートレッドとオーフィスの力だと言うのか...?」

 

「そうだ。グレートレッドとオーフィスの力を解放して全て一撃に注ぎ込んだ。ほんの一欠片と言えども無限と夢幻がとんでもない量込められているからな」

 

「いや、仮にそうだとしても君の肉体が耐えられる訳がないだろうが...」

 

「そこはオーフィスの補助と、アーシアの力でどうにかしたんだよ」

 

「...サマエルの毒からも救出しうる治癒の力か...もう考えるのがバカらしくなるな。うん、君達は理不尽の塊、異常の権現と...そう考える方が楽なのかもしれない。だとすればまさに異形の存在だな、俺が打倒すべき存在筆頭という訳だ」

 

 曹操がそう言った途端に、突然空中に黒いもやが発生して鎌が現れた。やがて道化師にような仮面をした者が全身を顕にする。

 

『先日ぶりですね、皆様』

 

 死神の登場に曹操が嘆息する。

 

「プルート、なぜ貴方がここに?」

 

『ハーデス様のご命令でして。もしオーフィスが出現したら、何がなんでも奪取してこいと』

 

 プルートの視線はオーフィスに注がれる。

 アーシアが抱きしめて、俺がその前に立って視線を遮る。

 

「お前は俺が消してやろう、最上級死神プルート」

 

 俺達と曹操達の間に純白の鎧が降り立った。

 

「これで貸し借りは無しだ。兵藤一誠」

 

「ヴァーリ!」

 

「ホテルでは、不調で戦いきれなかったからな。ハーデスの方に行こうとも考えたが、やはりしてやられた分は英雄派につけを払って貰うべきと考えた...しかしグレモリー眷属が彼らをやってしまったんでね。残った選択肢はお前か曹操だけになる。だがまぁ他人の獲物を狙う趣味はないし...俺の獲物はプルート、お前だけになるな」

 

 ヴァーリが不敵に笑う。

 

『ハーデス様に元にフェンリルを送ったそうですね。先ほど連絡が来ましたよ...忌々しい牽制をいただいたものです』

 

「いざという時の為に得たフェンリルだからな」

 

『各勢力の神との戦いを念頭に置いた危険な考え方です』

 

「あれくらいの交渉材料がないと神仏を正面から相手にする事ができないだろう?」

 

『まぁいいでしょう。真なる魔王の血を受け継ぎ、なおかつ白龍皇でもある貴方と対峙するとは...長く生きてみる物ですね。貴方を倒せば私の魂は至高の頂きに達する事ができそうです』

 

 プルートは構えを取った。

 

「兵藤一誠は歴代所有者を口説き落とし、あるいは洗脳したようだが、俺は違う」

 

 ヴァーリが圧倒的なオーラを纏う。

 

「我目覚めるは、律の絶対を闇に堕とす白龍皇なり」

 

『極めるは天龍の高み』

 

『往くは、白龍の覇道なり!』

 

『我らは、無限を制して夢幻をも喰らう!』

 

「無限の破滅と黎明の夢を穿ちて覇道を往く。我、無垢なる龍の皇帝と成りて」

 

『汝を白銀に幻想と魔道の極致へと従えよう!!!』

 

『Jaggernaut Over Drive!!!』

 

 周囲にあるもの全てを消し飛ばして、尋常じゃないくらいのオーラを撒き散らしている。

 なんちゅう化物だ...俺の守護者のプロモーションより普通に出力が高けぇ...

 

「『白銀の極覇龍(エンピレオ・ジャガーノート・オーバードライブ)』、『覇龍(ジャガーノート・ドライブ)』とは似ているようで違う、俺だけの強化形態。この力、とくとその身に刻め!!」

 

 そう言ったヴァーリにプルートが斬りかかるも、拳でバキリと鎌を破壊されていた。

 

 驚愕するプルートに向けてヴァーリがアッパーをかまし、吹き飛んだ奴に向けて手を掲げる。

 

「圧縮しろ」

 

『Compression Divider!!!』

 

『DevideDevideDevideDevideDevideDevideDevideDevideDevideDevideDevideDevideDevideDevideDevideDevideDevideDevideDevideDevideDevideDevideDevideDevideDevideDevide!!!』

 

 空中でどんどん半分に圧縮されていくプルートが驚愕の声をあげる。

 

『このような力が...!!』

 

「....滅べ」

 

 ヴァーリの言葉を最後に、プルートは完全に消滅してしまった。存在を維持できないほどに圧縮されてしまったのだろう...

 怖すぎる...こんなのがライバルとか冗談じゃないわ...

 

 ヴァーリは肩で息をしていた。ヴァーリですらあれほど消耗するのか...滅茶苦茶燃費悪いですなあれ。

 

「これでも...先の赤龍帝の一撃には叶いそうにないな...」

 

「いやいや、ほとんど龍神の力だから...俺の力なんてコメ粒程度だから...」

 

「だが、放ったのは君だろう...?ならば想定はしないとね」

 

 どれだけ高みを目指していらっしゃるのやら...

 そういえばグレートレッドを倒すのが目標でしたね。

 その観点で言えばあの一撃も越えられないならグレートレッドは無理なのか...

 

「...恐ろしいな二天龍は」

 

 曹操が近づいてきた。

 

「ヴァーリ、あの空間で君に覇龍(ジャガーノート・ドライブ)を使わせなかったのは正解だったようだね...」

 

覇龍(ジャガーノート・ドライブ)は破壊という一点に優れているが、命の危険と暴走が隣り合わせ。今俺が見せた形態はその危険性をできるだけ省いたものだ。しかも覇龍(ジャガーノート・ドライブ)とは違い伸び代がある。曹操、仕留められる時に仕留めなかったのがお前の最大の失点だな」

 

「...さて、どうなんだろうね?じゃあ、どうしようか。俺と遊んでくれるのは兵藤一誠か?それともヴァーリか、もしくはサイラオーグ・バアルか?または全員で来るか?いや、流石に全員は無理だな。その三人を相手にするのは相当な無茶だ」

 

 皆動かない。...皆もわかってくれてるみたいだ。曹操、あいつは俺が倒さなければならない。俺が...赤龍帝が折らなければならない存在だ。

 ヴァーリが俺に近づいてくる。

 

「奴の七宝は全て覚えているな?」

 

「あぁ問題ない。全部ちゃんと覚えてる」

 

『ヴァーリ、少しの間赤龍帝の所に潜っていても良いか?ドライグの奴に呼ばれているんだ』

 

「あぁ...それは構わないが、どうしたんだ?」

 

『私も薄々感じてはいたんだが、二天龍の封印された本来の力が解放されようとしているのだ。恐らく私とドライグ、両方が居ないと封印を解くことが出来ないのだろう』

 

「へぇ...更にパワーアップ出来るわけか」

 

『あぁ、私の力の解放も後で手伝わせる。では行かせて貰うぞ...ぬっ!アーシア教の者が私に近づくな!案内など要らんわ!...このっ!』

 

 アルビオンは俺の宝玉へと移動して深く潜っていった...

 アルビオンも大概騒がしい奴だな...

 

 色々終わったようなので、俺が前に出る。

 

「なにやら喋っていたが、俺の相手は赤龍帝で決まりかな?」

 

「あぁ。そういえばさ、京都での一戦は引き分け扱いか?」

 

「いや、そうだな...一対一という観点で見れば俺の負けと言えるかもな」

 

「そうか。ならお互い一勝一敗ってわけだ。...決着つけようぜ!いい加減お前ら英雄派にはうんざりなんだ!!」

 

「面白い。右腕が使い物にならないようなのは非常に残念だが、今の君ならそれでもなお十分楽しめそうだ...!」

 

「イッセーさん!...私がついて居ますから、安心して頑張って下さい!」

 

「あぁ!アーシアが一緒ならどこまでも頑張れるぜ!!」

 

 アーシアが俺に軽くキスをする。

 それと一緒にアーシアが俺のプロモーションを許可したのを感じた。

 滅茶苦茶やる気出てきた!!

 

「ありがとうアーシア!...よっしゃ!!ぶちかましてやるぜ曹操!!」

 

「来い!!兵藤一誠!!」

 

 すぐに禁手化(バランス・ブレイク)俺は詠唱を始める。

 

「我、目覚めるは愛の律にて理を蹂躙せし赤龍帝なり!」

 

『極点の愛を捧げ、無垢なる愛を纏いて、ただ平穏を望まん』

 

「我、仇なす一切に滅尽をもたらす者。唯一絶対たる我が聖女の守護者と成りて!」

 

「「「「汝を我等が安寧の礎へと沈めよう!!」」」」

 

『Blondy Bursted Full Drive!!!』

 

「聖女守護せし山吹の赤龍帝(ブロンディ・ウェルシュガーディアン・プロモーション)!!」

 

 全身を金色の鎧が包み込み、守護者としてのプロモーションが完成する。

 紅蓮のオーラが立ち上ぼっていく。

 

 俺の変身を見て、曹操も禁手化(バランス・ブレイク)したようだ。

 輪後光と七宝を出現させる。

 

 俺達は一度間合いを取って、どちらからともなく飛び出した。



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第81話。 決着です、曹操!

 曹操は早速球体を一つ動かした。

 

象宝(ハッテイラタナ)

 

 足元に球体を置くと、宙に浮かびだした。

 俺も背中のブースターを爆ぜさせて飛び立つ。

 あっという間に元居た場所から離れてしまった。

 

「ここなら邪魔も入らないだろう。さぁ存分にやろうか...!!」

 

居士宝(ガハパティラタナ)

 

 球体が弾けて、複数の人型の光が現れた。

 俺は背中のファンネルをソードビットのように扱って全て消し飛ばした。

 しかしその頃には曹操が何処かに消えてしまった。

 目眩ましか...

 

 どこだ...?

 

 横に何かを感じた。避けようとするが、槍が横腹へと潜り込んでくる。

 しかし、ギャリギャリと音を立てて逸れてしまった。

 俺はすかさず殴りかかるが、再び消えてしまった。

 

「くっそ!!」

 

 今度は背中の方だ!俺は背中からファンネルを発射しながら振り向いた。

 曹操が2つほどファンネルを斬り弾いていた。

 俺は他のファンネルを曹操に向けて、砲撃を放つ!

 

「放て!!!」

 

 四本ほどが様々な方向から曹操を狙い打つ。

 

珠宝(マニラタナ)

 

 曹操は飛び避けながら元居た場所に球体を残し、それが俺のビームを吸い込む。

 その間に再び背中を爆ぜさせて、今度は肘も爆ぜさせる。

 超速度で殴りかかかるが...

 

馬宝(アッサラタナ)

 

 曹操は転移したようで、曹操には当たる事なく地面に衝突して、ビルが崩れ去る。

 すぐに起き上がると、先ほど俺が撃った砲撃が襲いかかり、直撃する。

 しかし特にダメージは負わなかった。

 

 曹操が俺の元に降りてきた。

 

「末恐ろしいな...ギリギリ反応出きるか否かの超スピードによる突進や拳に...恐らく真正面から槍で突き刺しても刺さるかどうか怪しい黄金の鎧...一部だけの時とは桁違いに防御力が上がった癖にそれが全身を包んでいるってんだから...」

 

「お前は京都の時からしっかり反応しておいてそればっかりだな...」

 

「そりゃ当たれば終わりなんだから当たらないさ。...君こそ、先ほどの砲撃はきちんと当てたつもりだったんだけど、あまりダメージがないようだね?」

 

「そりゃあお前がそういう力持ってるのは知ってるんだ。俺に被害がなくてお前が当たれば致命傷くらいに威力を調節してるに決まってんだろ」

 

「そりゃそうか...それじゃああれはあんまり旨味がないな...」

 

 曹操は槍をくるくると回す。

 

「さて、戦闘再開だ」

 

将軍宝(パリナーヤカラタナ)

 

 曹操は俺の死角に現れると、今度は破壊力重視の球体を俺の横腹にぶつけた。右側なので、反応できても腕を挟めなかった!

 

「ぐはっっっっ!!!」

 

 鎧が砕かれて、中身にまで衝撃が届いた。

 血反吐を吐き出す。

 

「流石にこれなら効くようだね!!」

 

 吹き飛んでいる俺の元に飛び込んで来て、バキバキに崩れた俺の脇腹に槍を刺そうとする。俺は背中のブースターを爆ぜさせて逃げようとするが、目の前に転移させられた。

 槍がヒビの部分に突き刺さる。

 とはいえブースターを起動した所での転移だったので、俺の腹をある程度抉った所で俺は飛び出して致命的な攻撃にはならなかった。

 曹操が更に槍からオーラを放出させて、追撃をかける。

 俺はその前にドラゴンショットをぶつけてある程度威力を相殺する。

 とはいえ、負けてしまいオーラをまともに食らってしまった。

 じくじくと身体中が痛む...

 

「相変わらずの反応速度だ...それだけの固さでその反応をされるとたまったもんじゃないな...!」

 

「ぐうっ....木場を相手に速度とテクニック持ってる奴と戦う訓練しまくってるからな...嫌でも反応は速くなったよ!」

 

 はるか遠方からアーシアの回復が矢の形で飛んで来る。こんな事出来たっけ...?滅茶苦茶助かるし今はいいか...流石はアーシア、離れてたって一緒に戦ってくれるぜ!

 傷がだんだん治り、オーラも回復する。

 何故かアーシアの回復がいつも以上にスムーズに体に染み込むな...

 龍神の腕云々の件で俺の体が更にアーシアのオーラを吸収しやすいように変化したのかもしれない。

 なんかもうあの時は無茶苦茶だったもんな...何があってもおかしくない。

 

「...傷とオーラを同時に回復してしまうんだから嫌になるな...その固さでそれをされると、いずれはごり押しされてしまうかな?」

 

「アーシアはやらせねぇぞ...?」

 

「わかってるよ。どの道ここから彼女の力を封じようにも女宝(イッティラタナ)は届かない」

 

 曹操は聖槍に恐ろしいほどのオーラを充填すると、再び俺を目の前に転移させた。

 

「はああああああ!!!」

 

 目の前で大出力のオーラが放出される。

 

「ぬぁぁああああ!!!」

 

 俺はそれを真正面から受け止めて、途中で横に逃げた。

 身体中から煙が上がる...ある程度は鎧が防ぐが、いくらかのオーラが鎧を通過して入り込むのだ...

 

「....ぐっっ!!」

 

「流石に全力の聖槍のオーラは通ってくれるか...ちょっと不味いな...将軍宝(パリナーヤカラタナ)とオーラの解放しかダメージが通ってないだなんて」

 

「俺の攻撃も全部通ってないからお互い様だろ...」

 

「いやいやこっちは冷や冷や物だよ...一発受ければ10回は死んでしまいそうだ」

 

「一発くらい当たってから言ってくれねぇかな!!」

 

 俺は背中を爆ぜさせて、再び曹操に殴りかかる。

 曹操は転移で回避する。全然当たってくれねぇ!!

 それを何度か繰り返すと、曹操が聖槍のオーラを解放して攻撃するが、今度はきちんと反応できてブースターを爆ぜさせて避けきれた。

 互いに決定打がないまま攻撃し続ける...

 

「...ダメだな。このままでは俺が負けてしまいかねない...スタミナ切れや蓄積ダメージを狙った長期戦はアーシア・アルジェントの力で意味を成さずにむしろこちらが消耗していく一方だ...バカップルが二人揃うと、もはや脅威度だけで言えばヴァーリと同等かそれ以上だな...まぁ先の形態まで出てくるとまた話は変わってくるが...」

 

「そりゃどう...も!!」

 

 俺は再び殴りかかるが避けられる。あんなこと言ってるけどこっちも決定打がないし、流石にそろそろ体力も限界なんだが!!

 ただしそれがバレると普通に長期戦でなぶり殺されるので、フルスロットルで戦うしかない...

 のだが、曹操は後ろに下がると構えを解いた。

 

「これ以上は集中が切れて攻撃が当たりかねないか...結局禁手化(バランス・ブレイク)でも勝ちきれなかったな...右腕が使えないハンデありでこうなるとはね...流石は歴代で最も異常な赤龍帝だ。使いたくなかったが、今回は素直に敗北を認めよう......君に見せるのはこれで二度目だな。『覇輝(トゥルース・イデア)』を使わせて貰う」

 

「なっ!!」

 

 俺はそれを聞いた瞬間から懸命に飛びかかって少しでも妨害しようとするが、ぴょんぴょん転移しまくって全て避けられる。

 

「槍よ、神を射貫く真なる聖槍よ。我が内に眠る覇王の理想を吸い上げ、祝福と滅びの狭間を抉れ...。汝よ、遺志を語りて、輝きと化せ...!!」

 

 光が周囲を包み込み、俺の体から力がどんどん抜けていく...!!

 

「くそっっ!!何だこれは...!!」

 

 黄金の鎧が解除され、ただの禁手化(バランス・ブレイカー)になってしまう....が、それだけだった。

 

 光が止む...

 

 ...いや、違う...アーシニウムエネルギーが俺の体内から消失している!!!

 アーシアのオーラが俺に当たるが、傷もオーラも一切回復しない。

 

「俺から今この瞬間だけ、アーシアに関連する力を全て剥奪したのか...!!」

 

 機能は変わらず存在しているが、一切動かない感覚を感じる。

 

『教祖様!我々の祈りも...!』

 

 ....そういう事か...神の遺志とやらは、最後の最後で俺一人で戦う事を望んだ訳だ...

 今までずっとアーシアに頼りまくっていた。

 ここに来てそのツケを払えと...そういう訳か...?

 

「何っ!なぜ俺の禁手化(バランス・ブレイカー)が使用できなくなっているんだ!!」

 

 曹操が叫ぶ。なんだって?禁手化(バランス・ブレイカー)が使用できない...?

 まさか...俺と曹操を同じ土俵に立たせたって事か?

 俺の夢とあいつの野望、どちらを優先するか決めあぐねた...?

 

「なるほどな...曹操!神の遺志とやらはここで俺の夢とお前の野望、どっちが上かはっきり決めてみせろってよ!」

 

「どうやらそのようだ...かたや手負いのただの赤龍帝、かたや聖槍と英雄の魂を持つだけのただの人間...ククク...面白い!ここで龍を討ち果たしてこそ英雄だ!それこそが俺の野望の実現!!」

 

「俺はアーシアと幸せに平穏に暮らすんだ!!その邪魔をするならば!例え聖槍を持っていようがなんだろうが!!英雄だろうと化物だろうと関係ない!全部捩じ伏せてやるよ!!!」

 

『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost!!!』

 

 俺と曹操はぶつかり合う!

 

 俺が殴りかかると、曹操はそれを槍でいなしてカウンターを放つ。

 俺はそれを辛うじて避けて逆にカウンターで蹴りをいれる。

 曹操はそれすらも槍でいなして槍を突き刺そうとする。

 俺は右腕を軽く抉られながら殴りかかる。

 槍を消して戻してといった感じで俺の拳に対処する。

 

 インファイトで曹操と俺は互いを攻撃し合う...!

 ...くっそ!分が悪い!!じわじわと俺の体が槍で削られていく...!右腕が使えないのが痛すぎる...!!

 少しづつ聖のオーラが体を蝕む...!!

 

 俺はドラゴンショットを暴発させて、後ろに下がる。

 曹操は槍のオーラで爆発を消し飛ばしたようだ。

 すぐに全力で倍化をかけて、俺の腹の中の火種に譲渡する。

 

『Transfer!!』

 

 大火力のブレスを吐き出す...!

 曹操が聖のオーラを解放して、ブレスとオーラはぶつかり合い衝撃波を撒き散らしながら消滅した。

 

「流石はドラゴンだな!ブレスもお手の物か!!...だが、俺の槍の前には届かなかったようだ!」

 

「言うわりに槍からのプレッシャーが落ちて来てるぜ!!!聖槍のオーラ使いすぎてガス欠近いんじゃないのか!?」

 

「どうだろう...ねっ!!」

 

 曹操はこちらに突撃する。二度突きを避けたが、三度目で右肩に刺さってしまう...!

 そのまま吹き飛んだ。

 

「がぁぁぁああ!!!」

 

 痛い痛い痛い痛い痛い!!!

 ここで初めて思い知った。俺はアーシニウムエネルギーで聖のオーラを緩和させていたのだと、これこそが本来の聖のオーラの...聖槍の威力!!

 理屈じゃない痛みが身体中を蝕む...!!

 

 だが...!!

 

「そんなもんで止まるかぁぁ!!!」

 

 俺の渾身の飛び蹴りで曹操はたまらず吹き飛んだ!

 

「ぐはぁっ!!」

 

 吹き飛んで転がる曹操に向けてドラゴンショットを放つ!

 

「ぐぅ!!」

 

 曹操は地面に槍を刺して器用に転がる力を利用しながら横に避けた。

 更に曹操に追い討ちをかけるが...

 

「舐めるな!!」

 

 聖槍のオーラを俺の足元に射出してきた。

 背中のブースターを噴かせて辛うじて回避するが、空中で無防備になってしまう。

 曹操が槍を投げて、俺の腹に突き刺さった。

 

「がはっ!!!」

 

 俺は着地出来ずに転がってしまう...

 

「げほっ...!!」

 

 曹操はすぐに槍を消して手元に戻した。

 俺の口と腹から血が漏れだす...

 

「致命傷だ。俺の勝ちだな兵藤一誠」

 

 曹操が俺に槍を向ける。

 俺はよろよろと立ち上がる。

 

「へっ...腹に大怪我してから...勝つことに定評があるんだよ俺は...」

 

「そんな体で何が出来ると言うんだ?大人しく倒れるがいいさ」

 

「そりゃあできない相談だ...俺は俺の夢の為に負けねぇ...」

 

「...そうだな。ならば止めを刺してやろう」

 

「やっ...ってみな!」

 

『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost!!!』

 

 俺は残りの全てをかけた倍化をする。

 

「はぁ...あぁ...くっ...」

 

 身体中を激痛が蝕み、血が鎧の中でたまって関節部分から漏れだす...

 俺は駆け出して、拳を握りしめる。

 

 ...曹操はこれが俺の最後の一撃だとわかっているようだ。

 軽くいなしてカウンターで最後の一撃を放つつもりなんだろう...

 

「おらぁっっ!!!」

 

 俺が曹操の腹に拳を叩き込もうとした瞬間に、神器(セイクリッド・ギア)からドライグの声が聞こえた。

 

『Penetrate!!』

 

 曹操の聖槍に拳が当たった瞬間に、インパクトが何処かへ消える感覚がした。

 

「ごはっっっっっっっ!!!」

 

 曹操が体を思いっきりくの字に曲げて、血を吹き出した。

 

「がっ...何故...」

 

『相棒!!どうやら間に合ったようだな!!見たか!あれが俺本来の力!透過だ!!』

 

 あぁ...すっげぇ力だな。

 結局今日一発も当てられなかったのに、簡単に一撃ぶちこめちまった...

 

「うぐっ...」

 

 俺は膝をつく。

 

『相棒!しっかりしろ!すぐにアーシア・アルジェントが来る!』

 

 あぁ...ってか、アーシアの事...名前で呼んだの初めてじゃないか?

 

『あ?...そうかもしれんが...それどころではなかろう!』

 

 いや...大事な事だ...ドライグが俺のせいでアーシアの事苦手だったのは知ってたからさ...

 

『それは事実だが...あの娘には相棒が何度も世話になっているし、俺も少し意固地になっていただけだ。とっくに認めていたとも』

 

 そっか...なんか嬉しいや...

 ...よし...限界と思った所からもう一発撃てるのが俺の良い所だと思うんだ...

 

 俺はふらふら立ち上がる。

 倒れ、のたうち回ってもがく曹操に近づいていく。

 

「がはっ...!こんな事...!なにが...!!」

 

「今のは...ウェルシュドラゴン、ドライグの本来の力だ...最後の最後で...俺が賭けに勝ったな...」

 

「新技だと...げほっ!!...くっそ...アーシア・アルジェント...なくしても...お前は...」

 

「いや...アーシアはずっとそばにいたさ...例え力が封じられたって、アーシアの為なら俺は何処までも飛んでいける...」

 

「ごぷ...くそ...倒したかったん...だけどな...」

 

「あぁ....俺の勝ちだ...じゃあな。...二度と、俺とアーシアの前に...敵として現れるんじゃねぇぞ...」

 

 俺は曹操の腹にもう一発拳をぶちこんだ。

 曹操は血を吐いて完全に気絶する。

 俺も後ろに倒れるこんだ...

 

 あ──...血、流しすぎ...

 アーシア...来てくれないかな...

 

「イッセーさ──ん!!!」

 

 愛おしい声が聞こえる。

 ほんと...最高のタイミングで来てくれるな...

 流石は俺のアーシア...

 

「イッセーさん!!急いで治療します!!」

 

 悪魔の翼で飛んで来たアーシアが回復をかけてくれる。

 ...今までの痛みが嘘のように傷が治っていく。

 しばらくすれば全回復してしまった。

 

「ありがとうアーシア...さっきまでの痛みが嘘のようだ」

 

「イッセーさんが無事でよかったです!」

 

 アーシアが抱きしめてくれる。

 無事...?アーシアさんや、あの傷のどこが無事だと言うんですかい?

 でも嬉しい...好き...

 

 やがて、皆も集まってきた。

 

「...曹操では赤龍帝を倒しきれなかったか。まぁ当然だな。やはり黄金となった赤龍帝を倒せる権利を持つのは俺だけのようだ」

 

 ヴァーリが話しかける。

 

「いや結構ギリギリでしたけど...」

 

『ヴァーリ!!良く来た!!さぁ速く私の元に来いドライグ!アーシア教本拠地はもうこりごりだ!こっちで私の封印も解いてくれ!』

 

『そんな言い方はないだろうが...』

 

 ドライグとアルビオンが俺の神器(セイクリッド・ギア)からヴァーリの方に飛んでいった。

 騒がしいドラゴン共だ...

 

「...曹操...」

 

 ぼそりと声が聞こえたので、そちらを向くと身体中を黒く変色させたゲオルグがふらふらと立っていた。

 

「...俺達の負けだ。...二天龍に...黄金バカップルに関わるべきではなかった...」

 

 サイラオーグさんや木場がゲオルグに襲いかかるが、一歩遅く、転移されてしまった。

 後バカップル言うな。

 

 まぁ良いだろう。どうせ帝釈天がどうにかするだろうし。

 

 ヴァーリが俺の方を向く。

 

「キミとも決着をつけないとね。グレートレッドに挑戦する前の良いテストになるはずだ...」

 

「あ?勘弁してくれよ...」

 

「そうもいかない。アルビオンも楽しみにしているんでな。ただまぁ、その腕が治るまではお預けになるだろうね。やるなら君が完全に復調してからだ」

 

 一生治さないでいようかな...

 いやでもアーシアを両の手で抱きしめたいし速く治したい...すぐには無理だったな...ちょっと悲しい。

 

「ヴァーリ、皆こちらに来ています。予定どおり一暴れしてきました」

 

 声の方を見るとアーサーが居た。

 

「そうか、すまんな」

 

 ヴァーリが踵を返して去っていく。

 

「木場祐斗。私が探し求めていた聖王剣コールブランドの相手として、貴方が一番ふさわしい剣士のようです。ヴァーリと兵藤一誠が決着をつけるとき、私もあなたとの戦いを望みましょう。それまではお互い、無病息災を願いたいものですね」

 

 アーサーがそう言い残して去っていった。

 木場も好敵手の登場にニヤリと笑っている。

 

「さて、俺も眷属を待たせているのでな。そろそろおいとまさせて貰おうか」

 

「サイラオーグさん、ありがとうございました!」

 

 俺の声にサイラオーグさんが手をあげると、何処かへ飛んでいってしまった。

 

「イッセー...戦うなと言ったのに貴方は全く...でも、曹操を倒すなんて流石だわ。頑張ったわね」

 

 部長が声をかけてくれる。

 

「アーシアのお陰ですよ」

 

「そうね。貴方達二人は冥界の英雄だわ。人知れず冥界を守ったカップルだなんてちょっとした作品になりそうね」

 

「勘弁してください...あの、皆...少しの間、アーシアと二人きりにしてくれないか?」

 

「...?別に良いがどうしてだ?」

 

 ゼノヴィアが尋ねてくる。

 

「はいはい、いいから邪魔者は何処かへ行きましょう!...頑張りなさいイッセー」

 

「はい!」

 

 部長は皆を押して何処かへ行ってくれた。

 

「あの...イッセーさん、どうしたんですか?」

 

 アーシアが不思議そうに尋ねてくる。

 俺は、この戦いが終わったら絶対にしようと思ってた事がある。

 

 ...うぐっ...大丈夫だってわかってるのに緊張してきた...

 でも...やるしかない!!

 

「なぁ、アーシア...」

 

「はい?」

 

「俺達、なんだかんだ付き合い始めてから半年以上経つんだな」

 

「...そうですね。長かったような短かったような...」

 

「ほんとだよな...俺的には滅茶苦茶長かったよ。...色々あったな」

 

「はい...部長さんの結婚騒動に、聖剣に、他にも色々ありました」

 

「大変だったよな!...それで...その...さ」

 

 あああ頭真っ白になってきた...!

 折角セリフも考えて来てたのに!全然思い出せない!!

 

「イッセーさん...大丈夫ですよ?」

 

 アーシアが俺の手を握ってくれる。

 アーシアの顔が少し赤い、目にちょっと涙が浮かんでいる。

 バレバレだな...そりゃそうか。俺がアーシアが何考えてるのか大体わかるように、アーシアだって俺が何考えてるかくらいお見通しだよな。

 うぐ...ちょっと情けないけど、アーシアのお陰でだいぶ落ち着いてきた...

 

「ありがとう...よし!まどろっこしいのは無しだ!似合わない事するんじゃなかった!」

 

 俺は懐から魔方陣を取り出して、その魔方陣から小さな箱を召喚する。

 

「改めて...ずっと俺と一緒に居てくれ!必ず幸せにしてみせる!...アーシア...俺と結婚して下さい!!」

 

 箱を開いてアーシアに手渡す。

 中には指輪が入っている。

 

「...ぐす...イッセーさん...はい、末永くよろしくお願いします!」

 

 アーシアは箱を大事そうに胸に抱き、これ以上ないくらい幸せそうな笑顔でそう答えてくれた。

 ....嬉しい。

 ちゃんと受け取ってくれた。

 ...やべぇ...すっげぇ嬉しい...そわそわしてしまう...

 

「その...アーシア...指輪、はめていいか?」

 

「はい!お願いします...!」

 

 俺はアーシアに左手を上げてもらい、指輪を取り出した。

 ...大丈夫。サイズはアーシアが寝てる時にちゃんと図った。

 すぅっとアーシアの薬指を指輪が滑っていき、付け根の辺りできちんと止まってくれた。

 

 アーシアは左手を顔の前に持っていって、指輪を見つめている。

 う...部長に頼んで冥界のいいお店を紹介してもらって、めちゃくちゃ一生懸命選んだんだけど...気に入って貰えただろうか...

 

「...とっても綺麗ですね...イッセーさん...私、ずっと楽しみにしてたんです。イッセーさんからのプロポーズ...すごく...すごく...」

 

 アーシアの目から大粒の涙がポロポロとこぼれていく。

 

「そっか...ありがとう...」

 

「こんなに幸せな事だったんですね...とっても...嬉しいです!!...イッセーさん!愛してます!!」

 

 アーシアが俺にキスをする。

 俺もアーシアを抱き返して、長く長くキスをする。

 アーシアと知り合ってから幸せの最高記録が更新されっぱなしだ!!

 今までの人生で今が一番幸福だと断言できる!!

 

 それからしばらく、ようやく落ち着いた俺達は皆の所に戻ろうとしたのだが...

 

「あ」

 

 すぐそばの瓦礫に皆が隠れていた。

 

「アーシアぁ!良かったなぁぁぁ!!」

 

「アーシアさん!おめでとう!!」

 

 イリナとゼノヴィアがアーシアを抱きしめている。

 

「はい!ありがとうございます!」

 

 アーシアも嬉しそうだ。良かった...アーシアにとって良い思い出になってくれたかな?

 

「おめでとうイッセー君。...うん、すごく良かったよ」

 

 木場が話しかけてくる。

 

「おめでとうございますぅぅぅ!!」

 

 ギャスパーが叫ぶ。起きてたのかギャスパー...

 

「ありがとう。なんとか上手くいってくれて良かったよ」

 

「さて、先ほど全ての豪獣鬼(バンダースナッチ)が討伐されたと聞いたわ!イッセーとアーシアの婚約も無事成功した事だし、お祝いしないとね!」

 

 部長が楽しそうに言う。...部長にはお世話になったからな。

 

「あの...部長、ありがとうございました!」

 

「貴方が頑張ったんでしょう?私の助力なんてほとんど」

 

「いえ...俺とアーシアを巡り合わせてくれて、眷属にしてくれて...こうしてプロポーズできるようになったのも、部長のお陰です。だから、ありがとうございました!」

 

「あっ、ありがとうございました!」

 

 アーシアも俺に合わせて頭を下げる。

 

「...何よ、そんな事言われたら調子狂っちゃうじゃない...まぁそうね、貴方達にそう言われると結構嬉しいものね...」

 

 部長は珍しく照れていた。

 

「あぁもう!湿っぽいのは無し!盛大にお祝いするわよ!皆!!」

 

『はい!』

 

 こうして英雄派との戦い、及び俺のプロポーズは無事終了した。

 本当に良かった...!

 これで...正式にアーシアは俺の婚約者...婚約者ってこんなに素晴らしい響きなんですね...幸せだ...!!



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最終話。 アーシアしか、勝たん!

これで最終話となります!
まぁ色々と書きたい事は後書きに書かせていただきますので、最後までお楽しみいただければ幸いです!


「つーわけで俺、総督クビになったわ!」

 

 あくる日、グレモリーハウスにて、アザゼル先生が俺達にグレゴリの総督を更迭された事を明かした。

 俺達はリビングで先生の話を聞く。

 オーフィスは俺の膝の上に座っている。

 オーフィス的には基本アーシアの方が好きなようだが、3日に1回くらい俺が良い日があるらしい。良くわからん。

 オーフィスは俺の家で住んでいる。

 母は新たな可愛い子(しかも手がかかるので世話のしがいもある)が現れて喜んでいる。

 オーフィスも母に構われるのは満更でもないらしい。

 寝る時は、俺とアーシアの間に挟まろうとする日もあれば、アーシアの部屋に一人で行く日も、俺の部屋のクローゼットに入る日も、はたまた台所の端でうずくまっている時もある。本当によくわからない。

 アーシアは俺の隣で、俺の右手を握っていた。左手には俺が渡した婚約指輪が光っている。

 ...何回見ても素晴らしい...あれが俺とアーシアの婚約の証...ぎゅっと握り返したいが、あいにく右腕は死んでいる。残念...

 両親には申し訳ないけど、部長の魔力で俺の右手について違和感を持たないようにして貰った。

 

「まぁー、うるせぇ連中に黙ってオーフィスをここに引き連れて来たんだから、当然だわな」

 

「じゃあ今はどういう役職なの?」

 

 部長が尋ねる。

 

「三大勢力の重要拠点のひとつであるこの地域の監督ってところか。グレゴリでの役割は特別技術顧問だな」

 

「....総督から監督」

 

 小猫ちゃんが呟いた。

 

「ま、そういう事だ。グレゴリの総督はシェムハザがなったよ。副総督はバラキエル。あー、さっぱりした!ああいう堅苦しい役職はあいつらみてぇな頭の堅い連中がお似合いだ。俺はこれで自分の趣味に没頭できる」

 

 先生はとても悪そうな笑みを浮かべる。

 絶対くだらない事考えてるな...

 

「おっとそうだった。先日の中級悪魔試験なんだが、先ほど合否が発表されたぜ。お忙しいサーゼクスの代わりに俺が結果を発表してやろう」

 

「まずは木場。合格!おめでとう、今日から中級悪魔だ。正式な授与は後日連絡があるだろう」

 

「ありがとうございます。謹んでお受け致します」

 

「次に朱乃。お前も合格だ。一足先にバラキエルに話したんだが、伝えた瞬間に男泣きしてたぞ」

 

「...お父様ったら...アザゼルも勝手な事をして....ありがとうございますわ、お受け致します」

 

 朱乃さんは少しぶっきらぼうな感じで答えた。

 珍しいな、ああいう朱乃さんは...

 

「最後にイッセー!」

 

「はい...」

 

 あまり自信がない...

 

「...お前も合格だとよ。おめでとさん」

 

「ま...まじですか?」

 

「マジマジ。嘘つく意味あるか?」

 

「イッセーさん!おめでとうございます!!いっぱい頑張ってましたもんね!」

 

 アーシアが俺を抱きしめてくれる。

 

「ありがとうアーシア!!」

 

 アーシアに誉められただけで頑張ったかいがあったぜ!

 

 皆も祝ってくれる。ロスヴァイセさんはほっとしたような顔をしている。心配おかけしました。

 ここしばらくでロスヴァイセさんの株が俺の中でかなり上がってるぜ...

 是非幸せになってくれ...!誰か!!もらってあげて!!

 

「というか、イッセーとアーシア!お前ら上層部ではかなり話題になってるらしいぞ?現魔王派の対立派閥なんかは、お前らを怖がってるらしいぜ」

 

「なんでですか?」

 

「そりゃお前、あの超獣鬼(ジャバウォック)をアジュカの対抗術式無しで吹き飛ばした化物中の化物だぜ?下手に敵対してあれ撃たれたらってビビってんだよ」

 

「あれはグレートレッドとオーフィスの力だと...」

 

「まぁオーフィスの事は言えねぇからな。グレートレッドの力を借りた黄金バカップルの攻撃って事になってる。だがあの場にはグレートレッドが居なかったんだから、まぁ色々と邪推してまたあれを撃ちそうだとビビってんだよ」

 

「なるほど...」

 

 一般の冥界の住民達には、ルシファー眷属が討伐したという報道しか流れておらず、俺の関与は秘匿されている。

 非常にありがたい。

 まぁ上層部に知られてるならぶっちゃけ意味ないのかも知れないが、少しは変な干渉は減ると信じたい...

 ルシファー眷属より強いとかいう嘘が流れたらプチっと潰されかねん。

 

「そうだ、イッセー。後でお前の体、...後ついでにアーシアの体も、診断させてくれ。前回はイッセーだけだったが、ちょっと妙な結果が出てな...腕の事もある。頼んだぞ」

 

「はい」「はい!」

 

 ちなみに英雄派は主要メンバーが全滅したので今は全く動いていないらしい。

 ヘラクレスとジャンヌは捕縛されているので、尋問等で拠点を発見次第、強襲をかけるそうだ。

 

 アザゼル先生曰く、もう十分戦果を上げてくれているし、後は俺達大人に任せておけとの事だ。

 正直助かる。しばらくは休憩させて貰いたい。

 折角アーシアと婚約もしたことだしな...

 俺は異世界の神と接触していないし、憑依や前世の世界についてもアーシア以外には話していない。ついでにおっぱいドラゴンでもないし、クリフォトの出現フラグは折れていると思うのだが...

 まぁ現れたら戦うしかないな...

 右腕無しでやれるのか知らないけど。

 

 ────────────────────────

 

 次の日、俺とアーシアはグレゴリで検査を受けていた。ちなみにオーフィスも一緒である。俺の腕に関しちゃオーフィスのが詳しいからな。

 現在のオーフィスは力を多重に封印され、少し強い程度のドラゴンにまで格を堕とされている。

 まぁそれでも充分すぎるほどに強いんだが...

 

「やはりか...」

 

 結果の紙を見て、アザゼル先生が呟く。

 

「オーフィス。お前、イッセーとアーシアをどうするつもりだ?」

 

 アザゼル先生がオーフィスを睨む。

 

「どういう事ですか?何か結果にまずい点でもあったんですか?」

 

「いんや、少なくとも命の危険だとかそういう事じゃあない。だがなぁお前の体内で夢幻の力の方が活発になってるんだよ。今は微弱だからいいが、いずれはお前の中の無限が夢幻に食いつくされて、お前の体は夢幻一色になりかねない」

 

「そ...そうなんですか...?」

 

「そうなんだ。んでよ、オーフィスがそれを放置してるのはちょっとおかしいと思ってな、今日オーフィスとついでにアーシアを呼んだ。...アーシア、お前の中に無限と龍の力が混じっているな。...お前何をしている?いや...何をされている?」

 

「えっと...その...オーフィスさんの...血を少し飲んでます...」

 

「えぇ!!アーシア!聞いてないぞ!」

 

 なんだそれ!!龍神の血とか絶対やばいじゃん!!

 

「すみません...オーフィスさんにしばらく秘密って...」

 

 衝撃だぜ!!というか相談してくれなかったのちょっと悲しい。いや!夫婦や恋人と言えども秘密くらいあって当然だな!受け入れろ俺!第一俺も隠し事あるし。

 

「さてオーフィス、説明してくれるな...?」

 

「....わかった」

 

 オーフィスがこくりとうなずく...

 いったいどういうつもりなんだ...?

 

「我、イッセーとアーシアを新しい龍神にする」

 

「...は?」「...へ?」

 

 俺と先生がすっとんきょうな声をあげる。

 

「イッセーだけでは届かない。アーシアだけでも届かない。でも、二人なら届き得る可能性がある」

 

 全くついていけてないんですが...

 

「...詳しく説明してくれ」

 

 アザゼル先生が怖い顔をしてオーフィスに詰め寄る。

 

「あの...私がいけなかったんです!」

 

 アーシアが割り込むが...

 

「アーシア、俺はオーフィスに聞いているんだ。控えてろ」

 

 先生はアーシアを黙らせる。

 

「...!?」

 

「先生、アーシアを怖がらせないで下さい!」

 

 俺はびっくりしているアーシアを抱きしめる。血を飲んでるなんてびっくりしたけど、アーシアなりの考えがあるはずだ...!そんなに怒らないでも!!

 

「...悪かったアーシア...オーフィス、続けてくれ」

 

 アザゼル先生が少しプレッシャーを落とした。

 

「イッセーのアーシニウムエネルギー、夢幻と相性がとても良かった。だから、イッセーは夢幻を鍛えるべきと考えた。二対で一つの龍神になるなら、アーシアには無限が必要と考えた。だから我、アーシアに提案した」

 

 ...?まじで良くわからない。とりあえず俺とアーシアを龍神にしたいのはわかったけど...

 

「それはわかったがそれ以前の事だ...なぜ二人を龍神に仕立てあげようとしている?」

 

「イッセーとアーシア、我を家族と言った。我もそれを受け入れた。しかしイッセーとアーシア、たった一万年くらいで死ぬ...そうじゃなくても弱いから戦いで死にかねない。だから我、二人に龍神になってもらいたい。....後、余裕があったらグレートレッドを追い出したい。龍神二匹居れば勝てる」

 

「...つまりなんだ?二人に死んで欲しくないから、龍神の位まで登って欲しいと...?後グレートレッドに関しちゃ勘弁してくれ」

 

「そう。イッセーが夢幻を、アーシアが無限を成して融合すれば、凄まじい力になる。先の戦いで我とグレートレッドのほんの少しの肉片だけでも、合わさればあれだけの力を産み出した。完成した夢幻の赤龍帝と無限の龍巫女ならば、掛け合わせれば龍神に届く」

 

「そりゃまた...とんでもない事を考え出したな...」

 

「アーシアはお前の血を飲んでも問題ないんだよな?というかお前の血を飲んだからってアーシアは龍になれるのか?」

 

「気を付けてる。アーシア失ったら元も子もない。アーシア、既にイッセーとの関わりで龍の因子を身に付けてる。龍にはなれる」

 

「なるほど...」

 

「アーシアはそれを受け入れてるって事だよな?」

 

「はい...イッセーさんと一緒に少しでも強くなってくれるならと...」

 

「グレートレッドの上で話し合って契りを結んだ。イッセーとアーシアに、今まで以上の繋がりを作った。このまま成長すれば、いずれは一時的に合体して龍神相当の力を振るえるようになるはず」

 

「それで妙にアーシアの神器(セイクリッド・ギア)での回復効果が上がってたのか...」

 

「おまけに龍の力まで取り込み始めているから龍への回復の適性が上がったってのもあるだろうな。禁手化(バランス・ブレイカー)もイッセー専用って言ってたし、お前最終的には肉片一つ残ってたらアーシアが再生させそうだな...邪龍じゃねぇんだからよ...」

 

「邪龍とか勘弁してください...アーシアへの副作用とかは無いのか?」

 

「ごく少量ずつだから特に害は無いはず。強いて言えば飲んですぐは本能が強くなる」

 

「というと...?」

 

「イッセーとアーシア、いっつも交尾してる。あれ」

 

 アーシアが顔を真っ赤にしている!

 そういう事だったのか!!なんか最近アーシアが毎日のように求めてくるから...

 いや正直すごく嬉しいから問題はないんだけど!!

 てっきり婚約効果かと!!グレートレッドの上で急に誘って来たのもそういうわけだったのか!!...ちょっと納得だ。

 

「そ...そうだったのか...」

 

「あの...ごめんなさい...」

 

「アーシア、俺はむしろ嬉しいから問題ないぞ!謝らないでくれ!それに、俺の事を考えてくれた結果の副作用なら、もちろん俺が全部受け止めるよ!と言うかそうでなくてもアーシアの事はなんだって受け入れるとも!だって、アーシアは俺の...よ...嫁だからな!」

 

「イッセーさん...!!愛してます!!」

 

「アーシア!!」

 

 俺はアーシアと抱き合う。

 

「かーっ!羨ましいなぁったくよぉ!先生を置いてけぼりにして婚約とかまじふざけんなよなイッセー!学生の身分で調子こきやがって!!」

 

 抱き合う俺の頭をグリグリしてきた...

 

「痛い痛い痛い...先生も本気で探したらどうっすか?絶対モテるのに...」

 

「あ?あー...そう言われるとめんどくさいんだよなぁ...結婚は人生の墓場って言うだろ?」

 

「そんな事はないと思いますけど...」

 

「好き勝手できねぇのはちと性に合わん。やっぱ俺は結婚には向いてねぇのかもな」

 

「じゃあグリグリしないでくださいよ...」

 

「それとこれとは別だ。むかつくからやらせてもらう」

 

「理不尽がすぎる...」

 

「まぁいいや。とりあえずオーフィス、お前の目的もこいつらの現状もわかった。...基本はお前に任せるぞ、流石に龍神に関しちゃわからねぇ。俺にできるのは検査だけだ。お前らも、本当に龍神を目指すって事でいいのか?かなりデカイ人生の選択になるぞ...?やめるなら今のうちだ」

 

「...やります。アーシアとずっと一緒に居たいんです。正直何があるかわかりませんし、少しでも強くなりたいです」

 

「私も...イッセーさんの為ならなんだってできます!もう悪魔になってるんですから、龍にだってなってみせます!イッセーさんとお揃いです!」

 

「お前らバカップル...いや、バカ夫婦が龍神になったら恐ろしい事になりそうだな...世界の法則がぐちゃぐちゃに捻じ曲がりそうだ...アーシニウムエネルギーすら解析できてねぇのによ...」

 

「今は進捗どんな感じなんですか?」

 

「全くわかってねぇ!あらゆる計器で調べてもただのドライグのオーラにしか見えないんだよ...目視や直接触れればそうじゃないってわかるのに、機械では一切捉える事が出来ない...オーフィスの言うとおり、夢幻と相性がいいってのも納得だ。存在しないが確かにある...そういう力なんだなきっと」

 

「なるほど...じゃあもう研究は打ち切りですか?」

 

「そうだなぁ...しばらくはお前らの成長を見ながら気長に龍神完成までの観察日記でもつけるかな」

 

「アサガオじゃないんですから...」

 

「似たような物だろ知らんけど。ま、じゃあ今日はこれで終わりだ。夫婦の大事な半日を奪って悪かったな!」

 

「...なんか刺のある言い方っすね」

 

「いいからいいから!帰った帰った!俺はやることあんだよ!!」

 

 先生におしりを蹴られる。

 痛い...

 

 にしても、とんでもない事が発覚したな...

 まさか俺とアーシアの二人で一匹の龍神にしようだなんて...

 ってか、その場合の合体ってどういう状況なのだろうか...?

 文字通り一つの生命体になるのか、二人の意識が一つの体に共存するのか...はたまた二人で一つの体をロボットみたいに操縦する感じになるのか...?

 そこ結構大事だと思うのですがいかがでしょうかオーフィスさん...

 

 聞いてみても、わからない、自分達で決めれば良い。って言われた。

 まぁ追々だな...そもそも龍神になれるって決まった訳じゃないし、なったとしても何百年何千年先だろう...

 今は素直に幸せなこの時を噛み締めて生きておこう...

 

 ──────────────────────ー

 

 グレゴリから出た後、俺とアーシアとオーフィスは冥界でも有名な絶景スポットに来ていた。

 キラキラと輝く鉱石が剣山のように大量に生えている。まじで綺麗だな...

 オーフィスは少し離れた所で水晶をじぃっと見ている。

 

 俺はアーシアの手を握った。

 

「なぁアーシア。俺達、一万年どころじゃなくずっと一緒になるんだってさ。場合によっちゃ合体して一匹の龍になるかもだって...すごいよな」

 

「はい...もしそうなれたら、永久に...ずっと一緒ですね...」

 

「それってどんな感じなんだろうな?」

 

「わかりません...けど、イッセーさんと一緒なら幸せに決まってます!」

 

「そうだな。きっと幸せだと思う...まぁ、今考えるような事じゃないな!転生悪魔としての今しか出来ない事もいっぱいあるだろうし!そういう事をやりつくしてから考えても遅くないよな!」

 

「そうですね。まだまだイッセーさんとしたい事がいっぱいあります!」

 

「俺もいっぱいだ。...そう考えたら、プロポーズちょっと早かったのかな...?」

 

「そうなのかもしれませんね...でも、すごくすごく嬉しかったです!一生の思い出です!」

 

「そう言って貰えると嬉しいよ。よし、アーシア!改めて...絶対に幸せにしてみせる!一生アーシアと添い遂げてみせる!!だから...ずっと...どこまでも...一緒に居て欲しい!」

 

「はい!ずっと一緒です!!私も...イッセーさんを誰よりも幸せにしてみせます!」

 

「愛してるよアーシア...」「私もです...」

 

 俺はアーシアとキスをする。

 幸せな...とても幸せな時間だ...

 

 これから先、どんな困難が待ち受けていたって、俺とアーシアなら...俺達の愛の力なら絶対に乗り越えられる!

 

 アーシアと出会えて良かった。

 始めて兵藤一誠に憑依したと気付いた時はどうにかなりそうだったけど、思えばその時からアーシアに支えられていたんだ。

 どれだけの言葉で並べても足りないくらいに愛している。

 

 これからも...永久に...ただ、アーシアと共に生きていくんだ...!!!




まずは皆様、82話というなかなかの長編かつ処女作の...作者の寝る前の妄想みたいな作品に最後までお付き合いいただけて感謝でいっぱいです!
毎回、感想を頂いたり高評価が付くたびにニヤニヤしておりました。皆様のおかげで最後まで走れました!
...何故ここで最後かと言われますと、ぶっちゃけイッセーとアーシアの関係が行くところまで行って、戦闘含め書きたい物がほとんど終わっちゃったからです。
まぁこの続きを書く気があったとしても、クリフォト編丸々ぶち飛ぶのでしばらく平和な毎日でダレそうだなというのも理由の一端ですが...
個人的に、エタるのが一番嫌だったので変に引き延ばすくらいなら引けるところで引くべきという考えです。
伏線や設定を張るだけ張って投げる作品が嫌いと言っていた人間の所業とは思えないですね。残ってた設定全部ぶん投げて終わりました...今なら気持ちがわかる...
後、毎日投稿は他作品で読者としての僕自身がすごくありがたく感じていたので、そこだけは徹底しようと頑張りました!そこだけは褒めてほしいです...最後の最後二日間でストック全放出という暴挙にも出てみました。
一応、続編も考えてはいますが、アーシアとイッセーの夫婦生活くらいしか書くものが浮かんでいないので、しばらくゆっくりしながらネタを考えたいと思います...
その頃にまだ皆さんがこの作品の事を覚えてくださっていれば、皆さんのリクエストに答えるというのも面白いかもしれません。
最後に、繰り返しになりますが、最後までお付き合いいただけて本当にありがとうございました!!


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