学戦都市アスタリスクRTA 『星武祭を制し者』『孤毒を救う騎士』獲得ルート (ダイマダイソン)
しおりを挟む

ゲームスタート~界龍入学
part1


学戦都市アスタリスクのRTA小説が流行ってほしいので初投稿です。



 はーい、よーいスタート。

 

 星辰力(プラーナ)モリモリのインチキ美少女をぶち倒すRTA、はーじまーるよー。

 名前の決定と同時に計測を開始します。

 

 性別はもちろん男、名前は入力速度を考慮して「誉崎(ほまれざき) 基臣(もとおみ)」、略してホモとします。

 そして、出身を「特殊な環境」にします。

 

 今回のチャートは優勝すれば願いをなんでも(なんでもとは言ってない)叶えてくれる星武祭(フェスタ)で、鳳凰星武祭(フェニクス)獅鷲星武祭(グリプス)王竜星武祭(リンドブルス)の3つの大会を優勝してグランドスラムを達成する「星武祭を制し者」と、王竜星武祭にて作中最強候補と名高いオーフェリア・ランドルーフェンを倒して優勝する「孤毒を救う騎士」の2つのトロフィーを取得することを目的とします。

 

 通常プレイでもグランドスラムは1919時間というオンラインゲームかと勘違いするような時間がかかるような難易度なのですが、オーフェリアを倒すとなると更にその難易度は苛烈さを増します。

 

 更に王竜星武祭の決勝でオーフェリアと戦う前に、シルヴィアとなぜか確定で準決勝で戦わされることになり、決勝戦では消耗した状態で戦うことが強いられ非常につらい戦いとなります。直接ではないですがシルヴィアのせいで19回もリセットするハメになりました。

 製作陣、もう許さねぇからなぁ? 

 

 さて、このゲームは星辰力(プラーナ)、技術、知力、体力の4つのステータスがあり、キャラメイク時にランダムで数値が決まります。この中で星辰力だけは特殊なステータスで基本的にキャラメイク時と年齢による成長以外は(数値が変わることは)ないです。故にキャラメイク時のステータスは星辰力だけはピーク時の値が表示されることになります。

 

 ただし、非星脈世代(ジェネステラ)である場合に限りダイジョーブ博士枠であるヒルダの改造手術を受けることで劇的に星辰力が爆増する場合があります。確率は低い上にミスった時のリスクが高すぎて割に合いませんが……。

 

 他の能力は訓練等で伸ばすことが可能であるため、今回は攻防両方に影響する星辰力が高いキャラを採用します。というか星辰力低いキャラは試走時にオーフェリア戦で検証すると軽く一撃もらっただけで致命傷になるため使い物にならないです。

 

 それに咥え、特殊技能というスキル枠に相当するステータスがあります。

 この特殊技能にもステータス決定時にしか手に入れることができない物もあるので積極的に狙っていきましょう。 

 

 さて、肝心のステータスは……

 

 星辰力 85 技術20 知力 10 体力 20

 特殊技能 第六感 感情喪失

 

 

 ファッ!? なんだこの星辰力は、たまげたなぁ……。

 説明し忘れていましたが、星辰力は最大100まであり、原作キャラと比較すると、オーフェリア400 綾斗 90といった感じですかね。上限無視するとかオーフェリア頭おかしい……(小声)。

 後は、他のステータスは大体500ぐらいが作中トップクラスの強さに相当しますね。ゲーム開始時は10ぐらいが平均的ですね。まあ、星辰力以外のステータスは後で伸ばせるので誤差みたいなものです。

 

 特殊技能も第六感とかいうレア能力持ちですね。直感で敵の行動が大体読めたり、成長速度が爆速になる良スキルで普通プレイでも使える超有能スキルですね。

 

 その代わりに、感情喪失というデメリット系統の能力も有してるみたいです。これがあると星辰力の質などに関係する鬼気を真の意味で制御できないため、他のキャラを相手にするときはゴリ押しで大丈夫ですが、膨大な星辰力によってそれが通用しないオーフェリア戦で苦しくなります。まあ、こちらは解決方法があるのでへーきへーき。

 

 

 他のステータスもいい感じのバランスになってるのでこのキャラで走ろうと思います。

 

 それでは、学戦都市アスタリスク本編、イクゾー! デッデッデデデデ! (カーン)デデデデ! 

 さて、スキップができないOPが流れてる間に本ゲームとチャートの説明をば。

 

 このゲームは『学戦都市アスタリスク』を原作としたアクションRPGで、自由度の高いストーリーと、多種多様なアクションを用いたバトルによって原作ファン以外からも好評の声をもらったゲームですね。

 

 本RTAは先述した通り、二つのトロフィーを獲得することが目的ですが、鳳凰星武祭と獅鷲星武祭の攻略はオーフェリア討伐に()()()()そこまで難しくないので、実質王竜星武祭でオーフェリアを倒すことが目的となります。このルートはRTA界隈で様々な走者兄貴によって新たなチャートが開拓されており、今もなお競争が激しいルートですね。

 

 本RTAの打倒目標であるオーフェリアはヒルダの改造手術を受けており、成功したことで莫大な星辰力を手に入れたため、作中トップクラスの実力を持っています。そのため、チンタラ育成を進めていては一撃すら入れることが出来ず、一般モブみたく紙のように吹き飛ばされるため、まず倒すことは不可能です。強スギィ! 

 

 正攻法でやるとなると、原作と同じ時系列で主人公’sと積極的に関わってバトルしていくことで経験を積んでいくルートが王道ですが、そうなると膨大な量のイベントをこなさないといけないのと王竜星武祭の出場者が猛者ばかりで組み合わせ次第では決勝に行く前に負ける可能性があるので(採用は)クビだクビだクビだ! 

 

 となると必然的にオーフェリアが参加する原作前の二回の王竜星武祭の内、どちらかで倒すことになるのですが、今回は訳あってシルヴィアも参加する方で倒すことになります。その理由はまたの機会にお話しします。

 

 今作は主人公が5歳になってから操作ができるようになります。

 通常プレイでは遊んだり、剣術などを学ぶことで体力や技術、学校に行くことで知力が上がったりしますね。

 

 それと、先ほど出身を「特殊な環境」にした理由の一つはキャラクリ時に特殊技能を習得する確率が通常と比べてかなり高くなるためです。だから、出身を変えておく必要があったんですね。

 

 ただし、「特殊な環境」を選択した場合高確率で感情喪失がついてきます。チャートが確立される以前はなかなか感情喪失が厄介で「特殊な環境」出身は敬遠されていましたが、解決方法が見つかったことでかなりのタイム短縮が行えるようになり、「特殊な環境」チャートで走る兄貴が増えてきています。以前よりも参加しやすい環境になったからみんなもRTA走って♡

 俺もやったんだからさ(同調圧力)。

 

 そろそろOPが終わりそうなので、説明を終わりましょうか。

 

 さて、本編が始まりましたね。とりあえず、目を覚まして自分の部屋を見てみましょうか。どうやら、和室っぽい場所みたいですね。剣術に関連する家系だと、技術や体力のステータスが上がりやすく非常にうま味なので、そうであってほしいですね。

 

 まずは布団から起きて身支度を行ってからダイニングと思わしき場所に向かいます。

 引き戸を開けて誰かいないか確認を──―(ドゴッ

 

 えっ何これは(ドン引き)。扉を開けると同時に男の人に殴られて、いきなりよく分からない説教をされたので少し固まってしまいました。これは中々の環境に放り込まれたみたいですね。いままで試走した中では無かった家庭のパターンを引いたので少しびっくりしました。この人以外に特に誰かいる気配は無いので、この人がおそらくホモ君のパッパなのでしょう。

 

 

 朝食を食べて、早く道場に来いとだけ言うとパッパは居間から消えていきましたね。

 あの発言から見るに稽古をつけてもらえる感じなので、何の恩恵もないただのDV男ではないようで安心しました。

 

 朝食はパパパッと食って、終わり! さっそく道場へと向かいましょう。

 おじゃましま~す(ピンキー)。

 

 ホモ君が道場に入るのを見ると、先に準備してたパッパが短刀を鞘付きで放り投げてきました。まさか子供に真剣で戦えというのでしょうか。お前精神状態おかしいよ。

 

 というわけでいきなり模擬戦です。なんでや!なぜか実の子供相手に容赦なく真剣を振ってくるので、適当な動きをすれば間違いなく殺されます。模擬戦ってなんだよ(哲学)。

 戦法もクソも無いのでホモ君の第六感で攻撃を読んで、ショタ特有の小柄な身体を利用してできる限り回避しましょう。

 

 それにしても、パッパの攻撃の密度ヤバすぎィ! 原作キャラで言うと、王竜星武祭時の綾斗ぐらいのポテンシャルはあるんじゃないですかねぇ。第六感のおかげである程度攻撃が分かってるのでそこそこ回避できてますが、子供ということで手加減されてなかったら364回は死んでますね、間違いない。

 

 第六感があると言っても相手の方が圧倒的に格上なので、さっきから何回も攻撃を食らってます。痛いんだよォォォォ!! 

 じわじわとダメージを食らい続けて、体力がもう3割以下になってます。痛いですね……これは痛い……。

 

 

 ………………

 

 

 

 

 

 

 

 すいませ〜ん、木下ですけど、ま〜だ時間かかりそうですかね~?

 

 

 

 

 

 

 

 ………………

 

 

 なんとかパッパのスパルタ教育を乗り越えました。工事完了です……。

 先行きが少し不安ですが、この調子で毎日特訓をこなしていきましょう。

 

 

 

 少女特訓中……

 

 

 

 さて、一か月ほど特訓をしたのでホモ君のステータスの伸びを見てみましょう。

 ファッ!? 技術が+7に体力が+8!? 

 殺し合い(一方的蹂躙)みたいなことをしていたとはいえ、この伸びはいい意味で想定外でしたね.

 普通に特訓してても大体ひと月に+2~4ぐらいしかステータスは伸びないのでなかなかにうま味ですね。

 

 それに加え、「特殊な環境」で生まれたキャラは家庭の事情で基本的に戦闘に関する特訓ばかり叩き込まれるので、勉強に割く時間を少なくすることが可能となります。

 これによって、一般人プレイと比べて体力や技術といったステータスが伸びやすくなります。知力? アルルカントにでも行かない限り(そこまで重要じゃ)ないです。

 

 これなら、オーフェリア戦でもある程度余裕を持って戦えるか──―

 

 今回はここまで。ご視聴ありがとうございました。

 




習得技能一覧

第六感《魔術師》
敵の行動を察知することが出来る。
相手から向けられている感情を大まかに感じ取ることができる。
自身に危険が迫った時、直感として感じ取ることが出来る
成長が通常より早くなる。

感情喪失
感情を表わすことができない
友好度・好感度の上昇値が通常より下がる場合がある




目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

part2

サブキャラの名前を思い出すために単行本引っ張ってきたので初投稿です


 まだまだパッパのスパルタ教育が続くRTA、はーじまーるよ―。

 

 さて、ステータスをある程度まで上げるために前回と同じようにパッパのスパルタ教育を引き続き受けていきましょう。

 

 少女特訓中……

 

 さて、9歳になりました。ステータスを見てみましょう。

 

 星辰力 85  技術 300 知力 150 体力 325

 特殊技能 第六感 感情喪失 誉崎流中伝 

 

 やはり、若ければ若いほどステータスの伸びが大きいですね。想定以上に全体的なステータスが高いです。特殊技能も誉崎流中伝までを習得して、技のレパートリーが増えてきてますね。アスタリスクに入るまでには極伝を習得したいところです。

 

 お、なにやらパッパから呼び出しがかかりました。そろそろ別の修行でもするのでしょうか。

「この紙に書いてある流派の人間と戦ってこい」と言ってますね。なになに、橘流、辰巳流、天霧辰明流、刀藤流。おっ、原作キャラの流派がいくつかありますねぇ。ネームドキャラがいる天霧辰明流、刀藤流はどちらも立ち合いをするとうま味なのでラッキーですね。

 

 では、武者修行の旅にイクゾー! デッデッデデデデ! (カーン)デデデデ! 

 よく分からないモブ流派との立ち合いシーンはキャンセルだ。立ち合いには勝利したので、モブ流派とはいえそこそこのステータスがもらえました。

 

 まず、先に天霧辰明流の方に向かいましょうか。

 お、あいてんじゃーん。

 道場に入ると、天霧辰明流の宗家である天霧正嗣氏がいるので立ち合いを

 所望する旨を伝えましょう。

 

 は? 誉崎流とは立ち合いを行わない? ふざけんな! (迫真)

 ここまで来て何も無かったではせっかくの機会をふいにしてしまうのでできるだけ粘ってなんとか立ち合いをするようにお願いしましょう。

 

 おっ。何もせずに追い返すのは可哀そうだと思ったのか、原作主人公の姉である遥姉貴が立ち合いを受けてくれるみたいです。やったぜ。

 なんとか遥姉貴の同意をもらえたので立ち合い開始です。

 さて、遥姉貴ですが原作開始前のこの時点でも年齢的にはアスタリスクに行く前でもおかしくないため相当の実力を持っています。

 試走して確認したところ天霧辰明流は奥伝まで習得しており、生半可な攻撃は識の境地によって回避されまともに当たりません。また、ステータスも当然ですが向こうの方が一回り程上です。

 

 短期決戦だと能力差が如実に現れるので、基本的には誉崎流剣術と体術を混ぜて相手の意識を一つに絞らせないようにしながら、相手の隙を見て一撃を入れるヒットアンドアウェイで長期戦にもつれ込んでいきましょう。

 

 立ち合いの状況ですが、なんとか長期戦にもつれ込めてますね。序盤にホモ君がショタであるため遥姉貴が少し油断したことによってこちらが少しだけ有利の状況を作れたのが大きいです。一応、パリィ技である『刳裡殻』によって武器を弾かれるのだけは警戒しておきましょう。

 

 先ほど、長期戦を選んだ理由の一つとして能力差が出やすい短期決戦を嫌ったという事を述べましたが、もう一つ理由があります。それは、格上との戦闘の時間が長引く程ステータスの伸びや特殊技能の習得率が高まるからです。勝敗でもそこそこボーナスはつきますが、実を言うと、この立ち合いでの勝率はそこまで高くないです。第六感があるとは言え、5歳以上の年齢差を埋め切れるほど相手は弱くなく、勝ちを狙うなら体力と技術をそれぞれ50程伸ばす必要があります。だから、できるだけ立ち合い時間を伸ばすことに集中する必要があるんですね。

 

 

 

 ん? いきなり、距離を取って目を閉じましたね。識の境地を使い始めるつもりでしょう。使い始めたら天霧辰明流の奥伝も使うようになってきます。試合終盤でもないのに奥伝まで使われると面倒なので、最短で動いて目を開く前に妨害します。

 

 よし、遥姉貴が目を開けて回避する前にこちらの攻撃が通じそうな距離にまで接近できました。妨害して最速で回避行動をとるようにしましょう。

 

 妨害を……

 

 妨害を……

 

 アイエエエエ! カウンター!? カウンターナンデ!? 

 

 試走では使ってこなかった極伝の『晦』を使ってきました。今のステータスで対処するのはとてもじゃないですが現実的ではありません。もう回避は間に合わないし無理だゾこれ(絶望)。まだ、予定の時間まで経過していませんし、このままじゃまずいですよ! 

 

 もうこうなったら、無理やりカウンターの軌道に自分の攻撃を合わせるしかないです。

 

 当たれ当たれ当たれ当たれ当たれ当たれ当たれ当たれ当たれ当たれ当たれ当たれ当たれ当たれ当たれ当たれ当たれ当たれ当たれ当たれ当たれ当たれ当たれ当たれ当たれ当たれ当たれ当たれ当たれ当たれ当たれ当たれ当たれ当たれ当たれ当たれ当たれ当たれ当たれ

 

 

 ……………………。

 

 

 ヨシ! なんかよく分かりませんが、土壇場で相手の攻撃を弾くことに成功させました。

 ふぅ……

 

 って、無理やり姿勢を変えて攻撃を合わせたせいで体が動かない!? 

 

 

 あっ、終わった。

 

 

 ──────────────────────────────―

 

 ぬわああああん疲れたもおおおおん、やめたくなりますよ~立ち合いぃー。

 攻撃を欲張りすぎて立ち合いを予定よりも早く終わらせてしまいましたね……。今後はカウンターにも警戒することをチャートにちゃーんと書いておきましょう。立ち合いの結果を見てみましょうか。

 

 

 星辰力 85  技術 335 知力 160 体力 360

 特殊技能 第六感 感情喪失 誉崎流奧伝 

 

 

 ファッ!? ほとんどステータスボーナスが入らないと思ったら想定よりもステータスが獲得できました。これならリセットしないで済みそうで助かりました。もしかして、相手の強さが試走時よりも強かったからでしょうか。要検証ですね。

 

 なんで晦に対応できたかと思って見たら、立ち合い中に誉崎流奥伝を習得して、それがなんか発動したみたいです。この段階で奧伝まで習得できているのは第六感の成長補正も大きいですね。剣術のような成長型の特殊技能は完成までとにかく時間がかかるので早期に完成できる目途が立つのは非常にうま味です。

 

 立ち合いが終わったらすぐに刀藤流の道場へと向かいましょう。遥姉貴が何か話を聞きたがっているようですが、何も言わずに立ち去れば大丈夫です。少し好感度が下がるかもしれませんが、これ以降遥姉貴とは交流がないため特に好感度を気にする必要はありません。

 

 さて、次は刀藤流の道場へと向かいましょう。

 移動場面は、特にイベントがあるわけでもないので倍速でパパっと流します。

 

 

 少女移動中……

 

 

 さて、刀藤流の道場へ着きました。先ほどと同様に殴り込みに行きましょう。たのもー。

 名を名乗り、立ち合いを行いたい旨を伝えると師範代クラス以上の人物からものすごい嫌そうな顔をされました。さっきもそうだけど、誉崎流評判悪すぎない? 過去に何をやらかしてるんすかねぇ……。評判に関してはどうしようもないことだと諦めて、なんとか拝み倒して立ち合いしてもらうように頼み込みましょう。

 

 ヨシ! 宗家である誠二郎さんが優しかったので許してくれました。誠二郎さんはほんとに神的にいい人だから。(ピネガキ)

 現時点ではまだ宗家の誠二郎さんのほうが強いのでそちらと立ち合いをします。

 

 刀藤流戦ですが、先ほどの遥姉貴に比べて強くないです。連鶴は確かに厄介ですが、原作の綺凛ちゃんみたいに100%の完成度ではないので続けていくうちに隙ができます。その隙を狙って攻撃をねじ込み、剣術の間合いではない至近距離から体術を打ち込んでいきましょう。

 

 さて、そろそろ立ち合い開始ですね。行きますよーイクイク。

 

 やはり、先ほどの天霧辰明流戦に比べれば自分の間合いを取りやすいし、わずかながらも隙が有るしで結構やりやすいですね。

 

 ホラホラホラホラ、おいしいか~? 

 やっぱり綺凛ちゃん相手じゃないので楽でいいですねー。格下相手には暴力!暴力!暴力!って感じでガン攻めすればそこまで苦労はしないです。ただし、格下相手にてこずっていたら戦闘後の伸びがまずあじになるのでさっさと片付けちゃいましょう。

 

 三回ほど左右にステップを刻んだ後、全力で接近して至近距離から体術で突き飛ばした後、袈裟切り、右薙ぎ、右切り上げ、体術、突きの順で叩き込んでいけば初見の誠二郎さんの場合、確定で次に繰り出す大上段唐竹割りが命中します。相手も馬鹿ではないので一回しかこのテクニックは通用しません。ミスしないように注意しましょう。

 

 最後の一発くれてやるよオラ! 

 無事に時間内に倒しきることが出来ましたね。体力も結構残っているので大量のステータスボーナスが入ってきます。うん、おいしい! 新たに特殊技能の取得はありませんでしたが、まま、えやろ。

 

 目的の流派全てと立ち合いを済ませたので、家に帰ることにしましょう。おっ、泊まっていけ? 刀藤流と立ち合いを行って勝利すると低確率ですが、お泊りイベントが発生します。

 お泊りイベントは何故かうま味なので断る理由がありません。ありがたく申し出を受け入れましょう。

 

 その後、道場を使わせてもらって鍛錬をひたすら続けて夕飯時だけ練習を終了します。夕飯の時間になりましたが、出てくる会話は特に影響は大きくないので全て適当に相槌を打っておけばいいです。夕飯を食べている最中、誠二郎さんと奥さんの琴葉さん以外の人間の雰囲気は完全に最悪で、舌打ちまで聞こえてきます。

 こわいなーとづまりすとこ。

 

 夕食を食べ終えたら風呂に入って英気を養いましょう。あぁ^~生き返るわぁ^~

 誠二郎さんがなんか乱入して話しかけてきました。お前ホモかよぉ!? 

 なんか凄いホモ君のこと気にかけてるっぽいすね。自分語りし始めたりホモ君のことを聞いたりしてきましたね。彼女とかいらっしゃらないんですか? え、そんなん関係ないでしょ。 みたいな会話でした。

 

 やたら絡んでくる誠二郎さんにガバの匂いを感じたので、すぐに風呂を上がり、即座に布団にダイブ。ガバ要素に遭遇しないためにさっさと寝てしまいましょう。

 

 

 

 

 

 さて、朝になったら書置きだけ残してさっさと屋敷から抜け出て帰るようにしましょう。(これ以上の滞在は)フヨウラ! 屋敷から出たら家に帰ってパッパに報告を済ませます。

 1回だけとはいえ負けてきたので説教でもされるのかなと思ったのですが、特になにも起きませんでしたね。なんか不気味ですがこちらとしても時間の短縮になって好都合なので触れないことにします。

 

 ではでは、報告を済ませたので武者修行の成果を確認してみましょう。

 

 星辰力 85  技術 350 知力 170 体力 380

 特殊技能 第六感 感情喪失 誉崎流奧伝 鋼鉄の体幹 俊足

 

 あぁ^~いいっすね^~

 鋼鉄の体幹は敵から攻撃を受けてもスーパーアーマー状態になれる良スキルです。ただし、一定以上の強力な攻撃には通用しないので注意が必要になります。

 咥えて、俊足は文字通り素早く行動できるようになるスキルですね。段階的に強化できるスキルで特定の条件を満たすと更にスキルが強化されるのでガンガン動いて強化していきます。

 

 意外にもここまで順調に進んでますね。想定したよりもステータスの伸びが速かったので試走の時よりも特殊技能の取得に時間を割くことができそうです。このゲーム、ステータスも重要ですが、有能な特殊技能の数が多ければ多いほど有利になるという仕様なのでできるだけ特殊技能を取得しないと後で死ぬほど苦労するという仕様なのです。ふざけるな! (声だけ迫真)

 

 アスタリスクに入れば重要なイベントが多いので早めに能力強化を仕上げておくことはタイム短縮につながるので積極的に鍛錬を積んでいきましょう。

 

 というわけで今回はここまで。ご視聴ありがとうございました。

 




習得技能一覧

誉崎流
500年の歴史を持つ誉崎流の剣術及び体術に関連する技能
手数とスピード、パワーのどれをとっても一級品で極めれば
他流派の追随を許さない程の力を手に入れることが出来る一方、
極みに達することができる人間はほとんど存在せず、極伝は
開祖である初代以外習得する人物は現在まで存在しない。

鋼鉄の体幹
頑強な肉体と精神を以て、攻撃の衝撃を無効化する。

俊足
鍛え上げられた脚力により、通常よりも素早く動くことを可能とする。




目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

裏話1 天霧遥・刀藤誠二郎の独白

独白系は書いてて難しいなと感じたので初投稿です


 感情がない機械のような人という言葉が、目の前の男の子の事を指すのにふさわしいのかもしれない。

 

 私が綾斗にいつものように道場で稽古をつけてあげていて、たまたまその様子をお父さんが見に来てくれてた時、突然扉が開いて綾斗と同じぐらいの小さい男の子がやってきた。

 その子はお父さんに近づくと誉崎流という流派の人間であることと、立ち合いを所望することを言ってきた。

 

 誉崎流という言葉を聞いた瞬間に、お父さんが今までに見たことがないぐらいに不機嫌になって、立ち合いを受けないことを男の子に言った。その時はなんでそんな不機嫌に対応をするのかと思っていたけど、後から聞いてみると誉崎流は今までに色んな流派を回り歩いて敬意の欠片も無い態度で道場破りを行って、時には殺すこともあったらしい。

 

 何者かによって誉崎流に類する者は全員殺されてしまったため廃れてしまい、今となっては私のように聞いたことない人間も少なくはないらしい。

 

 私はそんなこと分かっていないから、かわいそうだし、立ち合いを受けてあげようと軽い気持ちで思っていた。

 

 でも、実際に戦ってみてその強さに驚かされ、そして少し恐れを覚えてしまう程だった。綾斗と同じぐらいの年齢のはずなのに、その読みの深さは私を凌駕していて、どの攻撃もほとんど外されてしまった。どれだけの経験を積めばその領域まで到達するのか想像もつかない。剣技の冴えも凄いものを持っていて、力や身長などアドバンテージがあるはずなのに

 その剣先が首元まで迫ってきているような錯覚に陥る。

 

 だけど、読みの深さとか剣の冴えとかそんなものよりもその子の目が何よりも怖かった。何を考えているのか全く分からないし、その目を見ていたら飲み込まれてしまいそうな気分になる。たった9歳程度のはずの男の子に私は恐怖を覚えてしまっていた。

 

 戦い始めてからそう経ってないはずなのに、何十分も過ぎ去っているような感覚を覚える。それと共に焦りを感じる、もしかしたら負けてしまうんじゃないかと。どちらかというと形勢は私の方が有利になっている。でも、目の前から感じるただならない感覚が少しでも気を緩めれば殺されると告げてくる。

 

 結局、勝負には勝ったけど決着を焦りすぎた私は極伝である『(つごもり)』を見せてしまった。しかも、それを防がれるというおまけ付きで。

 驚きだった、初見ならば誰も防げないであろう

 晦を、既に繰り出そうとしていた攻撃から修正するという形で防ぎ切ったのだ。

 

 私と同等どころじゃない、この世界で一番強くなれるのではないかというぐらいのポテンシャルを秘めている。立ち合いを終わった後、逃げるように立ち去る男の子にどうしてそんなに強いのかなどを私は聞こうとしたけど、振り返ることなく立ち去って行ってしまった。

 

 

 

 

 

 ──────────────────────────────────

 

 

 

 

 

 目の前の子はまだ幼いのに、とても子供らしくない無感情な子だった。娘である綺凛を愛情を持って育てているから余計に目の前の子の纏っている雰囲気に不気味な物を感じた。

 

 聞けば名前からするに誉崎流の者のようだ。どんな日常を送ればそんな目ができるのかは分からないが、誉崎流は立ち合いで人を殺したなど良くない噂が絶えない。最近は例の事件のせいで不気味なほどに姿を見せなくなったが、一度だけ私も誉崎流との立ち合いを見たことがあった。

 

 それは、私が14,5の頃だったか。誉崎流には凄まじい強さを誇った男の子がいた。その子もこの子と同じように周りに興味がないような目をして当時当主であった私の父をものの数秒で倒してしまった。当時の私は子供だったため、目の前で一方的に父が打ちのめされていた光景には恐怖を覚えてしまった。今になって思えばあの男の子は家の呪縛に縛られることしかできず、無機質に生きてきたのだろうと憶測だが思う。

 

 その時の私は子供であったため見ていることしかできなかったが、今は違う。今からでもこの子を正しい道へ導いてあげる一助となる指導ができるかもしれない。そのつもりで周りの反対を押し切って立ち合いを受け入れてあげた。

 

 刀を交えてみるとよく分かる。いかにこの子が歪んだ感情を持って育てられたかを。一見わからないが、感情が元から失われていたということはないようだ。少なくとも最初は両親から愛情を受けて育てられていたように思える。それだけに、この子が哀れでならない。そのまま愛情を受けたまま育っていれば歪むこともなかったはずなのに。

 

 できるだけ長く粘ろうとするが、私の連鶴の未完成な部分を狙って崩しにかかってくる。もう、そんなに長くは持たないことが嫌でも理解できる。

 

 結局、私は攻撃を一撃も与えることすらできずに防戦一方で敗れるしかなかった。この結果に周りはざわざわしている。当然だろう、刀藤流最高位の人間である私が手も足も出ずにまだ成長途上の小さい子供に負けてしまったのだ。動揺しないわけがない。ただ、私としてはそれはいいのだ。剣の道を究める以上、自分の遥か上を行く存在はいくらでもいる。それが子供であろうと、年寄であろうと年齢に関係なく存在する。

 

 ただ、この子に何の変化も与えられなかったのが悔やまれる。ずっと意味も持たずに剣を持ち続けるということはさせたくない。だから、この子を泊めさせてあげることにした。

 

 泊まることに対して最初は断っていたが、何度か言うと渋々ではあるが了承してくれた。その後、夕食になるまで鍛錬を行っていたがその様子は傍から見て非常に危うく見えた。休憩を一切取らず一心不乱に刀を振るう一連の動作は堂に入っているが、少年の体付きで行うべき練習量ではない。私が定期的に休憩を取るように言って休ませてはいるが、すぐに練習に戻ってしまう。

 

 夕食の時に私はなぜ剣を振っているか聞くと、それが自分に与えられたものだからと答える。若干要領を得ない回答だったが、この子に剣の神に好かれるだけの才能があることは剣を交えているのでよく分かる。しかし、それを与えられたからという理由だけで剣を振っていては間違いなくその実力はいつか打ち止めになってしまう。大切な人を守りたい、復讐したい、金が欲しい。その善し悪しは別にしても様々な人間がそれぞれ目的を持つことで高みへと向かっていく。しかし、この子にはそれがない。というよりも、目的を見つけるためのきっかけすら無いという感じだった。

 

 基臣くんが風呂場へと向かって行ったところをたまたま見かけたので私も風呂へ入ることにした。

 扉を開けると彼は私が入ってきたのを見て少し驚いたように目を見開いたが、数瞬後には何もなかったように湯舟に浸かると私が入ってきたのを見て初めて彼の方から口を開いた。

 

 なぜ私がこんなに基臣くんに構っているのかが疑問だったらしい。

 曰く父からも鍛錬以外では存在しない物として扱われていたそうだ。

 

 剣の先達として基臣くんに人のつながりの重要性について自分の経験も交えて話したりした。仲間や恋人など色々なことについて聞いてみたが、それとは程遠い生活だったのかそういうものはいなかったらしい。

 

 しばらく話をすると基臣くんは風呂から上がっていった。その時に少し表情が和らいだ気がして、彼の中で何かが少し変わったのではないかと思う。

 

 

 翌朝、妻の琴葉に起こされ居間に連れられると、座卓に一枚の手紙が置いてあった。その手紙を読むと簡潔に泊めてくれたことに感謝する旨が書いてあった。温泉から上がった時に一瞬あの子がほんの少し口元を緩めていたところを見るに少しは心境に変化があったのかもしれない。彼がほんの心を開いてくれたことに喜びを感じながらも、この先、良き好敵手や仲間と出会い真っ当な人間として成長してくれることを祈った。

 

 

 




現在開示できる設定

誉崎流
開祖である初代誉崎重信と血縁のあるものにしか受け継がれていない
閉鎖的な流派。当時敵なしと呼ばれていた初代の実力に近づくことを目的と
している。相手に容赦がなく、剣を極めるためならば殺しも厭わないため
他流派からは嫌われている。




目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

part3

ようやく本編に入ったので初投稿です。


 タイムのためにはどんな犠牲も厭わないRTA、はーじまーるよー

 

 さて、ホモ君は12歳となり、星武祭の参加条件である13歳まで目前となったのでアスタリスクに入るための準備も整えていきましょう。唯一の懸念事項はパッパを説得できるかなんですが、強くなるためとか言っておけばいいでしょう(適当)。最悪学園にでも匿ってもらえればいいので、そこまで気にする必要はないでしょう。

 

 前回のステータス確認からしばらく経ったのでどれぐらい成長したか見てみましょう。

 

 星辰力 85  技術 480 知力 200 体力 495

 特殊技能 第六感 感情喪失 誉崎流奧伝 鋼鉄の体幹 神速 堅牢 

 

 いいカラダしてんねぇ! 思ったよりも伸びが早くて怖くなるぐらい順調です。特殊技能も俊足が神速に強化されていたり、防御力を高める堅牢があるなど中々いいですね。誉崎流がまだ極伝を習得できていないことが少し気になりますが何とかなるでしょう。ただ、この程度ではオーフェリアには何回か攻撃を当てるぐらいは出来るでしょうが勝つにはまだまだ足りません。オーフェリア戦はどの攻撃も即死級の攻撃なのでどれだけ体力積もうが、一撃でもクリーンヒットすれば致命傷になるオワタ式を強制されます。なんだこのクソ仕様!? 

 

 では、パッパにアスタリスクに行くことを伝えましょう。

 

 …………

 

 ……………………

 

 …………………………………………

 

 えぇ…………アスタリスクに行くなら俺を殺してから行けと言われました。なんで? なんで? 

 この人頭おかしいよ……。ヤンデレな父親とかどこに需要があるんですかねぇ……。ちょっとおかしい人だとは思ってたのですが、まさかここまでぶっ壊れた人だとはおもってませんでした。たまげたなぁ……

 

 まぁ、約7年も一緒に殺り合ってるので弱点や癖とかはおおよそ分かるので勝てるのですが、殺しをしてしまったらそれ以降、キャラの好感度が上がりづらくなってしまいます。好感度上げはチャートの関係上必要になってくるのでここでパッパを殺したらロスになってしまいます。チャート壊れちゃ^~う。見た感じパッパとの戦闘は強制イベントっぽいので回避しようがないですね。あーめんどくせーマジで。

 

 もうなんか準備し始めてますし、やるしかないですね。本音を言えばもう何百回も試走を重ねてるのでこれ以上走りたくないです、はい。好感度に関しては悲劇のヒロインムーブしておけば同情してくれてなんとかなるでしょう、たぶん。

 

 こうして始まった親子デスマッチですが、ナニモイウコトハナイ。12歳にもなると能力的な差は埋まってるので、力押しすれば時間はかかりますが倒せます。ひたすら隙の少ない技でじりじりと削っていきましょう。

 

 こうしてみるとホモ君のステータスはアスタリスクに行ってもオーフェリアとかの化け物勢を除けばトップクラスのはずなんですが、パッパが思ったよりも粘りますね。全盛期だったら星武祭でも優勝どころかグランドスラム狙えるぐらいには強いと思います。ここまで強いならスカウトとかされてそうなのに、なぜアスタリスクに行かなかったのかは謎ですが、この前やった武者修行で各流派の反応を見ればなんとなく事情があるっぽいですね。

 

 そろそろパッパが瀕死になりそうなので、負けを認めてもらうように勧告してみましょう。おう、早く負けを認めるんだよ。

 

 

 

 

 

 ────────────────────────────────────

 

 

 

 

 

 ……負けを認めず、迫真の演技でこちらの体に切り傷をつけてから自害しちゃいました。

 

 何を言ってるのか分からないと思いますが、私にも分からないです。これもうわかんねぇな。

 どうしましょう…………。直接手にかけていないとはいえ、家族が目の前で自害するのはいくら感情喪失持ちのホモ君といえどメンタル面で何かしら不調が起こってもおかしくありません。

 

 とはいえ、これといった症状は目に見える範囲では今のところ出てないので後回しにしましょう。決して目を逸らしているわけではありません。(メソラシー)

 

 パッパの死体はこのままにしておくのも良くないですし、どこか見晴らしのいいところにでも埋めて一生化けて出てこないようにご供養しておきましょう。

 

 さて、思ったよりも早まったのですがアスタリスクで星武祭に出場するためにも6つの学園の内いずれかと接触することにしましょう。能力値が高いので接触したら大体の学園は確実に特待生枠で学生として迎え入れてくれます。といっても6つの学園の内、女子だけが入学を許可されているクインヴェールはホモ君が女の子じゃないので除外です。

 

 星導館、アルルカント、レヴォルフ、界龍、ガラードワースの5つから選ぶわけですが、グランドスラムを狙うなら界龍一択です。そこそこ強いメンバーが所属しているので、タッグやグループで戦う鳳凰星武祭や獅鷲星武祭でメンバー探しに困ることがないのと、アスタリスク最強候補と名高い范星露の指導をいつでも受けれるのが強みです。王竜星武祭の優勝だけを目指すならやりたい放題できるレヴォルフが一番いいです。

 

 自分の鍛錬の様子を写した動画を添付したメールを送れば十中八九反応がくるので、返信が返ってくるまではアスタリスクに行くために身支度を済ませておきましょう。

 

 少女屋敷内探索中

 

 ファッ!? 

 なんか身支度をしている途中にパッパがチラチラ見ていた道場に飾ってある刀を持ってみたら純星煌式武装(オーガルクス)でした! さっきの糞イベントによって起こるかもしれない障害をチャラにするどころかお釣りまでくるレベルで運がいいです。拒否されて使えないという可能性もありますが、その場合は売り払えばいいですし、戦闘時の選択の幅が広がる他にも純粋に戦闘能力が上がるのでありがたく頂戴しましょう。

 

 おっと、界龍から連絡が来ましたね。何々……学園で実力を見せてもらってそれで特待生として認めるか判定する感じですか。うん、別に難しい条件でもないので問題なさそうですね。了承のメールを送っておきましょう。

 

 身支度も済ませたので、さっそく船に乗ってアスタリスクへ向かいましょう。イクゾー!! デッデッデデデデ! (カーン)デデデデ! 

 

 では、アスタリスクに到着するまでこれからの予定とステータスを確認しておきましょう。

 

 1・界龍で范星露に修行をつけてもらい、ステータスと特殊技能をガンガンに盛っていく

 2・シルヴィアと交流を持って、好感度を稼いでいく

 3・アルルカントに何かしら交渉して装備を作ってもらう

 4・鳳凰星武祭と獅鷲星武祭のパートナーを見つける

 

 修行に関しては今までと変わらない感じでやっていく感じですね。残りの3つですが、まずシルヴィアの好感度稼ぎは特殊技能の感情喪失の解除に必要な条件だからですね。

 感情喪失は誰でもいいので異性のキャラの好感度を一定以上まで上げることで解除することが出来ます。

 ただし早く好感度を上げすぎてしまうと恋人関係になってしまいイベントに取られる時間が増えてしまうので注意が必要になります。その点、シルヴィアはアイドルという職業柄他のヒロインに比べて時間を取る必要がないのが今回のチャートで採用した理由ですね。  

 

 それに咥え、性格よし器量よしでシルヴィア関連イベントに深く関わらなければこの作品内で一番の優良物件です。

 

 

 要は、適切に好感度調節しながらイチャラブしてラブコメすればいいのです。お前ノンケかよぉ! 

 

 アルルカントに装備作成してもらうことについては鳳凰星武祭後から本格的に開始するのでまた後々解説します。

 

 パートナー集めは獅鷲星武祭は界龍の中で強い人しか集まらないチーム黄龍に参加するようにアピールすればよほどのことがない限り問題ないです。鳳凰星武祭の方ですが、正直誰がペアになっても構わないです。既に、1人で鳳凰星武祭を優勝できるだけの強さになっているので適当にパートナー選びに困ってそうなのに声をかけましょう。

 

 さて、次はステータスを見てみましょう。

 

 星辰力 85  技術 490 知力 200 体力 500

 特殊技能 第六感 感情喪失 誉崎流奧伝 鋼鉄の体幹 神速 堅牢 強運

 

 いいゾ―これ。体力もトップクラスにまで成長しましたね。ステータスはあとそれぞれ80ずつ伸ばしていきたいところです。純星煌式武装もあるので思った以上に順調といった感じですね。

 新しく習得した強運ですが本来なら致命傷となる攻撃を食らったとき、かすり傷になるというものです。強引な戦闘を繰り返すRTAにとってはありがたい特殊技能です。

 アスタリスクに行くまでに誉崎流極伝を習得できませんでしたが、まあなんとかなるでしょう。

 

 おっと、解説している内にアスタリスクに着きましたね。

 こ↑こ↓アスタリスクは歩くとランダムで不良に絡まれるシステムとなっております。ここから界龍に向かうだけでも4、5回はエンカウントするレベルで不良をホモ君は引き付けてしまいます。なんだこの治安の低さは、たまげたなぁ。ただ、絶対に戦うという必要はなく人数が多くないなら逃げることで戦闘を回避できます。どうせ戦っても瞬殺できるので誤差だとは思いますが。

 

 では、界龍まで向かいましょう。タクシーに乗って向かうのが普通なら最速ですが、本RTAでは別の方法で向かいます。どういう方法で行くかというと、アスタリスク最大の不良の溜まり場である再開発エリアに行き、星露がお忍びで利用するために隠して設置してる転移陣を経由して界龍まで移動します。

 

 本来なら、星露の許可した人物しか入れないような設定になっていますが、特定の波長の星辰力を当てることで不正に利用することが出来るようになります。これによって劇的に時間短縮になるんですね。ちょっとセキュリティーガバガバすぎんよー。

 

 ただ、いきなり界龍の中に転移してしまったら当然不審者扱いされてしまうので、手前までの移動に留めておきましょう。(2敗)

 入口までたどり着いたので、さっそく特待生に関する試験諸々を受けに行きましょうか。お邪魔しまーす(ピンキー)

 

 中では既に生徒会長である星露が待っていたみたいですね。星露は見た目は小さく可愛らしいただの女の子ですが、中身は2回も身体を入れ替えてきたBBAです。性格は強い人間に対しては非常に好戦的で、通常プレイでも奇襲もとい値踏みを何度も受けるプレイヤーはいたのではないでしょうか。

 

 どうやら、自らホモ君をじっくりと品定めするようです。チャート通りに進んでくれて助かりますね。

 

 星露の品定めもとい特待生試験が始まりました。相手は星仙術という誰にでも汎用可能な術を使うことで分身の術、雷撃、瞬間移動と<魔女>や<魔術師>が使う能力だったら大体使えてしまうなんでもござれのレパートリーとなっており、その中でも分身の術は糞オブ糞の遅延行動で走者の精神を蝕んできます。

 

 この試験、一撃でも与えれたら即合格で試験が強制終了します。ゆえに、いかに早く攻撃を与えれるかが肝となってくるわけです。

 

 様子見のつもりか、こちらが攻撃してくるのを待っているようなのでさっそく動きます。踏み込みと同時に上段切り、振り下ろしたら即座に切り上げます。その後、確定で分身の術を使おうとしてくるので詠唱中に突きを食らわせて終了です。

 

 終了です

 

 終了です

 

 終了です

 

 

 

 ……………………

 

 

 

 ん? 一撃与えたのになんで終わらないの? 

 なにわろてんねん

 

 止まってくれよ、暴れるなよ……暴れるなよ…… 待って! 止まれ! 

 

 あぁ、もうめちゃくちゃだよ。BBAの生来の戦闘狂体質が災いしているのか、未だに試験が終わりません。誰だよ! 一撃与えたら終わるって言ったやつ! ……………………私です。

 こうなるとこの糞BBAは満足するまで止まらないです。仕方ないので、後に響かないように体力をできるだけ残すようにしながら適当に付き合ってあげましょう。

 

 

 

 5分経過すると、やっと周りが止めに入ってくれました。止めに入るの遅くなーい? まぁ、文句を言ってもしょうがないので諦めましょう。というかこれ大丈夫なのだろうか。(謎の不安)

 アスタリスクに来て早々チャートと違う動きをするキャラが出始めたし。

 

 一応、厳正なる審査の結果、特待生として界龍に入ることが認められました。ありがとナス! 試験を終えたので生徒として登録してもらい、これから使う部屋に移動して持ってきた荷物を置いたらとんぼ返りで再開発エリアまで戻りま―――

 

 今回はここまで。ご視聴ありがとうございました。

 




習得技能一覧

神速
他の追随を許さない神がかったスピードで動き回ることが出来る。

強運
思いがけぬ幸運で意図せず相手の攻撃による致命傷を避ける場合がある。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

裏話2 日記

これからは1日1本投稿の予定なので初投稿です。


 ○○年〇×月○○日

 

 初めての試みだが、自分自身の事について日記を書き記してみることにする。

 周りには誰も味方がいない俺だが日記で少しはストレスのはけ口にはなるはずだ。

 

 さて、今日はいつものようにクソみたいな家の連中にこれでもかと身体を苛め抜かれた。口を開けば言うことは初代に近づくためとかあほらしいことしか言わない。いつかこの家を抜け出して誰にも邪魔されない場所で暮らしたいものだ。そのためにも今はひたすらこの苦行を耐え抜いて抜け出すための計画を練るしかないだろう。

 

 

 ○○年〇△月×〇日

 

 周りの目を盗んでこの家の歴史について調べてみたところ、この誉崎流の開祖である初代の宗家は恐ろしく強い人間だったらしい。曰く、一人で数万もの兵を薙ぎ払ったとか、曰く、剣を振るう姿は誰にも目視できるものではなかったとか、曰く、常人には見えない刀を振り回していたとか様々な話が残っている。ただ、初代以外の人間でその強さの半分にも到達する人間は現れなかったらしい。

 その中で、見えない刀の記述に関しては覚えがある。道場に飾られていた刀のことだ。自分は思うようには振ることはできなくても見ることぐらいはできるが、他の奴らには見えもしないどころか触れることすら叶わないらしい。それは今に限った話ではなく、初代以来ずっと誰も見えることさえ出来なかったそうだ。それ故に、初代以来の傑物と呼ばれて自然と自分が次期当主に選ばれてしまった。迷惑な話だ。

 他にも詳しく調べてみると、初代以降、誉崎流は各地の有名流派の道場破りをしては全戦無敗だったとの記述が残っている。しかし、中には立ち合い中相手を殺してしまうこともあったそうだ。殺しについても謝るわけでもなく、むしろ誇るような記述がされていた。普段の周りの言動や見えない刀の事から考えてみると、初代の強さは目標でもありコンプレックスでもあったために、ここまで誉崎流の人間は狂ってしまったのかもしれない。

 

 ○○年〇☆月△×日

 

 今日は他の家との交流があり次期当主である俺も参加したのだが、のほほんとした雰囲気の変な女に絡まれてしまった。名前は澄玲と言うらしい。周りにとっても都合がいいのか俺達二人だけになるようにと別の部屋に連れていかれてお見合いみたいな形になっていた。周りに人がいないなら話す気はさらさら無かったので、そいつの話は適当に聞き流すだけだったが、何が面白いのかたくさん俺に話を振ってくる。

 

 別れ際にはまた会おうねとか言ってきた。あの女と話していると振り回されることが多くて疲れるから正直面倒くさい。

 

 

 ○○年×☆月〇☆日

 

 あれ以降、澄玲と出会う機会が多くなっていた。道場で鍛錬の姿を見学したり、部屋で会話をしたりと今までの生活の中にすっかりと溶け込んでしまっている。周りが婚約関係を推し進めてくるから一緒にいること自体は特に疑問も持たないが。なぜここまで俺に構ってくるのかが不思議でならない。本人曰く俺と澄玲が似たもの同士だかららしい。あいつとは真反対の性格をしているとしか思えないため、どうにもピンとこない。

 

 澄玲といる間は誉崎の品位を落とすようなことをしなければ家の連中がうるさくないし、少し愚痴を言い合うことが出来る仲になった。この関係も存外悪くないかもしれないという気持ちがどことなくある。

 

 ×△年○○月☆△日

 

 つい先日、うちの屋敷に過去に誉崎に恨みを持った人間が報復しにやってきた。澄玲の事を誉崎の人間と勘違いしたのか危うく襲われそうになったが、相手はそこまで強い人間ではなかったので丁度一緒にいた俺がその場で制圧することができた。それ以降妙に距離感が近づいた気がする。たぶん守られたことで吊り橋効果みたいな物が作用して本格的に好意を抱いてしまったのだろう。さすがに色恋沙汰に疎い俺でも理解できた。前とは違った距離感にどうにもむず痒い気分になってしまう。

 

 澄玲と一緒にいること自体は楽しいが、本当に俺が一緒にいる資格があるのか悩むときもある。先日俺達を襲ってきた連中も元をたどれば被害者だ。澄玲は誉崎の家の本質を理解していないだろうから分からないだろうが、この家を襲ってくる奴は今まで誉崎家が立ち合いで殺してきた者たちの遺族もしくは師弟なのだ。

 

 それに、俺の手は既に人の血で汚れている。幼いころから躊躇いを捨てさせるために人を殺させられることは何度もあったし、うんざりしてはいるものの俺も人殺しに関しては仕方のないことだと許容してきた。俺のそんな人間性を知っていても澄玲は好きなままでいてくれるか。拒否されるのではないか。そう考えると、どうしても距離を置いてしまう。

 

 ×△年△×月○○日

 

 俺が距離を離していることで隠し事をしているのに気付いたのか、澄玲が俺に何を隠しているのか聞いてきた。話したくなかったので、口を堅く閉ざして秘密のままにしようと思ったのだが、何度もしつこく聞いてくるので渋々話すことにした。誉崎のことから俺が人殺しの経験があることまで全て。話を聞き終えた澄玲は何も言わずに静かに俺の頭を抱えて撫でてきた。胸が詰まるような感じがして視界が歪み、澄玲の胸の中で思わず泣いてしまった。

 

 絶対に手放したくない

 

 ×△年△△月×〇日

 

 あの出来事以降、俺達の関係はずいぶんと縮まって大体いつでも一緒にいるようになった。ただ、誉崎家の一部の人間は次期当主である俺が澄玲と一緒にいる時間が増えたことで甘ったれてしまったことに不満を持っているのか、いい顔をしないことが多い。直接手を出してくることはないが、最近は間接的に澄玲に嫌がらせをすることが増えてきた。俺だけならば何があっても返り討ちにすればいいが、澄玲は非星脈世代だ、もしも何かあってからでは遅い。

 

 そろそろ、この家にも見切りをつける時が来たのかもしれない。いつでも雲隠れするできるように準備は始めておいた方がいいだろう。幸いにもこのご時世、戸籍を偽造する方法は金さえ積めばいくらでもある。前からコツコツ貯めていたお金を切り崩せば全然足りる。

 逃げた後はどこかで働けば生活に困ることもないだろう、問題ない。

 

 ×△年×△月○○日

 

 澄玲にこの家から出て行くことを話したら、私もついていくと言ってきた。彼女が良いなら連れていくつもりだったのでもちろん快諾した。それからは、二人で出て行く日程を決めて準備をして万全の状態を整えた。これから大変な日々を送ることになるのだろうが、不思議なことにつらいだろうなと思うよりもワクワクするという感情が先に出てくる。

 

 今までの人生で俺のことを理解して味方をしてくれたのは澄玲だけだ。どんなことがあっても澄玲だけは絶対に守っていこう。

 

 

 ◇△年◇〇月▽△日

 

 誉崎家から逃げ出して、ようやく腰を落ち着けそうな状態にまでなったのでしばらく書いてなかった日記を再開しようと思う。あれから、戸籍を偽造した後、誉崎家の住んでいる地域から遠く離れた場所で暮らすことになった。職に関しても問題なく就くことができて、家も持っていた金目の物を売り払って、郊外に道場付きの優良物件があったので買って住むことになった。誉崎家から追手が来ている気配も無かったので、とりあえず一安心といったところだ。これで望んでいた平穏な生活を過ごすことが出来る。

 

 ◇△年▽×月〇▽日

 

 今更だが、澄玲と正式に結婚することになった。お互い意識はしていたので以前から夫婦っぽいことをすることも少なくなかったが、腰を落ち着けてようやくプロポーズするに至った。プロポーズしたとき呆れ半分の顔で告白が遅かったのではないかと指摘するが、全くもって反論の余地がないので頭が上がらない思いだ。

 

 それからは、二人だけで結婚式を挙げて新婚旅行にも行った。旅行はリーゼルタニアという国に行ってきた。リーゼルタニアでは王妃が第一子となる赤ん坊を産んだという事で盛り上がりを見せていたようだ。自然や文化財も多く、観光するにはもってこいの場所で澄玲とあちこちを巡りまわって旅行を楽しんだ。

 

 ☆☆年〇☆月▽◇日

 

 澄玲が妊娠した。

 まぁ、ヤることはヤったんだからいつかは妊娠するだろうなとは思ってたが、こうして妊娠したと分かると結構あたふたするものなんだと思わされた。

 

 体調は大丈夫なのかと頻繁に聞いたりして澄玲がニヤニヤとこちらを見てきたり、名前を考えるために分厚い漢字辞典を手に取っているのを見られてツボに入ったかのように笑われたりと忙しくも愉快な日々を過ごした。

 

 ×☆年▽◇月〇▽日

 

 ついに子供が産まれた。母子共に健康な状態で、澄玲が頑張って産んでくれたことを思うと、つい嬉し泣きしてしまった。元気な男の子で名前は■■と名付けることにした。■■を抱いてみるといきなり泣き出してどうすればいいのか困っていると澄玲があやし方を教えてくれて、言われたままにやってみると徐々に泣き止んでくれてそのまま寝静まってくれた。思ったよりも子育てっていうのは大変だなと思わされると同時に父親として頑張らなければと気合を入れなおす出来事にもなった。

 

(一部が黒く塗りつぶされていて読めなくなっている)

 

 ×☆年○○月×▽日

 

 子供の行事とは結構多い物で、お七夜にお宮参り、お食い初めにこどもの日と他にも色々イベントがあって大忙しだ。ただ、澄玲と一緒に笑い合ってると、幸せだなぁと思う機会が多くなって少し涙もろくなったかもしれない。こんな幸せな毎日が末永く続けばなぁと願わずにはいられなかった。

 

 ▽□年□〇月××日

 

 最近、周囲で誉崎の人間が俺達のことを嗅ぎまわっているという情報が耳に入ってきた。少し、奴らの情報収集能力を舐めていたのかもしれない。できることなら、海外にでも逃亡したいところだが今は■■が産まれてそれほど経っていないことを考えると迂闊に移動はしたくない。なんとか根回しして、俺達の居場所がバレない様に隠れなければ。

 

 ▽□年□□月〇×日

 

 俺の顔がいつもと違ったことをなんとなく理解したのか澄玲が何があったのか聞いてきた。誉崎の人間が嗅ぎまわっていることを素直に話すと我儘で俺についてきたせいでこんなことになったと思っているのか澄玲はごめんねと悲しそうな顔をしながらも不安がらせないように笑った。

 

 大丈夫だと言って宥めたが、それからの澄玲はどこか申し訳なさそうな顔をしながら俺を見ている。慰めてあげるしかできない自分の力不足を呪うしかなかった。

 

 

 

 ▽□年××月××日

 

 なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで

 

 なんで、どうして、澄玲が死ななくちゃいけない。

 澄玲は何も悪くないのに、優しかったのに、助けてくれたのに、どこも、わるく、ないのに。外からの誉崎の人間の奇襲を退けて、寝室にいったら、目の前で澄玲は……澄玲は……■■をかばって殺された。

 守ろうと思ったのに、助けようと思ったのに、その笑顔がまだ見たかったのに、あんな糞やろうになんで、ころされなきゃ、いけない。

 俺が悪いんだろうか、俺が無力だったから、いや、あの狂った一族のせいだ、あんなのがいるから俺達の平穏を壊された。俺から、すべてを奪って行って、素知らぬ顔で日常を歩もうとしている。殺さなければ

 

 絶対に

 

 ▽□年××月×〇日

 

 家を襲撃された次の日、■■を近くの施設に預けて誉崎の宗家に行き、女子供含め全員皆殺しにしてきた。襲撃の報復に来ることを見越していたのか、全員で襲い掛かってきたが、よくて中伝程度しか習得できなった大したこともない雑魚ばかりだ、一瞬で切り捨てた。

 

 宗家の人間は皆殺しにしたが、まだ足りない。それに連なる人間も全員殺す。そうしなければ澄玲も浮かばれない。

 

 ▽□年×▽月×☆

 

 大人数を殺したからか、警察が嗅ぎつけてきたが問題なく誉崎に連なる人間も殺しきることができ、誉崎の名を持つ人間は俺と■■以外にいなくなった。

 

 しかし、殺しても、特に何も達成感はない。胸の内に残るのは虚無感だけだ。なぜだ。

 

 ▽□年××月☆×日

 

 次は、誰を恨めばこの燻るような思いは晴れるのだろうか。

 

 自分をこんな境遇にまで追いやった剣術か、それとも未熟さ故に澄玲を死なせてしまった俺か、澄玲に庇われた■■か

 

 ▽□年〇×月☆▽日

 

 最近は、家にいる■■のことは放って外で酒を飲むことが多くなった気がする。■■の顔を見たくない。見てしまったら、どうしようもなくあいつのことを許せないような、そんな感情が沸いてでてきそうになる。

 

 ▽□年〇☆月×☆日

 

 金枝篇同盟とかいう胡散臭い連中が勧誘してきたので、全員まとめて叩き斬って追い返した。何も分かっていない連中が澄玲の名を使って同情しようとしているのが見え見えで非常に不愉快な気分だ。こちらも少なくない痛手を負ってしまったが、変な仮面をかぶったやつはしばらくは動けないような大怪我をしたようなので少しは気が晴れた。

 

 ×▽年○○月〇×日

 

 ■■に稽古をつけることにした。強くなって損をすることはない。まだ、2歳と少し早い気もするが、早いうちから鍛錬をすれば必ず力になるはずだ。俺みたいな後悔を■■に味わわせたくない。

 

 ×▽年□▽月○○日

 

 俺は親失格なのだろう。■■の才能に嫉妬してしまい暴力を振るってしまった。子供用の刀を持たせれば数分で達人のそれと殆ど遜色のない動きで振っていた。それに、誉崎の初代以外振るうことのできなかった、あの見えない刀も何でもないかのようにブンブンと振り回していた。その力が俺にあったらという感情が全身を駆け巡って思わず■■の顔を殴ってしまった。泣いた姿を見たときにハッと我に返ったが、後悔先に立たず。あの子を怖がらせてしまった。

 

 ☆☆年〇☆月××日

 

 あいつに剣を持たせ始めてから2年、ストレス発散の対象として死にそうになるまで扱いているが、まるで機械のように動いて気味が悪い。顔も名前も何もかもが澄玲を連想させてイライラしてしまう。もう家族としての情も失せてしまっている。あいつさえいなければ海外にでも逃亡することが出来て、澄玲も死んでいなかったかもしれないのに。

 

 求めていた平穏な生活ってこんなものだったんだろうか。

 

 

 やめだ。考えだしたら嫌な事ばかり思い出してしまう。

 

 ▽◎年☆▽月◇×日

 

 日記をつけるのも5年ぶりだろうか、あれからも剣の鍛錬はかかさず行わせており、9歳にしてもう奧伝まで習得しかけている。もう数年あれば、俺でも辿り着くことが出来なかった極伝にまで行きつくことになるだろう。

 

 気持ち悪いやつだ。反抗もせず、感情を表にすることもせず。まるであの忌々しい誉崎の連中と同じような雰囲気を纏っている。

 

 だが、何度殺してしまおうと思うことがあっても、いざ殺すとなると澄玲の顔を思い出してしまい、できずにいる。自分でもどうしてしまいたいのかよく分からない。

 

 ▽◎年☆▽月◇◎日

 

 あいつに他の流派との立ち合いを経験させることにした。どうにも、奧伝習得に手間取っていたようなのでいい機会になるだろう。

 

 ▽◎年☆▽月×◎日

 

 あいつが帰ってきた。どうやら奧伝を習得することができたらしい。天霧辰明流には負けたらしいが、生憎俺は勝ち負けなど興味ないのでどうでもいい。

 

 しかし、奧伝を習得したとなると残るは極伝のみだが、極伝は俺を含めて初代以外の全員が習得できなかった代物。唯一の手掛かりとなるのは、初代が書き残した秘伝書のみだ。これからは秘伝書の記述を元に教える方向に変えた方がいいだろう。

 

 ×◎年◎☆月××日

 

 あいつは12歳になり、情けないことだがもう練習でもほとんど勝つことが出来なくなった。教えることはほとんど無くなっている。こんなところではなく、他の場所に行かせた方がいいのかもしれない。

 

 あいつが…………

 

 

 ……………………

 

 

 …………基臣が誰の手を借りずとも生きていける。その時に、俺は用済みになるだろう。

 

 こんなことをした俺だが死ねば澄玲の元へ行けるだろうか。

 

 それは甘い考えだろう。こんな俺には地獄がお似合いだ。

 




前書きの通り、これからストックが尽きるまでは1日1本(おそらく22時の予定)投稿しますのでよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

裏話3 范星露の評価

約束していた投稿時間を速攻で破ってしまったので初投稿です。


「ん? 特待生希望じゃと?」

 

 学園の上層部から特待生の情報が入ってきたのは儂がお茶をしてる時の事じゃった。

 

「はい、口で伝えるよりもこちらを見ていただく方が早いかと……」

 

「ふむ、どれどれ」

 

 渡された動画ファイルを見てみると、小童が剣をその姿に見合わない速度で振り回している映像じゃった。界龍の中でもこれほどの強さを持っているのは暁彗以外にはおらんかもしれぬ。

 

 動画を見てこの者が界龍に入ればなんとなくじゃが面白くなるかもしれないと直感が告げてくる。

 

「渡された動画を見る限り、実力は十分にあるかと」

 

「なるほどのぉ」

 

 特待生希望なだけあってそれ相応の実力は備わっている。動画ファイルだけでは送り主が映像の本人とは断定できんが、誰であろうと儂が直接戦えばどの程度の者か分かるし問題ないじゃろう。

 

「特待生については試験で決めると伝えておくといいじゃろ」

 

「承知しました」

 

 さて、剣術使いか。界龍では珍しいタイプじゃから久々に滾ってきたわ。期待通りの力を見せてくれると良いがのぉ。

 

 

 

 

 それから数日して、儂らのもとに現れた。

 体はパッと見ても非常に鍛えられており、重心がブレておらぬし体幹がしっかりしておる。動画越しで見た時よりもはっきりと強さを感じ取ることができる。

 

 じゃが、目がまるで死んでおるのぉ。全く野心が無いような顔をしておるわ。どんな修羅場を潜ってきたのかは分からんが、そのせいで感情を表に出そうとしてこない。その野心の無さがこやつにこれ以上の成長を促してくれるかは少し怪しいかもしれぬ。

 

 しかし、なんじゃこの喉に小骨が引っかかったような違和感は……。まぁ、戦ってみれば分かるじゃろ。試験のために場所をいつも弟子たちが使っておる修行場所へと移すことにする。

 

 童が持参してきた剣をみるとこのアスタリスクの中では珍しく煌式武装(ルークス)ではなく実体刀じゃった。実力を見極めるために、先に攻撃させてやることにした。

 

「ほれ、先に攻撃にして良いぞい」

 

「分かった」

 

 両手で剣を構えると一瞬にして距離を縮めて向かってきて、小さな身体から全力で振り下ろされる上段を以て叩き伏せようとしてくるので、後ろに下がり回避する。

 

「ほぉ、なかなかやるようじゃな……っと」

 

 続けざまに来る下からの切り上げに手で対応する。年齢に見合わない膂力に思わず感嘆の溜息をもらす。剣技の繋ぎの間に生じる隙を見逃さず、すかさず星仙術で分身しようとする。

 

「急急如律令……っ!?」

 

 こやつ、ほぼノータイムで切り上げから突きの動作にまで繋げおった。直接会って、ただの人形のような人間と評するにはあまりにも引っかかっていた違和感の正体に気づいた。

 まるでこの戦いで生き死にが決定するかのような目つきを見れば、暁彗とは決定的に勝つことに対する執念が違う。言うなれば生きた人形みたいなものじゃ。

 

 世界広しといえども、こんな歪な人間を見るのは初めてじゃな。

 

「……くくくっ」

 

「あのー師父……、分かってると思いますけどこれはあくまで試験ですからね。まさか本気でやらないでしょうね?」

 

 虎峰(フ―フォン)が何か言っておるが、そんなのは関係ない。

 少し面白そうなのがくればいいかという程度の思いじゃったが、その予想を超える大当たり。この童の瞳から感じるオーラは明らかに壁を超えている側の人間のそれじゃ。儂を楽しませるかもしれない相手の存在に感情が高ぶってくる。

 

「急急如律令、(ちょく)!」

 

 今度は儂から先に攻撃を仕掛ける。

 

「破っ!」

 

「むっ……」

 

 何の変哲もないただの打撃じゃが、星辰力を変質させて《魔女》の力のように身体能力を何倍も強化して相手にたたきつける。

 

 シンプルじゃが、顔を見るにそこそこ効いているように見える。畳みかけるように攻撃をしかけていると流石に一方的に攻撃を受けるのを嫌ったか、剣を儂の腕に当てることで発生した衝撃で距離を取る。

 

 しかし、何も儂の取り柄は近距離戦だけではない。即座に星仙術を組み始めて幾本もの雷撃を生み出す。

 

「……雷撃か!」

 

「急急如律令、勅!」

 

 星仙術で発生させた雷撃が童に向かって直進するが、そのまま回避される。

 

 しかし、解せない。

 

 雷撃を回避する者は初見でもそこそこいるが、問題はそこではない。問題は儂が星仙術を完成させる前に、雷撃が来ることを読み切っていたことだ。

 

 普通の星脈世代ではあり得るはずのない行動。もしや……? 

 

「……おぬし、《魔術師(ダンテ)》か?」

 

「《魔術師》、……俺がか?」

 

 どうやら自分の能力に気づいていないようじゃが、この異常なまでの反応速度、いや直感は間違いなく星脈世代といえども再現できるものはいないじゃろう。間違いなく《魔術師》の能力で儂が攻撃する前に気づいていた。

 

 思えば、能力の片鱗を感じさせる行動はさっきの近接戦でもいくつかあった。儂が掌打を繰り出す瞬間に既に防御動作を行っていたことも今になって思えば能力で事前に察知していたのじゃろう。

 

「久方ぶりに滾ってきたわ……っ!」

 

 次の攻撃に向けて星辰力をコントロールして一撃を浴びせようと行動に移そうとする…………

 

「ストップです、師父!」

 

 水を差すように虎峰が無理やり儂の前に立って試合を中断させる。

 

「なんじゃぁ……せっかく楽しくなってきたところなのに」

 

「なんじゃぁではありません! これはあくまで特待生として迎え入れるにふさわしいかを判別するための試験であって、師父の悪ふざけに付き合っているんじゃないんです! ほら、やめですやめっ!」

 

「ちぇっ……つまらんのぅ……、まあいい」

 

 虎峰の横やりが入って不完全燃焼な状態で試合を終えることになって少し不満じゃが、これから何度も手合わせすることになるじゃろうし良いかという気持ちになる。

 

「で、試験の合否についてじゃが……」

 

 基臣の方向へと振り返り先ほどの戦闘の結果から試験の合否を伝える。

 

「合格じゃ、ようこそ界龍へ」

 

 こやつなら儂にとって遊び相手となるに足るだけの実力は現時点で既に備えておる。この界龍という環境を通してさらに基臣が強くなれば文句なしじゃな。

 

「おぬしには既に寮に部屋を用意してある。そこの虎峰に部屋の場所がどこにあるか案内してもらうとえぇ」

 

「分かった」

 

「それじゃあ行きましょうか基臣くん、でいいのかな」

 

「あぁ、構わない」

 

「僕は趙虎峰です。虎峰と呼んでください」

 

「分かった」

 

 自己紹介の後、虎峰が基臣にこれからの学園生活についての説明をしながら寮へと向かっていくのをその場で見送ると、もたれかかっていた柱越しに裏にいる人間に話しかける。

 

暁彗(シャオフェイ)。どうじゃった、おぬしの目から見て基臣は」

 

 呼びかけると柱から人影が現れ、儂の横へと並び立つ。

 

「……師父の言う通り、中々面白い男だった」

 

「そうじゃろう?」

 

 暁彗はいつも通り無表情で淡々と基臣に対する感想を述べておるが、どことなく今後戦うことを楽しみにしているような雰囲気が感じられる。好敵手と呼べる存在がいなかった暁彗にとって基臣はまさにそれと呼べるような存在になれるじゃろう。

 

 これからあやつが周りにどんな影響を与え、そして与えられるか。その結果どんな成長を遂げるか、今から楽しみじゃのぅ

 




投稿時刻が予定していた時刻よりも1時間ほどずれてしまい。申し訳ありませんでした。m(_ _)m
少し予定が入ってしまったためこれからは投稿予定時刻が1時間から2時間ほどずれる、もしくはその日は投稿できない可能性があります。
繰り返しとなりますが、予定と違う時刻に投稿してしまって読者の皆様を混乱させ、ご迷惑をお掛けして申し訳ありませんでした。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

界龍入学~鳳凰星武祭優勝
part4


アスタリスクの単行本がいくつか失踪したので初投稿です

あと、part3の内容をほんの少しだけ変更しました。(純星煌式武装(オーガルクス)をまだ起動していないという展開に変更しました)


 ホモという名前とは矛盾してノンケムーブを始めだすRTAはーじまーるよー

 

 前回は界龍(ジェロン)の生徒として認められたので、とんぼ返りで再開発エリアまで戻ろうとしていたところでしたね。

 

 さて、再開発エリアでやることは大きく分けて3つで、誰にも見つからない場所で純星煌式武装を使って慣らすことで熟練度を上げることと、特殊技能習得のために特訓すること、そして再開発エリア内にいるであろうシルヴィアとエンカウントして交友関係を結ぶことです。純星煌式武装(オーガルクス)が見つかるまでは特殊技能を習得するための特訓と、シルヴィアとキャッキャウフフするだけの目的で訪れる予定でしたが、いい意味でのチャート変更となりました。

 

 純星煌式武装を使う場所は特訓する際に使用する予定だった場所を兼用すればいいのでそこへ行きましょう。

 

 少女疾走中……

 

 さぁやってまいりました。再開発エリアの廃棄されたカジノの近くにある地下倉庫。根城にしているマフィアも存在しない上、星露のワープ地点からの立地も悪くなく、地下なので防音対策もばっちりです。

 さっそく純星煌式武装の能力とかをチェックするために始めての起動をしてみましょう。最初から使う予定はなかったので、特にどの能力が来ても構わないのですができれば何でも(何でもとは言ってない)切断できる黒炉の魔剣(セル=ベレスタ)みたいな火力特化であれば、ゴリ押ししやすくなるのでありがたいですね。良能力オナシャス! 

 

 なになに…………潔白の純剣(インヴィズ=ピューレ)

 適合者以外の剣本体の強制完全認識阻害……

 要するに剣本体限定の透明化ですね。使用者本人の意思とかに関わらず、常に周りからは見えないようです。大当たりではないですが、十分当たりです。やり方次第では大きな戦力になりそうですねぇ。

 

 能力を確認したらしばらく使って熟練度を上げることにしましょう。熟練度を上げたら、思うように武器を使いこなすことができるようになり、純星煌式武装では熟練度を上げ切ると遠隔操作できるようになります。今回の純星煌式武装は透明化なので遠隔操作と最高に相性抜群で事前に情報を手に入れてなければ究極の初見殺しになりますね。改めて考えてみたらめちゃ強です。

 

 まだまだ使用感とかは把握しなければいけませんが、この手の能力はあまり人前に使わないのが吉なのでオーフェリア戦まではめったなことがない限り使用しません。なので、時間をかけて能力把握をしていっても(問題は)ないです。

 

 そこそこ使ったことですし、今度は再開発エリアを探索してシルヴィアを探しましょう。

 シルヴィアはアイドル活動をしていない時間にランダムで再開発エリア内をうろついているので、探知系能力持ちでもない限り見つかるかどうかは運次第です。

 

 試走段階で、探知系能力持ちに探索依頼してタイム短縮しようと試みたことがありますが、アイドルの場所を聞いたことでストーカーか何かと思われたのか5分後には警察的な存在である星猟警備隊(シャーナガルム)が駆けつけてストーカーの疑いがかかり、逮捕されました。

 ふざけんな!

 

 それはさておき、捜索から1時間ほど経ちましたが未だに見つかっていませんね。誰かに絡まれててくれれば分かりやすくて助かるのですが。

 

 おっと、見つかりました。どうやらゴロツキ2人に付きまとわれているようですね。

 そのまま正面から倒してもいいのですが、それだと顔が割れて後で追っかけてきたりする輩が現れることもあるので倒したいなら不意打ちするのが一番です。

 

 ちょっと刃あたんよ~。

 

 ヨシ! 二人とも不意打ちで倒すことができました。

 

 ホモ君は恥ずかしがりやなのでその場から離れようとしますが、シルヴィアは確実に声をかけてきてくれます。場所を移動した後に変装を解いてアイドルをやっていることを暴露してくれますが、ホモ君は世間知らずなのでシルヴィアのことを知りません。そのことを言うとシルヴィアの膨れ顔を見ることが出来ます。

 

 あぁ^~かわええんじゃぁ^~

 

 街の方に喫茶店あるんだけど……お茶してかない? といった感じで助けたお礼にシルヴィア行きつけの喫茶店で奢ってもらうことができます。

 あぁ^~いいっすね^~

 

 

 ということでシルヴィアの誘いにホイホイついていくことにしましょう。

 喫茶店に着いたら、会話イベントが発生します。一応、好感度稼ぎができるので適当に話をすることにしましょう。

 

 ……

 

 …………

 

 え、父親ですか? 

 

 お、落ち着け。別に自ら手を下したわけではないですし、つい最近亡くなったと言えばいいだけです。ちょっと間を置いて適当に当たり障りのない応答でお茶を濁しましょう。そうすると、空気の読めるシルヴィアは話題を切り替えてくれます。

 

 …………お、今度は買い物に誘われましたね。買い物イベントはある程度の好感度がないと発生しないのですが、さっき助けたことで思ったよりも好感度を稼げてたみたいですね。それでは商業エリアに向かって買い物をする間は倍速です。

 

 少女買い物中……

 

 シルヴィアの買い物に付き合いつつ、ヒロイン初回遭遇時に挟まれてくる街の紹介イベントをこなして、好感度を上げることが出来ました。

 

 1日目にしては思ったよりもシルヴィアといい感じに親交を深めることが出来ましたね。少し好感度を上げるペースが速い気がしますが、シルヴィアはアイドル活動で不規則に留守にしてることが多いので後から急いで好感度を稼ぐような事態にならないようにすることを考えてこのままのペースで行きましょう。

 

 お、ゴロツキの大群が現れましたね。一定確率ではありますが、ヒロインといるとこうやって数十人単位でゴロツキが徒党を組んでやってくることがあります。育成があまり進んでいないキャラであれば、星猟警備隊に通報して駆けつけてくるまで一定時間耐えきるのが一番ですが、幸いにもスパルタ教育を受け、鍛え抜かれたホモ君にはその心配はありません。

 

 このゴロツキ’sはいい稼ぎになるのでシルヴィアを背後に下がらせて一人で処理することにしましょう。

 

 カスが効かねぇんだよ(無敵)オルルァ! オルルァ! 

 そんなんじゃ虫も殺せねぇぞお前ら

 

 何人か序列入りしている奴も混ざってますが、いても30位あたりがせいぜいですね。その程度ならばホモ君に触れることすら叶いません。剣を使うとその情報が流出してしまうので、拳で! 戦うことにします。

 

 加減を忘れて殺しかけるとポリスメンに事情聴取される可能性があるなど、後で面倒くさいことになる可能性があるので、事を穏便に済ますために殴って気絶させちゃいましょう。

 

 ゴロツキどもを倒したら、シルヴィアを彼女が在籍している学園であるクインヴェールまで送り届けましょう。

 そうすることで、確定で連絡先を交換することができます。シルヴィアを送り届けることなく別れてしまったことで連絡先を入手できず、シルヴィアを再捜索する羽目になった何人ものホモ君は結果的にリタイアすることになりました。気を付けましょう。

 

 シルヴィアと連絡先を交換して別れたら、そのまま界龍へ──―

 

 今回はここまで。ご視聴ありがとうございました。

 




現在開示できる設定

潔白の純剣(インヴィズ=ピューレ)
誉崎家初代が愛用していた純星煌式武装。
非常に繊細で臆病な性格で所有者以外にその姿を見せようとしない。
また、嫉妬深く束縛が強いため、一回適合してしまえば一生涯持ち主が死ぬまで繋がりを断とうとしない。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

裏話4 シルヴィア・リューネハイムの邂逅

ようやっとメインヒロインが登場したので初投稿です。


 その男の子と会ったのは少し前の事。

 

 私はいつも通りウルスラを探すために、再開発エリアの色んなところを回っているときにたまたまゴロツキ2人と鉢合わせてしまった。一応、私の正体がバレないように変装はしてるけど女の子であることには変わりない。

 

 周りに人がいないのをいいことに私にセクハラしようと身体を近づけてくる。

 暴力沙汰で目立つことは避けたかったので、どうしようかと迷っていると近くにあったビルの物陰から人影が出てきて一瞬で倒してしまった。

 

 ゴロツキから助けてくれたのは、私と同じぐらいの年の男の子で刀傷らしき物が頬にあるのが特徴的な子だった。

 助けてくれたのも束の間、何も言わずに行ってしまおうとするので呼び止める。

 

「君!」

 

 呼びかけたらあっさりと止まってくれた。特に煩わしそうにしてる雰囲気はしないのでホッとする。助けてもらって何もお礼をしないのは後味のよくない物が残るから何かお礼でもしようと思った。

 

「さっきは助けてくれてありがとう。君、名前はなんていうの?」

 

「誉崎」

 

 うーん、なんだろう。どうにも会話が苦手そうな印象が強い子みたい。今まであまり人と積極的に話したことはないのか余りにも会話が簡潔というか味気ないというか。

 

「えーと、下の名前は?」

 

「基臣」

 

 基臣くんか。校章を見たら界龍(ジェロン)の子みたいだ。さっき助けてくれた時は私でも目で追いつくのがやっとの速さで迫ってたから序列入りしてる子かなと思ったけど、私の知る限りでは序列入りしてる中で基臣くんの顔はなかった気がする。私も少し前にアスタリスクに来たから、基臣くんが来たのも最近のことかもしれない。

 

「基臣くんかー。私はー、っと。ここじゃ人が来るかもしれないから、人気がないところに行こっか。ついてきて」

 

 私が人のいないところに案内すると、すんなりとついてきてくれた。最近来たからかもしれないけど、見知らぬ人の誘いにもすんなりと乗ってくれる。自分の実力に自信があるからなのか、それとも天然か。どちらにしても、基臣くん自身かなり強そうだしそこまで心配することはないのか知れないけど。

 

「それで、私の正体なんだけど。その前に一つだけお願いがあるんだ」

 

「約束?」

 

「これから明かす私の正体は他の人には秘密にしてほしいんだけど……大丈夫?」

 

「分かった、秘密にすると約束しよう」

 

「あはは……私が助けてもらった側なのにこんな事お願いしてなんかごめんね。それじゃあ、よいしょっと」

 

 そう言いながら、変装用にかぶっていた帽子を脱ぐと髪色が薄茶色から本来の薄紫色に戻っていく。変装が完全に解けて本来の姿である、アイドルの方のシルヴィア・リューネハイムとしての姿に戻る。

 

「私の名前はシルヴィア・リューネハイムっていうんだ」

 

「そうか」

 

 

 ……

 

 …………

 

 ……………………

 

 

 ん? 

 そうかって、それだけなの? おかしいな、これでも一気に名が売れて最近は世界的に有名になってると思ってたんだけど……。ペトラさんも曲の売り上げとか見せてくれるけど、世界各地でも売り上げトップらしいし知名度的に自信はあったんだけどなぁ。

 

「もしかして、私のこと知らない? アイドル活動してるからそこそこ名は知れていると思うんだけど」

 

「俺は知らない。世間のことはそこまで興味がない」

 

 自分で言うのも何だけど有名すぎるから少しは驚くかなと思ったんだけど、反応薄いし。

 むぅー、なんか負けた気がする。まぁ、知らないなら知らないで変に緊張したり名前呼びすることも抵抗無いはずだし、いっか。

 

「それで、私のことなんだけど。親しい人はみんなシルヴィって言うからそう呼んでね」

 

「分かった、シルヴィ」

 

 さてと、いつまでもこんな所にいるのも良くないし、街の方まで行って喫茶店で話の続きをすることにしよう。

 

「基臣くん、さっきのお礼もしたいから喫茶店でお茶でもしない? 私、おすすめの場所を知ってるから味は保証するよ」

 

「別に助けるつもりで、乱入したわけではないが……」

 

 施しを受けないタイプなのかどうなのかは分からないけど、私の提案に少し悩んでる様子だ。こういうのは素直に受け取ってほしいんだけどねー。

 あっ、街まで行くんだし変装は戻しとかないと。よいしょっと。

 

「いいからいいから、君がそう思ってなくても私は助かったと思ったんだし」

 

「む……」

 

 基臣くんの背中を押して行かせようとすると、渋々彼もついてきてくれることになった。

 抜け道を通って街まで向かうと、メインストリートに出るのでそこからしばらく歩くと、いつも通ってる喫茶店に到着する。

 

「さ、入ろ。基臣くん」

 

「……あぁ」

 

 煮え切らないような表情をしていたが、仕方なしにといった表情で私に続いて喫茶店に入る。ここの店員さんは私と顔なじみなので、いつも座ってるテーブルまで案内してくれた。

 テーブルの端に挿してあったメニュー表を基臣くんに渡すと、私もメニューを眺めながら何を頼むか決める。

 

「お礼だから私の奢りだし何でも頼んでいいよ」

 

「分かった」

 

 こういうお店に入ったのは初めてなのか、どれを頼めばいいのか迷ってる感じだ。誰にでも人気のあるおすすめのメニューを教えてあげることにしよう。

 

「悩んでるならこれとかどう? カフェラテと季節のケーキのセット」

 

「じゃあそれにする」

 

 注文も決まったので呼び鈴で店員さんを呼んで注文する。

 

「カフェラテと季節のケーキのセットを1つとスフレケーキとミルクティーのセット1つで」

 

「かしこまりました」

 

 店員さんが注文を取って戻っていったところで、基臣くんについて色々聞くことにした。

 

「そういえば、基臣くんって最近アスタリスクに来たばかりなの? 強そうなのに、全然顔をみたことないけど」

 

「今日着いたばかりだ。界龍で特待生の試験を受けて合格したから、荷物だけ片付けて後はさっきの場所の近くで鍛錬していた」

 

「へー、今日来たばかりなんだー。だから場慣れしてない感じがしたんだ」

 

 それに、特待生か。基本的に界龍は生徒会長の星露ちゃんが面白いと思った人間だけが特待生になれるらしいから、基臣くんも相当に強いってことなのかも。

 私も強さには自信があるけど、さっき見た動きを思い出すと、基臣くんと戦っても勝てるか怪しいかもしれない。ちゃんと戦ってるところまでは見たことがないからなんとも言えないけど。

 

「そういえば、基臣君はアスタリスクには何が目的で来たの? 願いがあるとか」

 

「誰にも負けない強さを手に入れるために来た」

 

「強さかぁ、このアスタリスクで一番となるとオーフェリアかヘルガさんになるのかなー。

 ヘルガさんはもう星武祭に出れないから戦うことはできないと思うけど、オーフェリアなら王竜星武祭に出れば戦えるかもね」

 

「王竜星武祭か……」

 

 たぶん世間一般でアスタリスク最強は誰かと聞いたらその2人がまず先に出てくるはずだと思う。あとは星露(シンルー)ちゃんだけど、あの子はまだ年齢が規定に行ってないし界龍で直接教えてもらってる人しか強さは分からないんだよね。

 

「最強と言えば、星露ちゃんはどうなの? 界龍の生徒会長だけど、君を特待生に選んだから戦ったりとかしたんじゃないの?」

 

「特待生試験の時に戦ったが、何回か攻撃は当ててもまるで倒れる様子はなかったな。むしろ奇妙な術を介した能力を使ってこちらを翻弄してきて、厄介な相手だった。今はまだ勝てないだろうな」

 

 今はまだ……か。その言葉に虚勢をはっている感じはないみたいだしかなりの自信家みたいだ。

 

「界龍の中でも一撃与えれる人は相当に限られてるって噂はよく耳にするけど、よく星露ちゃんと戦って攻撃を当てられたね。さっき助けてもらったときの動きも凄かったけど、結構強かったりする?」

 

 誰に戦い方を教わったのかな? もしかしたら両親からかもしれない。私は両親が非星脈世代だからウルスラに教えてもらったけど、一般的に星脈世代は親から戦い方を教わることも珍しくないんだよね。あとは、どこかの道場で教えてもらうっていう人も結構いると思うけど。

 

「父に剣術を教えてもらった。2歳のころから始めたから、他の奴よりは早くから剣術をかじっているとは思うが」

 

「へぇー、お父さんからなんだ。アスタリスクに来たってことは親から離れて一人暮らしって感じかぁ。どんなお父さんなの?」

 

「……父は、つい最近亡くなった」

 

「あっ、ごめん……」

 

 ちょっと深く基臣くんについて聞きすぎたな。あまり聞いてほしくなさそうだし。雰囲気が悪くなっちゃったから、話題を変えないと。

 と思ってたら、店員さんがケーキと飲み物を持ってきてくれた。ミルクティーとカフェラテのいい匂いがする。

 

「さっ、基臣くん。食べよ」

 

「いただきます」

 

 ミルクティーの甘さが喉に優しく伝わってくる。うん、おいしい。基臣くんも無表情でものすごーく分かりづらいけど、美味しそうにケーキをたべてくれている。

 

「そうそう、基臣くんはこの街初めてなんでしょ。私ならここに来てそこそこ経ってるから案内してあげるよ」

 

「別に案内してもらわなくて構わない。この街で遊ぶことはない」

 

「えー」

 

 どうにも基臣くんはコミュニケーション能力というか、交友関係が希薄そうに見えて、なんというか危ういような感じがするな。見た感じ悪い人では無いんだけど、人付き合いが不器用で最低限のことしか喋らないから誤解されそうな感じの人柄で損をしてるような気がする。

 

「まあそう言わずに一緒に回ってみよ? これから生活していくにも何かとお店は分かってないと後で困るでしょ? 生活必需品とか最低でも必要なものはないとだし」

 

「……まあ、一理あるか」

 

 面倒くさそうにはしてるが、どうやら私の提案には乗ってくれたので安心した。

 とりあえず会話しながらお茶した後、喫茶店を出て近くにあるショッピングモールまで向かうことにした。ここなら大体の物が揃ってるし場所も分かりやすいから迷うことも無いと思う。

 

「ここが、服を売ってるところだね。せっかくだから、基臣君の服選びを手伝ってあげるよ。さ、入ろ」

 

「いや、服とかは持っているし特に必要ないんだが」

 

「いーいーかーらー」

 

「……分かった」

 

 基臣くんは押しに弱いタイプなのか、私の言うことをすんなり聞いてくれるので話が素早く進んでありがたい。男の子とはいえ、基臣くんの服装は地味というか寂しさがあってもったいないなと思っていた。お店に入って、いくつか服を見繕ってあげると試着室で着せ替えしてどの服が基臣君に似合ってるか見てみる。

 

 うん、やっぱり素材が良いからどの服を着せても似合って見える。どれにしようかと、色々服を着せていたらさすがの基臣くんも疲れたのか顔に表れているので、これぐらいにしておくことにしよう。今度は私が服を着替えて基臣くんに評価を聞いてみる。

 

「ねえ、この服似合ってる?」

 

「似合ってるんじゃないか。確かお前はアイドルのはずだからなんでも似合うし」

 

「はずじゃなくて、ちゃんとアイドルだよ!」

 

 もおー、結構思ったことをズバズバ言う性格だからか言われて嬉しいことも嬉しくないことも同時に言ってくる。これでも本人に悪気がないんだからなー、強く言うこともできない。

 

 服をいくつか選んだあと、私たちはショッピングモールを出て、街をぐるぐると回って観光することにした。基臣くんが興味があると思う星武祭の会場の場所から、それぞれの学園の場所、私がアスタリスク内でよくライブに使うステージなど、いつも見ている場所だけど一緒に回ってて楽しかった。

 アイドルとしての私を元々知っていないから、肩の力を抜いて忌憚のない会話ができる。

 ちょっと女の子に対する接し方に難があるけど、そこを含めても私は基臣くんに対して良い感情を持っている。

 

 また一緒に遊びたいなと心の内で思った。

 

 

 日が沈もうとするぐらいの時間になったので、私たちもそろそろ帰ろうと思って広場を歩いていると、正面にレヴォルフの生徒が大人数でたむろしていた。

 変なトラブルに巻き込まれたくないので基臣君の手を引いて今来た道を戻ろうとすると、それを塞ぐようにレヴォルフの生徒がいた。

 

「兄貴、この女上玉でしょう」

 

「へぇ、悪くねえな。今すぐにでも連れ込んで楽しみたいぐらいだ」

 

 いつからか、分からないが私たちを見つけてあとをつけていたみたいだ。間違いないく、彼らの狙いは私なのだろう。数はおよそ40~50ぐらいで、序列入りしているのがちらほらいる。

 

「おい、お前。邪魔だから女置いてさっさと失せろ。そうすれば見逃してやる」

 

 彼らのリーダーらしき人物が基臣くんに私を置いていくように言うが、彼は意に介していないようだった。

 

「聞こえなかったのか? さっさと失せろ」

 

「なぜお前たちに指図されないといけない。そっちこそ邪魔だ、失せろ」

 

「……てめぇ」

 

 さすがに基臣くんでも人数が多すぎる。私も加勢すれば大丈夫だとは思うけど、序列入りがいくらかいることが心配だ。身バレすることも覚悟で能力を使って逃げることも考えた方がいいかもしれない。

 

「基臣くん、ここは逃げよ。戦っても面倒くさいだけだし、あの中に何人か序列入りの人間が混じってる」

 

「俺一人でやる。下がってろ」

 

「あっ、基臣くん」

 

 基臣くんは前にでると、一瞬で移動して相手の一人を殴り倒していた。

 それからは一方的な蹂躙が繰り広げられた。

 気絶させる程度に手加減した殴打で基臣君は相手の数を減らしていく。

 それとは対照的に相手は一回も基臣くんに攻撃を当てることができず、数分で全員殴られて地面に倒れていた。

 

「こんなものか……」

 

 つまらなそう表情でそんなことをつぶやくと、掴んでいたレヴォルフの生徒を放り投げて私のもとに戻ってくる。

 

「全員気絶させてるから大丈夫だとは思うが、いつ起きてもおかしくはない。さっさと帰るぞ」

 

「う、うん」

 

 最初に出会った時に簡単にゴロツキを倒していたから、ある程度の強さはあるんだろうと思っていたけど、まさかこの人数を相手にして無傷で済むほどだなんて思っていなかった。

 

 レヴォルフの生徒を倒してからしばらく歩いて、クインヴェールまで送り届けてもらうことになった。わざわざ送り届けてもらう必要はないと思って断ったけど、街を案内してもらった貸しを作ったままにしたくないのでそのお返しだということで頑なに送り届けることにこだわっていた。

 

 そこまで言われたらしょうがないので、その提案を受け入れることにした。

 クインヴェールまで歩くことしばらく。入口まで着くことができた。

 

「ね、基臣くん。連絡先交換しない?」

 

「連絡先?」

 

「そ、また今度遊ぶとき無かったら困るでしょ」

 

「いや俺は遊びに……」

 

「もー! そういうのは素直に受け取るものだよ。君、このままずっとそういう生き方で過ごしたらいつか身体が持たなくなるよ」

 

「…………」

 

 私の言葉を無下にするつもりはないのか、悩んでるようだった。どうにも基臣くんは自分を戒め続けるような方向へと向かいすぎな気がする。

 何があるのかは本人が言わない限り深く詮索してはいけないと思うけれど、それとは関係なしに放ってはおけないような性格をしてる。

 

 基臣くんはしばらく黙っていたままだったけど、観念したように端末を開いて私に見せてきた。

 

「これが俺の連絡先だ」

 

「えっと、ちょっと待ってね」

 

 手早く基臣くんの連絡先を端末に入力して、お気に入りに登録する。向こうも連絡先を登録したみたいで、端末を閉じていた。

 

「じゃあ、今日はありがとね。楽しかったよ」

 

「あぁ」

 

 色々あったけど、基臣くんに出会えて楽しかったなと思えた。また、今日みたいに遊ぶことができたらいいなと思いつつ、自分の部屋へと帰っていった。

 

 

 

 帰宅後、私の顔を見たペトラさんが何かを察したのか溜息を吐きつつも、予定があるならスケジュール調整してあげると言われたり、ルサールカの子達からはゴシップだと騒いで詮索されたりと、誤解を訂正しようと苦労したけどそれはまた別のお話。

 




これで話のストックがなくなったので今までより投稿ペースが少し落ちますが、出来る限り早く投稿できるように頑張ります。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

part5

UA数がいきなり上がり始めて驚いたので初投稿です。


 メスガキをフルボッコにしてわからせるRTAはーじまーるよー

 

 さて、前回は本RTAのメインヒロインであるシルヴィとの交流を深めて連絡先を入手して界龍(ジェロン)に帰ってきたところまででした。

 

 帰ってきたころには日も完全に落ちているので寮に行く前に食堂に向かい晩御飯を先に食べましょう。

 

 なーんか静かですねー。もう夕飯には遅い時間なのか、食堂の人以外は人がポツポツいるかなといった程度です。食券を買って、ささっとご飯を食べてしまいましょう。

 

 ん? 虎峰(フ―フォン)が隣の席に座ってきましたね。先ほども寮に案内してくれましたし、結構世話焼きな所がありますね。ちなみに見た目が完全に女の子なので勘違いする人もいますがれっきとした男の子です。

 

 虎峰と一緒に申し訳程度に会話をしながらご飯を食べたら時間も遅いので寮に戻ってささっと就寝しましょう。ちなみに虎峰とは寮の部屋が同室で時間効率的にも鳳凰星武祭でタッグを組むのがうま味なのでそこらへんも視野に入れてそれなりに仲良くなっておきます。

 

 

 翌日になりました。今日から転校生という扱いで界龍の中等部一年に配属されますね。

 先生に教室まで案内してもらって、簡潔に自己紹介しときましょう。オッスお願いしまーす

 

 自己紹介の後は学園モノおなじみの質問タイムです。まぁこの学園で来る質問は一択なんですけどね皆さん。

 

 おっと、やはり木派と水派どっちに入るかっていう質問が来ましたね。木派というのはロリババア直伝の星仙術が使えない側の人間が属する派閥のことで、水派はそれが使える側が属する派閥のことです。分かりやすく言えば木派が武闘家タイプ、水派が魔術師タイプといったところでしょうか。方向性の違いからか何なのか派閥間では結構仲が悪いです。まぁ必ずしも星仙術を使える人間が水派に属するわけでもないし、木派と水派で互いに仲が良い者同士もいるので、この説明が絶対という訳ではないです。

 

 あまり片方の派閥に肩入れして面倒ごとを起こしてチャート崩壊させたくないので、どちらにも属さないを選びましょう。そうすると、ある程度の勧誘は最初はあるものの徐々にそれも落ち着いていきます。ですが、勧誘とは別にまた厄介な奴が出てきます。

 

 自己紹介も終わり、席に着いて初日なので大人しく授業を受けることにします。その内、授業は星露の権限を使ってサボタージュします。人間の屑がこの野郎……。

 

 適当に授業を終えて星露の元に鍛錬に行こうとすると、さっそくその厄介な奴がやってきましたね。こいつは(リー)沈華(シェンファ)というメスガキで、さっき説明したロリババアが使っていた雷撃とか分身みたいな星仙術を使える側である水派の道士(タオシー)というタイプに分けられる人間です。このRTAを始めようと練習をしていた時によく突っかかってきてチャートを崩壊させてきた人間の屑です。

 

 他の学園に比べて在名祭祀書(ネームド・カルツ)にレベルの高い実力者が揃ってる界龍の中で、原作では高等部の時点で序列10位と冒頭の十二人(ページ・ワン)に入れるほどで、星露の弟子であるため現時点でもそれなりに強く本人は完全に天狗になっています。

 

 ホモ君が自己紹介したときに説明しましたが、木派と水派は仲がよろしくありません。チーム黄龍(ファンロン)として獅鷲星武祭(グリプス)に出場する際は渋々手を取り合いますが、基本的に冷戦状態が続いています。

 

 星仙術にも適性があって、その才能がからっきし無い人は拳士になるしかありません。食堂で声を掛けてくれた同室の虎峰なんかが適性の無い典型的な拳士で、本人はそれをややコンプレックスに思ってるみたいですね。

 

 まぁ、星仙術が全てを決めるわけではないので何とも言えませんが、一つ間違いなく言えることは界龍という学園の恩恵を一番受けることが出来るのは星仙術を習得できる水派だということです。

 

 今回のホモ君はチーム戦やタッグ戦での味方集めに有利だから界龍に入っただけなのと、派閥争いが面倒なのでどっちつかずのポジションになりました。

 

 このメスガキはその蝙蝠みたいな態度が気に食わなかったのか、決闘で虐めてやろうという魂胆なのでしょう。

 仕方ありません、放っておくと面倒なので一回決闘を承諾して叩きつぶすことで実力の差を分からせてやりましょう。

 

 さて、純星煌式武装は使えないので普通の実体刀を……

 

 

 

 

 

ワタシダケヲミテ

 

 

 パリンッ!! 

 

 

 へ? 

 

 なんで刀が壊れたんすか? 

 

 周りも何が起こったのか分からないようでポカンとしているみたいです。バグか何かでしょうか。原因が分からないので謎ですが仕方ありません、予備に用意していた煌式武装を……

 

 

 

 

 

ダメッ!!!! 

 

 

 パリンッ!! 

 

 

 は? 

 

 なんで、なんで? 

 

 また、持っていた武器が壊れてしまいました。さっきから潔白の純剣が物凄い圧迫感でホモ君を締め付けてくるようなプレッシャーを出してきてるのですが、これが原因でしょうか? 

 

 こいつまさかヤンデレ剣なのか……? だから装備しようとした武器に嫉妬して破壊した可能性が微レ存……? 

 

 まじでどうすっぺこれ……。この予想が正しいのなら、この先戦う場合は素手かこのヤンデレ剣を使うかの二択になるということです。この先三つの星武祭で戦う上で情報をできる限り漏洩させないために王竜星武祭以外の全ての星武祭を武器なしの素手で進めていくのは無理があります。

 

 つよつよ武器だと思ってたら他の武器に嫉妬する呪いの装備とか冗談きついですね。

 さすがに今、潔白の純剣の情報を他の奴らに広める訳にはいかないので素手でやるしかないです。今戦おうとしてる敵が同格の相手ではなかっただけ幸運と思うしかないでしょう。

 

 さて、相手の挑発により始まったメスガキ戦ですがナニモイウコトハナイ

 通常プレイ時には原作と同様に分身や煙幕、呪爆符など鎖マンのような殺意を覚える技ばかり使ってきますが、このホモ君には第六感がありますのでその手の姑息な技は通用しません。

 

 星露の時は分身を身代わりでなく攻撃の手数を増やす手段として使ってきたので面倒くさかったですが、このメスガキはまだホモ君と同じで中等部に入ってそこまで経ってないのでそこまでの知恵と技量はありません。そのため、本体を絞らせないための目くらまし程度にしか使ってこないので、第六感で本体を見破ってさっさと突貫していきましょう。また煙幕やその中に隠してくる呪爆符も第六感で感知できるので回避余裕です。

 

 オラッ! 男女平等パンチ! もちろん一撃で校章を割ってしまってはマグレと思われて今後もホモ君を狙ってしまうかもしれないので、わざと外しましょう。(ニチャァ)

 

 何度もそれを繰り返していくと徐々に戦意が落ちていき、そのうち実力差を理解して勝手に戦意喪失してくれます。

 

 落ちろ! ……落ちたな

 

 このようにまだ高等部にすらなってない沈華は脅威になる程ではない存在です。

 

 思い知ったかメスガキめ! 周りがヒソヒソと陰口を叩きながら、ホモ君のことを犯罪者を見るような目つきで見てきますが無視しましょう。俺は悪くねぇ! 

 

 物凄い涙目になりながらメスガキはそのまま逃げ去っていきました。あーさっぱりした。

 もう二度と突っかかってくんじゃねぇぞ、ペっ! 

 

 メスガキを追い払ったので星露にさっきの武器を破壊された現象について聞きに行きましょう。あれでも身体を変えて人生何周分か経験してるババアなので何かしら解決策を教えてくれるかもしれません。今日は本来なら星露に鍛錬の相手をしてもらうつもりだったのですが、さすがに手持ちの武器が潔白の純剣(これ)以外にないので、しょうがないね。

 

 少女移動中……

 

 さて、星露の元までやってまいりました。本人はやる気満々ですが、今日は別に戦うわけではないので事情を話して矛を収めてもらい、解決方法を聞いてみることにしましょう。

 

 ん、潔白の純剣を貸してみろって? 生半可な人間であれば純星煌式武装が拒絶して大火傷不可避ですが、星露クラスの人間ならば問題ないでしょう。

 

 はい、どうぞ……

 

 

イヤッ!!!! 

 

 

 

 っておファッ!? 

 

 落ち着けこのじゃじゃ馬がッ!! まじでこの剣やべぇやつじゃないですか。他の奴に渡そうとしたら物凄い勢いで周囲に衝撃波をまき散らして拒絶してきますね。こんな純星煌式武装、試走どころか通常プレイ含めても初めて見ますよ。なんとか衝撃波を抑えることが出来ましたが、手の中で物凄い荒ぶってますね。大丈夫かこいつ……。さすがに騒音だったのか何人か駆けつけてきましたね。周りを見たらさっきの衝撃波で施設にヒビが入ってます。ヤバいですね☆

 

 

 

 ふぅ、なんとか落ち着いたので星露に渡しましょう。なになに、束縛が物凄い強いタイプだから自分以外の他の武器を使われるのは嫌だし、他の人の手に渡るのも嫌だって? まじで面倒くさいっすねこれ……。

 

 どうしても他の武器を使いたいなら、潔白の純剣を何度も使って向き合うことで何とか説得するしかないのだそうです。あーめんどくせーまじで。

 

 現状どうしようもないのでしばらくの間は潔白の純剣を特訓以外では使うことを封印して、鳳凰星武祭までにどうするか考えることにしましょう。では、用事も済んだので夕食を食べ終えて寮の部屋まで戻って寝ましょう。

 

 部屋まで帰ってきましたが、同室の虎峰はまだ鍛錬をしているのか帰ってきてませんね。鳳凰星武祭に向けて毎日部屋で会話するつもりでしたが、いつ帰ってくるかもわからないのでさっさと寝ちゃいましょう。 

 

 

 

 まじで何なんだこのメスガキ……。あれだけ叩きつぶして逃げ出したはずなのに、翌日にはまた突っかかってきてますね。兄である沈雲は少し離れた所から見ているだけですし。そして一番の謎が決闘でボコっただけのホモ君に対して第六感によると好印象な感情を向けていることですね。まぁ悪感情を向けられるよりはマシですが……

 

 最初にこのメスガキと決闘してから二週間ほどですが、ずっとこいつに決闘を仕掛けられ続けています。そろそろ、折れてくれませんかねー。これ以上ボコり続けているとホモ君に対する評価ガガガ……

 

 おっと、休日なので星露と鍛錬をしようと思ったのですが、シルヴィから電話が来たので出ることにし──―

 

 今回はここまで。ご視聴ありがとうございました。

 

 

 

 




ルーキー日間ランキング6位に本作が入っていました。皆様ありがとうございます。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

裏話5 黎沈華の苦難・潔白の純剣の束縛

吐き気と寒気でノックダウンしていたので初投稿です


 今日、突然だが界龍に転校生がやってきた。

 

 特待生がやってくるらしい。

 兄である沈雲(シェンユン)からも昨日の夜にそんな連絡が事前にあったためそこまで驚きはしなかった。

 

 そんなわけで自己紹介の後、質問の時間が設けられたが

 

「基臣君は木派と水派、どちらに所属するつもりなんだい! 高みをめざすならぜひ木派に入らないか!」

 

 馬鹿だ、馬鹿がいる。あとで人知れず勧誘するならまだしも、木派と水派の両方がいる中でこの質問は悪手だ。その空気を読まない馬鹿のせいで教室の雰囲気はピリつく。

 

「申し訳ないが、どちらにも属するつもりはない」 

 

「そうか! それならしょうがない! もし気が変わったら言ってくれ! いつでも木派は君の事を受け入れよう!」

 

「分かった」

 

 先生も雰囲気が少しピリついたのを悟ったのか一つ手を叩き、話の流れを変える。

 

「質問はここまでだ。それじゃ誉崎の席は沈華の隣だな。授業で分からないところがあったら教えてもらえ」

 

「了解だ」

 

 隣の席に座ると、こちらに声を掛けることもなく座る。授業の合間の休憩時間の時、ちらりと質問攻めにあっている転校生のことを観察していたが、のらりくらりと質問を交わして自分勝手なマイペースで物事を進めていた。

 

 ただ、なんとなく。なんとなくなのだ。その振る舞いが鼻に付くから放課後、そいつに決闘を仕掛けることにした。

 

「決闘しない? 実は私、あなたの実力に興味があって」

 

「……構わないが、場所を移動するか。ここだとさすがに戦いづらい」

 

「分かったわ」

 

 ふてぶてしさを貼り付けたようなその能面面、すぐに苦悶の表情に変えてあげる。

 

 場所を移し、彼は武器を取ろうと背負っているケースから刀を取り出すと私に向けて構えようとする。

 

 ピシッ

 

「へ?」

 

 パリンッ! 

 

 彼が刀を持ったかと思うといきなりそれが跡形もなく砕け散った。本人も何が起こったのか分からないのか無表情のまま手元をじっと見つめている。新しい装備を手に取ろうと、先ほどの実体刀とは違って煌式武装を取り出すがそれもまるで呪われたかのように同じように砕け散る。

 

 同じように手元を見て煌式武装が砕けたのを確認して、少しだけ考え込んだような表情をすると、装備を手に取る気配を見せずそのまま拳を前に突き立て、戦闘の構えを取る。

 

「なんの……つもり……?」

 

「見ての通り手持ちの武器が無くなってしまったからな、申し訳ないが素手(これ)でやらせてもらおう」

 

 私を舐めているのだろうか。

 

「その傲慢にも等しい自信、粉々に打ち砕いてあげる!」

 

 

試合開始(バトルスタート)

 

「急急如律令、(ちょく)!」

 

 さっそく、煙幕を張りその姿を隠し、分身して本体を絞らせないようにする。星武祭ならば煙幕のような見えないところで攻撃をするのは違反になるが、これはあくまで校内での決闘。相手を殺しかねないような攻撃でなければ基本的に認められる。

 

 煙幕の中で呪符を展開し、万全の態勢を整える。これで何が来ても彼を……ッ!? 

 

「……かはっ! はぁ……はぁ……、ケホッ! なにが……っ!」

 

 何が……起こったの? 頭がクラクラする。眩暈がひどい……。

 

 回らない頭で必死に原因を考える。この不愉快な感触。おそらく、顎を打たれた。しかも一発当てた直後に更にもう一撃を重ねるという神業を以てだ。

 

「はぁ……はぁ……急急如律令、勅!」

 

 働かない頭を無理やり起こして再び分身を行い、煙幕の中に身をひそめる。今度こそ一撃入れて……ッ!? 

 

「ゴホッ! な、なんで……カハッ!」

 

 どういう理屈か分からないけどその行動の淀みのなさから、彼は間違いなく5体いる内の本体である私を確信を持って見つめて襲い掛かってきている。こちらの動きを手に取るように理解しているのか、攻撃は全く当たらない。まるで終わらない悪夢のように延々と繰り返され続ける蹂躙。的確に人体の弱点に狙いを定めて拳で殴打してくる。ただでさえ弱点なのに、そこに速さが加われば言うまでもない。完膚なきまでに私は叩き潰された。

 

「ッグッ……ケホッ、ケホッ」

 

「どうだ、満足したなら降参してくれ」

 

「まだ……っ、負けてない」

 

「そうか」

 

 皮肉や負け惜しみが全く通じないのか、一切の容赦なく私を地へと倒し伏せる。ぼやける視界の中、逃げ切ることは出来ずついに決着の時が来た。

 

校章破壊(バッジブロークン) Winner 誉崎 基臣』

 

「このバッジのようなものを破壊すればよかったのか……。なるほどどうりで何回攻撃を当てても終わらないわけだ」

 

 危なかった。もう一撃来たら確実に気絶していた。彼は私の二つに割れて破壊された校章(バッジ)を見て納得したかのように頷くと、座り込んで私と対面する。

 

「これで終わりだが……。満足したか?」

 

 私の事を覗きこんでくるその瞳は何も考えてない冷たさを帯びていた。端的に言うと、最初から相手にされていなかったのだ。それを理解すると、悔しさに心を占められる。

 

「絶対にッ、あなたに勝って見せる!」

 

 悔しいっ! でも、無理やりにでも理解させられる。私と彼の間に存在する明らかなまでの実力差。おそらく師父の次、もしかしなくても序列2位の大師兄に匹敵するほどの実力。

 

 私は間違っていた。この男に対する評価を。相対して分かるあのプレッシャー。正直怖かった。だけど、負けたくない。

 

 いつか超えてみせる、絶対に

 

 

 

 

 

 

 ──────────────────────────────────────

 

 

 

 

 

 一人でやることもなく、作り出した蝶と戯れていると足音が一人分こちらに向かってくるのが聞こえる。蝶を消して振り返ると、基臣が立っていた。

 

「おぉ、基臣か。鍛錬をしにきたかえ」

 

 鍛錬をするのかと思い、ワクワクしながら準備をはじめようとする儂を基臣が片手で制してくる。

 

「今日は別件だ。少し困りごとがあるんだが、万有天羅であるお前なら分かるかと思ってな」

 

「ほぉ」

 

 基臣によると、決闘のために武器を取り出そうとしたら独りでに動いて砕けてしまったそうじゃ。本人曰く、勘ではあるが持ってきていた純星煌式武装(オーガルクス)が原因じゃないかとのことじゃが、詳しい原因がわからんから儂に聞きに来たらしい。

 

「ふぅむ……、純星煌式武装がのぉ。前例はないが、あやつらは気難しい性格の奴も多いからのぉ。うまく付き合っていかなければ使い手が死ぬというケースも稀にあるわけじゃから無くはない話じゃろう」

 

「とすると、どうするべきだ。拳術も嗜んではいるが、それだけに頼るのも限界がある」

 

「そうか、うーむ……。そうじゃ。おぬしのその純星煌式武装をちょっと儂に貸してみぃ」

 

「お前にか? どういうつもり知らんが、分かった」

 

 こやつが適合者として認識されるから多少は抵抗されるじゃろうが、触れてどんな性格かを調べるぐらいはワケないじゃろう。

 

「これだ」

 

「……見えんのじゃが、おぬしの純星煌式武装の能力かえ?」

 

「おそらくそうだな。一度他の奴の目の前で持ってみたがどうやら見えないらしい」

 

「ふむ、それでは……」

 

 

 

 

 

サワルナッ!! 

 

 脳内に直接喋り掛けて、駄々っ子のようにワンワンと騒がしい声が聞こえてくると同時に儂に敵意を向けて純星煌式武装が勝手に動いて衝撃波を飛ばしてくる。周りの床や壁には亀裂が入り、強烈な圧迫感が襲い掛かってくる。

 

「……ッ!!」

 

「おぉ……っとと。色々な純星煌式武装を見てきたが、こりゃまた難儀な性格そうじゃのう」

 

 基臣を見ると制御できていないのか腕が重力で押しつぶされるように地面へと叩きつけられて、純星煌式武装のされるがままに振り回されている。このままではいかんのぉ……

 

「基臣! 星辰力を武器に籠めて制御せい!」

 

「今っ、やっているっ!」

 

 時間が経つごとに徐々に抵抗が収まっていき、最後には静かになった。

 

 さすがに異変に気付いたのか虎峰(フ―フォン)たちがやってきた。

 

「師父! 何かあったのですか!」

 

 さすがに純星煌式武装(こやつ)のことは基臣にとって秘密にしておきたいか……

 

「いんや、新しい星仙術の実験に付き合ってもらっとっただけじゃ。気にするでない」

 

「いやいやいや、気にしますよ! 施設のそこら一面、ヒビだらけじゃないですか! いくら師父が《万有天羅》といえども、この損壊具合、上が何言ってくるかわかりませんよ! それにですね……」

 

「あぁ、分かった分かった。あとで聞いてやるからしばらくの間待っておれ」

 

「もう、後で覚悟しておいてくださいよ! 基臣くんも師父の戯れに無理に付き合わなくていいんですからね」

 

「分かった」

 

 まったく。要らぬ横やりが入ったもんじゃがまあよい。 

 

「すまない。虎峰に勘違いされてしまった」

 

「別にこれぐらいどうってことないわ。それより、ほれ。よこしてみぃ」

 

「あぁ……」

 

 少し疲れた様子でこちらに向かって純星煌式武装を渡してきたのでそれを受け取ると同時に先ほどのような攻撃はないものの、禍々しい気配を宿らせてくる。

 

 

 

 

 

ユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイ

 

 

 

 

 

 うーむ、こりゃまたずいぶんと嫌われてしまったのぉ。触れてみてわかることは基臣に対して悍ましいという表現が似合う程の執着心とその反面、繊細な心を持っていて人に見られる、触れられることを極端に嫌っておる。

 

 星導館がもってる純星煌式武装にも似たような所有者を束縛するタイプのものもあるが、ここまでその感情が表に出てくるのは初めて見る。

 

 この感じじゃと懐柔するのにかなり苦労しそうじゃ。

 

「ほれ、儂はかなり純星煌式武装(これ)に嫌われておるようじゃから返すわい」

 

「それでどうだった」 

 

「お前さんに大分、というか物凄い執着してるようじゃな。今は他の武器に嫉妬するだけで済んでおるが、その内周囲に危害を加える可能性もあり得る」

 

「そうか……、どうすればいい?」

 

「うーむ、そうさな。まあ、王道を往くなら、というよりそれしかないのじゃが何度もそやつを使っていく内に向き合って言い聞かせるのが一番じゃがな。ただ」

 

「ただ……?」

 

「触った感じ、そやつは大分昔から存在する純星煌式武装みたいじゃから、落星雨(インベルディア)以降に作られた生半可の純星煌式武装に比べて底知れぬ何かがありそうじゃ。そやつと向き合う時は気を付けることじゃの」

 

「なるほど、用心して使うことにする」

 

 

 

 話は済んである程度納得したのか、そのまま立ち去っていく基臣の姿を見届けながら独り言が漏れる。

 

 

 

「どうにもあやつの剣の能力は透明化だけではないように思えるがのぉ……」

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

part6

いつもの投稿時間に間に合わせようと強引に爆速で仕上げたので初投稿です。


 足を掬うガバは足元から這い出てくるRTAはーじまーるよー

 

 前回はシルヴィから電話がかかってきたところまででしたね。なになに、二週間ぶりだけど遊びにいかないかって? 行きますねぇ! いきますいきますと言いたいところですが、ここで敢えて言葉を濁してシルヴィを特訓に付き合うように誘導しましょう。

 

 さーて、いつもの特訓場所に行きましょう。適当に特訓をしているとシルヴィが能力を使って勝手にこちらの場所を特定するのでやってきます。やってることはストーカーのそれですが、可愛いは正義なのでしょうがないですね。

 

 シルヴィも特訓に参加したので模擬戦をやります。

 

 シルヴィですが、歌を媒介に治癒以外の全ての《魔術師(ダンテ)》《魔女(ストレガ)》の能力を行使することができます。普通考えたらチートものですが、この能力にもある程度制約がありまして、まず第一に発動させたい能力を行使するための歌は自分が作詞・作曲するものでなければいけません。そして第二に歌唱時間に応じて能力の強度・持続時間が決まるというものです。この歌唱時間という定義についてですが、一度でも音を外すとダメです。主にこの二つの制約があるため、完全無敵のチートではないという訳ですね。

 

 シルヴィは銃剣型の煌式武装を中心に身体能力強化の能力を使って近距離・遠距離共に対応できるオールラウンダータイプで手堅く勝ちに行くスタイルです。とはいえ、まだホモ君と同じ中等部一年であるため普通に実力で押し切って勝つことが出来ますね。

 

 おおよそ一分ほど戦うと、ホモ君がシルヴィをノックダウンさせて終了しましたね。普通に実力者なので模擬戦を通じて得られるボーナスはそこそこあります。その後もある程度特訓をして実力を高めていきましょう。

 

 少女特訓中……

 

 特訓も終わりましたし、ある程度会話をして次は商業エリアの方へでも遊びに行きましょう。

 

 さーて、手堅くシルヴィの好感度を稼ぐことが出来そうですし、後は今年の夏に開催される鳳凰星武祭(フェニクス)のタッグパートナーを、ん……? 誰かこちらに来ますね? 

 

 いや待て、あの孤独なsilhouetteは……? 

 

 まーた、ゴロツキどもかぁ壊れるなぁ……。こいつらいつもどこにでも沸いてくんな。バカの一つ覚えでホモ君に勝負を挑んでくるとは馬鹿じゃねぇの(嘲笑)。って、ん……? 

 

 ファッ!? なんでメスガキがここに!? しかもゴロツキどもの人質に!? い、いや落ち着け。私は冷静だ。Be cool……

 

 今までこんな感じでホモ君の跡をつけてくるなんてことしなかったはずなんですが……。それに仮に追いかけてきたとしてもホモ君の第六感による直感センサーを掻い潜ることは並大抵の者ならば不可能なのですが、まじでどうやったんだこいつ……

 

 それはともかく、さすがにこの状況はまずいですねぇ……。人質がいないならいつも通り一方的にボコって終了なのですが、いるとなると話が違ってきます。プランなしで突っ込むと数だけは立派に揃えてきたゴロツキどもの壁によって阻まれメスガキがどうなることか分かりません。

 

 本来なら無視したいところなのですが、隣にはシルヴィもいるので好感度を下げないためにも助けなければいけないですね。あーめんどくせー、マジで。

 

 さて序列入りしてるそこそこのゴロツキに人質取られたら飛び道具があればいいのですが、情けないことにホモ君は武器を装備することができないので、最初だけ大人しく投降して殴られましょう。もちろん、殴られっぱなしというわけではありません、途中途中にお山の大将気取ってるボスを煽っていきましょう。よぉ、ホモのにいちゃん もう終わりか?

 

 すると愚かにも脳筋であるボスがホモ君の煽りに乗ってこちらにやってくるのでその途中に見せる一瞬の隙を狙って投げ技をかけましょう。先輩隙っす! 

 

 ゴロツキどもの思考パターンというのは非常に単純明快でボスがやられると取ってくる行動は二つ、逃げるかこちらに向かってくるかです。そのおかげでメスガキが一瞬フリーになるので空気が読める有能であるシルヴィに保護してもらいましょう。

 

 あとはこの前と同じようにゴロツキどもをバッタバッタ倒していけばいいので倍速です。

 

 少女制裁中……

 

 ふう、やっと終わりましたね……

 

 二回目もホモ君に勝負を仕掛けてきたということは次やってくることもありえなくはありません。仕方ない、あまりとりたくない手ではありますが星猟警備隊(シャーナガルム)に通報するとしましょう。星猟警備隊はこのアスタリスクにおける警察的な機能を任されている組織で、実力も立場もトップであるヘルガ・リンドヴァルを筆頭にそれなりの強者が集うエリート集団です。今回の人質事件は事が事ですし、星猟警備隊に任せておけばこのゴロツキどももアスタリスクから追放されるか何らかの制裁が下されると思うのでこれ以上の脅威になることはないです。

 

 ただ、この星猟警備隊。代わりと言ってはなんですが、融通があまり効かないタイプの人間が多いです。まぁ、力を持った星脈世代を相手にしている訳ですからそれなりに力技で言って聞かせるのはしょうがない面もありますが、このRTAにおいてあまり遭遇したくない奴ランキング上位に入ってきます。

 

 しばらくすると、星猟警備隊の隊員がやってくるのでそいつの案内に従って同行することにします。事情聴取ですが、暴力を振ってしまいましたがまあこちら側は被害者側な訳ですし正当防衛扱いになるでしょう。できれば比較的融通が利くヘルガ隊長が来てくれればいいのですが別の一般モブ隊員が来たようです。大会(鳳凰星武祭(フェニクス))近いからね、しょうがないね。

 

 え、なんで再開発エリアにいたかって? んまあそう……自分磨きぃですねぇ……

 

 クソが(悪態)、余計な質問しやがって。他のエリアであれば事情聴取の拘束時間も比較的短くて済むのですが、再開発エリアだけに限って拘束時間は長くなります。ふざけんな! (声だけ迫真) どうして僕をそんなに困らせるんですか

 

 あ、ヘルガ隊長が来ましたね。ちょっと遅かったんちゃうん? ままええわ、今回は許したる(上から目線)

 

 ある程度事情も理解したようなので、隊長特権で事情聴取を打ち切ってもらうことができました。事情聴取を打ち切る手続きの間、いくらか隊長と話していると舐めるようにこちらの身体を見てきているのですが、なんか怖いですね。

 

 え、将来卒業したら星猟警備隊に入らないかって? うーん、通常プレイなら就職先として非常に魅力的な提案なのですが、あくまでもこれはRTA。称号を取ったらポイなので答えは卒業するまで保留する的なことを言っておきましょう。

 

 納得したのか隊長も勧誘から引いてくれましたね。事情聴取も終わったので、さっさと出ることにしましょう。もう二度とこんなとこ来るかよ、ぺっ! 

 

 

 星猟警備隊に長い間事情聴取されて、そこそこタイムロスになってしまいましたが仕方ありません。日も暮れた事ですし、シルヴィもついさっき来たメールによると帰ったようなのでこのまま界龍に……っと、あれは……? 

 

 メスガキですね、ホモ君よりも先に事情聴取を済ませて先に帰ったものだと思ってたのですが、星猟警備隊の施設の前で待っていたようです。さすがのメスガキも悪いと思ってたのでしょうか。まぁ、少しは意地悪も自重するでしょうし帰る場所は同じなのでそのまま一緒に帰りましょうか。

 

 道中にメスガキが話しかけてきましたね。なんで助けてくれたかって? さすがに、シルヴィの好感度を下げたくなかったからと被害者本人の前で言うのもあれですし、適当にそれっぽい理由をでっちあげましょう。

 

 ん? なんか好感度が目に見えて増えましたね。なんか会話している間にメスガキの心に来る言葉でもあったのでしょうか? メスガキとの交流に関しては深く研究したことないのでよく分かりませんね。

 

 え、鳳凰星武祭のタッグパートナーになってくれ? 意外ですね、今までの試走段階ではメスガキからタッグパートナーになってくれるよう頼んでくることはありませんでした。そもそもこのメスガキには双子の兄である沈雲がいますし。

 

 そんなわけで少し困惑して手が止まってしまいました。いかん……いかん! 危ない危ない危ない……

 

 うーむ、まあこいつは確かに単体の戦力として、というよりもサポート戦力としての方が本領を発揮するんですよね。透明化とか呪符とかは相手の意識を削ぐのには非常に有効ですし、逃げ道を封殺することが可能になるっていうのがでかいですね。実際原作でも獅鷲星武祭で界龍最強のチームであるチーム黄龍に選ばれているわけですしね。

 

 まあ向こうから誘ってくれるってことは好感度はそこそこあるってことなんでしょうから、鳳凰星武祭までの練習時間をできるだけ多くとるという事を考えると、メスガキをタッグメンバーとして採用するのはありですね。ヤンデレ剣のせいで武器を装備することは不可能になってるわけですが、それなしでもホモ君は普通に強いですからね。

 

 こうしてメスガキとタッグパートナーになることが出来ました。なんか妙に好感度が高い気がしなくもないですが、今のところそれで変にガバは発生していないので大丈夫でしょう。

 

 これからは鳳凰星武祭(フェニクス)に向けて連携の特訓や、ヤンデレ剣を飼いならすことを主軸に時間を使って──―

 

 今回はこれまで、ご視聴ありがとうございました。

 

 

 




まさかの日間12位に本作が上がってました。
応援してくださってる読者の皆様ありがとうございます。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

裏話6 シルヴィア・リューネハイムと黎沈華の心境

メインヒロインがいつの間にかメスガキになっているような気がしたので初投稿です。


 基臣くんと出会ってから2週間、スケジュールに余裕が出来たので遊びに誘おうと思って連絡を取ろうと端末を開いて電話してみる。電話するとすぐに基臣くんが出てきた。

 

『シルヴィか』

 

「やっほー、基臣くん。今暇してる?」

 

『今から鍛錬するから忙しい』

 

 前、私と遊んだ時以外は時間を鍛錬に費やしているみたいでどうやら今も未開発エリアのどこかで鍛錬しようと向かっているのか、彼の後ろには廃墟となったビル群が並んでいるのがよく見える。

 

「じゃあ、今からそっちいくね」

 

『いや、鍛錬で……』

 

 これ以上通話したら、基臣くんは私が来ることを拒否するので切ることにした。鍛錬をしているらしいので、動きやすい服を着て再開発エリアに向かうことにする。

 

 さて、基臣くんに場所を直接聞いてもたぶん教えてくれないから能力を使ってどこにいるか探すことにしよう。

 

「──思考と記憶の二対の羽よ 巡れ巡れ()く駆け巡れ 囚われの(いと)()の声を持て──

 

 ──暁の雲海を超え 黄昏(たそがれ)の風に乗り 宵闇(よいやみ)の果てより導きを開け──

 

 ──思考と記憶の黒き御使(みつか)いよ 我が前に舞い降りて()く示せ」

 

 しばらくの時間歌うと、展開していた地図の上に旋回するように二枚の羽がくるくると回り漂い、その羽達が徐々に狭まっていくとやがて基臣君のいる場所を示す。

 

 

 さて、場所は……。ふむふむ、再開発エリアの端にある建物か。ここから遠くないし、さっそく向かっちゃおう。

 

 そして、しばらく地図に示された場所に向かって歩いていき建物の中に入っていくと、特訓をしている基臣君の姿を見つけた。

 

「さっきぶり、基臣くん」

 

「……どうやってここを知ったかは知らんが、今日は鍛錬だからどこも行くつもりは無いぞ」

 

「分かってる。だから今日は着飾ってないでしょ?」

 

「それはそうだが……。……しょうがない。そこそこ強そうだし大怪我にはならないか。来い、ここだと音が目立つ」

 

 そう言うと、基臣くんは奥へと向かっていく。続くように私も追いかけていくとしばらくして、もともと決闘のために使われていたのか正方形状に広く整えられたような空間が現れた。

 

「ほら、いつでも来い」

 

「じゃあ遠慮なく……!」

 

 基臣くんの言葉を皮切りに私は歌で身体強化を施しながら突貫していくと、彼はその攻撃を軽くいなしながら腕を掴んできて近くにある柱へと投げつける。受け身を取って衝撃を逃がしたものの、着地した柱がひび割れてクレーターが出来上がる。

 

「女の子の扱いがなってないんじゃないの、基臣くん?」

 

「生憎、加減はしない性格でな。恨むならわざわざここに来た自分を恨むんだな」

 

 歌を再開しようとすると、邪魔するかのように今度は彼から動く。一撃一撃が重くて、とてもじゃないけど全てを処理しきれていない。身体強化がなかったら、とっくに勝負は決まっていたかもしれない。

 

 一旦距離を離して様子を見ようとしても、ピタリと張り付いたかのように距離を離させてくれない。ダメージを負いながらも強引に距離を離すことが出来た私は一か八かの賭けに出る。

 

 銃剣型煌式武装(ルークス)から光弾を放つと同時に基臣君に迫り、光弾と拳の同時攻撃を行う。完璧にタイミングを合わせて放った二つの攻撃は彼に少なくないダメージを与えると思っていた。

 

 しかし

 

「殴られるか、銃撃を食らうかの二択を強制させたのは正解だが……」

 

 光弾は弾かれたものの拳は腹部へと命中する。ただ、その拳は腹にめり込んだものの、浅いところでその勢いは止まっている。

 

「攻撃をしたあとの回避が疎かだな」

 

 避けることが出来なかったので、思わず目を瞑り防御しようと身構えるが一向に攻撃は来ない。目を開けると、デコピンの手をして私のおでこをピンと弾く。

 

「あうっ」

 

「頭もしっかりガードしろ、いくら星脈世代(ジェネステラ)といえど弱点は非星脈世代と全く同じだ」

 

 短時間ではあるものの戦闘が終わったことで糸が切れたように身体から力が抜けると、身体を仰向けにしてひんやりとした床に身を委ねる。

 

「はー、負けちゃったかぁ。そこそこ腕に覚えはあったはずなんだけど、全然歯が立たなくてちょっとショックだなぁ」

 

「そうでもない、一度攻撃をもらったしな」

 

「とても、攻撃をもらったようには見えないけどねー……。私ももっと強くならなきゃ」

 

「そろそろ特訓を終わるか」

 

「え、でもまだ午前終わったぐらいだよ? 特訓を終えるにはまだ早いんじゃないの?」

 

「今日は遊ぶってお前が言ったはずだが」

 

 電話で言っていたことを覚えていてくれたことに思わず笑みがこぼれてしまう。

 

「ほら、いくぞ」

 

「あー、まってよー」

 

 仰向けの状態から急いで起き上がると、基臣君の後を追っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 久しぶりに遊ぶことが出来ると思ったんだけど……

 

「ようにいちゃん。ひさしぶりだなぁ」

 

「あなたたちはこのまえの……」

 

「ゴロツキどもか」

 

 私と基臣君が初めて会った時に絡んできた不良たちだ。一度あることは二度あるって言うけど、あの実力差を見せつけられてもう一度勝負を挑んでくる気概に怒りというよりも呆れという感情が出てくる。

 

「覚えてくれてなかったら、悲しくて涙で枕を濡らしそうだったが安心したぜ。お前たちにはたっぷり復讐しなければ気が済まねえからなぁ」

 

「それで、前と同じようにのこのこ現れてやられにきたのか?」

 

「俺達も馬鹿じゃねぇ、というわけでだ」

 

 ボスらしき人物が手で合図すると、ビルの影からその手下と一人の女の子が出てくる。腕や口は拘束されていて、基臣君の反応と界龍の校章を見るに知り合いっぽい。

 

「んー、っむー、むー」

 

「ちっ、うっせぇな。黙ってろ」

 

 人質の女の子を黙らせようと顔をビンタする。猿轡で話すことはできないようだが、その顔が苦痛に歪むのを見て黙っていられない。助けようと動く私を基臣君は片手で制してくる。

 

「ダメだ、シルヴィ」

 

「なんで! 助けないとこのままじゃどうなるか分からないよ」

 

「分かってる。だが、よく見てみろ」

 

 基臣君に窘められて冷静に状況を確認すると、人質と私たちの間を遮るように大量の不良たちが行く手を阻んでいる。

 

「この数だと強引に抜こうとしても俺でも2秒はかかる。その間にこいつらはあいつを殺してもおかしくはない」

 

「そんな……」

 

「そういうことだぜ、理解してくれたか?」

 

 不良たちに向かっていく基臣君がこっそりと私に囁く。

 

「お前はお前が成すべき役割を果たせ」

 

「え」

 

 耳元でささやかれた言葉の意味を理解できずに立ったままでいると、基臣君は不良たちの前に向かっていく。

 

「いい度胸じゃねぇか。お前をたっぷり時間をかけて嬲り殺した後、そこの姉ちゃんも身体で楽しませてもらうぜ」

 

 私のことを嫌らしい目で舐めるように見た後、基臣君に手下たちを仕向けてくる。

 

「簡単にくたばるんじゃねぇぞ。オラッ!」

 

「基臣君!!」

 

 組み伏せられ、無抵抗の彼に何本もの拳や足が雨のように降り注ぐ。その光景は見るに堪えないもので思わず目をつぶってしまう。

 

 でも、すぐに彼の言葉を思い出す。

 

『お前はお前が成すべき役割を果たせ』

 

 彼が何の意味もなく私にその言葉をいう訳がない。なら、私の役割はなんだ。分かり切っている、人質にされているあの子を助けることだ。おそらく、基臣君は私が助けてくれるための隙を作り出してくれるはず。今はただその時が来るまで、絶好の位置で待つしかない。

 

 2、3分過ぎたんだろうか、何人もの攻撃をその身に受けながらも基臣君は黙ったままだった。

 

「おいおいおい、ずいぶんとしおらしくなってきたんじゃねぇのぉ! まだ倒れんなよ!」

 

「……愚かだな」

 

「……あん?」

 

「リーダーであるお前が俺を恐れて直接叩きのめさないとは、上に立つものとして手下にも示しがつかないな」

 

「は?」

 

「リーダーがこの程度なら、お前らは所詮お遊びで集まった程度の集団でしかない」

 

 基臣君の挑発にリーダー格の人物が乗せられたのか、ズンズンと組み伏せられている彼に距離を詰める。

 

「来い、負け犬のままでいたくないならな」

 

「そんなに死にたいならすぐに殺してやるよ!」

 

「馬鹿め」

 

 どんな方法で抜けたのか基臣君は手下たちの拘束を抜けると即座にリーダーの腕を掴み、人質の子に当たらないように投げ飛ばす。周りが投げ飛ばされたリーダーに気を取られているそのうちに人質の子を強引に助け出す。

 

「グハッ! ケホッ、ケホッ! おい、人質を!」

 

「残念だけど、この子はもう助けちゃったから」

 

「そういう訳で形勢逆転だ」

 

「くっ、同時に掛かれ!」

 

「同じ手で勝てると思うなよ」

 

 基臣君が一人で不良たちを片付けると、私たちのもとへやってきて人質の女の子へ声を掛ける。

 

「お前、怪我はないか」

 

「まあ、いちおう……」

 

 女の子は俯いたままではあるけど、返事をしてくれた。

 

「こいつらのことだ、次も来る可能性がある。あまり頼りたくなかったが星猟警備隊に処分を頼むとしよう」

 

「うん、その方がいいよ」

 

 通報からしばらくして星猟警備隊の隊員が来ると、そのまま本部まで連れていかれて事情聴収をされることになった。

 

 

 ──────────────────────────────────────────

 

 あいつとの最初の決闘からしばらく。師父から私一人だけに呼び出しがかかり、こうして師父の前に姿を現していた。

 

「基臣と戦ったそうじゃな」

 

「はい、師父」

 

 自らの身を弁えない愚かな行動を叱るのかと身構えていたが、聞いてきたのは別の話だった。

 

「どうじゃった、あやつと戦って」

 

「あいつとですか。……そうですね、強いと思います。大師兄と同じぐらいには」

 

「まあそうじゃろうな。基臣は既に暁彗の領域に達しておる。今のところ相手になるといったら儂か暁彗かアレマぐらいか」

 

 しかしな、と師父は言葉を続ける。

 

「沈華、儂はな。おぬしには壁を越えられるだけの才を内に秘めてると思うとる」

 

「壁、ですか」

 

「左様。いつの時代も強者と凡人の間には越えられない壁が存在する。さっき言った儂と暁彗、アレマとかがそうじゃ。その壁をおぬしは越えれると儂は思っておる」

 

「私には過分なお言葉です」

 

「儂が冗談では言ってるんではないぞ。まあ、それはともかくじゃ」

 

 師父が地図を取り出すと私にその映像を見せてくる。見せてきたのは再開発エリアの一角にある建物だった。

 

「基臣の技術はおぬしがこれから成長する上で必ず糧になる。基臣はいつもそこで鍛錬を積んでおる。おぬしはそれを見に行って、己の自己研鑽に努めるんじゃ」

 

「どうしてあいつの場所を」

 

「儂の秘蔵の転移術の中継地点をどのように知ったのか儂と会う前から勝手に使いおったからな、あやつが使ったときにどこに行くかマーキングしておいたんじゃよ」

 

 師父の地味にストーキング紛いの行動に呆れるものの、懸念すべき事項を聞く。

 

「……しかし師父。いくら場所が分かるとはいえあいつに見つかるのは不味いと思うのですが……」

 

「そういうじゃろうと思って、おぬしに気配隠しの星仙術を掛けておく。それなら、しばらくの間はバレないじゃろう。ほれ、基臣が鍛錬から帰る前にさっさと行けい」

 

「……承知」

 

 渋々ではあるが、師父の指示ということもあり見に行くことにした。師父の転移術の中継点を使わせてもらい、指定された建物へと向かい気配が消えてるとはいえ慎重に身を隠しつつ中を窺うと、そこにはあいつとクインヴェールの新進気鋭のアイドルであるシルヴィア・リューネハイムがいた。

 

 その二人の戦闘は凄まじいもので実力差はあるもののシルヴィアが知恵と工夫をこらして、あいつに一撃を与えていた。結果を見た後はバレない様に抜け出し、そのまま転移陣まで向かおうとする。

 

 参考になったものの己の未熟さに腹が立ってしまう。誰にも向けることが出来ない鬱憤を内に秘めたまま歩いていると

 

「嬢ちゃんには悪いが人質になってもらおうか」

 

「は?」

 

 考え事に気を取られていて後ろに警戒していなかった私はあっけなく気絶させられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん……っ?」

 

 物音がして気づいて起きてみると周りには二十、三十……。いや、それでは足りないぐらいの数の不良たちが私を連れ運んでどこかへと向かっていた。どういうことか錯乱していると、目の前に二人の男女が現れる。

 

「あなたたちはこのまえの……」

 

 その正体は先ほどまで私が観察していたあいつとシルヴィアだった。不良たちの話を聞くに、あいつに勝つために私を人質にしようとしていたということだった。

 

 情けをかけられたくなかった私は必死にその事を叫ぼうとする。

 

「んー! っむー、むー!」

 

「ちっ、うっせぇな。黙ってろ」

 

 ビンタされると反抗するよりも恐怖が勝ってしまい思わず黙ってしまう。

 

 それからはあいつは私なんかのために身を張って助けようとしている。

 

 なんで? あいつは私のことなんか一つも気にしてなんかなかったはずじゃないの? 

 

 浮き上がってくる疑念をかき消すように鈍く聞こえる殴打の音が私の鼓膜を震わせる。

 

「来い、負け犬のままでいたくないならな」

 

 なんで? わざわざ私を助けようとしているの? 関係ない人間なのに

 

 

 

 

 

 策があったのか、リーダー格の男を投げ倒すと同時に私をシルヴィアが助け出してくれた。大丈夫か聞いてくるが、短く返事をするだけで感謝の言葉も言わずに済ませてしまった。

 

 そんな不躾な態度を気にしない二人は星猟警備隊に連絡をするとしばらくしてきた隊員に連れられて私たちは本部に向かうことになった。

 

 

 

 

 

 

 

 星猟警備隊の取り締まりは思っていたよりも短く済ませることが出来た。私が不良たちとは直接関係がなかったこと、人質だったことを加味してのことらしい。

 

 界龍へと帰ろうと事情聴収を受けた場所から出ると、シルヴィアが壁にもたれかかって立っていた。

 

「やっほ、事情聴取ご苦労様。ちょっとだけ話したいんだけど大丈夫?」

 

 その言葉に微かに縦に首を振って頷くと、適当な長椅子へと一緒に座る。シルヴィアは隣に座って一息つくと、私に話しかけてくる。

 

「沈華ちゃんが基臣君とどんな関係だとか、彼をどう思ってたのかは分からないけど、不器用だけど優しいところはあると思うよ。私も初めて会ってから二度目だけど、それだけは分かるんだ」

 

「…………」

 

「沈華ちゃんと基臣君の間で何か確執があるんだろうからアドバイスするけど、一度基臣君と一緒に話してみた方がいいと思うよ。何もしないままなんてモヤモヤするだろうし」

 

「そう、かもね……」

 

「話はそれだけ。それじゃあ、私クインヴェールに帰らないといけないから。じゃあね」

 

 シルヴィアが出て行ってから長椅子であいつが出てくるのを待つと、しばらくして足音ともに姿を現す。

 

 私の姿を見て驚いたのかどうなのかよく分からない表情を見せながらも近づいてくる。

 

「別に帰ってて構わなかったが」

 

「ちょっと聞きたいことがあってね、ここで話すのもあれだから帰りながら話しましょう」

 

「分かった」

 

 界龍へと帰ろうと星猟警備隊の本部から出ると、空は薄暗くなっており時間は夜になっていた。

 

「…………ねぇ」

 

「なんだ」

 

「どうして私を助けてくれたの。私の事、決闘を何回も仕掛けてくる面倒くさいやつって思ってたんじゃないの……」

 

「助けた理由か……」

 

 少し考えると、ポツリとつぶやくように語り始める。

 

「自分に厳しく武の道を指導してくれた父が最後に言ってきた言葉がある。『己の守るべきものを見つけろ』と」

 

「守るべきもの……」

 

「自分にはまだその言葉の答えは見つかっていないが、人を助けていけばおのずと分かっていくかと思ってな」

 

「そう……」

 

 しばらくの間静寂が空間を満たす。

 

「…………ねぇ」

 

「……なんだ」

 

「今度の夏に開かれる鳳凰星武祭、私のタッグパートナーになってくれないかしら」

 

「タッグパートナーか、なんで俺なんだ」

 

「あなたのことは正直鼻につくけど、決闘したときも今日のあの時も見てたら強いんだって」

 

 考えていたが、しばらくして返事をする。

 

「鳳凰星武祭のタッグメンバーを見つけるのに苦労していたから正直助かった。俺でよければだがよろしく頼む」

 

「……ええ」

 

 こいつの事はまだよく分からない。でも、私を助けてくれたあの時のことを思うと悪いやつじゃない。

 

 今はまだ分からないけど、いつかは分かるときが来るかもしれない……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




想定以上に長くなってしまったので雑な仕上がり且ついつもの時間に投稿できませんでした。申し訳ないです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

part7

今回の話は難産だったので初投稿です。


 コミュニケーション能力不足はガバを生み出すRTAはーじまーるよー

 

 前回はメスガキを鳳凰星武祭のタッグパートナーとしてゲットしたとこまででしたね。

 

 本RTAにおいてグランドスラムを達成するために出場が必要な星武祭についてある程度お話ししましょう。

 

 星武祭は星武憲章(ステラカルタ)というルールによって13歳から22歳までの年齢の中で3回までしか出場できないという縛りが存在します。なので今回のRTAはグランドスラムするためには一度も負けてはならないという訳です。

 

 たまに、RTA走者の中でやらかしてしまうのは過剰な火力の武装を持たせてしまったせいで残虐な行為扱いとなり星武憲章に抵触して失格になってしまうことです。RTAという競技の性質上、速さを求めすぎたがために火力を上げまくるのは絶対にNGです。ただ、この残虐な行為についてですがRTA走者どころか検証民の総力を挙げても基準は分かっていません。

 

 原作でも、星武祭中にステージ全体を面制圧する超々強力な高出力ビームを撃ったり、当たれば文字通り即死(一応蘇生できないことはない)の攻撃をするキャラがいますがそいつらは失格になっていません。前者は相手の防御が硬すぎたので問題ないとしても後者は普通にダメだと思うんですけど(名推理)

 

 これ以上は話が脱線しそうなので終わりにしますが、あまりやりすぎないようにしようねということです。ホモ君は手数と技量、スピードで相手を追い詰めるタイプなので、まあそこらへんは大丈夫でしょう。

 

 今回メスガキと出場する鳳凰星武祭についてですが、星武祭の3つの大会の中で一番初めにくるのがこの大会です。夏に開催され、2人1組のタッグになって戦うルールで2人ともバッジが壊れたらゲームセットという単純明快なルールです。メスガキがやられても即敗北になることはないので、極論を言うとホモ君さえ強ければ相方がお荷物でも構わないわけです。

 

 では、星露にメスガキとタッグで鳳凰星武祭に出場することを報告しに行きましょう。

 

 ……はいはい、え?

 

 メスガキに片方の敵のトドメは譲れ? もしこの条件を飲まず試合を行うなら翌年の獅鷲星武祭ではチーム黄龍に参加させない?

 

 は?(試走段階で)聞いていないぞ、そんな話ィ!

 

 おいゴルルァ!ロリババア!少しは私に優しくしろォ!

 

 はぁ……はぁ……、失礼。お見苦しい所をお見せしてしまいました。

 

 このゲームのRTA、自由度が非常に高いという性質上、確かにどの走者も途中で新たにオリチャーを発動せざるを得ない状況多いですけど、今回あまりにも予定との違いがありませんかねぇ……

 

 まあ相手はホモ君に比べてそこまで強くないので、カバーに徹すればメスガキが片方の敵ぐらいは倒せるように削る程度のことはできなくはないでしょう。メスガキが寄生プレイしてるように見えて、観戦客は面白くないかもしれませんが仕方ありません。とはいえ、このメスガキは曲がりなりにも将来の《冒頭の十二人(ページワン)》。相手に一方的にやられるなんて事態にはならないでしょう。

 

 では、メスガキを鍛えるためにマンツーマンで指導してあげましょう。

 

 少女指導中……

 

 

 

 そういえば忘れてましたが、メスガキぐらいには純星煌式武装の事を話しておいた方がいいでしょう。鳳凰星武祭中に使う可能性も十分あり得ますし。

 

 はい、ということで説明替わりに潔白の純剣を起動して試し振りでもしましょう。おう、起きるんだよ。

 

 お、喜々として起動してくれましたね。やっぱホモ君のこと好きなんすねー。何回か素振りしてみますが、普通の煌式武装と違って少し違和感がありますねぇ。純星煌式武装なのでよくあることなんですが、その違和感による差を如何に早く埋められるかがプレイ画面には見えませんが走者の腕の見せ所ですね。

 

 少女試し振り中……

 

 大分感覚がつかめてきた気がしますが、やはりヤンデレ剣側は説得に応じてくれる気配はありません。こいつの説得に関しては結構手を焼きそうですねぇ……。他の武器がずっと使えないとなると、鳳凰星武祭を優勝したときに叶える願いの内容をまた考え直す必要が出てきますね……。

 

 

 ん?何やら誰かこちらに来るようです。お、無表情脳筋ゴリラの暁彗(シャオフェイ)じゃないですか!彼はこの界龍の序列二位に位置していて、みんなからは大師兄と呼ばれている男で、ホモ君と似て無表情で淡々とロリババアのいう事を聞くお人形みたいなやつです。ただ、別にホモ君のように感情がないというわけではありません。ただ、顔に出ないだけです。

 

 ロリババアからヤンデレ剣の試し切り相手になってやれって言われた?

 

 これは嬉しいですね。脳筋ゴリラの暁彗なら試し切り相手としては十分といって良いでしょう。

 このゴリラ、前説明した木派・水派の両方の長所を落としこんだような実力を持っていまして、この界龍の生徒の中ではロリババアに次ぐ実力を持っています。

 

 近接戦だけでいうならホモ君の方が上ではありますが、星仙術を上手く落とし込んだ棍による接近戦となると五分五分になるのではないかなと思います。まあこっちには純星煌式武装があるので、幾分かこちらの方が有利だとは思いますが。

 

 並みの相手だと瞬殺してしまうので、これはいい機会だと思います。さっそく始めましょう。

 

 さっそく向こうから仕掛けてきましたね。遠距離から放ってきた火柱を切り払いつつ、接近戦に持ち込みましょう。

 

 お、このヤンデレ剣、実戦だと特にわかりやすいのですが思ったよりも軽くて使いやすいですね。火力も黒炉の魔剣ほどではありませんが、純星煌式武装の中でもトップレベルに高いです。束縛されるという制約さえなければ手放しに喜べるんですがねぇ。

 

 っとと、相手の棍をいなしたらカウンター気味に攻撃を仕掛けましょう。というかこのゴリラ凄いですね。もうホモ君の手の動きから剣の軌道を読み切って回避するようになり始めました。とはいえ、完全に読み切ることはできていないようでいくつかの攻撃はヒットしています。

 

 うおっと、攻撃が当たってしまいました。説明するのを忘れていましたが、ゴリラの使っている棍は呪符が大量に巻きつられていて、当たれば呪符の効果で凄まじい衝撃がホモ君に襲い掛かります。呪符っていうのは基本的に一枚で一回きりの使い切り道具なのですが、ゴリラはその欠点を大量に巻き付けるという正に脳筋と呼ぶに相応しい方法で解決したわけです。

 

 辛うじて威力が弱まるように受け流していたので棍や呪符の衝撃によるダメージはそこまで食らっていませんがやはりゴリラの戦闘力は驚異的と言わざるを得ないですね。

 

 ……なんかダメージ食らってからヤンデレ剣が挙動不審で大分使いにくくなってきてるのですが、何が起こってるんですかねぇ。うおっ、あぶねっ! 棍が何度か当たり掛けましたが、特殊技能の強運のおかげか上手く回避することが出来てますね。

 

 っと、二撃目を食らいましたがこちらもカウンター気味に速度を付けて反撃したのでその分の勢いで向こう側に痛手を与えられましたね。……二撃目くらったら物凄い剣がガタガタ震え始めましたね。

 

 

 うおっ、ヤンデレ剣から凄まじい殺気が出てきました。ホモ君が傷つけられて怒ったのでしょうか。ヘアッ!? うおおい!どこいくねーん! おい!待て!止まれ!ホモ君の手から離れて勝手に攻撃しようとゴリラに向かっていきました。あーもうめちゃくちゃだよ……

 

 当然ゴリラはホモ君の挙動不審な状態には気づいても、まさか剣が手からすっぽ抜けて飛んでいくなんて夢にも思っていないわけでして、普通に攻撃を食らいました。何が起こったのかさっぱり分かってない様子なのでこのままだといくらゴリラと言えど反応しきれないですね。さすがに止めなきゃ動き続けそうなので止めにいきましょう。 

 

 うーん、すばしっこい。伊達に純星煌式武装やってたわけじゃないですね。

 

 ヨシ!捕まえました

 

 オロナイン、抑えろ!

 

 〆サバァ!あ~もう…もう抵抗しても無駄だぞ!

 

 よし、なんとか落ち着きましたね。まったくこのじゃじゃ馬いつ暴れ出すか分かりませんね。それでも強いことに変わりはありませんが。

 

 星露がどうやら途中から観戦していたのか、ホモ君に近づいて色々アドバイスしてくれてますね。それとどうやら、これからもヤンデレ剣を使い慣らすのを手伝ってくれるようです。ヤンデレ剣を知る人間はほとんどいないので手伝ってくれるのは正直助かりますね。

 

 さすがにもう特訓にならないので今日はここまでで中断しましょう。

 

 メスガキは星露に呼ばれているようなのでここで解散しましょう。さて、鳳凰星武祭も残り1か月ほどなのでできる限りヤンデレ剣の使い慣らしと連携を上手くとれるように練習して―――

 

 今回はここまで。ご視聴ありがとうございました。

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

裏話7 暴走

ヤンデレ剣が段々と不穏な動きを見せ始めたので初投稿です。


 

 「ほお。今度の鳳凰星武祭、おぬしたちが組んで出場するのか。意外じゃのう」

 

 その幼体には見合わぬ豪華な椅子に見た目とは反して堂が入った座り方をした幼子である星露は傍に控えている虎峰にお茶を注がせて、今度の鳳凰星武祭出場者である基臣と沈華を見る。

 

 「本当ですよ。基臣くんほどの誠実な人が沈華と組むなんて思いもしませんでした」

 

 「む……」

 

 虎峰が思わず漏らした本音を聞き、沈華が静かに睨むと何も無かったかのように振る舞う。事実、基臣はこの界龍の中でも上から数えてすぐといっても良いほど強く、不器用な所はあるが人に対して悪意を持って接することはないので、対極に位置するような存在である沈華と組むとは普通は思いもしないだろう。したがって、沈華も睨みはすれど噛みつこうとはしなかった。

 

 「まあ、お互いに利害が一致したというだけだ。俺としてもタッグ選びは手短に済ませたかったところだからな」

 

 「ふむ、まあおぬしの性格からしてそうじゃろうな。……それで本題じゃが」

 

 星露はいったんお茶に口をつけて間を置くと、事の本題を話し始める。

 

 「今度の鳳凰星武祭、沈華が必ず相手の内の片方のトドメを差してもらう」

 

 「師父!それはどういう……!」

 

 「今から話すから落ち着けい」

 

 椅子を立ち星露に迫る虎峰を落ち着かせ、席に座らせると話を続ける。

 

 「おぬしたちとそれぞれ戦ってみて感じた事じゃが、課題がいくつかあるのじゃよ」

 

 「課題……?」

 

 「基臣。おぬしは連携するという事を知らない。動きから見ても、相手の動きを観察することはできているようじゃが仲間に合わせるということが出来ておらん。個としての強さを極めていく上でもチームでの動き方を理解することは十分参考になるところはある」

 

 虎峰に再び注いでもらった茶を飲んで一息つくと、基臣から視線を沈華へと移して話しを続ける。

 

 「……それで沈華じゃが。仲間をサポートするなら現時点でも十分優秀な部類に入る。しかし、単独で戦うとなるとどうにも決定力に欠ける」

 

 「そういう訳で、それぞれの課題を考えた結果、次の鳳凰星武祭では基臣は仲間をサポートすることを、沈華は相手に一撃でトドメを与えれるような決定力となる武器を身に着けてもらう」

 

 その説明を聞いて基臣は納得したかのように少し頷いたが、疑問が沸いたのか星露へと話す。

 

 「その条件、俺は別に拒否できるわけだが、その時はどうなるんだ?」

 

 「拒否するのならそれも結構。ただしその場合、来年の獅鷲星武祭(グリプス)。おぬしをチーム黄龍(ファンロン)には加入させん」

 

 「師父!さすがに横暴が過ぎますよ!」

 

 「虎峰、おぬしは静かにしておれ。それでどうする」

 

 その言葉に少し悩んだ様子の基臣だったが、しばらくして返事を出す。 

 

 「分かった。その条件、飲ませてもらう」

 

 「よし、それならばさっそく二人で特訓せい。一か月近くあるとはいえ、本番まであっという間じゃからの」

 

 

 

 

 

 星露の話も終わり、二人で特訓することになった基臣と沈華は施設を貸してもらい、貸し切りで鍛錬を行うことにした。

 

 その途中、鳳凰星武祭でどう戦っていくかについて話し合っていた。

 

 「過去の鳳凰星武祭を確認してみたが、その中でもお前には十分戦えるレベルの実力がある。俺がトドメを差すときは……」

 

 「沈華」

 

 「ん?」

 

 「だから名前。タッグパートナーなのにあなたとかお前とかっていうのはおかしいでしょ。本戦では勝利したらインタビューも受けるんだし、他人行儀のままじゃ怪しまれるわ」

 

 「それもそうか、じゃあそっちも好きに呼んでくれ」

 

 「じゃあ基臣で」

 

 「そうか。それでさっきの続きだが俺がトドメを差すときはお前はサポートをしつつ相手の逃げ道を封殺するような立ち回りを心掛けろ。お前がトドメを差すときは俺が相手の意識を削ぐような立ち回りをするから、一番自信のある戦い方をしろ」

 

 「分かったわ。あと話は変わるんだけど、技を繰り出すときは技名を言いながらやってくれないかしら。基臣の動きが早すぎるから、サポートするときに動きを把握しづらいのよ」

 

 「わかった、できる限りのことはやってみる」

 

 

 

 

 そんなこんなで色々と鳳凰星武祭へ向けて色々と作戦を練っていると、建物の奥からおびただしい程の数の呪符を付けた棍を持った大柄な男が基臣たちのもとへとやってきた。

 

 「だ、大師兄!なぜこんなところに……!」

 

 「師父から基臣、お前の純星煌式武装の試し切り相手を務めてやれと言われてな。俺に白羽の矢が立った」

 

 「なるほど。俺もこいつの制御には正直困っていたから、相手がいるのは助かる」

 

 沈華は邪魔になるので端っこの方で観戦してもらうことにして、基臣と暁彗の二人はそれぞれ得物を手に持ち向かい合って対峙していた。

 

 「それではさっそくやろうか」

 

 「ああ」

 

 少しの間、二人の間に動きがなく静かさが場を包んでいたが、策は決まったのか先に暁彗から動き出す。

 

 「急急如律令、(ちょく)!」

 

 身が焼けつきそうなほどの火柱が迫り来るが、基臣はそれを縦に切り裂きつつ暁彗のもとへと駆け抜ける。

 

 「誉崎流初伝、凌穿(りょうせん)

 

 貫くような勢いで剣を点で突くように攻撃をする。暁彗は身に構えた棍でそれを器用にガードを行うことで退けるが、点による攻撃は想像以上に威力があったのか、身体をのけ反らせる。のけ反った暁彗はムーンサルトの要領で後ろへ一回転し、棍による攻撃を行う。

 

 「憤ッ!」

 

 「棍による攻撃と巻き付いている呪符による衝撃の二段構えか……」

 

 先読みしていたのか、綺麗に狙い穿つ攻撃を基臣は全て避け切る。その華麗な回避に暁彗は少し片眉をあげて驚きを表わすが、攻撃の手を緩めず追撃する。

 

 「誉崎流中伝、断蒼(だんそう)

 

 追撃をバックステップを踏んで回避した数瞬後、今度は前に踏み込み相手の隙を突いて下から斬り上げる。

 

 その攻撃は正確無比に暁彗の身体を綺麗に一閃し、その身体に傷をつける。

 

 「これが壁を越えた者たちの戦い……」

 

 舞台端から二人の戦いを眺めている沈華はその戦いのレベルの高さに驚愕する。本気で戦っている基臣の攻撃の合間を掻い潜ってサポートすることができるかを考えるが、思案の中では基臣の攻撃を妨害するという結果に落ち着く。

 

 「どうじゃ、あの二人の戦いは」

 

 「師父……!」

 

 すぐさま片膝をつこうとする沈華を片手で止める。

 

 「よいよい、楽な格好でええ」

 

 「……それでは」

 

 立ち上がり最低限の敬意を払った立ち振る舞いをしつつ、戦いへと視線を戻す。

 

 「今のところ、基臣の方が若干優勢といったところかの。まあ、あのじゃじゃ馬がいつ暴れ出すか分からんから形勢はどう動くかはまだ分からんがの」

 

 星露の言う通り、基臣は一撃も攻撃を食らうことなく有利に立ち回っている。

 

 しかし、途中で暁彗から一撃を食らったところから剣を握る基臣の挙動にどこか不安定な動きが混ざってくる。やがてもう一撃食らうと目に見えて動きが緩慢になる。

 

 「おっ、またしても攻撃を食らいおったか。こうなると勝負も分からんくなってくるの」

 

 星露がそう言うと、その言葉の通り基臣は完全に劣勢に陥る。今まで攻勢だった基臣はいきなり距離を取り、なにやら目の前の敵とは別の事に気を取られているようだった。

 

 「あいつ、なにやって……ッ!?」

 

 明らかにおかしな行動をとる基臣の姿に思わず声が出てしまったその瞬間、場を包む空気は基臣を中心に一変する。

 

 

 

コロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロス

 

 圧倒的な殺気が場の空気を支配し、憎悪を基臣以外のその場にいる者たちへと振りまく。

 

 「……ッ!」

 

 「ほっほっほっ、相も変わらず恐ろしい殺気を放ちよるのお」

 

 星露は平然と受け流しているが、隣にいる沈華はその殺気を受けて恐怖を感じるほどのものだった。

 

 「……師父、あれは」

 

 「基臣の持っておる純星煌式武装の意思、いや呪縛といった方が正しいかの」

 

 全く存在を認知できない基臣の剣だが、星脈世代(ジェネステラ)の人間なら周りを漂っている万能素(マナ)越しにその異常と言っても良いほどの存在感が伝わってくる。

 

 「まあ、あれのことは後で話すとしよう。ほれ、やはり基臣の制御から外れたようじゃの」

 

 星露の言葉通り制御から外れた潔白の純剣(インヴィズ=ピューレ)はその刃を暁彗へと走らせる。潔白の純剣の軌跡に当たったと思わしき暁彗の身体からは血しぶきが上がる。

 

 「何も見えなかったのに、大師兄の脇腹にダメージが……!まさか勝手に行動を……。制御が外れてしまっては不味いのでは」

 

 「そんなことあやつもよく分かっておるじゃろう、今捕まえたようじゃわい」

 

 必死に潔白の純剣(インヴィズ=ピューレ)を押さえつけている基臣を見て一安心する沈華をよそに、星露は戦っていた二人のもとへと行く。

 

 「これで大体己が解決すべき課題も見つかったじゃろ」

 

 「……星露」

 

 「今後もこうしてそやつを制御する相手として付き合ってやるわい、おそらく一人だけじゃと途中で行き詰まってしまう」

 

 「助かる」

 

 「ええ、ええ。それでじゃが、沈華はちと話があるのでな。おぬしは疲れたじゃろう先に特訓を終わるとええ」

 

 「分かった」

 

 

 

 

 

 

 

 

 基臣は寮へと戻っていったのをよそに、星露と沈華は話をするべく移動した。

 

 「おぬしもその目に焼き付けたじゃろうが、基臣の持っておる純星煌式武装は非常に強力じゃが、その反面性格に難があって中々の曲者じゃ」

 

 「はい。傍から見ただけでも基臣が相当制御に苦労してそうなのが分かりました」

 

 「実際途中から挙動が怪しくなってきおったしの。ただ、最大の問題はそこではない」

 

 「最大の問題……?」

 

 「うむ。最大の問題は鳳凰星武祭の途中にあの純星煌式武装に基臣の身体の制御を奪われてしまうことじゃ」

 

 「身体の制御を?」

 

 「過去にもレヴォルフの覇潰の血鎌(グラヴィシーズ)なんかは使用者の身体を変化させたり、身体の制御を奪われるという事故もあったという話じゃ。基臣の純星煌式武装もそんな事態があってもおかしくはない」

 

 「その時はどうすれば?」

 

 「現時点ではどうにもならんが、気をつけるしかあるまい。試合中は気を配るんじゃぞ」

 

 「分かりました」

 

 「話はそれだけじゃ。下がってよいぞ」

 

 「失礼します」

 

 

 

 

 星露の元から立ち去った後、帰路の中一人話していたことを思い返す。

 体の制御を奪われる、そんなことがあればどんなことになるか分からない。もしかすると無差別に攻撃を始める可能性すらある。その場合、さっきのように私にも殺気を飛ばしてくることだろう。

 

 「そのときは私に止められるのかしら……」

 

 沈華はそのことに若干の不安を感じながらも寮へと帰っていくのだった。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

part8

メインヒロインの影が薄いと今更気づいたので初投稿です。


 女の子の嫉妬はいつどこからやってくるか分からないRTAはーじまーるよー

 

 あれからメスガキとの連携を鍛錬しつつヤンデレ剣を手なづけようと練習したりして、鳳凰星武祭まで二週間という所まで来ました。

 

 シルヴィを好感度上げのためにいつものようにデートに誘いだしましょう。今回は前みたいに特訓するということはなく、普通にデートします。さすがに、いつも鍛錬ばかりしていると好感度も地味に下がりますし、そもそもシルヴィ姉貴が陰キャなホモ君を無理やりデートに連れ出すので移動分の時間でロスになってしまうことになります。だから、普通にデートに誘う必要があったんですね。

 

 さすがに大会中にデートにうつつを抜かすわけにはいかないので、今回のシルヴィとのデートが鳳凰星武祭前最後のデートになります。今のところシルヴィ姉貴との関係は上々といって良いでしょう。

 

 シルヴィが来る前に商業エリアで待機しておき、待ち合わせで彼女を待たせることの無いようにしましょう。理由もなく待たせてしまうと時間に応じて好感度が下がっていきます。

 

 このゲーム、どこの恋愛シミュレーションゲームだよと言わんばかりに好感度の増減ポイントが存在します。シルヴィは聖人のように寛容な子なので比較的好感度が減るような要素はありません。

 

 しかし、これが原作主人公である綾斗のメインヒロイン、ユリスとなるとその好感度減少ポイントは爆増します。食事の所作、相手と対話するときの態度、所属がレヴォルフなどなど……、減点法で人を見てくるめんどくせー女の子みたいな評価の仕方をしてきます。

 まあ、それも最初の内だけで少し好感度を上げると一気にチョロインと化すので気になる兄貴達は、買おう!(ダイマ)

 

 ホモ君は社交性ゼロのダメダメ人間なので、基本的にはシルヴィにデートプランを立ててもらうことになります。何回か交流をしているとホモ君からもデートプランを立てるようになりますが、まだ3回目。しかも、前回はゴロツキどものせいでデートがおじゃんになったので実質2回目な訳なのでまだ自分でデートプランを立てれる程の経験はないチェリーです。大人しくシルヴィのプランに従ってデートを満喫しましょう。

 

 カラオケ、ゲームセンター、ショッピングなどなど…………わあ、ホモ君が良いところを見せる出番がまるでありませんねぇ、たまげたなぁ……。まあでも(シルヴィが)幸せならOKです

 

 

 

 

 

 少女デート中……

 

 

 

 

 

 ん……?

 

 後ろを誰かがつけて来てますね。それも複数人。この前のメスガキは何故か感知できていませんでしたが、普通ならばホモ君による第六感でたいていの奴の尾行は勘づくことができます。

 

 尾行されてることをシルヴィに伝えると、彼女も言われてなんとなく尾行けられていたのが分かったようですね。

 敢えて路地裏の方へと向かって、尾行してるやつの正体を明かそうと提案をしてきました。大体誰が尾行()けてきているのか分かっているので、イベント発生のために犯人を捕まえましょう。

 

 裏路地に入って二手に行先を分けると、犯人たちはシルヴィの方に向かっていきます。一応念のために別れてから誰も尾行してきてないことを確認してから、シルヴィの元へと向かい犯人を捕まえに行きましょう。

 

 犯人のスニーキング能力は割とガバガバなのですぐに場所を補足することができました。四人組の女の子達ですね。どれどれ正体は……

 

 予想通り、クインヴェールのルサールカの面々でした。まだ最年少のマフレナがいないのでメンバーは四人ではありますが。

 獅鷲星武祭に参加していないので無名ではありますが、来年クインヴェールに入ってくるマフレナを含めて五人組の女子だけのロックバンドです。若者を中心に人気があり、獅鷲星武祭後にはクインヴェールの中ではシルヴィに次ぐ人気を誇るグループです。

 

 メンバーは元気ッ子だけどノリだけで行動するバカっぽいリーダーのミルシェを筆頭に、口数少ないダウナー系のパイヴィ、普段は自分を可愛く見せてるけど実家で声低そうなモニカ、ヤンキーみたいなタイプのトゥーリア、とメンバーの中で唯一の常識人なマフレナを除いてどいつもこいつも個性派ぞろいです。

 

 このルサールカの面々は打倒シルヴィを掲げており、アイドルであるシルヴィのゴシップを見つけて自分たちの世界ランクを上げるという名目でホモ君たちを追っかけていますが、実際は憧れの存在であるシルヴィに悪い虫がついていないか気にしている優しいやつらです。といっても、大体シルヴィを追っかけて後でマネージャーに叱られるのですが。

 

 シルヴィの好感度を上げていく中で確定でイベントが発生するため避けて通れない連中ですが、ホモ君が悪いやつでないと分かると、獅鷲星武祭で対戦した後はそれとなーく徐々にフェードアウトしていくので(特に問題は)ないです。

 

 なぜこうやってわざとイベントを回避せずにわざわざ起こしているのかというとこのゲーム、そのヒロインに関連しているイベントを見ない限り好感度の上限が解放されず、その上限以上に好感度が上昇することがないためです。できる限り、イベントを通してヒロインの事を知ってほしいという開発陣の考えがあるからなのでしょう。

 

 また、ヒロインごとにそのイベントの数も違うため攻略しやすいしにくいっていう差は大なり小なりありますね。ユリスやクローディア、シルヴィなどの原作でのメインヒロインに該当するキャラはそのイベントの数が比較的多い傾向にあります。とはいえ、サブヒロインのイベントは手を抜いているかと言うとそういうわけではなく、今作オリジナルのイベントがあります。

 

 というわけで、シルヴィとは関わりの深いルサールカとのイベントを起こす必要があったんですね。

 

 現時点でのルサールカは常識人枠であるマフレナがいないためブレーキの利かない車みたいに深く考えず猪突猛進で突き進んでいきます。

 今回の尾行も、シルヴィに男の影がある→弱みを握ればシルヴィをぎゃふんと言わせられる、という子供みたいな短絡的な発想でやってきたわけです。実際はそんなに上手いこと行かないのですが、そういうバカさ加減もルサールカがネタキャラとしてユーザーの間で愛されている理由でもありますね。

 

 さて、抜き足差し足で音を立てずにリーダーのミルシェに近寄って声を掛けると、面白いぐらいに大声を出しながら腰を抜かしてびっくりしてくれます。シルヴィもその声に気づいたのかこちらにやってきましたね。

 

 シルヴィも彼女たちが尾行けてきていたのを何となく察していたのか少し呆れたように苦笑いしながら、ホモ君にルサールカについて説明してくれてますね。

 

 グダグダ尾行に失敗した彼女たちですが、開き直ったのかホモ君とシルヴィの関係を直接聞きに来ましたね。

 もちろん言う義務はないので拒否りますが、リーダーのミルシェとの決闘で向こうが勝ったらどういう関係なのか聞かせろと言ってきました。まあ、負ける気がしないので全然かまいません。というかこの決闘イベントも好感度上限の開放に関わってきますので了解しましょう。

 

 さてミルシェですが現時点ではまだ実力はそこそこといったところですかね。メスガキの少し上といったところでしょうか。剣型の煌式武装を得物としており、今はまだ近接戦に主軸を置いた戦い方をしています。

 

 ミルシェは深く考えず、とりあえず思いつきで行動する節があるのでホモ君にとっては手玉に取りやすいタイプのキャラです。

 しかし、思い付きで行動する反面、反射神経や勘は常人よりも冴えており妙なタイミングでホモ君の攻撃を回避してきます。とはいえ、第六感持ちであるホモ君に匹敵するほどではありません。

 

 向こうから近接戦にもつれ込んでくるので、ありがたく迎撃させてもらいましょう。何度かダメージを与えると流石に近接戦で分が悪いと感じたのか一旦作戦を練るために離れましたね。

 

 とはいえ、向こうに遠距離の攻撃手段はないので、ヒットアンドアウェイ狙いなのか勢いよくこちらへと突っ込んできました。攻撃が当たる直前に最小限の動きで回避しましょう。

 

 ……おっと、ミルシェが勢い余って噴水の方に突っ込んでいきそうなので全力ダッシュで近づきお姫様だっこして助けてあげましょう。こうすることでシルヴィの好感度が上がると共に、ルサールカのホモ君に対する印象がよくなります。

 

 抱っこされたミルシェは事の状況を理解すると、恥ずかしさで顔がゆでだこのように真っ赤になってしまいました。マジもうヤダ最高かわいい(ババババ)。

 離せ離せと言って暴れだしますが、噴水の近くにいてはびしょ濡れになってしまうので少し移動してから降ろしてあげましょう。

 

 ミルシェはこんな感じで恋愛事にはめっぽう弱く、お姫様だっこをしてあげるだけでもこんな感じであたふたして可愛らしい姿を晒してくれます。

 

 ツンデレな面はありますが、なんだかんだで素直にお礼は言える子なのでホモ君に感謝の言葉を伝えて顔を真っ赤にしたままでそのまま立ち去っていきました。

 

 ひと悶着ありましたが、なんとか収まったのでシルヴィをクインヴェールまで送り届けて……って、え?

 

 あれ……シルヴィアさん?なんでそんなにこちらを睨んでるんですか?噴水に突っ込んでいきそうになった子を助けただけですよ?

 

 痛ってぇ!(痛覚共有)。ちょっと横腹を抓るのは痛いので止めてくださいよ、マジで!

 目の前で他の女の子をこうやって抱っこして助けたことは今までないですがこんな反応するんですねぇ。シルヴィはそんなに余裕のないようなタイプの人間ではないはずなんですけどねぇ……。

 

 どういう訳か嫉妬しているっぽいのでこういう時は帰り道の途中にホモ君から手を握ってあげましょう。機嫌を直してくれます。

 ……どうやら機嫌を直してくれたようですね。機嫌が悪いままの状態だとたまに好感度が落ちるのでそこらへんの管理も気を付けるようにしましょう。(3敗)

 

 シルヴィとの好感度も十分稼ぐことが出来たので、今後は鳳凰星武祭を攻略していくところに焦点を―――

 

 今回はここまで。ご視聴ありがとうございました。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

裏話8 追跡!ルサールカ探偵団

ルサールカの部分が書いてて楽しかったので初投稿です。


「『第3回シルヴィア・リューネハイムを追い落とす手段を考える会議』はじめるよー!」

 

「「「いぇーい!」」」

 

「それじゃシルヴィアを追い落とす手段だけど、何か考えがある人!」

 

「あるぜ!」

 

「はい、トゥーリア!」

 

「正面から決闘を挑んで倒すってのはどうだ!」

 

「それ前もやってダメだったからパス」

 

「なんでだよー、もう一回やってみたらもしかしたらいけるかもしれねぇだろぉ!」

 

「それ前もやってボコボコだったじゃん、ダメダメ!」

 

 まったくもー、トゥーリアは……。このルサールカの中で一番突っ走るところがあるからどうにも正面から叩き潰すことばかり考える節がある気がする。

 

 第2回の時にトゥーリアの案を採用して私がシルヴィアに決闘を仕掛けた結果、見事なまでに惨敗してしまった。

 しかもその一週間後、私の無様な姿を撮ったメディア系クラブの写真が学園内で拡散して、マネージャーのペトラさんに大目玉を食らったのは記憶に新しい。

 うぅ、あの時のことを思い出しただけで震えが……

 

「はいはーい。モニカにいい案があるよ」

 

「はい、モニカ」

 

「ほら、1か月ぐらい前にシルヴィアが帰ってきたときに物凄い乙女の顔をしてたでしょお。あれは絶対に裏に男の影があるに決まってるよー」

 

 可愛らしく猫をかぶったモニカが指を立ててシルヴィアに彼氏の存在がいることを示唆した。

 

「あー、あったよね。そんなこと」

 

「だからー、その決定的な写真とかを撮っちゃってメディア系のクラブに渡しちゃえばシルヴィアも流石にいろんなところから集中砲火を浴びちゃうかもー」

 

 流石モニカ。作戦の内容のえぐさに若干引き気味になりながらも確かにいい案であると考える。

 

「まあそれでいいんじゃない」

 

 今まで喋っていなかったパイヴィもその意見に同意する。

 

「それでは追跡開始ー!」

 

「「「おー!!」」」

 

 こうして私たちのシルヴィア追跡作戦は始まった! 

 

 ──────────────────────

 

 カラオケにゲームセンターなど割とシルヴィアにしては普通の場所を巡って件の男と一緒に遊んでた。男の方は遊ぶことに手慣れていないのかどうも動きが硬いような気がするけど、まあ、シルヴィア程の美人と遊んでいるんだ。緊張していて身体が思うように動かないんだろうね。

 

「あむっ、もぐっ……。パイヴィ、シルヴィアはどんなかんじなのー。もぐもぐ……」

 

「例の男とブティックで楽しくお買い物中……って真面目にやりなさいよあんたたち」

 

「いやーごめんごめん、でもこの店の限定スイーツ普段は中々食べられないからつい夢中になっちゃって」

 

「うんめーなーこれー」

 

「まったく、それ食べたら出るよ。もうそろそろシルヴィア達も移動しそうだし」

 

 パイヴィの言葉を聞いて、急いでケーキを食べ終えると私たちはそのままシルヴィアと少し距離を開けるようにして尾行を続ける。

 

 しばらく尾行していると、人通りの少ないところに到着して二人はこっそりと裏路地の方に入っていった。

 

「でもでもー、何しにこんな裏路地に入ったんだろお?」

 

「人にバレたくないことをしたいから入ったんだろうねぇ。まあ、何となく想像つくけど」

 

「バレたくないこと?」 

 

「なんだそりゃ?」

 

 モニカとパイヴィは呆れたように私とトゥーリアを見てくる。別に変なことを言ったつもりは無いんだけどなー。

 

「まあキスとかそういうスキンシップをするんじゃない」

 

「もしかしたらむふふー、なことまでしちゃうかもー」

 

 むふふーって……っ、そんな破廉恥なことっ! シルヴィアがそんなことするなんて想像もつかないから、もしかしてあの男に誑かされてるんじゃないかという想像が頭の中に浮かぶ。シルヴィアがそれに気づいていないんだとしたら……っ! 

 

「作戦変更! シルヴィアを助けることを第一優先にするよ!」

 

「おー!」

 

「まったく、リーダーも優しいよねー」

 

「まあそういうところに惹かれて私たちもルサールカに入ったんだけど」

 

 裏路地を歩いているシルヴィア達は途中で二手に分かれたみたい。どっちを追いかけるか一瞬悩んだけど、まずはシルヴィアを助けることを優先する。

 

「シルヴィアの方を追いかけよう!」

 

「「「了解」」」

 

 男の方は放っておいてシルヴィアの方を追跡しているけど、途中から姿を見失ってしまった。

 

「シルヴィアの奴、どこにいったんだよー、まったく」

 

「さっきまではちゃんといたはずなんだけどねー」

 

「さすがにもう見つからなそうだし帰る?」

 

「シルヴィアがあの男に誑かされてるかもしれないんだよ! 私たちで助けないと……」

 

「俺達に何か用か?」

 

「……って、ふぇっ!?」

 

 思わず尻もちをついてびっくりしてしまう。

 

 なんでシルヴィアの男がこんなところにいるの!? 

 

 後ろにも気を配ってたはずなのに私たちの警戒を掻い潜って最初からいたかのように私たちのそばに立っている。監視していたシルヴィアも騒ぎに気付いたのか私たちのもとへとやってくる。

 

「あー、やっぱりミルシェ達だったんだね」

 

 やっぱりってもしかして……

 

「まさか裏路地に入ってたのは……」

 

 私の質問にシルヴィアは縦に頷いて返答する。

 

「そう、誰が私達を尾行()けているのかを探るためなの」

 

「くっそー、騙された!」

 

「シルヴィの知り合いか?」

 

「この子たちはうちの学園のバンドグループでね。ルサールカっていうんだけど、私にいつもよく絡んでくる子達なんだよ」

 

「そうか。でもなぜこいつらがここにいるんだ?」

 

「うーん、たぶん私のゴシップを見つけたかった……とかじゃないかな? 基臣くんといっしょにいるとこを写真で撮ったらアイドルの熱愛報道みたいにできるだろうし」

 

「こんな写真ごときで大騒ぎになるとは、アイドルの世界はよく分からんな」

 

 いつの間にか私の首にぶら下げていたカメラが男の手にあった。中身を見ているのか、何の感慨もないような目で私が今日撮った写真のリストが映っているディスプレイを見ている。

 

「あー! そのカメラ返せー!」

 

 まずい。このままだとデータを消されて証拠隠滅されてしまう。どうにかして取り返さないと。何度も取り返そうと手を伸ばすけど写真確認の片手間とばかりにのらりくらりとかわされてしまう。

 

「と言ってるが、シルヴィ。どうすればいい?」

 

「うーん、この子達には悪いけどデータを消させてもらおうかな。スクープにされても少し困るし」

 

「ちょーっとまったー!」

 

「ん?」

 

 もうおしまいかと思ったその時、モニカがデータを消そうとするシルヴィアに待ったをかける。

 

「なぁに? さすがにカメラは返してあげるけど、データは消させてもらうよ」

 

「その話、少し待ってもらいましょう!」

 

 キャラが崩壊しかけているモニカが無理やりシルヴィアの手を止めさせる。キャラが崩れかけていたのに気づいたのか、コホンと一回咳をして猫をかぶりなおした。

 

「その男との決闘で決めようよ、その方がお互いに納得いくでしょお」

 

「決闘かぁ、まあいいよ。ごめんね、基臣くん。変なことに巻き込んじゃって」

 

「別に俺が失うものは無いから構わないが、お前は大丈夫なのか」

 

「うん、別に大丈夫だよ」

 

 よし! 

 シルヴィアなら負けるビジョンしか見えないけどこのボーっとしてるような男だったらなんとかなるはず。よくやった、と内心でモニカを褒め称えつつみんなで作戦会議をしようと振り返る。

 

「作戦会議を……」

 

「「「じゃあよろしくリーダー」」」

 

「って、えー! 私がやるのー」

 

「だって、この中で一番強いのミルシェだし」

 

「モニカー、ちょっと今日は戦う気分じゃないっていうかー。キャハッ☆」

 

「まあ頑張りなよ、ここから応援しといてあげるからさ」

 

 完全にみんな私に頼るつもり満々だ。まあ確かにルサールカの中で一番強いっていう自負はあるけどさー。なんだかなーという気持ちが心に残りつつも代表者として決闘するためにシルヴィアたちと向かい合う。

 

「それじゃあ、私が勝ったら写真のデータを消さないのと、あんたがシルヴィア・リューネハイムとどういう関係なのか教えてもらうからね!」

 

「うん、それでいいよ。基臣くんが負けるわけないしね」

 

 むっ……

 さすがにここまではっきり勝つって言われると腹が立ってしまう。でも、相手は界龍でも名前が出てない全くの無名。こっちだって負けるわけにはいかない。

 

「あんた、名前は?」

 

「誉崎基臣」

 

「そう。私の名前はミルシェ。芸名だけどね」

 

 そう言いつつ、私は胸に付けているクインヴェール学園の校章『偶像』に右手をかざして宣誓する。

 

「羨望の旗幟(きし)たる偶像(ぐうぞう)の名の下に、私ミルシェは汝誉崎基臣への決闘を申請する!」

 

「……その決闘申請、受諾しよう」

 

 誉崎の校章が決闘を受諾したことを示すように赤く光り輝く。

 

 それと共に戦いの火蓋は切って降ろされた

 

「せいやーーーーー!」

 

「…………」

 

 難しいことはよく分かんないから先手必勝で先に動くことにした。誉崎は様子を見るつもりなのか拳を構えたままこちらを見つめ続ける。

 

「このー! せいっ! でりゃっ!」

 

「沈華より少し強いといったところか……」

 

 何度も攻撃をするけど攻撃が一つも当たらない。それどころかその間に何回も拳で攻撃を仕掛けて、そのほとんどが私の身体に命中する。たまらず距離を取ると、幸いにも向こうから距離を詰めることなく様子を窺っているようだった。

 

 

 このままだと埒が明かないから素早く動いて攻撃を当てたらすぐ回避する戦法に変える。全力で加速してそのまま誉崎へと突進する。って、あっ……かわされた。早く着地して勢いを殺さないと……っ!? 

 

 勢いよく突っ込みすぎたのか慣性で身体が勝手に動く。このままだと間違いなく噴水に突っ込んでしまう。

 

 思わず目を瞑って水の感触が来るのを待つけど、身体に感じたのはそれとは別の感触。

 

 

 

 

 

 

 目を開けて何が起こったのか見て見ると、私の身体を優しく抱きかかえてくれる誉崎の姿がそこにはあった。というかこれって……!? 

 

 

 

 

「も、ももももしかして、お姫様抱っこ……っ!」

 

 身体越しに感じる逞しい腕の感触に顔が物凄い勢いで熱くなっていくのを感じる。男の人の身体ってこんなに落ちつくんだ……って違う違う! 早く離れないと! 

 

「放せ! はーなーせー!」

 

「ここで放したら噴水に落ちるだろ、敵に抱きかかえられるのは嫌かもしれんが少しは我慢しろ」

 

「うー……っ!」

 

 そう言われてしまうと反論できなくなっちゃう。抱きかかえられたままみんなのもとまで移動すると優しく私を下ろしてくれた。

 

 後ろで外野がガヤガヤうるさいけど、恥ずかしさで頭が回らずしばらくの間言葉に詰まってしまう。

 

「あの、その……さ。さっきはありがとう……」

 

 顔を見て感謝の言葉を言いたいけど、少しでも誉崎の顔が視界に映ると顔が嫌が応でも熱くなっていくのを感じる。

 

「それだけだから、それじゃ!」

 

「ちょっとまってよおミルシェ―! カメラ忘れてる!」

 

「じゃあ私がカメラをもらっておくわ」

 

「ああ、……ってシルヴィ何で抓るんだ。別に変なことをしてないはずだが」

 

「別にー」

 

 

 ──────────────────────

 

 

 

 

 散々な結果に終わって先に部屋に帰ってベッドに横になっていると、しばらくしてみんなも帰ってきた。

 

 顔に満面の笑みを浮かべさせて。

 

「おいおい、ミルシェにもついに春が来たかぁ!」

 

「ち、ちがうって! あいつとはそういうんじゃっ」

 

「もしかして、最近流行りの略奪愛? リーダー、そういうの鈍いから私が手伝ってあげるよー」

 

「だからそういうんじゃなくって……!」

 

 うー……っ、シルヴィに纏わりつく悪い虫を追い払うつもりで近づいたのに、助けられてドキドキさせられるなんて卑怯じゃん……。みんなも勘違いするしどうしたら……

 

「まったく、あなたたちは何をしていたのですか」

 

「「「「げっ」」」」

 

 聞き覚えのある声に思わず身体がビクッと震えてしまう。恐る恐る後ろを振り向くとこの前の折檻の時よりも怖い顔をして私たちのことを見ている。

 

「ペトラさん、どうも……」

 

「出会うなり、げっとはずいぶんなご挨拶ですね。まあ、それはいいです」

 

 ペトラさんが何か端末を操作していると、私たちの目の前に映像が現れる。ってこの映像ってまさか……っ

 

「私たちが尾行してるって気づいていたんですか!?」

 

「ベネトナージュの情報収集能力を舐めてもらっては困ります。貴方達の企みぐらいすぐにわかります」

 

 書類を私たちに渡してきたので表紙だけ見てみると、そこにはルサールカのライブツアーに関することが書かれていた。

 

「さて、貴方達にはしばらくの間ライブツアーを組んでいます。ライブツアー中にしっかりと自分の行動を反省することです」

 

 その後、ペトラさんに渡されたツアーの予定表を見て、あまりの忙しさに私たちは絶叫することとなった。

 

 




気づいたらお気に入り1000件超えてました。
見てくださってる皆さん本当にありがとうございます!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

part9

ここのところ難産続きなので初投稿です。


 本格的にバトルアクションシーンが増えていくRTAはーじまーるよー

 

 前回はシルヴィとデートして、途中でルサールカのメンバー達と面識を持って終わったところでしたね。最後、ミルシェをお姫様抱っこしてゴタゴタしましたが、なんとかなりました。

 

 シルヴィとのデートからもうすでに二週間経過しており、鳳凰星武祭の開会式が始まるところまで来ましたね。

 

 開会式には汚れ好きの土方の兄ちゃん(45)。ではありませんが、過去に鳳凰星武祭を優勝した経験のある星武祭の運営委員長、マディアス・メサが挨拶をします。人当たりの良さそうな見た目をしていて、星武祭をその敏腕で運営してきた有能です。

 

 まあ原作の黒幕なんですけどね、初見さん。

 

 

 さて、クソ長い茶番のようなご高説を聞き流していると開会式が終わったので、予選の会場へと移動しましょう。

 

 星武祭は予選と本戦に分かれており、予選グループには有力候補が1組とその他有象無象が集まっています。理由としては運営が本戦が盛り上がるようにするためにも予選で有力候補同士をぶつけて落とさないようにするためですね。

 

 今回ホモ君たちはその有象無象に分類されています。

 それも当然。ホモ君はメスガキとの模擬戦の経験はあるものの序列戦をやっていないため、序列外。メスガキは在名祭祀書(ネームド・カルツ)に名前は載ってはいますが、後半のページにいるため雑魚扱い。まあそりゃ有力候補のグループに放り込まれますよね。

 

 他の雑魚との戦闘は特に見どころもないので、パパっと有力候補が相手の試合まで倍速しましょう。

 

 少女対戦中……

 

 さて順調に勝ち上がってきていますね。対戦相手を瞬殺してきたことで予選グループ内で結構警戒されているようですが、そんなものホモ君達の障害になりません。フンザコカ!

 

 さて予選最後の試合で有力候補のタッグが現れました。タッグの内の片方は冒頭の十二人(ページ・ワン)ですね、序列11位ですか……。校章からも分かる通りレヴォルフの生徒です。レヴォルフは基本的に他の学園に比べて単体能力だけを見れば突出しています。事実、冒頭の十二人に入っている人間は他学園でのトップクラスに匹敵するほどの実力を持つ者が多いです。

 

 この11位さんもその例に漏れず、トップクラスと言わないまでもそれに次ぐ実力があり、ついでに言うと液体状の純星煌式武装(オーガルクス)をもっています。もちろん試走段階で能力は把握しておりますとも、はい。

 

 奴さんの特筆すべき点は粘性が非常に高い液体を自在に遠隔操作できることで、その液体越しでは攻撃は基本通らないです。また、地面にばらまくことで足を封じてくることもできる優れものです。強いて言うなら攻撃性能は他の純星煌式武装に比べて劣ると言ったところですかね。まあ11位さんの戦い方を映像越しで見る感じだと、液体で相手を窒息させたりとか動きが鈍ったところで直接校章を狙うことで勝ってきたようです。無難ではありますが順当な勝ち方ではあります。

 

 ただまあ純星煌式武装ということでその能力の分だけ制約が所有者にかかります。11位さんの場合は時間経過ごとにどんどん身体を組成するものの動きがゆっくりになるという制約がかかります。

 

 え?その制約危険じゃないかって?まあ、確かにあまりにも戦闘に時間を費やしているとその内身体どころか心臓の動きすらゆっくりになり死に至るという聞いただけで恐ろしいものなのですが、遊び半分で検証した結果そこまで至るのにおおよそ2時間ほどかかりました。(極悪非道)

 

 RTAでそれを狙うのは余りにも非効率的ですし、試合の見栄え的な意味でもよろしくはありませんね。また、それを見越した遅延行為をしたことが露見すれば運営側から注意勧告、最悪失格すらあり得ます。

 

 というか純星煌式武装自体、結構危険な制約を課されることが多いです。こいつに限った話ではなく、他にも時間経過ごとに体温が下がっていくっていう制約を課してくる武器もありますからね。そっちの方は十数分に一度体温が低下するので制約のキツさで言えばこの液体はマシな方だと言えます。

 

 

 さて、戦闘が始まりましたね。こっちからさっさと仕掛けていきましょう。第六感で適当に迎撃してくる液体を躱して、一発拳をぶちこみましょう。いやー、本当に第六感便利ですねー。さすがに格上の相手の手数が多い攻撃とかは来るのが分かっていても捌ききれないこととかあるので全能ではありませんが、万能ではあります。

 

 剣をまともに使えるのなら一瞬で決着ついてるんですが、まあ無い物ねだりしても仕方ありません。メスガキに呪符を透明化状態でばら撒いてもらって相手の行動を制限しましょう。相手にとっては透明化状態で罠が仕組まれてる状況なわけですが、ホモ君にとっては第六感で見透かせるので一方的にフィールド上のアドバンテージを取れるわけです。

 

 おっと、液体に当たるところでした。っと、回避したと思ったらメスガキに当たりましたね。流石11位さん、一般モブとは思考ルーチンが違うだけのことはあります。にしても……

 

 ぐへへ……、メスガキのスライム塗れ姿。これはスクショものですよぉ……っといかんいかん、まだメスガキは片方の敵を倒していないので助けてあげましょう。え?どうやって液体を引っぺがすんだって?

 

 答えは液体の所有者の意識を飛ばす、です。純星煌式武装だけに限らず、《魔女(ストレガ)》や《魔術師(ダンテ)》、遠隔操作できる煌式武装である煌式遠隔誘導武装(レクトルクス)にも言えることなのですが、遠隔操作系の能力は特に精密なコントロールの元に成り立っているわけです。つまり、意識が集中できないレベルにまでボコれば万事解決なわけです。一人だけ例外がいますが……。そこ!脳筋って言わない!

 

 この液体、身体全体を覆う程の量はありません。大体顔2.5個分といったところでしょうか。まあ身体全体を覆えてしまったらチートクラスの武装になってしまうわけですからね。ついでに言うと、操作できる最小限度の大きさってやつも存在します。ソフトボール1個より少し大きいといったところでしょうか。

 

 まあそういう訳で液体を躱しつつインファイトを仕掛けていきましょう。

 

 

 ホモ君がぁ!!!捕まえてぇぇ!!!

 ホモ君がぁ!画面端ぃぃっ!!!!

 液体の軌道読んでえぇっ!!!

 まだ入るぅぅ!!

 ホモ君がぁっ!!!!・・・つっ近づいてぇっ!!!

 ホモ君がぁ決めたぁぁーっ!!!!

 

 

 よし11位さんの顔面にクリーンヒットさせたので気絶させることが出来ましたね。所有者が気絶したからか液体もその機能を停止させましたね。あともう片方はそこまで強くないのでちゃっちゃとメスガキに倒してもらいましょう。

 

 

 

 さて、メスガキももう片方の相手の校章を破壊出来たので試合終了です。タイムは……1分20秒。

 30~40秒程度で終わらせたかったのですが、まあメスガキに相手を片方譲ったことを考えるとそこそこ早く倒せたのではないでしょうか。

 

 

 

 本戦に出場が決定するとインタビューを受けることになります。しかも、ホモ君たちは本戦出場有力候補を倒してしまったため、かなりメディアからの注目度が高くなっています。

 

 このインタビュー正直言ってなんのメリットもないです。下手な回答をしてしまうと自ら戦法や武器、切り札などをしゃべることになってしまい、今後戦う相手にその情報が流出してしまうからですね。

 

 かといってインタビューを拒否すると、メディアからだけでなくそのインタビューをみている一般観客民からも好感度が下がってしまい、その好感度が一定の基準を下回ると試合中に罵倒まで飛んできます。大人の世界って、怖いですよねぇ。

 

 メスガキからも余計な情報を喋らないように釘を刺されましたね。大丈夫だってー、安心しろよー。

 

 というわけでインタビューに臨みましょう。適当にメスガキに全て質問を誘導してもらって、ホモ君は適当に頷くだけの役に徹しておきましょう。そうしておけばメディアもメスガキの方が情報を貰えそうだと気づいてホモ君に質問が向かなくなります。

 

 ……

 

 は?誉崎ということだけど、あの誉崎なのか?それと剣は使わないのか?

 

 あの誉崎って何なんですかねぇ……。ついでに、なんでホモ君の実家の情報が流出してるんですかねぇ。パッパは見た限りでは外との交流をしないタイプでしたし、最近の著名な流派にも誉崎流はなかったんですけどね……。直接関係しないと思って過去の流派の方まで探っておかなかったのがいけなかったのでしょうか。

 

 まあ使う武器が露見してしまってるものはしょうがないとして、質問に関してはノーコメントとしておきましょう。横からメスガキの余計なことは言うなという無言の圧が飛んできてましたが、無難な回答をしたのでその圧も消えました。

 

 周りのメディアは結構どよどよしてるみたいでフリーのジャーナリストが暗黙の了解を無視して質問した感じですね。こっちからしてみればいい迷惑ですが。

 

 さて、予選を制したので次からは本戦へと移ります。会場も大きなものとなり、相手もさっきの11位さんほどの相手はそうそう出ませんが、それに次ぐレベルの実力者がバンバン出てきます。相手によってはヤンデレ剣を使う予定ではありますが、できる限り使わないように相手を見極めて―――

 

 今回はここまで。ご視聴ありがとうございました。

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

裏話9 誉崎の名が残す呪い

ホモ君の過去が明かされそうになったり明かされなかったりするので初投稿です。


『さあ、第23回鳳凰星武祭の予選! この会場で行われるAブロックの試合。実況はABCアナウンサーのわたくし梁瀬(やなせ)ミーコ、解説は界龍(ジェロン)第七学院のOG、ファム・ティ・チャムさんでお送りしまーす』

 

『ども、よろしくお願いするっす』

 

『さー、まず姿を現したのは界龍第七学院の誉崎基臣選手と黎沈華選手です! 誉崎選手に関しては戦闘データが存在しないため今回の戦闘が公式では初めてとなります。また、黎沈華選手はあの《万有天羅》の直弟子とのことで、ある意味注目のタッグですねー。界龍のOGとしてチャムさんはどうご覧になりますか?』

 

『そうっすね、界龍では公式戦に出ない学生でも普通に強い人は結構いるっすよ。そういうことなんで、誉崎選手の動きに注目したいところっすね』

 

『なるほど。それでは次に星導館のタッグですが……』

 

 自分が注目されているという言葉にまるで興味のないような表情で基臣は沈華と作戦の最終確認をしていた。

 

「相手はそこまで強くない。先に俺が片方の相手を倒しておく。お前はもう片方の奴を相手しておけ、後で援護する」

 

「私をあまり舐めないでもらえるかしら。序列外の人間相手に遅れを取る程弱くはないわ」

 

「そうか、分かった」

 

『さて、そろそろ試合開始の時間が迫ってまいりました。果たして勝利を掴むのは界龍か星導館か! それでは本日の第一試合、スタートです!』

 

 

 

 

『《鳳凰星武祭(フェニクス)》Aブロック1回戦1組、試合開始(バトルスタート)!』

 

 

 

 

 校章の機械音声が試合開始を告げると同時に星導館のペアは序列外である基臣の方へと共に向かう。単純に序列入りしている沈華の方を相手にするのは面倒だという思惑が透けていた。

 

 二人の同時攻撃が基臣へと殺到する。

 

 ──だが

 

「えっ……」

 

 同時攻撃が殺到すると同時に、星導館ペアの片割れの校章は基臣の手の中にあった。

 

「まっ──―」

 

 星導館の生徒の制止の声も空しく、校章は粉々に握りつぶされる。生き残っているもう片方の生徒は諦めず基臣へと向かってくるが、その意気もすぐに失われることになる。

 

「ほら、沈華」

 

 残った片方の相手の身体を掴むと相手が抵抗する暇もなく沈華へと放り投げられる。

 

「ちょっ……! 招雷!」

 

 焦りはしたものの反射的に雷撃を食らわせたことで相手は気絶した。

 

試合終了(エンドオブバトル)! 勝者、誉崎基臣&黎沈華!』

 

 あまりにも瞬時に試合が終了したことで静まり返るが、すぐに会場のボルテージは高まっていき大歓声が基臣達を包み込んだ。

 

 

『なんとなんとなんと! 一回戦からまさかの試合展開となりました! チャムさん、この試合どう見られましたか?』

 

『そうっすね。誉崎選手の方は序列外ということであまり注目していませんでしたがあの動き、優勝有力候補レベルの実力を秘めている可能性があると思うっす。黎選手の方も十分冒頭の十二人(ページ・ワン)に対抗できるレベルの実力はあると見て良いっすね』

 

『まさかのダークホースの登場! 今後の誉崎選手・黎選手の活躍に期待できそうです!』

 

 

「ちょっと、強引すぎでしょ」

 

「すまん。一人で倒そうと思ったんだが星露との約束があったのを思い出して強引だがそっちに投げ飛ばした」

 

「まったく、次からはちゃんとしなさいよ」

 

「善処する」

 

 呆れた表情で基臣を見つめていた沈華だったが、いつものことかと思うと諦めの混じった溜息を吐きながら彼と共にステージを後にした。

 

 

 ──────────

 

 

 

 その後、順調に予選を勝ち進めていった基臣達は優勝有力候補がいる予選の最終試合へと駒を進めていった。

 

『さあ、やってまいりました。予選Aグループ最終試合!予選グループ内で一番の注目を集める試合となっております!』

 

『さてこのAブロックの最終試合、優勝の有力候補と目されているレヴォルフの冒頭の十二人(ページ・ワン)である序列11位モンテル・ファルケン選手と序列32位のシュトルフ・クロッゾ選手のタッグ。そして、今大会のダークホースと呼び声の高い誉崎基臣選手と黎沈華選手のタッグの直接対決となっています。この試合どうなるのでしょうか、チャムさん』

 

『そうっすね、ファルケン選手の純星煌式武装はとにかく当たってはいけないタイプの武装の代表格ですからね。そういう意味では誉崎選手と黎選手、どちらも機動性の高いタイプの選手なのでいかに回避を徹底させれるかということがキーになってくると思うっすね。逆にファルケン選手側からすればいかに攻撃を当てて足を奪うかが重要になってくると思うっす』

 

 

「ファルケンの方の純星煌式武装の動きは見たわよね。あれだけには注意すること、いいわね」

 

「分かっている。それよりももう片方の相手はよろしく頼む。あとステージに透明化した呪符で罠を仕掛けてくれれば十分だ」

 

「分かったわ」

 

 

『なるほど。おっと試合開始までもうまもなくとなりました! この試合、勝つのはどちらか! それでは最終試合、スタートです!』

 

 

『《鳳凰星武祭(フェニクス)》予選Aブロック最終試合1組、試合開始(バトルスタート)!』

 

 

「行くぞ、シュトルフ!」

 

「うっす!」

 

 クロッゾを前衛に置いてファルケンは液状の純星煌式武装を起動すると、援護するように攻撃を仕掛けてくる。

 

 基臣は液体の攻撃を回避すると、クロッゾを無視しファルケンを直接攻撃する。

 

「っ……! チッ、すばしっこいな、このッ!」

 

 基臣から一撃をもらったファルケンは爆発する呪符の存在に気を配りながら、液体を周囲に展開して距離を取る。追いかけようとするが、さすがに相手も冒頭の十二人。液体による妨害で時間を稼がれる。

 

「オラッ!」

 

 速度を上げて液体を数個放ってきたが基臣はそれを鮮やかに回避する。しかし、ファルケンの思惑は基臣に攻撃を当てることではなかった。

 

「くっ、液体が……」

 

 基臣が回避した液体は沈華へと向かっていき、そのまま着弾した。当たってしまったため、動きは非常に鈍くなりさっきまでクロッゾ相手に優勢だった状態が一気に逆転する。

 

「沈華、お前は回避に専念していろ。先にこいつから叩き潰す」

 

「っ……! 分かったわ」

 

「舐められたもんだな、おい。だれが俺を叩き潰すって?」

 

 モンテルはソフトボール大の液体を5個展開すると、複雑な軌道で基臣へと向かわせる。

 

 しかし──

 

「なんでだ! なぜ当たらない! ……っくそッ!」

 

 ファルケンは基臣に掴みかかられると、地面に叩きつけられてボールのように身体が跳ねながら飛んでいき壁にぶつかる。それと同時に二撃目が顔面へとめり込み、壁がミシリと嫌な音を立てる。

 

「ゴボォッ……! チィ…………ッ!?」

 

 壁から跳ね返った衝撃を利用して逃げようと試みるが、次の瞬間には目の前に基臣の姿があった。

 

「モンテル・ファルケン、意識消失(アンコンシャスネス)

 

 真正面から拳を受けたファルケンはそのまま意識を失うこととなり、後はクロッゾだけとなった。

 

「兄貴! クソ、こいつだけでも仕留める!」

 

「急急如律令、(ちょく)!」

 

「ちっ! 透明化か。どこに……」

 

「招雷!」

 

「ぐあっ! ちく……しょう……」

 

「シュトルフ・クロッゾ、意識消失(アンコンシャスネス)

 

『勝者、誉崎基臣&黎沈華!』

 

『試合終了ー! なんとなんとなんと! 優勝候補と目されていたレヴォルフのペアを無名のタッグが短時間で打ち破りましたー!』

 

「さっきの液体の影響とかは残ってないか?」

 

「ええ、大丈夫よ。特にさっきみたいなべたついた感じはないし。さ、行きましょ」

 

「ああ」

 

 こうして無事に基臣達は優勝候補であったファルケン達相手に優勢に立ち回り、予選を勝ち抜くことが出来たのだった。

 

 

 

 ──────────────

 

 

 

「インタビューでは余計な情報は流さないようにしてよ。最悪、分からないって言っておけばいいから」

 

「分かった」

 

 変な所で常識の無さが露呈してくる基臣に気を配らなければいけないことに頭が痛くなる気持ちを抑えつつ、会見場へと移動する。

 

 

「えーそれでは誉崎選手に伺いたいのですが、先ほどの戦闘、どのようにしてモンテル選手の液体型純星煌式武装を回避することができたのでしょうか?」

 

 本来なら予選の段階では簡易的な会見スペースでインタビューが行われるが、本戦出場ということで椅子と机が用意された会見場で基臣と沈華に対してインタビューが行われていた。

 

「なんとなくだ」

 

「なんとなく……ですか……?」

 

「ああ」

 

「あ、ありがとうございます」

 

 あまりにも簡潔すぎる解答に報道陣の間でしばらくの間沈黙が訪れたが、気を取り直し沈華へと質問する。

 

「今回予選を無事勝ち抜いた事で今大会のダークホースとして注目されていることと思いますが、黎選手から見て手ごわいとみている相手はいますか?」

 

「そうですね。同じ界龍の虎峰・セシリーペアは手ごわい相手になるかと思っています。また……」

 

 その後、沈華選手の方に質問が流れていき基臣に質問が行かなくなったことでこのまま無事に会見が終わると思っていた。

 

「次で最後の質問にさせていただきたいと思います」

 

 沈華が次を最後に質問を打ち切ることを宣言すると、フリーのジャーナリストらしき男が手を上げ、基臣の方を向き質問をした。

 

「誉崎選手はあの12年前の事件の誉崎家と関わりはあるのでしょうか? また、誉崎家だった場合、これからの試合で剣を使う予定はあるのでしょうか?」

 

 途端に報道陣はざわつき始める。この異様な様子に気づいた沈華は基臣の方を見ると、どこか苦しそうな表情をしていた。

 

「誉崎家? ……ッ──!?」

 

 

 

 

 誉崎家の屑共がッ!! 

 

 

(父の、こ……え……?)

 

 

「……っと……!」

 

 

 一族諸共根絶やしにしてやる……

 

 

「ち……っと……!」

 

 

 そして澄玲の仇を──―

 

 

「ちょっと基臣!」

 

 肩を揺さぶられるような感覚がしてハッとすると、心配そうな顔をした沈華が基臣を見つめていた。

 

 

「ちょっと、基臣? 大丈夫なの」

 

「っ……。ああ、大丈夫だ」

 

 一つ深呼吸して落ち着き、思考を回復させるとジャーナリストに向き直る。

 

「その質問に関してだが、12年前の事件とやらは分からないし、それに関係しているであろう誉崎家に関しても俺は知らない。期待した応えじゃないかもしれないが、すまないな」

 

「い、いえ。ありがとうございました」

 

 基臣の僅かに苦痛に歪んだ顔を見て、流石にこれ以上の質問はよくないと察したのか、素直に引き下がった。

 

「それではこれで質問を打ち切らせていただきます」

 

 沈華は一礼すると、そのまま基臣と共に会見場から去っていった。

 

 基臣達が会見場から立ち去って報道陣の熱気はある程度収まったとはいえ最後の質問があってからその雰囲気は普段の星武祭の会見に比べどこか異質なものになっていた。

 

 ────────────────

 

「師父。12年前の事件とは一体何のことなのですか?」

 

「私達、聞いたことないけど」

 

 時を同じくして、界龍の執務室。基臣達と同じように予選グループを勝ち抜いた虎峰とセシリーは会見を聞いて星露に最後の質問の意味を聞こうとしていた。

 

「そうさの……あれは確か、おぬしらが産まれたころぐらいに起きた事件じゃ。

 まあ、今の学園に所属してる学生世代で知っている者はほとんどおるまいて。よく知ってる者がおるとしたら都市伝説やオカルトの類が好きなものぐらいか」

 

 星露は端末を開くと日本の方だろうか、和風の大きな屋敷の画像を虎峰に見せながら話を続ける。 

 

「いまからおよそ12年ほど前まで剣の流派として存在していた誉崎流。まあ余り剣術を嗜むものの間では評判は良くなかったらしいが、それなりの強さを誇っておった」

 

 端末を操作すると星露は画像を別の物へと差し替える。新聞のだろうか、一面にどデカくある記事が書かれていた。

 

「日本の○○で大量殺人事件……?」

 

「ある日。二日ほどで誉崎家に類する者450名程が全員切り殺されておったことが判明した。しかも犯人は不明と来たものじゃ。当然、当時の世間では前代未聞の大量殺人事件として大騒ぎしておった」

 

「450人!? 大騒動じゃないですか」

 

「しかも、誉崎家の連中は儂からしてみれば強いとはいえんが、簡単にやられるほど弱いわけでもない。しかも結構な割合の者が《星脈世代(ジェネステラ)》じゃ。故に、下手人は相当な実力者じゃったと言われておる」

 

「それはなかなか酷い事件ねー。でも、流石にそれだけ目立った事をしたんだから犯人は見つかったんじゃないの?」

 

 新聞の一面を消すと、過去を懐かしむかのように上を見上げて星露は語る。

 

「最初はそう思われとったんじゃが、あまりにも犯人に繋がる証拠が現れないので捜査は難航してな。その後、それに追随して大量殺人が起こらなかったことから犯人にこれ以上の害意はないとして、統合企業財体としても世間としても触らぬ神に祟りなしということでなかったものとしてその事件からは手が引かれ、闇に消されたというわけじゃ」

 

「儂が特待生として基臣を引き入れる時、あやつの血縁関係などについて一度調査の手が入ってのお。記者連中の言う通り「あの」誉崎じゃった。故に、もしあやつが犯人との血縁関係を持っていた場合、リスクが高いため界龍に引き入れないほうが良いと財体の方から意見が来た。まあ無視したがの」

 

「……」

 

「しばらくの間はそのことを伏せれると思っておったが、この分じゃと他の学園もその内情報を掴んでくるじゃろうな。他の学園がうちにちょっかいをかけんようにしてはおくが、面倒くさいことになったのぉ」

 

「あやつに限って精神面で不調が出てくることはないが、もし何かあったら同じ学園の仲間として気遣ってやるんじゃぞ」

 

「もちろんです」

 

「同じ学園の仲間だもの。鳳凰星武祭でいくらライバルといっても、歯ごたえの無い相手と戦いたくないわ」

 

「うむ、それならよい」

 

 満足そうに星露は頷くと、窓から外を眺めてボソリと呟く。

 

「まあ虎峰たちに頼らなくとも沈華がなんとかしてくれるじゃろう」

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

part10

ホモ君の雲行きが怪しくなり始めるので初投稿です


 俺達の戦いはこれからだ! なRTAはーじまーるよー

 

 無事ホモ君たちが鳳凰星武祭(フェニクス)の予選を突破して本戦に出場することができたところまででしたね。

 

 予選は試合が計三回で済んでいたのですが、この本戦では合計8回戦う必要があります。はぁーめんどくせーまじで、と思わずにはいられませんが、本戦も対戦の半分は一般モブレベルの相手で構成されています。唯一原作の王竜星武祭は本戦に出てくる奴がやべー奴ばっかでモブなんてほとんどいませんが、それ以外の大会は基本的に(そこまでのことは)ないです。

 

 というわけで今説明した通り準々決勝まではモブ相手なので倍速です

 

 

 

 少女戦闘中……

 

 

 

 無事にヤンデレ剣なしで準々決勝まで進めることが出来ましたね。いいゾ~これ

 

 

 

 さて準々決勝ですが、対戦相手は原作ではこの鳳凰星武祭を本来は優勝していたアルルカントのタッグですね。

 

 こいつらはセンティマニデバイスとかいう覚えづらい名前のガラクタを使うのが特徴で、背中に着けてるユニットからアームを出して煌式武装(ルークス)を装備することで手数を増やすという機能があります。今回は片腕に剣型の煌式武装、もう片方に銃型の煌式武装をつけてますね。

 

 そのなんちゃらデバイスが出すことの出来る腕の数は2本。鳳凰星武祭ではタッグを組む訳なので二人合わせてアームの数は合計4本で、純粋に攻撃の手数が生身の腕を含めて2倍に増えるわけですから強いといえば強いのですがこのアーム、実戦投入するのは今回が初めてのため、戦闘データが少なくあくまで機械的な動きしかできないためサポート程度の役割しか果たしません。

 

 原作では虎峰・セシリーペアがその手数の多さに奮戦空しくもといった感じで負けていましたが正直な話、走者的に言えばガラクタよりも虎峰・セシリーペアの方が面倒くさいです。

 

 いくら手数が多いとはいえこのガラクタは所詮機械なので、操縦によるレスポンスの遅延による反応の遅さが決定的なまでの致命的な欠点になるわけです。ついでに、このガラクタには並列思考的な面も要求されるので一つ一つの動きがそこまで脅威的でないのも大きいです。

 

 とはいえ、二人で集中攻撃をホモ君に対して行ってくる場合合計8本の腕から繰り出される攻撃はいくらホモ君といえど仮に一点集中で狙われたら苦戦するでしょう。メスガキからのサポートを受けつつ集中攻撃を食らわないようにしましょう。

 

 さてバトル開始です。接近して片方からの射線を切って同士討ちを狙いつつ、アームが届かない至近距離で殴っていきましょう。よしよしよし、いい感じに戦闘を進めれていますねメスガキの様子は……ってゑ゛ゑ゛ゑ゛ゑ゛ゑ゛ゑ゛ゑ゛ゑ゛。

 

 メスガキィ! 相手の攻撃に当たってサポート怠けるんじゃねえぞコラァ! キビキビ動かんかい! 

 

 まったく、いくらこいつらが本来の優勝タッグといえどしょっぱなから攻撃を受けるのはちょっとって感じですね。いやまあメスガキはまだホモ君と同じ入学したばかりのピッカピカの中等部1年。年齢を考えれば十分な実力ではあるんですけどね。

 

 こんな事を言ってはなんですが、メスガキに攻撃が行かないように介護しながら動いているので大分やりづらい感は否めないですね。

 

 仕方ありません、ヤンデレ剣を解禁しましょう。え、なんで最初から使わなかったのかって? 

 普通なら最初から使えばいいのですが、この剣はホモ君以外には誰も存在を認知されないという初見殺しの剣な訳です。故に、使うなら相手が拳のリーチで校章に届かないと思い込ませた時が一番効果的な訳です。

 

 ここだぁー!! 

 

 ヨシ! 片方は校章を破壊したのでもう片方だけですね。もう剣を使う必要はないので仕舞っておきましょう。あとはメスガキが攻撃をしやすいように相手の行動を制限することに努めましょう。ホモ君は味方に合わせるといったことをしてきてないので多少不格好な動きではありますが、鳳凰星武祭までに練習してきたのである程度動けていますね。安心安心。

 

 それにしても一瞬しか使わなかったからか、今回はヤンデレ剣はホモ君にちょっかいを掛けてくることはありませんでしたね。これからも大人しくしてくれるとありがたいんですけどねぇ。

 

 後はホモ君とメスガキによる共同リンチ作業をこなして試合終了です。試合中に剣を使ったのは一瞬だけだったので観客はどうやらその存在に気づいてないようですが、ごまかし続けれるか……

 

 

 

 

 

 おい、解説! 何こっちの手口をペラペラと喋ってんだ! ふざけるな! (声だけ迫真)

 

 

 

 解説が余計な事言ったせいで、インタビューで剣を使ったことについて物凄い質問が来ました。クソが(悪態)。相変わらずホモ君は黙秘を続けましょう。ホモ君が完全に置物状態なんですけどこいつ、いる? 

 

 準々決勝が終わったら寮に直帰でさっさと眠りましょう。こんな時まで特訓をして疲れを明日にまで持ち越したりすると本番で痛い目を見るので気をつけましょう。(8敗)

 

 さあ準決勝までやってまいりました。今回の相手はモブなのでメスガキでも問題なく倒せる範囲内です。少なくともガラクタタッグの時みたくサポートがこないということはないです。

 

 ん? 対戦相手がこちらに近づいてきますね。試合開始前の挨拶イベントでしょうか? 

 

 えっ、誉崎家に恨みがある人間? 親を殺された? 

 

 ……なんか鳳凰星武祭が始まってから立て続けにホモ君の家関連でイベントが発生してますね。というかどんだけ恨み買ってるんですかねぇ、ホモ君のお家。やはり、あの会見以降にヤンデレ剣を使ったのがまずったんでしょうかね。かといってヤンデレ剣を使わなかったらひたすらに攻略に時間がかかったので、使わないという選択肢はありませんでしたが。

 

 

 相手は剣での立ち合いを所望していますが、もちろん拒否です。ただでさえ、ヤンデレ剣の扱いに困っているところなのに、こんな所で使ったらいつ暴発するか分かったものではありません。

 

 まあ焼石に水でしょうが、事情があって使えないとだけ言いましょう。あの感じだと全然聞いてないでしょうが。

 

 さて、一般モブ戦。本戦であるため予選モブに比べ明らかに強化が施されていますが、所詮モブはモブ、ホモ君達に敵いません。瞬殺させていただきましょう。

 

 落ちろ! ……落ちたな(確信)

 

 準決勝は問題なく終えることが出来ました。え、味気なさすぎじゃないかって? ま、まあ原作の鳳凰星武祭も正直あまり見どころはなかったから……(震え声) 

 

 

 準決勝も終わり、会見室に入るとホモ君に注目が一気に集まりました。フラーッシュ! 

 

 準々決勝で剣を使ったこともあって、この短期間で完全にホモ君を誉崎流の末裔とメディア陣は断定したようですね。試合内容とは無関係な誉崎家のことばかりをぺちゃくちゃと質問してきます。落ち着けぇ! 

 

 ホモ君が情報を与えてしまうと余計なイベントが発生する可能性が非常に高くガバを生みかねないので、知らぬ存ぜぬの一点張りを貫き通しておきましょう。

 

 なんだかんだ言ってメスガキは気が利くので、堪え性が無くて途中で会見場を立ち去っていくホモ君のことを気遣って会見をぶった切って中止してくれます。

 一度好感度を上げてしまえばメスガキはこういう細かい気配りができるのでありですねぇ。全然RTAで注目していませんでしたが、細かい所で役に立つサポートキャラとしてチャートに組み込むのもありかもしれません。

 

 それにしても、今回ばかりは感情喪失がうまいこと働くシチュエーションなので安心しました。この手の周囲の評価や罵倒などを気にせずパフォーマンスを発揮することができるので、周囲の評価が低かったり奇異の目で見られたときに上手いこと感情喪失が作用してくれます。

 

 って……ん? 若干ストレス値が上がってますね。上がりすぎると先ほど述べたように戦闘のパフォーマンスに影響が出てしまったり、最悪試合放棄なんてこともあり得るので放っておいたままだと非常によろしくありません。

 まあ今回はそこまで大きく上がってないので問題はありませんが感情喪失持ちは滅多なことが無い限りストレス値が上がることがないので珍しいですね。さすがに周りにずっと奇異の目で見られ続けるとなるとイライラするものなんでしょうかね。

 

 まあ基本人との接触をあまりしないホモ君なので交流を最小限にしておけば問題なくストレス値も下がっていくでしょう。あとはストレス要素である噂をもみ消すだけなんですが……

 

 まあそこらへんの噂に関してはロリババアパワーでなんとかもみ消してもらいましょう。ホモ君が言わなくても動いてくれているとは思いますが、たまーに適当な仕事をするときがあるので安定のために後々聞いてみましょう。

 

 会見も終わったので界龍へ帰りますか……っと、誰かに尾行()けられてますね。第六感あるからまだよかったですけど、最近ホモ君誰かに尾行されまくってますね。そんなにホモ君のケツを追っかけるのが好きか変態どもめ!

 

 とそんな冗談はさておきずっと尾行されたままなのは情報漏れる可能性があるので、この前ルサールカの時のように裏道に入って追手の視界に映っていない時にビルを登って屋上に居座って撒きましょう。この手に限る(この手しかない)

 

 にしてもここまで話題になるとは……、ちょっとニュース見てみましょうか。うわあ……これはホモ君ですね……たまげたなぁ……

 

 一面にデカデカと載っててホモ君に関するあれこれが噂の類も含めて色々書かれてますねぇ。

 

 まったくそんなにホモ君には記事書かれるほどの価値は無いんですけどねぇ。まあ今気にすることもないのでさっさと帰りますか。

 

 って何ホモ君の袖掴んで女の子っぽいことしてるんだ、メスガキ。ん、価値がないなんて自虐するな?ホモ君のこと何でそんなに評価してくれるんですかね。好感度もあれ以降そんなに大きく上がっていないはずなんですが。

 

 ホモ君は環境が環境だったために自己評価が低いので否定してしまいますが……って痛ってぇ!(痛覚共有)

 

 おい、メスガキー!待てやゴラァ!なんなの、このメスガキ……

 というか決勝戦目前でタッグ仲が悪くなるとか不味いですよ!

 

 さすがにタッグ仲悪いまま決勝戦突入とか連携上手くとれなくなるので謝罪するなりして機嫌をとるようにしな───

 

 今回はここまで。ご視聴ありがとうございました。

 

 




今更ですが誤字報告してくださる方、いつもありがとうございます。
急いで書き上げるタイプでほとんど推敲せずに投稿するのでいつも助かってます。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

裏話10 すれ違う思い

実に4日ぶりの投稿、大変お待たせしました。


地味にpart10の最後の方に新しく物語が追加されてますが、そこら辺もこの裏話で網羅されているのでpart10は再度読まなくても問題ありません。


キャラを思うように動かせなくてグダグダしていたので初投稿です。


『ついに鳳凰星武祭も佳境に入り、準々決勝となりました。実況は私梁瀬ミーコと解説はファム・ティ・チャムさんでお送りしまーす』

 

『引き続きよろしくお願いするっす』

 

 

『さて、準々決勝ですが注目すべきはなんといっても今回の試合! 誉崎選手・黎選手ペアとアルルカントのペアの対戦です! チャムさん的には両者についてどのように分析しているのでしょうか』

 

『そうっすね。誉崎選手と黎選手のペアはコンスタントに勝ち星を挙げていってる感じっすけどその内容は傍から見れば凄まじいと言っても差し支えないっすね。特に誉崎選手は攻守ともに隙の無い動きをしていて、気づいている人もいるかもしれませんが現時点で一度もまともに攻撃を食らっていないという驚異的な身体能力の高さを持っているっす』

 

『なるほどー、誉崎選手に誰が最初に決定的な攻撃を与えれるかも注目する点になってきますねー』

 

『もちろん誉崎選手だけでなく黎選手もサポート役として十分な動きが出来ると思うっすよ。実際、透明化が施された呪符の脅威性は今まで対戦してきた対戦相手はよーく分かっているはずっす』

 

『まさに今大会のダークホースにして優勝候補最有力といったところでしょうか。さてお次はアルルカントのペアですが──』

 

 いつも通り基臣は軽く最後の打ち合わせを沈華(シェンファ)としていると、金髪に白い肌、いかにもイケメンといった風貌の男であるアルルカントの対戦相手の一人は基臣に話しかけてきた。

 

「少しいいかな」

 

「ん?」

 

「このセンティマニデバイスは《獅子派(フェロヴィアス)》が今回の鳳凰星武祭のために用意した最新武装にして最高傑作。いくらダークホースの君といっても簡単に勝たせはしないよ。とはいえ、物が物だからね。君が後から卑怯だと文句を言ってくるかもしれないけど審査はちゃんと通っているから抗議してこないでね」

 

「そうか」

 

「って、ありゃ。物凄い興味無さそうな顔してるようだけど、まあいいや。そういう訳で後からの抗議は受け付けないからよろしくねー」

 

 対戦相手の男は手をヒラヒラさせて元の場所に戻っていくと、丁度試合開始の時間になり機械音声が合図をする。

 

 

 

『《鳳凰星武祭(フェニクス)》準々決勝、試合開始(バトルスタート)!』

 

 

 

 事前に映像で情報を得ていた基臣はアルルカントのセンティマニデバイスに一斉攻撃が始まる前に懐へと入り込み射線を切ると、アームによる手数の有利を潰そうと立ち回る。実際、その作戦が効いているのか至近距離にいる基臣の動きにアームが追い付いていないようだった。

 

「試合前に大見栄を切った割には強くないみたいだが」

 

「君にとってはそうだろうね、おっとっと。もっとも、もう一人のお嬢さんは苦戦しているようだけど」

 

「……沈華!」

 

 アルルカントの生徒に言われて気づくと、沈華がセンティマニデバイスの手数の多さに苦戦しているようで、防戦一方でこのままだと下手すると校章を割られかねない状況だった。基臣と沈華の距離は歩数にして10メートルほど。一瞬で移動できる距離ではない。

 

 基臣は本来飛び道具を使うことがないため遠距離攻撃をしない──―といっても元々剣を使っているときは誉崎流特有の歩法を用いることで距離を一瞬で詰めることができるが──―剣士だ。

 

 しかし、今回のように沈華が狙われることを見越してあらかじめ策を練ってあった。それは──―

 

「爆!」

 

「チッ! 君が呪符を使うなんてデータには無かったはずなんだけどなぁ」

 

 高速で投擲した呪符は沈華を狙っていた相手の身体に張り付き、基臣が起爆の合図となる言葉を唱えると同時に爆発する。

 

 予想しない攻撃を食らったアルルカントの生徒はしばらくの間、データにない攻撃に困惑する。その隙に沈華を救い出す。

 

「助かったわ」

 

「礼には及ばん」

 

 短くやりとりを済ませると、相手も必勝の陣形を整えたのかバックパックから伸びるアームによる遠距離攻撃が始まる。

 

 今のところ沈華を守りながら反撃の機会を狙う余裕はあるが、間違いなく状況はアルルカント側に傾きつつあった。

 

「やはり使うしかないか」

 

 そう言うと、基臣はアルルカントの生徒に近づく。攻撃を警戒している相手は拳が届く距離から離れて安全に試合を進めようとする。その読み違いを利用して基臣は《潔白の純剣(インヴィズ=ピューレ)》を抜き、そのまま校章へと振りぬく。

 

誉崎流初伝 瞬閃(しゅんせん)

 

「あっ……」

 

 剣をいつ抜いたか、そもそも鞘から抜いたかも察知できない程の神業で振りぬき校章を真っ二つに割る。すぐに鞘に剣を戻すと、もう片方の相手のセンティマニデバイスの根幹となるバックパックを壊すことで完全に勝負の命運は決まった。

 

 

試合終了(エンドオブバトル)! 勝者、誉崎基臣&黎沈華!』

 

 

 

『試合終了! 見事、誉崎選手たちがアルルカントのセンティマニデバイスを攻略し、準決勝に進出しました!』

 

 場内から歓声が沸き上がり、基臣達の活躍に盛大な拍手が送られる。

 

『誉崎選手が校章を割ったカラクリが早すぎてよく分かりませんでしたが、チャムさんは分かりましたか?』

 

『おそらく何かしらの武器を使ったんじゃないっすかね』

 

『えーと、特に私達からは誉崎選手が何か使ってるようには見えませんでしたけど』

 

純星煌式武装(オーガルクス)とか魔術師(ダンテ)の能力とか、私たちに見えないように武器を使おうと思えばそれなりにやりようはあるっすよ。校章の綺麗な割れ方から見ても剣とかが有力じゃないっすかね。どう見ても拳で殴ってできるような割れ方じゃないっす』

 

「やはりバレたか、もう少し巧く隠せばよかったか」

 

「さすがにバレるのは時間の問題だと思ったと思うわ、過ぎたことは考えないようにしましょ」

 

「それもそうだな。とはいえ、対戦相手が知っていることも想定した上でこれを運用する必要があるな」

 

 そう言いながら沈華とステージを立ち去る基臣は、チラリと腰に下げている潔白の純剣(インヴィズ=ピューレ)を見るのだった。

 

 

 ──────────────────

 

 

「解説のチャム氏が言ったように武器を使うのですか」

 

「剣を使うというのは本当なのでしょうか」

 

 解説による基臣の動きのカラクリについての説明によって取材陣は今までと違って、沈華ではなく基臣の方へと質問が集中することとなった。

 

「今後の試合にも関わることなのでノーコメントだ」

 

 何度か基臣に質問が行くが、沈華に念入りに自分たちに関する情報を開示しないように注意されているためもちろんこれらの質問の全てに対する回答を黙秘。最近では基臣から余りにも記事にする情報が出てこないため、意図的に彼を批判するような記事が出始めているが、本人にとっては気にするほどのものではなく一切の影響はなかった。

 

「では会見を終了させていただきます」

 

 沈華の言葉によって会見は終了し、二人は会見場を後にする。会見では表面上はまるで平然としている沈華だったがその実、内心では胃が痛くなるほど緊張していた。初の星武祭出場であることを考えると当然の事だった。

 

「案の定、間違いなくあなたが剣を使うことがバレたわね。しかも、その剣になにかしらの機能が付いているこという推測まで立ってる」

 

「まああまり問題はないだろう。不意打ちはしづらくなったが、その分相手にいつこの剣を使ってくるかというプレッシャーは与えれるだろうしな」

 

「まあ貴方の実力なら負けることはないだろうし要らぬ心配ね。とはいえ、このままだと完全に私が足手まといよね。はぁ」

 

 少し申し訳なさそうな顔をしながら溜息を吐く沈華の肩に基臣は手を置く。

 

「お前のサポートには助けられている。たしか解説もお前の事を評価していたはずだからそこまで卑下することはないだろう」

 

 基臣の言葉に沈華は珍しいものを見たかのような顔をする。

 

「貴方、慰めの言葉をくれるのね。そんな事言いそうな顔じゃないのに」

 

「俺の事をどう思ってるか知らんが、評価するべき相手のことは素直に褒めるぞ」

 

「ふ、ふーん。そうなのね」

 

 なぜ嬉しそうなのかよく分からないが、それを指摘すると機嫌を崩すだろうと基臣はそれなりの付き合いで悟っているので敢えて言わないようにすることにした。

 

 

 

 ────────────────────

 

 

 

『さあ鳳凰星武祭の準決勝、残るはこの試合を含め3試合となりました! もう試合数も少なくなったという事でチャムさん。ずばり今回の優勝候補は誰だと予想してますか』

 

『そうっすね。自分の予想ということだとやはり誉崎選手・黎選手ペアっすかね。次々と優勝候補をなぎ倒していってることからも実力は今大会で一番といって良いと思うっす』

 

 実況と解説の会話をしている間、準々決勝の時に使った《潔白の純剣(インヴィズ=ピューレ)》に何かおかしな点が無いか少し目線を腰元のホルダーに向けていると、対戦相手がこちらにやってきた。

 

 対戦相手の男は基臣を睨みつけると基臣の目の前に立つ。

 

「貴様の家の人間に父を殺された者だ」

 

「……それで、何の用だ。わざわざ挨拶回りに来たわけでもないだろう」

 

「望むのはただ一つ。貴様との剣での戦いだ」

 

「……断る」

 

「何故だ! 貴様にはやはり剣を持つ者としての誇りはないのか!」

 

「こっちにも事情がある。お前の都合で勝手に誇りが無いのかなどと言われても困る」

 

 基臣の返答にやはり納得がいかないのか男はしばらく睨み続けるが、試合開始までもうまもなくといった時間になると自分のペアの元へと戻っていく。去り際、吐き捨てるように基臣へと言葉を投げかけた。

 

「剣を抜かなかったこと、絶対に後悔させてやる」

 

「……基臣」

 

「問題ない。作戦はさっき言った通りだ。ぬかるなよ」

 

「もちろんよ」

 

『《鳳凰星武祭(フェニクス)》準決勝、試合開始(バトルスタート)!』

 

「誉崎ィィィィィィィィ!」

 

 試合開始の合図が告げられると同時に男は基臣に鬼気迫る表情で向かってくるが、その実力は準々決勝のアルルカントペアに比べると未熟。攻撃を躱すと、男の首根っこを掴み床に叩きつける。勢いよく叩きつけられた床は蜘蛛の巣状に亀裂が入り、男に少なくないダメージを与える。

 

 

「やはり、壁よりも床に叩きつけた方が逃げられなくてやりやすいな」

 

「このッ……ゴホァッ!?」

 

 何度も頭を床へと叩きつけられる仲間を助けようと男のペアが向かおうとするが、沈華によって全ての移動経路を塞がれる。

 

 頭を叩きつけていると男が声を振り絞って基臣に恨み言を呟く。

 

「……この人殺し一族め」

 

 ──お前は俺みたいに人殺しになんてならず、自分の大切な人を守れるようになれよ。……といってもまだ言葉も話せないお前に言っても分からんか

 

 

「っ……!」

 

(また、父の声が頭の中に響く……!)

 

 

 頭の中に流れ込んでくる記憶のようなナニカに痛む頭を抑えながら男の方を見ると度重なる攻撃にダメージが蓄積したのか既に気絶していた。

 

 立ち上がると心の中のイガイガに顔をしかめつつも、沈華を援護するため残る片方のペアへと向かっていく。

 

 

 

 

 

「次はお前だ」

 

 

 

 

 

 ────────────────────ー

 

 

 準決勝は危うげなく勝利するが、沈華は試合が終わってから基臣の様子がおかしいことに気が付いていた。

 

「ちょっと、大丈夫なの?」

 

「ああ、大丈夫だ」

 

「あんまり、無理しないでよ。もし調子が良くないなら会見をパスしても良いんだし」

 

「それには及ばない。すまんな心配してくれて」

 

「っ、し、心配なんかじゃないわよ! 貴方が体調を崩して優勝を逃したら虎峰たちに笑われるのは私だし! 特にセシリーなんかに慰められるのなんかは死んでも嫌なんだから」

 

「ああ、そうだな。お前に迷惑をかける訳にいかんしな」

 

 沈華の心配にどこか温かいものを覚えながら、会見場へと向かっていく。既に会見場はたくさんの報道陣で埋まっており、基臣の姿を見かけるや否や大量のフラッシュが焚かれる。あまりのまぶしさに思わず目を瞑ってしまうが、しばらくするとそれも段々と落ち着いてくる。

 

「あの後詳しい取材をした結果、誉崎選手が誉崎家の一族の人間であるという事が分かったのですが、それについてはどう思われていますか」

 

「前の発言は本当の事を言ったのですか!」

 

 わあわあと糾弾するようなニュアンスを含んだ質問が投げかけられるが、基臣は無言を貫く。

 

「あの! 本当は自分が誉崎家の人間だと知ってたのではないですか!」

 

「なぜ俺のプライベートを聞く必要があるんだ?」

 

「え」

 

「会見が始まったと思えば特に試合とも関係のない質問ばかり。前の会見でも分からないと言ったのに口をついて出る言葉は誉崎誉崎と馬鹿の一つ覚え。俺のプライベートを聞いて何になる」

 

「それは、ですね」

 

「…………はあ。沈華、すまんが後は任せた」

 

 もちろん基臣にとっては何も家の事情など知らないため取材陣の普通考えれば神経を逆撫でするような質問ばかり聞いてくることで律儀に応答する必要もないと感じたのか、基臣は立ち上がり会見場を後にしようとする。

 

「ちょ、ちょっと! もうまったく……」

 

「誉崎選手どこへ!」

 

「ちょっと基臣選手の調子が悪いので今回の会見はここまでとさせていただきます」

 

「あの、黎選手! まだ質問が!」

 

「待ってください!」

 

 背後で取材陣の騒がしい声がするが、基臣と沈華はその喧噪から逃れるように足早に立ち去って行った。

 

 

 ────────────────

 

 

「まったく、後で記事に間違いなく私たちの事悪く書かれるわ」

 

「すまん。この借りはいつか返す」

 

「別にいい。その代わり、決勝戦は絶対勝つわよ」

 

「無論だ」

 

 界龍へと二人が帰ろうとしばらく歩いていると突然基臣は足を止めた。沈華はその様子を訝しみ振り返るが特に気配は無かった。

 

尾行()けられてるな。しかも、そこそこ気配を隠すのが上手い。他の学園の諜報部か」

 

「え、尾行されてるの?」

 

「……仕方ない、ちょっと持ち上げるぞ」

 

「ちょっ、えっ!」

 

 基臣は沈華をお姫様だっこして持ち上げると、裏道を通り抜けて持ち前の身体能力で壁伝いにビルの屋上まで登る。屋上から下を見下ろすとやはり基臣の事を追いかけていたのかどこかの学園の諜報部の姿が複数人あった。

 

「逃げられたか」

 

「……そう遠くにはいないはずだ、別れて探すぞ。見つけたら連絡しろ」

 

「了解」

 

 正体が露見しないためかフード付きの外套を見に纏った諜報部の人間たちは上にいる基臣たちの存在に気づくことなく裏道の奥へと姿を消していった。

 

「全く。どいつもこいつも、しつこい事この上ないな」

 

 いつもは顔に能面を付けたような表情しかしない基臣だったが、今回ばかりは嫌そうな顔をしているようだった。

 

「特に今まで何も思わず生きてきたし、何があろうとどうでもいいと切って捨ててきたが……いくら何も思わないと言えど、さすがにずっと付け回されることを考えると精神に来るものがあるな」

 

 ビルの屋上に取り付けられているパイプに座ると、端末を開きニュースを見る。そこには試合の結果よりも基臣に関する噂が大量に記事となって出回っていた。

 

「俺の過去に、俺そのものにそんな価値などないというのにな」

 

ねえ

 

「すまんな、こんな愚痴みたいなものを聞いてもらって。尾行も撒いたし帰るぞ……って、ん?」

 

「ねえ」

 

 袖を掴んで基臣のことを見る沈華の顔はどこか悲しさを纏っていた。

 

「そんなこと言わないでよ。自分に価値がないなんて」

 

 なぜ沈華がそんなに悲しい顔をするのか分からない基臣は自分の思ったままのことを喋る。いや、喋ってしまった。

 

「……と言われてもな、こんな命投げ捨てようが──―」

 

「バカっ!!」

 

 基臣にビンタするとそのまま走り去っていく。頬に残る痛みに不思議と今まで感じたことの無い、胸がチクりと痛むような感覚がする。

 

「……」

 

 

 

 

 ──―なんで! なんで! お前なんかのために澄玲が死んだんだ! 

 

 

 

 

 

 ──―ごめんな……っ! 。こんなひどいことを言う父親でっ……

 

 

 

 

 

「っ、また声が……」

 

 

 最近頭の中に流れ込んでくる声に嫌な予感を感じ取らずにはいられなかった。

 




純星煌式武装に使うウルム=マナダイトの能力は公開義務があるという設定が原作にあったのに今更気づいたのですが、今更その設定を反映すると物語を再構成しないといけないので独自設定ということで本作では個人所有のものであれば公開義務はないという設定にします。ガバガバ知識のせいでこの事について疑問を持たれた方がいるかもしれません。本当に申し訳ないです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

part11

鳳凰星武祭編も終わりが見えてきたので初投稿です。


 会話の選択肢ミスには気を付けよう! なRTAはーじまーるよー

 

 前回はホモ君がメスガキに愛想をつかされたところで終わりましたね。とはいえ、このままメスガキとの仲が悪いままだと次の試合に間違いなく悪影響を与えてしまうのでさっさと関係修復に奔走しましょう。

 

 先に界龍まで戻っていってるので、追いかける形でホモ君も学園へと帰っていきましょう。到着したらメスガキは女子寮にいるはずなので寮の管理をしている寮長のもとへ。

 

 

 メスガキの部屋に突入する前に寮長から女子寮へ入るために許可証をもらいましょう。もらっておかないと女子寮に入った時にどこの学園でもへんたいふしんしゃさんとして捕まってしまいます。決して木とか壁を伝ってこっそり侵入しないようにしましょう。どういう訳かこちらの潜伏を看破して捕まってしまいます。(36敗)

 

 メスガキがホモ君のタッグということもあってか、すんなりと許可を貰えましたね。さて、許可証をもらったのでいざメスガキの部屋へ行きましょう。

 

 

 

 少女移動中……

 

 

 

 到着しました。おそらく開けてくれないと思うのでドロップキックで扉を破壊……すると後でキツイお叱りを受けてしまうため、素直にノックして呼びかけましょう。オッハ───!!! オッハ──────────!!!!! 

 

 ……何回もノックしてますが全然反応してくれませんね。どうしたものか。明日までには関係を修復したいのですが中々、事はそう上手く動いてくれませんね。

 

 うーん。こうなったらメスガキの兄である沈雲(シェンユン)の元へと行くことにしましょう。家族なら何かしらの解決法を知っているはずです。(見切り発車)

 

 今なら鍛錬のために水派の鍛錬場所で修行してると思いますが……お、いました。さっそくメスガキとの関係修復を手伝ってもらうように言いましょう。

 

 ん、自分からも言っておくから今日は休め? ……まあ、流石にこんな時に嘘をつくような人間ではないですし何とかしてくれるとは思うので大丈夫だとは思いますが、なんか心配ですね。しかし現状打てる手段がないのでなんとかしてもらうことにしましょう。

 

 メスガキとの関係修復は沈雲に任せてホモ君は寮で安静にしておきましょう。下手に外に出るとメディアが街のいたるところにいるので、姿を見られると追いかけっこが始まってしまい時間を無為に過ごしてしまいます。

 

 さて、1日が経過し決勝戦当日となりました。一応ストレス値を確認してみましょう。

 

 ……ストレスが結構溜まってますね。ここまで来ると試合のパフォーマンスに大分影響が出てくるのですが、ここは走者の技量の見せ所さんでしょうか。

 

 決勝戦の舞台となるシリウスドームの待機室へ移動しメスガキを待ちましょう。

 

 ……うーん、中々来ませんねぇ。いや流石に試合をすっぽかすことは無いと思いますが、もし時間が迫ってきたら連絡を入れてみることにしましょう。

 

 

 

 ……………………

 

 

 

 お、試合開始30分前ですけどやって来ました。ふー、来ないんじゃないかとヒヤヒヤしましたよ。一応好感度がどれくらいに戻ったか確認をしましょう。

 

 う──ーん、この好感度は悪くはないんですが良いとも言い切れないですねぇ。試合での連携に多少支障は出ると思いますが、今何を言っても大して変わらないしどうしようもないので諦めましょう。(遠い目)

 

 試合開始までもうすぐとなったのでステージに出ましょう。バッシングが観客席から飛んでくるなど登場早々中々に酷い出迎えを受けましたね。 

 

 あまり多くないとはいえ、このバッシングは今精神が若干不安定なホモ君にとってよろしくないですねぇ。虎峰(フ―フォン)達も心配そうな目で見て来てますが、さすがに決勝前という事もあって自分たちのコンディションを整えるために話しかけてきませんでしたね。

 

 さあ、決勝戦です。相手は同じ学園の虎峰・セシリーペアです。このペアは虎峰を前衛にセシリーが後衛から星仙術をバンバン撃ってくるという結構ホモ君達と似たような構成になっていて、ホモ君が剣さえ抜けば大丈夫……なはずなんですけど、今ストレス値が高いので結構手間取りそうですね。

 

 試合開始です。ささっと動いてヤンデレ剣で攻撃をしましょう。というか妙に剣が重いですね。ホモ君の動きがよろしくないことも相まって結構攻撃を対処されています。はぁーつっかえ。

 

 

 

 試合が始まってしばらく経ちますが中々決定打となる攻撃を当てれていませんね。というか、ストレス値が高いことによるバッドステータスさえなければ大分早期に決着が着いてるはずなんですけどねぇ……やばっ、攻撃が当たる

 

 ……って、ファッ!? いきなり精神世界的なところに飛ばされたんですけどどういう事だってばよ。というかこんなところに試合中に引きずり込んでくる奴といえば……

 

 小さい女の子の姿で現れましたがやはりヤンデレ剣ちゃんですね。あーもう(チャートが)めちゃくちゃだよ。どうしてくれんのこれ? って、何抱き着いて嬉しそうに……あら^~、かわいいですねぇ~。(即落ち2コマ)

 ……っとと、一瞬ヤンデレ剣ちゃんの魅力に引き込まれてしまいそうになりましたが本当はホモ君の事を意のままに操ろうとするんだろ、騙されんぞ(ジョージ)

 

 やはり、鳳凰星武祭に入ってからわざとホモ君に過去の記憶を流し込んでやがりましたか。どうりでホモ君のSAN値が下がっていくわけです。SAN値が下がり切って精神的に疲れ切ったところでヤンデレ剣ちゃんがホモ君を慰めてあげて共依存状態にしてお互いに傷をなめ合って生きていくというドロドロの関係にしようとしていたっぽいっすね。いやーヤンデレの考えることは怖いっす。

 

 というかこのままここにいたままだと間違いなく試合がめちゃくちゃになること確定なので説得して出してもらうようにお願いしましょう。

 

 お願いします出してください! なんでもしますから! 

 

 ……ん、これを見てみろって? ああ観客がホモ君のことを罵倒する映像ですね。といっても試合前に比べて罵倒する人の数が露骨に増えているので明らかにヤンデレ剣ちゃんの悪意たっぷりの編集が入ってますし、普通ならその違和感に気づくと思うのですが今の精神状態不安定なホモ君には効いてますねぇ。他にもパッパの罵倒集をたくさん見せられました。観客の罵倒単体だったら効いてなかったんでしょうけど、パッパの罵倒との相乗効果で大分効きが良いみたいです。

 

 外の奴らの事は放っておいて一緒にここで暮らそう? 嫌です……。いや、だって君やる事成す事が一々怖いじゃん。というかこちとらRTA中なんですよ。といっても割とホモ君自身は揺らいでいるようです。

 

 ん? メスガキの声が聞こえますね。これは外側から呼びかけて来てるのでしょうか。おっとホモ君のメンタルがちょっとずつ安定してきています。さすがメスガキ、肝心な時に助けてくれると思ってたぜ! (ホモ特有の掌返し)

 

 おら、ここからさっさと出すんだよ! ……くっ、そんな泣き顔をしてもダメだ!

 

 なんとか頼み倒して元の場所へ返してもらいましょう。

 

 え、どうしてそんなにつらいことから逃げないで立ち向かえるのかって? そうですねぇ……仲間がいるからじゃないっすか?(適当)

 あっ、もちろんヤンデレ剣ちゃんも仲間の一人だと思ってるから。

 

 

 

 オイオイオイ、さっきまでホモ君の事を精神的に追い詰めようとしていたはずなのにいきなり泣き出してしまいました。このヤンデレ剣ちゃんメンヘラ属性まで持ってんのか? 

 

 ホモ君以外の人間の事が怖い? いやいや、大丈夫だっていいやつもいるから、安心しろよー

 

 ん、まだ怖いけどホモ君のことを信じてみる? 

 

 どうやらホモ君のいう事を従ってくれるようになったみたいですね。やったぜ。

 

 っとと、どうやら精神世界から解放されて元の場所に戻ってきたみたいです。どうやらメスガキもまだ校章を破壊されておらず無事のようですね。ついでに虎峰たちもヤンデレ剣ちゃんがだいぶダメージを与えたのか怪我を負っているようです。さすがにこの場面でヤンデレ剣ちゃんを使ってあげないと拗ねそうなので堂々と使ってあげましょう。

 

 さて、精神世界に帰される前に教えてもらったのですが、こいつの能力の本質は本人の談によると相手の脳内に存在しない記憶を植え付け♂を行うことのようですね。そしてその存在しない記憶の通りに世界が改変されるようです。恐ろしすぎませんかねその能力……。透明化もその能力の応用に過ぎないだとかなんだとか。

 

 といってもホモ君はまだ全然使い慣らせていないので植え付けれる記憶にも制限があり、現状相手にそこそこの怪我を負わせるのが上限といったところでしょう。

 

 さらにこいつのヤバい所は直接相手にダメージを与えなくても、鍔迫り合いになったり、剣が近くを通るだけで能力の適用範囲内になることですね。直接ダメージを与える時よりは効果が薄れますがね。例の透明化能力と相まって見えない剣を避けることが出来てもヤンデレ剣とそこまで距離がなかったら能力の対象となってしまうという凄まじい強さを誇ります。

 

 さて強力な武器を手懐け一転攻勢に転じました。こうなれば試合の展開は完全にこっちのものです。

 

 獅鷲星武祭で使うことも見越して誉崎流は奧伝はこの試合では封印して中伝までで戦いましょう。といってもその縛りだけでも十分に勝てます。

 

 いい感じにヤンデレ剣の能力が効いてますねぇ。透明化だけでもエグイのに攻撃を食らってしまおうものなら更に追加ダメージでスタン取れて、それによって動きが止まる事でまた攻撃を……というループを作りかねないです。

 

 おっ、メスガキも結構威力の高い新技を披露しましたね。メスガキの好感度もいつの間にか回復しているので、このまま連携して倒していきましょう。

 

 少女戦闘中……

 

 工事完了です……。いやー鳳凰星武祭優勝をなんとか成し遂げることが出来ました。まだ1個目の星武祭なんだぜ……これ。とはいえ、素敵な仲間(ヤンデレ剣)も増えた事ですし、まだまだ好タイムを残せる位置にいます。

 

 ヤンデレ剣ちゃんも完全でないとはいえ心を許してくれたようなのでこれで他の武器も使えるようになりました。そういうわけで優勝の時に頼む願いも────

 

 

 今回はここまで。ご視聴ありがとうございました。

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

裏話11 内観

決勝戦なので気合入れて書いてたらいつもの3倍ぐらいの文章量になっちゃいました。それ故に割と文章ガバが散見されるかもしれません、申し訳ないです。

あと、最近はお待たせすることが多くなりました。できる限り早く仕上げるのでこれからもよろしくお願いします。



作中のある描写のために身体を張って実験をしていたので初投稿です。


 ──バカっ!! 

 

「私、どうしてあんなこと言ったんだろう。自分のことじゃないのに」

 

 ベッドの上で布団を身に纏い、沈華(シェンファ)は一人縮こまっていた。 

 

 廊下から足音がする。今の時間、鳳凰星武祭に参加していない者は星露(シンルー)のもとで鍛錬を受けている。セシリーも試合の順番は2番目になっているため今はシリウスドームにいる。となると来ているのは一人だけしかいない。

 

 扉がノックされる。無視する。

 

 扉がノックされる。無視する。

 

 

 ……………………

 

 

沈華(シェンファ)。出て来てくれないか」

 

 扉の外からは基臣の声が聞こえてきた。

 

「出て来てくれないなら、扉越しに言わせてくれ」

 

「……」 

 

「お前が怒った理由が分からないのに謝罪するのは筋が通らないと思ってるし、お前も納得してくれないだろう。だから、まだ謝罪はできない」

 

「でもお前とは決勝戦でも共に戦いたいっていう気持ちは間違いない」

 

「明日の決勝戦、俺は待っている。それではな」

 

 明日の試合、また一緒に戦うことを期待している旨の内容を告げるとドアから遠ざかっていく音が聞こえる。

 

「これじゃ行かなかったら私が馬鹿みたいじゃない」

 

 

 ────────────────────────―

 

 

沈華(シェンファ)、いるかい」

 

 あれからしばらくして夜になり、もう寝てしまおうかと思ったとき扉がノックされる。また基臣かと思ったがこの声は沈雲(シェンユン)だ。流石に兄まで無視するのはダメかと思い、扉の鍵を外す。

 

「入って」

 

「お邪魔するよ」

 

 扉が開かれると、鍛錬帰りだったのかタオルを片手に沈雲が部屋へと入ってきた。 

 

「大分疲れた顔してるね、基臣と喧嘩したんだって?」

 

「……なんで沈雲がそのことを知ってるの?」

 

「基臣本人に言われたからね。『今自分に会っても気まずい思いをさせてしまうだろう』って」

 

「基臣が……」

 

 沈雲(シェンユン)はベッドに腰掛けると、隣で布団にくるまっている沈華(シェンファ)に話しかける。

 

沈華(シェンファ)は基臣のことは嫌いかい?」

 

「嫌い、というわけでは無い……と思うけど」

 

「まあ、そうだろうね。でないと基臣のために怒るなんてことしないと思うから」

 

「基臣の、ために?」

 

「あれ、自覚が無かったのか。まあそうか」

 

 少し考え込むかのように沈雲は顎に手を当てる。

 

「正確に言えば自分と彼を重ねてるんじゃないのかなと思うよ」

 

「私が基臣を?」

 

「このアスタリスクに来る前に星脈世代(ジェネステラ)だって理由で虐められていた人間は何かしら性格に難がある場合が多い」

 

「僕たちもこの界龍(ジェロン)に来るまでは、星脈世代(ジェネステラ)だからってだけで周りからは蔑まれて馬鹿にされて、散々な思いをしてきた」

 

 沈雲(シェンユン)の言葉で自分たちが学校で星脈世代(ジェネステラ)狩りと称した私刑(リンチ)に会っていたことを思い出す。今思い出しても良い思い出ではないのだろう、沈華(シェンファ)は唇を噛みしめる。

 

「自分の不幸に酔っていたんだろうね、僕たちは。だから、あまり人を信じなかったし必要以上に関わろうともしなかった」

 

 黎兄弟は人と深く関わろうとするほど、昔の思い出が呼び起されて人とは距離を取ろうと思ってしまっていた。基臣との出会いが無ければ、このまま歪んだ性格で学園生活を送っていたことは容易に想像がつく。

 

「でもまあ、基臣を見ているとなんだか自分たちが情けないように思えてしまったわけだけど」

 

 自嘲するような笑みをこぼすと、沈華の頭を撫でる。

 

「沈華が基臣の転入当初に突っかかった理由も自分たちと似たような雰囲気なのに腐ることもなく何とも思っていないような表情が無性に腹が立ったからとかじゃないかい」

 

 思い出してみると、確かに沈雲(シェンユン)のいう通りだった感じがした。

 

「……言われてみればそうかもしれないわ」

 

 しばらくの間、沈雲(シェンユン)のことを見ていたがやがて俯くと沈華(シェンファ)は弱音を漏らした。

 

「でも、今更あいつにどんな顔して会えば」

 

 不安になっている沈華を見て、沈雲は苦笑した。

 

「基臣はそんなこと気にしないよ、それだけは分かる」

 

「どうして?」

 

「基臣は悪人でもない限り基本的に人を悪く言ったことが無いからだよ。それは沈華(シェンファ)が分かるだろう」

 

「まあ、そうだけど」

 

「あと、基臣の自分自身の命の価値を低く見積もっている考えが気に入らないなら、沈華(シェンファ)が基臣の事を支えてあげたらいい」

 

「私が……?」

 

「あまり直接話すことは無かったけど、基臣は結構な世間知らずだ。それに加えてどこか危ういところがある。それは沈華(シェンファ)も分かるだろう?」

 

「ええ、まあ」

 

「基臣がどんな生活を送っていたか分からないけど、自分の命の価値を低く見積もっているのも僕たちみたいに過去に何かしらの理由があったからなんだろう」

 

「……」

 

「本人の考えっていうのはそんなに簡単には覆らない。でも、近くに支える仲間がいれば少しずつだけど基臣も変わっていくはずだ。僕たちが変わらされたようにね」

 

「私が傍で……」

 

「そういうことだよ。さて、僕の言うべきことは言い終わったしこれで退散させてもらうよ」

 

 そう言ってベッドから立ち上がり部屋を立ち去ろうとする。

 

 部屋から出て行く直前、沈雲は沈華の方へと振り返る。

 

「後、そんな顔して基臣の前に出ない方がいいよ。それじゃあお休み」

 

 それだけ言うと沈雲は部屋から出て行った。

 

 ────────────────────────―

 

 シリウスドーム 待機室

 

「待たせたわね」

 

「試合にはまだ時間がある。問題ない」

 

 作戦の内容だけ話し合われると、二人の間に言葉は交わされなくなる。やがて試合の時間になると、沈華は基臣と共にステージへと向かっていった。

 

 セシリーと虎峰(フ―フォン)は既にステージに到着しており、観客も試合開始を今か今かと待ちわびている。既に実況と解説はそれぞれのタッグの解説を終えており、まもなく試合が始まろうとしていた。

 

『泣いても笑ってもこれが最後の試合です。さあ、まもなく試合開始です!』

 

 実況の声が合図となるように機械音声が試合開始の合図を告げる。

 

『《鳳凰星武祭(フェニクス)》決勝戦、試合開始(バトルスタート)!』

 

 誰よりも早く虎峰が先に動き出した。それに真向から基臣は立ち向かっていく。

 

「せいっ!」

 

 距離を詰めての肘打ちに蹴り上げ、変幻自在にして苛烈な連続攻撃を基臣に仕掛けてくる。

 

「誉崎流初伝、薙霞(なぎがすみ)!」

 

 基臣は迫ってくる虎峰を右上から斜めに切り払うと続いて横に薙ぎ払う。見えない剣による攻撃を警戒していた虎峰は即座に飛び退き回避する。

 

 再び虎峰が迫ってくるので今度は射程に入ってきた瞬間に切り払おうと構える。

 

「急急如律令、(ちょく)!」

 

 虎峰(フ―フォン)がいる方向とある一方向を除いて雷の壁が基臣を取り囲む。そして、残る一方向からは雷の虎が基臣へと迫っていた。

 

「ちっ!」

 

 虎峰(フ―フォン)を咄嗟に蹴り飛ばして距離を離すと、剣で虎を切り払う。焦げ付くような匂いと轟音と共にその虎は消えていく。

 

「いーくよー!」

 

 その虎の後ろから雷の鞭を携えたセシリーが轟音とともにそれを叩きつける。本来の鞭よりも遥かに軽く、鞭の速度は想像以上のものとなって基臣を狙う。

 

「映像越しで見たことはあるが、想像以上に早いな……っ!」

 

 剣でその鞭を受けると激しく発光し、霧散する。その光に思わず目を瞑ってしまうが、身体に走る嫌な予感が次の攻撃を直感で咄嗟に後ろに退くことで避ける。

 

「思った以上に」

 

「厄介ですね」

 

 光が収まり目を開けると、その視界にはセシリーと虎峰が基臣がいた場所に立っていた。しかし、すぐさまその場所は爆発に包まれる。

 

「爆!」

 

「あらら、そうは簡単にはいかないってことねー」

 

「沈華の死角からの攻撃には気を付けてくださいよセシリー」

 

「分かってる分かってる」

 

 二人が基臣から距離を離すと、隣から沈華が透明化を解除して声をかけてくる。

 

「大丈夫かしら?」

 

「問題ない。引き続き、攻撃する機会が来るまで隠れていてくれ」

 

「分かったわ」

 

 沈華が再び姿が消えると共に虎峰は基臣へと向かってくる。両脇からは雷の兎が平行して走っている。途中から兎が先行して走り出し、囮となって突っ込んでくる。

 

 それを素早く倒そうとするが剣がいう事を聞かず手間取ってしまう。その隙に虎峰は間合いを詰めており正拳突きを放ってくる。

 

「もらったっ!」

 

「っ……チッ、ヌゥゥゥウウウウウ!」

 

 二人の攻撃は交錯し合い、虎峰の攻撃は胸元の校章へと吸い寄せられていくが基臣の攻撃だけは剣がいう事を聞かず身体から逸れていく。そのまま虎峰の拳は校章に近づき──

 

 

 

 

 

「ここ、は……?」

 

 気づくと白塗りの壁に囲まれた空間の中に基臣は立っていた。正面を見ると、一軒の家がポツンと佇んでいる。それ以外は床と壁だけのなんとも味気ない景色が続いている。

 

 周囲を歩き回ってこの空間を形成している四方の壁を叩いてみたり押してみたりしてみるものの、少しも動きもせずただそこに佇んでいるだけだった。

 

 壁と家以外には何も無いため選択肢は家内を探すことの一択となり、基臣は仕方なく家まで歩いていきノブを右に回してドアを開けてみる。

 

 玄関の扉を開けるとそこは簡素なインテリアに包まれたごく普通な一軒家。靴棚の上にある写真立てを見ると、そこには純白のワンピースを着た女の子とその傍に和装姿で立っている男の2人が映っていた。

 

(この男、どことなく俺に似ているような……)

 

 どことなく自分と似るその男の事は気になりはしたが、写真立てを元の場所に戻して正面にあるドアを開ける。

 

 ドアを開けて中を見るとさっき写真立てで見た少女が部屋の中で立っていた。

 

「やっと会えたっ!」

 

「はっ……?」

 

 いきなり抱きしめてきた女の子を見るとその顔は満面の笑みを浮かべていて、待ち焦がれていた存在にやっと会えたような顔をしていた。

 

「あ、こんなところにいるのも何だから入ってよ」

 

「いや、なんなんだお前は」

 

「そんなことはいいから、ほら早く」

 

 名も知らぬ少女に押し流されるままに部屋の中に入れられるとダイニングにある椅子に座らされる。二人分のティーカップがテーブルに置かれ、ふわふわと浮かんだティーポットがひとりでに紅茶を注ぐ。女の子も対面の椅子に座ると基臣と会えたのがそんなに嬉しいのか楽しそうに鼻歌を歌いながら紅茶に口を付ける。

 

「一体お前は何者なんだ。俺をなんでこんな所に連れてきた」

 

「んー、まず私の名前なんだけど。と、これを見せた方が早いかな」

 

 そう言うとテーブルの上に光が集まり形を成していく。光が収まると、出来上がったのはいつも見慣れた剣である穢れの一切が見当たらない美しい純白の剣だった。

 

「私はこの剣の意思、というのが正しいのかな。潔白の純剣(インヴィズ=ピューレ)なんて大層な名前を付けられてるけど、気軽にピューレって呼んでよ」

 

「ピューレ……。お前がそうだったのか」

 

「まあこんな感じで姿を見せるウルム=マナダイトはほとんどいないから珍しいと思うけどね」

 

 クスクスと楽しそうに笑うと、基臣の目の前にある紅茶をソーサーごと近づけてくる。

 

「ほら飲んでよ紅茶、おいしいからさ」

 

「……」

 

「もしかして紅茶はダメなタイプだった? それならコーヒーとかにしよっか? あっ、もし苦いものとかダメならジュースでも──」

 

「お前、紅茶に何か仕込んでいるだろ」

 

 基臣の言葉にピューレは顔に笑みを貼りつかせたまま固まる。

 

「……どうして、分かったのかな」

 

「勘だ。お前が俺に紅茶を飲むよう勧めた時に邪な考えが透けて見えた」

 

 しばらく二人の間に会話が無くなり、少し気まずい空間が出来上がる。やがてピューレは表情を崩し、悲しそうに眉をハの字にして悲しそうな顔をすると話し出した。

 

「やっぱり、分かっちゃうかー。ねえ、どうしても飲んでくれないの?」

 

「断る。何かあると分かって飲むほど俺は命知らずでは無い」

 

「そっかー、そうだよね」

 

 少しションボリとした表情でいたが、その顔もすぐににっこりとしたものへと豹変する。

 

「まあモトオミが嫌って言っても、飲ませるんだけどね」

 

「んぐっ!?」

 

 いきなり後ろに現れたピューレに無理やり口を開けられると、そのまま紅茶を口の中に注ぎ込まれる。抵抗しようと身体を動かそうとするが無理やり押さえつけられピクリとも動かない。ならばと紅茶を口から吐き出そうと──

 

「あぁっ! ダメだよモトオミ、ちゃんと飲まなきゃ。ほら、いい子だから」

 

「んっ、ゴゴッ、ゴッ!?」

 

 顎を固定され吐き出そうとすることを阻止される。そして、ピューレは基臣の鼻を摘まんで呼吸が出来ないようにしてくる。最初の1分は飲むまいとジタバタ動こうとしたり、舌で紅茶を掻き出そうと試みたが、どんどん呼吸が辛くなり最終的には身体が勝手に紅茶を飲み込んでしまった。

 

「んっ、っは! ゲホッ! ゲホッ!」

 

「うん、ちゃんと飲めたね。えらいえらい」

 

 ピューレは口の中を確認して紅茶を飲みほしたことを確認して満足すると、優しく基臣の喉をさすり、頭を撫でてくる。

 

「どう、美味しかった?」

 

「……お前が無理やり飲ませてこなければ味も分かっただろうにな」

 

「そっかー、じゃあもう1回──」

 

「やめろ」

 

 さっきの行動は流石に堪えたのかすぐさま拒絶する。

 

「まあいっか、飲んでもらえたならそれいいし」

 

 対面の椅子に戻ると、紅茶を再び口に啜る。

 

「それで、その紅茶を飲んだらどうなるんだ」

 

「別にモトオミの身体に悪いことはしてないよ。ただ、私とモトオミが記憶を共有しやすいから飲んでもらっただけ。別に身体に変化があるわけじゃないから安心して」

 

「……」

 

(本当の事は言っているがどうにも引っかかる。何か隠しているのか……? だがそんなことよりも)

 

 ピューレの意図を測りかねたが、今はそんなことをしている場合でないことを思い出す。

 

「お前の茶会には後で付き合ってやる。今は1秒でも時間が惜しい。早くここから──」

 

「ダメ」

 

 ここから出ようという言葉を聞いた途端ピューレの纏う雰囲気は一変する。持っていたティーカップは取っ手が砕け散ったことで落ちていきテーブルを紅茶で汚してしまう。

 

「それだけはダメだよモトオミ」

 

「……それはどうしてだ」

 

「外の人間は自分勝手だからだよ。モトオミ」

 

 怒りを堪えたような表情でそう話すと指を鳴らしてテーブルやティーポッドなどを消して椅子だけになる。

 

「ほら、見てよ」

 

 基臣の後ろに回りこんだピューレは抱きしめると、直接脳内に記憶を流し込む。

 

 

 

 ──この犯罪者が! 

 

 ──この人殺しが! 

 

 

 

 観客席にいた人間たちが基臣に向けて言葉の限りを尽くして罵倒していた。

 

 それだけではない。学園の同級生、シルヴィア、星露。色々な人間が心無い言葉で基臣を傷つけようとする記憶が基臣の頭の中へと流れていく。ただ、その程度なら耐えることが出来た。しかし──

 

 ──お前には失望した。ここから出ていけ

 

 ──お前が死ねばいいのに

 

「あ、ああ……」

 

 感情喪失に至る原因となった父からの簡潔な言葉が基臣の心を完膚なきまでに壊していく。いくら自ら感情を殺したとしても幼い頃から刻みつけられたトラウマは簡単には脳裏から離れてはくれない。こんな記憶見た事がないはずなのに「なぜか」その記憶が元から存在したかのようにしっくりくる。

 

「ほら、他の人間なんてみーんな怖い人ばっかり。そんな人達と無理に付き合って心を擦り減らすぐらいならここにいようよ」

 

「私はモトオミの全てを受け入れるし、してほしい事もいーっぱいしてあげるよ」

 

 耳元で甘美な声で囁かれながら抱きしめられ、ピューレの胸の中で基臣は温もりを感じる。

 

(このまま身を委ねても、いいのかもしれない)

 

 らしくないことを考えながら思考をどんどん手放し、優しく包み込んでくれるピューレの胸の中で微睡みそうになっていく。

 

 

 

 ────────────────────────―

 

 

「これがモトオミの身体かー。うん、やっぱり格好いい!」

 

「もと、おみ……なの?」

 

 厳格で無表情な態度を普段見せている基臣とはまるで似つかないような笑顔で自分の身体をぺたぺたと触っていた。

 

「セシリー!」

 

「ええ!」

 

 二人はいきなり豹変した基臣の様子に一瞬驚くものの、試合中であることを理解している二人は基臣目掛けて攻撃を繰り出そうと動き出す。沈華が出遅れたことによって基臣は二人の攻撃を同時に受けそうになる。

 

「あのさ、人がやっと会えたって感動してる時なのに邪魔しないでくれるかな」

 

 これまでの動きとは違って基臣はビデオテープが再生されたような挙動で二人の攻撃を受け止める。

 

「嘘!?」

 

「さっきまでと明らかに動きが違う?」

 

 攻撃を受け止めた基臣はそのまま二人の腕を掴むと勢いよく投げ飛ばす。

 

 沈華は投げ飛ばされる二人に意識を向けるがそのすぐ後、轟音と共に観客の悲鳴が会場内に響き渡る。

 

 何事かと思い基臣を見るが、意識が二人に向いていた一瞬の間に剣を振りぬいていた。

 

「もー。これだからシゲノブの使う技は再現しづらいんだよねー。人体構造を無視したような動きするから疲れるし、ちゃんと集中しないと外すし」

 

 軽い調子でそう言うが、観客を守るため並大抵の事では破壊されることのない障壁がたった一振りで破壊された。斬撃が伝播した床も綺麗にヒビが入っておりそのヒビの深さからその一振りの威力は容易に想像がつく程のものだった。観客席を見ると、客はあまりの衝撃的な出来事に失神する者さえ現れる。障壁のすぐ近くでは星武祭の実行スタッフが急いで修復をしている様子が伺える。

 

『ちょっ!? これ大丈夫なんでしょうか、障壁壊れちゃいましたけどー……』

 

『すぐに修復できるはずなんで大丈夫とは思うっすけど、今まで誰も破壊できなかった障壁をあんなにあっさり。いったいどうやって……』

 

「これは……ちょっとヤバいかもね」

 

「そんなこと言ったってやるしかないでしょう。それとも負けを認めるんですか?」

 

「そうよね、ハァ……」

 

 疲れたように溜息を吐くと、刀印を結び星仙術を発動させる。

 

「急急如律令、(ちょく)!」

 

 術を発動させると雷の虎が姿を現し、虎峰と共に駆ける。虎を囮にして虎峰の攻撃が本命になるように上手く立ち回るが──

 

「何、このくだらない子供騙し」

 

 基臣は虎に触れると、一瞬にしてその形を崩し霧散させる。そのすぐ後ろにいた虎峰も勢いよく殴りつけ、少なくないダメージを与える。しかも意図的に校章を割らず、何度も殴りつけていく。殴り飛ばされた虎峰は地面を舐めるような体勢となり、セシリーは近くに寄って守るように前に出る。

 

「ちょっと! やりすぎでしょ……」

 

 今の行為は流石に目に余るため、近くによって基臣に注意しようと沈華は近づいたが、突き飛ばされる。

 

「いっ! なんでこんなことっ」

 

「嫌い」

 

「モトオミの邪魔をする貴方達が嫌い。モトオミの過去を何も知らないくせにさも自分はその痛みが分かるかのように話しかけてくるし、終いには彼のことを傷つける。あのいけ好かない女狐もモトオミの事をただの鑑賞動物みたいにしか思っていないし、みんな彼の事なんてちゃんと見ようともしない。考えるのは自分のことばかりで吐き気がする。私の方が彼の事を愛しているしちゃんと見てる。なのに、なんで? なんで貴方達なの? 私じゃなくて、ただ傷つけるだけの貴方達にあんなにも執着してるの? そうだ、みんな殺せばいいんだ。殺したらみんないなくなって二人きりになるからモトオミも私のことだけを見てくれる。そうしたら、あの空間で二人きりでいて幸せに暮らせるよね。誰の気持ち悪い視線も受けずにふたりっきりで……。ふふふ、楽しみだなぁ、モトオミとふたりっきりで暮らすの。お料理作ってあげたりとか食べさせ合いっこしたりとか、うんうん。寝る時には私の膝の上にモトオミの頭を乗せてあげて撫でてあげながらお疲れ様っていってあげたりして……。うんそうだよ。モトオミの幸せのためにもまずはこいつらから殺さないとね。モトオミの事を傷つけようとするこいつらから先に殺して、その後は誰かが私たちの時間を邪魔してこないように全員皆殺しにしないとね」

 

 会話のキャッチボールが全く成立せず、一方的に並々ならぬ憎悪と妄想を押し付けられる。あまりにも異様なその雰囲気に沈華はゾクリとしたものを感じる。

 

(なんなの……っ)

 

「まだっ、負けてないです」

 

 立ち上がった虎峰は再び構え直し、基臣へと向かって行こうとしていた。

 

「もう、しつこいなー。だったらさ──」

 

 そう言うと、何故か基臣の手にいるはずのない虎峰がいた。セシリーを見るといたはずの場所からいきなり瞬間移動したかのように虎峰は映っていた。その状況に一瞬戸惑っていたが次の瞬間にすぐにそんなことは思考から消し飛ぶ。

 

 

 

 

 

「死んじゃいなよ」

 

 

 

 

 

 

 

「あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"」

 

 

 

 

 

 

 

 虎峰の顔面を右腕で軽く掴む。ただ、それだけだった。

 

 それだけの筈なのに虎峰は今まで聞いたことも無いような張り裂けそうな叫び声を上げる。顔を掴んだだけで攻撃らしい攻撃を食らっていないにも関わらずだ。

 

虎峰(フ―フォン)!? このっ!」

 

 正体不明の圧倒的な暴力に罵倒の言葉を投げて来ていた観客席もその光景の恐ろしさに静まり返っている。一切加減をしておらず、このままでは虎峰が危ないことを理解したセシリーは星仙術による巻き添えを考えて、接近戦で助け出そうと試みる。

 

「鬱陶しいなぁ」

 

「ガッ!?」 

 

 セシリーは右側から虎峰に当てないように蹴りを放ち、防御を強要させて基臣の掴んでいる腕を離させようとするが難無く攻撃は躱され左腕で掴まれると地面に叩きつけられ、適当な場所へと投げ捨てられる。

 

「ふ、虎峰(フ―フォン)……」

 

「あとで貴方もできるだけ苦しめて殺してあげるから、そこで寝てなよ」

 

 ギリギリ気絶しない程度に加減したためか喋れるだけの意識は保てていた。尤も、仲間の苦しんでいる姿を何もできずに見ることしかできないという点で言えば気絶したほうが幸せだったかもしれないが。

 

「さてと。それじゃあ続きを──」

 

「基臣! さっさと戻ってきてよ!」

 

 基臣はその声に振り返ると、いきなり目の前に現れた沈華(シェンファ)に手を握られていた。

 

 

 

 

 ────────────────────────―

 

 ──基臣! さっさと戻ってきてよ! 

 

「沈、華」

 

「なんでこんなとこまで声が届くのかなぁ、まったく。早く殺さないと

 

(そうだ、沈華(シェンファ)が俺の事を呼んでる。行かないと)

 

 基臣は立ち上がると、そのままこの部屋から出ようとドアノブに手をかけようとする。しかし、その腕はピューレに掴まれて制止される。

 

「ピューレ、どいてくれ。行かないと」

 

「ダメ!」

 

「ピューレ」

 

「ダメったらダメ!」

 

 ピューレの悲痛な声が部屋中に響き渡る。基臣の手を掴む腕は微かに震え、どこかその瞳は置いてけぼりにされた子供のような不安が混じっている。

 

「ねえ、お願いだからここにいてよ」

 

 顔を歪ませ、胸元で泣きじゃくるピューレの頭を撫でて落ち着かせる。

 

「俺には帰る場所があるんだ」

 

「なんで? あんな場所に戻っても辛いだけなのに。逃げてもいいでしょ」

 

「そう、かもな。確かにつらいことは多い。何も思わなければそれでも大丈夫だと思ってた。……けど、最近は仲間がいるからなのかもしれないって思っている」

 

「なか、ま……?」

 

「お前がどうしてそこまで俺以外の奴を恨んでるかは知らない。けど、少なくとも俺はあの世界には良いやつはそれなりにいるって思ってる」

 

「みんな自分勝手な人間ばかりだもん! 基臣のことをちゃんと見ているのは私だけ! 私だけなの!」

 

「ピューレ……」

 

 基臣はピューレの手を取ると、言い聞かせるように話しかける。

 

「お前も仲間だと思ってる」

 

「え?」

 

「お前が今まで俺にちょっかいをかけてきたのも結局は俺の事を思ってくれたからなんだろう? お前も俺の仲間だという認識で間違いないだろう」

 

「まあ、そうだけど……」

 

「それなら俺の仲間のことも少しだけでいい、信用してくれないか」

 

「…………私怖いんだ。モトオミがまた昔みたいに傷つかないかって」

 

 基臣を見上げるピューレは不安そうな顔をしていた。

 

「モトオミのこと信用してもいいんだよね。裏切られたりしないよね?」

 

「ああ、約束する」

 

「まだ外の人間は信用してないけど、でも……モトオミの言葉は信じたい」

 

 ピューレは基臣の胸から名残惜しそうに離れると、部屋の扉を開ける。さっきまでは家の玄関に通じていたそれには暗闇が広がっていた。

 

「ここから出れば元の場所に戻れる」

 

「ありがとう。また試合が終わったらこっちに来る」

 

「待って!」

 

 扉へと向かっていく基臣をピューレが呼び止める。

 

「なんだ?」

 

「……私の能力、教えてあげる」

 

「能力?」

 

「私の能力は一見、ただの透明化と思ってるかもしれないけどそれは違う」

 

「違和感があると思ったが、やはりか」

 

「私の能力、それは」

 

 ピューレは指を鳴らすと基臣と彼女の周りを形成する空間は宇宙空間のような場所へと切り替わる。

 

「人の記憶を書き換える能力、そして世界がその記憶に従って現象を引き起こす能力」

 

「人の記憶を? ……でも、お前は──」

 

「透明化は能力の応用でしかないの。自身にこの世界で他の人間からは認識されていないっていう記憶を埋め込めば世界はその記憶に従うから誰にも私を視認されなくなる」

 

「しかし、俺にはお前が見えるようだが……」

 

「それはモトオミが持ってる能力のおかげ」

 

「能力?」

 

「そうだよ。あの女狐も言ってたでしょ? モトオミには魔術師(ダンテ)の才能があるって。妙に勘がいいのはそのおかげ。シゲノブは第六感だとか言ってたけど」

 

「第六感」

 

「私を見ることができたのはモトオミを含めて四人。まあ、この話は今する必要はないから省くけど」

 

「結局のところ、私の能力の射程内にいる相手にはその記憶改変の能力を行使できるわけだけど……」

 

「といってもモトオミだけだと行使できる能力に限界はあるけどね。私が表に出ているならやりたい放題できるけど」

 

「そうか」

 

「じゃあ能力も説明したから、ほら」

 

 指を鳴らして元の場所に戻すと、基臣も扉の中に入って元の場所へと帰る。

 

「それじゃあ頑張って」

 

 その言葉と共に基臣の意識はこの世界から遠のいていった。

 

 ────────────────────────―

 

「いつまでうじうじしてるの!」

 

「うる、さい!」

 

「貴方にはまだまだ言ってないことがあるんだから、帰ってきてよ。基臣!」

 

「あぁ、あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"」

 

 頭を抱えだす基臣に必死に戻ってくるように声を掛ける沈華(シェンファ)。しばらく身悶えていた基臣だったが、時間が経つとその動きを止め、ゆっくりと顔を上げる。

 

「沈、華……」

 

「まったく遅いわよ」

 

「……ああ。すまなかったな」

 

「ようやく戻ってきた感じかしら」

 

「まったく、人騒がせですね」

 

 基臣が元に戻った様子にセシリーや虎峰(フ―フォン)も気づいたようで、喜んでいるようだった。

 

「お前にもあいつらにも、大分迷惑をかけたようだな」

 

「ええ、まったくいい迷惑だわ」

 

 その言葉とは裏腹に、沈華(シェンファ)はどことなく嬉しそうな表情をしていた。

 

「さて、仕切り直しだ」

 

 ピューレを構えると、基臣は虎峰(フ―フォン)へ向かって走り出す。その動きは明らかに試合が始まった時よりもよくなっていることが分かる。

 

「憤っ!」

 

 向かってくる基臣に対して左右からの蹴りに加え、踵落としと多彩な攻撃を虎峰(フ―フォン)は放ってくる。それを全て躱すとお返しとばかりにピューレを振りぬく。

 

 剣による攻撃を警戒していた虎峰は当然その攻撃を回避する。しかし──

 

「ぅ"っ!? 避けたはずなのに」

 

「やはり思っていた以上の強さだな、ピューレは。とはいえ、何故かは知らんが能力で校章を破壊することは無理か」

 

 完璧に避けたと思っていたはずの虎峰は自分の腕に切り傷が出来ると共に血が流れていることに顔を顰める。剣の感触も無いことから完璧に回避していたと思っていただけにその出血は不可解な現象だと考えに耽りそうになるが、そんなことを考えている虎峰(フ―フォン)を再度下段からの切り上げが襲い掛かる。

 

「……っ! やはり何かある!」

 

 二度目の回避を行うもやはり一回目と同様、今度は足からも切り傷と共に出血する。

 

(明らかに剣の間合いから離れているはず……。見えないだけでなく剣の感触が消える能力も持っている? いや、発言からすると剣が直接当たらなくても何かしらの攻撃が飛んでくるのか?)

 

「誉崎流中伝、刹傑葬(せっけつそう)!」

 

 上段からの振り下ろしに加えて即座に切り上げが迫る。二度にわたる回避を行ってもう攻撃は来ないと思っている虎峰に突きを放つ。

 

(これは特待生試験の時に師父に見せた)

 

『趙虎峰、校章破壊(バッヂブロークン)

 

 うまく回避できず攻撃を受けてしまった虎峰は破壊された校章を拾い、ステージの端へと移動する。

 

「……やられてしまいましたか。セシリー、頑張ってください」

 

「うっそー、私だけか。どうしたもんかねー」

 

 軽口を叩くが、セシリーのその額には冷や汗が浮かぶ。刀印を結ぶと星仙術で雷の鞭と兎を生み出す。

 

 鞭は基臣がガードすることで上手くやり過ごすが、兎は既に数メートル先にまで迫っていた。

 

「急急如律令、(ちょく)!」

 

 それに対抗するためにいつも繰り出してくる術とは規模も威力も段違いの雷撃の雨を繰り出す。雷撃の通り道となった兎は全てかき消され、その勢いのまま雷撃はセシリーへと向かっていく。

 

「こっちだって! 急急如律令、(ちょく)!」

 

 セシリーも応じるように雷撃を放つ。お互いの技がぶつかり合う直前、沈華の雷撃だけがフッと姿を消した。

 

「基臣!」

 

「任された」

 

 基臣は沈華に迫り来る雷撃をピューレでかき消す。その直後、セシリーの前に消えたはずの沈華の雷撃が突如としてあらわれる。

 

「へっ、ちょっと──」

 

(まさか沈華の術式を応用して、雷撃を一時的に……!)

 

 そのまま沈華の攻撃はセシリーの校章を貫き破壊した。

 

『セシリー・ウォン、校章破壊(バッヂブロークン)

 

 

 

試合終了(エンドオブバトル)! 勝者、誉崎基臣&黎沈華!』

 

 

 

「や、った」

 

 緊張が解けて沈華は床に座り込む。 

 

『試合終了ー! 見事、誉崎選手と黎選手が鳳凰星武祭を優勝しました!』

 

『いやー、途中雲行きが怪しかったっすけど終盤には誉崎選手と黎選手が本来の力を発揮していたようで中々いい試合が見れたっすね』

 

「負けましたか」

 

「あちゃー、沈華(シェンファ)に一泡吹かされるなんてねー。やれやれ、一から鍛えなおさないと」

 

 虎峰とセシリーも負けはしたもののその顔はどこかすっきりしたような顔をしていた。

 

「ほら」

 

「ああ」

 

 手を上げてこちらに向けてくる沈華(シェンファ)の意図を理解した基臣は同じように手を上げて合わせる。

 

 決勝戦の前とは違って、強い信頼が結ばれているタッグがそこにはあった。

 




UAが5万を超えました!
読者の皆様、いつも本作品を見てくださって本当にありがとうございます


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

鳳凰星武祭優勝後~鷲獅星武祭優勝
part12


ここからはほとんど展開を構想していないので初投稿です。


 女の心理戦は怖いRTAはーじまーるよー

 

 

 前回はようやっと1個目の星武祭(フェスタ)である鳳凰星武祭(フェニクス)を優勝したところまででしたね。

 

 この後、優勝者の表彰その他諸々がありますがいつもの如く長ったらしい演説があるだけなので倍速です。

 

 

 

 

 

 少女居眠り中……

 

 

 

 

 

 さて長ったらしい演説も聞き終わり、優勝者インタビューです。もしホモ君のお家に関することを質問してくるなら即会見を切ることで逆にタイム短縮を図りたいところですね。

 

 

 ……………………

 

 

 ……………………

 

 

 すごく……普通の質問タイムです……。おかしいねー、誰がやったんだろうねー。(すっとぼけ)

 まあようやっとあのロリババアが情報統制のために重い腰を上げて動いてくれたという事なのでしょう。これはこれで確認をする手間が省けるのでありがたいですね。

 

 質問タイムも終わったので、とりあえず界龍(ジェロン)へ戻って星露(シンルー)に報告をちゃちゃっとやって、いつも通りの生活に戻りましょう。と、その前に……

 

 さて、星武祭(フェスタ)は優勝すると望みをなんでも1つだけ叶えてくれるという素敵仕様です。といっても非合法的なことは表面上は認可されません。(認可されないとは言ってない)

 

 今回の望みは純星煌式武装のコアとなるウルム=マナダイトを1つもらいましょう。ちなみに個体厳選をホモ君側でする必要はありません。RTA走者に優しいチャートですね。(ニッコリ)

 

 このウルム=マナダイトですが、別にホモ君の武器にするわけではありません。というかヤンデレ剣ちゃんがそれを許してくれないです。

 

 じゃあ何に使うんだって言うと、ウルム=マナダイトは煌式武装の開発技術が発達しているアルルカントにホモ君の新しい武器を製造してもらうための交渉材料にします。界龍(ジェロン)で作ってもらえないこともないですが、出来上がるのは鈍らばかりなので獅鷲星武祭(グリプス)で使うには少し心もとないです。

 

 なぜ鈍らしか出来上がらないかと言うと、界龍(ジェロン)では武闘派集団の木派が道具に頼らないスタイルで、あまり煌式武装に関する技術が発達していないためです。まあ煌式武装の技術力が余り高くないことに関してはアルルカント以外の全ての学園に言えることなのですが。

 

 じゃあアルルカントにタダでホモ君の武器を作ってくれるかと言うとまあそんな甘い話はないわけです。手土産なしに交渉しようものなら少なくともホモ君が何かしらのモルモットになることぐらいは覚悟しておいた方が良いです。一応興味本位でモルモットに志願したことがありますが、脳をクチュクチュ弄られたり、背中から腕を生やされたりとまともな研究がほとんどありませんでしたねー。(遠い目)

 

 このウルム=マナダイトは結構貴重で、1つ手に入れるのにもとてつもなく苦労するので大抵のお願いならば快く受けてくれます。それで誰に武器の製造を頼むかと言うとエルネスタ・キューネとカミラ・パレートの二人に頼むことにしましょう。

 

 初見勢のためにものすごーく簡単に解説すると、エルネスタ・キューネという子ですが、人工知能搭載ロボット大好きのマッドサイエンティストちゃんで割と頭のねじが外れている所さんはありますが、腕は間違いないです。

 

 で、カミラ・パレートという子は割と常識人な研究者で煌式武装の研究開発を専門としています。ただ、この子は誰でも使える汎用性のある強力な武器を作るのを目標としていて、誰かのためだけのオーダーメイド品を作ることに嫌悪感を示しています。まあそこらへんに関してはエルネスタ共々適当に丸め込めばいいので何とかなります。

 

 エルネスタは武器開発担当と言うよりもロボット系の開発の方が主軸のため、煌式武装(ルークス)の研究開発を専門としているカミラの方が今回のホモ君の武器製造に関しては造詣が深い所はありますが、発想力で言えばエルネスタの方がずばぬけて高いので二人そろって協力してもらうことにしましょう。

 

 え、連絡先知らないのにどうやって接触するかって?もちろん試走の段階でそこら辺の問題は解決しておりますとも。

 

 どうやって接触するかと言うと試走の時に好感度上げまくってメロメロにさせることで手に入れることができたエルネスタのプライベートアドレスに電話をかけることにしましょう。普通の人間なら電話しても即不審者扱いで切られるか豚箱送りにされますが、彼女は天然なので気にしないです。というか鳳凰星武祭(フェニクス)で優勝したことでホモ君に注目してるのでむしろ喜ぶのではないでしょうか。

 

 さっそく電話をかけましょう。ポチッとな。

 

 あー、しもしも?俺だよ俺。今度の週末だけどお茶してかなーい?

 

 え、手土産はあるか?当たり前田のクラッカーよ。ビッグな報酬を用意してるからどこかで会おうぜ。

 

 というわけで約束を取り付けることが出来ました。やったぜ。エルネスタは自分の夢の実現のためにウルム=マナダイトを必要としているのでホモ君の提案を断る事はないです。ただ、乗り気か乗り気じゃないかで作ってくれる武器の性能に大分違いがでるのですが、今回は画面越しに見ると機嫌が良さそうなのでいい乱数を引けそうですね。

 

 二人とも研究ですぐには出向けないので週末に会うという事に決まったので、それまでひたすらに特訓しましょう。

 

 

 

 少女特訓中……

 

 

 

 さてと、週末になったのでいざ約束の喫茶店へ。

 

 っと、校門に誰かいますね。ん?あの孤独なSilhouetteは……?

 

 メスガキじゃねーか!なんでこんなところにいるんっすかね。どこ行くのかって?え、そんなん関係ないっしょ。じゃあ俺適当に遊びに行くから(棒読み)

 

 

 

 

 _______________

|              |

| 私も連れて行きなさい!  |

|              |

|              |

|              |

|              |

|              |

| → はい    いいえ  |

|              |

|_______________

 

 ホモ君との同行をせがまれていますがメスガキが乱入するとイベントが増えてガバを起こす未来しか見えないのでもちろん拒否しましょう。

 

 

 _______________

|              |

| 私も連れて行きなさい!  |

|              |

|              |

|              |

|              |

|               |

| → はい    いいえ  |

|              |

|_______________

 

 

 

 

 …………

 

 

 

 _______________

|              |

| 私も連れて行きなさい!  |

|              |

|              |

|              |

|              |

|               |

| → はい    いいえ  |

|              |

|_______________

 

 

 

 

 おっふ……。何だこのメスガキィ!完全に無限ループのパターンに入りましたね……。こうなってはどうやっても後をつけてくるので仕方ありません。後で説明するのも面倒ですし連れていくことにしましょう。

 

 

 

 さて、メスガキを連れてやってきたのはシルヴィと最初に出会ったときにお茶した喫茶店です。アイドルが密会に使用するだけあってこういう内緒事には重宝するのでRTA走者だけでなく通常プレイで悪役ムーブしたい人は結構使ってますね。

 

 やることもないので適当にメスガキと会話して時間を潰しましょう。

 

 

 

 少女雑談中……

 

 

 

 お二人さんともやってきましたね。最初は警戒されてエルネスタだけが来るかと思いましたが一々話をしなくて済むので楽で助かります。

 

 っと、いきなりエルネスタがホモ君の頬にキスしてきましたね。原作主人公にもホモ君にやったことと同じことをやってましたが、割と実力のある人間にはちょっかい掛けたがる性分なのでしょうか。傍から見ると初対面の人間にキスするビッチにしか見えないですが彼女は天然なので周りの視線など気にしません。アルルカントルートをプレイしていた兄貴達は彼女の天然ぶりはよくお分かりだと思います。

 

 というか、さっそくメスガキがホモ君にキスしたエルネスタにガンを飛ばしているのですが、大丈夫でしょうかねぇ。エルネスタの方はゲラゲラと楽しそうにしているので良いのですが、メスガキの乱入による影響で何かしらガバらないことを祈るしかありませんね。

 

 さて、本題に入りましょう。今回頼む武器はロボス遷移方式を利用した剣型煌式武装と、煌式遠隔誘導武装のアイデアを利用した爆弾です。簡単に言ってしまえばリミッター解除で爆発的に火力が増す剣とファ○ネルミサイルです。

 

 片方の煌式遠隔誘導武装を応用した爆弾ですが本来なら3年後ぐらいに開発されるもので、普通なら今からでも2年ぐらいの開発期間が必要となりますが、なんとこの2人なら1年以内で開発してくれます。まじでこの2人チートキャラっすね……。

 

 細かい所はまだですが、依頼を受けてくれるということで纏まりました。よしよし吉三。これで武器開発の目途は経ったので、武器面での不安は無くなりましたね。定期的にアルルカントに出向かなきゃいけないのは少し面倒ですが、ヤンデレ剣ばかり使っていると肝心のオーフェリア戦で完全に能力の種が割れた状態で戦わないといけないからね、しょうがないね。

 

 密会も終わり、メスガキと界龍(ジェロン)まで帰るともう日も暮れているのでさっさと寝ることにしましょう。……ん?

 

 おっと、メールですね。どれどれ……お、シルヴィから優勝のお祝いでどこかデートに行こうとお誘いが来ましたねぇ。もちろんイキますよーイクイク。というわけで、週末にデートの約束を取り付けました。いい感じですねー、感情喪失解除のための好感度稼ぎも順調に進んでいってますし、もう片方の『孤毒を救う騎士』の方の取得のためのフラグ立てをし始めても良いかもですねぇ。

 

 それでは週末まで適当に特訓するので倍速。

 

 

 

 少女特訓中……

 

 

 

 週末になったので約束していた商業エリアの広場で待っていましょうか。RTAするに当たってこの待ち合わせの時間、何もすることがないんでイライラタイムではあるのですが、それと引き換えに好感度を下げたくはないので我慢して待っていましょう。

 

 

 

 

 ……

 

 

 …………

 

 

 ……………………

 

 

 

 

 すいませ~ん、木下ですけど、ま~だ時間かかりそうですかね~?

 

 って、ミルシェがどうしてここへ?普段はルサールカのメンバーとつるんでる事が多いので一人だけというのは珍しいですね。何々……ホモ君に伝言?

 

 は?ホモ君が人殺し一族の人間かもしれないから関わらないように学園側がシルヴィを遠ざけている?

 

 ふざけるな!(声だけ迫真)

 

 どうして僕をそんなに困らせるんですか。これじゃあシルヴィ関連のチャート壊れちゃーう。やべえよ…やべえよ…。

 

 この手のヒロインと会えなくなるイベントは普通のイベントに比べて好感度が大きく増加するのですが、接触できないと一生好感度が固定のままというデメリットが付きまとってきます。通常プレイでヒロインとイチャコラしようとしてこういうイベントで詰んだ人が多いのではないでしょうか。

 

 特にシルヴィは女学院なので接触する難易度は結構高めです。どうにかしてチャートを早めに組みなおしてリカバリーを――

 

 

 今回はここまで。ご視聴ありがとうございました。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

裏話12 交渉

良いタイトルが思いつかないので初投稿です。


「──以上のことから今回の鳳凰星武祭(フェニクス)もそれぞれの生徒が切磋琢磨し、素晴らしいものになったかお分かりと思います。特に、今回優勝した二人はまだ中等部1年。この結果はいかに若い者であるとしてもその実力によって等しくチャンスは与えられるものだということが……」

 

 鳳凰星武祭も終わり、壇上では運営委員長のマディアス・メサが主に視聴者や観客に向けての総評を行っている。基臣としては余り興味のないことであったため、態度は崩さず試合の疲労を取るため身体の力を抜く。普段なら沈華が何か言ってくるのだろうが、緊張しているのか少しそわそわとした様子で身体を縮こまらせている。

 

「さて、それでは第二十三回目の優勝者と準優勝者をお呼びしよう。──四人とも、こちらへ」

 

 休んでいるとマディアスから壇上に登るよう言われ、階段を上がってたどり着くと観客席からは盛大な拍手と歓声が巻き起こった。

 

 先に、虎峰とセシリーから表彰が行われ握手を交わした後、大きなトロフィーが贈られる。

 

「次に誉崎基臣、(リー)沈華(シェンファ)の不屈の精神と強固に結ばれている絆、そして華々しい勝利をここに称える。──優勝おめでとう」

 

「ありがとうございます」

 

 優勝したことに対する賛辞と共にマディアスの大きい手が沈華の手をぐっと握った。

 

「決勝戦での最後の星仙術、非常に興味深かった。この大会で一番タッグとしての成長が目覚ましいと思ったのは君たちだと思っている。今後とも頑張ってくれたまえ」

 

「は、はい!」

 

 次にマディアスは基臣と向き合うと、沈華と同じように力強く握手を交わす。

 

「今回の大会が盛り上がったのは間違いなく君の実力のおかげだと思っている。特に決勝戦での戦いは。個人的にも面白いものを見せてもらったと思っている。次の星武祭でまた君の活躍を見れることを楽しみにしているよ」

 

「ああ」

 

 アスタリスクの象徴たる六角形の紋章が刻まれたトロフィーを両手で受け取ると、マディアスに肩に手を置かれ、観客席に向きを変えるよう促される。

 

 しかし、マディアスが肩に手を置き向きを変えさせる瞬間、基臣は異様な視線を受ける。

 

(なんだ、この視線は。同情……? いや違う、この感覚は……)

 

「では改めて今大会に熱気と感動を生み出してくれた彼らに盛大な拍手を!」

 

 観客から湧き上がる拍手によって、マディアスから受けた視線に乗せられた感情の正体が掴めないままこの大会の閉会式の幕は降ろされた。

 

 

 ────────────────────────―

 

 

「今回の星武祭(フェスタ)、ご苦労じゃった。二人ともよくやったわい」

 

 閉会式が終わった後、基臣と沈華(シェンファ)は報告をしに星露(シンルー)の元を訪れていた。

 

「ああ」

 

「ありがたきお言葉です」

 

「見事、儂の課題もこなした事じゃし来年の獅鷲星武祭はおぬしらをチーム黄龍の一員として入れることにする」

 

 その言葉に沈華(シェンファ)は困惑した様子で応える。

 

「基臣はまだしも、私もですか?」

 

「そうじゃが、何か不満でもあったかえ?」

 

「いえ、チーム黄龍の一員に選んでいただけてむしろ光栄ですが、私などが入って大丈夫なのでしょうか。他にも候補はいるはずですが……」

 

「なーにを言っとる。決勝戦のおぬしの戦い方、いい線行っとったぞ。星仙術も自分に合った形で独自に改良したようじゃし、十分おぬしは入るだけの資格はあると思っとる」

 

「……承知しました」

 

 納得し切れてはいないものの、他でもない天有万羅が言っているため沈華(シェンファ)は素直に聞き入れた。

 

「俺は用があるから出るぞ」

 

 その後、基臣は用があるのか星露といくつか話を済ませると、立ち去って行った。

 

「ところで、おぬしは願いは何にするのか決めたのかえ?」

 

「いえ……。どんな願いにすればいいのか悩んでいまして」

 

「ふむ。まあなんでも願いを叶えられる貴重な機会じゃ、期限ギリギリまでゆっくり考えるのもええじゃろう」

 

「はい」

 

「……そうじゃ。息抜きに基臣についていったらどうかえ。何やらあやつ面白げな事に手を出そうとしておるようじゃからのお」

 

「面白いこと、ですか?」

 

「ついていったら分かるわい。丁度一時間後ぐらいに動くようじゃから門で待っておくとええ」

 

「はぁ……」

 

 

 

 ────────────────────────―

 

 

 

(結局、師父の言う通りに門の前まで来たけれど……面白いことって何なのかしら)

 

 しばらく門の前で待っていると基臣がこちらへと向かってきていた。誰かと用があるのか最低限の服装しか着ない普段と違い、ちゃんとした服装で着飾っている。

 

(来た……!)

 

「沈華か。どうしたんだこんなところで」

 

「特に何かあるわけじゃないわ。それより貴方その恰好でどこ行くのよ」

 

「別に、お前には関係ない要件だ」

 

 ぶっきらぼうな物言いに少しムッとするが、もともとこんな性格だったのを思い出したため今更かと思った。

 

「人に言えないことなのかしら」

 

「……アルルカントの人間と少し商談がある。特に面白い話があるわけでもない」

 

「ならその商談、私も連れて行きなさい。貴方一人だと不安だし」

 

「いや、一人で問題ない」

 

「その商談、私も連れて行きなさい」

 

「いや、だから」

 

「その商談──」

 

「……ふー、分かった。連れて行ってやるが変な真似はするなよ」

 

「分かってるわ」

 

 しつこく粘ってくる沈華(シェンファ)に根負けした基臣は仕方なしにと溜息を吐きながら承諾することとなった。

 

 沈華がついてくるという想定外の出来事はあったものの、時間通りに喫茶店に来ると後で二人追加で来ることを店員に告げ、シルヴィといつもの使っているテーブルへと向かい椅子にかける。商談先が特段気を遣う相手ではないので先に注文をして、飲み物を飲みながら来るのを待つ。少しの間暇を潰していると、ドアベルの音と共に二人の女生徒が店に入ってくる。

 

「来たか」

 

 基臣は席を立つと二人を席へと案内する。エルネスタは基臣だけが来ると思っていたのか、席に座っている沈華(シェンファ)を見ると少し目を丸くする。

 

「ありゃ、君の隣の子は今回のタッグの子じゃない。今回の件の関係者?」

 

「俺の監視役だそうだ。口をはさむことは基本無いから安心してくれ」

 

「ふーん、そっか。んでんで、君があの剣士くんねー。なーるほどなーるほど。ほおほお」

 

 じろじろと眺めるように基臣を近づいて観察すると、楽しそうに何度もうなずく。

 

「おー、なかなかいいねー。気に入っちゃった!」

 

 初対面の人間である自分の何処が気に入ったのかよく分かっていない様子の基臣にエルネスタはちょいちょいと手招きしてくる。

 

 実に楽しそうな雰囲気は伝わってくるものの、害意は感じないため言われた通り少し身を屈めて近づくと、頬に柔らかな感触を受ける。何かと思って目を向けると、エルネスタの唇が頬に当たっていた。

 

 エルネスタの顔を見ると、薄く顔を赤らめながらもどことなく嬉しそうな表情をしている。

 

 突然の行動に沈華は顔を赤くしつつもその姿をまじまじと見てしまう。基臣は別に何とも思っていないのか無反応なため少しエルネスタは不服そうに顔を膨らませる。

 

「ありゃ、反応なしか。ちょっと残念かなー」

 

「ちょ、ちょっと! いきなり何を!」

 

 人目を厭わない突然の奇行に沈華(シェンファ)が近づいて止めようとするが、エルネスタは基臣の後ろに回ってその身体を盾にすると面白そうな顔をしている。

 

「にゃははー、もしかしてその女の子は彼女さんだったかな? かわいいにゃー」

 

「友人だ、お前が言うような恋愛関係はない」

 

「ふーん。といってもその子はそうは思ってないみたいだけど

 

 小声で言ったことの意味が分からず基臣はエルネスタにその意を問おうとするがもう一人の少女が腰を折って謝罪してきたのでそちらに意識を向ける。

 

「エルネスタが失礼をした。彼女に変わって謝罪しよう」

 

「ほら沈華(シェンファ)、そこら辺にしておけ。別に俺も怪我をしたとかいう訳でもない」

 

「む……」

 

 カミラの謝罪もあり、これ以上の言及は基臣の立場を悪くすることを察して避けることにした。とはいえ、エルネスタに対する警戒は未だに解いていなかったが。

 

 二人を席に着かせ、店員に二人分の飲み物を注文するとさっそく話を始める。

 

「で、本題に移ろうか」

 

「ああ、そうだな」

 

「今回の要件だが、お前たちに俺の武器を作ってもらいたい」

 

「……君の武器をか?」

 

「ああ、この前の例の多腕のカラクリ。あれを開発したのはお前たちの学園だろう」

 

「ああ、センティマニデバイスの事か。確かにあれは我々《獅子派(フェロヴィアス)》の作品だ」

 

「俺の学園の煌式武装に関する技術は俺の要求を満たすものを作れないレベル、正直に言ってしまえば鈍らレベルだ。だが、アルルカントはこのアスタリスクの中では煌式武装に関して一番の技術力を誇ると聞いている」

 

 界龍(ジェロン)の技術力に対する率直な物言いに隣から非難の視線が向けられるが、付き合っていたらキリがないので基臣は敢えて無視した。カミラは少し納得したような表情を見せるが、それと同時に気に食わないというような雰囲気を隠さずぶつけてくる。

 

「君は私がどういう信念を以て、煌式武装(ルークス)の開発に携わっているのか分かってその要求をしているのかな」

 

「確か、お前は誰でも使用できる強力な武装を目的として研究している……だったか」

 

「それを理解して尚、私に依頼するということの意味は理解しているだろうな」

 

「まあ私はそこらへんのこだわりはないからどっちでもいいんだけどねー」

 

「もちろん、お前の矜持を傷つける行為だという事は理解している。だから、こちらもそれ相応の誠意として納得できる報酬を出そう」

 

 その言葉にエルネスタは目を細めると基臣をじっと見つめてくる。

 

「で、剣士くんはどんなものを差し出してくれるのかな?」

 

「ウルム=マナダイトを1つ」

 

「「……!」」

 

 その言葉にエルネスタとカミラは思わず息を呑む。それだけ基臣の提示する報酬は一介の学生に充分すぎるほどの物であるということを意味していることはその場の雰囲気で分かる。

 

「ウルム=マナダイトも直接お前たちが選別してもらって構わないし、もしそれが気に入らないなら俺の星武祭(フェスタ)の願いの権利を好きに使ってもらって構わない。まだ願いの権利は行使していないからな」

 

 想定以上の報酬に二人は少し考えるが、やがて考えは纏まったようだった。

 

「……これは中々大盤振る舞いだねー、さすがに断り切れないかなー」

 

「君の覚悟は分かった。こちらもそれ相応の覚悟を決めさせてもらおう」

 

「ということは」

 

「ああ、交渉成立だ。よろしく頼む」

 

 基臣とカミラは互いに力強く手を握ると、交渉成立の意を示した。

 

「それで、どんな武器を欲しいんだ」

 

「剣と遠隔誘導爆弾の2つだ」

 

「剣はともかくとして遠隔誘導爆弾か……。まだ構想段階でまともな検証をしていない代物なんだがな。中々無茶なお願いをしてくるな」

 

「優勝1回分の願いをお前たちに報酬として提供するんだ。当然の要求だろう」

 

「まあ、それもそうか。できるだけ要望は聞かせてもらうとしよう。他に要求は?」

 

「次の王竜星武祭が終了するまでは開発した武装のデータを利用することを禁止させてもらう。それ以降は好きにしてもらって構わない」

 

「まあそれはそうだろうな。了解した」

 

「それと、武器に関する要求は流石に口頭で言うのも限界があるだろう。素人ながらだがある程度の要求が書かれているデータをそちらに送る。確認してくれ」

 

 端末を開くと基臣はそれぞれに武装のデータを送付する。

 

「おー、これは中々の面白武器だねぇ。専門外とはいえ煌式武装(ルークス)に関する資料は読み込んでいるつもりだけど、このリミッター式の武装は初めて見るなー」

 

「リミッターを敢えて用意することでロボス遷移方式による出力を爆発的に増加させるのか……。まあある程度の制約はあるだろうが出来ないことはないな」

 

 その後、武器の要望に関する話もある程度煮詰まったため今日はこれでお開きということになった。

 

「それでは、また今度アルルカントに来てもらうということで」

 

「じゃあ剣士くん、まったねー」

 

「ああ」

 

 アルルカントの二人組が去っていったのを確認すると、界龍(ジェロン)に帰ろうと歩き始めたが沈華(シェンファ)に袖を摘ままれ動きを止める。

 

「どうしたんだ?」

 

「基臣はああいう女の子が好きなのかしら」

 

「……ん? どういうことだ」

 

 いきなり脈絡もない質問をされ少し話が詰まるが、先のエルネスタのキスの事を思い出して得心する。

 

「あまり落星工学に興味の無いやつには聞き覚えがないかもしれんが、あいつらはアルルカントの中でもトップクラスの才を持っている。だから、俺の武器を作ってもらうよう交渉しただけの話だ。他意はない」

 

「そう、なのね。よかった

 

 基臣は沈華(シェンファ)のホッとした様子に判然としなかったが、ひとまず新しい武器の目途が立ったことに安心するのだった。

 

 

 

 ────────────────────────―

 

 

 

 鳳凰星武祭が終わってから一週間程、ピューレを用いて何度か素振りをしていると、端末からメールの着信音が聞こえたためいったん鍛錬を中止する。端末を開くと、基臣はメールの送り主を確認する。

 

「シルヴィからか」

 

 

 

 ────────────────────────

 

 やっほー基臣くん

 

 この前は鳳凰星武祭優勝おめでとー

 それで、今度の週末なんだけど優勝のお祝いということで一緒に遊ばない? 

 もし大丈夫なら商業エリアの噴水広場に集合ということでよろしくね

 

 シルヴィア

 

 ────────────────────────

 

 

 

 鍛錬をする以外特にやることもない基臣は同意のメールを送ると、再び鍛錬を再開しようと待機状態だったピューレを再び起動させる。

 

 剣を正眼に構えると神経を研ぎ澄ませる。極限まで研ぎ澄まされようという直前に集中力が持たなくなり、膝から崩れ落ちた。

 

「極伝はまだ習得できないか……」

 

 アスタリスクに来てから数か月、たくさんの戦闘経験を積んできたが初代の秘奥である誉崎流極伝を未だ習得できていなかった。

 

 ──『シゲノブ以外に極伝を使う人間は見た事がないよ。まあでも基臣なら極伝を習得できる素質はあると思うけどね』

 

 鳳凰星武祭が終わってからしばらく、ピューレとのお茶会に呼ばれたため、そこで極伝に関する情報をもらったが、それを参考にしても上手く再現できていなかった。

 

「まあピューレも習得できるだろうと言っていた。後は修練あるのみか」

 

 自分に出来るようになると言い聞かせると、再び習得のための鍛錬に励むのだった。

 

 

 

 ────────────────────────―

 

 

 

「遅いな……」

 

 待ち合わせの噴水広場で待っていることしばらく。既に約束の時間から1時間は経過しようとしており、手持ち無沙汰にしていると後ろから騒がしい音がするので振り返る。

 

「基臣!」

 

 突然後ろから息を切らしてやってきた少女を見て、前にシルヴィの追っかけをしていたグループのリーダーだったことを思い出す。

 

「たしかミルシェ、だったか。どうしたんだいきなり」

 

「はぁ、はぁ……。シルヴィが大変なんだよ!」

 

「シルヴィが? どういうワケか一から説明してくれ」

 

「それが……はぁ、はぁ……」

 

「まずは落ち着け。水だ、まだ口を付けてないから飲め」

 

 息を整えたミルシェは渡された水をゆっくりと飲むと落ち着いたのか事の経緯を話し始める。

 

「今、基臣に例の噂が流れてるじゃん」

 

「ああ、ニュースサイトに載っていたから知っている」

 

 あの噂と言われてニュースサイトで流れていた基臣に関する噂のあれこれを思い出す。

 

「べ、別に私達は基臣が事件に加担するような人間だなんて思ってないから! でも……そのせいで、シルヴィがペトラさんに缶詰にされて身動きが取れないって……」

 

「なるほどな……まあ当然と言えば当然か」

 

 今の基臣は良くも悪くも世間から注目されている。仮に悪い方向にイメージが向いていった場合、万が一でも交友関係をシルヴィが持っていることがバレたらトップアイドルという肩書きに傷がつく可能性があるということはアイドルの世界に詳しくない基臣にも理解できた。特にクインヴェールはアイドル育成機関の側面を持っているので他の学園に比べて世間からのイメージには敏感だ。基臣を警戒してもおかしくない話ではある。

 

「……とりあえず行くだけ行ってみるか」

 

「どこに行くの?」

 

「クインヴェールに。そのペトラという人間に詳しい事情を聴かないと話が始まらん」

 

「い、いや多分基臣の事入れてくれないはずだよ。普段でも女子校ってことで中々男は入らないのに、基臣だって知ったら間違いなく門前払いに……」

 

「とりあえず行ってみるしかないだろう。現状他に打てる手がない」

 

 基臣の真剣な顔を見て、何か揺り動かされたのかミルシェは一人頷く。

 

「……分かった! それなら私もついていく。その方がペトラさんに話を通しやすいだろうし」

 

「そうか。すまないな、俺の事情に巻き込んで」

 

「いいのいいの。ライバルが勝手に調子を落とされたら張り合いがないじゃん。ほら、ついてきて」

 

「ああ」

 

 ミルシェに手を引かれるままに基臣はクインヴェールへの道を進むのだった。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

part13

いつものように難産なので初投稿です。ガバガバな部分があったら修正します


 障害を乗り越えてメインヒロインのハートを掴みに行くRTAはーじまーるよー

 

 前回はホモ君のイメージの悪さのせいでシルヴィと離れ離れになったところです。

 

 とりあえず事情が聴きたいので、シルヴィのマネージャーであるペトラさんに話を聞きに行きましょう。ミルシェ経由であれば流石に話ぐらいしてくれるはずです。(希望的観測)

 

 おっし、中に通してくれましたね。猛抗議で無理やり接触できるようにしましょう。おら、ババア。シルヴィに会わせろやゴラァ! え、誉崎家の生き残りだという噂の裏が取れているだけにイメージのためにもシルヴィに会わせるわけにはいかない? 会いたいならホモ君が悪い事をしない証明をしろ?

 

 ふざけんな!(声だけ迫真) 何も悪いことしてないのに、悪い事をしない証明をしろとか悪魔の証明か何かかな? 言いたいことはそれだけだからさっさと出ていけって……こちとら文句はたくさんあるんやぞ! 

 

 あああああああもうやだああああああ!!(内なるひで)

 

 追い出されてしまった訳ですが、この状況どうすっぺ……どうすっぺ……。さすがにクインヴェールに不法侵入してシルヴィに直接会いに行くのは本人が声を出したり、他に監視が同室にいる可能性を考えるとそういう手は使うわけにはいかないですし……。

 

 あ、そうだ。こうなったらロリババアが出席するそれぞれの学園の生徒会長が出席する六花園会議に引っ付いて直接会いに行けばいいじゃないですか。ゲーム内ではシルヴィが中等部1年から生徒会長をしているという設定になっているので都合がいいですね。星武祭が終わってしばらくという事で次の獅鷲星武祭に関する予定などの話し合いがあるため、2日後と割と良いタイミングです。普通なら生徒会長しか入れない秘密の花園ですが、ロリババアの特権でなんとかしてもらいましょう。(他力本願)

 

 そうと決まったらロリババアに頼み込みましょう。ロリエモーン、僕を六花園会議に連れて行ってー。

 

 お、連れて行ってくれるみたいです。

 

 シルヴィと会う目途が立ちましたが、遭遇できるなら早い方が良いですし一応会える可能性を考えて再開発エリアの方に行ってみましょう。

 

 

 

 少女疾走中……

 

 

 

 いませんねえ。流石にホモ君と引き離した当日に再開発エリアに行くことはありませんか。仕方ありません、翌日も再開発エリアの捜索をしつつ明後日になるまで倍速です。

 

 

 

 少女迷走中……

 

 

 

 さて、昨日も再開発エリアを捜索しましたがシルヴィはいませんでしたが、まあ本命はこれからです。

 

 さっさと六花園会議が開催されるホテルへ行きましょう。お邪魔しまーす(ピンキー)

 

 さーて、シルヴィはいるかな……っていない! いないぞ! 

 

 なぜだ……。いや、冷静に考えてみれば原作でもシルヴィが六花園会議を欠席するなんてことは何回もあったし、今の状況を考えれば参加させるはずがないです。

 

 

 

 ……

 

 

 …………

 

 

 ……………………

 

 

 

 あーもうめちゃくちゃだよ。完全にガバで頭がやられてますねクォレハ……。これじゃRTAじゃなくてちょっとプレイが上手い実況動画になっちゃうじゃないですか、やだー。

 

 

 結局、何の成果も!!得られませんでした!!状態なわけですが、どうしたものか……

 

 こうなったら六花園会議に行く前もやってましたが最終手段、再開発エリアでシルヴィを探すを実行するしかないようですね。シルヴィは人探しのため、再開発エリアに行くことに関してはペトラさんに止められても絶対に譲らないです。なのでそれを利用してシルヴィに接触しましょう。シルヴィがこの時期に来るか分からないから完全に運任せ? うるせぇ、これ以外手はねえんだよ! 文句あるか!(RTA走者の屑)

 

 

 

 少女捜索中……

 

 

 

 お、見つけましたよ。っと何やら誰かに襲われてピンチのようですね。まるで漫画みたいなご都合展開だぁ。まあゲームなんですけど。

 

 って、おファッ!? 誰が襲っているのかと思えばヴァルダ=ヴァオスですか。いやーチャートで予想するよりも結構早く遭遇しちゃいましたねー。

 

 ヒロインのピンチとあらば早速駆けつけましょう。チャートでは本来ならもっと後に再開発エリアで出待ちしてヴァルダに襲われている所に駆けつけて好感度を稼ぐ予定でしたが、少しズレ込んだだけなので問題ないです。

 

 いきなりヴァルダと言ってなんのこっちゃと言う初見さんのために解説すると、この女の人の首に掛かってる首飾りのことで、見ての通り純星煌式武装(オーガルクス)です。こいつは精神操作系の能力を使ってきますが、その代わり持ち主は身体を奪われるという本末転倒な制約が課されてしまいます。とはいえ、ヤンデレ剣ちゃんみたいに現実改変するほどの能力ではありませんが。それだけだったらヤンデレ剣ちゃんの下位互換やんけと言う方もいるかもしれませんが侮るなかれ、こいつはヤンデレ剣ちゃんと違って黒い光という形で遠距離攻撃として精神攻撃を飛ばしてきます。ついでに首にかけるタイプなので手を塞ぐことがないのも中々の厄介な要素です。

 

 他にも、能力の黒い光で戦斧などの武器を自在に作り上げることで近接戦にも対応してきます。光、ってなんだよ。(哲学) ついでに本来の身体の持ち主はシルヴィの師匠だったウルスラという人間でそれ故に身体能力が高いので容易に倒せる相手ではないです。(さりげないネタバレ)

 

 ヴァルダが能力でシルヴィから持ち主であるウルスラとの記憶を消そうとしてるので途中で割り込んでヤンデレ剣ちゃんで黒い光を攻撃して能力を消してしましょう。この時さりげなく大丈夫かと気遣う言葉をかけると好感度が上がります。(豆知識) 

 

 おっと? ヴァルダが攻撃を中止してこちらに近づいてきましたね。ん、私と手を組まないか? 断る……って、ああホモ君じゃなくてヤンデレ剣ちゃんに聞いてるみたいですね。話を聞いてる感じ、今回のシルヴィの襲撃も、ヴァルダと同じ意思を表に出せる純星煌式武装(オーガルクス)であるヤンデレ剣ちゃんを勧誘しようとしてホモ君を探している途中でたまたまシルヴィに見つかったからという感じですね。たまたまとは言えこのイベントを発生させてくれたのはありがたいですねぇ。

 

 しばらくの間、勧誘タイムが続きますがなんかヴァルダの発言の一部にヤンデレちゃんを怒らせるものがあったようなので交渉は決裂しました。

 

 さて、ヴァルダ戦です。黒幕さんがペアで行動していたらいくらホモ君でも攻撃をさばききれなかったでしょうが、幸いにも今回はヴァルダ1人だけの単独行動なのでチクチクとダメージを与えて相手が撤退するギリギリのラインを攻めましょう。ここで倒して身体の持ち主であるウルスラを開放してしまうとシルヴィの好感度が上がりすぎてしまうことに加え今のホモ君との隔離措置による相乗効果でヤンデレ面に落ちてしまうので注意が必要です。(5敗) 

 

 あ、ちなみにヤンデレ化したシルヴィ姉貴が見たい兄貴たちのために別撮りで後々はアイドルを辞めてホモ君に常にべったりなシルヴィの映像を用意しているので見たい方は投稿されるまで少々お待ちくださいませ。

 

 話を元に戻しますが、普通ならばヴァルダの攻撃を防ぐことは難しいです。特に普通の煌式武装(ルークス)であれば黒い光に攻撃したり、ガードしようとしても触れた瞬間に機能を停止されて、その武装は使えなくなってしまうという糞オブクソ能力です。ですが純星煌式武装クラスの武器、今回で言うとヤンデレ剣ちゃんがいるので黒い光を切ることができます。したがって、回避だけの縛りゲーをする必要はないです。

 

 さすがに奧伝を使わないと上手く近接戦に持ち込ませてくれませんね。よしんば接近できても黒い光で作り上げた斧で迎撃されてしまうわけですが。この段階で倒すのを推奨されていない敵なので当然といえば当然なんですけどね。

 

 

 

 ……すいませ~ん、木下ですけど、ま~だ時間かかりそうですかね~。

 

 

 

 ……ようやっと撤退してくれましたね。割と長引かされましたが私は元気です。さて、シルヴィの様子を……。どうやら記憶も消されてなくて無事のようです。

 

 ヴァルダ襲撃イベントを終えるとシルヴィは自らの過去を暴露し始めます。

 

 元々シルヴィは故郷の村で星脈世代(ジェネステラ)であるがために引っ込み思案な性格でしたが、たまたま旅をしていた師匠であるウルスラと出会うことで色々な事を教えてもらい快活な少女へと成長していくという過去があります。

 

 アスタリスクには突如連絡が途絶えたウルスラに会う事を目的としてやってきたわけです。それがまさか、信じて送り出した先生が乗っ取られて無表情能面女になるなんて……状態になるとは思っていなかったわけですから精神的ショックは大きいようです。特に高等部になって遭遇した原作と違って中等部1年という精神的に未成熟な時期に出会ってしまった訳ですから猶更です。

 

 過去話を終えた時にウルスラの捜索に協力するを選択すると好感度が一気に上昇します。

 

 あぁ~! 好感度上昇の音ォ~!! 

 

 これはかなりモリモリと好感度が上がりましたねぇ。シルヴィが自らの過去を暴露+ホモ君に助けられるの2つが重なったことが大きな要因でしょうか。見ろよこのメスの顔をよぉー、完全に惚れてますわ。といっても、まだ好感度上昇の余地はあるのでこれからもじっくり私好みの女の子になるように調きょ……ゲフンゲフン、交友を深めていこうと思います。

 

 さて、このまま置いておく訳にもいかないのでクインヴェールまで送って、ついでにペトラさんに事情を説明することにしましょう。

 

 道中、手繋ぎイベントが発生して二人の甘酸っぱい会話を見ることが出来ますが、RTAなのでカットです。(無慈悲)

 

 クインヴェールに行くと、マネージャーのペトラさんが学内にいますので、事情を話してシルヴィをお返しすることにしましょう。事情を説明すると感謝の言葉を貰いました。ホモ君の行動を見て信頼に値する人間だと思ったのか今後は接触オーケーのようです。やったぜ。

 

 ただ、ペトラさんからシルヴィに危害を加えるようなことはしないことを厳命されました。ちょっと上から目線過ぎるんとちゃうん? まま、ええわ。今回は許したる。

 

 ついでにホモ君が噂のように人殺しをしたらアスタリスクを出て行くって勝手に言っちゃいましたが、まあこのチャートでは人を殺すメリットが全くないですし、する予定もないので(問題は)ないです。

 

 さて、シルヴィの熱い視線を受けながらこのまま界龍(ジェロン)に帰ることにしましょう。

 

 なんとかシルヴィとの接触禁止も解除されたことですし、更にイベント2、3個分の好感度が上がったのでトータルで考えると割と悪くはなかったのではないでしょうか。走者のメンタル的にはとてつもなく負荷がかかりましたが。(白目)

 

 シルヴィとの好感度稼ぎも順調に進んだので、これからはエルネスタ達の試作した武装のテストだったり、オーフェリアとも接触をしていってもう一つの『孤毒を救う騎士』の取得のための準備を──

 

 

 今回はここまで。ご視聴ありがとうございました。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

裏話13 黒い閃光

シルヴィのヤンデレパート投稿予定の行にここすきが集まってて少しクスッと来ました
やっぱみんな好きなんすねぇー
もちろんヤンデレパートはifルートとしてしっかりと書きますので少々お待ちを

後、六花園会議パートは自分が見返してもあまりにも見どころさんの作り場所がないので大胆にもカットさせていただきます。

快活な女の子を闇落ちさせる使命を天から授かったので初投稿です。


 

 案内された基臣はクインヴェールに行くと、ミルシェに仲介してもらい中に入れてもらうことが出来た。

 

 応接室まで通されると、既に中にはシルヴィアのプロデューサ―らしき女性がソファに座っていた。

 

「どうぞ、そちらに掛けてください」

 

「失礼する」

 

 一言断りを入れてソファに座ると、女性が先に話し始めた。

 

「シルヴィのプロデューサーをしています、ペトラ・キヴィレフトです。早速本題に入りましょうか」

 

「正直に申し上げましょう。彼女の今後を考えると、貴方は一種の爆弾になり得てしまう。したがって今後はシルヴィと会わないでもらいたいのです」

 

 ミルシェは立ち上がってペトラに詰め寄る。

 

「ペトラさん、基臣は悪い人間じゃないよ!前だって私のことを助けてくれたし、それに……」

 

「仮にそうだとしても、我々クインヴェールの人間はイメージが第一な以上、悪い噂は出来る限り排除しなければならないのですよミルシェ」

 

 ミルシェを宥めると、言い聞かせるように丁寧に話しかける。

 

「もちろん鳳凰星武祭優勝という栄誉は確かにプラスかもしれません。しかし、誉崎家の生き残り。この一点だけで悪いイメージも持ち込まれている。それはニュースサイトのみに限らず、SNS、個人ブログ。面白半分でその情報を拡散した人達によって、もうすでに幅広く、良くも悪くもイメージが広まり切ってしまっている」

 

 ペトラは端末を開くと、様々なページの画像を出現させる。言われてみるとなるほど、良くも悪くも基臣が注目されていることが分かる。

 

「貴方が有名である以上、これからは貴方と一緒にいる人間までチェックされる。特にシルヴィは変装はしていてもクインヴェールの校章を身に着けているのですから猶更です」

 

 私情を挟まず淡々とペトラは説明していく。

 

「仮に貴方が全く悪意のない善良な人間だとしても、噂の裏が取れている以上シルヴィのこれからを思えば会わせるわけにはいかない。噂を否定するにはそれこそ貴方が悪人でないという証明をしなければいけない。それは短期間では無理があることは貴方自身が分かっているでしょう?」

 

「…………」

 

「基臣……」

 

 基臣はソファから立ち上がると、ドアを開け部屋から出ようとする。

 

「邪魔したな」

 

「あ、基臣……っ!」

 

 どうあがいても説得できないことを悟った基臣はミルシェの制止を聞くことなくその場から立ち去った。

 

 

 

 ――――――――――――――――――――――

 

 

 

 再開発エリアの廃棄ビル群。

 

 シルヴィアはペトラの制止を聞かず無理やり人探しに出ていた。

 

「無理やり出てきちゃったな……」

 

 再開発エリアでの人探しに関しては、何も言わないというペトラとの約束があるが、少々罪悪感が胸の中に残る。

 

 そんな気持ちでは人探しなど上手くいくはずもなく、ただただ時間だけを浪費していた。

 

「もう帰ろうかな、こんな気分で探しても時間の無駄だし」

 

 そう思い、クインヴェールへ向けて帰ろうとした時だった。

 

「ん、あれは……」

 

 フードを被った人が現れ、思わず目で追いかけてしまう。ただ気になって少し見ていただけだった筈だったが、フードから覗くその顔を見た瞬間、驚愕がシルヴィアの頭の中を覆いつくす。

 

 見間違いのしようがない。あれは―― 

 

「ウル、スラ……?」

 

 しばらくの間、あまりの出来事に唖然とするがフードの女がビルの向こうへと消えてしまうのに気づいて慌てて追いかける。

 

「ウルスラ!」

 

 必死に追いかけてその姿を瞳に映すと声を掛ける。しかし、その人影は止まることなく、ビルの合間を潜り抜けていく。あるビルに入っていくのでそれを追いかける形でシルヴィアも中に入っていく

 

「待って!ウルスラ!」

 

 もうこれ以上見失わないようにと精一杯走って、その人影に。会いたかったその人影に呼びかける。

 

 するとシルヴィアの呼ぶ声にやっと反応したのか足を止めて振り返る。フードを被りその顔の上半分は影で見えにくいが、美しく整えられた銀髪に影から覗いてくる綺麗な蒼い瞳。間違いようもない。

 

「ウルスラだ……」

 

 忘れるはずもない、自分に世界を教えてくれた人。この人がいなかったら間違いなく今の自分は無かった。そう言い切れるぐらいにはシルヴィアにとって、とても大切な人だった。

 

 出会えたことで思わずあふれ出てしまう笑み。あふれ出てくるこの気持ちをぶつけるために笑顔のまま近づこうとする。だが――

 

「だれだ、おまえは?」

 

 その言葉によって笑みは凍り付き、足は固まる。

 

「うそ、だよね?」

 

 彼女はいかに身体能力が高い星脈世代(ジェネステラ)と言えど、初等部を卒業してから少ししか経っていない。故に心はまだ未成熟。そんな心でその言葉は受け止めるにはあまりにも重すぎるものだった。

 

「ほら、私だよ。ウルスラ、覚えていないの?」

 

「だから誰だと言っている」

 

「あはは。もしかして私にしばらく連絡しなかったから気まずいと思って忘れてるフリをしてる?別に私はそんなことで怒らないよ」

 

 シルヴィアの様子に得心がいったのかフードを被った女はある結論を導き出す。

 

「……ああ、()()()()()()()()()()()()

 

「あ、はは……は?」

 

 あまりにも他人行儀な言葉、そしてこの身体という穏やかではない言葉にシルヴィアは笑うことが出来なくなる。

 

「マディアスめ、身内はいないと言ったはずだがな……」

 

 悪態を吐くとフードの胸元部分が露出する。

 

 そこには首に下げたネックレスのような物が黒い輝きと共にあった。

 

「……っ!?これは……な、なに……」

 

 黒い輝きが見えたと同時にシルヴィアの頭に激痛が走り、思わず蹲ってしまう。

 

「お前にいられると、いや覚えられると都合が悪い。その記憶消させてもらおう」

 

「あっ、あああああああ!」

 

 痛みを必死に堪えて、その場から飛び退くとさっきの痛みが嘘のように引いていく。

 

「はあ……はぁ……」

 

「思ったよりも星辰力(プラーナ)があるな。通りで効きが悪いわけか」

 

 攻撃されたことでシルヴィアもようやく現実を受け入れる。目の前にいるのはウルスラであってウルスラではないナニカだと。

 

「あなたは、誰?」

 

「お前に名乗る理由がない」

 

「なら無理やりにでも……」

 

 動こうとするが、シルヴィアの脳裏でウルスラの顔がちらついて二の足を踏んでしまう。

 

「やはり、人間は甘いな」

 

 再び黒い輝きがシルヴィアを包み込む。

 

「ぐ、あ、ああああああああああああああ」

 

「この記憶か、消させてもらおう」

 

 黒い光は頭の中に侵食してきて、ウルスラとの記憶を、大切な思い出を消そうとする。

 

(いやだ、忘れたくないっ!忘れたくないよっ!)

 

「だれか、助、けて……」

 

 記憶が思い出が塗りつぶされて消え去って――

 

「――っ、…………ぇ?」

 

 さっきまで頭の中を這いまわっていた痛みが突然消えた。記憶を消そうとしていたその不愉快な感覚が消えシルヴィは疑問を覚え目を開けると、目の前にいるはずの無い人がいた。

 

「基臣、くん?」

 

「大丈夫かシルヴィ」

 

 その登場の仕方はまるで小さい頃に読んでいた絵本に出てきた白馬の王子様みたいで――。

 

 様子をのぞき込んでくる基臣の瞳を真っすぐ受け止めれず、思わず顔を反らしてしまう。ドキドキと激しくなる胸の高鳴りを押さえつけてシルヴィアは質問する。

 

「あ、あのっ!どうして、ここに?」

 

「理由については後だ、それよりも……」

 

「やはり我の能力を容易く破ってくるか。これだから魔剣と呼ばれる類の存在は……」

 

「あいつとは面識があるのか?」

 

「う、うん。そうなんだけど、でも前見た時とは雰囲気が違うの」

 

 シルヴィアの説明を聞きながらフードの女の様子を見ると何か感じたのか、胸元のネックレスをジッと見つめる。

 

「なるほど。……おそらくあの首飾りか」

 

 その異質な雰囲気の正体をなんとなく察していると、フード姿の女は基臣へと近づいてくる。

 

「割り込んできたから誰かと思えばだったが、お前を探す手間が省けたな」

 

「……俺を?」

 

「私の名はヴァルダ=ヴァオス。要件を端的に言わせてもらおう。お前を金枝篇同盟に勧誘に来た」

 

「何の同盟なのか知らんが、お前のようなやつに――」

 

「お前には聞いていない、潔白の純剣(インヴィズ=ピューレ)に言っている。早く出てきたらどうだ」

 

『……貴方の前にわざわざ姿を見せる義理は無いわ』

 

 ヴァルダの問いかけに姿は現さないものの、脳内へと直接声が響いてくる。

 

「お前には同じ存在としてその強さに敬意を払っている。故に、忠告しよう。そこはお前のいるべき場所ではない」

 

『貴方に私がいるべき場所を指図されたくない。金枝篇同盟とかいうよく分からない同盟に参加するぐらいならこの中で納まっているのが一番』

 

「私には理解できんな。そんな窮屈な場所に閉じ込められるぐらいならその男の身体を乗っ取ればいいだろう。所詮はひ弱な人間、貴様ぐらいの能力の持ち主なら精神を壊すことぐらい容易い――ッ!!」

 

 ヴァルダはその言葉を言い切る前に凄まじい殺気を感じ取り、すぐさま基臣から距離を取る。ヴァルダの額にはその殺気からか意思とは関係なく本能的に冷や汗が流れる。

 

『貴方、言ってはいけないことを言ったね』

 

『私にとってモトオミは大切な存在なの。それを精神を壊す?身体を乗っ取る?馬鹿じゃないかな?』

 

『今のモトオミが大好きなのに。愛しているのにそんなことするわけないでしょ』

 

 ピューレの愛を語る言葉にヴァルダは鼻で笑う。

 

「長い年月を経て人間に絆されたか。惰弱な」

 

『もういいよ耳障りだから』

 

 その言葉と同時にピューレを取り巻く万能素(マナ)が煌々と光り輝く。

 

「ピューレ、やれるか」

 

『うん、任せて』

 

「勧誘は失敗か。だが人間に絆されてしまった純星煌式武装(オーガルクス)は計画の不安材料になり得る。これ以上の勧誘は得策ではないな」

 

 能力でわざとヴァルダと基臣の間にしかピューレの言葉が伝わらないようにしているため、見ていたシルヴィはどういう状況なのかまるで分からない様子だった。

 

「ね、ねえ基臣くん。どういう状況なのこれ?」

 

「すまんが余り説明する暇はない。それよりも離れておけ、今のお前を守りながら戦うのは無理がある」

 

「私も――ッ!?」

 

 立ち上がろうとシルヴィは足に力を込めるが、ヴァルダの攻撃を受けた影響かどことなく足元がおぼつかない。

 

「無理をするな、後は俺がやる」

 

 シルヴィは悔しそうな顔をするが、自分が足を引っ張ることを悟ると大人しく引き下がった。

 

 場の空気は既に双方が臨戦態勢になっていることから重圧がかかったかのように重々しい。

 

 不意打ち気味に首元のネックレスが妖しく光ると、黒い輝きが基臣を包み込もうとする。

 

 しかしピューレでその光を両断すると、ビルの柱を盾にしながら近づこうと動く。

 

「なるほど、柱を盾にするか。だが……」

 

 ネックレスは更に輝き、広範囲に光がばら撒かれる。

 

 基臣はピューレでその光を切り払いながら近づこうと試みるが、光の対処に気を配っている間に距離を取られてしまう。

 

「あの光が厄介だな」

 

 袖を捲ってピューレを己の腕の前に持っていくと、そのまま躊躇いもなく自傷行為を行う。

 

「お前……狂ったか?」

 

「さあ、どうだろうな」

 

 そう言うと基臣の姿は段々と薄れていき、数秒も経たないうちに視認できなくなるだけでなく星辰力や鬼気の気配すらも完全に消えてしまった。

 

「透明化か……小癪な能力を使う」

 

 基臣が姿を消すや否や黒い光を自身の半径数メートルの範囲を円状に薄く膜状に広げると動かずにじっとすることで相手からの攻撃を待つ。

 

 数秒後、ヴァルダの後ろ側から黒い光をかき消して向かってくるのを感知する。すぐさま振り向き迎撃のためにネックレスから漆黒の光が円弧状に放たれる。

 

「手ごたえがない。…………っ! 上か!」

 

 ヴァルダは直感でその場から飛び退くと、数瞬後にはそこにはクレーターが出来上がる。能力の時間限界なのか基臣は足元から姿を徐々に現わす。

 

「仕留めたと思ったがやり損ねたか」

 

 ピューレを構え直すと、基臣は仕掛けるタイミングを計る。

 

 しばらく状況が膠着していると今度も先にヴァルダから仕掛けてきた。ネックレスが光り輝き、先ほどよりも早く基臣へと襲い掛かる。

 

「何度も同じ手が通じると思うなよ」

 

 光が迫ってくるのに対し、基臣はその場へと留まって回避行動を取ろうとしない。

 

「誉崎流奧伝」

 

 剣を身に近く寄せて構えると、星辰力(プラーナ)を足に集中させる。

 

獄爛(ごくらん)

 

 

 

 一閃

 

 

 

 単純な動作だが、今まで使ってきた技と違ってその技は素早く、そして力強かった。

 

 

 

 間合い、黒い閃光――

 

 基臣とヴァルダの間にあるそれらの障害は一閃のもとに振り払われ、ヴァルダの身体を刃が捉える。

 

 

 

 予想外の痛手にヴァルダは大きく目を見開き、目の前に迫っていた基臣を見つめる。

 

 ようやくヴァルダにダメージを与えることが出来たが、あくまで借り物の身体だからなのかダメージを受けても痛みを感じる様子も無く距離を取ろうとする。そのついでに首飾りから黒い光を発散させて散弾の要領で放つことで基臣の機動力を封じに掛かった。

 

 しかし、基臣がピューレを一振りすると迫り来る光が一瞬で消失する。

 

「ちっ、厄介な……」

 

 手元に黒い光を収束させると斧を形作り、足元まで迫っていた基臣を薙ぎ払う。両足で踏ん張ることで薙ぎ払われる戦斧を受け止める。戦斧を消そうと能力を発動させるが相手は精神干渉の能力を持つこともあってか思うように消えない。耳障りな音と共に一撃に籠められた重さによって大きく後ろに滑っていく。

 

「遠距離だけのタイプかと思ったが……中々面倒だな」

 

 再び距離が離れ、それぞれ攻撃するタイミングを計りかねていると、ヴァルダは溜息を吐くと攻撃の体勢を崩す。

 

「……やめだ。これ以上は目立ちかねん」

 

「俺が逃がすと思うか?」

 

 致命打を与えるために基臣は動き始め――

 

「ウルスラ!」

 

 後ろから聞こえるシルヴィアの声に、あくまで今の目的は彼女を助け出すことだという事を基臣は思い出し、攻撃の手を止める。

 

 それを好機と見たのか一瞬眩く光り輝くとその場からヴァルダは消えていた。

 

「消えたか……」

 

「基臣くん!」

 

 柱にもたれ掛かって座り込むと、シルヴィアが駆け寄ってくる。

 

「大丈夫!?」

 

『私、疲れたから。おやすみ』

 

 基臣のことを気遣ったのかピューレは自ら待機状態へと変わる。

 

「ああ、大丈夫だ。能力の発動のために腕を多少切ったが、それ以外は特に問題ない」、

 

「見せて。治癒能力は使えないけど、応急処置ぐらいはできるから」

 

「いや別に――、分かった」

 

 一瞬断ろうとしたが、そうするとシルヴィアが不機嫌になる予感がしたので基臣は素直に受け入れることにする。応急処置をしながらシルヴィアはばつが悪いような顔をしながら話す。

 

「あー、ごめんね。私、大体の能力なら再現できるんだけど、治癒能力だけは出来なくてさ。ちょっと痛いかもしれないけど我慢してね」

 

「別に構わない。それよりもだ」

 

 基臣は応急処置をしてくれているシルヴィアに顔を向ける。憔悴した様子でいつもの快活な様子は今はどこにもない。

 

「さっきのフードを被った女とお前の間にどんな関係があるか聞いてもいいか?」

 

「……」

 

「無理にとは言わん。だが、今のお前の顔はとても無事とは程遠い」

 

 基臣はじっとシルヴィアを見つめていると、しばらくして観念したのかシルヴィアは話し始めた。

 

「昔の私は今とは違って引っ込み思案でさ、快活とは程遠い性格だったんだ。いつも一人で家に籠ってて本ばかり読んでばかり。でも、ある時にウルスラと出会った」

 

 シルヴィは端末を操作すると、一枚の写真を基臣の前に映し出す。そこには幼き日のシルヴィアともう一人――

 

「これはさっきの女……」

 

「そう。あの人、ウルスラは私の師匠だった人なんだ」

 

 写真は切り替わり、ウルスラとの思い出なのかたくさんの写真が出てくる。幼いシルヴィアがウルスラと歌っている姿や修行をつけてもらっている姿、一緒に動画を見ている姿――どれも楽しそうにしているのがよく分かる。

 

「歌だけじゃなくて色んなことを教えてもらったの、外の世界の事も身の守り方も」

 

「……いい、先生だな」

 

「うん、今の私があるのもウルスラのおかげだと思う。こうして基臣くんと仲良くなれたのも、ね」

 

 端末を操作して写真を閉じると、次は通話履歴を見せてくれた。

 

「別れた後も連絡を取ってたんだ。それがいつからかいきなり連絡が取れなくなって」

 

 そこには定期的に連絡をとっていたのかウルスラの名前がいくつか並んでいる。しかし、スクロールするとその名前も途中で途切れて見当たらなくなる。

 

「でも、連絡が出来なくなる直前、アスタリスクに行くって言ってたからもしかしたらと思って来てみたんだ」

 

「それで能力でウルスラを探したら詳しい場所までは絞り込めなかったけど再開発エリアにいるってことまでは分かった」

 

「だからこの場所をうろついていたのか」

 

「うん。それで今日ようやくウルスラを見つけることが出来た」

 

「やっと出会えたって、その顔を見た時は物凄い嬉しかった、でも……」

 

 拳を握りしめるとシルヴィアは顔を悔しそうに歪める。

 

「久しぶりにあったのにあんな事言われてさ。ちょっと……ううん、かなりショックだったんだ」

 

 話はそれで終わりなのか、そこでプツリと話が途切れる。暗い雰囲気にしてしまったのを自覚したのか無理やり笑って見せると基臣に話しかける。

 

「あはは、ごめんねこんな暗い話しちゃって。忘れて――」

 

「お前の師匠の捜索、手伝ってやる」

 

「え?」

 

「俺にも協力できることはあるだろう。お前一人でやるよりは遥かに効率的だ」

 

「でも、私のせいで基臣くんを危険な目に合わせちゃうし、さっきもそうだった。そんな目に合わせるくらいなら私は――」

 

「シルヴィ」

 

 基臣は背けているシルヴィアの顔に触れると、目と目が合うようにその顔を動かす。

 

「危険だとかそんな理屈は置いておけ」

 

 その瞳をのぞき込むように基臣はシルヴィアに顔を寄せる。

 

「お前はどうしたいんだ」

 

「…………」

 

「会いたいか、会いたくないか。どっちだ」

 

 しばらく黙ったままでいたシルヴィアだが、内に秘めている本当の思いを述べるために口を必死に動かす。

 

「……いたい」

 

「ウルスラに会いたい……。会ってちゃんと話がしたいよっ!」

 

 シルヴィアの告白を聞いた基臣は頷く。

 

「そうだ、それでいい」

 

 その後、基臣は応急処置が終わると立ち上がって何度か腕を曲げたりして調子を確かめる。あくまで応急処置なのでまだ傷は痛むが十分だと満足する。

 

 そんな基臣にシルヴィは問いかける。

 

「ねえ、基臣くん」

 

「ん、どうした?」

 

「どうしてウルスラを探すのを手伝おうと思ったの?」

 

 その質問にしばらく考えこむ。

 

「まあお前にはいつも助けてもらってる、その恩返しというのが一つ。あとはお前のことを大切な仲間だと思ってる、これが二つ目」

 

 そしてこれが最後だが、と言うと遠い目をしながら自分の事を語るかのように語る。

 

「師匠が手の届かないところにまで行ってお前が後悔している姿を見たくはないから、だな」

 

 

 

 ――――――――――――――――――――――

 

 

 

「このままお前をクインヴェールに一人で帰すのは危ないしな。俺もついていく」

 

「あ、待って」

 

 先に行こうとする基臣を呼び止める。

 

「手」

 

 シルヴィアは右手を差し出すと、基臣の左手の前に持ってくる。

 

「繋いでよ」

 

「……これでいいか?」

 

 誰かと手を繋ぐことをしたことが無い基臣は拙くぎこちないものだったが確かにシルヴィの手を繋ぐ。

 

「にへへ……」

 

 指を絡め合わせると自分よりも大きい手の温もりにシルヴィアは思わず頬が緩んでしまうのを感じる。いつものどこか大人びたような態度とは違って、年相応の姿を見せたシルヴィアに基臣は少し戸惑うがこれで正しいのだと分かると成すがままにさせる。

 

 昔から一部の感情を除いて人の感情の機微に関してだけは敏い基臣だったが、横からシルヴィアの顔を見て思った。

 

「ありがとう、基臣くん」

 

 その笑顔はシルヴィアと今まで過ごしてきた中で一番輝いていると。

 

 

 

 ――――――――――――――――――――――

 

 シルヴィアをクインヴェールまで連れ帰ると応接室、ではなくペトラの仕事部屋に入れられる。

 

 最初、シルヴィアが基臣を連れた姿を見た時、ペトラは少し驚きの顔を見せるがそこは統合企業財体の幹部、すぐに事務的な顔へと戻した。

 

「まずは感謝を。シルヴィを助けていただきありがとうございます」

 

「偶然遭遇しただけだ。礼は必要ない」

 

「偶然、ですか」

 

「ああ、偶然だ」

 

 両者の間に少し間が生まれるが、咳をするとペトラは話を進める。

 

「とにかく、誉崎さんの問題に関してはバレない様にこちらでなんとか裏で手配します」

 

「本当、ペトラさん!」

 

「……アイドルのメンタル管理もプロデューサーの仕事です。その手の根回しは任せなさい」

 

「ありがとう、ペトラさん!」

 

「その代わり誉崎さん。これからは行動にしっかり注意を払ってください。あなたが一緒にいるのは世界でもトップレベルの人気を誇る歌姫であることをお忘れなく」

 

「了解した。それこそ、噂のように人でも殺そうものならこのアスタリスクから出て行く。そんなことはする訳がないがな」

 

「それだけ聞ければ十分です」

 

 ペトラは時計を見ると既に短針は6の数字を回っており、もう日も暮れようとしていた。

 

「シルヴィ、彼を門まで見送ってあげなさい」

 

「はい!」

 

 シルヴィアは席を立つと、基臣を連れて部屋を出ていった。

 

 部屋で一人になったペトラは張りつめていた空気を緩めると、少し溜息を吐く。

 

「シルヴィのさせたいようにさせつつ、世界の歌姫として活動の障害を作らないようにする。……まったく、ままならないものですね」

 

 ――――――――――――――――――――――

 

 正門から出ると目立つため、普段はあまり使われない裏門からシルヴィは基臣を送り出すことにした。

 

「基臣くん、またね」

 

「ああ、またな……ん?」

 

 何かに気づいたのか基臣はシルヴィアに顔を近づける。それぞれが少し顔を近づければ口づけできるほどの距離まで接近する。基臣の想定外の行動にシルヴィアは柄にもなく胸が熱くなるのを感じてしまう。

 

「な、何かな?」

 

「いや、よく見たら疲れが溜まってるようだからな。ミルシェから聞いたが、最近仕事ばっかりやっていたんだろう?今日はしっかり休め」

 

「う、うん」

 

 シルヴィアから顔を離した基臣はそのまま界龍(ジェロン)へと歩いて帰っていく。その後ろ姿が見えなくなるまでシルヴィアは小さく手を振り続けた。

 

 やがて、基臣の姿が見えなくなるとシルヴィアはポツリと言葉を漏らした。

 

「はぁ、もう……。ほんと、ドキドキさせるだけさせて自分はどこ吹く風なんだから。ずるいよ、基臣くんは」

 

 

 その顔は夕陽に照らされても尚分かる程紅く染まっていた。

 

 

 




いきなり高評価を5つ貰ったのでびっくりしました。
こんな拙い作品ですが評価していただきありがとうございました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

if① 狂いだす戦律

大変長らくお待たせしました(約6日ぶり)

この話はホモ君の世間からの評判が最悪&ウルスラを救出できた&ウルスラがシルヴィの恋路を積極的にサポートしない場合のif話です。
別撮りという設定なので武装はヤンデレ剣ちゃんだけとなっております。


ヤンデレに関する見識が無さすぎてあーでもないこーでもないと試行錯誤し、夜しか眠れなかったので初投稿です。


「……やめだ。これ以上は目立ちかねん」

 

「逃がすか」

 

 逃走しようとするヴァルダに追撃をしかけようとするが、両者の間には明らかな距離があった。それを一瞬で詰めるには難しい。

 

 逃走しようとしている相手を一瞬で倒すとなると、取れる手は一つしかない。

 

 未だ完成していない秘技、回避不可能な誉崎流の極伝を土壇場で成功させる。それが如何に難しいかを基臣は理解している。しかし――

 

「やるしかない」

 

 この機会を逃せば、目の前のヴァルダと接触できることは少なくなる。シルヴィアの反応を見るに親しい間柄の人間なのだろう。ならヴァルダから肉体を開放するのは単独で行動している今が最大のチャンスなのだ。

 

 意識を最大限に研ぎ澄ませると、精神が肉体を超越し体感時間が加速していくような感覚を覚える。

 

(いけるっ――!)

 

 

 

 

「誉崎流極伝――」

 

 次の瞬間、不可避の斬撃は放たれた。

 

 

 

 

 

 ――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

「な、ぜだ……」

 

 

 技が決まり、ヴァルダ=ヴァオスが割れるとその輝きは止んでネックレスは床に落ちた。それと同時に本来の身体の持ち主であるウルスラへと意識は戻ったものの、ヴァルダの支配により精神が摩耗したからだろうかすぐに床へと崩れ落ちていく。

 

 崩れ落ちるウルスラを抱きかかえると、丁寧に床へと仰向けに倒すと隠れていたシルヴィアがやってきた。

 

「ウル、スラ?」

 

「大丈夫だ、意識を失っているだけで息もしているし、生きている」

 

「っ……よかったぁ……、よかったよぉ……」

 

 命を助けてくれるだけでなく、会いたかった存在であるウルスラもこうして助けてくれた。

 

 若干13歳程の少女にとってこれだけのことをされてしまったら、好きの程度の問題を通り越して自分の運命の人かと錯覚するほどの好意を抱いてしまう。

 

 事実、もうすでにシルヴィアの心は基臣から離れられないものになっていた。その証拠に心臓が激しく高鳴っている。

 

(あぁ。好きなんだ、基臣くんのことが)

 

 一歩一歩踏みしめて基臣へとシルヴィアは近づいていく。

 

「あの、基臣くん。私――」

 

「ダメだ」

 

 今まで聞いたことのないような冷めた声がシルヴィアの鼓膜を揺らす。

 

「え……」

 

「最初から理解しておくべきだった。アイドルであるお前と嫌われものである俺が相容れることはないと」

 

 そのままビルから出ようと歩を進める基臣にシルヴィアは親に捨てられる子供のように泣きそうな顔になる。

 

「ちが、あ……だめ……」

 

「……さようなら。シルヴィア・リューネハイム」

 

「あ……」

 

 親しさを失ったその言葉にシルヴィアの心はバラバラに崩れていく。それと同時に自分の世界にぽっかりと穴が空いたような空虚さが胸に残る。

 

 基臣がいなくなり、その場にはシルヴィアと昏睡状態のウルスラの二人だけになった。

 

「……っ……! わたしの、ばかっ……!」

 

 既に遅い後悔がシルヴィアの心の中に埋め尽くされる。引き留めようとすれば、声を掛けようとすれば――そんなたらればを考えても基臣はもうこの場所にはいない。

 

 夢ならばどれほどよかっただろうか。そんな考えも床から伝わるコンクリートのひんやりとした感触がこれが夢でないことを告げてくる。

 

 シルヴィアの嗚咽だけがビルの中に響き渡る。

 

「……っ、ぁっ……」

 

 そんな心が打ちひしがれた時、ウルスラのうめき声が聞こえる。

 

「……っ。そうだ、ウルスラを運ばなくちゃ……」

 

 もう自分にはウルスラしか残っていない、今彼女まで失くしたら心が壊れるだろう。その想いがボロボロになっているシルヴィアを無理やりにでも押し動かしていた。

 

 

 

 

 ――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 治療院に連れていくと、基臣の言ったように特に重大な障害があるわけでもなく気絶しているだけだと医師から告げられると肩の力が抜ける。

 

 点滴を打つだけでいいらしいので病室に入れてもらえることになり、部屋をのぞいてみると静かに寝息を立ててウルスラがベッドで寝ていた。椅子に座り彼女の様子を見つめていると、座っていること1時間。

 

「ん……シル、ヴィ……?」

 

「ウルスラ……」

 

 起き上がったウルスラにシルヴィアは涙が少しこぼれる。そんな彼女をウルスラは胸に寄せて頭を撫でて落ち着かせる。

 

 シルヴィアは落ち着いた後、事のあらましを説明するとウルスラは申し訳なさそうな顔をした。

 

「そうかい……随分とシルヴィとその子には迷惑をかけたみたいだね。本当にごめん」

 

「別にいいんだよ。ウルスラは操られてたんでしょ、何か記憶とかは残ってるの?」

 

「残念なことに、万が一のためなのかアスタリスクに来てからの記憶が消えてしまってるんだ。いや、消えたというより思い出そうとすると靄がかかったようになるというべきかな」

 

「そっか……」

 

 しばらく会話をしているとウルスラは気が付いたように思い出すと、気になっていたことをシルヴィアに質問する。

 

「それでシルヴィはその助けてくれた子には会いにいかないのかい?」

 

「え?」

 

「その子のことが好きなんだろう?見ていてわかるよ、そんな顔していたら。私のせいでろくにお礼も言えてないだろう、今日は私のことはいいから彼に会いに行くといいさ」

 

「っ……でも、基臣くんはもう……。それに理事長のペトラさんがダメっていうし……」

 

 悲痛な顔をするシルヴィアに何かを察したのか、ウルスラがシルヴィアの手を握る。

 

「とりあえず今日助けてもらったことを含めてそのペトラさんに自分の思ってる事を言いに行った方がいいと思うよ」

 

「……うん」

 

 

 

 

 

 

 

 ウルスラとの面会を終えた後、基臣とまた会えるように抗議するために理事長室に足を運んだ。

 

「なんで会っちゃダメなの、別にいいでしょ」

 

「アイドルを辞めてでも、ですか?」

 

 アイドルを辞める。その言葉にシルヴィアは冷や水を浴びせられたように冷静になる。

 

 歌声をファンの人たちに届ける。かつてウルスラがシルヴィアにそうしてくれたように自分もやりたいという気持ちがあった。

 

 アイドルという職業を捨てて好きな人を追いかけるほどの覚悟はまだ中等部の女の子にはなかった。

 

「前も言いましたが、彼と接触するのはよろしくないのですよ」

 

 ペトラが端末を操作すると、そこには鳳凰星武祭の決勝戦の映像が映し出される。相手に対する過剰な攻撃――それだけなら過去に事例がいくつかあったからまだ良かった――更に、味方にまで手を上げたという部分が非常に不味かったのだろう。動画サイトでは大量のバッシングコメントが書き込まれている。

 

「そんな……」

 

「彼は必死に戦ったのでしょう。ですが、彼を迎えたのは祝福する言葉ではなく罵倒、本人が何を言おうとも彼の評判を最終的に決めるのは世間です。イメージの悪い人間と交流を持っていることで世間があなたに持つ印象が悪くなるのは私としては避けたいのですよ」

 

 ペトラは肩に手を置くとシルヴィアを落ち着かせる。

 

「この決定はあなたのためを思っての事です。理解しなさい」

 

 結局シルヴィアはペトラの決定に黙ったままでいるしか無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 この判断が更にシルヴィア自身を追い詰めるものになると知らずに

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 無理やり基臣のことを記憶から消し去ってしばらく。

 

 それは気分転換としてウルスラと買い物をするために商業エリアへと向かっている途中のことだった。

 

「なるほど、中々愉快なグループだね。その子たちは」

 

「そうそう。それでねあの子たちが……ぁっ」

 

「…………シルヴィ?」

 

 いきなり会話が途切れ、その様子を不審に思ったウルスラは彼女の視線が向かっている方向に顔を向けると3人の男女が一緒に歩いている姿が見える。

 

「離れなさいよ!」

 

「にゃははー。これは対価として剣士君が認めてくれてるんだからいいじゃんいいじゃん」

 

「おい……」

 

 二人の女の子が一人の男の子を巡って喧嘩をしているという微笑ましい光景だ。しかし、その3人を見るシルヴィアの表情はどこかおかしい。

 

「シルヴィ」

 

「……」

 

「シルヴィ!」

 

「っ……!あ、ウルスラ。どうしたの?」

 

「どうしたの、じゃないよ。随分調子が良くなさそうだ、どこかで休もう。ほら、行こう」

 

「え、ちょっと……」

 

 シルヴィアの手を取ると、そのまま近くのお店まで連れていく。 

 

 

 

「…………?」

 

「基臣、どうしたの?」

 

「いや、何か変な視線を受けた気がするんだが。気のせいか……?」

 

「まあ今や剣士君は良くも悪くも注目を浴びてるからねー。恨み妬みの類の感情を向けられることもあるかもじゃないー?」

 

「その手の感情とは違うんだが……まあいいか」

 

 

 

 ――――――――――――――――――――――

 

 

 

「それであの子たちに心覚えでもあるのかい」

 

「……やっぱり分かっちゃうか」

 

 観念したような雰囲気を見せてシルヴィアはゆっくりと喋り始める。

 

「さっきの男の子が前ウルスラに言った基臣君なんだ」

 

「なるほど、彼が。……もしかして」

 

「アイドルを続けるために基臣君とはもう会わないって決心したのに……。基臣君に絡んでる女の子を見るだけで勝手に嫉妬しちゃって……馬鹿みたいだよね、私」

 

「シルヴィ……」

 

「大丈夫、もう会わないって決めたから……」

 

 どこか無理をしているようなシルヴィアにウルスラはかける言葉を見つけられなかった。

 

 

 

 

 

 中等部2年になった頃、

 

 ウルスラは歌の先生としてクインヴェールに就職することになり、シルヴィアだけでなくルサールカにも指導をしていた。

 

 シルヴィアとミルシェの二人でレッスンを受けており、丁度休憩が入ったためそれぞれ壁にもたれて水を飲んで喉を潤す。

 

「はぁー、やっぱりウルスラは厳しいね。」

 

「……ねえ、シルヴィア。大丈夫?」

 

「え、何が?」

 

「随分前からだけど、顔色悪いって。それにレッスン中にどことなく上の空な感じがするし。無理してない?」

 

「ううん。大丈夫、大丈夫だから」

 

 無理して笑顔を見せるシルヴィアにどうにも納得しきれない中、ミルシェは心当たりのある出来事を思い出す。

 

「まさか、基臣の――」

 

「黙って!!」

 

 防音ルームの中でシルヴィアの怒鳴り声が反響する。いつもの雰囲気からは想像もできない声にミルシェは思わず身体を竦めてしまう。

 

 シルヴィアも怒鳴った後に自分のしでかした事に気づき後悔してしまう。基臣についていく覚悟が足りなかった惨めな自分を隠すための八つ当たりでしかないとシルヴィアは自身を卑下する。

 

「あ、その。ごめんね。いきなり怒っちゃって」

 

「う、ううん。私がデリカシーの無い事言っちゃったから……」

 

 二人の間に気まずい雰囲気が流れる。そんな空気の中、休憩の時間が終わったのかウルスラが部屋の中に入ってきた。

 

「じゃあレッスン再開するよー。……ってシルヴィにミルシェ。どうしたんだい?何かあった?」

 

「ううん、何でもないよ。さ、始めようよレッスン」

 

「そう?まあいいや、じゃあ始めようか」

 

 誤魔化すように笑顔を見せたシルヴィアの様子に気づかずウルスラはレッスンを始めるが、ミルシェはそんなシルヴィアの様子に不安を覚えるのだった。

 

 

 

 ――――――――――――――――――――――

 

 

 

「シルヴィ、君に手紙だ」

 

「私に?」

 

 ウルスラから手紙をもらい、差出人の名前を見ると基臣の名前が書いてありシルヴィアの目の色が変わる。

 

「あ、シルヴィ!」

 

 ウルスラの止める声も聞かず、急いで自室に戻って手紙を見ると、その手紙にはウルスラにヴァルダ=ヴァオスを仕向けた犯人を捕まえた旨などが書かれていた。基臣としてはウルスラが何者かの手によってヴァルダを装着させられた過去がある以上、一連の事件が解決したことを知らせて安心させるつもりで手紙を送ったのだろう。

 

 

 

 尤も、その手紙はシルヴィアの内に押し込んでいた想いを増大するだけの結果になってしまったが。

 

 

 

「だめだよ、基臣くん……。そんなに私を本気にさせちゃったら」

 

 ベッドに身を投げるとその手紙を鼻に寄せると、思い切りその手紙の匂いを想像して吸い込む。

 

「あっ……だめになっちゃう」

 

 1年ぶりの好きな人の匂い。それは暴力的なほどに甘美で脳内麻薬を大量に分泌、吸うだけで頭の中がフワフワと靄がかかったかのようになると共に、身体が疼いてくる。

 

 直接匂いを吸いでもしたら間違いなく一瞬たりとも離れることができなくなってしまう。そんな確信が彼女の中にはあった。

 

 

 

「もとおみくん……もとおみくん……」

 

 

 

 

 

 ――――――――――――――――――――――

 

 

 そこからシルヴィアの王竜星武祭(リンドブルス)に対する熱の入りようは見ていてどこか危ういものがあった。

 

「シルヴィ、少しは休んだほうがいい。このままだと身体が壊れる」

 

「……大丈夫、大丈夫だから」

 

 周りの言葉に耳を傾けなくなったシルヴィアは時間の許す限り特訓を続け、驚異的なスピードで成長していく。その成長は以前は接戦だった序列2位のネイトフェイルとの戦いで現れることになる。

 一歩譲る形だった格闘戦でシルヴィアが一方的に蹂躙する試合展開となり、切り札である歌を一切使わずに勝利したのだ。格の差が如実に表れたその試合を見ていたものはシルヴィアのオーラに戦慄を覚えるほどだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 時はしばらく経ち王竜星武祭(リンドブルス)開催日

 

 基臣は準決勝で優勝候補であるオーフェリアを打ち破り、決勝まで駒を進めていた。決勝戦の相手は事前にチェックしていたので分かる。だからこそステージに向かう足取りが重たいのだが、意識しないようにと考えて歩いていく。ステージに着くと対戦相手であるシルヴィアが基臣を待っていた。

 

「あはっ。やっと会えたよぉ、基臣くん」

 

 その目は闇に飲まれたかのように濁り切っており、瞳には基臣だけを映し出している。

 

『モトオミ。この子、明らかにおかしい』

 

(あぁ、なんとなくわかる……)

 

「私、頑張ったんだ。血反吐を吐くぐらいに努力して自分を押し殺してアイドルやってきた」

 

「…………」

 

「でもさ、こうなんというかしっくりこないんだよね。それで色々考えたけどやっぱり基臣君がいないとダメみたいって分かったんだ」

 

 シルヴィアは一歩一歩ゆっくりと基臣へと近づいていく。

 

「ねえ、どうして私の元から離れていったの?私の事嫌いだった?」

 

「……別にそういうわけじゃない。ただ、俺はあの鳳凰星武祭以降マイナスイメージが付きすぎている。お前のこれからのためにも――」

 

「そういうことを聞きたいんじゃないの!!」

 

 迫力に基臣は思わず圧倒されそうになる。シルヴィアは基臣に近づき、手に触れると離さないように力強く握りしめる。

 

 握ってくる手を離そうと必死に力を込めるがピクリとも動かない。

 

「ねえ、基臣くんは私のこと好き?」

 

「…………」

 

 好きと言ってしまったら間違いなくシルヴィアはその言葉を本気にしてしまう。心苦しい気持ちを顔に出さないように押し殺しながら言葉を発する。

 

「……嫌いだ」

 

 

 瞳をのぞき込んで呟くその圧力に何か恐ろしいものを感じた基臣はピューレの能力を発動させると、握ってくるシルヴィの手から逃れる。

 

「基臣君を傷つけるのは本当は嫌だけどしょうがないよね、私のためでもあり基臣君のためでもあるんだから……」

 

 ブツブツ呟きながら笑みを浮かべるシルヴィアにどこかうすら寒いものを感じながらもまもなく試合開始の時間になるため元の場所に戻りそれぞれ試合の準備を進める。

 

『さあ、このアスタリスクで最強を決める王竜星武祭(リンドブルス)の決勝戦がまもなく始まります!』

 

 観客や実況が盛り上がっている声を背景に機械音声が試合開始のカウントダウンを刻む。

 

『《王竜星武祭(リンドブルス)》決勝戦、試合開始(バトルスタート)!』

 

 

 

「例え世界が拒絶しようとも 私は君を追い続ける」

 

 試合開始と共にシルヴィアの重低音がステージ内に響き渡り、周りを構成する万能素(マナ)が赤黒く輝き始める。彼女のいつものスタイルとは違う歌に会場内はどよめきの声が上がる。

 

「茨の道が阻み拒んでも 諦めない 血を吐き地べたを這おうとも」

 

 歌を媒介に能力を発動させるのを見過ごす基臣ではなく、すぐさま接近してピューレの透明化によるアドバンテージを存分に活かす。しかし、その攻撃を全て見透かしたかのように能力の効果範囲内に入らないよう余裕を持って回避するとすぐさま反撃に転ずる。

 

 攻撃をしてくる際も一つも音程を外さず歌うシルヴィアの強さに基臣もさすがに驚きを覚える。

 

(2年前とは違って攻撃も回避も超一流……。少しでも油断すると痛い目を見るだろうな)

 

「心を曝け出し 君の視線を私だけのものにする」

 

 一進一退の攻防が続いていく内にシルヴィアは歌唱を終える。

 

 それと同時に、今まで姿を一度たりとも見せなかったピューレが衆目の前にその身を曝け出した。

 

「能力の無効化(キャンセル)……!」

 

『思った以上に厄介……』

 

 純星煌式武装(オーガルクス)の能力を《魔女(ストレガ)》の能力で無効化する。純星煌式武装が《魔女(ストレガ)》や《魔術師(ダンテ)》に圧倒的に優位であるという構図が出来上がっているこのアスタリスクで衝撃的と言っても良い現象だった。

 

 そんな衝撃的な現象に気を取られている暇すら与えずシルヴィアは攻撃を仕掛けてくる。その全ての攻撃が校章を的確に狙ってくるもので、能力の無効化も相まって序盤から基臣は苦戦を強いられた。

 

 誉崎流の中でも唯一の防御技を使って迫ってくるフォールクヴァング――シルヴィアの愛用している銃剣――による攻撃をいなすと、即座に距離を取る。

 

 その後も戦闘が続くが、ステージ全体を包む獄炎、時間加速能力、瞬間移動。どれも一介の《魔女(ストレガ)》が発動するには困難ともいえるほどの威力、持続時間、精密さを誇っていた。

 

 しかし、基臣も負けじと能力を封印されたピューレで対抗すると、腕に命中してシルヴィアは片腕が使い物にならなくなる。

 

「涙を見せないで いつか幸せが包み込んでくれるから」

 

 今までの曲とは一転して穏やかで明るい曲調の歌を歌い始めると、傷ついていたシルヴィアの片腕がすぐさま治癒し始める。

 

(治癒能力……使えないと噂だったはずだがまさかこれほどとは。それなら……)

 

「させないよ」

 

 治癒能力が活きてくる長期戦を嫌って、短期決戦のために誉崎流の極伝を繰り出そうとする基臣だったが、意図をすぐさま察したのか至近距離まで迫り格闘戦に持ち込むとそれを阻止してくる。

 

 シルヴィアは校章への攻撃を防御してくるため基臣にとってジリ貧の状況が続く。

 

 30分が経過し、ついに試合の終わりがやってくる。

 

『誉崎基臣、校章破壊(バッヂブロークン)

 

試合終了(エンドオブバトル)!勝者、シルヴィア・リューネハイム!』

 

 

 

「待っててね、基臣くん。絶対に君の元に行くから」

 

 

 

 ――――――――――――――――――――――

 

 

 王竜星武祭(リンドブルス)が終わった翌日、シルヴィアはペトラとウルスラのいる理事長室に行くと辞職届を差し出す。

 

「いきなり何かと思えば、王竜星武祭(リンドブルス)を優勝した今アイドルを辞めるなんて正気ですか、シルヴィ」

 

「うん、別に未練はなくなったしね。そもそも、なんであの時アイドルを辞めるって言わなかったのかなって今になって思うよ」

 

 酔狂の類で出していないことを理解すると、ペトラはため息をついてしまう。

 

「少しは落ち着きなさい、今の貴方は冷静じゃない」

 

「私は至って冷静だよ。ペトラさん。そうだ……これも返さないとね」

 

 それと同時に胸に着けている校章を机の上へと置く。

 

「…………!!まさかあなた、界龍(ジェロン)へ……っ!」

 

「そういうこと。じゃあね、ペトラさん」

 

「待ちなさい、シルヴィ!」

 

 用は済んだとばかりに部屋を立ち去るシルヴィア。それを追いかけようとするペトラをウルスラは肩を掴んで止めさせる。

 

「あの子を追いかけないとっ!」

 

 珍しく感情を露わにしているペトラにウルスラは首を横に振る。

 

「もうダメだよ、シルヴィは。私達には止められない」

 

 とりあえず落ち着きなよと言って、ソファにペトラを座らせると飲みかけだったコーヒーに口を付けて話し始める。

 

「アスタリスクに来る前に旅をしていた時にも今のシルヴィのような人を見たことがあるけど、愛っていうのは本当に恐ろしいものでね、一度人を本気で愛してしまえば周りが引き剥がそうとしても絶対に離れることはない」

 

「……」

 

「完全にシルヴィは身体の芯まで彼に毒されてしまっている。まあフィクションかと言いたくなるようなピンチで助けてもらったんだ。無理もないことではあるけどね」

 

「……もう元には戻れないと?」

 

「あぁ。おそらく基臣くんがいなくなればあの子もいなくなるだろうし、死んでしまったら後を追うように自死を選ぶ。彼女の目はそういう目だよ」

 

「……私は、選択を間違ったんでしょうか。あの子に負担を強いてしまって、あんなになるまで私は気づかず……壊してしまった」

 

「それは言うなら私の責任だよ。何となくシルヴィの様子がおかしいことは前々から察していた。けど、彼女の成長を促すためにも黙って見ていたつもりだった……。まあ結果はこんなことになってしまったけどね」

 

 シルヴィアとの関係が断ち切られた事を示すようにウルスラが持っていたカップの持ち手部分は綺麗に取れてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 王竜星武祭(リンドブルス)が終わってからしばらく、星武祭(フェスタ)の興奮もようやく収まった頃、朝から基臣は異様な数の視線を受けていた。王竜星武祭(リンドブルス)で準優勝したときもそれなりに視線を集めていたが、その比ではないぐらいの量の視線だ。

 

「おーい!」

 

 そんな周囲の視線に何かあったのかと考えていると、セシリーと虎峰(フ―フォン)が基臣の元にやってくる。急いでやってきたのか息が荒くなっている。

 

「ん、セシリーと虎峰(フ―フォン)か。どうしたそんな急いでやってきて」

 

「ねえねえ!昨日の夜見たんだけどあの歌姫と交際したんでしょ。どこで会ったの?」

 

「基臣はあまり色恋事には興味の無さそうですし、もしかしてシルヴィの方から告白したんですか?」

 

「…………?何のことだ」

 

「隠さなくても大丈夫だって。ほら、ネット上では大騒ぎだよ。君とシルヴィが付き合うことになったって」

 

 セシリーが端末を起動すると、大手ニュースサイトの画面をいくつか開く。そこにはシルヴィアと基臣の画像が並べて表示されており、交際することになったという記事が書かれている。

 

「そんなことはないのだが……。一体だれがそんなことを」

 

「誰も何もシルヴィ本人ですよ。まさか、分からないなんてこと言わないですよね」

 

「いや、分からないも何も付き合ってないぞ」

 

「あー……。あまり昨日公表したとはいえあまり表沙汰にはしたくないんですよね。すみません」

 

 完全に会話が平行線になってしまい混乱している基臣を差し置いて虎峰(フ―フォン)とセシリーは二人で盛り上がっていた。

 

「ファンとしては、今が絶頂期のシルヴィが交際で活動を中止するのは悲しいですけど本人が幸せならしょうがないですよね。まあ、これから大変だと思いますが頑張ってください」

 

「いや何かお前らと俺の間で見解に違いが……」

 

「それじゃ、幸せにねー」

 

「お幸せに」

 

「あ、おい」

 

 基臣のいう事を聞かず去っていく二人の後ろ姿に言いようのない何かがこみあげてくる。あの二人が向けてくる感情に冗談や罠に()めてやろうという類のものは含まれていなかった。

 

 

 

 

 

 つまり本当に基臣とシルヴィアが交際関係にあると思っている。

 

 

 

 

 

 勿論、基臣自身はそんな関係を持った覚えもないし、そもそも交友関係があることがバレてシルヴィアを困らせてしまうことを懸念して自ら距離を取ったのだ。しかも、関係を絶ってから2年と少し。1年前に手紙を一方的に送った時以外は一切連絡を取っていない。

 

 

 教室に行っても、基臣とシルヴィアの交際関係の噂でもちきりだった。クラスメイトから質問攻めにあうが、身に覚えのないものを質問されても当然答えようがない。どうすればいいものかと困って、沈華(シェンファ)に視線を向けるが、不貞腐れたのか顔を背ける。

 

 何が何やらで分からず、質問攻めで困っていたところで教室に教師が入ってくる。

 

「おーい、静かに。これからホームルーム始めるぞー」

 

 完全に静まることはないが先ほどよりも落ち着いた喧騒に基臣は少し心が休まる。

 

「今日から転入してくる奴がいるけど、皆驚くなよ。それじゃ、入ってくれー」

 

 教師が呼びかけると教室の扉が開き、見覚えのある顔が入ってくる。

 

「なんで、お前が……」

 

「やっほー、基臣くん。今日から界龍(ジェロン)の生徒になったからよろしくね」

 

 ここにいるはずのないシルヴィアがいたのだ。

 

「え、シルヴィア……」

 

「うそ、クインヴェールにいるんじゃ……」

 

 クラスの中から出てくる困惑の声を気にせず教壇に上がると自己紹介を始める。

 

「クインヴェールから転入することになりました、自己紹介は……必要ないよね。基臣くんと一緒にいたくて界龍(ジェロン)に転入することになりました。みんなも今日からよろしくねー」

 

 シルヴィアの自己紹介風惚気によってクラスは一気に盛り上がった。だが基臣は心中穏やかではない。人によって星武祭を優勝した願いの内容は違うが、星武憲章(ステラカルタ)で他学園への転入が不可能であるにも関わらずここにシルヴィアがいるということは願いを行使してこの界龍(ジェロン)に転入した。そういうことなのだろう。

 

 前の王竜星武祭(リンドブルス)の決勝戦でのシルヴィアとの会話、先ほどのセシリーと虎峰(フ―フォン)との会話、教室に入ってからの質問攻め、シルヴィアの転入。点と点が繋がり、なんとなく基臣は状況を察し始めた。

 

 簡単に言えば外堀を埋められたのだ、完璧に。今のシルヴィに対する世間の視線は賛否両論の半々、いや否定よりが多いと言ったところだろうか。こんな状況で交際に対してYESと言ってもNOと言っても大バッシング間違いなしだ。いや、基臣にとっては自身の評判などとっくの昔に地に落ちているので知ったことではなかったが、それだけの問題ではない。

 

(ここまで来てしまったら、どちらを選んだとしても大して変わらない、だが……)

 

 明らかに今のシルヴィアは冷静ではない、というよりも正常ではないというべき状態になっていると基臣は感じていた。ウルスラの件で別れる前までは、もっと快活さを身に纏っており目も綺麗な瞳をしていた。

 

 しかし、久しぶりに再会したシルヴィアのその姿はまるで別人といってもいいものだった。他の人と話すとき、楽しそうに接しているように見えるが実際は何の感情も籠っていない。

 

 感覚的には鳳凰星武祭(フェニクス)の決勝戦の時のピューレに似ているだろうか。どちらにせよ、今の彼女の精神状態は非常に危うい。自分が今近くにいたら何かしらの地雷を踏む可能性が非常に高い。そんな予感がしたため極力関わらないように過ごそうと心の中で誓った。

 

 

 

 ――――――――――――――――――――――

 

 

 

 この一日で今までにないぐらい疲労したため、食堂で夕食を取ると今日は鍛錬を中止し基臣はさっさと自室に戻り一人きりになることで疲れを取ることにした。

 

 基臣は鳳凰星武祭からしばらくして冒頭の十二人(ページワン)入りしており、一人だけの部屋を持つことにしていた。だから、部屋に戻っても誰もいるはずがない。いるはずがないのだが――

 

「あ、戻ってきた」

 

 そこにはシルヴィアがいた。鍵は基臣が持っている1つと寮長がマスターキーとして持っているものの2つだけ。彼女に合鍵を渡した覚えはない。

 

「……なんでお前がここに」

 

「あはは、そんなことは別に気にしなくていいよ。それよりも中に入って」

 

 背中を押され部屋に押し込まれてそのままベッドの上に座ると、シルヴィアは隣にピッタリと肩をくっつけて離れようとしない。

 

 今まで買い物に付き添いをした基臣の記憶ではこんなにシルヴィアが距離を詰めてくることがなかっただけに、困惑する。

 

「なんでシルヴィアがこの部屋に入ってこれてるんだ。そもそもここは男子寮だぞ」

 

「シルヴィ」

 

 シルヴィアは基臣に近づくとムッとした顔をする。

 

「シルヴィアじゃなくて前みたいにシルヴィって言ってよ」

 

 はぐらかしても駄目そうな雰囲気を理解すると基臣は溜息をつく。

 

「……ハァ。それでなんでシルヴィはこの部屋に入ってこれたんだ」

 

「なんでって言われても、王竜星武祭(リンドブルス)で優勝した時の願いの権利を使って基臣君と一緒の部屋になるようにしたからだよ」

 

「いや、その願いは倫理的な問題が……」

 

「基臣くんと私が恋人関係にあるって言ったらすんなりと許可してくれたよ」

 

「嘘だろ……」

 

 それでいいのか運営委員。そんな気持ちが湧いてくるがもう既に手遅れだ。これから少なくとも3年以上は同じ屋根の下で同棲生活。余り気にしないタイプとはいえ、こんな状況ではプライバシーの保護などあったものではない。この先どうすればいいかという考えは先送りにして、とりあえずシルヴィアを先に風呂に入れ終えると、入れ替わりで基臣も風呂に入る。

 

 二人とも入浴を終えると、そういえばシルヴィアのベッドがまだない事を思い出す。

 

「今日はベッドを搬入する時間もない。俺は床で寝るから、シルヴィアはベッドを使え」

 

「えー、一緒に寝ようよぉ」

 

 その言葉を無視して基臣は床に横になり毛布だけ上に掛けると、その隣にシルヴィアが引っ付いてくる。

 

 床に彼女を寝かせる訳にもいかず、結局上手い事誘導されてシルヴィアと一緒にベッドの上で寝ることになった基臣だったが、向き合っていたらナニをされるか分かったものではないので当然彼女からは背を向けて寝ることにした。

 

 

 ……

 

 

 …………

 

 

 ……………………

 

 

「ん……。あぁ……っ!」

 

 直感が嫌な予感を告げたため、眠りから覚めると近くから声がする。しかも自分ではない誰かの艶やかな声。

 

 何事かと思い目を開けると、馬乗りになったシルヴィアがこちらを見下ろしていた。

 

 

 

 下着姿で

 

 

 

「な……!?」

 

「あ、起きたんだ」

 

「な、んで……こんな……ことを……?」

 

「こんなに近くで匂いを嗅いじゃったから……、私もう我慢できなくなっちゃった」

 

 明らかにその顔は発情しており、今にも襲い掛かってきそうなほどだった。

 

「基臣くん、責任感強いところあるから既成事実を作っちゃったらもう離れることはないよね」

 

「やめ、ろ……」

 

 起きてシルヴィアはどかそうとするが、いつの間にか何か一服盛られたのか身体の制御が上手く効かない基臣をよそにシルヴィアは彼の服を脱がしていく。

 

「身を委ねてくれるだけでいいからね」

 

 シルヴィアは静かに近づくと基臣に口づけを交わし、彼の制止を聞くことなく情事に耽っていった。

 

「……絶対に離さないから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………」

 

 スヤスヤと心地よさそうに隣で抱き着きながら眠るシルヴィアの寝顔を見ながら、どうしてこんなことをしたのかなんとなく理解する。

 

 彼女は狂っていても「基臣とずっと一緒にいたい」という一つの感情だけは揺らぐことはなかった。

 

 その感情を基臣は2年前のあの時、逃げの選択を選んだことによって踏みにじったのだ。こんな状態になったのは当然の帰結、先程のように拘束されて逆強姦状態になったのはシルヴィアを見捨てた自身に与えられた罰だったのかもしれないと自嘲するように薄笑いすると眠っているシルヴィアの頭を撫でる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それに応えるように歌姫は愛を基臣の耳元で囁き(うたい)続ける。

 

 

 

 

 

「愛してるよ基臣くん」

 

 

 

 

 




あれ、最後あんまりヤンデレじゃないのでは?と思ってしまいましたが、これ以上試行錯誤してると時間がかかりすぎてしまうのでとりあえずということで投稿させていただきました。

あと、まさかの評価9が50以上になって一周しました。この作品を応援していただきありがとうございます。
これからも遊び心を忘れず作品を作るために頑張っていくのでよろしくお願いします。



ヤンデレシルヴィア

精神的負荷を過剰に与えたことによってその才を覚醒させた状態
作中最強候補と名高いオーフェリアを超える実力を持つ。
即興で歌を創造し、通常状態では使えなかった治癒能力を含めたあらゆる能力を純星煌式武装を凌駕するレベルで発現させることが出来る。
ゲーム中の最強論争で真っ先に名前が上がるぐらいには強い。
ヤンデレシルヴィアを倒すことで手に入る称号《再生する戦律》の獲得者は現状2名

ちなみにホモ君の身体が動かなくなったのはシルヴィアが厨房裏にお邪魔して料理に薬を仕込んだためである


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

part14

ヒロインレースに新たな劇薬がぶち込まれたので初投稿です。


 電波少女とひたすらに脳死会話をするRTAはーじまーるよー

 

 前回はシルヴィをメス堕ちさせたところまででしたね。

 

 好感度稼ぎも順調に進んでいることですし、エルネスタ達との武器開発を進めながらホモ君の育成と『孤毒を救う騎士』の取得準備に取り掛かり始めましょう。

 

 

 それでは久々のステータス開示をしましょうか。…………今まで確認するのを忘れていたわけではありませんよ、確認するほどの強敵がほとんどいなかったからです。

 

 星辰力 85  技術 520 知力 280 体力 530

 

 特殊技能 第六感 感情喪失 誉崎流奧伝 鋼鉄の体幹 神速 堅牢 強運 連携巧者 

 

 

 

 結構無難に成長していってますね。技術と体力はオーフェリア戦のためにも最終的には600ぐらいまでは成長させたいところです。ただ、特殊技能の取得が思うようにいってませんね。まあ、まだアスタリスクに入ってから1年目。これに関しては今からいくらでも習得できる機会があるのでリカバリーできます。

 

 朝起きたらランニングなどの基礎トレーニングの後、食堂で朝食を取って部屋に戻り……

 

 

 授業をサボりましょう。

 

 え、何言ってるんだこいつって? いえいえ、マジですよ。といっても、部屋でダラダラしてるわけでは無く、ロリババアの元で特訓するためにサボるわけです。RTAは一秒たりとも時間を無駄にしてはいけませんからね、はい。

 

 勉強に関してはある程度の知力があるので問題ないです。テストの時はマーク式なので第六感を悪用して赤点回避しましょう。

 

 早速、ロリババアに会いに行って授業をサボるのに協力してもらうことにしましょう。こいつにさえサボることを許可してもらえれば教師陣も迂闊にホモ君を叱ることはできないという算段な訳なのです。人間の屑がこの野郎……

 

 登校時間中は適当に隠れて、授業が始まったらロリババアのいる部屋まで向かいましょう。それにしても、第六感はこういうスニーク系の行動を取るときも頼りになりますね。

 

 おい、ババア! 遊びに来たぞ。ついでに授業サボるから許可してくれ。

 

 

 ヨシ! 普通に承諾してくれましたね。まあ、ロリババアも授業中は暇だったので遊び相手が欲しかったのでしょう。これで授業中もサボって特訓し放題です。ちなみに授業をサボる事ができる学園が界龍(ジェロン)かレヴォルフしかないのでRTAでは学園選択の時は実質二択状態になっています。

 

 ではでは、見どころもない特訓パートなので適当に倍速です。

 

 

 

 少女特訓中……

 

 

 

 おっと、ロリババアとの特訓で殺気隠しのコツを掴みそうですね。この技能は殺気などの感情を消すことで相手が星辰力の揺らぎを通して次に来る攻撃を察知することができなくなり、こちらの攻撃が非常に通りやすくなる良技能です。元々、感情喪失持ちはセットでこの技能を習得するパターンが多いのですが、珍しくこのホモ君は習得できていませんでした。そこらへんの理由もセットで教えてくれるようですが、特段RTAには関係のないことなのでスキップです。(無慈悲)

 

 

 

 さーてロリババアとの特訓で頑張って特殊技能を……って、ヘアッ!? 

 

 メスガキ!? メスガキが何故ここに……(授業から)逃げたのか? 自力で脱出を? メスガキ! 

 

 ん? 手を掴んでどうしたんですか……って、ヤメロー! シニタクナーイ! シニタクナーイ! 

 

 おい、ロリババア! さっさと助けるんだよぉ! おい、なんで目を逸らしているんだ……ってマァァアア!! 

 

 

 

 少女攫われ中…… 

 

 

 

 というわけで、はい。無事、教室に強制送還されました。ふざけんな! (声だけ迫真)

 

 どうして僕をそんなに困らせるんですか! これだからメスガキは……

 

 というか最近のメスガキの女房ムーブが激しいですねぇ。シルヴィと引き離されたゴタゴタを除けば結構な確率で引っ付いてくるような気がします。タイムに影響はあまりないので黙認状態ですが、この好感度ならばこんなに引っ付いてくることは無いはずなんですけどねぇ……

 

 まあ授業中は特にこれといって見どころさんはないので倍速です……。

 

 少女居眠り中……

 

 授業を終えたわけですが、これからはメスガキの監視網を掻い潜ってサボらなければいけないというのは痛いですね……これは痛い。周りは生暖かい目線でこちらを見てくるので何の役にも立たないですし、完全にダメですねクォレハ……

 

 まあサボるときはロリババアの所にたまに寄るぐらいにして、基本的には再開発エリアで修行することにしましょう。

 

 

 

 授業も終わったので、『孤独を救う騎士』取得準備としてオーフェリアと接触するために再開発エリアに向かいましょう。そういえば……

 

 

 孤毒を救う騎士の獲得条件

 

 RTA最初の頃 お伝えしましたね? 

 

 

 

 

 

 すんません

 

 あれ 嘘言いました

 

 

 

 

 

 

 言うたほど

 獲得条件は単純ではありません

 

 

 

 

 言うたほど

 獲得までの道のりは短くありません

 

 

 

 

 

 

 

 

 というわけでですね……オーフェリアを倒すだけでは『孤毒を救う騎士』は獲得できないんですよ。聞いてた話と違うじゃないかって? まあまあ、落ち着きなされ。

 

 実際にはいくつかの条件がありまして、オーフェリアとの好感度をある程度まで上げる、王竜星武祭(リンドブルス)で彼女を倒す、故郷での幼馴染であるユリスと和解して仲直りさせる、雇い主である豚さんから彼女を解放する。細かい条件がまた別にいくつかありますが、大まかに言うと前述した条件が必要となってくるわけです。

 

 正直言ってしまえばオーフェリアを倒すこと以外の条件は大して難しくはないです。豚さんから解放するときに面倒事に巻き込まれる可能性はありますが、最後の最後に解放するので特に問題はないでしょう。

 

 で、なんで再開発エリアを探すのかというと、オーフェリアは基本的に自由奔放に歩き回ってますが、瘴気の影響を気にしてか大体は人が少ない再開発エリアにいます。しかも、星辰力(プラーナ)の量がほぼ無限なのである程度の距離に入ったら何となくオーフェリアがいることを察知できます。ゆえに、シルヴィを探すときみたく時間はかかりません。意識したらあっさり見つかります。

 

 おっと、早速ホモ君レーダーがオーフェリアの存在を感知したようです。にしても、相変わらず馬鹿みたいな量の星辰力(プラーナ)ですね。検証勢がヒルダによる改造手術を受けた人間を用意して、オーフェリアと星辰力がどちらに先に尽きるかというチキンレースをしてましたけど、普通にオーフェリアの圧勝でしたね。さすが星辰力お化けです。

 

 と、そうこう言ってる内に見つけましたね。オーフェリアです。莫大の星辰力(プラーナ)を持っているために能力である瘴気を抑え込むことが出来ないので、星辰力(プラーナ)を防御に回していないと近づくだけでもダメージが入っていくため注意が必要です。

 

 ちなみに彼女がホモ君に掛けてくる最初の言葉によって、今のホモ君がどれくらいの実力をつけているかというのが分かります。

 

 ……ふむふむ。ホモ君の運命は強大。いい感じのお言葉を頂けましたね。これが私を殺してという言葉になったらオーフェリアと五分五分に戦えるぐらいの実力がついているという証になるのですが、まあまだアスタリスクに入って1年も経ってないですからね、そこまで到達していなくて当然と言えば当然です。

 

 ここでオーフェリアと接触すると会話イベントか戦闘イベントかがそれぞれ半分の確率で発生します。当然、時間的にも体力的にも会話イベントの方が圧倒的にいいです。

 

 会話イベント来い……会話イベント来い……会話イベント来い……

 

 

 戦闘イベントの方でした……。純粋に疑問なんですけど、なんでこの人初対面の人とバトルをおっぱじめるんですかねぇ……。どこぞのポケモントレーナーじゃないんだからさー、少しは気を静めてくれよな~たのむよ~

 

 文句言ってもしょうがないので、さっそく戦闘に移りましょう。初対面時のオーフェリアは王竜星武祭(リンドブルス)の時の本気を出している時に比べて、全然攻撃も手加減されています。

 

 回避するだけだったら第六感を使えばいくらでも出来るのでしばらくは攻撃することもなくひたすらイベントが発生するのを待ちましょう。

 

 

 

 少女必死に回避中……

 

 

 

 お、戦闘中に会話が出てきましたね。……なんで攻撃してこないのかって? 

 

 この会話で上手いこと戦闘を中止させるためにも、ここはオーフェリアを攻撃する理由が見当たらないってキザなセリフでも投げかけときましょう。

 

 

 ヨシ! なんとか矛を収めてくれました。さすがにずっと回避ゲーを繰り返すのはメンタルが疲れるので戦闘開始してからそこまで経たずに終了してくれたのは助かりました。

 

 

 一応ホモ君のことを気に入ってくれたようなので、彼女の近くに行って適当に会話をしましょう。

 

 そうそう。ここでしてはいけない地雷会話についてですが、ざっくり言っちゃうと昔は好きだった花の話だったり、彼女の故郷の話だったりは全部アウトです。特に花の話は気を付けましょう。知らない内に話してしまって地雷を踏み、戦闘になるってパターンがあります。(3敗) それでは会話が終わるまで倍速。

 

 

 

 少女会話中……

 

 

 

 なんだかんだで無難にオーフェリアとの初顔合わせが終わったのでさっさと界龍(ジェロン)まで帰っちゃいましょう。

 

 さて、ホモ君の部屋に戻るとエルネスタから武装開発のデータ集めのためにアルルカントに来るように連絡が来ましたね。映像には彼女の部屋が映っており、どうやらさっきまで寝ていたのか衣服が乱れて下着がモロに見えちゃっているのと、頭にアイマスクを着けていますね。プライベートガバガバ過ぎませんかこの人。この扇情的な格好を見るに、個人的に童貞が勘違いしそうなヒロインランキングの上位に入ると思うんですけど。(名推理) あ、ちなみに1位はシルヴィです。異論は認めない! 

 

 まあそれはともかく、お誘いを受けたので約束の日までさっさと時間を進めてアルルカントへと向かうことにしましょう。そういえばメスガキから連れていくようにこの前の密談の時に念押しされていたので連れていくことも忘れずに。

 

 約束を(たが)えるという選択も無くはないですが、後でガミガミ怒られて説教のために時間をロスするのももったいないからね、しょうがないね。

 

 とりあえずはメスガキとエルネスタが修羅場らないように気を付けながら、データ集めのために実験を──

 

 今回はここまで。ご視聴ありがとうございました。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

裏話14 朽ちる白百合

評価の投票者数が100を遂に超えました。いつも応援ありがとうございます。

またしても設定ガバを起こしたのに気づいたので初投稿です。


虎峰(フ―フォン)。基臣は今日休みー?」

 

「いえ、朝方トレーニングに出て行ったところは見たのでそんなことはないと思うのですが……」

 

「珍しいねー、基臣がこんな時間まで教室にいないなんて」

 

「お前ら、席に着けー。授業始めるぞー」

 

 教師が教室に入ってきたため、虎峰(フ―フォン)達も席に着く。

 

 出席を確認するために教室を見回したが、一つだけ席が空いていることに気づく。

 

「基臣の奴は休みか。あいつの同室は……虎峰(フ―フォン)、あいつから何か聞いてるか?」

 

「いえ、特に何も連絡は来てないですけど」

 

「そうか……。おっと、電話が来たからちょっと待ってくれ」

 

 着信音が聞こえたため、教師は端末を確認すると生徒達に一言告げて教室から出て行く。

 

え、今日は基臣は授業をサボるから?ちょっと師父――。…………はあ、全く師父も困ったものだな

 

 扉が開くと教師は疲れた顔で戻ってくるので、何があったのか虎峰は質問する。

 

「どうかしたんですか?」

 

「師父曰く、基臣は今日の授業は休むそうだ。基臣に修行をつけるとか言って勝手に切られたよ。全く……困ったものだ」

 

 説明を聞いて教室からも苦笑がこぼれる。ただのサボりでは無いことは基臣の修行に対する真面目な姿勢から皆の知るところだったので、鳳凰星武祭(フェニクス)が終わってから基臣の修行バカ加減に磨きが掛かったのかという感想を教室の中で()()()()()()皆抱いていた。

 

「おい、沈華(シェンファ)。どこに行くんだ、授業始まるぞ」

 

 沈華(シェンファ)が静かに立ち上がってそのまま扉から出て行こうとするので、教師は声をかける。

 

「基臣を連れてきます、元タッグパートナーの間違いを正すのも私の役目ですから」

 

「お、おう……。でも、師父もいるし無理に連れてこなくていいからな」

 

「いえ、絶対に連れてきますので安心してください」

 

 沈華(シェンファ)からにじみ出てくる憤怒のオーラに教室内にいた全員が理解する。あ、基臣の奴終わったな――と。

 

 

 

 ――――――――――――――――――――――

 

 

 

 教室でそんな事態になっていると露知らず、基臣は星露の元で授業をサボって鍛錬をしていた。

 

「儂が言うのもなんじゃが、おぬしも鍛錬鍛錬と飽きんものよのぉ」

 

「この前の鳳凰星武祭(フェニクス)を通して、明らかに勘が鈍っているなと実感できたからな。次の獅鷲星武祭(グリプス)までには本来以上の実力を取り戻しておく必要がある」

 

「ふむ、本来の実力といえばじゃが……おぬし、感情を出すようなことは無いくせに、剣を持ってる時はわざとかと言わんばかりに殺気を発するのよなぁ」

 

「殺気を?」

 

「何度も剣を受けて思ったことじゃが、剣術は誰かの模倣をしているな?」

 

「父の剣をそのまま模倣しているが……それがどうかしたのか」

 

「剣技自体は問題ないが、おぬしの父のやり方を模倣しているからか自身の強みを活かせておらぬ。見ておれ」

 

 星露は星辰力を身に均一に纏うと、一切の揺らぎもなくそのまま基臣へと攻撃を繰り出す。第六感で察知しているためなんとか回避できるが、先ほどまでに比べ格段に攻撃を避けづらく感じる。

 

「これは……殺気を消しているのか……?」

 

「左様。人間が攻撃を繰り出す際に放出する殺気。これを消すことによって星辰力の揺らぎが消えて安定し、どこから攻撃をするか直前まで察知されなくなる。習得する者は限られるが、単純故に強力じゃ。おぬしの場合は何をするにも感情を出さんから殺気を隠すというより、そもそも発さない体質じゃろうからすぐ習得できるじゃろう」

 

「なるほど、その技術も習得が必要……っ!?」

 

 言葉を途切らせて、一瞬固まった基臣に星露は首を傾げる。

 

「ん、どうしたかえ。基臣?」

 

「いや、沈華(シェンファ)が来て――」

 

「基臣」

 

 基臣の言う通り嫌な予感はすぐに的中する。扉が開くと同時に静かな、だが怒気を孕んだ声が基臣の鼓膜を震わせる。振り向くと、私、怒っていますと顔に書いている沈華がそこにはいた。

 

「授業をサボるなんてどういう了見なのかしら」

 

沈華(シェンファ)。……どうしてここに来たんだ」

 

 基臣の質問に答えず、詰め寄ると説教を始める。

 

「あなたはただでさえ転入生で学園のカリキュラムに追いつかないといけないのに、この前の鳳凰星武祭(フェニクス)のせいで更に遅れが出てるの。さっさと教室に戻るわよ」

 

 星露(シンルー)は捲し立てて説教をする沈華(シェンファ)と基臣の間に入り込むと、彼女を落ち着かせようと声をかける。

 

「まあまあ、ええじゃないか。基臣は物分かりも良い。後でまとめて勉強しておけばなんとかなるじゃろう」

 

「師父は黙っていてください」

 

「ヒェッ!?」

 

 沈華から発せられるあまりにも強い圧力に普段の威厳を忘れたような悲鳴が星露(シンルー)の口から漏れ出る。

 

「我ら界龍(ジェロン)の生徒は文武両道であらねばならない。そのためにも日々の授業を疎かにするなどあってはならないこと。師父もご理解頂けますよね?」

 

「う、うむ。たしかにそうじゃが……なんか最近強かさに磨きがかかりすぎてないかのぉ……

 

「何か言いました?」

 

「い、いや……なんでもないぞ」

 

「それでは授業も始まっていますので、失礼します」

 

 沈華はすぐさま基臣に近づき、制服の襟を掴むとその勢いのまま引っ張り出していく。

 

「おい、沈華(シェンファ)。今丁度いいところなんだ、邪魔をしてくれるな」

 

 なんとか授業をサボるために説得しようと試みる基臣だったがその言葉は残念ながら届かない。

 

「バカな事を言ってないでさっさと教室に行くわよ」

 

 沈華に引きずられていく基臣の姿を哀れみの目で見ながら星露は心の中で手を合わせた。

 

(強く生きるのじゃぞ、基臣よ……)

 

 

 

 ――――――――――――――――――――――

 

 

 

「まったく、散々な目に合ったな……」

 

 結局、沈華に引きずられ強制的に授業を受けることになった基臣だったが、本人としてはそこまでやる気がなかったため教師にバレない程度にサボろうとしていたのだが、沈華に見破られたため再び彼女の説教を食らうというハメになった。

 

 これ以上の説教は御免だと思って授業が終わると同時に界龍を抜け出し、ピューレを使いこなすためにいつもの場所で特訓しようと再開発エリアに足を踏み入れてしばらく。歩いていると普段とは違う気配を近くから感じた。

 

(この莫大な星辰力……)

 

 万能素(マナ)越しに感じる異質な雰囲気を辿って歩いていくと、やがて更地となっている箇所に行きついた。そこには白髪の少女が何かを憂いたような表情で立っており、彼女の身体から発している何かの影響からか周りのコンクリートは腐食したように茶色く変色していた。当然、その土地に咲いている花も全て枯れてしまっていて、この場所だけ全く別の場所じゃないかという錯覚を覚えるほどだった。

 

 朽ちてしまった白百合を基臣は拾うと、手に持った瞬間花弁から順に全て塵と化していき花の欠片もなくなる。その様子に気づいたのか少女は振り返る。

 

「誰……?」

 

 その身は今にも消えそうな儚さと身の回りにあるものを貪り喰らうような貪欲さが同居したような薄気味悪い空気を纏っている。

 

界龍(ジェロン)の誉崎基臣だ。お前は確か……オーフェリア・ランドルーフェンだったか?」

 

「あなたが……そうなのね……」

 

 質問に答えず、オーフェリアは基臣をジッと見つめているがしばらくすると顔を悲しく歪ませる。

 

「あなたの運命はかなり強大なのね……。でも、その程度ではダメだわ。それぐらいでは私の運命を変えられない」

 

「…………」

 

「近づいてこない方がいいわ、それ以上近づくと身の安全は保障しない」

 

「別にお前を取って食おうっていう訳ではないんだが……」

 

 オーフェリアは基臣に端的に警告を発するが、彼はそれを無視してどんどん彼女に近づいていく。

 

「だめといっても、聞いてくれないのね。なら仕方ないわ――」

 

 

 

「――塵と化せ(クル・ヌ・ギア)

 

 瘴気が形を成し巨大な腕となって基臣へと襲い掛かる。ピューレを構えて振りぬくと、その巨腕を消滅させる。

 

「……そう、それが潔白の純剣(インヴィズ=ピューレ)なのね。でも……」

 

 第二波、第三波と次々に腕がオーフェリアの足元から伸びていき絶え間なく攻撃を仕掛けてくる。

 

 

 

 

 

 

「誉崎流奧伝、天地開闢(てんちかいびゃく)

 

 

 

 

 

 誉崎流唯一の防御技で迫り来る多数の触手を一瞬にして切り落とす。続くように数十、数百もの腕が殺到するがその悉くを切っては捨てるを繰り返していく。今のところ瘴気の腕を全て切り落として防御できているものの、攻撃の勢いは全く衰えないためこのままではジリ貧になることは明白だった。

 

(通常ならばあんな大規模な能力、連続で使用すれば並みの《魔女(ストレガ)》なら一瞬で星辰力が空になるはずだが……噂に違わぬ保有量。持久戦をして苦しくなるのはこちら側なわけだが……)

 

 通常の《魔女(ストレガ)》ではありえない出力の能力を見せる彼女の能力に冷静に対処しながらも状況の打開策を探る。

 

「……っ!?」

 

 嫌な予感がしたため咄嗟にその場から離れると、立っていた場所は瘴気で腐食されていた。第六感で探ると、ガスのように瘴気が漂っており吸引してしまえば間違いなく致命傷を負うことになるのは容易に想像できる。

 

(瘴気を触手状、ガス状、様々な形に変形させて攻撃しているのか。特にガスは無味無臭、勘で回避するしか手はないか……)

 

「あなた、今の攻撃どうやって回避したの。見えていない筈なのに」

 

「……そんなことより攻撃を止めてくれないか。俺は別に敵意はない」

 

「残念だけどあなたが私に近づく以上、止める気はないわ。嫌ならここから立ち去って」

 

 再び攻撃がやってきて、それを基臣が回避するという構図がしばらくの間続いた。ただ、基臣には彼女を攻撃するつもりが無いため、どうしたら落ち着いてもらえるものかと攻撃を回避しながら思案していると徐々に攻勢が落ち着いてくる。

 

 その様子を訝しみながら少し距離を置いて様子を見ると、オーフェリアの攻撃が完全に止まった。

 

「……どうしてあなたから攻撃をしてこないの」

 

「どうしてと言われても、お前から悪意を感じない以上攻撃する理由が見当たらない」

 

 服に付いた塵を払い落とし、ピューレを待機状態にして腰のホルダーに戻す。

 

 ――攻撃の意思がないことを分かりやすく示す。基臣にはこれが考えた中で一番の策だった。

 

「そもそも警告を無視してお前に近づいたのは俺だ。非があるのはこちらになるからな、文句の言いようがない」

 

 基臣の行動に毒気を抜かれたのか彼女の周りにある万能素(マナ)の動きが落ち着く。

 

「あなた、不思議な人ね」

 

「お前に言われたくはないがな、ふぅ……」

 

 基臣はオーフェリアに近づくと、地面へと座り込む。

 

「どうして私なんかと話がしたいなんて思ったのかしら」

 

「純粋に興味があっただけだ、レヴォルフ最強と噂で聞いていたからな」

 

「そう……」

 

「ほら、座れ」

 

 顎で隣を指すと、彼女に座るように促す。

 

「別に、あなたとするような話なんて特に思いつかないのだけれど……」

 

「確かさっき俺に何か質問してきただろ、それでもいい」

 

 促されるままに、オーフェリアは基臣の隣に座る。

 

「……それなら、さっきの攻撃を回避できたのは何故なの?目視で回避できるものでは無いのだけど」

 

「あぁ、あれか。あれなら《魔術師(ダンテ)》の能力で回避しただけだ。分かりやすく言うなら直感で避けたってやつだ」

 

「《魔女》や《魔術師》で純星煌式武装(オーガルクス)を使える人間はあまりいないと聞いていたから、あなたも《魔術師》だったのは意外……」

 

 最初はぎこちなかったが、徐々に慣れていったのかお互いに質問し合ったりして会話が弾んでいく。そうこう二人が話をしている内に、日も沈む頃合いになる。

 

「む……、そろそろ時間か。また来る」

 

 立ち上がり、そのままビルの山の中へと消えていった基臣を見てオーフェリアは思う。

 

「本当に、不思議な人……」

 

 




前書きにもありました通り勘違いしていた設定がまた一つ見つかりました、はい。
実はセシリーですが、鳳凰星武祭の時は星仙術をまだ学んでいなかったようです。(wiki情報)
こいつほんと懲りねえなと思われているかもしれませんが、これからは出来る限り設定ガバを起こさないように善処します。(確約はしない)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

part15

皆さまお久しぶりです。感想で毎日投稿もしくは隔日投稿を心掛けると言っておきながらこの体たらく、ホントウニモウシワケナイ。


世間の某娘ゲームの流れと逆行してダビマスにハマったので初投稿です。


 マッドサイエンティストのモルモット君になるRTAはーじまーるよー

 

 前回はオーフェリアとの初顔合わせを終えて、エルネスタから武装テストのために呼び出しを受けたところまででしたね。

 

 約束の日になったので、メスガキも呼び出して合流したら、早速アルルカントに向かいましょう。

 

 アルルカントに着くとエルネスタが相も変わらず情熱的なスキンシップを図ってきますが、メスガキを盾にすることで回避しましょう。そうすることでメスガキとエルネスタの抱き合いという百合百合なシーンを作り出すことが出来ます。あら^~いいですわぞ~コレ。

 

 

 そんな茶番はさておき、さっそく研究室まで案内してもらいましょう。

 

 わあ、ここがテストルームですかー。色んな道具がありますねー。星武祭(フェスタ)で優勝したその素敵な身体能力を見せてよ。

 

 さて、まずはファ○ネルミサイルの方からテストを手伝いましょうか。

 

 この煌式遠隔誘導武装ですが、使用者本人の空間把握能力によって操作できる個数が決まってきます。例えば、原作では星導館の序列5位であるユリスが6本、レヴォルフの序列2位であるロドルフォは3本と単純に本人の戦闘能力と比例している訳ではないのです。

 

 ですが、第六感を持っていると操作できる個数は劇的に上がります。今回のホモ君が操作できる個数は12……普通だな! 今まで検証してきた中で最大で50個まで操作できる化け物がいましたが、操作可能な数が多すぎても頭に負荷がかかりすぎて、最終的にS○X!*1の人みたいに精神崩壊してしまうので、まあ程々が一番というわけです。

 

 これ以上説明していると話が脱線しかねないので、さっそく爆弾を1つ戦闘用の自律式擬形態(パペット)にぶち当ててみましょうか。

 

 

 

 おぉ……! 威力の方も試作1回目の段階なのに自律式擬形体を一個だけで破壊出来るとは……割と火力が出てますね。これで小型化もしっかりしてくれれば界龍(ジェロン)の謎の収納技術で大量に身体の中に隠し持っておくことができて十分強力な武装になりそうですね。

 

 ミサイルの方のテストを終わって、エルネスタ達の方に行くと皆びっくりしてますね。またオレ何かやっちゃいました?(孫並感) とまあ冗談はさておきさっさと次のテストもやっちゃいましょう。

 

 さてもう片方のリミッター剣のテストもやりましょうか。

 

 ふむふむ……。普通に使うだけでも純星煌式武装としばらく鍔迫り合いできるぐらいには、そこそこ威力が出ますねぇ。では本命のセーフティー解除の方を……

 

 セーフティー解除! コノシュンカンヲマッテイタンダー!! 

 

 おぉ! めっちゃ出力が出るじゃないですか。この出力下手したら黒炉の魔剣以上じゃないっすかね。

 

 

 

 ん? ちょっと出力上がりすぎてなぁい……って、ファッ!? 

 

 危ねぇ危ねぇ……思いっきり爆発に巻き込まれるところでした。武装のテスト中は時たまこういう出力を上げすぎて爆発する事故は起こるので気を付ける必要がありますね。爆発事故には気を付けよう! 

 

 さて、リミッター剣の方は使い物にならなくなったので別のテストに移るようです。

 

 次はホモ君の身体に何かペタペタくっ付けてデータを取るようですね。ホモ君が服を脱ぐので視聴者のホモの兄貴達も見ろよ見ろよ。

 

 ウホッ、身体中にいくらか切り傷がついてますけど良いカラダっすねぇ本当に。

 

 いろいろ身体のあちこちを触られたりしましたが、なんとか身体検査も終わりました。エルネスタ達に武装に関する意見を言いましょう……ん? 誰か来ますね。

 

 おっと、これはアルルカントの上級生に絡まれるイベントですね。エルネスタもカミラも中等部1年とアルルカントに入って間もなくその才を発揮してブイブイ言わせてたので元々権威のあった上級生たちの妬みを買っていました。今回はホモ君達、部外者をこうして学園の中に勝手に入れたことでその怒りはピークに達したといったところでしょうか。

 

 エルネスタ達と比較して適当に相手方を煽っておきましょう。他学園の人間から煽られることもあって簡単に挑発に乗ってくれます。

 

 ホモ君が挑発すると、向こうから今度の獅鷲星武祭(グリプス)で勝った方のいう事を何でも聞くっていう勝負を持ち掛けられます。鷲獅星武祭で優勝できなかったらその時点で速攻でリセットなので、実質条件は無いに等しいです。ありがたく承諾しましょう。

 

 これによって、カミラとエルネスタがホモ君を勝たせるために武装開発に熱心になってくれるので良イベントです。いいゾーこれ。

 

 他学園の事に首を突っ込んでるのでメスガキが何やら横から色々と言ってきますが、このイベントを見逃すわけにはいかないので適当に言い(つくろ)っておきましょう。

 

 武装のテストも終わったわけですが、このまま退散というわけではなく次はエルネスタと一緒に武装のパーツを買いに商業エリアへと行きます。

 

 パーツ買うだけならホモ君連れていく必要ないじゃんアゼルバイジャンなのですが、要は荷物持ち要因ですね。エルネスタの機嫌次第で武器の性能が違ってくるので大人しく従っておきましょう。

 

 部品を選ぶ際に色々エルネスタがめちゃ早口で解説をしてくれますが、ホモ君の知能は一般人レベルなのでチンプンカンプンです。というか界龍(ジェロン)の中でも賢さトップクラスである沈華(シェンファ)ですらよく分かっていないのでホモ君が分からなくて当然ですが。

 

 早口解説を聞き終えて無事パーツを買い終えたのでささっとアルルカントへと帰還しましょう。なぜかエルネスタがわざわざ危険な裏道から近道して帰ろうとしていますが、黙ってついていくことにしましょう。

 

 実は人がいない場所を通っているのは理由があるのですが……っと、噂をすればなんとやら。謎のスライムみたいな生物達とエンカウントしてしまいました。なぜかホモ君達が人通りの少ない所を通ってる時に襲撃してきましたが、数は多くても一つ一つはそこまで強くないのでエルネスタを守りつつ片っ端から一掃していきましょう。

 

 

 

 少女雑魚狩り中……

 

 

 

 ふう……護衛をしながらの戦闘だったので少しだけ時間はかかりましたが倒しきることができましたね。

 

 この謎の生物の襲撃、偶然かと思いますが実は全てエルネスタが仕組んでいたことだったのです。

 

 な、なんだってー(棒読み)

 

 ホモ君の実力を実戦で測りたかったというのがこんなことをした理由らしいです。だからホモ君達を人がいない場所へと誘導する必要があったんですね。(メガトン構文)

 

 エルネスタは誤魔化すように腕にご自慢の胸を押し付けてきます。

 

 そうやってホモ君を骨抜きにしてモルモットにするつもりだろ、騙されんぞ(ジョージ)

 

 まあでも少しぐらいなら堪能してもバレへんやろ、グヘヘ……ってゑ"ゑ"ゑ"ゑ"ゑ"ゑ"ゑ"

 

 

 

 こ ん な と こ ろ になんでシルヴィがいるんですか!? 

 

 え、なんで? なんで? ライブでここにいないはずじゃーん! 事情があって延期になった? あ、さいですか。

 

 いや、ホモ君一人だけで会うなら全然良かったですけど、片腕に女の子をひっつけているという最悪のタイミングで遭遇したのは非常にまずいですよ! 

 

 スゥ……

 

 落ち着けぇ、素数を数えて落ち着くのだ……

 

 1,3,5,7……(奇数)

 

 あ、そうだ。この辺にぃ、美味い喫茶店来てるらしいっすよ。行きませんか? 行きましょうよ。

 

 じゃけん夜(昼)行きましょうね~

 

 

 

 

 

 えー、シルヴィの機嫌を取るために喫茶店に着きましたが店内の雰囲気は最悪です……。誰だよ! こんな空気にした奴! 

 

 ……私でしたね、ハイ。

 

 ホモ君の隣に誰が座るかということでひと悶着ありましたが、じゃんけんでエルネスタが隣に座ることになりました。嫌な予感しかしませんねぇ……。

 

 と、そういえば言っていませんでしたがこのゲーム、ヒロインたちは好感度が上がれば上がる程、他の女の子と絡んでいるのを見ると嫉妬で好感度の上下が激しくなる仕様です。いくら開発陣が恋愛パートにも力を入れたからって、そんなとこまでリアルにしなくていいから……。

 

 そうこう解説している内にエルネスタとシルヴィの間でバチバチと火花が散ってますね。エルネスタさんまじで煽るのやめてクレメンス……。

 

 ヒエッ……。煽りのせいでシルヴィの背後から般若の面が現れてるんですがいつからこのゲームはスタンドバトルにシフトしたんですかねぇ。やだ怖い……やめてください……! アイアンマン! 

 

 さすがにこの空気は不味いので事情を説明することにしましょう。エルネスタがホモ君をからかっているだけという事を含めて説明すると少しは落ち着いてくれましたね。

 

 その代わりなのか、延期になったシルヴィがライブのチケットをホモ君に渡してきました。許してやるからライブを見に来いという事でしょうね。シルヴィのライブイベントは好感度が増加するので割とうま味です。拒否する理由もないので快諾しましょう。

 

 機嫌も直してもらえたことなので、適当に会話を打ち切ってささっとアルルカントへと荷物を運びましょう。荷物を運び終えたらこれ以上することもないので界龍に直帰します。

 

 シルヴィとたまたま遭遇してしまうというアクシデントはありましたが、なんとか乗り切ることが出来ました。

 

 そろそろ界龍の方でも次の獅鷲星武祭に向けてロリババアが動いていくので、そろそろ決まるであろうチームメンバーとの交流を──

 

 今回はここまで。ご視聴ありがとうございました。

 

 

*1
やめないか!



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

裏話15 武装テスト

とにかくベッドでぐっすり寝たいので初投稿です。


 基臣は煌式武装のテストのために沈華を連れてアルルカントへと向かっていた。

 

「さて、そろそろアルルカントに着くが……」

 

「やっ、ほー!」

 

 アルルカントの正門からエルネスタは飛び出してくると、その勢いのまま基臣へと飛びつこうとする。

 

 前みたいなエルネスタの過剰なスキンシップを警戒していたため、事前に察知した基臣は沈華を盾にして回避すると、それに反応しきれなかった二人は抱き合う形となって床に倒れ込んだ。

 

「へぶっ!」

 

「ちょっ!?離れなさい……よ!」

 

 抱き着いてきたエルネスタを引きはがすと沈華は疲れた様子で彼女を睨みつけるが、口笛を吹いて先ほどのスキンシップについて知らぬ存ぜぬを貫く彼女を見て怒る気力も削がれてしまう。

 

「ちぇー、剣士君を驚かそうと思ったんだけどなぁ」

 

「からかうのはよせ、今日はそんなことをしに来たわけじゃないだろう」

 

「親交を深めるための挨拶ってやつだよ。ま、それはともかく……これ、IDカードだから無くさないようにねー」

 

 胸ポケットからカードを二つ取り出すとそれぞれを沈華と基臣に差し出す。

 

「それじゃ、こんなところで立ち話もなんだし中に入ってから話をしよっか。ついてきて」

 

 エルネスタの案内に従って中に入っていくと中にいる学生から様々な視線を向けられる。しかし、どの視線も好意的なものではなく――

 

「どうやらあまり歓迎されているわけでは無いようだな」

 

「まあそりゃそうだよ。私達と財体側にとってはウルム=マナダイトを一つ貰えるわけだから美味しい話だけど、他の生徒からしてみれば入学して間もない私が増長する危険性があるわけだからねぇ。先に入学して地位をある程度確立したカミラはともかく」

 

 話しながらもそんな視線をものともせずエルネスタは歩いていると、やがてたどり着いたのか一つの部屋の前で立ち止まる。

 

「ここがカミラの実験室。ほら、中にどうぞー」

 

 扉が開くとそこには煌式武装を調整しているのか機材の前で集中しているカミラの姿があった。部屋に入ってきた基臣たちの存在に物音で気づいたのか椅子を回転させると立ち上がる。

 

「よく来たね、と言いたいところだけど……」

 

 チラリと沈華を一瞥すると、エルネスタに文句を言いたげな顔を見せる。

 

「誉崎君はともかく、そこの女の子も入れて良いものかな……。あまり部外者を入れたくは無いのだが」

 

「まあまあ、剣士君だけだとデータが少ないから来るもの拒まずでいいってことで!オーダーメイド品の作成ってことでただでさえ獅子派から被験者が集まらないんだからさー」

 

「…………はぁ。まあそう言うなら良いという事にしておこうか。あぁ……そうだ、椅子はそこにあるから適当に座ってくれ」

 

 壁に立てかけていたパイプ椅子を指すと、カミラは座るように促す。

 

 基臣が人数分のパイプ椅子を置くとそれぞれ三者三様、好きな座り方で座る。

 

「一応、君のリクエストにある程度沿う形で二つともプロトタイプを作ったんだが、とりあえず君の感想をもらってフィードバックを得ようと思って呼ばせてもらうことにした」

 

「そうか、それで肝心の現物は……」

 

「もちろん用意してる、ついてきてくれ。あ、エルネスタと君はそこで待っててくれ」

 

 カミラの指示に従い、基臣は煌式武装のテスト用に用意された隣の部屋へと移動する。

 

 窓越しにエルネスタ達のいる姿が見える。恐らく、そこからテストの様子を観察するのだろうと基臣は考える。

 

「じゃあまずは遠隔誘導爆弾の方からだ。これを指にはめてくれ」

 

 カミラはポケットから指輪を取り出すと、基臣へと渡す。

 

「これは?」

 

「遠隔誘導爆弾の母機に当たる物だな。遠隔誘導をするためには母機となる煌式武装が必要になるわけだから、その指輪を母機にしてそこにある爆弾を操作しようっていうわけだ」

 

 カミラは基臣へと指輪を手渡すとそのまま部屋から出る。

 

「頭の中でそこにある爆弾を操作するイメージを持つと動くはずだ、やってみてくれ」

 

「分かった」

 

 基臣は母機となる指輪を起動すると、頭の中で爆弾の移動する軌跡をイメージする。

 

 すると、12個程の球状の爆弾がフワフワと浮かび上がり基臣の周囲をグルグルと移動する。

 

「うわーぉ、12個もかー」

 

「これは中々の才覚だな……」

 

 二人の驚愕してる姿に、凄いか凄くないかの指標がないためいまいち分かっていない沈華は首を傾げる。

 

「……12個ってそんなに凄いの?あれ、結構小さいけど」

 

「まあ確かにあの程度の大きさなら星辰力のコントロールはあまり必要ないが、個数が増えていく程卓越した空間把握能力が必要になってくるんだよ。あれを6個も操作できれば超一流と言っても過言ではない」

 

「まあ聞くよりも実際に試したほうが早いんじゃないかにゃー。ほら、メスガキちゃんも試してみるー?」

 

「誰がメスガキよ!」

 

 そう言いつつも沈華はテストルームに入っていき、基臣から母機となる指輪を受け取る。

 

 遠隔誘導武装の起動をして爆弾を持ち上げようとする頭の中でイメージを固めていく。イメージの通りに爆弾は空中を浮遊はしたものの、浮かび上がったのは4個まで。5個目からはウンともスンとも言わずそのままだった。

 

「ふむ、4個か……」

 

「操作できない人間が多い事を考えたら、結構センスある方なんじゃないかなぁ。まぁ、さっきの見ちゃったら自信失っちゃうだろうけど」

 

(こんなのを基臣は12個も操作してるの……!?とてもじゃないけど4個持ち上げるだけでもせいぜいなのに)

 

 少しして慣れない遠隔誘導の感覚に疲れたのか指輪を待機状態にして基臣に返すと、元の場所に戻る。

 

「これで剣士君がいかに普通じゃないか分かったんじゃない?」

 

「ええ……」

 

「まあ、あれは明らかに異常だ。一般の解釈で当てはめないほうがいい。4個動かせただけでも君は十分に優秀だよ」

 

 カミラから慰めの言葉を受けるものの、自身と基臣との間に明らかな実力差があることを痛感させられることとなった。

 

(しっかり修行しないと置いていかれるわね……)

 

 

 

 しばらくすると、操作する感覚を掴んだのか爆弾を自在に動かしながら、カミラたちに問いかける。

 

「とりあえず威力を確かめたいんだが、どれかぶつけていい的はないか?」

 

「威力の検証用に用意した自律式擬形体を出すからそれにぶつけてくれ」

 

 カミラがアナウンスすると、部屋の中に一体の自律式擬形体が現れる。基臣は爆弾を一つだけそれに向かって誘導して着弾させる。

 

 着弾した自律式擬形体はその爆発によってパーツがバラバラになるほど派手に弾け飛んだ。

 

「……うん。中々の威力だ、悪くない。火力もそうだがあとは小型化してくれれば文句なしだな」

 

「小型化に関してはまだ開発途中だから追々といったところになるかな。まだ時間はたくさんあるからそこのところは今後詰めていくことにしよう。次の武装を試すから戻ってきてくれ」

 

「分かった」

 

 指輪を待機状態にすると、扉を開けてカミラたちの元へと戻る。帰ってきた基臣にカミラは少し呆れたような顔をしていた。

 

「にしても、君。最初からこんなに動かせるなんて本当にどんな空間把握能力をしてるんだ……。こんな数の遠隔誘導武装を操作できる人間、理論上ではいないはずなんだが」

 

「なんか操作するのにコツとかあるの?後学のためにも知っておきたいけど」

 

「なんとなくで動かしてたからコツとかそういうのは特には無いな」

 

「ふむ……。まあこういう操作は感覚的な物に由来しているから全員にできるものでは無いか……」

 

 メモを取り終わり、机の上から剣型の煌式武装を手に取ったカミラはそれを基臣へと渡す。

 

「ではもう片方のテストもやろうか。もう一体自律式擬形体を用意したからそれで試し切りしてくれ。リミッターは流星闘技(メテオアーツ)に近い感覚で解除で出来るようにしてある」

 

 再び部屋に戻った基臣はリミッターがついた状態で何度か試し振りをすると、解除した状態も試そうと煌式武装に星辰力を注ぎ込む。すると、基臣の手にある煌式武装から出る眩い光が更に強くなっていく。煌びやかに輝くその青白い光に沈華は思わず見とれそうになる。

 

「わぁ、綺麗……」

 

「理論値だけしか算出できていなかったから実測値はどうかなと思ったけど結構良い数値を出してるな。ふむふむ……」

 

 基臣は何度か自律式擬形体に試し切りして感触を掴んでいると、身体に身の毛がよだつような悪寒が駆け抜ける。

 

「っ!?」

 

 その悪寒の正体が、手元にある煌式武装が原因であるといち早く勘付いた基臣は素早く持っていた煌式武装を人がいない方向へと放り投げる。数瞬後にその武装はけたたましい音を響かせると連結していたマナダイトが連鎖して爆発した。

 

 ガラス越しに見ていたカミラたちは爆発を受けて基臣が無事か確認しようとするが、爆発の煙で中の様子が見えないため、カミラはマイクを使って基臣に呼びかける。

 

「大丈夫か!!」

 

 しばらくして煙が徐々に晴れていくと、特に爆発に巻き込まれた様子もなく基臣が煙を払うようにしながら現れた。

 

「ケホッ……。問題ない、少し煙たいだけだ」

 

「そうか。……想定したよりも出力が大きくなって煌式武装の耐用限界を超えていたか。さっきの出力を保持しつつ本体が耐えれるようにする必要があるな」

 

 ぶつぶつと呟きながらメモを取りながらカミラは机の上を見る。

 

「予備がない以上リミッター剣の煌式武装はこれ以上は試動作できない。仕方ない……、今回はこれぐらいにしておこうか」

 

 カミラはメモ帳をしまうと、今度は袋からパッドを取り出すと丁度帰ってきた基臣にそれを向ける。

 

「あとは君の身体データを採取しようか。君の体格に合わせて武装を調整しておく必要があるからな」

 

「上を脱げばいいのか?」

 

「ああ、上半身だけで大丈夫だ」

 

 カミラの言葉に頷くと、基臣はシャツを脱ぐ。

 

「っ……!」

 

 服を脱ぐと、その身体には無数の痛ましい傷が刻まれていた。その傷だらけの身体に沈華は思わず顔を背けてしまう。

 

(どんな事をしてたらこんなに傷が……)

 

「さーてと、それじゃデータを取りますかな」

 

 気にした様子もなく作業を続けるエルネスタ達は、基臣にパッドを貼り付けていきデータを収集していく。

 

 

 

 しばらくして収集し終わったのか、パッドをはがしてカミラは服を着るように促した。

 

「これでとりあえずテストは終わりか」

 

「とりあえずはこれで終わりだな。あとはエルネスタが何かあるなら――」

 

「まったく、何をしているかと思えば他学園の戦力増強とは。これが未来を担うアルルカントの才気ある生徒の一人というのですから泣けますね」

 

「貴方は……」

 

 突然部屋に現われた男にカミラは顔を歪める。後ろに何人か生徒を連れていることから獅子派の幹部らしき存在である事が伺えた。

 

「君のせいで我ら獅子派の面子が丸潰れなんですよ。汎用性を捨ててワンオフ品に逃げていると思われてしまっている。その意味は理解していますか?」

 

「それは……」

 

「やはり君よりも私の方が獅子派のトップになるに相応しい能力を持っている。君にはこの研究室をあげるのすら惜しい――」

 

「おい」

 

「ん?他学園の人間が我々の問題に入ってこないでもらえますかねぇ」

 

「お前らの権力闘争なんぞに興味はないが……。才能がない癖に、自分の方が上と勘違いしているとは随分とおめでたい考えをしているみたいだな」

 

 基臣の挑発混じりの言葉に、アルルカントの生徒達は殺気立つ。

 

「勝手に言わせておけば、素人がよくもまあそんな口を叩けますね」

 

「確かに俺は煌式武装の技術に関しては素人だが、勘で人の才覚の有無程度ならば分かる。カミラやエルネスタと違ってお前は無い側の人間だ」

 

「私がそこの一年や、異端児に劣るとでも言いたいのですか」

 

「ああ、そうだ」

 

「……そこまで自身の勘を信用しているなら、我々の武装とそこの二人が作った武装のどちらが優秀なのか獅鷲星武祭でハッキリさせようじゃないですか。勝った方の言う事を一つ聞くというルールで」

 

 その言葉に基臣は少しエルネスタ達の方を見る。

 

(俺はともかく、二人まで迷惑をかける訳にもいかないしな……)

 

「俺だけなら構わないが、二人まで巻き込むのは――」

 

「別に構わないよ」

 

「私も大丈夫だよー」

 

「……決まりですね。では次の獅鷲星武祭まで首を洗って待っておくことです」

 

 アルルカントの生徒達は睨め付けながら部屋を出て行ったため、部屋は四人だけとなり静まり返る。

 

「面倒な事態に発展させてしまったな、すまない」

 

「別に構わないよ。こちらこそ、意図していないとはいえ我々の派閥の争いに巻き込んでしまってすまなかった」

 

「アルルカントの内情は噂程度の事は知っていたからな。こうなる事は大体予想が出来た事だ、問題ない」

 

「そう言ってくれると助かる」

 

 手を叩いて気持ちを切り替えるとエルネスタは椅子から立ち上がる。

 

「さーて、次は買い出しに行こうかー。ほーら、剣士君も行くよー」

 

「俺はその手のパーツに関する知識は無いしお荷物になるだけだと思うが……」

 

「いやいや、剣士君にそういうのは求めてないのよ。まあ、簡単に言っちゃえば荷物持ちってことだねー」

 

「ふむ」

 

 基臣はチラリと沈華を見ると、彼女は口を開く。

 

「元々私は無理言ってついてきたんだから、その子が変なことしないんだったら特に意見するつもりはないわ」

 

「まあそれなら、同行させてもらおうか」

 

「よーし、じゃあレッツゴー」

 

 調整のためにアルルカントに残るカミラを除いた三人は、エルネスタの楽しそうにする声を聞きながら商業エリアへと向かうことにした。ただの荷物持ちになるだけだと二人は考えていたが、そうは問屋が卸さなかった。

 

「これは持ち主の星辰力を駆動部へと伝達させて、過励万応現象に近似する現象を引き起こす事で出力を増大させるパーツで、あれは――」

 

「何を言ってるのかさっぱりだな……」

 

「私も同じだわ……」

 

 エルネスタが早口で説明するものの、技術屋ではないため理解することができない二人は荷物運びをするよりも話を聞くことによって疲労が徐々に蓄積していく。

 

「早く終わらないかしら……」

 

「まあ、仕方ない。これも必要な事だと思うしかないだろう」

 

 その後、必要なパーツを見つけては長々と楽しそうな表情で解説するエルネスタの話を聞くという疲れる作業もなんとか終わった。満足したのかエルネスタがほくほく顔で先導して歩いていく。

 

「こっちの方が早いから、ほら!」

 

「ちょっと!」

 

「……仕方ない、ついていくか」

 

 勝手に先行していくエルネスタに二人は仕方なく後ろからついていく。

 

 しかし、ついていく途中で違和感を基臣は覚える。まるで何者かが自分たちを狙っているかのように――

 

(……っ!?何か来る!!)

 

 全力で前へと駆けると、スライムもどきが元いた場所へと飛びかかってきていた。スライムを境に後ろへと退避した沈華と分断されるが、なんとか戦闘能力が皆無であるエルネスタを保護することに成功する。

 

「俺の後ろに隠れておけ、下手に動いたら死ぬぞ」

 

「はいはーい」

 

 背後に隠れるエルネスタを確認した基臣はスライムもどきを潔白の純剣(ピューレ)で切り払っていく。しかし、その断面を境に分裂してスライムもどきはサイズは小さくなるものの数を増やしていく。

 

 何度か切り払っていくと、分裂せずそのまま液状の物質へと変化して動かなくなるスライムもどきも現われ始める。

 

(一回切るだけでは足りないのか……。とはいえ、一定のサイズより小さくなるとその機能を停止するらしい)

 

「沈華!」

 

「分かってる!」

 

 数は多かったものの一つ一つはそこまで強くなかったため、攻略法を理解した二人は順調に倒していく。

 

 

 

 少し時間はかかったものの手間取ることなく倒すことができた二人はそれぞれ戦闘態勢を解く。

 

「……終わったか」

 

「ふー、何なのこの物体……」

 

「これが何なのかは知らんが、一つだけ分かったことがある」

 

 そう言うと、基臣はエルネスタの元へ行って問い詰める。

 

「今の襲撃は全部お前が仕組んだもの。違うか?」

 

「……いやー、そこまで分かっちゃうかぁ。本当、君の勘って冴えてるね」

 

 その言葉に沈華はエルネスタに対する警戒を一気に高める。

 

「まさか貴方、私達を嵌めるつもりで!」

 

 呪符を取り出す沈華を見たエルネスタは慌てて手を振って否定する。

 

「いやいや、違う違う。自然体な状態での剣士君の戦闘データを取る必要があったんだよ。不意打ち気味になって申し訳ないとは思うけどね」

 

「……本当なの?」

 

 先ほどの襲撃のこともあり、あまりエルネスタのことを信用していない沈華は基臣の方を見る。

 

「特に悪意を向けられてはいないから、本当にデータ集めのためだろう。……だがエルネスタ、次からはそんなことするなよ。事あるごとにお前を疑うようなことはしたくない」

 

「りょーかーい」

 

 エルネスタは基臣に近づくと腕に胸を当てて絡めさせる。

 

「おい、ひっつくな」

 

「いーじゃんいーじゃん。まあこれもお詫びということで」

 

 戯れにひっついてくるエルネスタを振りほどこうとするが、非星脈世代であることも相まって引き剥がすための力加減に苦労する。今まで見てきた人間の中でも一際考えが読みづらいエルネスタに基臣は振り回されてしまう。

 

「ふふーん、剣士君はやっぱり面白いねー」

 

「離せ――」

 

「随分と、楽しそうだね」

 

 知り合いの少ない基臣にとって後ろから聞こえてきたその声は余りにも聞き覚えがある声だった。己の身に第六感が警鐘を鳴らす中、その声の方向へと振り返るとそこには帽子を深くかぶり、尋常じゃないオーラを発しているシルヴィアがいた。

 

「私も混ぜてよ」

 

 

 

 

 

 

 ()()をするという事で近くにある喫茶店まで足を運ぶことにした一行は席決めで揉めたものの、じゃんけんで決めるということでいったんその場は収まった。基臣とエルネスタ、沈華とシルヴィアという組み合わせで座ることになり、なんとかなるかと思ったが、シルヴィアと沈華から非難の籠った視線がエルネスタに向けて送られる。しかし、肝心のエルネスタ本人はシルヴィアを興味津々に見つめる。

 

「いやー、歌姫様に会うなんて偶然だなー。しかも、剣士君とお知り合いだなんて」

 

「っ!? なんで……」

 

「勘って奴かなー。といっても、そこの剣士君のそれとは全然種類が違うけどね。あ、別にばらすつもりは無いから心配しないでいいよー」

 

「そう……」

 

 シルヴィアもエルネスタがなんとなく悪い人間ではないことを理解したのか、警戒を解く。といっても、それ(正体の露見)とこれ(恋敵の登場)とは話が別である。

 

「そ、れ、で。どうして基臣君がその女の子と腕を組んで歩いていたのかなー」

 

 笑顔で基臣に質問をするシルヴィアだったが、その口調は責めるような雰囲気だった。

 

「それは私が剣士君のかの……ウブッ!?」

 

 嫌な予感しかしなかったためエルネスタの口を手で塞いで黙らせると、正直に事の経緯を基臣は説明していく。

 

「煌式武装の開発を頼んでいて、それのテストに付き合ってただけだ。さっきは色々あってパーツの買い出しに出かけてた」

 

「ふーん。で、その子と腕を組んでたのもテストの一部だってことですか」

 

 ジト目で基臣を見つめるシルヴィアに基臣は原因を頭の中で考えるしかできなかった。

 

 しかし、基臣を振り回していることに怒っているのなら、エルネスタの方に怒りの方向を向けるはずであるため、恋愛のれの字も知らない基臣にはシルヴィアが怒ってくる理由が分からない。

 

 とはいえ、自分に非があるのだろうと思った基臣は素直に頭を下げる。

 

「悪かった」

 

「え?」

 

 いきなり頭を下げる基臣にシルヴィアだけでなく、沈華も驚く。

 

「正直に言うとシルヴィアが怒る理由はちゃんと理解できていない。しかし、俺がお前の機嫌を損ねたことは間違いない。すまなかった」

 

 頭を下げる基臣にシルヴィアも、うっ、と言って言葉を途切れさせる。しばらくして気が削がれたのか溜息を吐くと、ひとりごちる。

 

「あー、もう!惚れた弱みだから強く言えないじゃん……怒ってる理由を言う訳にもいかないし……

 

 シルヴィアはポケットから何かを取り出すと基臣へと差し出す。

 

「ん」

 

「これは?」

 

 差し出されたものを基臣は見るとアスタリスクの中で最大の規模を誇るシリウスドームで行われるシルヴィアのライブのチケットだった。しかも、席は最前列で手に入れようと思って手に入るものではない代物だった。

 

「私のライブのチケット。見に来てくれたら許してあげる」

 

 怒っている表情をしながらも内心ではドキドキしているシルヴィアの様子に表情を緩めると、基臣はシルヴィアから差し出されたチケットを受け取った。

 

「それぐらいならお安い御用だ。行かせてもらうとしよう」

 

「……」

 

「どうしたんだ、そんな顔をして」

 

「いや、基臣君がアスタリスク来たばっかりの時と比べて大分表情が柔らかくなったかなぁと思って」

 

 シルヴィアに指摘され、基臣は自分の顔をぺたぺたと触る。

 

「そうなのか? あまりそういう実感はないのだが……」

 

「まあ、いい事だと思うよ。最初の時の基臣君、結構怖い顔してたから話しかけづらい雰囲気がすごかったし」

 

「そうか……」

 

 鏡を持っていなかったため基臣は窓を見ると、そこには確かに無骨な表情を和らげている自身の姿があった。

 

 

 




本作の総合評価が3000ポイントを超えました。まさか処女作でここまで行くとは夢にも思いませんでした。頑張って執筆していきますのでこれからもよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

part16

矛盾が起きないように気を遣っていたので初投稿です。


 

 ロリババアに振り回され続けるRTAはーじまーるよー

 

 前回はシルヴィとエルネスタによる壮絶な睨み合いの間に挟まっていましたが、私は元気です。

 

 とりあえず、獅鷲星武祭のチームメンバーが決まるまでは授業をサボって修行をすることにしましょう。もちろんメスガキに見つかるわけにはいかないので、場所は転々として修行することにします。同室の虎峰からは呆れたような視線を向けられますが、特に支障が出ているわけでは無いので無視だ。

 

 

 

 少女修行中……

 

 

 

 そんなこんなでメスガキとのかくれんぼを一週間ほどやってますが、今のところ4勝1敗です。勝敗数だけで言えば十分かもしれませんが、日に日に探索能力が上がっているのか割かしニアミスすることがあるんですよねぇ。気を付けていきましょう。というか、ホモ君にずっと構っていますけどメスガキは授業を受けないでいいんですかねぇ。

 

 

 

 さーて修行を続けているとようやくロリババアから呼び出しを受けましたね。9月下旬に入ったばかりぐらいで、時期的にも獅鷲星武祭チームメンバーの決定についての話をするはずです。さっそく向かうことにしましょう。

 

 そこまで時間もかからず到着しましたが、既にホモ君以外にも何人か集まっていますね。メスガキは当然として、準優勝だったセシリーや虎峰、それにメスガキのお兄ちゃんまで来てますね。あと、現時点でロリババアの次に強い序列2位の暁彗もいます。

 

 あれ……? でも梅小路冬香や他にも何人かそれなりに強いやつが集まっていますね。ホモ君合わせて10人ですから2チーム作れるぐらいの人数でしょうか。

 

 獅鷲星武祭はメンバーの定員は5人なのでこの中で選考会をするかんじですかね。まあ、ホモ君はロリババアにチーム黄龍に入れてもらえる確約を既にもらったので大丈夫ですが。

 

 この中ではホモ君の次に強い暁彗ですが、獅鷲星武祭に参加する場合としない場合がそれぞれ五分五分の確率であります。できればチームに参加してほしいところですが、まあ参加しない場合の作戦も練ってあるのでなんとかなります。

 

 お、最後にロリババアが来ましたね。さっそくチームメンバーの発表のようです。

 

 さて、チーム黄龍には……ホモ君にメスガキにそのお兄ちゃん、虎峰とセシリーと割と順当なメンバーが選出されましたね。暁彗がホモ君にすり替わった点を除けば原作と同じといったところでしょうか。

 

 暁彗がいないのが少し残念ですが、まあ運要素が強かったので仕方ないです。チーム決めも終わりましたし、ささっとリーダー決めして解散しましょうかね。

 

 ん……まだ話は終わってない? 

 

 

 

 ……今回の獅鷲星武祭はチーム黄龍と張り合えるぐらいのチームを別にもう1つ編成する? 競り合って私を楽しませてくれ? 

 

 

 

 …………

 

 

 

 はぁ──────!? うせやろ!? 

 

 なんでや! ホモ君のチームに参加せず、そのまま獅鷲星武祭に不参加の状態ならまだしも敵対チームとして登場するなんて聞いてないですよ。

 

 はぁー……

 

 

 

 あ ほ く さ。

 

 

 

 最近あまり目立った動きをしていないので気にしていませんでしたが、このロリババアは楽しければそれでいいというスタンスの人間でしたね……。

 

 確かにwikiではもう1チーム編成される可能性についても言及されていましたが、確率が低かったので遭遇しないものだと思ってました。biim一門はガバ運に苛まれ続ける運命を背負っているんでしょうか。

 

 

 

 ロリババアが直々に2チーム編成することに一部では動揺が広がりましたね。とはいえ、全員ロリババアの性格を知っているのですぐに動揺も収まりましたが。

 

 チームメンバーを比較すればこちらの方が明らかに有利なのでなんとかなるでしょう。もしかしたら、他学園の優勝候補と戦い合って勝手に潰し合いをしてくれる可能性もありますし、全てが全て悲観するほどのものではありません。こういう所がRTA走者の腕の見せ所さんでしょう。

 

 ロリババアの説明も終わり解散はしましたがチームでリーダー決めはしておこうと思うのでメンバーに集まるように言いましょう。

 

 さて、次に開催される星武祭である獅鷲星武祭ではリーダーの存在が非常に重要になってきます。ペアのどっちも倒さなきゃいけない鳳凰星武祭とは違って、5人の内、リーダーを倒したほうが勝つというルールのため基本的には実力のある人間が獅鷲星武祭ではリーダーになる傾向にあります。

 

 できればホモ君以外がリーダーになるほうが試合時にヘイトがこちらに向かないため、相手のリーダーを即殺するときにリーダー以外の人間の妨害によるロスが少なくて済みます。リーダーの即殺イコールタァイムの短縮につながるわけです。

 

 では、リーダーはチームをまとめるのが上手い虎峰かセシリー辺りになるように上手く誘導して……え、皆してこちらを見てどうしたんですか。

 

 ……まさか、ホモ君にやらせる気じゃあないですかね。

 

 ……案の定、みんなしてホモ君にリーダーを押し付けようとしてきますね。……いや、まあ確かに実力を考えたらホモ君がリーダーになるのが安定を取るのには一番なんでしょうけど。しっかし試走でもこんなに満場一致でリーダーに推されることはなかったのですが、なーにがいけなかったんでしょうかねぇ。

 

 ……あ、そういえばメスガキ兄弟の好感度、今回高いんでしたね。

 

 

 

 …………

 

 

 

 はぁ~~~~(クソデカため息)

 

 

 

 票が割れたらそこに便乗する形でなすりつけようという計画がご破算です。メスガキの好感度が試走段階とは違うという点を頭に入れておくべきでしたね……。チャートにちゃーんと書いておきましょう。(激うまギャグ)

 

 とはいえこのまま、はいそうですかと頷いてリーダーになるのはRTA的には若干まず味なので、なんとかホモ君の低いコミュ力で他の奴にリーダーを押し付けるようにしましょう。まあ、無理だと思いますが。

 

 

 

 少女説得中……

 

 

 

 

 

 色々説得したのですが、最終的に多数決でホモ君がリーダーをすることに決まりました。

 

 まあ、相手チームのリーダー以外の奴はチームメンバーに押し付けておけばなんとかなるでしょう。(他力本願)

 多少妨害を受けることもあるかもしれませんが、そこはホモ君の第六感で回避することにします。

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、波乱のチームメンバー決めも終わって日常パートに戻ってきたわけですが、シルヴィの誕生日が近いので、誕生日イベントを起こすことにしましょう。

 

 誕生日イベントは1年に1回だけということもあってそれなりの好感度を稼ぐことが出来ます。

 

 このゲームをやったことがない兄貴は知らないかもしれませんが、シルヴィの誕生日は10月1日です。わざわざ興味のある内容以外調べることのないホモ君はそんなことを知るはずもありませんが、そこはRTAパワーで適当なネットニュースを開くことで無理やり認知させます。

 

 誕生日に貰って嬉しいプレゼントに関してはその時々によってランダムで変動します。一応そこそこの確率で貰って嬉しいプレゼントがそれぞれのヒロインに設定されていますが、試走段階でそこそこの確率に甘えた結果、見事なまでにおおコケしてしまったほろ苦い思い出があるので今回は安定を取ります。

 

 恋人関係にあるなら直接聞けば教えてくれるのでいいのですが、今回はそうはいきません。そこで、シルヴィの友人ポジにいるミルシェにプレゼント選びを手伝ってもらうことにします。

 

 あほの子ムーブが多く、突っかかることの多いミルシェですがシルヴィのことを尊敬している節があるので、なんだかんだでホモ君よりも最適なプレゼントを選んでくれます。

 

 例の如く、試走段階で知っていた電話番号にかけて呼び出すことにしましょう。なんで知っていたか聞かれますが、シルヴィから聞いたってことにしとくとそこまで違和感を持たれないです。

 

 プレゼント選びを手伝ってくれるよう頼みこむとOKをもらったので、週末に待ち合わせすることを約束して当日まで甥の木村、加速します。

 

 

 

 …………

 

 

 

 プレゼント選び当日になったので、さっそくミルシェと店を見回り始めましたが、後ろからミルシェ以外のルサールカの面々が尾行してるみたいですね。まじでこのグループ尾行ばっかやってんな。(呆れ) といっても、特段邪魔になることは無いのでスルーしておきます。

 

 前みたいにシルヴィと遭遇するヘマをしないように、変装だけはしっかりしておきます。エルネスタ達と一緒なら事情をこの前説明したのでまだしも、ミルシェまで連れまわしてるのを見られたらシルヴィの精神は暗黒面に落ちること間違いなしです。

 

 といっても、そんなことを知らないミルシェは可愛くコーデしているのでホモ君の変装は気休め程度でしかありません。遭遇しないように我らが父(biim兄貴)に祈りましょう。

 

 色々と店を見回っていますが、そこまで厳選する必要はないので適当についていって彼女のセリフからそれっぽいプレゼントを選出することにしましょう。

 

 まるでこれじゃあデートじゃないかと視聴者諸兄のツッコミが来そうですが、今までの試走でやったことをなぞればそれほどミルシェとの好感度は上昇しないことをwikiで確認しているので大丈夫です。

 

 さて、プレゼント選びも終わったので、礼として適当にファミレスに行って奢りましょう。というかそのまま帰ろうとしても、ミルシェから奢れと要求してくるのでこちらから言った方がタイム短縮になります。

 

 割とたくさんミルシェが注文してますが、普段からホモ君は金をほとんど使わないので(財布事情に関しては問題)ないです。

 

 

 そういえばホモ君の金はどこから湧いて出てるかについて特に言及してませんでしたが、特待生として界龍に入っているので、毎月学園側からお小遣いが貰えます。散財しない限り金について心配する必要がないのは本当にありがたいですね。

 

 しばらくするとミルシェも食べ終えたようなので適当に話したらさっさと退散して残りの時間は修行に費やすことにしましょう。

 

 

 

 …………

 

 

 

 スキップしてますがミルシェとの会話時間が長いですねぇ。あくしろよ。

 

 

 

 ……ようやく会話が終わったので帰れますね。NKT……

 

 ミルシェと解散するとルサールカのメンバー達は尾行しなくなったのかホモ君センサーに引っかからなくなりましたね。まあTDN冷やかしみたいなものでしょう。

 

 帰宅後は特に見どころがないので倍速します。

 

 

 

 …………

 

 

 

 シルヴィの誕生日当日になりました。プレゼントも買ったことですしシルヴィの誕生日パーティーに参加して直接渡すことにしましょう。割と忙しい身のはずなのですが、どのヒロインも誕生日に関しては予定は空いててフリーになる仕様のためスケジュールに関しては問題ないです。早速電話しましょう。

 

 

 

 電話してみましたら、ホモ君が誕生日を知っていたことに驚いたようですが、パーティーに参加すると言うと喜んでくれました。パーティーをする場所を教えてくれたので向かうことにしましょう。

 

 場所については、前は特例で入ることが出来ましたが普通はクインヴェールに男であるホモ君が入ることは出来ないため、外でパーティーをすることになります。

 

 といってもホモ君が場所を用意する必要はなく、シルヴィがクインヴェールの外にセカンドハウス的な家を用意してるので、そこでパーティーをすることになります。

 

 ……と言っている間に到着しましたね。ルサールカの皆も一緒に祝うようで、既に5人全員集まっていました。

 

 誕生日パーティーも始まりましたが、さっそくプレゼントを渡すようです。ホモ君も後に続きましょう。

 

 プレゼントについては……喜んでくれたみたいですね。ミルシェが選ぶのを手伝ってくれたので問題は無いと思っていましたが、シルヴィの表情から見るに結構好感度上がってそうです。

 

 その後も色々話をしたりしましたが、門限も近い時間になったのでパーティーもお開きとしましょう。シルヴィとの距離感を見るに、好感度は……半分行く手前といったところでしょうか。本来、4、5年かけて好感度を上げ切るのを2年ちょっとでやる訳ですから、割と順調といったところですね。上げすぎたら少し接触の機会を減らせばいいですし。まあ、半分を過ぎたら大分好感度の上がりが緩やかになるので心配はいらないと思いますが。

 

 そういえばこの好感度の確認、目の良いホモの兄貴達は既にRTA中に目撃していると思いますが、実際にパラメータとかが表に出てるわけでは無くゲーム裏で処理されるタイプの隠しパラメーターとなっております。したがって、表情だったり、距離感だったり、一定好感度以上で発生するイベントなど限られた方法でしか確認する方法がないのです。今では検証班によってそれぞれのイベントで取得できる好感度の数値が表として可視化されているのでRTAではそれを参考にする人が多いです。

 

 ちなみに余談ですが、一部ではラッキースケベテストとかいう名前通りの方法で好感度を確かめる変た……ゲフンゲフン、猛者もいるようですが精密なコマンド入力が要求され、非常に再現性が低いため普通はさっき言った方法で確かめます。

 

 初心者は割とこの好感度の判別に苦労しますが、割とシルヴィは好感度が分かりやすいタイプで初心者向きな方です。

 

 次は、日程的にもシルヴィのライブ鑑賞ですかね。まあライブ鑑賞するだけなので特にガバは発生しないと思いますが、気張っていきま──

 

 今回はここまで。ご視聴ありがとうございました。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

裏話16 誕生日

冬香の喋り方に関してですが、京都弁に関する知識が全くないので方言変換サイトで変換しただけのガバガバ京都弁です。どうかご容赦ください。(もし間違っているよーっていう指摘があったら誤字報告で指摘してくださるとありがたいです)




 ――界龍第七学院、黄辰殿(おうしんでん)。その中で一番広い広間に界龍の中でも指折りの実力者たちは集められていた。

 

「今日は珍しゅう、豪華な面子が集まってますなぁ」

 

「冬香さん、あなたも呼ばれたんですね」

 

「おもろい事をやるって師父が言うさかい、来てみたんどす」

 

「面白い、事……ですか?」

 

(今日の話はチーム黄龍のメンバー発表でしょうし、特別面白い事はないはずですけど……)

 

 冬香の話に少し疑問を持ったものの、その疑問も星露がやってくることですぐに消える。

 

「お、集まっとるようじゃの」

 

「師父!」

 

「よいよい、そのままでおれ」

 

 立礼しようとする虎峰たちを手で制す。

 

「さて、回りくどい話をするのもなんじゃし、さっさと本題に入ろうかの。今日集まってもらった理由じゃが、そろそろ来年の獅鷲星武祭に向けてチーム黄龍のメンバーを選出しておこうと思ったからじゃ」

 

「チーム黄龍……」

 

「して、そのメンバーじゃが…………基臣、沈華、沈雲、虎峰、セシリー。以上の5名をチーム黄龍のメンバーとする」

 

 星露がメンバーを発表すると、若干ざわつく。

 

「師父、大師兄はチームに入らないのですか?」

 

「まあ、待て待て。まだ、話は終わっておらん」

 

「え?」

 

 星露はニヤリとしながら話を続ける。

 

「今回の獅鷲星武祭、チーム黄龍とは別にもう1チームを儂が直々に編成する」

 

「えぇーー!?」

 

「なんじゃあ、うるさいのぉ。静かにせい」

 

「いやいやいや、万有天羅が自らチームを2つ編成するなんて聞いたことありませんよ!」

 

「いつも同じ感じで獅鷲星武祭を迎えるのもつまらんじゃろうし、こういうのもありかのぉと思ってな」

 

「思ってな、じゃないですよ!前代未聞ですよこんなの!チーム黄龍は界龍の旗印となる存在。対抗となるチームを作るなんてことをするのはどうかと思いますけど」

 

「これは決定事項なのでな、もう今更変更することはできん」

 

「そんなぁ……」

 

「では、もう一つのチームである麒麟(チーリン)のメンバーを発表する。暁彗、冬香――」

 

 もう一つのチームのメンバーも次々と読み上げられていき、これで広間にいる十人全員の名前が呼ばれたことになった。

 

(今回の獅鷲星武祭は大荒れの予感がしますね……)

 

「それでは解散じゃ!」

 

 そんな考えをしている内に星露の話も終わり、広間から出ようと虎峰も歩き出すと肩を後ろから叩かれる。

 

「ん、どうしたんですか?」

 

「ちょっと集まってくれ。とりあえずチームのリーダーだけは決めておこうと思う」

 

「なるほど、分かりました」

 

 広間から全員出ようとする前だったので、基臣の呼びかけによってすぐにチーム黄龍のメンバー全員が集まった。

 

「それで、チームのリーダーについてだが……」

 

「基臣でいいんじゃないんですか?この中で一番実力ありますし」

 

「いや、俺にはチームを率いるようなリーダーシップはないし、そんな安易に決めて良い物では――」

 

「どちらにしても、リーダーがやられたら負けなんだから一番強い人を置いておくのが安全でしょ」

 

「うん、それでいいんじゃないかな」

 

「私もリーダーって柄じゃないしねー」

 

 基臣を除いたメンバー全員に推薦されてしまい、こういう展開になってしまったらもうダメだと理解した基臣は観念したのか承諾することになった。

 

 

 

 ――――――――――――――――――――――

 

 

 

 ブー、ブー

 

「んー……?」

 

 休日ということもあり、パジャマのままでダラダラと自室で寝ていたミルシェは聞こえてくる着信音で目を覚ます。

 

「んー、どしたのー?」

 

 友達からだと思い、誰からかかってきたのかを確認せずそのまま電話に出る。

 

 ミルシェはプライベートアドレスを一般に公開しておらず――アイドルをやっているなら当然のことだが――親しい友達にしか教えていない。故に、まさか電話をかけてきたのが基臣だと露ほども思いもしなかった。

 

「ミルシェ」

 

「へっ……?」

 

 画面に映る基臣の姿に顔が赤くなっていきそのまま思考が固まる。

 

「今は都合悪かったか?ダメなら後でかけなおすが」

 

「ちょ、ちょっと待って!すぐ着替えるから」

 

 ミュートにしてカメラを切ると、すぐに見てくれだけでも誤魔化そうと上着を着る。鏡を見て変な所がないかを確認するとミュートを切ってカメラを元に戻す。

 

「……そもそも、どうしてあたしのプライベートアドレスを知ってるの?」

 

『シルヴィから聞いた』

 

「はあ、シルヴィアかぁ。まあそうだよね」

 

 番号を教えたなら、せめて教えたっていう連絡ぐらいくれればいいのに、とミルシェは内心思いながら溜息を吐く。

 

「それであたしに何の用なの?」

 

『もうちょっとでシルヴィの誕生日があるから、プレゼントに何を渡せばいいか意見を聞きたくてな』

 

 基臣の口から誕生日の言葉が出たことにミルシェは少し驚く、

 

「へえ、意外。てっきり、そんなこと興味ないと思ったのに」

 

『ネットを見てたらたまたま知っただけだ』

 

「ふーん」

 

『それで、女性が好きな物は俺には分からないからな。変な物を渡して誕生日を台無しにするのも悪いし』

 

「なるほど、それであたしに頼ってきたわけか」

 

『そういうことだ』

 

「そういうことなら今度の週末に商業エリアの噴水前で待ち合わせしよっか。そこなら色々プレゼントを選ぶにも都合がいいし」

 

『分かった』

 

 その後、細かく待ち合わせの約束をして電話を切る。

 

「……って、普通に待ち合わせの約束したけどこれ傍から見たらデートだと思われるんじゃ」

 

 少し前に基臣に抱っこされて恥ずかしがってたようにミルシェは色恋事に対して耐性がない。というよりも男性に対しての耐性があまり無い――もちろんアイドル活動をしているため、ファンとして接する分には特に問題ないのだが――というのが正しいだろう。

 

「あぁーもう!!考えたら負け負け!」

 

 これ以上考えても仕方がないと思ったのか、ミルシェは気持ちを切り替えて週末に着ていく服を選ぶことにした。

 

 

 

 ――――――――――――――――――――――

 

 

 

 ミルシェとの待ち合わせ当日。(あまりにも恰好が寂しすぎるということで)シルヴィアに選んでもらった服をそのまま着て、基臣は商業エリアの噴水広場で待っていた。

 

(少し早く来すぎたか……)

 

「おまたせー!」

 

 声がする方向に基臣は顔を向けると、前とは違った雰囲気のミルシェがこちらにやってくる。 

 

「その……似合って、る?」

 

 いつものような丈の短いスカートとは違い、清楚な雰囲気を漂わせた薄ピンクのロングスカートを身に纏って恥ずかしそうにしながらミルシェは基臣を見る。綺麗に纏まったその服装は、可憐な容姿も相まって周囲からの注目を集める。

 

「……」

 

「……?どうしたの」

 

「ああ、いや……。前、尾行けてた時とはまるで雰囲気が違うから少し驚いただけだ。似合っている」

 

「っ……!そっか!ニヘヘ

 

 嬉しそうに微笑むミルシェを見て、前とは違った雰囲気に調子を狂わされそうになるがこのまま動かないわけにもいかないのでさっそくミルシェと一緒に歩き出す。

 

「とりあえず、プレゼントを探すか」

 

「あ、うん」

 

 歩き出した二人はブティックや雑貨屋などを見て回り、良い物がないかを探すが実際はどれを選べばいいのか分からないのでミルシェに任せっきりに等しかった。

 

「シルヴィにならこれとかいいんじゃないかなぁ……ってうわ、高っ!」

 

「まあ買えないこともないが……」

 

「やめときなよ、高いの買うと向こうも今度返すときに気にするんだし」

 

「そういうものなのか」

 

「そういうものなの」

 

 値段と相談しながら納得のできるプレゼントを買った基臣は手提げ袋を片手にミルシェと一緒に店を出る。

 

「手伝ってくれた礼だ、好きなだけ奢ろう」

 

「ほんと!」

 

 奢るという言葉にミルシェは目を輝かせながら反応する。アイドルはやっているものの、まだルサールカを立ち上げて日も浅いこともありあまり財布事情は良くなかったミルシェにとって好きなだけ奢ってくれるという言葉は非常に魅力的だった。

 

「よし、じゃあ行こ行こ!」

 

「分かったからそう慌てるな…………ん?」

 

「ちょっと、押さないでよぉ!」

 

「しょうがねーだろぉ、こうしないと見えないんだからよぉ」

 

「明らかにバレてると思うけどねぇ、まったく……」

 

 待ち合わせの時から視線を受け続けていたため、気づかれないように目だけ動かして視線を受けた方向をチラッと見ると、ルサールカのメンバーたちがそれぞれ変装した姿で尾行しているのが見えた。

 

 ただし、変装といっても古い映画でも参考にしてきたのかベレー帽に新聞紙……etc、と明らかに周囲からは浮いている状態だった。

 

「相変わらずだな……」

 

「ん、どうかした?」

 

「いや、なんでもない。ほら、行くぞ」

 

「……?そう?」

 

 

 

 ――――――――――――――――――――――

 

 

「わぁー、おいしそう!」

 

「好きなだけ食え」

 

「それじゃお言葉に甘えて、っと」

 

 テーブル一杯に埋め尽くされた料理を一心に食べていき、しばらくしてその全てを食べ終えたミルシェはデザートを頼もうとメニューを楽しそうに眺めている。

 

「何にしよっかなぁ、うーんマンゴープリンも捨てがたいしメロンパフェもありなんだけど……」

 

「ミルシェ」

 

「ん、何?」

 

「何か悩み事でもあるのか?」

 

 メニューを見ていたその瞳は一瞬動揺からか少し泳ぐ。

 

「どうして分かったの?」

 

「人の感情を推し量るのが少し上手いだけだ。もしかしてと思ってたが……その感じだと図星の様だな」

 

「顔に出してないから大丈夫だと思ったんだけど……まいったなぁ」

 

 少し困った顔をしながら流石に誤魔化せないかと思い、ミルシェは観念したように語り始める。

 

「最近さ、ライブをやっても思ったより人が集まらなくてね。それで少し自信失っちゃってさ……。デビューしたてのあたしたちがこんな事言うのは我儘なのかもしれないけど、本当にあたしらなんかが世界ナンバーワンなんかになれるのかなって思ってさ」

 

「…………」

 

「いっつもシルヴィアを超える超えるって言ってるけど、やっぱりあたしってシルヴィアを超える存在にはなれないのかな……って」

 

 先ほどまでの快活な雰囲気とは打って変わって、後ろ向きな考えが頭の中を支配しているようだった。

 

 その心中を感じ取った基臣は不器用ながらも慎重に言葉を選んで喋る。

 

「確かに人が集まらないっていうのはつらいかもな。自分に才能がないと思ってしまうかもしれない」

 

「……」

 

「ただ、そんな時こそ何を成したいのかを思い返すのと仲間に頼るのが大事なんじゃないのか」

 

「何を、成したいのか……?」

 

「何も目標を立てず突き進むよりは、目標があったほうが自分が頑張ってるんだって実感が湧く。俺も剣の道で行き詰った時はそうしてた、といっても俺は父を上回りたいってだけの単純な目標だったが。それに、お前にはグループの仲間がいる。困った時はグループの仲間を頼れる、それがシルヴィとの最大の違いだろう」

 

「そう……そっか」

 

「あまり参考にはならないと思うがな」

 

「ううん、少しは参考になったと思う。ありがと」

 

 基臣のアドバイスがどこか頷ける部分があったのかさっきまでの暗い顔は少し消える。

 

「あー!クヨクヨしてもどうにもならないし練習あるのみだ!店員さん、メロンパフェ一つ!」

 

 

 

 ファミレスでの食事も終わり外に出ると夕陽も沈む時間帯になる。プレゼント選びに付き合うだけだと思っていたが、ミルシェにとってこれからの自分たちを見定めるきっかけになったこともあって今日の時間は有意義なものになった。

 

「今日は助かった」

 

「こっちこそ相談に乗ってくれてありがと、じゃあね!」

 

「ああ」

 

 基臣が界龍の方へと帰っていくのを見送った後、ミルシェはクインヴェールに帰りながら、今日の基臣との買い物のことを思い返す。

 

 最初に会った時は無機質な奴だと思っていたが、今日一緒にいて基臣は不器用なだけなんだと理解する。ただ、不器用ではあるもののその中に僅かにだが優しさのようなものを感じた。

 

「はぁ……、シルヴィアが惚れるのも分かる気がするなぁ」

 

 基臣と一緒にいると心を見透かされている気がした。しかし、その感覚は決して冷たさを含んだような嫌なものという訳ではなく、むしろ暖かい。そうミルシェは感じた。恐らくシルヴィアも同じ感想を基臣に対して持ったから惚れたんだろうと考える。

 

「ミールーシェ―!」

 

「うわっ!トゥーリア、それにみんなも!?」

 

「ほらほら、シルヴィアの男との密会はどうだったんだよー!」

 

「んもー、そういうのじゃないってば」

 

「その恰好で何もないっていうのは無理があると思うけどぉ」

 

「だから違うってば」

 

「はぁ、まぁ実らぬ恋だったとしても私は応援するよ」

 

「だーかーらー、違うってー!」

 

 興奮するルサールカのメンバー達をたしなめ、ミルシェが誤解を解くのに一日かかることになったのはまた別の話。

 

 

 

 ――――――――――――――――――――――

 

 

 

「「「「「「シルヴィア、誕生日おめでとう」」」」」」

 

 クラッカーを引くと派手な音と共にテープや紙吹雪が部屋の中に舞い散る。

 

「これでシルヴィアは13かー。いやーめでてーなー」

 

「はい、シルヴィア」

 

 トゥーリアをミルシェはカバンから包装された箱を取り出す。

 

「これ、あたしからのプレゼント」

 

 ミルシェに続くようにルサールカのメンバー達はプレゼントをシルヴィアに渡していく。

 

「わぁ……。ありがとね、みんな」

 

「これは俺からだ」

 

 基臣は手に持った箱をシルヴィアへと渡す。

 

「こういう事はやったことがないから、大したものでは無いと思うが……まあ、あまり期待しないでくれると助かる」

 

 差し出された包装された四角い箱にシルヴィアは頬が緩む。

 

「基臣くんがくれるものなら何でも嬉しいよ。ありがとう」

 

 さっそく渡されたプレゼントを開けると、そこには簡素ながらも綺麗に小さな宝石があしらわれたブレスレットが入っていた。

 

(あ……)

 

『今日一番ラッキーなのは10月生まれのあなた!思ってもいないサプライズに遭遇するかも!ラッキーアイテムはブレスレットです』

 

 箱から出てきたブレスレットに思わず朝、テレビで流れていた占いを思い出す。

 

(偶然だとは思うけど、ドキッとしちゃうな……)

 

「ありがとね、基臣君!」

 

「ああ」

 

「あ、そうだ!写真撮ろうよ写真!」

 

「いいなーそれ!モニカ、カメラ持ってたはずだろ」

 

「はいはーい、ちょっと待ってねー」

 

「ほら、基臣君もおいでよ」

 

「あ、おい……」

 

 楽しそうにしながら手を引いてくるシルヴィに基臣自身も意図せず口を緩める。

 

「こういうのもたまには悪くないかもな」

 

「ん、何か言った?」

 

「いや、何でもない」

 

 何のために生きているのかをまだ見つけれていない基臣だったが、少なくともこんな幸せな毎日が末永く続けばと願わずにはいられなかった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

part17

筆が乗り始めた気がしたりしなかったりするので初投稿です。


 伏兵はいつどこで襲い掛かるか分からないRTAはーじまーるよー

 

 えー、さっそくですが何故かクインヴェールに呼び出されております。呼び出されたといってもシルヴィではなく彼女のマネージャーであるペトラさんにですが。

 

 まさかまた接触禁止令とか出したりはしないと思いたいですね……。まあ、電話での呼び出しの時の雰囲気から察するにどうやらそういう類の話ではないようですが。おっと、噂をすればなんとやら、ペトラさんがやってきましたね。

 

 なになに……どうやらイベントの時にシルヴィを殺すっていう殺害予告があったようで、一枠余っているボディーガード役を鳳凰星武祭優勝者であるホモ君に勤めてもらいたいようです。こういう時のための星猟警備隊じゃないのかと思いましたが、どうやら犯人の捜索に難航しているらしく、何回もイベントを延期するわけにはいかないのでボディーガードを雇って遊撃するしかないと考えたようです。

 

 シルヴィには不安にさせないようにこの件は説明しないようで、ホモ君はペトラさんが特別に舞台裏に招待したという体で話を通すようです。

 

 こういう殺害予告系のイベントはシルヴィヒロインルートを進めているとたまに遭遇します。あまりうま味が無いイベントなのですが、何度もリセをしてイベントを回避するのはあまりにも現実的ではないので、このイベントが発生したからといってリセすることはないです。

 

 まあ、シルヴィに何かあってからでは遅いですし依頼を受けることにしましょう。シルヴィに貰ったチケットに関してはホモ君達は関係者として入るので使う事もないでしょうしペトラさんに返しておきます。これで用事も済んだのでクインヴェールの生徒に見られないようにしながら静かに裏から出て行くことにしましょう。

 

 

 

 

 

 さて、シルヴィのライブ当日になりましたが今のところ特に変わったことはありませんね。

 

 アスタリスクでは最大の規模を誇るシリウスドームでライブをするようですが、この広さで件の殺害予告の犯人の襲撃を警戒しながら警備をするのは中々大変ですね。といっても、シルヴィの近くで待機するよう命令が出ているので会場の中をグルグルする必要がないのは走者の体力的にとても助かりますが。

 

 丁度鳳凰星武祭優勝した辺りから第六感の能力が進化していってるため、ホモ君に向けられる感情じゃなくても理解できるようになったり、身の危険をより一層鋭く、且つ早く察知できるようになるなどの事が可能になりました。事前に危機を察知できるため、こういう護衛イベント系とは非常に相性が良いのでさっそく有効活用することにしましょう。

 

 色々と考えている内にライブが始まる時間になりました。相変わらず良い歌声だぁ(ウットリ)

 

 まあ、ホモ君の警戒網を掻い潜って襲撃してくることは無いと思いますが、警戒は解かないようにしながら舞台裏でライブ鑑賞することにしましょう。

 

 

 

 少女ライブ鑑賞中……

 

 

 

 うーん、全然敵さんがシルヴィを狙ってくる様子がありませんねぇ。もしかして、実際に狙う気はない愉快犯だったりするのでしょうか。それなら良いのですが、どうにもしっくりこないような……

 

 

 

 ん、第六感が何かを察知したようですね。

 

 

 

 ……地下の方で爆発?

 

 

 

 ……まさか、ドームの中に爆発物を仕込んでいるパターンでしょうか。一応wikiにも爆発系のイベントも起こるには起こると書いてはあるのですが、その場合は事前に爆破予告がセットのはずです。かといって、第六感の感覚は間違いないはずなので特殊なパターンを引いたってことでしょうか。うーん正直このゲーム、まだまだ解明されていないことが多数あるのでこういう事はよく起こりえるんですよねぇ。おかげで走者と解析班は頭を悩まされ続けているわけですけど。

 

 はい、というわけでね……。殺害予告はミスリードで本命は会場爆破っぽいので他のボディーガード連中にも情報を共有してさっそく爆弾の解除に向かうことにしましょう。最初は信用してくれませんが、爆弾を1つ見せれば嫌でも状況を理解してくれます……というかこれ、今から爆弾解除まで間に合いますかね。敵さんが爆弾を仕掛け始めた時間によっては全速力で事の収拾をつけなければいけなくなります。

 

 まあ、会場を爆破するという事が分かったので第六感を使ってそれらしきものに意識を集中すれば会場内にあるすべての爆弾の位置を特定できるのは不幸中の幸いといったところでしょうかね。

 

 

 爆破によってシルヴィ本人が死ぬことはないと思いますが、問題はライブを見てる観客の方でしょう。非星脈世代の一般人も混ざっているので爆発によって崩落とかしようものなら間違いなく観客の方にとんでもない被害が出ます。ライブで死人が出ることによってシルヴィの動きがチャートと変わってくる可能性もあるのでできることなら全て爆弾を解除したいところです。

 

 ……っと、どうやら敵さんもただでは通してはくれないようです。

 

 主犯格もシルヴィのボディーガードには優秀な人間を用意するだろうということを見越してか結構な人数の工作員を用意しているようですね。まあ手間取るわけにもいかないのでサクッと時間をかけずに倒してしまいましょう。

 

 

 

 工作員を倒して第六感が告げている場所に来るとさっそく爆弾を見つけました。普通なら、爆弾をかき集めて解体専門の人間に任せるのが一番ですが、今のホモ君には対象が近くにいればなんでもできる万能なヤンデレ剣があります。

 

 

 よって、爆弾はヤンデレ剣の能力で無効化させることにしましょう。こういう細かい所でも能力を有効活用できるのが本当に強いっすねこの剣。あとは工作員どもを倒しながら爆弾を発見して無効化する作業を繰り返すだけなので倍速です。

 

 

 

 少女爆弾解体中……

 

 

 

 他の人間とも協力して最後の1個って所まで来ましたが、他の爆弾のタイムリミットを確認すると時間は少し余裕がありそうなのでなんとかなりそうです。

 

 最後の爆弾が設置されている地下駐車場へ向かいましょう。……ん?どうやら人がいて何やら怪しい行動をしているようですね。十中八九敵でしょうが、警戒を強めすぎてチンタラしている訳にもいかないのでさっさと突入しましょう。

 

 

 

 ……うぉっ、あっぶえ!入ってくるなりいきなり攻撃が来るとは礼儀知らずな人間の屑ですね。

 

 どうやら、手から離れた遠距離攻撃も行ってくることからお相手もホモ君と同じ《魔術師》のようですが能力は……んにゃぴまだよく分かってないです。どうにも空間に何かを仕込むタイプの能力っぽいですね。ま、第六感があればどこに何を仕掛けているか分かるので能力の正確な情報がなくても問題ありませんが。

 

 さすがにお相手もヤンデレ剣の能力をなんとなく鳳凰星武祭の試合で知っているのか、距離を取られますね。地下駐車場で戦っていることも相まって柱が邪魔で敵の行動を上手く読みづらいのも戦いづらさを加速させています。

 

 とはいえ、ヤンデレ剣の剣先を伸ばして能力を使えば柱を無視して相手にだけ攻撃を通すっていう曲芸師じみた事ができるので時間の問題でしょう。相手方もそれを理解しているようで爆弾が作動するまで出来る限り時間稼ぎしてるようです。敵さんは爆弾の同時起動を待っているようなので、すぐには起爆しないようですが、その考えもいつ変わるか分かりません。相手の時間稼ぎに付き合ってあげる必要もないので殺さない程度に痛めつけて再起不能にさせてしまいましょう。

 

 オラッ!倒れろッッ!

 

 

 

 ふぅ……割と技のレパートリーが多かったので手間取りましたが爆弾が作動する前に倒す事ができました。さっそく捕縛して爆弾の解除を……

 

 って、ちょ、ちょっ!?作戦が失敗したと分かるや否や、謎パワーで立ち上がっていきなり自爆特攻するの止めてもらっていいですか?

 

 やめろォ!(建前)やめろォ!(本音) 

 

 

 

 …………

 

 

 

 急いでヤンデレ剣の能力を使ってなんとか自爆は阻止できました。凄まじい気力でなんとか再起不能からギリギリ脱したのでしょうが、こういうハプニングはマジで勘弁してほしいところですね……。

 

 ていうか……こいつ、自爆特攻とか正気かな……?いや、正気だったらこんなテロリストじみたことはしないか。とりあえずつべこべ言ってないで星脈世代用の強化ロープで身柄を拘束することにしましょう。

 

 

 

 おっと忘れてた、犯人を捕縛することも大事ですがさっさと最後の爆弾を解除することにしましょう。犯人の捕縛をしてて爆弾を解除し忘れてましたー、では笑いごとにならないですからね。

 

 

 

 ふぅ……ヨシ!なんとか全ての爆弾を無効化することができました。今回の事件の工作員も捕まえましたし、これで殺害予告事件に関しては一件落着といったところでしょうか。ここにいる理由もないので捕縛した犯人を上まで連れていくことにしましょう。

 

 上まで戻ってきましたが、どうやら直接シルヴィ達がいる会場に被害が行かなかったこともあり、ライブ自体も中断されることなく続行できているようですね、よかったよかった。

 

 とりあえずこちらもさっさと、通報を受けて後から駆けつけてきた星猟警備隊に犯人たちの身柄を引き渡しておきましょう。お、トップであるヘルガ隊長がわざわざ来てますね。話が分かる人ですし、ざっと軽く事情を説明したら退散することにしましょう。

 

 丁度身柄の引き渡しが終わった頃にライブが終わったのかライブ衣装姿のシルヴィがやってきましたね。あぁ^~かわええんじゃあ~。

 

 やっぱシルヴィの笑顔を……最高やな!

 

 思わずスクショしたくなる衝動に駆られますが、我慢だ我慢……

 

 ライブを聴いてくれたかっていう質問が来ましたが、ペトラさんがシルヴィに今回の事件に関して説明していないため、馬鹿正直に答えて不安にさせないよう聴いた、と答えましょう。

 

 さて少しドタバタはあったものの解決しましたし、さっさと帰ることに……ん?ホモ君の端末に電話がかかってきてますね。

 

 ええと、もしもし……

 

 

 

 "この程度で誉崎一族の恨みは晴らされない、お前が――"

 

 

 

 色々とごちゃごちゃ喋っていますが要するにまーた、ホモ君のお家関係ですか。もうその手のイベントは十分堪能したよ……。このタイミングからするに今回の事件もこの電話の主が裏で手を引いていたのでしょう。

 

 これ、この電話の主をなんとかしないとRTA中ずっと付きまとってくるってことなんですかねぇ。このまま無視し続けるか、それとも早急に対策を練るかを選ぶ必要が――

 

 

 今回はここまで。ご視聴ありがとうございました。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

裏話17 死神

最近暑くなり始めたので初投稿です。


 本来なら男は入ることは出来ない女の花園、クインヴェールの一室で基臣は人を待っていた。

 

 ソファでしばらく待つこと10分程。扉が開かれ、そこにはシルヴィアのプロデューサーであるペトラ・キヴィレフトが現れる。

 

「おまたせしました。わざわざここまでご足労頂き感謝します」

 

「前のシルヴィの件でそちらには借りを作ったからな、別に構わない。それで、本題は」

 

「ええ、今回あなたを呼び出した理由ですが……あなたにはシルヴィアの護衛を頼みたいのです」

 

「護衛……? いくら六学園最弱と言われているこのクインヴェールといえども流石にシルヴィを守れないほどではないだろう。わざわざ他学園の学生に頼むほど状況はひっ迫しているのか?」

 

「ひっ迫というよりも、人員を大規模に出せないと言った方がいいでしょうか。人員に関する事情に関しては詳しいことは学園の機密に当たるので申し上げられませんが、大体あなたの想像している通りとだけ言っておきましょう」

 

 今回の任務はライブというまさに衆目が集まる状況での護衛。故に──

 

(実力のある人間といっても、暗部の人間をそう簡単に出すわけにはいかない、か)

 

「……愚問かもしれないが、星猟警備隊には護衛を依頼しなかったのか? 事情を話せば、ある程度は人員を割いてくれると思ったが」

 

「最初はその予定でした。しかし──」

 

「しかし?」

 

「元々この事件は今に始まったことではないのです。事の発端は3週間前に遡ります」

 

 ペトラはある紙をデスクから取り出すと、基臣の前へと差し出す。そこには、シルヴィアに対しての殺害を予告する文章が書かれている。

 

 

「この紙が私の元に送られてきた時、あまり気が進みませんでしたがライブの延期、および星猟警備隊へと通報しました。最初は人員を割いて犯人の特定などに動いてくれました。しかし、犯人の特定に難航したことなどもあり既に半数は手を引いている状態。本来の責務はアスタリスク全体の治安維持のため長期にこの件を受け持ってくれるわけもなく、ほとんど撤退状態と言っていいでしょう。護衛の件も断られました」

 

「まあ、少数とはいえ犯人の特定の方を協力してくれるだけでも御の字と言ったところか」

 

「ええ……。それで、護衛に関してですが……」

 

「引き受けさせてもらおう。シルヴィに危害が加わるのを黙って見過ごすわけにもいかない」

 

「……協力感謝します。謝礼に関しては、通常のボディーガードに支払う額を用意します。あと、この事に関してシルヴィアには──」

 

「言わなければいいのだろう。むやみやたらに不安にさせるものではないからな」

 

「分かっていただけて助かります。では、段取りに関しては別途この紙に記載していますのでよく確認しておいてください」

 

「了解した」

 

 

 

 ──────────────────────

 

 

 

 当日、基臣は舞台裏に向かうとそこにはライブのためのメイクを丁度終えていたシルヴィアの姿があった。

 

「あ、基臣君!」

 

「シルヴィか」

 

「チケットを渡したから客席にいたと思ったんだけど、どうしてここに?」

 

「たまたまペトラさんに特別に入れてもらうことになった」

 

 ペトラの名前を出すと、シルヴィアは頬を膨らませムッとする。

 

「もー、それならペトラさんも言ってくれたらいいのに」

 

「まあそう責めるな。あの人なりのサプライズのつもりだったのだろう」

 

「ま、いっか。それより、どう? この格好。似合ってる?」

 

 くるくると一回転して、ライブ衣装を基臣へと見せる。

 

「あぁ、似合ってる」

 

「っ……! そっかぁ、似合ってるんだ。よかったぁ……」

 

 嬉しそうにするシルヴィアの姿に心が暖かくなるような感覚を覚えるが、護衛任務があることを思い出し心の内で気を引き締めなおす。

 

「もうそろそろ開始の時間じゃないのか。ほら、行ってこい」

 

「うん! じゃあ私のライブ見ててね!」

 

「分かった」

 

 

 そのままステージへと向かって行ったシルヴィアをよそに基臣はトランシーバーを装備し、護衛の任を全うしようと集中する。

 

 メイクルームから舞台裏へと向かった基臣は観客から見えない角度で襲撃に警戒する。

 

 しばらく警戒を続けるが特に変わった動きもなく、トランシーバーで報告を行う。

 

「定時報告。こちら、舞台裏。今のところ特に異常なし、どうぞ」

 

『舞台裏、こちらはモニタールーム。監視を引き続き続行し、10分後に再び報告を行え、以上』

 

 定時報告を終えた基臣は配布されたトランシーバーを離すと、ステージに立っているシルヴィアの周囲で異常がないかを監視する。

 

(しかし、おかしい。今まで狙うチャンスはいくらでもあった。にもかかわらず襲撃してこないのは何故だ……。愉快犯という可能性もあり得るが、勘が違うと告げてくる……)

 

 言いようもない嫌な予感を胸の内に秘めながら監視を続行していると、突然頭の中に映像が流れ込んでくる。

 

 

「……ッ!?」

 

 

 

 

(会場の地下……? 爆発……、しかも大規模……まさか敵の目的は!!)

 

 即座にトランシーバーを手に取るとボタンを押し、報告をする。

 

「本命は暗殺じゃない、会場の爆破だ! 至急、できるかぎりの人員を今から言う地点に向かわせ爆弾の解除を行ってくれ」

 

『爆破……。何を言っている……?』

 

「とりあえず、一人でもいい! 早急に用意してくれ!」

 

 基臣の切羽詰まるような声に只事では無い事を理解したのか、少し間を置いて返信が帰ってくる。

 

『……了解した、護衛の観点からもまずは一人そちらの言う通りにさせよう。しかし、爆発物が設置されているという事実が確認できていない以上、これ以上の人員は派遣できない』

 

「十分だ、感謝する」

 

 通信を切ると、勘が告げる方向へと全速力で疾走する。

 

 ライブが既に始まっているため通路には人は全くいない。観客でない人間を除けばの話ではあるが

 

 工作員と思わしき人物たちがかなりの数、10メートル先で立ちふさがっており基臣の行く手を阻んでいた。そばには気絶しているボディーガードがおり、不意打ちを食らったのだろうことが伺える。

 

「絶対に通すな! 死守しろ!」

 

 左右に移動しながら進んでいき相手の視線を揺らして感覚を狂わせながら、即座に通せんぼしていた工作員たちを殺さないように速度を落とさず手加減しながら即座に切り裂く。

 

(ここしばらく、勘が妙に鋭くなってきている気がする……。ピューレ曰く、能力の覚醒が始まってるとの事らしいが)

 

 そんなことを考えながら、爆弾がある場所へと向かうと巧妙にカモフラージュされた爆弾が隠されていた。

 

「ピューレ」

 

『ええ』

 

 基臣はピューレを爆弾に触れさせると、カウントを刻んでいた数字は故障して暗転する。あとで証拠として提示するために拾い上げると、トランシーバーから連絡が入る。

 

『聞こえるか』

 

「ああ、どうした」

 

『そちらの言う通り爆弾を発見した。陽動の可能性もあるため護衛の人数を最低限確保するが、爆弾解体に向けて人員を各所に派遣させる』

 

「了解した」

 

 トランシーバーでいくつか爆弾解体に関する確認をした後、基臣は各所へと駆けまわり爆弾を解除する。

 

 

 

「あとは、残り一つ……!」

 

 最後の一つが残っている地下駐車場へと向かって突き進んでいき、すぐそこまでという所まで来る。

 

 その時、基臣の第六感が人の気配を感知する。黒子のような恰好をしており、見るからに怪しい。

 

(人が一人……、明らかに一般客とは思えない装備。爆発物を警護している所から間違いなく敵だ)

 

 敵だと判別した基臣は躊躇う事なく攻撃を加えることを決定。

 

 自動ドアを叩き割ると勢いのまま、基臣は敵へと向かって突貫していく。一連の動作の速さからか未だに男は基臣の方向へと振り向いてこない。

 

(もらった……!)

 

 攻撃が当たることを確信するその瞬間、悪寒が身体の隅々にまで駆け回る。

 

「……ッ!?」

 

 その悪寒が間違いないものであると確信して基臣は即座に回避行動を取ると、本来の攻撃の軌道上だった直線には莫大な数の刀剣が突き刺さっていた。

 

「仕掛けに気づかれるとは……厄介極まりない」

 

(今まで視えていなかったはずの刀剣がいきなり……空間転移系か武器生成系のいずれかの線が濃いか)

 

 どちらの能力にしろ距離を取られるとまずいと判断した基臣は一気に黒子の男へと距離を詰めようと駆け出す。

 

 しかし、地下駐車場の柱を盾に立ち回って動くため思うように接近を許されない。

 

「ちぃ……っ!」

 

 空間から突如として出現する敵の暗器を第六感で認識して全て叩き落すと、再び攻勢に出ようとする。

 

 男は柱に隠れたため、接近してその姿を視認しようとする。

 

「当然だがいない……か」

 

 柱に接近する数瞬前に気配が消失したが念のためにと確認したものの、やはりいなくなっている。

 

 振り返ると、男は離れた柱の影から姿を現す。

 

(これで空間転移系で確定だな。おそらく運動量が保存された状態でどこかにストックしている武装を罠のように張り巡らせて相手を消耗させる。ついでに能力者自身も瞬間移動じみた事ができる、とはいえ、距離はそこまでといったところか。遠くへ飛ばせるなら、最初から俺を飛ばしている)

 

 それから幾度となく接近を試みるが、柱のせいで思うような展開が出来ていない。

 

(柱が邪魔だな。とはいえ、切り落としたら上にどう影響するか分からない)

 

 多重に仕掛けられたトラップを回避している隙に黒子の男に即座に距離を取られる。

 

(まともに相手をしていれば時間がかかる……。しかしそれでは爆弾の解除に間に合わない、か……。

 ……最近は遠距離主体の相手が多くなって敵わんな)

 

 今度は基臣の側から距離を取って、ある程度把握した黒子の男の能力範囲外へと抜け出す。

 

(仕方ない、やるか……)

 

「ふぅ……」

 

 

 

『相手は躊躇なく殺せ、情け容赦をかければこちらが死ぬ』

 

 かつての父の教えを思い出し、殺し合いに等しい状況に身を置いていた昔の感覚を蘇らせる。

 

「……っ!?」

 

 

 

 先ほどまでとは明らかに身に纏う空気が一変した基臣の雰囲気に黒子の男は裏側の人間として培った経験から警戒を一気に強める。

 

「なんだ、この異常なまでの雰囲気は……」

 

 

 

 

「逝ね──」

 

 

「……っ!! まずい……ッ!?」

 

 即座に地に伏せた男の判断は正しかった。少しでも反応が遅れていれば、数瞬後にはその身を二つに切り刻まれていたのだから。

 

 男は柱を見るものの、基臣と男の間にあるはずの柱には傷一つ付いていない。

 

「ようやく感覚が掴めてきたな」

 

 器用にピューレを手元でクルクルと回しながら、再び基臣の攻撃が始まる。

 

 男はさっきまでの距離をとっての遠距離戦を維持することが出来なくなっていた。その原因は──

 

「殺気が微塵も感じられない」

 

 今まで感じていた殺気を感じられなくなったことで今まで感じられた相手との距離感を狂わされるという事態に陥っていた。

 

 基臣は柱を踏み台に三次元機動で相手の火力を集中させないように駆け回ると、手傷を負わせることよりも攻撃を当てることを重視した黒子の男は武器を散らして射出する。

 

 弾幕の層が薄くなったことを好機と捉えた基臣は防御を固めて正面から突っ切った。

 

「死ね」

 

 男の目と鼻の先まで到達すると同時に武器が基臣へと射出される。

 

 

 射出された武器を回避した瞬間、更に今までとは比にならない大量の武装が現われ基臣の元へと殺到する。それと同時に男は勝利を確信する。

 

「もらった」

 

 四方八方から向けられた刀剣類に基臣の身は貫かれる。

 

「…………っ!」

 

 しかし、数多の刀剣にくし刺しにされ見るも無残になった身体からは血が流れない。

 

「なぜ血が出ない……。いや、まさか幻か──!?」

 

 切り裂いた肉体からいきなり白煙が漏れ出し始めることで、今まで相手にしていた存在は囮であることに気づいた。尤も、気づくのが遅すぎたのが男の最大の失態であったのは言うまでもない。振り返ると、背後には基臣がすでに攻撃の体勢に入っていた。

 

 スローモーションで流れていく時の中、基臣を見るとその瞳は何の色も映し出さない漆黒で塗りつぶされている。あまりにも冷徹に武器を振りかざすその姿は──

 

「死神……!」

 

 死を覚悟した男はすぐに来るであろう痛みを出来る限り感じないように意識を手放そうとする。

 

 が──

 

 

 

「ガッ……!?」

 

 その身に叩き込まれたのは拳だった。能力が使用できない且つ気絶しない程度に威力を抑えた攻撃を男に叩き込まれた。

 

「お前にはまだ喋ってもらわなければいけないことが山ほどある。まあ、星猟警備隊に爆破事件の主犯格として連れていかれる訳だから死んだ方がマシなぐらいの拷問を受けるかもしれないがな」

 

 男は身体を引っ張り上げて起こそうとする基臣の姿を認める。

 

 しかしその姿はどこかつらそうな様子を無理やり堪えているようだった。

 

「はぁ……はぁ……」

 

(無理やり殺意衝動を抑えるのはやはり体に負担がかかるな……っ。しかし、このアスタリスクでたとえ不可抗力であっても殺しはしないと誓った。堪えろっ!)

 

 精神に引っ張られそうになる身体を無理やり言い聞かせて、意識を元に戻す。

 

「スゥ―……、ふぅ……。さて、早く爆弾を解除しなければ──」

 

「うおおおオオオオオオオオ!!!!」

 

「なっ……!!」

 

 戦えないレベルまで戦意を喪失していたと思っていた黒子の男がいきなり身に隠していた凶器を手にし、身体に巻き付けていた爆弾を起爆しようと動こうとする。

 

「自爆かっ! ピューレ!」

 

『分かった』

 

 殺さないように手加減しながらピューレで敵を切り裂く。それと同時に能力によって体に巻き付けられた爆弾は効力を失い、ただのガラクタと化す。切り裂かれた敵はそのまま崩れ落ちるものの、爆弾を解除した後に脈を確認すると正常に動いているため気絶しているだけのようだった。

 

「敵ながら、並々ならぬ執念だったな……」

 

 他に爆弾が隠されていないことを確認した基臣は捕縛した敵を連れて上へと向かう。既に通報からかなり時間が経ったからか、十人以上の隊員が集結して事態の解決に乗り出していたようだった。隊員たちの先頭には警備隊のリーダーであるヘルガ・リンドヴァルもいた。

 

「あんたは……この前の」

 

「ん? あぁ、誰かと思えば君か。レヴォルフのゴロツキどもの件以来だな。久方ぶりだ」

 

 手を差し出されたので、空いている片手でその手に応対する。

 

「まさか星猟警備隊のトップが来るとは、よほどの事らしいな」

 

「ああ、まさかここまで大規模な爆破事件を起こすとは思わなんだ。テロの可能性も含めて捜査しなければいけないがためにおかげさまで私まで引っ張り出されたという訳だ」

 

「なるほど」

 

「それで、そいつが今回の」

 

「ああ、おそらくだが実力的にはこいつが首謀者に近い存在だろう」

 

 そう言って、基臣は引きずっていた黒子の男をヘルガへと引き渡す。

 

「協力感謝する。それにしても、やはりこのまま置いておくには惜しいな。将来は星猟警備隊に来てほしいものだが」

 

「前も言ったが、その話は保留させてもらおう。……といっても、そちらのお仲間たちは俺を受け入れる雰囲気では無さそうだがな」

 

 ヘルガの5メートル後ろほどに控えていた星猟警備隊の隊員たちを一瞥すると、向こうも露骨に嫌悪感を示す。

 

「……はぁ、まあ仕方あるまい。色々とやらねばならないことも多い。これで失礼させてもらおう」

 

 そのまま隊員を引き連れてどこかへと向かって行ったヘルガ達を尻目に、基臣は舞台裏へと急いで戻る。

 

 到着すると、そろそろライブも終わるのかスケジュールにあった最後の曲を唄っているのが聞こえる。

 

「ご苦労様でした。今回は貴方の助力が無ければシルヴィの身に何が起こっていたことか。報酬に関してですが前言った報酬の2倍を──」

 

 そう告げてくるペトラに基臣は首を振って、断る。

 

「任された仕事をこなしただけだ。報酬はそのままで構わない」

 

「……あなたが言うのならそう言うことにしておきましょう。ですが、感謝だけは言わせてください。本当にありがとうございます」

 

 ペトラと話している内にライブも終わり、シルヴィアが舞台から戻ってくる。

 

「基臣君!」

 

「お疲れ様」

 

「ねえ。私の歌、ちゃんと聴いてくれた?」

 

「ああ……、いい歌だった」

 

「ニヘへ、それならよかった!」

 

 シルヴィアの笑顔に何故か胸の内が痛くなるのを感じる。

 

 

 

「それでね……」

 

 シルヴィアと他愛もない話していると、突然端末から電話がかかってくる。

 

「ん、電話か。すまん、少し良いか」

 

「あ、ううん。いいよ別に」

 

 シルヴィアに断りを入れて少し距離を離すと彼女に聞こえないような音量でその場で音声通話を行う。

 

「はい、もしもし」

 

『誉崎基臣だな』

 

「…………誰だお前は」

 

『我々はお前の父親に全てを奪われた者』

 

「俺の、父……? どういうことだ、答えろ」

 

『まだ、この程度では我々誉崎一族の恨みは晴らされない』

 

 基臣の質問を無視し、呪詛を吐き散らすようにしながら言葉を続ける。

 

『お前の大切にしている者を殺し、最後にはお前に裁きを与える』

 

 ツー、ツー

 

「……」

 

「どうしたの基臣君? 誰からのでん、わ……?」

 

(また……誉崎、か)

 

 基臣は父の姿を思い出す。

 

(父は何も語らなかったが、過去に何かがあったのか。いずれにせよ、俺だけならまだしも周りにまで被害が出かねない状況だった。電話の主にはそれ相応の落とし前はつけさせなければ)

 

 

「基臣……君?」

 

「ん……ああシルヴィ。どうかしたか」

 

「あ、いや……。なんでもないよ」

 

(すぐに元に戻ったけど、今の基臣君……物凄い怖い顔だった。まるで初めて会った時みたいに。いや、それ以上に不気味な何かが……)

 

 基臣の尋常ではない雰囲気にシルヴィアは得も言えない不安を胸の内に抱く。

 

(何か嫌なことが起きないといいけど……)

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

part18

またもや難産になってしまったので初投稿です。


 好かれたくない奴たちからケツを狙われるRTA、はーじまーるよー

 

 前回はシルヴィのライブ後に謎の男からお前を殺す(デデン)、と言われたところまででしたね。

 

 さてホモ君のケツを付け狙われていることもあり、チャート崩壊の危険性もあることからどう対処しようかと鍛錬をしながら考えているわけですが、とりあえず犯人の特定をしないことには始まらないでしょう。

 

 まずは、別件も兼ねてエルネスタ達と会うことにしましょうか。メスガキはついてくるのかと思ったのですが、今回は獅鷲星武祭(グリプス)に向けてのチーム研究のために界龍に残るらしく、同伴しないようです。

 

 

 待ち合わせ場所で集合しましたが……どうやらカミラも研究で忙しいようなので、エルネスタ一人のようです。ま、メスガキがいないので絡んできても妙なことにはならないでしょう。

 

 で、今回は何のために彼女を呼んだかというと鳳凰星武祭(フェニクス)優勝の報酬として大会運営側からもらうウルム=マナダイトを選んでもらうためですね。ホモ君が関与する必要が無いので本当なら時間短縮で彼女1人で行ってもらいたいのですが、優勝者も同伴しないといけない仕様なので仕方なくついていくことになりました。

 

 

 

 運営側に指定された施設に来ると、顔パスでさっそく通してくれます。大会運営委員長の黒幕さんはなにやら仕事が忙しいようで選定作業にご一緒することができないようですが、こちらとしても彼との会話で下手に地雷を踏んで変なフラグを建てたくないので助かります。

 

 ホモ君は別に見る必要がないので外で待っていると、しばらくして彼女の要求を満たすようなウルム=マナダイトを選定し終えたのか楽しそうな顔で戻ってきました。本来なら要件はこれだけだったのですが、エルネスタに件の電話の主の特定を依頼しておくことにしましょう。

 

 自律擬形態(パペット)の設計をする関係上、彼女はコンピューター関連の知識は下手なハッカー以上に持ち合わせているので、とりあえず任せておけば何かしらの成果を挙げてくれます。

 

 その代わりに何か報酬を要求してくるかと思ったのですが、この前の派閥のゴタゴタに巻き込んだお詫びとのことで無償で引き受けてもらうことになりました。てっきり荷物持ちとかまたさせられるのかと身構えていたのでこの提案は非常に助かります。

 

 さて、施設も出たのでさっさと解散することに──

 

 

 

 ん、いきなりエルネスタが立ち止まりましたがどうしたのでしょうか。何やら固まっているようですが、視線の先に誰かいるみたいです。

 

 あ、誰かと思えばみなさん大好き(大嫌い)ダイジョーブ博士枠のヒルダですね。彼女はアルルカントの《超人派(テノーリオ)》に属する人間で、派閥の名の通り人体改造大好きウーマンです。

 

 RTA開始序盤の時にもさらっと解説しましたが、彼女からの手術を受けることで低確率ではありますが、非星脈世代(ジェネステラ)から星脈世代に進化することができるのです。他にもステータスアップや特殊技能の習得などなど……ダイジョーブ博士みたく色々な選択肢が用意されています。

 

 TASなんかでは彼女を利用して効率的にステータスアップをするという手法が使われていますが、RTAではとてもではないですが現実的ではないので行われていません。

 

 まあそんなステータスアップに運ゲーを強要してくる彼女ですが、エルネスタと同じくアルルカント随一の才女です。ホモ君に興味津々のようで、初対面から距離感ガン無視で近づいて来ようとしてきますが……。おっと、エルネスタが間に入って助けてくれました。若干二人の間でギスギスしている感がありますが、(私は)しらなーい。

 

 研究ライバルにモルモットを見せびらかしたくないのかホモ君を隠すようにして視線を遮ってます。珍しくエルネスタの方から解散すると言ってきたのでお言葉に甘えてヒルダを無視してそのまま退散することにしましょう。

 

 

 

 退散、といっても時間がまだ有り余っているため、いつものように鍛錬をしようと再開発エリアに向かっていますが、どうやらオーフェリアがいることを察知したようですね。

 

 ランダムエンカウントとはいえオーフェリアにタイミングよく会えるのは非常にありがたいです。どうやら、地面にある枯れてしまった花を見て少し悲しそうな表情をしながら先に座って待っていたようです。前みたいに出会っただけで即戦闘とかいうクッソ野蛮な事はしてこないので、安心して隣に座りましょう。

 

 さて、チャート通りであれば会話を積み重ねていくことで好感度を上げていくという古典的な方法を取る予定でしたが、ヤンデレ剣を持っているということで懐で温めておいたオリチャーを発動させます。

 

 先ほどの枯らしていた花を見て悲しそうな表情をしていたことをキーとして、禁忌とされていた花についての話題をホモ君からすることにしましょう。普通なら好感度が下がったり逃走されかねない選択肢ですがここからが正念場です。

 

 まず、ヤンデレ剣にオーフェリアを精神世界へと招待するように必死に頼み込みましょう。頼むよー。

 

 しばらく頼み続けると、大好きなホモ君の頼みという事でヤンデレ剣は同伴しないという条件付きで招待してくれることになりました。承諾を得たら花についての話題を切り出します。すると、途端に雰囲気が悪くなりますが、ヤンデレ剣の能力を使ってオーフェリアを鳳凰星武祭の決勝戦の時みたく精神世界に連れていきましょう。

 

 何のことかさっぱりで分かっていないであろうオーフェリアに強引に迫ってお手をお借りしまして……。

 

 

 

 ヨシ! 問題なく精神世界に到着しました。色々と唐突だったのでオーフェリアは不思議そうな顔できょろきょろと辺りを見回していますねぇ、かわヨ。

 

 このまま適当にうろつくのもありと言えばありですが、まずはここに連れてきた本題の方を済ませることにしましょう。

 

 ホモ君達の近くにある花を一つ摘み取ってオーフェリアに渡しましょう。瘴気で枯らしてしまうと思っているようですが、強引にホモ君が彼女に花を握らせても枯れません。彼女はきょとんとして夢じゃないかと呆けているようですが、ところがどっこい……夢じゃありません……! 

 

 精神世界は前、鳳凰星武祭の決勝戦中に無理やり連れてこられた時もそうでしたが、この場所はイメージによって形成されているため現実の世界の法則は簡単に捻じ曲げられます。これはこの世界で自生する花にも当てはまることで、花が枯れないようなルールにできます。

 

 こうすることで普段は己が身に纏っている瘴気のせいで花を触ることが出来なかったオーフェリアでも触れるようにする必要があったんですね。

 

 星脈世代になってから憂いたような表情を見せる事が多いオーフェリアですが、枯らしてしまうため近づくことが出来なかった花に触れることが出来て微かに喜んでいることが表情から見て取れます。イイゾ^~これ。

 

 しばらくの間、花畑を遠巻きにではあるものの見つめながらゆったりと時を過ごしていってますが、順調に好感度を稼げているようですね。普通に駄弁っているよりも好感度の上がりは明らかに早いのは確定的に明らかなので、うん、おいしい! 

 

 しばらくはポツポツとオーフェリアのお花談議が続きますが、ホモ君は詳しくないという体で聞き手側に回っておけば変な地雷を踏むこともありません。時間の許す限り好感度を上げていきましょう。

 

 

 

 少女お花談議中……

 

 

 

 今度もここに連れて来てくれないかとお願いをしてきましたね。引き換えにヤンデレ剣ちゃんとの時間を作らなければいけないのは少し予定との狂いが出ますが、そもそも熟練度上げのためにヤンデレ剣との交流を深める必要もあったので、スケジュールを前倒しにするだけでロスはゼロです。もちろん快諾しましょう。

 

 さて、名残り惜しいでしょうが時間も無限にあるわけでは無いので現実へと帰還します。まだまだ目標の好感度までは遠いですが、これで定期的に好感度を上げるための手段は用意できたのでオーフェリアの方はチャート通りになってくれそうですね。オーフェリアの瘴気の影響を鑑みると商業エリアで遊ぶというのは中々できないのでとりあえず一安心といったところでしょうか。

 

 

 

 現実へと帰ってきましたが……ん? 何やら集団でこちらへやってくる気配がしますね。

 

 

 ゲェッ!? ロドルフォ!! 

 

 はい、皆さん大っ嫌いロドルフォさんです。彼はレヴォルフの序列2位であり、再開発エリアを根城にする巨大なマフィアの首領で、生粋の戦闘バカです。

 

 ……といっても、このアスタリスクにいるやつらは戦闘バカが多いんでしたね。(ロリババアやオーフェリアを思い出しながら)

 

 まあ、戦闘バカということは当然ながら鳳凰星武祭優勝者であるホモ君にも興味を持つという訳で……。はい、決闘しようぜとさも当たり前のように言ってきます。こいつの獲物をどこまでも追っかける好戦的な性格とマフィアの首領に相応しい高い戦闘能力によって今まで多数のプレイヤーにトラウマを刻みつけました。

 

 流石に事を荒立ててマフィア全体を敵に回したくないので、適当に話を流して、オーフェリアを連れ去りながらスタコラサッサと逃げることにしたいのですが……。

 

 うーむ取り巻きに囲まれてしまいました。まあ、オーフェリアがそもそも動こうとしないからというのもあるわけですが。こうなっては仕方ありません。ある条件を達成することでロドルフォに金輪際関わってこないように言いましょう。

 

 ある条件というのは三分間一度もロドルフォの攻撃によってダメージを受けないというものですが、この条件、ロドルフォを撃退するルールとしてプレイヤー界隈では3分ルールとして非常に重宝されています。

 

 まあ、初心者には非常に難しいルールですが私ほどの上級者になると余裕ですね。(慢心)

 

 面白い事が大好きなロドルフォはこの条件を当然承諾してくれます。

 

 あ、そうそう。この戦闘、何もロスだけというわけではなく、成功すればロドルフォが配下に置いているマフィアはこれからホモ君と絡むことはなくなるというメリットがあります。再開発エリアでのゴロツキエンカウント率が目に見えて下がるという事でRTA界隈ではロドルフォをこの3分ルールで撃退するか否かが分かれていますが、私は安定を取ってロドルフォとは関わらないつもりでした。まあ、そんな構想アスタリスク入って1年目でご破算となったわけですが。

 

 まあ、グチグチ言ってもしょうがないので、お相手してあげましょう。

 

 さて、こいつは《魔術師(ダンテ)》で能力範囲内にある星辰力を自在に干渉することが出来ます。ここまでだと大して強くなさそうな響きですが、自分だけなく相手の星辰力に対しても干渉できるという点が非常に強力です。

 

 相手の星辰力に干渉と言うとパッとイメージが湧かないでしょうが、要は範囲内であれば相手を攻撃においても防御においてもほぼ無力化することが出来るという訳です。

 

 ついでに、能力範囲内にいることを察知されたら星辰力に干渉されて身体を爆発させてくるため(防御不可)、即ゲームオーバーというまともに戦えばオーフェリア並みのクソゲーを要求されます。ガチガチの近距離ビルドに仕上げている人間からしてみればロドルフォはまさに天敵です。

 

 究極の初見殺しと言っても過言ではないロドルフォの能力ですが唯一隙が有ると言えば、現状遠距離での攻撃手段を持ち合わせていないことでしょうか。原作では王竜星武祭の時に煌式遠隔誘導武装を手に入れたことで遠近共に対応できるようになるわけですが、まだ5年も前ですから持ってるはずもなく現状遠距離相手には接近するしか成す術がないです。

 

 まあ、結局のところ何が言いたいのかと言うと、常にロドルフォから距離を取りましょうっていうことです。身も蓋もない言い方となりましたが、ホモ君のステータスが十分に高いためこの戦法が一番効果的なのです。第六感で相手の出方は筒抜けなので、手堅く相手の射程範囲に入らないようなムーブを心掛けましょう。

 

 

 迫ってきたので一撃振ってけん制することで相手を後退させ……。

 

 ヒェッ……。危ないですね。回避を選択したので大丈夫でしたが、けん制のために一歩踏み込んで迎撃していたら射程の中に引きずり込まれて間違いなく足が吹き飛んでいました。時間は……まだ1分。難しくはないとは言いましたが、集中を切らしたら簡単に距離を詰められます。警戒を解かず、懐まで入られないようにしましょう。

 

 

 

 少女綱渡り中……

 

 

 

 ふぅー……。ようやく3分経過しましたね。走者のガバとはいえ、一回足が吹き飛びかけたのはヒヤリとしました。これでロドルフォも潔く退却してくれます。もう二度と関わるんじゃねーよ、ペッ。

 

 これでロドルフォ傘下のマフィアがエンカウントすることは無くなるので、大分再開発エリアの移動もスムーズに──

 

 

 

 今回はここまで。ご視聴ありがとうございました。

 

 




UAがなんと10万を超えました。
処女作である今作をこんなにたくさんの方に見ていただいて感謝の言葉で一杯です。
調子によって投稿頻度が乱高下しやすい作者ではありますが、これからもできる限り早い投稿を心掛けるのでよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

裏話18 幽鬼の魔術師(ラダマンテュス)

あとがきの方にアンケートがありますが、別に投票の結果でヒロインの今後が決まるわけでは無いのでご了承ください。

ハーレムを形成しつつあるホモ君が羨ましいので初投稿です。


 

 

「剣士くーん! やっほー」

 

「久しぶりだな。…………腕を離してくれないか」

 

「やーだよー」

 

 腕に絡みついてくるエルネスタにどうしたものかと少し思案するが、沈華もいないこともあり基臣は好きにさせることにした。

 

 周りからの視線を受けながらも、ある建物の前に着くと入口の前で一人、白衣を身に纏った職員らしき人物が立っていた。

 

「お待ちしておりました、誉崎様。そちらが……?」

 

「ああ、メールで送った通りだ」

 

「承知しました。では、中へ参りましょうか」

 

 職員の案内を受けて建物の中に入ると、統合企業財体同士で持ち寄っているウルム=マナダイトを多数保管しているからか非常に厳重な警備が敷かれていた。

 

(統合企業財体の連中の中から寄せ集めたのか、中々練度が高いな……)

 

 警備をしている人間を軽く流し見ながら進んでいき、エレベーターで下へと降りていく。何重ものセキュリティで隔離されている一室の前に来ると、基臣は近くに置かれている椅子に座る。

 

「俺は興味がないからここにいる。お前だけで行ってこい」

 

 基臣の言葉に職員は問いかける。

 

「良いのですか? ご覧にならなくて」

 

「別に俺はウルム=マナダイトに興味はない。こいつにだけ見せてやってくれ」

 

「……そういうことでしたら。では、どうぞこちらへ」

 

 少し困惑する職員だったが、本人が良いと言ったのでエルネスタを連れてそのまま中に入っていった。

 

 しばらく座ってイメージトレーニングをして時間を潰していると、ドアが開きエルネスタ達が戻ってくる。どうやら、望みの品が手に入ったのかその顔はどことなく嬉しそうだった。エルネスタが選んだウルム=マナダイトは後日発送されるようで、必要な情報をいくらか書き込んだ後二人は施設を後にしようと歩き出す。

 

「いやー、良い収穫だったよ」

 

「そうか、それならよかった」

 

 エレベーターに乗って上がっている間、基臣はエルネスタを呼び出したもう一つの目的を達成するために話しかける。

 

「そういえば、お前に一つ頼みがあるんだが……」

 

「ん、何かあったのかにゃ?」

 

「何も聞かず、この通話がどこから発信されていたかを特定してくれないか?」

 

 渡されてきた番号を見ると、パッと見ただけでもアスタリスクの外からの通話であることが察せられた。

 

「ふーん……。何やら変なことに巻き込まれてるみたいだけど。ま、いいよ」

 

「すまない、助かる。それで依頼の報酬だが……何が欲しい?」

 

「んー、別に報酬はいいかな。前、うちの派閥のゴタゴタで迷惑をかけたからそのお詫びということで」

 

「そうか」

 

「そうだ、今からでもお茶しない? 前行った喫茶店、結構気に入っててさ──」

 

「おやおや、見覚えのある顔だと思ったらまさかあなただったとは」

 

 突然、知らない声が割り込んできたため振り向くと手入れされていないボサボサの髪を適当に纏めた眼鏡の少女が立っていた。

 

「あんたは……ヒルダ……っ!」

 

 どこか親の仇を見るような目つきで睨むエルネスタにヒルダはその視線をどこ吹く風と言わんばかりに無視して、基臣の方をじっくりと眺めてくる。

 

「やはりあなたが目をつけただけのことはありますね。キシシ」

 

 一気に距離を詰めて観察してくるヒルダに基臣は思わず一歩後ずさってしまう。

 

「あの鳳凰星武祭で見せてくれた驚異的な身体能力、ぜひデータとして取ってみたいところですが……」

 

「剣士君、ちょっと早いけど解散しよっか」

 

「……分かった。でも、大丈夫か?」

 

 明らかに機嫌が悪くなったエルネスタの心中をなんとなく察して基臣も彼女の提案を受け入れるが、彼女に護身術の類の心得がないことから変な事に巻き込まれないか少し心配する。

 

「大丈夫。ちゃんと人通りが多い所を通って帰るから」

 

「そうか、分かった」

 

 そのまま、帰っていく基臣を尻目にアルルカント随一の頭脳と呼ばれる二人は対峙する。といっても、片や楽しそうに、片や不機嫌そうに、それぞれ向かい合っていた。

 

「あなたが色恋に興味を持つなんて何の冗談かと思っていましたが、実際に見てなんとなく分かった気がしますねぇ。あの者に抜きんでた才があるから近づいたのでしょう?」

 

 ニヤニヤと何が面白いのか笑うヒルダに苛立ちを覚える。

 

 基臣をこいつに関わらせたくない──そう勘が告げてくる。恋のライバルになるかもだとかそういう類のものでは無い。ヒルダが基臣を危険に巻き込んでしまうという類の予感だ。

 

「……それで? せっかくの時間を邪魔されて正直気が立ってるんだけど」

 

「まあまあそう怒らないでください。あたしはただ噂の真偽が知りたかったのと、彼の素質が如何ほどかを知りたかっただけですよ。キシシ」

 

「……」

 

「まあ、あなたが途中で帰してしまったので十分にとはいきませんでしたが……。そういえば、なぜあなたに嫌われているのか未だによく分からないんですよねぇ。あたし、人に向けられる感情に疎い所がありますから知らず知らずのうちに怒りを買ってしまう事があるんで、何か悪いことをしたのなら謝りますが……」

 

 黙ったままのエルネスタを見て、肩を竦めたヒルダはもうこれ以上話すことも無いのかそのまま立ち去ろうとする。

 

「あ、そうそう。言い忘れていたことがありました」

 

 思い出したかのように振り返ると、ヒルダはエルネスタに声を掛ける。

 

「あたしの直感ですが……彼、いつか壊れますよ。どういう経緯でそうなるかは知りませんが」

 

「……」

 

「もし、壊れて使い物にならなくなったらその時はあたしに寄越してもらえると助かりますねぇ。キシシ」

 

 嫌に耳障りな笑い声を上げながらヒルダはその場から立ち去って行った。

 

 

 

 ──────────────────────

 

 

 

「久しぶりだな」

 

「ええ、1か月とちょっとといったところかしら」

 

 オーフェリアが座っている隣に行くと、基臣は建物の壁に寄り掛かって座る。前と同じように他愛もない話をしていると、彼女が少し遠くに咲いている花を見ている時だけどことなく悲し気な雰囲気を漂わせていることに気づく。しかし、それは嫌いなものに対するそれではなく、愛するものに対するものに向けるような感情だった。

 

 その様子が少し気になった基臣は疑問を率直にぶつけることにした。

 

「花を見ていたみたいだが、もしかして好きなのか?」

 

「…………」

 

 どこか悲痛そうな表情を僅かに漂わせる彼女は微かに、だが確かに頷く。

 

「ええ、好き()()()わ」

 

 その表情は過去を懐かしむといったものではなく、過去の自分に嫉妬しているのか、それとも訪れるであろう未来に悲しんでいるのか。いずれにせよあまり芳しくない表情だった。

 

「私の能力は前に対峙した貴方なら薄々気づいているでしょう?」

 

「…………。何らかの原因で周りの物を腐食させる、といったところか?」

 

 基臣の予想が正しい事を首を縦に小さく振って示すと、どこか昔を思い出すかのように空を見上げる。

 

「色々あって私は好きだった花たちもこの能力によって枯らしてしまうようになった。これも強大な力を持ってしまったが為の運命なのでしょうね」

 

 諦めにも似た感情を曝け出しているオーフェリアはそのまま俯いてしまう。

 

 どこかその彼女の姿に同情してしまった基臣はどうにかできないものかと考える。

 

 しばらく考えた基臣はある事を思いつく。ピューレの柄に触れると、思念で彼女に呼びかける。

 

(ピューレ)

 

 その呼び出しに、ピューレは先ほどまで眠っていたのか目を擦りながら答える。

 

『ん、なあに?』

 

(お前の世界にオーフェリアを招いてもいいか?)

 

『……なんで私があの女のためなんかに』

 

(お願いだ、お前にだって彼女の孤独には共感できる所があるだろう?)

 

『……』

 

(頼む)

 

 しばらくすると、根負けしたのか溜息を吐く音が聞こえる。

 

『分かった。だけど私にも今度付き合ってよ。一人でここで過ごすのも暇だし』

 

(助かる)

 

 ピューレの許しを得た基臣はオーフェリアに声をかける。

 

「オーフェリア」

 

「何かしら」

 

「ちょっと手を貸せ」

 

 そう言って突然手を差し出してくる基臣の意図が理解できずオーフェリアは疑問符を浮かべる。

 

「あまり私に触れないほうが良いわ、貴方まで傷つけてしまう。それに──」

 

「いいから、ほら」

 

「あ……」

 

 オーフェリアは基臣に手を引かれるままにピューレへと手をかざす。それと同時に身体から力が抜けて精神だけがどこか別の場所へと連れていかれるような感覚に陥る。

 

 抵抗しようと思えばできたが、基臣が悪意を持っていなかったことからそのまま身を委ねる。

 

 連れていかれることしばらく。やがて、色とりどりの花が咲き乱れている場所へと降り立った。

 

「ここは……?」

 

「ここは、俺の相棒が作り出した精神世界だ」

 

 周囲には花があるが、いつものように瘴気で枯れる様子が一切なかった。

 

「花が……枯れない?」

 

「精神世界だからお前の瘴気もこの世界に自生する花たちには影響しない、ほら」

 

 いつの間に摘み取ったのか、基臣の手には花が一輪あった。それをオーフェリアへと差し出す。

 

「でも」

 

「いいから持ってみろ」

 

 本来なら触れてしまえば灰すら残さず消し去ってしまうため触ることに躊躇するオーフェリアに基臣は強引に花を持たせる。

 

「あ……」

 

 その茎に手が触れた時、朽ち果てることを覚悟してほんの少し目を逸らしてしまうが視界の端で百合の花が綺麗に咲いたままなのが見えて驚く。

 

「だから言っただろう。この世界ではお前の瘴気の影響を受けない」

 

「そう。そうなのね……」

 

 そっと優しく花を持つと、そのまま愛でるように触れる。その顔には再び花に触れることができた喜びが見えていた。

 

 オーフェリアの様子を見守っていた基臣だったが、しばらく一人で花を愛でていて満足したのかオーフェリアは基臣を連れて色々と花について教えてくれた。

 

「花も私達のように生きているの、だから慎重に扱ってあげないといけない」

 

 基臣の手を取ると花へと近づける。

 

「丁寧に摘み取ってあげないといけないわ。こんなふうに」

 

 花茎から綺麗に摘み取ると基臣へとそれを見せる。

 

「なるほど」

 

 花に詳しくない基臣だったが、オーフェリアのその仕草や慣れた手つきから本当に花が好きだったことが伺える。その楽しそうな様子からオーフェリアをここに連れてきてよかったと思った基臣だった。

 

 

 

 そうして時間は過ぎていき、そろそろ界龍(ジェロン)に帰る時間になる。

 

「またここに来てもいいかしら」

 

「ああ、構わない。……そろそろ時間だな、戻るか」

 

「ええ」

 

 指を鳴らすと世界は崩壊し、いつの間にか現実へと還ってくる。

 

「不思議な感覚ね」

 

「普通は経験することの無い体験だからな。まあ、身体に何か悪影響があるとかいう訳でもないし──っ!」

 

 喋っている途中でいきなり様子が変わった基臣にオーフェリアは問いかける。

 

「どうかしたかしら」

 

「誰か来る」

 

 基臣が警戒を解かず臨戦態勢を保っていると、やがてマフィアの集団が姿を現わす。その数は基臣が感じ取れるだけでも数百。明らかに相手も警戒していることが感じ取れた。

 

 その中から一人派手な格好をした男が現れる。

 

「おー! 孤毒の魔女(エレンシュキーガル)だけかと思って様子を見に来てみたら幽鬼の魔術師(ラダマンテュス)もいるじゃねーか!」

 

 前者の二つ名は兎も角、後者の聞き覚えの無い二つ名に基臣は首を傾げる。

 

「幽鬼の魔術師? 俺の事を言ってるのか?」

 

「ええ、あなたがこの前の鳳凰星武祭(フェニクス)で優勝してからついた二つ名よ」

 

 シルヴィアが《戦律の魔女(シグルドリーヴァ)》と呼ばれていたことを思い出して、なるほどこの前の優勝で大きく名を上げたから二つ名が付いたのかと合点する。

 

「で、何のつもりかは知らんが、集団で俺達を取り囲むとはな。良からぬ事を考えていると思われてもおかしくないぞ」

 

「別にお前らを取って食おうってわけじゃねぇよ。こいつらはただの連れだ、今はな」

 

 意味深な言葉に少し引っかかりを覚えるが、気にせずロドルフォとの話を続ける。

 

「それで、何の用だ」

 

「俺が望むのはただ一つ。()ろうぜ!」

 

「……拒否したら?」

 

「俺は自己中心主義のろくでなし野郎だからなぁ! お前には選択肢は無いって思ってもらっていいぜ!」

 

 周りをぐるりと一周眺めると、一層分厚くなった人の壁が基臣を取り囲んでいることが分かる。

 

「……分かった。ただし、条件がある」

 

「あン?」

 

「3分間、お前から一度も攻撃を受けなかったら、金輪際お前の配下を含めて全員俺達に関わるな」

 

「へえ……。3分も俺の攻撃を回避し続けるつもりとは大した自信じゃねーか! いいねぇ、その勝負乗ってやる!」

 

「オーフェリア、下がってろ」

 

「分かったわ」

 

 試合に関係ない2人以外は邪魔にならないように距離を取る。オーフェリアも距離を取るが、マフィアたちの距離の取り方の異常さに気づく。

 

(彼の()()()()のせいね)

 

「準備はできたか?」

 

「ああ」

 

「それじゃあ、行くぜぇ!」

 

「…………っ!」

 

 強く踏み込み、一気に近づくロドルフォに嫌な予感を覚えた基臣は即座に距離を離そうと動く。

 

「おいおい! 初見なら確実に飛ばせるって思ったんだがなぁ! 伊達に星武祭(フェスタ)を優勝してたわけじゃないな!」

 

(あいつの周りにいるのは不味い……)

 

 少しでも能力の範囲内に入れば身体を纏う星辰力を乱され、そのまま内側から爆発。第六感によって視えたロドルフォの能力の強力さに意識せず身体から冷や汗が出る。

 

 迫り来るロドルフォを上手い事ギリギリで回避して、能力の射程距離を測っていく。

 

(一メートル七十五から八十……といったところか。能力の外縁部数センチ程度なら能力発動までのラグで0.5秒ほどの余裕がある)

 

 第六感の助けもあって正確に能力の本質を掴んでいき、()()()()すればということもあって早くも安全な立ち回りができるようになりつつあった。

 

 その様子を感じ取ったのか、ロドルフォも獣のように獰猛な笑みを見せて基臣との試合を楽しんでいる。

 

 その笑みに嫌な物を感じ取った基臣だったが、直後、ロドルフォは予想外の行動を取る。

 

(武器を投げた……!?)

 

 第六感で事前に分かると云えど、予想外の動きをするロドルフォにワンテンポ行動が遅れた基臣は足をもつれさせる。

 

「っ!?」

 

 強引に回避行動を取るが、勢い余って地面に衝突してしまった。

 

 受け身を取ってなんとか体勢を立て直すが、強引に回避せず投擲した武器をそのまま受けていれば間違いなく接近を許して左足が吹き飛ぶ未来が待っていただろう。

 

(自身の能力をよく理解しているからこそ武器を手放して不意をついてきた、か……)

 

 ロドルフォの方を見ると、隠し持っていたのか新たに煌式武装を取り出していた。

 

「噂通り、勘は鋭いみたいだなぁ!」

 

「……」

 

「まあ、反応が薄いのが少し残念だが、それはそれでっ!」

 

「……っ!!」

 

「驚いた顔を見せてくれる楽しみがあるってもんだ!」

 

 型に囚われないアウトローらしい自由な戦闘スタイルにただひたすら驚かされる基臣だったが、上手い事避けていく。

 

「ハッハァ! ならこいつはどうだ!」

 

 落ちていた1つ目の煌式武装を基臣目掛けて正確に蹴り上げる。

 

「チッ!」

 

 最低限の動きでその煌式武装を払いのけると、即座に後ろへと退避しようとする。

 

「勘が良いから、そう動くよなぁ!」

 

 しかし、相手の方が一枚上手だったのか退避するよりも先にロドルフォが基臣を能力射程圏内に収めようとする。

 

「誉崎流中伝、断蒼(だんそう)

 

 バックステップによって後ろへ退避したと思い込んだのも束の間、瞬きした次の瞬間には目の前で基臣が下から斬り上げていた。

 

「うぉっ!?」

 

 そのまま攻撃を受けたロドルフォは思わぬ反撃に目を見開きながらも、攻撃を仕掛けてきた基臣に嬉しそうに口元を歪める。

 

「やるじゃねーか! まだまだこれから──」

 

「残念ながら、時間だ」

 

 ピピピピピピ……

 

 アラームの無機質な音声が響き渡り、終了の合図を両者へと伝える。その音を聞いたロドルフォは溜息を吐きながら床へ座り込んだ。

 

「はぁ、ったく。もっと楽しめると思ったのによぉ。お前、頭ン中で正確に時間を刻んでたな?」

 

 その問に首肯する基臣にロドルフォは軽く溜息を吐く。

 

「3分やってお前の手の内をほとんど晒すことが出来なかったとか、俺の面目は丸潰れだぜ、全く」

 

「回避だけならどうとでもなる。これが本当の闘いならもっと苦戦してただろう」

 

「そこで負けないと言わない辺り、大した自信家のようだなぁおい!」

 

「ともかく、勝負は俺の勝ちだ。約束を違えるなよ」

 

「当たり前だ! 俺は嘘は吐かねえからな」

 

 立ち上がると、ロドルフォはそのまま指で部下たちに帰るように指示を出す。

 

「おい! お前ら、帰るぞ!」

 

「はい!!」

 

 ゾロゾロと帰っていくマフィアたちに少し疲れを覚えながら、ピューレを待機状態にしてホルダーに収めると、離れたところで見ていたオーフェリアがやってくる。

 

「……なんで私を置いて逃げなかったの?」

 

「ん?」

 

「あの状況、あなただけなら十分逃げれる状況だった。私さえ置いていけばあなたは面倒なことにならずに済んだはず」

 

 オーフェリアの続く言葉で意味を理解した基臣は少し考えた後、話した。

 

「……上手く言葉には出来ないが、あの時お前を置いていったら後悔すると、そう思った」

 

「……分からないわ。わざわざ関係のない私なんかのために自分の身を危険に晒すなんて。もしかしたらさっきの戦いで死んだ可能性だってあるわ。そうなったら、後悔なんて言ってられない」

 

 そんな事を言ってくるオーフェリアに基臣は少し苦笑した後、言葉を発する。

 

「お前、優しいやつだな」

 

「私が、優しい?」

 

「優しくなかったらわざわざ俺に対してそんな忠告、そもそもしないだろう?」

 

 ──オーフェリアは優しいんだな

 

「っ!?」

 

「……? どうかしたか」

 

「いえ……。なんでもないわ」

 

 様子が少しおかしいことに気づいた基臣に軽く顔を振って誤魔化す。

 

(なんで、昔のことを今更になって……)

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

if② 愛しのモルモット

久しぶりにif物です。

オーフェリアが登場回数が少ないにも関わらずヒロイン人気2番手につけたのが意外だったので初投稿です。


 その少年との出会いはいつだっただろうか。

 

 エルネスタが人一倍の努力と類まれなる才によって派閥の中でも権威ある人間となってしばらく、今までやっていた実験がひと段落ついて、暇を持て余していた。部屋の中に籠り続けるなと母親のように説教するカミラから逃げるように抜け出してきた彼女は行く当てもなく学内をふらふらと歩き回る。

 

 しばらく歩くと、やがてアルルカントの敷地の中にある池のほとりへと着く。普段は誰も興味も示さず素通りしていくそこに一人の少年が座っていた。

 

 その少年は最近超人派が買い取ったモルモットらしく、戦闘能力などに関して凄まじい素質があるため学内ではちょっとした有名人になっていた。筋骨隆々としたマッチョな人間かと思っていたエルネスタだったが、意外にもその少年は栄養が足りているのかと心配になるような痩せ気味の体形をしており、彼の纏う雰囲気はどことなく儚げな印象を抱かせるものだった。

 

 なんとなく──それだけの理由だったがその少年が気になってしょうがないエルネスタは声をかけてみることにした。

 

「ねえねえ君」

 

「ん?」

 

 呼ばれた少年は振り返るとキョトンとした顔でエルネスタを見つめる。彼の蒼く美しい瞳に見られるだけでエルネスタは自身の全てを丸裸にされるような気分にされる。

 

 本能的に嫌悪するその感覚に自身の身体を抱えて思わず少年を睨みつけると、罰が悪いような顔で少年は頭に手を置く。

 

「あー……ごめんね。中々初対面の人を視過ぎる癖が抜けなくてさ。気分を悪くしたなら謝るよ」

 

 腰を折って深々と謝罪をする彼にエルネスタは毒気を抜かれる。

 

「……まあ、別にいいけどさ」

 

「それで僕に何か用かな?」

 

「んー……、噂の天才君に興味があってね」

 

 エルネスタのいう事がピンと来なかったのか少し首をひねって考え込むが、やがて何か思い出したのか顔を上げる。

 

「あぁ、ヒルダがそういえば僕の事を天才だとか、そんなこと言ってたね」

 

 少年の言い方にエルネスタは微妙に引っかかりを覚えた。

 

「そういえばって……自分のことなのにまるで他人事みたいじゃない?」

 

「うーん……、まあ彼女のやっている研究とかはあんまり興味がないからね。強くなっても別に嬉しくないし」

 

 その言葉になるほどとエルネスタは思った。雰囲気的に星脈世代であること自体を嫌悪しているわけでは無いが、戦う類の事はあまり好きでは無さそうだった。

 

「じゃあ何に興味があるの?」

 

「特にない、かな。今までは生きるだけでも必死だったからね。趣味なんて作る暇も無かった」

 

「そっか……」

 

 空虚──その言葉が少年を表わすのに一番ふさわしい言葉だった。何もない空っぽなその少年にエルネスタは何故か不思議と興味が湧いてしまう。今まで会ったことの無いようなタイプの人間だからなのか、その答えを求めるように少年との交流をしていくようになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その出会い以降、エルネスタは彼の事をモルモット君と呼ぶようになった。彼は生まれて間もない頃に捨てられた孤児で、つけられた名前も知らない──そもそも付けられていないのかもしれないが──ためである。普通の人間が聞けば顔を顰めそうになるような変な呼び名だったが、彼もその名前に関して特に不満は無かったようでその呼び方が定着した。

 

 

 

 それからは時折、少年にちょっかいをかけるというのが日常のルーティーンの中に入り込んでいた。

 

 

 

 とある時、彫刻派と獅子派の間での共同実験で行き詰っていたため、少年に手伝ってもらえないかダメ元で聞いてみることにした。

 

「ちょーっとばかし実験に付き合ってほしいんだけどさー……」

 

 無理で当たり前。奇跡的に受けてくれるなら嬉しい程度に思っていたエルネスタだったが──

 

「いいよ、別に」

 

 意外にもすんなりと承諾を得られることにエルネスタは肩透かしを食らう。

 

「ありゃ、いいの? 実験に付き合ってもらって。超人派(テノーリオ)のこともあるからダメだと思ったんだけど」

 

 あはは、と苦笑しながら少年はその言葉を否定する。

 

「ヒルダは割と適当な所があるから、彼女の実験にちゃんと付き合ってあげれば他は何をしても文句は言ってこないよ。僕の所有権を持ってるのは彼女だから他の超人派の人たちは文句を言えないしね」

 

「なるほどねぇ」

 

 なるほど、確かにヒルダらしい考え方だ。彼女は他者との競争を望んでいるわけでは無く自身の研究に対してのみしか興味がない。故に彼が実験の時間以外にどうしていようが壊されなければ構わないというスタンスなのだろうとエルネスタは思った。

 

 エルネスタが少年を連れてきた事で、獅子派や彫刻派の面々は大喜び。これで研究が前進するかもしれないと言っていた。

 

 

『それじゃあ、さっそく煌式遠隔誘導武装を試してくれ』

 

「うん、分かった」

 

 さっそく実験に協力することになった彼は指示通り煌式遠隔誘導武装を起動して、近くにある大量の武装を思念だけで全て持ち上げる。

 

 

 

 

 

 ──その数、およそ50

 

 

 

「は?」

 

 その異常な数に相手をする実戦クラスの生徒だけでなく、それを観察していたエルネスタ達も驚愕する。何らかの異常かと計測機器確かめるが特に異常がある様子はなかった。

 

「つまり、彼の能力だけであれほどの数を一気に動かしているのか……」

 

 まだ彼の使っている煌式遠隔誘導武装は完成品ではなく、動かせる人間でも2個や3個程度が限界だった。それにも関わらず、桁一つ違う個数を操作するその天才的な感覚は見る者を震撼させるものだった。

 

 当然ながら圧倒的物量で取り囲まれた武装の包囲網を掻い潜れるわけもなくそのまま相手へと殺到していく。

 

「ブハァッ!?」

 

「こんなところかな」

 

 少年が攻撃するときに手加減をしていたのか、特に相手にも目立った怪我はないようでしばらくの間データを計測し続ける。

 

 その様子をガラス越しに見ていたエルネスタ達は戦慄する。恐らく世界を探しても少年のようなイレギュラーは見つからないだろう。それほどに彼の能力が突出していることがデータからも分かる。

 

 実験データをしばらく見ていると、訓練室から少年が帰ってきた。

 

「これでよかったのかな」

 

「お疲れ様だ。体調は大丈夫か?」

 

「うん、特に問題ないよ」

 

 疲れた様子もなく平然としている少年にエルネスタは驚きを通り越して呆れて苦笑する。

 

「ほんと君って噂通りの規格外なんだねぇ……」

 

「…………? そうなの?」

 

 戦闘データを眺めながらカミラは苦笑する。

 

「現時点で1つでも操作できれば優秀というレベルなんだぞ。それをこうもイレギュラーな数値を出されては研究者泣かせと言わざるを得ないさ」

 

「それにしては随分嬉しそうな気がするけど」

 

「それとこれとは話が別だ。研究者泣かせではあるが君のデータは研究を何年も早く進めることができるような素晴らしい代物でもある。研究者にとっては喉から手が出るほど欲しがるだろう」

 

「ふーん……」

 

「もう少し嬉しそうにしなよー、ほらほらー」

 

 身体を密着させてくるエルネスタに少年は鬱陶しそうにせず成すがままに受け入れる。

 

「まったく……」

 

 少し嬉しそうにする少年の姿にエルネスタはどこか心が暖かくなるのを感じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その内、少年といる時間がエルネスタにとって楽しみになっていた。

 

 まだ自覚していなかったが、少年に対して恋心を抱くようになったのもこの頃からだった。明確な理由はなかったがなんとなく波長が合っていたことが一因であるのは間違いなかった。

 

 

 いつものようにちょっかいをかけるために少年を探し歩いていると、彼はいつものように池のほとりで座っていた。

 

 近づいてくる気配に気づいたのか顔を動かさずにその蒼い瞳だけエルネスタのいる方へと動かす。

 

「あぁ、君か」

 

「まったく……。どしたのー、こんなとこでさ」

 

黄昏(たそがれ)てただけだよ」

 

「ふーん」

 

 慣れたようにエルネスタが少年の近くに座ると、彼は池を眺めながらふと思いついたように問いかける。

 

「ねぇ、輪廻転生ってあると思う?」

 

 いきなりよく分からない質問をしてくる少年だったが、今に始まったことではないのでエルネスタも特段驚くこともなくなっていた。

 

「えー……、科学やってる人間にそれ聞く?」

 

「いいからいいから」

 

 少年に促され、一応ある程度は真剣に考える。

 

「うーん……、そうは言っても私の見解は無いの方に一票かなぁ」

 

「そっか……。僕はね、あると思う。人が死んでまた生まれ変わって前世で親しかった人と奇妙な縁を結ぶ。前世では恋人だった人が今世では母親になってる、とかね」

 

「うへぇー。なんかやだ、それ」

 

「僕はそうでもないと思うけどなぁ。どんな形であれ愛しい人とまた会う事ができる。二度と会う事が出来なくなること程寂しいものはないと思うよ」

 

 そう言う少年の顔はまるでそんなことを経験したかのような表情をしていた。

 

「……もしかしてそういう経験があったりとかする?」

 

「あったような、無かったような……。自分でもよく分からないんだ。言葉にするには難しいんだけど、ただ……そういう感情だけは胸の内にあるというか……」

 

 要領を得ない曖昧な言葉を紡ぐ少年にエルネスタは思わず苦笑する。

 

「随分と曖昧な回答だねぇ……」

 

 そのまま会話が途切れ、しばらくの間、二人の間を静寂が包み込む。

 

「…………で、なんでこんな事話したの?」

 

「んー……まあ、ただの世間話だよ」

 

「世間話にしてはずいぶんと壮大すぎる気がするけどねぇ」

 

 相変わらずの少年の一般人とは若干ずれた感覚に呆れるが、自分も人の事を言えないかと心の内で苦笑する。

 

 しばらく経つと、もう満足したのか立ち上がって伸びをした後に帰途へと就こうとする。

 

「おかげで気分転換になったよ、ありがとう」

 

「まー、私もたまには休暇を取らないとだし、良いきっかけになったかな、うん」

 

 たまに実験に付き合ってもらったり、適当に近くの公園で世間話をしたりで平穏な日々が続くとエルネスタは思っていた。

 

 

 

 

 あの日が来るまでは──

 

 

 

 

 

 

「…………ふぅ」

 

 ある日、エルネスタは起きてからというものの妙に強い不安に襲われていた。ただ、少年と一緒にいる時だけは比較的その不安が和らぐのでその日はずっといることになった。彼も嫌がることは無かったのでその優しさに甘えることにした。

 

 しかし、ヒルダの実験に少年が呼び出されると知って何故か不安が強くなる。

 

 その不安がずっと拭えず、無理を言ってエルネスタはヒルダの実験に同伴させてもらうことになった。不安だからという曖昧な理由で他派閥の人間を見学に入れてくれるのか不安だったエルネスタだったが、意外にもヒルダがすんなりと同伴を許可してくれたため、こうして実験場所の外からガラス越しに様子を見ることができていた。

 

「それでは言った通りに動いてもらえますか」

 

「うん、分かった」

 

 ヒルダの指示通りに行動する少年に、先ほどからする胸騒ぎが消えずエルネスタは無性に不安になる。

 

 今、ヒルダがやっている実験は少しずつ星辰力を身体に注入して身体能力を向上させるという試みで、今まで何十人もの被験者のデータが存在し、どのデータを見ても安全であることが保障されているため特に問題のある実験ではなかった。

 

 そう、問題のある実験ではなかったはずだった──

 

 

 

「ふむふむ、やはり感度が良いのか身体能力の伸びは明らかに他の者とは違いますねぇ。……おや?」

 

 実験の途中、少年は突如動きを止めて頭を抱えるように(うずくま)った。何事かとエルネスタ達はガラス越しに彼の様子を(うかが)う。

 

「あ、ぁあああああああ"あ"あ"あ"あ"あ"」

 

「モル、モット、くん……?」

 

 明らかに様子がおかしかった。激痛に悶えるように頭を押さえつけて、床へと這いつくばる。しばらくすると、気を失ったのかうつ伏せの姿勢のままピクリとも動かなくなる。

 

「おい、大丈夫か!?」

 

 実戦クラスの生徒が近くに行って様子を確認するが、まったく呼びかけに反応しない。異常事態だと理解した生徒たちはすぐさま治療院へと通報をする。

 

「早く、治療院に搬送しろ!」

 

 慌ただしく動き回る周りと違い、現実を受け入れられていないエルネスタは立ったまま呆然としている。

 

 

 

 

「……だって、さっきまであんなに元気だったのに……」

 

 

 

 

「あはは、違うよね。まったく……倒れちゃうなんて、最近研究続きで疲れちゃったのかなー」

 

 

 

 

 

 少し過労で倒れてしまっただけだろう。翌日にはまた元気な姿を見せてくれる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんなエルネスタの僅かな希望は医師の言葉で粉々に砕かれる。

 

星脈世代(ジェネステラ)の能力で脳を酷使しすぎたことで大脳が深刻なダメージを負ったようです。おそらく、一般的な生活ができない寝たきり……いわゆる植物状態になっているものと思われます』

 

『そん、な……』

 

 

 

 こうして病室でスヤスヤと寝ている彼が植物人間になってしまったなんてまるで信じられない。しかし、目を背けたかった現実からは逃れられない。隣に座っていたカミラから受け取ったハンカチでしばらく泣きじゃくる。

 

 泣きに泣いた後に残るのは、後悔だけだった。少年を無理を言ってでも引き留めておけば──色んなたらればがエルネスタの頭の中を埋め尽くす。

 

 

 そんなエルネスタに火に油を注ぐかのように、病室のドアが開くとそこには少年を植物状態にした張本人、憎き相手であるヒルダが涼しい顔をして入ってくる。

 

「あんた……、どの面下げてここに来たの……」

 

「一応彼は私の実験道具ですからね。まだ使えないか確認しに来ただけですよ、キシシ」

 

 どこまでも自分本位で彼が植物状態になったことなど気に病まないヒルダの様子にエルネスタは怒りがこみあげてくる。

 

「いやぁ、彼は良い素体でしたよ。失うのが惜しかったほどです。貴重な素体を雑に扱ってしまう癖は直そうと思ってるのですが中々上手くいかないものですねぇ──」

 

「ヒルダア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"!!!!」

 

「おや、あなたがそんなに感情を露わにするのは初めて見ましたねぇ。もしかして、彼に入れ込んでいたのですか? ただの実験道具に過ぎないというのに」

 

 少年を馬鹿にするような物言いにエルネスタは激昂し、ヒルダの胸倉を掴んで今にも射殺さんばかりの視線を向ける。

 

「ふざけるな! あんたのせいで……、あんたのせいで!!」

 

「落ち着け! エルネスタ!」

 

 喚きたてるエルネスタを落ち着かせようとカミラは後ろから羽交い絞めにする。

 

「そんなことをしたらあいつともう二度と会う事が出来なくなるんだぞ!」

 

「ぁ、……っ!」

 

 渋々掴んでいた手を離すと、崩れ落ちるように床に座り込む。

 

「私としてはもう粗方取れるデータは取ったのであなたに差し上げたいところなのですが、後輩が彼をよこせと五月蠅くてですねぇ……」

 

「…………」

 

「ま、後は私の知ったことではないのでこれで彼ともお別れということになりそうですがね」

 

 しばらく少年の様子を確認した後、そのまま出て行き部屋の中はエルネスタとカミラ、少年の3人だけになる。

 

「……あたし、絶対に目覚めさせるよ」

 

「エルネスタ……」

 

 

 

 

 

 それからいうものの、自分自身を罰するかのようにエルネスタは研究へと没頭する。その鬼気迫る執念は他の人間が近寄りがたいものだった。事実、彼が倒れてからしばらく。所属する派閥からは追い出され、時折カミラが訪ねてくるものの一人だけでの孤独な作業が時間の大半を占めていた。

 

 

 

 全ては彼を手に入れるため

 

 

 全ては彼を目覚めさせるため

 

 

 

 しかし、エルネスタには医学に関しての知識は皆無に等しい。

 

 そのため、星武祭での優勝は必須だった。しかも、超人派から彼を手に入れる、そして意識を取り戻させる、これらの願いを叶えるためにも少なくとも2回は優勝する必要があった。

 

 頼れる仲間も限られるため険しい道のりだが、優勝のために彼女の持ちうる全ての知識を駆使して戦闘用の自律擬形態を作り上げる。不幸中の幸いか、彼の残したデータは非常に有用で彼女自身も驚く程のスピードで研究は進んでいく。唯一の懸念事項だった煌式武装に関してはカミラにお願いして作成してもらうことになった。

 

 

 

「エルネスタ、あまり根を詰めすぎるなよ。身体に障る」

 

「うん、分かった」

 

「その言葉は前も聞いたんだがな……。まあいい、倒れてくれるなよ」

 

「もちろん。あたしが倒れたら全てが台無しになっちゃうから」

 

「……エルネスタ」

 

 

 

 ──────────────────────

 

 

 

 

 結果、研究は実を結んで人工知能を搭載した自律擬形態(パペット)で苦労することなく王竜星武祭を優勝することが叶った。

 

 

 

「やっと……ここまで来た……」

 

 目の前には眠り続けたままの少年がいた。一度星武祭を優勝したことで願いとして彼の身柄を超人派(テノーリオ)から引き受けることを望んだ。後は──

 

「君を目覚めさせるだけだよ……、モルモット君」

 

 病室で眠ったままでピクリとも動かない彼の手を優しく握り、何度も、何度も、その温もりを直に感じる。その手はずっと寝たきりなんて信じられない程に暖かい。

 

 しばらくその感触を堪能していると、いつの間にか時間は過ぎ去っていたのか日も暮れ始める。

 

 そろそろ帰ろうかと思ったとき、病室のドアが開いた。

 

「ここにいたのか」

 

 振り返るとカミラが見舞いの品をいくらか籠に入れて立っていた。

 

「……カミラかー。もー、脅かさないでよ。びっくりしたじゃん」

 

「レナもいるもん!」

 

 可愛らしい声がしたのでよくよく見てみると、カミラの背中からぴょこっと小さな女の子が現れる。その正体は星武祭優勝のために開発した戦闘用の自律擬形態(パペット)であるレナティだった。一人で作り上げたという経緯もあって、レナティはエルネスタの事を母のように見ている。

 

「レナもいたんだ、気づいてあげれなくてごめんねー」

 

 少し拗ねているレナティの頭を優しく撫でてあげると、徐々にその機嫌は良くなっていく。撫でられることに満足したのか、レナティはようやくベッドで寝ている少年の事に気づく。

 

「おかーさん、その人だれー?」

 

「…………彼はね、レナティのお父さんだよ」

 

「おとーさん?」

 

「そう……お父さん」

 

 思わず嘘をついてしまう。エルネスタは彼とは結婚どころかデートやキスの一つもしていない。

 

「エルネスタ……」

 

 少し不思議そうな顔をしたレナティは少年の顔にペタペタと触れる。

 

「うみゅー……。でも、なんでおとーさんは起きないの?」

 

「病気にかかっちゃってね、お父さん起きれないんだ。でも、次の星武祭もレナティが優勝してくれたらその病気も治せるんだよー」

 

 自身の願いのために実の娘のように愛しているレナティを利用するなんて、我ながら最低な人間だとエルネスタは自嘲した。天国や地獄があるのなら間違いなく地獄に落とされるだろうという自覚は彼女の中であった。それでも、もう後に退けないことを理解していた。

 

「そっか! それじゃあ、レナ頑張る!」

 

「うん……いい子……」

 

 再び頭を撫でてあげるとくすぐったそうにするレナティに思わず頬が緩む。まだ起きることの無い少年の手をギュッと握って祈るように呟く。

 

 

 

「待っててね、もうすぐ起こしてあげるから──」

 

 

 

 

 ──────────────────────

 

 

 

 

「……またあの夢、か」

 

 寝汗でびっしょりの寝間着の気持ち悪さに少し顔を顰めながらもベッドから身体を起こして、先ほどまで見ていた夢を思い返す。

 

「モルモットくん……」

 

 顔立ちは違うが基臣と夢の中の「彼」はどことなく似ている気がした。

 

 

 こんなのただの夢と断じてもいい内容だった。

 

 しかし、夢と断じて忘却の彼方へと押しやろうとすると心が締め付けられるような感覚がエルネスタを襲う。夢の中の自身が忘れてはいけないと訴えかけてくるかのように。

 

 

 

 それからは基臣と会えば密着して色仕掛けなどのスキンシップを繰り返して他の女よりも自分を見てもらおうと必死になっていた。

 

 失っていた時間を取り戻すかのように

 

「らしくないこと、しちゃってるかなぁ私」

 

 柄にもなく基臣に色仕掛けを繰り返している自分に苦笑する。

 

 それでも――

 

 ── 二度と会う事が出来なくなること程寂しいものはないと思うよ

 

「そうだね……その通りだよ……」

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

part19

不穏な展開になりつつあるので初投稿です


 ここから月日が次々と過ぎていくRTAはーじまーるよー

 

 前回はオーフェリアとイチャイチャしてるところにマフィアのリーダーであるロドルフォがガッ………ガイアッッッ、しようと乱入して撃退したところまででしたね

 

 今回ですが、冬の間は大したイベントはクリスマス以外にはほとんどありません。そのクリスマスもシルヴィの場合、今年はライブがあるので、イベントは無いに等しいです。

 

 え、12月にメスガキの誕生日があるって?

 

 あー……、一応チームメイトとしての関係はきちんと保持しないといけないので機嫌を損ねないようにプレゼントは渡しておきます。といっても、正直誕生日イベントはプレゼント渡してどんちゃん騒ぎするだけの代り映えが無いイベントなので容赦なく倍速です。

 

 倍速している間の内容ですが、チームで連携の確認をしたりシルヴィの師匠探しを手伝ったり、オーフェリアと会ったり、エルネスタ達の試作テストに協力したりって感じですかね。後はたまたま、ミルシェと会う事が数度あったぐらいでしょうか。

 

 あ、そうそう。倍速している間に自分一人だけの部屋を手に入れるために冒頭の十二人(ページワン)になりました。序列4位になったわけですが、これだけだと好戦的な界龍の連中は決闘を頻繁に挑んできます。

 

 それを防止するために、界龍で序列を決めるトーナメントで冒頭の十二人に挑んだ時に目隠しをした状態で完膚なきまでに叩きのめすという縛りプレイを導入しました。この方法は原作でもクローディアが用いていましたが、一つ違う点があるとすれば武器もTDN(ただの)木剣にしています。これによって圧倒的実力者という印象を植え付けることが出来て、今後よほどのことがない限り決闘を挑まれなくなるわけですね。

 

 

 

 さて、冬も過ぎて学年が変わる春になりましたがここでビッグイベントである学園祭があります。読んで字のごとく、六学園それぞれで催し物をやるイベントで結構好感度が上がるイベントの一つですね。倍速中に既にシルヴィとの約束も取り付けているので、この勢いのまま当日まで一気に時間を進めます。

 

 

 

 

 

 当日になりました。さすがにホモ君も鳳凰星武祭(フェニクス)で名が完全に売れてしまったので、ちゃんと変装はして待ち合わせ場所で待っておきましょう。そうしないと当日待ち合わせた時にシルヴィが変装に対するアドバイスなどをしてしまい、無駄な会話が発生してしまいます。

 

 そうこうしている内にシルヴィもやってきましたね。相も変わらず、変装していてもふつくしい……。

 

 学園祭は3日あるので、効率的に六学園全てを回っていきます。全ての学園をある程度見回れれば貰える好感度が最大限上がるような設定なので、2日で回り切りましょう。

 

 学園祭を回る順番ですが、最後にクインヴェールを見て解散するようにできればいいので、レヴォルフ、アルルカント、界龍、ガラードワース、星導館の時計回りで回るか、その逆の反時計回りで回るかって感じですね。今回は時計回りで回っていくことにします。

 

 さっそくレヴォルフに歩いて行って学園前まで到着しましたが、相変わらずここの治安は悪いですね。学園祭でいつもより警備が厳しいっていうのと、この前のロドルフォの一件もあって絡まれることは無いと思いたかったんですが、後者に関しては変装していることもあって今回は意味を成していませんね。

 

 シルヴィも女性という事もあって周りからの好奇の視線に若干うんざりしているようなので、適当にカジノでちょっとだけ遊んで他の学園に行くことにしましょう。

 

 カジノですが、第六感をフルに活かすことが出来るブラックジャックをチョイスします。結構な高確率で勝つことができて、がっぽり稼ぐことが出来ます。また、いくら心を読めても負ける時は負けるのでビギナーズラック扱いされて、イカサマを疑われることもあまり無いのが高評価ですね。まあ、正直な話トラブルに引っかからなければどれを選んでも大差はないんですけどね。

 

 いい感じに遊ぶことが出来たので、次の学園へ……って、まったく……シルヴィがいるので案の定ゴロツキどもに絡まれましたね。校舎裏まで連れられそうになります。男の肩に手を回すとかお前ホモかよぉ!?

 

 これだからレヴォルフに来るのは嫌だったんですが、好感度上げのためにどうしても全学園を回る必要があるのでこの手のアクシデントは仕方ないと割り切るしかないですね。さっさと逃げることに…………おや?

 

 

 

 誰かと思えばロドルフォですね。正直事態を複雑にして面倒にするだけなので来ないでほしいのですが…………と思ったら、どうやらホモ君の変装を見破っていたみたいで、約束通りゴロツキどもを締めに来てくれたようです。助けてくれるのはありがたいですけど、手下の教育をどうにかしてもらいたいものですねぇ……。

 

 

 六学園中最大のアクシデント地帯であるレヴォルフは一通り見回ったので、次はアルルカントへ……ん?

 

 

 誰かと思えばオーフェリアですね。あまりこのタイミングで来てほしくないのですが……

 

 来るんじゃないぞ……修羅場にはなりとうない……修羅場にはなりとうない……

 

 

 

 駄目みたいですね……。というかさっきからなんでホモ君の変装を看破されるのか、コレガワカラナイ。

 

 彼女は割と自由気ままな所があるので、周りやシルヴィの視線などお構いなしです。

 

 

 完全に修羅場と化してて草。……いや草じゃないが(セルフツッコミ)

 

 とりあえず、二人とも落ち着けぇ!!

 

 ヒエッ……!?もうやだぁ、この人たち……

 

 おうちに帰っていいですか……

 

 

 

 それからは、シルヴィにオーフェリアとの関係性を問われたりと色々ありました。まあ、ホモ君達にオーフェリアが同行してくることは無かったのでそこだけはホッとしてます。さすがにオーフェリアが一緒にいると目立っちゃいますからね。

 

 

 

 お次はアルルカントに来たわけですが、少しエルネスタ達に用があるので研究区画の方へとお邪魔することにしましょう。

 

 さっそくお出迎えしてくれましたね。おう、さっさと武器をよこすんだよ!

 

 

 とりあえず、試作品ではありますが二つの煌式武装を貰い受けました。これからはヤンデレ剣だけでなく、煌式武装も獅鷲星武祭(グリプス)に向けて使い慣らしていく必要がありますからね。

 

 エルネスタは学園祭用の展示で忙しいとかでいつものようにホモ君達に同伴はしないようですね。そのままホモ君にちょっかいを出さず研究だけに没頭してくれたら非常に助かるんですけどね。……って、ん?

 

 

 

 あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"

 

 

 

 シルヴィの前でほっぺにキスとかなんつー事してくれるんだ、このぽんこつマゾサイエンティスト!! 

 

 

 ……はい、というわけで本日2度目のオーラバトルです。こいつら会ったらいっつも喧嘩してんな。

 

 

 

 おうちに帰っていいですか……(2回目)

 

 

 

 これ以上事態をめんどくさい方向に持っていきたくないので、さっさとシルヴィを連れて研究室から出て行きましょう。

 

 さっきのキスのせいで大分不機嫌になってしまってるので、シルヴィにもキスさせてあげるってことで許してもらうことにします。いきなりのキスの提案にふぇっ、っと可愛らしい声を上げながら混乱しているようですがなんだかんだで許してもらうことが出来ました。唇にキスじゃなくて本当によかったですね……。そうなってたら、明らかにシルヴィとの関係を進めすぎてしまいますからね。

 

 

 煌式武装を受け取ったのでアルルカントにはもう用はないですね。時間にもまだ余裕があるので界龍まで回っちゃいましょう。

 

 界龍に行くと、メスガキ達がやってる水派の星仙術や木派の演武などを見ることが出来ます。

 

 各流派の演武とかを巡って無難に過ごしたいところですが、そんな平穏に過ごせるわけもなく突然ロリババアによって強制的に別の場所に転移させられます。

 

 ロリババアによって別空間へと転移したわけですが、学園祭で彼女に一定以上の実力を認められると界龍に入ってしばらくして、()()()()このイベントを発生させられます。学園祭中に界龍に入る以上このイベントは絶対に回避できません。というか学園祭の時に回避できても、何らかの形でシルヴィとセットの時に接触してきます。

 

 何のイベントかと言うと、現在の世界を形成するに至った原因である《落星雨(インベルディア)》に関する説明とそれに対する彼女の考察を原作のようにタラタラと長ったらしく話してくれます。

 

 話を終えると、ロリババアがシルヴィに絡んで私闘をしようとしますが虎峰(フ―フォン)が現れて事なきを得ました。まあ、ロリババアがホモ君たちの正体を虎峰に教えたので騒がしくなるんですけどね。

 

 虎峰はシルヴィの大ファンなのでめちゃくちゃ大喜びしてます。これで彼と同室のままだったら後でホモ君とシルヴィの関係について色々と聞かれまくっていたでしょうから、冒頭の十二人(ページワン)になって一人部屋にしたのは正解でした。

 

 とりあえずロリババアは虎峰に押し付けることにして、シルヴィと一緒に界龍から出ることにしましょう。

 

 

 

 とりあえずこれで一日目は終了ですね。色々とアクシデントはありましたが、特にチャートが変更するような大きな事態にはなっていないので安心しました。

 

 界龍の校門前で解散したら、翌日まで倍速します。

 

 

 

 

 

 さて、2日目ですがガラードワースの近くで集合です。少し待っているとシルヴィもやってきましたね。

 

 

 

 

 

 ……なんか、昨日に比べて明らかに露出の多い服になってるんですがエルネスタとの絡みのせいですかね?役得ではあるんですが、周りからの視線が痛いですね……これは痛い……。

 

 

 周りからの痛い視線を耐えながらガラードワースに着いたはいいんですが、入って早々なんかガラードワースの生徒会長さんに手厚い歓迎を受けました。

 

 どういうことなの……?(困惑)

 

 心当たりらしい心当たりと言えば、一応六花園会議で一回顔は合わせはしましたが、一度も話はしておりません。まあ、鳳凰星武祭を優勝したからその実力に興味を示したといったところでしょうかね。

 

 

 しばらく会話しながら学園内を見回りはしましたが会長さんも色々と忙しいようで、途中でどっかへ行ってしまいました。さすがに生徒会長と一緒にいたら目立つんじゃないかとヒヤヒヤしたんですが、向こうもそれは承知していたらしく目立たないような立ち回りをしてくれました。さすがにナイトは格が違った。

 

 

 

 ガラードワースも見終えて次は星導館ですが、ここには特に知り合いはいないですし、やってることも日本の学園祭とほぼ同じなので見どころさんは無さそうですので倍速です。

 

 

 

 少女見学中……

 

 

 

 星導館も見回ってこれで最後、クインヴェールまでやってきました。

 

 アイドルを養成してることもあって、学園祭は生徒たちのライブや握手会、後はトークショーとかがメインといったところでしょうか。女の花園ということもあって普段入れない男子の比率が結構高いです。

 

 シルヴィに学内を案内してもらいながら、ルサールカのライブを見たりすることにします。

 

 

 しばらく見回ったら、歩き疲れてるでしょうからシルヴィを人通りの少ないベンチに座らせて飲み物を買ってくることにしましょう。

 

 それにしても、雑に説明しましたがやっとこれで全ての学園の学園祭を見終わりましたね。シルヴィに対してちゃんとした対応を心掛けたので好感度も結構上がるのでは……ってありゃ?待ってるように言ったのにシルヴィがいきなりいなくなりましたね。

 

 

 まさかこの年になって(はぐ)れて迷子になったとは考えられないですし……ん?エルネスタからの電話ですね。なんでこんな時に電話をかけてくるんですかねぇ……。

 

 もしもし、ドナルドです(オワピ)

 

 え、例の電話の主の居所が分かったって?後で行くから待ってくれま――

 

 

 

 ……通話がいきなり切れちゃったんですけど、向こう側の電話の電源が無くなったんでしょうか?まずはシルヴィを探して、それからアルルカントの方へ……

 

 

 

 って、誰だこのおっさん!?

 

 いつのまに、こんな近くまで接近を許していたんでしょうか。そんなに第六感センサーはガバガバじゃないはずなんですが……。しかも変なところに来ちゃってるし……

 

 いくらか会話をしてみましたが、どうやらこいつ前のライブ爆破の時の奴と同類のようです。シルヴィと逸れたのも恐らくこいつが絡んでるとみて間違いないでしょう。

 

 どうせ逃げれないでしょうからさっさと戦って、撤退まで追い込んじゃいましょう……って

 

 

 

 《青鳴の魔剣(ウォーレ=ザイン)》をなんで一個人が持っているんですかねぇ……。適合者が見つからないので統合企業財体が管理しているはずなんですが。

 

 

 知らない人のためにちょいと解説をすると、四色の魔剣の一つに数えられる純星煌式武装(オーガルクス)で、こいつも他の四色の魔剣の例に漏れず防御不可の斬撃を放ってきます。

 

 その能力は指定座標軸の空間をばっさりと斬る能力です。ここで重要となる点は指定座標ではなく指定座標()ということです。つまり、X軸、Y軸、Z軸いずれかの軸に沿って、もしくはいくつかの軸を組み合わせて、真っ二つに両断してくるので、相手が全力で殺しに来てるのなら常に死のリスクと向き合わないといけないやべー剣です。

 

 もちろんこの剣にも代償はありますが、試合時間が制限されるような類のものではなく所有者の戦い方を狭めるような事はないです。

 

 四色の魔剣で一番相手にしたくないのはどれかと聞かれたら、RTA走者の皆々様は口を揃えて《青鳴の魔剣》の名前を言うと思います。それぐらいやべー剣です。

 

 救いがあるとすれば、《青鳴の魔剣》はZ軸攻撃だけは異様に使いづらいので、基本的にX軸Y軸による攻撃が主です。後、接近戦では所有者自身を巻き込む可能性があるので、第六感でなんとか上手い事回避して密着できる距離を保つようにしながら戦います。

 

 さっそく接近して……おファッ!?

 

 お相手さん、奥行をちゃんと把握して全座標軸対応可能な攻撃を使って来てるじゃーん!

 

 やべえよやべえよ……

 

 第六感があるとはいえ、中々やばいですね☆

 

 一応何度か接近はできてるのですが、そこからすぐにまた距離を取られて座標軸斬撃を食らわせてくるっていうパターンに入ってしまってます。

 

 ただまあ、相手は殺す気がないのか時間稼ぎだけをしているような印象です。付け入る隙があるとすればそこなんでしょうが……

 

 

 

 

 あ、左腕取れた。

 

 

 

 …………

 

 

 

 ああああああもうやだああああああ!!

 

 

 これも走者の日頃の行いが悪いせいなんでしょうか。許し亭ゆるして!

 

 

 

 

 

 

 

 ……仕方ないですね。あまりやりたくなかったですけど、試作の煌式武装を使うことにしましょう。

 

 初手リミッター解除して超火力でゴリ押しします。オラァ!!

 

 

 

 ヨシ!お相手の腕を取ったどー!

 

 相手の感じからして、ガチの殺し合いはしないようなので利き腕を失ったらさすがに撤退してくれるのではないでしょうか。

 

 

 

 …………

 

 

 

 やっと撤退してくれました。NKT…………

 

 

 

 というか、あれ……なんのRTAしてるんだっけ……?(今更)

 

 

 

 ……ええい!完走すればRTAなんだよ!知ったことか!(RTA走者の屑)

 

 

 

 星辰力がほぼすっからかんなのでヤンデレ剣を使って切断された手首を元に戻すことすらままならないです。とりあえず、シルヴィに心配をさせるわけにはいかないので残りの星辰力を振り絞って手首が元通りのように見える幻覚だけはかけておきましょう。切断された手は……治療院で治してもらうためにポケットに突っ込んでおきましょうか。

 

 とにかく、お相手を撤退させられただけでも万々歳です。すぐにシルヴィの居場所を捜索することにしましたが……いました。第六感が無かったらもう少し時間がかかっていたでしょうね。

 

 

 

 床に倒れちゃってるんですけど、まさか死んでないでしょうね……。さすがにリセはしたくないので我らがbiim兄貴()に祈るしかないのですが。

 

 

 

 ……………………

 

 

 

 ……シルヴィは見た感じ少し傷ついてるものの、特に致命傷を負った感じでは無さそうですね。少し揺り動かしたら起きてくれたので大丈夫だとは思いますが、一応何か後遺症とかがあったら困りますので治療院で見て貰いましょう。

 

 腰を抜かしているようなので、シルヴィをお姫様抱っこで持ち上げて超スピード!?で向かうことにしましょう。抱き上げている間の普段見れないシルヴィの赤面があーサイコ……(恍惚)

 

 

 ダッシュで治療院に向かって診断の結果、特に問題は無かったようです。シルヴィは先に帰してホモ君は治療院で切断された腕をくっ付けてもらいましょう。

 

 一日入院とかしなきゃいけないのかなと思いましたが、手首が綺麗に切断されていたので、意外にも繋ぐのにそう時間がかかることも無く、1,2時間程度で終了しました。さすがアスタリスク最高峰の医療体制を誇っているだけのことはありますね。

 

 

 腕をくっ付けてもらうのに夢中で忘れていましたが、そういえばエルネスタの話が途中で途切れててちゃんと聞けてませんでしたね、時間も遅いので翌日アルルカントへ――

 

 

 今回はここまで。ご視聴ありがとうございました。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

裏話19 学園祭

過去最高に文字数が増えすぎてしまい長い事お待たせしてしまいました。本当に申し訳ないです。あと、界龍は序列決めはトーナメントで決めるという設定があったので若干の修正をしました。

クインヴェールの翼を今更ながら3巻まとめて全部購入したので初投稿です。

皆もクインヴェールの翼を、買おう!(ダイマ)


 

 春先、桜も舞い散る時節。1年に1度の祭典、学園祭が催されるということもあり、基臣がいた公園にはたくさんの観光客が待ち合わせのために集っていた。普段は変装をすることもない基臣だったが、シルヴィアの指摘もあり普段よりも目立たない服装を身に纏っていた。

 

 しばらく待っていると、変装をしているものの可愛らしい恰好をしたシルヴィアがやってくる。

 

「基臣君、おまたせー」

 

「あぁ、シルヴィか。こうして遊ぶのも久しぶりだな」

 

「アイドル活動が結構忙しかったからねー。って、基臣君割と変装が様になってるね。今まで変装してなかったからダメダメな格好で来るんじゃないかと心配だったけど」

 

 いつもと違って今日の基臣は、茶髪に黒縁の伊達眼鏡、服もグレーなどの目立ちにくい色で出来る限り存在感を薄めるような恰好をしていた。

 

「小さい頃に変装に関しては父から習ったからな。お前程ではないだろうが、この程度の変装だったら俺にも出来る」

 

「そっか。まあ、その感じだったら他の人からバレることも無いだろうし、さっそく行こっか!」

 

「あぁ」

 

 シルヴィアに手を引かれるままに基臣は学園祭を巡ることになった。

 

 

 

 

 

 

 レヴォルフは学園祭といっても歓楽街(ロートリヒト)への丸投げしているに等しいため、やっているイベントもほぼカジノ一色状態で、それ以外を見て回る選択肢がないため基臣たちも必然的にカジノで遊ぶことにした。

 

 最初の内はシルヴィアが何回か遊んでいたが、序盤はビギナーズラックで勝つものの後から徐々に負けが込み続けるという状態になり、何故かやるつもりのなかった基臣に途中から交代することになっていた。

 

 今までやったこともない賭け事にどうしたものか、と内心思っていたが――

 

 

「またあの小僧が勝ったぞ!」

 

「どうなってやがんだ!?」

 

「また勝っちゃったよ基臣君!」

 

「分かったから落ち着け」

 

 第六感で勝ちそうな勝負や負けそうな勝負を見分けれることもあり、結果は勝率8割以上という大金星だった。

 

 興奮するシルヴィアを(たしな)めながら、手元にあるチップを回収する。

 

「もうやめるぞ」

 

「えー、どうして。別に私も楽しんでるからもっと続けてもいいんだよ」

 

 基臣は野次馬精神旺盛な周囲の客たちをチラリと見る。中には黒服のガードマンらしき人物たちが基臣たちをイカサマをしていないか監視している様子が見られた。

 

「流石に勝ちが続くと目立ち始める。今は俺だけが目立つ程度で済んでるがこのままだと最悪お前の正体までバレかねないぞ」

 

「……そっか。それならしょうがないか」

 

 少し残念そうな顔をしながらも納得したのかシルヴィアは基臣の引く手にそのままついていった。そのまま換金所へと移動してチップを金に換えるとカジノエリアから逃げるように二人は出て行った。

 

 

 ――が、目立ちたくないという基臣たちの希望は裏切られる。

 

「おい、そんな男置いて俺達と楽しい事しようぜぇ!」

 

 そろそろ次の学園に向かおうかと二人が話し合っていると、いかにもな柄の悪い生徒達がシルヴィアに絡んできた。当然のように胸にある校章はレヴォルフで、流石のシルヴィアもうんざりする。

 

「ちょっと裏まで来いよ」

 

「ハァ……。これがあるから嫌なんだよねぇ、ここ。全校回るって言ったのは私だからしょうがないけどさぁ」

 

「仕方ない、逃げるぞ」

 

「おいおいおい!逃がすと思ってんのか嬢ちゃん?そっちのガキはいいとしてもお前だけは逃がさ……」

 

「何の騒ぎかと寄ってみればよぉ!随分と楽しそうだなぁ!」

 

 いつの間にか現れていたロドルフォはゴロツキ達の内の一人の肩に手を置いた。

 

「お前は、ロドルフォ……」

 

「兄貴!どうしてここに……って、ぐぇっ!?」

 

 その肩に乗せていた手が丸刈りの男の頭へと移ると、そのまま掴んでミシミシと嫌な音を立てる。

 

「まったく、バカは強ぇ奴と弱ぇ奴の区別がつかないから手に負えねえよなぁ!」

 

 軽く締め上げて気絶させると、興味を失ったようにそこら辺の地面に丸刈りの男を放り捨てる。

 

「また面倒ごとになるかと思ったが、助かった」

 

「ったく、俺も暇じゃねぇんだからよぉ!お前はまだしも、そっちの嬢ちゃんはもっと気配を消すことを覚えた方がいいぜぇ!」

 

「うっ……」

 

 ロドルフォの指摘がグサリと刺さったのか、シルヴィアは苦い顔をする。基臣はそんな彼女を慰めながらロドルフォに礼を言ってその場を立ち去る。

 

 

「ふぅ……、アクシデントはあったけどなんとかなったねー。次はアルルカントだよね」

 

「そうだな、俺の用事もついでに終わらせておきたいから……ん?」

 

 

 アルルカントを出て次の場所に行こうとしたとき、明らかに異質な星辰力(プラーナ)を感知する。振り向くと、オーフェリアもレヴォルフから出ようとしていたのか校舎側から校門へと歩いてきていた。

 

 彼女も基臣がいることに気づいたようで近づいてくる。

 

「久しぶりね基臣」

 

「あぁ、3週間ぶりか。……それよりも何故俺の変装が分かったんだ?そんなに簡単に看破されるものでは無いと思ったんだが」

 

「明らかに他の人と比べてあなたの運命が強大だから、かしら……」

 

 距離感の近い二人にシルヴィアは嫌そうな顔をする。

 

「基臣君……オーフェリアとはどういう関係なの……」

 

 明らかにさっきまで良かったシルヴィアの機嫌が急降下しているのに気づいた基臣は、頭を掻いてオーフェリアと知り合った経緯を話したものかと思案する。

 

 オーフェリアはそのあまりにも別格な強さや瘴気を操るという見栄えが悪い能力も相まって、好いていない人も少なくない。実際、基臣も出会って初対面でいきなり攻撃を受けるという普通の人間なら悪印象一直線な歓迎を受けている――基臣の場合は第六感で敵意を感じなかったから特に問題にはしなかったが――のだから。

 

「再開発エリアでたまたま知り合っただけだ。案外話してみると面白い奴だぞ、意外にも花の話とか――」

 

「基臣、その事は言わないで」

 

「む、そういえばそうか。……まあ、ともかくだ。オーフェリアはいいやつだからシルヴィも仲良くしてやってくれ」

 

「……基臣君のバカ」

 

 シルヴィアの小さな呟きは、確かに基臣の耳に届いたが何が彼女を不機嫌にさせたかが理解できないでいた。

 

 基臣は大きな勘違いをしていた。シルヴィアが懸念していたのは、オーフェリアとつるんで基臣に危害が及ぶことに対してではなく、彼女が基臣の心を奪うのではないかという事に対してだった。

 

 第六感という能力を持っていながら人の心を正しく理解できないでいる自分に嫌気がさすものの、下手な回答をすると手痛い結果が返ってくるのを今まで基臣は散々経験していたので、とりあえず何らかの原因になっているであろうオーフェリアとは手短に会話を済ませて別れることにした。

 

「それじゃあな、オーフェリア」

 

「ええ、また会いましょう」

 

 オーフェリアと別れ今度こそ他の学園へと向かって始めるとシルヴィアの機嫌は段々と戻っていく。だが――

 

「シルヴィ……少し近すぎないか」

 

「ん?別にこんなものだと思うけど」

 

 明らかにシルヴィアの距離感が先ほどよりも近くなっていた。大して問題にはならないかと基臣は判断すると、腕を絡めてくるシルヴィアをそのままにしておく。

 

「アルルカントだけど、研究成果の発表会みたいな感じになってるしそのままスルーして他の学園に行くって案もあるけど――」

 

「いや、ちょっとアルルカントには野暮用があるから寄ることにしよう」

 

「野暮用?」

 

「まあそこまで大した用事ではない、すぐに終わる」

 

 

 アルルカントへと着くと、基臣はシルヴィアを連れて慣れたように研究エリアの方へと向かっていく。

 

「相変わらずここは機能面に全振りしているな。それに、学園祭にもあまり興味ないようだしな」

 

「そうだよねぇ。人の出入りも他の学園に比べてそこまで無いようだし」

 

「まあさほど学園祭のお祭り的な側面は重視していないんだろうな。っと、着いたぞ。ここだ」

 

 研究エリアの一角にある研究室の扉をノックする。すると、いつものようにカチャリとロックが外れる音がしたのでそのまま部屋の中へと入る。

 

 

「おい、来たぞ」

 

「おー、来たねー剣士君」

 

「むっ……」

 

「待っていたよ、誉崎基臣。と、君は……」

 

「俺の連れだ、学園祭を回るついでにここに来るつもりだったからな」

 

「なるほど、それなら手早く済ませた方がいいな」

 

 椅子から立ち上がったカミラはデスクの前に基臣達を案内する。

 

「これが、君の要望の品だ」

 

 デスクの上には煌式武装にしては若干大きめのブレードが一振りと手榴弾サイズの遠隔煌式誘導武装が10個用意されていた。

 

「まだ完成品と言うには不十分な物だがようやくある程度納得できるものが完成してね。待たせて済まなかった」

 

「いや、十分だ」

 

「まだまだ小型化できそうな感じがするから、そこらへんも修正できれば完璧だねー。後は実戦データがあれば完璧といったところだけど」

 

「そこらへんは界龍(ジェロン)で集めることにしよう。データが集まったらまた報告する」

 

「りょーかい。……っとそういえばなんだけどさ」

 

「どうした?」

 

「流石にその魔剣ちゃんもガタが来始めてるんじゃないのー?」

 

「あぁ、その事か。そうしたいのは山々なんだが……。ピューレがどうしてもイヤだと言って聞かなくてな」

 

 最近基臣が困っていたのが、ピューレが彼以外の他者による修理を拒否していることによる性能の劣化であった。いかに使用者に絶大な力をもたらしてくれる純星煌式武装と言えども、整備しなければウルム=マナダイトの出力をそのまま100%出し切れず、確実に性能は劣化していく。

 

 市販の煌式武装を基本的に利用することでピューレの使用を鍛錬と緊急時だけに抑えて劣化を極力抑えているが、それでももう使い始めてから半年以上。基臣だけによる簡易的な修繕には限界が来つつあった。

 

(オーフェリアを受け入れたこともあるし、その内なんとかなるか)

 

「ピューレが心を開くようになったら、その時はお前に任せる」

 

「そっか。じゃあその時はよろしくねー、魔剣ちゃん」

 

 ニコニコとピューレが閉まってあるホルダーを見るが、当の本人は嫌悪感を包み隠さず露わにしている。

 

 

「……この分だとエルネスタに心を開くにはまだまだ時間はかかりそうだがな」

 

「あ、そうだ剣士君。ちょいとこっち来てくれる」

 

「ん?どうした」

 

 手招きして近くに来るよう指示するエルネスタに基臣はそのまま近づく。

 

 そしていきなり、エルネスタはシルヴィアに向けて意味深げな笑みを浮かべながら基臣の頬に口づけをする。その目は私の得物に手を付けるなと言わんばかりの獰猛(どうもう)さを秘めていた。

 

 

「なっ!?」

 

「……おい。人前でするものじゃないだろう」

 

「にゃははー。いやぁ、ついついー」

 

 聞く人によってはエルネスタといつもキスしてるのかと誤解しかねない言い方をする基臣に、その場を包んでいる状況を正確に理解しているカミラは溜息を吐く。その懸念は正しく、シルヴィの機嫌は時間が経つごとに悪くなる。その様子を見てエルネスタはしてやったと言わんばかりの表情をしていた。

 

「ふふーん」

 

「むぅ…………っ!」

 

 学園祭始まってから二度目の修羅場にさすがに疲れたのか基臣は溜息を吐く。カミラを見ると、私を巻き込むなと言わんばかりに顔を反らされる。どうやら自分でケジメを付けなければならないと理解した基臣はシルヴィアの手を掴む。

 

「……はぁ、邪魔したな。行くぞ、シルヴィ」

 

「あっ……」

 

 

 

 

 

 無理やり手を引いてシルヴィアと研究室から抜け出すと、人のいない落ち着いた場所で止まる。

 

「基臣君、いきなり引っ張ってどうし……っ!?」

 

 シルヴィアが何事かと基臣に問い詰めようとすると、彼は優しく、そして力強く抱きしめてくる。

 

(今まで俺にあんな感情を向けてきたのは、シルヴィの先生がいつの間にか遠い存在になってしまった経験からなのかもしれないな)

 

 基臣がシルヴィアから感じていたのは何も嫉妬だけでは無かった。孤独感や無力感、そういう類の感情まで感じ取っていた。それは彼女にとって基臣は大切な存在で、遠くに行ってほしくない――そんな意味を持っているように感じた。

 

 だから、基臣にできる事は自分の存在を身近に感じさせること。遠く離れていかないという事を感じさせるのが何よりだと判断した。

 

「お前が嫌だと拒絶しない限り、これからも傍に居続けるよ。安心しろ」

 

「…………うん」

 

「……まあ、言葉だけでは誠意も伝わらないだろう。ほら」

 

 あっ、というシルヴィアの名残惜しそうな声を聴きながら抱擁を解くと、基臣は彼女に向けて頬を差し出す。

 

「えっ?どうしたの、いきなり」

 

「さっきのエルネスタみたく頬にキスしていいって言ってるんだ。ほら、遠慮するな」

 

「……ふぇっ!?」

 

 いきなりの提案にシルヴィアの脳内はショート寸前になる。

 

 生まれてこの方、キスの一つもしたことの無い初心なシルヴィアはその提案にポンコツ自律擬形体(パペット)のように挙動がおかしなものとなる。

 

 頬をシルヴィアに差し出した基臣だったが一向にシルヴィアからキスしてくることはない。痺れを切らして彼女を見ると、もじもじとした様子で左右の人差し指を突き合わせてモニョモニョと何やら呟いていた。

 

「あ、あの、そのですね……」

 

「ん?」

 

「あうあう……」

 

 明らかに動揺して事態を一向に進展させないシルヴィアにどうしたものかと考えていた基臣だったが、このままでは(らち)が明かないと思ったのか自らその唇を彼女の頬につける。

 

 時間にして3,4秒と言ったところだろうか。しかし、シルヴィアにとってそれは長いようで一瞬に感じた。

 

「ふぇ……っ?」

 

「これでいいか」

 

 シルヴィアの顔は赤く茹で上がる。第六感が運んでくる彼女の感情には、様々なものがごちゃまぜになっていて基臣には彼女が何を考えているのかよく分からなかった。

 

「あ、うん……。その、ありがとうございます

 

 俯きながらプルプルとスライムのように震えて表情が見えないシルヴィアを少し怪訝に思いながらも女の子のこういった謎の行動は今に始まったことじゃないとアスタリスクに入ってから今までの記憶を思い出す。

 

 最終的には羞恥のような感情が大多数を占めているシルヴィアを見て、それなら最初からそんな要求をしなければいいのでは、と思ったが口に出したら腹パンされる未来が見えたため口をつぐむ。

 

 少し気まずい雰囲気が両者の間に流れていたが、基臣は話の流れを変えるために近くにあった時計を見るとお昼時で、ランチに丁度いい時間になっている。

 

「時間もちょうどいいし昼飯にするとしよう。その後は、今日の内に界龍まで見て回るか」

 

「う、うん!」

 

 二人は近くにあるレストランで食事を取ったあと界龍へと移動することにした。

 

 自分の学校ということもあり、必然的に基臣が校内をシルヴィアに案内することになる。

 

 

 

「あれって沈華(シェンファ)ちゃん、だよね?」

 

「あぁ、そうだな。確か、あいつと兄の沈雲の星仙術は観客受けがいいだろうからと今回の学園祭のパフォーマンス役に抜擢されたらしい」

 

「へぇ、そうなんだ」

 

 

 木派や水派の演目を回りながら楽しく会話をしながら廊下を歩く。

 

 

 ――その瞬間。

 

「えっ!?」

 

「……はぁ、いつものか」

 

 二人の周りの万能素が蠢いて景色が歪んだように見えると、次の瞬間、さっき立っていた場所とはまた別の場所である板張りの広間にいつの間にか立っていた。

 

「ようこそ儂の居城へ」

 

 奥には椅子に座って茶を啜っている星露の姿があった。状況を掴めていないシルヴィアは何が起こったのか理解できていない様子で辺りを見回している。

 

「おい、星露」

 

 基臣は咎めるような目で星露を見ると、くつくつと喉を鳴らして笑う。

 

「いやぁ、すまんの。いきなり連れてくるのはさすがに行儀が悪かったかえ」

 

「俺はいつもの事だから構わんが、シルヴィが混乱するだろう」

 

「音に聞く歌姫殿の実力を見たくて、ついな。今のところ六花園会議では運悪く会えてないしのぉ」

 

「貴方が……《万有天羅》の星露……?」

 

「いかにも、儂が3代目の《万有天羅》じゃよ」

 

「で、わざわざこんな場所まで強引に連れてきたんだ。顔が見たかっただけでは無いだろう?」

 

「お、そうじゃそうじゃ。()()基臣が可愛らしい恋人を連れておるようじゃからのぉ。界龍の演目というわけではないが、儂自らがこの世の理を少しばかり明かしてやろう」

 

「こ、恋人……」

 

「あの、とはどういう意味だ星露。そもそも俺達は――」

 

 基臣の抗議を指を鳴らして部屋が暗転することで黙らせると、部屋の中心に半透明の地球が映し出される。

 

「これは……?」

 

「この世界の成り立ち、それをあの……なんじゃったかのぉ……」

 

「……立体映像(ホログラム)だ」

 

「お、そうそう。ホログラムで再現したものじゃよ」

 

 そんな事を喋っている間に、自転していた地球に突如として隕石が現れ、降り注ぐ。

 

「地球の周りに隕石がいきなり、現れた? これって《落星雨》の再現?」

 

 衝突した隕石は地表を(えぐ)り、その場所にあった建造物や自然物は全て跡形もなく消え去っている。

 

「然り。このアスタリスクが成り立つ原因となった出来事ともいえるものじゃが……授業じゃと天文台はこの隕石の襲来を予測できなかったと言っておる」

 

「まさか本当にいきなり、パッと現れたってこと?」

 

「どれ、次は視点を変えて見てみることにするかの」

 

 シルヴィアの質問に答えず自分勝手に進めていく星露。指を鳴らすとホログラムの地球が間近に迫り、丁度隕石が地表に落ちていく様子を俯瞰できる視点に変わる。

 

 次々と地表が抉られていくその様子にシルヴィアは何が変わったのか分かっていない様子だった。しかし、基臣は何か思い至ったように呟く。

 

「……誰かによって仕組まれたものか」

 

「左様」

 

「え?どういうこと?」

 

「星露、ちょっと操作するぞ」

 

 事前に許可を得て、基臣がホログラムを操作すると最初に現れた隕石が地表に衝突した直後の画面で停止する。

 

「この映像の中に見覚えのあるモノが見えるはずだ」

 

「見覚えの、ってそんな簡単には……あっ!」

 

「そう、お前が能力を行使するときに現れる魔法陣だ」

 

 停止した画像の中にはシルヴィアが《魔女》としての能力を行使する際に発生するときに出てくる魔法陣が映っていた。とはいえ、規模は比較するのもおこがましい程、段違いに大きい。

 

「純星煌式武装が能力を発揮するときもこの魔法陣は発現しない。つまり、この魔法陣は自然現象では発生し得ない物だ。あり得るのは人のみ。とはいえ、正直言ってこの落星雨の犯人に関しては今の俺達には関係ない事だから気にするようなことではない。むしろ肝心なのはこの現象を人為的に引き起こせるという点にある」

 

「えっ?」

 

 まだちゃんと理解しきれていないシルヴィアに対して基臣はかみ砕いて説明する。

 

「要は、この落星雨よりも遥かに昔の時代、同様の事象があったということだ」

 

 基臣はホログラムを消して、明かりをつけると近くにあった柱に寄りかかって、導き出した考えをシルヴィアへと語る。

 

「授業で習ったときにもこの《落星雨》によって星脈世代が誕生したという部分が不可解だった。落星雨以前にもピューレのような純星煌式武装があったのだから、それの繰り手となる星脈世代がいないわけがない」

 

「……まさか、少ないヒントでここまで解を導き出せるとはのぉ。ついでに言えば、かつて存在していた星脈世代は仙人や魔女などと呼ばれておったがのぉ」

 

「うーん……やっぱりすんなりとは受け入れられないかなぁ。何しろ、スケールが地球規模のことだし」

 

 シルヴィアのその言葉に星露はくつくつと笑う。

 

「まあよい。どうせ知ったところで何かが変わるというわけでもないしのぉ」

 

「それよりも、私としては何の意味があってこんなところで学生なんかしてるのかな、っていうのが気になるところではあるんだけどね」

 

「……何の意味、じゃと?」

 

 瞬間、部屋中に殺人的なまでの威圧感が放たれる。身体は寒気を覚え、空気は絶対零度の場にいるかのような貫くような痛み、臓腑は星露に掴まれているのではないかと錯覚するほど。まさにその実力は規格外と呼ぶにふさわしいものだった。

 

「決まっておろう、儂が望むは強きものとの闘争じゃ」

 

 星露は楽しそうにけらけらと笑いながら語る。

 

「今の若人たちは才気に溢れておる。が、自らの素養に気づかせ、それを引き出させてやらねば意味がない。じゃから儂がその役を買って出たという訳じゃよ」

 

「家畜を育てる畜産家みたいな事を言うんだね」

 

 激しく浴びせられる威圧感の中、反抗するように皮肉るような発言を星露へと放つ。

 

「ほっほっ、面白い物の例え方をするのう、歌姫殿。じゃが、あまりにもいい香りを放たれると基臣の恋人と云えども、我慢の限界になるぞえ」

 

 星露の瞳が得物を狩るような獣のようになると同時に――

 

「ほどほどにしておけよ、星露」

 

 シルヴィアと星露の間に割って入るように基臣が立ち阻む。

 

「おぬしが儂に物を言うとはのう。じゃが、実力差は弁えてから物を言え」

 

 それと同時に星露からかつてない程のプレッシャーが放たれる。

 

「……少しは自重しろっ」

 

 さすがの基臣もその圧迫感に額から汗が(こぼ)れる。両者の間で睨み合いが続き、いつまでそれが続くのかと思われたその時――

 

「師父、学園祭の資料をまとめておきまし……って、なにをやってるんですか!」

 

 開け放たれていた広間の入り口から驚いたような声が飛んでくる。それと同時にさっきまで感じていた凄まじいプレッシャーは嘘のように消えていく。

 

「いいところに来たわい、虎峰(フ―フォン)。我慢ならんくなって私闘しかねんところじゃったわ」

 

「いい加減にしてくださいよ師父!いくら師父でもこれ以上の問題行動は上からのお咎めが出かねませんからね!」

 

「すまんかったな歌姫殿。いくら恋人と言えど戯れが過ぎたようじゃな」

 

「ううん、本気じゃなかったみたいだったしね」

 

 そう言って、シルヴィアと星露はクスリと笑う。

 

「それで師父、こちらの方々は?」

 

「うむ。基臣とクインヴェールの序列一位じゃ。粗相のないようにな」

 

「はぇ……?」

 

 虎峰は口から間抜けな声が漏れ出て、何を言っているのか分からないポカンとした顔をしている。

 

 基臣はシルヴィアに目配せすると、二人で同時に変装を解く。先に変装が解けた基臣を見た時はそこまで驚いた顔をしなかったが、その次に変装が解けたシルヴィアを見た瞬間その顔は驚愕に染まる。

 

「え、えええええええええええええっ!?なんでシルヴィアさんがこんなところに!?それよりも……」

 

 虎峰は基臣に近づくと服を掴んで激しく問いただしてくる。

 

「ちょっと、基臣くん!シルヴィアさんとはどういう関係なんですか!」

 

「どういう関係と言われても、たまたま知り合って今では仲良くさせてもらっているが」

 

「いやいやいやいや!?それだけではないでしょう!まさか……」

 

「はぁ……。お前、シルヴィのファンだったのか」

 

 虎峰がシルヴィアのファンであることを察した基臣は面倒くさいことになったと内心思った。

 

 それから虎峰から追及が幾度となく来たものの、さすがに弁えているのか必要以上に探ってくることは無かった。しばらくすると星露達に別れを告げ、界龍から出るとシルヴィアをタクシー乗り場まで送り届ける。

 

「あはは、色々とありすぎて今日は疲れちゃったかな」

 

「そうか、まあ無理もない。今日はゆっくり休め」

 

「うん、そうするよ」

 

 タクシーに乗った後手を振って帰っていくシルヴィアを見送った基臣はそのまま界龍へと帰っていく。……虎峰に見つからないようにしながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日、ガラードワースの近くにある公園でシルヴィアを待っていた基臣だったが昨日と同じ時間にシルヴィアが来ないため、チラチラと時間を確認していた。

 

(おかしいな……。そんなに時間にいい加減な性格をしてはいないはずだが)

 

「おまたせー!」

 

「いや、そこまで待ってな……い?」

 

「どう、基臣君?」

 

 肩が見えるような露出の多い服装にいつもよりも3割増しで丈が短いスカートという組み合わせに、さしもの基臣も感じることの無かった恥ずかしさのような感情がこみあげてくる。

 

「……いいんじゃないのか」

 

 その態度を見て、基臣の様子に気づいたのかシルヴィアは妖艶な笑みを浮かべると抱き着いてその豊満な胸を当ててくる。昨日よりも全体的に薄い服装なので身体の柔らかさがダイレクトに基臣へと伝わる。

 

「おいっ、シルヴィ……!」

 

「ふーん、基臣君もそういう顔をすることもあるんだねぇ。ほらほら~」

 

 図星を突かれてしまいニヤニヤと見てくるシルヴィアに基臣は敵わないなと内心思った。

 

「あぁ、もう……。ほら、行くぞ」

 

 話を打ち切るように強引に最初の目的地であるガラードワースへと向かおうと歩き出した基臣に、シルヴィアは引きずられるようにしながらついていった。

 

「あっ、もう基臣君!少しは優しくエスコートしてよー!」

 

 

 

 

 

 そんなこんなでシルヴィアを連れてガラードワースにやってきた基臣。

 

 校内は他の学園よりも綺麗にされていてどことなく気品な校風を感じさせる。とはいえ、やはり思春期の男子女子がメインとなって企画するとあって、イベントの内容自体は屋台やパフォーマンスなど普通に学園祭らしさを感じさせるものが揃っている。

 

「堅そうなイメージがあったが意外と普通に学園祭らしい事をしているな」

 

「ははは……、さすがに年に一度のお祭りだからガス抜きみたいな側面もあるんじゃないかな。とはいえ、こんな時でもトラブルの少なさに関してはさすがガラードワースって感じだけども」

 

 基臣が見回してみると、シルヴィアの言う通り他の学園に比べて明らかにトラブルが起きているような様子は無い。元々の校風が、という事もあるが現在の生徒会長になってから更に秩序がしっかりと保たれているという話はアスタリスクでよく話題に上がっていた。

 

「なるほどな……」

 

「ちょっといいかな」

 

「ん?」

 

 後ろからの呼びかけに応じて振り返ると、長身で金髪の美男子が立っていた。知り合いかと思って記憶から引っ張り出そうとするがどうやらそうでは無さそうだった。

 

「あ、久しぶり」

 

「3か月ぶりだったかな、ミス・リューネハイム」

 

「知り合いかシルヴィ?」

 

「うん、この人はガラードワースの生徒会長さんだよ」

 

「君が誉崎基臣君だね」

 

 手を差し出してきたため、それに応じた基臣は記憶の中から目の前の人物の名前を引っ張り出す。

 

「そういうお前は、アーネスト……フェアクロフ……だったか?」

 

「君に名前を覚えてもらってるなんてね。人との関わりを嫌がるタイプの人間だと聞いていたから意外だよ」

 

「お前が《聖剣》の使い手だという話ぐらいはアスタリスクにいれば必ず耳に入る」

 

「そうか……、それは光栄だよ。そういう君こそ、この前の序列トーナメントの映像、見させてもらったよ。中々面白い事をするね」

 

「あ、それ私も見たよ。目隠しに木剣で挑んだんでしょ?」

 

「あぁ、あれか」

 

「しかも開始1分は相手に攻撃の機会を譲ることまでしたんだからねぇ。あれ、完全に相手は戦意消失したんじゃないかなぁ」

 

「ただ悪戯に弄ぶ目的でやるのなら褒められた行為ではないけど……何かしらの理由があるのかい」

 

 アーネストの見定めるような視線を受けるものの、基臣としては悪意を以って行った事ではないので正直に説明する。

 

「実力の差をしっかりと見せつけて、トーナメント外での決闘を挑んでくる人間を出来る限り出さないための措置だ。学園が関与しない決闘は性質上トラブルも起こりやすい。そこら辺は決闘を禁止しているガラードワースなら理解できる所はあるだろう?」

 

「まあ、確かにね」

 

 ガラードワースが他学園との差別化が図られている点として学生間での決闘の禁止がある。思春期という良くも悪くも不安定な時期は、序列が絡んでくる決闘はトラブルが発生しやすいため、イメージを悪化させない目的があるのだと基臣は推察していた。

 

「まあそのために対戦相手を踏み台にしてしまったのは若干申し訳なかったから、もちろん後で謝罪はしに行った」

 

「なるほど、そういう経緯だったのか。疑問が解けたよ、ありがとう」

 

 基臣の序列トーナメントに関する質疑応答が終わった後もお互いに会話を重ねていく。

 

「そういえば、何故わざわざ俺達に会いに来たんだ」

 

「今回君たちに、いや君に会いに来たのは《聖剣》が望んだことなんだ」

 

「《聖剣》が?」

 

 アーネストのホルダーに入っている白濾の魔剣(レイ=グレムス)を視界に入れると、その剣からは基臣との出会いをどこか待ち焦がれていたような、そんな感情が伝わってくる。そういえば、前にも六花園会議で会った時に同じような感情を白濾の魔剣が向けてきたことを思い出す。

 

「前、君と出会った六花園会議の時もそうだったけど《聖剣》がこんな反応を示したのは初めてだから僕個人としても君には興味があったんだ。実力も相手にとって不足なしだし――おっと、すまない電話だ」

 

 二人に断りを入れて電話に出たアーネストの方から、不満げな女性の声が響いてくる。詳細は聞き取れないものの、彼が業務を一時的に抜け出してやってきたことが伺えた。

 

「分かった、すぐに戻るよ。あぁ、分かってる」

 

 しばらくの会話の後、電話を切るとアーネストは申し訳なさそうな顔をして二人に謝罪する。

 

「すまない、これから急用があるから僕はここまでで失礼させてもらうよ」

 

 そのまま丁寧な所作で立ち去っていったアーネストに基臣はどこか眩しく感じていた。

 

「さすがは清廉潔白な騎士サマ、といった感じだったな。身体能力は若干こちらが有利だろうが、技量はおそらくあちらが上だろうか……。今度の獅鷲星武祭では厄介な相手になりそうだな」

 

「まあ前回の獅鷲星武祭(グリプス)の優勝者だからね。けど、勝つんでしょ?」

 

 シルヴィアの意地悪な質問に基臣は迷うことなく頷く。

 

「ああ、当然だ」

 

 強敵の存在を近くで感じたことで新たな目標を立てることができた基臣は有意義な時間を過ごせたなと感じた。

 

 

 

 

 その後星導館の学園祭を回り、六学園の中で最後となるクインヴェールの学園祭にやってきていた。

 

 

「本当に女子だらけだな」

 

「そりゃそうだよ。というか前も来てたでしょ?」

 

「まあそうだが、前は人が少ない時間帯だったから実感しづらかったのも……ん?」

 

『じゃあ次の曲、いっくよ~!』

 

「あれは……?」

 

 聞き覚えのある声に引かれてその方向へと目を向けると、見覚えのある5人組グループがライブをしているようだった。

 

「ルサールカか」

 

「そ。あの子たち、私を超えるような有名人になろうって頑張ってるみたいで、ペトラさんもああやってイベントを組んでくれてるらしいよ」

 

「なるほど……、そういえば前は見なかったメンバーが1人いるようだが」

 

「あぁ、マフレナちゃんのこと?彼女は1年後輩だから今年からクインヴェールに入学して、ルサールカに入ったんだよ」

 

 後輩のはずなのに、ルサールカの中では一番しっかりしてるけどね――と苦笑いするシルヴィアになるほどとうなずく。彼女に注目すると、他の4人に比べて練習が足りていないのか若干ミスをするところが見受けられた。とはいえ、他のメンバーがカバーしてくれているため本当に集中して聞かないと気づかないレベルではあるが。

 

 全員、顔は活き活きとしており、心からライブを楽しんでいることが伺えた。客の入りも、半年ほど前に愚痴っていた程少ないわけでもなく、小規模のライブ会場にしては上々といえる数だった。

 

「見ていくとするか」

 

「うん、そうしよっか」

 

 近くに設営されていたパイプ椅子に座り、ルサールカのライブを観る。

 

 彼女たちの歌は快活、元気という印象でシルヴィアとはまた違った魅力があった。

 

 また、メンバーのそれぞれのキャラがファンにとって身近に感じさせるという点はシルヴィアを上回る強みと成り得るのかもしれない。そんな事を素人ながらに考えていた基臣だったが、いつの間にかライブは終わる。

 

「いいグループになるだろうな」

 

「うん、あの子たちならきっと私に追いついてくる。私も頑張らないとねー」

 

 椅子から立ち上がり、ライブ会場を後にする。

 

 その後もシルヴィアの案内で校内を一通り回る。二日間ぶっ通しで学園を巡り歩いていたからか、シルヴィアの顔にも少し疲れが見られ始めた。

 

 

「そろそろ休憩するか」

 

「そうしよっか」

 

 人通りの少ない休憩場所へと移動してシルヴィアをベンチに座らせると、基臣は飲み物を買いに自販機のある場所へと向かうことにした。

 

「飲み物を買ってくる。何か希望は?」

 

「うーん……じゃあ、りんごジュースで」

 

「分かった。そこで待っていてくれ」

 

 シルヴィアからの注文を承り、自販機へと足を運んだ基臣は特に迷うことなく商品を選んでそのまま来た道を戻っていく。戻ってくるとベンチには帽子だけが取り残されていて、座っていたはずのシルヴィアはいなくなっていた。

 

「シルヴィ……?どこに行ったんだ……」

 

 先ほどまでベンチに座っていたはずのシルヴィアがいなくなったことで不審に思う基臣だったが、そんな考えを打ち切るように電話がかかってくる。

 

「ちっ……、こんな時に一体誰からだ」

 

 端末を開いて誰から来たのか確認すると、エルネスタの名前が書いてあった。

 

「エルネスタ……?」

 

 着信拒否するのも後で話が拗れるかもしれないと思い、電話を受けることにした基臣はウィンドウを開く。

 

『やぁやぁ剣士君』

 

「エルネスタ、今時間が惜しいんだ。手短に頼む」

 

 基臣の切迫した表情に状況をなんとなく理解したのか、ヘラヘラとした表情を切り替えて真剣な顔つきになる。

 

『あー、なるほど。それじゃさっさと本題に入ろっか。はいこれ』 

 

 新たにウィンドウが起動したので確認すると、前にエルネスタに調査を依頼した電話番号とその隣に大型の船舶が映し出されていた。

 

『例の電話の主の件なんだけど実はね――』

 

「……エルネスタ?おい、エルネスタ!」

 

 いきなり電話が途切れる、画面を確認すると電波の目盛りが完全に消えており圏外状態になっていた。

 

「人通りが少ないといってもこんな場所が圏外になるわけがない。考えられるとすれば……」

 

 

 

 

 

「初めまして、誉崎基臣さん」

 

 

 

 

 

「……ッ!?」

 

 いきなり近くに現れた人の気配にすぐさまホルダーに手をつけて臨戦態勢を取る。長身で細身に白髪交じりの髪。とてもではないが強そうには見えない風貌の男がそこには立っていた。

 

「いやはや……さすが誉崎家の人間といったところでしょうか。いい反応速度をお持ちだ」

 

「何のつもりだ」

 

「と、言いながら薄々勘付いてらっしゃるでしょう?私達の目的を」

 

「……誉崎家の報復とやらで俺やシルヴィたちを害することか」

 

 頷く初老の男に、基臣は一つの疑念が生じる。

 

「俺がお前たちに何か害を為していないのに、何故そうも執着してくる。八つ当たりにしか見えないが」

 

「八つ当たり、ですか……。まあ間違いではないでしょうな」

 

「だったら……」

 

「貴方のお父上がいけないのですよ」

 

「……父?どういうことだ」

 

 唐突に出てきた父という単語に基臣はその真意を問おうとするが、そこからは初老の男は語ろうとしない。

 

「…………流石に外野である私が喋りすぎましたね。これ以上は私の口からは言うのは憚られますゆえ」

 

 

 初老の男が口を閉ざすと両者の間に言葉は交わされなくなる。

 

(結局、何故このような事をしたかは分からなかったが……少なくともこいつらは俺達の害となる存在だという事は間違いない)

 

 待機状態から起動したピューレを構えて今すぐにでも攻撃できる状態に移った基臣を見て、初老の男もそれに応じる。

 

「それでは始めましょうか」

 

 男は腰元から慣れた手つきで剣を取り出す。その抜かれた刀身は青白く、冷徹に光り輝いていた。

 

「それは……」

 

 青い輝きを放つ魔剣の存在に、基臣は思わず身を固くする。

 

青鳴の魔剣(ウォーレ=ザイン)……、今まで一度も適合者が現れず分かっていることは指定した座標軸を切断するという能力のみ)

 

 適合者が現れたことの無い純星煌式武装(オーガルクス)。つまり、管轄は統合企業財体のものとなる。

 

 適合者が現れたというニュースがなかった以上、考えられるのは強奪されたか秘密裏に譲渡されたかの二択。とはいえ、今考えるべきはそこではなかった。

 

(ある程度の能力が分かっていると言っても、実際の映像が一つもないから。下手に踏み込むのも危うい……)

 

 能力の詳しい情報が無いために迂闊に飛び込めないと判断して一定の距離を保つ基臣だったが――

 

 

「ぁ……ッッ!?」

 

 自分が真っ二つに切り裂かれる数瞬後の未来を第六感で察知した基臣は反射的にしゃがみ込んで、回避行動を取る。その察知は正しく、近くにあった明かりは見事に真横に切断されていた。

 

 

「はぁ……はぁ……!」

 

(……こいつ、前の奴と比べて別格に強い!)

 

 先ほどの一振りだけで感じさせる強者のオーラ。今まで戦ってきた中でも上から数えてすぐであろう強さをその男から感じさせられた。強さで言えば各学園の序列1位クラスだろうか。いや、それ以上だろう、と基臣は心の中で警戒度を一気に引き上げる。容赦をしたら死ぬのは自分だと理解した基臣は昔の感覚を即座に蘇らせる。

 

「初見でこの能力を完璧に回避してきたのは貴方が二人目です」

 

「……それは誉め言葉として受け取るのが正しいのか?」

 

「ええ、貴方のことを強者として正しく評価している。だからこそ……」

 

(来る……っ!)

 

「全身全霊を以ってお相手しましょう」

 

 再び始まる青鳴の魔剣の一方的な遠距離攻撃に受け身にならざるを得ない基臣はとにかく走って接近を試みる。

 

 座標軸を指定しての遠隔斬撃、それに対しての有効策は変幻自在に速度を変化させながらとにかく動いて自身の座標を絞らせないことだった。

 

 

(止まるな、動け……動け!!)

 

 必死に自身の身体を動かして青鳴の魔剣の遠隔斬撃を回避しながら状況の打開策を練っていく。

 

 身体を一歩一歩動かすごとに頭の中は段々と冴えていき、一秒前の自分よりも更に強くなっていくような感覚が駆け巡る。

 

 どう動けばいいのかという最善策を身体が動くよりも遥かに速いスピードで頭が考え出していく。

 

 まるで自分が神の領域に急激に近づいて行ってるような全能感。その成長に自然と身体は高揚していく。

 

 強敵との戦いによって得られる圧倒的成長速度。これも第六感の能力の一つであった。

 

 とはいえ圧倒的に相手の方に地の利があるのは間違いなく、今のところ全ての攻撃を回避できているだけで上手い事攻勢に回れていなかった。

 

「チッ……」

 

(普通なら音で目立って人が来るはずだが、まるで人っ子一人もくる気配もない……。周りの空間に何か細工をしたか……?)

 

「考え事をなさりながら戦うとは、随分と余裕のようだ」

 

 初老の男は剣を一振りする。それと同時に発生する遠隔斬撃を基臣は回避する――が、

 

「あっ」

 

 間髪入れずに2撃目を放ってくるのは読めていても、回避しようがなかった。

 

 

 

「まずは1本」

 

 血しぶきが舞って腕が綺麗に斬り落とされる。そんな光景に動揺するかと思い、基臣の顔を見る初老の男だったが意外にもその顔は驚きを一つも表していなかった。

 

(血がどんどん抜けていってるな……)

 

 血が急激に失われていくことで呼吸は浅くなり視界が若干ぼやけて敵の顔も輪郭程度しかしっかりと認識できなくなる。ピューレの能力を使用して元に戻すとまではいかなくとも止血程度の処置を施してその場を凌ぐが明らかに劣勢だった。

 

(右腕を取られなかったからまだやれる……が、正面突破はもう無理だ。それなら相手よりもアドバンテージを取れる状況を作るしかない……)

 

 しかし、それを以てしても成功する確率は半分程度。普通ならそんなことに命を賭けるのに躊躇する。

 

 だが、基臣は迷わず実行に移した。

 

(なんとでもなるはずだ……!)

 

 正面からの戦いは分が悪いと感じたが故に基臣のとった選択は、床の舗装を破壊して姿を隠せるほどの煙を生み出す事だった。

 

「なるほど、目くらましですか。単純ですが、理にかなっている」

 

 

 

 自分の身の回りをある程度把握しているといっても、視覚を封じられれば能力を大幅に制限される。この短時間で青鳴の魔剣の能力の対策を即座に思いつくその戦闘センスに思わず感嘆しそうになった男だったが、今はそうも言ってられなかった。

 

 煙が立って視認しづらい状況下でどこから狙われるか分からないため、敢えて男は逃げではなく相手の攻撃を待つことを選択する。

 

「後ろか……!」

 

 後ろから風を切るような音がして振り返ると、うっすらとだったが黒い影が近づいてくるのを視認できた。

 

「策は良くても若さが滲み出てしまう……」

 

 初老の男は遠隔斬撃を放とうと振りかぶったが――

 

 

「……な!?」

 

 ここで基臣が選択したのは足元へのピューレの投擲だった。ピューレの視認できない特性は基臣の投擲する姿を見られると意味を完全に失う。故に姿を隠すことによってその特性を完全に活かすことが出来るようになっていた。

 

 足にピューレをもろに受けたせいで膝をついて迎撃することになった初老の男が、不利な体勢になっている間に基臣は一気に畳みかけようと試みる。

 

「セーフティー解除」

 

 その言葉と同時に持っている煌式武装が更に輝きを放つ。明らかに通常の規格の煌式武装ではありえないような出力が手元から放出され、尋常でない圧迫感がその場を包み込んだ。

 

 

「うぉぉぉぉぉおおおおおおおおおお!!!!」

 

 

 ピューレを投擲して新しく煌式武装を起動、セーフティー解除の後、大上段からの最大出力攻撃。

 

 

 

 この間、およそゼロコンマ1秒単位の出来事だった。

 

 

「ぐ……ぬぅ……ッッ!」

 

 未だ完成の出来ではないと言ってもこの段階で既に()()()()()()アスタリスクにある武装の中でも最高峰のレベルに位置している。

 

 出力差だけでなく攻撃態勢によるアドバンテージが基臣の側にあるため、男は攻撃を受けることもままならずそのまま受け手側の腕を肘まで綺麗に切断される。

 

 基臣の煌式武装が身体に届く直前に男は後方に飛び退くと、利き腕である右腕とピューレに貫き抜かれた左足を一瞥してから基臣を見る。

 

 

「……思ったよりも成長が早い。やはり第六感か」

 

「はぁ……はぁ……ッ!」

 

 基臣も限界が近づいているのか肩で息をしているような状態。満身創痍とも言える状態だったが、それは初老の男も似たようなものだった。しばらく睨み合いが続く両者だったが、やがて男は諦めたかのように青鳴の魔剣を待機状態にしてそのままその場から立ち去ろうとする。

 

「今日の所はこれまでにしておきましょう。私も出血過多で死にたくはありませんからね」

 

「待てッ!!」

 

「ではまた」

 

 

 そのまま立ち去っていく初老の男だったが、基臣も追いかける体力が完全に無くなっていたため、追撃せずにそのまま見逃すしかなかった。

 

 

 

「っはぁ……はぁ……。随分と手痛いダメージを受けてしまったな」

 

 自身の切断された手首を見ながら溜息を吐かずにはいられなかった基臣だったが、時間が押していることもあり切断された手を服の中に隠すとすぐに走り出す。

 

(ピューレ、俺の手が欠損してないように幻覚を見せてくれ)

 

『大丈夫……?残ってる星辰力をかき集めれば腕を元に戻すとまではいかないけど最低限の治療ぐらいだったら――』

 

(いいから早く。時間がもったいない)

 

『……分かった』

 

 ピューレの気配が消えると共に、基臣の手首に星辰力が集い形を成していく。偽りではあるものの手が元に戻ったかのように作られていた。

 

『モトオミの星辰力が少なかったからその幻覚は完璧じゃない。気を付けたほうがいいよ』

 

「それで十分だ。助かる」

 

 そこまで遠くには行っていないだろうと近くを探していると星辰力の残滓を知覚する。

 

「シルヴィ……っ!」

 

 一歩、その歩みすらも面倒に感じるほどに気持ちは心配と焦りで埋め尽くされていた。

 

 

 彼女の星辰力の残滓を頼りにして辿っていくと、やがてシルヴィアが床に伏している姿が見つかった。

 

 

「シルヴィ!」

 

 床に倒れていたシルヴィアの元に駆けつけて抱き上げると、何度も何度も叫んで呼びかける。

 

 

「ん、うん……」

 

「大丈夫か、シルヴィ!!」

 

 軽く揺らして起こそうとすると、その振動に気づいたのか薄っすらと目を開ける。そのアメジストの瞳はどこか不安の混じったような目をしていてうわごとのように何かを呟いていた。

 

「あれ……。もと、おみくん……?わたし、ウルスラを追って、それで……」

 

「大丈夫か!?」

 

「あ、うん……。大丈夫だよ」

 

「そうか……」

 

 体の端から端まで確認するが、彼女の言う通り多少の怪我はあったものの特に目立つような怪我は無いようだった。

 

「どうして基臣君がここに?」

 

「ジュースを買って帰ったらベンチからいなくなったのはお前だろう。どうしてここにと聞きたいのはこっちの方だ」

 

 珍しく責め立てるような言い方の基臣に、罰が悪くなったのか少し視線を反らして頭を掻く。

 

「……ごめん、基臣君。勝手な行動を取って」

 

「分かってくれたならそれでいい。それよりも立てるか?」

 

「うん、よいし――うっ!」

 

 手を差し出す基臣に応じるように掴んで立ち上がろうとするシルヴィアだったが、どうやら立ち上がれない様子だった。

 

「その感じだと腰を抜かしたか、それなら……」

 

 基臣は彼女を抱き上げると、そのまま立ち上がる。

 

「ひゃぁっ!?」

 

 流石のシルヴィアもお姫様抱っこをされたことは無いのか、徐々にその顔が羞恥に染まっていく。

 

「ちょ、ちょっと基臣君。恥ずかしいよぉ……」

 

「こうでもしないと動けんだろう、我慢しろ。ほら」

 

 先ほど回収していた帽子をそのまま彼女の頭へと雑に置く。

 

「流石にそのままの姿で衆目の前を通るのは不味い。変装しておけよ」

 

「……うぅ、でもでも」

 

「抵抗する気力があるようで何よりだが、さっさと行くぞ」

 

「えっ、ちょおっ!?」

 

 いきなりだが、普通の星脈世代の身体能力は鍛え上げられた人間3人分相当に匹敵する。だがこの身体能力も星脈世代によってそれぞれ違い、基臣の場合だと現時点で鍛え上げられた人間7人分相当に匹敵する。

 

 

 つまり何が言いたいかと言うと――

 

 

 

「ひゃああああああああああ!!」

 

 基臣の全速力のダッシュは車を圧倒的に凌ぐレベルの速度が出ているということだ。スピードガンで計測したら200キロは優に超えているだろう。

 

「ちょっと基臣君、減速してぇっ!」

 

「ダメだ。お前に何かあってからでは遅い。事は一刻を争うような状況だ」

 

「もう!バカバカバカ!」

 

 最高速を維持したまま走り続ける基臣の袖を落ちないように必死に掴むシルヴィアは後で着いた時に文句を言ってやろうと胸の内で決心した。

 

 

 

 

 

 

 

 それから、全速力で走ったこともあって基臣達はすぐに治療院に到着した。

 

 シルヴィアは診察の結果、特に異状なしと判断され怪我の処置だけしてもらってそのままクインヴェールにタクシーで帰ってもらうことにした。

 

「気を付けて帰れよ」

 

「うん、基臣君も気を付けてね」

 

 シルヴィアをタクシーでクインヴェールに帰した基臣はそのまま治療院に戻り診察を受けることにした。基臣が星武祭で優勝した有名人ということもあってかそこまで待たされずすぐに診察室に案内される。

 

 

 

 

「随分と派手に怪我をしたようだな。幽鬼の魔術師(ラダマンテュス)

 

「……」

 

 だんまりな様子の基臣に治療院の最高責任者であるヤン・コルベルは溜息を吐いてカルテを見る。明らかに殺す気でやったとしか思えない手首の切り口、しかも星辰力の残滓からして普通の煌式武装ではない。煌式武装に精通しているものの、医師も流石にどういった武装で基臣がこんな怪我を負ったかまでは分からなかったが、純星煌式武装クラスの武装なのだろうというのはその豊富な知見から容易に推察がついた。

 

 だが、元々この治療院には普通の患者だけでなく訳アリの人間も多数訪問してくるし、多種多様な怪我を直した実績からヤンは「死にたてだったら連れ戻す」をモットーとしているため、この程度の怪我ならば普通に治療できる。とはいえ、まさか他の医師に呼ばれて診ることになった訳アリの患者が鳳凰星武祭(フェニクス)を優勝して今話題の人間だとはヤンも想定していなかったが。

 

「まあいい。金さえ貰えればこちらとしてもプライベートには首を突っ込まない。そういうルールなんでな」

 

「……助かる」

 

「お前の腕の状態だが……綺麗に切断されたこともあってそんなに時間はかからん。1時間といったところか。これぐらいならわざわざ治癒系の能力を使う必要もないから普通に手術だな」

 

「費用は、いくらだ?」

 

「そこまで高くつかん。見積ってざっとこんなところだろう」

 

 ヤンから差し出された見積り書を受け取った基臣はどれくらいの金額になるかを確認する。

 

 提示された金額は意外にも基臣が想定していたほど高くなく、昨日レヴォルフのカジノで稼いだ分程度で済むほどだった。

 

「この金額で構わない」

 

「じゃあそこの契約書にサインをしてくれ。書いたらさっさと始めるぞ」

 

 

 契約書にサインした後、手術によって手を繋げることが出来た基臣は医師からしばらく左腕を安静にすることを言い渡され――ピューレの能力ですぐにとはいかないものの、早く元に戻すことができるのでその言葉を無視することになるが――そのまま退院することになった。

 

 帰りながら基臣は今回襲撃してきた敵の目的について考えていた。

 

 

(前の言葉をそのまま受け取るのなら、シルヴィは俺があの男を相手にしている段階で殺されていてもおかしくなかったはず……)

 

 ここに来た時にはもう姿をくらましていたのは、はたして基臣が来るのが早かったからなのか、それとも敵が何らかの目的を既に達成したからなのか。

 

 

(まるで見えてこないな、敵の目的が……)

 

 その時、シルヴィアが起きる時に独り言で彼女の先生だったウルスラの名前を呟いていたのを思い出す。

 

(とはいえ、今は怪我の治療が優先だな。話はまた今度聞くとするか)

 

 

 

 ──────────────────────

 

 

 

 タクシーに乗って帰ったかのように見えたシルヴィアだったが、実際はUターンしてそのまま治療院まで戻ってきていた。

 

(なんか基臣君の様子、おかしかったんだよねぇ……)

 

 半年以上前にウルスラから助けてもらって以降、シルヴィアは基臣と手を繋いで歩くことが普通となっていたのだが、いつもなら彼は車道側に回って歩いてくれていた。だが、治療院から出てからは何故かいつもと違って内側の方に回って歩いていた。まるで左手を握られたくないかのように。

 

 シルヴィはその若干の違和感に気づいてしまった。気づいてしまったが故にその違和感は更なる疑念を産みだす。例えば、基臣にお姫様抱っこされていた時――

 

(基臣君の身体……なんだか冷たかった、気がする)

 

 と、考え始めれば様々な疑念が浮かび上がってくれる。

 

 それなら直接本人に聞けばいいと思ったが、聞こうと思ったときに限って向こうから無理やり捻りだしたかのように話題を振ってくる。その様子を見ておそらく基臣は話してくれない、と薄々シルヴィアは勘付いていた。

 

「おっと、そのままだと隠れてるのがバレちゃうから……」

 

 シルヴィアは能力で自身の気配をできるだけ消すようにする。おかげで殺気や害意を持っていたり、激しく感情が揺れ動くことがない限り基臣には気取られる恐れは非常に低くなる。

 

 しばらく治療院近くのお店で時間を潰して様子を見ていると、2時間ほどで基臣が治療院から出てくる。

 

 

「…………ギプス?」

 

 

 

 

 

 ──────────────────────

 

 

 

 

 

 

 太平洋を巡行している大型客船。ただ、その船には賑わいは無く波を立てて進んでいる。

 

 その船のVIPルームにあたる部屋の一室。

 

 まだ20代半ばであろう顔立ちの男はデスクの前で座って誰かを待っていた。しばらくすると、基臣と戦っていた初老の男が現れる。

 

「お待たせしました」

 

「仕込みは?」

 

「はい、問題なく。ですが……誉崎基臣の成長速度が尋常でなく、途中で腕と足を一本ずつやられました」

 

 初老の男の言葉に、椅子に座っていた男は片眉をピクリと微妙に上げる。

 

「お前がそこまでやられたか……。甘く見ているわけでは無かったが想定以上の強さだな」

 

「はい。おそらくあの者の強さが一定のラインを越えたら、私では抑えきれない可能性もあります」

 

 少し考え込むと、男は初老の男に紙をはさんだバインダーを手渡す。

 

「……分かった。それがリストだから人員は好きに補充しろ」

 

「ありがとうございます。では、これで……」

 

「ああ」

 

 

 

 そのまま立ち去っていく初老の男を見送った後、デスクに置いてある紙束を手に取る。

 

「青鳴の魔剣の一時的譲渡も、ヴァルダ=ヴァオスの協力も、見返りとして要求してくるのはどいつもこいつも金か……」

 

 興味を失ったようにその紙束を放り投げると、男は同じくデスクに置いてある写真立てを眺める。

 

 その写真には父親と母親と思しき人物と、小学生にも満たないような小さな子供が笑顔で映っている。

 

 

 

 

 

 ――父さんっ!母さんっ!

 

 

 

 

 

 

 

「…………父さん、母さん。俺はやるよ、必ず」

 

 写真立ての前で一人呟いた後、男はそのままどこかへと向かっていく。

 

 

 

 その瞳は人を不幸のどん底へと引きずり降ろそうという悪意に染まり切った色をしていた。

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

part20

夏の暑さを感じるようになりつつあるので初投稿です。


 身構えている時には、ガバは来ないRTAはーじまーるよー

 

 

 前回はうさんくさいジジイに襲われた♂後、左手を失いながらも何とか撃退して、シルヴィを無事にクインヴェールへと帰したところまででしたね。

 

 治療院で左手の治療を受けましたがヤンデレ剣の能力を使えば本来なら二か月かかるところを一週間程度で完治できそうです。ヤンデレ剣、マジ万能ですわ。

 

 結局その日は界龍に帰ることにしましたが、翌日はエルネスタの所へ電話で話そうとしたことについて聞きに行くことにしましょう。幸いにも学園祭巡りが2日で済んだので3日目の時間を使って問題なく校内に入ることが出来ました。

 

 アルルカントの中へと入るとエルネスタの部屋に向かってくれとカミラに言われました。彼女が自室に通してくれるなんて珍しいですね。そういえば、ホモ君が女の子の部屋に入るのはエルネスタが初めてじゃないでしょうか。今回の依頼は色々と機密が含まれてますからそこら辺を考慮して研究室ではなく自分の部屋を選んだのでしょうが。

 

 さっそく扉をノックして、ドアのロックが解除されたので部屋の中に入りましたが……エルネスタはベッドでスヤスヤ寝てますね……。結構夢見悪そうな寝顔をしているようですがどんな夢を見てるんでしょうか。

 

 まあ、時間を無駄にしたくないのでさっさとエルネスタを起こすことにしましょう。って、ちょわっ!?いきなり飛び起きるからびっくりしました。どうかしたんでしょうか……って、ん?

 

 プルプル震え始めましたけどどうしたんですかね。部屋は別に寒くないはずなんですが……って!?

 

 えぇ……、なんかエルネスタがいきなり泣き始めて抱き着いてきたんですけどどういうことなんですか。そこまで好感度を稼ぐようなイベントは今まで発生させていないつもりなんですけど。もしかしてほんとに悪い夢でも見てたんですかね。

 

 さすがに拒絶して放っておくのは悪手ですので彼女のやりたいようにやらせてあげていますが、正直私も混乱していて手を動かせていないというのが本音です。背中をさすって落ち着かせてあげるしかできないのでそれを実行してますが、まじでどうした急に、っていう心情です。

 

 

 

 ……………………

 

 

 

 すいませーん、木下ですけどまーだ時間かかりそうですかねー?

 

 なんかもうホモ君の服が涙と鼻水でグシャグシャなんですがどうしたものでしょうか……。それと、エルネスタの顔がメスの顔になってる気がするのは、私の気のせい……でしょうか?

 

 いや、待てよ……。彼女の場合だと割とこういうのがドッキリっていうのが普通にあり得るんですよね。試走の時なんか、思わせぶりな行動を取ってきたくせに、実際にいざ告白してみると、オタク君に優しいギャルが告白されたときのような気まずそうな表情をして振られるという展開になりましたからね。もう騙されんぞ。

 

 

 

 やっと、泣き止んでくれましたがまだ抱き着いてきたままですね。そろそろ離してもらいたいのですが……。ついでに言えば彼女のたわわなメロン様がホモ君にむっちりと当たっているので感情喪失が無かったら彼も間違いなく思考回路ショート状態になっていたでしょうね。

 

 

 

 よく分からないイベントによって時間ロスが発生しましたが私は元気です。(白目)

 

 

 

 さて、ようやくホモ君から離れてくれたエルネスタが本題である電話の主に関して話してくれてますが、発信元は海の上だったようです。丁度発信時間帯の衛星画像を確認すると旅客船がそこを通っていたようですが、さすがに誰が中にいるかまでは分からなかったようです。

 

 結局、正体分かってないやんけ! と言いたいところなんですが、もうここまで来たら向こうから仕掛けてきそうなんで、時間を割くのは無駄だと悟りました。(諦めの境地)

 

 それからも色々とうだうだ話をしましたが、妙にエルネスタの距離が近いですね……。まあ、聞きたい情報も大体聞けましたし、変なことになる前にさっさと退散しちゃいましょう。

 

 校門前まで見送ってくれるエルネスタに別れを告げたら界龍へと帰ることにします。

 

 

 

 

 

 学園祭も終わり、ホモ君もアスタリスクに来て2年目になりました。前からやっていましたが、学年が変わったことで本格的に獅鷲星武祭(グリプス)に向けた特訓が始まったのでチームメンバーをしごいて出来る限りホモ君だけのワンマンチームにならないように身体能力を作り上げていきます。

 

 メスガキが意外と試走の時に比べて成長の伸び幅が大きいですね。これなら今回はいいタイムを期待できそうです。他のメンバーも試走段階よりも力を付けて獅鷲星武祭に臨めそうな感じです。懸念事項があるとすれば今回のイレギュラーである、暁彗たちのチームですね。

 

 前よりも明らかにホモ君の戦闘能力が跳ね上がっているので問題は無いと思いますが、梅小路冬香の方は大量の式神を使役しているためその全てを処理するとなると時間がかかりそうです。本来なら決勝まで使う予定の無かった爆弾を場合によっては早めに解禁する必要があるかもしれませんね。

 

 まあそこら辺は実際に大会が始まるまでは何とも言えないので、目下チームの最大の課題である連携を詰めていきましょう。このチーム、というかこのメンバーは割と自由奔放に動く所があるので、勝負が早期に決着するかどうかはメスガキとその兄である沈雲、後セシリーのサポート力にかかっています。

 

 ちなみに左手のギプスは界龍のメンバーには寝違えてなったものだと説明しておきました。まあホモ君にしては間抜けな理由ではありますが、それが嘘である理由を追及するための根拠がそもそもありませんからね。

 

 みんな頑張っているんですが、どうにもメスガキのこちらを見る様子がおかしいですね……。まあ、鍛錬に支障はないので問題ないでしょう。一々細かいこと気にしたら逆にタイムがお釈迦になってしまいますからね。

 

 さて、チームメンバーの鍛錬が終わったら、今日も今日とて再開発エリアへと自己鍛錬をしに向かいましょう。

 

 

 

 少女移動中……

 

 

 

 なんか友情イベント的なのが発生してますね。これはホモ君に男友達ができるイベントなのですが……、正直言ってロスです。かといってこのイベント始まってしまえば回避のしようがありません。まあ、このRTAの中で2,3回は発生するものと想定していたので、許容範囲内ではあります。今のところタァイムもいい感じに進んでいますしね。

 

 ただ、こいつ……たぶんですけど第六感持ちですね。雰囲気とかがそれっぽいところがあります。同じ能力持ちなんて奇跡、普通は起きないんですけど検証班曰く、稀にある現象だそうです。

 

 第六感持ち同士はお互いの胸の内を知ることが出来るので、ニュータイプみたく分かり合えることができるような相性をしているなら、ながーい過程をすっ飛ばして簡単にベストフレンドになれるという謎ボーナスがあるので必要以上の交流は勘弁願いたいところなんですが……

 

 

 

 む……。シルヴィから連絡が来ましたね。デートの予定までまだ日にちがありますしどうしたんでしょうか。

 

 ん……?ルサールカが解散の危機に瀕している?

 

 

 

 

 

 いやいやいや、今までこんなイベント遭遇したことないんですが、どういうこと……?

 

 なになに……今年から新しく入った常識人枠のマフレナちゃんに関する事で色々あったと……。まあ、新しくメンバー加入して問題が起こるのはアイドルグループあるあるなんでしょうが、ルサールカがいないと色々と回り回ってシルヴィの今後の行動が色々と崩れかねないので、解散はこちらとしても非常に都合が悪いです。ホモ君が仲を修復するように動いてあげましょう。

 

 ということで楽しく会話しているところですがイベントを無理やり打ち切って、シルヴィの元へと向かいましょう。

 

 

 

 タクシーに乗ってしばらくすると待ち合わせ予定のクインヴェール付近の公園に到着しました。シルヴィの方が近かったので先に待っていたみたいですね。さっそく本題であるルサールカの関係修復のために動くことにしましょうか。

 

 さて、ルサールカの仲を修復するにはリーダーであるミルシェの存在は必要不可欠です。彼女の連絡先は前言った通り入手済みなので電話してみたのですが、ウンともスンとも言わないですね。恐らく電源を切っているのでGPSでの特定もできません。

 

 そこで登場してくるのが、シルヴィの能力です。彼女は頑張れば治癒能力以外の全ての能力を行使できるので、探知能力を使って場所を特定してもらうことにしましょう。ミルシェは……どうやら街中をぶらついているようです。彼女の事ですから、ルサールカを思い出してしまうクインヴェールの校内は居心地が悪かったのでしょう。

 

 ここからもさほど遠くないですし、シルヴィを連れてさっそく向かいましょう。

 

 

 

 少女移動中……

 

 

 

 シルヴィの話によるとここらへんにいるはずなんですが……と、見つけましたね。なんかお店でスイーツをやけ食いしてるみたいです。丁度いいですし、声をかけてみましょうか。

 

 おーい、ミルシェ……って、逃げるの早っ!?しかも、代金置いていってないし!!

 

 仕方ありません、さすがに食い逃げ犯を身内から出したくないですしシルヴィに代わりに会計をしてもらうことにして、ホモ君だけ先に追っかけることにしましょう。

 

 ちょ、待てよ!待って、止まれ!!

 

 

 くっそ、鬼ごっこするつもりはないんですけどねぇ……。まあ仕方ありません、ホモ君の身体能力ならさほど時間をかけず捕まえることが出来るので追っかけましょう。まてー!

 

 

 

 あ、そっちは再開発エリア、って。まじですか……、普通に入っていっちゃいましたよ。

 

 地形に慣れている人間じゃないとほぼ100%迷子になるんですけど、彼女はアホの子ですからあの感じだと何も考えずに突っ走っていきましたね、間違いない。まあ、そこそこの距離まで接近しているならホモ君の第六感があるんで大まかな方角は普通に探知できます。そのまま追いかけていきましょう。

 

 

 とはいえ、こちらがどこへ行ったかを索敵してる間にガンガン逃げていくので差があまり詰まらないですね。どっかで行き止まりになったらいいんですが……っと、やっと追いつきましたね。逃げんじゃねーよ!もう許せるぞオイ!

 

 早速事情を聴いて、ミルシェにルサールカを解散しないように動いてもらって……って、ええええええええ!?

 

 

 

 なんだこの化け物!?

 

 もういやあああああああああああああ

 

 ミルシェを追いかけていたら何か変な化け物に遭遇するとか、再開発エリアに入ったらマジでまともな事が起きませんね……。ほんと呪われてますよ、この場所は。

 

 

 さて、色んな生物を合成したようなキメラ的化け物が出てきましたがさすがにミルシェとは圧倒的に相性が悪いです。彼女は良くも悪くも非常に乙女なので、ホラー要素が混じっている物に対しては及び腰になって動きが鈍ってしまいます。おかげでホモ君の介護対象となってしまう訳ですが……腰を抜かしてるじゃないか。(呆れ)

 

 仕方ありません、シルヴィにおぶってもらって……

 

 

 

 もらって……

 

 

 

 

 

 ………………

 

 

 

 

 

 あまりしたくありませんが、お姫様抱っこすることにします。必要以上に好感度上がってないよね、……大丈夫だよね?

 

 あまりミルシェの顔を見ていられる余裕がないので確認のしようがないのですが、ささっと目の前の化け物をぶち倒しちゃいましょう。

 

 この化け物に関してですが、特に目立ってわざわざ言うようなことはほとんどありませんね。強いて言えば、切られても再生して、更に再生速度が速いといったところでしょうか。ま、ホモ君の手に掛かれば苦も無く倒してしまえるでしょう。ミルシェを抱っこしてるせいで若干やりづらいですが。

 

 ただ、一つ注意点があります。

 

 

 

 

 この辺の地面は、必要以上の衝撃を与えてしまいますと、崩落して落っこちてしまいます。

 

 だから、慎重に立ち回る必要があったんですね。

 

 

 

 

 

 ファッ!?

 

 

 

 ンアッーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!

 

 

 

 

 

 なんで?なんで?なんで?ほとんど衝撃立ててないじゃーーーーん!

 

 敵が強攻撃をしてこようものなら封殺したし、さっきだって、攻撃してこなかったじゃーーーん!

 

 このクソゲー!フラグまでイカれてるんじゃないだろうな!

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……まさか

 

 ……お前かぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!

 

 シルヴィアの攻撃のせいかぁぁぁぁぁ!

 

 あああああああああああああああああ!

 

 ふーーざーーけーーるーーなーーーーーーーー

 

 あああああああああああああああああああああ

 

 好感度がああああああああああああ!

 

 ミルシェとの関係性がおかしくなるうううううううううう!

 

 

 

 

 

 

 

 ふぅ……、すっきりしました。

 

 

 

 今の崩落で地下通路探索イベントが発生し、ミルシェの好感度上昇を起こしかねないのですが、よく考えたらミルシェは他のヒロインの方が好感度高いとそのヒロインに遠慮してホモ君との恋愛関係を積極的に持たないというサブヒロイン特性があるためそこまで問題ありません。むしろ、ここでルサールカとの関係修復に尽力してもらうよう説得するチャンスでもあります。

 

 さて、現状の説明に戻ると、ホモ君達は地下のそこそこの深さまで落ちて行ってしまったので、地上に戻ることが出来ません。ついでに、地盤ゆるゆるのため、落ちた地点で待機していると崩落に巻き込まれてしまうという危険性があります。それなので、シルヴィが助けを呼んでいる間に適当に地下通路を探索して出口を探すという体を取ることにします。

 

 二人で地下通路を歩きますが、彼女は結構の怖がりで、一々立ち止まっちゃうガバ行動に構っちゃうと時間のロスが発生してもったいないです。なので、ホモ君が彼女の手を引っ張って強引に連れていきましょう。

 

 一見出口の見えない迷路を進んでいるように見えますが、攻略サイトから拝借した地下通路マップを参考にある場所まで向かっています。しばらく歩くと……おっと、ここですね。

 

 ここはある場所へと続くエレベーターが隠されている所で、ホモ君の第六感でそのエレベーターが隠されている扉を看破します。ミルシェを連れてエレベーターを確認すると、ボタンが1つだけの明らかに片道切符のようです。ですが、このエレベーターがどこへ通じているか分かっているので躊躇なくボタンを押します。すると、エレベーターが下へと降りていきます。

 

 エレベーターを使って降りてみるとなんとびっくり、ちょいと昔に違法デスマッチである蝕武祭(エクリプス)を開催していた闘技場までたどり着きました。

 

 今使ったエレベーターは参加者用のエレベーターで、完全に行き専用の片道切符の移動手段です。

 

 戻る手段はないので、シルヴィが呼んでいるであろう助けを大人しく待っていましょう。 

 

 この待ってる時間の間にミルシェの精神状態を安定させて、ルサールカの関係修復に向けての会話をしていきましょう。

 

 こうすることでロスは最小限で済ますことが出来ます。

 

 まあ、やってることはただの相談話なので倍速してしまいましょう。

 

 

 

 少女お悩み解決中……

 

 

 

 ふぅ……。どうにかミルシェの悩みは解決したようでルサールカの関係修復に尽力するようです。彼女ならばしっかりやってくれるでしょうし、これ以上の心配は不要でしょう。

 

 おっ、来ましたね。シルヴィが星猟警備隊に通報したようで、蝕武祭関連は下っ端隊員に任せるわけにはいかないのかヘルガ隊長がわざわざ出張ってきたようです。タイチョウミズカラガ……?

 

 さすがに蝕武祭の闘技場まで入ってしまったので星猟警備隊の事情聴収を受けざるを得ないですが、やったこともただの正当防衛ですし、不良とのゴタゴタでここのお世話になった時よりも早く帰してくれます。

 

 ミルシェはシルヴィが連れて帰るようなので、お言葉に甘えてホモ君はそのまま界龍に帰ることにしましょう。

 

 

 

 

 

 ルサールカ解散危機からしばらく経ちましたが、どうやら上手く関係修復できたようです。ロスもそうなんですが、とにかく疲れた。これ以上負担を掛けないでクレメンス……。

 

 まあミルシェの好感度が予想以上に上がってる感じがしないでもないですが、今後ルサールカとの関わりは獅鷲星武祭で対戦する以外はほぼ無いので特に大きな問題にはならないでしょう。

 

 これでシルヴィもホモ君の事をいい感じに見て来てくれてますし、この感じだと来年の春ぐらいにはホモ君の感情喪失を解消して、鬼気の制御にこぎつけれそうです。丁度いい感じのタイミングになりそうでとりあえず安心はしました。 

 

 次はオーフェリア関連のイベントを本格的に進めていくために、彼女の故郷であるリーゼルタニアへと向かって、過去について彼女の幼馴染であるユリスに――

 

 今回はここまで。ご視聴ありがとうございました。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

裏話20 恋心

納得できる仕上がりにならなかったのでまたも投稿間隔が空いてしまいました。申し訳ないです。m(_ _)m

作者の曇らせ好きの被害者がまた1人増えてしまったので初投稿です。


 昼下がりの午後、エルネスタは非常に機嫌が良かった。

 

 論文の執筆に忙殺されていたせいで中々会う時間を取れなかった基臣と、久しぶりに話すことが出来るのだ。基臣との会話はしたくもない派閥争いで疲れた彼女にとって癒しになっていた。

 

 いきなり迫って身体を密着させた時の少し困ったような顔や、あまり表情に現れづらいので分かりづらいが、誰かを守ろうとするときの必死な顔も彼女にとって愛しく感じる。そんなことをカミラに話すと苦笑いされたことは彼女の記憶に新しい。

 

 彼を待たせ過ぎてもいけないと思った彼女は小走りで実験室へと向かった。

 

 

 

「やぁやぁ剣士君! 久しぶりー!」

 

 先に部屋で座って待っていた基臣の様子はどこかいつもとは違うような雰囲気だった。

 

「……剣士君?」

 

「そこへ座れ」

 

「もー、どうしたのさー。私と剣士君の仲じゃん、どうせなら近くで──」

 

「いいから座れ」

 

「っ……うん

 

 いつもの優しい彼から出たとは思えないぐらいゾッとするような声色。

 

 有無を言わさぬ空気がエルネスタを鋭く突き刺す。

 

 冗談が通じない事を本能的に悟ったエルネスタがいつものように隣に座らず、言われた通りに対面のソファに座ると基臣は口を開いた。

 

「先日、医者から診断を受けた。もう二度と腕を動かすことは出来ないそうだ。それにこの足もだ」

 

「どういう、こと?」

 

 彼は包帯で巻かれた傷だらけの腕や足を見せる。確かに見るだけでその痛々しさが彼女にも伝わる。

 

 だが、身に覚えのないことだった。ここ最近、彼を交えての実験など彼女はしたくても忙しくてできなかった。他にも色々とおかしい点は思いついて口に出そうになるが、そんなことは彼の目を見ると全て吹き飛ぶ。

 

 激しく嫌悪している目。その目に彼女は息の止まりそうな錯覚を覚える。

 

「お前のせいだ」

 

 ポケットの中に右手を突っ込むと、テーブルに雑に紙切れを叩きつける。

 

「なに、これ……? 契約、解除?」

 

「もうお前との付き合いは金輪際行わない。正直、こうやってこの話を言い渡すのも虫唾が走るほど嫌だったがな」

 

(もう、あえない……?)

 

 さっきまでの頭脳明晰なエルネスタはどこへ行ったのか、頭の中が真っ白になり考えが纏まらない。それでも彼と会えないという言葉に彼女は必死に言葉を絞り出す。

 

「ぁっ……ぇ……? ぅそ、だよね?」

 

「そうか、お前にはこの目が嘘に見えるか」

 

 基臣はエルネスタの首を掴み上げると、怒りを抑えながらも壁に叩きつける。

 

「ぅっ……あぁ……」

 

「苦しいか、苦しいよな。だがな……そんな苦しみすぐに消える。対して俺はどうだ、この腕の痛みも、足の痛みも、そして身体の一部を動かす事が出来ない苦しみも、一生消えることは無い」

 

「ぇぅぁ……っ、ごぇんな、さい……!」

 

 言葉を発するのも辛い苦しみの中、謝罪の言葉を繰り返すがその言葉を聞き流し基臣はエルネスタは汚い物に触れたかのように床へと放り捨てる。

 

「あぐっ! けほっ、けほっ!」

 

「ちっ……、もう触れていたくもない。いいか、その文書にお前もサインしておけ。後でグチグチ言われるのは御免こうむるからな」

 

 部屋から立ち去ろうと向かっていく基臣にエルネスタは必死に縋りつく。

 

「あ……ま、まって! あ、あたしが悪いの」

 

 基臣の足を掴むと、必死に置いて行かれないように懇願するように言葉を綴り続ける。その様子に基臣は彼女をゴミを見るような目で見下す。

 

「まったく、苛々する。人を散々弄んでおいて、いざこうなったら謝罪か」

 

「あ、えっと、その……」

 

「もういい」

 

「ぁ、だめっ。()()私をおいてかないで……」

 

 歩いて出て行く基臣を必死に追いかけてもその背は遠のいていく。

 

 そんな彼を追いかけようと、普段走らないその身体を必死に動かして彼に近づこうとする。

 

 それでも彼との距離は遠のいていく。

 

 

 とおの いて

 

 いく

 

 

 

 

 

 ……………………

 

 

 

 

 

「────っ!?」

 

「お、やっと起きたか」

 

 起きるとそこには基臣の姿があった。どこかその顔は心配そうな様子をしている。

 

「けん、し……くん?」

 

「あぁ、そうだが。……って、どうした急に」

 

「ごめんなさいごめんなさいっ。私が悪かったです! なんでもするからっ! なんでもするから……見捨てないでぇ……、ひっく……ぅっ……」

 

 エルネスタは追い縋って彼に贖罪の言葉を口にする。

 

「おいおい……お前を見捨てるなんていつ言った……」

 

 いきなりの謝罪に流石に困惑する基臣だったが、エルネスタの心はひどく消耗してボロボロに擦り切れたように悲鳴を上げているようで、その悲痛な表情は見るに堪えないものだった。背中に手を回すと彼女の衣服は汗でびっしょり濡れていて、先ほどまで見ていたであろう夢のつらさを言葉にせずとも語っている。

 

「ぐすっ、ひくっ」

 

「まったく……」

 

 不器用に彼女の背中をさすって宥めてあげながらどうしたものかと困っていた基臣だったが、しばらくエルネスタのしたいようにさせてあげると徐々に落ち着いてくる。

 

「エルネスタ」

 

「……もうちょっと、おねがい」

 

「……分かった」

 

 基臣にとって誰かを抱きしめることは初めてだった。

 

(なんだか、落ち着く……)

 

 無意識ながら、基臣の方からも抱きしめる力が強くなる。互いの温もりを分かち合ってそれを感じる。しばらく抱き合っていると徐々にエルネスタの体の震えも収まっていく。

 

 落ち着きを取り戻してようやく離れたエルネスタに基臣は先ほど異様な程に取り乱した理由を問いただした。

 

「それで、どうしたんだ。あんなに取り乱したかと思えばいきなり謝り出すなんて」

 

「…………悪い、夢を見たんだ」

 

「夢?」

 

「私の実験が失敗したせいで、君に一生癒えることの無い傷を負わせてしまって……それで……」

 

 今でもそれを思い出して恐怖しているのか、必死に言葉を絞り出すように喋った。

 

「君が一生関わってくるなって言われたんだ……目に入れるだけで不愉快だ、って……」

 

「……なるほど。夢の中とはいえ、それはまた難儀な目に合ったな」

 

(夢の中の俺も随分と酷な事を言うものだ……)

 

 過去に実の父親からの酷い罵倒を受けたことのある基臣だからこそ、エルネスタの受けた心の傷の深さをしっかりと理解できた。現に、先ほどまで寝ていたはずの彼女だったが、酷く疲れたような顔をしている。

 

「私、やっぱり君の近くにいちゃいけない存在なのかな……。いつか君を不幸にして……」

 

 自己嫌悪に陥っていくエルネスタを基臣はどこか新鮮な気持ちで見ていた。

 

(……まったく、お調子者の癖してナイーブな所があるんだな)

 

「「いつか」「未来に」なんて事、所詮はたらればの話でしかないし、気にしたらキリが無い。まあ、仮になったとしてもお前を責めるなんて事しないがな」

 

「でも……、でもっ!」

 

「……そこまで言うなら仕方ない。ほら」

 

「……煌式武装?」

 

 基臣がポケットから取り出した予備の煌式武装を手渡されたエルネスタはその意味を図りかねた。

 

「もし、俺がそんなことを言うのなら、渡したそれで殺せ」

 

「ころ……っ!?」

 

 突拍子もない言葉に流石のエルネスタも動揺する。だが、基臣の表情は真剣そのものでふざけてる様子は欠片も無い。

 

「それだけ自分の言葉に責任を持ってお前に言っている。だから信じてくれ、お前を傷つけるような事はしないと」

 

「……」

 

 

 

 しばらく無言のままだったエルネスタだったが、やがて決心したのか頷いて基臣の煌式武装を受け取る。

 

「…………うん」

 

「今みたいに不安になったらいつでも連絡して構わないからな。少しはお前の痛みを分かち合えば心の負担も軽くなるだろう?」

 

「そう、だね。…………ねぇ、剣士君」

 

「うん? どうした」

 

「二人きりの時でいいから、名前で呼んでいい?」

 

「……なんだ、そんなことか。むしろ、なんで今まで名前で呼んでこなかったかが不思議でならなかったんだぞ。別に今更聞かなくても好きに呼んでくれて構わない」

 

「うん……」

 

 その目はトロンと蕩けたように熱い視線を基臣へと送り、ギュッと胸の前で手を組むと上目遣いで基臣を見る。

 

「これからもよろしくね、基臣くん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 界龍の訓練施設。

 

 獅鷲星武祭に向けて各チーム、特訓を必死に行っていたがその中でもかなり異質な風景があった。

 

 ギプスで片手を固定している状態であるにも関わらず、二人を相手に優位に立ち回る基臣の姿がそこにはあった。

 

「うわっ!?」

 

 この前の学園祭で片手を負傷した基臣だったが、ピューレの能力を併用することで治りが早くなり今では邪魔にならない程度まで左手が元に戻っていた。

 

 ピューレではなく、新型の煌式武装を使ってセシリーに切りかかった基臣は、それと同時にカバーに入っていた虎峰を体術で蹴り飛ばす。虎峰は基臣の攻撃をガードしたものの、身体はその衝撃に耐えきれず端まで吹っ飛んでいく。

 

「ぐっ!?」

 

「もっとうまく攻撃を受け流せ! お前が遠くに飛ばされてる間、仲間がピンチになるんだぞ!」

 

 声を張り上げてチームメンバーへの指導を行っていた基臣。さすがに4人同時に相手をするのは無理があったため、基臣以外で攻撃の主力を担うセシリーと虎峰、後方からのサポートをこなす沈華と沈雲をセットにして指導していた。もちろん基臣が片方のペアに指導している間、もう片方のペアはそれぞれ各自で用意した自主練メニューをこなしている。

 

 基臣としても、敵チームから複数人で囲まれる可能性が高いことから1対2の状況を想定した模擬戦は非常に有用なものだった。鍛錬の一方的な状況を見て勘違いしそうになるが、虎峰とセシリーは前回の鳳凰星武祭の準優勝ペア。その二人を相手に優位に立ち回れるということは獅鷲星武祭の本戦になっても対複数人のシチュエーションでも通用するということを暗に示していた。

 

「ここです!」

 

「もらったぁっ!」

 

 二人からの息の合った同時攻撃に挟まれた基臣。片腕しかない以上両方の攻撃をさばくことは至難の技。故に基臣は、敢えて虎峰の攻撃へと突っ込んでいく。

 

「なっ!?」

 

 虎峰の攻撃を上手く逸らすと、それがそのままセシリーの校章へと向かうように方向を調整する。その目論見は上手く成功し、セシリーの校章は味方である虎峰の攻撃によって破壊される。

 

「ぎゃうっ!」

 

「くっ……!?」

 

 強引に攻撃の軌道を変えられた虎峰も、無理な動きをしたせいで基臣から距離を取ることが出来ずに一瞬固まる。

 

 その一瞬は基臣にとって十分すぎる時間で、動けない隙を突いて虎峰の校章も破壊する。

 

 

模擬戦終了(エンドオブバトル)。勝者、誉崎基臣!』

 

 機械音声が響き、勝者を淡々と告げる。

 

「そろそろ休憩にするか」

 

「はぁ~、もうヘトヘト……」

 

「さすがにきついですね……」

 

 一気に練習がハードになったこともあってくたびれたのか、基臣が休憩の指示を出すとセシリーだけでなく虎峰もその場で床に倒れる。

 

「はい、基臣」

 

「水か、すまないな」

 

 沈華から水を受け取ると、椅子に座ってゆっくりと飲み干す基臣。

 

 少し時間が経って気力が回復したのか、セシリーが唇をとがらせて不満げな表情を基臣へ見せる。

 

「まったく、鳳凰星武祭の時から強くなり過ぎじゃなーい? タイマンだったら太刀打ちできる自信無いんだけど」

 

「左手使えないハンデを背負ってこれですからね……」

 

「右手だけでもやりようはいくらでもある。上手い立ち回りを意識するだけで劇的にパフォーマンスが変わるからな」

 

 この前、青鳴の魔剣(ウォーレ=ザイン)の使い手と戦って以降、基臣の戦闘勘は格段に上がっていた。その助けがあったからか、片手だけという縛りを課されても尚、虎峰・セシリーペアを圧倒できるだけの立ち回りを可能にしていた。

 

 セシリーと虎峰の二人を相手に右手だけで応戦している基臣を先ほど自主練の片手間に沈華たちも若干引き気味にその様子を見ていたためセシリーの言葉に同感の様子だった。

 

「全く……、基臣と虎峰で機動力に差があるせいで計算して支援しないとかえって私達後衛が邪魔になりかねないわ」

 

「まあ、それを何とかするのが僕らの役割だから仕方ないさ」

 

「はぁ……」

 

 各々不満を垂れているものの、向上心の固まりである彼らは誰一人、辞める気など無かった。休憩後は指導するペアを交代して、各々自分の能力に磨きをかけていく。

 

 といっても、毎日ハードなトレーニングを続けるのは長続きしない。今日は週末なので、基臣は練習を早めに切り上げ、昼前には終わらせることにした。

 

「じゃあ、これで今日のチーム練習は終了だ」

 

「はー、疲れたー! ほら虎峰、遊びに行こ!」

 

「ちょっと! わかった、わかりました! ついていきますから、離してくださいっ!」

 

 セシリーに無理やり引っ張られていく虎峰という構図はいつもの事なので基臣は特段気にせず部屋へと戻る。

 

 丁度昼飯時だったため、基臣は部屋で着替えだけ済ませるとそのまま食堂へと向かう。注文を済ませて食堂のスタッフから料理を受け取ると、人も多くなってきているため隅の方にあるテーブルで食事を取ることにした。

 

(この前の序列トーナメントのせいで、周りから一歩距離を置かれているか……。誰でも彼でも仲良くというつもりはないが、さすがに一緒に食事を取る友人の一人もいないというのは周りから浮いてしまうな)

 

 仕方ないか、と割り切って食事に手を付けようとすると斜め後ろから人影が見えた。振り向くと沈雲も食事を取ろうとしていたのかトレーを持って立っている。

 

「今更だけど手、大丈夫かい? 片手だけの生活はかなり不自由だと思うけど」

 

「む、沈雲か。自分で言うのも何だが、器用だからこういう事であまり不便になることはない。そもそも不自由だったらさっきみたいに上手く戦うことも出来んさ」

 

「はは、違いない。隣、いいかい?」

 

「あぁ、構わない」

 

 顔を隣の椅子に向けて座るように促すと、沈雲はトレーをテーブルに置いて椅子へと腰を下ろす。しばらく二人で黙って食事に手をつけていると、沈雲が口を開く。

 

「うちの妹がいつも世話になってるね。君のおかげで大分あの子にも笑顔が増えた気がするよ」

 

「俺のおかげ? むしろ、あいつに助けてもらったことの方が多い気がするがな」

 

「そう思うかもしれないけど、彼女の成長の大きな一歩の手助けをしたのは紛れもなく君なんだ。兄として感謝の言葉ぐらいは言わせてほしい。ありがとう」

 

「そうか。それなら素直に感謝の言葉は受け取っておこう」

 

「そうしてくれると助かるよ」

 

 それからは今度の獅鷲星武祭の対抗馬の動向や星仙術に関する雑学、沈華の日常生活など、沈雲は色々な話題を基臣に振ってくれた。何故か沈華に関する話題が露骨に多かったが、兄だから妹の事が気になる物なのかと深く考えずに勝手に納得する。

 

「それで沈華が君の事を……おや、噂をすれば来たようだ」

 

 沈雲の言葉で後ろを振り返ると沈華も昼食を摂りに来たのかトレーを持って立っていた。

 

「隣、いいかしら」

 

「あぁ」

 

 そのまま食事を再開した基臣だったが、隣から凄い視線を感じたため横目でチラリと沈華を見る。

 

「ジー」

 

「……なんだ?」

 

 あまりにも長時間見つめてくる沈華に、さすがの基臣も食べづらいのかスープを含んだスプーンも口に入れる直前で止まっている。しばらく沈黙が続いていた両者だったが、溜息を吐いた沈華は自分の持っていた箸をトレーに戻し、基臣のスプーンをひったくる。

 

「ほら、貸しなさい」

 

「あ、おい」

 

「……ほら」

 

 差し出されたスプーンを前に基臣は固まる。目だけ周りを見渡すと、当然の事だが周囲の学生たちは何事かと基臣たちを見てくる。

 

 恋愛事に鈍い基臣でも沈華の行動が周りからどう映るかは理解できる。

 

「おい、沈華。お前何をしてるのか理解してるのか」

 

「それでも貴方は怪我人でしょ。全く、見てられないわ」

 

「片手での食事程度、造作ない事だ。お前の補助がなくてもできる」

 

「い い か ら!」

 

「むぐっ!」

 

 スプーンを口に突っ込まれた基臣は仕方なしにスープを飲みこむ。その様子に微笑ましいものを感じ取ったのか沈雲は椅子を引いて立ち上がった。

 

「どうやら、僕はお邪魔のようだね。他の所で食べさせてもらうよ」

 

「おい沈雲」

 

 そのまま退散していった沈雲を目で追いかけるが、その視線を遮るかのように沈華は立つ。

 

「ほら、早く食べなさい」

 

「……………………。はぁ……」

 

 結局、彼女から発せられる謎の圧力に抗えず、されるがままの状態になる。

 

 

 

 その後は語るまでもなく、沈華にいっぱいあーんさせられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「まったく……酷い目にあった……」

 

 食事だけで酷く疲れた様子で廃墟のビル群を歩いていた基臣。沈華の介護じみた行為から逃れるためにも夕食はどこかで外食しようかと考えていた時だった。

 

「ん?」

 

「早く財布出せっつってんだろうが! 耳ついてんのかタコ!!」

 

「相変わらずの治安の悪さだな、ここは」

 

 再開発エリアに迷い込んだ人間を複数人で囲んで恫喝する。平常運転の様子の不良たちに基臣は嘆息する。

 

「おい、そこまでにしておけ」

 

「はぁ? いきなり誰だ…………って、げぇっ!?」

 

「兄貴、知り合いっすか?」

 

 兄貴分の不良が手下の肩を持つと、基臣に聞こえないようにヒソヒソと話し始める。

 

「ばっか! こいつだけは相手にするなって上の方から通達があっただろうが! ロドルフォの兄貴と張り合ったって噂の!」

 

「マ、マジっすか……あいつが……」

 

 チラチラと見る不良たちの恐怖の感情を読み取った基臣は、敵意を振り撒く。

 

「ヒィッ!?」

 

「さっさと立ち去れ。でないと……」

 

 敵意を不良たちに向けると、さすがに強者に反抗するほどの肝は据わっていないのか委縮しているようだった。

 

「チッ……、行くぞ」

 

 分が悪いと踏んだ不良たちが立ち去っていくのを確認した基臣は、囲まれていた男の様子を確認するとどうやらトラブルが始まって間もなかったのか、怪我は一つも無かった。

 

「大丈夫か……といっても、その感じだと武術の心得はあるみたいだから余計なお世話だったか」

 

「いや、あまり事を荒立てたくなかったから助かったよ、ありがとう。……君、名前は?」

 

「誉崎基臣だ。名字でも名前でも好きな方で呼んでくれ。お前は?」

 

「俺かい?」

 

 

 

「俺は朧。榎本(えのもと)(おぼろ)だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 不良に絡まれていた青年である朧を助けた後、疲労で珍しく鍛錬をする気が起きなかったため、彼の散策に付き合うことにした基臣だったが、先ほどまで彼が何故再開発エリアにいたのかよく分かるような方向音痴っぷりだった。

 

「初めてアスタリスクに来たものだから少し散策してみようと思ったんだが、御覧の有様でね……」

 

「なるほど、どうりであんな場所にまで迷い込んだわけか」

 

「一回来てしまえば、もう迷うことは無いから極度の方向音痴という訳では無いんだけど…………ん?」

 

「…………?」

 

 朧はいきなり基臣の顔を注視したかと思えば、更に食い入るように瞳の奥までのぞき込んでくる。

 

 のぞき込んでくる朧の瞳に不快感は無く、不思議とその瞳に吸い込まれそうな気分になる。

 

「君、やっぱり俺と似てる気がするよ」

 

「…………似てる? どういう意味だ」

 

「基臣。君、人の心の内を感じ取れるだろう?」

 

「……!! どうしてそれを」

 

 魔術師としての能力はその分かりづらさから学外に知れ渡っていないため、ここまで能力を言い当ててくることに基臣は驚きを覚える。

 

「いや、何。人を見る目が他の人間と違うんだよ。まるで俺そっくりだ」

 

「人を見る目……」

 

「まあ、さっきから俺の事を見ていたようだけど、あまり見すぎてしまうと勘の鋭い相手には不快に思われる可能性があるから気を付けたほうが良いよ。同じ能力を持つ先達(せんだつ)としてのアドバイスだ」

 

 朧の言われた通り、確かに今まで第六感越しに内心まで見過かそうとしてきた人間の中には顔を顰めるような不快感を示した人がごく一部だが、いた事を思い出す。

 

「なるほど、忠告感謝する」

 

「ま、心が読めると言っても相手が心を無にしたりとかしたら読める物も読めないんだけど。君が俺の心の中を読もうとしても読めなかったのはそういう理由(ワケ)だ」

 

「さっきからまるで思考が読めないと思っていたがそういうことか」

 

「そんな事が出来る人間はほとんどいないから、会ったらラッキー程度の物だけどね……っと、言いたいのはそういう事ではなくてだね……。同じ能力を持っている者同士だからシンパシーを感じたのさ。君も大分その能力で苦労した口だろう」

 

「そうだな」

 

 人の好意だけでなく悪意も全て受け取ってしまう第六感。幼い頃から父からの憎悪をぶつけられて苦労した基臣は朧の言葉に共感する。

 

 

 

 街の散策をしながら朧と会話を重ねていく基臣。不思議と初対面の筈なのに話が弾む感覚に不思議な気持ちになる。

 

(初めて会ったはずなんだが……不思議と仲良くできるって思えるような気がする)

 

 その不思議な感覚に戸惑っていた基臣だったが、着信が来たのか端末が震える。誰かと思って着信相手を見るとシルヴィアの名前があった。

 

「……すまない、少し電話出るぞ」

 

「あぁ、構わないよ」

 

 断りを入れて電話に出ると、ツアーの予定はないのかクインヴェールの中にいるシルヴィアが映る。

 

「もしもし」

 

『基臣君! ミルシェから連絡とか来てたりしない?』

 

「どうかしたのか」

 

『ミルシェ達が喧嘩したみたいで、突然ルサールカを解散するって言いだしたの!』

 

「ルサールカを……?」

 

『それに加えてミルシェが学園からいなくなったってペトラさんから連絡が来て。あの子たち、衝動的に解散って言葉を口に出したんだろうから、話せばすぐ仲直りすると思うんだけど……』

 

「詳しいことは分からんがとりあえずどこかに集合しよう。今、アスタリスクの中にいるんだろう?」

 

『うん。それじゃあ、クインヴェールの近くにある公園に集合ってことで』

 

「ああ、それで構わない。すぐ行くから待っててくれ」

 

 通話を切ると、待たせていた朧に事情を離して別れることにした基臣。どうやら電話中の会話が一部聞こえていたようで、基臣が用事で朧の散策についていけなくなることを彼も何となく理解してるようだった。

 

「すまないな。お前の散策に付き合うつもりだったんだが、少し用事が出来てしまった」

 

「ああ、ううん。気にしないでくれ。ほら、急ぎの用事なんだろう? 行かなくていいのかい」

 

「そうだな、じゃあまた」

 

 走り去っていく基臣を見送った朧はどこかへ電話をかけた後、独り言ちる。

 

「……生まれが違えば君とは友達になれる可能性があったんだろうね、基臣」

 

 

 

 

 

 

 

 

 アスタリスク内にある商業エリアのとある喫茶店。

 

 ほとんどの客が静かに料理やコーヒーに舌鼓を打つ中、何か腹立たしい事があったのか一人でやけ食いしている少女、ミルシェがいた。周りからどうしたのかと時折視線を感じていたが、ミルシェは気にする様子もなく一人寂しく料理を胃袋に詰め込んでいく。

 

「あむっ……もぐもぐ……」

 

「おい」

 

「もぐ……ん、何……。私、機嫌が悪いからサインなら受け付け…………って、なんで!?」

 

 誰かと思って傍に立っていた二人を見ると、基臣とシルヴィアが立っている。

 

「ルサールカ解散するっていうから心配したんだよ。どうしていきなりそんなことを……」

 

「っ……! 二人には関係のない事だから!」

 

「あ、おい!」

 

 強引に押しのけるとミルシェはそのまま金を払わず店を出て行く。いきなりの行動に呆気に取られていたが、すぐに我に返る。

 

「あいつ……金を払わずに出ていったな」

 

「私が払っておくから、基臣君は追いかけて!」

 

「あぁ、分かった」

 

 シルヴィアに後始末を任せると、ミルシェの痕跡を第六感を頼りに探し当てていく。

 

「次は右か……、すぐ近くだと思うが……いた」

 

 必死に逃げたからか壁にもたれかかって一息ついていたミルシェは発見されたことに驚く。

 

「げっ!? なんでもう追いついてんのー!!」

 

 愚痴を漏らしながらも脱兎のごとく逃げていくミルシェに驚きを覚えるものの、向かっていった方向を思い出して、ミルシェのポンコツ具合に呆れる。

 

「…………あいつ、再開発エリアに入ったのか。土地勘無しだと、間違いなく迷子になるに決まっているのに、よくもまあ……」

 

 呆れていても仕方が無いので、基臣もそのまま再開発エリアの中へと進んでいく。

 

 土地勘のアドバンテージがある基臣は、ミルシェとの距離は徐々に詰まっていく。

 

 ミルシェが焦って行き止まりの道へと行くまでそう時間はかからず、数分もしない内に追い詰めるような形になっていた。最後の抵抗と言わんばかりに煌式武装を取り出そうとするミルシェに、基臣も近づくのを止めて説得しようとする。

 

「ぐぬぬぬ……」

 

「おいおい、別にお前に悪いようにしようと近づいたわけじゃないんだ。少しは話を聞いてから──っ!?」

 

 突然側面の建物からこちらへと向かってくるナニカの気配がしたため、基臣はすぐ警戒を強める。

 

「嫌だから! 絶対シルヴィアに頼まれたんでしょ! ルサールカは解散するって決めたんだから、部外者は口を挟まない────へっ?」

 

 建物が崩れて現れたそのナニカの正体が分かると、ミルシェも喋っていた口を止めてそれに目線を向ける。それはまるでギリシア神話に登場するキマイラのような姿をした化け物だった。全長は建物数階分に相当する程で、その大きさから出てくる威圧感はミルシェを震え上がらせるほどのものだった。

 

「ひぅっ!? な、なに? なんなのさ、この化け物」

 

 いきなり建物を破壊して現れた化け物にミルシェは思わず腰を抜かしてしまう。既に攻撃態勢に入っている化け物に思わず舌打ちしたくなる気持ちになるが、急いでミルシェを守ろうと動く。

 

「ミルシェ、しっかり捕まっておけ」

 

「あ、ちょっとぉっ!」

 

 走りながら戦闘で使えない左腕でミルシェを抱き上げ、右手で化け物に剣先を向けると目にもとまらぬ速さで切り刻む。

 

「…………再生速度が速いタイプか」

 

 切断された首と腕の根本から数秒の内に再生を行う化け物を観察していた基臣だったが、首を切断されてもなお動き、腕を振るっての攻撃を仕掛けてくる。首が吹き飛んでるからか、狙いが雑で回避も余裕だったが、衝撃が加わった地面は音を立てて崩れる。

 

「む……」

 

(地面の舗装が脆い。あまり衝撃を加えると崩落に巻き込まれかねんか)

 

 化け物の首を幾度も斬り落としても再生するため、核となる部分を探すことに専念した基臣。第六感によってそれと思わしき箇所をものの数秒で斬り捨てるが、まだトドメの一撃には至っていない。

 

(といっても、確実にダメージは入っている。時間はかかるがなんとかなるか)

 

「あ、あたしを降ろしてよ。基臣の邪魔になってるみたいだし……」

 

「馬鹿なことを言うな。こんな所で降ろしたら間違いなくあいつの攻撃はお前に向く。人を囮に使う程俺は落ちぶれていない」

 

「……でも、このままだと」

 

「大丈夫だ、やれる。邪魔になりたくないと思うのならしっかりと掴まっておけ」

 

「…………分かった。頑張って」

 

 基臣を信頼したのか、ミルシェはギュッと可愛らしく抱き着いてくる。

 

「任せろ、すぐに倒す」

 

 化け物も追い詰められているという事もあって、徐々に勢いを増した攻撃を放ってくる。その全てに対してカウンター気味に攻撃を加えていき、順調に体力を削っていく。あと一歩というところまで削っていき、基臣も少し余裕が出来てくる。

 

「ふぅ……、あともう少しか」

 

「大丈夫? 疲れてない?」

 

「あぁ、これぐらいは問題ない。それよりもあと少しだ、もうちょっとその体勢で我慢しろよ……っと、誰だ?」

 

 第六感が新たに来る人影を感知する。こちらには敵意はないようで、間違って入ってきた人間ではないかと心配した基臣だったが──

 

「基臣君!」

 

「シルヴィか」

 

 声のする方へ目を向けると、愛用の銃剣型煌式武装を構えたシルヴィアの姿があった。ミルシェを抱きかかえた状態で戦っていた基臣にとってはありがたい助太刀だった。

 

 しかし──

 

(シルヴィは地盤が脆くなっていることを知らない……。下手に銃撃を命中させたら、間接的にこの辺り一帯を崩落させかねん……!!)

 

「シルヴィ! 撃つな!」

 

「へっ?」

 

 しかし、声をかけた時には既に遅かった。トリガーを引いた銃口からは光弾が射出される。誰も割り込めるような位置にいない光弾はそのまま化け物へと着弾する。

 

 攻撃を食らった化け物は踏ん張ろうとその四肢に力を込めるが、その力によって地面はミシリと嫌な音を立てる。

 

「あっ……」

 

 音を立ててから地面が崩落するまで数秒もかからなかった。

 

「落ちるうううぅぅぅぅぅ!!」

 

「基臣君!! ミルシェ!!」

 

 仲良く崩落に巻き込まれた二人はそのままシルヴィアの見えない深さにまで落ちていく。

 

 二人分の重量のため、それ相応の衝撃が身体に伝わってくるが、受け身を取って着地することでミルシェにその衝撃があまり伝わらないようにする。

 

「……っと!」

 

「きゃうっ!?」

 

 それと時間差がほとんどなく化け物も落ちてくる。ただ、もう死んでいるのか受け身も取らずそのまま落下してきた。

 

「……死んだか?」

 

 警戒を厳にした状態で近づいて生死を確認すると、どうやら完全に息絶えているようでピクリとも動かない。

 

 化け物の生死を確認した基臣は、右手の剣をホルダーに収めて状況を確認しようと周りを見回す。

 

 上まで高くそびえる壁、あるとすれば人二人程度が入れる大きさの一本道だけ。

 

「おそらく整備用の地下道か……。さすがにここから上は行けないからこの道を通るしかないが……ん?」

 

 電話がかかってきた端末を開くと、シルヴィアのホッとしたような顔が映り出す。

 

『二人とも! 大丈夫?』

 

「あぁ。だが、ここから上まではさすがにミルシェ込みだと登れそうにない。道があるようだから地下通路を経由して地上に上がる道を探すことにする」

 

『そっか、気を付けてね。一応、こっちでも救助は呼ぶことにするよ』

 

「分かった」

 

 そのまま通話を切ると、座らせていたミルシェの様子を見る。

 

「動けそうか?」

 

「うん……たぶん……」

 

 なんとか立ち上がった様子のミルシェ。走ることはできないようだったが、歩くぐらいはできるみたいで基臣も自分の足で歩くと言った彼女の意思を尊重することにした。

 

 上へと続く道を探すために地下通路を歩くことにした二人だったが、ミルシェの歩みは明らかに遅かった。

 

「ちょ、ちょっとぉ……。ここ、お化けとか出たりしないよね」

 

「魔女や魔術師の能力で生み出された物ならまだしも、本物のお化けなんているわけないだろう。ほら、手を繋いでやるからついてこい」

 

「う、うん……」

 

 ちょこんと可愛らしく繋いでくるミルシェの手を基臣が応じるように握る。

 

 幸いにも第六感で危険を感じ取るような道は回避できていたため、ミルシェが想像するようなお化けやアクシデントは起こらず順調に地下通路を探索していく。

 

「ん……」

 

「どうしたの、何かあった?」

 

 突然立ち止まって壁をじっと見つめる基臣にミルシェは不思議そうな顔で尋ねる。集中していたためミルシェの質問に耳を貸さず、壁を指で叩くと中が空洞になっているような音がかすかにだが感じ取れた。

 

「なるほどな、そういう仕組みか」

 

「ちょっと聞いてるー?」

 

 ようやくミルシェが基臣にずっと質問していたことに気づくと、謝罪の言葉と共に壁にあったカラクリを話す。

 

「悪い、集中して聞いてなかった。……その代わりというわけではないが、一つ分かったことがある」

 

 基臣が今いる位置から少しずれた所の壁を叩くと、重い音を鳴らして壁の一部がスライドし、新たに隠し通路らしき物が出現する。

 

「び、びっくりした……、でもなんで隠し扉がこんなところに」

 

「さぁな。ただ、最近使われていなかったのか埃をかぶっていたのは間違いない」

 

「ねえねえ! 行ってみようよ!」

 

 度胸があるのか無いのか、隠し通路へと迷う事なく進んでいくミルシェに対してそんな事を思いながら基臣も彼女についていく。

 

 隠し扉から5メートル程度で行き止まりになり、奥には銀色のドアが構えてある。ドアの横にはボタンがあるのでエレベーターだということは誰の目に見ても明らかだった。

 

「ボタンが1つだけ……上か下か……」

 

「ね、ねえ……どうするの?」

 

「さっきの地下通路を歩いても地上に戻れる気がしない。乗るしかないな、このエレベーターに」

 

「うっ、でもぉ……」

 

「俺がいるから大丈夫だ。ほら、行くぞ」

 

「あ、ちょっと!」

 

 ミルシェを引っ張ってエレベーターに乗った基臣はそのままボタンを押す。

 

 

 

「…………下か」

 

「下だね……」

 

 

 

「「…………」」

 

 

 

 明らかに地上から遠ざかっていくエレベーターの中では、とてもではないが喋れないような雰囲気が流れていた。

 

 エレベーターの速度の問題か、はたまた向かっている場所の深さの問題か。どちらにしろエレベーターが長い間下り続けている事で完全にお通夜ムードの空気が続いていたが、ようやくエレベーターが停まって、ドアが開かれる。

 

「ここは……」

 

 荒れ果てた六角形状のフィールドに、コンクリートで高く積み上げられた壁、それに沿うように六本の柱があるが、若干劣化が進んでおりボロボロになっている箇所も多少見受けられる。

 

「《蝕武祭(エクリプス)》か……」

 

「うぅ……ここ、本当に大丈夫なのぉ……?」

 

 後ろからおっかなびっくりといった様子でついてきているミルシェに聞こえないようにボソリと呟くと、フィールドを歩き回る。

 

 基臣の記憶の中では蝕武祭は数年前に星猟警備隊の摘発によって、統合企業財体の幹部でありながら主催者だったダニロの事故死と共に話題になっていた。摘発前はアスタリスクの都市伝説のような扱いを受けていたが、実在したことを受けて世間に衝撃をもたらしたらしい事を伝聞の形ではあるが基臣は聞いている。

 

 星猟警備隊が摘発したという話の割には、そのまま放置されたような雰囲気に違和感を覚えたが何かしらが事情があるのだろうと考えを打ち切って探索を続ける。

 

「上は、観客席か。見世物だから当然あるだろうな」

 

「もう戻れないよね? どうするのさ」

 

「さっきのエレベーターも本当に片道切符のようだったし、他に出口らしき場所も見つからないから、ここでシルヴィが呼んでいるだろう救助を待つしかないだろう」

 

「うん、そだね」

 

 腰を落ち着けれる場所に座ると、基臣はポケットを探り一つの紙袋を取り出す。

 

「……それは?」

 

「クッキーだ、いるか?」

 

「いる!」

 

「そうか、ほら」

 

「おっと、っと……」

 

 基臣はそのままクッキーの入った袋を投げると、ミルシェはとっさにそれを受け取る。

 

 そのまま食うのかと思っていたが、ミルシェは紙袋をしばらく見つめるとやがてクッキーを何枚か基臣へと渡す。

 

「……俺にか?」

 

「ん。だって、一人食べるのもなんか気まずいし」

 

「なるほどな。それなら俺も頂くとしよう」

 

 受け取ったクッキーを口に入れるとほのかに甘い味わいが広がる。

 

 しばらくの間、クッキーを食べる音がステージの中で響いていたが、基臣が口を開いた。

 

「……シルヴィから聞いたぞ。ルサールカ、解散するんだそうだな」

 

「…………」

 

「俺は別に責めるつもりでも、解散するなと説得をするつもりでもない。お悩み相談みたいなもんだと思って気楽に話してくれれば良い」

 

「……ん」

 

 それからミルシェは基臣にルサールカが解散するに至った経緯を話した。

 

 今年の春から新しく入ったメンバーであるマフレナが元からいるルサールカのメンバーとそこまで若干距離感があったこと。

 

 ちょっとした出来事がきっかけでマフレナと元からいた3人の間で意見の相違があったらしくお互いに譲らなかったようで喧嘩になったこと。

 

 リーダーとしてミルシェはどうすればいいか分からず、どっちつかずの状態で喧嘩を眺めるだけになったようで、結果、解散騒動になったこと。

 

 

 

 以上がミルシェの語った内容を簡単にまとめたものだった。

 

「……まあ、意見の相違で喧嘩、というのはよくある事だ。そこまでは別に良い。──だが、このまま喧嘩別れみたいな形で解散になると絶対に後悔するぞ」

 

「後悔……」

 

「その4人とは苦楽を共にした仲間なのだろう? その思い出というものは簡単に消えてはくれない。あの時仲直りしておけばよかった、と思う日はいつか来る。が、その時には既に手遅れだろうな」

 

「あたしはどうしたら……」

 

「お前がルサールカをその4人とやり直したいかどうかは知らんが、今からでも5人全員で集まって仲直りしに行け。お前が言っただろう、大したことではないことで喧嘩になったと。それなら、すぐ仲直りできる」

 

「……そっか、そうだよね」

 

 ミルシェの顔を見ると、少しいつもの快活さを取り戻したような顔になっていた。

 

「まだ、みんなと仲直りできるか不安だけど……頑張るよ、あたし」

 

「そうか、頑張れよ」

 

 普段の調子に戻ったミルシェに一安心した基臣は残りのクッキーも食べ終える。

 

 すると、先ほどまで閉じていたエレベーターが開いて人が現われる。

 

「やれやれ……ここにたどり着くことは無いと思っていたんだがな」

 

「あんたは……隊長さんか」

 

「隊長って……ヘルガ……リンドヴァル警備隊長!?」

 

 星猟警備隊に救助を求めたのだろう。ヘルガの後ろにはシルヴィアの姿もあった。

 

「シルヴィ」

 

「基臣君! ミルシェ!」

 

 シルヴィアは二人の無事を確認すると、安堵したような顔で駆け寄ってくる。

 

「二人とも怪我は無い?」

 

 ミルシェとシルヴィアが話している間、ヘルガは基臣へと話しかけてくる。

 

「君は、とことん災難に巻き込まれる体質のようだな」

 

「俺も巻き込まれたい訳では無いんだがな」

 

 ヘルガの呆れたような顔に、基臣は疲れたような態度で返す。

 

「……そういえば、また前みたいに事情聴収を受けないといけないのか?」

 

「あぁ。本当ならすぐに上まで連れて行って解散としたいところなんだが、君たちがいた場所が場所なだけに事情聴収は受けてもらわないといけない。すまないが時間を貰うことになる」

 

「それなら、事情聴収は俺だけでいいだろう。あいつから聞いても話すことは同じだからな」

 

「ふむ……分かった。とにかく、とりあえず上に出るとしよう。ここにあまり長居したくない」

 

 ヘルガの案内に従い、迷うことなく地上へと戻ってくる。その後、シルヴィアとミルシェはクインヴェールへと戻り、ルサールカのメンバーで仲直りすることになるが、基臣は一人ヘルガの後についていき星猟警備隊の本部で事情聴収を受けることになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅー……疲れた」

 

 基臣の言う通り、あたしが皆を集めて改めて仲直りするように行動を起こした。

 

 結果、みんなは仲直りして、ルサールカも解散しなかった。むしろ、今回の喧嘩を通して今まで以上に結束が強まった気がする。

 

 これも全て、基臣が大事なことに気づかせてくれたおかげ。

 

 

 

「うぅー……っ」

 

 シルヴィアが好きな男なのに……。今度の獅鷲星武祭のためにペトラさんから貸してもらえることになった《ライア=ポロス》の直情的になりやすいという代償の影響なのか、基臣を横取りしたらダメだと思っても自分の胸の高鳴りを誤魔化せなくなる。

 

 この気持ちはいくら恋愛に免疫が無いあたしでも流石に理解できる。

 

「好き、なんだ。基臣のこと……」

 

 最初はただの難癖をつける程度のつもりで接触しただけだった。それがいつのまにか相談に乗ってもらったり、今日みたいにみんなとの仲を取り持つために悩みを聞いてくれたり。

 

 冷たい奴かと思ったら、実際はそんな事なくて……意外と繊細な所があって、それで……

 

「とっても優しくて……うぅ……」

 

 自分で言ってて少し恥ずかしくなってきた。こんな姿を見られたら間違いなくみんなにからかわれる。

 

 それでも、気持ちに蓋をするのに限界が来ていることは自分でも理解している。

 

 もしあたしがシルヴィアに基臣を譲ってしまったら。

 

 あの二人の幸せそうな姿を思い浮かべてしまう。

 

 手を繋いで、楽しくデートをして、キスをして……やがて、結婚まで行きつく。それで結婚式であたしは招待客の位置から二人の事を眺めて。

 

 

 

「っ…………」

 

 胸がズキズキ痛む。その場所はあたしがいたいはずなのに、って本心が叫んでくる。

 

 

 

 本当はあたしだって、シルヴィアのいる位置で基臣と一緒にいたい。一緒にデートして、料理を一緒に食べさせ合って、一緒に寝て、それで……。

 

 

 

 

 

 …………

 

 

 

 

 

「ははは……。何を迷ってたんだろう、あたし……」

 

 そうだ、なんでシルヴィアに遠慮をする必要があるんだ。

 

 そもそも、シルヴィアは基臣の彼女でもなんでもない。ただの友達。それは本人から何度も聞いていた。

 

 あたしが基臣を奪い取っても何の文句も言われる筋合いは無い。今のところは、という言葉が後に着くけれど。

 

「シルヴィアよりも先に奪ってやる」

 

 中途半端にあたしの恋を諦めて後悔しないために──

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

part21

モデルナワクチン2回目接種の副作用でぶっ倒れてたので初投稿です。(熱と頭痛がヤバかった)

これからワクチンを摂取する予定がある方は解熱鎮痛剤(自分は病院で処方されたカロナールを使いました)を用意するなど準備を万端にしておくことをおすすめします。


 いきなり旅行パートが始まるRTAはーじまーるよー。

 

 さて、前回はルサールカの仲を修復したところまででしたね。

 

 今回ですが、ゲーム内ではもう5月に入っているのでゴールデンウィークを利用してリーゼルタニアに旅行に行く、という体でオーフェリアの幼馴染であるユリスに会いに行きます。「孤毒を救う騎士」の取得条件の一つである、オーフェリアとユリスの仲を修復するという条件があるためですね。

 

 一応、ユリスも中等部3年からアスタリスクに編入されるので、その時に接触することも案として考えられますが、現段階で接点もないですし、所属する学園も違うという事からファーストコンタクトまでに結構時間がかかってしまいます。それなら、アスタリスクに来る前から接点を持っちゃえ、と言うことでリーゼルタニアへと向かうことにします。リーゼルタニアでやらないといけない事もありますし。

 

 普段は海外へ向かう審査が物凄い厳しいアスタリスクですが、長期休暇や連休中は割と審査が緩いです。とはいえ、純星煌式武装(オーガルクス)であるヤンデレ剣の携帯許可など、様々な書類を通さないといけません。旅行に行く1日前に申請しても速攻で通るはずもないので、余裕を持って二週間前ぐらいには申請書を出しておきましょう。(5敗)

 

 ではさっそく申請書類を提出しに……って、おや? メスガキが何故ここに? 

 

 どこに行くかだって? え、そんなん関係ないでしょ。ほら、邪魔だからどいたどいた……って、こいつビクともしねぇ!? 離せゴラァ!! 

 

 案の定、旅行に同伴するって言ってきました。

 

 ……まぁいいですけど。人数が一人でも二人でも今回の旅だと大して変わりないですし。

 

 というか毎度毎度ですが、どこからホモ君の行動の情報を仕入れて来てるんですかね……。24時間監視されてるような気がして物凄い怖いです。ヤンデレ彼女か何かかな? 

 

 

 

 さて、メスガキが同行するという事態になりましたが、その後は書類の申請も二人分通して、なんとかリーゼルタニアに向けて出発する準備を整えることが出来ました。丁度出発前日に左手も完治したので、これで問題なく動くことができそうです。

 

 

 

 当日になったら、前日に準備済みの荷物を背負ってさっそく向かうことにしましょうか。校門の前でメスガキと待ち合わせの約束をしていましたが……おっ、来ましたね。

 

 

 

 

 

(荷物が)すごく……大きいです……。

 

 

 

 

 

 この感じだと完全に遠足に行く子供みたいにウッキウッキで準備したのでしょうね、間違いない……。まあ、荷物は適当に駅とかのロッカーに入れさせとけばいいですから大して問題ではないでしょう。この程度は想定内です。

 

 

 さっそくアスタリスクにある空港に行き10時出発の便に乗ります。

 

 向かう先ですが、リーゼルタニア…………は自前で空港を持っていないので一番近い空港があるミュンヘンへと向かいます。アスタリスクは日本の関東の近くに位置しているので、飛行機使っても結構移動時間は長いです。およそ、半日といったところでしょうか。機内で適度に睡眠をとっておきましょう。

 

 

 

 ミュンヘン空港に到着したら、15時頃と丁度お昼の時間帯になっています。ここで留まる用もないので高速鉄道を利用してリーゼルタニアへ。リーゼルタニアの位置はドイツとオーストリアの国境にあるので所要時間は大体1時間から1時間半といったところでしょうか。首都であるストレルに着いたら大体17時ちょっとと日も暮れるような時間帯になっています。

 

 夜遅くに目的地に行ってもユリスに会えず意味がないので、駅近くのホテルで2部屋取って泊まることにします。金に関しては鳳凰星武祭(フェニクス)に優勝した事で、学園側から報奨金をもらっているので困ることは無いです。金よりも旅の疲れが取れるようにぐっすり眠れる事の方が大事です。

 

 宿を取ったら適当にレストランで夕食を取って、各々部屋に別れて寝ることにしましょう。

 

 え、そういえば同室じゃないのかって? シルヴィと一緒に旅行してるわけじゃないので、(同室にするメリットが)ないです。男女が同室でキャッキャうふふするシーンをご期待してた視聴者諸兄には申し訳ないですが、この旅行中、そんなことは起こり得ないです。

 

 そんな補足を挟んだところで就寝の時間になったのでさっさと寝ることにしましょう。おやすみなさい。

 

 

 

 

 

 …………

 

 

 

 

 

 ゆうべはおたのしみでしたね

 

 

 

 と、まあそんな冗談はさて置き、泊ってるホテルで朝食を食べたら、まずは観光地を回ることにします。何も知らない未プレイの人からしてみれば観光なんて時間の無駄じゃないか、と思うかもしれませんが『孤毒を救う騎士』取得のためのストーリーを進めるフラグとなるので、必ず指定されたスポットを全て巡りましょう。

 

 ゴールデンウィークは5日間なのですが、おおよそ全ての観光地を回るのに大体2日とちょっとはかかります。はぁーめんどくせ、まじで。まあ、イベントの長さに文句を言っても仕方が無いのでさっさと観光地巡りへと出発です。

 

 

 

 少女観光中……

 

 

 

 倍速中に日数がいくらか飛びましたが、とりあえずこれで観光パートは終わらせました。

 

 内容はまあお察しの通り、メスガキがホモ君を引っ張りまわして観光地を回るといういつも通りの光景が海外に変わっただけです。アンタたち、ホントに仲いいわね。

 

 

 観光地巡りも終わって、残る要件はユリスと接触するだけですね。

 

 その前に、お昼になったので近くにある湖の畔でランチをすることにしましょう。丁度来た時期が時期なので暖かく、ピクニックにぴったりの陽気ですね。あらかじめ街の方で買っておいた弁当などを広げることにしましょうか。

 

 

 おっと、どうやらメスガキがレジャーシートを用意していたようで、芝生の上に敷いてくれたみたいです。ついでにお茶なども水筒に入れていたようでホモ君の分もあるようですね。

 

 

 

 まるで新婚旅行みたいじゃないか、たまげたなぁ……。

 

 

 

 こんな場面、シルヴィに見られてたらNice boatされる自信がありますね、はい。

 

 といっても、普通に今回はアスタリスク内で生徒会やアイドルの業務に追われているらしいので鉢合わせるなんてことは確実にありません。安心して旅行できますね。(ニッコリ)

 

 そうこう言っている間に昼食も食べ終えました。

 

 丁度、時間も良い頃なのでユリスに会いに行くことにしましょう。目指す場所は彼女の住む王宮……は入れる訳がないので、彼女が足繁(あししげ)く通っている孤児院ですね。

 

 さっそく孤児院の方へと向かうことにしましょう。孤児院は湖沿いにあるのでランチを食べていたここから割と近くです。

 

 孤児院は貧民街に位置する場所に建ってありますが、物乞いや窃盗などとのエンカウント率は低いです。孤児院は教会が運営していることもあり、流石に教会の目と鼻の先の場所で犯罪はしづらいという事情があるのでしょう。

 

 歩いて十分ほどすると見えてきましたね。孤児院です。目的の人物であるユリスも庭で子供たちと鬼ごっこして遊んでいるみたいです。通りかかった風を装って中にいる子供たちに入れてもらうことにしましょうか。しばらく中にいる子供たちを無表情で見つめるという下手したら事案じみた行動を取っていると、孤児院の子達がどうやらホモ君達に気づいたようですね。ユリスに声をかけたみたいで彼女も気づいたみたいです。

 

 とりあえず悪い人物でないことをアピールしておきましょう。

 

 ぷるぷる、ぼくわるい星脈世代(ジェネステラ)じゃないよう。

 

 って、あっぶえ!? 

 

 いきなり設置型能力で骨も残さず燃やし尽くそうとしてきましたね。まあ、彼女の過去の経験が経験だけに普通に想定していることではありましたが、鳳凰星武祭で顔を売れているから大丈夫かもという希望的観測は少し甘かったようですね。

 

 不穏な雰囲気になりつつある孤児院ですが、騒ぎを聞きつけてきたシスターがやってきます。シスターは優しい人なので、冷静じゃないユリスを宥めた後、観光に来てたホモ君達を普通に歓迎してくれます。さすが年長者なだけのことはありますねぇ! 

 

 さてさっそく中へ……ありゃメスガキがユリスに用があるから先に行っとけと言われましたね。先にシスターに事情を話しとかないといけないので好きにさせておきましょう。

 

 メスガキ達を置いて、孤児院の中に入ると談話室らしきところでシスターから事情を聞かれます。普通に旅行でたまたま立ち寄った旨を伝えることにしましょう。

 

 ……おっと、窓ガラス越しにメスガキとユリスが決闘してるのが見えますね。流石に建物があるのでお互いに星仙術や《魔女》の能力は使っていないみたいですが。

 

 ユリスですが、原作の王竜星武祭まで行くと、限定的に世界最強クラスになりますが、現時点ではそこまで強くありません。へっぽこ王女さまです。

 

 ホモ君のあずかり知らぬところでなにが起こったか知りませんが、まあ孤児院のシスターとの話が終わるまで時間がありますし、メスガキの成長を確認するためにも勝手にやらせておきましょうか。

 

 建物に被害が出ない透明化の星仙術を使うのか……と思われましたが、透明化なしで戦うみたいですね。舐めプなのか、相手の心を折るためなのか、理由は不明ですがメスガキの名に恥じない性格の悪さですね。

 

 水派に所属する彼女ですが、鳳凰星武祭の経験からか近接格闘術にもある程度手を出しているようで割と筋は良いので、実戦に耐えうる完成度にはなっています。

 

 それにしても、鳳凰星武祭の決勝を経験してからは戦闘の組み立て方にほぼ隙は無くなっていますね。さすがに格上相手にはそのわずかな隙が致命的になってくるのですが、現時点ではこれで十分です

 

 この感じだとユリスは持って1分半といったところでしょうかね。現時点ではユリスはまだ星導館所属の生徒ではないため、相手が降参するまで続ける方式を取っていることからもう少し試合が長引く可能性もありますが。どちらにせよメスガキの勝利は明確でしょうね。

 

 

 

 

 

 …………

 

 

 

 

 

 うわぁ……。(ドン引き)

 

 物凄いねちっこくいたぶるじゃないですか……。

 

 どんだけユリスに敵意抱いてるんですかね。さっきの辻放火の事で怒っているんでしょうが、にしたってと思うんですけどねぇ。原作でも水と油みたいな雰囲気だった二人ですが、メスガキの性格が改善した今回もあまり良好な関係にはならなそうですね。というか、あまりこの二人が良好な関係になるような世界線はお目にかかれないです。

 

 ようやく決着したようで、ユリスたちも孤児院の中に入ってきましたね。和解は済んだのか、さっきまでの嫌悪感漂う雰囲気は無くなっています。話がスムーズに済むのでこれはありがたいです。

 

 では、やっとお話のテーブルについてくれたことですので、適当にホモ君達の旅の経緯を語りながらその途中でオーフェリアの名前を出すことにしましょう。すると、ユリスが物凄い勢いで食いついてきます。

 

 ホモ君とオーフェリアの関係性とか色々問われますが、たまたま知り合ったと言っておきましょう。オーフェリアが交友関係を持っていることに驚くユリスですが、意外と話せば分かるタイプ(ただし強くなければ話す前に死ぬ)ということを語ると、親友の理解者がいることが嬉しいのかユリスは少し微笑みを見せてくれます。

 

 さて、ここからが本題です。オーフェリアの過去について質問すると、彼女は昔は花が大好きな普通の女の子だったものの、孤児院の資金難で身柄を研究所に引き取られることになったとユリスの口から語ってくれます。

 

 オーフェリアの過去を知ることは『孤毒を救う騎士』取得のキーとなってくる部分で、この話を聞くことは絶対に必要です。そうしないとオーフェリアとの関係性を進めることができなくなります。

 

 しばらくは原作の方でも聞いたような話をダラダラと話しているだけなので、倍速で飛ばすことにします。その間に視聴者サービスでロリ時代のユリスの写真でも見ましょうか、ね……? 

 

 

 

 

 

 おファッ!? なんでホモ君のパッパが写真に写っているんですかね。しかも不愛想な顔をせず、笑ってますし。別人じゃないかというレベルの落差ですね、これは……。おそらく隣にいるのはホモ君のマッマでしょうか。実家には写真の類が一つも無かったので顔が分かってませんでしたがめちゃ美人っすね。

 

 ホモ君が写真に驚いてる様子にシスターが気づいたみたいですね。

 

 

 

 ……なるほど、パッパが新婚旅行か何かで来た時にたまたまこの孤児院と接点を持ったと……。パッパがこんな感情豊かそうな人間だということは驚きましたが……まあ、既に死んじゃってる人間の事ですし、興味ないね。

 

 

 

 ん、渡したいものですか? なにやらシスターが部屋から立ち去ったと思えば綺麗にファイリングされた紙を持ってきました。どうやらくれるみたいですが……楽譜でしょうか? 

 

 なんかホモ君のマッマが作詞したらしい曲を貰いましたけど、どうしたもんですかね、これ。

 

 とりあえず、次のシルヴィの誕生日プレゼントにでもしましょうか。大体の曲のデータを持っているシルヴィには音楽関連のプレゼントは不適なのですが、流石にホモ君のマッマが自作したオリジナル曲までは網羅してないでしょうし。ま、貰えるもんは貰っておきましょう。

 

 オーフェリアについての話が終わったら孤児院にいる子供たちと遊んであげましょう。もちろん、これもオーフェリアのイベントを進めるのに必要なことです。本当なら子供のおもりなんてしたかぁないんですが、避けられないイベントですので仕方ありません。

 

 遊んであげることしばらく。目的は達成したので子供たちに惜しまれながらも孤児院を去ることにしましょう。この時、ユリスの連絡先を手に入れることは忘れないように。そうしないと今後ユリスとの接触が難しくなります。(出来ないとは言ってない)

 

 

 オーフェリア関連のイベントを終え、ようやくアスタリスクへと帰国ですね。帰る前にリーゼルタニアのお土産屋でシルヴィアとエルネスタ、オーフェリア、後は何人分かお土産を買って帰ることにしましょう。無くて困ることはあっても、ありすぎて困ることは無いですし。

 

 あとは、空港まで行ってアスタリスクまで飛行機に乗って帰るだけなので倍速をかけてます。

 

 メスガキも流石に長旅で疲れたのかぐっすりと寝てるようなのでホモ君も寝ることにしましょう。

 

 

 

 …………

 

 

 

 長い事飛行機の中で揺られてましたが、ようやくアスタリスクに到着です。

 

 とりあえず、星武祭前にやっておくべきイベントは一通り済ませることが出来ました。これからは獅鷲星武祭(グリプス)に向けてチームを鍛えていくことに──

 

 今回はここまで。ご視聴ありがとうございました。

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

裏話21 リーゼルタニア

実に約半月ぶりの投稿です。大変お待たせしてしまい申し訳ないです。

久々のメスガキメイン回なので初投稿です。


 アスタリスクは地理的には日本の北関東のクレーター湖にあるため、祝日も日本に寄せて設けられている。よく、その例として挙げられているのがゴールデンウィークで、欧米圏などの地域で過ごしていた星脈世代(ジェネステラ)はアスタリスクに入って一年目に、この長期休暇に少し困惑するというのはよくある話の一つだった。

 

 そんな長期休暇ということもあって学生たちが海外へ旅行や帰省に行くことも珍しくなく、基臣もその例に漏れず旅行へ行こうという口だった。

 

「まさかお前がついてくるなんて思いもしなかったな」

 

 旅行先であるリーゼルタニア……の近くに空港を持っているミュンヘンへと向かう飛行機の機内。

 

 隣に座る沈華にそう声を掛けると、少しムスッとしたような表情で基臣を見る。

 

「何、文句ある?」

 

「いや。せっかくの長期休暇なのに、俺と一緒に旅行なんて楽しくないだろうにと思ったから意外だっただけだ」

 

「ふん……っ」

 

 少し不貞腐れたような表情で顔を背ける沈華だったが、その表情とは裏腹に内心では嬉しそうな感情が現われている。

 

 表面上の突き放すような物言いをする面と内心の嬉しそうな顔を覗かせてくる面のギャップがあることを理解し、上手く折り合いをつける。その心得をこの一年である程度理解していたため、基臣と沈華は親友以上に互いの適切な距離を上手く取る事ができていた。

 

 

 

 

 

 最初の3,4時間ほどは色々と世間話をして暇を潰していた二人だったが、途中からやることもなく沈華は眠りにつくことにし、基臣は星露から指示されていた特訓内容をイメージトレーニングで行う。

 

 そして何事もなく時間は進み、機内で過ごすことおよそ半日。ようやく目的地であるミュンヘンの街並みが見えてくる。

 

「ようやくか……。おい、沈華(シェンファ)。もう少しで空港に着くぞ」

 

 長いこと機内にいたことで、スヤスヤと可愛らしく寝息を立てて眠りについている沈華の肩を揺すると、ゆっくりと瞼を開けて寝ぼけているのか周りをきょろきょろと見回す。

 

「……ん? なぁにぃ?」

 

「じきにミュンヘンに着く。用意はしておけよ」

 

「んぅー……分かった」

 

 声をかけて間もなく、飛行機が着陸態勢に入って着地の衝撃が身体を揺さぶる。その衝撃で目が覚めたのか沈華がひゃぅっ!? と可愛らしい声を漏らす。

 

 飛行機が着陸し、基臣達はミュンヘン空港に到着。手荷物受取場で沈華の荷物を受け取った後に入国手続きを済ませて、晴れてドイツへと入国することになった。

 

 空港を出ると、時刻は丁度15時。

 

「思っていたより暖かいわね。この分だと念のために用意した厚着はいらなかったかしら」

 

「今は真昼だから暖かいが、ここはアスタリスクよりも3度から4度程気温が低い。朝方から昼にかけては寒いから無駄にはならないはずだ」

 

「随分とリサーチしてるじゃない」

 

「友人に聞いただけだから、受け売りの知識ではあるがな」

 

「ふーん」

 

 何か探ってくるような視線を沈華から向けられるが、オーフェリアの事を話すと間違いなく学園祭の時のシルヴィアの二の舞になる未来が見えていたので気づいていないふりをして地図を見る。

 

「ここに用があるわけでもないし、さっさと高速鉄道に乗るぞ。いきなりストでも起こされて足止めは食らいたくは無いからな」

 

「……分かったわ。いきましょ」

 

 二人は近くにある駅から高速鉄道に乗り、リーゼルタニアの首都ストレルへと向かっていった。

 

 列車の中から自然豊かな景色を楽しむと、ほどなくして二人は目的の場所までたどり着く。

 

 日も沈み始める頃になっていたため、既に予約をしているホテルへと基臣達は向かう。

 

「予約していた誉崎だが」

 

「誉崎様ですね。予約コードを拝見してよろしいでしょうか」

 

 端末を操作して、ホテルの予約をした本人である事を証明するコードを表示する。

 

「シングルのお部屋を2部屋でお間違いないですね」

 

「ああ」

 

「では、こちらをどうぞ。お部屋は806号室と807号室にございます」

 

 予約していた名前が名前なだけに何かしら言われるのかと想定していた基臣だったが、そこはプロ。特に言及することなく手続きを進めたため何の問題もなくホテルのチェックインを終えた。

 

 ルームキーを2組分渡されると、ホテルスタッフに荷物を部屋まで運んでもらうことにした二人は時刻も19時に迫っていたこともあり、夕食を先に食べることにした。

 

 ホテル近くにあるレストランに向かうと、観光客や富裕層向けということもあってか人はまばら。ホテルの時もそうだが金に困ってはいないのでとりあえず各自好きな料理を注文することにした。

 

 しばらくすると料理が運ばれてきたので食事を取りながら、今後の予定について話をすることに。

 

「とりあえず、ここには3日ぐらい滞在することになるから持ってきてない生活用品は帰る途中に買っておくか」

 

「ええ、そうね」

 

「「…………」」

 

 そのまま夕食を食べていた二人だったが、いきなり料理を食べる手を止めた沈華はジッと基臣を見つめる。

 

「…………それよりも昼間にあなたが言ってた友達っていうのは誰のことかしら」

 

 いきなり昼間の話を蒸し返されてしまい、基臣の口が閉じる。

 

「……言わなきゃだめか?」

 

「できれば言ってほしいわね」

 

 できれば、と口にしたもののその威圧感は明らかに吐けと言わんばかりの圧。ずっと隠し立てできるものでもないかと思った基臣はその圧に屈することになった。

 

「……孤毒の魔女(エレンシュキーガル)。オーフェリアだよ」

 

「孤毒の魔女って、あの王竜星武祭の?」

 

「ああ、ご想像の通りだ」

 

 少しご機嫌斜めな様子の沈華に、思っていた通りの反応をするなと基臣は内心思った。こういう時の機嫌の取り方は決まっている。

 

「ほら、機嫌直してくれ」

 

「ん」

 

 沈華の頭を撫でる。普通考えれば恋仲関係を疑われてもおかしくない行動なのだが、彼女が催促してくるため基臣も断るに断り切れない。実際、頭をしばらく撫でているだけで機嫌が直っていくのだから仕方がないと途中から割り切っていた。

 

「そろそろいいか」

 

「んっ……! まだだめ」

 

(前はこんなに接触を求めてくるような性格ではなかったはずだがな……)

 

 鳳凰星武祭が終わって以降、身体的な接触を求める回数が目に見えて増えてきている。前も、他の学生たちの目の前で料理を食べさせられるという事があったばかりなので正直な所勘弁願いたいと内心思う基臣。

 

「ほら、夕食食べてる最中なんだからそろそろ離すぞ」

 

「あっ……」

 

 基臣が手を頭から離すと、沈華は少し不満げな声を出したが周りに客がいることもあり自重した。

 

(もっとしてほしかったのに……)

 

 その後、リーゼルタニアの食材を堪能した二人は帰途の途中にスーパーに立ち寄って水や最低限の物を買ってホテルに帰宿。それぞれの部屋の前で二人は解散し、一日目を終えることになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 人々が床につき始める時間帯。

 

 寝る前に聞きたいことが出来た沈華は電話で聞くよりもと思い、部屋に直接出向いていた。

 

「ちょっといいかしら」

 

 ドアを2,3回ノックして中にいる基臣に呼びかける沈華。

 

「基臣?」

 

 ドアをノックして確認を取ったものの一向に反応が返ってこない様子にどうしたものかと思っていると、沈華はスペアのカードキーを渡されたことを思い出す。

 

「入るわよ」

 

 カードキーを通した後、ノブを回してドアを開けると部屋の中に入った沈華。部屋には明かりはついていたが、沈華が入ってきたことに対して基臣から反応が返ってこない。ベッドのある場所まで歩を進めると外出着のまま着替えずに横になっている基臣がいた。

 

「まったく……呆れて物も言えなくなるほどね」

 

 雑な生活っぷりに呆れていた沈華だったが、よく見ると基臣の顔が苦悶に満ちていることに気づく。

 

「……基臣?」

 

 明らかに様子のおかしい基臣に近づいて様子を見ると、うわ言を呟きその額からは汗がびっしょりと出ている。

 

「生まれてきてごめんなさい……ごめんなさい……」

 

 どんな夢を見ているのかは伺うことは出来なかったが、少なくとも良い夢を見ているわけでは無いという事だけは見ているだけで分かった。

 

(1年も一緒にいるけど私、基臣の事をほとんど何も知らないものね……)

 

 鳳凰星武祭で周りからバッシングを受けた時も、彼女には基臣が"誉崎家"という一族の名を持ったせいで厄介事に巻き込まれてしまったという程度の知識しかない。実際には彼がどういう過去を送っていたのかについてはほとんど知らなかった。

 

「本当に痛々しい傷……」

 

 頬に出来た刀傷は鍛錬の最中に出来たものと基臣は語っていたが、通常の鍛錬で出来るようなレベルの傷の深さだとは思えなかった。そっと優しく触れると、ピクリと反応したがすぐに落ち着く。

 

 心なしか若干震えているような様子で寝ている基臣の手を安心させるように両手で優しく包み込む。

 

「安心しなさい、私がずっとついているから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぅん……?」

 

 カーテンの間から差す僅かな陽光によって、基臣は目を覚ます。

 

「またあの夢か……」

 

 父に蔑まれ、虐待に等しい指導を受けていたあの頃の記憶。

 

 前から見ることはあったが、ここ最近は()()()その頻度が増えているような感じがしていた。

 

「はぁ…………」

 

 ベッドから抜け出し、シワシワになっていた服を纏めるとそのまま洗面台へと向かい顔を洗う。

 

「酷い顔だな、全く」

 

 洗面台の大きな鏡に映るその顔は疲れたような顔をしている。

 

 といっても、いつもに比べて幾分かマシに感じたその顔を水で洗いスッキリとさせる。

 

 洗顔し終えて、身だしなみを整えると最低限の荷物を手に取り部屋を出る。

 

 丁度起きたのか、沈華も同じタイミングで隣の部屋から出てくる。

 

「あ」

 

「お」

 

「……おはよ」

 

「ああ、おはよう」

 

 妙にぎこちなさを感じる沈華の挨拶に若干違和感を感じたが、一々気にすることも無いかと基臣は思考を打ち切る。

 

 その後、部屋を出た二人はモーニングをホテルで取った後、リーゼルタニアの街並みを歩きながら見回っていた。

 

「今まで海外に旅行する機会が無かったから、こういう風に異国の街並みを見るのは新鮮な気持ちになるな」

 

「そうね。私も故郷とアスタリスクの街並みしか知らないから、こういう所に来たのは初めて」

 

 朝市が開かれているのか、午前早くであるにも関わらず多くの人が街を出歩いている。店も活気があり、リーゼルタニアは貧富差が激しいという前情報の割には賑わいを見せていた。

 

(あくまで街の一側面しか見ていないからなのかもしれないがな……)

 

 

「おーい、そこの兄ちゃんたち!」

 

「……ん? 俺達のことか」

 

 横の方から声がしたので向いてみると、何かを売っているのか店から60代ぐらいの老人がこちらに手招きをしていた。

 

 無視する理由も無いので、二人は近づいてみると店にはアクセサリーの類が並べられており、どれもハンドメイドを思わせるような手作り感を感じさせる。

 

「あんたらまるで夫婦みたいだな。もしかしてもう結婚してんのかい」

 

「ふ、夫婦!?」

 

「……ただの友人だ」

 

「そうかい。仲睦まじいもんだから勘違いしちまったもんで、すまねぇな。そうそう! 友人だっつぅならこういうのはどうだい。今頃の若いもんたちに……」

 

(ふ、夫婦って……)

 

 話に耳を傾けることなく、今しがた老人の言った言葉を反芻(はんすう)する沈華。

 

(夫婦ってことは、基臣と私が結婚……)

 

「……おい」

 

(でもでも、別にまだ付き合ってるわけじゃないし……。いきなり結婚なんて……)

 

「おいったら」

 

「へ?」

 

 沈華の口から間抜けた声が漏れ出る。

 

「ここの特産品を使ったアクセサリーらしいぞ。旅行に来たんだ、どうせなら何か買っていくか?」

 

「え、ええそうね」

 

 基臣に肩を揺さぶられ、正気を取り戻した沈華。少し冷静さを取り戻した沈華は老人から話を聞き、結局基臣と対になる首飾りを買う事にした。

 

「嬢ちゃんも苦労してるみたいだけど頑張りな!」

 

 そんな中、沈華の心中を察していたのか老人もこっそりと応援をしてくれた。

 

 なんでも沈華たちが買った首飾りは、昔から伝わる伝統的なアクセサリーらしく、対となる首飾りを持っている者と末永く結ばれるという言い伝えがあるのだとか。

 

 

 

 その後も街中を練り歩いては色んな店で商品を覗く二人。

 

 途中に鳳凰星武祭優勝したペアであることに気づかれ、大騒動になりかけるというアクシデントもあったがどうにか人の目を掻い潜ることに成功。街にいるのは目立つということで人があまり多くない観光地を巡ることになった。

 

 リーゼルタニアは昔、旧王家の領地だったということもあり、狭い国土でありながら宮殿や古城などの文化遺産や河川や湖などの自然遺産が豊富にあった。

 

 それらの遺産を2日程かけて巡っていき、普段の鍛錬の日々を一時ではあるが忘れて楽しむことができた。

 

「良い景色だな」

 

 一通り観光地を巡り終えた基臣達はリーゼルタニアの王が住まう王宮が見える池に来ていた。

 

 池の畔には人もいないため、ランチを取るにはうってつけの場所だった。

 

「レジャーシート敷くから。ほら、どいてどいて」

 

「おっと、すまん」

 

 バッグから取り出したと思わしきレジャーシートを敷くと、カバンの中から色々と物を取り出す沈華。その徹底している準備に基臣も少し感心する。

 

「随分と用意がいいな」

 

「こっちに来る前に準備してたのよ。はい、お茶」

 

「助かる」

 

 てきぱきと準備している沈華からお茶の入ったコップを受け取ると、湖を眺めながら飲む。

 

「ここの自然は見ていて飽きないな。実家を思い出す」

 

「実家は田舎なの?」

 

「あぁ、周りはほとんど畑と山ばかりで何もなかったが空気は綺麗だった。……といっても鍛錬の日々だったからそんなことをあまり気にする余裕もなかったがな」

 

「へぇ……。はい、お弁当」

 

「ああ、すまない」

 

「それじゃあ、食べるわよ」

 

「「いただきます」」

 

 昼食を食べながら基臣は一人考える。

 

 ──強くなければ、誰一人守れない。その事を努々(ゆめゆめ)忘れるな

 

 父が何度も重ねて言ってきた言葉を頭の中で反芻する。

 

 

 

(強くならなければ……。それしか俺は父に期待されていない)

 

 

 

(それしか……それだけしか……)

 

 

 

「だめ」

 

 いきなり横から手を引かれた基臣はハッと思考を中断させられる。

 

「今度そんな顔したら引っ叩くから」

 

 沈華の瞳が基臣をしっかりと見つめる。まるで心の中を見透かすようなその瞳に思わず基臣は息を呑む。

 

 何故だか基臣自身にも分からなかったが、さっきまで考えていた事が嘘のように頭から消えていく。

 

「……ああ、分かった」

 

 これ以上、考え続けていたら宣言通り引っ叩かれることは想像に難くないので、基臣は何も考えずに弁当に手をつけることにした。

 

 

 

 

 

 しばらくして、昼食を食べ終え、沈華が一人で勝手に片づけ始めたので彼女に今後の予定をどうするか聞くことにした。

 

「これで大体の場所は巡ったか。後は適当に街中でも回るか? 変装すればバレないだろうし」

 

「うーん、そうね……」

 

 

 ――あはは!

 

 ――待ってー!

 

 二人で今後の予定を考えていると、基臣にだけどこからか子供たちの声が聞こえる。

 

「子供の、声……?」

 

「…………? ちょっと! どこ行くの!」

 

 制止する声に耳を傾けず、誘蛾灯に(いざな)われるかのように立ち上がってどこかへと向かっていく基臣。

 

「はぁ……」

 

 こうなってしまってはついていくしかないと嫌でも理解している沈華は弁当やレジャーシートを片付けるとトコトコと基臣の後をつけていく。

 

 途中から街並みはガラリと変わり、雰囲気が陰気臭くなって道端には時々浮浪者が壁にもたれかかっている姿が見受けられるようになった。

 

「全く……ここに何の用があるっていうの……」

 

 目的地を話さずに進んでいく基臣に少し愚痴りたくなる感情を漏らしながらも、素直についていく沈華。

 

 

 

 沈華が基臣についていき歩くこと十分程、並び立っている建物の中でも一際目立つように教会と併設されている孤児院が見えてきた。

 

「孤児院か」

 

「もっと街中にあるものだと思っていたけれど、こんなとこにあるものなのね。ここに用なの?」

 

「ああ、おそらく」

 

「おそらくって……」

 

 入口から中を覗いてみると、庭で子供たちが楽しそうに遊んでいるようでその様子に沈華は微笑ましい気持ちになる。

 

 その時、孤児院の子供たちの内の一人が入り口にいる基臣達に気づく。その子が何やら赤髪の少女に駆け寄る。

 

「ユリスお姉ちゃん、あの人たち誰?」

 

 ユリスと呼ばれたその少女は子供に言われて入口に目を向ける。

 

「お前は誉崎……!!」

 

 ユリスの基臣を見るその顔は嫌悪に歪む。

 

 ほとんどの人間は基臣の悪い評判を忘れただの星武祭優勝者として見ているが、一部にはいまだにそう見ることの出来ない人間もいた。

 

「むっ」

 

「綻べ! 栄裂の炎爪華(グロリオーサ)!」

 

 事前に相手の行動を察知した二人はユリスの設置型能力を余裕を持って躱す。

 

「立ち去れ! でなければ次は外さん!」

 

 自信の悪評だけではない何かが彼女を激しい怒りに飲み込ませている。何が彼女をそこまで怒らせたのかは基臣にも正確な所は分からなかったが、二人の間に筆舌に尽くしがたく重苦しい空気が流れる。

 

「そうか、邪魔したな……」

 

 とてもではないが、孤児院に立ち寄れる雰囲気ではないことを理解し、残念だとは思いながらも基臣はそのまま足早に立ち去ろうとする。

 

「待って」

 

「……沈華?」

 

 孤児院の前に立ったままの沈華に、どうしたのかと基臣は振り返る。

 

「何をしているのですか! いきなり人に能力を使うなんて」

 

「シスターテレーゼ……っ」

 

 庭に老年の女性の声が響く。孤児院の子供たちに事のあらましを聞いていたのか慌てて駆けつけてくる。

 

 流石にこの状況で基臣に攻撃するほど気持ちが高ぶっていなかったようで、ユリスもシュンとした様子で立っている。

 

「失礼をしました、旅のお方。お怪我はありませんか?」

 

「いや、大丈夫だ。こちらこそ用もないのに不躾に中を見てしまってすまない」

 

「いえ。……ここで話をするのもなんですから、中にお入りください」

 

 穏便に話が進んでいく二人だったが、沈華がテレーゼに話かける。

 

「少し彼女をお借りしてもいいですか?」

 

 ユリスをチラリと見た沈華の意図を察したテレーゼは軽く頷いた。

 

「……分かりました。ただ、彼女もまだ星脈世代としては未成熟。あまりやりすぎないであげてくださいね」

 

「もちろん承知しています」

 

 ユリスと沈華を残して、他の者は全員孤児院の施設内へと入っていく。

 

「……それで、私に何の話がある」

 

「あなたの立ち去れっていう要求聞いてあげるわ」

 

 その代わり、と言うと荷物を地面へと置く。

 

「私に勝てたら、という条件だけれども」

 

 ユリスにとっては何をしに来たか分からない馬の骨を追い出せる絶好の条件。その提案に彼女は首肯する。

 

「……分かった。その申し出、受けよう」

 

 その言葉を機に二人は距離を取る。沈華は無手でいるのに対し、ユリスは煌式武装(ルークス)を起動する。

 

「場所が場所だから攻撃系の能力の使用は禁止だ」

 

「構わないわ」

 

「私が勝ったらお前たちに立ち去ってもらう。逆に、お前が勝ったら私は何をすればいい」

 

「別に。私からは何も要求しないわ」

 

「……どういう意味だ」

 

 訝しむ様子のユリスに、髪を纏めていた沈華は自身でも驚くぐらい冷めた顔をして淡々と答える。

 

「勘違いしてるみたいだからあらかじめ言っておくけど、これは決闘じゃないの」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「教育だから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「行くぞっ!」

 

 ユリスは土を踏みしめて一気に駆けると、一瞬のうちに10メートルはあった間合いを詰める。

 

「はぁぁ!!」

 

 細剣型の煌式武装で何度も刺突するが沈華はそれを敢えて紙一重で全て回避する。

 

「っ、ッ! ふざけているのか!!」

 

「…………」

 

 全力で腕を振るいその刃を当てようとするが、空気を裂く感触しかユリスの手に伝わらない。

 

 決してユリスが弱いわけではない。ただ、以前に鳳凰星武祭の映像を見ていた彼女は勘違いをしていた。

 

 沈華の後方からの支援力は目を見張る物があるのは確かだが、接近戦においては粗があるとユリスは感じていた。だからこそ、こうして1対1のシチュエーションに持っていければ勝ちの目は五分はあるだろうと思っていた。

 

 

 だが、蓋を開けてみれば接近戦においても隙はなく、むしろ後方支援抜きにしても冒頭の十二人(ページワン)入りできる程の実力。

 

 ユリスに疲労が見え始めた頃から、沈華は徐々にいたぶるようにカウンターを仕掛け始め完全に決闘は沈華の優勢になっている。

 

「くっ!」

 

 ユリスは星脈世代の中でも上から数えれば早い程のポテンシャルを身に秘めている。しかし、王族という立場上仕方のない事というべきか、そんなに戦闘の経験を積めていない。そんな彼女は戦い慣れしてる人間からしてみれば喋るサンドバッグに過ぎなかった。

 

 満身創痍と言ったような状態にまで追い詰められたユリスは、目立つような怪我は無いものの、立っているのがやっとのレベルまで疲労が蓄積していた。

 

「まあ筋は良いとは思うわ。精進なさい」

 

「まだだ……っ! まだ私は!」

 

 最後の一矢報いようとする攻撃に、無情にも沈華は足払いしてユリスを転倒させることで無理やり中断させる。

 

「ガッ!?」

 

 地面に勢いよくぶつかり、肺の軋むような痛みに顔を顰めたユリス。更に追い打ちをかけるように彼女の背中に足を置いて動かないように体重をかけて固定する。

 

 見下すような体勢で見ていた沈華にユリスは見上げるような姿勢で睨みつける。

 

「人に噛みつかんばかりの気概は良いけれど、これで終わりよ」

 

「ケホッ、なんで……」

 

「私が遠距離主体の道士だからって、貧弱な小娘だと勘違いしてない? あまり鳳凰星武祭の時は肉弾戦はしなかったけれどもそんなにヤワじゃないわよ、私」

 

「私も鍛えているはずなのに……っ」

 

「《魔女(ストレガ)》や《魔術師(ダンテ)》によくあることだけれども、能力が強力である事が多いから無意識に能力ありきの戦い方をしてしまう。そんなあなたに何回戦っても私は負けないわ」

 

「っ……!」

 

 悔しそうな顔をするユリスに沈華は続けて追い詰めるように言葉を紡いでいく。

 

「今、能力を使えればって思ったでしょ」

 

「っ!?」

 

「図星ね。全く、素直すぎるというかなんというか……。ほら」

 

 沈華は動かさないようにユリスの身体を固定していた足を除けると、一歩引いた。

 

「どういう……?」

 

「あなたのご自慢の《魔女》の能力を使ってきなさい。そうじゃないと後味悪いわ」

 

「それでは孤児院が!」

 

「安心なさい。ちゃんと守ってあげるから」

 

 迷いなく断言するその態度にユリスもこの決闘で沈華の実力を信頼したのか、ゆっくりと立ち上がると距離を取って彼女の真骨頂である《魔女》の能力を発動させる。

 

「……後悔するなよ。咲き誇れ! 呑竜の咬焔花(アンテリナム・マジェス)!」

 

 ユリスの前に魔法陣が浮かび上がり、炎にその身を包んだ竜が姿を現わす。優に人間の身長を超えるサイズのその竜は甲高い雄叫(おたけ)びを上げながら、地面を焦がして沈華へと飛翔していく。

 

「ふぅん……」

 

 そのまま炎竜は沈華の元へと到達し、一瞬の閃光の後に火炎がその場を焼き尽くして煙が立ち昇る。

 

 久しぶりに使う大規模な能力の行使に少し疲れたものの、間違いなく過去一番の出来だとユリスは確信した。

 

「やったか……!」

 

 立ち昇っていた煙が徐々に晴れていくとそこには何一つ怪我をしていない沈華がいた。彼女の宣言通り、後ろにある孤児院の入り口も一切傷ついている様子はなく、ユリスの大技を完全に防御していたことを証明していた。

 

「相手が倒れる事を確認するまで油断するんじゃないわよ……ケホッ、(けむ)っ」

 

「どうやって防御したのだ! まさか星辰力で……っ」

 

「まさか。王竜星武祭の時の孤毒の魔女(エレンシュキーガル)じゃないんだからそんな芸当できるわけないでしょう」

 

 私服の袖の中からパラパラと呪符が舞い落ちるのを見て、先ほどの攻撃を防いだカラクリを理解する。

 

「……呪符か」

 

「正解。上手い事防御できるように仕込みしてあるわ」

 

(たぶん一度きりの防御策ではない。恐らく、何度大技を出しても防がれるな。見立てが甘かったか……)

 

 圧倒的な格の違いに流石のユリスも負けを認めざるを得なかった。

 

「……降参だ」

 

 煌式武装を仕舞い、両手を上げると降参の意を示したユリス。

 

 沈華も呪符を全て収めると、近くに置いてあった荷物を拾い上げる。

 

「ま、勝ったからここには少しだけ居させてもらうわ」

 

「分かった」

 

 完膚無きまでに打ちのめされたユリスは沈華にもう何も言う事は出来なかった。

 

 孤児院に向かおうとしていた沈華だったが、歩みを止めてユリスに問いかける。

 

「ねえ、あなたが見た基臣はそんなに悪人に見えたかしら」

 

「……鳳凰星武祭の決勝の試合での暴走、あれが全てを物語っていただろう」

 

「あの時、基臣が力に振り回されていたことについては否定しないわ。だけど……ああ見えて基臣は、誰よりも相手に気を遣っている人間よ。まあ仏頂面で人慣れしてないからよく空回りするけれども」

 

 キッとユリスを睨みつける沈華。彼女から放たれるオーラにユリスは得も言われぬ恐怖を感じる。

 

「大して言葉を交えていないのに人の本質を見抜いたと言わんばかりの顔を見た時、吐き気がしたわ。非星脈世代の星脈世代虐めみたいに力による脅威しか注目せず、本人をまるで見ていない」

 

「っ…………」

 

「名前を聞いて気づいたけど貴方、仮にも一国の王女様でしょ。人の痛みを理解できないようなら、民はついてこないわよ」

 

 ピンポイントにユリスに刺さる言葉を言い残すと、沈華は孤児院に入っていった。

 

 ゆっくりと立ち上がったユリスも彼女の後をついていきながら考える。

 

 力に振り回されているのは何も鳳凰星武祭の時の基臣一人だけではない。

 

 今もなお、《魔女》の強大な力に踊らされているオーフェリアもその一人なのだ。つまり、基臣を否定することは、オーフェリアを否定するに等しいと言えた。

 

(私は浅慮な事を……っ)

 

 自分の浅はかさに嫌になりながらも、ユリスは足を止めない。それが基臣に対する贖罪にならないことを理解しているのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 基臣はシスターテレーゼに孤児院の中で一通り事の経緯を説明していた。その話の途中に、ユリスがこの国の王女であることを教えられ少し驚かされる──あのお転婆な性格を含めて──という事があったものの、ユリスと沈華による決闘が終わるころには全て話が済んでいた。

 

「映像で少し見たことがありますが、まさかここまで強いとは」

 

「沈華は今や界龍内でも一二を争うレベルで成長している。リースフェルトが勝つにはもう何年か研鑽が必要だ」

 

「ユリスも彼女との決闘で何か学び取る物があればいいのですが……」

 

 二人がユリスと沈華の決闘についての感想を言い合っていると、部屋に沈華とユリスが入ってきた。すると、いきなりユリスは基臣の前へと立つ。

 

「誉崎」

 

「ん、なんだ?」

 

「あの時、お前を貶めすような言動をしたこと。すまなかった」

 

 精一杯の謝意を表すために、腰を折り曲げて謝罪するユリス。沈華を一瞥するとなるほど、反省を直接促すという程ではないが彼女がユリスに謝罪させるように何か仕組んだのだろうことが伺えた。

 

 そもそも、いきなりの訪問で場をかき乱したのはこちら側であり、先ほどの高圧的な態度も仕方なしと基臣は思っていた。

 

「別に気にしていない、が……それじゃお前の気が済まんだろう。立ったまま話すのもなんだ、とりあえず座ってくれ」

 

「……あぁ」

 

 基臣に座るよう促されたユリスは、お姫様らしく上品に着席する。

 

「まあ、なんだ……いきなりの訪問という事だったから、お前も何事かと思っても仕方ない事だろう。こちらの事情から話すことにしよう」

 

 大した話でもないがな、と前置きするとリーゼルタニア出身の友人がいて、紆余曲折ありながらも故郷について少しは話してくれる仲になったことをユリスに話した。

 

「それで、友人がこの国のことを話してくれて、それで来てみようかという事になった」

 

「ふむ、友人か」

 

「有名だからお前も知っているはずだ。星脈世代(ジェネステラ)ならオーフェリアの名ぐらい聞いたことはあるだろう?」

 

「オーフェリアだと!?」

 

 ガタっと音を立てて椅子から立ち上がったユリスは基臣に迫る。

 

「何故オーフェリアの事を知っている!」

 

 只事ではない剣幕のユリスを手で制する。

 

「落ち着け。そんなに叫べば子供たちが心配してこの部屋に来かねんぞ」

 

「うっ……すまない」

 

 指摘されて少し冷静さを取り戻したユリスは椅子に座るとお茶に口をつけて心を落ち着けさせる。

 

「いきなりどうしたかと思われたかもしれないが、実はオーフェリアは昔、孤児院にいた私の親友なのだ……」

 

 近くにあった写真立てを持ってくると、ユリスは少し躊躇した様子を見せながらも基臣たちに見せてきた。

 

「もしかしてお前の隣にいるのが」

 

「ああ、ここにいた頃のオーフェリアだ」

 

「可愛い……。今の孤毒の魔女(エレンシュキーガル)とは随分と違う印象なのね」

 

「……そうだな。初めて昔のオーフェリアを見た人間は皆そう言う」

 

 どこかユリスの語るその姿はか細く、そっと撫でるだけで消えてしまいそうな雰囲気だった。

 

「……」

 

「リースフェルト?」

 

「あいつの友人であるお前にも話しておいたほうがいいか……」

 

 ユリスの口から話されたのはオーフェリアが今に至るまでの話だった。

 

 孤児院にいたものの、孤児院の借金のために研究所と呼ばれる組織から身柄が引き渡され、そして元々は非星脈世代だったにも関わらず花に触れることのできない呪いを身に纏いながらも世界最強と名高い《魔女》になった。

 

 ユリスが入り口で基臣に対して警戒心が非常に高かったのは、過去にオーフェリアが連れていかれたという事情もあってのことだった。それでも、沈華はユリスの事を完全には許していない様子だったが。

 

 ユリス曰く、オーフェリアは身の丈に合わない異常な能力は使うごとに負荷がかかり身体を蝕んでいるとのことだった。恐らく、止めようとしても今のオーフェリアには聞く耳を持たないだろうともユリスは感じていた。

 

「私なんかがあいつの愚行を止めることができるんだろうか……。今の私にはあいつを抑え込むような力はない……っ!」

 

「一人で背負い込むな」

 

「……え」

 

「あいつの幼馴染であるお前にしかできない事がある。俺も色々協力はしてやるからそんなに悲観するな」

 

「…………ありがとう」

 

 ユリスのすすり泣く姿に、基臣はオーフェリアが少し前に話していたことを思い出す。

 

 ──……一人だけ、まだ私のことを必死に止めようと運命に抗う子がいるわ。愚かなことにね……

 

(オーフェリアが言っていたのはユリスのことだったか)

 

 

 

 

 

 それから、ユリスはオーフェリアについて知っていることを出来る限り基臣に話した。

 

「それでだな──」

 

 ユリスが思い出話に花咲かせていた中、ふと、基臣は部屋の中に飾られていた色んな写真に気が付く。

 

 孤児院の子供たちが楽しく遊んでいる写真が主だったが、その中に一際目を引かれる写真が一つ。

 

 

 

 

 

「なん、で……」

 

 その写真に釘付けになっていた基臣の様子に気づいた沈華。

 

「どうかしたの?」

 

「父、さん」

 

「……父さんって、その写真の中で立っている男の人?」

 

「ぁ、あぁ……。笑った顔なんて見たことも無いが、間違いない」

 

 写真の中で慣れない様子で笑みを浮かべる一人の男。その顔は基臣の知る父の顔と違いが無かった。

 

「名字が同じなのでまさかとは思いましたが……」

 

「シスターテレーゼ、何か知っているのか?」

 

 基臣の質問にテレーゼは重い表情ながらも口を開く。

 

「そのご様子だと、お話ししたほうが良いのかもしれませんね」

 

 全員に分かりやすいように飾ってある写真立てを持ってくると、テレーゼは説明する。

 

「その様子だと父だけしかご存じないようですけど、隣にいる方が妻、つまり基臣さんの母に当たる方です」

 

 父の隣にいる人物に目を移す基臣。

 

 腰まで綺麗に伸ばした濡羽色の髪に、全てを包み込んでくれるような温かさを感じられる顔立ち、育ちの良さを感じさせられるような所作など、女性からも憧れられるような雰囲気を持っている女性で、子供たちと楽しそうにいる様子が写真に収められていた。

 

「すごい綺麗な人……」

 

 写真からでも分かる美しさに沈華も息を呑んで見つめてしまう。

 

「この人が俺の母……?」

 

「そうですよ。新婚旅行でリーゼルタニアにいらしたとのことでしたけど」

 

「新婚旅行、となると俺が生まれる前か」

 

「母親の写真を1枚も持ってないのか?」

 

 ユリスの問いにしばらく黙っている基臣だったが、やがて口を開くと話した。

 

「……父は家族の写真を見せてくれることは無かった。家の中にもそれらしい物は無かった」

 

 基臣の重い過去にその場にいる全員が押し黙ってしまう。

 

「別にいいんだ。そもそも母が物心つく前に死んでしまったからそこまで執着があるわけではないし、こうして一目写真越しでも顔を見れただけで十分だ」

 

「誉崎……」

 

 テレーゼは何か考え事をしていた様子だったが、何事か決心したようで椅子から立ち上がる。

 

「誉崎さん、ちょっとよろしいですか」

 

「ん?」

 

 基臣に声をかけてテレーゼは部屋から出て行く。沈華とユリスは空気を察して部屋に残ったので、基臣だけが一人でテレーゼの後をついていく。

 

 彼女が連れてきたのは教会の礼拝堂らしき場所で、少し古びた状態ではあるが立派なピアノが一台置かれている。テレーゼはそのピアノの譜面台から何か紙らしきものを手に取ると、そのまま基臣へと差し出す。

 

「これを渡しておきます。私達よりもお二人のお子さんであるあなたが持っておいた方がいいでしょう」

 

「……これは、楽譜か?」

 

 手渡されたファイルを開くと手作りだが丁寧に書かれたことが分かる譜面があった。

 

「えぇ、あなたの母である澄玲さんが創作なさったものです。彼女がこの孤児院で歌ってくださった曲を一度聞いた子供たちが何度も聞かせてほしいとねだったものですから、楽譜を書き記して置いていってくださったんです。……とはいえ、これを参考にしても私たちは彼女みたいに綺麗に歌えるわけでは無いですけどね。あの人は物凄い綺麗な歌声をしてましたから」

 

 苦笑しながらテレーゼは懐かしそうにしていた。

 

「彼女の歌声を音声データとして残しておこうかとも思ってたのですが、本人が恥ずかしがってたのでこれと写真だけしか残念ながら貴方の家族に関する物は残っていませんが」

 

「良いのか? 元はと言えばこの孤児院に渡すために書いたものなのだろう?」

 

「構いませんよ。コピーは取ってありますしね。ついでにこの写真も差し上げます」

 

 テレーゼが先ほどの写真も差し出してきたので基臣はそれを受け取る。

 

「…………そうか。それなら、ありがたく頂かせてもらおう」

 

「ええ、そうしてください」

 

 せっかくの好意を無駄にしないよう、もらった楽譜と写真を一緒にもらったファイルに丁寧に入れる。

 

 ファイルを仕舞って部屋の前に戻ってくると、ふと扉の中から物音がした。

 

「ん?」

 

 何事かと思い見ると、ユリスの事を心配していた子供たちが一挙に部屋の中へとなだれ込んでいたのだ。

 

「ユリスお姉ちゃん、大丈夫?」

 

「痛い事されてない?」

 

「ああ大丈夫だ、安心しろ」

 

 取り囲まれてワイワイと子供たちから話しかけられているユリス。

 

(ユリスには守るべきものが既に見つかっているのか)

 

「……少し、羨ましく感じるな」

 

 

 

 

 ユリスと和解が済んだ基臣は沈華の提案もあり、子供たちと遊んであげることになった。振り回されることが多かったが、普段はその強さから距離を置かれることが大半の基臣にとっては自分に気を遣うことなく接してくれる子供たちは気が楽になって良かった。

 

 しばらく遊ぶと日も沈み始め、帰らないといけない時間になる。この数時間で仲良くなった子供たちが孤児院の入り口で基臣達を見送ってくれることになった。

 

「旅行に来たときはまた遊びに来てねー!」

 

 後ろから聞こえてくる子供たちの声に、基臣は振り返らず手だけ上げることで応じた。

 

「少しぐらいは振り向いてあげればいいのに」

 

「分かってる」

 

 そう言いながらも振り返らない基臣に沈華は心の中で苦笑する。

 

(全く、素直に寂しいって言えばいいのに)

 

「ほら、行くわよ。師父たちのお土産を買っておかないと」

 

「ああ」

 

 前を先導して歩く沈華についていく基臣は少しだけ後ろを振り返る。

 

「またな」

 

「何か言った?」

 

「いや、何も言ってない。行くぞ」

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

part22

獅鷲星武祭の日程を計算するためにゲームの方まで調べ上げたので初投稿です。


 いよいよ物語も獅鷲星武祭(グリプス)編に突入するRTAはーじまーるよー。

 

 前回はリーゼルタニアでシルヴィに内緒でメスガキと不倫(大嘘)したところまででしたね。ここからは獅鷲星武祭が始まるまで巻いていきたいと思います。

 

 なお、帰国後は変わり映えのない光景が続いているので倍速していますが、その途中、シルヴィにお土産を渡したとき、不倫旅行がバレていて大目玉食らいました、ハイ。どうやら私の知らないどこぞの現地民さんがホモ君達が旅行にいってることを写真付きで投稿したことが原因みたいです。まあ、デートするだけで許してくれるのでシルヴィはちょろカワですけどね。

 

 あとはホモ君の誕生日の時に、界龍(ジェロン)のチームメンバー以外にも予想外な事にヒロイン勢が揃い踏みになったせいで場はこの世のものとは思えない空気になりました。主に原因はオーフェリアだったりエルネスタ辺りなんですけどね。まあ、彼女たちは色々と一般人とは違った思考をしているので、場が掻き乱されるのは必然なんでしょう。(思考放棄)

 

 ホモ君の誕生日が終わると、日常パート中に2度目の友情イベントが発生して、前遭遇した同じ能力持ちの奴との会話が発生していますね。まあ、全くダメなイベントだったかというとそういう訳でもなく特訓を少し見てくれてアドバイスしてくれたので、能力の伸び幅がいつもよりよかったです。

 

 そんなイベントを終えて夏ごろになると、エルネスタ達に頼んでいた武装もようやく完成します。今後、アルルカントに立ち寄るのは整備と爆弾の補充の時ぐらいです。これでようやくエルネスタのからかいから解放されたと思うと楽になったような気分になります。

 

 帰るときにエルネスタが頻繁に来てほしそうな顔してましたけど、もうこんなとこ好き好んで来るかよ、ペッ! 

 

 後、オーフェリアとの交流の雲行きが怪しくなり始めました。原因は考えるまでもなく、飼い主の豚さんがホモ君との密会をしている事に勘付いたからですね。故に、この頃からオーフェリアと会う機会が減り始め、獅鷲星武祭が終わるごろにはパタリと連絡も途絶えます。そこからのオーフェリア関連のイベントの進め方は獅鷲星武祭が終わってからの解説にしようと思います。

 

 色々とイベントをこなして夏の終わりが見え始める時期。この時期に獅鷲星武祭(グリプス)のエントリーの受付が終了します。正確に言えば、8月31日ですね。そこから46日後の10月15日に始まる獅鷲星武祭に向けて最終調整をしていくわけです。

 

 この獅鷲星武祭、五人のチーム戦という性質上、エントリーが終わる最低でも半年以上前から(チームによってはそれよりも前から)連携に関する鍛錬を積んでいるので、おおよその有力候補に関する情報は大会エントリー前からアスタリスク中に流れます。

 

 そういう訳で、この時期になったら世間も誰が優勝するかと言う下馬評を出し始めるわけですね。

 

 うちのチーム黄龍(ファンロン)も本命として挙げられていますね。まあ、結構な割合のチームが隠し玉を持っているのでこの下馬評もあまり当てにならなかったりするわけですが。

 

 さて、話は変わってどんな特殊技能を手に入れることが出来たか、久々のステータス確認といきましょうか。

 

 

 

 星辰力 85  技術 545 知力 310 体力 565

 

 特殊技能 第六感 感情喪失 誉崎流奧伝 鋼鉄の体幹 神速 堅牢 強運 連携巧者 殺気隠し 先手潰し 格上殺し

 

 

 

 ステータストップクラスは500ぐらいと解説しましたが、それぞれの学園で頂点に君臨するキャラは600近くのステータスを1つだけ持ってたりします。例えば、今回の獅鷲星武祭で最警戒人物として挙げられるガラードワースのアーネストは技術が突出して高いです。技術が高いと相手との読み合いに勝ちやすかったりと色々なメリットがあるわけです。

 

 ホモ君は非常に良いステータスの伸び方してますね。オーフェリア戦の頃には技術、体力の両方とも630ぐらいまでステータスが伸びるのではないでしょうか。特殊技能も前々から言っていた殺気隠しや相手の先を潰す先手潰し、格上相手に能力が伸びる格上殺しなど良い能力を手に入れることが出来てますね。

 

 今のままでも十分に鳳凰星武祭優勝できるステータスですので、不安要素であるアーネスト率いるチーム・ランスロット戦まで如何に相手に手札を見せないかというのが大事になってきますね。

 

 

 10月に入り獅鷲星武祭もそろそろ始まろうという時期ですが、ここで1日にシルヴィの誕生日があります。丁度、リーゼルタニアに旅行に行った時にホモ君のマッマの曲を手に入れているので、それをプレゼントにします。プレゼント選定しなくていいので、時間短縮が出来ていいゾーこれ。

 

 いつも通りシルヴィのセカンドハウスでパーティーするようなので、さっそく向かうことにしましょう。時間ぴったりに着いたのでさっそくパーティーが始まりますね。

 

 プレゼントをあげましたが……凄い喜んでくれましたね。というか、母の形見ということもあってか、涙して受け取ってくれます。

 

 おそらく彼女、ホモ君が大切な形見を私のために……、みたいな考えをしているのでしょうが、私としてはそこまで大事な物ではないのでプレゼントすることに何の躊躇(ちゅうちょ)もありません。(走者の鏡にして人間の屑)

 

 パーティーのメンバーはシルヴィとルサールカのメンバー、ホモ君と去年と変わり映えのない面子です。ホモ君の誕生日みたいに泥沼のような展開にはならないのでありがたいですね。

 

 シルヴィの誕生日が終われば後はもう獅鷲星武祭に向けて準備するだけです。

 

 

 

 

 

 さあ、10月15日。獅鷲星武祭(グリプス)がついにやってきました。

 

 シリウスドームにていつも通り開会式があるので参加することにしましょう。

 

 星武祭(フェスタ)恒例の黒幕さんの演説は全スキップします。どうせ言ってる事はいつも同じだからね、しょうがないね。

 

 さて、3つの星武祭の中で一番大番狂わせが多いと言われる獅鷲星武祭ですが、そういうのがあるのは普段からの努力によって実力をつけたチームだけです。見たところ、前評判に載っていなくて大番狂わせになるチームはルサールカぐらいのもんですね。

 

 予選はあまりこちらのカードを引き出されたくは無いので、ホモ君単独で動いて速攻で相手リーダーを素手で沈めるという脳筋戦法で難無く突破しました。

 

 これによってホモ君の他チームからの警戒度は高まりますが、元々鳳凰星武祭の優勝タッグの片割れということで既に警戒度はマックスになっているので何の問題もないです。

 

 予選も終了したことで本戦の組み合わせがそれぞれの生徒会長によって抽選されます。良い組み合わせ引け! ロリババア! 

 

 

 …………

 

 

 本戦の組み合わせの抽選が終わりましたが、中々に面倒な組み合わせになりましたね……。星導館にいるクローディア以外のチームはこちらと対戦するような形になっています。準々決勝にチーム・ルサールカ、準決勝に同じ界龍のチーム・麒麟(チーリン)、決勝にガラードワースのアーネストが率いるチーム・ランスロットといったところでしょうか。はー(ロリババア)つっかえ! 

 

 こうなったら、対戦するときに相手チームに一人でも多く棄権者が出ていることを祈るばかりです。

 

 泣き言を言っている暇はないので、次の試合の相手の情報をある程度把握することに注力しましょう。

 

 といっても、本戦に入って1試合目は大した相手では無いので倍速です。本戦に入ったこともありさすがに相手のレベルも上がっているので、予選みたいな舐めプは終了し全員で対処します。チームメンバーは全員鍛え上げているので30秒もしない内に試合は終了しました。

 

 本戦からインタビューが毎試合ごとにあるわけですが、面倒くさいので沈華や沈雲、虎峰あたりに質問の応対は放り投げておきましょう。前の鳳凰星武祭の時もそうでしたが、チーム内の作戦や自分の能力などを開示することは絶対にしてはいけないので、ホモ君はそこらへんの観葉植物くんみたいに黙っておきましょう。

 

 インタビューが終わったら早速次の試合の相手を確認しましょう。

 

 本戦2試合目の対戦相手ですが、アルルカントの獅子派のチームみたいです。随分前の事なので覚えていない視聴者の方々がいるかと思いますが、part15でエルネスタ達に因縁をつけてきた奴らのチームです。

 

 さすがというべきか、獅子派はアルルカントの最大派閥ゆえに、そこそこのメンバーと技術力を持って大会に参加してきています。

 

 一応、軽く試合の映像を見てみましたが新技術を引っ張り出してきた感じでしょうか。どうやら、磁石のように引力のような力を場に発生させて自身を移動させたり相手へ超加速の攻撃を行ったりする代物ですね。リーダーが引力によって相手の追撃から逃れたり攻撃を超加速させたりして、他のメンバーが引力を上手い事用いて相手の妨害や攻撃の軌道を変え、相手を倒すと言った感じです。

 

 正直な話、RTAではアルルカント(エルネスタとヒルダ以外)は有志の方々の情報により出てくる技術が分かり切っているので、弱点や立ち回りに関する情報は普通に出回っていて脅威になることはないです。なのでアルルカントが相手の場合は基本的にボーナスゲームのようなもんですね。

 

 今回の能力ですが、相手を引力の対象とする場合、相手の星辰力が万能素とつながっている必要があるのです。相手の能力の発動タイミングは非常に分かりやすいので、発動させる瞬間に星辰力を万能素から切り離して相手の能力を封殺します。普通、星脈世代(ジェネステラ)が星辰力を万能素から切り離すという発想はしない(煌式武装が使えなくなったりと色々デメリットがある)ため、無敵の能力のように思われていたわけですね。

 

 もちろん相手チームの弱点とそれを踏まえての作戦をチームメンバーに共有することを忘れずに、次の試合へと臨むことにしましょう。

 

 試合の映像を見てみると、相手の構成は前衛4の後衛1という極端な編成ですね。しかも、リーダー以外のメンバーはそこまで上手く能力を使いこなせているわけではなさそうです。少なくとも、引力で誰もいない特定座標に移動する能力はリーダーだけしか出来ないようです。とりあえず、メンバーには星辰力を万能素から切り離して、即座に繋ぎなおす練習だけさせればよさそうです。

 

 いきなり身に纏う星辰力を万能素から切り離してすぐさま繋ぎなおすなんて出来るのかと思いますが、流石はホモ君のスパルタ調教に耐えたメンバーなだけあって虎峰以外は普通に練習するだけでコツを掴み始めました。虎峰は何とかマンツーマン指導して無理やりにでも習得させましょう。

 

 

 

 

 

 そうこうしていると試合当日になったので、待機室で改めて作戦を確認してからステージに向かいましょう。

 

 先についていた相手チームがこちらに舐めたような視線を向けてきますが無視です。こういう時に煽りに反応するような脳筋がチーム内にいなくて本当にありがたいですね。

 

 そんなこんなで試合開始です。それと同時にホモ君が相手リーダーに突っ込んでいきます。他四人は周りの奴らを引きつけといてもらいましょう。

 

 こいつらの弱点、というよりもアルルカントの弱点というべきかもしれませんが、相手は自分よりも高度な戦術や技術を使ってこないという傲慢(ごうまん)な考えを持っている節があります。

 

 故に、想定外の事象に対する適応力がものすごーく低いです。そのせいなのか、自分の能力を破られたりすると動揺して、明らかに動きがお粗末なものになるためすごく……カモです。

 

 どうやら上手い事、ホモ君の指示に従って瞬間的に星辰力を切り離してくれているようですね。ホモ君も相手が近づいて来ようと能力を発動する瞬間を第六感で察知できるので、相手にマークされずに済んでいます。

 

 あっ、おい待てぃ。まだ肝心なとこ(リーダーの逃げ対策)やりわすれてるゾ、という視聴者の方もいるかもしれませんがそこは無問題(モーマンタイ)

 

 相手の移動先を予測して、その場所までの中継点の星辰力をヤンデレ剣ちゃんの能力で遮断。これで中途半端に能力が中断された相手は転んでくれます。バカじゃねーの(嘲笑)

 

 あとは情けない恰好をしている相手リーダーの校章を破壊してゲームセット。これでエルネスタ周りの因縁に片をつけることができて、準々決勝まで駒を進めることが出来ました。……まあ、所詮はモブなのであまり見どころさんはありませんね。

 

 試合を終えて待機室に戻ると、エルネスタから電話が来ました。電話に出ると、エルネスタだけでなくカミラもいたようで、予想していた通り勝ってくれたことに対してのお祝いの言葉とお礼をしてきました。まだ彼女たちには世話になりますから適当にお礼の言葉を受け取っておきましょう。

 

 いくらか会話をしたら、インタビューがあるので電話を切ってインタビューに向かうと、取材陣がめちゃくちゃフラッシュを焚いて歓迎をしてくれます。中居さんありがとう! フラーッシュ!! 

 

 いつも通り口を閉ざして地蔵のように無言で椅子に座っておきましょう。これ(ホモ君)いる? 

 

 インタビューから解放されてようやく界龍に帰れますね。次の対戦相手の対策? チーム・ルサールカは何度も試走で対策を練っているので(いら)ないです。

 

 ルサールカは《ライア=ポロス》の能力はまだ完全に使いこなせていない時期なので、できるだけ手札を見せない状態で勝っていき──

 

 今回はこれまで。ご視聴ありがとうございました。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

裏話22-① 勘違い

貰いものの瓶ジュースの栓を栓抜きを使わずに抜くことに快感を覚えたので初投稿です。


 春も終わり夏に移り変わり始める頃。

 

 もうすぐ迫っている基臣の誕生日プレゼントを選ぶため、沈華は商業エリアをうろついていた……のだが、中々目ぼしい物が見つかっていない。

 

 そもそも、鍛えること以外に趣味を持っていないせいで──それでもシルヴィアがよく連れまわしているおかげで、他の事にもある程度の関心は持っているようだが──どんなプレゼントをあげてもあまり嬉しい反応を示さないのではという懸念が沈華の中ではあった。

 

 そんなこんなで悩むことしばらく、歩き続けたせいで疲れたので、沈華は目についた喫茶店で休憩を取る事に。

 

(基臣にプレゼントする物といっても、どうしたものかしら……)

 

 うんうんと(うめ)きながら椅子に座っていると、店員がやってくる。

 

「お客様。今、席が大変混みあっているので相席をお願いしたいのですが」

 

「あ、はい。構いませんよ」

 

「すいません、ご迷惑をお掛けします」

 

 一度ぺこりと一礼すると、店員は相席する客を連れてテーブルにやってくる。

 

「相席となりますが、ご了承ください」

 

「分かりました!」

 

(随分と元気な子ね……どこの学園かしら?)

 

 ふとどこの学園に所属しているのか気になって、よく見ると胸にピンクを主体としたデザインの校章をつけていることから、クインヴェールの生徒だという事が分かる。

 

(かわいい……)

 

 さすが容姿を入学条件として求めてくるだけのことがあってか、同姓である沈華から見ても目を引かれるような可愛さ。それと同時に目につくのが身体付き。可憐な容姿とは裏腹に、鍛えていることがよく分かる。

 

「あのぉ……」

 

「……っはい!」

 

「やっぱり相席迷惑だったか……ですかね?」

 

 じろじろと見ていたのを不機嫌にしていると捉えられたのかどこか気まずげな顔をしてこちらを見る少女。

 

「いえ、大丈夫。こちらこそジロジロ見てごめんなさい」

 

「う、ううん!」

 

「それと自然体で構わないわ。無理して敬語使ってるでしょ?」

 

「……いいの? それじゃあお言葉に甘えて」

 

 向かいの椅子に座ったミルシェは

 

「あたしはミルシェ。あんたの名前は?」

 

「私は……」

 

 鳳凰星武祭では基臣にばかり注目が集まっていたが、沈華も十分といっていいほどに有名人。変装で今のところはばれないようにしているが、そのまま自分の名前を言うと騒がれるかもしれないと思い、どうしたものかと思案する。

 

「あー、何か事情があって名前が言えないとか? ならいいよ、言わなくて」

 

「……助かるわ」

 

「あ、店員さん!」

 

 店員を呼ぶとミルシェはメニューにある飲み物を注文する。少しして店員が運んできたジュースをストローでちろちろと飲んでいるミルシェの顔を見る沈華。

 

「何か悩みでもあるのかしら?」

 

「え?」

 

「何か悩んでそうな雰囲気をしてるかなと思ったから。せっかくの出会いだし聞くわよ?」

 

「……そうだね、せっかくだし話しちゃおっかな」

 

 ミルシェはある男(名前は伏せた)に恋をしている事。だが、その男はそういったことには無関心なため中々アピール出来ないこと。更に、彼を狙うライバルがいること。それらを話したうえで今回の彼の誕生日で一歩近づきたいけどプレゼントが見つからない事を話した。

 

「ふーん、なるほどね」

 

 ちょうど自身も同じような状況だったので、ミルシェに対して沈華は親近感を覚えた。

 

「付き合うことができれば何が欲しいかすぐに聞けて楽でいいんだけどなぁ」

 

「あら、付き合っちゃえばいいじゃない。あなたの容姿なら十分相手を魅了できるんじゃないの? 同姓の私でもあなたを可愛いって思えるぐらいなんだし」

 

「か、可愛いって……そうなんだけどねぇ。うぅ……」

 

(あぁ……。この子、積極的な性格に見えて実は初心(うぶ)なのね)

 

 恥ずかしがるミルシェの表情に沈華はなんで相手の心を射止めることが出来ていないのかを察した。

 

 決心をするだけして、いざ本人を目の前にするとビビッてまた今度に後回しにしてしまうタイプ。なるほどどうりで、と沈華は内心思う。

 

「まあそう言う事なら手伝ってあげるわ」

 

「え、いいの? あんたも何か用事とかあるんじゃないの?」

 

「まあ、あなたの要件と被っている所もあるし、そのついでよ」

 

「被ってる?」

 

「私もプレゼント探しのために来たのよ。経緯も大体あなたと同じ」

 

「そっか、あたしと同じかー。それならあたしも手伝うから行こ行こ!」

 

「あ、ちょっと……。お会計! まだだからっ!」

 

 

 

 お店を出た二人はプレゼント選びのために色々な店を回ることになった。

 

 一人だけで選ぶ時と違って、意見を聞くことができるのでお互いに相談し合ってプレゼントに合う商品を選ぶ。

 

「その彼はそこまでファッションとかにこだわりはないんでしょう? これとかいいんじゃないかしら。丁度秋に入るし」

 

「あー、いいねそれ! でも、これもいいなぁ」

 

「うーん……悩むわね……」

 

 一緒に仲良く商品を吟味していた沈華とミルシェ。

 

 性格の方向性が違う二人ではあるが、だからこそ馬が合うのだろう。沈華にとっては、少しお転婆な妹分を持ったような気分だった。

 

 互いに手伝い合ったこともあり、そこまで時間がかからずプレゼントを選び終えた二人。先にミルシェのプレゼントは既に購入し終えていたので、沈華は一人でプレゼントをレジへと持っていく。

 

「プレゼントの包装をするのに20分ほどお待ちいただくことになるのですが……」

 

「構いません」

 

「それではこの番号を持ってお待ちください」

 

 店員から番号札を受け取ると、そばで待っていたミルシェに声を掛ける。

 

「プレゼントの包装で時間がかかりそうだから、噴水のある広場のところで待っててもらえるかしら。後で、私も向かうから」

 

「うん! 分かった」

 

 

 

 ……………………

 

 

 

 噴水広場に来ると、買い物袋を膝の上に置いて広場に設置されている時計を確認する。

 

「ふぅー、もうこんな時間かー」

 

 プレゼント選びで迷っていたが、思いがけない出会いに恵まれたミルシェ。まさか自分とほとんど同じ境遇の人間と偶然会えたことは彼女も驚かされたが。

 

「ん?」

 

 何やら騒がしいのでその声の方向へと目を向けると、近くでレヴォルフの生徒同士で決闘騒ぎになっていた。

 

「おいやんのかテメェ!?」

 

「そっちこそなんだよ難癖つけやがって!!」

 

 本来なら決闘は正式な申請をして、指定されたドームで行うように定められているがほとんどの生徒はそれを守ることは無い。(例外があるとすればガラードワースの生徒ぐらいだろうか)

 

 とはいえ、こうも騒がしくされると近くにいる人間に配慮してくれと言いたくなるミルシェだったが変に声をかけて巻き込まれたくもない。

 

「相変わらずうるさいなぁ……」

 

 ここにいても良いことは無いと思い、沈華がいた店へと引き返そうとする。

 

 しかし──

 

 

 

「っと……」

 

 近くにいたレヴォルフの生徒の攻撃がミルシェへと向かう。

 

 大した攻撃ではないので普通に回避することが出来たが、明らかに決闘騒ぎの渦中に巻き込まれてしまった。

 

「……はぁ」

 

 目を付けたターゲットを自作自演の決闘騒ぎに自然に巻き込み、複数人でリンチにする。

 

 レヴォルフの十八番(おはこ)とも言える胸糞悪い作戦である。

 

「これだから嫌なんだよねぇ、こういう輩は」

 

 相手は勝てると思ってるのか底意地が悪そうにニタニタとにやついているが、ミルシェとて基臣に決闘で格の違いを見せつけられてから何もしてこなかったわけでは無い。

 

 もう3,4か月ほどで獅鷲星武祭が始まることもあるので、実力を試すには丁度良いかと戦うことに決めた。

 

「さーて、さっさと倒しちゃおっかな」

 

 

 

 

 

 男たちの見立ては余りにも甘すぎた。ミルシェが六学園の中で最弱の名を欲しいがままにしているクインヴェールの校章を付けていた事や一人だけでいた事で大したことはないだろうと慢心していた。

 

 しかし、実際はあまりにも一方的……というよりも相手にすらされていなかった、という方が正しい。

 

 結果、手加減したにもかかわらず30秒足らずで男たちを気絶させて、言葉発さぬゴミへと変えた。

 

「ふぃー、疲れた」

 

 適当にゴロツキたちを集めておき、星猟警備隊に連絡。そのままミルシェは沈華の元へと向かうことにした。

 

 

 

 店の前で待っていると、プレゼントを買い終えた沈華がやってくる。

 

「あら、広場で待ってたんじゃないの?」

 

「色々あって広場は危ないと思ったから店の前で待とうかなって」

 

「…………? そうなの? ならいいけれど」

 

「それよりもさっさと行こうよ、ほら!」

 

「はいはい」

 

 

 

 

 

 

 

 途中にゴロツキに絡まれたアクシデントはあったものの、プレゼント選びもなんとか終わり、お互いの手にはプレゼント袋が下がっている。

 

「今日はありがとね!」

 

「いいのよ。私も手伝ってもらったことだし、丁度良い息抜きになったわ」

 

「そっか」

 

「それじゃあ頑張りなさいよ」

 

「もっちろん! あんたこそ頑張りなよー」

 

 互いに手を掴み握手する。

 

 一日だけの交流だったが、そこには確かな友情が芽生えていた。

 

 

 

 そして、お互いの恋路を応援しようと

 

 そう思っていた……

 

 

 

 

 

 ……いたはずなのだが

 

 

 

 

 

「へ……?」

 

 基臣の誕生日という事で事前に知らされていた場所に到着した沈華だったが……

 

 目の前にいるミルシェの姿に呆気にとられたような声が漏れ出る。

 

 まさか、たまたま知り合った友人が自分と同じ人を好きになっていて、しかもそれを応援するためにプレゼントをお互いに選びあっていたという偶然。流石に脳の処理が追い付いていないのか、しばらく立ち尽くしたまま。

 

「…………? 何?」

 

 建物の入り口で突っ立っていた沈華が、ジッと見ていたことに気づいたのかミルシェが声をかけると、彼女は我に返る。

 

「……っ! ちょっとこっち来て!」

 

「えっ、ちょっと!」

 

 ミルシェを引っ張って人気が無い所へ連れていく沈華。

 

「はぁ……はぁ……。いきなり何なのさー」

 

 沈華を変装した姿でしか見ていないミルシェは、目の前にいる人物をあくまで鳳凰星武祭の時の基臣のタッグとしてしか認識していなかった。

 

「……やっぱり気づいてないわね」

 

 さっきまで変装に使っていた道具を取り出すと、ウィッグを着けて帽子をかぶった後、ケースから伊達眼鏡をかけた沈華。

 

 その様子に徐々にミルシェの顔色が変わり、沈華に指を向けて大声をあげる。

 

「ああぁぁぁ────っっ!? あの時の!」

 

 変装した姿に変わった沈華にようやく気付いたミルシェは少しずつどういう事なのか理解し始める。

 

「はぁ……、世間は狭い物ね……。まさか好きな人が一緒だなんて」

 

「……じゃあ、まさかあんたも」

 

「そうよ」

 

 ころころと表情を変えるミルシェ。最終的には溜息を吐いた。

 

「はぁー、まさかあんたと一緒なんて……。まあ、言われてみれば確かに納得できる部分もあるんだけど。……まあでも」

 

 好戦的な目で沈華を見つめたミルシェ。

 

「沈華が相手でも遠慮なんてしないからね」

 

「それはこっちのセリフよ」

 

 沈華が正体を隠したからといって、二人の友情にヒビが入る事は無かった。あくまで、恋のライバルになっただけ。二人の間ではそういう認識に変わった。

 

 

 

 

 

 再び建物の前に戻ってきた二人は、誕生日パーティーをする部屋に入って始まるのを待っていた。

 

「そういえば基臣はどこにいるの?」

 

「あ、うん。基臣なら別の部屋で……」

 

「やっほー、二人とも」

 

「シルヴィア!」

 

 パーティーということもあってか、いつも以上に着飾っていたシルヴィアがそこには立っていた。

 

「沈華ちゃんも久しぶりだね」

 

「……ふんっ」

 

「つれないなー、もう」

 

「基臣を狙っている以上、あなたも私のライバルなのだから警戒しないわけがないでしょう」

 

「あはは……。まあそれはごもっともな話ではあるけどね」

 

 苦笑しながらもシルヴィアも沈華の意見には理解を示す。

 

「といっても、私だけではないんだけどね。ほら」

 

「ん?」

 

 シルヴィアに促されて指さした方向へと顔を向けると、いつもの研究服とは違って私服でやってきたエルネスタがいた。

 

「どもどもー」

 

「げっ」

 

 どこか頭のネジが外れてるはずなのになんで私服のセンスは普通に良いのだろうか、と一瞬思った沈華だったが、大方カミラ辺りに聞いたのだろう。若干服に着せられてる感があった。

 

「んなー、失礼だなーもう。せっかく来たっていうのに」

 

「……胸に手を当てて聞いてみたらいいんじゃないかしら」

 

「んー、何も分からないけど?」

 

 自分の胸をペタペタ触るエルネスタに若干イラつきを覚える。

 

「あのねぇ……」

 

「やー、バチバチしてるなー。こわいこわい。仲良くしようじゃないのー、仲良く。それにさ……」

 

 エルネスタはさっきまでのすっとぼけような表情を、悪戯めいたものへと変える。

 

「あたしは剣士君の彼女なんだから彼の友達とも仲良くしておかないとねー」

 

「むっ」

 

 嘘であれ真であれ、エルネスタの発言は明らかにこの場にいる全員を煽るものである事には違いなかった。

 

「それは……どういう意味かな?」

 

 ニコニコと微笑みながらシルヴィアはエルネスタに近寄る。

 

 他の者もそれぞれ三者三様異なる反応を示していた。だが──

 

「それは無いと思うのだけれど」

 

 突然聞こえたその声に皆振り向く。

 

「……っ! オーフェリア・ランドルーフェン……!」

 

 ここまでも全員大物だったが、更にアスタリスク最強と言われているオーフェリアが招かれていたことにミルシェは驚きを覚える。

 

 対して、シルヴィアはオーフェリアと基臣の関係をそれなりに知っていたため、さして驚きはなかった。

 

「そういえばあなたも招かれてもおかしくなかったもんね」

 

「ということはあんたも……」

 

「別に……。私は運命に従っただけでそういった感情は無いわ……。……それよりもさっきの話だけれども、本当の事だとは思えないわ」

 

「…………? どうしてそう言い切れるのかにゃ?」

 

「そこにいる彼女がつけている首飾り、基臣と対になってるわ。それは私の故郷にある物で、その首飾りをつけているのはカップルや夫婦の証に等しい物。だから、その発言は嘘じゃないとおかしいはず。彼は二股をかけるほど器用な人間とは思えないから……」

 

 彼女といってオーフェリアが視線を向けたのは沈華。その首にあるのはリーゼルタニアで買ってきた首飾り。

 

 オーフェリアが言い終わるとさっきまでの喧騒は何だったのかその場は静寂に包まれる。

 

 しかし、次の瞬間、空気がどす黒いものに変わる。主にその発生源はシルヴィアとエルネスタからだったが。

 

「ふふふ……」

 

「にゃはは……」

 

 エルネスタに向けられていた意識は一気に沈華へと向けられる。

 

 シルヴィアとエルネスタが薄暗く笑うと、沈華へと顔を向ける。

 

 顔は笑っているように見えても目は明らかに笑っていない。特にエルネスタはライバルとなる存在はシルヴィアだけだと思っていただけに、想定外の事象の原因である沈華に警戒度を上げていた。

 

 ゆっくりと詰め寄ってくるシルヴィアに沈華は思わず後ろへと下がるが、いつの間にか壁際まで追い詰められて逃げ場が無くなっていた。

 

「さて、沈華ちゃん。どういうことかな?」

 

「うっ」

 

 優しく沈華の肩に手を置くシルヴィア。だが、そんな優しい接触とは裏腹に早く事の詳細を吐け、と言わんばかりの圧が沈華を襲う。

 

 シルヴィアたちの圧に流石に言葉を詰まらせていた沈華。

 

 その時、不意にドアが開く音がしたことでその圧は収まった。

 

「もう揃ってたか」

 

「あ、基臣」

 

 基臣の姿に思わずホッとした沈華。

 

 何か感じ取るものがあったのか基臣は部屋の中にいた皆の顔を見ると、ほんの少しだけ困った顔をする。

 

「ニコニコ肩を組んで仲良くしろとは言わんが、ほどほどにしておけよ」

 

「何のことかなー」

 

「……まぁいいか。反省はしてるみたいだし」

 

「基臣ー! パーティーの準備できましたー」

 

「あぁ。そのまま持ってきてくれ」

 

「分かりましたー」

 

 しばらくすると虎峰たちがケーキや料理などを色々と持ってきた。

 

「それじゃあ全員集まったことだし、始めるか」

 

 虎峰が事前に準備を済ませていたのか、ろうそくに炎の灯ったケーキがテーブルに置かれる。

 

「誕生日おめでとう!」

 

 全員の祝福の声と共に基臣はろうそくの炎を消した。

 

 

 …………

 

 

 

 

 

「君、本当に愛されてるねぇ……」

 

 呆れ顔で基臣の誕生日パーティーの時の話を聞いていた朧。実はドアを開ける少し前から基臣は中の様子をドア越しに聞いていたため、彼女たちの修羅場は何となく理解していた。

 

「その子たちの思いには応えないのかい? どう考えても好かれてるのは──」

 

「分かってる。俺を好いてくれていることぐらいは」

 

 この前の旅行辺りから恋愛感情という物をおおよそ理解し始めていた基臣は、シルヴィアたちが自身に好意を抱いていることを理解していた。これもアスタリスクに来てからしばらくしたことで基臣に現れた変化だった。

 

「ふーん。ならどうして?」

 

 

 

 ──お前のせいでッ! 澄玲は! 

 

 虐待の中に残るかすかな記憶。

 

「……俺は自分の幸福を望んではいけないからだ」

 

 自分に自責の言葉をかけるように呟く基臣。

 

「だが、断るにも上手い事しないと彼女たちを傷つけてしまう。今の関係を維持したまま、守るべきものを見つけるという達成しなければ……。父の言う事は絶対だから……」

 

「……そうか。まあ君がそう言うなら、俺が言うまでもない事か。……さてと」

 

 待機状態にしていた煌式武装を起動すると立ち上がる。

 

「獅鷲星武祭まで時間もないんだろう? 特訓を再開しようか」

 

「あぁ」

 

 

 

 

 

 

 互いの刀が擦れた甲高い音がフロア中に響き渡る。

 

 

 

(……こいつはもうダメだ)

 

 

 

(シルヴィア・リューネハイムや他の奴との交流で多少は変わってはいるが、その本質は変わらない)

 

 

 

(やはり殺すべきだ。手遅れにならないように……)

 

 

 

(だが、今はまだ殺るには早い。殺るのは最大限の準備をしてからだ)

 

 

 

 

 

 

 

(誉崎家の人間は一人残さずその芽を摘まなければならない。俺も含めて一人残さず…………)

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

裏話22-② シルヴィアの誕生日

あれ、裏話分割しすぎじゃね……?と思い始めたので初投稿です。
ちなみに裏話22は③まで書く予定です。


 《冒頭の十二人(ページ・ワン)》の特典で貰える個室。そこでルサールカのメンバー達はソファーでぐうたらして過ごしている。

 

「マフレナぁー、そこにある飲みもん取ってー」

 

「あ、はーい」

 

 ルサールカは理事長であるペトラのマネジメントもあって結成当初に比べて少しずつ知名度を上げてきたが、知名度を上げるという事はそれだけ忙しくなるという事。その分だけ色々な場所で開催されている野外ライブに参加していたため、休む暇がない程に忙しない日々を過ごしていた。

 

 ここ最近は、獅鷲星武祭(グリプス)のために活動を中止して特訓に励んでいるが、ずっと集中力も続くはずはない。

 

 今日は、流石の過密スケジュールということで五人は久々の休日を作り、外に出ることも無く部屋の中で久々の休日を謳歌(おうか)しているのだが、肝心の部屋の主であるミルシェがいなかった。

 

「そういや、リーダーはどこ行ったんだ?」

 

「さあ? どうせまたあの男を追いかけに行ったんじゃないかしら」

 

「元気だよねぇ。モニカには無理無理」

 

「あはは……」

 

 好き勝手にリーダーの事を言うメンバー達にマフレナも流石に苦笑してしまう。

 

おーい!! みんなー!! 

 

「あ、来た」

 

 噂をすればなんとやら。バン! という音とともにドアが開かれると、ミルシェが息を切らしながら立っていた。

 

「聞いて聞いて!!」

 

「なんだよもう、惚気話なら聞き飽きたぜ」

 

「ここ最近は彼の話ばっかりだしねー」

 

「正直、私たちに手伝えることは無いわよ」

 

 同じ話ばかりで聞き飽きたのか、それぞれミルシェに目を合わせることなく各々のやりたいように自由に部屋でくつろいでいた。──ルサールカの中で一番真面目なマフレナだけはちゃんと聞いていたが。

 

「いや、惚気話とかじゃなくって!」

 

 テーブルをダンッと叩くと、全員の前にある物を見せる。

 

「メール? 何々……」

 

 仕方ないな、と全員がそれに目を向けるとどうやらシルヴィアから基臣に送ったメールらしく、撮った写真がメール一覧のため断片的にしか分からないが、二人きりで誕生日パーティーをしようという旨が書かれていた。

 

 流石に人のメールを盗み見て、あまつさえそれを写真に撮って他の人に見せるというミルシェの行動に全員ドン引きしていた。

 

「あんた……いくら彼の事が好きだからって、人のメールをのぞき見はだめでしょうに……」

 

「リーダーがストーカーにならないかモニカちょっと心配かもぉ」

 

 散々な言われようのミルシェだったが、日ごろから言われ慣れたのか彼女たちの言葉を気にしていない。

 

「見られる方が悪いんだから別にいいの! それよりもだよ! シルヴィアが基臣と()()()()()誕生日パーティーをしようとしてるんだよ! 二人きりで!」

 

 何度も重ねて二人きりというワードを強調するミルシェ。

 

「まぁ、普通にあり得る話ではあるわね。彼女、どう見ても好意を隠す気無いみたいだし。そろそろ関係を一歩前進させそうな雰囲気は見てたら分かるわね」

 

「もしかしたら、二人きりだから何かあってもおかしくないんじゃなぁい?」

 

 モニカの言葉にミルシェは顔を赤らめさせる。

 

「ダメダメダメ! そんなこと絶対させないんだから!」

 

「大分リーダーもこういう事分かってきてるよねぇ……。初心な小娘からむっつりスケベに昇格したって感じぃ?」

 

「誰がむっつりスケベだよー!」

 

 事態があらぬ方向へと向かっていくので、マフレナがとりあえず話を進めることにした。

 

「ともかく、それなら私たちの人数分のディナーは用意しないといけないんじゃないですか? シルヴィアさんは私たちがくることを想定してないわけですし」

 

「あ、そっか」

 

「えー……。プレゼントは毎年渡すから用意するつもりではあるけどー、その辺のことはリーダーとマフレナだけでやってよお」

 

 ブーブーと文句を言うメンバー達をなんとか説得してミルシェは協力を取り付けることができた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くっ、財布が寂しい……」

 

 その代わり、モニカ達のほしい物を買うことになったので財布はスカスカになったが。

 

 

 

 

 

 ……………………

 

 

 

 

 

 マネージャーであるペトラに用意してもらったセカンドハウス。

 

「ふん♪ ふふんふふーん♪」

 

 そこで、シルヴィアはご機嫌そうに鼻歌を歌いながらパーティーの準備をしていた。

 

 少し前から二人きりで過ごそうと計画していた誕生日パーティー。誰の邪魔もなく一緒にいることができるので、当然ながらテンションも上がる。

 

(もしかしたら基臣君と……)

 

 

 

 ピーンポーン

 

 

 

 と、そんな妄想をしていたシルヴィアだったが、唐突にチャイムが鳴ったため我に返る。

 

(基臣君、もしかしたらちょっと早めに来たのかな?)

 

「はいはーい……って、あれ?」

 

 ルンルン気分でモニターを見るシルヴィアだったが、玄関前に取り付けられているカメラからの映像には誰も映っていない。

 

「……いたずらかな?」

 

 こんな所まで来てわざわざそんな事をする変わり者がいるとはシルヴィアには思えなかったが、一度確認しようと玄関まで行くことに。

 

「いるかなー?」

 

 扉を開いて周囲を見渡すが、人の気配はない。

 

「……いない、か。やっぱり気のせいだったのか──」

 

「はーいストーップ!」

 

 玄関の扉を閉じようとするシルヴィアだったが、扉の間に誰かが強引に足を割り込ませてくる。

 

 突然の出来事に一瞬びっくりさせられたが、その相手の顔を確認して別の意味で驚かされる。

 

「──って、ミルシェ? それに他の皆も。今日は忙しいって言ったはずなのにどうしたの、ここまで来て?」

 

「しらばっくれないでよ! 基臣と二人きりでパーティーするって証拠は挙がってるんだかんね!」

 

「あれ? どこで知ったの、それ?」

 

「リーダーがシルヴィアのメールをのぞき見したのよ」

 

 心当たりを頭の中で探り合点がいったのか、手を叩き合わせる。

 

「あぁー、あの時かな」

 

 一度、ミルシェにペトラから同じメールが届いたか見せるように頼まれた事があったのを思い出す。今にして思えばいつものミルシェらしくない言動だった。

 

「あたしたちもパーティーに参加するよ!」

 

「んもー、二人きりでパーティーのつもりだったんだけどなー」

 

 ジト目で不満そうにミルシェを見るが、一向に退いてくれる様子は無い。

 

「でも、今からみんなの分まで食事は用意できないよ?」

 

「それについては大丈夫! あたし達が途中で買ってきてるから」

 

 マフレナに持たせている袋を見せる。

 

「ほんと、準備がいいね……」

 

 ミルシェの執念に流石のシルヴィアも苦笑いせざるを得ない。

 

「二人きりなんてさせないから! 絶対に基臣しかいないからって変な事するんでしょ!」

 

「……へぇー。例えばどんなこと?」

 

「そ、それは……」

 

 まごまごしながら俯いて顔を赤らめるミルシェ。

 

「あはは。まったく可愛いなぁ、もう」

 

 良いように揶揄われているミルシェにシルヴィアはクスクスと笑う。

 

「まあしょうがないか。二人きりの誕生日は来年にお預けという事で。ほら、中に入って」

 

 ルサールカを部屋に招き入れたシルヴィアは料理をテーブルに運び出し、着々とパーティーへの準備を進めていく。もちろんミルシェたちも準備を手伝ってくれたため手早く済ませることができた。

 

 丁度準備を終えた時、チャイムが鳴る。

 

「お、来た来た」

 

 開錠すると基臣が袋を片手にドアを開けて上がってきた。

 

「すまん。パーティーの準備を手伝うつもりだったんだが、時間ちょうどになってしまったな」

 

「ううん、むしろいいタイミングだったよ」

 

 何が良いタイミングだったのか、シルヴィアの言葉の真意を正確に掴めず首を傾げる基臣だったが、大した意味で言ったわけではないか、と勝手に解釈した。

 

「…………? そうか。それなら良かったが……ミルシェたちもいるのか。お前と二人だけだと聞いていたが」

 

「あー、うん。一緒に祝いたいって言うから一応ね」

 

「なるほどな」

 

 基臣を部屋に入れると、冷蔵庫に入れていたケーキを取り出したシルヴィアは大きなテーブルに取り出す。ミルシェが率先してろうそくを立てるとそのまま火をつけて、最後に部屋の照明を消した。

 

 大小合わせて計5本のろうそくに爛々と火がともり、ケーキの周りを(ほの)かに明るくさせる。

 

「じゃあ、さっそくパーティーを始めちゃおっか」

 

 

 

「「「「「「シルヴィア、誕生日おめでとう」」」」」」

 

 その言葉を受けてシルヴィアはろうそくの火を消す。

 

「ありがとう、みんな」

 

 

 

 

 

 

 

「わぁ、ありがとう! これ欲しかった物なんだー」

 

「ふふーん、大事に使ってよねー」

 

 ミルシェを筆頭に他のメンバーもプレゼントを渡していく。

 

 最後になった基臣はプレゼントの入った袋を取り出してシルヴィアへと渡す。

 

「俺からはこれだ」

 

 袋から取り出したファイルに何か何かと皆が注目する。開いてみるとシルヴィアには見慣れた五線譜。

 

「楽、譜……?」

 

 手渡されたファイルを詳しく見ると、適当に作ったものではなくしっかりと書き込まれている楽譜だった。

 

 歌姫と呼ばれるだけあって世界中の曲にそれなりに精通しているシルヴィアだったが、目の前に書かれてある曲にはまるっきり覚えが無い。

 

 基臣が音楽をあまり(たしな)まない人間であることを知っていたシルヴィアが疑問を覚えるのは無理もない話だった。

 

「パッと見た感じ、私でも知らない曲だけど……どこから手に入れてきたの?」

 

「母の形見だ、お前に受け取ってほしくてな」

 

 形見という言葉に全員がギョッとする。流石にプレゼントとして贈るにはあまりにも重すぎるという言葉では足りないぐらいに重い。

 

「いやいやいや、流石に受け取れないでしょ!!」

 

「そうだよ! もらえないよ、こんな大切な物!」

 

 返そうとしてくるシルヴィアだったが、基臣はその手を握りそのまま楽譜を持たせたままにする。

 

「大切な物だからこそだ。何も分からない俺が物置に仕舞っておくぐらいなら、使われた方が嬉しい」

 

「うーん、でも……」

 

「俺が使うことも無いだろうからいいんだ」

 

 しばらく考えていたシルヴィアだったが、熱心な基臣の説得に折れたのかそのまま楽譜を受け取ることにした。

 

「…………じゃあ大切に使わせてもらうね」

 

「あぁ、そうしてくれ」

 

 大切に胸の内でファイルを抱えるシルヴィアにミルシェは不満そうな顔をする。

 

「あー、いいなぁシルヴィアは。あたしも欲しいのに」

 

「ふふふ……。あーげない♪」

 

 予想外ではあったが、基臣から大切な物をプレゼントしてもらって頬が緩むシルヴィア。

 

(……ほんと、基臣君は私をドキッとさせるのが上手いんだから)

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

裏話22-③ 獅鷲星武祭(グリプス)開幕

思ったよりも筆が進んだので初投稿です。

後、若干アルルカントのチームとの対戦内容(主に能力関連)を変更しています。


 10月

 

 

 いよいよ獅鷲星武祭(グリプス)が開幕し、チーム・黄龍(ファンロン)は有力候補として注目度の高いAブロックに組まされることになった。当然、獅鷲星武祭のハナを飾る試合であるため対戦相手もそれなりのチームが出てくる。

 

 そのため、観衆の中には大番狂わせを期待している人も一定数現れる。

 

 

「──《獅鷲星武祭(グリプス)》Aブロック一回戦一組、試合開始(バトルスタート)

 

 だが──

 

「行く……ぞっ?」

 

 意気込んで全員で基臣へと向かおうと意気込みかけたその瞬間。

 

 既に基臣の手にはチームの命に等しいリーダーの校章が握られていた。

 

 

 

 パリン

 

 

 

「イヴァン・ヴェリサリオ、校章破壊(バッジブロークン)

 

試合終了(エンドオブバトル)!勝者、チーム・黄龍(ファンロン)!」

 

 そんな大番狂わせを期待する観衆の期待とは反して、一試合目からチーム・黄龍のその実力を観衆の(まなこ)に刻み付けることとなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「脅威! チームランスロットのライバル現る! ……ねえ。マスコミは好き放題書いてくれるわ、まったく……」

 

 大々的に誌面に写っている基臣たちチーム黄龍(ファンロン)の記事に沈華は溜息を吐く。

 

 まるで絶対に決勝まで進むかのように記事では書かれているが、まだまだ本戦は始まったばかり。ここから先は何が起こってもおかしくない魔境地帯。一瞬の油断が命取りになる正真正銘の正念場なのである。それをこうも優勝候補だ対抗馬だと言われたために沈華は頭が痛くなる。

 

「まあ、特に知られて困るような情報は引き抜かれていない事だから構う必要もないだろう。そんなことよりも、次の試合の相手が問題だな」

 

「えぇ……。アルルカントが新技術を引っ提げて参加してきたって大騒ぎね。特に今のところは弱点らしき弱点も見つかって無いようだし」

 

 獅子派擁するチーム・ラヴィニアは最新の技術を持って今回の獅鷲星武祭に臨んできた。アルルカントの最大派閥である獅子派が作ったとあって、何の障害も無く本戦まで勝ち進んできている。

 

「……だが、恐らく弱点はあるだろう。この能力は、今回の獅鷲星武祭が初披露だとチームラヴィニアのリーダーがインタビューで言っていた。流石に、こんなトリッキーな能力を一度も世間に公表しないで完璧な状態に仕上げてくるのは無理がある」

 

「まあそうでしょうね」

 

「とりあえず全員集まるまで、しばらく動画を見ながら解析しておく。そっちでも適当に探ってみてくれ」

 

「分かったわ」

 

 しばらく待っていると、沈雲とセシリーが、そして、最後に先ほどまで星露の補佐をしていた虎峰が部屋にやってきた。

 

「僕が最後ですか?」

 

「ええ、そうよ。好きに座ってくれて構わないって言ってたわ」

 

「分かりました。…………そういえば、基臣は先ほどから何を見ているんですか?」

 

 虎峰が基臣に近づくと、どうやら相手チームの直近の試合を確認しているようだった。回避したはずの攻撃が不自然に軌道を変えて当たっている様子が遠目から見てもよく分かる。

 

 最初は何か不正を行っているのではないかという話題で持ちきりだった。しかし、運営委員が精査した結果、星武憲章(ステラカルタ)のルールの範囲内で試合を行っていたという報告が為されたため、不正疑惑は無事解消され今大会のダークホースになるのではないかと目されていた。

 

 映像の中でも一番試合時間が長かった本戦の試合を見ている基臣だったが、先ほどから何度もある箇所を再生し続ける。

 

「さっきから同じ所ばかり再生してますけど、何か分かったんですか?」

 

「…………」

 

「さっきからその動画を見て解析してるのよ。こうなったら私達から話しても気づきはしないわ。放っておきなさい」

 

「そうそう、私が肩を揺さぶっても全然反応しなかったもんねー」

 

 沈華やセシリーの言う通り、物凄い集中力で映像を見つめていて虎峰が声を掛けても全く反応を示さない。こうなったら映像の解析が終わるまで梃子でも動かないだろうと思った虎峰は全員分のお茶を用意して待っていた。

 

「…………なるほど。カラクリさえ分かれば大したことはないな」

 

 ようやく何か掴めたのか基臣は集中を解いていた。

 

「カラクリ? 何か分かったんですか?」

 

「ああ、ここだ」

 

 ある時間まで動画を戻すとスローにして再生する。

 

 敵が能力を使用する際にほんの僅かにだが、相手の星辰力が磁力のように引かれているのが見えた。

 

「スロー再生で見てわかったと思うがこの能力、空気中にある万能素を媒介に星脈世代(ジェネステラ)星辰力(プラーナ)を利用して発動させている」

 

「万能素を媒介に星辰力を利用、ですか」

 

「そうだ。それで、自分と相手の星辰力を引き合わせて、超高速移動や異常な軌道の攻撃を可能にしているというわけだ」

 

 基臣がピックアップして見せてくれた動画を見ると、どれも能力の使用タイミングで使用者とそれの対象者の星辰力が引かれ合っているのがよく分かる。

 

「つまり能力の対象に俺達を指定させなければ相手は何もできないサンドバッグになる。それに、能力の発動タイミングも分かりやすいから見てから即対応でも十分に間に合う」

 

「なるほど。……でも能力の対象に指定させないって言ってもどうするんですか?」

 

「重要になってくるのは、身体に纏っている星辰力を周りの万能素から切り離し、そして再び繋ぐ技術だな」

 

「繋ぐ? 切り離すだけじゃなくて?」

 

「再び繋がないとお前らの使う星仙術もそうだが、俺の煌式武装(ルークス)も使い物にならない。唯一の例外が無手の虎峰だがな」

 

「なるほどね」

 

「手本を見せるからそれを真似てみてくれ」

 

 そう言うと、基臣は一瞬で身に纏っている星辰力を周りの万能素から切り離す。すると、基臣の身体の周りだけまるで何も万能素がないような空間が出来上がる。そしてその後、再びスムーズに星辰力を万能素に繋いで見せた。

 

 沈華達も手本を元にやってみたが、出来は人によってまちまちといったところだった。

 

 特に万能素を介した能力を使う適正がほとんどない虎峰は苦戦している様子で、星辰力を切り離すだけでも5秒かかっている。しかも、その過程で一度身に纏っている星辰力を消してしまっていた。

 

「……なるほど」

 

「これ……っ、難しくないですか」

 

「率直に言わせてもらうが、お前には《魔術師》としての才能も、星仙術を取り扱う才能も無いからな。そうなるのも仕方のない事だ。とりあえず、話を先に進めるぞ」

 

 そう言って、基臣は話を先に進める。

 

「それで、だ。お前たちにはこれからその技術を次の試合までに身に着けてもらう」

 

「い、一日で!? いやいや、実戦に耐えうるような使い方をするまで時間かかりますよ、これ!」

 

「他の奴は大丈夫だと思うが虎峰、お前の場合下手を打てば間違えて星辰力を消してしまいかねない。そうなると、逆に大怪我に繋がる可能性もある。無理だと思うなら最初から辞退しろ」

 

 キツイ言い方をした基臣だが実際、星脈世代の防御の要である星辰力が意図してないとはいえ消してしまうのは非常に危険性を伴う。恐らく、攻撃が直撃でもすればその後の準々決勝以降は参加できない怪我を負うだろう。その危険性が危険性なだけに今回の作戦は虎峰を除外するべきかどうか基臣は悩んでいた。

 

「……いえっ! 僕にもやらせてください。足手まといにだけはなりたくありませんから」

 

 だが、その危険を承知の上で基臣の作戦に同意した。危ない賭けにはなるが、こんな所で下手を打って脱落しようものならその後も足手まといになる可能性は否めない。そんな覚悟を虎峰は持って返事を返す。

 

「分かった。虎峰以外は問題なく習得できるだろうから、初めにある程度の練習の指針を伝えて自主練。虎峰は俺とマンツーマンで習得してもらう」

 

「分かりました!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『さーて、本日の本命試合! チーム・ラヴィニアとチーム黄龍の対決です! 果たしてチーム黄龍はアルルカントの新技術を打ち破ることができるのでしょうか!』

 

 実況の声がステージ内にも反響するが、虎峰は別の事に意識を向けていた。

 

(頑張って習得はしましたけど、大丈夫でしょうか……。もし失敗したら……)

 

 最悪の想定をしそうになる虎峰の背を基臣は強く叩く。

 

「いてっ! なにするんですかっ!」

 

「少しは落ち着け。そんな精神状態だと練習してきたことも思うように実践できないぞ。ほら、深呼吸だ深呼吸」

 

 基臣の言われた通りに深呼吸をして心を落ち着けさせる虎峰(フ―フォン)

 

「スゥー、ハー……」

 

「そうだ、それでいい。昨日はああ言ったが、もし本当に危なかったら無理してでも俺が助けに行く。だから、安心して戦え」

 

「……はい! 分かりました」

 

「よし。全員、作戦は頭に入れてるな。しくじるなよ」

 

「もちろんだよー」

 

「当然よ」

 

「そっちこそ勝敗に直接左右するんだからしっかり頼むよ、リーダー」

 

「ああ」

 

 メンバー全員の返事を聞いた所で基臣はチーム・ラヴィニアの方へと振り返る。

 

 そろそろ試合開始の時間になる。

 

 

「《獅鷲星武祭(グリプス)》4回戦第10試合、試合開始(バトルスタート)

 

「行くぞ!」

 

 リーダーである基臣がトップスピードで走ることで前衛の防御を振り切り、相手リーダーの男の元へと駆けていく。

 

「させるか!」

 

 すかさず妨害して行かせまいとする相手チームの前衛4人。

 

 その妨害を作戦通り、基臣の後をついていってた虎峰やセシリーが上手い事カットする。

 

「後は頼みますよ基臣!」

 

(よし……! ひとまずは最低限の仕事はできました。後は……)

 

 目の前にいる相手を倒すだけ。

 

(絶対にやれる……!)

 

 心の内でそう念じて、何度かの攻防を経ていると、相手が能力を発動させようとしていた。

 

 相手が能力を発動させる予兆を見せた瞬間に身に纏っている星辰力を周りの万能素から切り離す。

 

(あれ……? 意外とすんなり出来てる……)

 

「……なっ!?」

 

 予想外の策に相手は固まったまま動かない。

 

 ──能力で無理な軌道を実現する以上、発動する直前は動きを止める。つまり、能力が不発になった場合……

 

(正面ががら空き!)

 

 動かない相手を正面から殴りつける。技術頼りで体術はそこまでだった相手はそのまま防御できずに校章をみすみす破壊させることになった。

 

「オーウェン・クリストフ、校章破壊(バッヂブロークン)

 

 虎峰以外にも沈雲が相手を倒しており、状況は5対3。チーム黄龍(ファンロン)側が優勢になる。

 

(よくやったな虎峰。……さて)

 

 4人が敵のリーダー以外を足止めしたおかげで、もう少しという距離まで相手リーダーの男を追い詰めることに成功した基臣。

 

 当然相手もリーダーを任されているだけあって、それ以外のメンバーよりも高い技量でその能力を使いこなして基臣に攻撃していたが、当然今回の作戦の提案者である基臣は入念に対策を施している。能力を完全封殺して無傷で近づけていた。

 

「ちぃっ、使えない奴らが!」

 

(こうなったら私がこの手で……!)

 

 劣勢一報の仲間に悪態をつくリーダーの男。

 

 自分で仕留める他ないと理解したのか、フェイントを交えながら能力を利用して超加速する銃撃を基臣へ放とうとする。

 

 

 

 切り離して 繋ぐ 切り離して 繋ぐ

 

 

 

 フェイントを見切りながら、自在に星辰力のコントロールをすることで全てただの銃撃へと変えてしまい、それを煌式武装で斬る。

 

「何故だ!? 何故私の能力をそうも容易く破ることが出来る!!」

 

 この能力は獅子派(フェロヴィアス)の叡智が詰め込まれている技術であり、それを使う事を実践クラスであるこの男は許された。長い下積みの果てにようやく報われた努力。

 

 そんな努力の果てに使うことのできた能力のタネを簡単に見破られてしまい、しかもチーム全員が対策してくる。この男にとっては悪夢に等しい出来事だった。

 

「今度からは盛大に能力を披露しないようにすることだ。半端な能力はすぐに弱点が露見する」

 

「くそがァァァァァァ!!!!」

 

 それでも最後の足掻きと言わんばかりに、空間にある万能素を利用して逃げようとする。

 

 だが──

 

「終わりだ」

 

 移動先を予測した基臣は事前に用意していたピューレで刃先を伸ばしてその場所を一刀両断。その場所にある万能素を完全に消失させてしまった。

 

「なっ!? グゥゥゥゥゥゥゥッ!!」

 

 能力を強制的に中断させられてしまった男は空中でバランスを失ってしまい、床に転げ落ちてしまう。

 

「馬鹿な……馬鹿な馬鹿な馬鹿な馬鹿な馬鹿な馬鹿な馬鹿な馬鹿な馬鹿な!」

 

 能力を破ってしまったせいで男は完全に戦意喪失。

 

 その時点で、もう試合は終了したも同然だった。

 

「ジャックス・カーライル、校章破壊(バッジブロークン)

 

試合終了(エンドオブバトル)! 勝者、チーム・黄龍(ファンロン)

 

 

 

 機械音声がチーム・黄龍の勝利を宣言したことを確認した基臣は、今回一番頑張った虎峰にねぎらいの言葉をかける。

 

「よくやったな、虎峰(フ―フォン)

 

「あ、基臣。……いえ、そんなことはないですよ。最初のあれがなかったら僕は間違いなく足が竦んで思うようには動けなかったと思います」

 

「……そうか」

 

 どちらにせよ、誰一人かけることなく準々決勝に進出。チーム・黄龍は順調に優勝へと歩を進めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっほー基臣君」

 

『エルネスタにカミラか』

 

「準々決勝進出おめでとう。……まさかここまで一方的な展開になるとは思いもしなかったよ」

 

『まあ、チームメンバーのおかげだ。俺一人のワンマンチームだったらもっと試合は長引いてた』

 

「そうか」

 

「それにしても、これでベスト8かー。どう優勝できそう?」

 

『当然、優勝するさ』

 

「おぉー、随分と大胆に言い切りましたなー。ま、他学園だから表立っては応援できないけど陰ながら応援するからねー」

 

『あぁ。……そろそろインタビューに答えないといけない。切るぞ』

 

「あ、そか。そういやそうだったねー」

 

『じゃあまたな』

 

「それじゃあね、基臣君~!」

 

『ああ』

 

 通話を切ると、エルネスタはどこか嬉しそうな顔でいた。

 

「……勝ったね、基臣君」

 

「あぁ、そうだな」

 

「こんなこと言うのもなんだけど、好きな男の子が勝ってくれると自分の事じゃないのにこんなに嬉しくなるもんなんだね」

 

 エルネスタの表情はいつもの気まぐれな悪戯っぽい顔とは変わって、恋する乙女のそれになっていた。

 

「今更だけど彼に惚れてるんだなーって」

 

「エルネスタ……」

 

「なーんて! 柄にも無い事言ったなー。私、レナティの開発に行くからー」

 

「……ふっ」

 

 照れくさいのを誤魔化して去っていくエルネスタに微笑ましいものを感じるカミラ。

 

「さて、彼の装備を開発した私としてもどこまで勝ち進んでくれるか見ものだな」

 

 次の対戦相手を確認するカミラ。

 

 

 

 チーム・黄龍 ― チーム・ルサールカ

 

 

 

「まあ、準決勝までは問題なく勝ち進めるだろうな」

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

part23

できるだけ投稿頻度を上げていきたいので初投稿です。


 

 あたしの歌を聴け―!!なRTAはーじまーるよー。

 

 前回はアルルカントのチームなんとか(忘れた)を完封し、準々決勝に進んだところまででしたね。

 

 これで獅鷲星武祭(グリプス)も準々決勝なわけですが、今までの奴らは正直な話、大したことはないです。これからの対戦チームは今までよりも一段階から二段階ほど強くなっていて、大体気をつけて対処しなければいけない相手ばかりで今までみたいに瞬殺とはいかないでしょう。

 

 さて、次に対戦するルサールカと戦う際に気をつけないといけない点は、彼女たちが所有している純星煌式武装(オーガルクス)《ライア=ポロス》ですね。この純星煌式武装、元々は1つだったのですが、力が強力過ぎて誰の手にも負えないため仕方なく5つに分割。その1つだった時の能力の全てがそれぞれの楽器5つに分割された(いわ)く付きの品です。

 

 それで分けられた能力ですが、ミルシェとトゥーリアが破砕振動波、パイヴィが音圧防壁、モニカが敵の阻害弱体化、マフレナが味方全員の活性強化といった感じで正にチーム戦にピッタリといった感じの能力ですね。

 

 しかし、現時点で実際に能力が使えるのはミルシェとトゥーリア、パイヴィの三人だけで、モニカとマフレナの二人は能力が使えないため、リミッター解除や煌式遠隔誘導武装の爆弾などのこちらの手をわざわざ晒すして戦うほどではありません。

 

 これまでの戦いの映像をチームメンバーに見せながらそこら辺の説明をして前日は過ごしましょう。

 

 

 

 一日経過して準々決勝当日になりました。

 

 前日に既にチームメンバーには作戦を通達しましたが、今までと違って倒す順番が明確に決まっているので試合が始まる前にもう一度話しておきましょう。

 

 作戦を再確認し終えたところで、試合開始までもうすぐになったのでステージに出ると、ミルシェたちが先に待っているようですね。メスガキが何やらミルシェと話しているようですが、試合が始まる前から心理戦でも仕掛けるつもりですかね?

 

 メスガキが色々とミルシェと話している内に時間になったので、試合開始です。

 

 今までと同じように初手リーダーであるミルシェを狙いたいところですが、《ライア=ポロス》の能力である音圧防壁のせいで意外と粘られるので、その能力を使っているパイヴィから先に倒しましょう。

 

 まず煌式武装でミルシェをステージ端まで鍔迫り合いで弾き飛ばした後に、パイヴィを虎峰と挟み撃ちで圧をかけて音圧防壁でカバーできなかった場所から近づいて倒します。

 

 当然、パイヴィを狙おうとするとそれを守るようにトゥーリアやモニカたちが割り込んでくるので、そいつらの対処はセシリー達、後方支援組に任せることにしましょう。

 

 

 ……む、ミルシェが思ったよりも早くこっちまで来ましたね。もう一度同じパターンで距離を取らせま……

 

 あれ、身体が重く……?それにルサールカの動きが良くなってる気が……。

 

 

 

 え?

 

 

 

 え?

 

 

 

 はぁ!?

 

 《ライア=ポロス》の能力を全部使えるようになってる!?うせやろ?

 

 見たところ流石に、能力を何倍にも引き上げる《共鳴(レゾナンス)》は使えないようですが、それ抜きにしても《ライア=ポロス》の能力は普通に強力です。

 

 先ほども言ったように、ミルシェとパイヴィ、トゥーリアの使う能力はさほど警戒に値するものではないのです。ですがモニカとマフレナ、この二人の能力となると話は別です。

 

 マフレナの味方を強化する能力と、モニカの相手を弱体化させる能力。こいつらの能力は普通に格上殺しが可能な代物で、原作でも主人公たちは結構苦戦させられていました。しかも弱体化は集中力まで落ちるので、星仙術を使うメスガキたち、後方支援組のサポートはほぼ期待できなくなります。

 

 ちなみに強化と弱体化を同時に発動させた状態がいかにヤバいかというのを原作の獅鷲星武祭(グリプス)の時の戦闘から分かりやすく説明すると、トゥーリアが綾斗と互角に、ミルシェが綺凛とクローディア相手に優勢に立ち回れるぐらいには強くなります。普通の状態で戦ったらこのシチュエーション、間違いなくトゥーリアとミルシェは負けています。

 

 まあそういうわけで、ミルシェとトゥーリアで連携を組まれると長期戦の末にホモ君が負ける可能性が高くなります。

 

 一応、ルサールカが強化と弱体化、二種の能力を発動させてから今のところホモ君と虎峰の前衛が耐え忍んでいますがなんともやりづらいですね。音圧防壁の妨害もあってやや劣勢と言ったところでしょうか。

 

 

 

 はぁ……。仕方ありません。お披露目は決勝のチーム・ランスロット戦の時にするつもりでしたが、爆弾をここで使うことにしましょう。

 

 流石に弱体化されているといっても、ステータスの高さと格上殺しによって一応動けているので、校章を破壊されないようにしながら界龍の謎技術で格納していた爆弾を投擲、起動します。

 

 爆弾まで弱体化されるんじゃないの、っていう疑問を持っている人はいると思いますが、相手を弱体させるといっても、相手が操作する煌式武装にまで影響が及ぶわけでは無いので、爆弾は通常通りの動きをしてくれます。まあ、操作者であるホモ君の集中力が落ちてしまっているので、動かせることができる爆弾の個数は少し減ってしまうのですが。

 

 この状況でリーダー以外を処理するのは手間でしかないので、さっさとミルシェに攻撃してゲームセットさせましょう。

 

 

 

 

 

 ……いやぁー、えげつないですわ。まだ完全に手の内を晒したくないので、4個操作で且つ軌道を曲げることなく運用していますが、それだけでもルサールカを圧倒する力を見せています。

 

 試作段階の時と比べても小型化、高火力化を実現しているため、スーパーボールぐらいのサイズで普通にヒットするだけで相手を吹っ飛ばせるぐらいの火力になっています。恐らく、今まで走ってきた中でも一番良い出来です。改めて考えてみてもヤバすぎませんかねぇ……これ。さすがアルルカントクオリティですわ。

 

 さて、一度目の爆弾攻撃はミルシェが強化されてることもあって防がれてしまったので二度目で仕留めることにしましょうか。

 

 もちろん、相手も馬鹿ではないので回避に専念しようとしてきますが……

 

 

 

 

 

 

 爆弾を1つ煙幕にすり替えておいたのさ!

 

 

 

 煙幕の中不意打ち……したい所ですが、残念ながら視界を遮っての攻撃は星武憲章(ステラカルタ)違反なのでしません。といっても、煙幕を利用しての攻撃はしかけますが。

 

 おっと、どうやらミルシェが煙幕の範囲外に逃れた事を第六感が感知したので煙幕の中から事前に待機していた爆弾で一気にたたみかけましょう。

 

 煙幕から出てくるまで爆弾が来ていることを察知できないので、普通に煙幕プラス爆弾のコンボで相手は倒せますね。

 

 

 

 ヨシ!そのまま校章を破壊できました。

 

 いやぁ……まさか、ここまでルサールカが仕上げているなんて思いもしませんでしたね。まあ、チーム・ランスロット辺りが想定以上の実力を発揮していたら流石にヤバかったかもしれませんが、ルサールカぐらいだったら割とどうとでもなります。……その代わりに隠していた手札を開示する結果になってしまったわけですけど。

 

 一応、準決勝のチーム・麒麟(チーリン)戦では剣型煌式武装のリミッター解除を使う予定なので、決勝では隠し球なしで戦う必要があります。そうとなると、少し試合時間が長くなる可能性が十分にあり得ますね。まあそれはそれで手は考えてますが。

 

 さて、次の試合のためにゆっくり休養を……おや、ミルシェがこっちに来ますね。どうかしたんでしょうか?

 

 

 

 ん?

 

 

 

 おファッ!?ホモ君にいきなり抱き着いてきたんですけど、どうなってんのこれ……?

 

 やめ、やめろー!流行らせコラ!

 

 

 

 ……もうお婿に行けないですね。(白目)

 

 くっそ!全世界放送の獅鷲星武祭の本戦でこんな事したら間違いなくよからぬ噂されますよ、これ!まじでさっきからひっぺがそうとしてもぎっちり捕まえて離させてくれませんし。

 

 マネージャーのペトラさん的にこれ大丈夫なんですかねぇ……。仮にもアイドル活動してるガールズロックバンドにとって死活問題でしょうに。

 

 しばらくして離してくれましたが、インタビューでどう答えればいいんですかね……。肝心の本人は何も考えてなさそうで、凄い満足そうな顔してます。こっちの事情も考えてよ。(棒読み)

 

 場所は変わって会見場でインタビューを受けることになりましたが案の定ホモ君に質問が集中してますね……。一応メスガキの支援もありながら、付き合っているのかとかその辺の質問に関しては普通に否定しました。

 

 いつもより長い記者会見が終了してようやく解放されました。

 

 ぬわああああん疲れたもおおおおん。

 

 まじで試合会場のシリウスドームを出てからしばらくの間カメラのフラッシュがヤバかったですからね。こういう面倒事担当キャラと化したメスガキのストレスはそれはもう凄いことになってるでしょう。(他人事)

 

 さて、次は同じ界龍のチーム・麒麟(チーリン)戦ですが、真に警戒すべきはリーダーの暁彗ではなく梅小路冬香の――

 

 今回はここまで。ご視聴ありがとうございました。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

裏話23 チーム・ルサールカ

またまた設定を無視してしまったので初投稿です。(煙幕とかで視界を塞いでから攻撃するのはルール違反)


 獅鷲星武祭(グリプス)も準々決勝まで進み、観客は今までの比ではないほどに盛り上がっていた。

 

「まさかあなたがここまで勝ち上がってくるなんて思いもしなかったわ」

 

「へへっ、凄いでしょ」

 

「確かに並みじゃない努力を積み上げてきたことは分かるわ……でも」

 

 ミルシェを見る沈華の目には並大抵ではない闘志が秘められている。

 

「ここであなた達は負ける。私たちにかかっているチームの重みは生半可なものじゃないことを分からせてあげるわ」

 

「それはこっちもだよ!」

 

 それからは互いに言葉を発さず視線が交錯するだけだったが、試合開始の時間が近づくと各々のチームの場所へと戻る。

 

「話は終わったか」

 

「…………基臣」

 

「なんだ」

 

「勝つわよ、この試合」

 

「ああ、言われるまでも無い」

 

 

 

 

 

 

 

 

「勝負だ!」

 

 機械音声が試合開始の合図を告げると同時にミルシェは、意気込んで基臣と相対そうとしてくる。

 

「残念だが、お前と戦うのは後だ」

 

「へっ? 後って……わっ!」

 

 無駄の無い動きでステージの端まで剣圧でミルシェを吹き飛ばした基臣。

 

 試合開始からすぐにリーダーであるミルシェがすぐに補助に入れない状況を作りだし、ルサールカの中で一番厄介な能力を使っているパイヴィを潰そうと動くチーム・黄龍。

 

「虎峰!」

 

「はい!」

 

 連携してパイヴィにプレッシャーをかける。空間を歪めることで音圧防壁を作り出して基臣達の行く手を阻もうとするが、彼らは数ある音圧防壁の隙を見つけて更に距離を詰める。

 

「あたしたちを無視するんじゃねえよ!」

 

「行かせないよお!」

 

 その意図に気づいたモニカやトゥーリアたちも間に入っていかせまいと動く。

 

「私達を無視するなんて見立てが甘すぎないかしら?」

 

「急急如律令、(ちょく)!」

 

 パイヴィの音圧防壁のようにセシリーも星仙術で壁を作り出して応戦。ルサールカを分断して、チーム・黄龍にとって理想的な試合展開になっていた。

 

 すると、少し距離が離れた所からミルシェの声が聞こえる。

 

「もういいや! モニカ! マフレナ! 能力使って!」

 

「りょうかーい!」

 

「分かりました!」

 

「能力……? 確かモニカとマフレナは何も無かったはずだ、がっ!?」

 

 すると、いきなり場を圧倒するような凶悪な重低音が響き渡る。その正体を探ろうと基臣は見渡すとどうやらモニカががその発生源のようで、彼女の持っているベース《ライアポロス=メルポーネ》はどこか禍々しい雰囲気を出していた。

 

「ぐっ! これは……ッ!」

 

 上から押さえつけられるような強い重圧に顔をしかめる基臣。それは例えるならば鉛を埋め込まれて沼地に両足を突っ込んだような感覚。動けないこともないが、明らかに動きが遅くなっている。

 

「《ライア=ポロス》の能力か……っ!」

 

 チーム・黄龍のメンバーが各々その能力に苦戦している中で一人だけ基臣はまともに動けているものの、先ほどまでの俊敏さは失われていた。

 

「今だ!」

 

 ミルシェがギター型純星煌式武装《ライアポロス=カリオペア》を構えて振りかざしてくる。

 

(一撃が重いな……。モニカの能力で目立たないが、マフレナも厄介だ)

 

 早くも《ライア=ポロス》の能力とその使用者を把握しつつある基臣だったが、一番厄介な弱体化を止めるには能力の使用者であるモニカを倒すしかない。だが、間違いなく攻撃している最中に割り込まれて戦局が泥沼化する未来が見えていた。

 

「もうっ!」

 

 一方でルサールカからしても、中々厳しい状況だった。虎峰の方はいきなり起こった急激な変化に身体が追い付かずモニカとトゥーリアが一方的に攻撃できているが、基臣が一人だけ異常な粘りを見せている。しかも、パイヴィとマフレナはチーム・黄龍の後方支援である沈華たちにギリギリで止められているため、ルサールカが若干有利ではあるがほぼ五分五分の状況。

 

 元々、モニカとマフレナの能力は無理やりこの試合のために間に合わせたもの。彼女たちも慣れない能力の使用感による疲れも見え始めており、いつこの優勢が崩れるかは分からない。

 

(持って4分……いや、3分かな。こうなったら!)

 

「ええい、もう! 来て、トゥーリア!」

 

「おう!」

 

 もう一人の前衛である虎峰をモニカ一人に任せ、ミルシェとトゥーリアの二人で同時にかかって斬りつける。

 

「誉崎流奧伝、天地開闢(てんちかいびゃく)

 

 そんな圧倒的不利な状況の中、基臣は二人の攻撃を防御し、更にカウンターまで行う。

 

「きゃっ!?」

 

「ちぃっ! バケモンかよこいつ!」

 

 マフレナの弱体化を受けているとは思えない強さにトゥーリアも不満を垂れる。

 

「……こいつ、本当に弱ってるんだよな?」

 

「そのはず、なんだけど……」

 

 確かに身体の動きは鈍くなっている。だが、その鈍化に逆らうことなく、敢えてその状態で出来る限りの行動の最適化を行うことで、ミルシェ達の攻撃に間に合うようにしていた。

 

 動きが遅くなっていても基臣はその技術を以て、ある程度ならばその不利(ディスアドバンテージ)を埋めることが出来た。

 

(とはいえこのままでは防戦一方か……)

 

「仕方がない、使うか」

 

 まだ奥の手として隠しておくつもりだったものの、そうもいかなくなった。

 

 基臣の服の中から取り出された球状の物質にミルシェたちも警戒する。

 

「…………何あれ?」

 

 ポケットの中から指輪を取り出し、左手に嵌めた基臣。

 

 すると、基臣の左手に嵌めていた指輪が光り、それに呼応するようにその球も浮遊する。

 

 明らかにヤバい。そんな予感が後ろから指揮を取りながら見ていたマフレナでもよく分かった。

 

「逃げてください、ミルシェさん!!」

 

「遅い」

 

 次の瞬間、球状の物質はミルシェへ向かって一気に飛翔して爆散する。

 

「クゥッ!!」

 

 その小さい見た目とは裏腹にすさまじい火力を秘めた爆発。なんとか直前で能力である破砕振動波を出して4個ともギリギリで防御することができたが、それでも爆風だけで服はボロボロでダメージを受けている。1個でもまともに受けていたら軽傷では済まされなかった。

 

「リーダー!」

 

「大丈夫! それよりも……」

 

 ミルシェたちがあたふたしている間に、既に基臣は二投目の体勢に入っていた。

 

「また来る!!」

 

 二度目の攻撃に再び警戒を厳にして迎え撃つミルシェ。確かに爆弾の飛翔速度は少し速いが、それでも目視してから回避できるレベル。

 

 基臣ができるだけ爆弾の情報を隠そうと軌道を直線だけにして使用していたことや一つずつしか動かせないように見せていることも助かって、まだミルシェたちにも回避できるだけの余裕があった。

 

 一個目を無事回避し、二個目も回避することに成功したがその爆弾だけ床に着弾した瞬間、煙を上げてステージの一部を白煙で満たしていく。

 

「これは、煙幕……?」

 

 二個目の爆弾の正体は煙幕だった。といっても、星武憲章で外部から視認できない状況を作り出しての攻撃は禁止されている。だが、禁止されていると言っても過去にも煙幕を張っている間に罠を仕掛けてハメるといったようなグレーゾーンをついた試合はいくつもある。

 

 そういう展開も考えられたため、急いでミルシェは煙幕の範囲外に抜けるためにメンバーのいた方向へと逃げていく。

 

「よしっ、抜けた!」

 

「リーダー! 後ろ!」

 

「…………え」

 

 ミルシェが煙幕から抜け出して間もなく、爆弾も煙幕の中から4つ時間差で出てきてミルシェの元へと向かってくる。

 

 基臣は元から煙幕を利用した罠は狙っていなかった。狙いは存在しない罠に意識を取られている間に爆弾を合計4個になるように再び投擲してミルシェを数の暴力で倒すこと。特に、直前まで爆弾の存在に気づかせないように煙幕を張っている事でより効果的に爆弾での攻撃を行えた。

 

「ミルシェ、校章破壊(バッジブロークン)

 

 4つの爆弾が迫り来る状況にミルシェは対応できず、そのまま爆発で校章は粉々に破壊された。

 

試合終了(エンドオブバトル)! 勝者、チーム・黄龍(ファンロン)!」

 

 立ったまま、ミルシェは呆然としながら呟く。

 

「……まけ、た」

 

「……リーダー?」

 

 チーム・黄龍の元へと歩いていくミルシェの様子に訝しむルサールカのメンバー達。

 

「ん? どうかしたかミル、シェ……っ!?」

 

 試合で疲れて警戒を緩めていたため、基臣はミルシェが抱き着いてくることを事前に察知することが出来なかった。

 

 勿論、いきなりの熱い抱擁に場内もどよめきが起こる。

 

「な……っ! お前、この場でそんなこと」

 

 アイドル活動をしているミルシェがこんなことをするのはまずい。そう思って急いで彼女を丁寧に引き剥がそうとする。

 

 が、引き剥がそうと少し力を入れても、ミルシェは全く離れようとしない。

 

「いーのいーの! ほら、もう少しこうさせて」

 

 抱き着くその腕は少し震えていた。

 

「…………はぁ、分かった」

 

 

 

 

 

 

 

「「……………………」」

 

 

 

 

 

 

 

 二人の間で何も言わず、ただ抱き合うだけの時間が過ぎていく。

 

 他のメンバー達も二人がふざけた雰囲気でない事を薄々気づいたのか静かに見守っている。

 

「あの、さ」

 

 しばらく黙ったままのミルシェだったがようやく口を開いてポツポツと喋り出す。

 

「……負けちゃったんだよね、あたし」

 

「あぁ」

 

「そっか、そっかぁ……」

 

「…………」

 

「必死に努力して、がん、ばったのに……っ」

 

「ミルシェ……」

 

「悔しいなぁ、ちくしょう……っ!」

 

 勝者が敗者にかける慰めの言葉はない。基臣はミルシェを黙って優しく抱きしめる。

 

 顔はよく見えなくても、すすり泣く声だけが聞こえた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ごめん、負けたのは自分の実力不足だっていうのに手前勝手なことして」

 

「別にいい。それよりも少しは気は晴れたか?」

 

「ん」

 

「ならよかった」

 

 抱擁を解いて彼女の顔を見ると、少しはスッキリしたのかいつものような顔をしていた。

 

「それじゃあな」

 

「……基臣!」

 

 背中からミルシェの声が響く。

 

「絶対に優勝してよ!」

 

「ああ、約束する」

 

 

 

 

 

 

 

 ミルシェが基臣に抱き着いた様子は当然、シリウスドームで観戦していたシルヴィアとペトラにも見られていた。

 

「噂の収束はベネトナーシュに任せるとして、彼女は帰ってきたら折檻(せっかん)ですね……。まったく、頭が痛くなります」

 

「あはは。でも少しは優しくしてあげてよ、ペトラさん。あの様子だと相当悔しがってるはずだから」

 

「無論です。ですが、厳しくするところは厳しくしなければいけませんから」

 

「相変わらずだなぁ……」

 

 いつでも持ってるスタンスを変えることのないペトラにシルヴィアは思わず苦笑する。

 

 この試合でルサールカは全世界に大々的に名前を売ることになった。それに伴って、これから色んなメディアでの露出も増えることに違いない。そうとなると、ペトラは一々説教している暇もない。彼女たちのメンタルケアだけに努めることだろう。

 

「そういうあなたはどうなのですか、シルヴィア?」

 

「ん、何が?」

 

「あなた、ミルシェに嫉妬してるでしょう? 見てて分かりますよ」

 

 ペトラがそう指摘するが、シルヴィアはその微笑んでる顔を崩さないまま言葉を返した。

 

「なんのことかなー?」

 

「……ハァ。頭痛のタネが多すぎてどうしたものやら」

 

 自分の担当しているアイドルたちをその気にさせてしまっている基臣に、ペトラは恨み言の一つでも言いたい気分になる。それでも、一度交友関係を認めた手前、彼にどうこう言う資格はない。せめて、記者会見で上手く誤魔化してくれることを祈りながら、ペトラはシルヴィアとルサールカがいる待機室へと向かった。

 

 

 

 

 

「……基臣君のバカ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 次の準決勝の相手であるチーム・麒麟(チーリン)のメンバーである暁彗と冬香も基臣たちとルサールカの試合の映像を見ていた。

 

「中々、手ごわい相手になりそうどすなぁ」

 

「……前、手合わせしたときよりも遥かに技量が上がっている」

 

「ほんにそうどすなあ」

 

「……今度の試合、師父が私に求めているものの答えを見つけることができそうだ」

 

 暁彗は己の身体の内で血が湧きたっているのを感じた。長年、星露が満足する答えを示すことが出来なかった彼にとって、直感とはいえその答えを見つけることができるであろうと感じたその試合に、持てる全てを以て臨もうと決心した。

 

 そんな思いを胸に去っていく暁彗(シャオフェイ)の背を見送りながら、冬香もまたクスリと微笑を浮かべて呪符で作られた扇子を取り出し口元に当てる。

 

「……うちの可愛らしい式神さんらに頑張ってもらわんとねぇ」

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

part24

メスガキのif話ネタを思いついたので初投稿です。

if話完成までしばらく時間がかかると思いますが、どうか楽しみに待っていただけたら幸いです。


 仲間が傷ついてホモ君が覚醒する王道展開のRTAはーじまーるよー。

 

 前回はルサールカを倒して一時、週刊誌にバラマキされそうな事件が起きましたが、何とか誤魔化して準決勝まで進んだところでしたね。

 

 準々決勝から準決勝までの間に何日か休息日が作られているので、その間は無理をしない程度に修練に励みましょう。

 

 あ、そうそう。いつもなら試合前にロリババアにチーム揃って一度面会するのですが、今回は面倒くさいのでバックレましょう。え、優等生なメスガキが捕まえに来るんじゃないかって?超絶真剣そうな雰囲気出しておけば何とかなるでしょ、へーきへーき。

 

 お、噂をすればなんとやら。鍛錬の合間に休憩してるとメスガキが来ましたね。

 

 ……おや?今回はメスガキに怒られなかったですね。普通にホモ君の隣に座って何やら悩ましそうな顔をしてます。

 

 なになに……私は足手まといじゃないかって?いや全然!

 

 士気を上げるために褒めまくっているっていうのもありますが、それを抜きにしても彼女のサポート力は今や界龍の中でも一二を争うレベルです。この1年で一番成長してるのも彼女ですし。

 

 しばらく褒めているとメスガキがもの凄い照れた顔をしてますね。もっと褒めてからかってやろうかと思いましたが、やりすぎると照れ隠しでぶん殴られそうなのでやめておきましょう。

 

 

 

 

 

 さて、時間を進めると準決勝当日になりそろそろ試合が開始するので簡単に作戦をば。

 

 まず使用する武装ですが、今回は爆弾は使用しません。こいつらには、というよりもリーダーである冬香に対して効果的ではないというのが一番の理由です。代わりに今まで縛っていた煌式武装のリミッター解除を解禁します。その理由としては今回、対戦する相手が人だけじゃなく、それに対抗するために火力が非常に重要になってくるからです。

 

 さて、次に警戒する人物ですが、チーム麒麟(チーリン)の中で一番警戒しないといけないのは式神使いの梅小路冬香です。彼女は強力な式神を2体従えているため、彼女がいるということは実質5対7のような状況を作るのと同義です。

 

 それで、準決勝でチーム・麒麟(チーリン)は……やっぱり暁彗(シャオフェイ)ではなく冬香をリーダーにしてきました。今までは暁彗が担当していたので、今回からの変更のようです。

 

 恐らく、一度模擬での試合とはいえ、ホモ君が暁彗を圧倒しかけた(大体ヤンデレ剣のおかげ)という事もあっての采配なのでしょう。

 

 それでこっちの布陣ですが、暁彗は虎峰と沈雲に、冬香以外のメンバーはセシリーと沈華に任せましょう。ちょっとホモ君さぼりすぎなんとちゃう?って思われる人がいると思うのですが、普通にそれだけ冬香は強いです。人数で言うと、おおよそ2.5人分ぐらいの活躍はしてくれます。ヤバいですね☆

 

 そういうわけで放置をしていると勝手に暴れまくって試合展開を荒らしてしまいかねないのでホモ君が直々に相手するわけですね。もう許せるぞオイ!

 

 作戦を大まかに説明している内に試合が開始しましたね。

 

 相手は冬香が初手で大量の式神を召喚してきました。大体予測通りです。

 

 こちらの出方ですが、一々無暗に切り伏せていてもこちらが消耗するだけなので、さっそく煌式武装のリミッターを解除して一掃しましょう。

 

 一振りで一掃できましたね。ンギモッヂィイイイイイイイイイイイイ

 

 すると、その間に冬香が次の手を打ってきます。先ほど言った激ツヨ式神君のことです。

 

 この式神召喚、良いパターンを引けば式神1体だけ、悪いパターン引くと2体両方とも出てくることになります。

 

 ですがまあ、今回は後者の悪いパターンを引く確率が非常に高いです。なぜかというと、ホモ君が界龍(ジェロン)に来てしまったからというのが最大の理由です。基本的に同じ学園にいるキャラは主人公の成長に伴って強化されていきます。その恩恵を一番預かることが出来るのは獅鷲星武祭(グリプス)というわけなのですが、今回のようにライバルチームが存在するともちろん相手側の戦力も強化されてしまうわけなのです。

 

 やはり、2体とも最初から出してきましたね。

 

 戦いながら、彼ら2体の説明をしましょう。

 

 この2体は梅小路家が代々受け継いできた冥慟鬼と言う式神で、魏嶽は純粋な近接戦闘タイプ、魏圏は魔術師タイプ(ついでに弓で攻撃もしてくる)です。千年受け継がれている梅小路家の秘伝というだけあって実力は非常に高く、二体で一気にかかられると、純粋に数の差で非常に厄介です。

 

 更に、魏圏の使う呪詛と呼ばれる能力は身体的にも負荷がかかるもので動きが鈍くなります。

 

 魏圏は直接万能素を呪詛へと変えているので、ヤンデレ剣の能力で周りの万能素を消してもほんの少しの間しか呪詛を止めることは出来ないです。原作の王竜星武祭時代の冬香に比べてまだ完成度は高くないので完全に鈍ることはありませんが、魏嶽や魏圏を相手にしながらっていうのがとてつもなく大変です。

 

 しかも、時折暁彗が二人の足止めを突破してこっちに乱入してきたりしますね。鬱陶しい事この上ないですが、ちゃんと反応しないと普通に校章を割られるハメになるので気をつけましょう。

 

 

 

 あ、そうだ(唐突)

 

 今回の試合、ホモ君を強化するためにチームメンバーの内誰か一人に退場してもらいます。え、こいついきなり頭おかしくなった(あたおかな)のかと思われる視聴者の方もいますが、私は正気です。その理由ですが……おや、話をしていればさっそくその機会が来ましたね。

 

 おっと、あぶなーい(棒読み) このままじゃホモ君が死んじゃーう!

 

 

 

 ヨシ!メスガキが身代わりになってくれました。(人間の屑)

 

 

 

 これで条件が整ったはずですが……来ましたね。ホモ君の剣術がようやく次のステージに到達してくれました。

 

 いきなり剣術が次のステージにとかなんとか言いましたが、要は新しい技を覚えたってことですね。

 

 剣術が成長する原因っていうのは流派によってまちまちで、適当にやってれば習得できることもあれば、一定の実力に達して取ることや、強敵と相対することによって習得することもあります。

 

 今までその全てを試したのですが、全て空振りに終わりました。というわけで最後の一つを試したわけです。そうです、仲間が傷つくのをみることによって習得するパターンです。随分前の話になりますが、学園祭の時のシルヴィがいなくなった時はノーカウントです。あれは別に目の前でシルヴィが傷ついたわけでもないですし。

 

 何はともあれ、おかげで獅鷲星武祭の準決勝という遅めの段階での習得となりましたが、こればっかりはしらみつぶしにやるしかないので、運としか言いようがないです。しょうがないね♂

 

 さて、剣術の特殊技能ですが成長分岐が2パターンあります。

 

 1つは奧伝を習得してからそのまま極伝習得に向かうパターン。天霧辰明流なんかがこの例に当てはまりますね。こっちは純粋に極伝にまでたどり着く時間が短いので中盤からの安定感が段違いになります。

 

 もう1つは奧伝を習得してから、極伝の前段階となる皆伝を習得してその後に極伝を習得というパターン。こっちは間を挟むため極伝の習得までに時間がかかりますが、手間がかかるだけに極伝の強さは段違いです。終盤の相手の難易度が別格に高いオーフェリアチャートにはベストマッチです。

 

 

 今回は後者のパターンを引きましたね。終盤をしくじりたくない私としては好都合です。さっさとメスガキにはステージから出てもらって……と、試合中にやりたい事はやれたのでさっさと倒してしまいましょうか。

 

 

 さて、誉崎流の皆伝の内容はというと超高速移動ですね。字面だけで見れば何だそんなしょうもないものかと思うかもしれませんが、実際に使用してみると誰も()()できない(一応実力者なら視認は出来る)速度で移動するので、小足見てから昇竜余裕でした、みたいな感じで目視してからの防御は不可能なインチキ技です。これよりも上の技があるって……末恐ろしいですね。

 

 極伝の前座ではありますがその強さは絶大で、これだけで圧倒できますね。ま、チーム・ランスロットのアーネストのような剣術を極めている人間の場合は何とか対抗してくる可能性はあります。思いつく限りでは攻撃する箇所を予測して事前に防御体勢を取る、とかですかね。ま、そんな山を張るようなやり方は長くは持たないですけど。

 

 魏嶽は2本の腕を斬り飛ばすと完全に無力化するので、そのまま首を斬り落としてしまいます。

 

 魏嶽を倒すと、暁彗が再び足止めを突破してやって来ましたね。流石に今のホモ君なら負けることは万が一にもないです。魏嶽と同じ要領で倒してしまいます。

 

 暁彗を倒すと、残る相手は魏圏と冬香、ついでに2人のモブ。モブの方はセシリーと沈雲が相手しているので置いておくとして、そのまま魏圏も誉崎流の皆伝で倒します。

 

 ついでに丁度インターバルを終えた煌式武装のリミッター解除で畳みかければ怖いものなしです。

 

 Foo↑気持ちぃ~

 

 やっぱり速さイズ正義(ジャスティス)ですね。流石にオーフェリアクラスは速さに加えて火力もないとどうしようもないですが、他の星脈世代なら速ささえあればまじでどうとでもなります。勢いのままに魏圏ぶっ倒して残るは冬香だけです。

 

 もし高等部ぐらいの年齢だったら冬香本人や魏嶽たちが雑魚式神を吸収して超強化する秘術を披露するんですが流石にそこまでまだ習得してこなかったので安心しました。

 

 本人もいくらか星仙術と体術は嗜んでいるのである程度の自衛力はありますが、所詮は"ある程度"。明らかに実力差があるホモ君には30秒と持たないです。

 

 ヨシ!校章を割れたので試合終了です。これで決勝まで進めることが出来ましたね。とりあえず、想定の通り事が進んでくれたのでホッとしてます。

 

 インタビューを受け終えたら、決勝に参加できる程度の怪我なのかどうか、メスガキの容態を確認しに治療院へ行きましょう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 えー、メスガキですが……なんと途中離脱という事態になりそうです。魏嶽の攻撃からホモ君を守った時に1本骨をやってしまったようです。

 

 人間には215本も骨があるのよ!1本くらい何よ! と言いたいところですが、無理して参加させてもどうせ足手まといになるので置いていきましょう。

 

 メスガキの離脱は確定ということで、決勝戦は4対5という形になりますね。

 

 無論、今回ホモ君が強化されたことで決勝のチーム・ランスロット戦でも十分勝てるのですが、早期に決着させることを考えると何かもう一つ強化ポイントが欲しいところです。

 

 残る強化ポイントというとヤンデレ剣と鬼気関連ぐらいです。後者に関しては今年の冬ぐらいに着手するつもりなので、必然的に前者だけですね。ですが、これは獅鷲星武祭までに起こるかは半々ぐらいの確率ですが……。とりあえず、試合は終わったのでさっさと自室に戻って休息を取りましょう。

 

 さて、寝る前に素人作業ですがヤンデレ剣は整備しておきましょう。次の試合はこいつがないと次の決勝で戦うアーネストが持つ白濾の魔剣(レイ=グラムス)の能力に対抗できないですからね。

 

 本来ならエルネスタやカミラ辺り、無理なら界龍の整備班にでも任せたいところですが、ヤンデレ剣はかなり人を選ぶタイプなのでホモ君が現状では整備することにしています。あまり上手く整備は出来ませんが、無いよりはマシでしょう。

 

 ……おや、整備しようとしましたがヤンデレ剣が随分と拗ねてるようです。これは新たにヤンデレ剣を強化できるフラグなのでこの分だと決勝戦までにもう一段階ホモ君を強化できそうですね。正直こっちの方は、獅鷲星武祭までに強化されるかは賭けだったので助かりますね。

 

 というわけで、これから決勝までの間に1日あるので、ヤンデレ剣と対話をして仲を深めようと――

 

 

 今回はここまで。ご視聴ありがとうございました。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

裏話24 誉崎流皆伝

冬香の京都弁があってるかに不安を覚えているので初投稿です。

細かいですが実は魏嶽の腕は四本ではなく二本だったので修正しました。


 界龍の中にある練習スペース。

 

 そこで、基臣は剣を振い続ける。ただひたすらに、愚直に。

 

「……何が、足りない」

 

 少し前から基臣は今以上の成長が出来ていないことを悩んでいた。

 

 やってる事と言えば、武器に頼った奇襲戦術ばかり。もちろんそれを考えつく能力も大事であることは理解していた。しかし、それで納得できるかと言えばそうもいかない。

 

「……休むか」

 

 剣を止めて近くにあるベンチに腰かける。剣をジッと見つめるが、当然そんな悩みを抱えている基臣に対して答えを返すでもなく待機状態のままだ。

 

「練習している時間は誰よりも長い自負はある。それに剣の道に対する真剣さも……」

 

 

 

 

 

 そんな事を考えていると、扉が開き沈華が中に入ってくる。

 

「ここにいたのね」

 

「……沈華か」

 

「隣、座るわよ」

 

「……あぁ」

 

 返事を聞いて沈華もベンチに座る。二人の距離は拳一つ分程度。向き合えばすぐそこに互いの顔があった。

 

「師父の所に来ないと思ったらまた修行なのね」

 

「今度の試合は厳しいものになる。いくら準備をしてもしすぎることはない」

 

「……まあそれに関しては同感だけど、しっかりと身体を休めなさいよ。当日になって最大限のパフォーマンスを発揮できないってなったら師父に嘲笑(あざわら)われるわ」

 

「分かっている」

 

 それだけ言うと沈華は黙ってしまう。

 

「…………?」

 

 基臣には、どこか沈華の顔に陰りがあるような気がした。

 

「沈華……? どうかしたか?」

 

「……私は、足手まといかしら」

 

「足手まとい?」

 

「この前のルサールカ戦の時も弱体化を受けてからは思うように動けていなかったし、足を引っ張ることに──」

 

「馬鹿を言うな」

 

 グッと沈華に顔を近づける。二人の距離はゼロになり、互いの顔がすぐ目の前にある。

 

「このチームの要を俺だと思っているようだが、それはお前たち後方支援あってのことだ。それに……お前の強さは世界の誰よりも知っている」

 

「そ、そう……?」

 

(あぁ……もうっ。よくそんなにキザな台詞が言えるわね……)

 

 ニヤケ半分、恥ずかし半分の気持ちを抑える沈華。そんな彼女の気持ちを知ってか知らずか話を進める基臣。

 

「今度の準決勝もお前の力が必ず必要になる」

 

「……分かった」

 

 

 

「……次の試合、荒れそうだな」

 

 

 

 そんな二人だったが、しばらくベンチで基臣と身体が密着したことで、沈華が羞恥に耐えきれなくなって顔を赤くしながら部屋を出て行ったのは二人だけの秘密だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 獅鷲星武祭(グリプス)準決勝。

 

 もう残る試合もこの準決勝を含めて二つということもあり、大いに観客が盛り上がる。そんな中、互いのチームのリーダーである基臣と冬香がステージの中央に来ていた。

 

「基臣はん」

 

「ん、なんだ」

 

「うち、あんさんに興味があったんよ」

 

「そうか、長年の歴史ある家の当主にそう言われて光栄だな」

 

「ふふ……もちろん当主としての誇りはあるけど、家の名なんてそう大層なもんやないよ」

 

 そうニッコリ笑うと、握手のために手を差し出す。

 

「あまり正々堂々ではないやり方やけど、よろしゅうな」

 

「あぁ」

 

 それに応えるように手を差し出すと深く握手する。

 

 そんな二人がそれぞれチームの元へと戻ると、試合開始を告げる実況のミーコの声が響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「急急如律令、(ちょく)

 

 試合が始まると共に、冬香が扇子を扇いで優雅に振る舞いながら、可憐な声を響かせる。

 

 その声と共に、ステージに大きな魔法陣が現れて白煙が上がる。

 

 その中から現れたのは落ち武者のような鎧を着こんだ骸骨や、醜悪な見た目をした河童、一般のイメージとは程遠い奇形の天狗など、異形の化け物たちが優に百を超す数はいた。

 

 それらが並ぶ姿はまさに、百鬼夜行と呼ぶに相応しい軍勢だった。

 

「この数を一々相手取るのは面倒だな……」

 

 腰元にある煌式武装を手に取り、脇構えに構える。

 

「セーフティー解除」

 

 その口上の後に激しく(ほとばし)るその刀身を横薙ぎに切り払った。

 

「シッ!」

 

 一瞬の出来事に召喚した式神は迸る光の餌食となってステージ上から消え失せた。

 

「……あらら、そう簡単に葬られるとちょっと自信を無くしてしまいますわ」

 

 微塵も思っていなさそうな事を口にしながら、扇子を口元に近づけ軽く扇ぐ。

 

「どうだかな。それよりも早く本命を出したらどうだ」

 

「ほな、少し早いけれど出てもらうことにしましょか」

 

 開いていた扇子を口元から離して閉じると、距離を離して印を組む。

 

「急急如律令、(ちょく)

 

 刀印を切り降ろすと同時に赤黒い光が駆け巡り、その中から時代を違えているとしか思えない古めかしい甲冑を身に纏った三つ目の男の式神と、それとは対照的に胸と腰を最低限の布だけで覆った女の式神が召喚される。

 

 男の式神は、大きさは目測でおおよそ2.4から2.5メートルほどだろうか。額から生える二本一対の角に赤黒い肌、そして手に持つ巨大な鎖つきの斧は日本に語り継がれている童話の鬼を想起させる。

 

 もう片方の女の式神は、青い肌に一本の角、身長はほとんど男の式神と変わらない程度だろうか。しかし、目に見えて違う点と言えば腕が四本あることだろうか。その四本の腕には複雑な紋様が刻み込まれた大きな弓を携えている。

 

「なるほど、こいつらがか……」

 

 冬香と親交の深い沈華の話によると、男の式神を魏嶽(ぎごく)、女の式神を魏圏(ぎけん)と言うらしい。

 

 今までの試合で一度だけこの魏嶽を出している試合があったが、こうして相対すると相当の実力を秘めている事が軽く見るだけでも伺えた。

 

 しかし、今回だしてきた魏圏に関してはまるで情報が無かった。沈華も名前だけは知っていたようだが、そんな彼女でも魏圏の能力は知らないとのこと。彼らの一挙手一投足に最大限の注意を払いながら剣を構える。

 

「今回は随分と早く呼び出したな当代の主よ」

 

「流石に相手が相手やからね」

 

 魏嶽の指摘に苦笑いしているがどこかその顔は苦しそうな様子だった。

 

(星辰力は大して減少していない……。何らかの代償があるのか?)

 

 とはいえ、基臣もその代償が試合に大した影響がない事は薄々感じ取っていた。すると、魏嶽が冬香と話をしている最中、魏圏が基臣の方へと向く。

 

「私めは魏圏と申しまする。鎮西(ちんぜい)(すえ)、奉公の梅を守護する青鬼(せいき)なれば、どうぞお見知りおきを」

 

「……これは驚きだな」

 

 ここまで人間に酷似した高度なコミュニケーションを取れる式神が存在することに改めて驚きを覚える。

 

 すると、冬香と話を終えたのか魏嶽も基臣を品定めするように見ている。

 

「ほう、此度の相手は中々の物をもっておる。面白……む?」

 

「どうかしたん、魏嶽?」

 

「……いや。当代の主と同じ気を僅かながら感じてな。ほんの僅かである故、気のせいであると思うが」

 

「うちと同じ? 梅小路家の血は門外不出やし、まさかそんなことあらへん思うけど」

 

「うむ……。若き武士(もののふ)、そなたの名を聞こう」

 

「誉崎基臣」

 

「誉崎、というとあの者を思い出すな。一度だけ戦ったがよく覚えておる」

 

「あの者は人の域を超えていまするからな。あんな人間が出るのは先にも後にもあの一回だけだとは思いまするが……」

 

「魏嶽、魏圏。昔話はそこまでにしてよろしゅうお願いしますえ」

 

「む、そうだな」

 

 冬香が指を横に振るとどこに格納しているのかと思う程、無数の呪符がまるで生き物のように飛び立ち魏嶽の持つ斧に巻き付く。

 

「いざ参ろうか」

 

「疾ッ!」

 

 魏嶽の足元へと駆け出し、動きを封じようと身を低くしながらのスタイルで戦う。

 

「ぬっ……中々にやりづらい。だが……」

 

 足を思い切り地面へ踏み込むことで凄まじい衝撃波を周囲にまき散らす。

 

「ちっ……」

 

「その程度の浅はかな策は対策済みよ」

 

 たまらず一度退がった基臣だったが、そこに追い打ちをかけるように魏圏も加わる。

 

「呪具も儀式も呪言も必要ないとは、実にめでたき世になられたことでございまするな」

 

「くっ……」

 

「魏圏の呪詛は星仙術の比にならんぐらい強力やしねぇ。気ぃ付けはったほうがええよ」

 

 身体を動かそうとすると、熱にかかったかのような朦朧(もうろう)とした感覚やだるさ、ふらつきで思うように身体を動かせなくなる。

 

 冬香の発言からして、目の前にいる魏圏が原因であることは疑うまでも無かったが、明らかに能力で肉体に干渉できる度合いを超えている。例外的に《ライア=ポロス》のような純星煌式武装(オーガルクス)であればそのような芸当も可能ではあるが、それと比較されるという事が如何に魏圏の能力が常軌を逸しているかを示している。

 

「ふぅっ、しっ、っとぉ……!」

 

 二体の同時攻撃に思うように攻勢に出れない基臣。

 

 さすが、梅小路家の秘術という事もあってか二体とも戦闘能力は《冒頭の十二人》でも上位入りできるレベル。相手にするのは基臣にとって非常に辛いものだった。

 

「そっちに行ったわ、基臣!」

 

「憤っ!」

 

「…………ちっ」

 

 時折、今のように暁彗が横から奇襲じみた攻撃を仕掛けてくることもあって基臣の状態は非常に芳しくない。

 

「二本しかない腕でよくやるものだ……。できることならば差しの勝負がしたいところではあるが、そうもいかぬ」

 

 斧による魏嶽の攻撃をすれすれの所で回避しながら、あえてワンテンポ外して出鱈目な軌道を描いて飛翔してくる魏圏の矢を煌式武装で切り裂く。

 

「面倒な……」

 

 第六感があるといっても、全てを見せられた攻撃の筋道を回避するように動くことは出来ない。分かる事とそれを元に動くことは決定的な違いがそこには存在しているのだ。

 

「誉崎流奧伝、獄爛(ごくらん)

 

 二体の攻撃後の隙を見逃さず、今度は基臣が攻勢に転ずる。全ての障害を切り裂き、勢いのままに攻撃を加える。

 

「ぐぬっ……!」

 

 基臣の攻撃は魏嶽の身体に傷を刻みこむ。

 

「……なんとも、面妖な技よ。あの者を思い出させる」

 

 しかし、相手は人間ではなく式神。動きに支障をきたすような傷でなければ何の変化も起こらない。

 

 再び攻撃の主導権は二体の式神へと移り、基臣はひたすらに耐える作業を強要される。普通ならば、魏嶽、魏圏、それに加えて冬香の同時攻撃を捌くことは不可能に等しいと思えるが──

 

「誉崎流奧伝、天地開闢(てんちかいびゃく)

 

 魏嶽に魏圏、そして冬香の攻撃に一瞬で対応すると、その全てを完全に防御する。

 

「ぬぅ……、これもまた奇怪な技。我々をここまで驚嘆させるとは称賛に値するな」

 

「急急如律令、勅!」

 

「なぬっ……!?」

 

 音速を超える速度で直径にして三メートルを優に超える雷撃が魏嶽へと向かう。

 

「ぬぅぅぅぅ……っ! ……まさか横槍とは、あの者もよくやる」

 

 魏嶽の身体に沈華の雷撃がそのまま直撃する。ダメージだけでなく身体の痺れもあり、沈華の雷撃の後に来た基臣の攻撃に咄嗟に反応できなかった。

 

「斬!」

 

「ぬっ……」

 

 今度の攻撃は三つ目の内の一つを切り裂き、明確なダメージを与える。

 

(今が最大のチャンスだ……!)

 

「セーフティー解除」

 

 二体の式神目掛けて煌式武装を横薙ぎに振り払う。

 

「ぬっ……」

 

「なっ……!?」

 

 二体ともギリギリで反応して首を取られることは無かったが、腕をそれぞれ切断された。

 

「今のは中々に巧かった。あやうく首まで斬り落とされるところだったわ」

 

 そう言いながら腕をくっつけようとする魏嶽と魏圏。

 

(今まで確認できなかったが切り取られた腕を接合もできるのか。目が再生できていないところを見るに効果はそこまでだろうが再生能力があると見て動いた方がいいだろうな)

 

 煌式武装の莫大な出力によってなんとか攻勢を維持できていた基臣。

 

 しかし、セーフティー解除の稼働限界を迎えた事で再び基臣は劣勢に立たされることになった。

 

(このままでは、持たないか……っ)

 

 周りを一瞬だけ見渡すと、他のメンバー達もあまり状況は芳しくない。

 

 虎峰・沈華ペアは拳士、道士のどちらもこなせる暁彗の攻撃に防戦が多いようだった。

 

 セシリー・沈雲ペアも《冒頭の十二人(ページワン)》三人相手はきついのか攻撃に勢いが見えない。

 

「よそ見とは余裕があるようだ。しかし、注意が散漫になると思うように力も出ぬぞ」

 

 周りを見渡している間に魏嶽がその隙を突いて猛攻を仕掛けてくる。

 

「ちぃ……っ!!」

 

(今、ピューレを使う訳にもいかない……)

 

 ピューレの能力はあまり多用していないことから外部からはただの透明化と思われている。決勝戦を前に使ってしまえば、危ない状況で意識せずとも透明化以外の能力を使用しかねない。

 

「貰ったッッ!!」

 

 そんな一瞬の迷いを見透かしたかのように魏嶽が斧を叩きつけてくる。

 

「まずっ!?」

 

 対応が間に合わず斧の攻撃を防ぎきることが出来ない。

 

(やられる──っ!?)

 

「急急如律令、勅!」

 

 ガラスが割れるような嫌な音と共に誰かの身体が基臣へとぶつかる。

 

「ぐっ……! ってぇ……なんとか、なったか……っ!?」

 

 目の前にいる人影に何事かと思い見ると、防御用の呪符を下敷きにして沈華が倒れていた。先ほどの攻撃に自らが盾となって基臣を守ったのだろう。明らかに戦闘を続行できるような状態ではなかった。

 

「はぁ、はぁ……。まったく……、世話が、焼けるわね……」 

 

「な、んで……?」

 

「あなたが、はぁ……はぁ……、リーダーだからに、決まってるでしょう……?」

 

 段々と意識が朦朧としていってるのか言葉も途切れ途切れになっている。

 

「後は……はぁ、はぁ……。頼んだわよ」

 

 握ってくる沈華の手をしっかりと握り返し真剣な表情で頷く。

 

「…………任せろ」

 

 その言葉を聞いた沈華は満足したようにそのまま意識を暗闇へと落とした。

 

「黎沈華、意識消失(アンコンシャスネス)

 

 

 

「……………………」

 

 倒れてしまった沈華を抱き上げて安全な場所へと運ぶ。幸いにも魏嶽たちが攻撃してくることは無く問題なく運ぶことが出来た。

 

 

 

「待たせたな」

 

「いや、問題ない。不意打ちをするのは我の主義に反する。……それでは、もうよいな?」

 

「あぁ、始めようか」

 

 戦いを再開した両者。しかし、手数は明らかに魏嶽たちの方が多い。

 

「取ったッ!」

 

 様々な方向から来る無数の攻撃に、もう打開する策は無いかに見えた。

 

 しかし──

 

 

 

「誉崎流皆伝」

 

 

 

 

 

(かみ)(より)

 

 

 

 

 

 

 

 ──────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よう」

 

 意識が沈みこんだこと思うと、目の前に全身白塗りの人間が座っていた。

 

 全身が白塗りで潰されて年齢は分からないが、その声だけで男ということは分かる。

 

「ようやく皆伝までたどり着いたやつが出たかー。……ほーんと、不器用な奴らばっかだよなぁ。俺が学が足りない馬鹿だったからそのせいか?」

 

 少し哀しそうに自嘲気味にケラケラと笑う目の前の白塗りの男。

 

「……お前は?」

 

「俺か? ……まあ、お前に力を貸す存在? みたいなもんじゃねーかな」

 

「何故に疑問形……」

 

「いや、だって皆伝にたどり着いた奴、俺の(せがれ)以外にだーれもいねーんだから。しかも倅も俺と対面拒否したから、こうしてこの世界で人と対面するのは初めて」

 

「…………」

 

「そもそも俺は誉崎流を作った覚えなんてねーのに勘違いする奴の多いこと多いこと……っと、そんな世間話は置いておいてだ。お前さんここにいるって事は力が今すぐ欲しいんだろ?」

 

「あぁ、そうだ」

 

「それは()()の意思か?」

 

 先ほどの光景を思い出す。沈華を助けるどころか逆に守ってもらって、それを見ているしかできない自分。

 

 そんな何もできない無力な自分にはもうなりたくなかった。

 

 

 

 自分のせいで誰かが傷つく姿をもう見たくない。

 

 

 

「そうだ。父でも誰でもない、この俺が……」

 

「ふーん……」

 

 しばらく考えていた様子の白塗りの男だったがやがて納得したかのように頷くと、基臣の前へと来る。

 

「…………OKだ。お前さんに力を貸してやろう。ただ──」

 

 白塗りの男が手を差し出してくる。

 

 それに応じるように手を差し出すと、その男は吸い込まれるように基臣の身体へと入り込んで行った。

 

 

 

 

 

 

 

『力に飲まれるなよ。俺の力はちーとばかし扱いに困る代物だからな』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 あらゆる方向から迫り来る攻撃を神がかったような動きで全て回避する。

 

「何ッ!?」

 

「…………雰囲気が変わった?」

 

 着地すると基臣は直立したまま動かなくなる。魏嶽、魏圏、冬香と一人一人見つめてるようだった。

 

(もう基臣はんに打つ手はあらへん。なのに、何なん……この、嫌な予感は)

 

 今までとは違う雰囲気に冬香は寒気を覚える。

 

「何をしたのかは知らんが、結局は同じこと」

 

 魏嶽は再び斧を振り上げ叩きつける。

 

 直立のまま全く動いていなかった基臣だったが、そんな魏嶽の目の前にいつの間にか立っていた。

 

「ッ、速いっ!」

 

 魏嶽はすぐさま攻撃に移るが、その時には他の場所へと移動している。

 

 移動した方向へと振り向いた次の瞬間に、一瞬にして斧を持っている腕を斬り飛ばされた。

 

「ぬうぅ……っ!!」

 

 移動としているいうこと自体は集中すればギリギリ認識できるという事に途中から気づく。しかし、その動きに対応することができずただ翻弄されるのみ。

 

 切られた腕を接合する暇もなく、残ったもう片方の腕を使って斧を拾って横薙ぎに攻撃するが、そんな攻撃は苦も無く止められる。

 

「ぐぬぅぅぅぅぅぅ……!!」

 

(押されているだと……!? この者の膂力、明らかに人間の肉体が出すそれではない……!!)

 

「終わりだ」

 

 魏嶽の攻撃を弾き、大きく身体をのけ反らせると残る一本の腕も容赦なく切断する。

 

 魏嶽の肩に乗り、抵抗する腕が無くなった首をそのまま()ねた。

 

「……えっ」

 

 あっけなく動かなくなった魏嶽に冬香は固まってしまう。

 

(こんな、いとも簡単に……)

 

「基臣! そっちに行きました!」

 

 虎峰の声に気づき横を向くと、暁彗が迫り来ていた。

 

「基臣、俺に師父の求める答えを見せてみろ」

 

 いつも以上に闘志が(みなぎ)っている暁彗だが、基臣はどこまでも覚めたような表情でそれを見る。

 

「憤ッ!」

 

 暁彗は距離を詰め、剣術を封殺して体術が有効となるような局面を作り出す。

 

 しかし──

 

「何ッ!」

 

 足払いで暁彗の体勢を不安定にさせると、強引に剣を暁彗へと押し込んで無理やり距離を離す。

 

「誉崎流皆伝が一──"染霞(そめがすみ)"」

 

 ふわりと幻術が解けたかのように姿をその場から消してしまった。

 

「どこに……っ!」

 

 必死にその姿を探るがまるで元からいなかったかのように気配すら掴むことが出来ない。

 

 そんな基臣だったが気づけばいつの間にか目と鼻の先。何の予兆もなく、まるで元からそこにいたかのように幽鬼の如く現れる。

 

「ッッ! ──爆!」

 

 持ちうる手段の中で最速の(すべ)を以て基臣から距離を離す。

 

 ステージの半分を覆いつくすほどの爆炎と爆風に他の場で戦う者たちまでもが爆心地から顔を背けた。

 

 爆発の威力は絶大──だが、一瞬でも姿を見失うということは己の身を危険に晒す事に等しい。

 

 爆風で見えなくなった瞬間に、基臣は暁彗の元へ既にいた。

 

「っ!」

 

 暁彗はその事に基臣が攻撃動作に入った瞬間に気づく。

 

「おおおおおおおおおおおおお!」

 

 暁彗が己の拳を以て基臣を迎え撃つ。

 

 今までで最高と言って良い程の技の冴え──だが、基臣はその更に上を行くように拳を身体を捻って躱し、最速の太刀を以て校章を破壊した。

 

「──(ウー)暁彗、校章破壊(バッジブロークン)

 

 チーム・麒麟(チーリン)はチームの双璧を為す存在の片翼を十数秒で潰された。

 

「……強い、この場にいる誰よりも……っ」

 

 誰もが異次元の強さを持つ基臣に対し、畏怖を抱く。

 

 そんな周りとは対照的に、基臣は二人の強者を倒したことに何の感慨も無い様子で次の戦場へと足を動かす。

 

 今度は魏圏に目標を定めた基臣は一歩、また一歩と彼女に詰め寄ってくる。

 

「セーフティー、解除……」

 

「もう一度同じように呪詛を……ッ!?」

 

 先ほどと同じように印を組んで呪術を発動させようとした瞬間。印を組んでいたその腕は距離が離れている基臣に切り取られていた。

 

「…………まず、二本」

 

 切られた腕に構わず残る二本の腕で魏圏が弓を引き基臣へと矢を放つ。

 

「遅い」

 

 それを矢を放った瞬間に手に持つ煌式武装で断ち切ると、弓を使えないように距離を詰めて掌底を叩きつける。

 

 近接戦闘をするのにあまりにも不向きな状態。当然、魏圏はまともに攻撃を食らってしまう。

 

「ちぃっ!」

 

「魏圏!」

 

 すかさず冬香からの星仙術による支援が入るが、見向きもすることなく避けられる。

 

 冬香の攻撃は完全に基臣の眼中になかった。

 

「くっ」

 

 流れるように煌式武装を構えて残る二本の腕を斬り伏せ、最後に上下逆さまに落下しながら足の腱を切った。

 

「カハァ……ッ!?」

 

 印を組む腕を全てもがれ、更に立つこともできなくなり地に伏せるしかない魏圏。もうすでに万策尽きており、待っているのは数瞬先の死のみだった。

 

「終わりだ」

 

 魏圏の目の前に来ていた基臣はそのままあっけなく首を()ねた。

 

 

 

 

 

 ──────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 界龍第七学院黄辰殿、謁見の間。

 

 明らかに小さな身体に不釣り合いな大きな椅子にちょこんと座った星露(シンルー)は一人の女性と基臣たちの試合を見ていた。

 

 その女性は界龍の特務機関に属する元序列一位、アレマ・セイヤーン。

 

 普段は仕事があるアレマだが、星露に負けず劣らずの戦闘狂である彼女はせっかくの獅鷲星武祭ということもあって仕事を放棄してまで星露と試合を観戦していた。

 

『まさか基臣にこんな隠し玉があるなんてねー。辛うじて見えはすれど、反応できないってのが中々面倒だねぇ』

 

 アレマは首元にあるチョーカーのように細長い呪符の影響で喋ることができなくなっている。その代わりに隣に浮かんでいる空間ウィンドウに文字を表示させながら、楽しそうに試合の映像を見る。

 

「ほっほっ。じゃが、まだあやつの技は極伝の劣化技よ。極伝ならばこの儂でも認識できんわ」

 

『おや、星露ちゃん。その言い振りだとまるで見た事があるみたいじゃないかい』

 

「あるぞえ。誉崎流の開祖に相当する人間に一度戦ったことがあるわ」

 

『ほー、流石は戦闘狂(バトルマニア)。それで結果はどうだったんだい』

 

 軽く鼻を鳴らすと首を横に振る。

 

「惨敗じゃ。1分と持たんかったわ。強いて言うなら布切れ1枚切れた程度か」

 

『へー。そりゃあたいも戦って見たかったなー、そいつと』

 

「それはともかくじゃ。さっきは劣化技だのなんだの言ったが、それでも十二分に強い。この勝負、チーム・黄龍の勝ちじゃの」

 

『ありゃ、勝ちと言い切っていいのかい? まだ勝負はついてないけど』

 

「阿呆、ぬしも戦局が見えぬほど愚盲ではあるまい。今のあやつに正面切って戦えるのは数えるほどしかおらぬよ」

 

 

 

 

 

 

 

 ──────────────────────

 

 

 

 

 

「梅小路お得意の式神は倒した、後はお前だけだ」

 

(あかん、勝てるビジョンが見えへん)

 

「急急如律令、(ちょく)!」

 

 無数の雷撃を基臣へと浴びせるがその全てを最小限のステップで回避する。

 

 それからも考え得る限りの全ての手段を用いて基臣へと攻撃を行う。

 

 しかし──

 

「……嘘やん、こんなん」

 

 そんな攻撃の一切を意に介さず目と鼻の先にまで詰め寄ってきていた基臣。

 

 彼の手には冬香の胸元にあったはずの校章が握られていた。

 

(これは敵わしまへんわ)

 

 

 

「梅小路冬香、校章破壊(バッジブロークン)

 

 

 

「試合終了! 勝者、チーム・黄龍(ファンロン)!」

 

 

 

 

「っ! ぁ、はぁ……はぁ……」

 

 初めて使う技に身体的疲労が大きかったのか、基臣は立ち尽くしたまま呆然としていた。

 

「基臣、大丈夫ですか!」

 

「っ、ん? あ、ああ……それよりも試合は終わったのか?」

 

「…………? 当たり前じゃないですか」

 

 少し混乱した記憶の中で必死に試合中の記憶を手繰り寄せる。

 

 まるで自分が自分でなくなるような感覚。最後の辺りは少しだけ自我を取り戻す事が出来たものの、身体の支配権(コントロール)を奪われるような感覚は気持ちが悪かった。

 

(自分が身体を動かしている感覚がまるで無かったな……。慣れない内は乱用は禁物か)

 

「すまん、少し疲れたから肩を貸してくれ」

 

「あ、はい」

 

 虎峰の肩に手を回してゆっくりと歩く。

 

「……しかし」

 

(あの男、いったい誰だったんだ……)

 

 誉崎流の皆伝を習得した時に現れた白塗りの男。正体不明のその男に考えを巡らせながら基臣はステージから去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 インタビューを受け終え、待機室まで戻ってくると虎峰に一声かけてシリウスドームから出て行く。

 

 向かう場所はもちろん沈華が搬送された治療院。虎峰から場所を聞くと、前に基臣が腕を切断された時に世話になった場所だった。

 

 一度行ったことがあるため迷わずに向かうと、受付の看護師に沈華の部屋の場所を聞いた。

 

「あぁ、沈華さんなら突き当たりの部屋にいらっしゃいます。そこまで重症では無かったので起きてらっしゃると思いますよ」

 

 部屋を教えてくれた看護師に礼を言うと、急いで沈華のいる部屋へと向かう。

 

「ここか……」

 

 部屋の前のネームプレートを確認して三度ノックする。

 

「どうぞ」

 

「入るぞ」

 

 部屋に入るとベッドに横になっている沈華が顔を向ける。

 

「……あら、思ったよりも早い到着ね」

 

「インタビューの後にすぐ来た。それよりも体調はどうだ」

 

 体調を聞くとどこか悲痛そうな顔をしながら口を開いた。

 

「骨折したらしいわ。しかも肋骨。この状態だと決勝戦は無理だと言ってたわ」

 

「そうか……」

 

 

 

 

 

「…………」

 

「…………」

 

 

 

 

 

 しばらく互いに何も喋らない沈黙の時間が流れる。

 

「沈華」

 

「ん、何かしら」

 

「あの時、お前の仕事じゃなかったはずなのに、無理をさせてしまった。すまない」

 

「……はぁ。何を言い出すかと思えば、まだ獅鷲星武祭(グリプス)が終わってないのに反省会かしら」

 

「そういうつもりでは……!」

 

 どこか自罰的な様子の基臣の口を手で塞ぐ沈華。

 

「なら、今は何も考えない事。説教してほしいなら後でいくらでもしてあげるわ」

 

「……あぁ」

 

 そこまで言われたら先ほどの試合の事を掘り返すわけにもいかず基臣は黙る。

 

「……あなた、そんな顔もするのね」

 

「えっ……?」

 

「……いえ、なんでもないわ。ほら、私が大丈夫だって分かったんだから行きなさい。決勝が控えているのにこんな所で時間を潰す暇なんて無いはずよ」

 

「……………………あぁ」

 

 名残惜しいのか、少し時間を置いて返事をすると立ち上がって部屋を立ち去る。

 

「じゃあな」

 

「……ええ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っ……! はぁ……はぁ……」

 

 我慢していた身体の痛みに顔を(しか)める。

 

「私も難儀な性格をしてるわ……。痛いって言えば彼にそばにいてもらうこともできたのに」

 

(でも……)

 

 さきほどの彼の顔を思い出す。

 

 普段は仏頂面な彼の、あの時の泣きそうな顔を。

 

「初めて見たわ、あんな顔……」

 

(何かが彼の中で変わっていってるのかしらね……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれからチームのメンバーに沈華の状態と、決勝には参加できないことを伝えた。皆、リタイアしたことを悲しみはしたが、大怪我にならなかった事は素直に喜んでいた。

 

「ふぅー……」

 

 ベッドに腰掛け、天井を見つめて明日の予定を立てることにする。

 

(沈華が離脱したから、明日は確認のためにも軽く連携だけ見直して後は休息にするか。……それよりも)

 

 思い出したように腰元のホルダーからピューレを取り出す。他の人にはその姿を見せない彼女。最初の頃は吸い込まれそうなほど綺麗に透き通っていた白い柄は、何度も使ったことでどこか濁っているように見えた。

 

 頑なに他人による整備を許さないため、未だに簡易的な整備しかできない弊害が最近になって露骨に表れ始めている。

 

「仕方がない。素人作業ではあるがやらないよりはマシだろう」

 

 そう言って基臣は整備道具を取り出す。

 

「ぅっ!?」

 

(頭が……っ、耳もか……)

 

 (きし)むような頭の痛みと共に耳鳴りのような音が響く。

 

 いきなり視界が白に染まり、思わず目を閉じた基臣。

 

「くっ……っぅぅぅ!」

 

 やがて白くなった視界が収まり、目の前にある光景を映し出す。

 

「ここは……いつもの茶会場所か」

 

 そこは基臣にとってこの1年ほどで見慣れた場所だった。

 

「まったく……いきなり茶会に誘うとはな。いや、唐突なのはいつもの事か」

 

 少し文句を言いたくなる基臣。

 

 二人きりであれば基臣にべったり、と言っても差し支えない程に好意を抱いているピューレではあるが、好意があっても素直に言う事を聞いてくれるかどうかは別の話。

 

 途中からは言っても無駄だなと悟ってはいたがここまで強引に精神世界に連れてこられることは無かった。

 

 オーフェリアと一緒に花植えをしたことで、前よりもかなり広くなっている花畑を抜け彼女がいつも居着いている家へとたどり着く。

 

「邪魔するぞピューレ」

 

 土足で家の中に入り、いつもの部屋に繋がる扉を開けた。

 

「…………どこだ?」

 

 どこかに隠れたのかと思い、辺りを見回すがそれらしい姿も見えない。

 

「おい、ピューレ! どこにいるんだ」

 

 声を張って彼女の名前を呼んでも返事は返ってこない。

 

「……どうしたんだ、いったい」

 

 いつもとは違う、静寂に包まれた雰囲気に不気味なものを感じる。

 

 居間、ピューレがいつもいる私室、書斎……どこに行ってもその姿は見えなかった。

 

「どこだまったく……」

 

 探し始めて10分ほど。家のどこにもいない彼女。

 

 まったく姿を見せてくれないピューレにどうしたものかと思った時だった。

 

「…………ん? こんなもの、あったか?」

 

 それは何かの写真を収めているだろうロケットペンダントだった。

 

「……開かないぞ、これ」

 

 いくら力を入れても開かないロケットペンダント。どうしたものかと思っているとどこからか音がする。

 

「なんだこの音……?」

 

 その音のする方向へと向かうと音の発生源は二階へ向かう階段だった。

 

 上しかないはずだった階段。音がしてからは今までと違って下へと降りていく階段が見つかる。

 

「地下なんてあったのか、この家……」

 

 初めて知る地下の存在。

 

 何故彼女がそんな場所を隠していたかは知る由もなかったが、なんとなく基臣にはピューレがそこにいる気がしてならなかった。

 

 

 

 カッ……カッ……、と靴音を鳴らしながら階段を下りていく。

 

 壁には燭台が掛けてあり、等間隔に並んでいるろうそくがどこか先ほどまでとは違う雰囲気であることを意識させる。

 

(それにしても随分と壁の材質も古そうだ。この世界なら新しいのに変えるのも訳ないはずだが……)

 

 そんな考えを巡らせながら下へ、下へと降りていく基臣。

 

 螺旋階段を三周ほどしたところでようやく地下までたどり着いた

 

(随分と雰囲気が変わったな)

 

 地下に降りると繋がっている長い廊下を歩いていき、奥に行く。

 

 廊下の突き当たりに部屋につながる扉があったので、ピューレがいるかどうか扉を叩いて確認する。

 

 

 すると──

 

 

 

「来たね、モトオミ」

 

 部屋の中からピューレの声が聞こえた。

 

「入っていいよ」

 

 彼女の許可を得たところで扉を開けて部屋に入る。

 

 

 

 

 そこには椅子に座るピューレの姿があった。

 

 

 

「話があるんだ」

 

 

 

 しかし、その顔はどこか憂いを帯びたような表情だった。

 




《現在開示可能な設定》

誉崎流皆伝 神依(かみより)

何者かの力を憑依させ、自身の力の限界を引き出す火事場の馬鹿力のような技。
走者はただの超高速移動と勘違いしているが、実際は膂力、反射能力、視力……その他、人間を構成する様々な身体能力の全てが向上する。ただし、使いこなせていないため限界を引き出すと言っても無意識に力を一定の割合でセーブしている。(そのせいで相手は認識自体はできても反応ができないという現象が発生している)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

part25

最近暇つぶしになるものが無くて虚無ってるので初投稿です。


 いきなり過去回想がはじまるゲームのRTAはーじまーるよー。

 

 前回は獅鷲星武祭最大のイレギュラーだったチーム・麒麟(チーリン)を倒し、決勝戦に駒を進めたもののヤンデレ剣が拗ねてしまったところまででしたね。

 

 さて、倍速中にヤンデレ剣の作り出す精神世界に入り、やっとの思いで彼女を見つけ出したのですがさっそく、自分はダメな子なんだ、みたいなネガティブなオーラが漏れ出していますね。あーめんどくせー、まじで。

 

 こういう状態になるとまともにホモ君の話を聞いてはくれません。

 

 ホモ君とヤンデレ剣がぐだぐだと話している間に純星煌式武装に関する説明をば。

 

 純星煌式武装(オーガルクス)を真に使いこなすのには条件があって、その条件は純星煌式武装(オーガルクス)の性格によりけりと言っていいでしょう。

 

 例えば、原作主人公の綾斗が使う黒炉の魔剣(セル=ベレスタ)は使用者が自身に対して使う際の心構えを非常に重要視しており、真摯でいて、それでいてしっかりと剣として見てほしいというめんどくせー性格をしてます。まあ、大体の純星煌式武装(オーガルクス)は難儀な性格をしてるやつばっかなのでこいつに限った話ではありませんが。

 

 このヤンデレ剣も今までの行動を見てきて分かると思いますが、メンヘラみたいな性格で、所有者を縛りたい系の純星煌式武装(オーガルクス)です。これまでも割と上手くヤンデレ剣と付き合っていけてる感覚はあるのですが、この手の性格の純星煌式武装はそれだけではダメで、ヤンデレ剣が抱えているトラウマを解消する必要があります。

 

 丁度ヤンデレ剣も話し合いに疲れたのか、いきなり過去の記憶を見せられ始めました。スキップ不可のイベントなので仕方なく見ることにしましょう。

 

 

 

 大分昔まで時が遡りましたね。おおよそ千年ぐらい前……見た感じ、鎌倉時代ぐらいでしょうか。純星煌式武装(オーガルクス)の核となる《ウルム=マナダイト》は大半が落星雨以降に地球に来てるのでヤンデレ剣は随分と希少な時代です。

 

 ヤンデレ剣の《ウルム=マナダイト》を見つけた鍛冶職人は彼女を加工したわけですが、強大な力を持つ反面、脳内に直接話しかけてくることや使用者に不幸が訪れたせいで妖刀扱いされて酷い扱いを受けてたようです。最初から人生ハードモードなヤンデレ剣ちゃんかわいそう(小並感)

 

 

 

 

 

 それから随分と時が飛んで戦国時代まで来ました。

 

 妖刀扱いされて久しくロクな所有者に巡り合えなかったようですが、ようやくまともに使いこなすことが出来る人間に出会えたようですね。

 

 誉崎という名字を持ってる事からこいつが誉崎流の開祖、つまりホモ君の先祖でしょうか? 見た感じボロボロの服を着て旅してるので強そうには見えませんが。

 

 

 

 ……………………

 

 

 

 まじでこいつ人間ですかね……? どう考えても万能素(マナ)が少なかった昔の時代の人間の身体能力とは思えないんですがそれは……。もしかして人の形を模したゴリラかな? 

 

 そういうわけであまりにも強すぎたせいで噂が流れて定期的に決闘を申し込まれていたみたいですね。その面子にはロリババアもいたみたいです。見たところ瞬殺されてますね。ざまーないぜ! 

 

 色々と化け物じみた行動が多すぎたので割愛してますが、やべーなこいつっていう感想しか浮かばないですね。

 

 それと、この男。意外な事に旅の途中で結婚したようですが、よくもまあこんなゴリラと結婚しようと思う人がいましたね……。まあそれだけにゴリラも結婚した妻を溺愛してるみたいですが。

 

 しばらく時が過ぎましたが、ヤンデレ剣とゴリラの仲は良いという訳ではなさそうですね。

 

 ヤンデレ剣じゃなくても、そこらへんに売ってる木刀で十分だったレベルでゴリラの身体スペックが高すぎた事で、いつかは見捨てられるのではないかという不安を彼女に植え付けていたようです。

 

 それをこのゴリラも分かっていたようで、自分が使ってもいつまでも行き違いになりかねないからと身体能力が一般星脈世代レベルの息子に渡したようですね。まあ、その息子とも大分仲が悪いようですが。

 

 妻の身体が丈夫じゃなかったので治療費を稼ぐために傭兵業をしてたようで、家を留守にすることが多かったらしく、息子は母親大好きなのでゴリラが家庭に無関心なのではないかと勘違いして憤慨したようです。

 

 それが原因でゴリラと息子の壮絶な行き違いが発生して(こじ)れたみたいですね。お話とか、なさらないんですか……? (小声)

 

 どう考えても母親の治療費稼いでるって息子に言えば拗れそうにないんだけどなぁ……。

 

 

 

 

 それから数年経ちましたが、化け物じみた身体能力の代償というべきか、ゴリラはそこまで長生きしなかったようです。

 

 ゴリラが死んでからは化け物の息子ということで、マザコン息子も早めに芽を摘んでおこうということらしく国中で抹殺命令が出たようです。

 

 お尋ね者になって、逃走している最中に母も衰弱死して、マザコンがガッツリ闇堕ちしちゃったよー。完全にやべー奴の目をしてますねぇ! 

 

 それからしばらくして、どうやらなんとか隠れ家となる場所を見つけることが出来たようです。

 

 さてさて、隠れ家を見つけた後はマザコンはどうしてるんでしょうか。

 

 

 

 

 

 え? 

 

 

 

 

 

 梅小路家と夜吹家の女を誘拐して○○(自主規制)するという中々のクズっぷりに私も動揺を隠せないです、ハイ。なるほどどうりで前の試合で魏嶽がホモ君が冬香と同じ気を感じるといったんですね。あまりにも業が深すぎるッピ! 

 

 色々と年齢制限かかりそうな描写を超え、子も産ませて育ててるようですが、樹海の奥深くに放置して独力で帰ってこさせたり、戦場に送り込んだりとか、どう考えても子供にやっていい教育内容じゃねーぞオイ! 

 

 ついでにマザコンもヤンデレ剣を酷使して暴れ回っていたようで、国を一つ潰したようですね。人を殺し過ぎて精神が崩壊していくヤンデレ剣の悲鳴が気が狂うほど気持ちええんじゃ(サイコパス)

 

 侍の姿か? これが……

 

 見ての通り体罰ありきのスパルタ教育になった原因はこいつみたいですね。というかホモ君のパッパの指導内容はまだ優しい方だったんすねぇ……(遠い目)

 

 そりゃ、無感情に動くお人形さんが大量に量産されるわけですわ。

 

 んで時間を少し進めるとこのマザコンも死んで、強い人間を育てるためにお家事情が面倒くさいことになると……。途中までは有力な家の人間を攫ったりしてたようですが、揉め事が多発したためか政略結婚みたいな形になったようです。

 

 それからはヤンデレ剣の使い手がいなくなってしばらく経過し、落星雨が起こった後の時代まで進んできました。

 

 久しぶりに使い手ではないけどホモ君のパッパが存在を認知できる人間となったようで、色々と家に嫌気が差してマッマと逃げ出す際に持って行ったようです。

 

 当然、家宝を持ち逃げした事で付け狙われていたようでホモ君が生まれてからしばらくして襲撃され、その時にマッマが死んじゃいました。

 

 なるほど、どうりでパッパが完全におかしくなるわけですわ。この家系、ほんと不幸なことしか起きねぇな。

 

 と、ここで過去回想終了みたいですね。チカレタ……(小声)

 

 まあ、ヤンデレ剣が姿を消してこんなに(ひね)くれてしまったのは人の巡り合わせが悪かったとしかいいようがないですね。こいつ、壮絶な人生送ってんな……。そりゃ、自分をちゃんと見てくれて且つそれなりの実力程度で済んでるホモ君に執着するわけですわ。それで、ホモ君がものすごい強くなったから前の二の舞になるかもしれないと危惧してるみたいですね。

 

 全体的に見たら完全にあのゴリラのせいですね、これ……。変に不器用な育て方してるせいで息子がグレてその影響でヤンデレ剣が雑な扱いされるとか、彼女からしたらたまったものではないでしょうに。

 

 こういうのは「大丈夫、君の事を絶対使ってあげるから!」みたいな言葉をかけるよりもヤンデレ剣がいかに有能な存在かっていうのを説明していき、そこから徐々にずっと使うからみたいな感じで優しい言葉をかけていくと簡単に堕ちてくれます。

 

 

 

 堕ちろ! 

 

 

 

 ……堕ちたな(確信)

 

 

 これでヤンデレ剣がしっかりとホモ君に協力してくれるようになりました。意外と早く堕ちたな~? 

 

 軽く言葉をかけるだけで依存してくれるとはチョロいっすわ。

 

 ようやくヤンデレ剣の心を開くことが出来て、やれることの幅が広がりましたね。少し慣らせば遠隔操作も可能ではないでしょうか。

 

 とりあえずこれで他の人に姿を見られることに抵抗が薄くなったので(触られるのは一部の人間を除いてまだ無理っぽい)、エルネスタの所に行ってヤンデレ剣を修繕してもらいましょうか。

 

 ヤンデレ剣と対話を終えて今は夜なので、翌日にアルルカントに向かうことにしましょう。

 

 

 

 

 

 

 

 さて、一日経過してアルルカントまで来たわけですが、ホモ君置き去りでエルネスタとヤンデレ剣がめっちゃじゃれてますね。主にエルネスタが一方的にではありますが。

 

 いいですわゾーこれ(百合)

 

 まあそんな茶番は置いといて、カミラも交えて真剣に修繕作業をしてくれました。さすがに純星煌式武装(オーガルクス)とあってか興味津々に見てるようです。

 

 ……おぉ、いい感じに直してくれましたね。さすがアルルカントの技術力やわぁ……(恍惚)

 

 ついでに他の武装の補給もしてから帰ることにしましょう。

 

 やることをやった後、ヤンデレ剣だけでは飽き足らずホモ君にエルネスタがじゃれついてくるロスイベントに出くわしましたが、ヤンデレ剣による強化の前にそんなロスはほとんど誤差に等しいです。それに少しロスってでもこいつの機嫌は保っておかないといけません。整備するときに手を抜かれても困りますからね。

 

 これで決勝戦までの準備は全て揃いましたね、後はチーム・ランスロットをボコって優勝するだけの作業を残すのみと──

 

 

 

 今回はここまで。ご視聴ありがとうございました。

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

裏話25-① 追憶

長くなりすぎて、前半後半と分けることにしたので初投稿です。

後半はある程度出来上がっているのでお待たせしないと思います。


「話があるんだ」

 

「……なんだ、話って」

 

 ピューレの対面にある椅子に座って、話を聞くことにする。

 

「いきなりだけど……もう、終わりにしよ」

 

「……いきなりどうしたんだ」

 

 唐突に別れを切り出そうとするピューレ。

 

 今の今までべったりとくっついてきた彼女が人でも変わったかのようにシュンとしている様子に事情も分からないため基臣も困惑するが、そんな彼の困惑を無視するように一人で勝手に話をする。

 

「まずは私の過去を知ってもらわないとね」

 

「お前の、過去?」

 

「見せてあげるよ、私の過去を……」

 

 そう言ってピューレは基臣の手を取る。鳳凰星武祭の時のように直接、基臣へと記憶を流し込んでいく。

 

「うっ……」

 

 強制的に眠らされるような、そんな感覚に襲われながら徐々に視界が暗くなっていく。

 

 

 

 

 ……………………

 

 

 それは落星雨が起こるよりも遥か昔、戦国の世と呼ばれていた時の話。

 

 

 

 

 

 

 

「追え! 追えええぇぇぇぇぇ!!!!」 

 

「はぁっ、はぁっ!」

 

 一人の女性が必死に敵の兵士の追跡から逃れようと豪雨でぬかるんだ山道を走る。身に纏っている服は気品のある仕立ての良い服だが、それも木々に裂かれ、泥にまみれていた。こんな道を走るのに向かない草履(ぞうり)でもう一里は走っただろうか。(おぼろ)げな意識の中、ほぼ反射的に敵が向かってくる方向とは逆側へ向かって走っていく。

 

「見つけたぞ! こっちだ!」

 

「っ!?」

 

 兵士に見つかり、徐々にその距離は縮んでいく。後ろから来る兵士が気になったのか何度も後ろを見ながら走る女性。

 

 しかし、その警戒が足元への警戒が緩ませ、気づかぬ内にうちに崖に足を突っ込んでしまう。

 

「──ッ!」

 

 そのまま助けを求める事すら叶わず女性は崖下へと転がり落ちていった。

 

 

 

 

 ……………………

 

 

 

 

「見つけました、こちらです」

 

 兵士の案内に従いながら、軍の長と思われる人間は道なき道を歩いていく。すると、目の前が崖になっている場所で女性の死体と思わしきものを見つける。

 

「女一人でこんなところまで逃げてくるとは……」

 

 危険な場所を一人で切り抜けようとした胆力に感服の意を示しながらその女性の死体に近づく。すると、先に駆けつけていた兵士が何やら抱えていた。

 

「どうやら赤ん坊のようです」

 

 衣服と思わしきものを一切身に着けておらず、裸のままの赤ん坊。

 

「今しがた産まれたばかりか……」

 

「身籠っていたんでしょうが、死ぬ直前になって流れたものかと……。いかがいたしましょうか」

 

 目の前の死体の女性は敵国の将の妻。すなわち、敵国の首領の子。生かさずに殺すのが筋というものだが──

 

「……近くにある川に捨て置け」

 

 男は生かすことを選択した。

 

「はっ、しかし……」

 

 口を出そうとする兵士を睨みつけ、黙らせる。

 

「いいから捨て置け。儂に子供をいたぶる趣味などないわ」

 

「わ、分かりました」

 

(その思いに免じて命だけは見逃そう。名も無き赤子よ……せめて母の分まで生きてみせよ)

 

 兵士に運ばれていく赤子を見送りながら、言葉に出さず無事を祈った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「すやすや……」

 

 そんな赤子は十数年経った今、草原で気持ちよさそうに寝ころび、睡眠の快楽を享受していた。

 

 物を下敷きにして川に流された赤子だったが、近くにあった村で保護されて生きること十数年ほど。世話になった育ての親に別れを告げて、各地を放浪する浮浪の者となった。生活の原資となる金は各地の戦場に赴いて傭兵まがいの仕事をこなすことで稼いでいる。

 

「うーん、んっ……」

 

 目を覚ましたのか、(うめ)き声をあげながら起き上がる。

 

「はぁ、よく寝たー」

 

 日の方角を確かめると、丁度時刻にして午の刻*1だろうか。時間にして半刻*2ほど寝ていたことになる。

 

「町にでも行くか、ついでに腹ごしらえも済ませたいし」

 

 重い腰を上げると町へ向かい歩を進める。

 

 普通の人間なら一日二食で済ませるものだが、身体をよく動かしているからなのか一日三食。それに加えて間に軽食を取るのがこの男の中では常識だった。

 

 向かった先は城下町ということもあって人が行き交い、栄えていた。歩く途中に茶屋があったので、餅を10個ほど注文して食べることにした。店の主も大量に餅を食す姿を見るのは珍しいのか、目を丸くしながら男に声をかける。

 

「見たところこの町の人間ではないようだけど、何の用で来たんだい?」

 

「ちょいと鍛冶屋に行こうかと思ってな」

 

「それなら……ここからしばらく進んだところに有名な鍛冶屋があるよ」

 

 店主の説明を聞き終えると、男は餅を食べ終え懐から金を出す。

 

「ありがとさん、これお代。釣りはいらないから、情報のお礼に取っといてくれ」

 

「まいど!」

 

 それから茶屋を発ち、歩くことしばらく。情報通りに鍛冶屋を見つける。

 

「入るか」

 

 暖簾(のれん)をくぐり、店の中に入ると様々な刀剣だけでなく、鉄を使った日用品の数々も置いてある。興味深く色々としばらく見て回っていた重信だったが──

 

「お、面白そうなのあるな」

 

 そう言って見たのは店の端にある、柄だけしかない一風変わった剣、だろうか。数ある刀剣が飾ってある中で一際異様な雰囲気を醸し出していた。

 

 少し気になり店主である壮年の男に声を掛ける。

 

「おっちゃん、この剣は?」

 

「あぁん? ……それか、そいつは曰く付きだぜ。やめときな」

 

「曰くつき、ねぇ……」

 

 なんとも物騒な話だが、見た感じだけで言えばそういった類の雰囲気は男の直感センサーには感じない。

 

「あぁ。今まで、数人の腕に自信がある剣豪が持っていたみたいだが、全員不慮の事故で死んじまってる。おまけに頭の中で誰とも分からん言葉が聞こえるんだとさ」

 

「ふーん、じゃあこれにするか」

 

「話聞いてたのかい兄ちゃん! そいつは呪われた妖刀なんだ。使い手になったら最後、確実に死ぬんだぞ」

 

 そんな店主の話を聞かず男は剣を手に取り、起動する。

 

「…………きれいだ」

 

 男の視線を釘付けにしてしまうほど、その剣はどこまでも透き通っていて世界のあらゆる物よりも綺麗だった。

 

「……気に入った。おっちゃん、これ貰うわ。お代は?」

 

「って、おい! …………あーもう、馬鹿が知らねえぞ。お代はいらねぇ、好きに持って行け!」

 

「あいよー。ありがとな、おっちゃん」

 

 剣を無償で貰い、機嫌よく店から立ち去る。

 

 要件も済んだので町を出てしばらく歩くと、頭の中に誰かの声が聞こえる。

 

『あなた……誰?』

 

 まだ(よわい)十五に満たないぐらいだろうか、どこか妖精を思わせるような透き通るような声をしていた。

 

「おっと、さっそく頭の中に直接声が聞こえたな。初めましてだな、俺が新しいお前さんの所有者だな」

 

『……私が呪われてると知って持ってるの?』

 

「そんな雰囲気無いし適当にでっちあげられた与太話だろ、どうせ。そんなことよりもお前が魅力的に見えたから貰ったんだよ」

 

『そんな風に私を見てくれる人、初めて。……ねえ、あなたの名前は?』

 

「俺の名前? 俺は誉崎重信。……つっても、誰かにもらった訳でもなく自分がつけた名前だけどな」

 

『シゲ、ノブ?』 

 

「そうだ」

 

『……よろしくね、シゲノブ』

 

「あぁ、よろしくな」

 

 

 

 

 

 

 

 それから、ピューレは重信と共に旅をした。

 

 

 

 時には、うっかり山に跡を残すほどの斬撃を放ったり。

 

 時には、万にも及ぶ軍勢を相手取ったり。

 

 時には、梅小路家や夜吹家に喧嘩を売りに行ったり。

 

 

 

 その度にピューレは思う。自分が大して必要になる局面はないのだと。

 

 それもそうだろう。重信がわざわざ本気を出してピューレを使ってくれることは無かったんだから。

 

 そんな事実に、いらなくなって捨てられるのではないかという思いもあったが、それが現実になるのが怖くて黙ったままでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから数年。放浪の旅を止め、重信は住処を持ち定住することになった。

 

 その理由は──

 

「おかえりなさい、重信さん」

 

「あぁ、ただいま。(より)

 

 帰ってきた重信を家の中で出迎えた重信と同じかそれよりも下に見える年の女性。名を(より)姫といった。

 

 戦によって没落した士族の娘だったらしく、それを道中出くわした重信が保護したのが始まりだった。彼女は生まれながらに病弱だったが、重信が仕事で得た金で薬を買い与えることでまともに生活できている。

 

 今では、紆余曲折経て結婚したのち、子も授かっていた。

 

「ピューレちゃんもおかえりなさい」

 

 少女の姿で実体化したピューレに微笑む。

 

『た、ただいま』

 

「恥ずかしがり屋なのね、ふふ」

 

『────ぅぅっ!!』

 

 初めて経験する家庭の温もり。恥ずかしくもあるが、居心地のいいその空間に使われていないという不安が消えるぐらいにはどこかホッとするピューレだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 更に、10年近く経ち、一家には子供も生まれた。妻である依姫の薬代を稼ぐために戦場に行って戦う傭兵業に忙殺されていたが、それでも妻の笑顔を見れるのならつらいとも思わず戦った。

 

 

 

 今日は久しぶりの休養日ということで絶好の昼寝場所で睡眠をとっている重信。ピューレは何かあった時のためにと妻の元に置いたまま出かけてきている。普通ならばたいした武装も持たず寝ていようものなら野盗に襲われてしまうのがオチだ。だが、過去に一万もの軍勢を相手に無傷で勝ったことのある重信にその常識を当てはめてもしょうがない。

 

 昼寝をしていた重信を人影が覆い隠す。

 

「……ん?」

 

「ぬしが誉崎重信じゃな?」

 

 声が聞こえたので目を開くと、異国の服を着た若い女が立っていた。

 

「儂は隣の明からおぬしの噂を聞きつけてやってきたのじゃが……その噂の本人で合っとるかの?」

 

「今度は外からの人間まで来たか。どこで噂を嗅ぎつけてきたんだ、まったく……。それで何の用だ?」

 

「そなたと戦いたいのじゃ、一つ手合わせ願えるかの」

 

 まあそうだろうな、と思いながら重信は立ち上がる。

 

「……まあ構わねぇけど、これっきりにしてくれよ? 何度も来られても相手するの面倒くさいし」

 

「相分かった」

 

「それじゃ移動するか。ここだと人が来るかもしれないからな」

 

 それから重信たちは草木が茂り、人が通ることのない場所へと移動する。

 

「そっちからどーぞ」

 

「それならお言葉に甘えるとするかの」

 

 手で印を組み始める。初めて見るその手の動きを興味深く観察していると、女は印を組み終え刀印を切り降ろす。

 

「急急如律令、(ちょく)!」

 

 すると、一人だけしかいなかったはずの女がそっくりそのまま、たくさん複製される。

 

「おぉ、分身か。初めて見たな」

 

「ゆくぞっ!!」

 

 分身たちが各々自由意志を持つかのように動きを変え襲い掛かる。

 

 変則的なその動きを初見から全て見切り、回避する。

 

「勢ッ!」

 

「危なっ、衝撃波か」

 

 衝撃波を発生させる呪符を初見ながら全て回避する。

 

 それ以外にも多種多様な分身たちの攻撃をそつがなく受け流し、カウンター気味にその分身を全て消していく。

 

「本体はそこか」

 

「くっ!?」

 

(何故じゃ!? 普通の分身ではなく別次元から呼び寄せた、言ってみればもう一人の自分に等しいはずなのにどうして見分けれるのじゃ!)

 

 見通されたかのようにピンポイントで本体を叩く重信に困惑する。

 

 しかし、それとは別に闘争心が段々と湧きたってもいく。

 

「ククク……。滾ってきおったわぁ!」

 

 呪符を大量にばら撒くと、それを起点に二メートル大はある爆炎球が百以上現れる。

 

「分身の次は炎か」

 

 木刀でその全てを捌ききり、爆風で姿をくらまして女へと攻撃を仕掛けた。

 

「────っっ!」

 

 ギリギリで重信の攻撃を回避すると反撃とばかりに手刀を振るう。

 

「女だからと侮っていたが、良い反応速度だな……って!」

 

 重信の身に纏う服が手刀の軌跡に沿って破れ、そこから血が滲み出る。

 

「しまったなぁ、依に縫ってもらわねぇと」

 

 そんな能天気な事を考えている内に彼女は次の術を完成させる。

 

「憤ッ!」

 

 印を組み終えて最後に刀印を切り降ろすと、上空から天変地異レベルの落雷が重信の元に降り注ぐ。

 

 雷特有の轟音が耳を刺激し、明滅する閃光が視界を埋め尽くす。

 

「……っ、どうじゃ!」

 

 音からして直撃した手ごたえがあった。この雷撃を今まで受けたもので立ったままでいれたものはいない。それ故に、彼女は勝利を確信する。

 

 

 だが──

 

 

「ほー、天災を呼び寄せるなんて面白い術使うんだな」

 

 地面が焦げて草葉が根こそぎ焼けてしまっている中、その中心で無傷のまま重信は立っていた。

 

「おぬし、どうやって今のを……」

 

「あ、これか? 星辰力(プラーナ)で包み込んだ木刀を使って雷を受け流しただけだ」

 

 理解を超えた方法で動く重信に流石に余裕の表情だった女も冷や汗をかく。

 

「今までいろんな者を見てきたが、おぬしはその中でも特に規格外じゃわ……」

 

「さて、面白い物を見せてもらったし、礼としてこっちも全力でやるか」

 

 重信は身に留めていた星辰力を開放し、木刀を構える。

 

(……この星辰力の量! やはりただものではない!)

 

「急急にょ──」 

 

「遅い」

 

「──っ!? カハッ!」

 

 星仙術を使う暇さえ与えず不可避の速攻を仕掛けた重信。気絶させるべく彼女の鳩尾(みぞおち)に一撃を与える。

 

(まったくっ、動きが見えんかった……!)

 

 動きの途中どころか初動すら見ることが出来なかった。

 

(こんなこと、初めて、じゃ……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………む。ここ、は……?」

 

 先ほどまで戦っていたはずだったが、意識を取り戻して起きると先ほど出会った草っぱらに横たわっていた。

 

 起きたばかりで記憶が曖昧な女の元に何かが放り投げられる。よく見ると、握り飯だった。

 

「おはようさん。飯いるだろ? 一つやるよ」

 

「……もらおう」

 

 投げ渡された握り飯を一つ貰い口に頬張る。適度な塩味が脳に浸透し先ほどまでの戦いの疲れを癒す。

 

「それにしても……強かったな、お前。今まで戦ってきたやつの中では一番だ」

 

「ほざけ。薄布一枚しか裂けんかった儂が一番強いなどと」

 

「いやいや、俺油断してはなかったんだぜ。今まで一度も攻撃を貰ったことないんだから、お前さんがその第一号ってわけだ」

 

「はあ……言ってくれるわ」

 

 握り飯を食べながら、女は疑問を口にする。

 

「それにしてもお主、なんでそんな状態で身体が壊れんのじゃ?」

 

 その質問に重信は首を傾げる。

 

「何故壊れない、と言われてもなあ。今までこれでやってきたからその質問は分からないとしか言いようがない」

 

「普通考えれば、肉体が裂け、骨も砕かれるはずじゃが」

 

「うーん……。強いて言うなら星辰力で補強しているといえばしてるが」

 

「ふむ……」

 

「それよりも俺の身体能力は異常なのか? 今までまともにお前の言う星脈世代とやらに会ったことが無いから分からんのだが」

 

「普通、非星脈世代と同じように星脈世代も身体に異常な負荷がかからんように制限がかかっておる。じゃが、おぬしにはその制限がないように見える。普通考えれば、あり得ん話じゃよ」

 

「ふーん、そっか」

 

 貰った握り飯を食べ終えると、重信の方を向き真剣な表情を見せる。

 

「つかぬことを聞くが、おぬし、儂の婿とならんか?」

 

「嫌だ。俺には妻がいるんだ、他を当たれ」

 

 即答する重信に星露も呆気にとられる。自惚れでも何でもなく、自分の容姿は少なくとも一般よりも美しいものだという自覚がある。少しは悩む様子を見せる物と思っていただけにその返答の速さに驚かされた。

 

「妾でもいいんじゃぞ」

 

「俺は妻一筋だからな。他の奴が入る席はない」

 

「ちぇっ、つまらん男じゃのう。まあそこまで言うなら仕方なかろう」

 

 服をはたき、立ち上がる。

 

「そろそろ帰るのか?」

 

「いんや、初めてこの国に来たから少し観光して帰ることにするわい」

 

「そうか、楽しかったぜ」

 

 手を振りながら去っていく女に、重信もまた手を振って別れを告げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 重信が30歳手前になった頃、ピューレを息子に渡す事に決めた。彼は彼女が胸中で抱いていた、捨てられるのではないかという不安を見抜いていた。このまま持っていても、その不安は解消されないだろうことから実力がまだ未成熟な息子に手渡す方が良いと重信は思った。

 

 ピューレに説明を事前に済ませると、息子である重行(しげゆき)が丁度やってくる。

 

「何だよ、こんな所に呼び出して」

 

「長い話も好きじゃないしさっさと本題に入ろうか」

 

 腰から剣を取り、息子に手渡す。

 

「…………これは」

 

「そうだ、潔白の純剣。俺の持ってる剣だ」

 

「何故、お前が俺なんかに今更こんな……」

 

「今更って言われてもな」

 

 重信の言葉に重行はその顔を怒りに歪める。

 

「母さんをロクに面倒見ずに、放浪しているお前なんかに!! どうせどこかで女でも作ってるんだろ! この屑が!」

 

 重信が家に帰ってくるのは一年の内、ひと月あるか無いか。重信も本来ならもっと妻に寄り添ってあげたいが、薬の値段が異常な高さのため、仕事漬けの毎日。

 

 そんな事を知る由もなく憎悪の念を抱く息子に思わず溜息をついてしまう。まだ年齢は10を過ぎたばかり。事情が事情なだけに真実を話せないことが悔やまれる。

 

「はぁ……。分かった分かった。とりあえず持っておけ、いずれは役に立つ」

 

「……ちっ」

 

 ピューレを受け取ると逃げるように立ち去って行った。そんな彼の行動に重信は少し苦笑いしつつも、どこか悲しそうにその様子を見ていた。

 

 すると、依姫もその様子を陰ながら見てたのかしばらくして重信の元に来る。

 

「ごめんなさい。あの子、重信さんのことを嫌ってるみたいで。話は何度もしてるんですけど……」

 

「いんや、構わんよ。俺が家を留守にすることが殆どだからな。嫌われててもおかしくない」

 

「……そろそろ、本当の事を言った方がいいのではないですか?」

 

 本当ならそうしたいのは山々だった重信だが、その提案を首を横に振って否定する。

 

「俺が戦に出稼ぎに行ってると知れば間違いなくついてくる。まだあいつは子供だ、死地に向かわせるぐらいなら嫌われてでも黙っておいたほうが良い」

 

「あなたがそう言うなら……」

 

「すまんな。こんな嫌な雰囲気を作り出して」

 

「いえ、あなたがよかれと思ってやってる事ですから。いつかは分かってくれますよ」

 

「ありがとう」

 

 重信は微笑んでくる彼女にキスをする。

 

「じゃあ行ってくる」

 

「気を付けてくださいね、重信さん」

 

「あぁ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しかし、そうした平穏な日常は長続きしなかった。

 

 重信が30手前という年齢で早逝すると、彼の力を恐れていた重信の住んでいた国の武将が妻であった依姫と息子である重行を狙って抹殺命令を下した。

 

 早めにその噂を聞いていた息子は母を連れて隠れるように暮らしていたが、まともに仕事にもありつけず母の薬を買うこともままならなかった。当然、母の容態は悪化の一途を辿り、一人ではまともに食事にありつけないほどの状態。

 

 それでも必死に息子は働き、薬を買えるほどのお金を手にする。

 

「大丈夫だよ、母さん。薬買ってくるから」

 

 金を片手に家から出ようとする息子の手を止める。

 

「いいの、もう」

 

「……っ! いいわけ、ないだろ!」

 

 声が震える。

 

 息子にも分かっていた。

 

「分かるの。もう私の命も残り少ないって」 

 

 もう母の命が残りわずかであることを。

 

「そん、な……」

 

「…………今だから話そうかしら」

 

「……話?」

 

「……お父さんはね、私の治療費のために戦場に出稼ぎに行ってたの。だから、いつも家を留守にしてたのよ」

 

「…………え?」

 

 信じられない。あんな屑みたいな人間が母親のために働いていたなどと、息子には到底思えなかった。

 

「でも、なんで黙って」

 

「今まで黙ってたのは、あなたが無茶して戦場についていくような危ない真似をしてほしくなかったから」

 

 混乱している息子だが、母は自身がもう持たない事を悟り、話を続ける。

 

「こんな事を隠していた私達を今更許してなんて言わないわ」

 

 息子の手を握り、どこか涙ながらに話す。

 

「ごめんね、こんな不甲斐ない母親、で……」

 

「……………………? まさか……母さん!!」

 

 いきなり喋ることをやめた母親に大声で話しかける。

 

「……嘘だろ。かあ、さん…………母さん!」

 

 母の亡骸を揺すって何度も声をかける。しかし、身体は既に冷めて生を感じさせなくなっていた。

 

 無理やりにでも理解させられる。もう母は死んでいることを。

 

「……俺は、誰を恨めばいいんだ」

 

 今まで憎しみを向けていた父は、実は薬を買うために必死に働いていて、自分のためを思って黙っていた。これでは一方的に怒りを向けていた自分は馬鹿だと、そう思わされる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 重行たちの抹殺は梅小路家と夜吹家、それぞれに依頼をしていた。お互い仲間と言える間柄ではないので、どちらが早く首を取ってくるかを争っていた。

 

「……そろそろ首を取っている頃か」

 

「ご、ご当主!!」

 

 扉を開けて焦った様子で向かってきた側近。

 

「む、どうした。そんなに慌てて」

 

「大変です! 誉崎の抹殺に向かわせていた者達が全員返り討ちに! それと……」

 

「なんだ?」

 

「本家の屋敷にいたはずの秋穂様がいなくなりました」

 

「いなくなっただと!? どういうことだ!」

 

「そ、それが……。誘拐されたものかと思われます……おそらく誉崎の者かと……」

 

「何だと!?」

 

 代々優秀な星脈世代を輩出してきた梅小路家にとって前代未聞の誘拐事件。しかも、その誘拐された現当主の娘である秋穂はその資質の高さから次期当主になる予定だった。厳重な守りにある本家の屋敷にいたはずの彼女をどうやって誘拐したかは不明だが、相当な痛手であることには違いなかった。

 

 頭を悩ませながらも現当主はこの騒動を広めないことに決める。

 

「……この事実は決して他の者には漏らすな。不慮の事故で亡くなったことにせよ」

 

「それでは……」

 

「……うむ。一生この事実は我々のみで封印するものとする」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……はぁ……はぁ……もう、やめてぇっ」

 

 そんな誘拐された女は重行にとって、子を産むためだけの道具としてしか見られていなかった。

 

 肩で息をしながら、床に四つん這いになる女を何の感情も持たずに見下ろす。

 

「…………まだだ」

 

「あっ! だめっ、そこっ」

 

 

 

 結局、本質は変わらなかった。何かに対して怒り、憎しみを抱くことでしか重行は生きる意味を持てない。そんな悲しい生き方しかできなかった。

 

 無理やり産ませた我が子に対しても何の愛情も注がず、ただ強く、ただ憎き相手を殺すためだけに育てるという歪んだ考えを持って接した。

 

 

 

 そして、その怒りの矛先が憎き相手を貫く時がやってくる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐぁっ!!」

 

「や、やめろっ……あ"ぁ"っ"!!」

 

『もうやめてよ!』

 

「騒がしい、黙っていろ」

 

 母や自身の抹殺を命じた武将が住まう城。その場所へ重行一人で殴り込み、そこにいる人間を男女構わず全員斬り殺していた。

 

 その者たちの絶叫、憎悪、様々な感情がピューレへと突き刺さる。

 

『いやぁ!』

 

 反抗するピューレを無理やり押さえつける。普通、純星煌式武装(オーガルクス)の力を以てすれば所有者を拒否することも可能だが、この男にはまるでそれが通用しない。おぞましいと形容するだけでは足りない程の鬼気がピューレを縛り付けていた。

 

 そんな苦しんでいる彼女の事を(つゆ)ほども気にせず、目の前の人間を次々に斬りつける。

 

 父ほどではなかったが、この男も最強と呼ぶにふさわしい剣技の持ち主。何人が一斉にかかろうとも容易くそれらを薙ぎ払っていく。

 

 そんな城内に居る人間たちの怨嗟の念を受けながら、最後の〆とばかりに将が居る最上階へと向かう。

 

「お前が最後だ」

 

「貴様……まさか!」

 

「何の罪もない人間を抹殺しようとしておいて、よくもこんなに優雅に過ごしていられるものだ。吐き気がする」

 

「えぇい、この儂が殺して──」

 

「黙れ、その薄汚い声を発するな。耳障りだ」

 

「ァ……ぁっ……」

 

 侮蔑の目を向けながら、首に刃を押し込む。しばらくしてピューレを抜くと空気混じりのかすれた声を上げながら倒れた。

 

 汚い物に触れるように足で転がして生死を確認する。

 

「……やっとだ」

 

 長年、殺してやるとひたすらに思い続けていた怨敵を自身の手で打ち取ることができた。

 

「やっと、やっと……母さんをいじめてた屑どもを滅ぼすことができたよ」

 

 肩を震わせ、喜悦に顔を歪ませる。しかし、その顔は正気とはかけ離れた狂気に満ちたもの。

 

「く、ククク……アハハハハハハハハハハハハ!!」 

 

 誰もいない城内に狂笑が響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『誰か……たす、けて……』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*1
正午

*2
約一時間



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

裏話25-② 抱擁

どう描写すればいいか苦労しまくった過去回想編がなんとか終わったので初投稿です。


 

 

 

 

 

(もう、どれぐらい時が経ったんだろう)

 

 

 

 

 

(私の周りにいる人はみんな不幸になっていく)

 

 

 

 

 

(私、生まれてくるべきじゃなかったのかな……)

 

 

 

 

 

 ……………………

 

 

 

 あれから時は五百年近く経ち、誉崎家から逃げ出した基臣の父である幸人(ゆきと)と母である澄玲(すみれ)がピューレを所持することになった。今までが長い事見てきた誉崎家の狂ったような日常とは違い、幸人と澄玲が仲睦まじく過ごす日々にピューレはなんとなく興味を持つようになっていく。

 

 

「ほらほら、ママですよー」

 

「うぃい、あぶー」

 

「ほら、手を上げてー。はーい!」

 

「あーぃ」

 

「あーもう! かわいいなー!」

 

「親馬鹿もほどほどにしておけよー。基臣が泣くぞ」

 

「もう! それは私だけじゃなくて幸人(ゆきと)くんもでしょ。ほら、基臣の面倒見てあげて」

 

「あ、おい! ……仕方ないな。ほーらほら、パパだぞー」

 

 

 

 

 

(私もあの中に、入りたいな……)

 

 目の前の楽しそうな光景に、羨ましく感じる。いつぶりにこんな和やかな光景を目にしただろうか。もう五百年近くは見ていないだろう。

 

(二人とも優しそうだし、もしかしたら受け入れて……くれるかな?)

 

 過去にピューレは何の遠慮も無く使い潰されたせいでまだ人が怖かったが、それでもこの二人はそんな悪い感じはしなかった。

 

 それこそ、こんな私でも受け入れてくれる。ピューレはそんな気がした。

 

(しばらくしたら、話しかけてみようかな……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんなピューレの期待とは真逆の方向へと、事態は進んでいく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 幸人と澄玲が脱走したことは誉崎家の名に泥を塗るような行為ということで、本家から刺客が澄玲たちの元へと差し向けられた。

 

「澄玲、ここで隠れていてくれ」

 

「……気を付けてね」

 

「あぁ」

 

 部屋から出て行く幸人を見送ると、しばらくして戦闘の雰囲気が物音を通じて伝わってくる。

 

「大丈夫、大丈夫だからね……」

 

 泣かないようにあやしながら部屋の中で待つ澄玲。自分の命はどうなってでも目の前にいる愛しい我が子だけは、と覚悟を決める。

 

 

 

 

 

「見つけたぞ!」

 

「……っ! 逃げないと」

 

 幸人が相手をし切れていなかったのか、屋敷に乗り込んできた刺客に見つかり、非星脈世代ではあるが我が子を守るために必死に走って逃げる。

 

「はぁ、はぁ……。日頃から一緒にランニング、しとくべきだったかなぁ……」

 

 自分を必死に奮い立たせるように戯言を言いながら走る。

 

 

 

 ──そんな彼女だったが、その逃走も長くは持たなかった。

 

「あ……ッ!!」

 

 後ろからきた矢を背中に受けてしまう。抱きかかえている基臣を守りながらも膝から崩れ落ち、うつ伏せに倒れてしまった。

 

 当たり所が悪かったのか血がドクドクと流れ、矢から生じる痛みが彼女の意識をどんどん奪っていく。

 

「……あーあ。私、ここで死んじゃうのかぁ」

 

 自分の死期を悟った澄玲は懐かしむように思い出を振り返る。

 

「もっと幸人君や基臣と、みんなで一緒に、色んな所に行ってみたかったのに、なぁ……」

 

 基臣の頭を優しく撫でてあげる。

 

「ごめんね、私達のせいでこんなことになっちゃって」

 

 こぼれた涙が基臣の顔に落ちて頬を濡らす。

 

 幼い基臣は何なのか理解できずキョトンとした様子だったが、自分の様子を悟らせないように笑顔を取り繕う。

 

「ねえ、基臣」

 

 せめて最後にと基臣の顔を撫でて、愛しい我が子に向けて最後の言葉をかける。

 

「せめて……あなただけでも、幸せに()()()。誰にも縛られることなく、しあわせ、に……」

 

 意識が沈んでいきもうほとんど息をしていない中、追いかけていた刺客が澄玲の元に刃を向けようとしていた。

 

「……死ね」

 

「死ぬのはてめぇだ! 糞野郎が!!」

 

「……ッ!」

 

 斬り殺さんとばかりに構えていた刺客を蹴り飛ばし、片方の刀を喉元に投げ飛ばしてトドメを差す。

 

「澄玲ッ!!」

 

 澄玲を抱き寄せる。しかし、背中から抜けた血が床を大きく染めるほど出て、顔も生気がなくなったように蒼白。明らかに生きていなかった。

 

「おい、澄玲! しっかりしろ! ……おい、おいってば!!」

 

 何度も何度も揺らして呼びかける。これが夢であってほしいと、現実な訳がないと。

 

 しかし、そんな淡い期待は叶うはずもなく澄玲からは返事が返ってこない。

 

「なんで……こんなことに……っ」

 

 自らの弱さを、愚かさを嘆く。これは天罰だったのだ、大切な人を守れるだけの力を持っているという傲慢な考えを持っていた自分への。

 

「くそっ! くそ、くそっくそ……くそっ!」

 

 それでも──

 

「ふざけるな…………ふざけるな!! こんなの、認められるかよ!! なんで俺じゃなくて澄玲を!!」

 

 手に持つ刀をひび割れる音が聞こえる程強く握りしめた。刀を持っていないもう片方の手からは血が滲み出て、恨みの籠った射殺さんばかりの目つきをしていた。

 

「そうだ、殺してやればいい。あんな連中生きていちゃいけない……」

 

 

 

 

 

 

「誉崎家は俺が潰す」

 

 

 

 

 

 ……………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ッ、はぁ……はぁ……」

 

 凄惨な過去に見ていた基臣も息が詰まるような感覚に陥る。当然といえば当然だろう。いくら記憶が無いといっても自分の母親が殺されるシーンまで見せられたのだから。それに──

 

「これでは……」

 

 

 

 あまりにも救いが無さすぎる。

 

 

 

 期待させられるだけさせられて、そのことごとくが悪い方向へと向かっていく。最初から全てに期待してなかった基臣の今までよりも更に酷い末路といえた。

 

「どうだった?」

 

「随分と、嫌な記憶ばかりだな……」

 

 ピューレの記憶を見た限りでは幸せだった時はほとんど無かったと言っていいだろう。強いて言うなら、あの重信という人間に居た頃が一番まともな生活をしていただろうか。

 

「……実はさ、この前の試合、モトオミが強くなったのを見た時、不安だったんだ」

 

「…………」

 

「シゲノブの時みたいに使われなくなったり、あの男みたいに適当に使い潰されて終わるんじゃないかって」

 

 ピューレの手が小刻みに震える。己の過去を改めて見直して、その不安が限界を迎えたのかもしれない。

 

「分かってるんだよ……? モトオミが私の事を裏切る訳ないって。でも、私の記憶の中のトラウマは消えてくれなくて」

 

「……ピューレ」

 

「それに……私を持ってるとみんな不幸になってしまう。モトオミが親を亡くしたのだって、きっと……きっと私のせいだ……っ!」

 

 ネガティブな考えが更に彼女を追い込む。いつもの無邪気な顔はどこへいったか、今に儚く消えてしまいそうな危うさを感じた。

 

「たぶんそんな考えでいたら足を引っ張っちゃう。そんなことになるなら私、わたしっ……!」

 

 嗚咽の声が漏れる。そんな彼女の様子を少し見ていた基臣だったが、耳に触れながら困ったような顔をする。 

 

「……ピューレ、少し表に出るぞ」

 

「え……? あ、ちょっと……」

 

 ピューレの手を引き、家の外へと出て行く。

 

 彼女の手を引いて連れて行ったのは家の前にある花畑。いつも彼女とお茶会をしてる場所だった。

 

「俺が言うのもなんだが、お前、戦う事ばかりに目を向けすぎだ」

 

「だって、それしか私の存在価値は……」

 

「ほら、手を貸してみろ」

 

「え、あ……!」

 

 ピューレの手を握り、花畑の方へと向かう。色とりどりに咲いた花たちの中に立つと、彼女と手を繋いだ基臣が枯れてしまっている花へと手を近づけさせる。

 

「よく見ておけ」

 

 すると、淡い光の粒子が枯れていた花を徐々に綺麗に咲いていた時のような姿へと変えていく。

 

「…………わぁ」

 

 そして、完全に元の綺麗な姿を取り戻した花がピューレの目に映った。

 

「自分自身をダメだ何だと言ってるが、視野が狭いよお前は」

 

「視野が、狭い?」

 

「この能力があれば花だけに限らず人の傷を癒して助けることもできるし、お前の能力の可能性を考えれば色んな場面で役に立つ。お前の考えてる以上にな。……もちろん、限度はあるだろうがな」

 

 そう言うと蘇らせた花を一輪摘み、ピューレに手渡す。

 

「私にも、戦う以外に意味が……」

 

「それにな……」

 

「…………?」

 

「今更な事を言うが、お前を使えるか使えないかで判断するんだったら鳳凰星武祭の時点で切り捨ててるだろ。あの時、物凄い反抗されたんだから」

 

「うっ、それは……」

 

 鳳凰星武祭の時の振る舞いを思い出して赤面するピューレ。自分でもおかしい事をしていた自覚があるだけに今となってはあの記憶は黒歴史として蓋をしている。

 

「確かに今からも星武祭のグランドスラムのためにお前の力を借りることはいっぱいある。だがな……」

 

 ピューレとつなぐ手を強く握りしめる。

 

「仮に今度の試合や王竜星武祭で勝っても負けても、俺はお前とずっと一緒にこうしていたい。それに、お前を持っていたら不幸になるなんて事は無い。それを俺が一緒にいることで証明する」

 

「…………モトオミ」

 

「お前はどうなんだ、ピューレ」

 

 手を繋ぎながら基臣とピューレは目の前の景色を眺める。咲き乱れる花々には何の変化も無い、見る人によってはつまらないかもしれない、そんな景色だが、色鮮やかなその光景はどこか見ていて飽きない。 

 

「……うん、私もずっとこうしていたい」

 

「それならいい」

 

「うん、うん……」

 

 何度も噛みしめるように頷く。

 

「そういえば、言うのを忘れてたな」

 

「……ふぇ?」

 

 ピューレの身体を抱きしめる。こうして抱きしめるのは初めてかもしれない、そんなくだらない事を考えながら彼女の様子を窺うと、何が起きたのかよく分かっていないようだった。

 

「辛かったな、ピューレ。……今まで気づいてあげれなくて、ごめん」

 

 初めて、今まで封じていた()()()()()で思いを伝える。そうでないと、その言葉が偽りだと思われてしまうかもしれないから。それ故か、言葉の途中に自然といつもの固さが抜けた、そんな気がした。

 

 その言葉にピューレの目から一滴、涙がこぼれる。

 

「あれ、なんだろ、これ? わたし、どうして」

 

 そんな彼女の身体をギュッと優しく、けれども離さないように強く抱きしめる。

 

「っ……!」

 

「俺とお前以外に誰もいないんだ。思う存分泣け」

 

 肩を震わせ、涙混じりの声を発しながら彼女も抱き返す。

 

「わたし……っ! つらかった、つらかったよぉ……!」

 

「……大変だったな」

 

 優しく銀髪の少女の背中をさする。その背中はいつもみたいな悪戯じみたものではなく、見た目相応の小さな背中に見えた。

 

(純星煌式武装といっても、心は人と同じぐらいに脆い、って事なんだろうな)

 

 改めて自分の愛剣の事を何も知らなかったのだと痛感させられる。それでも、これからでも彼女の事を知っていけたら良いと、そう思うことにする。最初から完璧な関係性などあるわけ無いのだから。

 

 初めて見せてくれたその姿をどこか愛おしく感じながら、彼女が泣き止むまで抱きしめた。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

part26

獅鷲星武祭編もほぼ終わりつつあるので初投稿です。


 

 ただの消化試合と化した決勝戦のRTAはーじまーるよー。

 

 前回、ようやくヤンデレ剣の心を開き、決勝戦までの準備は済んだところまででしたね。

 

 今は界龍に帰り、チームメンバーを集めて明日の決勝に向けての作戦を説明している所です。

 

 チームメンバーにヤンデレ剣が真の力を発揮できるようになったことを説明し、それも踏まえて作戦を説明して決勝戦前日は終了です。

 

 試合開始するまで倍速していますが、その間に軽い説明をば。

 

 今回の相手であるチーム・ランスロットですが、正直な話、準決勝のチーム・麒麟(チーリン)と比べれば個々の能力は劣っています。それに加え、今回は原作よりも前なのでもう一人の純星煌式武装使いであるパーシヴァルが出てこず、モブが代わりに出ているので大分やりやすいです。

 

 しかし、そんなチーム・ランスロットですが、獅鷲星武祭の参加チームの中でも突出した連携能力を持っており、非常に崩しづらいです。それゆえ、リーダーであるアーネストを倒すのは結構な手間になります。

 

 とはいえ、遠隔操作爆弾、リミッター付き煌式武装、ヤンデレ剣、誉崎流皆伝、と打てる手が豊富なので、(負ける理由は)ないです。問題はいかに早く倒せるか、これに尽きます。

 

 と、少しだけ説明している内に試合開始前になりましたね。ステージでは何やらアーネストがホモ君に握手を求めてきたのでそれに応じましょう。そして、いい試合にしようと言ってきました。

 

 さすがは騎士の鏡。とはいえ、そんな表面上の取り繕った騎士風の印象とは裏腹にもの凄い好戦的な性格をしたまるでホモのような奴です。(ひどい偏見)

 

 アーネストが戻った所でそろそろ試合が始まりますね。

 

 

 決闘(デュエル)開始ィ! 

 

 

 戦闘が開始すると、相手チームの後衛からレティシアが《魔女(ストレガ)》の能力である光の翼を使って攻撃してくるので全て回避しましょう。翼の本数が多いので狙いもそこまで正確ではなくそこまで意識しなくても回避できます。

 

 今回の編成でまともな遠距離攻撃が出来るのはレティシア一人だけですので、遠距離攻撃が出来て、多数の翼に対応できるだけの手数を持つセシリーに相手をしてもらいましょう。ついでに、彼女には時々全体をかき乱す役をしてもらいます。

 

 虎峰はライオネル、沈雲はモブを相手にしてもらいましょう。この中で言えば、一番モブが楽かもしれませんが沈雲には時々ホモ君のサポートをしてもらうので彼が一番忙しくなるのではないでしょうか。

 

 それでホモ君はリーダーであるアーネストと盾役のケヴィンを相手に受け持つわけですが、かなり押し込めてますね。

 

 ヤンデレ剣の透明化を解除しているおかげで、能力を使う際の上限や純粋に剣としての火力が爆増してます。勢いだけで言えば黒炉の魔剣を上回るレベルではないでしょうか。

 

 それ以外にも、ヤンデレ剣も純星煌式武装ということで、アーネストの武器である白濾の魔剣(レイ=グレムス)と同格なため、特定の対象以外を透過するというインチキ能力に逆らって、鍔迫り合いできるということが可能という点が今回の戦いではアドバンテージですね。

 

 正直、四色の魔剣でも白濾の魔剣と黒炉の魔剣は純星煌式武装相手だと何故か能力を十全に使えないのは個人的にはどうなんだと思いますね。黒炉の魔剣はともかく、白濾の魔剣はなんで純星煌式武装相手に透過できないのか、私には理解に苦しむね(ペチペチ)

 

 ホモ君の実力は前回で知れ渡っているので、アーネストだけでなくケヴィンが間に入って盾でディーフェンスしてきます。ケヴィンはタイマンでやるなら、正直大したことないのですがこういうチーム戦とかのシチュエーションだと面倒くさい系の相手です。

 

 防御に徹したかと思えば、自身の身体で視界を塞ぐことでアーネストによる不意打ちへと繋げたり、少しでもヤバそうだと察知すれば退いたりするなど、チャラチャラした見た目の割には意外にもコツコツ堅実タイプです。彼の防御の要である盾を破壊したいところですが、この盾、原作と違って本作では尋常でない耐久値を設定されており、生半可な事では壊れません。

 

 おのれバ〇ナム!(八つ当たり)

 

 となると、どうすればいいか。そう、防御が難しい兵器を投入すればいいのです。

 

 というわけで遠隔操作爆弾君の登場です。小さい、攻撃の際に小回りが利く、といった視界を塞ぎやすい盾持ちにはうってつけの兵器。

 

 これにメスガキの兄である沈雲の星仙術を活用して、爆弾の数を実際に操作している数以上に見せます。相手から見ればざっと4,50個ほどに見えるでしょうか。もちろん、細かい軌道の違いから偽物と本物の違いを見分けようと思えば見分けれますが、そんな悠長なことをしていたら本物が襲い来るというえぐい作戦です。

 

 開幕から爆弾を使わなかった理由は沈雲に余裕が出来たのを確認してから、こちらの指示で星仙術を使ってもらうためだったからです。

 

 まあ、初見でこいつを避けれるのはよほどの実力者じゃないと無理ですね。

 

 

 落ちろ! 

 

 

 ……落ちたな

 

 

 想定通り、ケヴィンを落としました。思ったよりも楽でしたね。

 

 これで一対一のタイマンに持ち込めるようになったので、ここから誉崎流皆伝を使っていきましょう。最初から使えやゴラァ! という視聴者の熱いご指摘が来そうですが、この技、慣れていない内に長い時間使ってるとその反動で身体が持たなくなってしまうことが判明しました。まだ、実戦での使用は準決勝以来、二回目なので長く見積もって3分といったところでしょうか。

 

 おそらく相手にもそれを悟られているのでもし、しょっぱなから使った場合ケヴィンに防御に徹されてしまいガス欠になる可能性が高いです。だから、このような状況になってから誉崎流皆伝を使う必要があったんですね。(メガトン構文)

 

 ここから先はセシリーの援護も入ったりでワンサイドゲーム……のはずですが、ここで鬼気の制御の優劣が付いて回ってきます。この要素によって攻防両方ともホモ君に追い縋ってきているというのが現状です。純粋な戦闘能力以外の要素を入れてくるとかやめロッテ! 

 

 それでホモ君はというと、まだ鬼気をコントロールをする術を身に着けていません。そもそも感情喪失の完全な解消に未だ至っていないからね、しょうがないね。

 

 そんなわけでジリジリ削ってはいるものの、攻撃の全てが有効打になっていないというのが現状です。

 

 話は少し変わりますがこの男、勝つことを優先しているように見えて戦う事を楽しんでいる戦闘狂なので、わざとホモ君を強くするために煽るかのような言動をしてきます。もっと強い攻撃を受けたいとか、こいつすげぇ変態だぜぇ? 

 

 そんな敵の煽りに乗る形で(しゃく)ですが、新技を披露することにしましょう。

 

 両手剣の速度を犠牲にしているという弱点を利用して、カウンター技をお見舞いします。

 

 来ましたね、出来るだけ攻撃をこちら側に引き込んで……先輩、隙ッス! 

 

 勝ったッ! 第二部完! 

 

 …………あえ? 

 

 会心の出来といっても良いぐらいに技は冴えてたはずなのですが、何故かガードされましたね。白濾の魔剣は両手剣なので片手剣に比べて即座の対応はしづらい武器のはずなのですが……。

 

 

 

 ん? 

 

 

 

 今までの爽やかな笑顔とは一転して、凶悪な笑みを浮かべながらホモ君と話し始めましたね。

 

 え、君ともっとヤり合いたいって? 

 

 

 

 

 

(うわ。

 

 

 

 

 

 助けて―、単独ホモストーカーに襲われてまーす! 

 

 何を感じ取ったのか野獣の眼光でホモ君に迫ってくるアーネストですが、怖いので普通にヤンデレ剣で応戦しましょう。

 

 ホモvsヤンデレ。……うん、勝手にやり合ってろ! って感じの組み合わせですね。まじでこのまま勝手にやっててくれねぇかな……

 

 このままだとホモ君の貞操がやはりヤバい! って感じになるので、ここからは主導権を渡さずにそのまま封殺します。

 

 さて、ここからは走者の腕の見せ所。ホモ君が一気に間合いを詰め、鍔迫り合いで時間稼ぎしてる間に距離を詰める前に出していた爆弾を時間差で突入させ起爆。その瞬間にホモ君側はヤンデレ剣の能力でガード。

 

 ある程度攻撃を防ぐとはいえ、本来防御としての用途はない白濾の魔剣では全身をガードはできないです。せいぜい、校章とその周りのボディぐらいが関の山といったところでしょうか。

 

 対してこちらはヤンデレ剣の能力で盾状に刃を展開し、完全に爆弾のダメージを防ぐことができるわけです。そういう訳で、自分は無傷のままで相手だけにダメージを与えることが出来ます。これを何度も繰り返し、隙が出来るまで続けます。

 

 なんとか爆弾の軌道から逃れようと逃げで対応してこようものなら、沈雲の星仙術で偽物の爆弾を生み出して数で混乱させ圧殺します。

 

 この作戦、出来る限り相手を鍔迫り合いで縛り付けて瞬時に防御を展開しないといけないので先ほどもいったように走者の腕が試されます。少しでも判断をミスればホモ君が上手に焼けましたー、って感じで炭化することになりかねないです。爆弾の数は最初から最大の12個で挑んでいるので猶更(なおさら)ミスは許されません。

 

 ヨシ! 3回目で無事にガードを崩せました。しぶとかったっすね……。

 

 ガードが崩れたらあとはヤンデレ剣でフィニーッシュ! 

 

 

 工事完了です……。

 

 

 ふぅー、これにてチーム・黄龍(ファンロン)が優勝で獅鷲星武祭(グリプス)編は終了ですね。今回も色々と厄介事が多かったですが、残る関門は王竜星武祭(リンドブルス)1つだけになりました。まあ、ここからが本番とも言えるのですが。

 

 

 

 試合後は適当に閉会式と表彰式を受けて、早々にずらかりましょ。

 

 ただ、このままドームの外に出ると大量の取材陣が今か今かとホモ君たちを待ち受けています。

 

 流石に立て続けに鳳凰星武祭(フェニクス)獅鷲星武祭(グリプス)と続けて優勝したことで三冠、つまりグランドスラムを達成するんじゃないかっていう期待があるからでしょうね。仮にも、ホモ君かメスガキが次の王竜星武祭で優勝してグランドスラムを達成した場合、史上最年少での達成となるわけですから、こうしてインタビューでも次の王竜星武祭を狙うのか聞きたいわけです。

 

 どうにかして取材は回避したいところですが、こういう時のためにロリババアがいるわけですね。さっそく助けを求めましょう。

 

 ロリエモーン! 助けて―! 

 

 すると、彼女はいい試合を見ることが出来て非常に機嫌が良いので、顎でこき使っても普通に許してくれます。いやーちょれーわ。

 

 転移でとりあえず治療院まで繋げてもらったので、メスガキにも報告に行きましょうか。そうしないと、シルヴィからも冷たいやつって思われて好感度下がりかねないですし。

 

 

 

 ここからはシルヴィとの恋愛パートとオーフェリア関連のイベントを進めていき、王竜星武祭まで突っ走って──

 

 

 

 今回はここまで。ご視聴ありがとうございました。

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

裏話26 決戦

アスタリスク16巻が11月末に発売されるみたいなので初投稿です。

新刊は1年以上ぶりなのでマジで最新刊楽しみです(抑えきれない興奮)
みんなも16巻、買おう!(ダイマ)


『どうなのー、身体の調子は?』

 

「もう半分ぐらいは治癒してるわ」

 

『よかったー。一応基臣には聞かされてたけど、心配だったからね』

 

「心配無用よ。それよりも、私の力不足で決勝戦には参加できなかった事、悪かったわね」

 

『だいじょぶだって、沈華はそこでゆっくり療養してなよー。基臣と虎峰がなんとかしてくれるからー』

 

『え!? なんで他力本願なんですか! セシリーも頑張ってもらわないと困りますよ!』

 

『あははー』

 

 決勝戦が始まる前という緊張感があってもおかしくない空気にも関わらず、いつも通りの姿を見せてくれるメンバー達に少し微笑ましいものを感じる。

 

 後ろでセシリーと虎峰がじゃれ合っている中、基臣と沈雲も沈華に話しかける。

 

『まあこんな感じだから沈華は気にしないでベッドで応援してくれればいいさ』

 

『決勝に進めたのも、あの時お前が庇ってくれたおかげだ。お前の分まで戦ってくるから、吉報を期待していてくれ』

 

「ええ、そうさせてもらうわ」

 

 しばらくの間、沈華と基臣たちが談笑に花を咲かせていたが、ステージに出るように指示が出たため惜しみつつも会話を終わらせる。

 

『そろそろ時間のようだ』

 

「それじゃあ、直接力にはなれないけどここから応援させてもらうわ」

 

『ああ、行ってくる』

 

 そのまま通話を切ると、沈華は治療院のベッドに身を委ねる。

 

「…………頑張りなさいよ」

 

 離れた場所からではあるが、精いっぱいの応援をしようと考えながら決勝戦が放送される映像を眺める。まだ決勝戦が始まるまで時間があるが、シリウスドームの観客席は大いに盛り上がっているようだ。

 

 事前の勝敗予想では人数差のアドバンテージがあるからか若干チーム・ランスロットのほうが優勢とみる人が多い様子。しかし、チーム・黄龍も準決勝で基臣が見せたあの活躍が大きな衝撃を与えたのか期待が集まっているようだった。

 

「……あら?」

 

 そんな時、病室の外から聞き覚えのある声が届いてくる。

 

 その声の正体を知るために映像の音量を下げて耳を澄ませる。

 

 先ほどまで話していたチーム・黄龍の面々はもちろん、星露も生徒会長なのでシリウスドームにいる。

 

 となると、このタイミングで沈華と親交があり、わざわざ病室に来る人間は限られている。

 

「元気してるー? 沈華ちゃん」

 

「沈華、調子どう?」

 

「あなた達、どうしてここに」

 

 病室のドアから入ってきたのはエルネスタと変装した姿のミルシェ。

 

「ほら、決勝がもうちょっとで始まるじゃん」

 

「だから、どうせなら剣士君が大好きな者同士で見ようということですよー」

 

「なるほどね……。あれ、でもそれなら二人足りない計算だけど……」

 

「それはねー、よいしょっと」

 

 エルネスタがバッグからタブレットを取り出すと電源をつける。

 

『やっほー』

 

 すると、タブレットから投影された空間ウィンドウから、変装していない素のシルヴィアが映る。

 

「あぁ、シルヴィアはシリウスドームのほうにいるのね」

 

『私は生徒会長の仕事で閉会式とかに出席しないとだからねー。その代わりこうやって間接的にだけど参加させてもらうということで、よろしくねー』

 

 そう言うと思い出したかのようにシルヴィアはミルシェに話しかける。

 

『あ、それとミルシェちゃん。ペトラさんから伝言』

 

 シルヴィアはペトラに渡されたであろう紙を広げると、原文のまま読み上げる。

 

『ミルシェ、注目度が上がって忙しい時期なのに仕事を抜け出してくるとはいい度胸です。帰ってからしっかりとお話をしましょう……だって』

 

「ひぃっ!?」

 

「あなた何やってるのよ……」

 

「だ、だって基臣の決勝戦ぐらい生で見たいじゃん!」

 

「まあ、気持ちはわからないでもないけれど……」

 

 行動力だけは人一倍あるミルシェに呆れを交えて苦笑しつつ、あと一人来ていないことに気づく。

 

「あれ、オーフェリアは? 基臣の誕生日に来たくらいだからいると思ったのだけれど」

 

「あー、なんか断られちゃったんだよねー」

 

「断られた?」

 

「詳しい事情は知らないからなんとも言えないけどね。お! 剣士君が出てきたよ」

 

 テレビを見ると、基臣率いるチーム・黄龍がステージに出てくる様子が映し出される。ステージに出ると、相手であるチーム・ランスロットのリーダー、アーネストとも握手を交わしてそれぞれチームの元に戻る。

 

 そして、基臣のホルダーにある一つの武器に目を引かれる。

 

「わぁ……」

 

 誰が漏らした声か、基臣の取り出した得物に皆、思わず見入ってしまう。

 

 基臣が取り出した剣型の武装は儚さを感じさせながらも、どこか芯の通った気高さも感じさせる美しさを帯びている。放送の実況や解説もその剣の美しさに思わず熱が入ったように正体に関する考察を語っている。

 

「実況の人も言ってるけど、実際何なんだろあれ? 今まで見たことないから隠していた切り札とか?」

 

 部屋にいる殆どの者が彼の持つ剣について何なのか知らない様子だったが、一人だけ、エルネスタは不敵な笑みを浮かべて自慢するように話す。

 

「そっかー、みんなはまだ知らないんだねぇ」

 

「知らない? どういうことかしら?」

 

「あの剣、いつも彼が持ってるピューレちゃんだよ」

 

「え!? あれが、ピューレちゃん!?」

 

 基臣以外見ることが叶わなかったため、伝聞でしか知らなかったピューレの姿に皆驚きを覚える。

 

「実は昨日、修理を依頼されて一目見させてもらったけど本当にきれいだったんだよねぇー。そのついでにピューレちゃんの剣じゃない人間の姿も実体化してもらってたくさん堪能できたし」

 

『いいなぁー、ちょっと卑怯じゃないー?』

 

「まあまあ。剣士君に頼めばいくらでも触らせてくれるんじゃないかなー? 本人は若干嫌がるけど」

 

『それなら、私も今度会わせてもらうことにしよっかなー』

 

 ぐへへ、と顔をにやつかせながら手をワキワキさせるシルヴィアに、病室にいる三人はどこか呆れ顔だ。

 

 そんなシルヴィアを放っておいて、エルネスタは肝心の話題を振る。

 

「そういえばこの試合、どっちが勝つと思う?」

 

 そんなエルネスタの問いに対し──

 

「基臣に決まってるじゃん!」

 

『それ、私たちに聞くかなぁ……』

 

「まあ、私はチームメンバーなんだからうちが勝つとしか言いようがないわね」

 

 ──皆、口をそろえて基臣たちチーム・黄龍が勝つと予想した。

 

「そう言うに決まってるよねー、にゃはは」

 

 全員基臣を狙うライバル同士ではあるが、だからこそ考える事は一緒。負けるだろうと予想する者はいないだろう。基臣の事を好いているのだから。

 

「それに準決勝で見せた技があれば大丈夫でしょ!」

 

『うーん……そこが問題なんだよねぇ』

 

「…………? どうしてさ。あの状態の基臣ならまともに対抗できるの各学園の一位クラスぐらいじゃん。それに、あたしたちの時に見せたあの爆弾もあるし」

 

『たぶんだけど、あの技はそこまで長持ちしないと思うよ。持って数分ってところじゃないかな』

 

「え、本当なの沈華?」

 

「……鋭いわね。その通りよ」

 

『やっぱりそっか。ほんの少しだけ、違和感があったんだよね』

 

「それについてだけど、肉体の制御が追い付かなくて、一歩間違えれば自壊するような技だと基臣は言っていたわ。それに、制御できると確信を持って言えるのは3,4分だとも」

 

「それ、あたし達が聞いちゃっていいことなのー? 弱点バラしちゃってることになるけど」

 

「本人からも許可はもらってるから、別に問題ないわ。というよりも、それぐらいの弱点は王竜星武祭までに解消してみせると本人は豪語してたわよ」

 

『となると、今度の王竜星武祭の時点ではともかく、現時点でいかにその時間的制約を乗り切るかにかかってるかなー』

 

「まあ、別にあたしは贔屓してるからって理由だけでチーム・黄龍が勝つって思ったわけじゃあないんだけどねー」

 

 その言葉に沈華が反応する。

 

「……何か秘策があるの? 私はそれといった物は聞かされてないけど」

 

「んー……勘、かな?」

 

「勘って……」

 

「いやいやー、あたしの勘を舐めてもらっちゃ困りますよ。こういう勘は確実に的中するんだからさ」

 

 エルネスタの発言には信憑性が欠けるため、怪しむ沈華だったが、シルヴィアがそんな二人にも声をかける。

 

『ほら、二人とも。試合始まるよー』

 

 

 

 ……………………

 

 

 

 

 

 

 

「……おみ」

 

 

 

 

 

「も……おみ」

 

 

 

 

 

「基臣」

 

「ん?」

 

 虎峰の声に気づくと、アーネストがこちらの方へと歩み寄り右手を差し出してくるのに気づく。

 

 試合が開始するまでステージ上で精神統一していた基臣だったが、どうやら彼が近づくのに気づいていなかったようだ。少し間を置く形になったが基臣からも手を差し出す。

 

「人数が合わなくて公平な試合とは言えないが、良い試合にしよう」

 

「あぁ」

 

 握手だけすると、アーネストは爽やかな笑みを浮かべると自分のチームの元へと戻る。

 

 両者の交流を終えると、試合はまもなく始まる時間になり、基臣もピューレを取り出す。

 

 いつもより(まばゆ)く輝くその光が、彼女(ピューレ)の意気込みを物語るようだ。

 

 そして──

 

 

 

「《獅鷲星武祭(グリプス)》決勝戦、試合開始!」

 

「いきますわよ!」

 

 試合の開始を機械音声が告げると同時に、レティシアの能力である光の翼が何対も現われ、チーム・黄龍に対して牙を向く。

 

「散開しつつ作戦通りに動け!」

 

「はいよー」

 

 それぞれ、違う敵に向かって光翼を回避しながら走る。

 

 基臣が担当する相手はリーダーであるアーネスト。

 

「君とは一対一で戦いたいところだが」

 

「オレも混ぜてもらおうかい!」

 

 そして、ちょうど横槍を入れてきたケヴィンだった。

 

(ピューレ、やれるな)

 

(うん、任せて)

 

 刀身の純白の輝きがいっそう高まり、基臣の望むようなサイズにピューレが最適化される。

 

「誉崎流初伝、薙霞(なぎがすみ)

 

 左上から斜めへの切り払いで構えている盾ごとケヴィンを押しのけ、続く横への薙ぎ払いでアーネストへの胸元と攻撃する。

 

「くぅ……っ!!」

 

「……中々の力だね」

 

 基臣の攻撃を受けた二人はピューレの想像以上の火力に顔を(しか)める。

 

 ピューレの透明化を解いたことで本来の力を発揮できるようになったことが、ここまでの火力を実現していた。

 

 そこから数合の切りあいで互いに実力の度合いを測り取る。

 

 基臣がこの中で一番総合力があるため、一歩有利に動けている状況だが時折、アーネストたちが人数差のアドバンテージを利用し一進一退の攻防を繰り広げていた。

 

「急急如律令、勅!」

 

 幾度かの攻防を行っている内に、レティシアの相手をしていたセシリーが呪符を放って印を組む。

 

 すると上空から無数の、文字通り雷の雨がチーム・ランスロットへと降り注いだ。

 

 普通ならばセシリーの雷撃はそれほど狙いが定まらないため、回避は容易だった。しかし、特定座標に雷撃を落とすという基臣の指示によって正確性の問題は解決。それぞれが指定した座標を中心にして戦う事で雷撃の落下点への誘導に成功し、雷撃の一つ一つの威力の高さから戦局を変動させる力を生み出した。

 

「やべっ!?」

 

 巨大な盾を持っていることから他のメンバーに比べて一歩機動力が劣るケヴィンにとって、無数の束となって落ちてくるセシリーの雷撃は相性が良くない。

 

 すかさずケヴィンは盾を上空に掲げ耐え忍ぶが──

 

「なっ!? 正気かよ!」

 

 事前の作戦で雷撃の落下点を知る基臣は、雷撃の防御で動けないケヴィンを倒すべく最短で動き、その刃を振りかざそうとする。

 

「そんなに簡単にはやらせはしないよ、誉崎君」

 

「さすが、だな……!」

 

 そんな中、アーネストも落下点を予想して危険を回避しつつ、基臣を鍔迫り合いに持ち込む。そうしている間に雷撃も止まり、戦線復帰しったケヴィンがアーネストの補助に回る。

 

「ケヴィン、大丈夫かい」

 

「ああ……。助かった、アーニー」

 

 アーネストの割り込みにより、ケヴィンを早期に脱落させるチャンスを一つ取りこぼしてしまったが、それを差し引いても序盤の猛攻によってチーム・黄龍の士気は上がりに上がる。

 

「憤ッ!」

 

「ハァッ!!」

 

 そこからは基臣とアーネスト達、お互い一歩譲らぬ闘いを繰り広げる。基臣が攻撃の軌道を予測させない連撃を繰り返して相手を圧倒したかと思えば、今度はアーネストとケヴィンが人数的有利を用いて巧みに仕掛けてくる。

 

「さすがは《幽鬼の魔術師(ラダマンテュス)》だ! まったく攻撃の軌道が読めないとは、ねっ!」

 

 剣線を辿ってギリギリでガードしてくるケヴィンに、盾が生み出す死角から鋭い刺突を放ってくるアーネスト。息がぴったりなコンビの攻撃に舌を巻く。

 

「他の奴の相手をしたらどうだ? あまり状況が芳しくないやつがいるようだが」

 

 少しでもほかの事に意識を向けさせて隙を作ろうと煽るようにケヴィンに話しかける。

 

 その意識を反らすために話題にされていたレティシア。本来なら、もっと動けているはずの彼女だが、獅鷲星武祭の途中でライバルであるクローディアに校章を破壊されてからというもの、動きに固さが目立ち、この決勝でも思うように動けていない。

 

 その予兆はチーム・ランスロットの準決勝から見て取れた。そこで基臣は、普通の状態だったら荷が重かったであろう相手のレティシアをセシリーに任せることにした。結果は見事に作戦的中。全員の支援にも手を出せるぐらいの余裕がセシリーにはあるようだ。

 

「本当は援護をしたかったんだけど、君の方が恐ろしいからね!」

 

 そんなおしゃべりに興じている間に徐々にセシリー以外の場所でも戦局が変わりつつあった。

 

 ライオネルと相対している虎峰は、今のところ若干優勢のようだった。といっても、相手もそう簡単には校章は割らせないだろう。その証拠に徐々に虎峰を自身の間合いに引きずり込もうとしている様子が目に見えて分かる。

 

 沈雲はどうやら、上手いこと自身が優勢になる局面に持ち込めているようで、基臣の視線を感じて顔を向けてくるだけの余裕はあるようだった。

 

 それを確認した基臣は事前に確認した作戦を実行すべく懐に手を入れて沈雲に呼びかける。

 

「沈雲!」

 

「…………! 急急如律令、勅!」

 

「あれは……」

 

 基臣は、準々決勝の時にも見せたあの爆弾を取り出すと、空中へと放り投げる。放り投げられた物体は空中でしばらく浮遊すると独りでに飛翔し始める。しかも、その数は──

 

「四十……いや五十!?」

 

 遠隔誘導武装の操作できる数は操作する本人の空間認識能力の高さに左右される。遠隔誘導武装に関する見識がないチーム・ランスロットの中でも、基臣はせいぜい7,8個動かすのが限界だろうという見解を作戦会議の中で立てていた。

 

 それゆえに、とてつもない数の爆弾にチーム・ランスロットの中でも動揺が生まれる。

 

「冗談じゃない! こんな数捌ききれるかよ!」

 

 しかし、そんな動揺の中でアーネストだけは冷静に状況を解析する。

 

「いや……少なくとも半分以上は偽物だ」

 

「そうはいってもさすがに見分ける暇がないぜ、これは!」

 

 喋っている間にも爆弾は複雑な軌道を描きながらアーネスト達の元へと接近してくる。

 

 レティシアが光の翼でそのいくつかの迎撃を試みるが、そのすべてがダミー。その間に懐まで詰め寄った爆弾は眩い光を発しながら爆発をまき散らす。

 

「キャッ!」

 

 凄まじい爆発を起こし、それに当たったレティシアには少なくないダメージが入る。

 

「……うっとうしいですわね、これは!」

 

 その間にも残る爆弾はそれぞれチーム・ランスロットのメンバーたちへと向かっていく。

 

「お前には早々に退場してもらおうか」

 

 その中でも数ある遠隔操作爆弾の殆どがケヴィンへと差し向けられる。

 

「グッ……!」

 

 蜂のように変幻自在な動きで盾を回避し、右足、左腕、腹部……と次々に当たって爆発していく。

 

「うっ……!!」

 

 両足に爆発を浴びてしまったケヴィンは崩れ落ちるように膝から地面に倒れていく。そして──

 

「ケヴィン・ホルスト、校章破壊(バッジブロークン)

 

 そのままがら空きの身体に叩き込まれた爆発は、ケヴィンの校章を破壊した。

 

「ライオネル! ケヴィンを頼む!」

 

「…………! 分かった」

 

 気絶したケヴィンを背負ってステージ端まで向かうライオネルを横目に見ながら、アーネストへと改めて剣を構える。

 

「これでようやく一対一(サシ)でやりあえるな」

 

「ああ、そうだね」

 

 互いに交わした言葉は少ない。

 

 

 

「やるか」

 

 

 

「やろうか」

 

 

 

「誉崎流皆伝、神依(かみより)

 

 その言葉と同時に 先ほどとは比べ物にもならないほどの星辰力が練り上げられる。

 

「……素晴らしいッ!」

 

 劇的な基臣の変化に対し、アーネストの心は歓喜に打ち震える。

 

「行くぞ」

 

 先に仕掛けるのは基臣からだった。一撃一撃が今までと比べて速く、そして鋭さや重みも増していた。

 

「フンッッ!!」

 

 先ほどまでの腹の探り合いのような剣戟の応酬はどこへ行ったのか、繰り広げられているのは力と力のぶつかり合い。

 

 剣戟は幾度も積み重ねられ、一撃ごとにその鋭さが増していく。完璧なタイミングでセシリーによる援護も入るが、流石にガラードワースの序列一位に座しているアーネスト相手には上手いこと回避されてしまう。

 

「前見た時よりも活き活きとしている。ミス・リューネハイムに界龍のチームメンバー……仲間たちに恵まれているんだろうね」

 

「ああ、俺には過ぎた友だ」

 

「だけど、君はまだ縛られている。見えない強いしがらみに」

 

「……しがらみ」

 

「それが、僕たちと同じような生まれから来るものかもしれない……だが!」

 

「……っっ!! ぐ……ッッ!」

 

「そのしがらみは、御さなければ時として自分を破滅に追い込む。君は自由としがらみ、どちらに傾くのかな?」

 

「……っ、はぁ……っ」

 

「できることならば……もっと見せてくれ、君の自由な剣技を!」

 

(ここに来て更にその強さを昇華させている。……いや、これが本来の戦い方なのか)

 

 荒々しさを感じる剣技だが、先ほどまでのそれよりも明らかに厄介極まりない。

 

(ならば、こちらもそのまま迎え撃つ)

 

「もらった!!」

 

 両手剣を使うにはあまりにも不利な間合いにまで詰め寄り、身体の捻りを利用して白濾の魔剣(レイ=グレムス)で基臣の胸にある校章を切り裂かんとしていた、その時だった。

 

「誉崎流皆伝が二、荒之王(すさのお)!」

 

 必中と思われた攻撃を寸での所で受け止められてのカウンター。

 

 至近距離だったため強引に白濾の魔剣(レイ=グレムス)を引っ込めてカウンターを受け止めるが、暴風が吹き荒れたかのように荒々しい攻撃の余波がアーネストを襲い、攻撃を受けた剣を持つ手が麻痺するような痺れに見舞われる。

 

「っ……! 今のは中々効いたよ……」

 

(今確実に攻撃を当てれると確信できたのに、彼はそれを遥かに上回る速度でカウンターをしてきたのか……! しかも今の力、とても片手剣のそれとは思えない)

 

 改めて基臣の姿を見る。先ほどのアーネストの挑発に当てられたのかは定かではないが、明らかに感情の揺れ動き方が強くなっている。

 

 この時点でも六学園最強の一角を名乗るにふさわしい実力。だが──

 

(ここに来て、まだ強くなり続けるのか……君は……)

 

「ふ……。フフフ……ハハハハハハハハ!!」

 

「……今、何か可笑(おか)しな事を言ったか?」

 

 変貌。

 

 先ほどまでとはまるで雰囲気が変わったかのようなアーネストの姿に基臣は不気味な何かを感じ取る。

 

「いや失礼。久しぶりに戦いを本心から楽しめる相手に出会えて嬉しくなってね。さて、続けようか」

 

 白濾の魔剣(レイ=グレムス)を構えなおして待ちの姿勢を取るアーネストに対し、爆弾を放り脱力の姿勢を取る基臣。

 

「誉崎流皆伝が一、染霞(そめがすみ)

 

 基臣の姿を注視していたはずのアーネストだったが、いつの間にか雲隠れしたかのようにその姿を見失い、残ったのは爆弾だけ。

 

「さあどう来るっ!」

 

 そんな状況でも(アーネスト)は闘争から生を感じ、そして楽しむ。

 

 至ってシンプル。至極単純な話だ。

 

 相手の思惑、そして動きを看破できなければ負け、看破すれば勝ち。

 

「捉えたッ!」

 

 ギリギリで基臣の攻撃を読み切り、つば鍔迫り合いまで持ち込むアーネスト。

 

 読み勝った、そう思っていたアーネストだが基臣はそこまで読んでいたかのように退かず両手剣相手に不利であるはずの鍔迫り合いを続行する。

 

(何を、考えている……?)

 

「……生憎俺は勝ち方にこだわる人間じゃない。恨むなよ」

 

「…………? 何を…………っ!?」

 

 言葉の真意を掴めず話を聞こうと思った瞬間、視界(自分の世界)は眩い光に覆われた。

 

 そんな光とともに膨大な熱量がアーネストの身体を焼き尽くさんと包み込む。

 

「うッッ!!」

 

 そんな熱波の中、せめてと校章を守り続ける。

 

「誉崎流中伝、断蒼(だんそう)!」

 

 不意打ちで校章以外の守りが疎かになっているアーネストを、立ち込める爆煙の中、上下の二連撃で断ち切る。

 

「…………ぬ」

 

 だが、校章を割ったような感触は基臣の手には感じなかった。

 

 煙が晴れると、アーネストは一連の攻撃から校章を守ったものの四肢にダメージを受けており、片や基臣はダメージを一切受けていなかった。

 

「……まさか、そんな器用な真似ができるなんてね」

 

「お前のそれではガードするには不十分だろう」

 

 再び懐から爆弾を12個キッカリ取り出すと、宙へと浮かべる。

 

「これから、俺はこれを繰り返すが……宣言しよう。お前をあと2回同じ手を使って倒す」

 

「…………言ってくれるね」

 

 その宣言にアーネストは冷や汗をかく。事実、今受けた攻撃をそう何回も受けることはできないと自身でも理解していた。

 

「まだまだストックはある。まあ、2回で終わるだろうが存分に味わってくれ」

 

 そうして再び同じ動作を繰り返す基臣。

 

「誉崎流皆伝が一、染霞(そめがすみ)

 

 再び同じ手を以て攻略してくる基臣に、アーネストもそう容易に。

 

(詰められるくらいならば!)

 

 できる限り、距離を離そうと動く。

 

「急急如律令、勅!」

 

 しかし、その動きも想定内とばかりに遠くにいた沈雲が星仙術を発動させる。

 

(星仙術でダミーを……。なるほど、まるで隙がないな)

 

 まともに受けても確実にダメージを受け、距離を取ろうとするとダミーの爆弾による視覚的圧力が待っている。

 

 アーネストの持っている白濾の魔剣(レイ=グレムス)はその性質上、対集団での強みは殆どない。それはこの状況にも適応される。50近くの爆弾の内から本物の12個すべてを見極め、切りきらないといけない。一個たりとも切り損ねるものなら身を焼き尽くすような高威力の爆発が襲ってくるだろう。

 

 そんな不利な状況だったが、自然と笑いがこみあげてくる。

 

 いつぶりだろうか、こんなに血沸き踊るような戦いは。

 

 そして自らがここまでの窮地に陥らされた戦いは。

 

 今まで滅私の精神で己の願望を律してきていたアーネストだが、目の前にいる存在にその心を揺れ動かされる。

 

 環境によって縛られてしまった己のしがらみを、周りにいる友人の存在によって少しづつだが壊していき、自由を手に入れていく。目の前にいるのはまさに自分が羨望するそんな存在だった。

 

 そんな存在だからこそ全身全霊を以て戦う価値がある。

 

(こうなるとジリ貧だ。それならばいっそのこと!)

 

 迫ってくる大量の爆弾に敢えてアーネストは正面から迎え撃つ。気配を感じ取り、できる限りの爆弾を幾重もの連撃を以て対抗する。

 

 いくつかの爆弾が着弾するが、四肢には当てられることはなかった。

 

「よし……!」

 

 再び爆弾を基臣が放っている隙に、あらんばかりの膂力を以て組討術で基臣を組み伏せようとする。

 

 立っているならまだしも、倒れていたら操作している本人である基臣もガードできず爆発に巻き込まれるため躊躇するだろう。そういう考えでの行動だったが。

 

(なんだこの力は……!? それに押しても引いてもビクともしない)

 

「逃がさん」

 

「くっ!」

 

 山のようにビクとも動かないため基臣から離れようとするが、思い切りしがみついてきているため、逃れることができない。もがいている間にも展開し終えていた爆弾はアーネストの元へと殺到する。

 

「あっ」

 

 いつの間にか目と鼻の先にあった爆弾の起爆する光が見えたその瞬間、基臣による拘束は解かれていた。もちろん、次の瞬間には基臣はピューレの能力ですでに完全な防御態勢をとっている。

 

(…………参ったね、これは)

 

 どれだけ抵抗しても、やって来た宣言通りの結末にさしものアーネストも苦笑する。

 

 最後の抵抗とばかりに白濾の魔剣(レイ=グレムス)でガードをするが、それも中途半端だったため爆風で体勢を崩すだけの結果になった。

 

「終わりだ、アーネスト」

 

 爆風の中、その言葉とともに基臣は校章目掛けて刃を振るった。

 

「アーネスト・フェアクロフ、校章破壊(バッジブロークン)

 

「勝者! チーム・黄龍(ファンロン)!」

 

 リーダーであるアーネストの校章が破壊され、決勝戦の勝者を告げる機械音声が試合の終了をアナウンスした。

 

 

 

「…………や、やった!」

 

「やった~~!!」

 

 普段は冷静な言動を心がける虎峰も嬉しさが勝ったのか、衆目の中でセシリーと抱き合って喜びをあらわにする。

 

 そんな二人とは別に基臣と沈雲も互いに勝利の喜びを分かち合う。

 

「これで沈華にいい報告ができるね」

 

「ああ、勝ててよかった。特にこの決勝戦はお前の星仙術のおかげだ」

 

「さすがに今まで良いところがなかったからね。これぐらいはしないと僕の面目が立たないさ」

 

「そうか」

 

 これで二つ目の優勝を達成した基臣。残るは一対一の個人戦である王竜星武祭を残すだけとなった。

 

 

 

 

 

 

 

 ……………………

 

 

 

 

 

 

 試合の後行われた表彰式も終わり、待機室に向かうため廊下を歩いていると通路の向こう側からアーネストたち、チーム・ランスロット面々がやってくる。

 

「まさか、終始ずっと圧倒されるとはね。完敗だよ」

 

「アーネスト……。白濾の魔剣(レイ=グレムス)には見限られなかったのか?」

 

 試合後、基臣が唯一懸念していた事がアーネストが白濾の魔剣から使い手として不適格であると愛想をつかされるのではないかという事だった。アーネストレベルの剣の使い手が白濾の魔剣を失ってしまうのはこれからの事を考えるともったいない。そう思い、そんな事にならないよう試合中も注意していたが、そこら辺の裁量は白濾の魔剣が決めることだ。

 

「あぁ、おかげ様でね。といっても、彼も君との戦いを楽しんでいたようだからね。厳格なルールを課してくるはずの彼が、そのルールからの逸脱行為を大目に見てくれるなんて初めての経験だ」

 

「まったく。私からしてみれば、アーネストがいつ暴走するか気が気ではありませんでしたわ」

 

「ははは、まあ今回の試合で大分すっきりできたことだし、そう何度もこんな事をするつもりはないさ」

 

「勘弁してほしいものですわ。……それと」

 

 セシリーに顔を向けてキッと睨むと、指を向けて宣戦布告とばかりに声高らかに宣言する。

 

「今回は散々辛酸を舐めさせられましたが、次は絶対に私があなたを上回って見せますわ!」

 

 そんなレティシアの宣言だったが、少し面倒くさそうな顔をしながらセシリーは頭を掻く。

 

「いやー、さすがに次は勘弁かなぁ」

 

「なんですって!」

 

「まあまあ、それぐらいにしておこうかレティシア。今回の勝負、負けは負けだ。僕たちがどうこう言っても仕方がない」

 

「アーネスト、そういうあなたこそ不甲斐ない試合をしたのではなくて! あの時点で私はまだ負けていませんでしたのよ!」

 

「かなりズバズバ言うね……」

 

 レティシアがアーネストに対して苦言を呈している間に、ケヴィンが基臣に話してかけてきた。

 

「オレも君には随分と策に嵌められてしまったなー。……だけど、次はそうは簡単にやらせない。いつかまた戦える日が来た時には覚悟していてくれよ」

 

「そう遠くない内にお前と再戦できる機会もあるだろう。楽しみにしている」

 

「…………? それはどういう意味で──」

 

「ほら、あまり彼らを引き留めておくのもよろしくない。会話するだけならまたいつでもできるさ」

 

 各々好き放題に喋っているのをアーネストが止める。

 

「それじゃあ、そろそろお暇させてもらうけど、その前に言い忘れてた事を一つ」

 

 

 

「チーム・黄龍の諸君、優勝おめでとう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アーネストたちとの会話の後、待機室に戻るとソファに座っていた星露が楽しそうにしながら茶を飲んでいた。

 

「よくやってくれたのう、皆の者」

 

「星露、いたのか」

 

「まあ、ねぎらいの言葉の一つぐらいは掛けてやらなければいかんと思っての」

 

「そういえば、暁彗はどうしたんだ。いつもなら傍にいるんじゃないのか」

 

「あやつなら、界龍で必死に己を磨きなおしておるよ。おぬしとの闘いから何か感じ取るものがあったんじゃろうて」

 

「そうか」

 

「まあ、それはともかくじゃ」

 

 茶を入れた器を置き、基臣たちに向き直る。

 

「よくやってくれた。今回、チーム・黄龍をおぬしたちに任せてよかったわい」

 

「はっ! ありがたきお言葉」

 

 虎峰たちは膝をついて、星露からの言葉を聞くが──

 

「相変わらず我が道を行くって感じですね、基臣……」

 

 虎峰たちと同じようにはせず、座って星露と同じ茶を飲んでいる基臣に呆れ半分の感情を送るチームメンバーたち。だが、それを意に介さず座ったままだった。

 

「他の奴に強制するつもりはないが、俺はそこまで堅苦しい関係は好きじゃない」

 

「ま、それは儂も同感じゃの。今更へりくだられても、むず痒いだけじゃわ」

 

「……はぁ。師父の世話ばっかりしてるので忘れてましたけど、基臣も大概問題児ですよね」

 

 そういうことなら、とばかりに虎峰たちも椅子に座って師父の話を聞くことにする。

 

「まあ、基臣は言わんでも勝手に望みは叶えるじゃろうが……他の者たちもしっかりと考えて叶えたい願いを見つける事じゃ。おぬしらの場合、力を試す目的で出場した故、望みなどあまり真剣に考えてなかったじゃろうからな」

 

「承知しました」

 

 久しぶりにまともな事を言うな……、と虎峰は思ったがもちろん口には出さない。そんな事を言おうものなら腹いせに任せられる仕事が倍増することは間違いない。

 

「それで表彰式も終わったことじゃが、どうする? おぬしらは獅鷲星武祭終了後のレセプションには参加せんじゃろうから、界龍まで送ってやるが」

 

「いや、沈華のいる治療院まで送ってくれ。チームメンバーであるあいつに、一番に優勝を報告したい」

 

「そうだねー、とりあえず沈華の様子も見たいし」

 

 基臣やセシリーの言葉に星露は頷く。

 

「うむ、それなら早速送ることにするかの。ほれ」

 

 星露が印を組むと、空間が切り裂かれその場所に穴が生じる。

 

「治療院の近くにまでつなげておいたわい。行って優勝の報告でもして来るとええわ」

 

「助かった星露。それじゃあな」

 

 そう言い残して空間の裂け目に入り込んでいった基臣たちを見送ると再び椅子に座る。

 

 その瞳は獰猛な獅子のように爛々と輝いている。身体の(うず)きを抑えながら星露は笑う。

 

 

 

「若い芽がここまで伸びるとはのぉ。ククク……楽しくなってきおったわ」

 

 

 

 ……………………

 

 

 チーム・黄龍の優勝が決まった日の夕方。

 

 レヴォルフの生徒会長であるディルクとオーフェリアが生徒会室で向き合っていた。

 

「誉崎のやつとは接触せず、おとなしくしているようだな」

 

「……それで何の用かしら」

 

「……ちっ」

 

 なんとも思っていないようなオーフェリアの反応に少し苛立ちを覚えるが、ダラダラ話をするのも好きではないディルクは本題を話す。

 

「今度の王竜星武祭(リンドブルス)、俺が用意する純星煌式武装を使え」

 

 純星煌式武装を使う。今の時点でも優勝する目算が立っているはずのオーフェリアにそれを指示することが意味することは──

 

「このままでは、私が負ける可能性があるということかしら」

 

「そういうことだ。誉崎の奴は王竜星武祭に間違いなく参加してくる。あの野郎の今の状態から見るに、確実に勝利するための保険が必要だ。忌々しいことだがな」

 

 確かに今の基臣の成長速度は想定を上回るものだという事はオーフェリアにも理解できる。だが、それでもあくまでその成長は今の状態では一般の域を越えることはない……そう踏んでいるが、不安要素を作りたくないのだろう。素直にディルクの指示に従うことにする。

 

「……分かったわ」

 

 

 

 長く話をするつもりもないのか、オーフェリアは背を向け立ち去った。

 

「ちっ、どいつもこいつも俺の計算外の行動をしやがるが……一番の異物は誉崎の野郎だ」

 

 一度だけ六花園会議でその姿を見たことがあったが、まるで考えが読めなかった。少し挑発して探りを入れたが、何の反応を示すこともなくそっけなく返すだけ。徹頭徹尾ディルクの思うようにはさせないことが見え透いて苛立ちが増す。

 

「王竜星武祭までにきっちりと潰しておきたいところだが……ちっ、仕方ねぇ。足がつかない程度にあの野郎に支援してやるか」

 

 そういってディルクが端末を開くと受信したメッセージの中に書かれてあったのは、12月24日。つまり、クリスマスイヴに基臣を抹殺する旨だった。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

if③ 私だけのヒーロー

3人目の曇らせ患者を出してしまったので初投稿です。

俺は悪くねぇっ!俺は悪くねぇっ!

その瞳を曇らせたくなるヒロインたちが悪いんだ!(責任転嫁)


 私は星脈世代(ジェネステラ)だ。

 

 かけっこをすれば誰よりも早くゴールに着けて、ボールを投げれば学校の外まで飛んでいく。怪我をしてしまっても余程の事がない限り一日二日程度で治ってしまう。普通だったら誰もが羨むような力なのかもしれない。

 

 でも、こんな力なんて欲しくはなかった。同い年の子にはその異質な身体能力から化け物か何かを見るような目で蔑まれ、学校の先生にも疫病神かのように扱われた。親からも双子の兄弟である沈雲(シェンユン)共々、異物のように扱われてどこに行っても居場所がない。

 

「おらっ! いい声で吠えろ!」

 

「っ……ぐっ!」

 

「お、やんのか? ほら、やってみろよ! もし殴ったらお前はその時点で犯罪者だもんなぁ!」

 

「ぇぐ……っ!!」

 

 授業が終わって放課後になれば、こうして校舎裏に連れてこられて脇腹をける、足を踏みつける、と容赦のない私刑(リンチ)が繰り返される。

 

「なんとか言えよこのバケモノ女!」

 

「……うっ!」

 

 痛いし、苦しいし、何もかもが敵に見えてくる。

 

 なんでこんな事をしてくるのか意味が分からない。

 

「なんかつまんねえし、もっと強そうな道具で殴ろうぜ」

 

「そうだ、買ってもらった金属バット持ってきたんだ。それでこいつを殴ってみようぜ」

 

「いいな、それ!」

 

 

 

 もういやだ。誰か私を助けて。

 

 

 

「おい」

 

 

 その声は私をいじめてくる奴らのそれとは違った。虐める手が止まったので何事かと思って顔を上げると、一人の男の子がやってくるのが見える。

 

「お前ら何やってんだ」

 

「ゲッ、基臣(もとおみ)が来やがった」

 

「逃げるぞ!」

 

 その男の子を見ると、いじめていた奴らが脱兎のごとく逃げ出していく。

 

「チッ、胸糞悪い……。星脈世代だろうがなかろうが、俺たちは同じ人間だろうが……」

 

 何事か愚痴のようなものを呟いた後、男の子は私に近づいてくると、身体を何やら確かめてくる。

 

 年は……私と同い年だろうか。確か同じ学校に通っていて一緒の学年だったはずだ。今までいじめに加担してこなかったから珍しくて記憶の隅ではあるものの覚えてはいた。

 

「おい、大丈夫か」

 

「ッ……!!」

 

 私の身体をペタペタと触ってくる。どうせ目の前にいる彼も私をいじめるつもりだ。そう思って警戒心をむき出しにする。

 

「……大丈夫だ。俺はお前を傷つけるような悪いやつじゃない」

 

 その言葉と共に彼は私を優しく抱きしめてくれた。

 

 私よりもほんの少しだけ逞しいその身体からは今まで経験したことのない温もりを感じた。

 

「なんで……私なんか……」

 

「虐められてたから助ける。そんな当たり前の理由じゃ悪いか?」

 

 当たり前って言うけど、普通周りの人を敵に回してまで助けることは出来ない。少なくとも、私は同じ状況に陥ってる人がいても無視してたと思う。

 

 でも、目の前にいる男の子の瞳は真剣そのもの。まるで、小さい頃に絵本で読んだ正義の味方みたいだった。

 

「ぐすっ……私、私……ッ!」

 

「ここだとろくに話も出来ないだろうし……俺の家に行くか。そこなら誰も来ないし安全だ」

 

「…………う、ん」

 

 

 

 私はその男の子の家に連れていかれて、汚れを取るために風呂に入れてもらい、サイズが合わずダボダボの服を着せてもらうと部屋に招き入れられた。

 

 連れられた家には誰もいないようだったが、この男の子は両親を小さい頃に亡くしているらしく、今は家に残っているお金で暮らしている、と話してくれた。

 

 私も彼に虐められていた経緯を説明すると、頭を何度も撫でて優しくしてくれた。

 

「そうか、大変だったな……」

 

 真剣に私の話を聞いてくれたこの時に初めて、彼が私の味方だという事を確信することができた。

 

 

 

 

 

 それからは、その男の子は学校にいるときはいつも傍にいてくれて、休みの日でも私を外に遊びに連れ出してくれた。

 

 彼は星脈世代だけど、とっても強くて、それでいて優しかった。星脈世代ということで見下す人もいるようだったけど、それを意にも介さずに困っている人には誰でも分け隔てなく接した。そうした行動の甲斐もあって、非星脈世代の子の中にも私たちを受け入れてくれる子が少しではあるがいた。

 

 そんな彼にいつからだろうか、私は恋心を抱いていたのだと思う。ここまで優しくされて惚れない方がおかしいだろう。彼の一挙一動に目が奪われてしまう。

 

 本当はこの胸中を吐き出してしまいたい。

 

 でも、もしそれで私から離れてしまったらと思うと怖気づいてしまう。

 

 だから、その恋心を隠し通すために、それからは彼のことをお兄ちゃんと呼んで私は慕うことにした。家族として見れば少しはこの想いも心の内に留めておくことができるような、そんな気がしたから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 お兄ちゃんとお花畑に行くことになった。本来なら、子供が行くにはあまりにも厳しい場所だったけど、星脈世代である私たちならば対して苦も無く行くことができる、とお兄ちゃんが言っていた。

 

「……ねぇ、お兄ちゃん。手、つないでいい?」

 

「ん、まあ構わないが」

 

 おずおずと差し出す私の手をお兄ちゃんは優しく握ってくれた。やっぱりお兄ちゃんの暖かさは他の人と違って心地いい。

 

「……よいしょっと、わぁ!?」

 

「よっと、大丈夫か?」

 

「わ、わわわわ……!?」

 

 私が斜面でバランスを崩して落ちそうになると、お兄ちゃんが優しく抱き寄せてくれた。恥ずかしくなって顔を隠したけど、顔がにやけてしまったのはバレてない……よね? 

 

 

 

 

 

 歩くことしばらく。急な斜面や獣道もあったけれど、一度バランスを崩して以降は大して苦労することなく登りきる事ができた。

 

「わぁ、きれい……」

 

 山を登るとそこには、薄紅色の花が辺り一面に咲き揃っていた。

 

「登ってきた甲斐があっただろ」

 

「うん!」

 

 星脈世代特有の異常な身体能力に今まではうんざりしていたけれど、こういう場所に苦も無く行くことができるのを実感して、少しだけ自分が星脈世代であることに自信と誇りを持てるようになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 お兄ちゃんと私が初等部3年になった年の冬。旅行に連れ出してくれた。いきなり、2泊3日の泊りがけの旅行だからと言われたので、着替えなどの荷物をぎゅうぎゅうに詰めて飛行機で移動する。両親は私が家にいない方がいいのか、勝手にしろと素っ気なく言われたので沈雲にお土産を買ってくることを約束してお兄ちゃんと旅行の旅へと出発。

 

 移動には飛行機を使うとのことで4時間ちょっとかかるらしく、機内でお兄ちゃんの肩に身を預けながら寝ることにした。

 

 

 

沈華(シェンファ)……沈華……」

 

「……んっ」

 

「ほら着くぞ。窓の外を見てみろ」

 

「ん~……?」

 

 お兄ちゃんに軽く揺さぶられて起きると、目をこすりながら言われた通りに背を伸ばして窓の外を見る。

 

 窓からは六角形の形をした島が見えてくる。

 

「あれ、は……?」

 

「学戦都市アスタリスク。別名、六花だ。お前も話でぐらいは聞いたことがあるだろう」

 

「うん、星脈世代の人たちがいっぱい集まって戦う場所……なんでしょ?」

 

「まあ、大まかに言うとそうだな。他にも星脈世代であっても、何も言われることの無いどころか強ければ称賛されるある意味、理想の都市という側面も持っているがな。そろそろ、降りる準備だけはしておけよ」

 

「うん」

 

 飛行機が着陸し、入国すると王竜星武祭(リンドブルス)の開催期間中ということもあって酷く混雑した空港内を抜けて、船に乗るとアスタリスクの本島へと向かっていく。

 

 フェリー乗り場から本島まで行くと、そこにはビルがたくさん建っていてその中でも、巨大な空間ディスプレイには星武祭の映像が放映されており、応援するために人だかりができている。

 

「わぁ……」

 

「どうだ? 自然に触れるのも良いが、たまにはこういう景色も悪くはないだろ」

 

「うん! 色んな物がキラキラしてて綺麗!」

 

「そうか、気に入ってもらえたようで何よりだ。……とりあえず、ここに来るまでご飯の一つも食べていないし、昼飯でも取ることにするか」

 

「うんっ!」

 

 お昼ごはんを食べた後は、お兄ちゃんと色々な場所へと行った。この島のメインともいえる六学園のほとんどの校内を見ることは出来なかったけれど、界龍だけは中に入って見せてもらうことができた。

 

 ほかにも、星脈世代の人たちが戦う星武祭の舞台であるシリウスドームや最新の流行を取り扱っている服などを取り揃えた商業エリアなど様々な場所をお兄ちゃんと散策。その途中で、お兄ちゃんに純白の可愛いワンピースを買ってもらった。気に入ったので、私たちが泊まるホテルに到着しても、着替えずにずっと身に着けたままだ。

 

「ふふーん!」

 

「そんなに気に入ったのか、それ」

 

「うん! とっても可愛いもん!」

 

「そうか。だけど、そろそろ寝間着に着替えろよ。シワにして明日着れなくはしたくないだろ」

 

「……うん」

 

 脱ぐのがもったいなくて少し不貞腐れていると、やれやれといった顔でお兄ちゃんがカバンから紙切れを取り出す。

 

「ほら、機嫌を直せ。明日はこれを見に行くんだぞ」

 

「…………? 何これ?」

 

 手渡された紙切れを見てみると、星武祭のチケットのようで私とお兄ちゃんの二枚分用意してあった。

 

「王竜星武祭のチケットだ。しかも、間近で見れる超特等席」

 

「え!? そんなもの、どうやって手に入れたの!?」

 

 そんなプレミアチケット、普通ならば百万どころでは買えないだろう。お兄ちゃんがいくらか金の持ち合わせがあるといっても、そんな高価な物を買うほどの金額は持っていないはずだ。

 

「界龍のスカウトから特待生として勧誘されたから、入学する代わりの謝礼の一部として貰った」

 

「とく、たいせい……?」

 

「沈華にはまだ難しい言葉だな。まあ、俺が優秀だから引き入れたい人がいるってことだ」

 

「お兄ちゃん、どこか行っちゃうの?」

 

「んー……。まあ、そういうことになるな」

 

 お兄ちゃんがどこか遠い所に行ってしまう。

 

「っ、いやだ……っ!!」

 

「わっ!? どうしたんだいきなり」

 

 つまり、お兄ちゃんが私の目の前からいなくなるってことだ。

 

「おにいちゃんと一緒にいたいよぉ……」

 

「沈華……」

 

 ただの駄々という事は自分自身でも分かっていた。でも、一秒たりとも、一瞬たりとも離れたくない。お兄ちゃんは私の全てといっても過言ではないぐらい、それぐらいに私はもう依存してしまっている。

 

「沈華、よく聞いてくれ」

 

「…………」

 

「世界を支配してる統合企業財体は俺たちを食い物にするために敢えてこの異常な差別を放置してる。このままだと星脈世代はずっと(しいた)げられ続けるしかないんだ」

 

「……そう、だね」

 

 お兄ちゃんの言っている事は、最近になって私も薄々感じ始めていたことだった。世界を支配する6つの統合企業財体は、見世物である星武祭で私たち星脈世代を戦わせて、懐を潤わせたいのだろう。

 

 より盛り上げさせるためには、より強い星脈世代が必要だ。そのために彼ら統合企業財体が取った行動は、敢えて私たち星脈世代の差別を放置することだった。そうすることで、差別から逃れるためにこのアスタリスクに来る人を増やし、より強い人間を厳選する腹のはずだ。

 

「そのためにも、俺はアスタリスクに行くよ。それで、お前みたいな不幸な目に遭う奴が現れないように星武祭(フェスタ)で優勝して願いを叶えてもらう」

 

 お兄ちゃんの語る夢に私は思わず身が震えるほど感動した。

 

 星脈世代に対する差別がなくなる世界。簡単に口にするが、それがどれだけ難しく、そして叶うならばどれ程うれしい世界だろうか。

 

「私も行くっ! それで、お兄ちゃんと一緒に星武祭で優勝するよ!」

 

 だから、私もお兄ちゃんの願いの手助けをしたい、そう思った。

 

「……そうか。なら、お前も強くならないとな」 

 

 お兄ちゃんはそう言うと、ギュッと私を抱きしめてくれた。

 

 

 

 翌日、お兄ちゃんと一緒にシリウスドームで王竜星武祭の決勝戦を見ることになった。

 

「すごい……」

 

 星脈世代同士の戦いはとにかくすごいの一言に尽きた。

 

 鳥のようにフワリとジャンプしたり、魔法使いさんみたいに雷を撃ち出したり、私の知る星脈世代とは違った一面が目の前に広がっていた。

 

「ああ……すごいな、本当に」

 

「こんな中で優勝しないといけないんだよね?」

 

「そうだ。今のままでは優勝は夢のまた夢だ。誰にも負けないようにするためにも、もっと強くならないといけない。だから、一緒に頑張ろうな」

 

「うん!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 アスタリスクから帰ってきてからは、私もお兄ちゃんに混ざって鍛錬をすることにした。

 

「いい筋してるな、きっとお前は強くなれるよ」

 

 いつもそんな風に褒めながら撫でてくれたお兄ちゃんの笑顔が、どんなにつらい鍛錬でも頑張れる原動力になった。

 

 

 

 それからは季節が過ぎ去っていくのは早く、気づけば私たちはもう初等部5年になっていた。あれからも鍛錬は欠かさず行い、お兄ちゃんとは互角に、とはいかないけどそこそこいい勝負ができるぐらいにはなれた、と思う。

 

 お兄ちゃんは早めにアスタリスクに行って強くなりたいという事で、中等部になる前に界龍に入ることに決めたようだ。私も行きたかったけれど、お金の部分がネックになって特待生としてスカウトされるか、中等部の編入試験で優秀な成績を出すしかない。一緒に連れていけないことをお兄ちゃんが申し訳なさそうにしていたけれど、私の我儘で足を引っ張りたくない。無理やり笑顔を作ってお兄ちゃんの特待生入りを祝福した。

 

 

 

 

 

 そして、お兄ちゃんがアスタリスクに行く前日。ついに、私は長年秘めていた想いをお兄ちゃんに告白することにした。もし断られたら、と思うと怖い。けれど、今告白しないと、後悔するような気がした。

 

 待ち合わせの場所でお兄ちゃんを待っている間にも、心臓がドキドキして呼吸も上手くできない。こんなに緊張したのは初めてな気がする。

 

「おーい」

 

「あ……っ」

 

 お兄ちゃんがやって来た。

 

「どうしたんだ、沈華。こんな所に呼び出して」

 

「じ、実はね……! えっと……あの……っ」

 

 好きだという言葉を口にしようとすると、どうしても口が思うように開かない。言わなきゃっていう気持ちが先走ってしまって、口から息をするのも忘れてしまい呼吸が荒くなる。

 

 そんな私の背中をお兄ちゃんは優しくさすってくれた。

 

「落ち着け。焦らなくても、俺はちゃんと聞いてるから」

 

「…………う、うん」

 

 一度しっかりと深呼吸する。

 

「すぅ……はぁ……」

 

 

 

 …………うん、もう大丈夫。

 

 

 

「……実はね、私、お兄ちゃんの事が好き……なの」

 

 言った、言ってしまった。

 

 もう元の関係に戻ることは出来ない。

 

 

 

「……………………」

 

「……………………」

 

 

 

 お兄ちゃんの口が開くまでの時間が永遠にも感じるぐらいに長く思えた。

 

 そんな長い沈黙を破って、お兄ちゃんは口を開く。

 

「そっか……。なら、俺もちゃんと沈華の気持ちに答えないとな」

 

 お兄ちゃんは私の顔に近づき、優しくキスをしてくれた。

 

「んっ、ちゅっ……んちゅっ……」

 

 キスの味は甘い味とか、レモンの味とか色々言うけれど、そんな事は無い。

 

 だけど、どこか心がポカポカするような気分になって、お兄ちゃんの唇をずっと貪り続けたい気持ちになる。

 

「……んっ、すき……しゅきぃ……」

 

 唇を触れ合っている瞬間に来る、身体の奥がキュンとするような感覚が中毒になりそうになる。誰かが止めなければ、ずっと続けていたくなるぐらいだ。

 

「っと……、これでいいか」

 

「あっ……」

 

 お兄ちゃんの唇が離れていく。少し名残惜しくて口に手を当てるとまだほんの僅かだけれど温もりが残っていた。

 

「俺もお前の事が好きだ」

 

「……じゃあ、相思相愛なの?」

 

「ああ、そうだな」

 

「……えへへ。お兄ちゃんも私が好きなんだ……」

 

 だらしない姿を見せたくないと思っても、嬉しすぎて頬が緩んでしまう。

 

「アスタリスクに行く前にお前に気持ちを伝えれて良かった」

 

「…………」

 

 そうだ。お兄ちゃんはアスタリスクに行ってしまう。

 

 せっかく、恋人になれたのに……。一抹の寂しさを感じてしまう。

 

「そんな悲しそうな顔をするな。……そうだ、ちょうどいい。今渡すか」

 

「…………?」

 

 お兄ちゃんがそう言ってポケットから取り出したのは、表面に花の絵柄があしらわれたペンダント。

 

「それならこれを持っててくれ」

 

「……これ、は?」

 

「ロケットペンダントだ。中に写真が入ってる」

 

 そう言って、ペンダントを開いて中を見せてくれると、そこには私たち二人が一緒にアスタリスクで撮った写真が入っていた。

 

「お前と一時的に離れ離れになるけど、それを俺の分身みたいな物だと思って持っていてくれ。少しは寂しさも紛れるだろ」

 

「うん……」

 

 少し寂しくなるけど、私はそのペンダントで我慢することにした。私が一年頑張れば、お兄ちゃんと一緒にいれる。それを思うと、寂しさよりも頑張らなきゃという意欲が勝った。

 

 私が界龍に行った後の事を思い浮かべる。

 

 

 

 お兄ちゃんの傍にいて……

 

 大きくなったらお兄ちゃんのお嫁さんになって……

 

 お兄ちゃんと子供を作って……

 

 慎ましやかな生活になるかもしれないけれど、胸いっぱいになる幸せがこれからもずっと、ずっと、続くと思っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 でも、そんなに人生は甘くなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「沈華っ、大変だ! 基臣が!!」

 

 

 

 

 

「…………え?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 信じられなかった。

 

 お兄ちゃんが死んだなんて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 原因は、飛行機の墜落事故らしい。いくら屈強な肉体を持っているお兄ちゃんでも事故の中で生き残れなかったのだろう。

 

 もう、何を考えればいいのか分からない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そこからは死んだように過ごす地獄の日々が始まった。

 

 お兄ちゃんがいなくなったからなのか、虐めてきた奴らが再び私を(なぶ)ろうと狙ってくる。

 

 こうして校舎裏に呼び出され、お兄ちゃんと出会う前みたいに殴る蹴るの暴力だけでなく、道具まで持ってきて私をボコボコにしようとする。そうはいっても、前とは違って鍛えているため彼らの攻撃は私を傷つけることはない。

 

「この愚図が!」

 

「なんだよ! その目っ!」

 

 バットで何回も叩きつけられる。どうやら、私の反応が鈍いことに苛立ったのか、カッターなどもっと痛がるだろう道具を用意してくる。無抵抗なので流石にカッターの刃が当たると、肌が傷つけられる。

 

 でも、何の痛みも感じない。お兄ちゃんを失ったときの胸の痛みに比べれば本当に……本当に、些細なものでしかない。

 

 そんな中途半端な道具を持ってくるくらいなら、ナイフや包丁……いや銃でも持ってきて殺してくれればいいのに。

 

 殺す覚悟がないからこんな手ぬるい事しかできないんだろう。私からしてみれば何が楽しいのか分からない。

 

「おい、お前ら!」

 

「バケモノ女の兄貴が来やがったぜ!」

 

「逃げろ逃げろ!」

 

 道具で殴られるような感触がなくなったので顔を上げると、いじめっ子たちが私の前から消えていた。

 

「ハア、ハアハア……大丈夫か、沈華」

 

 沈雲が助けに来てくれたみたいだ。どうやら私がいじめられてるのを見て駆けつけてきたのだろう。

 

 

 

 でも、それが何なのだ

 

 

 

「……なんで、助けてくれたの」

 

「沈華がいじめられてるんだ。兄弟の僕が助けに行かず誰が助けに行くって言うんだ」

 

 兄弟……

 

「……私、助けてって言ってないよね」

 

 所詮、沈雲ではお兄ちゃんの代わりにはならない。

 

「沈華、もう自暴自棄になるのはやめるんだ。このままじゃ先に沈華の身体が──」

 

「沈雲に私の何が分かるの!!」

 

「っ!」

 

「お兄ちゃんが死んじゃって……私……私っ、どうすればいいかわっかんないよ!!」

 

「沈華……」

 

 もう誰も見たくない。見てしまったら、所構わず八つ当たりしてしまう。そんな謎の自信がある。

 

「……帰って」

 

「でも……」

 

「帰って!!」

 

「…………分かった」

 

 こんなにも叫べるぐらいの気力が残っていたのかと自分でも驚くくらいだ。

 

 諦めてくれたのか沈雲が帰っていく。

 

「……ぐすん……ひぐ……っ」

 

 罪悪感が私の心を苛んでくる。沈雲は何も悪い事をしていないのに当たり散らすようにキレてしまった。

 

 そうだ、私の身勝手が周りの人間を不幸にしてしまう。

 

 こんな私は存在する価値なんて無い。だから、本当は自死でもしてお兄ちゃんのところに行きたい。でも、まだそうするわけにはいかない。

 

 せめて……お兄ちゃんの、そして私の願いでもあった星脈世代が酷い目に遭うことのない世界を作ってからじゃないと死んでも死にきれない。

 

「やらなきゃ…………」

 

 

 

 

 

 それからは必死になって自分を鍛えぬいた。

 

 鬼気迫るその鍛錬の姿から、いつの間にか虐められることも無くなったけれども、その代わり私に対する恐怖の視線は月日が過ぎるごとに増えていく。前の私なら気になっていたかもしれないけれど、今になってみればそんな視線は欠片も気にならない。

 

 沈雲からは相変わらず気を遣われているが、大事の中に小事なし。そんな事を気にする余裕もなかった。何しろ、私が目指すのは星武祭優勝なのだ。生半可な実力では簡単にふるい落とされてしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 星武祭にエントリーができる年齢になると、お兄ちゃんの時と同じようにスカウトの目に留まって特待生として界龍に在籍することになった。それと同時に沈雲も私と同じように特待生として界龍に入ることにしたらしい。スカウトの目には引っかからなかったものの、試験の際に彼の才能が万有天羅の目に留まったらしい。

 

 それから、界龍に入ったからといって特別変わったことはない。

 

 強いて言うなら、万有天羅に星仙術は教わっているがそれ以外の人間とは関わりを作っていない。狙いを王竜星武祭一本に絞っている私にとって、人の繋がりとは持っても意味のないものだと思っている。傍から見ていても、彼らとの交流はただのなれ合いにしかならない事は一目瞭然だった。

 

 

 

 

 

 

 

 しかし、王竜星武祭にオーフェリア・ランドルーフェンが出るという事が分かってから考えを改めることにした。

 

 一度だけ彼女を間近で見たことがあるが、今の……いや、一生かけても私では彼女には勝つことはできないだろう。それぐらいに私と彼女の間では圧倒的な実力の隔たりがある。もしかしたら、お兄ちゃんだったら勝てる可能性があったかもしれないが……そんなたらればを言っても仕方がない。

 

 

 仕方なく、狙いを鳳凰星武祭(フェニクス)に変更することにした。だけど、今まで他人との関係を持ったことの無い私にペアが作れるわけもなく、ペア探しに難航した。

 

 沈雲にその事を話すと、喜んで協力してくれた。おそらく、肝心な時に助けることができなかった私に負い目を感じての事なのかもしれない。それを知っていながら図々しく協力してもらおうなんて、我ながら自分が醜くて嫌になってしまう。お兄ちゃんならこんな事しない。

 

 沈雲と連携の練習などをしている内に、鳳凰星武祭のエントリー期間が終わる。しばらくして公開されたトーナメント表を確認すると、一部変わり種がいるがどれも無難に勝てそうなペアばかりだ。確実に優勝するために高等部になるまで待っていたが、ようやくこれで願いを叶えられる。

 

 

 

 その後、私たちは難なく鳳凰星武祭を勝ち進んでいき、決勝戦まで駒を進めることができた。最後の相手は叢雲(むらくも)華焔の魔女(グリューエンローゼ)。普通に真っ向からやりあっても勝てる相手だろうが、油断して全てを無為に帰すのは愚者のやることだ。徹底的に相手が立ち上がろうという気概を起こさせないぐらいにねじ伏せて勝ってみせる。

 

「沈華、先に行ってるよ」

 

「うん」

 

 沈雲が待機室から出ていって一人になったのを見計らうと首にかけているペンダントを手に取る。

 

 開くと、初めてアスタリスクに来たときの写真が入っている。

 

 

 

 私の時間は、お兄ちゃんが死んだあの頃から止まったままだ。

 

 

 

「お兄ちゃん、大好きだよ」

 

 

 この鳳凰星武祭で優勝して、長年の宿願を達成させる。

 

 




というわけで、基臣が沈華と幼い頃に会っていたら且つ沈華の取り巻く環境が最悪だったらというif話でした。
改めて見直すと、基本的にif話は救いのない話ばっかりな印象ですね。まあその分、本編ではヒロインたちが幸せそうなので大丈夫でしょう()


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

獅鷲星武祭優勝後~王竜星武祭優勝
part27


ようやく王竜星武祭編に突入したので初投稿です。


 

 ついに最終章に突入するゲームのRTAはーじまーるよー。

 

 ようやく、獅鷲星武祭(グリプス)まで優勝することが出来、残すは王竜星武祭(リンドブルス)となるところまで来ました。

 

 おっと。寝起き早々、間違ってシルヴィに電話をかけてしまっちゃいましたね。シルヴィが下着姿アップというエロエロな状態で映りますが、変に切るのも不自然ですし、適当に話して切りましょう。

 

 いやー、いつも通りに朝練をするために早めに起きたのですが、最近のホモ君はどこか寝起きが悪いようですね。もしこれ以上ひどくなるようだと調子にも影響してくるのでもう少し早めに就寝することにしましょう。

 

 優勝からしばらく経って11月に入ったわけですが、他のメンバーよりも早く願いを何にするかを運営委員に申請しに行くことにしましょうか。

 

 運営委員の根城へと出向くと、久しぶりに登場した黒幕さんが応対してくれるわけですが、こいつと話すことは何のメリットにもなりませんし、ロスなのでさっさと話を終わらせることにしましょう。

 

 さて、獅鷲星武祭優勝の願いを何にするかですが、各学園の学生としての権利にしましょう。つまり、ホモ君を各学園の生徒という扱いにしてもらうわけですね。

 

 各学園にその申請を通すまではしばらく期間が必要なので、倍速して進めていくことにしましょう。その間にどんな申請をしたのか、各学園と結んだ契約の一部を抜粋しておきます。

 

 

 

 ・上の学生は各学園に学生としての籍を置くものと

  する。例外事項を除き、各学園の学生としての

  権利を上の学生は行使することができる。

 

 ・各学園の規則に則り決闘などの行為を行うことは

  できるが、在名祭祀書(ネームド・カルツ)

  名前を置くことを禁ずる。

 

 ・各学園の義務を一部免除することができる

  (授業の出席、試験など)

 

 ・上記の条件を学園側が認可する代わりに、その学園

  に在籍する学生を最低でも一名育成しなければ

  ならない(ただし、その育成方法、育成人物は法規

  に抵触しない限り、学園側が干渉することは

  できない)

 

 

 

 大まかにいえば上記の4つの契約が主となってきます。

 

 上記の内容のように、これによって各学園の生徒になることで自由に出入りが可能。在名祭祀書(ネームド・カルツ)入りすることは出来ないものの決闘自体は可能なので、修練代わりにも使うことができ、得られるリターンがクソでかいです。

 

 ですが、いくら星武祭の願いといえども、それでは各学園に旨味(うまあじ)が無いので、各学園の生徒を卒業までに最低でも一人は鍛え上げるという契約を結んでおきます。そうすることで各学園にもメリットがあるので、話はとんとん拍子で進んでくれるのです。

 

 本編中に他の奴鍛える暇あんのかだって?

 

 (やるわけ)ないです。ロスですし。

 

 じゃあどうするのかって言うと、王竜星武祭までは忙しいから、高等部になってから育成すると言えば、RTA終了後の方にその辺のめんどくさい条件を持っていけて、実質デメリット0で交渉を成立できるので一気に契約内容が旨味(うまあじ)になります。

 

 

 

 倍速している間にようやく全学園で認可が下りましたね。これでどの学園にも自由に出入り可能です。

 

 これによって今後、シルヴィとオーフェリアのイベントを進めるのに場所的な制約を受けることがなくなりました。

 

 ちなみに、クインヴェールの認可が一番最後になりました。まあ、男禁制の学園にホモ君を入れるのは色々と問題があるので仕方のないことではあります。

 

 まあ、ペトラさんには護衛の件で借り(意図してないとはいえマッチポンプ)がありますので、なんだかんだで認可してはくれましたけどね。

 

 というわけで、シルヴィとの好感度稼ぐためにさっそく女の花園であるクインヴェールにも正面から堂々と入りましょう。野郎どもには眩しすぎる光景なわけですが、ホモ君はシルヴィ一筋であると決まっているので他のメス共にうつつを抜かさずに生徒会室に向かうことにしましょう。

 

 生徒会室に行くと、シルヴィがすでに中で待っててくれたようですね。

 

 丁度、誰も生徒会室に来ない日時を選んだので、しばらくシルヴィとイチャイチャすることにしましょう。適当に世間話をしていれば、勝手に好感度は上がってくれます。

 

 何々……お弁当を用意してると。準備がいいですね。というか、ここまで来ると、シルヴィも完全にホモ君に対し好意を抱いていますからね。そら、そうする(手作り弁当作る)よ。

 

 用意してくれた弁当を食べていると、シルヴィがヤンデレ剣をご所望のようなので実体化させてあげましょうか。

 

 実体化させて何をするかと思えば、ヤンデレ剣を膝の上に乗せて可愛がってますね。なんでも彼女曰く、女の子は可愛いものに目がないんだとか。

 

 うーん……それにしても、こうして見るとまるでホモ君とシルヴィ、そしてヤンデレ剣の構図が夫婦と娘の3人家族みたいだぁ……。

 

 ちょっかい代わりに良い母親になれるだろうと指摘すると、熟れたトマトのように赤い顔が見れるのでスクショしまくりましょう。

 

 やっぱり、羞恥(しゅうち)の混じったシルヴィの顔を……最高やな!

 

 そんな感じでしばらくイチャイチャしていたのですが、ペトラさんが来て仕事があるといってシルヴィを連れて行っちゃいました。

 

 シルヴィがいなくなったので名残惜しいですが、これ以上要件もないですしそろそろクインヴェールから出ることにしましょう。

 

 

 

 

 

 シルヴィの好感度稼ぎをした翌日、決勝戦で傷ついた武器の修繕や補充のためにアルルカントへと向かいます。

 

 エルネスタの研究室にまで来たわけですが……肝心の本人がいませんね。事前に連絡を入れたのですぐ来ると思ってたのですが…………って

 

 

 

 アイエエエエ! レナティ!? レナティナンデ!?

 

 

 

 なんで自律式擬形体(パペット)の女の子であるレナティがもう作られてるんですかねぇ。というか、このパターンは……。

 

 

 うそでしょ……。ホモ君が父親だって吹き込まれてる……。ついでにエルネスタが母親っていうことになってますし。ホモ君がいつ彼女と付き合ったんですかね。まさかエルネスタは存在しない記憶の使い手じゃったか……。

 

 さっきのシルヴィとの絡みもそうですが、これではまるでホモ君が二股してどっちとも中等部なのに子供作ってる屑ムーヴしてるみたいじゃないですか、やだー。

 

 さっきから何度も父親だという事を重ねて否定してるんですが、全く言う事を信じてくれません。しかも、何度もその事を否定していると泣き喚いてしまいます。反抗期かこのヤロー!

 

 お、エルネスタが来た。何々……ホモ君がもらったウルム=マナダイトと他に手に入れたウルム=マナダイトを使ってレナティを作ったと……。それにしても随分と早すぎませんかね。

 

 本来であれば彼女が独自の流入ルートを使ってウルム=マナダイトを手に入れるのは原作開始少し前の一年後ぐらいのはずなんですが。なので、あるとしてもアルディを作れるのが関の山だという想定でしたけど、侮っていましたね。

 

 ここまで来て薄々察し始めましたが、完全にエルネスタがホモ君の事を好いているようですね。そのこともレナティの開発の早さに関係しているのかもしれません。

 

 今まではエルネスタのホモ君に対する好意は、からかい半分のものと思っていたのですが、まさかこうなるとは。とりあえず、できる限り彼女からのアプローチをのらりくらりと(かわ)しつつ。クリスマスイヴがある12月まで持ちこたえましょう。そうしたら、シルヴィと付き合って逃げ切ることができます。

 

 ヒエッ……さっきから、ホモ君を見る目が笑ってないよ!

 

 完全に肉食獣のそれですね。これ、逆レとかされない……よね?

 

 

 

 しばらくして解放してくれはしましたが、生きた心地がしませんでしたね。とはいえ、彼女抜きには王竜星武祭の優勝は難しいので、彼女と関わらないか、リスクを取ってでも媚を売るかのジレンマに陥ってしまいますね。

 

 さて、エルネスタが想定外の行動を取るという事態が起きましたが、次はオーフェリアと接触を図って、徐々に彼女に――

 

 今回はここまで。ご視聴ありがとうございました。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

裏話27 レナティ

夜がだんだんと寒く感じ始めているので初投稿です。


 

「ん……?ここ、は……?」

 

 基臣が起きると、そこは彼の実家である屋敷の一室。いつも、基臣が寝所にしている場所だった。

 

「なんでこんなところに俺が……」

 

 身体とは不思議な物で、疑問を抱きながらも昔のように起き上がり、身支度を済ませて部屋を出る。

 

 障子を開けて歩くことしばらく。縁側に人影が見えた。その後ろ姿はいつも見る人のもので──

 

「シルヴィ……? おい、シルヴィなのか!」

 

「……………………」

 

 呼びかけても振り返らないことに違和感を感じ、彼女の元へと近寄る。

 

「どうしたんだ、こんな所で座って。それよりも、なぜここに……」

 

 後ろから肩を掴むと、目の前にいたシルヴィアの姿が一変する。

 

「なッ!?」

 

 その体は深紅に染まり、肩に触れていた手には血の感触がべったりと絡みつく。

 

「ねえ、基臣君……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──ナンデ、タスケテクレナカッタノ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぁぁぁあああ"あ"あ"あ"ア"ア"ア"ア"ア"!!」

 

 誰もいない一人部屋で、普段発さない叫びをあげた。

 

「っ! ……はぁ……はぁ……っ!」

 

 全身から汗がびっしょりと噴き出し、呼吸が安定しない。夢だと思いたいが、あまりにも先ほど感じた感覚はリアルすぎた。

 

「シル、ヴィ……。シルヴィ……っ!」

 

 焦る気持ちを抑えきれず、携帯端末を手に取ってシルヴィアの連絡先へと電話をかける。

 

「頼む……っ!」

 

 祈るようにかけたそんな通話だが、5コールほどでつながった。

 

『……んー、もしもし』

 

 寝ていたのかウトウトとした表情をしているシルヴィア。下着だけの無防備な恰好で寝ていたのか、露出した肌が画面に映る。

 

「シルヴィか!?」

 

 いきなり大声を上げる基臣に、シルヴィアはビクッと体を震わせる。

 

『って、わわっ!? どうしたの基臣君、そんなに声を荒げて』

 

「大丈夫か! 怪我は!?」

 

 基臣の問いに何を言ってるのか分からないのか、きょとんとした顔で首を傾げる。

 

『怪我って……そんなの無いけど……』

 

「…………そうか。それなら良いんだ、それなら……」

 

『良いんだって……いきなりどうしたの? まだ、4時半だよー?』

 

「……いや、なんでもないんだ。朝早くにすまなかったな。……あと、その無防備な恰好、気を付けた方がいいぞ。通話相手に肌を見せる露出魔だとか、そんな風のいらぬ誤解を生む」

 

『え、いや。その、これはっ──』

 

 何やら弁明するような声が聞こえた気がしたが、それに構っていられる余裕がなかった基臣は電話を切ると、ホッと一息吐く。

 

「本当に…………夢、か」

 

 その夢は酷く記憶に残った。普通ならば数分もすれば頭の中から切り取られたように消えてしまうのに、まるで忘れるなと言わんばかりに(まと)わりついてくる。

 

「……最近は特に酷くなってきているな」

 

 冷蔵庫から水を取り出し、浴びるように喉に流し込む。

 

「……まったく。隠そうとするはずだ、こんな代償」

 

 基臣を信じ、自身の本心を打ち明けることに抵抗が無くなったピューレは、自身を使うことの代償を話してくれた。

 

 ピューレの能力の代償。

 

 それは、精神的に使い手の一番の弱さとなっている要素──大体の場合はトラウマ──を元に、強制的に使い手が一番精神に来る悪夢を見せることだった。能力の使用頻度次第では、そんな悪夢と毎夜直面させられることになり、更にその内容もひどいものに変わる。似たような代償として《パン=ドラ》も毎夜、自分が死ぬ夢を見せられるようだが、それと違ってピューレの悪質な点はその悪夢から覚めてもずっと記憶に残り続けることだった。

 

 更に、身の程を(わきま)えない能力を使おうものなら──

 

「考えたくもないな、そんな事態は」

 

 ピューレが何度も念押しに、度の過ぎた能力の使用を注意してきていることからも、人の身には耐えきれない代償なのだろう。過去に何人もの人間が不幸な死に見舞われた理由はそこにあるはずだと基臣は少しずつ落ち着いてきた思考の中で推察する。

 

「……個人的には、まだ《パン=ドラ》の代償の方がまだマシだな」

 

 自分の命の価値を低く見積もっている基臣にとって、まだ己の死を体験する方がマシだったのだろう。

 

 水を飲み干した基臣は、ジャージに着替えるとドアに手をかけて外へと出る。

 

「強くならなければ……もっと、強く……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 獅鷲星武祭(グリプス)の決勝戦から日が経ち、11月に入って寒さも少しずつ本格化を迎えつつある頃。

 

 基臣は本来、男子禁制の場であるクインヴェールへと足を踏み入れていた。

 

 来た事も数度しかない場所だがその足取りに迷いはない。

 

 しばらく歩くと、豪華な装飾がされたドアの前にたどり着く。

 

 ドアを開くと、生徒会長用の椅子に座っていたシルヴィアが書類から目を離し、基臣へと手を振る。

 

「やっほー、基臣君」

 

「仕事中のようだが、邪魔だったか?」

 

「別に大丈夫だよ。書類に不備が無いかの再確認だったし、たった今終わったところだから」

 

「そうか」

 

「それにしても、まさかこうやって堂々とお話できるなんてねー。ほら、座って座って」

 

 備え付けのソファに案内されて座ると、シルヴィアも隣に座る。

 

 用意していたティーカップに紅茶を2杯分注ぐと、基臣の前にも差し出す。

 

「そういえばニュースで見たけど、基臣君があんなお願いをするなんてね。まあ、君らしいと言えば君らしいけれど」

 

 ティーカップを口に付けながら苦笑するシルヴィア。

 

「それほど意外でも無いと思っていたが……過去に似たような願いを申請した奴はいないのか?」

 

「いないはずだよ。だからこんな感じでニュース記事にもなってるよ、ほら」

 

 そう言ってシルヴィアは基臣に空間ウィンドウでニュース内容を見せてくれた。記事の中では基臣の願いの目的の考察がこれでもかとばかりに敷き詰められており、余程珍しいのだろうという事を理解させられる。

 

「どうりで俺を探す記者どもが多いわけだ」

 

「特にクインヴェールは女の子だけだから、現在進行形で大騒ぎ。君のファンだった子なんか、一目会えるかもと大喜びみたいだけどね」

 

「確かにここに入ってから俺に対する視線が多かったな」

 

 正門から入った瞬間に、女生徒からの侮蔑の視線や別の生き物を観察するような視線、好意的な視線……などなど、色々な感情を乗せた視線が刺さり、基臣はむず痒いものを覚えながらシルヴィアの元へと来ていた。

 

「……もしかして、うちの子たちに手を出したりしてないよね?」

 

「そんなわけないだろう。ここで不祥事を起こしたら、二度とどこにも入ることが出来なくなる」

 

「そっか、それならよかった」

 

「よかった?」

 

「別に基臣君が他の子に取られないか心配したわけじゃないんだよっ!? 生徒会長としてみんなの安全を……。あ、そうだ! それよりもほら!」

 

 勝手に話を拡大解釈した後に、強引に話を切り替えるシルヴィアに思わず苦笑する基臣。

 

「じゃーん!」

 

 シルヴィアが取り出したのはシンプルなデザインの四角い弁当箱。

 

「弁当か」

 

「一緒にお昼ご飯を食べれるって聞いたからちょっと張り切ってきちゃった。さ、一緒に食べよ」

 

「それなら、ありがたくいただこう」

 

 弁当を受け取って蓋を開ける。彩り豊かなおかずが敷き詰められていた。

 

「いただきます」

 

「いただき、ます」

 

 食事前の挨拶の習慣は欧州圏では馴染みのない文化なので、シルヴィアのその言葉はたどたどしさを感じさせるが、それでもしっかりと心のこもったものだった。

 

 基臣は箸を手に取ると、おかずを一口頬張る。

 

「ん、美味しい」

 

「よかったー」

 

 ふにゃぁ、と柔らかな笑みを見せると彼女も弁当を口にする。

 

「忙しそうなのに、すまないな。わざわざ用意してもらって」

 

「もー、私がしたいと思ってやったことなんだからいいんだよ。どうせなら、感謝の言葉をもらう方が嬉しいかな」

 

「そうか……ありがとう」

 

「どういたしまして」

 

 そんなこんなで談笑を交えながらも弁当を食べ終え、その後は主にシルヴィアから振られる話題に答える基臣。

 

「あのー……お願いがあるんだけどさ」

 

「どうしたんだ、そんな改まって」 

 

 両手の人差し指を擦り合わせながら、チラチラと上目遣いにシルヴィアは基臣へとお願いをする。

 

「私、ピューレちゃんの姿が見たいなー」

 

「ピューレをか?」

 

「うん!」

 

 以前、エルネスタに乞われてピューレを実体化させたが、彼女が必要以上に可愛がりすぎたせいで怯えて自分から実体化を解いて戻ってしまったことを思い出す。

 

 シルヴィアはそんなことはないと思ってはいるが、万が一のこともあると思い、脳内でピューレに聞いてみることにした。

 

(……ピューレ、いいか?)

 

(モトオミが……そう言うなら。前みたいなことにはならなそうだし)

 

 基臣はソファを立つと、ピューレを取り出す。

 

 すると、ピューレの刀身が眩く輝き、徐々にワンピースを着た白髪の少女が現れる。

 

「わぁ……可愛い!」

 

 ススッと基臣の背後に隠れるピューレに、目を輝かせていたシルヴィアはハッとする。

 

「おっといけない。初対面で怖がらせちゃいけないもんね」

 

 基臣の近くに寄ると、軽くしゃがんでピューレと視線の高さを合わせる。

 

「こうして姿を見るのは初めましてかな。ピューレちゃん、でいいんだっけ?」

 

「……ん」

 

 基臣の背後から少しだけ顔を出すピューレにニコリと微笑むと、怖がらせないようにゆっくりと手を差し出し頭を撫でる。その様子を眺めていた基臣だったが、ピューレが嫌がらずにそのまま受け入れている姿に驚きを覚える。

 

「この前の試合、見てたよ。みんなの前に姿を現すのも怖かったはずのによく頑張ったね」

 

「──っ!」

 

 少しだけだが、ピューレの表情が驚きに満ちたような顔を見せ、ほとんど姿を隠していたはずの体を少しだけ覗かせる。

 

 その隙を見逃さず、シルヴィアはピューレの手を握ると自分の座っているソファへと連れていく。

 

「ほら、おいで」

 

 ぽんぽん、と椅子に座ったシルヴィアが膝の上を指し示す。

 

「…………ぁ」

 

 意図していないのか、まるで引き寄せられるようにピューレはシルヴィアの膝の上へと座る。

 

「可愛いねぇ、ほんとに」

 

 ピューレの頭を優しく何度も撫でる。

 

「むぅ……」

 

「ふふふ……」

 

 小学生に接するような態度のシルヴィアに、少し不服そうにしながらも黙って受け入れるピューレ。そんなシルヴィアの姿はさながらピューレが見せてくれた記憶の中の母のようで……

 

「……良い母親になれそうだな、お前は」

 

「お、おおっ……お母さんっ!? ま、まだ早いよ! そういうのは!」

 

 あわあわと手と顔を横に振りながら妄想に耽るシルヴィアをよそに基臣はどこか遠い目をしていた。

 

「…………でも、俺が強くないとこの光景は」

 

「……モトオミ?」

 

 様子がおかしいことに気づいたピューレは儚く消えてしまいそうな基臣へと手を伸ばしたが──

 

 

 

「ここにいましたか、シルヴィア」

 

 ドアが開く音がしたので振り向くと、そこにはタブレットを片腕に抱えたペトラが立っていた。

 

「ッ──!」

 

 キッ、とにらみつけるピューレに対し、何の感情も見せることなく無視してシルヴィアを見るペトラ。

 

「あの人、嫌い……!」

 

「あらら。初対面なのにずいぶんと嫌われちゃったね、ペトラさん」

 

「もともと、他学園の純星煌式武装(オーガルクス)に好かれようなどとは思っていません。そんなことよりもシルヴィア、仕事です」

 

「はいはーい。……それじゃ、ピューレちゃん。悪いけど、今日はここまでだからまたね」

 

「……うん。また、ね?」

 

 手を振るシルヴィアにちょこんと手を振って返すピューレ。

 

 ピューレのその顔はどこか嬉しそうな感じがした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 シルヴィアに会いに行った翌日。

 

 基臣は武器の修繕を頼みにアルルカントに来ていた。当然、中に入るのに一々許可を取らないでいいため、正門横にある警備室の検問をスルーし慣れたようにエルネスタの研究室へと向かう。

 

「おい、エルネスタ」

 

 研究室に入ったが、返事は返って来ない。

 

「……いないのか?」

 

 室内を探し回るが、寝袋で寝ている姿も見受けられずにどうしたものかと思い椅子に座る。

 

「珍しいな……。いつもは待ち合わせ時間よりも早く来る事が常だったはずだが……ん?」

 

 ドアが開き、何事かと見ると薄い金色の髪を後ろに纏めた可愛らしい一人の女の子が立っていた。

 

「あ、いたー!!」

 

「ん?」

 

「わーい! おとーさんだー!」

 

「ぐっ!」

 

 いきなり飛びついてきた女の子に、反射的に受け止めた基臣。

 

 幼い容姿に騙されそうになるが、抱きしめているとその幼い見た目からは尋常ではない強さの奔流が感じ取れる。

 

(今の俺が正面からやりあったら、下手したら力負けしかねない……。どういう身体スペックをしてるんだ……?)

 

 そんな事を考えながら観察をしていると、女の子は基臣に抱き着いてきたその腕を解いた。

 

「レナはね! レナティっていうんだ! よろしくね、おとーさん!」

 

「…………は?」

 

 いきなりの爆弾発言に流石の基臣も固まってしまう。

 

「何を、言ってるんだ……?」

 

「ふみゅー? おとーさんはおかーさんからレナの事、聞いてないのー?」

 

 最初から一言一句、言ってる事を正確に理解できず、基臣はただ困惑する。

 

「そのおかーさんって誰だ? いや……心当たりはあるが、結婚した覚えはないんだが──って」

 

 純粋な疑問から生じるその問いだったが、その言葉が目の前の少女の地雷を踏みぬいてしまう。

 

「どうしてそんな酷いこと、言うの? おかーさん、嫌いになっちゃったの?」

 

 目を潤ませ、今にも泣きそうになっている少女。基臣にとって自らの感情のままに動く人間ほど、扱いに困る者はいない。

 

「いや、そのだな……」

 

 話が色々とかみ合っていないことに狼狽(うろた)えていると、研究室のドアが開く音がする。

 

「にゃははー、もうそっちに行っちゃってたかー」

 

「あ、おかーさん!」

 

 白衣を身にまとい、遅れて登場してきたエルネスタ。いつものように小悪魔じみた笑みを浮かべながら、研究室に入ってくる。

 

「おい、エルネスタ。この子をどうにかしろ。お前が作り出した自律式擬形体(パペット)だろ」

 

「おや、分かっちった?」

 

「ここまで考察材料が揃えば、分かるに決まっているだろう。こんなに精巧に作り出された自律式擬形体(パペット)、見たこともない」

 

「いい子でしょ? ピューレちゃんもだけど、やっぱり小さい女の子は可愛くってしょうがないんだよねー」

 

 レナティを抱き上げると、頬擦りする。

 

「ふみゅみゅー」

 

「あ、そうそう。この子はレナティって言うんだ。あたしが丁度もらったウルム=マナダイトと君がくれたウルム=マナダイトで作った愛の結晶ってやつかなー」

 

「……誤解を招く言い方はやめろ」

 

「ごめんごめん」

 

 反省の色もない表情で謝ると、椅子に座りレナティを解放する。

 

「ほら、さっきの部屋にいたカミラお姉ちゃんと遊んでなさい」

 

「はーい!」

 

 素直にエルネスタのいう事を聞き、ドアを開けてカミラの元へと行ったレナティを見届けた後、基臣は話を切り出す。

 

「武器の修繕をしに来たつもりだったが、その前に一つ聞きたいことがある」

 

「どうしてレナティに君の事をお父さんって呼ばせたか、かな?」

 

「そうだ、どうしてこんなことを……ムグッ!?」

 

 真意を問いただそうとした口をエルネスタは手でふさぐと、顔を基臣の元へとグイッと近づけてくる。

 

「あたしって勘が冴えてるからさ、基臣君の考えてる事、なんとなくわかるんだよねー」

 

 んー、と片手で自身の口に触れて可愛らしく悩むような恰好をするエルネスタ。

 

「キミ、私達の恋心を知ってて敢えて無視してるでしょ?」

 

「……お前、気づいて──」

 

「そりゃねー。キミが自罰的な考えをしているから誰も選ばないんだろうなってことぐらい、しばらく見てきたから理解できるよ」

 

 ツツツ……と基臣の身体に刻まれた傷跡を優しくなぞるエルネスタ。

 

「もしかしてそんな自罰的な考えになった原因は、この虐待の跡っぽい傷だったりして……。まあ、それに関しては外野の私がとやかく言う事じゃないかもしれない。けどね……」

 

 耳元に口を近づけると、エルネスタはくすぐるように囁く。

 

「あたしを選ばずに誰かを選んで幸せになるならまだしも、誰も選ばずに逃げるっていうのは一番嫌いなんだよね」

 

「……っ!」

 

「それで、どうすればキミが逃げなくなるか考えたんだよ。色々考えたんだけどさー……」

 

 普段の無邪気な彼女からは考えられない妖艶な笑みを基臣へと見せる。

 

「基臣君は責任感じるタイプだから、子供がいるって分かったら嫌でも選んでくれるでしょ?」

 

 その言葉に冷や汗が額から(こぼ)れ落ちる。とてもではないが、中等部の女の子が考えていいような思考ではない。

 

 不味い。このままだと確実に彼女のペースに乗せられてしまう。そう思っても基臣の口から拒否する言葉が出てこない。彼女の言っている事は事実なのだから。

 

「いやー、既成事実って偉大だなー。こうしてキミを縛り付けることが出来るんだもん」

 

 カラカラと鈴が鳴るように笑いながらもその目は全く笑っていない。

 

 基臣は気づいてしまう。レナティが作り出された時点で基臣は既に彼女の術中に嵌まってしまっていたのだと。

 

「もう絶対に逃がさないよ、基臣君……」

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

part28

寒暖差で着る服に気を遣うのが面倒くさいので初投稿です。


 

 本人は意図せずして煽っていくスタイルのRTAはーじまーるよー。

 

 前回はエルネスタのレナティ(クソガキ)を利用した罠にホモ君が嵌められかけたところまででしたね。いたいけな子供を使うとは、姑息な手を……

 

 とまあそんなこんなで更に月日が進行して12月。そろそろオーフェリアのイベントを進めることにしましょう。

 

 4月に入ってからは彼女の幼馴染であるユリスを頻繁に会わせて揺さぶりをかけるつもりですが、今のところユリスはリーゼルタニアからアスタリスクに来てないので、現段階ではホモ君単独で淡々とこなしていきます。

 

 会わないと話も進まないので、オーフェリアに会いにいくわけですが、彼女に確実に会えるのは公式序列戦のタイミングです。毎回、ほとんどの確率で彼女は序列戦の相手に指名されるので、ほぼ必ずといっていいレベルで出席しています。

 

 試合前だと話をまともに聞いてもらえないので、試合後に会いに行きましょう。公式序列戦は各学園の学内ステージで行われるので、願いの恩恵を存分に利用してレヴォルフの学内ステージ出入口でアイドルの出待ちの如く待機しておきましょう。

 

 そうこうしてステージの出入り口で待ってると、オーフェリアが出てきました。

 

 彼女は飼い主である豚さんの命令もありホモ君を無視しようとしますが、ホモ特有の粘着質なディフェンスで立ちふさがると渋々ではありますが話に付き合ってくれます。

 

 肝心の話の内容ですが、彼女の過去についてユリスからある程度教えてもらったことを打ち明け、今からでもやり直せるよ的な話をします。

 

 まあ、自分の気持ちを分かってないのに何を言いやがる的な感じで軽くキレますが、流石に学園内ということで戦闘は自重してくれました。

 

 これ以上は話を聞いてくれないので、最後に布石として、ピューレの能力を使って1週間程度ではありますが瘴気の影響を受けない花をプレゼントしましょう。受け取る直前は瘴気で触れることが出来ないはずの花を渡すので、イヤミか貴様ッッ、と言わんばかりの圧をかけてきますが家に押しかけてくるセールスマンのように押し付けましょう。

 

 花をプレゼントすることで、星脈世代になる前の過去に対して未練を持つようになるので、オーフェリアを堕とすのに非常に重要なアイテムです。

 

 本来ならば50万ほどの大金を使って、一週間ほど瘴気に耐えうる造花をプレゼントするつもりでしたが、何でもできるヤンデレ剣のおかげで造花ではなく生の花をプレゼントできるのはでかいです。やっぱりヤンデレ剣の能力を……最高やな!(絶賛)

 

 しばらく渡す受け取らないの押し問答が続いてましたが、ホモ君の訴えで渋々花を受け取ってくれました。何も思っていないように花を受け取ったオーフェリアですが、嘘つけ絶対内心嬉しそうにしてるゾ。

 

 とりあえずは、これで一歩前進ですかね。

 

 これでオーフェリアとのイベントはクリスマスまでの間は無く、シルヴィとのクリスマスデートまでは鍛錬するだけの毎日です。他学園に押し入りしたり、再開発エリアで一人で極伝の習得をしたりとやる事には事欠きませんのでしばらくの間は修行に努めましょう。

 

 

 

 倍速にしていると、再開発エリアで鍛錬してる最中にミルシェが来ましたね。

 

 実は僕も混ぜてよー的な感じで電話が事前に来ていました。ミルシェは王竜星武祭には出場しないのでちょうどいい相手になりますし、喜んで許可しました。

 

 もちろん、ただ鍛錬するだけだと彼女がただのカカシになる事は想像に容易いので、ホモ君は鍛錬時に持ち歩いてる木剣を使います。そうすると、木剣がミルシェのライアポロスに触れた瞬間に即ぶっ壊れるので、必然的に回避しかできなくなります。そのため、攻撃の回避練習にもってこいなのです。

 

 オーフェリア戦では回避を多用することになるので、今のうちにホモ君の体にその感覚を染み込ませておきましょう(意味深) もちろん鍛錬場面は変わり映えが無いので倍速です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ようやく鍛錬も終わったことですし、さっさと帰ることにしましょうか。

 

 ……ムムム! 帰る途中で意外にも《ヴァルダ=ヴァオス》とエンカウントしましたね。

 

 ですが、別にこれはロスイベントというわけではありません。というか、これから発生する強敵との戦闘イベントは能力値を伸ばす事を考えると歓迎するレベルなのです。流石にホモ君がお陀仏になってしまうのだけは勘弁ですが、そうならない程度の相手ならありがたいイベントです。

 

 イベント戦闘なので通常よりも経験を多く積めますし、特殊技能も覚えやすいという地味にありがたい効能があります。ミルシェというお荷物がいますが、まあそれを含めても良イベントであることには違いありません。

 

 もし、ヴァルダを捕獲できようものならシルヴィの好感度爆上がりですが、前にも言った通りおそらくホモ君に依存しまくって頻繁に会わないで済む理由であったアイドルを辞めてしまう可能性もあり得る(if①参照)ので、適度にダメージを与えて撃退する程度にとどめておきましょう。アイドルじゃないシルヴィにRTA用ヒロインとしての価値はないってそれ一番言われてるから(人間の屑)

 

 ヴァルダが前と同じようにヤンデレ剣を勧誘しましたが、もちろん彼女がうんと頷くわけもなく、戦闘が始まりました。前とは違って周辺に認識疎外の結界を張り巡らせていないので、その分だけ強力になっています。

 

 当たった相手を操ってくる何の光ィ!? が前より何段階も威力が増し、光を収束させて形成する武器も近接用の戦斧だけでなく遠距離にも対応できるよう鞭を使ってくるなど、前よりも技のバリエーションが増えてより厄介さに磨きがかかっています。

 

 それに加えて何が一番面倒かって、ミルシェを守りながら戦わなきゃいけないってことですね。(お荷物抱えながらの戦闘とか)もう許せるぞオイ! まあ、私は通常プレイで死ぬほどヴァルダ戦はやってきたのでなんとかなるでしょう。

 

 それに、誉崎流皆伝の制御の仕方を覚えたので、ヴァルダは今ならそこまで苦戦するような相手ではないです。

 

 ここから先、戦う予定の相手で脅威となるのは赤霞の魔剣(ラクシャ=ナーダ)の使い手である黒幕さん(本気ver)と、オーフェリアの2人でしょうか。

 

 黒幕さんは鬼気によって星辰力の質がとにかくすごい(語彙力皆無)ので、正面からやりあっても堅すぎて中々削れないのと、赤霞の魔剣が両手剣というカテゴリであるのも相まって火力が高く、攻防ともに頭一つ以上抜けてるせいでとにかくRTA走者にとってめんどくさい相手です。それでも、オーフェリアに比べればまだ人間代表レベルの強さなんですけどね。

 

 オーフェリアは言うまでもないことですが、星辰力の量による圧がえぐいです。しかも《魔女(ストレガ)》の能力である瘴気の腕による手数の多さもあり、更にその一本一本の威力が高く作中随一のチートキャラですね。

 

 と、ヴァルダとは関係ない話をしている内に割と簡単に追い詰めましたね。こんなユルいんかよ!(呆れ)

 

 まあ、ヴァルダはもともと戦闘特化の能力をしているわけではないので、ホモ君相手には二、三歩ほど遅れを取っているのが実情でしょう。これで黒幕さんでも出張ってこようものならヤベーイですけど、今のところ出てくる気配はないですね。

 

 撃退ラインまで追い込むと、ホモ君に負け惜しみの言葉を行った後に撤退を……って、おい! ミルシェェ!! 途中で会話に割り込んでイベントを延長させるなァァ!! 

 

 ヴァルダのホモ君を貶める言葉にキレたのでしょう。別にホモ君を擁護しなくていいからさっさと会話を終えてくれ……。

 

 しばらくミルシェが言いたいことを言うとヴァルダが消えましたね。さっさと界龍に帰りま……ファッ!? 

 

 いきなり後ろから抱き着いてくるとか、驚かせるんじゃねぇ! さっきから色々とミルシェが予想外の行動しかしてませんね……(チャートが)壊れるなぁ……

 

 原因は何なのかと思ってたのですが、この感じ……ミルシェもなんか好感度が思った以上に上がってるみたいですね。ミルシェとのイベントは無難にこなしてた筈なんですが、どーこで歯車が狂ったんでしょうかねー。

 

 後ろから抱きしめられてるので、変に振り払うわけにもいきませんし仕方がありません。ステータスでも見て時間を有効活用しましょう(素晴らしきリカバリー力)

 

 

 

 

 

 星辰力 85  技術 575 知力 345 体力 585

 

 

 

 特殊技能 第六感 感情喪失 誉崎流皆伝 鋼鉄の体幹 神速 堅牢 強運 連携巧者 殺気隠し 先手潰し 格上殺し 対集団戦 空中回避 応急手当

 

 

 

 もうステータスだけで言えば完成に近い状態になってきてますね。あとは、特殊技能を数点と誉崎流を極伝にすることで完成といったところでしょうか。

 

 今回、新規で習得した対集団戦は集団相手に効果を発揮する特殊技能ですが、習得するのが遅すぎましたね。今後はほぼ使わないと言っても過言ではないのでゴミです(辛辣)

 

 空中回避はその名の通り空中での回避が上手くなる特殊技能です。空中では回避行動が取りづらいので持ってて損はない特殊技能ですね。

 

 最後の応急手当は戦闘中に体力を回復する特殊技能で、オーフェリア戦ではあまり使わないですけど王竜星武祭でのシルヴィ戦で使うぐらいですかね。まあ、無いよりはましといったところでしょうか。前回取得した特殊技能が有能すぎた反動がここに来て返ってきてる感じですね。ただ、一年ほど猶予はあるのでそこまで焦るほどのことではないです。

 

 と、しばらくステータスを確認しているとようやくミルシェが抱きしめ攻撃を止めてくれましたね。やっと……終わったか(安堵)

 

 後半にミルシェによるガバは若干あったものの、まあ無難に済ませることが出来たのではないでしょうか。

 

 次は、クリスマスイベントでシルヴィに告白して、ホモ君の感情を完全に取り戻した後に鬼気の制御をできるように──

 

 今回はここまで。ご視聴ありがとうございました。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

裏話28 花言葉

技名の設定資料集が吹き飛んで無くなってしまったので初投稿です。

作品本編のデータでは無いとは言え、データが吹き飛ぶとメンタルに来ますね。よよよ……


 レヴォルフ黒学院、総合アリーナ

 

 そこは毎月行われる公式序列戦のステージとして学内に設けられている場所で、序列上位の戦いぶりを見ようと見学に訪れる者も少なくない。特に、このレヴォルフでは血気盛んな者が多く、観客席からヤジを飛ばす光景は一種の風物詩といえる。

 

「ったく、いつものことだがうっせーな……。嫌になるぜここの連中共は」

 

 そんな愚痴を漏らしながらステージに立っている彼女の名はイレーネ・ウルサイス。まだ中等部ではあるものの、いかにもレヴォルフに馴染んだ粗暴な外見を持つ生徒。

 

 そんな彼女の序列は20位。中等部の生徒としては十分過ぎるほどの実力を備えている少女だった。

 

「なあ、孤毒の魔女(エレンシュキーガル)さんよぉ」

 

 同意を求めるようにステージの向かいで立っていたオーフェリアに尋ねるが、何も反応しない。

 

「…………」

 

「反応もなしかよ、つまんねぇな。まあいい、試合が始まればその人を何も思っていないような顔に吠え面かかせてやるぜ」

 

 イレーネがステージ上の待機場所へと向かうと、序列戦の始まる合図が響いた。

 

 

 

「オーフェリア・ランドルーフェン vs イレーネ・ウルサイス、試合開始(バトルスタート)

 

 

 

「行くぜぇッ!!」

 

 徒手空拳で挑むイレーネに対し、オーフェリアはその場から動かずに攻撃を繰り出す。

 

「うざってぇなぁッ!」

 

 オーフェリアの攻撃を全て紙一重ながらも回避する。それ相応の武器でなければ壊れてしまう攻撃だ、素手で立ち向かおうものなら、その結末は言うまでもないだろう。

 

 繰り出される瘴気の腕の数々を回避していくにつれ、イレーネの攻めの勢いも弱まっていく。()だ、オーフェリアに攻撃を当てる事すら叶っていない事実にイレーネは悔しさを隠しきれない。

 

「あなたも……駄目だわ。私の運命を壊すほどの強さを持っていない」

 

「チッ! 調子に乗りやがってぇ!!」

 

 力の差を見せつけられても、自身を鼓舞し善戦してるかのように見せるイレーネ。だが、彼女(オーフェリア)との距離は果てしなく遠い。実力差として置き換えることができるその距離の差に、イレーネは舌打ちをせずにいられなかった。

 

「これで終わりよ……」

 

「……ぅっ!? これはッ!」

 

 瘴気をガス状にしてまき散らしたものを、イレーネは気づかずに思い切り吸い込んでしまっていた。身体の痺れや意識が朦朧とする感覚にたたらを踏んでしまう。そんな中、先ほどよりも多い数の瘴気の腕が彼女の元へとやってくる。

 

「ぁ"っ……くぅっ!」

 

 真正面から受けてしまったせいで瘴気の影響をダイレクトに受けてしまう。瘴気による苦痛にのたうち回りそうになる衝動を抑えて、どうにか膝をつくだけで済ませたイレーネ。

 

「お姉ちゃんっ!!」

 

 ステージのどこからかイレーネを呼ぶ声が聞こえるが、当の本人は意識が薄れかかっていて、その声をまともに聞きとることもできていなかった。ぼやけていく視界の中、何が悲しいのか悲哀に満ちた表情を見せたオーフェリアの姿だけがイレーネの瞳には映っていた。

 

「て、めぇ……っ」

 

 オーフェリアに手を伸ばそうとしていたイレーネだったが、途中でその意識を潰えて気絶してしまった。

 

「イレーネ・ウルサイス、意識消失(アンコンシャスネス)

 

「勝者! オーフェリア・ランドルーフェン!」

 

 試合時間は1分足らず。その時間の短さはオーフェリアの実力の程を知るには十分だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 勝者であるオーフェリアは、勝利の余韻にも浸らずにただ総合アリーナの外へと向かって歩く。

 

「…………!」

 

 そんなオーフェリアの動きが出入り口の前に来るとぴたりと止まる。

 

 彼女の視線の先にいるのは見覚えがある顔で──

 

「何の用……」

 

 今まで避けていた存在である基臣が、出入り口に立って待っていた。

 

「最近俺を避けてるようだからな。こっちから来た、それだけだ」

 

「そう……」

 

「単刀直入に言おう。なんで俺を避けている。お前を見た感じだと、別に俺の事を嫌いになっているわけでもあるまい」

 

「……それが、運命だから」

 

「またそれか。お前の運命論は聞き飽きた。大方、レヴォルフの会長にでも指示されただろ。俺に接触するなと」

 

 オーフェリアに近づく基臣。そして手を取るとギュッと握り合わせる。

 

「お前はどうなんだ、オーフェリア。お前にはまだ未練があるはずだ」

 

「未練……?」

 

「幼馴染だというユリスにお前の事を聞いた。望まぬまま星脈世代になったことも含めてな」

 

「……そう。あの子が言ったのね」

 

「幸いにもお前を蝕んでいる瘴気の影響も最小限で済むし、まだお前はやり直せる。だから、そんな死に急ぐ真似はやめろ」

 

「やり、直せる……?」

 

 その言葉にオーフェリアは珍しく怒りの感情を(あら)わにする。

 

「私の見たものを何も知らずにそんなことが言えるなんて……随分と勝手のいい話だわ」

 

 沸々と内に収めていた瘴気が外に漏れ、基臣に侵食しようとする。

 

「私に未練なんてない。勝手にあなたの都合のいい話を作らないで」

 

「都合のいい話、か」

 

 だが、敢えてそれを無視して基臣はポケットからある物を取り出す。

 

「…………それは」

 

 その取り出したものを見て、オーフェリアはその怒りを急に収めていく。

 

「これをやる」

 

 基臣が取り出したものの正体は黄色い花。

 

「……黄色い、百合?」

 

 その花言葉は──

 

「偽り……」

 

「本来なら悪い意味で送るのはNGだそうだが……唐変木なお前にはそれぐらいきつく言わなければ言葉は届かないだろうしな」

 

 少し困惑しているオーフェリアへとその花を押し付ける。

 

「あ」

 

 瘴気によって花は枯れると思われたが──

 

「枯れ、ない?」

 

「一週間程度だが、お前の瘴気に耐えるようにしてある。それを貰ってもこれから己の未練が無いと言いきれるかどうか。……俺には、まだお前の生に対する執着が完全に無くなったようには見えないがな」

 

 用はそれだけだ、と言うと背を向ける基臣。

 

「そろそろ俺は帰るとしよう。お前の所の会長に見られでもしたら面倒だ」

 

 そう言い立ち去る基臣にオーフェリアは何も言い返せず、黙って花を手に握るだけしかできなかった。

 

 

 

 ……………………

 

 

 

 

 

 オーフェリアとの邂逅を終えてしばらく。

 

 基臣が普段から鍛錬のために使用している再開発エリアの一角

 

 そこに普段来ない珍しい客がやって来た。

 

「久しぶりー」

 

 そう言って来たのはミルシェ。

 

「あぁ、獅鷲星武祭で戦って以来か。あれ以降随分と忙しそうだな」

 

「まーねー。ペトラさんのせいであちこちに行ったり来たりの大忙し」

 

「大変だったな、それは」

 

 最近はシルヴィアだけでなく、ルサールカの名もメディアを通してよく聞くようになった。アイドル通の虎峰の話──無理やり聞かされた──によると、ルサールカの知名度はこの前の獅鷲星武祭を機に大幅に右肩上がり。ライブチケットは発売数十秒後には完売、プレミアが付くほどの人気との事で、今最も勢いがあるグループらしい。

 

「せっかくだから、今度あたしたちのライブを見に来てよ!」

 

「いいのか?」

 

「ペトラさんに頼めばチケットも貰えるからへーきへーき。あたしが言えば関係者ブースの方でも見れると思うけど」

 

「流石にお前の活動に関係ない俺を入れてもらう訳にもいかんだろう。観客席から見せてもらうことにする」

 

「うー……。まあ、基臣がそれで良いなら別に構わないけど」

 

「まあ、その話はまた追々詰めていけばいい」

 

 それよりもだ、と言って話を切り替えるとミルシェに問いかける。

 

「わざわざ話だけするためにここに来たわけではないだろう。用意はしてきたか?」

 

「もちろんだよ。ほら!」

 

 ミルシェが取り出したのはギター型煌式武装《ライアポロス=カリオペア》。ルサールカ全員で使わないと十分にパフォーマンスを発揮しないとはいえ、純星煌式武装の一角。遊びのつもりで来てないことはしっかりと基臣に伝わった。

 

「ならいい、さっそくやるか」

 

 そう言って基臣が取り出したのは一本の木刀。何かあるのかと思いよく観察してみるが、特に何の種も仕掛けもない普通の木刀だ。

 

「それは?」

 

「ハンデだ。まともに戦ってもお互いに得るものは無いだろうし、俺はある程度の制約をつけながらお前と戦うことにする」

 

「うん、分かった」

 

 ハンデ、と言われてもミルシェも馬鹿にしているのかと怒る事は無い。前の獅鷲星武祭で散々実力差は理解させられたのだ。むしろ、これぐらいのハンデはないと、ミルシェがただの打ち込み台になってしまうことは想像に難くない。

 

「そうだな……俺に一回でも攻撃を当てたらお前の勝ちだ。逆に鍛錬が終わるまでに俺の体に攻撃を当てれなかったら俺の勝ち。それでいいか?」

 

「おっけー。それじゃいっくよー!」

 

 

 

 

 

 ……………………

 

 

 

 

 

「はぁ……はぁ……。基臣、つよすぎ……ぃ」

 

 意気込んで始まることになった鍛錬だったが、結果はミルシェの攻撃が一度も基臣に当たることなく終わった。ずっと動きっぱなしだったため、ミルシェはへたりこむ。

 

「そういうお前も、この前の獅鷲星武祭からまだ間もないのに結構強くなってるな。忙しいだろうによくここまで鍛えれるものだ」

 

「えへへ……っ。そー?」

 

 無邪気に笑うミルシェに、どこか愛玩動物のような愛くるしさを感じて思わず頭を撫でてしまうが、彼女も何も言わずに受け入れる。

 

「さて……」

 

 時間になったので鍛錬を止めて外を見ると、もう日も暮れて暗くなり始める頃合い。門限までに帰らないと、マネージャーであるペトラに折檻されるとはミルシェの談で、それを聞かされていた基臣は彼女を連れて早めに帰ることにする。

 

「そろそろ日も暮れることだし帰るか」

 

「そうだねー。よいしょっと……」

 

 基臣の手を取り立ち上がると、ミルシェは歩幅を合わせてくれる彼と帰途を共にする。

 

 シルヴィアやエルネスタ達も基臣によく話しかけるが、その中でもミルシェは大のおしゃべり好き。他愛もない世間話をしながら帰っていると、ミルシェが思い出したように基臣へとある提案をする。

 

「ねーねー。あたし、正月は暇になるから一緒に過ごさない?」

 

「ルサールカの他のメンバーとは一緒に居なくていいのか?」

 

「いーのいーの! みーんな、グータラしてばっかりだもん」

 

「まあ、それなら考えておこうか」

 

「やたっ!」

 

 嬉しそうにガッツポーズをするミルシェ。

 

 喜びを表すかのように鼻歌交じりで一緒に歩いていたが──

 

 

 

「待て」

 

「へっ……どうしたの?」

 

「…………」

 

 黙したまま立っているだけの基臣に困惑する。先ほどまでの穏やかな雰囲気とは違い、剣呑な感じをさせる様にミルシェはどことなく不安を感じてしまう。

 

「そこか…………フンッ!」

 

 基臣は前に建っているビルに向かって、ピューレを斬撃を飛ばす要領で振るった。当然、飛ばした先にあるビルの外壁は今の斬撃でものの見事に破壊されてしまっていた。

 

「えぇっ!? ちょ、ちょっと! 何してんのさ! いくら誰も使ってない廃墟だからって壊すのはダメでしょ!」

 

「違う、よく見ろ」

 

 いきなり意味不明な行動を取る基臣にミルシェがびっくりするが、彼に指摘され煙が立ちこめている場所に注目すると人影がうっすらとだが確認できる。煙が晴れてくると、そこには黒い不気味な光を満たしたペンダントをしているヴァルダが立っていた。

 

「まさか、我の認識阻害を看破して正確に攻撃してくるとはな」

 

「お前か……。何が目的だ」

 

「ふむ、手早く済まそう……。前はそこの純星煌式武装だけ勧誘してたが、お前の活躍を見て我々も考えを改めた」

 

「…………?」

 

「純星煌式武装だけなくお前を含めて勧誘することにした。貴様の能力は間違いなく我らにとっても有用なものになる。お前の言う最強とやらを目指すのも我らの所でなら実現できる」

 

「断る」

 

 ヴァルダの勧誘に基臣は間を置くことなく拒否する。

 

「何故だ。我が今言ったことに嘘偽りはない。それとも何か不満でも?」

 

「不満だとかそういう問題ではない。そもそもお前たちの存在が気に入らない。その中でも特にお前が一番気に障る」

 

 ピューレを仕舞っているホルダーに手を伸ばし、戦う意思を示す基臣。

 

「シルヴィの師匠の体を乗っ取り、好き勝手している時点で俺がお前と協力する未来は無い」

 

「……そうか。ならば仕方あるまい」

 

 交渉が決裂し、ヴァルダの首にかけてあるネックレスが黒光りに妖しく光る。

 

「最初から全力でいかせてもらうぞ」

 

「うっ……!」

 

 ヴァルダの胸にあるペンダントの光の輝きが増していき、ミルシェは思わず膝をついてしまう。

 

 基臣はピューレを使ってその輝きを無効化することで、精神汚染の影響を受けずに済ませる。

 

「やはりその純星煌式武装は厄介だな」

 

 忌々しい物を見るようにピューレへと目を向けるヴァルダ。自身の能力を無効化してしまうのだから、彼女にとって天敵といっても差し支えない。

 

「ミルシェ、下がっていろ」

 

 ヴァルダへと刃を向ける。

 

「誉崎流皆伝、神依(かみより)

 

 星脈世代の身体能力は最近の研究の結果、限界である100%の内、10~25%程度しか使われていないと言われている。

 

 そんな自身の身体能力を、肉体の限界へと引き上げるこの技。基臣はこの技の制御を1か月程度で50%程度までなら行うことが出来るようになっていた。

 

 つまり皆伝を使った基臣は、低く見積もっても通常時の2倍は強いということになる。

 

 一気にヴァルダへと接近すると彼女が振るう戦斧とピューレがぶつかりあう。

 

「ぐゥッ!!」

 

 普段よりも基臣が強くなっている証拠に、両手で振るわれる戦斧を片手で受けても、力勝負で優勢に立っている。やはり、映像越しで見るのと実際に体験するのでは違うのか、ヴァルダは驚いた顔を見せる。

 

「どういう事だ、貴様……ッ。なぜ、我の戦斧を受けてなお力負けせん!」

 

「さて……なぜだろう、なっ!」

 

 ヴァルダの持つ戦斧を弾き、首飾り目掛けてピューレの切先を突き立てようとする。

 

「誉崎流初伝、凌穿(りょうせん)

 

「させぬっ!」

 

 首飾りの前に光を展開して防御すると、基臣を突き飛ばしてヴァルダは距離を取る。

 

「ちっ……。流石にそう甘くないか」

 

「……やはり我らの障害になりかねん男だ」

 

 光を縦長に収束させると、鞭のような形を成してそのまま振り下ろされる。

 

 この一帯を破壊しかねない攻撃範囲を秘めている鞭を見るや否や、後ろで戦況を見守っていたミルシェを片手で容易く抱えて回避行動を取る。

 

「掴まっていろ、ミルシェ」

 

「うわっ! ……も、もとおみ?」

 

 瞬きも許されないスピードで振るわれる鞭の乱打を、ミルシェを抱えた状態でありながらもピューレで受け太刀することなく余裕を持ってステップで回避。鞭の方から避けてるのではないかというぐらいに驚くほど当たらない。

 

 その状況を腕の中で見ているミルシェもその規格外の動きに驚かされる。

 

(早い! 目で追うのがやっとだ……)

 

 既に人外の領域に足を踏み入れつつあった基臣と、あくまで星脈世代の範疇でしかないヴァルダの間には隔絶した実力の差が表れていた。それを理解しているのか、ヴァルダの顔にもほんの僅かながら焦りが見える。

 

「誉崎流皆伝が一、染霞(そめがすみ)

 

 霞に溶けるように消えると、ヴァルダの攻撃の余波が及ばない後方に下がりミルシェをおろした。

 

「ここで待ってろ。俺だけでやる」

 

「……うん」

 

 おとなしく従うミルシェの頭を撫でると、基臣はヴァルダへと向かう。

 

(あの女を利用すればと思ったが、そう上手くはゆかぬか……)

 

「俺に集中しないとはよほど余裕があるようだな」

 

「……ッッ!!」

 

 ヴァルダがミルシェに注目していると、瞬きの間に基臣の足はヴァルダの影を踏んでいた。

 

「ちぃ……っ!」

 

 もう後ろに下がっても遅いと判断し、ヴァルダは敢えて間合いを詰めて身体をぶつけに行く。

 

「誉崎流初伝、速疾鬼牙(そくしつきが)

 

「ガハ……ッッ!?」

 

 そんな間合いを詰める行動に刀身ではなく、柄を用いた意表を突く技を使って応戦する。その攻撃にヴァルダは対応できずにみぞおちを柄が強打すると、足に力が入らず身体を支えれなくなる。

 

「くっ……!」

 

 二の手を繰り出さんと追撃を仕掛ける基臣を黒い光で退かせると、痛みを感じる箇所を手で押さえる。

 

 いくら借り物の体といえど、それが動きに支障をきたすとなると話は別だった。

 

「忌まわしい!」

 

 ヴァルダが放出する光の全てを瞬きの間に切り裂くと、屈んで体を縮める。

 

「誉崎流皆伝が三、野鎌(のがま)

 

 先ほどのビルに向けて放った斬撃とは段違いの速度でピューレを振るう。

 

「カ…………ッッ!?」

 

 見えない飛ぶ斬撃。

 

 その斬撃に声を上げる事すらかなわず、ヴァルダは吹き飛ばされた。

 

「く、ぅ。……一年もの間に、随分と鍛え上げたようだな」

 

 ビルの瓦礫を下敷きに起き上がるヴァルダを、ただ基臣は冷たく見下す。

 

「そういうお前は、強い奴の体を借りる事しか考えてない。いつまで他者の力だけで踏ん反り返るつもりだ?」

 

 両者の間で睨み合いが続くが、ヴァルダはため息をつくと基臣たちに背を向けた。

 

「……貴様の煽りに乗るつもりはない。このまま続けてもジリ貧になるだけだ。幸いにも貴様の実力の程は知ることが出来たから奴の手土産にはなるだろう」

 

 逃げようとするヴァルダを追いかけたいものの、ミルシェが傍にいるので迂闊に動けない。

 

「一つ忠告しておく」

 

 背中を向けていたヴァルダが基臣の方を一瞥する。

 

「そう遠くない未来、お前は身の回りにいる人間を不幸にする。そうならない内に自分からアスタリスクを去ることを我からは勧めておこう」

 

「不幸に……どういう?」

 

「さてな、少なくともお前が不幸をまき散らす存在になることは確かだ」

 

「──違う!」

 

 会話に割り込んできたミルシェの行動に驚く基臣。

 

「……ミルシェ?」

 

「基臣は人を不幸にするとか、そんなんじゃない!」

 

「……何?」

 

「あたしには詳しいことは分かんないけど……少なくとも、悪いのはお前たち悪事を働いてるやつらだ! お前たちがいなかったら基臣もそんな不幸な目に巻き込まれることは無いんだ。人を悪者扱いするな!」

 

「ふん……勝手に言っていろ。我が話したことは遠くない未来に必ず起こる」

 

 それだけ吐き捨てるように言い残すと、光に包まれたように消えてしまった。

 

「……消えたか。シルヴィに先に報告だけはしておくか」

 

 端末を開いてシルヴィアにヴァルダと遭遇したことを伝える旨のメールを送る。この時間はまだ彼女はライブに参加しているため返信はすぐには返ってこないが、その内来るだろうと思って携帯端末をしまう。

 

「帰るぞ、ミルシェ」 

 

「──待って」

 

 帰ろうとミルシェに背を向けると、後ろから女性特有の柔らかな身体の感触が伝わる。そんないきなりの後ろからの抱擁にぴくり、と基臣は身体を微かにだが震わせる。

 

「何を……」

 

「……今回が初めてじゃないんでしょ、こんなこと」

 

「こんなこと、とは?」

 

「今みたいに殺し合いになりそうなこと」

 

 ミルシェは普段は馬鹿でやんちゃなただの女の子だが、こういう時の勘は人一倍鋭い。シルヴィアの誕生日会の時に、ルサールカのメンバー達からそう聞かされていた。まさか、それを実感するときが来るとは基臣も思っていなかったが。

 

「…………そうだ」

 

「それなら……なんで一人で抱え込むの? もしかしたら何か手伝えることがあったかもしれないじゃん。そんなにあたし達が信用できない?」

 

 ミルシェの問いに基臣は黙りこくってしまう。

 

「……別に、そういうわけでは無い」

 

「嘘つき」

 

「そんなことは──」

 

「そういう訳じゃないなら、なんで相談しないのさ」

 

 基臣が動こうとすると、逃がさないとばかりに彼女の抱きしめる力が更に強まる。

 

「あたし達の事は助けるくせに、いざ自分の事となったら隠すなんて卑怯だよ」

 

「……すまない」

 

「すまない、じゃないよ? まったく……」

 

「…………」

 

「あたし……基臣の事が心配だよ。なんだか、今にも消えてしまいそうで……怖い」

 

「……ミルシェ」

 

 獅鷲星武祭の時と違い、明らかに殺気立ったような雰囲気を目の前で感じ取ったミルシェとしては、やはり基臣の事が心配なのだろう。怒っているというよりも、圧倒的に心配する気持ちが伝わってくる。

 

「ねえ……」

 

「……なんだ」

 

「無理にあたし達を頼れなんて言わない。……けど、あたし達の前から消えないでよ」

 

 懇願にも近いそのお願いに拒否しようと思ってその言葉が出てこない。口をついて出たのは──

 

「……善処する」

 

 誤魔化す言葉だけだった。

 

 むー、という不満げな声で納得していないことが顔を見なくとも伝わってくる。

 

「はぁー。煮え切らない答えだけど……それで許したげる。でも……」

 

 手を解いて解放すると基臣の前に立って、背伸びして口と口が触れ合いそうなぐらい近くに迫る。

 

「もし約束破ったらビンタだから」

 

 結構重い約束の筈なのに、破った罰が意外と可愛らしいレベルであることに基臣は内心苦笑する。

 

「おっかないな、それは」

 

 ちょっと小馬鹿にした風の返しに、ミルシェは頬を膨らませてむっとする。

 

「馬鹿にしてるでしょ」

 

「してない」

 

「しーてーた!」

 

 彼女の擁護する言葉にどこか救われていたのだろう。自分が不幸をまき散らす存在ではないんだと、その言葉が思わせてくれた。

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

part29

鍋がおいしい季節になってきたので初投稿です。

あとがきの方で2回目のアンケートを実施してますので、できればご協力いただけると幸いです。


 

 世界的歌姫とのムフフな展開が待っているRTAはーじまーるよー。 

 

 前回はオーフェリアのイベントに着手し始めたのと、ヴァルダに偶然遭遇したところまででしたね。

 

 それから時間が少し経って12月の下旬になり、一年も終わるわけなのですがまだ肝心のイベントをやり残しています。勘のいいみなさんはもうお分かりですね? 

 

 そう、それはこの手の恋愛イベントには付き物であるクリスマスイベントです。去年は残念ながらシルヴィの事情で一緒にいる機会が無かったのですが、2年目になるとシルヴィが駄々をこねてマネージャーのペトラさんから無理やりクリスマス休暇を勝ち取ってきますので、今年は一緒にいることが出来ます。

 

 そんなクリスマスですが、感情を糧にして発揮する力である鬼気を身に着けるために、このイベントでシルヴィに告白をします。いやー、ここまで長かったですねー。

 

 もちろんクリスマスのデートプランは完璧。適当にウィンドウショッピングしてからレストランの個室でディナー、夜景を見ながら告白といった感じです。感情皆無のホモ君らしからぬデートプランですが、随分とまあ俗っぽい知識を手に入れたものですね。

 

 とはいえまだ二人とも中等部。シルヴィが恥ずかしくなって告白を中途半端に終わらせてしまう事も懸念されるわけですが、もちろんそこは抜かりがありません。

 

 ホモ君もシルヴィも外泊届を提出済み。ディナーの後には彼女の家に向かうので何としてでも告白を受け入れさせます。つまり、聖なる夜が彼女との性なる夜(激うまギャグ)になることは確定事項というわけです。世界的アイドルとの夜、ぐへへ……楽しみですねぇ……(手をワキワキ)

 

 そんな戯言を言ってる内にクリスマスイヴ当日になったので、さっそく集合場所へと……おや? 

 

 肩を叩いてくるので誰かと思えばメスガキですね。なんというか、相変わらず誰かとの用があるときに限って、メスガキはホモ君の前に現れますねぇ。

 

 え、一緒にクリスマス過ごさないかって? 

 

 ……すまないメスガキ、このクリスマスデートは二人用なんだ。倍速していたからいつの間にか終わってたけど君の誕生日にも出たから許してくれ。そんな事を言うとメスガキの好感度は下がるかもしれませんが、もう獅鷲星武祭まで終わらせたので彼女の存在はフヨウラ! クリスマスイヴでリア充側になれなかった悔しさを一人バッセンで解消するといい、わっはっは! 

 

 メスガキを振り、待ち合わせ場所に来ると変装しながらも可愛くおめかししたシルヴィが待ってました。あぁ^~めっちゃ可愛ええんじゃあ~。

 

 そのまま商業エリアでデートと洒落こみたいところだったんですが、この前ヴァルダと遭遇したこともあってシルヴィが午前中は再開発エリアで捜索をしたいと言ってきました。当然、彼女の要望に応えてあげましょう。

 

 ヴァルダと戦闘があったところを中心に捜索しますが、当然痕跡を残してるはずもなく完全に消息を追えない状態になってますね。またもヴァルダの手がかりを逃してしまったシルヴィを適当に宥めて、デートに行きましょうかね。

 

 

 

 ……ん?

 

 再開発エリアから出ようと歩いていると、第六感が敵意を察知しましたね。敵さんの数は十、二十……いや百!? 

 

 なんだこの数!? ……一体誰がこんな数をどこからかき集めてきたんだか。しかもそこそこ手練れの連中ばかりを集めてるみたいですし中々に厄介ですね。

 

 ここまで数が多いとなると、相手にするのは得策ではないのでさっさとトンズラすることに……って!? 

 

 

 

 うおーい、シルヴィィィィィィ!! 

 

 

 

 いきなりシルヴィが気を失っちゃいました。原因は、んにゃぴ……よくわかんなかったです。ここ最近までガバの数が目に見えて減ってたはずなのに揺り戻しでいきなり運が悪くなってませんかねぇ……。

 

 シルヴィが気絶しちゃったせいでお荷物が出てしまったわけですが、とりあえず面倒ですし敵さんを巻いてしまいましょうかね。流石にあんな数を相手にしてられませんし。ホモ君の足なら逃げるぐらいは容易くできるでしょう。

 

 

 

 

 

 ……………………

 

 

 

 

 

 えー、ただいま夜の20時になりました(テレビロケ風)

 

 

 

 ……いやまじで、なんでこんなことになってるんや。大分倍速しましたが、敵さんとの鬼ごっこが開始して結構な時間が経ってます。

 

 シルヴィが気絶した時点で、逃げの一手だったのですが何故かこの再開発エリアから抜け出せないですし、ついでに電波も遮断されてるというオマケ付きで完全に包囲されちゃってます。おそらく抜け出せないのはヴァルダ辺りが手を貸してるんじゃないでしょうか。ついでに回復系の《魔女》か《魔術師》もいるようで、敵を倒しても生半可なことではゾンビの如く起き上がってホモ君に襲い掛かってきます。

 

 どうにかして出れる活路を見いだせた時もあったんですけど、連中の中に二人ほど凄まじい手練れがいるせいで敵の包囲網の中へと逆戻り状態。

 

 今はなんとか隠れて休息を取っていますが、ホモ君もほぼガス欠状態であと1時間持つかどうかといったところでしょうか。それまでにどうにか再開発エリアから脱出を……。

 

 

 

 お、ちょうどいいタイミングでシルヴィが起きました。いくら軽いと言っても、抱えながらの戦闘はつらかったので助かりま……す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれ? 

 

 

 

 

 

 どうしてシルヴィが煌式武装(ルークス)を持って……ガハッ!? 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なんで、なんで?(困惑)

 

 いきなりどうしてシルヴィがホモ君の事を刺したんですかね……。

 

 何事にも寛容なシルヴィがホモ君を害してくるとか、五股とかでもしない限りありえないですし、そういう予兆もなかったはずなのですが……。ていうか、出血量がヤベーイ! 特殊技能の応急手当の回復量がダメージに間に合ってないです。どうにかして出血をとめないと……あっ、こらシルヴィッ! 抱きしめて止血を妨害するんじゃあないッ! 

 

 

 

 ──あっ

 

 

 

 やば、い。いし、き……が……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ハッ!! クォクォハ……? 

 

 …………う~む、どうやらホモ君とシルヴィ共々捕縛されてしまったみたいですね。

 

 え、敵に捕まってしまったからもう詰みじゃないのかって? そ、それなら既に殺されてるはずだから……(震え)

 

 とりあえず敵の目的も完璧には分かっていませんし、どうにかして交渉するように持ち掛けましょうか。

 

 む、ビルの中から現れたのは今回の襲撃の首謀者ですかね? どれどれ面を拝んでやろうじゃねえか(謎の強気)

 

 って、誰かと思えば友情イベントに二回ほど出てきた友人っぽいムーヴをしていた男じゃないか! 俺とお前の仲じゃあないか、見逃してくれよなー頼むよー!(親友面)

 

 え、ホモ君がこのまま極伝を習得するまで成長しきると世界に害を為すから殺す?

 

 ……交渉しようかと思えば、明らかに殺意ビンビンなんですけど、どうすりゃいいんだよ!(投げやり)

 

 

 

 

 

 

 ……ん、自害しろ? 自害しないと先にシルヴィを殺すだって? 

 

 

 

 …………

 

 

 

 シルヴィならどうにでも殺してくれ!何度でも殺してくれ!首を刎ねてそこらに晒してくれてもいい!RTAの要であるホモ君の命だけは……!(人間の屑にしてRTA走者の鑑)

 

 

 

 

 

 あ……オワチャタヨ。

 

 何も言わずに黙ったままだったから、シルヴィが死んじゃったんだけどどうしよう……。いやこれ、マジでチャート崩壊ってレベルじゃすまないですね。こうなったら、好意を持っているエルネスタ辺りに乗り換えるか……それとも……。

 

 って、シルヴィを殺しただけじゃ飽き足らず、すぐさま彼女を失って戦意喪失してるホモ君も殺そうとしとるやんけぇ! 

 

 命乞いをしても許してくれないなんて、鬼!悪魔!ちひろ! 

 

 ライダー助けて!(他力本願)

 

 おら、こんなところでGameOver(ガメオベラ)はいやだー! 

 

 

 

 

 

 

 

 ……

 

 …………

 

 ……………………

 

 

 

 

 

 あれ? なんでホモ君が拘束を破って……ホワッ!?何の光ぃ!?

 

 ……ファッ!?謎の光でなんかシルヴィを蘇生させてる!? 

 

 色々と意味不明な現象が立て続けに起こってるせいで理解が追い付かず、操作がガバガバになってるのですが、どうしてこうなった(ワケワカンナイヨー!)

 

 しかも、ついでとばかりにホモ君の身体能力がヤンデレ剣の過去の記憶の中で見たゴリラ並みになってます。当然ながら身体能力が飛躍的に向上するという事は、身体にかかる負担が激増するわけですからあまり長い時間はもちません。

 

 とはいえ、過去の全盛期星露(シンルー)でも勝つことが出来なかったんですから、ゲーム内で今のホモ君に勝てる奴はいるんでしょうかね。強いて言うなら、星露やオーフェリアかヘルガタイチョウ辺りが多少善戦できるくらいか……。

 

 さっきから意味不明な展開のせいで何が何だかって感じですが、この分だと完全にワンサイドゲームになるのは明白。あとは紅茶でも飲みながら敵さんを皆殺しにしましょうか(斬首♪斬首♪)

 

 

 

 

 

 ……………………

 

 

 

 

 

 そうこうしている内に最低でも100人はいただろう敵さんも皆殺し。勝ったなガハハ! 

 

 シルヴィもなんとか生存させましたし、とりあえずの憂いは断ち切れたといったところでしょうか。これだけホモ君が超強化されたなら、これからはオーフェリア関連のイベントだけ進めて、シルヴィとのイチャイチャは必要なさそうです……ね? 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……あれ? 操作が……できない? というか勝手に動き始めてるんですけど……

 

 あ、ちょっと待て……勝手に動くなぁぁぁ──

 

 

 

 今回はここまで。ご視聴ありがとうございました。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

裏話29-① 過ちはまた繰り返される

ベッドでぬくぬくしたい気分なので初投稿です。


 クリスマス、それはカップルたちにとって特別な日。

 

 鍛錬バカが多い界龍(ジェロン)でもさすがに今日ばかりは別のようで、恋人同士や友達同士でなど、各々の楽しみ方でクリスマスを過ごしている。

 

 それは界龍きっての鍛錬バカである基臣にも当てはまり、シルヴィアとクリスマスを一緒に過ごすという約束を結んでいた。

 

 アイドルにとって繁忙期でもあろうクリスマスのはずだが、シルヴィアも随分と駄々をこねたようで、なんとかペトラから休暇を貰うことに成功したことを嬉しそうに基臣に話していた。

 

「……時間だな。そろそろ行くか」

 

 時間を確認し少し早めに着くために界龍の正門から出ようとする基臣だったが── 

 

「基臣」

 

 ちょんちょん、と可愛らしく基臣の肩を叩く手の感触に気づいて振り返ると、いつもの制服とは装いを変えて暖かな冬服に身を包んだ沈華が立っている。

 

「ん、沈華か。どうかしたのか」

 

「いえ、どうかしたという程でも無いのだけれど……」

 

 何が恥ずかしいのか視線を合わせずに話しかける。

 

「暇だったらクリスマス一緒にどうかしら」

 

「…………あー、今日はシルヴィと約束してるんでな、すまんがまた今度だ」

 

 基臣の返答に沈華はシュンとした様子で肩を落とす。

 

「……そうなの、ね」

 

「本当はもう少し話をしたいところだがシルヴィを待たせてる。もう行くぞ」

 

「……ええ、分かったわ」

 

 そのまま消えて行ってしまった基臣を見送ると、一人ため息を吐く。

 

「……仕方ない、かしらね。今まで忙しくて時間が取れなかったとはいえ、当日に予定を聞いても頷くわけ──」

 

「──やれやれじゃのぉ。せっかくのクリスマスというのに、基臣を歌姫殿に取られておるではないか」

 

「し、師父!? いつから私の後ろでっ!」

 

「最初からじゃよ。それにしても、相も変わらずお主もあやつの事となると心が乱れるのう。少しは鍛えんと、あやつに仕掛けるところで仕掛けれなくなるぞえ」

 

「余計なお世話ですっ!」

 

 恥ずかしくなってプイッと顔を背ける沈華に、星露はやれやれとばかりに首を振る。そんな星露の様子に腹を立てた沈華はキッと睨みつけると服の襟を掴みあげる。

 

「……こうなったら今日は、師父には私の憂さ晴らしに付き合ってもらいますから。覚悟してくださいよ」

 

「あ、今日は私用があるんじゃった。儂はこれで──」

 

「つべこべ言わず付き合ってください!」

 

「いやじゃ~~~~~!!」

 

 

 

 ──その日、星露が見た目通りの情けない声を上げながら沈華に引きずられていく姿が多くの学生の間で目撃された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「集合場所はここか……ん?」

 

 時間に余裕を持って待ち合わせ場所に着いた基臣。すると、いつもは時間丁度に着くシルヴィアにしては珍しく基臣よりも先に待ち合わせの場所で楽しそうにしながら待っていた。

 

(シルヴィが先に待っているのか、珍しいな)

 

「すまない、待たせたな」

 

「あ、基臣君。ううん、今来たところだから」

 

 基臣に気づくと微笑みながら小さく手を振ったシルヴィア。今来たところだと話すシルヴィアだが、明らかに待ってから随分と時間が経っていることを伺わせる。

 

「……嘘つけ、大分前から待っていたな」

 

「ふふっ、ばれちゃったかー。こういうセリフに少し憧れてたからちょっとね」

 

「そんなものか」

 

「そんなものだよ。ほら、行こ」

 

 シルヴィアに促され基臣は手を握り歩き出す。だが、基臣達が向かうのはクリスマスの装いに包まれた商業エリアではない。

 

 というのも、シルヴィアの要望で先日再開発エリアの戦闘があった場所を散策することに決めていた。今は、彼女の能力で《ヴァルダ=ヴァオス》を探知しようと試みているところだった。

 

「ここでウルス……《ヴァルダ=ヴァオス》と戦闘になったんだっけ?」

 

「あぁ、その時に俺を金枝篇同盟に勧誘してきた。もちろん断ったがな」

 

 周囲を見渡すが、ビルの壁が一部損壊した事以外に手がかりとなるような物は見つからない。

 

 その時、ちょうど探知能力による結果が示されるがヴァルダがどこにいるかは不鮮明で参考にならない。

 

「痕跡は全く残ってないね。……何かしらの手がかりが残ってたらと思ったんだけど」

 

 いつまで経ってもウルスラに繋がる物が見つからない事実に、肩を落として残念そうにするシルヴィア。手がかりが掴めそうで掴めない、そのもどかしさだけが彼女に残る。

 

「……俺に接触を図ってきたという事は、今後も何かしらのタイミングで遭遇する可能性はあるだろう。何かあったらお前に伝えるし、できる事なら《ヴァルダ=ヴァオス》を捕らえる。だからそう気を落とすな」

 

「……うん、ありがと」

 

 励ましが少しは効いたのか、シルヴィアは元気なさそうにではあるがニコリと笑う。

 

「一通りは捜索した事だ、そろそろ昼ご飯にしよう。シルヴィは何がいいんだ?」

 

「そうだねー、何にしよっかなー」

 

 意識したわけでもないが、話しながら自然に手を繋ぐ。すると、彼女は嬉しそうに微笑む。

 

(俺にはもったいないやつだ……本当に……)

 

 今まで、父からの虐待紛いの鍛錬によるトラウマで基臣は自分を偽ってきた。本当の自分を見せてしまえば皆から距離を置かれるのではないか、そう思ったためアスタリスクに来てからもずっと本当の自分を隠したままだった。

 

 でも、本当はシルヴィア達がそんなことを気にする人間ではないことは理解していた。

 

 だから、曝け出したかった。今まで隠していた本当の自分を。

 

「なあ、シルヴィ」

 

「ん? どうかした?」

 

 このまま偽るのが苦しくて、どうしてもその事を言わなくてはいけない気がして──

 

「お前に言うことが──」

 

 ──その言葉は、周りの建物から物音が聞こえて口にすることが出来なかった。

 

「ちっ、誰だ!」

 

 周囲の建物の2,3階ほどの高さから基臣達を見下ろす黒装束を被った集団。その数は……

 

「────なっ!?」

 

 十、二十……少なく見積もっても百以上に昇る数が周囲を取り囲んでいた。

 

「……こいつら全員敵なのか」

 

(どうする……俺だけならまだしも、シルヴィがついてこれるか……む?)

 

 後ろに控えさせているシルヴィアに視線を向けると、彼女の足元がフラフラとしておぼつかなくなっていた。

 

「あ、れ……あたまがふわふわ、って……ぁ、っ」

 

「シルヴィ! おい、シルヴィ! …………クソッ!!」

 

 いきなり倒れて気絶してしまったシルヴィ。揺さぶっても起きない彼女に思わず悪態を吐く。周りにいる黒装束の者たちによる影響でないことは理解できるだけに、彼女の突然の変調に困惑する。

 

(とにかく逃げなければ)

 

「誉崎流皆伝、神依(かみより)

 

 身体能力を逃げる事だけに特化させ、逃亡を図る。それを追うように黒装束の集団も基臣を追いかける。

 

 そんな命がけの追いかけっこが始まった。──いや、始まってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「クソっ! しつこすぎるぞ、こいつら!」

 

 敵との接触から時間にして2,3時間ほど。依然として黒装束の集団との追いかけっこは続いている。

 

 誉崎流皆伝の制御ができるようになったと言っても、それが長時間持続できるというわけではない。そのため徐々に基臣の体力は削られていく。肩で息をするようになり、シルヴィを抱えている腕も微かに震えている。

 

 ピューレを使って探知能力でどこから再開発エリアを抜けれるかを探しているが、巧妙に隠しているようで見つけることが出来ていない。

 

(見つけたよ、モトオミ!)

 

 そんな中、ようやくピューレが探知能力でこの場所を抜ける隙を見つけ出す。精神的にも疲弊していた基臣にとっては朗報ともいえたその情報に再び士気を上げる。

 

「そうか、場所は?」

 

(ここから北東に500メートル先の場所が認識阻害の結界の穴になってる!)

 

「分かった!」

 

 急いで駆け抜ける基臣だったが、ちょうど結界の穴に相当する箇所には立ちふさがるように二人の黒装束が立っている。まともに相手にするのは得策ではないと思い、基臣は逃げる事だけを考える。

 

「誉崎流皆伝、染霞(そめがすみ)!」

 

 本来、染霞は攻撃の技ではなく回避としての技術の側面が強い。

 

 染霞の、殺気の瞬時の放出と消失による気配絶ちの技術は想像以上に相手の居所を正確に掴むことを困難にする。それをたまたま攻撃に転用しているだけで、今回のように使用者が逃げ一択の行動をしている場合は相手はそれを補足する事は普通ならばできない。

 

 だが──

 

「誉崎流奧伝・(あらた)絶界(たちのさかい)

 

「…………なっ!?」

 

 そんな絶対回避の技をあっさりと看破され攻撃を受けてしまう。

 

(何なんだ今の技……! どうやって俺を捉えたんだ)

 

 目の前にいる黒装束を相手に正面突破するのは分が悪すぎると悟り、黒装束とは真逆の方向へと逃亡する。

 

「やれ」

 

「承知しました」

 

 片方の黒装束の人物の指示に、もう片方の黒装束は青鳴の魔剣(ウォーレ=ザイン)を瞬間的に二回空振らせる。

 

「くぅ……っ!」

 

 そんな青鳴の魔剣から放たれた防御不可避の空間斬撃は基臣の脇腹を掠める。思わぬ痛手に顔を歪めるが足を止めず逃げ続ける。

 

「流石にそう甘くないか」

 

「逃げられましたがどういたしましょう。追いますかな」

 

「部下にやらせておけ。俺たちは唯一抜け穴になってるこの場所だけは確実に死守する」

 

「承知しました」

 

 

 

 

 

 ……………………

 

 

 

 

 

「誉崎流奧伝、天地開闢(てんちかいびゃく)!」

 

 黒装束の者たちから一斉に放たれる銃撃を全て防ぎきる。

 

「く、っ!」

 

 しかし、遠距離からの攻撃に対応しようとすると、その間に間合いを詰めてきた敵が基臣に短剣型の煌式武装を突き刺す。

 

「がっ、くふ……ッ!」

 

 抜いてから止血する暇も無いと思い腕に突き刺さった煌式武装をそのままにして、刺客を足で蹴り飛ばし吹き飛んだ相手を一瞥することもなく、煙幕を起動して逃げに徹する。

 

 誰にも気づかれることの無いよう音を立てず、気配も絶つ。息も絶え絶えなこの状況でそれを実行に移すのは至難の業であると言ってもいい。だが、命がけの状況に陥ってる基臣はそれを意地でもとばかりに成功させる。

 

「はぁ、っ……はぁ……っ。撒いたか」

 

 抱えていたシルヴィアに気をつけながら崩れるように壁に寄り掛かって座る。彼女を床に置き、腹に刺さっている煌式武装を抜いて止血する。

 

「――っふぅ…………」

 

 止血をし終え、ふと気になって顔を上げると、空が濃紺に満たされている。

 

「もう完全に夜だな……」

 

 既に敵の襲撃が始まってから9時間経過。最低限の動きでなんとか凌いできたが肉体的疲労が限界に達しつつあり、潰しても潰しても湧いてくる敵に嫌気が差してきつつあった。

 

「一体いつまで続くんだこれは」

 

 既に時間は20時ちょうど。本来なら帰ってこない事を怪しまれる時間帯かもしれないが、丁度クリスマスという事もあって二人とも外泊届を提出済み。今頃楽しくどこかで過ごしているだろうと思われて、気にされることも無い。

 

「出ようと思っても出れない。万事休すか……」

 

 何度も再開発エリアから脱出しようと試みているが、その目論見は悉く抜け穴で構える二人組のせいで失敗する。何度試しても抜け出すことが出来ない事実が、じわりじわりと基臣の神経を徐々にすり減らしていた。

 

「すぅ……すぅ……」

 

 そんな中、寝息を立てて腕の中にいるシルヴィアの頭を優しく撫でる。

 

「何があってもシルヴィだけは……」

 

「ん……っ、もと、おみくん……?」

 

「…………! シルヴィ! 起きたのか!」

 

 かれこれ9時間は眠りに落ちていたために心配していたが、様子を見るにどうやら何事もなかったようだった。どこか呆けた様子でジッと見つめたままでいるシルヴィアだが、追いかけられている立場なので基臣にはそんなことを気にする余裕もない。

 

「ねぇ、もとおみくん」

 

「シルヴィ、今はあまり時間がない。質問は後にしろ」

 

「どうして他の女の子の事ばかり見るの」

 

「……シルヴィ?」

 

 ゾッとするような声音に周囲を警戒していた視線をシルヴィアに合わせる。すると、彼女の綺麗な薄紫の瞳が、どこか黒く濁っているように見えた。

 

 シルヴィアであってシルヴィアではない、そんな違和感を抱える。

 

(嫌な予感が────ッ!?)

 

 長時間の戦闘で集中力が欠けていた基臣。

 

 ──気づけば基臣の腹部を先ほど抜いたばかりの煌式武装が刺し貫いていた。

 

「な、んで、おれを……」

 

「わたしだけ見て。もう他の子なんて目に入れずに私だけ……」

 

「く、そ……。いしきが……」

 

 肉体的疲労に加え、腹部からの出血で身体に力が入らなくなっていく。ぎりぎりの所で踏ん張ろうと止血をする基臣。だが、それを止めるかのように基臣の頭をシルヴィアは抱きしめる。

 

「し、るヴぃ……」

 

「だめだよ、基臣君。じっとしてなきゃ」

 

 力が抜けていく基臣を愛おし気に優しく撫でるシルヴィア。

 

(せん、のう……されてる……のか?)

 

 それならば先ほどの気絶も説明ができる。最初から基臣を油断させるための布石だったのだ。このシルヴィアによる不意の一撃のための。

 

(っ……もう、だめ、だ……)

 

 瞼が下り、意識を暗闇へと落ちていく基臣。

 

「もとおみくんは、わたし、だけのも、の……」

 

 繰り糸を切られたかのように、シルヴィアも基臣の後を追ってその意識を途切れさせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カッ カッ カッ

 

 

 

 手放していた意識の中、誰かが迫ってくる靴音に基臣は目を覚ます。

 

「…………ッ!こ、こは?」

 

 周囲は暗くて見えないが、基臣のいる場所だけが明りに照らされて(まばゆ)い。その場所に一人の男がやってくる。

 

「もうお目覚めか。随分と早かったな」

 

「お前は……っ!」

 

「久しぶりだな。まあこれで会うのが三回目だからただの知人程度の認識だろうがな」

 

 黒装束の集団の首魁。その正体は、今まで二回ほど面識のあった榎本朧だった。だが、動揺を表に出さずに基臣は努めて冷静に質問をする。

 

「……どうして、俺を……殺さない……。お前なら俺が気絶した段階で殺すことが出来たはずだ」

 

「それをやれるなら、最初からやっている。だが──」

 

 朧は基臣の目の前にあるピューレに目線を送る。

 

『モトオミ!』

 

「ピューレ……!」

 

「捕縛することは出来ても、この純星煌式武装がお前の殺害を邪魔するからな。やるなら、お前が自害するか……所有者であるお前の心を折ってこいつを機能停止させてから殺すしかない」

 

「……ならもう一つ。なぜ俺を殺そうとする。俺は今まで人に妬みや恐れを持たれたことはあれど、害したことなど無い」

 

「なぜ、か……特段お前個人に恨みがあるわけでは無い。俺が恐れているのはお前が行きつく先だ」

 

「……行きつく先?」

 

「誉崎流の極伝まで行きつく者は間違いなく、その意識を何者かに汚染される。そうなってしまえば、誰彼構わず無差別殺人を犯す人間の出来上がりというわけだ」

 

 誉崎流という言葉を聞いて全ての点が繋がる。今まで襲撃を度々繰り返してきた誉崎家の人間というのは、目の前の男だった。しかし、その事実よりも朧が話したことに疑問が生じる。

 

「無差別殺人? にわかには信じがたいが、何の根拠があって……っ!?」

 

 基臣の疑問に答えるように黒装束の男は袖を(まく)り上げると、腕にはかきむしった跡がくっきりと残っている。

 

「根拠は俺自身だ。俺自身もお前のように皆伝まで習得したが、極伝の断片をつかみ取りそうになったとたんに殺意衝動に身を侵された。正気を保とうとして暴れまわった結果がこれというわけだ」

 

「…………」

 

「お前の父が俺の家族を殺した当初は恨みもあった。だが、()()を理解してしまったらもう恨みも何もあったものではない」

 

「解決策はあるはずだ、俺とお前とで探せば……!」

 

「あったら既に試している。だが、無かった。……それに、もう俺が俺でなくなるのも時間の問題だろう。極伝を習得する可能性が高いお前も殺して俺も死ぬ。それだけの事」

 

「……くっ」

 

「さて……本題だ。連れてこい」

 

 朧がそう部下に指示させて連れてきたのはシルヴィアだった。殴られたりとかしていないのかと心配になり観察するが、傷つけられた跡は無いようだった。

 

「基臣君!」

 

「……ッ、シルヴィ!」

 

「お前が自害してくれるなら楽に済むわけだが、もし拒否するようならこいつを殺す」

 

 シルヴィアの首元に刀の刃先を当てる。

 

「っ、私の事はいいから!」

 

「シルヴィ!! ……朧、分かった! 俺が──ッ!」

 

 

 

 

 

 ──生きて、基臣

 

 

 

 

 

「──っ!!」

 

 自害する選択を取ろうとすると突然脳内に聞こえる母親の遺言(のろい)に基臣は口から言葉を紡ぎだせなくなる。

 

「なんで今になって……ぐっ!」

 

 自害を選ぼうと口を開こうとすると頭を酷くかき乱され、まともに言葉を発せなくなる。

 

「はぁっ、はぁ……! なぜだ、なぜっ……」

 

「今の口ぶりから自ら死を志願するかと思ったが……そういう選択をするのなら仕方がない」

 

「ちがっ! ちがう……! おれ、はっ!」

 

「……もういい、自害しないならお前の心を折ることにする」

 

 朧はシルヴィアに向けていた刃先を胸へと突き立てる構えを見せる。

 

「やめろ!!」

 

「よく目に刻んでおけ。お前の選択がこいつを見殺しにしたという事実を」

 

 

 

 

 

「死ね」

 

 

 

 

 

 その刃は心臓を寸分違わず刺し貫き、辺りには鮮血が舞い散った。

 

「あ、ああ……うそ、だ……」

 

 しばらく刀で貫かれた後、身体から刃を抜かれてシルヴィアは崩れ落ちていく。

 

 

 

「ごめんね……」

 

 

 

 そう呟く彼女の顔が母の死に際に被って見えた。

 

「あい、してるよ。も、とおみ、く……ん」

 

 

 

 

 

 第六感が嫌でも理解させる

 

 

 

 

 

「シル、ヴィ……?」

 

 

 

 

 

 愛しい人が死んだのだと

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「シルヴィィィィィィィィィィィィィィィィィィ!!!!」

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

裏話29-② 覚醒

24歳、覚醒です。


 覚えている最初の記憶は2歳の頃だろうか

 

 

 

 父から剣を学ぶように言われ、幼子だった俺は頷きそのまま子供用の竹刀を持った事を若干曖昧ながらも覚えている。

 

 最初は持っていた竹刀の重量に振り回され、ふらふらとおぼつか無い足取りで素振りをした。そんな俺の様子を、父も温かい眼差しで見て丁寧に教えてくれた。

 

 だがそんな眼差しも、俺の動きが一振りごとに格段に良くなっていくことで、怒りに満ちたものへと変わっていく。

 

 その時は何に怒っているのか理解できなかったが、今にして思えば子供ながらに大人げない事をした。誉崎流の初伝の技のいくつかを数分で習得なんて芸当、2歳の赤子が出来るわけがない。世間一般で言う、才覚溢れた人間、という奴なのだろう。

 

 そんな俺の才能は父の心を狂わせてしまったに違いない。自分にもそんな才能があれば、と。

 

 父の心を理解できなかった罰とばかりに、それからは鍛錬という名の虐待が始まった。

 

『うわぁぁん!!』

 

『立て』

 

 竹刀などという生易しい物ではなく、本物の剣を持たされて本気の殺し合い。頬を切られた痛みで喚けば文字通り足蹴にされ、その痛みに悲しむ暇も許されない。更に、少しでも手を抜こうものなら家に入れてくれなかった。

 

 そんな日々を送っていたからだろうか、いつのまにか嬉しくて笑う事も、憎くなって怒ることも、悲しくて泣くことも、未来に期待することも……全てしなくなった。

 

 当然のことだ。通常ではありえない体験を十年も経験すれば心が折れないわけが無い。

 

 そして、心が折れたそんな時に、俺は仮初の自分を作り出した。もう苦しい思いをしないように、と。

 

 そんな仮初の自分は、父に従順で期待を裏切らないように振る舞った。本当の自分を出さなくなってからは、感情を表にすることも無くなり、肉親であろうと何の躊躇もなく切りつけることが出来るようになった。

 

 だが、父はそんな俺を更に不気味な目で見てきた。

 

 その時に理解した、理解してしまった。いくら才能があっても俺は間違える事しかできないボンクラなのだと。

 

 それでも、父の期待に応えたくて必死に剣を振るい続けた。10にもなる前に奧伝を習得した。他流試合でも天霧辰明流以外には勝つことが出来た。それからしばらくして、父にもほぼ勝てるようになった。

 

 だが、そんなことをしても結局、何も響かなかったのだろう。

 

 父は自害して死んだ。

 

 その自害の時、父は大事な人を守れるようになれ、という言葉を残した。心をどこかへ追いやってしまった自分には父の言う意味があまり理解できなかった。誰からも不気味に見られ、肉親である父にも不気味がられる自分が大事な人なんてものを作れるわけがない。そんな風に俺は思った。

 

 亡くなった父の遺体を近くにある墓の元に埋葬した。

 

 本来ならば涙でも流すのだろうが、特に何の感情も浮かばなかった。

 

 

 

 

 

 

 それから、最強を目指すためにアスタリスクに来て、色々と俺自身変わった実感はあった。

 

『基臣君!』

 

 特にシルヴィたちとの出会いは俺に影響をもたらした気がする。

 

 行きたくもない買い物や遊びに連れまわし、俺を散々振り回したが存外悪くない気分だった。いつしか、俺から彼女たちをそういった事に誘うこともあったぐらいだ。

 

 それに加えて、鳳凰星武祭(フェニクス)獅鷲星武祭(グリプス)を通して数々の強敵と戦い、強くなることもできた。正に順風満帆な学生生活というに相応しいだろう。

 

 アスタリスクに来て1年と半年。

 

 ピューレの記憶を通して昔の母や父を見て、俺は幸せになってもいいかもしれない。昔の父もたぶんそう思ったはずだから。そんなことを自虐する心と葛藤しながらではあるが胸の中で薄々と思い始めた。

 

 でも、父の言う通りだった。絶対的な強さを持たない者には幸せを享受する資格はない。結局、迎えたのは愛する人を守ることも出来ないという父と同じような末路だ。強くないから大切な人を目の前で亡くしてしまう。

 

 笑い話にもならない、そんなつまらない結末だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くだらんな」

 

 …………くだらない? 

 

「そうだろう、負け犬のまま人生を終えて満足する。これがくだらない以外に何と言える」

 

 ……あんたが誰かも知らないが、そうかもしれない。俺は結局負け犬のままだ。

 

「負けたままでいいのか? 己の本懐を果たせぬまま犬死するために、貴様は誉崎流を学んだわけではあるまい」

 

 ……俺の本懐。大切な人を守る、ため……

 

「そうだ、貴様が愛している女を守るため。違うか」

 

 シルヴィを……みんなを()()()()()から……

 

 

 

 

 

『ごめんね、基臣君』

 

 

 

 

 

 シルヴィ……。

 

「奪われたままでいいのか」

 

 ……奪われたくない、誰にも。

 

「ならばやるべきことはなんだ」

 

 強く、なる。誰にも負けないために、誰からも害されないために……誰からも奪われないために。

 

「なら求めろ、力を。例え修羅に魂を売ろうとも」

 

 そうだ、力を……

 

 そのためなら、もう誉崎基臣(おれ)はどうなってもいいから

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 守る力をください

 

 

 

 

 

 ──────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、っ……あ、あ…………」

 

「心が折れたか」

 

「そのようですね」

 

 基臣がシルヴィアの死で魂が抜けたようになってしまったのを、朧は何の感情も浮かべることなく観察する。

 

「こいつを殺して、俺も死ねばこれで誉崎家は終わりだ。これっきりにしなければな、こんな狂った家も」

 

「ご当主……」

 

「こいつの反応も完全に消失したことだ。殺すぞ」

 

 目の前にあるピューレを足で遠くに蹴り飛ばすと、手に持っている剣を基臣へとかざす。

 

「終わりだ、基臣」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 コロス

 

 

 

 

 

 

 

「──っ!!」

 

「…………? いかがされましたか」

 

「今、気配が……まさか」

 

 何か良くないものを感じ取り距離を取った朧。それと同時に、基臣の体がピクリと動いた。

 

 その嫌な予感は的中する。

 

「…………来い、ピューレ」

 

 その言葉に反応したかのように真っ直ぐにあるべき持ち主の元へと、ひとりでに戻っていくピューレ。

 

 ミシッ ミシッ

 

 それと同時に基臣を拘束している鎖が鈍く鳴る音が聞こえる。

 

 今、基臣を拘束している鎖は、星脈世代用に特別に作られたもの。普通ならば壊せるはずもない。だが──

 

 パキッ

 

 簡単にその鎖は壊された。

 

「……………………」

 

 戻ってきたピューレに手を伸ばして受け取ると、基臣は手をシルヴィアへと向けて伸ばす。

 

 ただ、それだけの行動でピューレから放出される光がシルヴィアを包み込む。

 

「…………ぁ…………」

 

「なっ……!?」

 

 その光が死者であったはずのシルヴィアを蘇生し癒す。

 

 傷口はまるで無かったかのように瞬時に修復し、致命傷だったはずのその身体はどこにも傷が見当たらない。呼吸を取り戻し、正常な状態へと戻っていく。

 

(いつの間にあんな致命傷を。仮に純星煌式武装のポテンシャルがそれほどにあっても、明らかに人の扱える領域ではないはずだ……)

 

 現実とかけ離れた現象に、基臣に対して一層警戒を強める。

 

(……モトオミ?)

 

 一方、いつもとは違う様子の基臣に、ピューレは何か得体の知れない嫌な予感を感じ取る。

 

「『力だ』」

 

「なんだ……基臣とは違う、男の声……?」

 

 ノイズ混じりの基臣とは違う若い男の声が彼の元から発される。

 

「『ピューレ、力を……もっとよこせ……』」

 

(──くっ! ダメッ! モトオミ!!)

 

 無理やり能力を使わされる感覚にピューレは強い危機感を覚える。その感覚はまるで数百年前のあの時のようで。

 

(このままだと、後で代償がモトオミに……ッ!)

 

 しかし、抵抗もむなしく力が基臣から吸い上げられる。

 

「……………………」

 

 そして、まるで亡霊かの如くゆっくりと顔を上げた基臣はピューレを片手に持ち、ゆらゆらと歩き始める。

 

 その雰囲気は先ほどまでとは明らかに異質な物だった。憤怒や憎悪、そういった負の感情とは違う。

 

 そこにあるのは何の混じり気もない殺意。

 

「ッ……!!」

 

「『殺す』」

 

「やれッッ!!」

 

 朧の指示で、近くにいた黒装束の部下たちが数百の光弾を発射し、基臣の元へと殺戮の雨を降らせる。

 

 だが──

 

「『他愛もない』」

 

 何度も攻撃を行うが、どういう原理かその悉くが基臣の元へと届く前に全て消失する。

 

(いや、消えてるんじゃない。数百の光弾、その全てを()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……!)

 

 遠距離から何度光弾を浴びせても、基臣を一つも傷つけることすら叶わない。

 

「『ゆくぞ』」

 

 歩くテンポを一歩ごとに早めていき、やがて疾走するスピードへと達する。

 

(はや)い……っ!?」

 

 基臣は、ピューレの能力を行使して星脈世代の身体能力の終着点である肉体の限界を超え、更にその先へ向かう。

 

 その身体能力が、一個人が百人以上の精鋭に対し立ち向かう本来なら無謀に等しい行為を可能にしていた。

 

 しかし、朧にとっても基臣を殺さずして死ぬわけにはいかない。できる限りの最善策を仲間である部下達に指示する。

 

「奴と同じ高度で戦うな! 上下様々な角度から接近しろ!」

 

 指示した内容は確かに悪くは無い内容だった。剣というものは対集団戦にて突出して優秀な武器ではない。それがさらに上下左右様々な高度からの攻撃を対処しなければならないとなると、剣の持ち味は確実に潰されるだろう。

 

 

 

 相手が常識の範囲であればだが

 

 

 

「ガ……ッ!」

 

(認識できない……)

 

 ある程度距離を取って部下達と戦っている基臣を観察しても、挙動の一切を掴むどころか動きの起こりさえ認識することが出来ない。

 

 一秒後、敵の集団の半数に及ぶ首を基臣は正確無比に切り落としていた。

 

 基臣にとって初めての人殺し。しかし、そこに何の思い入れもない。あるのは敵を殺したという事実だけ。そのまま、誰にも傷つけられることなく相手を蹂躙(じゅうりん)していく。

 

(まるで弱点がない。可能性があるとすればあの状態が長く持たないという点だけか)

 

 だが、今の基臣から時間を稼ぐことが出来るビジョンがまるで想像できない。数秒後には間違いなく今、目の前で繰り広げられているように首を刎ね飛ばされていることだろう。

 

 考えを張り巡らせている内に基臣の一振り一振りが命の灯を消していく。

 

 そして、取り囲んでいた集団を全員切り伏せ終えたその瞬間、基臣は朧に目を合わせる。

 

(来るか……)

 

「誉崎流奧伝・(あらた)絶界(たちのさかい)

 

 目が合った瞬間に朧は技を出して待ち構える。

 

 誉崎流の技と第六感を組み合わせ、自分の領域に入り込んできた敵に瞬時に攻撃を繰り出す技。だが、基臣は瞬きの内に接近するとそんな技を見切り、朧の剣を片手で掴んで粉々に粉砕する。

 

「剣、が…………ッッ!?」

 

 剣を破壊すると流れるように今度は脇腹に蹴りを入れて再起不能にする。

 

「化け、物だ……」

 

 誰も基臣の動きについていけなかった。

 

 まるで互いの間で決定的に時間の流れが違うかのように。

 

「ご当主ッ!!」

 

「『青鳴の魔剣か……』」

 

 唯一残っていた青鳴の魔剣を持つ男は一瞬で三回斬る動作を行う。

 

 三回、それがこの男にとって青鳴の魔剣の能力の真骨頂を最大限引き出せる限度。

 

 普通ならば基臣の切り刻まれた身体が地面に横たわっていたはずだったが。

 

「……っ!? 回避した!? まさかそんなことが……ッ!!」

 

 うなじのチリチリと痛む感覚に、本能的にすぐさま防御態勢に移行しようとするが、既に行動し始めた時には身体は吹き飛ばされ宙に浮いていた。

 

「……くっ……かはッ!?」

 

 そんな隙だらけの男の首を、基臣は何の躊躇もなく切り落した。

 

 

 

 20秒

 

 

 

 それが、基臣の能力が覚醒してから、敵を全滅するまでの時間だった。

 

「ハァ……ッ、ハァ……ッ!」

 

 そんな全滅状態の中で、辛うじて意識を保てていた朧の前に基臣は足音も立てず現れる。

 

「ッ……ガッ……!?」

 

「『そんなに、シルヴィを殺したのが楽しかったか』」

 

 朧の身体をピューレの刃が貫き通す。だが、死なない。いや、殺させなかった。

 

「『そんなに人の苦しみを見るのが愉しかったのか』」

 

「かぁ……っ!!」

 

 ピューレの能力で無理やり生きながらえさせ、更に苦しみを味わわせるために意識を保たせる。

 

「『なあ、どうだ。自分の体を思いっきり貫かれる気分は?』」

 

「ぁか……っ! こぁっ……の……っ!」

 

 痛みに必死に耐える朧に何の感情を抱くことなく見下ろす。

 

 だが、数秒で死に至るほどの痛みを何度も繰り返しフィードバックさせられたことで、反抗の意思もすぐにへし折られる。

 

「……ぁ……っ」

 

「『つまらん、もう終いか』」

 

 朧の身体からピューレを引き抜くと、もう一度だけ治癒させる。

 

「『……言い残す言葉は』」

 

「……無い。殺せ」

 

「…………『死ね』」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……終わったか」

 

 身体能力を強制的に引き上げる能力を解除した基臣は、膝をつきながら死体の散乱した地面を眺めて一人ポツリと呟く。

 

「こんな末路、分かっていた。……なのに俺は目を背けた」

 

 一人寂しく基臣は目の前の光景を目に焼き付ける。自分の行いの末路を忘れないために。

 

 そんな時──

 

「──っ!? ……く、ぅッッ!!」

 

 ──コロセ、スベテヲ

 

 張り裂けるような痛みが身体を食い破り、全てを殺せという言葉が脳内を激しく揺らす。

 

「はぁっ……はぁっ……カホッ、ケホッ!!」

 

 度が過ぎた身体能力強化の影響か既に基臣の身体は満身創痍で意識を保っているのがやっとの状況だった。

 

 血反吐が地面に撒き散らかされ、身体は見るも無残な状態。

 

「治癒、しなければ……」

 

 ガンガンと頭を叩きつけるような殺せという呪詛のような言葉に耐えながら、杖代わりに身体を支えていたピューレを持ち上げて治癒能力を行使する。

 

 暖かな光が基臣を包み込み、その体を癒していく。

 

 しかし──

 

「う"っ"!?」

 

 今度は身体的な傷とは別にピューレを使っていた代償が精神を急激に蝕んでいく。

 

「んん……っ。…………こ、こは?」

 

 そんな中、傷が治癒したことで意識を取り戻して少しずつ瞼を開いたシルヴィア。どこからか聞こえる呻くような声に視線を向ける。

 

「……あれ、もとおみくん?」

 

「ち、がう……」

 

 フワフワした意識の中で見える基臣の姿。しかし、その顔は苦悶の表情でトラウマを見せられているかのように恐れを見せていた。

 

 通常、魔女(ストレガ)魔術師(ダンテ)を凌駕する能力を使えると言われている純星煌式武装(オーガルクス)でも、使い手の実力相応の能力しか引き出せない。

 

 だが、ピューレには能力使用の限界、リミッターというものが一切存在しない(ただし、ピューレが使い手を信頼していない場合は通常の純星煌式武装同様にリミッターがかかるが)

 

 使用者が望めば、先ほどのシルヴィアのように死んだ人間を蘇生する事も可能で、一種の願望機だという事を知れば皆喉から手が出るほど欲しいと思うようになるだろう。

 

 そんなピューレだが、能力を使うだけ使って代償は常識の範囲で済む、というわけでは決してない。

 

「シルヴィ、みんな……ちがう、ちがうんだっ。お、れは……!」

 

(しっかりして!落ち着いて、モトオミ!)

 

 今の基臣のように、この世の地獄の全てを詰め合わせたかのような幻を強制的に五感全てで感じ取らされる。その幻に、他人からの言葉も一切受け付けれない程、精神を一瞬にして病んでしまう。歴代のピューレの使い手の不審死は全てこれが原因なのだ。

 

 しかも基臣の場合、その代償を受ける期間は数年ではない。今の戦いで溜まった代償の年数は数百年分に上る。その間、つまり死ぬまで苦痛を伴う幻を見せ続けられる。現実だろうと夢の中だろうと。

 

「もう、いやだ……っ」

 

「基臣、君?」

 

 そんな極めて異質な様子の基臣にシルヴィアも何かおかしくなっているのを感じ取る。

 

「そうだ……、俺の存在を全員の記憶から抹消すればいいんだ……」

 

 基臣から発せられる穏やかではない言葉に、シルヴィアは、理由は分からないが引き止めないといけないという嫌な予感がした。

 

「もう、こんなところにいたくない」

 

(だめっ!モトオミ!!)

 

「待って、基臣君っ!」

 

 

 

 ピューレの刀身は基臣の願いに呼応するかのように目が潰れそうなほど眩く光り輝く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして世界は光に包まれた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

part30

ホモ君の存在の記憶が世界から抹消されたので初投稿です。


 グレてしまったホモが実家で自宅警備員をするRTAはーじまーるよー。

 

 前回勝手にホモ君が言う事を聞かなくなって動き出してしまったわけですが、盛大な逃避行の末に実家に帰ってしまいました。

 

 

 さて、いきなり視聴者の皆様に問題です。ホモ君はどうやってアスタリスクを取り囲む湖を越えて実家に帰ったでしょうか。

 

 

 

 ……………………

 

 

 

 正解は……アスタリスクから向こう岸まで数十キロはある湖面を全力疾走して帰った、でした。

 

 

 

 ……いや、そうはならんやろ。

 

 暁彗(シャオフェイ)も原作で似たような事をしてましたが、あっちは歩いて帰ってます。普通、水面を走ろうとすれば星辰力のコントロールが乱れて転倒すること間違いなしなのですが、何故か安定した走りを見せて湖を渡り切ってしまいました。

 

 そんなわけで、意味不明な方法で帰宅したホモ君ですが、見ての通り完全に生気を失っちゃってますね。飲み食いは水を飲むことを除いて一切行っておらず、その飢餓状態の体に鞭うつように鍛錬です。Mすぎやしませんかね、ホモ君よ。どこぞの修行僧じゃないんだからさ。

 

 前回の敵さんとの戦いでヤンデレ剣の能力を酷使しすぎた影響で今までに見たことがない状態異常食らってるようで、ホモ君からは地獄のような光景がみえているようです。そんな光景を見て食欲も湧くわけもなく断食状態に。

 

 流石に公式もそこらへんはプレイヤーに配慮してるのか、その地獄をプレイヤーが見ないでいいフィルター機能も実装しているので活用してます。もちろん、状態異常の影響は変わらず受けてしまいますが、フィルターをしなかったらプレイヤーの精神にダイレクトアタック間違いなしなのでしないよりはマシです。

 

 そんなやさぐれてしまったホモ君をシルヴィたちに連れ戻してもらいたいところですが……アスタリスクから出ていくときに全員の記憶からホモ君を抹消+ホモ君の痕跡を消してしまったんですよねぇ。能力の対象がヤンデレ剣と同じ純星煌式武装(オーガルクス)なら無効化する事も可能でしょうが、シルヴィたちは普通の星脈世代なので間違いなく記憶を抹消されてるでしょうね。

 

 じゃあなんでお前まだRTA続行してんだって話ですが、実家に帰る前にヤンデレ剣もアスタリスクにポイッ、と捨ててしまったので、ヤンデレ剣とシルヴィ辺りが引き合わせになれば……という可能性を期待して待ってます。

 

 そんな最後の賭けなわけですが、仮にこれでアスタリスクに帰れたら大幅な短縮になります。

 

 既に戦闘能力は強制的に極伝を習得したことでオーフェリアの喉元に迫れるぐらいの数か月分の強化を終えたことや、誰とも関わってないのでイベントも発生しておらず、時間の経過速度も上がったことで、結果的にタイムの短縮につながるためです。

 

 ……まあ、今言ったようにアスタリスクに無事戻ることが出来たらという枕詞が前に付くわけですけどね。

 

 

 

 

 

 …………………… 

 

 

 

 

 

 倍速をしてしばらく経ちますが、もうそろそろ春になる頃でしょうか。庭先にある桜がほぼ満開になっていますね。そろそろ誰か来てくんねーかなぁ……。これじゃ、私……RTAを続行したくなくなっちまうよ……。

 

 相も変わらず今日も今日とて剣をぶんぶんと振り回しているホモ君ですが、完全に勢いが衰えてしまい気迫だけで持っているといった感じですね。いくら生命力が常人離れしている星脈世代といっても、こんな生活してたら半年持つか持たないかでしょうか。

 

 

 

 ……おや、誰か来ましたね。この孤独なSilhouetteは……? 

 

 おぉ!! 来た!シルヴィが来た!これで勝つる! 自害してリセットしないでよかったぁ! 

 

 もちろんホモ君はレイプ目状態でまともに話が聞けないので、シルヴィを追い返そうとしますが、そんな事を彼女が聞くわけもなくアスタリスクに戻らせようと試みているようです。シルヴィは自宅警備員と化したホモ君を社会に復帰させようとする母親的存在だった……? 

 

 そんな彼女の説得がやさぐれたホモ君に通じるわけもなく、そのまま戦闘に移行しましたね。ここまでは想定通り。戦闘をしてもホモ君は完全に空腹でガス欠状態なので、シルヴィに勝つどころか有効打を与える事もままならないでしょう。彼女にホモ君を気絶させてもらって、強制的にアスタリスクへと連れて行ってもらいましょうか。

 

 って、おいおい。シルヴィは何を悠長に突っ立って歌を歌い始めてるんでしょうか。

 

 

 

 

 

 ……ん? この歌は……まさか。ホモ君のお母さんが作った曲じゃないでしょうか。わざわざこんな時に歌い始めるという事は何か策があるのでしょうか。

 

 

 

 ……………………

 

 

 

 そう思ってたんですけど、むしろ逆上しちゃってますねぇ! 

 

 落ち着けホモォ! 気を高めるなぁ! 

 

 やばいやばい……もしもシルヴィを殺したら完全にホモ君がアスタリスクに戻れなくなっちまうよ。

 

 操作を受け付けないんで完全に画面越しに見守っているしかできないわけですが、誰かシルヴィを守ってぇ!! 

 

 

 ……ヨシ! よくやったヤンデレ剣!(幼女ver)

 

 そのままねっとりとホモ君を抑え込んでろオラァン! 

 

 本来の状態のホモ君なら幼女(ヤンデレ剣)が数秒と持たずみじん切りになっている所ですが、さっきも言ったように飢餓状態で剣を振るうのもいっぱいいっぱいな状態なので普通にホモ君を抑え込むことができます。

 

 一曲歌い終える事を考えると4,5分はかかりそうなので、その間ずっと抑え込んでくれれば……。ヤンデレ剣がんばえー! 

 

 そう言ってる内にホモ君がダウンしましたね。大丈夫かと思ってホモ君に駆け寄りますが……そんな幼女の腹に男女平等パンチが! 

 

 崩れ落ちる事で相手を心配させて不意を突くとか……。義を失ったな……。

 

 とはいえ、シルヴィの方ももうほぼ最後まで歌っているのでなんとか……おや? 

 

 ホモ君が大分落ち着きましたね。何かと思って状態異常のアイコンを確認したら解除されてましたけど、シルヴィの歌ってる歌が原因でしょうか。まさか、ここに来てシルヴィにプレゼントした楽譜が役に立つとは完全に想定外でした。

 

 シルヴィの能力は発揮するには自分で作詞作曲しないといけないという条件があったので、プレゼントした曲で能力発揮は無理かと思われたのですが、意外でしたね。

 

 というわけで、しばらくするとホモ君が正常な状態に戻り感動の再会シーン。半ば賭けみたいなところがあったのでマジで助かりましたね……。

 

 そんな正気に戻ったホモ君とシルヴィの会話シーンですが、ここら辺は強制イベントみたいですね。操作できない間にやる事は済ませてるので、イベントを眺めておきましょうか。

 

 会話をしてしばらくすると、アスタリスクに戻るために荷物を準備。その後、過去との決別なのか、実家のそばにひっそりと建っているホモ君の親御さんの墓にシルヴィと墓参りしてますね。まるで結婚する事を墓前で報告するカップルみたいだぁ……(直喩)

 

 そして、実家を後にして帰りは手を繋ぎながら普通に飛行機でアスタリスクへ。さすがに行きのように海の上を走って渡るとか体力と時間の無駄でしかないですし、シルヴィを抱っこした状態とか無理無理無理のカタツムリです。

 

 

 

 

 

 飛行機に揺られること1時間ほどで空港に到着しました。結果的に見れば、超強化状態を維持したまま通常よりも早いタイムで3年目に移行できたのでよかったのでは? 3年目に入ったタイムはなんだかんだで過去2番目のタイムをたたき出してます。

 

 ……いやー、長時間系のアスタリスクRTAは実力もそうですが、それ以上に運が物を言わせてくるんですよねぇ。まあ、そのおかげで初心者の参戦する敷居も低くて済むという側面もあるわけですが、タイムを極めてるガチ勢からしたらたまったものじゃないですね。

 

 これからの予定としては特殊技能をもう少し取りつつ、もうすぐ4月に入るのでアスタリスクに来るであろうユリスと合流してオーフェリアを──

 

 今回はここまで。ご視聴ありがとうございました。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

裏話30-① 再会

学戦都市アスタリスク16巻の表紙イラストが公開されたので初投稿です。

表紙のシルヴィ、どっちもかわいいですね。改めて惚れ直しました。

イラスト担当のokiura先生の体調が思わしくないとのことで、挿絵や口絵が無い状態での出版になるというのは少し寂しいかなぁという気持ちがありますが、そんな状態でもなんとか出版までこぎつけてくれたのは本当に嬉しいなという気持ちでいっぱいですね。


『今日最もラッキーな星座は~! ……てんびん座のあなた! 思わぬ出会いがあなたを待ち受けていそう! ラッキーアイテムは──』

 

「…………はぁ」

 

 着替えている最中に、テレビで毎朝恒例の星座占いが放送されている。どうやら占いによると、私の星座が一番ラッキーらしい。いつもなら表情に出るぐらいには嬉しいはずなのに特に何も感じない。ただ、ため息をついてしまうだけ。

 

「別にネガティブな気持ちな訳じゃないんだけどなぁ」

 

 ここ数か月、何故かは分からないけれど、どこかぽっかりと胸に穴が開いたような気分になる。自分の半身がどこか別の場所へと消えて行ってしまったような、そんな感覚なのかもしれない。

 

「こんなの私らしくないんだけどねぇ……」

 

 最近特にこれといった喧嘩やトラブルもなかったし、悩みもあるわけではない。なのに、こんな気分になる頻度が異様に多い。

 

 原因は分からない。でも、ただ一つだけ。そう、一つだけ気がかりなものがあった。

 

 今時珍しい紙の楽譜を収めているファイルを取り出す。作詞作曲者は──

 

「誉崎澄玲。誰なんだろ」

 

 私が持っている楽譜の中で、世間一般に公表されていない唯一の楽曲。それに加えて、普通はデータとして取り込んでいるはずなのに、何故かこの楽譜だけは紙媒体のままで大切に保管されている。

 

 そこまで大切にしてるのなら、そう思ってこの曲の作詞作曲者である誉崎澄玲さんの名前について思案するけれども、覚えはないしデータベースを参照してもそんな名前の人間は出てこない。あくまで正規の人間しか登録されていないので、ワケありの人だったらデータベースの中にいない可能性がある。

 

 でも、いるいないの問題ではない。

 

「────ぅ……っ!」

 

 この名前、特に苗字を見ると胸がきゅうっ、とそんな風に締め付けられる。

 

 どこかでこの名前を見た……いや、どこかで会ったのかもしれない。忘れてはいけない気がして──

 

「シルヴィア、準備はできましたか?」

 

「っ、あ、はーい!」

 

 どうやら考え事に時間を費やしすぎていたらしい。いつの間にか、ペトラさんが部屋の中に入って来たのに気づかなかった。

 

「………………。あなた、どこか体調でも悪いのですか」

 

「へっ? そ、そんなことないよー」

 

「本当にですか?」

 

「もー、ペトラさんは心配性だなー。大丈夫だよ!」

 

「……それなら構いませんが」

 

 その言葉にただ、と付け加えると私に説教じみた言い方でペトラさんは話す。

 

「あなたの社会への影響力は、今や絶大な物。体調一つで関わっている人に良くも悪くも影響を与えるという事を忘れないように。くれぐれも体調管理にはしっかりと気を配りなさい」

 

「はーい」

 

 厳しい言葉をかけているように見えても、実は暗に必要ならば休暇を申請しなさい、と言っているようなもので、よく私の事を気遣ってくれている。冷徹な人間ていう印象を持たれる事が多いペトラさんだけれど、今みたいな感じで生徒たちの事をきちんと見てくれている。

 

 ……それにしても、気づかれないように顔に出さないようにしていたつもりだったけれど、ペトラさんに見抜かれてしまうとは思わなかった。伊達に昔はトップアイドルをやっていたわけじゃないという事なんだろうなぁ。

 

 まあ、確かにペトラさんの言う通り少し疲れているのかもしれない。移動中に少し休むことにしよっかな。そう思いながら、私は部屋を出て、ペトラさんと車に乗るために正門前まで徒歩で移動する。

 

「――――!!」

 

 そんな道中、正門の方向から何やら小さな女の子が騒いでいる声が聞こえてくる。

 

「……ん? どうしたんだろ」

 

「だーかーら! おうたのおねえちゃんに会わせてよー!」

 

 騒ぎの中心地にたどり着くと、可愛らしい女の子が正門の前でうちの生徒に何やら話しかけているみたいだった。

 

自律式擬形体(パペット)……?」

 

 よく見ると、その女の子は自律式擬形体のようだ。随分と精巧に作られているその女の子の造形に流石の私も驚かされる。アルルカントが新しく作り上げたのかな。私と同年代の天才研究者がいるって噂だから、その子が作ったものかもしれない。

 

「あ、いた!!」

 

「へ?」

 

 自律式擬形体の女の子は私の事を見るなり、他の子に目もくれずに一目散に駆け寄ってくる。自律式擬形体なのに物凄い感情豊かな子だ。

 

「おうたのおねえちゃん!」

 

「わ、私の事……?」

 

 お歌のお姉ちゃんと言う呼ばれ方をされたことが無かったので、女の子にどう返せばいいのか若干反応に困りながら自分を指さす。すると、食い入るように頷きながら私に近寄ってくる。

 

「そうだよ! レナの事覚えてるよね?」

 

 レナと名乗るその女の子の事を私は知らない。ここまで印象的な女の子なら忘れてる、という線も無いはずだと思う。

 

「……ごめんね、あなたの事覚えてないんだ」

 

「じゃ、じゃあおとーさんの事は? おねえちゃん、おとーさんの事好きだし覚えてるでしょ!」

 

「あー、えっと……。お父さんっていうのは?」

 

「おとーさんの事を忘れちゃったの!?」

 

 その顔は私を騙そうという冗談や欺瞞の類ではない、真剣な顔だった。それに加えて、私の返しが不味かったのか、今にも泣きそうな顔でいる。

 

「やっぱり……おかーさんも、おうたのおねえちゃんも、ほかのおねえちゃんも、みんなおとーさんの事を忘れてるんだ。うわあああああああああん!!」

 

「わわわ、落ち着いて。ほらいい子だから、ね?」

 

 いきなり目の前で泣き出した女の子に、私もどうすればいいのか分からずオロオロとしながらあやすしかできない。

 

 そんな私達に痺れを切らしたペトラさんは女の子をつまみ出そうとする。

 

「まったく……アルルカントの自律式擬形体(パペット)がこんなところまで入り込んでくるとは。この子は守衛に伝えて送り返します。それとアルルカントにも苦情を入れておくことにしましょう。もう二度とアポを取らずに敷地を跨がないようにと」

 

「待って、ペトラさん」

 

 アルルカントに送り返そうとするペトラさんに割り込んで女の子と話を続ける。この子とは初対面のはずだけど、どこか懐かしい気持ちになる。もしかしたら、今私が感じてる違和感を埋めるピースになるかもしれない。

 

「思い出してよぉ、おうたのおねえちゃん。おとーさん、みんなから忘れられてきっと寂しがってるからぁ」

 

「そのおとーさんのお名前は?」

 

「誉崎! 誉崎基臣って名前n──」

 

 

 

 ドクン

 

 

 

「か……ぁ……っ……!」

 

 いつもよりも更にきつく締め付けるように胸が痛む。

 

「シルヴィア! ……っ、あなた何を!」

 

「っ、待ってペトラさん!」

 

 女の子に詰め寄ろうとするペトラさんをなんとか手で制して立ち上がる。まだ胸の痛みは止まらないけど、そんな事はどうでもいい。

 

「……ねぇ、あなたのお名前は何て言うの?」

 

「レナはね、レナティって名前だよ」

 

「レナティ……レナちゃん、か。いいお名前だね」 

 

 頭をゆさゆさと撫でると、レナちゃんはくすぐったそうにしながらも心地よさそうに身を委ねてくる。

 

「ね、レナちゃん。連絡先交換しよっか」

 

「…………シルヴィア」

 

 流石に深く踏み入りすぎだと判断されたのかペトラさんが釘を刺してこようとする。でも、この子の事をそのまま送り返してしまったらきっと後悔する。

 

「うん、いいよ! これがレナのアドレス!」

 

 ここまで感情豊かな自律式擬形体ならもしかしたら、と思って連絡先を聞いてよかった。レナちゃんのアドレスを自分の端末に入れる。

 

「っと、ごめんね。私、お仕事あるから行かなきゃ」

 

「ぅぅ……っ! ……わかったぁ」

 

 レナちゃんは不満そうにしているけれど渋々頷いてくれた。

 

「じゃあね」

 

 手を振ってレナちゃんに別れを告げると、私は車を停めている場所へと向かう。

 

「……早くおとーさんの事を思い出して、おうたのおねえちゃん」

 

 そんな懇願にも近いお願いに私は分かったと言う事もできず、曖昧な笑みを浮かべて応えることしかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────……ヴィ

 

「…………んぅ?」

 

 声が聞こえて起きると、車の中だった。そういえば、移動中に仮眠を取ろうとして眠りに落ちていたのを思い出す。

 

 今の声……さっき会ったレナちゃんの声かと思ったけれど、彼女のような快活な声ではなくどこか物静かな声だった。その声に、誰かが私に呼びかけてきてるのかと思って起きたけれど、車の中には運転手さんとペトラさんしかいない。

 

「シルヴィア、どうかしましたか?」

 

「ううん、なんでもないよ。ペトラさん」

 

 ……気のせいかな。

 

 最近疲れてるみたいだし、夢でも見ていたかもしれない。少し仮眠を取ればいつも通りの私に戻れるはずだ。

 

 

 

 ────シルヴィ! 

 

 

 

「…………ぅ、ぁ」

 

 夢、じゃない。

 

 誰かが私を呼んでいる。

 

「っ、ペトラさん。少し車を停めてもらえないかな」

 

「車を……? 少し待ちなさい、今停めさせます」

 

 運転手さんに指示して路肩に車を停めてもらうと、勢いのままに車のドアを開いて自分でも訳が分からず外に飛び出した。

 

「ごめん、後で戻るから!」

 

「ちょっと! どこに行くのですか、シルヴィア!」

 

 

 

 

 

 走る、走る──

 

 

 

 自分の体力の限界なんて気にせずにどこに向かうのかも分からない、おそらく再開発エリアに向かうだろう細道を走り続ける。

 

 どうかしてしまったんだろうか、私は。こんなことは今までなかったのに。でも、走り続けた先に誰かが待ってる気がしてならない。

 

「ハァ……ッ、ハァ……ッ」

 

 長時間にわたる全力疾走は寝起き直後の体には堪える。でも、そんなのを気にしてる暇はない。今までポッカリと空いていた胸の穴が埋まる何かが走った先にある気がするから。

 

「みつ、けた……」

 

 細道を抜けた先の広間に、輪郭がぼやけてすぐに消えてしまうような雰囲気がする白髪の少女が立っている。声を発していないけど分かる。この子が私に声をかけた子だってことが。

 

 ただ、そんな少女の横顔は探していたはずの私を見つけたはずなのに、どこか悲しい顔をしていた。

 

「……ついてきて」

 

「君! ちょっと待って!」

 

 背を向けて無言で路地裏へと消えていく少女を追いかける。

 

「どこに行くの! なんで私を呼んだの!」

 

 私の質問に答えることなく少女は先へ先へと向かっていく。まるで私をどこかへと導くように。

 

 やがて、誰も使わない廃墟の中に私を連れてくるとようやく立ち止まった少女は、こちらを振り向く。彼女の傍らにはほんのり明るく輝く剣が地面に横たわっていた。

 

「……久しぶり、シルヴィ」

 

「あなたは……?」

 

 改めてぼやけてしまっている少女の身なりを観察すると、純白のワンピースを着て儚げな美しさを醸し出している。どこか庇護欲を誘うような雰囲気に、まだ垢抜けない可愛らしい顔。どこか現実とは切り離されたようなそんな可愛らしい少女だった。

 

 でも、さっきのレナちゃんと同じでその顔に全く見覚えがない。

 

「……ハァ、やっぱり覚えてないんだね。といっても、どうやら少し違和感は覚えてるみたいだけど」

 

「覚えてない? どういうことなの、そもそもあなたはなにも、の──」

 

 話をしている途中で少女は私の懐に入りこんで、ぴょんとジャンプする。すると、ポンと私の頭に手を置いて──

 

「面倒くさいから手っ取り早く私の記憶を共有するね。さっさと思い出してよ、()()()()

 

「う……っ!」

 

 

 

 

 

 ──基臣君!私の歌、ちゃんと聴いてくれた?

 

 

 ――ああ……、いい歌だった

 

 

 

 

 

 おもい、だした

 

 こんなに大切な記憶、忘れてはいけないはずだったのに。私は忘れてしまっていた。

 

「もと、おみ……くん?」

 

「やっと思い出せた?」

 

「ピューレちゃん、私っ!」

 

「ほら、泣かないで。泣くのはモトオミに会ってからだよ」

 

 そうだ、アスタリスクからいなくなってしまったはずの基臣君を連れ戻してくるまでは、こんなところで泣いてるわけにはいかない。涙を袖で拭ってピューレちゃんに彼の居所を聞いた。

 

「……ピューレちゃん、基臣君は今どこにいるの?」

 

「モトオミが私をここに置いていったから確信は無いけど……たぶん実家に帰ってるはずだよ」

 

「実家……それならみんなを連れて基臣君の元にっ!」

 

「それじゃ遅いんだよ。もう、モトオミの命も長くない」

 

「長く、ない?」

 

「私を過剰に使う代償は普通の純星煌式武装の比じゃないの。今までの所有者も私の能力を過剰使用した結果半年持たずに死んでしまった。モトオミも半年持つかどうか……」

 

 ピューレちゃんは自身の能力から代償について教えてくれた。黒装束の人達に殺された私を蘇生したせいで基臣君が代償に蝕まれたことも含めて。

 

「今、アスタリスクをすぐに出れるのはシルヴィだけ。いつモトオミが死んでもおかしくないことを考えたら他のみんなを連れていく暇はない」

 

「……そっか」

 

「それと、もう一つお願いがあるの」

 

「…………お願い?」

 

「私の中に残ってる星辰力はシルヴィを探すのにほぼ使いきっちゃったの。そのせいで、もう長くはこの姿を持続できない。だからシルヴィ、私の使い手になって」

 

 ピューレちゃんの使い手に、私が……

 

「でも、私じゃ適合はできないんじゃ……」

 

「シルヴィの事を私は信用してる。だから、今回は特別だよ」

 

 ピューレちゃんが手渡しで自分の剣を差し出してくる。それを受け取ると、私の星辰力を糧にして剣の輝きが基臣君が持っていた時のように戻っていく。それと同時にピューレちゃんの姿もはっきりする。

 

「行こう、モトオミの実家に」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ピューレちゃんと再会してから、すぐに海外渡航の手続きを済ませて貸し切りの小型旅客機に乗ると、基臣君の実家へと向かう。残してる仕事もあるのに、かなりペトラさんに無理を言ってしまったな。後で謝らないと。

 

「ねぇ、ピューレちゃん。基臣君ってどんな子だったのかな」

 

「……いきなりどうしたの? そんなこと聞いて」

 

「私、基臣君の事あんまり知らないから。……逆に彼は私の事を知ってるのにね」

 

 そうだ。私は彼の事を何も知らない。知っているのは世間が知るようなちょっとした過去だけ。彼の口からは一つも過去が明かされることは無かった。

 

「……それじゃあ、少し昔話でもしようかな。手を取って」

 

「こう?」

 

 ピューレちゃんの手を優しく握ってみせる。すると満足したように頷いて私の手を握り返す。

 

「そうそう、じゃあ行くよ」

 

「ぁ……っ」

 

 その言葉と同時に意識がどこかに吸い取られるような感覚が私を襲う。

 

 ピューレちゃんが私を害する事をするわけがないと分かっているので、その感覚に身を任せることしばらく、やがてある場所へとたどり着く。

 

「ここは……?」

 

 和風めいたお家みたいだ。郊外にあるようで、周りには桜が綺麗に咲いている。

 

 そんな中、小さな男の子が綺麗な女の人のスカートをぐいぐいと引っ張っている。小さな男の子が基臣君で、女の人は基臣君のお母さん、かな。その近くの縁側で座っているのはおそらく基臣君のお父さんだろう。

 

「まーまー」

 

「あらあら、どうしたの基臣」

 

「おうたー」

 

「あー、あの歌ね。ちょっと恥ずかしいんだけどなぁ……」

 

「いいじゃないか。歌って減る物でもないし」

 

「しょうがないなぁ」

 

 基臣君とお父さんに言われて照れくさそうにする基臣君のお母さん。

 

「……綺麗な人」

 

 思わず声を漏らすぐらいには気品のある美しさを纏っていて、同性の私でも見惚れてしまう。でも、何というか気品だけではなく、快活……というか明るい印象を思わせる人だ。

 

 私が見惚れている内に、基臣君のお母さんはねだられた歌を歌いだした。

 

「~~~♪」

 

「……この歌は」

 

 今、基臣君のお母さんが歌っている曲は私の誕生日の時にプレゼントしてくれた楽譜の曲だった。でも、私が歌うそれとは違う。とても心に染み入るようなそんな歌。

 

「どう?」

 

 歌に夢中で気づかなかったけど、いつの間にかピューレちゃんも私の隣で歌を聞いていた。

 

「……ピューレちゃん。そうだね、仲のいい家族って感じだね。本当に理想的っていうか」

 

「そうだね。モトオミの家族は生まれて1年ぐらいの間はあんな風に仲睦まじい家族だったんだ。……でも」

 

 話しながらピューレちゃんが指を鳴らす。すると、その指の鳴る音に応じるように記憶の中の過ぎる時間が加速して次々に私へ基臣君の記憶を見せてくれる。

 

 最初の内は楽しい記憶ばかり。遊んだり歌ったり、いろんな場所を見て回ったりして、正に理想の家族だ。

 

 

 

 でも、ある時を境に全ての歯車が狂ってしまう。

 

 基臣君のお母さんが死んでしまった。家を襲撃してきた人から基臣君を守って。

 

 それからは地獄だった。お母さんを失ったことで家族の関係は歪なものになっていく。最愛の人を亡くしてしまった基臣君のお父さんは狂ってしまった。復讐に駆られて襲撃した人に繋がる人たちを皆殺しにしたけれど、それだけでは終わらない。

 

 お母さんが死んだ影響は家族関係にまで及んだ。最愛の人を亡くした傷はあまりにも深くて、まだ歩けるようになってそこまで経っていない彼をちゃんと愛することが出来なくなっていた。

 

 それを象徴するように、お父さんに家から叩き出されたんだろうか、まだ幼い基臣君が家の外で縮こまっている。

 

「ごめんなさい、ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」

 

 とても、と言い表せないぐらいに基臣君のその姿は痛々しいもので見ていられなかった。身体は傷だらけ、目は涙を拭い過ぎたからなのか真っ赤になっている。

 

「っ……! 基臣く──」

 

 そんな姿を見ていられなくて、私は彼の元へと駆け寄ろうとする。けれど、そんな私をピューレちゃんは手を握って止めようとしている。

 

「そんなことしても意味はないよ、シルヴィ」

 

「ピューレちゃん……。……でも!」

 

「あくまでモトオミの記憶を再生してるだけ、私たちは触れることも認識されることも無い。だから見てるだけしかできないんだよ。見ていて胸糞悪くなるけど」

 

 ピューレちゃんも辛いのか手を強く握りしめて堪えている。つらいんだ、ピューレちゃんも。

 

 だから私は基臣君の過去をしっかりと目に焼き付けないといけない。彼の心を救いたいから。

 

 

 

 

 

 ……………………

 

 

 

 

 

「着いたよ、シルヴィ」

 

「……ん。うん……」

 

 どうやらピューレちゃんに記憶を見せてもらってる間に目的地の空港まで到着していたみたいだ。

 

 飛行機を降りた後、空港を出てそのままタクシーに乗って、実家があるという場所まで向かう。

 

 途中からは車が通れない所にあるとの事でタクシーを降りると、ピューレちゃんの案内に従って、私は咲き乱れる桜の木を眺めながら基臣君の実家に繋がるなだらかな斜面を登っていく。春真っ盛りという事もあって吹き付ける風も心地が良い。

 

「ここはのどかでいい所だね。アスタリスクにばっかりいるからなんだか新鮮な気持ちだよ」

 

「そうだね。季節によって色んな景色を見せてくれるからいい場所だよここは……っと」

 

 いきなり先導していたピューレちゃんが足を止めたので気になって先を見てみると、墓が建っている。

 

「ピューレちゃん、ここは?」

 

「モトオミの両親の墓。母親の方はさっき見たようにモトオミが物心つく前に亡くなっちゃったけどね」

 

「……誉崎、澄玲」

 

 墓に刻まれた碑文に私が持っている楽譜と同じ名前が書いてある。

 

「それがモトオミの母親の名前」

 

「基臣君の、お母さん」

 

 ピューレちゃんの記憶の中で見た、とっても優しそうで、それでいて明るそうな人。

 

「シルヴィと同じくらいにはモトオミの母親は歌が上手かったんだよ。さっき聞いたから分かると思うけど」

 

「うん。すごく……胸に来る歌だった」

 

 自分でも作詞作曲をするのでよくわかる。私が歌う歌が自分の存在を世界に伝えるための、自己表現の手段であるのに対して、基臣君のお母さんの歌う歌は、自分のためじゃなく他者の心に寄り添い癒す歌。だから、気づいたときにはその歌に感動し魅了される。私にとっては理想の歌手だと思う。

 

「彼女も世間に歌を披露すれば確実にシルヴィのように歌姫としてもてはやされていたんだろうね。まあモトオミとモトオミの父親に聞いてもらえればそれでいいと思っていたみたいだから、そんな事にはならなかったと思うけど」

 

「でも……だからこそ、あんなに綺麗で心を動かされる歌が作れたんじゃないかな」

 

 私も随分長い事忘れていた気がする。私が歌おうとしていた歌は元々は誰かのために歌うものだったって事を。

 

「ここは後でも来れるし、先に行こ」

 

「あ、うん」

 

 ピューレちゃんに手を引かれ整備された道の上を歩いていく。

 

 もう少し……あともう少しなんだ……

 

 基臣君と再開する時に私にどんな言葉をかけてあげればいいんだろう。

 

 慰め? 激励? 

 

 ……違う。そんなもの私の自己満足に過ぎない。基臣君にとって救いになる言葉はなんだろう。

 

「もう着くよ、ほら」

 

 考え事をしている内に私たちは目的地まで目と鼻の先の距離にまで近づいていたみたいだ。ピューレちゃんが指さした先には、先ほど記憶の中で見た家と同じものが建っている。そんな屋敷の近くポツンと背を向けて動いている人が一人。

 

 その後ろ姿はまさしく彼のもので──

 

「生きてた……っ。よかったぁ……」

 

 やっと会えた事の嬉しさと生きていた事の安心感がごちゃ混ぜになって思わず涙が出てしまう。ピューレちゃんに基臣君が死んでいる可能性を示唆されて息が詰まるような気分が続いただけにとにかくホッとする。

 

「基臣君!」

 

「あ、シルヴィ! 今のモトオミは──」

 

 ピューレちゃんが何か言ってる気がするけど、そんな事を気にする余裕もなく彼の元へ駆け出す。

 

 どんな言葉をかけるのが正解なのかは分からないけど、もう絶対に基臣君の事を離さない。寄り添い続けて見せる。そんな思いを愛しい彼へ伝えたい。

 

 

 

 

 

 

 ──でも、そんな彼は

 

 

 

 

 

「誰だお前は」

 

「…………え?」

 

 人を恐れ、まるで信用していない。そんな恐ろしく冷たい目を基臣君はしていた。

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

裏話30-② 理解し寄り添う

作詞?んなもん感覚でやりゃいいんだよ!ということで初投稿です。


「…………え? 私の事、覚えてるでしょ?」

 

「貴様の事など知らん。不愉快だ、消えろ」

 

「……っ!」

 

 冗談でも嘘でもない。本当に記憶から私たちのことを消し去っている。そんな悲しい事実に立ち尽くしていると、ピューレちゃんが駆け寄ってくる。

 

「だから言ったんだよ。今のモトオミは代償で正気じゃない。だから、普通に話しててもまともに取り合ってくれないよ」

 

「ピューレちゃん……。じゃあ、どうすればっ!」

 

「モトオミの代償をどうにかして取り剥がすしかない。……もしかしたら、エルネスタ辺りに頼めばどうにか出来るかも。だから、今できる事はモトオミを気絶させてアスタリスクに連れ帰るぐらいしかないよ」

 

「……そっか」

 

「早く立ち去れ。この忠告を無視するなら、この場で切り殺す」

 

 そんな私達の会話に割り込むように話すと、基臣君はそのまま立てかけていた刀を手に取る。痩せこけてまるで強そうに見えないその姿からでも、発せられる殺気は大の大人でも一瞬にして逃げたくなるほど。

 

 基臣君の代償を取り除く方法。何か私にも……

 

「あっ」

 

 あった。一つだけ、私にも出来ることが。

 

「どうかしたの、シルヴィ?」

 

「……ピューレちゃん、基臣君を任せていい? できれば気絶させないでくれるとありがたいんだけど」

 

「何か策があるの?」

 

「うん、その代わりちょっと時間がかかると思うけど……」

 

「分かった、そういうのなら私が時間を稼ぐ」

 

 何をするのか聞かずに私の言う事を信じてくれたピューレちゃんは自分の剣を手に、基臣君と相対する。

 

「そうやって……お前たちも俺を……」

 

 何事かブツブツと呟くけれど風でかき消されて聞こえない。だけど、私達をどこか恐れている事がなんとなく伝わってくる。睨みつけながら居合の構えで今にも攻撃してくるような状態だ。

 

「誉崎流奧伝、獄爛(ごくらん)

 

 何も言う事なく私達へ向かって攻撃しようとする。それを、ピューレちゃんが遮って鍔迫り合いの状態になる。

 

「シルヴィは自分のやるべき事をやって!」

 

「っ、うん!」

 

 言われた通り、私は私のやるべきことをする。まともなお話は今の基臣君の状態だと出来そうにない。だから、今やるべきことは──

 

 

「初めて会った日 あなたは私を見向きもせずに 自分の殻に閉じこもった」

 

 

 前々から基臣君にプレゼントされた歌にどんな能力を付与させるか迷っていた。だけど、今回の一件でどんな能力にするかを決めた。基臣君の今受けている代償を解消(キャンセル)する事だ。

 

「耳障りだ……ッ!」

 

「させないっ!」

 

「チィ……ッ!!」

 

 刀をピューレに何度も叩きつける。しかし、その太刀筋に前のような勢いを全く感じない。現に実体化した姿では少女程度の力しか発揮できないピューレちゃんでも基臣君に優位に立てている。普通ならば立っているだけでも精一杯だろう事を考えると、今の基臣君の状態ははっきり言って異常以外の何物でもないけれど。

 

 

「初めて語った日 あなたは私を訝しんだままで 自分の殻に入れなかった」

 

 

 そんな基臣君をピューレちゃんに任せて、私は彼がプレゼントしてくれた歌を歌い続ける。今まで完璧でなかったけれど、基臣君のお母さんの歌を聞いて自分の中でもどう歌うべきかがしっかりと定まった気がした。

 

 ピューレちゃんが基臣君を相手にしてくれてるおかげで、今のところは順調に歌えている。

 

 静かに語りかけるように、聴く人を癒すように歌う。

 

 

「けれど共にいればいるほど 私達は寄り添い 身を溶かしあう」

 

 

 歌いながら基臣君の様子を見ると、歌も半ばまで歌っているからなのだろうか、ピューレちゃんの代償が少しずつ解消されていって、先ほどまであった異常な雰囲気が収まってきている。

 

「くそ、が!」

 

 基臣君はその原因が私の歌である事が分かると、今までに見たこともないぐらいの怒りを現す。

 

「誉崎流極伝、た──」

 

 今まで餓死で死にかけだったと思えないぐらいにすさまじい勢いで星辰力(プラーナ)が練り上げられていく。しかし──

 

「──か……は……ッ!?」

 

 技の負荷に耐えられないのか、激しく血を吐き散らして立ち尽くした。

 

「モ、モトオミ!」

 

 そんな基臣君を心配したピューレちゃんは近寄ろうとする。

 

 でもそんなことをしたら間違いなく、基臣君の攻撃を無抵抗で食らう形になる。そんなピューレちゃんを止めようと思っても歌を中断するわけにはいかない。

 

 

「素顔を見せないあなたが涙を零した日から 私はともに生きたいと願った」

 

 

「俺に触るなっ!」

 

「ガ……ッッ!?」

 

 ピューレちゃんの鳩尾(みぞおち)に基臣君の拳が突き刺さる。例え、彼の一撃が弱弱しい物でも人体の弱点である以上痛い物は痛いはずだ。

 

 

「歌であなたに心からの愛を捧ぐよ 言の葉に想いを乗せて」

 

 

「その歌だ……その歌さえ止めれ……ば!?」

 

 私に近づこうとする基臣君の足をピューレちゃんは手で掴む。いくら今実体化している姿が本体ではないと言っても、ダメージの痛みは本体である純星煌式武装にフィードバックされると言っていた。振り払おうとしている基臣君の一撃一撃が身体に染みるように痛むはず。

 

 本当ならピューレちゃんの元に駆け寄りたい。だけど、ピューレちゃんの瞳が訴えている。私のやるべき事をやれと。

 

「邪魔、だ……!!」

 

「いかせ、ない……シルヴィの元には!」

 

 ピューレちゃんが基臣君をどうにか取り押さえている間も私は歌い続ける。

 

 

「いつか私を運命が連れ去って 別れる日が来たとしても」

 

 

「離、せ!!」

 

「絶対に離さないっ!」

 

 

「あなたをずっと待っているから」

 

 

「……く……っ!」

 

 

「またね 私の愛しい人」

 

 

 時間にして4分ちょっとに及ぶ歌を歌い終え。一つ深呼吸して基臣君を見ると、先ほどまでの異常な雰囲気は完全に失せてしまって、基臣君の表情もどこか変わったように見える。

 

 基臣君に課せられていた代償を完全に解消(キャンセル)することに成功した、ということなのだだと思う。

 

「……歌い終わったの?」

 

 動きを止めてしまった基臣君にピューレちゃんが立ち上がって私に近づき聞いてくる。

 

「うん、見た感じでも代償を解消することはできたはずだよ。後は正気に戻った基臣君に話をするだけ」

 

 ただ、代償を消すことができても、彼の殺意はまだ消えていない。

 

「ピューレちゃん。これからは、私に任せてもらってもいい?」

 

「うん、いいよ。……モトオミの事、よろしくねシルヴィ」

 

「分かった」

 

 ピューレちゃんが静かに事の成り行きを見守ってくれる中、私は基臣君と改めて対面する。

 

 もう何も恐れるものは無くなったはずなのに、彼の眼は射殺さんばかりの視線を私たちに向けてくる。──でも、さっきまでと違うことが一つあった。

 

「ねぇ……基臣君……」

 

 それは、私達を殺そうと決意してるはずなのに──

 

「なんで、そんなに悲しそうなの?」

 

 ──彼の顔は今にも泣きそうな顔だった事だ。

 

 

 

「…………は?」

 

「人を殺そうとしてるのに、なんでそんな──」

 

「うるさい!!!!」

 

 叫んで私の言葉をかき消すと、より一層目を細めて突き刺すような視線を送ってくる。

 

「どうせお前たちは俺の事を化け物みたいな目で見て……軽蔑して……」

 

「本当に私達がそんな風に見てると思う?」

 

「ああ、そうだ! お前らなんか信用できない!」

 

「私達がどう思ってるか、今の君なら分かるでしょ」

 

「……っ」

 

「基臣君の事を嫌うなんて事絶対ありえないよ。……だって、君のことが大好きなんだから」

 

「……うそだ」

 

「本当だよ。分かるでしょ? 第六感で」

 

「嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ」

 

「本当に嘘だと思う?」

 

「嘘だッッ!!」

 

 冷静な所ばかり見せてきた彼が、今まで見たこともないぐらいの取り乱した姿を見せる。

 

「そうやって何もかも俺の全てを見透かしたような顔をしやがって……っ。お前なんかに……お前なんかに! 俺の何が分かる!!」

 

「……そうだね。基臣君の言う通り、私は君の事が分かる、なんて言ってもそんなの嘘偽りだと思う。だから……これから君の事をいっぱい知るよ」

 

 基臣君に触れるために彼の身体に手を伸ばそうとする。

 

「戯言を……っ! 近寄る────っ!?」

 

 その瞬間、私を振り払おうとした基臣君の手は金縛りにあったかのように止まった。

 

「……なんで……手が止まって」

 

「やっぱりそうだ」

 

 私の事を、私達の事を基臣君が嫌いになるわけが無い。つらいことから逃れようとそういうふりをしているだけ。

 

「来るな……」

 

 近づこうとする私の手から逃げようと基臣君は後ろへ、後ろへ、じりじりと下がっていく。

 

「ねえ、基臣君。なんで下がるの? 私を殺さないの?」

 

 そんな基臣君に私は歩み寄り、少しずつ距離を近づけていく。

 

「く、くるな……」

 

「……………………」

 

「くるな……くるなっ、くるな、くるな!!」

 

 怯えたような雰囲気を感じさせるその言葉を無視して近づく。

 

 一歩、また一歩。距離は徐々に近づいて、もう三歩歩けばたくましくもどこか頼りないその背中を抱き留められる。距離を詰めてくる私に、基臣君は恐怖の感情を撒き散らしながら刀を向けてくる。

 

「これ以上近づいたら殺す!」

 

「そんなこと、基臣君にはできないよ。だって、優しいんだから」

 

「黙れッ!!」

 

 近づけさせないためか口汚く私の事を罵ってくる。でも、その一言一言を発するごとに基臣君の顔はすごく苦しそうな顔を見せる。

 

 

 

 一歩

 

 

 

「本当に殺すぞッ! いいのかッ!!」

 

 

 

 二歩

 

 

 

「やめろっ!!」

 

 

 

 三歩

 

 

 

「…………っ。やめ、てくれ……っ」

 

 

 

 基臣君に近づき、私はぎゅぅ、と優しく抱きしめる。

 

「……ぁ」

 

 数か月もの間、碌に飲み食いをしていないからなのか、彼の身体は軽くて細くて、強く抱きしめてしまえば折れそうなほどか弱い。

 

「ねぇ、基臣君」

 

「…………」

 

「もう元に戻ってるはずなのに、どうして私を遠ざけようとしたの? 私の事、そんなに嫌い?」

 

「……それは、違う」

 

 私の問いに否定する。

 

「お前の事は大好きだ。……いや、お前だけじゃない。沈華(シェンファ)もエルネスタもミルシェもオーフェリアもみんな……みんな」

 

「なら、どうして?」

 

「…………それは」

 

 理由を問おうとすると、基臣君は言い淀んでしまい答えを中々出そうとしない。

 

「……いや、だったんだ」

 

「嫌? なにが嫌だったの?」

 

「俺のせいでお前たちが傷ついてしまうのが…………いや、それがきっかけになってお前たちが俺を嫌いになってしまうって事が……」

 

「私達が基臣君を嫌いに……なる?」

 

「俺が原因や重荷になったせいで、お前たちがかつての父さんのように侮蔑と嫌悪の視線を送ってくるか分からない。それがたまらなく怖いんだ」

 

「……基臣君」

 

「もう……っ、いやなんだ! お前たちが俺を俺として見てくれなくなる可能性がある事が!」

 

「…………」

 

 初めて見る基臣君の今にも泣きそうな表情に私は思わず息を飲んでしまう。

 

「お前が殺されたとき、その不安は現実の物になった。俺が原因でお前は殺された。つまり、俺という存在がお前を殺したも同然だ。なのにどうして俺のと以前と同じように接することが出来るんだ!?」

 

「基臣君、私は──」

 

「俺は……人を傷つける事しかできない……。俺は生まれちゃいけない人間だったんだッ!」

 

 腕の中から逃れようと何度も何度も基臣君はもがく。

 

 怖かったんだと思う。自分のせいじゃない事は分かっているはずだ。だけど、自分の悪い未来をどうしても想像してしまうんだろう。丁度ピューレちゃんの代償をその身に受けたことで、その悪い未来に対する恐怖が今の基臣君の心を支配している。

 

 基臣君は表面上では心が強くできてるように見えるけれど、実の所はそんなに強くできていない。むしろ、第六感で私達の心を読めるからこそ人の心変わりには人一倍敏感で、人一倍その手の感情に怖がりだ。

 

 だから、私はそんな彼を落ちつけさせ、宥めるように優しく包み込む。

 

「……ぁ……ぅ」

 

 その思いが伝わったのか、必死にもがこうとしていたその力がだんだん弱まり、震えながらではあるが基臣からも抱き返してくれる。

 

「基臣君は今まで救ってきた人たちの事、覚えてる?」

 

「……すく、った? おれが……?」

 

「他のみんなについては詳しくは分からないけれど、少なくとも私は君に救われた。ウルスラの身体を乗っ取ったヴァルダ=ヴァオスから」

 

「……あ」

 

「ヴァルダから基臣君が私を助けてくれた時、どれだけ嬉しかったか……。どれだけ救われたか分かる?」

 

「それ、は……」

 

「それに救うだけじゃない。君は誰よりも人の心の痛みを理解できる。誰よりも人のために使える力、それが君の力」

 

「……俺の、第六感が、人のための力?」

 

「君は化け物なんかじゃない。私の、私達の英雄(ヒーロー)だから」

 

「俺が、化け物じゃない……」

 

「だから、人を傷つけることしかできないなんて事、言わないでよ」

 

「…………」

 

 基臣君の私を抱く手の力が強まって、ギュッと抱きしめてくる。

 

「シルヴィ……」

 

「うん」

 

「シル、ヴィ……っ」

 

「うん」

 

 そばにいてくれる事を確認するように何度も、何度も私の名を呼ぶ。その意図を分かっていたから、私も基臣君に何度も返事を返す。

 

「俺は、幸せに……なっても、いいのか……? みんなと一緒に暮らしてもいいのか……?」

 

「……当たり前だよ。例えみんなが、世界が否定しても、私だけは君のことを肯定するよ。絶対に君に幸せになってほしいから」

 

「っ、シルヴィ……っ!」

 

 みんなと一緒に暮らして幸せになる、そんな人として当たり前の権利を認めただけ。だけど、そんな言葉が基臣君にとっては救いだったのかもしれない。抱きしめた胸の中でも泣いてるのが顔を見なくても分かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よいしょ、っと。これで最後かな……」

 

 基臣君の最低限の荷造りをして再び家から出る準備をする。その準備にはもちろん私も手伝いに参加して、手早く終わらせる。

 

「それにしても、随分と大きい家だなぁ……」

 

 ピューレちゃんに見せてもらった時も大きいとは思っていたけれど、実際にこうしてみるとその広さがよく伝わってくる。少し余裕があったので家の中を探索させてもらったけど、基本的に家の中は和室で統一されている。

 

 ただ、その中で厳重に閉められていた一室があった。気になったので基臣君と一緒に開けるとそこはピアノが置いてある洋室で、おそらく基臣君のお母さんが歌ったり作曲するための部屋だったのだろう。基臣君に聞いてみると、今までお父さんから開けるなと言われていたようで、部屋の中は一度も拝むことが出来なかったらしい。

 

 部屋の中にはピアノ以外にもいくつか楽譜が置いてあり、その全てを基臣君は私にくれた。最初は勝手に私物を持ち出すのも失礼だと思って断ったけれど、基臣君のお母さんも誰かに歌ってもらった方がいいだろうという事で最終的に私の手元にある。

 

 準備を終えて少し時間があったので新しくファイルに挟まれた楽譜を見ることにした。

 

「帰ったらさっそく歌ってみなきゃね……」

 

「準備は終わったか、シルヴィ」

 

 しばらく楽譜を眺めていると、基臣君も準備を終えたのかリュックを背負って立っている。そして彼の腰元には純星煌式武装があった。今は待機状態にしてあるので実体化したピューレちゃんの姿を見ることは出来ないけれど、さっき所有権を基臣君に譲渡したとき、ようやく彼の元に戻る事が出来たからかピューレちゃんもどこか嬉そうにしていた。

 

「うん、もうバッチリ」

 

「それならもう家から出るんだが、その前にちょっと寄りたいところがあるんだ。少し時間を貰うがいいか?」

 

「もちろん大丈夫だよ」

 

「それなら行くか。ついてきてくれ」

 

 そう言って基臣君に連れられて家を出てしばらく歩く。

 

「ここは、さっきの……」

 

 少し歩いて着いたのは、さっきピューレちゃんと一緒に見た、雑草だらけの墓場。

 

 ここに私を連れてきた基臣君はというと、大きなゴミ袋と水入りのバケツを持ってきていた。

 

「少しだけ墓周りを綺麗にしたいから、シルヴィは適当にそこらへんで待っててくれないか」

 

「むぅ……」

 

 基臣君はそう言うが、私だけ一人で待っているのはとてもじゃないけれど居心地が悪い。

 

「私の性格、分かってて言ってるのかな。基臣君」

 

「……あー、それもそうだな。じゃあ手伝ってくれるか」

 

「うん、もちろん!」

 

 私も墓の周辺にしゃがんで、基臣君と同じようにして雑草をむしっていく。無言で草をむしっては袋に詰めてを繰り返して、できる限り墓の周りを綺麗にしていく。

 

 そうして綺麗にすることしばらく、基臣君曰く二年ほどの間放置されていたものなので完璧に、とはいかなかったけれどそれなりに見栄えの良い墓になった。草をむしり終えると、持ってきたバケツの水をかけると基臣君は墓の前にしゃがみこむ。

 

「さて、と……こうしてちゃんと俺が俺として話をするのは初めてかな。父さん、母さん」

 

 今更だけど、基臣君の喋り方も前の堅苦しいものから変わった。元々は基臣君のお父さんを参考にした口調で喋ってたみたいだけど、今は自分自身を隠す必要も無くなったので本来の喋り方をしている。実際、その喋り方の方が私にとっても窮屈さを感じさせないし、前の喋り方よりも好きだ。

 

「せっかくだから、隣にいる人も紹介しようか。ほら、シルヴィ」

 

「え、私?」

 

「突っ立ったままなのも不自然だろ。ほら」

 

「それもそっか。……それじゃーえっと。どうも初めまして、基臣君のお父さん、お母さん。シルヴィア・リューネハイムって言います。基臣君とは今は……友達みたいな関係です」

 

「ここにはいないけど、シルヴィ以外にもアスタリスクで知り合った友達はいっぱいいる。今の俺にとってみんな……大切な存在だ」

 

 過去を振り返るように基臣君は目を(つぶ)る。

 

「父さん。昔、俺に言ったよね。大切な人を見つけて守れるような力を身に付けろって。……ようやく、父さんの言ったことの意味、分かった気がするよ。俺を鍛えてくれたことの意味も。だから、これからも俺は強くなるよ。……大切な人を守りたいから」

 

「……基臣君」

 

 大切な人と言っているのは私だけの事じゃない。ピューレちゃんや沈華ちゃん、エルネスタにオーフェリアにミルシェ、みんなの事を言っているんだ。皆が皆、基臣君にとって大切な存在だから。

 

「母さん。……母さんの事はピューレに見せてもらった記憶でしか見たことがないから、まだ何となく母さんの子だって事は実感ないけど、命を張って俺を守ってくれたこと嬉しかったよ。だから、母さんの命の分まで、俺は幸せになるよ」

 

 言いたいことは全て言えたのか、すっきりとした面持ちで基臣君は立ち上がった。

 

「しばらくしたらまたここに帰ってくるよ、それじゃ」

 

 その言葉を最後に基臣君は私に手を差し出してきた。

 

「ほら、シルヴィ」

 

「……えっ?」

 

 基臣君の方から手を繋ぐように催促してくるなんてこと、今まではそんな事が無かっただけに少し驚くけれども、不愛想にしながら手を握った頃と比較すると嬉しい変化なのかもしれない。その事に、自分でも頬が緩むのを感じながら彼の手を握り返すと、バケツと雑草を集めた袋を手にして墓から立ち去ることにした。

 

「それじゃあ、帰るか」

 

「うん、そうだね」

 

 ふと気になって墓のある方を振り向く。別に墓にいるからといって埋葬してある基臣君のお父さんやお母さんの声が聞こえるわけでは無い。

 

 だけど、どこからかきっと私たちを見守っていてくれるだろう。丁度木々の中から差し込んできた陽光が、そう思わせてくれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ここはどこだろう。

 

 基臣君と一緒に帰る道中、飛行機に乗ってそれから……確か私が疲れて寝てしまった気がする。

 

 ……という事は夢なのかな。それにしては随分と真っ白で何もない空間な気がする。

 

 

 

 ──あれ。人影が……2人いる? 

 

 

 

 片方は、基臣君のお母さんでもう片方は、基臣君のお父、さん……? 

 

 私に背を向けて歩いているので後ろ姿しか見えないけど、間違いない。

 

「あ、あのっ!」

 

 私が声をかけると二人は立ち止まってこちらを振り向く。私に気づいたのか、少し驚いた様子を見せるけれど、すぐに驚きの表情を変えてにこやかに微笑む。

 

 そして、二人は私にむけて口を開くとこう言ったような気がした。

 

 

 

 

 

 

 息子をよろしくね、と──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ヴィ…………ルヴィ……」

 

「──ん……?」

 

「もうじきアスタリスクに着くぞ、起きろ」

 

「……基臣君」

 

 気づくと夢から覚めて目の前に基臣君の顔が映る。

 

「どうかしたのか? 俺の顔なんかジッと見て」

 

「ううん、なんでもないよ」

 

 夢の中で、二人は私に向かって基臣君の事をよろしくと言っていた。たかが夢だと切り捨てる事だって出来る。だけど、私はその言葉を胸にして基臣君と共に寄り添って生きようと、そう決心した。

 

「帰って来たね」

 

「ああ、そうだな」

 

 

 

 このアスタリスクで

 

 

 




最終回的な雰囲気で終わらせたけど、お話はまだまだ続くよどこまでも。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

if④ 最後の鎮魂歌(レクイエム)

この話には原作キャラの死をほのめかす描写があります。
ifルートですので、物語本編に関わることはありません。
そういう描写を受け付けられない方はブラウザバックすることを推奨いたします。


 基臣君の事を思い出してまず最初に浮かんだのは、もう一度会って話をしたい、一緒に同じ時を過ごしたいっていう感情だった。彼の元に行けばそれは果たされるものだと、そう思っていた。

 

 

 

 

 

 ──でも、たどり着いた時にはもう遅かった。

 

 

 

「なに、これ……」

 

「……やっぱり、こうなっちゃうんだね」

 

 基臣君の家にたどり着いて、ピューレちゃんに導かれるままにある部屋に向かうと彼の身体は彼自身の手が持つ刀によって刺し貫かれていた。

 

 血の花が壁に咲き乱れているということもなく、身体に刀が刺さっている部分から血が床に向かって赤黒く染み込んでいた。もう随分と時間が経っているからなのか、腐敗臭が鼻の奥にまで到達して、そのキツさにクラクラしそうになる。

 

 ハエやウジなどの虫も身体に寄り付き、衛生的とは程遠い環境だ。

 

 

 

 つまりだ

 

 

 ()()()()()()()()()()()()

 

 

 

「基臣くん!!」

 

 しばらく呆然としていた私だったけど、事の重大さに気づくと血を流して倒れている基臣君の元に駆け寄る。

 

「しっかりして、基臣くん!!」

 

 何度も何度も彼の身体を細かく揺する。

 

「……ねえ、ねえったら!!」

 

 しかし、いくら呼びかけても返事どころか身動(みじろ)ぎ一つさえしない。

 

 彼がもう既に息を引き取っている事ぐらい分かっていた。……分かっていたけれど、その事実は私には受け入れられなかった。

 

「あ、そっかぁ……ドッキリだよね! 私、アイドルだからこの手のドッキリはもう慣れっこだよ。もー、基臣くんったらー」

 

「…………シルヴィ」

 

「私にドッキリを仕掛けるなんて、基臣君もお茶目なところがあるんだね~。びっくりしちゃうよー」

 

「シルヴィ……ッ!!」

 

「……ピューレちゃん?」

 

「もう、モトオミは死んだの。生き返ってこない」

 

 

 

 死んだ? 基臣君が? 

 

 

 

「……………………うそ、だよね」

 

 私の問いかけに首を横に振って否定する。

 

「じゃ、じゃあ私がピューレちゃんの能力を使って基臣君を蘇生すれば……。私、代償なんて気にしないし……っ!」

 

「死んでから時間が経ちすぎてる。……もう何か月も経ってると思う。今のシルヴィが能力を使ったら死後一か月ぐらいならまだ蘇生できたと思うけど……こんなに時間が経ってたら、もうダメだよ」

 

 ピューレちゃんは淡々と残酷な事実を突きつけてくる。

 

 信じたくなかった。基臣君が死んでるなんて。

 

「なんで、なんで……っ!」

 

 涙を留める(せき)が壊れてしまった。泣き止もうと思っても、思っても身体が勝手に涙を流してしまう。基臣君の身体が涙で濡れていく。

 

「返事、してよ……っ、基臣君っ!」

 

 私はただその場で彼だったモノの亡骸を抱きしめて、泣き叫ぶことしかできなかった。

 

 

 

 

 

 …………

 

 

 

 

 

 基臣君の死体をそのまま置いておくわけにはいかないので、焼却することにした。

 

 一番死体の処理で困ったのが、彼の戸籍がこの世に存在しないという点だった。生年月日も名前も性別も生まれの国も親も、全て世界に存在しない。みんな()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 その事実を理解して初めて基臣君が自身にかけた能力の規模は想像以上のものだった事を理解した。その反面、代償がいかに苦しい物になるのかということも。

 

 戸籍上の問題は、少し苦労したけれど、業者に金を積んでなんとか基臣君の死体を処理し、遺骨にしてもらうことにした。遺骨が入った箱を受け取った時に感じた軽さに彼はもうここにはいない事をようやく実感した。

 

 基臣君の遺骨は誰も引き取り手はいないので私がアスタリスクへ持ち帰ることにした。

 

 ……それと、ピューレちゃんは基臣君の死体を見てすぐに、私とは別れてどこかへ行ってしまった。おそらく、もう会う事は無い。別れる前のあの子の瞳は絶望しきっていた。もしかしたら、どこかに身投げするのかもしれない。そんな事でピューレちゃんの《ウルム=マナダイト》が破壊されるとも思えないけれど、自傷行為に走りたい気持ちは分からなくもない。今の私も死んでしまいたい気持ちだったから。

 

 私はアスタリスクへ帰ると、ミルシェやエルネスタ、沈華ちゃんやオーフェリア……全員に基臣君の事を覚えているか聞いたけど誰も覚えていなかった。……というよりもそれ以前の問題で、元から関わりがあったミルシェを除いて誰も私との交友関係があったことすら覚えていない。

 

 ただ、エルネスタが娘同然に大事にしているレナティちゃんだけは私と基臣君の事を覚えていた。《ウルム=マナダイト》をコアにした自律式擬形体だからピューレちゃんの能力の影響を受けなかったみたいだ。

 

 結局、絶望するしかなかった私は、何の救いもないこの世界から逃げるようにそのまま部屋に閉じこもるようになった。食べ物も碌に口に通らなくなり、食事は死なない程度に飢えをしのぐだけ。ピューレちゃんによると基臣君はこれよりも更につらい飢えを体感していたはずだと言っていた。ちょっとだけ、基臣君と同じになれたかな、と嬉しさを感じている時点で私もどこか狂い始めてしまっているのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──アスタリスクに戻って3か月が経った。

 

 基臣君の死を確認して以降、活動を中止していたけれど、精神状態的にアイドル稼業はもう続けることはできないということで、正式に私は引退することにした。それからは追うようにクインヴェールの生徒会長を辞任。当然、そんな私の突然の行動が報道されないわけもなく、世間では誰かとのお付き合いがあるから寿引退したのではないか、って話で持ち切りらしい。

 

 ……実際は、そんな噂話とは真逆なのが実態だけれども。

 

 マネージャーであるペトラさんやルサールカのみんなは最後までアイドル稼業を続けるよう引き留めようとしていたけれど、彼を失ってしまった私にはもう何もやる気力がなくなってしまった。自分の姿を一度鏡で見てみると、かつての輝きは失われて濁り切った瞳がそこにはあった。こんな姿でファンの前に現れるのは失礼だ、と言うとみんな私が引退することに何も言わなくなった。

 

 ただ、ミルシェだけは勘が鋭いからか、忙しい仕事の合間にちょくちょく訪ねてくる。大方、私の姿を見て自殺でもするのじゃないかと思ってるのかもしれない。気を遣ってなのか、直接自殺するかどうかまでは聞いてこないけれども。

 

「シルヴィア、入るよ」

 

 噂をすれば何とやら、ミルシェが食事を乗せたトレーを持って私の部屋にやってきた。

 

「ほら、少しは食べなよ。このままだと死んじゃうよ」

 

「……うん、ありがとう。でも今はいいかな。そこに置いておいて」

 

「ほら、だめだってば。いつも残してるんだから、今日こそは食べさせるよ。ほら、口開けて!」

 

 無理やり食わせようと、ミルシェが食べ物を片手に迫ってくる。

 

 抵抗しようと思ったけど、ロクに食事をしていないため力が入らずなすがまま。渋々食べ物を口にすることにした。

 

 ──けれど

 

「ングッ…………。ンンッッ!?」

 

 酷い味だった。口に広がる食べ物の風味は基臣君が死んだときに部屋に充満していた腐敗臭みたいで、肝心の味は腐った肉を食らっているような感じだった。

 

「ゥッ……! ……ヴェッ……ァ"ッ"……」

 

 あまりにもひどいその感覚に思わず口に入れていた食べ物を吐き出してしまう。

 

「シルヴィアっ!」

 

「はぁ……はぁ……」

 

 私に寄ってくるミルシェを手で制止し、ゆっくりと立ち上がると洗面台まで行って、口の中を水でゆすぐ。完全に口の中の異物感が取れたわけでは無いけど、大分マシになった気がする。

 

 水でゆすいだ後、呼吸を落ち着けて鏡を見ると、そこには以前の私とは似ても似つかないワタシがいた。

 

「……私、すっかり弱くなっちゃったよ基臣君」

 

 思わず涙が零れ落ちそうになる顔を何回も水で濡らして戻ると、ミルシェが私の吐瀉物(としゃぶつ)の処理を終えていた。

 

「シルヴィア……」

 

「ごめんね、せっかく持ってきてくれたのに吐いちゃって」

 

「ううん、あたしこそ無理強いしてごめん」

 

 ミルシェは何も悪くないのに随分と申し訳なさそうな顔をしている。

 

 

 

「「……………………」」

 

 

 

 気まずさが立ち込めた空間にお互いに黙ったままになっていると、しばらくしてミルシェが口を開く。

 

「……ねぇ、シルヴィア。何かあたしに隠してる事あるの?」

 

「……っ、いきなりどうしたの」

 

「なんとなくシルヴィアがあたしに罪悪感を抱いてる気がしたから……何か隠してるのかな、って。もしかして……前に話してた誉崎基臣ってやつの事、とか……?」

 

 ほんとにミルシェは聡くて、そして勘が鋭い。その勘の鋭さに思わず嫌悪感を覚えてしまうほどに。

 

 ミルシェにも真実を教えてあげたい。だけど、彼女に本当の事を話すわけにはいかない。話してもミルシェは基臣君の記憶を取り戻すことはできない。ピューレちゃんと接触する前の私のように思い出したくても思い出すことが出来ない苦しみを味わうだけだ。

 

「……何も隠し事なんてしてないよ」

 

 だから、私は笑ってごまかした。彼女の性格的にそれ以上は追求してこない事は分かっているから。

 

「本当?」

 

「うん、本当」

 

「…………分かった。疑うような真似をしてごめん」

 

「ううん、気にしてないから大丈夫」

 

「……次のライブツアーの準備しなきゃいけないから、あたし、そろそろ行くね」

 

「北米ツアー、明日からなんだっけ? 頑張ってね」

 

「……うん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ギィ ギィ

 

 前後に揺れるたびに鳴るロッキングチェアの音が耳に心地よく感じる。

 

 日だけを浴びて、ただ無為に時間を過ごす私の姿はたぶん、傍から見たら廃人みたいに見えるはずだ。

 

 ……結局、私はクインヴェールを退学してアスタリスクから出ると、基臣君の実家で生涯を終えることに決めた。アスタリスクで基臣君の事を思い出すことが出来ないミルシェたちへの罪悪感を抱えながらいるよりも、この場所で彼との思い出に浸りながら死にたい、そう思ったからだ。

 

 遺骨の入った箱に指を滑らせると、思い出すのは彼との思い出。

 

 ショッピングをしたり、カラオケに行って彼に歌い方を教えてあげたり、学園祭で色々見て回ったり……いい思い出ばかりだった。

 

「ふふっ……」

 

 カラオケでどう歌えばいいのか分からず困惑していた彼を思い出し、思わず笑みがこぼれてしまう。

 

 誕生日には彼の大事な形見である楽譜をもらったこともあった。今もなお大事に持ったままだ。

 

「…………そうだ」

 

 立ち上がって屋敷の隅にある部屋へと向かう。この屋敷の部屋割りはピューレちゃんに教えてもらった。その中でも南京錠でロックされた異質な部屋が一部屋ある。

 

 少し前に無理やり南京錠を破壊して開けたその部屋にはピアノが一台置いてある。その部屋だけ床が畳ではなく洋風のフローリング。基臣君のお母さんがピアノを弾くためだけに作られた部屋であることが分かる。

 

 近くに併設されているテーブルに遺骨を置くと、鍵盤に指を乗せる。

 

「~~~♪」

 

 飲食をまともに行っておらず発声練習ももう半年ほどやっていないため、歌声はかすれて、とても歌と呼べるものでは無かったがそれでも必死に基臣君への鎮魂歌を歌い続けた。彼の死に顔は何かに酷く怯えたようだったから、それを少しでも救済してあげたい。

 

 ……そのついでに、この曲を歌えば彼が蘇らないか、というくだらない考えで歌い続けたけれど当然、歌い終わっても彼が蘇ってくることは無かった。

 

「……バカだなぁ、私」

 

 自分の馬鹿さ加減を思わず鼻で笑ってしまう。亡き彼の思い出を辿ろうと空しく力を振り絞っただけ。

 

「もう、いっかな……」

 

 椅子から立ち上がり、遺骨の入った箱を抱えて愛しい彼が寝床にしていたという部屋へと向かう。

 

 歌を歌った洋室からそこまで距離は離れていない。でも、その距離を歩く一歩ごとに力が抜けて倒れそうになる。けれど、最後の力を振り絞って部屋までたどり着く。

 

 ふらふらになりそうにしながらも頑張って扉を閉めると既に用意してあった布団に入り込む。

 

「基臣君……すぐそっちに行くからね」

 

 布団に入るとそんなに時間が経たずとも、意識がどんどん薄らいで瞼が勝手に閉じていく。その感覚にもうすぐ死ぬんだろうなって実感が湧いてくる。

 

「私、君と一緒にいることができて幸せだった」

 

 死んだら基臣君とまた会えるだろうか、昔みたいに遊ぶことが出来るだろうか、そんな考えが頭の中をよぎる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「愛してるよ、基臣君」

 

 

 

 




アスタリスク16巻さっそく購入したので読みました。
ネタバレはご法度なので避けますが、とにかく全てが規格外の一言に尽きますね。物語も色々と進んだので個人的には満足できる巻でした。
あとがきで次巻が最終巻になると言及しているので、今から17巻が発売されるのが楽しみです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

part31

最近はかなり冷え込むので初投稿です。


 女を何人も侍らせる夢のようなチャンスが到来するRTAはーじまーるよー

 

 前回、ホモ君を無事にアスタリスクにまで帰すことが出来てホッと一安心といったところまででしたね。

 

 空港に到着してフェリーを利用した後に界龍に帰る……前にクインヴェールに寄りましょう。面倒くさいですが、ペトラさんには人殺しした事情は伝えておかないといけないですからね。後で露見して色々言われることの方が面倒ですし。

 

 さっそくペトラさんに面会すると、なんだお前!?と言わんばかりの顔で驚いてるみたいですね。感情喪失が無くなってますから大分話しやすい雰囲気をするようにはなったのでしょう。感情喪失によって発生した好感度上がりにくくなるデバフも消えてることですしね。

 

 それで、ホモ君が人殺しした件についてですが、普通に許されました。当たり前だよなぁ? まあ、シルヴィを守るための正当防衛ですから許されて当然という感はありますが。

 

 話はそれだけなので、ペトラさんとの面会を終えて界龍に帰ろうと思ったのですが、何やらシルヴィがホモ君をどこかへと連れていくようです。本当ならシルヴィについていかず帰りたい所ですが、有無を言わさぬ雰囲気のせいで強制的に連行されています。ヤメロー! シニタクナーイ! 

 

 連れていかれる方角的に、シルヴィが隠れ家にしているセカンドハウスでしょうか。まさか、真昼間からおっぱじめる程彼女も欲情してるわけもないですし、果たして何をされることやら……。

 

 で、何も言われずに連れてこられた訳ですが、……あれ、ミルシェにエルネスタに沈華。なぜここに……って、あぁなるほどいきなりホモ君がいなくなったから事情を説明しろと。いつの間にシルヴィが彼女たちに連絡してたのか知りませんが、当然と言えば当然の要求ですね。特にエルネスタにはこれからも世話になるので、普通にホモ君の過去話も交えて簡潔に話をしておきましょう。

 

 

 カクカクシカジーカ(説明中)

 

 

 一通り説明をし終えました。これで納得してくれると思いますが……おや、ミルシェが近づいてきましたが、どうしたんですかね。……って、グエッ!? 

 

 ほっぺたに跡が残るぐらい本気でビンタされました。意味が分からず脳内(???)状態ですが、なるほど前にいきなり消えたらビンタするっていうミルシェとの約束があったからですね。失念してました。

 

 じゃあ俺ビンタもらったし帰るから、って感じで退散したいんですけど、シルヴィがホモ君の襟を掴んでまだ帰してくれません。ちょっとホモ君の扱い雑過ぎひん? いくらホモ君が心配させたからってこんなに無駄なことに時間を割かせるなんて……頭に来ますよ!(憤怒)

 

 で、ほかにまだ何の用があってホモ君を縛り付けるんですかねぇ。……何々、みんなホモ君の事が好きって、ゑ"ゑ"ゑ"ゑ"ゑ"ゑ"ゑ"ゑ"ゑ"ゑ"ゑ"!?

 

 全員告白してきたんですけど……なにこれ(困惑)

 

 完全にハーレム状態ですね。やったねホモ君! ……とは言えないんだよなぁ。全員と付き合おうものなら遭遇するイベント数が格段に多くなるのでどう考えてもRTA的には望ましくない展開です。どうしたものか……。

 

 

 

 ……………………

 

 

 

 こうなったら仕方ないので、告白の回答を後回しにしましょう。

 

 今はオーフェリアを救うことに集中したいから王竜星武祭が終わるまでは回答を待ってくれないかと言えば何とか惚れた弱みで返事を引き延ばすことはできるのでは……?ついでに誰とも付き合わないので厄介なイベントに遭遇しないはず……。

 

 この男、完全にクズ……ッ! 人間のクズ……ッ! 

 

 まあ、見事にその予想は的中して普通にホモ君の提案に乗ってくれました。……ホモ君を狙う野獣の眼光は未だなお健在ですが、半年ちょっと程度ならなんとかなるでしょう。

 

 でも、交友関係とはずっと避けてるというわけにもいかなくて、偶には一緒に遊べという条件を出されました。1か月に1度ぐらいの頻度でいい事を考えるとシルヴィヒロインチャートに比べて、頻繁にイベントを起こさなくて済ませることが出来るので承諾しましょう。

 

 という事でヒロインズの折檻が終わったので、沈華(シャンファ)に連れられて界龍(ジェロン)にいるロリババアの元に向かいます。邪魔するぜーい。

 

 久しぶりにロリババアと対面したわけですが、会っただけでまだ戦ってもいないのに随分とホモ君に対する評価を上げてます。という事はオーフェリア相手にも優位に立ち回れる可能性がありますね。少し気になるのでステータスを確認してみましょうか。

 

 

 

 星辰力 85  技術 600 知力 395 体力 610

 

 

 特殊技能 第六感《覚醒》 誉崎流極伝 鋼鉄の体幹 神速 堅牢 強運 連携巧者 殺気隠し 先手潰し 格上殺し 対集団戦 空中回避 応急手当 

 

 

 おお! ほとんど完全体に近い状態ですね。感情喪失も消えて、《魔術師(ダンテ)》の能力である第六感も覚醒状態になってますね。ついでに、誉崎流も極伝にまで到達しました。

 

 鬼気がまだ完全に制御出来てるわけではないですが、このままオーフェリア戦に入っても勝率は3割5分ぐらいあるんじゃないでしょうか。後は特殊技能をもう少し手に入れれば文句なしですね。鬼気の制御に関してはロリババアに指導してもらって夏の終わりまでには習得しきっておきたいところですね。

 

 ロリババアにも挨拶を終えたので自分の部屋に戻りましょうか。全員からホモ君の記憶を抹消する能力は解除すると全て元通りになっているので、もう一度入学手続きをしなきゃいけないとか、そういう面倒な手続きはしなくていいのは不幸中の幸いですね。

 

 さて、色々とやる事は終えたので再びオーフェリア関連のイベントに手を付けることが出来ます。

 

 とりあえず一日休んで翌日、ユリスに会う事にします。もちろん、事前に会いに行く事を連絡しておくのを忘れないように。連絡するのを忘れたせいで、色々と偶然が重なって原作みたく着替えシーンを覗いてしまい、見事に一人のホモ君が彼女の能力で消し炭になりました。

 

 ユリスに連絡を入れ終えたら、覚醒した第六感に関する能力をある程度把握した後に就寝です。

 

( ˘ω˘ )スヤァ……

 

 熟睡して翌日になるとその日は休息日。しかし、ホモ君はそんな休息日でも体力錬成のために午前中は鍛錬をします。

 

 そして、昼飯前には鍛錬を切り上げて星導館へと向かい、顔パスで星導館の警備室をスルーすると、騒がれないように気配を絶ちながら集合場所の食堂まで行きます。

 

 お邪魔するわよ~(カッチャマ)

 

 食堂で昼飯を注文した後にカレーを食べているユリスに後ろからこっそりと声をかけましょう。すると、実に可愛らしい悲鳴を上げてくれます。不意打ちで驚かしてしまったせいで、頬を赤らめてジッと睨みつけてくる彼女をどこ吹く風という表情で受け流し隣に座ったら、昼食を摂りながら早速オーフェリアの現状について話しておきましょう。

 

 そして、話し終えて食事を摂り終えたらさっそく、ユリスをオーフェリアの元に連れていきます。

 

 本来ならホモ君がオーフェリア関連のイベントを全て終わらせたいところですが、イベントの進行上ユリスが必須なので連れて行かざるを得ません。

 

 まあ簡単に言えば、ホモ君はあくまでオーフェリアを会話のテーブルに着かせるための手段でしかないという事です。もちろん、上記以外の方法でユリスを使わずに彼女の意志を無視して無理やり懐柔させて依存状態にするという方法もあるにはありますが、その場合だとメンヘラのままなので、真に救われているわけではなく、『孤毒を救う騎士』の取得は不可能になります。

 

 だから、ユリスを連れていく必要があったんですね(メガトンユリス)

 

 そんなわけでユリスを連れて、オーフェリアのいる場所へと向かう訳ですが、彼女の位置は電話でシルヴィに頼んで探知済みなので、あとはマップ上の指している箇所に全速前進DA! 

 

 

 

 

 

 ……いましたね。

 

 さて、何か月ぶりかのオーフェリアですが、いつにも増して情緒不安定ですね。数か月前に渡した花が枯れてしまってフラストレーションが溜まっているといったところでしょうか。

 

 そんなオーフェリアを見つけたユリスは一目散に彼女の元へと走っていきます。ホモ君が止めようと制止しても──

 

 

 ホモ:オーフェリアに勝てるわけないだろ!! 

 

 ユリス:馬鹿野郎お前私は勝つぞお前!! 

 

 

 ──といった具合に話を聞いてくれないです。

 

 一回痛い目見ないと分からないタイプなので、ユリスのやりたいようにさせておきましょう。すぐにぶちのめされます。

 

 そういうわけで、ユリスがオーフェリアと戦っている間にこれからの方針を説明していきましょう。

 

 まあ方針という程大げさなものではなく、オーフェリアをユリスと二、三回ほど会わせて未練たらたら状態にさせた後、ホモ君が王竜星武祭でオーフェリアに勝つことで、彼女を正気に戻させるといった感じです。

 

 ここで問題になってくるのはオーフェリア本人よりも、彼女を飼っている処刑刀や豚さん、ヴァルダたち金枝篇同盟の方でしょう。特に豚さんが厄介で、彼は自分が勝つことよりも相手が負ける事を重視する害悪プレイをしてくるのでまともにやり合うとイライラゲージが天元突破する事間違いなしです。そのため、まともに正面からやり合うのは通常プレイでもRTAでも得策ではありません。

 

 出来る事なら、彼らとの戦闘や接触は回避したいところですが、彼らを倒すことも『孤毒を救う騎士』取得の条件の一つでもあります。あーめんどくせー、マジで(悪態)

 

 今やるべきことは、できるだけ終盤まで彼らとの接触を行わないようにしながらオーフェリアを堕としていく。これに尽きます。王竜星武祭でオーフェリアに勝ったその夜には、処刑刀とヴァルダが襲撃を仕掛けてくるのでそこで返り討ちにするのが一番効率が良いといった感じですね。豚さんは、ホモ君が手を下さずに彼の所属する学園であるレヴォルフに交渉して処理してもらうことにします。要は事態の解決を最後にまで先送りするってことですね。ただの現実逃避に見えて案外この方法が一番楽で且つ時間的なロスも少ないです。

 

 説明をしている間にユリスが見事なまでに惨敗して地面にゴロンなわけですが、まあそこまでは想定内です。さっそく今回接触した目的を果たしましょう。

 

 え、倒れたユリスはどうするのかって?

 

 

 

 

 

 ……まあ、そんなにヤワじゃないですし、少しぐらい放置しても……バレへんか。

 

 で、今回オーフェリアに接触した目的はと言うと、彼女の過去を知る事です。彼女が色々と実験で弄繰り回された過去を完全に知らない事にはホモ君の発言の説得力も薄いものになりますしね。

 

 オーフェリアの過去を知るには、本来なら彼女に決闘を申請してある条件を満たせば……といった回りくどい手順が必要なのですが、今回はホモ君の第六感があるのでそれは必要ありません。

 

 なぜ必要ないかと言うと、今ホモ君の第六感が覚醒してる状態なので、接触行為と接触相手のホモ君に対する信頼がある程度あれば、接触対象の過去を経験できるというわけです。ついでに、相手が動揺していると更に過去を深く経験することも可能です。

 

 その代わり、経験した過去の痛覚なんかも共有されるわけですが、割とホモ君は痛みに対する耐性があるので自我崩壊とかの心配はないですね(外道スマイル)

 

 そういう事で、ユリスを倒して悲しげにしているオーフェリアに、不意を突いて接近し彼女の両手を握りましょう。そうするとさっそく過去回想スタートです。

 

 オーフェリアの過去を辿っていきながら、彼女がこんな風に運命論者になった理由を説明すると、彼女が改造手術で星脈世代になった時に、神とやらの存在を見たらしいからですね。別に手術で彼女の気が狂ったとかではなくて、本当にこのアスタリスクの世界とは別の世界が存在し、その世界には神と呼ばれる存在が実在するらしく、これがまあ身勝手なの何の。それで強者が弱者を虐げるのは運命だと悟るようになったのだとか。

 

 それで、その神に等しい絶大な力が改造手術で痛みと共に自分自身にも流れてくることでオーフェリアは気が狂ってしまいました。本当は、花一輪を愛でる平穏な人生を送りたかった少女なだけにこういう絶大な力は受け入れがたいものだったようです。

 

 あーだこーだ言いましたが結局、彼女が言ってる運命って力の事なんですよねぇ(Power is Destiny)

 

 

 過去回想し終えたホモ君がオーフェリアの過去について言及すると、ほとんど揺さぶられることの無かった彼女の感情が大きく揺れ動きます。

 

 

 

 あー! せんせー、ホモ君がオーフェリアちゃんを泣かせましたー! 

 

 

 

 と、ご覧のように涙を流しながらオーフェリアが逃走しました。傷口を正確に(えぐ)った訳だからね、しょうがないね(ゲス顔)

 

 オーフェリアは逃走してしまったわけですが、ホモ君が彼女の過去を知ることが出来たので、問題はありません。それでユリスはというと、彼女の攻撃を食らって意識消失状態で横になっているので治療院に連れていきましょうか。

 

 

 

 わっせ、わっせ……(気絶した少女をおんぶして運ぶ犯罪臭漂う構図) 

 

 

 

 治療院に運んで治療してもらう事しばらく、ユリスもそこまでダメージを食らってるわけでは無いので起き上がりました。

 

 とりあえず、彼女の役割はあくまでオーフェリアとの対話役なので、対話させるまでの荒事はホモ君に任せるように言っておきましょう。多少食い下がろうとしますが、ホモ君の実力は彼女も前の獅鷲星武祭で知っているので最終的には折れてくれます。

 

 今後はオーフェリアのイベントと並行しながら豚さんの処理と鬼気の完璧な制御を習得していき、ロリババアにとりあえず勝ち越せるぐらいにすることを目標に鍛錬して──

 

 今回はここまで。ご視聴ありがとうございました。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

裏話31 痛みを分かち合う

約三週間ぶりの投稿なので初投稿です。

お待たせして本当にすみませんでした。
年末特有の忙しさ+筆が思うように進まないの二重苦で、話を仕上げるのに過去最大に時間をかけてしまいました。たぶん今話で今年の投稿は終了だと思いますが、来年もどうぞよろしくお願いしますm(_ _)m


「ペトラさん、連れてきたよ」

 

「入ってきてください」

 

「はーい」

 

 扉の開く音と共に、基臣とシルヴィアがペトラの執務室へと入る。

 

「わざわざ仕事を投げ出してどこへ行ったかと思えば、随分と早く帰ってきましたね。てっきり一週間ほどどこかへ行ってるものかと思っていましたが」

 

「やだなぁペトラさん。ミルシェじゃないんだから、そんな迷惑かけるような事はしないよ」

 

「……はぁ。まあ、あなたが無事だったようで何よりです。仕事を抜け出した時のあなたはどこか危うい感じがしましたから」

 

「色々と無茶言ってごめんねーペトラさん」

 

「……まあ幸いにも、直近でツアーの予定も無かった事ですし、今回はよしとしましょう。勿論、明日からしっかりと仕事はしてもらいますが」

 

「それは当然だよ」

 

 ペトラの対面にあるソファに基臣が腰かけると、隣に密着するようにシルヴィアが座ってくる。基臣もそれを拒むことなく受け入れた。

 

「…………」

 

 明らかに前よりも親密そうな様子に意外そうな表情で隣り合う二人を見るが、コホンと咳払いすると何事も無いように話し始めた。

 

「こうやって会うのは久しぶりですね。誉崎さん」

 

「ああ」

 

「この数か月行方が分からないという噂があったので何があったのかと思っていましたが……前会った時に比べて随分と、変わりましたね」

 

「まあ、色々あったからな」

 

「……なるほど」

 

 基臣がシルヴィアに向ける視線で何となく察しがついたのだろう。ペトラは少し考えるような仕草を見せるが、何か思い立ったのかシルヴィアへと視線を向ける。

 

「誉崎さん、話す前に少し失礼します。……シルヴィア、ついて来なさい」

 

 ちょいちょいと手招きをするとペトラにシルヴィアが疑問符を浮かべながらも彼女についていき部屋の外へと出る。防音性の高い部屋なのでほとんど会話は聞こえることはないが、そもそも自分に聞かれたくない事だろうというのは理解しているため、聞き耳を立てることなくテーブルの上にある茶を啜る。

 

「けっ……する……自由ですが……なら……になってからにしなさい」

 

「えぇっ!? そ、それは…………だけど」

 

 聞き耳を立ててないので何を話しているのかは分からないが、シルヴィアの動揺ぶりだけは第六感を使ってなくても正確に伝わってくる。何を話し合ってるのかは基臣には知る由も無かったが随分と盛り上がっている事は間違いない。

 

 そんな話し合いが終わるのを待つことしばらく、ドアが開いて二人が帰ってきた。

 

「お待たせしてすみません」

 

「いや、別に構わないが……」

 

 そう言いながらシルヴィアに顔を向ける。彼女の顔を見ると先ほどまでの余裕のある顔はどこへ行ったのか、羞恥でりんごのように真っ赤に染まってしまっていた。しかもその羞恥の対象はよりにもよって基臣に向けられているのだからさっぱり意味が分からない状態だ。

 

「……大丈夫か?」

 

「う、うん……大丈夫」

 

 どう考えても平常な精神状態では無いだろうが、それを突っ込むのも野暮だと思い深堀りすることはせずにペトラに向き直る。

 

「では本題に戻りましょうか。あなたが人を殺してしまった件についてですが……別に問題ないと思っています」

 

「問題ない……のか?」

 

「正当防衛なのですから当然です。自ら進んで殺しを行ったならともかく、シルヴィアを守るための殺人。それを許容しないほど私も恩知らずではありませんから」

 

「……そうか、それならよかった」

 

 殺人の件について何事もなく終わりそうなことに、ホッとした様子で胸をなでおろす。

 

「迷惑をかける事は無いように善処するが、これからもよろしく頼む」

 

「いえ、こちらからもよろしくお願いします」

 

「ペトラさん?」

 

「この子はすぐに問題を自分だけで解決しようと行動する節があります。まあ、あなたがいれば多少は無茶な行動も慎んでくれるでしょうからそこまで心配はしていませんが」

 

「もうっ! ペトラさんっ!」

 

「ああ、任された」

 

「もー! 基臣君までー!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふー、ペトラさんにも説明が終わって、とりあえずは一安心だね」 

 

「そうだな、話が無事終わったようでよかった」

 

 ペトラから話があると言われて少し身構えていた基臣。しかし、意外にも話し合いは短く済み、殺人を犯したことに関してもただの正当防衛という事で処理された。

 

 もちろん、基臣自身は何も悪くはないが、彼が原因となって事が動いたという点は否定できない。そういう意味では、シルヴィアの身の回りに不安要素を置いておけないために、アスタリスクから立ち去れとペトラに言われる可能性はあったわけである。

 

 その場合、シルヴィアも基臣と一緒に出ていくと言って事態が面倒くさいことになっていたはずだ。そういう面倒が起こる可能性を含めてペトラは、殺人行為をしてもシルヴィアとともにいる事を許したのかもしれないが、そこら辺の思惑はペトラ本人のみぞ知るというところだった。

 

「これでとりあえず用件は済んだな」

 

 話が終わるや否や、急ぐようにシルヴィアの元から去ろうとする基臣。その理由はと言われるとはっきりとは言えないが、何か嫌な予感が胸の中を巡っていたからだ。

 

「……それじゃあ俺は界龍(ジェロン)に帰る。また──なッ!?」

 

 しかし、その歩みはシルヴィアによって止められる。

 

「まだお話は終わってないよ、基臣君」

 

 基臣の襟を掴みニコニコと笑みを浮かべているシルヴィア。だが、その笑みはとてつもなく恐ろしいものに思えた基臣は必死に振りほどこうとする。だが、襟を握る彼女の手に力が籠っているからなのか、それは叶わない。無理に振りほどこうものなら、服が破ける事は間違いないだろう。

 

「……その手を離してくれないか、シルヴィ」

 

「だーめっ」

 

「どうしてもか?」

 

「これはもう決定事項なんだよー。諦めておとなしくついてきてくださーい」

 

「…………はぁ、分かった」

 

 渋々シルヴィアの後をついていく事になり、ほとんど吐くことの無かったため息を吐いてしまう。これが本人の言う通り、()()()()()だったなら問題なかっただろう。だが、先述した通りどうにも嫌な予感を感じてしまい乗り気ではない。

 

「ふん、ふふん、ふんふん、ふーん♪」

 

 しかも、目的の場所へと近づくごとにその嫌な予感が増していく。主に自身の胃がキリキリしそうな事態が起きそうな、そんな嫌な予感が。

 

 あることが分かり切っている地雷原に、誰が望んで足を突っ込みたがるだろうか。少なくとも基臣はその地雷原に自分から望んで足を突っ込むような被虐趣味はない。

 

 そんな感じで色々と脳内で思考を張り巡らせている内に目的の場所であるシルヴィアのセカンドハウスまで到着する。

 

 

 

 ──いる

 

 明らかに人の気配が家の中からする。ピューレによる代償がシルヴィアによって解消されてからというもの、第六感の感覚が以前よりも遥かに冴え切っていた。その冴えた感覚から家の中に3人いる事が感じ取れる。しかも、感覚的にその面子は基臣がよく知っている人物だ。ついでにシルヴィアが知っている人物。これだけ判断材料があれば、誰が家の中にいるかは直接姿を見なくとも想像がつく。

 

「ほら、入って」

 

「…………あぁ」

 

 ドアを開けてかたつむりのような歩みでノロノロと動くが、シルヴィアに無理やり背を押されてリビングにまで向かう。

 

「お待たせ、みんな」

 

「遅いよっ!」

 

「まあまあ、こうやって来てくれたんだし」

 

「随分と長かったわね」

 

 ドアを開けると部屋の中にいたのは、ミルシェにエルネスタ、沈華。シルヴィア含めればいつも見る仲良し4人衆だ。

 

「……やっぱりか」

 

 その面子を見た時点でもうすでに色々と悟ってしまい、向けられる感情を理解してもう目を覆いたくなるような気分になる。説教で済むならいくらでも受けるが、絶対にそれでは済まないだろう。説教が終わった後にすぐさま逃げ出す算段を頭の中で構築しながら、表面上は努めて冷静に振る舞う。

 

「それで……ここに俺を連れ出した要件は何なんだ」

 

「私にだけじゃなくて、みんなにも基臣君の事について説明してもらおうかなと思ってね」

 

「なるほどな」

 

 シルヴィアには全てを話したものの、他の三人にはまだ何も話していない。いきなりいなくなったことも含めて何があったか知りたいのは当然の事だろう。

 

「教えるよ、俺の過去を全て。……ピューレ」

 

「はーい」

 

 基臣の指示で姿を現したピューレ。

 

「三人とも、こっちきて」

 

 手招きをするピューレに、ミルシェと沈華、エルネスタは警戒することもなく近づく。その三人に手を触れると、シルヴィアと同じように記憶を流し込む。

 

 その記憶は、自分が父に暴力に等しい教育を受けながら育ったこと、その過程で感情の類が全てそぎ落とされてしまったこと。正当防衛とはいえ人を殺したこと。人から嫌悪の視線を向けられるのではないかと恐れてアスタリスクから逃げ出したこと。今まで経験した事を全て包み隠さず彼女たちに伝える。

 

「これがシルヴィに見せた、俺の全てだ」

 

「「「…………」」」

 

 黙り込んだままの彼女たち。その中で、ミルシェだけが顔を伏せたまま基臣に近づいてくる。

 

「……ミルシェ?」

 

 基臣に近づき顔を上げたミルシェ。次の瞬間には──

 

 

 パァン──ッ!! 

 

「──っ!」

 

 全力で基臣の頬をぶっていた。

 

「ふ────っ、よし!」

 

 思い切り振りぬかれた手で叩かれた顔を見て満足そうにするミルシェに呆気にとられる基臣。

 

「何を……?」

 

「あたしたちの前からいなくなったらビンタするって約束、忘れたとは言わせないから」

 

「……そういえば、そうだったな」

 

 ぶたれた頬に手を添えながらミルシェの言う約束に思い至ったのか納得の表情を見せる基臣。

 

「まあ、なんで私達をもっと頼らなかったのかとか、色々不満はあるけどこれで許したげる。みんなもそれでいい?」

 

 ミルシェの問いかけに皆一様に頷く。

 

「じゃあこの話は終わりってことで」

 

「終わりで、いいのか?」

 

「別に基臣がどういう経緯でどういう暮らしをしてきたかなんて気にしないし。だって、結局のところ大切なのは今じゃん? 過去でうだうだ言うのあたし嫌いだし」

 

「……そうか。お前たちがそれでいいなら俺も構わない」

 

 彼女たちが良いというのなら、基臣としても特に異論はないという事でそのままミルシェの判断を受け入れた。思ったよりもあっさりと話が終わったことに少し驚きはしたが、シルヴィアが既に基臣と話をしているからと彼女たちなりに判断しての事なのだろう。

 

「これで終わりだよな。俺は帰るぞ」

 

 話も終わったので、急ぎ足で家から出ようとする基臣。だが、それを阻止するようにシルヴィアが出入り口のドアにもたれかかって立ち塞がる。

 

「駄目だよ、基臣君。まだ最後の話が残ってるんだから。というか、ここからが本題なんだけど」

 

「……聞かなきゃいけないのか?」

 

「うん、もちろん」

 

 窓から逃げようかとチラリと確認するが、当然のように他の三人も逃げ道を塞いでいる。強引に逃げれないことも無いが、わざわざそのためにシルヴィアの家を破壊するのも基臣も本望ではない。

 

「はぁ……。それで、その話っていうのは?」

 

「その話っていうのはね……」

 

 胸の前に握りこぶしを置くと、意を決したようにシルヴィアは口を開いた。

 

「私達……基臣君の事が好きなんだ」

 

 率直に告げられた愛の告白。

 

「……やっぱり、そうか」

 

 何を好きになったのかは知らないが、以前から、時折熱っぽい視線が向けられていることには基臣自身も気づいていた。いつ告白されるのだろうかとは思っていたが、こんなタイミングだとは、基臣も思っていなかった。

 

「基臣君は……どう思ってるの?」

 

「どう思っているかって言われても、だな……」

 

 異性として好きかはまだよく分からないが、全員好ましく思っている。一緒に過ごしていて楽しいし、彼女たちがいたからこそ基臣は人生に意味を見出すことが出来た。

 

 だが、基臣には恋というものが分からない。唯一、恋に関して知り得る知識はピューレから見せてもらった父や母が仲睦まじく暮らしていた記憶ぐらいだ。

 

「私達のだれを選んでも、全員振ってもらっても構わないよ。みんな覚悟してるから」

 

(誰を選べばいいんだ……)

 

 誰を選んでもきっと幸せに過ごす事はできるだろう。しっかり考えれば、今にでも付き合う相手を選べれるかもしれない。

 

 ──ただ、彼女たちの告白を受けた最中でも、脳裏にはオーフェリアの悲しそうな顔がちらついて仕方がなかった。

 

 だから──

 

「本当に悪いと思ってるんだが……返事は、オーフェリアとの決着を着けるまで待ってくれないか」

 

「え?」

 

 その返事を、基臣は後回しにすることにした。

 

「自分でも都合の良すぎる話だと思ってる。だけど、ほかの事にも気を取られてる状態でお前たちの思いに答えるのは誠実じゃない。たぶん、答えたら後できっと後悔する」

 

「「「「……………………」」」」

 

 そんな基臣の答えに、4人は顔を見合わせるとクスリと笑った。

 

「堅物というかなんというか……」

 

「しょうがないねー。でもまあ、基臣君らしいといえば基臣君らしいよね」

 

「そんな剣士君だからあたしたちも好きになったんだろうけどねー」

 

「待つと言っても一年も待つわけじゃないんでしょう? それぐらいだったら待ってあげるわ」

 

 その基臣の返事を彼女たちは許容した。

 

「いい、のか? 自分でも割と無理のある発言だと理解してるんだが」

 

「まあオーフェリアも基臣の事を友人としてじゃなくて、異性として好きだろうし、あの子もいないとフェアな気がしないからね」

 

 ミルシェの言葉に基臣はポカンとした表情になる。オーフェリアから来る感情は家族に向ける親愛に近いものだっただけに、そういった恋愛感情とは程遠いだと思っていた。

 

「……え、そうなのか?」

 

「まさか、気づいてなかったの?」

 

「まだ本人も自覚無い感じだから基臣君の能力でも気づけなかったんじゃないかなー」

 

「まあ、そういうわけだから王竜星武祭が終わるぐらいまでは私達も返事を待ってあげる」

 

「……本当に助かる」

 

「そ・の・か・わ・り!」

 

 胸先三寸ほどの距離にまでミルシェは近づくと、上目遣いで基臣を見上げてくる。彼女の吐息が首元にかかり、くすぐったい気分になる。

 

「今まで通りに私達とも遊ぶこと! いくら鍛錬とかが忙しいって言っても一か月に一回ぐらいは遊べるでしょ」

 

「……あ、あぁ。分かった」

 

 ミルシェの様子に若干引きながら他の三人を見ると、全員の目つきが獰猛な猛獣のそれになっている事に気づき、体中に悪寒が走る。返事は待ってくれると言ったが、待ちきれずに暴走するのではないかと戦々恐々とせざるを得なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おぉ、帰ってきおったか」

 

「数か月いなくなって悪かったな」

 

「よいよい。おぬしの事は修行の旅に出たと言って誤魔化しておるから、大して騒ぎにもなっておらんしの」

 

 久方ぶりに帰ってきた弟子を座して出迎えた星露は、基臣を見て笑みをこぼす。

 

「どうやら、その顔を見るにお主の最大の問題点は解決できたようじゃな」

 

「問題点……というと、感情が無かったことか?」

 

「左様。今までのお主は言うなればただの人形みたいなものじゃった。だが、今のお主はまさしく人間そのもの。嬉しさも悲しさも他者と分かち合える、真の意味で強者たりえる資格を有しておる」

 

「強者……ね」

 

「それにしても、大きく成長したのぉ。以前とは大違いじゃ。今儂とやればいい勝負が出来るんじゃないかえ」

 

「どうだろうな。まだ五分五分とはいかないだろうが、数か月あれば星露が本気を出してもそれぐらいの勝負は出来るだろうな」

 

「カッカッ! それは益々楽しみになるわ! それだけ大口を叩くのじゃ、お主には毎日でも相手をしてもらうぞ」

 

「俺から頼みたいと思ってたことだ、もちろん相手になるさ」

 

 しばらくの間、星露と他愛も無い話をしていると、ふと、ある質問が思い浮かんだ。

 

「……なあ、星露」

 

「ん、なんじゃ」

 

「仮に今、お前がオーフェリアと戦った場合、勝率はどれくらいになるんだ?」

 

「……ふむ。まだ今の状態ならば儂の方が若干優勢と言ったところかの。じゃが、時間が経つにつれあやつの持つ力は更に強まってきておる。王竜星武祭で仮に戦ったとして、儂と五分五分といったところか……」

 

「なるほどな……」

 

「じゃが、お主なら王竜星武祭の時期になるまでには倒せるぐらいの実力を持ち得る可能性は大いにある。精進することじゃ」

 

「言われずとも精進する。俺のためにも、オーフェリアのためにも……」

 

「ふむ……」

 

「……なんだよ」

 

「やはり、いい顔をするようになったと思っての。……じゃが、女に好かれ過ぎる所はどうにかした方がええと思うがのぅ。沈華たちへの態度があやふやなままじゃと、いつか後ろから刺されるぞえ」

 

「……余計なお世話だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やはり、食堂で待ち合わせにするべきではなかったか」

 

 ここ最近星導館へと転入してきたユリスは、超有名人になっていた。リーゼルタニアの王女であり、星導館に来てすぐに《冒頭の十二人(ページ・ワン)》入り。そんな出来事があったとなれば、話題にならないという方がおかしいだろう。

 

 そのせいで、現在進行形で数多くの生徒から注目の視線を向けられてしまっている。話しかけられずに視線を向けられるだけなら以前から慣れてるのでまだいいが、サインや写真を求められることもあるので、それはもうストレスの溜まる生活を送っていた。

 

 とはいえ、そういう輩に激怒して追い返すわけにもいかず、うんざりとする気分を押し込めながらカレーを食べていた。

 

「……うん、美味しい」

 

 王族であるため、孤児院以外で大衆料理を食べる機会が無かったユリスにとって食堂のカレーは絶品だったのだろう。そんな訳で周りの視線をシャットアウトしてカレーを堪能していたユリスだったが──

 

「おい、ユリス」

 

「ひゃんっ!?」

 

 先ほどまでのむっとした顔がどこへやら、可愛らしい悲鳴を上げながら身体をビクッと震わせる。ゆっくりと後ろへ振り向くと、待ち合わせの約束をしていた基臣がそこにはいた。周りからの視線などをシャットアウトしたがために、ユリスは基臣の接近に気づくことが出来なかったのだ。

 

「ほ、誉崎……!? お、お前と言う奴は……っ!」

 

「……そんなに驚くことでも無いだろうに。事前にここに来ると連絡を入れていただろ」

 

 ユリスの怒りように若干呆れながら基臣は隣を座る。彼女も一瞬驚かされた怒りで手を出しそうになったが、別に彼は何も悪い事をしていない。驚くような事態になったのは自分の落ち度だ。コホンと一度咳き込んで心を落ち着かせると、凛とした表情で基臣に向き直る。

 

「久しぶりだな。前会ったのがゴールデンウィークだったから、大体一年ぶりといったところか」

 

「ああ。あれから一年か……私にとっては長いようで短い時間だったな」

 

 これまでの一年を回顧する。リーゼルタニアで沈華(シャンファ)に負けて以来、《魔女(ストレガ)》としての素養を高めることはもちろん、不安要素だった近接戦闘にも磨きをかけてきた。そのおかげで、星導館に入ってすぐに《冒頭の十二人(ページ・ワン)》にも力の差を見せつけて勝つことが出来た。

 

「見た感じ、ある程度は力を付けてはきたようだな」

 

「オーフェリアに話を聞かねばならないからな。今の私には、いくらあっても力があっても十分ということはないだろう」

 

「そうか」

 

「それで、オーフェリアは今どんな状況なのだ」

 

「今のオーフェリアだが……前よりも状態が悪化してるな。おそらくあいつの飼い主が、俺との接触を禁止したからっていうのもそれに拍車をかけてる」

 

「あいつの飼い主というのは、ディルク・エーベルヴァイン……《悪辣の王(タイラント)》か」

 

「あぁ、そうだ。どうやらそいつが俺を警戒してるようでな。会いづらくなってからもオーフェリアに接触をしたんだが、大分素っ気なくなって……と俺が言っても実感が湧かないだろうな。まあ見ないことには分からないだろうし、とりあえず昼食を食べたらあいつに会いに行くか」

 

「会いに……? でもどうやって」

 

「友人に人を見つけるのが得意な奴がいるからな」

 

「友人……?」

 

「そこらへんは後で追々言うから、とりあえず先に昼飯食うぞ。あまり長居しすぎると騒がれるからな」

 

「あ、あぁ」

 

 基臣の言われるままにユリスはカレーを急いで食べると、トレーを返却口に下げて、急ぎ足で星導館を後にした。

 

 

 

 

 

「それで、どうやってオーフェリアを探すのだ」

 

「それなんだが、っと早速来たな」

 

 基臣が端末を開くと、受け取ったメールの中からマップデータを表示する。

 

「これは……?」

 

「友人にオーフェリアを探知してもらったのをマップに表示した。移動されても困るし、さっそく行くぞ」

 

 基臣の案内されるままに星導館から出て、商業エリアの人通りが無い路地裏へと移動する。

 

「こんな所に来て何をするつもりだ?」

 

「まあ見ておけ」

 

 そう言って基臣が懐から印章を取り出すと、その印章は淡く輝きだした。

 

「なっ──」

 

 それと同時に、基臣とユリスを中心とした空間に縦横無尽に線が走り、空間が組み替えられていく。

 

 そして──

 

「着いたぞ」

 

「ここは……再開発エリアか?」

 

 ユリスの問いに基臣は黙ったまま首肯すると、ピューレをしまう。

 

「星露の星仙術を利用させてもらって空間転移をした。もちろん、この事は秘密にしろよ。他人にこの術を無断で見せたことがバレたら、あいつに後で怒られるからな」

 

「あ、あぁ……」

 

 規格外の現象に少し呆気にとられながら基臣の後をついていく。

 

 転移してからオーフェリアがいる場所までそこまで離れておらず、彼女を見つけたのは転移して数分の事だった。

 

「……っと、いたな」

 

 基臣の足が止まったのを見て、ユリスは彼の視線の先を見ると、そこにはオーフェリアが何かを持って寂しそうに佇んでいるのが見えた。

 

「枯れてもまだ捨てないなんて、そんなに俺が渡した花に愛着を持つようになったのか、オーフェリア」

 

 枯れ果てて原型を失ってしまった黄色い百合の花を見つめていたオーフェリアは基臣の方へと顔を向けると、ほんの僅かに顔を歪ませた。

 

「基臣……それにユリスも……」

 

「……オーフェリア、なんだな」

 

 久しぶりにあったオーフェリアの姿に顔を歪ませる。白い髪に真っ赤な双眸、昔とは似ても似つかないその姿はユリスにとって非常にショッキングなものであることに違いなかった。

 

「……それで、わざわざ私に何の用かしら」

 

「お前に話があってきた」

 

「……話?」

 

「お前の事についてだ」

 

「私の……? リーゼルタニアに帰ってこいと言いたいのかしら……? それなら──」

 

「そうではない! 別にお前が今更リーゼルタニアに戻ってこなかったとしても私としては特段問題にしていない。だがな……前の王竜星武祭の時のように、無暗に力を使うのはやめろ! 能力を使うたびに命を削っていることぐらい、当事者であるお前が分からないわけでもないだろう!?」

 

「……分かっているわ、そんなことぐらい。でも、私はこうやって運命に身を委ねるしかできない……。だから、放っておいて。あなたには関係ない事だから」

 

「関係ないだと……? この大馬鹿者め……っ!!」

 

 諦めの感情を撒き散らすオーフェリアに怒りを覚えるユリス。

 

「そこまで言うのなら、決闘で言う事を聞いてもらうぞ!」

 

 胸にある校章に手を当てると、決闘の申請をオーフェリアへと出そうとする。

 

 だが、その行動に待ったをかけるように基臣はユリスを手で制する。

 

「……いいのか? 言っておくが、間違いなく負けるぞ、お前」

 

「負けるからといって私はあいつの愚行を見逃すわけにはいかない。止めてくれるなよ」

 

 覚悟を秘めた瞳で訴えかけるユリスに、止めることは出来ないと悟ると基臣は大人しく引き下がる。

 

「……分かった。だが、無茶はするなよ。一歩間違えれば死ぬぞ」

 

「あぁ、分かっている」

 

 数歩前に歩み出て、オーフェリアと向かい合う。ユリスの決闘申請に対し、オーフェリアも素直にこれを受諾。一瞬にして、互いに一触即発の状態となった。

 

「やるからには全力を出させてもらうぞ! 手加減はしない!」

 

 自分の愛剣である細剣型の煌式武装《アスペラ・スピーナ》を取り出すと、それをオーフェリアへと向ける。

 

「咲き誇れ! 呑竜の咬焔花(アンテリナム・マジェス)!」

 

 以前、リーゼルタニアで見た時よりも遥かに巨大な炎竜が姿を露わにする。そして、ユリスがコントロールして炎竜をオーフェリアへと飛翔させる。轟音を立てながら建物を巻き込んでいくその様にオーフェリアも少し驚きを覚えたような様子だった。

 

「思っていたよりも実力は備えているのね。だけど……」

 

 手を前にすっ、と差し出すと炎竜に無限に等しい星辰力(プラーナ)で真っ向から防御を行おうとする。そして、そのままオーフェリアに直撃すると、紅炎は地面を焦がすもののオーフェリアが身に纏う星辰力を削り切る事は出来ず数秒の内にかき消されてしまった。

 

「そんな程度では私の運命は覆すことは出来ないわ。……塵と化せ(クル・ヌ・ギア)

 

 オーフェリアの言葉と同時に、背後から巨大な一本の腕が姿を現す。その禍々しい異形の腕はユリスへと向かって不気味な動きを伴いながら襲い掛かる。

 

「──グッ!?」

 

 手を交差して瘴気の腕の直撃を防御するも、その勢いは削がれることはない。

 

「ガッ!? ……カハ……ッ!」

 

 まともに防御しきれず、ユリスは勢いよく飛ばされて地面を転がり倒れてしまった。防御と同時に、後ろへと回避するために受け身を取っていたおかげで直撃は避けれたが、それでも規格外の威力からか今にも気を失いそうになっている。

 

 いとも容易く防御を崩されたが、これでもユリスはよくやっている方だった。沈華との出会いが無ければ、オーフェリアの攻撃を直接受けてしまい、今以上にもっと悲惨になっていたことは想像がつく。

 

「オー……フェリア……ッ!」

 

「……だから、言ったのに。貴方の運命では私の運命を覆すことは出来ないのよ……」

 

 気絶して地面に伏したユリスを見て、オーフェリアは己の運命は変えられないのだと自嘲するように呟く。

 

「久しぶりにユリスと会ったというのに、随分と嫌そうだったな。そんなに今の自分の姿を見られるのが嫌だったのか」

 

「基臣……っ!?」

 

 オーフェリアの気づかぬうちにいつの間にか接近した基臣は彼女の手を握っていた。

 

「何を……?」

 

「…………」

 

 彼女の疑問に答えることなく、手を強く握るとオーフェリアと基臣、二人の周りが万能素(マナ)の煌めきに取り囲まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここは……研究室か」

 

 辺りを見回すと研究機材が一面に大量に配置され、行っている研究の規模が大きい事を伺わせる。

 

 基臣はオーフェリアの身体に接触することによって、彼女の過去の記憶を辿った。その代償として、痛覚なども全て共有されてしまうが、その点はそれほど問題ではない。

 

 施設の中、窓ガラスの中に薄茶色の綺麗な髪をした少女が、そこにはいた。何をされるのかが分からないからかそわそわと辺りを見回している。

 

「オーフェリア……なのか」

 

 とても今とは似ても似つかない、無垢な少女だった。こんな少女がさっきのオーフェリアのように変貌してしまうのかと驚く。

 

「きししししししししし! 照射角度や出力、ともに正常! 次こそは成功するはずです!」

 

 近くから声が聞こえたので、その声の主の方へと振り向くと、そこには中等部ぐらいだろうか、それぐらいの年の見た目をしたヒルダがいた。おそらく、オーフェリアを星脈世代にするための実験の主導者なのだろう。

 

「では、万能素加速器(マナコライダー)を稼働させましょうか! 楽しみですねぇ! きしししししししししし!」

 

 ヒルダの指示と共に機器に繋がれたオーフェリアは、万能素加速器から放出される光に晒される。

 

「──ッつ……!」

 

 近くにいる基臣は《魔術師》であるために、加速した万能素(マナ)によって発生する頭痛に思わず顔を(しか)めるが、その痛みもすぐ消失した。いつのまにか、基臣の精神は宇宙空間へと放り出されていたのだ。

 

「なんだ……ここは? さっきまで実験施設にいたはずだが……」

 

 肉体はなく、自分とオーフェリアの意識だけがそこにはある。

 

 その感覚に困惑する基臣。わけも分からず見下ろせば、青い惑星がそこにはあった。

 

「地球か……? それにしては随分と地形が変わっているが……」

 

 見下ろしている惑星が地球と、そう認識した瞬間に、何か巨大な存在が唐突にオーフェリアへと近づき、彼女の意識へと触れた。

 

「これ、は……っ!?」

 

 頭の中に流れ込んでくる情報の多さに思わず顔を(しか)める。基臣も過去にピューレの代償によって似た経験をしたことがあるため堪え切れたが、元は普通の生活を送っていたオーフェリアが受け止めるにはあまりにも莫大すぎる情報量。実際、その情報の多さのせいで彼女の精神は壊されて一度修復されている。その修復した存在が──

 

「ぅ……ぁ……。……神、か」

 

 こちら側の世界とはまた違う歴史を辿ったもう一つの世界。その世界に存在するのが神だった。神は基本的には惑星に住む人々を庇護するが、気まぐれに神罰としてその多くの人々の命を奪っていく。それを人々も運命として受け入れているのだ。

 

 そんな理不尽な存在によって、彼女が運命という存在を悟ったのはこの瞬間だったのだろう。圧倒的な力による無慈悲な制裁を弱きものは受け入れるしかないという運命を。

 

 

 

 だが、オーフェリアの苦難はそれだけでは終わらなかった。

 

『あああああああああああああああああああああああっ!』

 

「っ!?」

 

 それはオーフェリアが星脈世代に変えられる実験によって、運命を悟って少し経っての事だった。

 

 オーフェリアの悲痛な叫び声が部屋に響き渡り、鼓膜を激しく震わせる。それと同時に激しい痛みが基臣の身体を食い破らんとばかりに暴れまわった。

 

 痛みに顔を顰めながらもオーフェリアを見れば、拘束具によって彼女の身体は完全に固定され、星脈世代に変わっていく痛みに耐え続けていた。

 

 何度も、収まることの無い痛みを裡から与えられオーフェリアは壊れていく。正確に言えば、痛みに、ではない(うち)で日が経つごとに膨れ上がる圧倒的なまでの『力』によって壊れていくのだ。自分が自分でなくなる感覚が恐ろしいのだろう。

 

 そして、実験が終わってからのオーフェリアは完全に全てを放棄してしまっていた。彼女の中にあるのはただ一つ。自死の願いのみ。実験を行っていた研究所を破壊してから、ディルクにその所有権が移ってからもその根幹は変わらない。

 

 その痛々しい姿に基臣は酷く胸を痛まされた。物理的に、精神的に、対象の感覚を共有できる『第六感』の力があるからこそ、強く、深く共感できる。だからこそ、基臣はそんなオーフェリアを救いたいという気持ちが更に強くなっていく。

 

「オーフェリア…………」

 

 オーフェリアが星脈世代になってから、ディルク達が率いる金枝篇同盟の傘下に入って現在に至るまでの全ての彼女の記憶を見終えて、基臣は小さく嘆息する。彼女の破滅的な行動を取りたがる心理は元来の性格によるものであると最初は睨んでいたが、過酷な成り行きでこうなるべくしてなったのだという事を強く認識させられた。

 

 まるで救いが無い。自分にはいらない力を無理やり植え付けられ、その力のせいで万物から自身を否定される。平穏な日々を過ごしたかった少女にとって、その感覚はとてもつらい物だろう。

 

「…………? 基臣、どうしたの……」

 

 長い時間をかけてオーフェリアの過去を体感していたが、実際は時間にしてほんの数秒程。しかも、オーフェリア自身は何をされたか理解していない。

 

 その基臣に対して、いくら現状突き放した態度を取っているとはいえ、親しい人であるために攻撃できずに困惑しているオーフェリア。

 

「もとお────み?」

 

 そんな彼女を基臣は優しく抱きしめた。

 

「……つらかったな。欲しくも無い力を植え付けられて、その上誰からも拒絶されるなんて。ただ、普通の日常を過ごしたかっただけなのに」

 

「──っ!? どうしてそれを……」

 

「俺がお前を元に戻してやる。何年、何十年かけても」

 

 耳元で囁かれる優しく、そして温かい言葉。そんな身体を蕩けさせるような甘言にオーフェリアは思わず基臣の事を受け入れそうになる。

 

「だから──」

 

「……来ないで!」

 

 珍しく声を荒げ、これ以上の抱擁を拒んだオーフェリア。基臣をけん制しようと睨みつける。もうこれ以上、甘い言葉で惑わされないように。

 

「……どうして、そんな……表情(かお)をするの」

 

 だが、拒絶したオーフェリアに対して

 

 

 

 ──基臣は、哀れみの表情を浮かべていた。

 

 そんな表情にオーフェリアは困惑し、混乱する。なぜ、彼はこんなに面倒くさい私を見捨てないのだろうか。なぜ友人であるユリスを躊躇なく攻撃した私を軽蔑しないのだろうか、と。

 

「見捨ても、軽蔑もしない」

 

 ただ、ひたすらに目の前にいる基臣が怖かった。彼に心を読まれる事が酷く恐ろしいと感じた。自分はもう運命に従って生き続けるだけのつもりだったのに、そんな決意をいとも容易く打ち砕いて、心変わりさせられるのではないかと。

 

「…………っ」

 

 その恐怖に急かされ、オーフェリアは足早に逃げていった。もうこれ以上基臣の言葉を聞くと、決別していた過去の自分が掘り起こされる気がしたから。

 

「……図星、だったか。あの感じだと」

 

 そんなオーフェリアの様子に基臣はひとり呟いた。

 

 第六感は対象の心を読むだけではなく、精神状態、性格、記憶など、対象を根幹から支えている部分まで読み取ることができる。

 

 まるで人の心を丸裸にして、自分の物にするような感覚。これが能力の到達点といえる効力なのかと思うと末恐ろしい。悪用しようものなら、基臣の事を心酔させて疑似的に洗脳したりなど恐ろしい事にも転用できるだろう。そんな事は当然しないが、それだけこの能力は強力なのだ。

 

「第六感の能力に関してはひとまず置いておくとして……とりあえずは、これからするべき事はたくさんあるな」

 

 オーフェリアの過去を読み解く事で、間接的にだがディルクが所属する金枝篇同盟の目的も大体は理解した。金枝篇同盟はその目的のためにオーフェリアを都合の良い道具として使うつもりのようだった。

 

 彼らの指示によって、彼女は自らの内包する瘴気を以てアスタリスクにいる人間全員を殺すつもりでいる。しかも、いつでもその行動は実行できるという嫌なおまけつきだ。

 

 当然、そんな行動を起こそうものなら、行く着く先はオーフェリアの死という最悪な結果だ。

 

「そんなことは絶対にさせないがな」

 

 金枝篇同盟は潰す。そしてオーフェリアを救う。その過程でヴァルダや処刑刀も障害となるだろうが、問題ない。自分が一人残らず倒すだけだ。

 

「……だがまあ、その前にユリスを運ばないとな」

 

 気絶してしまったユリスをおぶると、基臣は風が吹き抜けたかのようにその場から一瞬にして消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねえ、ユリス」

 

 温室の中で植木鉢に球根を植えているユリスに、オーフェリアは隣で花に水を与えながら話しかける。

 

「ん、なんだ?」

 

「ユリスってお姫様なんでしょう?」

 

「まあそうだな。……正直大して嬉しくも無い職位だが」

 

「それなら、きっとユリスはみんなに慕われる良いお姫様になれると思うわ」

 

「何を言い出すかと思えば……。姫といっても統合企業財体の傀儡だ。何の権利も権力も無い。民草のためになる施策は出来ない。そんな私が慕われるような良い姫になれるわけがないだろう」

 

「ふふっ……」

 

「……何もおかしい事は言ってないつもりだが」

 

「こんなにユリスが弱気だから、珍しいなと思って」

 

「む……」

 

 むくれるユリスに、慌ててオーフェリアは彼女の事を宥める。だが、それでも機嫌を直してくれないユリスに苦笑しながら花の世話を続ける。

 

「ねえ、ユリス」

 

「……なんだ?」

 

「さっき言ったいいお姫様になれるって言葉、冗談じゃないからね。私は信じてるわ」

 

「…………ふん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん……」

 

「お、やっと起きたか」

 

「今のは夢……か。それに、ここ、は……」

 

 ユリスが起き上がるとそこは白で統一された清潔感のある部屋だった。気づけば、彼女の隣には椅子に座って基臣がこちらを見ている。

 

「治療院だよ。お前がオーフェリアに倒されたから俺がここまで運んできた」

 

「……そうか、私はあの時あいつから一撃をもらってそのまま……」

 

 基臣の言葉でオーフェリアに倒された事を思い出し、唇を嚙みしめる。彼女の事を止めたいという一心で決闘を挑んだはいいものの、結局まともに攻撃を当てることもままならずに決着という無様な結果に終わった事に悔しさが募る。

 

「すまない。お前に散々忠告されておきながら、このざまだ」

 

「あいつのためを思っての行動だ、俺がとやかく言う必要もないだろ。それよりも、お前が死ななくてよかったよ」

 

「……あぁ」

 

「それでだが……とりあえず今後の大体の方針を俺なりに決めた」

 

「方針?」

 

「どうせ、俺たちがこのまま無暗にあいつに会って、説得をしようとしたところで意味も無い。それなら、いっそのこと王竜星武祭(リンドブルス)まで必要最低限の接触で済ませる。まあ、方針と言った割には至極単純な物だが、結局のところ、王竜星武祭で負かせばあいつも少しは頭を冷やすだろうし、それが一番効果的だろう」

 

「じゃあ王竜星武祭(リンドブルス)で戦うのは……」

 

「そうだ、俺がやる」

 

「……私ではダメなのか」

 

「お前じゃダメだ」

 

「何故ダメなのかは……分かってはいるが、一応聞いておこうか」

 

「お前もさっきの決闘で理解しただろうが、実力があまりにも足りない。お前がオーフェリアに肉薄できる可能性があるとすれば……まあ最低でも3年は必要だな。さすがにそこまでは俺も待てないし、その間にあいつも自分の力のせいで消耗していく」

 

 基臣の言う通り、ユリスには明らかにオーフェリアを倒せるほどの実力は無い。今から王竜星武祭に向けて仕上げても今よりマシになるとはいえ、勝つことは叶わないだろう。

 

 それに加え、ユリスは何もオーフェリアのためだけにアスタリスクに来たわけでは無い。祖国の孤児院の資金難を星武祭で優勝して解消する目的もある。そのため、出場権を(いたずら)に消費しても意味はない。そういう点を考えると、基臣の提案は一番理に適っていると言えるだろう。

 

「お前の役割は王竜星武祭で倒した後のオーフェリアとの対話役だ」

 

「……それもお前がやればいいのではないか?」

 

「オーフェリアとの対話は俺よりも付き合いの長いお前だから出来る事だ。そんなに自分が無価値だと悲観的になるな」

 

「……分かった、オーフェリアの相手はお前に任せる。だから……」

 

 ユリスは基臣の手を掴むと祈るように握る。

 

「本当に、頼むぞ……?」

 

 口をキュッと結んで懇願するように見上げるユリスに基臣は強く頷いた。

 

「あぁ、任せろ」

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

part32

新年最初の投稿なので初投稿です

今年もよろしくお願いします


 不殺の誓いを立てておきながら、陰でネチネチと豚さんの謀殺計画を練るRTAはーじまーるよー。

 

 前回は、アスタリスクに帰って早々、ユリスと一緒にオーフェリアに会ったところまででしたね。そこで第六感を通してオーフェリアの過去を知り、金枝篇同盟の存在と目的もついでに知る事が出来ました。

 

 それで、金枝篇同盟をどうするかについてですが、前回言った通り処刑刀とヴァルダは直接戦ってねじ伏せれますが、豚さんは結構面倒くさいです。なので、豚さんをぬっ殺すために彼の所属するレヴォルフを管轄する統合企業財体「ソルネージュ」の幹部との接触を図ります。ペトラさんとの約束? そんなもの知らんな。

 

 普通ならばそう簡単には統合企業財体のお偉いさん方とは接触できないものですが、実は2回目の獅鷲星武祭優勝時に申請した願いの性質上、連絡先を入手してるんですよねぇ。

 

 2回目の願いの内容は各学園に生徒として在籍する事なわけですが、実は契約にはホモ君と統合企業財体、両者が納得する内容であれば契約内容を変更しても良いという条文を入れています。そのため、いつでもそれを実行できるようにそれぞれの統合企業財体の連絡先を手に入れているわけです。

 

 さっそく連絡すると、彼らに大事な用件があると言って面会するように頼みます。すると、ホモ君との関係を良好なものにしたいからなのか、さすがにすぐにとはいきませんが面会することは確約してくれます。

 

 面会の確約も取れたので、約束の日まではロリババアとの修行で時間をつぶしましょう。

 

 

 

 …………

 

 

 

 3週間経ちました。ようやく統合企業財体の幹部と面会しに、アスタリスクの湾岸にある船に向かいます。船内の一室に案内してもらうと、幹部の後ろには、護衛としてレヴォルフ最強格の一人、卍オッド・アイ卍君が付いています。

 

 中二病みたいな名前を付けられている卍オッド・アイ卍君ですが、命をストックする事ができ、その数だけ不死身になるというチートな純星煌式武装(オーガルクス)《ノーネーム》を所持しています。そのおかげで、ストックしている分だけ何度でも蘇るさ(ムスカ大佐)、が出来るわけですが、原作既読済みの視聴者諸兄もご存じの通り、その分デメリットもあります。

 

 それは2か月に1回、命が一つ消費されるという点です。消費する命のストックが無くなると即死亡という結末が待っているので定期的に相手の命を食らう必要があり、確実に殺人行為が必要になります。まあ、そのデメリットもソルネージュが管理している純星煌式武装であるため、生贄はいくらでも用意してくれます。ただ、秘匿性の高い純星煌式武装のため表舞台には確実に出れなくるのが玉に(きず)ですかねぇ。

 

 まあ、そんなデメリットがあると言えども、命をただの駒にしか思わないRTA民には垂涎ものの純星煌式武装で、プレイ時間が短く且つ裏でコソコソする系RTAでは《ノーネーム》を利用する走者も結構いたりします。時間の関係上説明は省きましたが、《ノーネーム》にはそれ以上にメリットが多いですからね。

 

 ちなみに本RTAはヒロインとイチャイチャしたり、長いスパンでの活動が必須という事もあって《ノーネーム》の採用は見送りました。さすがに、ホモ君の命がほかの奴から奪ったものだとバレるとシルヴィたちの好感度が下落待ったなしだからね、しょうがないね。

 

 とまあ、長々と卍オッド・アイ卍君の戦闘能力について語った訳ですが、本RTAでは彼と敵対する事はありません。そもそも、敵対して殺そうものなら統合企業財体を相手取らなきゃいけないわけですから、それこそ時間のロス以外の何物でも無いです。

 

 そういうわけで、彼の事は気にせずにささっと交渉事に移ります。

 

 で、その交渉で彼らに何をしてもらうかというと、ホモ君が金枝篇同盟の情報を一部提供する代わりに豚さんをぬっ殺してもらう事ですね。いくら豚さんが優秀といえども、ホモ君が所有するオーフェリアの記憶プラス統合企業財体のマンパワーには(勝てるわけが)無いです。

 

 ただ、豚さんを殺すだけだと統合企業財体側に何のメリットも無いために交渉決裂になる事は見えているので、もちろんリターンとなる情報も開示します。その情報というのは、金枝篇同盟にいるヴァルダと処刑刀の正体ですね。彼らは星導館側の統合企業財体が関連しているので、ソルネージュにとっても星導館の弱みを握ることが出来、トータルで見れば非常にお得な交渉ではあります。

 

 というわけで、処刑刀とヴァルダの処分はホモ君が担当し、豚さんはソルネージュに何とかしてもらうという内容で同意しました。

 

 これで豚さんは王竜星武祭が終わるごろには死体がアスタリスクの近くのクレーター湖で浮かんでいる事でしょう。おお、こわいこわい。

 

 そんな密会が終わったところで、次はロリババアと戦って極伝の習熟度を高めていきましょう。

 

 肝心の極伝がどんな技なのかですが、精神と肉体を極限まで加速させることによって疑似的な時間停止を起こす事ができる代物です。時間停止とは違って、実際には超々高速で動いて加速しているため、その分攻撃を行った際の一撃一撃の威力も凄まじいです。身体能力向上の側面だけで見れば、ユリスの月華美人の上位互換みたいな技ですね。強すぎィ! 

 

 これに加えてヤンデレ剣もあるので、極伝の習熟度さえしっかり上げればオーフェリア相手に(負ける要素は)ないです。

 

 おっと、どうやらホモ君がロリババアの裏を取ることに成功したようです。この模擬戦でさっそく、真っ向からロリババアに勝てる可能性が……ファッ!? 

 

 裏を取ったのでロリババアに思いっきり攻撃しようと思ったら、煌式武装がぶっ壊れちゃいました……。スゥゥー、一体なにがダメだったんでしょうかねぇー。普通にブンブン振り回しているだけならぶっ壊れる事なんて無いはずなんですけど、スゥゥ不思議ですねぇ……。まぁ、それだけホモ君が素早く動けているということなんでしょうか。そうだとすれば、これは結構嬉しい誤算ですね。

 

 壊れてしまった煌式武装ですが、流石にヤンデレ剣だけで戦うのは不安要因が多すぎるので、エルネスタにもう一本煌式武装を製造してもらいましょう。というわけで、さっそく彼女のいるアルルカントにイクゾー! デッデッデデデデ! (カーン)デデデデ! 

 

 事前にエルネスタには用事がある事を伝えて、彼女の部屋に向かうとレナティがいました。しばらく彼女の相手をすると、愛しの彼が来たとあって、自分の派閥の実験を途中で抜け出してエルネスタがすぐに駆けつけてくれました。ちょっとチョロすぎんよ~。

 

 エルネスタが着いたので、さっそく本題を話すことにしましょう(カクカクシカジーカ)

 

 それで、作ってもらう煌式武装のスペックについてですが、彼女が提案する通り、極伝の加速力による負荷とかを考慮して、耐久力マシマシの煌式武装を作ってもらう事にしましょう。ついでにオーフェリアの瘴気にもしっかり対抗できるように作ってもらいます。

 

 お話が終わると、完全にエルネスタが甘えモードに入りましたね。まあ、何の対価もなく煌式武装を作ってもらう事は出来ませんから、これで済むだけマシです。好感度がほぼ無い状態で彼女に何か煌式武装を作ってもらうように依頼しようものなら、ウルム=マナダイトなどの希少な素材を要求されたりして面倒くさいですからね。

 

 とりあえず新しい煌式武装の目途が立ちました。ここからは修行してヒロインズとイチャイチャするだけの代り映えのない風景なので倍速。

 

 

 

 …………

 

 

 

 王竜星武祭まであと1か月という時期にまで来ました。最後のステータス確認をしましょうか。

 

 星辰力 85  技術 630 知力 420 体力 645

 

 

 

 特殊技能 第六感《覚醒》 誉崎流極伝 鋼鉄の体幹 神速 堅牢 強運 連携巧者 殺気隠し 先手潰し 格上殺し 対集団戦 空中回避 応急手当 走馬灯 不死身 鬼気の統御

 

 

 

 ステータスや特殊技能、両方とも基準を十分以上に達していますね。

 

 走馬灯は、致命打になりかねない攻撃が来た時に、動きが非常にゆっくりに見える有能特殊技能で、不死身は死にかけるようなダメージを受けた時に消費することで、ダメージを一度限りですが帳消しにできるこちらも有能特殊技能です。そして、最後の鬼気の統御は星辰力の質が劇的に良くなり、攻防共に強くなる超有能特殊技能です。今まで鬼気、鬼気、と散々言ってきましたがこの特殊技能があるか無いかでオーフェリア討伐の時間がそこそこ変わってきます。

 

 極伝も習熟度が結構いい所まで行きましたし、ロリババアにも結構な割合で勝ち越せているので、このまま王竜星武祭に突入しても問題なくオーフェリアに勝てるでしょう。準備はほぼ完了しましたが、最後にオーフェリアともう一度だけ会っておきましょう。

 

 そして今回は……あえて豚さんのいる目の前で会います。オッハー!(激寒)

 

 もちろんそれを無視しようと豚さんは通り去ろうとしますが、しつこくオーフェリアに絡みましょう。

 

 当然と言えば当然ですが、そんな行動を取り続ければ目障りでしかないので、豚さんがオーフェリアに対してホモ君を攻撃するように指示します。そうなると、豚さんの指示と親しい人であるホモ君を攻撃する事に対する忌避感の間で葛藤ができて、完全にフリーズしてしまうわけですね。

 

 オーフェリアの悶え苦しむ表情、まさに愉悦ッ!! もう気が狂う程気持ちええんじゃ! 

 

 ……おっと、失礼。愉悦の血が騒いでしまいました。

 

 というわけで、結局オーフェリアは豚さんの指示に従ってホモ君に攻撃してきましたね。今のホモ君なら余裕で回避できますが敢えて食らう事にしましょう。そうすると、攻撃を受けたことによって傷ついたホモ君を見る事で、罪悪感に苛まれたオーフェリアが混乱します。

 

 ホモ君側はというと、瘴気によるダメージは多少はありますが受け身を取っているのですぐ完治できる範囲内です。豚さんたちがどっか行ったら、ヤンデレ剣で軽く治療して界龍に戻りましょう。

 

 オーフェリアに対する仕込みは終わりましたね。調理完了です……。

 

 こうすることで、オーフェリアは昔の自分自身の記憶に引っ張られるようになり、その事が最終的にユリスとの対話をする際に良い感じに作用してくれます。

 

 もうこれ以上イベントはないので、ユリスにとある指示をしておいて後は修行あるのみです。

 

 次回からは、本格的に王竜星武祭に突入して優勝まで一直線に突き進んで──

 

 今回はここまで。ご視聴ありがとうございました。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

裏話32 葛藤

ようやく忙しい時期を超えた感じなので初投稿です。
これからはもう少し早いペースで執筆できると思います……たぶん(一応、長くても一か月以上は執筆期間は空けないようにはするつもりです)

あと、総合評価が4000ptを超えました。
ここまで見てくださってる読者の皆様に感謝の気持ちでいっぱいです。
これからも学戦都市アスタリスクRTAをよろしくお願いします!


 アスタリスクの岸に停泊してある旅客船、その船の中にある部屋に入っていった基臣が見たものは、レヴォルフを運営している統合企業財体の幹部たちが集っている光景だった。老若男女、人種等様々な人間が揃っており、統合企業財体に貢献できるのならば前述の要素を気にしない──統合企業財体にとって不利益になる要素があると判断されているのか、星脈世代の中で未だに幹部になれた者はいないが──まさに実力主義を体現した面子である。

 

「統合企業財体の幹部方が勢ぞろいか。流石にここまで集まるとは想定してなかったな」

 

「早く席についてもらおうか。時間が惜しい」

 

 当然のことではあるが、統合企業財体の幹部は基本的に分単位でスケジュールが埋まっている。当然、こうやって幹部を全員集めるのは普通の人間であれば不可能だ。この光景はそれだけ統合企業財体は基臣の実力を買っているという証拠でもあった。

 

 促されるままに椅子に座り、幹部たちと向かい合う。無表情で値踏みしてくる幹部たちの姿に昔の自分があんな感じだったのだろうかと若干感傷に浸るが、すぐに思考を打ち切った。

 

「さて……我々を呼び出したのだから、それに値するだけの事情なのだろうな」

 

「もちろんだ、それに関しては損をさせないと保証しよう」

 

「ならいい、さっそく本題を」

 

「お前たち統合企業財体と交渉がしたい」

 

「交渉? ……その内容は」

 

「統合企業財体を潰そうとする組織についての情報を提供する代わりに、お前たちにはその組織の一人を処理してもらいたい」

 

 話す内容に流石に幹部たちも疑念を抱かざるを得ないのか、胡散臭いものを見るような目で基臣を見てくる。そんな視線を気にすることも無く基臣は

 

「統合企業財体を潰す組織……? とてもではないが信用するに値しない話だな」

 

「まあそうだろうな。……ほら、これが証拠だ」

 

 幹部たちの前に空間ディスプレイを表示すると、基臣がピューレの能力を通じて脳内記憶を映像化したものを再生する。その映像の中には三人が机を囲んで座っていた。その正体は──

 

「ディルク・エーベルヴァインにマディアス・メサ……」

 

「もう一人はヴァルダ・ヴァオスだ」

 

「ヴァルダ・ヴァオス……!」

 

 星導館が所有している純星煌式武装、星脈世代優勢思想の人間が起こした事で有名な翡翠の黄昏事件の真の首謀者として統合企業財体の中では名が通っている存在だった。

 

「こいつらについてだが…………金枝篇同盟、この言葉に多少なりとも聞き覚えはあるんじゃないか?」

 

「…………」

 

「まあ、お前らがその情報を知っているいないの詮索はするつもりはない。問題は、そいつらがこのアスタリスクを破壊する計画を立てている事についてだ。お前たちのとっておきの箱庭であるアスタリスクが破壊されるとなると、ソルネージュだけじゃなくどの統合企業財体にとっても間違いなく大打撃だろうな」

 

「アスタリスクを……? にわかには信じがたいが」

 

「まあそう急くな。詳しくはこの動画を見れば分かる」

 

 基臣が動画を再生すると、オーフェリアを利用することでアスタリスクを瘴気で汚染すること、そしてそれによって高まった反星脈世代感情を利用して対立を引き起こす事。最終的には星脈世代が上に立つ世界を作り出すこと。現状では、おおよそ夢物語としか言えないような計画がその場で話されていた。

 

「見ての通り、これが金枝篇同盟が計画している内容だ。成功するかどうかは別として、実行すればタダでは済まないことぐらいは理解できるだろ」

 

「……ふむ」

 

「言っておくが偽装の類はこの動画に施していない。この動画は渡しておくから、後でソルネージュの諜報部にでも確認させればいい」

 

 基臣の提示した情報に確信は持てないのか、幹部同士で賛否が別れているようで、議論が平行線のままになる。

 

 このままでは決着しないまま時間が過ぎていくだけと判断したのか、幹部の一人が後ろに控えていた青年に話を振った。

 

「……どう思う、《オッド・アイ》」

 

 話を振られた青年は基臣をじっと観察した後、動画の内容を再び確認して口を開いた。

 

「んーそうですね、……まあ嘘はついてないと思いますよ。悪意は感じられないですし、特に映像を見ても違和感はない。彼としても統合企業財体(こちら)を敵には回したくないので、あくまでWin-Winの関係を築きたい……って感じじゃないですかね。対価次第では彼の手に乗っても損は無いとは思いますよ」

 

「……なるほど」

 

 オッド・アイと呼ばれた男は余程信頼されているのか、幹部たちの間でも交渉に関しては徐々に賛成の方向性で意見がまとまったようだった。

 

「先ほど金枝篇同盟のメンバーの一人を始末してほしいと言っていたな。我々は誰を始末すればいい?」

 

「金枝篇同盟の一人、ディルク・エーベルヴァインを始末してもらいたい。対価は先ほどの情報だ。星導館の弱みを握るのに使うなり何なりしてくれて構わない。ただし、情報源が俺だという事を開示するな。後の細かい条件についてはこれに書いてある」

 

 紙の書類をポケットから取り出すと、幹部たちのいるテーブルに置く。その紙の中には、オーフェリアの処遇なども書かれており、幹部たちにとっても都合の良い内容だったため首肯する。

 

「それでは──」

 

「交渉成立だな。金枝篇同盟の情報についてはまた後日渡すから今日はこれで帰らせてもらおうか」

 

 交渉も終わり、基臣は席を立って部屋を後にしようと扉に手をかける。

 

「……あぁ、そうだった」

 

 

 

 

 

 

 

「──契約を違えることはしてくれるなよ。もし違えた場合、金枝篇同盟がどうこうするよりも先に俺がソルネージュを潰すと思え」

 

 

 

 

 

 

 

「…………」

 

 言いたい事を言い残すと扉を開けて出ていった基臣。その後ろ姿を見送った《オッド・アイ》は心中穏やかではない状態だった。

 

(……流石に王竜星武祭優勝候補と名高いだけのことはあるな。やり合えば、俺自身も間違いなく()()()死にかねないし、そもそも戦闘の余波でお偉いさん方が全員死んじまうからな……。それに上層部でも噂になってるあの剣……)

 

 上層部においても、基臣が所持している潔白の純剣(インヴィズ=ピューレ)は個人が所有している純星煌式武装として話題になっていた。

 

(まあ、極(まれ)にではあるが個人が純星煌式武装を所有しているケースはあるにはある。……だからそこは大して問題にはしていない。だが──)

 

 問題は基臣の持っている純星煌式武装の能力だった。映像から諜報部が得た情報によるとその能力はどんな能力も再現できる能力との事だが、その本質は──

 

「──どんな能力でも実質無効化できること、か。噂の第六感との相性もよさそうだし厄介だな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 統合企業財体との会談から数日ほど経ち、今後の方針も大方固まった基臣はひたすら星露と戦って力を付けていくことにしていた。

 

「準備はええかの?」

 

「ああ、いつでもオーケーだ」

 

「うむ、では始めようか」

 

 星露と基臣の二人は武闘場のステージの中心で向かい合う。ふと気になり星露の様子を見ると、ここ数週間やり合ってきて既に実力は伯仲している状態なだけにかなり楽しそうな笑みを浮かべている。

 

「…………」

 

「…………」

 

 両者ともに黙ったままどう動いてくるのかの探り合いが繰り広げられる。数秒経ったその時、そんな沈黙を破って先手を取ったのは基臣の方だった。

 

「誉崎流皆伝、神依(かみより)

 

「むっ」

 

 初手から身体能力を向上させる技である神依を繰り出してきた基臣だが、その動きは以前までのそれとは明らかに違っていた。

 

「この前よりも更に速い……成長のスピードが桁違いじゃの……」

 

 今までは、神依を使っても身体能力のおよそ50%程度までしか力を巧く制御できていなかったが、今の基臣は神依によって身体能力の限界、100%最大まで引き出すことができ、普通の星脈世代を凌駕する動きを実現していた。

 

「フンッ!」

 

「おっと──急急如律令、(ちょく)!」

 

 星露が印を結ぶと、空間が歪み基臣の斬撃を明後日の方向へと反らしていた。

 

「危ない危ない……。もう少しで当たるところじゃったわ」

 

「嘘を、つけッ!!」

 

 攻撃を反らされても止まることなく緩急自在に星露に攻め立てる。

 

「……」

 

 だが、攻撃自体は当たりはするものの、致命打とまではいかない。星露の星仙術はピューレの能力で無効化しているが、無効化されたらされたで次の星仙術を披露される。長い年月を経て習得した星仙術の豊富さによって、基臣は決め手となるような攻撃にまで繋げることができないのが現状だった。

 

(攻撃が当たっても星仙術で回復されるようだと削り切れないな……)

 

 おそらく、長時間やり合えば先に星露の星仙術のレパートリーが尽きて僅差で勝つことは出来るだろう。だが、対オーフェリア戦の事を考えると、勝つのなら真っ向から完璧に打ち負かしたい。

 

(やはり、星露相手となると極伝を使わなければいけないか)

 

 極伝は未だに不確定要素の塊で、成功率も半々といった所だった。極伝を使うのを躊躇する基臣を見て星露は鼓舞するように 叱責する。

 

「ぬしの力はそんなものか! 内に秘める闘争心をもっと開放して見せい!」

 

「闘争心……」

 

「ぬしは何のために剣を振るう、何のために力をつける!」

 

「…………!」

 

「…………お」

 

 星露の言葉に反応すると、基臣が身に纏っている星辰力が先ほどと違い激しく揺れ動いていた。鬼気を上手く御する達人の視点からすればその星辰力は不格好も不格好。だが、時間が経つごとにその不細工な星辰力は綺麗に形を成していき、先ほどの星辰力とは段違いの質になっていた。

 

「どうやらさっきよりもマシな面になったようじゃの」

 

「ふぅぅ……っ」

 

 持っている煌式武装を正面に構え、一つ深呼吸をする。

 

(あの時を思い出せ……)

 

 シルヴィアが一度死んだときの事を回顧する。あの時に心の底から湧いてきた飽くこと無き力への渇望、それを引きずり出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「誉崎流極伝、玉響(たまゆら)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その時、世界は、そして世界の支配下にある万物は動きを緩やかにしていき、そのまま静止した。

 

「…………」

 

 何人(なんびと)たりとも静止したこの世界の中で動くことはできない。

 

 

 

 ──ただ一人を除いて

 

 身体能力と精神を極限まで飛躍させることによって発生する時間が極限まで引き延ばされた空間。その空間の中では適応できる人間以外はどんな強者であろうとも全員時が止まったように停止する。それが誉崎流の秘奥たる極伝の正体だった。

 

 基臣自身もまだ技に慣れていないからか、この世界の中では素早く動けずにいるが、それでも完全に止まっている星露に攻撃を当てるのは容易い。ゆっくりと彼女へと近づき、そのまま剣を振り下ろす──

 

「──っ!?」

 

 ──とまではいかなかった。まだ極伝の制御が甘いのか、攻撃が命中する直前で世界が元に戻り星露が動き始める。

 

「チィ……ッ!」

 

「く、くくく……ッ!」

 

 基臣の攻撃を受け止めた星露はその容姿に見合わない不気味な笑みを零した。

 

「これ……これじゃっ!! この感覚、長年ずっと待ちかねておったわ!!」

 

 極伝に歓喜に打ち震え、キラキラと目を輝かせる星露。だが、極伝は身体に負担がかかるのか、星露の様子に気を配るほど基臣は余裕が無い状態だった。

 

「ちっ……」

 

(あの時は身体の負担を完全に無視して、力を無理やり引き出したから無制限に極伝を使うことが出来たが、現状はまだ一回使うごとに持って十秒といったところか。しかも、発動してる最中は身体が何十倍も重い……)

 

「いいぞ! いいぞっ! もっと儂に力を見せてみよッ!」

 

 今までに見たことの無い興奮度合いで向かってくる星露に、基臣も珍しく感情が高ぶり吠える。

 

「星露ゥゥゥウウ!!」

 

「基臣ィィィイイ!!」

 

 今までの自分とは明らかに違う感覚、全能感。それが己の身体の秘めたる能力を引き出していく。

 

「誉崎流極伝──っ!」

 

 だが、基臣も高揚していく感情に身を任せているせいで、自身が持つ煌式武装がミシリと音を立てていることに気が付かなかった。

 

玉響(たまゆら)!」

 

 再び誉崎流極伝を発動する基臣。二度目の玉響の使用である程度感覚を掴めたのか今度は慣れたように星露へと近づき、煌式武装を振り下ろし──

 

 

 

 ──バキィィッ! 

 

 

 

 二度目の静止した時間の中で星露に攻撃しようとした瞬間、真っ二つに煌式武装が破損した。猛烈なスピードで飛んでいく煌式武装の破片が、とんでもない轟音を立てて入り口の扉にぶつかったのだった。

 

「「あ」」

 

 その様子に二人は思わず声を漏らすと動きを止め、壊れた煌式武装に目を向ける。試合続行不能な状態である煌式武装を見て星露はため息を吐いた。

 

「……まったく、丁度楽しくなってきたところだったんじゃがのぉ」

 

「すまん」

 

「まあ、お主の武器がその状態じゃと鍛錬だの言っておられんじゃろう。どれ、見せてみい」

 

 破損した欠片を回収し星露に手渡すと、破損状態を詳しく確かめ始める。

 

「ふむふむ。……煌式武装に関しては儂にとって畑違いの分野じゃから詳しい事は言えんが、まあ見ただけでもお主の加速によって発生する負荷についていけんという事ぐらいは分かるわい。とんでもない速度で動くわけじゃから当然と言えば当然ではあるが」

 

「となると、この煌式武装は使い物にならないか」

 

「そうじゃの、そこまで来ると純星煌式武装(オーガルクス)クラスでなければ耐えられん可能性がある。といっても、お主にはすでに潔白の純剣があることじゃし二本目の純星煌式武装を、とはいかんがの」

 

 星露の言うように、ピューレが二本目の純星煌式武装は持つなと何度も何度も言われてきているので基臣としても煌式武装を使うしかない。それに加え──

 

「──ぅ……ッ!?」

 

「っと、さすがに体力を消耗しとるか」

 

 フラフラとしながら倒れかけた基臣を支えると、近くにあった長椅子に腰かけさせる。意識が一瞬明滅して飛びかけたせいで、基臣自身でも何が起きたのか理解できていないようだった。

 

「何、が……」

 

「ぬしの使っている極伝は精神と肉体を極度に消耗させる。技を我が物にすればその消耗もまだマシになるじゃろうが、今はせいぜい2,3回使えるのが関の山じゃろうて」

 

「なるほど、な」

 

「まあでも、技の完成度自体は悪い物じゃなかったわい。この儂でもぬしが接近するのに気づけなかったぐらいじゃからのぉ。昔一度だけ手合わせしたあやつを彷彿とさせるような技じゃったわ」

 

 極伝が作り出す世界に耐えうる煌式武装に、繰り出した際の体力・気力の消耗。解決すべき課題はまだまだあるが、オーフェリアに勝つ可能性が十分に見え始めてきたことにホッとする。

 

「……とりあえず煌式武装に関しては、あいつに相談するしかないな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──というわけなんだが」

 

「えー、あたしたちが作った煌式武装壊しちゃったのー?」

 

「本当にすまん」

 

 ところ変わって、基臣は煌式武装が破損した件について相談するためエルネスタの私室へと訪れていた。たった先ほどまでエルネスタの娘同然の存在であるレナティが一緒にいたのだが、エルネスタが来てから小難しい話になった段階でつまんなくなったのか部屋を出て行ってしまった。

 

 煌式武装を破壊した事を申し訳なく思っているのか、丁寧に腰を曲げて謝罪する基臣にエルネスタは手を横に振る。

 

「いいっていいってー、別に怒ってないし。むしろよく壊せたね。結構耐久性高めの設計にしたつもりだったんだけど」

 

「それについてだが……先に動画で見てもらうか。ほら、これだ」

 

「へー、どれどれー」

 

 基臣から送られた動画を確認する。もちろん、対戦相手であった星露の許可も貰っている。

 

「ふむふむ……」

 

 だが、撮影してある動画では基臣たちの動きが断片的にしか見えず、まともに戦闘状況を理解するのは難しいだろう。エルネスタも同じ星脈世代ではあるが、彼女は別に鍛えているわけでは無い。基臣たちの動きを追う事は難しいだろう。なので後で基臣から解説を入れようと思っていたが──

 

「これって基臣君自身が身体能力を極限まで強化してる感じなの? この前の獅鷲星武祭の時の技とは別物だとは思うけど……」

 

「よく分かったな」

 

 戦闘に関してはずぶの素人であるにも関わらず、基臣の動きをある程度理解できていた。

 

「まあなんとなくそんな感じなのかなって思ってねー。瞬間移動の線も考えたけど、瞬間移動系の《魔術師》が煌式武装を携帯して能力を発揮した際のデータがうちにあったからそういう現象は起きないって結論が出てるしね」

 

「流石にアルルカントでトップを張っているだけの事はあるな」

 

「えへへー、それほどでもあるけどねー」

 

 動画を見終えると、少し納得のいったような表情をしながらベッドの上で黙りこくったまま思案に浸り始める。その様子を見守っていると、しばらくしてエルネスタが口を開いた。

 

「見た感じ基臣君の剣の振りの早さだと煌式武装の方が先に自損しちゃうから、もっと耐久性が無いとまたその動画みたいに派手にぶっ壊れちゃうし、丁度良い機会だから王竜星武祭用に新調しちゃおうか」

 

「いいのか、わざわざ新しく作ってもらって」

 

「本当なら面倒だしやりたくないんだけど。惚れた弱みってやつなのかな、むしろ喜んでって感じ? にゃはは~」

 

「…………っ」

 

 照れくさそうにしながら頬を掻くエルネスタに、彼女の恋心を利用している気がして申し訳ない気分になる基臣。その様子に気づいたのかエルネスタは苦笑する。

 

「別に気にしないでいいからねー、あたしがやりたいと思ってやってる事なんだから」

 

「……そうか。なら、何かしてほしい事とかあるか? さすがに貰うだけだと申し訳が立たないからな」

 

「ん~、それじゃあ……」

 

 エルネスタは手を前に大きく広げると、基臣へ身体を向けた。

 

「ギュッてしてもらおっかなー」

 

「……はぁ、仕方ないな。ほら、来い」

 

「ではでは~」

 

 エルネスタは猫のように身体を擦り付けてくると、嬉しそうにふみゅー、と声を漏らす。前まではこんな事をして何がいいのかと思っていたが、受け入れている基臣からしても存外悪くないなという気持ちになる。

 

 

 

 

 

 ――だが、エルネスタを抱くこと数十分

 

「…………なぁ」

 

 さすがに同じ姿勢のままいるのも疲れてきたこともあって肩を叩いて離してもらうようにお願いする。

 

「そろそろ離れてくれないか」

 

「んー、だーめー」

 

「やれやれ……」

 

 普段の姿からは想像できない甘えっぷりに、人は見かけでは判断できないという事を感じながら彼女の背中を優しく(さす)る。その手つきが気持ちがいいのか、鈴を転がすような声を微かに上げながらエルネスタは受け入れる。

 

「ねえねえ」

 

「ん?」

 

「最近、胸がまた一段と大きくなっちゃってさー。直接当たった感触はどうですかな?」

 

「…………はぁ」

 

 成長期になったことで、更に豊満になった胸を押し付けてくるエルネスタだが、本当は恥ずかしがっている事が第六感で見え透いている。大方、シルヴィア達を出し抜いて基臣を誘惑しようという思惑があっての言動なのだろう。答えは先送りにしているが、別に基臣にアピールしてはいけないというルールはない。

 

 そんなエルネスタにため息をつきながら、頭に軽くチョップを食らわせる。

 

「いてっ!?」

 

「恥ずかしがるくらいならそんな事をするな。10年後、20年後に黒歴史になっても知らないぞ?」

 

「……っ、もぉー! 第六感であたしの考えてる事丸裸なんて卑怯ー!」

 

 ポコポコと胸を叩くエルネスタに、やれやれと思いながらそれを受け入れる基臣。だが、それが気に入らなかったのか彼女は膨れっ面で顔を近づけてくる。

 

「今後第六感を使うのは禁止!」

 

「使うも何もお前が変な事をしなければいいだけだろうに」

 

「それだと基臣君をいじり倒せないじゃん!」

 

「いじり倒すって……」

 

 ぶーぶー、と頬を膨らまして不満気にするエルネスタに苦笑しながら頭に手を置く。

 

「そういう風にしてる分には愛玩動物的な可愛らしさがあるんだがな」

 

「むぅぅ」

 

 いいように揶揄われるのが嫌なのかエルネスタはギュッと再び強く抱きしめてくる。基臣に見せないように抱き着いて顔を隠しているが、流れてくる感情からその顔はきっと真っ赤になっていることだろう。

 

「まったく……」

 

 そんな可愛らしいエルネスタの姿を愛おしく思いながら基臣も彼女を強く抱き返した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 ──俺がお前を元に戻してやる。何年、何十年かけても

 

(……っ)

 

 何度振り払っても、基臣の言葉が頭の中ににへばりつく。

 

 何故彼は自分にここまで構ってくるのだろうか。たかが偶然出会った人間、たかが知人。特に、自分が世間から見て面倒くさい性格をしている事を理解しているだけに未だに彼の行動原理は何なのかが理解できない。

 

 でも、そんな彼の言葉が嬉しかったと思えたのもまた事実だった。

 

「素直に彼の手に掴まればどれだけよかったのかしらね……」

 

 常に間違った選択をする事しかできない自分に自嘲する。けれど、もうそんなことはどうでもいい。もう少しだけ生きてさえいれば、惨めたらしく()()ことができるのだから。

 

 そんな中、唐突に端末が鳴りオーフェリアの意識が現実に引き戻される。誰かと思って空間ウィンドウを見ると、表示されてる相手は自分の飼い主であるディルクだった。電話に出ると画面越しでいかにも不機嫌な顔で睨みつけてくる。

 

『……おい、何してやがる。約束の時間はもう過ぎてるだろうが、さっさと来いノロマが』

 

 電話の相手であるディルクの馬鹿にするような物言いを聞いて時間を見ると、彼が指定していた集合の時間はとっくに過ぎていた。

 

「…………ええ、分かったわ」

 

 ディルクの小言を聞き流して電話を切ったオーフェリアは手早く準備を済ませる。部屋に飾られているもう枯れてしまった花を一瞥すると、感傷を打ち切るように部屋を出る。

 

 部屋を出て指定された場所へ向かうと、既に車の中にいたディルクが早く乗るように促すので、素直に車内へと乗り込む。

 

 車で移動している途中、何やらディルクがオーフェリアに今回の仕事についての話をしているようだが、そんな言葉は彼女の耳をすり抜けて頭の中に入らない。こうなったのも全部彼のせいだといらつきを基臣へと向ける。

 

 会うたびに心を揺り動かされ、助けを求めてしまいたくなる何かが基臣にはあった。でも、もう会わないとオーフェリアは決意したのだ。

 

「だって……これは運命が決めたことなのだから」

 

 今のオーフェリアにとって運命という存在が唯一の生きる指針であり、絶対順守すべき存在。結論から言ってしまえば現実逃避するための都合の良い道具なのだ。

 

「おい、行くぞ」

 

 ディルクに声を掛けられ車から出たオーフェリアは彼の後をついていく。裏の仕事のため、人通りの無い道を歩いていると、前に人影が一つポツリと立っていた。

 

「あぁ……?」

 

 目の前の立ち塞がる人影にディルクは苛立たし気に視線を向ける。その正体は、オーフェリアのよく知る人物で──

 

「……てめぇは」

 

「半年ぶりくらいだな、オーフェリア」

 

 ──今、一番会いたくない人だった

 

「……っ、基臣……!」

 

「てめぇが噂の誉崎基臣か。いきなり俺の前に現れて何の用だ」

 

「お前に用はない。おい、オーフェリア」

 

 ディルクの隣を通り抜けオーフェリアに近づくと、彼女は基臣の接近に怯えるかのように一歩足を後ろへと動かす。

 

「一つ、王竜星武祭が始まる前に聞いておきたいことがある」

 

「…………っ」

 

「オーフェリア、無視しろ」

 

「俺と最初に会った時に比べて、随分と自分を押し殺してるみたいだが……」

 

「おい、オーフェリア──」

 

 ディルクの言葉を遮るように基臣はオーフェリアの肩に触れる。彼女の気が動転しているからなのか、肩に触れている手はコントロールが乱れてしまっている瘴気によって浸食されていく。しかし、そんなことも気にせず基臣は彼女の耳元で囁く。

 

「自分の命を犠牲にしてこのアスタリスクを破壊する。それは、本当にお前が望んだ選択なのか? 自分が楽になる方法を見つけたから、ただ目の前の現実から逃げてるだけじゃないのか」

 

「違う……っ! 私は逃げてなんて……」

 

「なら何故こいつの言う事をそっくりそのまま聞いているんだ。どう考えても思考停止しかしていないだろ」

 

「私は運命に従ってるだけで──」

 

「…………チッ。おいオーフェリア。こいつを叩きのめせ、邪魔にしかならねえ」

 

「……え?」

 

「てめぇも鬱陶しく思ってるだろうが、やれ」

 

「でも──」

 

 

 

 

 

「──やれ。それがてめぇの運命だ」

 

 

 

 

 

「……運命。そう、運命……。それが私の運命……なのだから」

 

 自分に言い聞かせるように何度も運命運命と繰り返し言葉を発する。そして、オーフェリアはディルクの指示に従い、彼女の身に纏う瘴気が基臣を害そうとする。

 

「……やはりダメか」

 

 身体に絡んでこようとするオーフェリアの瘴気を、そのまま抵抗することなく受け止める。星辰力の質が良くなったとはいえ、その程度で瘴気を防げるわけもなく、全身の皮膚が呪詛に(かか)ったかのように血色の悪いものになる。

 

「なんで…………!」

 

 眉一つ動かさず瘴気を受け入れる基臣に、これ以上傷つく姿が見たくないのか、オーフェリアは無意識に彼の身体を突き飛ばす。

 

「っと……どうした、いきなり突き飛ばして。俺を殺さないのか?」

 

 突き飛ばされた基臣はゆっくりと立ち上がると、再びオーフェリアに問いかける。見かけ上は平然としているが、瘴気に身を侵されようものなら、意識を失ってもおかしくない程の激痛が奔る。そのはずなのに、なぜ彼が正気を保っていられるのかが分からない。ゆえに、彼の姿はとても恐ろしいものに見えた。

 

「……どうして、どうして……っ!」

 

「そうやってお前は人を傷つける事さえ自分で決める事を放棄するのか? 嫌なことから逃げ続けるのか?」

 

「っ……!! 違う……私は……私は……っ!」

 

 基臣が質問をするたびにオーフェリアの様子はおかしくなっていき、ついにはその無表情だった顔が今にも泣きそうになっていた。

 

「おいてめぇ……。何をしやがった」

 

「俺が何かをしたわけじゃない。お前がオーフェリアを現実逃避するように惑わし続けてきたから、その現実と今まで向き合ってこなかったツケが回ってきた、それだけだ」

 

「てめぇ……」

 

「俺はお前を絶対に許さない。人の不幸を食らい続けるお前を、お前の人生を」

 

 殺気を混ぜて睨みつけても基臣に臆することなく、ディルクはオーフェリアに近づく。

 

「覚悟しておけよ。お前は確実に裁かれる。己の為した業が故にな」

 

「…………ちっ。おい、行くぞオーフェリア」

 

「……っ! …………ええ」

 

 基臣の横を通り抜け、街中へと消えていくオーフェリア達の後ろ姿を見送ると、ピューレの能力で瘴気によるダメージを治癒させる。最初から攻撃を受ける事は想定していたため、最小限のダメージになるように保険をかけておいたことが功を奏したのか、すぐに完治した。

 

「ディルク・エーベルヴァイン……、非星脈世代なのに中々に肝が据わっていたな」

 

 オーフェリアの記憶からもある程度ディルクの事を知ってはいたが、実際に相対してみるとその異質さがよく分かる。あの目は自分が勝つことを望んでいない。相手が負ける事だけに心血を注いでいる異質な目だった。

 

 まともにやり合おうものなら、こちらにも少なくない痛手を負う事は間違いないだろう。

 

「ソルネージュが直々に処分するからあいつを相手にしなくていいのは助かったな。……さてと」

 

 端末を開くと、ある連絡先へと電話をかける。

 

「……ああ、王竜星武祭が始まる前に一つ頼みたいことがあるんだが──」

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

設定集

設定集単品での投稿はNGですが、作品に付随する形での投稿はOKだろう
という事で試験的に投稿します。
もし、運営様にNGを食らったら削除しますので、ご理解ください。


 誉崎 基臣(ほまれざき もとおみ)

 

 中等部三年時点

 身長:179cm 

 二つ名:幽鬼の魔術師(ラダマンテュス)

 

 本作の主人公。元々は日本の関東圏にある実家にて生活していたが、父の死後、強さを求めるために特待生として界龍第七学院に転入する。

 

 当初は基本的に戦う事以外に興味を持ってなく、良く言えば一途、悪く言えば無関心な性格をしていた。だが、ヒロインや界龍の友人たちとの交流によって、徐々に歌や花など様々な事に興味を持ち始めている。

 

 父の遺言から、人助けを積極的に行っている。最初は義務的な側面で行っていた人助けだったが、アスタリスクで過ごしていくにつれて、自分の意思による人助けを行うようになっていく。

 

 基本的に不愉快な感情を向けられても気にすることはないが、自分の命を狙う危険な存在だと分かれば殺すことも容赦しないタイプ(ただし、殺しを行ったのは今までで一回のみ)

 

 父に強制されて2歳になった辺りから剣術を学んでいたため、剣術の腕前は非常に高い。また、あまり作中では言及されることが無いが、莫大な量の星辰力を保有しているため、攻防共に星脈世代の中ではトップレベル。

 

 現時点で序列は第五位。

 《冒頭の十二人》の座に居座って以降、上の序列への挑戦は行っておらず、基本的に下の序列からの挑戦を受け入れている状態である。

 鳳凰星武祭で見えない剣を操り、死角からの敵の攻撃を第六感によって華麗に躱すその活躍、会見時に見せた無表情な姿から、現世に蘇った亡霊のようだと例えられ《幽鬼の魔術師(ラダマンテュス)》の二つ名で呼ばれている。

 

 

 

 《第六感》

 

 精神感応系の能力。外から流れ込んでくる目に見えない様々な思念を、ミクロレベルまで細かく感知することが出来、その思念を脳内で演算処理することによってダイレクトに能力者に反映する。前述の処理を経る事で、すぐ先に迫っている未来の情報や、生物が放出する様々な感情などを感知できる。更に、第六感が覚醒すると、対象の記憶や人格を形成している情報、死者の思念すらも読み取れるようになる。

 

 ただし、幼少期の能力を上手く制御できていない時期は、他者の負の感情をダイレクトに受け取るために人格形成の段階で性格が歪むことが多い。特に、星脈世代が世界的に見てマイナスイメージで捉えられている事がその負のスパイラルに拍車をかけている。

 

 

 

 誉崎流

 

 500年ほど前から存在していると言われる、誉崎一族にのみ相伝される技術。剣術のみに限らず、組討術、二刀術などの技術も存在する。人を殺すことにのみ特化している技で、人の死角を突く技や剣という近接武器からは想像できない遠距離技などの不意を突くような技が多い。奧伝までは度々習得者が現れていたが、皆伝以上は現在基臣を含めて3人しか習得できていない。また、前述の内、基臣以外は皆伝を他者の前で披露した事がないため、誉崎流には奧伝の次は極伝しかないと思われている。

 

 

 

 所有煌式武装:潔白の純剣(インヴィズ=ピューレ)

 

 誉崎家が代々継承してきた純星煌式武装(オーガルクス)。普段は認識阻害によってその姿を隠しているが、見た目は、純度の高い水晶のように透き通るような透明色の刀身。両刃のため分類上は剣に属するものの、起動した際の姿は日本刀を想起させる薄い刀身が特徴。その見た目と、使い手の望む能力を何でも使えたことから「主の心を映す鏡」とまで言われた強力な純星煌式武装。

 

 はるか昔は星脈世代であればどんな者にでも力を貸してくれるかなり手懐けやすい純星煌式武装であったが、とある出来事によって近年で使い手となった者は基臣を除けば誰もいない。

 

 能力は、前述のように使い手が望めば自在に能力を行使することができる。彼女が許可すれば、能力使用の制限は無く、死者の蘇生や人類規模での記憶改竄(かいざん)など非常に強力の能力を使用可能。だが、強力な能力を使用できる代わりに要求される代償はかなりきつく、使い手にとって最も精神的負荷のかかる夢を見せてくる。更に、より強力な能力を使用するほどその夢は現実感を伴うようになり、最終的には寝なくても現実のものとして感触の伴った夢を永遠に見せられるようになる。

 

 性格は、甘えたがりで他の煌式武装を使う事に嫉妬する依存体質型。元々は、昔のトラウマから自分の意にそぐわない行動を取ると、邪魔するような事が多かったが、基臣との交流を経てその態度もかなり改まってきている。

 

 彼女の意志で自律行動が可能で、基本的には基臣と一緒に行動していることが多いが、時々ヒロインたちと遊ぶために、人間の姿を具現化して本体とは独立して出歩くことがある。皆から呼ばれている愛称はピューレ。

 

 

 

 

 

 

 シルヴィア・リューネハイム

 

 序列:クインヴェール女学院1位

 

 ヒロインの一人。

 

 基臣がアスタリスクに来て初めて友好的な関係を結んだ人間。

 

 当初は、基臣の事を一般生活についての知識の浅さから、放っておけない人間として友人のような態度で見ていたが、一人でいた時にウルスラに襲われた所を基臣に助けられたことによって、異性としての好意を抱くようになった。

 

 表面上は飄々とした性格のように思われるが、まだ中等部なので精神的に成熟しきっておらず、初心な側面が時折見受けられる。

 

 アイドル活動の合間に頻繁に基臣へと会いに行っており、戦闘マニアな彼の私生活を改善するようにカラオケに行ったり、ウィンドウショッピングに行ったりなどしている。出会った当初は、基臣から遊びに行くことを拒否されたりもしたが、強引に連れていけばなんだかんだで同行してくれるので、それ以降はあまり修行の邪魔にはならないようにして、無理やり街へと連れ出している。

 

 ピューレからは、母親のような存在として好かれており、シルヴィアも彼女を愛娘のように可愛がる事が習慣になっている。

 

 

 

 

 

 

 (リー)沈華(シャンファ)

 

 

 序列:界龍大七学院6位

 煌式武装:紙札型、???型

 

 ヒロインの一人。基臣と同じ界龍に在籍している。

 今作では、昔の星脈世代いじめによって友人が一人も出来ず、性格が歪んでしまったという設定になっている。

 

 元々は高圧的かつ高飛車な態度を取っていた事で彼女の所属派閥である水派と対立している木派からは嫌われていたが、基臣との交流によってその態度もかなり軟化し、今では木派と水派の橋渡し役になっている。

 

 基臣の事は、好意を持ちながらもどこか抜けた性格をしているため放っておけず、基臣にくっついてあちこち行くところから界龍内では学内一のおしどり夫婦と言われていたりする。

 

 ピューレからは姉のような存在として見られている。また、同じ学園にいるという性質上、一番ピューレと一緒にいることが多く、彼女のお世話をしてあげることも多々ある。

 

 

 

 

 

 

 エルネスタ・キューネ

 

 

 ヒロインの一人。

 

 RTA完走のための検証の際の記憶が一部継承されてしまったことによる産物(バグ)

 

 検証時の記憶を継承しているため――つまり、途中でダメになって完走を放棄した記憶も存在するため――悪夢を見る事も多く、その事を基臣に相談した際に親身になって聞いてくれたため、彼に対する恋心を自覚するようになる。

 

 普段はマイペースな性格で他人を振り回すが、基臣には心中を見抜かれているためめっぽう弱い。

 

 娘同然の存在であるレナティを利用して、基臣を既成事実で落としにかかろうと画策していたりするが、なんだかんだで上手い事回避される。

 

 ピューレからは嫌われてないものの、苦手にされていてエルネスタの姿を見た瞬間、実体化を解いてしまうぐらいには敬遠されていたりする。原因は言うまでもなく、許可を取らずにピューレの身体にべたべた触りまくったり、くすぐったりしたせいであるが、本人は特にそういう自覚はない。

 

 

 

 

 

 

 ミルシェ

 

 

 ヒロインの一人。

 

 原作と同様、恋愛に対して初心な性格は相変わらず、基臣と手を繋ぐだけでも赤面することがしばしば。本作では色々と縁があって、沈華とは親友のような仲になっている。

 

 最初はシルヴィアの事を(たぶら)かしているのかと思って、基臣を排除しようとしていたが、交流によってむしろ自分が基臣の事を好きになっていった。仲間であるルサールカのメンバーたちは、最初はその事をネタに揶揄(からか)う事も多かったが、途中からミルシェの惚気が多くなって面倒くさくなっていったので適当にあしらうようになった。

 

 仕事を抜け出して基臣にちょくちょく会いに行っているため、よくスケジュールを狂わせることがマネージャーであるペトラの悩みの種になっている。

 

 ピューレからは友達に近い感覚で接されており、時々会っては遊ぶ姿がファンの間で目撃されている。

 

 

 

 

 

 

 オーフェリア・ランドルーフェン

 

 

 序列:レヴォルフ黒学院1位

 所有煌式武装:覇潰の血鎌(グラヴィシーズ)

 

 ヒロインの一人。

 

 基臣が鳳凰星武祭(フェニクス)を優勝した後、再開発エリアで初めて出会う。

 

 最初は初対面にもかかわらず近寄ってくる基臣に警戒心を強めていた。だが、交流を経ることで方向性は違うものの、基臣と自身が似た者同士である事に気づき、徐々に親近感を覚えるようになる。

 

 精神世界の中で花を触れるようにしてくれたり、自分の事をよく気にかけてくれる基臣の事を少しずつ意識するようになり、本人は自覚していないものの、基臣に恋心を抱くようになった。

 

 しかし、ディルクからの命令もあり私情を捨てて基臣から離れようとするが、何度も会おうとする基臣のせいで精神的に不安定な状態になっている。

 

 中等部2年以降交流機会が段々と減っていったため、実体化したピューレとの面識はない。

 

 

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

if⑤ フジハタザオ -共に生きる-

普段のクールな姿から一転、可愛らしい姿を拝めるオーフェリア回なので初投稿です。

もう少し早いペースで執筆できると言ってましたが、普通に忙しかったので次の投稿も1か月後ぐらいになるかもしれません、申し訳ないです。
出来るだけ早くできるように善処します。


 私、オーフェリア・ランドルーフェンは家族を知らない。物心づいたころには一人で、物乞いをしてはなんとか食いつないでいく生活を繰り返して暮らしていた。もちろん、家なんて物はなく、路上で一夜を過ごすことが日常だった。

 

 その日その日を生きるのに必死で、将来の事なんて考えたことも無い。運が良ければ生きながらえて、悪ければ死ぬ。そういう星の元に生まれたのが私だ。

 

「なぁ、嬢ちゃんよぉ……。てめぇみてえなちびっこがこんな所に来るなんて、どうなるか理解できてるんだろうな?」

 

「ひぅ……っ」

 

 生まれ持った不運のせいか、こんな風に悪い人に絡まれてしまった時にも誰も助けに来てはくれない。正確に言えば、近くに人がいたとしても見向きもしてくれない。私に絡んできてる悪い人たちはこのスラム街では有名なギャングなのだから、誰も助けてくれないのは当然と言えば当然なのかもしれない。こんな不運な事が起こった自分の運命を呪いたくなる。

 

「おいおいおい、ビビっちまって言葉も出ねえのかよ」

 

「小さいガキが大好きな性愛倒錯者どもに差しだせば、ちったぁ金になるだろ。おい、連れていけ」

 

「了解っす、ボス」

 

 捕まったら絶対に良くない事が起こる事ぐらい私でも理解できた。

 

 逃げないと。そう思っても足が(すく)んで思うように動いてくれない。

 

「ぃやっ……!」

 

「おらっ、抵抗すんじゃね――ヘブッ!?」

 

 もうダメだ、そういう考えが頭をよぎった瞬間。私の身体はいつの間にか宙に浮いていた。何かと思って周りを見ると目に映ったのは、私を捕まえようとした男が、どこからか入ってきた男の子に顔を膝蹴りされていた光景だった。

 

「…………え?」

 

 気づけば、浮遊感に包まれていた自分の身体は、私と同じぐらいの年の男の子に抱きかかえられていた。

 

 その男の子はこのリーゼルタニアでは見ない黒髪黒目で、背丈はたぶん私よりも10センチほど大きいだろうか。吊り目がちな瞳に幼い容姿ながらもどこか大人びたような雰囲気が特徴的だった。

 

「おい」

 

 部外者が乱入してきたことによって生まれた数秒の静寂は、男の子によって打ち破られた。彼の瞳は恐ろしく冷たいもので、その瞳を向けられてない私でもゾッとするものだった。

 

「そこのお前。椅子に座ってるお前だ」

 

「あん……?」

 

「そうだ、お前だ。大人しくこの子から手を引け」

 

「……は?」

 

 何がおかしいのか、笑いを堪えきれず声を漏らすリーダーらしき男。けれど、その目は間違いなく怒りに満ち溢れている。

 

「笑わせるなよ東洋人のクソガキ。てめぇは、誰に喧嘩を売ってるのか理解してんのか?」

 

「別にお前らが誰だろうがどうでもいい。だが、相手がどれぐらいの力量を持っているか見極めないと痛い目を見るぞ」

 

「少し強いからって調子に乗りやがって。……おいッ!」

 

 リーダーらしき男が指を鳴らすと、建物の外から続々と仲間らしき人間が中に入ってくる。

 

「いくら星脈世代だからって、お荷物を抱えた状態で大の大人に囲まれたら勝ち目はねえぜ?大人しくしな」

 

「……阿呆どもが」

 

 何十人ものに武装した大人に包囲されてしまった。もう駄目だと諦めた私の頭を男の子は優しく撫でてくれた。

 

「……え」

 

「大丈夫だ、すぐに終わらせる。目を閉じてろ」

 

 恐怖で思ったように動くことが出来ないのに、意外にも彼の言われた通りにすんなりと私は目を閉じることができた。

 

 

 

 

 

「ほぶぇっ!?」

 

「げぼべっ!?」

 

 大の大人に勝てるわけがないと目をつぶっていたけれど、聞こえてきたのはその大人たちの情けない悲鳴だけ。銃声も聞こえてきて、思わず身震いしたけれど痛みは全然やってこない。

 

 殴る蹴るの応酬が続き、一分ほど経っただろうか。

 

 いつのまにか罵声が止んで、どうなったのかと恐る恐る目を開けてみると、映っていたのは男たちが武器を片手に間抜けに地面に倒れ伏している光景だった。

 

「これはシスター・テレーゼには説教を食らいそうだな。……まったく、ツイてない」

 

 マフィアを倒したことに対して何も思う事がないのか、誰かに後で怒られることを憂いている様子だ。なんで見ず知らずの人間を助けてくれたのか訳も分からず、ただ目の前の状況に困惑していると、男の子が抱きかかえている私の顔を覗いてきた。

 

「おい」

 

「っ……!?」

 

「ったく、そんな反応をしないでくれ。流石に傷つく」

 

「ぁ……ごめんなさい

 

「まあこんな(つら)をしている俺も俺か。ところで、怪我は無いか?」

 

「ぇ、ぇぇ……」

 

「そうか、ならいい。立てるか」

 

 特に怪我を負ってないので、彼の言葉に首肯し立ち上がる。すると、彼は私の身体をジロジロと見て、何かを確認する。

 

「本当に大丈夫そうだな。お前、名前は?」

 

「え?」

 

「名前だよ。……もしかして、無いのか?」

 

 このスラム街で名前の無い子たちも少なくない。私もその類なのかと気遣っての事なのだろう。

 

「……オーフェリア。オーフェリア・ランドルーフェン」

 

「オーフェリアか。俺は基臣、誉崎基臣だ」

 

 差し出された手に、おずおずと私も手を差し出す。私よりも少し大きな手が優しく握ってきて、握手を交わす。

 

「よろしく」

 

 これが、私と彼の初めての出会いだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よい、っしょ……!」

 

 マフィアに誘拐されかけたあの出来事から数か月ほど経った。

 

 助けてくれた彼の勧めもあって、私は孤児院へと身を寄せることになった。今は、孤児院を運営するシスター・テレーゼの教えの元、身寄りのない子供たちと一緒に生活している。

 

 最初は慣れない環境での生活という事もあって、周りに振り回されることも多かったけれど、今では私も自分よりも小さい子たちの世話もするようになり、お姉ちゃんと呼ばれるほどこの孤児院での生活に馴染んできている。

 

「兄ちゃん!あそぼあそぼ!」

 

「はいはい、ちょっと待ってくれ」

 

 そして、私を助けてくれた男の子、誉崎基臣。

 

 大人びた雰囲気のせいで、少し近寄りがたい存在だったけれど、洗濯物や炊事、起床など。私が困っていた時は、必ずと言っていいほどフォローに回ってくれる。そんなお人よしな所からか、彼もまた孤児院の子供たちからは今のようにお兄ちゃんと呼ばれて慕われている存在で、年上の人達からも年齢不相応の落ち着き払った雰囲気と星脈世代特有の身体能力を買われて頼りにされている。

 

 ただ、基本的に私を助けるときは無言で助けていつの間にかいなくなることがほとんど、人を助ける事で誰かから何かもらえるのかと思えば、特にそういったこともない。

 

 自分に何の益もないはずの彼の行動に、どこか私は恐れを抱いていたのかもしれない。何を考えているのかよく分からなかったから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ある日、朝早く起きると、花たちを育てる温室の中に一つの人影があった。

 

「……あら」

 

「ん、オーフェリアか。お前が早起きとは珍しいな」

 

「……ええ、まあ。……ところで、ここで何をしてるのかしら」

 

「何って、見ての通り花の世話だ。あまり花について詳しくはないが、朝に誰も世話をしないのは流石にかわいそうだからこうやって早起きして水やりをしてる」

 

 私の質問に答えながら、温室の花たちに丁寧に水をやる。その言葉に嘘はないようで、所作の一つ一つが日ごろからのお世話によって手馴れている事をしっかりと証拠づけている。

 

「私も……一緒にしていい?」

 

「お前が?構わないが退屈だろう。別に仕事でもないしやる義務は無いんだぞ」

 

「問題ないわ、私も花が好きだから」

 

 そう言うと、基臣は一瞬意外そうな顔を見せた。一見すれば私に縁もゆかりも無さそうなだけれど、道端に咲いている花を見るのが、孤独に生きている中での唯一の癒しだったから昔から好きだった。

 

「そうか、ならお願いするとしようか。ほら、ジョウロだ」

 

 彼に渡されたジョウロに水を入れて一緒に水やりをする。チラリと彼の横顔を見ると、心なしか共通の秘密を抱える仲間が出来て嬉しそうな様子だった。今までの何を考えているか分からないような彼だったけれど、こんな表情も出来るのかと彼に対するイメージが少しずつ変わっていく。

 

「ねえ。なんで私の事をこんなに気にかけてくれるの」

 

 もしかしたら、私が見ている彼の姿はあくまで一側面でしかないかもしれない。そう思ったからか深く考えるよりも先に、彼に対する質問が口に出ていた。私の質問を聞いてか、彼は水やりの手を止めると、少し思案に耽るようなしぐさをする。

 

「……そう、だな。正直に言えば、自分のため……というのが一番か」

 

「自分のため?人を助けることが?」

 

 私の疑問に、その反応も当然か、と軽く苦笑しながら基臣は言葉を続ける。

 

「まず、俺が星脈世代だって前に言ったことは覚えてるよな」

 

「ええ、だから私を助けてくれたあの時もマフィアを倒すことが出来たのよね」

 

「そうだな。それで、この事は言ってなかったんだが……俺は《魔術師(ダンテ)》だ」

 

魔術師(ダンテ)……?」

 

「縁が無ければ流石に聞いたことは無いか。まあ特殊能力を持った星脈世代だと思ってくれればいい」

 

「特殊能力っていうと、炎を出せたり空を飛べたりって感じかしら?」

 

「そう、そんな感じ。……で、俺の能力だが、人の心がなんとなく読めるんだよ」

 

「心……?」

 

「といっても、お前が想像してるようなテレパシーみたいな類の心が読めるじゃない。あくまで、相手の感情をダイレクトに感じ取る事ができる能力ってだけだ。まあ他にも、お前を助けた時に使った危険を察知出来る能力とかもあるが、その話は脱線するから置いておこう」

 

「……感情を、感じ取る」

 

「まあ露骨に感情を表にすれば、一般人でも知覚することはできるが、俺の場合はその知覚能力が物凄く鋭敏だ。そのせいか、人からの悪感情を受けたら物凄い気持ち悪い気分になる。そんなわけで、嫌な感情を向けられたくないから善人ぶって好感度稼ぎしてるわけだ」

 

「……そう、なのね」

 

 完全無欠のようで、実は周りからの評価には人一倍に敏感。思わぬ彼の一面を知り、驚きよりも安心感が先にやってくる。

 

「ふふっ」

 

「……何かおかしかったか?」

 

「いえ、今まであなたの事をどこか遠い存在のように見ていたけれど、こうして話してて、とても心優しい人間なんだなって思ったの」

 

「心優しい?俺が……?ただ周りからの視線に怯える、情けない人間にしか見えないだろ」

 

「そんなことないわ。だったらそもそも私の事を助ける必要なんて無かったはずだわ。あの時ほど憎悪を向けられることなんて普通ありえないはずだし」

 

 私を助けてくれた時、基臣は間違いなくマフィアたちから殺意を向けられていたはずだった。その不愉快さは普段嫌悪感を向けられる時の比ではないことぐらいは容易に想像がつく。

 

「それは、まあ……あんな胸糞悪い場面に出くわしたら無視せずにはいられないからな」

 

 彼は自分の事しか考えていない自己中な人間だと卑下しているみたいだったけれど、私からしてみれば、人のために自分を犠牲にできる優しい人間なんだなと思う。

 

「そんなに自分を悪く言わないで。あなたに感謝してる人はたくさんいるから」

 

「…………オーフェリア」

 

 

 

 

 

 

 

 二人で水やりを終えると、ジョウロを倉庫に片付けに行き鍵を閉めてシスターのいる部屋へと持っていった。

 

「お疲れ様。ほら、水だ」

 

「あっ、……ありがとう」

 

 彼から手渡されたコップを手に取ると、ちょっとずつコップに入っている水を喉に流し入れる。眠気交じりだった脳内を冷水が一気に覚ましてくれる。

 

 時計を見ると、まだ起床まで時間があるようだった。話のネタになればと思い、ふと気になった質問を基臣へと投げかける。

 

「ねえ、あなたはいつからこの孤児院にいたの」

 

「俺か?確か……シスターの話によると赤ん坊の頃からここにいるらしい」

 

 詳しい話を聞いてみると、親は基臣が生まれてくる前にこの孤児院に来た事があるらしく、基臣を入れていた籠の中に残していった手紙の内容から仕方ない理由があって孤児院に預けたのだろう、と基臣は言う。

 

「ほら、この写真にいる二人が俺の両親だ」

 

 基臣がポケットからペンダントを取り出したので中に入っていた写真を見せてもらうと、どこかここではない場所にある家の前で写真を撮っている二人の顔があった。親だと言われてみれば、確かに基臣にはこの写真の二人の面影をどこか感じるような気がした。

 

「一度でもいいから……会ってみたいな……」

 

 しばらく写真を眺めていると、ポツリとギリギリ聞き取れる声量で独り言を呟いた。ハッとなって彼の顔を見ると、どこか哀愁漂う雰囲気を漂わせていた。

 

 それを見て、基臣の心の中にある孤独を理解できた。本当は写真の中にしかいない親の温もりを感じていたかったのだ。まったく繋がりがないのならまだしも、こうして残していった写真や手紙が彼と両親との繋がりを生み出しているが故の孤独。

 

 だから、私はそんな基臣の身体を優しく抱きしめることにした。

 

「ぇ、オーフェリア……?」

 

 そんな突然の行動に基臣も動揺したのか離そうと手を掴んできたけれど、私の意図をなんとなく理解したのかすぐに力が弱まって私のなすがままにされる。

 

「私には最初から親がいなかったから、あなたの気持ちが分かる、なんてことは言えないわ。でも――親の代わりにはなれないけれど、せめて……私があなたの心の支えになってあげたい」

 

 私は決して基臣の親ではないから、彼の孤独を完全に埋めることは出来ない。それでも、私を救ってくれた彼に何かしてあげたいと心の底から思った。

 

「…………ありがとう」

 

 基臣もまた私の背中に手をまわし、ゆっくりと抱きしめてくれる。そして、起床の時間になるまで私達は抱きしめ合い続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 それからは、朝早く起きて基臣と一緒に花に水やりをすることが習慣になり、彼とは随分と距離が縮まった気がした。普段から彼と一緒に行動することも多くなり、彼に対する見方が大きく変わった気がした。

 

 それと共に彼に対する恋心を自覚するようになった。ただ、彼も私が抱いている恋心を《魔術師》の能力で理解しているのか、私に対する態度がどこか恋人のそれに近いものになっていった。ただ、あくまで恋人のそれに近い関係というだけで恋人ではない。その証拠に恋人だったらするのだろうキスはしていない。本当なら、もっと関係を進めててもおかしくないのかもしれないけれど、私たちは私たちのペースで関係を進めていこうと思っている。

 

 

 

 

 

 

 

 ――――――――

 

 

 

 孤児院の生活にも慣れて数年、孤児院での生活に少し変化があった。

 

 それは、たまたまスラム街で助けたユリスという女の子が、孤児院に定期的に遊びに来てくれるようになったことだ。シスター以外の孤児院の皆は気づいていないようだったけれど、身なりからして彼女はおそらく王族だと私は気づいた。その事を彼女に聞いてみると、王宮にいる人たちの目を盗んではこうして私たちの元に遊びに来ているみたいだった。まさにおてんば王女様といったところだろうか。

 

 そんなおてんば王女様であるユリスをコントロールするのが基臣の役割で、猪突猛進に突き進む彼女を上手い事基臣が制御するという構図が孤児院でいつもの定番になっていた。

 

 時には、ユリスの提案でシスター・テレーゼ監督の元、基臣と模擬戦をすることもあった。といっても、基臣は喧嘩慣れしている事もあってか、模擬戦と言うよりは基臣がユリスに稽古をつけてあげているという方が正しい。

 

「せいッ!」

 

「甘い」

 

「……痛っ!」

 

 今もこうして二人で木剣を持って模擬戦をしている最中だ。基臣のほうが武術や剣術の腕は上で、ユリスをに手玉に取っていて今のようにユリスが空振りした隙に木刀で綺麗に一発を入れられている。

 

 その一撃を受けた頭に手を置いて悶絶しているユリスに基臣は手を差し出す。

 

「もう少し冷静に立ち回れ。俺の能力を抜きにしてもお前は考えが読みやすすぎる。動きは最小限に、攻撃する場所に目線を置くな」

 

「むぅぅ……。少しは手加減してくれてもいいだろう」

 

「駄目だ。お前は厳しくしないとある程度まで行ったら成長しなくなるタイプだからな。将来、星武祭で優勝したいのならせめて俺と互角に戦えるようになれ」

 

 ユリスには星武祭で優勝して国のために叶えたい願いがあるらしく、そのための特訓に基臣も快く協力している……けれど、結構スパルタな一面があるのでいつも特訓が終わるとユリスは大の字に倒れるのが恒例になっている。

 

 いつものように地面に横になって呼吸を整えているユリスに水を差し入れする。それを見た彼女はゆっくりと起き上がると、私からコップを受け取った。

 

「お疲れ様、ユリス」

 

「まったく、基臣め……厳しすぎないか」

 

「ふふ、でもユリスもそのおかげで強くなっていってるでしょう。素人目から見てもあなたが強くなっていってると思うわ」

 

「だといいがな……。あいつに勝てるビジョンがまるで見えん」

 

「頑張ればユリスならできるわ。きっと星武祭でも優勝できるはずよ」

 

「基臣の奴もお前も、簡単に言ってくれるな」

 

 ユリスは呆れたように私を見てくる。水をグイッと飲み干すと、一息ついて私に話題を振ってきた。

 

「で、基臣とはどこまで恋人関係を進めているんだ」

 

「えっ……」

 

「何もそんなに驚かなくていいだろう。孤児院のみんなもシスターも、お前たちの関係は周知の事実として扱っているから自然と私の耳にも入ってくる」

 

「そう、なのね」

 

「どうだ、キスまでしたのか」

 

「彼とは手を繋いだり、ぐらいかしら……」

 

 私の回答が予想外だったのか、少し呆れた様子で基臣のいる方向を流し見る。

 

「……はぁ、基臣の奴め、少しは恋人らしい事ぐらいすればいいものを。お前も大変だな」

 

「ううん、平気よ。今の関係でも十分私は幸せだから」

 

「キスもロクにしていないのに、雰囲気だけは熟年夫婦みたいだな、お前たちは。まあ、オーフェリアがそれでいいのなら構わないが、ほかの奴に取られないようにした方がいいぞ」

 

「……あはは」

 

 こうやって、ユリスに時々茶々を入れられる時もあったけれど、基臣とユリスと私、3人で一緒に過ごす日常はとても充実したものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ある日の夜。特に理由はなく、たまたま目が覚めた。

 

 基臣のいる布団が気になって目を向けると、眠っているはずの彼の姿はない。トイレかと思いしばらく待ってみたけれど、待てども待てども返ってこない。

 

「どこに行ったのかしら」

 

 彼の居所が気になって寝室を抜け出すと、みんなを起こさないようにこっそりと歩いて彼を探す。

 

 孤児院の中でコソコソしているとシスターにばれるだろうし、恐らく外にいるのではないかと思って、こっそりと孤児院を出てみる。最初に温室の方へと向かったものの、夜遅くにはいなかったようで鍵がかかったままだった。

 

 どうしたものかと思って他の場所をぐるりと歩き回っていると、孤児院の屋根から地面に向けて、人影が伸びている。目線をあげて屋根の上を見ると、そこには空を見上げている基臣の姿があった。

 

「……ん、オーフェリアか。夜分遅くにどうしたんだ」

 

「あなたが布団にいなかったから少し気になって」

 

「あぁ、なるほどな」

 

 合点がいったのか、悪戯がバレた子供のように苦笑いして私へと手招きしてくる。

 

「少し夜空を眺めててな。ほら、お前も来いよ。星が綺麗だぞ」

 

「え、でも……」

 

「俺が連れてきてやる。よいしょ」

 

 孤児院の屋根から降りてくると、私の身体を抱える。

 

「ふぇっ……!?も、基臣……?」

 

 孤児院にある絵本にもこんな風にお姫様を王子様が抱きかかえる挿絵があった。どんな感じなんだろうかとその時は思っていたけれど、まさかこんなにも恥ずかしさが込み上げるものだとは思ってもいなかった。

 

「わざわざ梯子(はしご)を倉庫から持ってくるのも面倒だしな、しっかり掴まれよ」

 

 身体に重力が一瞬だけかかったかと思うと、次の瞬間には軽やかな靴音と共に屋根に着地していた。

 

「よ……っと。ほら、ここに座れ」

 

 屋根の上の座りやすい場所に私を置くと、基臣もその隣にくっつくように座ってくる。さっきのお姫様抱っこのせいで胸の鼓動が高鳴っている気がして、基臣に悟られていないか気が気でなかった。

 

「ほら、上を見てみろ」

 

 基臣の促されるままに上空を見上げた。すると、満天の星空が頭上で(きら)めいていた。

 

「……わぁ」

 

「どうだ、星が綺麗だろ」

 

「きれい……とても……」

 

 一人で過ごしてきていて、余裕が無かったからなのか夜空なんて今まで意識して見上げた事も無かった。それだけに、こんなに澄んでいて星々が瞬いている綺麗な空は生まれて初めて見た気がした。

 

「丁度今日が快晴だったからな。絶好の天体観測日和ってわけだ」

 

「……それなら、私も連れてきてほしかったわ」

 

 私が拗ねたと思ったのか、彼は苦笑いすると機嫌取りをするように頭を撫でてくる。

 

「すまないな。流石に時間が遅いから眠たいだろうと思って、お前は寝かせたままにしたんだ」

 

「今度からは私も一緒よ」

 

「……ああ、分かった」

 

 基臣から天体観測に同行する言質を貰った所で、再び顔を上げ星々が瞬く空を見つめる。

 

「昔は……こうやって空を眺めるなんてできなかった気がするわ」

 

「そうか」

 

「……そして、今の私があるのはあなたのおかげよ」

 

「俺のおかげ?」

 

「あなたが私を暗闇から連れ出してくれた。そして、私の希望の光になってくれた。だから、とても感謝してるわ」

 

「そうか……。その感謝の言葉と感情を貰えただけで、お前を救えてよかったなっていう気持ちになれるな」

 

 暗闇で少し見づらい彼の顔だったけれども、どこか嬉しそうにしているように感じた。

 

 その会話を最後に、しばらく黙ったまま夜空の星々を二人で眺めた後、シスターにばれないようにこっそりと部屋まで一緒に帰った。

 

「じゃあまた明日……って、おい……」

 

 自分の布団に帰ろうとする基臣の手をぐいっ、と引っ張ると私の寝床へと連れていく。彼に布団を被せて一緒に横になると、彼の驚いた顔を見たからなのか、思わずクスリと笑みが零れる。

 

「どうしたんだ、いきなりこんな事をして」

 

「ねえ、添い寝してくれないかしら」

 

「添い寝?」

 

「あなたと一緒に寝たい気分なの。だめ、かしら……?」

 

 私が上目遣い気味に基臣を見つめてお願いすると、やがて彼も決心がついたのか自分の布団に帰ることを諦めてそのままいてくれた。

 

「…………しょうがないな」

 

「やった……!」

 

 嬉しくなって基臣の身体に近づいて密着すると、彼の体温を近くに感じられてどこか安心する。彼の顔を見ると、少し恥ずかしがっているのか私から顔を背けている。

 

「私、あなたに出会えてよかったわ」

 

「……ああ、俺もだ」

 

「これからも、ずっと……あなたと……」

 

 添い寝してくれている彼の顔を見ながら、安心して私は深い眠りに落ちていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………すまない」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「シスター・テレーゼ」

 

「あら。こんな時間にどうかしたかしら、基臣?」

 

「少し、話をしたい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 基臣と一緒に夜空を見上げてから数日。あれからというもの、夜は彼と一緒の布団で寝る事が習慣化していた。

 

「んんっ……」

 

 まだ眠たい目を擦りながら、隣にいるはずの基臣を見る。

 

「おはよう、もとお……み?」

 

 しかし、彼はいなかった。部屋を見回しても彼の姿はどこにもない。

 

「もう起きて外にいるのかしら」

 

 珍しい事もあるものだなと思ったものの、昨日の夜のようにフラフラとどこかへ行ったのだろうとその時点では深く考えないで孤児院を出て温室の方に向かう。いつも彼と朝起きてから花に水やりをしに行くから、私よりも早く向かっているのだと思った。

 

「……あれ、いない……?」

 

 温室の方にも基臣はいなかった。少し気がかりになって花たちの世話をするよりも先に基臣がどこに行ったのかを探す。しかし、教会、炊事場、教室……どこに行っても見つからない。

 

「どこに行ったのかしら」

 

 結局、探す場所も無くなったので、シスターのおつかいで朝早くにどこかに出かけたのだろうかと思って、それを聞くために私はシスターが生活する部屋へと向かった。ノックをすると、シスター・テレーゼがドアを開き、姿を現す。

 

「あら……オーフェリア。お早い起床ね」

 

「シスター・テレーゼ。おはようございます」

 

 部屋から顔を出したシスターに挨拶をする。いつもとどこか違い、影が差したようなシスターの顔に少し違和感を感じたものの、気にすることなく基臣の居場所を聞くことにする。

 

「シスター・テレーゼ。基臣はどこに――」

 

「……っ」

 

 基臣の所在を聞いた瞬間、シスターテレーゼの顔が苦々しく歪む。

 

 その顔はまるで彼に不幸でもあったかのように、口にするのを躊躇っているように見えて仕方が無かった。しばらく何かに葛藤するような仕草を見せた後、シスターは固く閉ざしていた口を開く。

 

「……あなたには話さないといけませんね」

 

「話……?」

 

 胸騒ぎが止まらない。何か悪い事を話そうとしている。そんな予感がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もう、基臣は孤児院にはいません」

 

「――え」

 

 頭が、全身が、シスターの言っている事を理解する事を拒んだ。

 

 そんな混乱する私に、シスターは基臣がいなくなったワケを話した。

 

 ――孤児院は経営難で、このまま借金が続くようであれば借金のカタに誰かを売らないといけないこと。シスターがなんとかして借金を解消しようとしたけれど上手くいかず、その事に気づいた彼は、売り払われることを快く受け入れたこと。私にはその事を内緒にして出ていったこと。

 

「うそ……うそよ……」

 

「オーフェリア……?」

 

 目の前が真っ暗になる。基臣がいなくなった衝撃に身体の震えが止まらなくなり、気づけば天と地がひっくり返ったような感覚に襲われた。

 

「……っ!オーフェリア、しっかりなさい!オーフェリアッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 私はシスターの言ってる事を何も理解できなかった。これは夢だと、幻だと、そう思っていた。いや、思っていたかった。だけど、そんな思い込みも日が経つごとに現実であると理解せざるを得なかった。

 

 気にするまいと気丈に振る舞っていても気づけば涙で視界が滲む。私は基臣のように心も身体も強くないただの弱虫だった。

 

「う……っ、ぐすっ……」

 

「オーフェリア、気を強く持て……」

 

 ユリス、そして孤児院のみんなは優しかった。基臣がいなくなってメソメソとしているばかりの私を、邪険にすることなく優しく接してくれた。でも、そんな優しさでも私の寂寥感は埋まることはない。彼のいない世界なんて、今では考えられないのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 基臣が出て行って数年後、私は修道院の見習い修道女として働くことになった。教会の清掃に、お花の世話・販売、子供のお世話など色々と忙しい日々。普通なら音を上げてしまいそうな忙しさだったけれど、私は仕事に自ら忙殺されにいった。出来る限り基臣の事を思い出さないために、敢えて。

 

 寝ようとするといつも基臣の事が思い浮かんでしまうから、不眠不休で働こうとしたらシスター・テレーゼや同じく見習いとして働いている友人たちに止められた。疲労が溜まりすぎて倒れてしまった時には皆に怒られるどころか心配される辺り、見るからに私の健康状態は良くなかったのだと思う。

 

 けれど、ある日そんな日常に変化が訪れた。

 

『オーフェリア!』

 

「……なにかしら」

 

『やっと基臣を見つけたぞ!』

 

「…………うそ」

 

 それは、基臣がアスタリスクにいるという情報だった。電話の後に送られてきた写真に写っていたのは、髪の色や面影は全く違えど、その顔は確かに私が会いたかった基臣そのものだった。

 

「基臣……基臣っ……!」

 

 私は気が気でなかった。基臣がまた会えるかもしれない、そんな一縷(いちる)の望みが目の前に垂れ下がっているのだ、興奮と嬉しさでおかしくなっても仕方ないと思う。

 

 なんとしてでも会いたかった私は、ユリスに頼み込んでアスタリスクまで行かせてもらうことにした。孤児院が忙しい時期にアスタリスクに行くことに申し訳なさがあったけれど、孤児院のみんなはそんな私を快く送り出してくれた。

 

 みんなの後押しを受け、私は最低限の荷物だけ持ってアスタリスクへと向かった。

 

 慣れない都会のせいで少し道に迷ったりはしたけれども、なんとかユリスのいる場所に着くことができた。さっそく基臣に会いたかった私は、彼女に彼の情報を聞くことにした。

 

「あまり……いい話ではないぞ」

 

 ユリスによると、基臣は実験体としてアルルカントに連れていかれ、そこでいろんな実験に使われたらしかった。

 

 詳しい経緯は分からないものの、王竜星武祭で優勝したらアルルカントの実験体としての責務から解放されるという取引をしていたみたいで、結果、基臣は王竜星武祭で優勝して、取引通り実験からは解放されたらしい。

 

 だが、解放には特に条件なども無く、完全に自由の身になったはずなのに一度も私達と連絡を取っていなかった。一度、ユリスが一人で彼の元に向かったものの、軽くあしらわれて相手にすらされなかった。

 

 基臣の今の様子は異質らしく、今の彼に会えば危険な目に遭う可能性もあるということで、ユリスは私に同伴することになった。

 

 ユリスの案内で、基臣がよく現れるという情報があった公園へと向かった。早朝の公園だからか、人はいない。

 

 

 

 ――ただ一人を除いて

 

 

 

 

「……これはまた、随分と懐かしい奴を連れてきたな、ユリス」

 

 愛しの彼が私の目の前にいた。

 

「久しぶりだな、オーフェリア」

 

「…………基臣」

 

 真っ黒だったはずの髪は真っ白になっていて、充血した瞳に明らかに不健康な肌、身体も瘦せ細ってしまっている。昔とはその姿は大きく変わっていた。

 

 そして、基臣の瞳は言葉で表すとすれば虚無。まるで世界に、そして人に絶望したかのような、そんな瞳に私はたじろいだ。

 

「それで……。今更、俺に何の用だ」

 

「何の用だと……!」

 

 私達を億劫に思うかのような物言いにユリスは静かに怒りを滲ませる。それに呼応するようにユリスの周りに炎が立ち上り、今にも基臣を攻撃しそうな雰囲気だった。

 

「お前、理解してその言葉を言っているのか!?」

 

「理解……?理解も何も、今言った言葉が俺の嘘偽りない本心だ」

 

 まるで私たちの友情を無下に扱うような物言いの基臣に、ユリスは激しく憤慨する。だが、そんなユリスを見ても彼は何も思う事が無いのか、ベンチから海を眺めたままだ。

 

「…………ッ! なぜ……なぜっ、オーフェリアに返事の一つもよこさん!お前はもう願いを叶えて自由の身と聞いているぞ!会いに来れずとも、せめてメールや手紙の一つぐらいは寄越すことぐらいは出来ただろう!」

 

「返事、か」

 

 私達から視線を外した基臣はぽつりと口からユリスの問いへの返答を漏らした。

 

「お前らの事はもう、どうでもいい」

 

「どう、でも……いい?」

 

「基臣、お前ッ――!」

 

 基臣の胸倉を掴むとユリスは激昂する。

 

「どうでもいいだとっ!そこまで戯けた事を抜かすとは心底軽蔑したぞ!お前にとって私達との思い出はその程度の物だったのか!?」

 

「ああ、そうだ」

 

「っ……本当に、変わったな。お前は……」

 

「最初から俺は何も変わっていない。ユリス、お前には一度言ったが、そんなに俺を連れ戻したいのなら、戦って勝って見せろ。それ以外に道はない」

 

「……基臣ィッ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 決着は一瞬だった。

 

 何事かを基臣が呟いたかと思うと、瞬間その場が光に包まれ、気づいたときにはユリスは太陽に直接焼かれたかのように焼けていた。しかも、ユリスの間近にいた私に能力が当たらないようにしてというおまけつきで。

 

 何が何だか分からない私に目もくれず、基臣は長椅子から立ち上がると横を通り抜けていく。

 

「……こんな化け物をいつまでも気にかけない事だ」

 

 ただ無情に、冷淡に、私達との別れを告げると基臣の姿は小さくなっていく足音と共に消えてしまった。

 

「基臣を、止めれなかった……っ」

 

 悲しみもあったけれど、それよりも彼を止めることが出来なかった自分の不甲斐なさが悔しかった。私ごときでは彼の足を止める枷にすらならない、今回の再会は、その事実をズシリと重く受け止めさせられる出来事だった。

 

 それでも、基臣の事を諦められない。私にとって、彼は太陽のような存在だ。彼を失う事は自分の半身を失う事と同義。たとえ死んでしまっても、彼の事を連れ戻してみせる。

 

 

 

 

 

 

 

 治療院にユリスを連れていくと、手加減されていたのかその日の内にユリスは意識を取り戻した。

 

「オーフェリア、もう基臣に近づくな。昔のあいつとは違って、私達を攻撃することに何の躊躇も無かった」

 

「ユリス……」

 

「私があいつの事をなんとかする。だから、お前はリーゼルタニアに帰れ」

 

「…………」

 

 私のためを思ってユリスはこれ以上基臣に接触することを止めたのだろう。だけど、私は彼の事を諦められない。悪いとは思いながらも、再び私は一人で彼の元に再び赴いた。

 

「……今度はお前一人で来たのか、オーフェリア」

 

 振り向かずに私の接近に気づいたのか、声をかけてきた。

 

「ユリスはどうした。非星脈世代のお前の単独行動を、あいつが許すわけがない」

 

「ユリスなら、今は治療院で寝ているわ。確かに彼女には止められたけど、あなたと一人でお話したかったからここに来たの」

 

「……俺の事はもう気に掛けるなと、そう言ったはずだ」

 

「それでも私は……!あなたの事が――」

 

 

 

 

 

「だまれ」

 

 

 

 

 

「――っ!」

 

 絶対的な強者による威圧。だまれという三文字だけで私の身体は一瞬で(すく)んでしまう。

 

「お前たちと俺の間には決定的な溝がある。もう一生俺に関わろうとするな」

 

「嫌……絶対に嫌……。今なら、まだ……あの時の関係に戻れるわ。だから……」

 

「お前は俺がどうなってしまったかを理解してないからそう言えるんだ。……見せてやる」

 

「え……。基臣、なんでいきなり服を……」

 

「いいから黙って見ていろ」

 

 服を脱ぐと、その肌を私に見せてくる。そこには傷などという生易しい表現が似合わない程の傷があった。身体には黒焦げに灼けたような跡があちこちに見え、生きているのが不思議なほどの酷い傷ばかり。黒焦げになっていなくても膿でぐちゃぐちゃになった肌が痛々しさを演出する。

 

「ひどい……」

 

「今の俺は、実験の産物によって複数の能力をこの身に抱えている。当然、能力を手に入れた代わりにそれ相応の代償が付いて回っている。能力が自分の意思によらず暴走する可能性があるという代償がな」

 

「それって……」

 

「俺がいつ俺でなくなるかが分からないってことだ。今でも、見ての通り能力が暴走して自分の身体を焼いてしまってる。これが悪化すれば、誰彼構わず殺すだろうし、それを気に留めることも無い」

 

 その言葉で、ようやく気付いた。基臣も本当は私達に会いたかったんだ。それでも、自分の抱えている重荷のせいで会いたくても会えなかった。

 

 やっぱり基臣は優しい人なんだと気づかされる。だからこそ、彼を一人きりにして寂しい思いをさせたくはない。そう思って、彼の座るベンチに近づく。

 

「……もう近寄るなとたった今言ったはずだが」

 

 彼からすれば私にもう二度と会ってほしくないのかもしれない。それでも――

 

「それでも、私はあなたの隣にいたいの」

 

「……もういい、好きにしろ」

 

 その言葉に呆れたのか、どうでもよくなったのか、私に対する害意を引っ込めるとまた海岸線の方へと顔を向けた基臣。その彼の隣に座ると、焼けただれてしまった腕に触れる。腕に触れたことに彼はピクリと反応は示したものの、特に何も言ってはこない。

 

 何も知らない人間が触れれば不快感しかないだろうその手も、私にとってはとても愛おしい物に変わる。しばらく腕に触れていると、彼は変な物を見るような目でこちらを見てきた。

 

「……俺もそうだが、お前も相当な変わり者だな。いつ自分に害をなすか分からない存在にどうしてここまでしようとするのか、俺には理解できない」

 

「あなたは、私にとって希望の光だったから」

 

「馬鹿だなお前も。救ってもらったその手に焼かれたら意味も無いだろう」

 

「それでも……一緒にいれるなら、あなたの手に抱かれて死んだとして本望よ」

 

「……はぁ」

 

 それ以上何もいう事なく、私の話を黙って聞いてくれた。何も反応は示してくれないものの、前みたいにすぐに立ち去らないところを見るにちゃんと話を聞いてくれているのだろう。

 

 素直じゃない彼の態度に、思わず笑みが零れてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれから少しずつではあったけれど、私に向ける態度が軟化していってる気がした。おそらくきっと何度か話をすれば、昔の彼に戻ってくれる。そんな気がしてならなかった。今日はリーゼルタニアで育てている温室の花たちの話でもしよう。そう思って、彼のいる公園へと向かう。

 

 公園に到着すると、基臣は既にベンチの近くに立っていた。

 

「…………?」

 

 ただ、どことなく基臣の様子がおかしいように見えた。まるで、いつもの彼とは違う雰囲気が漂っているように見えて――

 

「基臣……?一体どうした――」

 

「――来るなッ、オーフェリア!」

 

 大声で制止する基臣の言葉に、近寄ろうとした私の足はピタリと止まる。

 

 よく観察してみると、過剰に放出される熱によって基臣の周りにある空気が歪んで見える。その様子だけで明らかに能力を制御できていない事が理解できた。今はまだ、ある程度能力を抑えているので少し熱い程度で済んでいたけれど、このままだと基臣の言うように全てを無差別に焼き尽くすほどに、能力が暴走することは目に見えて明らかだった。

 

 止めないと、そう思って基臣の制止を聞かずに彼の元へと近づいていく。

 

「近づくな!」

 

 近づいてくる私を必死の形相で止めようとしてくる。だけど、彼を止めるには今しかない。そう思い勇気を振り絞って彼に近づいていく。

 

「っ……つっ!」

 

 身体に焼けるような痛みが襲い掛かり、息も苦しくなる。その苦しみに耐えながらどうにか彼の元にたどり着くことができた。彼をギュッと抱きしめると、落ち着かせるために背中を優しく撫でる。

 

「やめろ……やめてくれ……っ!」

 

 更に痛みは激しさを増していく。でも、決して彼の身体を離さない。今、彼から離れたらもう二度と会えなくなるから。

 

「大丈夫……大丈夫だから……落ち着いて。……ね?」

 

「おー、ふぇり、あ……」

 

 彼を抱きしめる腕、身体、その全てが徐々に熱によって焦がされていくような感覚に埋め尽くされる。けれど、死ぬかもしれないという恐怖は微塵も湧かない。彼を助ける、それができれば自分の身体なんていくらでも捧げる。その思いが私の身体を動かしている。

 

「一生あなたのそばにいるわ」

 

 なんとか基臣を抱きしめて落ち着かせていると、その行動が効いてきたのか身体を突き刺すような熱さが徐々に収まっていく。しばらくすると、能力が完全に収まったのか焼けつくような空気が元に戻っていった。

 

「っぅ、はぁ……はぁ……」

 

「……わっ」

 

 強引に能力をコントロールした反動なのか基臣の呼吸は荒く、私の方へと体を預けてきた。彼の身体に触れると、身体が消耗しきっているのか汗でびっしょりだった。

 

「どうして……どうしてそこまで俺に構うんだ!怖くないのか、恐ろしくないのか?」

 

 私に向かって上げたその顔は、どうして私が離れていかないのか理解できないといった表情だった。

 

 子供のように喚き散らすと、その顔は今にも泣きそうな顔だった。

 

「……やっと本当のあなたを見せてくれた」

 

「っ……!」

 

「どんなに変わってしまっても、あなたはあなた。そこに変わりはないわ。そんなあなたの事が私は好きなの」

 

 私の言葉を受けて基臣の表情が苦々しいものに変わる。

 

「それでも……今のように俺の能力は暴走のリスクと隣り合わせだ。今回はなんとか抑えることが出来たが、最悪の場合はお前を殺してしまうかもしれないんだぞ?」

 

「前にも言ったけど、それならそれで構わないわ。一度あなたに救ってもらった命。殺されるならあなたに殺されたい」

 

「……本当に、それでいいのか」

 

「ええ」

 

「……大馬鹿野郎が」

 

 私の身体を基臣は強く抱きしめると、顔を埋めてすすり泣く音が聞こえる。

 

「ありがとうオーフェリア。こんな俺を見捨てないでくれて」

 

「どういたしまして。……これからはずっと一緒よ」

 

 そうして私達は互いの温もりを確かめ合うように抱きしめ合い続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しばらくの間抱きしめあった後、私は海が見えるいつものベンチで基臣に膝枕をしていた。基臣の頭を優しく何度も撫でてあげると、彼の表情は少し和らいだように見える。

 

「なあ、オーフェリア」

 

「ん、なにかしら」

 

「孤児院を黙って出て行って……本当に悪かった」

 

「……そうね。あの時は私もかなり傷ついたわ。なんで相談してくれなかったのかって。基臣と再会するまでずっと引きずっていたし、みんなにもかなり心配されるぐらい衰弱してたのよ、私」

 

「うぐっ……」

 

 よよよ……と泣いたふりをすると、嘘泣きであると理解しているとはいえ、気まずそうに頬を掻く基臣に思わず笑みがこぼれてしまう。やっぱり、実験で変わってしまっても彼は彼だ。この懐かしさを感じさせるやりとりは昔と大して変わりはしない。

 

「本当に……すまなかった」

 

「それなら、言ってくれるわね。あなたの本音を」

 

「…………」

 

 私の催促に、一つ深呼吸をして覚悟を決めたのか真剣な表情に変わり、膝枕していた状態から起き上がって私と向かい合う。

 

「今まで言えてなかったが……お前の事が好きだ。こんな俺でも、好きになってくれるか」

 

「ええ、もちろん」

 

 基臣の告白に応えると、私は彼との距離を縮め口づけを交わした。

 

 彼の心も体も、既に擦り切れてしまっている。もしかしたら、また今のように能力が暴走してしまう時があるのかもしれない。

 

 だけど、それでもかまわない。彼が傍にいてくれる、今の私にはそんな当たり前が、他の何物よりも一番大事なのだから。

 




今回は基臣が親の手から離れ、リーゼルタニアの孤児院で育てられたら+借金のカタとしてオーフェリアの代わりに連れていかれたらというif話でした。

次はミルシェのif話を投稿してから、本編に移りたいと思います。面白かったと思っていただければ感想をくださると嬉しいです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

if⑥ 世界一を目指して

ようやく全ヒロインのif話を投稿できたので初投稿です。

本当にお待たせしました(1.5か月ぶりぐらい)
これからは今までよりも執筆スピードを上げて本編執筆に取り掛かれそうなので、楽しみに待っていただけると幸いです。


「ねえねえ!あたしの歌、どうだった!?」

 

「すっごい良かったよー!また聞かせてねミルシェちゃん!」

 

「そー?えへへー」

 

 あたしは小さい頃から歌うのが好きだった。そして、歌を将来生業(なりわい)にしようと努力し始めたのは、たぶん初等部になってからだと思う。あまり練習するのは得意じゃなかったけれど、歌を友達に披露して褒められることがとっても嬉しかったから、練習を継続することはそこまで苦じゃなかった。歌でみんなを笑顔にしてそして認められたい、そんな気持ちがあったんだと思う。

 

 だからかもしれない。一人、無関心な表情であたしの歌を聞いている存在が気に入らなかったのは。

 

 そもそも名前を知らなかったので、まずは幅広い交友関係を持つ友達に話を聞いてみることにした。

 

「え?あいつが誰かって?」

 

「そうそう、教室の隅にいるあいつ」

 

「あー、そっか。名前知る機会なんてロクにないだろうし、知らないのも無理ないか」

 

 友達によると、そいつの名前は誉崎基臣というらしく、いつもクラスで一人で過ごしていて、笑う事も怒ることもせずにただ無表情で過ごしてるらしい。そんな根暗な感じで過ごしてるから、先生含めてみんな気味悪がって距離を取っているけれど、その事を彼は一切気にもしていない。

 

 そういうわけでクラスの人間のほとんどが誉崎の名前を知ることなく今の今まで過ごしてきたらしい。まあ、あたしの場合はただ単純に絡みが無かったから認知してなかっただけで、気味悪がってるからという理由ではないんだけど。

 

 確かに、友達に誉崎の事を聞いてから、あたしが時折クラスで歌を披露するときに誉崎のいる方向を見てみると、彼の表情はピクリとも変わらず、窓を見ているばかりだ。何を思っているのか知りたくて、直接理由を聞いてみることにした。

 

「おーい」

 

「……………………」

 

「おいってば」

 

「……なんだ」

 

 自分が呼ばれていると思っていなかったのか、ちょっとだけ意外そうな表情でこちらを見上げてくる。

 

「一つ聞きたいことがあるんだけどさ。なんであたしの歌聞いてもそんなつまんなそうな顔してんのさ。本当につまんないの?」

 

「別に……つまらないとか面白い以前に、興味がない」

 

「……は?」

 

「お前の歌は一般人よりは上手いんだろうが、プロ並みかと言われたらそうでもない。だから、何も思わないしお前の歌になんて興味がない」

 

「はぁ!?」

 

 てっきり(ねた)(そね)みで馬鹿にしたのかと思ったけれど、こいつの表情を見てみるとそういう感情はなく、純粋に関心がないだけのようだ。だけど、その無関心さが逆にあたしの(かん)に障った。

 

「そんなに評論家ぶるんだったら、上達する方法とか教えなよ!」

 

「それは……心当たりはあるが、別にお前に教える義理は無い。……もういいだろ」

 

「あ、ちょっと!」

 

 言う事は全て言い切ったとばかりに、逃げるようにして教室から出ていく誉崎。

 

「むぅ……意地悪な……」

 

 心当たりはあると言っておきながら、教えないなんて卑怯だと思ったが、そっちがそういう態度ならこっちもそれ相応の行動に移れるというものだ。授業が終わると、バレないように完璧な変装をして、誉崎が隠す秘密を探るために、放課後に彼の帰りを尾行することにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………」

 

「…………」

 

 黒いサングラスにフェルトハット、まさに完璧な変装だ。その証拠に20分ほど追いかけているけれどバレることなく尾行することが出来ている。

 

 このままついていって誉崎が隠している心当たりを知ることが出来たら、あたしの歌唱力にも磨きがかかるはずだ。

 

「そうすれば、あたしも世界一に……って、あれ?」

 

 一瞬、妄想の世界に意識を引っ張られていると、いつの間にか視界からあいつの姿が消えていた。

 

「どこに行ったんだよぉ、も~!」

 

 見つかる事覚悟で、急いで誉崎が行き先を探してみるものの、完全に姿をくらませてしまった。当てずっぽうで基臣の行ったかもしれない場所を探し回ったけど、結局時間を浪費するだけで何も成果は無し。

 

「はぁ……もういいや」

 

 仕方ないから帰ることにしよう。そう思って帰途につこうとした時だった。

 

「――あ、綺麗……」

 

 視線の先には桃色の花を枝に付けた綺麗な木がすぐ近くに立っていた。この地域にはない種類の木だろうか。物珍しくて思わず見惚れていた。一軒家の中に植えてあったので、どこの家の木だろうかと思って表札を見てみると、誉崎と書かれている。

 

「誉崎……ということはあいつの家かな」

 

 落星雨(インベルティア)後にグローバル化の流れがあるとはいえ、欧州で和名であるあいつの名字は非常に目立ちやすい。同じ地域に日系の名前で同性の人間がいる事は稀だろう。

 

「う~ん……、でも人間違いだったりしたら――」

 

「――うちに何か用?」

 

「わっ!?」

 

 後ろからいきなり肩をちょんちょんと叩かれて、びっくりして振り返ると落ち着いた装いに身を包んだ女性が立っていた。腰まで伸びた綺麗な黒髪も目を引かれるけど――

 

(右目を閉じてる……。もしかして、見えないのかな?)

 

 それ以上に、右目を覆う瞼がずっとピタリと閉じていることが特徴的だった。つまり、あたしから見える女性の瞳は左目だけ。こういうのを半盲って言うんだったかな。

 

「驚かせちゃったみたいでごめんね~。この家に何か用があるみたいだから声をかけたんだけど、勘違いだったかしら」

 

「あ、えと……この家に誉崎基臣っていますか?」

 

「もしかしてあなた、基臣の友達……ってあら」

 

 女性が何か喋ろうとした時、家の玄関が開きそこから誉崎が姿を現した。

 

「はぁ……、やっぱりついてきてたか」

 

「あ!誉崎基臣!」

 

 

 

 ……………………

 

 

 

 あたしが誉崎と関わりがある事に気づくと、物凄い歓迎ぶりの誉崎のお母さんによって、トントン拍子とばかりに秘密が隠されているであろう家の中にまで入ることが出来た。だけど――

 

「ふ~ん、そんなことがあったんだ」

 

 頬杖をつきながら、あたしの事をほわーんと柔らかな笑みを浮かべ、ジロジロと見てくる誉崎のお母さん。何か微笑ましい物を見つめるようなその目のせいで居心地が悪い。ただ、彼が隠している心当たりとやらを知るまで帰るに帰れない。少しの辛抱だと思い我慢することにした。

 

「基臣が失礼な事を言ってごめんね~。照れ隠しで言ってるだけで、あまり悪く捉えないでもらって大丈夫だから」

 

「はぁ……」

 

「そういえばあなたのお名前は?」

 

「ミルシェです」

 

「ミルシェ?この辺だと珍しい名前だね」

 

「芸名です。自分で考えました」

 

「ほぇー芸名かぁ。まだまだ小さいのにそこまで考えるなんて、随分と意識が高いなぁ」

 

 間の抜けた声で関心している誉崎のお母さんに、思わず気が抜けてしまいそうになる。物凄く厳しい印象を抱かせる誉崎に対して、この人は随分と物腰が柔らかい。本当に親子なのだろうかと疑ってしまうぐらいには性格が正反対だ。

 

「そうだ、自己紹介を忘れてたね。私は誉崎澄玲(すみれ)。よろしくね、ミルシェちゃん」

 

「よ、よろしくお願いします……」

 

「さてと、自己紹介も終わったことだし本題に入ろっか。基臣、ミルシェちゃんが歌を上達させる方法の心当たりって何なの?」

 

「……母さんが教えればこいつも上手くなる、と思ったんだ」

 

「私が……?……あー、なるほどね。そういう事だったら基臣もいじわるせずにミルシェちゃんに普通に教えてあげればいいじゃない」

 

「意地悪とかそういう問題じゃない。母さんを俺の我儘に付き合わせたくないから黙ってた」

 

「……まったく、そんな事気にしないでいいのに」

 

「…………?…………?」

 

 二人の会話に何のことだか理解できない表情をしてるあたしに気づいた澄玲さんは、苦笑いしながら誉崎が隠していた秘密を話してくれた。

 

「あー、実はね……基臣の心当たりって、私の事なんだ」

 

「澄玲さんが?」

 

「自慢みたいになっちゃうけど私、そこそこ歌には自信があるからね。だから、ミルシェちゃんが私に教われば、って思ったみたい」

 

「そう、なんですか」

 

「まあ話だけ聞いてもピンと来ないよね。せっかくだし、実際に歌わせてもらおうかな」

 

「っ……!本当ですかっ!」

 

「といっても、あまり期待はしないでね。長い事、真面目に練習してないからたぶん下手くそになっちゃってるはずだし」

 

「それでも全然大丈夫です!」

 

「それじゃあ移動しよっか、ついてきて」

 

 澄玲さんはあたし達を連れて縁側に向かうと、さっき目についた桃色の花を付けた木――澄玲さんによるとサクラという木らしい――が植えられている庭の方へと出た。

 

「すぅ~、はぁ……」

 

 一つ深呼吸をすると、口を開いて歌い始める。

 

 

 

「~~~~♪」

 

 

 

「……ぁ……っ」

 

 下手くそだなんて、とんでもない。

 

 今すぐにプロデビューしても、デビューシングルからミリオンヒットを余裕で叩きだせる。それどころか、ちゃんとしたマネージャーが付いていたら世界の歌姫として称えられるほどの実力を持っている。

 

 なんで誉崎がさっきああ言っていたのか、気に食わないけれど理解できる。この人の歌は人を惹きつける何かがあるんだと。事実、4,5分ほど歌っていたけれど、それだけで完全に澄玲さんの歌にあたしの心は掴まれていた。

 

「ふぅ……、こんなところかな。随分と不格好な歌声だったけど勘弁してね」

 

「……あの」

 

「ん……?」

 

「あたしに、歌い方を教えてください!」

 

「へ、私がミルシェちゃんに?」

 

「はいっ!」

 

「うーん……ミルシェちゃんはどういうジャンルの曲を歌うつもりなの」

 

「えっと、ロックです」

 

「ロックかあ……。そうなると、ミルシェちゃんと私とでは歌うジャンルが違うからなぁ。バンドのボーカルなんてやったことないし、そういうのはそれ専門の先生に習った方が――」

 

「母さん」

 

「なに?」

 

「こいつに教えてあげてくれないか。別にジャンルは違っても、ある程度の技術ぐらいは教えられるはずだし」

 

「うーん、けどなぁ……」

 

「お願いだ」

 

 腰を折って澄玲さんにお願いをする誉崎に、あたしはただただ驚かされた。散々あたしの歌声を酷評していたくせに、何故今になって手助けしてくれるのかが分からない。

 

「基臣が人のためにお願いなんて珍しいね。何か心境の変化でもあったの?」

 

「……ここまで俺を追いかけてまで、教えを請いに来たんだ。こいつの熱意を無駄にさせるのが勿体ないと思った」

 

「そっか……。まぁ、息子の頼みだし、仕方ないか」

 

「それじゃあ……!」

 

「ミルシェちゃんの先生としてレッスンさせてもらおうかな。よろしくね」

 

「――っ!よろしくお願いします!」

 

 物凄く歌が上手い人からレッスンを引き受けてもらえるという事で、思わずおおはしゃぎした。

 

 その前に誉崎には礼を言っておこうと思った。気に食わなかったけれど、澄玲さんに歌のレッスンをしてもらえるのは基臣の口添えがあったからだ。その礼ぐらいはきちんと言っておきたかった。

 

「……あのさ」

 

「ん、どうした」

 

「その……さっきは、口添えしてくれて、ありがとう……」

 

「あぁ、そのことか。まあ、母さんに教えてもらうからには全力で取り組め。別に俺に対しては礼はいらない」

 

「分かった、頑張る」

 

「ならいい」

 

 表情を変わらないものの、あたしの答えに満足したように頷くとそのまま家の中へ入っていった。

 

「……変な奴」

 

 無表情で感情に乏しくて、何を考えてるのか分からない。

 

 ……でもまあ、たぶんいい奴なんだろうと勘が告げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 澄玲さんに歌のレッスンをしてもらう事になってから3か月ほど。よく誉崎家に出入りするようになったので、澄玲さんと名字も被っている事だしあいつの事も基臣と呼ぶことになった。

 

 レッスンについては、厳しくも優しく、そして何よりも丁寧に発声法から作詞作曲、歌に関するノウハウを全部教えてくれた。

 

 時々澄玲さんから、学校で友達の前で歌ってきなさいって言われるので、指示通りに学校の皆の前で歌ってる。レッスンの成果が表れているのか、学校の皆ももっと歌うのが上手くなったねと褒めてくれる。後で何でみんなの前で歌わせたのかについて聞くと、人前で歌う事がモチベーションに繋がるからって言っていた。

 

 ただ、あたしの歌が上手くなるにつれて、星脈世代の存在が気に入らない奴らがあたしの邪魔をしてくるようになった。妬み嫉みで馬鹿にする奴もいるけれど、こいつらはその典型的な部類に入る奴らなんだろう。

 

 一応、そいつらが邪魔してくることにはあまり気にしないようにはしているけれど、こいつらの馬鹿にするような言動に傷つかないかといえばそうではない。

 

 でも、そんな時に基臣がいつもあたしの事をかばってくれた。

 

 ――お前らはこいつの努力を見てないからそう言えるんだ

 

 ――ミルシェの事を理解してないくせに、知ったような口でこいつを馬鹿にするな

 

 そう言って、あたしの事を馬鹿にする奴らに嚙みついた。あたしの歌に対しては興味無さそうなのに、なぜかこういう時に限ってあたしの事を助けてくれる。

 

「なんであたしの事を助けてくれるのさ」

 

「あいつらが向ける感情が不愉快だったからだ。別にお前のためじゃない」

 

「……そう」

 

 あたしのためじゃないとは言っているものの、照れ隠しで言っていることはあたしの目から見てもよく分かる。無表情でよく分かんない奴だと思ったけれど、案外人間味がある基臣の振る舞いに少し笑いが漏れてしまう。

 

「ふふっ」

 

「……何かおかしい事を言ったか?」

 

「ううん、べーつにー?」

 

 不器用だけど、それでいて優しい所のある基臣の事を、いつの間にかあたしは好意を持つようになっていったんだと思う。……まあ、少し優しくされただけで惚れるなんて我ながら馬鹿みたいだけど、好きになってしまったんだから仕方ない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあ今日はこれまで」

 

「あ、ありがとうございました……」

 

「それじゃあ、おやつにしよっか。座って待ってて、クッキーとジュース持ってくるから」

 

「はーい」

 

 澄玲さんがキッチンの方へと向かっていくのを眺めながら、どうやって基臣をあたしに惚れさせるのかを考えていた。

 

(歌で惚れさせる……は無理だよねぇ。前に比べて大分歌うのが上手くなったはずなのに、全然あたしに見向きもしてくれないし。ま、澄玲さんの歌と比較されちゃまだまだ下手くそだもんね)

 

「こうなったら……澄玲さんに基臣の事を聞いて……」

 

「おまたせ~」

 

 色々と考えに耽っていると、澄玲さんがクッキーとジュースを持ってやってきた。

 

「いっぱいあるから、ほら食べて食べて」

 

「わぁ……。それじゃあ、いただきます!」

 

 相変わらず澄玲さんの焼いたクッキーは美味しい。

 

 夢中になってクッキーを食べていると、そんなあたしの姿を見るのが楽しいのか、ニコニコとしながら見てくる。

 

「あ、そうだ。一つ聞きたいことがあるんだけど」

 

「ひひたいこと、へふは(聞きたいこと、ですか)?」

 

「そうそう」

 

 大した話ではないのだろうと思い、澄玲さんの話を聞き流しながらジュースに口を付ける。

 

「ずばり、ミルシェちゃんって基臣の事、好きなの?」

 

「――ぶっっ!?」

 

 澄玲さんの言ってる意味が理解できず、思わず口の中に入っていたジュースを噴き出してしまう。どういう意味なのかと澄玲さんを見ると、微笑ましい物を見るようにニヤニヤしている。

 

「な、なななっ、何のことですか!?」

 

「あ、図星かな?」

 

「いやっ、別にあいつの事なんか……」

 

「そんなに恥ずかしがらなくていいんだよ。見ててなんとなーくだけど、分かっちゃったし」

 

「……ぅ~~っ!い、いつから分かったんですか……?」

 

「う~んと、ミルシェちゃんが家に来るようになってから4か月経った頃、かな」

 

「……うっ」

 

 澄玲さんが言い当てた時期というのは、丁度あたしが基臣に好意を持ち始めた頃だ。ここまで正確に言い当てられたことに、恋愛経験がある女性の直観とはこうも鋭いものなんだろうか、と驚かされる。

 

 もしかして、私の息子はあなたなんかにあげません!!的な事を言われるんだろうか。

 

 何を言われるのか分からないので、どう答えたものかと、あたしが悩んでいると澄玲さんは手を横に振って苦笑した。

 

「あ、別にミルシェちゃんの恋を邪魔するつもりは無いからね。むしろ、私がミルシェちゃんの後押しをしてあげるつもりで聞いたんだ」

 

「そ、そうですか」

 

 好きな相手の親からの後ろ盾があることに喜べばいいのか、これからずっといじられ続けることを悲しめばいいのか……。そんな事を思っていると、にへら~と澄玲さんが笑みを浮かべながらあたしを見てくる。

 

「……意味深そうに見つめてきて、何ですか」

 

「いやぁ、その様子を見る限りだと、案外孫が拝める日が来るのも早いかな~と思ってね」

 

「孫!?いやいや!?子供なんてまだ早いですからっ!」

 

「あらあら、早いってだけで子供を産む気満々なんだ。まだ付き合っても無いのに、すごい気合の入りようだなー」

 

「そういう意味じゃないですっ!」

 

「あははっ」

 

 ポコポコと軽く叩いても、楽しそうに澄玲さんは笑うのを止めなかった。

 

 その日はこっちから質問するどころか、澄玲さんの質問攻めにあったせいでクタクタになったのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あたしが基臣に対して好意を抱いている事が澄玲さんにバレてしばらく経った頃。

 

 その日もレッスンがあったので誉崎家に着いたけれど、チャイムを鳴らしても返事がしないので、鍵を確かめると開いていたので家の中に上がることにした。

 

「澄玲さーん?」

 

 心当たりがある場所を探すと、お目当ての人物はあっさりと見つかる。

 

「すぅ……すぅ……」

 

 澄玲さんが部屋の中でテーブルに頭を置いて眠っていた。澄玲さんがこうやって眠っている事はたまにあるので気にはならない。

 

 ただ、いつもと違いその目尻には涙が少しだけ溜まっていて、目を擦ったのか少し赤く腫れているのが気になった。

 

「泣いてた、のかな……」

 

 恐る恐る彼女の元へと近づくと、その手には何か写真らしいものが握られている。

 

「家族写真……?」

 

 恐る恐るそれを覗いてみると、写真には、小さい頃の基臣(?)と澄玲さん、それに一人の男の人が写っている。家族写真となると、男の人は必然的に基臣の――

 

「……ミルシェ、ちゃん?」

 

 声に気づいて顔を向けると、あたしが入って来たのに反応したのか澄玲さんが目を覚ましたようだった。

 

「あ……ごめんなさい。勝手に写真見ちゃって」

 

「ううん、いいのいいの。別に隠すようなものでもないし」

 

 今にも消えてどこかにいなくなってしまいそうなその微笑みに、あたしの胸がズキンって痛んだ気がした。

 

「その……澄玲さん、この写真に写っている人は誰なんですか?」

 

「あぁ、うん。これは基臣のお父さん、つまり私の夫だった人の写真なんだ」

 

「基臣のお父さん……」

 

「色々あって、若くして亡くなっちゃったんだけどね。まだ、基臣が4歳の頃だったかな」

 

「そんな事が……」

 

「基臣のお父さんが亡くなって落ち込んでた私を元気づけてくれたのが基臣なの。本当は基臣の方がもっとつらいはずなのに、頑張って明るく振る舞ってたんだ。たぶん私を励まそうとしてくれたんだろうね」

 

「あいつが明るく振る舞うなんて……なんだか、想像できないですね」

 

「まあ今の基臣を見てたら無理もないかもね。でも、明るくて優しくて、よく笑ういい子だったの。ほら、この写真がその証拠」

 

 澄玲さんがアルバムを取り出すと、ある写真を見せてくれる。その写真に写っている幼い頃の基臣は澄玲さんの言うように、今のそれとは全くと言っていいほど雰囲気が違っている。無邪気で心優しい、そんな言葉が似合いそうな少年だ。

 

「……別人みたい」

 

「ふふ、そうでしょ。で、そんな基臣の笑顔に元気づけられる形で私も頑張ってたの」

 

 写真を仕舞うと、先ほどまでの笑顔が一転して曇った。

 

「……でも、その笑顔も私が事故に遭ったせいで消えてしまったの」

 

「事故、ですか」

 

「ある時、暴走したトラックが突っ込んできてね。その時に一緒にいた基臣が危険をいち早く感知して、私を助けてくれたの。おかげで死なずにすんだんだけど……何事も完璧に行くってわけじゃないみたいでね。見ての通りだけど片目、見えなくなっちゃったんだ」

 

「片目……」

 

「私としては命があるだけ儲けものだと思ってたんだけど、基臣はそうは思っていなかったみたいでね。なまじ人を救える力を持ったせいで、私が目が見えなくなったのは自分のせいだって思いこんじゃったみたい。何度も基臣のせいじゃないって言い聞かせてるんだけど……」

 

「今もその事を引きずってる、ってことですか」

 

「うん……。事故で私をちゃんと助けられなかった負い目からなのか、自分だけ幸せになっちゃいけないと思ってるのかな。友達も作らず、遊ぶこともせず。私の手伝いや剣術の鍛錬がほとんど。嫌々やってるわけではないんだと思うけど、親心としては友達を作って外で遊んできてほしいって思ってしまうんだよね」

 

 基臣が学校にいるときは自分を押し殺したような表情で過ごしていた事を思い出した。今にして思えば、母親である澄玲さんを助けられなかった自分に対する(いまし)めのようなものだったんだなと思った。

 

「だから、ミルシェちゃんが家の前に来た時は本当に嬉しかったんだ。やっと基臣にも友達が出来たんだって思ったから」

 

「澄玲さん……」

 

「ミルシェちゃんのおかげで、基臣も少しだけ昔みたいな柔らかい表情を見せてくれるようになってね。あなたには本当に感謝してるんだ」

 

「……感謝なんてそんな」

 

「それに比べて私は……。自分の子供を幸せにしてあげられないどころか、不自由にしてしまうなんて、母親失格だよね。……ほんと、嫌になっちゃうよ」

 

「……っ、そんな事ないです」

 

「ミルシェちゃん……」

 

「基臣は澄玲さんの事を責めてるどころか、感謝してました!大変なはずのに、澄玲さんは一人で自分の事を育ててくれてるって」

 

「基臣が……」

 

「だから、自分をそんなに悪く言わないでくださいっ!」

 

「……そっか……そうなんだ」

 

 あたしの励ましが少しは効いたのか、元のように笑顔を取り戻してくれたようだった。

 

「ふふっ。私の方が大人なのに、元気づけられちゃったね。ありがとう、ミルシェちゃん」

 

「んっ……」

 

 娘にするそれと同じように、あたしの頭を優しく撫でてくる。

 

「そうだよね、私がしっかりしないと基臣に心配されちゃうもんね。……ねぇ、ミルシェちゃん」

 

「何ですか?」

 

「基臣とこれからも仲良くしてあげてね」

 

「もちろんです。でも……」

 

「……でも?」

 

「澄玲さんも一緒じゃないと、やです。きっと今の基臣には、澄玲さんが一番必要な存在ですから」

 

「そっか、じゃあ私も基臣にもっと寄り添ってあげないとね」

 

 そうポツリと呟く澄玲さんの顔は、さっきまでとは違ってどこか吹っ切れたような顔をしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 誉崎家に入り浸るようになってから3年の時が経った。今年の4月から中等部の年齢になるので、アスタリスクに行ってクインヴェールでアイドルとして活動することに決めた。第二の実家みたいな場所だったこの家とも、しばらくはお別れになる。

 

 あと、基臣もアスタリスクに来ることになった。なんでも、星武祭でグランドスラムを達成したいんだとか。

 

「ミルシェちゃんともしばらくお別れかー。中々会えなくなるから少し寂しくなるなぁ」

 

「大丈夫です!長期休暇が取れたら必ず帰ってきますから」

 

「そっか。それじゃあアスタリスクのお土産、期待してるね」

 

「はい!」

 

「それと、基臣も気を付けて行ってきなさい。帰りたくなったらいつでもここに帰ってきていいから」

 

「あぁ、分かった。母さんも気を付けて」

 

「大丈夫大丈夫。お手伝いさんも雇うから、私の事は心配しないで自分の夢に突き進みなさい」

 

「……うん」

 

「さて、言いたいことも言い終わったし、3人で写真撮ろっか」

 

「いや、俺は別にいいから二人で……」

 

「そんなこと言わないの!ほら、ミルシェちゃんも来て!」

 

「あ、はい!」

 

「さーて、時間差で撮影っと。……よっと、ほらほら笑って!はい、チーズ!」

 

 

 

 ……………………

 

 

 

「懐かしいなぁ……」

 

 アスタリスクに行く前に写真を撮ってから3年ほどの時が経った。写真を眺めてて、時が過ぎるのはあっという間だという事を実感する。

 

 澄玲さんのレッスンのおかげで、今ではシルヴィアと肩を並べるガールズロックバンド、ルサールカとして、世界のあちこちでツアーをするほどの知名度になった。未だに基臣があたし達の歌を認めてくれていないけれど、少しは良くなったんじゃないかと素直じゃない評価をしていたのは記憶に新しい。

 

「リーダー、ペトラさんが呼んでるぅ……って、まーた彼氏の写真見てるじゃん。お熱いねぇ~」

 

 ノックもなしにいきなり部屋に入ってきたモニカがあたしが持っている写真の存在に気づくと、いいものを見たとばかりに笑みを浮かべる。

 

「ちょ、違うって!?」

 

「じゃあ私はお邪魔みたいだし退散退散、キャハ♪」

 

「もぉ!だから違うんだって!」

 

 盛大な勘違いをしているモニカを追いかけようと部屋を出たものの、そのころにはモニカの姿はとっくに視界から消えていた。逃げ足が速いのは相変わらずのようだ。

 

「はぁ……まぁ、いっか」

 

 どうせ後でイジられるんだろうなぁ、と半ば諦め気味な考えでモニカは放っておくことにした。

 

 写真を元の場所に戻し、澄玲さんからもらったシュシュで髪を後ろに纏めると、鏡で念入りに確認してペトラさんと会うために準備を整える。

 

「ヨシ!これでオッケーっと」

 

 さーてと、今日も一日頑張りますか!

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

part33

王竜星武祭編に突入するので初投稿です。


 完全に覚醒した力で無双状態になったゲームのRTAはーじまーるよー

 

 前回は誉崎流の極伝を完成させ、ついでにエルネスタに新武装の制作を依頼した後、オーフェリアにちょっかいを掛けに行ったところまででしたね。その後、倍速してよく見えなかったと思いますが、王竜星武祭開始まではガラードワースにちょくちょく顔を出して、鍛錬という形でアーネスト達を相手にしながら極伝を完璧なものにしていたのですが、大会前までに大体満足のいくような出来にまで仕上がりました。

 

 あと、エルネスタからの新武装も王竜星武祭の1か月前ぐらいに到着したので、オーフェリア戦で使いこなせるようにしっかりと慣らしています。

 

 さて、今回からは完全に王竜星武祭(リンドブルス)編に突入していきます。

 

 王竜星武祭は予選4回と本戦で4回の計8回試合をする必要があり、他の星武祭に比べて選手のレベルが高めなのが特徴ですね。といっても、原作らへんはオーフェリア一強状態になっているため、他の選手のほとんどは彼女にダメージを与えられない残りカスみたいなもんですが。

 

 さっそく、開会式を聞きにシリウスドームに向かったのですが、待合室でのシルヴィたちによるホモ君を巡ってのけん制のし合いが怖い事怖い事。こんな状況に首を突っ込める程メンタルは図太くないので、当然スルーです。……まじで雰囲気怖すぎるから外でやってくんねぇかな。

 

 なお、沈華は王竜星武祭の調整のために忙しいらしくホモ君たちとは別行動なので、この場にはいないです。修羅場なこの状況で更に沈華まで投入されようものなら、間違いなくホモ君の精神的疲労がヤバかったので助かりました。

 

 そんな感じでシルヴィたちをスルーをしている間に、開会式が始まるので会場に移動して黒幕さんのお話を聞き流しつつ、今大会の対戦相手を確認していきましょうか。

 

 えぇと……シルヴィにレナティ、沈華とオーフェリアですか。原作では参加してなかったはずのレナティと沈華がいますね。沈華はずっとペアとして一緒に今までの大会に出ていたので、仕様上参加する確率は高いですし、そこまで気にするほどの事ではありませんね。レナティの方も、エルネスタ周りのフラグ管理がズタボロになった時点でそういう予感はしてました。

 

 まあ、原作時点での王竜星武祭の面子と比べれば、参加メンバーが大分マシな方なので、問題なく優勝できるでしょう。

 

 さて、予選ですが(大して強い奴らがいないので)カットだ。もちろん、手の内はなるべく隠したいので予選中は拳のみで相手をバッタバッタ薙ぎ倒します。

 

 倍速中に問題なく予選は突破で来たところで、次は本戦ですね。トーナメントの抽選が行われましたが、ホモ君から見て、本戦1回戦の相手→レナティ→シルヴィ→オーフェリアという順に対戦していくことになりますね。

 

 で、本戦最初の相手ですが、ネイトなんとかさんです。奇妙な踊りで相手の調子を狂わせるてからの徒手空拳を主体とする相手です。クインヴェールの序列2位で、シルヴィのライバルポジ……のはずなんですが、実際はそこまで強くは無いです。踊りながらという状況下でないと相手の調子を狂わせられないので、ヤンデレ剣の能力で一瞬だけでも動きを静止させようものなら、能力発動もクソもないんですね。

 

 発動条件がある能力は不便だってはっきりわかんだね。ちなみに、ヤンデレ剣がない場合は、目を瞑って遠隔誘導爆弾を投擲してから、第六感で相手を察知して爆殺するつもりでした。いずれにせよ、基本的に能力を封殺する形でネイトなんとかさんは攻略していくのが無難です。

 

 解説している間にネイなんとかさんはホモ君がパパパッと倒しちゃったので、倍速して次の対戦相手に移りましょう。はい次ィ! 

 

 次の対戦相手はレナティです。特徴を一言で言えばオーフェリアクラスのバ火力、といったところでしょうか。

 

 このガキ、何が厄介かと言うと《ウルム=マナダイト》を2個連結しているせいで、凄まじい出力を発揮して他者を寄せ付けないレベルの暴力! 暴力! 暴力! で潰しに来ます。最大火力だけを比較すればあのオーフェリアに横並びするレベルです。普通の相手なら一瞬で捻りつぶせる事は容易に想像がつくでしょう。

 

 ついでに頭脳は自律式擬形体(パペット)の中でもトップクラスの演算能力を誇るので、脳筋でありながら頭脳明晰とかいう超スペックの欲張りセットのせいで、割と馬鹿にできない強さではあります。さっき王竜星武祭のほとんどの選手はオーフェリアにダメージすら与えられない残りカスと言いましたが、彼女はそれに当てはまらない例外の一人です。

 

 そういうわけで、真正面から攻撃を受けようものなら、いくら鬼気制御できるホモ君といえども、かなりの痛手になりかねません。だからといって、遠距離からチクチク戦法やろうとしても、レナティの武器は遠近共に使えるタイプなので(楽な逃げ道は)ないです。

 

 その代わり、一撃一撃の隙などはオーフェリアと違って、ほんの少しではありますが存在しているのが良心設計ではありますね。

 

 オーフェリアに集中していたのであまり気にしてはいませんでしたが、改めて文面にして表すと多少の隙があるとはいえヤバすぎますね……。まあ、それでもホモ君が勝つんですけどね(慢心)

 

 なぜそこまで言い切れるかというと、第六感があるからですね。

 

 覚醒した第六感によって相手の行動を完全に把握し、通常よりも何手も早く回避行動を取れるため、まあ余程の状況でない限りは攻撃は当たりません。動くと当たらないだろ! 動くと当たらないだろ! (自己確認)

 

 初期設定の時に第六感を厳選した理由は、この圧倒的なまでの回避性能にあるからなんですね。本来であれば、ヤンデレ剣が無くても覚醒した第六感と剣術系の特殊技能を極伝まで習得していれば、ある程度安定してオーフェリア撃破まで出来るチャートですし。

 

 長々とレナティについて語ってきましたが、そろそろ試合が始まりますね。相変わらずホモ君の事を父親と認識して接してきていますが、周りからの目線が痛いですねぇ……これは痛い……。もしや、エルネスタがレナティを王竜星武祭に出場させたのは、ホモ君を彼女の父親と誤認させるためだった……? (策士)

 

 しばらく親子ごっこに興じた後、試合開始です。ヤンデレ剣の能力ですが、何でもできる能力ではありますが、能力を使用しない方が出力が高いため、レナティとやり合うためにもほとんど能力は使用しません。

 

 それと、誉崎流極伝はオーフェリア戦までは封印です。オーフェリアが負ける可能性があると豚君が考えようものなら、即座にアスタリスクはドカン! としかねないからですね。あーめんどくせー、まじで。

 

 愚痴ってる間に、レナティ不利の展開に進んでいってますね。ただ、そう簡単にくたばってはくれません。ここからが本番です。

 

 レナティはピンチになると、ロボス遷移方式という、直結した《ウルム=マナダイト》2個の出力を最大限に引き出す方式によって、攻撃力防御力共に底上げしてきます。いうなればリミッターを解除した状態と考えてもらっていいでしょう。当然、リミッターを解除した状態は長持ちしないので、長期戦には向いてません。

 

 ──あぶぇっ!? 

 

 話をしているとさっそくですね……。先ほど説明したロボス遷移方式によるリミッター解除状態です。この状態になると、分かりやすく目が金色に変わって身体中が光ります。キェェェェェェアァァァァァァヒカッタァァァァァァァ!! 

 

 そして、今まで使ってた近距離遠距離両方使える装備ユードムラを捨てて、拳で殴り倒してきます。来いよレナティ! 武器なんか捨ててかかって来い!! 

 

 てか、ウルム=マナダイト2つを強制的に最大出力にさせる機能とか、下手したら自壊しかねないのになんつーもんを愛娘に搭載してやがんだ、あのサイコパスと今更ながらに思いますね。

 

 流石にホモ君といえど、ウルム=マナダイト2つ相手に真っ向勝負は分が悪いので、いったん引き下がりましょうか。出力が上がったために防御障壁も強化されているので、本来ならレナティが消耗しきるのを待つのが正攻法ですが、そんなド安定な策を取るのはRTA走者の名折れ。この状況で敢えて積極的にレナティとの間合いを詰めていきましょう。

 

 レナティは高度な演算能力を持っていると先ほど言いましたが、エルネスタがそういう設計をしたためか非常に感情に素直に動くタイプです。なので、未知の事象に直面した時は一瞬動きが止まり、明らかに優勢だと見るや慢心するなど幼子と同等の精神レベルのため、扱いやすくもあります。

 

 本RTAではそれによって生まれる隙を最大限有効活用します。

 

 まずは隙を伺いながら、タイミングを見計らってレナティの腕目掛けてヤンデレ剣を全力で振りかぶります。すると、ヤンデレ剣がレナティの腕に深く食い込んでしまい抜けなくなってしまいます。

 

 ホモ君がヤンデレ剣を主体として戦っているのは彼女も分かっているため、ヤンデレ剣を返さないようにしながら動いてきます。

 

 そこで、こちらは遠隔誘導爆弾を起動してヤンデレ剣を奪い返しに来ると見せかけましょう。本命が直接攻撃ではなくヤンデレ剣の奪取と思わせる事で、本命の攻撃に対する意識を他に移して薄れさせることが出来、がら空きになったレナティの防御障壁を直接攻撃して校章破壊を狙えます。

 

 接近する際、遠隔でヤンデレ剣の能力を起動して素手での破壊力を上げた状態で防御障壁をぶん殴ると破壊出来て校章破壊もついでに狙えるわけです。先輩、隙ッス! 

 

 上手く成功しましたね。これで試合終了です。というわけで、レナティ戦にかかった時間は1分30秒……普通だな! 

 

 ちなみにヤンデレ剣が無かったらどうしてたかと言うと、レナティはカウンターに若干弱いので相手の攻撃をカウンターでそのままお返しする予定でした。一歩ミスればカウンターで威力を相殺できず、そのまま攻撃を食らってしまう結構リスクが高い戦法ではありますが、そもそもレナティを相手にする予定何て当初のチャートにはなかったからね、しょうがないね。

 

 そして、どうやらシルヴィの方も準々決勝を勝ち、準決勝でホモ君とやり合うようですね。ちなみにオーフェリアの方のブロックですが、準決勝で沈華とかち合いそうですね。勝手にやり合って体力削られてくれよなー頼むよー。

 

 次はシルヴィ戦ですね。警戒すべきは様々な能力を行使できる点や──

 

 今回はここまで。ご視聴ありがとうございました。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

裏話33 王竜星武祭・本戦

アスタリスク最終巻が来月発売らしいので初投稿です。


 王竜星武祭(リンドブルス)まであと1か月。

 

 星武祭(フェスタ)最後の締めくくりとなる大会に位置づけられる本大会は、1対1のタイマン勝負という事もあって、特に実力が高い者たちが集まってくる。そうして強者達が集う王竜星武祭では、数ある星武祭の歴史の中でも、ベストバウトと呼ばれる熱い試合が数多く作り出されてきた。そうした背景を受けて、当然、熱い試合を期待している観客の注目度も高く、毎回多くの観客がアスタリスクへと押し寄せてくる。

 

 また、一人で大会に申請出来るというハードルの低さもあってか、参加する生徒も非常に多く、ある程度選別する必要があるため各学園の生徒会はこの時期は特に忙しくなる。

 

 そんなわけで王竜星武祭に向けて忙しそうにするガラードワースの生徒会一員の様子を、鍛錬のついでに生徒会室に寄っていた基臣は来客用のソファに座りながら眺めていた。

 

「随分と忙しいようだな、アーネスト」

 

「まあね。もうすぐ王竜星武祭ということもあって、出場者の参加手続きの管理をしないといけないからね」

 

「なるほどな、どうりでいつもは適当に仕事をこなしているケヴィンが忙しいわけだ」

 

「ちょっとちょっと、オレに対するイメージ、ちょっと酷すぎないかい」

 

「基臣の言う通りだろう。お前は普段が自堕落すぎる。少しは職務を真面目に全うする事だ」

 

「そうですわよ、ケヴィン。一番書類が溜まっているのは貴方なのですから」

 

「うぐ……。はいはい、分かりましたよ」

 

 図星を突かれたのか、ケヴィンは仕方ないなと言わんばかりの表情をしながら、真面目に書類作業に取り組み始める。普段は真面目とは言えない軽薄な性格をしているとはいえ、元々要領はいいタイプなのだろう。与えられた書類を他のメンバーよりも速いペースで捌いていく。

 

「君も出場するんだろう? どうだい、自信のほどは」

 

「まあ、ぼちぼち……といったところだな」

 

「なぁにがぼちぼち、ですの! 王竜星武祭であなたみたいなのが何人もいたら、たまったものじゃありませんわ! 今季のガラードワースは、あなた方界龍(ジェロン)が鳳凰星武祭と獅鷲星武祭を連覇したせいで1位を逃したんですのよ!」

 

「まあまあ落ち着いて。基臣が言ってることも分からなくはない。なにしろ、王竜星武祭にはオーフェリア嬢がいるからね。準備してもし足りないというのが本音だろう」

 

「そんなところだ」

 

 フン、とそっぽを向くレティシアに苦笑するアーネスト。今までほとんど黙ったままでいたライオネルも何か思うところがあったのか、基臣の印象を語る。

 

「それにしても、よくガラードワースの規律を破ることなく馴染めたものだ。お前の実力は散々理解させられたからそこに関して大して驚くことは無かったから、俺としてはそれの方が驚きだ」

 

「俺としても変な騒ぎを起こして除籍処分になりたくないからな。しかも、規律に厳しいガラードワースときたら尚更だ」

 

「そうだよねー、うちのレオみたいなのに目をつけられたら面倒だし」

 

「……それはどういう意味だ」

 

「おおっと、そんなに怒らないでくれよ。君と同じく率直な意見を言ったまでさ」

 

「はいはいそこまでですの。喧嘩をしている暇があるなら書類作業に集中なさい」

 

 口喧嘩になりかけるケヴィンとライオネルの二人をレティシアが抑え、それをアーネストが微笑を浮かべながら見守る。堅いイメージを思わせるガラードワースの生徒会だが、こうした学生らしさを感じさせる光景は界龍と一緒なのだと思わず笑いが零れる。

 

「お、基臣が笑うなんて随分珍しいじゃん」

 

界龍(うち)の生徒会と大して変わらないやりとりをしてるな、と思ってな。最初は堅苦しいイメージがあったからな」

 

「はは……まあ確かにガラードワースの生徒会という事もあって、外部からは堅苦しいイメージを持たれてはいるけど、実際はこんなものだよ。自分で言うのもなんだけれど学生の身だし、適度なガス抜きは必要さ」

 

「それもそうだな」

 

 その後も、仕事の邪魔をしない程度に他愛も無い話題について談笑をしていると、いつの間にか時間も経ち夕方になっていた。

 

「さて……そろそろ俺も帰るとするか」

 

「おや、もうそんな時間か。門まで見送ろうかい?」

 

「いや、そこまで世話になるわけにはいかない。一人で帰らせてもらうさ」

 

 ソファを立ち、帰ろうとする基臣に書類作業の手を止めたライオネルが声をかける。

 

「……誉崎」

 

「ん?」

 

「本来なら敵同士ではあるが、これでも1年弱共に過ごした仲だ……。今度の王竜星武祭、幸運を祈る」

 

「あぁ、ありがとう」

 

「素直じゃないねぇレオも。ま、頑張りなよ。当代最強の剣士さん」

 

「むず痒くなるからその呼び名は止めてくれ」

 

「ははっ」

 

 それぞれから激励を受け、生徒会室のドアを開けた基臣。

 

「それじゃあ、世話になったな。……コソコソ隠れて今まで俺を監視してたスパイさん方にもそう伝えてくれ」

 

 皮肉まじりな口ぶりでアーネスト達にそう告げると、基臣は生徒会室を出て行った。

 

「……ハァ。化け物じゃないかな、彼? 最初から何もかもお見通しだったのかねぇ」

 

 ケヴィンが降参のポーズを取って椅子にずっしりともたれ掛かると、緊張の糸が解けたように息を吐く。その様子にアーネストも苦笑いしながら、基臣の出ていった扉を流し見た。

 

「話半分ではあるけれど、人工衛星から彼の事を監視しようとして逆に睨みつけられたっていう噂があるぐらいだからね。いかに至聖公会議(シノドミアス)の実働部隊といえども、彼の察知能力の範囲外から観察するなんて真似は出来ないさ」

 

「まったく……。変に虎の尾でも踏んで、基臣が報復にでも来ないか心配ですわね」

 

「まあ、余程の事でもない限りは大丈夫なはずだよ。それこそ、彼と懇意にしている人間を害したりでもしない限りはね」

 

「あぁもう……! 私はもうあんなのを相手にするのはごめんですわ」

 

「そう言いながらも、レティもアーニィが忙しい時はなんだかんだで、基臣の世話を焼いていたじゃないか。素直じゃないねぇ」

 

「特例で基臣をうちに入れてはいますけど、事実上の外部生を一人で歩かせるのは外聞的にも色々と困りますの! あなたはもう少し危機感を持ちなさいケヴィン!」

 

「はいはい」

 

「それにあなたはですわね──」

 

 二人の喧騒を背に、アーネストは仕事の手を一旦止めて生徒会室にある窓から外を見る。

 

「戦いに絶対は無いけれど、今回の王竜星武祭。星武祭が始まって以来、二度目のグランドスラム達成の瞬間をこの目に出来るかもしれないね」

 

 アーネストは少し口角を上げて微笑むと、窓の外で歩いている基臣を見つめて楽しそうな表情を浮かべていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ガラードワースでの生徒会とのやり取りから1か月。

 

 王竜星武祭ももうすぐ始まるため、基臣を始め、シルヴィアやエルネスタ。それに、参加をしないものの、観戦しに来たミルシェが待合室で待機していた、のだが──

 

「…………」

 

「…………」

 

「…………」

 

 誰も喋らずけん制するようにお互いに目線を送るだけで、沈黙が居心地の悪い空間を作り出す。

 

「はぁ……、お前ら喧嘩するんなら外でやってくれ」

 

「喧嘩なんてしてないよ、ね?」

 

「そーそー」

 

「そうだよ、基臣の勘違いだってば」

 

「……はぁ、まあいいか」

 

 本人らは否定しているが、誰がどう見ても一触即発状態だ。とはいえ、これ以上藪をつつくような真似をして、彼女たちを刺激するのもよくないと判断し、場の雰囲気を変えるため話題を基臣から振る。

 

「で、今回参加しないミルシェはともかく、シルヴィとエルネスタはいいのか。予選とはいえ、準備ぐらいはした方がいいだろうに」

 

「もう準備は出来てるからねー。それに、基臣くんの傍にいた方がメンタルも安定するし」

 

 さっきまでメンタルが安定するとは対極にある修羅場を作り出していたくせに……と内心思った基臣だったが、その心を見透かしたかのようににっこりと笑うシルヴィアに黙っているしかない。完全に尻に敷かれている基臣に、エルネスタもその様子を見てクスクスと笑う。

 

「あたしの場合は実際に戦うのはレナだしねぇ。メンテナンスは前日に済ませてるし、ある程度の調整は今朝済ませてきたから、問題ないかな」

 

「そうか」

 

「そういうわけで、あたしは疲れたので剣士くんのお膝元でぐっすりと仮眠でも取りましょうかねー」

 

「じゃああたしは腕をもーらい」

 

「あ、ずるいよ二人とも!」

 

「はぁー、勝手にしろ……」

 

 美少女3人が自分の事を好いて身を寄せてくる。世間一般から見れば、羨ましい限りな状況なのかもしれないが、当事者になってその大変さをよく理解させられる。出来る事なら、今ここにいない沈華も含めて全員仲良くやってほしいのだが、そうはいかないのが恋愛の難しい所なのだろう。

 

 ピリピリした雰囲気にはなるものの、別に嫌悪し合っているわけでは無く、一種の揶揄(からか)い合い的な側面があるから余計に口出しがしづらい、と基臣は頭を悩ませていた。

 

 こうして基臣は、操り人形のように彼女たちのなすがままにされながら、死んだ魚のような目で開会の時を待つことになったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後、あっという間に開会式も終わり、予選も難なく突破した基臣は、本戦最初の相手であるネイトフェイルと戦う事になった。予選で圧勝している事で、基臣に勝てないまでもいい勝負にはなるのではないか、というのが観客の予想だったが──

 

『なんとなんとー! ネイトフェイル選手! 予選までの勢いはどうした事か! 誉崎選手の動きに翻弄されています!』

 

「くっ……」

 

 基臣に攻撃を当てるどころか、その姿をまともに視界に納める事すらできず、視認する頃には残像が残るだけである。

 

 まともに相対しては勝ち目が無いと踏んだネイトフェイルは、自分の持ち味である踊りを駆使して、基臣を嵌めようとするが──

 

「……なっ!?」

 

 踊ろうと動き出す瞬間、ネイトフェイルの身体がカラクリ人形のようにピシリと止まる。自分の身に何が起こっているのか訳が分からず、一瞬動揺が顔に現れてしまう。

 

 しかし、一瞬だけ見えない何かに拘束されていたその身体は、コンマ数秒程度で再び動かせるようになる。何が起こったか理解できないネイトフェイルは、先ほどの状況と今まで見た基臣の映像を照らし合わせて回想する。

 

(誉崎基臣の能力は映像を見た限りでは、未来予測ないしは相手の行動を読む程度の能力……。純星煌式武装の方も透明化のはずだから、私の行動を制限するほどの能力があるはずは……いや待て。…………まさか!)

 

「純星煌式武装の能力か……!」

 

 コンマ数秒程度とはいえ、触れてもいない相手をこんな芸当が出来るのは、規格外の存在である純星煌式武装しかありえない。

 

「おのれッ!」

 

 当てずっぽうで放ってきたネイトフェイルの打撃を全て最小限の動きで受け止め続ける基臣。お返しにとばかりにカウンターの裏拳を食らわせる。

 

「く……っ! このッッ!」

 

「…………」

 

 そして、ネイトフェイルの蹴りに合わせて手を出すと、逃げないように彼女の足を掴む。

 

「なにっ!?」

 

「これで終わりだ」

 

 足を離され身体が宙に浮いたかと思うと、一瞬にしてネイトフェイルは掌打を浴びていた。

 

「カ……ハッ!?」

 

 意識が混濁する程の強力な一撃、なんとか致命傷を避けるように反射的に受け身は取ったものの、それでも今にも地に伏しそうな程の痛み。死に体の状態であることに変わりはなかった。

 

「はぁ……ッ、ぁっ……クッ……!!」

 

 初撃をなんとか耐えきる事が出来た彼女であったが、満身創痍な状態での二撃目は流石に反応できなかったのか、まともに食らってしまった。当然、強力な一撃を食らった彼女は、基臣に対する恨み言を口に出すことも出来ず、意識を手放すことになった。

 

『ネイトフェイル、意識消失』

 

『試合終了! 勝者、誉崎基臣!』

 

『なんとなんとーッ! 誉崎選手! 今大会の有力候補とされていたネイトフェイル選手をたった数十秒で撃破しましたっ! 前回大会から更なる成長を遂げた誉崎選手ですが、どう思いますか?』

 

『そうっすね、前回の獅鷲星武祭よりも動きが凄く洗練されてると思うっす。王竜星武祭が始まる前から優勝候補と目されていたっすけど、この試合でよりその線が濃厚になったんじゃないっすかね』

 

『なるほど! 誉崎選手は黎沈華選手と同じく、グランドスラムを達成する可能性を秘めた選手。果たして、王竜星武祭優勝の栄冠を掴むのは誰になるのでしょうか!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな基臣の試合の様子を、エルネスタとカミラは特設の観客席から眺めていた。試合が終わり、彼の成長にエルネスタは呆れと嬉しさの混じったような吐息を漏らす。

 

「やっばいなぁ……基臣君強くなり過ぎじゃないかにゃあ」

 

「そう言う割には、随分と嬉しそうじゃないか、エルネスタ」

 

「そりゃあまあ、私の愛しの剣士君ですから。勝ってるところを見て嬉しさが湧かないわけがないでしょー。大幅パワーアップしているわけだし、実況席の方で言ってるように間違いなく今大会の優勝最有力候補だよねぇ」

 

「ふむ、獅鷲星武祭で見せたあの技……神依だったか。それもまだ予選・本戦と共に未だ見せていない。それに加えて、例の純星煌式武装を出していないあたり、まだまだ本気では無さそうだしな」

 

 オーフェリア対策なのか、予選中、露骨に自分の手札を明かさなかった基臣。普通ならばそんな状態では基臣の実力も評価しづらいものだが、そんな状況でも観客からは今大会の最有力株の一角として認識されている。その証拠に、本戦が始まる前に実施された王竜星武祭の優勝者を予想する非公式の賭博のオッズがそれを示している。

 

 オーフェリア・ランドルーフェン  1.78倍

 誉崎基臣             2.10倍

 ・             13.30倍

 ・               ・

 ・               ・

 

 前回の王竜星武祭でのオーフェリアの実力を考えればオッズは単独での独走になるだろうと思われていたが、二つの大会を制覇した実績からか、基臣のオッズが明らかに彼女のそれに迫っている。

 

 また、学園に在籍する選手の強さを評価するサイト詩の蜜酒(オドレリール)でもオーフェリアに次ぐ二位など、明らかにオーフェリアの対抗馬という評価をされていることからも基臣の実力が高く評価されている事は言うまでもないだろう。

 

「それはそれとして、レナティの状態はどうなんだ?」

 

「今のレナで基臣くんに勝てるかは分からないケド、まあ……でも一矢報いるぐらいは出来る、と信じたいな。せっかくカミラにもレナの整備を手伝ってもらったんだし」

 

「やれるだけのことはやったんだ。後は見守るしかないさ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『準々決勝第2試合! 先に出てきたのは、今大会の優勝候補と目される当代最強の剣士、誉崎基臣選手! そして続いて出てきたのは、今大会のダークホース! 幼く可愛らしい容姿からは考えられない怪力を見せつけて快進撃を見せている最強の自律式擬形体(パペット)レナティ選手!』

 

 時間を更に進める事しばらく、準々決勝まで進んだ基臣はエルネスタの愛娘であるレナティを相手にすることになった。

 

「おと────さ────ーん!!」

 

「うお……っと!」

 

 いきなりステージ端から飛び出してきたレナティを受け止めたために、基臣も思わずよろめいてしまう。いきなりの行動に観客席からも好奇の視線が基臣たちに突き刺さる。

 

『おっと、これは……どういうことでしょうか? 情報では特に誉崎選手とレナティ選手の交流は無いはずですが』

 

『んー、噂では誉崎選手がアルルカントに時々入っているという話も聞くっすから、そこらへんで交流があったんじゃないっすかね』

 

 疑惑の視線を向けられてはいるが、レナティと基臣のマイク共にオフになっていたため音声を拾われてないおかげで、その関係性までは詳しくは突き止められていないようで、まさか親子関係などとは夢にも思っていないようだ。

 

(ステージ内の音声を拾われなくて助かった……。まったくエルネスタめ……これを見越してわざとレナティのマイクをオフにしてたのか。流石に後であいつに文句の一言でも言っておかないと気が済まんがな)

 

「おとーさん! 今日はよろしくね!」

 

「あぁ。だが、勝ちは譲れない。遠慮はしないぞ」

 

「こっちこそ、おとうさんだからって遠慮はしないよ!」

 

 純真無垢という言葉がよく似合うレナティの姿に和まされてしまう。相変わらず基臣の事を父親呼ばわりするが、エルネスタの入れ知恵なのでどうしようもないと最近は諦めている。とはいえ、レナティの事は基臣も娘のように好ましく思っているのは事実だ。

 

「話し足りないのは山々だが、そろそろ時間だ。待機場所で待っておけ」

 

「はーい!」

 

 試合開始まで間もなくということもあり、レナティに言い聞かせて待機場所に向かわせる。

 

 集中力を高めながら、基臣はピューレを抜いて待機していると、待機場所に向かったレナティの方もまた大型の煌式武装、ユードムラを取り出す。

 

「ふん、ふふ~ん♪」

 

 可愛らしい見かけによらず、豪快な素振りをするレナティ。小さな女の子が馬鹿でかい武器を振り回すという光景だけでいえば、面白おかしいシュールな図ではあるが、一撃でも食らえばロクな目に遭わない事は予想が付く。

 

『さて! 準々決勝第二試合も間もなくスタートします! 果たして勝つのは、アルルカントの英知が詰まった自律式擬形体(パペット)、レナティ選手か! それとも、当代最強の剣士、誉崎選手か!』

 

 

 

 

 

「王竜星武祭、準々決勝第二試合。試合開始(バトルスタート)

 

 

 

 

 

「えぇぇぇいっ!!」

 

 試合開始を告げる音声が会場に響くと同時、レナティは基臣よりも先に踏み込み、一瞬にして距離を詰めた。

 

 レナティの振るう近遠自在の武装、ユードムラは大剣へと変化して的確に基臣の顔面を捉えようとする。

 

「ぉっと……!」

 

 もちろん、その攻撃を読んでいた基臣はそれを紙一重で回避すると、続けざまに来る二撃目も身体を捻って回避する。

 

 回避されたレナティの攻撃の風圧が吹き荒れ、ステージの防壁すらも揺るがす。

 

「その武器、随分と恐ろしい威力だな。お母さんに作ってもらったのか」

 

「うぅん! お母さんじゃなくて、カミラお姉ちゃんに作ってもらったんだー。すっごいでしょー!」

 

「そうか、カミラにか」

 

 攻撃・防御・速さ、全てが今大会でトップクラスといっても差し支えない程に高められている。そこにアルルカント最大派閥である獅子派の協力があるとなれば、当然ながら基臣にとって脅威そのものでしかない。

 

 奥の手は隠さなければいけないが、前述の要素がある故に基臣が手を抜いて勝てるほど甘い相手ではない事は目に見えていた。

 

「それだけ本気で来られたら、こちらも手を抜くわけにはいかないな……」

 

 ──ゾクリ

 

「──っ!? ぉ……とう、さん……?」

 

 基臣の身体の内から今までに見たことないような、圧倒的な力の奔流が溢れ出す。それは、圧倒的な強者に対する恐れから来るものか、人間のボディでもないレナティの全身を震え上がらせた。

 

「誉崎流皆伝、神依」

 

 基臣が技名を告げた途端、嫌な物を感じ取ったレナティは己の勘に従い、即座に後ろへと退く。

 

「行くぞ」

 

「は、や──!?」

 

 10メートルは離れていた基臣の姿がブレて、一瞬にして目と鼻の先にまで距離を詰められる。

 

 そして、それを視認したと同時に振るわれた基臣の攻撃はレナティの防御障壁を紙切れのように切り裂き、破壊するとそのまま斬撃がボディに刻まれる。自律式擬形体であるため、関節部でもない限り肉体的なダメージの影響はほぼ無いものの、基臣との対戦まで一度も突破されなかった防御障壁を易々と突破した事に会場中がざわめき立つ。

 

「へ……?」

 

 だが、何よりもその衝撃は観客よりも防御障壁を破壊された本人が一番大きかった。そう容易く破壊されると思っていなかった自慢の鉄壁の防御、それをこうもあっさりと突破された事実に棒立ちになってしまう。

 

「ま、まっ──」

 

 怒涛の猛攻に流石のレナティも受けに回らざるを得なくなっていく。人間特有の無駄な動きを探ろうとするものの、強烈なラッシュでありながらも一つの隙も見つからない。こうなっては、いかに力によるゴリ押しが得意なタイプといえども、上手い事相手の手中で踊り続けるしかないのだ。

 

「むむむ……」

 

 ただ一方的に攻撃されていく事にフラストレーションが溜まっていくレナティ。元々、我慢強くないタイプである彼女に基臣の攻撃を耐え忍び続けて打開のチャンスを探らせるのは無理な話だった。

 

「もぉ! つまんな────ーい!!」

 

 防御にずっと回っていたことに痺れを切らしたのか、レナティの我慢はついに限界を迎える。彼女の内にある《ウルム=マナダイト》から光が漏れ出たかと思うと、眩いほどにその光が会場を照らし出す。

 

「──っ、この光は……」

 

 眩い光が止み何が起こったのかとレナティを見ると、その身体は光り輝き、目は金色に照り輝いていた。

 

「これならレナも全力で戦えるもんねー!」

 

 どうやら変化したのは見た目だけではなく、今までは安定的に戦えるよう力をセーブしていたようで、今のレナティは纏っている星辰力の量が爆発的に増えている。その量は間違いなく、オーフェリアに次ぐレベルだった。

 

「いっくよー!」

 

 自らの得物であるユードムラを手放し、素手になると拙いながらもファイティングポーズをとる。

 

「来るか……っ!」

 

 発光する前と変わらない機動力ではあるものの、明らかにレナティから漂っている圧は先ほどまでの比ではない。基臣は即座にピューレを構えて防御態勢を取ると、彼女の攻撃を真っ向から迎え撃つ。

 

「えぇぇぇい!!」

 

「──っ!? く……っ」

 

 構えもまるでなっていなく、適当そのものなパンチだったが、拳を受けた瞬間、何台も積み重なった重機を受け止めるような衝撃が全身に伝わり、基臣も堪えはしているものの膝が笑うぐらいにはその負担は大きい。

 

「ここまでのパワーとは、なっ……!」

 

 第六感で事前に感じ取っていたとはいえ、想像以上のパワーに驚きを隠せない基臣。

 

 両者譲らずの展開のように見えるが、ほんの若干レナティ側が優勢の状態。星脈世代の限界を引き出すことでどうにか拮抗を保てていたが、これ以上は良くないと悟った基臣はたまらずレナティの間合いから抜け出した。

 

「むー! 今ので倒せたと思ったのにー!」

 

「……っ、ふぅ……。正面から叩き潰すのはあまり得策ではないな」

 

 内包している星辰力の量は明らかにレナティの方が上。もちろん、ピューレの能力を使えば、一時的にオーフェリアすらも上回る力を発揮できない事は無いが、それを見たディルクがすぐさま下手な手に出てくる可能性が捨てきれない。そうなると、オーフェリアどころかこのアスタリスク自体が壊滅の危機に陥ってしまう。全力を出し切れないのが何とも面倒だが、決勝戦までは使えない封じ手だ。

 

(少し回りくどくなるが、力を見せないように出来る限りギリギリの戦いを演出する……)

 

 瞬時にレナティを倒す算段を頭で構築し、実行に移す。地面を這うような低姿勢で急接近し、視界の端からの攻撃を試みる。

 

「──わっ!?」

 

 当然、反射神経もずば抜けているレナティは紙一重でそれを回避する。しかし、無理な姿勢で回避したのが(たた)り、次に繰り出される攻撃の回避は不可能。そう思考誘導させ──基臣の攻撃を敢えて腕で防御させる。

 

「むっ」

 

 全力の一撃ではあったものの、自律式擬形体(パペット)特有の頑丈さでどうにか腕にピューレの刃を食い込ませる程度で済ませたレナティ。更に運の悪い事に、急いでピューレをレナティの腕から抜こうとするが、思っていたよりも食い込んでいたのか中々引っ張り出すことが出来ない。

 

 こうなると、基臣の得物であるピューレを失う事に成りかねず、今度はレナティの方に形勢が傾きかねない。その焦った(演技の)基臣を見逃すことなく、空いている片腕を使って強烈な一撃を浴びせようとする。

 

「っ、危ないな……」

 

 自らの得物(ピューレ)を失ってしまった状態の素手でまともにレナティの拳を受ければ、骨折はしないまでも、かなりの痛手を負うだろう。それを理解したレナティは、もう勝ちを確信したかのような笑みで基臣を見る。

 

「ふふーん! これでもうおとーさんはピューレお姉ちゃんを使えないでしょ!」

 

「……まあな」

 

(ここまでは順調……あとはレナティが俺の思惑通りに動いてくれれば……)

 

 この状況を好機と見たレナティは、無手状態の基臣へと襲い掛かっていく。

 

「誉崎流組討術、双槌穿(そうついせん)

 

 間近にまで迫ってきていたレナティの足を払い、転ばせるとその手を掴んで組み伏せマウントポジションを取る。そのまま、ピューレを取り返そうと刺さっている腕に手を掛けるが──

 

「にぎぎ……! まだまだー!!」

 

「うぉ……っ!」

 

 持ち前のパワーで一瞬で組み伏せられていた状態を強引に振りほどき、一瞬にして距離を取るレナティ。

 

「なあ、レナティ。いい加減ピューレを返してくれないか」

 

「返したらまたおとーさんばっかり攻撃してくるじゃん! そんなのずるいもん!」

 

「そうか、そこまで言うなら仕方ない」

 

 ポケットに手を突っ込むと、そこから無数の爆弾が取り出され空中へと散布される。

 

「それは……おかーさんたちが作った」

 

「そうだ、これの威力の恐ろしさはお母さんに教えてもらっただろ。しっかりと防御しろよ、レナティ」

 

 操作できる限界、12個全てを使ってレナティに攻撃を仕掛ける。獅鷲星武祭の時よりも改良され、高速で動き回る爆弾に、回避行動を取るのも難しいレナティ。

 

「きゃうっ!?」

 

 一つ一つが命中するたびに派手な音と共に爆発を撒き散らす。一つだけでは防御障壁にヒビを入れる程度の威力ではあれども、連鎖して爆発しようものならそれすらも破壊してボディへとダメージを与えてくる。

 

「ケホッ! ケホッ!」

 

 爆発に気を取られている間に、基臣は一瞬にして距離を詰めてくる。手数を増やして、レナティの意識を分散させている間にピューレを奪還する目算なのだろう。

 

「でも……この程度なら……っ!」

 

 だが、遠隔誘導爆弾だけならかすり傷程度にしかならない。そんな事よりも、基臣にピューレを返さないように意識を向ける。攻撃の要であるピューレを失ってしまえば、爆弾が尽きるまで耐え抜いてあとはこっちのペースに持っていくだけ、そうレナティは思っていた──その幼さゆえの安直な思考が命取りになると知らずに。

 

「……憤ッ!!」

 

「──素手でっ!?」

 

 至近距離にまで接近されて、ようやく基臣の思惑がピューレを奪還する事ではなく、そのままレナティの校章を破壊する事だと気づく。

 

「でもそんなのじゃ……」

 

 ただの拳ごときではレナティの防御障壁を破壊するどころか、ヒビも入れる事は叶わない。それゆえに、恐れるに足らないと油断していた基臣の拳だったが、防御障壁に衝突した拳の勢いは削がれるどころか、更に勢いを増していき、防御障壁にヒビを入れていく。

 

「そんな……!?」

 

 そう、今の基臣の拳はただの拳ではない。ピューレの能力の支援を受けた、純星煌式武装にも引けを取らない最強の拳なのだ。

 

「終わりだ、レナティ」

 

 急いで距離を取ろうと動くレナティだが、基臣が有利に動ける間合いに完全に入り込んでしまって抜け出すことは不可能。既に基臣の策に嵌まっていたのだ。

 

「レナティ、校章破壊」

 

「試合終了! 勝者、誉崎基臣!」

 

『試合終了ーっ! レナティ選手の猛攻に耐えきれないかと思われた誉崎選手でしたが、一転攻勢! 相手の不意を突く形で校章を破壊して勝利しましたー!』

 

 場内から歓声が響き渡る。呆然とそれを見つめていたレナティだったが、自分が負けたことを理解すると乾いた笑いを吐き出す。

 

「……はは。終わ、ったんだ」

 

「…………」

 

「えへへ……。やっぱり、おとうさんには、かなわないや……」

 

「……レナティ」

 

 レナティを慰めるために足を動かそうとして、彼女の顔を見て思わず踏みとどまってしまう。

 

「あれ、なんでかな……っ、どうしてなみだが……」

 

 ──泣いていた。

 

 負けたことに対する悔しさと、父親同然の存在である基臣の前でそれを出したくない感情がない交ぜになり、どう表現すればいいのか分からない、彼女の感情から伝わってきたのはそんな内心だった。

 

 幼いながらも、悔しさを必死に隠そうとしているレナティの意志を踏みにじるのを良しとしない基臣は慰めるという選択をしなかった。

 

「ねえ、おとーさん……。おねがいがあるの」

 

「……なんだ?」

 

「ぜったいに……ぜったいに、ゆうしょう、してね……っ!」

 

「……あぁ、約束する」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっぱり基臣くんには敵わないなぁ……。あたしの全身全霊を込めて作り上げた愛娘をこうも簡単に倒しちゃうなんて、少し自信なくしちゃうなー」

 

 観客室で基臣たちの様子を見ていたエルネスタは、事の成り行きの全てを見守り終えた後満足そうな顔をしていた。負けたはずなのに清々しさすら感じるその表情の理由は──

 

「……なるほど。今回、エルネスタがレナティを出場させるために裏で色々やっていたのは、別に優勝するためではなく誉崎と戦わせるためだったか。しかも、負けという挫折を経験させるために」

 

「あれ、やっぱり分かっちゃった?」

 

「お前と長年付き合って来たんだ、その胸の内ぐらいは簡単に分かるさ」

 

 意思を持った自律式擬形体であるレナティの単独出場は、六花園会議でもかなり議論が難航していた議題でもあった。そんなレナティを選手として扱うか一個の武器として扱うかという話題をアルルカントの生徒会長が提示した事で、後者だと不味いと思った他の学園の生徒会長たちは選手としての出場を認める運びとはなったが、その段階に持っていくまでアルルカント内部でも一悶着あった。

 

 今のレナティの精神は赤子同然。嫌な奴に会えば、容赦なく殺そうとするし、そのために力を使う事は(いと)わない。当然、そんなことをしようものならエルネスタの地位だけではない、自律式擬形体に対する評判までもが地に落ちてしまう。

 

 おそらく、レナティを基臣と戦わせることで何か得るものがあるだろうと考えての今回の王竜星武祭の出場だったはずだ。もし、レナティに何かあって暴走する事があっても基臣がなんとかするのだろうと思ったに違いない。

 

 基臣にとって迷惑な話と言えば迷惑な話だが、今まで何度も煌式武装制作を手伝って来たのだから、これくらいは協力してくれるだろうと思っての考えだったのだろう。

 

「その様子だと、お前の目論見も今回は上手くいったようだし、何よりだな」

 

「そだねー。ま、そのせいで基臣くんにも迷惑かけちゃったし、その分は裏方に回ってサポートして借りを返しますかなー」

 

「……そうだな」

 

 思えば、エルネスタの性格も誉崎基臣という存在にかなり影響を受けることになったものだとカミラは独り思った。

 

 基臣に会っていなければ、人に対する気遣いよりも、更に我が道を行く選択肢を選んだことだろう。そうならなかったのは、基臣に対する恋がそうさせたのか。本人のみぞ知るため、部外者であるカミラに知る由は無いが、いい意味で性格が変わったと言えるだろう。

 

 そんなことを振り返りながらエルネスタの横顔を見ると、レナティを見るその顔は、どこか温かく、僅かながらも慈愛を含んだもので──

 

「お前もそんな顔が出来るんだな」

 

「え?」

 

「まるで我が子の成長を見守る母親のような顔をしてるぞ。鏡を見たらどうだ」

 

「いやだなーもう、そんなこと言われたら恥ずかしいんだけどー」

 

 恥ずかしそうに頬を掻くエルネスタの精神的な成長を、彼女を昔から知るカミラは微笑ましく見つめた。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

part34

アスタリスクの最終巻を読み終えたので初投稿です。

最終巻を読んだ感想ですが、綺麗に物語が纏まったので本当に良かったなーと思いましたね。
こっちのアスタリスクRTAも終盤に入ったのでなんとか皆さんに早く続きを届けられるよう頑張るのでこれからもよろしくお願いします!


 

 どうして僕をそんなに困らせるんですか(半ギレ)なRTAはーじまーるよー

 

 前回は、切り札である誉崎流極伝を見せずにレナティを見事撃破して、準決勝まで進んだところまででした。残るはあと2試合。完走までもう少しなので、気合を入れて頑張っていきましょう。

 

 さて、次の準決勝。対戦相手であるシルヴィアは交流回数が多いため、ホモ君の成長度合いの影響を受けて原作軸に比べてかなりの強化が施されています。原作の王竜星武祭で使っていた、瞬間移動やブラックホール(モド)き、純粋な身体能力強化などは当然として、ランダムで何かしら新規の能力を使ってきます。さらにさらに、1つの曲で能力を複数同時使用可能とかいう、どこかで調整ミスってるとしか思えない強化っぷりを受けています。殺意が高すぎるッピ! 

 

 上記の能力をヤンデレ剣の力で能力キャンセルしたいところですが、()()()使()()()()()()()()()相手に接触もしくはヤンデレ剣から十センチ程度以内にいなければ発動することが出来ません。しかも、接触しなければ距離が離れるごとにキャンセルの程度も弱まる仕様です。もちろん、能力の上限を気にせず遠距離から出来ない事もないですが、まあ使うことは(即座にホモ君の精神がイカれる事確定なのでやら)ないです。

 

 出来る事なら、本戦の一回戦に戦ったネイなんとかさんみたく、一瞬動かなくさせて歌わせないようにしたいところですが、まあネイなんとかさんの試合を見ているので、間違いなく対策してくるでしょうし効くかどうかは期待薄でしょうね。

 

 以上のようにホモ君が強くなればシルヴィも強くなるという特性上、間接的にリセットの原因になったわけですが……、今回は純星煌式武装であるヤンデレ剣がこちらにはあるので、能力キャンセル無しとはいえ十分余裕を持って勝てるでしょう。

 

 では、ステージに出てさっそくシルヴィ戦開始です。

 

 早速始まりましたが……おや? いつものように積極的な攻勢を仕掛けてこず、ひたすら下がって歌でバフを重ねているようですね。彼女が初動で使ってくる歌の能力の一つである身体能力強化も、そこそこ厄介ではあるものの、ホモ君側も身体能力を強化できるのでそこまで無理やり身を削ってまで止めに入るほどではないですね。

 

 新曲でしょうか。こういう事はよくありますが、どういう能力を使ってくることやら……

 

 さっきから能力を封じることも考えて接近戦で速攻で潰すつもりで動いてるんですが……逃げんじゃねーよ! 

 

 あーもうイライラする(ピネガキ)

 

 遠距離攻撃ばかりで、ホモ君が接近しようものなら即座に距離を取ってきますね。今までに見た事ない行動パターンなので若干やりづらいです。

 

 このまま時間を無暗につぶされても困りますし、どういう思惑があって……って、まさか。

 

 ……ヤバイヤバイヤバイ!? このまま歌わせきってしまったらまずいですよ!? 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……

 

 ……

 

 …………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ホ"ワ"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"!?!? (チンパン声)

 

 やめロッテッ!! やめロッテッ!! 

 

 

 

 ん"ん"っ!! (ダミ声)

 

 かなり教育上よろしくない声を出したことをお詫びします。思わず台パンしそうになりましたが、それだけ想定外の事態です。まさかのまさか、万応素が完全に停止していってます。停止したからなんのこったよ、という初見兄貴に分かりやすく説明すると、万応素を頼りに活動している煌式武装や純星煌式武装は使えなくなり、そして《魔術師》や《魔女》の能力も当然の如く使用不可能になります。

 

 ホモ君の場合だと、第六感も万応素を媒介することで発動する能力であるため、今までのようにシルヴィの思考盗聴して悠々と回避、なんて芸当が出来なくなるわけですね。

 

 一応煌式武装なしでの無手での格闘技術もある程度は鍛えてるし、この状態も数分程度しか持続しないので負ける要素は無いんですけれど、こっちはRTAをやってるんだよなー、勘弁してくれよなーって──

 

 ──グェッ!? 

 

 第六感が使えないと分かるや否や、頻繁に攻撃にフェイント混ぜてきました。第六感が使えるなら余裕のよっちゃんでフェイントを見切って反撃できるんですけど、使えないとなると流石に骨を切らせて肉を断つといった感じで受け身の戦法を取らざるを得ないですね。

 

 シルヴィとは鬼気の質が段違いなおかげで、クリーンヒットしてもダメージ自体は大したことは無いので、受け身戦法自体は別にやっても問題はないんですけど、やはりタァイムを犠牲にしているのは痛いですね……これは痛い……。

 

 んで、しばらく殴り合ってなんとなく分かったんですけど、先歌った曲1曲で、万応素を停止・身体能力強化・自動自己治癒能力の三つを実現してるみたいですね。殴ったら数秒後には怪我が完治してました。普通、1曲で同時に様々な能力を使用するなんて芸当は出来ません。今まで遭遇してきたシルヴィでも二つ能力を同時使用するのがせいぜいでしたからね。化け物かな? 

 

 出来る事なら、神依で身体能力を100%出したいところなんですけど、オーフェリア戦前に派手に目立ちたくないので、その半分の50%出していません。

 

 え、レナティ戦は神依で100%のフルパワーで戦ってたんじゃなかったのかって? 

 

 ま、まあ……100%引き出して戦ったとは言ってないから、多少はね? 

 

 そんな事を話している内に、徐々に取っ組み合いに慣れてきてシルヴィ相手に非常に優勢に立ち回れるようになりましたね。とはいえ、怪我自体はすぐに完治してしまうので、能力が切れるまで待つか校章を割るかの二択ですが、当然狙うは後者です。

 

 そうと決まればさっそく男女平等パンチを鳩尾(みぞおち)に叩き込んだ後に、畳みかけるように頭部にダブルスレッジハンマーを叩き込みましょう。アイドル相手に結構えげつない戦い方してるせいで(観客からの視線が)痛いですね……これは痛い。

 

 もちろん、二、三秒すればすぐさま復帰してくるので防御させる暇なく攻撃を叩き込み、校章を狙う隙を見せたら即座に破壊します。この時、足払いして転ばせてこようとしてくるので気を付けて回避しましょう(二敗)

 

 シルヴィからの攻撃にいつも以上に警戒しながら、防御を緩めた隙に校章を破壊して工事完了です……。

 

 所要時間はなんと3分。レナティ戦より倍ほど時間かかったのは予想外でしたね……。万応素がなくなったのもありますが、自然自己治癒能力のせいでシルヴィ本人がまったくダメージを受けずに動いてきたのが今回試合が長引いた要因といったところでしょうか。

 

 試合も終わったのでミルシェと合流してシルヴィと三人でオーフェリア側の準決勝の観戦でも……え、話がある? なんかステージ裏に連れていかれたのですがどういうつもりでしょうか。

 

 

 

 なになに……私もウルスラと戦わせて? 

 

 あちゃー、ホモ君が金枝篇同盟の情報を持っている事がバレテーラ。シルヴィがウルスラに会わせろ会わせろうるさいですが、ホモ君との実力差を考えたらシルヴィを連れて行っても逆に邪魔になる可能性が高いので拒否しま──あ、いやですかそうですか。

 

 シルヴィの歌のお師匠様であるウルスラの行方が関わっていることもあって、こっちが折れるまでずっとお願いしてきてますね。こうなると、もう拒否しても意地でもついてくることになるので、仕方なく折れる事にしましょう。

 

 シルヴィとのお話を終えて、ミルシェとも合流すると、両腕にシルヴィとミルシェを(はべ)らせるという両手に花状態を楽しみながら、次に行われるオーフェリアとメスガキの試合を見ましょうか。

 

 オーフェリアは原作と同じように純星煌式武装の覇潰の血鎌(グラヴィシーズ)を携えて参戦してきました。普通なら代償で血を吸われまくるんですが、劇毒である彼女の血で屈服させてしまったので重力操作し放題です。覇潰の血鎌(グラヴィシーズ)君、情けない恰好。恥ずかしくないのかよ? 

 

 片やメスガキの方はと言うと、獅鷲星武祭以降は模擬戦で戦う機会が無くなってしまったので情報を仕入れていないんですよね。成長度合いから言えばオーフェリアに勝てる見込みはないとは思いますが、果たしてどうなることやら。

 

 試合始まってからは、メスガキはどうやら回避からのカウンターに徹していますね。回避してついでに反撃に出れる時点で実力はトップクラスなわけですが、やはりダメージを全然与えられてないですね。

 

 どうせ見どころさんもないので、試合の流れが変わるまで倍速で流していきましょうか。

 

 

 

 …………

 

 

 

 10分程度経ちましたが、大分持ちこたえてますね。一発でもクリーンヒット食らったら即終了のクソゲーなのによくもまあここまで……って、ん? 

 

 ──おや、オーフェリアの様子が……? 

 

 

 

 

 

 ……ファッ!? オーフェリアが弱体化してる!? 

 

 メスガキの仕業に間違いないでしょうが……。何やら彼女の手持ちの煌式武装を使って怪しい動きはしてましたけど、何が起こったんでしょうか。

 

 どういう仕組みによるものか分からないのはともかくとしても、オーフェリア弱体化はメリットしかないので、嬉しい誤算と言ったところでしょうか。ええぞ! ええぞ! 

 

 もっとモリモリ星辰力を吸い取ってくれよな―、たのむよー。

 

 弱体化し終えた後、起爆札で最後の花火と言わんばかりにド派手な攻撃をしましたが、最終的に削れた星辰力(プラーナ)は3割ぐらいですね。普通の相手なら大したことないでしょうが、オーフェリア相手には攻撃を通しやすくなるので、十分すぎるといっても過言ではないです。

 

 よしよし、これで決勝戦は大分やりやすく……ってヤベーイ!? ちょ、オーフェリアさん。何してるんですか!? まずいですよ!? 

 

 RTA終了する前に人殺しはちょっとやめてもらっていいっすか! 

 

 流石にオーフェリアが観衆の目の前で人殺しなんてやろうものなら、試合どころの話じゃないですからね。試合も終わったという事もあって防護フィールドも消えているので、二人の間に割り込みましょう。

 

 

 

 

 

 ……ふぅ、なんとか間に合いました。助けるとメスガキは安心したのか気絶したようで、死んでないようです。さっさと治療院送りにしときます。

 

 このゲーム、ある程度のイベントは原作に従って制御されてるんですけど、それ以外は内部でランダムで進行しているのでプレイヤー側から制御できず、チャートを使って進行するRTAでも全然油断できないんですよね。まあ、予測不可能な展開が本ゲームの魅力でもあるわけですが。

 

 そんなこんなで、色々と予測外の事態が起こったので少しヒヤリとはしましたが、メスガキのおかげでオーフェリアの戦力を大幅にダウンさせられました。シルヴィのせいで色々と冷や汗かかされましたが、それ以上のリターンが返ってきたのはありがたいところです。

 

 これなら、オーフェリア戦も大分余裕を持って戦えるかも──

 

 今回はここまで。ご視聴ありがとうございました。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

裏話34-① 殴打の応酬

扇風機とエアコンを愛してやまなくなる季節になったので初投稿です


 

 王竜星武祭準決勝

 

 基臣・沈華の二名がグランドスラム達成の可能性があることや、現在最強と謳われているオーフェリア・ランドルーフェン、世界の歌姫シルヴィア・リューネハイムと、全員濃いメンツが揃っているために、チケットの転売価格は通常価格の何十倍にも膨れ上がり、試合を生配信する配信サイトはパンク寸前という熱狂ぶり。過去最高の注目を全世界から集める準決勝となっていた。

 

『王竜星武祭は残すもあと3試合! はたして、優勝の栄光を掴むのは現代最強の剣士か! はたまた、世界一の歌姫か! それとも、レヴォルフが誇る最強の《魔女》か! 三代目《万有天羅》のお墨付き、界龍が誇る最優の道士か!』

 

『これほどのメンバーが揃った星武祭は初めてだと思うっすよ。どの試合も目が離せないっすね』

 

『さて、決勝戦の前哨戦となる準決勝の第一試合目。まずは、あらゆる強敵をその剣さばきと変幻自在の飛び道具で乗り越えてきた現代最強の剣士! 誉崎基臣選手の入場です!』

 

 腰元のホルダーに結晶のように澄んだ潔白の純剣(ピューレ)を携えて最初に出てきたのは、準決勝までダメージをほとんど受けることなく出てきた基臣だった。

 

「今回は一段と騒がしいな、まったく」

 

 入場によって一層高まった喧騒に少し顔を(しか)めながらも、ステージへと降り立つ。しばらくの間、基臣に観衆の注目が注がれるが、その視線も反対側の入場口から音がしたためにその音の方向に向けられる。

 

『次に現れたのは、現在世界最高と名高い歌姫シルヴィア・リューネハイム選手です! ただの歌手と侮ることなかれ、その戦闘技術はこの王竜星武祭で高い事を既に証明済み! この勢いで誉崎選手を打ち下してジャイアントキリングとなるか!』

 

 歓声を受けて周りに手を振りながら入場してきたシルヴィア。何度も星武祭に出場している基臣といえど、この熱狂にはいまだ慣れないのに対し、彼女は日ごろからこういう歓声を浴びる事が多いためか平常運転のようだ。

 

「相変わらずのようだな」

 

「あははー、まあ仕事柄慣れてるからね。といっても、流石にここまで多い人たちに注目される機会は今まで無かったな」

 

 ほへー、と気の抜けた声で周囲を見回すシルヴィアに、やっぱり場慣れしてるなと内心関心する。

 

「そういう基臣くんも随分と余裕そうな表情じゃない」

 

「流石に何度も星武祭に参加したらこのうるさい観衆にも慣れる。まあ、鬱陶しく感じることは今も変わりないがな」

 

「……ははは」

 

 ずばずばとした物言いをする基臣に、流石のシルヴィアも苦笑が漏れる。そうして、軽く挨拶をするとシルヴィアは待機場所へと戻っていく。

 

「……あ、そうそう。オーフェリアに集中してばっかりだと足元掬われちゃうから、気を付けた方がいいよ」

 

 戻る途中に振り返ると、どこか自信を秘めた表情でそれだけ伝え、自分の待機場所へと戻っていった。

 

「……さて、そろそろか」

 

 実況と解説の方も基臣とシルヴィアの紹介を終えて、ようやく試合開始の合図を出そうとしていた。

 

 

 

王竜星武祭(リンドブルス)、準決勝第一試合。試合開始(バトルスタート)

 

 

 

「誉崎流皆伝、神依(かみより)ッ」

 

 身体能力の制約を一瞬にして上限の半分(50%)まで解放すると、十メートルほどの距離を一瞬にして詰める基臣。

 

「よっ、と……っ!」

 

 シルヴィアは軽やかなステップで基臣の初撃から抜け出すと、開始時点よりも更に距離を取って歌い始める。

 

「夕暮れの(あか)の中 覚めていく心が 沈んだ身体を引きずり出す」

 

「……この歌詞は」

 

 沈んだような雰囲気を思わせる曲調で、いつものシルヴィアらしくない曲に観客からも動揺の声が漏れ出ている。だがそんな中、基臣だけはこの歌詞に覚えがあった。

 

 今歌っている曲は、シルヴィアに渡した実家にあった母の楽譜のうちの一曲だった。

 

「伸ばした手が空を切り 虚しい一人芝居に 声を震わせながら」

 

 どんな効果を持つ曲かと思いながら、彼女のペースに持っていかせないためにも歌わせないように動く基臣であったが──

 

「あまりにも消極的だな」

 

 試合が開始したと思えば、今の今までやっている事と言えば、出来る限り基臣から距離を離して能力を発動させるために歌を歌う事に終始するだけ。

 

 音程がズレたり途中で音を途切れさせてしまったら効果が不発になってしまうため、ある程度リスクを抑えた立ち回り自体は確かに今までもしてきてはいた。だが、一度も攻撃を仕掛けることなくひたすらに逃げてこちらが仕掛けてきたらそれにすら迎撃することなく回避するのみ。ピューレの能力を恐れての事なのだろうか。

 

「夢と現の間に今 不可視の鎖に縛られ 溶けゆく前に」

 

 それでも、能力を一つや二つ発動させたところで局面を一気に動かせるほど作用するとは基臣には思えなかった。だが、当のシルヴィアに焦りはない。むしろ余裕さえ感じるような感情を受けた。

 

(どういうつもりだシルヴィ)

 

「──そうさ加速していく記憶の 残滓を辿って 消えゆく貴方の手に届け」

 

 曲の雰囲気が一変し、暗い雰囲気だった曲調が明るいものへと変わっていく。

 

「一秒前が遠くへ感じるほど 時が過ぎ行き 貴方はそこにいる」

 

(──っ!?)

 

 それと同時に第六感によって基臣の脳に流れ込んでくるシルヴィアの思考。

 

「……まさか」

 

「何度も試され 否定され 打ちのめされようと」

 

 第六感によって予感した未来に気づいた基臣は、強引に距離を詰めてピューレでシルヴィアの歌を止めようとするが、最初と同様に能力の間合いに易々とシルヴィアが入れてくれることは無い。

 

「ちぃ……っ!」

 

 近寄らせてくれないなら、と内にしまっていた爆弾を投擲しシルヴィアへと誘導し爆破させようとする。

 

未来(あす)に届かせるために」

 

 しかし、投擲された12個の爆弾をなんとも華麗なステップで回避し、爆弾同士をぶつけ合わせて爆破させていく。まるで、何十回もこのシチュエーションをシミュレーションしたかのように完璧に。

 

「まずい……、本当にまずい……!」

 

 王竜星武祭で今までにない焦りようを見せる基臣にシルヴィアは不敵な笑みを浮かべて、歌唱を続ける。

 

「祈って」

 

 歌も歌い終えてしまい、シルヴィアの歌の正体がとうとう露わになってくる。

 

『力が……!?』

 

 万応素の動きが鈍くなっている。ゆっくり程度ではない、ほぼ停止に近いレベルで動かなくなっている。これでは煌式武装はおろか、純星煌式武装も使えないことは容易に想像がついた。

 

 これでは、ピューレも使えない。そうなると当然、シルヴィアの身体能力強化や万応素の停止も打ち消しできない。

 

 仕方なくピューレをホルダーに納め、無手でシルヴィアに向いて構えると、彼女もまた愛剣をホルダーに納めて基臣と同じように素手で構える。

 

「これでやっと真っ向から戦えるね、基臣くん」

 

「っ、やってくれたな……シルヴィ」

 

 できるだけ有利な盤面を整えて、さっさと能力を使えなくすることで自分にだけアドバンテージがあるようなシチュエーションを作り出す。それがシルヴィアの策だったのだろうと、基臣は気づく。

 

 この状況では、おそらくシルヴィア相手に強引に身体能力の差を活かして押し切る、といった事はできない。

 

「行くよ!!」

 

 身体能力強化によって早くなった動きに、第六感無しという慣れない感覚のせいで基臣は後手に回る。

 

 とはいえ、シルヴィアの攻撃は神依によって身体能力の限界まで強化している基臣にとって、対処する程度はさほど難しいものではないはずだった──

 

 ──だが

 

「……っ、ガッッ!?」

 

 迫りくる右のボディブローをガードしようと防御態勢を取るも、反対方向から不意打ちで蹴りが飛び、あばらにダイレクトに直撃する。

 

「ごっ、がふ……ッ!」

 

 今大会始まってから、基臣にとって初めてのクリーンヒット。

 

「まだまだぁッ!!」

 

 蹴られ、殴られ、叩きつけられ。次々と繰り出される攻撃は、愚直に迫ってくるような単調な攻撃ではなく、フェイントを何度も混ぜたいやらしい攻撃ばかり。明らかに、第六感を失ったという基臣の弱点を狙って集中攻撃せんとばかりの作戦だった。

 

「──う"っ"!!」

 

 そんな畳みかけるような攻撃に、強靭な肉体を有している基臣といえども、ダメージが蓄積し血反吐が喉奥からせり上げて口元から少しばかり垂れてくる。

 

「せぇぇええええええ!!」

 

「っ!」

 

 食らい続けては不味いと思い、どうにかして回避し、お返しとばかりに同じようにボディブローをお見舞いする。

 

「ャッ!?」

 

 万応素の動きが停止してから初めてダメージを食らったシルヴィア。星辰力の量・質ともに段違いな基臣の一撃を食らいダメージはかなり大きいかと思われたが……

 

「──っ、ふう。よかった……ちゃんと回復してる」

 

 攻撃を食らって一秒もしない内に、万全の状態へと変わる。

 

(……なんて回復力だ)

 

 いつもの得物であるピューレを手にしていないとはいえ基臣の打撃は、上手く噛み合えば冒頭の十二人クラスでも致命傷に持っていける事すら可能な威力だ。たった一秒でそうそう簡単に回復できるものではない。

 

(発想次第では不可能を可能にする。まさに無限の可能性を秘めた能力だな)

 

 シルヴィアの歌を媒介に様々な効果を行使できる能力は、例外として治癒系統の能力だけは使えずにいた。だが、今までの戦闘から得てきた経験でなんとなく、そういう類の能力ではない事を第六感が無くとも察する。

 

 おそらく、体内にある星辰力を加速させて身体を活性化させることで、一瞬にして体の組織を修復し、結果的に驚異的な回復を実現しているのだろう。星脈世代の身体構造を知ってさえいれば、こんな芸当をやってのけても何ら不思議な話でもない。

 

「はぁぁあああああ!!」

 

 身体の状態が万全になった途端、再び基臣へと攻勢を仕掛けようと接近してくる。

 

「煌式武装だけじゃなくて真剣を持ってくるべきだったな……」

 

 シルヴィアの動きを理解はしていても、その対処にワンテンポ遅れてしまう。自分が第六感の能力にかなり依存していた事を実感させられながらも、冷静にその一撃一撃を痛恨打にならないように処理していく。

 

 基臣側の状況が劣勢に見えているが、焦っているのはシルヴィアも同じだった。

 

 能力が発動してしばらく経つが、決め手に欠けている現状に徐々に焦りが顔や動きに現れ始める。万応素の停止は、その能力の制御の難しさ等々の観点から、そこまで長時間持続する能力ではない。しかも、他の能力と並列で使用したからには使用後の反動が大きい事は結果を見ずとも理解できる。

 

 今でこそなんとか食らいついていけているものの、能力が切れた瞬間、基臣は常に間合いを詰めてシルヴィアが使う能力の全てを封殺しにかかるだろう。第六感が有っても無くても、基臣は二度も同じ手を食う間抜けではないのだから。

 

 仮にもう一度能力を発動させようにも、当然ではあるが一瞬で歌い直せるものではない。そうなれば、拮抗し合っている勝負は、あっという間にただの詰将棋に変わってしまう。

 

「そうなる前に急いでケリを付けないと、ねっ!」

 

 アイドル稼業ばかりに集中してるせいで、王竜星武祭も本気で優勝する気は無いのではないかとネットでは批判されることも多いシルヴィア。しかし、本人は本気も本気。歌手活動は本大会3か月前を最後に休止、それからというものの、ひたすらに格闘術、《魔女》としての能力、それだけをひたすらに磨いてきた。

 

 その成果が出ているのか、近接戦最強ともいわれている基臣相手に渡り合っている(基臣が第六感無しでの戦闘の感覚のギャップに慣れてないという理由はあるが)

 

 基臣よりも小柄なその身体を活かして、軽やかな身のこなしで追い詰めようと様々な方向から攻撃を仕掛ける。

 

 拮抗とは言わないまでも、間違いなく出会った頃よりも実力が近くになっていく。その事実に、シルヴィアは歓喜し打ち震える。

 

「はは……っ!!」

 

「まったく、アイドルのくせになんて顔してるんだ」

 

 その顔は普段ファンの前で見せる輝いて見えるようなものではなく、ひたすらに戦いを楽しむ獣のようで、それを見た基臣も若干笑いが漏れ出る。

 

 この状況、このまま能力が切れるまで待ってもいいが──

 

(そんなつまらない真似はするつもりはない)

 

 そんな消極的な戦法では華が無いし、何よりもせっかく数少ないシルヴィアとの真剣勝負で彼女の期待を裏切りたくはない。

 

「身体も温まってきた、まだ倒れてくれるなよッッ!!」

 

 シルヴィアよりも高い身体能力を以て、今度は基臣の側から仕掛ける。接近して彼女を正面に捉えたかと思うと──

 

「──なっ!」

 

 視界一杯の布切れ──基臣が自らの服を引きちぎったもの──がシルヴィアの目の前に現れた。

 

「ぁばっ……!」

 

 思わず面食らったシルヴィアに、布切れ越しに基臣は容赦なく強力な頭突きを叩きつけた。

 

 目にもともらぬ速さでぶつけられた鈍重な質量に、顔が歪みほんの一瞬だけだがシルヴィアの意識が吹き飛び身体がふらついてしまう。

 

 服を引きちぎった事で上裸になった基臣は、その頭突きで一瞬ふらついた隙を見逃さず、本気で叩き潰さんとばかりに両手を重ね合わせ、それをシルヴィの後頭部へと容赦なく振り下ろして追撃を加えていく。

 

「あ、ガ……ッ!?」

 

 とてつもない衝撃に意識が明滅する彼女に、攻撃する手を緩めることのない掌打が襲い来る。

 

 だが──

 

「──ッフ!?」

 

 気絶してもおかしくない猛攻を受けながらも、シルヴィアは素早くカウンターを仕掛けてきた。今まで見せてきた驚異的な回復力を警戒して、なんとかその反撃を回避したが、それでもこうも綺麗に決めてくるとは思いもしなかった。

 

「……ここまでやっても反撃してくるのか」

 

「ぅっ、ぁは……ぅ、はぁ……はぁ……」

 

 気絶しそうになっても一瞬にして意識を取り戻すといったあまりにも驚異的な自己再生能力。たった数分程度ではその自己再生能力を枯らすことは、素手では不可能といえるだろう。

 

「だが、校章だけはそうはいかないだろう」

 

 いくら意識を回復してカウンターを仕掛けたといっても、先の猛攻によって随分と気力が削られ切っていた。だからだろう、普通なら緩めることの無い校章の辺りのガードが完全に解けてしまっていたのだ。

 

「とどめだ」

 

「……ぁ」

 

 

「シルヴィア・リューネハイム、校章破壊(バッジブロークン)

 

 

 それを証明するように、数瞬の沈黙を打ち破って音を立ててシルヴィアの校章は割れた。

 

 

 

 

 

「勝者! 誉崎基臣!」

 

 

 ワアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!! 

 

 

 基臣の勝利を告げる音声が流れた事で、会場はシルヴィアのファンによる罵声と基臣の戦いぶりを褒め称える歓声でごちゃ混ぜになっていた。

 

「っ、ふぅぅ……」

 

 戦いが終わったことで気が抜けたのか、床にへたりと座り込んでしまったシルヴィア。その顔は、負けた悔しさは少しはあれど、すっきりしたような表情をしていた。

 

「やっぱり敵わないなぁ基臣くんには。はぁ~いい線行ってると思ったんだけどな」

 

 へたり込んでいるシルヴィアの手を取ると、優しく引き上げる。

 

「実際にいい線はいってたぞ。第六感が無いせいで気が抜けなかったからな」

 

「ふふっ、正攻法だと剣術勝負になっちゃって経験の差から普通にジリ貧だと思ったからね。まさか、服を引きちぎって視界を塞ぎに来るなんて思いもしなかったけど」

 

「服や靴に装飾品、身に持っている全ての物を武器にしろと父さんに教えられたからな。まあ、本当にその教えが役に立つ時が来るとは思ってはいなかったがな」

 

 シルヴィアと会話をしながら、基臣はズボンポケットの中に収納していた予備の服を着る。

 

「ほんと、そのズボンもそうだけど界龍の服ってどうなってるの。そんなに大きい物を収納するスペースなんて無いと思うんだけど」

 

「興味が無いから詳しくは聞いたことが無いが、星仙術で色々細工してるらしい。今度、沈華にでも聞いたら答えてくれるんじゃないか」

 

「どうだかな~、これは機密だからダメなの! みたいな感じで断られそう」

 

「ふっ、確かに言いそうだな」

 

 この場にいない沈華の姿を想像して、思わず二人で笑い合う。

 

「……楽しかったよ、基臣くん」

 

「俺もだ、シルヴィ」

 

 お互いに健闘をたたえ合うように握手を組み交わした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 試合を終えて着替え終えた後、沈華とオーフェリアが戦う次の試合を一緒に見ようという彼女の提案もあり、基臣はシルヴィアの控室にやってきていた。

 

「ねえ、基臣くん」

 

「ん、なんだ」

 

「次の沈華ちゃんの試合が始まる前に少し話があるの」

 

「……話? どうしたんだ」

 

 深刻そうな面持ちのシルヴィアに、薄々ながらも彼女が何を話そうとしているのかを察した。

 

「基臣くん、今ウルスラたちの事を追ってるでしょ。それで、ある程度情報は突き止めてるんだよね」

 

「どこからその情報を……」

 

「私の情報網を舐めてもらっちゃ困るよ」

 

 大方、基臣がレヴォルフのお偉い方と接触したという情報をクインヴェール経由で情報を得たのかとある程度推測をする。一人で事を片付けようと思っていただけに、まったく面倒な事になったと内心ため息をついた。

 

「ここまで言ったら、私が言いたいこと分かるよね」

 

「……ああ」

 

「私もヴァルダ=ヴァオスを倒すのに連れて行って。力になりたいの」

 

 シルヴィアのお願いに、どうしたものかと深く思案する。

 

 確かに今のシルヴィアの実力なら、なんならヴァルダ=ヴァオスの相手を任せてもいいとすら思っている。だが、そのヴァルダの相方である処刑刀(ラミナモルス)相手となるとその危険性は跳ね上がる。

 

 今まで戦ったことの無い処刑刀だが、オーフェリアの記憶から間接的に彼の実力は把握していた。実力はオーフェリアに次ぐレベル。常人の身でどのようにしてそんな力を手に入れたかは不明だが、基臣以外が相手をするには危険度が高い。

 

 実際に事が始まってしまえば、どういう不測の事態が起こるかは分からない。もし、シルヴィアに何かがあったらと思うとどうしても気が乗らなかった。

 

「お願い、基臣くん!」

 

 シルヴィアのウルスラに対する気持ちは、第三者である基臣にもそれなりに理解できるところはある。だからこそ、基臣の忠告に対しても決して退くことはあり得ないという事も予感する。

 

(どう説得しようとも決して退くことは無いか……)

 

 拒否しても後ろからトコトコと付いてくることは目に見えているのだ。それならいっそのこと、近くに置いておいた方が幾分かは安全だろうと、基臣は自身にそう言い聞かせる。

 

「あぁもう……。分かった、分かったからそんなに詰め寄ってくるな」

 

「……じゃあ、ついていっていい?」

 

「その代わり、危険な真似だけは絶対にするなよ。それと、俺の指示に従う事。これだけは約束してくれ」

 

「…………っ! うん、もちろんだよ!」

 

 やった、と小声でつぶやいたシルヴィアの嬉しさを湛えた表情に、基臣は穏やかに微笑む。

 

(それにしても……)

 

 シルヴィアは、ヴァルダたちを突き止めるのは王竜星武祭後になると思っているだろう。

 

 だが、おそらく金枝篇同盟の目的を考えればオーフェリアが万が一でも優勝できない要素が存在するのは避けたいはずだ。そうなれば、間違いなくその障害となる基臣は彼らにとってみれば邪魔なはずで──

 

「……そろそろ来てもおかしくない、か」

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

裏話34-② 切り札

最終話までの展開でうだうだと悩んでいたので初投稿です。


 

「すぅ……はぁ……」

 

 王竜星武祭本戦の会場であるシリウスドームの待機室で、沈華はゆっくりと一つ深呼吸をする。

 

「ここまでは上出来ね」

 

 今まで対戦相手の組み合わせがよかった事もあり、難なく準決勝まで勝ち上がることが出来ていた。

 

 だが、次の対戦相手は今までとは別格。その事を意識しないようにしようとしても手の震えは止まらない。界龍最強と呼ばれる星露や基臣と同格であるといえば、そんな存在と対峙する事がいかに危険性を孕んでいることは言うまでもないだろう。

 

「まったく、こんな風になるなんてらしくないわね」

 

 こんな姿を見られようものなら、セシリーや虎峰辺りに笑われそうだと思いながら深呼吸を何度もして心を落ち着けさせる。

 

 

 

 ──ピロン

 

「……ん?」

 

 そんな試合前で一人っきりになって精神統一していた沈華の元に基臣からメールが届く。何事かと思い見てみれば、たった一言だけ書かれた文面があった。

 

『決勝戦で待ってる』

 

 まるでオーフェリア相手に勝てるだろとばかりの言いぐさに、試合前でヒリヒリしていた顔も思わず笑みが零れてしまう。

 

「……もう、簡単に言ってくれちゃって」

 

 どこまで見通しているのか分からないが、おそらく沈華が緊張しているのを見越して送ってきたメールであろうことは彼女にも想像できた。他人に無関心に見えるその印象とは裏腹に、こういう繊細(せんさい)な気配りが出来るところは彼の美徳とも言える。

 

「だからこそ、こんな私でも惚れてしまったのよね……我ながらチョロい人間だわ」

 

 こんなメールを貰ったからには、弱気な所は見せられないと自分を一喝して闘志を(みなぎ)らせる。パンッと自分の頬を叩くと、自然とさっきまで震えていた手の感覚が収まっていく。よしっ、と一人呟くと立ち上がり、愛する人の言葉を受けて戦いの場へと(おもむ)く決意を新たにした。

 

「さて、行きましょうか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『迫真の戦いを見せてくれた準決勝第一試合。午後から始まるこの第二試合も我々の心揺さぶる激闘になるのでしょうか!』

 

『オーフェリア選手が勝てば王竜星武祭二連覇の可能性が、沈華選手が勝てば誉崎選手とグランドスラムの座の奪い合いがあるっすから、どちらが決勝戦に進出しても、面白そうな展開になりそうっすね』

 

『さて! 最初に出てきたのは、ここまで持ち前の星仙術によって順当に強者たちから勝ちを拾ってきた、界龍の最優、黎沈華選手!……おや?今までの界龍の制服とは違って衣装が変わっていますね』

 

『どうやらオーフェリア選手のために奥の手を隠してたってところっすかね。今までの試合とは気合の入れようが違うみたいで楽しみっす』

 

 実況や解説の言うように、沈華の装いは今までと違い、手が隠れるほどの長袖にロングスカートの儀式衣装のような紋様が複雑に絡み合ったデザインの服装を身に纏っている。衣装が変わったことに観客も驚きの声が上がる。おそらく、対オーフェリア用に用意した代物なのだろうことは誰の目に見ても明らかであった。

 

 事前の予想では圧倒的にオーフェリア優位となっているが、何か一矢報いてくれるのではないか、そんな期待がドームにいる観客たちの間で生まれる。

 

『続いて出てきたのは、ここまで一つもダメージを受けることなく準決勝まで進み、今大会優勝最有力候補と名高い、オーフェリア・ランドルーフェン選手です!』

 

 向かいの出入り口から出てきたオーフェリアだったが、一年半ほど前の基臣の誕生日会の時とはまるで雰囲気が変わっていた。

 

「なるほど。どうりで基臣が心配するわけね」

 

 元々儚げな印象を思わせるオーフェリアではあったが、今見れば更にその儚さに加えて触れてしまえば周りにあるもの何もかもを壊してしまいそうな危うささえ感じる。

 

「そして、あれが覇潰の血鎌(グラヴィシーズ)……」

 

 使用者の血を代償にして任意に重力を発生させる純星煌式武装だが、その外見の異様な不気味さは、立ち向かってくる相手の命を刈り取る鎌のようにすら見える。今までの試合を見てきたが、《魔女(ストレガ)》の能力を使う事すらなく、覇潰の血鎌(グラヴィシーズ)の能力だけで文字通り相手を押しつぶしてきていた。重力という単純明快な能力ながらも非常に厄介と言えるものだろう。

 

「……あなたは今までの相手とは持ち合わせている運命の輝きが違うようね」

 

 待機場所で黙ったままでいる沈華にオーフェリアが声を掛けてくる。今までの対戦相手には一言もしゃべらなかっただけに珍しいと思いながらも、彼女の言葉に皮肉めいた声色で返す。

 

「相変わらず運命論なんてものを持ち出して人を評価するのやめてくれないかしら。胡散臭くて仕方がないわ」

 

「あなたが私に勝てるのかを見極めてるだけであって、理解してもらおうとは最初から思っていないわ」

 

「勝てるか、ねぇ……。まあ、私は最初から勝つ勝たないかを意識してこの試合に臨んでいないからどうでもいいわ」

 

「……どういうことかしら?」

 

「さあ?どういうことかしらね」

 

「…………」

 

 妖艶に薄ら笑う沈華の表情に、気味の悪い物を感じて思わず警戒を強めるオーフェリア。お互いに視線を送り合うが、これ以上の会話は無くなった。

 

『さて準決勝第二試合、まもなく試合開始です!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「王竜星武祭、準決勝第二試合。試合開始(バトルスタート)!」

 

 

 

「急急如律令、(ちょく)!」

 

 試合開始の機械音声が聞こえると同時、オーフェリアは重力球、沈華は分身。互いに能力を展開し牽制(けんせい)し合うように睨み合う。数瞬の膠着の末、先に攻撃をしかけてきたのはオーフェリアの側だった。彼女が振るう覇潰の血鎌に導かれるように、分身含めて沈華の元へと殺到する。

 

「爆!」

 

 対抗するように起爆札をぶつけるものの、手数が足りないために重力球に対抗するように更に大量の分身を生み出すと、その物量で分身を肉壁にしてしのぎ切る。

 

「この攻撃を凌ぎ切るのね、なら……」

 

 一度の攻撃で沈華の実力を見極めたのか、今度は本命とばかりに紫紺(しこん)に彩られた冥府の(かいな)が彼女の背後に大量に顕現する。

 

塵と化せ(クル・ヌ・ギア)

 

 数で防御しきろうという思惑を粉砕するかのように、分身体を含めて沈華に向けて叩きつけるようにしてその腕で攻撃をする。

 

「……っ!」

 

 先ほどの重力球とは威力、手数ともに桁違いの攻撃にさきほどの肉壁による防御も意味を為さない。そんな攻撃に対し、沈華は呪符を取り出して自身の前に展開すると同時、オーフェリアの攻撃が衝突した。

 

『おぉっと! オーフェリア選手が先手を取ったようですが、沈華選手は無事でしょうか!?』

 

 オーフェリアの攻撃に耐えきれなかったステージの破砕片が巻き上がり、風塵が会場を曇らせる。

 

「流石に期待し過ぎたかしら……」

 

 自身の能力が沈華を叩き潰した感触を確かに感じたのを受けて、オーフェリアは自分でも意識せずか高揚していた気分が急激に冷めていく。

 

 今まで星武祭で基臣と共に二度の優勝を果たした相手だけに、少しは良い勝負になるかと期待をしていたものの、試合にもならずに終わっていくのを感じて、所詮は基臣に頼りっきりの寄生虫のようなものかと落胆する。

 

 だが、まだ試合終了の機械音声は聞こえない。ぎりぎりの所で気絶しなかったのかそれとも別の要因か、いずれにせよ悪運強いと思いながらとどめとばかりに次の攻撃を繰り出そうと再び攻撃を沈華へと差し向けんとする。

 

 だが──

 

「破ァァァッ!!」

 

「──っ!?」

 

 背後からつんざくような拳の風切り音が聞こえ、反射的にその方向に手を出すと、今までの対戦相手とは段違いの重さが手にのしかかる。

 

「流石に硬いわねっ!」

 

「……まさか今の一撃を凌いだというの?」

 

 沈華の手を払い互いに距離を取る。

 

 煙が晴れ、沈華が元いたには数枚の呪符が燃え尽きるようにして舞い落ちていた。おそらく、呪符に何かしらの防御機能が組み込まれたものであることは予想がつく。だが、オーフェリアの攻撃力は生半可な防御など簡単に吹き飛ばせるほどに非常に高い。たかが呪符数枚ごときで防ぎきれるものかと彼女は思案する。

 

「今度はこっちの番よ」

 

「…………!」

 

 オーフェリアの攻撃を凌ぎ切った沈華が、服の袖をはためかせると同時に、独特のステップで動きながらオーフェリアに対して何の変哲もない貫手を突きつける。

 

「そんな攻撃で私を傷つけられるわけが無いわ」

 

 先ほどの不意打ちならまだしも、来る方向が分かっている攻撃は莫大な星辰力でガードできるオーフェリアにとって何の脅威も無い。攻撃に対して、何の躊躇いもなく手を差し出して防御するオーフェリア。

 

 ──だが

 

「──なっ!?」

 

 そんな彼女の予想を裏切って、沈華の貫手が星辰力(プラーナ)の壁を突き破りオーフェリアの右肩に突き刺さる。初めてのダメージに驚きを覚えながら沈華を見ると、全て目論見通りだったのだろう、何も驚くことなく淡々としていた。

 

『なんとっ! 完全無敵だったオーフェリア選手の防御をいとも容易く突き破った! ただの貫手であるにも関わらず何故あのような破壊力を実現しているのでしょうか!』

 

『おそらく、腕力などのような力づくというわけではないと思うっすけど、順当に考えれば星仙術、じゃないっすかねぇ』

 

 反撃とばかりに仕掛けてくるオーフェリアの攻撃を即座に退避する事で回避した沈華は、次の手を今にも繰り出さんとばかりに構えている。

 

「いかに馬鹿げた星辰力(プラーナ)の量を誇っていたとしても、流石に今の一撃は効いたかしら?」

 

「……今の攻撃のカラクリはその服かしら」

 

「えぇ、この服は一年以上の歳月をかけて編み込んだ呪符の塊、一種の仙具みたいものね」

 

 もう一度袖を軽く振ると、目の前にいたはずの沈華が消えていた。

 

 ──まるで、最初からそこにいなかったかのように綺麗さっぱりと。

 

「…………っ!?」

 

『おおっと!? これはどういう事か! 沈華選手の姿がステージ上から消えてしまいました。オーフェリア選手も我々と同じく姿を見失っているようです!』

 

 オーフェリアが周囲を見回し警戒していると、背中に強い衝撃を食らい、反射的に攻撃された方向へと自身の纏っている瘴気を飛ばす。だが、そこに沈華の姿はない。

 

「私の得意分野である有るものを無かったものに見せる幻術を拡張して、指定した対象の存在を本当に無かったことにする。それがこの服の能力よ」

 

「──っ!?」

 

 声がした方向に顔を向けると、そこには先ほどまで欠片も存在感が失せていたはずの沈華がいた。彼女の言う全てが全てを信じるわけでは無かったが、それでも今の現象と彼女の説明は辻褄が合う。

 

 限定的ではあるだろうが、指定した対象を消すことが出来るのならば、今まで見せたように自分自身の存在をなかったことにして相手の攻撃を回避したり、絶対無敵を誇るオーフェリアの防御も無かったことにできたり、応用の幅は非常に広い上に非常に強力な能力である。

 

 試しに自分のいる場所以外の全範囲に覇潰の血鎌(グラヴィシーズ)を使って重力を発生させるが、その瞬間に沈華の姿は一瞬にして消える。そして、脇腹に衝撃を感じて軽く吹き飛ぶと同時にオーフェリアが立っていた場所に彼女が再び姿を現す。

 

 その様子から重力によるダメージは与えられていないようで、彼女の言う通り本当に最初から存在しなかったかのように消えてしまっていた。

 

「なるほど、これがあなたの強さの根源なのね」

 

 沈華(シェンファ)に対する(あなど)りがあったのは間違いない。だが、それ以上に彼女の実力はオーフェリアの喉元とはいかないまでも、その顔に泥を塗るぐらいには差し迫っていた。その事実に、無意識ながらも興奮を抑えられない様子のオーフェリアは、今度こそ全身全霊を以て沈華を叩き潰さんと仕掛け始めた。

 

「急急如律令、(ちょく)!」

 

 何度も何度も攻撃しても存在が消えて回避され続ける。一見、誰の攻撃も受け付けず一方的に攻撃できる無敵に等しい能力かに思えた。

 

(やっぱり……この能力、長続きはしないのね)

 

 しかし、何度か攻防を経て沈華の能力も永続するほど長持ちするものでない事に気づく。仙具として服を媒介にして負担を軽減しているであろうとはいえ、能力使用のコスパは良いものではないのだろう。自分の存在を消す能力だけで十分オーフェリアに対抗できるにもかかわらず、時折本体に攻撃が来るリスクを覚悟しながらも分身を併用しているのがその証拠とも言える。

 

 長丁場になれば先に詰まされるのは向こう側。それを理解したオーフェリアはひたすら繰り出される攻撃を最低限のダメージで受け流し、時間が経過するのを待つ。

 

 オーフェリアが攻撃し、それを沈華が(かわ)す。そして、時折服の中からかなり小さいサイズの投げナイフの形をした煌式武装を取り出してはオーフェリアに投げつけてそれを受けながらもかすり傷程度のダメージで済ませる。

 

「煩わしいわ……」

 

 唯一、意匠を凝らした紋様が彫られた投げナイフが何個も突き刺さり、身体から抜けてくれない事だけは煩わしく感じたものの、それが戦局に影響を与えることなく、攻防が繰り広げられて10分ほどだろうか。ほとんど動かず膠着する戦況に、ただ沈華だけが消耗しているのが目に見えていた。

 

「……そろそろあなたも限界が近いんじゃないかしら」

 

 のらりくらりと回避しては、微小なダメージしか与えることが出来ておらず、善戦はしたもののどう見てもオーフェリアの勝ちは揺るがないかのように思える。そんなオーフェリアの問いかけにも沈華は気丈に振る舞い、戦いの意志を捨てることは無い。

 

「勝手に私の限界を決めつけないでくれるかしら。まだまだこれからが本番なのよ。ちょうど本命の方も完成したことだしね」

 

「本命……?」

 

 沈華の言葉の真意を探るため周囲を見回すが、幾多の攻撃で荒れたステージがあるのみ。それ以外には特に変わった様子はない。

 

 しかし、何かの確信があるのかニヤリと笑みを浮かべると、今まで以上に複雑な印を結んでいく。

 

「さあいくわよ! 急急如律令、(ちょく)!」

 

「────ッ!?」

 

 沈華が印を切ると同時、オーフェリアに刺さっていた投げナイフが淡く煌めき、彼女の身体を取り巻くように(あお)の鎖のような物が具現化して絡みつき、それと同時、身体がズシリと鉛袋を何重にもして着せられたかのように、じわりじわりと体が重く感じるようになっていく。

 

「あなた、何をしたの……っ」

 

「結界型。ここまで言えば分かるんじゃないかしら」

 

「結界型……!」

 

 

 

 ──結界型

 

 それは、星武祭が始まった黎明期にアスタリスクで使われていた煌式武装。能力としては相手の星辰力に直接干渉して動きづらくさせて行動を制約するといったものでシンプルながらも強力な能力。

 

 だが、発動体を全て適切な形で相手の狙った部位に命中させなくてはいけない、発動までに時間がかかる上に起動するのに意識を割かないといけないので戦いづらくなる、など様々なデメリットを抱えていた。

 

 今となっては行動を制約する効果も対策されて数秒あれば解除できるため、戦闘でまともに使われることの無くなった骨董品(こっとうひん)。そんな骨董品を沈華が引っ提げてきた理由は、結界型の副次的効果にあった。

 

 それは──

 

「なっ……ぁ、力が……」

 

「無限大の星辰力を誇るあなたとは云えども、流石に効いているようね」

 

 相手の星辰力を一定の割合ではあるが封印する点であった。星辰力の出力を2~3割ほど制限するため、攻撃防御どちらの面においても非常に厄介になる。

 

 とはいえ、通常の星脈世代であれば、2,3割の星辰力出力を封印してまでこのような大それた儀式めいた作業をするのは割に合っていない、所詮副次的効果の範疇(はんちゅう)をすぎないレベルである。

 

 だが、オーフェリアに限ってはそのリスクを冒してまでもやる価値があった。絶対を誇っていた彼女の防御は、普通の煌式武装でも使い手によってはなんとか貫通できるレベルにまで抑え込まれ、攻撃面でもぎりぎり防御可能な代物へと変わる。

 

 それに加えて、通常の結界型の煌式武装と違って、沈華の物は星仙術(せいせんじゅつ)を組み合わせたことで長期間効果が持続する。その持続時間は基臣と戦う決勝戦まで持続するように設定されている。

 

「だから最初に言ったでしょ、私は勝つ気なんてないって」

 

 要は、今回王竜星武祭に出場したのは、あくまで基臣の手助けとなるため、それだけであった。

 

 基臣と先に対戦することになったなら適当に戦って負ければいいし、今回のようにオーフェリアと先に対戦することになったのなら、封印して基臣が出来るだけ楽に戦えるように支援する。今回沈華が王竜星武祭に出場したのはそういった思惑があるからだったのだ。

 

「さっきわざわざ呪符の服の能力を喋ったのは……」

 

「そう、この結界型の煌式武装(ルークス)から意識を反らすため」

 

 オーフェリアは、ただの有象無象(うぞうむぞう)だと思っていた沈華の罠に最初から嵌められていたのだ。罠が効力を発揮するまで気づくことなくじわりじわりと真綿を絞めるかのように。

 

「何が原因かは知らないけれど、力を制限してるせいで中途半端にしか能力を行使できないのが仇になったわね。おそらく、本気のあなただったら私はおそらく一分持つか持たないか程度で死んでいたわ」

 

「っ……!」

 

(……自分で決めたとはいえ、本当に危ない賭けね。ピューレにあの話を聞かなかったらこんな事もしなかったでしょうに……)

 

 

 

 

 

 ────────

 

 

 

「シェンファ、いきなりだけどお願いがあるの」

 

 それは、半年前の事。星露の元で鍛錬中の基臣から離れて実体化したピューレだけが、話をしたいと言い沈華の私室にやってきていた。

 

「本当にいきなりね……まあいいけれど。どうかしたのかしら?」

 

「次にある王竜星武祭、基臣と当たる前にオーフェリアと当たるなら出場を辞退して」

 

「いきなり何を言うかと思えば、私に向けたその言葉の重み……理解しているのかしら?」

 

 一瞬にして場の空気がヒリつく。星武祭の優勝は、星脈世代にとって悲願。それもグランドスラムがかかっているとなると、それがどれだけの意味を持っているか想像に難くない。とはいえ、それだけであればグランドスラム自体には沈華も執着もない。だが、基臣と直接対決することが出来る機会は次の王竜星武祭を除いてありえない。彼と星武祭の舞台で対決できる最後の機会を目の前にして辞退してくれというのは沈華にとって無理な話だった。

 

 そういう訳で、不機嫌さを露わにして抗議しようとも思ったが、ピューレの様子がどこかいつもと違って見えたために、沈華はため息をついて気分を落ち着かせることにした。

 

「まあ、変な条件を付けている所を見るに、何かしらの事情があるんでしょ? 言ってみなさいな」

 

「……うん」

 

 悲し気な表情をするピューレの頭を優しく撫でて話を促すと、彼女はポツリポツリと語りだす。

 

 金枝篇(きんしへん)同盟の事、オーフェリアの過去の事。そして、オーフェリアの精神状態が不安定なために、下手に強い人間だと逆に生死に関わる大怪我をしかねない事。特に、沈華は基臣との関係性を強く想起させる存在であるために、オーフェリアの地雷を踏む可能性があることをピューレは念押しした。

 

「ふー……。なるほどね、どうりで基臣が必死にオーフェリアを追っかけるわけだわ。それでいて私があの子にとっての地雷であると。その感じだと、同じく出場するつもりのシルヴィとエルネスタにも言うつもりね」

 

「なら……」

 

「でも簡単に、そうですか分かりました、なんて返答にはならないわね」

 

「シェンファ! 私は心配して……っ!」

 

「もちろんそれは分かっているわよ。確かに、下手したら私は死ぬわ。私だって馬鹿じゃないし、死に急ぎたくないわよ。でも、今の事情を聞いたら尚更引き下がれない。基臣だけまた危険な話に突っ込むのを指を咥えてみているなんて、私の性に合わないから。それはきっとシルヴィたちも一緒よ」

 

「シェンファ……」

 

「安心なさいな。私、こう見えても強いのよ?」

 

 

 

 ────────

 

 

 

 

 

(ほんと、アスタリスクには(こじ)らせた奴が多いわね……私が言えた事じゃないけれども)

 

「一つあなたに聞いておきたいことがあるわ。……なんで基臣の元から離れたの。前に見た時は随分と楽しそうにしていたくせに」

 

「……それは」

 

 沈華の問いに逡巡(しゅんじゅん)し、口ごもっていたオーフェリアだったが、かすれるような小さい声で答えた。

 

「私にとってあんな日向(ひなた)のような(まぶ)しい場所はもういらなかった。それだけよ」

 

「もういらなかった、ねぇ……。あなた、結局自分の嫌な事から目を背けているだけじゃない」

 

「っ、基臣もあなたもそうだわ……。私の何が分かるのかしら」

 

「分からないし、分かりたくもないわね。自分の事を理解してくれる仲間を切り捨てて、果てには人様に迷惑をかける。ただの傍迷惑な駄々っ子じゃない、それ」

 

「駄々っ子……っ」

 

「環境や境遇に恨みをすることは私だって似たような事があったし理解できるわ。ただ、その結末が関係ない他人も巻き込んで破滅するだなんて考え、許されるはずがないでしょ」

 

「あなた……どこまで知って……。まさか基臣から……!」

 

「まあ私がいくら言っても聞きはしないでしょうね。そろそろ終いにしましょ」

 

 沈華の袖元から大量の起爆札がひとりでに飛び出してくる。その数は、数十、数百……そんな程度ではすまない。約数万にも及ぶほど大量の起爆札がステージ上空に展開される。一枚程度でもかなりの威力が出ていたことを知っていたオーフェリアは──

 

 

 

 ──自身が《魔女》になって初めて、恐怖の感情を抱いた

 

「最後の置き土産よ、しっかりと味わいなさい」

 

「……あなた、まさか──」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「爆」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 呪符が光り輝いた瞬間、全てを焼き尽くさんばかりの焦熱地獄が顕現する。

 

「クッ!?」

 

 大量の起爆札が連鎖し、爆発の雨をステージにいるオーフェリアに降り注ぐ。

 

 爆発によって生じる熱量がオーフェリアの肌を徐々に焦がし、ジリジリと鋭い痛みを与えていく。星辰力による防御すらも突き破ってくるその熱量の余波はバリアで仕切られているはずのステージにまで到達し、観衆もその暑さに思わず目をつぶるほど。

 

「…………っ」

 

 しかし、大規模かつ強力な爆発ではあるものの起爆札程度でオーフェリアを倒せるまではいかない。とはいえ、彼女も無傷とまではいかなかった。爆発で露出した肌はところどころ焼け焦げており、必死に吸おうとする空気も焼け付いてるように感じて妙に息苦しい。今までの星武祭でろくなダメージを受けたことの無いオーフェリアにはどこかその痛みはいやに鮮明さを帯びているように感じた。

 

「けほっ……! かぁ、はッ……ぅ……っ」

 

 ようやく煙が消えて見えるようになった視界にいる沈華は、星辰力を使い果たし、大連鎖の爆発の猛攻に耐えきるのが精いっぱい。なんとか爆破を凌ぎ切りはしたものの、もう立ち上がることも出来ず、ステージの床に倒れ伏していた。だが、表情だけは闘志を(みなぎ)らせており、傷ついたオーフェリアを見るや楽しそうに顔を歪める。

 

「っ、くくっ……いい、気味ね……」

 

「あなた……ッッ!」

 

 意識が朦朧(もうろう)とし、既に怒りに満ちたオーフェリアの表情も(かす)んで見えている。

 

 もう欠片も星辰力が残っていなかった沈華は、薄れゆく意識の中、基臣の姿を思い浮かべた。

 

「……後はあなたに任せたわよ、基臣」

 

 

 

『黎沈華、意識消失(アンコンシャスネス)

 

『勝者、オーフェリア・ランドルーフェン』

 

 

 

 機械音声が準決勝の勝者を宣言した。だが、それではオーフェリアの気は晴れる事はない。

 

「許さない……許さないッ!」

 

 先ほどの問答で沈華に図星を突かれ、まるで勝ち逃げするかのように気絶される。そんな沈華に珍しく怒りの感情を露わにするオーフェリア。

 

 その憤怒を表現するかのように、彼女の周りに揺らめいている瘴気の動きも激しいものへと変わる。試合が終わったにも関わらず、彼女は矛先を沈華に向けたまま下ろすことなく、今にも攻撃を仕掛けんとしていた。

 

「許さないッッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「──天地開闢(てんちかいびゃく)

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──斬

 

 沈華に迫っていた大量の瘴気を何者かが切り裂いて掻き消す。

 

「誰っ」

 

 観客席からの第三者の乱入に、敵意を剥き出しにしていたオーフェリアは、一瞬呆気にとられる。だが、たった先ほどまで戦っていた沈華以外に、絶対的な力を持つ自身の攻撃を切り裂けるのに心当たりがあるのは一人しかいない。

 

「……試合は終わった。もう手を出すな、オーフェリア」

 

「基臣……っ!」

 

 ギリッ、と歯を噛みしめる音がステージに反響する。今一番来てほしくなかった相手を目の前にして、オーフェリアは出来る限り冷静に、そして冷徹に言葉を紡ぐ。

 

「……どいて」

 

「どくわけないだろ。お前こそこれ以上やればどうなるか、言わないでも理解してるはずだ」

 

 星武祭(フェスタ)の規約上、試合が終わっての戦闘行為は固く禁じられている。それを破れば何らかの制裁措置、最悪の場合は出場の権利を破棄されることさえある。

 

 今なら未遂行為で処分を軽くできる。そう訴えてくる基臣の目に、オーフェリアは酷く自分の心がかき乱されていくのを感じ取る。

 

「気に入らない……」

 

 傷ついた沈華を抱きかかえる基臣の姿を見るや、指摘されたように駄々っこみたく纏まりのない苛立ちを基臣にぶつける。

 

「いつもあなただわ……。この子が私に説教してくるときも、あなたの影がついて回って離れようとしてくれない……! なんで今なの……! もっと昔に助けてくれたら私は……」

 

 ──もっと昔に

 

 そんなたらればは空想の産物でしかないことを彼女自身も理解はしていたが、本音はそう簡単に納得できない。八つ当たりに近い彼女の吐露する心境に、基臣も表情を曇らせる。

 

「今更私を救おうとしても遅いのよ……っ」

 

「オーフェリア……」

 

 初めて見せる彼女の涙に、本音が薄っすらと垣間見えた気がしてならなかった。

 

「あなたとの縁を断ち切るには……もう、殺すしかないのね」

 

 本来の役目を果たしたいけれども、そのためには邪魔をしてくる基臣を殺すしかない。

 

 そんな葛藤の末の彼女の決意を、今まで一度も表したことないオーフェリアの殺意を感じて理解する。

 

「「…………」」

 

 基臣への殺意を剥き出しにして以降黙りこくってしまい、オーフェリアはもう喋ることはなく泣きそうな表情で睨みつけるだけ。

 

 

 

 一年ちょっと前までは仲の良かった二人の決裂は、誰が見ても明らかだった。

 




二か月近くお待たせしてすみませんでしたm(_ _)m
これからの展開はある程度構想しています。11月前までには完結させたい所さんですので、急ピッチで執筆していきます(11月22日の良い夫婦の日には後日談でヒロインいちゃいちゃ話書きたいから間に合わせたい)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

part35

最近朝の寒さが堪えるような辛さになり始めつつあるので初投稿です


 

 物語の黒幕がラスボスの前座とばかりにボコボコにされる悲しきRTAはーじまーるよー

 

 前回、準決勝が終了してホモ君が無事決勝戦に進出。そして、オーフェリアはメスガキにうまい事ハメられて戦力ダウンしちゃったところまででした。

 

 オーフェリア相手に無茶したせいで担架で担がれていったメスガキですが、万が一も考えて治療院に運ばれたようです。こいつ、いっつも治療院送りにされてんな。

 

 シルヴィたちから見舞いに行こうと言われたので、ついていくことにしますが、その前に界龍にいる虎峰に、鍛錬場に置いてある真剣を三本ほど持ってくるように電話で伝えておきましょう。なぜに煌式武装(ルークス)とか持ち合わせがあるのに真剣? と思われるかもしれないですが、後々役立つ可能性があるのでその時に解説を。

 

 さっそくヒロインズと共に見舞いに行くと、面会謝絶と言うことも無くすんなり通してくれました。

 

 どうやら、オーフェリアの瘴気による攻撃は食らわずまともなダメージは自身の大爆発による自爆ダメージだけだったようで、そこまで深刻な負傷では無かった様子ですね。意識も割とハッキリしてますし、割とすぐ退院できるとの事。

 

 さて、メスガキのお見舞いをしている間に、ここまで全く出番が無くて忘れ去られてしまった悲しき存在、エルネスタに新しく作られた煌式武装(ルークス)の解説を。

 

 王竜星武祭の準決勝まではヤンデレ剣だけを使っていたので、お披露目の機会が無かったこの煌式武装。切れ味自体はいたって平凡々な普通の煌式武装ですが、その真骨頂はあらゆる攻撃に対する異常なまでの耐久性です。オーフェリアの攻撃を始め、原作主人公が使う黒炉の魔剣の圧倒的な火力にも余裕で耐えきり、まあ普通の手段では破壊されるなんてことはありません。なんだこのオーパーツ!? 

 

 ただ、切れ味が足りないのでオーフェリア相手にダメージを通せないのではないかと懸念もありましたが、どんな使い方をしても壊れないので勢いをつけて叩き切れば普通にその分のダメージは出るようです。要はこの剣、切るというよりも叩いて使うという表現が正しいですね。ホモ君の誉崎流極伝を使えば、とんでもない速度で攻撃を繰り出せるためにバカみたいな威力を叩きだせる、全くデメリット無しのイカレた武器が完成というわけです。

 

 そんな感じでサラッと煌式武装の説明をしていると、お見舞いをしていたホモ君たちの元にようやく虎峰がやってきました。さっそく頼んでおいた真剣をもらっておきましょう。

 

 真剣をもらったホモ君を疑問に思っているシルヴィと先に帰ると言って二人きりになり、治療院に出る前にこれから襲撃される可能性があり、迎撃するつもりであることについて話しましょう。

 

 シルヴィが大丈夫なのかと聞いてきますが、策はあるので(問題は)ないです。大丈夫だって安心しろよー(露骨なフラグ)

 

 そういう事で、お見舞いを終え、治療院でシルヴィと別れるフリをしてこちらは一人だけで普通に帰路につきましょう。そうすると、なーぜーか再開発エリアに無意識に誘導されてしまいます。不思議ですね~? (すっとぼけ)

 

 しばらく再開発エリアで迷っている内に黒幕さんこと処刑刀(ラミナモルス)とヴァルダ=ヴァオスさんと遭遇しました。うん、知ってた。

 

 おそらく、オーフェリアが予想外の痛手を負ったので、彼女の敗因となるかもしれないホモ君を予め消耗させておこうとか、そういう魂胆でしょう。似たようなケースが試走段階で何回も確認されていたので、ある程度想定は出来ていたことでした。

 

 この二人ですが、タッグを組まれたら非常に厄介なレベルで戦闘力が高いです。二人とも単体でも非常に厄介な遠距離攻撃が出来るため、ストーリーのNPCレベルでは使いませんが、対人対戦環境では一時期くっそ悪質なハメ技の使い手として悪い意味で有名なコンビでした。そのため、私もこの二人が超絶嫌いで思い出しては時々ボコボコにするぐらいには私怨があります。

 

 そんなクソみたいハメ技が無くても、シンプルに能力が強力なため相手にしてるだけで面倒くさいことこの上なく、本来なら超強力な敵です。

 

 

 

()()()()()()

 

 

 

 わざわざ含みを持たせていったという事は簡単な攻略法があるわけですが……論より証拠という事で早速実践しましょうか。

 

 まず、先ほど別れたシルヴィにはヴァルダたちにバレないように後をついてきてもらい、ホモ君が二人と戦っている間に、準決勝の時に使った例の万応素を止める歌を隠れながら歌ってもらいます。で、万応素を止めたらどうなるか、準決勝でその能力を受けたホモ君を見た視聴者ならもうお分かりだと思います。

 

 そう、ヴァルダは機能停止し、処刑刀さんも愛剣である赤霞の魔剣(ラクシャ=ナーダ)を封じられることになり、大幅に戦力ダウンするわけですね。

 

 ですが、その事はもちろん試合を観戦していた不審者二人組共も把握しているので、シルヴィといたら間違いなく警戒心を露わにして逃げられる可能性がかなーり上がります。ですので、あえてシルヴィと別れるフリをして彼らの警戒を解く必要があったんですね(メガトン構文)

 

 ただ、それだけでは歌唱中にシルヴィの存在がバレてしまうので、予め治療院を出る前に布石を打っておきました。その布石はというと、ヤンデレ剣の何でもできる能力を使ってシルヴィの行動を全て無音化することです。これによって歌っているけれど、無音化によって相手に全く気づかれないという最強の初見殺し不意打ち戦術が完成するという訳です。……自分で作戦を考案しといてなんですが、チートすぎない、君ら? 

 

 まあ、その代わりすぐに歌唱を出来るわけではないので、時間にして二分ほど二人の攻撃を凌がなければいけませんが、今のホモ君にとってはお茶の子さいさいです。あまり実力を見せつけすぎると、逃走されかねないので、彼らに合わせて適度な強さで相手をしてあげましょう。

 

 

 

 

 

 ……ヨシ! 時間稼ぎも終わったことでシルヴィの歌唱も終了し、先ほど言ったように見事に万応素停止がハマってヴァルダの方を無力化できましたね。処刑刀さんの方も赤霞の魔剣(ラクシャ=ナーダ)を無力化され、予備で持っている煌式武装(ルークス)も使えない状態にされてしまいました。

 

 そろそろ狩るか……♠(雑魚狩りピエロ)

 

 とはいえ、流石に舐めプして捕まえれるほど処刑刀さんは弱くないので、神依で最大100%まで身体能力を引き出します。最悪のパターンを引いて逃げられそうになろうものなら誉崎流の極伝も使って完全に逃げられないようにします。捕まえれば情報が洩れる心配なんてありませんからね(暗黒スマイル)

 

 そういうわけで、武器の有無による優位性で処刑刀さんをわからせましょう。この時、二人とも殺さないようにしないと豚さんに怪しまれて即海外に逃走されてしまうので気を付けましょう(1敗)

 

 さて、処刑刀さんのわからせに成功したので、気絶したヴァルダを任せていたシルヴィの様子を見に行きましょうか……

 

 ……うん。誰がどう見ても分かるぐらいに、ホモ君に対してメス顔晒してますねぇ……。今までの好感度の上昇度合いが緩やかで且つ恋人同然の好感度なのでこの程度で済んでますが、出会って少し経った程度でこんな事してたらその場で押し倒されてアッー! ♂な事になってもおかしくないんですよねぇ。

 

 基本的に安定した好感度上昇を行えるシルヴィですが、ウルスラ周りだけは地雷原じゃないかって程に暴発しやすいので、今回は無事に事が済んでホッとしました。

 

 二人を気絶させたところでシルヴィとウルスラの感動の再会……といきたいところですが、処刑刀さんらが失踪したとなると豚さんが何をしでかすか分からないので、さっそく彼らの負傷をある程度治療した後に、記憶改竄して送り返しときます。この時に勝ったことに満足してGPSを取り付けとくことも忘れてはいけません(1敗)

 

 これで一件落着という事で、メス顔のままでボーっとしているシルヴィをクインヴェールまで連れてこれたのでここで解散してホモ君も界龍でゆっくり養生しま……むぐっ!? 

 

 う、羽毛……(ベロチュー)

 

 

 

 …………

 

 

 

 やべえよやべえよ……。これ完全にデキあがっちゃってんじゃないですかぁ……。

 

 シルヴィがもの欲しそうな顔をしてるなら応じてあげるのが男の務め? いやいやいや、今おっぱじめたら、翌朝には色々と枯れ果ててしまったホモ君が発見されること間違いなしなので、絶対に誘いに乗ってはいけない(戒め)

 

 おやすみとだけ言ってシルヴィの方から帰っていったので特にキス以外は何も起こりませんでしたが、色々と彼女の思惑が掴めなくて困惑するしかないのですが……。とりあえず今のところは大丈夫なので、彼女の対処は未来のホモ君に任せるとしましょう(無責任)

 

 

 

 

 ……………………

 

 

 

 突然シルヴィがキス魔になるというハプニングがあったものの、ゆっくり休息を取ることが出来て翌日になりました。昨日の今日ではありますが、さっそく王竜星武祭の決勝戦が始まりますね。普通の大会なら準決勝と決勝の間に一日休息日が挟まるはずなんですが、星武祭はなーぜかそういうのがないんですよね。星武祭の運営委員、それどころか星武祭を観戦している観客全員せっかち……つまりホモってことでは? (超理論)

 

 そんな考察を挟みましたが、次は最終決戦。本気モードのホモ君をお披露目することができるので非常に楽しみ──

 

 今回はここまで。ご視聴ありがとうございました。

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。