忍者の末裔は影が薄い (仮面屋)
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遠藤影介は気が付いた
後書きで少しだけ補足があるよ
仕事、と聞けば何を思い浮かべるだろうか。
たとえば商談、自社の商品をアピールし相手に購入してもらう。購入させる者もいるかもしれない、信用の得られない営業が続くようには思えないが。
あるいは機械、同じ商品の工場でも、製作と整備では内容は違えど非常に近くノウハウを生かしやすい。思わぬところで思わぬ技能が役立つこともある。一発芸人とか
もしくは農業や畜産。人のために育てる者もいるし、家畜に食べさせる者もいる。その逆に家畜の糞を土に混ぜることもあるかもしれない。くさそうだ。
仕事といえどその種類は千差万別、一言で言い表せるものではなく、故にこそ珍妙な仕事も存在するものだ。
彼の仕事もまたそんな珍妙な仕事の一つ、その内容は────
「ほらいけ、そこだっ! そうだ! ってFぅううう!? お前なんでそこにいんだなにやってんだ、あ──じゃなくて早坂ぁあああああ!!」
秀知院学園高等部生徒会の会長を副会長に告白させることだった。
遠藤影介という人間は忍者の末裔である。今となってはそれらしい技も継承されず、ただの一般家庭、と呼べるかは分からないが、まぁ彼の家族は精力的に活動することはない。そんな彼だが忍者らしいものももっている。
それは影の薄さだ。いや本人にとってみれば嬉しくはないだろうが彼は非常に影が薄い。あまりの薄さに教師が気が付かずに欠席にされ、写真を撮られれば心霊写真としてお祓いされたり、式典では同じのクラスの人間に不審者にされ……
反抗期には気づかれないのをいいことに声を上げずにいたら、修学旅行の班分けにすら参加できず、その存在に辿り着いた家族からの電話によって行方不明者届が出された。その日、彼は喜びで枕を濡らした。短い反抗期だった。
反抗期は収まったが承認欲求は消えない。気づいてもらえたからこそもっと気づいて欲しいと思った、自分を見て欲しいと思った、他の人も気づけるだろうと希望を抱いた。彼は倉庫を漁り血が滲む様な修練によって忍者の秘伝を習得した。ただ誰にも気づいてもらえなかった。あたりまえだろう、誰も知らないのだから。
そんな彼が有名になるのはある意味当然だが、同じクラスの者にすら忘れられることのある彼を認識できる者など限られており、噂と噂が混ざりそれが更に噂を呼び七不思議のひとつにまでなってしまった。彼は泣いた。
なぜこんなにも見てもらえないのか、なぜ誰も自分に気づかないのか。私が何かしただろうか、それとも何もしていなかったのだろうか。そんなことはない、俺は行動した、なのになぜ気づかない、こっちを見てくれ、私はここにいる。
その内、彼は人を信じることをやめた、期待することをやめた。それでも家族は気づいてくれてるから、もう少しだけ信じてみよう。そんなことを切望した。誰か気づいてくれ、と。
高等部に進学してもそんな日常が変わるはずもなくまたいつも通りの1年間、そう思っていたのが変わったのは入学式・始業式を終えた後の話だった。
「よろしくー遠藤」
ああ、このクラス遠藤が二人もいるんだ。今年はかなり影が薄くなるな。そんなことを漠然と考えながら淡い期待を抱きながら軽く会釈をして椅子に座る。それが最初の出会い。
二度目は放課後、どうせ気づかれないからと昼寝をしていたとき。ふと人の気配を感じて目を覚ますと前の席に一人の女生徒が座っていた。
期待を抱いて話しかけられる準備をしようと人を動きを知ろうとしているうちに身に着けた技能だが、けっきょく話しかけられることもなくむしろ勘違いで返事をして心底驚かれたのを思い出して悲しい気持ちに包まれながら観察するとどうやら始業式後に声をかけてきた女生徒のようだった。
最もこの様子ではただの勘違いだったようだが。
「……」
静かだった、ただただ静かだった。静寂が響く。
何を考えているんだろう、と思った。朝とあまりにも様子が違いすぎる。それによく見れば彼女はギャルではなかろうか、名前は早坂 愛だったか。と考えたところで疑問がわいてくる。
見た目も趣味もギャルだったはずだが、そんな彼女があんな普通な女子高生の様な挨拶をするだろうか。
そもそも今朝から彼女に対しては違和感があった。接触したのは初めてだが彼女に対しては「違う」と思った、どころか「きもちわるい」とおもってしまった。
なんで? 彼女にだけそう思ったのか、彼女は他となにがちがうのだろうか。そんなことを考えながらも彼女を観察する。
その日から早坂 愛を観察することにした。ただ、行動が変態的だなとは思った。
観察を続けて分かったことがある、彼女は差が大きい。放課後とか人のいない場所ではクールな女の子といった印象だった。女性と言わないのは学園でのギャルというイメージが強いからだろう。そしてその切り替えが早く、別人のように感じられるほどの演技力、素直に凄いと思う。自分が感じ取った違和感はこれだったのだろう、あまりにも差が大きすぎてきもちわるいと思ったほどだ。
ただ、なんとなく「これじゃない」きがする。
だから観察を続ける、ストーカーみたいだけど、続ける。続けるったら続ける。なんでこんなにいいわけしてるんだ。まるで、まるで──
むりやりなっとくさせようとしてる?
観察を続けて分かったことがある、この出だし前にもやった。それよりもだ、彼女は氷のかぐや姫と関わりがあるようだ。なんだか使用人みたい、そう思った。四宮ほどの財閥ならそれくらいいるかもしれないが、軽く調べるくらいならいいだろう。家同士のつながり程度なら簡単に出てくるだろうし。
ほんとうにしようにんだった
早坂家は昔から四宮家に近い家系であり四宮グループの中に組み込まれている。間違いなくお付だろう。家では更に忙しなく働いているのだろうか? 意図せず見えたスケジュールを見てちょっと多忙すぎないかと同情した。
ところでなんでこんな行動してるん?ばかじゃん、変態かよ、ストーカーかよ、ストーカーだわ、どうみても。少し自重しよう、そうしないと社会的対千葉が凄いことになるいやあせりすぎかよ対千葉ってなんだ対千葉って千葉に恨みでもあんのか。
観察を続けて分かったことがあ⤵ーるー。
あらためて見ると早坂ってかわいくね? かっこよさもある、美しさもある、なんか女性にかわっていく過程を見ているような気分だ、たぶん差が大きすぎるからだな。普段の大人びた姿も学園でのギャルの姿を見ているから余計に大人びているように見えるのだろう。
今までは行動や内面にばかり気を取られていたようだ。
うん? でも金髪とか碧眼とか、間違いなく反応を示すはずだが。包容力のある女性とか、お世話するとかされるとか、気にしないはずがない。
そうやって考えると彼女のこともさらに気になってくる。彼女の瞳は言ってはなんだが使用人の目じゃない、いや使用人とかまったく見ないからあまりわからないがあれは違うと断言できるめだった。あるじも氷のかぐや姫と言われるほどに目が死んでいたが最近は正気戻ってきたようにみえる。
そもそもなんで彼女にこれほど惹かれているのか。もしかすると初日のあれだろうか、挨拶を自分に向けられたものと思ってしまったからまたはなしたいとでも思っているのだろうか。
ああそれはまるですがっているようで
─────。
「ああ……なぁんだ、そういうことか」
わたしはまだ縋っていたんだ、みじめったらしくしがみついて、そう、それだけのはなしだった。
おれはどれほどなさけないすがたをさらせばいいのか。子供のようで、はいつくばってすすむまいごのこども。どこまでもまよって、まよって、まよって、だからこそねがう。
ここにいるよって
ただそういってほしい。わたしはかのじょにもとめていた
だから、わたしは、彼女を観察することを止めた。
そのはずだったのに
「遠藤さん、でしたか」
時系列的には冒頭が原作、以降は過去編であり高等部1年まで進んでいる。
ところで忍者って主を持つものだけどかつての名家も今は一企業になっているかも知れない、となると実は深い縁があるかも?
遠藤影介
皆に認識されなくてこじらせてる人。
承認欲求が強い、家族以外に「ここにいるよ」って言ってもらうだけで依存する。
でも、普段は仮面をかぶってるからきかない、そして外し方を忘れた。
気持ち悪いと思ったのは単なる同族嫌悪。互いに仮面をかぶっている、気づかない様にしているなど悪い面ばかり重なっているからそれを感じ取ってしまった。普段はここまで執着しない、精々淡い恋心と勘違いするだけである。それがこんなにも捻くれてしまった。最後も少し思い違いをしているし、目をそらした部分もある。
他にも臆病で泣き虫で気が弱い、趣味は作ることと壊すこと、となんだか似ている。
仮面の種類
外出時 仮面舞踏会にでも出るのかってぐらいには「らしい」仮面。仮面が邪魔でうまく話せない。そして話し方を忘れた。
自宅 かぶる仮面の種類を変えただけ、スキーやレスリングなどのマスクになる。結構甘えることもあるけど、抱きしめることが多い。家族は多くのことを知っているから推理できる、分からないけど見つけられる。だから忘れられたくない、でも忘れられてしまうかもしれない、そんな感謝と愛情と悲願と恐怖とともに。
一人のときは風邪予防とかのマスク。もう一人称が安定しないぐらいには自分のことが分からない。
それとも
分かろうとしないだけ?
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