ヴァルキュリアが強すぎる (yua)
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00開戦前

戦場のヴァルキュリアの二次創作もっと増えて


お早うございます!

朝もはよから王宮出仕、ワンダリング兵士アルバート=オデッセイでございます。

車じゃないよ、人間だよ。青っぽい黒髪だけど青カミの一族じゃないよ。

ましてや、ヴァルキリアなんかじゃないよ!

目の前ですんごい目力で睨んでくる美女が怖すぎるんだが。

王宮の一室に居並ぶのは、最年長で軍規に厳しい鬼将軍、飄々としつつも頼りになる兄貴分、ちょうこわい美女、兵士の俺、そして皇太子のマクシミリアン殿下。

「帰っていいですかね?」

「不敬罪で死刑」

「二階級特進?」

「降格と減給だ」

真っ白に燃え尽きたアルバートを無視してマクシミリアンは

「さて、諸君」

威厳たっぷりに語り出す。

「ガリア侵攻の日取りが決定した」

待ってましたとばかりに不適に笑うイェーガー。

鉄面皮に口をへの字に曲げるグレゴール。

誇らしげに胸を反らすセルベリア。

死んだ目でブツブツ呟くアルバート。

「減きゅ…」

「わぁ、たのしみだなー。僕は何をすればよろしいんですか?」

「不眠不休で働け、馬車馬の如く」

「へげ~…」

再び真っ白に燃え尽きたアルバートを捨て置き

「ガリア侵攻はかつて皇帝が果たせなかった宿願、我らは二十年前の忘れ物を取り返しに行く!」

『ハハッ!!』

力強く拳を握り、マントを翻すマクシミリアンの前で膝まづき頭を垂れる一同。アルバートは…(以下略

 

「アルバートは全戦線の補給を絶やすな、各員は後背を気にせず蹂躙せよ。ガリアに帝国の強大さを思い出させるのだ!」

「死ぬ、死んじゃいます。いくら小国相手とはいえ、何方向から侵攻する気ですかね!?」

「三人の将軍、さしづめ三将軍(ドライ・シュテルン)と名付けようか」

「人の話を聞いてねぇ!」

「煩い、四将軍(フィーア・シュテルン)とすれば満足か?」

「そこじゃない、そうじゃない!」

「ふーむ……イェーガーよ、予備戦力は貴様の隊にするか?」

「閣下も意地が悪い。俺は何がなんでも戦功が欲しいんですよ。他人に譲る気はありませんぜ」

「セルベリア」

「閣下にご恩返しをしたい一心であります。出来ますれば最前線にての配置を!」

「グレゴール」

「私が後ろに回って宜しいので?」

「クッ、まさかにな。後ろからいつ射たれるか判ったものではない」

不適に笑うマクシミリアンとグレゴール。

マクシミリアンがアルバートに向き直り

「残念だな。適任がいなかった」

「閣下マジ人材に愛されないね」

「俺の居る場所に食後の甘味を絶やすなよ。出来なければ貴様の一族は帝国の歴史から消える」

「族滅とか愚帝のする事じゃない?」

「知らんな」

明後日の方向を見て光の無い目をするアルバートを無視して各員への指示は出されていくのだった。

 

 

これは無茶ぶりの果てに何やかんやして突き抜けたダルクスの英雄の話。

「マクシミリアン、いやむしろ帝国マジ滅ぶべし」

戦争の夜明けはまだ遠い。



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01セルベリア

そのおっぱいは山脈であった


ガリア侵攻と後に呼ばれる帝国の皇太子マクシミリアンによる侵略は電撃的であった。 

三将軍(ドライ・シュテルン)に率いられた帝国軍は軽戦車による機動力で勝るガリアの防衛戦を電撃的に打ち破り、後に続く歩兵部隊の波がガリアの穴だらけになった戦線を押し流した。

ガリア首都手前に迫る川に布陣するまでにかかった日数は三週間。徒歩で真っ直ぐ進むのと変わらぬ行軍は正に無人の野を行くが如く、帝国の強大さを近隣諸国に知らしめた。

それから二週間。帝国軍は一発の銃声も放つ事なく、不気味な沈黙を保っている。

 

 

「アルバート将軍はまだ出ないか?」

天幕を張っただけの簡易な陣営の中で蒼い髪をなびかせ、紅い目を吊り上げた美女がイライラと組んだ腕を指で叩いていた。

「はい、大佐。前線(ここ)から予備師団との距離が無線でもギリギリの位置であります。……ガリアの妨害も日増しに激しくなっております」

「分かっている」

分かってはいてもイラつきは収まらず、幕僚達は居心地の悪いなかで作戦図案を突っつき回している。

『…ガッ…こち、ら予備師団…ガッ…』

「つながりました!」

「私に貸せ!」

無線手より無線を引ったくるセルベリア。

「こちらガリア方面軍、セルベリア…」

『はいはいはーい、前置きはいいよ。こちらアルバートさんでございます』

気の抜けた声が無線から流れだし陣営の中の空気が一気に引き締まる。

「アルバート!貴様、何をのんびりとしているっ!」

『のんびりってのは酷いなぁ、セルベリア将軍。俺はいつでもオーバーワーク、馬車馬だって裸足で逃げ出す頑張り屋さんだよ』

「二週間だぞ、二週間!こちらが何もしない間にガリア軍は態勢を立て直し、こちらの後背を脅かし始めている。なのに弾も火薬も無いとはどういう事だ!首都を落とせば終わるのに、その首都が落とせないのでは殿下に申し訳が立たないではないかっ!」

ビリビリと鼓膜を震わせるセルベリアの怒声に幕僚達が耳に手を当てる。

『…うーん、後背が襲われてるの?本当に?』

しかし、無線越しには相変わらずのんびりした声が返ってくる。

ミシミシと無線を持つ手が軋み、セルベリアの怒りがオーラとなって見えるような迫力に幕僚達は戦々恐々としていた。

ガサガサと雑音が無線の向こうから響き

『こっちに来てる情報だとガリア軍の上層部は首都にこもって無駄に会議だけしてるみたいだけど?』

「上層部はそうかも知れんが、小隊規模の動きは活発に…待て、『予想』ではないのか?最前線の情報が何故貴様の手元にあるのだ?」

『え~、そこから?…まあ、いいか。ちょっと長くなるけどいいかな?』

セルベリアの疑問にアルバートが説明を始める。

『一つずつ順を追って行こうか。まず、セルベリア将軍を含めて三将軍(ドライ・シュテルン)の電撃作戦はお見事だったと誉めておくよ』

「貴様に誉めて貰いたくてやった訳ではないがな」

『はいはい、殿下に誉めて貰ってね。まあ、三人ともに凄い戦果だったさ。普通なら最高位の勲章ものさ、ただ、お見事過ぎてね。占領政策が全く進んでいない』

「貴様の無能を語る場か、ここは」

噛み付く様に歯を剥き出すセルベリアに無線越しにも分かるほどにアルバートが苦笑する。

『まあ、三方面同時侵攻かつ三週間の電撃作戦で抜いた要衝と都市の数は考慮に入れなくても見事過ぎたね。捕虜が多すぎるのさ』

「それ、は……」

セルベリアが怒気を控えて言い淀む。

電撃的な侵攻と引き換えに殲滅ではなく、降伏した者を捕虜として武装を剥ぎ、無効化するだけで置き捨てたのは三将軍(ドライ・シュテルン)同士の共通事項だった。各々の思惑が絡み合い、戦功争いが激化し、結果として三者が揃って制圧を後方の予備師団へ丸投げして戦果を求め先へ先へと進み続ける。

『捕虜も飯は食う。何より補給線が伸びきったのはまずかった。まあ、弾薬より食料と医薬品を優先したのは確かに俺の不手際だわな』

ハッハッハ、と乾いた笑いを上げるアルバートにセルベリア以下の幕僚達は苦虫を噛み潰した様な顔をする。

補給は万全だった。

通常なら一ヶ月をかけて消費する弾薬を二週間で消費し、更に競い合う三将軍(ドライ・シュテルン)は激化する戦線を首都まで走り抜いた。圧倒的な火力による侵攻は最終的に一週間で一ヶ月分の弾薬を使ってガリア軍を敗走せしめて首都へと押し込んだ。

その上で帝国より超長距離に陣を敷くガリア方面軍は一度も飢えていない。

『帝国からの補給は厳しい。今はガリア軍の捕虜名簿を作ってるんでな、まだ時間がかかる』

「…何故、名簿を作っているんだ」

『占領統治は後方部隊の華だから企業秘密、って言うほどのもんじゃないな。ガリアは正規軍が多いんで、ちょいと小細工してるのさ』

華々しい戦果に酔っていた三将軍(ドライ・シュテルン)のそれぞれにある幕僚達は薄々気づいている。机上ですら有り得ないこの戦果が誰の手によって成されたかを。だが、それを声高に言う訳にもいかない。一等の戦功はマクシミリアン殿下、二等以下を三将軍(ドライ・シュテルン)が争う。それが理想的な展開であるべきだ。決して第一等の戦功を後方部隊のアルバート(ダルクス人)ごときに盗られる訳にはいかない。だからこその首都陥落、これさえ為されれば第一等の戦功は為し得た者にこそ与えられる。

だが、首都を落とす為の弾薬が足りない。

「セルベリア将軍、場合によっては現地徴収も視野に…」

ガリア方面軍は略奪を禁じて行軍してきた。作戦の肝は速さにあり、略奪などをして時間を掛けたり、荷物を増やして足を遅くするなど言語道断、三将軍はそういった輩を厳罰に処して軍規を引き締めて整然と迅雷の行軍速度を可能としてきた。

「いや、徴収は認めない。以後も徹底しろ」

「はっ…全軍に通達致します」

現在、三将軍に戦功の大差はない。そんな中であえて評価を下げる行動は何としても避けたい。

『ま、そんな訳でね。情報源になる捕虜には事欠かないのさ。仕官クラスがあっちこっちで網にかかっててね。あぁ、また名簿が厚くなる…』

ブツブツと不気味に呟きだしたアルバートの無線を叩きつける様に切るセルベリアは美しい顔を凛々しく引き締める。整った美貌だけにそこに伴う迫力は凄惨ですらあった。

「何時でも動けるように準備は怠るな、一朝(いっちょう)事(こと)ある時は…」

セルベリアから蒼いオーラが揺らぎ立つ。

「私が先頭に立つ。後ろは頼むぞ」

「はっ!セルベリア将軍に勝利をっ!マクシミリアン殿下に栄光をっ!」

神話に語られるヴァルキリア、セルベリアと共に戦場を駆ける部下に恐れはない。彼等は自分達が神話の中の登場人物であるかの様な舞台(いま)に酔っていた。



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02イェーガー

声が強すぎるおっさん


「それじゃあ、首都攻めはまだまだ先かい」

『すまんね、後一週間は欲しいのさ』

三将軍(ドライ・シュテルン)の一人、イェーガーの陣営にアルバートからの連絡があったのは、セルベリアとの一悶着があった直後である。

ガリア軍の妨害など無いかの様なクリアな回線、無線ではなく電話による伝達が前線(イェーガー)と後方(アルバート)を繋ぐ。

「わざわざそちらさんから連絡をくれるとはねぇ…『我慢』出来なくなった奴でもいたかね」

前線にありながらのんびりと柔らかささえ感じさせる物腰。それでありながら、誤魔化しを許さない有無を言わさぬ重味がイェーガーの言葉にはあった。

『…そろそろ目算を建てて貰いたかっただけさ。戦後処理も含めて大まかな日取り位は知っておきたいだろう?』

「日取りだなんて結婚式でもするみたいな言い方をするねぇ。おじさんは仲人なんかやった事はないよぅ」

チッチッチ、とアルバートは電話機に音が入らない様に舌打ちをする。何処か見透かした様な話し方、こちらの反応を電話越しに一つたりとも逃さんとする迫力。セルベリアの苛烈な舌鋒(ぜっぽう)とはまた違う圧力がアルバートに冷や汗を流させる。

そもそもアルバートは戦場に立つタイプの指揮官ではない、後ろで密やかに準備を整えるのを主戦場とする陰険モブキャラなのだ。

「ガリア軍の捕虜を移動させているみたいだしねぇ。何をのんびりやっているのか、おじさんは知りたいんだけどね」

(後ろに目でもついてんのかこの野郎!?)

首都までの電撃侵攻と連絡手段と移動手段の工作、セルベリアの後ろが無人の野をであるならイェーガーの後ろは整えられた道路があるかの様だった。

戦線が硬直し、三将軍が互いに牽制し合う今は情報の取り合いと互いにどうやって他の二人を出し抜くかの騙し合いの時間でもある。イェーガーは三人の中で情報の確度と速さが一歩頭抜けていた。

『…ガリア軍に仕官が多いから名簿を作って各地に派遣している』

これは本来、前線の者に渡す事は無かった情報である。

「ふーむ、ガリアはラグナイトのお陰で豊かだからねぇ。常備軍も仕官も小国にしては破格の数がいたねぇ」

『まあ、そのせいか兵士は弱かったみたいだが』

「いやいや、ガリア軍は精強だったよ。三将軍は皆、苦労したもんだよ」

弱兵を倒すより強い兵を倒した事にした方が聞こえがいい。

実際、仕官が多いガリア軍は兵士ばかりの軍より『強いはず』である。

(ハングリー精神がない軍隊がどんだけ強いかって話だがね)

アルバートの持論としては貧乏人が多い軍隊は兵士が強く、仕官になれる者が多い貧乏人の少ない軍隊は兵士が弱いと思っている(勿論、兵士に十分な教育と訓練を施せる軍隊の方が兵士の質も良いし仕官が多い方が緻密な戦術と戦略が実行出来るのだが)。

『そこは本国の判断次第だな。俺がやりたいのは食糧をガリアから買いたいってだけさ。そうすれば弾薬を速やかに前線へ送ろう』

「…そんな事出来るのかい?戦争相手から食糧を買うなんて」

『だからわざわざガリア軍の仕官の名簿を作ってるんじゃないか』

「…戦後処理の為に?」

『人道的支援と判断さ』

戦争中は略奪や焼き払いは当たり前に行われる。

ただ、今回は三将軍が先を争い最低限の被害でガリア首都を囲った為にガリア公国各地の被害は少ない。

混乱はあるものの物流はストップしてないし、帝国軍のクリーンな制圧作戦はある程度知れ渡っていた。もし、ある程度の知識と教養がある信頼の出来る者が各地の混乱を抑え、自分達が食べる分意外の食糧や日用品を売れる余裕があったならば?

戦争中と言う事もあり、危険を省みずに遠くに行く事は出来ない。物価は上昇し、即金が欲しいガリア国民の側には生産が出来ず消費しか出来ない客(帝国軍)が居て、それと交渉出来る者(ガリア軍人)が居たとしたら。彼等はどんな行動に移るだろうか。

『およそ一週間で最低限の供給がガリア公国全土で行えるはずだ』

言葉にすれば一言でしかないが、そこ至るまでにかかる膨大な労力を想像して今度はイェーガーが冷や汗を流した。

(戦術じゃあ負ける気はしないが、こいつと戦争はしたくないねぇ)

一体、何人の捕虜を説得して各地に必要なだけ派遣すればいいのか。実際にどれだけの食糧や日用品が買えるのか、帝国からの補給をどのタイミングで食糧から弾薬に切り替えるのか、そこに必要な人員は?資金は?時間はどれだけ掛かるのか。

イェーガーにはどれ一つとっても満足にこなせる気はしなかった。

『まあ、そんな訳でね。後、一週間待ってくれたまえよ』

それを断言出来る怪物が電話越しには居る。

「ああ、任せるよ。アルバート将軍」

軽い口調で交わす言葉もお互いに薄氷の上を歩く気分だ。

どちらかがその気になれば、直接的に弾丸を放つかまたは間接的に敵対国で飢えさせて殺す事が出来る。イェーガーは帝国人ではないだけにそれを強く感じる事が出来る。一切の油断は許されない。だが、

「アルバート将軍」

『何だい?』

イェーガーは電話機から少し顔を放し、やや間を開けてからその言葉を絞り出した。

「あんたが居てくれて助かった。正直、俺は自分の事で手一杯だが…」

圧政に苦しむ祖国を思い、最優先すべきは祖国の復興だと頭では判っていても言わなければならない言葉を口にする。

「俺は出来得る限り、あんたの味方になりたいと思う」

約束ではなく、怪物的才能を敵に回したく無いと言う打算もあり、どう考えても好意的な言葉では無かった。

『……』

少し離れた電話口からは直ぐに反応は無い。ややあって

『それは……ちょっと嬉しいね』

帝国では激しい差別を受けるダルクス人であり、最前線に立てずに戦功を逃し続けた怪物の漏らした感情の吐露にイェーガーは寂しさと哀しさを感じるのだった。



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03グレゴール

お前、有能だけど英雄には負けまくるタイプだよな


『ハロハロー、グレゴール将軍に置かれましてはご機嫌いかが?』

「茶番はいい。本題に入りたまえ」

アルバートの精一杯の気遣いは霧散した。グレゴール貴下の陣営は絶対零度の静寂の中で各自が仕事をこなしている。

『…お酒とかの嗜好品、送っておきますね』

機械の様な動作で書類を捌いていた何人かの耳と肩がピクリと震えた。

「必要ない。それよりも弾と火薬を速やかに送りたまえ」

『無理ッス』

「兵士の給料を送るよりは簡単だろう?」

酷い話である。命懸けで働く兵士の給料より戦争が大事か。

「金などあっても使えない。今は早くに戦争を終わらせるのが得策だと貴様も判っているだろうに…」

グレゴールも含め、三将軍(ドライ・シュテルン)は首都を包囲する形で三つの陣営を築いている。ガリア公国の上層部に圧力をかける意味もあり、目視出来る距離に野営をしているので占領政策も必要なく強烈な戦意を首都に向け続けていた。

儲け話に関しては異常な嗅覚を持つ商売人達も流石に殺気だった軍隊には近寄れないでいる。需要はあっても供給は無い帝国最前線に金は無用の長物にも思えるが、

『カードゲームするにも賭け金は必要だぜ。グレゴール将軍』

「…使う意味の無い金をどうやって本国から引っ張って来ているのか知らんが、余りに度が過ぎれば私から直接本国に報告をせねばならなくなる。マクシミリアン殿下の後押しがあるとは言え、好き勝手が過ぎれば身を滅ぼすぞ」

『ご忠告、肝に命じますよ。一週間後には弾薬が届きますんで、仲良く三人で首都取りをして下さいな』

無線越しで姿も見えないはずのアルバートが肩をすくめる気配を感じながら、グレゴールは無線を切る。

(奴め何を考えている)

本国からマクシミリアンの監視を密命として受けている、グレゴールは本国へ報告書を送らねばならない。

だが、ガリアとの戦争に興味が無いかの様にガリア公国内を巡るマクシミリアンに戦線の維持だけを目的とした様なアルバートの動きには確たる真意を掴みかねていた。

本国から送られるアルバートの動きには不審な点は無い。

むしろ、連邦との小競り合いの中でよくもこれだけの食糧と資金を途切れさせずにガリア戦線へ捻出していると驚く程である。

(有能には違いない。だが、奴等は何のためにこの戦争をしているのだ)

ガリア侵攻は帝国の意思であるが、その主軸たるマクシミリアンとアルバートの意識はガリア公国占領には向いていない様にグレゴールには感じられていた。

(何にせよ、今は情報を集めなければな)

軍帽をキュッと深く被り直してグレゴールは鋭い切れ長の目でガリア首都を睨み付け、それ以上に鋭い目で後方を睨み付ける。

今日も食糧と資金を満載した輸送部隊の列が途絶える事はない。



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04歴史の歯車が回り始める

真の主人公サイドが態勢を立て直すデウス・エクス・マキナ的な敵が身内で足を引っ張り合う的なアレ


ガリア公国の正規軍が首都に押し込められる中で、ガリア公国各地で義勇軍や遊撃部隊による反抗の兆しが現れ始めた。

時を同じくして三将軍(ドライ・シュテルン)の陣営に武器弾薬の補充が順次行われ、ガリア戦線の緊張が最終決戦に向けて収束していくと思われたこの時にアルバートの元に届いた封書がマクシミリアン貴下の首脳部に衝撃を走らせていた。

「アルバート将軍は査問会への召喚を求められている」

マクシミリアンが発した言葉にセルベリア、イェーガー、グレゴール、そしてアルバートは口をつぐんだ。

「召喚の理由は明かされていない。とにかく、この…」

薄っぺらく装丁もない真っ白な封書をマクシミリアンは忌々しげにテーブルへ叩きつけた。

「『説明責任』を果たさねばアルバートは軍事法廷にかけられるとある。説明責任とやらの内容も書かずに、だ」

ギチリ、とマクシミリアンは唇を強く噛む。

砂漠で本来の目的であるヴァルキリアの遺産の手がかりを見つけ、ガリア方面軍の武装も充実し始めた今になって本国からのアルバートの実質的な強制召喚の要請。明らかに嫌がらせか、マクシミリアンに戦功を立てさせたくない派閥の暗躍が見てとれる。

「う~ん…何で今何だろうか?」

首を捻るのはアルバート=オデッセイ本人である。

「誰かの差し金であろう」

断定した口調でマクシミリアンはグレゴールを睨む。その視線にグレゴールは目も反らさず、背をピンと立て、無感情な鉄面皮を貫く。

「いやいや、それなら首都を包囲した時が一番嫌がらせになりましたよ」

「我らの出鼻を挫く為であろう」

確かにこれから、と言うときに横槍が入るのは著しく気勢を削ぐ。実際、お通夜の様なこの場の雰囲気がそれを証明していた。

「殿下、首都包囲の時かその前に召喚していればガリア軍相手にはもうちょい手こずりましたぜ」

だが、イェーガーもアルバートに賛成する。

実際、当時の内実を知る者なら断定出来るのだ。それくらいに、ガリア侵攻三週間で武器弾薬の類いは底をつき、ガリア方面軍は継戦能力を失っていた。

「…確かに」

戦略に疎いセルベリアも頷く。

「ぶっちゃけ、グレゴール将軍の密告の線は無いッスよ殿下」

ぶっ、とイェーガーとセルベリア、ついでにマクシミリアンが吹き出した。マクシミリアン貴下の監視役として公然の秘密ではあるが、本国に密告書を送っているグレゴールの目の前で話す事ではない。グレゴールも目を見開き(こいつ、マジか)見たいな顔で見ている。

「おま、おま…お前ぇ~~~!?」

マクシミリアン、キャラ崩壊する。

「まあまあ、落ち着いて下さい殿下。事ここに至れば俺らは運命共同体ですよ、ねぇグレゴール将軍?」

今にも自分に掴みかかりそうなマクシミリアンを片手でいなしながら、アルバートはグレゴールへと矛先を向ける。

「……確かに私がここで本国に戻るという選択肢はないな」

三将軍としてマクシミリアン貴下で戦功を立てながら、ガリア方面軍の内実を探っていたグレゴール。スパイとしての立場を抜きにしても中々に危うい立ち位置になっていた。

「連邦との小競り合いか本格化し出した今、ガリア戦線に穴を開けるのは本国も望む所ではない」

グレゴールの言葉はそのまま帝国首脳部の言葉でもある。

それは連邦との戦争が総力戦に至る可能性を示唆していた。世界に冠たる二大大国が全力でぶつかり合う余波は周辺諸国、ひいては世界全てを巻き込む戦争の勃発。

「世界大戦(ワールドウォー)……」

数年前から軍事関係者の間で囁かれ始めた世界終末への引き金。

ブルリ、とイェーガーは体を震わせた。もし、そんな事が現実になれば自分の祖国は再興を待つ事なく歴史から消える。

「殿下…」

ガリア公国を陥落させたとしても、二大大国の総力戦となればマクシミリアンの脆弱な派閥では不穏分子として握り潰されかねない。ヴァルキリアであるセルベリアならばマクシミリアン個人は守れるかもしれないが、それは巨大な野心と力を望むマクシミリアンの意に叶う事ではないだろう。

「…アルバート、貴様は何日あればここに、この場へ戻って来れる?」

「一…三ヶ月あればお土産も持って来ますよ」

「土産は要らん。二ヶ月で戻れ、我が元へ」

常ならば超然とし、全てを見下すマクシミリアンの瞳が真剣な輝きでアルバートを見つめる。

「我が主君の望むままに」

アルバートもまた粛々と膝をつき頭を垂れた。

服装こそ軍服の二人だが、そこだけ切り取れば物語の中の騎士と王の場面であるかのようで…セルベリアは自分こそがそうありたいと願うアルバートとマクシミリアンの関係に羨望と嫉妬の入り交じった視線を送っていた。




ここまで。
こっからは何もないよ。
マクシミリアンがガリア公国で○○と○○して豊富なラグナイトとオリ主を馬車馬の様に働かせて○○に立ち向かったり、真の主人公からオリ主が逃げまくる話とか誰か書いて下さい。


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