Fate/spring blade (仮名) 《Fate×SAO》 (クロス・アラベル)
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Servant picture book ①

そういえば、と思いまして。
サーヴァント図鑑になります。
現時点でのキャスターさん解説です。


キャスター

 

真名:???

マスター:アリス・ツーベルク

 

 

第一宝具:《???の剣》

彼女が使っている剣。

 

第二宝具:《???》

とある大戦にて彼女が使ったとされる強力な神聖術。

彼女自身、この宝具を好いていない。それには理由があるらしいが___

 

身長:約164センチ(エクスクロニクルのイラストパネルにて目測)

体重:聞いたら宝具を撃つと脅された為、不明。

属性:秩序・善

性別:女性

地域:???

出典:アリシゼーション

 

『私は______私が信じるものの為に、戦います』

 

 

筋力:A

耐久:A

俊敏:B-

魔力:A+

幸運:B

宝具:EX

 

クラススキル

 

対魔力:B+

他の騎士達より少し強め。

 

陣地作成:C-

キャスターとして召喚されたものの、攻撃や回復等を鍛え過ぎた為、陣地の作成には慣れていない。キャスターの中でもかなり低め。

 

騎乗:A

上位騎士には必ずつくスキル。彼女には天性の才能があった為、古参の騎士に追いつく程の技術がある。

ライダーとしての現界もぎりぎり可能。

彼女には相棒たる飛龍がいたそうだが今回は共に召喚されていない。

 

光の巫女:EX

その名の通り、大戦において《光の巫女》と言われたその名残。彼女自身はあまりこの呼び名は好いていない。

 

保有スキル

 

光の巫女のカリスマ:B

光の巫女と謳われ、後世にも最強の騎士と呼ばれていた為、カリスマ性もある。

味方全体を攻撃力アップ(最大30%)+自身以外にNP配布(20%)

 

彼から貰った物:A+

その名の通り、誰かから貰った大切な何か。彼女の戦う理由の一つ。

自身にNP獲得(50%)+スター獲得(15個)+回復(1000)

 

騎士の誇り:A

騎士としての誇り。何者にも屈さない、強靭なる精神。彼女の場合、特に強い。

自身に弱体耐性アップ(3ターン)+防御力アップ(5ターン)

 

本来ならば《セイバー》として召喚されるのだが、今回はとある大戦における強大な神聖術の攻撃が逸話として捉えられ、それを宝具にし、キャスターとして召喚された。

環境としては、アリス・ツーベルクというマスターこそが彼女にとって最高のマスターである為、《Fate/staynight》の《セイバー》にも引けを取らない強さを誇る。

勿論、後方支援ではなく接近戦が得意。

全く、どこぞの弓兵もそうだが、クラス名に反して接近戦に強いのはどうかと思う()

戦闘スタイルは一撃必殺。

手数よりも一撃の重さを主軸に置いている。

性格としては正義感が特に強く、曲がった事は大嫌い。騎士らしく誰よりも高潔で真面目な、絵に描いたような才色兼備の優等生である。

 



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Servant picture book ②

サーヴァント図鑑 その二
アサシンについてです。


 

 

アサシン

 

真名:???

 

マスター:???

 

第一宝具:《???》

中華包丁のような武器。

 

第二宝具《???》

宝具展開時に何か黒いオーラのようなものを武器に纏わせる。

しかし、現時点ではどのような宝具なのかはまだ分からない。

 

筋力:B+

耐久:A+

俊敏:A+

魔力:D

幸運:E

宝具:A+

 

身長:???

体重:???

属性:混沌・悪

性別:男性

地域:???

出典:アインクラッド又はアリシゼーション

 

 

 

「______イッツ・ショー・タァーイム」

 

 

クラススキル

気配遮断C-(偽)

アサシンの基本的な気配遮断スキル。

アサシンの気配遮断スキルにおいての弱点____攻撃時に気配遮断スキルのランクが一気に下がるのだが、彼はその例外で、攻撃時さえも気配遮断スキルは下がることは無い。

 

 

日輪に殺戮を EX

日本人への特攻。

日本由来のサーヴァントや四分の一だろうと日本人の血が入っていれば特攻対象。

日本人への恨みや憎しみが積み重なって出来たもの。

 

煽動 EX

言葉の通り。

どれだけ仲がいいグループであろうとほぼ無条件で対立させることが出来る。

自身が殺す事はあまり無く、このスキルを使って人々を対立させ、殺し合わせる。

生前は自分で殺すよりも、人を対立させて殺し合わせる事の方が得意だった。

 

 

保有スキル

 

煽動者のカリスマ(偽) EX

煽動者としてのカリスマ。

と言ってもこのスキルは(偽)である。一重に、他人を信じない彼の人間性のあり方がそうさせている。

味方全体への攻撃力アップ(3ターン)+スター獲得状態を付与

 

殺戮への策略 A

殺す事への策略。

殺しの為ならどんなことだってこなす。自身の味方の命がどうなろうと知った話ではない。

自身にクリティカル威力アップ(3ターン)+味方に即死効果付与(3ターン後)(メリット扱い)

 

死神(偽) B+

彼の行った行為はまさに死神の如く。

自身の即死成功率を大きくアップ。(3ターン)+スター発生率アップ(3ターン)+回避状態を付与(3回3ターン)

 

 

対立煽り、荒らしの成れの果て。

コイツをアサシンという英霊として呼ぶには他のアサシンの英霊達に対して失礼。

屑中の屑。

特定の相手にはそうでも無いらしいが、その特定の相手の記憶を失っている。

 

生前は実力もトップクラスだったのだが、煽動し、人を殺し合わせる事を中心にしていたせいでサーヴァントとしての戦闘力は中の下と言った所。

 

 

物語の舞台である春咲市で起こっている連続殺人事件の犯人。殺す理由は快楽としての意味もあるが、本当の目的は別にある____らしい。

 

宝具に関しても謎な部分が多い。

アサシン曰く、「ちょいと使うには早いかもしれねぇ」らしい。

宝具の展開には条件がある模様。

 

 

 

 

 



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Servant picture book ③

サーヴァント図鑑その三です。
prologueのラストに登場したセイバーの詳細になります。
殆どわかってる人いるとは思いますが。
どうぞ


 

 

 

セイバー

 

真名:???

マスター:桐ヶ谷和人

 

第一宝具:《???》

女神の固有能力。

生前は使用時に反動があった。

 

第二宝具:《???》

とある少女から受け継いだ絶技。

 

第三宝具:《???》

 

 

 

 

筋力:B-

耐久:C

俊敏:A++

魔力:A+

幸運:A

宝具:EX

 

身長:約164センチ(エクスクロニクルのイラストパネル(ALO)にて目測)

体重:答えてくれなかった。

属性:秩序・善

性別:女性

地域:???

出典:アリシゼーション

 

 

「私が、私であるために____戦う」

 

 

クラススキル

 

対魔力A+

それなりに魔術に対する守りがあるようだ。

 

女神の神格A-

とある女神の力を借りているが故に神格がある。

 

神性B-

とある女神の力を借りているが故。

しかし、意識を依代の少女に殆ど渡している為、本来のランクより落ちる。

 

陣地作成(似)C+

セイバークラスの中でも彼女には例外的に付いた。第一宝具を利用した者なので(似)がつく。

これは魔術的な物ではなく物理的な陣地作成な為、本場のキャスターによる陣地作成と比べるとかなりランクダウンする。

しかも、宝具を利用するため魔力消費が激しい。

彼女自身、乱用は避けたいと考えている。

 

保有スキル

 

女神のカリスマA

人々が崇める神の力を持つが故に副次効果的についたスキル。

依代の少女単体で英霊になった場合はこのスキルは名前が変わる。

 

味方全体に攻撃力アップ(30%)+防御力アップ(20%)(それぞれ3ターン)

 

閃光A+

目にも止まらぬ剣の技。剣の速さだけならば英霊の中でもトップレベル。

とある男には、彼女の剣閃が夜に駆ける流れ星に見えたと言う。

 

自身にアーツ性能をアップ(1ターン30%)+回避状態を付与(3ターンの間確率で発動。計3回)

 

彼女から貰った物EX

その名の通り、とある少女から貰った何か。彼女の在り方に強く影響している。

どんなことになろうとも、彼女は少女の事を絶対に忘れないだろう。

きっと。

その少女は傍で彼女を護ってくれることだろう。

 

自身に宝具威力アップ(20%)+無敵貫通状態を付与(それぞれ3ターン)

 

 

女神との疑似サーヴァント。

女神とはかなり相性がいいらしい。

普段も戦闘時も意識を殆ど依代の少女に委ねている。

 

依り代たる少女が英霊化すると適正クラスとして《セイバー》、《キャスター》、《バーサーカー》が挙げられる。確率としては60%、30%、10%と言ったところ。

 

セイバーの中では最速と謳われるサーヴァント。

並のサーヴァントでさえ剣筋が見えず、繰り出される剣はまるで夜空を駆ける流れ星のよう。

 

現時点では不明な点が多い。

 

因みに、料理が得意だとか。

 

彼女は和人だけでなく、他の人間にも召喚される可能性がある。

その一人が、とあるボクっ娘らしい。

 



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prologue ①

⚠︎注意⚠
完全妄想Dreamerです(笑)
拙いです
Fateのルールに関してはそこまで知識無いのでめちゃくちゃです。
それでも良いという方はどうぞ〜


 

 

 

「______よし、準備OK」

 

夜の11時58分。

誰も彼も眠った頃、彼女は地下室にて深く、深く、深呼吸をした。

薄暗いその地下室の床にはチョークか何かで魔法陣のような線が刻まれている。

 

「私のサーヴァント……ついに、召喚出来る。どんなサーヴァントだろうとドンと来なさい!私にとっての最強のサーヴァントは_____私が召喚したサーヴァントなんだから……!!」

その魔法陣より1メートル程離れた所で彼女は本を片手にこれから行う儀式の確認を終えた。

魔法陣の書き方も完璧、後は自らの血をほんの少し、魔法陣の中央に垂らすだけ。

 

「…っ、これで…いいかしら」

金色の髪の彼女は左手の親指に控えめに針で刺し、血を垂らす。

ぴちょり、と血が魔法陣の中央に落ちた直後、白い何かで書かれた魔法陣が赤く染る。

急いで飛び退いて、即座に彼女は儀式を開始した。

 

「_____素に銀と鉄。礎に契約の大公。降り立つ風には壁を。四方の壁は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ」

詠唱の開始。

赤く染まっただけの魔法陣は彼女の声に反応するかのように光を帯び始めた。

 

閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)。」

彼女の言の葉が紡がれていくに比例して、少しずつ光は強くなっていく。

「繰り返すつどに五度。ただ満たされる(とき)を破却する」

日付が変わるまで、あと、30秒。

 

「____告げる」

 

身体が燃えるように熱を帯びる。

「汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。

聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ」

 

紅い光は風を伴って強まっていく。

風は全て_____魔法陣の中央へ。

「誓いを此処に。我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を敷く者」

光は血のような紅から、白い光へと変化する。

魔力の奔流はより強く、激しく。

彼女の身体からその魔法陣へと流れ出る。

12時まで____あと10秒。

研ぎ澄まされた神経、五感があらゆる事象を捉える。

そして____儀式は、完成する。

 

「汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ_______っ!!」

 

最後に光は____黄金へと変化した。

直後、黄金の閃光が部屋を染め上げる。

彼女の視界は光に潰されたが、それと同時に彼女は確信した。

彼女にとって完璧な召喚を成功させたのだと。

手応えは十分過ぎる。

数秒後。

彼女の視界が回復し、恐る恐る瞼を開ける。

そこには______

 

「_____ぁ」

 

一人の騎士が佇んでいた。

 

重々しい黄金の鎧に身を包んだその騎士は同色の黄金の剣を腰に装備している。

髪は、彼女と同じ金色。そして、全く同じ髪型。長い髪が風に揺れている。

女性、らしい。

顔は人形のように可愛らしく、しかしてその表情は凛々しい。

 

目は閉ざされたまま。その女騎士は口を開いた。

 

「______サーヴァント、キャスター。召喚に応じ、参上しました」

 

凛とした声。愛らしさとは無縁の、重苦しい鎧に身を包んだ騎士はクラスを名乗りあげた。

「あなたが______」

瞼を開いた騎士は、召喚主である彼女を見ると____酷く驚いた表情を見せた。

「___私の、マスターですね」

しかし、驚いた顔から一変。騎士は優しい笑みを浮かべて言った。

「___え、ええ。私があなたのマスター……よね?」

「ええ。あなたのと繋がりは既に出来ている。やはり____相性がいいようですね」

騎士は自分の胸に手を当てながら、微笑んだ。

「えっと……キャスター、であってるのかしら?」

「はい、キャスターですが……何か?」

「ぁ、いや、その…パッと見て、セイバーだとばかり…」

あたふたと手を動かして言う彼女。それに、ああ、と頷きながらキャスターは答える。

「___間違うのも無理はない。私とてセイバーとして召喚されるとばかり思っていた」

「え?貴方自身、セイバーだと思ってたの?」

出てしまうキャスターの本音に彼女も驚いている。

「ええ。しかし、私はキャスタークラスとして英霊化される逸話が一つだけありまして。それが原因でしょう」

「そうなんだ……」

「…すみません、マスター。やはりセイバーとして召喚()ばれた方が良かったでしょうか…?」

 

「え?ううん、全然そんなことないわ!確かに、セイバークラスのサーヴァントは最優だって言う人がいるかもしれないけど_____私にとっての最優の、最強のサーヴァントは、私が召喚()んだサーヴァントだけだもの!」

 

「_______嬉しいですね。そこまで言われるのならば…マスターあなたにとっての最優、最強のサーヴァントであれるよう、最善を尽くしましょう」

「ええ!」

 

召喚主である少女は笑顔で騎士を褒めちぎる。流石の騎士も少し恥ずかしいようで頬を赤くしながら頼もしく答えた。

「あ、その前に自己紹介ね。キャスター」

くるりとその場で回って、キャスターに向き直す。

 

「___私の名前は、アリス・ツーベルク!これからよろしくね、キャスター!」

 

アリス、と名乗った彼女は、キャスターに手を差し出す。

「____はい、マスター。貴方となら良い主従関係が築けそうです」

朗らかに言って手を握り返すキャスター。

「ええ!じゃあ____早速だけど、貴女の真名を教えて貰っていいかしら?」

「はい」

彼女は剣の柄に左手を置いて、左胸に右拳を合わせる。

 

「改めて。私はサーヴァント、キャスター。

真名を________」

 

これより始まる、彼女(アリス)騎士(キャスター)の命を懸けた戦い。

その名は聖杯戦争。

どんな願いでも叶えてしまう、万能の杯。

それを巡る、魔術師同士の殺し合いであった___

 

 

 



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prologue ②

セルカ登場です。
prologueはまだ続きます。


 

 

 

 

「____ター、マスター」

「____ん」

誰か自分を呼ぶ声を聞いてアリスは目を覚ました。

まぶたを開けると、そこには自分と瓜二つの顔の自分がいた。

「……あれ、天井に鏡をつけてたかしら」

「…いえ、鏡ではありません。キャスターですよ、マスター」

「…………あ、あれ?」

 

キャスターに言われてがばっと身体を起こす。

キョロキョロと辺りを見回すと、そこは自室。そして、アリスはその部屋のベッドにいた。

キャスターはベッドの横についている。武装は全て解除しているようだ。鎧も着込んでいない。青い修道服のようなものを着ている。

 

「…えっと……キャスター。私、昨日あれから何したっけ…?」

「召喚してから、ということですか?マスターが疲れているようだったので休むように私が言ったのです。マスターもかなり疲弊していたようで二つ返事でこの部屋に。明日の7時に起こして欲しいと私に頼んでから眠られましたが…」

「あー……思い出してきた」

 

昨日。

いや、日付は変わっていたのでそうは言わないかもしれないが____彼女は昨日、キャスターの召喚でかなりの魔力、体力、気力…を使ってしまい、疲れて眠気に襲われた。キャスターに早めに休んだ方がいい、と言われて直ぐにベッドに入ったのだ。

つまり_____

 

「……不味、シャワー浴びなきゃ」

アリスはベッドから離れて着替えを用意する。

「ありがとね、キャスター。あなたもシャワー浴びる?」

「いえ、私は大丈夫です」

「そう…分かった。じゃあちょっとシャワー浴びてくるね」

「はい」

そう言って、アリスは自室を出て階段を降りていった。

 

 

 

 

「おはよう、姉様!」

「あ、おはよう。セルカ」

シャワーを浴びて着替え、リビングに行くとアリスの妹であるセルカが丁度階段を降りて、リビングに入ってきたところであった。

「今から朝ごはん作るから、ちょっと待ってて、セルカ」

「じゃあ私も手伝うね」

「ありがとう」

アリスと共にキッチンに立つセルカ。

 

本来ならば朝食は母であるサディナ・ツーベルクが作っている。しかし現在、ツーベルク宅では2人しか住んでいない。

両親は当然存命しているがこの春から聖杯戦争に参加するということもあって、やはり家族に迷惑はかけられないと聖杯戦争が終わるまでの間、この街から避難する事をアリス自身が頼み込んだ。両親は当然断固として拒否したが、アリスの激しい主張に根負けする形で1ヶ月の間、家を空けることを選んだ。

実際、彼女の父であるガスフト・ツーベルクの務める会社からも一時的な異動____地方の子会社への出張を元より頼まれており、確かに丁度いいか、とガスフトが渋々受け入れたのが、契機だった。

そして現在、ツーベルク夫婦はとある地方の子会社への赴任の為、家を開けている。

 

今年の春から2人は、二人暮しとなった。と言ってはいるが、2人とも料理は得意なので別段困った事はなく、他の家事も普通にこなせる。まるで____

 

 

「……なんだか、私達がルームシェアしてるみたいね、姉様」

「そうね…こうやって2人でキッチンに立つのも新鮮だわ」

朝食は至って普通、又はかなり豪華。

食パンを焼いて、ベーコンエッグを上に乗せる。サラダもつけて、結構オシャレな洋風ブレックファースト。

 

「姉様、どうして3人分用意してるの?」

「どうしてって……あ、そういえば、言ってなかったわね」

さらに用意された3人分の朝食に首を傾げるセルカ。

確かにそうだ。セルカからすれば1ヶ月だけの二人暮しが始まるというのに3人分の朝食が用意されているなど全く考えるわけが無い。直後セルカは思い出したように人差し指を上に指して言った。

「あ、もしかして……したの?昨日の夜に!」

「__ええ」

「成功!?」

「勿論、大成功よ。さて、そろそろ呼びましょうか」

目を輝かせるセルカ、それをドヤ顔で返しながら二階にいる《彼女》を呼ぶ。

 

「キャスター、降りてきていいわよ。朝ご飯よ!」

 

『_____はい、分かりました。しかし…いいのですか?妹に私のことを明かしても…』

「大丈夫よ、セルカも魔術師なの。別に誰かにバラす、なんてこともしないわ。安心して」

そう、セルカ・ツーベルクもまた、魔術師だった。

 

ツーベルク家は魔術師の家系だ。と言っても歴史は浅く、アリスで六代目となる。それに、他の魔術師の家系と比べて全く姿勢が違う。

というのは、大体の魔術は一子相伝。1人にのみ、その家系の魔術を伝授する。しかし、ツーベルク家はそのルールに囚われず、例え兄弟や姉妹が生まれようと等しく魔術を伝授する。

他の魔術師達からすればあまりいい風には見られないだろうが、これがツーベルク流。故に2人とも魔術師だ。腕に関してはアリスは今までの代の中でも逸材、セルカもアリスに負けず劣らず。

密かにセルカが持つ目標は、(アリス)を超えること。かなり難しそうではあるが。

 

二階から降りてくるキャスター。その姿を見て、セルカは驚いた。当たり前だ。自分の姉そっくりの女性が目の前にいるのだから。

 

「え……えっ!?」

「こんにちは、セルカ。私が彼女のサーヴァント____キャスターです」

「えっと……ごめんなさい、セルカ。驚いたでしょう?私も昨日は驚いたわ…あはは…」

「私の事は、クラス名で呼んでください。キャスター、と」

「_______わ、分かった……ん、分かりました…?」

「敬語でなくてもいいですよ、セルカ。私はサーヴァントとはいえ、使い魔の一種ですから」

「……うん、よろしくね。キャスターさん!」

笑顔で握手を交わす二人。それを見たアリスはこれならば、家にキャスターがいても問題は無いな、と確信したのだった。

 

 

 

 

 

 

「本当に、今日が日曜日で助かったわ…じゃ、ササッと課題を終わらせなきゃね」

三人で朝食をとった後、アリスは家の掃除を終わらせて高校の課題を終わらせることにした。

アリスは魔術師だが、同時に学生でもある。アリスの家から徒歩二十分弱の公立礫ヶ原(れきがはら)高校、彼女はそこの2年生だ。

成績もよく、運動能力も人並み以上にある。運動能力に関しては、彼女の幼馴染が原因とも言えるが_____

 

現在、セルカは友達と遊びに行っている。彼女は中学三年生でもう受験勉強真っ只中だが、今日は息抜きをしているらしい。根を詰めすぎると帰って良くないことはアリス自身も知っているので止めはしなかった。夕方には帰ってくると言う。

それに彼女にとってこれは好都合だった。何せ、キャスターとこれからについて話し合おうと思っていた。さすがにそこにセルカがいるのは良くない。アリスはセルカに聖杯戦争に関する戦略は一切伝えないと言ってある。キャスターの事を誰にも言わないこと以外は何も言っていない。

 

「____絶対、勝ってみせる」

これから起こるであろう死闘を想像し、自分の隣にキャスターがいる。そんな光景を幻視して、アリスは意気込みを独りごちた。

 

 

 

 

 

 

ツーベルク家の中庭、そこに植えられていた金木犀の木を目の前に目をつぶり、独りごちる。

 

「_____必ず、守ってみせましょう。アリス・ツーベルク、本当の私を。悔いが残らぬよう、全力で戦います」

 

キャスターもまた、同じ事を考えていたのだった。

 



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prologue ③

夜のパトロールへ


 

 

「時間ね。行きましょう、キャスター」

「はい、マスター」

午後11時。

外出する人達も減り、街の建物の光も消え、街灯と月明かりだけが街を照らす中。

アリスとキャスターは街のパトロールに出た。

 

 

 

 

「どう?サーヴァントらしい気配はある?」

一人、住宅街を歩くアリス。

彼女は、誰もいない筈の隣に小さな声で呼びかける。

『______いえ、少なくとも200メートル圏内にはいません』

虚空から、声が返ってくる。

キャスターの武装姿を一般人に見られる訳にはいかないので、アリスが霊体化を指示した。キャスターも快く承諾してくれた。

二人が街のパトロールをしようとしたのには二つほど理由がある。

 

一つ目は他のサーヴァントを探し出すため。

聖杯戦争は全七騎のサーヴァントを最後の一騎になるまで覇を競い合う《殺し合い》。要は他のサーヴァントを倒さない限りこの殺し合いは終わらない。

自らの工房で敵の侵攻を待ったり、キャスターの本懐とも呼べる使い魔などを使役して他のマスターを殺す事など、アリスに合わなかった。故に、自ら出向く事を選択した。

 

二つ目_____これが今回のパトロールの主な目的。それは、この街において連続殺人事件を起こしている誰かを見つける事だ。

一週間前からそれは起こった。この街の中心にしてビルが建ち並ぶ通称《央都》の路地裏で、男の死体が発見された事から始まる。

その死体は身体中に切り傷があり、左胸にはぽっかりとナイフで刺されたかのような穴が空いていた____と、ニュースで報道された。

それは次の日も起こった。次は二人。とあるカップルが殺されていた。

同じように酷い切り傷を身体中に残し、男の足の片方は()()()()()()()という。

警察はこれを《央都連続惨殺事件》とし、調査に乗り出した訳だが____一向に手がかりは掴めず、この日曜日で1週間を迎えた。

犠牲者は今日までで1()1()()

アリスからすれば、このようなものは看過できない。

それに_____これは、本当にただの連続殺人事件なのか。

 

否、これは人では不可能だ。

この殺人事件で出てしまった死体の部分欠損のその断面は、チェーンソーのようなもので時間をかけて切断したものではなく、まるで《五○衛門》の如く綺麗に切られていたという。

それに____人の腕を両断するなんて業、普通の人間には不可能である。

確かに、日本では『斬首刑』というものがあったので実際に人の首を斬るという業を仕事にしていた人間がいたが、それは常人を超える卓越した技術があってこそ。

しかし、この現代社会でそんな業を極めている人間はゼロに等しい。

現代の人間には不可能ならば_____その時代の業を極めた人間ならばどうか。しかし、それも叶わない。過去の人間を連れてくる等______そう、()()()()()不可能なのである。

 

今、聖杯戦争が行われようとしているこの春咲市ではそれが出来る可能性がある。そう、《サーヴァント》だ。

過去、現代、未来____時代や国を問わずありとあらゆる英霊を召喚するこの聖杯戦争においてはブリテンの騎士王や最古の英雄王____果てはとある国の発明王や()()()()()()を呼ぶことさえ可能だ。

という事は、この連続殺人事件の犯人は、サーヴァントである可能性が限りなく高かった。

それ故に、一人のマスターとしてこの事件を放っておく訳にはいかなかった。

 

「とりあえず、事件現場に行きましょう。魔力の残滓があるかもしれないわ」

『分かりました。どうしますか?央都まで少し距離があります。私が運びますが…』

「…そうね、行き来に時間かけてられないわ。お願い、キャスター」

『分かりました、失礼します』

キャスターは霊体化したままアリスを抱き上げ、地を蹴った。

 

 

 

 

 

 

「……ここにも魔力の残滓がありますね。微量ですが」

央都のとある裏路地で、キャスターは魔力探知を行った。

ここが今朝死体が見つかった場所。10人目の犠牲者が出た所だ。

あれから全ての事件現場に赴いて調べた所、同じ魔力の残滓が確認された。

 

「じゃあ、決まりね。今回の連続殺人事件の犯人はサーヴァント。なら、これは私達魔術師…そして、マスターの私とサーヴァントたるキャスターの管轄よ。絶対に、止めるわ…!」

「はい。しかし、これで事件現場は全てですから……ここからは粗探しになりますね」

事件現場に残った血痕を見て、激しい怒りとともに宣言するアリス。しかし、キャスターは冷静に淡々と話を進める。

「ええ。けど魔力の残滓は確認出来たなら、それを頼りに探すことは可能よね?」

「…!確かに、可能です。微かなものではありますが、探すこともできます。ただ…」

「ただ?」

アリスの自信に満ちた声とハッキリとした意思を感じる。

アリスの問いかけに答えるキャスターだったが、途中で言い淀む。

 

「……魔力を追っても、見つけられないことはあります。例えば、相手がサーヴァントの中でも、《気配遮断》スキルを持っていた場合です」

「あ……確か、サーヴァントですら見抜けないんだっけ?」

 

_____《気配遮断》スキル。

アサシンクラスにつくスキルで、その名の通り自身の気配を消すことが出来る。それ故に、敵マスターへ気付かれずに接近し、暗殺することが可能となる。

しかし、アサシンの欠点としてステータスが全体的に低く、7クラスあるサーヴァントの中でも《最弱》と言われている。サーヴァント戦において有利になりにくいサーヴァント故に《気配遮断》スキルがあるとも言えるのだが___

 

「はい。高レベルになってくると魔力の残滓すら残りません。しかし____今回のサーヴァントは残滓が残っている。アサシンだとしても、そこまで《気配遮断》スキルの熟練度は高くないようです」

目を細めて魔力の残滓を読み取るキャスター。

「うん、これだけ分かればいいでしょう。今夜は街をもう一度ぐるりと一周して終わりにしましょう。焦っても結果は出ない。それに今の所その残滓と同じ魔力の気配はないんでしょ?」

「はい。確か、その事件は日毎に被害者数や被害者の有無は違いましたよね?」

この街で起きている連続殺人事件は毎日死者が出ている訳では無い。

一昨日は被害がゼロだった。

 

「ええ。昨日は犠牲者が出たけど、今日は出ない可能性もあるわ。それに、相手側が私達の事に気づいて殺しを急遽取りやめにする可能性もある……パトロールも、中々に捨てたものじゃないなぁ」

『引き続き、パトロールを続けましょう。マスターが良ければ明日も…』

キャスターはそう言って再び霊体化した。

「もちろん。明日は学校だけど、これはこれ、それはそれ。切り替えるわ。じゃあ、行きましょ、キャスター」

『はい、では____』

その後2人は街を1周し、パトロールを終えて家に戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『______危ねぇ、見つからなくてよかったぜ』

 

 

『アレがキャスターか。中々に手こずりそうだな…』

 

『まぁいい。さて、ショータイムといこうか____』

 

 




気配遮断の魔力の残滓に関しては、自分で考えたものです。
Fateルールと違う…
と思う方もいらっしゃると思いますが、ただ妄想を文字に書きあげただけですので、ご容赦をば。


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prologue ④

幼馴染との日常。


 

 

 

 

 

 

「……嘘」

 

翌朝、今日は学校があるため、2人とも制服姿でセルカと共に朝食をとっていると、ニュースが飛び込んできた。

1()2()()()()()()()

また、死体が発見されたのである。

 

「…姉様、これって…」

「……キャスター」

「いえ、あの時は少なくともあの魔力と同じものは感じられませんでした。もしかするとすれ違いだった可能性も捨てきれません」

「………セルカ、早めに帰ってきて。コイツ、一筋縄じゃ行かないみたい」

「___分かった。姉様も気をつけて!」

「ええ、勿論」

朝食を取りつつ考えを巡らせる。

もう既に味わうことも忘れ、熟考する。

 

「…(………すれ違い、か。でも、ただのすれ違い…だなんて思えない。もしかするとあの時………()()()()…?だとすると、キャスターの魔力探知と気配察知じゃ、見つけられなかったってことよ。ということは___そのアサシンは《気配遮断》スキルのレベルが高い…!私達じゃ、見破るのは無理ね)」

 

「姉様?」

「…ぁ…ごめんね、ちょっと考え事してたわ。ご馳走様」

アリスは考え事を中断して、食器を台所へ運びながらキャスターに念話する。

『キャスター、もうそろそろ学校に行くけど、あなたはどうする?』

『私も行かせてもらいます。マスターが良ければの話ですが…』

『もちろん、こっちからお願いしたいくらいよ。いつ《サーヴァント》に首を斬られるか分からないんだもの。お願いね、キャスター』

『はい、こちらこそ』

洗い物を終え、自分の部屋からカバンを持ってくる。

 

アリスとセルカはそれぞれ、高校2年生、中学3年生。アリスは礫ヶ原高校、セルカは礫ヶ原中学校だ。この2つの学校は歩いて五分の所にあり、昼休み時間に行き来出来るほどに距離が短い。

いつもの時間まで、あと5分。もう学校に行く準備は出来ているため、直ぐにでも出かけられる。

「セルカ、準備は出来てる?」

「うん、もう行けるよ。姉様」

「じゃあ行きましょう。キャスター、今日からよろしくね」

『はい。私が近くで見ていますので、安心して登校してくださいね。セルカ、マスター』

二人はいつも一緒に登校している。

そして、一緒にいくメンバーはあと二人。

アリスの幼馴染が2人いる。

その2人と、場所を決めて待ち合わせしているのだ。

 

 

 

 

 

 

「あ、おはよう。アリス、セルカ」

「ええ。おはよう、ユージオ。ごめんなさい、待たせちゃったかしら」

「そんなことないよ。確かに二人にしては遅めだけど、約束の時間より五分くらい早い」

8時5分。いつもの集合場所、2つの自動販売機前。

ちょっと特殊な自動販売機で、飲み物は勿論、変な味のお汁粉やお菓子まで売っている。もう一つはなんと、フライドポテトやフライドチキンが売っている変わり物。下校途中の学生たちに人気の自動販売機だ。

 

二人が辿り着いた時には既に一人待っていた。

 

くせっ毛の亜麻色の髪に碧色の瞳。柔和な表情と、その雰囲気から、一時期はクラスメイトの女子達に白馬の王子様扱いされていた程のイケメンだ。(本人の自覚なし)いや、イケメンと言うよりも、激しく主張しすぎない優男…だろうか。

彼がアリスの幼馴染の一人、ユージオだ。

「そう。ちょっと寝不足気味なのよね……今でもあくびでそう」

「へぇ、アリスが寝不足かぁ。めずらしいね」

「姉様ったら、今日の小テストに向けて一夜漬けしたんだって!」

そんなセルカのセリフに、えっ、と驚くユージオ。

 

「こら、セルカ。平然と嘘つかないの。ただ単に調べたい事があったから本を読み漁ってたのよ。今日の小テストはもうすでに復習済み」

「はは、流石だね。クラス一位は伊達じゃないや」

それに笑って答えるユージオ。

この瞬間、アリスによるセルカの頭ぐりぐりの刑が決まったのだった。

 

 

 

 

 

「_____遅い」

 

あともう一人の幼馴染を待って、あれから15分後。

いつもの約束の時間を過ぎ、アリスの不機嫌顔が滲み出てきた。

「寝坊かな。ついさっきメッセージ送ったんだけど…」

「和人ってば、いつも時間1分前とか、二〜三分遅れて来たりするのに、今日は珍しいね」

制服のポケットからスマホを取り出し、メッセージアプリへ。とある人物のトークを開いて確認すると、既読マークがついていない。

 

「ちょっと電話してみるよ」

そう言って電話をかけるユージオ。

しかし、一向に出ることはなく。

 

「……だめだ、時間的にそろそろ不味くないかい?」

「そうね。もう私達だけで行きましょう。私達はまだしも、セルカが和人のせいで遅刻したなんて聞きたくないし。まぁ、メッセージ送って、電話までかけたのに気付かないんだもの。さぁ、行きましょ。二人とも」

「……だね、ちょっと今回ばかりは反省してもらわないと…」

ちっとも起きてこない約束の幼馴染に呆れて3人は学校へと向かった。

 

 

 

 

 

「お、アリスにユージオじゃねぇか。おはようさん」

礫ヶ原高校の正門を抜けて校舎に入り、下駄箱に行くと、見知った顔があった。

 

くすんだ金色の髪に赤銅色に日焼けた肌。燃えるように熱いオレンジ色の瞳。

まさに若きボクシングチャンピオン…と言った感じの少年。

彼の名はイスカーン。実際にボクシングをやっている。

筋肉質な身体付きは無駄な部分は削ぎ落とされ、なおかつインナーマッスルが鍛え上げられている。

おおよそ、この学校で校下一武闘会なんてものを開けば彼が確実に優勝だろう。

進路についてはもう既にとあるスポーツ大学への推薦入学がほぼ決定している。

 

「あ、おはよう。イスカーン」

「おう……ん?二人とも、あいつはどこいったんだ?」

「あー……遅刻だと思う。寝坊でね」

「へぇ、あいつが寝坊ね。まぁ、珍しいことじゃないか」

「そうかな」

「ああ。ぼーっとしてそうだからな!」

「多分、夜中までゲームしてたんだろうね」

「まったく、月曜日なんだから加減しなさいって話よ」

「ド正論だな」

彼はユージオ達とは5年前に知り合った。小学校を卒業し、中学校に上がる前____幼馴染三人とセルカで遊んでいた所に引っ越したばかりの彼が加わった。

それからというもの、セルカ共々仲良くしてくれている。ユージオ達より1つ上の3年生だ。

 

「そういえば、大会近いよね。調子はどうだい?」

「おう、絶好調……とまでは言わねえが、悪かねぇな。」

彼はあと2週間後にはボクシングの大会が控えている。それに向けて今日も朝練をしていたらしい。

因みに礫ヶ原高校にはボクシング部は無いので、個人でボクシングのクラブに入っている。今日もひと汗流して学校に来たようだった。

 

仲良く話しながら上履きに履き替えて教室へ向かう。

2年生と3年生の教室は階が違うので、途中で別れてアリスとユージオは2年1組の教室へ入った。

 

ユージオの席は窓際側の一番端の列の後ろから2番目。アリスはその右隣の席だ。

「さて、ユージオ。ちょっとした賭けをしない?」

「賭け?」

「ええ。和人が教室に辿り着くまでどれくらいかかるか…もとい、ホームルームまでに間に合うかどうかよ」

「うーん……負けた方はどうなるの?」

「そうね、パンをひとつ奢ってもらいましょうか」

「分かった、それくらいの賭けなら乗るよ。僕は……間に合うと思うな」

「私はギリギリアウトな気がするわ」

 

 

 

 

「はぁっ、はぁっ、ぜー、ぜー、ぜー______し、死ぬぅ…」

 

と、息を切らしながら教室に入ってきた男がいた。

「「あ、和人!!」」

二人でハモって声をかける。

ホームルームまであと一分。賭けはユージオの勝ちらしい。

 

「何やってるんだよ和人!僕らいつもの時間より10分も待ったのに全然来ないじゃないか!」

「そうよ!まさかまた夜中までゲームしてたんじゃないでしょうね?」

「うげ……なんで、わかる、んだよぉ…」

アリスの指摘に、苦い顔をする彼。

 

彼こそが、アリスのもう一人の幼馴染。

桐ヶ谷 和人。

黒髪に同色の深い瞳の少年。ユージオに負けず劣らずの中性的な顔つきである和人は何よりもこれが1番ききたくないことばだった。

 

汗をかきながら自分の席に倒れ込むように座った。ぐったりと机に突っ伏した。

「なんでって、当たり前でしょう?10年以上幼馴染やってれば普通にわかるわよ」

「和人の事だ。どうせ限定クエストがどうとかって言ってたんだろう?」

「ヴッ…」

ちょっと冷たい2人の態度とユージオの推理はまさに的を射ていた。

 

「だってさ…昨日はクライン____もといゲーム仲間と限定クエスト言ってたんだよ。何せ月一の奴だったし、ミスれないし…あと、アイツ社会人だから…」

それでもまだゲームの話をする彼にアリスが言い放つ。

「それは別の日にでもできるでしょう?特に今日は小テストがあるんだから…!」

「いや、今日までだったから___え?今なんて?」

「?」

「いや、今小テストって…」

「…まさか和人、小テストのこと忘れて勉強してきてない、なんて言わないよね?」

「……」

ダラダラと汗が出る。小テストのことを完全に忘れていたようだった

「…確か、あれ三限目だったよな?なら一、二限目使えば…!」

「一、二限目潰す気なのかい君は…」

「…出来なくもないわ」

「アリス…?」

キリトの危なげな発言にド真面目な顔で答えるアリス。それに引きつった顔で振り返るユージオ。

「よし、そうと決まれば早速___」

『ホームルームを始めます。皆さん、着席してください』

「…ほ、ホームルームの後にな」

和人は担任のアズリカ先生の声に驚いたが、すぐさま小テストの範囲の教科書を一夜漬けならぬ、2時間漬けを敢行すべく、不敵な笑みを浮かべて自分の席で鞄の中をさぐった。

 

 

 

 

「______」

そんな、3人の日常風景を見ながら、霊体化したままアリスは悲しそうな顔をした。

『私が生まれなければ、こうなることもあったのかもしれない』

心の中で呟くキャスター。生前の一部の記憶を呼び覚まさせる。

 

この聖杯戦争において、サーヴァントは____生前の記憶を全て持ち得る訳では無い。

幾つかの記憶を欠如した状態で召喚される。

時には、切磋琢磨しあった仲間を。

時には、犯してしまった罪を。

時には、宿敵を。

そして___時には、愛する人との記憶を。

 

しかし、キャスターはその中でも、比較的その作用が少なかった。

 

『_____魔力探知、開始』

キャスターは霊体化したまま、魔力の探知を開始する。

アサシンへの対抗の為の保険。

この人が多過ぎる高校で、魔力を発する人間は一人だけ。

『____マスターだけ、ですか。なら良いのですが…』

その危惧が、ただの杞憂に過ぎないことを願うキャスターだった。

 




ユージオと和人も登場ですね。


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prologue ⑤

かけがえのない日常は、長くは続かない。


 

 

「和人、アズリカ先生呼んでたわよ」

「アズリカ先生が呼んでた?」

 

「うん。あなた、何かやらかしたんじゃないでしょうね?」

「いや、そんな事は_____ない」

「和人、何故返事するのに間が空いたのかな。それ自信ないんじゃ…」

 

「……やっぱり、今日の小テストについてか…?」

「有り得そうだけど、先生日直のあなたに頼みたいって言ってたわ。早めに行ってきたら?」

「あー……そだな。行ってくるか。ユージオ、ありがとな。この続きはまた明日にでも」

「うん、わかった。待ってるね」

「いや、待たなくていいよ。先に帰っておいてくれ。多分時間かかるだろうからさ………多分、俺がこの前日直の仕事完全に忘れてたこと根に持ってるんだよ」

 

その日の放課後。

アリスは帰り際、担任のアズリカ先生に「日直の桐ヶ谷さんを呼んできて下さい」と頼まれ、教室にいるであろう和人の元へ向かった。

アリスの予想通り、彼は教室でユージオと一緒だった。

和人はユージオに勉強を教えて貰っていたらしい。

 

教室を出る和人。

「…じゃあ、帰りましょ。随分と遅くまで残ってたのね、二人とも」

「まぁね、和人が珍しく勉強を教えて欲しいって言ってきてさ。ならいい機会だと思って、みっちり教えてたんだ。和人も別に馬鹿な訳じゃない、どちらかというと頭良い方だし、あとはやる気の問題だからね」

「ふぅん……和人が勉強を、ねぇ」

珍しいものもあるものだ、とアリスは思った。

 

外はもう日が落ちようとしている。

夕日に照らされた教室で席に座り、外を眺めるユージオはいつもより、儚く格好いいとアリスは感じた。

 

少し、顔が熱くなっているのに気付いてブンブンと首を振る。

時たま、今のようにユージオは言葉では言い表せないほどに格好良く見える瞬間がある。

アリス自身、幼馴染でいつも一緒だったからなんとも思わなかったが、ふとした時に気づく。

____ああ、彼はとんでもなく格好いいんだな。

と。

 

「_____さ、早く帰りましょう!早くしないと日が落ちちゃうわ」

「_____あ、そうだね。そうしよう」

二人は教室を出ていった。

 

 

 

 

 

 

「〜♪」

商店街でアリスは一人、エコバックを片手に鼻歌を歌いながら魚屋さんへ。

『今夜の夕飯の買い出しですか、マスター』

「うん、今日は何にしようかしら………うーん…」

念話で話しかけてきたキャスターに周りにおかしく思われない程度に返事をするアリス。

「あ、姉さん!」

「?」

 

魚屋で何を買おうか悩んでいると、後ろから声をかけられた。

「あ、セルカじゃない。今から帰り?」

「うん!もしかしたら姉さんここで買い物してるかなって思ったら、ドンピシャだったわ!」

声をかけたのはセルカだった。同じく学校帰りらしい。

 

「そう、買い物終わったらすぐ家に帰るから。先に帰ってる?」

「一緒に買い物いきましょ、姉さん!」

「そうしてくれるとありがたいわ、セルカも一緒なら悩まずに済むかも………ね、キャスター?」

最後にアリスがそっと小声で言うと、セルカは「あっ」と口を塞いで同じく小声で聞いてくる。

 

「あ、キャスターもいるの?」

「ええ、念話はマスターとしか出来ないから」

「そっか、じゃあ早めに買い物済ませましょ、姉さん」

「勿論、早く帰って夕飯の支度をしましょう」

そのまま二人で商店街を周り、買い物を済ませた。

 

 

 

 

 

「________それでね、珪子と一緒に勉強してたの。図書館に居残って長く続けてたからちょっと遅くなっちゃった」

「受験勉強は順調みたいね、セルカ。まぁ、焦らずに頑張りなさい」

「うん!」

帰り道。

日も暮れて、辺りは暗くなってしまった。

二人でセルカは1つ、アリスは2つの買い物袋を持って坂道を行く。

アリスや和人、ユージオ達の家は坂道を登った上_____丘の上の住宅地にある。

この道はもう慣れたものだ。

登りもそこまで辛い訳ではなかった。

二人で楽しく談笑しながら坂道を登っていた時_______キャスターが二人に声をかけた。

 

 

「_____マスター、セルカ。魔力反応を感知しました。恐らくは、昨日の魔力の残滓と同じです」

 

「____!!」

「えっ…!?」

霊体化を解き、実体化するキャスター。周りに誰も居ないことを確認してのことだった。

いきなりの警告に驚く二人。

 

「_____セルカ、先に帰って。重いだろうけれど、荷物をお願い。私、行くわ」

「うん……姉様…あの、…」

「大丈夫よ、私にはキャスターがいるから。さあ、早く!」

「___はいっ!」

 

セルカに荷物を任せて、アリスは坂道のガードレールへと歩く。

「キャスター、お願いね」

「はい、失礼します」

短く言葉を交わして、キャスターはアリスをお姫様抱っこした状態で、街へと跳んだ。

 



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prologue ⑥

キャスター VS ???

ファイッ


 

 

 

 

「______距離は?」

「_____後、180メートル先です」

住宅地の空。

家の屋根を足場にして跳び続けるキャスター。

魔力の反応はキャスターから離れようとしているが、キャスターが確実に距離を詰めていた。

 

「_____キャスター、追いつけるわね?」

「ええ、必ず」

「じゃあ_______ここで仕留めるわよ。この事件に終止符を打つ__!」

 

その命令に、キャスターは言葉ではなく更なる加速で答えた。

 

 

 

 

 

 

『 _______ 』

奔る影。

真っ黒のボロボロなマント____いや、ポンチョに近い布切れを羽織ったその影は人間ではありえない速度で家の屋根から屋根へと跳んでいる。

そして、次の家の屋根へと跳んだ____直後。

 

「____はァァァッッ!!」

『_________っ!?』

裂帛。

斬撃が繰り出された。

それを黒ポンチョの影が右手に持っていた得物で防ぐが、斬撃を受け止めきれずにあらぬ方向へと吹き飛ばされた。

道路にたたきつけられるが、体勢をたて直して、再び跳ぶ。

『_____チッ』

舌打ちをし、進路を変える影。

そこは_____広い、グラウンドだった。

 

 

 

 

 

 

「_____鬼ごっこは終わりですか」

学校のグラウンドに着地したキャスターはアリスを降ろし、左腰の剣の柄を握る。

10メートル先でキャスターと対峙する黒い影。

『_____どうせ追いつかれるしな』

キャスターの言葉に答える影。

月明かりに照らされてその姿が浮かび上がる。

「___サーヴァント」

アリスが息を呑む。

これから始まるのはサーヴァント対サーヴァントの人外の戦い______殺し合い。

「____アサシン、で間違いないですね」

「ああ、そうだ。俺がアサシンのサーヴァント______」

「ならば、あなたが連続殺人事件の犯人ということで間違いありませんね?」

「アタリだ、俺は《暗殺者(アサシン)》だからな。殺しは俺の領分だ。それに_______俺にとって殺しってのは趣味だからよ」

「____そうですか、ならば辞めるつもりは無いと?」

「当たり前だろ。俺から殺しをとったら____何も無くなっちまうぜ?」

「…反英雄に類される英霊ですか」

 

『反英雄』

 

読んで字のごとく、英雄の反対、度し難い殺戮者を意味する。

存在そのものが悪とされるものでありながら、その悪行が人間全体にとって善行となるもの。

 

しかし、聖杯戦争において、()()()()()()()()()()()()()

 

召喚されるのは通常の英雄であり、キャスターのような人々を護るために戦うような英霊しか召喚されないハズだった。

ならばなぜ?

アリスは訝しむ。

なぜ反英雄が召喚されているのか。

 

 

彼にとって殺戮は、彼の『趣味』だと言う。

ならば____キャスターは放っておく事など出来なかった。

 

「_____言っとくが、まだ殺し足りねぇんだ。だからよ……邪魔すんなよ?」

「しないと思いますか?」

「ああ____思わねぇな」

最後に交わした言葉の直後、アリスがキャスターに声をかける。

「キャスター、思いっきりやってちょうだい。私が許可するわ______ここで倒して!!」

「______承知しました、マスター」

 

抜剣するキャスター。

黄金の剣。

月明かりに照らされて、金色に輝く。

彼女の鎧と同色のそれは____確かに英霊の持つ宝具として相応しいものだった。

 

対してアサシンが右手に持ったのは____中華包丁のような刃物。

月夜で鈍く光る。

まるで光が吸い込まれていくような。

 

両者動かず。

しかして_____殺し合い(たたかい)は、何の合図も無しに、同時に始まった。

 

 

 

 

 

 

 

叩きつけられる黄金の剣。

それを防ぐ中華包丁。

しかし、

 

「ぐッ_____!?」

力の差は歴然だった。

たった一撃。それでアサシンは後方へ吹き飛ばされた。

急いで体勢を建て直したアサシンに_______第二撃が彼を襲う。

紙一重で避け、後ろへ飛びずさる。

アサシンは悟った。

 

「___チッ!(こいつ______キャスターの癖して力強過ぎるだろう!?)」

 

キャスターらしくない、完全な近接タイプ。

凄まじいパワー。

スピードもさることながら、その一撃の重さは桁違いだった。

キャスターとは魔術に秀でたクラス。総じて接近戦に弱いのがセオリーだったが、彼女にはそのセオリーは通用しない。

アサシンは知る由もないが、キャスターは元よりセイバーとして召喚されるハズだったサーヴァント。

接近戦に強いのは当たり前。

ぶっちゃければ______接近戦こそ、彼女の本領発揮が出来る舞台。

故に____アサシンは真っ向勝負からヒットアンドアウェイ戦法へとスタイルを変えた。

 

「シッ!!」

「____っ!!」

一撃加えて離脱、一撃加えて離脱を繰り返すアサシンだったが、キャスターは全く動じず。

投げナイフ等の投擲武器を織り交ぜるも、全て弾かれる。

響き渡る中華包丁と黄金の剣のぶつかり合う金属音。

 

挙句の果てに_____

 

「はァァァァッ!!」

「ぐお____!?」

袈裟斬りを食らいかける始末。

 

スピードだけならばアサシンの方が上。

しかし、反応速度がアサシンの上をいくキャスター。

そして何より____一撃の重さが、スピードの恩恵を叩き潰した。

 

「はぁッ!!」

「ジャアッ!!」

サーヴァント同士の殺し合いを初めて見たアリスでさえ分かる。

 

「______勝てる」

負ける要素はない。

逃げられることはあっても、負けることは無いだろう。

 

「チィッ____!!」

 

何回目かの投げナイフを投擲しようとしたその時、

「甘いッ___!!」

キャスターの追撃がナイフを叩き落とし、アサシンに向かって一歩踏み込み____

「Oh!?」

「はぁぁぁぁぁッ!!」

その圧倒的なパワーでアサシンを斬り捨てようと剣を振るう。

 

「Shit!!」

連続の追撃を紙一重で躱し、悔しげに後ろへ飛びずさるアサシン。

キャスターは、あえて追撃をやめたようだ。

 

「ったくよォ……面倒なヤツにちょっかいかけちまったみたいだな……」

ため息を着くアサシン。

キャスターは冷たい眼でアサシンを睨む。

「___諦めなさい。もうお前に勝ち目はありません。私の剣戟を1度たりとも弾き返せないお前では___」

「勝てねぇって言うんだろ?確かにな。お前の一撃の重さには勝てねぇよ。ゴリラかっての。いや、ゴリラでももっと殺しやすいぜ?」

ニヒルな笑みが黒ポンチョのフードの影からちらりと見える。

 

「…妄言もそろそろ聞き飽きました。次は____お前の首をはねることで終わりにしましょう」

「はっ、そう急かすなよ!まあ聞いてけ。確かにお前は俺よか強いんだろうな。だけどよ、英霊にはそれぞれ、()()()()()()()がある事を___忘れてねぇだろうなァ?」

キャスターが剣を上段に構える。しかし、事態はアサシンの一言で一変した。

「っ!!マスター、下がりなさい!宝具が来ます……!」

「宝具…!?キャスター!」

 

宝具(Noble Phantasm)》。

英霊が必ず一つ持つという、その英雄にとっての最強の一撃であり、その英霊をサーヴァントたらしめる、必殺。

英霊が《英雄》として祭り上げられる要因になった誰にも真似出来ないような技や武器が《宝具》という絶対の一撃や絶対の守りに昇華されたもの。

どんな英霊でも《宝具》を上手く使えれば格上の英霊であろうと倒せる、戦況をひっくり返す()()()()()

それが宝具だ。

 

「さァて……ちょいと使うには早いかもしれねぇが、いいぜ。最高のショータイムにしようじゃないか!!」

「……来るか、アサシン!!」

「お望み通りなァ!!」

距離は8m程度。

キャスターが最速で踏み込めばコンマ2秒とかかるまい。

しかし______相手は《宝具》を展開しようとしている。

今なら、宝具を完全に展開する前に叩き斬れるだろう、しかし____何の策もなしに斬りかかるのは愚の骨頂。

 

アサシンの持つ中華包丁のような凶器がドス黒い何かを帯び始めた。

もう遅い。

ならば、迎撃することに全てを賭けなければならない。

 

キャスターが中段に剣を構える。

キャスターの宝具は今すぐに展開できるものでは無い。

故に、彼女の剣____その力の一部を解放する準備をする。

 

「システムコール_____」

式句を唱える。

 

アサシンのドス黒いナニカは中華包丁を包み込む。

次の瞬間に勝負は決まる。

 

キャスターか。

アサシンか。

 

勝敗が決しようとした、その時。

 

 

「_____Hey……そこで見てるのは誰だァ…!?」

 

アサシンが、誰もいないはずの学校の校舎へと視線を向けた。

 

「_______!!」

直後、アサシンの姿が掻き消える。

 

「なっ_____」

「______何!?」

驚きを隠せないアリスとキャスター。

校舎には人の気配は無かったハズだった。

校舎の中を駆ける誰かの足音が微かに聞こえた。

「____まさか、校舎にまだ誰か残ってたの!?」

 

今の時間は7時半過ぎ。

もう既に生徒は下校し終わっているハズ。

 

「マスター!」

「追って、キャスター!今すぐアサシンを止めるのよ!!」

即座にキャスターが駆けた。

アリスもそれを追った。

 

聖杯戦争_____元より、魔術は秘匿されなければならない。

一般社会に知られてはならないのだ。

それ故に、魔術___その神秘を見てしまった一般人は、例外なく記憶を消されるか、()()()()

 

記憶を消す魔術を知っている場合は殺さずに済むが、記憶消去の魔術が出来る魔術師は多くない。

故に、消去法として______殺すしかなくなる。

『死人に口なし』とはよく言ったものだ。

だからこそ、アサシンはきっと目撃者を______

 

「____はぁっ、はぁっ、はぁっ…!!」

校舎に入り、階段を上る。

 

_____心の奥底では、理解していた。

 

もう既に遅いと。

しかし、アリスは理解していても納得はできなかった。

何の罪もない人が理不尽に殺されるなど、あってはならない。あって欲しくなかった。

 

 

 

 

 

「キャスター!状況は_____」

3階の廊下の踊り場に、キャスターは立ち尽くしていた。

「マスター!すみません、アサシンを仕留め損ねました____!」

苦しげにこぼれるキャスターの声。

「そのせい、で…」

 

キャスターの視線の先には_____血溜まりの中、うつ伏せに倒れている、黒髪の少年。

「そんな____」

 

「申し訳ありません。私がもっと早ければ、まだ間に合ったかも知れないのに__」

「___違う。キャスターは悪くないわ。私が悪いの。放課後だから、人はもう居ないって、そう思い込んでいた私のミスよ」

 

謝るキャスターに、言葉を重ねるアリス。

「しかし___」

「行って、キャスター。アサシンは多分、マスターの元へ帰って行くハズ。こんなことされて黙っていられるわけないでしょう…!こっちも向こうのマスターの正体くらい割らないと。さぁ早く!!」

 

悔しげなアリスの声。キャスターは従うことにした。

「マスターはどうするつもりですか?」

「私は……無駄だとは思うけど、助けてみようと思う。私のことはいいから、行って!」

「わかりました、マスター。では_____」

キャスターが霊体化し、アサシンの後を追う。

 

膝から崩れ落ちるアリス。

 

「………ごめんなさい」

そう最初に断って、少年の肩に触れる。

血溜まりの中心は、おおよそ彼の胸___心臓付近。

攻撃を受けたのは心臓だ。

仰向けにして、傷の手当をしなければ。

_____この出血の量からして、助かることは無いだろうが。

 

が、血を流す彼の顔を見て____息が止まった。

「______そん、な」

倒れていた少年。それは_____

「___嘘」

声が震える。

「どうして、あなたが____!!」

 

「私、どうやってユージオに顔向けすれば良いの_____!」

 

アサシンに殺されたのは___

彼女の幼馴染の一人、桐ヶ谷 和人だった。

両手で顔を覆い、涙が零れる。

 

「………まだ」

しかし、泣いている暇はない。

和人の胸に手を置くと、小さくはあるが鼓動している。乱れているが、呼吸音がする。

「まだよ。辛うじて息がある。可能性があるなら____」

アリスは涙をふいて、和人の胸に手をかざし、術式を展開する。

 

「システム・コール、ジェネレート・ルミナス・エレメント、コンペンセート・ブレスト・アンド・ハート!!」

 

《神聖術》。

魔術とは違った、別のモノ。

この国だけにおいて、生まれた魔術に代わるものだ。

その神聖術はもう何百年前に廃れてしまったが、ツーベルクはそれを代々受け継いできた。

 

その治癒の術式によって生まれた白い光が彼の胸の傷に落ち、傷が塞がっていく。

しかし_____傷を塞ぐだけでは彼は助からない。

大量の血液が失われた彼は、出血多量で死んでしまう。故に、べつの術式を唱える。

 

「システムコール、トランスファー・ヒューマンユニット・デュラビリティ、セルフ・トゥ・レフト____!!」

 

その中でも、彼女の行っている術式_____天命移動術は治療系神聖術の中でも最高位の術だった。

「_____ぅ、ぁ____っ!!」

《天命移動術》とは、術者又は対象者の天命____生命力を、別の人間に移すもの。この場合、アリスの天命を和人へと移している。

 

「っ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ_____」

光が引いて、和人の顔色が良くなっていく。

アリスは息を荒くしながら、術式を終了する。

これをやりすぎると、彼女の命に関わる。

 

「……で、出来た…!良かったぁ……」

アリスが和人の胸に耳を当てると、小さく心臓の鼓動が感じられた。

 

「…倒さなきゃ。アサシンだけは、絶対に____!!」

彼女は立ち上がる。

 

アサシンを、倒す為に。

 




一応、prologueだけは一気に終わらせるつもりです。
良かったら、高評価、お気に入り登録、感想、どしどし下さい。
うずうずしながら待ってます(白目)


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prologue ⑦

prologue ラストです。


 

 

「どう?キャスター!」

「___ダメです、気配遮断スキルを使っているようです。微かな魔力の残滓を辿っていましたが、もうとっくにそれも見えなくなりました___」

 

その後。

キャスターとアリスによる捜索は2時間程続いた。

しかし、一向に見つからない。

あの数分足らずで完全にまかれた。

「____っ」

悔しげに唇を噛むアリス。

 

「マスター、このまま探し続けても見つからない。一度撤退を___」

「____そう、ね」

2時間探し回っても見つからなかった。

これ以上探しても無駄足なのではないか。キャスターはそう言いたいらしい。

客観的に考えればそうだ。

いつものアリスなら確かに、捜索30分で撤退を選んだだろう。

 

だが____被害者が自分の幼馴染と来れば、耐えられなかった。

 

「後、一周。あと一周回ったら帰りましょう。セルカも心配してるだろうし、和人のことも心配よ。」

「___彼の治療は、成功したのでしょう?マスター」

「ええ。けど、無事に家に帰れてるか分からないし、あんなことに遭ったばっかりだから動揺しているでしょう?」

「…そうですね、流石の彼でもそうなる」

 

しかし、キャスターの言葉で冷静になれたアリスは条件を付けて撤退することを決めた。

 

 

「____ダメ、か」

「仕方がありません。悔しいですが、予定通り撤退します。いいですね?マスター」

「ええ。けど、一度学校に戻ってくれない?和人、まだ起きていないなら彼を運んであげて欲しいの」

「分かりました」

その十分後、街の捜索も虚しくアサシンを見つけることは叶わなかった。

ならば、一度学校で今も倒れたままかもしれない和人の様子を見に行くことにした。

 

 

 

 

 

 

「_______いない」

「意識を取り戻して、家へと帰ったのでは?」

「うん、そうだと思うけど…でも、サーヴァント同士の戦いを見てしまったから、暗示をかけようと思ってたの。あのことを忘れるように……って。暗示は完全に忘れさせることが出来ないから、一時的に思い出させないように仕向ける程度だし、記憶消去の魔術を習得するまでその暗示で我慢しようって思ってたけど…」

夜の学校。

和人が倒れていたはずの廊下には、血だまりの跡が出来ていたが、和人の姿はなかった。

 

魔術は秘匿されるべきものであり、この聖杯戦争は秘密裏になされる予定だったのだが、予想外の一般人の介入の為に彼を殺すか、記憶を消すかの二択を迫られている。アリスは勿論、後者を選んだが、彼女自身記憶消去の魔術は会得していない。故にそれまでの応急処置としての暗示を選んだ。

 

「キャスター、帰りましょう。多分和人も家に帰っているようだし、一度引いて……ちょっと和人には悪いけど、家に忍び込んで和人に暗示をかけましょう」

「はい、では跳びます」

ええ、とアリスは返事をしてキャスターにお姫様だっこされて学校を去った。

 

 

 

 

 

「_____」

キャスターがアリスを抱えて街を跳ぶ中、アリスは物思いにふける。

無関係の和人が殺されるような目にあった。

確かに、どんな理由であれ学校にあんな時間まで残っていた和人は悪くは無い。しかし、アリスとて悪い訳では無い。

ただの偶然。

ただ、偶然彼が居合わせてしまっただけ。

運が悪かった、で済ませられる事。

だが____

「___ごめんなさい、和人」

言葉では言い表せないほど、自責の念にかられていた。

 

と、その時。

 

『______っ、マスター!!』

「な、なに?」

いきなり念話_____頭の中に大きな声でキャスターに呼ばれてアリスは自分の世界から帰ってきた。

『サーヴァントの反応ありです!!それも先程と同じ魔力!』

「_____行って!!もう次は逃がさない……決着をつけるわよ!」

先程_____即ちアサシンがいるという事だ。

アリスはアサシン打倒を即決。

キャスターは全速力で魔力反応へと向かって跳んだ。

 

 

 

 

 

 

 

「____あと、200メートル!!」

その数分後。

アサシンを追って跳んで来た。

あと少し。

キャスターは道路に降り立ち、全速力で走り出した。

「____、相手がアサシンだった場合は遠慮なく叩き斬って!!」

「勿論___!!」

霊体化を解き、走る。

『何処にいるか分かる!?』

『少し開けた場所____公園でしょうか』

アサシンの拠点がそんな所にある訳が無い。

アリス自身がマスターならばもっと人目に付きにくい場所に陣取るだろう。

故に_____

『____どうして、公園なんかに…?』

純粋に疑問だった。

 

 

 

その時、キャスターの足が止まる。

その件の公園へ辿り着いた。

その公園にはアサシンらしき魔力の反応があった。

「さぁ___ここで決着を___」

 

すると_____公園が、何かによって、白く染った。

光だ。

何かの強烈すぎるヒカリ。

まるで、その場に太陽が降りてきたかのような。

「______」

「____これ、は…」

アサシンらしき魔力が____別の魔力に打ち負ける。

アサシンという力が、別の何かに消されていく。

 

「まさ、か____」

アリスの頭によぎる、可能性。

サーヴァントが人間に負けることは無い。故にアサシンというサーヴァントに勝てるものなど______ひとつしか有り得ない。

可能性ではない。

これは紛れもない事実だ。

 

『チィッ_____!!』

舌打ちをしながら公園の垣根を飛び越えて何処かへと消えていくアサシン。

まるで_______何かから逃げるように。

「____キャスター、これって___」

「___六騎目のサーヴァント、のようです」

 

つい先日。

キャスターを召喚した直後、アリスは聖杯戦争の監督役である教会___そこで修道女を務めているとある女に連絡を入れた。その時、その修道女は言った。

 

『_____そう、これで五人目ね』

 

と。

という事は、まだ正式には聖杯戦争は始まっていない。

アリスのキャスターが五騎目のサーヴァント。ならば____後、二騎はまだ召喚されていない。

聖杯戦争においてサーヴァントは必ず七騎召喚される。この数を超えることは絶対にない。

 

という事は、今____その眼前の公園で六騎目のサーヴァントが召喚されたということだ。

 

直後、キャスターがアリスを庇って左腰の剣の柄を手に取る。

 

「マスター、下がって下さい!!」

「____え?」

 

暗闇。

月が雲に隠れる。

街の街灯だけが辺りを照らす中。

公園の____2mほどの垣根を飛び越えて、何かが襲いかかって来た。

 

「_____ッ!!」

 

『_______!!』

 

キャスターが抜剣し、その何かの攻撃をギリギリで弾く。

銀色の、まるで流れ星のような輝き。

それが剣閃だということにアリスは気が付かなかった。

 

「_____はァッ!!」

『_____やァッ!!』

 

キャスターは現れたそのナニカ_____敵サーヴァントの速さに恐怖した。

 

そのサーヴァントの剣筋は、目で追うことすら叶わない。

キャスターは騎士としての勘だけで斬り結んでいた。

まさに、神速。

速さだけならば______サーヴァントのトップレベルだ。

光を捻じ曲げるほどのその刺突はキャスターに焦りを生み出させた。

 

「ッ、_____!!」

『ッ、はァッ!!』

直後、キャスターの斬撃を間を縫って____流星のように、刺突が繰り出される。

剣では防げない。

故に_____

 

「____っ!!」

鎧の篭手で防ぐ。

『____!?』

 

通常のサーヴァントの攻撃を防具で正面から防ごうものなら防具ごと破壊されて攻撃を受けるだろう。

しかし、その速さが功を奏したか。

純粋なパワーが、足りていなかった。一撃は、比較的軽い。速さに重きを置きすぎて、一撃の重さが足りていない。

それ故に、篭手で防ぐことが出来た。

 

「はァァァッ!!!!」

『っ___!!』

止まったその剣撃。

キャスターはその隙を逃さず、斬り払う。

敵サーヴァントは後ろへ跳んで躱し、5mほど距離をとった。

睨み合うキャスターと敵サーヴァント。

 

雲に隠れていた月が顔を出し、辺りが微かに照らされる。

 

甘栗色の長い髪。

白とピンクを基調としたドレスと、それを控えめに守るように添えられた鎧。

そして、右手に携えるは細剣(レイピア)

可憐な顔立ち、そして美しいその髪と同じ色の瞳。

 

「______《最優の剣士(セイバー)》のサーヴァント___」

零れたのは、嘆息か。

彼女の美貌への嫉妬か。

それとも_____圧倒的過ぎるその存在感への恐怖か。

 

「______凄まじい腕だ、セイバーのサーヴァント」

 

純粋に敵サーヴァント___セイバーに賛辞を送るキャスター。

 

『____どうもありがとう、キャスター。けれど私が欲しいのは賛辞の言葉じゃないわ』

「召喚された直後に敵将の首を欲しがりますか。これはこれは、随分と野蛮ですね」

『そちらも、サーヴァント同士の戦いに入ってこようとしていたようだけど』

「それは偶然です。私達が用があるのは___貴方が相手をしていたアサシンです」

 

剣を構えたまま、言葉を交わす二騎のサーヴァント。

会話からは察せない、闘志が2人から滲み出ている。

 

「_____ 」

相手にするのは完全に初見のサーヴァント。

それは向こうも同じだが、やはりここは体勢を立て直して___

と、アリスは考えを巡らせていた。

その時。

 

「お、おい!待ってくれよアンタ!!」

 

公園から誰かが出てきた。

アリスと同じブレザーの制服___血が滲み、赤く染った___を着た黒髪の少年。

「お、お前何やってんだよ!あんな奴に近付いたら殺されるんだぞ!」

大きな声で、サーヴァントの肩を掴む。

『__敵サーヴァントの前です。油断はしないでください、マスター』

「はぁ?さーばん…?それより、そんな物騒なものは下ろしてくれ。俺は全く話が呑み込めないんだよ…!」

『……マスター?』

「だから____」

二人で噛み合わない会話を始めた。

それを聞いてアリスは察した。

いや___その声を聞いて何となく、完全に理解出来た。

誰がセイバーのサーヴァントのマスターなのか。

何故この状況を理解出来ていないのか。

 

「_____俺には名前があるんだ、それで呼んでくれよ!()()()()()って!」

 

彼の名前は桐々谷和人。

アリスの幼馴染にして_____つい2時間前、アサシンに殺されかけ、アリスが命を救った相手だった。

 

「___待って、キャスター。一旦剣を下ろして」

「ま、マスター。しかし……」

「いいの。和人、全然状況理解出来ていないもの。だから___」

 

 

「危険です、マスター!お願いですから下がって___」

「___あーもう!!だから何が何だか俺にはてんで理解出来ないんだよ!」

 

「なら___私が説明してあげるわ、和人」

 

「え?」

未だ言い合っている二人に声をかける。

いきなりの声に驚いて振り向く和人。

 

「こんばんは、和人。まったく____こんな時間に何してるのよ」

 

アリスは溜息を零しながら和人にジト目でいつものように声をかけたのだった。

 

 

 




次回からは視点変わります。
あと、書き貯めしてた話なので次回からペースが亀さんになります。


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The sound of everyday collapse ①

日常が崩れ落ちる音(The sound of everyday collapse)

和人視点です。
時間軸的には、アリス視点の3日目…prologue ④の日の話になります。



 

 

「この命は君のものだ。君を守るために使う」

 

これは夢の中。

どこかも分からないし、その場所は複雑ではあるけれど懐かしく思えた。

 

誰かを抱きしめる。

その誰かが愛しくて、その震える身体を包み込む。

その誰かは____

そんな俺を見て、儚げに微笑んだ。

顔は見えない。

名前も知らない。

でも彼女は確かに、俺の愛した人だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

じりりりりりりりり____という癇に障る騒音で現実に引っ張られた。

 

「______んぁ」

 

煩いなと思いながら瞼を開ける。

その音は俺が自分のスマホに設定しておいたアラーム音だった。

「…もうそんな時間か」

 

重い瞼を擦りながらスマホのアラームをオフにする。

珍しく変な夢を見た。内容は、イマイチ覚えていないけど。

不味い。昨日ゲームに没頭していたからか、すごい眠気だ。確か、2時過ぎに寝たはずだから、5時間は寝たことになる。

いやまぁ、充分だろと思う俺がいる。

 

多分、妹の直葉は既に剣道部の朝練へ行っているはずだ。何せ高校1年にして大会レギュラー入りが確定している、我が校きっての実力者だ。今年の夏の大会では優秀な成績を納めてくれるだろう。兄として鼻が高い。

なので朝はいつも一人。母さんも昨日は泊まりがけで仕事だと言っていた。

朝食は…どちらかと言うと、今日は和食な気分なので白ご飯を食べたい所存。

 

と考えながら時計を見る。

その時計は_____8時半を示していた。

 

「____はぁ!?」

なぜだ____俺はいつもアラームを7時にセットしている。だからついさっきアラームが鳴ったので今は7時の筈なのだが。

パッとスマホを見る。そこにはスヌーズ、と表示されていた。

もしかすると俺はアラームを止めるのでなく、スヌーズにして何度も寝ていたと思われる。

___我ながら恥ずかしい。

 

アラームがなっているのにろくに起きずに二度寝三度寝を繰り返していたのか___?

高校のホームルームが8時50分から。その時間に席に居ないと遅刻扱いになってしまう。出来るだけそれは避けたい。何せ俺の成績は良いとはお世辞にも言えない。中の下と言ったところだが、油断すれば落ちるところまで堕ちてしまう。

 

「不味い不味い不味い!!」

ベッドから飛び起きて寝間着から制服へ着替えてカバンを手に、急いで自室から出てリビングへ。朝食をゆっくりとる暇など無く、本当に食パンをかじりながら家を出る羽目になった。

 

学校まで歩けば30分、走れば20分を切るか否かと言ったところだ。家を出る寸前に時計を見ると35分だったので、たった五分で家を出たらしい。

「むぅ、ゅっばい___!」

 

トーストをかじりながら走る。いつもなら絶対に間に合わないが、全力疾走すればもしかするかもしれない。

全く、朝から全力疾走とは運が悪い。

 

いつも一緒に登校している筈の幼なじみ二人とその妹はもう既に登校したようだ。スマホにはそれらしいメッセージが届いていた。パッと見ただけではあるが。

俺は心の中でうおおおおお、と雄叫びを上げながら全力で歩道を駆け抜けていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁっ、はぁっ、ぜー、ぜー、ぜー______し、死ぬぅ…」

 

14分という新記録をたたき出した俺は足早に教室へ。

俺の教室は2階、2年3組だ。

ようやく階段上りきり、本当にギリギリ辿り着いた。

 

「「あ、和人!!」」

 

と、聞きなれた幼なじみの声を聞いた。

「何やってるんだよ和人!僕らいつもの時間より10分も待ったのに全然来ないじゃないか!」

「そうよ!まさかまた夜中までゲームしてたんじゃないでしょうね?」

「うげ……なんで、わかる、んだよぉ…」

 

俺の幼馴染、ユージオとアリス。

物心ついた頃からの腐れ縁である。まぁ、いつもはこの二人と一緒に学校まで来てるのだが、俺が寝坊してしまったので2人とアリスの妹であるセルカと一緒に登校したらしい。

「なんでって、当たり前でしょう?10年以上幼馴染やってれば普通にわかるわよ」

「和人の事だ。どうせ限定クエストがどうとかって言ってたんだろう?」

「ヴッ…」

 

流石幼馴染。なんでもお見通しという訳だ。この2人には嘘をつこうと無駄なのは分かっているので否定はしなかった。

「だってさ…昨日はクライン____もといゲーム仲間と限定クエスト言ってたんだよ。何せ月一の奴だったから、ミスれないし…あと、アイツ社会人だから…」

クラインは少し前にゲーム内で知り合ったゲーム友達だ。社会人らしく、こうやってマルチクエストに誘える機会も限られてくる。

「それは別の日にでもできるでしょう?特に今日は小テストがあるんだから…!」

「いや、今日までだったからs____え?今なんて?」

「?」

「いや、今小テストって…」

「…まさか和人、小テストのこと忘れて勉強してきてない、なんて言わないよね?」

「……」

ダラダラと汗が出る。小テストのことを完全に忘れていた。

 

「…確か、あれ3限目だったよな?なら一、二限目使えば…!」

「一、二限目潰す気なのかい君は…」

「…出来なくもないわ」

「アリス…?」

「よし、そうと決まれば早速___」

 

『ホームルームを始めます。皆さん、着席してください』

「…ほ、ホームルームの後にな」

丁度担任のアズリカ先生が教室に入ってきた。

仕方が無い、ホームルームの後に一夜漬け____いや、2時間漬けを敢行するとしよう。

 

 

 

 




彼にとっての日常は穏やかそのものだった。


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The sound of everyday collapse ②

こんな日常、キリトとユージオには過ごして欲しいものです。


 

 

 

 

「ふぅ、小テスト乗り切れた〜」

「どうだった?流石に2時間漬けじゃ無理だろう?」

「無理はするもんじゃないなー。今度から忘れないようにするぜ」

 

昼休み。

3時限目の世界史の小テストを無事(結果は知らない)に乗り切った。

4限目を終えて俺とユージオは昼食のパンを買うべく、売店へと駆け込む。

 

俺の家____桐ヶ谷家は(和人)と妹の直葉、母の翠、父の峰嵩の4人家族なのだが、父が現在海外へ単身赴任中である為、今家にいるのは三人だ。

が、母はパソコン情報誌の編集者で、〆切前は出版社に篭りがちになりほとんど帰ってこない。

なので必然的に家には俺と直葉しかいないわけだ。

弁当を作るほど俺は料理上手くないし、直葉は剣道部で忙しいので売店か食堂に頼ることになる。

 

ユージオの家も兄弟が3人いて、弁当を作る余裕が無いらしい。

 

「んじゃ、俺はこれとこれで」

「あ、今日は奮発するんだね。サンドイッチ300円だよ?」

俺はサンドイッチと惣菜パンを選ぶ。ここの食堂のサンドイッチはかなり高い。が、結構それ相応に具沢山で美味い。今日くらいは別にいいだろう。

 

「いいんだよ。今日は小テスト頑張ったし」

「頑張った…?」

「ユージオはどうすんだ?」

「あ、僕は……これと、これかな」

ユージオは安めの惣菜パンを二つ選んでいた。

あと紙パックタイプのコーヒーを一つとる。

ユージオは牛乳。こいつはコーヒー飲めないからなぁ…前罰ゲームでブラックコーヒー飲んでた時は砂糖と牛乳入れようとしてた。(入れさせなかったけど)

 

 

「お、朝寝坊の和人じゃねえか。ユージオも」

 

「ん、イスカーンか」

レジへ向かおうとするとイスカーンとばったり会った。

1年年上だけど、かなり前から仲良くしている。

殆ど同い年とそんなに変わらない。

「今朝は間に合ったかよ?」

「ああ。ホントギリギリだったけどな」

俺が寝坊した事を何故知ってるのかは聞かないでおこう。どうせ朝方にユージオ達が話したんだろう。

 

「飯一緒に食うか?」

「いいぜ。屋上行くか!」

「辞めときなよ、イスカーン。また怒られるよ?」

「バレなきゃいいんだよ。あそこからの眺めは中々だからな」

「行こうぜ、イスカーン、ユージオ。早くしないと昼休み終わっちゃう」

屋上は生徒は行っちゃいけないらしい。まぁ、屋上を解放してる学校の方が少ないんだろうな。

 

「中庭に行こうよ。ね?」

「なんだよ……まぁ、別にいいけどよ」

「ユージオ君は真面目ですな」

「一緒に行って怒られるのは僕も同じなの!ほら、行くよ!」

 

 

 

 

 

「そういや、聞いたか?あれ」

「あれ?」

中庭で3人でパンをぱくついているとイスカーンがアレ、というのを話し始めた。

 

「…ああ、あのニュースでしよ?」

「おう、俺も朝のトレーニング終わってからニュース見てたら来てたからよ。驚いたぜ」

「あれって………あ、例の殺人事件か」

「そうだよ。何せまた犠牲者が出たらしいじゃねえか」

「これで12人目だよね」

「え、また犠牲者出てたのか」

「ああ。確か今度は_______20代の男だったな」

「うん。今度もかなり酷かったってニュースでやってた」

「…物騒になったよな、最近」

この春咲市で起きている連続殺人事件。

俺は朝急いでたからニュースなんて見てなかったが、また犠牲者が出たらしい。

これだけ犠牲者が出てるのに警察は手がかり一つ見つけられていないとか。

 

「そういえば、今朝のホームルームで部活動一時中止とかって話してたよな。何時もより険しい顔してたっけ、先生」

担任のアズリカ先生はいつも無表情だけど、今回ばかりは不快感を隠せていなかった。

「部活動だけじゃないよ。部活に入ってない生徒も早めに帰って下さいって言ってたよね」

「俺は学校じゃない所に通ってるから別にいいけどよ。お前らも気をつけろよ?」

「うん」

「ああ」

 

 

 

 

それから3人で取り留めのない話をしながら昼食を終え、教室に戻ることになった。

「んじゃな」

「ああ、午後の授業も頑張ろうぜ」

「おうよ」

イスカーンと別れて教室に戻る、その道中。

 

「____?」

何か、誰かの視線を感じた。

周りを見渡しても誰もいない。休み時間はあと一分もない。

「どうしたのさ、和人。早く行かないと授業遅れちゃうよ!」

「気の所為か。はいはい、今すぐ行くって!」

本当に気の所為らしい。

 

俺は、まぁいいか、と思いながら教室へ走った。

 



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The sound of everyday collapse ③

今回も短めです


 

 

 

 

「和人、アズリカ先生呼んでたわよ」

「アズリカ先生が呼んでた?」

 

放課後。

夕暮れの教室でユージオに今日小テストで出ていた問題についてユージオから教えて貰っていたら、アリスからアズリカ先生の伝言をもらった。

「うん。あなた、何かやらかしたんじゃないでしょうね?」

「いや、そんな事は_____ない」

「和人、何故返事するのに間が空いたのかな。それ自信ないんじゃ…」

まぁ、俺自身やらかしたことなんてちょくちょくある訳だが、今日って事は多分___

「……やっぱり、今日の小テストについてか…?」

「有り得そうだけど、先生日直のあなたに頼みたいって言ってたわ。早めに行ってきたら?」

「あー……そだな。行ってくるか。ユージオ、ありがとな。この続きはまた明日にでも」

「うん、わかった。待ってるね」

「いや、待たなくていいよ。先に帰っておいてくれ。多分時間かかるだろうからさ………多分、俺がこの前日直の仕事完全に忘れてたこと根に持ってるんだよ」

 

1週間前くらいだろうか。

日直の仕事を完全に忘れていたことがあった。忘れたまま家に帰ってゲームしてたんだから、そりゃ先生も怒る。

特にあの先生は怖い。無表情だし、怒るといつも口数が少ないって言うのに、より無口になる。

無言の威圧…というか。

一応今日の日直の仕事は終わったはずなんだけどなぁ。

まぁ、居残り掃除でもなんでもやりますか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あー……こんなに遅くなるとは」

先生から頼まれた掃除を終わらせて学校を出たのが10分前。

今の時間は7時を回った所。なれないところの掃除だったからこれだけ遅くなってしまった。

 

「そんなに怒ることないだろ…いや、確かに日直の仕事忘れて速攻で家帰ってゲームしてた俺に全ての非はあるけどさ…」

まぁ、俺が全て悪いので文句言わずにやった。

我ながらよくやったと思う。

 

辺りはもう暗くなっている。

早く家に帰らないと妹のスグに怒られる。

少し走ろうかと足を早めた___その時。

俺のスマホが鳴った。

 

「ん…スグ……か?」

電話の主は家の固定電話からだった。

まさか早く帰ってこいという催促の電話だろうか。

「もしもし、俺だけど」

『あ、お兄ちゃん!今帰り道?』

「ああ、スグか。ちょっと先生に頼まれて雑用やってたからちょっといつもより遅くなったんだ。ごめんな」

『別にいいよ。いきなりで悪いんだけど、ちょっと頼み事聞いてくれない?』

「頼み事…というか、なんでお前スマホからかけないんだよ」

『それなの!私、学校にスマホ忘れちゃって…』

 

なんと。

今の時代に携帯電話を忘れる奴もいるのか。

「んー……取りに行けばいいのか?」

『うん!ごめんねお兄ちゃん、お願い!』

「まぁ、いいよ。でも遅くなるからな先にご飯食べててもいいし。スグは明日も朝練だろ?」

『え?朝練無いよ?』

「む……あ、そうか、今朝先生言ってたな。部活動は活動時間短くなるって。まぁ、俺のことは気にしなくていいから、早く寝ろよ」

『うん!ありがとう!よろしくねー!』

「ん。」

そう言って電話を切った。

「…ったく」

…全く、しっかりしているようでまだまだ子供だ。仕方ないなと思いながら学校へ戻ることに____

 

「……なんだ、これ?」

携帯を持つ左手。

その手の甲に、何か赤いものが____

「…血か、これ……?」

蚯蚓脹れのような跡が着いている。

右手で擦っても濡れてもいないし、右手に跡がつくことも無い。

 

「______今朝はこんなのなかったよな」

記憶が正しければ授業の時も、こんなのは無かった。

…掃除の時にどこかにぶつけたか?

内出血してるのかもしれない。

 

「…痛みは無いし、別にいいか」

別になんともないので無視して学校へ戻ることにした。

 

 



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The sound of everyday collapse ④

 

もう辺りは暗く、街灯にあかりがつき始めた。

急がないと夕飯が遅くなるかもしれない。

校門を抜けて剣道部道場へ。

40年前から使われている屋根瓦の建物で、そろそろ新しい道場を建てても良いのではないかとも思う。

俺がここに入ることなんてないんだが、時たまスグの様子を見に来ることがある。ので一応面識はあるが…

今は7時。もうみんな帰ってしまっている筈。これなら別に気にする必要は無い。遠慮なく道場へ___

 

屋根瓦が見えた。

ウチのは古い道場を使い古しているので、それは一目瞭然だった。校舎が数年前に建て直しがあったのもあり、敷地の中のそれは特に目立つ。

「あ」

鍵が閉まっている。当たり前だ。戸締りくらいするだろうに。これで取ってこい、などと無茶をスグは言ったのか。

 

「うーん…」

玄関からは入れない。なら窓とか開いてないだろうか?

「おっ」

と、試しに窓に手をかけると簡単に開いた。

玄関は戸締りするのに窓を閉めてないなんて、不用心だな。金目の物なんて無いとはいえ、しっかりして欲しいものだ。

スグのスマホはすぐに見つかった。着替えの部屋、そのスグのロッカーの中に入っていた。

「ホント、スマホ忘れるやつなんて今どきいるもんなんだな…」

と零しながらスグのスマホをカバンに入れる。さぁ帰ろうと窓から出ようとした___その時だった。

 

ギイィィィィィィィィィイン___

 

そんな金属と金属がぶつかり合う音が学校中に響いた。

 

「___!?」

 

まだ校舎に誰かいるんだろうか。けど、何か__異様に大きい音だった。

それは途絶えること無く鳴り響いている。かなり遠くで鳴っているようだが、さっきの大きな音に関しては何か変に耳に残る。なんというか___

「金属と言うより……剣?」

 

そう、よくゲームで聞く、剣と剣を打ち合う音に酷似していた。

気になってその音の源へ。

それは学校のグラウンドから響いている。

 

その音は_____現実離れした光景と共に姿を現した。

 

「はぁッ!!」

「ジャアッ!!」

 

誰かが、戦っていた。

片方は暗色の___いや、真っ黒なポンチョを着た黒騎士。いや、もっと詳しく言うなら____暗殺者か。

声からして男だ。ソイツは中華包丁のような刃渡り30センチはありそうな凶器を手に打ち合う。

時たま相手の武器の有効範囲外からナイフか何かを投擲し、翻弄しようとしているようだった。

 

もう片方は_____金色の鎧に身を包んだ騎士だった。長い金髪が目を引く。およそ、女。背は、男より___俺よりも低いかもしれない。

だと言うのに、鎧と同色の両手持ちサイズの剣を軽々振り回す。いや…振り回す、なんて言う表現は間違いだ。完全に使いこなし、相手へ怯むことなく踏み込んでいく。一撃一撃が大地を削り、風を生む。

 

その正反対の二人の戦士は互角の戦いを____いや、どちらかと言うと、女騎士の方が勝っていた。というより圧倒していた。

「チィ____!!」

再び間合いから離れてナイフを投げようとした暗殺者は

「____甘い!!」

女騎士の追撃に苦しめられる。

 

「オゥ!?」

「はあああああああああ!!!!」

「Shit!!」

更に畳み掛ける。その猛攻に暗殺者も痺れを切らして思いっきり後ろに飛んだ。

 

女騎士はそれ以上追撃はしなかった。しそうになっていたが、途中で止めたと言った感じだ。

「ったくよォ……面倒なヤツにちょっかいかけちまったみたいだな……」

「___諦めなさい。もうお前に勝ち目はありません。私の剣戟を1度たりとも弾き返せないお前では___」

「勝てねぇって言うんだろ?確かにな。お前の一撃の重さには勝てねぇよ。ゴリラかっての。いや、ゴリラでももっと殺しやすいぜ?」

「…妄言もそろそろ聞き飽きました。今は____お前の首をはねることで終わりにしましょう」

 

男の声は全く知らない声だ。だが、女騎士の方には____聞き覚えがある気がする。

「はっ、そう急かすなよ!まあ聞いてけ。確かにお前は俺よか強いんだろうな。だけどよ、英霊にはそれぞれ、()()()()()()()がある事を___忘れてねぇだろうなァ?」

「っ!!マスター、下がりなさい!宝具が来ます……!」

「宝具…!?キャスター!」

よく見ると女騎士の後ろには誰かいる。女騎士に言われて後ろへと下がって行った。

 

「さァて……ちょいと使うには早いかもしれねぇが、いいぜ。最高のショータイムにしようじゃないか!!」

「……来るか、アサシン!!」

「お望み通りなァ!!」

その直後、暗殺者から____本物の殺意が漏れ出す。そして、絶対的何かが男の凶器に宿っていく。

血のように紅黒い、ナニカ。それは確実に女騎士を殺す可能性を秘めたものだった。

 

「_____なん、だ…あれ………!?」

絶句する。あんな、人外じみた戦いを_____殺し合いを見る事になるとは。まるでゲームやアニメ___いやそんなものと比べるのは間違いだ。

 

二人とも、人間ではない。人間があんな動きが出来るわけが無い。男の発する力は、禍々しかった。

しかして、動けない。あんな濃密な殺意がこちらに向けられていないにせよ、発せられれば__動けるはずがなかった。

だが逃げなければ。

あれは、必ず殺す者だ。

あれに見つかってしまえば、俺も、殺される。

何とか俺が後ろに一歩下がったその時____

 

 

「_____Hey……そこで見てるのは誰だァ…!?」

 

 

暗殺者が、こちらを、見た。

 

「______ぁ」

こちらを射抜く殺意の視線。

そして、俺は耐えきれず、走り出した。

「_____!!」

「待ちやがれ____!!」

 

怒号が背中を叩く。

 

不味い。

 

アレに追いつかれれば、確実に殺される。

 

逃げなければ。

 

逃げなければ。

 

逃げなければ。

 

逃げなければ____!!

 

 

必死に逃げる。

死ぬ気で走る。

ただ逃げるだけでは追いつかれる。どこか、隠れる場所があれば、可能性は、あるかもしれない。

 

校舎へと入った。階段を登り、三階__最上階へ。

息が切れる。ああもう、こんな時に俺の体力の無さを呪う。人並みには体力があったつもりが、最近運動していないせいか、想像以上に持たなかった。

 

「___はぁ____はぁ____はぁ____はぁ____!!」

というより純粋な体力ならまだしも、あの殺意を感じてしまえば自然に体が縮こまるのは確実だろう。体が怯え、足が震えそうになりながら走り続ける。

そして、廊下の半ばで立ち止まる。

「___はぁ、はぁ………ここまで、来れば、さすがに____」

何故かは分からないが奴がおってくる気配がない。あの殺意も感じない。

俺を追うのを諦めたのか、それとも、さっきの殺し合いの続きを始めたのか。

 

肩で息をしながら安心しきって後ろを振り向く。誰もいない。

「……なんだったんだ…アレ」

今冷静に考えると、ゾッとする。よくもまぁあんな化け物から逃げきれたと思う。

まだ身体が震えている。

 

「__逃げるなんて男らしくもないな、はは…」

もちろん、あの状況で逃げる以外の選択肢はなかった。あのままだったらあのデカい中華包丁に刻まれて終わりだ。

 

 

「……逃げ切れ、た_____?」

 

 

待て。

 

逃げきれた?

本当に?

あのバケモノから?

あんな、人間離れした奴から____本当に逃げきれたのだろうか。

けど、夜の廊下は静かだ。誰の気配もない。

 

ない___筈なのに。

 

「______ 」

 

何故だか、寒気がする。汗が止まらない。

 

誰もいないと頭では分かっていても、生き物としての本能が叫んでいる。

 

_______まだ終わりではない、と。

 

「HeyHey……もうTag(追いかけっこ)は終わりか?」

 

「____ぁ」

 

奴は。

 

俺の後ろにいた。

 

知覚できなかった。

 

咄嗟のことで反応できない。

 

「まぁ、ルールだからな。見ちまったんだからよ。死んでもらうぜ、リトルボーイ」

 

そんな捨て台詞を聞いた瞬間。

何か、鋭いものが俺の左胸____心臓に突き刺さった。

直後、視界がぐにゃりと歪んでいった。

どさり、と何かが落ちる音。

いや、多分これは俺が倒れた音だろう。

 

「……なんか、やっぱりクールじゃねぇな。もっと派手に血飛沫を上げさせるべきだったか?いや、ただの子供にそんなことをする必要はねぇか。俺にとっちゃアイツを殺せればそれで充分なんだ。だが、今になっちゃ不可能だ。殺されたのは俺なんだからな。だからこそオレは聖杯を_____」

 

そんな、訳の分からないことを呟いて、男の声は遠のいていく。

世界が反転する。

視界は真っ黒に染まり、身体中の感覚が消えていく。

指1本動かない。

 

「___ごっ____が、ぁ_______」

 

ビシャリと、血を吐いた。

息が出来ない。

漠然と。

ああ、ここで死ぬんだと。

そう感じた。

 

 

 

「____遅かったか__!!」

金属音とともに、誰かが走ってくる。

「キャスター!状況は_____」

もうひとつの足音。

もう、視界は暗く、何も見えない。

 

「見ての、通りです。マスター」

「そんな____」

「申し訳ない。私がもっと早ければ、まだ間に合ったかも知れないのに__」

「___違う。キャスターは悪くないわ。私が悪いの。放課後だから、人はもう居ないって、そう思い込んでいた私のミスよ」

「しかし___」

 

「行って、キャスター。アサシンは多分、マスターの元へ帰って行くハズ。こんなことされて黙っていられるわけないでしょう…!こっちも向こうのマスターの正体くらい割らないと。さぁ早く!!」

「マスターはどうするつもりですか?」

「私は……無駄だとは思うけど、助けてみようと思う。私のことはいいから、行って!」

「わかりました、マスター。では_____」

 

 

「………ごめんなさい」

誰かと誰かの会話。そして、1人がいなくなって、もう1人がうつ伏せになった俺を仰向けにしようとして___

 

「______そん、な」

止まる。

 

「___嘘」

「どうして、あなたが____!!」

 

「私……どうやってユージオに顔向けすれば良いの……!」

「………まだ」

「まだよ。辛うじて息がある。可能性があるなら____」

 

 

「システムコール、トランスファー・ヒューマンユニット・デュラビリティ、セルフ・トゥ・レフト____!!」

 

「_____ぅ、ぁ____っ!!」

「っ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ_____」

 

「後は__ システム・コール。ジェネレート・ルミナス・エレメント、コンペンセート・ブレスト・アンド・ハート!!」

 

「……で、出来た…!良かったぁ……」

「…倒さなきゃ。アサシンだけは、絶対に____!!」

最後に聞こえたその声は決意に満ち____そして、苦しそうに聞こえた。

その声は____酷く、幼馴染(誰か)に似ている気がした。

 

 



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The sound of everyday collapse ⑤

 

 

 

 

「______ッ!?」

胸の痛みを感じて意識が覚醒した。

「___いっつ…!!」

痛い。

そりゃそうだ。心臓にナイフか何かを一刺しだ。悲鳴をあげなかっただけ褒めるべきだろう。

咄嗟に左胸を押さえ込んで気づいた。

「……あれ?」

何も無い。

ナイフで刺されて、ぽっかり穴が空いていると思っていた左胸は、傷一つない。

「……っ?」

痛みは残るが、全く問題にならない。確かに左胸に違和感はあるが……

「……」

廊下は血だらけになって____いない。血の跡はなくなっている。

「………夢、じゃないよな」

何も無かったかのようなその現状に、思わず夢かと疑ってしまう。

だが、夢じゃない。

 

あの恐怖は。

 

あの殺意は。

 

あの痛みは。

 

間違いなく本物だ。

 

「……誰か、いた気がするんだけどな」

そう、俺が倒れて意識が消える寸前。誰かが来た気がした。

あまり覚えていないが、もしかすると、その時に来てくれた誰かが助けてくれたのだろうか。

 

「……うわっ、もう10時かよ…早く、帰らないと」

スグに携帯を取ってきて欲しいと言われて来たのに、あれから3時間近く寝ていたらしい。

そういえば、カバンをアイツに追われる時に落っことした気がする。そこにスグと俺の携帯が入っているはずだ。

「…取りに行こう」

とりあえず、家に帰って落ち着いて考えないと。

 

 

 

 

カバンを拾ってスグに少し遅くなると電話をかけた。滅茶苦茶怪しまれたが、何とか言い訳に成功した。

内容としては、剣道場の鍵が開いてなかった(本当)ので先生に連絡し、開けてもらった(嘘)のでかなり時間がかかったというものだ。

スグは途端に凄い焦ってたが、俺が謝っておいたし、そんなに怒ってなかった、と言っておいたので、まぁ……大丈夫だろう。

その後、帰路に着いたのだが、

「……不味、ふらっとしてきた…」

体も頭も悲鳴をあげているのか、いよいよ倒れそうになる。

 

「ちょっと休憩」

途中にあった公園のベンチに座り込んだ。

「…ふぅ」

まだ身体中の神経が逆だっている。

敏感になっている。

 

一体なんだったんだ。

 

黒い男と、金色の女騎士。

 

あれは人間じゃない。

人間の形をしたナニカだ。

あんなものが何故ウチの学校のグラウンドで殺し合いをしていたのか。

「くそっ……何なんだよ、これ」

 

状況が掴めない。

頭を悩ませる。

「…考えたって分かるわけないか」

そう言ってため息を着いた。

 

 

その時。

 

 

「_______!!」

 

悪寒がした。

 

あの時と同じ。

例えられないような、恐怖を感じる。

 

「……」

思わず息を呑む。

体の動きが散漫になる。

 

周りを見渡しても、誰もいない。

こんな夜に、公園に来る奴なんてそういない。

気配はない。

 

しかして、殺意は感じられる。

周りにはいないのに、感じられるモノ。

まさか。

そんな訳ない。

またアイツが来たとでも言うのか。

 

「_____ッ!!」

そして、俺は咄嗟に。

前へと飛び込んだ。

 

その直後。俺の座っていたベンチが真っ二つになった。

「なっ___!?」

倒れ込んで、後ろへ飛びずさる。

 

そこには____

 

「なんだ、お前生きてたのか」

 

さっきのヤツがいた。

黒い外套に大きな中華包丁。

顔は見えない。

「…死んだと思ったんだがな。確実に心臓に突き刺した。生きていられるはずがない。だって言うのに生き延びる、か」

感情のない声が公園に落ちる。

 

「…俺が殺し損ねたってのも、久方振りだ。アイツ以来だな」

男は一転、楽しそうに中華包丁を指先で器用に回す。

 

「……まぁ、ただの人間にしては上手いことやったな。褒めてやる」

「だからその褒美として___」

「_____こっちで殺してやろう」

そう言って___

中華包丁を音もなく振り下ろす。

俺は右に避ける。

スパッと、頬に掠る。

「っ!!」

その後に来る、斬撃、それを死ぬ気で避ける。

「ははッ!!なんだ、避けてばかりじゃつまらねぇじゃねぇか!」

そう言った直後、身体が飛んだ。

 

「____が、ぁ!?」

視界はぐるぐると周り、衝撃と共に逆さになる。

蹴りを、入れられた。

見えなかった。それが斬撃だったら____そう考えるとぞっとする。

「っ!?」

 

すぐに転がりながら起き上がる。

ガガガガッ

そんな音をたてて6本のナイフが地面に突き刺さる。

あのまま倒れていればハリネズミになっているところだった。

「っ?」

その時、何かが足に引っかかる。

 

そこにあったのは、金属バットだった。

ここの公園で遊んだ子供が置いていったものだろう。今は、緊急事態だ。これを拝借しよう。

「これなら____っ!!」

両手で持って構える。

俺だって、小さい頃は一応剣道をやってたんだ。随分前に止めたが____それでも何も無いよりは_____

 

「……いいねぇ。楽しませろよ…?」

マシだと_____そう、思っていた。

次の瞬間、斬撃の嵐が始まった。

「~~~っ!?」

多分、男は手加減していた。

その気になれば俺は一瞬で殺されていたハズだ。

なのに、俺はかすり傷を追うだけで、致命傷は受けなかった。

______遊ばれてたとしか、言いようがない。

 

「ほらよ」

「ぁ______っ!?」

が、それも本の数秒。

俺の持っていた金属バットは、中華包丁によって、先端を斬られてしまった。

そして、また蹴りをくらって吹き飛んだ。

 

「ぐ、ぁ_____」

意識がトビそうになった。

公園の遊具に叩きつけられて、一瞬視界が真っ白になる。

「……なんだ、あれを食らって生きてるから何かあるのかと思ってたが____拍子抜けだな」

「_____ 」

 

無茶を言うな。

 

バケモノのお前に言われたくない。

俺は一般男子高校生なんだよ___!!

遂に、追い詰められた。

後ろに下がろうにも振り返ればもう道はない。公衆トイレか何かの壁に背中を合わせる。

 

「……まぁいい。じゃあ_____今度は最っ高にクールに殺してやる」

もう奴に躊躇はない。

いや、もう最初から無かったのか。

俺は、殺されるのか。

_____1度、助けられたのに?

 

誰かは分からない。けど、死にかけていた俺を、多分必死に助けてくれた。

ならば。

礼も言えずに。

 

また死ぬのか?

 

 

 

____死ねるか。

助けられたんだ。なら、それなりに恩返しをしなきゃ行けないだろ。

 

それに____

家には、スグが待ってる。

それに学校には友達がいるんだ。

ただ2人の、幼なじみが。

 

死んでたまるか。

 

まだ死ねないんだよ。

諦めきれる訳、ない__!

 

右手の甲が熱を帯びる。

「____お前みたいな、ヤツに____」

 

「殺されて、たまるか_____っ!!」

その時、目の前が真っ白に染まった。

 

「なっ_____7人目のサーヴァントか___!?」

その中で、男の驚愕の声と___

 

鋭い金属音が鳴り響いた。

 

「……?」

 

視界は真っ黒に戻る。

恐る恐る目を開けると、そこには_____

 

 

「_______ 」

 

 

1人の少女が佇んでいた。

 

甘栗色の長い髪、白とピンクを基調としたドレスと、それを控えめに守るように添えられた鎧。

そして、右手に携えるは細剣(レイピア)

 

 

「_____ぁ」

 

 

思わず、呼吸する事を忘れてしまった。

そして、彼女は振り返ってこちらを見た。

髪と同じ色の瞳。

俺と同じか、俺より背の低そうな少女は俺を見て言った。

 

 

 

 

「____サーヴァント、セイバー。召喚に応じ参上しました」

 

 

 

 

「___ぇ…?」

 

凛とした声。

本当に少女そのもの。

 

「貴方が、私のマスターですね?」

 

それは____俺にとっての運命。

 

まだ見ぬ世界へと、足を踏み入れた瞬間だった。

 



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Long long night ①

長い長い夜(のつもり)です。


 

 

 

「ま、ます…たー?」

「…?」

いきなり現れた美少女に、訳の分からないことを言われて目が点になる。

「……戦闘に移行します、マスター。あなたは下がって下さい」

「せ、戦闘?ま、待ってくれ_____」

俺が彼女を止めようとした時にはもう姿はなかった。ただ、風が吹いただけだった。

 

彼女は既に、男と戦闘を始めていた。

「ハァッ!!」

「ぐぉ___ッ!?」

一閃。

 

目にも止まらぬ剣技はヤツの頬を掠めた。

そこから_____蹂躙が始まる。圧倒的な速さによる、剣閃の嵐が。

 

「ぐ___ぉぉお______!!」

 

さながらそれは流星群の如く。

男に襲いかかる。

男が反撃しようとその中華包丁で斬りかかるがそれは彼女の剣閃を防ぐのに精一杯で途中で辞めざるを得ない。

 

「ちぃッ____!!」

「____!!」

 

完全に男は後手に回っていた。

思わず距離をとる男と構えたまま動かない彼女。

 

「はっ…分かっちゃいたが最優相手はキツイか。宝具も使うなって言われてるからな。未知数過ぎる存在に対して簡単には宝具を使うのは躊躇っちまうぜ…」

「……使ったらどうです?勝てるかもしれないわよ?負けるつもりは無いけど」

「煽り方が下手だな、アンタ。残念だが、俺の宝具はまだ使うまでに至ってねェ。まだ、時間がかかるんだ。まだ、な。もっと…もっと____せば___」

男が、最後に何かを呟いた直後、痺れを切らした彼女が細剣を構える。

 

「____妄言はそこまでよ。貴方の霊核、貫いてあげましょう」

「oh……残念なお知らせだ________別のサーヴァントが近付いてきてるぜ?」

「何を____っ!!」

男の言葉を切って捨てようとした彼女だったが、すぐさま、公園の柵の向こう側___を睨みつけた。

 

「そういうこった。じゃあな、セイバー。次会う時は_______俺の宝具でその首、掻っ切ってやる。楽しみにしてな…!!」

そう言って、男はどこかへと消えて行った。

 

「何が起こって_____なぁ、アンタ!!大丈夫なのか!?」

「大丈夫です、マスター。それより警戒を。別のサーヴァントが近づいてきます」

「さ、サーヴァント…?何を言って…」

「…?マスター、ここにいてください。私が攻撃を仕掛けます」

 

「え、ちょっ……待てよ!!」

 

何が何だか分からない。

彼女が何者なのか、あの男は何なのか。

そして、何故彼女は俺の事を《マスター》などと呼ぶのか。

分からないことばかりで頭が破裂しそうだ。

 

そんな俺を置いて、謎の少女は公園の垣根をあっさりと飛び越えて行ってしまった。

2mはある公園の垣根をひとっ飛び…!?

これはありえないものばかりで思考がストップしそうだ。

 

「____なんなんだよ…!!」

急いで彼女の後を追う。

一応、さっき持ってた金属バット___先端が斜めに斬られている___をもって公園を飛び出した。

 

 

 

 

「お、おい!待ってくれよアンタ!!」

公園を後にし道路に出ると、そこに彼女はいた。

彼女は______誰かと話しをしているようだった。だが、今ばかりは先に話を聞かないとこっちが参ってしまう。

「お、お前何やってんだよ!あんな奴に近付いたら殺されるんだぞ!」

大きな声で、彼女の肩を掴む。

「__敵サーヴァントの前です。油断はしないでください、マスター」

彼女はそう言って対峙している誰か_____金色の鎧を着た女騎士を睨む。

確かあの女騎士、学校で中華包丁野郎と戦ってた____よな?

まさか、アレも中華包丁野郎と同じなのか…!?

「はぁ?さーばん…?それより、そんな物騒なものは下ろしてくれ。俺は全く話が呑み込めないんだよ…!」

「……マスター?」

「だから____」

この期に及んでまだ分かってくれないらしい。

なんで説明してくれないんだよ…!

 

「_____俺には名前があるんだ、せめて呼んでくれよ!()()() ()()って!」

 

「危険です、マスター!お願いですから下がって___」

「___あーもう!!だから何が何だか俺にはてんで理解出来ないんだよ!」

 

埒が明かない。

どうしようかと頭を悩ませていた___その時だった。

『なら___私が説明してあげるわ、和人』

「え?」

聞き慣れた声が俺の思考を完全にストップさせた。

 

「こんばんは、和人。まったく____こんな時間に何してるのよ」

 

 

「_____あ、アリス…?」

女騎士の後ろからひょこりと顔を出したのは、俺の幼馴染である《アリス・ツーベルク》だった。

 

 



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Long long night ②

長い夜、教会に咲く一輪の紫色の花(ロベリア)


 

 

「アリス……どうして、ここに」

「どうしても何も、そこの彼女に襲われたから私のキャスターが守ってくれた。ただそれだけよ」

「《私のキャスター》…?」

 

アリスは、女騎士より前に出て笑顔でそういった。

全く、話が見えてこない。

なんでここにアリスがいるのか。

「…今の状況、分かってないんでしょう?」

「あ、ああ。全く…」

「だろうと思った。サーヴァントの事も知らないんでしょ」

「さ、サーヴァント…?」

 

「ええ、分かってないわよね。仕方が無いわ、私が説明してあげる_____セイバーさん、あなたのマスターはこの通り一般人とそう変わらない。あなたのことも全然理解してないの。だから、まぁ、私が説明云々をするから……今は休戦しない?」

アリスからこの提案。

何も知らない俺に、説明とやらをしてくれるらしい。

ありがたいが……休戦って…

 

「_____休戦、ですか」

「ええ。私としても今ここで戦りあうのは避けたい。住宅地のど真ん中だもの、あなたが高潔な英霊なら_____民間人への被害は避けたいでしょう?」

「____ええ。分かりました、キャスターのマスター。あなたの提案に乗ります。私のマスターは___本当に何も知らないようですし、ね」

「ありがとう、セイバー。さ、ここではなんだし、少し歩きましょう。行きたい所もあるしね」

なんだか、俺抜きに話しを進められて、ちょっと不満だった。

俺を置いてけぼりにしないでくれよ…!

 

「あ、アリス!行きたい所ってなんだよ…!」

「この状況____《聖杯戦争》について説明するには私だけじゃ時間がかかる。だから、聖杯戦争について詳しく説明してくれる人の元へ行くのよ。

それに、聖杯戦争が正式に始まったかどうかを知りたいの。まぁ、私もあそこには行きたくないんだけどね」

「聖杯戦争…?」

「ええ。まぁ、歩きながらちょっと話しましょう」

アリスはくるりと身を翻して、街の方へと歩いていく。

「…わかった、行くよ………何が何だか…」

話についていけない。

聖杯…?だかなんだか知らないが___

 

「____マスター、怪我はありませんか?」

「あ、ああ。別にこれくらい大丈夫……だと思う」

目の前にいる彼女が、人間の度を超えた存在であることは確かだ。

 

俺は_____かなり面倒なことに首を突っ込んでしまったらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「_______和人。あなたが呼び出したのは、《サーヴァント》と呼ばれるものよ。あなたの隣にいる、セイバーの事ね」

「はぁ……サーヴァント…確か、使い魔ってヤツじゃないか?漫画とか、ゲームで聞いたことはあるけど…」

「《使い魔》、ではあるわね。けど、使い魔、なんて呼び方するのがおこがましくなる程、《サーヴァント》っていうのは強いの」

暗い町の中。

俺とアリス、2人の女騎士と共に歩いていく。

もう夜だし、最近騒ぎになってる連続殺人事件のせいで人の気配はない。

 

「《サーヴァント》っていうのはね、《英雄》と呼ばれていた存在が死後、人々に祀り上げられ英霊化したものを、魔術師が聖杯の莫大な魔力によって使い魔として現世に召喚したものなの。サーヴァントっていうのは、歴史に名を残した英雄だったり、伝説や伝承として残っている英雄達を現代に蘇らせる…そう言った方がわかりやすい…かしら」

「……その前に、魔術師ってなんだよ。いや、分かるといえば分かるんだが、本当にいるのか?」

「ええ。私がそうだもの」

「…さいですか」

もう驚くことばかりだ。

魔法なんて、それこそ漫画や小説の中のものだとばかり思ってたんだが…

 

「続けるわよ?……このサーヴァントって言うのは通常、絶対に呼べないものなの。けど、それに例外がある。それが《聖杯戦争》。聖杯の力を使って英霊を呼び、自分の使い魔とする。それが___」

「…聖杯戦争ってなんだよ。聖杯って……アレか?どんな奇跡でも起こせるっていう」

《聖杯》。ありとあらゆる奇跡を起こす、伝説、御伽噺上の産物。

俺が知っているのはそれくらいだ。

妹の直葉が小さい頃に神話とか、そういった類の本を読み聞かせてたせいか、俺も若干覚えている。

 

「そ。その通りよ、和人。あらゆる奇跡を起こす最高位の聖遺物。それを巡って魔術師同士で殺し合う。それが聖杯戦争よ」

「こ、殺し合う…!?」

待て、じゃあ……アリスはそれに参加しているとでも言うのか。

坂道を登る。

アリスの目的地はこの上にあるらしい。

「……私ももちろん参加してるわ。私の目的としては、聖杯欲しさ、というより、その聖杯のもたらすこの戦争。それが引き起こす被害を抑えるため…っていうのが本音だけどね」

「え……じゃあ、聖杯の為じゃなくて___」

「___この街を守るため。それこそ、聖杯戦争による災害や事件っていうのは結構多いし、規模が大きいの。聞いた話によると、街一つを巻き込んだ大火災になったこともあったって聞くわ」

 

街、一つ。

じゃあ……この街が、焼け野原になる可能性もあるという事か。

「なんだよそれ……危険過ぎるじゃないか」

「ええ。でも、私は、見て見ぬふりは出来ない。傍観している側なんて、まっぴらごめんなの」

その理由は、彼女らしい。

見知らぬ所で、誰かが傷つき、死んでいくのを見たくない。

それは確かに、人として正しい。

けれど、その考えは時に自身をも滅ぼす。

 

____だけど。

その在り方は、純粋に好きだった。

あの頃と、ちっとも変わっちゃいない。

アリスがこういう人間だから、俺とユージオは彼女を慕い、友達でいようとするんだろう。

 

「______そうか、まぁ…アリスがそう言うなら別にいいか」

「…止めないのね」

「止めようたって無駄だろう?随分と頑固なのは昔から変わってないからな」

「あら、それは褒めてるのか貶してるのか…」

純粋に褒めてるんだよ、と俺は零した。

 

「___私は、聖杯を手に入れたって変な願いを叶える気もない。私にとって大切なのは、この戦いにおいて犠牲者を出さないことよ。まぁ、出来なかったけどね」

「…?どういうことだ?」

「だって、あなたっていう犠牲者が出てるんだもの。死んでないだけマシだけど」

 

「犠牲者……ぇ、もしかして、あの男に殺されかけた事か!?」

「ええ。あ、言ってなかったっけ?アレ、サーヴァントよ。一応、聖杯戦争や魔術は秘匿されなきゃいけないから、万が一一般人に見られた場合、殺すか記憶を消すかをしないといけないの」

「……じゃあ俺は前者だったと」

「その通り。まぁ、私は殺そうとは思わない。それに、あなたマスターなんだもの。魔術と完全に無関係って訳でもなさそう」

…は?

今、アリスの奴…俺と魔術が無関係じゃないって言ったのか?

「待ってくれ。俺、魔術なんて全く知らなかったんだぞ?無関係だろ」

「マスターっていうのは、例外なく魔術師なの。いえ、詳しく言うと、魔術回路を持つ人間ってことね」

「魔術回路…?」

「和人、あなたは魔術回路を持っていたからその令呪を宿した。ほら、その左手の甲にあるでしょう?」

「令呪…って、これか」

そういえば、学校の帰り際に蚯蚓脹れのような赤い跡があったのを思い出した。

左手の甲を見ると、そこにはくっきりと何かの紋章のような何かが描かれている。

「…で、その令呪って?」

「召喚したサーヴァントに対する絶対命令権。3回だけしか使えないけどね」

「絶対命令権……この令呪っていうのが出てる奴がマスターってことか」

 

「そう。これはね、魔術回路を持っていなきゃ絶対に宿らないの。普通、聖杯戦争は《聖杯》について知っていてなおかつ、力のある魔術師が聖杯によって選ばれる。たまに、和人みたいに何も知らない人にも宿ることがあるらしいけど」

「俺はその例外って訳だな」

「マスターとして令呪を宿すって言うことは、和人には魔術回路があるってこと。私も思いもしなかったことだけどね」

「…俺だって知らなかったんですけど…」

 

「話を戻すと、この聖杯戦争では、七人のマスターが聖杯によって選ばれる。そして、それぞれのマスターがサーヴァントを召喚するの。私が召喚した《魔術師(キャスター)》。

暗殺者(アサシン)》、《騎手(ライダー)》、《狂戦士(バーサーカー)》、《槍兵(ランサー)》、

弓兵(アーチャー)》、そして____和人の召喚した《剣士(セイバー)》。

この七騎が相争う……これが聖杯戦争」

 

おお、なんだかゲームみたいだな。職種があるわけか。

「へぇ……クラスがあるわけか」

「これは理解してくれるのね」

「まぁ、ゲームで散々覚えることだしさ」

 

「ふーん…あ、もうすぐよ」

「もうすぐ…?」

アリスに言われて前を見ると____

「…教会?」

 

「ここに、今回の聖杯戦争の監督役がいるの。私、あんまりここには来たくないんだけど…」

坂道を登りきって、そこに建っていたのは教会だった。

この街にある唯一の教会。

山の中腹にあるせいで俺も来たことは無いんだが…

 

「じゃあ、行きましょう。一応連絡は入れたし、起きてるとは思うんだけど」

アリスはそのまま門を開けて、敷地内に入っていく。

「マスター」

その時、後ろで黙っていたセイバー…(で、いいのだろうか?)が、初めて話しかけてきた。

「ん、な、なんだ?」

「…私はここで待ちます。よろしいですか?」

「ああ、別にいいけど…どうしたんだ、急に」

セイバーはそう言って門の前で立ち止まる。

「____いえ、ここの見張りは必要ですから」

セイバーはそのまま教会の正反対_____街を見下ろしながら目を閉じた。

多分、俺が何を言っても動かないだろう。

「___じゃあ、俺が戻るまで頼んだ」

 

門を開いて敷地内に入る。

かなり大きい教会で、俺が想像していたよりも荘厳だった。こんなのがあったとは驚きだ。

「んで、ここの教会も魔術の召喚の関係者なのか?」

「そうよ、聖杯戦争の監視役。聖杯戦争が正常に行われているかを確認する…《聖堂教会》ってところから派遣されるんだけど、今回は修道女としてやってきた人なの。私個人としては苦手で……一応、教会から派遣されてるから、最低限接してる感じよ」

「……へぇ」

アリスが《嫌い》では無く、《苦手》っていうとは。

珍しいな。

「_____うん、明かりも着いてる。失礼します、シスター」

アリスはそう言って教会の扉を開けた。

「____おお、教会っぽいな」

両際に7列程の長椅子、真ん中には赤いレッドカーペット。奥には主祭壇。その奥には大きなパイプオルガンがある。左奥には黒い扉があり、別の部屋につながっているんだろう。

 

そして、その主祭壇に誰かがいた。

 

藤色の長い髪。

シスター服を来たその女性のようだ。

あの人がアリスの言っていた監視役の修道女だろうか。

 

 

「貴方から連絡を入れてくるなんて珍しいわね、アリス。驚いちゃったわ」

 

 

「_____御無沙汰です、《クィネラ》さん。こんな夜分遅くに申し訳ありません」

振り返りながら声をかけてきたその人にアリスはよそよそしく挨拶した。

「いえ、怒っている訳では無いのよ?ただ単に珍しかったものだから」

その、《クィネラ》と呼ばれた女性は微笑しながらこちらにやってくる。

 

____不意に。

その笑みに嫌なものを感じて、後ずさってしまった。

 

「_____それで、彼がその件の?」

別に、変な所なんてない。

おかしな所なんて何も無い。

けれど_____絶世の美貌、その裏に、ドス黒い()()を感じた。

確証はない。

彼女とは初対面。

だけど、確かに。

 

「そうです。彼がセイバーのマスターの___」

「…桐ヶ谷 和人です」

 

あの髪と同色の瞳に_____悪寒がする程の冷たいモノを感じたのだ。

 

「そう、最後のマスターが決まった訳ね。分かりました。ではこれより、聖杯戦争を___」

 

「___待ってくれ」

俺の自己紹介を聞いた彼女は毅然とした態度で___おおよそ、聖杯戦争の開始を宣言しようとしたので、俺が声を上げる。

 

「___聞きたいことがいくつかある。聖杯戦争とやらを始めるのはその後にしてくれ」

 

「…そういえば、あなたはほぼ一般人と変わらないと聞いたわ。確かに、なんの説明も無く始めるのは酷ね。なら、あなたの質問に答えるとしましょう」

「じゃあ、聞かせてもらおう。全部、洗いざらいな」

俺はそう言って、この女_____《クィネラ》と名乗る修道女に質問を容赦なく浴びせることにした。

 

 



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