人類が初めて経験した世界大戦。この戦争は大国の軍事力がぶつかり合う最悪の戦争。
この世の地獄だ.....
1914年
オーストリア=ハンガリー皇太子夫妻は占領したサラエボへ訪問していた。しかし、皇太子夫妻は突如としてサラエボの青年により暗殺されてしまった。これに対し、オーストリア=ハンガリー帝国はセルビアに対して最後通牒を送りつけたがセルビアはこれを拒否。
複雑な独立保証条約が乱れフランス・ロシア・イギリス等が宣戦布告した。一方、オーストリア=ハンガリー帝国陣営にはドイツ帝国が
参戦。さらには条件付きでオスマン帝国、ブルガリアが参戦。
連合国と同盟国との戦い、第一次世界大戦が勃発した。
1918年 フランス
「囲まれてるぞ!!」
一人の兵が叫ぶと近くに倒れていた兵が起き上がった。
現在の状況はイギリス軍とドイツ軍が戦闘を開始。イギリスは最新兵器の[戦車]を使用し、ドイツは野砲等で対抗して拮抗していた。さらには、ドイツ軍は飛行船や火炎放射器等も利用しての攻撃でイギリスの機関銃を破壊していた。
また一人、また一人と倒れてゆく。
「前進だ!!」
彼はイギリス軍の歩兵だ。大戦が始まってすぐに軍へ志願しここまで活躍してきた。彼はこの戦いでも活躍するはずだった。
「砲撃だ!!伏せろー!!」
彼は反応に遅れてしまった。次の瞬間、砲弾の雨が降り注いできた。
ドドドドドドド!!!!
戦争は地獄だ。今まで当たり前だったものを一瞬で無いものにした。
「前線が崩れてるぞ!!」
彼もイギリス軍の歩兵だ。大戦の中頃に徴兵され、軍に入隊した。
彼は今まで目立った活躍はなかったけれどとにかく生き残ろうと努力した。
「敵が塹壕に入ってきたぞ!!」
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
前にいた物が突如燃え上がった。彼は火炎放射器だと気づいたが時すでに遅し。
ぼぉぉぉぉぉぉ!!!!
炎は彼めがけて燃え広がる。
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
殺さなければ殺される。それが戦争だ。ある者がこう言った。
「1人殺せば殺人者。100万人殺せば英雄」と。
そう、戦争は殺人を正当化される。誰かが殺さなければ戦争は終わらない。
「戦車隊、前へ!!」
「行くぞ!!」
「了解!!」
ガラガラガラガラ
最新の戦車はドイツにとって脅威である。西部戦線は塹壕戦がメインだったが戦車が発明されると一気に覆った。戦車で塹壕を乗り越え進む。ドイツは最前線の防衛線を戦車により何百㎞も後退していた。
「歩兵隊を見殺しにするな!!祖国に栄光あれ!!」
戦車の機銃で敵歩兵は次々と倒れる。前へ進む2両の戦車。
このまま進むと思っていた。
ひゅ~~~~ん ドドドドド!!
野砲による砲撃で1両が破壊された。
「野砲をどうにかしなければ殺られるぞ!!このまま野砲を破壊する!!」
ガラガラガラガラ
あと少しで破壊できる!!しかし、空から砲弾の雨が降り注いできた。
「くっ!!来るぞー!!」
ドドドドドドドドドドドド!!
ドカーーーーン!!!!
この大戦は戦争に革命を起こした。歩兵を殺すために機関銃を開発し、機関銃を避けるために塹壕を掘った。その塹壕を乗り越えるために戦車が開発された。この戦争は人類の常識を変えてしまった。
「毒ガスだ!!ガスマスクを着けろ!!」
誰かが叫んだ。聞いた者は皆一斉にガスマスクを装着する。ドイツ軍は毒ガスを使用し我々の進行を食い止めようとする。
「突撃ー!!」
両軍が毒ガスの中で突撃を行う。一人を撃つと自分が敵に殺される。敵にガスマスクをとられた者は毒ガスで死ぬ。シャベルで殴られ死ぬ。敵の砲撃に巻き込まれて死ぬ。この毒ガスの中でいくつもの死者がでた。
「うっ」
戦争を繰り返していいのだろうか。戦争は果たして無くすことができるのだろうか。今の俺達は勝つことしかできない。俺達は勝つことで未来は戦争のない世界になると信じて.....。
[無名兵士のメモ]
サラエボは元はセルビアの領土だった。
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オーストラリア編 アルイマ・ヨーギフ
若者の未来
世界中の人間がそこにはいた。
何も知らない者、勇敢な者、怯える者......
彼らは戦争を成人の儀式のように捉え、誰もが英雄になるため、祖国を守るための旅のように考えていた。
しかし、戦場にあったのは冒険ではなく死が蔓延する恐怖の世界。
誰にも等しく与えられたのは、栄光ではなく死であった。
主人公 アルイマ・ヨーギフ
ボーア戦争経験者 未来を担う若者を大切にする考えを持つ。植民地の人間を大切にしないイギリス人をあまり良く思っていない。弟をボーア戦争でイギリスによる無理な突撃により失っている。
1915年 春
連合軍はオスマン帝国の重要地点 ガリポリ に上陸し、短期決戦を想定していた。しかし、オスマン軍に加えてドイツは軍事顧問団を派遣。強力な戦力がガリポリを守っていた。
この戦闘はオーストラリア・ニュージーランド連合軍の初の海外遠征だったため、連合軍の中でも死者数が多かった。
そんなオーストラリア軍で最も死者数が少ない部隊を率いるのは[アルイマ・ヨーギフ]である。彼はボーア戦争の経験者であり、弟をその戦争で失っていた。その為、彼は失う辛さや若者の大切さを理解しており、植民地の人間を大切にしないイギリスを嫌っていた。
「ヨーギフ。貴様の部隊は前線へ向かってもらう。良いな?」
「またイギリス様からの命令か」
彼の部隊は他の部隊よりも度々イギリス軍から前線へ向かうよう命令されて死者を出していた。
「5人も死んだんだぞ。5人も」
「なぁに、たったの5人では無いか。そんな人数気にしていてはいつまでたっても戦争は終わらんぞ」
「5人の未来が無くなったんだ。」
「ふっ、5人の命で大勢の命が助かるのだ」
「っ!!了解!!」
アルイマ・ヨーギフが率いる部隊[海外遠征青年決死隊]はオーストラリアの青年達で構成されていた。まともに戦闘訓練を実施していない彼らはヨーギフの指揮により生存していた。
「隊長!!」
ヨーギフに青年が近づいてくる彼の名は[ミラウム・ジョンブル]。
部隊結成時からの古参であり、ヨーギフに憧れて年齢を偽って入隊した経歴を持つ。ジョンブルはヨーギフの右腕的存在であり、[海外遠征青年決死隊 第二分隊]の隊長でもあった。
「前線へ行くぞ。イギリス様からの命令だ」
「はい!!どの様に攻略を?」
「お前は自分の[第二分隊]と[第四分隊]を率いて東から攻めろ。俺は[第三分隊]と[第五分隊]を率いる。東の主力はお前達だ。頼んだぞ」
「はい!!お任せください」
「いい子だ」
ヨーギフはジョンブルの頭に手をのせた。ジョンブルは覚悟を決めたようだ。
「第二、第四分隊!!行くぞ!!」
おぉー!!!!と大声で第二、第四分隊の兵が叫んだ。ジョンブルはまだ幼いが将来は立派な指揮官になるだろうとヨーギフは思った。
ジョンブル達が出撃して約10分後。
「はぁ。第三、第五分隊行くぞ」
おぉー!!!!とジョンブル達と同じかそれ以上の大声で兵達は叫んだ。それ程ヨーギフは慕われている。
「いい加減勝たないとな」
ヨーギフは密かに覚悟を決め、未来ある若者の命を背負い戦場へ向かった。
だだだだだだだだ!!!!
オスマン軍はあるところでは各地の村でゲリラ戦を行い、あるところは要塞に籠り籠城戦で抵抗していた。しかし、多くの戦場では劣勢だったがこのガリポリだけは連合国軍でも苦戦していた。
「ちっ、まだ撤退しねぇのか!!」
結局、連合国軍はガリポリの攻略に苦戦していた。理由は単純である。ガリポリ攻略の主力はオーストラリア、ニュージーランドの青年が担っており、イギリスは海で待機していた。
そんな時、ある伝令が伝わった。
「報告!!直ちに、ガリポリ要塞攻略の部隊は撤退せよ。3分後艦砲射撃を開始するとのこと!!」
「なに!!あいつらは現場の状況すら分からねぇのか!!」
「隊長!!あっ、あれ」
ある兵が海の方角に指を指していた。一体何があるんだと海を見ると......
「は?」
次の瞬間、砲弾が飛んできた‼️
「てめぇら!!伏せやがれ!!」
ヨーギフが叫ぶと皆は急いで伏せた。伏せたお陰か、又は単なるイギリスの砲撃技術が下手なのか。なんにせよ、彼の部隊は怪我人は出てしまったが誰一人として死者は出なかった。しかし、ヨーギフには心配なことがあった。
「ジョンブルの部隊はどうした」
「た、隊長。ジョンブルの部隊ですが.....。今頃は、要塞内かと....」
その言葉で、部隊は一気に空気が淀んでしまった。そう、ジョンブルの部隊は順調に行けていれば要塞内に侵入しているところだ。
「ジョンブルの部隊を助けにいく。お前達は撤退しろ。」
ヨーギフを皆は必死に止める。ジョンブル達はもう死んでしまった。諦めてください。と言って。しかし、ヨーギフの意思は固く、もう誰にも止めることはできないと悟ったのだろう。誰一人として反対する者はいなくなった。
「隊長.....」
「安心しろ。ジョンブル達を連れて帰ってくる」
「はい....。御武運を」
皆が一斉に敬礼をする。
「おう」
彼は大勢の兵に見送られながらジョンブル達が向かったガリポリ要塞へと向かって行くのだった。
[無名兵士のメモ]
オスマン帝国の参戦より戦線が増えたことで連合国の負担が増加した。
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最後に思い浮かべたものは
1915年 春
連合国はオスマン帝国の重要地点 [ガリポリ] の攻略を開始。
オスマン軍に対して、連合国はオーストラリア・ニュージーランド等の植民地から徴兵した者達を主力にしていた。
その中でも死者数が少ない部隊を率いる アルイマ・ヨーギフ は命令により部隊を率いて前線へ二手に分かれて向かう一行だったがイギリスの艦砲射撃によりジョンブル達の安否が分からなくなってしまう。ヨーギフは部下の制止を拒否してジョンブル達がいるであろう要塞 ガリポリ要塞 へと向かうのだった。
イギリス海軍による要塞周辺を目標にした艦砲射撃は敵であるオスマン軍やドイツ軍だけでなく、味方の軍にまで被害は及んだ。
イギリス軍は未だにオスマンの大地に足を踏み出しておらず、このまま海で見届けるつもりなのかと思うほどに。
「くっ、イギリスはまともに撃てねぇのか!!関係無いところまで穴だらけだぞ。」
要塞周辺は艦砲射撃による爆発で穴だらけだった。この様子だと要塞は地獄なのだろうと想像できてしまう程酷い惨状だ。
至るところに元は人間だったのであろう残骸が残っており、それを腹を空かせた鳥が食い散らかしていた。
「こんなの最初から味方撃つつもりだったとしか思えねぇような撃ち方だな。」
要塞まであと少しという時。後ろから声が聞こえてきた。トルコ語を喋っているようだ。
「生き残りか!!」
後ろを振り向くと......。そこには頭から血を流して銃を構えたオスマン兵がこちらを狙っていた。
「くっ、ここまでか.....」
ヨーギフは死を覚悟したその時!!
ダン!!
要塞の方角から一発の弾丸が撃たれた。その弾丸はオスマン兵の頭に命中。オスマン兵は倒れこんだ。
「誰だ....」
撃たれた方角を見ると....
第二・第四部隊の兵と共に爆発により半壊したトーチカに籠るジョンブルだった。
「隊長!!大丈夫でしたか!!」
彼らは土だらけで所々怪我をしていた。
「お前ら。生きてたか......」
「すみません。まだ要塞の攻略ができておらず......」
ジョンブルは申し訳ないように頭を下げた。
「いや、よく生き残ったな」
「は、はい」
「あとは俺に任せろ」
「え?」
突如そう言われたジョンブルは少し混乱した。しかし、ヨーギフは真面目な顔でそう言っているため、ジョンブル達には嘘を言っているようには見えなかった。
「イギリスの下手な砲撃で敵は消耗してるんだろ?」
「はい。しかし、まだ敵は多数いますが......」
「これを少佐に渡してくれ」
ジョンブルが突然渡された物。それはメモ帳だった。
「これをですか?」
突然渡されて混乱するジョンブルだったが、ヨーギフの顔を見ると理解したかのように敬礼をした。
「了解しました」
ジョンブルの返事を聞いたヨーギフは銃を持ち、要塞へと向かう。
「御武運を!!」
ジョンブルがそう言うと周りの兵も同じように「御武運を」とヨーギフに向けて言った。ヨーギフはそれを聞くと満足したかのように、又は覚悟を決めたかのような、そんな雰囲気を出して前へ歩き出した。
「皆...。行くぞ」
ジョンブル達は彼を見届けると渡されたメモ帳を届けるために後退する準備をして海の方角へ歩いて行くのだった。
数分後
ヨーギフは要塞へ無事侵入することに成功した。
どうやら、敵は砲撃による爆発で混乱して指揮系統がぐちゃぐちゃで思うように指示できていないようだ。
「よし。今の状況なら占拠できるかもな......」
ヨーギフは覚悟を改めて決めると銃を構える。獲物はこの状況に理解できずに混乱して慌てている兵だ。ヨーギフは頭を狙い、引き金を引いてすぐに隠れた。辺りに銃声の ダン!! が響き渡る。すると、 ドサッ と音がした。どうやら倒せたようだ。しかし、銃声を聞いた兵達が集まり出した。
ヨーギフは ふぅ~ と深呼吸をすると飛び出して敵へ走り出した。
「こい!!雑魚ども!!」
あれからどれだけの時間が過ぎただろうか。気がつけば夕方になりつつあった。周囲にはオスマン兵の死体があちらこちらに倒れており、オスマンの旗がなびいていたポールにはオーストラリアの旗がなびいている。
「終わったか.....」
少し気を抜いた瞬間、バン!!の音と共に痛みが襲いかかってきた。
「くっ、くそが!!!」
後ろを振り向くと撃ってきたオスマン兵は倒れこんだ。
どうやら、最後の力を振り絞って引き金を引いたのだろう。見事としか言えない。致命傷を負ってしまったようだった。
「くそ.......」
ヨーギフはその言葉を最後に、倒れこんだ。
彼が最後に思い浮かべたのは
ジョンブル達の笑顔だった.......。
[無名兵士のメモ]
オーストラリア・ニュージーランドの兵は大勢の命をかけて戦ったが、この戦いは連合国の敗退で終わりを迎えた。
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ルーマニア編 アレク・トール
微かな望み
ルーマニア王国。
本来はドイツやオーストリアの同盟国だった。しかし、ルーマニアは第一次世界大戦はオーストリアの侵攻行為により勃発したとして参戦義務を破棄。
連合国はルーマニアとの秘密交渉により、オーストリアのトランシルヴァニアを割譲する約束を条件に参戦を要請した。
そして、8月27日
ルーマニア王国はオーストリアに対して宣戦布告した。
主人公 アレク・トール
ルーマニア王国がオーストリアに勝てると確信していることに疑問を抱く。父と共に徴兵され、オーストリア領へ進軍する。
僕は父と共に軍へ徴兵された。戦争が始まって、最初はクリスマスまでには終わると思っていた。ルーマニアは戦争には関わらないと。でも、ルーマニアは同盟国へ宣戦布告した。
僕達が今から行くのは.......。
「諸君!!我らは今こそトランシルヴァニアに囚われているルーマニア人を救い出さねばならない!!忌まわしきオーストリアから必ず救い出すのだ!!!!祖国に栄光あれ!!」
前線指揮官が兵を鼓舞すると一斉におぉー!!と声があがった。
ルーマニアはいよいよオーストリア領へ進軍を開始する。
「勝てるのかな......」
そう嘆いているのはアレク・トール。父と共に徴兵されたが、別の軍へ配属されてしまった。父は第1軍、トールは第3軍だ。
父は北から、トールは南からトランシルヴァニアへと向かうことが決まった。敵はオーストリアだけだと知らされている。
だが、トールは果たして本当に敵はオーストリアだけなのだろうか?という疑問が頭から離れなかった。
「駄目だ。今は集中しないと......」
そして、彼らはまだ知らない。ルーマニア王国は地獄への入り口に着実に一歩ずつ足を踏み入れていることを......。
数時間後
「進め!!後退は許さんぞー!!」
前線指揮官は次々と兵に命令を言い渡す。敵のオーストリア軍はまともな防衛線を築くことができなかったのでルーマニア優勢で事は進んでいた。
「突撃ー!!ルーマニアを蹴散らせー!!」
オーストリア兵が突撃を開始。しかし、ルーマニア軍は数分間は混乱するが、その後は素早く体勢を立て直して反撃を行った。
結果は、オーストリア軍は僅かな残存兵を引き連れて撤退したことによってルーマニアは見事トランシルヴァニア地域を占領することに成功した。
しかし、ルーマニアの優勢は長く持たなかった。
「何!!ロシア軍はこないだと!!」
「はい!!物資不足によりトランシルヴァニアまで来ることは不可能とのことです」
「くそ!!」
「新たな報告が入りました!!」
「今度はなんだ!!」
「ブルガリア軍が南部より進軍を開始。総指令部からは1軍を援軍として派遣するようにとのことです」
「っ......」
簡易指令室では前線指揮官の怒声が響き渡り、外にまで聞こえてくる始末だった。
「(ロシアの援軍は期待できない。さらにブルガリアによる侵攻。このままじゃオーストリアがいつ反撃にでるか分からないよ.....)」
トールの不安は翌日的中する。
「報告します!!オーストリア軍が第2軍へ攻勢を開始。第2軍は敗走しました。さらに、第2軍の軍隊長含む計9名の指揮官が戦死致しました!!」
「な......」
次の瞬間、指揮官室の空気は一気に暗くなり、その空気は外にまで影響を及ぼした。
「なぁ.....。俺達勝てんのかな.....」
「さぁ?トールはどう思うんだ?」
「僕は......」
トールが喋ろうとした瞬間、前線指揮官が外へ出てきた。
「整列!!」
兵達は一斉に整列を行い、指揮官へ目線を向けた。
「これより、我らは防衛に移る。」
この発言に対して質問をした者がいた。
「あの.....」
「何かね?」
「何故防衛なのでしょうか。そのまま行けばオーストリアは疲弊すると思われるのですが......」
「えぇ~。我々の目的はあくまでトランシルヴァニア地域の占領だ。この目的が達成した今、防衛に移り連合国との連携で今後は動くことになる。これでいいかね?」
「はい」
トールにはこれが嘘だとすぐに分かった。バルカン半島で連合国に
加盟しているのは[セルビア]と[ギリシャ]だ。セルビアはオーストリアに侵攻されており、ギリシャはブルガリアが間にいるのでルーマニアに来ることはほぼ無い。
「つまりだ!!我々ルーマニアがここで防衛に成功すれば、連合国に対して多大なる功績を残すことができるのだ!!!!」
その言葉に周りの兵は感心の言葉を漏らすがその中でトールだけは浮かばれない顔をしていた。しかし、その顔は指揮官からは見えない。
「(父さん、大丈夫かな.......)」
トールは目を瞑ると戦争に行く前のことを思い浮かべた。
「いいかい?トールは生き残ることだけを考えるんだ。助けようとしなくていい。」
「どうして助けちゃいけないの?」
「お前は大切な息子だ。死んでほしくないんだ。ただ、お前が生きて帰ってこれれば周りがなんと言おうと俺が責任を背負う。だから......。共に生き残ろう」
トールは父との約束を改めて思い出すと罪悪感が何故か出てきた。
「父さん.....」
トールはたった一人で悩み、そして地獄で生き残ろうと努力する。
[無名兵士のメモ]
ルーマニア王国は当初、ロシア帝国の援軍と共にオーストリアを撃破しようとしていた。
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