魔王倒して元の世界に戻ろうと思ったら、歪な男女比の世界に転移してしまった件 (羽根消しゴム)
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転移
シャンデリアや、艶光りしている装飾品。
それらが至るところに散りばめられた部屋で、俺は玉座に座る女と対峙する。
「・・・よく来たな、勇者。勇ましき者の名を冠するだけはあるようだ。」
暗く、深淵を覗き込むような紫の瞳をした、威風堂々を体現した面持ちの女。
並みの者ならば見ただけで卒倒しそうな魔力を体に纏っているが、その口だけは妖艶に歪んでいた。
「努力だけはしたんでね・・・俺には戻る場所があるんだ。ここで死ぬわけにはいかないさ。」
勇者───神の選定により選ばれた、神託者とも呼ばれる称号を持つ者の事を指す言葉だが、実際には違う。
強制的にこの世界に召喚され、争いをしたことすらない俺を無理矢理魔物と戦わせやがった。
神なんて見たこともないし、神託なんてものも勿論受け取ってない。
だが
───召喚したのはそっちなのに、この仕打ちは流石にあり得ないだろ。
そんな言葉も時が経つうちに言えなくなってしまった。
召喚される前まで、こんな国が現実にあってたまるか!と思っていたが、本当にあるとは思っても見なかった。
だが、それも今日で終わりだ。
コイツを───この魔王さえ倒せば、全てが終わる。
どんな傷でも治すと言われるエリクサーも万全に備えて準備をしている。
倒すのは今しかない。
「ふふ、その生に囚われている目・・・なかなかに甘美だ。だが可笑しいな・・・我はお前達人間に何かしたか?」
「・・・いいや何も。ただお前達魔族が支配している土地を、あの国が欲しがってるからな。」
本当にコイツらは何もしていない。
そう、なにもだ。
だがそれでも俺はコイツを倒さないといけない。
元の世界に戻るために。
「希望の証とも言われる勇者が・・・まさか我々魔族に絶望を振り撒くとはな・・・まぁ、それは人間側の話ではあるが───ところで勇者。」
「なにか?」
巨大な宝石が埋め込まれた剣を携え、いつでも抜剣出来る程度に耳を傾ける。
「私も魔族の王として、ここで負けるわけにはいかないのだ。それ故───我と取引をしないか?」
「・・・と、取引?」
「あぁ、そうだ。どうせあの国の事だから、魔王を倒せば元の世界に戻す・・・とでも宣っているのかもしれないが、信じない方がいいぞ」
───ってなんだ、そんな事か。
途中、つい真剣に耳を傾けていた自分に腹がたってしまう。
ただの取引という名の罠じゃねぇか。
何を言うつもりなのか知らないが、そんな罠に自ら嵌まる程、俺はまだ狂っていない。
「そんなこと俺だって分かっているさ。ずっとずっとあの国の犬として生きていた俺だからこそ分かる。あの国の連中は俺との約束を守る気はない・・・ってことくらいわな。」
「ほう?失敬した。ただあの国の連中に踊らされる哀れな人間だと思っていたようだが、見くびっていたようだ。」
何処か飄々とした態度の魔王を尻目に、決着を付けるべく俺は剣を抜いた。
そう、あの国が約束を守ってくれなければ、俺はこのままでは元の世界に戻れないだろう。
だが、一つだけ方法がある。
魔物と戦った際に、偶然俺の放った戦略級魔術の影響で、ほんの少しだけ空間が歪んだのが確認できたのだ。だから閃いた。
これ以上の膨大な魔力を使って、元の世界とこの世界を隔てる壁をぶち壊せば・・・?
もしかしたら元の世界に戻れるかもしれない、と。
勿論、膨大というのは比喩ではない。
文字通り、生き物では扱えない程の魔力がないといけないのだ───それこそ魔王レベルのを。
だが、それでも元の世界に戻れるか半々という程度だ。
何せ隔てる壁をぶち壊すなんて、誰もやった事がないからな。
しかし───俺に残された可能性はこれしかないのだ。
賭けるしかないだろう。
「・・・成る程、我の魔力を使って・・・か。」
「ちっ、心を読むとは・・・なかなかプライバシーがない魔王みたいだなッ!」
その言葉を宣言として、玉座に座る魔王に踏み込む。
少々汚いかもしれないが、仕方がない。
魔王のような化け物相手には、俺程度では勝負にすらならないだろう。
だから奇襲のような形で───一気に畳み掛けるッ!
「ふふっ、たった二年でこれ程・・・か。勇者、お主剣の才はあるようだな?」
「・・・は、ははっ・・・嘘だろ?俺の剣を・・・ゆ、指で白羽取りなんて・・・。」
───が、俺の剣は魔王には届かなかった。
それも思い切り力を籠めた剣を指先だけで止めてしまわれる程度には、俺と魔王には隔絶した力の差があった。
反射的に思考する。
やはりこれではどう足掻いても勝てない・・・と。
魔王達の部下を一人で倒していった事があるが、それでもこんなに力の差は感じなかった。
脳裏に浮かぶ絶望の二文字。
剣を引き抜こうにも、ピクリとも動かない。
パッと見では妖艶な女にしか見えないが、俺では逆立ちしても勝てないことをひしひしと感じた。
「・・・もういっそ殺してくれ。」
「おや?もう諦めてしまったのか?全く情けない・・・それでもあの国の勇者か?」
「うるせぇ・・・俺はあの国のために俺は努力したんじゃない・・・元の世界に戻るために努力したんだ。」
生憎だが、俺はこの世界の一般人の半分程度しか魔力量を持っていなかった。
今でこそ、合法非合法問わず魔力の底上げを行ったのが功を奏し、一般人の十倍程度の魔力を持つに至っているが、勇者としてはこれでも少ない方らしい。
まぁ、勇者としては少ない・・・ということは、俺が召喚される前にも
そいつらは元の世界に戻れたんだろうか?
まぁ、今はそんなことを考えても仕方がない・・・か。
「ふふふ、安心しろ。そう簡単に終わらせるつもりはない・・・そうだ、お主に力を授けるのも有りかもしれないな。それでお主があの国に復讐していく様を見るのも面白そうだ。」
「勘弁してほしいな、それは。俺は復讐モノは苦手なんだ・・・ついでに胸くそ悪いシーンもな。」
「我の部下を倒した者がそれを言うか・・・我からすれば、部下が次々と床に伏していく様はなかなかに胸くそが悪かったがな?」
安心しろ、お前の部下は死んでいない。
その言葉をグッと堪え、魔王を倒す切り札を取り出す。
「・・・なぁ魔王。俺はな、圧倒的な力の差があっても、勝てる方法はあると思うんだ。」
「ほーう?たかが人間が面白い事を言うな?それでは我にも教えて貰おうか───この状況でどうやって勝とうと言うのだ?」
簡単だ───。
「騙し討ちに決まってんだろッ!」
そう告げる俺の右手には、神々しいオーラを放つ、魔を祓う白麗の槍が握られている。
俺が常日頃から魔力を注ぎ続けた、
名を
魔族にとって天敵である聖属性をふんだんに付与しているこの槍は、魔族からすれば、触れるだけで体が崩壊する悪夢の鎌と化すだろう。
正直、
俺を人間と舐めきって、余裕の態度を崩させないようにこの必殺技を放つのはかなりの難易度だとは思っていたが、安心した。
「いくら魔王でも、この距離からじゃあ避けられないよなぁッ!?」
「・・・ふ、ふふ、驚いた。この剣は我を騙すためのブラフだったのか・・・それにそうだな。この距離では避けきれない。魔力障壁でも防げなさそうだ・・・ふふふ、参ったな。」
そう口先では言いつつも、妖艶な笑みを崩さない。
まだ何かあるのか?
そう考えつつも、今さらグングニルを止めるわけにもいかない。
「グン、グニルゥッ!」
勢いを付けて、放つ。
音を置き去りにするような早さで、目の前の魔王に向かって射出される槍。
俺が次に見えたのは、槍が魔王を貫通したところだった。
「───なんで、なんで避けなかったんだ?」
「・・・ぐふっ・・・ふ、ふふ、簡単な事だ。わ・・・我は元よりお主にか、勝つ・・・かはっ!?・・・つ、つもりはなかったから・・・なぁ・・・。」
コイツなら、どんな速度で放った槍でも簡単に避けてしまいそう・・・いや、実際避けることは可能だったのだろう。
何せ放った俺ですら視認できなかった速度の槍を、一瞬だけだが受け止めようとしたのが見えた・・・そして結局止めなかったのも。
「既に・・・我の部下はお前によって・・・倒さ・・・れている・・・。な、ならもう・・・私には魔王という地位に・・・拘る必要がなくなった・・・のだ・・・。」
息も絶え絶えといった様子で、俺の目を見据えて語る魔王。コイツは部下の事をかなり大事にしているのは知っていた。
コイツを倒すために事前に下調べした際に、部下達の事を家族の様に扱っていたのは記憶に新しい。
だがそれでも、俺はコイツを倒さないといけない。
コイツとは悪い意味で俺は背負うものが違うが、それでも俺にだって家族がいる。
友達もいる。
だから倒す。
だから───だから俺は間違っていない・・・筈だ。
「・・・すまない。」
「ふ、ふふ・・・良いのだ・・・よ。この世界は・・・弱肉強食・・・。我もお主も・・・ただ、それだけのこと。」
つい口から飛び出た言葉に対して、魔王はそう溢す。
俺が殺すのは、モンスターを除いて魔王が初めてだ。
だから、こんな悲しげな表情を見てしまい、俺の心が揺らぐのを感じた。
「・・・あぁ、そうだ勇者よ。」
「・・・なんだ。」
「おめでとう、お主の勝利だ。」
ガタン。
そんな音ともに、魔王が玉座から堕ちる。
既にグングニルは消滅していた。
「・・・俺が欲しいのは魔力だけだ。後は生き返らせる。」
魔王を倒すとはいったが、死なせるとは言っていない。
そのために、俺は大金をはたいてエリクサーを買ったのだ。
一先ず、魔王の魔力を操り、俺の魔力と融合させていく。
言葉で説明するのは簡単だが、膨大な魔力の奔流を操る精神力と技量は並大抵じゃない。
軽く三十分はかかってしまった。
「はぁはぁ・・・あ、後は向こうの世界とこの世界の壁をぶち壊すだけだな・・・。」
膨大な魔力を使い、空間に干渉する。
失敗するわけにはいかない。
途中、脳の血管がブチブチと破れていく感覚がして、回復魔法と併用しながら操っていく。
だがそれでも、回復しきれずに鼻から血が垂れてくるのを必死に拭い、体を酷使して空間の壁を壊し続けた。
「・・・あ、開いた・・・のか?」
───壊し続けて十五分後・・・朦朧とし始める意識と格闘していると、遂に空間に僅かな歪みが確認できた。
だが、空間に干渉したせいか、頭が尋常じゃなく痛いし、鼻血も未だに収まらない。しかし、その痛みが一瞬分からなくなる程に、脳内を達成感が支配していた。
「かえ・・・れる?これで俺はようやく・・・帰れるのか?」
実行しておいてなんだが、未だに信じられない。
これで、あの
これで、家族と会えるのか?
これで、友達と会えるのか?
これで、日常に戻れるのか?
「は・・ははっ!やった・・・俺はやったんだ・・・ついに・・・ついに俺はッ!」
滝の様に溢れてくる涙をこれまた拭い、人間が一人分通れる程の大きさになった空間の歪みに突き進む。
勿論、魔王に向かってエリクサーを振りかけておくのも忘れずに、だ。
魔王はその強さ故に、あの攻撃でも死んではいないが、瀕死だった。
けど、これで目を覚ますことだろう。
その時は、あの国に復讐するなり何なりして欲しい。
しかし───それにしてもコイツ、部下達が生きていたらどんな反応をするんだろうな?
少し見てみたい気もするが、止めておくか。
・・・と、そんな事を呑気に考えつつも、俺はまた一歩空間の歪みへと進む。
もう、戦いなんてこりごりだ。
───そんな気持ちを抱いて、俺は暗闇へと消えた。
まさか転移した先が、現代日本ではないという事を知らないまま。
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転移失敗
「・・・もど・・・れたのか?」
空間の歪みを突き進んだ先・・・闇が開けた先には、見慣れたビル郡が覗く。
辺りを見れば、お洒落をした女性(やけに多い)がたむろしているのがわかった。
こうして見ると、ようやく戻れたのだと実感が沸く。
「あぁ・・・俺、ようやく帰れたんだな」
自然と溢れてくる涙を堪えて、久し振りの
一応様子を確認するために、たまたま近くにあったコンビニの中に入り、新聞を手に取って年数を確認する・・・が。
何かおかしい。
───
な、なんだそれ?
いつの間にか平成から年号変わっているし、ていうか変わってからも12年も経ってしまっているんだが?
おかしいぞ・・・?俺があの世界にいた年数はたった二年のはずだ。
・・・もしかして、あの世界と地球じゃ時の流れが違うとか?
むぅ、否定できないのが恐ろしいところだな。
「ね、ねぇ・・・あれってもしかして男?」
「はぁ?嘘つかないでよ。男がこんなところにい・・・るんだけど?え?いるんだけど?」
「ま、間違いないわ!この嗅ぐだけで絶頂しかけそうな芳醇な匂い・・・男だわ!」
「・・・え?男前過ぎひん?」
・・・にしても今日は外が騒がしいな。
有名な俳優でも来ているのだろうか?
少し気になり、コンビニを出て外を確認する・・・が、それらしき人物は見当たらない。
───というか。
「・・・やっぱり女性多くね?」
俺がコンビニを出た瞬間に、周りにいる女性達から突き刺さる視線。
頭から足までじっくりねっとり舐め回す様に見つめてきたかと思うと、次は獲物を狙う目で俺のマイサンを狙いを定めてきた。
女性全員レイプ目である。
ヒエッ!?と情けない声が出るのを抑え、そそくさとその場から立ち去ろうとする。
「あのぉー、すみません・・・もしかしなくてもその子宮を刺激する香りを放つということは男性の方ですよね?」
「・・・」
職質のように(されたことはない)肩を叩かれたかと思うと、その張本人である女性はとんでもない台詞をマシンガンのようにぶちまけてきた。
魔王の覇気に屈しなかった俺ですら、口を開けず縮こまってしまう。
え、なにこの人?なんて脳内でツッコミ余裕すらない。いや、私がナニを突っ込んであげましょうか?って言われそうだなって考えちゃうくらいには余裕かも?
しかし、マイサンも元気をなくしてしまった・・・この女性、見た目は可愛いのに何て事を言うんだろうか?
何で警官方はこの女性を職質しないのか謎である。
「アァッ!あの女ナニ話しかけてんのよ!」
「据え膳食わぬは雌の恥・・・私、イッきまーす!」
「私は悪くない・・・こんな時間に無防備に外に出るあの男の人が悪い・・・そう、だから別に・・・しても・・・」
「ふ、ふへ、ふへへ・・・男にょこが・・・」
周りを見渡せば、頬を朱くしてモジモジとしている
アッ、ヤバイ
こんな真っ昼間にアッーーー!な展開になっちゃう!
くっ!猛獣達がいるところになんかいられるか!俺は戻るぞ!
と、内心でフラグを立てつつ、今度は一目散に逃げようとクラウチングスタートの構えを取り、走りだ───せなかった。
「ふ、ふへ、ふへへ───逃げちゃ駄目だよ?」
ヒエッ!?
と驚くのも束の間、いつの間にか木の蔦のようなモノが、俺の手足に絡まっていたのだ。
「な、ナンダコレ!?」
ふへふへお姉さん(仮称)が手を翳したと思ったら、たった数秒で地面から蔦が伸び、体を雁字搦めにされ俺は逃げられなくなった。
いや、なんで亀甲縛り?
男の亀甲縛りとか誰が見たいんだ?
「ふへ、ふへへ・・・ドM調教プレイからの雌堕ち・・・い、イイかも・・・」
むしろこっちがふへふへお姉さんを調教したいです!と言えばどれだけ良かったか・・・雌堕ちは・・・雌堕ちだけは勘弁してください・・・。
俺は責められたいんじゃないんです、責めたいんです・・・。
「なっ!?あ、あんた!こんなところで超能力を・・・!」
「おい誰か!男性警護官を呼んできて!」
「ふっ、女なら逝くべき・・・今なら人類の神秘を語れる気がする」
周りにいる女性たちは、口では女性の行動を咎めつつ・・・咎め・・・?と、咎めて・・・咎めながら()此方にじりじりとにじり寄ってくる。
懐から見れば俺はさながら、くっ!殺せ!的なポジションだろうか?マジデ冗談じゃないです。
「だ、誰かぁ!ケダモノ達に襲われるぅっ!」
恥をかなぐり捨てて、声を張り上げてそう叫ぶ───が、逆効果だったらしい。
「ね、ねぇ!今の声って男の声じゃ・・・」
「男だわ!幻想じゃない男だわ!」
「じゅるり・・・ふぅ・・・」
ふ、ふざけないで欲しい(震え声)
俺の貞操がこんな路上の上とかどんな人生送ればそうなるんだよ!
そんなツッコミもままらない程、俺は窮地に追い込まれていた。
そしてかわりに、ある結論に至りつく。
───俺、絶対違う世界に転移しちゃった奴だろコレ。
「だ、大丈夫・・・天井のシミを数えてる間に終わるから・・・」
「ひっひっふーだよ?ほら、ひっひっふー・・・」
「オ、オトコ?・・・ワタシ、オトコ、クウ」
とは言いつつも、見目麗しい乙女(?)達に囲まれて、子羊のように震えることしか出来ない俺。
くそっ、俺(の貞操)もここまでか・・・。
そう覚悟を決めて、蒼い空を眺めていると・・・。
「ふぁ!?あへぇぇぇっ!?」
俺と触れあえる距離まで来ていた女の子が突然奇妙な声をあげたかと思うと、ビックンビックンと地面に倒れ込んでしまった。
そしてそこから堰を切ったように、次々と倒れていく女性達。
「・・・あれ?」
良く見れば全員、幸せそうな表情をして逝っている。
・・・嘘だろ?
マイサンも臨戦態勢をキープしていたというのに、突然の事態に萎んでいくのを感じた。
え、ナニ?
覇〇色でも会得したの俺?
「だ、大丈夫ですか!?」
すると、俺達(主に俺)を見ていた野次馬達の中から、一人の女性が飛び出してきた。
俺の周りで円を描くように倒れている女性達をスルーして、此方に歩み寄る。
「男性護衛官の
有無を言わさぬ声色で捲し立てる男性警護官?の西宮さん。即堕ち二コマなのは置いといて、先程から全く身に覚えのない言葉だらけで混乱しかけるが、男性警護官とはつまりそういう事だろう。
恐らく俺が転移してきてしまった世界は、男が希少───もしくは数がかなり少ない可能性がある。
女性の俺に対する態度で大体察してしまったが、男性警護官ともなると、かなり重症だな。
この世界、きちんと機能出来ているのだろうか?
というか綺麗な女性達が
そもそも、俺がやってたのって難易度ナイトメアの鬼畜ゲーじゃねぇの?
「・・・考えたら頭おかしくなりそうだ。」
取り敢えず、見せられないよ!の表情でビクンビクンしてアへ顔を晒していらっしゃる西宮さんを無理矢理叩き起こす。
「・・・はっ!?私はいったいナニを!?って、だ、男性の前であんな顔を晒してしまうなんて・・・な、なんてはしたないことを!?」
じゃあ俺に近付いてクンカクンカするの止めてください、なんて言えない。
───あぁ、とんでもない世界に転移してしまった。
俺のそんな声は、「ふぉぉぉぉう!!!」という西宮さんの声に掻き消された。
え?一話のシリアスな雰囲気はどうしたって?
ふぉぉぉぉう!!!(ギャグ)には勝てなかったよ・・・。
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覚醒
「あ、あぁ、あなた。も、もしかして……男?いえ男よね?この芳しい香りは男よね?男以外あり得ないわよねッ!?私、逝っきまーす!」
黒髪ロングで幻想的な雰囲気を漂わせる美少女が、そのふざけた幻想をぶち壊すとばかりに此方ににじり寄ってくる……ってあれ、どうゆう状況コレ?
脳のキャパシティを越えた情報量に硬直していると、女の手が俺のパンツに……パンツ?何でズボン履いてないんだ?
と思ったのも束の間、一気に下ろされ───場面が切り替わった。
「はぁはぁ……とても……とても……イイ。私は……こう……思う」
今度は透明感のある白髪の可愛らしい少女がいた。だが、俺はもう騙されない。
俺は思った。
コイツも絶対変態だ、と。
案の定、誘蛾灯に引き寄せられる虫のように近付いてくると、急にくんかくんかと匂いを嗅ぎ始めた。
俺は思った。
世も末だな、と。
───
──
─
「なんだか凄い悪夢を見ていた気がする」
具体的には、滅茶苦茶可愛い女性からパンツをひん剥かれそうになったり、複数の女性に追いかけ回される夢だ。
………ってあれ?そう言えば俺、元の世界に戻れたのだろうか?というか、どこから何処までが夢なんだ?
魔王を倒して元の世界に戻るところからか?
いや、そもそも異世界から召還されていた事じたい、夢だったという線もある。
精神的には流石に夢オチは勘弁して欲しいので、試しに適当に思い付いた魔法の詠唱をしてみる。
「
唱えてから数秒後、気が付くと、掌には勢い良く燃え盛る炎が鎮座していた。
まだ夢を見ているのかと、頬をつねったり、目を擦ったりもしてみたが、目の前の炎は依然燃えているままだ。
「は、発動した……だと?」
おいおい待て待て。つまり、魔王を倒して異世界から帰還したところまでは夢じゃないって事……だよな?
俺が血反吐吐きながら死に物狂いで生き抜いたあの世界は、只の幻想じゃなかったってことだよな?
その思考回路に至った瞬間、俺の脳内が歓喜に埋め尽くされる。
「よ”っしゃあ”ぁぁッ!!!」
異世界で手に入れたスキルに技術、魔法に魔術。その全てが元の世界で活用出来るというワクワクと、上手く使いこなせばモテモテも間違いな……ひ、人助けにも活用出来るな。うん。
決して神聖な魔法を使って悪用しようなどと考えてはいないのだ。
いないったらいない。
そんなくだらない事を考えながら喜びに浸る。
「………あのぉ、怪我は大丈夫でしょうか?」
「うぴゃっ!?」
──が、突然真横から聞こえてきた囁き声に俺は思わず乙女のような叫び声を上げてしまった。
な、ナンダコイツゥ!?おっそろしく可愛いナース!?いや、そこじゃねぇっ!
と驚くのも無理はない。何故なら今さきほど“
馬鹿な……恐ろしく薄い気配……俺ですら見逃してしまうだとぅ!?
「お、驚かせてすみません!わ、私今日初めて男性と会話するもので……その、接し方がわからないというか……何というかぁ」
頬を朱く染めながら、もじもじと下を向いて話すナースさん。はい、ご馳走さまです。
って待てよ?今さっきこのナースさん男性と初めて会話する……って言ってたよな?
俺が聞いていた事が間違えていなければ、ナースという職業に就いている人間が、男性と初めて話す、なんて言うわけがない。
嘘の可能性も疑っているが、初対面の俺にこんな何のメリットもないような嘘をつく必要性も感じられない。
もしかして比喩か……?いや、それなら接し方が分からないという部分が繋がらない。
寧ろこんなに綺麗な女性なら男達を手玉にとって居そうである。
「あ、あはは。心配しなくても大丈夫ですよ。特に怪我はないですし……ただ、何故自分が病院に居るのか理解できずに少し戸惑ってしまいまして」
「そ、そうでした……説明し忘れてしまいました……。え、えっとですね?男性警護官の
「あっ、それ以上は大丈夫です、はい」
………知ってた。薄々分かってた。
流石に断定するのは早すぎるかなって思ってたから、敢えて言わなかったけど。
男性警護官の
助けて男性警護官さん、あのド変態が犯人です。
「ほ、ほんとですか?」
「えぇ、もう本当に大丈夫ですお腹いっぱいですありがとうございました」
早口で捲し立てる俺に、余計に心配そうな表情で俺を覗き込むナースさん。あぁ、俺今きっと死んでから3億年くらいたった魚の目してんだろうな。いや、3億年経ったら目なんてもう無くなってるか、ははは。
空はあんなに蒼いのになぁ……ははは。
───
──
─
俺が賢者に転職している内に、気が付いたら主治医らしき綺麗な仕事できる系の女性がいた。だがそれだけではない。あろうことか、その持ち前のけしからんおっぱいを上下左右に揺らし、まるで魚を釣りあげようとするルアーの如く、俺の目を侵食してきたのだ。
どんな精神支配にも屈しない自負がある俺が、こんなになってしまうとは……こ、この世界の精神支配はなんて強力なのだろうかッ?
これは俺も全力で対抗する必要があるな。
え?何で対抗するって?ナニだよ。
「良かったです、安心しましたよ。どうやら健康に異常はないようですね」
良かったです、揺れてますよ。どうやら健康すぎて元気になってしまったようですね。まぁ、何処とは言わないが。
……おっといけない。危うく目の前のおっぱいにおっぱいがおっぱいするところだった。
……あれ?ま、まぁいいか。
「もう退院しても大丈夫だと思います。………ま、まぁ、貴重な男性が我が病院から居なくなるのは大変寂し……い、いえ、私情でしたね。忘れてください……」
俺は身体中からフェロモンを垂れ流しているのだろうか?なぜか今さっき会ったばかりの主治医さんが、もじもじとしながら上目遣いでこちらを見つめてくるのだが……いや、確かに男女比は歪っぽいが、ここまでの反応になるか?
というか、揺れる胸に臨戦態勢をキープしていた俺の性剣エクスカリバーが、その鋭く尖った切っ先を主治医さんに向けてしまっているから、出来ればそんな表情しないでいただきたい。
「いえ、そう言って下さるのは素直に嬉しいので、気にしないで下さい」
「……えっ?そ、それって……?」
呼んだ?とばかりに起立しているエクスカリバーを宥めつつ、笑顔でそう返答したのだが……やばい、まずったかもしれない。
先程の可愛らしい表情を浮かべていた主治医が、魔王に匹敵する程の圧倒的なオーラを放った。その口元は残酷に嗤い、今すぐにでも性的に補食されそうである。
考えてみれば、ここは男女比が歪な世界。男がいるだけで女性はこんな反応を示してしまうのだから、イケメンで天才で運動神経抜群な俺(白目)が微笑み掛けたら、それはもう大惨事だ。
大事な事なのでもう一度言おう。大惨事である。
「い、いえ、こんな私に献身的にしてくれたのに、寂しいとまで言ってくれる事が嬉しくてですね………」
必死に弁明をはかる。いや、別に性的に喰われる事はやぶさかではないのだ。
だ、だがな?やはり物事には順序という大切なプロセスがあって………。
「……そ、そうなんですね、失礼しました。しかし、男性である貴方に献身的に尽くす事は当然ですので、そこまで嬉しく思われてしまうと嬉しい……というか、照れて……しまいますね」
纏っていた覇者の風格が霧散し、元の可愛らしい乙女モードになる。仕事できる系の主治医さんのはにかんだ表情は、今先程捕食者の眼差しをしていた人物とは、到底結び付かない。
(あぁ、俺は一体どう生き延びればいいのだろう)
勝てる勝てないの問題ではない。本能が恐怖しているのだ。そして恐らくこの世界は、こんな女性達が何十億と存在している筈だ。
其処らを歩いている女性が変態性と王者の覇気を纏っている事は、病院に来る前に確認済みである。
まぁつまり何が言いたいかと言うと───おいおい、死んだわ俺。
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編入
拝啓、父さん母さん。そして我が愛しき妹よ。
お兄ちゃんは元気です。
なんか良く分からん世界に召喚されて、元の世界に戻るために努力して・・・漸く魔王を倒したと思ったらまた違う世界に転移しちゃったけど、色んな意味で元気です。
「お前の愛しき完璧スーパーイケメン超人、兄より・・・っと」
病院から支給された最新式のスマホ(のようなもの)を操作し、メッセージを送る。
かれこれもうこれで三日目だ。
いやはや男尊女卑というか・・・病院からスマホと50万円程のお金を支給された。
しかも返す必要もないとの事で、正直かなり嬉し・・・戸惑ってしまい、怪訝な表情をされてしまった。
受け取って貰わないと困ると懇願されたので仕方なーく受け取り、適当に元の世界にいる両親とマイエンジェルな妹に向けて電話やメッセージを送ったりもしたが、駄目。
全くの無反応だった。
というか、電話に至ってはかからなかった。
こうして俺が誰が見るわけでもないメールを送っているのは、もしかしたら繋がるかもしれないと縋っているからかもしれない。
いや、実際そうだろう。
空間を歪ませる程の魔力を注げば繋がるはずだ。
しかし、魔力はとっくにすっからかんだし、この世界に魔素は少ないらしく、なかなか回復しない。
ぶっちゃけ、このまま女性という名のケダモノに襲われても、俺にエッチなことするつもりなんだろ!エロ同人みたいに!と、誰得な事を口走ってしまう程には抵抗できない。
そこの諸君、それって結構いいじゃん?と思っただろ。
違う、そうじゃないんだ。
俺は出来るなら攻めがいい───って、俺一人で何口走ってんだろ。
ま、まぁいい、兎も角俺にはこの世界に来て決めた事がある。
この世界では俺は───彼女を作らないッ!
・・・いや、まぁ?確かに?
この世界は男からすれば天国と言っても過言ではない。彼女だって赤子の手を握るだけで出来るだろう。
元の世界では彼女が出来なかっ・・・つ、作らなかったし、向こうの世界では、そもそも戦に戦闘で色恋に集中出来なかった。
それがこの世界ではどうだ。
俺みたいなスーパーイケメンデラックスがいるんだぞ?彼女なんて夜飯前だ──た、多分。
それってとっても
だから俺は、この世界では彼女を作らない。
それに元の世界に戻る時に、彼女がいたら戻れなくなるからな。
ふはは、我ながら素晴らしい案d「ふっふっふっ・・・」な、なんだあの胸部装甲は!?
俺が性器の・・・コホン、世紀の大発言をした目の前にバレーボール・・・は言いすぎたかもしれないが、それに匹敵する大きさを持った胸を惜し気もなく揺らしてランニングしている美女。
思わずガン見してしまったのは男の性だ。しょうがない。
因みに病院からは解放されて、現在は病院の院長が貸してくれたアパートの近くにある公園でぶらぶらとしている。
ナニがって?
散歩だよバカめ。
「とはいえ・・・どうするべきなんだろうなぁ」
正直、このままでは元の世界に戻るのにかなり時間がかかる。
魔力の回復を待たないといけないからだ。
いや、魔力が全回復しても、もしかしたら元の世界に戻れないかもしれない。
あれは魔王の魔力があったからこそなし得た技だ。
「ってあれ?俺詰んでね?」
どうしよう、俺このままだったら我が愛しき妹に会えずに死んでしまうぞ。
・・・本格的に詰みかもしれん。
「はぁ・・・」
思わず溢れる溜め息。
・・・何やってんだこの人達。
俺が後ろを振り向くと、木陰からチラチラと此方を見つめる変装したナースさんがいた。
まさか俺が呆れて溜め息を吐くなんてな・・・自分でもびっくりだ。
何やってんのこの人。
暇なの?
暇なんだろ。
バレないとでも思ってもいるのだろうか?
残念、俺の鑑定でバレバレだ。
軽く睨むと、いそいそと木の裏に隠れたナースさん───が、頭隠して乳隠さずとは正にこのこと。
存在を主張するブツが、こんにちはとばかりにデンと鎮座する。
何でそんなに大きいの?
胸で判断しないと自負がある俺ですらつい視線を向けてしまうんだが。
思わずスマホで110番を掛けようとしてしまった俺は悪くない。
まぁ番号違うから掛からないんだけどね?
なんで掛からないと知っているのかは察してほしい。
トゥルル。
丁度110を押し終えたところで、電話が掛かる。どうやら、いつの間にか連絡先が登録されていた主治医からのようだ。
「あ、はいもしもし?」
「はい、み、水無月様で・・・い、イッ・・らしゃいますよね?」
「はい、そうです。あ、先日はどうもお世話になりました」
主にマイサン的な意味で。
「い、いえ、お気になさらず・・・あ、本題に入りますね?実は水無月様の処遇について男性保護委員会が討論した結果が決まったんですが・・・」
「男性保護委員会・・・?け、結果・・・?」
男性保護委員会っておいおい・・・という処遇って。
やっぱり身分の証明出来るものがないのが不味かっただろうか?
も、もしかしたら国外追放とかいう線も───。
戦々恐々としながら、主治医さんの次の言葉を待つ俺。正直生きた心地がしなかった。
「・・・実はですね──超能力戦闘訓練学校にマネージャーという形で編入する形となりまして・・・」
「超能力戦闘訓練が、学校!?しかも編入ですか!?」
うっそだろお前。
た、確かに俺は17歳だし、学校に編入というのは分かる。
だがそれは、しっかりと身分を証明できるものがある場合だ。
俺の場合は、身分どころか戸籍すらないので、学校に編入というのは普通あり得ない。
しかも超能力戦闘訓練学校って・・・や、やっぱりこの世界には超能力なるものが存在するらしい。
というかなんて物騒な名前なんだ。
きっとゴリゴリのマッチョメン・・・ウーメン?が大量にいるんだろう。
どうしよう、詰んだぞ俺。
データ消えたぁ!!最初から書き直しだぁぁ!!!うわぁぁ!!!
↑魂の悲痛の叫び。
大変待たせてしまい申し訳ありません!
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可愛い
「ねぇねぇ知ってる?明日新しい子が編入してくるんだって!」
「へぇ、そうなんだ・・・も、もしかして男の子って可能性も・・・」
「いやいやいや、多分普通に女子だと思うよ?」
「だ、だよね・・・」
げ、元気だなぁ・・・と、すれ違った可愛らしい女子校生に目を向ける。
あぁでも、思っていたよりはゴリゴリマッチョウーメンって感じじゃなくて良かったかも。
・・・え?お前は一体何してるんだって?
女装して学校まで下見に来てんだよ(ボソッ)
まぁ勿論女装だけじゃなく、男とバレないように香水を───。
「・・・ねぇ、なんかさ、男の匂いしない?」
「そ、そうだよね!?私も言おうか迷ってたんだけど・・・」
ヒェッ!?
な、何故だ!?きちんと香水を振って男の匂いと分からないようにしたのはずなのに!?
くっ、やっぱりこの世界の女性は侮っては駄目だ。此方が喰われてしまう。
主に性的に。
こんなんだったらやっぱり下見に来るのはやめといた方が良かったかもしれない。
───そ、そのぉ・・・申し訳ないのですが、水無月様は超能力戦闘訓練学校に編入する際、じょ、女装して通って頂きます。
───それはつまり、男という事を隠せ、という認識でいいんですかね?
───は、はい。そして出来れば状況把握の為にも、下見に行って頂けると尚嬉しいのですが・・・。
───分かり・・・ました。
・・・これが主治医さんと俺の間であった会話の内容だ。
お分かり頂けただろうか?──女装は決して俺の趣味じゃないことに。
俺は断じて女装の趣味はない。
加えて男である。乙子ではない。
なのに、なのにだ───。
「ねぇ見てみて!あの娘めっちゃ可愛くない!?」
「うわ、肌きれーだし、スタイル良い・・・モテるんだろうなぁ」
「「まぁ、胸はないけど」」
やかましいわ!
おっと、ついツッコんでしまった。あ、ナニは突っ込んでないぞ。
いや俺が一番やかましいわ!
「・・・俺、きっと疲れてんだな」
どうしたんだろう。俺こんなに下ネタ連呼するような性格じゃないのに。
変な世界に召喚され、四苦八苦しながら魔王を倒し、漸く戻れると思ったら貞操観念と男女比が逆転している世界に来ちゃうし、学校に通うことにはなったけど女装しないといけないし・・・しかも女装めっちゃ似合ってるし・・・。
似合いすぎて、鏡で確認したときもつい二度見してしまった。
政府から支給された女装用の制服を主治医さんとナースさん(因みに名前は、主治医さんが
まぁ、俺のパンツに手を伸ばそうとしたから石化させたんだけどな。
発動させるのにほとんど魔力も必要ないし、ドラゴンですら5分程動けなく出来るお手軽魔法だ。
しかし、
肉体で魔力による石化を、バキバキと音をさせながら無理矢理解除しやがったのだ。
俺は思ったね。
お前ら人間じゃねぇ!と。
───
──
─
──とある女子高生side──
「はぁっ・・・はぁっ・・・」
汗が滴るのも気に止めず、必死に木刀を振る。
手に出来たマメだってたくさん潰れた。
散々馬鹿にされてきた。
でも努力したお陰で、今ボクはこの学園にいる。
ここは“超能力戦闘訓練学校”。文字通り、各々が持つ超能力を開花させ、切磋琢磨し、世の男性の為に鍛える。
そんなエリート校だ。
筆記試験と実技試験は、正直あり得ない程難しかったし、成績を維持するのだって大変だ。けど、そんなエリート校の中でも、“超能力戦闘訓練学校BEST8”・・・略してチクビという全校生徒3000人の中から決められた、最強格の八人の内の一人になれば、将来は約束されたようなものだ。
ボクだって、何時かはそうなりたい。そして、馬鹿にした奴らを見返して、イケメンと結婚する。
・・・まぁ、言うのは簡単なんだけど。
「ふぅ・・・今日はここまでにしておこうかな・・・」
汗に濡れた体をタオルで拭い、軽くシャワーを済ませる。
いつの間にか日常となってしまったこの動作。日々精進してもっと強くなろうとはしているけど、正直全く強くなっている実感が沸かない。
「はぁ、どうしてボクには才能がないんだろ・・・」
何度目か分からない弱音を吐きつつ、実技場の出入口の門を潜る。
流石はエリート校とあって、設備は他の高校の比にならない程整っている・・・けど、チクビに入ってる人達はこれよりもっと設備が豪華で有用な施設や個室に入ることを許されてるらしい。
「さっさと帰っちゃうか・・・」
誰にも聞こえるでもないのに一人喋りながら、広い校舎の階段を下っていく。
そして、疲れから重い足取りを抱えたまま角を右に曲が───「「うわっ!?」ふぎゃっ!」れずに、思い切り角からやってきた女の子にぶつかった
「い、痛い・・・」
思わず涙目になるボク。
へとへとでろくに受け身も取れなかったせいで、ぶつかった拍子に地面にもお尻をぶつけてしまった。
「うっ、いてぇ・・・あ、貴女は大丈夫ですか?」
ボクとぶつかった女の子は、おでこを抑えながら、ボクに手を差し出してき───え?
ボクは一瞬、時が止まったように動けなかった。
女の子にしては少し短い麻色の髪に、大きなくりっとした茶色の瞳と、長い睫毛。女の子らしい小さな鼻に、可愛らしい血色の良い唇。
白い肌は夕陽に照らされていてとても幻想的だし、こうして手を差し伸べられてるからこそわかる、スタイルの良さ・・・胸はないみたいだけど、そんなのなんか気にならないくらい可愛らしい。
そう、ボクは目の前の
「あ、あれ?馴れ馴れしかったかな・・・?」
差し伸べた手を引っ込めて困ったように笑う姿も可愛らしい。
それに体中の至るところから、男の匂いが香っている。ま、まぁそうだよね。こんなに可愛い人なんだから彼氏くらいいるよね・・・寧ろ手玉にとってそうだもん。
「あ、あのー?もしもしー?聞こえてるか・・・ますかー?」
「・・・師匠」
「ん?し、師匠?」
「で、弟子入りさせてください!!」
この人に師事してモテる秘訣を学ぼう、男の人と付き合う為にはもうそれしかない。
え?何時やるか?
今しかないよ!
───
──
─
──主人公side──
おいおいまじかよこの娘・・・初対面の奴に師匠とか言うか普通?
俺適当に学校ぶらぶらしてただけぞ?
師事してくれ!って懇願する要素ある?
でも実際に弟子入りさせてほしいって言っている娘が目の前にいるんだよなぁ・・・何か滅茶苦茶目を輝かせてるし・・・。
・・・でもやっぱり、今この場では返答しかねるな。
───よし。
「あ、あそこにイケメンが!」
「え!?どこ!?」
俺が適当に指差した方向をキョロキョロと探している女子高生。
ふっ、チョロいな。それじゃあ今のうちにっと。
───
──
─
青いハリネズミもビックリの速度でその場を逃げ出し、現在校門前。
下見した感想だが、正直高校とは思えないほどの設備をしていると思う。
なんだよジャグジーって。
なんだよエステって。
何で高校にあんだよ。
だが、ツッコミ弱者の俺がツッコんだところで現実は変わらないのだ。
「明日から編入かぁ・・・」
女性だらけの花園に男一人・・・か。何処かのエロゲーにありそうだ。
そんなくだらない事を考えながら、俺は弾む足取りで帰宅した。
二話目だおっらぁーん!!!
あ、皆さんお忘れかもしれませんが、次回は例のふおぉぉぉう!のあの人も出てきます。
え?シリアス?
今、シンガポールにいます(くそ寒ぱくり)
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変態と書いて西宮と読む
先日、超能力戦闘訓練学校にて激震が走った。
何とこのむさ苦しい学校に男性がやってくるという噂が広まったのだ。
それは、只でさえ性欲という性欲を持て余す女子高生にとってまさに青天の霹靂であり、男っ気のない彼女達が彼氏を作る最初で最後のチャンスだった。
その中でも───その噂の男性が入ってくる予定である二年六組は他クラスからすれば、
余りの悔しさに血涙を流すものもいたらしい。
「い、生きててよかった・・・」
「私今日は寝れなくてさ・・・ははは」
「煩悩退散煩悩退散煩悩退散」
そして明くる朝、いよいよ編入生がやって来る日となった。
男子がやってくるというあまりの興奮に、各々が興奮を晴らそうと必死である。
そして、ガラガラガラ、とドアを開ける音が教室中に響き───出てきたのは、この煩悩にまみれたクラスの担任をしている教師、結月 唯だった。
あからさまに気を落とす女性陣。
しかしそんな事すらも気付かず、意気揚々と教室へと足を踏み入れた結月 唯は一声を放つ。
「ぃよーしお前ら席に・・・つ、ついてるな。コホン、よろしい!ではお待ちかねの編入生のご紹介と行こうか。あ、お前らの事だから新たに編入してくる生徒が知らない訳がないと思うが・・・初めて知ったという者はいるか?」
「「いいえ、知ってます」」
「お、おおぅ・・・じゃ、じゃあ入ってきて貰おう。おーい水無月、入ってきていいぞー」
普段は見せないあり得ない程の一体感に軽く引いてしまう担任の結月 唯だが、そこは訓練学校の教師としてなんとか堪えた。
そしてそれが決壊しないうちに、ドアの向こうに居るであろう人物に呼び掛ける。
────シン、と教室から一切の音が消え去った。
比喩ではない。
音がするのは、コツコツと教室へと入ろうとする人物の足音のみ。
皆、瞬きをするのも惜しいとばかり目を見開き、入ってくるのを今か今かと待っている。
そして───見えた。
入ってきたのはイケメンな男性───ではなく、可愛らしい
教室から別の意味で音が消え去る。
しかしその原因である人物は特に気にすることもなく、スタスタと教卓の前まで歩くと、魂の抜けた女子高生達の方を向いて自己紹介を始めた。
「どうも、結月先生からご紹介に預かりました水無月鏡花と申します。これから皆さんのマネージャーとして、サポートしていきたいと思いますので、宜しくお願いいたします」
拍手はゼロ。
それはそうだ、皆あまりのショックで意識がない。
大袈裟?いいや違う。
寧ろ控え目な方だ。
過激になれば、泣き叫ぶ者だっているだろう。
「おいおい・・・誰か拍手くらいしてやれ」
反応もゼロ。
鏡花は涙目である。
誰も一言すら発しない空間。だが、そんな沈黙を破る声が何処かからあがる。
「男の・・・匂い?」
一番前の席にいる宮川 凛は、思わずといった声色で言葉を溢す。
日常会話では聞き取れないような、そんな大きさの声。
しかし、虚といっても過言ではない空間の中ではその声は良く響く。
え?という顔をした女子達は、よくよく匂いを嗅ぎ直す。
成る程確かに、男の匂いがぷんぷんする。
「貴方・・・も、もしかして・・・お、男?」
「・・・あー、いやその・・・か、彼氏のだと思います、はい」
事も無げにさらりと言う編入生。
その返答に、現役女子高生達の間がピシリ、と空間に亀裂が入る。
比喩ではない。本当に歪んでしまっている。
(この女に彼氏がいるだとぉ?)と、あるものは激昂し、(お、女の魅力でまけた・・・だと!?)と、あるものは嫉妬する。
その場は虚無の空間から一転、今度は怒りと嫉妬に呻く魔獣達のカオスな空間と化した。
───
──
─
(ヤバい、返答ミスったかもしれない)
男性保護委員会から、出来るだけ俺が男だとバレないようにして欲しいという要望通り、比較的あり得そうな誤魔化しを言ってみたのだがご覧の有り様。
般若の面を浮かべる女子高生達に、え?そこまで?と内心で冷や汗を掻きつつ、動揺を悟られないようにポーカーフェイスでなんとか誤魔化す。
今さらはい違いますでは済まされない・・・この有り様じゃ友達も出来そうにないな。
あぁ、さよなら俺の輝かしい高校生活。と、涙を浮かべながら結月先生から指定された席に座る。
うわぁなんだろう、凄く気まずい。
「あー・・・なんだ。水無月は優秀なマネージャーとして編入して来たんだ。だからまぁ、今すぐにでもこのクラスの全員の超能力、身体能力等を覚えて帰って貰いたい。てな訳だ、訓練場に行くぞ。いいな?水無月」
「え?あ、はい」
おいおい、どういうことだってばよ!?
マネージャーとして編入って、俺が男であるという事実を隠すためのカモフラージュじゃないの!?
え、マジでマネージャーとしてやっていくのか・・・。
俺がマネージャーとして女子高生達を支援・・・ふーん、えっちじゃん。
と、軽く現実逃避しながら考える。
俺本当に無事に帰れるかな・・・。
───
──
─
「ハァッ!!!」
「ちっ、そう来るか・・・!」
聞き慣れた剣と剣の擦れ合う甲高い音と、鈍く重い打撃音。
しかし普段とは違い、肉や骨がひしゃげる音は聞こえないし、後悔に苦悶の声をあげる者もいない。
・・・あぁ、駄目だ。
たったこれだけなのに吐き気がしてしまう。
勇者として戦っているときに散々聞いた声、音。それが耳からこびりついて離れない。
自分が戦っている時は問題ないんだけどな。
「そろそろ降参したらどう?」
「はっ、あんたに負けるくらいなら自死を選ぶね」
「オラオラオラァ!避けられるんなら避けてみろよぉ!」
「くそっ、いちいちうざったいのよ!」
・・・あれ?
「お、思っていたよりも」
「練度が高い・・・か?」
「・・・はい」
結月先生に同調しうなずく。
具体例をあげるなら、魔王直属の近衛のような素早さと力強さ。
そして何より───
「───“烈火”ッ!」
「甘いんだよ!───“氷柱”」
超能力という、魔力を必要としない超自然的な現象。
つまり、魔力が切れる心配がなく発動できるという点。
・・・何それチートか?
近衛のような身体能力の高さと練度、そして魔力切れの心配のない超能力。
・・・やっぱチートじゃねぇか。
これ、俺この娘達と戦って勝てるだろうか・・・?
(うん、考えるのはよそう)
考えるのを放棄して、結月先生から貰ったプリント(クラス全員の女子の名前が書いてある親切設計)に、各々の特徴と超能力、身体能力の内容を明記していく。
ここまでは何の問題もない。
いや、なかった、が妥当だろうか。
つくつぐ運命の神とやらは俺のことが嫌いらしい。
「───ん?・・・ッ!?ね、ねぇあれってさ・・・」
「なんだよっ・・・て、え?あの人って」
さっきまでイキイキと剣をふるって・・・なんかえっちだな。
・・・コホン、夢中で剣や拳を振るっていた女子高生達が、一斉に戦闘をやめて此方───俺の後ろを向く。
なんだろう?と俺も疑問に思い、つられて後ろを振り向くが───
「あ、貴女は・・・」
俺が知る限り、最低最悪の変態。
勇者の俺を変態性だけで圧倒し、病院送りにした女性。
ここまで言えばわかるだろう。
そう───「西宮 蓮花様だぁ!!」
「すげぇ綺麗な人だなぁ・・・」
「えぇ、いつ見てもお美しいわ」
「最近では、もう実戦で活躍しているらしいよ」
「へぇ・・・めっちゃ凄いじゃん」
・・・え?
この変態そんなに凄い人なの?
た、確かに綺麗だし?
見た目は俺のストライクゾーンど真ん中だけど?
・・・でもそれでも限度はある。
「ほらほら、こっち向いてる暇あるなら訓練やって」
笑顔を携えながら、冗談混じりにそう告げる
たまけだなぁ・・・。
「あ、で君が新しい編入生?よろし・・・く・・・?あ、あれ?何処かであった気がする・・・しかも男の臭い?あれ?」
「全部気のせいですよ。寝起きなんですね」
「へ?そ、そうかな?・・・って、私寝惚けてないよ?私への当たり強くないかな?」
「全部気のせいですよ。寝起きなんですね」
「んもぉー!!!」
あれ、なんだろう。
結構楽しい。
初対面ではあんなにインパクトの強かった西宮さんだけど、普通に話せば優しい先輩って感じだ。
俺が男とバレたら詰むけど。
「む、な、何笑ってるのさ!もう・・・コホン。か、歓迎するよ。宜しくね!水無月
「えぇ、此方こそ」
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魔王再臨
「ふん!!」
「てやぁ!」
「ふんぶるむっしゃーい!!!」
(あー、眼福だ)
目の前の
途中で乱入した
何がしたかったんだろうか?
それと、記録の記入用紙だが、1ヶ月前は結月先生が記入していたらしいが、今回からは勿論俺がすることになった。
今はちょうどパンチングマシーンの計測に入っている。
可愛らしい掛け声を挙げる一番最初の子の声にニヤニヤしながら記録を記入していく。
何々?一番最初の子から615キロ、518キロ、828キロ───ん?んん?
み、見間違いか?
桁が1つくらい違う気がするが・・・あ、あぁもしかして、元の世界とはパンチングマシーンの造りが違うのかもしれない。
うん、きっとそうだ。
じゃないと俺達男性陣の居場所がないからな、うん。
そう無理矢理考えて、現実から逃避する。
だってあの細腕からボクサーも真っ青なパンチ力が出てると考えたら、俺もう無事に(貞操的な意味で)帰れる気がしないんだが。
抑え込まれたらそのまま雌堕ち、「らめぇ~!」からのジ・エンドだろう。
女装していてなんだが、まだ男としての尊厳はあるつもりだ。だからそんなバッドエンドを迎えたくはない。
絶対に男してバレないようにしなくては・・・。
「ねぇねぇ水無月さん」
「・・・ん?え、あ、はい!」
ボーッとしつつも記録を記入して早十分。
乙女の細腕から放たれる強烈な拳の一撃を目にし、恐らく後一週間は並大抵の事では動揺しないだろうと知覚した時、一番最初にパンチングマシーンの記録を計測していた子───えぇと、
「私達の記録も計測し終えちゃったからさ、良かったら水無月さんもどう?」
・・・ん、デートのお誘いということか?ふっ、赤嶺さんみたいな可愛らしい人からのお誘いは嬉しいが、俺は可愛さで判断しない男なんだ。
───な、なに!?なんだその胸は!?くっ、だが俺は胸の大きさで判断するようなおっぱい星人ではない!
残念だったな・・・。
「勿論お願いしますっ!!!」
───ごめんなさい、抗えませんでした。
即堕ち二コマとはこのことを言うんだな、と勉強になった。
「お!じゃあやろっか!」
・・・ヤ、ヤる?
そ、そんな・・・まだ早い気が。
「心の準備もまだだからもう少し待って・・・」
「ん?あ、あぁ、もしかしてパンチングマシーン初めてだった?」
「パンチングマシーン?・・・あ、あぁうん、少し緊張してただけだから大丈夫だよ」
「そ、そう?ならいいんだけど」
デートのお誘いではなかったのか・・・しかもパンチングマシーン・・・凄まじくやる気がおちた。
まぁ、超能力戦闘訓練学校なんだから、マネージャー専門とは言え、編入生である俺の実力を知り合いのだろう。
ここで俺に残された選択肢は三つ。
一つは実力を示し、俺TUEEEEすること。
二つ目は実力を隠し、ほどほどに抑えること。
三つ目は断ること。
ん?三つの内何を選ぶかって?
ふっ、俺TUEEEEに決まっているだろう!
全国の男子達よ、俺に任せてくれ。実戦を知らない小娘達に、男子の強さと恐ろしさを“分からせて”やろう・・・。
───────数分後
「ひぐっ、ぐすっ・・・」
最悪だ。男子の強さと恐ろしさを分からせてやるつもりが───“分からされた”。
あの世界で鍛え抜かれた技と力をフルで使い、パンチングマシーンに俺の全てを叩きつけたのだが・・・出たのはたった512キロ。
女子高生達の最低点数である518キロよりも6キロも低いのだ。しかもその子は超能力専門であり、打撃に重きをおいている訳ではないのだとか。
───おかしい。
ここでしっかりと俺TUEEEEしていく筈が、いつの間にか俺YOEEEEムーブをかましてしまった。
情けない。酷く情けない。
すべての男子達の希望を宿った拳を振るった(自称)がゆえに、力の及ばなさに涙がつい溢れる。
「あーあ、空が泣ーかした」
「んぇ!?あ、その・・・マネージャー専門だから、し、仕方ないと思うよ?」
「・・・」
「あ、トドメさした」
・・・俺、ファイトスタイル拳なんだよなぁ。剣も使うけど、殆どは拳なんだよなぁ・・・それなのに負けたんだよなぁ。
───ま、まぁいいし。
魔力が全回復すればもっと強くなるし。
だから今は能ある鷹は爪を隠す状態で、時が来たら俺TUEEEEを執行しよう。
け、決して俺が弱いわけじゃないからな?
─
──
───
主人公の妹(
「お兄ちゃん・・・」
仏壇に手を合わせて、兄の遺影に呼び掛ける。兄が居なくなって、もう三年が経つ。
コンビニに行ったきり帰って来なくなった兄は、行方不明という扱いで捜索願いを出した。
勿論、警察の人達は一生懸命兄の行方を探す手懸かりを見つけ出そうとしていたけど、兄がコンビニから出るところを撮った室内カメラ以外に、兄の行方を知らせる手懸かりは見つからなかった。
結果、死亡と断定された。
勿論、兄の友達である
勿論母と父、そして私もその例に漏れない。
兄は愛される人だった。
何時だって笑顔だったし、優しかった。悩み事は人一倍真剣に聞いてくれて、いじめみたいな事は毛嫌いしていた。
そんな、とても優しい良い兄だった。
でも───でも、私は兄とは喧嘩別れをしてしまっている。
皆は死んだと諦めているが、私はそうは思わない。
いや、思いたくない。
じゃないと最後に兄に謝れないからだ。
喧嘩の理由は些細なこと。最近友達付き合いが多くなった私は、家に帰る時間が遅くなることが多くなった。
それで心配した兄が私を叱ったのだが、当時の私は深く聞き入れなかった。
兄がコンビニに買いに行ったのは、私と仲直りをするつもりだったと私は知っている。
だって兄は私と喧嘩したら、何時もコンビニのアイスを買って帰るのだ。
その証拠に、道端に落ちていた兄が買った物と思われる袋には、私が好きなアイスがたくさん入っていたのだ。
だから、兄はこんな私ともう一度仲良くなろうと自分から買い物に行った筈なのに、居なくなるわけがない。
そう何度も自分に言い聞かせている。
きっと何時かひょっこり現れて、「帰るの遅れた!」って謝るんだって・・・。
「・・・早く、帰ってきてね」
正直、もう限界に近い。
兄が居なくなった原因が私のせいなら、私はきちんと謝りたい。
だから───だからいち早くでも戻ってきて欲しい。
「おやすみなさい」
・・・今日はこれくらいにしておこう。
そう思い、ゆっくりと仏壇をしまい、片付ける───と。
ピンポーン。
現在の時刻は十時半。宅配便は頼んでないし、父は出張で今日は帰ってこない。
母も病院で療養中のため、二人とも今日は帰ってこない。そもそも、鍵を持っているのだからインターホンを押す必要はない。
背筋を冷たい風が走る。
「誰・・・なの?」
階段をゆっくりと降り、覗き穴からインターホンを押した張本人を観察する。
───果たしてそこにいた人は、黒い扇情的な格好をしていて少し不気味だった。
(あぁ、扉の前にいる人がお兄ちゃんだったら良かったのに・・・)
依然として背中を冷たいモノが通りすぎるような感覚に陥り、記憶の中の兄に助けを求めるように愚痴を溢した。
「───誰・・・か。そうだな、お主の兄に伝わるように言うとしたら・・・魔王だろうな」
「ま、魔王?」
───どうしよう、やっぱり不審者だ。このまま警察を呼んで来て貰おうかな・・・って、兄!?
「お、お兄ちゃんを知ってるんですか!?」
「お兄ちゃん、か・・・ふふふ、あぁ知っているさ。激しく(戦闘し)高めあった仲だ」
「高めあッ───!?彼女さんって事ですか!?」
信じられない。
私達が心配して涙が枯れるまで泣いてたのに、あの兄はひっそりと彼女作ってたってこと!?
「落ち着け小娘・・・“まだ”、そんな仲ではない」
「ま、まだ・・・って」
やっぱりそれに近しい仲じゃん!
お兄ちゃん本当に何やってるの!?
「と、取り敢えず家にあがってください!」
魔王発言とか格好とか変だけど、兄の知り合いだから多分大丈夫な筈。
だからこの人から、出来るだけ兄の情報を聞き出そう。そう決意し、扉を開く。
「ふふふ、そうか。では失礼するとしよう」
・・・え、あれ?
めちゃくちゃ美人さんなんだけど?
切れ長の紫色の瞳に、高い鼻。白い肌は私なんかより全然綺麗で、長い黒髪は艶々と輝いていてとても美しい。
そして何よりデカイ。
夜中で顔があんまり見えなかったからあれだけど、良く見たらめちゃくちゃ綺麗な人だった。
「我が名は魔王シルベレスタというものだ。宜しく頼むぞ妹殿」
「は、はひ・・・」
あまりにも現実離れした綺麗さに、私は頷くbotの如くはいはいと言うことしか出来なかった。
───はい、ということで。
魔王シルベレスタさん登場でございます。
主人公は魔王としか呼んでいませんでしたが、ちゃんと名前があります。(名前付けを忘れていた事をなかった事にする作者)
因みに、主人公サイドと妹サイドのシリアス差の違いに、思わず魔王を急遽登場させたのは秘密です。
やったね!これでふおぉぉぉう!!には逆らえなくなったよ!(白目)
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超能力戦闘訓練学校BEST8(略してチクビ)
「はぁ、疲れたぁ」
低反発のベッドに飛び込み、今日の疲れを癒す。本当に色々あって疲れた。
言いたいことは色々ある。
「癒しがぁ・・・癒しが足りぬぅ」
───そう、癒し。
日々女性達の性的な眼差しから怯える俺には、荒んだ心を穏やかにしてくれる癒しが必要なのだ。
元の世界でいうなら、我が愛しき妹だろうか。あぁ、早く帰りたい。
俺の妹───紅葉は優しい子だ。あの世界に召喚された時は、ちょうど紅葉と喧嘩していた時だった。それで仲直りをしようと、紅葉のお気に入りのアイスを買ってコンビニから出た時に魔方陣が俺の周りを包み、召喚。
お陰で紅葉は、仲直り出来ずにいなくなった俺の事を考えて気を病んでいるだろう・・・多分。
「んで、あの糞にまみれた国での癒しは───聖女様くらいか・・・」
恐らく、俺の今まで見てきた優しい人ランキングトップ3には入るだろう清楚で清らかな女性。超がつく美人で、初めて見た時は思わず見惚れてしまった程だ。
・・・聖女様の爪を煎じてこの世界の女性に飲ませたら、少しは清楚さを身につけるだろうか・・・いや、さすがに聖女様でもこれは厳しいかもしれない。
思えば元の世界を抜きにして考えたとき、まともだと感じた女性は、聖女と魔王の二人くらいしかいない。
魔王はああ見えて部下には優しかったし、民の声を聞き届けるいい王だって事は魔王討伐の下調べの際に、これでもかと出てきた情報だ。
というか、異世界に行って会ったまとも女性が聖女様と魔王って・・・世も末だな。
「・・・魔王の奴、元気にしてっかな」
自分の部下が俺に殺されたと思って自分も死のうとしていた奴だからな・・・心残りなのは、部下が無事だと知った時の反応を直接見てみたかった。
しかしもう会うことはないだろうから、知る機会もないだろう。
誠に残念だ。
「しかしそうか、俺も明日から学校かぁ・・・」
数日前まで死と隣り合わせの戦場に居たとは思えない程平和・・・まぁ貞操の危機は犇々と感じるが、それでもあの世界よりはマシだ。
兎も角だ・・・今日はもう取り敢えず寝るとしようか。
そう考え、ベッドの近くにあるランプを消した。
────☆とある女子高生side
「はぁっ!」
「まだまだぁ!せいっ!」
両手にもつ日本刀から、クラスメートが振るう戦槌の衝撃が広がる。
本来ならば相手の動きを予測して立ち回るべきなのだろうが、その肝心の相手はスカートのため、次の足の動きが分からない。
そのため、視線と手の動きで何とか次の動きを予測し、その場所にクナイをたたき込む事で何とか攻撃を防いでいる状況だ。
───現在は戦闘訓練中。勿論訓練なので刃は潰してあり、ボクは日本刀、相手の女の子は持つのも大変そうな戦槌を使用している。
正直、日本刀と戦槌の相性は悪い。戦槌の柄の部分は、先についている槌を折れないように支えられる程堅牢だ。つまり、柄の部分で防御されれば、刃を潰された刀では太刀打ち出来ない。
一応、攻撃する際は隙だらけではあるが、細腕から放たれる戦槌の破壊力は図り知れないため、容易に踏み込めないのだ。
しかしそれは相手にも当てはまる。つまり、本格的な攻撃をせずに打ち合う事で、空いた隙を見つけあっているのが今の状況だ。
言ってしまえば膠着状態。
「・・・埒があかないわね」
「本当にね」
素直に相手の女の子の呟きに同意する。この人とは会ったばかりの初対面で、訓練場で戦槌を振るっていたので試合をボクの方からお願いしたのだ。
恐らくボクと同年代だと思うが、にしても化け物だと思う。
戦槌を軽々振るい、隙があってもそれを楽々とカバーできるフィジカルと、刀の動きを予測する観察眼。
ボクなんかじゃ足元にも及ばない。
食らい付けているのは一重に、相手の女の子が全力じゃないからだ。
「今年の一年生は豊作ね・・・だからこそ惜しいのだけれど」
「──?それってどういう意味?」
楽しそうに顔を歪ませて笑う彼女。だが、依然として戦槌はしっかりと握られていて、隙というものを感じさせない佇まいだ。
「ううん、気にしないでいいのよ・・・そうねぇ、今年の一年は本当に出来がいいから、私も少し本気出しちゃおうかしら」
「ほ、本気って・・・」
今のボクの姿はまさに満身創痍。体に傷はないけど、相手の女の子が振るう戦槌によって、肉体的、精神的な疲労がたまっている。
───あぁ困ったなぁ、勝てない。
一瞬その考えに至りつき、思わず力のなくなった手で刀を握り、気を引き締める。
諦めては駄目だ。
「・・・受け止めてみせよう」
「へぇ?言うじゃない。いいわ、見せてあげる」
ボクの宣言に相手の女の子は片眉をあげ、挑戦的な笑みを浮かべた。
ボクの目標はチクビになること。そのためには、こんなところで倒れてしまっては駄目だろう。
「私の超能力はね・・・衝撃を操る事が出来るのよ。大きさの大小や、範囲の指定なんてお手の物だわ。だから、その能力を駆使すると───」
・・・来るッ!
反射的に刀を眼前で構え、攻撃に備える。
「───こうなるのよ」
彼女がいつの間にか戦槌を振り下ろし───瞬間、受け止めた刀、いや体全体にズシンと衝撃が迸る。
「ッ!?ガ、ガハッ!?・・・な、なぜ・・・くっ・・・」
肺にあった空気が全て押し出されるような感覚と、訓練場にめり込むボクの足元。あまりの衝撃にボクの足元が埋まっているせいで、受け流そうにも受け流せない。
まさに槌に叩き付けられる釘のように、ボクは衝撃に耐えるしかなかった。
「どう?私の開発した───“破城槌”って技なんだけど、凄い衝撃でしょ?」
彼女が何か喋っているが、気にする余裕はない。ボクの周りが衝撃の範囲なのか、そのせいで次第に呼吸が儘ならなくなった。
頭に酸素がいかないのだ。
まさに何も考えられない、そういう状況だった。
「ぐっ・・・あっ・・・」
やがて視界が暗転して───
──
─
自宅にて☆
「んあぁ!!!敗けたぁ!!!」
「お、落ち着いて和葉・・・ね?」
「落ち着けるわけないよお姉ちゃん!」
敗けた。
完膚なきまでに敗けた。
聞くところによると、ボクが試合をして貰った女性は、チクビ入りを果たした三年生の先輩との事らしい。
正直、とても納得した。
逆にあの強さでチクビ入りしてなかったら絶望していたところだ。つまり、ボクの目指す場所は、あの女性を倒せるまでに強くなること。
先が見えるぶん、もっともっと頑張れば良いって事がわかった。
「・・・でもやっぱり悔しいぃぃ!!」
「もう!落ち着こうよ」
ドン!と、一緒に食卓に座っていた姉がぷんぷんと立ち上がる。
さ、流石に五月蝿くし過ぎたかな?
そう思い、姉の顔を恐る恐る見るが・・・その心配は杞憂だった。
姉の顔は・・・何というか、頬を朱くして息も荒い。ぶっちゃけ同じ女としてめちゃくちゃ気持ち悪い。
何発情してんだこの姉は。
───そう言えば、姉は最近良くおめかしをするようになった。それにこの前、初めて男性の世話をすることになる!と喜んでいた気がする。
確かに“ナース”という仕事に就いている姉だが、男性との出逢いは多くない。
だからその時は、男性とあえて良かったね!と嫉妬混じりに皮肉を言ってやったが・・・も、もしかして。
「お、お姉ちゃん?監禁とかしてないよね?」
「んな!?し、失礼だよもう!」
今度は顔を真っ赤にして否定している。
考えてみれば、流石にヘタレでむっつりな姉がそんな事出来るわけなかった。
ボクとしたことが酷い勘違いをしたものだ。
「まぁ、ガンバ?」
「むぅ!良いですぅ!お姉ちゃんはあの“水無月”さんと幸せに添い遂げるんですぅ!」
「・・・へぇ?水無月さんって言うんだ?」
「あっ・・・すぅーーー」
ニヤニヤ。
自分でも気持ち悪い顔をしてると分かってるけど、こればかりはしょうがない。
「精々当たって砕けようね!おねーちゃんっ!」
「うっ、花が咲きそうな笑顔で言われても・・・」
しれっと名前出していますが、とある女子高生sideの女子高生の名前は和葉。
“船橋” 和葉です。
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番外編 とあるナースの非日常
主人公君は『』でカッコを変えました!
とあるナースside ───
「ねぇ知ってる?今朝舞い降りたっていう噂の男性の話」
「勿論よぉ!蜜柑ちゃんも知ってるわよねぇ!?」
「え、えと…….まぁはい」
はぁ、朝からメス臭いおばさんに囲まれて憂鬱だ。
どうせそれも腰が痛くて入院してきたおじいさんに違いない。というか、十中八九そうだ。
「じゃ、じゃあ私はこれで……」
「あら?もう行っちゃうの?」
「もう少しゆっくりしてってもいいのに」
もう少しゆっくり……?じょ、冗談じゃない!!
私は貴女達みたいな行き遅れみたいにはなりたくないんですぅ!きっとイケメンで優しい彼氏見つけて、そしたらこんな職場なんかさっさとやめちまいますよ!!
……なんて言葉を、無駄に大きい胸から押しのけられるように宙ぶらりんになってる”船橋 蜜柑“と書かれたネームタグを握って抑えた。
まぁ、そのためには出会いがないとダメなんですけどね?
私みたいな若造にはきっと、そんな出会いが回ってくるはずありませんし。
───なんて、思っていた時期が私にもありました。
私は、この世の真理を垣間見たのです。
『は、発動した……だと?』
と呟く、ベッドの上に腰掛ける男性。なんとそれを私が担当する事になりました。
もう一度言います。
ベッドの上に腰掛ける天使に、私が仕えることになりました。
切れ長の銀髪に、黒いメッシュが入った艶のいい髪。超能力を使って近づけば近づくほど良くわかる、薄く透明な蒼色の瞳。そしてどうやらもう片方は金色のようで、淡く輝いていました。
そして何よりもそれをすべ……(ry
とまぁ、天使のご尊顔を人間なりに述べてみましたがこんな感じでしょうか?
「はっ!?もしかして…」
思い切り顔面を頬をぶつ。
これが夢ではないかと一瞬でも疑ったからだ。
でもやはり痛みが頬を刺激するだけで、夢を見ているような感覚はなかった。
天使は実在したんだ……ッ!
『よ”っしゃあ”ぁぁッ!!!』
ほら、今多分その通り!って意味で叫んだんですよ天使様はきっと!
こうしては居られません、今すぐにでも挨拶をしないと……あ、でも確かこの人は、道端で倒れてるところを男性警護官であらせられる”西宮 蓮花様“が保護したとのことです。
いやぁ、さすが西宮 蓮花様ですね。
私たち女性の
あら、いけない。兎も角この天使様に怪我がないかどうか聞かないと、ですね。報告上では怪我はないとの事ですが、もしかすれば本人にしか分からない内傷があるかもしれませんし。
「………あのぉ、怪我は大丈夫でしょうか?」
「うぴゃっ!?』
…ッ!?!?!?
なん、ですか今のご尊声……!?そして私はその声を聞いてしまっということは……これ実質セッ〇スでは?
───い、いや、一体自分は何を考えているんでしょう、恥ずかしい。
なによりも驚かせてしまったことで、もしかしたら内傷が酷くなる可能性だってあったのに……私はナニをヤッているんでしょう。
「お、驚かせてすみません!わ、私今日初めて男性と会話するもので……その、接し方がわからないというか……何というかぁ」
急いで謝罪します。
こんな天使を驚かせてしまうなんて、ナースとして不覚です。もう二度としないように、ちゃんと次から心掛けましょう。
『あ、あはは。心配しなくても大丈夫ですよ。特に怪我はないですし……ただ、何故自分が病院に居るのか理解できずに少し戸惑ってしまいまして』
な、なんて優しいんでしょうこの
ていうか私、何気にまたポカをしちゃったようです。患者様の状態を考えきれていない辺り、本当に私もまだまだですね。
「そ、そうでした……説明し忘れてしまいました……。え、えっとですね?男性警護官の
『あっ、それ以上は大丈夫です、はい』
「ほ、ほんとですか?」
『えぇ、もう本当に大丈夫ですお腹いっぱいですありがとうございました』
そ、そうですか……やはり何かあったんでしょうか?
だってあんなに優しそうな瞳が急に光を失って、まるで夏休み最後の日まで宿題をやっていなかった時のような、そんな絶望感を感じます……。
ですがそんな姿も非常に絵になる辺り、流石天使様ですね。
───
「これが私と天使様……じゃなくて水無月さんとの出会いです!どうです和葉ちゃん、感動的でしょう?」
「んー……ま、まぁ多分そうじゃない?うん……」
「むぅ、なんですかその反応!いくら私でも怒りますよぅ?」
まったく、和葉ちゃんは本当に失礼ですね!あとでごめんなさいしても知りませんよ?
とあるナースside ───fin.
やぁみんな!俺だ!
最近まったく更新してないサボり作者だ!
あ、やめて、石投げないで……ゆるして、ゆるしてぇ……
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魔王の目覚め
───魔王side
「……なぜ、私は生きているんだ?」
ぼう、とシャンデリアが軽く明滅している玉座の傍らで、私は己の生に疑問を抱く。
確か私は勇者と戦い、そして───破れたはずだ。
となるとここは地獄ということになるが、どうやらそうでもないらしい。
吹き抜けた壁からは生温い風が頬を刺激し、私が生きているという証明をしてくれている。
体の傷は見たところ完治していた。腹にグングニルとやらの一撃を受けて穴が空いていたはずの穴は、ものの見事に素肌を露出するだけの穴にしかなっていない。
そこに戦闘を行った形跡は何一つ残されては居ないのだ。
だがしかし、練ることが出来ないほど消費された魔力だけが、その戦闘を思い出させる。
「どうやら勇者は転移に成功したらしいな」
膨大な魔力で空間に穴を空ける、なんて莫迦なこと。本来なら私も出来ないと嘲笑していただろう。
だがヤツはそれを成し遂げた。
惜しむらくは、このあと私にどうやって生きろというのだろうか?
部下たちの生命は既にないのに、再び生きる価値がこの世界にあるのだろうか?───否だ。
「ふむ、エリクサーか何かで私の事を蘇生した勇者には悪いが……再び死ぬとしよう。この世界にもう、私の生きる価値はない」
もう何も悔いはない。
そう思い至り自分自身で死のうと、ヤツと戦う時にも使わなかった魔剣で首を落とそうとした───その時だ。
ひらり、と宙から白い紙が舞い降りてきた。
ふと気になり、その紙に手を伸ばす。
そこには勇者の字だろう、少し形が崩れた執筆で───『お前を倒したのは俺だ。だから、自殺なんてするなよ?もちろん、弱肉強食なら俺の言葉に従ってくれるよな?』───と書かれていた。
やられた。私も勇者も弱肉強食なのだ、と死にかけながら説いたのは覚えているが……なるほど、つまり私は上手く1本取られたわけだ。
自殺するな、そう手紙に書かれていては死ねないのを分かって、あの勇者は私に手紙を書いたのだな。
「随分と、性格の悪い勇者もいたものだ」
ふっ、と自嘲気味に笑いを零す。
書かれた手紙の内容は以上だろうか?と、何気なく裏を捲ると、案の定その続きが書かれていた。
『追記、お前の部下達は丁寧に睡眠魔法で地下の応接間に寝かせてるぞ』
「ふっ、くくっ……アイツめ。最後にとんでもないサプライズを残していきよって……」
手紙のないように従って残された微弱な魔力を振り絞れば、確かに微かだが地下に馴染み深い魔力があるのを感じる。
なるほど、なるほど。
私はあの勇者にはどうやら敵わないらしい。
そして決めた。
「長年婿は探していなかったが───決めた、私が嫁入りしよう。勇者“ミナヅキ キョウカ“に」
まぁ今はひとまず、眠らされている部下達を起こさねばいけないが。
「そなたが私に自殺するなと言ったのだ。ならば私はキョウカに着いていく」
そう言ったら、あの無表情な勇者の顔はどのように歪むのだろうか?
───あぁ、楽しみだ。
───trueside
「今から全学年合同武闘大会を始める!みな、誠心誠意取り組むように!私からは以上だ!」
そんな学園長の宣言とともに、開始のファンファーレが鳴り響く。流石は日本国内屈指の共学高であると言えよう。
───さて、本題に戻るとしよう。
現在の俺の状況を説明すると、朝起きて、学校行って、気付いたら何故か武闘大会の開始の宣言が始まっていた、辺りだろうか。
ふむ、つまり
「どゆこと?」
まったく分からん。わけわからん。
ただみんなそれぞれ各自の戦闘服を持ってるのか、めちゃくちゃピッタリフィットしていて、非常にエロチズムを感じる。
ありがとう、と思わず拝んでしまった俺は変態だろうきっと。
暫く拝んでいると。俺が困ってると思って助けようとしてくれたのか、クラスメイトの1人が声をかけてきた。
「あぁ、水無月さんは転校してきたばっかで、年に2回ある武闘大会のこと知らないんだっけ?」
「ぶ、武闘大会?」
なにその物騒な大会。実は名前に反して、競うのは胸のデカさだったりしないだろうか?
ないな、うん。絶対無い。
「えとほら、大人数で戦って最後に残った人達で勝ち残りのトーナメントをするってやつ……あれ、もしかして知らない?」
……なるほど、向こうの世界でいうコロッセオみたいなもんか。
「って、え!?そんな入学していきなり?」
「うん。ほら昨日の測定だって、明日の武闘大会に出れるかの事前調査みたいなもんだよ?んで合格してたら強制参加」
「え、じゃ僕は?」
「水無月さんも多分……強制じゃない?」
なんじゃそれ……。
目の前で話してくれているクラスメートの“
つまり今度こそ男子の意地を見せて俺tueeeしろってことだろう。
「フッ。つまり僕の出番のようだな」
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