プレイしていたVRカードゲームの世界にTS転生したらしい ~カードゲーマーは異世界でもカードから離れられない~ (黒点大くん)
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一枚目 よくある異世界転生

 カードジョブオンラインは一日にできる時間が決まっていて、時間を過ぎたらログイン出来ないスリープ状態になる。

「もう少しでスリープ状態だな」

 町にワープして宿屋で眠りについた。

「そういえばここ一年夢を見たことがないな」

 学校にも行った記憶がねえ。単位ヤバいな。……まぁそんなことは今は気にせずに寝よっと。

 

 起きたら空が映っている部屋の中にいた。

「プロジェクターか何かで投影しているのか?」

 飛行機が動いているからこれはきっとリアルタイム映像だな。

 

 よく見るとカードが宙に浮いている。

「CGにしてはリアルだし糸か何か釣ってんのかな?」

 カードに触れようとしたけどカードが真っ二つになってさわれなかった。

「どうなってんだこれ」

 真っ二つになったカードは元に戻る。

 

 カードからたくさんカードが出てきて積み重なり人型になった。なんかのマジックか何か?

「山布田努郎くん。君は死んでしまった。いや実際のところ死後一年放置してたけど。君の魂はVRカードゲーム カードジョブオンラインを別性のアバターでプレイしていたときに死んだから電脳空間でさまよっていたんだ。そして今日ようやく見つけたってことさ」

 なんかのドッキリだろこれ。

「すでに俺は死んでたってことか? じゃあ死因を教えてくれよ」

「いつの間にか死んでいたらしい。まあ死後100日過ぎたら記録が一定期間しか現れなくなるからしかたないね。人間の死因なんざいちいち覚えることができるほど暇じゃないからね」

 設定がいい加減すぎるな。俺ならもうちょっと設定を練るけどな。

 

 まあいいや。ドッキリなら帰れるだろ。

「質の悪いドッキリだったな。じゃあ帰らせてもらいますね」

「帰っていいよ。帰れるならね」

 ドアに向かった。

 

 わりと簡単に出られるな。なにが帰れるならねなんだ?

「お疲れ様でーす」

 ドアに近づこうとしたけれど何かにぶつかって出られなかった。

「これはドッキリじゃないよ。だって今の人類の技術では水より透明な壁は作れないからね」

 ドアの絵が壁に描いてあっただけだろ。トリックアートだよ。

 

 人型のカードが歩いてこっちにやってきた。よくできた着ぐるみだな。

「これで信じてくれるかい?」

 人型のカードと握手した。まるでカードみたいな感触だな。

「着ぐるみだな」

 人型のカードが崩れてカードの山になった。カードの山はもう一度人型のカードになる。

「これで信じてくれたね」

「ああ。こんなマジック人間にはできない」

「そもそもこの部屋通気口も窓もドアもないから生きたままだと入れないんだけどね」

 よく見ると確かにドアは壁に描かれた絵だな。でも絵の前に見えないけど確かに透明な壁がある。

 

 ていうことは俺は死んだのか。こんなに手の込んだ趣味の悪いドッキリは地上波放送出来なさそうだからな。

「まあそうだね。君は面白そうだから僕の作ったフダショクという世界に転生させよう」

「よくある異世界転生小説か。そこでなにをすればいいんだ? ハーレムか? 借り物の力を自分の力のように使えばいいのか?」

「僕はそこまで過保護じゃないよ。努力した結果を発揮してもらうのが好きだからね。それに生き方も縛るつもりはない。まあそのせいで異世界転生者がよく死後の世界に戻っちゃうんだけどね」

「なるほど。分かった」

 こいつ、ものすごく不安だ。

 

 人型のカードはカードを一枚投げた。カードから杖が出る。

「一つ教えてあげよう。君が生前はまっていたVRカードゲームのカードジョブオンラインは実は僕が作ったフダショクという世界をモチーフにフダショクからの転生者が作ったものなんだよね」

「それは知らなかった」

 ということはこいつが作った世界は西洋風ファンタジーカードゲーム世界なのか。よくある異世界転生小説だな。

 

 視点が低くなった。

「そういえば君は前世では幼い女の子をアバターにしてプレイしてたね。君のデッキとその見た目で異世界に転生させよっか。慣れてる方で転生した方がいいもんね」

 目の前に鏡が現れると美幼女が映っていた。その美幼女は間違いなく俺が4時間かけてキャラメイクしたアバターそのものだった。

「デッキはどんな感じかな」

 声もちゃんと高くなってる。デッキの方も再現度100パーセントだな。完璧だぁ。

 

 人型のカードがコイントスをする。

「ああそうだ。フダショクで僕を批判するのはやめておいた方がいい。なにせ僕はフダショクで起きたことがすべて分かる。自分の悪口を聞くのは結構メンタルに来るんだよ」

「おお分かった」

 こいつのために批判しないでおこう。

 

「なるべく面白くしてね」

 いつの間にか俺は森の中にいた。涼しい風とリアルな匂いそして足裏にかかる微妙な重量、どれもカードジョブオンラインにはないものだ。それを感じられるなんて……本当に異世界に転生したのか。両手を握って感触を確かめる。

 

 茂みからリアルな音が聞こえる。

「なんだ?」

 デッキを構えた。カードジョブオンラインの世界観に倣うならこうするのが一番安全だ。



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二枚目 フダショク

 茂みから何かが出てきた。これはヘビ……じゃなくて紐?

「トバクファイトエントリー」

 後ろを見ると革のデッキケースを持った男たちがいた。怖い見た目だなあ。

 

 男のデッキケースからカードが出てきて浮き、シャッフルされる。そして束になって宙に浮いた。

「うわ」

 俺のデッキケースからもカードが出てきて浮き、シャッフルされる。そして束になって宙に浮いた。

 

 男たちは笑う。

「こんな女の子からも身ぐるみをはごうだなんてお頭も容赦ないですね」

「ガキはこういうカードでのやりとりに弱い。カードでのやりとりは犯罪にならねえから金持ちのガキは金の詰まった袋にしか見えないんだ。アイツの服は良い素材だから金持ちだろう」

 カードでのやり取りか。たしかカードジョブオンラインにもカードやらアイテムやらを敗者から奪うトバクファイトがあったな。

 

 男たちは武器を構えた。

「この挑戦を受けなきゃ身ぐるみはいで土に埋めてやる。少しでも長生きしたかったらどうすればいいかわかるよな?」

 トバクファイトはかけ声で許可を取る必要があるんだっけ。こういう風におどされりゃ強制じゃねえか。

「エントリーオーケー」

 互いに山札の上から五枚カードを引く。

 

 カードジョブオンラインにはジョブというものが存在する。最初に五枚山札の上から引いた後互いにジョブを明かすのがルールだ。

「俺は盗賊だ」

 盗賊は攻撃型のステータスのジョブで戦闘中に一度だけ相手の手札を見ることができるジョブだ。

「俺はコスプレイヤーだ」

 コスプレイヤーは条件を満たして場のモンスターの攻撃力と防御力を戦闘中に一度だけコピーできる以外特徴のないジョブだ。

 

 男のデッキケースが赤く光る。

「俺が先攻らしいな。ターンスタート」

「まあいいや」

 先攻の一ターン目は攻撃が出来ずドローも出来ない。

 

 男は手札を一枚コストゾーンに置いた。

「チャージ。ターンエンド」

 特殊な手段を使わない限りコストゾーンには一ターンに一枚しか手札を置けない。やることもないからターンエンドするのは当然。

 

 1ターン目に動くようなデッキじゃないんだよなあ。

「ターンスタート」

 山札の上から一枚引いて手札を一枚コストゾーンに置いた。

「チャージ。ターンエンド」

 

 男の二ターン目。

「ターンスタート。チャージ。コスト2で盗賊ゴブリンを召喚」

 カードが1メートルくらいになって盗賊ゴブリンのイラストがカードから出てきた。ペラペラだなあ。

 

 モンスター コスト2 盗賊ゴブリン 種族:妖精 

 効果:なし

 攻撃力:2 防御力:1 生命力:3

 

 盗賊ゴブリンは普通なら歯牙にもかけない相手なんだけどコスプレイヤーだと話は別だ。

「なんか知らねえけどお前の防御力は0だ。盗賊ゴブリンでプレイヤーにアタック」

 

 生命力10→8

 

 カードジョブオンラインは攻撃力が相手の防御力を超過した分だけ相手の生命力を減らすことが出来て、0になると場から離れる。ジョブにも生命力と攻撃力と防御力が設定されていて、よほどのことがない限り相手プレイヤーの生命力が0になった時もしくは山札が0枚以下になった時に勝てる。普通のジョブなら攻撃力と防御力の合計は4以上あるが、コスプレイヤーは攻撃力も防御力も0だ。

「まともに防御できねーのはシャクだがそれに見合うだけの強さがあるからな」

 このデッキは生命力が4以上なら問題ない。

「ターンエンド」

 

 俺の二ターン目。手札にモンスターが1枚もない。事故ったな。

「ターンスタート。チャージ。コスト2で魔法メガチャージを発動」

 このターン使ったコストも次のターンには使えるからな。コストをためていこう。

 

 魔法 コスト2 メガチャージ 

 効果:山札の上から一枚コストゾーンに置く。

 

「ターンエンド」

 次のターンに来ることを祈る。 

 

「ターンスタート。チャージ。コスト2で盗賊ゴブリンを召喚。盗賊ゴブリンでプレイヤーにアタック」

 生命力8→6

「もういっちょ。盗賊ゴブリンでプレイヤーにアタック」

 生命力6→4

「ターンエンドだ。ここまでくると俺が攻撃しなくてもよゆーだな」

 このままだと倒れる。

 

 ギリギリだな。俺の三ターン目だ。これを使うか。

「ターンスタート。ドローする前にこれを使わせてもらう。コスト0で魔法 超絶博打」

 

 魔法 コスト0 超絶博打

 効果:ターンの最初に自分の生命力が4以上なら自分の生命力を残り1にしてよい。そうしたときデッキから好きなカードを1枚持ってきてから山札の上から1枚をコストゾーンに置きシャッフルする。このカードは1ターンに1枚しか使えない。

 解説:棺桶に両脚を突っ込んで勝利を求める大博打。

 

「自分から生命力を減らしやがったぜ」

「どうせ次には0になるんだ。1でも4でも誤差だよ誤差」

 デッキから俺のデッキのエースを呼ぶぜ。

 

「ドロー。チャージ。コストを198軽減して2で滅龍アジ・ダハーカを召喚」

 カードが10mくらいに巨大化して三つ首の龍になった。これが俺のデッキのエースだ。

 

 モンスター コスト200 滅龍アジ・ダハーカ 種族:ドラゴン、魔龍

 効果:自分の生命力が1の時コスト2のモンスターとして扱う。相手と自分のターン終了時にこのカードに2ダメージ。このモンスターは効果を無効化されず、このモンスターの生命力が0にならない限り場を離れない。このモンスターは攻撃できない。このカードは生命力を回復できない。デッキか手札か墓地からカードを使用したときこのカードにダメージ4。このカードが場から離れたとき自分は戦闘に負ける。

 

 攻撃力:15 防御力:10 生命力:30

 

「コスプレイヤーは条件を満たして場のモンスターの攻撃力と防御力を戦闘中に一度だけ永続コピーできる。自分の場のモンスターを1枚選んでそのモンスターと同じコストを支払ってからそのモンスターを手札に戻すことが条件なんだよ」

 滅龍アジ・ダハーカは生命力が0にならない限り場を離れないから実質ノーリスクだ。

「インチキじゃねえか。ずるいぞ」

「弱点はないことはないんだよね」

 生命力が1になるからバーンダメージで死ぬ、準備が整うまでに速攻に轢き殺される、ライフが3以下になったらデッキがカードの束になる等々の弱点がある。



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三枚目 リアルファイト

 俺は盗賊ゴブリンに攻撃して倒した。サンドバッグを殴っているような感覚があるぞ。

「ターンエンド」

 男の四ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト4でゴブリンサモナーを召喚する」

 

 コスト4 ゴブリンサモナー 種族:妖精

 効果:ゴブリンと名の付くモンスターのコストを2減らす。

 攻撃力:3 防御力:1 生命力:5

 

「ターンエンド」

 次のターンで決めるつもりだな。

 

 俺の四ターン目だ。

「ドロー。チャージ。俺はコスト3でムゲンラッシュを使用する」

 

 魔法 コスト3 無限ラッシュ 

 効果:プレイヤーかモンスターを選ぶ。選んだ対象はこのターン中バトルに勝てばもう一度攻撃できる。

 説明:無限の拳の連打から逃れることかなわず

 

 滅龍アジ・ダハーカ 生命力30→26

 

 

 カードジョブオンラインは相手モンスターを全滅させないとプレイヤーに攻撃できないからな。

「俺を選ぶぜ」

 しゃあ! 無限攻撃。

「俺はゴブリンサモナーに攻撃する」

 ゴブリンサモナーをパンチで倒す。ゴブリンサモナーは光の粒子を出して消え去った。

 

 もう一度攻撃。

「俺は盗賊ゴブリンに攻撃する」

 盗賊ゴブリンを倒した。

「とどめ! プレイヤーに攻撃する」

 男にパンチを放って木にたたきつけた。

 

 滅龍アジ・ダハーカと大きいカードが消える。

「ゆーうぃん」

 盗賊男いきなりどうした。気分が変わったんか。

 

 盗賊男は木から離れた。

「構わねえ。トバクファイトで負けても俺たちには失うもんがねえんだ。カードファイトをせずに奪っちまえ」

「そんなのありかよおい!」

 カードで戦っておいて負けたからリアルファイトかよ。

 

 まあカードが実体化してるしカードの力は残ってるでしょ。

「えーい」

 ぽふっ。あまりダメージなさそうだね。

「ぶっ殺すぞクソガキ」

 痛っ。おなか、しぬ……

 

 げほっ。これはマジでまずい。

「誰か……助けて」

 デッキケースを取られた。

「ついにやったか。お縄につけ」

 鎧を着た男の人がデッキケースをはたきおとして、盗賊たちを縄で縛った。

 

 こういう強さが欲しい。

「俺たちは見つからねえようにやってるはずなのに、なんで見つかったんだ?」

「今までは合法だから見逃してやっただけだぞ。さすがに暴行してモノを取るのは犯罪だ」

 盗賊のくせに今まで律儀に法を守ってたのか。

 

 鎧を着た男の人に何か飲まされた。痛みがすっかりなくなったぞ。

「囮みたいにしたお詫びの痛み止めだよ。さすがに法律破ってないやつらをお縄にかけることは出来ないからね」

「なるほど」

 エサにされたってわけだ。

 

 鎧を着た男の人に腕を持ち上げられて起き上がった。

「カードの力は凄まじい。常人なら反動のせいで五枚までしか使えないが、何十枚も使える体質の者がここ最近増えていてな。カードの力で脅迫して物を奪い取る合法強盗はこいつらの他にもいるんだ」

 合法と強盗という矛盾するはずの単語が組み合わさってるのほんとわけわかんねえ。異世界であることを改めて確認したよ。

 

 鎧を着た男の人はポケットからカードを取り出した。

「きらきらほうきぼし 召喚」

 足の生えたほうきが出てくる。

 

 足の生えたほうきに座らされて比較的スムーズに森の中を進む。

「さっきのあのドラゴンはなんなんだ?」

 アジ・ダハーカのことか。

「滅龍アジ・ダハーカというカードで俺の相棒です」

 アジ・ダハーカは強いしかっこいいしロマンがあるし最高のカードだと思う。

 

 鎧を着た男の人はあごを撫でた。

「私のお嬢様に仕えてみる気はないか?」

「どういうことだよ」

 思わずため口になるほどの驚き。アジ・ダハーカからどうやってお嬢様につながるんだよ。

 

 鎧を着た男の人は何かに気が付いたような顔になる。

「休暇の時も仕事を考えるなんていかんな」

 そういう問題じゃねえよタコ。

「そういえば名乗ってなかったな。私はマイス。ここの領主であるピンハネル伯爵家に仕えているものだ」

「俺はドロウです」

 ピンハネルとかゲスイ名前ですねえ。

 

 マイスさんに白いカードを渡された。

「ちなみにピンハネル伯爵はカネスキお嬢様のカードの家庭教師を探している。お嬢様はカードを何十枚も使える体質だからな。素人目から見てもお嬢様のカードさばきはあまりいいとは言えない。しかしながら未だにカードの家庭教師が決まっていない」

「だから腕のいい奴らを探していたら、偶然俺を見つけたってことか」

「そういうことだ。お給金もたくさん出るし、なにより安全だぞ」

 安全なのか。それはいいかもしれないな。

 

 デッキケースを空中でジャグリングする。

「その話乗りましたよ」

「そうか。ワープゲート」

 マイスさんがカードを出すとでっかいお屋敷の前にいた。

 

 でっかいお屋敷の門が開いて中に連れられる。

「広いですねえ」

 きらきらほうきぼしから降りるときらきらほうきぼしは消えた。

 

 マイスさんの案内に従っているとひときわ豪華な扉の前にいた。

「ここが中庭だ。お嬢様はよくここにいらっしゃる」

 なるほどなあ。

 

 マイスさんは扉をたたく。

「失礼します」

 扉が開くと豪華なドレスを着た女の子がいた。

「よくわたしがここにいることが分かったね」

「お嬢様はよく中庭にいらっしゃいますから。家庭教師の方を連れてきました」

 女の子の前に突き出される。

 

 女の子はつぶらな瞳をぱちくりさせた。

「こんな子がわたしの家庭教師なの?」

「実力は試してみなければ分かりますまい」

 女の子はデッキケースを構える。



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四枚目 タイターニア

 デッキを構えた。

「「カードファイトエントリー」」

 デッキケースが勝手に開く。

 女の子のデッキケースからカードが出てきて浮き、シャッフルされる。そして束デッキになって宙に浮いた。

「いきますわ」

 俺のデッキケースからもカードが出てきて浮き、シャッフルされる。そして束デッキになって宙に浮いた。

 

 山札の上から五枚引く。

「わたしは騎士ですの」

 騎士か。騎士は攻撃力がない代わりに、防御力が4もある厄介な職業だ。

「俺はコスプレイヤーだ」

 なんだそれと言った目をしているぞ。

 

 俺のデッキケースが赤く光った。 

「あなたの先攻ですわね」

「ターンスタート。チャージ。ターンエンド」

 先攻の一ターン目にやることはない。

 

 

 ……あっさり勝った。デッキを見せて貰ったらコストの重いモンスターと魔法しかなかったからな。

「よわすぎ」

 エース級のカードがたくさんあって、逆に弱い。歩のない将棋は負け将棋なのだ。

 

 カードがいっぱいあったら調整できるんだがな。

「妖精族が多めだな。わりと良い感じのカードだしカードがあれば調節できたんだけどなぁ~」

 まさかタイターニアとオベロンがあるとは思わなかった。妖精デッキの必需品なんだよなあ。

 

 いきなり工具箱が出てくる。

「なんだこれ」

 工具箱を開けると大量のカードが入っていた。前世で俺が持ってたカードばかりだ。

「高次元のスピードラット、レッドリスト、LCロープコード、知らないカードばかりですのね」

 目を輝かせていた。

「だろ。マイナーカードなんだよね」

 工具箱のカードに触れると工具箱の中に入ってるカードがよく分かった。

 

 俺が前世で手に入れたカードたちだな。使わないから放置してたんだっけ。

「ちょっとデッキ借りるよ」

 デッキからタイターニアとオベロン以外を抜いてから適当にカードを追加していって理想形にできた。

 

 デッキを投げ返す。

「危ないですわ」

「だいたいの調整は出来た。もう一回やってみよう」

「分かりましたの」

 

 デッキを構えた。

「「カードファイトエントリー」」

 デッキケースが勝手に開く。

 女の子のデッキケースからカードが出てきて浮き、シャッフルされる。そして束になって宙に浮いた。

「いきますわ」

 俺のデッキケースからもカードが出てきて浮き、シャッフルされる。そして束になって宙に浮いた。

 

 山札の上から五枚引く。

「わたしは騎士ですの」

「俺はコスプレイヤーだ」

 前回はコスプレイヤーの力を使うまでもなく倒したからなあ。

 

 女の子のデッキケースが赤く光った。

「わたくしの先攻ですわね。ターンスタート。チャージ。ターンエンド」

 先攻の一ターン目にやることはない。

 

 俺の一ターン目だ。

「ターンスタート。ドロー。チャージ」

 おっ。アジ・ダハーカが来たぞ。やったね。

「ターンエンド」

 あとは超絶博打が来れば言うことなしだ。

 

 女の子の二ターン目だ。

「ターンスタート。ドロー。チャージ。コスト2でメガブーストですわ。そしてターンエンド」

 ここまで来てモンスターを出さないとか手札事故かな。

 

 俺の二ターン目だ。 

「ターンスタート。ドロー。チャージ。コスト2でメガブーストを使用する。ターンエンド」

 博打がなかなか来ないな。

 

 女の子の三ターン目だ。

「ターンスタート。ドロー。チャージ。コスト3でシャベル妖精を召喚ですわ」

 

 コスト3 シャベル妖精 種族:妖精

 効果:このモンスターが場に出た時、自分の山札の上から1枚目をコストゾーンに置く。

 攻撃力:2 防御力:1 生命力:3

 

 次のターンでコスト6か。

「ターンエンドですわ」

 次のターンからタイターニアが来てもおかしくないな。

 

 俺の三ターン目だ。

「ターンスタート。ドロー。チャージ。コスト4で電卓小僧を召喚」

 

 コスト4 電卓小僧 種族:メタルアヤカシ

 効果:このモンスターが場に出た時、自分の山札の上から3枚を墓地に置いてもよい。そうした場合、魔法を1枚自分の墓地から手札に戻す。

 説明:算盤でミスしたから電卓を使うことにした。

 攻撃力:2 防御力:3 生命力:4

 

 いちにのさん。超絶博打来い。

「来なかったか」

 代わりにムゲンラッシュが来たぞ。

 

 ターンエンドしとくか。

「ターンエンド」

 

 女の子の四ターン目だ。

「ターンスタート。ドロー。チャージ。コスト6でタイターニアを召喚ですわ」

 

 コスト6 タイターニア 種族:妖精、ザ・シェイク

 効果:コストゾーンに表向きにして置かれている種族:ザ・シェイクのモンスターをコストを支払って場に出すことができる。

 攻撃力:4 防御力:2 生命力:8

 

 オベロンとパックを合わせれば手札を実質1コスブーストできちゃうのがおそろしい。

「ターンエンドですわ」

 オベロンもすでに引いてたりしてないよね。

 

 俺の四ターン目だ。

「ターンスタート。ドロー。チャージ。ターンエンド」

 やることがねえ。

 

 女の子の五ターン目だ。

「ターンスタート。ドロー。チャージしないでターンエンドですわ」

 チャージしないことも選択肢だからな。

 

 俺の五ターン目だ。

「ターンスタート。ドロー。チャージ。コスト6でクワトロブーストを使用する」

 

 コスト6 魔法 クワトロブースト

 効果:山札の上から4枚引く。

 

 これで来い。

「来い。来い。来い」

 どれどれ。

 

 うーん来たぞ。

「でもコスト足りないからターンエンド」

 アジ・ダハーカが出せねえ。



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五枚目 謎勝利

 女の子の六ターン目だ。

「ターンスタート。ドロー。チャージ。妖精王オベロンを召喚ですわ」

 

コスト7 妖精王オベロン 種族:妖精、ザ・シェイク

効果:このモンスターが場にいるとき種族:妖精のモンスターが破壊されたら、墓地に置く代わりに表向きにしてコストゾーンに置いてもよい。

攻撃力:4 防御力:4 生命力:7

 

 うわでた。もう俺の負けで良いよ。

「ターンエンドですわ」

 あらら。パックは出さないのね。まあそれそれでありがたい。パックが出されないなら詰みじゃないからな。

 

 俺の六ターン目だ。

「ターンスタート。ドロー。チャージ。ターンエンド」

 超絶博打が来た。なかなか来なかったな。超絶博打以外にも自傷系のカード入れた方がいいな。流石にピン刺しじゃマズい。

 

 女の子の七ターン目だ。

「ターンスタート。ドロー。チャージ。いたずら妖精パックを召喚ですわ」

 うわでた。

 

コスト3 いたずら妖精パック 種族:妖精、ザ・シェイク

効果:このモンスターが場に出たとき、このモンスターを破壊してもよい。そうしたら山札から一枚コストゾーンに置く。

攻撃力:0 防御力:0 生命力:2

 

「いたずら妖精パックを破壊」

 ここからすげえ加速をするんだろうな……ってしないのかよ。助かった。

「妖精王オベロンで電卓小僧に攻撃」

 爆アドコストブーストが飛んでこねえ。

 

 プレイミスをしてくれて助かったぜ。

「ターンエンドですわ」

サーチカードももう少し欲しいな。

 

俺の七ターン目だ。

「ターンスタート。超絶博打」

生命力10→1

 

いつもの。

「ドロー。チャージ」

ムゲンラッシュを持ってきてからこいつを召喚する。

「コストを198軽減してコスト2で滅龍アジ・ダハーカを召喚。そしてコスプレイヤーの力を使う」

射程圏内だ。

こいつでトドメだ。

「コストを3払ってムゲンラッシュを俺に使う」

モンスターを全滅させた。

 

女の子は殴りたくねーな。

「じゃあこうしよ」

右手を高速で動かして衝撃でダメージを与えた。

 

パンチでも衝撃でも与えるダメージは変わらないのか。じゃあその場に留まって衝撃波を放った方が強キャラ感でるな。

「俺の勝ちだ」

「何今のカード。ズルいですわ」

 まあコストを198削減するカードだもんなあ。ズル扱いされないわけがないか。それにデッキの内容も分かってたから勝てて当然と言いたいのかもしれない。

 

 デッキは……変えられるな。よしこのデッキで行こう。

「じゃあ今度はあのカードは使いません」

「分かりましたわ」

 今度はズルいと言われませんように。

 

 

 ……なんとか負けずに済んだ。疲れたぞ。

「??????????」

「今度はインチキしてないもんね」

 ちゃんとカードの効果だから。

 

 女の子に手を握られた。

「分かりましたわ。あなたを私の家庭教師と認めます。私の名前はカネスキ・ピンハネルですわ。あなたの名前は?」

 ようやく実力を認めてもらったか。

「俺はドロウです」

 一昨日の俺に貴族のお嬢様の家庭教師になるなんて言ったら、絶対否定する。

 

今日一日色々あって疲れた。 

「すっげえ広い部屋も貰ったし寝るか」

デカいソファで寝た。

 

起きた。知らない天井だ。

「確か家庭教師になったんだっけ」

そうか。

 

 

何事も起きないまま三日経過した。

「強いデッキは作れたけど、お嬢様は大型モンスターをとにかく使いたい性格って分かった以上いつデッキが飽きられるか分かんねえんだよなぁ」

飽きたら平気でデッキを捨てそう。

 

部屋のドアが勢いよく開いた。

「何事っ?」

豪華なドレスを来た黒髪の女の子が入ってきた。気の強そうな子だな。

 

気の強そうな女の子が駆け寄って、転びそうになった。

「ギリギリセーフ」

 何とか転ばないように出来た。うぎゃー腕が潰れる。冷静に考えると30キログラム幼女の平均体重プラスドレスが重くないわけが無いだろ。

 

気の強そうな女の子は起き上がった。

「ありがとね。あんたのことはカネスキから聞いてるわ。バトルしましょ」

気の強そうな女の子はデッキケースを構えた。

 

展開が早すぎてまるで意味が分からない。

「お嬢様の友人ですか?」

「そうよ。それがなにか?」

怪しいやつではないんだな。

 

お嬢様の友人ならお嬢様が相手した方が楽しいだろ。

「お嬢様とは遊ばないのかなーって思っただけです」

「いつもはカネスキに勝ってたのに、今日に限って五連敗もしたのよ。急に強くなったからどうしたのか聞いたら、あんたのことを聞いたってわけ」

マジかよ。

 

そういう事か。

「デッキを改造してデッキを強化しただけですよ。実力は大したことは無いです。良かったらあなたのデッキも強化してあげますよ」

「誤魔化されないわ。カードファイトエントリー」

こうなったら仕方がない。大人気なくぶっ潰すだけだ。

「エントリーオーケー」

戦いの時だ。

 

俺が後攻になった。

「わたしのターン。ターンスタート。チャージ。コスト1でスピードラットを召喚」

 

コスト1 スピードラット 種族:フラムビースト

効果:このモンスターは可能な限り攻撃する。

 

攻撃力:1 防御力:1 生命力:2

 

「相性が悪いな」

速攻デッキで親の顔より見た展開になるってハッキリ分かる。



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六枚目 エネミーヒーリング

「ターンエンド」

 どうしよう。

 

 俺の一ターン目だ。

「ターンスタート。ドロー。チャージ」

 デッキ変えてなかった……

 

 今引いたやつをだすか。

「コスト1で薬草アルラウネを召喚」

 

 コスト1 薬草アルラウネ 種族:シンキングプラント、ヒーラー

 効果:このモンスターがダメージを与えるなら、かわりに相手プレイヤーの生命力を2回復する。このモンスターは可能な限り攻撃しなければならない。

 攻撃力:4 防御力:2 生命力:4

 

「変な効果ね!」

「後悔しろ。薬草アルラウネでスピードラットに攻撃」

 生命力10→12

 

 俺の勝ちは揺るがん。

「ターンエンド」

「わたしのターン。ターンスタート。ドロー。チャージ。コスト2でメガラビットを召喚」

 コスト2 メガラビット 種族:フラムビースト

 効果:種族:フラムビーストの召喚コストを1軽減する。

 攻撃力:2 防御力:2 生命力:3

 

「ターンエンド」

 次はなにが出るのかな?

 

 俺のニターン目。

「ターンスタート。ドロー。チャージ。コスト2で癒しの使い手を召喚」

 

 コスト2 癒しの使い手 種族:ヒューマガイ、ヒーラー

 効果:相手プレイヤーが回復する時、回復数値を倍にする。このモンスターは攻撃できない。

 攻撃力:0 防御力:3 生命力:4

 

「薬草アルラウネでスピードラットに攻撃」

 生命力12→16

 

 女の子は困惑している。

「何がしたいの?」

「ターンエンド」

 楽しみにしてろ。

 

 女の子の三ターン目だ。

「ターンスタート。ドロー。ターンエンド」

 いくら速攻でも頑丈な壁が目の前にあればどうしようもない。実際コスト2で防御力3生命力4はインチキだと思うの。

 

 俺の三ターン目だ。防御力が高いと攻撃通らないからね。攻撃を多少受けないと困るので、風通しを良くしよう。

「ターンスタート。ドロー。チャージ。コスト3で素通り門番を召喚」

 

 コスト3 素通り門番 種族:ヒューマガイ、ガーディアン

 効果:他のプレイヤーとモンスターは自分に直接攻撃出来る。このモンスターは攻撃できない。

 攻撃力:0 防御力:4 生命力:5

 

「薬草アルラウネでスピードラットに攻撃」

 生命力16→20

 

 何がしたいか分からないだろ。俺もこのデッキを相手した時はわけが分からなかった。

「一回でなんとか理解出来たお嬢様が凄いんだよなぁ。ターンエンド」

 女の子の四ターン目だ。

「ターンスタート。ドロー。チャージ。コストを1軽減してコスト4で月光ゲッコーを召喚」

 

 コスト5 月光ゲッコー 種族:フラムビースト

 効果:なし

 攻撃力:3 防御力:2 生命力:5

 

「月光ゲッコーでプレイヤーにアタック」

 生命力10→7

「ターンエンド」

 

 よし。トリプルドローが来たぞ。俺の四ターン目だ。

「ターンスタート。ドロー。チャージ。コスト1で薬草アルラウネを召喚。薬草アルラウネで月光ゲッコーに攻撃。さらに月光ゲッコーに攻撃」

 生命力20→28

「ターンエンド」

 

 女の子の五ターン目だ。

「ターンスタート。ドロー。チャージ。月光ゲッコーでプレイヤーにアタック」

 生命力7→4

「ターンエンド」

 引きが悪かったのかな?

 

 俺の五ターン目だ。

「ターンスタート。ドロー。チャージ。コスト4でトリプルドローを発動」

 

 魔法 コスト4 トリプルドロー

 効果:山札の上から三枚引く。

 

「二体の薬草アルラウネで月光ゲッコーにアタックしてターンエンド」

 生命力28→36

 引きたいカードはトリプルドローで引けました。

 

 女の子の六ターン目だ。

「ターンスタート。ドロー。コストを1軽減してコスト4で月光ゲッコーを召喚」

「月光ゲッコーが一番強いカードなのかな?」

「そうよ。月光ゲッコーでプレイヤーにアタック」

 生命力4→1

 

 よし。

「この時手札からコストを5軽減してコスト0で強制終了を発動」

 

 魔法 コスト5 強制終了

 効果:相手プレイヤーの生命力が30以上で生命力が自分の生命力の10倍以上の時相手のターンに使用できる。更に生命力が20倍以上ならコスト0で使用できる。すべてのモンスターとプレイヤーの生命力は0になり、山札は全て墓地に置かれる。

 

 女の子は口を開けたままポカンとしている。

「確かにこれをやられたら負けたような気分になるよなぁ。実際誰も勝ってないし負けてないけど」

 これをよく使うような奴は殺されても文句は言えねえと言われているほどの害悪カードなんだよね。初めに出たときは使うには結構条件がだいぶ厳しいカードだったのにヒーラーを積めば簡単に使えるようになったのがなおのこと悪いと思う。

 

 女の子はようやく何かに気が付いたような顔をした。

「勝ったと思ったらなぜかこうなったんだけど」

 これでいいか。

 

 デッキを変えた。

「どうやって勝つか考えていないと足元を掬われるってよく分かったよね」

「うん。分かった」

 それらしいことを言ってごまかせたぞ。

 

 気の強い女の子はソファに座った。

「私はラーナ・フラム。フラム家の次女。フラム家はピンハネル家と同じ伯爵家よ」

「へー。そうなんだー」

 ……ってお偉いさんのところのお嬢様じゃねえか。今までの応対はまずかったんじゃ……

「問題ないわ」

 さり気なく心を読むの怖い。

 

 窓ガラスが割れて、覆面をした人が入ってきた。

「俺はカードハンター。お前の持っている滅龍アジ・ダハーカをもらいに来た。トバクファイトエントリー」

 どっかで聞いたことがある声だな。どこだろ。

「いきなり何なんだ」

「レアカードを求めてなんでもする組織だ。だから貴族令嬢を人質にしたりする」

 ラーナが縛られて首にロープが巻き付く。

 

 

「俺とトバクファイトで戦え」

「分かった。トバクファイトエントリー」



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七枚目 バーンマジシャン

 互いに職業を宣言すると不審者のデッキが赤く光った。俺はコスプレイヤーで不審者は暗殺者だな。暗殺者は攻撃力0、防御力2で一回だけ相手モンスターを破壊する効果を持っている。

「チャージ。ターンエンド」

 俺の一ターン目だ。

「ドロー。チャージ。ターンエンド」

 

 不審者のニターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト1でチャイルドワイバーン召喚」

 

 コスト1 チャイルドワイバーン 種族:フラムビースト、ドラゴン

 効果:このモンスターは可能なら攻撃しなければならない。

 攻撃力:0 防御力:1 生命力:2

 

 ドラゴンテーマか。

「チャイルドワイバーンで攻撃。ターンエンド」

 

 俺の二ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト2でメガチャージを使用。ターンエンド」

 

 不審者の三ターン目だ

「ドロー。チャージ。コスト3でバーンゲートを使用する」

 

 魔法 コスト3 バーンゲート

 効果:コストの合計が4以下になるように山札からバーンと名の付くモンスターを召喚してもよい。そうしたら山札をシャッフルする。

 

 燃えている扉が現れて開いた。

「このカードの効果でバーンマジシャンを場に出す」

 

 コスト4 バーンマジシャン 種族:ヒューマガイ、ウィザード

 効果:このモンスターが場に出たとき手札の魔法カードを一枚捨ててもよい。そうしたら相手に1ダメージ

 攻撃力:0 防御力:2 生命力:4

 

 開いた扉の中から燃えている杖とローブと靴が現れて扉が消えた。

「バーンスマッシャーを捨てる」

 

 魔法 コスト5 バーンスマッシャー

 効果:相手モンスターに2ダメージを与える。手札から捨てられた時相手プレイヤーに1ダメージ。

 

 効果ダメージバーンで生命力を焼き尽くすバーン型だな。生命力が2も削れたぜ。

「チャイルドワイバーンで攻撃」

「効かぬわ」

 

 

 俺の三ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コストを2軽減してコスト4でアブゾーブワイズマンを召喚する」

 コスト6 アブゾーブワイズマン 種族:ヒューマガイ、ウィザード

 効果:このモンスターは前のターンに受けた効果ダメージ分召喚コストを軽減する。一ターンに一回だけ効果ダメージを無効化して、山札の上から一枚ドローする。

 攻撃力:4 防御力:2 生命力:4

 

 必須パーツの少なさ故に色々付け足せるのがアジ・ダハーカメインデッキの強みだからな。バーンダメージの対策もしていない訳がないだろ。

「速攻対策は割としにくいから、速攻デッキで挑めば良かったな」

「問題ない。自分のタクティクスを貫くだけだ」

 どういうことだよ。

「アブゾーブワイズマンでバーンマジシャンに攻撃」

 あと一回だな。

「ターンエンド」

 これで迂闊にバーン出来まい。

 

 不審者の四ターン目だ。

「ドロー。コスト3でバーンの再来を使う」

 魔法 コスト3 バーンの本棚

 効果:このカードは自分の場に置き続ける。一ターンに一回だけ自分の墓地のバーンと名の付く魔法を一枚手札に加えてもよい。そうしたら自分の場のバーンと名の付くモンスターを手札に戻す。

 

 燃えた本棚が現れた。

「バーンマジシャンを戻してバーンゲートを手札に加える。ターンエンド」

 

 俺の四ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト4でトリプルドローを使用。アブゾーブワイズマンでチャイルドワイバーンに攻撃」

「チャイルドワイバーンが死んだか」

 ターンエンド。

 

 不審者の五ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト4でバーンマジシャンを召喚。手札は捨てない。ターンエンド」

 

 俺の五ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト4でトリプルドローを使う。コスト2でメガチャージを使う。アブゾーブワイズマンでバーンマジシャンに攻撃。ターンエンド」

 トリプルドローでアジ・ダハーカが来たけど確実に自滅行為になるから生命力1になっても出さないでおこう。

 

 

 不審者の六ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト5でバーンドローを使う」

 

 魔法 コスト5 バーンドロー

 効果:バーンと名の付く魔法を二枚まで山札の上に好きな順番で戻してシャッフルする。そうしたらその枚数より一枚多くカードを引く。

 

「置かないで1枚引く。ターンエンド」

 コスト5で1枚しか引けないとかコスパ悪いな。手札があればこそのカードだ。

 

 俺の六ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト4でトリプルドローを使う。アブゾーブワイズマンでバーンマジシャンに攻撃。ターンエンド」

 

 

 ……同じ事をして二ターンか経過した。代り映えがしないところはくどさしかないからな。

「バーンの魔法研究所に助けられたな」

「おかげでアブゾーブワイズマンで突破できねえ」

 バーンマジシャンを戻されるせいで削り切れないのだ。攻撃力が2以上のモンスターはアブゾーブワイズマンしか入れてねえからな。アブゾーブワイズマンも枚数の関係で一枚挿しなのできつい。攻撃力6のモンスター10枚持ってるから同じカードを入れられる限界の4枚まで入れときゃ良かった。

 

 仕方がない。

「やっとコストがたまるぜ。ターンスタート。ドロー。チャージ。コスプレイヤー効果でアブゾーブワイズマンをコピーする。さらにアブゾーブワイズマンをコスト6で召喚。さらに俺に無限ラッシュだ」

「なんだと」

「アブゾーブワイズマンでバーンマジシャンで攻撃。俺はバーンマジシャンに攻撃」

 バーンマジシャンを破壊。

「俺はお前に攻撃してターンエンド」

 アジ・ダハーカは使えないからなあ。

 

 不審者の九ターン目だ。

「生命力がたった2削られただけか。ドロー。チャージ。来たぜ。最強のカード。コスト8でキングバーンウィザードを召喚」

 

 コスト8 キングバーンウィザード 種族:ヒューマガイ、ウィザード

 効果:一ターンに一度手札の魔法カードを一枚捨ててもよい。そうしたら相手に1ダメージ。一ターンに一度自分の墓地のバーンと名の付く魔法をコストを支払って唱えてもよい。

 攻撃力:2 防御力:6 生命力:8

 

「そんなカード知らねえぞ」

 俺の負けだ。この防御力を突破できるカードはアジ・ダハーカしかない上に、今はアジ・ダハーカの攻撃力を活かせない。



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八枚目 初敗北

中途半端だなあ


 三ターン後負けた。ラーナちゃんの首のロープが消える。

「滅龍アジ・ダハーカは貰っていくぞ」

「そんなにこのハズレアが欲しいのか?」

「とても欲しい。この圧倒的なパワーは何者にも代えられない」

 相棒を奪われたくないからわざと悪印象を持たせたのに通用しなかった。

 

 アジ・ダハーカが不審者の元に渡った。

「それでは御免」

「私が相手するわ」

「時間の無駄だ」

 不審者は懐の筒から煙を出す。

 

 煙が晴れると不審者がいなくなっていた。

「私と戦った時のデッキにすれば良かったじゃない」

「それでも勝ち目は無かった。バーンで生命力が4以上に調節されるようにされて一気に負けてたぞ」

「言ってる事がおかしい。混乱してるの?」

 新しいデッキを組む必要がある。が、今は纏まったカードがない。何とかしてカードを手に入れる必要がある。

 

 アジ・ダハーカデッキを崩してカードの入った工具箱にしまった。

「これでよし」

「良くないでしょ」

 いろいろとカード持ってるけど、この工具箱の中だけじゃ強いデッキは作りにくいんだよなあ。だってこれといって切り札級のカードがあるわけじゃないからね。

 

 マイスさんが扉を開けて入ってきた。

「どうしましたか?」

「トバクファイトでアジ・ダハーカを取られたんです」

「それは大変ですね。まともに勝てるデッキはもうないからカードを探した方がいいですよ」

 それは分かっている。

 

 でもこの辺昆虫モンスターしかいないからなぁ。俺昆虫モンスターは一枚も持ってないんだよなあ。

「では街でカードを買うのはどうでしょうか。カードはちょっと値が張りますが、これくらいあれば大丈夫でしょう」

 金のコインを一枚貰った。カードジョブオンラインでは一番目に高い貨幣だな。

 

 マイスさんに街まで連れて行ってもらった。街はゲームと違うところにあったな。

「このカード屋はいろいろと扱っています」

 カード屋に入るとさまざまなパックとカードが売られていた。マイスさんがパックはどうたらこうたら言っていたけど聞こえなかった。

 

 金貨一枚分のパックを持っていって店主にお代を払ってから、パックを開ける。

「良いの入ってますように」

 パックを開けると最低レアのCコモンが二枚、Rレアが一枚、SRスーパーレアが二枚入っていた。

「普通に引きがいいな」

 ドラゴンとドラゴンサポートだからデッキが作りやすい。

 

 デッキを作って店から出た。

「いい感じのデッキが出来ましたよ。ありがとうございました」

「どういたしまして」

 早速試し切りしたいけれどこの辺カードゲーマーがいそうにないんだよね。

 

 デッキを見せびらかしている人がいた。

「ナーハッハ。ボクには勝てないナハ。ボクはこの街の警備兵最強の男だからナハ」

 ちょうどよさそうのがいた。

「面白そうじゃん。あんたの不敗神話を崩したいんだが、挑戦良いか?」

 デッキを構えてナハナハ言ってる人の前まで来た。

 

 ナハナハ言ってる人は剣を構える。

「子供がボクに勝てるわけないナハ」

「子供から逃げるのか。そんな臆病者に守られる市民たちが可哀想だな」

 ナハナハ言ってる人は明らかに不機嫌な顔をした。

 

 ナハナハ言ってる人は剣を構えるのをやめてデッキを構える。

「そこまで言うなら潰してやるナハ」

「エントリーオーケー」

 俺のデッキが赤く光る。職業を宣言した。ナハナハ言ってる人は騎士。防御力4攻撃力0の防御型職業だ。

 

 俺が先攻か。

「俺のターン。チャージ。ターンエンド」

 後攻のターンだ。いちいちナハナハ言ってる人って表記すんの面倒くさい。

「ナハのターン。ドロー。チャージ。ターンエンド」

 

 俺の二ターン目だ。

「俺のターン。ドロー。チャージ。コスト2でメガチャージを使う。ターンエンド」

 後攻の二ターン目だ。

「ナハのターン。ドロー。チャージ。コスト1で薬草アルラウネを召喚。プレイヤーに攻撃してターンエンド」

 ヒーラーデッキか。あのカードには気を付けなきゃな。

 

 俺の三ターン目だ。

「俺のターン。ドロー。チャージ。コスト4でトリプルドローを使用する。ターンエンド」

 後攻の三ターン目だ。

「ナハのターン。チャージ。コスト2でアルラウネガーデンを使用するナハ」

 

 魔法 コスト2 アルラウネガーデン

 効果:このカードは自分の場に置き続ける。このカードはアルラウネと名の付くモンスターがいなければ使用できない。一ターンに一度種族:シンキングプラントのモンスターが召喚された時自分の場のアルラウネと名の付くモンスターを手札に戻してもよい。

 

 足元に芝生が生えて、周りがまるで庭園のようになった。

「薬草アルラウネで攻撃してターンエンド」

 なるほどね。アルラウネガーデンのための条件でしかなかったってことか。

 

 俺の四ターン目。

「俺のターン。ドロー。チャージ。コスト5で毒針甲羅竜 ペルーダを召喚。早速手に入れたカードを使うぜ」

 

 コスト5 毒針甲羅竜 ペルーダ 種族:ドラゴン

 効果:このモンスターは戦闘以外でダメージを受けるかわりに生命力を6にする。このモンスターは攻撃できない。反動(このモンスターが攻撃された時、このモンスターを攻撃したモンスターはこのモンスターの防御力-攻撃したモンスターの防御力分の戦闘ダメージを受ける)

 攻撃力:4 防御力:4 生命力:6

 

 コストに対して能力が強いって言うかなぁ。

「ターンエンド」



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九枚目 究極植物 アルラウネU

 後攻の四ターン目だ。

「ナハのターン。ドロー。チャージ。コスト4で樹粉のアルラウネを召喚ナハ」

 

 コスト4 樹粉のアルラウネ 種族:シンキングプラント

 効果:このモンスターが手札に戻るかわりに山札の上から一枚コストゾーンに置いてもよい。

 攻撃力:2 防御力:2 生命力:5

 

「アルラウネガーデンの効果で樹粉のアルラウネを手札に戻すナハ。樹粉のアルラウネの効果で戻すかわりに山札の上から一枚コストゾーンに置くナハ」

 シンキングプラントとヒーラーの併用型かな。そんな型あるなんて知らなかったけど、あるもんなんだなぁ。 

 

 薬草アルラウネが攻撃して薬草アルラウネの生命力が2になりターンが終わった。

 

 俺の五ターン目だ。

「ターンスタート。ドロー。チャージはせずに、コスト4でトリプルドロー。そして今引いたメガチャージをコスト2で使用してターンエンド」

 

 後攻の五ターン目だ。

「ナハのターン。アルラウネバウンサーをコスト2で召喚ナハ」

 

 コスト2 アルラウネバウンサー 種族:シンキングプラント

 効果:このカードが場に出たとき自分の場のアルラウネと名の付くモンスターを一体を手札に戻してもよい。

 攻撃力:0 防御力:2 生命力:3

 

 薬草アルラウネが消えた。

「薬草アルラウネを手札に戻すナハ。そしてアルラウネガーデンの効果で樹粉のアルラウネを手札に戻す……かわりにコストブーストナハ。薬草アルラウネを召喚してターンエンドナハ」

 

 俺の六ターン目だ。

「ターンスタート」

 樹粉のアルラウネを突破する方法は二つある。逆に言えば二つしかないんだけどさ。選択肢が狭すぎる。

「ドロー。チャージ」

 来たか。

 

 それじゃあ行くぜ。

「コスト2でビーコンパラサイトを召喚」

 こいつは出た当初は第二弾の外れ枠と呼ばれていたが、今じゃ劇つよかーどになってるCコモンだ。

 

 コスト2 ビーコンパラサイト 種族:インセクト

 効果:このカードは1ターンに一度相手モンスターを自分のモンスター一体に攻撃させることが出来る。自分のターンには使えない。

 攻撃力:0 防御力:0 生命力:1

 

「ターンエンド」

 

 後攻の六ターン目だ。

「ナハのターン。ドロー。コスト6でアルラウネ・ハーベスターを召喚ナハ」

 こいつは知ってる。こいつのせいでメタルアヤカシブーストが環境デッキになったからな。

 

 コスト6 アルラウネ・ハーベスター 種族︰シンキングプラント、メタルアヤカシ

 効果︰このカードは召喚時自分の場の同じ種族のモンスターを手札に戻せる。モンスターが手札に戻った時手札に戻ったモンスターを表向きでコストゾーンに置いても良い。このカードの効果で手札のモンスターがコストゾーンに置かれた時一枚ドロー。

 攻撃力:3 防御力:2 生命力6

 

「まずはアルラウネガーデンの効果で、薬草アルラウネを手札に戻すナハ。そしてアルラウネ・ハーベスターの効果で、薬草アルラウネをコストゾーンに置いて一枚ドローナハ。さらに樹粉のアルラウネを手札に戻すナハ。そして戻す代わりにコストブーストナハ」

 こいつ一枚で回りまくるんだよなぁ。ホント性格の悪いカードだわ。

 

 除去しておくか。

「ビーコンパラサイトの効果発動。お前のモンスターはこのターン毒針甲羅竜 ペルーダに攻撃してもらうぜ」

「厄介ナハ」

 アルラウネ・ハーベスターとアルラウネバウンサーと樹粉のアルラウネはペルーダに攻撃してダメージを受けて終わった。

 

 俺の七ターン目だな。

「俺のターン。ドロー。チャージ。焼鳥屋に賛成するにわとりをコスト7で召喚」

 

 コスト7 焼鳥屋に賛成するにわとり 種族︰フラムビースト

 効果:なし

 説明:黄金の海油は泳ぎたくないぜ。

 攻撃力:6 防御力:1 生命力7

 

 火力不足なので、火力の高いカードを入れさせてもらった。ペルーダが盾でコイツが矛だ。

「焼鳥屋に賛成するにわとりでアルラウネ・ハーベスターに攻撃」

 これでアルラウネ・ハーベスターを倒した。第一弾しか出てない初期環境をコイツのデッキで埋めつくしただけはある。

「ターンエンド」

 

 後攻の七ターン目だ。

「ナハのターン。ドロー。チャージ。アルラウネバウンサーを召喚ナハ。アルラウネガーデンの効果で樹粉のアルラウネを戻す代わりにコストブーストして、バウンサーの効果でアルラウネバウンサーを戻すナハ」

「もうコストブーストは十分ってか。ビーコンパラサイトの効果でペルーダに攻撃してもらう」

 アルラウネバウンサーと樹粉のアルラウネはペルーダに攻撃してダメージを受けて終わった。

 

 俺の八ターン目だ。

「俺のターン。ドロー。焼鳥屋に賛成するにわとりを手札に戻してコストを払ってコスプレイヤーの効果発動」

「モンスターのチカラをコピーしたナハ」

「これがコスプレイヤーの効果だ。ステータスは低いが、それに見合った強さがある」

 俺の攻撃で樹粉のアルラウネを破壊した。

「ターンエンド」

 このまま守って攻めれば俺の勝ちだ。

 

 後攻の八ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト10で究極植物 アルラウネUアルティメットを召喚ナハ」

 そんなカード知らねえぞ。この世界独自のカードかな?

 

 コスト10 究極植物 アルラウネUアルティメット 種族︰シンキングプラント、アルティメット

 効果︰このカードは召喚時自分のコストゾーンのカードをすべて表にして場とコストゾーンの同じ種族のモンスターを全てこのカードの下に重ねる。このカードの攻撃力と生命力と防御力はこのカードの下のカードの枚数分上昇する。

 攻撃力:0 防御力:2 生命力:1

 

「下に何枚あんだ?」

「6枚ナハ」

 はい負け。何回負ければ気が済むんだよ。



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十枚目 二人のロマンチスト

「更にアルラウネ(アルティメット)の下のアルラウネカースの効果発動ナハ」

 

 魔法 コスト10 アルラウネカース

 効果:このカードは場に置き続ける。このカードと同じコストのカードの下にこのカードがある時、コストを支払わずに使用出来る。このカードはコストゾーンに表側で存在する時アルラウネと名の付くモンスターとして扱う。(モンスターのときのステータス:攻撃力0防御力2生命力1 種族:シンキングプラント)

 

 芝生がトゲトゲしくなった。

「唱えたからと言って何かメリットがある訳でもないんだな」

 攻撃力と防御力が下がるから、むしろデメリットだな。

「更に呪墳するアルラウネの効果発動ナハ」

 

 モンスター コスト5 呪墳のアルラウネ 種族:シンキングプラント

 効果:このモンスターがコスト10のモンスターの下にある時、このカードを手札に戻しても良い。このカードが手札に戻ったとき自分のモンスター一体の防御力を2軽減し、攻撃力を3上げる。

 攻撃力:0 防御力:2 生命力:5

 

 攻撃力7防御力4か。とても辛いところ。でもそうでもしないとペルーダにダメージ与えられないからね。

「ターンエンドナハ。さっさと降参するナハ」

 すぐ攻撃出来るけど、なんでしなかったんだろ。これが強者の余裕か。

 

 俺の九ターン目だ。

「ドロー。来た。二枚目のにわとり。コスト7で焼鳥屋に賛成するにわとりを召喚」

 これで倒しきれる。

「焼鳥屋に賛成するにわとりで攻撃」

 にわとりにツタが絡まる。

 

 後攻の場のアルラウネ(アルティメット)の影からツタが生えていた。

「アルラウネ(アルティメット)の下のアルラウネアイビーの効果発動ナハ」

 

 モンスター コスト5 アルラウネアイビー 種族:シンキングプラント

 効果:このモンスターがコスト10のモンスターの下にある時、このカードを手札に戻しても良い。このカードが手札に戻ったとき自分のコスト10のモンスター一体の防御力を2上げる。

 攻撃力:0 防御力:2 生命力:5

 

 シンキングプラントが弱かったのはアルラウネ(アルティメット)ありきの効果が多かったからか。実装当時は何に使うのか分からんカード達だったからなあ。

「しかし防御力5か。倒しづらいな」

 俺とにわとりで(アルティメット)に攻撃した。2足らねーんだよなぁ。

 

「ターンエンド」

 

 後攻の九ターン目だ。

「ナハのターン。ドロー。コストを4軽減してコスト1でアルラウネスペル:ネクロマンスを発動ナハ」

 

 魔法 コスト5 アルラウネスペル:ネクロマンス

 効果:場にコスト10の種族:シンキングプラントのモンスターがいるときに発動する。このカードの使用コストを4軽減する。墓地から種族:シンキングプラントのモンスターを一枚手札に戻す。このカードは1ターンに一回だけしか発動できない。

 

 まさか。

「呪墳のアルラウネを手札に戻すナハ。そして効果で攻撃力を上げるナハ」

「ビーコンパラサイトの効果発動。ペルーダに攻撃してもらうぜ」

 この局面じゃ防御を上げて次のターンに攻撃上げた方が良かったけどね。防御7なら一切ダメージを受けずに押し勝てる。一枚しか入ってないカードなのかもな。まあ攻撃力10で蹂躙するのはロマンだからやりたくなる気持ちは分からないでもないけどさ。アジ・ダハーカもロマンカードだし共通するところはあるね。

 

 アルラウネUアルティメットが葉っぱをペルーダに投げた。ペルーダは爆発四散する。

「防御力4で生命力6だから一撃で溶けたか。だが防御力を下げたのがあだとなった。反動による戦闘ダメージは受けてもらうぜ」

 ペルーダの棘が飛んでアルラウネ(アルティメット)に突き刺さった。

 

 いよし。これでアルラウネ(アルティメット)の生命力は1だ。

「にわとりは倒せないから一体でも減らしておくナハ。樹粉のアルラウネでビーコンパラサイトに攻撃ナハ」

「もう何もできないだろ」

「ターンエンドナハ」

 もう勝ちだろ。

 

 俺の九ターン目だ。

「俺のターン。ドロー。チャージ。二枚目の焼鳥屋に賛成するにわとりをコスト7で召喚。俺でアルラウネUアルティメットに攻撃。破壊。二枚目のにわとりで樹粉のアルラウネに攻撃。破壊。一枚目のにわとりでプレイヤーに攻撃」

 後攻10→8

「ターンエンドだ」

 ここまで盤面を崩せば勝ちだろう。何しろコストゾーンにカードもないからな。

 

 お手並み拝見。

「ナハのターン……ドロー」

 こいつの目は諦めてねえ。

「ターンエンドナハ」

 清々しい顔をしてやがる。

 

 

 ……俺の十一ターン目。

「俺でトドメだ」

 後攻2→0

 

 力が抜けた。そして景色が元に戻る。

「ライフだけ見れば俺の圧勝だ。だが、あんたの勝率の方が遥かに高かった。いい勝負してくれてありがとうございました」

 敬意を表して九十度のお辞儀をする。

「久しぶりに全力でぶつかって負けてスッキリしたナハ。ここ2年位全力を出せる相手がいなかったナハ」

 姿勢を治して俺たちは握手をした。

 

 互いのデッキを見せ合った。

「墓地に行ったら山札に戻す。このカードはなかなか悪用できそうですね。まあアルラウネには合わなさそうですが」

「このにわとりなかなか強いナハ」

「でしょう。昨日まで圧倒的なエースがいたので、こいつらをストレージの中で腐らせてたんですよ」

「あっ……」

 聞いちゃいけないことを聞いてしまったかのような顔をした。

「別に良いのですよ」

 この世界じゃトバクファイトでカードを奪われるなんてよくあることらしいからな。

 

 家の屋根の上に視線を感じた。

「ん?」

 屋根の上を見ても何もいなかった。気のせいか。

 

 



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十一枚目 第十五回大会の変態

 バロンナハさんとの戦いの後で気が抜けて無気力になった。

「むきりょく~」

「何しているんですの。しゃっきりしなさいな」

「そうよ。この私に勝ったのだからだらしない真似は許されないわ」

 ラーナちゃんにほっぺたをぷにぷにされた。

「正確には引き分けだよ」

 だっる。

 

 文字の書かれた紙を見せられた。

「ええっと何々。第39回フィールドファイトバトルロワイヤル大会ね。やたら長ったらしい名前だなあ」

「優勝賞品にレアカードが貰えるらしいわ。出場するわよ」

「優勝できなくても参加賞はもらえますので、参加してください」

「そういうことなら早く言ってほしい」

 体から力を振り絞って起き上がる。

 

 でもルールが分からねえんだよなあ。

「ルールが分からないんだよね」

「教えてあげますわ」

 お嬢様について行って更衣室まで来た。

 

 ラーナちゃんはドレスを脱ぐ。下にスパッツと半袖シャツを着ていたので、ロリコンの汚名を負うことはなかった。下着姿を見たわけじゃないからな。

「動きやすい服装の方が有利なのよ。暑苦しいドレスを脱ぎ捨てられる言い訳にできるから私はフィールドファイトの方が好きよ。まあ動きやすいのがいいなら全裸になるのが一番だけど。第十五回大会にはそうしてる人が優勝したしね」

 良く第十五回大会で中止にならなかったな。

 

 そんなことしたら今度こそは中止にされるかもしれない。

「それはまずいだろ。冗談でもそういうことを言うのはマジで止めろ」

「冗談よ冗談。全裸は嫌よ」

 心臓に悪いんだよなあ。

 

 お嬢様もドレスを脱いだ。お嬢様もスパッツと半袖シャツだな。流行ってるのかな。

「冗談言っていないで着替えますわよ。先生も早く着替えてくださいまし」

「俺は大丈夫です。充分動きやすい服装なのでね」

「この夏場に見てるだけで暑苦しいもこもこした服装はまずいですわ。それにこの服装は第一回から第十回の大会の優勝者全員が着ていた服装なのでゲン担ぎのようなものですわ。ゲン担ぎは普段からしている方が効果がありますの」

 カードゲームは所詮運ゲーなのでそういうのも必要かもしれない。

 

 お嬢様に服を脱がされて全裸にされた。キャラクリエイトだともっと露出度が少ない恰好なんだけどなあ。

「もこもこしてるように見えて案外涼しいから気にしないで。ちょっと待って。アッーーーー♀」

 俺も着替えさせられて外に出ることになった。色々とスースーしてて落ち着かないんだけど。

 

 森に到着した。

「大丈夫? ここ盗賊いたんだけど」

「捕まったから大丈夫でしょ。それにカード使えるから盗賊が一個師団級で来ても楽勝よ」

「カード使う前にリアルファイトされたら負けでしょ」

「大丈夫ですわよ。その時は何とかなりますわ」

 心配だ。

 

 お嬢様とラーナちゃんはデッキを出した。

「フィールドファイトバトルロワイヤル大会は基本は運営が用意いたしましたヌーブという職業とブランクという効果のないカードしか使えませんわ。ヌーブは防御力と攻撃力が0で生命力が10のなにも職業効果がない職業ですの。第5回大会で参加者全員騎士だったために決着が長引きましたので、そういう仕様になったらしいですの」

「もちろん普通のフィールドファイトは自由にデッキを使えるわよ」

 コスプレイヤーからメリットを引いたような最弱職業じゃん。全員が使うから平等だな。

 

 ラーナちゃんがコストゾーンにカードを置いてからお嬢様がドローした。

「モンスターの効果とステータスは使用できないわ。使える魔法は運営が用意したカードの中から三種類までで、それぞれ一枚ずつ。十分で一ターンがたつわ。そしてドローとチャージはこの辺は基本的よね」

「あとフィールドファイトには先攻後攻の概念がありませんの。戦闘中のプレイヤーに割り込んで倒すこともできますわ」

「モンスターは狙いを決めてからコストゾーンのカードを使用状態にしてからブランクを掲げることでモンスターを確保して使うことができますわ。他のプレイヤーが狙っているモンスターは狙えませんわ」

 ラーナちゃんがブランクを掲げると、大きなイモムシを消した。

 

 ラーナちゃんはイモムシの入ったカードを見せてきた。

 

 モンスター コスト1 デカイモムシ 種族:インセクト

 効果:なし

 説明:いずれ強くなる虫。

 攻撃力:1 防御力:0 生命力:2

 

「はえ^~」

 カードジョブオンラインじゃ野生のモンスターをカードにするとき、野生のモンスターとイベント戦みたいなのしてゲットの流れだったけどね。フィールドファイトの仕様を作るのが面倒くさかったのかもしれないな。

 

 お嬢様がカードを掲げると蚊柱が消えた。

 

 モンスター コスト2 モスキートハシラー 種族:インセクト

 効果:なし

 説明:雑食性の蚊が集まった柱。集まれば強いぞ。

 攻撃力:1 防御力:1 生命力:2

 

 ラーナちゃんとお嬢様は向き合った。

「戦うことが出来ますわ」

 モスキートハシラー:攻撃力2

 デカイモムシ:攻撃力2

「攻撃力が上がった」

「置き続ける魔法の中にはモンスターのステータスを上げたり下げたりするものがあるのは知ってるわよね」

「それは知ってる」

 一時期それでビーコンパラサイトの攻撃力を上げまくって殴るネタデッキ使ってたからな。

 

 ラーナちゃんは木に触った。

「あれって要は自然を再現したものなのよね。つまりフィールドファイトだと特定のモンスターはフィールドによってステータスが変化するの。森だとフラムビーストとインセクトが変化するわね」

「なんでフィールドファイトの時しか変化しないの?」

 普段からも変化すりゃあいいのに。

 

 ラーナちゃんはしばらく考える。

「分からないわ。知ってる?」

「周りの環境が自分のフィールドに影響を及ぼさないために魔力で結界を作っているからですわ」

 そういうことなのか。

 

 ラーナちゃんが逃げた。

「戦っている途中に逃げて体制を整えることも出来ますの」

「そういうことよ」

 ラーナちゃんが木の上から着地する。いつの間に木に登ってたんだ。

 

 色々複雑なルールがあるんだなあ。

「開催地と開催日についてじっくり知っておくべきだね」

「開催地はリルテックシティーで開催日は七日後ですわ。それまでの練習をしておきますわよ」

「ファイト、オー」

 がんばるぞー。

「何やってるのよ」

「気合を入れる言葉なんだけど。やらないの?」

「やらないわよ」「やりませんわ」

 リルテックシティーか。聞いたことがない街だな。



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十二枚目 キャラメルキャメル

 五日後に出発した。なんでもリルテックシティーはここから移動用モンスターを使って往復で二日かかるんだとさ。

「なんでラーナ様がいらっしゃるのですか?」

「いて悪いということもないわよね」

「ラーナ様はフラム家の次女のはずですよね」

「この確認毎年していないかしら?」

「この確認をすればもしもの時になんかの役に立つかと思いましてね」

 毎年このやり取りをしてるのか。

 

 ラーナちゃんが息を吸った

「お仕事中毒のお姉ちゃんがやってくれるから問題ないわ。それに長距離移動用のモンスターを飼ってないのよ。パパとママとカネスキのお父様とお母様に許可は取っているので問題ないわ」

「なら大丈夫ですね。私は仕事があってついて行けないので、お付きの者をモンスター場に呼びつけてあります」

「毎年ついて行ってないわね」

「何か事情があるのですわ」

 どういった事情があるんだろうね。

 

 例のスパッツと半袖シャツを持たされてからモンスター場に行くと大きな扉の前に黒髪で線の細いイケメンがいた。

「ちゃんと筋トレしたり飯食ったりとかしてるのかな。細くて心配なんだけど」

 イケメンは驚いたような顔をする。顔に書いてあるんだよなあ。

「先生殿とは初めてお会いしますね。お嬢様に好かれていると聞いたので人当たりのいい人だろうなとは思っていましたが、女の子とは思いませんでした。あ」

 イケメンが何かに気が付いたような顔をした。

 

 イケメンがお辞儀をする。

「すみません。自己紹介がまだでしたね。ボクはアメラと申します」

「ドロウです。よろしくお願いします」

「ドロウですか。珍しい名前ですね」

「俺もそう思ってますよ。何しろ俺の故郷にもこういう名前はなかなかいませんからね」

 アメラが俺の右手の甲にキスをした。

 

 俺が本物の女ならドキドキしてるんだろうなぁ。胸がちょっと高鳴ってるのは驚いただけだから。絶対そうだから。

「さあ行きましょうお嬢様方」

 が扉を開けるとひんやりとした空気が流れ込んだ。

 

 アメラはカードを一枚選んで取り出してから扉を閉めた。

「ここではカードを最高の環境で保存してあります。我が家は代々ここの管理を任されていますね。私で八代目です」

 アメラはカードのイラストを見せた。

「キャラメルキャメルを召喚いたします」

 キャラメルのような色をした5mぐらいのラクダが現れた。

 

 ……どう考えても地上でスピードを出すフォルムじゃねえ。

「こう見えても夏場の馬車の十倍速くて環境もいいですわ」

「そんなに早いのか」

 ラクダのこぶに扉が出来た。

 

 アメラははしごでラクダのこぶまで上がる。こぶに扉が出来てアメラがこぶの中に入った。さすがモンスター。俺の持っている常識が全く通じねえ。

「大丈夫ですよ」

 こぶに穴が開いてアメのような汗が垂れて固まってガラスのようになった。

 

 はしごを登ってこぶの中に入る。

「地図を壁に押し込むとちゃんと行ってくれるので問題ないです。ただ私が近くにいて面倒見ないといけないのです。なのでマイスさんにはついでとばかりにお付きの者の任務も押しつけられたんですよね。他の家のお嬢様もいらっしゃるので緊張していますよ」

「まあいざとなったら俺が盾になりますよ。一回死後の世界を見ましたからね」

「何を言っているかわかりませんが、よろしくお願いします」

 何かあったら大問題だもんなあ。

 

 ラーナちゃんとお嬢様がこぶの中に入った。

「では行きますよ」

 窓の外の景色が早く流れる。

 

 でもその割に中は揺れていないから意外だ。

「分かってはいますがヒマですわねえ」

「デッキ構築でもすればいいと思いますよ。デッキ構築にはいくら時間があっても足りませんからね」

「そうですわね」

 お嬢様とラーナちゃんはデッキを出してカードを広げた。

 

 お嬢様は首をひねる。

「完璧なデッキ構築ですわ」

 なにかが足りないんだよなあ。

「完璧なデッキ構築なんてこの世にはありませんよ。少なくともお嬢様のデッキには足りないものがあります」

「それを教えてくださいまし」

 なんか足りねえとは思うんだけど何が足りないのか分からねえ。

 

 それらしいことを言ってごまかすか。

「俺が言ったらお嬢様は俺に頼ることになりますよね。お嬢様が自分で考えるのが大事なんです。なので自分で考えてください」

「もっともな意見ですわね」

 これほど素直なのになぜ今まで家庭教師が決まっていなかったのか分からねえな。

 

 ラーナちゃんも悩んでいるな。

「何かが足りないとは思うんだけど」

「ラーナちゃんのデッキには火力の出せるカードが足らないんですよね。このカードなんかフラムビーストデッキに合うと思いますよ。余ってるのであげます」

「いいの?」

「ただしこの詰め勝負に勝ったらですがね。カネスキお嬢様もアメラさんもチャレンジしていいですよ。早い者勝ちですので」

 カードを片付けさせて工具箱からカードを選んで並べた。

 

 ラーナちゃんが一番最初に解くことが出来たので、焼鳥屋に賛成するにわとりを4枚と高次元のスピードラットとレッドリストをあげた。こんなカード10枚持ってるからな。それにエクストラウィンのメタカードなんて限定的過ぎて使えない。そして高次元のスピードラットとかレッドリストとかどうしても俺のデッキにゃ合わない。




 このターン中に勝て。 
 相手:生命力3 カレー屋さん(攻撃力0防御力2 職業効果使用済み) 
 場:LC(ロープコード) ハニワコマンドガール(コスト5 種族:ガーディアン 攻撃力1 防御力4 生命力6 効果:なし)
 手札:なし
 自分:生命力1 所持コスト6 ファイター(攻撃力3防御力1 職業効果使用済み)
 場:素通り門番、ゴブリンサモナー×2
 手札:ガーディアンズコネクト(コスト6 自分の場の種族:ガーディアン一体の効果と生命力以外のステータスを他の種族:ガーディアンのモンスター一体を選んで与える。そのターン自分の場の種族:ガーディアンは攻撃できない) 

ヒント:自分の場とは言っていない


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十三枚目 アルカナンバー

昨日更新するの忘れてました。



 夜になるとコブの中が勝手に明るくなった。

「どうなってんだよ」

「キャラメルキャメルは栄養の他に光を溜め込んで、放出することも出来るのです。他の人のキャラメルキャメルもそうしてますよね」

 アメラに言われて外を見てみるとたくさんのキャラメルキャメルが光を放ちながら歩いていた。

 

 こんなにいるのか。

「昼間のように明るいでしょう。しかもこの明かりは消せるので、問題ないです」

「便利だなぁ」

 凄く速く動いてるから盗賊が来る可能性もないし、キャラメルキャメルはすごい。

 

 窓が割れた。丸く割れたので、破片が刺さらずにすんだ。

「刺さると思ったぜ」

「先生殿大丈夫ですか?」

「ヘーキヘーキ。刺さってねえからな」

「なら良かったです」

 なんでいきなり窓が割れたんだ。

 

 窓から緑の覆面の不審者の男が入って来た。何で不審者扱いするか理由を教えよう。だって全体的な露出度は高いのに顔が口しか見えねーもん。不審者扱いもやむなしだよ。下半身も緑色の海パン一丁なのが余計におかしい。

「カシヨ。なんでこんなことをするんだ」

「それは俺がカードハンターだからだ」

 カードハンターと知り合いなのか。このカードハンター声が何となくアメラさんに似てるな。

 

 ということは俺からアジ・ダハーカを奪ったやつの仲間か。

「滅龍アジ・ダハーカを返しやがれ」

「そんなカード知らん。取られたということはそのカードには価値があったのだな。まあ今は貴様に興味がない。興味があるのはこのキャラメルキャメルだけだ。勝ったら貰おうか」

 緑のカードハンターは下を指さした。

 

 キャラメルキャメルは欲しいかもな。

「私が相手よ」

「良いだろう相手になってやる」

 ラーナちゃんの家のキャラメルキャメルじゃないので約束を反故に出来るという裏技。

 

 緑のカードハンターはカードデッキを出す。

「その前にどうやって入って来たかだけ教えてもらおうか」

「ワイバーンを召喚して空から入った」

 なるほど。その手があったか。

 

 緑のカードハンターとラーナちゃんはデッキを構えた。

「「トバクファイトエントリー」」

 ラーナちゃんはファイターで緑のカードハンターは盗賊だ。

 

 ラーナちゃんが先攻だ。

「ターンスタート。チャージ。コスト1でスピードラットを召喚。プレイヤーに攻撃」

「防御力は2だ。効かんな」

「ターンエンドよ」

 

 不審者のターンだ。

「俺のターン。ドロー。チャージ。コスト1で魔法大アルカナを発動」

 

 魔法 コスト1 大アルカナ

 効果:このカードは場に置き続ける。自分の場にアルカナと名の付くモンスターが置かれる代わりにこのカードの下に置かれる。

 

 不審者は口角を上げる。

「さらに手札の小アルカナの効果発動」

 

 魔法 コスト1 小アルカナ

 効果:アルカナと名のつくカードが発動したとき手札のこのカードを場に置く。このカードは場に置き続ける。自分の場にアルカナと名の付くカードの下にモンスターが置かれた時カードを一枚引く。

 

 アルカナデッキか。ずいぶんと運否天賦なデッキだなあ。アルカナカードには相手モンスターを破壊するカードもあるわけじゃないし、勝ち筋がエクストラウィンしかないと思うんだけど。

「コストを1軽減してコスト0でナンバーロスト ザ・フールを召喚」

 

 モンスター コスト1 アルカナンバーロスト ザ・フール 種族:ウィザード

 効果:自分の場に大アルカナがある時、このカードはコスト0を支払って召喚できる。このカードがカードの下に置かれたとき互いに山札の上をめくる。相手よりめくったカードのコストが少なかった場合相手は1枚ドローする。コストが同じか高かった場合山札の上から一枚ドローする。このカードの効果を使用したとき互いに山札をシャッフルする。

 攻撃力:0 防御力:0 生命力:1

 

 ラーナちゃんと不審者はカードをめくった。

「私はコスト7の焼鳥屋に賛成するにわとりよ」

「俺はコスト5のザ・ラヴァーズだ。一枚引け」

「ありがとう」

「ターンエンドだ」

 アルカナは場が薄くなりやすいから騎士とかの方が良いんだけどなあ。

 

 ラーナちゃんの2ターン目だ。

「ターンスタート。ドロー。チャージ。コスト2でメガチャージを使うわ。スピードラットで攻撃してターンエンド」

 不審者の2ターン目だ。

「俺のターン。ドロー。チャージ。コスト1でアルカナンバーワン ザ・マジシャンを召喚」

 

 モンスター コスト1 アルカナンバーワン ザ・マジシャン 種族:ウィザード

 効果:このカードがカードの下に置かれたとき互いに山札の上をめくる。相手よりめくったカードのコストが少なかった場合相手は墓地から魔法カードを手札に加える。コストが同じか高かった場合山札から好きな魔法を一枚墓地に送る。このカードの効果を使用したとき互いに山札をシャッフルする。

 攻撃力:1 防御力:1 生命力:2

 

 互いに山札の上をめくった。

「私はコスト1のスピードラットよ」

「俺はコスト16のアルカナンバーシックスティーン ザ・タワーだ」

 不審者は山札を見て山札からアルカナンバータロットと言う魔法を墓地に置いてからシャッフルした。

 

 アルカナンバータロットは山札から好きなアルカナカードをサーチできる魔法だ。アルカナカードには墓地の魔法を回収するカードがない。それなのになんで墓地に捨てたんだ?

「俺でスピードラットに攻撃してターンエンドだ」

 ただのプレイミスだといいんだけどな。

 

 ラーナちゃんの三ターン目だ。

「ターンスタート。ドロー。チャージ。コスト4でトリプルドローを使うわ。私でプレイヤーに攻撃」

 不審者生命力10→9

「スピードラットで攻撃してターンエンドよ」

 手札事故を起こしているのかもしれないな。これはちょっとマズいぞ。












前回の詰め勝負の答え
素通り門番の能力をガーディアンコネクトでハニワコマンドガールに与えて、ゴブリンサモナー2体とプレイヤーで相手を攻撃する。


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十四枚目 ホイールオブフォーチュン

 不審者の三ターン目だ。

「俺のターン。ドロー。チャージ。コスト2でアルカナンバーツー ザ・ハイプリーステスを召喚」

 厚さ十五センチメートルのカードの束が現れて、不審者が召喚したモンスターがカードの束に吸い込まれた。

 

 モンスター コスト2 アルカナンバーツー ザ・ハイプリーステス 種族:ヒーラー、マジシャン

 効果:このカードがカードの下に置かれたとき互いに山札の上をめくる。相手よりめくったカードのコストが少なかった場合アルカナンバーの召喚コストが1上がる。コストが同じか高かった場合これ以降自分はアルカナンバーの召喚コストを1下げてもよい。このカードの効果を使用したとき互いに山札をシャッフルする。 

  攻撃力:2 防御力:2 生命力:3

 

 互いに山札の上をめくった。

「私はコスト4の月光ゲッコーよ」

「俺はコスト10のアルカナンバーテン ザ・ホイールオブフォーチュンだ。ホイールオブフォーチュンの効果発動」

 滑車が現れてカードの束に吸い込まれる。

 

 モンスター コスト10 アルカナンバーテン ザ・ホイールオブフォーチュン 種族:マジシャン

 効果:このカードが表向きになった時自分のカードの下に置いてもよい。このカードがカードの下に置かれたとき互いに山札の上をめくる。相手よりめくったカードのコストが少なかった場合相手は山札から一枚好きなカードを加える。コストが同じか高かった場合山札から一枚好きなカードを加える。このカードの効果を使用したとき互いに山札をシャッフルする。 

  攻撃力:5 防御力:5 生命力:10

 

 互いに山札の上をめくった。

「俺はコスト14のアルカナンバーフォーティーン ザ・テンパランスだ」

「私はスピードラット」

「俺は山札からアルカナンバートゥエンティ ザ・ジャッジメントを手札に加える」

 ザ・ジャッジメントだと。こいつはまずい。

 

 不審者はザ・ジャッジメントを場に置いた。天秤が現れてカードの束に吸い込まれた。

「アルカナンバートゥエンティ ザ・ジャッジメントの効果発動」

 

 モンスター コスト20 アルカナンバートゥエンティ ザ・ジャッジメント 種族:マジシャン

 効果:このカードがカードの効果で手札に加わった時時自分のカードの下に置いてもよい。このカードがカードの下に置かれたとき互いに山札の上をめくる。このカードがカードの下にある時に山札をめくった場合めくった時のみカードのコストを21として扱う。このカードの効果は1ターンに一度のみ使用できる。使用したとき互いに山札をシャッフルする。 

  攻撃力:10 防御力:10 生命力:20

 

 コストが21以上のカードなんてアジ・ダハーカぐらいしかねえ。つまり必勝のカードとなるわけだ。

「スピードラットに攻撃してターンエンドだ」

 スピードラットが消えた。

 

 ラーナちゃんの四ターン目だ。ラーナちゃんの手が震えている。

「タ、ターンスタート。ドロー。チャージ。ようやくお出まし。コスト5で月光ゲッコーを召喚。私で攻撃するわ」

 不審者生命力9→8

 

 不審者は笑った。

「手札のザ・エンプレスの効果発動」

 

 モンスター コスト3 アルカナンバースリー ザ・エンプレス 種族:マジシャン

 効果:このカードが手札にある時ダメージを受けた場合自分のカードの下に置いてもよい。このカードがカードの下に置かれたとき互いに山札の上をめくる。相手よりめくったカードのコストが少なかった場合相手は山札の上から二枚コストゾーンに置く。コストが同じか高かった場合プレイヤーを一人選んでコストゾーンのカードを二枚選んで山札に戻す。このカードの効果を使用したとき互いに山札をシャッフルする。 

  攻撃力:3 防御力:0 生命力:3

 

「私は月光ゲッコーよ」

「俺はコスト1のアルカナンバーロスト ザ・フールだ。お前の勝ちだ……と言いたいが、ザ・ジャッジメントの効果発動」

 コスト除去か。考えたな。いやらしい手だ。

「ザ・フールのコストを21にする。効果で俺の山札にコストゾーンのカードを送ろう」

「へ?」

 そうかそういうことか。考えたな。

 

 相手のターンに好き放題しやがって。

「こういうことをして回収しやすいようにコストゾーンにわざと欲しいカードを送ってたってことか」

「そういうことね。でも引けるかは運次第よ」

 手札は除去されやすいが、コストゾーンのカードは除去されにくいからな。

 

 不審者は月光ゲッコーの攻撃を受ける。

「これで残りライフは7か」

「ターンエンド」

 ラーナちゃんは手っ取り早くモンスターを並べて殴った方がいい。

 

 不審者の四ターン目だ。

「俺のターン。ドロー。チャージ。ハイプリーステスの効果でコストを1軽減してコスト3でアルカナンバーフォー ザ・エンペラーを召喚」

 

 モンスター コスト4 アルカナンバーフォー ザ・エンペラー 種族:マジシャン

 効果:このカードがカードの下に置かれたとき互いに山札の上をめくる。相手ターン中にこのカードがカードの下にある時互いの山札の上をめくってもよい。このカードの効果は1ターンに1度のみ使える。相手よりめくったカードのコストが少なかった場合ダメージを1多く受ける。コストが同じか高かった場合このターン中受けるダメージを1減らす。このカードの効果を使用したとき互いに山札をシャッフルする。 

  攻撃力:2 防御力:2 生命力:4

 

 当然不審者のめくったカードの方がコストが高かった。

「早いところにわとり引かないとまずいわね」

「あきらめろ。惨めな目にあいたくなければな。俺はこれでターンを終了する」

 アルカナと言えばエクストラウィンだっけ。



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十五枚目 ザ・ワールド

 ラーナちゃんの五ターン目だ。

「ターンスタート。ドロー。チャージ。コスト2でメガラビットを召喚。さらにコスト4で大地の叡智発動」

 大型犬サイズの兎が現れた。

 

 魔法 コスト4 大地の叡智

 効果:山札の上から二枚見てカードを一枚手札に加えて、手札を1枚コストゾーンに置く。

 

 ラーナちゃんは俺をちらりと見つめる。

「実はドロウに負けた反省をしたの。そして足りないものがコストブーストと手札補充と分かったわけ」

 これで次のターンにわとりを場に出せる。

「ラーナちゃんは負けてないから」

 負けたがり屋さんなのかな。

 

 山札の上がめくられた。

「ザ・エンペラーの効果発動」

「コスト6。クワトロブースト」

「コスト5。ザ・ラヴァー。ザ・ジャッジメントの効果で21にするから勝ちだ」

 ずるいカードだよなあ。

「ターンエンド」

 まあダメージを与えられないからなあ。

 

 不審者の5ターン目だ。

「俺のターン。ドロー。チャージ。手札のアルカナンバーフォーティーン ザ・テンパランスの効果発動」

 

 モンスター コスト14 アルカナンバーフォーティーン ザ・テンパランス 種族:マジシャン

 効果:大アルカナの下にカードが合計コスト14以上ある時コストを支払わず手札から召喚してもよい。このカードがカードの下に置かれたとき互いに山札の上をめくる。相手よりめくったカードのコストが少なかった場合手札とコストゾーンのカードを一枚山札に戻す。コストが同じか高かった場合アルカナンバーの召喚コストが2下がる。このカードの効果を使用したとき互いに山札をシャッフルする。 

  攻撃力:7 防御力:7 生命力:14

 

 山札をめくった。

「コスト7。焼鳥屋に賛成するにわとり」

「コスト6。ザ・ハイエロファント。だがザ・ジャッジメントの効果で21にするから俺の勝ちだ。ザ・テンパランスを大アルカナの下に置いて一枚ドロー。ターンエンド」

 今までもドローしてきたのになんで今さら宣言するのかな。まあ人それぞれだろうな。

 

 ラーナちゃんの六ターン目だ。

「ターンスタート。ドロー。チャージ。コストを1軽減してコスト6で焼鳥屋に賛成するにわとりを召喚」

 小麦粉を背負ったにわとりが現れた。

「ザ・エンペラーの効果発動」

「コスト6 クワトロブースト」

「コスト4 トリプルドロー。ザ・ジャッジメントの効果で俺の勝ちだ」

 だんだん運が無くなっているように見える。

 

 これは勝てるかもしれないな。

「焼鳥屋に賛成するにわとりで攻撃」

 不審者生命力8→5

「ククク。手札のフォーチュンテラーの効果発動。フォーチュンテラーを召喚する」

 げっ。シンプルイズベストを現したようなつよつよカードじゃん。ローブと水晶玉が現れた。

 

 モンスター コスト5 フォーチュンテラー 種族:マジシャン

 効果:ダメージで生命力が5以下になったときコストを支払わずに手札のこのカードを召喚してもよい。 

  攻撃力:2 防御力:3 生命力:5

 

 入ってるなんて思わなかった。

「まさかアルカナデッキにこいつが入ってるとは思わなかった。防御札としては割と妥当なカードだから入れててもおかしくはないか」

「なぜアルカナデッキに入っていると思わなかったんですの?」

「アルカナデッキは最低でも23種類のカードを入れなければならないんだ。それにアルカナデッキはそれぞれ1枚ずつだと手札に加わる確率が下がるからよっぽど運がよくなければ安定しない。安定を捨ててフォーチュンテラーのような汎用カードを入れてるとは思わなかったんだ」

 トリプルドロー見えてた時点で気が付くべきだった。ザ・フールが二枚あったから汎用カードが入ってねえと無意識に思い込んでいたか。まだまだだな。

 

 職業特性使わなけりゃこいつ突破するのに2ターンかかるのがきついな。

「ターンエンド」

 ファイターの職業特性は温存するのか。

 

 不審者の六ターン目だ。

「俺のターン。ドロー。チャージ。アルカナンバートゥエンティワン ザ・ワールドの効果発動」

 

 モンスター コスト21 アルカナンバートゥエンティワン ザ・ワールド 種族:マジシャン

 効果:場に小アルカナが存在し、大アルカナの下にザ・ジャッジメントと名の付くカードがある時コストを支払わず手札から召喚してもよい。相手よりめくったカードのコストが少なかった場合このカード以外の大アルカナの下のカードを好きな順番ですべて山札に戻し、すべてのプレイヤーは手札のカードを三枚選んで山札に戻す。コストが同じか高かった場合相手は墓地から好きな魔法を一枚手札に加えて、大アルカナの下にアルカナンバーと名の付くモンスターが21種類存在するように手札とデッキから大アルカナの下にカードを置き、すべてのプレイヤーはカードを三枚引く。このカードの効果を使用したとき互いに山札をシャッフルする。このカードは一ターンに一度大アルカナの下のモンスターの効果を使用できる。このカードがカードの下に置かれたとき互いに山札の上をめくる。

  攻撃力:10 防御力:11 生命力:21

 

 互いに山札をめくった。

「私はコスト7の焼鳥屋に賛成するにわとり」

「俺はコスト56の棒と剣と聖杯と護符だ」

 そんなカード俺は知らねえぞ。またこの世界独自のカードか。コスト56ってことは何かしらコストを軽減する効果があるのかもしれない

 

 不審者は笑った。

「ザ・ワールドの効果で大アルカナの下のザ・サンの効果発動」

 エクストラウィン対策にあるカードを押しつけたところなんだよね。効果が限定的なもんで、要らなかった。

 

 モンスター コスト19 アルカナンバーナインティーン ザ・サン 種族:マジシャン、コズミック

 効果:相手よりめくったカードのコストが低かった場合自分の生命力を1にする。コストが同じか高かった場合相手のターン終了時に勝利する。このカードの効果を使用したとき互いに山札をシャッフルする。このカードがカードの下に置かれたとき互いに山札の上をめくる。

  攻撃力:9 防御力:10 生命力:19

 

 互いに山札の上をめくった。

「私はスピードラットよ」

「俺はコスト56の棒と剣と聖杯と護符だ。お情けでお前のめくったカードのコストを21にしてやるぜ。ターンエンド」

 それでも勝利が揺るがないので、コイツの性格の悪さが伺える。



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十六枚目 世界を破る運命と次元

 あのカードが手札に来ないと負けだぞ。まああんなカードを素直にデッキに入れているとは限らないけどさ。

「余裕をもって使わせてもらうぜ。ザ・エンペラーの効果発動。受けるダメージを減少させる」

 不審者がコスト勝負に勝って受けるダメージが減った。

 

 ラーナちゃんの右手が光った。この光を浴びているとラーナちゃんの勝利を確信できる。

「なんなのよこの光は」

「デスティニードロー現象か。ふざけやがって。俺が何度試してもやれなかったことを運のないお前がやるだと」

「デスティニードロー現象ですって?」

「本当にあるとは思いませんでした」

 冷や汗かいてねーで俺にも教えろよ。

 

 ラーナちゃんの七ターン目だ。

「ターンスタート。ドロー。チャージ」

 ラーナちゃんは口角を上げる。あのカードが手札に来たか。

「デスティニードロー現象を起こしたかと思えば何の役にも立っていないではないか。お前は所詮運のない雑魚なんだよ」

「私はターンエンドを宣言するわ」

 ラーナちゃんは鼻歌を歌う。

 

 不審者がラーナちゃんを指さした。

「悔しすぎて感情が変になったか」

「ラーナちゃん何をしているんですの?」

「運が良かったなあって思っただけよ」

 ラーナちゃんは手札のあるカードをを見せた。

 

 ラーナちゃんの目から光が消える。

「弱きネズミは高次元の力を手にして再び故郷へ舞い戻る。運命を捻じ曲げろ。高次元のスピードラットを場に置く」

「召喚口上現象ですわ。モンスターの意思と一体化することによりこの現象が起こると言われていますわ」

 ラーナちゃんの目に光が戻って空間に切れ目が現れた。

 

 モンスター 召喚不可能 高次元のスピードラット 種族:オール

 効果:このカードはスピードラットと名の付くモンスターとしても扱う。このカードが手札にある時生命力が0にならずに敗北する代わりにこのモンスターを場に置いて、プレイヤーの生命力を1にする。このカードが場を離れたとき、プレイヤーの生命力は0になり、山札は全てコストゾーンに置かれる。このカードは生命力が0にならない限り場を離れない。(種族:オールはルール上すべての種族として扱われる)

 説明:遥か高次元の力を手に入れたスピードラット。

 攻撃力:2 防御力:0 生命力:1

 

 空間の切れ目から兎と同じ大きさの金ぴかのネズミが現れて消えた。

「デスティニードロー現象ってなんだ?」

「カードを触ったことのある人間ならだれもが知っている現象ですのに知らないんですのね。無我の境地に至った時ごくまれに状況に最適なカードを引ける現象ですわ。たまにデッキに入れた覚えのないカードを引くという有り得ないことも起きるそうですわ」

「デスティニードロー現象を故意に起こせる体質を持った人物を主人公補正体質と言うそうです」

 ズルくねえか。

 

 不審者は顔を歪ませた。

「ターンエンド」

 しかしながら不審者のターンに倒されるぞ。

 

 不審者の七ターン目だ。

「俺のターン。ドロー。チャージ」

「手札からコストを5支払って魔法発動 レッドリスト」

 あれも俺が上げたカードだ。基本アジ・ダハーカしか使わねえから要らなかったんだよね。

 

 魔法 コスト5 レッドリスト

 効果:このカードは相手ターン中にのみ使用できる。種族:フラムビーストのモンスターの生命力がターン開始時に1だった場合、そのモンスターはこのターン中生命力が0にならない。このカードを発動した次のターンの終了時そのモンスターの生命力を0にして3ダメージ。

 

「ソイツの種族はフラムビーストじゃねえだろ」

「種族:オールはすべての種族として扱われる……らしいわ」

「インチキだ。今すぐやめろ」

「お前の豪運よりはまだ理不尽さが足りていない」

「外野が水を差すんじゃねえ」

 不審者がうずくまった。

「クソォ。ターンエンド」

 あっさりとターンを終えた。

 

 ラーナちゃんのラストターン。

「ラストターンスタート。ドロー。チャージ。コストを1軽減してコスト6で焼鳥屋に賛成するにわとりを召喚。さらにファイターの職業特性発動。コストを5まで支払うことでプレイヤーとすべてのモンスターの攻撃力を支払った分上昇させる。私はコストを4支払う。一体目の焼鳥屋に賛成するにわとりでフォーチュンテラーに攻撃。破壊。私であなたに攻撃する」

「アルカナカードの弱点はモンスターを破壊するカードがないってことだな」

「そうなのですね」

「ザ・エンペラーの効果発動」

 でも防御札はあるかな。

 

 互いに山札の上をめくった。

「私はコスト2 メガチャージ」

「俺はコスト5 フォーチュンテラーだ。シャッフルしてザ・ワールドの効果発動。ザ・エンペラーの効果を発動する」

 また山札をめくった。

「私はコスト6 クワトローブーストよ」

「俺はコスト4 トリプルドローだ。ザ・ジャッジメントの効果でコストを21にする。これで合計で受けるダメージが2減少した」

 不審者生命力5→2

「メガラビットで攻撃」

 不審者生命力2→0

 

 カードによって現れていたモンスターがすべて消えた。 

「お前は俺に何を望む」

「ドロウちゃんが言ってたアジなんたらってカードよ」

「持ってねえ」

「じゃあクワトロブースト」

 不審者はクワトロブーストを投げ渡して倒れた。息はあるから生きているな。

 

 気絶した不審者の覆面を剝がそうとしたらアメラに止められた。

「私がこれを外します」

 アメラが不審者の覆面を外すと、アメラの顔が出てきた。

「もう一人いますの」

「私の双子の弟だった男です。十年も前に運を手に入れる悪魔に魂を売って絶縁しました。風のうわさでカードハンターをやっていることは分かっていました。でも絶縁されて以来初めて会いました。声だけでわかりました」

「そんなことがあったんですのね」

「まあお嬢様が物心つく前の話ですからね」

 そういうことだったのか。



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十七枚目 ゴーストの浄化

 巨大な翼竜が窓から首を出してカードハンターを咥えた。

「助けに来たぞ。この生まれた時から双子の姉に適わぬ出涸らし野郎が」

 翼竜の首が引っ込んで、翼竜の全身がよく見えるようになった。上に全身黒い服装の不審者がいた。あの時のアイツか。こんな所にいたのか。

 

 ここであったが百年目だ。

「おい。アジ・ダハーカ返せ」

「いまはそんなことは重要じゃない。そんなにアジが欲しけりゃくれてやる」

 黒い不審者にたい焼きを投げ渡された。どういうことか分からねえがバカにされてることは分かる。

 

 コケにしやがって。ぜってえ許さねえ。

「ムキーー」

「たい焼きでも齧ってろ」

 不審者は高く飛んで消えた。ムカつく奴だったぜ。早くアジ・ダハーカ取り返さなきゃな。

 

 まあ色々なことがありつつもリルテックシティーに着いた。

「防壁のない街だなんて珍しいですわね」

「不用心な街よねー」

 ラーナちゃんとお嬢様は地図を開いて互いに見る。

 

 動きが止まった。

「パニックを招くといけないのでここで降りましょう」

 着替えてから元着ていた服を上に着て、小高い山の麓で降りた。全員降りてからキャラメルキャメルをカードに戻す。

 

 小高い山を登る。

「早くしなさいよー」

「待ってください。お願いのなので、ドンドン先行かないでください」

 子供は元気だなぁ。ドレスでこの悪路を走れるなんて健脚すぎる。

 

 それに引き替え俺は体力が尽きかけて、その辺の木の棒拾って杖にしてる。

「ゼェハァ。オェ。キッツ。体力が尽きかけだ。体力落ちたかな」

 懐に入れてたたい焼きの中身を啜る。

「体力がないですのね」

 こんなんだったらムキムキマッチョマンにキャラクリエイトするんだったぜ。後悔後に立たず。

 

 小高い山の頂上まで杖を尽きながら歩くと街が見えた。

「死にかけなんだけど大丈夫なの?」

「先生殿大丈夫ですか?」

「そんな大げさに心配するんならもっと早く心配してくれよ。まあでも心配してくれてありがとう。かろうじて生きてる」

 全くもう。

 

 また歩いて街の近くで杖を捨ててから、街に入った。

「なんか変な街だな」

 街自体はカラフルで住民は陽気で太陽もカンカン照りなのに、なんかどことなく雰囲気が陰鬱な感じがする。

 

 なんか変なんだよね

「明るい街じゃないですか。先生殿の気のせいだと思いますよ」

「そうですわ。いきなり変と言うのは失礼ですの」

「アハハ。すみません」

 まあクレーマーみたいな言動だったからなぁ。

 

 会場までの地図に描かれていた道の裏路地を行くことにする。

「ヒャッハァ。金目のものを置いてけぇ」

 上からガラの悪い男たちが落ちてきた。

 

 ラーナちゃんとお嬢様はデッキを構える。

「げ」

 男たちはバツが悪そうに道を開けた。

「失礼しやした」

 カードがどれだけ強力なもんか分からねえが、それほど恐ろしいものなのか。

 

 会場に着くとボロ屋敷があった。

「このボロ屋敷から蜂蜜のように濃密な陰鬱なオーラが流れ込んでる気がする」

「幽霊屋敷だそうですわ」

 幽霊だと。俺昆虫と怖いの苦手なんだよなぁ。メタルアヤカシがお化けをモチーフにしてるのに怖くないのは絵のタッチがかわいいからだと思うんだよね。

 

 アメラの後ろに隠れた。

「幽霊屋敷は勘弁してくれ。参加したくねえ」

「まあ毎年会場は違いますので、幽霊屋敷が選ばれたんでしょうね」

 運が悪いぜ。

 

 アメラさんに無理やり押し出された。

「デッキ持ってないと入れないんですよね」

「そんな無慈悲な〜」

 お嬢様と一緒に受付で参加申請をする。

 

 魔法を選んでから受付の人からデッキを渡された。

「デッキをお出しください」

 持ってるデッキを二つとも出す。

「デッキロック。これで大会中これらのデッキは使用できなくなります。それではデッキを受け取りくださいませ。

 紙とペンをもらって代筆してもらう。この世界の文字分からねえからなあ。

 

 事前にデッキに入れる三種類の魔法を選び、受付の人は微笑む。

「誰に賭けるか決めましたか?」

「賭けませんわ」

 ここ賭けごともあるのか。

「さようですか。私から見て左の方にある仮設控え室で待機してくださいね」

 左の方に行った。

 

 控え室には人がたくさんいた。

「ヨシ」

 ラーナちゃんとお嬢様はドレスを脱いで、例の格好になる。

「ええい」

 服を脱いで例の格好になった。

 

 腕に目がやたら大きい六本脚の生物が引っ付く。ミルオクルパラサイトってカードのイラストに似てる生物なんだけど。

「なにこれ」

「ミルオクルパラサイトですわ。不正防止の為のモンスターらしいですわね。まあ詳しいことは分かりませんわ」

 ミルオクルパラサイトはパラサイトの中じゃ一番素のステータスが高いんだよなぁと。

 

 オウムが現れて俺の右肩に止まる。

「それは映像を記録して送るカメラオウムというモンスターですの」

 そういやそんなモンスターもいたな。

 

 控え室の出入口に大きな穴が空く。

「我々はテレポートゲートを使用した。これで会場の方に転移させる。中は広いから大丈夫だぞ。最後まで生き残った奴が優勝者だ。それでは開始」

 続々と穴に入っていった。

 

 穴に入ると本棚のある埃っぽい部屋にいた。

「けほっけほっえふん」

 早いところこんな埃っぽい所から出たいな。

 

 とりあえずコストを貯めてっと。

「この中に捕まえられそうなモンスターがいねえ」

 本のモンスターはいるけどコストが足りねえ。



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十八枚目 鉄の刃

 あれから三十分が経過した。

「まずはメガチャージ」

 コストを貯めるのは基本どのルールでも強い。

 

 でもドローソースが役に立たないなんて意外だったな。

「どうするべきか」

 ずっと静かで一ターン十分だから暇で暇でしょうがない。

 

 本棚から本を取ろうとしたら本が飛んで逃げた。

「お前がモンスターだったのか」

 ブランクを掲げても何も起きない。

 

 本は飛んで逆さ向きになり、天井の埃を被ったシャンデリアに止まる。

「他の本もみんなこうなのか?」

 本が開いてすごい速さでこっちに来た。

 

 あっぶね。ギリギリかわせたぞ。

「バカめ。外しやがって」

 本が崩れて降り注ぐ。

「あててて」

 マジで痛えよ。

 

 生命力が2減ったな。

「けほっ。モンスター以外のせいで減るってことも、あるのか。けほけほ」

 本に埋もれて身動きが取れない。

 

 力を入れても抜けねえ。

「くぬぬぬぬ」

 本が高速で当たってくる。

 

 コストゾーンのカードが使用可能になった。

「ギリギリセーフだぜ」

 ドローして、コストゾーンにカードを置いてから、ブランクを掲げると本が消えてカードに本のイラストとステータスが追加された。

 

 ええっと……

「効果なしモンスターで、種族はマジシャン。攻撃2防御2で生命力4コストは4か」

 ちなみにブンコバットと言う名前だったよ。

 

 ブンコバットに本をどかしてもらった。まあモンスターさえいれば暫くは平気だろう。

「誰かいませんか?」

「ここにいるぞ」

 首なし鎧騎士が現れた。

 

 鎧騎士は剣をブンコバットに振り下ろすが、切り傷をつけられなかった。

「ステータス的には攻撃力が2以下なんだろうな」

「しかしながら防御力は大したもんだぜ」

 男の人が現れた。こいつも半袖とスパッツかよ。もっこりしてんだけど。自分にも付いてたものだけど、絶望的に、きたない。

 

 不審者だ。

「変態を見るような目で見やがって。ただの験担ぎじゃねえか。このメスガキが。許さねえ」

「導火線短すぎだろ。爆弾ヤローか」

 火薬庫に置きたくない爆弾No.1だわ。

 

 本棚までダッシュして逃げた。

「互いに傷を与えられないから、勝負する意味がねえ。逃げさせてもらうぜ」

「待ちやがれ」

 体力が少なくてスピードもないから、まともに逃げたら逃げ切れない。

 

 ブンコバットに攻撃させて本をいっぱい落とさせた。

「これで本に挟まれて時間がかかるだろう」

 めちゃくちゃに逃げて撹乱した。

 

 階段を上がる。

「へへへ」

 二段目を踏むと階段が動いて戻された。エスカレーターの逆方向のような感じだな。

 

 つまり二段目を踏んだら勝手に上にいく階段もあるって事だな。

「いやいやその結論を出すにはデータ不足すぎるだろ。世の中そう都合の良いものじゃないって」

 階段が動いてエスカレーターのように上に運ばれる。

 

 世の中は案外都合がいいものだな。

「楽勝だぜ」

 踊り場の先に鉄の刃の様なものが現れた。

 

 ハエが鉄の刃に触れて飛ぶ。ハエは飛んでいる最中に空中で真っ二つになった。

「ヤベエ」

 あれに触れたら南無三だぞ。

 

 鉄の刃の上に漆黒の二つの珠が現れた。

「まさかあれの口だったりして」

 とてもまずい。

 階段を下りても下りても元の場所に戻ってしまう。

「ヤベエ。このままじゃキリがねえ。アイツのコストさえ分かればこのまま捕まえられるかもしれないのに」

 アイツがどういったモンスターなのかも分からねえから、対策もしにくい。

 

 上から足音が近づいてきた。

「このままじゃ狙われるぜ」

 ケガを覚悟で階段から遠ざかるように落ちた。

 全身がいてえ。少し無茶だったか。

「いってえ」

 鉄の刃と黒い珠が消えた。

 

 人が踊り場からやって来た。よかった。この人は普通の格好だ。

「まずは一人。狩らせてもらうぜ」

「止めろ。それ以上こっちに来るんじゃない」

「お情けで見逃してもらえると思ってるんなら甘すぎだぜ」

 お情けじゃねえ。

 

 白くてふわふわしたものが人のそばに現れた。

「潰してやる」

 人が近づいて幽霊ごと鉄の刃に真っ二つされた。

「だから言ったのに」

 これはもう死んだだろう。

 

 人は体がくっついて立ち上がった。化け物か何かだろ。

「生命力がかろうじて残ってやがる。残りでお前をぶっ潰してやる」

「そっか。ちゃんとコストを貯めてモンスター捕まえてからにしろよな。それで大抵何とかなる」

 こんなに強いモンスターは味方にした方がいいだろう。

 

 人が飛び降りてきたので避けた。

「あぶねえじゃねえか。潰れたらどうすんだよ。あとお前どっから下りてきたなんて。裏では教師か。羨ましい野郎だ」

「お前なんぞ妬んでばかりいるだけだ。あと何で分かったんだ」

「俺の前では何でもお見通し」

 ズルい。

 

 俺が本で行き先を塞いだ人が出てきた。

「もうでてきたのか。早くねえか」

 この状況は二対一。勝てる状況じゃねえな。

「おいおっさん。そこの普通の奴は辛うじて生命力が残っているんだってよ」

「そうか。まずお前を潰してからソイツも倒してやるよ。このクソメスガキ」

「お前はここで死ぬんだ。悔しいだろうが仕方ないんだ」

 標的をずらそうと思ったが、全然効かなかった。すごくマズイぞ。



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十九枚目 辻斬りサキュバス

 順調にモンスターを封印できていますの。

「序盤でこれだけ手数が揃えば完璧ですわね」

 今いるのはコスト2の空飛ぶ花瓶とコスト3のシーツのおばけですわね。

 

 このお屋敷少し広いのでなかなか他の方々が見つかりませんわね。

「見つかりにくいですわね」

 鎧がやたらと並んでいる廊下を歩きましたの。昔からこういう形式の廊下ってあるんですのね。

「鎧が一つだけ消えているのが不自然ですわね」

 元からないとすれば不自然ですわね。

 

 鎧が動きましたわ。

「モンスターですわね」

 鎧の首が取れましたの。デュラハンでしたのね。

 

 鎧の剣が花瓶に当たりましたわ。それでも花瓶にひびは入っていませんの。

「心臓に悪いですわねー」

 こう見えて鉄板よりも硬いのですが、見た目が花瓶なので過敏な反応もやむなしですわね。

 

 鎧の脚を引っ掛けて転ばせましたわ。

「ラーナちゃんが良くやっていた奴ですの。役に立ちましたわね」

 鎧の目をくらませるために近くの部屋のドアを開けて部屋に入りましたの。

 

 この部屋埃がひどいですわね。

「けほっけほっ。掃除を怠っていましたのね」

 左腕で口を塞ぎましたの。

 

 部屋の中には書類がたくさんありましたわ。そして部屋の中央に乱雑に紙の上に置かれた羽ペンと埃を被った乾いたインク瓶がありましたの。

「まるで仕事中にいきなり消えたかのような感じですわね」

 そんな危険な場所に仮設控え室を建てていろいろと問題があるような気がしますの。

 

 外から鎧の歩く音も聞こえなくなりましたので、そろそろ出た方がいいですわね。

「開きませんわ」

 ドアノブを押しても引いても扉は少しも動きませんの。

「まさか幽霊モンスターに閉じ込められましたの!?」

 うかつでしたわね。窓があれば窓から出ることも出来たのでしょうが、窓もありませんからね。まあ危ないので窓があっても飛び降りませんの。

 

 空飛ぶ花瓶とシーツのおばけに扉を攻撃させましたが、ビクともしませんでしたわ。

「ありえないほど硬くなっていますわね」

 シーツのおばけが壁にぶつかって大きな音を立てましたの。

 

 幽霊モンスターはカードに閉じ込めなければ未練を解消させて成仏できると言いますし、ちゃんと出られるかどうか謎を解かないとダメなのでしょうか。

「だとすればこの机に何かヒントがあると思われます」

 机のイスの方に回って引き出しを開けましたの。

 

 埃をかぶってところどころ文字が消えているカードがありましたの。

「なんですのこれ」

 埃を落としましたわ。

 

 ミセ…ゴー? コストは5ですわね。

「カードの絵からドレスが浮いているモンスターだと伺えるので……おそらくミセスゴーストですわね」

 ミセスゴーストは幽霊モンスターですわね。

「事前にこういうカードを取り除いてくれないと不正が出来てしまいますわよ」

 カードを机の上に置きましたの。 

 

 コストカードのカードが回復しましたの。 

「ドローしてから貯めますわ」

 さてどうしますかね。

 

 ミセスゴーストのカードの絵に描かれているようなモンスターが現れて、野生のモンスターのように奥行きのある見た目になりましたわ。

「こんにちは。私はミセスゴーストと言いますわ。貴女の名前は?」

「私はサツターバ・ピンハネルが娘カネスキ・ピンハネルですわ」

「よろしくね。無理やりドアを壊そうとするなんて野蛮ですわ」

 気品の感じられるモンスターですわ。

 

 モンスターになる前はこのお屋敷の偉い人だったと思いますわね。

「この部屋はわたくしをどうにかしない限り出られない部屋ですわ。ちなみに生前は夫の仕事部屋でしたの」

「そういうことですのね」

 このモンスターなんだか私と似た雰囲気がしますの。

 

 ミセスゴーストがふわふわと浮いた。

「今日はなぜこんなにも我が家が騒がしいのかしら」

「この家が第39回フィールドファイト大会の会場だからですわ」

「もう第39回になりましたのね。我が家があのモンスターに襲われる前は第11回でしたのに」

 およそ30年くらい前の出来事ですのね。

 

 ミセスゴーストの帽子が私を見ましたわ。

「フィールドファイト大会は優勝者がみんなそういった破廉恥な恰好を……」

「ゲン担ぎですわ」

「そうですのね。返事が食い気味ですわ」

 恰好としてはハレンチなのは認めざるを得ませんが、ゲン担ぎは大事ですので。

 

 ミセスゴーストと談笑していましたら、ターンが1ターンほど過ぎていましたの。

「ドローして貯めてますわ」

「あなたが実力のあるカード使いとして見込んで話がありますわ」

「なんですの?」

「我が家を襲ったあのモンスターは図々しくも我が家に居座っています。どうかあのモンスターを捕まえてください」

 ではこの会場は実は危険なのでは。

 

 そのモンスターの名前を聞く必要がありそうですわね。

「そのモンスターは何という名前ですの?」

「辻斬りサキュバスと名乗っていましたわね。曲がった剣で切り裂いて死体ごと生気を吸い取る恐ろしいモンスターですの。夫が最初のターゲットになりましたわ。そのモンスターを倒すために力を貸しますわ。死してモンスターとなり、カードに閉じ込められたふりをした日々が報われましたの」

 その辻斬りサキュバスって危険なモンスターでは。

 

 ブランクを掲げてミセスゴーストを閉じ込めると、埃をかぶっていたカードが消えましたの。

「頑張ってくださいまし」

「はい」

 扉を開けましたわ。



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二十枚目 ギロチンフェイスデビル

 そのとき頭の中に一つの考えが浮かんだ。

「その方法があったか」

 聞こえないようにつぶやいた。

 

 俺は飛び降りてきた人を無視して、鉄の刃のいる階段を駆け上がった。

「おい。逃げんな」

「俺がそいつにライフ減らされたのに突っ込むとかおかしいだろお前」

 俺には俺のやり方があるんでい。 

 

 鉄の刃が俺に向かって落ちてきた。

「ふん」

 ジャンプしてギリギリで避ける。

「いてて。そこで一生争ってろ」

 階段を勢いよく上がって近くの部屋に入ってドアを閉める。

 

 部屋の中には三度笠を被り、植物の枝を咥えて、日本刀を持った輩がいた。この部屋だけ埃がないな。

「ヌーブ以外は使用できなかったはずなんだが」

 刀を持ってるなんてそれは完全に侍の特徴だ。

 

 ドアノブを指でなぞっても埃が付かなかった。

「何でこの部屋だけ埃がないんだ」

「すみ着くにはある程度綺麗な部屋でないと嫌でござる」

 声からして女性だな。侍系女子って奴か。

 

 三度笠を投げつけられる。三度笠の下には美しい顔と頭に生えた角が隠れていたことが分かった。

「拙者は辻斬りサキュバスでござる。お主を斬ることにするでござる。妖刀魅魔の錆となれでござる」

 刀を持った奴は服をはだけさせて北半球を露出させる。かろうじてチクチラしてないな。

 

 ……はわわ。見ちゃいけない奴だよお。

「これをするとたいていの輩は目を塞いで隙を作るでござる。拙者これを色気の盾崩しと呼ぶでござる」

 刀が凄い速さで右から襲い掛かってくる。

 

 しゃがんでギリギリで避けた。

「格好も考え方もいやらしい奴だ。辻斬りサキュバスなんてモンスターご存知じゃなかったが、これだけは分かったよ」

 辻斬りサキュバスの肌が紫色になる。

 

 辻斬りサキュバスの背中にコウモリのような翼が生えた。

「今のお主の格好よりいやらしい恰好があったのでござるか」

「うるせえやい。俺だってしたくてこんな格好してるわけじゃねえ」

 壁とドアが切れていたので、そこから逃げる。

 

 あいつは本格的にマズいやつだ。

「とりあえず逃げて体制を整えるしかねえ」

 適当に他の部屋のドアを開けて入った。

 

 天蓋付きのベッドがある部屋だ。なんかお姫様がこの部屋で寝てそう。ここも埃っぽくないな。

「なんでここも埃っぽくないんだろ。あんがい真面目に掃除をする奴なのか?」

 いや違うな。だとしたら埃のある場所があるわけない。

 

 壁が切れる音がした。

「拙者は妖刀魅魔で斬ることで回復も出来るが、それでもたまに直接食らってみたくなるでござる。ここはそういう時に使う部屋でござるよ。ちなみに元はここの住人の子供の部屋だったそうでござる」

「ああそうかよ。このゲスが」

「モンスターの住処に家を建ててそのモンスターの力を独占したこの屋敷の一族よりははるかにましでござろう」

 コストゾーンのカードが回復したのでコストを貯めた。

 

 ブランクを掲げても何も起こらなかった。

「拙者を従えるにはコストが7必要でござる」

「ご丁寧に忠告ありがとな」

 後ろから辻斬りサキュバスが切りかかってくる。

 

 俺はそれをよけて部屋の外に出た。

「こいつをあいつらにぶつけるってのも手だな」

 階段まで急いだ。

 

 辻斬りサキュバスは俺を恨めしそうに見つめる。

「貴様。拙者がそのモンスター……ギロチンフェイスデビルを嫌っていると知っていてそうするでござるか」

「何で苦手なの?」

「理由は単純でござる。拙者の攻撃があまり通じぬし、拙者の体の防御が薄いのを知っていて切ろうとするからな」

 なるほど。防御が薄いのか。

 

 ならすることは一つ。

「ブンコバットで辻斬りサキュバスに攻撃」

 辻斬りサキュバスはブンコバットの攻撃を受けて紫色の体液を出した。防御力は二未満かな。

 

 辻斬りサキュバスは居合い抜きをする。

「肉を切らせて完膚なきまで骨を断つ」

 辻斬りサキュバスはブンコバットを刀で斬って、ブンコバットを消した。一撃かよ。こっわ。

 

 辻斬りサキュバスは刀を鞘に納めた。

「なんでやめちゃうんだ?」

「いやなに」

 辻斬りサキュバスは谷間からコンパクトを出す。はわわ。

 

 こんなところでお色直しかな?

「くらえ」

 風船を破裂させたような音が聞こえたと思ったら、小さな鉄の板が飛んできた。

 

 俺の左腕に鉄の板が刺さって、生命力が残り1になった。これは手裏剣か。

「ということはコスト7で防御力0攻撃力7か。攻撃力に特化しすぎだろ」

 手裏剣が消えた。あと一撃受けたら終わりだ。

 

 コストゾーンのカードが回復した。使えるコストは6。コイツを捕まえることは……出来ない。

「階段の下の悪魔のコストは6。速くあやつを従えて、拙者の前から消すでござる。お主にはもはやそれくらいしかさせぬでござる」

 俺を道具としか見ていない。

 

 ……しかしながら道具として扱われないと負けるしか無いので、今は従うしかあるまい。従わなきゃ切られるからな。

「しょうがねえな」

 階段の踊り場まで行った。

 

 鉄の刃が浮いていた。

「てめえか。今ぶっ倒してやるよ。まずはかるくバーンアロー」

「げ」

 飛び降りてきた人から火の付いた矢が放たれた。

 

 火の矢は鉄の刃に当たった。

「運が良かったぜ。このノーコン野郎がよ」

 ギロチンフェイスデビルをカードに閉じ込める。

 

 後は逃げるのみ。

「あっちの健康体二人から切った方がいいと思うぜ」

「確かにそうでござるな」

 辻斬りサキュバスは俺を飛び越えて、あの二人に襲いかかった。



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二十一枚目 バロンゴースト

 コストはいっぱい貯まってるけど、モンスターを見かけないわ。

「三枚ともコストチャージする魔法にしたからコストは8もあるんだけどねえ」

 薄暗い廊下を歩いても人がいないし、モンスターもいないわね。

 

 ……これって誰かに襲われたら確実に倒される状況じゃないよね。

「割ときついわ」

 運悪くモンスターのいないところに転移させられちゃったみたいね

 

 まだ部屋の中には入ってなかったし、そういうところを探そう。

「何で今まで気が付かなかったのよ」

 ドアを開けて部屋の中に入った。埃臭い部屋ねー。

 

 部屋の中にはとても大きなベッドがあったわ。

「内装はベッドしかないわね。まるでお姉ちゃんの部屋みたい」

 お姉ちゃんの部屋と同じく物があまりないから、この部屋の持ち主も仕事人間だったのかしら。

 

 ベッドの中央になんかカードが落ちているわ。

「これなんなのかしら」

 ベッドにダイブしてカードを取る。

 

 文字がところどころ消えてて読みにくいなあ。

「バ…ンゴー…ト? コストは5だね。そう言えばバーンゴートっていうモンスターもいたっけ」

 このカードはバーンゴートなのね。四足歩行じゃないし草も食べてないけど青いけど火もあるしバーンゴートだね。でもモンスターをコストを支払って捕まえなきゃいけないルールがあったから使えないのよね。

「残念だわ」

 ぬか喜びってやつね。

 

 カードから大きくなった絵が出てきた。野生のモンスターみたいに奥行きがあるなあ。

「バーンゴートじゃないわね」

 だってシルクハットと杖と革靴とコートが浮いているもの。

「どう見たって吾輩は山羊ではない。はしたない格好を平然とするような小娘には分からないかな」

 こんなに暑いのにこんなに暑くしい恰好をするなんて……幽霊モンスターに違いないわ。

 

 カードを掲げた。

「これでいきなりゲットよ。モンスターがいないから助かったわ」

「させぬ」

 杖で叩かれてついブランクを手放してしまった。

 

 コートたちが動いた。

「吾輩はバロンゴーストだ。小娘名を名乗れ」

 バロン……ということはわたしの家よりも家柄が低いということね。まあたいていの家はわたしの家よりも家柄低いけど。

「ラーナ・フラム。フラム伯爵家の次女よ」

「噓をつくな。伯爵家の者にしては品性が感じられない。カードの腕前はよさそうだが、そのほかが備わっていないように見える。そもそもフラム伯爵家は男は十までいるが、女は一人も生まれていない。つくならもっとましな噓をつけい」

 お父さまの時代の話だよね。歴代で最も男が生まれた世代ってよくお父様に聞かされたから覚えているわ。

 

 どれだけ前にお亡くなりになった幽霊モンスターなんだろう。

「前まではうぬぼれていたけれど言うほど良くないって知ってるわ。手加減されて引き分けに持ち込まれたもの」

 あんなに華麗なカードのタクティクスで私と引き分けになった人を初めて見たもの。手加減されず本気でやれば倒されていただろうし、あれは実質負けたようなものなのよ。ちょっと強いヌーブみたいな職業と使いどころの分からないカードが本気なわけないわ。

 

 帽子が斜めになる。

「伯爵家の娘を騙る吾輩を襲ったモンスターも捕まえられまい」

「ムカッ。そのモンスターはなんていう名前なの?」

「サキュバスだ。正直なところハッキリと幽霊モンスターになるまで、切られたことに気が付かなかった。幽霊モンスターになった後に貴様たち夫婦はこの剣豪サキュバスがカタナの錆にしたでござると言ってたからハッキリと覚えているんだ」

 へ~。剣豪サキュバスかあ。覚えておこっと。

 

 ドアを開けようとしたけど開かない。

「その前にこの部屋から出してよ」

「フフフ。歳上に敬語も使えぬ排泄物お子ちゃまをこの部屋から出すわけにはいかん」

「出してくださいおねがいします」

「よかろう」

 あっさりと扉が開いた。それでいいのね。

 

 部屋から出ようとしたが、バロンゴーストに止められた。

「吾輩を連れていけ」

「落ちてるカードを使っちゃいけない決まりがあるからダメ」

「カードに擬態していただけなのだ」

 バロンゴーストが自由に動く。

 

 野生のモンスターとして引き連れるのか。

「自分のモンスターにできないのがキツイ」

「では剣豪サキュバスを倒すか無力化したら小娘に素直に捕まってやろう」

「やってやるわよ」

 強いカードかもしれないからね。

 

 コストゾーンのカードが回復したので、コストゾーンにカードを貯めた。

「でも今すぐやれと言われても出来ないわよ。だって捕まえたモンスターがいないんですもの。幽霊モンスターになるまでの長い期間人を切らないほどの剣の腕前があるなら、攻撃力も高いはず。防御用のモンスターが欲しいところね」

 二度もバロンゴーストを切らせるわけにはいかないしモンスターのいるところを教えてほしい。モンスター同士だし、なんかの感覚で分かると思うんだけど……

「なんだと。それを早く言わないか。それだと危険ではないか。モンスターのいる場所を教えようではないか。とりあえず階段を上がろう」

 バロンゴーストの案内の通りに階段まで進んで、階段を登った。



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二十二枚目 二人のターゲット

 部屋にあるクローゼットの中で休みを取っていた。ちなみに事前にクローゼットがモンスターでないことは確認済みである。このボロ屋敷の中じゃ何がモンスターでもおかしくはない。ちなみに二回ほどコストゾーンにカードを貯めたからニ十分は経っているだろう。

「まさかギロチンフェイスデビルに生物を見分ける本能があったとはな」

 まあ舌に乗ったものを何でも食べたら毒も摂取してしまうかもしれないし、そういうのは必要だよなあ。

「しかもギロチンフェイスデビルには姿を消す本能もあるから、このクローゼットを開けられない限り無事ってことだ」

 逆に言えば開けられてギロチンフェイスデビルを突破されたら死ぬんだけどな。

 

 扉を見つめていると骸骨が現れた。

「ギャアアアアア」

 もらしていないのは水をあまり摂取していないおかげだと思う。気絶していないのはギロチンフェイスデビルがいて一回までは安心だからだと思う。

「おばばばばば、おばけ」

 スケルトンっていうモンスターのイラストに似てるな。もしかしてこいつがそうなのか?

 

 クローゼットを開ける。

「いけぇ。ギロチンフェイスデビル」

 ギロチンフェイスデビルが現れて、スケルトンを嚙み消した。

「膀胱と心臓に悪いモンスターだぜ」

 心臓がすっげえ音立ててる。

 

 偶然通りかかったスケルトンにしてはタイミングが良すぎるではないか。

「恐怖を抑えられずに飛び込むとは甘ちゃんでござるよ。お嬢さん」

「げっ」

 辻斬りサキュバスがいた。

 

 ギロチンフェイスの刃でギリギリ防がれたが、最低でももう二回この攻撃が来たらヤバいぞ。

「あの二人と違って粘るでござるねえ。くたばりぞこないでござるなあ。あっさり切られるでござるよ」

「やーだね。誰がお前に倒されてやるもんか」

「あと二回で倒しきってやるでござる。そこに正座するでござるよ」

 導火線の短い奴だ。

 

 でもこのままじゃ打つ手がないんだよなあ。

「ギロチンフェイスデビルなんとかしろ」

 ギロチンフェイスデビルは一対の黒い珠を露骨に俺から遠ざけた。対処方法がないってことか。

 

 ドアが開いた。

「あなたは辻斬りサキュバスですわね」

「お嬢様声変わりました?」

「私はまだ一言ももうしておりませんわ。もうしましたのはこのミセスゴーストですの」

 お嬢様は浮いている服を指さした。

 

 剣豪サキュバスは謎そうな顔をする。

「お前はお化けが苦手なのでござろう。先ほどスケルトンを投げてよくわかったでござるよ。しかしなぜこれには怖がらぬのでござるか?」

「服が浮いてるだけだからな」

「話が脱線していますわ。辻斬りサキュバス、旦那様の仇を取らせていただきますわ」

「この世界じゃ野良モンスターにどうにかされる方が悪いんでござるよ」

 このサキュバス最低な奴だ。

 

 ドレスの近くに長手袋が現れて、辻斬りサキュバスを殴った。

「痛いでござるねえ。まずはもう一回この妖刀魅魔で斬るでござるよ」

「やってみなさい」

 辻斬りサキュバスは手裏剣を投げてドレスに突き刺す。

 

 手裏剣が消えたころにドアが開いた。

「偶然じゃない」

 ドアを開けたのはラーナちゃんだった。ラーナちゃんのそばにはコートを着た透明人間がいる。

「旦那様」

 ドレスと透明人間は抱き合った。

「モンスターであるがゆえに生前の名前が思い出せないのがつらい」

 生前ってことは透明人間じゃなくて幽霊ってことか。

 

 辻斬りサキュバスめ。許せない奴だな。

「「家族の仇を取るための戦い」ですわ」

「妻が捕まって嫌そうな顔をしていないということは、はしたない恰好はともかく人格者だな。恰好はともかく立ち姿が上品だ」

「私はピンハネル伯爵が娘 カネスキ・ピンハネルですわよ。礼儀作法は叩き込まれていますの」

 名乗りからして気品を感じる。

 

 透明人間はドレスから離れた。

「吾輩はバロンゴーストと申します。これより貴方様に仕えましょう。共に剣豪サキュバスを倒しましょう。カードを掲げてくださいませ」

 男爵幽霊とは大層な名前の幽霊だなあ。

「あなた。辻斬りサキュバスですわよ」

 ピンハネルがカードを掲げるとバロンゴーストが幽霊の隣に移動した。

「そうだったか。すみませぬな」

「私の時と対応がまるで違うじゃないのよー」

 ラーナちゃんはほっぺたを膨らませて、露骨に機嫌を悪くした。

 

 辻斬りサキュバスは刀を揺らしてカチャカチャ鳴らす。

「茶番はもうよいでござるか」

「ああ。ここで終われ」

 バロンゴーストは杖を辻斬りサキュバスの右のわき腹に叩きつける。

 

 辻斬りサキュバスは右のわき腹を抑えた。

「ミセスゴーストで攻撃ですわ」

 辻斬りサキュバスは足取りがおぼついていない。

 

 ラーナちゃんはお嬢様を見た。

「いる?」

「要りませんわ。己と家族の仇と手を取り合って戦えだなんて残酷ですわ」

 それそうよ。

 

 ラーナちゃんは俺をちらりと見る。その上目遣いはとてもズルイ。かわいさをナーフしろ。やっぱするな。

「俺はギロチンフェイスデビルがいるからいい」

 そもそもコイツの性格が気に食わない。ラーナちゃんがモンスターを持ってないからラーナちゃんが持つのが一番いい。

 

 ラーナちゃんはブランクを見る。

「封印よ」

 ラーナちゃんがブランクを掲げると辻斬りサキュバスがラーナちゃんに近づく。

「今後とも頼むでござる。この大会の後も、従うでござるよ」

 捕まえたカードは持ち帰れたりするのか。便利だ。



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二十三枚目 敗北

 あのあとラーナちゃんやお嬢様と別れた後に、敗退した。生命力1だと死にやすいのだ。

「まさか隣の部屋に選手がいるとは思わなかった。あのスケルトンが伏線だったとはね」

 観客席に行く。観客席はボロ屋敷から少し遠い野外ホールの様なところだった。

 

 負けたあとすぐ受付まで転移してミルオクルパラサイトとコウモリを外されて魔法カードで体をきれいにされてデッキを返された。そのあと、観客席まで空飛ぶじゅうたんに運ばれたのだ。

「百人中八十八位ですなんて言われたときは驚いたけどなぁ。まあ初めて七日の初心者ボーイだからね。そこまでやれれば上等だ」

 一番の収穫はギロチンフェイスデビルを手に入れた事だな。効果がトリッキーで、ステータスがちょい高めとか言う理想のカードだぞ。

 

 観客席で見ていたアメラの隣まで行った。

「負けちゃいました」

「まあ先生殿は運が無いうえに初心者ですからねえ。よくあそこまで生き残れましたね」

 生徒が残ってるのに、先生は負けてるなんて少し不甲斐ない。

 

 まあ生徒の活躍でも見物することにしますよ。

「強そうな奴らがたくさんいるなぁ」

 空中に映像がたくさん浮かんでいる。これで同時に見ることが出きるのか。便利だなあ。

 

 ん? マイスさんみたいな人がいるぞ。白い半袖Tシャツに半ズボンという普段の鎧を着込んだマイスさんからは想像できない格好もしてるし口元も赤い布で隠れてるけどあれは絶対マイスさんだ。

 

 俺は指を指した。

「あそこにいるのマイスさんじゃないですか?」

「きっと似てるだけの別人ですよ。双子とかそういう話も聞いたことがないですからね。それに口元が隠れてるからなんとも言えないじゃないですか。それに今頃フラム伯爵家で仕事をしているはずですよ」

「それもそうですね」

 気のせいだったのかな。

 

 ……アメラの言う通り気のせいだったってことかな。

「まあむさくるしい男よりもお嬢様の活躍を見ましょうね」

「そうですね」

 スタッフさんが持ってきた水の入った紙コップ(無料)をちびちび飲む。食事には困ってないけど給料がまだ入ってねえから惨めだ。すげーかねほしー。のどからてがでるほどほしー。

 

 お、ラーナちゃんがもう一匹捕まえたぞ。兜を被り盾と剣を持ったスケルトンだった。

「ギャ……」

「静かにしてください」

 アメラに口を塞がれなかったら叫び声を出していたところだった。危ない危ない。

 

 他の人達に見られている。

「あっすいません」

 心を落ち着けた。ここからはコソコソ話すことにする。

「あれは……スケルトンソルジャーだな。映像越しで見ればかろうじて平気だな」

 だって漏らしてねーし。

 

 でも見てられねーからお嬢様の方を見ておく。応援できなくてすまんな。

「お嬢様がピンチです。参加できたら今すぐ助けられたのに……」

 ということは参加条件とかあるのかな?

 

 後でそれとなく聞き出してみよ。

「そんな過保護なこと言ってたらお嬢様の成長の妨げになりますよ」

「そういうものですかね」

「そういうものですよ」

 水を配るスタッフさんが近づいて来たので、急いで水を飲み干しておかわりをもらう。

 

 今は特に動きもないから聞き出してみるか。

「この大会って参加条件とかあるんですかね」

「カードを数十枚以上使える人だけが参加できます」

「なるほど」

 マイスさん五枚しか使えないって言ってたしあの赤い布の男がマイスさんじゃないってことは余計強調されたな。

 

 それにしても会話が続かねえ。気まずい……どうしたらいいのか。

「あっ」

「先生殿なんですか?」

「お嬢様が戦ってる奴って以前俺を倒した奴なんですよね」

「そうなんですか」

 お嬢様と黒い覆面のやつが戦っていた。ちょっと体格が貧弱になってるけど、俺の滅龍・アジダハーカを奪いやがったあんちくしょうか。

 

 カード目当てでこの大会に来たんだろうな~。

「お嬢様。そいつぶっ倒して仇を取ってくださいね」

 実際黒覆面を追い詰めてる。

「このままだと勝てるな。自分より実力のない生徒に仇を取ってもらうと言うのは情けないが致し方無い」

「いずれ先生殿を追い越すと思いますよ」

「そうじゃないと仕事してない扱いされると思うのでちゃんとそこまで鍛え上げますよ」

 俺程度倒せないんならまだまだだ。倒されたくないけど腕前もせめて俺を倒せるくらいにはしたいよね。複雑だなあ。

 

 お嬢様は黒覆面を倒して、どこからか飛んできた攻撃を避ける。

「疲弊したところを狙うとは卑怯な」

「でも実際理にかなってますからね。過保護になっちゃいけませんよ」

 それはそれとして実際やられたらむかつく。

 

 お嬢様は第二の相手も倒した。

「連戦でへばってないなんてやりますねえ」

「でしょう。お嬢様は凄いんですよ」

「なんであなたが威張ってるんですか」

「あっすいません」

 アメラはバツが悪そうに謝る。

 

 ふとラーナちゃんの方の映像を見たら、手負いの相手に合意を取ってから戦っていた。律儀なのか卑怯なのか分からないね。

「あなたのようなお嬢様スキーが護衛にならない理由が分からないですね。絶対に裏切らないだろうに」

「まあなりたいのはやまやまなのですが、代々の仕事は捨てられませんからね。カシヨが家出してなければなあ」

 アメラはため息をついた。



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二十四枚目 戦う二人

 目を離したすきにマイスさん似の人も倒されていた。

「残り半分をきりましたね」

「フィールドファイト大会は手負いの相手を不意打ちできるから後半から展開が早くなるんですよ」

 まあ今俺が言ったことは普通のカード試合でもいえることだけどね。なお速攻だと後半から遅くなる模様。

 

 だんだん人数が減ってるなあ。

「あと3人か。どんな状況なんだろう」

「五年前から連続で優秀してるチャンピオンとお嬢様とラーナ様だけが生き残っている状況ですね。ちなみに去年準優勝だった人は四肢が粉砕骨折したのでドクターストップかかってるらしいです」

「モンスターでも魔法でも骨折は治せないのかあ」

「治せますけど、そういうところはもっと高額の医療費を払わないとだめですね。そういうところは実質豪商や貴族様専用ですよ」

 なるほどねえ。

 

 野外ホールの中央に箱が出てきて箱から猫耳カチューシャを付けて尻尾を生やした褐色肌のハイレグの女の子が出てきた。 

「はじめましての方は初めましてそれ以外の方は久しぶりニャ~。ニャ~はネコキャットガールズ・アビシニアンニャ~。よろしくニャ~」

 ネコキャットガールズ・アビシニアンか。そう言えばネコキャットガールズっていうテーマがあったな。たしか効果なし高火力テーマとかいうよく分からないテーマだったな。まあ一枚当たりの火力はにわとり未満なんだけどさ。

 

 ……いやたまたま名前と所属しているグループが被っただけだろ。

「最後の三人になりましたニャ~。ということで~最初に貰った観戦申請書もしくは参加申請書に書いた人がいまだに生き残ってる人はいるかニャ~。当たった方には賭け金の倍貰えるニャ~」

「金があったらお嬢様に賭けてたんだけどなあ。アメラさんは誰に賭けましたか?」

「伯爵家に仕える者は主人が賭け事をしなければ賭け事の一切はいたしません。そうですね。あえて賭けるのならば、お嬢様に賭けますね」

「まあチャンピオンに賭けて安牌を取ってる人がいそうではありますよね。増える量は少ないですが、確実に増えますよ」

 こうして運営費を稼いでいるんだなあと思った。

 

 アビシニアンはその辺に生えているマイクっぽい植物を尻尾でちぎって、マイクっぽい植物を口元に寄せる。

「ではでは現場の雰囲気を直接伝えるため、魔法カードをそろそろ発動するニャ。周囲幻覚ニャ」

 いつの間にか俺はボロ屋敷の中に戻っていた。でも、ボロ屋敷特有の埃っぽさは感じられないので幻だなあ。VRみたいなもんか。

 

 お嬢様が鎧とヘルメットを着こんで露出が一切ない男と戦っている。

「俺様が5年もチャンピオンとしてやってこれたのは、前半はコソコソ隠れて後半からモンスターを捕まえまくるからだ。最後の方になって俺様と戦う奴には決まってこう言ってるんだよ。わざわざ戦って傷つくのは阿呆の戦い方だってな」

 声がなんかくぐもっているな。あと戦法がせこい。

「貴方の戦い方が理にかなってるのは否定しませんの。しかしこの大会は娯楽ですわ。地味でセコい戦法は娯楽を支える者の代表としては相応しくないと思いますの」

「うるせえ。普段のフィールドファイトには見向きもしない連中には言わせておけばいいんだ。外からごちゃごちゃと文句を言うような奴はたいていにわかだからな。あと俺様が勝つ」

 チャンピオンが偏見を唱えてから両者ともデッキを構えてモンスターを展開した。

 

 お嬢様は幽霊夫婦と花瓶とシーツのおばけと鎧とうすぼんやりと人のようなモノが見えるハープを出した。

「いきますわ」

 チャンピオンは鎧三体と宙を浮いているピアノと空飛ぶ燃えた牛の顔と浮いている小麦粉を出した。

「かかってこいや」

 盤面としてはチャンピオンの方が硬いなあ。

 

 でもピアノさえ壊せば相手はデッキが切れていずれ負ける。実はお嬢様の方が堅実な盤面なんだよね。

「ハープに取り憑く怨霊で攻撃……するかわりにハープに取り憑く怨霊の効果発動ですわ」「させない。牛の怨念の効果発動。相手モンスター一体を選び、種族をフラムビーストにする。さらに空飛ぶ小麦粉の効果発動。種族:フラムビーストのモンスターが攻撃するとき代わりにこのカードを破壊してすべてのモンスターに1ダメージ。怨念粉塵爆発(カースダストエクスプロージョン)

 攻撃を食らわないうえに全体ダメージとか強力な効果だなあ。

 

 ターンが終了した。

「俺様の場にはお前の場のモンスターにダメージを与えるモンスターがいない。なら捕まえればいいのさ。それが動かずにカードをちまちま動かしてるやつのバカなところだ」

「なんですって」

 チャンピオンが逃げてお嬢様が追う。

 

 チャンピオンの左右の腰からちくわのようなモノが生える。

「ジェット」

「何をなさるつもりですの?」

 チャンピオンはちくわから火を噴きだして轟音を立てながら高速で逃げた。そういう手もあるのか。

 

 お嬢様は顔をにやつかせる。

「逃げられることは重々承知しておりました。コストを5支払って魔法発動ですわ。テレポートアタック。自分のモンスター一体の攻撃力を0にして、自分のモンスターを選びますの。そのモンスターの攻撃力を一ターンのみ半減して相手に直接出来るようになりますわ。攻撃力が奇数のモンスターにはこのカードは使えませんの」

 チャンピオンが急に現れた。

「私は首無しデュラハンの攻撃力を0にして、バロンゴーストで攻撃ですの。バロンゴーストの元々の攻撃力は2なので問題ないですわ」

 スーツのお化けはチャンピオンを杖で叩く。

「ターンエンドですわ」

 テレポートゲートが普通に強いのがね……



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二十五枚目 メタルモンキーの機械義足

 でもチャンピオンの生命力は9。それに対して……

「お前の生命力は5だ。ほぼ倍だ。倒しきれる」

「攻撃力が低い陣営ではありませんの。鎧だけでも生き残れば、攻めきれずにデッキ切れで負けますわよ」

「ただうるさい音立てて逃げただけだと思ったのか?」

「それって……」

 チャンピオンが床を人差し指で指すと屋敷の床に廊下を分断するような大穴が開いた。何が起きたか知らねえがモンスターは浮いてるから戦況に影響はなさそうだな。

 

 屋敷の床に空いた穴からところどころ鉄に覆われている干からびた猿の前足が現れた。

「メタルモンキーの機械義足ですぞ」

「どういうことですの?」

 バロンゴーストは帽子の先を傾ける。きっとやましいことがあって顔をそむけたのだろう。

「代わりにこたえてやろう。さっきその幽霊モンスターが言ったのは願いを三つだけ叶えるモンスターの名前だ。元々ここを住処としていたモンスターの力を独占するために、ここの一族の初代様がこの屋敷を建てたってことだ」

 たしか辻斬りサキュバスがモンスターの住処に家を建ててそのモンスターの力を独占したこの屋敷の一族って言ってたな。あれ本当だったのか。でもなんでそんなの知ってるんだよ。

 

 チャンピオンは呆れたように顔を伏せる。

「この地域の古い言い伝えだから知ってるやつは知っているだろうな。その地域の言い伝えを調査して何がいるか確かめるのもフィールドファイターのたしなみだぜ。メタルモンキーの機械義足はたしか人が出す轟音を嫌うんだったかな」

「ああそうだ」

「うるせえから起きちまったぜ」

 メタルモンキーの機械義足が二つになって消える。

 

 メタルモンキーの機械義足がお嬢様とチャンピオンの首をつかんで持ち上げている。

「まずは機嫌を損ねた罰を受けることになる。互いに一ダメージだ」

「むぐぐ。少し辛いですわね」

 メタルモンキーの機械義足が消えてお嬢様とチャンピオンが床に叩きつけられた。

 

 メタルモンキーの機械義足が現れる。今度は一本だけだな。

「俺様は実はまだコストを使っていなかったりする」

 チャンピオンは右腕をブランクを掲げ……

 

 ようとしたが突然飛んできた刀をよけてブランクをうっかり床に落としてしまった。

「げっ」

 突然飛んできた刀は鎧に刺さって、鎧を消し地面に落ちる。

「不意打ちには気を付けないとだめでござる」

「辻斬りサキュバスの効果発動よ。防御力を1増加するわ」

 空いた穴からラーナちゃんがよじ登る。お転婆すぎるだろ。

 

 天井から辻斬りサキュバスが降りてきて、刀をとってラーナちゃんを掴んで飛んだ。

「回復したでござる。さて我が主どうするでこざるか?」

「このままモンスターを捕まえにいくわ」

 辻斬りサキュバスは何かを見つけたかのような目を向ける。

 

 辻斬りサキュバスはお嬢様の近くに着地する。

「あのモンスターは拙者が求めていたメタルモンキーの機械義足でござる。なんでも三つ願いを叶えるのでござるよ」

「そんなもの興味ないわ。自分で成し遂げるからいいんじゃないの。でもまあ戦力としては欲しいわね」

 メタルモンキーの機械義足はラーナちゃんを指指す。

 

 メタルモンキーの機械義足が消えた。

「どこに消えたんだ」

 ラーナちゃんの頭の上にメタルモンキーの機械義足があった。いちいちメタルモンキーの機械義足って表すのちょっと面倒だな……

「ちょっと凄くないかしら」

 ラーナちゃんは手で機械義足を追い払う。

 

 ラーナちゃんはブランクを掲げた。

「捕まえられたわね。戦力としては……いないよりはマシね。メタルモンキーの機械義足で空飛ぶ花瓶に攻撃」

 機械義足は花瓶にデコピンして、花瓶を割った。

 

 協力してチャンピオンを倒そうという発想はないのか。

「一体減らしたから、一体減らしたの。これで平等よね。じゃ」

「変なところで律儀ですわね」

「そういうことかよ」

 ラーナちゃんは辻斬りサキュバスに背負ってもらって飛ぶ。

 

 チャンピオンはジェット移動した。

「じゃ、じゃねえ。逃げるな」

「なんで人間が空飛べるのよ!?」

「ジェットの力を知らないとは、フィールドファイターとしては二流だ。モンスターにも魔法にも頼らぬ高速の移動手段だぞ」

 宙にいたラーナちゃんが掴まれて降ろされる。

 

 ラーナちゃんが地面に降ろされて尻餅付いた。

「何するのよ」

「逃げられては困る。逃げられては時間がかかるからな。折角だからどちらかが勝つまで特等席でこの戦いを眺めるといい」

「しょうがないわね。わたしカネスキが勝つって信じてるわよ」

「小娘に言われなくともカネスキ様は勝つ。吾輩たちもいるので負けようがない」

 ラーナちゃんはうなづく。

 

 辻斬りサキュバスは胡坐をかいて、ラーナちゃんは胡坐の内側に座った。チャンピオンはジェット飛行で向こう側に戻る。

「カネスキがんばれー」

「言われなくともそのつもりですの」

「互いに攻撃出来ないのは確かだ。あと10分待つか」

 10分経った。

 

 と同時に大穴から悪魔のような石像が出てきた。そして石像とともに紙が何枚か散らばった。悪魔の投げた石が俺の体を勢いよく通過して壁に穴を開ける。

「やったらリアリティあるけどこれ幻覚だったね」

 お嬢様とチャンピオンはブランクを掲げた。

 

 お嬢様の方が一歩早かったみたいだな。

「ガーゴイルの効果発動ですわ。このカードの攻撃力はこのカードが攻撃するモンスターの防御力より1多くなりますわ」

 お嬢様は何ターンかかけてチャンピオンを倒した。

 

 居眠りしているラーナちゃんが起こされる。

「やりますわよ」

「むにゃむにゃ。ファイト!」

 寝起きでも反応する当たりさすがだ。



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二十六枚目 チャンピオンは?

 お嬢様とラーナちゃんどっちにも勝ってほしい。

「メタルモンキーの機械義足でバロンゴーストに攻撃。辻斬りサキュバスでシーツのおばけに攻撃よ。破壊したわ。辻斬りサキュバスの効果発動よ。防御力を1増加するわ」 

 鎧が真っ二つになって消えた。

「大したことないでござるなあ」

 切れ味抜群だ。

 

 ミセスゴーストの近くに長手袋が現れた。

「ミセスゴーストで辻斬りサキュバスに攻撃ですわ」「何もできないわ」「そしてバロンゴーストで辻斬りサキュバスに攻撃ですの」「効かないでござるよ」

 幽霊夫婦の攻撃が辻斬りサキュバスを襲う。

「気合の入った攻撃でござるなあ。まあ己の仇うちが出来るかもしれぬ以上気合が入るのは当然でござるがな」

「ガーゴイルで攻撃ですわ」

「ギリギリでござったな」

 防御力を増やす効果が地味に効いているな。

 

 一ターンが経過する。ちょっとテンポが悪いというかなんというか。

「メタルモンキーの機械義足でガーゴイルに攻撃」

「防御力は5もあるので、効きませんわ」

「バロンゴーストで辻斬りサキュバスに攻撃ですわ。そしてミセスゴーストで辻斬りサキュバスに攻撃ですわ」

「辻斬りサキュバスでバロンゴーストに攻撃するわよ」

 バロンゴーストが真っ二つに切られた。

「破壊したから防御力を1増やすわ。これでガーゴイル以外殴れないわよ」

 どうやら戦闘でモンスターを破壊しないとこの効果は使えないようだが、それでも強いぞ。

 

 辻斬りサキュバスはちゃんと服を着る。

「それだけではなく拙者は反動も持っているでござるよ」

「あと一つ隠された効果も持っているのよ」

「攻撃力も高くて防御でも殴れる。強いモンスターだなあ」

 こういう強いモンスターを実装しないあたりカードジョブオンラインの運営には良心があったのかもしれない。

 

 辻斬りサキュバスはガーゴイルの一撃を受ける。

「この羽虫が存外厄介でござるな」

「これ以上は攻撃できませんわね」

 ガーゴイルは一回の攻撃で1ダメージしか与えられないのがきつい。

 

 コツコツと音がなる。 

「システム音声ニャ~。これから2分につき一ターンニャ~」

 コストゾーンにカードが置かれた。

 

「辻斬りサキュバスでミセスゴーストに攻撃よ」

「そうはさせませんわ。コスト4で魔法セカンドクラッシュを発動しますわ。自分のモンスターが破壊されるとき相手のモンスターと自分のモンスターを一体選んで破壊しますの。これで本望だと思いますわ」

 辻斬りサキュバスがミセスゴーストを切り裂きこうとした瞬間ミセスゴーストが消滅して辻斬りサキュバスも消滅した。

「カネスキはダメージを与えられるけど、私はダメージを与えられないのよね。この勝負……負けね」

 ラーナちゃんはらしくない言葉を吐く。

 

 お嬢様は首を横に振った。

「普通ならそうですわ。しかしフィールドファイトはフィールドのモンスターを捕まえられますの」

 ラーナちゃんは何かに気が付いたような顔をする。

「遠慮なく逃げるわね。これが逆転への第一歩よ」 

 ラーナちゃんは穴に飛び込む。

 

 下の階に滑り込んで一気に階下に移動した。

「逃げるわ」

「階段を使って飛び降りますわ」

 お嬢様は階段まで走る。 

 

 映像が切り替わって、ラーナちゃんメインとお嬢様メインになる。幻覚が二つに分離しているのだ。

「なかなかモンスターがいないわね」

「見つけましたわ」

 お嬢様がラーナちゃんを追う。

 

 穴の先の道でラーナちゃんが止まる。

「チェックメイトですわね」

「悪あがきをするわ」

 ラーナちゃんが手札を三枚掲げるとシーツのおばけに首無しデュラハンに花瓶が出てきた。

 

 ラーナちゃんは微笑んだ。

「最後まで分からなくなったわよ」

「やりますわねえ」

 お嬢様とラーナちゃんは死闘を尽くす。

 

 死闘を尽くしてラーナちゃんの場にモンスターが召喚された。

「ゼェハァ。ガーゴイルよ。最後まであきらめずなかったおかげね。最後まであきらめなかったのはカネスキのおかげなのよ」

「そうですのね」

 勝負は分からないぞ。

 

 ……ラーナちゃんのデッキが残り一枚になるまで続いた。

「ハァハァ。ゼェ。シーツのおばけで攻撃。とどめよ」

「精神の摩耗や逆境にめげず勝とうとするなんてすごいですわ」

「一回めげたわ」

 ラーナちゃんが勝った。ラーナちゃんは勝った直後に倒れて眠った。切れる寸前まで張っていた気力の糸が切れたのか。

 

 幻覚が解けていた。アメラが泣いていた。

「というわけで優勝者はラーナ・フラムさんニャンですが……現場にテレポートした人曰く深い眠りについているそうなので、表彰式は明日執り行うニャ」

 お嬢様が観客席にいた。

 

 お嬢様は上機嫌な顔をする。

「負けてしまって悔しいですわ。しかしなぜかそれ以上に晴れやかな気分なんですの」

「お゛じょう゛さま゛あ゛。よく健闘いたしました。このアメラ涙が止まりませんでしたよ」

「いやあこんな光景見せられると八十八位とかそんくらいで負けたのが情けなくなるね」

 会場中にたくさんの拍手が鳴り響いていた。それは選手へのねぎらいかもしれない。



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二十七枚目 表彰式

 翌日野外ホールみたいなところで行われた表彰式。ラーナちゃんは表彰台の上でアビシニアンにトロフィーをもらった。因みに表彰台は1位しかない仕様である。

「最年少チャンピオンになりましたニャ。感想はどうニャ?」

「勝ててよかったわ」

「そうですニャ。ありがとうございましたニャ。クールな回答ニャ」

 明らかに緊張してるな。

 

 アビシニアンは空中で回転してカードになった。黒いサングラスをかけたスーツのいかつい男がステージ上に現れる。

「私はフィールドファイト大会委員委員長のゼリオだ。今回は例年の三割増しの人数であったが、無事に終えることが出来て本当に良かったと思う。新たなチャンピオンが生まれたことをここに表彰しよう」

 マイクを使わずにステージに響く声を出せるなんてすごいな。

 

 そして会場が盛り上がった。

「君がチャンピオンか。おめでとう」

「どういたしまして」

 緊張で顔が引きつったラーナちゃんとゼリオが握手をする。

 

 ゼリオは懐からデッキケースを出した。

「君の型破りな発想と身体能力には驚かされた。実に素晴らしいね」

「いやあ。そんなことは」

「ひさしぶりにこっちの方もしたくなってみた。君はたしなんでいるかい?」

 ゼリオはデッキケースを振る。

 

 ラーナちゃんはスタッフさんからデッキを返してもらった。

「もちろんやっているわ。むしろこっちの方がメインよ」

「そうか。君のような逸材がフィールドファイトを専門としないなんて大きな損失だな」

「ありがとうね。でもあれは偶然だもの。私がいなくたってそんなに損じゃないはずよ」

 ラーナちゃんとゼリオは距離を取る。

 

 ラーナちゃんは俺の方を見た。

「それにフィールドファイト大会には私より強い人が出ていたもの」

「チャンピオンよりも強いファイターがいたとはね」

 ラーナちゃんは俺を指さす。

 

 嫌な予感がするな。知らないふりしておこ。

「あそこの観客席にいる青髪の女の子よ」

 げ。なんで言うんですかね。

「なるほど。フィールドファイトが苦手なプレイヤーもいるからありえなくはないか」

 ゼリオの方からカードが飛んできた。ネコキャットガールズ・ターキッシュバンか。猫耳と尻尾を生やしてスク水を着ている女の子のイラストが描いてあるな。

 

 イラストが立体感のある形で出てきた。

「ふええ。捕まえたニャア……」

「先生殿!?」

「コイツ見かけによらずパワーが高いぜ」

 ターキッシュバンに捕まっていつの間にか中央ステージにいた。

 

 ターキッシュバンが空中で回転してカードになって、デッキケースに入る。

「君、名前は?」

「ドロウです」

「そうか」

 互いにデッキを構えた。ゼリオが先攻になる。ゼリオの職業はテイマーだ。ステータスはやや低めだが、職業特性でモンスターを回収出来るからまあまあつよめ。

 

 ゼリオはコストゾーンにカードを置いてターンを終えた。三ターンが経過して三回も攻撃されて生命力が三減って俺の四ターン目だ。

「俺のターン。ドロー。チャージ。前のターンにメガチャージを使ったからこいつを出せるな。ペルーダを召喚。ターンエンド」

 これで一ターンは持つだろう。

 

 ゼリオの五ターン目だ。

「ターンスタート。コスト4でキャットライブステージを使わせてもらう」

 

 魔法 コスト4 キャットライブステージ

 効果:このカードは自分の場に置き続ける。自分のターンのみ名前にネコキャットガールズと名の付くカードのコストは1軽減される。このカードが場に存在する限り自分の場のすべての効果を持たないモンスターの攻撃力と防御力を1上昇させる。このカードは一枚しか場に置けない。

 

「ターンエンド」

 キャットライブステージはどの効果なし軸でも使われるカードなんだよね。

 

 俺の五ターン目だ。

「俺のターン。ドロー。チャージ。コスト4でトリプルドローを発動。ターンエンド」

 今のところ順調だぞ。

 

 ゼリオの六ターン目だ。

「ターンスタート。チャージ。コストを1軽減してコスト4でネコキャットガールズ・エジプシャンマウを召喚する」

 細身で筋肉質のボディにアーモンド型の翠眼をしており白いシースドレスを着て猫耳と尻尾を生やした少女が現れた。

 

 モンスター コスト5 ネコキャットガールズ・エジプシャンマウ 種族:フラムビースト

 効果:なし

 攻撃力:3 防御力:2 生命力:5

 

「ターンエンド。君のそのトゲトゲモンスターに攻撃したら傷つくだけじゃないか」

 冷静な奴だ。

 

 俺の六ターン目だ。

「俺のターン。ドロー。チャージ。コスト2でビーコンパラサイトを召喚。そしてコスト3でシャベル妖精を召喚。ターンエンド」

 あとはにわとりだな。

 

 ゼリオの七ターン目だ。

「ターンスタート。ドロー。コスト3でバニラドラゴンを召喚する」

 白くてチワワサイズで毛がもこもこのドラゴンがあられた。かわいいなあ。

 

 モンスター コスト3 バニラドラゴン 種族:ドラゴン

 効果:効果を持たないモンスターが自分の場に出たとき一枚ドローする。

 攻撃力:0 防御力:3 生命力:2

 

「そしてコストを1軽減してコスト3でネコキャットガールズ・ドンスコイを召喚する。バニラドラゴンの効果で一枚ドロー」

 眼鏡をかけて汗を流している猫耳の女の子が現れた。

 

 モンスター コスト4 ネコキャットガールズ・ドンスコイ 種族:フラムビースト

 効果:なし

 攻撃力:2 防御力:2 生命力:4



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二十八枚目 ネコキャットガールズ・ケット・シー

 ビーコンパラサイトの効果でペルーダに攻撃させて削った。

「ターンエンドだ。なかなかやるね」

 ふふん。

 

 俺の七ターン目だ。

「俺のターン。ドロー。コスト6でクワトロブーストを発動。四枚ドロー。ターンエンド」

 よし。来たぞ。

 

 ゼリオの八ターン目だ。

「ターンスタート。ドロー。バニラドラゴンをコスト3で召喚して、ネコキャットガールズ・ドンスコイをコスト3で召喚。二枚ドロー」

「ビーコンパラサイトの効果でペルーダに攻撃してもらおうか」

 ある程度削る。

 

 俺の八ターン目だ。

「俺のターン。ドロー。チャージ。焼鳥屋屋に賛成するにわとりを召喚。そのままバニラドラゴンに攻撃」

「コスト3で手札のネコキャットテンプテーションの効果発動」

 

 魔法 コスト4 ネコキャットテンプテーション

 効果:このカードは相手のモンスターの攻撃時のみ使用できる。場にネコキャットガールズと名の付くカードが三枚以上あるならコストを支払わずに使用してもよい。自分の場のネコキャットガールズと名の付くモンスター一体を選ぶ。相手モンスターはそのモンスターに攻撃する。

 

「前に召喚した方のネコキャットガールズ・ドンスコイを選ぶ」

 にわとりはネコキャットガールズ・ドンスコイを破壊した。

「ターンエンド」

 ネコキャットテンプテーション……厄介な魔法だぜ。

 

 ゼリオの九ターン目だ。

「ターンスタート。ドロー。チャージ。コスト3でバニラサモナーを召喚」

 

 モンスター コスト3 バニラサモナー 種族:ウィザード、サモナー

 効果:効果を持たないモンスターの召喚コストを2軽減する。ただしコストは0以下にならない。

 攻撃力:0 防御力:3 生命力:4

 

 魔法陣のようなものが書かれた白いローブを着た銀髪碧眼の女の子が現れた。

「さらにコスト2でネコキャットガールズ・エジプシャンマウを召喚。バニラドラゴン二枚の効果で二枚ドロー」

「場がそろえばコスト2で2ドローとかいうおかしいことが出来るのが、バニラ軸なんだよなあ」

「さらにコストを3軽減してコスト2でネコキャットガールズ・アラビアンマウを召喚」

 

 モンスター コスト5 ネコキャットガールズ・アラビアンマウ 種族:フラムビースト

 効果:なし

 攻撃力:2 防御力:3 生命力:5

 

 猫耳と尻尾を生やして黒と銀のチェックの服を着たショートカットの女の子が出てきた。

「攻撃……といきたいがビーコンパラサイトがいるから遠慮しておこう。ターンエンド」

 反動持ちと一緒にいるだけで牽制になるぶっ壊れC(コモン)カードだからな。事実カードジョブオンラインじゃデッキに一枚しか入れられないように制限されたこともあったり。

 

 俺の九ターン目だ。

「俺のターン。ドロー。チャージ。コスプレイヤーの効果でコスト7の焼鳥屋に賛成するにわとりを手札に戻す。そしてコピー。俺でバニラドラゴンに攻撃」

 バニラドラゴンにそっと近づいてモフモフするとバニラドラゴンが消滅した。そんなぁ。

「ターンエンド」

 次のターンを楽しみにしてろ。

 

 ゼリオの十ターン目だ。

「ターンスタート。ドロー。チャージ。コストを3軽減してコスト4でネコキャットガールズ・アビシニアンを召喚。バニラドラゴンの効果で一枚ドロー」

 アビシニアンが現れた。

 

 モンスター コスト7 ネコキャットガールズ・アビシニアン 種族:フラムビースト

 効果:なし

 攻撃力:5 防御力:2 生命力:8

 

 これじゃ削り倒されるな。

「ビーコンパラサイトの効果発動。ペルーダに攻撃してもらうぜ」

「アビシニアンでそのトゲトゲモンスターに攻撃」

「痛そうニャ~。でも仕方ないニャ~」

 アビシニアンはペルーダの顔面を蹴った。

 

 アビシニアンの脚が赤くはれる。

「痛かったニャ~。こんなことあんまニャいのに」

「反動持ちだからだよ。でもよかったな。このまま攻撃し続ければペルーダを倒しきれるぞ」

「これでターンエンドだ」

 よく見るとうっすら泣いてる。

 

 俺の十ターン目だ。

「俺のターン。ドロー。お前の手札を増やしてやるぜ。コスト6でブーストライブラリを発動」

「そんな魔法知らないぞ」

 このカードは緑覆面(カシヨ)とラーナちゃんが戦ったあと工具箱を確認したらいつの間にか入ってた二枚のカードのうちの一枚だ。いつ手に入れたかよくわからないが効果が強かったからとりあえず入れてみた。

 

 魔法 コスト6 ブーストライブラリ

 効果:このカードは自分の場に置き続ける。自分以外のプレイヤーがターンの最初にドローするとき、カードを一枚ドローしてもよい。そうしたらこのカードの効果の対象となったプレイヤーはターンの最初に一枚ドローするかわりに二枚ドローする。

 説明:貪るように知るべし

 

「俺はバニラサモナーに攻撃する。ギリギリ1残ってターンエンドだ」

 1足りなかったぜ。

 

 ゼリオの十一ターン目だ。

「ターンスタート」

「俺はブーストライブラリの効果を使うぜ。二枚引きな」

「ありがたいな。二枚ドロー。チャージ。今の二枚目で引けたぞ。コストを8支払ってネコキャットガールズ・ケット・シーを召喚」

 やっべ。

 

 モンスター コスト8 ネコキャットガールズ・ケット・シー 種族:フラムビースト、妖精

 効果:相手モンスターが攻撃するとき自分の場のネコキャットガールズと名の付くモンスター一体に攻撃させてもよい。

 攻撃力:4 防御力:4 生命力:8

 

 ネコ耳としっぽを生やし白いペンダントをかけて黒いゴスロリ衣装を着た黒髪ロングの女の子が現れた。

「ボクはいずれ女王になるニャ」

「デッキの切り札だ。とくとご覧あれ」

 ステータスの高いビーコンパラサイトか。厄介だな。



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二十九枚目 超絶コンボと二枚目の知らねえカード

 ギロチンフェイスデビルが来ることに賭けるしかねえか。じゃなきゃ負けだ。

「ケット・シーで攻撃」

「ペルーダに攻撃してもらうぜ」

 ケットシーは口から毛玉を出して投げる。毛玉がペルーダに直撃すると毛玉が爆発した。

「アビシニアンで……攻撃」

 アビシニアンの蹴りがペルーダにぶち当たる。

「ターンエンドだ」

 これはきつい。

 

 俺の十一ターン目だ。

「俺のターン。ドロー……来た。コスト6でギロチンフェイスデビルを召喚」

 鉄の刃と一対の黒い珠が現れた。

 

 モンスター コスト6 ギロチンフェイスデビル 種族:デビル

 効果:一ターンに一度自分のモンスターと自分以外のプレイヤーのモンスターを一体選ぶ。1ダメージを与える。このモンスターの効果を使用したターン自分は攻撃できない。

 説明:獲物が舌に乗るまで姿を消して待ち構え口まで引き寄せる。口に生き物が来た場合浮いている鉄の歯で獲物を切り裂いて食べるのだ。

 攻撃力:3 防御力:4 生命力:6

 

 表彰式まで一晩のタイムラグがあった。その時に効果を確認したのだ。

「ペルーダとケット・シーを選ぶぜ」

「そんなことしたら君のモンスターは倒れやすくなってしまう。チャンピオンより強いというのは噓ではないのか?」

「俺が言ったわけじゃないからな。それにまともな判断だぜ」

 ギロチンフェイスデビルの一対の黒い珠がペルーダとケット・シーの上に移動する。

 

 黒い珠から電撃が発射される。ギロチンフェイスなのに電気なのかよ。

「こんなビリビリボク初めて」

ケット・シーはしゃべるのか。

「ペルーダの効果発動、このモンスターは戦闘以外でダメージを受けるとき生命力を6にする。これが超絶コンボ、エネルギーヒーリングエクセキューションだぜ」

「名前が長すぎるわ」

「運が良ければこの状態からライブラリアウトさせることも倒すことも出来るという訳だね」

「まあそういうこと。ブーストライブラリで山札を0になるまで引かせることも出来るんだよなあ。ターンエンドだ」

 こうなったら俺の勝ちである。それにこのデッキにはもう一枚とっておきがあるしな。

 

 ゼリオの十二ターン目だ。

「ターンスタート。ブーストライブラリは使わないのかい?」

「使わねえ。これで引かせてこの状況をどうにかできるカードが来ちまったら目も当てられないからな」

「そうか。出来るとは言ったけどしないのか。ドロー。コストを1軽減してコスト7でネコキャットガールズ・カシャを召喚」

 タイヤが燃えた一輪車が現れてその上にネコ耳の生えた女の子が現れた。バニラアヤカシデッキの攻撃の要じゃん。

 

 モンスター コスト8 ネコキャットガールズ・カシャ 種族:フラムビースト、メタルアヤカシ

 効果:自分の場の効果を持たない同じ種族のモンスターはモンスターを破壊したときもう一度攻撃できる。ネコキャットガールズと名の付くカードを一ターンに一度だけ破壊してもよい。そうしたら山札から好きなカードを一枚コストゾーンに置いてシャッフルしてから1ダメージを受ける。

 攻撃力:5 防御力:3 生命力:8

 

 ネコキャットガールズたちの攻撃によりペルーダが死にかけてターンを終えた。

 

 俺の十二ターン目だ。

「俺のターン。ドロー。よし」

 来てほしかったカードが来た。これがもう一枚のカードだ。

「コスト6で発動 ダイヤモンドスパイク」

 

 魔法 コスト6 ダイヤモンドスパイク

 効果:このカードは自分の場に置き続ける。自分の場のコスト5以上の反動を持つモンスター一体を選んで発動する。そのモンスターの攻撃力を0にして下がった攻撃力分防御力を上昇させる。選んだモンスターが場を離れたとき、このカードを墓地に送って1ダメージを受ける。このカードで選んだカードは攻撃できない。

 

「俺はペルーダを選ぶ。防御力は驚異の8。これ考えた奴マジでヤベエ」

 実質ペルーダ専用サポートみたいなものだからまだ善良。

「さらにギロチンフェイスデビルの効果でペルーダとカシャにダメージ。ペルーダは回復。ターンエンド」

 あと一枚デッキに入れてたあのカードが来れば俺の完全勝利だ。

 

 ゼリオの十三ターン目だ。

「ターンスタート。ドロー。チャージ。コストを3減らしてコスト1でネコキャットガールズ・ターキッシュバンを召喚。一枚ドロー」

 俺を捕まえたのと同じ格好をした女の子が現れた。

 

 モンスター コスト4 ネコキャットガールズ・ターキッシュバン 種族:フラムビースト

 効果:なし

 攻撃力:2 防御力:2 生命力:4

 

「さらにコストを1軽減して4支払って発動。ネコキャットガールズ・ディスティラリー」

「なんだそれそんなの知らねえぞ」

 樽のようなモノが現れた。

 

 魔法 コスト5 ネコキャットガールズ・ディスティラリー

 効果:このカードは自分の場に置き続ける。一ターンに一回自分の場のネコキャットガールズと名の付くモンスターが攻撃したとき、相手の山札の上から一枚目を裏側にしてディスティラリーマウス(場に置き続ける魔法)として場に置く。

 説明:ジュース樽をスピードラットから守るネコキャットガールズもいるぞ。

 

 やめろ。引きたいカードが落ちたらどうするんだよ。

「ビーコンパラサイトの効果でペルーダに攻撃してもらうぜ」

「ドンスコイで攻撃。ターンエンドだ」

 破壊したがディスティラリーマウスが置かれちまった。逆に考えればあのカードを引く確率が上がる確率が上がったってことだ。

 

 俺の十三ターン目だ。

「俺のターン。ドロー……来た。コスト4で鯵テーターを召喚」

 

 モンスター コスト4 鯵テーター 種族:マーフォーク

 効果:このモンスターが存在する限り、攻撃できるモンスターは必ず攻撃しなければならない。このモンスターは攻撃できない。

 攻撃力:2 防御力:2 生命力:4 



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三十枚目 地味な戦法

 よし。いいぞ。

「ギロチンフェイスデビルの効果でペルーダとバニラサモナーにダメージを与えてから、ビーコンパラサイトでバニラサモナーに攻撃」

「ダメージはなし」

「俺はバニラサモナーに攻撃する」

 バニラサモナーを破壊した。

「これにてターンエンド」

 いずれ反動で倒れるだろう。

 

 ゼリオの十四ターン目だ。

「ターンスタート。ドロー。チャージ」

「鯵テーターの能力で攻撃してもらうぜ」

「なんということだ」

 何体ものネコキャットガールズが無駄に傷ついた。

 

 俺の十四ターン目だ。

「俺のターン。ドロー。コスト7で焼鳥屋に賛成するにわとりを召喚。俺はバニラドラゴンに攻撃する」

 バニラドラゴンを破壊した。

「そしてにわとりでカシャに攻撃。ビーコンパラサイトで攻撃してターンエンド」

 このままじわじわと攻めれば勝てるだろう。

 

 ゼリオの十五ターン目だ。

「ターンスタート。ドロー。来た。コストを1軽減してコスト7でネコキャットガールズ・キンカビョウを召喚」

 何だそのカード。知らねえぞ。

 

 モンスター コスト8 ネコキャットガールズ・キンカビョウ 種族:フラムビースト、ゴースト

 効果:相手の場に同じ名前の魔法が三枚以上ある時、一ターンに一度だけ下記の効果を選んで使用してもよい。このカードの効果を使用したターンこのカードは攻撃できない。

 ・自分の場のネコキャットガールズと名の付くモンスターを一枚墓地に送って相手に1ダメージ。

 ・自分の墓地のネコキャットガールズと名の付くモンスターを一枚手札に戻す。

 攻撃力:4 防御力:4 生命力:6

 

 猫耳を生やした白髪の美少年が現れた。いや……女の子か。デッキにこのカードを防げる心当たりがねえ。せめてヒーラーデッキだったらなあなあに出来てたんだけどなあ。

「ネコキャットガールズ・アビシニアンを墓地に送って1ダメージ」

 生命力:7→6

「地味に厄介な効果だな」

「ぐぬぬ。ネコキャットガールズ・カシャで攻撃」

「ビーコンパラサイトの効果発動。ダイヤモンドカウンター」

 鯵テーターの効果で攻撃してキンカビョウ以外を破壊した。実質攻撃力8モンスターの全体攻撃みたいなもんだから卑怯だ。その代わりと言ってはなんだけどペルーダ一枚しか入れてないから許してほしい。

 

 ……でも未だに俺が不利な状況であることは変わらねえ。あと十二ターンのうちに倒さねえとダメだ。

「……なんだ案外余裕あんじゃん」

「ターンエンド」

 十二ターンかけて倒せないわけがない。 

 

 俺の十五ターン目だ。

「俺のターン。ドロー。コスト7で二匹目の焼鳥屋に賛成するにわとりを召喚。このターン中に倒せるぜ。俺でキンカビョウに攻撃。破壊。一枚目のにわとりでお前に攻撃。二枚目のにわとりでトドメだ」

 結局世の中チャンスが来るまで防いで、チャンスが来たら一気に攻めるのが一番いい(TSして幼女になった若造並みの感想)。あっさりとどめを刺せた。場に現れたモノとモンスターが消えた。

 

 俺の戦法の弱点は大ピンチからの一発逆転があり得ないしモンスターの見た目も良くはないから絵面やらなんやらとにかく地味ってところだよね。ロマンカード出したい欲が出ちゃってるというかなんというか……そうアジ・ダハーカやザ・ワールドみたいに派手さがない。

「お見苦しい戦い方ですみませんでしたね。地味でしたでしょう」

「強いじゃないか。数で並べる戦法は少し自信があったんだけどね」

「俺が勝てたのは偶然ですよ偶然」

 三十分の一ぐらいの確率を三回引かなきゃできないコンボだからなあ。

 

 俺はラーナちゃんの後ろに行った。

「チャンピオンを放置してこんなことやってていいんですかね。閉会式でしょうに」

「そうだったね。悪い癖が出てしまったな。すまない」

 ゼリオはアビシニアンを出して俺を席まで戻した。

 

 そのあと閉会式が何事もなく終わり、何事もなく帰ることが出来た。そのあとちゃんと着替えていつもの格好を着ることが出来たのだ。

「私はこれで帰るわよ。帰る時はこのカード。テレポートゲート」

 空間に穴が開いて、ラーナちゃんが穴に入ると穴が消える。

 

 カードの保管場所の前でキャラメルキャメルから降りた。

「じゃあ保管しますよ」

 アメラはキャラメルキャメルをカードに戻して保管庫にしまう。

 

 帰ると息を切らしたマイスさんがいた。あっ。息を整えた。

「そんなに疲れてどうしたんですか。長距離移動してきたんですか」

「そうですね。ここからフラム伯爵家までは以外と遠いのですよ。カード五枚じゃ移動しきれませんよね」

 そっかあ。

 

 晩御飯を頂いてから部屋に戻る。住み込みだからな。

「今日もお嬢様の両親を見かけなかったなあ。一応俺の雇い主ってことになってるんだよな。ご両親がいないわけではないんだけど……」

 一度マイスさんに聞いたらはぐらかされたんだよね。難しいことは考えずソファで眠った。

 

 朝起きて朝ご飯を食べてから風呂に入って一張羅を使いまわす。

「することがねえ」

 ちょっとやる気が出ないというかなんというか。

 

 今日はお嬢様が他の家庭教師の方々から学ぶ予定なので、街を散歩することにした。

「ワープゲート」



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三十一枚目 ようやく名前が分かった

今回は読み飛ばしても大丈夫です


 後ろから誰かにぶつかった。

「いって」

 子供が前を走り去っていく。

 

 あやまりもしないで去るなんて感心しない奴だ。

「まったくもう……許せねえ」

 多分スリだろうな。まあ俺給料日前で金がねえからノーダメージなんだけどな。デッキケースもあるし、今回は許してやるか。怒りから許すまで三秒である。出来る大人の切り替え術。

 

 気にせず街を散歩することにした。

「冷やかしなんだけどさ」

 女性陣からは冷ややかな目線、男性陣からは珍獣を見るような目線を向けられているのが分かる。やっぱりあの人(名前忘れた)を倒したのが悪かったのかな。

「八つ当たり気味に挑まなきゃよかったよ」

 考えなしに行動するのはやっぱりマズい。

 

 市場を歩いていると色々な人でごった返していた。

「市場に人はいるのに俺の財布はないのだ。世知辛いね」

 給料日はいつなんだろうか。

「金が欲しい」

 いきなり口をふさがれて眠くなった。

 

 目が覚めると薄暗いところにいた。鉄格子が見えてるから牢屋に入れられてるみてえだな。これはもしかしなくてもとてもマズい。

「ここはどこだ?」

 鉄格子を見張っている男に話しかける。

「誰が教えるか。このクソガキが。おとなしく売られちまえ」

 なるほどね。人身売買的なアレか。

「この国じゃ人身売買ってどうなんですかね」

「合法だったらこんな後ろめたい真似しねーよ」

 やっぱりか。こいつ他人の人生をなんとも思ってない犯罪者だ。

 

 そんなやつに利用されたかないよ。

「うおおおおおおお。出せえええええええ」

「うるせえええええ。何のためにこっそりさらってきたと思ってんだ。俺たちのアジトがバレるだろ」

「みなさあああああん助けてくださああい。ここにいまあああす」

「だまれあああああ。盗賊ゴブリン召喚」

 檻の中に盗賊ゴブリンが出てきて俺の首元にナイフの刃を近づける。おとなしく黙った。両手を上げようとしたら両手足が縛られてたのでやめた。死にたくないからね。

 

 盗賊ゴブリンが消えた。

「あんたは誰だ?」

「お嬢ちゃんを売ってお金を儲けようとする悪い大人だ。お嬢ちゃんのようなデッキの使える幼女はとても高い値段で売れるんだよ。愛玩用にもボディーガードにもなるぜ。しかもお嬢ちゃんはこの街最強の警備兵を倒した奴だから、実力は折り紙付きってわけだ」

 たしかにモンスターを何体も出せるのは強みかもしれないな。ペルーダと戦えって言われて勝てる気が全くしないしな。

「そいつには利用可能があるから解放してもらおうか」

 このどっかで聞いたことがある声は……黒い覆面ヤローだ。

 

 黒い覆面ヤローが見張りの男に顔面パンチを食らわて赤い液体を噴出させる。

「てめえ何しやがる」

「今そいつにいなくなられては困る。なので味方も連れてきた」

「なんだと」

「召喚きらきらほうきぼし」

 黒い覆面ヤローはほうきをカードから出して、ほうきで見張りの男を叩きのめした。

 

 黒い覆面ヤローはほうきを消す。

「もうすぐだ」

 屋根が破壊されたのか急に光が差し込んだ。

「おい。ここでリベンジさせろ」

「断る。時間がない。お前がレアカードをたくさん持っているのは知っているが、欲張って捕まりたくない。召喚ワイバーン」

 黒い覆面ヤローはワイバーンを召喚して鉄格子を数本壊してから出て行った。

 

 足縛られてるんだけど。そこ解いてから帰れよな。

「まったくもう」

 自称この街の警備兵最強の男がやって来る。

「どうしたナハ?」

「ちょっと油断しただけだ」

 拘束を解いてもらった。

 

 解放感が半端ねえ。

「ところでアンタの名前聞いてなかったな」

「なんで知りたいナハ?」

「助けてくれた奴の名前を知りたいと思うのは当たり前だろ」

 キョトンとした顔をする。

 

 陰から人がたくさん出てきて、警備兵最強の男を襲う。が、モンスターを召喚されて逆にねじ伏せられてしまった。

「ハナメデル・ブロッサナハ。因みにブロッサは出身地の名前ナハ。ナハは平民だから家名がないナハ」

 ハナメデルね。ピンハナエルだのなんだのこの世界って分かりやすい名前が多いな。

「ブロッサってどこだ」

 モンスターが消える。ハナメデルは倒した人たちをその辺にあったロープで縛った。

「何もない田舎町ナハ。そこが嫌で嫌で家出してきたナハ」

 うーん。この親不孝者。

 

 ハナメデルはさらわれた人の資料を懐に入れる。

「それどうするのさ」

「この組織の悪行をまとめたものとして警備隊の本部に持ち替えるナハ」

「真面目だねえ」

 こういう真面目な人間は嫌いじゃない。

 

 ハナメデルと別れてから本屋に立ち寄った。文字を理解するためである。カードのテキストも何だかんだ日本語だからなあ。この世界の常用文字とは別物なのでこの世界の文字が読めないのである。

「文字が読めないとまともに立ち読みも出来ないもんなあ。不親切だなあ」

 本の文字と発音をどうにか覚える。

「お客さん。いつご購入なさるのですか」

「げっ。すみませんでした」

 本屋から出た。やっぱりちゃんとした人に教わるのが良いのかなあ。

 

 ふらりと別の本屋さんに立ち寄る。

「いらっしゃいませー」

 立ち読みして文字を必死に覚える。

「文字が読めないってのは不便ですよね。お客さん。良かったら教えましょうか?」

「ありがとうございます」

 よし。



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三十二枚目 人さらいによく会う日

 本屋の店員さんに文字を教えてもらう。

「凄く分かりやすかったんですけど、よく教えてるんですかね」

「この街の子供はたいてい私の教え子だよ。授業料無料だからね。まあ君みたいなおっきい子には初めて教えるんだけどさ。覚えが早いよね」

「お店の方は良いんですかね」

「姿をコピーするモンスターに店番させてるから大丈夫でしょ。モンスターってのは支持しない限り人は襲わないしね」

 よくわからないけど共存共栄という奴だな。

 

 本屋さんの店員がその場から去る。

「そういやこの積んである本ってなんだろ」

 机に置いてあった本をめくった。特に何も言うことはない普通の表紙だなあ。

 

 ほう。ふむふむ(なにも分かってない)。

「なッ!?」

 なんだこれ。文字はところどころ読めないし隠語だらけだけど挿絵があるから辛うじて誰がモデルなのかは分かるぞ。よく読めば俺をモデルにしたであろうキャラは男勝りな美少女だけど実は成人済みの男で、ハナメデルをモデルにしたであろうキャラが恋人っていう設定のBLだった。挿絵の見た目が似てるんだよなあ。改めて考えるとアイツ顔は良いから需要があるのかも。作者と挿絵書いてる人同じ名前だから確信犯でしょ。なんでこんなもん子供が見そうなところにおいてあるんだよ。

 

 いや間違いかもしれないからよく見てから回収しないといけませんね。冤罪はいかん。別に続きが気になるわけじゃないし。BLなんて男から見たら不快なだけだし。

「何見てるの」

 本を取り上げられた。

「あっ。まだ見てたのに」

「子供がこんなもの見ちゃいけません」

「子供にみられる場所に子供が見ちゃいけないもの置いちゃいけません」

 店員さんはバツが悪そうな顔をする。

 

 店員さんは顔をそらす。

「この本は表紙が特に問題のあるものでもないから、うっかり退けておくのを忘れちゃった。ごめんね」

「なんで表紙は普通なんですかね」

「変な本読んでるって思われたくないからだよ」

「なるほどね」

 最初っから変な本を書くんじゃねえと言うのは野暮だろうな。

 

 店員さんは変な本を懐にしまう。

「ところどころ読めないところがあったでしょ」

「読めない文字以外は全部わかったよ」

「なるほど。改善しないとなあ」

「もしかしてその本の作者さんだったりします?」

「うん。警備兵と戦っている君の姿を見て思いついたんだよね」

「俺は良いけど、モデルにした人には見せない方がいいと思いますよ」

 ホントは良くないが、まあ放っておこう。俺に文字を教えてくれた人だからな。

 

 いつの間にか日が暮れそうになっていた。

「とてもマズいな」

 店員さんは本を懐から出した。

「良かったらこの本をもらってくれないかな」

 内容を見ると、文字の読み方が書いてある教科書だった。

「ありがとうございます」

 教科書をもらって屋敷まで直行する。

 

 

 屋敷まで帰る道の途中に、ガラの悪い人たちが現れた。

「なんだお前ら」

「人さらいだ」

「こんな時間に外をうろついたら危ないぜ。俺たちのような悪党に捕まるかもしれないからな」

「子供は高く売れるぜ」

「しかも警備兵を倒せる程度には実力があるからな。人さらい業界も稼げなくなってきたと思った矢先にこれだからやめられねえ」

 今日は妙に人さらいに遭遇するな。

 

 ペルーダを召喚して棘のないところまでよじ登って座った。街の人達はコストを支払わずに召喚していたから、試合じゃなかったらこういうことも出来るんだね。

「なんだそのとげとげは」

「害を与えようとした者にのみ刺さる罰だ。刺さりたいなら好きにすればいい」

 なおビーコンパラサイトと鯵テーターの効果で絶対に害を与えようとしなければならない模様。理不尽だよなあ。

 

 盗賊ゴブリンがいっぱい出てきた。無駄なのに。

「トゲをよけてさらえ」

「そう来ると思ったよ。ギロチンフェイスデビルを召喚」

 ギロチンフェイスデビルが現れて盗賊ゴブリンに鉄の刃を発射する。盗賊ゴブリンは体を切られて消滅した。

 

 これは人さらいに勝ち目がない。

「バインドパラサイトを召喚。さらにワープゲート」

 ロープが現れて俺を縛る。

 

 ロープが勢いよく俺を引き寄せた。ギロチンフェイスデビルがロープを切る。結果勢いだけが残って、地面にたたきつけられた。

「いてて」

 ペルーダがドスドスと足音を立てながらこっちに来る。

「あの亀とハリネズミの合体モンスターも足が遅くてこっちまでこれねえ。ということはだ。お前を遠慮なくさらえるということだ」

 ガラの悪い男がカードを近づけてくる。

「魔法発動 眠らせる霧」

 瞼が重くなって意識を失う。

 

 目が覚めると騒がしいところにいた。窓のようなところから見ると人が武器を持ってモンスターと戦っていた。地下闘技場的なアレかな。拘束されてねえが、空飛ぶ人魚がうろついてるから出られねえなあ。

「似たようなことがあったんですけど」

「同業者にさらわれたとかだろ」

 黒い覆面ヤローが現れた。

 

 黒い覆面ヤローは俺の近くに座る。

「なんで日に二回もさらわれているんだ」

「お前もさらわれてんだろ」

「あいにくこれで一度目だ。お前と違ってドジは一度しかしない」

 むむむ。

 

 黒い覆面ヤローは俺に近づく。

「ここから出たいのは俺も一緒だ。協力しよう」

 コイツも状況は同じか。

「しょうがねえなあ」



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三十三枚目 デス・コロシアム

 空間に穴が現れて、穴から人が出てきた。

「出ろ」

 素直に従った。

 

 なんか怪我人のたくさんいるタコ部屋みたいな牢屋を過ぎて、少しきれいな壁の前に立たされた。

「行き止まりじゃん」

「テレポートゲート」

 空間に穴が開いてそこから押し込まれた。

 

 俺たちが押し込まれたのは少し明るい部屋だった。

「なんだここは」

「ここはモンスターと人が戦う非合法施設 デス・コロシアムだ。最近召喚するモンスターがワンパターンになってきたから、ここでお前らにモンスターを召喚していてほしい」

 壁の向こう側から苦しみにあえぐ声が聞こえる。気が滅入る。自分がやったのならなおさら気が滅入るに違いない。

 

 それに単純に何も悪いことしてない人痛めつけるのやだし。カードファイト中はダメージ食らっても痛くないからセーフだと思ってるけど、生身で戦ったら痛いだろ。

「やだね」

「したがっておけ」

「そうだ。聞き分けがいいじゃねえか。モンスターを召喚するだけで凡人がチマチマ働いて稼げるお金を一年で稼げるんだ。聞いておいた方がいい。なんなら俺が変わりてえぐらいだな。ガハハハッ。まあ俺がやったらバリエーションが足りなくて飽きられる」

 なんて奴だ。

 

 デッキを変えた。

「あそこで苦しんでいる人たちもさらってきた人たちだろ」

「借金苦の為に自ら志願してきた人たちだ」

「お前らが借金させたというオチだろ」

「小っちゃい子にもそういうのが分かっちゃうのかあ。擦れてる子が多すぎる」

 どうしようもない。

 

 黒い覆面ヤローはため息をつく。

「なんで金のためだけにそういうことをするんだ。まだカードのためにするならわかるが、こういうやり方はいろいろとマズいだろ。トバクファイトでレアカードを合法的に奪い取るぐらいにしておけ」

 それもダメだろ。自分のことを棚に上げるなんて屑だなあ。

「後ろ盾が強大だから大丈夫だ。俺たちゃなあお前らのようなカードを盗むだけのしみったれドブネズミとは違うんだよ。バーカ」

 俺たちを部屋まで連れ出した人が消えた。

 

 二人とも倫理観が欠けてやがる。

「お前ら悪人だろ。見た目とやることが違うだけじゃないか」

「人間の本質は悪だ。世間の悪人と呼ばれていない人間は善人の皮を被っているだけだ。面の皮が厚いのは悪い事だ。善人の皮を被ってない分悪人の方が皮が薄くて、善人よりも善良だ」

「うわぁ……」

 厨二病の子が言いそうで言わない言葉ランキング第三十位らへんに入りそうで入らない言葉だあ……

 

 部屋にもう一人現れた。腕を拘束された青いお面を被った人だ。体型が分かりにくいな。

「同業者からも平然と搾り取ろうとするなんて、新人教育がなっていませんねえ」

 声もノイズがかかっているから、性別も分からない。ただ身長から成人済みということだけが分かる。

「誰だお前は」

「ちょっとしたせこい商売をやっていただけのただの商売人です。気軽にオメンオクとお呼びしていただければ」

「俺はドロウだ。よろしくな」

 商売人にしては怪しすぎる。全体的に胡散臭い。

 

 オメンオクは腕の拘束を外す。

「意図的に緩い拘束にしてあるようですね。まあ先客のあなたたちも拘束されてないので、よっぽど自信があるんでしょうね」

「ああ。そのようだな。虫しか通れなさそうな空気穴と割っても子供一人しか通れなさそうな窓しかねえ。出入りも魔法によるテレポートのみで、俺たちのデッキはここに来た時点で魔法だけデッキロックされてる。出られるのはここに誰かが入って来たときだけだな」

「何でそんなこと知ってるんだ?」

「お前が寝ている間に確かめただけだ」

 黒い覆面ヤローは俺を見た。

 

 やりたいことが分かったぜ。

「おあつらえ向きに子供が一人いるじゃないですか。やはり無価値な人間なんてものはいないんですよね」

「誰が今そんな話しろって言ったんだよ。そんなことよりモンスターの召喚頼むぜ」

「なんか嫌な予感がするんだけど」

「早くしてくださいよ」

 なんか嫌な予感がするんだよなあ。まあいいか。オメンオクが胡散臭いだけだから心配性になってるだけだろ。

 

 適当ににわとりを召喚した。

「なんだそれは」

 にわとりが窓に攻撃すると消滅する。

「あの窓頑丈すぎねえか」

「アジ・ダハーカがいれば楽に壊せたんだろうけどなぁ。誰かから盗まれなければなぁ。今のにわとりがデッキの最高火力キャラだからなぁ」

「嫌味なことを言う奴だ」

 パワーが足りなかったのかもしれないからね。

 

 オメンオクは窓を叩く。

「あんなデカブツだしたら天井がぶっ壊れる。出せても出せなくてもよかったということだ。そもそもコスト200なんて滅茶苦茶なカードをノーリスクで使えるかどうかわからねえから、お前みたいな短絡的なバカが持っていなくてよかったよ」

「なんだと。このバーン戦法しかできねえせこせこマン」

「立派な戦術だ。それをお前にどうこう言われる筋合いはない」

「醜い喧嘩はやめましょう。それよりもどうやってここから出るか考えるべきです」

 冷静さを欠いていた。苦しみの声が鬱陶しくて、精神が削れてたのかもしれないな。



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三十四枚目 帰ってこない

 マイスもドロウも遅いわね。

「いったい何をしているのかしら」

 ドロウはご飯だけはきっちり召し上がりますのに。

「何か事件に巻き込まれたに違いありませんわ」

 でも今日は遅いですので、寝ますわ。それに今日は特別遅いってこともあり得ますからね。

 

 目が覚めましたので、部屋を見てみましたの。

「いないですわね」

 アメラに確認してもいませんでしたわ。本当に何かありましたわね。

「お父様とお母様に相談しようにも、お父様もお母様もお仕事でいらっしゃいませんからねえ」

 呼び鈴オウムがやかましく鳴きましたの。

 

 ドアを開けるとラーナちゃんが門の外にいましたわ。

「またですか」

「いいじゃない。今日も休みなんでしょ」

「まあ暇でしたし……それに相談したいことも」

 ラーナちゃんに相談して何か状況が良くなるわけでもありませんが、心の不安を解消するためのきっかけにはなりそうですからね。

 

 ラーナちゃんにあれこれ相談しましたの。

「そういうことね。マイスならお姉ちゃんと仕事してるわよ」

「そうでしたのね」

「何の仕事してるかは分からないんだけどね~」

「そ、そうですのね」

 知っておいたほうがいいと思いますわ。

 

 ラーナちゃんはデッキを振りましたの。

「悪い人にさらわれてるかもしれないわね。確かめましょう」

「その悪い人がどこにいるか分かりますの?」

「分からないわ」

「あらら」

 どうしたらいいのでしょう。

 

 窓から緑の覆面の人が入ってきましたわ。

「あなたは確か……カシヨさんですわね」

「呼び捨てででいい」

「何のようなのよ」

「お前らの師匠がさらわれたところを俺は知ってるぞ。協力してやるよ」

「断りませんが、それをしてあなたに何の得があるんですの?」

「借りを返したいだけだ。俺の仲間も一緒にさらわれてるんでね」

 そういうことですのね。

 

 そういうことならば案内してもらいましょう。

「協力してくださいまし」

「良かったな。お前らのお父さまとお母さまにバレないように速めに救いに行こうぜ。いい作戦がある」

「わかったわ」

 カシヨの作戦を聞きましたわ。

 

 いい作戦でしたの。

「それでいきますわね」

「すごいわ」

 それでいきましたわ。

 

 下水道を経由して変な地下通路を通って行って、扉のようなものの前で止まりましたわ。

「これをこうする」

 カシヨは扉を蹴ってから早着替えしましたの。一瞬で服が変わるなんてすごいですわね。まともな服装になりましたわ。

「ハイハイお客様何の御用ですか」

 フィールドファイト大会の表彰式で見たネコキャットガールズが応対しましたの。モンスターだからそういうこともありますわね。

 

 応対されるままに行くと、凄く人のいる空間につきましたわ。

「地下闘技場でございますニャ。人とモンスターの戦いが見られますニャ。それでニャ」

 ネコキャットガールズが消えましたの。

「趣味が悪いぜ。スタイルに合わねえ」

 一回も攻撃せずに勝つことも出来るスタイルですからね。極力人は傷つけたくないのですのね。痛みはどうせ感じませんのに。

 

 カシヨは観客席に腰を下ろしましたわ。私達はカシヨの隣の席に座りましたの。

「ガキのくせにこんなの見たら性根が歪むぜ。見ちゃだめだろうよ」

 カシヨにサングラスをもらいましたの。ほとんど見えませんわね。

「なんだあのトゲトゲ。ペルーダっていうのか。モンスターの名前を教えてくれるなんて親切だなあ」

 ペルーダですの!? ドロウの切り札ですよね。捕まっているのでは……。

 

 ため息をつく声が聞こえて会場は盛り上がりました。

「赤コーナー。人を突き刺すために生まれた毒の竜 ペルウウウダ。バーサァッス青コーナー。モンスターキラー ザモリック ファイッ」

 金属がぶつかり合う音が聞こえますわ。

「ペルーダってドロウの切り札よね」

「ええ」

「ドロウってのはお前らの師匠か?」

「私の先生ですわ。何でここにいることをご存知でしたの?」

「一緒に捕まっている俺の仲間から連絡があったんだ。ピンハネル伯爵家お嬢様の先生が捕まってるってな」

 なかなか大きな組織ですのね。なんで捕まっているのに連絡出来るんでしょうね。

 

 トマトが壁にぶつかったような音がして、歓声が響きましたわ。

「ペルーダの勝利です。皆さんありがとうございました」

「世の中には見ちゃいけないものがあるんだよなあ。ここにいる奴らはみんなこれを見に来てるけど、お前らにはまだ早い。さ、行くぞ」

「どこに行くのよ」

「そりゃあ敵陣視察さ。今までのはほんの様子見だ」

 様子見ですのね。

 

 カシヨの腕に掴まって歩きましたの。

「いい加減はずせ」

「あっ」

 サングラスが外れましたわ。

 

 翼の生えた人魚がいましたの。

「本日は楽しめましたか?」

「楽しかったぜ。ところでモンスターを召喚する人専用の部屋を見学したいんだが……」

「金貨三十枚となっております」

 私とラーナちゃんで半分ずつ払いましたわ。カシヨはお金を持っていませんからね。

 

 モンスターを召喚するする人専用の部屋を見学するためだけの部屋に通されましたわ。

「いますわね」

 ドロウがおりましたの。

「なんなんだあの胡散臭いお面ヤロー」

「あれは胡散臭いわね。あとカシヨ、口が悪いですわよ」

 確かに胡散臭いですがそれどころじゃないですわよ。



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三十五枚目 トゥルーファイト

 俺は非常に退屈していた。

「誰も助けに来ないしな~。娯楽もない部屋だからなあ。暇で暇で退屈が俺の首を真綿で絞めてきやがる」

「言おうとしていることは分かりますが、言い回しが少々気持ち悪いですね」

「だな」

「ケチつけやがって。全身クレーム人間か」

 まったくもう。

 

 オメンオクは袖から変なものを出した。

「なんだそれ」

「ちょっとした暇つぶしのためのアイテムですよ。金貨一枚で売りますが、買いますか?」

「脱出するための物を入れとけ」

「そうだよ。間の悪い奴だな」

 オメンオクは袖に変なものをしまう。

 

 これじゃ出られねえ。怪我人の苦しみにあえぐ声も地獄にいるような気分にさせるので気が滅入る。

「出る方法を考えてくれないかなぁ!」

「分かっている。しかしながらイライラして騒ぎ立てたところで何にもならないだろ」

「モンスターを窓の向こうに召喚して壁を壊してもらえばいいと思うんですよ」

「「それだ」」

「何でそれをもっと早く言わないんだ。こうなったら何が何でも自棄になるしかねえから、こういうのも受け付けておりますよ。窓が壁より頑丈なわけないけどやるだけやってみようね」

「急に変な真似するんじゃねえ」

 黒い覆面ヤローにビンタされた。

 

 壁の向こう側に意識を集中してにわとりを召喚する。窓の向こうを確認すると、向こう側ににわとりがいた。

「これでよし」

 にわとりが壁に攻撃する。ちょっとひびが入ったな。もうちょっとだ。がんばれ。

「行け、行け」

 壁に穴が開いた。窓より脆い壁ってなんだよ

 

 穴から出た。

「あっさりしすぎて不気味ですねえ。私ならもうちょっと出れられないようにするんですけどね。こんなにあっさり出られるなんて罠でしょうか?」

 空間に穴が開きまくって穴からゴブリン系モンスターがたくさん現れた。盗賊ゴブリンに格闘家ゴブリンに鎧を着こんだゴブリンなどなどに囲まれている。いつの間に囲まれたんだ。

「ああそうだ。よくわかったな。場慣れしてるだけのことはあるぜ」

 脱獄王的な人だったのかな?

 

 オメンオクは袖からカードを三枚出す。

「私のデッキの恐ろしさの片鱗を味わいなさい」

 場に二つの剣が現れた。一つは白い剣、もう一つは黒い剣だった。

「あれ? あとの一枚はどこだろ」

「空気の流れで分かれ」

 それでわかったら苦労しないんだけど。

 

 三つの風が俺の頬を撫でた。

「二つは分かる。だが、もう一つはどこなんだ」

 黒い剣と白い剣の両方が宙に浮いて敵を切っている。いない方向の敵も切られている。

「見えないモンスターか」

 ギロチンフェイスデビルを召喚した。

「正解です。これを初めてやられた人はだいたい引っかかるんですよね」

 黒いは俺の前を通り過ぎる。

 

 あっぶねえなあ。前髪が少し切れたぞ。 

「スリル満点だね。もう少しおとなしくならないかな?」

「なりませんね」

「面倒だ。倒しても倒しても減っていないからな」

「実質二人で頑張っていますからねえ」

「バーン系は素の攻撃力が低いから参加したくても出来ない」

 なるほどなあ。

 

 倒しても倒しても数が減ってねえ。

「あきらめるのじゃ」

 空間に穴が開いて、女の子が現れた。年頃は十歳くらいかな。

「お前がこの屑どもの頭目か。屑の臭いがするぜ」

「同族嫌悪ってやつかな」

「いい加減なことを言うと口を縫い合わせるぞ」

 きゃーこわーい。

 

 女の子がカードを空中にばらまくと、ゴブリン系モンスターが消えた。カードが集まって一つの束になる。

「わらわはこのデス・コロシアムのオーナー ゴブリンプリンセスじゃ。因みにこの見た目はミミックスーツを着た結果じゃから……本当はこの姿じゃないのじゃよ」

「こそこそ隠れている施設のオーナーは己の姿さえコソコソ隠すのか。お前のような屑にお似合いだな」

「それはお前もだろ」

「私の商売をあなたの部下に邪魔されましたよ。どう落とし前を付けるつもりか教えてくださいよ」

 黒い剣と白い剣の切っ先がゴブリンプリンセスの目の前で急停止する。

 

 ゴブリンプリンセスは余裕そうに微笑む。

「貴様のようなハゲタカ人間はセイレーンやラミアの餌にするのがいいと思うのじゃよ」

「こんな所で価値のある人間を使い潰しにするよりはマシですよね」

「人は中身などと陳腐なセリフをほざくつもりじゃな」

「ええ。価値のない人間なんていませんから。人間を価値がないというのは、正しい使い方をわかっていないだけなのです」

 まともな会話をしてねえ。会話をする気がなさそうだな。

 

 ゴブリンプリンセスはデッキを構えた。

「トゥルーファイトじゃ」

「望むところです」

 トゥルーファイトだと。

 

 トゥルーファイトってなんだよ?

「トゥルーファイトってなんなのさ」

「生命力を失った敗者は闇に葬られる。その代わり勝てばすべてを得られる戦いだ。この戦いでは結界が貼られない為魔法の効果も痛覚も実際に体験することとなる。さらに上位の戦いが古代ビートダウンズ文明では繰り広げられていたらしい」

「命を賭けるなんて……何もそこまでしなくてもいいのに」

「認めたくはないが、ゴブリンプリンセスが倒れればうれしいだろ」

 この世界はヤバいぞ。



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三十六枚目 海に挑むゴブリン

更新してなくてすみません。今日は1時間ごとに更新します


 先攻を取ったゴブリンプリンセスもオメンオクも四ターン目まで何もしてないぞ。ゴブリンプリンセスの職業は一回だけ好きなカードをサーチできるカオスマンで、オメンオクの職業は一回だけ生命力を支払ってその分だけドローできる商人。攻撃力がどちらもゼロだから探り合いになるしかねえんだ。

 

 後攻の五ターン目だ。

「ターンです。ドロー。チャージ。コスト5でモンスターを召喚。出でよ魔海の鍛冶屋」

 ハンマーと金床を持った半魚人が現れた。

 

 モンスター コスト5 魔海の鍛冶屋 種族:マーフォーク、ヒューマガイ

 効果:このモンスターが召喚された時、魔海と名の付くカードを山札から一枚手札に加えてもよい。

 攻撃力:1 防御力:4 生命力:2

 

「効果で魔海のはぐれ者 バーマ湖の悪魔を手札に加えます。ターンエンド」

 魔海と言えば、特徴的なのはドローカードの多さだな。

 

 先攻の六ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト4でゴブリンサモナーを召喚じゃ。さらにコスト2でメガチャージを使用するのじゃ。ターンエンドじゃ」

 後攻の六ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト6でブーストライブラリを発動します。ターンエンド」

 手札加速のおとも ブーストライブラリ。

 

 先攻の七ターン目だ。

「ドロー」

「ブーストライブラリの効果でもう一枚引いてもいいんですよ」

「そうさせてもらうかの」

「ではこちらも一枚ドローいたします」

「チャージ。コストを2軽減して6でゴブリンプリンセスを召喚するのじゃ。出でよわが分身」

 ドレスを着てティアラつけ金髪のかつらをつけた醜悪なゴブリンが現れた。これとあの女の子が同じとは世の中分からないものである。

 

 コスト8 ゴブリンプリンセス 種族:妖精

 効果:一ターンに一度自分の墓地からコストを支払ってゴブリンと名の付くモンスターを召喚してもよい。このカードは場に存在するとき、ゴブリンクイーンとしても扱う。

 攻撃力:4 防御力:4 生命力:6

 

「ゴブリンを破壊しても次の奴が現れるのか。まずはアイツから倒した方がいいだろうな」

「そんなこと当たり前だろ」

「ターンエンドじゃ」

 実際このモンスターは厄介である。 

 

 後攻の七ターン目だ。

「ターンです。ドロー。チャージ。手札の魔海のはぐれ者 バーマ湖の悪魔の効果を発動。コストを4支払ってこのモンスターを手札から捨てて三枚ドローします。ターンエンド」

 先攻の八ターン目だ。

「わらわのターン。ブーストライブラリの効果で二枚ドロー。チャージ。コストを2支払って鎧を着こんだゴブリンを召喚するのじゃ」

「手札が増えますねえ」

 

 コスト4 鎧を着こんだゴブリン 種族:妖精、ガーディアン

 効果:一ターンに一度自分のゴブリンと名の付くモンスターが攻撃されるとき、このモンスターを攻撃対象にしてもよい。このカードの効果は自分のターンには使用できない。

 攻撃力:0 防御力:4 生命力:4

 

「さらにコスト6で魔法発動。妖精の知識」

 

 魔法 コスト6 妖精の知識

 効果:山札の上から五枚を見て、種族:妖精のモンスターを好きな枚数見せて手札に加える。手札に加えなかったカードは好きな順番で山札の上か山札の下に戻す。

 

 ゴブリンプリンセスはカードを一枚も加えずに山札の上にカードを置いた。デッキトップを操作したのか。

「ターンエンドじゃ」

 互いに膠着状態だ。

 

 後攻の八ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト6で魔法発動 魔海の術式」

 床に魔法陣のようなモノが現れた。

 

 魔法 コスト6 魔海の術式

 効果:このカードは場に置き続ける。一ターンに一度だけ魔海と名の付くモンスターの召喚コストを3軽減してもよい。魔海と名の付くモンスターが召喚された時、一枚ドローしてもよい。

 

「さらにコストを3軽減してコスト0で魔海のサハギンを召喚」

 

 モンスター コスト3 魔海のサハギン 種族:マーフォーク

 効果:このモンスターが召喚された時、一枚ドローしてもよい。

 攻撃力:1 防御力:2 生命力:2

 

「一枚ドローしてターンエンド」

 手札が10枚もあるぜ。ということは次のターンにあのカードが来るのかな。

 

 先攻の九ターン目だ。

「わらわのターン。ドロー。チャージ。コストを2軽減して6でゴブリンプリンスを召喚じゃ」

 

 コスト8 ゴブリンプリンス 種族:妖精

 効果:一ターンに一度自分のデッキからゴブリンと名の付くモンスターを一枚墓地に送ってもよい。このカードは場に存在するとき、ゴブリンキングとして扱う。

 攻撃力:4 防御力:4 生命力:6

 

「わらわは山札の一番上の素手のゴブリンを墓地に送るのじゃ。さらにゴブリンプリンセスの効果でコストを2支払って素手のゴブリンを召喚じゃ」

 

 コスト4 素手のゴブリン 種族:妖精

 効果:なし

 攻撃力:4 防御力:0 生命力:4

 

「素手のゴブリンで魔海のサハギンに攻撃してターンエンドじゃ」

 このターンで倒しきれなかったら詰みだったんだよね。

 

 後攻の九ターン目だ。

「手札にある魔海大陸の闇白剣 アトランティスソードのモンスター効果発動。コストを支払う代わりにこのカード以外の手札のカードを好きな順番で九枚以上山札の下に戻す」

「すさまじい効果だな」

「これで終わりじゃない」

「なんだと」

「魔海大陸の闇白剣 アトランティスソードを召喚します」

 白い剣が空中に表れて地面に突き刺さった。

 

 コスト20 魔海大陸の闇白剣 アトランティスソード 種族:マーフォーク

 効果:このカードが自分のターンのドローする前に手札にある時、このモンスターの召喚コストを支払う代わりにこのカード以外の手札のカードを好きな順番で九枚以上山札の下に戻す。このカードが場に出たとき、十枚ドローする。

 攻撃力:10 防御力:4 生命力:10

 

「さらに魔海大陸の明黒剣 メガラニカソードのモンスター効果発動」

 黒い剣が空中に表れて地面に突き刺さった。 

 

 コスト20 魔海大陸の明黒剣 メガラニカソード 種族:マーフォーク

 効果:このカードが九枚以上のカードと一緒にドローされた時、このモンスターの召喚コストを支払わずにこのモンスターを場に出してもよい。このカードが場に出たとき、三枚ドローしてターンを終了する。場に魔海大陸の闇白剣 アトランティスソードと名の付くカードがある時、魔海大陸と名の付くカードは攻撃できない。

 攻撃力:10 防御力:4 生命力:10

 

 デッキが薄いぜ。

「ドローし過ぎだな。このままではライブラリアウト待ったなしだ。枚数で言えば四枚増えただけだが、それでも異常だ」

「魔海はそれも見通していますので」

「そうか。それは楽しみだな」

 あながち噓でもない。



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三十七枚目 魔海大陸の不可視剣 「    」

 オメンオクはターンを終えた。

「親の顔より見た嫌なムーブが始まるぞ。魔海大陸を破壊しないと次のターンで負ける」

「言おうとしていたことをすべて言われてしまって悲しいです。まあそういうことですよ。あなたのラストターンです」

「今までわらわにそう言ってきた奴はみんなラミアの腹の中じゃよ」

 そっか。ゴブリンにはあのカードがあるもんね。

 

 先攻の十ターン目だ

「わらわのターン。ドロー。チャージ。ゴブリンプリンスの効果でゴブリンエンペラー様を墓地に送ってコストを10払ってゴブリンエンペラー様を召喚じゃ」

「ゴブリン軸だと出したいモンスターを絶対に出せるのやめろ」

 金銀財宝を纏い、王冠を被ったゴブリンが現れた。

 

 モンスター コスト12 ゴブリンエンペラー 種族:妖精 

 効果:自分の場にゴブリンキングがいる時、このカードは相手に直接攻撃できる。自分の場にゴブリンクイーンがいる時、このカードは二回攻撃出来る。

 攻撃力:10 防御力:4 生命力:10

 

「お前の防御力は3じゃろ。7×2で14じゃからゴブリンエンペラーに倒されるのじゃ」

「そう来ましたか」

「魔海の弱点はこういった攻撃を防ぐ手段がないということだ」

「直接攻撃は大抵効くだろ」

「まあね」

 効かないのは直接攻撃されることが前提なヒーラー強制終了ぐらいじゃないかな。

 

 ゴブリンエンペラーは体を膨張させて筋肉ダルマになった。そんな筋肉ダルマの拳がオメンオクを殴る。

「ぶぐぁ」

 生命力10→3

 オメンオクは殴られた勢いで床を転がった。オメンオクのお面から赤い液体が流れる。

「これをあともう一発ですか。嫌ですねえ」

 ゴブリンエンペラーはオメンオクの頭を片手で持ち上げる。

 

 これで終わりか。

「コスト6で発動 マーメイドの泡」

 

 魔法 コスト6 マーメイドの泡

 効果:自分の場に種族:マーフォークのモンスターがいる時に発動できる。攻撃するモンスターの攻撃力をこの攻撃時のみ0にする。

 

 ゴブリンエンペラーの体を泡が包んだ。ゴブリンエンペラーがオメンオクを殴ると、ゴブリンエンペラーはゴブリンプリンセスの元まで弾力で吹っ飛んで泡が割れた。

「むむむ。ターンエンドじゃ」

「危なかったですねえ」

 まあマーフォークサポートは入れてるよなあ。

 

 後攻の十ターン目だ。

「ドロー。チャージ。手札にある魔海大陸の不可視剣 「    」の効果発動」

「名前が見えず聞こえないカードか。興味深いな」

「苦労して手に入れたので盗まないでくださいね。このカードは召喚コスト8で召喚できます。魔海の術式で3減らして5で召喚しますよ」

 

 コスト20 魔海大陸の不可視剣 「    」 種族:マーフォーク

 効果:魔海大陸と名の付くカードが自分の場に二種類ある時、このカードの召喚コストは8になる。一ターンに一度自分の手札と墓地とコストゾーンのカードをすべて山札の上に好きな順番で戻してから、シャッフルして一枚ドローする。自分以外の全てのプレイヤーは戻した枚数より三枚多くカードをドローする。このカードが場に存在する限りこのカードの効果は無効化されず、このカード以外の自分の場の魔海大陸と名の付くカードの効果は無効化される。

 攻撃力:10 防御力:4 生命力:10

 

「手札は2枚、コストは10枚、これらを全て戻して十二枚。手札は一枚だけになりました。十五枚引いてください。さらに商人の効果でライフを2減らして2枚ドローします。不可視剣でゴブリンエンペラーに攻撃です。アトランティスソードでゴブリンエンペラーに攻撃。破壊。メガラニカソードでゴブリンプリンセスに攻撃。破壊。ターンエンドです」

 

 先攻の十一ターン目だ。

「ドロー。ターンエンドじゃ」

 後攻の十一ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト0で魔海のサハギンを召喚します。二枚ドロー。魔海大陸の不可視剣 「    」の効果発動。手札は4枚、コストは1枚、これらすべてを戻して五枚。八枚引いてください」

 ゴブリンプリンセスの山札が0枚になって負けた。モンスターが消える。

 

 オメンオクはせき込んでお面の奥から血を少しずつ吐き出す。

「回復してもらえませんかね」

「ちょっと待ってろ。癒しの使い手を召喚。薬草アルラウネを召喚。メガヒーリングスプレーを使用。薬草アルラウネでオメンオクに攻撃」

「ありがとうございます。痛みも消え去りました」

 モンスターたちが消えた。

 

 オメンオクはゴブリンプリンセスの前で猫だましをする。ゴブリンプリンセスは一瞬だけ目を大きくした。

「トゥルーファイトはデッキ切れで負けても死なないんですよね。商売柄そうするつもりがありますからね」

「情けをかけられたのじゃな」

「まあそういうことです。早くここから出してくださいよ」

「今回の戦いの映像は生中継じゃ。反響もなかなか良い。モンスターで回復できる者と傷つけずに相手を倒せる者という金のなる木を逃す阿呆はおるまい。黒覆面のドブネズミは適当に帰っても良いぞ」

 黒覆面ヤローはゴブリンプリンセスの顔面を蹴った。直後に黒覆面ヤローは突如現れた素手のゴブリンに殴られて気絶した。ざまあみろ。



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三十八枚目  緊急タッグ

ラーナちゃん視点です


 いきなりサングラスが無くなったと思ったら魔海という謎カードとゴブリンデッキの戦いを見せられたわ。

「これがどうしたの?」

「あの胡散臭いお面ヤローが時間を稼いでくれている。その間に救出する準備を始めるぞ」

「そうですわね」

 カシヨにいろいろと教えられながら準備を整えたわ。これだけで大丈夫かなあと思ったりしたけど、いい案が思いつかない。

 

 トイレに行く体で部屋から出たわ。

「おトイレはどこですの?」

 偶然通りがかった人に聞いた。服にスタッフって書いてあるから多分スタッフさんね。

「トイレはですねえ。むこうの角を行った先にありますよ」

「それじゃわからないから直接案内してよ」

「かしこまりました」

 スタッフさんの顔がピクピクしていたのは気のせいよね。

 

 スタッフさんにトイレまで案内されたわ。

「これだけですわ」

「よくやった」

 カシヨがスタッフさんの足を払って尻餅を付けさせた後に顎を思いっきり蹴って気絶させたわ。

 

 聞いてないわよこんなの。なんでこういうことを平気でやるのかしら。

「こんなの聞いてないですわ」

「聞いてたらこんなことしてないだろ」

「それはそうだけど……もっといいやり方があったと思う」

「思うだけで思いついてないだろ。今はこうするしかなかった。動くから今のうちに動きやすい恰好に着替えておけ」 

 カシヨはトイレまでスタッフさんを運んだ。

 

 私たちがトイレで着替え終えるとスタッフさんの服を着たカシヨが出てきたわ。こんな短い期間にまたフィールドファイト用の服が着れるとは思わなかったわ。

「掃除用具入れのロッカーに突っ込んだ。これでしばらく出てこれないだろ。顔を見られないようにこれも被っておけ」

 バンダナをもらったのでバンダナで口を隠した。

「こういうことを毎回してるんですの?」

「ああ。こういう迂闊な奴はどこかしらにいるからな」

「良く飽きないね」

「飽きるとかの問題ではないだろ。下らねーこと言ってないで戻るぞ」

 部屋に戻った。

 

 部屋に戻ると、戦いが終わっていたの。

「もっと時間を稼ぎやがれ。ワープゲート」

 空間に空いた穴に向かって進むと、黒覆面とドロウがいたわ。

「お嬢様、ラーナちゃ……様、なんでここにいるんだ」

「ラーナちゃんでいいわ」

「俺が緑覆面に連絡して、利用させるように仕組んだんだ。呆れたことにこいつは潜入するときには子供をよく使うからな」

「仲間にすら呆れられてるなんて相当だぞお前」 

 ちょっと口が悪いけどだいたいドロウの言うとおりね。

 

 空間に穴が開いて人がたくさん現れたわ。

「先に捕まえに来てたのか。そこのお前見ない顔だな。新人か。ちょっと手助けしてくれ」

 カシヨは筒を懐から出して、筒から煙を出したわ。それみんな持ってるのね。

「なんだこの煙」

「そいつは味方じゃないのじゃ。恐らく誰かが服を盗まれたのじゃろう」

「なんだと」

「そいつらを捕まえろ」

 前を歩くドロウに手を引かれたわ。

 

 煙が晴れるころには薄暗い部屋にいたの。

「ちょっとやりたいことがある。オメンオクについてきてほしい。黒覆面ヤローと俺を除けば多分この中で一番強いからな」

「構いませんが何をするのですか?」

「このコロシアムの人間の体を回復したいと思う」

「苦しみを長引かせるのか。容赦のない奴だな。かわいい見た目して結構えげつない」

「ちっ違わい。ただ治してあげたいだけだ」

「それを……」

 場の空気が悪くなってるから手を叩いたわ。

「はいはい。この話はおしまい。それよりもここから無事に出られる方法を考えましょ」

 黒覆面は考えた。

 

 胡散臭い青い人は手を挙げた。

「二手に分かれて陽動しましょう。私はドロウさんと脱出しますので、他の皆さんは協力してくださいね」

「商売柄人が傷ついているのは許せないのか。必ず合流しろよ」

「ええ」

 胡散臭い青い人はドロウを連れて行った。実力はあるらしいから大丈夫ね。

 

 カシヨと一緒に部屋を出て一気に走った。

「この服にあった地図によるとこの先が出口のようだな」

「なるほど。侵入者への対策が全くされてないな。おそらくゴブリンプリンセスが強くて全員葬っていたからかもしれない。だから今回のように足をすくわれたのだ」

「次はこっちだな」

 曲がり角を曲がって、最初に入った入口の近くに戻ったわ。

 

 扉の前には二人の男女がいたわ。

「俺は傭兵カード使いのビートだ」

「私はビートの相棒カナデルよ」

「「恐るべきコンボの餌食になるのは誰だ」」

 凄い息がぴったりね。タッグファイト専門かしら。

 

 黒覆面がデッキを構えた。カシヨに背中を押されて弾みでデッキを構えちゃった。私のデッキが赤く光って、黒覆面のデッキが青く光ったわ。

「俺のデッキはタッグファイト向きじゃねーよ」

「俺たちの先攻らしい。足を引っ張ったら殴る」

「それはこっちのセリフよ」

 強がっちゃったけど、実力は高いよね。

 

 黒覆面の向こうから鼻で笑ったような声がした。

「何がおかしいの?」

「言うようになったなと思っただけだ」

「「「「タッグファイトエントリー」」」」

 絶対に勝つわ。



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三十九枚目 バーン

 動きは三ターン目まで特になかったわ。強いて言えば私の場にメガラビットがいることと黒覆面の場にチャイルドワイバーンがいることと、カナデルの場にシャベル妖精がいることとビートの場に盗賊ゴブリンがいることかしらね。

 

 私の四ターン目だわ。

「ターンスタート。ドロー。チャージ。ターンエンド」

 カナデルの四ターン目よ。

「ターンスタート。ドロー。チャージ。ターンエンド」

 黒覆面の四ターン目だわ。

「ドロー。チャージ。コスト3でバーンゲートを発動。効果でバーンマジシャンを召喚。バーンマジシャンの効果でバックブラストバーンを手札から捨てる」

 

 魔法 コスト5 バックブラストバーン

 効果:相手モンスターに1ダメージを与える。手札から捨てられた時、デッキから好きなカードを一枚加えて自分に2ダメージを与える。

 

 ダメージの代わりにサーチなんてすごいカードじゃない。

「カナデルに1ダメージを与える。俺は2ダメージを受ける。デッキからバーンの本棚を手札に加えるぞ」

 カナデル:生命力10→9 黒覆面:生命力10→8

「チャイルドワイバーンで盗賊ゴブリンに攻撃。ターンエンド」

 使いまわすコンボかしら。

 

 ビートの四ターン目よ。

「ドロー。チャージ。コスト4でトリプルドローを発動。ターンエンド」

 私の五ターン目だわ。

「ターンスタート。ドロー。チャージ。コストを1軽減してコスト4で月光ゲッコーを召喚よ。月光ゲッコーで盗賊ゴブリンに攻撃するわ。さらに私で盗賊ゴブリンに攻撃。破壊。ターンエンドよ」

 よし。

 

 カナデルの五ターン目よ。

「ターンスタート。ドロー。チャージ。コストを4支払ってプーカーを召喚」

 黒馬が現れた。

 

 モンスター コスト4 プーカー 種族:妖精、フラムビースト 

 効果:種族:妖精のモンスターが自分の場に出たとき、手札のカードを一枚コストゾーンにおいてもよい。

 攻撃力:3 防御力:1 生命力:4

 

「プーカーでチャイルドワイバーンに攻撃。ターンエンド」

 職業は攻撃力0の商人だから、何も出来なかったのね。

 

 黒覆面の五ターン目だわ。

「ドロー。チャージ。コストを3支払ってバーンの本棚発動。バーンマジシャンの効果で手札のバーンスマッシャーを捨てる。カナデルに合計2ダメージ。チャイルドワイバーンを手札に戻して、バーンスマッシャーを手札に加える。さらにコスト1でチャイルドワイバーンを召喚。チャイルドワイバーンでプーカーに攻撃する。バーンマジシャンでシャベル妖精に攻撃してターンエンド」

 カナデル:生命力9→7

 

 ビートの五ターン目よ。

「ドロー。チャージ。コスト5で大地の賢者を召喚」

 

 モンスター コスト5 大地の賢者 種族:ヒューマガイ、ウィザード 

 効果:このモンスターが召喚された時、山札の上から二枚ドローして、山札の上から一枚をコストゾーンに置く。

 攻撃力:2 防御力:2 生命力:4

 

「これで必殺のコンボが完成する。大地の賢者でチャイルドワイバーンに攻撃してターンエンド」

「そういうのは思っていても言わない方がいい。ハンデスされるぞ」

 必殺のコンボってなんなのよ。

 

 私の六ターン目だわ。

「ターンスタート。ドロー。チャージ。コスト6でクワトロブーストを使用するわ。月光ゲッコーでシャベル妖精に攻撃。私はシャベル妖精に攻撃するわ。破壊。ターンエンドよ」

 これで何とかなればいいんだけど。

 

 カナデルの六ターン目よ。

「ターンスタート。ドロー。チャージ。コスト6でウォーターリーパーを召喚。プーカーの効果でコストを1加速」

 コウモリの羽が生えた月光ゲッコーが現れたわ。

 

 モンスター コスト6 ウォーターリーパー 種族:マーフォーク、妖精、フラムビースト 

 効果:一ターンに一度自分の場の同じ種族のモンスターを破壊してもよい。破壊したら下記の効果を使用する。

 ・一枚ドローしてこのモンスターの攻撃力をこのターンのみ1上昇させる。

 ・一枚ドローしてコストゾーンのカードを三枚まで表向きにする。

 攻撃力:3 防御力:3 生命力:4

 

「コスト1でスピードラットを召喚してからウォーターリーパーの効果発動攻撃。スピードラット破壊。一枚ドローしてこのモンスターの攻撃力をこのターンのみ1上昇させる。ウォーターリーパーでバーンマジシャンに攻撃」

 ウォーターリーパーの攻撃がバーンマジシャンを傷つける。

「プーカーでバーンマジシャンに攻撃。あと1足りなかった。ターンエンド」

 危ないわね。

 

 黒覆面の六ターン目だわ。

「ドロー。チャージ。バーンスマッシャーを戻してバーンマジシャンを手札に戻す。バーンマジシャンを召喚。バーンマジシャンの効果でバーンスマッシャーを捨ててカナデルに計2ダメージを与える」

 カナデル:生命力7→5

「燃え尽きろ。コスト5でバーンチャージブースト」

 

 魔法 コスト5 バーンチャージブースト

 効果:山札の上から二枚を見て、一枚をコストゾーンに置く。もう一枚は手札に加える。手札から捨てられた時、相手モンスターに1ダメージを与える。

 

 燃え尽きろって言ったのに。何もないじゃないの。

「燃えるってなんだよ」

「これで燃やすなんて一言も言っていない。ターンエンドだ。次は燃やしてやる」

「次なんてねーよ」

 ビートの六ターン目よ。



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四十枚目 超絶コンボと破滅のコンボ

またまたラーナちゃんの視点です


 ビートは口角を上げたわ。

「ドロー。チャージ。最強のレアカードを使わせてもらうぜ。コスト5で毒針甲羅竜 ペルーダを召喚。コスト2でダメージアブゾーバーを使用する。超絶コンボだ」

 

 魔法 コスト2 ダメージアブゾーバー

 効果:このカードは自分の場に置き続ける。自分の場のモンスター一体を選んで発動する。一ターンに一度戦闘以外のダメージを受けるときこのカードに選ばれたモンスターに与える。

 

「これが破滅のカウントダウンだ。ターンエンド」

「ダイヤモンドスパイクと鯵テーターもあるのかしら」

「良く分かってるな」

 ドロウもこれ持ってそうよね。

 

 私の七ターン目だわ。

「ターンスタート。ドロー。チャージ。コスト7で辻斬りサキュバスを召喚するわ」

 辻斬りサキュバスが現れて、服をはだけさせる。

 

 モンスター コスト7 辻斬りサキュバス 種族:デビル、サムライファイター 

 効果:このモンスターがモンスターを破壊したときこのモンスターの防御力を1増加させる。

 攻撃力:7 防御力:0 生命力:7 

 

「ちゃんと服装を直しなさいよ」

「ここは熱いでござるからな」

「熱がりすぎでしょ。ちっとも熱くないわよ。まあいいわ。辻斬りサキュバスでウォーターリーパーに攻撃。破壊」

 辻斬りサキュバスは剣を抜いてからウォーターリーパーに近づいてから戻ってきた。辻斬りサキュバスが剣を鞘にしまうと、ウォーターリーパーは真っ二つになった。

「どうでござるかこの刀の切れ味は。手裏剣もいいけどやっぱ刀でござるよ」

「にわとりで大地の賢者に攻撃。破壊。ターンエンド」

 刀っていうのね。

 

 カナデルの七ターン目だわ。

「私のターン。ドロー。チャージ。コスト6でクワトロドロー。ターンエンドよ」

 黒覆面の七ターン目よ。

「ドロー。チャージ。バーンマジシャンの効果でバーンスマッシャーを捨ててカナデルに計2ダメージ」

「ダメージアブゾーバーの効果でそのダメージをペルーダに引き寄せる。そしてペルーダは戦闘以外でダメージを受けるとき、生命力を6にする」

「むろんそれも織り込み済みだ。コスト5でバーンドロー発動。墓地のバーンスマッシャーと手札のバックブラストバーンを山札に戻して三枚ドロー。バーンドローを手札に戻してチャイルドワイバーンを手札に戻す。ターンエンド」

 コスト5で3ドローってコスパ悪いわね。

 

 ビートの七ターン目よ。

「ドロー。チャージ。コスト4で鯵テーターを召喚。コスト2でビーコンパラサイトを召喚。鯵テーターでバーンマジシャンに攻撃。ビーコンパラサイトでバーンマジシャンに攻撃してターンエンド」

 辻斬りサキュバスに攻撃した方がいいのにね。

 

 私の八ターン目ね。

「ターンスタート。ドロー。チャージ。コスト2でメガラビットを召喚」

「ビーコンパラサイトの効果でペルーダに攻撃してもらうぜ」

「それを待っていたのよ。格闘家の職業効果発動 コストを5払って攻撃力を5上げるわ。まず辻斬りサキュバスでペルーダに攻撃。3ダメージを受けるけど、倒しきれるわ」

「ちくしょう」

 辻斬りサキュバスは小さな鉄の板をペルーダに投げた。ペルーダは爆発して棘をまき散らして辻斬りサキュバスにダメージを与える。

「ひぃ~。痛いでござる~。とげが刺さらないように遠くから手裏剣打ったのにひどいでござるよ」

 辻斬りサキュバスは素手で棘を抜いた。

 

 まだまだこれからだよ。

「私で鯵テーターに攻撃。破壊。メガラビットでプーカーに攻撃。破壊。月光ゲッコーでカナデルに攻撃」

「月光ゲッコーの攻撃力は8で私の生命力は5。そんでもって防御力は2だから……ごめんビート。やられる」

 カナデル:生命力5→0

「やったわ」

「これで2対1。勝ったも同然ね。ターンエンド」

 順調だわ。

 

 黒覆面の八ターン目だわ。

「ドロー。チャージ。コスト8でキングバーンウィザードを召喚。キングバーンウィザードでビーコンパラサイトに攻撃。破壊」

 盤面は空いてるわね。

「ターンエンドだ」

 順調じゃないかしら。

 

 ビートは八ターン目に時間をかけて終わらせた。

「倒せないから時間稼ぎに走ったか。狡い奴め」

「なんでそんなことを……」

「この状況では時間をかければかけるほど不埒者をなるべく拘束できるからな」

 そういうことなのね。

 

 私の九ターン目よ。

「ターンスタート。ドロー。辻斬りサキュバスでビートに攻撃。にわとりでビートに攻撃」

 ビート:生命力10→5→1

「ターンエンドよ」

 ギリギリ倒せなかったわ。

 

 黒覆面の九ターン目よ。

「ドロー。バーンマジシャンの効果で手札のバーンドローを捨ててお前に1ダメージだ」

 ビート:生命力1→0

 

 モンスターたちが消えた。

「いつもは効くんだがな。今日は引きが悪かったか」

「そもそも面倒くさがって二軍デッキ使ったのが悪いんじゃない」

「耳が痛いからやめろ」

 仕事に対する意欲を感じられないわね。

 

 黒覆面はため息をつく。

「噓をつくな。格闘家なんて誰もが使えるジョブだろ。格闘家二人いたら楽々に倒されるぞお前ら」

「そういう奴らのためのカードがあったが、引きが悪かった。サーチカードは入れるべきだな」

「ああ。サーチカードは案外重要だ」

 私たちはビートとカナデルをどかして外に出たわ。



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四十一枚目 暗黒ファイト

 デッキを入れ替えて回復できるようにした。

「こっちかな」

「多分あっていると思いますよ」

「今頃お嬢様たちどうしてるんだろうね」

「カードハンターが二人も味方に付いていれば、安心ですよ。彼らも脱出のためには協力せざるを得ませんからね」

 出た後を狙われたらマズいってことか。早くしないと。

 

 俺は走る。

「うわああ」

「そんなに飛ばさない方がいいですよ」

 スタミナが尽きた。

 

 うぇ。おえ。これはまずい。

「スタミナが絶望的に少ないから、全回復するのも早いんだけどさ。これはまずい」g

「だから飛ばさない方がいいって言ったんですよ」

 ケガしてる人がいる部屋についた。血の臭いが濃すぎる。

 

 薬草アルラウネと癒しの使い手を召喚した。

「んむ?」

 適当なモンスターに檻を壊してもらうために工具箱をあさっていたら、知らないカードが混ざっていた。とりあえずデッキに混ぜて入れ替える。相性の良いカードだったからね。

「相性良いから入れておこ」

 適当にゴブリンサモナーを出した。

 

 ゴブリンサモナーは檻を破壊する。

「薬草アルラウネで攻撃」

 攻撃した人の体が回復した。でも古傷は治ってないから痛々しい。

「魔法発動 メイドの浄化術」

 血の臭いが消え去った。

 

 薬草アルラウネに全員攻撃させて、カードに戻す。

「俺たちはここから出るので、黙っててくださいね」

「ああ黙ってる。勝手に治ったと言っておくさ」

「ありがたいですねえ。健康な体を傷つけないでくださいよ」

 俺たちはその場から去る。

 

 天井から誰かが二人分が下りてきた。

「振動的に一方は肥満型、もう一方は瘦せ型ですね。どちらも体を大切にしていませんよね。普通の体型が一番健康的なのですよ」

「まあそうだな」

 周囲が暗くなって、オメンオクとたった今現れた二人がいなくなった。

 

 闇から太った人が現れた。

「なんだこれ」

「魔法で作り出した暗黒術の結界だ。これで周りは見えまい」

「なんだあんたは」

「我らは暗黒邪教怒労蛮苦団。今日は偶然ここの試合を見に来て、副オーナーに緊急で雇われた者なり」

 暗黒邪教ドローバンク団め。俺たちを逃がさないためにそういうことまでするのか。

 

 俺のデッキが赤く光った。カードファイトを挑まれたってことか。

「「カードファイトエントリー」」

 相手が現れてから職業を宣言して山札から五枚引いた。相手は僧侶だった。攻撃力も2あって自分の回復できるから、俺にとっちゃ相性が良い相手である。

 

 相手の姿が消えた。

「最高の手札だ」

 薬草アルラウネ以外ろくなカードがねえ。

「チャージ。薬草アルラウネを召喚。ターンエンド」

 相手は何をしてくるんだ。

 

 しばらくするとカードが引けるようになった。

「暗闇だから何をしても見えねえってことか」

「我らにだけは分かる。それが暗黒邪教怒労蛮苦団の力だ」

 声が拡散してるから音で特定するのも不可能ってことだ。

「ずるい奴らだぜ」

「それが我らの特権」

「ドロー。チャージ。薬草アルラウネで攻撃。ターンエンド」

 手札が悪いぜ。システム的に攻撃が当たりはしたんだろうけど、当たっているかどうか実感がない。

 

 俺の3ターン目らしい。

「ドロー。チャージ。コスト2で癒しの使い手を召喚。薬草アルラウネで攻撃。ターンエンド」

 薬草アルラウネは正面を攻撃した。

 

 相手のモンスターが分からないから相手の生命力がどのくらいなのか分からねえ。ダメージを与えられない状況だったら回復効果が発動しないからな。

「モンスターや魔法でダメージを与えてくるわけでもないから、分からねえ」

「闇に覆われたまま戦え」

 この状況を何とかしないとどうにもならないってことだ。

 

 暗闇からモンスターが現れて、薬草アルラウネを攻撃する。

「なんだ。ただのスピードラットか」

 スピードラットは汎用性ゆえに大抵のデッキに入るカードだ。音も出さずにモンスターを召喚できるのか。

「まだわからないだろう。正体不明の闇におびえるがいい」

「俺はお化けは怖いが、闇を使う奴は怖くねえ。闇を使うのは臆病者だけだからな。かかってこいよ。この臆病者」

「なにぃぃぃぃ」

 地団太を踏む音が聞こえた。音が拡散してねえってことは声以外は拡散できねえのか。

 

 位置がだいたいわかった。カードが引けるようになっていた。

「俺のターン。ドロー。チャージ。コスト4でトリプルドローを発動。薬草アルラウネで正面に攻撃」

 薬草アルラウネがスピードラットを攻撃する。

「そこにいたか。ついに分かったぞ」

「大外れだ。事前に移動しておいた。今俺の場にスピードラット以外のモンスターがいないから出来ることだ。回復ばかりしてやる気あるのか?」

「ありすぎるくらいだぜ」

 たしかにスピードラット以外いねえ。ということはダメージを与えられるってことだから、順調に回復出来ているってことだな。

 

 背中に寒気を感じた。

「うぐぁ」

 背中がいてえ。生命力が2も減っていた。

「直接攻撃できるモンスターを召喚したのか」

「ああそうだ。見えない闇の中でもがけ」

 万々歳だ。生命力が減ってくれないとあのカードは使えないからな。

 

 俺の5ターン目になっていた。

「ドロー。チャージ。コスト5でヒーリングリを召喚」

 バランスボールほどの大きさのどんぐりが現れた。

 

 コスト5 ヒーリングリ 種族:メガプラント、ヒーラー

 効果:このモンスターは一ターンに一度、自分以外のプレイヤー一人を選ぶことが出来る。選んだプレイヤーの生命力を2回復する。この効果を使ったモンスターはそのターン中攻撃できない。

 攻撃力:4 防御力2 生命力:5

 

「ヒーリングリでお前の生命力を2……と行きたいところだが、癒しの使い手の効果で4回復する。薬草アルラウネでスピードラットに攻撃してターンエンド」

 十分回復したはずなんだが、素通り門番が来ねえ。



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四十二枚目 今更もう遅い

オメンオク視点


 暗闇に包まれました。

「なるほど。暗黒空間ですか」

「闇の中でうろたえるんだな。因みに俺の職業は騎士だ。噓をつけば審判の神の罰が下るから、これは大マジだ」

「私は商人です」

 暗闇に赤く小さな光が発生して消えました。

 

 そこにいるのですか。

「闇の中ではなにも分かるまい。俺はたった今ターンを終えたが、お前には分からなかっただろう。俺にはお前の行動がまるっきり分かるぞ」

 前にも一度戦ったことがありますが、厄介ですねえ。

「私のターン。ドロー。チャージ。手札の魔海底神殿を捨てて、コストを1軽減してコスト1で魔海の泡を召喚」

 

 モンスター コスト2 魔海の泡 種族:マーフォーク 

 効果:手札の魔海と名の付く魔法を一枚捨ててもよい。そうしたらこのモンスターの召喚コストを1軽減する。

 攻撃力:0 防御力:2 生命力:2

 

「ターンエンドです」

 魔海の恐ろしさはここからですよ……

 

 手札を引けるようになっていました。

「いつの間にターンを終了したのですね。ドロー。チャージ。コスト2でマーメイドソルジャーを召喚します」

 右手に剣を持っている人魚が現れました。

 

 モンスター コスト2 マーメイドソルジャー 種族:マーフォーク 

 効果:1ターンに一度種族:マーフォークのモンスターの召喚コストを1軽減する。

 攻撃力:2 防御力:1 生命力:2

 

「マーメイドソルジャーで攻撃します」

「たかだか1ダメージだ」

「ターンエンドです」

 手の内は知られているでしょうから、早めに体制を整えなければなりません。

 

 盗賊ゴブリンがマーメイドソルジャーを攻撃しました。

「あと一撃ですか」

 攻撃が止みました。僧侶で攻撃すれば破壊できますのに、なぜそれをしないんでしょうか。何をしてくるかわからないという、優位をそんなに崩したくないのですかね。

 

 どうやら私の三ターン目のようです。

「ターンスタート。ドロー。チャージ。コスト2でメガチャージを使用します。さらにコストを1軽減してコスト2で魔海のサハギンを召喚します。1枚ドロー。マーメイドソルジャーで盗賊ゴブリンに攻撃です。ターンエンド」

 手札は残り一枚です。まあいたって問題はありません。

 

 マーメイドソルジャーが攻撃によって破壊されて、私の四ターン目が来ました。

「ターンです。ドロー。チャージ。コスト5で魔海の鍛冶屋を召喚します。効果で魔海のはぐれ者 バーマ湖の悪魔を手札に加えます。ターンエンドです」

 防御力4は頑強ですよ。

 

 なにも起こらずに私の五ターン目になりました。

「ドロー。チャージ。コスト5で墓地の魔海底神殿の効果を発動します」

 私を中心とした渦巻きが闇を洗い流しました。

 

 魔法 コスト5 魔海底神殿

 効果:このカードは自分の場に置き続ける。このカードは自分の場に魔海と名の付くモンスターがいる時、コストを支払って発動できる。このカードが場に存在する限り、魔海と名の付くカードの効果で引く手札の枚数は一枚多くなる。このカードは他のプレイヤーの魔法の効果を受けない。

 

 渦巻きが消えると、瘦せた人が見えました。

「なんで渦が消えているんだ」

「それはですね。魔海の力で視界を封じる闇を洗い流したのですよ。ターンエンドです」

 瘦せた人の場には盗賊ゴブリンとゴブリンサモナーがいますね。

 

 瘦せた人の六ターン目ですね。

「俺のターン。ドロー。チャージ。コスト6でクワトロブーストを発動。さらにゴブリンサモナーで魔海の泡に攻撃。破壊。ターンエンド」

 私の六ターン目です。

「私のターン。ドロー。チャージ。手札からコスト4を支払って魔海のはぐれ者 バーマ湖の悪魔の効果を発動します。四枚ドロー。さらにコスト3で魔海のサハギンを召喚します。二枚ドロー。ターンエンドです」

 一気に手札が3倍になりましたよ。

 

 瘦せた人の七ターン目ですね。

「俺のターン。ドロー。チャージ。コストを2軽減して5でゴブリンナイトを召喚。これがエースモンスターだ」

 

 モンスター コスト7 ゴブリンナイト 種族:妖精、ガーディアン 

 効果:なし

 攻撃力:5 防御力:2 生命力:7

 

「ゴブリンナイトで魔海の鍛冶屋を攻撃。ゴブリンサモナーで魔海の鍛冶屋を攻撃。破壊。ターンエンド」

「いまさらもう遅いですよ」

 私の勝利パターンは完成しましたからね。

 

 私の七ターン目です。

「ドロー。チャージ。手札からコスト4を支払って魔海のはぐれ者 バーマ湖の悪魔の効果を発動します。四枚ドロー。さらにコスト4で魔海のマーメイドを召喚」

 

 モンスター コスト4 魔海のマーメイド 種族:マーフォーク 

 効果:このモンスターを召喚したとき2枚ドローする。

 攻撃力:1 防御力:3 生命力:2

 

「3枚ドロー。ターンエンドです」

 手札に来ましたね。

 

 瘦せた人の八ターン目ですね。

「ドロー。チャージ。コスト7でゴブリンキングを召喚」

 

 モンスター コスト9 ゴブリンキング 種族:妖精 

 効果:一ターンに一度、デッキから自分の墓地に好きなモンスターを一枚墓地に送ってもよい。そうしたら墓地のモンスターを一枚手札に加える。

 攻撃力:6 防御力:3 生命力:8

 

「ゴブリンクイーンを墓地に送ってゴブリンクイーンを手札から回収する。ゴブリンナイトで魔海の泡に攻撃。破壊。ゴブリンキングでプレイヤーに攻撃。ターンエンド」

 魔海の泡の防御力が2で助かりましたね。

 オメンオク:生命力10→6



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四十三枚目 囚われのヒロイン

ヒロインムーブじゃねえかよえーっ


 私の八ターン目ですね。

「手札にある魔海大陸の闇白剣 アトランティスソードのモンスター効果発動。コストを支払う代わりにこのカード以外の手札のカードを好きな順番で九枚以上山札の下に戻します。今回は十一枚戻します。魔海大陸の闇白剣 アトランティスソードを召喚します。十一枚ドロー。さらに魔海大陸の明黒剣 メガラニカソードのモンスター効果発動。四枚ドロー。ターンエンドです」

 瘦せた人は何もせずに九ターン目を終えました。

 

 私の九ターン目です。

「ドロー。チャージ。コスト8で魔海大陸の不可視剣 「    」 を召喚。効果発動。手札14、墓地5、コスト10で29枚戻して、2枚ドローです。魔海底神殿の効果で33枚ドローしてもらいます」

「そんなに引いたらデッキが尽きる」

「ですが私は33枚ドローはさせませんよ」

 瘦せた人は落ち着いた顔をした。

 

 手札のカードを見せました。使いたかったのですが、あの時は運悪く手札に来なかったんですよね。

「手札の魔海大陸ムーの効果を発動します」

 

 魔法 コスト20 魔海大陸ムー

 効果:相手が自分の場の魔海大陸と名の付くモンスターの効果で20枚以上ドローするとき、手札のこのカードを見せてもよい。魔海大陸の効果でドローするかわりに、自分はゲームに勝つ。

 

 瘦せた人は私に敗れて、場がすっきりしました。

「ちくしょう。逃げるか」

「逃がしませんよ」

 懐からロープを出して、瘦せた人を拘束すると、瘦せた人は自らの舌を嚙みました。

 

 瘦せた人の体が石像になります。

「負けたら石になるのですね。暗黒ドローバンク邪教団、さらにえげつなくなっていますね」

 私のころは負けたらむち打ち一回でしたよ。

 

 もう一つの暗黒空間を見つめました。

「中はどうなっているんでしょうね」

 おそらくドロウさんが閉じ込められていますね。他者を回復できるあの子の回復カードには、存在価値がありますよ。私は祈りました。

 

 sideドロウ

 

 俺は闇の向こうから歪んだ感情を感じ取って、背筋に悪寒が走った。

 

 まあそんなことは良い。俺の七ターン目だ。今のところ生命力は6。奇数分減らさなきゃ負けるぞ。

「俺のターン。ドロー。チャージ。コスト6でクワトロブーストを発動」

 来た。

「薬草アルラウネでスピードラットに攻撃。ヒーリングリで生命力を回復」

 計算すると36ぐらいにはなってるかな。

「ターンエンド」

 手札に超絶博打があるのだった。クワトロブーストででいたのだ。

 

 冷気を感じ取った。

「4か。ギリギリだな」

 俺の八ターン目になる。

「魔法発動。超絶博打。デッキから強制終了を手札に加える。ターンエンド」

 もはや勝ちも同然。

 

 相手のドローする音がやけに大きく聞こえた。

「魔法発動。強制終了。俺とお前の生命力とデッキは0になる」

「そんなバカな話があるか」

「もっとバカな目にあうんだよなあ」

 場がすっきりした。

 

 俺の勝ちだ。

「俺にはまだデッキと生命力が1残っている」

「そんなインチキな効果があるわけねーだろ」

「これを見てみろ」

 デッキのとあるカードを見せる。

 

 魔法 コスト5 ライブラリエフェクト:グレイブ

 効果:相手のターンに自分のデッキのこのカードが墓地に送られた時、すべてのプレイヤーの生命力を1回復してからこのカードを裏側にして山札の一番下に置いてシャッフルする。

 

 デッキを戻した。

「お前の生命力も1あったが、山札が0枚になったからお前の負けだ」

「そんなインチキ効果があってたまるかあ」

 腹パンされそうになる。つい目を閉じた。

 

 いつまでも痛くならないので目を開けると、オメンオクが右手で拳を防いでいた。

「オメンオク。ありがとな」

「お礼は良いんです。急ぎましょう」

 太った人は石像になる。え?

 

 トゥルーファイトじゃないはずだ。冷静に考えたらそもそもトゥルーファイトが本当に影響を与えるかも疑わしいんだけど、それは今は置いておく。

「どうなってんだよこれ」

「彼らの所属する団体はカードファイトに負けたら罰を受けます。これがその罰なのです」

 触ると触感がまさに石だった。

 

 カードファイトで負けただけで身ぐるみはがされたり、石になったり、死んだりするなんてヤベエ世界だな。

「負けたくないなあ」

「何かを失いたくなければ平々凡々に普通の戦いだけしていればいいんですよ」

「それもそうだね」

 トバクファイトは黒覆面ヤローからアジ・ダハーカを取り返す一回しかしないようにするよ。

 

 入口まで戻ると、倒れた男女のカップルがいた。

「門番みたいな人たちかな。こんなところで寝るなよ」

「疲れたのでしょうね」

 外に出ると、お嬢様とラーナちゃんがいた。ちゃんとドレスを着ていたよ。

 

 カシヨと黒覆面ヤローの行方を聞くと、いつの間にかいなくなっていましたわとお嬢様から言われた。

「どこ行ったんだろ」

 下水道から出て、家まで戻った。ラーナちゃんはワープゲートで家まで戻ったらしい。

 

 いろいろなことがあった。謎が二つ増えた。

「お嬢様助けてくださってありがとうございました」

「いえいえ。あたりまえですわよ」

「ありがとうございます」

 お嬢様もラーナちゃんもイケメンムーブしすぎだと思うの。



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四十四枚目 暗黒プロローグ その1

 攫われて助けられてから一か月経った。俺はベッドに寝っ転がっていた。

「ヒマだぜ」

 まあ暇なのが一番いい。お給金もいっぱい出たから、マイスさんに借金返せたしこのまま死ぬまで安泰しているのがいいね。

 

 ベッドもふかふかのものを買うことが出来たからもう生活に困ることもあるまい。

「ああ楽ちん」

 大きな音が聞こえた。複数人の足跡がするな。

「忙しい時期なのかな。手伝いに行かねえと」

 ベッドから起き上がる。

 

 部屋のドアが開いた。部屋に何人もの鎧を着た人と、首無しデュラハンが入ってきた。さりげなく後ろにハナメデルもいるな。

「不法侵入だぞ。こんなことしていいと思っているのか」

「これはガサ入れナハ。それに事前に捜査の許可は貰ってるナハ」

「なんだと。俺が何をしたって言うんだ」

「警備兵として聞きたいことがあるナハ。捕まえたりはしないナハ」

 なんだ事情聴取か。

 

 そういうことなら惜しみなく協力しよう。

「何が聞きたいの?」

「パズル商人のオメンオクと話をしたそうナハね。どんな奴だったナハ?」

 パズル商人か。あんな胡散臭いなりしてパズル売ってるとは人は見た目によらないね。見た目によらない奴代表みたいなところがある俺がいうのも変な話だけどな。

「部屋の中に入ってきてやったら話してやるよ。そんな分かりにくいところにいちゃ、話しにくいんだよ」

「レディーの部屋には許可がない限り、入ってはいけないものと思っているから今まで入ってなかったナハ」

 誰がレディーじゃ。

 

 ハナメデルが部屋に入ってきた。

「オメンオクはどんな奴だったナハ?」

「どうもこうもねえ。お面をした青いコートの胡散臭い奴だ。あと袖からなんか出す。魔海デッキでドローしまくって、相手のデッキを切らせてくるライブラリアウト戦法してくるから気を付けろよ」

「魔海……シズミ伯爵家にのみ代々受け継がれているカードナハ。うわさは聞いたことがあるナハ。あそこは10年も前に没落したからあり得ない話ではないナハ」

「なーにぶつぶつ言ってんだ」

「何でもないナハ。情報提供ありがとうナハ」

 あいつああ見えて実はけっこう家柄が貴いお方なのかな。なんかそれってなんとなくいやだな。

 

 疑問が一つ生じた。

「俺がオメンオクと話をしたのは、非合法施設なんだがなあ。なんでお前は俺がオメンオクと話したことを知ってんだ?」

 不良警備兵がいるってことになる。まさかコイツラ口封じに来たのか?

 

 デッキを構えた。

「構えなくていいナハ。悪いようにはしないナハよ。知っている理由はそういう裏のところにスパイがいるからナハ。認めたくはないけれど、表より裏の方が情報が入るのが早いナハ」

 清濁併せ吞む組織ってだけか。

「なんだそういうことか。俺は無理やり連れてこられただけの被害者だから、捕まえないでくれよ」

「そういうことナハね。それでオメンオクと協力して脱出したということナハ」

「ハナメデルと暗黒邪教ドローバンク団と戦ったときは大変だったぜ。結果だけ見れば逆転勝利だったけどな」

 ハナメデルが驚いたような顔をする。

 

 ハナメデルに肩をつかまれて揺さぶられた。

「暗黒邪教怒労蛮苦団ナハ!?」

「そんなに驚くことかよ。揺らすなよ」

「驚くことナハ。暗黒邪教怒労蛮苦団は闇と共に現れて敗者の記憶を何らかの方法で奪うから、目撃例が少ないナハ。ただ広い地方で聞くから規模が大きいことぐらいしか分からないナハ。実際ナハも二回撃退したことがあるナハ。負けたら石像になるから何も聞き出せなかったナハ」

 石像は口きかないからな。

 

 ため息をついた。

「大したことは分からねえぜ。二回も戦っているあんたの方が俺より二倍も詳しいはずだ。デス・コロシアムの副オーナーに雇われたとしか言ってなかったからなあいつら。デス・コロシアムのご存知だから言うまでもなかったかな?」

「副オーナーなんてのがいたとは知らなかったナハ。ゴブリンに経営が務まるとは思えないから、傀儡にしているのかもしれないナハ」

「なるほどね」

 実は全然わかっていない。

 

 いきなり目の前が暗くなった。

「なんだこれは」

「暗黒邪教怒労蛮苦団ナハ」

「面倒なことになったな」

 暗闇の中でハナメデルが消えて、別のところに現れた。一瞬で瞬間移動したのかこいつ。

 

 ハナメデルは俺を殴る。口の中の血管が切れた。

「いきなりどうしたんだ」

「こいつを誘拐してから擬態したんだ。二回も我ら撃退するほどの実力者なんて生かしておくだけで面倒なことになる」

 確かに語尾がない。こいつは偽物だ。それにしてもほっぺたがいてえ。

「てめえ何しやがる」

「お前も実力者だろう。放置しておけば面倒になる。誘拐する。それに伯爵家令嬢の家庭教師と言う身分はとても都合がいい」

「お嬢様たちに気が付かれるぜ」

「気が付かれないさ。お前にも擬態が出来るのだからな」

 俺がもう一人現れた。

 

 もう一人の俺はカードを俺の前に突き出す。

「テレポートゲート」

 一瞬重力を感じた。

 

 風景が変わっていた。

「どこだここ」

 プールサイドだな。隣でのんきにハナメデルが寝ていやがる。



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四十五枚目 サイドエフェクト

 ドロウ先生が来て、既に半年ぐらい経ちましたわ。

「今日はここをやってみようか」

 攫われてから一か月後にいきなりこんなに優しく、授業が分かりやすくなりましたわ。精神的に参ったのでしょうか。二日前にラーナちゃんに指摘されてようやく変だと気が付きましたわ。

 

 ドロウ先生が微笑みましたわ。前までのドロウ先生はどちらかと言えば厳しかったはずですのに。改めてみるとおかしいですわね。

「ゴブリンサモナーで牛の怨念を攻撃して破壊ですわ。盗賊ゴブリンで先生に攻撃しますわ。私の勝ちですわ」

「上手になってきたね。僕より強そうだ」

「それほどでもありませんわ」

 何かつかめている気はしますわね。

 

 窓が割れましたわ。割ったのはにわとりですわね。

「このにわとり……焼鳥屋に賛成するにわとりですわね」

 焼鳥屋に賛成するにわとりのあしゆびは七本ですわ。

「ドロウ先生……こっそり召喚していたずらなんて趣味が悪いですわよ」

「何のことかな。今日はまだモンスターを召喚していないよ」

 笑顔に圧を感じますわ。

 

 窓からオレンジ色のローブを着た小さな子が入ってきましたわ。覆面を着ていますわね。

「まさかカードハンターですの?」

「違うな。俺はカードハンターではない」

 体格に対して声が異様に低いですわね。

「じゃあ何者なんですの?」

「お嬢様。授業に集中しましょう」

 不審者がいる状況で授業しろってことですの

 

 不審者はドロウ先生を殴った。

「俺は暗黒邪教ドローバンク団の新幹部と言うことになっている。名前はライ・ブラリアウトでいい。暗黒空間装置作動」

 周りが見えなくなりましたの。

「僕を倒せるかな」

「お前には負けん」

 ドロウ先生とライが見えるようになりましたわ。

 

 ドロウ先生は首を傾げた。

「どういうことかな。僕も暗黒空間で見えるようにするなんて。メリットがないじゃないか」

「周りに身られたら困るだけだからな」

 ライのデッキが赤く光りましたわ。

 

 ライは薬草アルラウネを召喚しましたわ。

「俺はこれでターンエンドだ。先攻の一ターン目は攻撃が出来ないからな。お前は俺がこれから何をするかわかるだろ」

「ええ。ご存知ですとも」

「いいや。お前は分かっていない」

 何なんですのこの不審者。

 

 ドロウ先生の一ターン目です。

「ドロー。チャージ。スピードラットを召喚。ターンエンド」

 ライの2ターン目ですわ。

「ドロー。チャージ。癒しの使い手を召喚。手札が悪いな。事故か。まあいい。薬草アルラウネでプレイヤーに攻撃。ターンエンド。お前、理解不能と言う顔をしているな。本当のところは全く分からないんだろ」

「嫌と言うほどご存知だよ」

 ライはドロウ先生を鼻で笑いましたわ。何々ですの。

 

 ドロウ先生の二ターン目ですわ。

「ドロウ先生がんばってくださいね。早く倒してくださいまし」

「そういうのは傷つくぜ。俺は悲しいよ」

「応援ありがとうございます。ドロー。チャージ。コスト2でメガラビットを召喚。ターンエンド」

 

 ライの三ターン目ですわ。

「ドロー。来たぜ。チャージ。コスト2でメガチャージを使用。薬草アルラウネで攻撃してターンエンド」

 ドロウ:生命力20

 

 ドロウ先生の三ターン目ですわ。

「ドロー。チャージ。ターンエンド」

 ライの四ターン目ですわ。

「ドロー。チャージ。コスト4でトリプルドローを発動。さらに薬草アルラウネでスピードラットに攻撃。回復」

「回復ですか」

「薬には副作用がつきものだ。手札の(サイドエフェクト)ウィザードの効果発動」

 

 モンスター コスト2 (サイドエフェクト)ウィザード 種族:ヒーラー、ウィザード 

 効果:(サイドエフェクト)(相手の生命力が回復したときにこのカードが手札にあるなら、このカードを捨ててもよい。そうしたら下記の効果を使用する)

   ・一枚ドローする。 

 攻撃力:2 防御力:1 生命力:2

 

 回復したときの効果ですの?

「これが本来のヒーラーデッキの回し方だ。ただ本来の使い方をしている奴らは、非常に少ない。一枚ドローする。俺はこれでターンエンドだ。幹部になれば新しいカードが貢がれ放題の日々だ。全くゴミみたいな日々だったぜ」

「その代わり負ければ石になるんだろ?」

「お前は分かってて当然だよな」

 ライは舌打ちしましたわ。

 

 ドロウ先生の四ターン目ですわ。

「ドロー。チャージ。コスト4で大地の秘術を使用します」

 

 魔法 コスト4 大地の秘術

 効果:コストゾーンに二枚カードを置く。 

 

「ターンエンドです」

「次で決めに来るのか」

「分かってるじゃないか」

「ペルーダを召喚するのですね」

 ここ最近先生がペルーダを召喚しているところをみたことがありませんけどね。

 

 ライの五ターン目ですわ。

「ドロー。チャージ。コスト6でクワトロブーストを発動。薬草アルラウネでスピードラットに攻撃。回復」

 ドロウ:生命力28 

「さらに手札の(サイドエフェクト)たんころりんの効果発動。(サイドエフェクト)と名の付くカードを山札から二枚まで手札に加えてシャッフルする。ターンエンド」

 (サイドエフェクト)をそろえて何をしたいんですの?

 

 ドロウ先生の五ターン目ですわ。

「ドロー。チャージ。コストを1減らしてコスト5で化け鯨を召喚」

「種族欲張りセットか。お化けは怖いからやめろ」

 骨だけの鯨が出てきましたわ。

 

 モンスター コスト5 化け鯨 種族:フラムビースト、アンデッド、メタルアヤカシ、マーフォーク

 効果:なし

 攻撃力:3 防御力:2 生命力:5

 

「ほんぎゃああああ。お化けこわい」

「化け鯨で薬草アルラウネに攻撃。ターンエンド」

「あのモンスターは毒にも薬にもなるまい。ただ見た目が少し怖いから早めに対処させてもらう」

 ライの手が恐怖で震えていますわ。



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四十六枚目 生命力142

「化け鯨で薬草アルラウネに攻撃。アンデッドホエールテイル」

 化け鯨の尻尾が薬草アルラウネに当たりましたわ。

「ターンエンド」

 薬草アルラウネ……厄介なモンスターですわね。

 

 ライの六ターン目ですわ。

「ドロー。チャージ。コスト5でヒーリングリを召喚。ヒーリングリの効果で4回復。さらに手札の(サイドエフェクト)モスキートの効果発動。墓地の(サイドエフェクト)と名の付くカードを一枚コストゾーンに表側で置く。さらにコスト3で厄罪空間を発動」

 

 魔法 コスト3 厄罪空間

 効果:一ターンに一度自分の場の(サイドエフェクト)と名の付くカードを一枚選ぶ。選んだカードのコストを1多く支払って効果を使用してもよい。このカードは場に置き続ける。このカードは一ターンに一度のみ使用できる。

 

「薬草アルラウネで攻撃。ターンエンド」

 ドロウ:生命力36 

 

 ドロウ先生の六ターン目ですの。

「ドロー。コスト6でクワトロブースト。化け鯨で薬草アルラウネに攻撃して、ターンエンド」

「一ダメージずつ与えて楽しいか?」

「楽しいとか楽しくないとかそういう問題ではない」

「心の底から楽しめよ。俺は今楽しいぜ。お前が思い通りに動いてくれるからな」

 なんて性根が悪いのかしら。

 

 ライの七ターン目ですわ。

「ドロー。チャージ。コストを15軽減して5で魔導回復生命体を召喚」

 

 コスト20 魔導回復生命体 種族:ヒーラー

 効果:相手のライフが20以上回復しているなら、このモンスターの召喚コストを15減らす。すべてのプレイヤーのターンの最初に、自分以外の全てのプレイヤーの生命力をこのモンスターの防御力分回復する。このモンスターは攻撃できない。このモンスターの防御力はプレイヤーの生命力回復時に1上がる。このモンスターの防御力が15以上になる時、このモンスターを破壊する。このモンスターが場を離れたとき、プレイヤーは敗北する。

 攻撃力:0 防御力0 生命力:20

 

 めちゃくちゃな効果ですわね。

「そのモンスターを召喚するために生命力を回復し続けていたというのですの?」

「ああ。教祖様に貰ったモンスターだ。俺のデッキに一枚しかないしかないカードだぜ」

「そんなカード無茶苦茶じゃないか」

「でも防御力が20以上になった時、破壊されて俺は負けるぜ。許してくれよ。ヒーリングリの効果発動。4回復する。さらに薬草アルラウネで攻撃。ターンエンド。魔導回復生命体の防御力は2だ」

「薬草アルラウネで攻撃しなければならないから、いずれ破壊されますわね」

「まあそういうこった。もって3ターンと言うところかな」

 希望はありますわね。

 

 ドロウ先生の7ターン目ですの。

「ドロー。チャージ」

 ドロウ:生命力48

「忘れちゃならない回復効果。お前はもう癒されている」

「コスト8でマグマドラゴンを召喚」

 溶岩が噴き出て四本足のドラゴンの形になりましたわ。

 

 コスト8 マグマドラゴン 種族:ドラゴン

 効果:反動。生命力が1以下のモンスターを破壊する。

 攻撃力5 防御力3 生命力8

 

 急に部屋の温度が上がりましたわね。これでは蒸し風呂ですわ。

「マグマドラゴンで薬草アルラウネに攻撃。マグマブレス」

 薬草アルラウネはマグマドラゴンの吐息を浴びて跡を残さずに蒸発しましたわ。

「草の根も残しませんわね」

「化け鯨で癒しの使い手に攻撃。ターンエンド」

「ダメージを受けないのに攻撃するのか」

 ライは手を叩いた。

 

 ライの8ターン目ですの。

「魔導回復生命体の効果で6回復させてからドロー。コスト2で(サイドエフェクト)ウィザードを召喚。厄罪空間の効果で(サイドエフェクト)ウィザードの効果をコスト3で発動。一枚ドローする。ヒーリングリで4回復。薬草アルラウネでスピードラットに攻撃。4回復。さらに手札のスーパー(サイドエフェクト)ヒーリングブレイカーの効果。スーパー(サイドエフェクト)

 

 モンスター コスト10 スーパー(サイドエフェクト)ヒーリングブレイカー 種族:ヒーラー、ヒューマガイ 

 効果:コストを支払わずに場に出たモンスターは、場に出たターンには攻撃できない。

    スーパー(サイドエフェクト)(一ターンに相手の生命力が10以上回復したときにこのカードが手札にあるなら、このカードを捨ててもよい。そうしたら下記の効果を使用する)

   ・このカードを場に召喚する。このカードが場に出たとき、二枚ドローする。

 攻撃力:4 防御力:2 生命力:6

 

「ちょっとステータスが貧弱ですけど、それでもこのステータスのモンスターがいきなり出るなんてすさまじいですわね」

「まあそういうこった。ヒーリングブレイカーで攻撃……できないからターンエンド」

「出来たら少しおかしい」

 ライはため息をつきましたわ。

 

 ドロウ先生の9ターンですわ。

「ドロー。チャージ」

「生命力を12回復してもらおうか」

「12ですって?」

 回復がどんどんインフレしていますわ。

 

 ドロウ:生命力74

「こんな生命力の数値見たことねえや。普通ここまで差があったらもはや負けだろ」

「でも負けてはいない。マグマドラゴンでヒーリングブレイカーに攻撃」

「あらあらまずい」

「ターンエンド」

 一体何を企んでいるんですの?

 

 ライの十ターン目ですの。

「ドロー」

 ドロウ:生命力88

「コスト6でクワトロブーストを使用。ヒーリングリで4回復。薬草アルラウネでスピードラットに攻撃。4回復。ターンエンドだ」

「マズいですわよ。強制終了の範囲内ですの」

「なんだそれは」

「強制終了は生命力の差が十倍以上ならば使えますわ。引き分けにしてうやむやにするつもりですの」

 あのカードはスーパーレアですので複数人持っていてもおかしくありませんわ。

 

 ドロウ先生の十ターン目ですわ。

「ドロー」

 ドロウ:生命力104

「化け鯨で薬草アルラウネに攻撃。マグマドラゴンで薬草アルラウネに攻撃。破壊」

「対応が遅すぎるぜ」

「ターンエンド」

 ドロウ先生は顔を伏せましたわ。

 

 ライの11ターン目ですわ。

「ドロー」

 ドロウ:生命力122

「ターンエンド」

 

 ドロウ先生の11ターン目ですわ。

「ドロー」

 ドロウ:生命力142

「コストを5支払って魔法強制終了」

 互いに山札と生命力がなくな……っていませんわ。

 

 ライの山札と生命力だけ1残っていますの。

「どうなっていますの?」

「魔法カード ライブラリエフェクト:グレイブの効果だ」

「そんな方法で負けるなんて思わなかった」

「もう茶番はいいぞ」

 ライは覆面を脱ぎ捨てました。

「そんな……まさか……噓ですわよね。モンスターの擬態ですわよね?」

「噓つく必要ねえだろ。それに俺は正真正銘人間だよ。もちろん双子も顔の似た親戚もいやしない」

 ライの覆面の下にはドロウと同じ顔がありましたわ



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四十七枚目 ドロウ、死す

 お嬢様が疑問を顔に浮かべていた。

「そりゃ疑問に思いますよね。まあ感動の再開ってやつですからね……一つ教えておきますよ。俺は暗黒邪教怒労蛮苦団に入って、序列五位のやつをぶちのめしてこんな高い身分になりました。だから首長様と直接お会いできる仲なんですよね。あと暗黒邪教怒労蛮苦団に誘拐されて暗黒ファイトをするだけの存在になりました。お嬢様のよく知るドロウはね、死んだんですよ」

 お嬢様の顔が青ざめた。ごめんね。こんなことやりたくてやってるわけじゃないんだよね。

 

 俺に変装していたお辞儀をした。

「つい相手してすみません。この姿になってるので、こうせざるを得まいと思ったんですよ」

「ああ分かってる。良く擬態出来てるよ」

「どういうことですの?」

 まあいきなりこんなこと言われても理解しがたいよね。

 

 俺に変装していたやつがハナメデルになった。

「こいつの名前は本人でさえも知らないんですよね。暗黒邪教怒労蛮苦団一の変装の達人で自分がない奴と呼ばれていますね」

「実際に己が何なのかも知らないナハ。ただモンスターじゃないということは確かナハ」

「ですって。あとお嬢様にはこれをあげますよ。辞表です。お父様とお母様にでも渡しておいてください」

 辞表を書いた紙を封筒に入れた。

 

 あの封筒の中には暗黒邪教怒労蛮苦団の本拠地の所在地が書いてある紙も一緒に入れてる。袖に入れてた紙を折りたたんだ辞表と一緒に入れておいたのだ。

「ほらよ。今後は俺たちとはかかわらずいい子ちゃんのまま生きているんだな」

 お嬢様のところまで歩いて、辞表を渡した。

 

 お嬢様の腹に軽くパンチをする。

「これでもくらえ。黄金の右ストレート」

 耳元に、口を近づける。

「ごめんなさい。実は潜入しているんです。首長様から信用を勝ち取って、ようやく場所を知ることができました。紙に場所が書いてあるので、どうにかしてください。お嬢様次第ですよ」

 お嬢様を腕で押して、バックステップした。

「潜入やらどうたら聞こえましたが?」

「後で説明しておく」

 聞かれてたか。お嬢様は放心状態だから今のうちに逃げておこう。今はまだ会う訳にはいかない。

 

 窓を開けて外に出てから、森まで行った。

「さっきの話はどういうことですか?」

「あれは希望を持たせるためのウソだ。希望をへし折った方がより絶望の度合いが深くなる。昔からああいう性格の輩は気に食わないからこのくらいしないと気が済まない。給料がいいから従ってたまでよ」

「性格悪いですね」

 それらしい言い訳を考えられたな。アメラに聞かれたら首がもげるまで平手打ちされそうだから、聞かれなくてよかったね。

 

 ワープゲートで本拠地まで戻った。

「首長様が見回りから帰ってくる日だぞ新人。これだから新人はダメなんだ」

「元五番手がなんかほざいてら。古株なだけじゃだめだやっぱ」

「なんだと。ライめ。ふざけるな」

「俺の方が身分が上なんだから様を付けろ様を。ライ様だろ。まあいずれ呼ばなくてもよくなるから見逃してやるよ」

 元五番手さんがなぜか嬉しそうにする。外部と協力してここの組織ぶっ壊すから、呼ばなくても良くなるっていう意味だったんだけどなあ。そんなに裏切ってほしいのか。

 

 6つのイスの中から5と書いてある椅子に座った。

「いい加減出ていけ」

 元五番手は現三番手の言うことを素直に聞く。俺に対してもこう素直になればいいのになあ。

「集まったか」

 身長3mぐらいはあるだろう人間が現れて、0と書かれた椅子に座った。

「「「「「マイロード」」」」」

 こいつが首長だ。名前は二番手しか知らないらしい。暗黒邪教怒労蛮苦団は俺ら幹部と首長は名前で呼ばないからな。

 

 今週奪ったカードを手裏剣のように打って首長の前に刺した。

「たった三枚か。スライムにエルフマジシャンにスナイパーハーピー……どれもいいカードだ」

「どれも俺が野生のモンスターを自ら捕まえたぜ。しかも全部スーパーレアだ。他人の取ってきた雑魚カードを十枚二十枚プレゼントされるよりはうれしいだろ」

「我らを愚弄するか」

「先輩方は黙ってくださいよ。首長様の前で醜い言い争いをするんじゃねえ」

「チィッ」

 幹部になれば新しいカードが貢がれ放題の日々ではあるが、そういうのは断ってる。それをすれば黒覆面ヤローと同じだからな。

 

 一番手は十枚のカードを差し出した。

「こちらもすべてスーパーレアです」

「なかなかトリッキーなカードですね」

「あとピンハネル伯爵家周辺で滅龍 アジ・ダハーカという見たこともないレアカードを確認できました」

「なるほど。そちらも覚えておこう」

 アジ・ダハーカだと。

 

 俺は思わず机をたたいていた。

「静粛にしろ」

「いやいい。悪意があってやったわけではなさそうだからな」

「それは俺が取りに行く。その持ち主は因縁の相手だからな」

「なるほど。いいだろう」

 まずはアジ・ダハーカを取り返すか。

 

 それぞれがカードを貢いだ後に二番手が自らの左手を指さした。

「そろそろ時間だな。これをやろう」

 俺の前にカードが一枚俺の前に現れる。魔導回復生命体もこうしてもらったな。

「いつ見ても首長様の創造の力はすごいな」

「そのカードが何なのかは作った私でさえ分からぬ。なにせランダムで裏向きだからな」

 机の上のカードをとった。アジ・ダハーカによさそうなカードだな。当てつけか。



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四十八枚目 大地の妖精と醜い妖精

ラーナちゃん視点です


 遊びに来たらマイスにいきなり事情を説明されたわ。

「お嬢様から聞きました」

「なるほど。そんなことがあったのね」

「ええ。いくらなだめても事情しか聴かされなかったのでお嬢様の親友であるフラム伯爵家次女の貴女様に任せようと思っていたところに、ちょうど貴女が訪ねてくださったので、タイミングが良かったです」

「分かったわ。まかせなさい」

 カネスキちゃんの部屋に通されたわ。

 

 カネスキちゃんは顔から涙と鼻水を垂れ流しにしていたの。

「鼻水垂らして泣きながら話さないでよ。ばっちいでしょ。一年ぐらい前にカネスキちゃん鼻水垂らしたままにするなんてレディーのすることじゃありませんわって言ってたじゃないの。まあ最近は聞いてないけど」

「そうですわね。ひっく」

 持っていたハンカチでカネスキちゃんの顔を拭く。

 

 スピードラットを召喚してからスピードラットの上でハンカチを乾かしたわ。こうすると乾きやすいのよ。

「ご、ごめんなさいですわ。ひっく」

「泣くのか話すのかどっちかにしてほしいわね」

 カネスキちゃんは泣いた。そっちを選ぶのね。

 

 カネスキちゃんは二分で泣き止んだ。

「どうしたの?」

 カネスキちゃんに事情を説明されたわ。

「なるほど。それは確かに辛いわね。でも、流石に少し泣きすぎじゃないの。たかが一か月の付き合いなのよ」

「そんなことはないですわ。今まで先生の偽物を本物と同じように扱って平気でいた自分の見る目のなさの無さと、その間先生を見殺し同然にしていたと言うことに泣いていましたの。貴族として恥ずかしいですわ」

「そういうことね。私でも恥ずかしいわね」

 また泣くといけないから、これ以上は追及しないことにしたの。

 

 理由が理由だから泣きじゃくっていてもおかしくはないわよ。ないけど、いつまでもこんなのじゃ締まらないわ。

「カードファイトで私に全てをぶつけなさい。今どうするべきなのかは、その後に思いつけばいいわ」

「今はそんなことしている場合じゃないわ」

「何よりもおとなしく泣きじゃくる方が大切な意気地なしだったなんて知らなかったわ。見損なったわね。地獄でドロウもカネスキちゃんを見損なっているわよ」

 カネスキちゃんに睨まれたわ。よかった……漏らしてないわね。ちょっと怖かったわ

 

 カネスキちゃんが涙を手で拭ってデッキを構えた。

「そうさせてもらいますわ。そこまで愚弄されれば親友の貴女であろうと許せませんわ」

「ちょっと侮辱されただけで怒るなんてどうなのよ。まあいいわ。怒りも悲しみも何もかも全てをぶつけなさい」

 カネスキちゃんのデッキが赤く光ったわ。

 

 カネスキちゃんの一ターン目よ。

「ターンスタート。チャージ。ターンエンド」

 私の一ターン目ね。

「ターンスタート。ドロー。チャージ。ターンエンド」

 ちょっと手札が悪いわね。

 

 カネスキちゃんの二ターン目よ。

「ターンスタート。ドロー。チャージ。コスト2で盗賊ゴブリンを召喚しますわ。ターンエンド」

 私の二ターン目ね。

「ターンスタート。ドロー。コスト2でメガチャージを使用するわ。ターンエンド」

 カネスキちゃんの体が糸につるされた操り人形のようになったわ。

 

 カネスキちゃんの三ターン目よ。

「ターンスタート。ドロー。来た。チャージ。コスト3で森を守るエルフを召喚するわ」

 

 モンスター コスト3 森を守るエルフ 種族:妖精 

 効果:なし

 説明:自慢の弓で外敵から森を守っているのだ。

 攻撃力:2 防御力:1 生命力:3

 

「盗賊ゴブリンでスピードラットに攻撃。森を守るエルフでスピードラットに攻撃。破壊。ターンエンド」

 手札のモンスターは月光ゲッコーだけだわ。

 

 私の三ターン目よ

「ターンスタート。ドロー。今引いたわ。コスト3でハイパービーストを召喚するわね」

 

 モンスター コスト3 ハイパービースト 種族:フラムビースト 

 効果:このカードが場に出たとき、山札の一番上をコストゾーンに置く。

 攻撃力:1 防御力:2 生命力:3

 

「ターンエンドよ」

 

 カネスキちゃんの四ターン目よ。

「ドロー。チャージ。コスト4でトリプルブーストを発動。三枚ドローしてターンエンドですわ」

 私の四ターン目よ。

「ドロー。チャージ。コスト6でクワトロドローを使用するわ。ターンエンドよ」

 よし。辻斬りサキュバスとにわとりが引けたわ。

 

 カネスキちゃんの五ターン目よ。

「ドロー。チャージ。コスト5で大地の妖精 ノームを召喚しますわ」

 

 モンスター コスト5 大地の妖精 ノーム 種族:妖精

 効果:種族:妖精のモンスターが自分の場に出たとき、二枚ドローしてから手札のカードを一枚コストゾーンにおいてもよい。このカードの効果は一ターンに一度のみ使用できる。

 攻撃力:3 防御力:1 生命力:4

 

「何なのそのカード」

 初めて見るわね。

「ただのモンスターですわ。大地の妖精でハイパービーストに攻撃してターンエンドですわ」

 ノームは妖精デッキと相性がいいから、とっとと倒すに限るわね。

 

 私の5ターン目よ。

「コスト7で辻斬りサキュバスを召喚。辻斬りサキュバスでノームに攻撃。破壊。さらに防御力を1増加させるわ」

 ノームが場にいるわ。

「ずるよ」

 カネスキちゃんが手札を一枚捨てた。

「手札の醜い妖精 スプリガンの効果発動 自分の場の種族:妖精のモンスターが場を離れる時生命力を3払えば場を離れませんわ」

 むむむ。

「ターンエンドよ」



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四十九枚目 無双極めて夢想に手が届き無限に手が届き天に成る。これすなわち無限天成

 カネスキちゃんの六ターン目だわ。

「ターンスタート。ドロー。チャージ。コスト6でタイターニアを召喚ですわ。二枚ドローして手札を一枚コストゾーンに置きますわ。タイターニアで辻斬りサキュバスに攻撃ですの。あと一撃ですわ」

「破壊してないでござるからな。しかもあの妖精の生命力は満ち溢れているでござる」

「スプリガンの効果ですわ。生命力が0になって場を離れる場合ダメージを受けないという効果を持っていますの」

「すごいわね。妖精限定っていうのが難点よね」

「ターンエンドですわ」

 次のターンにおそらくオベロンが来るわね。

 

 私の六ターン目よ。

「ターンスタート。ドロー」

 むむむ。来ちゃったか。あれやなんだよね。

「チャージ。コスト7で魔法発動。ヴァンパイアファング」

 狼の歯のようなものが現れた。

 

 私は右腕の袖をまくったわ。

「その魔法ってレアリティの割には強い魔法ですわよね」

「けどこれにはちょっとしたデメリットもあるのよね。仕方ないけど嫌だなぁ」

 ヴァンパイアファングが私の右腕に突き刺さった。痛いわねこれ。あちょっと体がちょっとだるいわ。

 

 魔法 コスト7 ヴァンパイアファング

 効果:このカードは自分の場に置き続ける。自分の生命力を3支払ってから、場のモンスター一体を選んで発動する。そのモンスターの攻撃力が相手モンスターを攻撃によって破壊したとき、与えたダメージ分の生命力を回復させて攻撃力を1上げる。選んだモンスターが場を離れたとき、このカードを墓地に送って1ダメージを受ける。

 

 世界が揺れてるわね。

「生命力を3も捧げないと、ヴァンパイアファングは効力を持たないわ。魔性のアイテムなのよ。辻斬りサキュバスを選ぶわ」

 辻斬りサキュバスの刀と合体して刀身を純粋な赤に染めたの。

「辻斬りサキュバスでノームに攻撃。破壊。私はシャベル妖精に攻撃してターンエンドよ」

 ノームが真っ二つに切られて消滅したわ。

 

 カネスキちゃんの七ターン目だわ。

「ドロー。チャージ。コスト7で妖精王オベロンを召喚ですわ。妖精王オベロンで辻斬りサキュバスに攻撃ですわ。そしてタイターニアで攻撃ですわ。森を守るエルフで辻斬りサキュバスに攻撃。破壊ですわ」

「せっかく出したのに……これじゃただやられただけね」

 ヴァンパイアファングが現れて、私の右腕を嚙んでから消えた。

「痛いわねえ。この痛みになれるのに二週間はかかったわ」

 いててて。

 

 カネスキちゃんが何かに気が付いたかのような顔をしたわ。 

「そういうことですのね。なるほど。私は友人に恵まれましたわ」

「それは私もよ。その感謝にこたえると思って思いっきり私に八つ当たりなさい」

 カネスキちゃんが笑ったわ。

「うふふ。今はそうさせてもらいますわ」

 カネスキちゃんは賢いし上品なんだけど、わざと怒らせないと八つ当たりも出来ない優しい子なのよね。

「全力でぶつかるためにターンエンドですわ」

 全力でどうにかしないと負けるわね。

 

 私の七ターン目だわ。

「ターンスタート。あのカードだわ」

 デッキの一番上のカードが光ったわ。

「主人公補正体質ですわね」

「ドロー。チャージ。コスト3で無限ラッシュを使用するわ。私を選んで、格闘家の職業特性を発動。コストを5払って、攻撃力8。シャベル妖精に攻撃。破壊。森を守るエルフに攻撃。破壊。タイターニアに攻撃。ギリギリ削れない……と思ったでしょ。デッキから発動。無限天成」

 

 魔法 コスト7 無限天成

 効果:無限ラッシュの効果を使用して二体以上のモンスターを攻撃で破壊したときに発動する。デッキか手札のこのカードを墓地に送ってから、生命力を1にしてコストを支払わずに墓地から無限ラッシュを使用する。このカードの効果を使用したとき、もう一度攻撃できるようになるが次の自分のターン終了時に自分は負ける。

 説明:無双極めて夢想に手が届き無限に手が届き天に成る。これすなわち無限天成

 

 カネスキちゃんは驚いているわ。

「どういうカードですのそれ」

「一か月前偽者のドロウちゃんに貰ったのよ。お嬢様のデッキを強化するお手伝いをしようとしたのですが、ほとんどはずれで唯一のスーパーレアであるこれもお嬢様のデッキには合わないのであげますって言ってたわね。無限ラッシュは便利だけれど、合わないわね」

「そういうことですのね」

「まずはタイターニアに攻撃。破壊。カネスキちゃんに攻撃して4ダメージ。残り3。ターンエンド」

 これでやれることはできたわ。

 

 カネスキちゃんの八ターン目だわ。

「これが全力ですのね。すべてを感じましたわ。ドロー。チャージ。これが今私が出せる実力ですわ。コスト5でミセスゴーストを召喚しますの」

 ミセスゴーストが現れたわ。

「ミセスゴーストで攻撃ですの」

「エクトプリズムですわ」

 ミセスゴーストから虹色の光線が放たれて、私にダメージを与えたわ。

 

 負けたわね。

「全力で八つ当たりしましたわ」

「色々ひどいこと言っちゃってごめん。私だってあんなこと言われたくないもん」

「いいんですわ。八つ当たりさせるために悪いこと言ったのですからね。そうですわ、あきらめちゃだめですわね」

「そういうことよ」



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五十枚目 裏切り工作

 会議から一か月後に俺はまた黒覆面ヤローに負けた。まあわざとなんだけどね。

「何度負けたら気が済むんだ貴様は。何度も何度も勝負を挑んで根気が尽きるのを待つつもりか。もう十回目だぞ。やめろよ」

「ここでやめろよと言えるだけいい子ちゃんだな。まあ頭をよく見ることだな」

 黒覆面ヤローは自分の覆面を触る。取れたのかと思ったのかな。

 

 黒覆面ヤローはほっとため息をついた。

「因みに覆面のことじゃねーぞ」

「分かっている」

「見栄を張らなくてもいい。何のことか分からなかったらちゃんと頭を見るんだな」

「貴様ふざけるな」

「俺は監視されているから、貴様は二人に見られているということになる」

 全速力で逃げる。

 

 足元にワープゲートを展開して逃げた。

「よし。しがみつかれてないようだな。とりあえず助かったぜ。俺にしがみついて一緒に手レポートするのが一番手っ取り早いからなぁ」

 後ろから肩を触られる。

「うぇ!」

「監視役です。同じ相手に九回も負けるなんて学習能力がないですね」

 監視役にほっぺをぷにぷにされた。

 

 監視役の手を払う。

「ただ単純にあいつが強かっただけだからな」

「雑魚カードばかり渡していましたね。かさばるので実質押し付けたようなモノでは?」

「そうともいう」

 ただ俺の場合は謎の工具箱があるのでかさばらない。

 

 人気のないところまで歩いた。

「これでよし」

「何が良いんですか?」

「こういうこった。なるべく早く倒れてくれ」

 デッキを構える。

 

 監視役は首をかしげてからデッキを構えた。

「貴女スパイだったんですね」

「違うな。こいつと一旦入れ替わったんだよ。いくらカード裁きがあっても、殴ればどうとでもなる」

 入れ替わったことにすると、俺がスパイだと疑われにくくなるからな。

 

 監視役を倒した。なぜか監視役が都合よく気絶してくれたのだった。

「こいつにはいろいろと見られたくないこと見られてるからな」

 例えば黒覆面ヤローにトバクファイトでわざと負けて、頭文字が本拠地の座標になるようにしていたところとかな。

「カードハンターと俺たちは一応敵だから、堂々とカードを渡すわけにもいかないのが面倒だったぜ」

 あんな回りくどい方法しか取れなかったのも全部コイツのせいだ。

 

 倒れた監視役を引きずってなるべく注目されることにする。

「んしょんしょ。コイツ重いな。装備も込みだからか?」

 声をかけられた。

「あのどうなさったのですか」

「その前にコイツを持ってくれ」

 俺に声をかけた人は監視役を肩に担いだ。

 

 らくちんだよ。

「こいつがいきなり俺に変装した奴に倒されただけだ。気にするな」

「ちなみにその曲者はどういたしましたか?」

「すでに倒した。けど逃げられた。アイツの体は身軽だったからな。あとそいつが俺のことを偽者やスパイって言っても気にするなよ。正真正銘の本物だからな」

「はい」

 担いだまま医務室に向かった。

 

 施設内をうろつく。

「やることはやったと思う」

「何をやったのですか?」

 ギクゥッ!

 

 まさかもうバレたのか。

「この支部に俺に変装した不審者が出たんだ」

「もしかして貴女が侵入者ではないでしょうか。そういえば最近情報が流されているらしいですね」

 俺と協力者が色々と情報を流しているのだ。警備兵の協力者もいるから案外やりやすいぞ。

「バカを言うな。俺はちゃんとはいってきたぞ」

 魔導回復生命体を見せた。

 

 俺を疑った奴は一瞬で納得する。

「お前たちも侵入者の捜索しっかり頼むぜ」

「「かしこまりました」」

 素直なのは良いことだ。おかげでもっとやりやすくなったぞ。

 

 この支部全体が緊急事態になる。

「そろそろだね」

 人気のないところまで行ってからテレポートゲートでお嬢様の家の近くまで転移してから着替えた。

 

 塀とか壁とかよじ登ってお嬢様のところまで行く。

「どうも」

 お嬢様に部屋に入れてもらう。

「だいたいの事情が分からなければ協力していませんでしたわ」

 お嬢様と別れて二週間後に事情を説明したのだ。誤解を解くために色々がんばりましたよ。

 

 お嬢様に最新の情報を話した。

「情報のご提供ありがとうございますわ」

「どういたしまして。もっと期待してくださいね」

「はい」

 お嬢様に色々なことを話してから元のところに戻った。

 

 まだ警戒事態になっていた。侵入者が目当てなので、探している感を出すためにうろついていた。

「どこに行っていたのですか?」

「ちょっとかく乱作戦を計画したり、足止めしてたりしてたよ。でも作戦虚しく失敗してあんま結果が出なかったんだよね」

「さようですか」 

 役立たずを見るかのような視線を送られた。実際は役立たずどころか裏切り者なんだけどね。

 

 結局不審者をもつけることが出来ずに、緊急事態は終了した。聞くところによると緊急事態の終了は侵入者がもう逃げているだろうという判断のもとで行われたらしい。

「つまりこいつらが倒されたりすれば、一気に壊滅に近づくってことか」

「不吉なこと言わないでくださいよ」

「あっ。ごめん」

 ついつい不吉なことを口走ってしまった。バレないようにしないとな。



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五十一枚目 戦闘狂業界

 闇街道を歩いていると大きな声が聞こえた。

「これは確かめざるを得まい」

 声のする方向に行ってみた。数十人のカードハンターと組織カードハンターの黒覆面がいた。

 

 不愉快だなあ。

「組織カードハンターは私たち個人カードハンターとは違って一人じゃ何もできない雑魚しかいないのはみんなもよく知ってるよね」

 十数人がうなづいた。

「個人カードハンターは俺たち組織カードハンターとは違って集団になじめないのに強いふりをしているだけの雑魚しかいないのはみんなもよく知ってるよね。」

 数十人がうなづいた。。クソォ。みんなしてバカにしやがって。

 

 デッキを構えた。

「アカネよ。こんなことをしている場合じゃないだろう。邪魔だ」

「挑発すればカードファイトしてもらえると思ったのに」

「みんながみんなカードファイトしたいからカードハンターをやっていると思うな」

「ちぇ~。今日こそは黒覆面と戦えると思ったのにな」

 黒覆面の言ってることは全体的に分かってる。

 

 黒覆面は場所が書かれた紙をバラまいた。

「なんなのこれ」

「これは暗黒邪教怒労蛮苦団の本拠地だ。そこの」

「暗黒邪教怒労蛮苦団だってぇ。とても強いボスがいるところだよね。それがどうかしたの」

「人の話を遮るな。戦闘狂は座っていろ。どうなったのかはこれからいうつもりだったんだ」

「そうだったのか。なるほどなあ」

 大人しく座った。私話分かる系戦闘狂だもんね。ただの戦闘狂だけじゃキャラ薄いもん。名前が良く売れてなければ不戦勝も出来ないからね。

 

 黒覆面はわざとらしく咳払いをする。

「内通者の密かな協力によって本拠地が分かった。座標から割り出すのは結構苦労した」

「本拠地はこの紙に書いてあるところでしょ。強いボスと戦えるなんて嬉しいなあ。しかも無法地帯じゃんか。ワクワクするなあ」

「とある筋によると某貴族の令嬢にも伝えたらしいから警備兵にも気を付けるように」

「俺たち何も悪いことしてないし捕まらないんじゃねーか」

「言っておくが勝手に他人の家に入るのは犯罪だからな」

 常識的にトバクファイトは負ける方が悪いからね。でもそれはそれとして不法侵入はダメ。

 

 黒覆面はため息をついた。

「暗黒邪教怒労蛮苦団の序列三位から聞いた話によると、暗黒邪教怒労蛮苦団はとある商人が子飼いにしている組織なんだそうだ」

「なんだと!」

「上層部がそんな知られちゃいけないこと他人に言うかよ」

 正論だなあ。

 

 黒覆面は首を横に振る。

「三番手から五番手までは暗黒邪教怒労蛮苦団を壊滅させるために入ったそうだからな。顔を見られていないから、服さえ調達すれば楽に入れて聞き出せる」

 まあ実際黒覆面は謎だからね。どこぞの貴族に仕えているとかスラム街で細々暮らしてるとか色々なうわさがある。

 

 黒覆面は人一倍信心深いカードハンターである信心のシンズルの近くに移動した。

「しかも本来神から渡されて神殿に運ばれカードショップに並ぶはずのゴッドカードパックの袋の中身を詰め替えて雑魚カードで荒稼ぎをするという非道を行っているらしい。暗黒邪教怒労蛮苦団は売るためのカードを奪うためだけに秘密裏に作られた組織だ。神をないがしろにするような奴は許せるか?」

「わたしゆるせません。もちろん私も似たような者なのですが……」 

「だよな。それにな。カードハンター全員で襲えば信者からカードを奪えるかもしれねえぜ。やるっきゃないだろ」 

 辺りが沸き上がった。カードハンター業界は楽したいからカードハンターやってる屑が多いからね。私はキャラが薄すぎて上司にまともに顔も名前も覚えられず真面目に働いてても無断欠勤扱いされるのを10回繰り返したからカードハンターやってる。まともに稼ぐのは諦めた。

 

 シンズルはあたふたしている。かわいいなあ。まるでメガラビットみたい。

「あの……アカネさん。本当にいいことなんですよね?」

「良い事じゃないよ。こいつらは現実の見れない屑だから楽したいだけ。カードハンターなんて世間的にみればひっくるめて屑で、こいつらはカードハンターの鑑なんだからさ」

 シンズルは泣いてしまった。

 

 シンズルはカードハンターにしちゃ珍しくいい子だからね。

「も、もちろん潰れかけの孤児院の子供たちを養う資金を調達するためにカードハンターを仕方なくやってるシンズルは別だけどさ。それにシンズルは脅しも不法侵入もしてないじゃないの。本当に何も悪いことはしてないから」

「励ましてくれてありがとうございます」

「よしよ~し」

 シンズルは泣くのをやめた。

 

 黒覆面の右に空間の穴が開く。

「上司の許可は取ったのか?」

「ああ。ちゃんと取ってある。無法地帯だからどうあがいても不法侵入できないことを言っておこう」

「では行ってまいりたいと思います」

 シンズルは走ってうっかり転びそうになる。シンズルの腕を引っ張ってから一緒に空間の穴に入った。

 

 空間の穴の先で屑どもと暗黒邪教怒労蛮苦団の団員が戦っていた。

「おーおーやってるねえ。適当なところで私たちも混ぜてもらおうかな」

「は、はい」

 全くいちいちかわいいなあ。

「撫でてどうしたんですか?」

「何でもないよ」

 うふふ。



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五十二枚目 超絶コンボと大打撃

 身元不明の侵入者が現れて以来、警備が手厚くなった。

「まあ何日も経つのにいまだに警戒するなんてご苦労様としかいいようがないな」

「全く面倒なことを増やしやがって。まったくどこの誰なんですかね」

 四番手が俺を見た。知ってるってことかな。なんで報告しないんだ。全く不真面目だな。

 

 ちょうど信者と誰かが戦っていた。

「あれはカードハンターどもですね」

「なんだ屑どもか」

「ここも似たような者ですけどねえ」

「アハハ。客観的に見れてるねえ」

「だって三位と私はこの組織こわすためにこの組織に入ったんですからね。客観視できて当然ですよ」

「五人中三人に嫌われているとか人望無さすぎて笑うわ」

「あなたもなんですね」

 騒動の中を散歩していった。

 

 ぴちぴちすぎて体のラインが出てる赤いセーターを着て長いスカートをはいた女の子と赤い縁のサングラスをかけた女の子に道を塞がれる。

「首長様のボディーガードですかね。俺新人だから知らなかったぜ」

「知らねえな。そんなのいたら真っ先に対処方法を考えていますよ」

「そんなんじゃないよ。私たちはカードハンター。早く戦いましょうよ」

 サングラスの女の子がデッキを構えた。

「カードハンターか。どうしようもない人間の屑どもですね」

 赤いセーターを着た子が泣きだした。

 

 サングラスをかけた女の子が励ます。

「大丈夫だよ。シンズルちゃんは屑じゃないからね。あんたたちのせいで泣いちゃったじゃないの。謝りなよ」

「なんかごめん。君さっきとキャラ違うよね」

「うっさい。あんたたちぶっ潰すわよ」

「叫ぶな。声が高いから耳が痛いじゃないですか」

 デッキを構えた。

 

 サングラスをかけた女の子のデッキが青く光った。

「タッグファイトかあ。二人とも連携が苦手なんですよね」

「アカネさんわたしがんばります」

「期待してるわよ」

 口調は厳しいけど口がにやけてる。

 

 四ターン目まで何もなかった。しいて言えば俺が一回メガチャージ使ったことぐらいだな。

 

 それでサングラスの女の子の五ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト5で大地の賢者を召喚。ターンエンド」

 四番手の五ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト3でシャベル妖精を召喚します。ターンエンド」

 セーターの女の子の五ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト5で賢くて善なる存在を召喚いたします」

 

 モンスター コスト5 賢くて善なる存在 種族:アンゼ

 効果:このモンスターが攻撃される時、一枚ドローしてもよい。賢さの試練を与えるものが自分の場に存在するとき、すべてのプレイヤーはこのプレイヤーがドローした枚数分手札を墓地に送る。

 攻撃力:0 防御力:5 生命力:5

 

 これか。とてもまずいな

「あれは速く除去しないと厄介だぞ」

「そうですね」

 相手の運がよけりゃ次のターンか。かわいい顔して結構えげつないことをやるじゃねえか。

 

 俺の五ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト5でペルーダを召喚。ターンエンド」

 サングラスの女の子の六ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト4でファイヤーウォールゆすりを召喚」

 

 コスト4 ファイヤーウォールゆすり 種族:メタルアヤカシ

 効果:このモンスターが場に出た時、自分の山札の上から3枚を墓地に置いてもよい。そうした場合、モンスターを1枚自分の墓地から手札に戻す。

 攻撃力:2 防御力:3 生命力:4

 

「私は墓地のステルスアヤカシ ナンジャカを回収する。ファイヤーウォールゆすりでええっと小さい方のプレイヤーに攻撃」

 ドロウ:生命力10→8

「ターンエンド」

 ナンジャカってなんだよ。

 

 四番目の六ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト6でタイターニアを召喚。タイターニアでファイヤーウォールゆすりに攻撃。ターンエンド」

 セーターの女の子の六ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト5で賢さの試練を与えるものを召喚します」

 

 モンスター コスト5 賢さの試練を与えるもの 種族:アンゼ

 効果:このモンスターが攻撃される時、一枚ドローしてもよい。賢くて善なる存在が自分の場に存在するとき、相手がターンの最初以外にドローしたときと魔法を使用したときに一枚ドローする。

 攻撃力:0 防御力:5 生命力:5

 

「ターンエンドです」

「ハンデスデッキか。見た目に反してゲスイ戦法を使うんですねえ」

「うぅ……」

「なんでシンズルをいじめるのよ」

「賢さと賢くのコンビは実際擁護できないから仕方ないね」

「良いんですアカネさん。実際その通りなのですから」

「ちょっとそいつに甘すぎだろ。それに自分にも被害出るだろ」

 許されてはいけないと思うの。

 

 俺の六ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト4で鯵テーターを召喚。さらにコスト3でサボテンドラゴンのトゲを発動」

 

 魔法 コスト3 サボテンドラゴンのトゲ

 効果:このカードは自分の場に置き続ける。自分の場の反動を持つ種族:ドラゴンのモンスター一体を選んで発動する。迎撃(このモンスターが攻撃された時、このモンスターを攻撃したモンスターはこのモンスターの防御力-攻撃したモンスターの攻撃力分のダメージを受ける)を与える。

 

「ターンエンド。これで一気に手札が削れちまうぜ。ぐへへ」

「性格悪いなあ。相手にしたくありませんよ」

 サングラスの女の子の七ターン目まで経過した。

「そうはさせない。私のターン。ドロー。チャージ。コスト6でステルスアヤカシ ナンジャカを召喚」

 

 コスト6 ステルスアヤカシ ナンジャカ 種族:メタルアヤカシ

 効果:このモンスターが場に出た時、このモンスターを破壊してもよい。そうしたら相手のコスト4以下のモンスターを一枚破壊する。

 攻撃力:2 防御力:3 生命力:4

 

「ステルスアヤカシ ナンジャカの効果で自らを破壊して鯵テーターを破壊。ターンエンド」

「くっそお」

 徹底してハンデスのサポートに回ってやがる。



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五十三枚目 コストを20支払うロマン

 四番手の七ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト4でトリプルドローを発動します」

「一枚ドローしますね。賢くて善なる存在の効果で一枚手札を墓地においてください」

「俺の手札が0になっちまったじゃねえか」

「そんなこといちいち考えられっかよ。まあ頑張ってください」

 まったくもう。

 

 サングラスをかけた女の子が笑った。

「手札から捨てたタクロウライターの効果発動。コスト1で墓地肥やしが3枚できる強すぎるカードだ」

「コスパが良すぎねえか」

 悪くないとは思うけど相性がかみ合わないと思う。

 

 コスト1 タクロウライター 種族:メタルアヤカシ、アンデッド

 効果:このモンスターが墓地に送られた時、デッキ、手札、自分の場からタクロウライターを一枚墓地に送る。そのあとデッキをシャッフルする。

 攻撃力:0 防御力:0 生命力:1

 

 墓地が三枚増えた

「ターンエンド」

 手札0枚じゃ何もできねえ。

 

 セーターを着た女の子の七ターン目だ。

「ドロー。チャージ。ドローしたので手札を一枚墓地においてもらいます」

 厄介だなあ。

「私はこれでターンエンドです」

 幸先が悪い。

 

 俺の七ターン目だ。

「ドロー。コスト2でビーコンパラサイトを召喚。ターンエンド」

 これだからハンデスは嫌いなんだ。

 

 サングラスをかけた女の子の八ターン目だ。

「ドロー。コスト7でチョキチョキを召喚」

 角が和鋏になっている山羊があられた。

 

 コスト7 チョキチョキ 種族:メタルアヤカシ、フラムビースト

 効果:このモンスターが場に現れたとき、デッキから種族:メタルアヤカシのモンスターを4枚まで墓地に送る。このモンスターの効果を使用した後はシャッフルをしなくてもよい。

 攻撃力:3 防御力:0 生命力:4

 

 サングラスをかけた女の子は自らのデッキをじっくり見る。

「アヤカシ忍者角ハンゾウと大鯖と化け鯨とドラム五郎を墓地に送る。シャッフルはしない。ターンエンド」

 角ハンゾウ以外効果なしじゃねえか。ネコキャットガールズ・カシャを入れててもおかしくはないな。

 

 四番手の八ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト7で妖精王オベロンを召喚。ターンエンド」

 セーターを着た女の子のターンだ。

「ドロー。チャージ。ドローしたので手札を一枚墓地においてもらいます。ターンエンド」

 徹底して妨害をしてくるな。

 

 俺の八ターン目だ。

「ドロー。コスト7で魔法発動。五転生」

 

 魔法 コスト7 五転生

 効果:コスト5以下のモンスターを墓地から場に出す。

 

「鯵テーターを召喚してターンエンド」

 これで大丈夫だろう。

 

 サングラスをかけた女の子の九ターン目だ。

「ドロー。ナンジャカが来ねえな。手札から魔法発動。コスト6で強化外骨格ガシャどくろの秘術」

 

 魔法 コスト6 強化外骨格ガシャどくろの秘術

 効果:このカードは場に置き続ける。一ターンに一度だけ自分の墓地から種族:メタルアヤカシのモンスターをコストを支払って召喚できる。

 

「これで手札を捨てられても問題はないってわけだ。ターンエンド」

 くっそお。

 

 四番手の九ターン目だ。

「ドロー。コスト3でいたずら妖精パックを召喚。破壊してコストを1加速。オベロンの効果でコストゾーンに置く。そしてパックとそのほかコスト2を使用してパックを召喚。破壊してコストを1加速。オベロンの効果でコストゾーンに置く。ループ省略。これをあと5回繰り返してパックをコストゾーンにおいてターンエンドです」

「コストゾーンがバカみてえに増えやがった。ずるだろ」

「こんだけコストがあれば好き放題出来るんだよ。これこそ最強です」

 一回これで魔海大陸の不可視剣召喚されて負けた。素直に感心したんだよなあ。 

 

 セーターを着た女の子の九ターン目だ。

「あわわわ。これはどうしたらいいんでしょう」

 セーターを着た女の子は涙目になった。

「落ち着いて。あんだけバカみたいに加速すれば山札が切れるわ」

「それもそうですね。ドロー。チャージ。ドローしたので手札を一枚墓地においてもらいます。ターンエンド」 

 勝ったなガハハ。

 

 俺の九ターン目だ。

「ドロー。チャージ。ターンエンド」

 サングラスをかけた女の子はネコキャットガールズ・カシャを召喚してターンを終えた。

 

 四番手の十ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト3でいたずら妖精パックを召喚。破壊してコストを1加速。オベロンの効果でコストゾーンに置く。そしてパックとそのほかコスト2を使用してパックを召喚。ループ省略。これをあと5回繰り返してパックをコストゾーンにおいてターンエンドです」

 コストに20枚あるけど山札が切れかけだ。

 

 セーターを着た女の子からなにも起こらずにターンが終わった。

「これだけ凄いことやればビビッて動けねえな。まあそれも仕方ないんですよね。ドロー。コスト20で魔海大陸の不可視剣 「」を召喚。墓地6枚、手札0枚、コスト20枚、計26枚のカードを戻して一枚ドロー。あなたたちは29枚引いてくださいね」

 カードファイトのデッキ枚数は最低40枚最高60枚というルールがある。四番手のデッキの枚数は60なのだ。

 

 しかし普通デッキの枚数は一番回りやすい40枚にする。最初に引くので35枚、最低でも9枚のドロー。俺たちのデッキは切れた。

「戦の場に残るは俺だけだったぜ。お前ら全員弱いなあ。タッグファイトじゃなければ負けてたぞ」

「俺まで巻き込むんじゃねえよ」

「そう来ましたか。お見事でした」

 ロマンコンボだなあ。



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五十四枚目 話し合いは大事

 あの後話し合いをして敵ではないことが分かった。

「話し合いは大事だな。もっと早めにしておけばよかったですね」

「ああそうだな」

「どういうこったよ。自分たちだけで完結してないで説明してくれ」

「まあだいたいは……察せます」

「シンズルは賢いねええ。よおしよし。私は分からないから教えてほしい」

 お察しの通りだよ。

 

 打ち合せしながら首長のところまで歩いて行った。戦っている人たちも多いし、堂々と話しても聞かれないだろ。

「まあ俺たちは味方ってことだ。だってこの組織三番手から五番手まで最初っから裏切るつもりでこの組織入ってるもん」

「この話いつ聞いても人望無さすぎて笑えるんだけど。まあ雑魚カード数十枚でレアカードくれる人は絞りかすになるまで利用されてあとはポイされても仕方ないんですよね」

「そんな……いくらなんでもそれはひどいです」

「恩や情ってものがないんだね」

「最初っからねーよ」

「邪教を自己申告してるような屑組織に思い入れも情もねーよ。まあ恋人や子どもがいれば話は違っただろうがな」

 四番手はうなづいた。

 

 サングラスの女の子とセーターを着た女の子の両腕を縛ってから首長のいる部屋に入った。

「おお。侵入者を捕まえて捕えてきてくれたのか」

「まあそういうことです。いれてください」

「きったねーぞ。最初っから裏切るつもりって言ってたじゃねえか」

「そうですよ。ひどいじゃないですか」

 打ち合わせどおりだ。迫真の演技だなあ。

「嘘はつきたくないけど、つかなきゃいけない時もあるのよ。実際敵組織を裏切ろうとしている奴は信頼できるからな」

 近づいてきた一番手に平手打ちをされる。

 

 口の中が切れたな。

「何をするんだ」

「噓でもそういうことを言うな」

「利用するだけ利用してあとくされなく捨てる。これはこいつらの流儀ですよね。それをリスペクトしたってわけだ。いい言葉ですよねえ」

「そんなの聞いたことがないのですが」

「黙らっしゃい。首長、今回捕まえた敵の実力を見てほしいんです。そうすれば実力を大幅に盛って手柄を横取りしようなんて考えませんからね」

 拘束を解いた。

 

 一番手と二番手がデッキを構えた。赤いセーターの女の子のデッキが青く光る。

「茶番……」

「裏切りとは気に食わない」

「何のことですかね」

「すっとぼけないで」

 自然な流れでタッグファイトが始まった。

 

 一番手の二ターン目までなにも起こらなかった。二番手の職業が騎士だからなかなか攻めにくいというね。

「ドロー。チャージ。コスト2で盗賊ゴブリンを召喚。ターンエンド」

 サングラスの女の子の二ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト1でタクロウライターを召喚。ターンエンド」

 万全だな。

 

 二番手の二ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト2でメガチャージ……ターンエンド」

 セーターの女の子の三ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト2で有翼の剣士を召喚します」

 翼の生やして剣を持ったマネキンが現れた。

 

 モンスター コスト2 有翼の剣士 種族:アンゼ、ガーディアン 

 効果:なし

 攻撃力:2 防御力:1 生命力:3

 

「有翼の剣士で盗賊ゴブリンに攻撃してターンエンドです」

 一番手の三ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト3でドラム五郎を召喚。ターンエンド」

 妖精とメタルアヤカシは相性が悪くないわけじゃないけど嚙み合わないんだよなあ。

 

 サングラスの女の子の三ターン目だ。

「ドロー。チャージ。ターンエンド」

 二番手の三ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト4でトリプルドロー……ターンエンド」

 二番手がさっきから何もしてないのが不安だ。

 

 セーターの女の子の四ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト4でトリプルドローを発動します。そして有翼の剣士で盗賊ゴブリンを攻撃します。ターンエンドです」

 一番手の四ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト3で魔海のサハギンを召喚。一枚ドローしてタクロウライターに攻撃」

「タクロウライターの効果でデッキからタクロウライターを一枚墓地に送って、墓地に送ったタクロウライターでタクロウライターを墓地に送る」

「ターンエンド」

 何をしてきやがる。

 

 サングラスの女の子の四ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト4で荷電付喪神の知識術を発動」

 

 魔法 コスト4 荷電付喪神の知識術

 効果:自分の手札の種族:メタルアヤカシのモンスターを一枚捨てて、三枚ドローする。

 

「手札のステルスアヤカシ ナンジャカを墓地に捨てて、三枚ドロー。ターンエンド」

 二番手の四ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト5で大地の読心術を発動」

 

 魔法 コスト5 大地の読心術

 効果:自分以外のすべてのプレイヤーの山札の一枚目を表向きにして二枚ドローする。手札を一枚コストゾーンに置く。

 

 大地の読心術でネタが割れた。

「ターンエンド」

「ただ事故ってるだけかな」

「ビビるこたあねえぜ。事故れば雑魚ですから」

 なかなかモンスターが来ないなんてあり得るわけがない。

 

 セーターの女の子の五ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト5で賢くて善なる存在を召喚します。有翼の剣士で盗賊ゴブリンに攻撃して破壊。ターンエンドです」

 ほぼ勝ちでは。



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五十五枚目 悪魔の戦士ハイランダー

 一番手の五ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト4でファイヤーウォールゆすりを召喚。効果で4枚墓地に送って魔海のはぐれ者 バーマ湖の悪魔を手札に加える」

「墓地に落ちたモンスターの種類が全部違うな。もしかしてハイランダー(デッキに同じカードが存在しない)デッキか?」

「惜しいな。このデッキには一切魔法が入っていないのだよ」

「私は全部魔法でハイランダー……」

「バカかな。バランスというものを知らないんですかね」

「さすがにそれはちょっとマズイだろ」

 アルカナとかケイセイガールズとかハイランダー気味になるけどそれらには魔法もモンスターもあるからなあ。

「ターンエンド」

 親切にデッキの内容を教えてくれるなんて優しい奴らだな。

 

 サングラスの女の子の五ターン目だ。

「ドロー。チャージ。音を響かせ鋼鉄の怨念を墓地に集めよ。コスト5でプリンセスブザーを召喚」

 防犯ブザーを付けた女性が現れた。

 

 モンスター コスト5 プリンセスブザー 種族:メタルアヤカシ 

 効果:このモンスターが場に出たとき山札から種族:メタルアヤカシのモンスター三枚を選んで墓地に送る。

 攻撃力:2 防御力:1 生命力:4

 

「1、2、3。来た。サプライズホバーボードを墓地から場に出す」

 浮いているタイヤの無いスケートボードが現れて上にマネキンが乗る。

 

 モンスター コスト5 サプライズホバーボード 種族:メタルアヤカシ 

 効果:このモンスターが効果で墓地に送られた時、コストを支払わずにこのモンスターを場に出してもよい。一ターンに一度このモンスターの攻撃力以下の生命力のモンスターを破壊してもよい。このモンスターが効果でモンスターを破壊したターンは攻撃できない。

 説明:けして油断してはいけない。

 攻撃力:5 防御力:0 生命力:4

 

「サプライズホバーボードの効果で大地の賢者を破壊。ターンエンド」

 効果が強すぎて一時期メタルアヤカシデッキ以外でも大暴れした元人権カードだからな。

 

 二番手の五ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト5で魔法発動。マジカルデコイファクトリー」

 周りが工場のようになった。

 

 魔法 コスト5 マジカルデコイファクトリー

 効果:このカードは場に置き続ける。自分の場にマジカルデコイがいないとき、墓地の魔法を一枚選んでコストを1支払ってもよい。その魔法が墓地にあったプレイヤーの場にモンスターとして裏側で置く。このカードの効果で置かれたモンスターはマジカルデコイ(コスト1、種族:オール、効果:なし、攻撃力:0、防御力0、生命力:1)として扱う。

 

「コスト1で私の墓地のメガチャージをマジカルデコイとして場に置く。ターンエンド」

 これで防御が完璧と言う訳か。

 

 セーターの女の子の六ターン目だ。

「ドロー。コスト5でアンゼリミッター:ブレインを発動します」

 

 魔法 コスト5 アンゼリミッター:ブレイン

 効果:自分の場の種族:アンゼのモンスターの数だけドローする。RS(リミッタースペル)4(この魔法はコスト4で墓地から使用することができる。このカードを墓地から使用したとき山札の一番下に戻す)

 

「二枚ドローして有翼の剣士でマジカルデコイに攻撃。破壊。ターンエンドです」

「とてもまずい……」

 場ががら空きだ。 

 

 一番手の六ターン目だ。

「ドロー。コスト4でバーマ湖の悪魔の効果で3枚ドロー。ターンエンド」

 便利なドローソースだなあ。

 

 サングラスの女の子の六ターン目だ。

「ドロー。コスト5で百鬼夜工業を発動」

「あ、メタルアヤカシバニラ軸の要だ」

 

 魔法 コスト5 百鬼夜工業

 効果:このカードは場に置き続ける。自分の墓地の種族:メタルアヤカシのモンスターを召喚できる。この時召喚されたモンスターの効果は無効される。

 

「サプライズホバーボードで大地の賢者を破壊してターンエンドだ」

 二番手の六ターン目だ。

「ドロー。コスト5でデコイペインター発動」

 

 魔法 コスト5 デコイペインター

 効果:このカードは場に置き続ける。一ターンに一度自分の場のマジカルデコイと場か墓地の魔法カードを選ぶ。選んだカードの名前は選んだカードの名前と同じ名前になる。

 

「コスト1でメガチャージを場に置く。さらにデコイペインターでマジカルデコイをアンゼリミッター:ブレインに変える。これでマジカルデコイは消えた……コスト1で大地の読心術を場に置く。デコイペインターで百鬼夜工業に変化させてターンエンド」

 これで一ターンに二度マジカルデコイを出せるってわけだ。

 

 セーターの女の子の七ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト5で賢さの試練を与えるものを召喚します。有翼の剣士でアンゼリミッター:ブレインに攻撃。破壊。ターンエンドです」

「ハンデスコンボの完成だな。もう二度と相手したくねえぜ」

「でもお前コストでねじ伏せたじゃん」

 膨大なコストは正義。

 

 一番手の七ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト8で悪魔の戦士ハイランダーを召喚」

 

 モンスター コスト8 悪魔の戦士ハイランダー 種族:デビル 

 効果:このモンスターの攻撃力と防御力は自分の墓地と場のカードの種類分上昇する。自分の場に同名カードが存在する時、一枚につきこのカードの生命力と攻撃力と防御力は2軽減する。

 攻撃力:0 防御力:0 生命力:8

 

「7種類だ。これからもっと増加するぞ。諦めるんだな」



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五十六枚目 There can be only one

「悪魔の戦士ハイランダーでサプライズホバーボードに攻撃。破壊。ターンエンド」

 サングラスの女の子の七ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト5でネコキャットガールズ・ディスティラリーを発動する。墓地からコスト1でタクロウライターを召喚。ターンエンド」

 壁を増やしたか。

 

 二番手の七ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト5でバーンスマッシャーを使用する」

「効果で一枚ドローして皆さん手札を一枚捨ててもらいますよ」

「じゃあそこのアンゼ使いに2ダメージ……」

 セーターの女の子:生命力10→8

「さらにコスト1でバーンスマッシャーを場において、ペインターの効果でネコキャットガールズ・ディスティラリーとして扱う。ターンエンド……」

 モンスターがいないからバーンで削るしかないんだろうね。

 

 セーターの女の子の八ターン目だ。

「ドロー。手札を捨ててもらいますよ。チャージ。有翼の剣士でネコキャットガールズ・ディスティラリーに攻撃。破壊。ターンエンド」

 二番手の八ターン目だ。

「ドロー。チャージ。悪魔の戦士ハイランダーで賢さの試練を与えるものに攻撃。ターンエンド」

 ハンデスさせてくる奴を狙うのは当たり前だよね。

 

 サングラスの女の子の八ターン目だ。

「ドロー。コスト5で大地の読心術発動。ドローしてチャージ」

「効果で一枚ドローして皆さんの手札を一枚捨ててもらいます」

「」

 ネコキャットガールズ・カシャが墓地に落ちた。次のターンに逆転が始まるな。

 

 二番手の八ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト1で大地の読心術を場において荷電付喪神の知識術にする。ターンエンド」

 セーターの女の子の九ターン目だ。

「ドロー。手札を一枚捨ててもらいます。チャージ。ターンエンドです」

 ハンデスってヤベエよな。 

 

 一番手の九ターン目だ。

「ドロー。悪魔の戦士ハイランダーで賢さの試練を与えるものに攻撃。破壊。ターンエンド。さんざんハンデスしてくれたおかげで助かったぞ。礼を言う」

 攻撃力と防御力が9になってる

「そうか。墓地のカードの種類も参考にするから、ハイランダーだと手札が捨てられるのは好都合なのか」

「私のせいで、ピンチを招く羽目になってしまったのですね」

「良く分かってるな。これはすべてお前のせいだ」

「ちょっとなんてこと」「黙れ。お前は甘やかしすぎなんだ。厳しさも大事なんだよ」

 実はハンデスされた私怨が九割入ってたりする。ハンデスが悪いよハンデスが。

 

 サングラスの女の子の九ターン目だ。

「私のことは良いですから」

「シンズルがそこまで言うんならそうするけどさぁ……ドロー。チャージ。コスト8で墓地からネコキャットガールズ・カシャを召喚。ネコキャットガールズ・カシャで悪魔の戦士ハイランダーに攻撃。ネコキャットガールズ・ディスティラリーで置いてターンエンド」

「ありがとうな。お陰で場のカードが増えた。10種類くらいだな」

 たとえ倒されてもまた召喚してディスティラリー張れるからな。

 

 二番手の九ターン目だ。

「ドロー。コスト8でギガチャージブースト」

 

 魔法 コスト8 ギガチャージブースト 

 効果:山札の上から四枚を見て二枚手札に加えて二枚コストゾーンに置く。

 

「コスト1でギガチャージブーストを置いてディスティラリーマウスにする。ターンエンド」

 まあ自分の場じゃないから悪魔の戦士ハイランダーには影響はないんだろうな。

 

 セーターの女の子の十ターン目だ。

「ドロー。コスト4でアンゼリミッター:ブレインを唱えます。二枚ドローします。有翼の剣士でディスティラリーマウスに攻撃。破壊。ターンエンドです」

 一番手の十ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト5で墓あさりを召喚」

 

 モンスター コスト5 墓あさり 種族:マーフォーク 

 効果:このモンスターが場に出たとき、二枚ドローして一枚手札を捨てる。

 攻撃力:1 防御力:4 生命力:3

 

「これで十二種類だ。悪魔の戦士ハイランダーで賢くて善なる存在に攻撃。破壊。ターンエンド」

 あのハイランダーデッキにおあつらえ向きのカードだな。

 

 サングラスの女の子の十ターン目だ。

「ドロー。コスト8でネコキャットガールズ・カシャを召喚。ネコキャットガールズ・カシャで悪魔の戦士ハイランダーに攻撃。ネコキャットガールズ・カシャで悪魔の戦士ハイランダーに攻撃してターンエンド」

「なんだと。攻撃力と防御力と生命力が下がっている」

「あと6回でそのモンスターは倒れる。覚悟しておくんだな」 

 カシャで殴ってネコキャットガールズ・ディスティラリーの効果で同名カード増やして弱らせる戦法か。考えたな。 

 

 二番手の十ターン目だ。

「ドロー。コスト8でThere can be only oneを発動」

 

 魔法 コスト8 There can be only one

 効果:自分の場と墓地のカードの種類と同じダメージを相手プレイヤー全員に与える。ただし同じ名前のカードがあるなら与えるダメージを2軽減する。

 

「10種類」

 セーターの女の子:生命力8→0

「デッキにあるセンポクカンポクの霊薬の効果発動」

 

 魔法 コスト90 センポクカンポクの霊薬 

 効果:このカードがデッキか墓地か手札にある時自分の生命力以上のダメージを受けるなら、受ける代わりに自分の生命力を1にする。このカードはカードファイト中一度しか使えない。

 

「コスト90だと。そいつはちょっとやりすぎだろ」

「ギリギリ残ったぜ」

「ターンエンド」

 普通に強いからな。

 

 一番手の十一ターン目だ。

「ドロー。チャージ。悪魔の戦士ハイランダーでネコキャットガールズ・カシャに攻撃。ターンエンド」

 サングラスの女の子の十一ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト8で塵塚の強化術」

 塵塚怪王を入れているのかな。

 

 魔法 コスト8 塵塚の強化術 

 効果:プレイヤーの墓地を選ぶ。ゲーム中そのプレイヤーの墓地のカードの名前をすべて屑鉄にする。このカードを使用したターンは攻撃できない。

 

「そこのフルモンハイランダーの墓地を選ぶ。すべて屑鉄にさせてもらおうじゃないの」

「しまった生命力が0になって破壊される」

 悪魔の戦士ハイランダーが破壊された。

「へへへ。どーよ」

 そういう使い方もあったってわけだ。



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五十七枚目 悪いことしたみたいな気分

 あのあとターンを終えたので二番手の十一ターン目だ。

「ドロー。ターンエンド」

 サングラスの女の子の十二ターン目だ。

「ドロー。コスト5でグレイブーストチャージ発動」

 

 魔法 コスト5 グレイブーストチャージ 

 効果:山札の上から二枚を墓地において墓地のカードを一枚表向きにしてコストゾーンに置き、墓地のカードを一枚手札に加える。

 

「荷電付喪神の知識術をコストゾーンに置いてから今落ちたダイダラボッチマークIIを手札に加える。ネコキャットガールズ・カシャで荷電付喪神の知識術に攻撃。破壊。さらにネコキャットガールズ・ディスティラリーで置く。ドラム五郎でネコキャットガールズ・ディスティラリーに攻撃。破壊。ネコキャットガールズ・カシャで百鬼夜工業に攻撃。破壊。ターンエンド」

 次のターンで勝てるぞ。

 

 一番手は十一ターン目にハイパービーストを召喚してターンを終えた。

「ドロー。コスト8で鋼鉄の怨念を発動」

 

 魔法 コスト? 鋼鉄の怨念 

 効果:このカードは場に置き続ける。このカードを使用するとき自分の場の種族:メタルアヤカシのモンスター一体を選ぶ。この魔法のコストは選んだモンスターのコストと同じ数値になり、そのモンスターのコスト未満の相手の場の魔法とモンスターの効果はすべて効果:なしになる。

 

「鋼鉄の怨念で無効化する」

「むむむ……」

「ネコキャットガールズ・カシャでディスティラリーマウスに攻撃。ネコキャットガールズ・カシャで魔法の方に攻撃」

 二番手:生命力10→9

 

 サングラスの女の子の二十ターンまで飛ばす。

「ディスティラリーマウスか……」

「山札の一番上を置くっていうのが強いんだなあ」

 二番手は山札切れで倒れた。一番手もいいモンスターを引けてないようだし、勝てるかもな。

 

 終えて一番手の二十ターン目だ。

「ドロー。コスト4でヘルスクリーマーを召喚」

 

 モンスター コスト4 ヘルスクリーマー 種族:ゴースト 

 効果:このモンスターが場に出たとき自分に2ダメージ。自分以外のプレイヤーに1ダメージ

 攻撃力:5 防御力:1 生命力:4

 

 サングラスの女の子:生命力1→0

「しまった」

 モンスターや魔法が消えた。

 

 二番手は手を払った。

「大したことはない……」

「しかし倒されたではないか」

 それもそうだな。

 

 首長が拍手をする。

「とても良かったぞ。五人衆一人倒せるぐらいにはいいコンビだな」

 五人だから五人衆とか安直では。

「だがみじゅ……」

 首長が倒れた。

 

 金属バットを持った三番手が後ろにいた。

「いくらなんでも後ろから金属バットで殴るなんてことしちゃダメだろ」

「戦えれば何でもいいぜ」

「リアルファイトになりそうだぜ。状況を考えてくださいよ」

 三番手が魔海のサハギンに殴られる。三番手の覆面が取れた。

 

 マジかよ。

「カシヨじゃねえか。じゃあさらわれた時はここの仲間は誰も助けに来なかったという訳だ」

「何で俺の名前を知っているんだ」

 ピンク色のおもちゃの戦車が一撃で魔海のサハギンを消滅させた。

 

 二番手は首長の元に駆け寄った。

「こういうことだ」

 顔の右半分と口を見せる。

 

 カシヨは口角を上げた。

「アカネにシンズルもいるのか。シンズルだけは法律をきっちり守ってると思ったんだがなあ」

「無法地帯に法律はねえから問題ねえ。ていうかお前誰だ?」

「どうせ知られてるから言うぜ。俺の名はカシヨ。一応黒覆面の仲間だ」

「なんだ。黒覆面ヤローの仲間か。正体を知らなきゃよかった」

 黒覆面ヤローとなんか因縁がありそう。

 

 二番手が指をさす。

「どういう……こと?」

「三番手から五番手まで全員お前らと手を切るつもりだったってことだよ」

「そういうことだ。もうそこの奴には用がないんでしょ」

「そこまでやるとは思わなかった。見損なったぞ」

「酷すぎねえか」

「あなたたちは生まれ変わりなさい」 

 一番手が走ってきた。

 

 一番手がカシヨに脚を引っかけられて骨の折れる音を立てた後に転ぶ。一番手は怨みの困った表情でカシヨを睨んで、二番手は倒れた首長を揺らして涙声を出している。

「こんな光景見せつけられたらなんか悪い事したみたいな気分になるじゃん。嫌ですねえ」

「俺もお前も悪いことしてんだよ。この組織には少しばかりムカついていたが、こんなことを企んでいる奴らの協力者にはなりたくなかったんだよ。まあいまさら言っても遅いがな」

「ちょっといいか」

 サングラスの女の子は四番手を手で招いてから、四番手の覆面を取って四番手の顔をグーで殴った。

 

 サングラスの女の子は押し付けるように四番手の覆面をつける。

「何するんだ。痛いじゃないですか」

「俺と二番手は首長に拾われて首長に育てられたんだ。首長を侮辱するのは許さねえ」

「そんな過去が……あったんですね」

「それならそうと早く言ってくれればいいのに。そうしたらもっと残酷な方法で倒してあげたんですがねえ」

「それは言い過ぎなんじゃねえのか。首長に親でも殺されたのかと言いたくなるような罵詈雑言だな」

 四番手は倒れている一番手の手を踏んだ。

 

 四番手のやつめ。

「俺は悪魔に加担してしまったのか」

「俺も同罪だ。カード欲しさにこんなことしてしまったからな」

 これはひどい。



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五十八枚目 リストラ

 首長が起き上がった。

「よくやったぞ二番手。お陰で絶好調だ」

「えへへ」

 首長は二番手を撫でる。

 

 首長はカシヨを殴って一番手を立たせた。

「貴様ら裏切りおったな。人事の再構成が必要だ」

「イエスマンしかいねえと組織は腐るということを知らないようだな」

 黒覆面ヤローが現れた。随分といきなりだなあ。

 

 黒覆面ヤローは首を横に振った。

「だからといって利用するだけ利用して裏切るような奴はいらねえだろ」

「よくわかっているじゃないか。では消えてもらおう」

「遅かったじゃねえか。道に迷ってたのか?」

「ああ。ここは無駄に道が複雑だからな。パトロンが相当金をかけたんだろう」

「パトロン……なにそれ?」

「知らなかったのか。じゃあ俺を倒せば口封じできるな」

 工具箱からカードを一枚取り出して黒覆面ヤローに投げ渡す。

 

 黒覆面ヤローは渡したカードを見てから、二枚のカードをデッキに入れた。首長のデッキが赤く光る。

「後で返せよ」

「返してやろう。俺のデッキには合わないからな」

 デッキが宙に浮いてシャッフルされた。

 

 黒覆面ヤローと首長はデッキを構えた。

「「カードファイトエントリー」」

「口封じしに来たか」

 黒覆面ヤローはバカだなあと言いたげに息を吐く。

 

 首長の三ターン目までなにも起こらなかった。

「ドロー。チャージ。コスト3でボードフィールド発動」

 

 魔法 コスト3 ボードフィールド 

 効果:このカードは場に置き続ける。自分の墓地のBC(ボードコマンダー)と名の付くモンスターのNT(ナルタクティス)を使用できる。

 

 BC(ボードコマンダー)か。攻撃しないと弱いテーマなのになんでわざわざ使っているんだろ。

「ターンエンド」

 黒覆面ヤローの三ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト3でバーンゲート。バーンウィザードを出して、手札からバックブラストバーンを捨てる。お前に1ダメージ、俺に2ダメージ。そしてデッキからバーンの本棚を手札に加える。ターンエンド」

 いつもの。

 

 首長の四ターン目だ。

「ドロー。チャージ。まずは基本のこれだ。コスト1でBC(ボードコマンダー)Pソルジャーを召喚」

 

 モンスター コスト1 BC(ボードコマンダー)Pソルジャー 種族:ガーディアン 

 効果:コスト1のモンスターに攻撃するとき、そのモンスターとバトルする代わりにそのモンスターを破壊する。このモンスターが攻撃したときこのモンスターのTP(タクティスポイント)を1増加させる。

 攻撃力:0 防御力:1 生命力:1

 

BC(ボードコマンダー)Pソルジャーでプレイヤーに攻撃。ターンエンド」

「なんだそれだけか」

BC(ボードコマンダー)は攻撃することに意味がある……」

NT(ナルタクティス)は攻撃してないと使えないからな」

 首長が顔を伏せた。図星を突かれたのがそんなにショックなのか。

 

 黒覆面ヤローの四ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト3でバーンの本棚を発動。コスト1でチャイルドワイバーンを召喚。バーンの本棚の効果でチャイルドワイバーンを手札に戻してバーンゲートを手札に加える。ターンエンド」

「バーンは殴ってもあんま意味がねえのがつらいな」

 その分効果ダメージが強い。

 

 首長の五ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト4でアンゼブーストを発動」

 

 魔法 コスト4 アンゼブースト 

 効果:山札の上から三枚をドローして手札から二枚を墓地に置く。

 

「手札のBC(ボードコマンダー)ナリゴルド:タイプPとBC(ボードコマンダー)ドラゴンホースを墓地に置いて、BC(ボードコマンダー)Pソルジャーでバーンマジシャンに攻撃。ターンエンド」

「早くPコマンダーを破壊しておいた方がいいぞ」

「分かっている。何やら嫌な予感がするからな」 

 さっき何ともないって言ってたじゃん。ようやくヤバさが分かったのか。

 

 黒覆面ヤローの五ターン目だ。

「ドロー。チャージ。バーンの本棚の効果でバーンマジシャンとバックブラストバーンを手札に加える。コスト4でバーンマジシャンを召喚。手札のバーンカッターを捨てる」

 

 魔法 コスト4 バーンカッター 

 効果:このカードが手札から墓地に置かれたとき、すべてのプレイヤーに1ダメージ。

 

「ターンエンド」

 とてもまずいな。

 

 首長の六ターン目だ。

「ドロー。チャージ。戦場を駆け抜けろ。すべてを貫け。コスト6でBC(ボードコマンダー)Bホースを召喚」

 

 モンスター コスト6 BC(ボードコマンダー)Bホース 種族:ガーディアン 

 効果:このモンスターが攻撃したときこのモンスターのTP(タクティスポイント)を1から6まで増加させる。

 攻撃力:3 防御力:1 生命力:2

 

BC(ボードコマンダー)Bホースでバーンマジシャンに攻撃。TP(タクティスポイント)を6増加させる。さらに墓地のBC(ボードコマンダー)ドラゴンホースのNT(ナルタクティス)発動」

 

 モンスター コスト6 BC(ボードコマンダー)ドラゴンホース 種族:ガーディアン 

 効果:NT(ナルタクティス)(このカードが手札にある時、TP(タクティスポイント)が6以上の自分の場のBC(ボードコマンダー)の上に乗せる。このカードが場に出たターンはこのモンスターは攻撃できない)。このカードの下にBC(ボードコマンダー)Bホースのみ存在する場合、このカードの攻撃力と防御力は2増加して生命力は4増加する。

 攻撃力:3 防御力:1 生命力:2

 

「ボードフィールドの効果で墓地から使用できるのだよ。実質墓地は手札だ」

「コスト8相当の能力だな」

BC(ボードコマンダー)Pソルジャーでバーンマジシャンに攻撃。ターンエンドだ」

 除去手段に乏しいのがバーンデッキだからな。これは割とマジでヤバいぞ。



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五十九枚目 将棋

 黒覆面ヤローの六ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト6でクワトロブーストを発動。バーンの本棚の効果でバーンマジシャンとバーンカッターを手札に加えてターンエンド」

 手札の補充か。

 

 首長の七ターン目だ。

「ドロー。チャージ。BC(ボードコマンダー)ドラゴンホースでチャイルドワイバーンに攻撃。破壊。Pコマンダーでプレイヤーに攻撃。ターンエンド」

「順序逆の方が良かったと思うぜ」 

 それをしないのは何かしらの理由があるのだろう。

「一ターンの猶予を与えてやろうと思ったのだ。どうせここから勝てるからな」

 ああそうですか。

 

 黒覆面ヤローの七ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト4でバーンマジシャンを召喚。自分の手札からバーンスマッシャーを捨てる」

 首長:生命力7→5

「さらにコスト3でガードワイバーンを召喚」

 

 モンスター コスト3 ガードワイバーン 種族:ドラゴン、ゴースト、ガーディアン 

 効果:このモンスターが墓地にあるとき、一度だけ戦闘によるダメージを受けない。

 攻撃力:2 防御力:1 生命力:3

 

「ガードワイバーンでPコマンダーに攻撃。破壊。ターンエンド」

 ワイバーンも使えるからな。

 

 首長の八ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト8でブーストアンドチャージ発動。五枚ドローして、手札を一枚コストゾーンに置く。BC(ボードコマンダー)ドラゴンホースでバーンマジシャンに攻撃。ギリギリ残ったか。ターンエンド」

 黒覆面ヤローの八ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト8でキングバーンウィザードを召喚。バーンマジシャンとバーンスマッシャーを手札に戻す。キングバーンウィザードの効果でバーンスマッシャーを捨てて2ダメージ。ターンエンド」

 着実に勝利に近づいているぞ。

 

 首長の八ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト5で魔法発動。持ち駒」

 

 魔法 コスト5 持ち駒 

 効果:このカードは場に置き続ける。相手の墓地のカードを山札の一番下に戻してもよい。そうしたらそのコスト以下の自分の墓地のBC(ボードコマンダー)を場に出す。この時場に出たBC(ボードコマンダー)は場を離れる前のTP(タクティクスポイント)を持つ。

 

「持ち駒の効果でバーンスマッシャーを山札の一番下に戻して、BC(ボードコマンダー)Pソルジャーを召喚。コスト3でBC(ボードコマンダー)Nシナモンを召喚」

 

 モンスター コスト3 BC(ボードコマンダー)Nシナモン 種族:ガーディアン、メガプラント 

 効果:このモンスターは相手プレイヤーにのみ攻撃ができる。このモンスターが攻撃したときこのモンスターのTP(タクティスポイント)を2増加させる。

 攻撃力:2 防御力:2 生命力:3

 

「Pソルジャーでキングバーンウィザードに攻撃。Nシナモンでプレイヤーに攻撃。ターンエンドだ」

 キングバーンウィザードの防御の高さゆえにいまいち攻め切れていない。

 

 黒覆面ヤローの八ターン目だ。

「ドロー。チャージ。バックブラストバーンを手札から捨ててダメージを与える」

 黒覆面ヤロー:生命力7→5、首長:生命力5→3

 

 このままのペースだと勝てるぞ。

「そしてガードワイバーンとバーンゲートを戻して、ガードワイバーンを召喚。ターンエンド」

 首長の九ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト7でBC(ボードコマンダー)Rパンツァーを召喚」

 

 モンスター コスト7 BC(ボードコマンダー)Rパンツァー 種族:ガーディアン 

 効果:このモンスターが攻撃したときこのモンスターのTP(タクティスポイント)を1~8まで増加させる。

 攻撃力:7 防御力:0 生命力:8

 

「Rパンツァーでキングバーンウィザードに攻撃。手札のBC(ボードコマンダー)ドラゴンキングのNT(ナルタクティス)発動」

「たかが一ダメージだ」

 

 モンスター コスト7 BC(ボードコマンダー)ドラゴンキング 種族:ガーディアン 

 効果:NT(ナルタクティス)。このカードの下にBC(ボードコマンダー)Rパンツァーのみ存在する場合、このカードの攻撃力は1防御力は3増加して生命力は1増加する。

 攻撃力:7 防御力:0 生命力:8

 

「そしてPソルジャーでキングバーンウィザードに攻撃。さらに墓地のBC(ボードコマンダー)ナリゴルド:タイプPのNT(ナルタクティス)発動」

 

 モンスター コスト8 BC(ボードコマンダー)ナリゴルド:タイプP 種族:ガーディアン 

 効果:NT(ナルタクティス)。このカードの下にBC(ボードコマンダー)Pソルジャーのみ存在する場合、このカードの攻撃力と防御力は2増加して生命力は5増加する。このモンスターはコスト8以下のモンスターに攻撃するとき、そのモンスターを破壊する。

 攻撃力:0 防御力:0 生命力:1

 

「Nシナモンでプレイヤーに攻撃。ターンエンドだ」

「コスト8以下を破壊するのか。それはちょっとマズいな」 

 まるで将棋のように駒が強化されるのがBC(ボードコマンダー)だからな。

 

 黒覆面ヤローの九ターン目だ。 

「ドロー。バーンチャージブーストを手札から捨てて二ダメージ。そしてコスト5で墓地からバーンチャージブーストを唱える。ターンエンド」

「首長様の生命力が残り1だ」

「だからこそ勝ちを確信できる……」

「ああ首長様は希望を与えるためにわざと生命力を1になさるからな」

「負け惜しみを言うな。次のターンで俺に負けるだろ」

 この状況から逆転できる方法は……ない。まあ現状維持できる方法はあるがな。

 

 首長の十ターン目だ。

「ドロー。コスト4でアンゼブースト発動。手札のナリゴルド:タイプNとPソルジャーを捨てる。持ち駒の効果でバーンチャージブーストを山札の下に戻してPソルジャーを復活させる。Nシナモンでプレイヤーに攻撃。ナリゴルド:タイプNのNT(ナルタクティス)発動」

 

 モンスター コスト8 BC(ボードコマンダー)ナリゴルド:タイプN 種族:ガーディアン 

 効果:NT(ナルタクティス)。このカードの下にBC(ボードコマンダー)Nシナモンのみ存在する場合、このカードの攻撃力と防御力と生命力は3増加する。このモンスターが場にいるとき、戦闘以外でダメージを受けない。場にこのモンスターしか存在しないとき、相手はプレイヤーに攻撃できる。

 攻撃力:2 防御力:0 生命力:3

 

「バーンを無効化だと」

「これじゃまるで陸に打ち上げられた魚も同然だぜ」

 二枚のカードがあればなんとかなる。



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六十枚目 滅龍 アジ・ダハーカ

これにて1時間更新終了です


「ターンエンドだ」

 黒覆面ヤローの十ターン目だ。

「ドロー。チャージ。キングバーンウィザードの効果でバックブラストバーンを捨てる。効果でバックブラストバーンをサーチして、バーンコスト5でバーンドロー。墓地のバックブラストバーンとバーンチャージブーストを戻して三枚ドロー。ターンエンド」

「愚かな。自ら生命力を減らすとはな」 

 黒覆面ヤロー:生命力5→3

 

 首長の十一ターン目だ。

「ドロー。コスト6でクワトロブーストを発動。ドラゴンキングでキングバーンウィザードに攻撃。ターンエンド」

 黒覆面ヤローの十一ターン目だ。

「ドロー。キングバーンウィザードの効果でバックブラストバーンを捨てる。そして滅龍 アジ・ダハーカをサーチ。これで生命力は1だ」

「自滅してくれとはありがてえやつだぜ」

「俺はそんなバカじゃないと思うぜ」

 必死に生命力を減らした理由はある。

 

 あのカードを召喚するためだ。

「効果で連撃をサーチしてコスト2で滅龍 アジ・ダハーカを召喚。うぅ……ぐっ!」

 ここの天井に合わせたのか5mの赤黒いドラゴンが現れた。

「さらにコスト6でクリンタ城を発動」

 フィールドに城のミニチュアが現れる。

 

 魔法 コスト6  クリンタ城 

 効果:このカードは場に置き続ける。このカードは場にコスト2の種族:魔龍が存在するときのみ発動できる。このカードと種族:魔龍以外の全てのカードの効果を無効化して手札と場とコストゾーンのカードを好きな順で山札の上に置く。このカードが存在する限り自分の場の種族:魔龍のモンスターの攻撃できない効果はこのモンスターの攻撃時山札をすべてコストゾーンに置いて、攻撃終了時このカードの生命力を0にする。になる。

 

 上空に黒い穴が現れてアジ・ダハーカとクリンタ城以外の全てを吸い込んだ。

「これでこのモンスターは攻撃出来るようになる。滅龍 アジ・ダハーカでプレイヤーに攻撃。滅龍撃」

「なるほどな」

 首長生命力:生命力3→0

 

 場のすべてのカードが消えた。首長は膝をつく。

「うぅぐっあぁ!」

「おい。大丈夫かよ」

「辛うじて耐えられる」

 つらそう。

 

 黒覆面ヤローは左胸を苦しそうに抑える。

「何回かこのカードを使ったことはある。が、もれなくこの苦しみを味わうことになる。だからなるべく使いたくはなかったが、こうするしか勝つ方法はなかった。アジ・ダハーカを使うたびに怨みの意思が頭の中を駆け巡る。よくこんなカードを使って何の異常もないな」

「カード使って異常起こすとか。トゥルーファイトじゃあるまいし、そんなことないだろ。現に俺が使っても何も起こらなかったんだから。返したいなら素直にそういえばいいのに」

 黒覆面ヤローはアジ・ダハーカとクリンタ城を投げた。 

 

 四番手はアジ・ダハーカとクリンタ城を受け取ってデッキに入れる。

「レアカードは貰ったぜ。ぜひ使わせてもらいますよ」

「なんて奴だ」

 首長は立ち上がった。

 

 首長は一番手と二番手を手で招く。

「私が逃げるまでの時間稼ぎをしろ」

 首長は袖からスイッチを落としてから消えた。

「あれはいざというときのためにこの基地を自爆させる装置を稼働させるスイッチだな」

「そんな……皆さんの避難を誘導してきます」

「一緒に行ってくるよ」

 サングラスの女の子とセーターを着た女の子は部屋から出た。

 

 ヤバすぎる状況になると一周回って冷静になってしまう。

「なんでそんな実用性のないベタなモノがあるんだよ」

「機密保持のためだろ」

「噓をつけ。首長様には何も聞かされていなかった」

「そう思いたいならそう思えばいいさ。首長にゴミのように捨てられた事には変わりないですからね。ワープゲート」

 なにも起こらなかった。

 

 二番手が床を指さしたので見ると、バツ印のかかれた円が床にあった。

「魔法封印の結界……これで魔法を封印した」

「自分の魔法も封印するカードをデッキに入れてるなんて予想外」

「アルカナンバーシックスティーン ザ・タワーを召喚。うぅっ……」

 塔が出てきて天井を突き破った。

 

 出てきた塔を上って地上で降りて魔法封印の結界の外まで行ってワープゲートでテレポートした。

「魔法は封印されてもモンスターは封印されていないからな」

「ちょっと体力を持ってかれたけど、命に代えれば安い」

 咄嗟にテレポートしたから行く末が見れなくて残念だ。

 

 ちなみにテレポートした先はお嬢様の家の庭園だった。四番手とカシヨと黒覆面ヤローはいつの間にかいなくなっていた。

「あっそういえばハナメデルも誘拐されていたはずだ。アイツまさか爆発に巻き込まれたんじゃ……」

「こんにちは」

 振り向くとハナメデルがいた。

「ちゃんと足はあるな」

 生きていたか。

 

 ハナメデルは座る。

「辛うじて生きていたナハ。爆発の警告を聞いていなかったら、今頃巻き込まれていたナハ。ちゃんと爆発を見届けたからわかるけど、あれじゃ何も残っていないナハ」

「じゃあ暗黒怒労蛮苦邪教団の悪事の証拠も全部吹っ飛んだってわけだ」

 ハナメデルは口角を上げて懐から紙を出した。

 

 紙にはいろいろ書かれている。

「記録はちゃんとあるナハ」

「仕事がはえー奴だな」

 まあ四か月以上もあればな。



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六十一枚目 クビ

 あれから十日後俺はいきなり職を失った。偶然帰っていた雇用主であるピンハネル伯爵に理由を聞いてみた。

「いきなり辞めさせられては納得がいきません。仕事はやっていると思いますが」

 なおほとんどの仕事を身代わりがやっていた模様。まあ今はそんなこと言わなくてもいいか。

 

 いやそれはないか。そんな理由だったら俺は怒る。

「順を追って説明しよう。まず私の弟が悪事を働いていたんだ」

「悪事を働くような偉い人なのによくもみ消しませんでしたね」

「まあ悪事の結果があんな派手に現れてしまっては金と権力がどれほどあろうとも隠し切れないからな。その悪事が史上まれにみる悪事だから恐ろしい。何しろ被害者は広範囲に存在しており、この問題はまだ解決していないのだからな」

 無法地帯ねえ。この世界に転生した時間のほとんどを無法地帯で過ごしていたから、シンパシーを感じる。

 

 ピンハネル伯爵は人差し指を立てた。

「私の弟は私よりも何倍も優秀だった。だから私に仕えるのが嫌だったのだろう。突如家出したのだ。風のうわさでは小さな国なら一つ買える程の豪商になったらしい」

「話の要領が見えないんですけど。いつになったら本題に入るんですか?」

「弟は暗黒邪教怒労蛮苦団を使ってカードを集めて荒稼ぎしていたんだ」

 え? 本題どころの話ではなくなったぞ。割と本題がどうでもよくなってきた。

 

 要は弟さんが悪い組織の黒幕で困ってるってことかな。

「あっさりと正体が分かったんですけど」

「とある警備兵のおかげであっさりと正体が知れ渡ったのだ」

 ハナメデルのことだな。 

「それがクビとどうつながるんですか?」

 風評被害で収入が少なくなって雇う余裕がなくなったとか……そういうのかな。

 

 ピンハネル伯爵は息を吐いた。

「この地を支配したかった貴族たちが際限なく押し寄せてくるだろう。この家に生まれたものが大悪事を働いた本人であるからな」

「状況が吞み込めないんですけど」

「この国というかこの周辺の国家は同じ者に仕える同僚は味方とは限らないのだ。攻め込んでカードファイトで勝てば領地を奪えるからな。ただ正当性がないと攻め込めない。だが幸運なことに今回のことで十年は戦える正当性が見つかったのだ。こうなれば攻め込まれ放題だろう」

「味方とは限らないって言ってるのにフラム伯爵家とは仲いいですよね」

「フラム伯爵家と我が家の関係がただ少し異常なだけなんだ」

 味方同士の小競り合いで己の領地を広げるなんてまるで戦国時代みたい。

 

 この戦国時代とクビがどうつながるんだ。

「各地の貴族所属のカードファイターが来て、負かした側のカードファイターを物のように扱おうとする連中が現れるかもしれない。そうなってほしくないからクビにしたのだ」

 お人よしだなあ。俺をクビにしてもこの人に何のメリットもないだろ。

 

 それに俺のことも考えてくれている。ほとんど会ったこともない奴を信用してくれるなんてありがたいけど、心配になる。

「負ける前提で話すなんて酷いですね。全員倒してやりますよ。とはいうもののカードハンターには負け、フィールドファイト大会でも見苦しい順位でしたので信用はできないと思いますがね。お前は使えねえから要らねえと素直にそうおっしゃってください」

 お世話になった人の破滅をできるだけ邪魔したい人間だから。今からそういう人間になったから。

 

 ピンハネル伯爵は首を横に振る。

「なるほど。これから起こる戦いに身を沈めるというのだな」

「ええそうですけど。なんでそんな大げさな言い方なんですかね。あと一人じゃ対応できないと思ったら、もう一人雇ってくださいって言いますからね」

 デッキを構えた。

 

 ピンハネル伯爵はため息をついた。

「さっそく二日後にカードファイト用教会に」

「はい。わかりました」

 今さりげなく流したけど、そんなものがあるのか。カードジョブオンラインにはそんなものなかったぞ。

 

 二日経過した。

「はえー。天井が高いですね」

 天井が高いこと以外は想像よりも質素なことぐらいしか言うことがなかった。教会って言われたからてっきりゴシック的な何かを想像してたよ。実際はただの体育館並みに広くて天井が高いだけの建物なんだよね。

 

 テンガロンハットを深くかぶってつばで目を隠した男がやって来た。ひげとのどぼとけが見えてるし体格ががっちりしている。

「お前が今回の相手か。またあったな。実力はフラムとピンハネル両家のお嬢様のお墨付きだったわけだ」

「あんたみたいなやつ俺は知らないぞ」

「知らなくて当然だろうな。かく言う俺もお前を映像越しにしか見ていないからな」

 誰なんだこいつ。フィールドファイト大会の様子を見てたことは間違いなさそうだけれど……

 

 決闘の場に移動した。男のデッキが赤く光った。

「立会人は私……このカードファイト用教会の所持者であるクラルスタが務めさせていただきます」

「俺のデッキが火を噴くぜ」

「なら俺のデッキは火を完全に消し去ってやるぜ」

「「カードファイトエントリー」」



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六十二枚目 パラサイト

 男の職業は一度だけモンスターを破壊できる暗殺者。厄介だな。

「チャージ。コスト1でエッグクラスターローチを召喚」

 手のひらサイズのホタルが現れた。光ってないけどあれはホタルだから。アレじゃないから。

「エッグクラスターローチということはパラサイトデッキか」

 破壊された時にコスト3以下で種族:インセクトで攻撃力0のモンスターを山札からデッキに加える効果があるからな。しかも生命力1で攻防ともに0と言うね。コイツ自体は攻撃力が1あるからコイツ自体はサーチできないのが救い。

 

 ともかく俺の一ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト1でスピードラットを召喚。ターンエンド」

「スピードラットか。お前のデッキにはそんな重要じゃないカードだから、前半の防御のためだけに入れているってことだな」

 ばれてやがるぜ。

「でも今パラサイトを召喚されても痛くもかゆくもねえからな。スピードラットでエッグクラスターローチを攻撃。破壊」

「効果でドレインパラサイトを手札に加える」

「ターンエンドだ」

 今の状況で出しはしないだろ。

 

 男の二ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト2で大森林を発動。効果で種族:インセクトの全ステータスが1ずつ上がる。ターンエンド」

 俺の二ターン目だ。

「ドロー。チャージ。メガチャージは来なかったな。ターンエンド」

 互いに攻めることが出来ない状況だぜ。

 

 男の三ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト3でインセクトパーティーを発動。効果で山札から三枚を見て、種族:インセクトのモンスターを好きな枚数手札に加えて手札に加えなかったカードは山札の上に好きな順で戻す。ビッグマンティスとワイヤーパラサイトを手札に加えるぜ。ターンエンド」

「ビッグマンティスとワイヤーパラサイトのコンボは実際厄介だぜ」

 ワイヤーパラサイトの効果は攻撃を封印するからな。

 

 俺の三ターン目だ。

「ドロー。チャージ。ターンエンド」

 男の四ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト4でトリプルドローを発動する。ターンエンド」

「全く動きがないではないか。つまらん」

 相手側のお貴族さんはそう言った。しゃべらなければかわいいのになあ。

「動きがないと見ててつまらないという気持ちはよくわかるぜ」

 安定した戦いのために準備を整えているだけだ。

 

 俺の四ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト4で大地の叡智を発動。ターンエンド」

 男の五ターン目だ。

「そろそろ動くか。ドロー。チャージ。コスト2でブーストパラサイトを召喚。ターンエンド」

 ブーストパラサイトは相手がドローをしたときに自壊してドローするモンスターだ。手札補充に来たな。

 

 俺の五ターン目だ。

「ドロー」

「ブーストパラサイトを破壊して一枚ドロー」

「チャージ。コスト6でクワトロブースト。ターンエンド」

 手札にそろったな。

 

 男の六ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト4でビッグマンティスを召喚。攻撃力3防御力3生命力5 コスト4にしては強い。ビッグマンティスでスピードラットに攻撃。破壊。ターンエンド」

 俺の六ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト5で毒棘甲羅竜 ペルーダを召喚。ターンエンド」

 ダイヤモンドスパイクを次のターンで使えばいい。

 

 男の七ターン目だ。

「ようやく切り札を出したか。ドロー。チャージ。コスト6でクワトロブースト。ターンエンドだ」 

 俺の七ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト6でダイヤモンドスパイクを発動。ペルーダを選んでターンエンド」

 手札には鯵テーターもいる。ほぼ完ぺきだな。

 

 男の八ターン目だ。

「ドロー。コスト2でワイヤーパラサイトを召喚。召喚したときの効果で効果を持たない自分の場の種族:インセクトの下にこのカードを置く。ビッグマンティスの下に置かせてもらおう。さらにコスト6でインセクトマザーリボーンを発動。このカードはコスト4以下の自分の墓地の種族:インセクトのモンスターをコストを支払って召喚できる魔法カードだ。ビッグマンティスでペルーダに攻撃」

 ビッグマンティスがあっけなく破壊される。

 

 ビッグマンティスの中から触手が飛び出してペルーダに侵入した。

「ワイヤーパラサイトの効果発動。自分の上のモンスターが戦闘で破壊された時、自分の上のモンスターを破壊したモンスターを選んでPP(パラサイトポイント)を置く。そのあとこのカードは墓地に送られる。PP(パラサイトポイント)の置かれたモンスターは攻撃出来ない。これで場はスカスカ。ターンエンドだ」

「攻撃はもともとできねえから何てことはない」

 パラサイトにはコントロール操作があるからなあ。

 

 俺の八ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト4で鯵テーターを召喚。ターンエンド」

 男の九ターン目だ。

「ドロー。コスト1でビッグイモムシを召喚。効果なし。攻防0生命力1と倒されるために生まれた存在だ。インセクトマザーリボーンの効果でワイヤーパラサイトを召喚してビッグイモムシの下に置く。ビッグイモムシで鯵テーターに攻撃。ターンエンドだ」

 鯵テーターに攻撃させて破壊させようってか。



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六十三枚目 起死回生

 俺の九ターン目だ。

「ドロー。チャージ。鯵テーターでビッグイモムシに攻撃。破壊。

「ワイヤーパラサイトの効果で鯵テーターの攻撃を封印する」

「ターンエンド」

 鯵テーターは攻撃しなければならないのがきつい。

 

 男の十ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト5で蟲術を発動。このカードは一ターンに一度、墓地に種族:インセクトのモンスターを捨てることで一枚ドローできる。蟲術の効果でチャージパラサイトを捨てて一枚ドロー。さらに墓地からコスト2のブーストパラサイトを召喚。総員鯵テーターに攻撃。ターンエンド」

 手札消費なし2コスト1ドローとか強いな。

 

 俺の十ターン目だ。

「ドロー」

「ブーストパラサイトを破壊して一枚ドロー」

「チャージ。コスト7で焼鳥屋に賛成するにわとりを召喚。コスプレイヤー効果で手札に戻してコピーする。コスト2でビーコンパラサイトを召喚。ターンエンド」

 ワイヤーパラサイトはプレイヤーの攻撃でさえ封印出来るからな。一気に畳みかけるときにのみ攻撃をしよう。

 

 男の十一ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト2で墓地からビーコンパラサイトを召喚。さらに蟲術の効果で墓地にネクロパラサイトを置いてドロー。ネクロパラサイトをコスト4で召喚。効果で三枚ドローして、手札の種族:インセクトのモンスターを好きな枚数墓地に送る。フライングパラサイトとテンタクルスパラサイトとエッグランチャーパラサイトを墓地に送る」

「ビーコンパラサイトの効果でペルーダに攻撃してもらうぜ」

 パラサイトを全破壊した。よし。

 

 男は口角を上げた。

「ターンエンド。次のターンに切り札が来る」

 ピンチなのに生気を失ってねえ。

 

 俺の十一ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト7で焼鳥屋に賛成するにわとりを召喚。俺でお前に攻撃。そして焼鳥屋に賛成するにわとりでお前に攻撃。残り生命力は2。次のターンで終わりだ」

「とどめ寸前まで敵を追い詰めた奴に次のターンのことを口にした奴に次のターンは来ねえ」

 こいつも次のターンのことを口にしてたけど、トドメ寸前までは追い詰めてないもんなあ。

「ターンエンド」

 パラサイトは場に並んでいないと意味がない。すっからかんな場で何が出来るというんだ。

 

 男の十二ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト8でパラサイトマザークイーンを召喚」

 人のシルエットが現れた。

 

 シルエットはよく見ると寄生虫の集まりだった。寄生虫だけで人型を構成しているのだ。趣味の悪いデザインだなあ。

「俺はてっきりインセクトマザーを召喚するのだと思ってたぜ」

 インセクトマザーは種族:インセクトのモンスターを4体以上並べないと召喚できないからな。並べてるからインセクトマザーかと思ったけど的外れってわけだ。

「ターンの最初に自分の場か、自分の墓地の種族:インセクトのモンスター5種類を好きな順番で山札の下に戻すことで召喚できる。登場時効果で山札の下から5枚をこのカードの下に置いて、山札のパラサイトと名の付くカードを墓地に送る。俺は寄生郷 パラサピアを墓地に送る。パラサイトマザーの元々の攻撃力と防御力は0、生命力は1。だがなこのモンスターは下にある種族:インセクトのモンスターの枚数分全ステータスが上昇する」

 アルラウネ(アルティメット)と同じような効果だな。

 

 ステータス上げとは寄生虫らしくねえがまあ強いからいいだろ。

「なかなか強いじゃねえか」

「それだけではない。このモンスターの下にあるモンスターが全てパラサイトと名の付くモンスターならばこのモンスターの攻撃力はさらに5上昇する。マジェスティパラサイト」

「攻撃力11だと」

 ペルーダを二回殴れば倒せる火力と言うことだ。

 

 男はペルーダを指差した。

「パラサイトマザーでペルーダに攻撃。テンタクルスブレイク」

 パラサイトマザーから触手が伸びてペルーダを叩く。パラサイトマザーにペルーダの棘が刺さった。

「反動の効果で3ダメージだ」

「ペルーダを攻撃すれば相打ちだと思っただろ。寄生郷 パラサピアの効果発動。墓地のこのカードを山札の一番上においてシャッフルすることでこのターンモンスターが受けたダメージを0にして、このターン中ダメージを受けない。もちろんこの戦いで一回しか使えない効果だ」

 そういうことかよ。

 

 俺の十二ターン目だ。二枚目のにわとりかギロチンフェイスデビル……確率は二十数分の二。低いぜ。

「ドロー」

 来た。

「コスト6でギロチンフェイスデビルを召喚。効果でペルーダとパラサイトマザーに1ダメージ。ペルーダの効果発動、このモンスターは戦闘以外でダメージを受けるとき生命力を6にする。エネルギーヒーリングエクセキューション。ギロチンフェイスデビルでパラサイトマザーに攻撃。ノーダメージ。焼鳥屋に賛成するにわとりで攻撃。俺で攻撃。残り4。ターンエンド。次のターンで倒してやるよ」

「俺が不利になればなるほど、お前が不利になっていく」

 負け惜しみかよ。

 

 男の十三ターン目だ。

「ドロー。魔法発動。コスト10で寄飼壊生。自分の場に攻撃力10以上のパラサイトと名の付くモンスターがいる時のみ使用できる。プレイヤーを一人選んで、生命力の数値を入れ替える。もちろんこの戦いで一回しか使えない効果だ。それに俺はこれでターンを終わらせなきゃならねえし次のターンを行えなくなる」

「これを狙ってたのか」

 生命力を入れ替えるとはな。デメリットや条件がキツイが決まればこれより強いカードはねえ。



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六十四枚目 逆転の一手

 俺の十三ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト5でヒーリングブースト。生命力を1回復してドロー。ギロチンフェイスデビルの効果でペルーダとパラサイトマザーに1ダメージ。効果は言わなくても分かるよな。エネルギーヒーリングエクセキューション。そして俺でパラサイトマザーに攻撃。にわとりでパラサイトマザーに攻撃。ターンエンド。残り1だ」

 俺の十四ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト4でトリプルドロー。ギロチンフェイスデビルの効果でペルーダとパラサイトマザーに1ダメージ。パラサイトマザーを破壊する。俺で攻撃。にわとりで攻撃。ギロチンフェイスデビルで攻撃。残り1。ターンエンド」

 よし。また倒したぞ。

 

 男の十四ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト2で魔法発動。ネクロマスターの術。墓地からパラサイトマザーを回収する。さらに暗殺者の効果でペルーダを破壊」

 暗殺者はこれがあるのが痛い。

「マジかよ。もっと早くこうしてりゃ良かったんじゃねえのか?」

「もったいぶってただけだ。コスト8でパラサイトマザーを召喚。破壊されたことによって墓地に送られた五種類のパラサイトをこのカードの下に置く。パラサイトマザーでギロチンフェイスデビルに攻撃」

「手札の魔法発動。コスト7で虫取り網。このカードは相手ターン中でも使えるぜ。効果で攻撃してきた相手モンスターの攻撃を無効にする。次の相手のターンそのモンスターは攻撃できない」

「ターンエンド」 

 ギリギリセーフ。

 

 俺の十五ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト7で焼鳥屋に賛成するにわとりを召喚。コスト2で魔法発動。ネクロマスターの術。墓地からペルーダを回収して、ペルーダを召喚。ギロチンフェイスデビルの効果でパラサイトマザーに1ダメージ。一枚目のにわとりで攻撃。二枚目のにわとりで攻撃。俺で攻撃。ビーコンパラサイトで攻撃。残り2だぜ」

 ネクロマスターの術は制限カードだから、デッキに一枚しか入れられない……つまり次はない。

「ターンエンド」

 やたらしぶとかった。

 

 男の十五ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト4で墓地からビッグマンティスを召喚。ビッグマンティスでビーコンパラサイトに攻撃」

「ビーコンパラサイトの効果でペルーダに攻撃してもらうぜ」

「パラサイトマザーでペルーダに攻撃。破壊。ターンエンド」

 よし。

 

 俺の十六ターン目だ。

「ドロー。チャージ。ギロチンフェイスデビルの効果でパラサイトマザーに1ダメージ。一枚目のにわとりで攻撃。破壊。そして俺でビッグマンティスに攻撃。最後に二枚目のにわとりでトドメだ」

「ぐっ」

 場がすっきりした。疲れたぜ。

 

 なんとか勝てたぜ。手の内をバラされても困らないようにデッキを変えた。

「なんで俺のこと知ってたんだよ」

 男がしゃがみ込んで俺にひそひそと話す。

「なるほどね」

「バラしてもいい。だがこのことを公言したら勝った上に名誉を傷つけようとする下郎扱いされるぞ。証拠がないんだからな」

 手出しはできねえか。ドチクショウ。

 

 男は立ち上がってお貴族さんのところに行った。

「一度や二度の失敗で攻めるほど愚かではないからな。運が悪かっただけだろう」

「待たれよ。こちらが勝ったのだから領地を貰いたい」

「しょうがないな」

 お貴族さんは懐から地図を出して、観戦席のテーブルの上においた。

 

 お貴族さんとピンハネル伯爵が話し込んでるな。

「ヒマだなあ」

 ちょっと眠気がするな。まあいいや。立ったまま寝よ。 

「むにゃむにゃふにゃ」

「なんでこんなところで寝るんですか。神聖な教会ですよ。俺が傷つくから教会で寝てはいけないと神はおっしゃいましたぞ」

 体を揺らされて起きた。今ねてたのか。

 

 四十人ぐらい入ってきた。

「これ全部と戦うんですかね」

「半分がカードファイターなのでせいぜい五十回ですよ。せいぜい頑張ってください」

「長くなりそうですね」

 これだけ多いとさすがに十六回は負ける。

 

 結果的に言えば五十一戦四十勝は出来た。

「途中白目向きながら戦ってましたよ。あれは怖かったです」

「はぁーはぁー。これは死ぬ」

 疲れとかそういう次元じゃない。言い表せないけど敢えて言うなら眠気と蝕みって感じになると思う。

 

 疲れすぎて不思議と眠くねえ。

「それどころかもっと戦いたくて手が止まらねえ」

「今後二日間カードファイトを禁止させてください。カードファイト中毒を起こしている可能性があります。普通ならこれだけ短い間隔で戦っても中毒は起こさないんですけどね」

 前世から死んだことにも気が付かずにやってたぞ。このぐらいで中毒を起こすのも妥当ではある。

 

 一旦帰還してベッドに寝かされた。

「目がさえて眠れねえ」

 月明かりの中、ベッドに寝っ転がりながら羊を数えていた。それからはベッドの中でダラダラしていつの間にか眠っていた。

 

 目を覚ますと体がだるくて暖かかった。

「風邪を引いたのかもしれない」

 まずいな。元の体ならこのぐらい寝れば治るけど、子供の体だから拗らせそう。



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六十五枚目 茜天

アカネ視点です


 私はシンズルのいる教会に行った。

「ちゃーっす」

「アカネさんこんにちは」

 実は相談があってここに来た。

 

 教会にいた子供たちが無邪気に近づいてきた。

「じゃれんな。やめろ。登らるな。私は山じゃないぞ~」

「きゃっきゃっ」

 子供たちが私にじゃれついてくる。

「子供たちもアカネさんが来てくれて嬉しんですよ。なんだかんだ子供たちには優しいですからね」

「まぁそう言われると悪い気はしないな。カードハンターの仕事は人としての精神を削るけど、こうしていると人としての道徳性が治る気がする」

「実は私もなんですよ」

 褒められると照れる。

 

 懐から紙を出した。

「実は仕事を持ってきたんだ。報酬はいつも通り7:3でいいよな」

「いつも思うのですが、私がそんなに貰って大丈夫でしょうか? 私は公平に行くべきだと思うんですよ」

「私は戦えればそれでいいからな。10:0でもいいんだけど、それだとシンズルがうるさいからな。7:3だとギリギリ文句言われないかなと思っただけだ」

「そういうことなんですね。気遣いとかではなかったのですね」

 まあ戦闘狂キャラ演じているから割とすんなり受け入れてくれた。

 

 シンズルはお辞儀をしてから奥まで走った。神父に許可を取りに行ったのだ。

「あの神父なら不法侵入と脅しをしなければいいですよって言いそうだがな。律儀だねえ」

 私はその二つをしているのであの神父には嫌われているのだ。私もあの神父は嫌いだからおあいこだな。互いにシンズルがいなかったらトゥルーファイトしてためらいなく勝ちに行くぐらいには嫌い。

「ふほーしんにゅうってなーにー?」

「やっちゃいけないことだ。これをしたら人生ムダにしちゃうからやらない方がいい」

 しかしばれなければ大丈夫。

 

 シンズルが嬉しそうに走ってきた。

「許可をもらいました。おねえちゃんが出かけているからって悪いことしちゃダメだよ」

「えーやだー」

「うるせぇ! 私が言うのもなんだが悪いことはしちゃダメなんだよ。分かったか!」

 子供たちは泣きそうになって教会の中に入った。

 

 オボロボットカーを召喚した。黄色くて天井低くていつ見ても変な見た目してるんだよなあ。

「金がないから贅沢は言えねえがよ。自分で動かすのは案外面倒くせえ」

 ちょっと遠めだからなあ。

 

 オボロボットカーに乗った。

「私が動かしますからね」

「それだけはご勘弁……いただきたい」

「大丈夫ですって」

 この眩しい笑顔の前じゃ何も言えないのが歯がゆい。このままじゃいけないってのは分かってるんだけどね。

 

 仕事の現場についた。

「ここが仕事の現場だ。なんでもいっぱい出るんだとよ」

「何がですか?」

「トバクファイトで身ぐるみを剥ぐ奴らだ。法に触れてはないから私らに負けたことにして始末させたいんだろ。悪事をしてない奴らを檻にぶち込むことは出来ないからな」

 トバクファイトに勝ったのにカードを取らない奴は嫌いだ。

「そういうことですか」

 居住区まで行った。

 

 ご丁寧に扉まであるなんてな。

「あのー。失礼しまーす」

 シンズルが何度も戸をたたく。

「うるせえ」

 ガラの悪い男たちが出てきた。

「ずみまぜん!」

 シンズルが泣きだした。こいつだけは許せん。

 

 デッキを構えた。

「二人ともいい女じゃねえか。負けたら俺様のものにしてやるぜ」

「なるほど。なーに言ってんだ。お前だけは絶対に許せねえから、私が負けることはねえよ。見ててねシンズル。今倒すから」

「何も悪いことしてないのにいきなり来て扉を叩きまくったことに怒ったらこうなってたぜ。正義とは何なんだ」

「正義とは私とお前にはないものだ」

「「トバクファイトエントリー」」

 倒してやるよ。

 

 あっさり片付いた。

「こんな雑魚デッキじゃ、どんなに回し方が良くても私には勝てないぜ」

 取り敢えず一番レアなカードをもらって、シンズルに渡した。

「そもそもハンデスだったから相性が良くて勝てたと思うんですけど」

「それはある」

 墓地ソースだから墓地を増やしてくれるハンデスは実際ありがたい。

 

 男が殴りかかってきた。脚を引っ掛けて転ばせてから思いっきり踏んで、ツボをつき、しばらく動けなくした。

「絨毯になってろバーカ」

「私はこんな下劣な人がアンゼを使っていたのかと思うと泣きたくなりますね」

「アンゼはハンデスに使えるからなあ。あと普段子供たちの前で強がって泣けない分いっぱい泣いてもいいけど、今はダメだ」

 泣きたくなるって言ったら本当に泣くのがシンズルだからね。そこがかわいいところ。

 

 シンズルがしゃがみ込んだ。

「入っていいですか?」

「ダメに決まってんだろ」

「アカネさんがんばってください」

 シンズルは手を振った。

 

 居住区に入ると薄暗い洞窟になった。魔法カードの力で空間を変えているのか。

「ご苦労なことだな」

 ふと後ろから殺気を感じた。

「危ないなあ」

 ガラの悪い男たちとマイコニドがいた。

 

 マイコニドは胞子を噴出した。

「これで眠らせようとしたってことだな。陳腐だなあ」

 後ろからくすぐられた。しまった。バーンウィザードにくすぐられてる。

「あひゃひゃひゃひゃ」

 マイコニドの胞子を吸って気絶した。



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六十六枚目 茜囚人録

 目を覚ましたら手錠をされてた。

「カードデッキはもちろん奪われてないな」

 シンズルの受け売りだけどトバクファイトに勝つか渡されるかしていないのにカードを奪うと、不幸な目にあいやすいらしいからな。あいつらもそこまでバカじゃなかったか。

「それか手が使えないからカードも使えねえだろって言う驕りかもしれないな」

 それだったらバカすぎる。

 

 こんな時のために紙の中にカードを入れてあるんだよなあ。

「髪もちゃんと調べとけよ。まああっても取れねえか」

 頭を振ってカードを落とした。手でカードを拾って取る。

「ネットスラッシャーを召喚」

 姿が現れたけどすぐに消えた。

 

 そういうことかよ。

「モンスター封印結界か」

「まあな。モンスター使われて出られると困るんだよ」

 檻の外から私を見つめてくる奴がいた。さっきまで隠れてたのか。

 

 そう言えばシンズルはどこだろ。

「シンズルはどこ?」

「俺たちに招待されて今頃マイコニドの胞子入り紅茶を堪能しているぜ。ちなみにここは防音壁が使われているから、どれだけ騒いでも気づかれねえ」

「なんだと」

 うかつだった。

 

 シンズルがケガをしているガラの悪い男たちに連れられる。

「ありがとうございます」

「いきなり殴られて死ぬかと思ったぜ」

「すみません。でも何か違和感があるんですよね。アカネさんが不法侵入と脅し以外の悪いことをするなんてありえないと思うんです」

 盗賊ゴブリンが後ろから飛びかかる。

 

 あっぶねえ。

「よけろ!」

「え? あ……はい」

 シンズルは盗賊ゴブリンの攻撃をよけて、カードを出した。

「魔法を発動させていただきます。天界の護光」

 カードが光る。サングラスしてるから眩しくないんだなこれが。

 

 鉄がひしゃげる音が聞こえて牢屋から出られた。

「ロックキャンセラー使いますね」

 キィィィンという音が聞こえてから手錠が消えた。

 

 ガラの悪い男たちがデッキを構える。

「倒してやる」

「やめとけ。ボコボコにされるぞ。まあ私たちにボコボコにされた挙句カードを持っていかれたいのなら、止めないけどな」

「なんだとぉ」

 こう言ったらだいたい顔真っ赤にして倒しに来るのが面白い。黒覆面ヤローには引っかからなかったんだけどね。

 

 なんだかんだ楽々倒せた。

「これ連続で戦っても勝てる奴だな」

「サクサクですね」

 みんながみんな示し合わせたようにハンデスデッキだったからな。

 

 嫌なオーラが突き刺さる。 

「これは強いぞ」

 ガラの悪い男たちが壁に近づく。

 

 筋肉の塊のような男が現れた。

「君たちがカードハンターだね?」

「すみません。お邪魔してます」

「ここのボスをやっている者だ。名前は言わなくていいだろ。どうせ負けるんだからな」

 筋肉の塊のような男はデッキを構えた。

 

 シンズルのデッキが赤く光る。

「俺のモンスターを見ろ」

「倒しますわ」

「「トバクファイトエントリー」」 

 カードを並べた。

 

 互いに二ターン目まで動きはなかった。シンズルの三ターン目だ。 

「ドロー。チャージ。コスト2で有翼の剣士を召喚します。ターンエンド」

 筋肉の三ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト3でハーピィの護衛を召喚。ハーピィの護衛は防御力3攻撃力0……攻撃も出来ないから、ターンエンド」

 革の鎧を身につけたハーピィが現れた。

 

 シンズルの四ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト4で権威の御業を召喚します。攻撃力0です。ターンエンド」

 筋肉の四ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト3でプラスリロードを発動。二枚ドローして手札を一枚墓地に送る。さらに墓地に送られたハーピィダンサーの効果発動。効果で手札から捨てられた時場に出す。ターンエンド」

 ハーピィは数をそろえるには抜群のカード群だ。だがしかし攻撃力があまりない。攻撃力の高いカードを出せればシンズルは勝ちやすくなるのだ。

 

 シンズルの五ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト5でアンゼリミッター:ブレインを発動します。二枚ドローしてターンエンドです」

 筋肉の五ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト4でトリプルドローを発動。ターンエンド」

 

 そこから七ターン目まで膠着状態だった。

 

 シンズルの八ターン目。

「ドロー。チャージ。ようやく出ました。コスト5で賢さの試練を与えるものをいたします。ターンエンドです」

 筋肉の八ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト6でハーピィの住処を発動。このカードは場にある限りハーピィと名の付くモンスターの召喚コストを2下げる魔法だ。コスト2でハーピィニンジャを召喚。召喚された時の効果で山札からハーピィと名の付くモンスターを一枚デッキから加えて、墓地に送る。墓地に送られたハーピィゲリラの効果で手札から墓地に行ったら場に出る。ハーピィゲリラの効果で賢さの試練を与えるものには手札に行っててもらうぜ。ハーピィニンジャで有翼の剣士に攻撃。破壊。ターンエンド」

「はわわ。そんな……」 

 シンズルが涙目になる。

 

 シンズルの九ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト9で光り輝くものを召喚します。効果であなたの二ターン後になるまですべてのモンスターの効果を封印します。パワーオブコスモ」

「厄介な効果だぜ」

「ターンエンドです」

 一時しのぎにしかならないぞ。



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六十八枚目 堕

 筋肉の九ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト5でハーピィゴーストを召喚。ターンエンド」

 シンズルの九ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト8で堕ちる傲慢の翼を召喚します。このカードは相手の場の全てのモンスターに一回ずつ攻撃可能で防御力は相手の防御力の一つ上です。しかし攻撃力が0なんですよね」

「なんでそんなカードをわざわざデッキに入れているんだ。バカかよ」

「あう……」

 シンズルが涙目になる。

「なんか考えがあって入れてるんだよねっ」

「は、はい」

 まあその考えが何か分からないんだけどさ。

 

 なんであんなカード入ってるんだろ。

「堕ちる傲慢の翼でハーピィゲリラに攻撃します。ハーピィダンサーに攻撃です。ハーピィの護衛に攻撃しますよ」

「でも攻撃力ねえんだろ?」

「はい。それに三回攻撃したとき堕ちる傲慢の翼は破壊されます。堕ちる傲慢の翼は破壊された時、4枚ドローが可能です。ターンエンド」

 四枚ドローしただけか。

 

 筋肉の十ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト5でハーピィの翼を発動。自分の場にいるハーピィの数だけドローする。ターンエンド。あと一ターンで効果が使えるようになるぜ」

 シンズルの十一ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト9で調和する善意を召喚します。このモンスターの効果であなたはあなたから数えて二ターン後まで魔法を発動できません。そして光り輝くものと一緒に場にいるときに負ける代わりに手札を五枚戻して負けを防げますが……まあ今は関係ないですよね。ターンエンドです。調和する善意の攻撃力は0ですので、攻撃しても意味ないんですよ」

 次は魔法が使えないのか。

 

 筋肉の十一ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト3でハーピィの呪術師を召喚。効果で相手モンスター一体のステータスを入れ替える。調和する善意の攻撃力と生命力を入れ替えるぜ。生命力が0になったモンスターは破壊される」

 調和する善意が破壊される。

「そんな方法がありましたのね」

「そんな方法があったんだよ。ターンエンドだ」

 ステータスに0があるモンスターを破壊できるモンスターか……。厄介だな。

 

 シンズルの十二ターン目だ。

「ドロー。コスト5で賢くて善なる存在を召喚します。そして墓地からコスト4でアンゼリミッター:ブレインを発動します。4枚ドローしますね。効果で手札を一枚捨ててもらいます。コスト2でメガチャージを使用します。ターンエンド」

 筋肉の十二ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト8でハーピィの首長を召喚。こいつは俺の場にハーピィと名の付くモンスターが4体以上いなければ出すことは出来ないが、その分強力な効果がある。4体以上いるなら俺の場のすべてのハーピィと名の付くカードは防御力分攻撃力を増加させるぜ。さらにチャイルドハーピィを召喚。5体以上ならこのモンスターの攻撃力を半減して相手に直接攻撃出来る。ハーピィの首長の防御力と攻撃力はそれぞれ元々4。ハーピィの首長の攻撃力は8となる。半減して攻撃力4でプレイヤーに攻撃」

 シンズル:生命力10→8

「ハーピィの護衛で有翼の剣士に攻撃。ハーピィニンジャで有翼の剣士に攻撃。ハーピィダンサーで有翼の剣士に攻撃。破壊。ターンエンド」

 一気にピンチになったぜ。大丈夫だと良いんだがなあ。

 

 シンズルの十三ターン目だ。

「ドロー。手札を一枚捨ててもらいます」

「ハーピィダンサーを捨てるぜ。出でよハーピィダンサー」

「チャージ。墓地のコスト8以上の種族:アンゼのモンスターをデッキの一番下に置くことで召喚コストを3軽減出来ます。堕ちる傲慢の翼を山札の下に置いてコスト5で夜と未来と忘却の天使を召喚します。好きなだけドローしてもいいですよ。必ず一枚はドローしてくださいね」

「まあ引かせてくれるなら引いてやるよ」

 筋肉はカードを三枚ドローした。

 

 シンズルの口角が上がった。

「夜と未来と忘却の天使の効果を発動します。相手がモンスターの効果でドローを行った場合、相手モンスター一体の効果を引いた枚数と同じ数の相手のターンまで封印します。だいたい3ターンハーピィの首長の効果を無効化しますね。忘却の波動。さらにコスト8で多翼の天使を召喚します。攻撃力と防御力は場の種族:アンゼの数と同じになります。だいたい4です。夜と未来と忘却の天使でハーピィの護衛に攻撃。攻撃力は4です。多翼の天使でチャイルドハーピィに攻撃。破壊。ターンエンドです」

 よし。一気にモンスターを減らしたぞ。 

 

 筋肉の十三ターン目だ。

「ドロー。チャージ。ターンエンド」

 シンズルの十四ターン目だ。

「ドロー。チャージ。肉の体を持ち燃え上がる戦車は敵を打ち払う。コスト10で意思の支配者を召喚します」

 無数の眼が付いた燃え上がる車輪が出てきた。凄い見た目だなあ。

「意志の支配者の効果で生命力を5減らしてこのターン中私の場の全ての種族:アンゼの攻撃力を6上げます。その代わり私に次のターンはありませんがね」

 この効果を使う前に堕ちる傲慢の翼を召喚すればよかったと思うけど、泣くから黙っておこう。

 

 でもなんでこんな強いカード持ってるんだろ。

「そんな強いカードどこで手に入れたんだよ。それに調和する善意とかも持ってなかっただろ?」

「出発する前に神父様が貸してくださいました。神父様のお父様の遺品なのですが、神父様は扱えませんのでずっと借りててもいいと言われました」

「なるほどな」

 種族:アンゼで使うなら強いな。



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六十九枚目 勝利

 シンズルは指を差した。

「多翼の天使でハーピィの首長に攻撃。1残りましたか。賢くて善なる存在でハーピィの首長に攻撃します。破壊。光り輝くものでハーピィの護衛に攻撃します。破壊。賢さの試練を与えるものでハーピィニンジャに攻撃します。破壊。夜と未来と忘却の天使でハーピィダンサーを攻撃します。破壊。ターンエンドです」

 一気に攻めてるな。

 

 筋肉の十四ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト2でネクロマスターの術。ハーピィの首長を手札に戻す。ターンエンド。そして俺の十五ターン目だ。ドロー。チャージ。ターンエンド」

 シンズルの十四ターン目だ。

「ドロー。チャージ。意志の支配者でハーピィダンサーに攻撃します。破壊。多翼の天使でプレイヤーに攻撃します。夜と未来と忘却の天使でプレイヤーに攻撃します」

 筋肉:生命力10→5

「ターンエンドです」

 生命力だけで言えばシンズルが不利な状況なんだよね。

 

 筋肉の十六ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト5で風に舞う鳥人を召喚。ターンエンド。こいつの防御力は2生命力は4だ」

 シンズルの十五ターン目だ。

「ドロー。多翼の天使で風に舞う鳥人に攻撃します。夜と未来と忘却の天使で風に舞う鳥人に攻撃します。破壊です」

「風に舞う鳥人は破壊された時に墓地からハーピィと名の付くモンスターを二枚まで手札に戻して二枚まで手札を墓地に捨てることができる。墓地のハーピィダンサー二枚を手札に加えて墓地に捨てる。ハーピィダンサーの効果で場に出す」

「ターンエンド」

 最低でも二回は攻撃を防げるという訳だ。

 

 筋肉の十七ターン目だ。

「ドロー。コスト6でハーピィの骸術師を召喚。登場時効果で墓地からハーピィニンジャを場に出す。この効果を使った場合俺はこのターンモンスターを場に出せない。ターンエンド」

 シンズルの十七ターン目だ。 

「ドロー。コスト10で精霊物質化を発動します。場の種族:アンゼのモンスター二体を相手に直接攻撃可能させます。多翼の天使でプレイヤーに攻撃します。夜と未来と忘却の天使でプレイヤーに攻撃します。私の勝ちです」

 筋肉生命力:5→0

 

 場がすっきりする。

「浮いていますね」

 カードがいくつか浮いて鎖のような模様が浮かび上がっていた。

「戻しますね」

 シンズルがカードに触れると、カードから出た青い雷がシンズルの手を拒んだ。

「きゃっ」

 シンズルは尻餅をついた。

 

 シンズルは涙目になる。

「なんでこうなるんですかぁ?」

「持ち主を拒むカードか。芸術点が高いな……ああっとそんなこと言ってる場合じゃねえ。シンズル大丈夫か?」

「ええ。大丈夫です」

 シンズルったら強がっちゃて。

 

 シンズルを支えて立ち上がった。

「今の何なんですか」

 カードがシンズルの元に戻る。

「使えなくなってますね。あと七日は使えなさそうです」

 強力な分間を開けないと使えないのか。

 

 シンズルは考えこむ。 

「トバクファイトで勝ったのですが、特にめぼしいものがなさそうなんですよね。でもカードハンターとしてもらわなければ、マナーが悪いですよね。あの、アカネさんはどれにしたらいいと思いますか?」

「デッキ全部奪えば二年ぐらいはトバクファイトで身ぐるみ剝げなくなるから全部貰っとけよ」

 それに売れば生活費になるからな。

 

 シンズルが首を横に振った。

「デッキを全部奪うのはひどいです」

「冗談だって。カードハンターとしてやっていいこととやっちゃいけないことの区別は付いてるからな」

「いくら冗談でも言っていい事と悪いことがありますよ」

 シンズルが頬を膨らませて怒ってる。シンズルは良い子だなあ。割と本気でデッキ奪おうと思ってたことは内緒にしておこう。

 

 シンズルは何かを思いついたかのような顔をした。

「ではハーピィの呪術師を四枚ください。割と便利ですからね」

「それぐらいくれてやるよ」

 シンズルはハーピィの呪術師を四枚受け取った。

 

 筋肉とガラの悪い男たちは逃げる。

「俺たちは不法侵入されたからまだこっちが正しいぞ」

「マイコニドの胞子が体の中にあるから、裁判所で証拠として吐き出せば一発だぞ。私たちはマイコニドを持ってないからな」

「しまった」

「いつものようにマイコニドの胞子吸わせるのが悪いんだぞ」

 うかつだなあ。

 

 ガラの悪い男が構えた。

「ここでいなくなってもらえば証拠不十分だぜ」

 ハーピィが大量に召喚される。

「サプライズホバーボードを召喚」

 サプライズホバーボードを出して、シンズルを乗せる。

 

 何かを言おうとしたシンズルの口を手でふさいだ。

「助けを呼んできてくれ。一人や二人じゃ無理だ」

 サプライズホバーボードを無理やり発進させる。

「自棄を起こしたか」

 オボロボットカーを召喚してから中に入って攻撃をしのぐ。

 

 耐え切れなくなったのかオボロボットカーが消えた。

「これは戻るまでに耐えられないだろうな」

「よくわかっているじゃないか」

 戻らないのが一番いいんだけどね。助けを呼んでくれとでも言わないとシンズルは逃げないからなあ。

 

 あっそうだ。

「まあ待て。レアカードやるから見逃してくれ。強いカードがあればそれだけ身ぐるみを剝ぎやすいぞ」

「そういうことなら見逃してやる」

 デッキケースに手を近づける。デッキケースの近くにある煙を出す筒を取り出して煙を出す。どさくさに紛れてサプライズホバーボードを召喚してデッキケースを破壊させた。これで一年ぐらい大人しくなるだろ。デッキケースの修理代はバカにならないからな。

 

 玄関で待っているとシンズルと大勢の人がいた。

「みなさんここの人たちに恨みがあるらしいです。報酬はすでにもらったので帰りましょう」

「ああ。いつも仕事が早いね」

 報酬を7:3にした。



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七十枚目 スケープゴート

いきなり視点戻るやんけ


 よし。これで行けるぞ。お嬢様の勝ちだ。

極大妖精(ビッグフェアリー)でトドメですわ」

 極大妖精(ビッグフェアリー)はお嬢様が元々持っていたカードだ。コストは20と高いものの攻撃力は15で防御力は5生命力は20となかなか攻撃的なモンスターなので攻撃すれば大抵相手を一撃で倒せるのが強みである。

「ぐああ」

 場がすっきりした。

 

 実技という体でお嬢様にも対処してもらったら一気に楽になったなあ。あの数を一人で対処するのは難しい。

「結果的に領地も多少増えましたわ」

「防衛で勝っても領地が広がるのは良いですね」

 末期の鎌倉幕府が聞いたらうらやましがりそうなシステムだよね。

 

 お嬢様は地図を広げた。

「今はこのぐらいの領地になっていますわね」

「爆発的に増えてますね」

 これもすべて爆発で雇用主の弟の悪事がバレたせいだ。

 

 空間に穴が開いた。

「今日はもう定員オーバーのはずなんだがなあ」

 デッキを構える。

 

 クマがすごく、髪がぼさぼさしたショートカットでゆったりした服装の女の人が現れた。

「カネスキちゃん。こんにちは」

「ごきげんよう」 

 知り合いかな。誰だろ。

 

 お嬢様にコッソリ耳打ちする。

「この人がどなたなのか知っているんですか?」

「有名人のドロウちゃん。私はラジー・フラム。フラム伯爵家の長女だよ。君はドロウちゃん。これで知り合いだね」

「ええ。そうですね。それではまた。積もる話もあると思うのでお二人でゆっくりしてください」

 ラジーさんが手をつかむ。

 

 ラジーさんが腕を引っ張り上げる。

「行っちゃうの? カードファイトをしようよ」

 ラジーさんはデッキケースを揺らす。

「お嬢様ぁ……」

「まあカードファイトが絡まなければいい人ですわよ」

 お嬢様は生贄の山羊を見るような目で俺を見た。

 

 ラジーさんのデッキが赤く光る。

「俺じゃないですよね」

「ドロウちゃんだよ。あっそうだ。戦術は教えないでくれないかな。私ドロウちゃんのこと名前しか知らないから、互いに知らない方がフェアだからね」

 めんどくさそうだなあ。

 

 ラジーさんの一ターン目だ。ちなみにラジーさんのジョブは暗殺者である。貴族とはミスマッチな感じだなあ。

「チャージ。コスト1でマジカランプを発動。このカードは場に置き続けるよ。ターンエンド」

 マジカランプねえ。また俺の知らないカードが来たよ。見た感じただのランプだな。

 

 俺の一ターン目だ。

「ドロー。チャージ。ターンエンド」

 六ターン目まで動きがなかった。お互いドローとチャージしかしない時間が過ぎ去っていくのは、ちょっと気まずかったね。

 

 ラジーさんの七ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト3でバーサーカーを召喚。さらにコスト2でダメージスイッチを発動。このカードは場に置かれ続けて、すべてのプレイヤーは自分のターン中にダメージを受けなくなる」

 バーサーカー……攻撃力は6もあるが、防御力は0で半分の確率で味方に攻撃してしまうモンスターだ。今の状況だと場ががら空きな俺は一気にピンチになる。クワトロブーストの最後の一枚でペルーダが来るとか運がないわ。

「バーサーカーで攻撃。効果を発動するよ。コインの裏か表かを宣言して外せば自分に攻撃しなければいけないんだよね。他のモンスターがいる場合モンスターに攻撃するんだけど……今は関係ないよね」

 コインが現れた。

「私は裏かな」

 表が出た。バーサーカーはラジーさんに攻撃する。まあダメージスイッチのおかげでダメージはないんだけどさ。

「ターンエンド」

 何をしてくるんだ。

 

 俺の七ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト5で毒棘甲羅竜 ペルーダを召喚。ターンエンド」

 手札にはダイヤモンドスパイクがある。これで次のターンに……

 

 ラジーさんの八ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト3でバッドラックを発動。このカードは場に置き続ける。発動時に一枚ドローする代わりに自分のコイントスで表が出た時、裏として扱う。バーサーカーでペルーダに攻撃。表」

 コインは表が出た。が、バーサーカーはラジーさんを攻撃した。

「ターンエンド」

 何が目的なんだ。不気味すぎる。

 

 俺の八ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト8でダイヤモンドスパイクを発動。ペルーダに使ってターンエンド」

 ラジーさんの九ターン目だ。

「ドロー。バーサーカーで攻撃。表」

 裏が出た。

「ターンエンド」

「何がしたいんですかね。真剣にやってください。怒りますよ」

「やる気は大いにあるよ。ただ初見だと意味不明なだけってのは認めざるを得ないよ」

 もしかしてエクストラウィンか。しまった。

 

 俺の九ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト7で焼鳥屋に賛成するにわとりを召喚。コスプレイヤーの効果手札に戻してステータスをコピーする。俺でバーサーカーに攻撃。破壊。ターンエンド」

 ラジーさんの十ターン目だ。

「ドローする前にマジカランプの効果発動。プレイヤーが三回以上攻撃された場合、この魔法を破壊してデッキか手札か墓地から火の魔人 イフリートを場に出す」

 炎の巨人が現れた。蒸し暑いぜ。冬に召喚してくれ。



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七十一枚目 イフリート

 火が燃え広がって壁を作った。

「早く消火しないとまずい」

「これただの幻だから」

 ラジーさんは炎に手を突っ込むが、ちっとも火傷していない。それどころか手が熱くなってる様子もなかった。

 

 この熱気ハチャメチャだ。

「くらえ。イフリートで攻撃。フレイムブレス」

 炎の巨人が吐き出した火炎によってペルーダがあぶられる。

「どあっち」

 火の粉がかかってすげえ熱い。

 

 ラジーさんはにやつく。

「イフリートは攻撃するとき相手プレイヤーの生命力を2減らす効果を持っているんだよね。しかもイフリートはバトルするときに時に攻撃力と防御力が相手の攻撃力と防御力を1ずつ上回る能力があるから反動や迎撃みたいな反撃系統の効果も受けないの。そして生命力は11もあるんだよね。まあマジカランプの効果でしか場に出せないってのが欠点なんだけどさ。どーよこのモンスター。手に入れるのに苦労したんだよね」

 褒めてほしい感が満開だな。

 

 忌憚のない意見をぶつけるか。

「ちょっとずるいですね」

 俺のスタイルは盾で殴って剣で殴るスタイルだからな。盾で殴るのを否定されちゃずるいとも言いたくなる。

「これでターンエンド」

 イフリートを出すために殴られてたってわけだ。

 

 俺の十ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト8でチャージブースト。コスト2でビーコンパラサイトを召喚。俺でイフリートに攻撃。ターンエンド」

 今のドローのおかげで鯵テーターもギロチンフェイスデビルも来たぞ。

 

 ラジーさんの十一ターン目だ。

「ドロー。コスト2でエスケープゴート発動。自分の場のモンスター一体を破壊して二枚ドローするよ。私はバーサーカーを破壊してドローするね。イフリートでビーコンパラサイトに攻撃。フレイムブレス」

「ビーコンパラサイトの効果でペルーダに攻撃してもらう」

「何それズルイ。まあいいや。ターンエンド」

 あと3回か。まあ大丈夫だな。

 

 俺の十一ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト4で鯵テーターを召喚。コスト6でギロチンフェイスデビルを召喚。ギロチンフェイスデビルの効果発動。イフリートとペルーダに1ダメージ。だが、ペルーダは戦闘以外でダメージを受けるとき生命力は6になる。超絶コンボ、エネルギーヒーリングエクセキューション。俺でイフリートに攻撃」

 残りは2だな。

「鯵テーターとギロチンフェイスデビルとビーコンパラサイトでも攻撃はしますが、特に何も変わらないのでターンエンドです」

 ラジーさんの場にはイフリートしかいない……つまりイフリートを倒せば勝てる。

 

 ラジーさんの十二ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト9でトリプルアタック。効果でこのターン中3回攻撃が出来るよ。イフリートを選ぶ」

 生命力を回復する魔法を入れておくんだったぜ。

「イフリートでペルーダに三回攻撃。トリプルフレイムブレス」

 俺の生命力は0になって場がすっきりした。

「ダメージを与えるんじゃなくて生命力を減らすから、バーンメタのメタにもなるんだよねこれ」

 なるほどなあ。

 

 これが領地を取り合う戦いじゃなくてよかったよ。

「この国には闘争裁判制度と言うものがあるのを知ってる?」

「なんですかそれ」

 証拠を出し合って互いに探り合うことを揶揄して闘争裁判と名付けられるようになったとかいう逸話がありそう。

 

 でもそんな逸話があったとしてもそれが俺にとって何の関係もないことは確かだ。雑談をしに来たのかな?

「大犯罪を起こした貴族の裁判の結果をカードファイトの結果で決めるっていう名目のシステムだよ」

「それって強い奴さえいればどんな犯罪も起こし放題ですよね。この国ヤバいですね」

「そうじゃないんだよね。この国の伯爵家の一員として言ってはならないことだけど、証拠が無くても犯罪に出来るからもっとひどいよ。まあ半数以上の貴族の合意がないと闘争裁判が起こせないっていうのが救いかな」

「擁護できないものなんですね」

 わざわざカードファイトなんかせずに闘争裁判起こした方が手っ取り早いのに。

 

 お嬢様に聞くと耳打ちしてくれた。

「闘争裁判で領地が没収されれば合意した貴族に領地が平等に配られますからね。しかしながらそれでは銀貨を詰めこめるだけ詰め込んだ宝箱から銀貨を一枚だけ貰うようなもので、うまみがありません。独占したいからわざわざカードファイトを挑んだと思われます」

 なるほどなあ。勝てないから自棄を起こしたか。

「大犯罪を起こした側が負けたら最低でも財産と領地を没収されるから、領地と財産が欲しい人たちはどうしてもピンハネル伯爵が弟と協力して大犯罪を起こしていた屑野郎ってことにしておきたいんだよね」

 何というか性根が悪い。

 

 なんでそんなシステムがあるんだ。

「基本的には一番カードファイトが強い人がカードファイトをするから、カネスキちゃんとドロウちゃんには強くなってもらわないとね。この領地カードファイトが強い人あまりいないもん。私やラーナ程度に負けているようじゃ話にならないよ。修業を付けなければいけないね」

「そうですね。無限コストチャージにも少し準備がかかりますからね」

 修業展開か。



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七十二枚目 ウォーターフォール滝

 俺とお嬢様は滝に打たれながらカードファイトをしている。

「このウォーターフォール滝に打たれながらカードファイトを行うことで冷静な判断が出来るようになる。ウォーターフォール滝は冷たくて上から降る水もまあまあ多いからな」

「命にかかわりますわよ」

「カードファイトを行っているときって結界で防がれてるはずじゃなかったの? 凍えるほど寒いんだけど」

「よくぞ聞いてくれた。結界で防げない設定にもできるのだ。それになんだかんだ死なないように考えてるから」

 クソォ。温かいところにいやがって。許せねえ。

 

 なんとかお嬢様に勝てた。お嬢様のデッキは50枚にしたので今までよりちょっと回りにくいのだ。

「危なかったぜ。クシュン」

「寒いですわね。へくしゅん」

 凍えるほど寒い。

 

 ラジーさんの召喚した牛の怨念で暖を取った。

「あったかいです。この後もう一回やってもらうからね」

「お父様……ひいてはピンハネル家存続のため。仕方ないですわ」

 声が震えている。やりたくないことをすすんでするなんてカネスキちゃんは良い子だね。

 

 ラジーさんが牛の怨念を消してからもう一度滝の中に入った。

「二対一でいいよ。冷静じゃない子を倒すのに一対一だなんてフェアじゃないからね」

 ラジーさんは温かいところに座っている。一人だけ温かいところに座りやがって。

「「「カードファイトエントリー」」」

 お嬢様のデッキが赤く光った。

 

 五ターン目まで動きはほとんどなかった。敢えて言うならマジカランプがあることと、俺の召喚したハイパービーストがラジーさんの召喚したベビーケルベロスに倒されたぐらいかな。 

 

 お嬢様の六ターン目だ。

「ターンスタート。ドロー。チャージ。コスト6でタイターニアを召喚しますわ。さらにコスト1で逆転の術を使用しますの。効果でこのカードファイト中、私のコストゾーンのカードはすべて表向きになって、コストゾーンに置かれるカードはすべて表側になりますわ。タイターニアでベビーケルベロスに攻撃。破壊しましたの」

「あらら。壁が無くなっちゃった。好都合だね」

「ターンエンドですわ」

 マジカランプがあるからうかつに攻められない。

 

 ラジーさんの六ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト6でコストマジック5を発動。合計コストが5になるようにデッキから魔法を発動してシャッフルする。ダメージスイッチとバッドラックを発動して一枚ドロー。ターンエンド」

 着々と準備を整えていってるな。

 

 俺の六ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト7で焼鳥屋に賛成するにわとりを召喚。コスプレイヤー効果で手札に戻して、ステータスをコピーする。ターンエンド」

 お嬢様の七ターン目だ。

「ターンスタート。ドロー。チャージ。コスト7で妖精王オベロンを召喚しますわ。ターンエンドですの」

 攻めあぐねているな。

 

 ラジーさんの七ターン目だ。

「ドロー。コスト5で転送ゴブリン兵士を発動。デッキからコスト3以下のモンスターを場に出す。バーサーカーを場に出すぞ」

 バーサーカーが現れた。またか。

「出てしまいましたわね」

「とてもマズいですよ」

 ああなったらバーサーカーでひたすら自分に攻撃するからなあ。

 

 ラジーさんの準備はこれで整ったわけだ。

「バーサーカーで攻撃。表」

 バーサーカーはラジーさんに攻撃した。

「ターンエンド」

 あと二ターンだ。

 

 お嬢様の七ターン目だ。

「ドロー。コスト3でいたずら妖精 パックを召喚しますわ。そしてパックを破壊しますの。コストを1追加しますわ。パックとコスト2を使ってパックを召喚。破壊してコストを1追加しますわ。ループ証明。あと5回繰り返しますわ。タイターニアでバーサーカーに攻撃しますわ。破壊しましたの」

「あらら」

「ターンエンドですわ」

「攻撃しないんだね。意外だなあ」

 したくても一気にとどめをさせるようになるまで攻撃が出来ねえんだよなあ。

 

 ラジーさんの八ターン目だ。

「ドロー。コスト8でチャージブーストを発動。ターンエンド」

 手札を整えたか。

 

 俺の七ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト6でクワトロブースト。ターンエンド」

 二枚目のにわとりが来た。これで一気にいけそうだ。

 

 お嬢様の八ターン目だ。

「ドロー。さらにコスト3でマジックバウンスを発動しますわ。マジカランプを手札に戻してもらいます。パックとコスト2を使ってパックを召喚。破壊してコストを1追加しますわ。ループ証明。あと6回繰り返しますわ」

 コストゾーンに極大妖精(ビッグフェアリー)が落ちた。回収しないとまずいぞ。

「マズいですわね。パックとコスト2を使ってパックを召喚。破壊してコストを1追加しますわ。ループ証明。あと2回繰り返してターンエンドですわ」

「あらら。もう一回最初からになっちゃった」

 でもマジカランプはがせたのはいいな。

 

 ラジーさんの八ターン目だ。

「やっぱ二対一ってのはダメだったかな。滝に打たれて判断が鈍っていると思ったんだけど。ドロー。チャージ。コスト1でマジカランプを発動。さらにコスト3でバーサーカーを召喚。そしてコスト5で魔法守護結界を発動。この効果で自分の場の魔法一枚を自分の三ターン後まで守る。マジカランプを守るよ。バーサーカーで攻撃。表」

 マジカランプが復活したか。



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七十三枚目 浄化する妖精の光

 俺の八ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト8でコストライズ発動。山札の上から四枚をコストゾーンに置く」

 いつの間にか工具箱に入っていたので入れておいたのだ。

「ターンエンドだ」

 次のターンに二枚目のにわとりが出せるぞ。

 

 お嬢様の九ターン目だ。

「ターンスタート。ドロー。チャージ。コスト4で発掘調査を発動しますわ。効果で山札の上から一枚をコストゾーンに置くか、コストゾーンのカードを手札に加えるかできますわ。極大妖精(ビッグフェアリー)を手札に加えて、パックとコスト2を使ってパックを召喚しますの。破壊してコストを1追加しますわ。ループ証明。あと2回繰り返しますわ。ターンエンドですの」

 お嬢様のデッキが切れそうだな。回らないの覚悟して60枚にした方がよさそう。

 

 ラジーさんの九ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト6でダブルアタック。選んだモンスターは二回攻撃が可能になる。バーサーカーに使う。バーサーカーで攻撃。表。バーサーカーで攻撃。表。ターンエンド」

 マズい。イフリートが出ちまう。

 

 俺の九ターン目だ。

「ドロー。チャージ」

 ひょっとして自分のターンじゃないとイフリートは出せないのかな。

「コスト7で焼鳥屋に賛成するにわとりを召喚。コスト7でもう一枚のにわとりを召喚。まずは俺でバーサーカーに攻撃。破壊。にわとりでラジーさんに攻撃。そしてもう一枚のにわとりでラジーさんに攻撃。これで残り生命力は6ですね。ターンエンド」

 もうイフリートが出るのは確実なんだから、ためらいなく攻撃できる。

 

 お嬢様の十ターン目だ。

「ターンスタート。ドロー。コスト20で極大妖精(ビッグフェアリー)を召喚しますわ。極大妖精(ビッグフェアリー)で攻撃しますの。フェアリーオブウットサンクティフィカレント」

 光がラジーさんにまとわりついて、ラジーさんの生命力を削った。

 ラジー:生命力6→0

「さすがに二対一はきつかったか」

 場がすっきりした。

 

 ウォーターフォール滝から出た。

「凍えるほど寒いですわね」 

「ですよね。冷静さは失っても冷水は失わない修業ですよこれは」

「寒いことを言わないでほしいな。冷水だけに」

 つまらないことで盛り上がった。

 

 一旦体と服を乾かしてから動きやすい服装に着替えた。ちなみに着替えはワープゲートで帰還して勤め先で行った。そしてウォーターフォール滝に戻った。

「正直逃げられると思ってたよ」

「ではなぜ監視しなかったんですの?」

「20秒前まで仮眠を取ってたからね。着替えに時間をかけてくれて助かったよ。何しろここ最近働きづめでまともに寝てなかったんだよね」

 図太い神経してんなぁ。

 

 ラジーさんのハチャメチャな修行を受け続けた。犬とカードファイトしたりと手順が多くなるほど足場が崩れやすくなる条件で戦ったりと中毒起こしてもカードファイトを行ったりと色々無茶があった。

「こなすたびに実力が高くなっている気がしますわね」

「そうか。じゃあ一対一でやってみる?」

 ラジーさんはデッキを構える。

 

 ラジーさんはなんとかお嬢様に勝った。

「ギリギリだったね。まあ弱いけど充分ってところかな。二対一なら勝てないけど、一対一ならまあなんとかいける」

「どうしても勝てませんわね」

「いいじゃないの。実力が上がったんだから。闘争裁判は三日後で闘争裁判の会場に行くまで二日かかるから明日までに仕上げなければならないんだよね。このペースで行けば私を倒せるくらいにはなるよ。ドロウちゃんの実力も見てあげるよ」

 ラジーさんはデッキを構えた。

 

 ギリギリ勝てた。全体的にラジーさんの引きが悪くなった感じだったからね。

「なるほどね。この戦いで目覚めたんだね。主人公補正体質に。よかったじゃないの」

「ディスティニードローを何度も起こせるわけじゃないんですけど」

「一般的にはデスティニードローを何度も起こせる体質が主人公補正体質と呼ばれてるけど、同等以下の相手の引きを悪くするのも主人公補正体質なんだよね」

「知りませんでしたわ」

 お嬢様でさえも知らなかったのか。

 

 一旦帰って翌日一日ぶっ通しで修業した。

「二十四時間眠らなくても眠くならない術を身につけたのだった」

「反動があってたびたび痛い目に合っているっておっしゃっていたので乱用しすぎちゃだめですよ」

「そうですね」

 等々非常に説明臭い寝言をしていたとマイスさんから聞いた。 

 

 起きてからちゃんと正装に着替えて、キャラメルキャメルから降りる。降りたところは天秤をどでかくしたような建物の近くだった。なんでもここが闘争裁判専用のカードファイトフィールドらしい。 

 

 突如現れたワープゲートをピンハネル伯爵がくぐったので、真似してくぐるとたくさんの人と白装束の五人組がいた。

「こんにちは。私共は闘争裁判委員でございます。政治犯のピンハネル伯爵家を裁きとうございます。伯爵家は意義がなければ首を縦に振ってください。意義があるなら私たち五人を倒して無罪を勝ち取ってください。まずは私から行きますね」

 白髪の女の子が前に出てきてデッキを構えた。



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七十四枚目 平らな裁判1

 俺がデッキを構えると女の子のデッキが赤く光った。

「カードファイトをする前に一つ訂正してほしいことがある」

「なんだ」

「まだ結果が分からないから政治犯じゃなくて被告だよな」

「……そうだった。すまない」

 そこは素直なのか。

「「カードファイトエントリー」」

 よし。

 

 女の子の職業はヌーブだった。最弱の職業にして一体何がしたいんだ。

 

 6ターン目までほとんど何もなかった。盤面への影響は俺がペルーダを場に出したぐらいかな。

 

 女の子の7ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト1でメガキューブを召喚」

「なんだそのカード。俺はそんなカード知らないぞ」

「そんなことはどうだっていいのだ。私は被告代理人の戦術も切り札も知らないから、被告代理人が知らなくてもフェアなんだよね。メガキューブの効果でメガキューブを三体まで場に出す。二体場に出すね。ターンエンド」

 宙に浮いた一辺10cmの白い立方体が出てきた。コスト1で三回は攻撃を防げるってことか。

 

 俺の7ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト7で焼鳥屋に賛成するにわとりを召喚。コスプレイヤー効果でステータスをコピーする」

「強いね」

「俺はメガキューブに攻撃。破壊」

 なんてことないね。

 

 女の子の8ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト3でメガキューブ再生機構を発動。このカードは場に置かれて、自分のターンのはじめに墓地から三体までメガキューブを場に出す効果を持っている。しかしこのカードが場にある限り効果も無効化されないし、場も離れないし、私はキューブと名の付くカードしか使えないわ」

「壁が自動で復活してくれるのか」

「壁か。壁ね。決闘裁判の法廷でなければ怒っていましたよ。しかし私は裁判官なので市場を持ち込まないことにしているんですよね」

 将来性はあるから、過剰に反応しないでほしい。怒りで口調が敬語になってるじゃないか。

 

 女の子は首を横に振った。 

「コスト4でキューブーストを発動。デッキからメガキューブを4枚手札に加える」

「同じカードは4枚までしか入れられないはずだろ。でも今ので7枚目じゃねえか」

「メガキューブはデッキに60枚まで入れることが出来る効果を持つモンスターだからね。その代わり破壊されたら一ダメージ受けるんだけど」

 なるほどなあ。

「コスト1でメガキューブを召喚。メガキューブの効果でメガキューブを三体まで場に出す。三体場に出すね。ターンエンド」

 メガキューブのステータスは生命力1でそれ以外0だから能力全振り感がある。

 

 俺の8ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト2でメガチャージを使用。コスト7で焼鳥屋に賛成するにわとりを召喚。にわとりでメガキューブに攻撃。破壊。俺でメガキューブに攻撃。破壊。ターンエンド」

 女の子生命力:9→7

 着々と生命力が減ってるからどしどしと出してくれるのはありがたいね。

 

 女の子の九ターン目だ。

「メガキューブ再生機構の効果で墓地からメガキューブを二体場に出す。ドロー。コスト5でキューブワイズを発動。自分の場のメガキューブの枚数分ドローする。ざっと7枚だね。このカードはデッキに一枚しか入れられないんだよね。メガキューブを召喚。メガキューブを一体場に出す。このカードは場に九枚メガキューブが存在するときのみ召喚できる。コスト1でナインキューブを召喚。このカードの各ステータスは3なんだよね」

 メガキューブが縦横3×3に重なって奥行きを2つ増やした。3×3×3の立方体だ。

 

 コスト1にしては破格の効果だけど手間に対して強さが見合ってない。

「メガキューブの効果発動。自分の場のすべてのメガキューブをこのカードの下に置く。ナインキューブでペルーダに攻撃」

 ナインキューブがバラバラになってペルーダに降り注ぐ。ペルーダは痛がった。

「攻撃力が足らないはずなのになんでペルーダにダメージを与えられているんだ?」

「ナインキューブは攻撃するときに相手の防御力を無視してダメージを与える貫通を持っているからだ。そっちこそ攻撃してきたナインキューブにダメージを与えるとはね」

「防御力は無視しても反動は効くんだね定期」

 この世界貫通持ってるモンスター使う人いなさすぎてすっかり頭から抜けてた。ただの貫通なら怖がることはないな。

「ターンエンド」

 あんだけ手間をかけてただの貫通モンスターを出すとはお相手さん引きが悪いな。

 

 俺の九ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト6でギロチンフェイスデビルを召喚。ギロチンフェイスデビルの効果でナインキューブとペルーダに1ダメージ。超絶コンボ、エネルギーヒーリングエクスキューション」

「ナインキューブは効果によるダメージを受けない」

「ペルーダは効果によるダメージを受ける代わりに生命力を6にする」

「俺でナインキューブに攻撃する」 

 ナインキューブはメガキューブに分解して俺の攻撃を避けた。

「ナインキューブは一ターンに一度攻撃を無効化する」

 そう来たか。

「ターンエンド」

 相手の方がドローはしてるから、山札切れで粘るしかねえか。



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七十五枚目 平らな裁判2

 女の子の十ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト3でキューブンサンを発動。自分のカードの下にあるメガキューブをすべて場に出す。コスト1でナインキューブを召喚。コスト3でキューブンサン発動。自分のカードの下にあるメガキューブをすべて場に出す。コスト1でナインキューブを召喚。ナインキューブでペルーダに攻撃してターンエンド」

「効果によってダメージを受けないはずなのになんでダメージを受けてるんだろうね」

「反動は攻撃されても戦闘でダメージを与えられるようになる効果だからね。受けるダメージは戦闘によるダメージだから受けるってわけ」

「ご教授ありがとうございました。ターンエンド」 

 そのセリフはどこか不満げだった。

 

 俺の十ターン目だ。

「ドロー。コスト8でドローブースト。にわとりで一枚目のナインキューブに攻撃」

「攻撃を無効化する」

「俺で一枚目のナインキューブに攻撃。破壊。ギロチンフェイスデビルの効果でペルーダと二枚目のナインキューブにダメージを与える。超絶コンボ、ヒーリングエクスキューション。ターンエンド」

 まずは一枚ナインキューブを破壊できたぞ。よかった。

 

 女の子の十一ターン目だ。女の子のデッキの一番上が光った。

「主人公補正体質だったのか」

「まあね。普段は不公平になるから使わないけど、引きを悪くする主人公補正体質に影響されてるからこうでもしないときついって判断したんだよね。ドロー。チャージ。コスト3で発動。キューブアップグレーダー。このカードは自分の場のメガキューブ再生機構の下に置く。このカードがカードの下にある限り生命力を2支払えばナインキューブは何度でもよみがえるのよ」

「なんだと。倒してもあまり意味がないってことか」

「まあそういうこと。これを使われたら不利になるよ」

「そらそうよ。相手が有利になる魔法なんて普通入れないからね」

 何なんだ。

「生命力を3支払ってナインキューブを墓地から場に出す。メガキューブが9体いないと召喚できないだけで場に出せないわけじゃないからね。まあターンエンド」

 これはちょっときついな。

 

 俺の十一ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト2でビーコンパラサイトを召喚。コスト7で焼鳥屋に賛成するにわとりを召喚。一枚目のにわとりで今蘇ったナインキューブに攻撃。俺で今蘇ったナインキューブに攻撃。破壊。ターンエンド」

 一回攻撃しないとダメージを与えることも出来ないのが厄介。

 

 女の子の十二ターン目だ。

「ドロー。チャージ。生命力を2支払ってナインキューブを墓地から場に出す」

 女の子生命力:5→3

「コスト9でギガキューブを召喚。このモンスターは自分の場と墓地にナインキューブが三枚以上ある時にのみ召喚できる。このカードが場に出たとき、ナインキューブを三枚このカードの下に置く。ステータスはオール3で貫通を持っているモンスターなんだよね」

 ナインキューブが縦一列に並んで奥行きを二列分増やして、二列分横に増殖した。9×9か。

 

 こいつ手数を減らしやがった。そういうやり方はちょっと賢くない。

「それじゃナインキューブと変わらないじゃないか」

「わざわざ手数を減らす真似すると思うの?」

 意味深だなあ。

 

 女の子が俺を指さす。

「ギガキューブで焼鳥屋に賛成するにわとりに攻撃。キューブレーザー」

「ビーコンパラサイトの効果でペルーダに攻撃してもらう」

 ギガキューブがバラバラになって宙に浮いてビームを放つ。ビームはビーコンパラサイトを焼き尽くした。

「このモンスターがモンスターに攻撃したとき、このモンスターの攻撃力-防御力分の戦闘ダメージをこのモンスターが攻撃しているモンスター以外の相手モンスター全てに与えるんだよね」

「マジかよ」

 実質全体攻撃か。しかも反動を受けないと来た。

「ターンエンド」

 早めに倒さないと。ナインキューブみたいに攻撃無効効果がないとありがたい。

 

 俺の十二ターン目だ。

「ドロー。焼鳥屋に賛成するにわとりでギガキューブに攻撃」

 ギガキューブはあっさり破壊された。

「ギガキューブが破壊された時、自分の下にあるナインキューブを三枚場に出してギガキューブを手札に加える」

「次のターンにまた出せるってことか。ちょっとずるいな。二枚目のにわとりで右のナインキューブに攻撃」

「無効にする」

「俺で右のナインキューブに攻撃。破壊。ギロチンフェイスデビルの効果発動。ペルーダとナインキューブに1ダメージ。超絶コンボ、ヒーリングエクスキューション。ターンエンド」

 バーン系カードでも入れておけば何とかなったのかもしれないな。

 

 女の子の十三ターン目だ。

「生命力2でナインキューブを蘇生。ドロー。コスト3でキューブバリア発動。このカードが場にある限り自分の場のキューブと名の付くモンスターは一回多く攻撃を無効化できる。コスト9でギガキューブを召喚。ギガキューブでペルーダに攻撃。キューブレーザー」

「これはまずいな」

「ターンエンド」 

 山札切れを待つしかないのか。

 

 俺の十三ターン目だ。

「良いの来い……ドロー。来たぜ」

 手札補充用のカードとして入れて他のすっかり忘れてた。あとはあのカードさえ来てくれれば……

「コスト5でデモンズドロー。山札から四枚ドローして手札を一枚捨てる」

 1枚目、これじゃない。2枚目、これじゃない。3枚目……これじゃない。

 

 4枚目……これだ。

「手札からバーンスマッシャーを捨てる」

 女の子生命力:1→0

「ギリギリ勝てた」

 場がすっきりした。

「生命力はらいすぎた。まあ最初の裁判官なんだからこのぐらい弱くないとね。んじゃあ次」

 女の子は戻った。

 

 白い恰好の男が出てくる。

「次だな」

「ああ」

 デッキを構えた。



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七十六枚目 無の判決

 二ターン目までなにも起こらなかった。

 

 白い服の男の三ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト3でバニラドラゴンを召喚。ターンエンド」

 俺の四ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト2でメガチャージを使用する。ターンエンド」

 バニラドラゴンってことはバニラデッキか。

 

 白い服の男の四ターン目だ。 

「ドロー。チャージ。コスト4でキャットライブステージを発動。ターンエンド」

 俺の五ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト5で毒棘甲羅竜 ペルーダを召喚。ターンエンド」

 順調に揃ってるぞ。

 

 白い服の男の五ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト3でバニラサモナーを召喚。コスト1でドラム五郎を召喚。1枚ドロー。コスト1で有翼の剣士を召喚。1枚ドロー。ターンエンド」

 いっぱい出したところでペルーダにダメージを与えられる奴がいないからな。

 

 俺の六ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト6でダイヤモンドスパイクを発動。ペルーダを選ぶ。ターンエンド」

 白い服の男の六ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト5でバニランパスを召喚。一ターンに一度効果:なしのモンスターを召喚したら山札の一番上をコストゾーンに置いてもよい」

 手足の生えた松明が現れた。

「コストを2軽減してコスト1でゴブリンソードマンを召喚。効果:なしのモンスターが召喚されたので、山札の一番上をコストゾーンに置いて一枚ドロー。ターンエンド」

 まあダイヤモンドスパイクがあるから攻めにくいだろ。

 

 俺の七ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト5でデモンズドローを発動。四枚ドローして一枚手札を捨てる。トリプルドローを捨てる。コスト2でメガチャージを使用。ターンエンド」

 白い服の男の七ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コストを3軽減してコスト4でネコキャットガールズ・アビシニアンを召喚。効果:なしのモンスターが召喚されたので、山札の一番上をコストゾーンに置いて一枚ドロー。コスト3でバニラドラゴンを召喚。ターンエンド」

 数だけそろえて何がしたいんだ

 

 俺の八ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト7で焼鳥屋に賛成するにわとりを召喚。コスト2で使い捨て強化外骨格を発動。モンスターを一体選んでこのターン中選んだモンスターの攻撃力と防御力を1ずつ上げる。コスプレイヤー効果でにわとりを手札に戻して、バニラサモナーに攻撃。破壊。ターンエンド」

 俺の攻撃力は7で防御力は2だぜ。コスプレイヤー効果でコピーするステータスは手札に戻した時のステータスが元になってるからな。

 

 白い服の男の八ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト3でネコキャットガールズ・ターキッシュバンを召喚。山札の一番上をコストゾーンに置いて二枚ドロー。さらにコスト1で逆転の術発動。効果でこのカードファイト中、コストゾーンのカードはすべて表向きになり、コストゾーンに置かれるカードはすべて表側になる。そしてコスト5でバニランパスを召喚」

「山札消費しすぎだろ」

「山札は60枚だから問題ない。ターンエンドだ」

 ならいいんだけどさ。

 

 俺の九ターン目だ。

「ドロー。コスト8でチャージブーストを発動。俺でバニラドラゴンに攻撃。破壊。ターンエンド」

 白い服の男の九ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト3でバニラコーラーを召喚」

 白いローブが現れて宙に浮き続けている。

「バニラコーラーの効果でコストを1多く払う代わりにデッキから効果:なしモンスターを召喚できる。コストを1多く支払って5でデッキから素手のゴブリンを召喚する。山札の一番上をコストゾーンに置くのを二回行って一枚ドロー。コスト6でバニラバリアを発動。このカードが場にある限り効果:なしモンスターへの攻撃を一回無効化できる。ターンエンド」

 コスト12枚モンスター8枚か。ペルーダがいなかったら物量に潰されていただろうな。

 

 俺の十ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト7で焼鳥屋に賛成するにわとりを召喚。俺でバニラコーラーに攻撃。破壊。にわとりでバニラドラゴンに攻撃。破壊。ターンエンド」

 展開力のおかげで壁が永遠に出てくる気がする。

 

 白い服の男の十ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト3でバニラドラゴンを召喚。コスト4でビッグマンティスを召喚。山札の一番上をコストゾーンに置くのを二回行って一枚ドロー。そしてコスト8でチャージブースト。コスト1でビッグイモムシを召喚。一枚ドロー。ターンエンド」

 俺の十一ターン目だ。

「ドロー。コスト2でビーコンパラサイトを召喚。俺はバニランパスに攻撃」

「バニランパスの防御力は4生命力は5ギリギリ耐えたぞ」

「にわとりでバニランパスに攻撃。破壊。ターンエンド」

 やったぞ。

 

 白い服の男の十一ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト4で発掘調査を発動。コストゾーンの極大妖精(ビッグフェアリー)を手札に加える。コスト1でビッグイモムシを召喚。山札の一番上をコストゾーンに置いて一枚ドロー。このカードは5以上の好きなコストで召喚できる。コスト11で無の集合体を召喚。このカードの防御力は相手ターン終了時まで払ったコストと同じになる。ターンエンド」

 俺はもう一体のバニランパスを破壊してターンを終えた。

 

 白い服の男の十二ターン目だ。

「ドロー。チャージ。無の集合体を破壊することで効果:なしのモンスターの召喚コストを無の集合体のコスト分軽減する。コスト9で極大妖精(ビッグフェアリー)を召喚。一枚ドロー」

 極大妖精(ビッグフェアリー)が来ちゃったか。

極大妖精(ビッグフェアリー)でペルーダに攻撃。破壊。反撃は受けるが問題ない。ターンエンドだ」

 ドロウ:生命力10→9

「ピンチだぜ」

 まずいな。



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七十六枚目 二人目

 俺の十三ターン目だ。

「ドロー」

 いいカードが引けたぞ。

「バニラドラゴンに攻撃。破壊。ゴブリンソードマンに攻撃」

「攻撃を無効化する」

「コスト5でハイパーヘイトを発動。次のターンお前は極大妖精(ビッグフェアリー)で攻撃しなきゃいけねえ。ターンエンド」

 何とかなるぞ。

 

 白い服の男の十三ターン目だ。

「ドロー。チャージ」

「ビーコンパラサイトの効果でビーコンパラサイトに攻撃してもらう」

「これは何かがあるな」

「今更感づいても遅いぜ。なぜなら攻撃しなきゃならんからな」

極大妖精(ビッグフェアリー)でビーコンパラサイトに攻撃」

 よし。

 

 絶好のチャンスってのは自分で作る物なんだよなあ。

「コスト4でセカンドクラッシュを発動。自分のモンスターが破壊されるとき相手のモンスターと自分のモンスターを一体選んで破壊する。ビーコンパラサイトと極大妖精(ビッグフェアリー)を破壊」

「むむむ。なるほど。極大妖精(ビッグフェアリー)を破壊されるとは思わなかった」

「焼鳥屋に賛成するにわとりに攻撃するならバニラバリアの効果を使わせてもらうぜ」

 このハッタリが効くかどうか。本当は使わないんだよね。

「何をぬかすか。使えないだろ。ネコキャットガールズ・ターキッシュバンで焼鳥屋に賛成するにわとりに攻撃。破壊。ターンエンド」

 このハッタリが効かなかったか。このままなにもしなかったら次の次のターンで俺は負ける。

 

 俺の十四ターン目だ。

「ドロー。コスト7で五転生発動。墓地からペルーダを復活させる。ターンエンド」

 白い服の男の十四ターン目だ。

「ドロー。チャージ。ターンエンド」

 何をしてくる気だ。

 

 俺の十五ターン目。

「ドロー。チャージ。コスト4でトリプルドロー発動。コスト8でリサイクルアーマーを発動。モンスターのステータスを上げる魔法を墓地から発動できる。その代わりこのターン中攻撃は出来ない。ダイヤモンドスパイクを発動。ペルーダを選ぶ。ターンエンド」

 白い服の男の十五ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト4でトリプルドローを発動。ターンエンド」

 俺の十六ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト7で焼鳥屋に賛成するにわとりを召喚。俺でゴブリンソードマンに攻撃」

「攻撃を無効化する」

「にわとりでゴブリンソードマンに攻撃。破壊。ターンエンド」

 このままちまちま攻撃してれば行けると思う。白い服の男は攻撃で。

 

 俺の十六ターン目だ。

「ドロー。山札はあと4枚だ。来たぜ。あまり使いたくなかったんだけどなあ。コスト4でトリプルドロー。コスト3でマジックバウンスを発動。バニラバリアを手札に戻してもらう。そしてコスト3で無限ラッシュ発動。俺に使う。コストを好きなだけ払って発動する。このカードを発動するとき、好きなだけコストを支払う。払ったコスト分生命力を減らせば、相手モンスターを倒した時攻撃力が2上昇する。俺はコストと生命力を7支払って発動する。修羅の術。このターン中払ったコスト分すべてのプレイヤーの攻撃力を上げる。ターンの終了時に払った生命力分のダメージを受けるのが難点だな」

 ドロウ:生命力9→2

「ビッグイモムシに攻撃。破壊。ネコキャットガールズ・ターキッシュバンに攻撃。破壊。ネコキャットガールズ・アビシニアンに攻撃。お前のモンスター全部攻撃で破壊してプレイヤーに攻撃。攻撃力はざっと20以上あるぜ」

「それを防ぐ手段はないだろう」

「とどめだ」

「コスト8で発動。痛み分け。自分に攻撃してくるモンスターかプレイヤーの攻撃力の半分と同じ数値のダメージを互いに与える。奇数の時には使用できない」 

「超絶レアカードの痛み分けか。持ってねえからほしいな。普通に欲しかったけど期間限定で手に入らなかったんだよなぁ」

 場がすっきりした。引き分けになったのだった。

 

 引き分けになった場合どうなるんだろ。

「引き分けになった場合はどうするんだったかな?」

「ちゃんと覚えておいてよね。闘争裁判第五条に引き分けになった場合、被告側の勝利とする。五連勝するのはさすがにきついからそこら辺ちょっと甘くしようねって書いてあるじゃない」

 ちょっとノリが軽くねえか。

「ああすまん。いつもは勝っちゃうからつい忘れてた」

 首の薄皮一本繋いだ。助かったぜ

 

 白い服のご老人が来た。男か女か分からねえなあ。

「年寄りをあまりいじめないでくれ」

「ごめん。人生の瀬戸際で他人を思いやれるほど性根良くねえんだわ」

「ほほ。カードファイト」

「カードファイト」

 倒してやるぞ。

 

 

 ……ご老人の十一ターン目だ。

「ゴブリンエンペラーで攻撃。とどめぞ」

「ぐああああ」

 ドロウ:生命力0

「これがゴブリンデッキの本気か。俺の引きを悪くする主人公補正体質も効いてないようだし、結構な実力者なんだろうな」

「生まれたときより体が弱くて長時間カードファイトが出来ぬのでな。アタシは速さにこだわるようになったただの老人さ」

 噓つけぇ。どっからどうみても健康そのものじゃねえか。

 

 あっと現実逃避してる場合じゃない。

「闘争裁判第四条代理人が敗れた場合代理人を入れて五人までならカードファイトを行えるとあるぞ」

「ギリギリ助かった」

「それじゃあ俺にやらしてもらおうか」

 黒覆面ヤローが現れた。

 

 なんでこんなところにいるんだ。

「お前はかんけーねーだろ」

「君は誰だね?」

「細かいことを言うな。実力者が必要なのだから頼れ。それにお家の取り潰しは俺にとっても困ることだからな。カードファイトエントリー」

 白い服のご老人は秤を持って地面に置いた。

「ふむ。部外者ではないようだね」

 ピンハネル伯爵家の人たちが集まっているところに急いで行った。しかしながら誰一人として欠けていなかったのである。

 

 じゃああの黒覆面ヤローは誰なんだろう。

「すみません。負けました」

「二人も倒してくれありがとう。よくやったよ」

 優しいなこの人。



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七十七枚目 燃える判決

「カードファイトエントリー」

 ご老人のデッキが赤く光る。

「アタシの先攻さ」

「どっちでもいい。早くしろ」

 態度が悪い。

 

 三ターン目まで何も起こらなかった。

「ここまでは順調です。あとは彼はどう対処するんでしょう」

 ご老人の三ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト2でメガチャージを使う。コスト2で盗賊ゴブリンを召喚して、ターンエンドさ」

 黒覆面ヤローの三ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト3でバーンゲート発動。バーンマジシャン召喚。バーンマジシャンの効果でバックブラストバーンを捨てる。2ダメージ受ける代わりにデッキから好きなカードをサーチする。ターンエンドだ」

 この後が大事だ。

 

 ご老人の四ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト4でゴブリンサモナーを召喚。ゴブリンサモナーでバーンマジシャンを攻撃さ。ターンエンド。ほらさっさとしな」

 黒覆面ヤローの四ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト3でバーンの本棚発動。バーンマジシャンとバックブラストバーンを手札に戻して、コスト1でチャイルドワイバーンを召喚する。ターンエンド」

 場が整ったか。

 

 ご老人の五ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト2で鎧を着こんだゴブリンを召喚。コスト4でトリプルドローを発動さ。盗賊ゴブリンでチャイルドワイバーンに攻撃。破壊。ゴブリンサモナーでプレイヤーに攻撃。ターンエンドさ」

 黒覆面ヤロー:生命力8→7

 

 黒覆面ヤローの五ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト4でバーンマジシャンを召喚。手札からバーンスマッシャーを捨てる。プレイヤーに2ダメージ」

 ご老人:生命力10→8

「手札からチャイルドワイバーンを召喚して、チャイルドワイバーンとバーンスマッシャーを手札に戻す。ターンエンド」

 このペースだときついと思うの。

 

 ご老人の六ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト6で妖精の知識発動」

「種族:妖精を全部手札に加えるとかゴブリンデッキと相性がいいな」

「そういうことさ」

 ご老人は5枚すべてを見せた。全部種族:妖精だと。

「手札に5枚全部加えやがった。アドバンテージが凄い」

「ゴブリンサモナーでバーンマジシャンに攻撃。ターンエンドさ」

 コスト6で最大5枚手札に加えるのかあ。状況が状況だけに黒覆面ヤローにちょっと同情するね。

 

 黒覆面ヤローの六ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト4でトリプルドロー発動。コスト2でリロードチャージを発動。山札の上から二枚を見て一枚を墓地に置いて一枚をコストゾーンに置く。バーンスマッシャーを墓地に置くぜ。バーンマジシャンとバーンスマッシャーを手札に戻してターンエンド」

 ご老人の七ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト4でホブゴブリンの研究所を発動。ゴブリンと名の付くモンスターが自分の場に出るたびに一枚ドローする。コスト2でゴブリンソードマンを召喚。一枚ドロー。ゴブリンソードマンでプレイヤーに攻撃。ゴブリンサモナーでプレイヤーに攻撃。ターンエンド」

 黒覆面ヤロー:生命力7→5

 

 黒覆面ヤローの七ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト8でキングバーンウィザードを召喚。効果でバーンスマッシャーを捨てる。プレイヤーに2ダメージ。ターンエンドだ」

 ご老人:生命力8→6

 

 ご老人の八ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト6でゴブリンプリンセスを召喚。ターンエンドさ」

 これだけで済んでよかった。

 

 黒覆面ヤローの八ターン目だ。

「まずいぞ。早くゴブリンプリンセスを破壊しなきゃゴブリンエンペラーが殴ってくる」

「それは怖いが、バーンデッキではどうにもなるまい。だからプレイヤーを早めに倒せばいいのだ。ドロー。チャージ。コスト4でクラスターワイバーンを召喚。クラスターワイバーンとバーンスマッシャーを手札に戻す。クラスターワイバーンの効果発動。デッキからチャイルドワイバーンを二枚まで場に出せる。チャイルドワイバーンを二枚場に出す。効果でバーンスマッシャーを捨てる。プレイヤーに2ダメージ。ターンエンドだ」

 ついに黒覆面ヤローの生命力がご老人の生命力に追いついたぞ。

 

 ご老人:生命力6→4

 

 ご老人の九ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト4でトリプルドローを発動。コスト5でデスマッチフィールドを発動。互いに効果によるダメージを受けないのさ。ゴブリンプリンセスでチャイルドワイバーンに攻撃。破壊。ゴブリンソードマンでチャイルドワイバーンに攻撃。破壊。ターンエンド」

「まずいぞ。お前の基本戦法が封印されてしまった」

「そんなことは分かっている」

 一気にピンチになったな。今回ばかりはこの状況に喜べない。

 

 黒覆面ヤローの九ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト8で火炎王の魔導術式を発動。このカードはルール上バーンと名の付くカードとして扱う。このカードが場にある限り俺のカードのダメージを与えるというテキストは生命力を減らすというテキストになる。ターンエンド」

 ご老人の十ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト6でゴブリンプリンセスを召喚。効果でゴブリンエンペラーを墓地に落とす。ターンエンドさ」

 黒覆面ヤローの十ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト6でクワトロブースト。キングバーンウィザードの効果でバーンスマッシャーを捨てる。生命力が2減るぜ。ターンエンド」

 残り生命力は2だから次のターンで倒せるな。

 

 ご老人の十一ターン目だ。

「ドロー。チャージ。妖精の帝王の御前ぞ。コスト10でゴブリンエンペラーを召喚さ。ゴブリンエンペラーは2回攻撃が出来る。でも一回攻撃されただけで倒れそうさ。生命力を減らしたのがあだとなったね」

「そうだな」

「ゴブリンエンペラーでプレイヤーに攻撃」

「コスト2で火炎王の祝福発動。攻撃してくる相手モンスター一体を選ぶ。そのモンスターから受けるダメージを効果ダメージと言うことにする」

「まさか……」

「互いに効果によるダメージを受けないんだろ」

 黒覆面ヤローはこのターン攻撃をしのいで、次の自分のターンにとどめを刺した。



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七十八枚目 眠りの判決

ゾロ目です。ラッキーセブンです。


 黒覆面ヤローは体をふらつかせた。

「体調悪いんだけど」

「闘争裁判第二条 体調が悪い場合他の人に代わるべし。だって」

「じゃあそこのお嬢様でいいや。自分の家のことは自分で何とかしろ」

 黒覆面ヤローは筒から煙を出す。煙が晴れると黒覆面ヤローが消えていた。何だったんだあいつ。

 

 白い服の女性が来た。なんか眠たそうな顔してるなあ。

「私もぉ今回のことには思うことがあるのよねぇ」

「では負けてくださるのですか」

 お嬢様はデッキに10枚カードを入れた。

「そんなわけないよねぇ」

「そうでなくては困りますわ。私情でやる気を出さないなんて法の番人としてあるまじき行為ですもの」

 白い服の女性は笑ってうなづく。

 

 白い服の女性とお嬢様はデッキを構えた。何か通じるものでもあったのかな。

「「カードファイトエントリー」」

 白い服の女性はやさしそうに微笑む。白い服の女性のデッキが赤く光った。

 

 白い服の女性の一ターン目だ。

「チャージ。コスト1でデベリスティーアを召喚するわよぉ。デベリスティーアの防御力は3もあるのよねぇ」

 雌の牛が現れた。

「ターンエンドなのよぉ」

 コスト1で防御力3か。硬いな。

 

 お嬢様の一ターン目だ。

「ターンスタート。ドロー。チャージ。ターンエンドですわ」

 白い服の女性の二ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト2でアペチートラを召喚するわねぇ。効果で防御力が3のモンスターを二種類手札に加えるわよぉ。クピドゥスクイレルとヨクイロゴートを手札に加えるわ。ふわわ。眠い。ターンを終えるわ」

 展開力が凄いな。

 

 お嬢様の二ターン目だ。

「ターンスタート。ドロー。チャージ。コスト2で盗賊ゴブリンを召喚しますわ。ターンエンドですわ」

 防御力が高いから攻められない。

 

 白い服の女性の三ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト3でクピドゥスパイダーを召喚するわねぇ。効果で自分の場の種族:フラムビーストの数だけドローして山札の下に一枚戻すわよぉ。グリードタクティス」

「二枚ドローですわね」

「まあ一応クピドゥスパイダーは種族:フラムビーストだからね。自分のモンスターの効果でドローしたときアペチートラの効果発動。私は一ダメージを受けるわ。強欲の代償。ターンエンド」

 白い服の女性:生命力10→9

 

 お嬢様の三ターン目だ。

「ターンスタート。ドロー。チャージ。コスト3でハイパービーストを召喚しますわ。ターンエンドですの」

 白い服の女性の四ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト4でヨクイロゴートを召喚するわねぇ。効果で自分の場の種族:フラムビーストの数だけコストゾーンにカードを置いて、置いたカードより一枚少ない枚数を山札の下に置くわよぉ。ターンエンド」

 攻撃力0のモンスターをそろえてバーンをするわけでもないなら一体何をする気なんだ。

 

 お嬢様の四ターン目だ。

「ターンスタート。ドロー。チャージ。コスト4でトリプルドローを発動しますわ。ターンエンドですわ」

 白い服の女性の五ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト5でシットゥドジを召喚。効果でコスト6で防御力3のモンスターをデッキから手札に加える。ドンノラッビアを手札に加えるわ。ターンエンド」

 順調にモンスターが揃ってるぞ。

 

 お嬢様の五ターン目だ。

「ターンスタート。ドロー。チャージ。コスト6でタイターニアを召喚しますわ。タイターニアでデベリスティーアに攻撃しますわ」

「ヨクイロゴートの効果発動。自分の場の種族:フラムビーストへの攻撃をこのモンスターに引き寄せるわねぇ」

「ターンエンドですわ」 

 攻撃誘導効果を持っているのか。

 

 白い服の女性の六ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト6でドンノラッビアを召喚するよぉ。ドンノラッビアの効果で自分の場の種族:フラムビーストで防御力が3のモンスターの場に出たときの効果を使うわねぇ。クピドゥスパイダーの効果を発動するわよぉ。五枚ドロー。ターンエンドするわねぇ」

「コスト6で5枚ドローとは凄い効果ですわね」

「でも展開しないと使えないからなあ」

「そこら辺バランスがとれているというわけなのよねぇ。ふわわ。早く終わらせて寝たいわぁ」 

 やる気を感じられない。

 

 お嬢様の六ターン目だ。

「ターンスタート。ドロー。チャージ。コスト7で妖精王オベロンを召喚しますわ。妖精王オベロンでヨクイロゴートに攻撃しますわ。タイターニアでヨクイロゴートに攻撃しますわ。ターンエンドですの」

 白い服の女性の七ターン目だ。

「あーあ。7ターン経過させちゃったねぇ。ドロー。チャージ。コスト7でアオマンペンギンを召喚するわよぉ。効果でコスト8で防御力3のモンスターをデッキから手札に加えるわねぇ。七罪源ヨクノゴンゲを手札に加えるんだよねぇ。ターンエンドだよぉ」

 七罪源ヨクノゴンゲか。法の番人が使うモンスターとは思えないな。

 

 お嬢様の七ターン目だ。

「ターンスタート。ドロー。チャージ。コスト3でいたずら妖精 パックを召喚しますわ。そしてパックを破壊しますの。コストを1追加しますわ。パックとコスト2を使ってパックを召喚。破壊してコストを1追加しますわ。ループ証明。あと3回繰り返しますわ。ターンエンドですの」

「すごいコスト加速だねぇ。でも、もう、遅いんだよねぇ」

 何が遅いんだろうか。

 

 白い服の女性の八ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト8で七罪源ヨクノゴンゲを召喚するよぉ。ヨクノゴンゲは自分の場にコストが違って種族と防御力が同じモンスターが自分の場に7枚ないと召喚できないんだけど、その分強いよ。攻撃力はなんと驚異の8だからね」

「召喚条件が厳しい割に弱いな」

 なんかあるだろ。



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七十九枚目 罪の判決

 白い服の女性はけだるそうに欠伸をした。

「早く寝たいからさっさと終わらせるよぉ。七罪源ヨクノゴンゲで盗賊ゴブリンに攻撃するねぇ。ヨクノゴンゲの効果発動。相手のモンスターが攻撃で破壊されるとき、相手はモンスターを破壊する代わりに(グリード)(ポイント)を1つ追加すできるんだよねぇ。1ターンに1度しか使えないよ」

「そんなことで良いのですのね。では追加いたしますわ」

「追加しちゃったね。カードに(グリード)(ポイント)が追加されたターン中ヨクノゴンゲは攻撃力を7増加してから(グリード)(ポイント)の数分攻撃が出来ちゃうのよねぇ。グリードドレイン」

 攻撃力を7も増やしやがった。

 

 ターン中なのが幸いだな。

「ヨクノゴンゲで盗賊ゴブリンに攻撃。防げちゃうけど、どうするのぉ?」 

「えぇ……しませんよ。攻撃力22が2回飛んでくるの嫌ですからね」 

「まあ(グリード)(ポイント)が減るのは良い事ですからね」

「そういう考え方もあるのですね」

「そっかあ。じゃあヨクノゴンゲで盗賊ゴブリンを破壊。(グリード)(ポイント)が追加されたモンスターが破壊された時、手札からこの魔法を発動できるんだよねぇ。ネオ・グリモワール発動。ターンエンドだよぉ」

「いったい何をしてきますの?」

 正体不明の魔法が怖い。

 

 お嬢様の八ターン目だ。

「ターンスタート。ドロー。コスト4でトリプルドローを発動しますの。コスト3でいたずら妖精 パックを召喚しますわ。そしてパックを破壊しますの。コストを1追加しますわ。パックとコスト2を使ってパックを召喚しますの。破壊してコストを1追加しますわ。ループ証明。あと6回繰り返しますわ。妖精王オベロンで七罪源ヨクノゴンゲに攻撃しますわ」

「ネオ・グリモワールの効果発動。1ターンに一度コスト8で防御力3のモンスターがダメージを受ける時、かわりに自分のモンスター一体に(グリード)(ポイント)を追加してそのモンスターの効果を無効化する」

「ターンエンドですの」 

「ネオ・グリモワールの効果によって(グリード)(ポイント)を追加したターンの終了時に1ダメージを受けるんだよねえ」

 白い服の女性:生命力9→8

 

 白い服の女性の九ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト7でセブン(グリード)発動。一ターンに一度自分の場のすべてのモンスターの(グリード)(ポイント)を1減らして相手モンスター一体の(グリード)(ポイント)を1追加するわぁ。セブン(グリード)の効果でタイターニアに(グリード)(ポイント)を1追加するのよねぇ。ヨクノゴンゲで妖精王オベロンに攻撃するわよぉ」

「受けますわね」

「妖精王オベロン破壊ぃ。ターンエンド」 

 ピンチだな。

 

 ピンハネル伯爵が慌てている。

「あれはまずくないかね」

極大妖精(ビッグフェアリー)を手札に加えられているなら、やりようはありますよ。お嬢様なら一回攻撃を無効化されることも織り込む済みだと思いますからね。ヨクノゴンゲを破壊できます」

 なんだかんだ言ってお嬢様の勝率って俺より高いからなあ。

 

 お嬢様の九ターン目だ。

「ターンスタート。チャージ。ドロー。コスト8でコストライズを使用しますわ。山札から四枚をコストゾーンに置きますの。コスト6でクワトロブーストを使用しますの。ターンエンドですわ。これですべて整いましたわ」

「一気に削れてんなあ」

「素人意見ですが60枚なのであまりピンチには感じませんが……」

「今回はあまりピンチじゃないですよ」

 でも魔海とかはきついと思う。

 

 白い服の女性の十ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト6で破滅する欲望を発動するよぉ。そしてヨクノゴンゲでタイターニアに攻撃するねぇ。破滅する欲望の効果で相手モンスター一体にG(グリード)(ポイント)を1追加するのよねぇ。ヨクノゴンゲで3回攻撃ィ」

「手札の醜い妖精 スプリガンの効果発動 自分の場の種族:妖精のモンスターが場を離れる時生命力を3払えば場を離れませんわ」

 お嬢様:生命力10→7

「防がれちゃったぁ。じゃあもう一度攻撃するわねぇ」

「コスト4で手札から妖精の草笛を発動しますわ。このバトル中種族:妖精のモンスターに攻撃するモンスターの攻撃力を0にしますの」

「しぶといなぁ。しつこいのは嫌いだよぉ。ヨクノゴンゲでタイターニアに攻撃。破壊。ターンエンド」

 お嬢様は汗をぬぐって息を荒くする。普通なら倒れてた状況だから精神的な負荷で汗をかいても致し方ない。

 

 お嬢様の十ターン目だ。

「ターンスタート」

 山札の一番上が光った。

「デスティニードロー現象ですね」

「お嬢様が奇跡を起こしましたね」

「ドロー。やっと私の元に勝利がやって来ましたわ。チャージ。コスト3でマジックバウンスを発動しますわ。ネオ・グリモワールを手札に戻してもらいます」

「まずいよぉ」

 まあ攻撃が無効化できなくなるからな。

 

 お嬢様はカードを掲げた。

「偉大なる妖精よ。膨大な魂の力によって顕現し、魔を浄化せよ。コスト20で極大妖精(ビッグフェアリー)を召喚しますの」

「コスト20のモンスターをコストを支払って召喚しただってぇ!?」

「いくら攻撃力が高くても防御力は3ですわ。極大妖精(ビッグフェアリー)で七罪源ヨクノゴンゲに攻撃しますわ。|浄化する妖精の光《フェアリーオブウットサンクティフィカレント》」

 ヨクノゴンゲが破壊された。

「ターンエンドですの」

 白い服の女性の顔が青ざめる。

 

 白い服の女性の十一ターン目だ。

「ドロー。コスト2でアペチートラを召喚するよぉ。効果で電卓小僧とアペチートラを手札に加える。電卓小僧を召喚。電卓小僧の効果でアペチートラを回収。ターンエンド」

 お嬢様の十一ターン目だ。

「ターンスタート。ドロー。コスト9でトリプルアタックを発動しますわ。これで極大妖精(ビッグフェアリー)は3回攻撃ができますの。極大妖精(ビッグフェアリー)でアペチートラに攻撃しますわ。破壊。極大妖精(ビッグフェアリー)で電卓小僧に攻撃しますわ。破壊。極大妖精(ビッグフェアリー)でプレイヤーに攻撃しますわ。|浄化する妖精の光《フェアリーオブウットサンクティフィカレント》」

 白い服の女性:生命力8→0

 

 場がすっきりしてから、お嬢様は大きく息を吐いた。

「よくやったねぇ。次は最後の一人だよぉ。まあ頑張ってねぇ」

「お気遣い感謝致します」

 白い服の男の子がやって来た。

 

 お嬢様のデッキが赤く光る。

「「カードファイトエントリー」」

 この一戦にすべてがかかってるぞ。まあ今までもそうだったけど。



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八十枚目 虫の判決

 男の子は2ターン目までほとんどなにもしなかった。したことと言えば大森林を使ったぐらいかな。

 お嬢様の3ターン目だ。

「コスト3でハイパービーストを召喚しますわ。ハイパービーストでプレイヤーに攻撃しますの」

「手札から大森林のヒルの効果発動。自分の場に大森林が存在して、モンスターが存在しない場合このカードを場にだして相手モンスター一体にPP(パラサイトポイント)を追加する」

「ハイパービーストで大森林のヒルを破壊してターンエンドですわ」

 PP(パラサイトポイント)か……大森林もあるからパラサイトデッキかな。

 

 パラサイトデッキはパラサイトマザーが召喚されるまで比較的安全だからな。

「娘は勝てるのかね。あのデッキは厄介なデッキなのだろう?」

「わからないですね。パラサイトには敵を同士討ちさせるカードがありますから」

 俺はなぜか使われなかったがな。

 

 白い服の男の子の3ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト2でブーストパラサイトを召喚。ターンエンド」

 お嬢様の4ターン目だ。

「ターンスタート。ドロー」

「ブーストパラサイトを破壊して一枚ドロー」

「チャージ。コスト4でトリプルドローですの」

PP(パラサイトポイント)の置かれたモンスターは攻撃出来ない場合もある」

「何が言いたいんですの?」

「今がその攻撃できたりできなかったりする場合だったりして」

 揺さぶりをかけてきやがった。ワイヤーパラサイトの効果でPP(パラサイトポイント)が置かれたやつがいないと攻撃出来るだろ。

「そんなこと……」

「法廷では裁判官と被告人代理以外は静粛にしてもらいたい。まとめて法廷侮辱罪で逮捕されたいなら静粛にしなくてもいいんだけどね」

 むむむ。アドバイスを封印された。

「むむむ。ターンエンドですわ」

 法廷で人をだましやがって。姑息な奴だな。

 

 白い服の男の子の4ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト4でハイパーライノセラスビートルを召喚。ハイパーライノセラスビートルの効果で山札の上から一枚をコストゾーンに置く。ハイパーライノセラスビートルでハイパービーストに攻撃。ターンエンド」

 ハイパーライノセラスビートルの攻撃力は2。本来ならハイパービーストにダメージは与えられないが、大森林の効果で痛手を負わせている。

 

 お嬢様の5ターン目だ。

「ターンスタート。ドロー。チャージ。コスト6でクワトロブーストを発動しますわ。ターンエンドですの」

 手札が足りなかったか。

 

 白い服の男の子の5ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト6で樹海発動。樹海は種族:インセクトのモンスターが自分の場に出るたび一枚ドローできる。ハイパーライノセラスビートルでハイパービーストに攻撃」

「ハイパーライノセラスビートルに攻撃力は2ですわよね……。大森林の効果で攻撃力を上げていますのね」

「まあね。ターンエンド」

 ようやく気が付いたか。

 

 お嬢様の6ターン目だ。

「ターンスタート。ドロー。チャージ。コスト7でタイターニアを召喚しますわ。タイターニアでハイパーライノセラスビートルに攻撃ですの」

「あと3回攻撃されたら破壊されちゃうぜ。大森林ってありがたいな。自然を大切にして生きようね」

「ターンエンドですわ」

 いいこと言ってるのに全く共感出来ねえ。

 

 白い服の男の子の6ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト5で反動防御要塞ハニーノスを召喚。こいつは攻撃できない代わりに反動を持っている。種族:インセクトのモンスターが召喚されたので樹海の効果で一枚ドロー」

「その手のモンスターの所有者とは二回ほど戦ったことがありますわ」

「ハイパーライノセラスビートルでハイパービーストに攻撃。破壊。ターンエンド」

 樹海の効果で一枚ドロー出来るからモンスターをドローし続ければ、大量展開も夢じゃない。

 

 お嬢様の7ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト3でいたずら妖精 パックを召喚しますわ。破壊してコストを1追加しますの。タイターニアでハイパーライノセラスビートルに攻撃しますわ。ターンエンドですわ」

 白い服の男の子の7ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト1でビッグイモムシを召喚。樹海の効果で一枚ドロー。コスト6でインセクトマザーリボーンを発動。ターンエンド」

 墓地からハイパーライノセラスビートルを召喚してコスト加速が出来るな。それに防御力もそれなりにあるから突破しにくい。厄介だな。

 

 お嬢様の8ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト1で逆転の術を使用しますの。ターンエンドですわ」

 白い服の男の子の8ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト4で墓地からハイパーライノセラスビートルを召喚する。ハイパーライノセラスビートルの効果で山札の上から一枚をコストゾーンに置く。種族:インセクトのモンスターが召喚されたので樹海の効果で一枚ドロー。ハイパーライノセラスビートルでタイターニアに攻撃。ターンエンド」

「何度倒しても復活するとは厄介ですわね」

 パラサイト系なら一回で何とかなるんだがなあ。

 

 お嬢様の9ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト2で妖精のお花畑を発動しますわ。効果で種族:妖精のモンスターの全ステータスは1多くなりますの。ターンエンドですわ」

 倒してもちくちく攻撃してくる奴らだからなあ。相手しないのが一番か。



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八十一枚目 虫の知らせ

 白い服の男の子の9ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト10でインセクトマザーコクーンを召喚。種族:インセクトのモンスターが召喚されたので樹海の効果で一枚ドロー」

 バスケットボールぐらいの大きさの虫の繭が現れた。

「このカードは1ターンに一度自分の場の種族:インセクトのモンスターを栄養として取り込むのさ。インセクトマザーコクーンの効果でハイパーライノセラスビートルを破壊」

 虫の繭から出た触手はハイパーライノセラスビートルを近づけて糸で取り込んだ。骨折音と水たまりを何度も踏んだような音がした。

「ターンエンド」

 インセクトマザーコクーンは倍の大きさになった。

 

 お嬢様の10ターン目だ。

「ターンスタート。ドロー。コスト8でチャージブーストを発動しますわ。ターンエンドですの」

 白い服の男の子の10ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト4で墓地からハイパーライノセラスビートルを召喚する。樹海の効果で一枚ドロー。インセクトマザーコクーンの効果でハイパーライノセラスビートルを破壊。ターンエンド」

 毎ターン安定して2ドローコスト+2か。すごい山札が減りそうだな。

 

 お嬢様の11ターン目だ。

「コスト8で妖精王オベロンを召喚しますわ。妖精王オベロンでインセクトマザーコクーンに攻撃しますわ」

「インセクトマザーコクーンは攻撃されるとき自分の場の種族:インセクトのモンスター一体に攻撃を押し付ける。反動防御要塞ハニーノスに攻撃してもらおうか。マジェスティフェロモン」

「これはまずいですの。コスト2とパックを支払ってパックを召喚しますわ。破壊してコストを1置きますの。パックはコストゾーンに送られますわ。ターンエンドですわ」 

 オベロンが杖でハニーノスを叩くとミツバチがオベロンを刺しまくる。でもたかが1ダメージだからあまりきつくない

 

 白い服の男の子の11ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト4で墓地からハイパーライノセラスビートルを召喚する。樹海の効果で一枚ドロー。インセクトマザーコクーンの効果でハイパーライノセラスビートルを破壊。3体の昆虫を食らい女王の繭を食い破りデッキもしくは手札から最強の蟲が生まれる。いでよインセクトのクイーン インセクトマザー」

 インセクトマザーコクーンが左右にぱっかりと割れて、中からクワガタムシの頭とアゲハ蝶の羽根とトンボの胴体とカマキリの前脚と蜂の脚とキリギリスの後ろ脚をくっつけて全長5メートルにしたようなモンスターが現れた。ハイパーライノセラスビートルしか食ってねえのになんでこんなに姿がバラバラなんだ。

「インセクトマザーは現れたターンには攻撃できない。ターンエンド」

 見た目と同じで動きも鈍重ってことか

 

 お嬢様の12ターン目だ。

「ターンスタート。ドロー。チャージ。パックとコスト2を使ってパックを召喚しますの。破壊してコストを1追加しますわ。パックはコストゾーンに置かれますの。パックとコスト2を使ってパックを召喚しますわ。破壊してコストを1追加しますの。パックはコストゾーンに置かれますわ。ループ証明。あと7回繰り返しますわ。タイターニアでインセクトマザーに攻撃しますの」

「このターンのインセクトマザーの防御力は5。もちろん痛手は受ける」

 なんか引っかかる言い方だな。

「妖精王オベロンでインセクトマザーに攻撃しますわ。ターンエンドですの」

 なんか嫌な予感がする。

 

 白い服の男の子の12ターン目だ。

「ドロー。チャージ。インセクトマザーでタイターニアに攻撃。捕食する女王(プレデタークイーン)

 インセクトマザーは妖精王オベロンを飲み込んで煎餅を食べたときのような音を鳴らす。

「インセクトマザーの元々の攻撃力は6だ。そしてインセクトマザーは自分のターン中孵化する前に破壊したモンスターの攻撃力の合計分攻撃力が上がる。つまり攻撃力は15。さらにインセクトマザーは攻撃で破壊したモンスターの元々の防御力分生命力を上昇させる。ターンエンド」

 厄介なモンスターだ。

 

 お嬢様の13ターン目だ。

「ターンスタート。ドロー。チャージ。偉大なる妖精よ。膨大な魂の力によって顕現し、魔を浄化せよ。コスト20で極大妖精(ビッグフェアリー)を召喚しますの。極大妖精(ビッグフェアリー)でインセクトマザーに攻撃しますわ。破壊」

「うむむ。オベロン破壊した方がよかったか」

「助かりましたわ。ターンエンドですの」

 あんなに苦労して出したものを一瞬で破壊されるとかかわいそう。

 

 男の子の13ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト5でハニーノスを召喚。ターンエンド」

 お嬢様の14ターン目だ。

「ターンスタート。ドロー。チャージ。コスト5でドラゴンブレスを発動しますわ。自分の場の一番攻撃力が高いモンスターより防御力と生命力の合計値が低いモンスターを全て破壊しますの。その代わりこのターン中攻撃できません」

 極大妖精(ビッグフェアリー)のくしゃみですべてのモンスターが破壊された。

 

 男の子の14ターン目だ。

「ドロー。ターンエンド」

 お嬢様の15ターン目だ。

「ドロー。コスト10で巨獣ギガントを召喚しますの。極大妖精(ビッグフェアリー)で攻撃しますわ」

「大森林のヒルの効果発動」

「そう来ることは分かっていましたわ。巨獣ギガントの効果でこのカード以外の攻撃力10以上のモンスターの攻撃中にカードは使用できませんわ」

 白い服の男の子:生命力10→0

 

 場がすっきりした。

「判決。無罪放免」

「やりましたわ」

 お嬢様は息を深く吐いた。



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八十二枚目 なにもの

更新遅れもうしわけない


 ラジーお姉様に呼び出された。

「ラジーお姉様なんですか?」

「ちょっと紹介したい人がいるんだよね」

 ラジーお姉様の部屋に連れられた。

 

 ラジーお姉様の部屋には背の高い男の人と男の人と女の人がいた。

「この人たちはどなたなのでしょうか?」

「首長様の親友……」

「気に食わないがそういうことだ」

 首長様っていうことはどこかの部族の偉い人なのかな。

 

 背の高い男の人は目を大きく見開いた。

「特に役にも立たないC(コモン)カードを集め続けたかいがあった」

「お姉様これはどういうことですか?」

「私がC(コモン)カードを集め続けたのは、金銭のためではない」

「いやいや初めての人がいるんだから説明してもらわないと」

 訳が分からないのよね。

 

 背の高い男の人はC(コモン)カードをいっぱい並べた。

「私は次元の巫女様を信奉している。私の力も次元の巫女様から貰った力だ」

「次元の巫女様ってのは異世界のカードを持っている謎の女ってことだ」

「私もこの人も次元の巫女を探しているから協力しようってなってる」

「ですからそのこととこれに何の関係があるのですか?」

 いい加減本題に入ってほしい。

 

 C(コモン)カードの絵柄が徐々に変わる。

「うぇっ!?」

 私のデッキケースから高次元のスピードラットが飛び出した。

「そのカードの力によってカードが変質しているのだ」

 効果も名前も書き変わる。

 

 背の高い男の人は手を自らの口でふさぐ。

「なるほど。次元の巫女様は残りカスでもこれほどの力を持っているのか」

 変質したカードはデッキになって私の二つ目のデッキになる。

「長年協力してきた私じゃなくてラーナが選ばれたか」

「次元の巫女様の力は強大な力だ。だが吞み込まれればマズいことになる。せいぜい吞み込まれないようにな」

 二つ目のデッキから禍々しい力と清々しい力を感じる。

 

 一つ目のデッキから焼鳥屋に賛成するにわとりが飛び出して、4枚増えた。

「ええ!?」

 増えた4枚のにわとりは高次元獣 フェネクスというカードに変化した。

「カードが変わった」

 フェネクスは二つ目のデッキに入って、にわとりは一つ目のデッキに戻る。

 

 訳が分からない。

「お姉様これはどういうことですか?」

「次元の巫女の器に選ばれたんだよ。闇であれば闇に染まり光であれば光に染まる強大な力を得たってわけだ」

「このことは内密に……」

 背筋に氷を当てられたような気分になった。

 

 そのあと休んだ。

 

 結局あの人たち何者だったんだろう。

「なんだったのかな」

 何だったんだろうね。

 

 窓から変な人が入ってきた。

「俺はカードハンターだ。お前のカードをもらいに来たぜ」

「カードハンターですって?」

 カードハンター……なんか体が震える。息も荒い。心臓がいつもよりも動いている。汗もだらだら出ている。

 

 カードハンターが舌なめずりをしている。

「伯爵家によく忍び込めるね」

「楽をしたければこのぐらいしないといけないんだよ。いいとこのお嬢様には分からないと思うがな。トバクファイトエントリー」

「トバクファイトエントリー」

 まあ勝てばいいのよ勝てば。勝てなかった後のことはどうしよう。

 

 ……ギリギリ勝てた。にわとりをあと1ターン出すのが遅かったら負けてたわ。

「何をもらおうかしら」

 一番弱いカードを貰った。トバクファイトは勝ったら何かしらもらうのがマナーだからね。

「買えりうちに合うとはな……覚えてろ」

 カードハンターは割れた窓から出て行った。

 

 その日は何事もなく過ぎた。

 

 何もない日だったのでカネスキちゃんの家に遊びに行った。

極大妖精(ビッグフェアリー)でとどめですわ」

「ぐわー」

 茂みから様子をうかがうと誰かがカネスキちゃんに倒された。

 

 ……よく見たら私を襲ったカードハンターじゃないのよ。

「楽勝でしたわ。もうちょっと手ごたえが欲しいですの」

「うわあああ」

 カードハンターはカードを一枚置いて行ってから逃げた。

 

 楽勝なんてそんな噓くさい。私はギリギリ勝てたのに。もしかして今のカネスキちゃんって私よりもずっと強かったりするのかな。

「まあそれはないよね」

 一応私二連勝してるからね。相性かな。

 

 茂みから出た。

「あっ。いらっしゃい」

「カネスキちゃん。いきなりで悪いけど何も言わずに私とカードファイトをしてほしいの。カードファイトエントリー」

「分かりましたの。カードファイトエントリー」

 カネスキちゃんは首を傾げる。

 

 

 ……今はなんやかんやあって私の9ターン目が終わったところよ。

「まさか手札二枚で焼鳥屋に賛成するにわとり3枚の攻撃を防がれるとは思わなかったわ。格闘家の能力を使うべきだったわね。ターンエンド」

 カネスキちゃんの10ターン目だわ。

「ターンスタート。ドロー。チャージ。コスト10で巨獣ギガントを召喚しますの。さらにコスト5でドラゴンブレスを使いますわ。ターンエンドですの」

 巨獣ギガントの咆哮でにわとりがすべて破壊された。

 

 私は何もできずにターンを終えて、次のターンに巨獣ギガントにとどめを刺された。

「本気出してる?」

 カネスキちゃんのカードから伝わる力強さがちょっと足りなかったわね。

「今回は引きが悪かっただけですの。次がありますわよ」

 ごまかされた。

 

 そのあと勝ったり負けたりして家に帰った。負けた回数の方が多かったな。あとドロウちゃんとの戦いも見たけどあれは全然本気じゃなかった。手を抜かれてた。

「私じゃ実力が見合わないのかも」

「入るよー」

 お姉様が入ってきた。

 

 お姉様は私の横に座る。

「実力がないなら二つ目のデッキを使えばいいのに」

「あっ」

 忘れてた。



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八十三枚目 相手は勝利する

カードゲーム史上最弱だな


 よくよく考えたらどうも十日前のラーナちゃんはおかしかった。

「まるで自分から負けに行ってるような感じがした」

 楽々勝てるファイトもやらかして負けることも何度かあったし、どっか悪かったのかな。

 

 ラーナちゃん体調悪いのかな。

「心配だぁ~」

 部屋のドアが勢い良く開いた。

「うわっと」

 ドアを開けたのはラジーさんだった。

 

 ラジーさんの顔が崩れていた。

「あわわ」

 何やら慌てている様子。どうしたんだろ?

「どうかなさったんですか?」

「ラーナが突然……」

 ラジーさんは泣きだす。察したぞ。

 

 でもなんで俺のところに来たんだ。俺に伝える内容でもないだろ。

「ご愁傷様です」

「ドロウちゃんが想像しているのとはちょっと違うかな」

「なら良かったです」

「良くないよ。ラーナの様子が変なんだよ」

 なんだと。

 

 でもラジーさんの気のせいかもしれないな。

「どんな感じなんですか?」

「いや何度勝っても負けても弱いとか下手とか思い込みたがるようになったんだよね」

「謙虚になったんですね。さっきのはうれし泣きですか?」

「謙虚すぎて面倒くさいんだよね。しかもそれで性格が暗くなったわけでもないからわけわからない」

 実の姉に面倒くさいと言われるなんて相当だな。

 

 理由とかあるのかな。

「理由とか分かりますか?」

「私のような仕事人間に人の心が分かるわけないのだ」

 それって偏見では。反論すると面倒くさそうだから黙っておくけど。

 

 なんで俺に相談したんだ。

「もっと他に相談すべき人がいるでしょうに」

「他に相談すべき人はみんな用事があったからね」

「そういうことですか。実際今日は暇ですから大丈夫ですよ」

「ワープゲート」

 空間に出来た穴をくぐる。

 

 ラーナちゃんがいた。

「随分イメチェンしたなあ」

「変わってないよ」

 あっ。本当だ。変わってない。見た目もしぐさも変わってないはずなのに雰囲気が違う。何というか禍々しさと清々しさがある。

 

 気の弱い人ならプレッシャーに気圧されているだろう。

「この程度じゃまだ弱いわ」

 ラーナちゃんの周りには大勢の人が倒れていた。

「この人たちは?」

「カードファイター。全員負けて落ち込んでる」

 俺もこんな数に連勝したことないぞ。どこが弱いんだよ。

 

 でもキツそうだな。

「反動とか大丈夫なのかな……」

「なぜか大丈夫なんだよね」

 いいな。羨ましい。決闘裁判の後は12時間ぐらい寝込んだからね。

 

 ラーナちゃんは俺の方を見る。

「久しぶりね。カードファイトする?」

 十日前にあった奴に対して言うことがこれか。

「いやですね。だって十日前にやった時楽々勝てるファイトで負けてたじゃないですか。時間の無駄だからわざと負けるような人とはやりたくないんですよ。本当は強いからもったいないんです」

 ラーナちゃんの目が、好奇心を失った人間が未知のモノを見つめる目に変わる。

 

 ……なぜかそれがひどく怖く感じる。

「手加減できるほど強くないからそんなことできるわけないじゃないの。私はカードファイトは弱いのよ」

「こんな感じ」

「そういうことですか。言っておくけど俺もここまで連勝できないからな」

「それは運が悪かっただけで、私の運が良かっただけ」 

 ここまでくるとちょっとイラつく。

 

 カードファイトを受けてやろう。

「カードファイトエントリー」

「カードファイトエントリー。お手柔らかにね」

 今までもこれからもどうしてもという時以外は手加減しないつもりだから。

 

 ラーナちゃんのデッキが赤く光った。ラーナちゃんの1ターン目だ。

「チャージ。ターンエンド」

 俺の1ターン目だ。

「ドロー。チャージ。ターンエンド」

 嫌な予感がする。

 

 ラーナちゃんのデッキの一番上が光る。

「ドロー。チャージ。コスト1で勝利の高次元 エクストラスを召喚」

「は? なんでそんなカード入れてるんですかね」

 勝利の高次元 エクストラスは第五弾のSR(スーパーレア)カードだった。その効果はカードファイトをしているときこのカードが召喚されたら相手プレイヤーは勝つというカードゲーム史上最弱の能力。カードジョブオンラインでは同じレア度のカードと交換できるシステムがあったので引換券さんとかコスト1でできるサレンダーとかステータスは高いという賛否両論(否が9割)がある。

 

 そんな使いどころのないカードを入れて何をするんだ。

「弱きネズミは高次元の力を手にして再び故郷へ舞い戻る。運命を捻じ曲げろ。高次元のスピードラットを場に置く」

「高次元のスピードラットを出すためのコンボか。そこまでして出したいものなのかねぇ」

 ……あっこれで後アジ・ダハーカとクリンタ城さえあればワンショットキルが出来る。

 

 ラーナちゃんがカードを掲げた。

「コスト1で手札から高次元獣 フェネクスを召喚するわ。フェネクスは生命力が1以下のときにのみ召喚できるのよね。フェネクスの効果で自分の場のすべての種族を持つモンスターをこのカードの下に置くわよ。ターンエンド」

 フェネクスとかいう謎カードは生命力を1にしてまで召喚する価値があるわけか。

 

 俺の2ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト2でメガチャージを発動。ターンエンド」

 何もかも不気味だ。



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八十四枚目 蘇るモンスター

 ラーナちゃんの3ターン目だ。

「コスト3で発動。次元回収。効果で自分の場の高次元と名の付くモンスターの下にあるカードを一枚手札に加えるわ。もちろん高次元のスピードラットを手札に加えるわよ。高次元獣 フェネクスで攻撃。ターンエンド」

 フェネクスが羽ばたくとそよ風が吹いた。ダメージも受けてないし、きっと攻撃しないといけない系の能力を持っているのだろう。

 

 なぜステータスが高いエクストラスで攻撃しなかったんだ。俺の3ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト4でトリプルドロー発動。ターンエンド」

 ラーナちゃんの4ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト3でスピードラットの高次元転移発動。これで高次元のスピードラットをコスト1で召喚できるようになるわ。高次元獣 フェネクスで攻撃。ターンエンド」

 何をしてくるかわからないから一挙手一投足が不気味だ 

 

 俺の4ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト5で毒棘甲羅竜 ペルーダを召喚。ターンエンド」

 ラーナちゃんの5ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト4で加速する高次元を発動するわね。高次元と名の付くカードが私の場に二枚あるなら四枚ドローできるわけ。その代わりに高次元と名の付かないカードが私の場にあったら使えないし、このカード使ったら攻撃できないんだけどね。ターン終了時にスピードラットの高次元転移の効果を発動するわね。私のモンスターが攻撃していないとき私の場のモンスターを破壊するよ。ターンエンド」

 生命力を1にしてまで出したモンスターがコレか。

 

 俺の5ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト6でダイヤモンドスパイクを発動。ペルーダを選ぶ。ターンエンド」

 ラーナちゃんの6ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト2で高次元のスピードラットを召喚。さらにコスト4で高次元獣 ジャッカロープを召喚するわ。ジャッカロープも生命力が1以下のときにのみ召喚できるわ。ジャッカロープの効果で自分の場のすべての種族を持つモンスターをこのカードの下に置くわね。ジャッカロープの効果を発動させてもらうわ。私の墓地の高次元獣と名の付くカードを一枚手札に戻すよ。フェネクスを手札に戻すわ。ジャッカロープでペルーダに攻撃するわね」

「ペルーダの防御力は8だ。これを食らうのって結構痛手だと思うけど」

 ラーナちゃんは口角を上げる。

 

 ジャッカロープは破壊された。

「フェネクスの効果を発動させてもらうわ。このカード以外の高次元獣と名の付くモンスターが戦闘で破壊されたとき墓地か手札からこのカードを場に出して、墓地のすべての種族を持つモンスターをこのカードの下に置くの。そうすることでフェネクスは蘇る。まあ高次元獣 フェネクスの効果は一ターンに一回しか使えないんだけどねー」

「二体あれば蘇り続けるのか。フェネクスの名にふさわしい」

「ターンエンド」

 フェネクスは効果で破壊するのが一番だからね。

 

 俺の6ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト7で焼鳥屋に賛成するにわとりを召喚。俺はコスプレイヤー効果でにわとりを手札に戻してステータスをコピーする。攻撃。もう一枚ないと防げないだろうな」

 フェネクスを攻撃で破壊した。

「フェネクスの効果で墓地からフェネクスを蘇らせるわ」

「うむむ。ターンエンド」

 面倒くさい。

 

 ラーナちゃんの7ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト4で加速する高次元を発動するわ。高次元獣 フェネクスで攻撃。ペルーダに破壊されるけど、別のフェネクスが現れるのよね~。ターンエンド」

「むむむ」 

 どうにかしないとな。

 

 俺の8ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト5でデモンズドローを発動。4枚ドローして手札からバーンスマッシャーを捨てるぜ。1ダメージだ。これでも食らえ」

「手札から魔法を発動するわね。高次元の防壁。戦闘以外でダメージを受ける時、このカードを場に置く。このカードが場にある限り戦闘以外でダメージを受けない効果があるんだ」

 ええい。倒せたと思ったのに。

 

 何の進展もなく俺の10ターン目になった。まあ無限蘇生コンボを食らったら進むものも進まないからね。

「ドロー」

 ……そうかこのカードなら。

「ターンエンド」

 

 ラーナちゃんの11ターン目だ。

「ドロー。チャージ」

「俺はコストを10払って手札からピースフルワールドを発動。相手がターンの最初のドローを行った後に使える。相手はこのターン中攻撃できない」

「あっそうよね。そういう使い方もあるわよね。ターン終了時にスピードラットの高次元転移の効果を発動するわ。私のモンスターが攻撃していないとき私の場のモンスターを破壊するよ。ターンエンド」

 よし。

 

 俺の11ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト7で焼鳥屋に賛成するにわとりを召喚。俺で勝利の高次元 エクストラスに攻撃」

「あっ。すっかり忘れてたよ」

「忘れてくれててよかったぜ」

 二体のにわとりで攻撃して破壊した。

 

 ラーナちゃんの12ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト2で高次元のスピードラットを召喚。コスト10で高次元獣 セイアジンを召喚するわ」

 三本足で巨大なヒキガエルが現れた。

「セイアジンも生命力が1以下のときにのみ召喚できるわ。セイアジンの効果で自分の場のすべての種族を持つモンスターをこのカードの下に置くわね。セイアジンの効果を発動させてもらうわ。私の場に高次元獣と名の付くモンスターがいる限り私は負けないのよね~」

 一気にやりにくくなった。生命力1がなかなか削れない。



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八十五枚目 盗み聞き

 そよ風が吹いた。

「フェネクスでペルーダに攻撃。例のごとく蘇ってターンエンド」

 俺の12ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト4で鯵テーターを召喚。俺はセイアジンに攻撃する。鯵テーターでセイアジンに攻撃。ビーコンパラサイトでセイアジンに攻撃。ターンエンド」

 コスト10だから相当硬いね。

 

 ラーナちゃんの13ターン目だ。

「ドロー。チャージ。フェネクスでビーコンパラサイトに攻撃」

「ビーコンパラサイトの効果でペルーダに攻撃してもらう」

「げぇ。手札と墓地にフェネクスがいないから効果が使えない」

「使えるようにしてやるよ。このターンは全員ペルーダに攻撃してもらうつもりだから使えるぜ」

「鯵テーターって厄介ね。フェネクスでペルーダに攻撃。破壊されるけど効果で蘇る。セイアジンでペルーダに攻撃。むぐぐ。破壊されちゃった。蘇ったフェネクスでペルーダに攻撃。破壊。ターンエンド」

 攻撃しなければならないのって使い方によってはこんなに刺さるんだな。場ががら空きになったぞ。

 

 俺の13ターン目だ。

「ドロー。チャージ。俺はラーナちゃんに攻撃するぜ。とどめだぁ」

 場がすっきりした。なんか弱いな。言い方は悪くなるけど引きが良ければもっと早く倒せてたわけだからね。

 

 手ごたえがない。本当にここに転がっている人全員倒せたんですかね。 

「どうだった?」

「まあ強かったですよ」

「物足りないって顔に出てるわよ。正直に言うと?」

「なんかちょっと物足りなかったなぁと。前のデッキの方が何倍も強い気がします。まあ相性がよかったからかもしれませんがね。フェネクスは普通に相手してたら厄介ですし。毎ターン攻撃を一回無効化出来ると考えたらとか相手したくないです」

 相手のモンスターを手札に戻せる魔法があればいいのに。

 

 ラーナちゃんはため息をつく。

「今回はなぜか引きが悪かったけど、それを言い訳に出来ないくらいには私は弱いのね」

「だから相性の問題だって言ってるじゃないですか。それに毎ターンエクストラスで攻撃していれば勝てていましたからね」

「それもそうよね。私って駄目ね」

 本格的にウジウジしてやがる。いいとこの貴族さんだから拾い食いしたとかじゃなさそうだし、何があったんだ。

 

 めんどくさいことになったぞ。

「倒しちゃったから説得力はないけど今のラーナちゃんは強いと思うよ。ただそれだけが言いたかった」

 転がっている人を起こした。

 

 転がっている人は辺りを見る。ラーナちゃんを見つけると顔を青くした。

「ヒ、ヒエエエエ。カードハンター止めるから助けてええええ」

「今しがた起こした人はラーナちゃんにトラウマを抱えている。それほどまでにラーナちゃんに打ちのめされたってことだ。今の人からラーナちゃんの実力は高いことが分かるよね」

「ドロウの言った通り相性が良かっただけだから。私の実力が高いわけじゃないもん」

 今のラーナちゃんはとことん自分をけなさないと気がすまないみたいだ。めんどくせーーーー。

 

 ……イラついてないで冷静に考えてみよう。

「人の性格がいきなりほぼ真逆になることなんて有り得ないことなんですよ。何かきっかけがあるはずなんですよね」

 ラジーさんは目をそらす。

「何か知っているんですね?」

「シラナイヨー」

「知っているんですね」

「話すけどこんなところじゃ話せない。ラーナもいつまでもここにいないでお部屋で勉強でもしてなさい」

「はーい」

 ラーナちゃんは意気揚々とお屋敷の中に入っていった。

 

 お屋敷にあるラジーさんの家まで通される。

「ラジーさん心当たりとは一体何ですか?」

「その前にすべきことがある」

 ラジーさんはナイフを投げる。

 

 ナイフは俺の顔を横切った。

「始末しようという訳ですね」

 嫌な予感がしていたので袖の中にカードを仕込んでいたのが役に立った。

「森を守るエルフを召喚」

 森を守るエルフは天井に矢を撃つ。

 

 天井から人が落ちてきた。

「この人たちに聞かれてるからね。後ろ向いてみて」

 森を守るエルフが後ろから何かを引きずって落ちてきた人の横に置く。

「この人たちは誰なんですか?」

「貴族とか豪商とかが情報収集とか始末とか様々なことに使っている工作員だね。私は使ってないから安心してくれないかな」

 嫌な予感がなくなったので森を守るエルフを消す。

 

 ラジーさんはベッドに座る。

「高次元のスピードラットいう見たことも聞いたこともない未知のカードをラーナが持っていたことが始まりだった」

 俺のせいじゃん。

「俺の責任ですねこれは。高次元のスピードラットをあげたのは俺ですから」

 要らないけど押し付けちゃダメとか面倒なカードだ。

 

 ラジーさんは指でバッテンを作る。

「話は終わってないよ。突然C(コモン)カードが光って高次元獣とかあのデッキのカードに変わったんだ。しかもフェネクスは焼鳥屋に賛成するにわとりというカードが高次元のスピードラットというカードの影響で四枚増えて変化したものなんだよね」

 焼鳥屋に賛成するにわとり……またしても俺があげたカードだ。

「ただそれだけのことであって責任を取ることじゃないよ。話は終わった」

 辞表出さなきゃ。教え子の親友が俺のせいで性格が卑屈になったんだからな。



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八十六枚目 再開

 辞表を出してきた。

「どういうことだね」

 ラジーさんから聞いてきたことを雇用主に説明した。

「なるほど。責任を取って辞めたいというのだね。カネスキに苦労しすぎてやめたくなったわけではないので安心した」

「そういうことです。お嬢様は迷惑かけていないので大丈夫です。お嬢様には内密にしておいてくださいね。お嬢様が聞けば取り乱すと思うんですよ」

 明るい親友がいきなり卑屈になるとか取り乱さないわけがないのだ。

 

 雇用主はため息をついた。

「責任を取ると言って辞職するのは逃げだと思うけど。それにやめた後はどうするんだい?」

「えっ」

 そこまで考えていなかった。判断が悪かったな。

「あのーそこまではー……考えていないです。はい」

 判断力が欠けていたな。

 

 後から考えるとどうしてそんな判断をしてしまったのかってのはよくあることだよね。

「そんな無計画なのか。やってしまったことから逃げてそのまま放置するとは見下げた奴だ」

「はい。そうですね」

「それに貴族のつながりがあった方が色々と治す方法が分かると思うのだよ。それにどこぞの一般市民よりもピンハネル伯爵家の関係者でいたほうが、フラム伯爵家にすぐ行けるようになるだろう」

「なるほど。それもそうですね」

 判断の悪さがうつったな。

 

 まあやめるのは判断が悪かったな。

「わかりました。ありがとうございました。何とかしてきます」

 ここまでして俺がやめるのを止めるってことはなんかあるんだろうな。

「まあ打算でもいいや」

 むしろ利用してくれなきゃお人よしすぎて気味が悪いというかなんというか。

 

 二日後アポを取ってフラム伯爵家に訪問した。

「強くはなったけどこれでも及ばないわ」

 ラジーさんとラーナちゃんがカードファイトしていた。

「コスト6でベイジャイロを召喚。ベイジャイロで高次元獣 フェネクスに攻撃。ベイジャイロの効果発動。攻撃対象を私にすり替えることができる。スピニグジャイロ。ダメージスイッチの効果でダメージは受けない。ターンエンド」

 イフリートを出そうとしているな。

 

 ラーナちゃんはドローしてから考え込む。

「フェネクスでベイジャイロに攻撃してターンエンドです」

 エクストラスがいるのに攻撃しないところは相変わらずなのか。

「ドローする前にマジカランプの効果発動。プレイヤーが三回以上攻撃された場合、この魔法を破壊してデッキか手札か墓地から火の魔人 イフリートを場に出す」

 炎の巨人が現れた。

「手札からコストを11払ってこのカードを場に出します。高次元獣 グリッター・パラサイト。グリッター・パラサイトは場に出たときに高次元のスピードラットと高次元獣と名の付くモンスターを一枚以上このカードの下に送りますさらにグリッター・パラサイトの効果を発動します」

 とても長い線虫が出てきてイフリートを雁字搦めに拘束する。

 

 イフリートがずりずりと動いて、ラジーさんを見下ろす。

「相手がコストを払わずにモンスターを場に出した時そのモンスターの名前を高次元獣の残痕として扱う。さらにグリッター・パラサイトにっは高次元獣の残痕と名のついたモンスターのコントロールを奪う効果があるんですよねえ。コントロールビーコン」

「……むぐぐ。ターンエンド。まさかコントロールを奪われるとは思わなかった」

「コントロールを奪うだと!? そんなカードがあるだなんて」

 ラーナちゃんは俺を見る。

 

 ラーナちゃんは笑顔になって俺に手を振った。

「あ、いたの。こんにちは。私強くなったわよ。でもまだまだ弱いけどね。イフリートでベイジャイロに攻撃」

 大きなコマは消し炭になった。

「うぐあああああ」

 ラジーさんに炎が浴びせられて火だるまになる。

「ターンエンド」

 火が消えるとラジーさんはふらついた。ラジーさんの足元の芝生も焦げていた。

 

 実の姉がふらついているのに心配しないとは薄情な子だ。

「ちょっとあついな」

 ラジーさんの体にところどころ軽いやけどが出来ていた。

「もうやめろ。火傷しちゃってるだろ。何も実の姉妹でトゥルーファイトをする必要はないんです」

 ラーナちゃんは首を横に振る。色々と展開が早すぎるぜ。

 

 ラジーさんは膝をついてドローする。

「やはり熱さは本物だな。チャージ。コスト4で精霊の笛を発動する。生命力を1減らして相手モンスター一体の効果をこのターン無効化する。無効化するのは高次元獣 グリッター・パラサイトの効果だぁ!」

 イフリートに巻き付いた線虫が離れて、イフリートはズルズル動き、ラーナちゃんを見下ろす。

「イフリートで高次元獣 グリッター・パラサイトに攻撃。さらにイフリートの効果で相手の生命力を焼き尽くす」

「ストーップ」

 炎が線虫とラーナちゃんを焼いて場がすっきりする。ラジーさんの火傷が無くなった。

「これはトゥルーファイトじゃなかったということだ。痛みは受けるが死なない分こっちの方がえげつないのかもしれない」

 ラーナちゃんはぴんぴんしていた。

 

 ラーナちゃんは突然倒れる。ラーナちゃんは地面に倒れる前にラジーさんに支えられた。

「いつも通り卑屈になったと思ったらいきなりこうなった。しかしさっきのグリッター・パラサイトは初めて見るぞ」

「もう高次元獣デッキを捨てましょう」

 そうしないと危ない。



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八十七枚目 感謝厨

 ラジーさんはラーナちゃんをベッドに寝かせた後に倒れた。

「誰かいませんかー」

「人は呼ばないでほしいな。どうせ何の異常もないから、だれにも治せない」

「働き過ぎかもしれませんよ」

「ちゃんと1日七時間寝てるから」

 さっきの戦いで精神的な負荷がすごくかかったのかもな。

 

 ラジーさんはため息をつく。

「次元獣というカードに心当たりがある」

「心当たりがあるんですか?」

 そこにヒントがあるのかもしれない。

「次元の巫女だな」

「なんですかそれ」

 ラジーさんは目をそらす。

 

 ラジーさんはしばらく考え込む。

「とにかく力があって途轍もない伝説の存在かな。一部の地域ではカードの神よりも信徒が多いらしいね。暗黒邪教怒労蛮苦団でも信仰対象になってたらしいんだよね」

「初めて知りました」

 幹部にまで登り詰めてたけど知らなかったぞ。本部のくせに真面目な信徒が誰一人いないとかどうかと思うの。トップでさえ信仰している素振りは無かったんだよね。

 

 ラジーさんは首を横に振った。

「まあ今はそんなこと知らなくても重要じゃないんだ」

「重要じゃないんですね」

「重要じゃないんだ。問題は次元の巫女の力の方なんだよ。知り合いから聞いた話なんだけど次元の巫女の力は残りかすみたいなものでも、カードを書き換えるぐらいのことはできるらしい。それ故に一部ではデスティニードロー現象は体内に眠る次元の巫女の力が一時的に覚醒しているという説まであるけどこれも関係ない」

「話が脱線してますよー」

 ラジーさんはわざとらしく咳ばらいをする。

 

 ラジーさんは俺にカードを手渡した。このカードならいけるかもしれないな。

「高次元のスピードラットというカードがカードを増やして書き換えたってことは前にも言ったと思う。恐らくその高次元のスピードラットというカードが次元の巫女の力と何かしら関係があるのかもしれないと推測しているんだよね。だって次元の巫女にも高次元獣にも次元の巫女にも次元というワードが含まれてるわけだし」

 この世界で高次元のスピードラットと関係しているのは俺とラーナちゃんだけだ。まさかね。

「次元の巫女ですか」

 そこも調べてみる必要がありそうだ。

 

 ラジーさんは俺をじっと見つめる。

「なんですかね」

「高次元獣の力はどんどん増している。幻の炎でさえ痛みは身を焦がし炎そのもの。この調子でどんどん力をつけていけばカードファイトでも人を始末できてしまうかもしれない。それじゃマズい。一刻も早く解決方法を見つけて欲しい」

 そのまなざしは真剣だった。

「分かりました」

 ラジーさんは笑顔になって目を閉じる。

 

 ラーナちゃんは目を開けて飛び起きた。

「我は次元の巫女の意思の残痕なり」

 ラーナちゃんから威圧感をヒシヒシと感じる。

「なんだお前」

「この体は我の意思によくなじむ。貴様が高次元のスピードラットを手渡したおかげで、この体に我の意思が近づけた。貴様に感謝しよう。そしてこの体に高次元獣を何度も使わせた実力者であることにも感謝しよう」 

 なんだこいつ。

 

 ラーナちゃんが妖艶な笑みを見せた。

「様々な実力者が来るようになったのもこの体が色々と頑張ったからだな。おかげで我はより一層強くなった。この体にも感謝しよう」

「感謝厨かよ。まあ感謝するのは良いことだ」

「それらすべてに感謝したうえで我は今後この体を支配し、様々な実力者に高次元獣を渡すことで我を拡散する。我の中に眠るこの体の意思には墓に入るまで黙っていてもらおう」 

 高次元獣は寄生虫の卵みたいなもんだったのか。そして俺は寄生虫そのものを知らずに渡していたということだ。 

 

 ラーナちゃんは右腕を動かす。

「なんで右腕が動いているんだ……まさかこの体の意思はしぶといのか」

 デッキケースを投げ渡された。

「何かと思えば、デッキを渡しただけか。それだけで力尽きたか」

 投げ渡されたデッキを見る。なるほど。

 

 俺はデッキを構える。

「ラーナちゃん。次元の巫女の残痕倒してからこのデッキ後でちゃんと返す」

「そういえばこの体の元々のデッキとは戦ったことがなかった。貴重な体験をさせてくれて感謝するぞ」

 ポジティブすぎる。

 

 俺の……いやラーナちゃんのデッキが赤く光る。

「後攻か。じっくり考えられるということだな。運に感謝しよう」

「余裕かよ」

 余裕そうだな。その余裕の表情を崩したい。 

 

 俺の1ターン目だ。

「チャージ。ターンエンド」

 ラーナちゃんの1ターン目だ。

「ドロー。チャージ。ターンエンド。我の引きが悪いことに感謝せよ」

 まあ高次元のスピードラットがなければ何もできないからな。

 

 互いに3ターン目までほとんどなにも起こらなかった。ハイパービーストを出しただけだな。

 

 ラーナちゃんの3ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト1で勝利の高次元 エクストラスを召喚。そして相手が勝つところを高次元のスピードラットを場に出すことで無効化する。そしてコスト2で高次元獣 ヴァンピアを召喚」

 黒い靄が現れて柱になる。

「効果で高次元のスピードラットとエクストラスをヴァンピアの下に置く。ヴァンピアの効果で下にあるカードを二枚墓地に送ることでデッキから好きな次元と名の付くカードを手札に加える。高次元の防壁を手札に加えてターンエンド」

 サーチカードとは厄介な。でもサーチで高次元のスピードラットを墓地に落とすようじゃまだまだだな。



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八十八枚目 究極の高次元獣

 俺の4ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト2でメガラビットを召喚。ハイパービーストでヴァンピアに攻撃。ヴァンピア破壊」

 これで高次元のスピードラットも召喚できないので詰みだ。

「俺の勝ちかもね」

「高次元獣と名の付くモンスターが破壊された時手札のこのモンスターを場に出す。高次元獣 カウントデュラハン。カウントデュラハンの効果で墓地の次元と名のつくカードを二枚手札に加える」

 そうやって回収するのか。

「ターンエンド」

 カウントデュラハンも強そうだし、このデッキで何とかなるのかな。

 

 ラーナちゃんの4ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト4で加速する高次元発動。4枚ドロー。カウントデュラハンでメガラビットに攻撃。ターンエンド」

 俺の5ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト4で月光ゲッコーを召喚。月光ゲッコーでカウントデュラハンに攻撃。メガラビットでカウントデュラハンに攻撃。ターンエンド」

 もうちょっと火力の欲しいデッキだな。

 

 ラーナちゃんの5ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト3でスピードラットの高次元転移発動。ターンエンド」

 俺の6ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト6で焼鳥屋に賛成するにわとりを召喚。にわとりでカウントデュラハンに攻撃。破壊」

「破壊してくれて感謝しよう。手札のフェネクスの効果発動。フェネクスを場に出す」

「相変わらず厄介な効果だな。手札にいないことを期待したけどさすがに引いてたね」

「ああ。厄介な効果だ。敵に回したくない」

 敵に回したくても回せない人が言うとマジでむかつく。この性格の悪さはラーナちゃんに似ているだけの別人だね。

「けどね不死鳥にも弱点はあるんだよね。メガラビットでフェネクスに攻撃。ハイパービーストでフェネクスに攻撃。破壊。二度破壊すればいい。不死鳥恐るるに足らず。ターンエンドだ」

「二度も破壊すれば蘇らぬという弱点を教えてくれて感謝するぞ」

 へっ。強がり言ってんじゃねえや。ポジティブシンキングもここまで行くとヤバイ(比較的優しい表現)ね。

 

 ラーナちゃんの6ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト1で高次元のスピードラットを召喚。そしてコスト5で高次元獣 ゴーストミノタウロスを召喚。ゴーストミノタウロスの効果でスピードラットを手札に戻して、相手の手札を一枚墓地に送る。でも手札が無いから意味ないね。戻しただけ。ゴーストミノタウロスでメガラビットに攻撃。破壊。ターンエンド」

 俺の7ターン目だ。

「ドロー。コスト4でトリプルドロー発動。コスト2でメガチャージ発動。コスト2でメガラビットを召喚する。にわとりでゴーストミノタウロスに攻撃。月光ゲッコーでゴーストミノタウロスに攻撃。破壊」

「不死鳥は蘇る。そういうものだ」

「……ターンエンド」

 うぜえええええ。

 

 ラーナちゃんの7ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト6で次元シフトアップ発動。自分の場に高次元と名の付くモンスターがいて、それ以外のモンスターがいないときにこのカードは発動できる。コストゾーンにカードを3枚置く。高次元獣 フェネクスでメガラビットに攻撃。ターンエンド」

 俺の8ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト7で辻斬りサキュバスを召喚。辻斬りサキュバスでフェネクスに攻撃。破壊。効果で防御力を1上げる」

「フェネクスは蘇る」

「焼鳥屋に賛成するにわとりでカウントデュラハンに攻撃。破壊。ターンエンド」

 これでフェネクス以外いなくなったぞ。

 

 ラーナちゃんの8ターン目だ。

「ドロー。コスト10で高次元獣 グリッター・パラサイトを召喚。フェネクスで辻斬りサキュバスに攻撃。ターンエンド」

 俺の9ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト7で魔法発動。ヴァンパイアファング。辻斬りサキュバスを選ぶ」

  辻斬りサキュバスの刀とヴァンパイアファングが合体して刀身を純粋な赤に染める。

「これちょっと貧血気味になるのが嫌なんだよね。さらに魔法発動 コスト3で無限ラッシュ。辻斬りサキュバスで高次元獣 ヴァンピアに攻撃。破壊。辻斬りサキュバスの攻撃力は増加する。さらにもう一回攻撃するぜ。フェネクスに攻撃。破壊」

 フェネクスは蘇らなかった。

「どうした。生き返らせないのか?」

「今生き返らせたところで壁にもならん」

 判断がいいな。

 

 でも判断が遅い。

「辻斬りサキュバスでグリッター・パラサイトに攻撃。破壊。攻撃力合計10。もちろんこれでトドメだ」

 辻斬りサキュバスはラーナちゃんに刀を振り下ろす。

 

 切られたはずなのに場が変化しない。

「コスト10の高次元獣と名の付くモンスターが破壊された時、究極の高次元獣 アルティメットスピードラットを手札もしくはデッキから場に出す。いでよ。アルティメットスピードラット」

 銀色の光を纏ったスピードラットが現れた。辻斬りサキュバスの刀はスピードラットにはじかれる。

「厄介でござるな」

「ターンエンド」

 なんだかよくわからないが面倒なことになったぞ。

 

 ラーナちゃんの9ターン目だ。

「ドローする代わりに究極の高次元獣 アルティメットスピードラットの効果発動。次のターン相手は攻撃できない。アルティメットスピードラットでメガラビットに攻撃。破壊。ターンエンド」

「攻撃封じでバーンも効かないのか」

 イフリートがいてくれればな。



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八十九枚目 俺にはどうしようもない。諦めた

 俺の10ターン目だ。

「ドロー。コスト5で大地の読心術発動。ターンエンド」

 ラーナちゃんの山札の一番上はフェネクスか。

 

 ラーナちゃんの10ターン目だ。

「ドローはしない。これで次のターンの攻撃も封印する」

「そうきたか」

「アルティメットスピードラットで辻斬りサキュバスに攻撃。ターンエンド」

 うむむ。辻斬りサキュバスの生命力が減っていないということは攻撃力は4未満だな。攻撃しなきゃ破壊されるとはいえ攻撃力を開示するとはおまぬけである。

 

 俺の11ターン目。デッキにモンスターを破壊できるカードがあることを祈ろう。

「このデッキのことが分からない。勝負の前にちゃんと見ておくべきだったなー。ドロー」

 引いたカードを見た。一瞬銀色に光ってた気がするけど気のせいだな。

「このカードか」

 来たぞ。

 

 これが来るなんて思わなかった。カードジョブオンラインガチ勢だったころにだいぶ使ってたから懐かしいね。

「なんでデッキに合わないこのカードを入れてるんだろ」

「多分入れてないカードをデスティニードローで引いたかもしれないぞ」

 そんなイカサマみたいなことがあるのか。

 

 10-4×2=2。最低でも2残る。よし。平気だな。

「コスト5でクラッシュシューターを召喚」

「なんだそいつは」

「こいつの効果は単純明快。自分のモンスター一体を破壊して破壊したモンスターの攻撃力の半分のダメージを与える」

「その程度なんということもない。なにせ効果ダメージは受けないからな」

「まだ言い終わってない。このモンスターを墓地に送り、相手モンスターを一体破壊して破壊したモンスターの攻撃力の倍のダメージを受ける。基本的には高次元獣の攻撃力は0だ。言いたいことは分かるだろ」

 ラーナちゃんの顔が青ざめる。

 

 理解したようだな。

「クラッシュシューターの効果発動。クラッシュシューターを墓地に送り、究極の高次元獣 アルティメットスピードラットを破壊する」

 俺の生命力が8減った。

「攻撃力も分からないのにそんな賭けに出るとは……度胸ありすぎだろ」

「防御力4の辻斬りサキュバスにダメージを与えられてなかったからね。算数をちゃんと理解していれば無事なんですよ。辻斬りサキュバスでトドメ」

 ラーナちゃんの生命力:10→6

「騎士に戻してたんですね。ターンエンド」

 そのことを考慮してなかった。

 

 ラーナちゃんは何もせずにターンを終えた。

「ドロー。辻斬りサキュバスでプレイヤーに攻撃。ターンエンド」

 ラーナちゃんの生命力:6→2

 

 ラーナちゃんの11ターン目だ。ラーナちゃんの山札の上が光っている。

「ドロー。コスト8で高次元ショック発動。自分の場と墓地に次元と名の付くカード以外存在しない場合に使用できる。相手に3ダメージ」

「あ~。クラッシュシューターか。やらかした~」

 ドロウ:生命力2→0

「油断したな」

 場がすっきりした。

 

 デッキを返す。

「ようやく強者を倒すことが出来た。我は今まで弱者しか負かしたことが無いから、非常に満足している。感謝しよう」

「普通こういうのって勝ったら無くなるものでしょ……」

「我がそうではなくて何が悪いというのだ。ある程度の実力者が本気で我に挑んで負けるだけで無害化するのだから、そっちの方が楽だと思うが。そういう性質の我に感謝しろ。後そういうことは小声じゃなくて堂々と言ってほしい。聞き取りにくいから」

 これだけ元気だとしばらく消えなさそう。

 

 あっそうだ。

「でも高次元獣が意思を乗っ取るとかなんとか言ってましたよね」

「カードが人を操ることはない。もちろん人の意思が増えることもない。ああいう風に言ったら大抵のカードファイターが英雄気取りで戦ってくれるから、言ってるだけだぞ」

 おかしいんだよなあ。説明がつかないんだよなあ。

 

 ラーナちゃんが目をそらす。

「なんでラーナ様の性格があそこまで変わったんですかね」

「次元の巫女はスゴイ人間だからこの世界の人間は無意識的に凄まじいストレスをかけちゃうんだ。それで無意識的に性格が後ろ向きになったんだよね。後ろ向きになった人格をカードファイトの間だけ乗っ取ることにしたから基本的に無害。強者を負かしたので満足した」

 人格を乗っ取ってるしストレスを生み出してるから有害。

 

 ラジーさんが目を覚ました。

「次元の巫女の力には闇であれば闇に染まり光であれば光に染まる強大な力ってあるけど、それは何なんだ?」

「ストレスを気にしない人間は性格が変わらないってのを大げさに言っただけですよ。でも困ったことに光は史上一人しかいなかったんですよね。その光も闇の末路と変わらず最終的に悪なのが心に来るものがありますね」

 大げさすぎる言い方だ。

 

 ラーナちゃんはデッキから手を離す。

「ドロウちゃんこんにちは。なんでこんなところにいるの?」

「ちょっとラジーさんに用があったんですが、用は済ませました」

「ああ。なんとか無事に終わったみたいで良かったよ」

「ラジーお姉様はまた過労でベッド行きですか。いい加減になさってください」

 俺はワープゲートで帰った。後日ラーナちゃんから知らないカードが増えてると言われたが、俺にはどうしようもない。諦めた。



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九十枚目 経費削減

 最近ピンハネル伯爵家の領地が増えたので、それに伴って七日前に経営コンサルタントを雇った。今までの人数だと人手が足りなさすぎる……らしい。妥当な判断だと思ったよ。

「ここまでは良い。ここまでは良いんだ」

「ここまでもの間違いでは?」

「俺にとっては都合が悪いの」

 コイツさえいなきゃなあ。

 

 顔が怖い経営コンサルタントにクビにされそうになっているのである。

「何でクビにするか理由だけ教えてください」

「教えてわかるわけではありませんが、教えましょう」

 もったいぶるな。早くしろ。

 

 経営コンサルタントは息を吐いた。

「貴女を雇ってもピンハネル伯爵家は何も得しないんですよね。いるだけ無駄なんです。毎日三食取るので他の先生よりも貴女の為に消費しているお金も多いのですよ。他の先生より金食い虫なわけです」

「なんで二回も言ったんですか」

「重要なことですからね」

 嫌な奴だ。この時点ではテメーは金食い虫だから経営のジャマしかならない。だからクビにする(要約)と、経営コンサルタント視点ではまともなことを言ってるのも嫌だ。正論は時として人をイラつかせる。

 

 ただ経営コンサルタントの言ったことに一つだけ間違いがある。

「俺は腕前だけでお嬢様にカードファイトを教えることになった男ですよ」

「貴女は女性じゃないですか。それはともかく要はカードファイトの腕前だけで雇われているよくいる貴族仕えのカードファイターですね」

「そういうことになりますね」

「雇われる前に貴女のことを調べたんですよ。闘争裁判では教え子のお嬢様よりも勝利数が少なく、第39回フィールドファイト大会では教え子のお嬢様より早く負けたとか。フラム伯爵家次女ラーナ様の助けがなければ名誉を挽回出来てないじゃないですか。腕については信用できませんよ。実績も含めて何も得しないだのいるだけ無駄だの言っていたんです。領地が増えて管理しきれなくなっているのは貴女のせいもありますからね」

「むぐぐ」 

 全くの正論だ。

 

 でも領地が増えたのは良い事じゃないか。

「飛び地の領地も増えましたからね。それにこの国が領地を分けているのも一人じゃ管理が出来ないからです。貴女はいると問題を起こしそうなのでクビにしたいんです」

「この前辞めたいって言っても引き留められたぞ」

「うむむ。そうですか。困りましたねえ。貴女の存在は他の先生も嫌ってますからねえ。諸先生方の精神的負荷になりますよ」

 今この場でそんなこと言われても信用出来ねえ。だって諸先生方ここにいねえもん。

 

 このまま話し合いをしていても仕方あるまい。

「カードファイターとはカードファイトで決着を付ければいいと思います」

「出来るならお嬢様を証人にしてとっととやってます。しかし残念ながらカードを1枚も使えないんですよ」

 そうか。カードが使えないからカードファイターである俺を逆恨みしてるのか(偏見)。一度俺にパンツを変えさせたほどに顔は怖い癖に性格は腐ってるな。

 

 経営コンサルタントはわざとらしくせきばらいをした。

「しかしカードファイターの皆さんは裏では打ち合わせをしているかのようにカードファイターならカードファイトで決着をつければいいという回答をするんですよね。所詮カードファイターはカードファイトするだけの獣なので本能なんですかね。という訳でカードファイターとお嬢様を呼びました」

 お嬢様とカシヨが入ってくる。なんでアメラはコイツを通したんだ。

 

 経営コンサルタントはお嬢様に駆け寄った。

「お嬢様大丈夫ですか。そこの丸っきり変態に何かされてないですか?」

「お前が依頼してきたんだろうがぁ!」

「そうでしたね。なんでも凄腕のカードファイターだとか」

「そいつはカードハンターだぞ」

 しかもアルカナ使ってる物好きだぞ。

 

 経営コンサルタントは首を横に振る。

「何なんだコイツ」

「カードが一枚も使えないからカードファイターを逆恨みしてるんだって」

「嫉妬心って醜いね」

「私にはカードハンターとカードファイターの見分けがつかないのですよ。何しろ同類だと思っていますからね。あと逆恨みしてませんから」

 言葉に怒りを感じるのも気のせいってことか。

 

 カシヨはデッキを構えた。

「報酬は高いしガマンすればいいか。コイツは俺に勝ったことないし、序列は俺よりも低いザ……」「わーわーわー。その話はあと。早くカードファイトをしようね」

 コイツ暗黒邪教怒労蛮苦団に入ってた時に事を言おうとしただろ。困るんだよなあ。あと勝ったことないのも相性が悪い回復デッキ使ってたからだぞ。舐めてもらっては困る。と言いたいのを我慢する。

 

 お嬢様の目を手で隠してやがる。何がしたいんだこいつ。

「緑色の覆面している褌人間を見ておかしいと思わないんですか」

「モラルハザードではありますが、カードファイターってそういうものですよね」

「違うな。俺はカードハンターだ」

「訂正すべきところはそこじゃねえんだよなあ」

 俺はデッキを構えた。カシヨのデッキが赤く光る。



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九十一枚目 アルカナンバー

 カシヨの一ターン目だ。

「チャージ。コスト1で魔法大アルカナを発動。さらに手札の小アルカナの効果発動。ターンエンド」

 俺の一ターン目だ。

「ドロー。チャージ。ターンエンド」

 カシヨの二ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト2でバリアマジシャンを召喚。このカードは一ターンに一度戦闘で受けるダメージを0倍にする能力を持っている。しかも防御力は3。それなりに頑丈だぜ。ターンエンド」

 バリアマジシャン……厄介だな。

 

 俺の二ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト2でメガチャージ発動。ターンエンド」

 カシヨの三ターン目だ。

「ドロー。チャージ。俺はコストを1軽減してコスト0でナンバーロスト ザ・フールを召喚。ザ・フールの効果で互いの山札の上をめくる。俺はコスト3のラッキードローが出た」

「俺はコスト2のメガチャージだ」

 2足らんかったか。

 

 ラッキードロー入れるとか運ゲー統一デッキだな。

「俺は一枚ドローする。そして今ドローしたコスト3でラッキードローを使う。コインの裏が出ればお前が三枚ドローできる。表が出れば俺が三枚ドローできる。しかし俺に運命力があれば必ず俺の望む方が出るんだよぉ」

 ちゃんとシャッフルされてるのに二連続で上に来るのか。

「そんなイカサマみたいなことあるわけねえだろ」

 コインは表が出た。ラッキードロー使うとか運ゲーマニアだな。

 

 俺の三ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト4でトリプルドロー発動。ターンエンド」

 カシヨの四ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト1でアルカナンバーワン ザ・マジシャンを召喚。ザ・マジシャンの効果発動。俺はコスト16のザ・タワーが出た」

「俺はコスト5のペルーダだ」

「デッキから魔法守護結界を墓地に落とすぜ。コスト2でアルカナンバーツー ザ・ハイプリーステスを召喚。俺はコスト10のアルカナンバーテン ザ・ホイールオブフォーチュンを見せる」

「俺はコスト8のダイヤモンドスパイクだ」

「さらにザ・ホイールオブフォーチュンの効果発動。俺はコスト18のアルカナンバーエイティーン ザ・ムーンが出たぞ」

「俺はコスト7のにわとりだ」

「さらにザ・ムーンの効果発動。このカードが表向きになった時、自分の場の魔法カードの下に置く。そしてこのカードがカードの下に置かれたとき互いに山札の上をめくる。俺はコスト1のザ・マジシャンだ」

「コスト6のクワトロドロー」

 勝ったぞ。これでカシヨは散々な目にあう。

 

 カシヨは首を横に振る。

「月光は凶兆の知らせ。ザ・ムーンの効果でコスト勝負に勝てば手札がすべて無くなるが、負ければデッキからコストが18以下になるようにアルカナンバーを手札に加えることができる。俺はデッキからコスト14ザ・テンパランスとコスト3ザ・エンプレスを手札に加える。ターンエンド」

「やーっと終わったか。凄い長かったな。退屈だったぞ」

 凄く長かった。

 

 俺の四ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト2でメガチャージ発動。ターンエンド」

 カシヨの五ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト3でアルカナンバースリー ザ・エンプレスを召喚。ザ・エンプレスの効果で山札をめくる。俺はコスト10のアルカナンバーテン ザ・ホイールオブフォーチュンが出たぜ」

「マジかよ。俺はコスト2のビーコンパラサイトだ」

「まずはエンプレスの効果で俺のコストゾーンのカードを二枚手札に戻す」

 ホイールオブフォーチュンが場に出る。

 

 一切攻撃してこないのがいやらしい。ペルーダ置物じゃん。

「ザ・ホイールオブフォーチュンの効果で俺は山札からアルカナンバートゥエンティ ザ・ジャッジメントを手札に加える。さらにアルカナンバートゥエンティ ザ・ジャッジメントの効果発動」

「マジックバウンス入れておけばよかった」

「ラヴァーが入ってないならまだ何とかなるからな。ターンエンド」

 これはとてもきつい。

 

 俺の五ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト7で焼鳥屋に賛成するにわとりを召喚。そしてコスプレイヤー効果で手札に戻す。俺はバリアマジシャンに攻撃するぜ」

「バリアマジシャンの効果で受けるダメージを0倍にするぜ」

「むぐぐ。ターンエンド」

 バリアマジシャンは雑にダメージなくすのやめろ。

 

 カシヨの六ターン目だ。

「ドロー。チャージ。手札の手札のアルカナンバーフォーティーン ザ・テンパランスの効果発動。コストを支払わずに出る」

「コスト8ダイヤモンドスパイク」

「コスト6。ザ・ハイエロファント。だがザ・ジャッジメントの効果で21にするから俺の勝ちだ。ザ・テンパランスを大アルカナの下に置いて一枚ドロー。さらにコスト4でトリプルドローを発動。手札のアルカナンバートゥエンティワン ザ・ワールドの効果発動」

「コスト7。焼鳥屋に賛成するにわとり」

「コスト19。アルカナンバーナインティーン ザ・サン。これですべてのアルカナンバーは大アルカナの元に置かれる。ターンエンド」

 すべてのアルカナが大アルカナの下に置かれた。俺はバリアマジシャンだけ破壊して負けた。



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九十二枚目 とにかくく辞めさせたい

 場がすっきりした。

「こんなところだな。やっぱりザコか」

「相性が悪かった」

「もうちょっと攻撃できるデッキにしろよ……」

 だってにわとりがアタッカーとしては強いもん。準アタッカーが見つけにくいんだよね。

 

 経営コンサルタントがお嬢様を見た。

「ご覧になりましたか?」

「ええ。今の試合はとても良かったですの」

「それは良かったです」

 経営コンサルタントが俺に近寄る。

 

 経営コンサルタントは俺にこそこそ話しかけてくる。

「そう言えば負けたらお嬢様の先生をやめる約束をしていましたよね」

「してない」

「してたじゃないですか。白を切るんですか?」

「カードファイターとはカードファイトで決着を付ければいいと思いますとは言いました。しかし負けたら辞めるなんて言ってないです」

 経営コンサルタントは少し考え込んで何かに気が付いたような顔をした。

 

 経営コンサルタントは立ち上がった。

「お嬢様。この人の郷里の母は大けがをしたらしいです。昨日この手紙が届きましたよ」

「たかが一日勤めただけで手紙をもらえるんですのね」

「仕事柄様々な伝手がありますからね」

 力技に出たか。親がケガしてるのに帰らない人間を薄情な人間と思わない人なんてほとんどいないからな。居づらくして追い出す魂胆だろうね。抗議しても薄情者である証拠が増えるだけなので何も言えん。

 

 経営コンサルタントは懐から手紙を出した。経営コンサルタントから手紙を受け取って開く。

「そんなわけあるかい。あの人俺に手紙を出すような人じゃねえもん」

 知らんけど。だって俺の母親は俺が中学校を卒業する前に若い男の人と一緒に消えたもんね。本当に手紙が届いていても仮病だと思う。仮病の母じゃねえの。

 

 お嬢様は下を向いた。

「そうでしたのね」 

「さっきのはラストバトルという訳です。郷里に帰って介護に集中するらしいですからね」

 郷里に帰れるなら帰りたいが、この姿で帰っても分からないだろう。

 

 経営コンサルタントは分かりやすくため息をつく。

「先輩への尊敬の念を込めて実力者を探しましたよ」

「たかが一日しか仕事してないけどな」

「たかが一日でも尊敬の念は芽生えるというものです。尊敬するのに時間は関係ないです」

 いいこと言ってるけど辞めさせたいだけだろ。手紙をよく読むと、男の筆跡だった。なるほどなあ。

 

 手紙を裏返した。

「筆跡が明らかに男性のそれなんですけど」

「気のせいですよ。筆跡なんてぱっと見ただけでわかる物じゃないですからね。これ女性が書いたものなので、男性の筆跡になるなんてありえないんですよ。そんなに自分の母親が嫌いなのですか?」

「薄情ですわよ。アメラもマイスも一年に一度は里帰りをしているんですの。里帰りと思って帰りなさい」

 涙声になっている。そんなに悲しいのか。

 

 カシヨを見る。

「あきらめろ。なぜか知らんがどうしても辞めさせたいようだからな」

「仕方がない」

 何で止めさせたいんだろう。

 

 経営コンサルタントはカシヨを見つめる。

「そこの緑覆面をお嬢様のカードファイトの教師として雇いたいんですよ。家を持っているからどこぞの誰かさんみたいに無駄飯ぐらいにはならなさそうです」

「どこぞの誰かさんとはどなたのことですの?」

「何でもないんです。何でもないんですよ」

 どこぞの誰かさんって本人の前でいうのか。おこ。

 

 カシヨは首を横に振る。

「やめておけ。俺のカードファイトのやり方は誰にも真似できない。俺をカードファイトの教師として雇うのはやめておいた方がいい。徒手空拳と剣術と礼儀作法ぐらいしか満足に教えられるものはないぞ。礼儀作法も護衛術も教えてくれる人はいるだろう」

「実力は確かですからね。服はまともなものを着ればいいんです」

「このファッションセンスが分からないとはな。そんな奴と仕事はできねえ」

 実家との確執が嫌なだけだろ。

 

 カシヨは窓を開けてから飛び降りた。

「侵入したわけじゃないんだから正面から帰れよな」

 お嬢様は耐え切れなくなったのか部屋から出る。廊下から泣き声が聞こえた。

 

 経営コンサルタントは懐からカードを出す。

「現れろ。盗賊ゴブリン。そいつを始末しろ」

「そんなのアリかよ」

 デッキを構える。

「無駄ですよ。マーメイドバブルショット」

 高速で飛んできた泡にデッキが飛ばされた。仕方がないので窓から飛び降りる。

 

 ぐゃばぁ。手がいたぁい。

「折れてなさそうだけどこれはまずいな」

 ネコみたいに着地して衝撃を和らげようと思ったが、無理だった。素人が真似していいものじゃなかったのだ。

 

 デッキを拾うと盗賊ゴブリンが窓を飛び出してきた。

「ぐあああ」

 盗賊ゴブリンがナイフを振り回した。

「あぶねえじゃねえか。振り回すのをやめろ」

 そもそも危ない目に合わせるのが目的なのか。俺のことがそんなに嫌いなんだね。

 

 柵を上って何とか屋敷の敷地内から出る。

「げえ。にわとりを召……ぐえ」

 倒れてるってことは盗賊ゴブリンに転ばされたんだな。

「まずいな」

 盗賊ゴブリンが俺にのしかかってナイフを振り下ろそうとしている。

「へっ。こちとら一回死んでるんだよなあ」

 クソォ。アイツ許さねえ。



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九十三枚目 獅子身中の虫

経営コンサルタント視点です


 三日後に盗賊ゴブリンが小包と赤褐色の何かが付いた靴を一足持ち帰って来た。靴の中に赤く染まった髪の束も入ってる。

「この靴はあの少女が履いてたやつですね。よくやってくれました」

 この靴と髪を暖炉で燃やして小包を床に置いてから盗賊ゴブリンをカードにしまった。これで一人実力者が減った。

 

 小包を開けると中にはこの領地の無能な人間リストがありました。領地の管理をさせて徹底的に荒らすかな。

「この盗賊ゴブリンは有能ですね。次はカードの教師探しですか。まさかあのカードハンターが逃げ出すとは思わなかったですね。まあこれといって問題ありませんけどね」

 ちょっと実力のある奴を適当に連れてくか。さすがに無能じゃバレる。

 

 あのカードファイターもうまい具合に始末できましたし、今日はハッピーデーですね。

「男爵ですか。良いタイミングですね」

 腕につけたミルオクルパラサイトを見るとビルクス男爵から連絡が来ていた。

「イリコムよ。無事なのだろうな」

「ビルクス男爵。その名前で呼ぶのはやめてください。今は経営コンサルタントのカゾエと言うことになっているんですからね」

「おっとそうだった」

 ビルクス男爵はこの国を仮想敵国にしている国の貴族だからね。常識的に考えて大っぴらには話せないよね。

 

 椅子に座って書類を書き進める。

「それにしてもこの国は良い国です。私のようなスパイが入りやすいのですから。その上お給金も祖国の何倍もありますしね」

「面白くもない不快なだけのジョークを言うのはやめろ。悪い癖だ。貴様が行った理由は分かっているんだろうな」

「敵国の貴族付き凄腕カードファイターをちまちま始末する秘密裏の国家プロジェクト ノーブルガーディアンデリートプロジェクト……略してNGDPのためですよね」

 腕がよくなければNGDPの標的にならなかったのに。

 

 ミルオクルパラサイトから机をたたく音が聞こえる。

「ああそうだ。失敗は許されないぞ」

「ノーブルも潰そうと考えてるんですよ。今もなるべく無能そうな人を遠くの領地の担当に回しているところです。こういうのを異世界のことわざで獅子身中の虫って言うんですよね」

 このプロジェクトに参加している人はもっとたくさんいる。祖国がこの国ならば嘆いていただろうね。

 

 ミルオクルパラサイトから嘲るような笑いが聞こえた。

「分かっているではないか。成功しなければ我が国の発展はないものと思え。あと慎重に行けよ」

「承知しております」

 慎重さは大事。

 

 ミルオクルパラサイトから大きなため息が聞こえてくる。

「そうだ。我が国は獲物を弱らせて食らわなければ何もできない弱い国なのだ。悔しいだろうが仕方ないんだ」

「我が国はなぜか国民同士による度重なるメイクファイトで優秀な人材を失ってしまって土地も雑草すら生えぬ土地ばかりになってしまったのが、今も響いてますからね」

 トゥルーファイトの上位の戦いであるメイクファイト……そのファイト中に起きたことはすべて真実(ほんとう)になる。その戦いで人や土地がことごとく破壊されたのだ。

「カードファイターをカードファイトで倒さずに直接始末するのは良心が痛みますねえ。しかしこれも祖国のためですから」

「貴様には祖国への忠誠も痛む良心がないだろ」

「男爵も酷いですね。ないわけないじゃないですか。では切りますよ」

 ミルオクルパラサイトの通信を切られた。

 

 お嬢様が入ってくる。マズい。今の話を聞かれてたらやりにくくなる。身分の高さゆえに始末するわけにもいかない。

「お嬢様どうしましたか?」

「ドロウはもう行ったのですね」

 この様子だと聞いていないみたいだな。この部屋が防音で助かった。今までの会話は聞かれてたらマズかったからな。

 

 命拾いしたな。こっちが。

「もう行きましたよ」

「そうなのですね。薄情でなくてよかったです」

 行くは行くでも地獄に行ったんだよなぁ。しばらく会えないぞ。

 

 お嬢様が手をうちわのようにする。

「ところで夏なのに暖炉使ってどうしたんですの?」

「この部屋はちょっと寒かったんですよ。寒がりなのでこのぐらい熱くないと仕事に集中できないんです」

「そうですのね。体調に気を付けてくださいね」 

 ちょっと熱すぎた。今回は奇策を使いましたが、証拠隠滅はやはり魔物に食べさせるのが一番だなあ。普段とは違うことをやりたくなることってあるけど、やはりセオリーが一番。

 

 書類を処理する。

「この部屋から即刻立ち去るべきです。何しろただでさえ暑いのに暖炉で熱くなってますから、常人なら茹でますよ」

「フフフ。茹でるは冗談だと思いますが、そうしますわ」

 お嬢様は部屋から出た。

 

 これでやりやすくなったぞ。

「ククク……良心が痛みますねえ」

 痛む良心がないわけじゃないんです。ただ痛みよりも背徳感による幸福が圧倒的なだけなのです。それに祖国への忠誠も一応ありますよ。忠誠がなかったらとっくのとうに見限ってます。

「まあ背徳感とご褒美が無ければ悪事なんてやってられませんからね」

 この二つがあれば人間は悪事なんて簡単にやっちゃうんだけどさ。



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九十四枚目 辛うじて

カシヨ視点です


 アカネとシンズルに偶然出会った。ちょうどよかった。コイツらは金で都合よく記憶をいじれるから信用できる。

「カシヨさんどうなされたのですか?」

「お前がまともな服装するとか明日は槍か雷が降るだろうな」

「残念だな。かれこれ十日はこの格好をしているが、雨が降ったことは一度もない」

 できればこんな格好はしたくなかったが、四番手が離れるから仕方がない。

 

 眠っている四番手を指さした。

「コイツは盗賊ゴブリンにとどめを刺されそうになったところを、盗賊ゴブリンごとビッグマンティスに攻撃されて記憶を失った。ちなみにその盗賊ゴブリンは生き残ってたからコイツが死んだように偽装させた」

「ソイツ暗黒邪教怒労蛮苦団の四番手だよな。見たことあるんだけど」

「髪も短くして靴も変えたんだがなあ」

「まあカシヨさんがタダで子供を拾うわけありませんからね。孤児院が保護します」

「コイツのタクティスは記憶とともに消えちまった。今のコイツはレアカード持ってるだけのザコだ」

 シンズルにそんなこと考えられない事は知ってるけど、そのタイミングで言えば野心的にしか聞こえねえんだよなぁ。釘は刺しとく。 

 

 いつの間に起きたのか四番手は椅子に座りながらバタ足する。

「おねえちゃんたちだぁれ~?」

「それにしてもかわいいですねえ」

「よく見れば顔はいいからな」

「トバクファイトでコイツを手に入れようとするやつらが複数人いたぐらいだからな。そいつらのデッキ全部奪ったけど」

 おかげで懐が潤った。他にもカードを生み出せたりと利用価値があるからコイツを連れて歩いている。釣り人にとって何度も使いまわせていっぱい魚を釣れる疑似餌ほどありがたいものはないのだ。

 

 アカネは俺を見つめる。

「間違いがあるかもしれねえから、私が連れて行きたいんだけど」

「残念ながら、俺は美女にしか間違いを起こさない」

「万が一と言うこともある」

「カードファイトで決着を付ければいい」

 コイツから金の臭いをかぎ取ったのだろうな。また一人釣れたという訳だ。

 

 繫盛しているおかげで騒がしい店から出た。ちゃんと勘定は払ったぞ。

「おねえちゃんたち何するの? おじさんをいじめちゃだめだよ」

「おじさんだってよ。よくわかってるじゃねえか。コイツ天才だな」

「たとえ事実でもあまりそういうことを言ってはいけませんよ」

 この二人……俺が気にしてることをいじりやがって。二十代後半だからまだおじさんじゃねえんだよなあ。

 

 ……こいつら二人は金を払わなきゃ信用できない奴らだということを失念していた。

「あのおじさんは気が短くてどうしようもない奴なんだよ」

「おじさんをわるくいわないで!」

「ごめんごめん」

 四番手はふくれっ面をした。

 

 四番手の目に怒りの炎がつく。

「あなたのようなこいがたきがいるからおじさんのおでこがひろくなるんだよ」 

「服はまともでも頭が蒸れる覆面スタイルを貫いているからですよ」

「潰してやるよ。カードファイトエントリー」

「カードファイトエントリー」

 アカネのデッキが光った。

 

 アカネの一ターン目だ。

「チャージ。コスト1でタクロウライターを召喚。ターンエンド」

「いつものか。なんで四枚入れられるのに三枚しか入れてないんだよ」

「四枚目を持ってねえ」

 破壊したらちょっと面倒なことになる。

 

 俺の一ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト1で大アルカナ発動。そして小アルカナ発動。さらに俺はコストを1軽減してコスト0でナンバーロスト ザ・フールを召喚。ザ・フールの効果で互いの山札の上をめくる。俺はコスト16 ザ・タワーが出た」

「コスト5の百鬼夜工業が出た」

「一枚ドロー」

「小アルカナと合わせて二枚ドローか。結果的に手札は一枚しか減ってないってわけだ」

「ターンエンドだ」

 アルカナデッキは小アルカナを初手に加えられるか加えられないかで勝率が変わるからな。

 

 アカネの二ターン目だ

「ドロー。チャージ。コスト2でクイックリロード発動。一枚ドローして手札を一枚捨てる。手札からサプライズホバーボードを捨てるぜ。サプライズホバーボードの効果でサプライホバーボードは場に出るサプライズホバーボードでプレイヤーに攻撃」

 カシヨ生命力:10→7

「おじさんがんばってー」

「そこはおにいさんがんばってだろ」

「ターンエンド」

 おじさん呼ばわりすんな。治せ。

 

 俺の二ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト2でバリアマジシャンを召喚。ターンエンド」

 アカネの三ターン目だ。

「バリアマジシャンか。そんなもの役に立たないんだよね。ドロー。チャージ。サプライズホバーボードの効果でバリアマジシャン破壊する。ターンエンド」

 サプライズホバーボードの効果か。厄介だな。 

 

 俺の三ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト3でプレイヤーバリア発動。俺の場にモンスターがいなければ一ターンに一度だけ攻撃で受けるダメージを0にする」

「なんなんだそれ」

「新たに手に入れたカードだ。アイツのおかげだな。ターンエンドだ」

「あとであの子に感謝しとけよ」

 これで美女ならさらに良かった。



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九十五枚目 名無し

 アカネの四ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト4でトリプルドロー発動。ターンエンド」

 俺の四ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト1でアルカナンバーワン ザ・マジシャンを召喚。効果で山札の一番上をめくる。俺はコスト56の棒と剣と聖杯と護符を引き当てた」

「コスト1のタクロウライター」

「おじさんそのちょうしだよー。やっつけちゃえー」

「俺はデッキから大アルカナを墓地に送る」

 もう大アルカナは必要ないからな。

 

 よし。引けたぞ。

「コスト2でアルカナンバーツー ザ・ハイプリーエステスを召喚。効果で山札の一番上をめくる。俺はコスト16のザ・タワーが出た」 

「コスト4の電卓小僧が出た」

「ふ、ターンエンド」

 今のでザ・エンプレスも手札に加わった。そしてコストゾーンにザ・ラヴァーもザ・エンペラーも貯めていた。準備は万端だ。

 

 アカネの五ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト4でトリプルドロー発動。ターンエンド」

 俺の五ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コストを1軽減してコスト2でアルカナンバースリー ザ・エンプレスを召喚。効果で俺のコストゾーンのカードを手札に戻す。コストに使ったカードを手札に戻すかな。コストを1軽減してコスト3でアルカナンバーフォー ザ・エンペラーを召喚。ターンエンド」

 ダメージが減るのは助かる。

 

 アカネの六ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト5で百鬼夜工業発動。ターンエンド」

 俺の六ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コストを14軽減して0でアルカナンバーフォーティーン ザ・テンパランスを召喚。テンパランスの効果で山札の上をめくる。おれはコスト10のホイールオブフォーチュンが出た」

「コスト7のチョキチョキ」

「ホイールオブフォーチュンの効果発動。俺はコスト13のアルカナンバーサーティーン ノーネームが出た」

 げぇ。ノーネームが来ちまったか。

 

 こんなカード入れなきゃいけないのが癪だ。

「まずはホイールオブフォーチュンの効果を解決させる」

「コスト5の百鬼夜工業」

「ザ・ホイールオブフォーチュンの効果で俺は山札からアルカナンバートゥエンティ ザ・ジャッジメントを手札に加える。さらにアルカナンバートゥエンティ ザ・ジャッジメントの効果発動。そしてノーネームの効果発動。ノーネームは俺の場にモンスターがいないとき、手札に加えるか表向きにしたらカードの下に置かなきゃいけねえ。勝てば俺の生命力は0になり、負ければお前は好きな墓地のモンスターをタダでよみがえらせることが出来る」

「それ引くのもうちょっと遅かったらよかったのに」

 墓地がねえから負けた方がいい。

 

 一応メリットがあるだけザ・ムーンの方がマシ。

「俺はコスト17のザ・スターを引き当てた」

「私はコスト8の塵塚の強化術を引き当てた」

「ザ・ジャッジメントの効果発動。塵塚の強化術のコストを21にする」

「ムムム。墓地に何もいない」

「ターンエンド」

「おじさんの一ターンながいよ~」

「アルカナンバーの性質上仕方ねえことだ」

 ザ・ジャッジメントがいなきゃ負けてたな。

 

 アカネの七ターン目。

「ドロー。チャージ。コスト7でチョキチョキを召喚。私はデッキからアヤカシ忍者角ハンゾウと大鯖とサプライズホバーボードを墓地に送る。シャッフルはしない。サプライズホバーボードの効果でサプライズホバーボードをよみがえらせる。サプライズホバーボードでカシヨに攻撃だぁ」

「プレイヤーバリア発動」

「もう一体のサプライズホバーボードでカシヨに攻撃ぃ」

「ザ・エンペラーの効果発動。山札の上をめくる。俺はコスト9のザ・ハーミットを引いた」

「コスト6の化け鯨」

 カシヨ:生命力7→5

 

 これで召喚できるぞ。

「フォーチュンテラーを出す」

「一ターン猶予が出来たな。フォーチュンテラーめんどくさーい。ターンエンド。これで次のターンで倒せるな」

「チョキチョキは厄介だな」

 デッキから最大三枚サプライズホバーボードを出すことも楽にできるからな。

 

 俺の七ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コストを3軽減してコスト6でアルカナンバーナイン ザ・ハーミットを召喚。ザ・ハーミットの効果発動。俺が勝てばお前か俺の墓地のコスト9未満の魔法をノーコストで使える。お前が勝てばこれ以降に使う魔法のコストは9軽減する」

「当たって欲しいなあ。コスト8のネコキャットガールズ・カシャサイクリングを引いた」

「俺はコスト3のラッキードローを引いた。ザ・ジャッジメントの効果でコストを21にする。トリプルドローを使わせてもらおう」

「相手の墓地の魔法を使えるなんて強烈ですね」

 コスト8以下の魔法なんてほとんど便利なのしかないからな。

 

 今ので引けたぞ。

「俺はコストを21軽減してコスト0でアルカナンバートゥエンティワン ザ・ワールドを召喚」

「出やがったな」

「俺はコスト3のラッキードローを引き当てた」

「コスト1のタクロウライター」

 今の危なかったぜ。

 

 次のターンにアルカナンバーナインティーン ザ・サンの効果で勝った。

「おしかった。何としてもモノにしたかったんだよなあ」

「まあカードを生み出す力があるからな。うかつにやらん」

「なんだと!?」

「すさまじいです」

 金貨を三枚ずつ払った。

 

 シンズルは下手な口笛を吹く。

「忘れました」

「ああ。忘れた。何を忘れたかもう思い出せない」

 物分かりが良くて助かる。



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九十六枚目 カードハンター基地

 四番手をカードハンターの組織の専用部屋に連れて行った。

「子守……でちゅか。いい身分だなパパさん。かわいい子供ごと死んでも知らねえぞ」

「黒覆面か。暇だから皮肉を言いに来たのか?」

「ああ暇で暇で仕方がないんだ。何しろ今は忙しくない時期だからな。ついこの間まで忙しかったが、新しく雇われた奴が有能だった」

「それは良かったな」

「でもそいつ人事面では無能だから忙しくなりそうなんだ。黄金よりも貴重な暇を享受しているところなんだ」

 皮肉に皮肉を返したら愚痴を言われた。

 

 四番手は首をかしげる。

「おじさんだぁれ?」

「おじさんにはねアクイ・エルタストという立派な名前がある。まああそこの緑覆面のおじさんとかには黒覆面って呼ばれてるけどね」

 バカにしやがって。いつかその憎たらしい覆面を剝いでやるよ。

 

 白い覆面の女が黒覆面ヤローの隣に座った。

「カシヨちゃんがまともな服装してるとか悪いもの食べたのかな? 医者呼ぼう」

「まともな服装だとコイツに嫌われるからな」

「立派なパパさんですねえ。あと普段の貴方の格好はまともじゃないですよ」

 煽りがワンパターンだぜ。

 

 四番手が白い覆面の女を指さした。

「このおばちゃん前にもあった気がする~」

「おばちゃんか、おばちゃんね。ふ~ん。マグマドラゴン召喚」

「蒸し暑いからそれ止めろよ」

「まだ一応十代だから。そのことを知ってもらったうえで、おばちゃん呼ばわりしたことをドロ……この子に謝らせたいだけなんだよね」

「ごめんなさい」 

 マグマドラゴンが消える。 

 

 机の上に金色の覆面人間が落ちる。あいつが男なのか女なのか俺にも分からねえ。

「どうでもいい喧嘩はやめたまえ」

「自分の命さえどうでもいい奴に言われても説得力がない。それにワンテンポ遅れてるぞ」

「そう、すべてがどうでもいい。ワンテンポ遅れていてもどうでもいい。どうでもいいから流されるまま下流から上流に来ても気にしない。でもどうでもよさが極まるとうざったい」

 まあこいつはどうでもいい奴だ。

 

 どうでもいい奴は机から降りた。

「テーブルの上にいることはどうでもよくない」

「どうでもいいさんでもそこはどうでもよくないんだね」

「どうでもいいさんだと。いい意味でどうでもよくないあだ名だ。今度から使わせてもらおう」

 空間の穴が開く。

 

 ハントマスター様が空間の穴から出てきた。

「みんなもう終わった?」

「ハントマスター様ですか。今のはコントじゃないんですけど」

「面白かった」

「ハントマスター様が面白いと思っていてもどうでもいい」

「相変わらずほとんどすべてに無関心なところがいいね。どうでもいいさんのそういうところ好きだよ」

 ハントマスター様は一番高い椅子に座る。

 

 ハントマスター様は俺を見た。

「ところでカシヨの膝の上に座ってる子は誰なのさ。新しい幹部?」

 ハントマスター様の背後から燃え盛る大きな鳥や、紺色のローブや、鉄の歯を持つ巨人の首や、口から青い炎を出し続けている毛むくじゃらのドラゴンが現れる。覚悟が決まってても怖いもんは怖い。

「いいえ違います。幹部とハントマスター様以外この部屋に入れてはいけないことはよく存じています。ただ、カードを生み出せる力があるので……」

 白色の魚人が現れた。

 

 ペルーダとにわとりとギロチンフェイスデビルがテーブルの上に現れた。

「おじさんを傷つけたらただじゃすまないんだから」

「おいやめろ」

 四番手の口をふさぐ。

 

 魚人が首を振ると、ハントマスター様の背後のモンスターはすべて消えた。そして四番手が召喚したであろうモンスターも消える。

「言葉が足りなさすぎるよ。それを先に言ってくれればいいのにねえ。まあ見逃してあげる。噓をついてたら危なかったよ」

 ハントマスター様の背後の化け物が消える。

「寛大な措置ありがとうございます」

 ハントマスター様は自分を害するものに対して灰すら残さないことを平気でするからな。まあ害を与えなければ安全ってことだ。

 

 ハントマスター様は手を叩いた。

「気を取り直して今月の報告に入ろうか」

 ハントマスター様は今月の報告をまとめた。

 

 ハントマスター様は五枚の金貨を机の上に投げる。金貨は虹色のメタリックカードパックに変わった。

「いいカードが出たがどうでもいい。あげる」

 どうでもいいさんの引いたカードをもらう。

「まともなカードだな。あと貰ったものを他人に渡すなんてどうかと思うぞ」

 このカードは俺のデッキと相性がいいな。

 

 ハントマスター様はため息をついた。

「私は気にしてない。じゃあ解散。あっそうだ。倒して一番になりたい奴はカードファイトで私を倒しにおいでよ」

 ハントマスター様にトゥルーファイトを挑んで負けそうになったところを、うやむやにしてくれた時からこの命ハントマスター様のもの。ハントマスター様を倒して成り上がろうというゲスじゃない。

 

 部屋から去って四番手を連れ出そうとした。

「この子にこれ渡しといて」

 ハントマスター様にブランクカードをもらった。

「君は使っちゃダメだよ。使ったら怒るからね」

 何かお考えなのだろうな。



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九十七枚目 人間は中身

 部屋から出て四番手にカードを渡した。

「なにこれ。しろ~い」

「ハントマスター様がお前に下さった力だ。大事にしろ」

「わかったー」

 四番手はしぶしぶ答える。

 

 四番手は歩きながらデッキをいじっている。

「落とすからやめておけ」

「だいじょうぶ。おとさないから」

 嫌な予感しかしねえんだけどな。

 

 四番手が転んだ。

「うへ~ん。いたいよー。わぎゃああん」

 四番手はギャン泣きする。これ見た目よりも子供っぽくなってるだろ。めんどくせえなあ。

「カシヨか。こんにちは。育児中でちゅか」

 目つきの悪い男が壁に寄りかかりながら睨んできた。ヤケに道に脚が出てるから、おそらく足を引っかけられて転ばされたんだろうな。

 

 目つきの悪い男はまともな立ち方をした。

「貴族の嬢ちゃんに打ちのめされて、複数人で徒党を組むカスで、侵入した組織のナンバーワンにもなれないヘタレアンドカスにまともに子供を育てられるかな。少なくとも俺の方がマシだ」

「欲しいならくれやる」

 またコイツの力目当ての輩か。体目当てなら脚引っかけて転ばせて、顔を傷つけさせるような真似しないからな。

 

 しかしコイツからはただの小物じゃない何かを感じる。

「ありがてえな。こんなすげえ力持ってるやつ奴をくれてやるなんて。まあ基本的に人間の価値は中身で決まるものだけどさ。まあそいつはその中でも特にすごい。だって若くてかわいいからな。俺が汚しても価値が落ちない程度には美しい」

「あげるなんて一言も言ってないが。そんなに力説されてもやれねえもんはやれねえ。あと基本的に中身で価値が決まるなら外面汚れてても価値は落ちねえだろ」

 いいこと言ってるけど、なんとなくうさん臭さしか感じねえ。見ず知らずのガキを転ばせるからかな。

 

 四番手は泣き止んでふくれっ面をした。のん気な奴だ。

「おじさんひどい」

「お兄さんと呼べ」

「そんなことどうでもいいじゃないですか。その子をくれよ」

 目つきの悪い男は人を何人も海に沈めてそうな目から鋭い視線を俺に向ける。

 

 男は咳払いをした。

「職業病が出た。まあシンプルにトバクファイトで勝ち負けを付けようね」

「やだね。コイツは渡さねえ。俺にとって大事だからな」

「これってじっしつプロポーズだね」

 やたら鼻息が荒い。

 

 バシバシ叩いてくる四番手の手を払う。

「痛いから叩くな。やめろ。あと俺に幼女趣味はねえ。十五年はええよ」

「十五年ほど預かりますよ」

「やだね。デメリットの方がデカイ」 

 十五年後に十五年たつ前に家出されたとか言えばずっと使い続けることが出来るからな。

 

 目つきの悪い男は不機嫌そうにした。

「なるほど。組織に入ってるカードハンターは腰抜けと聞きました。最初は偏見だと思ったよ。でもあながち間違いじゃなさそうだね。だって実例が目の前にいるから」

「言いやがったなお前。潰すぞ。俺が勝ったら詫びに好きなカード一枚奪ってやる」

「わたしのためにあらそわないで~」

 記憶喪失のくせに恋愛劇のヒロイン気取りかよ。

 

 目つきの悪い男はバックステップをして距離を取った。

「「トバクファイト」」

「「エントリー」」

 潰してやる。相手のデッキが赤く光った。

 

 男はチャージだけして一ターン目を終える。俺の一ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト1で大アルカナ発動。ついでに小アルカナの効果発動。そしてコストを1軽減してコスト0でアルカナンバーロスト ザ・フールを召喚。効果で山札の上をめくる。コスト3 ラッキードローを引いた」

「俺はコスト5の賢くて善なる存在が出た」

「負けたか。まあいい。手札が増えるだけだからな」

 俺より運のいい奴に負けることもあるからな。それに小アルカナのおかげで手札が増えるのはこっちも同じだ。

 ドローするか……って引き当てちまったぜ。十三番目のカード。とことんついてねえ。

 

 うむむ。なんかついてねえな。

「コスト13のアルカナンバーサーティーン ノーネームの効果発動。こいつは俺の場にモンスターがいないとき、手札に加えるか表向きにしたらカードの下に置かなきゃいけねえ。まあ小アルカナでドローできるからいいんだが……」

 ターン1制限がないので今のドローでザ・テンパランスをドローできた。

 

 13+1で14だから、コイツが使えるんだよね。でもここで勝たなきゃ意味がない。

「チートか」

「チートなもんか。山札の上をめくって勝てば俺の生命力は0になり、負ければお前は好きな墓地のモンスターをタダでよみがえらせることが出来る」

「墓地に何もいないから負ければ大丈夫だよ」

 勝っても負けても何のメリットもないのがね……。

 

 山札の上をめくった。

「コスト3 ザ・エンプレス」

「コスト4 アンゼリミッター:ブレイン」

「助けられたぜ。手札のアルカナンバーフォーティーン ザ・テンパランスの効果発動。山札の上をめくる。俺はコスト20のザ・ジャッジメントが出た」

「コスト5の賢さの試練をあたえるものだ」

「俺はこれでターンエンド」

 一ターン目にして三枚。

 

 目つきの悪い男の二ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト2でバリアマジシャンを召喚。ターンエンド」

「俺が使ってるだけに厄介さは俺が一番知っている」

 まあ実のところダメージ与える手段ほぼないからさほど脅威でもないけど。



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九十八枚目 無慈悲なり

 俺の二ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コストを2軽減してコスト0でアルカナンバー・ハイプリーステスを召喚。効果発動。山札の上をめくる。俺はコスト10のホイールオブフォーチュンを出した」

「コスト20の魔海大陸の不可視剣 「    」をめくった。これで召喚コストが-1ってとことか」

「まあいい。ホイールオブフォーチュンが出たからな。ホイールオブフォーチュンの効果で山札の上をめくる。俺はコスト21のザ・ワールドをめくった」

「コスト6の魔海の術式が出た」

 魔海か。不可視剣自体はコストを爆加速するデッキに入らなくもないからな。でも魔海の術式とかいう魔海デッキ以外に使いどころのないカードなんて入れてる時点で魔海デッキだってばれた。

 

「俺は山札からアルカナンバートゥエンティ ザ・ジャッジメントを手札に加える。アルカナンバートゥエンティ ザ・ジャッジメントの効果発動。大アルカナの下に置く。コスト2でメガチャージ発動。ターンエンド」 

「魔海並みの手札補充。素晴らしい。羨ましい」

「そうか。そんなに欲しいか。そこまで言うなら代わりにこれをくれてやるよ。実のところ5枚持ってるからな。熱意に負けたよ」

「そこまで言ってないです」

 ダメだったか。

 

 ここまで言ってダメならもう仕方がない。

「わたし、おじさんといっしょにいたいからかんばってね」

「ああがんばる。お前を失いたくないからな」

「うへへ」 

 今更だが自分のこと景品にされてるのに受け入れてるのな。まあそっちの方が都合いいからいいけど。

 

 目つきの悪い男の三ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト2でメガチャージ発動。ターンエンド」

 初動が遅い。

 

 俺の三ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コストを1軽減してコスト3でアルカナンバーフォー ザ・エンペラーを召喚。ターンエンド」

 目つきの悪い男の四ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト5でモンスターを召喚。出でよ魔海の鍛冶屋。効果でデッキから魔海のはぐれ者 バーマ湖の悪魔を手札に加える。ターンエンド」

 ドローカードが多いんだったかな。

 

 俺の四ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コストを1軽減してコスト5でアルカナンバーシックス ザ・ラヴァーを召喚。効果で山札の上をめくる。負ければ俺の生命力は2軽減して勝てば俺の場のアルカナと名の付くカードは場を離れない。俺はコスト7のザ・タンクを表にする」

「ええっと。コスト20の魔海大陸の不可視剣 「    」でい。勝ったでい」

「ザ・ジャッジメントの効果でザ・タンクのコストを21にする。俺の勝ちだ。ターンエンド」

 ですって言おうとしたのを明らかにごまかそうとした口調だ。

 

 目つきの悪い男の五ターン目だ。

「ドロー。チャージ。手札の魔海のはぐれ者 バーマ湖の悪魔の効果を発動。コストを4支払ってこのモンスターを手札から捨てて三枚ドロー。ターンエンド」

 俺の五ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コストを1軽減してコスト6でアルカナンバーセブン ザ・タンクを召喚。効果で山札の上をめくる。負ければ7ダメージを受けるが、勝てば相手の場のカードをコストが7以下になるように破壊できる」

「場がすっからかんになるなあ」

「俺はコスト18のアルカナンバーエイティーン ザ・ムーンを引き当てた」

「コスト4のマーメイドローです」

「よし。魔海の鍛冶屋とバリアマジシャンを破壊。さらにザ・ムーンの効果発動」

 目つきの悪い男はウンザリしたように息を吐く。

 

 まあ一ターンが長いのはアルカナンバーの特権だからな。

「このカードが表向きになった時、自分の場の魔法カードの下に置く。そしてこのカードがカードの下に置かれたとき互いに山札の上をめくる。俺はコスト16のザ・タワーだ」

「あらら負けちゃいました。コスト3の魔海のサハギンだからねえ」

 コイツわかってて言ってるだろ。俺より使いこなせる奴は少ないが、アルカナは誰でも使えるからな。

 

 でもジャッジメントの効果使えばいいだけだな。

「そこは勝てよ。ジャッジメントの効果で魔海のサハギンのコストを21にする」

「勝たせてくれるなんて優しいなあ」

「うるせえ。ターンエンド」

 デカいぞこれは。

 

 目つきの悪い男の六ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト6で魔海の術式発動。ターンエンド」

 俺の六ターン目だ。

「ドロー。チャージ。手札のアルカナンバーシックスティーン ザ・タワーの効果発動。このカードを手札に加えたとき手札のアルカナンバーを一枚以上山札に戻してからシャッフルして、このカードを場に出す。山札の上をめくってもらおうかな」

「まーたあなたが得するようにいじるんでしょ」

「ザ・タワーは存在が凶兆。負ければ俺の場のカードは全て山札に戻り、勝てば負けたときの効果と手札全捨てがある」

「じゃあ出さなきゃいい」

 出さなきゃいいならそうしてる。効果理解してねえな。

 

 山札をめくる。

「コスト3の魔海のサハギン」

「コスト1のザ・フール。ジャッジメントの効果で魔海のサハギンをコスト21にする。ザ・ラヴァーがいるから俺の場のアルカナは場を離れねえ。おしかったな」

 あっぶね。



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九十九枚目 魔海龍 バミューダ

 俺はターンを終えて目つきの悪い男の七ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コストを3軽減してコスト2で魔海の鍛冶師を召喚。魔海のサハギンを手札に加えて一枚ドロー。コスト3で魔海のサハギンを召喚。二枚ドロー。ターンエンド」

 手札は4枚か。魔海の手札加速は凄いな。

 

 俺の七ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コストを1軽減してコスト8でアルカナンバーナイン ザ・ハーミットを召喚。ザ・ハーミットの効果発動。俺が勝てばお前か俺の墓地のコスト9未満の魔法をノーコストで使える。お前が勝てばこれ以降に使う魔法のコストは9軽減する」

「コストが9軽減するのは普通にありがたい。コスト20の魔海大陸の剣が出ましたよ」

「勝つ前提で話をするんじゃねえ。俺はコスト21のアルカナンバートゥエンティーワン ザ・ワールドが出た」

「メガチャージを使うかな。ターンエンドで」

 墓地にもうちょいいいカードを落としておいてくれよ。メガチャージ一枚じゃしょっぱい。

 

 目つきの悪い男の八ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト0で魔海のサハギンを召喚。二枚ドロー。コスト6で魔海の変異体 マレンティを召喚。効果で俺の場の魔海の数だけドローする。4+1で5枚だな」

 8枚か。

「あともう少しだな。ターンエンド」

 大陸剣はやだよ。雑に手札増やしまくってデッキアウトさせてくるからな。

 

 俺の八ターン目だ。

「ドロー。俺はアルカナンバートゥエンティーワン ザ・ワールドを手札に加えた。コストを21軽減してコスト0でアルカナンバートゥエンティーワン ザ・ワールドを召喚。アルカナンバートゥエンティーワン ザ・ワールドの効果発動。山札をめくった時に負ければ今まで俺がしてきたことはすべて無駄になる……が、勝てば一気に勝利に近づく。射幸心が煽られるおぞましいカードだぜ」

 この状況で勝てない確率は低い。だってコスト22以上のカードなんざめったにないからな。

 

 山札をめくる。

「俺はコスト1の小アルカナを引き当てた」

「コスト20の魔海大陸の明黒剣 メガラニカソード」

「ジャッジメントの効果で小アルカナのコストを21にする。その効果でいっぺんにアルカナが押し寄せて、ザ・サンの効果発動。俺が負ければ生命力は1になり、勝てばお前のターンの終わりに俺は勝つ」

 ジャッジメントに頼れない以上運に頼るしかない。

「おじさんがんばってー」

 コイツを手放さないためにがんばっていいカードを引き当てなきゃならん。

 

 山札の上をめくる。

「俺はコスト56の棒と剣と聖杯と護符だ」

「コスト20の魔海大陸の明黒剣 メガラニカソード」

「これで俺は勝つ」

「手札の魔海龍バミューダの効果発動。手札の魔海と名の付くカードを三枚まで山札の下に送って、このカードを場に出す」 

 それに何の意味があるんだ。特殊勝利無効化とかあったら俺は泣くよ。

 

 目つきの悪い男の九ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト6でクワトロブースト。ターンエンド」

「ザ・サンの効果で俺の勝ちだ」

 目つきの悪い男は首を横に振った。

「いいでしょう。今回はバミューダの顔見せみたいなものと割り切ればいいだけですからね」

 顔見世だが何だか知らねえが俺の勝ちだ。ただの負け惜しみなのに不思議と、うさん臭かったな。

 

 場がすっきりした。

「お前は俺に何を差し出すんだ。トバクファイトを挑んだ以上お前は俺にカードを譲渡しなきゃならん」

「この三枚のカードを差し上げます。正直に言ってこのカード要らないんだよね。だってデッキに合わないから。相性のいいカードでデッキを組むのって意外と大事なことだよ」

 三枚のカードをもらった。

 

 ……レアカードと言えばレアカードなんだけど、俺のデッキにも合わないから要らない。

「これやるよ。これでデッキを強くするといい」

「わーい。ありがとー。おじさんだいすきー。いままでよりもっともーーーっとすき」

 四番手ははしゃいだ。

 

 目つきの悪い男は四番手をじっと見る。

「おじさんどこかで会ったことあると思うけど、どこで会ったかなぁ」

「知らないです。たぶん気のせいだよ」

 コイツの言った通りたぶんマジで気のせいなんだろうな。でもその割には何かが引っかかりまくる。腑に落ちない。

 

 四番手とともにカードハンターの集う街から出て行った。目立たないために覆面を脱ぐ。目立つと色々と面倒くさい。

「はわあああ。覆面をとったおじさんもイケメンだねえ」

 七番手はもらったカードをデッキに入れた。

 

 七番手は俺の指に指を絡ませた。まあ都合がいいからいいか。

「自らはぐれないようにするのはいい心がけだ」

「えへへー。恋人繋ぎしちゃった」

 殺気をあちらこちらから感じる。

 

 街を出てフラム伯爵家に寄り道した。

「こんなすごいところはじめてきたよー。でもなんか初めてきた気がしない」

「なんか思い出せるか?」

「なんも分からない。さっきのたぶん気のせいだとおもうよ」

 まだ記憶は復活しないのか。都合がいいな。でも記憶が復活しそうな兆候はあるから注意をしておかないといけない。



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百枚目 記憶

 目を覚ますと知らない部屋だった。

「どこだよここ」

 ……だんだん思い出してきたぞ。ゴブリンに襲われていたところを、でかいカブトムシにぶっ飛ばされて記憶喪失になったんだっけ。

「そっからどうなったんだっけ」

 思い出せねえ。

 

 うぐっ。

「頭いてえ」

 何かを思い出そうとすれば頭痛がするのかな。しばらく頭は使わんとこ。

 

 そういやなんでカシヨがいるんだ。なんで俺は柱に縛られているんだ。

「きつく縛りやがって。起きろカス。さっさと解け聞いてますかー。起きてますかー」

 縛られている脚を地面に何度も叩きつけて音を鳴らす。

「うるせーーー。おとなしく寝かせろ」

 カシヨが起きた。

 

 解こうとしたけど、痛いだけでほどけない。

「あのー。解いてくれませんかね」

「やだね。解いたら襲われる」

「よくわかってるじゃねえか。今にも襲いたくなりそうだよ」

 勝手に俺を縛りやがった怒りでな。

 

 問題は体格的に力じゃ勝てねえところだな。

「だからだよ。だから縄を解きたくねえんだよ。お前なんかカード出す能力がなければ関わりたくねえ……あっ!」

「なんだよ人をカード製造機みてえに扱いやがって。関わりたくねえのはこっちも一緒なんだよ。まあそれはそれとしてこんな事したんだから一発殴らせろ」

 カシヨが首をかしげる。

 

 なんで首をかしげているんだろう。

「なんかわからないことでもあるのか?」

「どうしても聞きたいことはある」

「へぇ」

 興味ねえ。

 

 カシヨがじっと俺を見る。

「どうしたんだよ。俺は男に興味ねえぞ」

「そうか。ならいい。疑問は解決した」

 何なんだよコイツ。

 

 カシヨは笑顔になった。

「ようやくアイツから解放された。まあお前は俺に付き従うようなタマじゃないからな」

「ずっと前からそうだろ。なんで人のことを」

 もしかして俺に動かれるとカードハンターとして都合が悪いから俺を縛ったのか。

 

 なるほどね。

「状況を分かっていないようだから教えてやる。お前は記憶喪失の間ずっと俺に片思いしてたんだ」

「そんなバカな」

「今のお前はまるで少しクズな成人男性みたいな精神だ。だがな記憶の無いときは見た目相応の精神だった。白馬の王子様を夢見る年ごろなんだから、一応命の恩人である俺に惚れてもおかしくないだろ」

 だとしたらチョロすぎるだろ。

 

 でも美女が命の恩人をしてくれたら惚れるかもしれないな。そういうもんだな。

「お前にはカードを生み出せる力があることが分かった。だから記憶がよみがえるまで連れまわして、記憶が戻らなかったときのために一流のカードハンターにしたてあげることにしたんだ。しかし計画は今ものの見事に失敗した。人の記憶なんて不確かなもの頼らなきゃよかった」

「今更後悔してもおせーよ」

 人の記憶なんてあやふやなものなのだ。

 

 カシヨは縄を解いてくれた。

「跡が付いてるじゃねえか」

「お前はこのあとどこに行くんだよ。当てはなさそうじゃねえか」

「お前が当てをなくしたんだろ」

 カシヨはうなづいた。

 

 カシヨは何かを思い出したような顔をした。

「そう言えばお前を襲ったゴブリンは野生のじゃなかったぞ」

「知ってる」

「お前をゴブリンに襲わせた奴の計画をちょっと聞いてみたんだ。そうしたらどっかの国が、この国を衰退させるために何十人も刺客を放っているんだとさ」

 コイツ相当マズいもの聞いてるだろ。

 

 カシヨはベッドを椅子代わりにした。

「このことは事前にハントマスター様に伝えた。我らカードハンターとしても国が貧しくなるのは困るからな」

「なんでだよ。火事場泥棒すりゃいいじゃん」

「人々が富を持てば持つほど、レアなカードが手に入りやすくなるからな。火事場泥棒なんぞで手に入る利益よりも長期で絞った利益の方が高い」

 そこらへんちゃんと考えられているんだな。

 

 窓から入ってきたスピードラットがミルオクルパラサイトを置いた。

「協力しようじゃないか。今すぐ他のカードファイターたちにも伝えよう。カードを集めることが出来て国も守れるだなんていいことづくめだよね」

 カシヨ一人に信用しすぎ。

 

 噓だったら大赤字になって、カシヨはカードハンター組織を滅ぼした英雄になる。

「噓だったらどうするんだか」

「ハントマスター様は噓を見抜く能力を持っている。たとえ言った側が本当だと信じていたことでも噓ならばちゃんと噓だとわかる」

 カシヨが様付けをするほどの人物と言うことなのかもな。噓が分かる能力はありがたい。

 

 スピードラットはミルオクルパラサイトを回収して出て行った。

「俺たちはあのお屋敷に侵入して、あの新人を倒させてもらうか」

「ああ。あいつは俺を仕事場から追い出した大罪人だからな」

 あいつさえいなければ今頃縛られてもなかったし、カード産めるから一緒にいると言う理由も知らないままだった。知らないままの方がよかった。

 

 出かける準備をして宿を出た。

「元気がないように見えるが、どうした?」

「元職場に侵入すると思うとなんか気まずい」

 実家が代々仕えているところに侵入するよりは気まずくないけどな。



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百一枚目 古代のカード

 人のいない山小屋で休んでいると、いきなり天井に穴が開いた。

「天井に穴開けるモンスターなんているのかよ」

「いねえよ」

 天井に空いた穴が徐々にふさがる。

 

 石板が落ちてるな。

「それに触るんじゃねえ」

 カシヨが石板にちぎったパンのかけらを投げると、かけらは石化した。

「何でこんな危険なものだってわかったんだ」

「古代なんとか文明の文献で似たような存在を見たことがあるから。軍事転用しようとしていた時期もあるらしい」

 まあ何でも石化できるのってすごいよね。カードハンターって物騒だな。でも軍事転用してないってことは触れたら石化するとか床は石に出来ないとかいろいろと制限があるからかな。

 

 石板が光った。

「なんだこれ」

 石板がカードになって俺の手の上にいつの間にか移動している。

 

 どうなってるんだこれ。

「カードのようだな」

「それは古代のカード。今や強すぎたせいで封印されたり全盛期程の力を出せないカードがたくさんあるらしい」

 エラッタとか制限とかのことか。

 

 このカードは見たことがないぞ。

「速亀竜 ドラゴンタートルねえ。このカードを攻撃不可能にする代わりに、自分の場のモンスターの攻撃できない効果を無効化するモンスターだったっけ。ペルーダの攻撃力はたいして高いわけじゃないし、ダイヤモンドスパイクを付けたら0になるんだよなあ」

 でもコスト6で攻撃力5防御力3なのでカードジョブオンラインの初期の環境では四枚積みしているプレイヤーは多かった。俺もそうだった。

 

 要するに四枚持ってるからこれ以上要らない。

「これあげる」

「要らないなら貰うぜ」

 カードをもらったあとカシヨは嬉しそうな顔をした。ちなみに今カシヨは覆面をしていない。山で人に遇うと覆面しているのを怪しまれるからな。

 

 カシヨはデッキにドラゴタートルを入れて何かを一枚抜いた。

「これで攻撃して倒すプランも出来たという訳だ。アルカナンバーはなぜか攻撃できないからな」

 カードジョブオンラインでもアルカナンバーはルール上攻撃できないからな。かわいそう。まあ運が良ければ四ターン目でエクストラウィンしまくれるし妥当だろ。

 

 天井に穴が二つ開いた。

「まーたカードが落ちてきたか」

「二枚同時なんて珍しいこともあるもんだな。しかも今日で二回目だぞ」

 二枚とも雑魚カードだな。初期環境でもそんなに強くないし、弱い効果があるからバニラサポートも受けられないというどうしようもないカードだ。

 

 まあここに置きっぱなしにするのもなんだから一応回収しておくか。

「今度は三枚同時だろうな」

 いきなり山小屋の屋根が吹っ飛んだ。

「風もねえのに何でいきなり山小屋の屋根が吹き飛ぶんだよ。常識的に考えておかしいだろ」

「モンスターの仕業かもしれない」

 モンスターがいるからおかしくないのか?

 

 壁と柱が同時に外側に倒れて外が見える。

「でっけえ窓だな」

「壁と柱がいきなりこんな崩れ方するなんておかしいよね。おかしいけど現実を見ようよ。実際こういう崩れ方をしているんだよ」

 嫌な予感がしたので、崩れた山小屋からなるべく遠くに離れた。

 

 カシヨが追いかけてきた。

「待てよ。お前を逃さねえ」

「どうせわたしの力だけが目当て何でしょう?」

「気持ちの悪いことを言うんじゃねえ。普段の言動と口調が似合ってねえんだよなあ」

「てへぺろ。一度言ってみたくて」

 絵面はぱっと見事案。

 

 ふと後ろを見ると山小屋の周囲の地面が盛り上がっていた。

「なにがおきているんだ」

 盛り上がった地面が砂の山のように崩れて、でけぇ石の建築物が現れる。

「ちょっと古めだな」

 なんで山小屋の下にこんなものがあるんだよ。

 

 石の建築物の上から石板が大量に落ちてくる。

「質量兵器じゃねえか。これを軍事利用した方が良かったのにね」

「そんな事よりあれを見てみろ」

 建築物から石像がいっぱい出てきた。

 

 二つの石像が俺たちの方を向いて、走ってくる。

「速い」

 逃げようとしたら後ろに石像がいた。

 

 石像はデッキを構えた。

「カードファイター反応察知。メイクファイトエントリー」

「わざわざゴーレムみたいな話し方しなくてもいいだろ」

 この石像しゃべるのか。

 

 色々聞きたいことがある。

「メイクファイトってなんだよ」

「勝てば敗者の全てを得ることが出来る。火に焼かれれば火傷し、斬られれば切り傷が出来る。そして森を使えば森になる。生命力を失えば命を失うカードファイトだ」

 トゥルーファイトの上位互換ってことかな。

 

 やりたくねえな。

「やりたくなくても逃げられないからな。逃げたらミンチにする」

 石像は金属のこん棒を持つ。

「メイクファイトエントリー」

 俺のデッキが赤く光った。

「まじでやるのかよ」

 やってもやらなくても臨終するからな。自棄を起こしているだけだ。

 

 ……俺はメガチャージをして2ターン目を終えた。

「ターンスタート。ドロー。チャージ。コスト2で火を吹く魔人を召喚。火を吹く魔人でプレイヤーに攻撃。フレイムブレスト」

 火を吹く魔人が吹いた火は熱かった。それに服を少し燃やした。

「どあつっ。あっ」

 火傷が出来てやがる。やめてーな。



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百二枚目 魔人ビート

 俺の三ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト4でトリプルドロー。ターンエンド」

 石像の三ターン目だ。

「ターンスタート。ドロー。チャージ。コスト3で魔法発動。魔人軍。このカードが場にある限り、自分の場の魔人と名の付くモンスターの攻撃力と防御力は自分の場の火を吹く魔人の枚数分上昇する。火を吹く魔人でプレイヤーに攻撃」

「ぐうう。あああ……」

 ドロウ:生命力8→5

「もう半分かよ」

 まずいな。しかもこれ以上

 

 俺の四ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト5で毒棘甲羅竜ペルーダを召喚。ターンエンド」

 石像の四ターン目だ。

「ターンスタート。ドロー。チャージ。コスト2で火を吹く魔人を召喚。ターンエンド」

 あと一体でも火を吹く魔人が出れば負ける。

 

 俺の五ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト6でクワトロブースト発動。ターンエンド」

 石像の五ターン目だ。

「ターンスタート。ドロー。チャージ。このカードは自分の場に同名モンスターが二枚以上あるときのみ発動できる。

 

 コスト5で同名の同盟軍発動。このカードが場にある限り、ターンの最初のドローは自分の場の同名モンスターの枚数分になる。ただし自分の3ターン目終了時にこのカードは墓地に送られる。ターンエンド」

 二枚ドローか。カードジョブオンラインじゃクラスターワイバーンと一緒に採用されてたっけ。

 

 俺の六ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト4で大地の知啓発動。山札の上から二枚を見て一枚を手札に加え、一枚をコストゾーンに置く。ターンエンド」

 ダイヤモンドスパイクと鯵テーターか。悩ましいな。……ダイヤモンドスパイクにしよう。

 

 石像の六ターン目だ。

「ターンスタート。二枚ドロー。チャージ。コスト2で火を吹く魔人を召喚。ターンエンド」

 俺の七ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト8でダイヤモンドスパイク発動。ペルーダを選択。ターンエンド」

 これで防御態勢は整った。

 

 石像の七ターン目。

「ターンスタート。三枚ドロー。チャージ。コスト4で写しの魔人を召喚。効果で自分の場の魔人と名の付くモンスター一体の名前をコピーする。これで写しの魔人の名前は火を吹く魔人になる。そしてコスト2で火を吹く魔人を召喚。ターンエンド」

 写しの魔人か。嫌だなぁ。

 

 俺の八ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト7で焼き鳥屋に賛成するにわとりを召喚。コスプレイヤー効果で手札に戻して、火を吹く魔人に攻撃」

 防御力が5もあるから攻撃が通りにくい。

「ターンエンド」

 手札にマジックバウンスさえあればなぁ。

 

 石像の八ターン目だ。

「ターンスタート。五枚ドロー。チャージ。このカードは自分の場に同じ名前のモンスターしかいない時に発動する」

 まさかあれかな。マジで勘弁してくれ。あれはステータスを低くしたところで意味ねえんだよ。

「自分の場の同じ名前の魔人と名の付くモンスターの数の2倍コストが軽減される。コストを10軽減してコスト6で響きの魔人を召喚」

 カードジョブオンラインの響きの魔人実装当時は火を吹く魔人しかいなかったからまだマシだった。

 

 ただ写しの魔人を実装したのが問題なだけだったんだ。

「響きの魔人の効果発動。このカードがある限り自分の場のモンスターの名前をすべてこのカードと同じ名前にする。スプレッドビート」

 響きの魔人から轟音が鳴り響いた。うるせえええ。

 

 石像はペルーダを指差す。

「響きの魔人で毒棘甲羅竜ペルーダに攻撃。スマッシュビート」

 音の振動が俺の体を揺らす。

 

 足の力が抜けて地面に倒れる。俺の口から血が出た。現実味のない光景だ。

「へ?」

 これ幻じゃなくてマジで起きてやがる。火傷がじわじわいてーもん。

「響きの魔人のスマッシュビートはたとえ生命力を削らなくても振動で相手の内臓にダメージを与える。まあメイクファイトだから出来ることだけどな。ターンエンド。同名の同盟軍は墓地に送られる」

 これはまずい。 あまり全身に力が入らねえ。

 

 体の中が変になってる。

「なんだよそれ。勝たなくても相手を倒すことは出来るんじゃねーか」

 振動自体はそんな痛くないのが幸いだな。

 

 脚に全力を入れて立ち上がる。

「脚が震えているぞ。立ち上がるのをやめろ。また顔を汚すだけだ。降参すれば生命力が全部減るわけじゃないからとっとと降参しろ」

 俺の九ターン目ェ!

「ドロー。チャージ。コスト6でギロチンフェイスデビルを召喚。コスト2でビーコンパラサイトを召喚。ギロチンフェイスデビルの効果発動。ペルーダとさっき俺が攻撃した火を吹く魔人を選ぶ。火を吹く魔人破壊。ペルーダの生命力は6になる。超絶コンボ、エネルギーヒーリングエクセキューション。俺は火を吹く魔人に攻撃。ターンエンド」

 魔人軍の弱点は生命力を上げないことだ。つまり火を吹く魔人の生命力はたったの2。

 

 石像の九ターン目だ。

「ターンスタート。ドロー。響きの魔人でペルーダに攻撃」

「ペルーダの反動のせいで1ダメージ受けちまったな」

 脚から力が抜けるが、力を込めて立つ。

「なぜ立っていられるんだ」

「さあな」

 脚に力をいれてるからだろ。



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百三枚目 衝撃の事実

 石像はターンを終えて、俺の10ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト4で鯵テーターを召喚。ギロチンフェイスデビルの効果発動。ペルーダとさっきダメージを与えた火を吹く魔人。火を吹く魔人は破壊され、ペルーダの生命力は6となる。エネルギーヒーリングエクスキューション」

「じわじわと俺の切り札が減っていく」

「俺は火を吹く魔人に攻撃する。破壊。これで火を吹く魔人はすべて倒された。ターンエンド」

 視界がかすんできた。そろそろヤベエかもな。

 

 石像の10ターンエ目だ。

「ターンスタート。ドロー。響きの魔人でギロチンフェイスデビルに攻撃」

「ビーコンパラサイトの効果でペルーダに攻撃してもらう」

「反動がきついな。実際響きの魔人は弱っている。だがお前の体がこれに耐えられまい。ビートスマッシュ」

 音の振動を感じる。

 

 俺の口から赤く鉄臭い液体が噴出された。

「やべえ」

 俺の手脚から力が抜けてカードがすり落ちる。

「やべえ。手が動かねえ。脚もだ。ターンエンド」

 まずい。とうとう痛みが無くなった。

 

 石像の11ターン目だ。

「ターンスタート。ドロー。チャージ。コスト8で癒しの魔人を召喚。癒しの魔人の効果でプレイヤーを選んで自分の場の魔人の枚数分生命力を回復させる。自分の生命力を3回復させる」

「これ……みよがしに……生命力回復しやがって」

「何か嫌な予感がする」

 石像は首をかしげる。

 

 石像はペルーダを指さした。

「この攻撃を打てば相手も響きの魔人も死に至る。音の衝撃からは逃れられない」

「卑怯じゃねえか」

「なんとでも言え。勝てばいいんだ。響きの魔人でペルーダに攻撃。ビートスマッシュ」

 響きの魔人がペルーダの棘に刺さって破壊された。

 

 そのあと俺の体に衝撃が走る。

「うえ」

「メイクファイト中に死に至れば棄権とみなされて、敗北扱いだ。ここで死に至ればすべてが奪われるぞ。がんばれがんばれ」

 指に力を入れようとしたけど、力が入らない。

 

 これは気合でどうにかなる問題じゃねえ。

「あっ……あっ」

 右の視界が赤く染まる。

「うぁぁぁあああ」

 でも自棄でどうにかなる問題ではあった。腕は動かせる。

 

 石像はあごの下に手を当てた。

「むむむ。ちょっと脅せばひるむと思ったが、ひるまないなんてな。ここまで芯の強い奴は見たことがない」

「買いかぶりすぎだぞ。自棄を起こしてるだけだからな」

 いきなり場からモンスターと魔法が消えた。でも地面はちょっと焦げてるな。俺の服も焼けたところ戻ってねえ。

 

 あのままやってりゃ俺の勝ちだったのに。

「維持が不可能になってメイクファイトが強制終了したらしい。おおかた本体が目覚めたからだろうが、助かったな」

「いいや。助かってねえ。これはだめだ」

 人生は短いようで長いと見せかけてやっぱり短いものなのだ。これで亡くなるのも二度目かな。

 

 体温がどんどん下がっていく。

「お前にそんな力があったのか。癒しの魔人を召喚」

 俺の体がポカポカして力が沸き上がった。

「火傷も治ってる」

 さっきまでの傷が噓みたいだ。でも一応服は焦げてるところがあるから噓じゃないんだよね。

 

 立ち上がった。

「治してくれてありがとうな」

「貴様には次元の巫女の力がある。それをあっさり排除するのは勿体ない」

 まるで俺本体がおまけみたいな扱いだな。

 

 カシヨもカードファイトを終えたみたいだな。

「何とか勝てたぜ」

「そんなバカな」

 カシヨは額の汗をぬぐう。

 

 カシヨは石像から飛んできたカードケースを受け取った。石像は砂になって崩れる。

「文字通り全てを手に入れることができるみたいだな。デッキと財産はもちろんとして、姿も声も……んんっ記憶も寿命でさえも手に入れられるとは……んんっちょっと想定外だな」

「声が変わってる」

 ちょっとせき込むふりをするだけで声が変わるのか。マジで全部ゲットできるのかよ。

 

 カシヨは二つ目のデッキケースを服のポケットにしまった。  

「手に入れる記憶は新しいデッキの回し方の記憶だけでいい」

「まあ人一人分の記憶とかすさまじい情報量だからね」

「気を付けろ。メイクファイトはお前らの言う古代ビートダウンズ文明が滅びた原因でもある。やりすぎない方がいい」

「何でそんなこと知っているんだ。というかいきなりなんなんだ」

 この石像はなんで口もねえのに口を利けるんだ。

 

 石像は胡坐をかく。

「理由は単純。古代ビートダウンズ文明の住人だからだ」

「遺跡を住処にしてるのか。なんかバチあたりだな」

「違う。滅びる前から生きて暮らしているんだ。さっき地上に出したのは地下から地上に上がるためのモノだ」

「そんなわけあるか。どう新しく見積もっても二千年前に滅びたはずだ。末裔ならまだ納得はできるがな」

 そんな前の物なのか。

 

 石像は地獄の門の上にいる人みたいなポーズをとる。

「この石の姿はメイクファイトによる弊害だ。身体が石なおかげでなんとか腐らず生きていけた。さっきのは人の姿を手に入れるための戦いだったのだ」

 人の姿ほしさに俺を倒して負けさせようとしたのか。卑怯な奴だ。



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百四枚目 NGDP

 石像が動く。

「俺は別の場所でカードファイターの姿を手に入れることにする」

「そうか。それは感心しないな」

 メイクファイトは姿以も奪うからな。

 

 石像の動きが急に止まった。

「おや。どうしたんだろう」

「身体にガタが来た」

「石の体も衰えるモノなんだね」

「関節部分が石じゃねーし。後先考えなさすぎたな。本来なら後先考えなくてもよかったのに。姿を奪えば健康さえ手に入るはずだった」

「健康も奪うから後先考えなくってもよかったってことか」

 とことんクズだな。

 

 こんな奴モンスターにでも食われた方がいいな。まあ石は食わねーだろうけど。

「アイツはどうするんだ」

「放っておこーぜ。カードも大したもの持ってねーし。あんな奴に時間割くのは勿体ないってもんよ」

「まあそうだな。お前ならそういうと思ってた」

「じゃあ聞くなよ」

 でもまあ一応の確認は必要か。

 

 って俺はお前の上司じゃねえんだからお伺いを立てる必要ねえだろ。と言いたいのをぐっとこらえる。めんどくさくなりそうだからね。

「コイツ惨めだな」

「また元気でな。互いに元気で会える日を楽しみにしてるよ」

 これで内心怒ってるはずだ。まともに動けない状況でまた元気に会えるわけがないからな。

 

 石像から遠ざかった。

「横目で見てもかなり痛々しかったのに割と平気そうだな」

「治してもらったからね」

 跡がないのはありがたい。ケガさせたのも向こうだからこれで差し引き0だけど。でも俺の力目当てで治したから、やっぱマイナス10ね。

 

 けもの道を歩いていると、人とすれ違った。「こんな所で人を見かけるとはな」

「同じく。こんなところ普通だったら歩きたくないハズ」

「まあ俺たちは普通じゃないからな」

 人は顎に手を当てる。

 

 石像のことを話しておいた。

「まあ何とかするさ」

 人は道を進み行く。なんか見た目と雰囲気があいまってなんとなく人としか言いようの人だったな。

 

 カシヨはため息をつく。

「アイツたぶん信じてねーぞ」

「まあ大丈夫でしょ」

 走れば逃げられるしな。

 

 視界が下に向かって高速で動く。

「うっ」

 足くじいた。

「あっぶねええ」

 右腕が急に痛くなったので、右腕を見るとカシヨが俺の右腕を握ってた。

 

 落とし穴は蟻地獄の巣のようにすり鉢状になっている。落とし穴の側面に触れると、のれんに触れたかのように手が無抵抗で側面に入っていった。

「こんな所に落とし穴があるのかよ」

 底の方には鉄の棒が角度を付けて何本も刺さっていた。鉄の棒に所々赤さびが付いているのが戦果を彷彿とさせておぞましい。

 

 手を抜いてから、引き上げてもらった。

「この落とし穴もがけばもがくほど出られない仕組みになってやがる。しかも落ちるときだけはしっかり地面が硬い」

 こんだけ柔らかけりゃふつう足はくじかないしな。

 

 カシヨが俺を肩車する。いつもより倍以上も高い視界が新鮮だけどどこか懐かしい。そしてそれ以上に恥ずかしい。 

「恥ずかしいから降ろせよ」

「でもお前足くじいてるだろ。歩けねえ奴に合わせて一緒に歩いてやる必要ねえし、おんぶだとお前の腕力次第で落ちるかもしれねえ」

 うがあああ。口は悪いけど、正論なのが、悪いことしてないのが、質が悪い。

 

 様々な人の行列が正面から見えた。共通点が分からんね。

「俺を叩きだしやがった経営コンサルタントもいるじゃないか」

 その辺の木の後ろに隠れるように言った。俺が生きていると知られると色々厄介だ。

 

 肩車されていたおかげだな。

「この国の貴族付きの凄腕カードファイターをじわじわ消していく計画NGDP(ノーブルガーディアンデリートプロジェクト)。諸君がどれだけ計画を進めたのか教えてもらいたい」

「ピンハネル伯爵家のカードファイターを見事叩きだしてゴブリンに抹殺させました」

 あの経営コンサルタント最初から俺のこと抹殺する気だったのか。

 

 ん? あそこにいるのはフィールドファイト大会の閉会式で俺と戦った……確かゼリオだったかな。半年以上も前のことだから忘れちゃった。

「フィールドファイト大会のトップの体を借りてわかったことだが、この計画には穴がある」

「なんだ。言ってみろ」

「カードファイトが強い貴族もいるということだ。そういう貴族の姿を奪った方がいいだろ」

 様々な人の行列からわぁっという歓声が沸く。

 

 もしかして聞いたらいけないことを聞いているのかもしれないな。

「なんでこんな所でそんなヤベエ話をしてるんだよ」

「誰かに聞かれてたら確実にマズいな」

「大丈夫でしょ。こんな人のあまりいない森のけもの道に人がいるわけないわ」

 コイツラおちょくってんだろ。

 

 様々な人が腕を空につき上げた。

「ビートダウンの末裔たる我らアタラシアに栄光あれ」

「「「「「ビートダウンの末裔たる我らアタラシアに栄光あれ」」」」」

「アタラシアってどこ?」

「たった十年前に出来た新興国だったかな。たしか国民全員がカードファイターで、すべての国を仮想敵国としていてすべての国に仮想敵国扱いされてるイカレ国家だったかな。国が出来る前は遊牧民族だったらしい」

 へぇ。何か裏がありそう。そもそもカードファイターって珍しい体質らしいのにいっぱいいるとかすげえな。

 

 それにしてもあの経営コンサルタント敵国のスパイだったのか。

「許せねえ」

 どうしてくれよう。



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百五枚目 しらせよう

 ゼリオが木々を見渡す。

「お前たち一応様子を見てこい」

「「わかった」」

 げぇえ!

 

 足音が近づいてくる。気づかれたか。

「死んだふりをしよう」

 カシヨは俺を木の枝の上にあげてからゆっくりと倒れた。

 

 モヒカン刈りの人がやってきてカシヨを見る。

「息が止まってる。死んでるな。なんだ聞いてたのはただの死体だけだったか」

 何とかなったか。

「あともう一人……いや木に登ってるからメスの子猿一匹か」

 俺の右の頬をカードが掠める。やっべえ。居場所がバレた。 

 

 右を見ると火を吹く魔人がいた。火を吹く魔人にはたきおとされる。

「ぐあ」

「いてえ。下が柔らかくてよかった」

 助かったぜ。

「仲間の上に落ちたか。間抜けだなあ」 

 下を見るとカシヨが目を回していた。

 

 ……息はしてるしケガもしてないから大丈夫だな。

「貴様をカードファイトで始末する。トゥルーファイトエントリーと言え」

「メスの子猿に言葉話させようとするとか……病院行ったらいいと思うよ」

「あれは比喩だ」

 今の挑発が通じないのか。

 

 デッキを構えた。

「カードファイトエントリー」

「メイクファイトエントリー」

 今のさり気なくすり替える話術が通じなかったか。

「メイクファイトエントリー」

 メイクファイトは全体的に痛いから嫌だなあ。

 

 モヒカンのデッキが赤く光る。

「ターンスタート。チャージ。ターンエンド」

 何もしないのか。

 

 ……結局互いに三ターン目まで何もしなかった。俺の四ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト3でハイパービーストを召喚。効果でコストを1貯める。ターンエンド」

 モヒカンの五ターン目だ。

「ターンスタート。ドロー。チャージ。このカードは生命力とコストを同じ数値支払うことで使用できる。コスト5と生命力5で生命力保険不死身手当を発動する。自分の生命力が0になった時このカードを破壊する。このカードが破壊された時支払った分の生命力分自分の生命力を回復させる。ターンエンド」

 差し引き0かと一瞬思ったが、10ダメージを与える攻撃に二回耐えられると考えればちょっとプラスだな。

 

 俺の五ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト5で毒棘甲羅竜ペルーダを召喚。ターンエンド」

 モヒカンの六ターン目だ。

「ターンスタート。ドロー。チャージ。コスト4でヘル・ブレーダーを召喚」

 赤黒いの剣を持った純白の鎧騎士が現れた。

「このモンスターは自分の生命力を1支払わないと攻撃できない」

 まあ防御力も4あって攻撃力と生命力は7もあるし、デメリットがあっても妥当。カードジョブオンラインにもあったけど、俺がこの世界に来る半年前に実装されたカードだったから誰も使ってなかったけどね。カードゲームのインフレはヤバい。

 

 閑話休題。

「ヘル・ブレーダーでペルーダに攻撃。ターンエンド」

 相手の生命力は4か。

 

 俺の六ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト6でギロチンフェイスデビルを召喚。ギロチンフェイスデビルでヘル・ブレーダーとペルーダにダメージを与える。しかしながらペルーダは効果で生命力を回復させる。エネルギーヒーリングエクスキューション。ターンエンド」

 ギロチンフェイスデビルも三回までなら耐えられる。

 

 モヒカンの七ターン目だ。

「ターンスタート。ドロー。チャージ。コスト6でクワトロブースト。ターンエンド」 

 俺の七ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト4でトリプルドロー。ターンエンド」

 嫌な予感がする。

 

 モヒカンの八ターン目だ。

「ターンスタート。ドロー。チャージ。コスト7でヒーリングパラディンを召喚。これで自分の回復する生命力の数値は2倍になる」

 しまった。回復デッキで挑めばよかった。やらかしたな。

「ヘル・ブレーダーのデメリットをなくしたってわけだな」

「ヘル・ブレーダーでペルーダに攻撃。ターンエンド」

 回復するまでのこり三回だな。

 

 俺の八ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト8でダイヤモンドスパイク発動。ペルーダを選択。ターンエンド」

 モヒカンの九ターン目だ。

「ターンスタート。ドロー。コスト7でヒーリングパラディンを召喚。これで20回復する。ヘル・ブレーダーでギロチンフェイスデビルに攻撃。ターンエンド」

 デメリットがデメリットになってねえ。まあカードゲームはデメリットが利用されるもんだからね。

 

 俺の九ターン目だ。

「ドロー。コスト2でビーコンパラサイトを召喚。そしてコスト4で鯵テーターを召喚。ビーコンパラサイトでヘル・ブレーダーに攻撃。ギロチンフェイスデビルでペルーダとヘル・ブレーダーにダメージを与える。鯵テーターでヒーリングパラディンに攻撃。ターンエンド」

「意味もねえ攻撃してどうしたんだ」

 鯵テーターの効果で攻撃するしかないからね。

 

 モヒカンの十ターン目だ。

「ターンスタート。ドロー。コスト8でチャージブースト発動。ギロチンフェイスデビルでギロチンフェイスデビルに攻撃」

「させるか。ビーコンパラサイトの効果でペルーダに攻撃してもらう」

 ヒーリングパラディン二体が勝手に動き出してペルーダを殴りつける。

「おいどうしたんだよ」 

「鯵テーターの効果で攻撃できるモンスターは攻撃しなきゃいけねえんだ」

 モヒカンは口をパクパクさせた。今回は勝てそうだけど、命は奪いたくねえな。



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百六枚目 不死身手当

 モヒカンはターンを終えた。俺の十ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト3でサボテンドラゴンのトゲを発動する。鯵テーターとビーコンパラサイトでヒーリングパラディンに攻撃。ギロチンフェイスデビルはペルーダとヘル・ブレーダーにダメージを与える。ヘル・ブレーダーも残り2ターンの命だ。ターンエンド」

 サボテンドラゴンのトゲでさらにダメージを受けるから実際はもっと短いかもしれないけど。

 

 モヒカンの十一ターン目だ。

「ターンスタート。ドロー。コスト4でヘル・ブレーダーを召喚。さっきから場にいた方のヘル・ブレーダーでペルーダに攻撃。この攻撃によって俺の生命力は0になるが、生命力保険不死身手当を破壊して、生命力は20になる」

「なるほどね」

「もう一体のヘル・ブレーダーでペルーダを攻撃。そしてヒーリングパラディンでペルーダに攻撃」

 結果的にヒーリングパラディンが二体も破壊された。攻撃力が無いから迎撃の影響をもろに受けちゃったんだよね。

「ターンエンド」

 幸いなのはもう一体ヒーリングパラディンがいなかったことだ。四十も削りきれねえよ。

 

 俺の十一ターン目だ。

「ドロー。コスト7で焼鳥屋に賛成するにわとりを召喚。コスプレイヤー効果で手札ににわとりを戻す。俺はヘル・ブレーダーに攻撃。そしてギロチンフェイスデビルとビーコンパラサイトと鯵テーターでヘル・ブレーダーに攻撃。一気に行ってもどうせ結果は変わらないから、一気に言わせてもらった。ターンエンド」

 モヒカンの十二ターン目だ。

「ターンスタート。ドロー。これはもう勝てそうにないな。勝つ意味もないしやめておくか。降参」

 場のモンスターが消え去った。

 

 コイツ自分から挑んでおいて都合が悪くなったらやめるのか。なんという野郎だ。というか降参しても大丈夫なのね。

「まさか俺の不死身ブレーダーが敗れる日が来るなんてな」

「今まで運が良かったんだね」

 モヒカンはその場を去って人の列の中に戻る。

 

 また誰か来るのかな。

「今回は見逃しておこう。コイツが何をしようとも社会的に何の影響もないから、何を言われても何の弊害はないという判決が出た」

「いましたこと全部無駄じゃねえかよ」

「無駄じゃない。なぜならデッキの内容にだいたい察しがついたからだ。次があるなら対策できる。あとメイクファイトは生命力の高い方が降参すれば命を失うことはない」

 そういうもんか。メイクファイトってそういう裏技もあるんだね。

 

 スパイが森にいっぱいいたと言っても信じてもらえなさそうだ。

「そういう巧妙なところを突いてきたか」

 気絶していたカシヨが目を覚ました。

「お前瘦せろよ。重かったぞ」

「やっかましい。もう一回上から落ちてやろうか」

 なんなんだこいつ。

 

 経営コンサルタントが俺に近づく。

「生きてたなんて予想外ですよ。判決では生かしても問題ないとのことでしたが、私にとっては大問題なんです」

「おいやめろよ。無駄に戦う必要ないだろ」

 ここで止めてくれるモヒカンは意外といい奴……でもないな。自分が負けそうになったらやめるし。

 

 経営コンサルタントはデッキを構えた。

「お前カードファイター嫌ってたんじゃなかったのかよ」

「あれは演技ですよ。ああ言えばモンスターに襲われても、私が襲わせたと思われないですからね」

 最初から俺をモンスターに襲わせるだったのか。

 

 カード使えない云々は嘘だって分かってるけどね。盗賊ゴブリン召喚してたから。

「逆に言えばトゥルーファイトで倒されても、ただの変死扱いされるってことか」

「まあそういうことです」

 モヒカンは俺を罵っただけだから命を奪うまでのことはしたくなかったけど、コイツは別だ。俺のこと抹殺しようとして、一時的に記憶を消したんだからそれなりの報いは受けてもらう。

 

 自分勝手のように思われるかもしれないが、人間なんて、みんな、自分勝手なんだ。

「「メイクファイトエントリー」」

 俺のデッキが赤く光った。

 

 結局互いに2ターン目までなにもしなかった。経営コンサルタントの3ターン目だ。

「ターンスタート。ドロー。チャージ。コスト2で盗賊ゴブリンを召喚。盗賊ゴブリンでプレイヤーに攻撃」

 盗賊ゴブリンのナイフで右肩を切られる。

「やべえ」

「ぐうぅ」

 死ぬかと思った。

 

 辛うじて腕は動くな。よし。

「普通だったらこれで終わりなんですけどね」

「生きてて良かった。そいつには次元の巫女の力があるんだ。そいつは金の卵を生む害虫みたいなもんだから、放置しとけ」

 経営コンサルタントは驚いたかのような顔をする。

 

 経営コンサルタントの口角が上がった。

「親友が次元の巫女の力を持つ者に親友が殺されました。邪魔者の始末と敵討ちもできて一石二鳥。ターンエンド」

「それを言われちゃなにも言えねえ」

 俺の4ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト3でハイパービーストを召喚。ハイパービーストで盗賊ゴブリンに攻撃。ターンエンド」

 これで2ターンしのげる。

 

 経営コンサルタントの4ターン目だ。

「ターンスタート。ドロー。チャージ。コスト3で風の魔導師を召喚。風の魔導師でハイパービーストに攻撃」

 一瞬そよ風が俺の頬を撫でる。

 

 気づけば全身に切り傷が出来ていた。

「生命力は減りませんが、死に近づきますよ」

 殺して勝つスタイルか。



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百七枚目 攻撃的防御

 経営コンサルタントはターンを終えて、俺の五ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト4でトリプルドロー発動。ターンエンド」

 経営コンサルタントの五ターン目だ。

「ターンスタート。ドロー。チャージ。風の魔導師でハイパービーストに攻撃。ターンエンド」

 風に飛ばされた小石が俺の体に当たりまくる。

 

 小石が傷口に入っていてえ。

「早く終わらせないと破傷風で腕が腐って、二度とカードファイトが出来なくなりますよ」

「なんでそこまでするんだよ」

「理由はシンプルです。カードファイトが出来なければ二度と抵抗されなんですよ。降参したければ言って下さい。降参しますからね」

 ぜってー噓だ。目に殺意がこもってるもん。うっかり倒したふりして確実に仕留める気だぞ。

 

 今ついた噓は拘束するための戦いと強調させるためだろうな。

「うっかり事故は起こさないでくれよな」

 俺の六ターン目だ。

「ドロー。うぅ……。チャージ。コスト3でハイパービースト召喚。ターンエンド」

 こういう時に限ってほしいカードが来ないのやめろ。

 

 経営コンサルタントの六ターン目だ。

「ターンスタート。ドロー。チャージ。コスト2でメガラビットを召喚。メガラビットでハイパービーストに攻撃。盗賊ゴブリンでハイパービーストに攻撃。破壊。風の魔導師でプレイヤーに攻撃」

「うぐああああああ」

 傷口をバールでめくられるような痛さを感じる。

 

 この風のおかげで傷口から石が無くなったのは良かったが……

「常人ならこれで発狂しているんですが、さすが次元の巫女の力の持ち主ですね」

「すっげえ痛かったぜ。こんだけ痛いのにダメージはないなんておかしいだろ」

 風の魔導師の攻撃力は0だからな。痛めつけるためだけのデッキだろうね。

 

 コイツは歪んでるぞ。 

「こんなにひどい事は俺じゃなくて親友の仇にやれよ」

「次元の巫女の力を持っているという共通点だけで貴女もわが親友の仇だ。ターンエンド」

 無茶苦茶だ。

 

 俺の七ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト5で毒棘甲羅竜ペルーダを召喚。ターンエンド」

 経営コンサルタントの七ターン目だ。

「ターンスタート。ドロー。コスト4でトリプルドロー発動。風の魔導師でさっき召喚した方のハイパービーストに攻撃」

 いきなり強風が吹いた。

 

 一瞬無重力を体感して地面にたたきつけられた。辛うじて頭から落ちるのは防げたのでよかったぜ。

「いってぇ~」

「これだけいたぶってもダメですか。ターンエンド」

 今のは即死する可能性が高いので痛めつけるのが目的じゃないというのは、ハッキリ分かる。

 

 俺の八ターン目だ。

「ドロー。コスト8でダイヤモンドスパイク発動。ターンエンド」

 経営コンサルタントの八ターン目だ。

「ターンスタート。ドロー。コスト2で火を吹く魔人を召喚。傷を塞いであげますよ。感謝なさい」

「血は出てないから大丈夫。気持ちだけ受けとるよ」

「火を吹く魔人でペルーダに攻撃」

 火はペルーダに防がれる。ざまあみろ。

 

 火が二つに分裂して俺を焼く。

「ぬがあああ」

 火を吹く魔人はペルーダの発射した棘に貫かれて破壊された。

「これはレアですね」

 防ぎきれねえのかよ。

 

 やっと終わった。

「こんだけ熱くても0ダメージなんだよなぁ。嫌になる」

 火傷で傷が塞がってるな。良かった。よくない。

「ターンエンド」

 今降参すれば死ぬらしいし、俺はコイツを殺したいので、やめられない。

 

 俺の九ターン目だ。デッキの上が光ってんな。

「次元の巫女の力ですか。ええい。忌々しい」

「ドロー」

 こんなカード入れた覚えねえ。

「コスト5でカーススパイク発動。このカードはコスト5で防御力が8以上のモンスターを選択する。選択されたモンスターが攻撃されたとき、相手モンスターを戦闘で破壊すれば、与えたダメージ分攻撃してきたモンスターを召喚したプレイヤーの生命力を減らす」

 ただ人を呪わば穴二つ的なノリなのか、カーススパイクに選択されたモンスターが場を離れると俺に3ダメージだ。

「俺は毒棘甲羅竜ペルーダを選択する。これが攻撃的防御戦法だ。ターンエンド」

 防いでにわとりで殴るだけの地味戦法からようやく脱却できた。

 

 経営コンサルタントの十ターン目だ。

「次元の巫女の力なんて卑怯ですよ。ターンスタート。ドロー。コスト2でビーコンパラサイトを召喚。コスト4で同一シンパシー発動。コストが同じモンスターがいれば、その数だけドロー出来ます。四枚ドロー。ターンエンド」

 俺の十一ターン目だ。

「ドロー。コスト4でトリプルドロー。コスト4で鯵テーターを召喚。コスト2でビーコンパラサイトを召喚。ビーコンパラサイトで、鯵テーターで風の魔導師に攻撃。ターンエンド」

 経営コンサルタントの顔が青ざめた。まあモヒカンの試合みて、このコンボがどういうことかだいたい察せるからな。

 

 経営コンサルタントの十一ターン目だ。

「ターンスタート。ドロー。チャージ。盗賊ゴブリンでペルーダに攻撃。破壊。風の魔導師でペルーダに攻撃。破壊」

 経営コンサルタント:生命力10→0

 

 モンスターが消えて場がスッキリした。

「好きになさい」

 なんでこいつまだいるんだ。



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百八枚目 奪う

 カシヨに錠剤をもらった。

「傷が治る痛み止めだ。俺は誰かさんが腹に落ちてきたせいでめちゃくちゃ腹が痛い」

 カシヨは錠剤を飲む。

「気が利くじゃねえか」

 痛みが引いた。今までひそかに耐えてきた痛みが消え去る。あと傷も跡しか残ってないな。火傷は跡すら残ってねえ。

 

 カシヨが俺の肩を叩く。

「なぜかちょっと残ってた石像の記憶によるとメイクファイトは命を奪うか姿を奪うかデッキを奪うか姿を奪うか細かく決められるぞ。すべてを奪うと言っても、それは奪いつくした結果ってだけで、要らないもんは切り捨てられるらしい」

「なるほどね。じゃあ命だけもらうか。コイツなんぞのデッキも姿もいらねえ。親友の仇を取れずに亡くなれ」

 悪役みたいなセリフだな。 

 

 ……やっぱやめておこ。よくよく考えれば命を奪うより屈辱を与える方がより悔しがるな。俺としてはそっちのほうが嬉しい。

「やっぱやめておこ。二度と俺に逆らえないようにカードを全部貰う」

「この世界でカードが使えないって酷だぞ。最低でも三年は地獄を見ると思うぜ」

「カードが使えないと地獄を見るとか、カードハンターの常識で一般人の非常識ですよね」

「まあ苦しんでもいいんだよ。命奪って楽にしてやろうだなんて俺が甘すぎた」

「ひっでぇな」

 本当はそんなこと知らなかったけど、見栄を張った。

 

 カードが何十枚も飛んできた。工具箱が現れてカードが全て工具箱に入る。

「それにしてもお前よく生きてるな。服とかもうボロボロだぞ」

 お腹の部分も焼けこげてるし、袖の部分もないし、あちこち切れてるから、相当ワイルドなデザインになっていることだろう。

「じゃあ服も貰うかな。上着だけでいいか。もういいや」

 もらった上着の袖をカシヨに切ってもらってアレンジを加えてから着た。

 

 経営コンサルタントが歯ぎしりをする。

「それ高かったんですよ」

「そっか。まあ知ってたけどな。親友の仇の同類に見逃されて、カード全部取られて、高い服も奪われるなんてどんな気分か、教えてく欲しいんだけど。教えて教えて」

 へいへーい。勝った瞬間馬鹿にするイキリ人間だ。

 

 経営コンサルタントは俺をにらみつける。

「ピエッ」

 こっわ。見て目が怖いからね。

 

 経営コンサルタントはその場を去った。

「次元の巫女の力は相当量あるな。まあ死ななくてよかったよ」

「良かった」

 俺は座り込んだ。

 

 なんか今日は三回も命のピンチを体験したんで、精神的に疲れた。それに脚もくじいてる。

「カシヨ~おんぶして~。足くじいてるから歩けな~い」

「ったくしょうがねえなあ」

 ツンデレだな。需要がない。

 

 しばらく歩かせていると洞窟を見つけた。

「洞窟があるぞ」

「今日の宿はそこにしよう」

 洞窟の中に入る。

 

 洞窟の中は明るい。

「ファントムホタルか。ゴースト系モンスターを食べるコイツらがいるってことは、この辺いっぱいゴースト系モンスターが出るんだろうな」

「き、聞いてねえよそんなの」

 おばけは勘弁してくれ。

 

 い、いやカシヨが噓を言ってるだけかもしれないしな。だだだ大丈夫だろ。

「何怖がってんだよ。さっきまでゴースト系モンスターの仲間入りしそうだっただろ」

「そういうことサラッと言うんじゃねえよ」

 無神経すぎる奴だ。さっきまでゴースト系モンスターになりそうだったからこそ、なおさら怖いと想像できないのか。

 

 コツコツと音が聞こえた。

「誰か人がいるのかな?」

「ゴースト系モンスターかもしれないぞ」

「い、いや。それは絶対にないね。絶対絶対あり得ないから。捕食者の近くまで聞こえるように足音を立てる被捕食者なんてただの間抜けだから。知性的に考えようね。それにね、仮に、もしも、万が一、ゴースト系モンスターだったら、俺は気絶することしかできん」

 上から水滴が落ちてきた。

 

 上を向くと、口からだらだらと涎を垂らしている蜘蛛がいた。

「上にデッカイ蜘蛛がいるんだけど」

 カシヨは急に動きを止める。

「そいつは人食い蜘蛛だな。人食い蜘蛛は視力が悪いから動かない方がいい。人食い蜘蛛は動くものを何でも食べる」

 上に人食い蜘蛛がいる状況でガッツリ動いていたから、もう手遅れだね。

 

 人食い蜘蛛は後ろに歩いてゆっくりと地面に降りた。

「キォシャアアアアア」

「襲い掛かってきてるじゃねえか」

「人食い蜘蛛に食われないようにするためには三つの方法がある。まずは他のエサで満腹にさせること」

 まさか俺を差し出そうとしてるんじゃ……

 

 カシヨはデッキからカードを出した。

「次にフィールドファイトでコストを支払って捕まえること」

 でも今はフィールドファイトじゃない。

「実力で平伏させること。アルカナンバーナイン ハーミットを召喚」

 ボロボロのローブとボロボロの杖が現れて宙に浮く。

 

 杖の先から火の玉が出てきて人食い蜘蛛を焼いた。

「ルール上攻撃できないはずなんだけど」

「たぶんそれはお前の勘違いだよ」

 勘違いか。

 

 杖とローブが消えた。

「キォシャア」

 人食い蜘蛛は洞窟の奥に逃げる。あれで生きてるのか。

「これで安心だな。近くで休もう」

 カシヨはあっという間にテントを張った。俺はテントの中で休む。



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百九枚目 古代の怨念

 ぐちゃりぐちゃりとハンバーグをこねるときのような音が聞こえる。

「こんな所でハンバーグ作るのは勇気がありすぎるだろ」

「ハンバーグか。焼く設備も肉もないのにハンバーグ作るアホはいねえだろ」

 じゃあこの音は肉が潰されている音なのか。

 

 グチャグチャと言う音が近づくたび、牛乳を拭いたぞうきんを生ゴミの汁に漬けたような不快なにおいも近づく。

「うっ酷いにおい」

 鼻をつまんでも目の奥が焼けるように痛い。喉も痛くなってくる。文献を探せばこういう拷問ありそう。

「このにおいと言えばゾンビフランテス。集合したバラバラのゾンビのパーツが集まって腐ったモンスターらしい。モンスターのいるところなら世界中どこにでもいるぞ」

「らしいってどういうことだよ」

 世界中にいるのにあやふやだな。

 

 カシヨは鼻をつまむ。

「このにおいで目の奥が焼けるほどに痛いから遭遇者はみんな目をつぶるか逃げるかしてたのさ。それで姿も生態も分からねえってわけ」

「なるほどね。動く物の塊のゾンビ……ゾンビフランテスだっけ。なんであの蜘蛛はそいつ襲わなかったんだよ」

「多分おなかこわすから腐ったものは食べたくないんだろ」

 生きてる奴しか食わないなんて何という偏食家なんだ。生きてる奴襲ってる場合じゃないだろ。我慢すれば腐ったものいっぱい食べられるんだからよ。モンスターなんだからその辺大丈夫だろうが。ハイエナさんとハゲタカさんを見習え。

 

 目の奥が焼けるほどの痛みと喉の痛みが強まり、グチャグチャと言う音も大きくなる。

「オォォァォァゥェィ。ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛エ゛ゥ゛ィ゛」

「変な声出すんじゃねよ」

 気味悪い声だな。まるでホラー映画のお化けみたいな声だ。

 

 目をつむると余計に眼球に熱さが染みる。

「おごああああ」

「なんて声出してやがる」

 目を開けた。

 

 手足の生えた二段の肉団子がこっちを見てくる。肉団子はそれぞれにモザイクが必要なほどグロテスクであった。

「オロロゲエエエエ」

 コイツを見ればどんなに空腹でも食欲が失せるね。コイツのせいでしばらく肉は食いたくないし。

「吐くんじゃねえよ。きたねえな」

「オォ「ォァォ」ァゥ「ェィ」。ア゛ア゛「ア゛ア゛」ア゛「エ゛」ゥ゛ィ゛」

 さっきのはコイツ……いやコイツらの出した声だったのか。

 

 肉団子から腐った人型の肉が出てきた。

「そこのオマエ、カードファイトしろ」

 肉団子は自らの体を小さくしながら、俺たちを取り囲むように腐った人型の肉を出していく。これでもう逃げられない。

 

 人型の肉がデッキを構えたので俺もデッキを構える。

「「カードファイトエントリー」」

 人型の肉のデッキが赤く光った。

 

 ……攻撃されまくって俺の生命力は残り4になった。フォーチュンテラーが壁になってるからしばらくは耐えられると思うが不安だ。

「ターンエンド。お前のターンだ」

 臭くて目が痛くて集中できねえ。そう言えばアメリカでは悪臭が反則行為らしいな。ここがアメリカならよかったのに。

 

 俺の五ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト3でハイパービーストを召喚。ハイパービーストでメガラビットに攻撃。破壊。フォーチュンテラーでハイパービーストに攻撃。ターンエンド」

 人型の肉の六ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト5で月光ゲッコーを召喚。月光ゲッコーでフォーチュンテラーを攻撃する。ターンエンド」

 辛いところだな。

 

 俺の六ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト6でブーストライブラリ発動。フォーチュンテラーでハイパービーストに攻撃。ターンエンド」

 人型の肉の七ターン目だ。

「ドロー」

「ブーストライブラリの効果でもう一枚ドロー出来るぜ」

「それじゃもう一枚ドローさせてもらうぜ」

 よし。俺の手札が増えたぞ。

 

 人型の肉は首をかしげる。

「チャージ。コスト4で大地の智啓発動。ターンエンド」

 俺の七ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト5で毒棘甲羅竜ペルーダを召喚。フォーチュンテラーでハイパービーストに攻撃。ターンエンド」

 これで基本的に大丈夫。

 

 人型の肉の八ターン目だ。

「二枚ドロー。チャージ」

「よし」

「コスト10で巨獣ギガントを召喚。巨獣ギガントでフォーチュンテラーに攻撃。ターンエンド」

 巨獣ギガントか。アイツ防御力5もあってペルーダが刺さらないからキライ。

 

 俺の八ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト6でギロチンフェイスデビルを召喚。コスト2でビーコンパラサイトを召喚。ギロチンフェイスデビルの効果でペルーダと巨獣ギガントにダメージを与える。が、ペルーダは生命力が6になる。超絶コンボだ」

「その程度か」

「ターンエンド」

 毎ターンバーンはきついと思うよ。

 

 人型の肉の九ターン目だ。

「二枚ドロー」

「ドロー」

 よし。カーススパイクが来たぜ。

 

 あとはダイヤモンドスパイクだな。

「チャージ。コスト5で月光ゲッコーを召喚。巨獣ギガントでペルーダに攻撃」

「ビーコンパラサイトの効果でフォーチュンテラーに攻撃してもらう」

「フォーチュンテラー破壊。ターンエンド」

 フォーチュンテラー様々だな。



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百十枚目 ハイエナスパイダー

 俺の九ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト8でダイヤモンドスパイク発動。ペルーダを選択。ターンエンド」

 人型の肉の十ターン目だ。

「ドロー。チャージ。ターンエンド」

 どうせペルーダに攻撃させられるからね。

 

 俺の十ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト4で鯵テーターを召喚。ビーコンパラサイトで巨獣ギガントに攻撃。鯵テーターで巨獣ギガントに攻撃。ターンエンド」

 人型の肉の十一ターン目だ。

「二枚ドロー。チャージ。コスト10で巨獣ギガントを召喚。巨獣ギガントで鯵テーターに攻撃。攻撃しなきゃならん原因を取り除きたい」

「ビーコンパラサイトの効果でペルーダに攻撃してもらうぜ」

 巨躯なる獣はペルーダを踏んで痛がる。

「ハイパービーストでペルーダに攻撃。破壊される。月光ゲッコーでペルーダに攻撃。破壊される。ターンエンド」

 攻撃しなきゃならないなんてつらいだろうね。

 

 俺の十一ターン目だ。

「ドロー。コスト3でサボテンドラゴンのトゲ発動。コスト5でカーススパイク発動。どっちもペルーダを選択するぜ。鯵テーターで巨獣ギガントに攻撃。ビーコンパラサイトで巨獣ギガントに攻撃。さらにギロチンフェイスデビルでペルーダと巨獣ギガントにダメージを与える。しかしペルーダの生命力は6になる。ターンエンド」

 人型の肉の十二ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト8で大地の宴発動。山札の上から六枚をコストゾーンに置く。そしてコストゾーンのカードを四枚墓地に置く」

「へっ。コスト7もかけてやったことがコストを2足すことかよ」

 でも四枚も墓地加速できるのは強力だよなあ。

 

 山札の減りがすごいな。

「巨獣ギガントでペルーダに攻撃。破壊された。それに少し痛い」

 人型の肉:生命力10→4

「巨獣ギガントでペルーダに攻撃。ターンエンド」

 ギリギリ1残ったか。

 

 俺はドローだけしてターンを終えた。

「二枚ドロー。チャージ。コスト5でマジッククラッキング。場の魔法を破壊する。ダイヤモンドスパイクを破壊するぜ」

 ドロウ:生命力4→1

「コスト3でリロード発動。ドローしてから手札からバーンスマッシャーを捨てる。お前に一ダメージだ」

 ドロウ:生命力1→0

 

 場がすっきりした。

「逆転されちまった」

 にわとりが来てればなぁ。

「手札をバカみたいに増やしてくれたおかげだな。手札とコストゾーンのカードの枚数だけ選択肢があると知れ」

 ぬぐぐ。正論だ。なんだかんだ言って臭いで運と判断力が落ちてたってことか。さすがにアメリカじゃ反則なだけのことはある。

 

 人型の肉がじりじりと近づいて、どんどん俺たちを臭い攻めする。

「うわくっせえくっせえ。くっせえな。近づくな」

「目の奥が焼けるほどに痛い」

「お前たちの事情はどうだっていい。問題はない。なぜならお前たちはここで死ぬんだ。悔しいだろうが仕方ないんだ」

「なんだとぉ……」

 じゃあ実質トゥルーファイトじゃねえか。ふざけんな。でもよく考えなくてもあいつらにはデメリットが無いからそれよりもひどいな。

 

 人食い蜘蛛が降りてきた。やけどの跡があるからあの時の人食い蜘蛛だな。

「もうだめだ」

「ゾンビフランテスに食われるか人食い蜘蛛に食われるかどっちか先かな。賭けてみようぜ」

 まるで他人事みたいに言うじゃないか。

 

 人食い蜘蛛はゾンビフランテスを丸吞みした。体を小さくしてくれたおかげで吞み込みやすくなったんだね。

「ありがてえ」

「今までゾンビフランテスを狙ってなかったのは慢心していて弱ってるところを狙うつもりだったからかもしれない」

「なるほどね。野生に生きる以上無駄な体力を使う必要がないもんね」

 周りの腐った肉が崩れた。

 

 人食い蜘蛛は腐った肉を意地汚く食べる。どんどん火傷が治ってる。

「早く逃げるぞ。次は俺たちだ」

「おっそうだな」

 人食い蜘蛛は地面を意地汚く舐める。

 

 今がチャンスだ。逃げよう。

「ダッシュダッシュ逃走だー」

「逃げるぜ」

 カシヨに背負われて逃げた。

 

 洞窟から出る。

「休もうとしていた山小屋でも洞窟でも休むどころか、余計に疲れるなんて思わなかったぞ」

「全くだ。俺たちに休ませたくない誰かがいるんじゃねーの」

「それはないでしょ。心当たりがないんだから。ありえないよ」

 経営コンサルタント辺りは休ませたくなさそうけど、妨害はできないので本当に心当たりはない。

 

 よくよく見ると人だかりが見える。

「こんな人がいない森の中で何をしているんだろう」

「どうせろくでもない事だろ。俺たちにはそんなことにかかわっている時間はない」

 大きなロボットが現れた。

 

 大きなロボットはドデカい剣を取り出して足元に突き刺す。するとロボットが消えた。

「あんなモンスター見たことねえぞ。貴重そうだから奪いたくなる」

 カシヨは人だかりに近づく。

 

 人だかりの中には金髪赤眼の美女と倒れている男がいた。

「キョダイザー、ビクトリー」

「嬢ちゃん。俺たちの前でそんなレアカードぶら下げるなんてついてねえな。カードファイトで奪ってやる」

 コイツら合法盗賊団的な奴だったのか。

 

 カシヨの口から歯ぎしりが聞こえる。よっぽどレアカードを取られたくないみたいだな。

「取られるんじゃねえぞ」

「ステイ」

 ここらで一度戦い方を見ておいた方がいいだろ。



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百十一枚目 デカイザー発進

 金髪の美女の一ターン目だ。

「マインターン。チャージ。手札から獣鬼と名の付くマジック……魔法カードを三枚見せればコストはナッシン。手札の獣鬼マンドリル、獣鬼クレイン、獣鬼トラックを見せるデース。マジック発動。獣鬼発進基地デース。ターンエンドデース」

「獣鬼だと」

「俺は知らないけどお前は知ってるのか?」 

「ああ。獣鬼はちょっとアルカナに似ているテーマだ。ただ違うのは獣鬼は殴る。それに獣鬼は殆どのカードが魔法カードなんだ」 

 カードジョブオンラインではそれなりに強かったけど、環境を取ったことはあまりないって言う印象がある。

 

 盗賊の一ターン目だ。

「ドロー。チャージ。ターンエンド」

 金髪の美女の一ターン目だ。

「マインターン。ドロー。チャージ。コスト1で獣鬼マンドリルを発動シマース。獣鬼発進基地の下にこのカードを置いて手札の獣鬼を一枚トラッシュ……捨てれば、山札の獣鬼を一枚手札に加えることがデキマース。ミーは獣鬼トラックをトラッシュシマース。そして獣鬼コンプレッサーパンダを手札に加えマース。ターンエンドデース」

 順調だな。

 

 盗賊の二ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト2でメガラビットを召喚。メガラビットでプレイヤーに攻撃」

 金髪の美女:生命力10→8

「アウッチ。獣鬼コンプレッサーパンダのエフェクトを発動シマース。手札からトラッシュすることで、受けたペイン……ダメージと同じ分ドローしてデッキの上からセメタリーに送ることが出来マース」

「俺はプレイヤーに攻撃する。ターンエンド」

 金髪の美女の生命力:8→6

 

 獣鬼にとっては墓地は手札みたいなもんだから実質手札が四枚増える爆アドなんだよね。 

 

 金髪の美女の二ターン目だ。

「マインターン。ドロー。チャージ。コスト2で獣鬼クレインを発動シマース。獣鬼発進基地の下に置くのデース。クレインのエフェクトで獣鬼と名の付くカードを二枚リトゥリーブ……回収シマース。獣鬼コンプレッサーパンダと獣鬼トラックをセメタリーからリトゥリーブ。ターンエンドデース」

 盗賊の三ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト2でハイパービーストを召喚。ハイパービーストでプレイヤーに攻撃」

 金髪の美女:生命力6→4

 

 相手も学習しねえなぁ。

「獣鬼コンプレッサーパンダの効果で二枚ドローアンド二枚セメタリー送りデース。デッキもコンプレッサしマース」

「メガラビットでプレイヤーに攻撃」

 金髪の美女:生命力4→2

「ピンチデース。マズいデース。手札のフォーチュンテラーのエフェクト発動シマース」

 フォーチュンテラーのテキストは5以下になった時召喚できるって書かれてるから、生命力が5以上から5以下にならないと出せないと思われてるけど、ダメージを受けたときに5以下ならダメージを受ける前に生命力が4でも召喚できるのだ。そもそもフォーチュンテラーのテキストって誤解を招く表現が多いっていうか何というか。

 

 なんであのテキスト訂正されないんだろ。

「ターンエンドだ」

 金髪の美女の三ターン目だ。

「マインターン。ドロー。チャージ。コスト3で獣鬼トラックを発動シマース。獣鬼トラックのエフェクト発動シマース。マインデッキオアマインセメタリーから合体獣鬼と名の付くカードをリトゥリーブシマース。セメタリーの合体獣鬼玉座 デカイザーをリトゥリーブ。ターンエンドデース」

 デカイザーか。つまりもう手札にはあれがあるってことだな。

 

 盗賊の四ターン目だ。

「ドロー。コスト4で大地の知啓発動。ターンエンド」

 金髪の美女の四ターン目だ。

「マインターン。ドロー。チャージ。コスト4で合体獣鬼王 ジュウキキングを召喚シマース。ジュウキキングのエフェクト発動シマース。獣鬼発進基地の下の獣鬼カードを三枚このカードの下にイン。ジュウキキングでハイパービーストに攻撃シマース」

 柄の無い機械の虎が二足歩行になって前足が後ろ足にくっつき、右部分にマンドリルがくっつき、左部分にクレインがくっつく。

 

 ジュウキキングはハイパービーストをドリルで穿つ。

「ターンエンドデース」

 盗賊の五ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト4で月光ゲッコーを召喚。月光ゲッコーでフォーチュンテラーに攻撃してターンエンド」

 合体獣鬼は手間をかければコストの割にステータスが高くなることはよくあるからな。

 

 金髪の美女の五ターン目だ。

「マインターン。ドロー。チャージ。獣鬼王の玉座にはかつての獣鬼の皇の亡骸が相応しい。コスト5で合体獣鬼玉座 デカイザーを召喚。このモンスターはジュウキキングがいなければサモン出来マセーン」

 どこがとは言わんが使ってるやつも相当デカい。どこがとは言わんが。

「デカイザーの下にジュウキキングを置きまーす」

 巨大ロボットこと……デカイザーが現れた。

 

 ジュウキキングはジャンプしてデカイザーに乗り込む。

「あの時のあれはこのカードだったのか」

 違うぞ。あの時のはキョダイザーだし。

「合体獣鬼玉座 デカイザー。月光ゲッコーにアタック」

 凄まじいインパクトだ。



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百十二枚目 ビクトリー、キョダイザー

コピペするのが面倒でした


 盗賊の六ターン目だ。

「ドロー。チャージ。ターンエンド」

 金髪の美女の六ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト4でけものエンジンズ発動。マイン獣鬼カードの下にある獣鬼カードの枚数分ドロー出来マース。ワン、トゥー、スリー、フォー。4枚ドロー。合体獣鬼玉座 デカイザーでメガラビットにアタックデース。ターンエンドデース」

 バカスカ山札を削ってんな。デッキが薄くなるぞ。

 

 盗賊の七ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト1でスピードラットを召喚。ターンエンド」

 金髪の美女の七ターン目だ。

「マインターン。ドロー。チャージ。サービスしてあげマース。巨躯なる獣鬼の帝は玉座にすら収まらぬ。コスト7で合体獣鬼帝 キョダイザーを召喚シマース。合体獣鬼玉座 デカイザーにライドオン」

 あの時の巨大ロボットが現れて、デカイザーを取り込む。

 

 巨大ロボットは剣を取り出した。

「キョダイザーのエフェクト発動シマース。このカードの下のカードをすべてマインデッキの下に戻してシャッフルすることで、獣鬼カードをコストを支払わずに墓地から使用しマース。合体獣鬼秘技 ジュウキソード」

 巨大ロボットは剣を突き刺す。

「ジュウキソードは使用したらキョダイザーは攻撃を出来なくなりマース。しかし相手の場のモンスターとプレイヤーにこのカードの攻撃力から相手の防御力をマイナスした分の戦闘ダメージを与えマース。ジュウキソードフィニッシュ」

 場のモンスターがすべて破壊される。盗賊の生命力は4になったな。

 

 巨大ロボットは関節部分から煙を出した。

「ターンエンドデース」

 盗賊の八ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト2でメガチャージ発動。ターンエンド」

 金髪の美女は顎に手を当ててしかめっ面をしてからターンを終えた。

 

 盗賊の九ターン目だ。

「コスト10で巨獣ギガントを召喚。巨獣ギガントでキョダイザーに攻撃する。ターンエンド」

 巨大怪獣バーサスロボットか。

 

 金髪の美女の九ターン目だ。

「マインターン。ドロー。チャージ。コスト6で獣鬼スクランブル発動シマース。マイン手札と墓地の獣鬼カードをすべてマインデッキの下に戻してからシャッフルして、山札の上から四枚をセメタリーに送り、その中の獣鬼カードをすべてマインフィールドの獣鬼カード一枚の下に置きマース。置かなかったものは全部セメタリー送りデース。セメタリーにドロップした獣鬼クレイン、獣鬼マンドリル、獣鬼トラック、獣鬼ロードローライノスを獣鬼発進基地の下に置きマース。ターンエンドデース」

 盗賊の十ターン目だ。

「ドロー。巨獣ギガントでキョダイザーに攻撃する。ターンエンド」

 金髪の美女の十ターン目だ。

「マインターン。ドロー。コスト5で獣鬼スタヒバリライザを発動シマース。獣鬼発進基地の下に置いて、獣鬼スタヒバリライザのエフェクト発動シマース。マインデッキから獣鬼カードを手札に加えマース。ターンエンドデース」

 

 盗賊の十一ターン目だ。

「ドロー。チャージ。巨獣ギガントでキョダイザーに攻撃。破壊。ターンエンド」

 金髪の美女の十一ターン目だ。

「マインターン。ドロー。五つの鋼の獣の魂が勝利を呼ぶ。コスト5で合体獣鬼王 ジュウキキングファイブを召喚しマース。獣鬼カードを五枚このカードの下に置きマース」

 まずジュウキキングが現れて、鋼の鳥と鋼のサイが現れた。ジュウキキングの右部分が外れて、鋼の鳥がくっつきマンドリルはジュウキキングの右足の下に送られる。鋼のサイがジュウキキングの左足の下の部分に送られた。

 

 盗賊はほっとしたように息を吐く。

「巨獣ギガントの防御力は超えられてないじゃねえか」

「ジュウキキングファイブはこのターン中攻撃力をハーフにすることで、相手モンスターがいても相手に攻撃できるようになりマース。ジュウキキングファイブで相手プレイヤーに攻撃デース。グランドスカイフィニッシュ」

 ジュウキキングファイブは空を飛び、右足のドリルで盗賊を蹴った。

 

 盗賊:生命力4→1

「ターンエンドデース」

 盗賊は何もせずに十二ターン目を終えた。

「ジュウキキングファイブで相手プレイヤーに攻撃シマース。グランドスカイフィニッシュ」

 場のカードが消え去る。

 

 金髪の美女はVサインをした。

「キョダイザー、ビクトリー」

「勝利の要因はキョダイザーだが、ジュウキキングファイブでトドメさしたじゃねえか」

 金髪の美女は嘲笑する。

 

 金髪の美女は手を叩いた。 

「マイネームイズアレクサンドラ。気軽にアレックスって呼んでクダサーイ」

「何でコイツいきなり自己紹介を始めたんだ」

「今後お見知りおきになるからかもしれないからデース」

 アレックスは俺たちに向かってウィンクをした。偶然方向が被っただけよな。

 

 アレックスは俺の手を握る。

「ユーからは歴戦の戦士のオーラを感じマース。こういうオーラを出せるカードファイターを求めていたデース」

「いうほど歴戦じゃないです。貴方が想像するよりも負けてますからね」

「ワォ」

 手がぶんぶんと上下に振られた。



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百十三枚目 機構の獣

 盗賊たちが俺たちを見つめる。

「なんだこいつらすっげえくせえ」

「勝負の行方に熱中してたから気づいてなかった」

「失礼なこと言うんじゃねえ。二日ぐらい風呂入ってねえだけだ」

「そういえば臭い……スメルデスネー」

「ゾンビフランテスの臭いが移ったんだよ。なれたから気づいてなかったね」

 アレックスは鼻をつまむ。一瞬悲しそうな顔をしたのは気のせいだろうか。

 

 盗賊たちは逃げた。

「こんな臭い奴らに関われるか」

「人のことを臭い臭いと失礼なこと言いやがって」

 嗅いでも臭くない。まあ臭いになれたからな、

 

 アレックスは逃げない。意外だな。

「鼻をつまんだ程度で嗅げなくなる程度の臭いじゃないのに」

「それに俺はこう見えてさっきの奴らより質悪いぜ。逃げればいいのに逃げなかったのは運が悪かったな」

「そんなに強そうに見えないデース。まあそんなことよりもユーのようなNPCはカードジョブオンラインにいたなんて知らない……ドントノウデース」

 カードジョブオンラインとな。

 

 カシヨは首をかしげる。

「お前何言ってんだよ」

「アレックスさん。話があるのでちょっと耳貸してください。あとカシヨは聞かないでくれ」

「ガールズトークか。お前も口は悪いがそういえば女だったな。いいだろう」

「違うが」

「照れることでもないだろ」

 まあそういう解釈の方が都合がいいので、そういうことにしておこう。

 

 アレックスの右腕を引っ張ってしゃがませた。

「今カードジョブオンラインって言ったか?」

「言いましたが、それがワット?」

「ここはカードジョブオンラインの世界じゃないぞ」

 アレックスは目を閉じてから目を開けた。

 

 アレックスは俺の頭をポンポンと撫でる。

「これがゲームの中にいるレアなNPCという奴デースね。よく出来てマース」

「俺をゲームのキャラだと思ってるのか。じゃあログアウトできるか試してみろよ」

 アレックスは得意げな顔をして右腕を中指で叩く。

 

 アレックスは何度も右腕を中指で叩く。

「ミッシング。メニュー画面がオープンしマセーン」

「あとこのカードはカードジョブオンラインに実装されてない奴だ」

 ペルーダを見せた。

 

 アレックスはしばらくペルーダをじろじろ見てから、驚いたかのような顔をする。

「驚愕、アンビリーバボー!!! アイキャンノットログアウト!!!」

 うるせええええ。鼓膜が壊れるかと思った。

「いきなり大声出すんじゃねえ。うるさいだろ」

「ソーリー」 

「許してやるよ。わざとやったわけじゃないからね。次やったら許さねえ」

 次やったら指を折る。ハンマーで叩く。次やられる前にハンマー買うかな。

 

 大声出しやがって。

「ところでいきなり大声出してどうしたの?」

「アイアムが今エクスペリエンスしていることは、アナザーワールドトリップということデスネー。アイアムニュービー。ビコーズカードジョブオンライン内のそういうイベントかと思っていましたが、未実装カードを見せられれば納得シマース。アースに未練もナッシング」

「まあそういうことだな」

 所々英語が混ざって分からんが、多分そういうことだろう。

 

 アレックスは首をかしげる。

「ユウもアースからトリップしたのデースカ?」

「ああ。俺もこの世界に来たいわば異世界転生者ってやつだ。人型のカードの束的な奴にそういう話を聞いてなかったのか?」

「所々聞き流してマーシタ。彼の話は非常にロングアンドボーリング。いつの間にかトリップしてバンディットに囲まれてマーシタ」

 聞き流すんじゃねえよ。

 

 アレックスは俺をチラチラ見る。

「傷……スカーが痛々しいデース」

「治らねえし害もないからわりかしどうでもいい。そんなことよりもお前のこれからが問題だろ。当てもないし、この世界の常識も分からねえんだろ」

「イエース。バッドカードファイトで何とかなるっていうのは分かっているので、問題ナッシング」

 アレックスからいったん離れて、今までのことをだいぶごまかしてカシヨに話した。次元の巫女の力に目覚めるかもしれないって言ったら満面の笑みで許してくれた。まあ強いレアカードも持ってるからね。

 

 カシヨはアレックスに微笑んだ。

「カードハンターにようこそ」

「カードハンターとは?」

「カードハンターってのはカードファイトでカードを取る奴らのことだ。この世界そんな奴らたくさんいるから気を付けろよ」

 アレックスはやらかしたと言いたげな顔をする。

 

 アレックスは目をそらす。

「入るとは言ってマセーン」

「でも入らなかったらもっとひどい目に合うと思うんだよね。だって獣鬼というレアカードを持ってるんだぜ。盗まれるかもね。でもさ三人もいれば盗難被害から防げるかもしれないぞ」

 この世界じゃそんなことあり得ないけど。渡す側の合意がなければカードは渡せないらしいしね。

 

 アレックスは口を開こうとする。

「この世界はカードがないと三年は地獄を見る。言われずともそのくらいは常識だと思ったんだがな」

「仕方ないデース。悪の軍門には下っても、悪事をしなければ良いだけデース」

 騙せたぞ。



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百十四枚目 認めたくはない

 少し歩くときれいな湖が見えた。

「湖が見えた」

「じゃあそこで体をウォッシュした方がグッドデース」

「ここに湖なんてないと思うが。でも土地勘があまり定かじゃねえからなぁ」

「おっそうだな。でも現に湖が見えてるからあるぞ」

 湖の近くを歩いていた人が湖から出てきた巨大な水製の手に引きずり込まれる。

 

 無抵抗で引き込まれたから、相当な力があるんだろうな。モンスターかよ。

「あの湖はモンスターだ」

「ボーリングジョークデース」

「湖に擬態できるモンスターの中であんなデカイモンスターはいないぞ」

 冗談じゃねえぞ。こいつら視力低いのか。まあ現実逃避してるからかもしれないけど。湖

 

 湖に向かって走る。

「スタミナが……切れそう。少しは……改善できた……と思ったんだけどな」

 濃い霧が出てきた。後退りすると濃い霧が出て来て、前のめりになると濃い霧が現れる。

「この霧は幻か。幻の霧を出すモンスターか。魔霧の使い手さんかな」

 魔霧の使い手さんはカードジョブオンライン実装当時の環境でもコストの割にステータスが低くて効果も弱いくせに、このモンスターは幻の霧を操って敵を倒すというフレーバーテキストがあるからネタ的な意味で印象に残ってる。

 

 でも魔霧の使い手さんは湖のように大きくないからなぁ。

「ということは透明化できる方法があるってことだな」

 下手したら近くにカードファイターがいるかも。いや、カードファイターじゃなくてカードハンターかもしれない。

 

 後ろから肩を叩かれた。

「きゃっ!」

 何だ今の声。俺の口から出てたよな。

「か、髪型が崩れるじゃねえかよ。やめろ」

「ヘアーはタッチしてまセーン。サプライズさせてソーリー」

 認めたくないけど、この体になって半年以上経ってるから精神がなじんだんだろうなぁ。

 

 ……理屈は正しいかもしれないが、認めたくはないんだよなぁ。重要だから繰り返したぞ。

「ストップしてくだサーイ。いきなりランされれば、ロスサイトしてしまいマース。ロスサイトすれば非常にウォーリー」

「まず前提としてそういうことはないから平気平気。だって俺遅いしスタミナないし歩幅もないし目立つ格好だから見失う方が難しいぞ」

 普段は合わせてもらってるけど、幼女とスタイルの良い女性の歩幅はだいぶ違うからなぁ。

 

 おっと脱線したな。

「おそらく魔霧の使い手がいるかもしれない」

「このワールドにはモンスターがいるのデスネ」

「まあそうだけど。下手すればカードハンターもいるぞ」

「まあ魔霧の使い手みたいなウィークモンスターならノープロブレムデース。カードハンターならばカードファイトでビクトリーすればノープロブレムデース」

 まあそれもそうだな。

 

 霧の中に入っていった。

「そう言えばカシヨは?」

「カシヨというのは一緒にいたヒーのことデスネー。いないってことはエスケープしたと思いマース」

「肝心な時に逃げやがって。やっぱ運ゲー野郎は違うな」

 アレックスは人間が出来てるね。

 

 風がそよぐ。

「ギ……」

「いきなり変な声出すなよな」

「マイはスピークしてないデース」

「じゃあ一体誰が変な声を出したんだよ」

 嫌な予感がして顔を右にずらした。

 

 石と石がぶつかり合う音が聞こえた。

「よくもさっきは俺のことをザコって言ったな」

「俺は言ってないぞ。あとウィークモンスターって言っただけだから誰も言ってないぞ」

 霧の向こうから魔霧の使い手のイラストを立体化させたような奴が現れた。

「この魔霧の使い手様は幻の霧で敵を倒せるんだぞ」

「本当にそうだったら誰もが四枚投入してるぞ」

「モンスターがムーブしてマース。さっきのようなビジョンじゃナイデース」

 攻撃力も防御力も低いから、幻の霧を操っている間に敵に倒されるっていうフレーバーテキストにした方が正確なんだよね。

 

 霧の向こうから大きなものの影が見えた。

「俺が強いという証拠を見せてやる。行け、湖の邪精霊」

「自分の強さを証明する所で他人任せとかギャグかな」

「ボーリングギャグデスネ」

 大きな水製の手が襲い掛かってくる。

 

 俺はそれに掴まれた。

「くそぉ。全然抜けねえぞこれ。水の抵抗力と握力両方持ってやがる」

「コイツを賭けて俺と戦え。分からねえようなら教えてやるよ。コイツは人質だ」

 魔霧の使い手はデッキを構えた。

 

 アレックスは嫌な顔をした。

「これにビクトリーすれば、魔霧の使い手をゲットマスネ」

 そう言えばカードジョブオンラインでモンスターをゲットする方法の一つに、野生のモンスターとカードファイトして勝つってのがあったっけ。

「まあゲットしたところで要らねえからな。まあ俺の命のおまけだと思えばいいさ」

「デスネ」

「トゥルーファイトエントリー」

「トゥルーファイトエントリー」

 トゥルーファイトか。確実に抹殺する気だな。でもアレックスの実力なら大丈夫だろ。ここで変に事実を教えあら手加減しそうだし、秘密にしておこ。

 

 魔霧の使い手のカードデッキが赤く光った。

「チャージ。ターンエンド」

「やはりウィークネスデース。すぐにリベレイトデキマース」

 もう一人誰かの気配を感じる。きのせいであってほしい。



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百十五枚目 人質

 互いに三ターン目まで動きがなかった。アレックスの四ターン目だ。

「マインターン。ドロー。チャージ。コスト4でマジック発動。獣鬼発進基地デース。ターンエンドデース」

 魔霧の使い手の五ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト3でハイパービーストを召喚。ハイパービーストでプレイヤーに攻撃」

 アレックス生命力:10→8

 

 アレックスの口角が上がる。

「手札の獣鬼コンプレッサーパンダのエフェクト発動シマース。このカードを捨てることで、受けたダメージ分山札の上からセメタリーに送って受けたダメージ分ドローシマース」

「なんだそのカード」

「バッドマインフィールドに獣鬼カード以外のカードがあるか、獣鬼カードがナッシングならば使えマセーン。タイミングが遅かったデース」

「ぐぬう。ターンエンド」

 まあコンプレッサーパンダは獣鬼以外で使えたらだれもが悪用するようなカードだし。

 

 アレックスの五ターン目だ。

「マインターン。ドロー。チャージ。コスト1で獣鬼マンドリルを発動シマース。獣鬼発進基地の下にこのカードを置いて手札の獣鬼トラックを一枚トラッシュ。山札の獣鬼クレインを一枚手札に加えることがデキマース。コスト2で獣鬼クレインを発動シマース。獣鬼発進基地の下に置くのデース。クレインのエフェクトで獣鬼と名の付くカードを二枚リトゥリーブシマース。獣鬼コンプレッサーパンダと獣鬼トラックをセメタリーからリトゥリーブ。ターンエンドデース」

 マンドリルでトラック落としてクレインでコンプレッサーパンダと一緒に回収するという盛りすぎムーブ。この二枚とも獣鬼発進基地がなかったら効果使えない仕様じゃなかったら禁止になってると思うの。

 

 魔霧の使い手の六ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト4でトリプルドロー発動。そしてコスト2で口笛の邪精霊を召喚。口笛の邪精霊でプレイヤーに攻撃」

 アレックス生命力:8→7

「ターンエンド。コンプレッサーパンダの効果を使わせたくねえ」

 大抵の獣鬼にはバーンか盤面をそろえて一気にケリをつけるのが正しい対応だったりするのよね。

 

 アレックスの六ターン目だ。

「マインターン。ドロー。コスト3で獣鬼トラックを発動シマース。獣鬼発進基地の下に置いてエフェクト発動シマース。マインデッキオアマインセメタリーから合体獣鬼と名の付くカードをリトゥリーブシマース。デッキの合体獣鬼王 ジュウキキングをリトゥリーブ。ターンエンドデース」

 魔霧の使い手の七ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト3でハイパービーストを召喚。コスト4でトリプルドロー発動」

「準備が万端デース」

 これはちょっときついな。

 

 ちょっと握力が強くなった。

「ぐ……ぐぅ」

「早くしないともっときつくなるぜ。降参すれば命だけは助けてやるよ」

「アイキャンノットトラストユー。信頼デキマセーン。どうも妙……ストレンジです」

「本当だよ。だってコイツの命だけは一旦助けてやるから。まあお前を抹殺した後で、すぐ同じ場所に送ってやるよ」

 何て奴だ。

 

 アレックスは俺を見つめる。

「ノープロブレム。ウィークモンスターに言われるまでもなく、スピーディーにエンドシマース」

 魔霧の使い手は指を揺らした。

「じゃあやってみろよ。ターンエンド」

 なんか企んでいるなこいつ。

 

 アレックスの七ターン目だ。

「マインターン。ドロー。チャージ。コスト4で合体獣鬼王 ジュウキキングをサモン。ジュウキキングのエフェクト発動シマース。獣鬼発進基地の下の獣鬼カードを三枚このカードの下にイン」

 虎と鶴とマンドリルの合体ロボットが君臨する。

「合体獣鬼王 ジュウキキングでハイパービーストにアタック」

 ハイパービーストは粉砕された。

「ターンエンドデース」

 俺の口に水が入り込む。

 

 お、溺れる。これはまずい。

「チマチマしてんじゃねえ」

 水が俺の口から出た。

 

 魔霧の使い手の八ターン目だ。

「ドロー。コスト6で湖の邪精霊……様を召喚」

 俺をつかんでいる腕だけが動いた。

 

 湖の邪精霊は腕しかないのか。

「湖の邪精霊……様の効果発動。自分の場の邪精霊と名の付くモンスター以外をすべて手札に戻す」

「アルラウネと組み合わせると強いな」

「それだけじゃない。今回は人質付きだ」

 湖の邪精霊の水が俺の口にするりと入る。

 

 口が勝手に動く。

「魔霧の使い手。早くしないか。早くこの者の命を捧げろ」

「ですが先ほど人間を差し上げたばかりでは」

「あんな少しでは余計に食欲が湧いてお腹が減る」

 あ~分かる。ちょっとだけ食べると余計にお腹すくよねー。

 

 ってコイツラ人喰ってんのかよ。

「ヘイガール。何を言っているのデース?」

「湖の邪精霊様が人質の口だけを借りたのだ。人質が自分の意志でこれを言ってたら怖いだろ。割とそんなことはどうでもいい。湖の邪精霊……様でジュウキキングに攻撃。ターンエンド」

 湖の邪精霊はジュウキキングに裏拳を当てる。

 

 アレックスの八ターン目だ。

「マインターン。ドロー。チャージ」

「いいことを教えよう。湖の邪精霊に攻撃したら事故が起こって人質が傷つくかもしれない」

「……ターンエンド」

 なんて卑怯なコンビだ。見ることしかできないのがもどかしい。



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百十六枚目 捧げもの

 魔霧の使い手の九ターン目だ。

「ドロー。湖の邪精霊……様で攻撃。ターンエンド」

 アレックスの九ターン目だ。

「マインターン。ドロー。獣鬼王の玉座にはかつての獣鬼の皇の亡骸が相応しい。コスト5で合体獣鬼玉座 デカイザーを召喚。このモンスターはジュウキキングがいなければサモン出来マセーン」

 一分だけ溺れた。

 

 魔霧の使い手の十ターン目だ。

「早くしないと溺れちゃうぜ。さっき反応がなかったからもう少しかもしれないなぁ。ドロー。コスト10で巨獣ギガントを召喚。巨獣ギガントでデカイザーに攻撃。ターンエンド」

 アレックスの十ターン目だ。

「マインターン。ドロー。巨躯なる獣鬼の帝は玉座にすら収まらぬ。コスト7で合体獣鬼帝 キョダイザーを召喚シマース。合体獣鬼玉座 デカイザーにライドオン。巨獣ギガントにアタックシマース。ターンエンドデース」

 体が冷えてきた。低体温症か。

 

 魔霧の使い手の十一ターン目だ。

「ドロー。チャージ。ターンエンド。早くしないとアイツ死ぬぜ」

「卑怯デース」

「ハハハなんとでも言え。負け犬がほざいておるわ」

 性格が悪い。

 

 アレックスの十一ターン目だ。

「マインターン。ドロー。チャージ。コスト8で合体獣鬼秘技 ジュウキソードを発動シマース。ユーのフィールドのモンスター全てに戦闘ダメージを与えマース」

「湖の邪精霊様が人質取ってるんだぞ。良いのかそんな事して」

「悪しきものだけをデストロイシマース。バッドキョダイザーはアタック出来マセーン」

 巨獣ギガント以外破壊した。

 

 ……ということは俺が落ちると言うことか。覚悟して目を閉じた。

「落ちるぞ。壁に叩きつけたトマトみたいになるぞ」

 これまでの思い出を振り返りながら重力に身を任せていると、硬い物の上に落ちた。

「ぎゃん」

 背中が痛い。

 生きてやがる。

「セーフ」

 見えるもの的にキョダイザーの手のひらにいるみたいだな。

 

 湖の邪精霊が現れた。

「お前はこれまでよく尽くしてくれた」

「これからも尽くしますよ」

「我という暴力装置が欲しいから尽くすつもりなのだろうな」

 内輪揉めだ。ありがたい。

 

 湖の邪精霊は魔霧の使い手をつまむ。

「無能な見立てと指示で我の体を傷つけるというだけで重罪。今までは失敗していないから、お前が我を利用しているのを見逃していただけだ」

「お、お許しください」

 魔霧の使い手の口に水が入り込んだ。

 

 魔霧の使い手は首を動かした。大量の水が重力に従って落ちる。

「我の体が治るまで魔霧の使い手の体をもらう」

「なんでわざわざ弱い体をもらうんだ。俺を乗っ取った方が色々と便利なのに」

「フフフ。ただのミスだ」

 それはミスなのか。

「ターンエンド」

 マイペースかよ。

 

 魔霧の使い手の十二ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト3でヴァンパイアファング発動。巨獣ギガントを選択。巨獣ギガントでキョダイザーに攻撃。ターンエンド」

 アレックスの十二ターン目だ。

「マインターン。ドロー。チャージ。コスト4でけものエンジンズ発動デース。四枚ドロー。コスト4で獣鬼トータスクレーパーを発動シマース。獣鬼発進基地の下に置いてエフェクト発動デース。マインフィールドオアマインセメタリーの合体獣鬼カードを一枚リトゥリーブシマース。合体獣鬼帝 キョダイザー。カムバック」

 キョダイザーがデカイザーになった。

 

 デカイザーが巨獣ギガントに傷つけられたはずのキズが直っていた。

「デカイザー。巨獣ギガントにアタックデース。ターンエンドデース」

「攻撃出来ないはずだろ」

「アタック出来ないのはあのときマインフィールドにいたキョダイザーだけデース。つまりデカイザーと次のターンにサモンするキョダイザーはアタック出来マース。アーンドデカイザーは一旦カードの下に言ったので、生命力が戻ってマース」

 魔霧の使い手は納得がいかないという顔をする。初見じゃ納得できないよな。俺も納得出来なかった。

 

 魔霧の使い手の十三ターン目だ。

「ドロー。チャージ。巨獣ギガントでデカイザーに攻撃。ターンエンド」

 アレックスの十三ターン目だ。

「マインターン。ドロー。チャージ。巨躯なる獣鬼の帝は玉座にすら収まらぬ。コスト7で合体獣鬼帝 キョダイザーを召喚シマース。合体獣鬼玉座 デカイザーにライドオン。キョダイザーで巨獣ギガントにアタックシマース。破壊しマシタ。ターンエンドデース」

 

 魔霧の使い手の十四ターン目だ。

「ドロー。チャージ。ターンエンド」

 アレックスの十四ターン目だ。

「マインターン。ドロー。チャージ。コスト6で獣鬼スクランブル発動シマース。マイン手札とセメタリーの獣鬼カードをすべてマインデッキの下に戻してからシャッフルして、山札の上から四枚をセメタリーに送り、その中の獣鬼カードをすべてマインフィールドの獣鬼カード一枚の下に置きマース。置かなかったものは全部セメタリー送りデース。セメタリーにドロップした獣鬼クレイン、獣鬼マンドリル、獣鬼トラック、獣鬼ロードローライノスを獣鬼発進基地の下に置きマース。ターンエンドデース」

 魔霧の使い手はドローしてからチャージしてターンを終えた。

 

 アレックスの十五ターン目だ。

「マインターン。ドロー。コスト5で獣鬼スタヒバリライザを発動シマース。獣鬼発進基地の下に置いて、獣鬼スタヒバリライザのエフェクト発動シマース。マインデッキから獣鬼カードを手札に加えマース。キョダイザーで口笛の音の邪精霊にアタックデース。破壊。ターンエンドデース」

 魔霧の使い手の十六ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト6でクワトロブースト。コスト3でハイパービーストを召喚。ターンエンド」

 目が諦めてねえ。逆転の手段があるとでもいうのか。

 

 アレックスの十六ターン目だ。

「マインターン。ドロー。チャージ。五つの鋼の獣の魂が勝利を呼ぶ。コスト5で合体獣鬼王 ジュウキキングファイブを召喚しマース。獣鬼カードを五枚このカードの下に置きマース。ジュウキキングファイブのエフェクトで攻撃力をハーフにして直接アタック。デカイザーでハイパービーストに攻撃。ターンエンド」

 これだけしても何かが不安だ。何かを見落としてる感じが拭えない。



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百十七枚目 見落としていたもの

 魔霧の使い手の十七ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト8で邪精霊の復活儀式発動。墓地からコストが8以下になるように邪精霊モンスターを蘇生して、デッキの上から三枚をコストゾーンに送る。湖の邪精霊と口笛の音の邪精霊を蘇生。ターンエンド」

 アレックスの十七ターン目だ。

「マインターン。ドロー。巨躯なる獣鬼の帝は玉座にすら収まらぬ。コスト7で合体獣鬼帝 キョダイザーを召喚シマース。デカイザーにライドオン。ジュウキキングファイブで口笛の邪精霊にアタックデース。破壊。キョダイザーで湖の邪精霊にアタックデース。ターンエンドデース」

 何かが引っかかるんだよなあ。

 

 魔霧の使い手の十八ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト3でハイパービーストを召喚。コスト6でクワトロブースト発動。コスト4で大地の知啓発動。ターンエンド」

 次のターンでコスト20だ。そんなにデッキ削ってどうしたんだろう。いうて相手のデッキ最初は60枚だったからまだあるけどさ。

「コストがいっぱいデース。20もあっても無駄デース」

 コストが20……そういうことか。

 

 アレックスの十八ターン目だ。

「アレックス。あいつは次のターン極大妖精(ビッグフェアリー)を出してくるぞ」

 あれはドラゴンブレスと組み合わせちゃいけないカードだからなあ。

「オーケー。マインターン。ドロー。チャージ。ジュウキキングファイブの攻撃力をハーフにすることで、直接アタックができるようになりマース。そしてコスト10で獣鬼王全力奥義 ジュウキキングフィニッシャーを発動シマース。合体獣鬼カードの下にある獣鬼カードの枚数分ジュウキキングと名の付くカードの攻撃力を上げマース。バッドアタック終了後にミーは負けマース。ジュウキキングファイブの攻撃力を10上げマース」

 倒しきれば負けるデメリットはないんだけどね。ジュウキキングファイブは魔霧の使い手に拳を振り下ろした。

 魔霧の使い手生命力:7→0

 

「ビクトリーキョダイザー」

 魔霧の使い手から水が出る。水はジュウキキングファイブに入り込んだ。

 

 場からモンスターと魔法が消えて、霧が無くなった。湖もねえな。湖自体が湖の邪精霊だったのか。

「そうか。魔霧の使い手が亡くなったから霧が晴れたのか」

「フムムどういうことデースか?」

「聞いてなかったか。トゥルーファイトは生命力が0になると死ぬ」

 アレックスが聞いてないのも当然。言ってないからね。言ったら躊躇うじゃん。俺が助からないじゃん。それに所詮モンスターだもの。相手が人間だったらさすがに言ってた。

 

 アレックスが顔を伏せてる。悲しんでるな。なんていえばいいんだろ。

「それに所詮俺たち以外にも人を襲ってるモンスターだからね。そんなモンスターは害獣みたいなものだから、駆除しても誇るべきだよ。未来の被害者たちの命を救ったと考えればいいさ。いいことをしたんだよ」

 精一杯言葉をひりだしたぞ。他人が落ち込んでるところあんま見たことないがゆえに対処が分からないからこれが正解か不正解かわからん。

 

 アレックスの拳が硬く握られる。

「知っていれば覚悟……リソリューションも出来てマシタ。しかし何も知らないのにリソリューションはキャンノット」

「お前トゥルーファイトエントリーって言ってたじゃないか。聞く人によっては知ってて言ったのかと誤解するじゃないか。あとさたかがモンスターの命じゃないのさ。人じゃなくて良かったね、人に向けないようにしようねで次に活かせばいいと思うよ。それにさモンスターの命を奪うなんてカードファイトでいつもやってることじゃないのさ。ポジティブに考えようよ」

 あ~ダメだこれ。テンパって変なこと言っちまった。

 

 アレックスは顔を上げた。アレックスは己の唇をかんでいた。

「ユーがスモールアンドキュートでも悪は悪だと分かりマシタ。悪に入り込み、内側からデストロイさせようとした判断はソーバッドだったデース」

「何を言っているんだ」

 残念ながら説得失敗したみたいだな。

 

 カシヨが歩いてやってきた。

「お前今までどこで何やって来たんだよ」

「カードファイターからデッキ奪ってきたぞ。馬鹿二人に付き合いきれんからな。欲しけりゃくれてやる」

「あっバカ。タイミング極悪すぎ。あと誰がバカ二人だよ。ふざけんな。お前がバカだバカ」

 コイツ肝心な時にいないくせに、かなりマズい状況でかなりマズい事言ってきたよ。やめてくんね。

 

 アレックスは俺たちを睨んだ。

「悪は正面からパワーでプレスするのがモストジャスティスデース。カードハンター潰しマース」

「カードハンター全部を悪だととらえるとかお前が悪だろ。一般的なカードハンターは命までは奪わないし、合意の下でカードファイトで実は悪じゃないぞ」

「そういう話じゃないぞ。俺の発言があいつの精神を逆なでしてしまったから、カードハンター全員悪だと思ったんだぞ。たぶん」

 カシヨは俺を巻き込むなと言いたげな目で見てきた。

 

 アレックスはデッキを構える。

「ユーとカードファイトをして、叩きのめし、まともなライフを送れるようにシマース」

「待てよ。俺のデッキの構成を知ってからにした方がいい。俺だけがデッキ構成を知ってるのは不公平だろ」

 アレックスにデッキを見せた。



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百十八枚目 まどわし

 アレックスにデッキを返してもらった。

「ストレンジに律儀デスネー」

「こういう積み重ねが勝利につながるんだよね。と言うかなんでさっきまで助けようとしていた相手とカードファイトしてんのさ」

「チャイルドだから悪党じゃないと思ったけど、その当てがハズれただけデース。悪党じゃなければ人助けはオフコース」 

 コイツさては治安の悪いところで生き残れないタイプだな。

 

 まあそれは割とどうでもいい。

「この世界じゃトバクファイトはカード以外にも奪えるんだぜ。それで追いはぎみたいなことやってるやつもいるしな。あと命は奪えないぞ」

「それが何デースカ?」

 明らかにイラついてる

「気に入らなけりゃトバクファイトでものを奪う権利を奪えばいい。まあそこまでできればの話だがな」

 実際にそれが出来るかどうか俺も知らない。

 

 カシヨはうなづいた。

「20年前にカードファイトをする権利を奪った例はあるぞ。そいつはトバクファイトとトゥルーファイトしか出来ない体になったらしいな」

「出来るらしいぞ。まあ俺は今まで人様からカードを奪いたくて奪ったことがないので、トバクファイトで物が取れなくても不自由はしない」

「ライアー。カードファイトをやりましょう」

 アレックスはデッキを構えた。

 

 デッキをこっそり変えてから、デッキを構えた。

「トバクファイトエントリー」

「トバクファイトエントリー」

 俺が勝った場合何を貰うか言われなかったな。まあいいか。勝ったあとに考えよう。

 

 アレックスのデッキが赤く光った。アレックスの一ターン目だ。

「マインターン。チャージ。獣鬼トラック、獣鬼コンプレッサーパンダ、合体獣鬼王 ジュウキキングを見せて獣鬼発進基地発動デース。ターンエンドデース」

 俺の一ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト1で薬草アルラウネを召喚」

「ワット? あんなカードいつインしましたか?」

 驚いてるな。

 

 アレックスは機嫌の悪さを顔に出す。

「デッキをチェンジしマシタネ」

「こういう積み重ねが勝利につながるって言ったじゃん。薬草アルラウネでプレイヤーに攻撃」

 アレックス:生命力10→12

「ターンエンド」

 アレックスは困惑した顔をする。

 

 アレックスの二ターン目だ。

「マインターン。ドロー。チャージ。コスト1で獣鬼マンドリルを発動シマース。獣鬼発進基地の下にこのカードを置いて手札の獣鬼を一枚トラッシュ……捨てれば、山札の獣鬼を一枚手札に加えることがデキマース。獣鬼トラックをセメタリーに置いて、獣鬼クレインをサーチ。ターンエンド」

 これで次の次にジュウキキングを出せるというわけだ。

 

 俺の二ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト2で癒しの使い手を召喚。薬草アルラウネでプレイヤーに攻撃。ターンエンド」

 アレックス:生命力12→16

 

 アレックスの三ターン目だ。

「マインターン。ドロー。チャージ。ターンエンドデース」

 手札が悪かったな。

 

 俺の三ターン目だ。

「ドロー。チャージ。薬草アルラウネでプレイヤーに攻撃。ターンエンド」

 アレックス:生命力16→20

 

 アレックスの四ターン目だ。

「マインターン。ドロー。チャージ。コスト4でトリプルドロー発動。三枚ドロー。ターンエンド」

 目論見が外れて、俺の四ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト4でトリプルドロー発動。薬草アルラウネでプレイヤーに攻撃。ターンエンド」

 アレックス:生命力20→24

 

 アレックスの五ターン目だ。

「マインターン。ドロー。チャージ。コスト3でリロード発動。獣鬼スタヒバリライザをセメタリーに置いて、ドロー。ターンエンドデース」

 俺の五ターン目だ。

「ドロー。チャージ。薬草アルラウネでプレイヤーに攻撃。ターンエンド」

 アレックス:生命力24→28

 

 アレックスの六ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト2で獣鬼 クレインを発動。獣鬼発進基地の下に置いてエフェクト発動。セメタリーの獣鬼カードを二枚リトゥリーブシマース。カムバック、スタヒバリライザ、トラック。コスト3で獣鬼 トラックを発動シマース。獣鬼発進基地の下に置いてエフェクト発動。マインデッキオアマインセメタリーから合体獣鬼カードをリトゥリーブシマース。合体獣鬼王 ジュウキキングファイブをリトゥリーブ。ターンエンドデース」

 アレックスは準備万端だ。

 

 俺の六ターン目だ。

「ドロー。チャージ。薬草アルラウネでプレイヤーに攻撃。ターンエンド」

 アレックス:生命力28→32

 

 アレックスの七ターン目だ。

「マインターン。ドロー。チャージ。コスト5で獣鬼 スタヒバリライザを発動シマース。獣鬼スクランブルをサーチ。ターンエンド」

 俺の七ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト6でクワトロブースト発動。薬草アルラウネでプレイヤーに攻撃。ターンエンド」

 アレックス:生命力32→36

 

 アレックスの八ターン目だ。

「マインターン。ドロー。コスト6で獣鬼スクランブル発動シマース。デマシタ。ロードローライノス、アスファルトカバ。アスファルトカバのエフェクト発動。魔法カードの下に置かれたら合体獣鬼カードをデッキからサーチできマース。ジュウキキングファイブをサーチ。ターンエンドデース」

 俺はあとアレが来れば勝てる。



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百十九枚目 逆転に次ぐ逆転

 俺の八ターン目だ。

「ドロー。求めていたものが来た。コスト3で素通り門番を召喚。コスト6でブーストライブラリ発動。薬草アルラウネでプレイヤーに攻撃。ターンエンド」

 アレックスはため息をついた。

「素直にルーザーになりたいなら、悪事したくないと言えばいいのデース」

 アレックス:生命力40→44

 

 アレックスの九ターン目だ。

「マインターン。二枚ドロー。五つの鋼の獣の魂が勝利を呼ぶ。コスト5で合体獣鬼王 ジュウキキングファイブを召喚しマース。獣鬼カードを五枚このカードの下に置きマース。攻撃力を削らなくても、ジュウキキングファイブは直接アタック出来るようデスネ……。つまりこれは悪事を働きたくないというメッセージの現れデース。ジュウキキングファイブでプレイヤーに攻撃。ターンエンドデース」

 ドロウ:生命力10→4

 

 ちょっと生命力が削れすぎだな。俺の九ターン目だ。

「ドロー。チャージ。このカードは相手の生命力が自分の生命力の十倍以上なら使える。コスト2で大逆転の切り札発動。デッキから好きなカードを一枚持ってきてから二枚ドローして山札の上から二枚をコストゾーンに置き、コストゾーンのカードを二枚未使用状態にする。そしてコスト……コスト10で雲外コンパクトミラーの防御結界発動。一ターンに一度受けるダメージを3まで減らして、相手の生命力を減らした数値の4倍回復する。ただしこのカードの効果を使用したターンの次の自分のターン終了時まで攻撃出来ない。薬草アルラウネでプレイヤーに攻撃。ターンエンド」

 なんたら邪教団の首長にもらったカードが役に立った。こういう積み重ねって大事だよね。

 

 アレックスは自らの口元に手を当てる。

「まさかこれまでのことは大逆転の切り札のエフェクトを発動するためだけにしていたことだったのデスネ。普通に考えればコストが見合っていませんが……まさか」

 アレックス:生命力44→46

 

 アレックスの十ターン目だ。

「マインターン。二枚ドロー。チャージ。ジュウキキングファイブでプレイヤーにアタックデース。ターンエンドデース」

「雲外コンパクトミラーの効果発動。受けるダメージを3減らして3×4×2で24回復。コストが1足りなかったな。獣鬼王奥義を使えば一撃だったのに。待つことを知れ」

 なんのまさかだったんだよ。

 

 俺の十ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コストを15減らしてコスト5で魔導回復生命体を召喚。そしてコスト0で魔法発動。強制終了」

 さっき山札を確認した時に確かにあったからな。

「強制終了……クレバーデスネ。これでルーザーにはならない」

「感心してるところ悪いがこれコピーデッキなんだ」

 環境デッキしかコピーしないコピーデッカーはカードゲームやるな。コピーするならこういう強くないけど賢いデッキもコピーしろ。

 

 最初から引き分け前提で動くわけもないしな。

「魔法カード ライブラリエフェクト:グレイブの効果だ。俺だけは負けない。アレックスよりも生命力も山札もひとつ多いからな」

「アンビリーバボー。すごくズルい」

 ズルくてもルールに従っているので、俺の勝ち。

 

 アレックスから何を貰おうかな。

「カードを全部貰おうかな」

「いやそれはダメだ」

「なんでさ」

「俺が困るからだ。折角の次元の巫女の力が失われるんだぞ」

 一つあるのにもう一つ欲しいのか。この欲張りさんめ。いや一つもないけど。

 

 というかカシヨほとんど話を消えてねえ。

「そんなことよりもお前はまだ勝ってねえ、場にモンスターがいるからな。おそらくアレックスの墓地になんかあるんだろ」

 獣鬼カード屈指の汎用性があるアイツのこと忘れてた。アイツはSR(スーパーレア)だから初心者が入れてるはずないと無意識に思い込んでいたみたいだな。

「あっ。フォーゴット。まだありマシタ。セメタリーからスカンクラリーポンプのエフェクト発動シマース。デッキからセメタリーに送られたときマインフィールドに獣鬼カードがあれば1ダメージをアタエマース。セメタリーからカタカケファンチョウのエフェクト発動デース。マインフィールドのモンスターの下にある獣鬼カードを一枚セメタリーに送って、カタカケファンチョウ以外の獣鬼カードを二枚デッキに戻しマース。カムバック」

 因みに今カタカケファンチョウの効果を発動する意味はない。

 

 アレックスの口角が上がった。

「引き分けデース」

「勝ちから引き分けに持ち込まれた。なかなかやるな。ここで引き分けになったらどうするんだよ」

 カードジョブオンラインじゃ何も起こらなかったが、カードジョブオンラインの運営は色々と怠けぐせがあるのでこの世界だとそこら辺違う可能性がある。

 

 カシヨは考えた。

「互いに負けた場合互いの今のデッキのカードを交換することになっている。何を交換するんだ」

「じゃあ俺はわりと余り気味のブンコバットね」

「五枚目の有翼の剣士デース」

 互いに要らないカードを押し付ける。

 

 アレックスは拳を固く握った。

「この世界ですべきことが分かりマシタ」

「なんだよ」

「言いマセーン。もう少しパワーをプラスしてからチャレンジマース」

 よく分からないが、面倒くさくなりそう。



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百二十枚目 あぶり出し

 暇なので外でガキどもと遊んでいた。

「どうもこんにちは。シスターさんいますか」

 アイツは確か暗黒邪教怒労蛮苦団の四番手だな。ぶかぶかの服を着てどうしたんだろう。

「シンズルは炊き出しに行ってるからいない」

 四番手は変だなと言いたげな顔をする。

 

 理由を聞いた。

「自分の家が見るからに貧乏なくせして炊き出しやってるのかと思ってさ。まず自分の心配すべきだろ」

「まあそれはそう。でも庭が無駄に広くて食料作れるから実質無料で問題なし。ところでなんでこの教会の場所知ってるの?」

「カシヨに教えてもらった」

 なるほど。

 

 四番手がガキどもと一緒に遊んでいると、シンズルが炊き出しから戻ってきた。

「アカネさんありがとうございます。忙しいのにすみません」

「いいのいいの。暇だからね。なにしろ護衛任務で大金貰ったから。生活には困らない」

「意外と堅実だ。ただの戦闘狂かと思ってたぞ」

 まあ戦闘狂はキャラだから。

 

 四番手は何かを思い出したような顔をした。

「ああそうだ。しばらくはこの辺りでトバクファイトしてカード奪うのは止めておけ。カードハンターハントが流行ってるからな」

「カードハンターハントですか。しばらく気を付けた方が良さそうですね。私も相当悪事を重ねましたもの」

「シンズルは例外だろ。これまでなんだかんだ法律準拠で、悪事の一つも働いたことがないんだからさ」

 四番手はうさんくせえと言いたげな顔をする。言いたい事があるなら直接言えよな。

 

 生臭神父が出てきた。

「どうもこんにちは。そちらの子は新しい子ですか?」

「多分そうだと思います」

「ちがわい。諸事情によりカシヨと別行動を強いられてるだけだから。ここの神父さんは生臭いから注意しろって言われたけど、生乾き臭しかしないんなら平気だろ」

 カシヨはいい奴だね。

 

 オメンオクがやって来た。定期的にやってくるかなり胡散臭い奴でしかない。四番手を見て一瞬固まってたけどどうしたんだこいつ。

「神父さん今日もお日柄が良いですね。最近カードハンターハントなるものがあるらしいですね。従業員の一人がカードハンターやってる身だと大変になりそうですね」

「こんにちは。立ち話もなんですから奥で話しましょう」

 オメンオクと神父が教会の中に入る。

 

 四番手はオメンオクをじっと見た。

「なんでこんなところにいるんだ。やっぱおもちゃ屋さんだからかな」

「どちらかと言えば人の命をおもちゃにしてそう」

「まあそういう胡散臭さはあるけどさ」

 オメンオクは胡散臭い。

 

 白い炎が沸き上がった。

「なんだこれぇ!?」

「おねーさんいきなり揺れないでよ」

「悪かったな。それにしても呑気だなぁ。いきなり火の手が上がったのに」

「火なんて見えないよ」

 触っても全然熱くない。というか冷たい。

 

 白い炎は人の形になる。

「悲しみ、怒り、亡者の怨み。我らは亡者の怨み」

「なんだコイツ」

 教会全体が火に包まれる。

 

 シンズルがバケツを持ってきた。

「教会全体が燃えてますよ。早く水を取りに行かなければ……」

「よく見てみろ。全く燃えてない」

「本当に燃えてないですね。これは幻でしょうか。むしろ涼しいというかなんというか」

 ガキどもは訳わからないと言いたげな顔をしている。なるほど。カードファイターにしか見えない幻の炎か。盛大な炙り出しだな。

 

 白い炎は指を指した。

「そうか。貴様らカードハンターか。我らはカードハンター被害者の会だ。我らの怨みの一部となれ」

「亡者の怨みって言う名前じゃなかったのか」

 四十枚のカード型の炎が出て来て、デッキになる。無視すんな。

「やだよ。なんでてめえらの一部にならなきゃいけないんだ。死者の戯れ言に巻き込まないで欲しい」

「大人しく浄化されてください。生者には生者の死者には死者の道があります」

 なんでこんなのがいきなり現れたんだ。

 

 白い炎はデッキを構えた。

「カードファイターならばカードで決着をつけるのが一番だ」

「それはそう」

「ですが、3対1ではそちらが不利なのでは?」

「我らは1でもあり100でもある。つまりこういうことも出来る」

 白い炎が三つに増える。

 

 デッキを構えた。

「「「我らの怨みを受けてみよ。メイクファイトエントリー」」」

「メイクファイト?エントリーです」

「「メイクファイトエントリー」」

 メイクファイトってなんだよ。

 

 白い炎のデッキが光った。

「我らの一ターン目だ。チャージ。ターンエンド」

 四番手が目をそらした。

「何か秘密にしていることが、あるんじゃないんですか?」

「メイクファイトは痛みがリアルに伝わる。つまり、生命力が0にならなくても死に至るかもしれない。覚悟しておけ」

「それをもっと早く言ってくれよ」

 うそくさいな。

 

 三ターン目まで何もなかった。シンズルの四ターン目。

「私のターン。ドロー。チャージ。コスト2で有翼の剣士を召喚。ターンエンド」

「いきなりモンスターが出た」

 白い炎その2の四ターン目。

「ドロー。チャージ。コスト4でハンターファルコンを召喚。小さなプレイヤーに攻撃」

「ぐぎぎぎ」

 ドロウ:生命力10→6

 四番手の服にハンターファルコンの爪の跡が出来ていた。

「火に焼かれるよりマシだな」

 本当に痛みを受けるのか。



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百二十一枚目 デッドファイト

 ドロウの四ターン目。

「ドロー。チャージ。コスト3でハイパービーストを召喚。ターンエンド」

 白い炎その1の五ターン目。

「ドロー。チャージ。コスト2でモスキートハシラーを召喚。モスキートハシラーでそこのプレイヤーに攻撃。ターンエンド」

 私の肌に蚊が何十匹も刺さる。

 

 うぅぅぅ~。

「体のすべてが痒い」

 生命力が減ってないのが救いだな。

「かゆくても我慢するのがかゆみにきくんだぞ~」

「火の魔人に焼かれるよりマシだから耐えろ」

 確かにそれよりはマシ。

 

 私の五ターン目。

「ドロー。チャージ。コスト4でフアイヤーウォールゆすりを召喚。山札の上から3枚を墓地に置いてもよい。そうした場合、モンスターを1枚自分の墓地から手札に戻す。今墓地に行ったタクロウライターを手札に加える。そして今墓地に行ったサプライズホバーボードの効果発動。墓地から場に出す。サプライズホバーボードでモスキートハシラーに攻撃。破壊。ターンエンド」

 ナーフ現象のあおりを受けちまってサプライズホバーボードに破壊効果が無くなったのだ。カードの効果が弱くなるナーフ現象なんて酷い。

 

 白い炎その3の五ターン目。

「ドロー。チャージ。ターンエンド」

 シンズルの五ターン目。

「私のターン。ドロー。チャージ。コスト5で賢くて善なる存在を召喚いたします。ターンエンドです」

 四番手が嫌そうな顔をする。

 

 白い炎その2の五ターン目。

「ドロー。チャージ。コスト4でトリプルドロー発動ハンターファルコンでハイパービーストに攻撃。ターンエンド」

 四番手の五ターン目。

「ドロー。チャージ。コスト4でトリプルドロー発動。ハイパービーストで真ん中の白い炎に攻撃。ターンエンド」

 白い炎その2:生命力10→8

 

 白い炎その1の六ターン目。

「ドロー。チャージ。コスト6でクワトロブースト発動。ターンエンド」

 私の六ターン目。

「ドロー。チャージ。コスト1でタクロウライターを召喚。サプライズホバーボードで白い炎その1に攻撃。ターンエンド」

 白い炎その1:生命力10→7

 

 白い炎その3の六ターン目。

「ドロー。チャージ。コスト5で防壁発動。この魔法がある限り自分のモンスターと自分の防御力は1上がる。ターンエンド」

 シンズルの六ターン目。

「私のターン。ドロー。コスト5で賢さの試練を与えるものを召喚します。ターンエンドです」

 四番手は分かりやすくため息をつく。

 

 白い炎その2の六ターン目。

「ドロー。コスト4でトリプルドロー発動」

「合計二枚ドローしますね。そして二枚墓地に捨ててください」

「ターンエンド」

 引けたのはたったの一枚だけだったな。

 

 四番手の六ターン目。

「ドロー。コスト5で毒棘甲羅竜 ペルーダを召喚。ターンエンド」

 これでひとまず安心。

 

 九ターン目まで何も起こらなかった。互いに探り合いをしてたからね。ドロウの十ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト8でシックスブースト発動。6枚ドロー。でも二枚墓地送りだ。ふざけるのもやめろ。ターンエンド」

 白い炎その1の十一ターン目。

「ドロー。コスト5でハイパーライノセラスビートルを召喚。ハイパーライノセラスビートルでサプライズホバーボードに攻撃。ターンエンド」

 私の十一ターン目。

「ドロー。コスト8で塵塚の強化術。私の墓地を選ぶ。ターンエンド」

 これで次のターンに塵塚怪王さえ引けばいい。

 

 白い炎その3の十一ターン目。

「ドロー。コスト4でスナイパーゾンビを召喚。スナイパーゾンビでアンゼモンスターを並べているプレイヤーに攻撃。このモンスターは相手プレイヤーに直接攻撃ができる。さらにこのカードの攻撃力は攻撃対象の防御力+1だ。頭をぶち抜け」

 シンズル:生命力10→9

 

 シンズルの右腕部分に赤いしみが出来て、ドンドン広がっている。

「大丈夫か?」

「これは凄く痛いですね。ちょっと泣きそうになりました」

「外したか。スナイパーゾンビがプレイヤーにダメージを与えたら、手札を一枚捨ててもらう。ターンエンド」

 シンズルは服の袖をめくってから包帯を巻いた。

 

 シンズルの十一ターン目。

「私のターン。ドロー。チャージ。肉の体を持ち燃え上がる戦車は敵を打ち払う。コスト10で意思の支配者を召喚します。ターンエンドです」

 白い炎その2の十一ターン目だ。

「ドロー。チャージ。ターンエンド」

 ハンデスのおかげで私以外動きにくくなっているおかげだな。

 

 ドロウの十一ターン目。

「ドロー。チャージ。コスト8でダイヤモンドスパイク発動。ターンエンド」

 白い炎その1の十二ターン目。

「ドロー。チャージ。ハイパーライノセラスビートルでサプライズホバーボードに攻撃。破壊。ターンエンド」

 ハイパーライノセラスビートルか。厄介だな。

 

 ここで塵塚怪王を引けばいい。私の十二ターン目。

「ドロー。コスト9で塵塚怪王を召喚。塵塚怪王はすべてのプレイヤーの墓地の屑鉄と名の付くカードの枚数分攻撃力が上がり、攻撃ができる。ざっと九枚だから攻撃力九で九回攻撃ができる。塵塚怪王でハイパービーストに攻撃、破壊。白い炎その1に二回攻撃。亡者の癖にもう一回死ぬなんてありえないでしょ。スナイパーゾンビに攻撃。破壊。白い炎その3に二回攻撃。白い炎その2に二回攻撃」

「コスト9で出していい性能じゃない。今回は味方でよかった」

「まあ墓地に屑鉄がないと攻撃すらできませんし、防御力も2なので満足に防御もできませんよ。それにコストを削減して召喚できませんからね」

 説明ありがとう。

 

 教会を包んでいた炎が消えた。

「一つ教えてやろう。亡者の怨みは本当ならばこんなに集まるまでに何百年とかかる」

「常識だろそんなこと」

「鍾乳石みたいなやつらだな」

「あの青い奴は亡者の怨みを一纏めにする術を知っている。現に我らもあの青い奴に一纏めにされたからな。あの青い奴に注意せよ」

「オメンオクさんはそんなことするような人じゃないと思います」

 カードハンター被害者の会が消えた。後味が悪い。



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百二十二枚目 人間は中身

 オメンオクが教会から出た。

「オメンオクって何の用で教会に来たんだろうね」

「ここの神父様と気が合うんだろ。同じような性格と同じようなうさんくささだからな」

「そう言えばカードハンター被害者の会もオメンオクが来てから現れたんだよな」

「そう言われるととことん怪しい奴だ」

「それにあいつが来た日の翌日に必ずガキどもが一人減ってるぞ」

 純度1000‰の怪しさがある。

 

 目つきの悪い子はセーターの女の子に肩を叩かれた。

「何変なこと話しているのですか? そろそろ行きますよ」

「どこにだよ」

 セーターの女の子は目付きの悪い女の子にひそひそ声で話す。

「わかったわかった」

 目付きの悪い女の子とセーターの女の子は走り出してあっという間に見えなくなった。カードハンターの事情があるんだろうな。

 

 オメンオクの後をそっと尾行する。尾行のコツはついてきてると悟られないことだ。偶然同じ道を歩いている体なのだ。

「オメンオクが消えた」

 肩に何かが落ちた。

「ヒッ」

「どうもこんにちは。とてもいい天気ですね」

 振り向くとオメンオクがいた。

 

 オメンオクは後ろに下がる。

「探偵ごっこですか」

「いつから分かってたのさ」

「割と初めからですね。仕事が見たいなら、そんなことしなくても大丈夫ですよ」

 尾行する意味なかったな。

 

 オメンオクは指で×を作る。

「しかしながら仕事の内容は他の方々には内緒ですからね」

「なんでさ」

「大っぴらにされると困るんですよね。貴女以外ではあの神父様しか知らないことですから」

 オメンオクは体をくねらせる。

 

 ……うーん気持ち悪い仕草。

「まあ気持ち悪い仕草をさせるぐらいには秘密にしたい事なんだもんね。秘密にしてやるよ」

「ありがとうございます。これどうぞ。喉が乾いたら飲んでください」

 水の入った瓶を渡された。嬉しい。

 

 足が棒になるまで歩いた。

「もう疲れた」

「まだですよ。何しろまだ人目がありますからね」

「ここいっぱい人いるもんなあ」

 獣のごとく目を光らせている人がたくさんいる。

 

 でもデッキケースを見ているから、多分俺たちのことは襲わないだろ。相手が武器持ってるのに素手で襲うようなものだからね。

「たとえ襲われなくても、ここにいる間はここにいる人達の監視は受けてますからね」

「当たり前のことをもっともらしく言うなよ」

 変な奴だ。

 

 オメンオクは自分の仮面を右手の人差し指でつつく。

「それに諸事情により恨まれてますからね。まあ恨まれても問題はないんですけど」

「なんか言った?」

「何でもないです」

「そうなんだ。なんでもない事をボソッと呟かないでほしいな」

 聞いてないフリしたけどちゃんと聞いたぞ。聞いてるとわかったら手がかりが得られなさそうだからね。

 

「行きますよ」

 空間に穴が開いた。

 

 空間に開いた穴に入ると、殺風景な部屋に出た。

「仕事現場です。先ほど渡したお茶でも飲んで待っててください」

「わかった」

 瓶の中にあるお茶を飲んだ。

 

 なんだろう……急に眠い。

「最近睡眠不足ですよね。うっすらとですが、目の下にクマがありますよ」

「眠い」

 やたらと重い瞼を閉じた。

 

 なんかうるさいなあ。

「50ですか。もうちょっとないですか」

「60」

「60。ちょっと安いですねえ。この子はこう見えても元貴族付きのカードファイターで、とある邪教団の幹部だった子なんですよ」

「75」

「75」

 足を動かそうとしたら、ちっとも動かなかった。

 

 目を開けた。人がたくさんいた。やたらと薄暗いところだな。

「ここどこ?」

「ここは奴隷市場ですよ。貴女みたいな逸材を臓器にしてバラすのも勿体ないかなと思いまして」

「なんで人を勝手に売ろうとしてるんだよ」

「懐具合が悪いからです」

「金のために人を売っていいと思ってるのか?」

「悪いことです。でも人って自分が得するなら悪いことをやりたい生き物じゃないですか」

 頭のネジが取れてるだなんて言葉はコイツには見合わない。コイツには元からネジを入れる穴がないんだからな。

 

 コイツから感じるうさん臭さってこういうことだったのか。檻に閉じ込められた怪物の尻尾を見ていたんだね。

「80」

「80。普段は臓器売買をしているのですが、高値で売れそうな方を選びました。他にも怨みの亡霊を集めて操る商売もしてますよ」

 何て奴だ。

 

 オメンオクは俺の肩を叩く。

「いてえ」

「この通り未調教なので、調教する楽しみがありますよ」

「なんで未調教なんだ。85」

「時間がなかったんです」

 人を売り物としか考えていない。

 

 爆発音がした。

「大丈夫です。この部屋はあらゆるモンスターへの攻撃にも耐えられますから」

「90」

「90ですか。レアなのでもうちょっとほしいですね」

「100」

「100ですか。これ以上いませんか?」

「120」

「120。どうやら決まりのようですね」

 クッソー。

 

 何かが倒れてバスンという音が鳴り響く。

「今日もいい天気だね。まあこんな薄暗い地面の下でこそこそ悪事を働くような奴には分からないだろうけどね」

 目付きの悪い女の子がいた。

「シンズルが自警団に駆け込んで、通報しに行ってる。出入り口も塞いでる。お縄につくまで待ってておけ。ペインターウォール結界発動」

 目付きの悪い女の子の後ろに壁が現れた。

 

 オメンオクは舌打ちをする。

「なぜここが分かったのですか?」

「お前が攫った奴にこっそりと居場所を教えてくれるモンスターを貼り付けたからだ」

 人をダシにしたんか。



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百二十三枚目 捕らぬ狸の皮算用

 オークションに来ていた客どもがカードを出した。

「カードを使うのか。でもここじゃモンスターを使えないよな。モンスター封印結界が使われてるんだから」

「なら召喚者を直接張り倒せば良いだけだろ」

 目付きの悪い女の子は壁をするすると登った。

 

 オメンオクはデッキを構える。

「モンスター封印結界を解けばいいじゃないか。そうすればカードファイトで私を倒せるからね。私はカードファイトが出来て、お前は邪魔者をどかすことが出来る。どっちが勝っても得しかないね」

「じゃあ降りてくださいよ。降りないとカードファイト出来ないですよね」

「その前に暴れないように説得してくれよ。さっきからちょくちょく魔法撃たれて危ないんだよ。こんな状況で降りたら間違いなく袋叩きにされる」

 天井を這うように避けているので、ゴキちゃん味を感じる。

 

 鎖が出て来てオークションの客どもを縛った。

「アカネさんのような正義の味方もまとめて商品にすれば良いだけです。華奢な男のような体なので需要がないので臓器にしますよ」

「私は金貨30枚で買うぞ」

「良かったですね。命が助かりましたよ。商品を傷つけて欲しくないので、止めてください。売りませんよ」

 このやり取りをとらぬ狸の皮算用と言う。

 

 鎖がなくなった。

「商品を傷つけて欲しくないので、止めてください。もし傷をつければ売りませんよ」

 暴れる客どもがピタリと止まる。

 アカネは落ちながらデッキを構える。

「それでいい。カードファイトエントリー」

「カードファイトエントリー」

 オメンオクのデッキが赤く光った。

 

 オメンオクはチャージだけしてターンを終えた。アカネの1ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト1でタクロウライターを召喚。ターンエンド」

 オメンオクの2ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト1でスピードラットを召喚。ターンエンド」

「攻撃しないのかよ。意気地無しめ」

「意気地無しで結構。タクロウライターの効果は墓地肥やしには優秀なので、あまり手出ししない方がよいのです」

 アカネは舌打ちをした。

 

 アカネの2ターン目だ。

「ドロー。チャージ。ターンエンド」

 その後3ターン目まで主な動きはなかった。オメンオクの4ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト3で魔海のサハギンを召喚。魔海のサハギンの効果発動。1枚ドロー。ターンエンド」

 手札が増えたな。

 

 アカネの4ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト4で電卓小僧を召喚。電卓小僧の効果でデッキの上から三枚を墓地に置いて、魔法カードを一枚回収。墓地の強化外骨格ガシャどくろの秘術を手札に加える。電卓小僧で魔海のサハギンに攻撃。ターンエンド」

 オメンオクの5ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト4で手札の魔海のはぐれ者 バーマ湖の悪魔の効果発動。手札からこのモンスターを捨てて三枚ドロー。ターンエンド」

 バーマの効果は強いなぁ。

 

 アカネの5ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト4でトリプルドロー発動。ターンエンド」

 オメンオクの6ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト6で魔海の術式発動。ターンエンド」

 準備が整ったわけだ。

 

 アカネの6ターン目だ。

「本気でいかないとダメだね」

 アカネはサングラスをかけた。

「ドロー。チャージ。コスト5で強化外骨格ガシャどくろの秘術発動。コスト1でタクロウライターを召喚。ターンエンド」

 サングラスかけてやることがたったそれだけなのか。

 

 オメンオクの7ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト2で魔海の鍛治屋を召喚。効果で魔海のサハギンを手札に加えます。そしてドロー。コスト3で魔海のサハギンを召喚。効果で一枚ドローしてドロー。ターンエンド」

 アカネの7ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト7でチョキチョキを召喚。効果でアヤカシ忍者角ハンゾウと大鯖と化け鯨と塵塚怪王を墓地に送る。シャッフルはしない。チョキチョキで魔海のサハギンに攻撃。電卓小僧でスピードラットに攻撃。破壊。ターンエンド」

 次の次のターンに塵塚怪王が出るかもね。

 

 オメンオクの8ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト6でクワトロブーストを発動。ターンエンドです」

 アカネの8ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト6でクワトロブースト。ターンエンド」

 奇しくも同じ行動……

 

 オメンオクの9ターン目だ。

「手札にある魔海大陸の闇白剣 アトランティスソードのモンスター効果発動。コストを支払う代わりにこのカード以外の手札のカードを好きな順番で九枚以上山札の下に戻して、魔海大陸の闇白剣 アトランティスソードを召喚します」

「オーラがすごいな」

「さらに魔海大陸の明黒剣 メガラニカソードのモンスター効果発動。三枚ドローしてターンエンド」

 次のターンに名前の聞こえないアレがくる。悠長にしてる場合ではない。

 

 アカネの9ターン目だ。

「ドロー。チャージ。パックで当てたばかりのコイツを召喚する。コスト9でジャッジメントアンゼを召喚。このモンスターがいる限りモンスターを場に出すときコストゾーンのカードを使用しなきゃいけねえ。そしてこのモンスターがいる限りモンスターのコストは変化せず、軽減しない」

 ジャッジメントアンゼはアジ・ダハーカ使いにとってはつらい性能をしている。

「それが何ですか。倒せば良いだけです」

「やってみろよ。ターンエンド」

 魔海の弱点はジャッジメントアンゼみたいな軽減メタだ。でもまさかメタルアヤカシデッキに入れてるなんて思わねえよな。



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百二十四枚目 魔海獣

 オメンオクの体が震える。オメンオクの10ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト7で魔海獣 タレイを召喚。手札をすべて山札の上にもどしてシャッフルしてから発動。相手モンスター一体の効果を無効化してから手札に戻します。ジャッジメントアンゼの効果を無効化して手札に戻す。ターンエンド」

 効果無効化は普通に強い。

 

 アカネの10ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト8で塵塚強化術発動。ターンエンド」

 次のターンに塵塚怪王がくるな。

 

 オメンオクの11ターン目だ。

「ドロー。コスト8で魔海獣 デネスを召喚。前のターンに戻した手札の枚数分ドロー。この効果を使用したターン攻撃できません。ターンエンド」

「このターンだけで十五枚もドローしやがった」

 山札がゴリゴリ削れてやがる。

 

 アカネの11ターン目だ。

「ドロー。このカードはデッキの上から五枚を墓地に送らなければ召喚できない。コスト5でファイブおめんを召喚」

 宙に浮く五つの仮面が現れて引っ付いた。引っ付いた仮面から右脚、左脚、左腕、右腕、それぞれ五本ずつ生えた。

「ファイブおめんですか。モンスターでなければ、凄く儲かりますね。勿体ないです」

「ファイブおめんは墓地から好きなカードを一枚手札に加えることが出来る。ターンエンド」

 臓器売買を生業としている奴ならではの視点だな。

 

 オメンオクの12ターン目だ。

「ところで三本目の魔海大陸の剣には警戒しないのですか?」

「失礼しまーす」

「三本目があるなんて知らなかった。それを早めに言ってくれれば警戒してたね」

「ドロー。チャージ。このカードは自分の場に魔海と名の付くカードが三枚以上ある時に発動できます。コスト5で魔海の取引術を発動。手札を全て山札に戻してからシャッフルして戻した枚数分ドロー。ターンエンド」

 あの様子だとまだ三本目は引けてないみたいだな。デッキを60枚にすれば回りにくいという弱点が響いたな。

 

 アカネの12ターン目だ。

「ドロー。チャージ。強化外骨格ガシャどくろの術の効果でコストを9支払って墓地の塵塚怪王を召喚。攻撃力は8。魔海大陸カードにそれぞれ二回ずつ攻撃。破壊。魔海のサハギンに攻撃。破壊。魔海の鍛冶屋に攻撃。破壊。魔海獣 タレイに二回攻撃。破壊。ターンエンド」

 圧倒的な殲滅力だなあ。今んとこ敵になってないのが幸いだな。

 

 オメンオクの13ターン目だ。

「ドロー。来ましたよ。チャージ。コスト4でトリプルドロー発動。コスト5で大地と知啓の逆転発動。すべてのプレイヤーのコストゾーンのカードと手札を入れ替えます。しかしこのターンカードを使用できません。ターンエンドです。これでコストは16です」

「もしかしてちゃんとコストを払ってあれを召喚しようとしてるんじゃないだろうな」

「あれってなんだ?」

「三本目の魔海大陸の剣のことだ。でもあれコスト20もかかるからあと4ターンはしのがなきゃいけないぞ」

 アカネの口角が上がった。そっかあと4ターンなら何とか出来るもんね。

 

 アカネの13ターン目だ

「ドロー。チャージ。手札はいっぱいコストは少ない。これじゃどうにもやりにくい」

「噓を付け。塵塚怪王がいるから何とかなるだろ」

「相手が趣味の悪いジョークを放ってきたから、趣味の悪いジョークを返しただけだ。塵塚怪王で魔海獣 デネスに攻撃」

「攻撃する前にこのカードを使わせてもらいます。コスト7でピースフルワールド。このターンダメージを与えることはできません。もちろんこの今の攻撃も中止してもらいます」

「見たことないカードだ。トバクファイトにすりゃあ良かったかもな。ターンエンド」

 ピースフルワールドなんて普通魔海に入らないぞ。

 

 それからオメンオクの14ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コストを3減らしてコスト17で、魔海大陸の不可視剣 「    」を召喚します。召喚時効果で手札とコストゾーンと墓地のカードを全て山札に戻して一枚ドロー。そして私が山札に戻した枚数分ドローあなたはドローしなければなりません。コストは17、10枚以上、墓地は4枚以上、つまりあなたは少なくとも34枚ドローしなければなりません。あなたのデッキは残り幾つですか?」

「20枚ぐらい……」

 アカネは山札を引き切った。

 

 場からモンスターが消え去る。

「貴女の負けですね」

「それがなにか……あっ。めっちゃ悔しい。負けったアアアア」

 白々すぎてもはや半透明だ。

 

 アカネ立ち上がる。

「一つ言いたいことがあるんだけどさ」

「聞いてあげましょう。私にも朝露ほどの慈悲はありますからね」

「トバクファイトでもトゥルーファイトでもなくカードファイトを挑んだことにおかしいとは思わなかったのか?」

「思いませんでしたよ。なぜなら私は強いカードファイターですからね」

「そういうこと言っちゃうのか」

 目の前にシンズルがいた。

 

 シンズルは俺の耳元に口を当てる。

「一応お伺いは立てましたよ。誰も聞いていなかったのですけれども。静かにしててくださいね」

 アカネが次々と話しかける。時間を稼いでるのか。



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百二十五枚目 拳銃

 シンズルもたもたしてるなぁ。

「時間稼ぎのつもりなら、無駄ですよ。そんなに長話して何がしたいのですか?」

「バレてしまってはしょうがない。上を見ろ」

 オメンオクと客は天井を見上げた。

 

 天井には大量の緑色のものが引っ付いていた。見た目からして粘着力高そう。

「あれはボマースライムですね。可燃性で触れれば爆発を起こしますよ。まさか……」

「あれに火を付ければ爆発して連鎖的に爆発を起こすかもしれないな。タクロウライターに行かせれば、今すぐこの場ごと木端微塵にできる」

「いつの間にそんなものを……」

「カードファイトしてしまったから周りのモンスター無効化結界が解けちゃったんだよなぁ」

 さっきまでなかったじゃん。急に現れたな。

 

 アカネの口角が上がった。

「仕掛けやすいくせして無理やり取ろうとしても取れない。この爆弾から爆発力をなくす方法は知っているが、お前らがそこから一歩でも動けばその方法を魔法カードで忘れてやる」

 アカネはデッキからカードを取り出した。

 

 シンズルは両手の縄を解き終える。 

「勝ったはずなのになぜ状況が不利になっているのですか」

「それはお前が周りをよく見ていないからだ」

 跡がくっきりしてんな。

 

 シンズルは両脚の縄を解こうとするも、中々ほどけないらしい。

「こっちの方が早いですね」

 シンズルは椅子ごと俺をお姫様抱っこした。

「え?」

「静かにしてください」

 シンズルは音を立てないように出入り口に近づく。

 

 シンズルは出入り口の近くまで移動して椅子を置いた。

「動くな。動けばどうなるか分かってるんだろうな」

 オメンオクは地団駄を踏んだ。

「これはハッタリですねぇ。こんな手に引っかかるなんて。二手に分かれて商品をかっぱらうとはなんと卑怯な」

「確かに卑怯だ。でも非合法で人間を売りさばいてきた奴よりは何億倍もマシ」

 正論だ。

 

 オメンオクの体が震える。

「まだ。まだ。まだ終わってないですよ。何故ならこのカードがありますからね。また創めればいいだけです」

「おいお前正気かよ。粉々になるぞ。ボマースライムはハッタリじゃないから」

「そうだ。我らはどうなるんだ」

「魔法発動。ウィークリーエフェクトジャマー。これで効果を無効化して魔法の矢筒でボマースライムを破壊します。最初からこうすればよかったんですよね。でも敢えて乗ったんです」

 オメンオクは俺たちを指差した。

 

 いや、同じ方向の人を指差してるだけだよな。

「正義の味方がもう一人くると思ったので、敢えて乗せられただけなのです」

「最初からバレていたんですか?」

「はい。これで騙せるんだから、私には舞台役者の才能もありますねえ」

 オメンオクの方が一枚上手だったか。

 

 オメンオクの仮面の下から、笑い声が聞こえる。

「子どもを助けに来た二人のヒーロー……良い娯楽になりました。商売人には切り替え力が必要なのです」

「勝手に人を見せ物にしやがって」

「こう返しましょう。勝手に人の商売邪魔しやがって」

 オメンオクはデッキケースをジャグリングする。

 

 シンズルは両脚の縄を解き終えた。

「通報しただのなんだのはどうせハッタリでしょうね。それに通報が事実だとしても自警団の上層部は私に弱味があるので、お目こぼしされますよ。権力者とのコネは愛情や才能や努力なんぞよりはるかに大事ですよ」

「さりげなく凄いこと言いましたね」

 脚を動かしてから立つ。無駄かもしれないが、エコノミー症候群の対策になるかもしれん。

 

 壁が出来た。

「カードファイトしたせいで壁が無くなりましたよね。補修してあげましたよ」

「余計なお世話だぞ」

「それはどうも。売り物は三人ですか」

 オメンオクはピンク色のリボルバーを取り出す。

 

 これはまずいぞ。

「降伏なさい」

「なんですかそれ。投げられてもあまり痛くなさそうですね」

「これはまずいぞ。早く逃げろ」

「かわいい色じゃないですか。アレのどこが危ないんですか?」

 シンズルはあまりピンと来てないといった様子。

 

 シンズルが倒れた。

「それ武器だったのか。お前なんてことしやがる」

「だから早く逃げろって言ったのに」

 この世界は攻撃面ならモンスター出せば何とかなるから武器関連はあまり発達してないのかもな。それに剣とかしか知らないと、拳銃はぱっと見強そうに見えない。だから警戒してなかったわけだ。

 

 オメンオクはリボルバーをくるくると回す。

「眠らせただけですよ。弾に使う睡眠薬も私自身で調合したので、そこらへん問題ないです。この武器も弾も傷がつかないように私が一から設計して製造したんですよ。今ならサービスしてお値段なんと金貨十枚」

「うへへ。もう食べられません」

 これは完全に眠ってやがる。

 

 アカネも眠った。

「あと三発ありますよ」

「最初からそれ使っとけよ」

「私は奥の手を最初から見せるバカじゃないんですよね」

 苦し紛れの手段だがこうするしかない。ちょうど財布に金貨十枚あるからな。

 

 金貨十枚をオメンオクに投げる。

「それ買うよ」

「まいどありがとうございます」

 オメンオクに拳銃を投げ渡された。

「商売人の鑑だな」

「あっ。しまった」 

 拳銃を懐に入れる。



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百二十六枚目 呪い

 拳銃を両腕で構えてオメンオクに向ける。

「変な使い方ですね」

「こうすると反動が抑えられる」

 オメンオクのお面に一発ぶっ放した。あれ、意外と反動がないな。これは片手でも使える。

 

 オメンオクのお面がパックリ割れる。お面も貫通できねえとは弱い弾だ。

「私の顔を明かすなんて……許されないことをしてしまいましたね」

 オメンオクのお面が地面に落ちた。

「なんだその顔は」

 オメンオクの顔は何もなかった。

 

 鼻も目も口も最初からなかったような顔だった。殻をむいた玉子のようにつるつるしている。

「のっぺらぼうか」

 耳だけはあるのがちょっと異質だな。

「この傷だけは見られたくなかったです」

 あっ。よく見れば傷があるじゃねえか。

 

 そんな傷は誤差だろ。

「お前モンスターだったのか……」

「れっきとした人間ですよ。あなたたちとの違いは魔海に呪われているか、呪わていないか。ただそれだけです。こう見えても魔海に呪われる前は誰もが振り返る美男子だったのですよ。しかしこの傷のせいで泣く泣くお面を被ることになったのです」

 傷が問題じゃないと思うんだけどなあ。振り返っていたのは顔があまりにものっぺらぼうに似てたからだろ。

 

 でも今のあいつにそれ言ってもめんどくさくなりそうだし、話を合わせておくか。

「顔だけが取り柄だったのに、それすら奪われたのか。かわいそうな奴だ。同情してやるよ」

「それだけではありません。名前もデッキも奪われました。魔海の呪いにかかることと引き換えにただひたすらに知識を求めただけなのに、なぜこのような目に合わなければならないんですかね」

 うーん自業自得。

 

 この煮卵の話をこれ以上聞いてやる必要もないな。

「もうお前は眠っとけ。秘密ばらされて慌てる気持ちも分からなくはないけど、見苦しいぞ」

 オメンオクに拳銃の弾をぶち当てた。

 

 オメンオクは倒れる。

「寝息もないし、瞼もないから眠ったかどうかわからん。まあ体の動き的に息はしてるんだろうが、分かりにくい」

 なんでのっぺらぼうなんぞになってしまったんだ。

「まあいいや」

 アカネを叩き起こす。

 

 客どもが俺たちを囲んでいた。

「こんな上玉三つみすみす逃すわけがない」

「しかも無料だぞ。ここで逃がす方がマヌケ」

 ピンチなのは変わってねえか。

 

 カードを出した。

「そこまでだ」

「来るのが遅いぞ」

 鎧を着てデッキを構えた人たちがやって来た。中々シュールな絵面だ。

 

 アカネはシンズルを背負った。

「本当に通報してたんですね」

「ハッタリだと思ってたのか。おめでたい奴だ」

 オメンオクが何でもないかのように立ち上がった。ちゃんと当てたはずだぞ。

 

 お面が合わさって浮いてオメンオクにひっつく。

「私は魔海の呪いにかかってから眠らなくても大丈夫な体質になったのですよ」

「本当何でもありだな」

 鎧を着た人たちはモンスターをたくさん出した。

 

 檻型のモンスターだのなんだの捕獲に特化したモンスターばっかだな。

「君たちも確保」

 手錠をかけられた。

「なぜ」

「不法侵入及び器物損壊の疑いがかかってる」

 俺は割とそういうことをした覚えが……

 

 あったわ。一回だけやってた。暗黒邪教団に入ってた時、お嬢様の家に不法侵入してた。

「なんでそんな疑いをかけるんだ」

「カードハンターにとって不法侵入と器物損壊は基本だからな」

 一見すると偏見だけど、事情を知っていると割とその通りである。

 

 俺たちは自警団の所まで連れていかれた。因みにオメンオクはいつの間にかいなくなっていた。

「俺は物を壊したことないぞ。まあそっちのアカネさんとかシンズルさんとかはやってたかもしれないけど」

「私は法律を破ることは悪い事だと思っています。ですからちゃんと確認を取ってから、トバクファイトをしております。ちゃんと確認を取らずにトバクファイトを行ったのは無法地帯だけでしたので、何ら問題はありません」

「てめーは勝手に水に沈む油かよ」

 人を無いもの扱いしやがって。精神的な視野狭窄だ。

 

 シンズルは顔を伏せて泣き声を出している。

「カードハンターどもの事情は知らんが、事情なんて聞くまでもなく牢屋にぶち込んで更生させればいいんだ。カードハンターなんてみんな楽をして生きていきたいというクズの考えを見えるようにしたものだからな。カードハンターはクズしかいない」

「俺は俺を殺そうとしたやつのカードしか取ったことがない」

「わたしはどの職も長続きしなかったから、生きるために仕方なくカードハンターやってる」

「そんなよくある理由だ。だが実のところ奪うことに味を占め、働く気を起こさないだけの人のクズだ。経験上この考えはなにも違わない」

 俺は違うだろ。全く独断と偏見の凄まじい奴だ。

 

 コイツカードハンターになんか怨みでもあるのか?

「なんでそこまでカードハンターを怨むんだよ」

「そーだそーだ」

「話してやろう。あれはまだこの俺がまだ非力な子どもだったときの話だ」

「凄く長くなりそー。聞かせろと言った手前聞くしかないのが、とてもつらい」

 聞かせろなんて言わなきゃよかった。



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百二十七枚目 協力

 話は長かった。もし書き出すならばたぶん二千文字ぐらいはあるかな。けれど要約するとあまりにも短かった。中身がなかったのだ。

「要するに真面目だけど貧乏な一家の両親がカードハンターに襲われて全財産昼飯代にされた挙句一家はあんた以外そいつの出したモンスターに惨殺されたってことだな」

「そいつ酷すぎだろ。そこまでするカードハンターなんて私は知らないぞ」

「皆が皆そうしているに決まっている。子どもでもなんでもカードハンターである以上甘くみないぞ」

 一部のひどすぎる例にあっただけで、全体が悪いと決めつけるなんて冷静さが足りない。でも子供のころにそういうのに遭遇してしまったらそういう判断をするのも仕方がない。大人でもそういう判断をする奴もいるしな。

 

 そういう方面の決めつけは非常によろしくない。

「不幸にもひどすぎる奴らにつけ狙われたってだけで全体を決めつけるのは非常によろしくない」

「この気持ちは被害にあってみないと分からない。転んだ時の痛みは転んだ奴にしかわからない。お前らも一回転べ。カードハンターなら十回でも百回でも転べ」

 なるべく転ばないでほしい立場の人がそれを言うのか。

 

 カードハンターに当たりがきついだけか。

「ひどいやつだ。人を色眼鏡でしか見れないようなやつなんて、どうかと思う」

「そうだそうだ」

「ボス。ここで話していても埒があきません」

 俺たちを取り調べしていた奴はうなづいた。

 

 俺たちを取り調べしていた奴は顎を撫でる。

「牢獄にでもつれていけばいいだろ」

「そう言ったことは裁判してからではないとダメですよ。カードハンターなのでどうあがいても無罪にはならなさそうではありますが、一応裁判はした方が良いです」

 後半が余計だ。

 

 アカネは机を蹴って、椅子ごと後ろに下がる。

「あの胡散臭い神父様から大切なものは閉じ込めると聞いたことがあるぞ」

「俺がカードハンターを大事にしているとでも言いたいのか?」

「そうは言ってないじゃないですか。カードハンター憎しの権力者は怖いなぁ」

 明らかにバカにしてる。

 

 後ろにいるモブっぽい人が俺たちを取り調べしていた奴にカードケースを渡す。

「なんだ」

「カードハンターとはいえカードファイターの端くれではあるので、カードファイトで決着をつければ良いのではないでしょうか」

「お前賢いな。上司は頭が硬いのに」

 バカにされてることに気がついてないのか。

 

 俺たちを取り調べしていた奴はデッキを構えた。

「このギドス様の実力を見ろ。カードファイトエントリー」

「お前そんな名前だったのか。カードファイトエントリー」

 俺のデッキが赤く光る。

 

 俺は4ターン目までメガチャージと大地の智恵以外なにもしなかった。あとギドスの召喚したスケルトンソルジャーに生命力を削られまくった。ギドスの4ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト2でスケルトンソルジャーを召喚。スケルトンソルジャー二体でプレイヤーに攻撃。ターンエンド。俺が騎士にさえしてなければとどめをさせたんだがなぁ」

 俺の生命力は残り2しかない。割りとピンチだ。しかもこういう時にフォーチュンテラーは来ないし。

 

 俺の5ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト5で毒棘甲羅竜 ペルーダを召喚。ターンエンド」

 ギドスの5ターン目だ。

「ドロー。コスト3でラップバリアー発動。コイツが場にある限り俺は1ターンに1度種族:ゴーストのモンスターの効果でダメージを受けなくなる。ターンエンド」

 ヘルスクリーマーか。とてもまずい。

 

 スケルトンソルジャーかぁ。やだなぁ。俺の6ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト4でトリプルドロー発動。コスト2でダメージアブゾーバー発動。ターンエンド」

 ギドスの6ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト4でオバケコーディング発動。この魔法がある限り手札と場の全ての種族:ゴーストを持つモンスターの種族にメタルアヤカシが追加される。ターンエンド」

 何がしたいんだ。でもメカメカしくなって怖くなくなったから、一安心。骨が金属の人間はいないのでセーフ。

 

 アカネが何かに気がついたような顔をする。

「アレか。ダメージアブゾーバーは厄介だもんな」

「何を言うんだ。そんなわけないだろ」

 嘘が下手だな。ところでアレってなんだよ。

 

 俺の6ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト6でギロチンフェイスを召喚。コスト2でビーコンパラサイトを召喚。ギロチンフェイスデビルの効果でペルーダとスケルトンソルジャーに1ダメージを与える。ビーコンパラサイトでスケルトンソルジャーに攻撃。ターンエンド」

 ギドスの6ターン目だ。

「ドロー。コスト3でスケルトンワイズを召喚。スケルトンワイズでビーコンパラサイトに攻撃。スケルトンワイズの効果でドロー」

「ビーコンパラサイトの効果で、ペルーダに攻撃を誘導する」

「ターンエンド」

 スケルトンワイズの効果でドローしたときのギドスの顔、一瞬にやけてたなあ。アレが来たんだろうな。アレってなんなんだよ。



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百二十八枚目 怒り

 俺の7ターン目だ。

「ドロー。コスト4で鯵テーターを召喚。ターンエンド」

 準備は整った。

 

 ギドスの7ターン目だ。

「ドロー。チャージ。スケルトンソルジャー二体でペルーダに攻撃。破壊された。スケルトンワイズでペルーダに攻撃。スケルトンワイズの効果でドロー。ターンエンド」

 スケルトンワイズしかいねえのににやけてやがる。なんか嫌な予感がするなぁ。

 

 俺の8ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト6でクワトロブースト。ギロチンフェイスデビルの効果でペルーダとスケルトンワイズに一ダメージ。鯵テーターでスケルトンワイズに攻撃。ビーコンパラサイトで、スケルトンワイズに攻撃。ターンエンド」

 ギドスの8ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト5でスケルトンシールダーを召喚。スケルトンシールダーは攻撃出来ねえ。だから鯵テーターの攻撃強制効果も発動しない。スケルトンワイズでペルーダに攻撃。破壊されたが、攻撃したので一枚ドロー。ターンエンド」

 ドローしまくって何が目的なんだ。いよいよ狙いが分からなくなった。

 

 俺の9ターン目だ。

「ドロー。チャージ。ギロチンフェイスデビルの効果で、ペルーダとスケルトンシールダーに1ダメージを与える。けどペルーダは効果で生命力が6になるから、デメリットなし。ビーコンパラサイトで、スケルトンシールダーに攻撃。鯵テーターでスケルトンシールダーに攻撃。ターンエンド」

 スケルトンシールダーは厄介だ。攻撃しないから、反動で倒せない。

 

 ギドスの9ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト5で鋼鉄の怨念発動。このカードを使用するとき俺の場の種族:メタルアヤカシのモンスター一体を選ぶ。スケルトンワイズを選ぶ」

「そっか。オバケコーディングの効果で種族にメタルアヤカシが追加されてるのか」

 鋼鉄の怨念を発動させるためにやっていたことだったのか。

 

 ところで鋼鉄の怨念の効果ってなんだっけ。

「その魔法の効果ってなに?」

「この魔法のコストは選んだモンスターのコストと同じ数値になり、そのモンスターのコスト未満の相手の場の魔法とモンスターの効果はすべて効果:なしになる。ダメージアブゾーバーとペルーダの効果は無くなるってことだ。ターンエンドだ」

 とてもまずい魔法じゃないか。このデッキはペルーダを封じられたら、紙束になるんだよなぁ。

 

 まともなカードはギロチンフェイスデビルしかないな。俺の10ターン目だ。

「ドロー。コスト7で焼鳥屋に賛成するにわとりを召喚。お久しぶりの出番だぜ。まあコスプイヤーの効果で手札に戻すんだけどな。ギロチンフェイスデビルで、スケルトンシールダーに攻撃。俺はスケルトンシールダーに攻撃する。ターンエンド」

 スケルトンシールダーの生命力はあと1か。

 

 ギドスの10ターン目だ。

「ドロー。コスト4でヘルスクリーマーを召喚。ヘルスクリーマーの効果で俺に2ダメージ。お前に1ダメージ。だがラップバリアーの効果で、俺だけダメージを受けねえ」

「なんだと」

「ヘルスクリーマーで、ペルーダに攻撃。ターンエンドだ」

 オバケコーディングとのコンボの組み合わせに少しばかり感心してて、すっかり頭の中から抜けていた。

 

 俺の11ターン目だ。

「ドロー。来た。コスト3で無限ラッシュ発動。俺を選択する。スケルトンシールダーに攻撃。破壊。ヘルスクリーマーに攻撃。破壊。プレイヤーに攻撃。ターンエンド」

「俺のモンスターが絶滅しただと」

 ギドス生命力:10→7

 

 ギドスの12ターン目だ。

「ドロー。コスト6でヘルクーマーを召喚。このモンスターは攻撃を半減することで、相手プレイヤーに直接攻撃が出来る。ヘルクーマーでプレイヤーに直接攻撃」

 ドロウ生命力:1→0

 

 場がすっきりした。

「ヘルクーマーか。すっかり忘れてた。スケルトンソルジャーも強かった」

「これがこの街をカードハンターどもから守り続けた強さだ。厚さだ。軽薄で矮小な貴様らカードハンターとは格が違う」

「でも臓器売買してるやつは逃がす無能じゃん。カードハンターに危害を加えるなら無罪ですか。傲慢だな」

 負け惜しみの一つや二つ言わせてくれ。

 

 ギドスの肩が震えている。

「ボスに対する悪口はやめろ。それ以上言うな。ボスももう聞かないでください」

 モブっぽい人はギドスの耳を手で塞ぐ。

「それとあと一つ言わせてもらうぜ。あの時その強さがあったらよかったのにな。もしそうだったら、カードハンターに対する復讐に人生費やしてある意味カードハンターに人生を奪われなかったのに」

 だいぶやりすぎたな。怒りの勢いに任せてモノを言うのは非常によろしくない。

 

 ギドスは机を叩いて砕いた。

「ヒェッ」

「貴様らがなんと言おうと負け惜しみにすぎない。そんなものでいちいち心を動かされる必要もない」

「ボス。ここで奴らを殺せばブタ箱にぶちこめませんよ」

「俺は怒ってない」

 純粋で膨大な怨みと怒りを感じる。

 

 アカネが俺を指差した。

「シンズルと私は巻き込まないでくれ。コイツ一人の責任だ」

 俺はモブっぽい人に連行された。



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百二十九枚目 オメン

 河原でランチョンマットを広げて、ドーナッツを食らう。この仮面は口のところだけ分離できる仕様なんですよ。

「名役者に乾杯」

「元暗黒邪教怒労蛮苦団一の変装の達人で自分がない奴と言われていたからな」

 自分が無いから忠誠心もない。改めて考えれば、彼女?彼?はとても便利な人です。でも一つ治してほしい癖があるんですよね。

 

 自分がない奴は姿を変えました。

「ドロウさんですね。そう言えばあの人に金貨十枚で私の開発した武器を売りましたね。魔法の望遠鏡で見てましたよ」

「ダメでしたか?」

「良かったですよ。なぜならあの武器はいずれ世界中に広めようと思っていましたからね。彼女があれを使う度宣伝になり、いずれ誰も彼もがあの武器を欲しがるようになります。そのタイミングで設計図を売りさばいて儲けます。さすれば私の目標に一歩近づくのですよ」

 儲けだけを考えて商売するなど愚の骨頂。本物の商売人は儲け以外にも考えているのです。

 

 今度はアカネさんですか。前触れもなく姿が変わるのは心臓に悪いのでやめてほしいんですよね。この癖は治してほしいと思います。

「それならよかったぜ」

「ダメなことしてたらあなた大変なことになっていましたよ」

 得難い人ですが、まあ大きな失敗をした時は仕方ないです。

 

 自分がない奴にデッキを返してもらいました。

「あの演技は本当に素晴らしかったですよ。特に私の顔を知らなかったがゆえに、ありもしない身の上話を作れるアドリブ力。あなたは舞台役者とか脚本家の方が向いていますよ」

「嬉しい。でもカードハンターの適性があった方がよかった」

 ただそれ以上に他人に飼いならされることに向いていますが。まあうれしそうなのでそんなこと言わない方がいいでしょうね。余計なことを言って築いてきた関係をあっという間に崩す意味はないです。

 

 ドーナッツを食べ終えて、口直しにサンドイッチを食らう。

「フフフ。ここまで来るのに本当に長かったですね。この先はもっと長いですよね」

「よくわからないがそういうことだろうな」

 二十年前に昼飯代を稼ぐために罪も無き善良な一家をカードハンターに襲わせて、全財産を巻き上げてからここまで悪逆非道の坂を下っていきました。

 

 学んだことはただ一つしかありません。それは真面目に生きるなんて愚か者のすることだということです。恥ずかしながら二十年前までは私は愚か者だったのです。

「道の途中でも振り返りはするものですね。フフフ」

「振り返りだなんていい身分だな。お前のせいで人生を悪い方面に変えさせられたかわいそうな奴はいっぱいいるのによ。罪悪感を持て」

 ドロウさんですか。彼女はどれほど調べてもなんとなく分からないところがあるので、少し不気味ですね。人なのに雑草のように勝手に生えてきたような不気味さがありますよ。

 

 ドーナッツもサンドイッチも無いですね。箱もランチョンマットも捨てておきましょう。空の弁当箱なんて持っていても邪魔です。

「罪悪感ですか。あれはとっくに悪魔に売り渡しましたよ」 

「そういうことだと思いました。あなたはそういう人ですからね」

「そういう風に思われていたなんて。哀しいですね」

 自分のない奴は酷い物を見たと言いたげに視線を向けました。演技が大根すぎでしたね。役者でもないのに演技して大根演技をさらすのは各方面に対して無礼ですよね。

 

 叫び声が聞こえました。ここら一帯では商売できないので、助ける意味がないんですよね。叫び声の主は本当に不幸でしたね。

「貴方はもう帰っていいですよ。ドロウさんからもらった金貨十枚が報酬です」

「なるほど。けちくさいな。でも報酬の金貨十枚はもらったからいいか」

「そうです。その切り替えが重要なのです」

 自分がない奴は消えました。自分のない奴は使い勝手がとてもよろしい。

 

 清流で何度も口をゆすいでから、仮面の口部分を付けました。

「さてと行きますか」

 商売柄同じところでのんびりしていられません。

「どこにいくんだ?」

 いつの間に大人数に囲まれていました。ナイフの先に赤黒いものが付いてるひともいますね。

 心当たりはたくさんあります。例えばカードハンターや、デスコロシアムの関係者、そして私の同業者。

「何のようですか?」

「トバクファイトでお前の身ぐるみをはぐ者だよ」

「合法盗賊団みたいなものですね。とても分かりやすくて助かります」

 心当たりの内のどれでもないということですね。まずは一安心。心当たりの内のどれかならば、凄く面倒でした。

 

 でも合法盗賊団も面倒なんです。私は叩くまでもなくホコリまみれで、合法盗賊団は一応キレイですから。通報すると腕が後ろに回ってしまいます。

「早くしろ」

 デッキを構えました。

「「トバクファイトエントリー」」

 早めに終わらせましょう。

 

 早めに終わらせました。

「たいしたことないですね。命までもらえれば、この後の被害者も出ないのですが。そうですね。そのナイフでももらいましょうか」

「くれてやるよ」

 刺されそうになりましたが、避けてナイフを奪い首筋に刺し返しました。

 

 あっ。

「うっかりしてしまいました」

 大勢の人は逃げました。仲間を見捨てるとは。



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百三十枚目 ライオンとティラノサウルス 最強議論

 カシヨの買ってきたアイスクリームを食らう。

「今日は仕事もないからのんびりできる。と思ったんだかなぁ」

「カードファイトで負けてパシらされただけで、のんびり出来ていないとほざくとはな」

 正直アルカナンバー使われてたら危なかった。この街に捨てられてるカードだけでデッキを組んでカードファイトしたから勝てた。でも勝ちは勝ちや。

 

 奢ってもらった食べ物はいつもより美味しく感じるね。

「それにレアカード見かけたら仕事するんでしょ?」

「ああ。バリバリ仕事をするぞ。着せられたまともじゃない服装で仕事するぞ」

 世間一般的にはまともな服装なんだけどカシヨのファッションセンスは滅茶苦茶なので、まともじゃないらしい。

「少しは休め。そんなんだから肝心な時に限っていないんだぞ」

 今俺の横にいるのが肝心な時にはいないカシヨ。

 

 ハイパーティラノサウルスがメガライオンを破壊した。

「カードファイターって貴重的なこと言われてたけど、そんなことはないね。カードファイトを子供同士でヤってるよ」

「昔は貴重だったってだけで今は貴重ではねえ。昔は五千人に一人ぐらいしかいなかったけど、今は十人に一人がカードファイターだからな。そのくらいカードファイターがいれば、合法盗賊団みてえなのがポコポコ増えるのも当然」

 カードファイターの価値が五百分の一に下がったというわけか。

 

 メガライオンが召喚されて、ハイパーティラノサウルスを破壊し、ハイパーティラノサウルスを召喚した子にダメージを与えた。そしてメガライオンと周りの灌木が消え去る。

「勝ったぜ。やっぱりハイパーティラノサウルスよりメガライオンの方が強いな」

「いや、ハイパーティラノサウルスに一回破壊されたからやっぱりハイパーティラノサウルスの方がメガライオンよりも強い」

 ハイパーティラノサウルスとメガライオンの違いは種族だけだから、こうして論争をするのが無駄なのだがそれを言うのは野暮だ。

 

 そもそも議論で相手の意見を否定しあうのは褒められたことじゃないんだよなあ。

「負けたけど、それはお前がカードファイターとして強かっただけで、メガライオンの実力に直結しない」

「いや、逆だろ」

「俺たちもこんなところでのんびりしていられないぞ」

 さっきはのんびりできると言っていたのに。

 

 ……急な仕事が入ったってことか。社会人は辛いねえ。スーツ着て。

「仕事か。ハイパーティラノサウルスもメガライオンも言うほどレアじゃないだろ」

「そうじゃねえ。さっきアレックスを見かけたんだよ。ここにいることがバレたら、面倒臭いことになる。トゥルーファイトで倒しちゃいけないし最高に面倒くせえ」

 なんで倒せないんだ。実力が足らない訳じゃないだろ。

 

 カシヨは考え込む仕草をする。イケメンだから絵になるな。いやならないならない。なに考えてんだ俺は。

「次元の巫女の力を持ってるからだ。あれを味方に引き込めればすげえことになる」

 アレックスの性格からして味方にはならなさそう。

「み、味方にならねーんだから、倒せばいいだろ。アレックスの性格からしてカードハンターと協力するのはあり得ないからな」

「それもそうか。勿体ないけどそうするしかねえのか。出来れば味方に引き込めれば良かったんだが」

 カードハンターになったとしても、内部妨害させるためにカードハンターになっただけというオチだろうしな。

 

 クリームイエロー色のローブを着て、ピンク色のテンガロンハットを被った怪しさ満開の奴が子どもたちに近づく。

「ティラノサウルスとライオンのどちらがストロングかどうでもいいデース。バッドティラノサウルスとライオンよりもストロングな物を知っていマース」

 この口調……絶対アレックスだな。もう嗅ぎ付けられたのか。

 

 今のうちに逃げるか。あっ。カシヨはもう逃げてやがる。抜け駆けすんな。

「なんだこのオバさん」

「知らない人と話しちゃいけないとお母さんに言われてるだろ」

 しっかりした子達だ。

 

 アレックスは子どもたちにカードを渡した。

「これはハイパーティラノサウルスとメガライオンの強さを合わせたカードデース。そのカードのネームはハイパーメガティライオンデース。間違いなくこれがストロンゲストデース」

「「わーい。ありがとー。あれ? いない」」

 アレックスはあっという間に消えた。

 

 なんだ。ただ単に子どもたちにカードを配っただけか。

「お久しぶりデース」

「ギョアア」

 振り向くとアレックスがいた。チビりかけた。

 

 心臓が止まったらどうするんだ。まあ喜ぶか。アレックスはそういう奴だと思ってる。

「あのオバさんいたー」

「アイアムアティーンエイジャー。オバさんではなくてお姉さんとコールしてクダサーイ」

「この子がカードファイトに勝ったらデッキをプレゼントすると言ってマシタ」

 ファッ!?

 

 超久しぶりに(サイドエフェクト)デッキを使うか。カードハンターの伝手で改良も出来たしな。

「2対1でかかってこいよ。倒してやる。カードファイトエントリー」

「カードファイトエントリー。バカにするなー」

 勝てばいいんだよ。



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百三十一枚目 オーバードーズ

 俺のデッキが赤く光った。俺の一ターン目だ。

「チャージ。コスト1で薬草アルラウネを召喚。ターンエンド」

 二人の子供たちはコストを溜めてターンを終えた。

 

 俺の二ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト2で癒しの使い手を召喚。薬草アルラウネで右の子供に攻撃」

「何で回復したんだろ」

「負けようとしているんだね」

 まあ普通回復したらそう思うよな。

「薬には副作用がつきものだ。手札の(サイドエフェクト)たんころりんの効果発動。(サイドエフェクト)と名の付くカードを山札から二枚まで手札に加えてシャッフルする。ターンエンド」

 これでウィザードとモスキートを持ってきた。

 

 右の子供の二ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト2でメガチャージ。ターンエンド」

 左の子供の二ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト2でメガチャージ。ターンエンド」

 息がぴったりだな。

 

 俺の三ターン目だ。

「ドロー。チャージ。薬草アルラウネで左の子供に攻撃。手札の(サイドエフェクト)ウィザードの効果発動。一枚ドロー。さらに手札の(サイドエフェクト)モスキートの効果発動。墓地の(サイドエフェクト)と名の付くカードを一枚コストゾーンに表側で置く。ターンエンド」

 

 右の子供の三ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト2でメガラビットを召喚。ターンエンド」

 左の子供の三ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト4でドラゴンテイマーを召喚。ターンエンド」

 ドラゴンテイマー……ドラゴンの召喚コストを2下げるモンスターだな。

 

 俺の四ターン目だ。

「ドロー。コスト3で厄罪空間発動。薬草アルラウネでメガラビットに攻撃。ターンエンド」

 右の子供の四ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト4でトリプルドロー発動。ターンエンド」

 左の子供の四ターン目だ。

「ドロー。コストを2減らしてコスト4でハイパーティラノサウルスを召喚。ハイパーティラノサウルスで薬草アルラウネに攻撃。破壊。ターンエンド」

 ドチクショー。これじゃあ(サイドエフェクト)が使えねえ。

 

 俺の五ターン目だ。

「ドロー。コスト4で旅の薬売りを発動。自分以外のプレイヤーを一人選んで生命力を2回復させる。そうしたら3枚ドローして墓地のコスト1のモンスターを場に出すことができる。左の子供の生命力を2回復させる。癒しの使い手の効果で4回復だ。そして薬草アルラウネを復活させる。薬草アルラウネでメガラビットに攻撃。ターンエンド」

 これでどちらの子供も生命力が18以上になったぞ。右が18、左が22だったかな。

 

 右の子供の五ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コストを1減らしてコスト5でメガライオンを召喚。メガライオンで癒しの使い手に攻撃。ターンエンド」

 左の子供の五ターン目だ。

「ドロー。コスト4でトリプルドロー発動。ハイパーティラノサウルスで癒しの使い手に攻撃。破壊。ターンエンド」

「あっ。美味しいところ持っていかれた」

「先に倒さなかったのが悪い」

「なにおう」

 癒しの使い手を倒されて俺はピンチだ。

 

 俺の六ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト6でヒーリングバリア発動。薬草アルラウネでドラゴンテイマーに攻撃。ターンエンド」

 右の子供の六ターン目だ。

「ドロー。チャージ。メガライオンで薬草アルラウネに攻撃だー。いけー」

「ヒーリングバリアの効果を発動する。一ターンに一度自分の種族:ヒーラーに対する相手モンスターの攻撃を無効化する。そうしたら攻撃を無効化されたプレイヤーは生命力を2回復して2枚ドローしてもよい」

「よっしゃラッキー。回復するぜ」

 地獄への道は善意で舗装されているという言葉がこの状況に相応しい。

 

 これをくらえ、

「手札のO(オーバードーズ)ヘルグリムの効果発動。O(オーバードーズ)と名の付く魔法は相手が回復したとき場に出して相手の生命力を1減らす」

「なんだもったいぶったわりに生命力がたった1減るだけじゃないか。ターンエンド」

 このO(オーバードーズ)こそ改良型なのだ。

 

 左の子供の六ターン目だ。

「ドロー。チャージ。ターンエンド」

「意外だなあ。生命力が2回復して2枚ドローできるチャンスを棒に振るとは思わなんだ」

「なんか嫌な予感がする」

 嫌な予感がするのか。その正しい勘を大事にして生きようね。

 

 俺の七ターン目だ。

O(オーバードーズ)ヘルグリムの効果発動。ドローする前にこのカードを破壊して墓地とデッキからコストが6以下になるように、種族:ヒーラーのモンスターを場に出す。ただしこのターンモンスターを場に出せず、一回しか攻撃できず、手札と墓地から魔法を発動できなくなる。甦れ癒しの使い手。そしてデッキから出でよ(サイドエフェクト)ウィザード&癒しの使い手」

「いっぱいやってるよー」

「いくら倒しても無駄って言うことだな。大人しくモンスターを全滅させるのはあきらめておけ」

「「やだ」」

 息ぴったりだね。

 

 まだドローしてなかったね。

「ドロー。チャージ。コスト3で厄罪空間の効果発動。(サイドエフェクト)ウィザードを選択して一枚ドロー。薬草アルラウネでドラゴンテイマーに攻撃。癒しの使い手が二体いるから四倍で生命力が8回復する。ターンエンド」

 左が生命力26で右が生命力22だったかな。このデッキは頭がこんがらかるからあま



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百三十二枚目 SOL

 右の子供の七ターン目だ。

「ドロー。コスト4でサイバネティクスーツ発動。メガライオンを選ぶ。サイバネティクスーツは全ステータスを1ずつ上げるぜ。癒しの使い手に攻撃。破壊。ターンエンド」

 まあ薬草アルラウネに攻撃するわけじゃないからいいか。

 

 左の子供の七ターン目だ。

「ドロー。チャージ。薬草アルラウネに攻撃しなければいいってことか」

「もしそうだったら結構露骨だろ。でも手札に(オーバードーズ)がないってのは確かだ」

 カードゲームをするうえで自分に都合のいい思い込みはよくないけどな。

 

 ヒーリングバリアもあるからな。

「コスト3でヴァンパイアファング発動。ハイパーティラノサウルスを選ぶ。ハイパーティラノサウルスで(サイドエフェクト)ウィザードに攻撃」

「ヒーリングバリア発動。S(サイドエフェクト)ガンマンの効果発動。種族:ヒーラーのモンスターをデッキから手札に加えるか墓地に送る。薬草アルラウネを墓地に落とす」

 ほらな。所詮子供の浅知恵よ。左が30、右が24だな。

 

 まあ浅知恵じゃなかったら倒れてるけど。浅知恵で助かった。

「防がれちゃったか。防がないって言ってたのに。このウソツキ」

「結構露骨とは言ったし、手札に(オーバードーズ)もがないとも言ったよ。でも防がないなんて一言も言ってないもん」

「そっかー。へりくつばっかりー。ターンエンド」

 これだけ強く見えるのに攻撃力はにわとりと同じだと思うと途端にショボく思えてしまう。

 

 俺の八ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト4で旅の薬売り発動。右の子供の生命力を4回復して3枚ドロー。薬草アルラウネ復活。薬草アルラウネでメガラビットに攻撃。(オーバードーズ)マグネット発動。このカードがある限り、すべてのプレイヤーは1ターンに1回以上攻撃しなければならない。さらにコスト2で魔海式再生装置発動。一ターンに一度手札のカードを戻して、戻した枚数分生命力が回復できる。ターンエンド」

 準備は整った。

 

 ここでダメ押しをしておこう。

「お前たちは(オーバードーズ)マグネットの効果で攻撃せにゃならん。しかし攻撃はヒーリングバリアで防がれる。そしてヒーリングバリアで生命力が増えて手札も増える。そうするとどうなるのか考えて見ると良いよ」

 戻せば回復、戻さねばライブラリアウト。どう転んでも俺には得しかない。でもヒーリングバリアの回復は相手プレイヤー次第だから穴はそこにある。

 

 右の子供がデッキを見つめた。

「デッキが薄い」

「ライブラリアウトか。直接戦わないなんて卑怯だぞー」

「でもさ。言わなきゃバレなかったよね。怪しい。きっともっと他に狙いがあるんだよ」

 左の子供はなかなか勘が鋭いようで。

 

 それらしい言い訳を考えてみるか。

「だって弱い奴二人に手の内を明かしても戦況が不利になるなんてことはないもんね。そ、れ、にぃ~もし負けたときのためにそれらしいことを言って恩を売るのも大事だもん」

「そう言った時点で恩は売れない」

「あっしまった。うっかりしてた。あ~やっちゃった」

「コイツただのうっかりさんだぜ」

「そうみたいだね」

 嘘は言ってない。恩を売るのは実際大事だもんね。ただ騙しただけだから。

 

 右の子供の八ターン目だ。

「ドロー。手札を4枚戻して生命力を8回復。コスト5でメガライオンを召喚。メガライオンで薬草アルラウネに攻撃」

「ヒーリングバリア」

「メガライオンで薬草アルラウネに攻撃。破壊。ターンエンド」

 まるで気分はアリジゴク。思い通りに事が運んでいる。

 

 左の子供の八ターン目だ。

「ドロー。手札を3枚戻して生命力を6回復。コスト4でハイパーティラノサウルスを召喚。今召喚した方のハイパーティラノサウルスで薬草アルラウネに攻撃」

「ヒーリングバリア」

「ハイパーティラノサウルスで癒しの使い手に攻撃。破壊。ターンエンド」

 左右ともに生命力36か。あれさえ来れば切り札が出せるな。

 

 俺の九ターン目だ。

「ドロー。コストを15軽減してコスト5で魔導回復生命体を召喚。そして場に(サイドエフェクト)モンスター、(オーバードーズ)カード、そしてコスト20で攻撃力0のモンスターがいる時にデッキもしくは墓地からコスト1でこのモンスターを召喚できる。出でよ。(サイドエフェクト)(オーバードーズ)(ライフフォーム)。登場時効果で(サイドエフェクト)モンスター、(オーバードーズ)カード、そしてコスト20で攻撃力0のモンスターの効果を無効化してこのカードの下に置く」

「でも攻撃力も防御力も0じゃん。弱いね」

「登場時このカードの全ステータスは自分以外のプレイヤーの生命力の合計値の半分+1-自分以外のプレイヤーの数×10の数値となる。37-20だから17だ。出せれば強いぞ。出せればな。(サイドエフェクト)(オーバードーズ)(ライフフォーム)の攻撃。強欲の副作用(デストラクション・カルマ)。攻撃でダメージを与える代わりに相手のモンスターを全て胤果(効果:このモンスターが場を離れたとき、プレイヤーの生命力を半分にして1ダメージを与える。この効果で生命力が奇数になった場合1ダメージを与える。種族:ヌル、攻撃力0防御力0生命力1)にする。ターンエンド」

 左右の子供は何もせずにターンを終えた。

 

 俺の十ターン目だ。

「ドロー。(サイドエフェクト)(オーバードーズ)(ライフフォーム)は生命力を3減らさなければ存在できない」

 全身をズタズタにされるような痛みが襲う。

「ぐあああああ。があああ。ぐぅうう。ぁぁああああああ」

 例えるなら焼かれ、潰され、溺れ、頭の中に直接練りわさびを入れられるような痛みを全て味わうような苦痛。この痛みに対する説明がある。外傷もなくこの痛みをすぐに忘れるようにしてある。慣れさせず新鮮な痛みを味わせるために心が壊れないようにしてある。

 

 叫んでいたから喉が痛い。

「コスト3で無限ラッシュ。右の子の胤果に攻撃。破壊。右の子の生命力は16になった。もう一体の胤果に攻撃。破壊。右の子の生命力は8になった。もう一体の胤果に攻撃。破壊ィ。生命力は4になった。左のお前にも同じことをするぜ。右の子に攻撃。ターンエンド」

 左の子供は何もできずターンを終えた。

 

 俺の十一ターン目だ。

「ドロー。(サイドエフェクト)(オーバードーズ)(ライフフォーム)の効果で生命力を3減らす」

 全身を雑巾のようにねじられながら斬られるような痛みが襲う。

(サイドエフェクト)(オーバードーズ)(ライフフォーム)で左の子供にトドメだ」

 場がすっきりした。

 

 (サイドエフェクト)(オーバードーズ)(ライフフォーム)のカードテキストが書き換わって弱体化する。

「二時間たてば元の効果に戻るらしいな」

 使えば叫ぶほど痛いのに弱体化するとは質が悪い。



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百三十三枚目 されていやなこと 

 何とか勝てたのでデッキを渡さずに済んだ。

「ギリギリ勝った」

「負けたー」

 (サイドエフェクト)O(オーバードーズ)(ライフフォーム)を使うには精神力が必要だね。

 

 アレックスが近づいてきた。

「カードファイトをシマショー」

「マイペースかお前。喉が痛いから無理に決まってんだろ。こうしてツッコミするのもつらいんだぞ」

「いきなりシャウトするから喉がペインなのデース」

 くっそぉ。叫びたくなるほど痛かったから叫んだのにそれが分からないなんて。でも実際に外傷はないし、その痛みも受けた本人でさえ忘れてるからいきなり叫んだと思われても仕方がないか。

 

 (サイドエフェクト)O(オーバードーズ)(ライフフォーム)を見たら普通相手したくなくなるはずなんだけどなぁ。弱体化したところ見られたかな。

「さきほどユーは二時間たてば元のエフェクトに戻ると言いマシタ。つまり二時間たつ前にカードファイトをすればよいのデース」

「俺にとってそのカードファイトをメリットはナッシングなんだよね。逃げマース」

 全速力で逃げた。

 

 すぐに追いつかれた。

「おそすぎ」

「疲れるの早すぎ」

 うるさいな。それは気にしてんの。

 

 こうなったらやるしかないのか。 

「そんなことされちゃ俺が困る」

「お前はいつも肝心な時にいないカシヨ。いつも肝心な時にいないカシヨじゃないか。今度はちゃんと間に合ったんだな」

「いやみったらしい言い方だな。今度そんな事言ったら助けねえぞ」

「そうだよね。今のはバカにバカって言うようなものだもんね」

 カシヨが俺を睨む。

 

 カシヨは舌打ちをした。

「ワープゲート」

 空間に開いた穴に逃げ込んで逃げきる。

 

 これで良し。

「なんで今まで肝心な時に限っていなかったんだ?」

(サイドエフェクト)O(オーバードーズ)(ライフフォーム)の効果を知るためだ。あとお前が肝心な時に限って急な仕事も入ってたからな。いつ使うんだよ早く使えよと思っていたが、ようやく使われたと言うわけだ。なんで今まで使ってなかったんだよ」

「今まではO(オーバードーズ)もSOLもデッキに組もうとしたら組み忘れてたんだよね。今日に限って忘れてなかったんだよ。というか知っていたなら指摘してくれよ」

 SOLのことを知っていたのは、俺が考えてデッキを組むときにカードを散らかす癖があるからだろうな。

 

 カシヨは俺の頭を撫でる。

「止めろ。そういうのは確認とって許可とってからにしろ。まあお前がいくら確認しても絶対に許可はやらないがな」

「理性を無くして遠吠えさせるなんてヤバいな。使わないようにしとこ」

「そうじゃねーよ。使うとすっげえ痛いんだよ。しかも痛みを忘れるから、慣れない痛みに苦しむこととなる」

 使わないだろうし、使わせないから今後一生この痛みは分かるまい。

 

 カシヨはため息をついた。

「つくならもう少しマシな嘘をついてくれ」

「ぐぬぬ。それで(サイドエフェクト)O(オーバードーズ)(ライフフォーム)をどうしたいと言うんだ。トバクファイトで奪うつもりならやめておけ。今まで権利を行使してなかっただけで、カードファイトとトバクファイトには断る権利があるからな」

「痛みだのなんだのはともかく使ったら二時間弱体化するっていうのは、少し考え所だな。弱体化してなお強いかもしれないしな。見せてくれ」

 SOLを見せた。カシヨは嫌そうな顔をする。

 

 まあアレだけ弱体化してたらそんな反応もするわな。

「ただレアなだけのカードだな。そんなに積極的に使うようなものでもないか」

 SOLを返された。

 

 レアカードに目がないカードハンターでさえゲットするのをためらうほど弱いということだ。

「そんなにウィークネスなら使わないのも当然デスネー」

「お前なんでこんなところにいるんだよ」

 その現れ方は二回目なので、もう驚いてやれない。

「ホールがオープンしっぱなしデース」

 ワープゲートをくぐって来たのか。

 

 カシヨのせいじゃん。

「お前さ、戸締まりはちゃんとしろよ」

「職業が職業だから戸締まりされると困るんだよね。だから戸締まりをしなかったのかもしれないな」

「ふざけたことを言うんじゃねえよ」

 全くもう。

 

 アレックスはデッキを構えた。

「トゥルーファイトエントリー」

「仕方がねえ。無慈悲にいくか。トゥルーファイトエントリー」

 エントリーする直前にデッキをすり替えてたな。なんのデッキを使うつもりなんだろ。

 

 アレックスのデッキが赤く光った。

「マインターン。手札の獣鬼コンプレッサーパンダ、獣鬼マンドリル、獣鬼クレインを見せて、獣鬼発進基地を発動しマース。ターンエンドデース。イッツスピーディー」

「コンプレッサーパンダとクレインを見せることで牽制もしてやがる。感心するぜ」

「コンプリメントしされてもうれしくないデース」

 アレックスはとてもうれしそうな顔をしている。

 

 カシヨの1ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト1で魔を導く者を召喚」

「ワッツ?! アルカナンバーじゃないデース。イッツミステリー」

「いやカシヨのデッキに汎用カードは普通に入るよ。アルカナンバーはたった23枚しかデッキにいれなくていいからな。魔を導く者も汎用性はなくもない」

「そうデスネー。アンダースタンドしマシタ」

 アルカナンバーではなさそうだが、思考を乱すためにアルカナンバーだと思い込ませよう。



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百三十四枚目

 カシヨはターンを終えて、アレックスの二ターン目だ。

「マインターン。ドロー。チャージ。ターンエンドデース」

「随分とあっさりしているんだな。攻撃してくれてもいいじゃないの」

「魔を導く者はデストロイされればデッキからコスト1のマジックカードをサーチできるエフェクトを持っていることを知らないはずがナイデース。どうせ大アルカナをサーチするためにわざとデストロイさせようという狙いデース」

 カシヨは舌打ちをした。

 

 カシヨの三ターン目だ。

「ドロー。チャージ。ターンエンド」

 なんだろう。なんのデッキか分からねえ。コスト1の魔法が起点になるってのは間違いなさそうだけど…… 

 

 アレックスの三ターン目だ。

「マインターン。ドロー。チャージ。コスト3で獣鬼トラックを発動シマース。獣鬼トラックのエフェクト発動シマース。マインデッキオアマインセメタリーから合体獣鬼と名の付くカードをリトゥリーブシマース。マインデッキの合体獣鬼玉座 デカイザーをリトゥリーブ。ターンエンドデース」

 カシヨの四ターン目だ。

「ドロー。チャージ。ターンエンド」

 いつもはガンガン引きまくってるのに今回はいったいどうしたというんだ。

 

 アレックスの四ターン目だ。

「マインターン。ドロー。チャージ。ターンエンドデース」

 カシヨの四ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト4でメガロの大樹発動」

「あっ強いけど地味に厄介だからなかなかナーフされないカードじゃん。限定パックの最高レアだから俺は持ってねえ」

 メガロの大樹はバウンスするか、速攻で潰すかするしかないんだよね。

 

 アレックスの五ターン目だ。

「マインターン。ドロー。コスト4で電卓スーパー演算を発動シマース。マインデッキの上から三枚をセメタリーに送り、電卓スーパー演算以外のマジックカードを墓地からリトゥリーブシマース。マインセメタリーの獣鬼コンクリートバイブレータヌキをリトゥリーブシマース。ターンエンドデース」

 カシヨの五ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト4でハイパーライノセラスビートルを召喚。効果で山札の上から一枚をコストゾーンに置く。ハイパーライノセラスビートルでプレイヤーに攻撃」

 アレックス:生命力10→8

 

 アレックスは口角を上げた。

「手札のコンプレッサーパンダのエフェクト発動デース。受けたダメージ分ドローしてデッキの上からセメタリーに送りマース」

「ターンエンド」

 詰め込みしたかのように墓地に獣鬼が落ちている。なんということだ。

 

 アレックスの六ターン目だ。

「マインターン。ドロー。コスト1で獣鬼マンドリルを発動シマース。手札の獣鬼トラックを捨てて、獣鬼スタヒバリライザを手札に加えマース。コスト2で獣鬼クレインを発動シマース。セメタリーの獣鬼トラックと獣鬼コンプレッサーパンダをリトゥリーブ。ターンエンドデース」

「手札にマンドリル、トラック、合体獣鬼王。もう揃ったのか。こっちはまだ揃ってねえのに」

 言われてみれば確かにそうだな。

 

 カシヨの六ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト4でトリプルドロー。コスト3でハイパービーストを召喚。ターンエンド」

 アレックスの七ターン目だ。

「マインターン。ドロー。チャージ。コスト3で獣鬼トラックを発動シマース。マインデッキオアマインセメタリーから合体獣鬼と名の付くカードをリトゥリーブシマース。デッキの合体獣鬼王 ジュウキキングファイブをリトゥリーブ。ターンエンドデース」

 もう合体獣鬼王を出す準備は整ったという訳だ。

 

 カシヨの七ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト4で大地の秘術発動。ターンエンド」

 アレックスの八ターン目だ。

「マインターン。ドロー。チャージ。コスト4で合体獣鬼王 ジュウキキングを召喚シマース。ジュウキキングのエフェクト発動シマース。獣鬼発進基地の下の獣鬼カードを三枚このカードの下にイン。ジュウキキングでハイパービーストに攻撃シマース。破壊。ターンエンドデース」

 壁はあと二つある。

 

 カシヨの八ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト10で巨獣ギガントを召喚。巨獣ギガントで合体獣鬼王 ジュウキキングに攻撃。ターンエンド」

「コストを10溜めてすることがそれとは笑えマスネ」

 あのデッキ……拾ったカードだけで、構築されてやがる。

 

 アレックスの九ターン目だ。

「マインターン。ドロー。コスト4でけものエンジンズを発動シマース。四枚ドロー。合体獣鬼王 ジュウキキングで巨獣ギガントに攻撃デース。ターンエンド」

 カシヨの九ターン目だ。

「ドロー。チャージ。ターンエンド」

 アレックスは勝ちを確信したかのように、微笑んだ。

 

 アレックスの十ターン目だ。

「マインターン。ドロー。チャージ。獣鬼王の玉座にはかつての獣鬼の皇の亡骸が相応しい。コスト5で合体獣鬼玉座 デカイザーを召喚。デカイザーで巨獣ギガントに攻撃デース。破壊。ターンエンドデース」

 ここから勝つビジョンが浮かばねえ。

 

 カシヨの十ターン目だ。

「ドロー。来たぞ。このデッキのキーカードが」

それなら良かった。



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百三十五枚目 このデッキのキーカード

 カシヨはゆっくりとカードを回転させる。

「俺のカードはこれだ。コスト5でデモンズドロー。効果で四枚ドローして一枚墓地に捨てる。俺は手札のアルファエッグを墓地に送る。アルファエッグが墓地に送られたときの効果発動。デッキもしくは墓地からアルファエッグを場に出す。俺はデッキからベータエッグとガンマエッグを場に出す」

「ベータエッグとガンマエッグはアルファエッグが墓地に送られたターンはアルファエッグとしても扱う効果があったな」

「まあそういうこった。それとあと一つ余計なことをしよう。コスト4で電卓小僧を召喚。墓地からデモンズドローを回収。ターンエンド」

 というかアルファエッグの効果でちゃんとアルファエッグ出したやつ見たことない。

 

 アレックスの十一ターン目だ。

「マインターン。ドロー。チャージ。合体獣鬼玉座 デカイザーで電卓小僧に攻撃。破壊デース。ターンエンドデース」

 カシヨの十一ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト4でエクスプロージョン・エッグを発動。自分の場のエッグと名のつくモンスターが破壊されたとき、相手モンスター全てに2ダメージを与えて自分の場のエッグと名のつくモンスターを破壊する。コスト1でエッグクラスターローチを召喚。コスト5でエッグファクトリーを発動。1ターンに一度自分の墓地からコストを払ってエッグと名のつくモンスターを場に出すことが出来る。ターンエンド」

「エッグ・エクスプロージョンでデカイザーの生命力を削るタクティスデスネ」

 一匹みたら三十匹コンボの流れだな。エッグクラスターローチは見た目が見た目なので、一匹みたら三十匹コンボは精神を削れる上に強い害悪タクティスなのだ。いやエッグクラスターローチは誰がなんと言ってもホタルだからぁ!

 

 アレックスの十二ターン目だ。アレックスはとても嫌そうな顔をしている。

「マインターン。ドロー。チャージ。ターンエンド」

 カシヨの十二ターン目だ。

「ドロー。コスト4で鯵テーターを召喚。コスト2でビーコンパラサイトを召喚。ターンエンド」

 でたわね。卵爆弾で強制的に削れることは確定的に明らかだ。アレックスもそれが分かってるから、苦虫を噛んだような顔をしてる。

 

 アレックスの十三ターン目だ。

「マインターン。ドロー。チャージ。合体獣鬼玉座 デカイザーでベータエッグにアタックデース。破壊」

「エクスプロージョン・エッグの効果発動。合計8ダメージを与える。デカイザー敗れたり」

「ターンエンドデース」

 マジックバウンスさえあればこんなことにはなってなかったのにね。

 

 カシヨの十三ターン目だ。

「ドロー。コスト1でエッグクラスターローチを召喚。ビーコンパラサイトでプレイヤーに攻撃。エッグクラスターローチでプレイヤーに攻撃。鯵テーターでプレイヤーに攻撃」

「手札のコンプレッサーパンダのエフェクト発動デース。二枚ドローそして二枚セメタリーに落としマース」

「ターンエンド」

 優勢だぞ。

 

 アレックスの十四ターン目だ。

「マインターン。ドロー。コスト8でスーパー獣鬼スクランブルを発動シマース。手札とセメタリーの獣鬼カードを全てデッキにリターンしてデッキの上から五枚をめくりマース。そして獣鬼魔法はエフェクトを無効化して全て獣鬼発進基地の下に置き、合体獣鬼カードはエフェクトを無効化して場に出してから獣鬼発進基地の下にあるカードを全て下に置き、登場時エフェクトを発動しマース」

「決まれば一発逆転だな」

「一枚目、獣鬼トータスクレーパー。二枚目、獣鬼コンクリートバイブレータヌキ。三枚目、獣鬼スタヒバリライザ。四枚目、獣鬼ロードローライノス。五枚目、合体獣鬼王 ジュウキキングファイブ。合体獣鬼王 ジュウキキングファイブのエフェクトで、獣鬼発進基地の下の五枚の獣鬼カードをインしマース。ジュウキキングファイブのエフェクト発動デース。攻撃力をハーフにして、プレイヤーに直接アタックできるようにシマース。ジュウキキングファイブでプレイヤーにアタック」

「ビーコンパラサイトの効果でエッグクラスターローチに攻撃してもらう」

「ターンエンドデース」

 ビーコンパラサイトのレア度がノーマルなのやっぱおかしいわ。

 

 カシヨはドローしてターンを終えた。アレックスの十五ターン目だ。

「マインターン。ドロー。チャージ。コスト4で獣鬼カタパルトフィニッシュを発動しマース。自分の場の獣鬼モンスターの下にあるカードの枚数以下の生命力のモンスターを破壊シマース。ビーコンパラサイトを破壊。合体獣鬼王 ジュウキキングファイブのエフェクトで、攻撃力をハーフにして直接アタック。ターンエンドデース」

「暗殺者で破壊できるぞ」

 カシヨ:生命力10→8

 

 カシヨの十五ターン目だ。

「ドロー。チャージ。暗殺者の職業特性発動。相手の場のモンスター一体を破壊する」

「オーマイガー。でも安心デース。デッキからマジェスティバリアを発動シマース。エフェクトによる破壊から獣鬼カードを守りマース」

 わりとピンチだ。



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百三十六枚目 人間の本質なんて醜い

 アレックスの十六ターン目だ。

「マインターン。ドロー。チャージ。合体獣鬼王 ジュウキキングファイブで鯵テーターにアタックシマース。破壊。ターンエンドデース」

 カシヨの十六ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト8で悪魔の戦士ハイランダーを召喚。ハイランダーでジュウキキングファイブに攻撃。ターンエンド」

 墓地にあるカードはみんな違う名前のカードだな。

 

 アレックスの十六ターン目だ。

「マインターン。ドロー。チャージ。ジュウキキングファイブの攻撃力をハーフにすることで、直接アタックができるようになりマース。そしてコスト10で獣鬼王全力奥義 ジュウキキングフィニッシャーを発動シマース。合体獣鬼カードの下にある獣鬼カードの枚数分ジュウキキングと名の付くカードの攻撃力を上げマース。バッドアタック終了後にミーは負けマース。攻撃力を10アップ。ジュウキキングファイブでプレイヤーに攻撃シマース」

「手札にはこれを防ぐ術はない」

「フィニッシュデース」

 カシヨの口角が上がった。

 

 なんか企んでるな。

「デッキにあるセンポクカンポクの霊薬の効果発動」

 なるほどね。確かに手札に防ぐ術はなかったわ。デッキにはあったけどね。

「このカードはカードファイト中一度だけ生命力が0になるのを防ぐことが出来る。テキストから誤解されやすいが、トバクファイトでもトゥルーファイトでもこのカードは使えるぜ」

「ワォ」

 カシヨの生命力:8→0

 

 あっ。トゥルーファイトで負けた。

「なんとか勝てたか」

「トゥルーファイトで負ければライフをロストするはずデース。ライフがロストするまでにタイムラグがあるのデスネ。そもそもライフをロストするっていうのがライだったかもしれナイデース。良かったデース」

「普通なら命を失う。だがな俺の場合は命を失わない。俺はトゥルーファイトで命を奪えない。俺だけはこうだから今まで俺はトゥルーファイトをあまりしなかった」

「メイクファイトでは奪えてたじゃないか」

「メイクファイトとトゥルーファイトは別モンだからな」

 なるほど。

 

 ポカンとしていたアレックスの顔に動きが見える。

「分かりやすく言うぜ。俺はトゥルーファイトで負ければ死ぬが、勝っても殺せない」

「ホワッツ!?」

「慈悲深いじゃねえか」

 トゥルーファイトを理由つけてやろうとしなかったのってコレが原因だったのか。

 

 アレックスは高速で頷く。

「ミートゥー。今回はライフをヘルプされマシタね」

「ただメリットがある。それはいつでもデッキにある引きたいカードを引けるようになると言うことだ」

「アルカナンバーでカードをドローしまくっていたのってそう言うことだったのか」

「ただ意図しないタイミングでアルカナンバーサーティーンを引くのと、アルカナンバーサーティーンを手札に加えたファイトで負ければ寿命が凄くすり減るのと、アルカナをメインで使わなければならないって言うデメリットもあるがな」

 メリットがデカすぎるがゆえにいくつもデメリットが付属するのね。

 

 まあ寿命減らす系はちゃんと寿命が減らないことがよくあるから、実質デメリットじゃないだろ。

「最後のはちょっとアレだな。デメリット扱いするのはちょっと違うな」

「手の内を把握されることはカードファイターにとって一番の弱点だ。常識だろ」

 言われてみれば確かにそうだけど、引きたいカードを引ける能力とアルカナンバーの前だとそのデメリットはあってないようなものだからね。

 

 あ、しまった。アレックスまだいたんだ。

「かかってこい。今度は俺が相手だ」

 顔が露骨に落ち込んでるから、挑発してデッキを構えてもなにもしないだろ。なにもしなかったら今度遭遇したときのネタにする。逃げたと言ってネタにする。

「お前の勝てる相手じゃねえぞ」

 そりゃそうよ。獣鬼と俺のデッキは相性が悪すぎるからな。

 

 アレックスはやる気のない歩き方をする。

「悪に生かされてはファイティングスピリットもなくなりマース。というわけなので、ゴーホームシマース」

 ホラな。

「正義のヒーローってのはうらやましいな。精神力が脆ければ休めるんだから。ふて寝し放題だな」

 アレックスは消えた。まあ今のはアレックスだけをバカにするための発言だからな。

 

 カシヨは覆面をする。覆面依存性だな。俺を見ろ。覆面なんてほとんどしてないぞ。

「今のお前はまるで小物みたいだったぞ。強い奴にこびりついて挑発してくる系の小物だ」

「気にしてるんだから、そういうこと言うの止めろよな」

「じゃあ小物ムーブを止めればいいだろ」

「それは無理。反撃してこない相手を叩くのって気持ちがいいからね」

 人間の本質なんてしょせん醜いものなんだ。世の中その事を認めない人が多すぎるのだ。

 

 こんなことしてる場合じゃねえや。

「ここはどこだ?」

「カードハンターの溜まり場だ。ここに来るのは初めてだったな」

「そう言えば今までは野宿かふつうの町の宿だったな。ここになんの用があるんだ?」

「ここの近くでビートダウン文明の遺跡が見つかったらしい」

 マジか。



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百三十七枚目 デコイ

 古代文明の遺跡はロマンだ。しかしカシヨはメインデッキはロマンデッキのくせにロマンを重視する人間には見えない。

「カシヨは古代文明にロマンを感じるような奴じゃないから、遺跡のレアカード目当てだろ」

「ああ。古代文明にはパックからは出ないようなレアカードが眠っている。性能はたいてい低いが、それを差し引いても高値で売れる。それにごく稀に性能が高いカードもあるからな」

 古いカードは再録されてないのが多くカードの効果も強いのがあるというカードゲームあるある。

「奪い合いになるだろ。こんなのんびりしてたらだめじゃないか。いつものお前なら俺にも知らせず勝手に消えるくせになんで今回はいるんだ」

 カシヨはため息をつく。

 

 カシヨは指を指した。

「それがのんびりしていい理由があるんだ。今月まだなにもしてないだろ。そんな状態でハントマスター様の下に行けばわりとマズイ」

「実のところノルマに耐えかねて諦めたんだろ」

「諦めていない。古代文明の遺跡にも入れる時間帯があるだけだ。まだ入れない時間帯ってだけだぞ。それに古代文明の遺跡は事前に待機して並んだ者は一日の間建造物や街に入れないように結界が張られてる。こんなこと常識なのになんで知らねえんだ」

 わりと常識だったのか。ピンハネル伯爵家には古代文明についての資料があまりなかったから知らなかった。

 

 カシヨはブランクカードを掲げた。

「古代文明の遺跡の近くでこうすれば、ここに古代文明の遺跡に入れるようになる時間が記される。これをやったらこのブランクは二度とは使えなくなる……なんてことはないから安心しろ」

「そうか。それなら安心だな」

 ブランクを掲げると、時間が出た。あと二時間か三時間だな。

 

 カスタードクリーム色のローブとテンガロンハットを被った奴がいた。

「アレックスか。立ち直りの早すぎる奴だな。まだ三十分も経ってないぞ」

「アレックスか。誰だソイツは。聞かねえ名だな」

 声が明らかに違う。

 

 じゃああやしい奴だな。今のはアレックスがあやしい奴じゃないという誤解を受ける言い方になるがな。

「誰だお前は」

 カシヨはデッキを入れ換えた。

「カードハンターを狩る者、ウェイラだ。ハンターハントの流れにお前らも溺れてしまえ」

「らってことは俺も巻き込むつもりかよ。マジでそういうの勘弁してくれ」

「ゴミはまとめて片付けた方が合理的だと思うがな」

 あーなるほどね。

 

 って誰がゴミだよ。

「ふざけたことを言うな」

「カモン」

 ウェイラが指を鳴らすと、もう一人ローブとテンガロンハットの格好をした奴が現れた。

 

 現れた奴はデッキを構える。

「タッグファイトだ」

「俺は2対1で勝ったことがある。ゴミであるカードハンターにさえそのぐらいは出来るんだから、カードハンターを狩る者であるあんたらはそれが出来ないってことはないよな」

 2対1なら勝ちに持ち込める。

 

 ウェイラは俺を指を指す。

「常識的に考えて粗大ゴミは一人じゃ片付けられない」

「ぐだぐだ話しても仕方がない。どうせ逃げられないようになってんだろ。タッグファイトエントリー」

 カシヨの右腕にいつの間にかミルオクルパラサイトが引っ付いていた。

「話が早くて助かる。タッグファイトエントリー」

 ウェイラのデッキが赤く光る。

 

 ウェイラはカードをチャージして魔を導く者を召喚し、ターンを終えた。タッグファイトじゃ珍しくこんなに早い段階で俺の1ターン目だ。

「ドロー。チャージ。ターンエンド」

 もう一人の1ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト1でデコイを召喚。ターンエンド」

 1ターンに一度デコイは攻撃対象を自らに移すモンスターだ。

 

 カシヨの1ターン目だ。

「俺のターン。ドロー。チャージ。コスト1で大アルカナを発動。小アルカナの効果発動。コストを1軽減してコスト0でザ・フールを召喚。大アルカナの下に置かれる。ターンエンド」

 ウェイラの2ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト2でメガチャージ発動。俺はそのちっこい方のプレイヤーに攻撃する。ターンエンド」

 ドロウ:生命力10→8

 

 俺の2ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト2で盗賊ゴブリンを召喚。盗賊ゴブリンで、デコイに攻撃。破壊。ターンエンド」

 壁にするつもりならスピードラットの方が良いと思うぜ。

 

 もう一人の2ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト2でメガチャージ発動。ターンエンド」

 カシヨの2ターン目だ。

「俺のターン。ドロー。チャージ。コスト1でザ・マジシャンを召喚。効果発動。デッキの上をめくれ」

 カシヨは手をデッキに近づける。

 

 ウェイラじゃない方と、カシヨはデッキの上をめくる。

「俺はコスト10のアルカナンバーテン ホイールオブフォーチュンが出た」

「コスト11のベルエス」

「そうきたか。好きな魔法カードをデッキから加えろ」

 ウェイラじゃない方はデッキを見て、一枚を手札に加えた。

 

 たがカシヨはまだ終わってない。

「ホイールオブフォーチュンの効果発動」

 互いに山札の上をめくった。

「俺はコスト14のアルカナンバーフォーティーン ザ・テンパランスだ」

「コスト11のベルエス」

「俺は山札からアルカナンバートゥエンティ ザ・ジャッジメントを手札に加える。ターンエンドだ」

 ベルエスってなんだよ。



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百三十八枚目 囮逆襲

 ウェイラの3ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト3でマッスルビーストを召喚」

「オラオラ攻撃して来いよオラ。かかってこい」

 手札のカードにカードを持ってない方の手を近づける。

「ターンエンド。どうせフォーチュンテラーでもいるんだろ」

 いないけどな。騙されてくれて助かった。

 

 俺の3ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト3でハイパービーストを召喚。ハイパービーストでハイパービーストに攻撃。ターンエンド」

 ウェイラじゃない方の3ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト3で魔法パラサイトを召喚。このカードは墓地にある時、魔法カードとして扱う。ターンエンド」

 魔法パラサイトを使っているのに他のパラサイトが見当たらないデッキと言えばマジカルデコイデッキだな。というかパラサイトデッキに魔法パラサイトはあんま採用しないよなぁ。

 

 カシヨの3ターン目だ。

「俺のターン。ドロー。チャージ。コスト2でアルカナンバーツー ザ・ハイプリーステスを召喚」

 ウェイラとカシヨは互いに山札の上をめくった。

「コスト4のトリプルドローだ」

「奇遇だな。俺もコスト4のトリプルドローが出たぜ。これからはアルカナンバーのコストが減るってこった。ありがてえ。ターンエンド」

 そっか。同じ数値でも基本的に勝ちと同じだもんね。

 

 ウェイラの4ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト5でクラッシュシューターを召喚。クラッシュシューターの効果でマッスルビーストを射出する。覆面ヤローに1ダメージ」

「ありがとよ。手札のザ・エンプレスの効果発動」

 そういえばそんなのもあったな。

 

 互いに山札の上をめくった。

「コスト6のインセクトマザーリボーンだ」

「コスト21のアルカナンバートゥエンティーワン ザ・ワールド」

 インセクトマザーリボーンか。インセクトを復活させてクラッシュシューターで発射するバーンコンボだね。樹海で手札も増やせるしよく考えられたコンボだな。敵ながら感心する。

 

 感心してる場合じゃねえよ。

「ウェイラのコストゾーンのカードを二枚バウンスする」

「ターンエンド」

 クラッシュシューターは相手モンスターも除去できるから厄介なモンスターだ。よく使ってただけに、その厄介さは身に染みている。

 

 俺の4ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト5で毒棘甲羅竜ペルーダを召喚。ハイパービーストでクラッシュシューターに攻撃。ターンエンド」

 攻撃力を0にするダイヤモンドスパイクを使えばノーダメージでどかせるようになるのでしばらくダイヤモンドスパイクは使えない。

 

 ウェイラじゃない方の4ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト4で大地の秘術発動。山札の上から二枚をコストゾーンに置く。ターンエンド」

 コイツラは何をしようとしているんだ。

 

 カシヨの4ターン目だ。

「俺のターン。ドロー。チャージ。コスト3でアルカナンバーフォー ザ・エンペラーを召喚。ターンエンド」

 準備は整ったな。

 

 ウェイラの5ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト6でインセクトマザーリボーン発動。ターンエンド」

 俺の5ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト6でクワトロブースト発動。ターンエンド」

 よし。ギロチンフェイスデビルが来たぞ。

 

 ウェイラじゃない方の5ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト5で魔法発動。マジカルデコイファクトリー。ターンエンド」

 カシヨの5ターン目だ。

「俺のターン。ドロー。チャージ。コスト5でアルカナンバーシックス ザ・ラヴァーを召喚。効果発動。俺よりコストが高ければ俺の場のカードは全て手札に戻り、低ければ俺の場のカードは場を離れず、効果を受けない」

 史上最強の耐性だな。効果を受けないから効果を上書きされることもない。

 

 互いに山札の上をめくった。

「コスト11、ベルエス」

「コスト18のアルカナンバーエイティーン ザ・ムーンが出たぞ。ザ・ムーンの効果発動。コスト2のバリアマジシャンが出た」

「コスト6のクワトロブースト。勝ったな」

「ザ・ムーンは凶兆の知らせ。勝てばすることが失くなり、負ければコストが18以下になるようにデッキからアルカナンバーを二枚サーチ出来る。コスト13のアルカナンバーサーティーン ノーネームを手札に加える」

「寿命がすり減るのにそんなの使って平気なのかよ」

 カシヨは親指を立てる。

 

 互いに山札をめくる。

「コスト5の大地の読心術」

「コスト7 アルカナンバーセブン チャリオット。お前が勝ってたらこの勝負にも勝ってたのによ。テメーは大戦犯だ。さっさと墓地のモンスターを生き返らせろ」

「コスト3のハイパービーストを復活させる。そしてコストを1プラス」

「ターンエンド」

 ノーネームはデメリットしかねえ。勝っても墓地復活は酷い。

 

 ウェイラの6ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト4でハイパービートルを召喚。ちっこい方に1ダメージだ。ターンエンド」

「やっぱクラッシュシューターは厄介だ」

 正直言ってクラッシュシューターは狡いカードだと思う。



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百三十九枚目 いやらしい

 俺の6ターン目だ。

「ドロー。チャージ。クラッシュシューターを倒した方がよさそうだ。ギロチンフェイスデビルを召喚しない方が良さそう。コスト7で焼鳥屋に賛成するにわとりを召喚。コスプレヤーでステータスコピー。俺はクラッシュシューターに攻撃。破壊。ターンエンド」

 クラッシュシューターはマザーコクーンリボーンで復活できないからもう大丈夫だろ。

 

 ウェイラじゃない方の6ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト5でデコイペインター発動。コスト1でバニラマジック発動。この魔法は効果がない。ターンエンド」

 カシヨの6ターン目だ。

「俺のターン。ドロー。チャージ。コスト7でアルカナンバーセブン ザ・タンクを召喚。コイツの効果を発動する前に小アルカナの効果でドローしたザ・ジャッジメントの効果発動。大アルカナの下に置く。ホイールオブフォーチュンの効果発動」

 これで勝てばほぼ確実にザ・タンクの効果が発動できる。考えたな。

 

 互いに山札の上をめくった。

「俺はコスト14のアルカナンバーフォーティーン ザ・テンパランスだ」

「コスト6、クワトロブースト」

「俺は山札からアルカナンバーフォーティーン ザ・テンパランスを手札に加える」

 テンパランスは軽減効果があるからな。今の状況に最適だ。

 

 カシヨはウェイラを指さした。

「俺より高ければお前の場にアルカナンバータンクフェイク(コスト7、種族:マジシャン、攻撃力7防御力7生命力7、効果:なし)が出現する。低ければ俺の場にアルカナンバータンクフェイクが現れる。やってみようじゃないの」

 意地の悪い奴だ。ジャッジメントがいるからほぼ確実に勝てるんだよなぁ。

 

 互いに山札の上をめくった。

「コスト10の巨獣テラント」

「コスト9のアルカナバーナイン ザ・ハーミット」

「運が尽きたか。運任せじゃカードファイトには勝てねえよ」

「それは重々承知している。ザ・ジャッジメントの効果発動。ザ・ハーミットのコストを21にする。これで俺の勝ちだ。出でよアルカナンバータンクフェイク」

 ピンク色の戦車をチワワサイズにしたようなものが現れた。

 

 ポンという音が出る。

「タンクフェイクでハイパービートルを攻撃。破壊。ターンエンド」

 ウェイラの7ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト6で樹海発動。ターンエンド」

 これで蘇生がし放題かつ手札も確保できるということか。しかし2テンポ遅い。対応が後手後手だな。

 

 俺の7ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト7で焼鳥屋に賛成するにわとりを召喚。にわとりでウェイラに攻撃」

「魔法発動。エマージェンシーバリア。生命力を2支払ってこのカードをデッキから墓地に送ることで、受けるダメージを一度だけ0にする」

 ウェイラじゃない方:生命力10→8

 

 エマージェンシーバリアなんて魔法見たことねえぞ。ベルエスといいコイツはなんなんだ。

「ウェイラじゃない方にも攻撃しなきゃな。魔法パラサイトに攻撃」

「フフフ」

 魔法パラサイトは墓地だと魔法扱いなんだよなぁ。とてもめんどい

 

 ウェイラじゃない方の7ターン目だ。

「ドロー。コスト4でトリプルドロー発動。デッキから魔法カードを三枚選んで墓地に置けばコスト1で召喚できるけど、オールステータス1になる。コスト1でベルエスのデコイ。マジカルデコイファクトリーの効果発動。コスト1で墓地に落とした爆破魔法ベルエスエクスプロージョンをマジカルデコイとして召喚する。マジカルデコイペインターの効果でマジカルデコイをトリプルドローにする。墓地のトリプルドローをマジカルデコイとして場に出す。ターンエンド」

 ベルエスってのは魔法に関連するカードなのか?

 

 カシヨの7ターン目だ。

「俺のターン。ドロー。チャージ。コスト0でアルカナンバーフォーティーン ザ・テンペランス召喚。テンペランスの効果発動。低ければ手札とコストゾーンのカードを一枚ずつデッキに戻す。高ければ俺のアルカナンバーの召喚コストが2減る」

「コスト22出せば勝ちだ。コスト22 ベルエスーパー」

「コスト21 アルカナンバートゥエンティーワン ザ・ワールド。ザ・ジャッジメントの効果でベルエスーパーのコストを21にする。コストが同じだから以降減る。タンクフェイクで、ベルエスのデコイを攻撃。破壊。ターンエンド」

「ベルエスのデコイは戦闘で破壊されれば、以降魔法カードとして扱われる」

 ベルエスは魔法特化テーマで間違いなさそうだな。

 

 ウェイラの8ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト4でハイパーライノセラスビートルを召喚。樹海の効果で一枚ドロー。ターンエンド」

 俺の8ターン目だ。

「ドロー。チャージ。俺はトリプルドローに攻撃。破壊」

「爆発魔法ベルエスエクスプロージョンの効果発動。フィールドのこのカードが相手によって破壊されたとき、相手の場の防御力4以下のモンスター一体を破壊する。毒棘甲羅竜 ペルーダを破壊」

 攻撃すればモンスターが破壊されるいやらしいコンボだ。騎士だったら詰みだったな。



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百四十枚目 エクストラウィン無効化

 ウェイラじゃない方の8ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト1で墓地の爆発魔法ベルエスエクスプロージョンを、マジカルデコイとして召喚。ターンエンド」

 カシヨの8ターン目だ。

「俺のターン。ドロー。チャージ。手札のアルカナンバートゥエンティワン ザ・ワールドの効果発動。俺より高けりゃすべてやり直しで、全員手札を三枚戻すことになる。低ければお前は好きな墓地の魔法を一枚手札に加えることが出来る上に、すべてのプレイヤーは三枚ドロー出来る」

「得しかない」

 ザ・ワールド自体の効果はほんとそのくらいなんだよね。

 

 互いに山札の上をめくった。

「私はコスト11のベルエス」

「俺はコスト56の棒と剣と聖杯と護符だ。よし」

「墓地から大地の秘術を回収。どう転んでも得」

 大アルカナの下に21種類のアルカナンバーが置かれる。

 

 ザ・サンの効果で勝てるぞ。

「ザ・ワールドの効果で大アルカナの下のザ・サンの効果発動。低けりゃ俺の生命力は1になる。高けりゃお前のターンの後に俺が勝つ。シンプルな能力だな」

 エクストラウィンだから殴らなくてもよい。

 

 互いに山札の上をめくった。

「コスト10の巨獣ギガントだ」

「俺の勝ちだな。コスト1のアルカナンバーロスト ザ・フールが出た。が、ザ・ジャッジメントの効果でコストは21だ。ターンエンド」

 相手が高次元のスピードラットを持っていない限り、これで勝てるぞ。

 

 ウェイラの9ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト3でインスタントアビリティー発動。コスト5でクラッシュシューターを召喚。アビリティーシールは自分のモンスターを一体までこのカードの下に置くことで、下に置いたモンスターの効果を発動できる」

「今更そんなのやっても遅いだろ。足掻けるだけ足掻こうという醜い魂胆だな」

「アビリティーシールの効果で俺の場のハイパーライノセラスビートルをちっこい方のプレイヤーに射出する。ターンエンド」

 ドロウ:生命力7→6

 

 カシヨの勝ちだ。ベルエスの効果が分からなかったのが、少し不満だ。

「手札の防御魔法ベルエスガードの効果発動。デッキから墓地に置くことで、一度だけ魔法カードもしくは魔法カードの下にあるカードの効果による影響を受けないようにする。あんたはザ・サンの効果の影響は受けないよ。だから勝った訳じゃない」

「なんだと」

「影響を受けない効果をそう使うのか。頭の柔らかい奴だな」

 影響を受けないは効果を受けないの下位互換みたいなところがある(効果は受けるから、効果を受けさせることで能力を発動するモンスターに弱い)。しかしながら耐性付与になる。だから他のプレイヤーに対して、効果無効化みたいな形で使うとは思わなんだ。

 

 でも ザ・ワールドの効果でザ・サンの効果を使い続ければいずれ勝てる。同じカードは四枚までしか入れられないからな。

「あと三回ザ・サンの効果を使えば勝てるぞ」

「それまでに生きてたらな」

 それはそう。3×4で12ターンかかるしな。

 

 俺の9ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト2でマジックバウンス。デコイファクトリーを手札に戻せ」

「生命力を1減らすことでデッキからベルエスの盾を発動。自分の場のカードは魔法の効果を一度だけ受けない」

 ウェイラじゃない方:生命力8→7

「あらら。俺はウェイラに攻撃する」

 ウェイラ:生命力10→6

 

 よし。あと二回だ。

「焼鳥屋に賛成するにわとりでウェイラに止めだ」

 ウェイラの生命力:6→2

 

 ウェイラは相方に向かって指を指す。

「俺が倒れたあとは頼んだ」

「むしろそこから本番」

「そうだったな。最近本番に縁がないから、忘れてたぜ」

 これは負け惜しみだな。

「ターンエンド」

 ここまでくればもう勝ち。

 

 ウェイラじゃない方の9ターン目だ。

「ドロー。コスト5で共有魔法ベルエスリンク発動。ウェイラを選択する。これでウェイラが倒れたらウェイラの場は私のもの」

「タッグファイトは倒された方の場が残らないから、一方を倒したときに有利になる」

「ウェイラが倒れてもアドバンテージの差はあまり離れないということ」

 ベルエスリンクは厄介な魔法だな。

 

 肝心のベルエスの姿が見えない。

「コスト1で爆発魔法ベルエスエクスプロージョンをマジカルデコイとして場に出す。デコイペインターの効果でベルエスのデコイにする。ターンエンド」

 きつそうだぞ。

 

 カシヨの9ターン目はザ・サンの効果の影響を受けないようになったが、気持ちを切り替えてタンクフェイクでウェイラを倒した。攻撃力が7もあると違うな。

「ムフフ」

 嬉しそう。

 

 俺の10ターン目だ。

「ドロー。チャージ。にわとりでベルエスのデコイに攻撃。破壊」

「爆発魔法ベルエスエクスプロージョンの効果でにわとりを破壊する」

「プレイヤーに攻撃。ターンエンド。騎士だったのかよ」

 ウェイラじゃない方:生命力7→5

 

 ウェイラじゃない方の10ターン目だ。

「ドロー。コスト5でデビルズドロー。墓地と場に魔法が合計六枚以上あり、墓地にモンスターカードがないときコスト1で召喚できる。ベルエスを召喚。ベルエスでタンクフェイクに攻撃。破壊。ターンエンド」

 攻撃力は14以上か。ヤバいな。



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百四十一枚目 ベルエスキル

 カシヨの10ターン目はザ・サンの効果を防がれて終わった。

 

 俺の11ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト7で五転生発動。墓地から毒棘甲羅竜ペルーダ召喚。ターンエンド」

 ウェイラじゃない方の10ターン目だ。

「ドロー。コスト4でトリプルドロー発動。コスト4で大地の秘術発動。コストを2貯める。コスト1で墓地の大地の秘術をマジカルデコイとして召喚する。デコイペインターの効果でマジカルデコイをトリプルドローにする。コスト1で墓地の爆発魔法 ベルエスエクスプロージョンをマジカルデコイとして召喚する。デコイペインターの効果でマジカルデコイを魔法パラサイトにする。ベルエスで毒棘甲羅竜ペルーダに攻撃。破壊。反動は受けたが、問題はない」

 ベルエスの体にペルーダの棘が刺さっている。

「防御力は3以下と見た」

 カシヨは何かをひらめいたかのような顔をした。

 

 ベルエスの防御力の薄さに突破口がある。

「ターンエンド」

 対策方法が分かれば問題はないぞ。にわとりで攻撃すればいいだけだ。

 

 カシヨの11ターン目だ。

「ザ・ワールドの効果でザ・タンクの効果発動」

「それも防げる。けど防ぐ意味がない」

 結果的にタンクフェイクが場に出た。防御力3以下なのに通すとか不自然だな。

 

 まあどうせガバだろ。

「タンクフェイクでベルエスに攻撃」

「ベルエスの効果発動。一ターンに一度このモンスターが生命力が0になる以外で場を離れるかわりに墓地のベルエスと名のつく魔法カードを手札に加える。墓地から防御魔法 ベルエスガードを手札に加える」

「墓地の魔法を一枚手札に加える代わりに攻撃を無効化するのか。デメリットがデメリットになってねえな。ずるい。ターンエンド」

「意外な弱点がある。ベルエス魔法カードはデッキからじゃないと発動出来ない」

 デコイファクトリーの素材にも出来ないから、デメリットなのか。

 

 ウェイラじゃない方の11ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト3でダブルドロー。ベルエスでタンクフェイクに攻撃。アビリティーシールの効果発動。ちっこい方のプレイヤーにベルエスを射出」

 ドロウ:生命力6→0

「その生命力でタンクフェイクに教われたらひとたまりもないぞ。射出するのは悪手だったな」

「コスト4でファイヤーウォールリサイクル発動。デッキの上からカードを三枚墓地に置いて、ベルエスを回収。コスト1でベルエスを召喚。ターンエンド」

 墓地肥やしでベルエス魔法カードを置いたついでにモンスターを回収する。便利だな。

 

 俯瞰してみるとカシヨが若干有利かもしれん。暗殺者の効果は意味がないけど、タンクフェイク(無限の壁)は出せるからな。フェイク系モンスターはデッキの外から出てくるのでデッキに積める制限もなく無限に出し放題だし。カシヨのデッキはあと20枚しかないけど、それに相手はドロー魔法で山札を減らしてる。ライブラリアウトに持ち込めるのだ。

「お前が何を考えているのか分かった。だがそういうわけにはいかん。時間を稼げば古代遺跡の発掘に出遅れるかもしれないからな」

 そうか。そうだったな。体感3日以上だったから忘れてた。(おおげさ)

 

 カシヨの12ターン目だ。

「俺のターン。ドロー。チャージ。コスト7で魔海獣 タレイを召喚。手札を全て山札の上にもどし、シャッフルする。ベルエスの効果を無効化してバウンスするぜ」

 カシヨのデッキが一瞬光ったように見えたな。デスティニードロー現象か。

 

 カシヨの動きが6秒止まる。

「なんでアルカナンバーに魔海なんて入れてるんだ」

「ザ・ワールドの効果で大アルカナの下におけば、小アルカナの効果で何枚もドローしなきゃならんからな。そうすればこういうときにライブラリアウトするから、入れておいたんだ」

 動きの邪魔になるから普通は入らねえよ。きっとデスティニードロー現象で生まれたカードなんだろうな。そうじゃなかったらとっととドローして早めに出してるだろうし。

 

 まあここまでくればもう勝ちだろ。 

「魔海獣 タレイでマジカルデコイに攻撃」

「生命力を2支払って手札から魔法発動。誘導。魔法パラサイトに攻撃してもらう」

「元々は爆発魔法ベルエスエクスプロージョンだったから、タンクフェイクが破壊されるってわけか。ターンエンド」

 厄介なコンボだ。

 

 ウェイラじゃない方のデッキが光る。ウェイラじゃない方の13ターン目だ。

「そっちがデスティニードローするなら、こっちもそうさせてもらう。ドロー。チャージ。コスト1でベルエスを召喚。コスト3でワープゲート。攻撃力を半減して直接攻撃できるようにする。コスト5でパワーリセット。生命力以外のステータスをもとに戻す。ベルエスでプレイヤーに攻撃。これで勝ったな。久しぶりに本気を出したぞ」

 カシヨ:生命力8→0

 

 場がすっきりした。

「トゥルーファイトでなくて良かったな。あと一時間で古代文明の遺跡に入れるようになるぞ」

「もう一時間も経ってたのか。急がねえと」

 俺とカシヨは煙の出る筒から煙を出して逃げた。



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百四十二枚目 服が溶ける

 古代文明の遺跡に入った。そこら辺に何やら倒れてる人はいたけど、誰一人入ろうとしないので一番乗りである。

「近くで待つバカが転がってら」

「私はあなたより賢いとは思ウ」

「確かに~。って誰だ今の」

 もう一人いるのか。

 

 カシヨは後ずさりをする。壁がいきなり曲がって、俺たちにギリギリ当たりそうになる。カシヨに掴まれてなかったら危なかったな。

「暗くて気がつかなかったと思うが、わずかに段差が低くなっていた。壁を動かしやすくするために床を低くしたんだろうな」

「なるほど。凄くシンプルなトラップだったわけか」

 壁の下の方にスピーカーが付いていた。

「私はあなたより賢いとは思ウ」

 事前に録音したものを流して反応させ、壁で潰す罠か。いやらしいな。もっといい音声があるというのは禁句なんだろうな。

 

 脚に何かが引っかかる。

「伏せろ!」

 急いでしゃがむと頭上を刃が高速で通過した。

 

 カシヨは着地する。

「ジャンプで避けられるようじゃこの程度だな。天井低くすりゃあ良いのによ。ここの罠はどこか詰めが甘い感じがする」

「言うほど甘くねえよ」

 殺意モリモリじゃんか。

 

 脚に引っかかっていた糸を跨いで進む。

「ここまでトラップを掻い潜りましたカ。やりますネエ」

 いきなり床がなくなる。

 

 あんま痛くないからそんな深いところじゃないだろうな。

「なんだこのブヨブヨしたの」

 まるでタコの足の上にいるみたいだ。

「この床で衝撃が抑えられたわけだな。歩きにくいこと以外に支障はない」

 うお、足が少し沈む。

 

 おっと。転ぶかと思った。

「なんだこれ」

 草原の草みたいな感じで触手が生えてやがる。

「その辺に落ちてたモンスターの骨を捨ててみる」

 カシヨが骨を投げると焼け石に水をかけたような音が聞こえて骨が溶けた。

 

 さっき転んでたら、頭蓋骨が溶かされてたってことか。歩きにくい上に物を溶かすトラップの二重がまえとはなんと凶悪なコンボなんだ。

「ところどころ触手が生えていないところがあるから、そこをすすめばいい」

「なるほどね」

 触手の生えていないところを歩く。

 

 何度も転びそうになったが、結果的にカシヨの服以外は無事である。触手地帯を抜け出せた。

「本領発揮といったところだな。変な格好は精神的に有害でしかない」

「そっかお前はそうだったな。莫大な運と引き換えにファッションセンスを失ってそう。だいたい服を溶かされるシチュエーションは恥じらいがないとダメだ。恥じらいが一ミリもないので需要がないんだよなぁ」

 一瞬見惚れていたとかそんなものは一切ない。ないったらない。

 

 ガチガチと言う音が聞こえる。

「最小限任務開始」

 天井から人影が3つ落ちてきた。

 

 こいつら暗黒なんたら団の一番手と二番手だ。ということはもう一人は首長だな。

「そんなわけねーよな。爆発に巻き込まれたはずだもんな」

「我らは裏切り者を許さない」

「組織も潰れたのにボスと一緒にいるんだな。見上げた忠誠心だな。お前らみてーにはなりたかねえ」

「四番手ごときが」

 一番手はデッキを構えた。

 

 首長は一番手を手で制して、デッキを構える。

「前よりも格段に力を上げている。敵う相手ではないかもしれん」

「なるほどね。元首長様直々に潰してくださるのか。刺身のツマのような俺に対するこの扱い。マジで光栄だな」

 BC(ボードコマンダー)と俺の戦闘スタイルは相性がいい。

 運が回ったな。

「刺身の妻。つまりゾンビ夫妻の片割れか」

「そんなモンスターもいたな。カードファイトエントリー」

「カードファイトエントリー」

 俺が言われるまで思い浮かばなかったカードをよく覚えているな。

 

 二ターン目までなにも起こらなかった。首長の三ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト3でボードフィールド発動。ターンエンド」

 俺の三ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト3でハイパービーストを召喚。効果で一枚コストを加速。ハイパービーストでプレイヤーに攻撃。ターンエンド」

 首長:生命力10→9

 

 首長の四ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト1でBC(ボードコマンダー)Pソルジャーを召喚。Pソルジャーでハイパービーストに攻撃。ターンエンド」

 俺の四ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト5で毒棘甲羅竜ペルーダを召喚。ターンエンド」

 よし。

 

 首長の五ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト4でアンゼブースト発動。3枚ドローして二枚墓地に落とす。手札のBC(ボードコマンダー)ナリゴルド:タイプPとBC(ボードコマンダー)ドラゴンホースを墓地に置いて、BC(ボードコマンダー)Pソルジャーでハイパービーストに攻撃。ターンエンド」

 俺の五ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト6でクワトロブースト。ハイパービーストでPコマンダーに攻撃。破壊。ターンエンド」

 たいしたことないな。

 

 首長の六ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト6でブーストチャージャー発動。三枚ドローしてから、このカードを裏向きでコストゾーンに置く。ターンエンド」

 びっくりするほど攻める気を感じられない。BC(ボードコマンダー)は攻めてこそのテーマなのに。手札事故かな。

 俺の六ターン目だ。

「ドロー。チャージ。ハイパービーストでプレイヤーに攻撃。ターンエンド」

 首長:生命力9→8

 

 はっきり言って気味が悪い。



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百四十三枚目 古代遺跡

 首長の七ターン目だ。

「ドロー。チャージ。戦場を駆け抜けろ。すべてを貫け。コスト6でBC(ボードコマンダー)Bホースを召喚。Bホースでハイパービーストに攻撃。TP(タクティスポイント)を6増加させる。さらに墓地のBC(ボードコマンダー)ドラゴンホースのNT(ナルタクティス)発動。ターンエンド」

 俺の七ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト8でダイヤモンドスパイク発動。ペルーダに使う。ターンエンド」

 ハイパービーストは破壊されるだろう。しかし好都合。そうなれば攻撃できるのはペルーダのみ。

 

 首長の八ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト8でブーストアンドチャージを発動。5枚ドローして一枚をコストゾーンに置く。BC(ボードコマンダー)ドラゴンホースでハイパービーストに攻撃。破壊。ターンエンド」

 次だな。

 

 俺の八ターン目だ。

「ドロー。コスト4で鯵テーターを召喚。コスト2でビーコンパラサイトを召喚。鯵テーターでドラゴンホースに攻撃。ビーコンパラサイトでドラゴンホースに攻撃。ターンエンド」

 ドラゴンホースの防御力は3、生命力は6。ペルーダの防御力では1余る。とてもおしい。

 

 首長の九ターン目だ。首長のデッキが光っている。

「ドロー。チャージ。コスト1でBC(ボードコマンダー)Pソルジャーを召喚。コスト8でBC(ボードコマンダー)ナリゴルド:タイプPを召喚」

NT(ナルタクティス)で出したわけじゃないから、ただの雑魚モンスターだな。コスト8でそのステータスはコスパ悪いんじゃないの?」

 NT(ナルタクティス)しても低いステータスだけどな。

 

 まあ破壊効果持ちだから割りと強いカードだけど。 

「場にBC(ボードコマンダー)と名のつくモンスターがいるときに手札からコスト0で発動できる。ナリガサネ。BC(ボードコマンダー)モンスターの上にBC(ボードコマンダー)モンスターを置く。Pソルジャーの上にナリゴルド:タイプPを乗せる。ナリゴルドで毒棘甲羅竜ペルーダに攻撃」

「させるか。鯵テーターに攻撃してもらう」

「鯵テーター破壊。ターンエンド」

 2ターンかければにわとりで倒せるけど、面倒くさいことに持ち駒とボードフィールドで蘇生できるからなぁ。

 

 俺の十ターン目だ。デッキの上が光ってる。

「ドロー。来たぜ。コスト8でカースアーマー発動。このカードに選択されたモンスターは戦闘時相手モンスターの効果を受けない。ペルーダを選択する。マグネットジャミングアーマーの効果発動。1ターンに1度自分のデッキもしくは墓地からコスト0でカーススパイクを発動してもよい。そうしたら自分のモンスター一体に1ダメージを与える。ペルーダは戦闘以外でダメージを受ける代わりに自らの生命力を6にする。カーススパイクはペルーダを選択する。ターンエンド」

 2ターン後が楽しみだな。

 

 首長の十一ターン目だ。

「希望を与えてへし折ろうとするのはやめた。逆らう気力を無くすために叩き潰す。ドロー。チャージ。コスト5で魔法発動。持ち駒。墓地の鯵テーターをデッキの一番下に戻して、コスト1のPソルジャーを召喚。ターンエンド」

「そんなの出しても役に立たねーんだよなぁ」

 なにがしたいんだよ。

 

 俺の十一ターン目だ。

「ドロー。チャージ。ターンエンド」

 ミスかな。放っておこう。

 

 首長の十二ターン目だ。

「ドロー。コスト5と生命力5で生命力保険不死身手当を発動する。Pソルジャーでペルーダに攻撃。もちろん破壊される」

「それだけじゃねえ。お前に8ダメージだ」

 本来なら倒せてたんだけど、不死身手当の効果で生命力が5だ。

「魔法発動。コスト4でセカンドクラッシュ。効果でペルーダを破壊する」

「セカンドクラッシュだと!?」

 確かにそれなら相手モンスターの効果じゃないから破壊できる。やられたな。

 

 ドロウ:生命力10→4

 

 カーススパイクとダイヤモンドスパイクの分で生命力が6も減った。一気に逆転されたぞ。

「ペルーダを山札の一番下に戻してコスト1のPソルジャーを召喚。BC(ボードコマンダー)ナリゴルド:タイプPでビーコンパラサイトに攻撃。破壊。Pソルジャーでプレイヤーに攻撃。ドラゴンホースでプレイヤーに攻撃。勝利だ」

 ドロウ:生命力4→0

 

 場がすっきりした。

「お前勝率悪くねえか。俺はこの間に二人ほど倒したぞ」

「セカンドクラッシュさえどうにか出来ていれば勝てていたんだ」

 普通BC(ボードコマンダー)にセカンドクラッシュは入らねえよなぁ。

 

 相性が良いからと油断していたのが敗因かもな。

「敗者には罰があル。デッキロック。ここから出るまで外から持ってきたカードの使用を禁ずル」

 カードが使えないようになってる。

「すみません首長。カードを使えません」

 首長たちが消えた。

 

 先に進む。

「カードが使えねえんじゃ危ねえぞ。俺が守らなきゃいけなくなるじゃんか」

「せいぜいがんばれ」

 先に進むとパックが乱雑に落ちていた。

 

 パックを拾う。

「ちゃんと金は払エ。万引きは直ちに射殺すル。金は床にでも置いておケ。パック二つにつき、金貨一枚ダ」

 金貨を4枚置いて、パックを八つ買う。

「これで四十枚揃った。大丈夫だろ」

 アサルトとかスペシャルとか訳のわからんカードもあったな。

 

 パックの落ちてる部屋を抜けると、たくさんの埴輪と石の人形が置いてある部屋だった。

「なんでこんなところに埴輪があるんだ」

「ガーディアンシステム作動。排除すル」

 デッキを構えた少女が現れた。その少女の見た目は人形のように整っていた。



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百四十四枚目 人形のように

更新サボってゴメンナサイ。コピペが面倒くさかったんです


 少女からは驚くほどの重圧を感じる。

「ここはビートダウンズの砦。我らが敵を抹殺すル。そこのふしだらな覆面からはビートダウンズの怨念を感じル」

「ふしだらだと。このファッションセンスが分からないとはセンスも古代だな」

 服着てないカシヨの方が古代的でしょ。原始人は服着なかっただろうし。文明人度は少女の方が遥かに高い。

 

 少女はデッキケースを上に投げて、上半身裸になった。

「ファっ!?」

 手で視界を塞ぐ。

「誘惑しようとしても無駄だ。俺はロリコンじゃない」

「よく見ロ。私は人間ではなイ」

 指の間から様子を見ると、少女の胸には人間にはあるべきものが付いてなかった。普通は男女平等に付いてるはずなのに。アニメでよくある謎の光や海苔がいらない子だ。

 

 少女の胸が観音開きする。

「なにもない……空っぽだ」

 中身はがらんどうであった。

「中身はないけど中身があル。私はビートダウンズ文明の守護者マンジュ・カエイ。ナンバーは56241」

 カエイは胸を閉じて、服を着た。カエイは落ちてきたデッキケースをキャッチして構える。

 

 空中に赤いバッテンが浮かぶ。

「デキマセン。デッキノ枚数ガ足リマセン」

「カードゴッド様のお言葉通りなら、デッキの枚数」

「そんなことないんだけどな。スペシャルとかアサルトとか変なの混じってたけど、ちゃんと40枚入れたぜ」

「敗者だからデッキも使えヌ。カードもなイ。仕方がなイ。これをやろウ」

 カードを15枚貰った。貰ったカードを即席デッキに入れる。

 

 赤いバッテンが消えると、カエイのデッキが赤く光った。

「よシ。見せしめとしてそこのちっこいのを壊ス。メイクファイトエントリー」

 カエイはひざまずく。カエイの膝から矢が飛んできて、俺の顔面を横切る。カエイは立ち上がった。

「さっさとしロ。時間稼ぎはさせン。警告のためにわざと外したが、次は当てル」

「ヒェッ」

「メイクファイトエントリー」

 死ぬほど痛い目に合うのと死ぬのじゃ痛い目の方がマシ。

 

 デッキの右横にカードの束が出来る。墓地はデッキの右上だからマジで何なのかわからん。

「お前もスペシャルデッキを使うのカ。スペシャルデッキは実力が高くないと使いこなせないハズ。勝率の低そうなお前が何でスペシャルデッキを使えるんダ」

「訳も分からず勝率低いって言われた俺の気持ちにもなってみろ」

 要するに普段使っているデッキとは別のものということだな。カードジョブオンラインには実装されていないんで分からなかったぞ。

 

 カエイの一ターン目だ。カエイのデッキの右横にもスペシャルデッキがあるな。

「チャージ。カードを二枚裏側にして置く」

「なんだそれは」

「目の前には周りとは土の色が違い、周りに土が積まれていル。危険であることは容易に想像できル。しかし進まねば勝てぬゆえに、歩まなければならヌ」

 どういうことだよ。

 

 俺の一ターン目だ。

「ドロー。なんだこれ」

 アサルトカードか。ふむふむ。アサルトカードは自分の場に裏側で置けば、次のターン以降コストを支払わずに使用できるのか。

「チャージ。カードを一枚場に置く。ターンエンド」

 カエイのカードもアサルトカードなんだろうな。今は手札が悪いので攻撃しない。

 

 カエイの二ターン目だ。

「ドロー。チャージ。アサルトカードを一枚発動。魔導講習。デッキからコスト1の魔法カードをサーチすル。LC(ロープコード)サーチをサーチ。コスト1で今サーチしたLC(ロープコード)サーチを発動。このカードは1ターンに一度だけ発動できル。デッキからLC(ロープコード)カードをサーチできル。LC(ロープコード)サーチをサーチ。ターンエンド」

 二枚目のアサルトを使用せず、場にはモンスターがいない。つまり二枚目のアサルトはダメージを受けないと使えないカードなんだろうな。露骨すぎるぜ。

 

 俺の二ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト2でメガチャージ発動。ターンエンド」

 カエイの三ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト1でLC(ロープコード)サーチを発動。LC(ロープコード)サーチをサーチ。ターンエンド」

 なにも来ない。

 

 俺の三ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト3でハイパービーストを召喚。ハイパービーストでプレイヤーに攻撃」

 カエイの職業は戦士だからハイパービーストじゃ傷をつけられない。しかしこの攻撃は意味がないように見えて意味があるのだ。それはアサルトの様子見が出来るということだ。

 

 カエイの口角が上がる。

「アサルトカード発動。LC(ロープコード)シェルスクラップ。手札からLC(ロープコード)カードを捨てることで、デッキからLC(ロープコード)カードを二枚手札に加えル。手札のLC(ロープコード)ストーンアイテムを手札から捨てて、LC(ロープコード)ハニワコマンドガールとLC(ロープコード)ガランドウマを手札に加えル。意味がない攻撃をして何になるんダ」

「ターンエンド」

 得してしまったか。

 

 カエイの四ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト2でLC(ロープコード)ガランドウマを召喚。ガランドウマの効果で手札のLC(ロープコード)を一枚捨てて、墓地のLC(ロープコード)を場に出す。この効果で場に出たモンスターはターン終了時にデッキの一番下に戻る。LC(ロープコード)ハニワコマンドガールを一枚捨てて、LC(ロープコード)ハニワコマンドガールを場に出す」

「インチキくせーな。コスト2でやることかよそれ」

「まだ終わらヌ」

 まだ先があるのかよ。 



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百四十五枚目 スペシャルモンスター

 カエイのデッキの右横のデッキが光った。

「スペシャルサモン。自分の場のハニワコマンドガールとガランドウマの上にこのカードを重ねる。LC(ロープコード)ハニワコマンドナイト」

 埴輪の馬にハニワコマンドガールが乗った。このハニワコマンドガール、どことなくカヘイに似てるな。

 

 ハニワコマンドガールは馬の上で剣を構える。

「ハニワコマンドナイトでハイパービーストに攻撃。インパクトスラッシャー」

 馬はハイパービーストを上に打ち上げた。ハニワコマンドガールは馬がブレーキをかけた勢いを利用してジャンプし、ハイパービースを空中で斬って消す。

「ターンエンド」

 ハニワコマンドガールは馬の上に着陸して乗った。

 

 俺の四ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト4でトリプルドロー発動。カードを一枚場に置いてターンエンド」

 手札にはフォーチュンテラーがいる。これでよし。

 

 カエイの五ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト5で陶片リサイクル発動。一ターンに一度自分の場のLC(ロープコード)を破壊して、コストを払い墓地のLC(ロープコード)モンスターを蘇生すル。ターンエンド」

 このアサルト二枚を恐れているのだろうな。

 

 俺の五ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト5で毒棘甲羅竜 ペルーダを召喚。ターンエンド」

 ハイパービーストを一撃で倒していたから攻撃力は5以上。しかし実質コスト2で出せるから一撃でペルーダを倒すことはできないだろうな。出来たらヤバすぎる。ベルエスはそれが出来たぶっ壊れだけど。

 

 カエイの六ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト1でLC(ロープコード)サーチ発動。そしてLC(ロープコード)ドグウコマンドガールをサーチ」

 あ、カードジョブオンラインの対象年齢引き上げの原因だ。

「コスト5でLC(ロープコード)ドグウコマンドガールを召喚」

 ムチムチボディーの美女が出てきた。露出度は少ないけど、体のラインが出てるからどエッチ……なはず。

 

 はずなんだけどなぁ。でもなぁんかいまいち興奮しないというかなぁ。

「段々とこの体に引っ張られてるのかな」

「何をぶつぶつト。ハニワコマンドナイトでペルーダに攻撃。インパクトスラッシャー」

 馬は高速で動き、急に止まる。慣性でハニワコマンドガールはぶっ飛び勢いのままペルーダに剣を叩きつけた。

 

 ハニワコマンドガールと馬はペルーダの棘が刺さる前に砕けた。

「ハニワコマンドナイトは二度目の攻撃の後に壊れル。コスト2でこんな高いステータスのモンスターをデメリット無しで出せて言い訳がないだロ。マナレシオ(カード性能のコスパ)を考えてくレ。ターンエンド」

 例えば実質コスト2で出せる高ステータスモンスターだけど、攻撃出来ないしカード使ったら生命力がすり減るし生命力が0になったら負ける滅龍アジ・ダハーカとかそこら辺も考えてあるのよね。

 

 俺の六ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト4で大地の秘術発動。ターンエンド」

 これでコストは9だぞ。

 

 カエイの七ターン目だ。

「ドロー。アサルトカード土に還る兵団を発動。墓地のLC(ロープコード)カードを五枚デッキに戻して二枚ドロー、コストを1加速すル。ただしこのターン攻撃が出来ヌ。墓地のLC(ロープコード)サーチ三枚とLC(ロープコード)ハニワコマンドナイトとガランドウマをデッキに戻ス。二枚ドロー。コストを1加速」

 これで終わりかな?

「コスト4でLC(ロープコード)チュウジツナドグウを召喚。効果でデッキからコスト2の種族:ガーディアンをサーチすル。LC(ロープコード)ガランドウマをサーチ。そのままコスト2で召喚。ガランドウマの効果でハニワコマンドガールを場に出す。スペシャルサモン。ハニワコマンドガールとドグウコマンドガールとチュウジツナドグウ三枚とLC(ロープコード)モンスター一体……ガランドウマの上にこのカードを乗せル。LC(ロープコード)埴輪仕掛け達の女神(デアエ・エクス・ハニワ)。ターンエンド」

 幾つもの土偶を節操なく混ぜたデザインと見せかけて、神々しい女神像を作り出していた。

 

 俺の七ターン目だ。

「ドロー。コスト8でダイヤモンドスパイク発動。ペルーダを選択。ターンエンド」

 カエイの七ターン目だ。

「ドロー。LC(ロープコード)埴輪仕掛け達の女神(デアエ・エクス・ハニワ)でペルーダに攻撃。粘土女神の神罰(クレイレイザー)

 埴輪仕掛け達の女神(デアエ・エクス・ハニワ)の手から光線が放たれてペルーダを焼く。

「ぐああああああ」

 この光線……すさまじく灼熱(あつ)い。人間に撃っちゃいけない奴だろ。

 

 ペルーダは焦げながらも棘を発射して埴輪仕掛け達の女神(デアエ・エクス・ハニワ)にひびを入れた。

「ターンエンド」

 何とかなるぞ。

 

 俺の八ターン目だ。

「ドロー。チャージ」

 ギロチンフェイスデビルがいればよかったが、そんなものはない。

 

 あっ。アサルトカードがあったな。忘れてた。

「アサルトカード発動。陽動の温存。このカードをコストゾーンに置く。二枚目のアサルトカード発動。バニラスペシャル。アイスフェアリーをデッキから二枚場に出し、そのモンスターを二体のみを使用してスペシャルサモンする。出でよ。淡雪の妖精。淡雪の妖精の効果発動。次の俺のターンの終わりまで互いに攻撃できない。カードを一枚場に置いてターンエンド」

 ペルーダは攻撃出来ねえし、淡雪の妖精は攻撃力と防御力が低いからデメリットになってないのよね。



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百四十六枚目 凍竜

 カエイの九ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト4でトリプルドロー発動。コスト2でガーディアンフィールド発動。種族:ガーディアンのモンスターのステータスが1ずつ上がル。ターンエンド」

「そいつも攻撃した後に自壊効果のあるモンスターか」

 その手のモンスターは不便だな。

 

 俺の九ターン目だ。

「ドロー。自分の場の魔法カード一枚の場を離れたときの効果を無効化して手札に戻し、自分の場のコスト5以上の種族:ドラゴンと淡雪の妖精をこのカードの下に重ねる。スペシャルサモン。凍竜アブソ竜トコールドラゴン。アブソ竜トコールドラゴンの登場時効果で全ての相手モンスターの効果にこのモンスターは攻撃できず、ダメージを与えられないを追加する。この効果は召喚したターンの次のターン終了時に無効化される。ターンエンド」

 アブソ竜トコールドラゴンの吐いた息で陶器製の女神の偶像が凍りつく。うひゃ~寒い。

 

 カエイがうつらうつらとし出す。

「一定温度を大幅に下降。これより強制的にハイテンションモードに移行しまス」

「機械って急激な温度低下に弱いんだったね」

「だが私はそんなポンコツどもとは訳が違ウ。高電圧(ハイテンション)モードに移行することでハンデモードを解除するノダ。そして本気を出セル」

「カードファイトとは関係のない要素がないと本気を出せないのか。難儀な奴だな」

 カエイのデッキが光る。

 

 カエイの十ターン目だ。

「行動パターン計算完了。デスティニードロー現象再現。ドロー。チャージ。コスト6でクワトロブースト発動」

「アサルトカード発動。エターナルバインド。このカードは場にある限り効果を持つモンスター一体の効果を無効化して攻撃を封印する。凍竜アブソ竜トコールドラゴンの効果を無効化する」

「自分のモンスターにソレを使うとはマヌケダナ。ターンエンド」

「ふふん。効果が無効化されるということは、召喚したターンの次のターン終了時に相手モンスターの攻撃できず、ダメージを当たられない効果を無効化する効果も無効化される。つまりお前の呼び出した粘土仕掛けの女神は永久に凍り付く。完全凍結(アイシクルフォール)

「なんだと」

 うわっ。すっごい寒くなった。

 

 こんな寒い戦い早く終わらせなきゃ。

「雪が積もってやがる。ぶえっくし。寒いぜ」

「そんな恰好してるからだぞ」

 手が震えてやがる。

 

 俺の十ターン目だ。

「俺のターン。ドロー。チャージ。魔法発動。コスト3でアサルトポッド。自分の場のアサルトカードを破壊して二枚ドロー。ターンエンド」

「そんなことをしたら凍竜アブソ竜トコールドラゴンの効果が発動シチマウダロ。バカダナ」

「凍竜アブソ竜トコールドラゴンの効果は召喚したターンの次のターン終了時に発動するからな。もう発動しないから永久に凍ったまんまだ」

「それはいくらなんでもひどすぎるだろ」

「凍竜アブソ竜トコールドラゴンをそんな使い方する奴は一人もいなカッタ」

 久々に褒められてうれしいな。

 

 カエイの十一ターン目だ。

「なぜなら誰も凍竜アブソ竜トコールドラゴンなんて入れてなかったカラナ。デスティニードロー。チャージ。カードを一枚場に置く。ターンエンド」

 何もやってこないのかよ。寒い奴だな。

 

 俺の十一ターン目だ。

「ドロー。コスト8でシックスナイトを召喚。コスプレイヤー効果で手札に戻して、プレイヤーに攻撃」

 カエイ生命力:10→6

「ターンエンド」

 あのアサルトカードはゆさぶりかな。ああ寒い。

 

 カエイの十二ターン目だ。

「デスティニードロー。アサルトカード発動。LC(ロープコード)トランス。効果でこのカードを自分の場のLC(ロープコード)モンスター一体の名前をコピースル。このカードをLC(ロープコード)埴輪仕掛け達の女神(デアエ・エクス・ハニワ)トナレ。LC(ロープコード)埴輪仕掛け達の女神(デアエ・エクス・ハニワ)を2枚このカードの下に重ねることでこのカードを場に出せマス。粘土の偶像によって導かれし真の神よ。顕現し、敵を打ち払え。LC(ロープコード)土神 ハニヤス。ターンエンド」

 それは神に相応しい姿だった。モンスターと言うにはあまりにも神々しかった。今までは寒いと思っていたのに今では畏怖だけを感じていた。

 

 俺の十二ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト8でシックスナイトを召喚。シックスナイトでハニヤスに攻撃。俺でハニヤスに攻撃。凍竜アブソ竜トコールドラゴンでハニヤスに攻撃」

「ハニヤス様の生命力は無くなラレタ。しかしハニヤス様は自らの下にあるカードを一枚デッキの一番下に戻すことで、場を離れず生命力を全回復スル」

「なんて効果だ。ターンエンド」

 倒しようがないな。

 

 カエイの十三ターン目だ。

「デスティニードロー。チャージ。コスト8でLC(ロープコード)リターン発動。効果で1ターンに一度墓地から自分の場のLC(ロープコード)モンスター一体の下にカードを置く。ハニヤス様でシックスナイトに攻撃。破壊。このカードは三回攻撃可能です。ハニヤス様でコールドラゴンに攻撃。破壊。そしてプレイヤーに」

 カエイの動きが急に止まって、寒くなくなった。

 

 場がすっきりする。

「ナンバー56241。個体名:マンジュ・カエイ。長時間の高電圧(ハイテンション)モード使用によりエネルギー不足。スリープモードスタート」

「メイクファイト続行不可能。ウィナードロウ」

 助かったぜ。

「こんなところで寝るなんて呑気な奴だな」

 呑気さに助けられた。



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百四十七枚目 デュアル

「 新しいデッキと今までのデッキをうまい具合に組み合わせれば、大幅に強くなるだろうな。

「すげえ熱光線食らってたけど大丈夫かよ」

「薬で抑えてるから大丈夫だろ」

「それもそうだな」

 本当はめっちゃ痛いけど今はこいつの前で本音を言いたくねえ。

 

 カシヨからたたんだ服をもらった。

「あと偶然服を見つけたぜ。要らねえからやるよ」

「ありがとう」

 この服前までの服と同じデザインだな。偶然揃うなんて気が合うね。

 

 積もった雪を踏みしめながら、カエイに近づく。

「着替えるなら俺の見えないところで着替えてくれ。それがマナーだからな。実はロリコンで興奮してしまうとかそういうのではない」

「分かってる。そうであってほしい」

 カエイにボロボロのスーツを着せた。このスーツボロボロになったから、服としてはもはや役に立たないのよね。ゴミを押し付けたってこと。

 

 物陰で服を着替えた。

「この服も久しぶりだな」

「ボディウォッシュシステム作動。ヒーリングシステム発動」

 身体が綺麗になった。痛いのもなくなったし爽快感がパナいね。この服さえあれば風呂に入らなくてもいいじゃないか。

 

 着替え終わって物陰から出た。

「これでよし」

「よかったな」

 メイクファイトはもう二度とやりたかないね。

 

 扉が現れた。

「この部屋のカエイをどうにかしないとここからは出られない仕組みだったのだ。それも分からずこの部屋にたどり着かず朽ちた者は皆触手の道に飾りとして置かれる。このアトラクション搭載型カードショップからはもう出られるぞ」

「壁で潰そうとしたり、骨を溶かす触手を配置したり、刃物で斬ろうとしたりするのがお遊びみたいなもんなのか。安全への意識が足らんな」

「何を当たり前のことを言っておるのだ。安全面へ意識するコストなんて無駄でしかない」

 古代文明ってヤバイな。安全面への意識がまるでない。

 

 扉をくぐると外だった。

「久しぶりの外だあ。感覚的に六日ぶりだああ」

「その十二分の一も経過してないぞ」

 適当に言ったことにマジレスしなくてもいいのに。

 

 遺跡の外には人がたくさんいた。

「先に来ておいてよかった。人がたくさん入ったあとだとあまり旨味がない」

 うまみ派はバカだな。

 

 さて次は何が起こるかな。

「こんにチワワ」

 カエイがたくさん現れた。

「こんにチワワ」「こんにチクワ」「ちくわ大明神」

「誰だ今の」

 いきなり後頭部が痛くなった」

 目の前にハニヤスとカエイがいた。

「あまりの神々しさ故に対戦者は現実逃避で都合のいい夢を見て夢の内容を説明してシマウ。これがハニヤス様の恐ロシサ。保護者さんに殴られてなかったら目覚めていなカッタゾ」

「誰が保護者だよ。いや保護したいから保護者で間違いはないのかな」

 幻に騙されていたってことか。

 

 俺の生命力を見る。

「うわっ。残り1じゃねえか」

 場のモンスターがいねえ。あるのはわけわからんアサルトカードだけとてもきついな。

「しかし都合のいい夢を見ていても、ドローとチャージとアサルトカードの伏せと生命力が0になった時のセンポクカンポクの霊薬をこなすのだからカードファイターの本能は恐ロシイ」

 改めて俺の十三ターン目はそのまま終わった。

 

 カエイの十四ターン目だ。

「世の中まるっと全部解決するウマイ話があるわけナインダヨナァ。ドロー。チャージ」

「黙ってろ。アサルトカード発動。……ネクロスペシャル。墓地からスペシャルモンスターを攻撃力0防御力0生命力1のモンスターとして場に出す。出でよ。アブソ竜トコールドラゴン。攻撃を封じる」

「ターンエンド」

 強いアサルトカードで良かったよ。

 

 スペシャルデッキが輝く。俺の十四ターン目だ。

「俺のターン。ドロー。チャージ。コスト2でネクロマスターの回収術。墓地からモンスターを一枚手札に戻す。コスト5でペルーダを召喚」

 スペシャルデッキを確認した。ちょうどいいカードがあったぜ。

「デスティニードロー現象はスペシャルデッキでも起コルノカ。知らナカッタ」

 こいついつも知らねえな。

 

 こいつを出すぜ。

「コスト5以上の種族:ドラゴンのモンスターと種族:ドラゴンのスペシャルモンスターをこのカードの下に置く。スペシャルサモン。デュアルフリーズドラゴン。このモンスターの元々のステータスは下にあるモンスターのステータスの合計値になる。そしてこのターンの間相手モンスター一体の効果をなしに上書きする。登場時効果も当然発動。アブソ竜トの遺志だ。再び凍てつけ」

「そんなバカナ」

「デュアルフリーズドラゴンでハニヤスに攻撃。デュアルフリーズブレス。ハニヤス破壊。ターンエンド」

 神々しさの溢れる偶像はあっけなく砕けた。余波でもすっげえ衝撃だ。人に撃っていい威力じゃねえ。

 

 カエイはあっさりターンを終えた。

「デュアルフリーズドラゴンでとどめ。命は取らん」

 カエイは所詮がらんどうの粘土人形だからな。躊躇いなく撃てる。

 

 扉が現れた。くぐると外に出ることができた。

「今度こそ本物だった」

 あとは服だな。ボロボロで最低限になってるから交換しねえとな。



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百四十八枚目 マジェスティックフェアリー

この回はよまなくてもいいです


 新パックをボックス買いしましたわ。

「ボックス買いすればレアなカードの一つや二つ当たりますの」

 パックを開封しますとアサルトカードやスペシャルカード等々不思議なカードたちが出てきましたの。

「ふふふ。ドロウ先生が戻ってきたらこのカードたちを差し上げましょう」

 スペシャルカード以外あまり強そうなカードがありませんの。

 

 このマジェスティックフェアリーというカードは特に強そうですわね。

「今すぐ使うというわけでもないですが、組んでみましょう」

 強いデッキを組めば大抵のことはどうにかなりますものね。

 

 強いデッキを組みましたわ。

「だいたいこのような感じでしょうか」

 カードを持って倉庫にしまいました。

 

 窓が割れましたの。

「カードハンターだ」

「ちょうど良かったですわ」

「なるほど。カードを奪われたかったのか」

 そういうことではないのですが……まあいいでしょう。説明しても怒りそうですものね。

 

 デッキを構えましたわ。

「「トバクファイトエントリー」」

 このデッキは強いのでしょうか。

 

 二ターン目までメガチャージ以外互いに何もしませんでしたわ。私の三ターン目ですわ。

「ターンスタート。ドロー。チャージ。コスト3でシャベル妖精を召喚しますわ。コスト2で妖精のお花畑発動ですの。ターンエンドですの」

 なにやら嫌な予感がしますので、攻撃しませんわ。

 

 カードハンターの四ターン目ですわ。

「ドロー。チャージ。カードを二枚場に置く。ターンエンド」

 それだけですのね。ステータスを底上げしている為、攻撃しても無意味ですからね。

 

 私の四ターン目ですわ。

「ターンスタート。ドロー。チャージ。コスト6でクワトロブーストをしますわ。ターンエンドですの」

 それにしてもあのカードハンターが場に裏向きで置いてあるカードが気になりますわね。

 

 カードハンターの五ターン目ですわ。

「ドロー。チャージ。アサルトカード発動。スペシャルサーチ。スペシャルデッキからスペシャルモンスター一体を見せる。そのスペシャルモンスターに記入されているモンスターをデッキから手札に加える。スペシャルデッキからヘルキメラを見せる。ヘルキメラに記入されているヘルサイトをデッキから手札に加える。コスト3でヘルサイトを召喚。コスト2でスケルトンソルジャーを召喚。ヘルサイトとスケルトンソルジャーをこのカードの上に乗せる。スペシャルサモン。ヘルスケルトン。ヘルスケルトンでシャベル妖精に攻撃。ターンエンド」

 スペシャルカードはそういう使い方ですのね。

「勉強になりましたわ」

 マジェスティックフェアリーをスペシャルデッキから出すなら、オベロンとタイターニアが必要ということですわね。

 

 私の五ターン目ですわ。

「ターンスタート。ドロー。チャージ。コスト1で逆転の術を発動しますわ。コスト6でタイターニアを召喚しますの。タイターニアでヘルスケルトンに攻撃しますわ。シャベル妖精でヘルスケルトンに攻撃しますわ。破壊」

「俺の切り札が、壊された」

 あの程度で切り札ですのね。

「ターンエンドですの」

 いやいやあれは嘘かもしれませんわね。

 

 カードハンターの六ターン目ですわ。

「ドロー。チャージ。コスト5でヘルバウンドリバース発動。相手ターン中自分の場のヘルと名の付くモンスターは攻撃力と防御力の数値が入れ替わり、反動を得る。ターンエンド」

「ネクロマスターの回収術を引くつもりですのね」

 破壊されたら墓地にいきますので、墓地から手札に戻せば手札に加えられるかもしれませんわね。

 

 私の六ターン目ですわ。

「ターンスタート。ドロー。チャージ。コスト7で妖精王オベロンを召喚しますわ。タイターニアでプレイヤーに攻撃ですわ」

「アサルトカード発動。ウィークネススペシャルウィーク。1ターンに一度防御力2以下のスペシャルモンスターを場に出せる。この効果は相手ターンでも使用可能だ。よみがえれ。ヘルスケルトン」

「シャベル妖精でヘルスケルトンに攻撃」

「無駄だ。防御力と攻撃力が入れ替わってるからな。反動もあるから破壊できる」

「ターンエンドですわ」

 これは少しよろしくない状況ですわね。

 

 カードハンターの七ターン目ですわ。

「ドロー。チャージ。ヘルスケルトンでタイターニアに攻撃。ターンエンド」

 私の八ターン目ですわ。

「ドロー。チャージ。コスト3でいたずら妖精 パックを召喚しますわ。そしてパックを破壊しますの。コストを1追加しますわ。パックとコスト2を使ってパックを召喚しますの。破壊してコストを1追加しますわ。タイターニアと妖精王オベロンをこのカードの下に置いてスペシャルサモンですわ。マジェスティックフェアリー。このカードがある限り自分のコストゾーンの種族:妖精のモンスターのコストを1減らして召喚できますわ。ただし私の種族:妖精以外のモンスターの召喚コストは3増えますわ。コスト1とパックでパックを召喚しますわ。そしてマジェスティックフェアリーが場にいるかぎり種族:妖精のモンスターが破壊されればコストゾーンにいきますの。コスト1でコストを1増やせますわ。ループ証明。十回ほど繰り返しますわ。ターンエンドですの」

「サレンダーする」

 場からモンスターが消え去りましたの。

 

 カードハンターからカードを投げつけられましたわ。

「追い出せてよかったですわ」

 疲れましたの。



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百四十九枚目 ワンショットキル

 新生デッキが出来た。

「あとは服だ」

「服なんて必要ないんだよなあ」

「最低限隠せてりゃいいお前とは違って、俺は最低限よりも隠さなきゃダメなの」

 全くもう。

 

 金もないし、追いはぎもしたくないのでしばらくは我慢かな。

「あ!」

「なんだよいきなりデカい声出して。うるせえよ」

「パックを開封しなかったら街のカード屋さんで売れたかも」

 カードゲームの古いパックは大抵プレミアとかついてるからな。そこまで考えが足りてなかった~。VRのカードゲームじゃ古いパックなんていくらでも開封できるから考えられなかったということにしておこう。そうじゃなきゃ俺がタダのバカになってしまうし。

 

 カシヨは首を振った。

「まあ売れないことはないが、パックの魔力の保存状態が悪いから買ったときより安く買われるぞ。売るより剥いた方がいい」

「そうなのか」

 ボロボロじゃなかったから保存状態やらどうやらは励ますために必死に考えたんやろなぁ。

 

 地面が揺れて突然薄暗くなった。

「おい。なんだあれ」

 後ろを向くと巨大な時計塔が建っていた。

「さっきまであんなの無かったぞ」

 あんなに大きいなら視界に入っててもおかしくはないからね。

 

 ブランクを掲げた。

「待ち時間はないな。あそこに入ってみようぜ」

「それもいいかもしれないな。一日に二度も古代遺跡を漁る経験は一生に一度も出来るかどうかだからな。それが新たな古代遺跡なら尚更だ」

 カシヨにお姫様抱っこをされる。

 

 え、な、でぇぅ!? 一瞬脳が働いてなかったが。ちょともう無理。

「この方が早いだろ」

「まあそうだけど。そうだけどさ」

 この腹の底から湧く怒りはなんだろう。

 

 多くの人が動く。

「俺が先だ」「いいや俺が先だ」「我先に」

「邪魔だ」

 カシヨはジャンプしてから煙を出す筒で辺りを煙に包む。

 

 古代遺跡の中に入った。

「あいつらは煙に包まれてるからしばらく入ってこられないだろ。自分で歩け」

「妨害するとはなんて奴だ」

 降ろされた。

 

 この塔は中が広いな。サッカーのピッチ四個分くらいかな。

「端の方に階段があるぞ」

 壁から少女が出てきた。顔がカエイとそっくりというか同じだな。服に56237と書かれているところしか違わない。

「カエイが沢山いるじゃないか」

 すごく面倒くさい。

 

 その少女は笑うようなしぐさをする。

「あんなのと一緒にするのはやめて欲しイナ。私の方が少し先に生まれたんダゾ。私のナンバーは56237。マンジュ・ブンカ。ちょっと生まれが重要なんダゾ」

「56200も作られたのにたかが4つ先のナンバーにこだわるのか。小物だな」

 怒りの波動を感じる。

 

 少女は地団駄を踏む。

「なんダトー。倒してヤルー。トゥルーファイトエントリー」

「無能なのに先に生まれただけで威張りやがってよ。どこかの誰かを思い出してムカつくんだよ。トゥルーファイトエントリー」

 そういやカシヨにはアメラという姉がいたな。さん付けで呼ぶことを止めさせる位のオーラはあるけど、無能じゃないだろ。いや好きなカードをひけるカシヨから見たらカードファイトの出来ないアメラは無能に見えるのかもな。

 

 ブンカの1ターン目だ。

「ドロー。チャージ。カードを一枚場に置いてターンエンド」

「アサルトか」

 見た限りカエイと同じ型だから

 

 カシヨの1ターン目だ。

「ターンスタート。ドロー。チャージ。コスト1で魔を導く者を召喚。ターンエンド」

 ブンカの1ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト2でメガチャージ発動。私で魔を導く者に攻撃。破壊」

「魔を導く者の効果で大アルカナをサーチ」

「ターンエンド」

 好きなカード引けるくせに大アルカナがなかったのか。

 

 カシヨの2ターン目だ。

「俺のラストターン。ドロー。チャージ。コスト1で大アルカナを発動。小アルカナを発動。コストを1減らしてアルカナンバーロストザ・フールを召喚。大アルカナの下に置いてドロー。アルカナンバートゥエンティ ザ・ジャッジメントをドローした。カードの効果で手札に加わったので大アルカナの下に置く。ザ・フールの効果発動。山札の上をめくれ」

 互いに山札の上をめくった。

「コスト1 ザ・フール」

「コスト5 ハニワコマンドガール」

 ブンカは一枚ドローした。

 

 こいつワンショットキルをしようとしてるぞ。

「ジャッジメントの効果で手札に加わったザ・ワールドの効果発動。コスト0で召喚。カードの下に置いて一枚ドロー。山札をめくれ」

 互いに山札をめくった。

「コスト2 ガランドウマ」

「コスト1ザ・フール。ジャッジメントの効果でコスト21にする。いっぱいアルカナンバーが置かれていっぱいドロー。ザ・ワールドの効果で大アルカナの下のザ・サンの効果発動」

「コスト6 クワトロブースト」

「コスト14 ザ・テンパランス。お前のターン終了時俺が勝つ。ターンエンド」

 ブンカは何も出来ずターンを終えて負けた。

 

 ブンカがポカンとしてる間に上の階に上がる。

「ソリティアなら壁とやれよ」

「こんなことはしたくなかったけど、あいつはもっとムカつくからなぁ」

 犯罪者の言い訳だ。



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百五十枚目 カードファイトロボット

 二階は巨大迷路の入り口だった。看板に何か書いてあるぞ。

「棘が生える壁があるので、手で壁を伝ってゴールにはたどり着けません。あと巨大迷路の中をうろついているカードファイトロボットを三体倒さないと出られませんよ。それに壁も壊せないようになってるからね」

 なるほどなあ。そういう対策がうまくできているという訳だ。

「そして二人以上いる場合、一人になるまで上の観覧ボールの中に収納される。声は届きやすくなるので上からサポートをするのがよいだろう」

 カシヨが浮かび上がって、透明なボールに閉じ込められた。

 

 迷路の中に入った。

「ここからなら上から迷路が丸わかりだな。まずは右に行って曲がり角を曲がれ」

「あいよ」

 右に行って曲がり角を曲がると行き止まりだった。

 

 あいつめ。ふざけんな。

「行き止まりじゃねーか。ふざけんな!」

「すまねえな。さっきまでそこに誰かいたんだ」

「この程度の変装も見破れぬとは先が思いやらレルナ」

 壁から薄皮が剝がれて、カエイのそっくりさんが現れた。カードファイトロボットってそういう見た目なんだね。

 

 カエイのそっくりさんは腰の剣を抜いた。

「私はナンバー56225。個体名マンジュ・ショウトク。私のカードデッキはコレダ。あとこれをヤロウ」

 ショウトクは剣を横向きに振って剣から手を離す。剣は宙に浮いていた。

 

 ショウトクから服を投げ渡される。

「それは死に装束ダ」

「上を着る必要ないからといって服を脱ぎ渡すとはなんてやつだ」

 服を脱いで投げ渡された服を着た。

 

 ショウトクの全身がいきなりムキムキになる。

「メイクファイトエントリー」

「メイクファイトエントリー」

「対戦時のみ観覧ボールから声が届かなくなりまーす」

 俺のデッキが赤く光った。

 

 ショウトクの両腕から腕輪が出てきた。凄く重そうな見た目だ。

「私の職業はヌーブだ」

「俺はコスプレイヤーね」

 ヌーブなんてあらゆる職業の下位互換なんだよなあ。つまりわざわざ使うだけの理由があるってことだな。

 

 俺の一ターン目だ。

「チャージ。場にカードを一枚置いてターンエンド」

 一ターンはしのげる。

 

 ショウトクの一ターン目だ。

「ドロー。チャージ。場にカードを4枚置く。ターンエンド」

 防御型だな。

 

 俺の二ターン目だ。

「ドロー。チャージ。アサルトカード発動。陽動の温存。このカードをコストゾーンに置く。コスト3でハイパービーストを召喚。ハイパービーストで攻撃」

「アサルトカード発動。ミントリーフ。デッキからエレメントミントを二体場に出す。そしてそのモンスター二体のみを使用してスペシャルデッキからモンスターを出す。スペシャルサモン。ミントスイート」

「ぐぬぬ」

 ハイパービーストはいきなり現れた緑色のロボットにひびを入れて戻ってきた。

 

 いきなりピンチだな。

「アサルトカード発動。超鋼霊刀(チョコレートウ)。自分の場の種族:妖精のモンスターを選択スル。ミントスイートを選択」

「カードを一枚場に置いてターンエンド」

 まずいぞ。

 

 ショウトクの二ターン目だ。

「ドロー。チャージ。自分の場の超鋼霊刀(チョコレートウ)とミントガーディアンの上にこのカードを乗せる。スペシャルサモン。チョコミントスイート」

 緑色のロボットが崩れて中から青緑色の髪をした女の子が現れた。

 

 女の子は地面に落ちていた超鋼霊刀(チョコレートウ)を拾う。

「私の場にチョコミントスイートが存在している時、相手は直接攻撃出来るようニナル。チョコミントスイートでハイパービーストに攻撃」

「アサルトカード発動。バニラスペシャル。アイスフェアリーをデッキから二枚場に出し、そのモンスターを二体のみを使用してスペシャルサモンする。出でよ。淡雪の妖精。淡雪の妖精の効果発動。次の俺のターンの終わりまで互いに攻撃できない」

「ターンエンド」

 ショウトクの口からギリッという音が出る。

 

 俺の三ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト4でトリプルドロー発動。カードを一枚場に置く。ターンエンド」

 ショウトクの三ターン目だ。

「時間稼ぎも活かせないとは何たるザマダ。ドロー。チャージ。コスト4でトリプルドロー発動。チョコミントスイートでハイパービーストに攻撃。破壊。ターンエンド」

 次は淡雪の妖精だな。

 

 俺の四ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト6でネクロドラゴン召喚。効果で墓地のモンスターを一枚手札に加える。コスト5以上のドラゴンと淡雪の妖精をこのカードの下に置く。スペシャルサモン。凍竜アブソ竜トブリザードラゴン。アブソ竜トコールドラゴンの登場時効果で全ての相手モンスターの効果にこのモンスターは攻撃できず、ダメージを与えられないを追加する。この効果は召喚したターンの次のターン終了時に無効化される。場にカードを置く。凍竜アブソ竜トブリザードラゴンでプレイヤーに攻撃」

「アサルトカード発動。5サーチ。デッキからコスト5のモンスターを手札に加エル。フォーチュンテラーを手札に」

 ショウトク:生命力10→4

「フォーチュンテラーの効果でフォーチュンテラーを場ニダス」

 何だ。今のところ気味が悪いほど順調だぞ。変だな。



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百五十一枚目 インフィニティガード

 俺はターンを終えた。ショウトクの四ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コストを支払わずに手札から場に出したコスト5のモンスターとスイートと名の付くスペシャルモンスターを破壊し、生命力を1にすることでコスト1でこのモンスターを召喚デキル。フォーチュンテラーとチョコミントスイートを破壊。コストを30減らしてコスト1でスイートオブアマンスを召喚。このモンスターがいる限り相手プレイヤーは私を攻撃対象として選ぶことがデキル」

「生命力1なのに防御をスカスカにするなんて何考えているんだ」

 自爆デッキかな?

 

 でもショウトクはにやついてるし、なんかあるんだろうな。

「アマンスでアブソ竜トブリザードラゴンに攻撃」

「アサルトカード発動。エターナルバインド。このカードは場にある限り効果を持つモンスター一体の効果を無効化して攻撃を封印する。スイートオブアマンスの効果と攻撃を封印」

「スイートオブアマンスの効果発動。このカードが選択された時、相手の場の魔法カードもしくはアサルトカードを破壊してプレイヤーの生命力を10回復スル。エターナルバインド破壊。アイスクリームショック」

 エターナルバインドのカードから出た鎖がアイスクリームになってショウトクの手元にテレポートした。ショウトクはアイスクリーム片手にカードをいじる。カードベタベタになるからやめようね。

 

 というかロボットなのにアイスクリーム食べても大丈夫なんだね。

「しかしながら攻撃は無効化サレタ。カードを一枚場に置いてターンエンド」

 厄介な奴だ。カードを選択するカードが魔法カードとアサルトカードを除去できるカードに早変わりしたからな。

 

 俺の五ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト5で毒棘甲羅竜ペルーダを召喚。コスト5以上の種族:ドラゴンのモンスターと種族:ドラゴンのスペシャルモンスターをこのカードの下に置く。スペシャルサモン。デュアルフリーズドラゴン。デュアルフリーズドラゴンでスイートオブアマンスに攻撃。デュアルフリーズブレス」

「アサルトカード発動。デスマッチチェーン。このカードが場にある限り互いにプレイヤーしか攻撃対象に出来ナイ」

「デュアルフリーズドラゴンでプレイヤーに攻撃。デュアルフリーズブレス」

「アサルトカード発動。モンスターファイト。このカードがある限り場にモンスターがいてモンスターに直接攻撃される場合生命力を1支払うことで受けるダメージは0ニナル。これぞ無敵のコンボ。インフィニティガード」

 厄介なコンボだ。

 

 ショウトクの五ターン目だ。

「ドロー。チャージ。アマンスでプレイヤーに攻撃」

 攻撃力は1以上あるのは確実。

「モンスターファイトの効果発動。生命力を1支払い受けるダメージを0にする」

「ターンエンド」

 何かごっそり吸われてる感がはんぱないだけだから、あと9ターンは耐えられる。

 

 俺の六ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト4でトリプルドロー。デュアルフリーズドラゴンでプレイヤーに攻撃」

「モンスターファイトの効果発動」

「アサルトカード発動。ターンエンド」

 ショウトクの方が生命力は多いから、このままじゃジリ貧だ。

 

 ショウトクの六ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト6でクワトロブースト発動。アマンスでプレイヤーに攻撃」

「モンスターファイトの効果発動」

「ターンエンド」

 ここでなんか引かねえとヤバイぞ。

 

 俺の七ターン目だ。

「ドロー。コスト7で焼鳥屋に賛成するにわとりを召喚。コスプレイヤー効果で手札に戻してステータスコピー。俺はプレイヤーに攻撃する」

「見破ってキタカ。直接攻撃されたとき手札からヘルガードマンを捨てることで効果発動。このターン中相手プレイヤーの攻撃力を0ニスル」

「デュアルフリーズドラゴンでプレイヤーに攻撃」

「モンスターファイトの効果発動」

「ターンエンド」

 ショウトクの削るペースより俺の削るペースの方が早い。勝ったな。あとはアサルトカードと魔法カードを使わなきゃいい。そうすれば生命力も回復できない。ついでの除去が仇となったな。

 

 このまま生命力を削りきって勝った。同じような絵面だったから退屈だったな。

「これはメイクファイトダ。生命力を削れば疲れガデル」

 重力が二倍になったかのように体が重くなる。

「重……い」

 今までカードファイトに夢中でこの辛さに気がついていなかったのか。

 

 ショウトクの体が元に戻る。ショウトクがアイスクリームを向けてきた。まだ溶けてなかったのか。

「私の体温は低いからアイスクリームは溶ケナイ。このアイスクリームをヤロウ」

「ありがとう」

 受け取ろうとしたらショウトクの手からアイスクリームが落ちた。

 

 服にアイスクリームがつく。

「白いのがベタベタ張り付いてるじゃん。落ちなかったらどうするんだ」

 ショウトクが倒れていた。

「俺が……やったのか?」

 命を気軽に奪ってしまった。

 

 とてもマズイ。

「で、でも先にメイクファイトを仕掛けてきた方が悪いんだもんね。そうだよ。そうにきまってる」

 まさかこうなるなんて。



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四百五十二枚目 ハイパーお茶目

 いや冷静になれ。まだ死んだかどうか分からん。

「確認しなきゃね」

 脈もねえ。体も冷たい。息もしてない。

 

 ショウトクは起き上がった。

「ゾンビだ」

「元から命がないがらんどうの人形なので死にマセーン。がらんどうだから息も脈もなくて当然デース。私はハイパーお茶目サン」

 冷静に考えたらそうだよね。まあそうだ。焦ったぁ。

 

 やってることが不謹慎すぎるんだよなあ。

「さっきまでとキャラ違くねえか」

「所詮さっきまではキャラ作ってただけだカラナ。そもそもこういう娯楽施設でキャラ作ってない奴なんてあまりイナイゾ。今は撃破されて仕事が終わったので素を出シテイル。壁があるなら手を鳴ラセ」

 壊しておいたほうが良かったかな。

 

 その場から離れた。

「良く倒せたな。戻って直進して左に曲がれ」

 また行き止まりだった。またどっかにカードファイトロボットが隠れてるんだろうな。

 

 でも膨らんでる壁がないぞ。

「そこにカードファイターはいないぞ。ただその壁の向こう側に道がある」

「そりゃあるだろ。道に接している壁がない迷路なんてないぞ」

「そこ以外すべて行き止まりだからそこが怪しい」

 すべて行き止まりかー。そう言えばショウトクが壁があるなら手を鳴らせと言っていたな。

 

 手を叩く。

「何も起こらないじゃないか」

 やっぱあいつ壊しておくべきだったな。

「よく分かったね」

 右の壁がバラバラに崩れた。

 

 崩れた壁の向こう側に行く。

「壁があるから曲がるとさっきまでいたところの向こう側になるってわけだ」

 壁の瓦礫が音を鳴らす。

「迷わせたいんだか迷わせたくないんだかよく分から……急いでしゃがめ!」

 急いでしゃがんだ。

 

 転がって立ち後ろを見ると、ナイフを持った石像がいた。

「こいつビートダウンズの人間か。そっかいるよな。ここビートダウンズの遺跡だもんな」

 なんで壁の中に人間がいるのか分からないけどな。発覚したら大問題だろ。

 

 しかも崩れるギミックのある壁の中に人間埋めるのかよ。

「クアアアイ。サス、サス」

 石像はやたらめたらにナイフを振り回す。これ下手に動く方が当たりそうだな。移動は一定の距離を保つために後ろに下がるだけにしよう。

「メイクファイトで体も記憶もデッキでも奪えば余すことなく使えるのに、殺すなんて勿体ねえ」

「それがナイフ振り回されながら言うセリフかよ」

 一回死んでるし、痛い目には何度もあってるからどこか思考が客観的なのかもしれない。

 

 デッキを構えたが、なんの反応もない。

「なるほど。デッキを持てない体質か。たしか昔は五千人に一人の確率だったんだっけ」

 でも古代文明の遺跡はデッキを持てることを前提にした作りだ。どこか違和感がある。

 

 ビートダウンズ文明といいアタラシアといいどこか闇があるな。

「カードファイター……抹殺抹殺抹殺ゥ!」

 ペルーダを出して攻撃されないようにする。人間じゃモンスターに勝つのは難しいからな。

「待て。そこまでカードファイターを憎むようになった理由を教えてくれ。理由次第じゃ斬られてやってもいい」

 ~してやってもいい系のセリフは確実にしない時のセリフだ。やらなくても嘘は着いていないのである。

 

 石像の動きが止まった。

「ハナソウ」

「早くしろ」

「初めはカードを使う忌まわしき人間はいなかった。カードを使う力とは忌まわしき魔族の力だからな」

 魔族か。モンスターの上位種的なアレかな。この世界にもいたのか。というか急に流暢になるじゃん。

 

 折角だから色々聞いてみよう。カシヨも文句を言ってこないしな。

「じゃあアタラシアもそれと関係があるの?」

「アタラシアと言う言葉も元は魔族の言葉で古きものの殲滅という意味だ」

「そうなんだ」

 謎が増えた。

 

 石像は何かを置くジェスチャーをする。

「我らは様々な武器で魔王を倒して魔族を殲滅した。すると今度はカードを操れる忌まわしき子ども達が現れた。初めはそういうのはちゃんと駆除出来ていた。しかし生まれるペースは増え続け駆除出来なくなってきた」

 駆除だと。傲慢な言い回しだ。

 

 石像はナイフを投げてきた。ナイフを受け止めて投げ返す。

「突如異世界から次元の巫女と自称する存在が現れた。そいつはカードファイターどもを奴隷として調教するから買い取らせてほしいと言った。これが不幸の始まりだったのだ。結果として世界中のカードファイターが集まり、この文明を作りだし世界中のカードを使えない人間を蹂躙していった。モンスターを生み出せるやつらと勝負しても勝てるわけがなかったのだ」

「それでなんで壁に埋まってたの?」

 そこが気になる。話が壮大になっても結局はそこだ。

 

 石像は笑った。

「それはカードファイター達が倒した人間を石像にしていったからだ。俺も倒されて石像にされてこのアトラクションのパーツになった。後に自分達が石像になったりするのは皮肉が聞いてるというかなんと言うか。話し終わったから斬らせろ」

「やだね。人間を駆除するという傲慢な言い回しが気に入らなかった」

 ペルーダに歩かせることで、刺されるのを防ぐ。



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百五十三枚目 カードファイターシャチ

 石像がいなかったのでペルーダを消した。

「これでよしっと」

「この先行き止まりしかねえぞ」

 どうせからくり扉みてえに壁がくるりと回って、先に行けるみてえな感じだろ。

 

 行き止まりの壁を蹴ると、回転した。

「そういう仕組みか」

 それからカシヨの指示通りに迷路を歩んでいった。

 

 この迷路やたら仕掛けがあったりするから、迷う人は一生迷うよなぁ。

「うおっ」

 振り子のギロチンをすんでのところで避けた。

 

 髪が少し切れた……。

「あっぶねえな」

 死ぬかと思ったよ。

 

 ギロチンを避けながら、進み行く。

「殺意が溢れる仕掛けだな。ガチ目のトラップを仕掛けるとはなかなかやる気溢れてるじゃねーの」

「皮肉言ってる場合か」

 おっそうだな。

 

 ギロチンエリアを抜けると、尾で立ってるシャチがいた。

「カードファイトをする系の動物か。別に珍しくもないな」

 陸にシャtがいるのは珍しいけど、取り立てて騒ぐほどでもないし。

「フラム伯爵領にはそんな野生動物はたくさんいるしな」

 カードファイトをする熊とは一度戦ったことあるし。あいつは強敵だったよ。

 

 シャチはデッキを構えた。

「キュイイイ」

「お、おう。カードファイトエントリー」

 デッキを構えるとシャチのデッキが赤く光った。

 

 シャチの一ターン目だ。

「自動翻訳モード開始」

「キュイイイ(商人ね)」

「コスプレイヤー。動物とカードファイトするときは、カードファイトする前から自動翻訳モード開始してくれよ」

「キュイイイ(吾輩のターンスタート。チャージ。ターンエンド)」

「キュイキュイうるせえ。超音波で話せよ」

 まったく耳に悪いんだから。

 

 俺の一ターン目だ。

「ドロー。チャージ。場にカードを一枚置く。ターンエンド」

 シャチの二ターン目だ。

「(吾輩のターンスタート。ドロー。チャージ。コスト2でスケルトンソルジャーを召喚。スケルトンソルジャーでプレイヤーに攻撃)」

 あああああもうやだあああああ。

「アサルトカード発動。陽動の温存。このカードをコストゾーンに置く」

 ドロウ生命力:10→8

「(カードを一枚場にいてターンエンド)」

 お化けは勘弁してくれ。

 

 俺の二ターン目だ。

「目をつぶってドロー。チャージ。コスト3でハイパービーストを召喚。ハイパービーストでスケルトンソルジャーに攻撃」

「(アサルトカード発動。冥海輪廻。自分の場のコスト2以下のモンスターを破壊して、コスト3以下の冥海と名の付くモンスターをデッキから召喚する。スケルトンソルジャーを破壊して冥海賊の人魚を場に出す)」

 目を開けた。カトラスとフリントロック銃を持ったマーメイドがいた。

「ターンエンド」

 冥海か……厄介だな。冥海は墓地利用がうざいんだよなあ。

 

 シャチの三ターン目だ。

「(吾輩のターンスタート。ドロー。チャージ。コスト2で冥海の補給人魚を召喚。効果で冥海モンスターを破壊して1枚ドロー。冥海賊の人魚を破壊。ターンエンド)」

 俺の三ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト4で大地の秘術を発動。ハイパービーストで冥海の補給人魚に攻撃。破壊。ターンエンド」

 これで次のターンにわとりが出せる。

 

 シャチの四ターン目だ。

「(吾輩のターンスタート。ドロー。チャージ。コスト4で魔海のはぐれ者 バーマ湖の悪魔の効果発動。三枚ドロー。ターンエンド)」

 これで奴の場はがら空きだ。

 

 俺の四ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト6でクワトロブースト。ハイパービーストで攻撃。ターンエンド」

 シャチ生命力:10→8

 

 シャチの五ターン目だ。

「(吾輩のターンスタート。ドロー。チャージ。コスト4で冥海のイカリを召喚。冥海のイカリの効果で墓地のコスト3以下の冥海モンスターを墓地から場に出す。出でよ冥海の補給人魚。冥海の補給人魚の効果で自身を破壊して一枚ドロー。冥海のイカリでハイパービーストに攻撃。ターンエンド)」

 俺の五ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト7で焼鳥屋に賛成するにわとりを召喚。コスプレイヤー効果で手札に戻して、ステータスコピー。俺は冥海のイカリに攻撃する。破壊。ターンエンド」

 シャチは尾でぴちぴち跳ねる。

 

 シャチの六ターン目だ。

「(吾輩のターンスタート。ドロー。チャージ。コスト6で冥海のシュモクザメを召喚。自分の場の冥海モンスター一体を破壊して一枚ドローし、デッキから一枚種族:マーフォークのモンスターを手札に加える。冥海のイカリを破壊して、ドロー。墓あさりをサーチ。冥海のシュモクザメでハイパービーストに攻撃。破壊。ターンエンド)」

 墓あさりと冥海は相性がいい。墓あさりは墓地肥やし+種族:マーフォークだからな。

 

 俺の六ターン目だ。

「ドロー。チャージ。カードを一枚場に置く。コスト7で焼鳥屋に賛成するにわとりを召喚。にわとりでシュモクザメに攻撃。俺もシュモクザメに攻撃する。破壊。ターンエンド」

 シャチの七ターン目だ。

「(吾輩のターンスタート。ドロー。チャージ。コスト5で墓あさりを召喚。デッキから三枚墓地に落とす。墓地に送られたヘルゴーストの効果発動。デッキからコスト2以下のモンスターを墓地に置く。タクロウライターを墓地に。タクロウライターの効果を三連続で使用してタクロウライターを四枚墓地に。一気に七枚墓地加速だ。ターンエンド)」

 すげえコンボだな。



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百五十四枚目 シャチ

 俺の七ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト5で毒棘甲羅竜 ペルーダを召喚。ターンエンド」

 シャチの八ターン目だ。

「(我輩のターンスタート。ドロー。チャージ。コスト4でアンゼブースト発動。3枚ドローして2枚墓地に送る。ターンエンド)」

 なにも来ない。必死こいて準備してんのか。

 

 俺の八ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト6でカモンゴブリンナイトを発動。コストが合計4以下になるようにデッキから種族:妖精のモンスターを場に出す。コスト2のアイスフェアリーを2枚場に出す。スペシャルサモン。淡雪の妖精。次の俺のターン終了時まで互いに攻撃出来ねえ。ターンエンド」

 次のターンで淡雪の妖精とペルーダを使って、ブリザードラゴンを出す。

 

 シャチの九ターン目だ。

「(吾輩のターンスタート。ドロー。チャージ。コスト8でシックスブースト発動。6枚ドロー。ターンエンド)」

 俺の九ターン目だ。

「ドロー。淡雪の妖精とコスト5以上の種族:ドラゴンのモンスターの上にこのカードを乗せる。スペシャルサモン。凍竜アブソ竜トブリザードラゴン。凍竜アブソ竜トブリザードラゴンの効果発動。全ての相手モンスターの効果にこのモンスターは攻撃できず、ダメージを与えられないを追加する。この効果は召喚したターンの次のターン終了時に無効化される」

 冥海モンスターが凍り付く。

 

 絵面が少しマズいな。

「コスト4でトリプルドロー発動。カードを一枚場に置く。ターンエンド」

 手札にはネクロドラゴンがいるから次のターンコイツを出せばデュアルフリーズドラゴンを出せる。それにエターナルバインドを場に置いたから攻撃を永遠に封じられる。

 

 シャチの十ターン目だ。

「(吾輩のターンスタート。ドロー。チャージ。コスト4で冥海のウツボを召喚。自分の場の種族:マーフォークを3枚以上墓地に送ることでスペシャルサモンできる。吾輩の場のモンスター全て墓地に送る。供物によって現れよ。スペシャルサモン。冥海の使者)」

 凍り付いた冥海モンスターがうず潮に吞み込まれ、うず潮から宙に浮いた舵輪が現れた。舵輪の周りにたくさんの魚が現れる。

「(冥海の使者で攻撃。冥海の使者は攻撃時に自分の墓地の冥海の使者以外の冥海モンスターを墓地から場に出して、破壊する。現れよ。冥海のイカリ。冥海のイカリの効果で墓地のコスト3以下の冥海モンスターを墓地から場に出す。出でよ冥海の補給人魚。冥海の補給人魚の効果で自身を破壊して一枚ドロー。冥海のイカリ破壊)」

「アサルトカード発動。エターナルバインド。冥海の使者を選択。効果と攻撃を封印」

「ターンエンド」

 ギリギリセーフだな。

 

 俺の十ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト7で焼鳥屋に賛成するにわとりを召喚。にわとりで冥海の使者に攻撃。俺は冥海の使者に攻撃する。ターンエンド」

 シャチの十一ターン目だ。

「(我輩のターンスタート。ドロー。チャージ。墓地の冥海モンスターの数だけ召喚コストを減らして召喚。コスト0で冥海の墓クジラを召喚)」

 うず潮が現れた。

 

 冥海モンスターが組み合わさってクジラを作り出していき、うず潮が消える。

「(墓クジラで凍竜アブソ竜トブリザードラゴンに攻撃。ターンエンド)」

 俺の十一ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト6でネクロドラゴン召喚。ハイパービースト回収。コスト5以上の種族:ドラゴンのモンスターと種族:ドラゴンのスペシャルモンスターをこのカードの下に置く。スペシャルサモン。デュアルフリーズドラゴン。このモンスターの元々のステータスは下にあるモンスターのステータスの合計値になる。そしてこのターンの間相手モンスター一体の効果をなしに上書きする。登場時効果も当然発動。アブソ竜トの遺志だ。再び凍てつけ。コスト3で無限ラッシュ発動。デュアルフリーズドラゴンで冥海の墓クジラに攻撃。デュアルフリーズブレス」「(墓地のネクロンダーの効果発動。このカードをデッキの一番下に戻して攻撃を無効にする)」

「ターンエンド」

 墓あさりの効果で送った奴か。

 

 シャチの十二ターン目だ。

「(我輩のターンスタート。ドロー。チャージ。ターンエンド)」

 俺の十二ターン目だ。

「ドロー。チャージ。デュアルフリーズドラゴンで墓クジラに攻撃。デュアルフリーズブレス」

「(コスト6でマーメイドの泡。デュアルフリーズドラゴンの攻撃力を0にする)」

「俺は冥海の墓クジラに攻撃する。にわとりで冥海の使者に攻撃。ターンエンド」

 マーメイドの泡か。

 

 シャチの十三ターン目だ。

「(我輩のターンスタート。ドロー。チャージ。コスト5でテレポートアタック。冥海の使者の攻撃力を0にして冥海の墓クジラの攻撃力を半減する。コスト6でダブルアタック。冥海の墓クジラは二回攻撃が出来る。冥海の墓クジラでプレイヤーに二回も直接攻撃。カードを二枚場に置いてターンエンド)」

 ドロウ:生命力10→7→4

 

 俺の十三ターン目だ。

「いきなりピンチになったところでドロー。チャージ。俺で冥海の使者に攻撃。破壊」

「(アサルトカード二枚一気に発動。エターナルバインド。にわとりとデュアルフリーズドラゴンに)」

「ターンエンド」

 面倒なことだ。

 

 シャチの十四ターン目だ。

「(ドロー。チャージ。コスト4で冥海のイカリを召喚。効果は使わない。冥海のイカリでデュアルフリーズドラゴンに攻撃。破壊)」

「そうか。効果を無効にしてるからステータスを合計する効果も無効になってステータスが低くなってんだ」

 やるな。



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百五十五枚目 人外対決

 感心してる場合じゃねえまだ攻撃が残ってやがる。

「(冥海の墓クジラでにわとりに攻撃。一つ足りずにターンエンド)」

 あっぶね。

 

 俺の十四ターン目だ。

「ドロー。チャージ。俺は冥海のイカリに攻撃。破壊。ターンエンド」

 シャチの十五ターン目だ。

「(吾輩のターンスタート。ドロー。チャージ。冥海の墓クジラでにわとりに攻撃。破壊)」

「コスト4でセカンドクラッシュ発動。墓クジラも破壊」

「(そう来ましたか。これで吾輩の場には何もない。ターンエンド)」

 流れはこっちに来た。勝てる。

 

 俺の十五ターン目だ。

「ドロー。チャージ。俺はコスト7で焼鳥屋に賛成するにわとりを召喚。コスト6でネクロドラゴン召喚。俺とにわとりでプレイヤーに攻撃。ネクロドラゴンでとどめ」

「(見事なり)」

 場がすっきりした。

 

 何とか勝てたぜ。

「キュイイイ」

「なんて言ってるかわかんねえよ」

 これだから動物のカードファイターは困るんだ。

 

 まあいい。これであとは出口につくだけだからな。

「キュイキュイ」

「なんだよ」

「キュ」

 シャチはカードを一杯出す。シャチはヒレでカードの頭文字を叩く。これを読めってことか。

 

 え~っとなになに?

「吾輩野生の動物故にあと一人倒さねばならん」

 シャチはカードをデッキに戻した。

「キュイキュイ」

 コイツシャチなのに古代文明の遺跡に通りすがっただけのカードファイターだったのか。

 

 というかコイツ二階にいるってことは下の階の奴シャチにカードファイトで負けたってことか。

「キュイキュイ」

「吾輩と共にレッツゴー……か。まあ味方が増えれば心強い」

「シャチなんか味方にして大丈夫かよ」

 カシヨはこの際無視する。

 

 シャチは尾でぴょんぴょこ跳ねる。

「キュイキュイ」

「ああそうだな」

 よくわからんが。

 

 進み行くとカードファイトロボットがいた。

「なんだソノシャチ」

「一応カードファイターだよ。負けるかと思ったね」

「キュイイイイ」

 シャチはデッキを構える。

 

 カードファイトロボットはデッキを構えた。

「私はNo.57242 チョウゲン・アンセイ。気軽にアンと呼ぶガイイ。カードファイトエントリー」

 アンの剣が赤く光った。

 

 あれがデッキケースか。

「自動翻訳モード開始」

「私は騎士だ」

「(吾輩は商人である)」

 アンは剣を抜いて投げる。剣は宙に浮いた。

 

 アンの一ターン目だ。

「チャージ。カードを一枚場に置ク。ターンエンド」

 シャチの一ターン目だ。

「(吾輩のターンスタート。ドロー。チャージ。カードを二枚場に置く。ターンエンド)」

 互いに様子見だな。

 

 アンの二ターン目だ。

「ドロー。チャージ。アサルトカード発動。発掘酸性代。酸性代モンスターを一枚デッキから手札に加エル。コスト2で酸性代 サンモナイトを召喚。ターンエンド」

 酸性代だと。そんなテーマ知らねえぞ。

 

 シャチの二ターン目だ。

「(吾輩のターンスタート。ドロー。チャージ。コスト2でスケルトンソルジャーを召喚。アサルトカード発動。冥海輪廻。スケルトンソルジャー破壊。冥海賊の人魚を場に出す。冥海賊の人魚でサンモナイトに攻撃。ターンエンド)」

 アンの三ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト3で酸性代 酸葉虫を召喚。効果で手札を全てデッキの上に戻して戻した枚数分ドロー」

 意味ねえ。

 

 何がしたいんだ。

「酸性代 サンモナイトの効果発動。手札が0枚の時にドローしたターン中一度だけ酸性代魔法カードの使用コストを3軽減する。コスト0で酸性代 ベフニニアシッドを発動。このカードが場にある限り、1ターンに一度手札を1枚戻して1枚ドロー出来る。酸葉虫で冥海賊の人魚に攻撃。カードを一枚場に置く。ターンエンド」

 酸性代はデッキに手札を戻すテーマか。

 

 シャチの三ターン目だ。

「(吾輩のターンスタート。ドロー。チャージ)」

「アサルトカード発動。マーフォークリロード。手札を全てデッキに戻してシャッフルしてから二枚ドロー。たった今ドローした酸性代 ロボクエン酸の効果発動。このカードがドローされた時、このカードを場に置く」

「(コスト2で冥海の補給人魚を召喚。効果で冥海モンスターを破壊して1枚ドロー。冥海の補給人魚を破壊。冥海賊の人魚でサンモナイトに攻撃。破壊。ターンエンド)」

 軽減役を減らせたのはデカイ

 

 アンの四ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト3で酸性代 ゾイレアンコイリアを召喚。ベフニニアシッドの効果で手札を戻してドロー。ゾイレアンコイリアの効果発動。自分の墓地のコスト2の酸性代モンスターを場に出す。酸性代 サンモナイト復活。サンモナイトの効果で魔法の使用コストは3軽減している」

「(場にいなくても大丈夫なのか。インチキくさい)」

「コスト1で酸性代 エボラキスラターを発動。酸性代モンスター三枚と酸性代魔法三枚をこのカードの下に乗せる。スペシャルサモン。酸性代 始祖レリミア。レリミアの効果発動。手札を全て戻して、デッキもしくは墓地から酸性代 レリミアを一枚場に置く。レリミアの効果発動。このカードを破壊して、自分の場のスペシャルモンスター一枚の下にある酸性代魔法カードを全て場に置く。ターンエンド」

 今攻撃しなかったということは、あのモンスターの攻撃力は低いと言うことだな。



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百五十六枚目 泡を殴る

 シャチの四ターン目だ。

「(吾輩のターンスタート。ドロー。チャージ。コスト4で冥海のイカリを召喚。冥海のイカリの効果で墓地のコスト3以下の冥海モンスターを墓地から場に出す。出でよ冥海の補給人魚。冥海の補給人魚の効果で自身を破壊して一枚ドロー。冥海のイカリで始祖レリミアに攻撃。破壊)」

 召喚にカード6枚必要なくせに防御面でも攻撃面でも雑魚なのかよ。じゃあ何が出来るんだ。

 

 アンの口角が上がる。

「始祖レリミアは手札が0枚の時場を離れる代わりに、一枚ドローしてデッキの上に戻し二枚ドロースル。これで生命力が0になることもナクナッタ」

「(ターンエンド。まるで泡を殴るかのような奇妙な感覚)」

 厄介だよなあ。

 

 アンの五ターン目だ。

「ドロー。チャージ。酸性代 エボラキスラターの効果発動。手札を二枚以上デッキに戻してからシャッフルして、二枚ドロー。サンモナイトの効果発動。酸性代魔法の使用コストが3減る。コスト4で酸性代 サンミグリアチードを発動。カードを一枚場に置く。ターンエンド」

 シャチの五ターン目だ。

「(吾輩のターンスタート。ドロー。チャージ。コストを4支払って魔海のはぐれ者 バーマ湖の悪魔の効果発動。このカードを墓地に捨てて三枚ドロー。冥海のイカリでサンモナイトに攻撃。冥海賊の人魚で始祖レリミアに攻撃」

「アサルトカード発動。スクラップバリア。攻撃された時手札をすべて捨てて、受けるダメージを1減ラス」

「(ターンエンド)」

 何と言うことはなかったね。

 

 アンの六ターン目だ。

「ドロー。コスト3でファイヤーキャノン発動。このカードが場にある限り手札一枚につきコスト3でデッキの一番下に戻セル。戻した枚数以下の相手モンスターに1ダメージを与エル」

 確かそんな魔法もあったっけ。マイナー過ぎて忘れてた。確かに相性は良いよな。単体でみれば手札交換できねえしコスト3払うしで弱いけど。

 

 シャチはジャンプする。

「(手札を0枚に出来てお得と言う訳だな)」

「シャチのくせして賢いな」

「ファイヤーキャノンの効果でコスト3で手札を一枚戻して、冥海のイカリに1ダメージ。サンモナイトで冥海のイカリに攻撃。ターンエンド」

 言うて下の階のカードファイトロボットを倒す実力はあるしね。

 

 シャチの六ターン目だ。

「(吾輩のターンスタート。ドロー。チャージ。コスト6で冥海のシュモクザメを召喚。自分の場の冥海モンスター一体を破壊して一枚ドローし、デッキから一枚種族:マーフォークのモンスターを手札に加える。冥海のイカリを破壊して、ドロー。墓あさりをサーチ。冥海のシュモクザメでサンモナイトに攻撃。破壊。ターンエンド)」

 墓地加速7枚のコンボが来るぞ。

 

 アンの七ターン目だ。

「ドロー。チャージ。ターンエンド」

 シャチの七ターン目だ。

「(吾輩のターンスタート。ドロー。チャージ。コスト5で墓あさりを召喚。墓地3枚加速。タクロウライターが落ちたから、タクロウライターを墓地に落としまくる。合計七枚加速だ)」

「コスト1のくせして四枚も墓地加速できるのズルイヨネ」

 でも同名カードしか落とせないから……

 

 シャチはヒレにある手札を見つめる。

「(自分の場の種族:マーフォークを3枚以上墓地に送ることでスペシャルサモンできる。吾輩の場のモンスター全て墓地に送る。供物によって現れよ。スペシャルサモン。冥海の使者。冥海の使者で攻撃。冥海の使者は攻撃時に自分の墓地の冥海の使者以外の冥海モンスターを墓地から場に出して、破壊する。現れよ。冥海のイカリ。冥海のイカリの効果で墓地のコスト3以下の冥海モンスターを墓地から場に出す。出でよ冥海の補給人魚。冥海の補給人魚の効果で自身を破壊して一枚ドロー。冥海のイカリ破壊。レリミアに攻撃)」

「レリミアの効果で場を離れる代わりに一枚ドロー。デッキに戻して二枚ドロー」

「(カードを一枚場に置く。ターンエンド)」

 あれが逆転の切り札なんだろうな。

 

 アンの八ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト5で酸性代 イクチオクシノスサウルスを召喚。イクチオクシノスサウルスで、冥海の使者に攻撃。ターンエンド」

 シャチの八ターン目だ。

「(我輩のターンスタート。ドロー。チャージ。アサルトカード発動。エターナルバインド。墓地の枚数分コストを減らす。出でよ。冥海の墓クジラ。レリミアの効果を無効にする。冥海の使者でレリミアに攻撃。冥海の使者の効果で冥海の補給人魚を出す。自身を破壊して一枚ドロー。レリミア破壊。冥海の墓クジラでイクチオクシノスサウルスに攻撃。破壊。ターンエンド)」

 アンの口からギリリという音が出て、アンの頬に冷や汗が流れる。

 

 アンの九ターン目だ。

「ドロー。チャージ。来ナイ。コスト3でファイヤーキャノンの効果発動。冥海の使者に1ダメージ。ターンエンド」

 シャチの九ターン目だ。

「(我輩のターンスタート。ドロー。チャージ。コスト9でトリプルアタック、墓クジラに使う。冥海の使者でゾイレアンコイリアに攻撃。効果は使わない。破壊。墓クジラで三連撃)」

 アン:生命力→4

 

 アンの十ターン目だ。

「ドロー。チャージ。ターンエンド」

 シャチの十ターン目だ。

「(我輩のターンスタート。ドロー。コスト5でクラッシュシューター召喚。クラッシュシューターで墓クジラを射出。冥海の使者でプレイヤーに攻撃)」

 場がスッキリした。



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百五十七枚目 魔族の血

 剣が鞘に戻る。

「野生の動物ごときに負けるとはメンテナンスが足りなカッタナ」

「野生の動物は強いぞ。野生の動物なめるな」

 野生の動物もカードファイターできる世界観で、野生の動物だけ軽んじる理由が分からん。

 

 アンの口角が上がる。

「だがしかし子どもとシャチでこの複雑かつ複雑な迷路を抜け出せるはずモナイ」

「キュイ……」

 なるほど。シャチは陸の生き物じゃないから、陸には疎いのか。陸である迷路は専門外と見抜かれた。

 

 迷路を進み行く。

「キュキュイキュ」

 シャチが小さくなった。まるで魔法少女もののマスコットみたいだな。

「それシャチじゃねーだろ。モンスターだモンスター。試しにカードにしてみろ」

 まあただのシャチが陸にいるなんておかしいか。でもたとえモンスターでもこいつをただ捕まえるのは勿体ねえから、捕まえんとこ。

 

 何時間かかけて迷路を抜け出せた。

「キュイ!」

「お前も抜け出せて嬉しいか」

「俺も抜け出せて嬉しいよ。あんな狭い空間に閉じ込められっぱなしというのは精神的な負荷がデカイ」

 シャチはカシヨに飛び込む。

 

 カシヨはシャチを受け止めようとした。シャチはカシヨの右肩を噛む。

「痛い痛い。地味に痛い」

「ちゃんと服着てないから変態だと思ったんじゃねーの。それで警戒されてるとか」

 シャチは噛むのを止めた。

 

 シャチは俺の胸に飛び込む。俺はそれを受け止めた。

「キュイキュキュ」

「こいつの言ってることがすらすらと分かるぞ。生まれつき血を吸った相手に意思を伝えられるって言ってるぞ」

「俺にもやってくれたら楽なのに」

「嫁入り前の女の子にやるのは可哀想だからやらないんだとさ。まあ噛み跡がくっきり残るからな」

 一生シャチの意思を知ることはないということか。一生嫁入りするつもりないからね。

 

 三階に上がった。三階には文字の書いてあるパネルがいっぱい落ちてた。

「えーと。これは詰めカードファイトか」

「たぶんこれを解かねえと階段が現れねえとかそんな感じじゃないか?」

 適当にパネルを拾った。

 

 このターン中に勝て。 

 相手:生命力1 ヌーブ(攻撃力0防御力0 職業効果なし) 

 場:マグマドラゴン

 手札:なし

 自分:生命力1 所持コスト6 ファイター(攻撃力3防御力1 職業効果使用済み)

 場:冥海の使者

 墓地:冥海のイカリ、冥海賊の人魚、冥海の補給人魚

 手札:セカンドクラッシュ(コスト4:自分のモンスターが破壊されるとき相手のモンスターを破壊する)、漁夫のリ(コスト2:自分のモンスターの攻撃の順番を入れ換える) 

 

 こんなの簡単だね。

「冥海の使者でペルーダに攻撃。効果で冥海のイカリを復活。冥海のイカリの効果で補給人魚復活。補給人魚の効果は使わない。イカリは破壊される。コスト2で漁夫の利。冥海の使者と冥海の補給人魚の攻撃の順番を入れ換える。補給人魚の攻撃になったので、冥海の使者はもう一度攻撃できる。補給人魚はマグマドラゴンの反動で破壊される。コスト4のセカンドクラッシュ発動。マグマドラゴンも破壊。冥海の使者でプレイヤーに攻撃。勝利」

 楽勝だな。今までの戦いに比べればこの程度ぬるいぬるい。

 

 シャチもパネルを抱えて小躍りする。

「もう解けたのか。はえーな。まあ俺の方が早かったが」

「カシヨはシャチに対抗心を燃やす」

「バカにしてるだろ」

「世界観的にあり得ることを言っただけですから。バカにしてましぇーん」

 カシヨはパネルを地面に置いた。

 

 なにも起きてねえ。

「全部解かなきゃいけないパターンかな」

「キュイヤア」

「俺も嫌なんだよなぁ」

 一先ず解いたパネルをまとめることになった。

 

 パネルのパの字も見たくなくなるほど解いた。問題はすごく簡単なんだけど、量が多すぎて嫌気が湧くのだ。さすんじゃなくて湧くんだよ。

「全部解いたぞ」

「なかなかやリマスネ。ここをクリアすればもう最上階デス」

 カードファイトロボットがいた。

 

 まさかこいつと戦わなきゃならんのか。

「皆様よく勘違いされますが、私とカードファイトをする必要があリマセン。何故ならば私を倒さなくても階段は現れるカラデス」

「嘘つき。ないじゃん」

「アレ? おかしイデスネ」

 カードファイトロボットはあれこれ探る。

 

 階段が生えて、カードファイトロボットのおでこに階段がぶつかる。

「人間だったら痛がリマスネ。無神経ボデー万歳」

 カードファイトロボットは階段を登った。

「早く階段を上がらなければ、階段が消エマスヨ。そうしたらやり直シデス。別にやり直しをしたければ止めマセンヨ」

 急いで階段を上がった。

 

 塔の最上階は屋根と壁が透明だった。風が入っておらず、鳥が空中で止まっていなければ、壁がないと思い込んむだろうと予想できるほど透明だ。

「ゲームクリアおめでとう。君たち三名を表彰するよ。そしてそのシャチの秘密を教えよう」

 偉そうなカードファイトロボットが現れた。

「僕はこの塔のゲームマスターの人格を植え付けたカードファイトロボットだ」

 だから偉そうなのか。

 

 ゲームマスターはシャチを指差した。

「カードファイトの出来る野生動物は魔族の血が混ざっている。まあモンスターとほぼ同じようなものだな。まあそっちはカードに閉じ込められないけど。そのシャチには姿を変える魔族の血が流れていると思うよ」

「そう言えばカードの力は元々魔族の力っていってたな」

 なるほどなぁ。よく練られた設定だ。一生懸命考えたんだろなぁ。



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百五十八枚目 人工カードファイター生物

 よく練られた設定と言うのはね、よく考えたらこの娯楽施設で考えられた設定かもしれないからだ。だってここ以外で言及されてないもん。シャチという実物がいるから説得力がマシマシだが、本当にそうなら野生動物なんてどこにでもいるので結構広い範囲で言及されててもおかしくない。

「よく考えれば地下に埋まっている建物に水の動物がすれ違うなんて奇妙さ全開だな」

「ようやく気が付いたのか」

 そもそも俺たちより遅く来て俺たちに気が付かれないように俺たちよりも早く迷路を進まなきゃならないなんて無理があるのだ。

 

 シャチがゲームマスターの元までぴょんぴょこ跳ねる。

「良く気が付いたね。この子は人工カードファイター生物カードファイターシャチなのさ」

「人工カードファイター生物だとぉ」

「カードファイトロボット制作技術の応用で作れるよ。これをうまい具合にすればカードファイトのできる人間がもうちょい増えるかな。実のところ野生動物カードファイターのほとんどが人工カードファイター生物の子孫なのさ。これは本当の話」

「なんでいきなりそんな事実をベラベラと」

 いきなり溜めていたものを吐き出すかのようにしゃべりだしたぞ。なぜなんだ。

 

 ゲームマスターは考えるしぐさをした。

「このことがバレたら問題追及されてここが潰れるんで黙ってたけど、文明が潰れてもうそんなこと気にする必要なくなったってことさ。秘密を抱え続けるのって相当ストレスがかかるから洗いざらい話したかったのさ。君にも心当たりはあるだろ。秘密は心を蝕むんだよ」

「そういうことか」

 半年間秘密を抱えてたこともあったけど、心は一マイクロも蝕まれなかったぞ。

 

 カシヨはゲームマスターを指さした。

「じゃあ生まれつき意志の力を伝えられるってのはなんなんだ」

「身体に無害なマイクロチップを仕込んで意思を伝えられるようにしたのさ。有料オプションだから銀貨七枚ね」

「有料オプションを押し付けやがって。傷つけたくないだのなんだの言って小さい子から金をとりたくなかっただけだろ」

 カシヨは銀貨を七枚ゲームマスターに投げ渡した。

 

 ゲームマスターからカードパックを投げ渡される。

「踏破した記念にこれをやろう。強いカードが入った厳選パックだぞ」

 カシヨはパックを開封した。

「なんだこれ。今は使えねえよ。カードの強さも跳ね上がってるんだよなあ」

 カードゲームのインフレは凄いもんなあ。

 

 パックを開封してみた。

「磁力魔導のマグネタン。攻撃誘導能力があってステータスもそれなりにある。俺のデッキにとっちゃ大当たりだな」

 しかも相手にだけ攻撃を強制できるから鯵テーターとビーコンパラサイトの上位互換なんだよね。

 

 早速デッキに混ぜて色々と構築を変えてみる。

「お気に召したようだね。そっちの彼は気に入ってないみたいだけど」

「まあな。俺のデッキにも弱いし、俺のデッキじゃなくても弱い」

「インフレって悲しい事なの」 

 昔の環境カードが今は使われていないみたいな感じだな。

 

 塔が揺れた。

「地震じゃないからね。ただ大勢の人が駆けつけてるだけだからね」

「今まで来なかったのに何で今更来たんだよ」

「カードファイトロボットに追い返されてたけど、攻略法分かって何とかなったとかじゃないの。ワンショットキルされて実質初見だったしね」

 なるほどね。

 

 ゲームマスターはシャチを指さした。

「そのシャチをあげるよ。君たちのことを気に入ってるみたいだしね。それじゃそろそろ出ようか」

 俺たちはいつの間にか外に出ていた。あれだけいた人たちがいない。痺れてる人たちしかいないぞ。

 

 黒覆面が彷徨いている。

「なんでこんなところにいるんだ」

 黒覆面がカードを掲げると雷が降って、爆音が響く。

「お前が仕事をすっぽかしたからだ。仕事すっぽかしやがって。俺が苦労するんだぞ。今回の仕事よりも古代文明の遺跡から得られた利益の方がデカイから不問だろうが、なんか納得いかん。お嬢様に言い訳するのも面倒だし」

 どこぞの貴族の令嬢に仕えているのだろうか。

 

 黒覆面も辛いんだね。あっ。

「いつまでも黒覆面なんて呼び方じゃ寂しいから名前を教えてくれないかな」

 本名を聞き出せると良いな。

「エルタスト・アクイ。もちろんこれは偽名だが、そう呼べ」

「偽名とはね」

 世の中そう甘くはなかった。

 

 空間に穴が開く。

「雷で聴力を落として聞かれないにしたが、ここらが限界だ」

 穴をくぐると空気穴しかない部屋に着いた。

「デスコロシアムの閉じ込めるときの部屋だ。まるごと持ってきた。魔法使わないと入れないから何を話してもバレない」

 ここに行くなんてやましいことしかないのかな。

 

 エルタストは床に座る。

「単刀直入に言う。なんだそのシャチもどきは。嫌な予感しかしないぞ」

「キュキュ」

「心外だってよ」

 シャチはヒレで床を叩く。

 

 黒覆面はシャチを指でつつく。

「カードハンターについてはどう思ってるんだ?」

「くそったれだってよ。こいつ床に叩きつけるかな」

「いったん預からせろ」

 触りまくってる。

「何だかんだ理由をつけてもふりたかっただけか?」

 素直じゃないやつだ。



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百五十九枚目 ネロキ

 シャチを投げ返された。

「堪能した」

「何かやましい話が山ほどあったんじゃないんですかねぇ。なんでシャチを撫でまわしてるんだよおかしいだろ」

「やましい話なんてないし、あったとしてもお前みたいなハントマスター様の信奉者に話せねえだろ」

「まあそれもそうだ」

 信奉者のくせに言うこと結構命令無視して好き放題やってんじゃねえか。

 

 シャチは俺の頭の上に乗る。

「やましくない話はあるけどな」

「あるんだ。シャチをめっちゃ触るために因縁つけただけかと思った」

「そ、そんなわけあるか。用件を伝えるぞ。ハントマスター様がアタラシアと戦争するから戦力が欲しいらしい」

 アタラシアって国の名前だったかな。

 

 ハントマスターは何を考えているんだ。むしろなにも考えていないのか。

「事実だったらハントマスターがバカだろ。つまらなくて分かりやすい冗談はやめろ。面白くないぞ」

「問題ないだろ。ハントマスター様の次元獣デッキは強いからな」

 どれだけ強かろーがたかが一組織と国民全員カードファイターの国が戦って勝てるわけねえしな。

 

 エルタストは立ち上がる。

「まあ普通はそう思うだろな。でも嘘じゃねえ。それにカードハンターだけで戦うわけじゃない」

「非合法組織に加勢してくれるような寛大な奴らがいるのかな?」

「勘違いしてるようだが裏の組織なだけで別に非合法な組織というわけではない」

 そうか。トバクファイトで物を取るのは合法なんだった。

 

 エルタストはさりげなくシャチを撫でる。

「それにちゃんとデカイところの援助も受けられるぞ。ハントマスター様が話を着けてきたからな。それにアタラシアは排除したいところも多い。そして全国民がカードファイターで全ての国を仮想敵国に指定しているような危険な国だから、話を付けるまでもなく援助は受けられたんじゃないかと思う今日この頃」

「どんだけ嫌われてるんだよ」

 ヤバイよね。

 

 つまりアタラシアが嫌われすぎてるので、戦力の援助は受けやすいというわけだ。

「表向きはこの国の軍がアタラシアに宣戦布告することになってるから、意図してカードハンターの味方をしたわけではないというのもポイント。現地にいたカードハンターをうまいこと利用したという建前が使える」

「長々と話したが、要するに互いにメリットがあるから協力するだろということか」

「ああ」

 最初からそう言えよ。

 

 エルタストはシャチをなで回す。

「それでいつ戦争するんだ。二年後か?」

「七日後」

「早すぎだろ。増税でお金も集めてねえし、無茶がある」

 まるで別に目的があるかのような気味の悪さ。

 

 七日経過した。ギリギリアタラシアに着いたぜ。それにしてもエルタストがいねえな。

「どこを見ても畑しかねーでやんの。嫌われてるから食べ物を輸入できず自給自足してるのかね」

 顔の横を何かが通過する。覆面してなかったら、即死だったぜ。

「戦争はまだ始まってねえはずだろ」

 カシヨは矢を持って折る。

 

 畑から森を守るエルフが出てきた。

「ゲリラモンスターか。ザ・タンクを召喚」

 小さな戦車がエルフを撃って消す。

 畑からスピードラットがたくさん出てきた。

「マグマドラゴン召喚」

 スピードラットが焼けて、畑も焼ける。

 あ。ラジーさんだ。久しぶりだなぁ。

「ドロウちゃんかぁ。故郷に帰ってるんじゃなかったっけ」

「何であなたは覆面してるカードハンターの正体がドロウだと知ってるんですか」

 マグマドラゴンは辺りを焼く。

 

 ラジーさんは目をこする。

「疲れてるから、ただのカードハンターが知り合いに見えただけ。寝不足ってつらいねー」

「言い訳くさいなー」

 なんかなー。

 

 マグマドラゴンは辺りを焦がして、火は燃え広がる。畑にいたモンスターは焼き尽くされた。

「なんで伯爵令嬢様がこんな戦場にいらっしゃるんだ」

「それは私が強いカードファイターだからね。あと領地にいたら仕事しすぎるからと、戦場に駆り出されたってわけ」

 なんかお家騒動的な何かを感じる。

 

 燃えるものが無くなって、火が消える。

「お前たちが付け火したカードファイターか。許せねえ。しかも突然宣戦布告しやがって。まあ潰して力を見せつければ良いけどよぉ」

 デッキを構えた男が出てきた。

「私はネロキ。そのラジー・フラムを倒すため、メイクファイトにて決着を付けたい」

「メイクファイトね。よく分からないけど、いいよ。二人がかりじゃないと勝てない相手だから後悔しないでね」

「メイクファイトは死ねば全てが奪われる狂気の戦いだ」

 ラジーさんの口角が上がる。命の危険に対してにやけるなんておかしいよ。

 

 ラジーさんがデッキを構えると、ネロキのデッキが赤く光った。

「メイクファイトエントリー……であってるよね」

「メイクファイトエントリー」

 やる気が増したように見える。

 

 仕事のしすぎで壊れたな。

「メイクファイトといってもトゥルーファイトと変わらないよね。正直好奇心しか湧かないね」

「お前はメイクファイトを舐めすぎだ。その好奇心はお前にとって毒となるだろう」

 いまさらやめることも出来ねーしな。



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百六十枚目 ラヴァイフリート

 ネロキはチャージしてターンを終えた。ラジーさんの1ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト1でマジカランプを発動。このカードは場に置き続けるよ。ターンエンド」

 ネロキの二ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト2で風の魔導師を召喚。風の魔導師でプレイヤーに攻撃」

「いててて。ダメージは受けないはずなんだけどなあ」

「メイクファイトはダメージを与えない攻撃でも痛みを与えることは出来るんです」

「へぇ~」

 ラジーさんは右手で口元を隠す。

 

 ラジーさんの二ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト2でダメージスイッチ発動。場にカードを一枚置いてターンエンド」

 ネロキの三ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト2で水の魔導師を召喚。ターンエンド」

 アサルトカードを警戒したか。

 

 ラジーさんの三ターン目だ。

「ドロー。チャージ。アサルトカード発動。知識の加護。自分は一枚ドローする。相手は二枚ドローしてもよい」

「手札が増えた」

「コスト3で因果逆転発動。発動時一枚ドロー。このカードがある限り、コイントスで出たコインは裏表逆になる。生命力を1払えば裏表逆にならない。ターンエンド」

 バッドラックはどうしたんだろ。

 

 ネロキの四ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト4で雷の魔導師を召喚。雷の魔導師と水の魔導師と風の魔導師を破壊して場に出す。出でよトリプルエレメントウィザード。トリプルエレメントウィザードでプレイヤーに攻撃。このモンスターの攻撃力は攻撃した対象より3多い数値になる」

 ラジーさんは強風にあおられ、水を被り、電気ショックを浴びた。

 ラジー:生命力10→7

 

 ラジーさんの四ターン目だ。

「これがメイクファイトの痛みなのか。ドロー。チャージ。コスト3で諸刃の双剣を召喚。諸刃の双剣は二回攻撃出来るけど、攻撃時にコイントスして表が出なかったら私自身を攻撃してしまうんだよね。諸刃の双剣で攻撃。するときにコイントス」

 コインは表が出た。

「因果逆転の効果で裏になる」

 宙に浮いた剣はラジーさんを斬る。

 

 しかしラジーさんには傷一つついていない。

「諸刃の双剣でもういっちょ攻撃。コイントス」

 また表が出た。

「マジカランプの効果でイフリートを場に出す。イフリートと諸刃の双剣をデッキに戻してデッキからこのカードを出す。出でよラヴァイフリート」

 溶岩の巨人が出てきた。

 

 サウナのように蒸し熱い。畑も少し熱くなっている。

「なんだこの異様な熱気は。しかしあっちの方が熱い恰好をしているから、耐えればいずれ倒れる」

「ラヴァイフリートでトリプルエレメントウィザードに攻撃。ラヴァイフリートは攻撃時にラヴァフェイク(種族:ヌル、攻撃力0、防御力8、生命力2)を相手の場に生みだし、相手プレイヤーとモンスターの生命力を1蒸発させる。(カルド)()息吹(レスピラツィオーネ)。そして二回攻撃持ちで、バトルするときに時に攻撃力と防御力が相手の攻撃力と防御力を1ずつ上回る能力がある。つまるところ触れずにトリプルエレメントウィザードは生命力が2も減るってこと。ラヴァフェイクに二度も攻撃。二度も破壊。ターンエンド」

 ネロキ:生命力10→8

 

 ネロキの五ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト4で二本目の杖を発動。種族:マジシャンのモンスター一体を選択する。そのモンスターは二回攻撃が出来るようになる。トリプルエレメントウィザードを選んで、ラヴァルイフリートに攻撃」

「相手の能力を上回る能力持ちどうしが戦うとどうなるんだ」

 気になる。

 

 ラジーさんは雷に打たれた。

「相手の能力を上回る能力持ちどうしが戦うと、バトルがキャンセルされて攻撃権が消費されるのか。知らなかった」

「今後の課題にするといいよ。まあ今後がないかもだけど」

「ターンエンド」

 煽りおる。 

 

 ラジーさんの五ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト4で大地の過護。全てのプレイヤーは三枚ドローして手札を三枚コストゾーンに置く。次の自分のターン終了時までコストゾーンのカードの枚数を増やせない。ラヴァイフリートで二度もラヴァフェイクに攻撃。二度も破壊。ターンエンド」

 ネロキ:生命力8→6

 

 ネロキの六ターン目だ。

「ドロー。コスト4でトリプルドロー。トリプルエレメントウィザードでラヴァイフリートに攻撃。ターンエンド」

 文章にするなら短いけど、これを言い切るのに五分かけていた。なるほど。熱中症によるメイクファイト終了を狙ってるのか。

 

 ラジーさんの六ターン目だ。

「ドロー。コスト6でクワトロブースト。ラヴァイフリートで二度も攻撃。二度も破壊。ターンエンド。あれあれトリプルエレメントウィザードの姿が見えない。やられたのかな。あっけない」

 ネロキ:生命力6→4

 

 ネロキの七ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト3と生命力3でバブルライフバンクを発動する。次の自分のターンに倍になって返ってくる。そして生命力が0になるかわりに生命力が3になる」

 ラジーさんの七ターン目だ。

「ドロー。コスト7でインスタント魔法封印結界発動。このターン中全ての魔法カードの効果が無効化される。ラヴァイフリートでプレイヤーに攻撃。おわり」

 場がスッキリしたが、熱さだけはまだ残っている。

 

 ラジーさんは口元に手を当てる。

「デッキだけ奪って命を奪わないこともできるのか。じゃあデッキをもらおう」

 ラジーさんは新しいデッキを嬉しそうに持つ。雷に打たれた痛みもなんのそのだな。



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