ブラック・ブレット【閃剣と閃光】 (希栄)
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第一話

全てが一瞬だった。

 

 

 

 

ガストレアと呼ばれる未知の生命体による侵攻に、人類は敗北。国土はほぼ侵略され、人口も激減、まさに壊滅的と呼べる状況に陥っていた。

 

少女は力なく座り込み、世界の終わりのような光景を目の当たりにしていた。

いや、世界は終わったのだ。

周りには崩壊した建物、命を落とした者、そして絶望的なまでの夥しい数のガストレア。

そのガストレアも以前までは自分たちと同じ『人』だったのだから驚愕を通りこして何も感じられない。

 

ふと、自身の腕の中で眠るように気絶している相棒を横目で見る。

少女はあふれ出る涙を拭うことなく、悔しそうに唇を噛む。

 

ヒュゥンと、風により舞っていた広告には『呪われた子供たちを根絶やしに!!』と大きく書かれていた。

ふざけるな。

このエリアを守っているのは紛れもなく彼女たち…“呪われた子供たち”のおかげだ。

なのに、なぜそれを理解しようとせず、こんな事が出来るのだろうか。

 

「……狂ってる」

 

この世界も、人も、全て。何もかもが狂ってしまっている。

結局、自分は何を守りたかったのだろうか。何のために戦っていたのだろうか。

それさえ、少女は見失っていた。

ただ、冷たい雨が少女をなぐさめるかのように降り続けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

_______それから、一年。

 

日本には四季がある。その中でも、春はその単語を聞くだけでも心が穏やかになるものだ。

だが、そんな柔らかい朝の日差しの中、自転車を二人乗りしている少女たちには不穏な空気が流れていた。

 

前方でペダルを漕ぐのは、高校生くらいであろう。栗色の髪を風でなびかせ、大きめの黒いパーカーの中にはオレンジ色の長袖にミニスカート、少し長めの前髪は赤いヘアピンで止められていた。

顔立ちは整っているのだが、その表情は曇っており、冷や汗が頬を伝っている。

 

一方で後方に座る少女は、淡い黄色の長袖の上にグリーンの袖のないロングパーカーに短パン。空色のような髪は短めのポニーテールになっていた。

こちらは、逆にイライラしているような顔で黙っている。

 

「いい加減、機嫌直してよ」

 

神澪水晶(しんれい みずき)は、相手の顔色を伺いながらそっと述べた。

 

「いや、絶対無理ッ!」

 

全力で拒否するのは、桜咲八葉(さくらざき やつは)。先ほどから「絶対に許すもんか…」と、背後で物騒な事ばかり呟いているのは気にしないでおこう。

 

やっちゃったなぁと思いながら、これまでの経緯を頭の中で整頓し始める。

 

今日の朝の事だ。

爽やかだった朝の目覚めは、八葉の悲鳴に似た叫び声によって一転した。

彼女が録画していたはずの“天誅ガールズ”というアニメが消えていたのだ。_____いや、自分が消してしまった。

昨晩、寝ぼけながらリモコンのボタンを押したのは覚えている。だが、その際誤って電源ではなく消去のボタンを押していたのだ。

 

その事実を知った瞬間、八葉の怒りは爆発。そして、今に至るという訳だ。

 

水晶は短くため息をつく。

 

「ねえ、八葉?」

 

「……なに」

 

「今日の用が終わったら、帰りに最近出来たっていう“天誅ガールズコーナー”に行ってみよっか?」

 

その言葉に八葉は僅かに反応を示す。

 

お、これはいけるかもしれない。

 

「好きな物買ってあげるからさ。見に行かない?」

これが最後の人押しとなったのか、八葉は目を輝かせながら「行くッ」と元気よく返答をくれた。

 

よし、と心の中でガッツポーズし、自転車を疾走させる。

 

 

 

 

 

 

 

 

水晶と八葉は勾田公立大学附属の大学病院の薄暗い地下室に顔を出していた。

 

「解剖だッ」

 

部屋に入れば、第一声がこれだ。

嬉しそうに振り返ったのはこの部屋の主でもあり、今回呼びつけた人物である室戸菫。

 

部屋の中は、ツンと鼻にくる芳香剤のにおいが漂っている。薄暗くて不気味なのでもちろん彼女以外誰もいない。

 

いや、居るのには居るのだが全く見知らぬ男だ。しかも死体の。

 

「いやー、悪い悪い。つい嬉くてな」

 

「あ、相変わらずだね、先生」

伸び放題の髪をかきながら、身の丈に合っていない白衣の裾を引きずる。

 

彼女はこの法医学教室の室長にしてガストレア研究者。普通にしていれば美人なのだが、重度の引きこもりだ。滅多に外に出てこない。

 

「それで、わざわざ呼びつけたのは自慢の恋人の話をするため?」

 

「ふむ、そうだな。ならば君の期待にお答えして、じっくり丁寧に話をしてあげよう」

 

「結構です」

 

即答する水晶に菫は「残念だなー」と心にもない事を呟く。

 

「それで、先生はどうして私たちを呼び出したの?」

 

八葉が首を傾げ、椅子に座っている菫に尋ねると「ちょっと着いて来てくれ」と手招きをする。

突然の事に水晶と八葉は顔を見合わせるが、大人しく後を追う。

 

その先には手術台があり、目を凝らせば大きな物体が寝かされていた。

 

「先生……これって…」

 

水晶の言いたい事が分かったのか、菫は涼しげな顔でゆっくり頷く。

 

「……ガストレアだ」

 

八葉のその言葉を聞き、水晶の顔が引きつる。

____ そういえば、解剖だ。って先生、喜んでたっけ。

 

手術台には足を縮こめた独特の体色をした蜘蛛が置かれていた。体には多数の弾痕があり、ガストレアの特徴である赤い目からはすでに命の灯は消えている。

 

いつ見ても不気味で、なれない。

 

菫は手に持っていたレポート用紙を投げ渡す。その目は、読めと促している。水晶はため息混じりに、目を通し始めた。

 

ステージⅠ、モデル・スパイダーと書かれた用紙。ガストレアにはステージがあり、最終的にはⅣで完全体となる為、今回はまだ可愛げのある方だ。

 

ふと、視線を用紙の端に向けると倒した民警のペアの名前が書かれている。

 

これに書かれていた名前は_____里見蓮太郎、藍原延珠。

 

詳しいことは知らないが、彼は菫と知り合いである事はわかっている。

 

「水晶」

 

「何?」

 

菫が指差す方を見れば、そこには弾痕が多数あった。

 

「どう見る?」

 

「どうって____」

 

「純粋に、この射撃の評価を聞いてみたい」

 

出来る事なら関わりたくなかったが、うーん…と水晶は右手をあごに当て弾痕を見つめる。

 

「中の下って所かな?」

 

「どうしてそう思う」

 

背を菫と八葉に向けたまま、ガストレアに近づき弾痕を指差した。

「まず、着弾の衝撃で肉が痛んでる。それに命中弾が4・5発。弾痕から見て射撃距離はおよそ10mから20m。プロなら命中率はもっと上げないと」

 

冷静に分析をする水晶に、菫は「ほう…」と口角を上げ、八葉はどこか誇らしげに聞いている。

 

「流石だな、水晶」

 

「そうでもないよ先生、私は誰も守れなかった」

 

「_____もう一度あの仕事をするつもりはないのか?」

 

菫の方を向くと、研究用のビーカーにコーヒーを注いでいた。

 

「今の所は……ない」

 

「そうか…、悪いことを聞いてしまったな、すまない」

 

それだけ言うと菫が持ってきたコーヒーを受け取り、立ち込める湯気を見つめている。

 

「もう一年なんだね……」

 

八葉は小さい呟きを漏らした。

 

 

 




ブラック・ブレットが好きすぎて思わず作ってしまいました…。

初作品なので、未熟な部分も多いと思いますが、アドバイスなどしていただければ嬉しいです。

気軽にコメントなど頂ければ幸いです。


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第二話

朝。

目覚ましが耳障りなアラームを響かせようとした時、時計の上部にあるスイッチに向かって力強く平手が振り下ろされた。

 

「んっ。んん〜〜〜ッ、ふあッ」

 

間抜けな声と共に布団がもぞもぞと動き、栗色の髪の少女がはい出てくる。

 

水晶だ。

隣りでまだ寝ている八葉を起こさぬよう、寝ぼけながら眼をこすり、洗面所へ行き顔を洗う。

 

タオルで水滴をふき取ってから鏡を見た。

 

覇気のない瞳、不幸しか呼ばないであろう表情。ニッと笑ってみるが、明らかに作られた笑顔だ。

 

そういえば、心の底から笑ったのはいつ頃だったかな?そう思いながらリビングに行くとテレビを付けた。

 

いつものように今日の天気を確認。夕方から雨との事だ。

 

すっきり目が覚めた所で日課である、ランニングをするためマンションの外に出る。

階段を降り、入り口でストレッチ。入念に足の筋肉をほぐす。

 

ストレッチが終わったところでいつものコースを巡回するために動く。

 

町中は、やはり朝が早いという事で通勤する人々や、公園でラジオ体操を行うお年寄りの方々が多い。

 

呼吸音と、規則正しい足音が水晶を思考の彼方へ誘う。

 

昨日、菫の所へ行ってから少しずつだが、色々とかみ合わなくなっている。

ガストレア、弾痕、微かな火薬のにおい。この全てが、血塗られた過去をえぐり出す。

 

すごく不安なのだ。体を動かしていればすぐに忘れるだろうと思っていたものの、一度思い出せば脳からは消せない。芋づる式に思考は加速する。

 

自分はまた、あの地獄の日々に戻らなければならないのか。また、全てを失うのだろうか。また________。

 

僅かに呼吸音が乱れ、心臓がはね上がる。

 

そんな時だ。考え事をしていたせいだろうか、前方に対する警戒が薄れていたらしく前方の自転車に対して反応が遅れた。

 

「きゃぁっ」

 

「うおっ、あぶねっ!」

 

はねられる寸前ではっと気がつき、左側に飛び込んでなんとかかわす。

 

「す、すまん。怪我はないですか?」

 

自転車に乗る黒いブレザーを着た高校生が後ろを振り返って謝罪してくる。

 

「大丈夫です。ちょっと考え事をしてて……」

 

あはは、と苦笑すると少年は安心したのか、強張らせていた頬を少し緩ませた。

 

「蓮太郎、蓮太郎!何してるのだ?早くいかないと遅れるぞ!」

 

「うん?ああ……やべっ!それじゃ!」

 

自転車の後ろに乗っていたツインテールの少女に急かされ、少年は再びペダルをこぎ始める。

 

彼らが下って行く坂道を見れば、こちらに向かって走ってくる人影が。

 

「み、水晶!まだ走ってるの?早くしないと遅刻しちゃうよ!!」

 

「え…?」

 

焦る八葉に呆気をとられながら、ズボンのポケットから携帯電話を取り出し画面を叩く。

 

時刻は午前七時。走り始めて九十分も経っていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っ!!!?」

 

延珠は何かを感じ取ったのか、突然後ろを振り返る。

 

「ん?どうかしたのか、延珠」

 

「……いや、何でもないのだ。気にするでない」

 

「あ、そう」と踵を返す蓮太郎を他所に、延珠は今来た道を見つめていた。

 

何だったのだ今のは……、異様な気配がしたような…。

 

坂が視界から消えるまで、延珠は目で追っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

終業のチャイムが鳴って、水晶は足速に自宅まで歩く。天気予報通り、空模様が悪くなり始めていたからだ。

 

しばらく歩いていると、ビルとビルの間にある裏路地の暗がりで複数の人影が集まっているのが見えた。

 

何してるのかな?

 

ちょっとした好奇心により、家へと動いていた足を路地に向け進んで行って後悔する。リンチだ。

それもただのリンチではない。『呪われた子供たち』を標的とした集団リンチだ。

 

リーダーと思わしき筋肉質の男と取り巻き三人が、罵詈雑言を浴びせながら少女を蹴ったり殴ったりしている。

 

関わりたくないのが本音だが、さすがに傍観していられなくなり、水晶は不良たちへ歩みよりながら、リーダー格の男の肩に手を置く。

 

「こんばんは。何してるの、あなたたちは?」

 

「あぁん?何だよ姉ちゃん。見ての通りゴミの始末だよ、用がなかったらさっさと消えな。それとも____」

 

男が左手を伸ばして水晶の肩を掴み「遊んでやろうか?んん?」と脅し文句のように述べる。

 

肩をつかまれ、少しイラッとくるが、なるべく平静を装う。

 

「そうね、少し遊ぼうかな。ただし____」

 

水晶は男の手を取り、背後に手を回すと関節をきめる。

 

「喧嘩でね」

 

男の関節からみしみしという鈍い音が聞こえ「ぐぁぁぁぁぁッ」悲鳴をあげた。

 

「て、てめぇ!」

 

取り巻き達の顔色も変わり、たちまち武器を取り始める。バラニウム製のナイフに拳銃、スタンガンのような物を男たちが一斉に構えるものの、完全に素人の構え方。

 

特に拳銃を持つ男など、こちらを全く狙えていない。

 

「撃ちなよ」

 

「は?」

 

「拳銃を向けるって事は…人の命を奪う覚悟があるんだよね?なら、撃ってみなさい」

 

水晶の凛とした声が男たちに緊張を与える。拳銃の男はおびえるようにガタガタと震えていた。

 

「……覚悟がないなら中途半端なことしないでよ」

 

リーダーの首根っこと右手首をつかみ、足払いをかけ、男たちへ投げ飛ばす。

 

「うおっ!」

 

「ちょっ…おまっ」

 

運よく一番前にいたスタンガン野郎にリーダーがぶつかり二人とも壁に頭を打ち付け気絶する。

 

そして、慌てる男たちを尻目に拳銃の男の懐に潜り込み、掌底をあごに叩き込む。

 

「ごぁッ」とうめき声を残し、白目をむいて男が倒れる。

 

「て、てめぇ」

 

ナイフ男が突きを繰り出すが単調かつ、遅い。近くに置いてあった金属製のパイプを手に取り、難なく受け止める。

 

「動きも遅いし、無駄が多すぎる。そんなんじゃ、私を倒すには至らないよ」

 

男が驚きで目を見開く。

 

「な、うそだろ…」男の口から小さい呟きが漏れる。冗談だろ、と言わんばかりにこちらを見てくる男に対し、

 

「いいえ。これは現実」

 

耳元でそう呟くと、首筋に手刀を振り下ろす。前のめりに倒れた男を見下ろし、気絶しているのを確認するとすぐにリンチされていた少女のほうをむき膝をつく。

 

「あなた、大丈夫?」

 

声をかけるとともに、カバンの中から応急処置セットを取り出す。昔の癖でいつも持ち歩いているのだ。

 

「あなたは……な、んで、助けて…くれるの?」

 

胸を蹴られて息がしにくくなっているのだろう。呼吸も荒い。

 

「私が助けたいと思ったから助けただけ」

 

そっけなく返答しながら、少女の傷を見渡す。擦り傷が多いが、どうやら大きな怪我はないようだ。

消毒をほどこし、絆創膏又は包帯を巻き処置は完了。

 

「よし、これで大丈夫。騒ぎになる前に早くここから立ち去りなさい。家まで帰れるでしょ?」

 

水晶は立ち上がり、少女に背を向ける。

 

「あ、あの…」

 

呼びかけられ水晶は後ろを振り向く。

 

「お名前を聞かせてもらっていいですか?」

 

急に名前を聞かれ戸惑ってしまう。だが、その戸惑いも一瞬だったようで。

 

「神澪水晶。これが私の名前だよ」

 

「あ…私の名前は十文字晴華(じゅうもんじ はるか)です。あの……一つ聞いてもいいですか?」

 

「……何?」

 

晴華はしばらく迷っているようだったが、覚悟を決めたのか水晶の目を見つめながら口を開いた。

 

「あなたは民警さんですか?」

 

その言葉を聞いて水晶の顔に緊張が走る。

 

「どうして?」

 

「私を殴ったり蹴ったりしていた人たちを簡単に倒していらっしゃったので…そう思ったんですけど…」

 

言葉が終わりに近づいていくにつれ、晴華の声量が下がっていった。どうやら、引っ込み思案なところがあるらしい。

 

そんな少女を見ると、自然に頬が緩んだ。

 

「鋭いんだね」

 

「えっ?」

 

「でも、半分正解で半分間違い。私は元民警なんだ。じゃあね、晴華ちゃん」

 

そう言い残し、家に向かう。

 

その途中、ある事に気がつく。手には金属製のパイプを握りしめていたのだ。

 

このまま帰れば、近所から白い目で見られるのは確実。だからといってその辺に捨てる事も出来ない。

 

頭を抱え悩んでいると、背後からぞっとするような声がかけられた。

 




んー…何だかグダグダになってきたような…。

次回は、影胤とかが出てくる予定なのでよろしくお願いします!

感想やアドバイスがあればお願いします。


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第三話

「こんばんは。お嬢さん」

 

そのセリフを聞いた瞬間、水晶の手が神速で動いた。金属製のパイプを再び握り直し、声がした方向に向ける。

 

「誰?」

 

ゆっくりと背後に顔を向けると暗い銃口がこちらに向けられていた。

カスタム元はベレッタと思われる拳銃。

上部に接近戦用のマルズスパイクを付け、銃口の跳ね上がりを抑制するために増設したのだろう、銃口下部に銃剣ユニット付きの大型スタビライザー、マガジンはエクステンションタイプの多弾倉のようだ。

 

両面には英語で何らかの文章が刻印されているようだが、闇にまぎれて見えない。

 

グリップに埋め込まれた邪神クトゥルフを象ったメダリオンや夥しい量のスパイクがついており、全体的に悪趣味な銃となっている。

 

視線を移して、銃口を向ける奇妙な人物に水晶は眉を寄せた。

 

身長はすらっとして高く、高級そうな革靴を履き、ワインレッドの縦縞の入った燕尾服にシルクハット、そして今から舞踏会にでも行くつもりなのか仮面をしているのだ。

 

「ヒヒ、少し話をしに来たのさ。その鉄パイプを下ろしてくれないかね」

 

水晶は目を細めて相手を睨みつける。

 

「残念だけど、私にも色々あるのよ。お引き取り願えるかしら?」

 

男はやれやれと言わんばかりに大げさに肩をすくめて、指をパチンと鳴らす。

 

「_____小比奈、彼女の左腕を切り落としなさい」

 

「はい、パパ」

 

少女の声が背後から聞こえ、後ろを向く。その先には黒いワンピースを着た少女が両手に小太刀を持っており、赤く光る瞳でクスッと笑ったと思うと、今まさに水晶の手を切断しようとしていた。

 

反射的に足の筋肉を収縮、垂直に飛び上がる。電柱の頂上まで飛躍すると、慣性力と重力が打ち消し合い空中でいったん静止。その瞬間、下を向く。

 

すると、先ほどまでいた場所の道路がさいの目状に切られていた。背筋に寒気が走る。

 

止まっていた時間も終わり、すぐに重力で引っ張られ地面に落ちていくが、膝のクッションを最大限まで使い着地時の衝撃を地面に逃がし、同時に力強く地面を蹴り出す。

 

タイミング、速度、男との間合い、全て良し。必ず当たると思っていたからこそ、次の出来事に水晶は目を丸くした。

 

「『イマジナリー・ギミック』」

 

男がそう唱えると、彼へ振り下ろしていた鉄パイプが雷鳴音と共に受け止められる。

 

水晶はすぐさまバックステップを踏み、助走を付け、今度は更に力強く振り下ろすが鉄パイプはあさっての方向に弾き飛ばされてゆく。

 

今度はさっきよりも鮮明に見えた。彼の周りに青白いドーム状のバリアが展開されている。

 

バリアなど、人間が出来る芸当なのか?

 

そして一瞬の隙をつき、小比奈と呼ばれた少女が水晶に向かって突っ込んでいく。

 

_____ッ。間に合わない!

 

反応が遅れ少女のバラニウム製の刀身が自身の体を貫く感覚を予感し、身を固くする。

 

直後、ギィンという音がしたと思うと小比奈が何故か吹き飛ばされていた。

 

「まったく…帰りが遅いと思って迎えに来たら何してるの」

 

「や、八葉」

 

水晶の目の前にはあきれた表情で立っている八葉がいた。

 

「てか、情けない。やられてやんの」

 

「うるさいなッ」

 

ケラケラ笑う八葉に対し、水晶は悔しそう。

 

吹き飛ばされた小比奈は空中で体勢を立て直し、着地すると睨みながら二刀を交差させて構えた。

 

だが、よく見れば二刀の一本に僅かだがひびが入っているのが見て取れる。

 

「へえ、中々やるね。折ったと思ったんだけどなー」

 

「やっぱり鈍ってるんだ」と後ろ頭をかきながらそう述べた。よく見ればその両手には愛用の黒いバラニウム製のガントレットが装着されている。

 

「あなた、名前教えて!」

 

「私は桜咲八葉。モデル・ウルフのイニシエーター。よろしく」

 

「……八葉、八葉。_____覚えた。私は蛭子小比奈、モデル・マンティスのイニシエーター」

 

小比奈は男に背を向けながら真剣な面持ちで静かに話す。

 

「パパあいつ、嫌な感じがする。今すぐ斬っていい?」

 

「_____やめなさい小比奈」

 

バリトンボイスがあたりに響き、動き出そうとしていた少女の体がぴたりと止まる。

 

「なんでパパ!?もうすぐ斬れたのに!」

 

「ダメだわが娘よ」

 

「うぅ、パパ嫌い!」

 

やれやれと仮面男はシルクハットの位置を直すと水晶と八葉の方を向く。

 

ヒュュウ、と冷たい風が両者の間に流れる。水晶は乾いた口を開く。

 

「あなた何者」

 

「失敬。まだ名乗っていなかったね」

 

男は頭のシルクハットを取り上半身を90度ぐらい傾け、礼をする。

 

「私の名前は蛭子影胤。この子は私のイニシエーターで、私の娘だ」

 

自己紹介を聞いて水晶は疑問が浮かぶ。

 

イニシエーター…こいつ民警?

 

その疑問に気が付いたのだろう。チッチッチッと右手の人差し指を立てて左右に振り否定する。

 

「残念ながら元民警だ。君と同じようなものさ、神澪水晶さん」

 

私を知ってる?一体…。

 

「何が目的?」

 

空気が一転。

ここに何も知らない一般人がいたら震え上がり一目散に逃げるか、失神してしまうだろう。

それほど、今の彼女は純粋な殺気を放っているからだ。それも常人が受け止められないほどの強烈なものを。

 

しかし、影胤は気にもとめないように両手を広げおどけて見せた。

 

「単刀直入に言おう。君がほしい」

 

水晶は理解できないとばかりにさらに眉を寄せる。

 

「私の仲間にならないか?と言っているのだよ」

 

「仲間?」

 

「ああ」と影胤は首を縦に振り肯定した。

 

「これから東京エリアには大絶滅の嵐が吹き荒れる。そこでだ、私は君のような力を持つ者を集めている」

 

「______なぜ、力のある者を集めようとするの?」

 

「水晶さん、この理不尽な世界を変えたいと思ったことはないか?東京エリアの在り方は間違っている。そう思ったことは、一度もないかね?」

 

影胤の言葉を聞き、拳を強く握りしめる。

 

理不尽だと、間違っていると自分は何度思ったことか。正直、影胤に言われずともわかっている。

 

だが_____

 

「丁重にお断りします。確かに、あなたの言うとおりこの世界は理不尽で間違ってると思ってるしうんざりもしてる。でも、少なくとも私の力は東京エリアを滅ぼす手伝いをするためのものじゃない」

 

「そうか…君なら断るとは思っていたが残念でならないよ。まあ、いい。では今日はこれで失礼するよ。次に会う時は、殺し合いと行こうじゃないか」

 

仮面の下で不気味に笑う影胤は、踵を返し、水晶たちに背を向けた。

 

「行くよ小比奈」

 

「はい、パパ」

 

小比奈が影胤に肩を貸す。彼女の目が赤くなり力を解放、そのままジャンプし、暗闇へと消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

自宅に戻った水晶たちは、自室の布団に寝転び天井を見つめていた。

 

真っ暗な室内は、月明かりにより少し明るい。ふと、手が震えているのに気づき、震える手をもう一方の手でおさえる。

 

先ほどまで戦っていたんだ。時間が経てばたつほど後悔の念にかられる。

 

二度と戦わないと決めたじゃないか。何のために民警をやめたのだ。

 

「………何やってるんだろ」

 

酷く悲しそうに水晶は呟く。

 

すると、隣で寝ていた八葉がもぞもぞと動き目を覚ます。

 

「あ、ごめん。起こしちゃった?」

 

「ううん、大丈夫。……水晶こそ大丈夫?」

 

曇り一つない瞳は水晶を映し出していた。心配してくれているのか、少し潤んでいるようだ。

 

「大丈夫。って言ってもお見通しなんでしょ?」

 

まあね、と言わんばかりに胸を張る八葉。そんな仕草に自然と微笑む。

水晶は少し視線を落とし、彼女に問う。

 

「ねえ、八葉。私は一体どうしたらいいのかな?」

 

「えっ?」

 

「不安なの。…もう一度戦う理由もなければ、刀を握る勇気も出ないのに…そんな私でも、また戦わないといけないのかな?」

 

不安げな水晶の声に八葉は無言でいたが、突然ニッと笑みを浮かべると、水晶の布団に入り込む。

 

布団から顔をのぞかせる八葉は、いつも通りの満面の笑顔。

 

「そんなの誰にもわからないよ。でも、どちらを選んだとしても私は水晶の味方だから、忘れないで」

 

「……そうね。八葉がいるなら私も安心だよ。ありがとう」

 

布団に潜り込んでいる八葉の頭を水晶は優しくなでる。

 

それで安心したのか、八葉ゆっくりと瞼を閉じた。その後、彼女が眠ったのを確認し、自身も眠りにつく。

 

 

 

 




影胤たちとの話が長くなってしまい、すみませんw

わかりやすくまとめたいんですけど、難しいかぎりです。

感想などありましたらよろしくお願いします。


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第四話

「なんでこんなとこにいるんだろ……私……」

 

目の前に立っている真っ白な建築物を見上げながら水晶はそう呟く。

 

建築方法はネオ・ゴシックというのだろうか。水晶はそういう美術関係はからっきしダメなのであまり感動を受けることはなかった。

 

何故ここにいるのかというと、今朝の事だ。

いつものように全ての日課を終え、学校に向かおうと家を出た時______そこには黒服の男性がいた。

 

「失礼ですが、神澪水晶さんですか?」

 

「はいそうですけど…なにか…?」

 

そして、(半ば強制的にだが)黒塗りのリムジンに乗せられてここまで連れられて来たのだ。

 

あの時、リムジンに乗せられた瞬間を目撃していた八葉の唖然とした顔が忘れられない。

 

「ほら、行きますよ」

 

黒服の男性に先導され、聖居内に入る。

 

レッドカーペットが敷かれ、壁に高価そうな絵がかけられた廊下を進む。悪いと思うが無駄にお金をかけすぎだと水晶は心の中で呟く。

 

数分歩いただろうか、先導していた男が立ち止まり「ここで聖天子様がお待ちです」と言って扉の脇に気を付けの姿勢で立つ。

 

水晶は黒服の男を横目にドアノブを回して部屋に入る。

 

部屋は小さく、壁紙は雪のように真っ白。部屋の中央に大理石でできた机と、柔らかそうな高級ソファーが置かれており、そこに一人の純白の少女が座っている。

 

黒い瞳。真っ白いウエディングドレスのような服装。

近寄りがたいほどの美貌の持ち主は、水晶が今いるこの東京エリアの統治者である。

 

「お久しぶりです、水晶さん。立ってないで座ったらどうですか?」

 

聖天子は微笑みながら水晶に着席を促す。

 

水晶は少し緊張しながら聖天子に対面する位置でソファーに腰かける。

想像以上にソファーが柔らかい、まるで雲に座っているような感じだ。

 

「えっと……聖天子様?」

 

「なんですか?」

 

座って早々、水晶は気になった事を聖天子に問う。

 

「私を呼んだのはなぜですか?」

 

嫌な予感しかしないが、恐る恐る尋ねてみると___。

 

「あなたにやってもらいたい依頼があります」

 

「私に……依頼?」

 

「はい」

 

予感的中。そんな事だろうとは思っていたが、即答されると胃に悪い。気のせいか、頭痛もしてきた。

 

「なぜ今頃私に?いや、なんで私何ですか?私が辞めてもう一年は経ちますが、それまで音信不通だったのに今更……」

 

「あなたのような引退した人を呼び戻してでも、成し遂げなければいけない事態にまで陥ってしまったのです。今回の事件は」

 

目の前の自分と同じ年の国家元首は張り詰めた表情をしていた。静まる空間に凛とした声が響く。

 

「あなたが仲間と共に命を賭して守ったこの東京エリア。それが今、“大絶滅”の危機に陥っているのです」

 

「えッ!?」

 

突然の事に思わずソファーから立ち上がる。信じられないと言わんばかりに水晶は目を見開く。

 

「あなたのような人材が今は一人でも必要なのです。もし、あなたが依頼を受けなければ…」

 

聖天子は一度言葉を切り、深呼吸してから続けた。

 

「東京エリアとその市民は地球上から消えてしまう恐れがあります」

 

「………………」

 

「お分かりいただけたでしょうか」

 

わかってる。頭の中では。

 

だが____。

 

「……私は戦えない」

 

「なぜです?」

 

首を傾げる聖天子に水晶は真っ直ぐ視線を向ける。

 

「なぜ?じゃあ、はっきり言いますが今の私が戦いに貢献できるとは、到底思えません!あれから筋力トレーニングは欠かさずやってきましたが、戦闘の方はからっきしです。技量が錆びついてるなどあなたにも目に見えてることじゃないんですか!?」

 

「その事を考慮した上で依頼しているのです」

 

迷いのない真っ直ぐの瞳が、水晶を映し出す。

 

「……あなたは私を買いかぶりすぎなんですよ。昔からずっと…」

 

聖天子はいたずらっぽく笑うと続ける。

 

「あなたの実力はよく知っていますから。その胸の内にある優しい心も」

 

「……………」

 

「それとも、まだ許せないのですか?ご自分の事が」

 

「許すも何も、私の中の時間はあの時のままです」

 

その言葉に聖天子は悲しそうに瞑目していた。やがて、聖天子が次の言葉を発するより先に思わぬ言葉が重なる。

 

「____お受けしますよ」

 

聖天子が驚きに目を見開き、水晶に理解出来ないと言うように視線を向けてきた。

 

「だから、依頼を受けると言っているんです」

 

「もう後戻りはできませんよ?それでも____」

 

「仲間と共に守ったこのエリア、私は何としてでも守りたい。そう思っただけです」

 

「それに、誰か様のご期待にも答えてみたいですしね」と、水晶はニッと微笑む。

 

しばらく聖天子は水晶に呆気をとられて口を開いていたが嬉しそうに微笑むと、すぐに傍らに置いてあったタブレット端末を操作して画像を表示する。

 

「あなたにこれを回収していただきたいのです」

 

そこには銀色のジュラルミンケースが写っていた。

 

「これを?なぜですか?」

 

水晶が質問すると聖天子は目を鋭く細めた。

 

「今、詳しいことは…。後ほど、防衛省まで来てください」

 

と、分厚い封筒を手渡される。中には依頼内容の書かれた紙やリストアップされた数多の民警の名前の紙が。

 

「……一つ質問いいですか?」

 

「どうぞ」

 

「これはつまり、私にどこかの民警に所属しろと?」

 

ヒラヒラと、確認するように民警の名前が載ってある紙を揺らす。

「はい」

 

「……私そういうの苦手なんですが」

 

「水晶さんなら大丈夫です」

 

何を根拠に言ってるんだ、この人。

 

その時、ふとした疑問が生まれる。

ジュラルミンケースを回収する程度の依頼なら、わざわざ自分を呼び戻さなくていいだろう、と。

だが、あえて彼女は自分を呼び戻したのだ。一体何の為に?

 

「聖天子様、ケースを他に狙っている者がいるのではないのですか?」

 

「……………」

 

その質問を聞いたとき聖天子はばつが悪そうに目を伏せる。

どうやら、当たりのようだ。

 

そして、隠しきれないと観念したのか、聖天子は顔を上げ水晶の瞳を見つめ口を開いた。

 

「____蛭子影胤。元民警です」

 

「蛭子……影胤?」

 

その名に思わず眉をしかめる。聞きたくない名を聞いてしまったものだ。

 

「どうかしましたか?」

 

「その人、昨日の夜に会いました」

 

「何処でッ!?」

 

突然の水晶のカミングアウトに聖天子は机から乗り出し、顔を近づけてきた。

水晶はその迫力に気圧されあさっての方向を向きながら頬をかく。

 

「あー……確か、昨日の夜八時頃だったかな。学校帰りに色々あって遅くなった時に背後から声をかけられたんです」

 

「それで?」

 

「私の仲間にならないかって…」

 

「……あなたはその問いに何と答えたのですか?」

 

「断りましたよ。あなたの仲間になるつもりはない。と、はっきり」

 

安心したのか、聖天子は再び落ち着きを取り戻し椅子に座る。

 

すると、扉越しから「聖天子様、そろそろお時間です」との声が聞こえ「わかりました」と聖天子は応えた。

 

視線をこちらに戻すと、表情を引き締める。

 

「私はこれから民警の方々に今回の依頼を述べにいきます。水晶さんはただちに防衛省へ向かい、そこでお渡しした紙に載っている民警から候補を選んでみてはどうでしょう?」

 

普通なら「いや」の二文字で断る所だが、依頼を受けた以上民警の現状を把握する事も大切なこと。

 

「わかりました」

 

水晶は渋々了承した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

聖天子との対談の後、水晶は防衛省まで送ってくれるというリムジンの場所にまで向かう。

 

リムジンが見えてきたと思うと、そのドアの前に荷物を抱え、仁王立ちしている少女に気がつく。

 

「八葉…」

 

水晶の八葉を見つめる瞳が揺れる。民警をやめると言っておいて再びその職務につくと言えば彼女は何ていうだろう。

水晶は複雑な気分になっていた。

 

だが、そんな心配も無用だと言わんばかりに八葉はニッと笑いながらVサインをしてくる。

 

「準備ならバッチリだよ!まあ、体はなまってるかもしれないけど、私は戦える。このエリアを守ってみせる。

水晶、私はとっくに戦う覚悟決めてるよ!」

 

その言葉は張り詰めていた気持ちを和らげた。自然と口角が上がる。

 

「_____ありがとう。なら、もう一度私と戦ってくれる?」

 

「もちろん。私は死の果てまで水晶と一緒にいるよ」

 

二人は笑い合いながら手を繋ぎ、一緒にリムジンの中にへと乗り込む。

 

「えっとー…ブランクは一年くらいだっけ?」

 

「一年と数ヶ月ね。錆びついた技術でどこまで出来るかはわからないけど」

 

昨日の戦闘が不意に脳裏をよぎる。

 

あの時、八葉が来てくれなかったら今頃自分はここにいないだろう。それに蛭子影胤、彼は何かを隠している気がしてならない。

 

水晶は胸ポケットに入れていたものを取り出す。

 

材質はプラスチックで大きさは手のひらサイズ、形状は長方形。

表には水晶の顔写真と細やかな情報が記載されている。水晶が依頼を受けることを承諾した際に聖天子が手渡してきたのだ。

 

なつかしいな、と眺めていると八葉が何かを思い出したように「あ、そうだ!」とこちらに視線を移す。

 

「私たちの序列っていくつになったの?」

 

「確か……八万台からスタートだったような…」

 

「やっぱり、かなり落ちちゃったね」

 

残念と言わんばかりに八葉は短いため息を一つ。

 

「何でもいいわよ。序列なんて、ただ誰が上か下かをはっきりさせておくためのものだし…私たちには関係ないもの」

 

「うん…、そうだよね!」

 

水晶は目の前に置いてある荷物に視線を落とす。

 

そこにあるのは白銀の細長いアタッシュケース。すぐさま開き、中身を確認する。

 

中には衝撃吸収用のクッション、ハンドガンそれと二本の刀が入っていた。

とりあえず水晶はハンドガンを取り出し、銃弾を装填する。手に懐かしい重みが蘇り、ポーチに収納。

 

その後、水晶は二本の刀を手に取る。

先程のハンドガンは苦手な遠距離を補う為の物、これが水晶の得物であり愛刀だ。

 

もう一度…私に力を貸して白桜、黒椿。

 

水晶はケースから刀を取り出すと、右手で柄を握り抜刀しようとするが_____。

 

「あ、あれ?抜けない?」

 

もう一度力を込めて抜こうとするが、ロックがかかっているのか錆びついているのか、うんともすんとも動かない。

 

「抜けないの?しょうがないなー、私に任せなさい!」

 

えへんと胸を張る八葉は刀を受け取ると赤目になり、引き抜く。

メキメキと鈍い音が聞こえたが、それは一旦置いておこう。

 

僅かに錆びついているが、太陽の光に照らされた刀身は白桜なら美しく輝き、黒椿なら妖しく輝く。

 

試しに軽く振る。

 

以前は自分の手が延長したような感覚だったのに……。

 

水晶はため息をつくと、刀を再び鞘に収める。わかりきっていた事なのに情けない限りだ。

 

とりあえず、防衛省から帰ったら整備しよう。

 

 




次回は、木更や蓮太郎が出てくる予定なのでお楽しみに!

聖天子様と水晶の細かい関係はおいおい明かして行きたいと思います。

感想などありましたらよろしくお願いします!


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第五話

庁舎に到着した水晶と八葉は受け付けで名前を告げると、第一会議室と書かれた部屋の前まで案内された。

 

「き、緊張するなー…」

 

「八葉はこういうのに弱いもんね」

 

と、言いつつ水晶も緊張しているのか、ドアノブに手を伸ばしたところで深呼吸を一つ吐く。

 

扉の向こう側から複数の人の気配を感じながら扉を開けると、小さな扉からは想像できないほど部屋は広い。

中央に細長い楕円形の卓、奥には巨大なEDパネルが壁に埋め込まれていた。

 

だが、何より目についたのは中にいる人間だ。

 

「勢ぞろいって感じかな…」

 

中にはおそらく民警の社長格であろう高級感あふれるスーツに袖を通した人たちが椅子に座っていた。更にその後ろには威圧感漂うプロモーターと思われる連中がおり、何人かイニシエーターも傍に控えている。

 

その光景に不快な気持ちが芽生えた。

プロモーター達がいるのは護衛を兼ねているのかもしれないが、それだけではないだろう。

 

簡単にいえば、自らの民警の力がどれほど大きいのか示しているのだ。

 

____こんな大変なご時世に馬鹿らしい。

 

ため息混じりに中へと足を踏み入れると、雑談の話し声が消えて一斉に視線が二人に集まる。

珍しいものでも見たかのような反応に八葉は目を丸くし、水晶は涼しげな表情のまま室内へ進む。

 

しかし、それを邪魔する者が現れた。

 

「んだよ、民警ごっこのガキ共の次は、小娘か?迷子ならとっととここから出ていけや」

 

口悪い男は二人の行く手を塞ぐように立ちながら、悪態をついてくる。

水晶は視線を男に向ける、そこには逆立った頭髪に、筋肉質な体格、そして口元は髑髏のフェイススカーフを巻いた青年が仁王立ちしていた。

 

よく見れば、彼の手には何とも物騒なバスターソードと思われる巨剣が握られているのに気づく。

 

脅しのつもりかは知らないが、この程度の事で怖気づくほどやわではない。

 

水晶は八葉の手を握り、男を無視するようにすぐ傍を素通りする。それが気に入らなかったのか「おいッ!」と怒声が部屋に響く。

 

「……何か用ですか?」

 

少し面倒くさそうに振り返る水晶の行動が、さらに男の怒りにふれる。

 

「何か用ですか?じゃねぇッ!ここはテメェみてぇな奴が来る所じゃねぇつってんだよッ!!」

 

何て耳障りな大声なんだろう。迷惑この上ない。

 

「おい!聞いてんのか?あぁ?」

 

男がそう言ったところで沈黙が流れる。この気まずい雰囲気の中、

 

「あ、話終わりました?」

 

と、水晶の間の抜けた言葉に誰もが唖然とする。男も口をパクパクさせていた。

 

「話が終わったようなら、私たちはこれで失礼します」

 

ぺこりと軽く一礼、顔を上げたところで頭に血が上った男は水晶の胸倉に手を伸ばしてくる。

 

水晶は滑るように後退した。一瞬、周りからどよめきが上がる。

これにより、完全に逆上した男が再び水晶に掴みかかるが、闘牛士のようにその手から逃れる水晶。

 

「女性の胸ぐらを掴もうなんて失礼じゃないんですか?」

 

ニコリと微笑むが、目が笑っていない。

 

「ざけんな!」

 

今度は拳を固めて殴りかかる。が、

 

「やめたまえ将監!また面倒を起こすつもりか?今度は本当にここから出て行ってもらうぞ!」

 

彼の雇い主と思われる人物が静止を促す。将監と呼ばれた男は黙っていたが「チッ」と舌打ちをしてから壁際まで引き下がった。

 

「お嬢さん、申し訳なかった。代わって謝罪する」

 

「いえ、こちらも言いすぎました。すみません」

 

両者共に頭を下げた。

 

「水晶やりすぎ」

 

「あはは、ごめんごめん」

 

少し進んだところで水晶と八葉も壁際まで下がり、ふと視線の感じる方を見る。

 

その瞬間、水晶は目を見開いた。

 

水晶の視線の先には同い年ぐらいであろう二人が目に入る。一人は少女で、着ている制服が御嬢様学校として有名な美和女学院のものあり、同じ女性の自分でも見惚れてしまうほどの美人だ。

 

もう一方の少年は、真っ黒の制服に、言っては悪いが不幸面。覚えてる、昨日の朝にぶつかりかけた少年だ。

 

「民警だったんだ…」

 

という事は後ろに乗っていた少女は彼のイニシエーターであろう。

 

こんな所で出会うなど、これも何かも縁なのか。

 

「水晶、『天童』ってあの天童?」

 

八葉も彼等の事に気がついたのか、首を傾けて尋ねる。

 

「だろうね。あのおじいさんの孫でしょ」

 

「…私あの人苦手」

 

苦い顔をする八葉に、水晶は苦笑しながら頭をなでた。

 

確かにプレートには『天童』と書いてあるがおそらく彼女はあの噂に聞く『天童殺しの天童』だろう。

 

「ねぇねぇ、水晶」

 

「ん?」

 

服を軽く引っ張られ、視線を移した。

 

「何か食べ物持ってない?」

 

「食べ物?もしかして、お腹減っちゃったの?」

 

服のポケットやカバンの中を確認しつつ八葉に問うが、彼女は首を横に振る。

 

「いや…私じゃないんだけど…」

 

八葉の視線をおうと一人の少女がいた。

先程、言い争った将監の隣にいる事から彼のイニシエーターなのだろう。こちらに送られてくる視線からお腹が減っているのは彼女だとわかった。

 

隣では八葉が楽しそうに少女とジェスチャーで会話しているのを横目で見つつ、その間に水晶は再び食べ物の捜索にあたる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あっ…」

 

「どうしたの、里見くん」

 

蓮太郎は伊熊将監を軽くあしらった少女を見ると、思わず固まった。その事に疑問を感じた木更は蓮太郎の視線の先に焦点を合わせる。

 

「…もしかして、あの可愛い子に一目惚れしちゃったの?」

 

「は、はぁッ!?」

 

「この最低、不純、お馬鹿」

 

軽蔑の眼差しに蓮太郎はがっくり肩を落とす。

 

「ちげぇっての。昨日の朝だったかな…自転車でぶつかりそうになった人なんだよ」

 

後ろ頭をかきながら言いにくそうに蓮太郎がそう述べると、

 

「ちゃんと前見て運転しなさい。あんな可愛い子に怪我でもさせたら私、許さないから」

 

先程から一転。

理不尽な事を告げる木更に、蓮太郎は小さく口を開けたまま凍りつく。

 

この社長は一体何なのだろう。

だが、考えるだけ無駄なので、もう一度視線を少女に戻す。

 

「しっかし、同じ民警だったなんてな…」

 

「私も初めて見るわ。けど、あの千番台の伊熊将監を圧倒していたから、ただ者ではないでしょうね」

 

「まあな」

 

蓮太郎は何か変な縁のようなものを感じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今だ食べ物を探していると、制服を着た男が部屋に入ってくる。お偉い方々が一斉に立ち上がりかけたところで、男が手を振って着席を促す。

 

「本日集まってもらったのは他でもない、諸君等民警に依頼があるからだ。空席が一つあるようだが…話を続けさせてもらう」

 

見れば、『大瀬フューチャーコーポレーション様』とかかれた席だけが空いていた。

 

男は咳払いを一つ吐くと、当たりを見渡す。

 

「本件の依頼内容を説明する前に、依頼を辞退する者はすみやかに席を立ち退席してもらいたい。依頼を聞いた後では、もう断ることは出来ない」

 

水晶はもちろん、他の民警も誰一人立ち上がる者はいなかった。

 

「よろしい、では説明はこの方に行ってもらう」

 

と言って男は背後の特大パネルに一礼。

同時に一人の少女が映し出される。

 

『ごきげんよう、みなさん』

 

その瞬間、信じられないという驚きと共に誰もがその場に勢いよく立ち上がった。

 

敗戦後の日本、東京エリアの統治者。聖天子がそこに現れたのだから、面を食らわないはずがない。

 

そして彼女から少し離れた位置に天童菊之丞の姿も。

 

僅かに聖天子と目が合い、微笑まれたような気がしたがなるべく平静を装った。

 

 

 




前回言ったように蓮太郎と木更は出てきましたが…からみがあまりありませんでしたね…。

次回は、再び影胤が出てくる予定なのでよろしくお願いします!

感想やアドバイスがありましたら、お願いします。


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第六話

『楽にしてくださいみなさん、私から説明します』

 

誰一人着席する者はいなかった。

いや、当たり前か。このエリアの統治者を前に座る度胸のある奴はいないだろう。

 

『依頼内容はとてもシンプルです。みなさんに依頼するのは、昨日東京エリアに侵入して感染者を一人出した感染源ガストレアの排除です。もう一つは、このガストレアに取り込まれていると思われるケースを無傷で回収してください』

 

そう言うと同時に、パネルの一角にジュラルミンシルバーのスーツケースが映し出され、横には成功報酬が表示さらていた。

だが、その報酬額の高さから周囲がざわつく。

 

全て先程聞いた話と同じだ。でも、やはり気になる点も幾つかある。

 

「回収するケースの中にはなにが入っているか聞いてもよろしいですか?」

 

挙手をするのは天童民間警備会社、社長の天童木更であった。

 

思わず水晶は感心する。よくこの中で聞けるものだ。

 

『おや、あなたは?』

 

「天童木更と申します」

 

一瞬、聖天子は驚いたような表情を見せたが、すぐに切り替える。

 

『……お噂は聞いております、天童社長。ですがそれは依頼人のプライバシーに当たるので当然お答えできません』

 

「納得できません。感染源ガストレアが感染者と同じ遺伝型を持っているという常識に照らすなら感染源ガストレアもモデル・スパイダーでしょう。その程度の敵ならウチのプロモーター、一人でも倒せます」

 

「……多分ですけど」と不安げにボソッと呟く木更に、蓮太郎の頬は引きつっていた。

 

水晶は木更に視線を移す。

どうやら、彼女はこの中でもかなり頭が切れる人物のようだ。聖天子を目の前にして一歩も引かない度胸も中々である。

 

そこで水晶は突然眉を寄せた。微かだが、血と硝煙の臭いがするのに気づいたからだ。

 

「水晶」

 

隣にいる八葉も気づいていたのか険しい表情のまま、ある一点を睨みつけていた。

彼女の鼻や聴覚、視力の良さは尋常ではない。その彼女が察知している時点で全てが明確であった。

 

____この部屋に邪魔者がいるという事が。

 

水晶は今だ言い争っている二人の間に割って入るように静かに手を上げた。

 

さすがの聖天子も驚きで目を丸くしていたが、気にせず声を上げる。

 

「お二人共、一旦落ち着いて下さい。今はこの場に居るべきでない侵入者をどうにかしましょう」

 

そう言い終えると同時に、腰のホルスターから拳銃を抜き、八葉の睨みつけていた空席に向けて躊躇なく引き金をひく。

 

しかし、銃口から放たれた銃弾は明後日の方向へ跳んでいった。

わかっていた事だったが、無意識にチッと舌打ちをする。

 

突如甲高い笑い声を上げる赤黒い燕尾服のシルクハットを被った仮面男が空席であった椅子に座っていた。

 

「いやはや、気づかれてないと思っていたが……やはり君には無理だったようだね。こんにちは、神澪さん」

 

影胤はシルクハットを抑えながら、体を反らせて跳ね起きると卓の上に立つ。

 

そんな男を誰もが唖然としながらそれを見守っていた。

 

影胤は卓の中央で立ち止まり、聖天子と相対する。

 

「お初にお目にかかるね、無能な国家元首殿」

 

そう言うと、彼女に対しシルクハットを取って深々と頭を下げた。

 

「私は蛭子、蛭子影胤という。端的に言うと君たちの敵だ」

 

不気味な笑みを浮かべて述べる影胤に対して、蓮太郎はXD拳銃を構えて、銃口を影胤に合わせる。

 

「お前ッ……!」

 

「おお、元気だったかい里見くん」

 

その一言で前に二人が何らかの形で接触していたことが分かった。それと同時に学生服の男が室戸菫の話によく出てくる、里見蓮太郎である事が推測出来た。

 

この人が噂のロリコンなのかな…。

 

色々考えていると蓮太郎の声で現実に戻される。

 

「どっから入ってきやがった!」

 

「フフフ、ちゃんと正門からお邪魔したよ。ただ……寄ってくるうるさいハエみたいなのは、すべて殺させたけどね。おお、そうだ!この機会に私の娘も紹介しておこう。おいで、小比奈」

 

「はい、パパ」

 

蓮太郎が振り返るより先に蓮太郎と木更の脇を少女が小走りで走り去っていく。

ウェーブ状の短髪、フリル付きの黒いワンピース。とても見覚えのある少女の腰に交差して差された二本の小太刀の鞘口からは血が滴っていた。

 

「………やっぱりあの子だったか」

 

水晶は頭を抱える。ここに来るまでにあの子は人を殺してきたのだ、それが何故か悔やまれた。

 

卓の上に難儀しながらも登った小比奈は、影胤の横に来てスカートをつまんで辞儀をする。

 

「蛭子小比奈、十歳」

 

「私のイニシエーターにして娘だ」

 

小比奈がこちらを見ると不気味に笑う。どうやら八葉に気がついたようだ。

 

「パパ、八葉がいるよ。斬っていい?」

 

「よしよし。だがまだダメだ、我慢なさい」

 

「うぅー…」と残念そうな顔を浮かべる小比奈に対し、八葉も八葉で今にも飛びかかりそうだった。

 

「水晶、どうする?殺るならいつでもいいよ」

 

確実に殺れる自信があると言わんばかりに八葉は戦闘態勢に入る。

 

「こらこら。そんな物騒な事言わないの」

 

コツンと頭を軽く叩くと続けて言葉を重ねた。

 

「それに、全力で戦うのは禁止してるハズだよね?」

 

静かに呟く水晶の言葉に八葉はビクリと体を震わせ「はい…」と反省の色を見せる。

 

「ここになんの用だ…ッ」

 

「ああ、挨拶だよ。私もこのレースにエントリーすることを伝えておきたくてね」

 

「エントリー…?」

 

不意に、水晶は呟いていた。

 

「『七星の遺産』は我らがいただくと言っているんだ」

 

『七星の遺産』という単語に、先に依頼を聞いていた水晶でさえ顔をしかめる。

 

聖天子も観念したように目を伏せた。

 

「おやおや、本当に何も知らされないまま依頼を受けさせられようとしていたんだね。簡単に言えば“大絶滅”を引き起せる封印指定物だよ」

 

予想もしていない事に目を見開く。ただの仕事ではないと思っていたがこういう事だったのか。

 

そんな時、一人の男の怒声と金属音が空気を変える。

 

「黙って聞いてりゃあごちゃごちゃとうるせぇんだよ!!テメェが死ねばいいんだろ?」

 

声の主である伊熊将監はバスターソードを握り直したと思うと、瞬時に影胤の懐に潜り込んでいた。

 

「ぶった斬れろや」

 

影胤に向かって振り下ろされるバスターソード。

 

その眼前に、水晶が割り込んだ。

将監の巨剣と水晶の腕が交差する。辺りに巨剣の鈍い音は鳴らず、代わりに生じた音は床を鳴らす落下音。

 

何が起こっているのかを確認するように周囲の人間が見たもの。

 

それは、投げ落とされうつ伏せにひっくり返された将監の右手首を摑み、肩口を抑え込んでいる水晶の姿だった。

 

「もう少し冷静になりましょうよ。相手との力の差が分からないわけじゃないでしょ?」

 

水晶は将監を組み伏せたまま、そう述べる。

 

「ってぇなテメェ!何邪魔してくれてんだよ!あぁ!?」

 

「落ち着けって言ってるんです。考えなしに突っ込んでも痛い目を見るだけだとね」

 

「はあ?おもしれぇ……望み通り先にテメェから相手してやるよ!!」

 

激昂した将監が腕を乱暴に振り払い、拳を繰り出そうとしたまさにその時。

 

「下がれ二人共!」

 

その一喝で全ての意図を理解する。

 

___何やってるのよ!バカッ!

 

止めたいものの、全員が引き金を引く手前であった為に後退した。

 

直後、一斉に放たれた銃弾はドーム状のバリアに当たると雷鳴音と共にあさっての方向に弾き返される。

 

全ての弾丸を吐き出し尽くした後には硝煙のきついにおいだけが漂っていた。

数人、運悪く跳弾が当たった人間の姿も確認できる。

 

だから冷静になれと言ったのに。水晶は嬉しそうに両手を広げる影胤に視線を移す。

 

「斥力フィールド。私は『イマジナリー・ギミック』と呼んでいる」

 

「………バリアだと?おまえ本当に人間なのか…!?」

 

恐る恐る尋ねる蓮太郎の言葉に影胤はニヤッと笑いながら答える。

 

「人間だとも。ただこれを発生させるために内臓のほとんどをバラニウムの機械に詰め替えているがね」

 

機械?もしかして…。

 

「改めて名乗ろう里見くん、神澪さん。

私は元陸上自衛隊東部方面隊第787機械化特殊部隊『新人類創造計画』蛭子影胤だ」

 

ガストレア戦争が生んだ、対ガストレア用特殊部隊。その一人が今自分の目の前にいる。

ざわめきは瞬く間に広がった。

 

「おや?君はあまり驚かないようだね」

 

欠片の焦りも動揺も顔に浮かべることなく、平然とした表情の水晶は、

 

「こんなご時世に今さら驚く事なんてないわよ」

 

平坦な口調で答える。

 

影胤は「ほう」と仮面の奥に覗かせる口角を僅かに上げた。

 

「まあ、今日はこれで失礼させてもらうよ。あぁ、そうそうこれはキミにプレゼントだ」

 

影胤は手品の要素で一つの包装された箱を取り出し、蓮太郎の前に置く。

 

「絶望したまえ民警の諸君、滅亡の日は近い。それでは、ごきげんよう」

 

二人は何事もないかのように窓の外へと飛び出した。

 

痛いほどの静けさの中、凛とした声が空間を支配する。

 

『みなさん、私から新たにこの依頼の達成条件を付け加えさせていただきます。あの男より先にケースを回収してください。でなければ、あの男の言った通り東京エリアに大絶滅が引き起こされます』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、全ての民警が帰って行く中、水晶と八葉は二人の人物に声をかけられていた。

 

「あのー…何か用ですか、蓮太郎くん、天童社長」

 

黒髪の少女は少し顔をしかめる。

 

「天童と呼ばれるのは好きじゃないの、木更って呼んでもらえる?」

 

「あ、はい。じゃあ、木更たちは何が聞きたいのかな?」

 

その水晶の言葉に二人は互いに顔を見合わせて目をぱちくりしていた。

 

「_____蛭子影胤のこと…だよね?」

 

驚愕する蓮太郎、だが木更は真剣な面持ちになるとこう切り出してきた。

 

「情報を提供してもらえないかしら?」

 

「その情報を提供して、私たちに何かメリットはあるの?」

 

あちらもさる事ながら、水晶もかなり頭が切れるようでタダで情報を売る気はないようだ。

実際、東京エリアに危機が迫ってるこの状況であえてそれを逆手にとっている。

 

「んーそうねぇ、見たところあなた達はフリーの民警よね?なら、私たちの所で働かない?」

 

「新人を勧誘ですか…足手まといになるかも知れませんよ?」

 

「新人!?あの強さでまだ成り立てって事なの!?でも、それにしては随分物知りだった気が…」

 

木更に詰め寄られて水晶は目を泳がせた。

 

「ま、まあ…色々あって引退してたんだ」

 

疑り深いのか、木更はこちらをじろじろ見てくる。深い事まで聞かれないのは嬉しいがこれはこれで嫌なものだ。

 

「はい、これ」

 

八葉は成り立てだと証明する為に書類の入った袋を見せる。_____と、

 

目にも留まらぬ早さで木更が奪い取り、その全てにサインを行う。

 

蓮太郎、水晶、八葉は口を半開きの状態で固まっていた。

 

書類のサインを済ませると満面の笑みで「これからよろしくね」と力強い握手を。

 

「有能な社員ゲット〜」

 

はしゃぎながら夕陽に消えていく木更の後ろ姿と、可哀想にとでも言いたそうな蓮太郎の瞳が忘れられない。

 

「じゃあ、これが会社の住所と俺たちの連絡先。……まあ、何はともあれよろしくな」

 

そう言い残し、木更の後を追う蓮太郎。

 

「「……………」」

 

残された二人はただただ黙って、風にもて遊ばれるメモを見つめていた。

 

 

 

 

 

 




遅くなって申し訳ありません!

最後は若干無理矢理な木更でしたが、ようやく木更と蓮太郎とからめました。

感想やアドバイスなどありましたら、よろしくお願いします。


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第七話

「で、民警に戻ったというわけか君は」

 

「まあ、そうなるのかな?てか、何ニヤニヤしてるんです」

 

「いや、何でもない」

 

どうにも腑に落ちない水晶だったが机に置かれたビーカーに口を付けコーヒーを飲む。苦い液体が口の中に広がり顔をしかめる。

 

ここにいる理由はただ一つ、水晶は菫に会うために地下室に顔を出したのだ。

 

「しかし、あれほど戻るのをためらっていた君がどういう風の吹き回しだ?」

 

「それは……」

 

菫に問い詰められ水晶は口ごもった。

 

「どうした?」

 

水晶は迷っていたのだ。自分が再び民警としてやっていけるのか。

 

「…………」

 

「まあ無理にとは言わんよ。だがわかっているのか?君が民警に戻るということは、あのことがもう一度起こるかもしれないんだぞ。それでもやるというのか?」

 

菫は語気を強くしながら水晶に問う。

 

「_____わかってる。先生、私この一年普通に過ごしてきて分かった事があるの」

 

「? なんだ」

 

「私は………戦闘職以外あまり向いてない」

 

水晶の言葉を聞き菫が顔をしかめ、イスに深く座り直す。

 

「バイトとか、学校とか、それなりにはこなしてきたけど…やっぱり何か違うんだよね」

 

「……確かに君は安全地帯でのんびり過ごすタイプではないが、正直私の助手としての手伝いは一般人よりは上だったぞ」

 

「ははは。だけど、自分の中ではどうしても違和感を覚えちゃうんだ…」

 

菫は身じろぎして耐熱ビーカーに手を伸ばしコーヒーを飲む。

 

「まあ、私がとやかく言うことではないからな。とりあえず、これの整備に関しては請け負おう」

 

「ありがと、先生」

 

ちなみに、これと言うのは白桜と黒椿の事である。

 

水晶が礼を言うと菫はニヤッと笑った。

 

「礼なんていらないさ。今までの付き合いだろ、水晶。だが、なぜ君のパトロンに頼まない?彼女の方が武器の整備には長けているだろ」

 

その何気ない菫の言葉に、今の今まで微笑んでいた水晶の顔が徐々に青ざめていく。

 

「あ、その…そうしたいのは山々なんですが…。この一年、一度も連絡しなかったというか…しないようにしていたというか…」

 

「なるほど、つまり相手から連絡は来ていたが故意に無視していた、と言うわけか。最低だな君は」

 

「別に故意にとは言ってません!」

 

けらけらとからかうように笑う菫に、一瞬怒りを覚えた。

 

「し、しかし彼女ならそんな事気にしないんじゃないか?」

 

腹を抱えて笑っている菫の言葉に、

 

「何甘い事言ってるんです!!?」

 

と、否定するように力強く叩いた机の音が鳴り響く。さすがの菫もビクリと体を震わす。

 

「先生は何も分かってない…。いいですか!アパートを変えたのも報告してない、連絡がきても放置。つまりは死刑!会った瞬間に殺されます!確実に!」

 

「君の自業自得だろ」

 

きっぱり切り捨てられへこんだ。

 

そんな時、水晶の携帯が震えた。表示された名前を見て、通話ボタンを押す。

 

「木更?どうかしたの?」

 

『仕事してるときは社長って呼んでいったでしょ。それより水晶ちゃん、感染源ガストレアの潜伏先がわかったわ。三十二区、外周区よ』

 

「けっこう遠いんだね」

 

『ええ。里見くんたちは先に向かってるわ、急いで合流して』

 

「急いでって言われても…」

 

ここからの距離を考えたら無理な話だった。

 

『大丈夫。そこにすごいやつが迎えに行くから待ってて!あ、それと余所に手柄とられたら私、中退だから!わかるわよね!?』

 

中退って…どれだけギリギリの生活してるんだ。と、心の中でツッコミを入れながら水晶は了解と返答する。

 

『それじゃあよろしくね』

 

一方的に電話を切られてしまうが今はそこを気にしてる場合ではない。

 

「仕事か?」

 

「うん。先生、適当に刀借りてくから」

 

水晶は立てかけてあった刀を二本拝借し、急いで外に向おうとした時だ。

 

「あ、そうそう忘れる所だった」

 

何かを思い出したように菫はポンッと手を叩いて白衣のポケットに手を入れる。

 

そして、雑に投げつけてきた物を危なげなくキャッチすると、それを確認。

 

「これって…」

 

「いつもの薬だ。どうせ君の事だから、最近飲んでいなかったんじゃないか?ちゃんと飲め」

 

水晶はため息混じりに受け取った透明のケースに視線を移す。中には見た目は普通の丸い形をした錠剤が入っていた。

 

ギュッと悲しそうに握る水晶を横目に、菫は言葉を重ねる。

 

「戦うならそれは必須になる。…よくわかっているだろ?」

 

「………うん。ありがと、先生」

 

「礼はいいっていったろ。さ、早く行かないと木更に怒られるぞ」

 

水晶はその言葉に頷くと、地下室の階段を駆け上がる。その背を見送る菫はどこか懐かしそうな表情を浮かべていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

木更の述べたすごいやつと言うのがヘリだとわかった瞬間驚いたのは言うまでもない。

そして、水晶は先に乗り込んでいた八葉と合流し、三十二区の上空に辿り着くと蓮太郎たちの姿を探した。

 

「んー………雨のせいで視界がわるいな…。木更からの情報だとこの辺りのはずだけど」

 

水晶は確認するように八葉にも視線を送るが、彼女は首を横に振る。

 

「地上に降りられたら見つけられると思うよ」

 

「地上にですか…。しかし、着陸できるような場所が見つからなければ…」

 

八葉の案は無理だと言うように男性の操縦士は言葉を濁す。

 

二人を交互に見つめると、水晶は手に握って携帯電話に視線を移した。表示されているのは蓮太郎に何度も連絡を試みようとした証の発信履歴である。

 

先ほどから一行に繋がらないのだ。

 

____嫌な感じがする。

 

水晶は自身の携帯電話をポケットにしまうと、シートベルトを外す。

 

「なッ、何をする気ですか!?」

 

「すみません、先に降りますね」

 

その言葉に驚愕の目を見開く操縦士に微笑みながら八葉の頭を軽く叩く。

 

「私にはとっても優秀な相棒がいるので」

 

自信満々だと言わんばかりに、えっへんと八葉は胸を張る。何をするのか彼女は察してくれたようだ。

 

「じゃあ、よろしくね八葉」

 

「任せて!大船に乗ったつもりでいいから」

 

褒めすぎたか、と思いつつ後部の扉を解き放つ。

 

「それじゃあ、行きます!私たちが降りたと認識したら、直ぐに立ち去って下さい!」

 

確実に聞こえるように大きな声で言うと、操縦士は大きく頷いた。それを確認した所で八葉に掴まる形で負ぶってもらう。

 

そして、八葉の瞳が真っ赤に赤熱、力を解放。一瞬、世界が静まり返った気がした。

 

などと、油断していたのが運の尽き。突如、凄まじい速度で景色が流れ、重力に逆らう事なく落下していく。強烈なGに引きはがされそうになるが、しがみついた。…意地でしがみつくしかなかった。

 

八葉が地面に両足をつくと、そこを中心に破砕する。

 

「到着〜!…って大丈夫、水晶」

 

ふらっとおぼつかない足どりで大丈夫大丈夫と、苦笑する水晶。

酔ったのだ。何かがこみ上げてきそうになるのを口で軽く抑えつつ、気分を直す。

 

「ほんと、水晶はこういうの苦手だよね」

 

「う、うるさいな」

 

そう私、神澪水晶は絶叫アトラクションなどが大の苦手なのだ。

あんな恐ろしい物に乗る人の気持ちが分からん。と思いながら、二人は歩を進める。

 

「注意をしながら急ごう。…けど、最悪準備しててね」

 

「あの人たち?」

 

八葉の問いに、水晶は頷く。

愛用のガントレットを装着する八葉を水晶はただ黙って見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

歩き始めて数分たった頃、水晶にある疑問が生じていた。

 

___他の民警はどこ?

 

何度も辺りを見渡すが人の気配どころか、人影すら見当たらない。八葉も雨のため臭いでの詮索は断念している。

 

その時、八葉の耳がピクッと僅かに反応を示す。

 

「………誰かくる」

 

八葉が見据える先に視線を合わせると、微かに足音が聞こえてくる。

 

こちらに近づいてくる足音に、警戒の姿勢を取るがすぐに不要だったと感じ取った。

 

徐々に明確になるその人物の姿に先に声をかけたのは八葉だった。

 

「延珠!!」

 

その声にやっと気がついたのか、ハッと延珠がこちらを見ると突っ込むように水晶に飛び付く。

 

「み、水晶……助けてほしいのだ…!!蓮太郎が……蓮太郎が……ッ!!」

 

涙目で訴えてくる延珠に、すぐ何があったか水晶は推測できた。

 

「延珠ちゃん、落ち着いて。蓮太郎くんはどこにいるの?この先?」

 

「ま…真っ直ぐ走ってきたから…それほど遠くないと思うぞ」

 

「そっか、わかった。八葉、延珠ちゃんのことよろしく。私は先に行くから、後から追ってきて」

 

「おっけー!」

 

手を上げて返答する八葉。水晶は視線を延珠に戻すと、頭を優しく撫でる。

 

「大丈夫だから、心配しないで。蓮太郎くんは必ず助けるから」

 

ニコッと笑う水晶に、少し安心したような表情で延珠は頷いた。それを確認すると、水晶は全力で疾走を開始する。

泥水が服にかかるのも気に留めず突き進む。

 

すると、銃声音が雨音と共に鳴り響いた。それも一発ではない何発も連続で聞こえてくる。

 

さすがの水晶にも焦りが芽生えた。

 

____蓮太郎くん、無事でいてよ!

 

祈りにも似た思いを抱いて、水晶は前方を見据えると三人の人物を認識した。

 

増水した川をバックに立っているのは、明らかにぼろぼろで立っているのが精一杯な里見蓮太郎。

 

そして、彼にカスタムベレッタの銃口を向けているのが蛭子影胤。隣には蛭子小比奈の姿も。

 

その光景に水晶の中で何かが切れた。

 

両足に力を込めると一気に解放。筋肉の収縮する感覚を感じながら、瞬時に距離をつめた。

 

「なッ…!!」

 

水晶に気づいた影胤の顔が驚愕に染まる。水晶は抜刀した刀をためらいなく、拳銃を握る影胤の手にめがけて振り下ろす。

 

「『イマジナリー・ギミック』!」

 

焦りの交じった影胤の声と同時に、バリアが展開される。水晶の剣と影胤の間に青白い燐光が。

 

一旦、上に飛び退くと態勢を反転させ太い木の枝に両足を着地し、影胤を見下ろすように空中で一瞬静止。

 

「神澪流剣術、四式。______雷霆(らいてい)ッ!!」

 

重力と脚力を最大限に利用し、稲妻の如く突撃。影胤は凄まじい殺気を感じ取り、再び斥力フィールドを展開させる。

衝突と共に、爆音と青白い火花が散った。

 

剣技を放ち終えると、水晶は蓮太郎の前に立つ。立ち込める煙の中心にいるであろう影胤を見据える。

 

「お、まえ……」

 

蓮太郎は必死に言葉を繋ぐ。

 

「無事、って訳じゃないよね…。でもよかった…、もう少しだけ待っててすぐ終わらせるから」

 

視線はそのまま前見ていたので表情は確認出来ないが水晶の言葉には安堵の色が伺える。

 

「さすがに驚いたよ神澪さん。全く君の気配を感じなかった」

 

煙から出てきた影胤は無傷。そして、何故か勝ち誇った笑みを浮かべていた。

水晶の剣術を受け止めた事に対してだろう。だが_____。

 

「……うん、やっぱり凄いねそれ。強度も威力も予想以上。でも_____」

 

「……ッ!?」

 

ピシリと影胤の仮面に縦に亀裂が走る。少量ながら血も滲んでいた。

 

「_____壊せない物でもない。そんなのに頼ってばかりいたら、足元をすくわれるよ?」

 

ニヤリと笑いながら言う水晶に対し、影胤は割れた部分を手で確認すると手の平についた血を見て小さく笑う。

 

「ヒヒヒ、まさか私のフィールドを破るなんてね。君は本当に面白い」

 

水晶を見る仮面の下の双眸は爛々と光る。すると、

 

「パパを、いじめるなッ!!」

 

小比奈が水晶の首にめがけて二本の小太刀を神速で振るう。だが、驚愕の表情を浮かべたのは小比奈だった。

 

二刀とも八葉がガントレットの前腕部で防御して止めていたのだ。

 

「や、小比奈。悪いけど少し大人しくしといて!」

 

力を解放すると同時に地面を踏みしめ放った回し蹴りは見事命中。小比奈は後方へと飛ばされ木に激突する。

 

後ろから延珠と、延珠に支えられた蓮太郎が驚愕の声を上げた。

 

「それでどうする?まだ続けるの?」

 

水晶と八葉に視線を交互に送ると、シルクハットの位置を直しながら鼻で笑う。それと同時に「小比奈」と呼んだ。

 

「いや、もうすでに目的は果たしているからね。失礼させて頂くよ」

 

そう言うと、傍にあったジュラルミンケースを拾う。

 

「ああ、最後に神澪さん。今回の事で私は確信したよ、君はこちら側の人間だとね」

 

影胤の言葉に水晶は眉を歪ませるが、影胤は気に留めず「また会おう」とだけ言い残し二人は姿を消した。

 

「水晶、追う?」

 

「ううん。深追いは禁物だし、今は一刻でも早く蓮太郎くんを病院に連れて行かないと」

 

水晶の視線の先には大量失血で、意識が朦朧としている蓮太郎が。

 

「蓮太郎くん、しっかり意識を保って。絶対に死なせたりしないから」

 

それから水晶たちの行動は迅速であり、すぐさま病院へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 




何と言うか文がまとまってませんねww

とりあえず、水晶の力も少しは垣間見ることが出来たのではとおもってます。
詳しくはこれから徐々に明らかになるので待っていて下さい!

感想やアドバイスなどありましたらよろしくお願いします。


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第八話

病院に着く頃には、蓮太郎は完全に意識を失っていた。だが、医師の話によれば命に別状はないとの事なので一安心。

 

病院の待合室で座っていると木更が息を切らしながらこちらに走ってきた。

 

そして水晶は全ての出来事を話した。蛭子影胤ペアが現れたこと、彼等にケースを持ち去られてしまった事を。

 

「そう…」と視線を落とす木更だが、明らか耳に入っていない。

 

察しはできる、蓮太郎が心配なのだろう。

 

「ごめんね。ケースも蓮太郎くんの事も…全部私の責任」

 

「う、ううん。水晶ちゃんが悪いわけじゃないわ。逆に……感謝してる。里見くんを助けてくれてありがとう」

 

水晶に頭を下げた木更は、八葉にも礼を告げて頭を撫でると足早に蓮太郎の元へと向かって行った。

 

その背を見つめる八葉は嬉しそうに撫でてもらった頭に手を置く。

 

「ありがとう。だって……えへへ」

 

と、小さく呟く八葉。

 

確かに感謝されたのなんて久しぶりだな。

 

そんな時、「あ!」と何かを思い出したように水晶が声を上げる。

 

「どうしたの?」

 

「菫先生の所に行かないと。そろそろ整備も終わったはずだし」

 

そう言い歩き出すが、少し歩いた所で八葉の足どりが遅いことに気がつく。更に、八葉は目をこすり小さなあくびを一つ。

 

水晶は携帯の画面を開くと今の時刻を確認。既に午後11時を回っていた。

 

眠たいのも無理はない。

 

「はい」

 

八葉に背を向け膝を折る水晶に、八葉も察しがついたのか黙ってその背中に体を預ける。

 

「…よっと」

 

水晶が背負うと、ものの数秒で寝息をたて始めた。

 

「お疲れ様、八葉」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

水晶達が立ち去ってから少し立った頃。

 

蓮太郎が意識を取り戻し、木更と話しをしていた。

 

「お帰りなさい、里見くん」

 

「………おう」

 

会話が長いこと続かない。僅かに蓮太郎の表情が曇っているのに、木更は気がついた。

 

「今回の事、里見くんだけの責任じゃないわ。私も考えがあまかった。それより、今は命がある事を喜ばないと。水晶ちゃんと八葉ちゃんにあとでお礼を言うの忘れないでね」

 

もしかしたら今も生死をさまよっていたかもしれないんだから。と冗談めいた木更の呟きであったが、正直冗談じゃすまないなと蓮太郎は冷や汗をかく。

 

そんな時、ふと水晶が助けに現れた時の事を思い出す。

 

「なあ、木更さんは神澪流剣術って知ってっか?」

 

蛭子影胤の斥力フィールドをも圧倒していた剣術が蓮太郎の意識の中でズームアップされる。

 

だが、木更は硬直するだけだった。

 

「何で里見くんがその名前を……」

 

「いや、さ。俺が殺されかけてた時に水晶がそんな流派を使ったのを聞いたから……。って、そんなに驚くようなもんなのかよ?」

 

蓮太郎にしてみれば、木更がここまで驚いていることの方が、驚きだった。

 

これでも一様自分も武道を極めている内の一人。それなりに他の武術や流派の知識もあるつもりなのだが、神澪流などと言う名前は聞いたことがないのだ。

 

黙っていた木更だったが、やがて諦めたように重たい口を開いた。

 

「……神澪流剣術。昔、私も助喜与師範から一度だけ聞いたことがあるわ。『継承する事を許されぬ神速の殺人剣』とね」

 

「なっ…!そんな物騒なもんを水晶が使ってるってのか!?」

 

「だから驚いたんじゃない。それにこの流派はすでに滅びているって聞いていたから…。でも、里見くんが言うのだから間違いはないでしょうね」

 

「マジか…」

 

確かにあの時の水晶の剣術は卓越したものだった。

 

洗練された剣技、流れるような体さばき。その全てが絶大な力を持っていた。あの影胤の斥力フィールドを一刀両断したのがそれを証明している。

 

故に信じられない。

どうして彼女のような強者が今まで無名だったのか。

 

「なぁ木更さん。水晶ってまだ民警になって日が浅いんだよな?」

 

その蓮太郎の問いかけに不思議そうに眉をひそめる木更。

 

「え、ええ。本人も言っていたし、ライセンスも新しかったから本当よ」

 

蓮太郎は木更の返答に疑問が浮かぶ。

 

確かにそれは知っている事だし、疑い様のない事実だ。だが、______本当にそうなのだろうか?

 

「どうしたの?里見くん」

 

沈黙している蓮太郎に木更は首を傾げる。

 

「………もしかしたら、あの二人は俺たちが思ってる以上にやばいかもな」

 

「やばい?…今までに多くの実戦経験があるってこと?」

 

木更の出した訝げな声に、驚きの色が混じった。

 

「ああ。なんつーか、雰囲気が、な……。影胤や小比奈は一目見て危険だ、って思えたんだけどよ、水晶たちは違うんだ。あれは幾つもの修羅場を乗り越えてきて地獄を知ってるような…そんな濃密な殺気を静かに纏ってた。……正直、勝てねえって思ったよ」

 

蓮太郎の声に混じっていた微かな戦慄に、木更は「そう…」としか返せない。

 

「まあ、でも今は先に怪我を治さないと。そういう細かい事は全部終わってから考えましょう」

 

「……わかってんよ」

 

天井を見つめたまま答える蓮太郎に「一度戻るわね」と声をかけて、木更は病室を出て行った。

 

一人残された蓮太郎は、なおも真剣な眼差しで、天井を見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………」

 

顔を引きつらせて立っているのは水晶。なぜそんな状態なのかと言うと___。

 

目の前で屍のように倒れ伏している知人の対処に困っているからである。

 

つい先ほど、いつも通りこの不気味な部屋に足を踏み入れると共に、グニャっとした不快な感覚が足に走った。聞き覚えのある「ぐえっ」と情けない声も聞こえ、恐る恐る下に視線を移すとぴくりとも動かない菫がいたのだ。

 

____とどめを刺したな。

 

そう水晶は直感した。

 

そして、今に至ると言う訳だ。

 

「……おーい、せんせー、しっかりー」

 

眠っている八葉をベッドに横たわせながら、生ける屍となった菫にそう述べる。

 

菫はやがて弱々しい表情で首だけゆっくりとこちらに向け、切れ切れな声を出した。

 

「き、禁断症状が、出てしまったようだ、水晶」

 

「禁断症状?」

 

「ああ。二日以上解剖出来ないと死に至る症状だ」

 

「………わあ、それは大変だー」

 

何一つ心のこもっていない言葉を告げる水晶を気にもせず、菫は更に言葉を重ねていく。

 

「ここは友を救うと思って、ぜひ君を解剖させてくれ。なに、心配はいらないよ。痛みを感じないまま、永久の眠りにつくだけのことさ。身体はばらばらだろうがな」

 

「ハハッ、そうですか。なら、私が死んだら友として先生があの世に来るようにお手伝いします。絶対に未来永劫呪い続けてあげますから」

 

絶対に、を強調しながらニコリと笑う水晶に、さすがの菫も危険と感じたのかスクッと立ち上がると後ろ頭をかく。

 

「冗談だよ。しかし、君ぐらいだぞ、私の冗談が通じない相手なんて」

 

降参だ。と言わんばかりにわざとらしく手を上げる菫。

 

「何言ってるんだか…。本当に拍車のかかった先生の冗談に勝る何て無理ですよ」

 

これは水晶の本音。

菫は日常茶飯事で冗談をつく。それも、拍車がかかればかかるほどたちが悪いのが難点だ。今では付き合いが長いので慣れてきたが、それでも時々音を上げるし、頭が痛くなる。

 

「ほら」

 

「えっ…?おわっ、ちょっ…!」

 

ポイっと粗末に投げつけて来た物を、水晶は危なげなくキャッチした。

 

「白桜に黒椿じゃん。終わってたんだね先生」

 

「ああ。斬れ味から錆び、ほころびまできっちり直してやったぞ」

 

「あれ?珍しく“完璧”って言わないんだ」

 

「当たり前だ。君の刀は名刀中の名刀だぞ?私の名誉の為に、不用意に手は出したくないね」

 

そんな事気にしない癖に。と、内心思いつつも声に出さない。整備し終えた愛刀を軽く何度か振っていると、菫がパソコンと向き合いながら手招きをする。

 

水晶は彼女の元へ行くと、パソコンの画面を覗き込む。

 

「さて、ここからもう一つの本題といこう。君や蓮太郎くんが何度も接触し、全ての元凶となっている蛭子影胤だが、ライセンス停止処分時の序列は百三十四位。更に彼は私を含む他二人を統括していた四賢人最高責任者、ドイツのアルブレヒト・グリューネワルト教授から斥力フィールドを授かっている。君は直接体験したからわかっているだろうが、斥力フィールドは攻防どちらにも使用できる厄介な代物だ。蓮太郎くんもだが…本調子ではないはずなのによく生きていたものだな」

 

「向こうの裏をついた、とだけ言っておくね。それで、向こうのぐ、グルュ…グリュ____」

 

「____グリューネワルトだ」

 

「そうそう!その教授は先生より凄い人なの?」

 

先ほどからグリューネワルト教授の説明を聞いているが、その言葉から見え隠れしている尊敬に近いものを水晶は感じていた。

 

「まあな。我々は四賢人などと呼ばれているが私と他二人と比べても、グリューネワルト翁は上だったよ。以前彼の機械化兵士計画のノウハウを盗もうと図面を見たが、一部、理解できないところがあったほどだからね」

 

やれやれ、と菫は顎に手を当てる。水晶はと言うと、そうなんだと逆に感心してしまっている始末だ。

 

「それで、その天才さんが作った斥力フィールドに欠点とかないの?さすがにアレを破り続けるのは疲れます」

 

「欠点何て簡単にあるわけないだろ。第一、アレは対戦車ライフルの弾丸は弾けるし、工事用の鉄球も止める事ができるんだ。それをいとも簡単に破った君が言うのは嫌味にしか聞こえないぞ」

 

「い、嫌味って…」

 

「……先ほど、聖天子様から伝えられたが、あのケースの中身は、ガストレアのステージⅤを呼び出す事ができるなんらかの触媒との事だ」

 

突如述べられた事に水晶は反応を示せないでいた。ただ、頬を汗が伝い落ちるのだけがわかった。

 

「ステージⅤって、世界を滅ぼした十一体のガストレアのこと?」

 

「そうだ」

 

ようやく話が理解できたのか水晶は驚くどころか、酷く落ち着いている。

 

「驚かないんだな」

 

「もう驚くのには疲れちゃいましたから…。でも、先生も人のこと言えないじゃないですか。どう見てもいつも通りの先生です」

 

「いや、何を言う。凄く驚いているよ、それも泣き叫びたいほどね。ただそれを表にださないだけでな」

 

この人は…。肩を竦める水晶だったが、「まあ、その心配も杞憂に終わるだろう」と言う菫の方に不思議そうに視線を移す。

 

「君がいるなら、心配は無用だからね」

 

ニヤリと意地悪そうに笑う菫に、水晶はただただ唖然としていた。ハッと我に返ると、

 

「……寝ぼけた事はあまり言わないで」

 

そうとだけ返答する。

 

「寝ぼけてなんかいないさ。____だが、もし“力”を使うならしっかりと考えて使うんだ。薬もちゃんと飲め、でないと…手遅れになる可能性もあるんだぞ」

 

「わかってる。先生は____」

 

「____いいや、わかってない」

 

心配し過ぎ、その言葉を言い終える事なく遮られ水晶は驚いたが、それ以上に菫の鋭い眼が本気だと物語っていた。異様な威圧感に思わず息を飲む。

 

「いいか?過去と今すぐ向きあえとは言わない。だが、変わろうとしなければ何も変わらないんだ。それに、もし君までいなくなれば八葉ちゃんはどうなる。彼女を一人ぼっちにさせるつもりなのか」

 

「………」

 

「なあ水晶。君が我々人間を許せないのはわかる。憎むのもわかる。だが、そろそろ前を向いて歩け、立ち止まってても何もないぞ」

 

水晶の中で様々な思いが交差し、やがて口を開いた。

 

「先生……私は別にそんなつもりはないの。ただ_____」

 

「ただ?」

 

首を傾げる菫に対し、水晶は微笑むと「…何でもありません」とだけ答えた。

 

そして、踵を返すと八葉を背負い、部屋の出入り口へと向かう。

 

その去り際、

 

「色々とありがとう、先生。心配してくれるのは嬉しいけど…本当にわかってるから大丈夫。八葉を残してはまだ死ねないからさ…」

 

じゃあ、と手を振りその場を後にする水晶。その後ろ姿を見送る菫はため息を吐くと、もう一度水晶が消えた出口へと視線を戻す。

 

「『まだ死ねない』か……」

 

どこか哀しげな呟く言葉に、部屋の静寂が更に追い討ちをかける。

 

「……何もわかっていないじゃないか」

 

 

 

 

 




久々の投稿となりました。

本当に遅くなってすみません…、ここ最近色々とありまして…。
ですが、感想を頂いていたので凄く嬉しかったです!

これからは地道に頑張っていきたいのでよろしくお願いします。

また、感想やアドバイスなどがありましたらそちらの方もよろしくお願いします。


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第九話

翌日。

 

夕暮れ、水晶の携帯が鳴った。誰かを確認する為、表示された名前を見て水晶は一瞬眼を見開く。

 

「……はい」

 

『こんにちは、水晶さん』

 

耳元から聞こえる声は聖天子その人。

 

「何か用ですか、聖天子様」

 

『すでに耳に入っているかと思いますが、現在、蛭子影胤たちはモノリスの外“未踏査領域”でステージⅤを呼び寄せるための準備に入っています。そして、それを阻止する為に今晩、追撃作戦を実行するつもりです。……私はその作戦にあなたも参加してほしいと思っています』

 

「もちろん参加はしますよ。社長からもそう言われましたし」

 

そう言うと傍で準備をしている八葉に視線を移す。

 

『そうですか…。水晶さん、もしステージⅤのゾディアックガストレアが出現したときは…最悪、あなたの力を使ってでも東京エリアを守って下さい』

 

「………最悪の場合のみですからね」

 

「はい、ありがとうございます」と、聞こえこれで終わりだと思い、「では」と電話を切ろうとしたその時、

 

『最後にもう一つ……絶対に帰って来て下さい。これは東京エリア統治者からでも依頼主としてからでもなく、一人の友人としての願いです』

 

その言葉に、思わず呆然とする水晶。聖天子はそう告げるとそのまま電話を切った。水晶は切れた携帯をただ見つめて固まっていると、八葉が心配そうに顔をのぞき込んだ。

 

「何かあった?」

 

「…ううん、何でもないよ。ただ、大変なお願いごとを聞いちゃっただけ」

 

水晶の返答で首を傾げる八葉に、水晶は微笑みながら頭を優しく撫でる。そして、手をとるとヘリのある集合場所へと向かった。

 

 

集合場所に到着すると、そこには沢山の民警がいた。全員が今回の作戦の手柄を立てたいのか、ギラギラしているように見える。

 

「よっ、水晶」

 

「あ、蓮太郎くん。もう大丈夫なの?」

 

「ああ。何とかな」

 

そう言って後ろ頭をかく蓮太郎に水晶は何か違和感を抱いた。

 

「どうしたの?」

 

「あー…その、助けてくれてありがとな。この借りはまた返す」

 

「はは、別に気にしなくても。蓮太郎くんが無事で何よりだよ」

 

すると、時間がきたのか辺りの民警が一斉に配置されたヘリに乗り込んでいく。水晶と蓮太郎は顔を見合わせると互いに頷いた。

 

「とりあえず、まずはどっちも生きて帰って来ようぜ。じゃないと木更さんの長い説教が待ってるからな」

 

「えー、それはやだなぁ。なら尚更生きて帰って来ないと」

 

はは、と二人で笑い合い、そして蓮太郎は踵を返してじゃあな、と言わんばかりに手を上げると自身が乗り込むヘリに向かって行く。

 

八葉と延珠はと言うと、天誅ガールズの話で盛り上がっていたようで、互いに手を握り合いまた語り合おうと約束して別れていた。

 

だが、なぜかヘリに向かう二人の背を見つめていた水晶の眼はどこか影が射し込んでいるように見えたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

作戦を終え帰投の途につくヘリを見送りながら、素早く周囲の状況を確認した。

 

見渡す限りの広大な森は鬱蒼と高い常緑樹が茂っており、夜と言うことも重なり視界は最悪。更に、先日の豪雨の影響か地盤もぬかるみ、独特の湿気と土のにおいがする。

 

「……また、ここに戻って来たのか…」

 

そう呟きをこぼす水晶の表情は険しく、強く握る拳は僅かに震えていた。

 

それを見た八葉は静かに水晶の手を握ると、満面の笑みで話しかける。

 

「ほら、そんな顔してるの水晶らしくないよ!元気出していこう!」

 

「そう…かな。ううん、そうだよね。よし、いつまでもここに居るわけにはいかないし、とりあえずこの先にある街に行こう。詳しい事はそれから考えよ」

 

「よっしゃ!いこいこー!」

 

おー!と言うように手をあげながら進む八葉を見て、水晶はため息混じりに苦笑する。

 

「こら。一人で先に進んだら危ないでしょ。森にはステージⅢやⅣのガストレアが徘徊してるんだから、もっと慎重に…………?」

 

全てを言い終えることなく水晶は言葉をやめた。視線の先で硬直したように固まっている八葉に疑問を抱いたからだ。

 

「ちょっと、八葉。聞いてるの?返事くらい____」

 

そこで反射的に八葉を巻き込む形にして岩陰で息を潜める。その数秒後に巨大な未確認生物がすぐそばを通りすぎて行った。

 

大きさや形態から推測してステージⅣ。

 

ガストレアが通り過ぎたのを確認すると一息つく。ふと隣を見ると、そのガストレアが歩いて行った道を名残惜しそうに見ている八葉の眼は赤く染まり、気持ちが高ぶっているのか口角が上がっている。

 

「……八葉!」

 

「えっ…あ、うん?なに?」

 

理性に戻ったのか曖昧な返事をする八葉に、水晶は呆れた。

 

___まあ、仕方が無いんだろうけどさ。

 

八葉はモデル・ウルフのイニシエーター。つまりはウルフ…『狼』の因子を持つ呪われた子供たちだ。

身体能力はもちろん、視覚や聴覚、嗅覚などの五感も発達している。特に秀でたものはないものの万能と言えるだろう。無論、まだ秘密はあるのだが。

 

だが一方で、破格な戦闘能力についてきたのが厄介な闘争本能。つまり、強い敵と戦いたいという血の気の多さだ。ここ一年ほどは前線から身を退いていた為それほど気に留めなかったのだが、やはり影響があるようでこのありさま。

 

昔は、片っ端からガストレアに戦闘____もとい、喧嘩を吹っかけていたので良くなった方なのだろうが心配の種だ。

 

これさえもう少し抑えられれば学校にだって……。

 

と、考えた所で水晶は頭を横にぶんぶん振った。今は影胤たちが最優先事項、学校などは全部終わってから考えよう。

 

「おーい、どうしたの水晶!早く来なよー!」

 

「えっ、ちょっと待ってよ!」

 

気がつけばいつの間にか先に進んでいた八葉の下に小走りで向かっていく。

 

進みはじめて少ししたところで前方に人影が見えた。よく目を凝らせばそこに。

 

「あ」

 

「ああ?」

 

不愉快そうに顔をゆがませる伊熊将監と_____、

 

「どうも」

 

ぺこりと礼儀正しく頭を下げる彼の相棒であるイニシエーターとばったり出会ってしまった。

 

「やあ!あの時以来だね!えっと………」

 

言葉をつまらせる八葉に少女は気がついたようで。

 

「まだちゃんと自己紹介してませんでしたね。私は伊熊将監のイニシエーターで千寿夏世(せんじゅかよ)、と申します」

 

「そっか!私は桜咲八葉!八葉でいいよ。で、こっちが私のプロモーターの神澪水晶。よろしくね、夏世!」

 

満面の笑みで八葉は夏世の手を取ると、少々乱暴に上下に振っている。夏世はそんな事に慣れてないのか戸惑いつつ、少し嬉しそうだ。

 

チラッと将監の方に視線を向けると、将監の表情は意外と穏やかであった。

 

先日の事から好戦的で短気な性格だと思っていたのだが、

 

_____意外といい奴なんじゃ…。

 

そうこう考えている間に不意に将監と目が合う。

 

「チッ!」

 

「なっ!?」

 

目を逸らすと、明らかこちらに聞こえるようにわざとらしく舌打ちをする将監。

 

_____やっぱりこの人苦手だ!!

 

拳をギリギリと強く握りながら、心の中でそう叫んだ。

 

「おい、行くぞ夏世」

 

一人で先に進もうとする将監に、「はい」と言って再びこちらに礼儀正しく夏世は頭を下げてから、将監の後を追う。

 

それを見た水晶たちも歩き始めようとした、そんな時。

 

「……あ?何だ?」

 

将監の苦々しい呟きが耳にはいる。何事かと思い振り向くと、将監と夏世が凝視している奥の方で点滅する青いパターンライトが見えた。

 

「ほかの民警でしょうか。どうします?」

 

「ハッ!民警なら大丈夫だろ。行くぞ」

 

お構いなしに突き進む将監と夏世。

 

だが、水晶たちは違った。

 

おかしい。青いライトなど使っている民警なんているのか?いや、それだけではない。微かに香るこの匂いは_____。

 

「!水晶、あの先から腐臭がする!」

 

その言葉を聞いた瞬間、水晶は直感した。___これは罠だと。

 

「待って!!不用意に近づいちゃダメ!!!」

 

必死に叫んだものの、すでに遅く。二人は気持ち悪い花のようなガストレアと対面していた。尾部が発光している事からやはりこれは罠だったのだと理解する。

 

見れば、将監も夏世も突然の事に立ちすくんでしまっていた。

 

「くそっ!」

 

水晶は刀に手を掛け、八葉も戦闘体勢に入り地を蹴る。しかし、攻撃が届くより先に我に戻った夏世が手榴弾を取り出す。

 

「!!」

 

「ちょっ____」

 

次の瞬間、重低音の爆発音が空気を地面を振動させた。

 

 




やっと夏世ちゃんたちを再登場させられました!


さて夏世ちゃんがこの先、生きるか死ぬかは正直迷ってますが私的には彼女、好きなんですよねー…ww


あ、そうそう。漫画版の将監はいい人なんで結構気に入ってますw


また感想や意見などがありましたらよろしくお願いします!!


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第十話

「いやー、危なかったね」

 

そうにこやかに話しつつ、相手の傷口を治療しているのは水晶。ちなみに、相手とは相棒の八葉ではなく千寿夏世である。

傷口を見やると、すり傷が多いものの致命傷に至るものがないので一安心。この程度の怪我なら彼女たちは数分もかかる事なく治癒するだろう。

 

あの後、爆発の影響で森のガストレアが全て起き出してしまい近くにいた夏世を連れて逃げているうちに八葉や将監とはぐれてしまったのだ。

 

「よし、これで終わり。他に怪我した所とかない?大丈夫?」

 

「…はい、ありがとうございます」

 

夏世は小さく笑みを浮かべるものの、明らか無理をしているのがわかる。彼女の事だ、先ほどの事に責任を感じているのだろう。

 

焚火の為に拾ってきた枝を放り入れながら、水晶は夏世の隣に腰を下ろした。

 

「今回の事、あなた達のせいじゃなわ」

 

「!!」

 

「あの発光パターンも、腐臭も、人間を誘い込む為の罠だった。あそこまで特殊進化した個体がいる可能性だってここなら十分ありえたのに…。ごめん、私も侮りすぎてた。今回はガストレアの方が一枚上手だったね」

 

頬をかきながら苦笑いする水晶に、夏世はしばらく何も言わなかった。だが、やがて緊張が解れたのか頬を緩ませる。

 

「それにしても、水晶さんは落ち着いていらっしゃいますね。八葉さんの事は心配ではないのですか?」

 

「え?あ、ああ。心配は心配だけど八葉なら大丈夫。あの子は一人でも十分強いから」

 

それを聞いた夏世は少し驚いていたが、すぐに視線を落とし音を立てる焚火を見つめていた。

 

「……信頼、と言うことですか」

 

「まあ、そんなとこかな。……けど、どうして?」

 

首を傾げながら水晶はさりげなく問う。微かに「いいですね…」と呟きが聞こえてきた気がした。

 

「………イニシエーターは殺すための道具です。私はそう思ってきましたから」

 

「……そう」

 

「実はあなた達と出会う前、私は途中で出会ったペアを殺害しました」

 

冷静な口調で話す夏世だったが、水晶は驚くどころか顔色一つ変えず何事もなかったように焚火に枝を加えていた。ぱちぱちと鳴る焚火の音だけが重い空気を漂わせる。

 

不信に思った夏世がたまらず言葉を発しようとするが、それより先に水晶が重たい口を開けた。

 

「知ってた」

 

「えっ…?」

 

思いも寄らない言葉に夏世は無意識の内に聞き返してしまう。

 

「知ってたの。あなた達と出会った時、一目見た瞬間にね。けど、私はそれを黙認していた…私にはあなたを叱る事も、将監くんを止める資格もないと思ったから…」

 

「……あなたも殺人に手を染めた事があるんですか?だから水晶さんは優しい瞳をしているのに、時々哀しげな…怖い瞳をしているんですね」

 

「…………。一つだけ聞くわ。あなたは、人を殺した時何も感じなかったの?」

 

「いいえ、怖かったです。それに手が震えました」

 

その返答に、水晶は焚火に向けていた視線を夏世へと移す。

 

「なら、良かった。そう思えたのならそれを忘れてはいけないわ」

 

夏世は水晶の言葉に静かに頷いた。水晶はそれを見ると言葉を重ねる。

 

「いい?今回、あなたは取り返しのつかない事をした。あなたの本意ではないにしろ、プロモーターからの命令にしろ、手にかけたのはあなた自身。決して許される事ではない」

 

「……はい」

 

「殺人の怖い所は慣れてしまうこと、罪の意識を持たなくなってしまうこと。それを忘れてしまった時、人は本当の意味で“化け物”になってしまうわ。…けれど、その点あなたなら大丈夫だね」

 

わけがわからない、と言わんばかりに不思議そうな瞳で水晶を見上げる夏世に、水晶は優しく頭を撫でる。

 

「怖い、と思ったからよ。そんな感情、あなたの言う道具が抱くものなのかな?いいえ、ただの道具ならありえないわ。つまり、あなた達は私達と同じ“人間”なの。イニシエーターでも、呪われた子供たちでもなくあなたはあなたよ。千寿夏世と言う、一人の人間なんだから」

 

迷いのない瞳で夏世を真っ直ぐ見つめる水晶の言葉には優しさがあふれていた。

 

「……それは綺麗事です」

 

「はは、分かってる。…けど、そんな事でも言わないとやっていけないでしょ?」

 

燃え盛る火をどこか儚げに見つめる水晶の横顔を見て、夏世はただ首を縦に振った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場所は移り、こちらは八葉と将監。

 

「………水晶、どこにいるの?」

 

一本の高い木の頂上から辺りを眺めているのは八葉。無論、水晶たちを探しているのだが姿どころか人の気配すらない。走り回って探したい所だが森の中はひどく暗い上に起きてしまったガストレアがうじゃうじゃいる。最後の希望、携帯で連絡を試みる、

 

______つながらない。

 

完全な手詰まりに陥っていたのだ。

 

「おい!行くぞガキ。いつまでもうろちょろしてんな!」

 

下から怒鳴ってくる将監に対し、木から降りて来た八葉の表情は歪んでいた。

 

「心配じゃないの!?仮にもあなたのペアが行方不明なんだよ!てか、私はガキじゃなくて“桜咲八葉”っていう名前があるって何回言えばわかるのよ!?このッ単細胞!!!」

 

「ああ?こっちの通信機だってつながんねぇんだ。だったら本来の目的を優先するのが当たり前だろうがガキ!!」

 

二人は火花を散らしながら激しく睨み合う。

 

「ったく、てめぇと言いてめぇのプロモーターと言い…めんどくせぇ奴らばっかだぜ」

 

その言葉にピクリと八葉が反応を示す。そして、八葉の雰囲気が一転。

 

「…私だけじゃなくて水晶の悪口を言うのは許さないよ」

 

深紅の瞳が森の暗闇で怪しく光る、その八葉の迫力に将監は思わず息を飲んだ。暫くして、平静を装いながら将監が口を開いた。

 

「けっ、仲良しこよしの家族ごっこでもしたけりゃ帰えるんだな。どうせてめぇのプロモーターだって俺たちと同じでてめぇらを道具としてしか思ってねぇんだよ」

 

踵を返してそう言う将監の背中に僅かに影が射し込む。

 

___違う、違う!水晶のこと、何も知らないくせに。

 

自身の拳を見つめる八葉の意識は、遥か昔の時を遡っていた………。

 

 

 

 

 

 

冬。

大雪…と言っても薄っすらと路面に雪が積もる程度なのだが、この東京エリアにも雪が降っていた。

 

その中、傘もささず、防寒着も付けず___いや、それどころかこの寒空の下で薄着と言えるであろう服装をしている一人の少女がいたのだ。

顔は俯いておりよくは分からなかったが、元気がないのは明確だった。そばを通る人々が心配そうに振り向くのは、少女がまだ十歳にも満たず一人で公園のベンチで座っているからだろう。

 

そんな視線を気にもせず、少女……八葉はただ自身の拳を見つめる。

 

『この化物!!』

 

「______ッ!!」

 

突然、ビクリと身体を震わせて八葉は頭を抱え込む。もちろん、寒さが理由ではない。

 

『お前らが俺の家族を殺したんだ!!』

 

『この人殺しが!くたばれ!!』

 

思い出される言葉や、人々の厳しい視線に八葉は苦しんでいた。

 

自分が一体何をした。笑って楽しくすごしたいだけなのに、どうして差別されなければならないのだ。ただ“普通”の女の子として____、

 

『家族を返して!!』

 

____……………それって…私のせい……?

 

そこまで考えて八葉は頭を横に振る。まるで全てを否定するかのように。

 

世界で初めてガストレアが現れ始めたのとほぼ同時期に、その忌まわしいガストレア因子を宿した赤い眼の子供たちが誕生した。___呪われた子供たちの誕生だ。

普通ならば祝福される我が子の誕生なのだが、その誕生に歓喜の声はなく逆に悲痛な叫び声しか上がらない。

 

それもそのはず、人々に恐怖と絶望を与えたガストレアと同じ赤い眼をしているのだから。これは大戦経験世代『奪われた世代』が『呪われた子供たち』の存在を恐れ、忌み嫌う理由の一つでもある。つまり、この世界で彼女たちの味方になる者は非常に少なかった。

 

彼女…八葉もその一人。物心つく前に両親に捨てられ、外周区で育った。今は色々訳あってエリア内で住む事が出来ている。

 

そんな彼女は今、大きな壁にぶつかっていた。

 

____違うよね。そんなの私のせいじゃない!全てガストレアがやった事だもん!

 

先ほどまでとは打って変わり、八葉はガッツポーズにも似た構えを取りながら顔を上げ真っ直ぐ前を見据える。しかし、思い出すのは奇妙な物でも見た眼をしている大人たちだった。

 

全てガストレアがやったこと。頭では理解しているが、ならそのウイルスの宿主である自分たちはどうなのか。“普通”の人間ではなく、奴らと同じ“化物”なのでは………。

 

すると、突然雪が止んだ。いや、その表記には若干誤りがある。止んだのではなく、八葉の辺りだけ降らなくなったのだ。

 

「………やっと見つけた」

 

聞き覚えのある声が背後から聞こえ、顔だけ振り向く。

 

そこには、八葉の頭上を覆うように傘をさし、ロングコートに身を包みマフラーを巻いた水晶が不機嫌そうな顔で立っていた。肩が上下している事からどうやら彼女は走っていたらしい。

 

「………水晶」

 

「こんな所で何やってるの?しかもそんな薄着で……」

 

そう言いながら、自身のマフラーを八葉に巻き更にロングコートまで着せる。大きさはぶかぶかだった。

 

「これでよし、じゃあ……帰ろっか」

 

水晶の問いに八葉は黙って頷いた。だが、ぶかぶかのコートの影響で歩きにくい。そんな八葉を見かねてか、水晶は何も言わずにそのまま八葉を背負った。

 

辺りを見ればすっかり日が傾き始め、帰路につく人々が視界に入る。大通りを通れば沢山の話し声や店の賑やかな音が聞こえてきた。しかし、一方で水晶と八葉に会話はない。これでも会話はするようになったのだが、続かないのが今の現状。

 

二人は国際イニシエーター監督機構(IISO)で出会ったのではない。水晶が倒れていた八葉を引き取ったのだ。そして、保護者となり、今では民警としてペアを組んでいる。ただ、それだけ。でも、水晶はいつも八葉から話しかけるのを待っているような気がする。

 

八葉は背負われながら、水晶の服のしたから覗く包帯を見つめていた。

 

「私のせいだよね…………」

 

「…………何が?」

 

とぼけているのか、それとも気を使っているのか定かではないが、水晶は少々わざとらしく問い返す。

 

「その怪我、私を庇ったからでしょ…。あんなの私なら平気なのに、嫌われるのだって慣れてるのにさ」

 

「……………そう」

 

「うん、そう。だけど…水晶が怒ってくれたのは嬉しかった…。まあ、私はあの時何も出来なかった私自身のことをすごく嫌いになっちゃったけれど…」

 

「……………そう」

 

昨日のこと、街中でリンチされていた同じ呪われた子供たちを見かけてしまい、つい間に割って入ってしまったのだ。それにより、自分の正体がばれて同じ目に。暴力だけでなく石や、ガラス瓶などが飛び交う中、怒りを露わにした水晶が八葉を庇うように立っていた。怪我はその時のもの。

 

「うん、そう。水晶……痛かったよね…。私……馬鹿じゃん……」

 

「……………そう。でも私は、昨日までは考えたこともなかった他人の気持ちを、そんな顔になるまで必死に想像してるあなたのことが……」

 

ぎゅっと背中の服を握る小さな手。それは僅かに震え、温かいものが落ちてくる。

 

「好きになったけど」

 

グスッとすすり泣きが微かに聞こえた。

 

「……………そう…」

 

「うん、そう」

 

再び沈黙が訪れる。だが、今回の沈黙は今までと違っていた。

 

「一つ言うけど、色々とあなたは考えすぎなの」

 

「えっ…?」

 

「八葉ってさ、わがままで怒りっぽくて泣き虫で、それでいて人の話を聞こうとしないでしょ。ほら、あれだよあれ。んー…天真爛漫?とでも言うのかな?そんな感じなんだよね」

 

「!ちょっ…!!」

 

全く予想外の展開に、八葉は声を上げそうになる。急に何を言い出すのだろうか、この人は。

 

「でもさ、それがいいんだよ」

 

今まで表情が確認出来ずにいたが、振り向いた水晶はとても優しい笑みを浮かべていた。八葉は大きく眼を見開き、唖然とした顔をしている。

 

「その全てが八葉でしょ。遠慮なんていらないの。私たちは家族なんだから、これからは嬉しいこと、悲しいこと、もちろん嫌われるのだって一緒だよ。……もう、一人で何でも背負わないで」

 

「………うん」

 

ほんの僅かだが、首に手を回している八葉の手が強まる。

 

「さ、お腹も空いたし早く帰ろう。そうだ、今日は寒いし鍋にでもしよっか?」

 

「私、キムチ鍋がいい」

 

「キムチ?八葉って辛いの好きなんだね」

 

「甘いのも好きだよ?あ、でもすっぱいのは嫌いかなー」

 

「ほほう…。じゃあ今度はすっぱい物パーティーでもする事にしよーっと」

 

ニヤリと怪しく笑う水晶に対し、八葉は冷や汗をかく。

 

「や、ややややめてよ!完全なる嫌がらせじゃん!」

 

「えー?何の事かな?私は何も知らないよー?」

 

そこで互いに顔を見合わせると、同時にぷっと笑い出す。二人の笑い声が夜の街をこだました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、意識は覚醒する。

 

____フフッ。

 

突然八葉が漏らした笑い声に、先に進み何やらしていた将監は目を向けた。将監の訝しげな視線を受けて、顔を上げた八葉が決まり悪そうに首をすくめる。

 

「……ごめんね、やっぱりあなたの言う事に賛同は出来ない。水晶は私の家族だもん」

 

「ッハ、言ってろ」

 

すぐさま視線を戻す将監に、八葉は微笑んでいたような気がする。

 

「じゃあ、今度は私の質問。この作戦が終わったら教えてよ」

 

その質問を聞いた時初めは不思議そうな顔をしていた将監だったが、それも一瞬のことですぐにいつもの仏頂面に。

 

「忘れないでね」

 

 

しばらく進むと将監が足を止めた。よく辺りを見渡せば10組弱の民警ペアが集まっている。

 

「何ですか、これ?」

 

「あ?見ればわかんだろ。奇襲するんだよ」

 

「奇襲?」

 

八葉は首を傾げる。その行動は言葉そのものの意味が分からないわけではなく、一体どこの誰にするのかを示していた。

 

「さっきてめぇが考え込んでた時に見つけたんだ。仮面野郎をな」

 

その言葉に八葉の顔が引き締まる。

 

「夏世とも連絡は取れた。だが、待ってられねぇ。………気に入らねぇが他の奴らと先手をとる」

 

背中のバスタードソードを背負い直し、他の民警を引き連れ歩き出す将監。

 

「待って!」

 

出鼻を挫く声の主の方へ一斉に視線が集う。

 

「ダメだよ!こう言っちゃ悪いけど…このメンバーじゃ力が足りない、返り討ちに合う!せめてもう少し人数がそろってからでも…」

 

そんな八葉の訴えにその場にいた民警たちの顔が歪む。当たり前だ、自身の序列より低い相手にそう言われて気分が悪くならないわけがない。

 

「チッ、今ごろ怖じ気ずいたのかよ!戦う気がねぇならここで待ってろ!行くぞ!!」

 

「あ!」

 

将監の言葉を合図に、全員が走り出す。一人取り残された八葉は途方に暮れていた。こんな負け戦に自分は手を貸すべきなのか。今の自分は万全な状態ではない、影胤たちを相手に他の民警を庇いながら勝てるとも思っていない。先ほどの将監の言葉が本当であれば夏世と一緒にいるであろう水晶も時期にここに来る。

 

____待ってるべき?それとも……。

 

戦闘が開始された合図でもある爆音を聞きながら、八葉は静かに戦場へと視線を移した。

 




ようやく投稿できました…。

遅くなりましたが、評価をつけて頂きとてもありがたいです。これからもよろしくお願いします。

さて、今回は八葉が多めですね。少し二人の過去話もいれてみました!ちなみに、二人の出会いにもまだ秘密があるんですよねー。まあ、この秘密はまたいずれ…。

次回は影胤ペアが再び登場ww
そこで、少しは水晶の秘密も明らかに出来ればなと思っているんですが…。

感想などありましたらお願いします。


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第十一話

朽ち果てた街の中、一人立たずんでいる男の姿があった。いや、“一人”と言うのは間違いであろう。なぜなら、その男の周りには大量の死体があるのだから。

 

男…将監は言葉を失っていた。

 

まず将監は視線を右に移す。そこには腕が切り取られ、足をもがれ、頭部を切り離され、斬殺された光景。

次に、左へと視線を移す。こちらは速やかに銃殺されている。血の海と化したその場はまさに、地獄絵図。

 

「グッ………テメェ…!!」

 

自身も相当の深傷を負いながら、前方を睨みつける将監。そこにはつまらなさそうに頬を膨らます小比奈と、月を見つめる蛭子影胤の姿が。

 

「………つまらないものだ」

 

「な……にぃ…?」

 

「聞こえなかったのかい?つまらない、と言ったのだ。時間潰し程度にはなると思ったが、君たちは本当に期待はずれだよ」

 

やれやれ、と言わんばかりにシルクハットの位置を直す影胤に将監は苛立ちしか覚えなかった。いつもなら食ってかかる所なのだが、思うように体が動かない。それどころか、目の前がぼやけつつある。

 

自身の不甲斐なさに将監は唇を噛む。

 

やがて、飽きたのか。影胤は冷ややかな眼で将監を見下ろすと、「小比奈」とだけ呟いた。その瞬間、小比奈の眼が嬉しそうに輝く。

 

一歩、一歩、そしてまた一歩ゆっくり近づいてくる小比奈に、将監は死を予感する。それはまるで、死神が鎌を持ちながら死へのカウントダウンを行っているようであった。

 

___チッ、ここ…までなのか……。

 

眼を伏す将監は自身を切り刻むであろう衝撃を覚悟した。

 

「何やってるのよ、このバカ!」

 

聞き覚えのある幼い声が将監と小比奈の間に割って入る。恐る恐る眼を開けると、八葉が仁王立ちしていた。

 

「な、んで……テメェがここに…」

 

「……まだ聞いてないから」

 

主語のない言葉に将監は疑問を浮かべる。何を、と質問するより先に八葉が言葉を重ねた。

 

「さっきの質問の答え、まだ聞いてないから死なれたら困るの」

 

目を丸くする将監を横目で見ると、すぐに前方を見据えた。

 

「パパァ、八葉だ。八葉だよ」

 

今まで何の興味も示していなかった影胤が小比奈より前に出る。フム、と八葉の周囲に目を凝らす。

 

「君のプロモーターはどこにいるのかね」

 

「水晶なら訳あって別行動中だよ」

 

「ほう。では、君は一人でのこのこ現れて何をするつもりだい。負傷者を庇いながら私たちと戦うのは不可能だと理解できるはずだ」

 

「そんなのやってみないと分かんないじゃん」

 

ニコッと笑う八葉に初めは驚いていた影胤だったが、すぐに高笑いすると仮面の下の眼を怪しく光らせる。

 

「少しは暇つぶしが出来そうだよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

森の中を風のように駆けぬける水晶は刀を手に急いでいた。急ぐ理由はというと……少し前、夏世の元に将監から待ちに待った連絡が入ったのだ。しかもその内容が影胤たちに奇襲をかけるというもの。これは急がずにはいられなかった。

 

ちなみに、夏世は道中で出会った蓮太郎たちに預けてきた。

 

「ふるるるぐるるるるう!」

 

異様な雄叫びとともに、五体のイノシシのような生物が巨体のわりに俊敏な動きで行く手を阻む。見た所ステージⅡ。だが、水晶はその敵をむこうに一歩も引かなかった。

 

イノシシたちの強烈な突進を左右への華麗なステップで全てを避けきる。向き反転させるためにわずかに大勢を崩したその隙を見逃さず水晶は反撃に転じた。

 

白銀にきらめく白桜を次々と突き入れる。見事にヒットし、一体撃破。仲間が殺られ悲鳴にも似た雄叫びを上げている一体の横腹を蹴り、奥の二体を巻き込む形で吹き飛ばす。そして、刀を数回振ると射程距離のある斬撃を放ち、三体一緒に切り刻む。

 

最後の一体となったガストレアに視線を移すと、再び突進を繰り出していた。水晶は焦る様子もなく、カウンターのような形で剣を振るう。剣は狙い違わずイノシシの首に吸い込まれるように命中。ザンッと骨が断ち切られ、頭部が勢い良く宙に舞うのと同時に、残った体は糸が切れたように乾いた音を立てて崩れ落ちた。

 

これらは全て僅か数秒の出来事。

 

水晶は何事もなかったかのように先に進む。

 

ここまで四回ガストレアと遭遇したが、ほとんどダメージを負うことなく切り抜けている。幸い、まだステージⅣのガストレアに遭遇していないとは言え、一年以上のブランクにしては悪くないと言って良いだろう。いや、それどころか戦いを重ねる毎に“あの頃”の自分の動きに戻りつつある。

 

喜ばしい事なのだろうが、水晶の表情は晴れていなかった。

 

森を抜けると少し見晴らしの良い街が見下ろせる小高い丘につく。眼下には不気味なほど静まり返った街があった。もしや、すでに戦闘は終了したのか。それでは、八葉は_____。

 

「八葉…………ッ」

 

嫌なか感じがし、水晶は走り出す。徐々に街に近づくにつれ、前から聞きなれた声が聞こえてきた。

 

「水晶!」

 

衣服がボロボロながら、誰かを背負って八葉がこちらに向かって来たのだ。

 

「八葉!」

 

安心するのも束の間、今度は背負われている人物を見て驚愕する。……あれは。

 

「将監さん!」

 

血まみれの伊熊将監であった。

 

水晶は素早く駆け寄り彼を草原の上に寝かす。複数の傷があったが、一番酷い腹の傷を止血帯でおさえて将監を見た。正直この酷い傷で生きているのは不思議なくらいだ。

 

「八葉は大丈夫?」

 

「うん!逃げるが勝ち、って言って逃げてきただけだから」

 

それでもあの二人からよく逃げて来られたな。と、思いつつ傷を押さえる手に力を入れる。だが、

 

「もう……いい。や……めろ」

 

言葉を必死に繋ぎながら、将監は止血している水晶の手を払いのける。

 

「何するの!このままじゃ死ぬわよ!」

 

「いいって…言ってんだろ……!!それより…さっさと行きやがれ」

 

ガハッと口から大量の血を何度か吐き出し、ようやく治まったと思った時には将監は息は浅くなっていた。目にも光が灯っておらず、命が残り僅かだと物語る。そんな時、水晶はポツリと呟く。

 

「ふざけないで……」

 

「あ…?」

 

「ふざけないで!あなたも私に目の前の命を見捨てろって言うの?また……」

 

「俺はもう、助からねぇ…。テメェにも…もう……わかってんだろ…ゲホッ、グッ」

 

将監の言葉に、水晶は返す言葉を失う。俯く水晶の後ろで唖然と立っていた八葉に、将監は声を掛ける。

 

「“あなたは何の為に戦ってるの?”だったか…」

 

「え…う、うん」

 

突如話しかけられ我に返った八葉は頷く。しばらく黙っていた将監であったが、フゥと荒い呼吸を整えた。

 

「俺たちも……一度だけ…“人”として生きる道を選んだ事があった…。けど、すぐにやめた…いや、逃げたんだよ…。それからだ……」

 

一度大きく区切ると一呼吸。

 

「それから……唯一、自分の存在を感じられる…戦いにのめり込んだんだ……」

 

その返答に水晶と八葉は驚愕した。つまり、彼はずっと自分たちの存在を戦いの中で見出す為に戦い続けていたのだ。

 

「将監さん…」

 

「ったく……最後の最後で…こんなやられ方で…。しかもよりによって……こんなガキに理解されるなん…てな…っ。ゼェ、ゼェ…気に食わねぇが…テメェになら……出来んだろ…ゼェ、蛭子影胤をとっとと倒してこい」

 

ドンっと肩を押される。おそらく、これが彼の残った最後の力だろう。水晶はためらったが、それも一瞬の事でゆっくりと立ち上がると、将監に背を向ける。

 

「………最後に、アイツを……夏世を頼む…」

 

ピタリと足を止める。将監の消え行く声を聞き届けると、深くそして強く頷いた。そしてもう二度と振り返ることはない。

 

「……………じゃあな、夏世…。おまえは……生きろ…よ……」

 

それが最後の言葉となった。

 

 

八葉はギュッと水晶の服の袖を握る。

また人が死んだ。自分の目の前で、だ。だが、瞳から涙があふれでることも、何かしらの感情を抱くこともない。____なぜ?

 

かつて、己の無力ゆえに“仲間”を失った時に、涙を流すこともあらゆる感情も一緒に失った。否、捨てたのだ。

そうすれば再び同じ過ちを繰り返すことはない____などと、何と愚かで、浅はかなことを考えたものだろう。私は何も解っていなかった。こんな……こんな中途半端な気持ちを抱えたままじゃ何もできやしないのに……。

 

 

「これは驚いた。世界に絶望したはずの君たちが私を止めるために立ち上がるなど……。フフフ、最高のシナリオではないか。そう思わないか?神澪さん」

 

ワインレッドの燕尾服に袖を通した仮面男____今回の全ての元凶である影胤が大袈裟な身振りで両手を広げると言った。

 

「……そんなこと関係ない」

 

「ほう……」

 

「あなた達が世界を滅ぼそうが何人殺そうが、私にはどうでもいいことよ」

 

冷たく突き放す口調に、水晶が本音で語っていることがこの場にいた三人は何となく解った。氷刃の如き眼差しで、理解させられた。

 

「ただ、あなた達は触れてはならないものに手を出した。私は、私と八葉…私たちと関わりのある人たちの日常を損なおうとするものを、全て排除する。それだけが、あなた達を止める理由よ」

 

その言葉を合図に水晶は刀を二本抜きさり、八葉は赤い瞳を向ける。ビリビリと大気が震えるのを肌で感じた影胤は仮面を押さえながらくっ、くっ、と笑う。

 

「面白いッ、実に面白いよ神澪さん!!さあ、時はきた…始めよう!命を賭けた殺し合いを!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時を同じくし、高度八百メートルから水晶と影胤の両ペアの対峙を静かに見下ろす電子の眼があった。

 

東京エリア第一区の作戦本部、日本国家安全保障会議では、偵察飛行している無人機からほぼリアルタイムで会議室のモニターに表示されている。

ただ先ほどまでの静けさが一転、作戦本部には驚きと不安の声が上がっていた。

 

「しょ、少女ではないか!」

 

「彼女たちに一体何が出来るのだ!付近に他の民警は!?」

 

「は、現在一組の民警の姿は確認。ですが、それ以外のペアの到着には数時間以上かかるかと____」

 

その言葉で辺りは一層ざわめき立つ。ある者は冷や汗を拭い、ある者は慌てふためき、またある者は眉一つ動かさない。いわゆるパニック状態に近かった。

それもそうだろう、序列が圧倒的に低い年端もいかない少女たちに東京エリアの命運と自らの命を預けなければならないのだから。

 

「落ち着いてくださいみなさん、大丈夫です」

 

聖天子の凛とした声はざわめく空間を意図もたやすく支配する。たった一言、何の根拠もない一言であったが、誰もその言葉に疑問を投げかけなかった。

 

聖天子の視線の先にはモニターに映る水晶の姿があり、真剣な面持ちで黙って見つめていた。その見つめる瞳には絶望の色などない。ただあるのは勝利を信じた希望の光のみ。

 

それを隣で控える菊之丞は横目でみつつ、視線を再びモニターへと戻した。

 

____お前が再び戦場へと戻ってくるとはな……。

 

「やはり許せなかったか、悪魔の子よ」

 

菊之丞の呟きは誰にも届くことはない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヒヒ、ヒハハハハハハッ!楽しいッ、楽しいよ!神澪さん!!」

 

けたたましい笑い声を上げながら影胤は二挺のフルオートカスタムベレッタから弾丸を発射させる。その全てを断ち切り、又は弾きながら水晶は全力で地を蹴った。約八メートルの距離を瞬時に駆け抜けながら、右手で握る白桜に力を込める。

 

「シッ!」

 

短い気合とともに、弓から撃ち出される矢の如く右手をまっすぐ突き出した。純白の残光を引いたその一撃は、影胤との間で大音響とともに空中で静止する。チッと心の中で舌打ちをし、影胤からの追加射撃を警戒してバックステップを踏む。

 

その隙を狙い小比奈が斬りかかった。けれど八葉がそれを許さず、八葉の双手突きが小比奈の胸に突き刺さる。目にも止まらぬ速さで放たれた拳は、小比奈の身体を吹き飛ばしコンテナに激突する。

 

八葉の援護に感謝しつつ、水晶は左手の黒い刀を握り直した。

 

____やっぱり簡単には破れないか。

 

水晶は深く息を吸うと、ぐっと止める。再度地面を蹴って飛び出した時には、意識は完全に研ぎ澄まされていた。今度は、影胤のほうも仕掛けてくる。

 

「さて、君ならどうするかな?マキシマムペインッ!!」

 

青白いフィールドが膨張し、水晶に轟然と襲いかかってきた。だが、水晶の表情に焦りの色など全くない。

 

「_____神澪流剣術、二式ッ。飛燕抜刀百烈斬り(ひえんばっとうひゃくれつぎり)ッ!」

 

二刀を瞬時に複数回振り下ろし、爆発じみた衝撃音と共にフィールドをバラバラに斬り裂く。影胤を中心に足元で舗装された路面もめくれ上がる。

 

「なッ…」

 

影胤が驚愕の声を上げた。それが何を意味するのかはわからないが、察するに三つの事だろう。一つ目は、自身の技が破られたこと。二つ目は、水晶の放った剣技の威力。そして三つ目は……、

 

ポタッという水滴が落ちるような音が聞こえる。見れば、彼のワインレッドの燕尾服の至る所が切れており、血が傷口から滴り落ちていたのだ。

 

「……これほどとは…。クク、ハハハ、フハハハハハッ。本当に君は予想外だらけだ!いつも私を楽しませてくれる!」

 

「それはどうも」

 

軽く礼を述べる水晶だったが、感情は何一つこもっていなかった。

 

「さっすが…」

 

八葉は自身の相棒の背を見つめそう呟く。だが水晶の姿しか目に入っていなかった八葉に、横合いから小比奈が斬り掛かった。

 

「八葉ァッ!!」

 

「げっ!」

 

完全に反応が遅れた八葉はバック転の要領で回避____とまでは行かず、彼女の頬には切れた傷口から流れる血が伝っていた。

 

八葉が不安定なバック転から大勢を立て直した時には、二刀の小太刀が喉元に迫っていた。八葉は顔をのけぞらせ同時に前蹴りを出す。でたらめな蹴りであったがそれでも、運良く小比奈の身体に命中。一旦、それぞれのペアの元へと戻る。

 

「イテテ、ひぇー。バッサリいっちゃったよ、これ」

 

見て、というように傷口を指差す八葉に水晶は苦笑いをする。

 

「油断したのが悪いんでしょ」

 

「誰もしたくてしたんじゃないんですー」

 

すねるように八葉は顔をそむけた。この反応から予測するに、どうやら心配してほしかったようだ。はあ、と短いため息をついた後、優しく頭を撫でる。これで八葉の機嫌がなおったかは定かではないが、すぐさま視線を影胤たちに戻した。

 

「ふむ、この状況でその余裕…ククク。君は正常か?」

 

「その言葉、一番貴方だけには言われたくない。それより、降参してくれません?」

 

水晶の言葉は最もだった。片や、ボロボロのペアと片や、まだ余裕を見せるペア。目に見えて勝敗は明らかであった。

 

「………神澪さん、君は自分が存在する理由がわかっているか?」

 

影胤からの突然の投げかけに、水晶は不思議そうに眉をよせた。しかし、それを気にもせず影胤は話を続ける。

 

「我々新人類創造計画は殺すために作られた。それはつまり、戦ってこそ我々の存在意義は証明される。それは呪われた子供たちも同じこと。ならば、この世に平和が訪れたとき我々はどうすればいい?」

 

「…さあね」

 

「君にはわかりかねる事かもしれないが、我々にとっては重要なことなのだよ。いや、君にもわかるはずだ。私と同じ目をし、人を殺したことのある君ならば!」

 

冷たい風が両者の間を吹き抜ける。水晶は無言のまま何も答えない。ただ、視線はそらさずに彼を見つめていた。

 

「戦争は終わらない、終わらせない。最後にもう一度だけ問う神澪さん!私と共に来い!世界を滅ぼし、私の求める世界…理想郷を実現させようではないか!」

 

「はい、ではもう一度言いますね、お断りします」

 

そうにこやかにきっぱりと話す水晶に、影胤は思わず固まる。

 

「立派な理想だとは思うけど、私本当に興味がないので。それにどういった経緯で新人類創造計画の兵士になったかは知らないけどさ、少なからず生きるために選んだ選択なんじゃないの?知り合いの死体愛好家が…昔、そう話してたわ」

 

いつもデタラメを言い楽しんでいる彼女が写真を見つめ震えながら話したのを水晶は思い出す。あれは彼女の罪悪感からだろう。

 

「だから、勝手なことばっかり言わないで。…気がついたら望まなぬものになった人もいるんだから…」

 

そう話す水晶の視線は遠くのほうを見つめている気がする。隣では八葉が心配そうに水晶を見ていた。

 

 




……戦闘描写が書けません。その辺は優しい目で見ていただければと思います。

細かい所はまた後々直しますので!

今回で少しは水晶の過去がわかったかなー、と思っております。あ、そろそろ蓮太郎くんたちも活躍させるので待っていて下さい!

神を目指した者たちもようやく終盤戦。とりあえず、次回でかなり進めたらいいかなと…。

感想やアドバイスなどありましたらよろしくお願いします!



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