三井寿は諦めの悪い男 (ネコガミ)
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第1話『俺は三井寿』

息抜き短編第三弾。


「諦めたらそこで試合終了ですよ。」

 

その一言を耳にした瞬間、俺の頭の中に知らない光景が濁流の様に流れ込んでくる。

 

それが落ち着いた時、俺は全てを思い出した。

 

「みっちゃん、大丈夫か?」

 

チームメイトの声で我に還る。

 

そうだ、今は試合中だ。

 

それも神奈川県大会の決勝戦なんだぞ。

 

残り時間的に次がラストワンプレーだ…集中し直せ!

 

「おう!大丈夫だ!さぁ、まだ試合は終わってないぜ。ラストワンプレー…集中していくぞ!」

「「「おう!」」」

 

ボールをチームメイトに渡してコートの中に戻ると、相手チームの色黒の奴が俺につく。

 

…もしかして牧か?

 

さっき思い出した前世の記憶がチラつくが、頭を振って余計なもんを追い出す。

 

今は勝つ事だけを考えろ。

 

残り時間7秒で2点差。

 

チームの力の差を考えると延長はまずい。

 

相手チームもそれがわかっている。

 

だからこのラストワンプレーで逆転するしかない。

 

逆転するには3Pシュートか、バスケットカウントを貰う3点プレーだが…3点プレーは無理に止めにこないだろう。

 

なら、3Pシュートだ。

 

試合が再開した。

 

時計も動き出す。

 

スペースに走るが相手もしっかりとついてくる。

 

それでも俺はパスを要求した。

 

「みっちゃん!」

 

パスを受け取った俺に相手が詰め寄る。

 

パスを受け取った位置は3Pライン。

 

残り3秒。

 

シュートフェイクを一つ入れると一歩後ろに下がる。

 

シュートフェイクに引っ掛かったのか相手は腰が浮いてついてこれない。

 

残り1秒。

 

完全にフリーな状態で3Pシュートを放つ。

 

相手が振り返ってボールを見る。

 

右手に残るのは完璧な手応え…入ると確信する。

 

残り0秒。

 

試合終了のブザーが鳴り響くが、不思議とボールがネットを通過した音が耳に届く。

 

俺はガッツポーズをしながら雄叫びを上げると、感極まったのかチームメイト達が泣きながら走り寄ってくるのだった。

 

 

 

 

神奈川県大会の閉会式も終わり、俺はチームの皆と一緒にバスに揺られながら帰路についていた。

 

試合の疲労とバスの揺れで心地好い眠気が来るが、俺は眠気に抗って思考する。

 

(まさか俺が三井寿になってるだなんてな。いや、俺は三井寿だろ。くそっ、なんかモヤモヤするぜ。)

 

俺は間違いなく三井寿だが今では前世の30数年生きた記憶もある。それで前世の俺はこの世界…って言えばいいのか?まぁとにかく、前世の俺は今の俺の事を知っているみてぇだな。

 

しかも前世の俺は俺のファンだったらしい。

 

…なんとも形容し難い感覚に頭が痛くなりそうだぜ。

 

けど悪いことばかりじゃねぇ。

 

あの時の最後の3Pシュート…前世の記憶が戻る前の俺だったらキャッチ&シュートに行ってた筈だ。

 

もちろん弾道を高くして相手のブロックを避けようとはしただろうが…一か八かの要素が強かっただろうな。

 

だが実際に俺が選んだのはフェイクモーションからのバックステップ、そしてディープスリーだ。

 

残り時間を目一杯使いきり、確実に相手のブロックを避けてのシュート…俺自身がやったことだが、思い返すと鳥肌が立つ程に完璧だったぜ。

 

そう思った俺は何か役に立つ記憶はあるかと前世の記憶を思い出そうとしてみる。

 

すると前世の俺が知る俺の事が少しずつ頭に浮かび上がってきた。

 

…前世の俺が知る俺は、どうやらバスケ漫画の登場人物の一人みてぇだ。

 

(俺が漫画の登場人物だぁ?わけわかんねぇよ…。)

 

ため息を吐きながら頭を掻くと、他に何か俺に関して思い出せることがないか試す。

 

…神奈川県大会でMVPになった俺は陵南や海南からスカウトを受けるが、安西先生へ恩返しをするために湘北高校に進学する。

 

(陵南と海南からスカウトが来るのか?まぁ、俺は安西先生に恩返しするために湘北に行くけどな。…ここら辺は漫画の俺も俺と変わんねぇな。それもそうか、俺は俺。三井寿だ。)

 

そう考えた俺は続きを思い出そうとする。

 

…無事に湘北に入学した俺だが、バスケ部入部初日の紅白戦で左膝を故障すると、それをキッカケに挫折し不良に…っ!?

 

(挫折はともかくなんだよ不良って!?ありえねぇだろ!?なにしてんだよ漫画の俺!)

 

そう思ったものの前世の記憶は次々と俺が湘北高校バスケ部に掛けた迷惑を教えてくる。

 

「どうしたんすか、三井先輩?」

 

前世の俺が知る俺のあまりの酷さに頭を抱えていると、隣の席の後輩が声を掛けてきた。

 

「い、いや、なんでもねぇ。あの最後のシュートを外してたらって想像しちまってな。」

「はは、三井先輩なら何度やっても絶対に決められますよ。」

「お、おう、そうか?ありがとよ。」

 

後輩の信頼に礼の言葉を返すとタオルを顔に掛ける。

 

(もう寝よう。くそっ、優勝して最高の気分だったのに台無しだぜ。…今度髪を切りに行くか。これ以上伸ばすと不良になった漫画の俺を思い出しそうで嫌だからな。)

 

元々疲れていたのとバスの揺れで眠かったことで、目を閉じた俺はあっという間に寝入ったのだった。




三井寿としての自我がしっかり確立した後に思い出したので、憑依というか前世の記憶を吸収って感じでございます。

続くかは未定。

マイナー路線を攻めるスタイル。


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第2話『上達の一歩目は模倣から始まる』

連載する事にしました。

本日は3話投稿します。


中学でのバスケも終わって引退したが、俺は受験勉強をしつつも部に顔を出して練習を続けていた。

 

「三井先輩、ジャンプシュートを見てもらっていいですか?」

「おう。」

 

後輩の邪魔をしない様に練習に参加させてもらっているが、こうしてなにかと頼まれる事も多い。

 

「三井、ちょっといいか?」

「はい!」

 

部の監督に呼ばれたので駆け足で近くに行く。

 

「三井、練習に参加し続けてるが、受験勉強の方は大丈夫か?」

「はい、問題ありません。」

「そうか、お前がそう言うならいい。だが、受験に失敗した時に泣きを見るのはお前自身だ。受験を甘く見て失敗しない様に気をつけろよ。」

 

監督の指導に礼を言って離れる。

 

後輩達から離れた俺は、空いているスペースでボールを手に個人練習を始める。

 

前世の俺はいわゆるバスケマニアだったらしく、色々なNBA選手の事を知っていた。

 

そんな前世の俺の記憶から参考にしている選手はジ○ビリ、ア○バーソン、カ○ーの三人だ。

 

参考にしている選手の一人のジ○ビリは、ユーロステップという技術を駆使する名選手だ。

 

バスケはボールを持った状態で三歩歩くとトラベリングという反則になるんだが、ユーロステップはボールを持った状態の二歩のステップで相手を抜き去る技術だ。

 

ドリブルからユーロステップに移行し、イメージした相手を抜き去るが…。

 

(ダメだ、遅すぎる。)

 

前世の記憶にあるジ○ビリのユーロステップのキレとは雲泥の差だ。

 

(まぁ、そう簡単に出来るわけもねぇか。なんせNBAでも超一流の選手の技術だからな。)

 

ある程度のところで切り上げた俺は、次にクロスオーバーの練習を始める。

 

このクロスオーバーはドリブルの基礎技術の一つなんだが、この基礎を極めて並みいるNBA選手をドリブルで抜き去ったのがア○バーソンだ。

 

ア○バーソンのクロスオーバーの凄さはそのキレもそうだが、何よりもクロスオーバーを始める前の動きにあると俺は思う。

 

フォームからストレートに抜きに行くかクロスオーバーをするか全くわからないんだ。

 

更にそこに絶妙なフェイクが加わるから誰もア○バーソンのクロスオーバーを止められない。それこそバスケの神様って言われるあの人ですらだ。

 

前世の記憶を元にクロスオーバーのイメージを固めていく。

 

(…こうか!?)

 

キュッとシューズと床の摩擦音が耳に残るが、俺が繰り出したクロスオーバーはイメージとは程遠いものだった。

 

「…くっそ。」

 

クロスオーバーはドリブルの基礎技術の一つだが、だからこそ難しい。

 

イメージを固めてはクロスオーバーをやってみる。何度も何度も繰り返す。

 

「すみません三井先輩。もう時間ですよ。」

 

後輩に声を掛けられて漸く練習の終わり時間が来ていた事に気付いた。

 

「悪い、直ぐにモップ掛けを手伝うぜ。」

「了解です。じゃあボールはこっちで。」

 

後輩にボールをパスすると、俺は用具室まで駆けてモップを手にしたのだった。

 

 

 

 

練習を終えて家に帰った俺はシャワーを浴びて飯も食い終わると、自室で受験勉強を始める。

 

一時間程受験勉強をした俺は、背伸びをしてからベッドに身体を投げる。

 

(受験勉強は問題ねぇ。これに関しては本当に前世の俺に感謝だぜ。よくちゃんと勉強しててくれたな。)

 

ベッドの脇に置いてあるバスケットボールを手に取ると、簡単なボール遊びをしながら今日の練習を振り返る。

 

(ユーロステップもクロスオーバーもまだまだだな…。流石はNBAでも超一流の選手の技術ってところか。)

 

まだ手応えらしいものすら掴めてねぇが、完成形のイメージがあるのはでけぇ。

 

後はそれを俺に落とし込むだけだ。

 

(まぁ、それが難しいんだけどな。)

 

手の中で玩んでいたバスケットボールを定位置に置くと、ベッドに寝転んで前世の記憶を掘り返す。

 

掘り返すのはカ○ーのプレーの記憶だ。

 

(本当にすげぇな。俺が思い描いていた理想のプレイスタイル…その完成形を見せられている気分だぜ。)

 

俺はバスケに関しては特にジャンプシュートに自信があるが、カ○ーのジャンプシュートはハッキリ言って次元が違う。

 

調子が良い時はカ○ーと同等のシュート成功率を出せる自信はあるが、シーズン通してあのハイアベレージを保てるのはバケモノだ。

 

「おもしれぇ…!」

 

まだまだ先がある。上手くなれるという思いが俺に興奮をもたらす。

 

けど、そろそろ寝ねぇとな。

 

身体をしっかり休めるのも練習の内だ。

 

「おっと、寝る前にストレッチをしねぇとな。」

 

記憶を取り戻して以来、俺は怪我の予防を意識して入念にストレッチをする様になった。

 

これで怪我を完全に防げるわけじゃねぇだろうが、やらねぇで怪我をして後悔したくねぇからな。

 

「うしっ終わり!さて、寝るとするか。」

 

こうして俺は受験勉強をこなしながら、トレーニングで技を磨く日々を過ごしていく。

 

そして数ヵ月後、受験に無事合格した俺は待ち望んでいた湘北高校の門をくぐったのだった。




ピックアップしたNBA選手は作者の独断と偏見によるものです。

次の投稿は9:00の予定です。


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第3話『湘北高校入学と…』

本日投稿2話目です。


「あれ?もしかして武石中の三井君?」

 

湘北に入学してバスケ部の入部届けを出そうと職員室に向かっている途中、不意にそう声を掛けられた。

 

「ん?そうだが…?」

「俺、北村中の木暮公延(こぐれ きみのぶ)って言うんだ。三井君もバスケ部の入部届けを出しに?」

「あぁ、俺もバスケ部の入部届けを出しにきたんだ。それと、俺の事は三井でいいぜ木暮。」

「そうか、三年間よろしく、三井。」

 

木暮と握手をすると、木暮と一緒にいたでかい男に目を向ける。

 

「木暮と同じ北村中の赤木剛憲(あかぎ たけのり)だ。」

「おう、よろしくな、赤木。」

 

赤木とも握手をすると俺は職員室に足を運ぶ。

 

「失礼します!」

 

しっかりとノックと挨拶をして入室する。

 

「一年○組の三井寿です!バスケ部の入部届けを提出しに来ました!」

 

そう宣言する様に声を上げて一拍を置くと、安西先生の所に向けて足を進める。

 

そして安西先生の前に辿り着くと、入部届けを差し出しながら頭を下げる。

 

「一年○組の三井寿です。安西先生、どうぞ御指導御鞭撻の程、よろしくお願いします。」

「はい、確かに入部届けを受け取りました。三井君、こちらこそよろしくお願いしますよ。」

 

その言葉に感動した俺は再度大きく頭を下げてから職員室を後にする。

 

そんな俺を見ていた木暮と赤木は、何故かポカンと口を開けていた。

 

 

 

 

side:木暮公延

 

 

「武石中出身の三井寿です!ポジションはどこでもやれます!目標は…全国制覇!」

 

入部初日の新入部員の挨拶で三井が全国制覇を目標に掲げた。

 

その事が嬉しくて思わず笑みを浮かべてしまう。

 

中学時代、バスケ部に入部した俺だけど、初心者だった俺にとって走りっぱなしのバスケの練習は本当にきつかった。

 

退部しようと思った事だってある。

 

でも本気でバスケに打ち込む赤木の姿に感化されて、俺もいつしか本気でバスケに打ち込む様になった。

 

けど、俺の様に赤木に感化された奴ばかりじゃなかった。

 

本気でバスケに打ち込む赤木についていけないと言って、バスケ部を退部していった奴も少なくない。

 

それでも俺は赤木と一緒に本気でバスケに打ち込んでいった。それこそ中学最後の大会で志半ばで敗れると涙を流すぐらいに。

 

だから三井が全国制覇が目標と公言した事が嬉しかった。

 

チラッと赤木を見ると、赤木も俺と同じ様に笑みを浮かべている。

 

赤木の挨拶の番が来た。

 

うん、やっぱりお前も全国制覇を目標に掲げるんだな。

 

なら俺も掲げるしかないじゃないか。

 

二人と比べたら力不足かもしれないけど、俺もバスケが本気で好きなんだ。

 

だから…一緒に全国制覇を目指してもいいよな?

 

 

 

 

side:赤木剛憲

 

 

(まさか木暮まで全国制覇を目標に掲げるとはな。)

 

新入部員歓迎の1年生のみで行われる紅白戦を前に、しっかりとアップをしながらそう考える。

 

あいつも変わった。

 

北村中で初めて会った時はランメニューの度に床に寝転ぶ程に体力が無かったが、いつしか俺の本気に唯一応えてくれる男になった。

 

こっぱずかしくて口にはせんが、あいつには本当に感謝をしている。

 

「よし、五分後に始めるぞ~。Bチームがビブスな。」

 

先輩からビブスを受け取りながらAチームになった三井に目を向けると、木暮を始めとしたチームメイトと何か話をしていた。

 

「三井か…。」

 

昨年の神奈川県大会でMVPを取った男…その男がどんなプレーをするのか楽しみだ。

 

「だが、紅白戦とはいえ負けるつもりはない。」

 

そう口にした俺だが、紅白戦が始まると三井率いるAチームに…いや、三井一人に俺達Bチームは圧倒された。

 

抜群のキレのクロスオーバーとボールを持った状態で左右に切り返すステップ…週刊バスケットボールに近しいものが載っていたが…たしかユーロステップだったか?それらを駆使する三井を誰も止められない。

 

三井に対抗すべく内を固めればあっさりと3Pシュートを決めてくる。

 

ダブルチームで三井を抑えようとすれば、今度は軽快にパスを回してAチームにリズムを作り出して攻めてくる。

 

他にも俺がフリースローが入らないと見るや、Aチームのセンターにファウルすれすれのプレーで止める様に指示を出す。

 

おかげでやりにくくて仕方がない。

 

終いにはリバウンド争いだ。

 

俺の方が身長が高くパワーもある。だが三井はポジショニングの上手さと駆け引きの巧みさで俺を抑え込んでくる。

 

くっ、またリバウンドを取れなかった。

 

悔しさはもちろんあるが、それ以上に間近で見る三井の動きは勉強になった。

 

三井の動き一つ一つが俺のスキルアップに繋がる。

 

勝負の最中だというのに楽しくて仕方がない。

 

だが、そんな時間が突然終わりを迎えた。

 

ユーロステップをやろうとして一歩目を踏み込んだ三井が、左膝を両手で押さえてコートに倒れたのだ。

 

「三井!大丈夫か!」

 

キャプテンの石渡さんが声を上げる。

 

「三井君を病院に連れて行きます。土橋君、車を近くまで廻してくるので三井君の介助をお願いします。石渡君、後は頼みましたよ。」

「「はい!」」

 

安西先生に続いて副キャプテンの土橋さんが三井に肩を貸して体育館を出ていく光景を、俺はただ呆然と見送ることしか出来なかったのだった。




次の投稿は11:00の予定です。


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第4話『前向きな心と決意』

本日投稿3話目です。


「リハビリ含めて全治1ヵ月か…。」

 

入部初日の紅白戦で漫画の俺と同様に左膝を怪我した俺は、安西先生が運転する車に乗せられて病院に運ばれた。

 

そのまま入院して翌日、病院のベッドの上で目を覚ました俺は、回診に来た医者からギプスが巻かれている左膝の状態を聞いたのがつい先程だ。

 

「春の県大会は無理だな。夏のインターハイは…間に合うか?」

 

入部初日に怪我をしてろくに練習に参加出来ない俺だ。スタメンどころかベンチに入れるかどうかもわからねぇ。

 

(漫画の俺が焦るのもわかるぜ…。)

 

そう考える俺自身は今は落ち着いている。

 

前世の記憶のおかげだ。

 

バスケマニアだった前世の俺はNBA選手の色んな話を知っていた。

 

前世の俺の記憶を辿るとカ〇ーも度重なる足首と膝の怪我に悩んでいたらしい。

 

そんなカ〇ーは大抵のスポーツでは怪我などのアクシデントは起こるもの。大切なのはそういった困難と向き合い、乗り越えるためにポジティブでいることと言ったそうだ。

 

(ポジティブか…あぁ、そうだよな。安西先生だって言ってたじゃねぇか。諦めたらそこで試合終了だって。こんなことで諦めてたまるかよ。俺は諦めない男、三井寿だ。)

 

反省も後悔もするが、こういう時こそポジティブに。それでこそ俺らしいじゃねぇか。

 

(先ずはしっかりと膝を治す。じゃねぇと漫画の俺みてぇにまた怪我をして、安西先生に恩返しをするどころじゃなくなっちまうぜ。…リハビリの先生辺りに聞けば、何かいい怪我の予防になりそうなトレーニングメニューを教えてもらえねぇか?よし、リハビリが始まったら聞いてみるか。それとユーロステップはしばらく封印だな。怪我をしたのはあれをやろうとした時だ。リハビリの先生に何かいいトレーニングメニューを教えてもらって、しっかりと身体を作ったら解禁だ。)

 

この怪我をバネに肉体改造をと考えているとなんか楽しくなってきたぜ。

 

楽しい時間はあっという間に過ぎていき時刻は夕方、木暮と赤木が俺の見舞いにやって来た。

 

「三井、これ今週の週刊バスケットボールだ。読むだろ?」

「おっ?サンキュー、木暮。」

 

木暮から雑誌を受け取りながら礼を言う。

 

「どうだ膝は?」

「医者が言うにはリハビリを含めて全治1ヵ月だとさ。」

「そうか…春の県大会には間に合わんな。」

 

赤木の問いに答えを返すと、残念そうに赤木が言葉を溢す。

 

「おいおい、俺の心配をしている暇はねぇだろ赤木。お前、もう少しフリースローを決められる様にならねぇと、ファウルで簡単に潰されるぞ。」

「むっ?わかっている。」

 

紅白戦の時に赤木は何度かファウルをもらってフリースローをしたんだが、ものの見事に全部外していた。

 

「仕方ねぇなぁ。1週間後には退院だから、退院したら俺がフリースローの練習を見てやるよ。」

「それはありがたいが…リハビリとかは大丈夫なのか?」

「本格的なリハビリは2週間後からだからな。それに、授業が終わって直ぐに病院に行ってリハビリをすれば、バスケ部の練習が終わるまでには十分に間に合うだろうぜ。どうせ居残って練習するつもりなんだろ?」

「あぁ、そうだ。」

 

不敵に笑った俺と赤木は拳を合わせる。

 

「容赦せずビシバシ行くぞ。泣き言は聞かねぇからな。」

「ふっ、望むところだ。」

「おいおい二人とも、俺をのけものにしないでくれよ。俺だって上手くなりたいんだからさ。」

 

肩を竦めてそう言う木暮を見て、俺と赤木は笑ってしまったのだった。

 

 

 

 

side:木暮公延

 

 

「三井、元気そうでよかったな。」

「あぁ、そうだな。」

 

三井を見舞いにいった帰り道、表情に出さない様にしているけど赤木も嬉しそうだ。

 

「春の県大会か…どこまで行けるかな?」

「もちろん目指すのは優勝だ。」

「わかってるよ。はぁ…三井がいればお前へのチェックが軽くなるんだろうけどな。」

 

中学時代から赤木は試合では相手チームから厳しいチェックを受け続けてきて、思うようにプレイ出来ないことが多かった。

 

でも三井の3Pシュートがあれば中の赤木はぐっと楽になると思う。

 

それに俺は三井と赤木のコンビを見てみたい。出来ればコートの中で。

 

「それよりも1週間後だ。安西先生に居残り練習を出来る様に頼まないといかん。」

「あぁ、そうだな。」

 

昨日の紅白戦中、俺は誰かが上手くなっていく瞬間というのを目撃した。

 

その誰かは赤木だ。

 

赤木は三井の動きから学んで、実践して、どんどん動きが良くなっていってた。

 

素直に羨ましかった。

 

でも、上手くなったのは赤木だけじゃない。

 

三井のゲームメイキングに合わせようと動いていくと、俺もポジショニングが上手くなっていった実感があった。

 

まぁ、ボールを貰ってもシュートを何度も外してしまったから、もっともっと練習しないとな。

 

「俺も三井に教えてもらうかな。もう少しシュートを決められる様にならないと、ベンチにも入れないだろうし。」

 

俺がそう言うと赤木は少し驚いたようにこっちを見てくる。

 

「お前も随分と貪欲になったな。」

「誰かさんのおかげでバスケに本気になったからね。そうなったら、やっぱ試合に出たいと思うようになったよ。」

 

俺の言葉に赤木が不敵に笑う。

 

「ふっ、SG(シューティングガード)だと三井とポジションが被るが、どうするつもりだ?」

「三井はどこでも出来るんだから、別に三井をSGって考える必要はないだろ?」

「そうだな、あいつのバスケセンスならどこでもやれるだろう。だが、C(センター)は譲らんぞ。」

 

三井が相手でも変わらない負けず嫌いを見せる赤木に、俺はプッと笑ってしまった。

 

さっきは出来ればコートの中でなんて思ったけど訂正する。必ずコートの中で赤木と三井のコンビを見る。

 

そうすればきっと、もっとバスケが楽しくなるはずだから。




これで本日の投稿は終わりです。

また来週お会いしましょう。


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第5話『赤木の新たな武器』

本日は3話投稿します。


1週間経って退院した俺は、授業が終わると直ぐに病院に行ってリハビリをする。

 

リハビリの先生からは怪我の防止に有効そうなトレーニングメニューを聞く事が出来たから、左膝が完治した後はそのトレーニングメニューを実践していくぜ。

 

まだ本格的なリハビリが始まってないのもあって早々にリハビリを終えた俺は、まだバスケ部の練習が続いている体育館に足を運べた。

 

皆の練習を見ていると俺もと思ってしまうのは仕方ねぇんだろうな。

 

安西先生に改めて怪我の経過を報告してから練習を見学していく。

 

しばらく見学していると練習はゲーム形式のものになったが、そこで目立つのはやっぱり赤木だった。だが…。

 

(紅白戦の時からもしかしたらって思ってたが赤木の奴…ゴール下のオフェンスパターンがワンパターンじゃねぇか。あいつの身長とパワーなら大抵の奴とはそれでも勝負になるんだろうが、そうじゃねぇ奴とマッチアップした時は……。シュートエリアを広げたいとこだが直ぐには無理か。なら先ずはゴール下の得点パターンを増やした方がいいな。)

 

そう考えた俺は前世の記憶から赤木に合いそうなものをピックアップする。フック系がいいか?

 

(スカイフック…は無理だな。ならフックシュートか?いや、普通のフックシュートよりは、ボールをコントロールしやすいベビーフックの方が良さそうだな。居残り練習の時に折りを見て提案してみるか。)

 

そこまで考えると今度は赤木とプレーしている先輩達に目を向ける。

 

(安西先生の指導のおかげか、これといった癖もなくキレイにまとまってるな。流石は安西先生だぜ。けど、試合が硬直した時や劣勢で流れを変えたい時に、状況を打破するなにかを期待するのは難しそうだな。)

 

我ながら失礼な事を考えてるとは思うが、全国制覇を本気で狙うならそんな事を言ってられねぇ。

 

俺は今ある戦力で全国制覇を狙うには何が必要なのか、見学をしながらただそれだけを考え続けていったのだった。

 

 

 

 

side:赤木剛憲

 

 

「ベビーフック?」

 

通常の練習が終わり居残り練習でフリースローを練習していると、不意に三井がそう言ってきた。

 

「赤木、お前のオフェンスパターンはハッキリ言ってワンパターンだ。お前の身長とパワーなら大抵の相手には通用すんだろうが、その大抵の相手じゃない奴とマッチアップした時には手も足も出なくなる。」

「…そうかもしれんが、今はフリースローの練習を優先した方がいいんじゃないか?」

 

三井の言ったことは間違いじゃない。だが、俺にもゴール下で戦い続けてきたプライドがある。

 

頭では素直に受け入れた方がいいのはわかっているが、感情的には受け入れるのが難しい。

 

だからさっきの言葉を言ってしまった。

 

「赤木、ものは試しって言うだろ?とりあえずやってみようぜ。」

 

木暮に促されたのは幸運だ。

 

そうでなければ、俺は折角の成長のチャンスを不意にしていただろう。

 

はぁ…俺の心もまだまだ未熟だな。

 

先ずは三井の教え通りにベビーフックをやってみる。

 

手を離れたボールはゴールリングに当たり跳ね返ってしまう。

 

「幾らゴール下でもいきなりスウィッシュは難しいだろ。先ずはバンクショットからいこうぜ。」

 

三井のアドバイス通りにベビーフックでバンクショットを狙っていくと、思いの外ベビーフックが入る。

 

「フックシュートは半身になって肩幅分相手と距離をとれる。つまりそれだけブロックするのが難しいってことだな。けど半身になった上に片手じゃボールのコントロールが難しくなる。対してベビーフックはフックシュート程横に向かねぇからボールのコントロールはしやすい。代わりにブロックされやすくなるから、空いている手を上手く使ってガードしろよ。」

 

しばらく練習してると感覚が掴めてきたのか、フリーの状態ならほぼ確実に入る様になった。

 

「おぉ、いいじゃねぇか。」

「赤木、ナイスシュート。」

「ふんっ、まだまだだ。」

 

三井と木暮の賛辞による照れを誤魔化すように直ぐにボールを持つ。

 

「利き手の右である程度感覚を掴んだら左手でもベビーフックの練習をしろよ。それじゃ俺は木暮の3Pシュートの練習を見るぜ。何かあったら声を掛けてくれ。」

「あぁ。」

「それと、俺からベビーフックを教えておいてあれだけどよ、フリースローの練習も忘れんなよ。」

「言われんでもわかってる。」

 

松葉杖を使って離れていく三井の背を見送ると、良い感覚を得たところで一旦ベビーフックの練習を切り上げてフリースローの練習を再開する。

 

(全国制覇か…本気で目指して練習を続けていれば、いつかはチャンスが巡ってくると思っていた…。)

 

だが三井は違った。

 

俺の様にチャンスを待つのではなく、全国制覇には何が必要かを真剣に考え、自らチャンスを掴み取りにいこうとしている。

 

「…俺もまだまだ甘いということか。」

 

三井、俺もチャンスを待つのではなく掴み取りに行くぞ。

 

そう考えた今日この日、今までは影すら見えなかった全国制覇が、朧気ながらその輪郭が初めて見えた気がした。

 

その後、今日の居残り練習を終えた俺と木暮は三井を送り届けてから帰宅する。

 

そして帰宅をすると妹の晴子が俺を出迎えたのだが…。

 

「あっ、お兄ちゃんお帰り。美和お従姉ちゃんが来てるよ。」

「美和が?」

「やっ、剛憲お帰り。」

 

晴子の横に立って軽く手を上げる同い年の従妹の美和を目にした俺は、美和が何をしに来たのかと首を傾げたのだった。




次の投稿は9:00の予定です。

後書きにて拙作中に登場した技や人物の紹介をしていこうと思います。

ですが作者はバスケ素人の上知識も無く、漁った情報を作者なりに噛み砕いて紹介しますので、検討違いの紹介でも許してクレメンス。

それと人物名は大人の事情を考慮して伏字を使う事を御了承ください。

では今回は3人の人物を紹介。


◆ジ〇ビリ:マヌ・ジ〇ビリ。第2話に登場。正式名は長いので省略。
 一般的に身長198cmというと高いと思いますが、フィジカルモンスターの巣窟であるNBAでは平均的身長です。
 そんな平均的な身長だった彼は、決して運動能力も高くなかったそうです。
 では彼はどうやってNBAで活躍したのか?…それはユーロステップ、またはジ〇ビリステップと呼称される特殊なステップを使いこなしたからです。
 (ユーロステップの詳細は第2話を参照してください。)
 しかも彼は一般的に守りにくいとされる左利きで、アウトサイドシュートもとても正確だったそうです。
 ユーロステップでインサイドを攻めてくるかと警戒すれば、アウトサイドからもシュートを決めてくる。
 ディフェンダーにとっては何をしてくるかわからない厄介な選手だったということですね。


◆ア〇バーソン:アレン・エザイル・ア〇バーソン。第2話で登場。日本ではアレン・ア〇バーソンの呼び方が一般的(?)。
 キラークロスオーバーと呼称される程の破壊的なクロスオーバーの使い手で、全盛期にはバスケの神様と呼ばれたあの人も止められなかった模様。それこそバスケの神様のあの人が引退理由の一つとして挙げた程の人物がア〇バーソンです。
 彼が凄いのはそれだけでなく、なんとNBA史上最低身長でのシーズン得点王の達成者であり、しかも4度のシーズン得点王を獲得したそうです。
 それだけ凄い彼ですからプライベートがヤンチャなのはご愛敬ですね。
 (尚ヤンチャとか愛嬌で済まされるレベルではなかった模様)


◆カ〇ー:ステフィン・カ〇ー。第2話で登場。2021年現在も現役の選手。
 彼の最大の特徴はNBAの歴史から見てもずば抜けた3Pシュート能力ですね。
 とにかくシュートセレクションなんかお構いなしでガンガン3Pシュートを決めてくる変態シューターです。
 NBAでもシーズンで200本以上3Pシュートを決めればリーグ屈指のシューターと呼ばれるのに、調子のいいシーズンの彼は倍の400本を決めてしまう程の変態シューターです。
 そりゃ歴代最高のシューターなんて呼ばれたりもしますわな。


…こんな感じで紹介していきますのでご容赦を。


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第6話『似てない赤木の従妹』

本日投稿2話目です。

次の投稿は11:00の予定です。


side:赤木剛憲

 

 

家に帰り飯を食っていると晴子と美和の話が響く。

 

「いや~晴子ちゃんったら、少し会わない間にますます可愛くなっちゃってぇ。学校でモテモテでしょ?」

「え?そんなことないよ。勉強と部活で精一杯だし…。」

「たしか富ヶ丘中の流川君だっけ?」

「わー!美和お従姉ちゃん!しー!しー!」

 

飯を食い終わると騒がしい二人に思わずため息を吐く。

 

「それで美和、今日は何の用で来た?」

「何か用がないと来ちゃダメなの?それは従妹に対して冷たいんじゃないかなぁ?まぁ、用があるから来たんだけどさ。」

 

にしし、と笑う美和に頭を抱えたくなる。

 

「剛憲、男バスってマネージャー募集してる?」

「安西先生に聞かなければわからんが…美和、お前、女子バスケ部には入らんのか?」

「う~ん…去年、神奈川ベスト5にはなれたし、選手はもういいかなって。」

 

視線を足下に落とした美和を目にして察する。

 

「足首、そんなにひどいのか?」

「もうクセになっちゃってるんだよねぇ、捻挫がさ。晴子ちゃんも気をつけなきゃダメよ。」

 

ストップ&ダッシュに加えてジャンプをする機会が多いバスケは、膝や足首の怪我をしやすい競技だ。

 

そしてそれらの怪我を何度もしてしまい、美和の様に特定部位の怪我が癖になってしまう選手も少なくないと聞いている。

 

「お前がそう決めたのならとやかくは言わんが、マネージャーなら女子バスケ部でもいいだろう?」

「見てるとやりたくなるじゃん。けどバスケから離れるのもって考えてさ。」

「それで男子バスケ部のマネージャーか…。」

 

なるほど、納得した。明日にでも安西先生にマネージャーの件を聞いてみるか。

 

「それに…。」

「なんだ?」

「いるんでしょ?武石中の三井君。」

 

美和の問いに首を傾げる。

 

「たしかに三井はいるが…?」

 

そう言うと美和はにししと笑う。

 

「いや~去年の県大会決勝のブザービーターを見たらこう…ビビッと来ちゃったんだよね。だから是非ともお近付きになりたいなぁなんて。」

「わっ、美和お従姉ちゃん大胆。」

「ふふふ、晴子ちゃん、女は度胸だよ。」

 

キャーキャーとうるさい二人に頭を抱える。

 

やれやれ、三井も面倒なのに目をつけられたもんだ。

 

「というわけだから剛憲、私を三井君に紹介してよ。代わりに今度女の子の友達を紹介してあげるからさ。」

「いらんわ!全国制覇を達成するのに遊んでいる暇なんぞ無い!」

「まったく…適度に息抜きしないと疲労がドカって貯まってガツンって怪我しちゃうよ。経験者は語る!…なんてね。」

 

おどける美和の姿に小さくため息を吐く。

 

「はぁ…紹介するのは構わんが、三井がお前に興味を持つとは限らんぞ。」

「大丈夫!このバスケで鍛えたナイスバディで!…ちょ~っと足に筋肉が付き過ぎかも?晴子ちゃん、大丈夫かな?」

「大丈夫だよ、美和お従姉ちゃんは可愛いから。」

 

晴子の言葉を聞いた美和が晴子に抱き付く。

 

「もう!嬉しいこと言ってくれちゃってぇ!私が流川君だったら晴子ちゃんを放っておかないのに!…おんやぁ?晴子ちゃん、前に会った時よりも大きくなってない?これは直接触って確かめなくては!」

「きゃっ!?もう、美和お従姉ちゃん止めてよぉ。」

「にしし、いいじゃない減るもんでもないし。」

 

ソファーを挟んで晴子と美和の攻防が始まった。

 

美和が手をワキワキさせながら晴子を追いかけ、晴子はキャーキャー騒ぎながら美和から逃げる。

 

そんな二人のやり取りは母さんに止められるまで続いた。

 

「はぁ…。」

 

この愚従妹を三井に紹介せねばならんのかと考えると、申し訳なさから大きなため息が出てしまう。

 

「木暮も巻き込むか。あいつも美和とは知らん仲ではないしな。さて、とりあえず美和を送って…。」

「あっ、私しばらく泊まっていくから。だから帰りの心配はしなくていいからねぇ。」

 

美和の言葉を耳にした俺は、また大きなため息を吐いたのだった。

 

 

 

 

「赤木の従妹?」

 

赤木にベビーフックを教えた翌日の昼休み、赤木が木暮と一緒に女子生徒を教室に連れて来た。

 

「そっ、赤木美和って言うんだ。よろしくね、三井君。」

「…似てねぇな。」

「いや~よく言われる。あっ、赤木だと愚従兄と被るから美和って呼んでね。」

「誰が愚従兄だ馬鹿たれが。」

 

木暮に目を向けると苦笑いをしながら状況を説明してくれる。

 

「実は美和さんが男子バスケ部のマネージャーになりたいって言ってさ。それで先ずは同じ1年に紹介しておこうって話になってね。」

「なるほどな。」

「さぁそれじゃ親睦を深める為にお話を楽しも~!ねぇねぇ三井君、好きなNBAの選手は?」

 

好きなNBAの選手か…カ○ーどころかレ○・アレンもまだいねぇし…そうなると…。

 

「そうだな…レ○ー・ミラーってとこか。」

「おぉ~、レ○ー・ミラーって新人なのによく知ってるね。やっぱ同じシューターは注目してる感じ?」

「…まぁな。」

 

美和との話は中々に弾んだ。

 

話の流れで知ったんだが美和自身もバスケをやっていたらしく、だからなのか話が合う。

 

(赤木、もしかして美和さんって?)

(…木暮の想像通りだ。)

 

(それはまた、わかりやすいというかなんというか。)

(巻き込んですまん。)

 

(気にしないでいいさ。それにしても、三井は気付いてないみたいだね。モテそうなのに意外だな。)

(それだけバスケに集中して来たんだろう。見習わなければならん。)

(はは、赤木らしいね。)

 

うん?木暮と赤木は何をコソコソ話してるんだ?

 

「どうした、木暮、赤木?」

「いや、なんでもないよ。二人共NBAに詳しいなぁって思ってさ。」

「あぁ、正直な話ついていけん。」

「そうか?」

 

まぁ、前世の俺が生きていた時代と比べると、今は情報を得る手段が限られてるからな。

 

俺自身も前世の記憶がなきゃ、NBAの選手をほとんど知らなかったぜ。

 

うん?美和は何で詳しいんだ?

 

「なぁ、美和は何でNBAに詳しいんだ?」

「お父さんがすっごいNBAマニアでさ。わざわざアメリカにいる友達に頼んでバスケ関係の雑誌を取り寄せてるんだぁ。」

「おぉ、すげぇな。」

「おかげで私までNBAに詳しくなっちゃったよ。まぁ、そのおかげでこうしてお話を楽しめてるんだけどね。」

 

そんな美和の言葉がキッカケになった様に、昼休み終了の予鈴が鳴り響く。

 

「おっと行かなきゃ。それじゃ三井君、またね。」

 

手を振りながら教室を出ていく美和に軽く手を振り返す。

 

(赤木、美和さん本気だよね?)

(だろうな。あいつは変わったところがある奴だが、遊びで誰かを好きになる様な奴じゃない。)

 

(うん、そうだね。ところで赤木、三井と美和さんの仲がどうなるか賭けないか?とりあえず期限は夏の大会までってことで。)

(あれでも従妹なんだがな…。友人関係から変わらんにスポーツドリンクを一本。)

(おっ?それじゃ俺は…)

 

予鈴が鳴ったのに木暮と赤木は何してんだ?

 

「おい、そろそろ行かなくていいのか?」

「おっと、急ごう赤木。」

「あぁ、三井、また後でな。」

 

早歩きで教室を去っていく二人を見送ると俺は昼休みの事を振り返る。

 

美和としたNBAの話は楽しかったぜ。NBAマニアだった前世の俺の影響を受けてんのか?

 

NBAか…憧れねぇっつったら嘘になる。

 

前世の俺のおかげで英語も問題ねぇし…本気で考えてみるか?

 

俺は授業を受けながらもアメリカに行くかどうかを本気で考え続けるのだった。




今回は二人の人物を紹介。


◆レ〇・アレン:ウォルター・レ〇・アレン・ジュニア。第6話で登場。
 NBA史上でも傑出したピュアシューターの一人です。
 傑出した3Pシュート能力に目がいきがちですが、ガードとしての総合能力も非常に高い素晴らしい選手だったとのこと。
 またリーグ屈指のクラッチシューターだったらしく、作者的には三井寿に似てるなぁ…なんて思ったりしてます。


◆レ〇ー・ミラー:第6話で登場。
 上述の彼と同じくNBAでも傑出したピュアシューターの一人。
 ですが上述の彼の様に優れた身体能力などはなかった模様。
 ドラフトで指名されて在籍したインディアナ・ベ〇サーズ一筋で現役を終えたのは日本人好みかも…?


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第7話『成長する二人と乙女の決意表明』

本日投稿3話目です。


リハビリを終えて体育館に行くと美和がいた。

 

経験者だけあってボール出しや声出しも様になってるな。

 

安西先生に報告をして今日も見学をしていくと、しばらくしてゲーム形式の練習が始まった。

 

(おっ?赤木の奴、早速ベビーフックを試してるな。)

 

先輩達よりも頭一つ近くでかい赤木がベビーフックをやると、もう先輩達には手がつけられなくなってきている感じだ。

 

(後は実戦でも出来るかどうかだな。…おぉ、木暮が3Pシュートを決めやがった。良いシュートセレクションだったぜ、木暮。)

 

赤木も木暮も昨日の今日では成長も些細なもんだろう。

 

けど、ふとしたキッカケで一気に選手能力が開花する事もある。

 

その兆しが赤木と木暮にあるのかもしれねぇな。

 

(ふぅ…二人の練習を手伝うって言ったのは俺自身だが、こう成長を見せつけられるとくるものがあるぜ。)

 

逸る心を鎮める様に大きく息を吐く。

 

(先ずは怪我をしっかり治す。そこは間違うなよ、三井寿!)

 

 

 

 

通常の練習が終わって居残り練習が始まったんだが、何故か美和まで残っていた。

 

「美和、帰んなくて大丈夫なのか?」

「大丈夫大丈夫、剛憲に送らせるから。」

「三井、美和はこういう奴だ。だからあまり気にするな。」

「ちょっと剛憲、そんなこと言ってると女の子にモテないぞ。」

「余計なお世話だ。」

 

まぁ、美和自身がいいならいいんだろうな。

 

なので美和にボール出し等のヘルプをしてもらい、赤木達の練習を見ていく。

 

「赤木、力み過ぎだ。腕じゃなくて膝で調整しろ。」

「おう。」

 

昨日の今日だが赤木のフリースロー成功率が良くなっている。

 

本当に選手能力が開花してきてるのかもな。

 

「木暮、各ポジションの3Pの成功率はどうだ?」

「やっぱり左45度が一番高いな。」

 

ロングシュートは繊細なもので、ちょっとした変化で成功率がガラッと変わる。

 

だが理想はどこからでも変わらない成功率で撃てるようになることだ。

 

「そうか。それじゃ昨日と同じように左45度からの3Pシュートの感覚を意識して、他のポジションでも撃ってくれ。」

「あぁ、わかった。」

 

そこで俺は木暮に左右0度と左右45度、そして正面からの5つのポジションから3Pシュートを20本ずつ撃たせ、その中で成功率の高いポジションでの3Pシュートの感覚を意識させてから、もう1セット3Pシュートの練習をさせるようにしている。

 

このやり方はただ数をこなすよりも、多少なりとも目標となるもんがあった方がマシだろって程度のもんだ。

 

だがこのやり方は思ったよりも木暮に合ってたみたいだ。

 

各ポジションからの3Pシュートの成否を記録したノートを見る木暮は、すげぇ楽しそうだぜ。

 

まぁ、これは木暮に基礎が出来ていたからこそだ。

 

もし木暮に基礎が出来てなかった時は…数をとにかくこなさせてシュートフォームを固めたり、シュートの感覚を身に付けさせていたかもしれねぇな。

 

それからしばらく赤木や木暮の練習を見ていると…。

 

「はぁ…早くバスケがしたいぜ。」

 

思わずそう溢してしまい、自分を戒める様に頬を張ったのだった。

 

 

 

 

side:赤木美和

 

 

居残り練習が終わって三井君を送ると、途中で木暮君とも別れて剛憲と帰りながら話をする。

 

「う~ん、やっぱり三井君のご両親に挨拶すべきだったかな?」

「やめんか馬鹿たれが。」

「そうよねぇ、先ずは私が三井君を名前で呼べる様になるのが先だよねぇ。」

「お前を三井に紹介したのを心底後悔し始めたぞ。」

 

肩を落としてげんなりする剛憲は失礼だよね。

 

「ところで剛憲、ベビーフックなんていつ覚えたのよ?」

「昨日だ。三井に教わった。」

「おぉ、流石は三井君だね。しかもベビーフックを選択するなんてセンス抜群じゃない。あれなら不器用な剛憲でも習得出来そうだもんね。」

「一言余計だが、三井のバスケセンスが抜群なのは確かだな。」

 

ベビーフックかぁ…レイ○ーズのアー○ィン・ジョンソン・ジュニアが使ってるフックシュートね。

 

ベビーフックは普通のフックシュートに比べて、シュートフォームがコンパクトでボールをコントロールしやすいから、本当に剛憲に合ってると思うわ。

 

うんうん、流石は私の三井君。いいセンスしてるじゃん。

 

「これは三井君が復活したら、本当にいいところまでいけそうね。」

「いけそうなんじゃない、いくんだ。全国の頂上までな。」

「おぉ~強気だねぇ。でも、それぐらいじゃなきゃ、勝てる試合も勝てなくなるもんね。うんうん、いいよいいよ。その調子で先ずは春の県大会を制覇だ!」

 

お~って拳を振り上げても剛憲はノリが悪く反応してこない。

 

一人でやってると恥ずかしいんですけど?せめてツッコミは入れてよ。無視が一番辛いんだってば。

 

それにしてもやっぱり三井君はいいなぁ。

 

私はお父さんの影響で小さい頃からNBAが大好きだった。

 

でも、私の周りにいた人達とはあまりどころか、ほとんどNBAの話が出来なかった。

 

女子はもちろんだけど、男子ともNBAの話が出来なかったのは…正直に言って寂しかったな。

 

でも今日、私は本当の意味で理想の男性と会えた。

 

バスケが上手くて、勉強も出来て、カッコ良くて、しかもNBAの話が幾らでも出来ちゃう同い年の男の子。

 

このチャンス…逃してたまるかぁ!

 

「剛憲!全国制覇を本気で応援してあげるから、私と三井君の事も本気で応援してよ!」

「はぁ~…。」

 

ちょっと、なんでそんな大きなため息を吐くのよ?

 

従妹の恋なんだからちゃんと応援しなさいよね!

 

私は三井君と恋人になるって決めたんだから!

 

「ぜったい!ぜ~ったいに!三井君と恋人になるんだからぁ!」

「近所迷惑だ馬鹿たれが。」




◆アー○ィン・ジョンソン・ジュニア:第7話に登場。日本ではマ〇ック・ジョンソンの呼び名で有名(?)
 NBA史上最高のPG(ポイントガード)と称賛される程に優れた選手。
 ノールックパスが非常に有名らしいが作者はよく知らない。
 彼はそれまでのPGは低身長の選手が務めるものという常識を覆した2mオーバーの高身長の選手で、彼に憧れてPGをしたいという高身長の選手が多い模様。
 しかしチーム事情などで2mオーバーの高身長の選手は別のポジションを任されることが多いらしい。
 そんな彼が常識を覆えすPGに成れたのは、同チームにNBA歴代得点記録1位になるほどの傑出したC(センター)がいたという幸運に恵まれたのもあるかもしれないですね。


◆赤木美和(あかぎ みわ):拙作のオリジナルヒロイン。
 赤木剛憲の同い年の従妹であり、赤木晴子の従姉。中学時代に県大会ベスト5に選ばれる程のバスケットウーマン。
 第1話の三井のブザービーターを見て三井に一目惚れすると、従兄の赤木剛憲を通じて三井と接触したら更に惚れてしまった模様。
 第7話にて三井の恋人になると決意表明したが果たして…。
 容姿は晴子をもう少しボーイッシュにして、髪型を外ハネのショートボブにした感じをイメージしてください。


これで本日の投稿は終わりです。

また来週お会いしましょう。


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第8話『春季関東大会開幕』

本日は3話投稿します。

本日投稿1話目です。


美和が男子バスケ部のマネージャーになってから数日経つと、漸くギプスが外れる日がやって来た。

 

病院でギプスを外してもらって自分の足を見た瞬間は、なんとも言えない感覚だったな。

 

そしてその日から本格的なリハビリが始まった。

 

リハビリにはバスケとはまた違ったキツさがある。

 

ただ俺としては肉体的なキツさよりも精神的なキツさの方が大きく感じたな。

 

早くバスケがしたいって気持ちを抑えるのが本当に大変だぜ。

 

そして本格的なリハビリが始まって更に日にちが経つと、春の県大会…春季関東大会の県予選が始まろうとしていた。

 

予想通りに間に合わなかったのは本当に残念だが、左膝の状態は日に日に良くなっているのが自分でもわかる。

 

これなら十分に夏のインターハイには間に合う。まぁ、初日に怪我をして練習に参加していない俺だ。だからベンチにも入れるかどうかわからないが…。

 

それはともかく春の県大会だ。

 

この大会で赤木がスタメンを、そして木暮がベンチ入りを勝ち取っていた。

 

赤木はともかく木暮は大抜擢…とも言えねぇか。練習では木暮の方が先輩達より3Pシュートを決めているからな。

 

実は木暮の方が先輩達より3Pシュートを決められるのには訳がある。

 

俺が知る未来のバスケでは3Pシュートの重要性はしっかりと認知されてるんだが、現在はそれほど3Pシュートは重要視されていないんだ。

 

だから先輩達もジャンプシュートの練習は、ペイントエリア付近でのものを中心にやっている。

 

NBAの一流シューターでもシーズンの3Pシュートの成功率が30%台って事を考えれば、先輩達がより確率の高いミドルレンジのシュートを重要視するのも理解出来るんだが、俺としちゃ少し寂しいものがあるな。

 

さて木暮の3Pシュート成功率なんだが…まだ練習のフリーの状態でもそう高くはない。

 

試合だと成功率は間違いなくもっと下がるだろう。だが外からシュートがあると思わせるだけでも試合展開は変わってくる。

 

春の県大会…試合に出れねぇのは残念だが、湘北がどこまで行けるのか楽しみだぜ。

 

 

 

 

side:木暮公延

 

 

春の県大会でいきなりベンチ入りをした。

 

三井や赤木ならともかく、俺が選ばれるとは思っても見なかった。

 

半ば呆然としていると一回戦目の試合が始まった。

 

前半早々に赤木は早速その存在感を見せつけた。

 

開幕で景気付けに両手でダンク(三井と美和さん曰くゴリラダンク)を決めると、攻守に渡ってゴール下を支配した。

 

赤木がゴール下を支配したおかげで湘北が優勢に進めていたけど、前半の半ばでタイムアウト取った相手チームが仕掛けてきた。

 

赤木にダブルチームをつけてきたんだ。

 

それでも赤木は止まらなかった。

 

チェックが厳しくなった赤木はベビーフックを使って得点を重ねていき、ファールで止められても2本に1本はフリースローを決めていく。

 

赤木は前半残り5分の時点で既に19得点、4リバウンド、4ブロックと大活躍だ。

 

そして前半も終わりに近付くと…。

 

「木暮君、後半から行きますよ。アップをしておいてください。」

 

唐突に安西先生にそう告げられた俺は慌ててアップを開始する。

 

うぅ…緊張するなぁ…。

 

試合に出たいとは思ってたけど、まさかこんなに早く出番が来るとは想像してなかった。

 

自分でもわかるぐらい緊張している。

 

「木暮、顔が真っ青だぜ。」

 

不意に三井が声を掛けてきた。

 

「わかるか?」

「あぁ。」

「そうか…。」

 

手を見ると震えていた。

 

こんな状態で試合に入れるのか?

 

そう不安に思っていると三井が肩を組んでくる。

 

「木暮、お前がやる事は3Pシュートを撃つことだ。それだけを考えてろ。」

 

3Pシュートを撃つだけ?

 

「三井、もし外したら…。」

「外しても構わねぇよ。赤木が取る。そうだろ、赤木?」

「あぁ、任せておけ。」

「…ははっ。」

 

やれやれ、緊張してる俺がバカみたいじゃないか。

 

まったく本当に…頼りになる仲間だよ。

 

それにしても前半が終わっていたのにも気が付かなかったのか。

 

でも今は落ち着いている…いや、まだ少し緊張しているけど、手が震えていたさっきよりはマシな状態だ。

 

これならなんとかやれると思う。

 

それから後半が始まって出場した俺はスペースを意識して走り回った。

 

すると…。

 

「赤木!外!」

 

三井の声掛けに気付いた赤木から俺にパスが来た。

 

「木暮!フリーだ撃て!」

 

三井の声で我に還った俺は3Pシュートを撃つ。

 

空中で放物線を描いたボールは、綺麗にバスケットを通過した。

 

「木暮!ナイスシュート!」

 

三井の声で3Pシュートが決まったと実感が沸くと、ゾクゾクっとした震えが全身に走った。

 

「赤木!もっと視野を広く!ゴール下で点を取る事だけがCの仕事じゃないぞ!」

「おう!」

「キャプテン!赤木1人にいい格好させるのはもったいないです!もっと点を取って目立っていきましょう!」

 

そんな三井の声掛けから驚く程にチームの動きが変わった。

 

コート上の湘北選手達が足を使って動き回り、赤木からパスを貰ってゴールを決めようとしだしたんだ。

 

赤木も無理に1人で勝負に行かずに、チームの皆にパスを出す様になった。

 

試合の最中に湘北に新しい攻撃のリズムが生まれたんだ。

 

それからは無我夢中で動き回った。

 

そして後半も残り10分を切ったところで俺はベンチに下がり、心地好い興奮が残る中で高校デビュー戦を終えた。

 

ベンチに座って汗を拭いている時に美和さんから聞かされたんだけど、俺は出場した10分だけで3Pシュートを3本も決めていたらしい。

 

どうりで相手チームからのマークがキツかったわけだよ。

 

チラリと横を見ると赤木もベンチで休んでいる。

 

大会スケジュールの関係で今日は2試合あるから、点差が開いたのもあって赤木を始めとしたスタメンは温存なんだろうな。

 

…今日の結果は正直に言ってたまたまだ。俺自身が良くわかってる。

 

だけどいつの日か、これが実力だと胸を張って言える様になりたい。

 

赤木…三井…俺、昨日よりもっとバスケが好きになったよ。

 

「試合…次はもっと出たいな。」

 

そうベンチで呟くと手にしていたタオルを強く握り締めたのだった。




今回の後書きは拙作内の高校バスケの大会の方式(?)についてのお話をば。

本話を書いていくにあたって少し大会の方式について調べたのですが…よくわかりませんでした。ノックアウト方式ってなんだよ…。

そういう訳で拙作内での大会の方式は作者の独断と偏見で決めてしまいます。

・インターハイ県予選は原作準拠。各ブロックを勝ち上がった4校で決勝リーグを行う。全国大会本戦はトーナメントで。
・ウインターカップは上同。
・春季関東大会は県予選、関東本戦共にトーナメントのみで。
・国体もトーナメント。
・天皇杯もトーナメント。

…といった形でいこうと思います。

ちゃんと調べろやとのご意見もあるかと思いますが許してクレメンス。


次の投稿は9:00の予定です。


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第9話『名前呼びは意外と難しい』

本日投稿2話目です。


湘北は無事に2回戦に勝ち進んだ。

 

今日は後1試合あるから、俺と美和で次の対戦相手の偵察をする。

 

2回戦の相手は陵南か角野のどちらかだ。

 

「陵南に随分とデカイのがいるな。」

「私達と同じ1年の魚住君だね。」

「魚住か…。」

「他にも池上君っていう1年がいるみたい。」

 

魚住の奴はおそらく赤木よりも身長がある。

 

どんなプレイをするんだ?

 

陵南と角野の試合が始まった。

 

試合前半は陵南が優勢に進めてるが…。

 

「ハッキリ言って魚住はデカイだけだな。」

「そうだね。剛憲なら十分に抑えられるよ。」

 

もう1人の1年の池上はベンチだ。

 

この時期の1年でベンチ入りしたってことは、あの池上って奴にも何か優れたもんがあるんだろうが…。

 

他の2年や3年の動きも見ていく。

 

…チーム全体じゃ陵南の方が上だな。救いは陵南に3Pシューターや飛び抜けたスコアラーがいない事か。

 

まだ前半の途中までしか見てないが、陵南との試合は木暮がキーマンになりそうだ。

 

もしかして安西先生はこれを見越して木暮を1回戦で使ったのか?

 

「彼女連れで見学とはいい御身分だな、三井。」

 

不意に声を掛けられて振り向くと、見覚えのある色黒の男の姿があった。

 

「えっ?やっぱり彼女に見えちゃう?いや~嬉しいなぁ。」

「お前は確か去年の県大会決勝でマッチアップした…。」

「牧だ。海南の牧紳一(まき しんいち)。」

「そうか、よろしくな。」

 

美和が何か言ってたが気にせず牧と握手をすると、ジャージの隙間から海南のユニフォームが見えた。

 

「もう海南のユニフォームを着てるのか。やるな。」

「ふっ、お前もうちに来ていたらこいつを着てただろう?」

「かもしれねぇな。」

 

そう会話をすると牧が美和に目を向ける。

 

「あっ、私は赤木美和。湘北にはもう1人赤木がいるから美和って呼んでね。」

「おう、よろしくな、美和。」

 

美和との挨拶を終えた牧が俺に目を向けてくる。

 

「ところで三井、お前、なんでさっきの試合に出てなかった?ユニフォームを着てる様子もないが…。」

「入部初日に膝をやっちまってな。今はリハビリ中なんだ。」

「…それは運が悪かったな。」

「まぁな、だが夏には十分間に合う予定だ。」

「そうか…。」

 

牧の言う通りに運が悪かったとポジティブにいくのが正解なんだろう。

 

そう考えると牧の奴はメンタルが強い…いや、強くなったのか?

 

これは海南とやる時は手強そうだな。

 

「三井、次にやる時は俺が勝つ。だから必ず戻ってこいよ。」

「言われなくても必ず戻ってみせるぜ。けど、次も俺が勝つけどな。」

 

不敵に笑った俺達は拳を合わせる。

 

「それじゃ、そろそろ行くぜ。邪魔して悪かったな、お二人さん。」

 

そう言って牧は手を振りながら去っていく。

 

その後も俺は美和と一緒に陵南を偵察して、次の試合に備えていったのだった。

 

 

 

 

side:赤木美和

 

 

(彼女に見えちゃうかぁ…そっかぁ…にしし!)

 

陵南と角野の試合の前半が終わると、私はさっきのやり取りを思い出して思わずにやけてしまう。

 

(海南の牧君が私の事を三井君の彼女だって!しかも三井君は否定してない!これはもう私が三井君の恋人になったも同然でしょ!)

 

勝ちを確信した私が拳を握りしめると、他の高校の女子生徒達がチラチラこっちを見てるのに気付く。

 

ふふふ、私を応援してくれてるのね。

 

(応援ありがとう!)

 

ビシッと彼女達にサムズアップをしたら、彼女達からは天に向かって伸びる中指が返されたわ。

 

(ふっ、これが勝者へのやっかみってやつね。)

 

けど!それはつまり!彼女達からも私と三井君が恋人に見えている証!

 

いける!いけるわ!この流れで三井君を名前で呼べるはず!

 

行くのよ美和!今こそチャンス!

 

「ひ、ひ、ひさ…三井君。」

「うん?どうした美和?」

「う、ううん、なんでもない。」

 

自分でもわかるぐらい顔が熱くなった私は、バクバクとうるさい心臓を押さえながら三井君から顔を逸らして俯く。

 

(たっか!?名前呼びのハードルたっか!?なにこれ!?名前呼びってこんなに難しいの!?)

 

俯いていた私がふと視線を上げると、私のヘタレ具合を見た彼女達がニヤニヤと笑うのが目に入る。

 

(仕方ないじゃん!去年までバスケ一筋で来た恋愛初心者なんだから仕方ないじゃん!)

 

がるると彼女達を威嚇していると…。

 

「美和、どうした?本当に大丈夫か?」

 

不意に三井君に声を掛けられてしまってビクッてしてしまう。

 

「う、うん!大丈夫だよ!もう5月なのに、ちょ~っと肌寒いなぁなんて思っちゃったりしただけだから!」

「そうか?じゃあこれを着ろよ。」

 

そう言いながら三井君はジャージの上を脱いで渡してきた。

 

「…へっ?」

「寒いんだろ?まぁ、今日は汗をかいてないから大丈夫だと思うが…」

「だ、大丈夫大丈夫!全然気にしないよ!バッチコーイ!」

 

私の言葉にキョトンとした三井君が不意にプッと吹き出す。

 

「はは、調子が戻ってきたな。その調子で後半の偵察も頼むぜ。」

「うんうん、ドーンと任せて!今の私は無敵だから!」

 

三井君のジャージを羽織ると思わず顔がにやけちゃう。

 

(も~三井君カッコ良過ぎ!どれだけ私を惚れさせたら気が済むのよ!)

 

チラッと彼女達に目を向けると舌打ちをしているのが見える。

 

(あらごめん遊ばせ、おほほほ!)

 

内心で彼女達に勝ち誇ると、三井君のジャージに手を触れてから大きく息を吐き出す。

 

(よしっ、私復活!次のチャンスが来たら今度こそ三井君を名前呼びしてみせるんだから!)

 

決意を新たに誓うと彼女達に目を向ける。

 

(応援よろしく!)

 

そう意思を込めて彼女達にサムズアップをすると、彼女達からはまた天に伸びた中指が返ってきたのだった。




前回の後書きで大会の方式の事を書いたので今回は試合のルールをば。

ルールと言ってもファールの名称の事です。

原作の時代ではハッキングと呼ばれていたファールですが、現在では手を使ったファールは全てイリーガルユースオブハンズと呼ばれて統一されているそうです。ですが拙作では原作をリスペクトし、旧い名称のハッキングやプッシング等で表記していこうと思います。

これはただの作者のワガママですがどうかご容赦をば。


次の投稿は11:00の予定です。


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第10話『勝負には勝ったが…』

本日投稿3話目です。


次の湘北の相手は陵南に決まった。

 

俺と美和は偵察で得た情報を安西先生に報告していく。

 

「ご苦労様でした。三井君と赤木さんもお昼を食べてください。」

 

安西先生の労いの言葉に頭を下げると、美和と一緒に適当な場所に移動してから弁当箱を開ける。

 

「安西先生はどう陵南と戦うつもりかな?」

「陵南の方が運動量が多いからな。試合終盤までにある程度はアドバンテージを作っておきたいとこだ。」

「序盤は剛憲を中心に粘って、機を見て木暮君を投入って感じになるかな?」

「たぶんそうなるだろうな。」

 

弁当を食いながら俺と美和は話していく。

 

「木暮君の出来次第になりそうだね。」

「プレッシャーになるから本人には言うなよ。」

「わかってるってば。それより三井君、次は海南の試合みたい。」

 

コートに目を向けると海南のユニフォームを着た牧の姿が目に入った。

 

「ユニフォームだけじゃなく、もうスタメンも勝ち取ってるのか。」

「ねぇ三井君、牧君ってどんなプレイヤーだった?去年の県大会決勝は見てたんだけど、コートの中から見るとまた違って見えるだろうし聞いてみたいなぁ。」

 

美和の言葉を受けて去年マッチアップした時の牧の動きを思い出す。

 

「積極的なカットインから展開を作っていくプレイヤーだったな。当たり負けしないパワーとボディバランス、味方に的確にパスを回せる広い視野、そしてスコアラーとして十分な得点力もある。3Pシュートを撃ったのを見た覚えがねぇから外があるのかわからねぇが、それを除けば理想的なPGだ。」

「おぉ、評価高いねぇ~。じゃあ戦う時に備えて偵察しますか。」

 

そう言って急いで昼飯を食い終えた美和がノートを手に取る。

 

「あっ、三井君はゆっくり食べてていいからね。」

「悪いな、美和。」

「いいのいいの、これもマネージャーの仕事だから。」

 

試合前のアップから海南の偵察をしている美和がノートにペンを走らせる。

 

「海南は皆レベル高いけど、その中でも牧君は十分に存在感を発してるわね。う~ん、外から撃たないなぁ…無いのかな?とりあえず保留ってことで。」

 

なんとか試合が始まる前に昼飯を食い終わった俺は、美和と並んで偵察していく。

 

そして少し経つと海南の試合が始まった。

 

牧を起点に海南は攻撃を展開していくが…牧の動きが少し鈍い様に見える。

 

…そういや去年マッチアップした時も、中盤から動きが良くなってきてたな。もしかしてスロースターターなのか?

 

「美和、牧はスロースターターかもしれねぇ。確定じゃねぇが一応メモしておいてくれ。」

「りょうか~い。それにしてもスロースターターであのキレかぁ…うちだと三井君以外止められる人いないんじゃないかな?」

 

先輩達に対して失礼だが、たしかに先輩達じゃ牧を止めるのは厳しいだろうな。

 

赤木も今は無理だ。将来的にはある程度やりあえるかもしんねぇが…。

 

試合が進んで前半の終わり頃になると、牧の動きのキレが増してきた。

 

「牧君の動きが良くなってきたね。これは三井君の言う通りに、本当にスロースターターかも。」

 

試合が後半に入ると牧は更に躍動していく。

 

そして後半残り10分の時点で、海南が相手チームに対してトリプルスコアに近い大差をつけると牧はベンチに下がった。

 

「強いなぁ…流石は強豪の海南ってところだね。」

「あぁ、強いな。いずれは海南とも戦うことになるだろうが、今は次の陵南戦だ。」

「うん、そうだね。次に勝たなきゃ先は無いもん。」

 

牧が下がったところで海南の偵察を終えた俺達は、陵南戦に向けて準備をしていた皆と合流したのだった。

 

 

 

 

side:赤木剛憲

 

 

春の県大会の2回戦は陵南との試合なのだが、そこで俺は俺よりもデカイ男とマッチアップする事になった。

 

そのデカイ男は魚住純(うおずみ じゅん)という名らしい。

 

試合前のコートを使ってのアップの最中、チラリと魚住に目を向ける。

 

三井と美和からの情報によれば技術は拙く、今のところはデカイだけの選手らしいが、それでも油断する気は無い。

 

アップが終わり試合が始まる。

 

先ずはジャンプボール…俺が制して湘北ボールから試合が始まった。

 

素早くゴール下に向かうと魚住が俺のマークにつく。

 

副キャプテンでPGの土橋さんから俺にパスが来た。

 

迷わずに仕掛けるとゴールを決めた。思いの外あっさりとだ。

 

攻守が入れ替わり今度は魚住が仕掛けようとしてくる。

 

それを防いでいくと3秒のバイオレーションでボールは湘北に。

 

二度ボールを受け取ると直ぐに魚住がチェックを掛けてくるが、冷静にベビーフックでゴールを決める。その際に魚住のハッキングでバスケットカウントを貰うとフリースローも決める事が出来た。試合の立ち上がりとしては最高の出来だろう。

 

その後もリバウンド争いを始めとしたゴール下の勝負で次々と魚住に勝利していった。だが魚住との勝負には固執せず、一回戦で受けた三井からのアドバイス通りに周りにパスを出していく。

 

しかしチーム全体としては五分の状態が続いていった。

 

だが前半残り10分のところで安西先生がタイムアウトを取ると木暮を投入。そしてコートに入った木暮が3Pシュートを決めると、試合の流れは湘北にやって来た。

 

そのまま優勢な状態で前半を終えたが、後半に入ったところで陵南が仕掛けてきた。

 

今日2試合目ということもあって運動量が落ちてきた湘北メンバーは陵南の仕掛けについていけなかった。安西先生も比較的フレッシュな控えを投入したりして対抗しようとするも、後半残り5分のところでスコアは横並びとなってしまい、後半残り3分には逆転されてしまった。

 

まだ勝機はある。その一念で俺は俺の仕事をやり続けたが…試合は77ー84で負けてしまった。

 

悔しさに拳を握りしめる。

 

ふと魚住と目が合った。

 

奴との勝負には勝ったが試合は負けてしまった。

 

…次は試合にも勝つ!

 

そう己を奮い立たせた俺は、胸を張ってコートを後にしたのだった。

 

 

 

 

side:田岡茂一(たおか もいち)

 

 

「安西先生、今日はありがとうございました。」

「えぇ、こちらこそありがとうございました。」

 

前半の半ばに伏兵の木暮に3Pシュートを決められると流れを持っていかれて冷や冷やしたが、ディフェンスに光るものがある池上を投入して彼をマークさせた事でなんとか致命的な程に点差が開かずに済んだ。

 

そして後半からは計算通りの試合展開になったんだが湘北の選手達…特に赤木の予想以上の奮闘で中々追い付く事が出来なかった。

 

だが最終的に試合はうちが勝った。

 

安西先生率いる湘北に勝った事も嬉しいが、今回の試合では勝利以外の収穫もあった。

 

あの弱気な魚住の負けん気に火がついたんだ。赤木の存在に刺激を受けて。

 

今回の魚住と赤木の勝負は魚住の完敗だが、そのおかげで魚住はこれから確実に伸びていく。ふふふ…基礎を徹底的に鍛えてやらないとな。

 

「ところで安西先生、今大会に三井は出場してなかったみたいですが、どうしたのですか?」

「あぁ、三井君は怪我の療養中ですよ。」

「怪我の?大丈夫なんですか?」

 

そう問い掛けると安西先生はニコリと微笑む。

 

「えぇ、経過は順調な様です。夏のインターハイ予選ではお披露目出来るでしょう。」

「そうですか…その時を楽しみにしています。」

 

安西先生に頭を下げた俺は踵を返す。

 

(三井か…スカウト出来ていればな…。)

 

もし三井をスカウト出来ていれば、もう少し楽に魚住を育てる事が出来ただろう。

 

(ふぅ…ないものねだりをしてはいかんな。)

 

気持ちを切り替えて次の事を考える。

 

(まだ5月で気が早いが、仙道と宮城のスカウトでは遅れを取らんようにしなければな。あの2人をスカウト出来たら魚住が3年になる年には…ふふふ、落ち着け茂一。まだ2人をスカウト出来たわけじゃない。)

 

思わずニヤけた顔を戻すために片手でもみほぐす。

 

「スカウトはさておき先ずは次の3回戦だ。試合の日までしっかりと準備をしておかなければな。」




前回、前々回と細々とした事を後書きに書いたので、今回は3人ほどキャラ紹介をば。


◆三井寿(みつい ひさし):原作主要キャラの一人で拙作の主人公。

 三井寿としての自我が確立した後に前世の記憶を取り戻したので、前世の人格に乗っ取られず記憶を吸収した形に。
 一応原作知識はあるのだが、原作の不良化した自分を見て色々と思うところがあったので原作知識は封印している。そのため前世の記憶は主にバスケのスキルアップや、勉強の時に用いられている。
 前世の記憶を参照してトレーニングを積んでいたのもあって湘北入学時には原作の1年だった頃の自分を超えていたが、運悪く原作同様に入部初日に怪我をしてしまった。
 しかし原作と違い挫折せず復活に向けて励んでいる。


◆赤木剛憲(あかぎ たけのり):原作主要キャラの一人。原作では湘北の大黒柱。

 三井のアドバイスを受けて成長中。既に神奈川ナンバーワンセンターの座が見え始めているかも。
 ベビーフックを使う赤木を止めるセンターが県内に思い当たらず、作者は正直やり過ぎたかもと思っている。


◆木暮公延(こぐれ きみのぶ):原作主要キャラの一人。原作主人公曰く『メガネ君』

 赤木同様に三井のアドバイスを受けて成長中。身体能力は凡庸だが、3Pシュートで田岡を冷や冷やさせて存在感を主張。
 原作では活躍が少なかった分、将来が楽しみなキャラの一人である。


こんな感じで今回の後書きは終わりです。

また来週お会いしましょう。


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幕間1『牧紳一は再会に喜び、そして熱く燃える』

本日は3話投稿します。

本日投稿1話目です。


side:牧紳一

 

 

春季関東大会の県予選の会場で三井が進学した湘北の試合が始まったが、俺達海南の偵察目的である三井は試合に出場していなかった。

 

「三井が出てないな。ベンチにはいるがユニフォームすら着ていない…夏の秘密兵器として温存か?安西先生ならありえるかもしれん。」

 

高頭監督が手にした扇子で肩を叩きながらそう話す。

 

俺は高頭監督にスカウトされて海南に来たが、高頭監督は三井もスカウトしていたらしい。

 

まぁ、それも当然か。強豪校なら駄目もとでも三井に声を掛けるだろう。あいつにはそれだけの才能がある。

 

三井の偵察は出来なかったが、代わりに赤木というセンターのプレイが俺達の目に留まった。

 

「いいセンターだ。オフェンス、ディフェンス共にゴール下を十分に任せられる。ポストプレイが少ないのが少し気になるが…。」

 

高頭監督の言葉に頷く。

 

確かにポストプレイが少ないが、あれはどちらかというとポストプレイをしてもパスを出せる相手がいないんだろう。

 

それほどにあのセンター…赤木は三井のいない湘北の中で突出し孤立している。

 

もう少しでいい。周りの奴等が動いてフォローをしてやれば、あいつの意識も変わる筈だ。

 

だが幸か不幸かあいつは1人でもゴール下で戦えてしまう。

 

だから周りの奴等はあいつに任せてしまうし、あいつもそれを信頼として受け止めてしまっているんだ。

 

試合は進んでいき後半、眼鏡を掛けた少し線の細い男が湘北メンバーとしてコートに入った。

 

すると…。

 

『赤木!外!』

 

ベンチから三井の声が飛び、赤木が眼鏡の奴にパスを出した。

 

そして眼鏡の奴が迷わず3Pシュートを撃つと、見事にスウィッシュで決まった。

 

このワンプレイで湘北の動きが変わった。

 

赤木のワンマンチームから、チーム全体で連携しだしたんだ。多少のぎこちなさは残っているが。

 

「うん、悪くないチームになった。だが、あと1人欲しいところだな。」

 

高頭監督の言葉に頷く。

 

そう、後1人欲しい。贅沢をいえばエースと呼べる選手が。

 

おそらくその役目は三井が担うだろう。

 

ポジションはどこになるかわからんが…このチームに三井が入れば面白いチームになる事は確かだな。

 

その後、湘北が勝ち上がったのを見届けると、俺は1人チームから離れて三井の所に向かう。

 

すると三井は女連れで2回戦の相手を偵察していた。

 

邪魔をするのもどうかと思いつつも三井に話し掛けると、三井自身から試合に出ていない理由を聞く事が出来た。

 

運が悪かった。三井が出ていない理由はこの一言に尽きる。

 

まさか入部初日に怪我をするとはな。

 

だが三井は腐っていない。それどころかあいつの目からは十分な闘志を感じられた。

 

そうだ、あの目だ。

 

どんな状況でも諦めないと言わんばかりのあの目こそが三井寿だ。

 

三井は必ず復活する…いや、前以上に成長して戻ってくる事を確信した俺は、話もそこそこにチームの所に戻った。

 

だがチームの所に戻った俺は熱くなった身体と心を持て余す事になる。

 

あぁ…早く試合がしたいぜ。

 

 

 

 

牧は三井との再会で燃え上がった心を試合にぶつけた。

 

積極果敢なカットインから展開を作り味方にパスを、更に自身でも点を取っていくその姿は試合会場にいた人達を魅了していった。

 

牧の活躍もあって順調に勝ち進んだ海南は春季関東大会神奈川県予選の準決勝で、過去4連続でインターハイの全国大会に出場したことがある強豪の翔陽と戦った。

 

前半は海南が終始優勢に進めたが、翔陽は後半に藤真健司(ふじま けんじ)という1年生PGを投入した。

 

牧とマッチアップした藤真は味方にパスを供給しながらも、独特なシュートタイミングと左利きの優位性を活かして牧のディフェンスを何度も掻い潜り得点を重ねた。

 

だが前半でついた差がつまることはなく試合は海南が勝利した。

 

この試合がキッカケとなって藤真は牧をライバルとして意識していくようになったのだが、牧は藤真に対して特にライバル意識を抱くことはなかった。

 

もちろん藤真が今後注意が必要な存在だとは認識したが、彼は既に三井を最大のライバルと意識していたので藤真をライバルだと意識する事はなかったのだ。

 

その後、神奈川県予選を制した海南はその勢いのまま春季関東大会本戦に挑み準優勝の結果に終わる。

 

そして春季関東大会本戦で1年生ながらベスト5に選ばれた牧は、神奈川の高校バスケ関係者達から『怪物』と称されていく様になったのだった。




◆牧紳一(まき しんいち):原作では神奈川ナンバーワンプレイヤーと呼ばれる男。

 拙作においては捏造設定で中学時代に三井と対戦し敗れている。そのため既に三井をライバル視しており、三井の怪我からの復活を心から望んでいる。
 
◆魚住純(うおずみ じゅん):原作における赤木のライバル的存在。原作主人公にはボス猿と呼ばれる。

 拙作の現時点ではまだ背が高いだけの男であり、赤木と渡り合えるほどの実力はない。しかし赤木に完敗したことで奮起し、田岡の厳しい指導を自ら望み励む様になった。

◆藤真健司(ふじま けんじ):原作では牧とナンバーワン争いをしていた男。

 本話で初めて登場。
 藤真は牧の事をライバル視する様になったが、牧にはされていない模様。
 拙作においても不遇キャラになるかも…?


次の投稿は9:00の予定です。


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第11話『三井復帰』

本日投稿2話目です。


side:三井寿

 

 

「三井君、もう大丈夫ですよ。部活動を再開して結構です。」

 

春の県大会から数日後、放課後に病院に行き担当医の先生の言葉を聞いた俺は、勢い良く立ち上がって頭を下げる。

 

「小林先生、ありがとうございました!」

「いえいえ、それにしても良く我慢しましたね。君ぐらいの年の子は怪我を軽視したり、焦って怪我が治りきる前に練習した結果また怪我を繰り返しがちなんですが。」

 

担当医の先生の言葉を聞いた俺は思わず苦笑いをしちまう。

 

前世の記憶を思い出してなかったら、間違いなく焦って怪我が治りきる前に練習に参加してただろうからな。

 

「本当にありがとうございました!失礼します!」

 

診察室から出た俺は一緒に来ていた母さんに振り向く。

 

「母さん、悪いけど先に行くぜ。」

「はいはい、あっ、寿これ。」

 

そう言いながら母さんは何かが入った袋を渡してくる。

 

「何だこれ?」

「膝のサポーターよ。お父さんからのプレゼントね。怪我をする前に予防しておきなさいって。帰ったらちゃんとお礼を言うのよ。」

「あぁ、わかったよ。母さんもありがとな。」

 

包みを開けた俺はズボンの裾を捲り上げてサポーターをつける。

 

「それじゃ、ちょっと一走りして部活に行ってくるぜ。」

「気をつけて行ってくるのよ~。」

 

病院の外に出た俺はしっかりと準備運動をすると、サポーターを付けた左膝の状態を確かめる様にしてゆっくりと走り出すのだった。

 

 

 

 

side:三井寿

 

 

「安西先生、担当医の先生から許可が出ました!今日から練習に参加します!」

「はい、わかりました。それでは三井君、準備運動をして身体を温めたら皆と合流してください。」

「安西先生、病院から走ってきたので身体は温まってます!なので直ぐに合流出来ます!」

「ほっほっほっ、それは結構。」

 

皆の所に合流すると俺は頭を下げる。

 

「遅くなりました!三井寿!今日から練習に参加します!」

「おう、お帰り三井。」

 

キャプテンの石渡さんを筆頭に皆が声を掛けてくれると、俺も一緒に皆と練習をしていく。

 

1ヵ月振りに出来る本格的なバスケに思わず感動する。

 

あぁ…やっぱりバスケは楽しいぜ。

 

「よし、それじゃ紅白戦行くぞ!」

 

紅白戦?基本的に紅白戦は週末とかの練習時間を多く取れる日にしかやらなかったんだけどな。

 

そう疑問に思っていると石渡さんが俺の肩に手を置いて話し掛けてくる。

 

「三井、入部初日のやり直しってわけじゃないが、あのままじゃイメージが悪いだろ?だから思いっきり暴れて悪いイメージを吹っ飛ばせ。」

 

…もしかして今日の紅白戦は俺の為に?

 

そう考えていると誰かの話し声が聞こえてくる。

 

「頼んだぜ、赤木。復帰してきたばかりの三井に負けるなよ。」

「はい!」

 

土橋さんと赤木の声がした方に目を向けると赤木と目が合った。

 

「…手加減はしないってか?上等だぜ。ありがとうございます、石渡さん。必ず悪いイメージを吹っ飛ばしてみせますよ。」

 

 

 

 

side:赤木美和

 

 

紅白戦が始まると三井君は1ヵ月のブランクを感じさせない動きで、Bチームを翻弄していった。

 

いや~凄いわね。なにあのクロスオーバー。ストレートに抜きに行くかどうか全く区別がつかないんだけど。

 

剛憲の話だと三井君はユーロステップも使ってたみたいだけど…どうも使わないみたい。

 

それもそっか。あれで三井君は怪我をしたんだもんね。

 

私でもしばらく封印するわ。

 

あっ、またクロスオーバーで抜いた。

 

おぉ!流石は三井君!周りが見えてるぅ!外でフリーになった木暮君にナイスパス!

 

あぁ~、外しちゃった。まぁ仕方ないよね…っと思ったら三井君ナイスリバウンド!

 

剛憲とのリバウンド争いを制するとかナイス過ぎるよ!

 

まぁそれはそれとして…剛憲の課題が見えてきたかな。

 

パワー系の相手なら剛憲は互角以上に戦えるけど、テクニック系の相手だと振り回されちゃうみたいね。

 

現に三井君がゴール下に入ったらすっごい苦戦してるもん。

 

まぁ三井君が上手いってのもあるんだけどね。

 

それと木暮君は…もっとスクリーンを仕掛けたりして、味方をカバーする動きが欲しいかな。

 

これは意識するだけでもかなり違うから、木暮君は一気に成長しそうだね。

 

三井君は技術面での課題はなさそうかな。というより三井君の課題は怪我に強い身体作りだよね。

 

後はそれに付随する形で身体能力全般の強化かな。

 

これは一朝一夕で出来るものじゃないし、時間を掛けてゆっくりとやっていくしかないか。

 

さて、三井君達の課題はオーケーとしても、チーム全体の問題が残っちゃってるのよねぇ…。三井君達3人しか本気で全国制覇を狙ってないって大問題が。

 

まぁ、しょうがないのかな。湘北はバスケ弱小校だし。

 

神奈川の高校で本気でバスケをやろうとするなら、強豪の海南とか翔陽とかに行くもんね。

 

安西先生はバスケ界では有名みたいだけど、それでも本気でバスケをやろうと思って湘北に来るのはかなり博打になっちゃうわ。

 

その博打をしに来たのが剛憲と木暮君なんだけど。

 

そういえば三井君はなんで湘北に来たんだろ?去年の安西先生にボールを拾ってもらった時に何かあったのかな?…今度聞いてみようっと。

 

それから時間が過ぎていくと、紅白戦は三井君が大活躍してAチームが勝ったわ。

 

終始楽しそうにプレイする三井君は最高にカッコ良かった!

 

そして負けたBチームは罰ゲームのダッシュ10本をこなしていったんだけど、ダッシュを嫌々やっている人がほとんどだわ。

 

こうして改めて見ると三井君達3人以外じゃ、しっかりと練習に打ち込んでるのは石渡さんと土橋さんぐらいなのよねぇ。

 

2人共3年生だし受験勉強があるから夏が終わったら引退かな?出来ればウインターカップまで残ってほしいんだけど…。

 

はぁ…これは夏以降苦労しそうだなぁ。




◆安西光義(あんざい みつよし):湘北の監督。某ケ〇タッキーの人とよく間違われる。

 原作では桜木や流川といった才能溢れる一年生が入部してくるまでモチベーションを失っていたが、拙作では本気で全国を目指そうとする三井や赤木の姿に感化され徐々に情熱を取り戻していっている。
 名将復活なるか?

◆田岡茂一(たおか もいち):陵南の監督。原作では桜木に刺激的絶命拳を受けている。

 原作では三井、宮城、流川のスカウトに失敗しているが、拙作においても既に三井のスカウトに失敗している。
 また原作では桜木や木暮を侮ったりと迂闊なところがあるが、拙作においては三井の影響で成長した木暮にちゃんと注目している。
 高校時代の後輩である高頭の鼻を明かす日がくるか?

◆高頭力(たかとう りき):海南の監督。いつも扇子を持ち歩いているイメージ。

 強豪海南を作り上げた男。智将の異名を持つ。
 原作においては試合開始10分で桜木の本質を見抜いたりと中々の慧眼を持つ。


次の投稿は11:00の予定です。


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第12話『リベンジ』

本日投稿3話目です。


side:三井寿

 

 

インターハイ県予選まで残り3週間ってところで練習試合が組まれた。

 

相手は陵南…春の県大会で負けた因縁の相手だ。

 

練習試合を行う陵南の体育館に辿り着くと、田岡監督が安西先生に頭を下げた。

 

「安西先生、今日はご足労いただきありがとうございます。」

「いえいえ、今日は胸をお借りさせていただきますよ。」

 

監督同士の挨拶が終わると俺達はアップをしていく。

 

そしてアップが終わると試合前のミーティングが始まった。

 

「三井君、今日の試合では前半はSF(スモールフォワード)を、後半はPGをお願いします。」

「はい!」

 

練習試合とはいえスタメンで使ってもらえるのか…。

 

安西先生…その決断、絶対に後悔させません!

 

「土橋君、後半はPF(パワーフォワード)をお願いします。石渡君と赤木君と連携の確認をしておいてください。」

「はい!」

「それと木暮君、後半の頭から行きますので準備をしておいてください。」

「はい!」

 

一通りの指示を出し終えた安西先生がニコリと微笑む。

 

「君達は強い。」

 

微笑みながら言った安西先生の言葉に皆が驚く。

 

「もう一度言います。君達は強い。この事を覚えておいてください。自信を持って、強い気持ちを持って戦うからこそチャンスが生まれます。」

 

皆が安西先生の言葉に聞き入る。

 

「春のリベンジを果たし、夏のインターハイ予選の弾みにしましょう。君達なら出来る。」

「「「はい!」」」

 

流石は安西先生だ。一気にモチベーションが高まったぜ。

 

覚悟しろよ陵南。この練習試合が俺の高校初めての対外試合…デビュー戦なんだ。

 

キッチリと勝利で飾らせてもらうぜ!

 

 

 

 

side:田岡茂一

 

 

「さて、どうなるか…。」

 

コートに目を向けると三井の姿がある。

 

「おそらくは、怪我によるブランクがある三井がどの程度使えるのかを確認しつつ、彼に自信を取り戻させるつもりなのだろうが…。」

 

俺はチラリと三井のマンマークを指示した池上に目を向ける。

 

「果たして、そう上手いこといきますかな、安西先生?」

 

池上のディフェンスの上手さは、1年ながら既に陵南の中で上から数えた方が早い。

 

そんな池上のディフェンスを、怪我でブランクがある三井が果たして抜く事が出来るのか。

 

「じっくりと見物させてもらいますよ。」

 

試合が始まった。

 

ジャンプボール…むぅ、取られたか。魚住のタイミングも悪くなかったが。

 

魚住も着実に成長してきている。

 

今はまだ赤木の相手をするのは荷が重いだろうが、しっかりと経験を積んでいけよ、魚住。

 

ボールを確保した湘北のPGの土橋から三井にパスが出る。

 

三井は3Pラインの外でボールを受け取ったが、既に池上はマークについている。

 

さぁ三井…どう打開する?

 

そう思っていると不意に三井が3Pシュートを撃った。

 

「焦ったな三井…立ち上がりの独特の緊張感に飲まれたか?やはり試合勘がにぶ…。」

 

言葉はそこで止まった。

 

何故なら…。

 

「なっ!?」

 

三井の3Pシュートがスウィッシュで決まったからだ。

 

「…勝負強さは健在ということか。」

 

驚いて思わず立ち上がってしまった俺はゆっくりと椅子に腰を下ろす。

 

その後、開幕の3Pシュートで勢い付いたのか三井は止まらなかった。

 

土橋からパスを受けた三井は、3Pシュートを警戒して距離を詰めた池上をあっさりと抜き去る。

 

そして内に切り込めば赤木と魚住の勝負を演出、他にもフリーの味方にパスを出してアシスト、更には自身でも得点を上げたりと大暴れだ。

 

そんな内に切り込む三井に対応しようと池上が距離を開ければ、今度は外から撃っていく。

 

「…これで3本連続か。」

 

開幕の1本だけでなく、これで三井は前半だけで3本も3Pシュートを決めた。

 

それも前半終了間際ではない。前半の半ばでだ。

 

「ふぅ…やはりエース不在は痛いな。」

 

エース不在。それが現在の陵南が抱える一番の問題だ。

 

本来ならそのエースの座を三井に任せていたところなんだが…。

 

頭をガシガシと掻いている間も三井の躍動は続いていく。

 

そして前半が終わったが、前半だけで三井には26得点も取られてしまった。

 

だがうちもやられっぱなしだったわけではない。

 

赤木や三井との勝負を避け堅実に得点を重ねていった事で、まだ勝負の余地は残せている。

 

(まぁ、19点差でギリギリだったがな。)

 

ハーフタイムの間に俺はチームにもっと足を動かす事を指示する。

 

エース不在の現状でうちが打てる手は運動量で勝負をすることぐらいだ。だが、打てる手を打たずに負けを認めては監督失格だからな。

 

(最後まで足掻かせていただきますよ。安西先生。)

 

ハーフタイムの終わり際に湘北の選手達がコートに入っていくのを見ると首を傾げる。

 

(木暮を投入?安西先生、いったい何を…っ!?)

 

そう疑問に思っていた俺は後半が始まると驚いて目を見開く。

 

(三井がPG!?…なるほど、海南の牧を意識してのことですか安西先生?)

 

チラリと安西先生に目を向ける。そして目が合うと安西先生は微笑んできた。

 

「やれやれ、我々は踏み台に使われたわけか。救いはこれが練習試合だったことだな。」

 

肩を竦めた俺は大きく息を吐く。

 

「安西先生、この借りは返させていただきますよ。2年後…いえ、1年後にはね。」

 

仙道には三井と渡り合えるポテンシャルがある。

 

俺はそう信じている。

 

だからこそ是が非でもスカウトを成功させなくてはな。

 

そして宮城だ。彼もスカウト出来ればチームは盤石になる。

 

そうすればあの生意気な後輩…高頭の鼻を十分に明かせるだろう。

 

ふふふ…楽しみだ。

 

その後、63ー101のスコアでうちは負けてしまった。

 

三井には奴1人で45得点も奪われてしまった。

 

この借りも返さなくてはな。

 

「だがその前に…」

 

俺は練習試合が終わり人がいなくなった体育館で、1人悔し涙を流す池上の肩をそっと叩く。

 

池上には随分と酷な経験をさせてしまった。だが池上の成長の為には必要な事だった。

 

この経験を糧に成長出来れば…池上は三井や牧と渡り合える程のディフェンスのスペシャリストになれるだろう。

 

折れるなよ池上…その流した涙の分だけ成長してみせろ。




◆池上亮二(いけがみ りょうじ):ディフェンスに定評があることで有名。

 拙作ではディフェンス面にて1年時から頭角を現しつつある。
 しかし本話で三井にプライドをズタボロにされた模様。
 流した涙の分だけ成長出来るか?今後に期待。

◆石渡(いしわたり):拙作オリジナルキャラ。

 湘北バスケ部のキャプテンで現在3年生。ポジションはPF(パワーフォワード)。
 湘北バスケ部が弱小バスケ部であることを十分に知っているが、それでも練習を真面目にやり続けてきてキャプテンになった優等生。
 三井や赤木を見て最後のインターハイに密かに期待している。

◆土橋(どばし):拙作オリジナルキャラ。

 湘北バスケ部の副キャプテンで現在3年生。ポジションはPG。
 中学時代からの石渡の友人で、彼と一緒に弱小の湘北バスケ部でも勝とうと頑張って練習を積み重ねてきた男。
 石渡同様に最後のインターハイに密かに期待している。


これで本日の投稿は終わりです。

また来週お会いしましょう。


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第13話『新たな仲間』

本日投稿1話目です。

本日は3話投稿します。


side:三井寿

 

 

「みっちゃん、陵南との練習試合どうだった?」

 

陵南との練習試合に勝った翌日の月曜、湘北で同じクラスになった中学時代のチームメイトの倉石が話し掛けてくる。

 

「あぁ、勝ったぜ。」

「流石はみっちゃん。はぁ…話を聞くとやっぱりバスケをやりたくなってくるなぁ。」

 

倉石は親父さんの家業を継ぐために修行をしてるらしいんだが、その修行が忙しくて部活をやってる暇がないそうだ。

 

「…うん、決めた。もう一度みっちゃんとバスケやりたいから、親父を説得してみるよ。」

「大丈夫なのか?」

「和菓子職人の修行は一生物だから、今から根を詰めすぎてもしょうがないってね。それに未練があったら修行に集中出来ないって言えば、親父も理解してくれると思う。…理解してくれるよな?」

 

どうやら全国制覇を目指す仲間が1人増えそうだな。

 

後で赤木達に紹介するか。

 

それから翌週、親父さんの説得に成功した倉石がバスケ部に入部したんだが、去年の県大会決勝以来まともに運動してなかった倉石は、ランメニューを終えると思いっきりヘバってしまったのだった。

 

 

 

 

side:木暮公延

 

 

インターハイの県予選まで残り2週間といったところで、俺達に新たな仲間が増えた。

 

三井の中学時代のチームメイトの倉石博也(くらいし ひろや)だ。

 

「あ~きっつ~…ブランクを舐めてた。」

「去年の県大会決勝から動いてなかったんだろ?なら当然だな。」

「…ウインターカップまでには絶対体力を戻す。」

 

倉石が入部する前に少し話を聞いたんだけど、倉石は中学の時は主にG(ガード)をやってたらしい。

 

主にというのは三井がどこでもポジションを出来るから、去年の武石中のメンバーは三井のポジションに合わせてある程度ポジションを変動していたみたいなんだ。

 

「ところでみっちゃん、居残り練習は何をやってるの?」

「基本的にはそれぞれ課題を見付けて、それに合わせて練習だな。」

「そうなると俺はペイントエリア周辺でジャンプシュートの練習かな?だいぶというか、めちゃくちゃシュートが下手になってるし。まぁ、もともと大して上手くなかったけどさ。」

 

倉石は親父さんの後を継ぐ為に和菓子職人の修行をしてるらしいんだけど、その親父さんを説得して居残り練習にまで参加している。

 

そのおかげで居残り練習で出来る練習の種類が少しだけど増えたのはありがたい。

 

「木暮、3Pシュート上手いじゃん。」

「いや、まだまだだよ。」

 

休憩がてら俺の3Pシュートの練習で手を上げて壁役をしてくれている倉石に誉められたけど、俺は本心でまだまだだと思ってる。

 

「俺には赤木みたいに恵まれた体格は無いし、三井みたいに才能があるわけじゃない。そんな俺が全国で戦おうと思ったら、もっともっと練習をしないとな。」

「全国か…うん、そうだよな。俺も、もっともっと練習しないと。じゃないと親父に頭を下げた意味がなくなっちまう。」

 

なんとなくだけど倉石とは上手くやっていける気がする。

 

俺と倉石には、三井と赤木といった才能がある男達に食らいついていこうと必死という共通点があるから。

 

勝手に仲間意識を抱いて悪い気もするけど…これからよろしくな、倉石。

 

 

 

 

side:倉石博也

 

 

「あ~…本当にブランクを舐めてた…。こんなに動けなくなってるなんてなぁ…。」

 

居残り練習も終わって家に帰った俺は、シャワーを浴びてから足をマッサージしている。

 

「こりゃ明日、絶対に筋肉痛だなぁ…。」

 

そう愚痴を溢すものの、久し振りに感じる肉体的な疲労は結構心地良い。

 

「汗を流し終わったか?」

「うん、終わったよ。」

「よし、じゃあ修行を始めるぞ。」

 

うへぇ…がっつり疲れてるのに修行とか…勘弁して欲しいよ。

 

でも、これは自分で選んだことだ。

 

パンッと顔を張って気合いを入れると立ち上がる。

 

「あっ、やべっ、腿と脹脛がつりそう。」

「そうか、それは朗報だな。余計な力みが抜けていい修行が出来そうだ。」

 

「親父…湿布とかは…。」

「ダメに決まってるだろう。せめて修行が終わって寝る前に貼れ。」

「だよね~…。」

「職人もスポーツも一緒だ。1日の怠けが衰えに繋がる。文句があるなら過去の自分に言うんだな。」

 

その後、親父の言う通りに過去の自分にブチブチと文句を言いながら修行をこなした俺は、布団に倒れ込むと湿布を貼るのを忘れてそのまま寝てしまった。

 

そして翌朝になって目を覚ますと、両足が思いっきり筋肉痛になっていて中々起き上がれなかったのだった。




◆倉石博也(くらいし ひろや):拙作オリジナルキャラ。ポジションはG(ガード)

 三井の中学時代のチームメイト。昨年の県大会優勝時の他メンバーが中堅校や強豪校に進学する中で、家業を継ぐために通いやすい湘北に進学した男。

 その結果として三井と同じ高校に進学出来たと知った時は喜び、作中に描写は無いが三井が膝を怪我した時は本気で心配して見舞いにも行っている。

 家業を継ぐための修行があるのでかなり悩んだが、もう一度三井とバスケがしたいという思いに突き動かされて湘北バスケ部に入部。

 現在はブランクによる体力の衰えや感覚の欠如に驚きながらも練習を楽しんでいる。

 選手としての特徴はディフェンスとカバーリングは上手いが、ミドルシュートやロングシュートは下手である。
 外見イメージはバガボンドの本位田又八を坊主頭にした感じ。


次の投稿は9:00の予定です。


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第14話『失われた情熱は再び熱を帯び始める』

本日投稿2話目です。


side:赤木美和

 

 

インターハイ予選まで後少し。そして今日はインターハイ予選前の最後の日曜日って事で通常の練習はそこそこにして紅白戦をメインにやってるわ。

 

試合は三井君がいるBチームが優勢だけど、剛憲、木暮君、倉石君がいるAチームも負けてないわね。

 

おっ、来たわ。

 

この紅白戦で3回目の三井君と倉石君のマッチアップ。

 

倉石君はオフェンスはあまり上手くないけど、ディフェンスは上手いのよねぇ。

 

でも、そんな倉石君でも三井君のクロスオーバーは止められない。

 

倉石君を抜いて中に切り込んだ三井君が剛憲を引き付けると、フリーになっていた石渡さんにパスを出す。

 

パスを受け取った石渡さんは冷静にレイアップ。

 

うん、いいリズムだわ。

 

攻守が入れ替わってAチームの土橋さんがボールを運ぶ。

 

中の倉石君を中継してボールは外の木暮君に。木暮君がキャッチ&シュートで3Pシュートを撃つ。

 

外れた。リバウンド争い。

 

剛憲と三井君の勝負。三井君がボールを確保したけど、着地際を倉石君がスティール。弾かれたボールを剛憲が拾う。

 

そして剛憲がベビーフックでゴールを狙うけど、三井君が視界を遮る様に手を伸ばすと剛憲はゴールを外してしまう。

 

すると石渡さんがボールを確保して速攻。Bチームがゴール。

 

一連の攻防が終わると私は三井君に目を向ける。

 

(さっきのは本当に上手いわ。無理にブロックにいかず視界を遮って相手のミスを狙うとか、記録に残らないファインプレーってやつね。三井君、ナイスプレー!)

 

心の中で拍手を送ると、私は目を倉石君に向ける。

 

(運動不足で体力が落ちてるみたいだけど、カバープレイはすごく上手いのよね。剛憲のリバウンドのカバーに行って三井君からスティールを決めてるし。あれでもう少しシュートが入る様になれば文句無しなんだけど…。)

 

倉石君のミドルシュートの成功率はハッキリ言って剛憲よりも悪い。

 

その理由がブランクで感覚が鈍っているのもあるけど、家業を継ぐための修行でシュートの感覚を忘れちゃったからってのがねぇ…。

 

本人は不器用だから仕方ないって言ってるけど、あまりにもシュートを外すのを見かねた三井君がシュートフォームのアドバイスをしたのよね。

 

今はまだ完全にものにしてないけど、あの女子選手みたいなダブルハンドのシュートフォームをものに出来ればシュートも期待出来るようになるかもね。

 

おっと、そういうのは安西先生の仕事だし、私はマネージャー業に集中集中っと。

 

安西先生といえば石渡さんから聞いた話なんだけど、いつも遅れてくるって言ってたのよねぇ。

 

石渡さんが湘北バスケ部に入部した頃からそうだったらしいわ。

 

私がマネージャーになったばかりの頃もそうだった。

 

でも春の県大会の少し前から、ちゃんと部活動が始まる前に来る様になったわ。…なにか心境の変化でもあったのかしら?

 

まぁいっか。ちゃんと指導してくれるようになったんだし、安西先生のこの変化は大歓迎よね。

 

 

 

 

side:安西光義

 

 

紅白戦で皆が躍動する姿を見て目を細める。

 

心持ち一つでこれ程に世界は色鮮やかになるものなのだと、この歳になって初めて知った。

 

数年前に異国の地で教え子が亡くなったと知ったあの日から私はバスケに対する情熱を失っていたが、今の私の心には新たな情熱が宿り始めている。

 

その理由は三井君だ。

 

入部初日にリハビリを必要とする大怪我をしたが、それに屈せず見事に克服してきた。

 

しかも彼はリハビリ期間中から仲間に度重なるアドバイスを送っている。

 

赤木君のベビーフックしかり、木暮君のロングシュートしかり…これには本当に驚きだ。

 

バスケはチームスポーツだ。どれほど凄い選手でも1人では勝てない。

 

だからこそチームプレーで協力し合わなければいけないが…残酷なことにチームスポーツは試合に出場出来る人数、登録出来るメンバーの人数に限りがある。

 

限りがある故にその座を奪い合い、時には相手を蹴落とす様な真似をする選手だっている。

 

だが彼は当たり前の様にチームメイトにアドバイスを送る。

 

弱小校と呼ばれる湘北で本気で全国制覇を成し遂げるつもりなのだ。

 

そんな彼の本気に気付いた時、私は己を恥じた。

 

いい大人がいつまで塞ぎ込んでいるのだと己を叱咤した。

 

それから私は可能な限り部活動の時間に遅れぬ様に足を運んでいる。

 

今では私の知識や経験からこの子達を指導する様にもなった。

 

その結果として少し練習が厳しくなり幾人かが部を辞めてしまったが、その事に後悔はない。

 

「谷沢…見ているか?」

 

私はそう言葉を溢しながら練習で汗を流す教え子達を見て微笑む。

 

「…今年のインターハイが終わったら墓参りに行く。その時に、ゆっくりと話をしよう。」




次の投稿は11:00の予定です。


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第15話『智将は湘北戦を観戦する』

本日投稿3話目です。


side:三井寿

 

 

いよいよインターハイ予選開幕の日を迎えた。

 

インターハイ予選の神奈川県大会は予選トーナメントと、各ブロックを勝ち抜いた4チームによる決勝リーグを行う二部構成になっている。

 

全国大会の出場枠は2チームあるので、決勝リーグの成績上位2チームが全国へ出場だ。

 

さて予選トーナメントなんだが俺達湘北はCブロックだ。

 

運良く予選トーナメントでは神奈川で強豪と呼ばれてる海南と翔陽とはぶつからないが、順調に勝ち進んでいけば決勝戦で古豪の武里と戦う事になりそうだ。

 

1回戦目の相手は角野高校か…キャプテンが言うには弱小校って話だが、油断せずにキッチリと勝ちにいかねぇとな。

 

 

 

 

side:角野高校のキャプテン

 

 

「…湘北ってうちと同じ弱小じゃなかったのかよ。」

 

前半が終わった時点でスコアは17ー66と大きく負けていた。

 

「くそっ、高校最後の夏だってのに…。」

 

うちのバスケ部は弱小で毎年1回戦負けの常連だ。

 

けど、そんな俺達でも細やかな目標として1回戦突破を掲げて頑張って来たんだ。

 

なのに…これはないだろう…。

 

チラリと見回すと皆揃って俯いてる。

 

わかってるんだ。もう絶対に勝てないって。

 

俺もそう思ってる。そう思う原因は湘北のCとSFがいるからだ。

 

湘北のCは目に見えてわかる程にデカイ。

 

あんなのとゴール下で争える奴なんて弱小のうちどころか、強豪の海南や翔陽にだっていないかもしれない。

 

でもそれ以上にヤバイのがSF…後輩が言うには去年の中学校神奈川県大会MVPだった三井だ。

 

試合が始まる前はいくら中学の県MVPだった奴でも、まだ1年なんだから大したことないって思ってた。

 

まぁ直ぐにそれが間違いだって思い知らされたけどな。

 

圧倒的に上手かった。正直、大学生だって言われても信じられるぐらい上手い。

 

三井1人だって止められないのにあのCまでいるんじゃどうしようもねぇよ…。

 

もう勝ち目はない。けど棄権はしたくない。そんな思いでベンチから立ち上がった俺達は驚きの光景に目を見開く。

 

なんと湘北の後半のメンバーに三井とあのCの姿がなかったんだ。

 

悔しいという思い以上に助かったって思いが強い。

 

なんせ前半はまともに試合が出来た気がしなかったんだから。

 

もう目標達成は無理そうだけど、なんとか思い出作りは出来そうだぜ。

 

 

 

 

side:高頭力

 

 

「安西先生は三井と赤木を下げたか。代わりに木暮と…どこかで見た覚えがあるな、誰だったか?」

 

扇子で扇ぎながら首を傾げる。

 

「去年の武石中のメンバーだった奴ですね。たしか倉石です。」

「なるほど、道理で見覚えがあるはずだ。」

 

去年の中学神奈川県大会の決勝で彼を見ていたのか。

 

牧と三井の印象が強すぎてすっかり忘れていた。

 

牧の言葉で思い出してスッキリしたところで、しばし湘北の後半戦を倉石を中心に観戦していく。

 

ふむ、シュートはお世辞にも上手いとは言えんがいい選手だ。

 

安西先生の指導でもう少しシュート能力が改善出来れば、2年後には県内でも屈指のGに成長するかもしれん。

 

現時点でも木暮同様にスーパーサブとしてなら十分に使えそうだ。

 

そこまで考えると一度コートから目を切り湘北ベンチに目を向ける。

 

(赤木は現時点でも優秀なCだがまだ未熟。決勝リーグまで湘北が勝ち上がってきても、うちの兼田なら十分に渡り合える。問題は三井だな。)

 

前半で見た三井のパフォーマンスを思い出しながら考える。

 

(三井は内でも外でも点が取れるスコアラー、チームのリズムを作り出すパサーに、相手ディフェンス陣を切り崩すドリブラーも出来るオールラウンドな選手だが…彼の本質はピュアシューターだ。俺なら三井のポジションはSGにするが…。)

 

チラリと湘北ベンチに座る安西先生に目を向ける。

 

(湘北のチーム事情を考えるとエースとしてSFに置くのがベター…といったところですか安西先生?)

 

扇子をパチンと閉じると顎に当てる。

 

(ふむ、決勝リーグの組み合わせ次第では牧を三井とマッチアップさせるのも悪くはないが…それも湘北が勝ち上がってきたらの話だな。)

 

湘北と角野の試合は後半の半分を過ぎても前半でついた点差は縮まっていない。

 

勝負あったな。

 

俺が席を立つと海南の皆も席を立つ。

 

「よしお前ら、ぼちぼち汗をかいておけ。相手がどこだろうと油断するなよ。」

「「「はい!」」」

 

皆がアップに向かったのに満足して頷くと、俺は振り向いて安西先生を見る。

 

「では決勝リーグで会えるのを楽しみにしていますよ、安西先生。」

 

そう言葉を残して歩き出すと、不意にバッタリと田岡先輩に遭遇してしまったのだった。




◆兼田(かねだ):拙作オリジナルキャラ。海南の3年生で正センターの男。
 
 1年の冬には海南のベンチメンバーに選ばれており、2年時の夏にはスタメンとして全国大会も経験している選手。
 
 高頭の好みなのかパワー型ではなくテクニック型のCとしてプレイスタイルを確立しており、現在では県内ナンバーワンCの呼び声が高い男である。


これで本日の投稿は終わりです。

また来週お会いしましょう。


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第16話『弱小からの脱皮』

本日は3話投稿します。

本日投稿1話目です。


side:木暮公延

 

 

1回戦を大勝した俺達は2回戦、3回戦と順調に勝ち上がっていって、予選トーナメントの決勝戦まで駒を進めた。

 

正直に言って今回は凄く運に恵まれていたと思う。

 

1回戦目の角野を始めとして弱小や中堅には届かないぐらいの高校とばかり当たったんだからな。

 

それでも角野とかと同じく弱小って呼ばれてた湘北が、予選トーナメントの決勝戦まで勝ち上がったのには価値があると思う。

 

何故ならチームの皆の意識が変わってきたと感じているからだ。

 

以前まではどこか本気になりきれていない雰囲気をしたメンバーもそれなりにいた。

 

それこそ内申書の為に部活を続けているってハッキリと言った奴だっていたんだ。

 

でもそういう奴等のほとんどは春の県大会以降に練習が厳しくなるとバスケ部を辞めていった。1年なんて残ったのは俺と赤木に三井、そして倉石の4人だけだ。

 

でも残った人達は今ではバスケに本気になってきている。

 

ベンチで出場の機会に飢え、チームの勝利に心から喜ぶんだ。

 

「木暮、アップだ。行くぞ。」

 

そんなチームの状態が嬉しいのか、赤木の声もどこか弾んでいる様に聞こえる。

 

「あぁ、すぐ行くよ。」

 

さぁ、行こう。そして勝ってこの楽しい時間を少しでも長く続けるんだ。

 

 

 

 

side:赤木美和

 

 

予選トーナメント決勝戦の武里との試合が始まった。

 

武里には突出した選手はいないけど、1つ1つのプレーが丁寧でミスが少ない。

 

対して湘北は三井君を除けばそれなりにミスが目立つ。

 

うちも最近では部全体の意識が変わって練習をしっかりとする様になったけど、そうなってからまだ1ヵ月程度しか経ってないし、こういった差が出ちゃうのは仕方ないんだろうなぁ。

 

それでも試合は互角に渡り合ってるわ。三井君と剛憲のおかげでね。

 

剛憲がゴール下を制しているからチームで多少のミスがあっても大きくは崩れないし、三井君がそれらのミスを帳消しにする程にスコアを稼いでいるわ。

 

互角の状況が続いていた試合が動いたのは前半の半ば。武里が三井君を止めようとダブルチームをつけると、安西先生がタイムアウトを取って木暮君を投入したの。

 

すると木暮君にもロングシュートがあるから武里はマークをつけないといけない。

 

それで中が人数有利になると石渡さんに土橋さん、そして剛憲が大暴れ。

 

前半18点のリードで折り返すと、後半からは武里の選手達のミスが目立ち始める。

 

武里の監督が落ち着けって声を出すけど武里のミスは減らず、むしろ点差はジワジワと広がっていったわ。

 

そしてそのまま試合終了。89ー55でうちの勝ち!これで決勝リーグ進出よ!

 

さぁ海南に翔陽、待ってなさい。

 

あんた達を倒して全国に行ってやるんだから!

 

 

 

 

side:田岡茂一

 

 

「ふぅ…なんとか勝てたか。」

 

予選トーナメントの決勝戦、三浦台との試合は78ー76とワンゴール差で勝利を掴む事が出来たが、課題が目につく試合だった。

 

先ずは魚住のファウルトラブルだ。魚住は前半だけで4ファウルをしてしまい、後半残り5分までベンチに下げざるをえなかった。

 

あれが無ければもう少し余裕を持った試合運びが出来ただろう。

 

次に池上。ディフェンス能力には問題ないが、オフェンスになるとかなりもたついていた。

 

この大会が終わったらある程度のオフェンスパターンを構築させねばなるまい。

 

試合終了の挨拶を終えると教え子達に帰りの準備をさせつつ思考を続ける。

 

(なんとか決勝リーグに勝ち進めたが、勝ち進んだチームの中ではうちが一番下だ。ジャイアントキリングを起こすための起爆剤も無い。…厳しい戦いになるな。)

 

だが、試合前から諦めていては監督失格だ。

 

(うちが戦って一番勝てる可能性が高いのは翔陽だろう。そこで勢いをつけることが出来ればあるいは…。)

 

そこまで考えて私は頭を振る。

 

(いかんな、どうしても希望的な展開に期待をしてしまう。こんなでは高頭の奴にでかい顔をされてしまうな。)

 

気持ちを切り替えるために1つ息を吐く。

 

「決勝リーグまでの僅かな時間でどこまでチームを改善出来るか。せめて苦手意識を持ってしまう様な無様な敗北だけは避けなくてはな。」

 

おっといかん、また弱気な事を。

 

やれやれ、私もまだまだ未熟だな。




次の投稿は9:00の予定です。


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第17話『激突!湘北VS神奈川王者海南』

本日投稿2話目です。


side:三井寿

 

 

決勝リーグの組み合わせが決まった。湘北、海南、陵南、翔陽の4チームだ。

 

決勝リーグ初戦の相手は海南だと安西先生から聞かされチームに動揺が走ったが、俺はむしろやる気に満ちた。

 

神奈川の王者海南を喰うことが出来れば、その勢いのまま勝って全国に行くことも不可能じゃない。

 

正直に言って1年目から全国に行くチャンスが来るとは思ってなかったが、チャンスが来たならしっかりと掴み取らねぇとな。

 

いつもよりも一層怪我に気を付けると同時に気合いを入れて練習に励んでいくと、あっという間に日が過ぎて海南との試合の日がやって来た。

 

試合会場に入ると目に見えてチームの皆の表情が固くなる。

 

まぁ、予選トーナメントとはまた違った雰囲気だからな。皆が緊張しちまうのも無理はねぇか。

 

そんな皆の緊張は海南が姿を見せると更に高まった。

 

…流石は神奈川の王者海南ってところか。

 

まだアップをしてねぇのに身体が熱くなってきやがった。

 

まだか?早く身体を動かしたくてウズウズするぜ。

 

来た。アップの時間だ。

 

そしてアップを始めて1本目のシュートを撃った瞬間、俺は今日調子が良い事に気付いたのだった。

 

 

 

 

side:赤木美和

 

 

うわぁ、三井君と倉石君以外の皆の動きが固い。

 

まぁ仕方ないか。こういうのは例え慣れていても少なからず緊張するものだしね。

 

三井君と倉石君以外は大会の決勝戦の様な大きな舞台の経験は無いし尚更かな。…あれ?剛憲はあまり緊張してないみたい。そういえばさっき安西先生がなにか声を掛けてたっけ。

 

そう思って少し見ていると、安西先生がゆっくりと1人1人に声を掛けていったんだけど、声を掛けられた皆は程よい感じに緊張が解れていったわ。

 

へぇ~、やるじゃん安西先生。流石は日本バスケ界の有名人だね。

 

うん、これで戦う準備は整ったわ。

 

さぁ行くわよ王者海南!うちが弱小って言われてたからって甘く見ないでよね!

 

 

 

 

side:牧紳一

 

 

ようやく三井にリベンジ出来る日がやって来た。

 

しっかり汗をかいて身体を温め終えると試合の時間が待ち遠しく感じる。

 

予選トーナメントも勝つために戦って来たが、今日程に勝利に飢えた試合は無かった。

 

早く…早く始まれ。

 

待ち焦がれた試合の時間が来た。

 

試合前の整列で三井に視線を送る。

 

目が合うと身体の奥底から闘志が沸き上がってくる。

 

挨拶を終えてポジションにつこうとすると、キャプテンの兼田さんが俺の肩に手を置いてきた。

 

「牧、熱くなるのはいいが、マッチアップの相手を間違えるなよ。」

 

その一言を受けて俺は大きく息を吐く。

 

「ふぅ……すみません兼田さん、熱くなり過ぎてました。」

「気にするな。怪物と呼ばれていてもお前はまだ1年なんだ。なにかあったらフォローするのが先輩の役目ってな。」

 

バシッと背中を叩いた兼田さんがセンターサークルに入る。

 

俺は顔を張って気持ちを入れ替えると素早くポジションにつく。

 

ジャンプボール…兼田さんが制した。Gの下村さんがボールを拾うと俺にパスをしてくる。すると…俺のマークには三井がついてきた。

 

一瞬驚くがこれは望む展開。ドリブルで仕掛ける。

 

抜けない。流石は三井。

 

無理に抜くことに拘らずに、カバーに来ていた下村さんにパスを出す。

 

下村さんを経由してゴール下の兼田さんへ。

 

兼田さんがローポストから仕掛ける。…決まった。初得点は俺達海南がものにした。

 

攻守入れ替わって湘北ボール。赤木からボールは湘北PGの土橋さんに…渡らない?三井がPG!?

 

三井とのマッチアップを予定していた下村さんが三井のマークにつく。

 

三井が仕掛けた。下村さんが尻餅をつく。

 

(下村さんがアンクルブレイク!?)

 

中に切り込んだ三井が赤木にパスを送る。

 

赤木はお返しとばかりにローポストから仕掛けたが、兼田さんがブロックを決めた。

 

だが赤木のフォローに走っていた湘北キャプテンの石渡さんがボールを拾うと、きっちりとゴールを決められてあっさりと同点にされる。

 

そして直ぐにディフェンスに戻った三井は、コートの向こう側で俺を待つ。

 

高頭監督に目を向けると、高頭監督は頷いてから立ち上がる。

 

「下村!」

 

そして下村さんの名を呼ぶと、高頭監督は湘北の土橋さんを指差してマッチアップの入れ替えの指示を出した。

 

これで攻守共に三井とマッチアップになった。

 

試合前以上の闘志が身体を駆け巡る。

 

「待たせたな三井。」

「気にするな。待たせた分はプレーで返してくれ。」

「ふっ、今度は抜く…っ!」

 

俺は燃え上がる闘志に突き動かされる様にして二度三井にドリブルで仕掛けるのだった。




◆下村(しもむら):拙作オリジナルキャラ

 海南の2年生で正レギュラーのG。1年時のウインターカップでベンチ入りしている。
 強豪の海南のレギュラーらしくバスケ全般の能力がかなりあるが、特にスタミナが非常に豊富で相手に張り付いてスタミナを削るのが得意な選手である。


次の投稿は11:00の予定です。


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第18話『智将は冷や汗を流す』

本日投稿3話目です。


side:高頭力

 

 

「牧が抜けんか…。」

 

この試合二度目の牧のアタックも三井は防いでみせた。

 

序盤から牧は熱くなっているが、それでもパスの選択肢は忘れていない。

 

どれほど熱くなってもチームの勝利のために動ける男が牧なんだ。

 

三井を抜き去れない牧だが、目敏くパスコースを見付けて下村にパスを出す。

 

下村がマッチアップするのは土橋。

 

このマッチアップは明らかに下村の方が格上だ。

 

下村は余裕を持ってミドルシュートを撃つ。

 

外した。だがしっかりとオフェンスリバウンドを制した兼田がそのままゴールを決める。

 

これで4ー2とリード。

 

三井がボールを運び牧とマッチアップ。

 

ディフェンスでは牧を防いだが果たして…。

 

…っ!?3Pシュート!?

 

それも3Pラインから離れたディープスリー!?

 

それがスウィッシュで決まると思わず立ち上がってしまった。

 

「…ふぅ、これは予想以上の3Pシュート能力だな。」

 

頭を冷やす様に扇子で扇ぎながら座る。

 

牧は何度か三井を抜き去るがその成功率は決して高くない。

 

それに対して牧は三井のクロスオーバーを一度も止める事が出来ない。

 

その光景には唸らざるを得ない。

 

「確かに三井は予想以上の選手…だが、チームの勝利には問題ない。」

 

エースの存在は確かにチームの活性剤となるが、それもエースについていけるだけの地力があるチームに限る。

 

だから如何に三井が奮闘しようともうちの勝ちは揺るがん。

 

まだ得点の均衡は保たれているが、試合が進むに連れて点差は広がっていくだろう。

 

事前のプランの1つとして三井にダブルチームをつける案もあったが、今しばらくは牧に経験を積ませるとするか。

 

目先の勝利だけでなく先を見据えて選手を育てるのも監督の役目だ。

 

腰を据えて試合を見守っていくと牧と三井の勝負は続いていく。

 

その内容はどれだけ身内贔屓をしようとも明らかに三井が上だ。

 

だというのに牧の奴はなんとも楽しそうにプレイをしていく。

 

やれやれ…可愛げのない教え子だ。

 

そんな2人の勝負とは別に、試合が進むに連れて両チームの点差は徐々に広がっていく。

 

もちろん海南が優勢の形でだ。

 

前半が終わった時には11点差でうちが勝っていたが…

 

(思ったよりも点差が広がらなかったな。)

 

理由は2つ、三井の3Pシュートと赤木のベビーフックだ。

 

驚くことに三井の前半の3Pシュート成功率は40%を超えていた。

 

牧が怪物だとするなら三井は天才シューターと言ったところか。

 

美しささえ感じさせる三井のあのシュートフォームは、バスケの教本に載せたいぐらいだ。

 

そして赤木のベビーフックは兼田でもそう簡単には防げない代物だ。

 

もし兼田がリバウンドを制する事が出来ていなければもっと苦戦していただろう。

 

まぁ、それはそれとしてだ。後半は牧をベンチに下げる。

 

試合開始直後から全開で三井とやりあっていたからな。このまま使い続けたら如何に牧でもスタミナが持たん。

 

ベンチに牧を下げた代わりに控えの北川を投入する。

 

北川は牧ほどの突破力は無いが丁寧な仕事をするPGだ。

 

チームのオフェンス力は多少下がるが大きな問題はあるまい。

 

さて、マッチアップも変更しなくてはな。

 

ディフェンス時には下村に三井に張り付くよう指示を出す。

 

これは三井を止めるよりも、三井のスタミナを奪う事が目的だ。

 

如何に三井が才能溢れる選手でもまだ1年。牧とあれほどハイペースでやりあって、後半もパフォーマンスを維持し続けられるほどのスタミナは無いだろう。

 

三井のスタミナが切れれば湘北の得点能力は激減する。

 

三井のスタミナが切れた時には一気に点差が広がるだろう。

 

ふむ、安西先生が木暮と倉石を投入し、PGを三井から土橋に変えてきたがこれは想定内。

 

選手達に試合前のミーティング通りにマッチアップをさせる。

 

後半が始まって5分が過ぎたところで三井が肩で息をする様になった。

 

そう遠くない内に三井のパフォーマンスは下がるだろう。

 

そう思っていたのだが三井のパフォーマンスが下がらない。

 

いや、足が止まってきているので正確にはパフォーマンスは下がっているのだが、シュート能力は下がらないどころかむしろ上がっている気がする。

 

倉石が下村にスクリーンを掛けてフリーになった三井は、土橋からパスを受け取ると躊躇なく3Pシュートを撃つ。

 

…これで後半3本連続で3Pシュート成功か。

 

また同じ様な場面が来る。

 

まさかと思ったが三井は4本連続で3Pシュートを決めてみせた。

 

思わず立ち上がって声を上げる。

 

「下村!三井をフリーにするな!しっかりとマークに付け!」

 

その直後、また三井にボールが渡ると下村はシュートフェイクに引っ掛かかって跳んでしまい、冷静に一歩下がった三井にまた3Pシュートを決められてしまう。

 

「なにをやっとるかぁ!…あっ。」

 

気が付けば扇子を折ってしまっていた。

 

いかんな。優勢の状況から相手チームに追い上げられると、どうしても熱くなってしまう。

 

俺の悪い癖だ。

 

落ち着く為に大きく息を吐く。

 

まだ点差は5点ある。だが勢いは湘北…。

 

「牧、身体は冷えてないな?」

「はい!」

「よし、次試合が止まったら行くぞ。」

 

北川も悪い選手ではないがここは牧の突破力が必要な場面だ。

 

息が上がっている三井では牧を止められんだろう。

 

ボールがコートを出て試合が止まったので牧を投入する。

 

そして折ってしまった扇子を胸ポケットにしまうと、腰を下ろして試合展開を見守る。

 

安西先生は倉石を牧のマークにつけてきた。

 

流石に安西先生も今の三井では厳しいと見たか。

 

牧が仕掛けた。倉石を抜き去る。そのまま切り込んでいきレイアップを決める。

 

よし!

 

会場の空気が変わったのを感じて拳を握り締める。

 

残り8分で7点差…決して安心出来る点差ではないが、3Pシュートを2本決められても逆転されないこの絶妙な点差が欲しかった。

 

牧、よくぞ決めた!

 

下村が三井に張り付き続ける。土橋はフリーになった木暮にパス。

 

木暮が3Pシュートを撃つ…外れろ!

 

よし!リバウンド争いだ!兼田、取れ!

 

ぬっ!?ここに来て赤木が取るだと!?

 

赤木が押し込んで点差は5点に戻る。

 

今の三井は3Pシュートを撃てば確実に決める様な雰囲気を持っている。

 

危険だ。直ぐに点差を広げろ!

 

牧が仕掛ける。倉石をぬ…けない!?だがパスコースが開いた。兼田にボールが渡る。

 

兼田がシュート…っ!?ここで赤木がブロック!?

 

赤木にブロックされてボールが転々と転がる。

 

そのボールを拾った土橋が既に走っていた三井にパス。

 

だが三井に追い付いた下村がファールをしてでも止める勢いで跳び…いかん!

 

三井は小憎らしい程に冷静にシュートフェイクを1つ入れると、バスケットカウントを貰いながら3Pシュートを決めてみせた。

 

俺は直ぐにタイムアウトを取る。

 

今の湘北には凄まじい勢いがあるが、それ以上にうちのメンバーが熱くなり過ぎてプレーが雑になっている。

 

一度頭を冷やさなければならない。俺自身もな。

 

「落ち着け。5分残っている。まだ慌てる様な時間じゃないぞ。」

 

…うむ、いい顔になった。

 

「警戒すべきは三井の3Pシュートだ。パスコースが開かない様に注意しろ。」

「「「はい!」」」

「いいか、1つ1つのプレーを丁寧に、相手のペースに付き合うな。そうすれば勝てる相手だ。」

「「「はい!」」」

「よし、行ってこい!」

 

教え子達を送り出すとドカッと椅子に腰を下ろす。

 

試合が再開した。

 

三井の神憑り的な3Pシュートの精度は非常に危険だが、その三井にボールが渡らなければ意味は無い。

 

牧は土橋からの三井へのパスコースを潰すように動く。

 

すると土橋は木暮にパスを出したがそれは悪手だ。

 

木暮が3Pシュートを撃つが外れて兼田がリバウンドを制すると、俺は安堵の息を吐く。

 

そうだ、3Pシュートはそう簡単に決まらない…いや、この場合は三井が異常なのか。

 

まさかこれほどのクラッチシューターだったとはな。わかっていたつもりだが、まだまだ過小評価していたか。

 

倉石が兼田にスティールをしに来ていたが、兼田は冷静にハンズアップをして倉石のスティールを避ける。そしてそのまま牧にパスを出す。

 

そして牧が速攻を決めて点差を3点に広げると俺は大きく息を吐いた。

 

「ふぅ…冷や汗をかいたが、これで一息つけるな。」

 

その後、教え子達が三井にボールが渡らぬ様に細心の注意をしながら試合を進めると、両チームの地力の差が出て点差は前半の様に徐々に広がっていく。

 

三井は懸命に足を動かしてボールを貰おうとするが、残念ながらその足では下村を振り切れんよ。

 

かといって最初から三井にボールを持たせても、今の三井ではボールを運べるだけの体力は残っていない。

 

最早勝負あったが、教え子達に最後まで手を緩めぬ様に檄を飛ばす。

 

そして試合終了の笛が鳴った。

 

97ー83と結果だけを見たら順調な勝利にも見えるが、その内容は文字通りに冷や汗ものだった。

 

試合が終わった後の教え子達の湘北の選手を見る目も、弱小相手ではなく好敵手に向けるものになっている。

 

ふふっ、長らく神奈川の王者として受けて立つ立場だった故にどこか大人しくなってしまっていたが、どうやら貪欲に勝利を求める気持ちを取り戻したようだな。

 

「安西先生、感謝しますよ。この1勝はとても価値のあるものになりました。おかげで全国が楽しみです。」

 

決勝リーグ1位通過を確信した俺は上機嫌に会場を後にする。

 

「…帰りに新しい扇子を買わんとな。」




◆北川(きたがわ):拙作オリジナルキャラ。
 
 海南の2年生で控えPG。
 堅実なプレーが持ち味でパスワークに長ける。しかし牧ほどの突破力が無いため、現在はレギュラー奪取の為に別のポジションへのコンバートを検討中。
 ウインターカップではレギュラー奪取なるか?


これで本日の投稿は終わりです。

また来週お会いしましょう。


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幕間2『応援』

本日は3話投稿します。

本日投稿1話目です。


side:堀田徳男(ほった のりお)

 

 

湘北高校に進学すると小学校時代のダチだった三っちゃんと再会した。

 

三っちゃんはあの頃から運動神経抜群で皆のヒーローだった。けど、そんな三っちゃんが湘北に入って直ぐに怪我をして病院に入院した。

 

俺はいても立ってもいられずに入院した三っちゃんの見舞いに行ったが、どの面下げて会えばいいのかわからなかった。

 

俺は小学生時代から声楽をやってたんだが、中学生になった頃に声変わりすると、自分の音がわからなくなって挫折。そして不良になっちまった。

 

それからは同じ中学の怪我とかで挫折した高嶋(たかしま)、徳田(とくだ)、西本(にしもと)達とつるんでやってきた。

 

不良になった俺達だが一生懸命に部活とかをやっている連中に迷惑を掛けた事はない。挫折しちまったけど、かつては俺達も本気でやっていたことだからだ。

 

「もしかして徳男か?そんなとこで何してんだ?」

 

三っちゃんがいる病室の前で入室を戸惑い続けていると、三っちゃんから声を掛けられた。

 

ここまで来ておいて逃げるわけにもいかず、俺は三っちゃんがいる病室に入った。

 

そこからは俺の戸惑いがなんだったのかと言いたくなるほどに話が弾んだ。

 

小学校時代の話に始まり、久し振りに俺の歌を聞きたいと言った三っちゃんのリクエストに応えて歌って看護婦さんに注意されたり、あんなに腹の底から笑ったのは久し振りだった。…まぁ、笑い声がでか過ぎてそれも注意されちまったけどな。

 

それから話が一段落したところで帰ろうと思ったんだが、不意に三っちゃんが…。

 

「なぁ徳男、バスケ部の応援にこねえか?」

 

そう誘って来たんだ。

 

なんでも三っちゃんが言うには、湘北バスケ部は弱小だから応援する奴等が少ないらしく、良く通る俺の声で応援して欲しいそうだ。

 

嬉しかった。俺の声が必要とされたのが。

 

けど俺は変わっちまった俺の声に自信が持てない。

 

だから三っちゃんには応援はともかく、試合を見に行く事を約束した。

 

そして約束通りに試合を見に行った。

 

圧倒された。選手達の熱意に、応援する人達の熱量に。

 

思わず口を開いて声を出そうとしたが直ぐに口を閉じた。

 

半端に挫折した俺が本気の人達と同じ様に応援していいのかと疑問に思ってしまったからだ。

 

そのまま応援出来ぬままに俺は試合を見に行き続けた。

 

そして転機の日が訪れる。

 

湘北と海南の試合の日だ。

 

県内トップと言っても過言じゃない強豪の海南との試合で、三っちゃんは大活躍をし続けた。

 

けどそんな三っちゃんも試合が後半になると、スタミナが切れて足が止まり始めたんだ。

 

素人目に見てもチームとしては海南の方が上。三っちゃんが動けなくなったらもう勝ち目は無いと思った。

 

でも…三っちゃんは諦めなかった。

 

懸命に足を動かして何度もシュートを決めていく。そんな三っちゃんの姿に胸を打たれた。

 

だが会場を包む応援は海南のものばかり。

 

気が付けば俺は席を立ち上がり…。

 

「湘ー北!」

 

腹の底から声を出して湘北を応援した。

 

「湘ー北!」

 

バスケの応援の作法なんてわからない。

 

だからただひたすらに大きな声で、海南の応援の声を消し飛ばす勢いで声を張った。

 

「湘ー北!」

「湘ー北!」

 

俺の応援に高嶋、徳田、西本が続いてくれた。

 

そこからは試合が終わるまで応援をし続けた。

 

その後、試合は湘北が負けてしまったが、俺の中で燻っていた何かを吹っ切る事が出来ていたのだった。

 

 

 

 

side:堀田徳男

 

 

「応援団?」

「はい、バスケ部を応援したいので、応援団を作る許可をください。」

 

海南との試合を応援した翌日、俺達は生徒指導の高安先生の下に足を運んだ。

 

理由は本格的に三っちゃん達を応援するためだ。

 

「却下だ。」

「…何でですか?」

「私立ならともかく、うちではあからさまにどこかを贔屓するわけにはいかん。堀田、お前達はバスケ部以外を応援するつもりはないんだろう?」

 

高安先生の言葉に俺達は項垂れる。

 

また本気になれるものを見付けたのに…。

 

「…他校の生徒と問題を起こすなよ。」

「えっ?」

「お前達がバスケ部の応援に行くのを見逃してやるって言ってるんだ。公休扱いにはせんがな。」

 

高安先生の言葉を理解した俺は頭を下げる。

 

「ありがとうございます!」

「テスト期間中は流石に止めろよ。それと赤点を取ったら容赦なく補習を受けさせるからな。」

「はい!」

 

高安先生は大きなため息を吐くと、手でシッシッと俺達を追い払う仕草をする。

 

「わかったらさっさと出ていけ、俺は早く一服したいんだ。」

「はい!失礼します!」

「おう、他の生徒には言うんじゃねぇぞ。」

 

煙草を咥えながらヒラヒラと手を振る高安先生に、俺達は深々と頭を下げたのだった。




◆堀田徳男(ほった のりお):原作キャラの一人。三井応援隊。

 不良にならなかった三井とどうやって絡めようかと妄想した結果、元友人で挫折からの不良化という設定に落ち着いた。


◆高嶋(たかしま):原作キャラの一人。眼鏡が特徴的なキャラ。

 堀田の仲間の一人。挫折理由は読者の皆さんの心の中に…。


◆徳田(とくだ):原作キャラの一人。屋上で寝てた流川を蹴ったキャラ。

 堀田の仲間の一人。挫折理由は読者の皆さんの心の中に…。


◆西本(にしもと):原作キャラの一人。初登場時に堀田と一緒にいたキャラ。

 堀田の仲間の一人。挫折理由は読者の皆さんの心の中に…。


次の投稿は9:00の予定です。


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第19話『魚住と藤間の成長』

本日投稿2話目です。


side:魚住純

 

 

決勝リーグの第1戦目は翔陽との試合になった。

 

試合当日、会場に入ると翔陽が強豪である事を実感する。

 

会場の2階にいるベンチ入り出来なかった翔陽バスケ部のメンバーの数が段違いだったんだ。

 

ただこれはある意味では仕方ない面がある。

 

というのも陵南の練習はとにかく厳しいんだ。

 

だから中途半端な気持ちで陵南バスケ部に入った奴等は次々と辞めていってしまう。

 

走って、走って、とにかく走りまくる。…思い出すだけでも吐きそうだ。

 

試合前のアップが終わるとミーティングを思い出す。

 

俺への指示はそう多くない。

 

シンプルに言えばゴール下で戦う。これだけだ。

 

不器用な俺には他に出来る事は無い。

 

…赤木が使っていたコンパクトなフォームのフックシュートを練習中だが、まだ試合の緊張感の中で安定して使えないからな。

 

そんなコンパクトなフォームのフックシュート…田岡監督が言うにはベビーフックなんだが、試合での使い途はある。

 

それは…ブラフで使うことだ。

 

ハイポストからのベビーフックを見せておいて、本命のローポストからアタックをする。

 

予選ではこれで安定してスコアを稼ぐことが出来た。

 

だが予選トーナメントの決勝戦でやった三浦台との試合では、相手チームのダーティなプレーに熱くなり過ぎてファールトラブルを起こしてしまった。

 

これについては田岡監督に大いに叱られてしまったが、俺なりに収穫もあったんだ。

 

それは…ファールの判定の線引きだ。

 

俺は不器用な男だ。どれだけ気をつけていてもファールをしてしまう。

 

だがしっかりとファールになるプレーの線引きが出来れば、なんとかやれないこともない。

 

その事は決勝リーグが始まるまでの練習で確認する事が出来た。

 

赤木…見ているか?

 

俺はまだお前に届かんだろう。

 

だが、最低限チームの勝利に貢献出来る選手にはなったつもりだ。

 

その事をこの翔陽との試合で証明してみせる。

 

 

 

 

side:藤真健司

 

 

海南と湘北の試合を見て以来、今一つ集中しきれていない自分がいる。

 

理由はわかっている。

 

ライバルだと思っていた牧の目には俺が映っていない事がわかってしまったからだ。

 

そんな集中しきれていない中で陵南との試合が始まってしまった。

 

スタメンで試合に出てPGを任された俺だが、試合序盤からイージーミスを連発してしまった。

 

前半10分が過ぎようとしたところで俺はベンチに下げられてしまう。

 

それも当然だろう。

 

あんな出来では強豪の翔陽じゃなくても交代させられて当たり前だ。

 

試合が進んで前半が終わった時には陵南にリードされていた。

 

全て俺のせいだ。

 

あまりの不甲斐なさに拳を握り締めながら俯いていていたが、ふと顔を上げると会場にいた牧と目が合う。

 

その瞬間、腹の奥底から闘志が沸き上がってくる。

 

闘志に突き動かされる様に三淵監督の所に向かう。

 

「監督。」

「ふむ、どうやらもう大丈夫そうじゃな。」

 

皺が深く刻まれた顔をくしゃくしゃにして監督が微笑む。

 

「はい!」

「うむ、それじゃ後半頼んだぞ。」

「はい!」

 

後半が始まると俺は鬱憤を晴らす様にコートを駆け回った。

 

試合終了間際に陵南に追いついたがあと一歩が届かず、ギリギリで勝利をものにする事が出来なかった。

 

試合終了の挨拶が終わると俺は先輩達に頭を下げる。

 

「すみませんでした!」

「気にするな。お前の目が覚めたんなら、まだ挽回出来る。そうだろ、みんな?」

「「「おう!」」」

 

キャプテンの言葉に皆が応える。

 

こんなに頼もしい仲間達がいたのに、俺はなにを一人で不貞腐れていたんだ…!

 

「うむ、今日は負けてしまったが収穫のある負けじゃ。しっかりと次に繋げる様にの。」

 

牧…今の俺には確かにお前や三井と渡り合える実力は無い。それは認める。

 

だが翔陽は決して海南にも負けていない。

 

その事をお前との試合で証明してみせるぜ。




◆三淵元康(みぶち もとやす):拙作オリジナルキャラ。翔陽の監督。

 過去に翔陽を4年連続インターハイに出場させた名将。

 かなり高齢の人物で既に監督退任を願い出ているが、三淵の実績による生徒の誘致や経営陣による後任者の選抜争いといった諸々の理由で慰留されている状況である。


次の投稿は11:00の予定です。


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第20話『期待通りにはさせない』

本日投稿3話目です。


side:三井寿

 

 

くそっ、海南との試合に負けちまった。

 

今回の負けは牧との勝負に熱くなり過ぎて、ペース配分を考えなかった俺の責任だ。

 

次はミスしねぇ。

 

そう思った海南との試合の翌日、赤木があの負けは自分の責任だって言い出した。海南の兼田とのリバウンド争いでもっと勝てていればってな。

 

たしかにリバウンド次第でシュートチャンスは増えたり減ったりするが、赤木は最初から最後まで自分に出来る全力を尽くした。

 

だから責任を負う必要はない。

 

そう言おうとしたら試合に出たメンバー全員が自分の責任だと言い始めた。

 

悪いと思ったんだがなんか可笑しくて笑っちまった。

 

皆が本気で負けを悔しがっている。皆が本気で勝とうとしている。

 

当たり前の様だが難しいことなんだ。本気になるのは。

 

みんな熱いじゃねぇか…俺も燃えてきたぜ!

 

見せてやろうじゃねぇか。弱小って呼ばれてた俺達湘北が全国に行って暴れる姿をな!

 

 

 

 

side:赤木美和

 

 

決勝リーグ2試合目は陵南とだったんだけど、私達湘北が終始優勢に試合を進めていったわ。

 

格上の海南と善戦をした事が皆の自信になったのもあるけど、それ以上にあの負けで皆が本当の意味でバスケに本気になった事が大きいと思う。

 

安西先生が指導する様になって練習の雰囲気は変わってたけど、今では強豪校かと思う程にチームに熱気があるわ。

 

さて、陵南との試合はうちが勝って1勝1敗の戦績。他は海南が2勝0敗、陵南が1勝1敗、翔陽が0勝2敗になってるわ。

 

次の翔陽戦に勝って陵南が海南に負ければ私達が全国に行けるけど、私達が負けちゃったらどうなるかわからないのよねぇ。

 

だから翔陽との試合には絶対に勝たなきゃいけないわ。

 

それにしても、弱小って呼ばれてた湘北でいきなり全国に行けるチャンスが来たのはなんというか…凄いわね。

 

正直に言ってもっと時間が掛かると思ってたわ。いくら三井君が凄くても1人じゃ勝てないしね。

 

翔陽か…。

 

過去に4年連続でインターハイに出場した事もある強豪校だけあって、選手層の厚みが凄いのよねぇ。

 

なんせPGの藤真君以外、ベンチメンバー含めて全員が180cm以上の選手なんだもん。

 

そりゃそんだけ恵体な選手を集めれば強いわよ…って言いたくなっちゃうよねぇ。

 

でも、それだけで勝てるほど今の湘北は弱くないわ。

 

さぁ覚悟しなさい翔陽。うちを弱小だなんて甘く見てたら痛い目にあうからね。

 

 

 

 

side:赤木剛憲

 

 

今日の翔陽との試合に勝てば全国に行ける。

 

そう考えたら身体が震えた。

 

両手で顔を張る。何度も張る。

 

それでも身体の震えは止まらない。

 

(落ち着け、赤木剛憲…ここで力を発揮出来なければ、なんのために練習をしてきたんだ!)

 

バチッ!バチッ!と音を立てて顔を張るが震えが止まらない。

 

「赤木君。」

「っ!?は、はい!」

 

不意に安西先生に声を掛けられた俺は、驚きながらも返事をしながら安西先生に向き直る。

 

「会場に目を向けてごらん。」

「会場に?」

「えぇ、多くの人が今日の試合を見に来ているのがわかるでしょう?」

 

安西先生に促されて目を向けると、確かに多くの人がいた。

 

「今日の試合を見に来ている人の多くは翔陽の勝利を期待していることでしょう。なにせ翔陽は強豪校です。多くのバスケ部OBが応援に来ても不思議ではありません。」

 

確かに湘北を応援に来ている人は少ない。比率で言えば1:9といったところか。

 

ふと思った。俺達が勝ったらあの人達はどう思うかと。

 

すると俺の中に子供の様な悪戯心が芽生えた。

 

「…安西先生、残念ながらあの人達の期待通りにはなりません。」

「ほっほっほっ、えぇ、その通りです。」

 

安西先生が踵を返す。

 

「海南が順当に全国行きを決めてしまいましたからね。大会を盛り上げるために、私達で波乱を起こしてあげましょう。」

「はい!」

 

気が付けば震えは止まっていた。そして震えが止まった反動かの如く俺の全身を昂揚感が包みこんでいる。

 

安西先生が歩き出すと俺も後に続こうとするが、一歩踏み出したところで立ち止まって振り返る。

 

「…残念ながら、貴方達の期待通りにはならない。」

 

そう言葉を溢して笑みを浮かべると、俺は胸を張って安西先生の後に続いたのだった。




これ本日の投稿は終わりです。

また来週お会いしましょう。


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第21話『布石と強豪の自負』

本日は3話投稿します。

本日投稿1話目です。


side:倉石博也

 

 

翔陽との試合前の整列で、俺はマッチアップ相手の藤真に目を向けながらミーティングの内容を思い出す。

 

今日の試合の前半は俺が藤真のマークにつくようにと安西先生から指示された。

 

これはみっちゃんのスタミナを温存して、後半に勝負を掛ける布石の一手だ。

 

この作戦は俺が前半でどれだけ藤真を抑えられるかに掛かってる。

 

だから前半が終わったらぶっ倒れる覚悟で走らないといけない。

 

整列からの礼が終わるとポジションにつく。

 

ジャンプボール…赤木が制した!

 

石渡さんが拾って土橋さんへパス。

 

藤真が土橋さんのマークにつくけど、土橋さんは無理をせずに近くに来たみっちゃんにパス。

 

みっちゃんがボールを持つと翔陽のGである坂井さんがマークにつく。

 

俺がフォローに行ってみっちゃんからパスを貰うと赤木にパス。

 

そして赤木が押し込んで先制ゴール。

 

幸先良し。けど気を抜かずに直ぐに藤真のマークにつく。

 

藤真が仕掛けてくる。反応出来た。抜かせない。

 

藤真が止まった。ジャンプシュート!?止められる!

 

そう思って跳んだがボールは既に放たれていた。

 

藤真のミドルシュートが決まって同点。振り出しに戻る。

 

…藤真は左利きであることに加えて、シュートのタイミングが独特だ。正直に言ってやりにくい。

 

でも牧やみっちゃんと比べればまだなんとかなる相手だ。

 

次は絶対に止める!

 

 

side:藤真健司

 

 

オフェンスになると湘北の倉石が俺に張りついてくる。

 

三淵監督の読み通りのマッチアップだが、倉石のディフェンスの上手さは予想以上だ。

 

少なくとも俺のドリブル技術じゃ完全に抜き去ることは難しい。

 

けどパスは問題なく出せる。シュートは…ちょっと厳しいな。

 

1回見せただけで2回目にはかなりタイミングをアジャストしてきた。

 

…これはボール運びとパスに徹した方が良さそうだな。

 

先日の陵南戦で牧や三井には及ばないと認めると、俺の中で何かの枷の様な物が外れて視野が広まった感覚があった。

 

それ以来、皆の動きがよく見える。

 

倉石にドリブルで仕掛ける。抜けない。けどパスコースが開いた。

 

パスが通る。Cの阿久井さんと赤木の勝負…ダメか。

 

まだ1年なのに阿久井さんと渡り合えるとは…どうやら赤木はこの決勝リーグで一皮剥けたらしい。

 

となると…河本さんと平泉さんをメインにするか。

 

ディフェンスに戻りながらそう試合の組み立てを考えていく。

 

土橋さんから三井にパスがいく。

 

むっ…やはり三井の足がある内は完全にパスコースを塞ぐのは難しいか。

 

チラリと三井に目を向けながらそう考えると違和感を感じる。

 

…ん?三井の動きがどこかおかしい。

 

調子が悪いのか?坂井さんが3Pシュートを警戒して距離を詰め気味なのに抜きにいかない。

 

倉石がフォローに行くと三井はパスを出す。そして倉石から赤木へ渡ると赤木が勝負に。そしてゴールが決まると三淵監督がタイムアウトを取った。

 

まだ前半始まって5分も経ってないのにタイムアウトを取るのか?いったい何が?

 

皆が集合すると三淵監督が口を開く。

 

「どうやら湘北は前半、三井を温存するつもりのようだ。」

 

その言葉を聞いた全員が湘北ベンチに目を向ける。

 

「監督、オフェンスでは三井のところから仕掛けますか?」

 

キャプテンの阿久井さんの言葉に三淵監督は首を横に振る。

 

「奇をてらわずに基本に忠実…それが翔陽のバスケじゃ。より得点の確率の高いところで勝負。三井が大人しくしてくれている内に着実に得点を重ねていけばよし。」

 

たしかに三井のところから勝負をすると得点の確率は低くなるだろう。

 

けど三井のスタミナを温存させて大丈夫なのか?

 

「湘北の強みが三井ならば、うちはチームそのものが強みよ。地力の差を活かしプレーの1つ1つを丁寧に。それだけで十分に優位に立てる。」

 

三淵監督がニヤリと笑う。

 

「湘北が全国に行くのはまだ早い。翔陽が強豪と呼ばれる所以…それを教えてあげなさい。」

「「「はい!」」」

 

タイムアウトが終わってコートに戻ると、俺達は湘北の選手達を見据える。

 

俺達は翔陽だ。バスケで県内有数の強豪校に数えられる翔陽だ。

 

その事をお前達に教えてやるぜ。




◆阿久井(あくい):拙作オリジナルキャラ。翔陽の3年生でポジションはC

 海南の兼田に比べれば実力は1枚落ちるが全国経験がある実力者。
 兼田と阿久井は関係は原作で例えると赤木と魚住みたいな感じである。


◆坂井(さかい):拙作オリジナルキャラ。翔陽の3年生でポジションはG。

 翔陽のGで所謂ディフェンスキャラだが、強豪らしく全体的にまとまった技術を持つ。


◆河本(かわもと):拙作オリジナルキャラ。翔陽の3年生でポジションはPF。

 身長は高いが線が細くあまりリバウンド争いは得意ではない。しかし強豪の翔陽でスタメンを勝ち取るぐらいには高い技術を持っている。
 

◆平泉(ひらいずみ):拙作オリジナルキャラ。翔陽の2年生でポジションはF。

 坊主頭でスポーツメガネを掛けた選手。フックシュートが得意。


次の投稿は9:00の予定です。


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第22話『二人の名将』

本日投稿2話目です。


side:安西光義

 

 

流石は三淵さん、気付くのが早い。そして実に強かだ。

 

タイムアウトを取り三井君温存の認識を共有させたが、その上で選手達にいつも通りにプレーをさせている。

 

心の準備をさせながらいつも通りのプレーをする…言葉にすれば簡単だが、それをやるのは実に難しい。

 

メンタルスポーツと言われる程にスポーツの多くは、選手の精神状態によってプレーの質が大きく変わる。

 

バスケを例に上げればタイムアウトのタイミング1つで選手のモチベーションが変わり、プレーの質が上下する事もあるくらいだ。

 

三淵さんのタイムアウトのタイミングも見事だが、翔陽の選手達も良く鍛えられている。試合の途中で三井君が全力を出してペースを変えても動揺は少ないだろう。…いいチームだ。

 

だがこれは試合前からある程度予想出来ていたことだ。問題はない。

 

予想外だったのは藤真君のパサーとしての素質が開花しつつあることだ。

 

倉石君も良く藤真君を抑えているが、私の想定以上に点差が広がるペースが早い。

 

前半一杯は三井君のスタミナを温存する予定だったが、予定を変更せざるをえないだろう。

 

…引っ張れても前半終了5分前といったところか。

 

三井君のスタミナが最後まで持つかギリギリだが、それ以上引っ張れば追い付けなくなるだろう。

 

それに状況次第では三井君にゴーサインを出すのは更に早くなる。

 

しっかりとタイミングを見極めなくては。

 

 

 

 

side:三淵元康

 

 

安西が勝負師の顔になっておる。どうやら過去を乗り越えられたようだな。

 

それでいい。儂達の様な人間は生涯バスケから離れられんのだ。

 

老いて後進に席を譲るにしても、退き際を見誤ってはいかんぞ。

 

まぁ、色々なしがらみで退くに退けない時もあるがな。儂の様に。

 

そう考えた儂は選手達に気付かれぬ様に小さくため息を吐く。

 

老いたこの身体は大分ガタが来ておる。

 

直談判しても後任が決まらなかったので医者の診断書を提出したが…それでも後任は一向に決まる気配が無い。

 

家内も先に旅立っておるので儂はいつぶっ倒れても構わんが、残される教え子達が不憫でならん。

 

故に今少し踏ん張ってはいるが…後1年持つかどうかといったとこだな。

 

自分の身体だ。儂が一番よくわかっておる。

 

コートで躍動する教え子達を見て目を細める。

 

「うむ、基本に忠実。実に良い。」

 

どんなスーパープレーもその根底にはしっかりとした基礎と基本があって成り立つもの。

 

基礎と基本を疎かにしたものは決して大成せぬ。

 

教え子達から湘北の選手達に目を移す。

 

「うむ、まだ雑なところはあるが、それは裏返せばまだ伸び代があることの証。実に先が楽しみな教え子達だな、安西。」

 

湘北ベンチに目を向けると安西と目が合う。

 

「ふっ、相変わらず目敏い奴だ。」

 

互いに笑みを交わすとコートに目を戻す。

 

前半も残すところ5分になろうとしている。

 

すると…。

 

「ほう?ここで動くか。いや、良く我慢したと称賛すべきところだな。」

 

ボールが外に出て試合が止まると安西がタイムアウトを取った。

 

「仕掛けるのにギリギリなタイミング…勝負の鬼、白髪鬼は健在なようだ。だが…。」

 

儂はベンチに戻ってくる教え子達に目を向け微笑む。

 

「そう楽には勝たせてやらんぞ、安西。翔陽が強豪と呼ばれる所以を、しっかりと教えてやるわ。」




次の投稿は11:00の予定です。


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第23話『智将の湘北対翔陽戦観戦』

本日投稿3話目です。


side:高頭力

 

 

「動いたか。」

 

前半残り5分30秒のところで安西先生がタイムアウトを取った。

 

おそらくここから安西先生は点取り合戦を挑むだろう。

 

シューターの木暮を投入し、スタミナを温存させていた三井に全力を出させる。

 

対する翔陽…三淵監督は時間を一杯に使ってじっくりと丁寧に攻めさせる指示を出すだろう。

 

あの人の好みは徹底した基礎と基本で受けて立つバスケだ。逆に俺や安西先生の様に勝負所で積極的に動くのを好まんからな。

 

三淵監督が好む受けて立つバスケは、相手のミスを咎めるバスケと言い替えることも出来る。

 

スポーツにはミスが付き物だ。だからこそ昨今では確率が重視される傾向が強くなって来ている。もっとも日本ではまだまだ軽視されがちだがな。

 

それはともかく、翔陽のバスケは相手のミスを咎め、味方のミスをフォローするので非常に安定感がある。だが、その反面として弱点もあるのだ。

 

それは…能動的に試合の流れを作るのが難しいということだ。

 

例えばうちなら牧や兼田、湘北なら三井といった具合にエースと呼べる選手のワンプレーで試合の流れを変えることが出来る。

 

これはミスを怖れずにアグレッシブにプレーするからこそ出来るのだ。

 

対してミスをしないように慎重にプレーをしていると、ワンプレーで試合の流れを変えることは非常に難しい。

 

だからこそ試合のどこかでミスを許容し、選手にアグレッシブにプレーをさせる必要があるんだ。

 

このミスを許容するタイミングや余裕を見極めるのが、監督として最も大事なことの1つだというのが俺の持論だ。

 

出来る事を当たり前にこなすのも確かに大事だ。だがチャレンジによる成功体験無くして選手の大成は望めない。

 

チームの勝利を取るか、選手の育成を取るか、監督という指導者の永遠の課題だ。

 

この課題には監督を続けている内はずっと悩み続けるだろう。…だからこそ面白いんだがな。

 

さて、点差は14点差で翔陽がリード。翔陽は延長戦を見据えて試合を進められるのに対し、湘北は三井をつかえる内に勝負を決めなきゃならん。

 

湘北は必然的に時間に追われる厳しい戦いを強いられるだろう。

 

そして時間に追われミスが目立つ様になればそこで試合が決まってしまう。

 

この両チームの立場の差は強豪と呼ばれている翔陽と、昨年まで弱小と呼ばれていた湘北との地力の差でもある。

 

タイムアウトが終わり両チームがコートに出て来た。

 

予想通りに湘北は木暮を投入してきたか。代わりに倉石を下げている。やはり安西先生は点取り合戦を挑むつもりだ。

 

この試合の鍵を握るのは三井だけではない。赤木も鍵を握る1人だ。

 

翔陽に全力の三井を止められる選手はいないが、三井とて100%シュートを決められるわけじゃない。

 

故にそのフォローを…リバウンド争いを赤木がどこまで制する事が出来るのかが問題だ。

 

まだ1年の赤木にチームを背負わせる…果たして俺が安西先生と同じ立場だったら決断出来たか?

 

下手をしたら赤木を潰しかねない。そう簡単には決断出来なかっただろう。

 

いや、三井という絶対的な選手がいるからこその博打か。

 

そう考えた俺は扇子で扇ぎながら小さく息を吐く。

 

「おい、ちゃんとビデオを撮ってるか?」

「はい。」

 

複数のビデオカメラを用いてそれぞれ別の湘北選手を追わせている。

 

湘北の中心選手である三井と赤木はまだ1年。更に木暮と倉石もまだ1年なんだ。彼等の伸び代を考えれば可能な限り情報を集めて対策をせんといかん。

 

「うちと翔陽の二強時代は終わり三強の時代が来るか。いや、陵南も来る可能性もある。となると四強が争う戦国時代に突入というわけだ。」

 

パタパタと扇子で扇ぎながら口角をつり上げる。

 

「望むところだ。いつまでも山王を全国王者にさせているのもつまらんからな。競い高め合ってこそ全国制覇が見えてくる。ふふ…面白くなってきたじゃないか。」




これで本日の投稿は終わりです。

また来週お会いしましょう。


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第24話『弱小と強豪の差』

本日は3話投稿します。

次の投稿は9:00の予定です。


side:三井寿

 

 

タイムアウトが終わって試合が再開すると、俺は安西先生の指示通りに全力を出す。

 

土橋さんからパスを貰い、翔陽のGの坂井さんを抜き去りミドルレンジでジャンプシュート。スウィッシュで決まる。

 

ディフェンス。ベンチに下がった倉石に代わって俺が藤真のマークにつく。

 

ドリブル、抜かせない。藤真がパスを出す。インターセプト。

 

転がったボールを拾うとそのまま速攻。フリーで3Pを撃つ。決まった。これで9点差。

 

ボールを持った藤真がじっくりと時間を掛ける。っ!?シュート!?

 

指先に触れた。外れる。

 

「赤木!」

「おう!」

 

赤木がリバウンドを取る。っ!?囲まれた!フォローが早い!

 

ボールを奪われて押し込まれる。11点差。

 

土橋さんがボールを運び俺にパス。クロスオーバーで坂井さんを抜くと、逆サイドの木暮にパスを出す。

 

木暮がフリーで3Pシュート…よしっ!これで8点差。

 

また藤真がじっくりと時間を掛ける。

 

「三井!」

 

石渡さんの声。河本さんがスクリーンを掛けに来てる!?

 

抜かれた。スイッチして石渡さんが藤真につくが、藤真は翔陽のCの阿久井さんにパスを通す。

 

赤木と阿久井さんの勝負。…これで10点差。

 

土橋さんからパスを貰う。フェイクを1つ入れてストレートに抜き赤木にパス。赤木がベビーフックを決めて8点差。

 

翔陽の攻撃。藤真はまた時間を掛ける。時計が進む。

 

藤真が仕掛けて来た。抜かせない。藤真がシュート…っ!?フェイク!?

 

咄嗟に出した手にボールが触れたが、ボールを拾ったのは翔陽の河本さんだった。

 

河本さんが石渡さんを抜いてミドルレンジでシュートを撃つ。

 

外れた。リバウンド…今度は阿久井さんが制して押し込まれる。10点差。

 

10点差と8点差を行き来して時間が過ぎ前半残り10秒。10点差の状態で土橋さんから俺にパスが来る。

 

ボールを持った俺は頭の中でカウントダウンし、残り5秒のところで仕掛ける。

 

坂井さんを抜くと中を通って逆サイドへ抜ける。そして3Pラインの外に出たところで3Pシュート。前半終了のブザーが鳴る。

 

3Pシュートが決まって7点差で折り返し。2桁と1桁で前半を終えるのは大きな差だ。

 

これで後半にも弾みがつくだろ。

 

 

 

 

side:赤木美和

 

 

後半が始まった。

 

点差は7点差。前半の勢いのまま追い付けるかと思ったけど、流石は強豪の翔陽だけあって粘り強かった。

 

後半が始まって5分経ったけど点差は変わらず、互いに得点を積み重ねていっている。

 

三井君が坂井さんを抜く。前半の終盤から何度も見た光景。三井君はミドルレンジからジャンプシュートを撃ってキッチリと決める。

 

5点差になったけど翔陽は慌てずに30秒を目一杯使ってじっくりと攻めてくる。そして得点。また7点差。

 

遠い。とても遠い7点差。

 

後半残り10分のところで三井君が3Pシュートを決めた。これで4点差。直ぐに翔陽に取られ返されたけど6点差で差が少し縮まった。

 

三井君から木暮君にパスが出る。フリーで木暮君が3Pシュート…外れた!剛憲!…オフェンスリバウンドを取られてボールは翔陽に。冷静に決められて点差は8点差に。

 

この時間帯にミスを咎められるのは痛い。でも皆はまだ諦めていない。

 

…三井君の雰囲気が変わった?

 

そこからの三井君のプレーは圧巻だった。

 

バスケットカウントを貰って3点プレーを決めたり、連続で3Pシュートを決めたりしていったの。

 

残り5分のところで3点差まで詰め寄ったけど、その代償として三井君は完全に息が上がってしまっていた。

 

それでも三井君は懸命に走ってボールを受け取ると3Pシュートを決めてみせた。これで同点。追い付いた。

 

息が上がった三井君に代わって石渡さんと交代した倉石君が藤真君のマークについたんだけど、藤真君が阿久井さんにパスを通すと、剛憲が阿久井さんのフェイクに引っ掛かってファウルをしてしまいバスケットカウントを取られてしまったの。

 

その後、阿久井さんにキッチリとフリースローも決められて3点差。

 

残り2分30秒。皆が懸命に走って繋ぐと三井君にボールが渡った。そして三井君が3Pシュートを決めてまた同点に追い付いたの。

 

けど湘北の反撃はここまで。

 

試合も終盤で皆に疲れが見える場面。更に大きくプレッシャーが掛かる場面だからか、湘北メンバーのプレーにいつも以上にミスが増え始めたの。

 

それを翔陽に丁寧に咎められると徐々に点差が広がっていき、試合が終わった時には点差は10点にまで広がっていたわ。

 

そしてこの10点差が響いて私達は得失点差で全国出場を逃してしまったの。

 

こうして私達のインターハイ予選は終わりを迎えたわ。

 

閉会式では三井君がMVP、得点王、ベスト5と数多くの賞を授賞した。これは1年生ではありえないぐらいの快挙ね。

 

でも閉会式が終わっての帰り道。三井君は湘北メンバーの誰よりも悔しそうな表情をしていたのだった。




次の投稿は9:00の予定です。


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第25話『託された想い』

本日投稿2話目です。


side:三井寿

 

 

夏の大会が終わって迎えた今日は3年生が引退する日だ。

 

高校バスケではウインターカップまで3年生が出場出来る大会があるが、去年まで弱小だった湘北では残る3年生はいない。

 

皆受験勉強をする為に引退するそうだ。

 

「三井、赤木、木暮、倉石、ありがとな。去年まで1回戦、勝てても2回戦が精一杯だったうちが決勝リーグまで勝ち上がれたのはお前達のおかげだ。心残りが無いわけじゃないが、自信を持って受験勉強に励めるぜ。」

 

安西先生だけじゃなく先輩達を全国に連れて行けなかったのが本当に悔やまれる。どうしても入部初日の怪我が無ければって思っちまうぜ。

 

「長瀬、猪狩、毒島、長谷、練習がきつくなってもバスケ部に残ってるって事はバスケに本気になったんだろ?だったら頭を下げてでも三井達と練習をしろよ。お前達もわかっただろ?湘北バスケ部が全国に行くのも夢じゃないってな。」

「キャプテン…」

「元キャプテンだぜ、長瀬キャプテン。」

「小堺と上島は無理するなよ。大学進学は立派なことだ。部に残ってくれてるだけでありがたいんだからな。」

 

石渡さんが新たなキャプテンとして任命したのが2年生の長瀬さんだ。

 

長瀬さんのポジションはPG。160cm台と小柄な身体だが、いいアジリティを持った選手だ。高身長の選手に対抗出来るシュートを身に付ければ化けるだろう。…レイアップが得意みたいだからプロレイアップを教えてみるか。それとドリブルにパスもだな。

 

石渡さんに続いて土橋さんの話も終わると、3年生壮行の紅白戦が行われた。

 

ある種のお祭りみたいな雰囲気だったこともあって、俺は色々とやってみた。

 

プロレイアップに普段はあまりやらないフェイダウェイ。更にダブルクラッチやハーフライン近くからの3Pシュートといった具合にだ。

 

そんな俺に触発されたのか、赤木もベビーフックを覚えてからはあまりやらなくなっていたダンクをやって皆を盛り上げた。

 

木暮はドリブルで相手を抜こうとクロスオーバーをやって失敗したり、倉石がプロレイアップをやって失敗したりして皆の笑いを誘った。

 

そんな楽しい紅白戦も終わりの時間がやって来た。

 

「…お前達!ウインターカップは応援に行くからな!」

「今度こそ全国に行けよ!」

 

こうして石渡さんに土橋さん、そして数人の3年生達が湘北バスケ部を引退していった。俺達に熱い想いを託して…。

 

 

 

 

side:三井寿

 

 

3年生達が引退した翌日、通常の練習が終わると2年生達も居残り練習に参加してきた。

 

新キャプテンの長瀬さん、副キャプテンの猪狩さん、そして毒島さんと長谷さんの4人だ。

 

「はは、結局バスケ部のほとんどが居残り練習か。」

「そりゃそうだろ。全国に行ける可能性があるなら居残り練習ぐらいするさ。まぁ、今更参加するのは現金かもしんねぇけどさ。」

「小堺と上島も来ればよかったのになぁ。」

「あいつらは東京の6大学狙いだからな。流石に勉強時間も確保しないといけないだろ。」

 

長瀬さんと猪狩さんが笑いながらそう話している。

 

「さてと…三井、俺達にも色々と教えてくれ。頼む。」

 

長瀬さんの言葉を合図にしたかの様に2年生全員が俺に頭を下げた。

 

「ちょ、やめてくださいキャプテン。そんなことして貰わなくても、俺に教えられることなら教えますから。」

 

美和に一応メモを頼むと先輩達に教えるべき技術を考える。

 

「そうっすね…キャプテンはプロレイアップシュートを覚えてみましょう。」

「プロレイアップ?」

「昨日の紅白戦で俺がやった高く放るレイアップです。あれで背の高い連中の正面からシュートを決めたら楽しくないですか?」

「…いいなそれ!最高!」

 

「後は空いた時間にドリブルとパスも見ますんで、バテない様にペース配分をお願いします。」

「オーケー、わかった。」

 

次に俺は副キャプテンの猪狩さんに目を向ける。

 

「猪狩さんはCなんで、赤木と同じくベビーフックはどうですか?」

「俺は赤木ほど背が高くないが大丈夫なのか?」

「左手の使い方次第で十分得点を狙えますよ。物に出来たら赤木相手でもローポスト、ハイポスト問わずにゴールを奪えます。そのぐらいフック系はブロックが難しいんです。」

「よし、採用!」

 

「後は赤木とリバウンド争いの練習をお願いします。これは赤木の練習にもなるんで、なるべくみっちりと。」

「あぁ、赤木、手加減しないからな。まぁ、俺が胸を借りることになりそうだが。」

「いえ、そんなことありません。ぜひ、よろしくお願いします。」

 

続けて毒島さんと長谷さんに目を向ける。

 

「毒島さんはGなんで先ずは倉石からディフェンスを教えて貰ってください。キャプテンと同じで、空いた時間にドリブルとかを見ますから。」

「わかった。頼むぜ、倉石。」

「任せてください。」

 

「長谷さんはロングシュートが得意でしたよね?」

「得意といっても三井どころか木暮よりも入らないぞ。」

「それはこれから伸ばしていけばいいんですよ。木暮、お前の練習の仕方を長谷さんに教えてくれ。」

「あぁ、わかった。」

 

一通り先輩達の居残り練習の内容が決まると長瀬さんが手を叩く。

 

「うしっ、始めるか。目指すは全国出場!」

「いえ、キャプテン、全国制覇です。」

 

赤木がそう訂正すると2年生達が笑う。

 

「お前達となら本当に出来そうだと思っちまうんだから不思議だぜ。うしっ、改めて目標は全国制覇だ!」

「長瀬、しまんねぇぞ~。」

「うっせ、茶化すな猪狩!」

 

こうして俺達湘北バスケ部は新たなスタートを切った。

 

去年まで弱小って呼ばれていたとは思えない程にいい雰囲気だ。

 

…俺達の目標は全国制覇。

 

必ず達成してみせるぜ!




◆長瀬:拙作オリジナルキャラ。ポジションはPG。

 160cm台と小柄ながら中々のアジリティがある選手。
 新キャプテンに任命されたことで責任感が芽生えつつある。
 趣味のサーフィンの影響でかなりボディバランスに優れてる。


◆猪狩:拙作オリジナルキャラ。ポジションはC。

 181cmとスラダン世界のCとしては小柄だがポストプレイが上手い。
 三井や安西の指導の元、テクニック型のCとして成長中。
 控えのCとして頼もしい存在となるか?


◆毒島:拙作オリジナルキャラ。ポジションはG。

 現段階では倉石よりもシュートが上手いが総合的には下。
 倉石と切磋琢磨して成長中。


◆長谷:拙作オリジナルキャラ。ポジションはSG。

 現段階では木暮よりも確率は低いが3Pシューターである。
 木暮と切磋琢磨して成長中。


◆小堺:拙作オリジナルキャラ。ポジションはF。

 原作の福田の様なオフェンス特化タイプの選手。ただし弱小時の湘北バスケ部の練習の影響でそれほどオフェンス技術が高いわけではない。
 東京の某大学の医学部進学を目指している。


◆上島:拙作オリジナルキャラ。ポジションはPF。

 技術の拙さを運動量でカバーする花道タイプの選手。
 ただし花道ほどジャンプ力があるわけではなく、平面でのプレーが中心である。


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幕間3『神奈川予選後の牧と藤真』

本日投稿3話目です。


side:牧紳一

 

 

インターハイ神奈川予選が終わった。全国に駒を進めたのはうちと翔陽。結果だけを見れば強豪のうちと翔陽が全国に出場した形で順当だが、湘北も陵南も侮れないチームだ。

 

先ずは湘北。三井が引っ張り、赤木が支えて湘北は成長していくだろう。

 

2年後…いや、1年後にはうちと同様に全国でも上を狙えるチームになるかもしれない。いや、必ずなる。

 

そう考えると腹の底から闘争心が沸き上がってくる。

 

そして陵南だが…キーマンになる選手が足りない。後1人でいい。魚住が孤立せずにいられる存在感を持った選手が出てくれば、陵南は全国を狙えるチームになる。

 

贅沢を言えば俺や三井とやりあえる選手だが…そこは田岡監督が考える事だ。高頭監督とライバルらしいから、このままやられっぱなしではいないだろう。

 

さて、予選が終わったからといって気を抜くわけにはいかん。まだ全国が残っているからな。

 

それに高頭監督は全国への弾みをつけるために、合宿ではサプライズを用意しているそうだ。

 

閉会式の後に安西先生と話していたことが関係あるとすると…ふっ、楽しみになってきたぜ。

 

まぁそれはともかくだ。今日はオフだから湘南の波に乗りに行くとするか。

 

 

 

 

side:藤真健司

 

 

決勝リーグの全ての試合が終わった結果、翔陽はギリギリで全国出場を果たした。

 

湘北との得失点差は僅かで、何かが違っていたら全国を逃していたかもしれない。

 

そう考えると閉会式が終わった今でも冷や汗が流れる。

 

閉会式が終わった翌日のミーティングでは、三淵監督のインターハイ予選決勝リーグの各チームの評価を聞くことが出来た。

 

三淵監督が言うには陵南はチームの形は出来つつあるが、もう一押しが足りないそうだ。

 

確かに陵南との試合には俺のせいで負けてしまったが、陵南には海南や湘北には感じた怖さを感じなかった。

 

おそらくその怖さは牧や三井といったエース格の選手の存在が関係しているんだろう。

 

そう考えると確かに陵南にはチームとしてもう一押しが足りないな。

 

次に三淵監督から見た海南だが正に盤石だそうだ。

 

神奈川ナンバーワンセンターの兼田さんを始め、チーム全体が強豪校を体現するかの如く…と語っていた。

 

けれど牧のカットインを基点としたバスケは、三淵監督の好みじゃないらしい。

 

じゃあ逆に好みのバスケはと問うと、俺がやったパスで繋ぐバスケとのこと。

 

あれは俺の技術じゃ相手を抜けないからやったことなんだけどな。

 

そんなことを三淵監督に言うと…。

 

「選手個人の器量に任せるバスケも否定はせんよ。けど儂の好みは凡人でも出来るバスケよ。出来ることを確実にやる。これはバスケに限らず大事なことじゃぞ。」

 

出来ることを確実にやる。うん、確かにそれが出来たからこそ湘北との試合に勝つことが出来た実感がある。

 

対して湘北は試合の終盤に疲れやプレッシャーから、出来ていた筈のことが出来ずミスを繰り返していた。

 

そんな湘北の選手の中でも誰よりも疲れていた筈の三井には、ミスらしいミスは無かった。

 

それだけを見ても三井は凄い選手だ。

 

さて最後に湘北に対する三淵監督の評価だが…三淵監督曰く、変革者だそうだ。

 

「近年、あれほどロングシュートを多用するチームは珍しい。というのも3Pシュートは確率の低いシュートだからだ。確率の低いプレーをしていれば当然ミスが増え、やがて自滅してしまう。」

 

「だというのに湘北は全国まで後一歩のところまで来てみせた。…これがどれほど恐ろしいことか分かるか?これまでのバスケの常識や概念を覆してしまう程にありえないことなんじゃ。故に変革者よ。」

 

この話を聞いた後に湘北との試合のスコアシートを見てみると、驚くことに三井の3Pシュート成功率は40%を超えて50%に迫っていた。

 

おそらくインターハイ予選を通じて見てもそう大差はないだろう。

 

…正に三井はバスケの常識や概念を変えかねない異質なシューターだ。

 

待てよ?三淵監督は三井個人ではなく湘北を変革者だって…。

 

そこまで考えると鳥肌が立った。

 

そうだ。そんな確率の低いバスケなら、普通は監督が指導するなり修正するなりする筈だ。

 

つまり今の湘北のバスケを安西先生も認めているんだ。

 

気が付けば身体が震えていた。

 

この震えが恐れからなのか武者震いなのかはわからない。

 

わかることは唯一つ。無性に身体を動かしたくなったことだけだ。

 

柔軟を終えた俺は走り出す。ただひたすらに走り続ける。

 

この走り続けたその先に、牧や三井の背中が見えてくると信じて。




これで本日の投稿は終わりです。

また来週お会いしましょう。


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第26話『進路はアメリカ』

本日は3話投稿します。

本日投稿1話目です。


side:赤木美和

 

 

居残り練習のメンバーも増えて部の雰囲気が良くなった今日この頃。私こと赤木美和は危機感を感じております。

 

何故か?それは…三井君との仲が一向に進展しないからよ!

 

三井君は弱小だった湘北バスケ部をインターハイ予選の決勝リーグまで導いた上に、全国出場まで後一歩まで迫った超有能な男子なの。

 

オマケに顔も頭も良しとなればそりゃモテる。うん、凄いモテるわ。なんせ親衛隊が出来そうな勢いだもん。

 

これはマネージャーをしてるからってウカウカしてられないわ!

 

というわけで赤木家で作戦会議をしている最中なんだけど…。

 

「ちょっと剛憲、もっと真剣に考えてよ。」

「何事かと思えばそんなことか。自分で何とかしろ。」

 

居残り練習で私と三井君が書いたノートを見ながら、剛憲は至極面倒そうに言葉を返してくる。

 

「晴子ちゃん、剛憲がひどいよ~。」

「あはは…まだ夏の大会が終わったばかりだから。」

 

そうなのよねぇ。まだ全国出場を逃したばかりで悔しさ一杯の状態なのよねぇ。

 

でも…。

 

「だからこそここでしっかりとフォロー出来れば、三井君に対して点数が稼げると思わない?」

「バカタレが。」

 

ノートから顔を上げた剛憲は頭を抱えながらため息を吐く。

 

失礼しちゃうわ。

 

 

 

 

side:赤木美和

 

 

夏休みに入って直ぐのこと、私達1年生の湘北バスケ部メンバーは、夏休みの間バスケの練習に集中するために、皆で赤木家に集まって夏休み中の課題に取り組んでいた。

 

とはいっても皆勉強が出来るメンバーだから大して苦労は無いかな。

 

だから適当に喋りながら課題を進めていく。

 

「そうだ三井、お前は大学に進学するのか?」

「あぁ、アメリカの大学に進学する。」

「アメリカの?」

「NBAのドラフトを狙うんだよ。」

 

その言葉に私も含めた皆が驚く。

 

「そ、そうか、確かに三井なら…。」

「NBAはそんな甘くねぇよ。今のままじゃドラフトに掠りもしねぇさ。だからもっと練習をしねぇとな。」

 

そっか…三井君はプロバスケットボーラーになるのを、夢じゃなくて目標として考えているんだ。

 

あれ?もしかして…。

 

「ねぇ三井君、インサイドよりもミドルやロングシュートが多いのは、NBAを意識してるの?」

「あぁ、そうだな。」

 

NBAは剛憲でも小さい扱いをされるフィジカルモンスターの巣窟。180cmぐらいの三井君だと、インサイドの勝負は厳しいものがあるもんね。…そういえば三井君、少し背が伸びた?

 

それはともかく、今から後々の為にプレイスタイルを考えているのは流石だわ。

 

三井君達がバスケの話で盛り上がっている横で私は考える。

 

三井君はアメリカの大学に行く。そしてNBAのドラフトを目指す。大学に合格してドラフトに掛かったら?もちろんNBA選手になる。そして私はNBAが大好き。

 

…うん、もう考える余地が無いぐらい三井君は私の理想の男性そのものだわ。

 

そう思ったら同じ部屋で課題をやってるだけなのに顔が熱くなってきたんだけど。

 

「ん?どうした美和?暑いのか?」

「うぇっ!?」

 

ギャー!変な声出たー!

 

「だ、大丈夫!大丈夫だよ三井君!でもちょっと冷たい飲み物貰ってくるね!」

「おう、無理すんなよ。」

 

私が立ち上がると三井君以外、つまり剛憲に木暮君と倉石君が生暖かい目で見てくる。

 

もうっ!わかってるんなら援護してよ!

 

勝手知った台所に緊急避難した私は、冷蔵庫の中でキンキンに冷えた麦茶を取り出してコップに注ぐ。

 

「何かの本で惚れた方の負けって見たけど、本当にその通りね。」

 

そう言葉を溢すとグイッと麦茶を飲み干す。

 

「よしっ!負けたまんまじゃ終われない!この気持ちを成就させる!三井君の彼女になってみせる!」

「うん、頑張ってね、美和お従姉ちゃん。」

 

晴子ちゃんがいることに気付かず気勢を上げた私だけど、晴子ちゃんの応援に応えてサムズアップをした。

 

よしっ!三井君の彼女になって、三井君と同じアメリカの大学に行くぞー!




次の投稿は9:00の予定です。


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第27話『歩き出す安西』

本日投稿2話目です。


side:安西光義

 

 

「谷沢…お前を超える逸材が現れたぞ。」

 

谷沢の墓前にて三井君の事を話していく。

 

入部初日に大怪我をしても折れなかったこと、チームを引っ張っていく中心的存在になっていること、そして1年生にしてインターハイ予選でMVPを始めとした幾つものタイトルを取ったこと。

 

「正直に言ってまだお前のことを吹っ切れたわけじゃないが…私もそろそろ前に進もうと思う。見ていてくれ、谷沢。」

 

しばし黙祷を捧げてから目を開ける。

 

「じゃあ、行こうか。」

「はい。」

 

私に合わせて谷沢に黙祷を捧げてくれた家内に声を掛けて歩き出す。

 

「貴方、少しいいですか?」

「なんだ?」

「この前の健康診断の結果のことです。」

 

…あぁ、そういえば医者に色々と言われたな。

 

「端的に言えば痩せろ…ということだったな?」

「えぇ、食事は私に任せていただいて構いませんが、運動に関しては貴方自身が努力をしなければいけません。」

「あぁ、わかっている。」

 

私の言葉を聞いて家内がクスクスと上品に笑う。

 

「では帰りに色々と買い物に行かなくてはいけませんね。大学で監督をしていた時の物はもう着れませんし。」

「…すまないな。」

「いいえ、最近の貴方はとても楽しそうで、私は嬉しいですよ。」

 

 

 

 

side:三井寿

 

 

夏休みに入ってからの練習初日、驚いたことに安西先生がスポーツウェアやバッシュを身に付けて体育館に来られた。

 

「ほっほっほっ、少しは私も身体を動かそうかと思いまして。」

 

確かに安西先生はふくよか過ぎるところがあるから、少し身体を動かして痩せた方がいいかもしれない。

 

…安西先生に対して大変失礼なことを考えてしまったが、これは歓迎すべきことだな。

 

俺達のアップとは別に安西先生も身体を動かしていく。

 

長らく身体を動かしておられなかったのか、安西先生は少し身体を動かされただけで息が上がっていた。

 

…もし俺が漫画の俺と同じく不良になっていたら、安西先生と似たように直ぐ息が上がっていたんだろうな。

 

そう考えると夏だというのに寒気がする。

 

…やめだやめだ。今は練習に集中だ。

 

練習が進んでいきシュート練習になった時、安西先生が手本としてシュートを撃った。

 

上手い。素直にそう思った。

 

確かに運動不足で直ぐに息が上がってしまうみたいだが、シュート技術に関してはしっかりとした基本が出来ている。

 

流石は安西先生だ。

 

それから通常の練習が終わって挨拶の時に、安西先生が不意に今年の合宿の事について話し出した。

 

「今年の合宿なのですが、場所は海南大付属高校で行います。」

「海南ですか?」

 

キャプテンの長瀬さんが問い掛けると安西先生が頷く。

 

「えぇ、高頭監督から声を掛けられたので快諾しました。陵南高校も来るそうですよ。つまり湘北、海南、陵南の三校での合同合宿ですね。」

 

赤木の相手として兼田さんや魚住がいるのは正直に言ってありがてぇ。

 

俺も牧が相手なら色々と試せそうだしな。

 

「安西先生、翔陽は参加しないんですか?」

「翔陽は三淵監督の伝手で、他県の全国出場校と合同合宿をするそうです。ウインターカップで戦う時には一層手強くなっているでしょうね。」

 

『ほっほっほっ』と笑った安西先生が言葉を続ける。

 

「一つ一つ成長していきましょう。そして海南や翔陽といった強豪を倒し全国へ。」

「「「はい!」」」

 

「もちろん全国に出場することだけが目標ではありません。全国でも勝ち続けて頂へ…弱小と呼ばれていた湘北が全国を制したら、さぞや面白いことになるでしょうね。」

 

その安西先生の言葉を聞いた俺達に武者震いが走る。

 

あぁ…早く練習の続きがしてぇぜ。

 

「では私は一足先に上がらせてもらいますよ。居残り練習では怪我に十分に注意してください。」

「「「はい!」」」

 

こうして俺達の夏は一層熱いものになった。

 

弱小と呼ばれていた俺達が強豪校を倒す下克上…ジャイアントキリングを成す。

 

想像しただけで楽しくなってきやがったぜ。




次の投稿は11:00の予定です。


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第28話『三校合同合宿開始!』

本日投稿3話目です。


side:高頭力

 

 

例年ならば夏の合宿は海南大学のバスケ部と行うのだが、今年は湘北と陵南に声を掛けてみた。

 

目的は牧と兼田を始めとした教え子達のスキルアップと、今後に備えて湘北や陵南の選手達をじっくりと観察することだ。

 

先ず教え子達のスキルアップは、主に湘北の選手達と競わせることで図る。

 

湘北にはオールラウンダーなシューターの三井に兼田と渡り合える赤木だけでなく、3Pシューターの木暮にディフェンスのスペシャリストの倉石もいる。

 

彼等は全員まだ1年生だ。

 

彼等と競うことは同級生だけでなく上級生にも良い刺激になるだろう。

 

そして観察対象は主に湘北の選手達だが、陵南の選手達も当然観察していく予定だ。

 

陵南の魚住は体力技術共にまだ未熟だが、彼の身長の高さを考えれば県内はおろか全国レベルのCに成れるだけのポテンシャルは十分にあるだろう。…本当に成れるかどうかは田岡先輩の指導力次第だな。

 

おっと、噂をすればなんとやらだな。田岡先輩が陵南の選手達を連れてやって来た。

 

俺は田岡先輩の前まで進み握手を交わす。

 

「田岡先輩、今回はよろしくお願いします。」

「あぁ、よろしく頼む。」

 

短く挨拶を済ませた田岡先輩は陵南の選手達にアップを始めさせる。

 

ふむ、ダラダラせずに機敏に動いている。普段から随分と扱いているんだろうな。

 

むっ?安西先生が来られたか。

 

湘北の選手達と共に歩いてくる安西先生の所に向かう。

 

おや?安西先生…少し痩せたか?

 

「安西先生、今回はよろしくお願いします。」

「えぇ、こちらこそよろしくお願いします。」

 

安西先生も手短に挨拶を済ませると選手達にアップをさせていく。

 

ほう…昨年まで弱小と呼ばれていたとは信じられんぐらいに、良い雰囲気でアップをしていくな。うむ、これは確実に手強くなる。

 

楽しくなりそうだ。

 

そう考えながら教え子達の所に戻ると、教え子達を見回しながら話し出す。

 

「お前達、しっかりと汗をかいたか?」

「「「はい!」」」

 

教え子達の返事にニヤリと笑みを浮かべる。

 

「湘北、陵南の選手達から吸収出来るものは可能な限り吸収しろ。そして成長して全国を取りにいく。いいな?」

「「「はい!」」」

 

 

 

 

side:田岡茂一

 

 

高頭の声掛けで始まった今回の三校合同合宿。実に得る物の多い合宿だ。

 

魚住は赤木や兼田と競い、池上は三井や牧の動きを見て学ぶ事で着実に成長していっている。もちろん他の教え子達もだ。

 

更に今回の合宿では他校の選手とチームを組ませて5分ハーフの紅白戦をやらせている。

 

即席のチームで連携することは難しく、バスケでの思考力や判断力を養うことに繋がる。ふふ、冬が楽しみになってきたな。

 

それはそれとして今目の前には俺を楽しませてくれる光景がある。

 

それは…魚住と三井がチームを組んだ光景だ。

 

三井が魚住にパスを出す。それもゴールリングの上にだ。

 

それを魚住がアリウープでダンクを決めると、年甲斐もなくゾクゾクとした高揚を感じてしまった。

 

アリウープを決めた魚住が自分の手を見つめている。

 

今までとは違うバスケの手応えに困惑しているのだろう。

 

だが…。

 

「魚住、それがお前の可能性だ。お前はまだまだ上手くなれる。」

 

手を握り締めた魚住は笑顔でプレーに戻る。

 

それにしても…。

 

「この短時間で魚住の力を引き出すか…。とんでもないバスケセンスの持ち主だな三井は。」

 

魚住の成長は陵南にとって大きい出来事だが、おそらくこれは三井なりの赤木への激励なのだろう。

 

その証拠に『お前もやってみろ』と言わんばかりに三井は赤木を指差しているからな。

 

「やれやれ、指導者として形無しだなこれは。」




これで本日の投稿は終わりです。

また来週お会いしましょう。


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第29話『合同合宿で切磋琢磨』

本日は3話投稿します。

本日投稿1話目です。


side:牧紳一

 

 

「どうだ?」

「まだ差があるな。ディフェンスの上手い奴なら反応してくるぞ。」

 

合宿の合間の自主練習の時間に俺は、三井にクロスオーバーを教えてもらっている。

 

元々駄目もとのつもりだったんだが、三井に頼んでみるとアッサリと教えて貰えた。

 

代わりに俺のトレーニング方法を教える事になったがな。

 

「な、なぁ三井、僕の方はどうかな?」

 

俺と同じ海南の1年の宮益が三井に声を掛ける。

 

宮益はハッキリ言って特になにか優れたところがあるヤツじゃない。

 

そんな宮益は海南のユニフォームを勝ち取る手段として、3Pシューターになる道を選んだ。

 

宮益は最初木暮の所に行ったらしいんだが、その木暮から三井を紹介された形で今に至っている。

 

「宮益はとにかく数をこなしてシュートフォームを固めるのが先だな。木暮と同じ練習方法で確率を上げるのはその後だ。」

 

少し見渡せば多くの連中が自主練で汗を流している。

 

その一角で高砂の奴が赤木や魚住になんとか食らい付こうとしてるな。

 

そんな高砂に兼田さんからの檄が飛んでるぜ。

 

一つ息を吐くともう一度クロスオーバーをやってみる。

 

…ダメだな。ストレートと同じフォームでと意識し過ぎて、クロスオーバーのキレが全く無い。

 

これは一朝一夕には出来そうにないぜ。

 

だがこいつを完璧…とまではいかずとも、ある程度形に出来ないと三井は抜けん。そんな確信がある。

 

俺は宮益にシュートフォームのアドバイスをしている三井に目を向ける。

 

「ふっ、挑みがいのある男だ。」

 

 

 

 

side:高砂一馬(たかさご かずま)

 

 

自主練でゴール下の練習をしているが、同い年の赤木と魚住が止められない。

 

逆に俺の攻めは通じずに止められてしまう。

 

「よし、次はリバウンド争いだ。先ずは赤木と魚住からな。」

 

兼田さんが指揮する形で自主練が続いていくが、正直に言って何とか食らい付いていくのがやっとだ。

 

そう思いながら息を整えていると兼田さんにバシッと背中を叩かれた。

 

「顔を上げろ高砂。見るのも練習だぞ。」

「はい!」

 

兼田さんがミドルレンジからジャンプシュートを撃つと、赤木と魚住の攻防が始まる。

 

1回目のリバウンド争いは赤木が制した。

 

「魚住!一歩目が遅い!」

「はい!」

「よし!次だ!」

 

2回、3回と続くと兼田さんが魚住と交代する。

 

そして兼田さんはまるで手本を示す様に赤木とのリバウンド争いを制してみせた。

 

「Cはチームの大黒柱だ。どんな形でチームを支えるかは選手それぞれだが、基本が出来てなきゃ話にならん。それはわかるな?」

「「「はい!」」」

「よし!だったら練習だ!地味でキツイ練習だが一番必要な練習だからな。気を抜くんじゃないぞ!」

 

ベンチ入りすら出来ていない俺が兼田さん達と練習出来ているのは物凄い幸運だ。

 

この幸運を少しでも物にするために俺は、歯を食い縛ってついていくのだった。

 

 

 

 

side:宮益義範(みやます よしのり)

 

 

僕には牧みたいな身体能力も無ければ高砂みたいな身長も無い…そしてハッキリ言って海南バスケ部の中で僕が一番下手だ。

 

そんな僕がユニフォームを着るにはこのままじゃダメだと思った。何か一つ武器が必要だと。

 

そこで考えたのがロングシュートだ。

 

インターハイ予選で見た湘北の試合、同い年の木暮のバスケを見て衝撃だった。ああいうバスケもあるんだと思った。

 

言っちゃ悪いけど木暮も僕と同じで決して身体能力が高いわけじゃない。でも木暮はちゃんと湘北の戦力になっていた。

 

僕は合宿の自主練の時間になると直ぐに木暮の所に行って質問した。どうすれば僕も3Pシュートが入る様になるのかって。

 

すると木暮は…。

 

「俺は三井に教えてもらったからなぁ。良かったら三井を紹介するけど…どうだ?」

 

僕みたいな下手な奴が三井みたいなエースに教えてもらっていいのかと思った。

 

でも木暮は…。

 

「ダメもとで頼んでみようぜ。折角の合宿なんだからさ。切磋琢磨しないともったいないだろ?」

 

そんな木暮の言葉で僕は三井を紹介してもらった。そして今に至る。

 

「宮益、膝がサボってるぜ。」

「お、おう!」

 

三井の指摘通りにフォームを修正していくとシュートが少しずつ入る様になってきた。

 

そのおかげでシュート練習が凄く楽しい。

 

「よし、前後にずれるのはいいが左右はダメだ。それとフォームを意識してしばらくやっててくれ。」

 

そう言うと三井は牧と1on1を始める。

 

見惚れそうになった僕は顔を叩いて気を入れ直す。

 

「今は無理だけどいつかは…。」

 

僕は宮益義範、海南で一番バスケが下手な男だ。

 

でもいつかは憧れの海南のユニフォームを着たい。

 

そんな夢を胸に僕はシュート練習を続けるのだった。




次の投稿は9:00の予定です。


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第30話『指導者達が見る合同合宿』

本日投稿2話目です。


side:高頭力

 

 

「ふむ、やはり三井はいいな。」

 

合宿での紅白戦を見ながら一人呟く。

 

インターハイの全国大会が控えているものの、その後の国体で神奈川選抜の監督をやる事を考えれば、今から選抜メンバーの事も考えなければいかん。

 

「兼田に牧、それと三井といったところか。後は…赤木と木暮辺りか。」

 

…今の木暮の実力を考えると全国レベルが相手では3Pシュート以外は厳しいだろう。

 

ここは無難に兼田の控えとして赤木を選ぶか。

 

それにしても…。

 

「ここまで噛み合うか、牧と三井は。」

 

牧がドリブルで敵陣を切り崩せば三井がフリーになる。そしてフリーになった味方を見逃す様な牧ではない。

 

牧からパスを受け取った三井が見惚れる様な美しいフォームで3Pシュートを撃つ。そして三井を警戒してディフェンスが広がれば、インサイドと3Pラインの間にポッカリとスペースが出来ると、そこに牧が切り込む…グッドリズム。

 

まるで現代バスケのあるべき形とも言うべきものが、俺の眼前で繰り広げられていた。

 

「やれやれ、欲しくなってきたな。3Pシューターが。」

 

三井程と贅沢は言わん、だが木暮クラスの3Pシューターが欲しい。それが今の俺の偽らざる気持ちだ。

 

そういえば1年の宮益がロングシュートの練習をしていたな。

 

如何に成長の早い若者でも、その努力が実を結ぶのに少なくとも1年は掛かるだろう。

 

うむ、一つ楽しみが出来たな。

 

俺は扇子で自身を扇ぎながら、切磋琢磨をする若者達を見て目を細める。

 

「…見えてきたかもしれんな。絶対王者山王の背中が。」

 

 

 

 

side:安西光義

 

 

やはり三井君に最適なポジションはSGか。牧君との連携を見ているとそう強く実感する。

 

三井君のプレーを見た去年、彼には素晴らしいクラッチシューターとしての才能があると感じた。

 

まさか弱小と呼ばれていた湘北に来るとは思わなかったが…。

 

それはそれとして、今の湘北のチーム事情では彼をSGとして起用するのは難しい。

 

長瀬君のこの夏の成長次第ではあるいはといったところか。

 

私は湘北の教え子達を見て目を細める。

 

三井君を中心として日々成長を続けているあの子達は幾ら見ていても飽きない。

 

「やはりバスケはいい…。」

 

谷沢の一件があったとはいえ、なんともったいない時間を過ごしてしまったことか。

 

だが後悔をしていても始まらない。

 

私に出来る限りの力で、この子達の成長を手助けしていこう。

 

 

 

 

side:倉石博也

 

 

合宿の始めにお世話になるからと、俺は親父が作った和菓子を高頭監督と田岡監督に差し入れした。

 

反応はかなり好評だったから顧客が増えるかもな。

 

それはそれとして、俺が今抱えている課題はシュート能力の向上だ。

 

この課題を克服出来ないとスタメンは難しい。

 

ということで合宿の自主練の時間にみっちゃんに教えてもらいにいこうとしたんだが、牧を始めとして多くの奴等がみっちゃんの所にいた。

 

流石は強豪校。向上心も人一倍ってことか。

 

そんな多くの奴等に加わりたそうにしている奴を見付けた。

 

武石中時代の仲間で海南に進学した梶木(かじき)だ。

 

「よっカジ、何してんだ?」

「なんだクラか。」

「なんだはないだろ。それで、どうしたんだよ?」

「俺もみっちゃんに教えてもらおうかと思ってたんだけどよ…。」

 

「…もしかして、上手くいってないのか?」

「あぁ、強豪校のレベルの高さをまざまざと見せ付けられて、心が折れかけてるよ。正直、今日まで何回も退部しようと思った。でもよ…。」

 

梶木は顔を上げてみっちゃんに目を向ける。

 

「やめらんねぇだろ。あんなに頑張ってるみっちゃんの姿を見たらさ。」

「そうか。」

 

武石中時代、俺達は何度も挫けかけたけど、その度にみっちゃんが皆を引っ張ってくれたんだ。

 

今もそうだ。こうして挫けかけた梶木を立ち直らせている。

 

俺は梶木の肩を叩いた。

 

「じゃあ行こうぜ。みっちゃんのところにさ。」

「…迷惑じゃないか?牧とやってる方がみっちゃんもレベルアップ出来そうだし…。」

「カジは相変わらず変なところで遠慮するな。こういう時は厚かましいぐらいでちょうどいいんだよ。」

「…クラ、お前の性格が羨ましいよ。」

 

梶木と肩を組んでみっちゃんのところに行くと、みっちゃんは笑顔で迎えてくれた。

 

ほら見ろ、遠慮する必要なんかなかっただろ?

 

上手くなりたきゃ遠慮してる暇なんてないんだからな。




次の投稿は11:00の予定です。


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第31話『合同合宿終了』

本日投稿3話目です。


side:三井寿

 

 

他校の奴等と交流し切磋琢磨をしてきたこの合同合宿も今日が最終日だ。

 

最終日の今日は全国に挑む海南の壮行会を兼ねた紅白戦が行われる。午前に2回、午後に1回行う。試合時間は公式戦と同じ20分ハーフとかなりハードな内容だ。

 

午前は湘北と陵南がそれぞれ、午後は湘北と陵南の混合チームが海南と戦う。

 

紅白戦の1試合目が始まった。

 

陵南と海南の選手達がコートを駆け巡る。

 

その中で目を引くのは兼田さんと魚住のマッチアップ。そして海南オフェンス時の牧と池上のマッチアップだ。

 

2つのマッチアップは共に海南側が優勢だが、陵南側の2人も必死に食らい付いている。

 

陵南と海南の紅白戦の結果は海南の勝利だ。

 

1時間後にはうちと海南の紅白戦が始まる。

 

さて、怪我をしないようにしっかりとアップをしないとな。

 

 

 

 

side:牧紳一

 

 

湘北との紅白戦が始まった。

 

俺がマッチアップをするのはもちろん三井だ。

 

ジャンプボールを兼田さんが制してうちの攻撃から。

 

ボールを持った俺に三井が立ちはだかる。

 

この合宿中に三井にクロスオーバーを教えてもらったが、完全に物にすることは出来なかった。

 

だからストレートとクロスオーバーに行く時の差を活かすしかない。

 

目線でフェイクを入れてから重心をクロスオーバーのものに、そこから切り返してストレートに。

 

っ!?読まれたか!ならロールターンで中へ!ちっ!これもダメか!

 

俺は直ぐに意識を切り替えて下村さんにパスを出す。

 

下村さんから兼田さんに繋がり先制点を獲得し攻守交代。

 

俺は三井のマークについて、湘北のPGの長瀬さんのマークには下村さんがつく。

 

長瀬さんのドライブに下村さんが一歩遅れた。長瀬さんから三井にパスが出る。3Pシュートを撃たせない様に距離を詰め気味にディフェンスをする。

 

この距離を詰め気味でのディフェンスは高頭監督の指示だ。

 

高頭監督が言うには三井は当たりが出ると止まらなくなるタイプだから、出来る限り3Pシュートのケアをしろと指示された。

 

だがこう距離を詰め気味にディフェンスをすると三井のドリブルが止められない。

 

三井が仕掛けてくる。くっ!抜かれた!…っ!?アリウープ!?

 

三井は兼田さんの先制点のお返しとばかりに、赤木にアリウープでのダンクをさせた。

 

観戦している連中から歓声が上がる。

 

この一発で流れを持っていかれたのか前半は湘北が5点リードの状態で終わった。

 

だが後半残り10分のところで湘北に出たミスをキッカケに流れがうちに来て追い付く。

 

そして試合が終了するとうちが勝ったんだが、点差は7点とインターハイ予選の決勝リーグの時よりも差が詰まったものとなった。

 

湘北は強くなっている。

 

全国大会でなにも収穫が無いまま戻ってくれば、ウインターカップでは湘北に喰われるかもしれない。

 

そんな危機感が俺達の心を闘争本能で満たしてくれたのだった。

 

 

 

 

side:赤木美和

 

 

合同合宿が終わった。とても収穫の多い合宿だったわね。

 

技術的な成長もそうだけど、紅白戦で強豪の海南とも渡り合えたことで精神的な成長もしたと思う。

 

でも…なんか勝ちきれないのよねぇ…。

 

試合の後半の痺れる場面ではどうしてもミスが増えちゃうわ。これは剛憲もそうで、変わらないのは三井君ぐらい。

 

やっぱり大舞台の経験が少ないからなんだろうなぁ…。

 

これから経験を積んでいくしかないわよね。

 

まぁ、それはそれとして…明日明後日は完全オフ!これは三井君をデートに誘うしかないわ!

 

「ねぇ、三井君、明日明後日はオフよね?」

「うん?あぁ、そうだな。」

 

「それでね、よかったらわた、わた、私と、デ…デー……ど、どこか遊びに行かない?」

「遊びにか…そうだな、たまには遊んでリフレッシュするか。」

 

私は心の中でガッツポーズをする。

 

「赤木、木暮、倉石、お前達はどうだ?」

 

私は心の中で崩れ落ちそうになるけど、気合いで踏ん張って剛憲達に断れと念を送る。

 

「いや、俺達はいい。」

「そうだな。流石にバテたから家でのんびりするよ。」

「俺は修行があるから無理。」

 

よしっ!よくぞ断ってくれた!ありがとう!

 

「しかたねぇな。じゃあ美和、2人で遊びに行くか。」

「うん!行こう!ちょうど夏祭りもあるしめっちゃ楽しんじゃおう!」

 

きたきたきた!ついにきた!三井君との仲が進展する絶好のチャンスが!

 

このチャンス…絶対にものにするんだから!

 

さて、帰ったら晴子ちゃんに明日着ていく服を相談しなくちゃ!




これで本日の投稿は終わりです。

また来週お会いしましょう。


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第32話『一歩前進』

本日は3話投稿します。

本日投稿1話目です。


side:赤木美和

 

 

ついに迎えた運命の日、私は待ち合わせ時間の3時間前からてんやわんやの大騒ぎをしていた。

 

「晴子ちゃん、本当にこの服で大丈夫かな?」

「大丈夫だよ美和お従姉ちゃん!バッチリ決まってるから!」

 

そんな感じで騒いでいると剛憲が欠伸をしながら2階から下りてきた。

 

「お兄ちゃん、美和お従姉ちゃん完璧だよね?」

「うん?大丈夫だろう。それより、待ち合わせ時間は昼じゃなかったのか?まだ3時間はあるぞ。」

「3時間しかないの!この後は美容院行ったりして忙しいんだから!」

「…理解出来ん。」

 

頭を抱えながらため息を吐く剛憲だけど、ため息を吐きたいのはこっちよ。

 

女性の準備は時間が掛かって当たり前でしょうが。

 

「それじゃ行ってくるから。朗報を期待してて。」

「「「行ってらっしゃ~い。」」」

 

晴子ちゃんにおばさん、そしてわざわざ実家から駆け付けてきたお母さんに見送られ、私は意気揚々と美容院に向かったのだった。

 

 

 

 

side:赤木美和

 

 

美容院で髪型とメイクをバッチリ決めた私は1時間前には待ち合わせ場所に向かったんだけど、待っている間の緊張が尋常じゃないほどに凄いわ。

 

(落ち着いて…落ち着くのよ美和…って、落ち着けるわけないでしょーが!)

 

ハッキリ言って中学2年の時の女子バスケ県大会決勝よりも緊張してるわ。

 

あの時は足首の怪我の事もあって開き直ってたからなぁ…。

 

これは無理、絶対に無理!どうあがいても開き直れない!

 

だって当たって砕けられるわけないでしょ!当たって成功したいのよこっちは!

 

うぅ~……今何分前?後30分かぁ……って、三井君もう来た!

 

夏らしい薄着で歩いてくる三井君なんだけど、そんな三井君に暑気でやられたメス犬共が声を掛けていやがるわ。

 

「三井君!こっちこっち!」

 

軽くピョンピョン跳ねながら三井君に手を振る。

 

すると三井君の視線が逸れた瞬間にメス犬共が、舌打ちでもするかの如く顔を歪めたわ。

 

ふふん、三井君は私とデートするの。ごめん遊ばせ。

 

「悪いな美和、待たせたか?」

「ううん、全然待ってないよ!」

 

くぅー!これよこれ!このやり取り!もうどこから見てもカップルでしょ!恋人でしょ!

 

よっしゃあ!今日で決めるわよ!告白……はともかく、名前呼びをして一歩前進よ!

 

その後、私は三井君と軽くお昼を食べてから買い物に行ったりして楽しんでいく。

 

そして日が暮れた頃、私と三井君は夏祭りが行われている場所に向かった。

 

2人でかき氷を食べたり焼きそばを食べたり…なんか食べてばっかりね?

 

まぁ、時間的にお腹が空く頃だし仕方ないか。

 

そして日が完全に落ちて夜になった頃、私は三井君と2人で並んで花火を見上げていた。

 

「綺麗だねぇ。」

「あぁ、そうだな。」

 

チラリと三井君の横顔を見る。

 

剛憲の紹介で会った時と比べて少し身長が伸びたかな?

 

そんなことを考えて気を紛らわしているけど、うるさいぐらいに胸がドキドキしている。

 

「ね、ねぇ、三井君、お願いがあるんだけど。」

「うん?なんだ?」

 

声が詰まる。言葉が出てこない。

 

あぁーもう!こんなの私らしくない!行くのよ、美和!

 

「あ、あのね、な…名前で呼んでも、い…いいかな?」

「なんだそんなことか。別に構わねぇぜ。」

 

……よしっ!よぉし!一歩前進!一歩前進よ美和!

 

「そ、そっか、ありがとう…ひ、寿君。」

「おう、こっちこそいつもありがとな、美和。」

 

晴子ちゃん、おばさん、お母さん…私やったよ!一歩前進したよ!

 

よしっ!この勢いで告白!……はちょっと、まだ心の準備が必要かな~なんて…ね?

 

と、とにかく一歩前進よ!ついに名前呼びが出来たんだから!恋人になるのも時間の問題だわ。

 

おめでとう私!ありがとう私!

 

今日はこの幸せな気持ちのまま、時間一杯まで三井君とのデートを楽しむぞー!




次の投稿は9:00の予定です。


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幕間4『海南と山王のインターハイ決勝戦前夜』

本日投稿2話目です。


side:高頭力

 

 

幾多の激戦を勝ち抜き、我ら海南大付属高校はインターハイの決勝戦まで駒を進める事が出来た。

 

今私は宿泊先の旅館で決勝戦の相手である、高校バスケの王者の山王工業の研究をしている。

 

山王のスタメンは3年生2人に2年生1人、そして1年生が2人なのだが、特に注目すべきは1年生2人…PGの深津とGの河田だ。

 

深津は自身のプレーでチームメイトを鼓舞する牧とはタイプが違うが、1年生にして既にコート上でリーダーシップを発揮しているいいPGだ。

 

こうしてビデオを繰り返し見て研究をしても、1年生らしい荒々しさなどなく冷静沈着そのもの。可愛げのない相手だ。

 

だというのにここぞという場面ではきっちりと仕事をするいやらしい選手でもある。1年後、2年後には山王の歴代の中でもトップクラスのPGになるかもしれない。

 

そして河田だが…非常に表現が難しい選手だ。

 

牧の様に身体能力が突出しているわけでもなく、三井の様な天才肌の選手でもない。

 

強いていうなら相手を良く観察して対応する器用な選手…といったところか。

 

だがその観察力が並外れているのだろう。でなければ1年生にして王者山王のユニフォームを着ることは出来まい。

 

こういうタイプの選手はなによりも経験が重要になる。おそらく堂本監督も気付いているのだろう。河田をスタメンとして出場させているのがその証拠だ。

 

ビデオを止めると要点を書き出したノートを見ながら頭を掻く。

 

「やれやれ、こいつは厳しい戦いになるな。」

 

贔屓目に見ても勝率は2割あれば上出来といったところか。

 

「山王がフルコートプレスを仕掛けてきた時に耐えられたらあるいは…。」

 

そのためには前半、牧に力を抑えさせる必要があるな。

 

下手をしたら前半で勝負が決まってしまいかねないが、ここは博打のしどころだな。ふふ…滾ってきたぞ。

 

 

 

 

side:河田雅史

 

 

「ぶえっくし!」

「風邪か?」

「いや、鼻がムズムズしただけだ。」

「体調には気を付けるべし。」

 

深津との会話もそこそこにビデオに目を向ける。

 

「次はPGの牧だ。海南の攻撃の8割はこの牧のカットインから始まる。」

 

堂本監督の言葉を受けて俺は牧の映像を良く観察する。

 

「速いな。」

「あぁ、しかも空中でぶつかっても崩れない。厄介な奴だ。」

 

キャプテンの小野さんと一つ上の鮎川さんの会話が耳に届くが、俺は気にせず観察を続ける。

 

しばらく映像を見ていくと、湘北とかいう聞いたことがない所との試合の映像が流れ始めた。

 

「牧が抑えられてる?誰だ相手は?」

 

小野さんの言葉を受けて堂本監督が資料を片手に話し出す。

 

「湘北高校の三井寿だ。」

「湘北?知らないですね。」

「去年まで弱小と呼ばれていた高校だからな。知らなくても不思議じゃない。」

 

弱小校に何故このレベルの男が?うちでもユニフォームを着れるぞ。

 

「三井が気になるかもしれないが注目すべきは明日戦う海南の牧だ。この試合の牧は三井にほぼ完璧に抑えられている。参考に出来るところがあるだろう。」

 

顎に手を当て首を傾げながらも観察を続ける。

 

…ストレートとクロスでちと違うな。

 

対して三井って奴のドリブルは違いがわかんね。

 

まぁ、監督の言う通りに明日は海南だ。湘北の三井ってのを気にしても仕方ねぇか。

 

その後、ミーティングが終わると俺は深津と駄弁りながら布団に入る。

 

さて、明日も試合に出れっかな?そのためにもしっかりと寝て体調を整えねぇと。




◆深津一成(ふかつ かずなり):原作キャラの一人。原作では山王の主将にして正PG。

 現段階ではまだ1年のため原作程の強かさは無いが、1年生にして王者山王のユニフォームを勝ち取っている。


◆河田雅史(かわた まさし):原作キャラの一人。原作では全国ナンバーワンセンターと呼び称されたキャラ。

 現段階では原作開始時ほど背が伸びていないのでまだGをしているが、それでも既に山王のユニフォームを勝ち取る才を見せている。
 作者は彼を牧や三井の様に相手が誰でも自分のバスケを貫くのではなく、相手を良く観察して対応していくバスケ巧者として考えている。


◆堂本五郎(どうもと ごろう):原作キャラの一人。山王の監督。

 山王をインターハイ三連覇に導いた名将らしい。
 拙作の湘北が全国に出場した時には高頭と同じく解説枠になるかも。


◆小野(おの):拙作オリジナルキャラ。山王の三年で主将でC。

 全国で3本指に入るCと呼ばれる高校バスケ界の有名人。
 筋トレが趣味で原作の赤木や魚住と同様のパワータイプの選手だが、小技もこなす器用な選手である。


◆鮎川(あゆかわ):拙作オリジナルキャラ。山王の二年でPGとGをこなすコンボガード。

 堂本の意向でPGからGにコンバートしたが、まだ経験不足の深津の調子次第ではPGを務めることもある便利屋な選手。
 山王の時期キャプテン候補。


次の投稿は11:00の予定です。


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第33話『海南vs山王』

本日投稿3話目です。


side:三井寿

 

 

美和と夏祭りを楽しんだ日からしばらく経つと、インターハイ全国大会決勝戦の日がやって来た。

 

今年のインターハイ全国大会の決勝戦に進んだのは海南と高校バスケの王者である山王。

 

これは是が非でも見たいとあって、高校バスケの決勝戦が放送される衛星放送を見れる美和の家に、俺達湘北バスケ部1年は集まった。

 

「美和、後で山王の試合を俺にもダビングしてくれ。」

「りょうか~い。」

 

美和は放送された山王と海南の試合は全て録画しているらしく赤木がダビングを頼んでいたんだが、俺も便乗してダビングを頼むことにした。…後でビデオテープ代を渡さねぇとな。

 

テレビに目を向けるとそこには山王がアップしている映像が流れている。

 

テロップ付きで山王のメンバーが紹介されていくが、王者山王で1年にしてユニフォームを着ている奴等がいて俺達は驚いた。

 

「深津と河田か…。」

「ポジションはPGとGだな。」

 

アップの様子を見ていると深津は牧や藤真とも違うタイプのPGの様に見える。おそらくは土橋さんみたいな基本に忠実でオーソドックスなタイプだが…それだけで1年で山王のユニフォームは着れないだろう。

 

深津は要注目だが、俺は深津以上に河田が気になるな…。

 

 

 

 

side:木暮公延

 

 

インターハイ全国大会の決勝戦が始まった。

 

ジャンプボールを制したのは山王キャプテンの小野さんだ。オフェンスは山王から。ボールが俺達と同じ1年の深津に渡る。深津と牧のマッチアップ。

 

っ!?牧がいきなりスティールを決めた。牧が速攻を掛けて海南が先制。海南に流れが行くか?

 

ボールを貰った深津がゆっくりとボールを運んでいく。

 

…凄いな。全国大会の決勝戦という大舞台で、しかもいきなりスティールを決められたのに慌てている様には見えない。

 

流石は高校バスケの王者山王で、1年にしてユニフォームを着るだけはあるってことか。

 

2回目の深津と牧のマッチアップ。牧が仕掛ける前に山王のGの鮎川さんがフォローに行った。

 

スクリーンを掛けられて動けない牧を深津が悠々と抜き去る。

 

だけど流石は海南。鮎川さんとマッチアップしていたGの下村さんが直ぐに深津にチェックを掛けた。

 

深津がパスを出す。山王キャプテンでCの小野さんはゴール下でボールを受け取ると勝負を掛ける。けど兼田さんがブロック。

 

転がったボールは海南のFの三島さんが拾って牧にパス。牧が速攻を掛けて得点。4ー0で海南がリード。

 

もしかしたらと期待が膨らむ。

 

その後、牧と深津のマッチアップは牧に軍配が上がり続け、前半5分が過ぎたところで山王ベンチが動いた。

 

深津と河田が交代。たしか河田も俺達と同じ1年だよな?

 

海南ボールで試合が再開するが…河田が牧のマークに!?

 

牧が仕掛けて抜き去…れない!?でも半歩前に出ていた牧から兼田さんにパスが通る。兼田さんは合同合宿で身に付けたベビーフックで得点。これで海南と山王の点差は12点に広がった。

 

「どうも河田は牧のドリブルの癖がわかってるみてぇだな。」

 

不意に三井の声が耳に届くと美和さんが話しかける。

 

「たしかストレートとクロスでちょっと違うんだっけ?」

「あぁ、わかる奴が見ればわかる。つまり河田はそのわかる奴だってことだ。」

 

…凄いな。深津の時も思ったけど、河田も1年で山王のユニフォームを着るだけの何かを持った男なんだ。

 

「さっきは牧のスピードに面食らったみてぇだが、もう何回かやって河田が牧のスピードに慣れたら止めるかもしれねぇな。けど牧も自分の癖を見抜かれたことがわかったみてぇだ。…こいつは面白くなりそうだぜ。」

 

試合が進んで前半10分が過ぎた頃、三井の言葉通りに河田が牧を止めると山王の巻き返しが始まった。

 

そして前半が終了すると海南のリードから山王のリードに状況が変わっていた。

 

しかも勢いは断然山王にある…。

 

「このまま山王で決まりか?」

「そいつはどうだろうな?」

 

倉石の言葉に三井が反応すると皆の視線が三井に集まる。

 

「牧のやつ、わざと河田に止められてた。」

「わざと?」

「あぁ、合宿で散々やりあったからな。牧の実力はあんなもんじゃねぇよ。なんか作戦があって前半は抑えてたんだろうな。」

 

テレビに目を向けるとちょうど牧がアップで映されていたが、その顔に何度も止められた苛立ちなどは見られない。

 

「合同合宿で成長したのは俺達だけじゃない。海南もだ。まぁ、見てろよ。少なくとも、王者山王に一泡吹かせてくれるだろうぜ。」




これで本日の投稿は終わりです。

また来週お会いしましょう。


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第34話『海南vs山王決着』

本日は3話投稿します。

本日投稿1話目です。


side:牧紳一

 

 

後半開始と同時に山王はフルコートプレスディフェンスを仕掛けてきた。ハーフタイムで聞いた高頭監督の予想通りにな。

 

俺の役割は前半温存した分動いてこの山王の仕掛けを突破すること。

 

難しいがやれないわけじゃない。

 

俺がボールを持つと河田と鮎川さんがマークにくる。

 

…ならピッタリと張り付かれる前に仕掛ける!

 

クロスと見せ掛けてストレートに。ちょうど河田と鮎川さんの間を突っ切る形で2人を抜き去る。すると前はがら空きだった。

 

そのまま速攻を掛けるが全力ではいかない。わざとスピードを緩めて追い付かせる。

 

目論見通り鮎川さんが俺に追い付きレイアップにいった俺にファールをしたが、俺はしっかりとレイアップを決めて3点プレイを成立させた。

 

会場はざわめいていたが、やがてそのざわめきは歓声へと変わっていく。

 

攻守交代で山王の攻撃。河田がミドルレンジでのジャンプシュートを外すと兼田さんがリバウンドを制した。

 

兼田さんから俺にパスが来ると直ぐに河田と鮎川さんが俺のマークに。

 

今度はまた2人の間を突っ切ると見せ掛けて、ロールターンで河田側の外に抜ける。

 

一歩前に抜け出た俺は腕で河田の動きを制して中に切り込む。そしてレイアップを決める。

 

点差は6点。十分に追い付ける差だ。

 

俺は前半の鬱憤を晴らす様にコートを駆け巡った。

 

だが流石は王者山王。そう簡単には追い付けない。

 

後半10分が過ぎたところで山王がタイムアウトを取った。

 

俺は息を整えながらベンチに戻る。

 

「牧、まだいけるな?」

「はい、いけます。」

 

高頭監督に返事をした俺は水分補給をする。

 

「おそらく山王はフルコートプレスディフェンスを止めるだろう。ここからはがっぷり四つだ。」

 

つまり力勝負…望むところだ。

 

タイムアウトが終わってコートに戻ると、山王メンバーの戦意に溢れた視線が俺達に突き刺さる。

 

「ふっ、上等だ。」

 

試合は残り約10分、全力でぶつからせてもらうぜ!

 

 

 

 

side:河田雅史

 

 

監督の指示で後半開始と同時に俺達はフルコートプレスディフェンスを仕掛けた。

 

俺と鮎川さんで牧を潰しにいくが、牧は張り付かれる前に仕掛けてくる。

 

クロス…っ!?

 

牧の癖を読んでクロス側…牧から見て左側にいた俺は外に一歩動いたんだがそれはフェイクで、牧は僅かに空いた俺と鮎川さんの間を強引に突破していきそのままレイアップを決めた。

 

「…ぶはは。」

 

試合中なのに思わず笑っちまった。

 

ビデオで確認した時からやる奴だって思ってたが、こいつにはまだ上があったんだからな。

 

それから試合は5分、10分って過ぎていったが、海南との点差は広がるどころが縮められちまった。

 

少なくとも俺が山王に入ってからはこんな事は始めてだ。

 

まぁ代わりといっちゃなんだが、牧のスタミナは大分削れたからよしとしとくべ。

 

そっからはシーソーゲームが続いてたが、試合時間残り5分ってところで牧の動きがまた速くなった。

 

よくもまぁそんな動けるもんだ。

 

点差はジワジワと縮められていってラスト20秒…ついに2点差まで詰め寄られた。

 

鮎川さんがボールを持って時間を消費していくが、残り7秒のところで牧にスティールを決められた。

 

それを目にした瞬間に俺は自陣に走る。すると3Pラインの辺りで速攻を掛けていた牧に追い付けた。

 

牧がレイアップに行くのに合わせて俺も跳ぶ。

 

(しかし幾ら牧が疲れているとはいえ、随分とあっさり追い付け…っ!?)

 

ファールをしてでも止めようと手を伸ばそうとしたその刹那、俺は全身で牧を避ける様に伸ばしていた手を引っ込めた。

 

着地をするとレイアップを決めた牧と目が合う。

 

(…やっぱり狙ってやがったな。バスケットカウントを。)

 

危うく負けるところだった。冷や汗を流したが、延長に入ればこっちのもんだ。牧にはもうスタミナが残ってねぇだろうからな。

 

その後、延長戦前半の途中で牧がベンチに下がると、あっという間に点差が広がりうちが優勢になる。

 

あぁ~…しんどかった。俺も完全にバテたぜ。後は皆に任せるしかねぇわ。

 

山王のチームとしての勢いは延長戦後半に入っても衰えず、逆に牧がベンチに下がって明らかに海南の勢いが落ちると、俺達山王がインターハイ全国大会を制したのだった。




次の投稿は9:00の予定です。


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第35話『神奈川選抜集結』

本日投稿2話目です。


side:三井寿

 

 

山王のフルコートプレスディフェンスにも負けず牧が躍動したが、今年のインターハイ全国大会を制したのは山王だった。

 

後半残り1秒で海南は山王に同点まで追い付いたが、海南の奮闘はそこまでだった。

 

幾ら牧が凄い選手でもまだ1年生だ。延長戦まで戦いきる体力は無く、延長戦の前半途中で牧がベンチに下がると、そこからは一方的な展開になってしまった。

 

「あの後半の牧の最後のアタックで河田がファールしてれば、海南が勝ったかもしれないな。」

 

倉石のその言葉に皆が頷くが、あれはファールを回避した河田を誉めるべきプレーだ。

 

牧は自分に残った体力とチーム力の差を考え、リスクを負ってまで河田をわざと追い付かせたんだ。

 

だが河田はその牧の目論見に気付き寸前でファールを回避。その結果としてインターハイ全国大会は山王が制した。

 

記録には残らないがあれはこの試合最高の河田のファインプレーだ。

 

「山王の河田か…。」

 

こいつは間違いなくそう遠くない内にチームの中心選手になるな。

 

「まったく…挑み甲斐のある奴等だぜ。」

 

次は俺達があの舞台に立つ。そんな思いを胸に俺達の夏は過ぎていったのだった。

 

 

 

 

side:三井寿

 

 

インターハイ全国大会が終わると、俺は国体の神奈川選抜選手に選ばれた。

 

湘北から選ばれたのは俺以外には赤木がいるが、残りは他から選ばれているらしい。

 

「三井君、怪我をしない様にしっかりと自己管理を。そして全国の強者と戦えるチャンスを楽しんできてください。」

「はいっ!」

 

安西先生の激励でモチベーションが最高潮に達した俺は、神奈川選抜チームの連携確認の為に海南大付属高校に足を運んでいた。

 

「2週間後には国体が始まる。我々神奈川選抜チームの目標は、王者山王のメンバーが率いる秋田選抜チームに勝ち優勝することだ。各々、しっかりと連携を確認してくれ

。」

 

即席チームだが俺と牧そして兼田さんに他の選ばれた海南のメンバーは夏の合同合宿で何度も組んだから連携に問題はなかった。

 

後は他のメンバー…主に翔陽のメンバーと連携の確認をするだけだな。

 

俺達は兼田さんが中心になって他のメンバーに声を掛けていき、少しずつ連携を高めていく。

 

「今日の練習はこれで終わりだ。来週にもう1度集まって連携の最終確認をする。皆、怪我に気を付けて過ごしてくれ。解散!」

 

高頭監督の言葉で解散すると、俺は帰る前に牧や兼田さんと話をしていく。

 

「三井、山王との試合の後半のラストワンプレー…どう思った。」

「わざと河田に追い付かせたあれか?」

「あぁ。」

 

牧の問い掛けに俺は考えながら言葉を返す。

 

「あの時点ではあれ以外に山王に勝つ方法はなかっただろうな。結果として3点プレーにはなんなかったが、あれはあの場面で気付いた河田を誉めるべきだ。」

「そうか…。お前ならどうした?」

 

その問い掛けに俺はまた考えながら言葉を返す。

 

「そうだな…状況次第だろうが3Pシュートを狙うだろうな。バスケットカウントを誘うプレーも悪くないが、相手ありきのプレーで確実性が低いからな。」

「俺にしてみれば3Pシュートの方がよほど確実性が低いんだがな。」

 

そんな感じで話を続けていると高頭監督が声を掛けてきた。

 

「三井、赤木、本当にいいのか?家まで送っていくぞ?」

「いえ、いいです。ゆっくり考え事をしながら帰りたいんで。」

「そうか、事故に気を付けて帰れよ。」

「はい!今日はありがとうございました!行こうぜ、赤木」

「おう。」

 

高頭監督に頭を下げた後、牧と兼田さんにも声を掛けてから俺は赤木と一緒に歩き出す。

 

「俺の選抜チームでのポジションはSGか…。さて、どう動くかな?」

「お前なら問題無くこなせると思うがな。」

 

選抜チームのメンバーとの連携を想定しながら、試合での動きをシミュレーションしていくと、気が付いたら家の前まで帰りついていたのだった。




次の投稿は11:00の予定です。


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第36話『ライバルの成長は望むところ』

本日投稿3話目です。


side:三井寿

 

 

国体前の最後の週末、神奈川選抜メンバーはもう一度海南に集まって練習をやっているが、やはり選抜メンバーだけあって皆の動きのレベルは高い。

 

連携の最終確認の意味もある紅白戦で、俺と牧のコンビは他の選抜メンバーを圧倒していく…いや、圧倒は言い過ぎか。

 

崩せてはいるんだが大崩れはしてねぇからな。

 

カットインした牧から外にいる俺にパスがくる。

 

「三井だ!2点はいい!3Pをケア!」

 

白チームの兼田さんからチームメイトに指示が飛ぶ。

 

俺のマークについた翔陽のGの坂井さんが距離を詰めてきたのでドリブルで抜く。

 

そのまま中を通って逆サイドに抜ける動きをすると中が空いたので、赤木にパスを出す。

 

赤木と兼田さんの勝負。赤木がきっちりとボールを押し込んだ。

 

紅白戦をやっていて思うのは、やっぱりいいPGがいると楽だということだ。

 

牧は俺がマークを外したのとほぼ同時にパスを出してくるから、動くのは最小限でいいからな。

 

今の長瀬さんにここまで要求するのは酷だが…ウインターカップや来年のインターハイでは面白くなるだろうな。

 

 

 

 

side:三井寿

 

 

紅白戦が終わって帰りまでの時間が余ると牧と兼田さん、そして赤木以外の選抜されたメンバー達から声を掛けられる。

 

「なぁ三井、あのクロスオーバーなんだが…なんかコツでもあるのか?」

 

坂井さんの問い掛けに俺は実演を交えて説明していく。

 

坂井さんと同じく翔陽から選ばれた藤真が一番食いついて見てくるな。

 

「こんな感じですね。大事なのは出来る限りストレートとクロスでフォームを変えないことです。」

「そう言われても、変えてるつもりはないんだがなぁ。」

 

目線や重心の些細な違いも重要な情報になる。いわゆる選手の癖を読むってやつだな。

 

牧の様に自分の癖を理解して利用出来ればまた違うんだが、自分で自分の癖に気付くのは難しいからな。

 

それこそ牧も俺と高頭監督が指摘したから自分の癖を自覚出来たんだ。

 

俺みたいに明確な理想像があってそれをイメージして練習、もしくは日頃からビデオチェック出来る環境でもなきゃ、自分で自分の癖に気付くのはまず無理だ。

 

だからこそ誰かと一緒にしっかりとしたテーマを持って練習するのが重要になる。

 

俺達湘北バスケ部の皆がやってる居残り練習がまさにそれだ。

 

帰りの時間が来ると先週と同じく高頭監督の車に乗せてもらう。

 

「三井、SGはどうだ?」

 

高頭監督の問い掛けに俺は答えていく。

 

「いいPGがいると楽ですね。」

「ハハハ!そうかそうか!」

「それとリングが良く見える気がします。あの状態ならそうそう外しませんね。」

 

その後、牧と兼田さんも話に加わり談笑を続けていく。

 

そして話が終わると昨日と同じく、俺は赤木と一緒に色々と思考しながら家に帰っていくのだった。

 

 

 

 

side:高頭力

 

 

「リングが良く見えるか…。こいつは少し塩を送り過ぎたか?」

「監督、三井のことですか?」

「あぁ、そうだ。」

 

三井を見送ると思わず呟いてしまったが、その呟きに牧が反応してきた。

 

「三井は類い希なセンスで中学時代からエースとしてチームを引っ張ってきた。それは湘北でも変わらん。だがあいつの本質はシューターなんだ。」

 

俺は片手で顎を擦りながら話を続ける。

 

「今回の国体メンバーに三井を選抜しSGを任せた。それで三井はこれまでと違う視点を持つ事が出来たんだ。国体中に三井は伸びるぞ。だから塩を送り過ぎたと言ったんだ。」

「望むところですよ。」

 

ふと目を向けるとそこには戦意を滾らせる牧の姿があった。頼もしい限りだ。

 

「そうか、だが先ずは山王メンバーを有する秋田選抜にリベンジだな。」

「はい、そして優勝です。」

 

兼田が牧の言葉に頷いたのに満足すると、俺は気分良く扇子を広げたのだった。




これで本日の投稿は終わりです。

それと8月の投稿をお休みさせていただきます。

暑いのは苦手なんや…。

9月にまたお会いしましょう。


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第37話『国体スタート』

お久しぶりです。連載再開。

本日は2話+キャラ紹介を投稿します。

本日1話目です。


国体の関東予選が始まった。全国大会に進めるのは予選トーナメントを決勝戦まで勝ち上がった2チームのみ。

 

本来なら関東予選は一都六県の7チームでのトーナメントなんだが、東京は人口の多さからか2チームが出場する。

 

だから合計で8チームで関東予選が行われる。

 

関東予選1回戦目はその東京選抜の内の1チームと試合だ。

 

スターティングメンバーはSGで俺、PGで牧、Cで兼田さん、Gで坂井さん、そして翔陽のPFの河本さんだ。

 

試合開始。ジャンプボールを兼田さんが制すると、河本さんがボールを拾って牧に渡す。

 

牧と東京選抜のPGの勝負…牧がカットインを決めて展開を作るが、東京選抜はゾーンディフェンスでキッチリと中を固めていた。そこで牧から俺にパスが出る。

 

パスを貰うと躊躇せずに3Pシュートを撃つ。…決まって俺達神奈川選抜チームが3点先制。

 

変わって東京選抜チームの攻撃。東京選抜チームのPGが仕掛けるが、牧を抜けず中途半端にパスを出すとそれを坂井さんがインターセプト。速攻を仕掛けて2点追加。これで5ー0。幸先のいいスタートになったな。

 

この立ち上がりで流れを掴んだのか俺達神奈川選抜チームが終始リードしていき、前半が終わった時には22点差となっていた。

 

そしてハーフタイムが終わると俺を含めたスターティングメンバーはベンチに下がり、後半は赤木を始めとした控えメンバーで戦っていくのだった。

 

 

 

 

「神奈川選抜チームか…凄いな。特にPGとSGが。」

 

手摺りに肘を置き試合観戦をしているツンツンとした特徴的な髪型をしたこの少年の名は仙道彰(せんどう あきら)。

 

陵南の監督である田岡茂一が声を掛けている将来有望なバスケットボーラーだ。

 

仙道は地元の東京選抜チームが一方的にやられている展開でも、試合をなんとも楽しそうに観戦していく。

 

「よし、決めた。田岡さんのスカウトを受けるか。あの人達とやるのは面白そうだからな。」

 

仙道は田岡だけでなく色々な所から声を掛けられていたのだが、今日の神奈川選抜チームの試合を見てあっさりと進学先を決めてしまった。

 

その決め手となったのが牧と三井の存在。彼等と戦うのが面白そうだからというものだ。

 

仙道は優秀な選手であるが故に本気で戦える相手が少なかった。だからこそ牧と三井の存在が彼を陵南に進学する事を決意させたのだ。

 

だがそんな仙道が中学バスケで一度も勝てなかった相手がいるのだが…その相手を忘れる程に仙道にとって牧と三井のプレーは輝いて見えたのだ。

 

「あれ?田岡さんの連絡先どこにやったっけ?…まぁ、帰ってお袋に聞けばわかるか。」

 

どこか天然さがあるこの少年が来年神奈川に行く事を決意したと知らぬコート上の男達は、全力を尽くして戦い抜いていくのだった。

 

 

 

 

side:三井寿

 

 

初戦の東京選抜チームとの試合に勝利した勢いのままに、俺達神奈川選抜チームは関東予選を制した。

 

翌週に全国大会の組み合わせが発表されたんだが、優勝候補の秋田選抜チームとぶつかるのは決勝だった。

 

上等だぜ。

 

途中で転けるんじゃねぇぞ秋田選抜チーム。

 

俺達神奈川選抜チームがお前達に勝って全国制覇を達成するんだからな。




次の投稿は9:00の予定です。


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第38話『アクシデント』

本日投稿2話目です。


side:三井寿

 

 

国体の全国大会が始まった。1回戦の相手は九州代表の1校の福岡選抜チームだ。

 

試合は俺達神奈川選抜チームが終始優勢に進めたが、選抜チームとあって福岡選抜チームの勝負所での安定感は流石だと感心したぜ。

 

あの安定感は今の湘北には無い。

 

是非ともあの安定感を赤木にも身に付けて貰いたいもんだ。

 

ゴール下の赤木の安定感が増せば、それだけ湘北の地力がアップするからな。

 

まぁそう心配しなくても、赤木ならそう遠くない内に身に付けるか。

 

全国大会の1回戦に無事勝利した俺達はその後2回戦、3回戦と順調に勝ち進んでついに準決勝まで駒を進めた。

 

そして準決勝の日がやって来て会場入りすると大阪選抜チームに目を向ける。

 

今日は大会のスケジュールの関係から午前に準決勝、午後に決勝と2試合ある。だから本来のスターティングメンバーじゃなく、この試合は控えのメンバーをスターティングメンバーとして使うそうだ。

 

メンバーが充実している選抜チームだからこそ出来る采配だな。

 

赤木……このチャンスをしっかりと糧にしろよ。お前なら出来るって信じてるぜ。

 

 

 

 

side:藤真健司

 

 

大阪選抜チームとの準決勝、この試合は本来は控えである俺や赤木達がスターティングメンバーになった。

 

これは決勝戦で当たるであろう秋田選抜チームとの試合で、本来のスターティングメンバーを出来る限り万全の状態で使う為だ。

 

この準決勝での起用に文句を言う控えメンバーは1人もいない。むしろ試合に出れるとあって俺達控えメンバーは熱くなった。

 

全国の強豪と戦えるこのチャンス……必ずものにしてみせる。

 

それぐらい出来なければ牧や三井と同じステージに立てない。胸を張ってあいつらのライバルだと言える様になるためにも、今日の経験を糧に成長しなくちゃな。

 

大阪選抜チームとの試合が始まった。ジャンプボールを赤木が制して俺にボールが回ってくる。

 

対峙するのは同じ1年生の南って男だ。

 

事前の情報ではSFでスコアラーだって話だったが、たぶん同じ1年ってことで俺とマッチアップさせてきたんだろう。

 

「10秒!」

 

ベンチからの声掛けで30秒ルールまで残り20秒だとわかった。そろそろ仕掛けてみるか。

 

ストレートに行くとフェイントを掛けてクロスオーバーを。抜けた。大会前のチーム練習で三井から教わったクロスオーバー……まだまだ未完成だけどそれでも使い様はあるな。

 

南を抜いた俺は中に切り込んで大阪選抜チームのCを釣り出す。そして中で待っている赤木にパスを出すと、赤木は豪快にダンクを決めた。

 

この豪快さは兼田さんや阿久井さんにはないものだ。だからなのか赤木がダンクを決めるとチームの雰囲気が盛り上がる。

 

攻守が入れ替わって大阪選抜チームの攻撃。事前に大阪選抜チームはラン&ガンを好むって聞いたけど果たして……。

 

大阪選抜チームはチーム全体で動いて早いパスを回し、フリーの選手を作ろうとしてくる。やはりラン&ガンを使ってきたか。

 

試合前のミーティングで高頭監督が大阪選抜チームの北野監督はラン&ガンを好むって俺達に伝えてきた。

 

だから気持ちの上では十分に準備が出来ていた筈なんだが、大阪選抜チームの速い展開のオフェンスに対応出来ず同点にされてしまった。

 

赤木のダンクで盛り上がった雰囲気を消されてしまったな……どうする?

 

俺には牧の様なスピードは無いし、三井の様なシュート能力も無い。けどパスなら二人に負けない自信がある。

 

ボールを貰うまでの数秒の間に考えた俺は、大阪選抜チームのバスケに付き合わずにじっくりと攻める事を決めた。

 

それからは一進一退の展開が続いた。

 

早いバスケで波に乗りたい大阪選抜チーム。だが俺達はそれに付き合わずじっくりと攻めて確実に点を重ねていく。

 

前半10分が過ぎた頃、超攻撃的なバスケのせいか大阪選抜チームにミスが重なり徐々に点差が広がってきた。

 

……ここだ!

 

俺はボールを持った南に張り付く様にしてディフェンスをする。

 

ここで大阪選抜チームのスコアラーである南からボールを奪えれば、大阪選抜チームのリズムを更に崩せる。

 

そう思いディフェンスをしていたその時……突如左目付近に衝撃が走り、俺はコートに倒れてしまうのだった。




次の投稿は11:00の予定です。


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現時点までの登場キャラ紹介

1ヵ月サボ…休養して色々と頭から飛んでしまったので、作者の確認的な意味で投稿。


○湘北高校

 

 

◇三井寿(みつい ひさし)

 

・拙作の主人公。憑依転生したが自我が発達した状態で前世の記憶を取り戻した為、憑依転生というよりは前世の記憶を吸収した三井寿となっている。

 

・バスケマニアだった前世の記憶を参考にしてトレーニングを始めた結果、まだ1年であるのに原作の自身を超える技術を身に付けている。しかし参考にしているのNBAでもトップ中のトップの為、自分はまだまだ成長出来ると確信してトレーニングを怠っていない。

 

・自信家であるところは原作と変わらないが、前世の記憶を吸収した事でややマイルドに。その結果、自身の知識や技術を周囲に惜しみ無く教え、チームメイトやライバル達と切磋琢磨するスポーツマンとなった。

 

 

◇赤木美和(あかぎ みわ)

 

・拙作オリジナルキャラにしてヒロイン。ゴリの同い年の従妹。

 

・三井の中学県大会決勝戦のブザービーターを見て一目惚れ。湘北バスケ部に三井がいると知るとマネージャーになる。

 

・中学までは彼女自身もバスケットプレーヤーだったが、度重なる足首の故障で現役続行を断念した経緯がある。

 

・ドがつくNBAマニアである彼女は話が合う三井に更に惚れ込んだが、バスケ一筋で恋愛初心者の彼女はここぞの場面でよくヘタレてしまう。果たして三井の恋人になる事が出来るのか。

 

 

◇赤木剛憲(あかぎ たけのり)

 

・原作主要キャラの1人。湘北不動のC。

 

・三井の影響を受けて成長中。パワープレイ主体ながら、三井から教わったベビーフックを駆使して強豪校のテクニックタイプのCと渡り合っている。

 

・現在はまだフリースローが苦手だが、ハッキリとした弱点とは呼べない程度に成長してきている。

 

 

◇木暮公延(こぐれ きみのぶ)

 

・原作主要キャラの1人。メガネ君。ポジションはSG。

 

・三井の影響を受けて成長中。ドリブルやパスは平凡ながら、カバーリングとシュート能力は湘北バスケ部に欠かせないものになりつつある。

 

 

◇倉石博也(くらいし ひろや)

 

・拙作オリジナルキャラ。三井の中学時代のチームメイト。ポジションはG。

 

・所謂ディフェンスキャラでジャンプシュートが苦手。だが三井の助言で両手でシュートを撃つようになってから、ミドルシュート成功率が向上しつつある。

 

 

◇石渡(いしわたり)

 

・拙作オリジナルキャラ。三井入部時のキャプテン。ポジションはPF。

 

・副キャプテンの土橋と共に弱小校だった湘北バスケ部で頑張り続けた努力家。

 

 

◇土橋(どばし)

 

・拙作オリジナルキャラ。三井入部時の副キャプテン。ポジションはPG。

 

・石渡と共に弱小と呼ばれてた湘北バスケ部で頑張っていた努力家。

 

 

◇長瀬(ながせ)

 

・拙作オリジナルキャラ。石渡達3年生引退後のキャプテン。ポジションはPG。

 

・160cm台と小柄ながら中々のアジリティがあり、趣味のサーフィンのおかげでボディバランスがいい。

 

 

◇猪狩(いかり)

 

・拙作オリジナルキャラ。ポジションはC。

 

・三井と安西の指導でテクニックタイプのCに成長中。

 

 

◇毒島(ぶすじま)

 

・拙作オリジナルキャラ。ポジションはG。

 

・倉石よりもシュートは上手いが総合的には下。倉石と切磋琢磨して成長中。

 

 

◇長谷(はせ)

 

・拙作オリジナルキャラ。ポジションはSG。

 

・木暮よりも3Pシュート能力は低いが貴重なシューター。木暮と切磋琢磨して成長中。

 

 

◇小堺(こざかい)

 

・拙作オリジナルキャラ。ポジションはF。

 

・オフェンス特化タイプの選手。東京の某大学医学部進学の為に勉強をしているので、居残り練習には参加していない。

 

 

◇上島(うえしま)

 

・拙作オリジナルキャラ。ポジションはPF。

 

・運動量でプレーをカバーするタイプの選手。花道程のジャンプ力は無い。小堺と同様に大学進学の為に勉強をしているので、居残り練習には参加していない。

 

 

◇安西光義(あんざい みつよし)

 

・原作主要キャラの1人。湘北バスケ部の監督。

 

・三井の影響でかつての情熱を取り戻し、ダイエットにも励むようになっている。

 

 

 

 

○陵南高校

 

◇魚住純(うおずみ じゅん)

 

・原作主要キャラの1人。三井達と同い年で陵南のC。

 

・赤木の影響で既に精神面では原作のインターハイ決勝リーグ時程にまで成長している。

 

 

◇池上亮二(いけがみ りょうじ)

 

・三井達と同い年で陵南のG。ディフェンスに定評がある人。

 

・練習試合で三井に手も足も出なかった結果、より一層練習にのめり込む様になっている。

 

 

◇田岡茂一(たおか もいち)

 

・陵南の監督。海南の高頭とは高校時代の先輩後輩の間柄。

 

・三井のスカウトに失敗したが、魚住を県内トップクラスCに育て上げるなど育成の腕はかなりのもの。しかし原作では福田のプライドの高さを読み誤ったりと失敗も多い。

 

 

 

 

○海南付属高校

 

◇牧紳一(まき しんいち)

 

・三井達と同い年で既に強豪校海南のレギュラーを取っている怪物プレイヤー。ポジションはPG。

 

・三井をライバル視しており、彼と競い合って神奈川ナンバーワンプレイヤーの称号を手に入れようと努力を続けている。

 

 

◇兼田(かねだ)

 

・海南の3年生で現キャプテン。神奈川ナンバーワンC。

 

・テクニックタイプのCで全国でも渡り合える実力者。

 

 

◇下村(しもむら)

 

・海南の2年生でG。

 

・三井のせいでかませ犬っぽいキャラになったが、本来は海南のユニフォームを勝ち取った実力者である。

 

 

◇北川(きたがわ)

 

・海南の2年生で控えPG。

 

・主に牧の代理で出場する事が多いが、海南のユニフォームを勝ち取った実力者である。

 

◇高砂一真(たかさご かずま)

 

・三井達と同い年。ポジションはC。

 

・同い年の赤木や魚住から刺激を受けてほんのり成長中。

 

 

◇宮益義範(みやます よしのり)

 

・三井達と同い年。ポジションはSG。

 

・三井や木暮から刺激を受けてほんのり成長中。

 

 

◇高頭力(たかとう りき)

 

・海南の監督。陵南の田岡とは高校時代の先輩後輩の間柄。

 

・智将の二つ名を持つ名監督。相手選手の本質を見抜いて対策を打つ名采配をするが、点差が追い付かれてくると激高してしまう癖がある。犠牲になる扇子に合掌。

 

 

 

 

○翔陽高校

 

◇藤真健司(ふじま けんじ)

 

・三井達と同い年で翔陽のPG。

 

・牧をライバル視していたが、現在は彼と同じステージに立つ為に努力中。

 

 

◇阿久井(あくい)

 

・拙作オリジナルキャラ。翔陽の3年生でポジションはC。

 

・テクニックタイプのCで海南の兼田のライバル的存在。

 

 

◇坂井(さかい)

 

・拙作オリジナルキャラ。翔陽の3年生でポジションはG。

 

・強豪校の選手らしくまとまった能力の持ち主。

 

 

◇河本(かわもと)

 

・拙作オリジナルキャラ。翔陽の3年生でPF。

 

・背は高いが線が細く、あまりリバウンド争いが得意では無い。

 

 

◇平泉(ひらいずみ)

 

・拙作オリジナルキャラ。翔陽の2年生でポジションはF。

 

・坊主頭でスポーツメガネを掛けた選手。フックシュートが得意。

 

 

◇三淵元康(みぶち もとやす)

 

・拙作オリジナルキャラ。翔陽の監督。

 

・かなり高齢で身体を悪くしているが……?

 

 

 

 

○山王工業

 

◇深津一成(ふかつ かずなり)

 

・三井達と同い年の選手。ポジションはPG。

 

・原作では全国トップクラスのPGだが、現在はそこまでの実力は無い。だが、堂本監督に多くのチャンスを与えて貰える程の光るものがある選手である。

 

・ちなみに現在の流行り語尾は『~べし』

 

 

◇河田雅史(かわた まさし)

 

・三井達と同い年の選手。ポジションはGだがFにコンバート中。

 

・原作における最強クラスの一角。作者の独断と偏見で三井や牧の様な天才タイプではなく、対応力や適応力の高い秀才タイプの選手となっている。

 

 

◇小野(おの)

 

・拙作オリジナルキャラ。3年生のキャプテン。ポジションはC。

 

・全国でトップスリーに入る実力者。筋トレが趣味のパワータイプなCだが小技もこなす。

 

 

◇鮎川(あゆかわ)

 

・拙作オリジナルキャラ。2年生。ポジションはPGとGのコンボガード。

 

・堂本の意向でGにコンバートしたが、深津の調子次第ではPGをやる便利屋。山王の次期キャプテン候補。

 

 

◇堂本五郎(どうもと ごろう)

 

・山王の監督。山王をインターハイ三連覇に導いた名将……らしい。

 

 

 

 

〇豊玉高校

 

◇南烈(みなみ つよし)

 

・原作の全国大会で流川に肘をぶちかました男。原作主人公曰く『カリメロ』

 

・バタフライエフェクトが起こったのか拙作では1年生時点で国体に出場している。

 

・原作よりも早く藤真との因縁が起こってしまったが果たして…。

 

 

◇北野(きたの)

 

・豊玉の監督で今回の国体の大阪選抜の監督もやっている。

 

・大阪選抜でもラン&ガンで用いて全国大会準決勝まで勝ち上がったが果たして…。

 

 

 

 

○その他

 

 

◇赤木晴子(あかぎ 晴子)

 

・赤木剛憲の妹。原作のメインヒロイン。

 

・現時点で既に流川の追っかけをし始めているが…?

 

 

◇堀田徳男(ほった のりお)

 

・原作では湘北の番格だったが、拙作では既に湘北バスケ部の応援団長となっている。

 

・捏造設定で三井の幼馴染みになっているが、断じてヒロインではない。

 

 

◇高嶋(たかしま)

 

・メガネが特徴的なキャラ。堀田の連れの1人。

 

 

◇徳田(とくだ)

 

・原作では屋上で寝ていた流川を蹴ったキャラ。堀田の連れの1人。

 

 

◇西本(にしもと)

 

・原作では初登場時に堀田と一緒にいたキャラ。堀田の連れの1人。




これで本日の投稿は終わりです。

また来週お会いしましょう。


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第39話『不屈』

本日は3話投稿します。

本日投稿1話目です。


side:藤真健司

 

 

赤木に抱えられる様にしてコートの外に出た俺の耳に、高頭監督の声が聞こえてくる。

 

「牧、直ぐにアップだ。」

「はい!」

 

待ってくれ……俺はまだやれる!

 

「監督!」

「藤真、先ずはドクターに診てもらってからだ。」

 

会場で待機していた医者が俺の所に小走りでやってくると、俺の左目を診ていく。

 

「……うん、脳震盪も起こしてないし大丈夫そうだ。でも腫れてきてるから氷嚢を当てて、安静にしているようにね。それと念の為、病院に行ってしっかりと検査を受けるように。」

 

そう言って医者は去っていくのを見送ると、俺は立ち上がって高頭監督の所に行く。

 

「監督、やれます。」

「ダメだ。」

「医者は大丈夫だって言いました。試合が終わったら直ぐに病院に行って検査も受けます。だから……お願いします!」

 

頭を深々と下げると高頭監督のため息が聞こえる。

 

「はぁ……後半からだ。」

「後半……ですか?」

「頻繁に選手を交代させるとリズムが崩れる。今は安静にして少しでも回復しておけ。」

「……っ!ありがとうございます!」

 

俺はもう一度深々と頭を下げるとベンチに座る。

 

そして開いている片方の目で試合の流れを観察していくのだった。

 

 

 

 

side:南烈(みなみ つよし)

 

 

ベンチに下がった俺は頭を抱える。

 

……やってもうた。

 

当てるつもりはあらへんかった。ぴったり貼り付いてくるもんやから、ちょっとビビらせて下がらせるつもりやってん。

 

せやのにあいつは下がらへんかった。……いや、ちゃうな。絶対に俺からボール奪うて気迫で、逆に俺がビビっとったんや。

 

「烈、顔を上げろ。」

 

北野監督の言葉で俺は顔を上げる。

 

「後半からもう一度行くぞ。それまでに整理をつけとけ。」

「……あかん、あかんよ、おっちゃん。俺、今日はもう無理や。」

「……向こうのベンチを見ろ。」

 

おっちゃんに言われて相手さんのベンチに目を向けたら俺が肘を当ててしもうた奴……藤真が向こうの監督さんに頭を下げとった。

 

「試合が終わったら俺も一緒に頭を下げに行ってやる。だから逃げるな。逃げたらあの馬鹿げた行為を自分の中で正当化しちまうぞ。そりゃカッコ悪いだろ?」

 

あぁ……たしかにそらカッコ悪いわ。

 

「わかったらそのしみったれた顔を拭け。加害者のお前が被害者面してどうすんだ。」

「おっちゃんひどいわぁ~。繊細な俺の心が傷ついたで。」

「アホ、試合中は監督って呼べ。」

 

ぐしゃぐしゃとおっちゃん……北野監督に髪をかき混ぜられると、さっきまでの罪悪感で潰れそうだった気持ちが少し楽になっとったわ。

 

俺は藤真に目を向ける。

 

ふとこっちを見てきた藤真と目が合った。

 

俺は直ぐに立ち上がって頭を下げると、藤真は苦笑いをしながら手を振ってくる。

 

「……ほんまにすまんかったわ。試合が終わったらもう一度頭を下げるさかい。今はこれで勘弁したってや。」

 

その後、神奈川選抜チームにリードされた状態で前半が終わった。

 

そしてハーフタイムが終わると、俺と藤真は再びコートに戻るのだった。




次の投稿は9:00の予定です。


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第40話『夢中になる事こそ上達への近道』

本日投稿2話目です。


side:藤真健司

 

 

後半が始まるとボールを持った南がゆっくり俺の所にやって来る。

 

そして……。

 

「っ!?」

 

ポンッと軽く放る様にして俺にボールをパスしてきた。

 

左目が殆ど塞がっていて距離感が掴めなかったので少しお手玉してしまったが、俺がボールを持ったのを見た南は腰を落としてディフェンスの構えを取った。

 

そんな南を見た俺は……。

 

「っ!?」

 

南にボールを返してニッと笑ってみせた。

 

すると俺達はどちらともなくとある形へと至る……そう、前半で起こった因縁のあの形へ。

 

「肘はもう勘弁してくれよ?あれは痛いからな。」

「ほんますまんかったわ。後で改めて謝らせてもらうで。試合に勝った後でな。」

「それは残念だな。謝ってもらえないぜ。」

 

笑みを交わし終えると、南がクッと首を振ってフェイントを入れてくると同時に仕掛けてくる。

 

その仕掛けには反応出来たがそれもフェイクだった。

 

一歩踏み出して止まった南は直ぐに下がると、フリーで3Pシュートを放って見事に決めてみせた。

 

「外もあるのかよ……。」

「無いとは言ってへんで?」

「……このやろう。」

 

俺と南は笑顔になっていた。まるでバスケを始めたての頃に1on1をした時の様に。

 

赤木が俺にボールをパスしてくる。

 

……片目が殆ど塞がってるから取りにくいな。でも泣き言は言ってられない。

 

「……大丈夫なんか?」

 

どうやら南に気付かれたみたいだな。

 

「正直に言ってきついけど、手加減はするなよ。怒るからな?」

「怖いわ~。怖いから全力でやらして貰うわ。」

 

腰を落として構えた南に俺も半身になって応える。

 

……左目がズキズキと痛み始めたけど、こんな面白い時間を誰かに譲れるかよ!

 

 

 

 

side:南烈

 

 

藤真か……凄い奴やで。片目が殆ど塞がっとるのに、そのハンデを感じさせへん程にパスが冴えわたっとる。

 

正直に言ってこのパスは今の俺じゃ止められへんわ。

 

ほんま……なんであんなことしてもうたんやろ……。俺ってほんまアホやわ……。

 

アカン、今はそんなことを考えてる場合やない。藤真に失礼やんか。

 

チームメイトからのパスを受け取った俺は藤真と対峙する。

 

藤真は3Pシュートを警戒したのか少し間合いが近い。……せやったらこうや!

 

今度はカットインで仕掛ける。中に切り込んだ俺に相手チームのCが立ちはだかる。

 

……デカイ奴やな。なに食ったらそんなにデカくなんねん?

 

切り込んだ勢いのままに跳んでレイアップにいくと相手チームのCが反応してきた。

 

俺は咄嗟にダブルクラッチに切り替えてゴールを狙う。

 

手を離れたボールはリングで数回バウンドすると、リングの中に沈んだ。

 

(危なっ!?よう入ったわほんま。さっきの3Pシュートもそうやけど、もしかして調子ええんか俺?)

 

少し自問自答をしてみたんやけど、気持ちを切り替える為に顔を張る。

 

(そんなんどうでもええやんか。今は思いっきりバスケをすればええんや。)

 

こんなに勝ち負けを気にせんとバスケに夢中になれたんはいつ以来やろ?

 

そのせいなんか試合時間はあっという間に過ぎていってもうたわ。

 

試合の結果は前半でついた差を詰めきれずにうちの負け。

 

点差を詰めきれへんかったんは後半残り10分で三井っちゅうのが出てきたからやな。

 

なんやあれ?どう止めたらええねん?えげつないとしか言えへん程に凄かったわ。

 

あまりに凄くてうちのチームメイト達が……。

 

『なんでもっと早く出さへんねん!』

『真打ちやからって遅すぎやろ!』

『たった10分しか楽しめへんかったやんか!』

 

なんて文句を試合が終わった後に言うとったわ。

 

まぁあれや、残念やけど……負けて逆にスッキリした気分やわ。

 

(そんじゃ謝りに……まさかと思うけど藤真の奴……試合中のあれを真に受けてへんよな?)

 

そう思いながら謝りにいったんやけど、真に受けてへんかった代わりにそれをネタにされて散々イジラレてもうたわ。

 

せやけどそのおかげで心に残っとった最後のモヤモヤがキレイサッパリ消えてくれたで。

 

藤真……ほんまに感謝するで。お前のおかげで俺はまたバスケに夢中になれたわ。

 

まぁ……それはそれとしてや……次は俺が勝ったるからな!勝ち逃げは許さへんで!




次の投稿は11:00の予定です。


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第41話『智将と老将』

本日投稿3話目です。


side:高頭力

 

 

「よく勝ってくれた。」

 

大阪選抜との準決勝に勝利した後、大阪選抜チームを率いていた北野監督が私の所にやって来て頭を下げてきた。

 

「もしうちが勝っていたらあの子達の心にしこりが残っただろう。そのしこりは心を蝕み、やがてスポーツマンとしてだけでなく、人としてもダメになっていったやもしれん。」

 

決勝で秋田選抜に勝つことのみを考えたならば準決勝では三井を温存するべきだった。だが万が一大阪選抜チームに負けると、大阪選抜チームの選手達は悔いの残る勝利を得てしまう。

 

この悔いの残る勝利というのは曲者で、その勝利を得た者を色々と歪めてしまう危険性を孕んでいる。

 

だからこそ私は一指導者として大阪選抜チームの選手達のためにも絶対に勝たねばならないと思い、ここぞの場面で三井を投入したのだ。

 

勝利を求められる監督としては失格かもしれんが、若者を導く指導者としてはなんら悔いの無い選択だったと確信している。

 

だからこそ北野監督に頭を下げられる理由はない。

 

「北野監督、どうか頭を上げてください。私は私の信念の元に采配しただけです。」

「それでも一言礼を言わせてくれ……ありがとう。」

 

はぁ……せめてこの礼は受け取らねばならんな。そうしなければ北野監督も立つ瀬が無いだろう。

 

「わかりました。その一言は受け取っておきましょう。それで今回の一件は終わりという事で……彼も既に気にしていないようですから。」

 

そう言って振り向くと、謝罪に来ていた南をからかって楽しんでいる藤真の姿があった。

 

「……強い子だな。」

「えぇ、将来が楽しみな選手の一人です。」

 

 

 

 

side:北野

 

 

「えぇ、将来が楽しみな選手の一人です。」

 

将来が楽しみな選手の一人か……。

 

俺は神奈川選抜チームの子達に目を向ける。

 

選抜チームの正PGの牧は行く行くはオリンピック代表も狙える逸材だ。

 

そして控えのCの赤木に正SGの三井……この子達は安西の教え子だ。

 

ラン&ガン一辺倒の俺は近年では中々結果を出せず、そろそろ首を切られるだろうと覚悟していたが、監督の座にしがみついてでも安西と戦いたいと思ってきてしまったな。

 

……ラン&ガンは俺が一番好きな戦術だ。攻撃的なバスケが一番楽しいバスケなんだ。豊玉に来る子達はそんな俺のバスケを慕ってくれている。南もその一人だ。

 

一度のミスは二度の成功で取り返せばいい。失敗は怖れるべきものではない。失敗は次に来る成功への助走に過ぎない。だからこそ俺はラン&ガンが好きなんだ。

 

俺は高頭君にもう一度頭を下げるといじられている烈の所に向かう。

 

「烈、そろそろ行くぞ。」

「あっ、おっちゃん、ちょっと待ってぇや。色々と聞きたいことがあんねんけど、いじられてばっかでまだ聞けてないんや。」

 

俺は烈の頭に叩く様にして手を置くと、烈の髪をワシャワシャとかき回しながら話す。

 

「アホ、神奈川選抜さんはまだ決勝が残ってるんだ。余計な体力をつかわせるんじゃない。」

「……せやな。俺達に勝ったのに負けられたら、なんややるせない気持ちになりそうやわ。」

 

烈は手櫛で髪を直しながら藤真君に挨拶をする。

 

「ほんじゃそろそろ行くわ。決勝は見学してくから負けるんやないで。」

「烈の言葉じゃないが、勉強させてもらうよ。」

 

チームの皆の所に戻りながら烈に声を掛ける。

 

「次は勝つぞ。」

「あぁ、勝つでおっちゃん。俺達のラン&ガンでや。」

 

(まったく……ちょっとしたキッカケで成長するのが若者の特権だが、こうも成長されるとこの老いぼれではついていけなくなりそうだ。)

 

そう心の中で愚痴を溢すが、嬉しさから烈の頭をぐしゃぐしゃと撫で回すのだった。




これで本日の投稿は終わりです。

また来週お会いしましょう。


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第42話『高頭と堂本の思案』

本日は3話投稿します。

本日投稿1話目です。


side:高頭力

 

 

国体の全国決勝戦の相手は秋田選抜となった。

 

これについては予想通りだが準決勝で予期せぬアクシデントがあったため、決勝戦でのプランを練り直さなければいかん。さて……どうするか?

 

神奈川選抜は牧と三井の二人が中心のチームだ。

 

二人は1年生にして既に神奈川ナンバーワン争いをするほどの逸材だが、1年生だからこその弱点がある。

 

それは……まだ身体が出来上がってない故に、高校バスケで戦うにはスタミナ不足なのだ。

 

牧は尻上がりにパフォーマンスを上げる性質の選手だ。そしてそれを利用する形で前半を抑え気味に動くことでペース配分をさせてきた。

 

だが全国レベルのチームが相手では、如何に牧といえどペース配分をする余力はない。

 

そして三井は聞いた話だが、入部初日に怪我をして1ヵ月程練習に参加出来なかったらしい。

 

故に三井のスタミナ不足は牧よりも深刻だ。

 

まぁ二人のスタミナ不足は時間が解決してくれる問題だが、今はその問題が勝利を得る為の重大な課題なのだ。

 

……後半に勝負を掛けるしかないな。

 

前半は三井抜きで戦い後半に勝負。藤真が戦線離脱した以上は牧はフルタイムで出さざるをえん。

 

基本的なプランは固まったが私はため息を吐いた。

 

(状況次第では三井を早期に投入しなければならんだろう。いや、王者山王のメンバーを多く有する秋田選抜が相手では、早期に三井を投入しなければならなくなる可能性が高い。)

 

扇子で蟀谷を掻きながらもう一度ため息を吐く。

 

やはりキーマンになるのは三井。

 

こちらはどこまで三井を温存出来るか、そして向こうはどれだけ早く三井を引きずり出せるかの勝負になる。

 

「1年生にして全国の大舞台の鍵を握るか……。私もこの手で育ててみたかったものだな。正直に言って羨ましいですよ安西先生。いや、牧を育てられている私が言っては贅沢か。」

 

自分の言葉に苦笑いした私は、誤魔化す様に自身を扇子で扇ぐのだった。

 

 

 

 

side:堂本五郎

 

 

(やはり鍵を握るのはこの選手か……。)

 

選手達に休憩を指示した俺は控室でビデオを見ながらそう思案する。

 

(三井寿……大会を通じて3Pシュート成功率が4割を超えている……これ程のシューターは見たことがない。)

 

3Pシュートは非常に成功率が低く、3Pシューターは戦力としては計算し難い存在だった。

 

故にその役割は内のスペースを空ける為の威嚇が主だったのだが、こうも成功率が高いと本気で警戒せざるをえない。

 

(そして更に厄介なのは彼が外だけの選手ではない事だ。)

 

元来3Pシュートは他の選手と比べて能力の低い選手が、生き残りを掛けて身に付けるケースが多かった。

 

故に3Pシューターは外のみを警戒すれば良かったのだが、三井はそのケースに当てはまらない選手だ。

 

(後半の勝負所で彼が万全の状態でいるのは不味い。勝つ為には彼を早期に消耗させる必要がある。その上で牧にも対応しなければならない……課題は山積みだな。)

 

そう思うものの俺は自分が笑っている事に気付く。

 

「相手にとって不足なし。」

 

高揚を自覚した俺は決勝戦でのプランを煮詰めていくのだった。




次の投稿は9:00の予定です。


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第43話『不敵に笑う牧と河田』

本日投稿2話目です。


side:牧紳一

 

 

秋田選抜チームとの決勝戦が始まろうとしている。

 

俺は今一度チームに与えられたオーダーを思い出す。

 

秋田選抜チーム相手に可能な限り三井抜きで戦わなければならない。

 

これは三井のスタミナを考慮し延長戦も見据えた上での采配だ。

 

言い換えれば三井を試合のキーマンとして考えた采配だな。

 

勝利の為に必要だと納得している自分の中に、少しだけ嫉妬している自分がいる事に安心する。

 

嫉妬しているという事は、それは俺が三井をライバルとして見ている証だからだ。

 

この気持ちがある内は俺はまだ上手くなれる確信があると同時に、この気持ちが無くなってしまった時の恐怖も存在する。

 

果たして俺は選手として成長が停滞した時、バスケを好きでい続けられるのだろうか?

 

チラリとベンチに目を向けると、バカな事を考えたと苦笑いをする。

 

「夢中になれ……ですよね?高頭監督。」

 

海南バスケ部に入部した初日に高頭監督が言った言葉がある。

 

それは……『夢中になること以上に上達する術はない』だ。

 

努力は誰でもしている。だからこそ努力を努力と思わない程に夢中になる事が、なによりも己に成長を促してくれるんだと高頭監督は語ってくれた。

 

思えば俺も周囲の誰よりもバスケに夢中になったからこそ、こうして全国大会決勝戦という大舞台に立てる程に上手くなれたんだ。

 

だからこそわかる。これからもバスケに夢中でい続ければ、俺はもっともっと上手くなれるってな。

 

「とは言うものの、やっぱり勝たないと面白くないのも事実だ。ってわけで勝たせてもらうぜ、秋田選抜。」

 

 

 

 

side:河田雅史

 

 

決勝戦の相手は神奈川選抜か……。

 

やっぱりという思いもあれば、なるほどって思いもある。

 

それはそれとして……決勝戦で俺達に与えられた監督からの指示は、可能な限り早く三井ってのを引っ張り出すことだ。

 

そして三井を引っ張り出したら俺がマークにつくことになっている。

 

大阪選抜との準決勝で三井のプレーを見たが……正直に言ってどうすんべって感じだな。

 

外を警戒して距離を詰めたら抜かれるし、かといって離れりゃ外から決められる……本当にどうすんべ?

 

まぁ俺に与えられた指示はフリーで3Pシュートを撃たせるなってだけだから、いざとなったらファールしてでも止めりゃいい。もちろん相手にケガさせん程度のファールでな。

 

けどそれよりも先に牧を止めにゃ話にならんか。マッチアップするのは深津だが……大丈夫か?

 

牧の癖とかはだいたい伝えたがそれでも確実に止められるわけじゃねぇ。

 

決勝戦らしくこりゃしんどい試合になりそうだわ。

 

けど……それ以上に面白くなりそうだわな。

 

早く試合がしたくてウズウズしてきた身体を鎮めるために、俺は冷たい水を一口飲むのだった。




次の投稿は11:00の予定です。


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第44話『自分のスタイル』

本日投稿3話目です。


side:深津一成

 

 

国体の全国大会決勝戦が始まった。相手はあの牧がいる神奈川選抜。

 

実は俺は今年のインターハイ前までは、いつか山王バスケ部の練習から逃げようと思っていた。

 

王者山王の練習はそれだけきついって事だ。

 

だが、今年のインターハイ全国大会決勝戦で海南と……牧と戦ってからはそんな考えは無くなった。

 

あの時の俺は何も出来なかった。

 

それが悔しくて表彰式の後に一人で泣いた。

 

今度こそ牧に勝つために吐きそうになる程の練習に耐え続けた。

 

だから今日は……必ず勝つべし。

 

ジャンプボールはうちが制してボールが俺の所に来る。牧とのマッチアップ……仕掛ける!

 

ストレートに……っ!?止められる!ロール……これもダメ!

 

抜くことを諦めてパスを出す。もちろんインターセプトされない様に注意をしながら。

 

パスは無事に通って秋田選抜が先制。ほっと安堵の息が出た。

 

だが安堵の息は直ぐに引っ込んでしまう。

 

牧がボールを持って俺の前に立ったからだ。背中を流れる汗に冷たさを感じる。

 

……来るっ!この癖はクロス……っ!?フェイク!?

 

フェイクに引っ掛かった俺はストレートに抜かれた牧に反応出来ず尻もちをついてしまう。

 

……ははっ、安堵の息を吐いている暇なんてなかったな。

 

あっさりと同点に追い付かれると、俺は気を引き締めるために顔を張る。

 

ボールを手に牧の前に立つ。ドリブルでは抜けない。ならパスを……インターセプト!?

 

そのまま速攻を仕掛けられてリードを奪われる。

 

……やっぱり俺は通用しないのか?

 

目の前が真っ暗になりそうだったその時。

 

バチィ!!

 

大きな音と共に背中に痛みが走った。

 

驚いて後ろを振り向くと河田の姿がある。

 

「深津、な~にやってんだ、お前?」

 

言っている意味がわからず言葉を返せない。

 

「あんな雑なバスケしてりゃ、パスだって止められるに決まってる。」

「……雑?」

「最初から抜く気のないドリブルなんて雑以外になんて言やいい?前に牧にいいようにされたのを気にしてんのか?小憎らしい程にマイペースなのがお前だろうが。」

 

河田の指摘に驚いて目を見開く。

 

「牧みたいに派手に動く必要はねぇ。それでもやれる事は幾らでもあんぞ?やれる事を一個一個丁寧にやってくべ。じゃねぇと、試合で使ってもらえなくなるからな。」

 

やれる事を一個一個丁寧に……。

 

その事を反芻しながらボールを貰い牧の前に立つ。

 

フェイクを一つ入れてしっかりと抜きに行くつもりでドリブルを仕掛ける。

 

抜けないのを確認した後にパスコースを探すが、そこでもう一つやれる事を思い出した。

 

(そうだ……シュートもあった。)

 

いつも通り、練習通りに膝を使ってジャンプをし、指先までしっかりと意識してボールをリリースする。

 

するとボールはスウィッシュで決まった。

 

(あぁ……なるほど、そういう事か。)

 

スコアボードに目を向けると自然と言葉が溢れる。

 

「派手なプレーの2点も地味なプレーの2点も同じ2点。」

 

ディフェンスに戻りながらさっきのリリースの感覚を確かめていると、何かが自分の腹にドッシリと根を下ろした気がする。

 

そして気が付けば俺の中から迷いが無くなっていたのだった。

 

「パス、ドリブル、シュート、オフェンスだけじゃなくディフェンスも、やれる事をしっかり丁寧にやるべし。」




これで本日の投稿は終わりです。

また来週お会いしましょう。


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第45話『秋田選抜の仕掛け』

本日は3話投稿します。

本日投稿1話目です。


side:牧紳一

 

 

深津が一皮剥けた。個人的には歓迎するが、チームとしては面倒と言わざるをえない。

 

一皮剥けた深津は派手な動きは無いが、堅実で強かな動きでチームの勝利に貢献してくる。

 

PGの深津が崩れないだけでこれ程に厄介だとはな……。同じPGとして見習う部分が多いぜ。

 

まぁ、それはそれとしてだ……先ずはこのフルコートプレスディフェンスをどうにかしないとな。

 

秋田選抜は前半残り半分のところでフルコートプレスディフェンスを仕掛けてきた。

 

それの意図するところは……間違いなく三井を引っ張り出すためだろうな。

 

悪いが俺にも意地がある。そう簡単には三井を引っ張り出させねぇよ。ここからは全開だ!

 

俺はコートを全力で駆け回った。

 

それでもジリジリと点差が離れていっちまう。

 

悔しいが今の俺じゃ食らい付くので精一杯だ。

 

それでも前半はなんとか三井の温存に成功した。点差は15点……十分に射程圏内だぜ。

 

ハーフタイムに入ると俺はドカッとベンチに腰を下ろす。

 

そして手を差し出してきた三井と熱くタッチを交わしたのだった。

 

 

 

 

side:三井寿

 

 

国体全国大会の決勝戦後半が始まった。

 

前半に奮闘してくれたメンバーに応えるためにも、最初から全開で行くぜ!

 

牧からのパスを受け取った俺はフェイクを一つ入れると、一歩下がってディープスリーを撃つ。

 

挨拶代わりの一発が見事に決まると、俺のマッチアップ相手の河田が笑うのが見えた。

 

攻守が変わって秋田選抜の攻撃。深津を起点に秋田選抜が迫ってくる。……2点を取られたが、時間はまだまだ残ってる。慌てる必要はない。

 

牧からパスを受け取ると河田が張り付く様にしてチェックを掛けてくる。

 

目でフェイクを一つ入れてからストレートに抜く。そのまま内を通って逆サイドに抜けると3Pシュートを撃つ。……これで2連続。点差は11点。

 

続く秋田選抜の攻撃が失敗に終わると牧が速攻を決めて点差が9点になる。すると秋田選抜はタイムアウトを取った。

 

ここまでは順調。高頭監督のプラン通りに進んでいるが……。

 

俺はスポーツドリンクを一口飲むと、秋田選抜チームのベンチに目を向けたのだった。

 

 

 

 

side:河田雅史

 

 

「三井にダブルチームを付ける。」

 

堂本監督の言葉に納得と同時に少しばかりの悔しさを感じる。

 

けどまぁ仕方ねぇ。俺一人じゃ三井を止めるのは厳しいからな。

 

俺はタイムアウトの終わり際にダブルチームで組むことになった山王の先輩……井橋さんに声を掛ける。

 

「井橋さん、ちょっといいすか?」

「どうした河田?」

「三井へのチェックなんすけど……。」

 

そう言って耳打ちすると井橋さんがため息を吐く。

 

「まぁ、フリーで3Pを撃たれるよりはマシか。けどドリブルで仕掛けられたらどうする?」

「俺がファールしてでも止めます。」

「わかった。けどファールで止めるのは交代でやるぞ。チームファール数が嵩むけど仕方ねぇべ。それと、あいつをケガさせる様な荒いのは無しだからな。」

「ウス、了解っす。」

 

たった一人の選手に振り回される。それもスポーツの一面だが、それを防ぐ方法があるのもチームスポーツの一面だ。

 

「チームの勝利。チームスポーツにおいてこれ以上に嬉しいことはねぇ。だからよ三井。俺個人じゃ勝てなくても、チームでは勝たせてもらうべ。」




次の投稿は9:00の予定です。


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第46話『三井の仕掛けと揺れぬ秋田選抜』

本日投稿2話目です。


side:三井寿

 

 

タイムアウトが終わって秋田選抜のボールからスタートすると、手堅くゴールを決められて11点差になった。

 

そして牧からボールを受け取ると俺にダブルチームがついた。

 

来るかもしれねぇって予想はしていたが、王者山王を有する秋田選抜が俺にしてくるってのはこう……俺の力が認められた様で感動みたいなものが込み上げてくるな。

 

それはそれとして……さてどうするか?

 

このダブルチーム……通常のそれとは少し違う。一人は俺の3Pシュートを警戒しているのか少し距離を詰め気味だが、もう一人……河田はドリブルを警戒する様に少し距離を開けているんだ。

 

といっても両者の絶妙な間隔がしっかりとダブルチームを機能させている。

 

まぁとりあえず……試してみるか!

 

少し距離を詰め気味な男をクロスオーバーで抜き去る。

 

(よし、このまま……っ!?)

 

中を通りつつ展開しようとした次の瞬間、河田がファールをしてきて試合が止まった。

 

「なるほど、そういうことか。」

 

こいつらは徹底して俺に仕事をさせない気だ。それこそファールで止めてでも。

 

それ程に脅威だと思われるのは光栄だが、勝つためにはこの状況をなんとかしなくちゃならねぇ。

 

(これが前半ならわざとファールをさせ続けて、ファールトラブルを誘うのもありなんだがな……。)

 

だが今は後半……どうする?

 

(……とりあえずやってみるか。)

 

試合が再開されると俺は牧にボールを要求する。

 

秋田選抜の思惑に気付いたのか牧は僅かに逡巡したが、不敵に笑うと俺にパスを出してくる。

 

「さて、うちの司令塔の期待に応えねぇとな。」

 

ボールを持つと河田ともう一人が先程と立ち位置を入れ替えてマークについてきた。

 

俺はフェイクを一つ入れてもう一度クロスオーバーで抜く。ただし今度は中に向かわず3Pラインをなぞる様にして横にだ。

 

河田は3Pシュートを警戒していたのか完全に置き去りにしたが、もう一人が一歩遅れる形で俺に追随してくるのを横目で確認した。

 

そこで俺はシュートフェイクを一つ入れてから3Pシュートを撃つ。

 

するとバスケットカウントを貰って4点プレイを成立させた。

 

(これで少しは縮こまってくれたら楽なんだが……そう上手くはいかねぇよな。)

 

河田ともう一人が冷静に言葉を交わしているのが目に映る。

 

「けどこれで8点差だ。射程圏に捉えたぜ秋田選抜。」

 

 

 

 

side:河田雅史

 

 

「やられたな。」

「すんません。」

「いや、誘われたのは俺だからな。お前の責任じゃないさ。」

 

井橋さんに頭を下げると気にするなと肩に手を置かれる。

 

「どうします?」

「監督が動かないってことは俺達のやることは変わらんさ。けど、次からはバスケットカウントに気をつけて止めないとな。」

 

井橋さんに連れて俺も三井に目を向ける。

 

俺達の狙いに直ぐ気付くだけじゃなく、直ぐにそれを利用してくる。世の中にはとんでもねぇセンスを持った選手もいるもんだな。

 

試合が再開するとボールを運びながら深津が指を一本立てた。

 

「一つ一つ確実に。先ずはこの一本、しっかりと取るべし。」

 

あぁ、その通りだ。一つ一つ確実に。それが俺達のバスケだ。

 

チラリと三井に目を向ける。

 

「個人じゃ『今は』勝てそうにねぇけど、試合まで負けるつもりはねぇぞ。」

 

後半も残すところ半分ちょっとだ。

 

さぁ、終わったらぶっ倒れる気で走るとするかね。




次の投稿は11:00の予定です。


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第47話『勝利への執念』

本日投稿3話目です。


side:牧紳一

 

 

三井の4点プレーで秋田選抜との点差が8点差となると、ジワリジワリと秋田選抜との点差を詰めていった。

 

これは両チームに3Pシューターがいるかいないかの差……といったら酷か。そもそも三井の様な3Pシューターは日本全国を見渡してもそうそういないからな。

 

さて、あと一歩で秋田選抜に追い付くが、状況はむしろ俺達にとって悪くなりつつある。

 

その理由は三井の息が上がってきたからだ。

 

元々スタミナに不安があった三井だが、ダブルチームに対処する為にはいつも以上に走らなくてはならない。

 

なるほど、三井にダブルチームをつけて中が空くリスクを負うだけのメリットはあったわけだ。

 

だがこれでやるべきことがハッキリした。

 

延長戦に入ったら負ける。後半で勝負をつける。わかりやすくていい。

 

後半残り5分のところで高頭監督がタイムアウトを取った。

 

少しでも三井のスタミナを回復させるためだ。

 

完全に息が上がってしまった三井だが、その目に光る闘志には衰えが見えない。

 

これを見て奮起しないならスポーツマンじゃねぇ。

 

タイムアウトが終わると俺達は走った。

 

走って、走って、走り抜いた。

 

試合は進み残り40秒。2点差で負けている。

 

俺は中学時代の県大会決勝を思い出した。

 

三井に回せばなんとかしてくれる。

 

その思いでラストアタックを掛けた。

 

フェイクを入れて深津を抜き去る。中に切れ込むが意識は外に。そしてノールックでパスを出す。

 

「お前ならそこにいるだろう?三井。」

 

綺麗な放物線を描いたボールが宙を舞っていく。

 

そしてスウィッシュで決まると、俺達のスコアボードに3点が追加された。

 

会場が爆発したかの様な歓声に包まれる。

 

「まだだ!試合はまだ終わってないぞ!」

 

兼田さんの声掛けで急いでディフェンスに戻る。

 

残り20秒。もう走る余力の無い三井を抜きに守らなければならない。集中しろ、牧紳一!

 

深津が走り込んでくる。

 

自分でも信じられないぐらいの集中力でディフェンスをする。

 

残り10秒。

 

ドリブルで仕掛けてきた深津がシュートモーションに入った。ブロックするべく跳ぶ。

 

残り8秒。

 

深津はシュートモーション中……ジャンプをしている最中にパスを出した。ボールは河田に回る。

 

残り7秒。

 

ジャンプシュートに行った河田の眼前に誰かの手が伸びる……その誰かの手は三井だった。

 

もう走れるスタミナが無いにもかかわらず、懸命にここまで戻っていたのだ。

 

河田の手からボールが離れる。

 

残り5秒。

 

リングに弾かれたボールが落ちる。リバウンド争いだ。

 

「兼田さん!」

「ウォォォオオオオオッ!」

 

雄叫びと共に跳び上がった兼田さんの手にボールが収まる。

 

そして着地した兼田さんがガッチリとボールを確保する。そして残り時間が過ぎると試合終了のホイッスルが鳴り響いた。

 

「兼田さん!」

「ナイスリバウンドだ兼田!」

 

ベンチの皆も含めて喜びを爆発させる中、俺は一人床に座り込んだ三井の所に歩いていく。

 

「ナイスプレー、三井。」

 

言葉を返す余力もないのか三井は僅かに口角を上げただけだった。

 

「さぁ、整列だ。行こうぜ。」

「お……おう……。」

 

ふらつきながら立とうとする三井に肩を貸すと、俺達は試合終了の礼をするためにゆっくりと歩き出したのだった。




これで本日の投稿は終わりです。

また来週お会いしましょう。


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第48話『国体が与えた赤木への影響』

本日は2話投稿します。

本日投稿1話目です。


side:赤木剛憲

 

 

秋田選抜との決勝戦に勝利して全国制覇を成し遂げた俺達だが、直ぐに表彰式が始まらない事に首を傾げていた。

 

すると……。

 

「おそらく牧と三井のどちらをMVPにするかで揉めているんだろう。」

 

と高頭監督が言った。

 

納得が言った俺達は暇潰しを兼ねてどちらがMVPになるか話し合ったのだが、当の本人達は……。

 

「牧がMVPだろ。」

「三井がMVPだな。」

 

二人は顔を見合うと……。

 

「俺は決勝で後半しか出場してねぇ。牧はフルで出場してるじゃねぇか。それにあの最後のノールックパス、あれを考えりゃお前がMVPだ。」

「後半しか出場してねぇって言ったが、その後半だけで何本3Pシュートを決めた?しかもダブルチームだってものともしなかった。どう考えてもお前がMVPだ。」

 

そう言い合ってお互いに譲らなかった。

 

そんな光景に俺達は大いに笑った。

 

結局どっちがMVPになったかなんだが……選ばれたのは三井だった。

 

高頭監督曰く……「より強く印象に残ったのが三井なんだろう。三井程の3Pシューターは大学生はおろか社会人にだっていない。選ばれたのは妥当と言えるな。」だそうだ。

 

MVPに選ばれて不満そうな顔をするのは三井ぐらいかもしれんな。それだけ向上心等のバスケに対する意識が高いからなんだろうが……。

 

他の表彰の結果は以下の通りだ。

 

敢闘賞に藤真が選ばれ、アシスト王が深津、得点王は三井がなっている。

 

そしてベスト5はPGに牧、Gに秋田選抜の河田、SGに三井、SFに大阪選抜の南、Cに兼田さんが選ばれた。

 

表彰式が終わると週刊バスケットボールの記者だという相田弥生さんが、俺達神奈川選抜メンバーの所に取材に来た。

 

新人の女性記者らしく、今回が初めての取材だそうだ。

 

相田さんは一人一人に声を掛けて取材をしてくれている。

 

バスケの事に詳しく会話のテンポがいいため、皆取材を受けるのに苦労はしていない様子だ。

 

そんな中で俺の番がやって来た。

 

「赤木君、優勝が決まった時に少し悔しそうな顔をしとったけど、理由を聞いてもええかな?あっ、これに関してはオフレコにするわ。」

 

良く見ているものだと感心した俺は、オフレコであるという事もあって包み隠さずに相田さんに話す。

 

「優勝が決まったあの瞬間、コートの中にいなかったのが悔しかったんです。」

「なるほど、せやけど赤木君はまだ1年生やん。仕方ないと思わへん?」

 

相田さんの言葉に俺は首を横に振る。

 

「同じ1年の三井と牧はコートにいました。そうである以上、1年だから仕方ないというのは言い訳にしかなりません。」

「うん、いい向上心やね。記事に出来へんのがもったいないわぁ。」

 

相田さんの言葉に俺は苦笑いをする。

 

「そんじゃ話は変わるんやけど、誰か目標にしてる選手はおる?」

「兼田さんです。」

 

俺は兼田さんに顔を向けながら話を続ける。

 

「三井が牧からノールックパスを貰って3Pシュートを決めた瞬間、俺は勝利を確信して油断しました。ですが兼田さんはそうじゃなかった。そして最後のリバウンド争いを制したあの光景を見て、兼田さんが監督も含めたチームの皆に信頼される理由がわかりました。」

 

俺は一つ息を入れると笑みを浮かべながら話を続ける。

 

「完敗です。ですがそれは今はです。ウインターカップまでにもっと練習を重ねて、俺は兼田さんを超えます。」

「……うん、ウインターカップでは期待させて貰うわ。記者としても、バスケファンとしても。」

 

取材が終わって相田さんと握手を交わした俺は胸を張って歩き出す。

 

敗けを認める。でも勝つことを諦めない。一歩一歩前へ。悔しさを胸に歩いていく。

 

そして昨日より今日、今日より明日、努力を重ねて勝利を目指していこう。

 

不器用な俺でもそれぐらいは出来るからな。




次の投稿は9:00の予定です。


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第49話『田岡と教え子の闘争心』

本日投稿2話目です。


side:三井寿

 

 

国体が終わってウインターカップに向けて始動し出した俺と赤木だが、どうにも赤木の様子がおかしい。

 

練習に気が入ってないわけじゃない。むしろ入れ込み過ぎている感じだ。

 

最初は全国レベルを肌で感じて気が昂っているのかと思ったが、数日経っても変わらない赤木の様子に安西先生がストップを掛けた。

 

「赤木君、少しオーバーワーク気味ですよ。」

「安西先生……ですが。」

「焦ってもいい事はありません。動きが雑になってむしろ練習の効率が悪くなっていますよ。一つ一つ丁寧に。練習の意味を考えながらやっていきましょう。」

 

安西先生は赤木から俺たちに目を移す。

 

「これは赤木君だけではありません。皆さんも同じですよ。自分に足りないものはなにか、足りないものを補うにはどうすればいいか、各々で考えていくようにしてください。高校3年間、長いようで短いものです。悔いを残さない様にしてくださいね。」

「「「はい!」」」

 

安西先生の言葉で無駄な時間を過ごして後悔の涙を流したもう一人の俺を思い出した。

 

(俺はバスケに真摯に向き合い続ける。たとえこの先挫折したとしても、必ずまた前に進んでみせるぜ。)

 

 

 

 

side:魚住純

 

 

「ウインターカップまで残り1ヵ月だ。そこで来週末、春先と同じように湘北と練習試合をやる。」

 

田岡監督の言葉で皆がざわつく。

 

湘北は既に去年までの弱小校じゃない。神奈川でも有数の強豪なのだから。

 

「本番前の調整などと甘い事を考えるなよ。練習試合で力を発揮出来ない奴を本番で使うほど、俺は夢想家じゃない。公式戦のつもりで全力を尽くせ。以上、解散!」

「「「ありがとうございました!」」」

 

先輩達が帰り始める中、俺と池上は体育館に残る。

 

「さぁ魚住、始めようぜ。」

「あぁ。」

 

池上にディフェンスについてもらい、俺はベビーフックの練習をしていく。

 

「ほう、だいぶ形になってきた。もう一息ってところか。」

「「監督!?」」

 

30分程ベビーフックの練習を続けていると、不意に田岡監督に声を掛けられた。

 

「魚住、空いている手を遊ばせるな。しっかりと相手のディフェンスを意識して使っていけ。楽をしたら上手い奴に止められるぞ。」

「はい!すまん池上、もう一度頼む。」

「おう。」

 

空いている手を意識して使おうとすると空中で少しバランスを崩してしまった。

 

何度も繰り返して動きを少しずつ修正していく。

 

「うん、それでいい。後は練習試合で使えるかを確認するだけだな。」

「はい!」

 

俺の返事に頷いた田岡監督が話し出す。

 

「魚住、池上、お前達は練習試合で前半も後半も出続けてもらう。」

 

監督の言葉に驚く。ウインターカップに向けて皆の状態を確認しないのか疑問に思ったからだ。

 

「知っていると思うが、ウインターカップが終われば3年生は引退する。そうなると当然チームを新しく作り直すんだが、その時にお前達を中心に据えるつもりだ。」

「お、俺達をですか?俺達はまだ1年ですが……。」

「そうだ、1年だ。三井や牧、赤木といった既に頭角を現している選手達と同じな。」

 

監督は一呼吸間を置いてから話を続ける。

 

「彼等と渡り合うには少しでも多く試合の経験を積まなければならない。公式戦独特の空気に飲まれていては、彼等と渡り合うなど到底出来ないからな。」

 

田岡監督はあいつらと本気で戦う……いや、あいつらに本気で勝つ気なんだ。

 

そう気付いた俺は拳を握り締める。

 

監督の心意気を受けて俺の闘争心にも火がついたのがわかった。

 

「魚住。」

「はい!」

 

「池上。」

「はい!」

 

「あいつらに本気で勝ちたいと思う俺はおかしいか?」

「「いいえ!」」

 

「よし、なら……勝つぞ!」

「「はい!」」

 

赤木……次は俺が、俺達が勝つ。

 

もう季節は秋から冬に変わりつつある中で、俺は身体に熱を感じていたのだった。




これで本日の投稿は終わりです。

また来週お会いしましょう。


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第50話『湘北新チームの初陣』

本日は2話投稿します。

本日投稿1話目です。


side:赤木美和

 

 

「前半は2年生を中心に行きます。ですが1年生もいつでも行ける様に準備をしておいてください。」

 

ウインターカップまで残り1ヵ月といった頃、陵南との練習試合が組まれたわ。

 

この試合のうちの目的は新チームがどこまで機能するかの確認ね。

 

うちのスターティングメンバーはPGに長瀬さん、Cに猪狩さん、Gに毒島さん、SGに長谷さん、Fに小堺さんといった布陣ね。

 

さぁ練習試合が始まったわ。先ずはジャンプボール……魚住君に取られて陵南ボールからね。

 

陵南の2年生PGの萩原さんがボールを運ぶ。同じPGの長瀬さんとマッチアップ。

 

萩原さんが仕掛けた!けど長瀬さんはしっかりと反応してる。

 

苦しい状況の萩原さんを池上君がフォローに。池上君のスクリーンで動けなくなった長瀬さんを萩原さんが抜くと魚住君にパス。

 

魚住君と猪狩さんのマッチアップ……魚住君がベビーフックを決めて先制点は陵南。これで0―2。

 

う〜ん……やっぱり魚住君の身長でベビーフックは脅威ね。というか神奈川では剛憲に兼田さん、そして魚住君って感じにポジションがCの選手の間でベビーフックが流行ってきてるみたいなのよね。

 

まぁそれだけゴール下で有用な技なんでしょうね。

 

でも普段から剛憲と練習している成果なのか、猪狩さんは魚住君にやられっぱなしじゃないわ。比率でいうなら4:6ってところかしら。

 

けど試合は陵南のペースで進んでいる。これは長谷さんが池上君に完全に抑え込まれてしまっているからね。

 

前半はこのまま陵南のペースで進みそうだわ。

 

それはそれとして他所の高校に行った友達に聞いたんだけど、どうも他の高校のバスケ部ではロングシュートの練習量が増えているみたいなのよね。

 

これは確実に寿君の影響ね。

 

まぁ、全国であれだけ活躍したらそうなっても不思議じゃないわ。

 

さて、思った通りに前半は陵南のペースで進んだわ。

 

けど点差は10点とあまり広がってない。これは陵南にエースと呼べるスコアラーがいないのが原因でしょうね。

 

それと途中から出た木暮君と倉石君の活躍も影響してるかな。

 

さて、後半になったらいよいよ寿君と剛憲が登場よ。つまりここからが両チーム共に本番ってことね。

 

さぁ、ウインターカップへに向けて弾みをつけるためにも、ここはキッチリと勝たないと。

 

みんな、頑張れ!

 

 

 

 

side:安西光義

 

 

前半の出来に点数をつけるとしたら80点と言ったところですか。

 

特に長瀬君の突破力に猪狩君の奮闘は素晴らしい出来でした。

 

その他の子達も十分に及第点の動きです。

 

ですが長谷君が池上君のディフェンスにムキになって外にこだわり過ぎたのはいただけません。

 

年下の選手に抑え込まれたというのもあるかもしれませんが、もう少し対応に柔軟性が欲しいところですね。

 

試合が終わった後に少し話をしましょう。

 

それはそれとして陵南もだいぶチームとしての形が出来上がってきていますね。しかも3年生が抜けた後の事も考慮して準備が出来ているようです。

 

ですが田岡監督……うちも負けていませんよ?

 

三井君と赤木君が全国の舞台で得た経験を皆にフィードバックしてくれている今の湘北には、昨年まで弱小と呼ばれていた頃の面影などもはやありませんからね。

 

ニコリと微笑んだ私は去年と比べると明らかに小さくなった自身の腹に手を当てる。

 

かなりダイエットが進んだこの身体はとても軽く、その身体に影響されるかの様に心も弾んでしまいます。

 

そして練習試合とはいえ真剣な両チームの雰囲気が、大学で指導していた頃の勝負師としての血を沸き立たせてくれますね。

 

「ほっほっほ、楽しくなってきました。」

 

やはりスポーツは素晴らしい。

 

その事を改めて感じた私は教え子達に指示を伝えつつ、内心で感謝の念を彼等に捧げるのだった。




次の投稿は9:00の予定です。


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第51話『チームメイト達の成長』

本日投稿2話目です。


side:三井寿

 

 

陵南との練習試合の後半は、先輩達がメインだった前半とうって変わって俺達一年がメインだ。

 

俺がSF、赤木がC、木暮がSG、倉石がG、そして前半に続いてキャプテンの長瀬さんがPGで出場する。

 

さて、そんなわけで後半が始まったんだが、同じ一年の池上が俺とマッチアップしてきた。

 

3Pを警戒したのか距離を詰めてきた池上は以前と比べて上手くなったハンドチェックをしてくる。だが牧や河田と比べるとまだ隙が多いな。

 

俺はフェイクを一つ入れて池上を抜いて中に切り込むと外で待つ木暮にパスを送る。

 

これは練習試合だからな。勝ちを狙うだけじゃなく、色々と試さねぇと。

 

キャッチ&シュートで木暮が3Pシュートを撃つ……よしっ、ナイスシュートだぜ、木暮。

 

木暮はオフザドリブル……ドリブルからの3Pシュートの精度は練習でもまだまだだが、キャッチ&シュートは3割を超える様になってきている。

 

こうして経験を積んでいけば試合でも練習と同じぐらいの精度で決められるようになるだろうな。

 

攻守交代で陵南の攻撃。どうやら陵南は魚住にボールを集めるつもりの様だ。もちろんそれ一辺倒じゃねぇんだろうが……先ずは魚住と赤木のゴール下での勝負だ。

 

魚住が仕掛ける。前半でも何度も決めていたが、赤木が相手でも見事にベビーフックを決めてきた。

 

赤木もベンチでそんな魚住を強く意識してたが、目の前で決められるとなおのこと意識するみてぇだ。

 

さて、次は俺達の番だ。

 

長瀬さんからボールをもらうと、今度はうって変わって直ぐにパスを出す。

 

パスの相手は倉石だ。

 

倉石がミドルレンジでジャンプシュートを撃つ……よしっ、いいぞ倉石!練習の成果が出てるぜ!

 

 

 

 

side:赤木剛憲

 

 

木暮、倉石と二人が続けて練習の成果を発揮した姿に頼もしく感じると共に、己に対して焦りを感じる。

 

しかもその焦りは魚住の成長を実感すると共に増しているのだ。

 

安西先生の言うとおりに焦っても仕方がないのはわかっている。だが、それでも焦ってしまうのは俺が未熟だからだろう。

 

先の国体ではチームメイトのおかげで勝てたのであって、俺自身はただの数合わせの如くその場にいただけだ……。

 

「赤木!」

 

声掛けでパスが来ていたことに気付くがボールを溢してしまう。

 

その溢したボールを魚住に拾われると、陵南に速攻を決められてしまった。

 

己の不甲斐なさに悔しくて拳を握り締める。

 

するとバシッという大きな音と共に背中に痛みが走った。

 

「赤木、悩むなとは言わねぇ。けどな、試合中は勝つことに集中しろ。それが出来ねぇと、いつまで経っても兼田さんには追い付けねぇぜ。」

 

離れ際に今度は尻を叩いてきた三井を見送ると今の言葉を反芻する。

 

……そうだ。あの時の兼田さんは試合終了の笛が鳴るまで勝利のことだけを考えていたじゃないか。

 

「うぉぉぉおおお!」

 

声を張り上げて両手で思いっきり顔を張る。

 

「もう大丈夫そうだな。」

 

そう言いながらポンッと肩を叩いてきたのは長瀬さんだった。

 

「またパスを出すからな。今度は溢すなよ。」

「はいっ!」

 

今は試合に勝つことを考えろ。ウジウジと悩むのはその後だ。

 

心の整理をすることが出来た俺はそれまでの鬱憤を晴らすかの様にコートを駆けていく。

 

そして魚住との勝負を重ねていくことで俺は自身の成長に気付いていき、少しずつ自信を深めていくのだった。




これで本日の投稿は終わりです。

来週の投稿はお休みさせていただきます。というのも本日2回目の接種をするので、念のためにゆっくりとさせてもらおうかと思いまして…。

というわけで10月の24日にまたお会いしましょう。


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第52話『二人の指導者』

本日は2話投稿します。

本日投稿1話目です。


side:田岡茂一

 

 

「安西先生、今日はありがとうございました。」

「いえいえ、こちらこそありがとうございました。」

 

安西先生が教え子達と共に去っていくのを見送りながら今日の練習試合の事を振り返る。

 

今日の練習試合は十分な収穫があるものとなったが結果としては負けだ。

 

「さて、どうしたものか……。」

 

今後の懸念材料はエース不在と対三井の戦略だ。

 

エース不在……この問題は幾度も考えたが、年が明けて仙道が陵南に来れば解決するだろう。

 

だが対三井に関しては時が経つに連れて厄介になる。

 

現状はスタミナ不足という唯一とも言える弱点をつけるが、それが通じるのはおそらくウインターカップまでだろう。あの安西先生が三井のスタミナ不足をそのままにしているわけがないからな。

 

となると春からの対三井戦略はオーソドックスにダブルチームか、チームのエースをぶつけるしかない。

 

それにしても三井か……今日の彼のプレーを見た正直な感想は驚きの一言だ。

 

夏の三井はもっと個を重視したプレーをする選手だったが、今日の彼のプレーは個のプレーとチームプレーのバランスが絶妙だった。おそらく国体での経験が彼のバスケ観に影響を与えたのだろう。

 

それにしても今日の彼のプレーはオフザボールの時でも耳目を惹きつける様な華があった。そんな彼はまだ1年……やれやれ、末恐ろしい選手だ。

 

これからの数年の苦労を想像して俺は苦笑いをする。

 

「さて、また居残りをしている魚住と池上の所に顔を出すか。」

 

魚住も池上も前半は満点だった。

 

後半は少々振るわなかったが……先ずは二人を褒めるとしようか。

 

 

 

 

side:高頭力

 

 

「監督、話って何ですか?」

 

兼田を呼んだ俺は手短に話をする。

 

「兼田、すまんがウインターカップの予選では、基本的にベンチで待機をしてもらう。」

「……使うのは高砂ですか?」

「わかるか?」

「はい、最近の岡本の練習態度は目に余りますからね。」

 

岡本は兼田の後釜と考えて鍛えていた選手だ。

 

その岡本なんだが……ここ最近では練習で手を抜きがちだ。

 

理由はおそらく次期チームでほぼスタメンの座が当確になったからだろう。

 

たまにいるのだ。試合に勝つことよりも試合に出る事で満足してしまう者が。

 

まぁ、それも仕方ないのかもしれない。うちは神奈川はおろか全国でも有数の強豪校だ。そんなうちでスタメンになれたとあれば内申書が良くなり、進学や就職でも有利になることは間違いないからな。

 

だがそれをされると困るのは後に続く教え子達だ。

 

今の岡本の様に勝利に拘らない姿勢というのはプレーに現れ、見る者が見ればわかってしまう。

 

するとどうなるか?結果が出ればまだいいが、万が一そういった選手が試合に出て結果が出なければ、次の予算会議で部費は確実に削られてしまうだろう。

 

そうなったら遠征等の選手育成プランは変更せざるを得ない。そしてそれにより選手の育成が思った様にいかず結果が出せない様になれば……遠くない内にうちは強豪の座から落ち、返り咲くのには相応の時間が掛かるだろう。

 

故に幾ら可愛い教え子だとしても、勝利を求めない者にはユニフォームを与えることは出来ない。

 

「ウインターカップを見て岡本が奮起してくれたらいいのだが……。」

「俺の方でそれとなくフォローはしておきます。けど、夏の合同合宿の時の行動を考えると難しいかと……。」

 

兼田を始め高砂や宮益、そして牧といった多くの選手が他校の選手達と切磋琢磨していったが、思い返せば岡本の動きは積極性に欠けていた。

 

あの時は体調管理のために休憩を優先したと思い静観していたのだがな……。

 

「やれやれ、私の目は節穴だな。」

「監督は悪くありません。あいつに海南のユニフォームを着る為の自覚が足りなかっただけです。」

「そう言ってもらうと少しは救われる。」

 

指導者というのは何年経っても難しいものだ。

 

教え子を見誤ることもあれば、教え子に救われることもある。

 

だからこそ面白く、こうして何年も続けている。

 

「高砂には俺から言っておく。すまんが岡本のフォローを頼めるか?」

「はい、任せてください。」

 

やれやれ、これではどちらが年上かわからんな。

 

だが教え子である兼田がそれだけ頼れる男になったということだ。

 

ここは素直に兼田の成長を喜んでおくとしようか。




次の投稿は9:00の予定です。


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第53話『冬は乙女の季節』

本日投稿2話目です。


side:赤木美和

 

 

陵南との練習試合に勝った私達はこの勢いでウインターカップも制すぞ!……と行きたいとこなんだけど、残念ながら学生の私達にはその前に期末テストがあるのよねぇ……。

 

「寿君、ここなんだけど。」

「うん?あぁ、ここはな……。」

 

というわけで私達湘北高校バスケ部1年生は、こうして剛憲の家に集まって勉強会をしてるってわけ。

 

大会が近いのにと思うかもしれないけど残念ながら湘北は進学校だからね。期末テスト1週間前から部活動は禁止なのだ。

 

しかも万が一赤点を取ったら補習を受けて合格しないと、大会に出られなくなっちゃうのよねぇ……。

 

だからこうして皆で集まって勉強会をしてるってわけ。

 

そういえば海南とかの強豪校はどんな感じなのかしら?

 

……まぁ、いっか。今はこうして寿君と肩を寄せあっている時間を堪能しないとね。

 

「なぁ三井。」

「どうした木暮?」

「いつから美和さんと名前で呼び合う様になったんだ?」

 

勉強に一区切りがついたから少し休憩していると、不意に木暮君がそんな疑問を投げ掛けてきた。

 

「インターハイの後だな。」

「もしかして俺達が行かなかったあの時か?」

「あぁ。」

「へぇ……。」

 

木暮君だけじゃなく剛憲と倉石君までニヤニヤとしている。

 

別にニヤつくぐらい構わないけど、しっかり援護してよね。

 

その後、勉強会が終わって一同解散となったんだけど、私はそのまま残って夕食をご馳走になる。

 

「晴子ちゃん、いよいよ勝負の時が近付いてきたわ。」

「うん、クリスマスだね。」

「そう!クリスマス!女の子としては決して見逃せない一大イベント!晴子ちゃん、そっちの戦況はどうなの?」

 

私が問い掛けると晴子ちゃんは俯く。

 

「うぅ……誘うどころかまだ話し掛けることも出来てないよぉ……。」

「それは随分と苦戦してるわね。でも気持ちはわかるわ。私だって寿君を名前で呼べるようになるまで数ヵ月掛かったもの。」

 

腕を組んでうんうんと頷いていると、頬杖をついた剛憲がため息を吐く。

 

「ちょっと剛憲!やる気ないの!?」

「俺がいる必要あるか?母さんがいた方がよほどマシだろう。」

 

そう言って剛憲は叔母さんと選手交代をした。

 

……まぁいいわ。事があれば私を援護する盟約は交わしているからね。だから今日の所はこの辺で勘弁してあげる。

 

「それじゃ、先ずは経験豊富な叔母さんからアドバイスを聞きましょう。」

「うん、そうだね。」

「あらあら、経験豊富だなんていやねぇ。けどそうね。私もあの人を捕まえるのにはそれなりに苦労したから、少しはアドバイスが出来るかもしれないわ。」

 

そこからの叔母さんの話は値千金のものだったわ。

 

ただ恋愛話を楽しんだ感は否めないけど、それでも確かに私と晴子ちゃんは勇気をもらったわ。

 

後は……チャンスを見付けたらクリスマスデートに誘うのみよ!

 

「やるわよ晴子ちゃん!私達の恋を一歩前進させる時が来たわ!」

「わ、私はもう少し今のままでもいいかなぁ~って……。」

「むぅ……仕方ないわね。じゃあ、代わりに私の援護をお願いするわ。」

「うん!それなら私も全力で頑張るよ!」

 

晴子ちゃんもその勢いで流川にアタック出来ればいいんだけどねぇ。まぁでも、私も散々二の足を踏んだから気持ちはわかるんだけどね。

 

それはともかく!先ずはウインターカップ神奈川予選突破!そしてその祝勝ムードの勢いで寿君をクリスマスデートに誘う!これよ!完璧だわ!

 

「そういうわけで剛憲!ウインターカップでは絶対に全国に行くわよ!」

「ふんっ、当然だ。」

 

さぁ、私の恋の道はこれからよ!

 

でもその前に……期末テストも頑張らなくちゃね。




これで本日の投稿は終わりです。

また来週お会いしましょう。


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第54話『ウインターカップ開幕』

本日は2話投稿します。

本日投稿1話目です。


side:倉石博也

 

 

ウインターカップの神奈川予選が始まった。

 

俺達湘北は夏のインターハイで決勝リーグに進んだのもあってシードでの出場。だから俺達の試合は二回戦からだ。

 

そしてやって来た俺達の試合。相手は所謂弱小校って所で、練習通りに力を発揮出来ればまず負けない。

 

そんな相手だからか安西先生はこの試合でみっちゃんと赤木を温存すると言った。

 

……確かにこのぐらいの相手に温存出来ない様じゃ、決勝リーグで海南や翔陽にも勝てないよな。

 

長瀬さんを始めとして二年生の先輩達は気合いが入ってる。俺と木暮も負けてられないぜ。

 

そうして始まった試合は蹂躙と形容して過言じゃない試合になった。

 

先ずPGである長瀬さんの突破を誰も止められない。まぁ、長瀬さんのドリブルはみっちゃん仕込みだからな。そこいらの奴じゃ止められなくても不思議じゃない。

 

そしてCの猪狩さんも日々赤木とあらそっているからか、並みのCは相手にならないレベルだ。

 

俺や木暮に他の先輩達も躍動していって、試合は正に完勝といった出来だ。

 

この勢いで決勝リーグまで突き進むぜ!

 

 

 

 

side:牧紳一

 

 

「流石に三井と赤木は温存か。」

 

高頭監督の言葉に皆が頷く。

 

もはや湘北は万年一回戦や二回戦の弱小校でどうにかなる相手じゃない。

 

「あのPG……長瀬のスピードは厄介だな。それに木暮か。夏もそれなりに撃てていたが更に成長している。三井程じゃないが要警戒の選手だな。」

 

湘北の最大の売りはロングシュートを戦術として取り入れているところだが、厄介なのは3Pシューターが三井一人じゃないってところだ。

 

もちろん三井が一番厄介なことに変わりはないが、湘北はその三井一人を抑え込めば勝てる相手ではなくなってきている。

 

「湘北との試合、鍵はリバウンドになるな……。」

 

俺が知る中で最高のシューターである三井でも100%3Pシュートを決められるわけじゃない。だいたい40%を少し超えるぐらいだ。まぁ、それでも驚愕する程に高い決定率だし、試合終盤の勝負所ではほぼ確実に決めてくるんだが……。

 

なにが言いたいかというと、三井でも2回に1回は3Pシュートを外す。その2回に1回のディフェンスリバウンドを制して得点のチャンスに結びつける事が出来れば、湘北との試合の勝利に近付くことが出来る。

 

つまり高頭監督は兼田さんに赤木とのリバウンド勝負に勝つことを期待しているってわけだ。

 

兼田さんなら赤木との勝負に勝てる。問題は……俺と三井との勝負だな。

 

三井は外一辺倒の選手じゃない。中も一流の選手だ。

 

あいつとの勝負に勝てば、名実共に神奈川ナンバーワンの称号が手に入る。これで燃えなければバスケットマンじゃない。

 

腹の底から沸き上がる闘志に導かれる様に、俺は湘北ベンチに座る三井に目を向けたのだった。




次の投稿は9:00の予定です。


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第55話『翔陽に訪れる試練』

本日投稿2話目です。


side:三淵元康

 

 

いよいよこの身体が言うことを聞かなくなってきたが、残念ながら儂の後任はいまだ決まる気配がない。

 

このままでは教え子達が正式な監督が不在なままで試合に挑むことになってしまう。そうなるとまともな戦術指揮経験が無い状態で、教え子達がなんとかやりくりをしていくしかない。

 

そこで苦肉の策として今大会……ウインターカップでは藤真に指揮を任せて経験を積ませることにした。

 

これはまだ藤真が1年生という事が理由だ。

 

おそらく儂の正式な後任は儂がいなくなってもしばらく決まらんだろう。下手をしたら数年掛かるかもしれん。いい大人達が何をしているのかと言いたくなるが、それもまた大人というもの。だからといって子供達がその大人達のせいで理不尽に見舞われるのは見苦しいことこの上ないがの。

 

まぁとにかくそういった事情もあって向こう2年は翔陽にいる藤真に指揮経験を積ませることにしたのじゃ。今なら阿久井達3年生もフォロー出来るしの。この事は翔陽バスケ部の皆に伝えてある。

 

そうして始まったウインターカップ神奈川予選。シード故に2回戦からじゃが、この試合は藤真をベンチスタートにした。

 

コートから見える景色とベンチから見える景色は違うということもあるが、儂が横で教えることで藤真の戦術理解を高めるのが最大の目的じゃな。

 

ふむ、こういうのも面白くていいのう。

 

もう現役の監督は難しいじゃろうが後任の監督を鍛えるぐらいは出来るかもしれん。

 

うむ、今までは敬遠しとったが……覚悟を決めて手術を受けてみるとするか。

 

さて、肝心のウインターカップの方じゃが順調に勝ち進んでいったわい。流石は儂の教え子達じゃの。

 

じゃが予選トーナメントを勝ち抜いたその直後、儂は倒れて病院に搬送されてしまったのじゃった。

 

 

 

 

side:藤真健司

 

 

「阿久井さん、三淵監督は?」

「直ぐに手術するそうだ。少なくとも決勝リーグは無理だな。」

 

以前から三淵監督は自身の健康状態の事を口にされていたが、まさかこのタイミングで倒れるとは思わなかった。

 

そのためか俺以外の皆も動揺している。

 

「藤真。」

「……はい、何ですか?」

「決勝リーグでの指揮はお前に任せるぞ。」

 

阿久井さんの言葉に驚いて言葉が出ない。

 

「お、俺はまだ1年ですよ?」

「あぁ、わかっている。そして俺達が引退した後の翔陽バスケ部を託すのがお前だという事もな。」

 

俺に託す?本気か?

 

「三淵監督が何のためにお前を横に置いて指導されていたと思う?全てはこういう事態を想定してのことだ。」

「で、ですが!」

「これは俺だけの考えじゃない。2年、3年全員の総意だ。」

 

俺が見渡すと先輩達が頷く。

 

「……なんで俺なんですか?」

「三井や牧と対峙した時、お前が折れなかったからだ。いや、正確には折れてもまた立ち上がったからだな。」

 

阿久井さんは俺の目を見ながら話を続ける。

 

「神奈川はこれから……いや、既に三井と牧が中心になっている。あいつらと戦うには、率いる奴があいつらの才能を見て折れていては話にならない。」

 

「藤真、まだ1年のお前が翔陽を背負うのは重いのはわかっている。だが、お前だからこそ託したいんだ。これで全国に行けなくても文句は言わない。悔いは残るかもしれないが、まぁ負けたら少なからず悔いは残ってしまうもんだ。その悔いだってお前達の成長に繋がるなら受け入れられるさ。」

 

真剣な目で阿久井さんが俺を見てくる。いや、阿久井さんだけじゃない。皆が俺を見てくる。

 

俺にどこまで出来るかわからない。俺にあいつらと戦えるだけのなにかがあるのかもわからない。けど……。

 

「わかりました。俺でよければ引き受けます。そして、最後まであいつらと戦い抜くことを誓います。」

 

俺にも一つだけ出来ることがある。それが諦めないことだ。

 

足掻いてやる。高校最後の試合の笛が鳴るその時まで足掻き抜いてやる。

 

例え才能ではあいつらに勝てなくても、気持ちだけは絶対に負けてやるもんか。

 

こうして俺は翔陽で監督代行をしていくことになった。

 

けどこのことが俺のバスケ観を広め成長に繋がることになるとは、この時の俺はまだ気付いていなかったのだった。




これで本日の投稿は終わりです。

また来週お会いしましょう。


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第56話『海南1年生達の友情』

本日は2話投稿します。

本日投稿1話目です。


side:高砂一真

 

 

驚く事に俺はウインターカップでユニフォームを着る事になった。兼田さんの後に正Cになると思ってた岡本先輩じゃなく俺がだ。

 

監督に俺はまだ1年だと言おうと思ったが、牧や三井の様に1年でも既に活躍している奴等もいる。はっきりと言って凄いプレッシャーだが、このチャンスはものにしなくては……。

 

そう思って挑んだウインターカップだが、まさか予選トーナメントで俺がスタメンになるとは思わなかった。

 

いきなりのことだったので自分が緊張しているのかもわからず、とにかくがむしゃらにプレーをしていった。

 

そうして気が付けば予選トーナメントを勝ち抜いていた。

 

思い返せば牧や先輩達にフォローされてばかりで情けない結果だが、海南のユニフォームを着て味わう勝利は格別なものだった。またあの興奮を味わいたいと心から思う。

 

予選トーナメントを勝ち抜いた後でまた驚くことになった。なんと岡本先輩がバスケ部を退部したんだ。

 

そのことを受けてなのか高頭監督から皆に話が行われた。

 

「皆、岡本のことは既に知っているな?改めて言っておくぞ。勝利を求める姿勢、自らの成長を求める姿勢といった向上心なき者に海南のユニフォームを着る資格は無い。」

 

「貪欲に勝利を、貪欲に成長を求め続けろ。それが俺がお前達に求めるただ一つの事だ。以上、解散!」

 

高頭監督の言葉で常勝海南に来たのは間違いじゃないと確信した。

 

ここでならもっと成長出来る。ここでならもっとバスケが上手くなれる。

 

それはきっと辛い日々だろうけど、それ以上にずっと楽しい日々の筈だから……。

 

 

 

 

side:宮益義範

 

 

同級生の高砂が海南のユニフォームを着た。既に牧が着ている事を考えればおかしなことじゃないかもしれないけど、二人と仲が良い俺一人がユニフォームを着れていない事実が俺に悔しさを感じさせる。

 

この悔しさを晴らすには練習しかない。そう思って俺は高頭監督に頼んでウインターカップ中でも居残り練習を出来る様にしてもらった。

 

「……少し成功確率が上がった?」

 

三井と木暮に教えてもらった3Pシュートの練習。シュート結果をノートに記録しながらそう呟く。

 

「……気のせいじゃない。成功確率が2割を超えてる!」

 

三井や木暮と比べると雲泥の差だけど、俺は確かに成長している。その実感が悔しさを嬉しさへと変えてくれた。

 

「宮、精が出るな。」

「牧?それに高砂まで。」

 

牧がスポーツドリンクを俺に差し出しながら声を掛けてきた。

 

「ちょっとそいつを見せてくれるか?おっ?すげぇな、2割を超えてるじゃねぇか。」

「はは……三井や木暮と比べればまだまだだよ。」

「そう謙遜するなよ。海南に宮ほど3Pシュートの練習をしている奴はいない。お前の3Pシュートは、いつか必ず海南の武器になる。早けりゃ来年の春にはいけるんじゃないか?」

 

来年の春?まさか、俺は海南で一番下手な男だぞ?

 

「いや牧、それは無いだろ。」

「わかんねぇだろ。高砂を見てみろよ。岡本先輩じゃなくてこいつがユニフォームを着てる。実力があっても練習をサボりがちだった岡本先輩じゃなく、常に上を目指していた高砂がな。」

「確かに牧の言う通りだけど、少なくとも高砂には身長っていう大きなアドバンテージがある。牧みたいな身体能力も高砂みたいな身長も無い俺とは違うよ。」

 

俺がそう言うと牧にバシッと背中を叩かれた。

 

「謙遜はいいが自分を卑下するのは止めろ。俺はお前を尊敬してるんだ。俺には無いロングシュートって武器を持ってるお前をな。」

 

牧が俺を尊敬?嘘だろ?

 

「宮を尊敬してるのは俺だけじゃないぜ。高砂もだ。なぁ?」

「あぁ。」

 

高砂まで?本当かよ?

 

「多分俺が宮益の立場なら心が折れてる。練習で誰にも勝てないとか想像もしたくない。」

「いや、中学の頃からそんな感じだったし……。強豪の海南に入れば何か変わるんじゃないかってそう思って……。」

 

俺は昔から不器用で下手くそだった。中学の頃は同級生や後輩にだって見下されてきた。

 

それでも俺は本気でバスケが好きだから続けてきた。もっと上手くなりたかったから、本気で勉強をして海南に入学したんだ。

 

「変わったじゃねぇか。3Pシュートって立派な武器を手に入れた。」

「けどそれはまだ確率が……。」

「そんなもんこれからも練習を続けてけば良くなってくる。そうだろ?」

 

認められた。その事が俺の目頭を熱くする。

 

「うおっ!?なんだよ宮、おい高砂、どうすりゃいいんだ?」

「俺に聞くなよ。お前が泣かせたんだろ?」

「俺か!?」

 

バスケを続けて良かった。海南バスケ部に入って良かった。

 

だって俺は前よりもずっと……バスケが好きになれたんだから……。




次の投稿は9:00の予定です。


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第57話『藤真代理監督』

本日投稿2話目です。


side:藤真健司

 

 

ウインターカップ神奈川予選の決勝リーグ初戦の日がやって来た。

 

今日からは翔陽に正式な監督が来るか、三渕監督が復帰するまで俺がチームを率いらなければならない。

 

もちろん翔陽を背負う重圧を感じる。だがそれを闘志に変えなければこの先を戦っていけないのも確かだ。頑張ろう。

 

幸いにも……というのはあれだが初戦の相手は湘北だ。

 

予選トーナメントの間に三渕監督と話していたが、湘北は白星を落としても構わない相手だ。

 

故にここで実戦でのチームの采配にある程度慣れて、勝ちを取りに行く海南や陵南に備えたい。

 

さて、湘北が何故白星を落としても構わない相手なのかというと……湘北の取っている戦術及び、その戦術の要となっている三井への対応策がうちにはないからだ。

 

現在の日本の高校バスケ……というよりはバスケというスポーツそのものの戦術の9割は、ミドルレンジから内で勝負するものだった。

 

理由は単純でそれが最も勝率が高いからだ。

 

しかしその主流の戦術に反してミドルレンジより外、つまりロングレンジを戦術として取り入れて勝利に繋げているチームがいる。それが湘北だ。

 

主流の戦術ではない。つまりその戦術に対する経験値が少ないという事でもある。だから対応策を打てない……と言いたいが、並みのチームが湘北と同じ戦術を取ったのなら、ボックスワン等のフォーメーションで対応出来るだろう。

 

湘北の厄介なところはエース級の選手……それも全国大会でMVPを取るようなトップエースの選手である三井がロングシュートを撃てるところなんだ。

 

これまでロングシュートというのは俺の様に身長が低めな選手、あるいは他の選手と比べて身体能力に劣る選手が生き残りを賭けて身に付けるのが普通だった。

 

だが、そこに三井寿という選手が現れた。

 

現在の三井は180cmオーバーと日本人としては恵まれた身長に加え、全国レベルで渡り合える身体能力に、天才と認めざるを得ない程のバスケセンスまで持っている。

 

その上で大会を通して3Pシュートの成功率が4割を超える程の3Pシュート能力まである。

 

……こうして三井の特長を列挙すると、改めてどう対応をすればいいのかわからなくなるな。

 

そこで俺は三渕監督と考えた。対応出来ないのなら対応しなければいいと。

 

湘北戦で俺達が対応すべきは三井以外の選手。特にCの赤木だ。

 

湘北は三井が引っ張り赤木が支える形のチームと言っても過言じゃない。つまり湘北の支えである赤木を抑えることで、三井個人ではなく湘北というチームそのものの弱体を図ろうとしているんだ。

 

これは奇しくも夏のインターハイ神奈川予選決勝リーグでの試合と似た構図になるが、今回はあれを意図的に行おうというわけだ。

 

湘北は既に弱小とは呼べないチームだが、強豪と呼ぶにはまだ経験が浅いチームだ。その経験の浅さこそが今の湘北の唯一とも言える隙なんだ。三井や赤木が全国を経験したからといって、そう簡単にその経験をチームに浸透させられるもんじゃないからな。

 

瞑想を止めて目を開けた俺は立ち上がる。

 

「さて、行くか。阿久井さん達が待ってる。」

 

控え室を出た俺はチームの皆が待っているコートに足を運ぶ。

 

するとそこにはしっかりと汗を流し身体を温め終えていた頼もしい仲間達の姿があったのだった。




これで本日の投稿は終わりです。

また来週お会いしましょう。


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第58話『三井の気付きと赤木の立ち返り』

本日は1話投稿します。


side:三井寿

 

 

ウインターカップ神奈川予選の決勝リーグが始まった。

 

今日の相手は翔陽だ。

 

安西先生から聞いた話だが、翔陽の監督が倒れたらしい。そのため翔陽は決勝リーグを監督不在の状態で戦い抜かなくてはならないそうだ。

 

同情はするが試合で容赦するつもりはない。それは本気で向かってくる相手に失礼だからな。

 

さぁ、挨拶が終わって試合開始だ。

 

ジャンプボールを赤木が制して俺達の攻撃から。そして長瀬さんからボールを貰って翔陽の動きを見て違和感を感じる。

 

(外への意識が薄い?)

 

違和感の正体を確かめるべく、俺は3Pシュートではなくミドルレンジからのジャンプシュートを選択した。

 

中に切り込んでジャンプシュートを撃つ。すると翔陽の選手の一人が赤木とリバウンド争いをしている阿久井さんのフォローに走ったのが見えた。

 

「なるほど、そういうことか。」

 

ジャンプシュートが決まると俺はそう呟いた。

 

今のやり取りで翔陽がやろうとしてることがなんとなくわかった。

 

おそらく翔陽はこの試合でインサイドを重視……特に赤木を崩すことを考えたんだろう。

 

赤木は既にCとして神奈川でも有数の選手だが、まだ1年ということもあって経験は浅い。故に崩せる可能性が高いと踏んだのかもな。

 

試合は一進一退の状態で進んでいくが、試合の主導権は翔陽の方に若干傾いている。

 

そんな状況で前半残り12分になると、安西先生がタイムアウトを取った。

 

「三井君、前半の残りはPFとしてプレーしてください。」

「はい!」

 

PF……インサイドを中心にプレーするポジションだ。

 

その意図するところは……。

 

俺は赤木をチラリと見る。

 

「上島君と長谷君を交代します。長谷君、三井君が中に行く分、積極的に外から撃ってください。」

「はい!」

 

ここで木暮じゃなく長谷さんか……。

 

3Pシュート能力だけでみたら木暮が上だが、総合的にみたら長谷さんが上だ。

 

俺が外にいれば注意が分散するから木暮でもフリーになれるが、翔陽クラスになると木暮じゃまだ一人でマークを振り切るのは難しいからな。

 

ここで長谷さんを投入するのは流石の采配だぜ。

 

 

 

 

side:赤木剛憲

 

 

タイムアウトが終わり試合が再開した。三井が外にいないことに違和感を感じる。

 

だがそれ以上に三井がインサイドに来た意味を考えると……いかん、今は試合に集中しなくては。

 

フリーになった長谷さんが長瀬さんからパスを貰い3Pシュートを撃つ。

 

ボールの落下点を予測しポジションにつこうとしたら、そこには既にスクリーンを掛けて阿久井さんを抑えこんでいる三井の姿があった。

 

早い。ボールの落下点の予測の早さが、Cを専門としている俺や阿久井さんよりもずっと早い。相変わらずとんでもないバスケセンスだ。

 

長谷さんの3Pシュートが外れてボールが落下してくる。

 

ベストポジションでベストタイミングで飛んだ三井がリバウンドを制する。

 

俺や阿久井さんよりも背が低い三井がリバウンドを制した事実にCとしてのプライドが傷付くが、それ以上に三井の動きが勉強になることに気付いた。

 

……思えばこうして間近で三井の動きを観察した事はあまりなかったな。

 

居残り練習で三井とゴール下争いをした事は多々あるが、その時はいつもガムシャラだった。

 

猪狩さんが三井とゴール下争いをしている時も、俺は自分のプレーを見直すので精一杯だ。

 

三井が中に来て楽になった分、観察出来る余裕はある。

 

この際だ。試合中だが学べるところは学ぼう。

 

先程のリバウンド以降もプレーをしながら三井の動きを観察しているが、なにか特別な事をしているわけじゃなかった。

 

基本に忠実に、それでいて早く正確に。

 

(基本に忠実、早く正確に。)

 

前半残り3分というところで訪れたオフェンスリバウンドの機会で、俺は一早く落下点につけた。

 

(阿久井さんが相手でも、例え兼田さんが相手でもやるべき事は変わらない。)

 

しっかりとベストポジションをキープした俺はリバウンド争いを制した。

 

(そして……相手が複数であろうともだ!)

 

翔陽の選手の一人が阿久井さんのカバーに来ていたが、ガッチリとボールを両手でホールドし脇に抱える様にして奪わせない。

 

そして……。

 

「うおぉぉぉおおお!」

 

機を見て飛び上がりダンクを叩き込むと、自然と雄叫びを上げてしまったのだった。

 

「やれば出来るじゃねぇか。」

 

着地した俺に三井がそう言いながら軽く胸に拳を当ててくる。

 

「それじゃ赤木、ゴール下は任せたぜ。」

 

そう言ってディフェンスに戻っていく三井の姿に、俺の中から何かが込み上げてくるのを感じる。

 

「……おうっ!」

 

そして込み上げてくるものに押されるようにして返事をした俺は、走ってディフェンスに戻るのだった。




これで本日の投稿は終わりです。

ちょっとスランプになっております。しばらくは週1で1話の投稿をお許しください。

また来週お会いしましょう。


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第59話『代理監督の第一歩』

本日も1話の投稿です。


side:藤真健司

 

 

前半は点差的には五分で終わったが、状況的にはあまり良くないと言える。

 

まさか三井があそこまでゴール下でのプレーが出来るとは……。

 

こちらの思惑は赤木を崩すことで三井以外のメンバーの動きも崩すことだった。だがその思惑も三井のプレーで赤木が立ち直る……いや、あれは立ち直るどころか一皮剥けてしまったな。

 

この状況から勝ちに結びつけるには俺が出る方がいいが……どうする?

 

「藤真。」

 

阿久井さんの声に顔を上げる。

 

「前に言った筈だ。俺達3年のことは気にするなと。翔陽の明日に繋がる采配をしろ。」

 

阿久井さんの言葉がありがたい。

 

俺もいい加減に腹を括らないとな。

 

「わかりました。作戦に変更は無し。後半もこのまま行きます。」

「そうだ。それでいい。」

 

「ですが、足が止まってきたら容赦なく交代しますからね。」

「ハハハ、了解だ。お前ら、死ぬ気で足を動かせよ!」

「「「おぉっ!」」

 

正直に言えば選手としてコートに立つ方がずっと楽だと感じる。

 

けどチームを動かすことの楽しさも少し感じ始めてきた。これは三井や牧も知らない楽しさだろう。

 

俺は自分が出たい欲求を抑えてベンチに座るのだった。

 

 

 

 

side:三井寿

 

 

後半が始まった。翔陽の動きは前半とそう変わらない。なんでだ?

 

それに藤真も出てこない。あいつが出れば翔陽の動きにリズムが出るだけじゃなく外からも……もしかしてそれか?

 

翔陽はなんらかの理由があって外を見せたくない。おそらくは次の海南を意識してるんだろうが……。

 

俺はチラリと翔陽ベンチにいる藤真に目を向ける。

 

すると藤真は拳を握り締めて何かを堪えていた。

 

……急に監督不在になった以上、いつも通りとはいかないか。

 

翔陽の置かれた状況に同情はするが手は抜かない。むしろ手を抜くのは翔陽に対する侮辱だ。だから全力を尽くす。

 

後半の時間が過ぎていくに連れて湘北と翔陽の点差が徐々に広がっていく。

 

これは前半の内に赤木のプレーが安定してくれたのが大きいな。

 

藤真という優秀なPGがいない分をカバーしようと翔陽の選手達は足を動かすが、俺達湘北が優勢のままだ。

 

翔陽ベンチが動いてフレッシュな選手を投入するが、試合の流れは変わらないまま試合が終了。俺達湘北が白星を上げたのだった。

 

 

 

 

side:藤真健司

 

 

悔しい。もしかしたら選手としてプレーをしてコートの上で負けを実感する以上に悔しいかもしれない。

 

けどこれを糧にして成長をしなければ、俺に託してくれた監督や先輩達に顔向けが出来ない。

 

顔を上げろ、前を向け、藤真健司。

 

さぁ、帰ってビデオを見返して反省だ。

 

そして一歩でも、半歩でも前に進め。成長しろ。

 

それが翔陽の明日に繋がるんだから……。

 

俺は流れる涙を腕で乱暴に拭うとゆっくりと歩き始めたのだった。




これで本日の投稿は終わりです。

それとしばらく投稿をお休みさせていただきます。

ガチでスランプで話が中々書けない状態に陥っています。

それに伴いメンタルもやられ気味です。

なのでちょっとお休みして気分をリフレッシュさせてください。

執筆再開は活動報告にて報告させていただきます。


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第60話『神奈川王者の敗北』

お久しぶりです。

本日の投稿は1話のみです。


side:三井寿

 

 

翔陽に勝利して迎えた2戦目の陵南戦は、終始俺達が優勢のまま勝利した。

 

陵南も不動のCである魚住を中心に奮闘したが、今の俺達と戦うにはハッキリ言ってオフェンスが物足りない。

 

だが陵南というチームの土台はしっかりしてきているので、田岡監督は来年の新戦力に期待ってところだろうな。

 

さて、俺達の試合の後に海南と翔陽の試合が始まったんだが、驚くことに試合が進むに連れて翔陽が優勢になっていっている。

 

その原因は翔陽の戦術にあった。

 

翔陽はオフェンス時には外を藤真一人に任せ、残り四人で徹底して中を固めた。

 

俺達との試合でやった戦術に藤真の3Pシュートという飛び道具を加えたこの戦術は、外がほとんどない海南との試合で大きな効果を発揮している。

 

翔陽は牧をなかなか止められないが2点なら良しと割り切り、バスケットカウントを取られない様に丁寧にディフェンスをする。そして攻守に渡って兼田さんを潰しに掛かった。

 

兼田さんも奮闘をしているが常にダブルチーム以上の人数を相手に苦戦をしている。

 

これは兼田さんが赤木より下なんじゃなく、二人の選手としての特性の差が出ているからだな。

 

最近の赤木はベビーフックを始めとして色々と技術を身に付けてきたが元々パワータイプのCだ。だからダブルチームがついても、ある程度はパワープレーで対応が出来る。

 

対して兼田さんは生粋のテクニックタイプのCだ。1対1でのゴール下争いは全国でも間違いなくトップクラスだが、ダブルチームに抗うには少々パワー不足なんだ。

 

それでもそれなりの確率でリバウンドを取れている兼田さんは流石と言える。けどこのままじゃジリ貧だな。

 

慣れないパワープレーの連続で兼田さんの消耗が早い。

 

「宮益がいればまた違ったんだろうが……」

「そうだね。宮益君がいればかなり楽になったと思う」

 

美和の相槌に頷く。

 

翔陽の作戦は海南に外が無いことを前提にしたものだ。

 

だからまだ3Pシュートの成功率がそれほど高くない宮益でも、コートにいるだけで十分に牽制になる。けど宮益はベンチ入りすらしていない。

 

「あるいは高砂を入れてダブルCに……いや、それは悪手か」

「高砂君はまだ経験が浅いからねぇ」

 

美和の言う通りに高砂は経験が浅い。

 

リバウンド争いをする分には兼田さんの助けになるだろうが、それ以外で兼田さんがフォローに回る分だけ消耗してしまう。

 

ならばいっそ今の自分のプレーに集中出来る状態の方がマシだ。

 

一応他の海南の選手が兼田さんのフォローにいこうとするんだが、慣れていないせいかどうしても翔陽のプレーに一歩遅れちまう。

 

兼田さんは全国でもトップクラスのCだ。ゴール下を任せられるだけの信頼がある。だからこそこういう展開を想定して練習をしておくべきなんだろうが…少なくとも、県内じゃそうする必要がなかった程に兼田さんの実力は飛び抜けていたんだろうな。

 

それにしても牧は流石だ。

 

兼田さんがリバウンド争いに苦戦することが影響して他の海南の選手がシュート成功率を落としている中で、ただ一人気を吐き続けているんだから。

 

牧がいなかったらこの試合は翔陽が圧倒してただろうよ。

 

だが……

 

「海南の粘りもここまでか」

 

試合残り5分のところでついに兼田さんの息が完全に上がってしまった。

 

慣れないパワープレーでここまで粘れたことは素直に称賛するが、それでも翔陽の執拗な潰しに抗いきることは出来なかった。

 

その後は兼田さんの代わりに高砂が出てきたが、高砂では翔陽を相手にするにはまだ色々と足りない。

 

試合の形勢は完全に翔陽に傾いた。

 

だがそんな中で勝利を諦めない牧が奮闘している。

 

牧のプレーを見ているとあるいはと思ってしまうが、強豪の翔陽もさるものでしっかりと勝ち方を心得ていた。

 

最後のワンプレーまで諦めず奮闘した牧だが届かず、試合は翔陽が勝利したのだった。




これで本日の投稿は終わりです。

また来週お会いしましょう。


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第61話『神奈川王者の勝利への執念』

本日も1話投稿します。


side:三井寿

 

 

海南と翔陽が1勝1敗で迎えた決勝リーグの最終戦、2勝で最終戦を迎えた湘北を含めた3チームが全国に行くために勝利を求める形となった。

 

陵南にもまだ全国に行ける可能性は残っているが、ハッキリ言って厳しいと言わざるを得ない。

 

さて、俺達湘北の決勝リーグ最終戦の相手は神奈川王者の海南だ。

 

先ず海南が全国に行くためには勝利が必要というだけでなく、翔陽が陵南に勝利した時の事を考えて可能な限り得失点差をプラスにしなければならない。つまりうちを相手にリスクを背負ってでも攻勢に出続けなければならないんだ。

 

逆にうちはリスクを背負ってくる海南を相手に堅実に勝利を目指せばいい状況だが、安西先生はそれをよしとしなかった。

 

「まずは真っ向勝負といきましょう。そして勝ち、全国へ」

 

全国……この響きが俺達を奮い立たせる。

 

「行くぞっ!」

「「「おぉっ!」」」

 

長瀬さんの号令に応えコートに入るのだった。

 

 

 

 

side:三井寿

 

 

試合開始のジャンプボールを制したのは兼田さんだった。

 

3年生にとっては引退が掛かった崖っぷちの試合。どうやら今日の兼田さんは気合いの乗りが違うみたいだ。

 

そんな事を考えながら牧のマークにつく。

 

「ふっ!」

 

鋭く息を吐いた牧が仕掛けてくる。

 

危うく置いていかれそうになる程のキレのある動きに驚くが、それでもそう簡単には抜かせないぜ。

 

一度足を止めた牧がチェンジオブペースを使ってもう一度抜きにくるが、それにも対応する。

 

だが牧は目敏くコースを見つけ出すと、中にいる兼田さんにパスを通した。

 

すると……

 

「オォッ!」

 

兼田さんにしては珍しく、強引にダンクを決めてきた。

 

ブロックに跳んでいた赤木がコートに尻もちをつきながら驚いている。

 

更に驚くことに今のプレーでバスケットカウントを取られた。

 

兼田さんが落ち着いてフリースローを決めた後、俺は赤木に声を掛ける。

 

「赤木、わかってるか?」

「……あぁ、兼田さんらしくない強引さだ」

 

赤木の言葉に俺は頷く。

 

「勝利のためにガムシャラになってる。気をつけろよ。以前までの兼田さんじゃねぇぞ」

「あぁ」

 

離れながら考えていく。

 

おそらく兼田さんは狙ってバスケットカウントを貰いにいった。

 

この理由は海南に外が無いからだろうな。

 

俺や木暮、そして長谷さんの3Pシュートへの対抗策として、赤木を潰しつつ更にバスケットカウントで得点も狙っていく。

 

赤木も兼田さんとゴール下で渡り合える様になってきたが、ああいう駆け引きの経験はまだまだ浅い。

 

そんな赤木がファールトラブルに見舞われたら?一応控えに猪狩さんがいるが、湘北のゴール下はガタガタになるだろう。

 

だからといって赤木にファールに気を付ける様に言ってあいつのプレーが消極的になれば、ゴール下は兼田さんの独壇場になっちまう。

 

高頭監督の指示かどうかはわからないが、嫌なところを攻めてくるもんだぜ。

 

俺は海南のメンバーに目を向ける。

 

王者としての貫禄なんざくそ食らえ、そんなことよりも勝利をって感じの目をしてやがる。

 

「上等だ。お前らを倒して、全国に行かせてもらうぜ」

 

俺は長瀬さんからボールを貰うと、集中を高めて牧と対峙するのだった。

 

 

 

 

side:三井寿

 

 

前半が終わってスコアは五分なんだが、状況はあまり良くねぇな。赤木が既に3つファールをしちまっているのが痛い。

 

バスケは5ファールで退場だ。つまり赤木は後1つファールをしたらリーチだ。

 

そしてそうなったらベンチに下がって勝負所まで温存ってのがお決まりだな。

 

けど海南相手にそうなったらジワジワと点差が広がっていって、勝負所が来る前に試合が決まっちまう可能性が高い。うちと海南のチーム力の差はスタメンはともかく、ベンチも合わせたらまだまだあるからな。

 

そのことは赤木も理解してるんだろうが、赤木の今の実力じゃファールをしないように気をつけて積極性を失えば兼田さんには勝てない。

 

だからこれも必然なんだろう。

 

後半開始早々に赤木がまたファールを取られた。これで4ファール。流石に安西先生もベンチを立ち上がってタイムアウトを取った。

 

兼田さんがバスケットカウントも決めて点差は5点。スコア的にはまだまだ戦える状況だが、チームの雰囲気は良くねぇ。

 

「少しフォーメーションを変更します」

 

「赤木君と猪狩君を交代します。そして木暮君と上島君も交代です。猪狩君、倉石君と協力して兼田君を抑えてください。長瀬君、上島君と二人で周囲のフォローを」

 

そう言って安西先生が戦術ボードに示したのは、翔陽が海南にやった戦術に酷似したものだった。

 

なるほど、Cの猪狩さんに加えてディフェンスの上手い倉石の二人で兼田さんに対応し、瞬発力のある長瀬さんと運動量のある上島さんがフォローに回るのか。

 

オフェンス力は下がるが、チームを立て直すにはこれが最善だな。

 

「そして三井君、牧君の事は頼みましたよ?」

「はいっ!」

 

これはディフェンスの事だけじゃなくオフェンスの事も含めた指示……そう受け止めるべきだな。

 

タイムアウトが終わってコートに戻ると、海南メンバー全員が俺を見てくる。

 

「はっ、燃えてくるじゃねぇか」

 

湘北はまだ戦える。勝てる。その事をこれから証明してやるぜ!




これで本日の投稿は終わりです。

また来週お会いしましょう。


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第62話『海南のエースと湘北のエース』

本日も投稿は1話です。


side:牧紳一

 

 

兼田さんの仕掛けで後半早々に赤木を潰せたが、俺にとってはここからが本番だ。

 

ウインターカップはインターハイと違って全国に行けるのは基本的に1チームのみ。だからこそ俺達が全国に行くにはここで湘北に勝つのが最低条件だ。

 

タイムアウトが終わると湘北は予想通りに翔陽と同じ戦術を使ってきた。

 

翔陽に負けた後、今日まで俺達は少ない時間ながらこの戦術に対応するために練習をしたが、正直に言って完璧とは言い難い。高頭監督も今の対海南の戦術としてお手本と言える翔陽の戦術に頭を抱えた程だ。

 

現状出来る対応策として俺と兼田さんがバスケットカウントを貰うように攻めるのが最善なんだが、それでもやはり外が無いのがネックになっている。

 

来年には宮がユニフォームを着て外を補ってくれるだろうがな……。

 

さて、この試合俺達が勝つには今俺の目の前にいる男……三井をどうにかしなければならない。

 

3Pシュート能力は間違いなく日本一、そしてその他の能力も全国トップクラスだ。

 

俺個人としてはそんな三井との勝負は大歓迎だが、チームとしては厄介としか言いようがないだろう。

 

さて、どうしたものか?

 

実は前半の仕掛けていた時、俺は何度も三井からファールを貰おうとしたが、奴から取れたファールは1回だけだ。しかもその後直ぐにファールを取り返されている。

 

まだ慣れていないスタイルだが、こうも簡単に対応されると笑いそうになるぜ。

 

三井が仕掛けてきた……っ!?

 

「ちぃっ!」

 

1歩踏み出すフェイントを掛けてきた三井はその後にレッグスルー、そしてそのまま3Pシュートを撃ってきた。

 

俺は目一杯手を伸ばし跳んでブロックしようとしたがボールに触れられなかった。

 

振り返ってボールの行方を追うと、ボールはスウィッシュでリングに吸い込まれていった。

 

赤木が抜けた後の大事な立ち上がりで、こうも簡単に3Pシュートを決められるとはな。

 

いや、こういう場面でこそ力を発揮するのが三井なんだ。

 

俺が目を向けると三井は不敵に笑いやがった。

 

「……このやろう」

「赤木をベンチに下げられちまったからな。そのお返しでとりあえずは1本ってとこだ」

 

そう言って自陣に戻っていく三井の背中を見た俺は闘志を燃やすのだった。

 

 

 

 

side:仙道彰

 

 

「おっ?いいな、あれ」

 

三井さんがやったレッグスルーからの3Pシュートに俺は感嘆の声を上げる。

 

「こうか?」

 

頭の中で動きをイメージしてみると、やはりいいと思えるプレーだ。

 

「よし、今のもらい」

 

帰ったら練習をしようと心に決めると、俺は頬杖をついて試合を眺める。

 

「……早く高校生になりたいな」

 

高いレベルで鎬を削り合う三井さんと牧さんを見た俺は、心の底から羨ましいと思ったのだった。




これで本日の投稿は終わりです。

また来週お会いしましょう。


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第63話『執念』

本日も1話の投稿です。


side:三井寿

 

翔陽が使った戦術を安西先生がアレンジした戦術は海南に対して有効だった。チーム全体で見たらまだ海南に劣る湘北が渡り合えているんだからな。戦術の大事さを改めて認識したぜ。

 

もっとも海南も対策をしてきていたのか翔陽との試合の時よりも連携がいい。おかげで完全には試合の流れを掌握出来ずにいる。

 

故に試合は俺と牧の勝負次第といった感じになりつつあった。

 

「ふっ!」

 

牧に仕掛け1歩だけ抜け出す。立ち止まってシュートフェイクを入れると牧が跳んだのが視界に入る。

 

ワンテンポ遅らせて3Pシュートを撃ったが、牧は咄嗟に上体を反らしてファールを避けた。

 

ちっ、そう簡単にはバスケットカウントを取れねぇか。だが問題はねぇ。この3Pは入る。

 

ボールがネットを潜る音を耳にディフェンスに戻ると、牧がボールを手に戦意旺盛な目を向けてくる。

 

そこからは湘北が優位に試合を進めていくと後半も残り半分というところでスコアは湘北が上になっていたが、状況としては海南が優勢になりつつあった。

 

理由はチーム力の差だ。

 

うちが翔陽の戦術を取った結果、インサイドでほとんどの選手がバチバチに争うことになったんだが、そうなると選手の消耗も早い。

 

すると海南の高頭監督は消耗した選手を直ぐにフレッシュな選手と交代してくる。

 

安西先生もなんとか遣り繰りするんだがどうしても湘北が苦しい状況が続いていった。

 

そして後半残り4分、俺も含めて湘北の選手が消耗するとスコアは海南に逆転された。すると安西先生が最後のタイムアウトを取った。

 

「赤木君、準備は出来ていますか?」

「はい!」

「では、兼田君と全力でぶつかってきてください。」

 

満を持しての赤木の投入だ。チームの士気が上がる。

 

試合が再開されると赤木は今まで見たことがない程の集中力をみせた。それこそベンチに下がる前が嘘の様に兼田さんと互角……いや、それ以上のパフォーマンスを発揮していった。

 

だが後半残り1分になろうとした時、ピッ!と審判の笛が鳴り赤木は退場となってしまった。

 

コートに戻ってからの3分間、確かに赤木は兼田さんを上回ってみせたが、土壇場で見せた兼田さんの強かさに軍配が上がった形だ。

 

試合は残り1分を切ったが、赤木の奮闘のおかげで2点差まで追いついていた。

 

「長瀬さん!」

「三井、頼む!」

 

パスを受け取り3Pシュートを撃つ……決まった!残り32秒で1点こっちがリード!

 

牧がじっくりと時間を使ってくる。この冷静さは流石だな。……きたっ!

 

牧のドリブルを止めるようとするが体力の消耗が激しく思った様に身体が動かない。牧は半歩抜け出すと兼田さんにパスを出す。その瞬間、俺は自陣に背を向けて動かない足を懸命に動かした。

 

「おおっ!」

 

兼田さんの雄叫びが聞こえる。ゴールを決めたんだろう。

 

残り3秒で逆転されたが俺は諦めない。

 

「みっちゃん!」

 

倉石の声に振り返るとボールが飛んでくる。

 

ナイスだ倉石。よく気付いてくれた。

 

ハーフラインを越えたところでボールを受け取った俺はそのままシュートモーションに入って3Pシュートを撃つ。

 

ボールが手から離れた瞬間、手を伸ばして跳んできた牧の姿が視界に入った。手首の返し、リリースの感覚共に完璧だった。入ると確信する完璧な3Pシュートだった。

 

だが……。

 

ブザーと共にガッとリングにぶつかったボールは無情にもリングの外に落ちたのだった。




これで本日の投稿は終わりです。

また来週お会いしましょう。


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第64話『ウインターカップ決着』

本日も1話の投稿です。


side:三井寿

 

 

「……触ってたのか?」

 

そう問い掛けると牧は右手を見せてくる。

 

牧の右手の中指の爪からは血が滲んでいた。

 

最後の最後……土壇場で牧に止められちまったか。

 

「……俺もまだまだだな」

 

負けちまったのは悔しい。だが反省するのは後だ。先ずは整列して挨拶しねぇとな。

 

 

 

 

side:牧紳一

 

 

湘北との試合が終わり着替えると、俺達は翔陽と陵南の試合を見学するために移動して腰を下ろした。

 

「まだまだ……か」

「うん?どうしたんだ、牧?」

 

試合後ということもあって俺の荷物を持ってくれた宮が隣に座っているんだが、その宮に一人言を聞かれてしまった。

 

「試合が終わった直後に三井が言ってたのさ。俺もまだまだだなってな」

「……なんか、三井らしいな」

「あぁ、そうだな」

 

負けの言い訳を他に求めず己の未熟を認める様は実に三井らしい。

 

「他人事じゃないぞ」

「監督……」

 

宮と反対側の隣に座っている高頭監督の言葉に顔を向ける。

 

「海南のウインターカップは終わってしまったが、だからこそ次に向かって進まなければならん。足りぬを知り、認め、励む。これはお前達にも必要な事だ」

 

海南の皆が監督の言葉に頷く。

 

湘北との試合には勝ったが、得失点差で俺達は湘北に負けているので全国行きは途絶えている。

 

まぁ、湘北も全国に行けるかは翔陽と陵南の試合の結果次第だがな。

 

「さぁ、全員よく翔陽の戦いを見るんだ。彼等の戦術を破らねば、海南が神奈川王者に返り咲くことはない」

 

 

 

 

side:三井寿

 

 

海南との試合が終わった後、ミーティングを終えた俺達は翔陽と陵南の試合を見学していた。

 

俺達が全国に行ける条件は陵南が翔陽に勝つか、翔陽が勝っても得失点差で俺達が上回っているかだ。

 

翔陽は俺達が海南に1点差で負けたのもあって陵南を圧倒して勝たなきゃならねぇが、どうやらその事はある程度折り込み済みだったようだ。翔陽の動きに焦りが見えねぇからな。

 

「魚住君が仕事をさせてもらえないね」

 

美和の言葉に頷く。

 

翔陽は魚住のベビーフックを止められないが、それ以外ではほぼ完璧といっていい程に魚住を封じ込めている。

 

あれほど執拗に潰しにこられたら並みの選手ならどこかで集中が切れてもおかしくないんだが、魚住は高い集中を保ったまま今の自分に出来ることを続けている。

 

だがキーマンである魚住が封じ込められていることで陵南のリズムがよくない。決定的な崩壊はしていないのは称賛ものだが、点差はズルズルと広がっていっている。

 

こういう局面を打開するにはある程度個人の力が必要だ。しかし今の陵南にはそれがない。

 

試合時間が過ぎていくに連れて翔陽と陵南の点差が広がっていく。それでも戦意を失わず戦い続ける陵南の姿に会場から拍手が沸き上がる。

 

そして試合が終わると翔陽は得失点差で俺達を上回って全国行きの切符を手にした。

 

「今回は翔陽のクレバーさにしてやられましたね」

 

安西先生の発する言葉に湘北の皆が耳を傾ける。

 

「ですが君達は確実に強くなっています。そしてこれからも強くなっていきます。さぁ、胸を張って表彰式に出ましょう」

 

表彰式で俺は得点王とベスト5に選出された。だがもっとも欲しかった優勝を手にする事は出来なかったがな。

 

MVPには兼田さんが選ばれた。予選トーナメントにはほとんど出場してなかったが、決勝リーグではMVPに相応しい活躍をしていたからな。この選出に不満はない。

 

ベスト5にも選出されているし兼田さんに相応しい有終の美だ。

 

アシスト王には牧が、ベスト5のPGには藤真が選ばれている。

 

アシスト数については藤真は俺達との試合に出てないからな。その分だけ牧と差がついた感じだ。

 

そして藤真がベスト5に選ばれた理由だが……おそらくは司令塔としてチームを優勝に導いた事が評価されての選出だろう。

 

こうして俺達のウインターカップは終わった。

 

だがこの終わりは来年に向けての始まりでもある。

 

次こそは全国に。そして……全国制覇だ!




これで本日の投稿は終わりです。

また来週お会いしましょう。


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第65話『告白』

本日も1話の投稿です。


side:赤木美和

 

 

ウインターカップは残念な結果に終わっちゃったけど、乙女としてはまだ大事なイベントが残っているわ。

 

12月も終盤、街中がイルミネーションで彩られている時期……そう!クリスマス!私は勝負をかけるわ!寿君に告白するの!

 

「う~ん……大丈夫かなぁ?」

「大丈夫!バッチリ決まってるよ美和お従姉ちゃん!」

 

晴子ちゃんの言葉にお母さんと叔母さんも笑顔で頷く。

 

「ほら!お兄ちゃんも何か言ってあげて!」

「うん?あぁ、近々壮行会代わりに翔陽との練習試合があるからな。あまり三井を連れ回して疲れさせるなよ」

「もう!お兄ちゃん!ちゃんと応援しないとダメだよ!」

 

剛憲の言う通りに近々翔陽の全国壮行会代わりに練習試合があるわ。

 

その練習試合は湘北、海南、陵南の合同チーム対翔陽で行われる予定よ。正に神奈川高校バスケ選抜とも言えるチームでの激励ね。

 

それはともかく……今日の告白を絶対に成功させなきゃ!

 

もう本当に最近は寿君のファンが増えきてるのよねぇ……。

 

ルックス良し、バスケの実力良しで同年代の女子受けは抜群。まぁ、剛憲や木暮君に倉石君もそれなりにモテてきているけど、寿君と比べたら周囲は静かなものだわ。

 

「それじゃ行ってくるわ!」

「行ってらっしゃい、美和お従姉ちゃん!」

「「頑張るのよ~」」

「……まだ1時間前だぞ」

 

晴子ちゃんにお母さんと叔母さんの激励を、そして呆れた様な剛憲の声を背に私は出陣をしたわ。

 

「……40分前、ちょっと早かったかな?」

 

そう思ったんだけど、寿君は5分後にやって来た。

 

「おう美和、待たせて悪かったな」

「そんなに待ってないよ。思ったよりもずっと早かったわ」

「母さんに最低でも30分前にいるのが礼儀とか言われて追い出されてな」

 

ほほう、お養母様からの援護と……これは是が非でも成功させなくちゃ!

 

「それじゃ、ちょっと早いけど行こっか」

「おう」

 

こうして始まった寿君とのクリスマスデート。周囲のカップルの雰囲気が私を後押ししてくれている気がするわ。

 

まぁ、立ち寄ったお店の女性従業員からは怨念を感じた気がするけど気のせいよね。うん、気のせいだわ。気にしたら負けよ。

 

長くも短く感じるクリスマスデートも終盤、私と寿君はファミレスに入って夕食を食べ始める。

 

「あっ、寿君。これプレゼント」

 

そう言って私は包装してある紙袋を渡す。

 

「開けていいか?」

「どうぞどうぞ」

 

私が用意したプレゼント、それは……。

 

「サポーター?」

 

そう、私が用意したのは膝用のサポーターなのだ。

 

「寿君の最後まで諦めない闘志と湘北の色ということで赤をチョイスしてみました」

「おぉ、いいじゃねぇか。ありがとな美和」

 

いえいえ、寿君のその笑顔がなによりのお礼ですとも。

 

……ハッ!?いけないいけない、幸せ過ぎて告白を忘れるところだったわ。

 

「美和、俺からもだ」

 

そう言って寿君が包装された紙袋を渡してくる。嬉しくて歓声を上げそうになるのをグッと堪えながら受け取る。

 

「開けていい?」

「おう」

 

ガサガサと紙袋を開けて中の物を取り出す。

 

「サポーター?」

「あぁ」

 

寿君からのプレゼントは足首用のピンクのサポーターだった。

 

「美和は今もたまに足首を気にしてるからな。色気が無いもんで悪いが……」

「ううん、すっごい嬉しい。ありがとう、寿君」

 

ちゃんと私の事を見て選んでくれたプレゼント。色気が無いのなんて関係ないと本気で思うぐらい嬉しい。

 

「寿君」

「うん?どうした?」

「好きです。付き合ってください」

 

気が付けば告白していた。

 

晴子ちゃん達と色々と考えた告白プランが全部すっ飛んじゃうぐらい好きって気持ちが溢れた結果って感じ。

 

まぁ、この方が私らしいからいっか。

 

「あ~……知ってると思うが俺はバスケ馬鹿だ」

「うん、知ってる。それも含めて寿君が好き」

「なんだ、その……ありがとよ。けどバスケを優先しちまうから、今日みたいなデートはあんまり出来ねぇぞ」

「大丈夫、バッチこい。バスケ見るのは大好きだから」

 

NBAオタクを舐めないで。バスケを見るのはむしろ大歓迎なんだから。

 

「……俺はアメリカの大学に行くぞ」

「私も行くから問題ないよ」

 

絶対に何が何でも寿君と同じ大学に行ってみせるわ。

 

「はぁ……ここまで覚悟を見せられて応えなきゃ男じゃねぇよなぁ……わかった、こんな俺でよけりゃよろしくな、美和」

「……やったーーー!!!」

 

歓喜の声を上げて立ち上がった私に、周囲のカップルから祝福の声が掛けられる。

 

まぁ、今日もお仕事な女性従業員からは舌打ちが聞こえた気がするけど……気のせいってことにしときましょ。




これで本日の投稿は終わりです。

また来週お会いしましょう。


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第66話『陵南のエース候補』

本日も1話の投稿です。


side:三井寿

 

 

クリスマスのあの日から美和と付き合い始めたが、俺の日常に特に大きな変化は無いな。精々帰りの時に美和が腕を組んできたり、まぁ……キスの1つもしたりって程度だ。

 

さて俺のプライベートはともかく、翔陽の壮行会兼練習試合の日がやって来たんだが、その日に陵南の田岡監督がサプライズゲストを連れてきた。

 

そのゲストとは……。

 

「どーも、仙道彰です。今日はよろしくお願いしますよ、先輩方」

 

田岡監督が東京の中学から直接スカウトしてきた男、仙道彰だ。

 

「仙道は年が明けたらうちに来ることが決まっていてな。今日は1つ揉んでやってほしい」

 

田岡監督はそう言うが、仙道は揉まれる奴の目をしていない。むしろ挑戦的な目をしているぜ。

 

しかし仙道には既知感があるな。たぶん前世の俺が知ってるんだろうが、そんなもんはどうでもいい。プレーを見りゃわかることだからな。

 

練習試合前のアップで仙道の動きをそれとなく見ていく。

 

「出来る奴だな。それもかなり」

「あぁ」

 

牧の言葉に頷く。

 

「田岡監督の秘蔵っ子ってとこか?」

「陵南のエース候補なのは間違いないだろうな」

 

陵南に欠けていたものが埋まるかどうかはまだわからないが、面白くなりそうなのは確かだ。

 

 

 

 

side:仙道彰

 

 

田岡監督の誘いで今日の練習試合に参加させてもらったが、本当に来てよかった。

 

「いや、レベル高いわ」

 

一通りの練習試合に出してもらったが、俺のオフェンスはそれなりに通じた。あくまでそれなりにだけどな。

 

「一番の問題はディフェンスだな」

 

ディフェンスの練習は然程面白くなかったからそれとなく手を抜いてきていた。そのしっぺ返しが今来ている。

 

田岡監督に年明けから陵南の練習に参加していいって言ってもらってるが、こりゃ本気で参加を考えなきゃダメだな。

 

「三井さんにも牧さんにも一回も勝てなかったなぁ……」

 

ディフェンスはまだしもあの二人にはオフェンスも通じなかった。

 

「……はは、面白い」

 

あの時やりあった北沢以上に俺のバスケが通用しない。ん?北沢?沢北?どっちでもいいか。

 

「仙道、しっかりとクールダウンをしろ。こういった基本をキッチリこなせないようじゃ、到底あの二人には追い付けないぞ」

 

そう言う田岡監督の視線の先には、キッチリとクールダウンをしている三井さんと牧さんの姿があった。

 

「監督、年明けからの練習参加の件、お願いします」

「……わかった。みっちりしごいてやるから覚悟しておけ」

「望むところですよ」

 

こんなに練習がしたいと思ったのはいつ振りだ?もしかしたらバスケを始めたての頃以来かもしれない。

 

首に掛けていたタオルで汗を拭う。

 

「……必ず追い付く、いや、追い越してみせますよ。三井さん、牧さん」

 

本気で挑める相手を見付けた俺は、心の底からワクワクしたのだった。




これで本日の投稿は終わりです。

また来週お会いしましょう。


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第67話『後輩』

本日も1話の投稿です。


side:三井寿

 

 

翔陽の壮行会兼練習試合は送り出す俺達にとっても実りあるものになった。

 

翔陽が全国用に用意していた各種戦術は俺達にバスケを深く考えさせてくれ、バスケがより一層楽しく感じられる様になったぜ。

 

それにしても仙道か……。

 

センスのある奴だが、今はそれほど怖い存在じゃねぇな。

 

スコアラーとしての能力はいいが、それ以外が年相応というか並みだった。

 

パスをしない、ディフェンスは出来るが上手いわけじゃない。その上パフォーマンスにムラがある。中学時代はそれでもよかったかもしれねぇが、高校バスケはそれで通用するほど甘くないぜ?

 

もっとも、その事は仙道自身が一番良く理解したみてぇだがな。

 

翔陽の壮行会兼練習試合が終わり冬の時期特有の基礎トレ三昧の日々を送っていると、時間はあっという間に過ぎていった。

 

ウインターカップの全国大会で翔陽は3位だった。準決勝で大阪の豊玉に負け、愛知の愛和学院ってとこに3位決定戦で勝った結果だな。

 

そして翔陽に勝った豊玉は決勝で山王に敗れた。王者山王は健在……いや、更に強くなっている感じだな。

 

さて、いよいよ新年度になり俺達も進級すると新入部員達がやって来た。

 

見知った中学の後輩もいればそうじゃないのもチラホラといる。去年まで弱小と呼ばれてたと考えればかなり多い新入部員数だ。女子マネも1人来たしな。

 

「宮城リョータです。ポジションはPG……」

 

宮城に安田、角田に潮崎、そして女子マネの中原彩子は既知感があるな。まぁ、それはいい。大事なのは今のこいつらがどれぐらいやれるかだ。

 

 

 

 

side:宮城リョータ

 

 

「三井さん、1on1お願いしていいですか?」

 

入部初日、練習が終わると俺は1つ上の先輩の三井さんに1on1を申し込んだ。

 

「宮城か、受験鈍りは大丈夫か?」

「それを解すのにもお願いしますよ」

「そうか、いいぜ」

 

中学MVP……それだけじゃなく既に高校バスケでもMVPを取っている三井さん。先ずは実際に体験してみないとな。

 

(先ずは小手調べってな)

 

そう思って始めた三井さんとの1on1だったが……。

 

「ほらどうした?フリーだぞ。撃たないのか?」

「くそっ!」

 

三井さんの指摘に乗ってミドルレンジでジャンプシュートを撃つが、ボールはリングに当たって弾かれる。

 

その後も1on1とは名ばかりの三井さんの指導が続き、俺は文字通り圧倒されて負けた。

 

「クイックネスとフェイクは悪くねぇが、その他諸々が課題だな」

 

そう言って去っていく三井さんの背中は背丈以上に大きく感じた。

 

「宮城、三井さんはどうだった?」

「ズマか……」

 

中学時代の三井さんの後輩だった同じ新入部員の東隆博(あずま たかひろ)が俺に声を掛けてくる。

 

「見てたろ?手も足も出なかった」

「その割には随分と楽しそうだったけどな?」

「バーカ、やってる最中は必死だったさ」

 

ズマに連れて同じ新入部員のヤス(安田)にカク(角田)、そしてシオ(潮崎)も俺の所にやって来る。

 

「リョータも凄かったけど、三井さんはもっと凄かったなぁ」

「流石は国体MVPって感じだったよ」

「ほら宮城、立てるか?」

 

シオの手を借りて立ち上がるが、受験鈍りの足がプルプルと震えてまた座り込みそうになる。

 

「まったく、無茶しちゃって。ほら、足を出して」

「あ、彩ちゃん……」

 

同じ新入部員で女子マネの彩ちゃん(中原彩子)が俺の足にエアーサロンパスを吹き掛けてくれる。

 

「それじゃ、後は頼んだわよ」

 

元々一目惚れしてたが、カッコいい彩ちゃんの姿にますます惚れ直す。

 

「よし、とりあえず邪魔にならないとこに移動すっか」

 

ズマの先導で端に寄り、先輩達の居残り練習を見学していく。

 

「……すげぇな」

「あぁ、湘北に来てよかった」

 

カクとシオの言葉にヤスとズマが頷く。俺はずっと三井さんの動きを追っていた。

 

(どうすれば三井さんを抜ける?)

 

背の低い俺にとってドリブルは生命線だ。そのドリブルが全くと言っていい程に通じなかった。

 

原因はわかってる。俺に中距離から遠距離の武器が無いからだ。

 

(後一歩……いや、半歩でいい。三井さんが距離を詰める様なシュート能力がないと話にならない。なら今後俺が取り組むべき練習は……)

 

中学時代からスピードには絶対の自信があった。それを活かすためにドリブルに加えてフェイクの練習もたっぷりやった。

 

けど、いざ高校バスケに来てみればあっさりと跳ね返された。

 

どこかで天狗になってたんだろうな。高校でも俺のバスケは通用するって。

 

「……燃えてきたぜ」

 

追いかける目標……その先輩達の背中を見ながら、俺は闘志を燃え上がらせるのだった。




☆新規キャラ紹介☆

・東隆博(あずま たかひろ):第1話で三井の隣に座っていた後輩君。ポジションはGだったが、三井のブザービーターに触発されて3Pシュートの猛練習を重ねSGにコンバートしている。


・宮城リョータ(みやぎ りょうた):原作主要キャラ。ポジションはPG。三井の指導で自分に足りないものを自覚。今後の成長が楽しみなキャラの一人。


・安田靖春(やすだ やすはる):原作においては三井襲撃の被害者の一人。三井の指導によってスーパーサブに成長するかも…?


・潮崎哲士(しおざき てつし):原作では宮城と三井の復帰、更に桜木の成長によって控えに回ってしまったキャラ。拙作三井の指導による成長に期待。


・角田悟(かくた さとる):原作では控えCをつとめていたキャラ。拙作では赤木が魔改造されてきているので原作同様控えに甘んじるかも……。


・中原彩子(なかはら あやこ):原作でも登場している女子マネ。原作者曰く名字は無いとのことですが、拙作では書きやすくするため中原性を付けました。


これで本日の投稿は終わりです。

また来週お会いしましょう。


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幕間5『山王と陵南の新年度事情』

本日も1話の投稿です。


side:河田雅史

 

 

ウインターカップを全国優勝したと思ったらまたコンバートか。GにFにCと忙しないわな。

 

けど悪くねぇべ。これで結果を残しゃ大学からスカウトが来るってもんだ。

 

そんで大学から社会人、果てにはオリンピック代表ってな。

 

アメリカ行きもちと考えたが無理だわな。俺の力量云々の前に、米と味噌汁が無ぇ場所で生きてける気がせんわ。英語も読み書きはともかく、喋るのと聞くのはからっきしだかんな。

 

そういやアメリカといえば、堂本監督がスカウトしてきて新しく入った沢北の奴が行くって言ってたな。

 

……無理だな。今のあいつじゃ通用せん。

 

オフェンスは悪くねぇ。けどあくまで日本の高校レベルではって感じだ。

 

堂本監督が言うには来年のエース候補として使って鍛えていくって事だがはてさて、どうなるかねぇ?

 

……沢北の運次第だな。

 

インターハイか選抜で神奈川のあの二人……三井か牧のどっちかとやれたら、あいつの尻に火がつくだろ。そうなったら面白くなるかもな。

 

「河田、練習が始まるから行くべし」

 

おっと、沢北のことばっか考えてたらいかんわな。先ずは俺のことだわな。コンバートしてスタメン落ちとか洒落にならん。

 

俺は急いで着替えると深津と一緒に練習に向かうのだった。

 

 

 

 

side:田岡茂一

 

 

新年度が始まり新一年生達の入部も落ち着いた頃、俺は新たな教え子達の育成の方向性を考えていた。

 

育成方針とはいっても練習メニューではない。ざっと2つにわけて『叱って伸ばす』か『誉めて伸ばす』かだ。

 

「仙道は叱って伸ばすでいいだろう。三井や牧とプレーした事で、あいつの向上心に火がついたからな」

 

俺は仙道の事をもっとプライドが高い奴だと思っていたが違った。マイペースではあるが勝利に貪欲で、何よりも上手い奴と勝負することに飢えている。

 

「さて、残るは福田か……」

 

あいつは現時点では一番下手だ。だがあいつの母校の監督に聞いたところ、福田は2年の終わり頃にバスケ部に入部したらしい。

 

僅か一年の経験と考えると悪くない。いや、むしろいい選手だ。ディフェンスが下手くそ過ぎるところを除けばな。

 

「しっかり鍛えればスコアラーとして仙道の負担を軽く出来るだろう」

 

その将来のビジョンは見えている。問題は叱って伸ばすか誉めて伸ばすかだが……。

 

「……誉めて伸ばすか」

 

叱って伸ばすことも考えたが、経験の浅い福田はまだまだバスケへの理解が浅い。ということは知らない、出来ない事が当たり前だと考えるべきだ。

 

「よし、方向性は決まった」

 

メモの走り書きを終えた俺は立ち上がる。

 

「さぁ、行くとするか。上手く行けば今年のウインターカップで……いや、逸るな茂一。勝負の年は来年だ。今年はじっくりと選手達に経験を積ませながら鍛えあげるんだ」

 

教え子達への期待から逸る己を宥めながら、俺はこれからの教え子達の成長に胸を膨らませるのだった。




これで本日の投稿は終わりです。

また来週お会いしましょう。


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第68話『沸き立つ後悔と先の楽しみ』

本日も1話の投稿です。


side:三井寿

 

 

春の県大会まで残り1週間となった頃、多かった新入部員の半数が辞めて1年は15人程になっていた。

 

その15人も居残り練習に参加しているのは約半分の8人。残りの7人は大学進学の為に塾に行ったりしているので参加は難しいそうだ。

 

さて居残り練習に参加している1年達なんだが、なかなかに楽しみな連中だ。

 

宮城、安田、潮崎、角田に俺の中学時代の後輩の東、八木、串田、内村と、1年全員が先輩に遠慮せず貪欲に技術を吸収しようとしている。

 

「角田!一歩目が遅い!それじゃ力で負けてる相手には勝てないぞ!」

「はい!」

 

「安田!自分で仕掛ける意思も見せろ!パスを供給することだけがPGの仕事じゃない!慎重と臆病を履き違えるな!」

「はい!」

 

「潮崎!狙える時は積極的にゴールを狙え!積極的なミスはOKだからな!」

「はい!」

 

今日の居残り練習の見直しも兼ねて1年だけで3on3をやらせているんだが、体力や技術以上にこいつらには意識が足りない。

 

「漠然とやってるだけじゃ向上には限界がある!しっかりと目的を意識しろ!」

「「「はい!」」」

 

1年達の中で特に目立っているのは宮城と東だが、この二人にも甘いところが幾つもある。

 

「宮城!もっとミドルシュートを撃て!入らなくてもあると思わせるだけで相手の反応は遅れる!」

「はい!」

 

「東!シチュエーションセレクトをもっとしっかり!そんなんじゃ何本撃ったって3Pシュートは入らねぇぞ!」

「はい!」

 

俺以外からもコーチングの声が飛び交う。ミスを詰る野次はない。本気でチームを強くしようとする気持ちと、ライバルの足を引っ張るのではなく高め合おうとする真摯な心がこの熱い雰囲気を作り出しているんだ。

 

……戦えるチームに、全国制覇を本気で狙えるチームになってきた。その認識が俺の身体を武者震いで震わせる。

 

あぁ……大会が待ち遠しいぜ。

 

 

 

 

side:安西光義

 

 

戦えるチームが出来てきた。負けたら監督である私の責任だと心から思えるチームが。

 

かつて大学で監督をしていた頃は、私の顔色を伺いながら練習や試合をする選手が多かった。

 

あの頃の私は子供達は自己管理が出来ないと決め付け、上から抑え込む様な指導をしていた……今も後悔が残る過ちだ。

 

あぁ……向上心を持ち自主的に練習をする子供達の成長の早さたるや、なんと素晴らしいことか。

 

私がやるべき事は間違った努力を正すこと。そして練習のし過ぎで怪我をしないように見守ることだ。この歳になってそれを漸く心から理解する事が出来た。

 

「あの時に気付いていれば、お前ももっと上手くなれていたのだろうか……」

 

前を向き歩いていても後悔は尽きず。だがそれ以上に楽しみを得られるのも人生。

 

「今年はお前に良い報告を出来るかもしれないな、谷沢」

 

切磋琢磨する子供達の姿に私は微笑むのだった。




これで本日の投稿は終わりです。


☆オリキャラ紹介☆


・八木(やぎ):三井の中学時代の後輩。ポジションはPF。


・串田(くしだ):三井の中学時代の後輩。ポジションはC。


・内村(うちむら):三井の中学時代の後輩。ポジションはG。


また来週お会いしましょう。


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第69話『2年目の春の県大会開幕』

本日も1話の投稿です。


side:三井寿

 

 

2年目の春の県大会が始まった。

 

俺達湘北は今年はシードで2回戦から試合が始まる。

 

「では今日のスターティングメンバーです。C、猪狩君」

「はい!」

 

「SG、長谷君」

「はい!」

 

「G、毒島君」

「はい!」

 

「F、小堺君」

「はい!」

 

「そして最後にPG、安田君」

「は、はい!」

 

流石は安西先生。安田を抜擢するとは面白い采配だぜ。

 

選手個人の能力で見た時、安田は宮城には及ばない。だがチームとして見た場合は宮城よりも安田の方が魅力的な選手となる。

 

何故か?それは……2人の好むゲームメイクの仕方の違いだ。

 

宮城は自身の速さを活かすためかアップテンポなゲームメイクを好むんだが、これは長瀬さんのゲームメイクと被っているんだ。

 

対して安田はターンオーバーの30秒を目一杯使ったスローテンポなゲームメイクを好む。これが湘北というチームに戦術的に変化を与えてくれるんだ。

 

まぁ宮城がミドルシュートを身に付けたらそれでも安田を抑えて試合に出れるだろうが、試合で使えるレベルになるのは早くても夏以降だな。

 

「安田君、今日は君のデビュー戦です。ミスは皆が補ってくれます。ですのでのびのびとプレーをしてください」

「はい!」

 

「ヤス、この野郎。抜け駆けしやがって!」

「裏切り者には制裁を!」

「うわっ!止めろよリョータ、ズマ」

 

宮城と東が安田に絡んでいっている。安田のやつ、緊張でガチガチになるかと思いきや程よくリラックスしてるな。

 

見た目に反してといっちゃ悪いが思ったよりも度胸があるぜ。

 

 

 

 

side:安田靖春

 

 

まさかいきなりスタメンで試合に出れるなんて思わなかったな。

 

驚いて三井さんに聞いてみたら、俺のゲームメイクの仕方が湘北にとっていいものだかららしいけど。

 

「さぁ、始まるぞ」

 

そう言う猪狩さんに背中を張られた。いけないいけない。集中しないと。

 

試合が始まった。猪狩さんがジャンプボールを制するとボールが俺に来る。

 

ゆっくりと上がりながらどうするか考える。

 

(先ずは全員にボールに触ってもらおうか。余計なお世話かもしんないけどね)

 

立ち上がりの緊張を解してもらうためにボールを回す。

 

中にいる小堺さんにパスを出したらボールを貰いにいく。続いて外にいる長谷さんにパスを出したらまたボールを貰いにいく。

 

そして最後に毒島さんにパスを出したところでチラッと時計を確認した。

 

(ターンオーバーまで残り10秒。よしっ、いこう)

 

中に切り込みながら毒島さんにパスを要求。ゴール近くでパスを受け取ったら相手のCに対してシュートフェイクを1つ……よしっ、かかった!

 

相手のCが空中にいる間に猪狩さんにパスを出す。すると猪狩さんは豪快にダンクを決めた。

 

(猪狩さんがダンクか。珍しいな)

 

猪狩さんがダンクをするのは珍しくて少し驚いていると、猪狩さんはベンチにいる赤木さんを指差してアピールしていた。

 

「ははっ、本当に余計なお世話だったかも」

 

そう思ったその時……。

 

「ナイスだぞ安田。その調子で頼むぜ」

 

そう言って毒島さんがポンッと背中を軽く叩いてからディフェンスに戻っていく。

 

「次は俺にシュートを撃たせてくれよ」

「俺も忘れるなよ。3Pシュートを撃つ準備はいつでも出来てるからな」

 

小堺さんに長谷さんも毒島さんと同じように、俺の背中を軽く叩いてからディフェンスに戻っていく。

 

そんな先輩達の行動が俺に湘北の一員になったんだって実感を与えてくれる。

 

「……はいっ!」

 

俺はきっと今日という日を一生忘れない。湘北の一員になれた今日という日の事を……。




これで本日の投稿は終わりです。

また来週お会いしましょう。


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第70話『2年目春の県大会準決勝、湘北対陵南』

本日も1話の投稿です。


side:三井寿

 

 

春の県大会は順調にベスト4まで勝ち進んでいき、神奈川の四強が順当に勝ち残った。

 

準決勝は俺達湘北と陵南、そして翔陽と海南の組み合わせで、それぞれ勝った方と決勝が行われる。

 

さて先ずは俺達の試合だな。俺は整列した陵南のメンバーに目を向ける。

 

魚住に池上、そして今3年でPGの橋下さんは既に顔馴染みだが、残りのメンバーがまだ1年の仙道ともう一人の男だ。

 

この男は美和が調べたところによると福田という奴らしい。

 

ポジションはPFで、ディフェンスは下手だがとにかくガムシャラにゴールを狙うスコアラーなんだとか。

 

なるほど、陵南に不在だったエースと、そのエースを支えるスコアラー……その二つの候補が揃ったわけか。

 

これは今後の陵南にはより一層の注意が必要そうだぜ。

 

さぁ、試合開始だ。

 

赤木と魚住のジャンプボールは互角。こうして見ると魚住は一年前とは別人の様に成長しているな。実績はともかく、実力だけならもう全国クラスだぜ。

 

こぼれたボールを長瀬さんが素早く拾い、開幕は俺達湘北の攻めから始まる。

 

俺のマークには仙道がついた。

 

……陵南で一番ディフェンスが上手い池上じゃなく仙道を俺につけるか。

 

田岡監督の思惑は実戦での俺を経験させて、仙道のレベルアップを図ろうってんだろな。

 

いいぜ。牧への発破にもなるだろうしな!

 

長瀬さんにボールを要求し受け取った俺は仙道と対峙する。

 

……去年の冬に見た時よりはマシになってるが、まだまだ隙だらけだな。

 

先ずは小細工抜きにストレートに真っ向から抜きに行く。

 

完全に抜け出すと身体を捩じ込み仙道を抑えつつ中へ。

 

フォローに来た魚住とも真っ向勝負でレイアップに行く。

 

……流石だな魚住。ブロックできっちりシュートコースを閉めてるぜ。

 

ダブルクラッチで空中で魚住のブロックを避けてゴールを決める。先ずは先制点だな。

 

近くにいた赤木と拳を合わせると、声を上げてチームを盛り上げながら自陣に戻っていくのだった。

 

 

 

 

side:仙道彰

 

 

いや、相変わらず凄いわ。ストレートに来るかクロスに来るか全然わかんねぇでやんの。

 

「すみません、魚住さん」

「気にするな。まだ試合は始まったばかりだ。取られた分だけ取り返せばいい」

 

そう言って魚住さんは俺の頭にポンッと軽く手を置いたが、言うは易しってやつだよなぁ。

 

けど、だからこそ面白い。

 

橋下さんからパスを貰って三井さんとマッチアップする。

 

こうして対峙してみると改めて実感する。三井さんは俺や福田と違ってディフェンスも一級品だと。

 

(どうやれば抜けるかわかんねぇな。なら、やってみるしかないか!)

 

とりあえずはさっきのお返しとばかりにストレートに行ってみる。けどダメ。完全に抑えられた。

 

一度離れて仕切り直す。今度はストレートをフェイクにクロスへ……っ!?これもダメか!

 

もう一度離れて仕切り直す……っ!?スティール!?

 

仕切り直しで気を入れ直そうとした瞬間、三井さんにボールを奪われた。

 

(狙われた?うん、三井さんなら狙ってやられても不思議じゃないな)

 

そう自分の中で納得している間に、三井さんは速攻を掛けて冷静にレイアップを決めた。

 

「そう簡単に抜かせねぇよ」

 

ゴールを決めて自陣に戻ろうとする三井さんがそう言ってくると、俺の中で闘志が熱く燃え上がる。

 

「いいや、この試合中に三井さんを抜いてみせますよ」

「おう、やれるもんならやってみろ」

 

神奈川に来てよかった。改めてそう思うと、俺は全力で試合を楽しんでいくのだった。




これで本日の投稿は終わりです。

天才仙道もまだ1年目の春なので成長していてもこんな感じでございます。

来週の投稿は今週3回目のワクチンをキメてくるのでお休みさせていただきます。

5月8日にまたお会いしましょう。


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第71話『明日の勝利の信じる』

本日も1話の投稿です。


side:高頭力

 

 

湘北と陵南の準決勝を見学しているが、中々に面白い勝負が繰り広げられている。その中心が三井と仙道だ。

 

仙道が仕掛けたが三井を抜くことは出来ない。逆に三井は面白い様に仙道を翻弄していく。

 

「三井め、また上手くなってやがる」

 

牧の言葉に教え子達が頷くが俺の見解は少し違う。三井が上手くなった理由は技術の向上もあるだろうが、それ以上に彼の持つバスケセンスを活かせる身体が出来てきたのが大きいだろう。

 

おかげでますます手強くなった。

 

さて三井と仙道の勝負は三井が圧倒しているが、それでも勝負になっているのは魚住と池上、そして福田の存在が大きい。

 

魚住がチームの柱としてゴール下を支え、池上がディフェンスで各所をアシストしていく。……いいチームだ。

 

そしてそんな2人のフォローもあるとはいえ、赤木がいる湘北のインサイドで得点を重ねていく福田……田岡先輩はいい選手を得たものだ。

 

この3人がいなければまだ前半10分の今の段階で試合は決まってしまっていただろう。だが、まだ勝負の行方は完全には決まっていない。

 

「各選手の成長を促しつつ、今日ではなく明日の勝利を目指す。随分と教え子達を信頼しているな田岡先輩」

 

指導者としては選手の成長のために動きたくもあるが、監督としては目の前の勝利のために動きたくなるもの。

 

つまり……。

 

「明日の勝利を信じられるチームが出来てきた……そういうことですか」

 

そう呟くと俺は田岡先輩から安西先生へと視線を移す。

 

ふむ、2年前と比べて随分と痩せられたものだ。それにしても……。

 

「まるで外の使い方を学べとでもいうかの様な采配、言われずとも学ばせていただいていますとも」

 

今年から使っていくと決めた宮益。そしてシューターとして成長中の今年入って来た神。心配せずとも海南は新たな武器を手にしつつありますよ。

 

むっ?田岡先輩がタイムアウトを取ったか。

 

「さて、田岡先輩はどう動くのかな?」

 

 

 

 

side:田岡茂一

 

 

「仙道、どうだ?」

「すみません、なんとなくわかってきましたが、もう少し時間かかりそうです」

 

「わかった。福田、ナイスプレーだ。赤木をおそれずどんどんゴールを狙っていけ」

「っ!?はいっ!」

 

この試合が始まる前、俺は仙道に1つ指示を出した。それは三井のドリブルを盗むことだ。

 

とはいってもドリブルの何を盗むのかがわかっていないと盗むのは難しい。そこで俺は三井の一歩目の速さを盗むことを指示した。

 

三井の一歩目の速さの秘密……それは『抜重』だ。

 

抜重……バスケで使うのは正確には沈み込み抜重というのだが、それの理屈を俺は知っているし多少は体現出来る。だが三井レベルでは出来ない。そこで俺は仙道に理屈を伝えた上で抜重を使いこなしている三井から盗めと指示したんだ。

 

ふと目を向けると福田が首を傾げながら一人膝カックンの様な動きをしている。抜重の理屈は福田にも伝えてあるが、どうやればいいのかがまだよくわかっていないのだろう。

 

俺も現役時代は同じ様に悩んだものだ。結局最後まで完全にはものに出来なかったが……。

 

「さぁ、試合再開だ。勝負を楽しんでこい!」

「「「はいっ!」」」

 

この試合はおそらく勝てないだろう。だが明日も勝てないとは限らない。そう信じられるのが俺のチームだ。

 

「仙道と福田次第だが、今年のウインターカップを狙える芽も出てきたな」

 

そう言葉に出来る程に俺のチームは出来上がりつつあるのだった。




これで本日の投稿は終わりです。

また来週お会いしましょう。


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第72話『パスの楽しさ』

本日も1話の投稿です。


side:三井寿

 

 

試合は折り返して後半、仙道の動きが少しずつ変わってきた。

 

まだまだぎこちなさはあるが、膝の抜きを使った初動を見せる様になってきたんだ。

 

前半と比べたら厄介になったが、パスの選択肢が無いこいつを抑えるのはそれほど難しくはない。逆に言えばこいつが1on1じゃなく試合をするようになれば……かなり厄介な相手になるだろうな。

 

とはいってもパスは簡単なもんじゃない。出し方によってはカットされちまったり、受けた味方の次の動きが遅れちまったりするからな。

 

さて、いつ気付くかな?

 

 

 

 

side:仙道彰

 

 

(ダメだな。抜ける気がしない)

 

抜重ってのはなんとなくだがわかったし、三井さんのと比べたら雑だがそれとなく出来る様にもなった。けどまったく抜ける気がしない。

 

(まぁ、それでも諦めるってのは無いけどな)

 

魚住さんや池上さん、それに橋下さんと福田に負担を掛けちまうがもう少しワガママにやらせてもらう。

 

(俺と三井さんの何が違う?単純に技術だけの差じゃない気がするんだよなぁ?)

 

三井さんのドリブルを防ごうとするが、三井さんはあっさりと赤木さんにパスを通し湘北はゴールを決めた。

 

「パスは頭に無かったな……あっ」

 

そう口にして気付いた。俺と三井さんの決定的な違い。

 

(マジかよ……こんな単純なことに気付かなかったのか……)

 

三井さんは常にドリブル、シュート、パスの3つの選択肢を持っていた。対して俺はドリブルとシュートの2つだけ……そりゃ抜けるわけないわな。なんせ三井さんは俺の動きだけ注意してりゃいいんだもんな。

 

パチッと両手で軽く頬を張る。

 

「うしっ、行ってみようか」

 

橋下さんにパスを要求。ボールを貰ったら顔を上げて視野を広くとる。

 

(これが三井さんが見てたもんか……なるほど、少し三井さんを抜ける気がしてきた)

 

俺はドリブルで仕掛ける。すると三井さんは当然の様に反応してきた。

 

(そりゃそうだ。けど……選択肢が増えたら?)

 

切り返すと同時に魚住さんにパスを出す。流石は魚住さんだ。俺が急にパスを出してもしっかりと反応してくれた。

 

パスを受け取った魚住さんはベビーフックでゴールを決める。その光景を目にして俺は無意識に拳を握り込みながら三井さんに目を向ける。

 

「とりあえずはアシストですね。次は抜かさせて貰いますよ」

「……今のはいいプレーだったぜ。けど、そう簡単にはやらせねぇよ」

 

その後、結局この試合で三井さんを抜くことは出来なかった。試合にも負けちまったし散々だぜ。

 

でもパスの楽しさをしった俺は、俺のバスケが成長した事を実感したのだった。




これで本日の投稿は終わりです。

また来週お会いしましょう。


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第73話『宮城の決意』

本日も1話の投稿です。


side:宮城リョータ

 

 

春の県大会、湘北は決勝戦まで勝ち進んだ。ヤス以外の一年は試合に出れてないが、見るだけでも勉強になる試合ばかりだぜ。

 

さて、今俺達はもう1つの準決勝の翔陽と海南の試合を見学している。

 

その中でも俺は同じポジションの牧と藤真に注目して見ていた。

 

「行った!」

「速い!」

 

シオとヤスの声を耳にしながら牧のドリブルを見ていく。

 

(本当に速ぇな……トップスピードは負けてるつもりはねぇが、加速では多分負けてる……)

 

あの一歩目の速さは多分三井さんが言ってた抜きが関わってる。俺も物にしなきゃな。

 

牧はそのまま中に切り込むと自分でそのまま決めた。バスケットカウントのオマケまで付けて。

 

(あの当たりの強さは真似出来ねぇな……さて、次は藤真の番か)

 

藤真がどう仕掛けるか見ていると、藤真は不意にヒョイっと簡単に3Pシュートを撃った。

 

「入ったな。クイックリリースが上手くなってる」

 

藤真が3Pシュートを撃った瞬間、三井さんがそう言った。そして三井さんの言葉通りに藤真のシュートが決まる。

 

「サウスポーなのもあって、ありゃ止めにくいな」

「しかもインサイドの3年生2人と2年生の1人は190cm近くとデカイ選手ばかり。流石に翔陽は人材が豊富よねぇ」

 

三井さんと美和さんの会話を耳にしながら、俺は藤真が突如3Pシュートを撃った意図を考えていた。

 

(インサイドの有利を活かす?それとも牧の警戒が薄かった?)

 

考えてもわからなかった俺は一度思考を打ち切って試合を見ることに集中する。

 

(バスケ選手としてはチビの俺にとってドリブルは生命線、生きる道……必然的に自分から仕掛けていく牧のスタイルに近くなる。けど、俺には牧程のタッパが無いからあの当たりの強さは真似出来ねぇ……)

 

ヤスは湘北の中でもう居場所を確立したと言っても過言じゃねぇ。じゃあ、俺が湘北で居場所を作るにはどうしたらいい?

 

(もっとやれると思ってた。高校でも俺のバスケは通用すると思ってた……甘かったぜ……)

 

牧と比べたら俺は少しすばしっこいだけのチビで、藤真と比べたらジャンプシュートの入らない男……。

 

改めて現状を認識してみると、悔しさで身体が震える。

 

その震える身体を隠す様に俯いていると、パシッと何かで頭を叩かれた。

 

「リョータ、な~に一人で勝手にへこんでるのよ?」

「……彩ちゃん?」

 

彩ちゃんは俺の肩に手を置きながらコートを指差す。

 

「あの人達は2年であんたは1年……向こうの方が上手くても当たり前でしょう?」

「え?あっ、いや、そうかもしれないけど……」

「これから上手くなればいいのよ。神奈川ナンバーワンPGって呼ばれるぐらいにね」

 

神奈川ナンバーワンPG……その言葉を聞いた俺はなんか笑ってしまった。

 

「よっしゃ!やってやるぜ!」

「そう、それでいいのよ」

「ところで彩ちゃん、こ、今度俺とデート……」

 

ペシッと丸めたパンフレットで頭を軽く叩かれる。

 

「そういうことは、せめてベスト5に選ばれてから言いなさい」

「ベスト5に選ばれたらいいんだね!?うぉぉおおお!俺はやるぜ!見ててね、彩ちゃん」

 

悩んでへこむ暇があるなら練習して上手くなる。当たり前のことなのに忘れてた。

 

ありがとう彩ちゃん。おかげで目が覚めたぜ。

 

牧、藤真、首を洗って待ってやがれ。俺は必ず神奈川ナンバーワンPGになってやる……彩ちゃんとのデートのために!




これで本日の投稿は終わりです。

宮城はこんなキャラでいいのだろうか…?

また来週お会いしましょう。


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第74話『宮益の成長』

本日も1話の投稿です。


side:三井寿

 

 

翔陽と海南の準決勝も後半に突入したが、試合は翔陽が優勢に進めていた。

 

「海南は厳しいな」

「あぁ、宮益がちょっとな」

 

赤木の言葉に俺はそう返す。

 

宮益は海南に3Pシュートという飛び道具を与えたが、その他のところで足を引っ張ってしまっている。だが、高頭監督に宮益を交代させる雰囲気は無い。

 

「公式戦の雰囲気を経験出来るのは公式戦だけですからね」

 

安西先生の言葉に皆が注目する。

 

「海南は日頃から海南大の選手達と練習を重ね技術、経験を高めています。ですが、一度負けたら終わりのトーナメントの雰囲気は、やはり試合でしか経験出来ません。高頭監督は宮益君にその経験を積ませるつもりなのでしょう。本番をインターハイかウインターカップと見据えて……」

 

日本の学生スポーツの多くはトーナメント形式だ。そしてトーナメント形式には、一度負けたら終わりというリーグ戦形式では味わえない独特の緊張感がある。

 

俺や牧みたいにその独特の緊張感を楽しめる奴もいるが、木暮の様に楽しみより先に緊張が来る奴もいる。宮益はおそらく木暮の様なタイプなんだろう。あいつの判断が微妙に遅れたりしてるのはその緊張のせいだな。

 

「この大会を宮益君の糧とする。その恩恵は海南にとってとても大きな物になるでしょう。もっとも、だからといって勝利を諦めているわけではありません。特に牧君は随分と発奮しているようですしね」

 

安西先生の言う通りに牧は随分と発奮している。俺と仙道の勝負に当てられたか?

 

牧から宮益にパスが通る。そして宮益が3Pシュートを決めた。

 

「それに宮益君も準決勝という舞台の緊張感に慣れてきた様です。そして残り10分で点差は13点……面白くなってきましたね」

 

安西先生の言葉通りに試合はどんどん面白くなっていく。まるでこの試合こそが決勝戦だとでも言う様に……。

 

 

 

 

side:牧紳一

 

 

「ごめん、待たせた」

 

どこか浮わついていた宮の腰が据わったのがわかる。よし残り10分……これで勝負の場は整ったぜ。

 

「頼んだぜ、宮」

「おう!」

 

正直に言って翔陽とインサイドで勝負するのは分が悪い。高砂も海南大に進学した兼田さんにしごかれてはいるが、まだ海南のゴール下を一人で任せるのは少し不安だからな。

 

だが宮を戦力として計算出来る様になった今、巻き返しを計る事が出来る。

 

もっとも、それは藤真も感じ取ってはいるだろうがな。

 

「さぁ行くぜ翔陽。勝負はここからだ」

 

俺は決勝に行く。決勝で三井が待っているんだからな。




これで本日の投稿は終わりです。

また来週お会いしましょう。


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第75話『憧れの存在』

本日も1話の投稿です。


side:三井寿

 

 

海南と翔陽の準決勝は翔陽が勝った。だが試合は本当に接戦だった。

 

試合残り10分から宮益が調子を上げたのを見てとった藤真は、ターンオーバーぎりぎりの時間一杯を使う組み立てに切りかえた。

 

対する牧は追い付くために速攻気味に組み立てていったが、最終的にはワンゴール差で翔陽が逃げ切った形だ。

 

熱い試合展開に飲まれず冷静に試合を組み立てた藤真の姿には少し凄みを感じたぜ。

 

さて、決勝は俺達湘北と翔陽になったわけだが、スタメンのPGには安田が選ばれた。

 

勝負所での長瀬さんとの交代で緩急をつける狙いもあるんだろうが、それ以上に安田のゲームメイクに藤真がどう対応するのかを安西先生は見ておきたいんだろう。

 

……さて、この大会は全国に繋がらねぇが、そろそろ大会で優勝をしておきたいところだ。

 

目標の全国制覇……それを成すための通過点としてな。

 

 

 

 

side:藤真健司

 

 

「一志、お前がスタメンだ」

 

同学年の長谷川一志(はせがわ かずし)にそう告げると、翔陽のメンバーからざわめきが起こる。

 

「藤真、一志をどう使うつもりだ?」

「三井にぶつける」

 

一志同様に同学年の花形透の疑問にそう答えると皆が驚く。

 

「いや、確かに一志は中学時代に三井と対戦経験があるって言っていたが、今の三井を一人で相手にするのは……正直に言って荷が重くないか?」

「一志には悪いが確認したいんだ。今の三井をな」

 

俺の言葉に皆が耳を傾ける。

 

「去年の三井の弱点はスタミナだった。その弱点が今はどうなっているのか。他に何か攻め口がないのか……そういった色々を近くで観察したいんだ」

 

一志と目を合わせると俺は頭を下げる。

 

「すまない一志。お前を捨て石にする。この先、インターハイやウインターカップで湘北に勝つために」

「……大丈夫だ。やらせてくれ」

 

大人しい性格の一志の力強い言葉に驚いた俺は顔を上げる。

 

「中学の時は圧倒された。なにも出来なかった。……正直に言って、三井に憧れた。」

 

皆が一志の言葉を静かに聞いている。

 

三井に憧れる。その気持ちはわからなくない。むしろ神奈川のバスケに関わる人達は少なからず三井の名を聞き、そのプレーを一目見たら憧れるだろう。……俺もあいつの3Pシュートには憧れたからな。

 

「でも、俺も翔陽に入って1年……本気で頑張ってきた。藤真、捨て石で構わない。試合に出してくれ」

 

そう言って一志が頭を下げる。

 

……そうだよな。どんな形でも試合に出たいよな。それも憧れの相手とやれるなら尚更だ。

 

「わかった。三井は頼んだぞ、一志」

「……あぁ!」

 

監督は難しい。今でも正解のせの字もわからない。でもこうして誰かの成長した姿を見れるのは……好きになってきたかな。




これで本日の投稿は終わりです。

また来週お会いしましょう。


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第76話『長谷川一志』

本日も1話の投稿です。


side:長谷川一志

 

 

春の県大会の決勝戦開始まであと少しだ。今日の試合、俺はあの三井とマッチアップする。

 

三井は疑いようのない天才だ。

 

三井のライバルと言われてる牧も、準決勝で三井とやり合った陵南の仙道も天才だろう。

 

そんなあいつらと比べたら俺は凡人だ。

 

一度その事を花形に言った事があるんだが、翔陽のユニフォームを着ておいて凡人は嫌味になると言われたな。

 

それでも俺は自分を凡人だと思う。

 

俺はただバスケが好きで、小さい頃からずっと練習を続けてきただけなんだ。

 

その結果として今は翔陽のユニフォームを着ているが、これは俺以外の誰かでも出来たことだと思う。

 

でも誰もが三井の様に1年の時に選抜でMVPになったりベスト5に選ばれたりは無理だろう?それが出来る、もしくは出来る可能性があるからあいつらは天才で、それが無理だから俺は自分を凡人だと思うんだ。

 

ちなみに俺は藤真も天才だと思ってる。ただ三井や牧とは種類というかタイプが違う天才だが。

 

その事を藤真に言った事があるが、藤真は自分の事を凡人だと言った。

 

俺は自分に出来る限りの言葉で藤真に藤真が天才である事を説明したが、藤真は違うと反論してきたな。

 

それを聞いていた花形に二人して説教をくらってから、藤真は俺の事を一志と名前で呼ぶようになった。天才だと思っている藤真に認められたようで嬉しかったな。

 

「一志、時間だ」

 

ポンッと肩を叩かれ顔を上げると藤真がいた。

 

「三井を抑えるイメージは出来たか?」

「それは無理だ。でも……なんとか食らい付いてみせる」

「そうか、期待してるぞ」

 

整列をして挨拶、そして試合が始まった。

 

ジャンプボール……花形は赤木にジャンプボールで負けた。けどこれは藤真の予想通りだから、俺達は動揺せずに直ぐに動く。

 

ボールを持った湘北のPG……まだ1年の安田って奴がゆっくりとボールを運んでいく。

 

藤真ならスティールを決められそうな気がするが……序盤は観察を重視するってミーティングで言っていたな。

 

ターンオーバーまで残り15秒……まだ仕掛けてこない。

 

右に左に行ったり来たり……もしかして俺達の動きを見てるのか?もしそうだとしたら1年なのにとんでもない度胸の良さだ。

 

ターンオーバーまで残り10秒、ついに動いた。

 

ドリブルで仕掛けると思いきや安田は三井にパスを。そして三井がパスを受け取った次の瞬間……三井は俺の横を抜けようとしていた。

 

食らい付くとかそういう次元じゃない。そうわからされたかの様な気がした。

 

尻もちをついた俺は中に切り込んでいく三井を見送ることしか出来なかった。

 

そして中に切り込んだ三井は花形を引き付けるとフリーになった赤木にパス。赤木がダンクを決めて湘北が先制だ。

 

身体が震えた。鳥肌が立った。俺は憧れた男と試合をしてるんだと実感が湧いてきた。

 

「一志、大丈夫か?」

 

藤真の手を借りて立ち上がると、藤真の目を見て告げる。

 

「すまん、藤真。点差とかそういうのを気にしてる余裕が無くなると思う」

「……そうか、わかった。気にせず全力でやってこい」

 

心折れてる暇なんてない。今ある物で三井をどう攻略するか、それだけを考え続けろ。

 

正直に言って翔陽を受験した時よりも頭を使っていると思う。

 

でも俺は今、人生で一番充実した時間を送っていると確信するのだった。




これで本日の投稿は終わりです。

また来週お会いしましょう。


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第77話『クセ者』

本日も1話の投稿です。


side:三井寿

 

 

前半は翔陽に7点リードされて終わった。うん、悪くない状況だ。

 

安田は藤真相手によくやっている。止めることは出来てないがしっかりディレイを掛けられているし、無理に止めにいってファールを貰っていない。

 

身内贔屓な評価かもしれねぇが、まだ1年である事を考えりゃ100点満点の出来だ。

 

「皆さん、前半は良い出来でした。この調子で行きましょう」

 

どうやら安西先生も安田に対して俺と同じ評価みたいだな。

 

「では後半の作戦を伝えます」

 

……なるほど、面白い。

 

「君達は強い。ここで優勝をして、インターハイへの弾みにしましょう」

「「「はい!」」」

 

 

 

 

side:藤真健司

 

 

前半、予想したよりも点差は広がらなかったな。あの1年が想像以上に精神的にタフだったのが原因だ。

 

何度もファールを誘ったがのってこなかった。後半はそれを加味して組み立てないと。

 

それはそれとして……と。

 

「皆、俺の予想では湘北は後半、インサイドを中心にくる」

「外じゃないのか?リードされてるんだぞ?」

 

花形の言葉を俺は首を振って否定する。

 

「インターハイ予選ならそうくる可能性が高いだろうが、今回は違う。安西先生は神奈川で屈指の高さを持つうちを相手にして、湘北のインサイドの強化を計ってくる。優勝を狙いつつな」

「……舐められてるわけじゃないよな?」

「勿論さ。しかも保険に三井もインサイドに絡ませてくると思う。強かで嫌になるぜ」

 

そう言って肩を竦めるが笑いは起こらない。それだけ三井の存在を脅威に感じているってことだ。

 

「俺の予想通りなら後半、インサイドは前半以上にタフなものになる。皆、頼んだぜ」

「あぁ、任せろ」

 

 

 

 

side:三井寿

 

 

後半、俺達はインサイドを中心に攻めていったんだが、翔陽からは動揺を感じ取れなかった。おそらく予想していたってことだろう。

 

藤真の奴、牧とは別ベクトルで厄介な存在になってきたな。まぁ、強敵は望むところだぜ。

 

「赤木さん!」

 

安田から赤木にパスが通る。俺は赤木が仕掛けるタイミングでインサイドに切り込む。

 

(お前もいい加減、見えてきた頃だろ?)

 

ベビーフックの途中で赤木は、手首の動きだけで俺へとパスを出す。

 

「ナイス!」

 

パスを受け取った俺は落ち着いてレイアップを決めた。

 

このワンプレーで流れを掴んだのか、俺達はジワジワと点差を詰めていった。

 

時折藤真が3Pシュートを決めて突き放そうとしてくるが、お返しとばかりに木暮が3Pシュートを決め返す。

 

随分と頼もしくなったもんだぜ、木暮。

 

そうして残り1分で3点リードとなった俺達に、藤真がアタックを仕掛けようとしたその時……。

 

『ピッ!』

 

安田がファールをして藤真を止めた。藤真の顔には動揺が見える。おそらく3Pシュートを狙ってたんだろう。

 

だが安田がファールで止めた。これまで丁寧に、慎重にファールをしないようにディフェンスをしていた安田がだ。

 

しかもこの終盤、翔陽には藤真を動揺から立て直すためのタイムアウトが残ってない。

 

もし狙ってやったんならとんでもないクソ度胸だが……あぁ、あの顔は狙ってやりやがったな。優しい顔してとんだクセ者だぜ。

 

その後、動揺した藤真が3Pシュートを外すと、返しの攻めで赤木が豪快にダンクを決めて5点差となる。

 

これで翔陽が万策尽き果てると、俺達は春の県大会を制したのだった。




これで本日の投稿は終わりです。

また来週お会いしましょう。


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第78話『出会い』

本日も1話の投稿です。


side:三井寿

 

 

春の県大会で優勝した俺達湘北は、表彰式の後でそれはもう浮かれてはしゃいだ。

 

あの赤木もいつもより口数多く喋っていたのを見れば相当嬉しかったんだろう。

 

だが……。

 

『皆さん、優勝おめでとうございます。ですがここがゴールではありませんよ。我々はまだ全国の猛者達と戦うスタートラインにすら立っていません。勝負はこれからです』

 

という安西先生の御言葉で全員が我に返った。流石は安西先生だ。締めるところはピシッと締めてくれるぜ。

 

さて、大会翌日は練習が休みになったんだが、俺と美和は一緒にスポーツ用品店に足を運んでいた。

 

理由は俺の背が伸びてバッシュのサイズが合わなくなってきていたからだ。

 

「悪いな美和、色気の無いデートでよ」

「いやいや、私達らしくていいじゃない。むしろ大歓迎!」

 

そう言って満面の笑みを見せてくれる美和は本当にいい彼女だぜ。

 

二人でバッシュを選んだその後の帰り道……。

 

「ごめんなさい、桜木君。私、好きな人がいるの」

「ズコーン!?」

 

背が高く赤いリーゼントの奴がフラれている現場に遭遇した。

 

「おめでとう花道!これで通算22回目の失敗だぜ!」

 

そう言って沸き立てるあいつの連れらしき連中を、あいつは頭突き一発で黙らしていった。

 

「いやー、なんとも愉快な連中だねぇ」

「外から見ている分にはな」

 

それにしてもあの赤いリーゼント……どっかで見た覚えがあんだよな……。

 

「あん?なに見てんだコラァ!?」

 

赤いリーゼントが威嚇してくるが、俺はそいつのガタイの良さに注目していた。

 

そして……。

 

「よぉ、ちょっとバスケやってみねぇか?」

「あん?バスケェ?」

 

気が付けば赤いリーゼントをストリートにあるコートに誘っていた。

 

 

 

 

side:赤木美和

 

 

「悪いな美和、デート中だったのによ」

「大丈夫大丈夫!それよりも今日は疲労を抜くためのオフなんだから、明日に響くほど動いちゃダメだよ?」

「あぁ、わかってる」

 

先客のバスケ少年からバスケットボールを借りた寿君は赤髪の男……桜木花道に声を掛ける。

 

「なぁ桜木、あのリングに届くか?」

「あん?どういうことだよミッチー」

「こういうことさ!」

 

そう言うと寿君はダンクを決める。

 

「「「おぉー!」」」

 

先客のバスケ少年達に加え、桜木の連れ達からも拍手が上がる。

 

「どうだ?出来るか?」

「ハッハッハッ!そんなの楽勝だ!」

 

そう言うと桜木はバスケットボールを鷲掴みにして走り出す。

 

そして……。

 

「ンガッ!?」

 

目測を誤ったのかリングを素通りし、信じられないことにバックボードにオデコをぶつけていた。

 

そんな桜木を桜木の連れ達やバスケット少年達は笑っていたが、私と寿君は驚きで声が出ない。

 

……バスケのバの字も知らないド素人だけど、とんでもない原石だわ。

 

「なぁ、桜木」

「……なんだよ、ミッチー」

「お前、本気でバスケやってみねぇか?」

「はぁ?」

 

これが私達と桜木の初めての出会い。

 

そして桜木にとって初めてのバスケとの出会いだった。




これで本日の投稿は終わりです。

というわけでテコ入れですね。このままだとマジで活躍の場が無くなりそうだったので……。

また来週お会いしましょう。


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第79話『リバウンダーの卵』

本日も1話の投稿です。


side:三井寿

 

 

「違ーう!」

「ふぬっ!?」

 

桜木の奴が湘北バスケ部の練習に顔を出す様になって3日が経ったが、今のあいつは赤木にしごかれている。

 

「桜木君はいいリバウンダーに成れる素質がありますね」

「はい」

 

安西先生の言葉に俺は頷く。

 

バックボードに頭をぶつける程のジャンプ力に赤木程じゃないがパワーもある。それに無尽蔵とも思えるスタミナまで持ってやがる。これで特にスポーツをやったことのない素人だっていうんだから才能ってのは残酷なもんだぜ。

 

けど身体能力だけじゃどうにもならねぇところがあるのがスポーツの面白いところだ。

 

まだ本格的にバスケを始めて3日の桜木だが、少しずつ汗を流す楽しさをわかってきたみてぇだな。

 

あいつが湘北に入る頃が楽しみだぜ。

 

「いいか桜木、ゴール下は戦場だ。身体を張ってボールを取るんだ。」

「くそっ、ゴリのくせに」

「だーれがゴリだバカたれが!」

 

赤木と桜木のそんなやり取りに木暮が顔を出す。

 

「まぁまぁ赤木、桜木は素人とは思えない程にいい動きをしてるじゃないか」

「おぉ!わかってるじゃないかメガネ君!ハーッハッハッハッ!」

「木暮、こいつをあまり甘やかすな。直ぐにつけあがる」

 

飴の木暮と鞭の赤木。このコンビの後輩指導は湘北の名物になりつつあると思う。俺も負けてられねぇな。

 

「さて、それでは失礼しますよ」

 

そう言って安西先生は桜木の所に向かった。

 

桜木はバスケの素人だ。けどそれを補える程の運動能力を持っている。

 

だからこそ今の時期に徹底して基礎を覚えさせる必要があるのはわかるんだが……安西先生に優先的に指導してもらえるのは素直に羨ましいぜ。

 

 

 

 

side:安西光義

 

 

少し前に三井君が面白い子を連れて来ました。

 

その子は今私が指導している桜木花道君です。

 

「フンヌッ!」

「桜木君、力が入り過ぎです。もっとリラックスですよ。リラックス」

「リラックス、リラックス」

 

桜木君はバスケに関しては素人ですが、運動能力は素晴らしいものを持っています。特に瞬発力に関しては日本人離れしていると言っていいでしょう。

 

ですが、だからこそ力で何とかしてしまおうとする癖があります。おそらく身体を動かす事に関して、これまではそれで何とかしてこれてしまったのでしょう。

 

緊張と脱力、このバランスこそがスポーツには大事なものです。それを教えるには素人の状態こそが望ましい。

 

なまじ経験を……成功体験を得てしまっていると、修正するのは非常に困難になりますからね。

 

長瀬君を始め教え子の皆には申し訳ありませんが、インターハイ予選前の追い込みに入るまでは桜木君を優先させていただきましょう。

 

「とはいうものの、あまり心配していませんがね」

 

そう呟き目を向ける先には、三井君が中心となって切磋琢磨する光景がある。

 

ふふ、若者達の青春を楽しむ光景は美しいものですね。

 

「おいオヤジ、全然入んねぇぞ!」

 

さて、それでは桜木君の指導をしましょうか。

 

指導らしい指導は皆が優秀なので久し振りですね。楽しませていただきましょう。




これで本日の投稿は終わりです。

また来週お会いしましょう。


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第80話『ムラッ気は可愛気の内?』

本日も1話の投稿です。


side:仙道彰

 

 

インターハイ予選まで残り1ヵ月程となった頃、湘北との練習試合が組まれた。

 

なんでも去年も同じ様な時期に湘北と練習試合をやったらしい。伝統ってやつかね?

 

まぁ、そんなことはどうでもいいか。三井さんと試合をやれるなら文句は無い。

 

そう思って練習試合の日、寝坊せずに湘北が来るのを待ってたんだが、湘北にやたら元気な赤頭の奴がいた。

 

「陵南は俺がたおーす!」

 

開口一番にそう言った赤頭は赤木さんに拳骨を落とされていた。

 

そんなわけであの赤頭が妙に印象に残ったが、それはそれとして練習試合に集中だ。

 

ジャンプボール……魚住さんが制して俺達の攻撃で試合が始まる。

 

ボールが俺に回ってくると三井さんが俺のマークについた。それだけでにやけちまうな。

 

さて、どうすっかな?

 

この練習試合、俺はFじゃなくPGとして出ている。

 

田岡監督から海南の牧さんみたいにガンガン仕掛けてゴールを狙っていいってお墨付きをもらっちゃいるが、三井さんがマークについた以上それは難しい。

 

となると福田や魚住さんを中心に組み立てて、三井さんの頭にパスのイメージを刷り込んでみるか。

 

そういう思惑でパスを回して試合を進めていくが、ジリジリと点差が広がっていく。

 

そして前半の半分が過ぎた頃、三井さんと湘北のキャプテンの長瀬さんが下がって、木暮さんと見慣れない1人が入ってきた。1人は背の低さを見るに多分同じ1年か?

 

その見慣れない奴が俺のマークにつく。

 

「1年か?」

「あぁ、お前と同じ1年の宮城だ」

「そうか」

 

ボールを持った俺はとりあえず仕掛けてみる。

 

抜いたと思ったがついてくる……いや、追いついてきたか。

 

(速さは牧さん以上かもな……)

 

切り返し中に行こうとすると宮城が辛うじてといった感じでついてくる。

 

「やるな」

「毎日の様に三井さんにしごかれてるからな」

「そいつは羨ましい」

 

そう言うと宮城は『うげっ』とでも言いたそうな顔をした。

 

変な奴だな。三井さんみたいな上手い人と毎日やれるなんて、楽しい以外に無いだろ?

 

 

 

 

side:田岡茂一

 

 

三井が抜けた事で点差はジワジワと追い上げているが、流れを完全につかめないのは木暮の存在が大きい。

 

三井という絶対的なエース兼ナンバーワンシューターの影に隠れがちだが、彼も彼でシューターとしての能力は翔陽の藤真に肩を並べられる程に高い。

 

去年の今頃は平凡なSGという印象だったんだがなぁ……。

 

ため息を吐いた俺は仙道とマッチアップする宮城に目を向ける。

 

(去年に見た時よりも確実に成長している……もっとも、うちの仙道の方が成長しているがな)

 

彼がうちに来てくれていれば、仙道と福田のオフェンスが更に活きたのだろうが、無い物ねだりをしても仕方がない。

 

仙道のパサーとしての素質が開花しつつあるし植草も順調に成長してくれている。我が陵南にも役者が揃いつつあるのだ。

 

それにしても……。

 

「おいオヤジィ!早く俺を出せ!リョーちんのピンチだ!」

「花道うるさーい!あんたの出番は夏の合宿からって言ってるでしょうが!」

「ぐぬっ……ですが姐さん……」

「ですがじゃない!見ることも練習なんだからしっかり見なさい!」

 

随分と騒がしい奴が湘北にいるものだ。

 

安西先生が言うには彼はまだ中学生らしいが……安西先生が目を掛けるだけの素質があるということだろう。桜木……要チェックといったところか。

 

「さて、点差は追い付いたが……このまま行かせてはくれんだろうなぁ」

 

その予想通りに再び三井が投入されると、あっという間に点差を広げられてしまう。

 

やれやれ、試合に負けているというのに仙道のあの楽しそうな顔はどうにかならんものか。宮城とマッチアップしていた時と明らかに違う。

 

そんなムラッ気があるうちは、三井や牧と同じステージに立つのは難しいぞ?不可能とは言わんがな。




これで本日の投稿は終わりです。

また来週お会いしましょう。


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第81話『老将の復帰』

本日も1話の投稿です。


side:三井寿

 

 

陵南との練習試合に勝利した俺達湘北は、インターハイ予選に向けて追い込みを始めた。

 

この追い込みで特に鬼気迫る勢いなのが3年生達だ。皆大学進学の為にインターハイが終ったら引退とあって、今回への意気込みは俺達以上のものがあるかもしれない。

 

他に1年達もかなりの意気込みが伺える。特に宮城の奴は安田に負けられないと多くの汗を流してるぜ。

 

「リバウンドは俺がとーる!」

 

さて、今は二手に分かれて半面を使ったゲーム形式で練習をしてるんだが、向こうは桜木の奴が随分とうるさ……元気だな。

 

「甘いわ!」

「ンガッ!?」

 

まだバスケを始めて1ヵ月程度の桜木だが、ゴール下での動きはかなり形になってきている。

 

特にリバウンドに関しては赤木でも油断したら取られる程の急成長振りだ。もっとも、他はまだまだ素人同然だがな。

 

「赤木君、角田君と交代です」

「ほほう?この天才桜木の次の相手はカクか。よろしい!かかってきなさい!」

「負けないよ、桜木」

 

急成長している桜木だがやはり経験値不足だな。赤木だけじゃなく、猪狩さんや角田にもあしらわれちまう。

 

それでも時折光るものを魅せる辺り、やっぱり桜木には才能があるんだと再認識する。

 

「やれやれ、運動量だけはとんでもない男だ」

 

そう言いながら赤木は汗を拭う。

 

「あれで真っ当にスポーツをやったことがないってんだからな」

「ふん、勢いだけで勝てる程バスケは甘いスポーツじゃない」

「あぁ、そうだな。けど、時にはその勢いが必要なのもバスケだぜ?」

「言われんでもわかってるわ」

 

水分補給をした赤木は猪狩さんとの練習に向かう。

 

それに合わせる様に木暮に倉石、そして宮城が俺の所にやって来た。

 

さて、俺も練習に集中するか。

 

 

 

 

side:藤真健司

 

 

インターハイ予選まで残り僅かといった頃、三淵監督が復帰された事に俺達は喜びの声を上げていた。

 

「こうして老いぼれが帰ってきたわけだが、チームの指揮は引き続き健司に任せるものとする」

 

そんな監督の言葉に俺は驚いたが三淵監督は……。

 

「1年のブランクがある儂にいきなり指揮は取れんよ。今の儂に出来るのはチームの負けの責任を取ることぐらいさ。だから健司は好きにやればええ」

 

1年前の俺なら困惑したかもしれない状況も、今の俺は心の底からワクワクし始めている。人は変われるものだな。

 

「さて、儂なりにベッドの上で各チームへの対応を考えてきたんだが……健司、このノートいるか?」

 

ブランクがあるとか嘘だろう……。

 

心の底からそう思った俺は、苦笑いをしながらノートを受け取ったのだった。




これで本日の投稿は終わりです。

また来週お会いしましょう。


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第82『2年目インターハイ予選開幕』

本日も1話の投稿です。


side:三井寿

 

 

今年のインターハイ予選が始まった。

 

神奈川は予想通りと言うべきか、ウインターカップでも揃った四強が勝ち抜いている。湘北、陵南、翔陽、海南の四強だな。

 

湘北の決勝リーグの日程だが、陵南、翔陽、海南の順番であたる事になった。

 

さて、陵南との試合の日がやって来たが皆落ち着いた面構えだ。

 

「やるべき事はやってきました。試合前に多くの事を言うつもりはありません。なので一つだけ……」

 

「君達は強い」

 

安西先生の御言葉で俺達のモチベーションは一気に高まった。

 

「俺達は強い!湘北ーーー!ファイッ!」

「「「オォォォオオオ!」」」

 

ジャンプボールは互角。こぼれたボールを池上が拾った事で試合は陵南の攻撃から始まる。

 

ボールを持った仙道のマークに付く。……何か狙ってる?

 

ピッと片手で高いパスを出す仙道。……この角度はバックボードに?っ!?やられた!

 

ガツンッと福田がアリウープでダンクを決める。景気良くゴールを決めたことで会場の雰囲気が陵南に流れる。

 

「いいパスでしょ?」

「あぁ、いいパスだ」

 

してやったりの顔をする仙道に相槌を打つ。だが、そう簡単に試合の流れはやらねぇよ。

 

長瀬さんにボールを要求するとゆっくりとボールを運ぶ。すると仙道が俺のマークにつく。

 

それなりに見れるようになったディフェンスだが……。

 

仙道の重心が後ろにあるのを感じ取った俺は、仙道はドリブルを警戒していると判断する。これが牧なら重心の位置をフェイクに3Pを誘ってくることもあるんだが……。

 

俺は仙道を試す様にディープスリーを撃つ。……手を伸ばしもしなかったな。どういう意図だ?

 

それはともかくこれでうちが1点リードだ。

 

まだ試合は始まったばかりだが仙道の行動の意図が読みきれず、俺は首を傾げたのだった。

 

 

 

 

side:安西光義

 

 

「なるほど、田岡監督は思い切りましたね」

「どういうことですか先生?」

 

私の言葉に疑問の声を上げる美和さんに答えを返す。

 

「おそらく前半だけでしょうが、田岡監督は仙道君に三井君の3Pシュートを無視する様に指示を出したのでしょう」

「寿君の3Pシュートを?寿君は日本一のシューターですよ?」

「えぇ、私も三井君は日本一のシューターだと思います。ですが、それでも100%3Pシュートが入るわけではありません……後半の勝負所は別ですがね」

 

美和さんが頷くのを見て続きを話す。

 

「少なくとも2回に1回は外す。ならばそのリバウンドを取って攻撃に転じることが出来れば……そう考えて田岡監督は三井君の3Pシュートを無視するリスクを選択したのでしょう。木暮君も含めればもっとリバウンドの機会は増えるかもしれませんからね」

「田岡監督は魚住君を信じてるんですね」

「えぇ、そうですね。ですが、私も赤木君を信じていますよ」

 

目を田岡監督に向けると彼と目が合う。

 

「なので先ずはCで勝負といきましょうか」

 

私の意図が伝わったのか田岡監督が不敵に微笑む。

 

「もっとも、三井君と木暮君がそのまま3Pシュートを決めてしまうことが多いかもしれませんがね」




これで本日の投稿は終わりです。

次回の投稿は8月一杯までお休みさせていただきます。暑いのは苦手なのだ……。

9月にまたお会いしましょう。


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第83話『無視はさせない』

本日も1話の投稿です。


side:三井寿

 

 

 二度仙道と対峙したが相変わらず3Pシュートに対して警戒を感じない。

 

 ならばと3Pシュートを撃って決めても仙道の反応は冷ややかなものだ。

 

 ……もしかして3Pシュートへの対応を捨てた?俺の?

 

 チラリと陵南ベンチに目を向けるとそこには想定内と言わんばかりの田岡監督の姿が。

 

 (……オーケー、わかった)

 

 なら無視出来ない様にしてやろうじゃねぇか。

 

 陵南のオフェンスが終わり長瀬さんがボールを持つと、俺はパスを要求したのだった。

 

 

 

 

side:高頭力

 

 

「2本連続!流石だぜ!みっちゃん!」

 

 湘北応援団の声を耳にしながら三井の動きを追っていく。……どうやら気付いたようだな。

 

「牧、お前ならどうする?」

「今の三井にはファールしてでも3Pシュートを撃たせません」

「そうだ、それが正しい」

 

 パスを要求した三井がキャッチ&シュートで3Pシュートを撃つと、3連続で3Pシュートを決めた。

 

「三井は内も外も出来るオールラウンドなプレイヤーだがその本質はシューター……故にあいつのプレイのリズムを崩すにはジャンプシュートをなんとかしなければならん」

 

 4本連続で三井が3Pシュートを決めると田岡先輩が腰を浮かしたが座り直した。どうやらまだ我慢するらしい。

 

「俺が考える三井と対峙した時にもっともやってはいけない行為は、三井に好き勝手にジャンプシュートを撃たせることだ。決まる、外れる関係無しに三井のプレイにリズムが生まれてしまうからな」

「じゃあ陵南の対応は悪手ですか?」

「そうとも言い切れんのが試合の難しさだ」

 

 ここ最近頭角を現してきた2年の武藤の問いにそう答える。

 

 武藤は今大会から少しずつ出番を与えているのだが、今の調子なら決勝リーグでもスタメンを任せてもいいかもしれないと考える。

 

「試合での経験には練習では決して得られない種類のものがある。それはわかるな?」

「はい」

「田岡監督はその経験を仙道に積ませるつもりだった。3Pシュートを切り捨てドリブル1本に絞りディフェンスをすれば、止められはせずとも三井に食らいつけるだろうと算段したのだろうな。そうすることでディフェンス力向上を実感させ自信をつけさせる……。もっとも、三井が敢えて3Pシュートに固執した事でその策は失敗しているが」

 

 三井が5連続で3Pシュートを決めたところで流石に田岡先輩もタイムアウトをとった。

 

(田岡先輩は変わらんな。昔からチームメイトや教え子を信じ過ぎる。指導者としてはそれでいいかもしれんが、監督としては甘いと言わざるを得ん)

 

 気持ちはわからんでもないがと呟くと、扇子で扇ぎ僅かばかりの涼をとるのだった。




これで本日の投稿は終わりです。

また来週お会いしましょう。


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第84話『基本は圧力』

本日も1話の投稿です。


side:仙道彰

 

 

 コートに戻りながら俺はタイムアウトでの田岡監督の言葉を思い出す。

 

「正直、間違ってなかったと思うがね」

 

 三井さんの3Pシュートの可能性を切り捨ててディフェンス。それが試合前の指示だった。

 

 3Pシュートなんて試合なら入っても3割程度、フリーでも5割程度入れば上出来過ぎるもんだ。

 

 けど三井さんがポンポン決めるもんだから予定が狂っちまった。なんでああも決められるかね?

 

「ディフェンスの基本は圧力っと」

 

 中学の時の俺のディフェンスはお世辞にも上手いとは言えなかったが、ここ最近は少しマシになったと思う。

 

 それは無理にボールを奪いにいったり相手を止めにいかなくなったからだ。

 

 代わりに相手に圧力を掛けてミスを誘うディフェンスをするようになった。これが思いの外効果があるのな。

 

 さて、三井さんにも効果はあるのかねぇ?

 

 タイムアウト前と比べて少し距離を詰めてボールを持った三井さんに圧力を掛ける。すると三井さんがドリブルで仕掛けてきた。

 

(3Pシュートは撃たせなかった。けどなぁ……)

 

 ドリブルで半歩前に出た三井さんは逆サイドでフリーになっていた木暮さんにパスを出す。

 

(湘北にはこれがあるんだよ……)

 

 木暮さんが3Pシュートを決めて点差は更に広がった。

 

(三井さんの3Pシュートを止めても木暮さんがいる。本当に厄介なチームだぜ。まぁ、その厄介な分だけ面白いけどな)

 

 三井さんに木暮さんのダブルシューターに加えて、湘北のゴール下には全国トップクラスのCである赤木さんがいる。

 

(魚住さんがいなきゃ試合にもならなかったかもな)

 

 植草からボールを貰いルックアップしてコートを見渡す。すると視界に細かくポジションを変える魚住さんの姿が映る。

 

 赤木さんは魚住さんのシュートも警戒してポジショニングをしてるが、魚住さんは徹底してこぼれ玉を……リバウンドを取るためのポジショニングをしてる。

 

 だからこそ俺と福田は積極的にゴールを狙える。

 

「リバウンドォ!」

 

 意趣返しとして3Pシュートを撃ったが、こりゃ手応えからして外れるな。

 

 けど最初からリバウンドのためにポジショニングをしていた魚住さんがボールを取ってくれる。

 

 魚住さんからボールを受け取った福田が冷静に押し込んで2点。先ずは一息っていいたいが点差はまだまだある。慌てる時間じゃないのが救いだな。

 

「くっ!」

 

 赤木さんが悔しそうに呻く。まぁ、この試合のディフェンスリバウンドは全部魚住さんに取られてるからな。悔しいと思うだろ。

 

 けどこの結果は赤木さんと魚住さんの実力差によるものじゃない。二人のプレーの意識の差だ。……というのが田岡監督の見解だ。

 

 赤木さんは実力がある分、Cとしてやれることは全部やろうとする。対して魚住さんは俺達のサポートに徹している。その差がリバウンドの時のポジショニング争いの一歩目に差を生んでいるんだとか。

 

 こうして外から内を見ていると確かにそうだなと思うが、内で争っている赤木さんは気付くかねぇ?

 

 ふと気になって三井さんに目を向けると赤木さんを見ながら、どこか呆れた様に小さくため息を吐いていた。

 

(……もしかしてもう気付いたのか?流石というかなんというか)

 

 そんな驚きを通り越した呆れの気持ちを抱きながらもしっかりとプレーをしていくが、序盤の連続3Pシュートが響いて前半が終わった時には18点差がついていたのだった。




これで本日の投稿は終わりです。

また来週お会いしましょう。


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第85話『悔涙』

本日も1話の投稿です。


side:三井寿

 

 

 決勝リーグ初戦の陵南戦は俺達湘北が勝ったが、C対決では魚住の完勝と言える結果となった。

 

 

 後半に赤木が崩れたのを起点に陵南に追いつかれかけた。その事が赤木の心に重く残っているが、これは赤木の成長に必要な事だったので安西先生と俺は見て見ぬ振りをした。

 

 去年の赤木はそれなりにポストプレイ等も出来ていたんだが、ウインターカップでの兼田さんとの勝負が終わってからパスをほとんど出さなくなった。

 

 おそらくは兼田さんとの勝負でゾーンに入った時のプレーを追い求めているんだろう。

 

 あの時の赤木は赤木自身が思い描く理想のプレーだったんだろうな。

 

 だがそれで試合中に目の前の相手すら見ないで理想のプレーを追い求めるのはいただけない。

 

 今の赤木の状態の厄介なところは一度はやれてしまったという成功体験がある事だ。

 

 だから目を覚まさせるには荒療治が必要だったんだが、その役目を魚住に担って貰ったわけだ。

 

 試合中に目を覚ますかと期待してたが、結局赤木は試合が終わるまで目を覚ます事がなかった。

 

 魚住に完敗した今では目が覚めただろうが、残りの決勝リーグ中は使いものにならないかもな。

 

 

 

 

side:赤木剛憲

 

 

 未熟……今の俺はその一言に尽きる有り様だ。

 

 試合中だというのに相手を見ず自分勝手なプレーをして上手くいかず心を乱す。そして心の乱れがミスを生む更なる悪循環。魚住に完敗したのは当たり前の結果だ。

 

『赤木君、今の君に必要なのは心を整理する時間です。今は皆に任せてゆっくりしてください』

 

 安西先生に返す言葉も無く逃げる様にその場を去った俺のなんと情けないことか。

 

 だから俺は走った。汗を拭う事も忘れて走り続けた。

 

「おーい、赤木ィ!」

 

 不意に声が聞こえて立ち止まると、そこにはスポーツドリンクを手にした木暮と倉石の姿があった。

 

「走るなとは言わないけどちゃんと水分補給もしろよ。この暑さだと倒れるぞ」

「……すまん」

 

 木暮からスポーツドリンクを受け取るとグッと飲む。ぬるいが少しは頭が冷えた様な気がした。

 

「少しは落ち着いたか?練習相手が欲しかったら声を掛けろよ。俺達は仲間なんだからな」

 

 そう言った倉石が木暮と共に去っていく背中を見ていると自然と涙が溢れた。

 

 チームの大黒柱たるCが大事な決勝リーグ中に己を見失う等、なんと情けないことか。

 

 これでは兼田さんを超える等夢のまた夢だ。

 

 溢れる涙が止まらず手で顔を覆っていると俺の肩をポンッと叩く者が現れる。

 

 涙でぐしゃぐしゃなまま顔を上げると、そこには兼田さんの姿があったのだった。




これで本日の投稿は終わりです。

また来週お会いしましょう。


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第86話『前進』

本日も1話の投稿です。


side:赤木剛憲

 

「赤木、1on1やるぞ」

 

 肩に手を置いた兼田さんはそう言うと、俺をストリートのバスケコートにまで連れていった。

 

 先客として中学生らしき奴等がいたが、兼田さんが頼むとコートを譲ってくれて俺は兼田さんと1on1を始める。

 

 だが……。

 

「ふっ!」

「ぐぅっ!?」

 

 結果は散々たるもので俺は兼田さんに手も足も出ない。

 

(何故だ?あの時は確かに渡り合えたはず……)

 

 思い出すのは昨年のウインターカップでの激闘。確かに俺はあの時の様な極限の集中下にはないが、それでも結果に違いがありすぎる。何故……?

 

「まったく……赤木、過去は参考にするものであって模倣するものじゃないぞ」

「兼田さん……?」

 

 兼田さんはまるで呆れた様にため息を吐くと言葉を続けた。

 

「全盛期はいつでも明日だ!」

 

「昨日の経験が、今日の練習や学びが、明日の成長に繋がる。赤木、お前はあの日から努力をしていないのか?」

「い、いえ、してます」

「なら上手くいかずにチグハグになるのも仕方ないだろ。なんせ今のお前はあの時よりも成長しているんだ。そんなお前があの時の動きを再現しようとすればズレが出て当然だ。」

「あっ……」

 

 言われてみれば当たり前のことだった。何故気付かなかった?

 

「まぁ気持ちはわからないでもない。俺も大学に入って直ぐは似たようなもんだったからな」

「兼田さんも?」

 

 疑問の声を上げると兼田さんは頷いて話を続ける。

 

「高校でベスト5やらMVPに選ばれたりして、大学でも通用するだろうと思ってたんだがな……手も足も出なかったよ」

 

 兼田さんが手も足も出ない?

 

 それを信じられない俺は声も上げられない。

 

「高校生と大学生の違いを一言で表すなら……身体の強さがまるで違う。俺程度のガタイじゃ簡単に弾き飛ばされる」

 

 そう言われて兼田さんの身体に目を向けると、昨年と比べて明らかに筋肉が大きくなっているのがわかった。

 

「赤木、大学バスケはすげぇぞ。社会人バスケになればきっともっと凄い。……振り返ったり立ち止まったりしている暇はないぞ」

 

 そう言った兼田さんは俺の胸を拳で軽く小突くと背を向けて去ろうとする。

 

「か、兼田さん!なんで俺にアドバイスを?」

 

 そう問い掛けると兼田さんは振り向いて微笑む。

 

「腑抜けた湘北を倒しても後輩達が胸を張れないだろ?」

 

 そう言うと兼田さんは今度こそ去っていった。

 

 残された俺の身体には鳥肌が立っている。

 

「過去は参考に……全盛期はいつでも明日……」

 

 兼田さんの言葉が幾度も脳内を駆け巡る。

 

「ウォォォオオオオ!」

 

 気が付けば叫んでいた。言い表し様のないこの感情を吐き出すために、ただただ叫び続けたのだった。




これで本日の投稿は終わりです。

また来週お会いしましょう。


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第87話『強かさ』

本日も1話の投稿です。


side:三井寿

 

 

 決勝リーグの1回戦のもう1試合……海南と翔陽の試合は激戦になった。

 

 海南は春の県大会の時にはまだどこかぎこちなかった宮益を加えた新戦術を、完全に海南の戦術としていたのには驚いたな。

 

 強豪には強豪と呼ばれるに足る特色めいたモノがある。攻撃特化だったり防御特化だったり様々だが、長年続けてチームカラーとも言えるものがあるからこそチーム作りに迷うことがなく、強豪は強豪と呼ばれるだけの強さにまで成長出来るんじゃないかと思う。

 

 そんな強豪校の一つである海南が新戦術に手を出す。兼田さんという絶対的なチームの支柱が抜けたからというのもあるかもしれないが、それでもOBを始めとした外野からの声など少なくないリスクがあった筈だ。

 

 それでも改革とも言える新戦術を取り入れる。高頭監督の向上心に指導力、そしてそれに応える牧のセンスと勝利への渇望心とも言えるものには素直に感心するぜ。

 

 対する翔陽も一筋縄じゃいかない強豪故の強かさがある。

 

 藤真は海南の新戦術の要である宮益を封じるために、春の県大会で俺に張り付いた奴をマンマークに付けた。

 

 更にインサイドを190cmオーバーの3人で固めてオフェンス、ディフェンス両方のリバウンドを拾いまくる。これで試合のイニシアチブを翔陽が握った。このチームの柔軟性の高さはもう翔陽の特色と言えるかもしれないな。

 

 今の高砂じゃ複数の相手を捌ききるのは難しい。さて、牧はどうする?

 

 そんな俺の疑問を吹き飛ばす様に海南は……牧はそんなことじゃ止まらなかった。リバウンドが拾われるならそれ以上に攻めればいいとばかりに、より一層アグレッシブに攻め続けた。

 

 前半後半と両チームのスコアはシーソーゲームを続けてラスト20秒で海南が2点リードの状況となる。

 

 翔陽は逆転のために藤真が3Pシュートを決めるか、誰かが3点プレーを決めるしかない。

 

 果たして藤真の選択は……藤真は3Pシュートを選んだ。この試合中一度も撃たなかったディープスリーを撃ったんだ。

 

 そのせいか牧の反応が遅れて藤真はほぼフリーの状態で撃つことが出来、残り4秒でディープスリーは見事に決まった。

 

 残り4秒で海南に出来ることはほとんどなく、入れと祈ってハーフライン付近からボールをゴールに投げるしかなかった。

 

 だがその祈りは届くことなく翔陽が勝利した。

 

 万が一ディープスリーが外れてもリバウンドを拾って押し込む。そんな引き分けで終わるための保険を掛けた藤真のゲームメイク……敵ながら見事としか言いようがないな。

 

 歓喜のコートの中でチームメイトに揉みくちゃにされている藤真を見ながら思ったのは、藤真の強かさが誰に影響されたものなのかという事だ。

 

 俺はチラリと安田を見る。……多少驚いてるものの、ノンキに称賛の拍手を送ってやがる。

 

 なんというか色々と言いたいことはあるが……益々面白くなってきやがったな。




これで本日の投稿は終わりです。

また来週お会いしましょう。


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第88話『闘将』

本日も1話の投稿です。


side:三井寿

 

 

 決勝リーグ第2試合の1戦、陵南と翔陽の試合では魚住が誰よりも存在感を放っていた。

 

 赤木との勝負に勝った事で完全に一皮剥けた魚住は、この試合のインサイドを完全に制圧している。最早魚住は県内どころか全国でもトップレベルのCだな。

 

 だが惜しいと言わざるを得ないのが今の陵南だ。

 

 福田はオフェンスはともかくディフェンスが完全に足を引っ張っている。

 

 池上はディフェンスでチームに安定感をもたらすが、オフェンスで相手にプレッシャーを与えられる程の怖さが無い。

 

 仙道はオフェンスとディフェンスの両面で不足なしと言えるが……まだ1年のあいつはこのレベルのバスケでパフォーマンスを維持出来るだけのスタミナがまだ無い。

 

 あのPG……たしか植草だったか?あいつは派手さはないが堅実にチームを回せるいいPGだ。けどまだ経験が足りないのか判断が一歩遅い。

 

 やっぱり惜しいと思う。魚住がモノになっただけに田岡監督だけでなく他の選手も悔しいだろうな。

 

 試合は魚住が奮闘したものの16点差で決着。これで陵南の今年の敗退がほぼ決まった。

 

 さて、次はうちと海南の試合だ。今年こそは全国大会に行くぞ!

 

 

 

 

side:魚住純

 

 

「すみません、魚住さん」

 

 試合が終わるとチームの皆が謝ってくる。

 

「謝るな!」

 

 こんなところで悔しさを吐き出しちゃいけない。だから俺はあえて強い言葉で皆を止める。

 

「謝って、自分を慰めて、悔しさを吐き出すな!その悔しさは練習にぶつけて自分の成長に繋げるんだ!」

「「「っ!?はいっ!」」」

 

 皆は歯を食い縛る様にしてベンチの片付けを始める。やれやれ、さっきみたいなのは柄じゃないんだがな。

 

「よく言ったぞ、魚住」

「監督……」

「強いところに勝ちきれない事でチームに良くない負け癖が付き始めていたが、さっきのお前の言葉で払拭されたはずだ」

 

 負け癖か……それは俺もどこかで感じていた気がする。

 

 多くの場面であと一歩が競り負けてしまう。ここ最近はその傾向が強くなってきて、格下相手にも変に苦戦してしまう事があった。仙道はそんなことはなかったが、あいつを引き合いに出すと変になるからな。あいつはあいつらしくマイペースであればいい。

 

「今日の試合で皆が己に足りないものを自覚した。後は練習をして、成長し、勝つだけだ」

「……はい」

「とはいえまだ海南戦が残ってる。全国行きは絶望的だが、最後までしっかり戦い抜くぞ」

 

 1年……必死にやってきて赤木に勝つことが出来た。だがチームは負けてしまった。それでは意味がない。

 

 そう思いを抱き歩き出し会場を出ると湘北のメンバーとすれ違う。赤木の様子を見るにどうやら立ち直った様だが……。

 

「次も俺が……いや、次は俺達が勝つ」

 

 そう決意を表明する様に呟くと、俺は胸を張って歩くのだった。




これで本日の投稿は終わりです。

また来週お会いしましょう。


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第89話『好敵手』

本日も1話の投稿です。


side:三井寿

 

 

 決勝リーグの2試合目、海南との試合だ。この試合に勝てばうちと翔陽の全国行きが決まる。

 

 なんだかんだと海南には勝ててねぇからな。今回こそは勝って全国行きを決めたいとこだ。

 

 さて今回の試合だが赤木が控えで猪狩さんがスタメンだ。理由は赤木が完全には復調してないからだな。精神的には完全に復調したんだが動きはまだどこかぎこちない。

 

 だがあまり心配する必要はないだろう。猪狩さんもいいCだからな。魚住の様なビッグマン相手だとつらいが、高砂相手なら互角以上に戦える。後は俺達次第だ。

 

 試合が始まった。ジャンプボール……猪狩さんが制してうちの攻めから。

 

 長瀬さんからボールを貰い牧とマッチアップ。……3Pへの警戒が強いな。じゃあドリブルで仕掛けるか。

 

 1つフェイントを入れてストレートに。牧はついてくる。……去年よりも確実にディフェンスが上手くなってやがる。

 

 1度下がって再度アタック……する振りをしてレッグスルーから3Pシュートを撃つ。っ!?立ち上がりからファールかよ!

 

 3Pシュートは外れちまったがフリースローだ。ちっ、1本外しちまったか。気持ちを切り替えてディフェンスに戻る。

 

 戻りながら考えるのはさっきの牧の動き。あのファールは狙ってやられた。おそらくは俺をリズムに乗せないためだと思うが……。

 

 牧がボールを持って上がってくると俺がマッチアップ。そして目が合う。

 

(なるほど、やっぱり狙ってやられたか)

 

 俺のリズムを崩すためにファールをする。光栄な事だ。おかげでまだ今日の3Pシュートの感覚を掴めちゃいないし、フリースローも1本外しちまった。

 

 けどな。

 

「リズムを崩した程度で勝てると思うなよ」

「わかってるさ」

 

 不敵に笑った牧がドリブルで仕掛けてくる。俺は借りを返すかの如く全力で止めにいったのだった。

 

 

 

 

side:牧紳一

 

 

 あぁ、わかってる。誰よりも俺がわかってる。そんな程度じゃお前に勝てないのはな。

 

 だが今の俺じゃお前のリズムを崩さなきゃ勝負にならないのも事実。悔しいがそれは認めなきゃいけない。

 

「フッ!」

 

 鋭く息を吐き1歩踏み出す。三井はついてくる。戻って仕切り直す。

 

 再度アタック。今度は1歩抜け出せたが、三井が厄介なのはここからだ。

 

 ほら、やっぱりカバーがいやがる。それもディフェンスが上手い倉石だ。三井を抜けると思うと、ほぼ確実にこいつがいる所に出ちまう。

 

 三井はこれを狙ってやってるんだろう。後ろに目でもついてんのか?まぁ、三井ならと納得出来ちまうがな。

 

「牧!」

 

 後ろにノールックでパス。決めろよ、宮!

 

 綺麗な放物線をボールが描く中で宮のフォローに動いた1人を除き、俺を含めた2人で高砂のフォローに動く。

 

 ……よし、決まった。これで1点リード。

 

 翔陽との試合じゃまだ完璧に出来ちゃいなかったこの新しい形も、ようやく様になってきたな。いい感じだぜ。

 

 ディフェンスに戻ると三井に目を向ける。さっきのうちの攻めに驚いちゃいないみたいだが、三井から感じる圧力が1段増しやがった。

 

(ふっ、望むところだ)

 

 試合は始まったばかり。夏の暑さなんて忘れるぐらい、もっと熱くなっていこうぜ!




これで本日の投稿は終わりです。

また来週お会いしましょう。


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第90話『個人の勝利ではなくチームの勝利』

本日も1話の投稿です。


side:赤木剛憲

 

 

 海南との試合の前半は木暮と宮益が中心となって進んでいった。とは言っても飛び道具合戦になったわけじゃない。要所要所で二人の3Pシュートが光り、それぞれのチームにリズムや勢いを呼び込み合う形になっていったんだ。

 

 では両チームのエースはどうなったかというと……こちらは地上戦でバチバチにやりあっていると言っていいだろう。

 

 牧はカットインを仕掛けていく中で宮益がフリーになればパスを供給する。

 

 対して三井はというと牧と似た事をしながらも時折自分で3Pシュートを狙うのだが、安西先生が言うにはどうも牧のファールを誘っているようなんだ。

 

 その証拠とでも言うべきか牧は前半が終わった時点で既に3つのファールを重ねている。

 

 点差は海南に10点リードされているが十分に射程圏だ。

 

 懸念があるとすれば牧だけじゃなく猪狩さんも3つファールを重ねてしまっている事か。その為まだ本調子じゃない俺がハーフタイム中にアップを始めている。

 

 もちろん出番が来れば全力でやるが、果たして今の俺がどこまでやれるか……。

 

 いかんな。こんな気持ちでコートに立ったらあっという間に飲まれてしまう。集中しろ、剛憲!

 

 両手で思い切り顔を張り気持ちを切り替えると後半が始まったが、海南の動きが前半と違った。明らかにボールを中に集めている。

 

「猪狩君が狙われていますね。赤木君、準備は出来ていますか?」

「は、はいっ!」

 

 そう返事はしたものの俺はかつてない緊張に身を震わせている。試合に出るのはこんなに怖いものだったか?

 

 暖めた筈の身体を流れる汗が冷たく感じる。そう思ったその時、鳴り響いた審判の笛に心臓が跳ね上がった。

 

 コートに目を向けると……そこには手を上げる猪狩さんの姿がある。

 

「赤木君、猪狩君と交代です」

 

 安西先生に促されるままに猪狩さんと交代する。コートに一歩足を踏み入れると膝が笑ってしまう。地に足がつかない。

 

 不意に背中に痛みが走る。振り向くと三井がいた。いつの間に?

 

「赤木、何度ミスしてもいい。何度ファールしたっていい。けど、コートにいる間は俯くな。顔を上げ続けろ」

 

 ミスをしてもいい?だがそれじゃ勝てんじゃないか。

 

「バスケはチームスポーツだ。乱暴な言い方だがお前が負けてもチームが勝てばいい」

 

 俺が負けてもチームが勝てば……?

 

 そうだ。バスケはチームスポーツだ。俺が負けてもチームが勝てばいい。どうしてこんな大事な事を忘れてたんだ。

 

「ハッタリでいい。基本のハンズアップとルックアップをしっかりな。そしたら後は俺達でフォローする」

 

 三井はバシッと背中を叩いて去る。

 

 俺が勝つ必要がない。この事を理解するとガチガチに固まっていた身体から、不思議といい感じに力が抜けていくのがわかる。

 

 審判の笛が鳴り試合が再開された。

 

 不様でもいい。俺が勝つ必要はない。先ずは基本のハンズアップとルックアップだ。

 

「さぁ来い!」

 

 自然に出た俺の声にチームの皆も応じて声を出したのだった。




これで本日の投稿は終わりです。

また来週お会いしましょう。


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第91話『勝利と尽きぬ闘志』

side:三井寿

 

 

 海南との試合の後半、途中出場の赤木だがプレイスタイルが変わった。というよりはプレイのバランスが良くなったと言うべきか?

 

 これまでの赤木はとにかくゴール下で俺が俺がという感じだったんだが、この試合ではゴール下を離れてスクリーンを掛ける事で、インサイドでプレーする長瀬さんや倉石のフォローに回る動きも見せている。

 

 まだどこかぎこちなさもある動きで魚住程の存在感や安定感もないが、今の赤木になら十分にCを任せられそうだ。

 

 さて、赤木はともかく問題は牧だ。こいつをどうにかしない事にはこの試合に勝つのは難しい。

 

 牧には既に3つファールをさせちゃいるが、後半に入って集中のギアを一つ上げたこいつからファールを奪うのは中々に困難だ。

 

 それを察しているのか牧の奴は前半以上にアグレッシブに来やがる。それでいてファールをしねぇんだから大した奴だぜ。

 

 とはいえ牧に好き放題やられてばかりもいられない。なら一つ狙うしかねぇだろうな。

 

 牧のマークに付き仕掛けのタイミングを測る。

 

 ドリブルで仕掛けてきた牧に身体を寄せる。いつもならロールを警戒して僅かに距離を取るところをわざと身体を寄せて距離を詰める。ほんの数cmだけ。牧が身体を捩じ込もうと空いている左手を使ってくるタイミングで。

 

 ここだ!

 

「うおっ!?」

 

 牧の左手で押された俺は堪えずに後ろに倒れる。大げさになりすぎず、けど押されて倒れたのがわかる様に。

 

 ピッ!

 

 よしっ!これで牧はファール4つ目だ!試合残り時間は10分……行けるぜ!

 

 笛を吹かれた牧は数秒の間茫然としてたが、直ぐに我に返るとやられたとばかりに苦笑いをした。そして高頭監督が交代を告げると堂々と胸を張ってコートを出ていく。

 

 ……敵ながら大したプレーヤーだよ、お前は。

 

 その後海南は可能な限り時間を使ってプレーをしようとするが攻守共に精彩を欠き、俺達湘北のプレーに飲み込まれいく。

 

 点差を逆転して更に点差を広げていったところで牧が出てきたが時既に遅しというべきか、点差は詰まることなく時間だけが過ぎていく。

 

 そしてリードを保ったまま試合終了の笛が鳴り響くと、俺達湘北は全国出場を決めたのだった。

 

 

 

 

side:高頭力

 

 

 皆が帰り仕度を終えて控え室を出た中で牧だけが残っている。俺は長椅子に座る牧の隣に腰を下ろした。

 

「何をされたかわかっているか?」

「はい、いつもより詰められファールを誘われました」

 

 試合中は気持ちを切らせないために敢えて言わなかったがどうやらわかっていたようだ。

 

「そうだ。お前に覚られないようにドリブルで仕掛けて左手を使おうとした瞬間に距離を詰めた。僅か数cmだがな。ああいうのは練習では出来ても試合では使えない類いの技術なんだがなぁ……」

 

 そう言うと牧は不敵に笑みを浮かべる。

 

 試合で負けた悔しさよりもライバルが手強い事に喜びを覚えるか。この汲めども尽きぬ闘志と勝利への貪欲さこそが牧の最大の魅力。……賭けてみるか。

 

「牧、ロングシュートをやらんか?」

「俺が、ですか?」

 

 驚く牧に頷き言葉を続ける。

 

「宮益や木暮の様なシューター程の精度はいらん。だが警戒させられる程度の精度があれば、お前のオフェンスの選択肢が広がる。そのメリットはわかるだろう?」

 

 おそらく三井との攻防をイメージしているのだろう。牧は武者震いをしているが言葉を続ける。

 

「だがリスクもある。それは警戒させられるだけの精度が身に付かず、選手として中途半端になってしまう事だ。」

「やります」

 

 リスクを告げても躊躇せず挑戦を選ぶか……ならば俺もその闘志に応えねばな。

 

「それじゃ夏の残りはシュート漬けだな。シュート2万本だ」

「2万で足りますか?」

 

 不敵に笑いながらそう言う牧に思わず笑ってしまう。

 

「ハッハッハッ!なら2万本とは言わずお前の腕が上がらなくなるまでだ!」

「望むところです」

 

 これで牧は大丈夫だな。後は怪我をせんように見守るだけだ。

 

 昨今では口の悪いのがまるでうちが弱くなったかの様に声高に叫ぶが、うちが弱くなったのではなく神奈川のレベルが上がり、これまでの海南では対応出来ない時代が来ただけなのだ。

 

 その新たな時代に適応し生き残ったその時、海南は新たな時代の神奈川の王者として君臨出来るだろう。

 

 その時が来るのは直ぐか、あるいは5年後10年後かはわからんがな。

 

「さぁ帰るぞ。帰ってミーティングだ」

「ミーティングが終わったらシュート練習をしても?」

「ばかもん、今日ぐらいは休め」

 

 さて、残るは他の教え子達だが……合同合宿で先行きの目処が立てば上出来か。

 

 試合中に折ってしまった扇子をゴミ箱に捨て新たな扇子を手にすると、牧と共に控え室を去るのだった。




これで本日の投稿は終わりです。

また来週お会いしましょう。


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幕間6『桜木親子』

救いたかったんだ。仕方ないね。


side:三井寿

 

 

 インターハイの全国大会行きを決めた俺達湘北だがまだ決勝リーグの試合は残っている。最後の翔陽戦に勝って神奈川1位で全国に行くぜ!

 

 そう思い明日の翔陽戦に向けてミーティングをするべく体育館に集まると、不意に桜木の連れの水戸が一人で現れた。

 

「水戸君、桜木君はどうしたんですか?」

 

 安西先生がそう問い掛けると水戸が頭を下げる。

 

「すいません安西先生。花道の奴、しばらくこれないかもしれないっす」

 

 水戸が言うには桜木の親父さんが倒れたらしい。

 

 幸いにも命に別状は無いらしいが、しばらくは桜木が親父さんに付くことになりそうなんだとか。

 

 伸び盛りの桜木がしばらくバスケから離れるのは痛い。あいつは急激な成長をしてきている分、技術が身に付く前に練習が出来なくなれば技術が抜け落ちるのも相応に早い。

 

 ……まぁ、それも仕方ねぇか。色々な事情でスポーツを続けられない、出来ないなんて話は結構あるもんだからな。

 

 それでもやっぱり……桜木の事は惜しいな。

 

 

 

 

side:三人称

 

 

 とある神奈川の病室で椅子に座り花道は俯いている。彼なりに父親の事が心配なのだろう。

 

「花道……」

「親父!大丈夫か!?今医者をよんでくる!」

「ナースコールを押せばくる。ここは病室なんだ、静かにしろ」

 

 そう言ってナースコールのボタンを押す父親は流石に大人だけあって冷静だった。

 

 そんな父親の姿に恥ずかしさを覚えたのか花道は少し顔を赤らめて椅子にドスンと座り直す。

 

「それで、俺の病気は何なんだ?」

「肺気球とかいうやつだ」

「……肺気胸か」

「ぬ?あぁ、それだ」

 

 別に花道はボケをかましたわけではなく本気でそう思っていたのである。

 

 それがわかった父親はため息を吐くが、胸の痛みに顔をしかめた。

 

「おい、大丈夫か?」

「大丈夫ならこうして寝てねぇよ」

「そ、そうか」

 

 少しして看護師と医者が病室にやって来ると話を始めた。

 

「桜木さん、現在貴方は胸腔ドレナージをしている状態で……」

 

 医者が話をしていくが花道はその内容がよくわからず首を傾げている。

 

 そして医者と看護師が退室すると父親が話し掛ける。

 

「花道、俺の弟……叔父は覚えているか?」

「あぁ、それがどうした?」

「あいつの電話番号を教えるから、ここに来る様に言ってくれ」

「わかった」

 

 病院にある公衆電話で叔父に連絡を取った花道は、病室に向かう途中肩を落として歩いていた。理由は自身の無力さを感じていたからだ。

 

 父親が倒れているの発見した花道は病院が近いのもあって走って医者を呼びにいこうとした。だが、その途中をかつて喧嘩をした相手に邪魔をされた。

 

 幸いにも花道を迎えに来ていた水戸達がその相手を抑えたことで花道は医者を呼びに行くことが出来たが、もしそうなっていなければ最悪の事態もありえただろう。

 

 その事をわかっているからこそ花道は肩を落としているのだ。

 

 病室に戻り椅子に座った花道を見た父親が不意に話し掛ける。

 

「花道、バスケットボールは楽しいか?」

「ぬ?急にどうした?」

「答えろ。楽しいか?」

「……あぁ、楽しい」

「そうか」

 

 父親が笑みを浮かべると花道は首を傾げる。

 

「なら続けろ。俺の事は気にしなくていい」

「お、おい」

「お前が俺の心配をするなんざ10年早い。やっと夢中になれるもんを見付けたんだろ?なら思いっきり楽しんでこい」

 

 そう言って身体を起こした父親は花道の頭をかき混ぜる様にして撫で回す。

 

「おい、止めろ親父!」

「スポーツをするならこのリーゼントもどうにかしないとなぁ。いっそ坊主にでもするか?」

「ふざけんなクソ親父!」

「何だとバカ息子!」

 

 病室で口喧嘩を始めた二人は、看護師さんに止められるまで仲良くじゃれ合うのだった。




これで本日の投稿は終わりです。

また来週お会いしましょう。


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第92話『片鱗』

side:三井寿

 

 

 インターハイ神奈川県予選決勝リーグも今日が最終日だ。午前中に陵南と海南の試合が、そして午後一番からうちと翔陽の試合が行われる。

 

 なので俺達は午前から会場入りして陵南と海南の試合の見学に来ているんだが、驚く事に桜木がやって来た。何故か坊主頭で。

 

「あ~……なんだ、これはけじめというかそんなもんだ。だから安西の親父!撫で回すんじゃねぇ!」

「ホッホッホッ、いい手触りです」

 

 陵南と海南の試合までまだ時間があったので桜木に話を聞いたが、どうやら桜木はバスケを続けられるそうだ。よかったぜ。

 

 さて、そうなると桜木もいい加減バッシュを買わねぇとなぁ。

 

「桜木君、坊主頭可愛くて似合ってるよ」

「おっ?そうっすか?いやー流石は晴子さん!わかってますねぇ!」

 

 しかしなんだ、桜木と晴子は相性がいいんだよな。晴子が天然ってのもあるが赤木で慣れてるのか強面が相手でも物怖じしねぇし、しかもバスケにも理解がある。桜木にとっちゃ理想の相手なんだが……。

 

「そういや美和、晴子が流川ってのに告白するとか話があったろ?」

「あぁあれ?晴子ちゃんにとっては残念だけど撃沈したわ」

 

 美和の従姉妹って事で身内贔屓もあるが、晴子程の器量良しもそうそういねぇもんだが振られちまったか。

 

「まったく流川の奴……晴子ちゃん程のいい子を振るなんて何を考えてって……あいつの事だからバスケの事しか考えてないか~……」

「お、俺は彩ちゃん一筋だから!」

「リョータ、そういう話はスタメンを勝ち取ってから言いなさい」

 

 この二人……中原と宮城も相性が良さそうなんだよな。美和の話だと宮城をバスケに集中させたいから中原が袖にしているんだとか。

 

 脈はあるぜ宮城。諦めんなよ。

 

 さて、そろそろ試合開始のようだ。

 

 ジャンプボールを魚住が制して陵南の攻めから。早速仙道と牧のマッチアップだ。

 

「おっ?」

 

 今の仙道のクロスオーバーは良かったな。ストレートに行くのかどうかわからなかったぜ。

 

 牧を抜いた仙道はそのまま中に切れ込み、更に高砂も抜いてレイアップを決めた。

 

 攻守が切り替わり今度は海南の攻め。さて、牧はどう攻め……。

 

「なにっ!?」

 

 驚いて思わず立ち上がっちまった。なんせ牧が3Pシュートを撃ったんだからな。

 

 スウィッシュとはいかなかったが、ボールはリングに嫌われず牧の3Pシュートは決まった。

 

 チラリと翔陽の方に目を向けると藤真も驚いてるぜ。

 

 こいつは厄介だな。

 

 おそらく牧の3Pシュートはそこまで成功率は高くねぇ。だがこうしてまぐれでも何でも決められたら警戒せざるを得ない。

 

 ただでさえ突破力のある牧なんだ。それが外も警戒しなきゃとなれば……止めるのは相当困難な相手になるぜ。

 

「ふふ、嬉しそうだね、寿君」

 

 美和に指摘されて気付いた。拳を握り締めて笑っている事に。

 

「まったく……もっと早くやれってんだ」

「3Pシュートは難しいからねぇ~。無茶言ったらダメだよ」

「それでもさ。文句の一つも言いたくなる」

 

 仙道は目を輝かせ牧が不敵に笑っている。全国というプレッシャーから解放されたってのもあるだろうが、あんなに楽しそうにされちゃあな。

 

「その分、全国を楽しんでこようよ」

「おう、そのためにも先ずは1位通過しねぇとな」

 

 陵南と海南の試合は牧の3Pシュートに面を食らったのか、終始海南のペースで進んでいき海南が勝利した。

 

 さぁ、次は俺達の番だ。勝って1位通過で全国に乗り込むぜ!




これで本日の投稿は終わりです。

また来週お会いしましょう。


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第93話『解放』

side:三井寿

 

 

 さぁ決勝リーグ最後の試合……翔陽との試合が始まるぜ。復調した赤木に俺、安田、木暮、倉石のスタメンで戦っていく。

 

 長瀬さんがスタメンのPGじゃないのは安田と藤真の相性とかを確認する意味がある。

 

 春の県大会で安田が藤真を出し抜いたんだが、それで藤真が安田に苦手意識を持っているか……これが確認出来れば今後の戦略の幅が広がるからな。

 

 さぁジャンプボール……赤木が制してうちの攻めからだ。

 

 安田からボールをもらって……って、いきなりダブルチームかよ。1人は以前にやったやつだな。確か長谷川だったか。

 

 チラリと確認すると木暮にマークが1人、そして中に2人。倉石と安田がほとんどフリーの状況……思いきった作戦だな。

 

 さて、先ずはドリブルで仕掛けてみるか。3Pシュートはかなり警戒されてるからな。

 

 目線で外にフェイクを掛けてクロスオーバーで中へ。タイミング良く倉石がスクリーンをしてくれたのもありあっさりと翔陽のダブルチームを突破。そのまま中を経由し逆サイドの外へ。

 

 左サイドの角度の無いところからフリーで3Pシュートを撃つ……よし、幸先良くスウィッシュで決まったぜ。木暮と軽くハイタッチしながらディフェンスに戻る。

 

 さぁ注目だな。安田と藤真のマッチアップだ。

 

 実力で言えば藤真の方が上だ。だが安田にはその差を埋める強かさがある……って、いきなりファールかよ。

 

 安田のファールで一度試合が止まる。直ぐに再開するべく藤真が動くが何故かファールをされた左手を気にしていた。

 

 安田はケガをするほど強く触っちゃ……なるほど、安田は春の県大会の一件を思い出させるためにわざとやったのか。やれやれ……そういう駆け引きは1年のやるレベルじゃねぇぞ。

 

 呆れと称賛が入り雑じった苦笑いをすると試合が再開したのだった。

 

 

 

 

side:藤真健司

 

 

 やりにくい……湘北の安田の印象はその一言に尽きる。

 

 PGととしてゲームメイクをし、更に監督としてチームを采配する。これだけでもすごく頭を使うんだが、安田は更に駆け引きを要求して頭を使わせてくる。

 

 おかげでまだワンプレーしか動いてないのに今後の消耗を考慮し、ペース配分をしていかなきゃならないと思ってしまっている。

 

 ……どうする?っ!?しまった!

 

 安田にスティールされ速攻を掛けられる。そのままレイアップを決められスコアは0ー5となった。

 

(くそっ!)

 

 心の中で悪態を吐くがそれで状況が変わるわけもない。

 

 自分を落ち着かせるべく大きく深呼吸をするとタイムアウトが入った。……三淵監督?

 

 頭に疑問を浮かべながらベンチに戻ると三淵監督がニッと笑う。

 

「健司、この試合は監督をせんでいい」

「えっ?」

「随分と強かな子がおるじゃないか。あの子の相手をしながらじゃきつかろう?」

 

 確かにその通りだが、それでもきついとは言いたくない。

 

「健司、お前さんは成長した。けどな、そのせいか誰かに頼る事を忘れてしまっとる様じゃな。そりゃいかん。人間、1人でやれる事には限界がある」

 

「時には誰かを頼る。これもまた強さの1つよ。さぁ、健司。どうすればいいかわかるの?」

 

 チームを任されガムシャラにやって来た。そしてそれで何とかしてこれたプライドじみたものがある。けど……それじゃダメなんだな。

 

「三淵監督……チームの采配をお願いします」

「うむ、任された」

 

 ふと胸の辺りが軽くなった様に感じた。それと同時に視野も広くなった様な……あぁ、そうか。俺は気付かないうちにプレッシャーにやられてたのか。

 

「さぁ、先ずは基本のルックアップとハンズアップじゃ。そしてしっかりと足を動かす。これが出来んと勝てる試合も勝てなくなるぞ」

「「「はい!」」」

 

 当たり前の事を言っただけなのにチームに活力が戻った。これが三淵監督の存在感なのだろうな。俺にはまだ出せないものだ。

 

 グイッと水分補給をしてからコートに戻る。

 

「さぁ試合は始まったばかりだ!逆転するぞ!」

「「「おぉ!」」」

 

 気が付けば自然と声を上げていた。気持ちのいい発声だった。

 

 行くぞ湘北。試合はまだこれからだ。




これで本日の投稿は終わりです。

また来週お会いしましょう。


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第94話『インターハイ神奈川予選終了』

side:三井寿

 

 

 タイムアウトが終わると藤真が立ち直っていた事もあり、翔陽との点差は5点のままで前半が終わった。

 

 そして後半、湘北は安田と交代して長瀬さんをPGにしてチーム全体のチェンジオブペースを計る。

 

 これが功を奏したのか翔陽との点差は徐々に広がっていき時間が過ぎていく。

 

 そしてついに試合終了の笛が鳴り響くと、俺達湘北は神奈川1位で全国出場を果たしたのだった。

 

 試合終了の挨拶を終えて大会終了式までの束の間、長瀬さんを始めとした3年生達が涙を流して喜ぶ。

 

「ありがとう三井。お前のおかげだ」

「長瀬さん、俺だけの力じゃないですよ。チーム全員の力です」

「あぁ、わかってる。それでもお前に礼を言いたいんだ。ありがとう」

 

 どうしたものかと戸惑っていると安田が安西先生の胴上げを提案してきた。こんなところでも度胸満点だな。けどいい提案だ。

 

 皆で安西先生を胴上げするといい時間となり終了式兼表彰式が始まった。

 

 大会ベスト5はPGに藤真、これは全国出場が大きいだろうな。

 

 SGには木暮、木暮は3Pシュートを中心に攻防共に安定した活躍をしていたから妥当な選出だな。

 

 Fではまだ1年の仙道が選ばれている。仙道は1年離れした能力を持っているし、この選出も不思議じゃない。

 

 SFでは俺が選出された。自分自身でも今大会の動きは総じて良かったと思ってたからな。この選出は素直に嬉しいぜ。

 

 そして最後にCだが魚住が選ばれた。魚住は今大会のCの中で抜群の存在感を示していたからな。赤木にゃ悪いがこの選出は納得だぜ。

 

 新人賞には福田が選ばれた。仙道がベスト5に選ばれているから、多少は配慮があったのかもな。けど福田もスコアラーとしちゃいい動きをしていた。課題としてディフェンスの拙さがあるが、これからの陵南を担う選手の1人だ。

 

 アシスト王には牧がなった。これは最後の翔陽との試合で安田が出たのが大きいな。

 

 牧の影響なのか神奈川のPGは全体的に速い展開の組み立てをする事が流行っている。だが安田はその流行りに反する様にスローな組み立てをする事が多い。

 

 安田がスローな組み立てで時間を使うことで翔陽の攻撃の機会が減った。それが牧がアシスト王になった大きな要因だ。

 

 得点王には俺がなった。名前を呼ばれた瞬間に陵南の方から強い視線を感じた。視線の主は福田とか仙道辺りか?

 

 そして最後にMVPだがこれも俺が選ばれた。今度は陵南の方からだけじゃなく海南の方からも視線を感じる。これは牧だろうな。

 

 こうして表彰式は終了し、インターハイ神奈川予選は幕を閉じた。

 

 さぁ、次は全国だ。合宿でチームを鍛え直して勝ち上がってみせるぜ!




これで本日の投稿は終わりです。

また来週お会いしましょう。


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第95話『2年目の夏合宿開始』

side:赤木美和

 

 

 インターハイ神奈川予選を1位で通過した私達湘北は、全国大会に向けて意気揚々と今年の合同合宿に参加した。

 

「よろしくお願いします!」

「「「よろしくお願いします!」」」

 

 今皆で各校の指導者の先生に挨拶をして回ってるんだけど、今年は5校と参加校が多いのよね。

 

 先ずは去年と同じうちと海南に陵南、そして新しく翔陽と武里が加わったわ。翔陽の参加は予想出来たけど武里の参加は意外だったかもしれない。

 

 その事を正直に安西先生に言ったら……。

 

「現在の神奈川高校バスケはうちと陵南、そして海南と翔陽の四強と呼ばれています。現在の状況も面白いのですが、更に刺激を入れようと四校の指導者の皆さんで話し合いましてね」

 

 基本的に高校スポーツはどの分野でも各都道府県で強豪と呼ばれるところが競合するところはそんなに多くないらしい。言いたくないけど部費だのなんだのでお金が関わるからね。だから学校側も結果を出せる、もしくは出せそうなところにお金を多く割り振るわ。うちも去年は部費が少なかったけど今年は結構割り振ってもらえたし。ある意味で期待されているのかがわかりやすいわよね。

 

 そういうわけで高校スポーツでは同じ分野の同じ都道府県で強豪が何校も競合するのは珍しいんだけど、奇しくも神奈川では強豪と呼べるレベルの高校が四校も現れた。

 

 そこで安西先生達は一計を案じて四校以外の高校も合同合宿に招いて、神奈川の高校バスケ全体のレベルアップをしてしまおうと思ったらしいわ。神奈川の高校が全国制覇をするために。

 

 それで武里が今回参加したらしいんだけど本当は他の高校にも声を掛けていたみたい。けど先約があったりなんだりして、結局四校以外で参加出来たのは武里だけみたいね。

 

 それにしてもこりゃ忙しくなりそうだわ。なんせ各校の女子マネージャーの数を合わせても10人しかいないんだもの。まぁ、夜は恋バナでもして楽しめそうだからいいけどね。ふっふっふっ……たっぷりと惚気話を聞かせてあげるわ。

 

 

 

 

side:三井寿

 

 

「くっそー!仙道!もう1回だ!」

「悪いな桜木、次は三井さんとやりたいんでな」

 

 特別に今回の合同合宿に参加している桜木なんだが、フリー練習の時間に各校のエース格選手に1on1を挑んでは返り討ちに合っている。

 

「牧さん、もう1回!」

「宮城、もう5回目だぞ?他の奴ともやんないと合同合宿の意味がな」

 

 あっちでは宮城が牧に食い付いているな。やる気は十分なんだが、牧とやり合うにはまだまだ色々と足りない。

 

「安田、あの時の駆け引きについてなんだが……」

「あぁ、あれはですね」

 

 向こうでは藤真と安田が駆け引きについて話し合ってるな。安田の強かさを学び取ろうとする藤真のあのストイックさ……どうやらインターハイ予選の最後の試合で一皮剥けたみてぇだ。

 

「おーい、三井」

 

 木暮に呼ばれて足を運べばそこには各校のシューター達が集まっていた。

 

「よし、それじゃ3Pシュート勝負やるか。5本勝負で色々とシチュエーションを変えてやるぞ。フリーだったりキャッチ&シュートだったりハンズアップした壁役ありだったりでな。負けた奴は腕立て10回かダッシュ3本な」

「おい待て三井!そんな面白そうなの俺もやらせろ!」

「おっと、俺も入れてくれよ」

 

 牧と藤真も参戦か。いいぜ、皆で楽しもうか!




これで本日の投稿は終わりです。

また来週お会いしましょう。


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第96話『学生の本分は勉強?』

side:三井寿

 

 

 夏合宿は午前中の日が昇って暑くなる前にガッツリと基礎練習を行い、昼の暑い時間はフリーとなり、日が沈んで涼しくなる夕方にゲーム形式で練習を行う。

 

 このスケジュールの中のフリーの時間だがなにもバスケばかりしているわけじゃない。3年生は希望進路によっては勉強している人達もいるし、期末テストでやばかった連中はバスケをそこそこに強制的に勉強をさせている。

 

 さて、この強制的に勉強をさせている奴なんだがうちには残念ながら2人もいる。宮城と桜木だ。

 

「俺、彩ちゃんが先生だったら満点取れるかも」

「馬鹿なこと言ってないで集中しなさい」

 

「す、すみません晴子さん、ここなんですが……」

「うん?あっ、そこはね桜木君」

 

 宮城には中原が、そして桜木には晴子が教師役についている。特に晴子はわざわざ家からここまで通って桜木に教えているからな。自分も桜木と同様に受験生の立場なのにご苦労な事だぜ。

 

「まったく……」

「いやぁ、すみません魚住さん。けど赤点とんなかったんだからいいじゃないですか」

「お前は卒業したらアメリカに行くんだろう?だったらせめて英語ぐらいはしっかりと勉強をしておけ」

 

 陵南の中からは仙道が強制勉強組になる。ただ仙道は赤点にならないラインを見極めてギリギリまで手を抜いたのがばれた結果、こうして強制的に勉強をさせられる事になった。

 

 それにしても仙道もアメリカに行くつもりなのか。意外……ってわけでもないな。あいつが普通に就職して働く姿が想像出来ないからな。

 

「宮、すまん」

「まさか俺が牧の勉強を見ることになるなんてなぁ」

 

 そして海南からは驚くことに牧が強制勉強組だ。とはいっても牧は勉強出来ないわけじゃない。話を聞くとケアレスミス……期末テストで解答欄を間違えて記入してしまい赤点ギリギリになったんだとか。

 

 それで高頭監督に『たるんでるな、牧』と言われて、今回の合宿で勉強する事になったんだとさ。

 

「『本当の問題児がいるのはうちぐらいか』」

「『まぁ、2人とも練習のし過ぎ感はあったし、息抜きにはちょうどいいんじゃない?』」

「『英語で話ですか?いいですね。俺もまぜてくださいよ』」

 

 そんなふうに美和と英語で話していると小休止に入った仙道が話に加わってくる。

 

「『仙道、英語出来たんだな』」

「『出来ないと言った覚えはありませんけど』」

 

 確かにそうだな。それに天才肌のこいつだ。興味を持ったから出来る様になったんだろう。

 

「『三井、お前はどこの大学に行くつもりだ?』」

 

 牧も小休止に入ったのかそう英語で話し掛けてきた。

 

「『ノースカロライナかカリフォルニアの中堅辺りの大学が候補だな』」

「『中堅の大学の理由は?』」

「『強豪の大学でもやれる自信はあるが、1年目からいきなりスタメンは流石に厳しいだろう。だから中堅辺りの大学でスタメンになってアメリカのバスケの経験を積みながら、NBAにアピールしていこうって思ってな』」

 

 そう話すと納得がいったのか牧は頷く。

 

「『じゃあ俺もフロリダの中堅どころの大学を狙うか』」

「『……フロリダって事は時間が出来たらマイアミのビーチにでも行くつもりか?』」

「『あぁ、あそこで波に乗るのは面白そうだからな』」

 

 なんというか、サーフィンが趣味の牧らしい選択だな。

 

 その後は強制勉強組と勉強組の教師役を交えてそれぞれの将来について話していく。一番驚いたのは魚住が高校を卒業したら板前になると言った事だな。

 

 あいつなら将来的には大学や社会人バスケの全日本メンバーになっても不思議じゃねぇんだが、板前になるのが魚住の夢なら仕方がない。

 

 けど……やっぱり惜しいと思っちまうのは、それだけ魚住がいいバスケ選手だって事なんだよな。




これで本日の投稿は終わりです。

それと早いですが今年の投稿を終わりにいたします。

また来年にお会いしましょう。


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第97話『合同合宿で魅せる遊び心』

side:三井寿

 

 

 合同合宿では夕方の比較的涼しい時間帯になると試合形式での練習が始まるんだが、ここで1つ変わったことをやっている。

 

 それは……本来のポジション以外でプレーすることだな。

 

 例えば赤木や魚住はPFで、牧はSF、藤真はSGといった具合にポジションを変えて試合形式で練習をしている。

 

 この試みは違うポジションでプレーをする事で選手各々の視野を広げる事を目的としているんだが、1人だけこの試みから外れている奴がいる。まだ素人の桜木のことだ。

 

 あいつは視野を広げる以前に基礎を固めなきゃいけない段階にいる。だから今回の試みに参加していない。

 

 さて、今回の試みの中で意外にも苦戦せずに直ぐに順応した奴がいる。それは……魚住だ。

 

 魚住はチームプレーを心掛けているから普段からチームメイトのプレーをよく観察しているらしく、それ故に今回の試みに早く順応出来たのだろうというのが田岡監督の言葉だ。

 

 もっとも田岡監督自身、この魚住の意外な器用さには驚いていたけどな。

 

「赤木!またCの動きをしてるぞ!もっとPFの動きを意識しろ!」

「わかってる!」

「癖で動くんじゃなく考えて動け!それが出来なきゃ魚住には勝てねぇと思え!」

「おう!」

 

 こうしてアドバイスの声を飛ばしているが苦戦をし続けているのが赤木だ。

 

 見方を変えればCの動きが染み付く程に練習を重ねたってことだが、逆にそれしか出来なくなっているとも言える。

 

 もしクレバーな相手に癖を見抜かれたら完封されることもありえる。実際に決勝リーグで魚住にそれに近いことをされたしな。

 

 赤木は今の状態を乗り越えれば一気に伸びると思うんだが、その前に魚住がブレイクしちまったからな。ウインターカップではゴール下のケアも考えてプレーしねぇといけねぇかもな。

 

 

 

 

side:仙道彰

 

 

(本当になんでも出来るな三井さんは)

 

 夕方の試合形式じゃ皆がポジションを変えてプレーしてるんだが、その中でも各ポジションで抜群の動きをしてるのが三井さんだ。

 

 とはいってもなにも特別なプレーをしてるわけじゃない。むしろ大会の時よりも地味で基本的なプレーをしている。

 

 多分だが俺達に見せるためにあえてそうしてるんだろうな。監督達の誰かに指示されたのか三井さんが自分で考えたのかは知らないけどな。

 

 その証拠とでも言うべきか、三井さんがコートに入ると見学に回される奴が増える。特に三井さんがプレーするポジションの奴がな。

 

(おっ?今の面白いな)

 

 基本的なプレーを主体に動いている三井さんだが、今の高いループのレイアップみたいに時折遊び心みたいなのも混ぜてくる。だから見ていて飽きないどころか幾らでも見ていられるぐらいに面白い。

 

(こんな感じか?)

 

 頭の中でさっきのレイアップの動きをイメージすると、早く練習がしたくて身体がウズウズする。

 

(そういや中学の時に一回だけ北沢も同じのをやった様な?)

 

 そう思ったが直ぐに意識を三井さんの方に戻す。見逃しちゃもったいないからな。

 

(今度は片足を上げてフェイダウェイ?……あぁ、なるほど。片足を上げて魚住さんのベビーフックみたいに相手にブロックされない様にしてるのか)

 

 さっきのレイアップみたいに頭の中で動きをイメージしてみるが、どうも上手くイメージが出来ない。こいつは実際にやってみるしかなさそうだな。

 

(しかし呆れる程に引き出しが多いな三井さんは。でも試合で使わないってことはそれだけ難しいってことか?いいね♪燃えてきた)

 

 三井さんの試合形式の練習が終わり今度は俺がコートの中に入る。

 

(とりあえずやってみるか。失敗して怒られたらその時はその時ってな)

 

 その後、実際にやってみたがレイアップの方は上手くいったんだが片足のフェイダウェイの方は失敗しちまった。

 

 しかもバランスを崩して転んだもんだから田岡監督にえらい怒られちまったぜ。

 

 けどまぁ感覚は掴めた。シュートが決まるかはわからねぇが次は転ばない様に出来るだろ。

 

 だから田岡監督……そろそろ説教は終わりにしてくれませんかね?




これで本日の投稿は終わりです。

また来週お会いしましょう。


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第98話『インターハイ壮行試合』

side:三井寿

 

 

 今日は合宿最終日とあって練習は壮行試合がメインとなった。組み合わせは陵南と海南と武里に加えて桜木の混合チーム対翔陽、混合チーム対湘北、そして翔陽対湘北だ。

 

 混合チームとの試合は午前中に行われる。混合チームのメンバーは午前中に2試合と厳しいスケジュールだが、むしろあいつらは2試合とも勝つつもりらしく気炎を上げている。ふっ、望むところだ。

 

 午前の第1試合の混合チームのスタメンはPGに陵南の植草、Cに海南の高砂、Gに武里の3年でキャプテンの須賀さん、Fに海南の武藤、そしてPFには桜木だ。

 

「しっかり走れ!少しでも足が止まったと思ったら直ぐに交代するからな!」

 

 混合チームの第1試合で監督をする田岡監督がそう発破を掛けると、桜木がそれに反応した。

 

「ハッハッハッ!この天才桜木に任せておけ!」

「お前が1番心配なんだ!」

「なにおう!?」

 

 そんな桜木と田岡監督の掛け合いに混合チームのメンバーが囃し立てる。

 

「桜木、5ファウルを期待してるぞ!」

「お前が退場したら俺達の出番が増えるからな!」

「ふざけんなお前ら!仲間じゃねぇのか!」

 

 桜木にはいわゆる体育会系の上下関係の礼儀みたいなものはない。だが慣れると下手な友人以上に付き合いやすい愛嬌の様なものがある。そのせいなのかこの合宿で1番可愛がられたのは間違いなく桜木だろう。

 

「桜木君、頑張って!」

「任せてください晴子さん!」

 

 あいつ男相手には礼儀はないが女にはあるんだよな。しかも周りからみたら好意があからさまだからか、桜木の恋愛模様は皆が生暖かく見守っている。

 

 さてそれはともかく午前の第1試合が始まった。ジャンプボールは翔陽の花形が制して翔陽の攻めからだ。

 

 藤真がボールを回しじっくりと時間をかけて組み立てる。

 

「桜木!チェックしっかり!」

「おう!」

 

 須賀さんからの指示に従って桜木がディフェンスの基本通りに相手をチェックをする。うん、まだ甘いところはあるが形は出来てきたな。

 

「スリー!」

 

 植草の声が上がると同時に藤真が3Pシュートを撃った。

 

「リバウンドは俺が制す!」

 

 いい嗅覚をしてるぜ。桜木が高砂や花形よりも先にボールの落下点に入った。あれじゃ赤木や魚住でも厳しいかもな。

 

「どりゃ!」

 

 桜木がリバウンドを取りボールを確保。混合チームの攻めが始まる。

 

「ほっほっほっ、桜木君はリバウンダーとして目覚めつつありますね。来年が楽しみです」

 

 安西先生の言葉通りに来年が楽しみだ。まぁその前に……あいつが無事に受験に合格しなきゃいけないんだがな。

 

「赤木、負けてらんねぇぞ」

「あぁ、わかっている。あいつだけじゃなく魚住にもな」

 

 チラリと混合チームのベンチに目を向けると、そこには今の桜木のプレーを冷静に見ていた魚住の姿があった。

 

(貫禄が出てきてるな。それでいて傲っている様子もない。いい選手に成長したもんだぜ本当に)

 

 追う立場から追われる立場となった魚住だがあいつは揺れないだろうな。ふっ、これからの神奈川ナンバーワンC争いは見物だぜ。




これで本日の投稿は終わりです。

感想返しが滞っておりますが読まさせていただいております。いつも感想の書き込みありがとうございます。

また来週お会いしましょう。


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第99話『壮行試合 その2』

side:三井寿

 

 

 混合チーム対翔陽の試合は2ゴール差で翔陽が勝った。この結果はチームとしての練度の差でもあるが、逆に言えば混合チームのメンバーの底力を見せ付けたとも言える。

 

 特に混合チームで目立った活躍したのは桜木だ。桜木は後半半ばで5ファウルで退場するまではオフェンスとディフェンスの両方でリバウンドを取りまくっていた。

 

 もし最後の局面でまだ桜木がコートにいたら2ゴール差はひっくり返っていたかもしれない。そう思わせるぐらいにはこの試合で桜木は存在感を示していた。

 

 とはいうものの、混合チームが牧や魚住に仙道といったエース級を温存して翔陽を相手に2ゴール差まで迫ることが出来たのは田岡監督の采配が大きいだろう。

 

 効果的にタイムアウトや選手交代を使って翔陽に終始主導権を渡さなかったのは見事としか言い様がない。

 

 まぁ、それはそれとして……。

 

「桜木、うちに来ないか?」

「田岡先輩、抜け駆けはいけませんなぁ」

 

 桜木の才能が認められた結果、桜木の勧誘合戦が始まっちまったんだよな。

 

「いや~、この天才桜木の価値に気付いたかね諸君。だがしかーし!この男桜木!湘北以外は眼中にねぇ!」

 

 そう宣言した桜木に各校の監督は苦笑いをする。何故なら……。

 

「よかったぁ!桜木君、一緒に湘北に行こうね!」

「晴子さん……!も、もちろんです!この天才桜木!晴子さんと一緒に湘北に行き!晴子さんと湘北を全国に連れていってみせましょう!」

「うん!約束だよ♪」

 

 桜木の様子から十中八九は晴子が目当てだと見えちまってるだろうからな。けど桜木はああ見えてかなり義理堅い奴だ。晴子の事が無くても湘北に来ただろう。ちゃんと受験に受かればだけどな……。

 

 さてそれはともかく、今度はうちと混合チームの試合だ。うちのスタメンはCに赤木、PGに長瀬さん、SGに木暮、Gに倉石、SFに俺だ。

 

 対する混合チームはCに魚住、PGに牧、SGに宮益、PFに福田、Fに仙道、そしてチームを率いる監督は高頭監督だ。

 

 高頭監督らしくかなり攻撃的なメンバーの選出だな。それはともかく、ここでどこまで赤木が成長出来るか……それが全国でどこまでいけるかの鍵になるだろうな。

 

 さぁ、試合開始だ。ジャンプボールは魚住が制して混合チームの攻めから。おっ?牧は直ぐに仙道にボールを回して、その仙道が俺とマッチアップに。

 

「行きますよ、三井さん」

 

 仙道の仕掛けを先読みして止める。ボールは奪えなかったが時間は掛けさせることが出来た。ターンオーバーまで残り12秒。

 

 ここで宮益がヘルプに来た。敵ながら悪くないタイミングだ。一瞬気を取られた隙に仙道が仕掛けてくる。半歩抜け出されて仙道に主導権を取られた。だがここで仙道は俺を抜き去る選択をせずにパスを選択。牧にボールが渡る。

 

 更に牧から魚住にボールが渡る。この時点でターンオーバーまで残り4秒となっていたが、ここで魚住はベビーフックをフェイクに福田にパス。そして福田が残り2秒でしっかりと決めた。……いきなり魅せてくれるじゃねぇか。

 

 まるでセットされていたかと思える今の流れる様なオフェンスは、見学に回っている奴等から歓声を引き出す程に見事なものだった。

 

 どうやら混合チームでも連携に問題はねぇみたいだな。いや、さっきの翔陽との試合に負けたことで意識が高まったってとこか。いいな。壮行試合に相応しい相手になったぜ。

 

 長瀬さんからボールが回ってくると牧がマッチアップしてくる。

 

「さぁ1本、しっかり」

 

 そう声を掛けると皆から「応!」と声が上がる。

 

 さて、どう仕掛けるか?




これで本日の投稿は終わりです。

また来週お会いしましょう。


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第100話『整う準備』

side:赤木剛憲

 

 

 パスを受け取りローポストから仕掛けようとするが魚住に阻止される。

 

「戻せ、赤木!」

 

 三井の声に反応してパスを出す。くっ、また周りが見えていなかったか。

 

 俺自身気をつけているつもりだが、どうしても切り替えが遅れてしまう。

 

 三井から木暮にパスが行き、パスを受け取った木暮は迷わずに3Pシュートを撃つ。リバウンドに備えようとすると魚住に押し退けられる。くそっ、また遅れた!

 

 リバウンドを魚住に奪われてしまったが着地の瞬間に三井がボールを奪う。そして一度長瀬さんにボールを戻して仕切り直しとなる。

 

 俺が魚住に勝つ必要はない。チームが勝てばいい。そう理解しているつもりだが、俺の心は焦りばかりが積もっていく。

 

 長瀬さんからボールを受け取った三井が中に切り込んでくる。いつパスが来てもいい様に準備をするが三井からのパスは来ず、ボールは倉石に渡る。そして倉石がミドルレンジからのジャンプシュートを決めて得点。プレーが切れると俺はホッと息を吐いた。

 

 だが次の瞬間、俺はバシッと強く背中を叩かれた。

 

「赤木、気を抜きたきゃベンチに下がれ」

 

 その言葉を聞きカッと頭に血が昇るが直ぐに三井の言う通りだと理解する。

 

「……すまん」

「いいか赤木、魚住がどういうケアをしてきているのかをよく見て考えろ。それが出来れば少しはマシに戦えるようになるかもしれねぇぞ」

 

 そんな余裕はない。それが出来れば苦労しないと言い返したいが、このままではなにも出来ずに終わってしまうのも確かだ。なら開き直るしかないのかもしれない。

 

 そう思い動きながら魚住を観察した。その結果あっさりとゴールを奪われてしまったが、ベンチやコートの皆からは非難の声が上がらない。すまないがもう少し甘えさせてもらおう。

 

 攻守が切り替わりゴール下でボールをもらうと顔を振ってハイポストから仕掛けるぞとフェイクを掛けるが、魚住はピクリとも反応しない。代わりにローポストから仕掛けようとすると直ぐに反応してきた。……まさか?

 

 無理をせず一度ボールを戻すと魚住の観察を続けるのだった。

 

 

 

 

side:三井寿

 

 

(そうだ赤木、よく見ろ。そして考えるんだ)

 

 赤木の変化に笑みを浮かべる。待ち望んだ変化だからだ。

 

 以前に木暮に聞いていたんだが、中学時代の赤木はダブルチーム等の複数で潰されることが多かったらしい。逆に言えば正面からやれば赤木が勝っていたケースが多いということでもある。

 

 その弊害とも言うべきか赤木は駆け引きが頗る下手だ。そしてそれは兼田さんとのマッチアップでゾーンを経験した事で更に悪化してしまった。格上と目していた相手でも全力でプレーすれば通用するという成功体験をしてしまったんだ。

 

 その結果として赤木は成長と同時に駆け引きが以前にも増して下手にもなってしまった。俺と安西先生は今の状態の赤木を危惧してはいたんだが、その危惧を払ってくれる存在が現れた。魚住だ。

 

(今回の全国で赤木の目が覚めれば恩の字と想定してたんだが、まさか魚住がここまで成長しちまうとはなぁ)

 

 兆しはあった。神奈川どころか全国でもトップクラスの体格を有し、更にライバルにも恵まれた環境……魚住の負けん気次第だったが、これで伸びない筈がない。

 

(これで赤木はようやく駆け引きの重要さを理解する。まだ十分とは言えないが最低限は戦える準備が整った)

 

 後は全国という大舞台……ここで振り掛かる重圧に皆がどう打ち克っていくかだな。楽しみになってきたぜ。




これで本日の投稿は終わりです。

また来週お会いしましょう。


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第101話『全国に出陣』

side:三井寿

 

 

 結果から言うと混合チームとの壮行試合は負けた。だが十分な収穫はあった試合だったぜ。

 

 先ずはなんと言っても赤木の成長だな。まだ魚住には届かないがしっかりと駆け引きをするようになった。全国で経験を積めば更に成長するだろう。

 

 他の皆も今回の合宿でそれぞれ手応えを感じているからな。組み合わせ次第だがかなり勝ち進める筈だ。

 

 とは言ったものの狙うのはもちろん全国制覇だ。ここは絶対にぶれちゃいけねぇ。じゃねぇと勝てる試合も勝てなくなっちまうからな。

 

 さて、合同合宿が終わり数日の休養を挟むといよいよ全国大会だ。宿泊する旅館に入り荷物を置くと、とあるバスケ雑誌に載っていた俺達の評価を目にした。

 

『湘北高校 総合評価D』

 

『エースである三井寿選手のワンマンチームである印象が拭えない』

 

『また湘北高校は近年の流行であるインサイド主軸の戦術ではなく、アウトサイドを主軸とした戦術である』

 

『確実性に欠けるこの戦術で一発勝負のトーナメントを勝ち抜くのは非常に厳しいだろう』

 

 ……と、だいたいこんな感じの評価が載っていた。

 

「去年の今頃ならばこの評価は正しかったでしょう」

 

 安西先生がそう話し出すと皆が耳を傾ける。

 

「ですが皆さんは激戦の神奈川決勝リーグを勝ち抜きました。これは誇っていいことです」

 

「君達は強い。この評価が間違いであると証明し、全国の強豪達を驚かせてあげましょう」

 

 自然と長瀬さんを中心に円陣を組んでいた。そして……。

 

「俺達は強い!」

「「「おぉっ!」」」

 

 

 

 

side:河田雅史

 

 

「3回戦か」

 

 トーナメントの組み合わせを見ると3回戦であの三井がいる湘北とぶつかる。まぁ、お互いに勝ち上がればだがな。

 

「河田さん、3回戦がどうかしたんですか?」

 

 沢北が覗き込んできながらそう言うので冊子を渡す。

 

「うん?あぁ、あの愛知の星とかいう人が気になるんですか?」

「そっちじゃねぇ」

「じゃあ大阪の南さんですか」

「違う」

 

 確かに諸星はいい選手だがあいつはまだ楽な相手だ。少なくともうちが負ける心配はせんでいい。

 

 南もいい選手だが俺にとっちゃ三井程じゃねぇ。

 

「えっ?じゃあこっちの湘北ってとこですか?」

「そうだ」

「聞いたことないですね……」

 

 まぁそりゃそうだろうな。去年まで弱小校の一つだったんだ。去年の選抜で三井を見てなきゃ欠片も警戒してなかっただろうよ。

 

「三井っていうヤバイのがいる」

「へぇ……じゃあ俺がその三井って人を抑えますよ」

 

 無理だな。そう思うものの堂本監督は沢北を三井にぶつけるだろうよ。こいつの成長のために。

 

 それはそれとして俺は沢北にヘッドロックを掛ける。

 

「調子に乗ってるな。女子の声援のせいか?うん?」

「あいたたたたっ!?ギブッ!ギブッっす!」

 

 こいつが負けてもチームが勝てばいい。そしてこいつが負けから這い上がってくるかはこいつ次第だ。それが勝負の世界……潰れんじゃねぇぞ。

 

「いたたたたっ!?ギブッ!ギブですってば河田さん!」

 

 今度は仰向けにさせた沢北にアームロックを掛けると、しばらく沢北とじゃれあうのだった。




これで本日の投稿は終わりです。

また来週お会いしましょう。


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第102話『湘北高校全国大会初陣』

side:三井寿

 

 

 俺達湘北の1回戦の相手は愛和学院高校だ。例の雑誌によると諸星大っていうエースがチームを牽引しているらしい。雑誌での評価は湘北よりも上。下克上の狼煙を上げるにはうってつけの相手だな。

 

「序盤は三井君で行きます」

 

 安西先生のその言葉にピクリと反応してしまう。そして嬉しさと同時に疑問も沸き上がる。

 

「全国という大舞台……残念ながら皆さんは経験が皆無に等しい。どれほど解そうと思っても序盤は固さが残ってしまうでしょう」

 

「ですが三井君なら去年の選抜で経験がある。皆さんの固さが解れるまで十分に試合を任せることが出来ます」

 

 赤木も経験はあるっちゃあるが赤木はようやく色々と上向いたばかり、任せるにはちと荷が重いか。

 

「というわけで三井君、任せましたよ?」

「はい!」

 

 安西先生の信頼に応える。その気持ちだけで俺のモチベーションは最高になったぜ。

 

 とはいってもだ……ちょいとチームに発破を掛けないとな。

 

「ところで安西先生」

「はい、何でしょう?」

「序盤を任せられました。ですがそのまま試合を決めてしまっても構わないでしょう?」

「……えぇ、もちろんです」

 

 俺の意図が伝わったのか安西先生は微笑む。俺は敢えて立ち上がって注目を集めると口を開く。

 

「そういうわけで、早くしねぇと皆の出番は無くなるぜ?」

 

 挑発とも取れる俺の発破に反応して長瀬さんが立ち上がる。

 

「三井にばかり目立たせるわけにいくか!そうだろ皆!?」

「「「おぉ!」」」

 

 おっと、こりゃ俺が序盤で頑張る必要はなくなったか?けど安西先生からのオーダーだからな。完璧にこなしてやるぜ!

 

 

 

 

side:諸星大

 

 

(さて、去年の選抜MVPの実力はどんなもんかな?)

 

 湘北との試合が始まり三井とマッチアップする。先ずは三井の攻めからだ。

 

(……ストレート!っ!?クロス!?)

 

 アンクルブレイクされて尻もちをついた俺は、悠々とジャンプシュートをミドルレンジから決めた三井の背中を見上げるしかなかった。

 

(ドリブルは見事なもんだったが……ディフェンスはどうだ!)

 

 ボールを貰い三井とマッチアップ。今度は俺の番。目線でフェイクを掛けてストレートに抜きにいく。

 

(っ!?読まれた!?)

 

 完璧についてこられた俺は一度下がって仕切り直す。

 

(次は抜く!あっ!しまっ……!?)

 

 スティールを決められてボールを失ってしまう。三井はそのまま速攻を掛けて冷静にレイアップでゴール。

 

「……ははっ」

 

 面白い……面白いじゃねぇか三井!

 

「次は止める。そしてぶち抜く!」

「オーケー、やってみろよ」

 

 集中力がピークに達したのを感じる。今なら最高のパフォーマンスを発揮出来そうだ。

 

(選手として思っちゃいけねぇのかもしれねぇが、試合の勝敗を抜きにして全力でぶつかりたい。そんな風に思ったのはお前が初めてだぜ……三井!)

 

 この日、俺は幾度も三井とマッチアップしたがその尽くで負けた。チームも負けちまったし散々な日だったぜ。

 

 だが次は俺が、俺達が勝つ!だから湘北……また全国まで勝ち上がって来いよ!




これで本日の投稿は終わりです。

また来週お会いしましょう。


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第103話『老将達の再会』

side:安西光義

 

 

 愛和学院に勝利した私達は次の相手になるところの試合を見学していました。まだ試合は決していませんがおそらくは豊玉になるでしょう。

 

 まさか北野と全国の舞台で戦える日がくるとは……。

 

 北野と目が合いました。彼は不敵に微笑んできます。ふふ、血が滾るとはこういう場合をさすのでしょうね。

 

 試合は予想通りに豊玉が勝ちました。宿泊先に戻りミーティングを終えると私は外に出ました。なんとなくですが彼も出てくる予感があった。

 

「よう、安西」

「北野……」

 

 予感通りに彼は出てきた。私達はどちらが言い出すともなく歩き始めた。古い馴染みの彼とは余計な言葉はいらない。……こういうのはなんだが家内は妬いてくれるだろうか?

 

 いや、せいぜい彼女は苦笑いをしてくれる程度だろう。だがそれがいい。こんな私のワガママを聞いて支えてくれているのだ。それ以上を望むのは贅沢というものだろう。

 

「本当は辞めようと思っていた」

 

 不意に北野がそんなことを言い始めた。

 

「俺はラン&ガンしか出来ん。それが一番面白いと思っているからな。だが、幸運にもガキ共に恵まれた。去年全国大会を勝ち上がり、頭を下げずとも残ることが出来た」

 

 素直ではないなと思った。私達の様な種類の人間は一度はまってしまったモノからは離れられない。どの様な形であれ、私は生涯バスケに関わって生きていくのだろう。それは北野とて同じだ。

 

「お前がバスケから離れるなど想像出来んな」

「俺もだよ」

 

 私達は声を上げて笑った。

 

「やり残しが出来た」

「やり残し?」

「王者山王に勝つ」

 

 ほう?

 

「それは残念だ。明日は私達が勝つからな」

「……言うじゃねぇか」

 

 私と北野の間で火花が散る。

 

 そうだ私達はこれでいい。昔を懐かしいと思い感慨に耽るにはまだ若過ぎる。

 

 老いてますます盛んではないが闘志に衰えは無い。勝利への渇望は常に抱いている。そう在る内は戦える。

 

「明日は俺達が勝つ」

「いや、私達が勝つ」

 

 数秒睨み合い不敵に笑った私達はそこで別れ、それぞれの宿泊先に帰る。

 

 あぁ、明日が待ち遠しい。血の滾りで眠れずに寝不足などあってはならない。早目に床に着かなくては。

 

 

 

 

side:北野

 

 

 安西の野郎……随分と熱くなってたじゃねぇか。まるで昔に戻ったみてぇだぜ。

 

 それでいい。それでこそ安西だ。くっ、血が滾るぜ。

 

「おっ?おっちゃん、どこ行ってたん?」

「散歩だ散歩」

「気ぃつけや。もう若くないんやから」

「やかましい。さっさと寝ろ」

「ひどいわぁ。折角心配したったのに」

 

 そう言って肩を竦めた南に苦笑いをする。

 

「南、三井は任せたぞ」

「……しんどい相手やなぁ」

「だがお前以外じゃどうにもならん」

「せやろか?せやな。まぁ、なんとかやってみるわ」

 

 正直に言って南でも三井は止めきれんだろう。それほどに三井の力は抜けている。

 

 うちに出来るのはラン&ガンのみ。点の取り合いしか出来ん。そういう意味ではどこが相手でも同じ。

 

「さぁ、わかったならさっさと寝ろ」

「おう、おっちゃんもはよ寝ぇや」

 

 まったく……年寄り扱いしおって。いや、年寄りであるのは間違いじゃないが、それはそれとして複雑なのだ。

 

「シンプル故に悩む必要がない。これはこれで強みなのさ。さぁ安西、お前はどう出る?」




これで本日の投稿は終わりです。

また来週お会いしましょう。


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第104話『全国大会第2回戦』

side:南烈

 

 

 湘北との試合が始まった。俺のマッチアップ相手は三井。こうしてボール持った三井と対峙しただけでヤバイ奴やっちゅうのがビンビンに伝わってくるわ。

 

 さぁどっちに抜きに来るんや?ってスリーかい!?綺麗な放物線を描くボールを見送ると頭を掻くしかないわ。

 

 せやけどいきなりスリーとはやるやん。お返しさせてもらうで。

 

 ボールを貰って三井と対峙、フェイクを掛けてスリーを撃つ。せやけど……。

 

「っ!?」

 

 距離的にブロックされへん思てたら手で目隠しされてビックリしたわ。おかげでスリーを外してもうたやんか。けど、それもらったわ。使えそうやしな。

 

 てなわけで目隠しを使ってみたんやけど、三井の奴は普通にスリーを決めてきたわ。そらそうやろな。始めからやれる思てたらビックリせんもん。使い処は考えなあかんな。

 

 前半が終わって点数はリードしとる。せやけど大した差やない。うちの方がゴール数が多いのにや。

 

 その理由は三井とあのメガネ君……あぁ、木暮やったな。この2人がいいとこでスリーを決めて来よんねん。

 

 逆に俺のスリーは三井にめっちゃ警戒されとるみたいでまともに撃てへん。俺のスリーはクイックモーションで止めにくい筈なんやけど、なんでディフェンス慣れとんねん?

 

「……せやった、神奈川には藤真がおるやん」

 

 そらクイックモーションのスリーを止めるのも慣れとるわなと納得出来たんはいいんやけど、このままじゃ後半はしんどいことになりそうやわ。

 

 さて……おっちゃん、どうするん?

 

 

 

 

side:三井寿

 

 

 試合開始当初は豊玉の速いラン&ガンのペースに四苦八苦したが、皆も慣れたようで落ち着いた顔付きをしている。

 

「後半はこちらがペースを握りましょう。安田君、お願いしますね」

「はいっ!」

 

 なるほど、安田を投入して前半と差を付けることでチェンジオブペースをするのか。これは他のチームじゃ中々見られない湘北の強みだな。

 

 後半が始まると安田の組み立てにリズムを崩されたのか、豊玉のオフェンスのキレが鈍る。その隙をついて逆転、更に点差を広げていったが残り5分となったところで豊玉が底力を見せて追い上げてきた。

 

 ここで安西先生はタイムアウトを取り安田に代えて長瀬さんを投入。俺達は豊玉に正面からの点取り合戦を挑んだ。

 

 その結果……ワンゴール差で辛うじて勝利。最後の最後まで貪欲にゴールを狙い勝利を求める豊玉のバスケは会場から称賛の拍手を贈られる程に素晴らしいものだった。

 

「次は山王や。応援しとるで」

「おう」

 

 南と握手を交わした俺は、未だ拍手が降り注ぐ会場を胸を張って後にしたのだった。




これで本日の投稿は終わりです。

また来週お会いしましょう。


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第105話『vs王者山王』

side:河田雅史

 

 

 全国の1回戦と2回戦の湘北の試合のビデオを皆で見ているが、やはり三井が抜きん出て存在感があるな。

 

「一ノ倉、木暮につけ」

「はい」

 

 うちで一番しつこいディフェンスをするのが一ノ倉だが、監督はその一ノ倉を木暮につけるか。まぁ、3Pシュートを警戒するなら当然とも言える。

 

「沢北、三井を抑えられるか?」

「任せてください」

 

 沢北の奴はそう言うが……まぁ厳しいだろうな。というか無理だろう。だがそれは監督もわかっていること。という事はここで沢北の鼻を一度折るつもりか。

 

 深津と顔を見合わせて頷く。沢北は間違いなく三井にやられる。それがわかっているなら後は俺達でフォローすればいい。そうすれば十分勝てる。

 

 翌日になり湘北との試合だ。ジャンプボールの相手は……たしか赤木だったか?

 

 ボールが投げられ跳ぶ。うし、取った。一ノ倉がボールを拾って深津に、更に深津から沢北にボールが回る。おっ?沢北に三井がつくか。こいつは都合がいい。

 

 さて、先ずはどう行く沢北?って、あっさりスティールされてんじゃねぇか。ったく、こうムラッ気があると計算しにくくて仕方がねぇ。

 

 初得点は湘北に取られ再度うちのオフェンス。深津はもう一度沢北にボールを渡す。おっ?沢北も少しは集中したみてぇだな。顔付きがしまってる。

 

 二度目の沢北と三井のマッチアップは時間切れのターンオーバーで三井の勝ち。三度目は三井のクロスオーバーに沢北が尻餅をついて三井の勝ち。四度目はターンオーバーぎりぎりに沢北が強引にシュートを撃って外しこれまた三井の勝ち。

 

「さて、次は……だ」

 

 これはもうやる前から結果がわかる。なんせさっき尻餅をついた沢北のディフェンスだ。当然そうならないように距離を取るだろう。そうすると……。

 

「……まぁ、こうなるわな」

 

 三井相手に距離を取るのは悪手も悪手。ただ同然で3Pを献上する行為だ。試合前に口酸っぱく言っといたんだがなぁ。

 

 堂本監督はここで沢北を交代させた。まぁ一度下げて頭を冷やさせた方がいいだろうし、まだ序盤とはいえ点差的にもこのままじゃいかんわなぁ。

 

「さて、あのバカの尻拭いをするかね」

 

 三井に勝つのはともかく湘北に勝つのなら幾らでもやりようはある。そしてそれをしっかりやれるのが俺達山王だ。

 

 深津がボールを持つとゆっくりと展開を進める。先ずは1本取って弾みをつけねぇとな。

 

 深津が向こうのPGの長瀬さんに仕掛ける。抜けそうな気配はあるが深津は無理をせず俺にパスを出す。

 

 インサイドでボールを受け取った俺は赤木とマッチアップ。……うん、まだ大してわかっちゃいないが、十分にやれそうだ。

 

 ローポストから仕掛けるぞとフェイクを掛けて一歩下がる。そしてジャンプシュート。うし、これで先ずは1本。

 

 俺の強みは最初からCだったわけじゃなくCにコンバートした選手だということだ。ゴール下以外の選択肢がある。これは少なくとも高校バスケではどでかいアドバンテージだと俺は思っている。

 

 なら、そのアドバンテージをとことん押し付けないとな?

 

 俺達山王は無理に三井と勝負せずそこ以外で勝負をしジワジワと追い上げていく。そして前半残り10分といったところで逆転すると、沢北がコートに戻ってきたのだった。




これで本日の投稿は終わりです。

また来週お会いしましょう。


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第106話『格の違い』

side:三井寿

 

 

 沢北か……ベンチに下がる前と比べると別人みたいな動きをしやがる。おそらく仙道みたいにムラッ気のあるタイプなんだろう。まぁ、こいつは仙道よりもひどいムラッ気だがな。

 

 ドリブルのキレは一級品、駆け引きも上手い。1on1なら全国で五本指に入るかもしれねぇが、それだけだ。

 

「くっ!」

 

 こうして無理に取りにいかず前に行かせなければ、ターンオーバーを嫌ったこいつは強引にシュートに行くしかねぇ。

 

 パスを出来るタイミングは結構あるんだが、こいつは欠片もパスをする素振りがない。そして外のシュートは確率が悪いとなれば、少し面倒だが怖い存在じゃねぇな。

 

 山王がこいつで勝負に来てくれている内にどれだけ行けるかがこの試合の鍵になるな。こいつの動きもだいたいわかったし……仕掛けるか。

 

 ギアを上げてゴールを狙いに行く。5点差、3点差、そして先ずは同点と……次だ。

 

 2点差、4点差、7点差、10点差、12点差、15点差、17点差、19点差、そして……。

 

(これを決めれば21……っ!?)

 

 河田にファールで止められた。シュートをする前だからバスケットカウントはもらえない。そして前半の残り時間は4秒。……やるな、河田。けど、湘北をなめるなよ。

 

 動いてボール出しの倉石からパスを貰うと同時にノールックパス。

 

(いけ、木暮!)

 

 前半終了のブザーが鳴ると同時にボールがネットを通過する音が耳に届く。これで22点差だ。最高の形で折り返せたぜ。

 

 だが憔悴した様子の沢北を除き他の山王メンバーには焦った様子は無い。……流石は王者山王ってとこだな。

 

 

 

 

side:河田雅史

 

 

 まぁものの見事にボコボコにされたもんだな沢北は。ありゃしばらくは立ち直れんわ。

 

「後半頭から仕掛ける」

 

 おっと、今は沢北のことより試合に勝たにゃいかんわな。

 

 堂本監督が指示したのは俺達山王のお家芸のフルコートプレスディフェンスだ。こいつで先ずは同点に追い付くそうだ。

 

 しかし前半最後のファールは結果的に失敗だったな。大人しく取られとけば21点差で済んだのに、22点差になっちまった。

 

 まぁ、湘北にああいったセットプレイもあると知れたからそれでよしとすんべ。

 

 さぁ後半開始だ。先ずは無難に2点を返して20点差。そしてここからは俺達の時間だ。

 

 フルコートプレスディフェンスで圧を掛けていく。特に三井にはボールを回させない。あいつに持たれると面倒な事になるからな。

 

 ボールを奪い追加点。これで18点差。経過時間はまだ1分。いいペースだ。

 

 更に圧を掛けていく。……おっと、三井にボールが回っちまった。囲め囲め。三井を動かせるな。

 

 三井が一歩下がったのを目にした俺は反射的に下がる。予感した通りに一ノ倉と深津の二人を抜き去った三井が上がってくる。

 

(とりあえずディレイを掛けて下がる時間を……あっ?)

 

 3Pラインの前で待っていたら不意に三井がディープスリーを撃った。

 

(ここでディープスリーかよ。しかも決めるたぁな。こりゃ今大会で一番しんどい試合になりそうだわ)

 

 そう思ったのはどうやら俺だけじゃないらしい。深津に一ノ倉、そして先輩達もが背中から闘志が溢れ出さんばかりに集中し始めたのだった。




これで本日の投稿は終わりです。

また来週お会いしましょう。


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第107話『消耗と動揺』

side:三井寿

 

 

 後半始まって20点差以上あるというのに山王の奴等は諦めるどころか集中を高めてやがる。じわりじわりと差を詰められる後半のこの展開は逆にこっちを心身共に追い詰めてくる。

 

 特に消耗が激しいのが木暮と赤木だ。木暮は前半ずっと張り付いてきてた一ノ倉のマークを外すために足を使い続けていた。更に後半も山王のフルコートプレスディフェンスに対抗するために足を使っているから限界が近い。

 

 赤木は河田との駆け引きで常に頭を使っているからか消耗がいつもより早い。おそらく二人共最後までもたないだろう。

 

 時折なんとか得点を返しちゃいるが山王の追い上げは止まらない。後半残り8分で追い付かれちまった。

 

 ここで安西先生はタイムアウトを取る。そして赤木、木暮、長瀬さんの交代を告げた。

 

「私達に追い付いたことで山王はフルコートプレスディフェンスを止めるでしょう。ですが追い上げの勢いはまだ残っており危険です。そこで安田君、相手の勢いに水を差したいのでターンオーバーぎりぎりまで時間を使って組み立ててください」

「はいっ!」

 

 こういった状況で強心臓の安田は頼りになる。それによくみたら長瀬さんも消耗が激しい。それだけ山王の圧力は凄かったということだ。

 

 ……くそっ、俺も周りが見えてなかったな。反省しねぇと。

 

 試合が再開されると俺達はなんとか山王に食らい付いていくが、じわりじわりと点差をつけられていく。

 

 後半残り4分で10点差……いよいよ後が無くなってきた。仕掛けるしかねぇか。

 

 安田からボールをもらうとドリブルで切り込んでいく。すると直ぐに深津がヘルプに来るがここで俺は手札を切った。

 

「っ!?」

 

 驚く深津を尻目にユーロステップで抜き去った俺はそのままゴールを奪う。山王のメンバーの一人が主審に確認を取るが判定は覆らない。会場もざわついている。

 

 そうだもっと驚け。流れを寄越せ。勝つのは俺達だ。

 

 かつて膝をやってから封印していたユーロステップ。使うならこの場面しかないと判断したがどうやら正しかったようだ。直後、動揺していたのかボールを運んでいた深津が安田にスティールされた。

 

 安田からボールを貰った俺は速攻を掛けるが敢えてスピードを緩める。

 

 そしてタイミングを見計らってワンフェイク入れてから3Pシュートを撃つと、手を叩かれてバスケットカウントをもらった。

 

 3Pシュートは決まって次はフリースロー……よしっ!これで4点差!試合も3分残ってる……いける!

 

 そう思ったものの山王はここでタイムアウトを取ってきた。

 

 ……流石は王者というべきか。しぶといぜ。

 

 

 

 

side:河田雅史

 

 

 なんだありゃ?あんなのを土壇場まで隠してるとかやっぱとんでもない奴だな三井は。

 

「落ち着け、どんなプレーでも2点は2点だ」

 

 そりゃそうだ。監督の言う通り。けど、度肝を抜かれるっていうのはああいうプレーを言うんだろうな。それを間近で見て動揺するなと言うのも難しいのも確かだろ。

 

 でも、その後のリカバリーが出来るから俺達は山王なんだ。それを忘れなきゃいい。

 

 チラリと沢北に目を向けるとまだダメなのが一目でわかる。まぁ、こいつにはいい薬になっただろ。薬になってなきゃそれまでの男だったってことだ。

 

 だが大丈夫だろ。少なくとも顔を上げて三井の動きを追ってるみたいだしな。

 

「再三言ってるが三井の3Pには注意しろ。最悪2点は構わない。……さぁ残り3分、勝つぞ」

「「「おう!」」」

 

 さて残り3分……あっ、延長入れたら3分じゃねぇ。……まぁいっか、残りの試合も頑張んべ。




これで本日の投稿は終わりです。

また来週お会いしましょう。


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第108話『あと一歩』

side:三井寿

 

 

 残り3分で4点差……これが届きそうで届かない厄介な点差だった。

 

 先ず山王に堅実に2点取られ6点差にされると、山王は徹底して俺と木暮に代わって出場してる長谷さんの3Pを警戒してきた。しかもご丁寧に俺にはダブルチームをつけてな。

 

 そのせいで2点はなんとか取れても差が縮まらない。時間は刻一刻と過ぎていき残り2分20秒となった。

 

 ここで俺はもう一度仕掛けた。ドリブルで行くと見せ掛けて下がってディープスリー。最大限3Pシュートを警戒されていたからかしっかりとブロックに跳ばれていたのでシュートセレクションとしては良くなかったが、それでもシュートは決まって3点差となった。

 

 これでまた動揺してくれたらよかったんだがそこは山王。この土壇場で揺らがない辺りは流石だった。

 

 きっちり2点を返されて5点差。しかもターンオーバーまで目一杯時間を使われて残り時間は1分30秒。いよいよ後が無くなってきたぜ。

 

 それでも俺達は諦めない。直ぐに安田からボールを貰った俺は今度はドリブルで仕掛ける。

 

 ダブルチームを抜き去るとバスケットカウントを貰うためにわざと河田の正面からレイアップに行ったが、驚くことに河田は手を上げただけでブロックに跳びすらしなかった。

 

 そして冷静に時間を使われて2点を取られまた5点差。残り50秒。まだだ……まだ試合は終わっちゃいねぇ!

 

 また直ぐにボールを貰った俺は今度もドリブルで仕掛ける。だが今度は抜いた後に中を通って逆サイドに抜ける。

 

 そして逆サイドに抜けたら3Pシュートを撃つ。……よしっ!これで2点差だ!

 

「この1本、絶対に止めるぞ!」

「「「おぉ!」」」

 

 赤木に代わって出ている猪狩さんの檄に俺達は応え声を上げる。だが山王はそれでも冷静だった。

 

 深津がじっくりと時間を使い始める。残り35秒。ここで安田が動いた。スティールを仕掛けた安田だが、ボールは奪えずファールになる。だがおかげで時計は止まった。

 

「すみません、とれませんでした」

「いや、ナイスだ」

 

 その証拠とでも言うべきか安西先生が動いた。赤木、木暮、長瀬さんを投入してきたんだ。

 

 赤木を投入したのはリバウンドを取るため、木暮は逆転の3Pシュートの機会を増やすため、そして長瀬さんは深津からボールを奪う可能性を高めるためだ。

 

 試合が再開されると長瀬さんが死に物狂いで深津からボールを奪いにいくが、深津は冷静に下がってボールを回す。

 

 木暮、倉石と対峙した相手がボールを持つと積極的にスティールを仕掛けようとするが、山王は玉離れが早く中々奪えない。くそっ、こういうところもよく鍛えられてやがる。

 

 だがこちらが仕掛けていくプレッシャーが効いたのか山王はミドルレンジからのジャンプシュートを外した。リングに弾かれたボールが宙を舞う。

 

「赤木!」

「おうっ!」

 

 ここ一番で赤木はリバウンドを取ってみせた。残り5秒。行ける!

 

 そう思ったが山王の反応も流石で即座に俺にダブルチームをつけてパスコースを潰してきた。けど……代わりに木暮のパスコースが空いてるぜ!

 

「撃て、木暮!」

 

 懸命に走ってパスをもらった木暮が3Pシュートを放つ。ボールが宙を進む間にブザーが鳴る。そして……。

 

「……ごめん、皆」

 

 無情にもボールがリングに弾かれると、木暮は涙を流しながらそう言葉を溢したのだった。




これで本日の投稿は終わりです。

また来週お会いしましょう。


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幕間7『藤真の全国大会』

side:藤真健司

 

 

 湘北が負けた。王者山王を後一歩まで追い詰めてのこの敗戦は、全国の多くの高校バスケ関係者に衝撃を与えただろうな。

 

 頭の中でシミュレートする。最後のあの場面、もし木暮が3Pシュートではなくより確実に2点を取りにいった場合だ。

 

 少し考えて首を横に振った。もしそれで同点延長に行ったとしても、湘北には山王と延長を戦えるだけの余裕はなく蹂躙されただけだろう。そうなるとあの木暮の3Pシュートを撃った判断が最善。唯一あの場面で山王相手に勝機を掴み取れただろう選択だ。

 

 結果として湘北は負けてしまったが、あれ以上の選択もなかったというのが俺の考え。なによりあの場面で3Pシュートが確率の高い選択としてあるのは、神奈川以外には無い明らかな強みだ。

 

 ここ数年の神奈川高校バスケは三井の影響で積極的に3Pシュートを狙う高校が増えた。もちろん三井クラスのシューターは他にはいないが、それでも木暮のようにうちや海南でも無視出来ない選手が増えつつある。

 

 対して神奈川以外に目を向けると3Pシュートを武器としているのは大阪の豊玉の南ぐらいなもので、あの王者山王ですら3Pシュートは戦術に落とし込んでいない。時折試合のリズムを変えるために奇襲のような感じで狙う程度だ。

 

 やはりうちを含めた神奈川勢が全国制覇を目指すならキーとなるのが3Pシュートだ。いや、むしろ3Pシュートをキーとするぐらいまで昇華出来て初めて王者山王の牙城を崩す機会が見えてくる。少なくとも俺はそう感じた。

 

 さて、それはそれとして俺達の試合に集中しないとな。幸いにも王者山王とぶつかるのは決勝戦だ。先ずは決勝戦まで勝ち上がらないとな。

 

 3回戦に勝利しその後も危ない場面がありながらも勝ち進み続け、王者山王との決勝戦まで駒を進める事が出来た。

 

 決勝戦まで山王のバスケを見てきたが、正直に言えば厳しい。うちでマッチアップ相手に優位な選手が俺を含めていない。

 

 可能な限り個の勝負は避けて戦術で勝負するしかないだろう。その上で俺がどれだけ3Pシュートを決めることが出来るかだ。

 

 チラリと花形を始めとしたうちのインサイド陣に目を向ける。

 

(リバウンドを頼むぞ)

 

 そうして始まった山王との決勝戦、前半は互角に渡り合う事が出来たが、後半の勝負所で山王が仕掛けてきたフルコートプレスディフェンスにうちはなすすべなく、一気に勝負を決められてしまった。

 

 悔しい。その一言に尽きる結果だった。だがフルコートプレスディフェンスに対処出来れば山王にも勝機を見出だせる……これがわかっただけでも収穫はあった。

 

 もっとも、そのフルコートプレスディフェンスに対処するのが非常に困難なんだけどな。

 

 それでも俺は……俺達は諦めない。全国制覇が手を伸ばせば届くところまで辿り着けたんだ。

 

 次こそは掴んでみせる!




これで本日の投稿は終わりです。

また来週お会いしましょう。


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第109話『束の間の憩い』

side:三井寿

 

 

 俺達は全国大会の3回戦で敗れてしまった。悔しさは勿論あるが、この悔しさをバネに明日の成長へと繋げなくてはならない。特に木暮はより一層のシュート練習をすると引退した3年生達に誓った。

 

 さて、その全国大会なんだが優勝したのは山王で準優勝したのが翔陽だ。結果だけ見たら翔陽に差をつけられちまったな。この借りはウインターカップで返すぜ。

 

 それと驚くことに俺はベスト5に選ばれた。3回戦で負けたから表彰は無いと思ってたから本当に驚いたぜ。ちなみにMVPは山王の河田だった。クレバーなプレーをするあいつが選ばれたのは納得だ。

 

 さぁインターハイが終わって次は選抜だ。その選抜の監督なんだが今年は陵南の田岡監督がすることになった。

 

 本当は今年のインターハイで全国2位になった翔陽の三淵監督がするはずだったんだが、三淵監督が『若いのに経験を積ませて成長してもらわんとな』と言って選抜監督を辞退して譲ったんだ。

 

 そんなわけで神奈川選抜の監督になった田岡監督が選んだメンバーはこんな感じだ。

 

 陵南から魚住、仙道、福田、海南から牧、宮益、翔陽から藤真、花形、湘北から木暮、倉石、赤木、俺、そして残り1人が武里のキャプテンの須賀さんが選ばれている。須賀さんは唯一の3年生だからおそらくは選抜チームのキャプテンを任されるだろう。

 

 そういやキャプテンといえばなんだが、長瀬さんの後のキャプテンは俺がなる事になった。副キャプテンは木暮。赤木は対魚住の練習に集中させるために、倉石は実家の修行の事もあって無し……って感じだ。

 

 さて、選抜チームの合同練習が明後日にあるが今日はオフだ。俺は美和と一緒にバッシュを見にショップに向かった。

 

 今年度の始めに身長を計った時は187cmだったんだが、どうもまだ伸びているらしくバッシュが合わなくなってきたんだよな。

 

「おっ?よう、桜木」

「むっ?おぉ、ミッチー」

 

 美和と一緒にショップに入ると、そこには晴子と一緒にバッシュを見ている桜木がいた。

 

「お前らもデートか?」

「デート……っ!」

 

 なんか俺の言葉に桜木の奴感極まってやがる。単純というべきか純情というべきか迷うところだな。

 

「最近、桜木君の足のサイズが合わなくなってきてて……」

 

 晴子がそう言うので改めて桜木を見てみると、確かに背が伸びているみてぇだな。

 

 まぁ、それもそうか。不摂生していてもあれだけのポテンシャルがあった桜木が、健康的に生活していれば背が伸びるのも不思議じゃない。

 

「で、どれを選ぶんだ?」

「さっき店長さんがバッシュを見せてくれるって言ってたので、今は持って来てくれるのを待ってるんです」

 

 そんな会話をしているとこのショップの店長らしき人が赤と黒のツートンカラーのバッシュを手にやって来た。……いいデザインのバッシュだな。俺も欲しくなってきたぜ。




これで本日の投稿は終わりです。

また来週お会いしましょう。


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第110話『福田吉兆全国デビュー』

side:三井寿

 

 

 選抜チームの合同練習で連携の確認を終えると、選抜大会に乗り込む。俺達神奈川代表は去年優勝してるから第1シードだ。

 

 2回戦の相手は宮城代表か茨城代表のどちらか。今両チームが戦う試合を見ているが、ロースコアで白熱した試合が続いている。

 

「手堅いチームだな、両方とも」

 

 両チーム共にディフェンスを重視し、3Pラインの内側から手堅くシュートを狙うバスケをしている。そのせいか両チーム共に中々勢いに乗れないが、玄人好みのバスケは見ていて勉強になるぜ。俺のスタイルとは合わないけどな。

 

 そんな両チームの内2回戦に駒を進めたのは茨城代表だ。さて、田岡監督はどうする?

 

「……茨城代表との試合のスタメンはBチームで行く。各自準備をしておいてくれ」

 

 田岡監督はスタメンを2パターンに分けた。AチームのスタメンがPGに牧、SGに俺、Gに須賀さん、Fに仙道、Cに魚住だ。

 

 そして茨城代表と戦うBチームのスタメンはPGに藤真、SGに宮益、Gに倉石、PFに福田、Cに赤木の構成になっている。

 

 木暮と花形が控えなのは2人が器用な選手だからだ。木暮はSGだけじゃなくGもこなせる様になっているし、花形もCだけじゃなくPFをこなせる選手だ。故に田岡監督は2人を神奈川代表のスーパーサブとして活用しようと考えたらしいな。

 

 さぁ、茨城代表との試合だ。赤木がジャンプボールを制して神奈川代表ボールで試合はスタート。さて、藤真はどう組み立てていく?おっと、いきなり3Pシュートか。

 

 藤真の3Pシュートはリングに嫌われたが、リバウンドを赤木が制してボールを取るとそのまま押し込み得点。攻守入れ替わって茨城代表の攻めだ。

 

 茨城代表はターンオーバーまで時間を目一杯使って攻めてきたが得点ならず。返す刀でうちが得点を重ねてスコアは4ー0に。その後も終始リードを保って前半を終えた。

 

「いい前半だった。だが福田、もっと攻めていいぞ。全国の連中に福田吉兆という選手を教えてやれ」

「はい!」

 

 田岡監督の檄が効いたのか後半は福田が爆発した。藤真に積極的にパスを要求すると果敢にアタックして次々と得点を重ねていく。この福田の姿には牧と仙道が感心の声を上げる。

 

「福田か……いいスコアラーになったもんだ」

「ディフェンスはまだまだですけどね。けど、あいつになら陵南のオフェンスを任せられます」

 

 そんな2人の会話を耳にしながら試合を見ていくが、試合は福田のアタックを止められない茨城代表が流れを失い一方的なものになった。

 

 そして終わってみればダブルスコアで2回戦に勝利し、俺達は3回戦に駒を進めた。

 

 チームが勝ったのは嬉しい。けど、次は出番があるといいな。




これで本日の投稿は終わりです。

また来週お会いしましょう。


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第111話『苦悩』

伸びる者もいれば伸び悩む者もいるということです。


side:三井寿

 

 

 選抜大会を勝ち進み準決勝、俺達は愛知代表と、もう一方は秋田代表と大阪代表の組み合わせとなった。

 

 先ずは俺達の試合から。俺達神奈川代表はAチームがスタメンで試合開始。愛知代表を相手に23点のリードで試合を折り返すと、後半からはBチームが愛知代表と戦う。

 

 後半はスコアラーとして覚醒した感のある福田が中心に攻めていったが、愛知代表もエースの諸星を軸に反撃に転じてジワジワと追い上げてきた。

 

 しかし愛知代表の反撃は届かず9点差で俺達神奈川代表の勝利だ。けどあの諸星の爆発力は侮れないものを感じたな。次にやりあう時は注意が必要そうだぜ。

 

 俺達の試合が終わり次は秋田代表と大阪代表の試合だ。豊玉のメンバーが中心の大阪代表と山王のメンバーが中心の秋田代表の試合は果敢に攻める大阪代表が目立つが、スコアは秋田代表が優勢で進んでいった。

 

「おっ?北沢だ」

「北沢?沢北だろう」

「あれ?そうでしたっけ?」

 

 仙道の言葉に訂正を入れながらも試合を見ていると、前半半ばで秋田代表のベンチから沢北が出てきた。

 

 試合に出てきた沢北は大阪代表に負けじと果敢に仕掛けていくが、そのプレーは全国でやりあった時から大した変化を感じられない。

 

「仙道、沢北を抑えられるか?」

「う~ん……まぁ、なんとかなると思いますよ」

「そうか、では決勝で沢北が出てきた時のマッチアップは仙道でいく」

 

 田岡監督の指示に返事をすると続けて試合を見ていく。

 

 ……やはり沢北はほとんど変わってねぇな。フェイクとかの駆け引きのバリエーションはちょっと増えたみてぇだが、相変わらずパスを出さねぇから対応が楽そうだ。

 

 そのことに大阪代表の南も気付いたんだろう。徐々に沢北の仕掛けに対応していっている。そして沢北が出場してから4分、沢北の得点がピタッと止まった。

 

「パスが無いと見切られたら北沢……じゃなくて沢北もあんなものか」

「パスの重要さに早く気付けてよかったな、仙道」

 

 そう田岡監督が言葉を振ると仙道が肩を竦める。

 

「まったくです。三井さんには感謝しますよ」

「うん?俺か?」

「えぇ、三井さんとやりあったからパスの楽しさに気付けましたから」

 

 そう言えば何度か仙道とやりあったが、最初の方はパスを出さなかったな。

 

「……このままでは沢北が潰れかねんな」

 

 コート上の沢北が苦しんでいるのがここからでもわかる。それでも秋田代表の監督をしている堂本監督は動かない。

 

「堂本監督は沢北を信じているのだろうが……沢北はまだ1年だ。その沢北に与えるには少々辛い試練だな」

 

 

 

 

side:沢北栄治

 

 

 夏の全国大会の3回戦……あそこで湘北の三井さんとやってから俺のバスケの何かが狂っちまった。

 

 深津さんからパスを貰い大阪代表の南さんと対峙する。フェイクを掛けてクロスオーバーでいくが、南さんにはしっかりと反応されて抜けない。

 

 そこからロールをして逆に行くがそれでも抜けない。何でだ?何で抜けない?俺のドリブルのキレが落ちた?夏の疲れが抜けてないのか?

 

 そんなことを考えてモチベーションが下がるのをグッと堪える。大きく深呼吸して集中しなおす。

 

「沢北、戻すピョン」

 

 深津さんの声が聞こえた気がするが再度南さんに仕掛ける。これも防がれると笛が鳴りターンオーバーになってしまった。

 

 すると大阪代表が速攻を仕掛けて点を取られ差を詰められる。さっきからこのパターンが続いている。……どうしてだ?どうして抜けない?

 

 南さんを抜くために試行錯誤を続けるが中々結果が出ない。そして結果が出ないまま前半が終わるとベンチに下げられた。

 

 その後、試合は俺達秋田代表が勝ったが、試合中も試合後も監督から何か言われることはなかった。そんな俺の頭には試合前に言われた監督の言葉が響く。

 

『今のお前に足りないのは何か。先ずは自分で考えろ。どうしてもわからなかったら俺に限らず誰かに聞いてみろ』

 

(……聞けるかよ)

 

 中学じゃ敵無しだった。自分のバスケをやれば勝てた。だけど……高校じゃ通じないのか?俺はその程度だったのか?

 

 グルグルと抜けられない迷路の様に考えが巡るが答えは出ず。俺は人生で初めてバスケが嫌いになりそうだった。




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また来週お会いしましょう。


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第112話『個の勝利、チームの勝利』

side:仙道彰

 

 

 さぁて、決勝戦だ。おぉ?立ち見までギュウギュウの満員御礼ってやつか。こりゃ楽しくなりそうだな。

 

 アップをしてる秋田選抜のメンバーに目を向ける。おっ?いたいた北沢……じゃなくて沢北だ。中学の時は一度も勝てなかったが……と。

 

 ……うん、なんとかなりそうだ。あいつには悪いが、正直こんなもんだったか?って印象が強い。

 

 アップも終わって整列。挨拶の時に沢北に目を向けてみるが、あいつはずっと三井さんを見てた。さぁ、挨拶も終わって試合開始だ。

 

 ジャンプボールを魚住さんが制してうちのボールから。さて、牧さんは誰で行く?……って自分かよ。

 

 牧さんはマッチアップ相手の……深津?さんを抜くと、そのまま中に切り込みシュートを決めた。しかもバスケットカウントのオマケ付き。流石は牧さんだな。

 

 けどこの牧さんのワンプレーで秋田選抜のメンバーの雰囲気がガラッと変わった。……いいね。そうこなくちゃ。

 

 そう思ってディフェンスを始めたんだが、マークについた沢北はどうも集中しきれてない様に感じる。

 

「試合が始まってもまだ三井さんが気になるのか?」

「……あの人とやらせろ」

 

 やれやれ、まるで試合じゃなくて1on1をしに来たみたいに言うじゃないか。

 

「いいぜ。ただし、俺に勝てたらな」

 

 そう軽く挑発してみるとその気になったのか沢北はパスを要求した。ターンオーバーまで残り20秒弱。さぁ来いよ。

 

 沢北はフェイク無しにストレートに突っ込んで来た。

 

 速い。トップスピードまでの加速力は牧さんや三井さん並みだ。けど……。

 

「っ!?」

 

 あの2人と比べたら動き出しのタイミングがわかりやすい。これなら十分に反応出来るぜ。

 

 ロールをしてクロスに抜けようとしてくるがそれも止める。中学の時はこうもすんなりとは止められなかったんだがな。こうして改めて成長を実感すると楽しくなってくるぜ。

 

 そう思って笑ったのが癪に触ったのか、沢北はガムシャラに仕掛けてくる。けどシュートにまでは行かせない。

 

 そうこうしている内にターンオーバーになる。すると牧さんが速攻を仕掛けてゴールを決める。三井さんもしっかりフォローに走ってたし、あの2人の切り替えの速さは流石だなぁ。次は俺も直ぐに走らねぇと、田岡監督に叱られちまうぜ。

 

 

 

 

side:魚住純

 

 

 試合開始から10分程で秋田選抜は沢北をベンチに下げた。それはいい。それよりも俺はこいつの相手に集中しなければ。

 

 河田雅史。田岡監督の話ではGからF、そしてCへとコンバートを経験してきた選手だそうだが……中々どうして、Cの動きが板についている。

 

 だがそれとは別にこいつは非常に厄介な相手だ。駆け引きが頗る上手い。赤木とやりあう時よりも集中を求められる相手だ。

 

「ふんっ!」

 

 オフェンスリバウンドは制したがそう簡単には押し込めない。無理をせず1度牧に戻す。

 

「こないんか?」

「俺が勝たずともチームが勝てばいい」

「ははっ、違いない。あの馬鹿もそれをわかりゃいいんだが」

 

 厄介で掴みどころが無い。だが対峙していて勉強になる選手だ。

 

 後1年……この残りのバスケ人生を悔いなく終えるため、チームの勝利に全力を尽くす。俺に出来るのはそれだけだ。




これで本日の投稿は終わりです。

また来週お会いしましょう。


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第113話『茂一は安堵する』

side:三井寿

 

 

 前半リードで折り返した後半、秋田選抜はお家芸とでも言うべきフルコートプレスディフェンスを仕掛けてきた。

 

 俺と牧を中心にフルコートプレスディフェンスを突破するが、それでも点差を維持するのがやっとだった。どうやら俺と牧の事は折り込み済みのようだな。

 

 そして後半7分になると秋田選抜のフルコートプレスディフェンスの重圧により仙道がスタミナ切れでダウン。更に須賀さんもダウン寸前になっていた。ここで田岡監督はタイムアウトを取った。

 

 仙道はまだ1年。ここでスタミナ切れになっても不思議じゃないが、3年の須賀さんまでダウン寸前までいくとは……やはり大舞台の重圧ってのはバカに出来ないものがあるな。

 

 それを考えれば魚住は大したものだ。こういった大舞台は初めてのはずなのに適応している。いや、既に高校でバスケを終えることを決めている魚住からすれば、ただ真摯にプレーをしているだけなのかもな。

 

 それはともかく仙道と須賀さんは交代だ。代わりに倉石と藤真が投入された。

 

 倉石はそのまま須賀さんと同じGに入ったが、藤真はSGに入り俺が仙道に代わってFに入る。田岡監督からのオーダーは仙道の代わりに俺がスコアラーになれとさ。

 

 試合が再開されると秋田選抜はフルコートプレスディフェンスを止めて俺にダブルチームをつけてきた。もしかしなくても読まれたっぽいな。

 

 けど関係ない。牧にパスを要求すると秋田選抜のダブルチームを抜き去り中に侵入。直ぐにヘルプが来たがユーロステップで抜いてそのままレイアップに。

 

 ここで河田がブロックに跳んできたがダブルクラッチで得点。都合秋田選抜の4人をぶち抜いての得点に会場からは歓声が上がる。いいな。もっと盛り上がれ。

 

 

 

 

side:田岡茂一

 

 

「……大したものだ」

 

 秋田選抜を相手に引けを取らないどころか圧倒しているとも言える三井のパフォーマンス……果たして国内に戦える選手が何人いることやら。

 

 私が知る限りでは牧ぐらいのものだ。仙道も候補ではあるがまだ早い。今年の冬にどれだけ鍛え抜いたかで結果が変わるだろう。

 

「さて、後は見守るだけか」

 

 不測のアクシデントが起きない限りはこのままリードを保って逃げるどころか、点差を広げて勝てる。

 

 チラリと秋田選抜の監督である堂本監督に目を向ける。

 

(前半、あそこまで沢北を引っ張らなければもっと苦戦したのだが……)

 

 おそらく堂本監督にとって沢北は今大会の優勝以上に価値のある選手なのだろう。

 

 だが去年仙道をスカウトする際に見た彼と比べても、大きな成長は見られなかった。

 

 おそらく原因は彼のプレースタイルにあるだろう。偏執的と形容出来る程に個人技に拘ったのが彼のプレースタイル。

 

 それが悪とは言わないがバスケはチームスポーツだ。個人技での打開が求められる場面は確かにあるが、本来個人技はオフェンスの選択肢の1つとすべきものなのだ。そこに気付かなければ彼の将来は暗いものになるだろう。

 

 大学、社会人と進む毎に篩に掛けられて生き残った天才や秀才達が集う魔境となる。彼が今のまま変われなければ良くて凡人、最悪潰れてしまうのが俺の予測だ。

 

 堂本監督も同じ考えなのだろう。だからこそ彼を壁にぶつけるどころか叩きつけているのだ。

 

「まぁ、他所の事情に首を突っ込むわけにもいかんか」

 

 今俺がすべきはこのチームを勝たせること。そしてこのチームの選手達の成長を手助けをすることだ。

 

 その後、俺の思惑通りに点差を広げて神奈川選抜は優勝した。やれやれ、これで1つ肩の荷を下ろせたな。

 

 さて、次はウインターカップか……。選抜優勝の余韻に浸るのはそこそこに、気持ちを切り替えなければな。




これで本日の投稿は終わりです。

また来週お会いしましょう。


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第114話『新たな試み』

side:三井寿

 

 

 選抜は優勝という最高の形で終わることが出来た。表彰式で次々と名前が呼ばれていく。

 

 新人王には仙道。得点数では福田の方が上だが、アシスト等を含めた総合では仙道の方が上だから選ばれた。

 

 得点王には大阪代表の南、そしてアシスト王には秋田代表の深津の名が呼ばれた。うちは2チームで試合を回していたから、試合に出続けていた南や深津に持っていかれても仕方ないだろう。

 

 そしてベスト5にはCに河田、PGに牧、SGに俺、PFに福田、Fに南が選ばれた。

 

 Cの河田は大会出場試合数が大きな要因だろうな。Fの南は準決勝まで通して活躍を続けた結果ってとこか。

 

 それで驚いたのはPFに福田が選出されたことだ。もしかしたら泥臭くガムシャラに得点を狙う福田の姿に惹かれた選考員が多かったのかもな。ちなみにMVPは河田だった。

 

 さて、選抜が終わって湘北に戻った俺達は新チームの連携の再確認を始めた。

 

 メインのスタメンはCに赤木、PGに安田、Gに倉石、SGに木暮、Fに俺となっている。これに他の1年達が虎視眈々とスタメンの座を狙っているのが現状だな。

 

 スタメンのPGに安田が選ばれたのは経験とチームメンバーとの連携が理由だ。個の選手としては宮城の方が上だが、チームとしてみたら安田の方が良いというわけだな。

 

「リョーちんパース!」

 

 そうそう、今のチームとは関係ないが桜木の奴が随分とものになってきた。リバウンドは赤木と渡り合えるレベルになってるし、ゴール下での得点力も戦力として十分に数えられる。

 

 だが他はまだまだってとこだな。これからの成長に期待だ。

 

 

 

 

side:沢北栄治

 

 

『負けた理由がわからない?』

 

 インターハイで三井さんに負けて、選抜では南さんと仙道にも負けた。その理由をずっと考えていたけど、どうしてもわからなくて、だからこうして親父に電話した。

 

『そうか、栄治はミニバスの経験は無いし、中学の時は1人でぶち抜いてたもんなぁ』

 

 親父の言う通りに中学の時は俺を止められる奴はいなかった。山王に来て中学の時よりも上手くなった自信がある。なのに勝てない相手がいる。俺がまだ下手だからなのか?

 

『栄治、答えはパスだよ』

「パス?」

 

 予想外の答えに言葉が続かない。

 

『1on1と通常の試合の違いは人数。つまり1on1なら広く使えるコートも人数が増えたことで、使えるところが減ってしまう』

『そして時には味方がドリブルコースをつぶしてしまうことだってある』

 

 親父の言葉にそういえばと思い出す。中学の時は何度も味方が邪魔だなと思ったことがある。けど、山王に来てからはそう思ったことが無いな。

 

『けど、そんな狭くなったコートを広くする方法がある。それがパスだ』

 

 そう言って親父がパスが如何に大切かというのをこれでもかと語り出す。けどさ……。

 

「パスで逃げるってダサくない?」

『負けて悔しいのよりはいいだろ?』

 

「じゃあパスを使って負けた時は?」

『そん時は相手の方が上手かっただけさ。練習をして出直すんだな』

 

 そう親父に言われて少し気分が晴れた気がする。

 

「わかった。とりあえずパスを試してみるよ」

『おう、怪我すんなよ。歯を磨けよ。宿題やれよ』

「いや、俺は子供かよ」

『子供さ。親にとって子供は何歳になろうとも子供なんだ。それじゃあな』

 

 そう言って親父は電話を切った。

 

「……とりあえずパスをやってみるか」

 

 そう口にしてみたはいいものの。

 

「……パスってどうするんだ?」

 

 パス練はしてきたけど試合では1回もパスをした事がなかったことを思い出し、俺は首を傾げて悩み続けるのだった。




これで本日の投稿は終わりです。

また来週お会いしましょう。


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第115話『2年目ウインターカップ開幕』

side:三井寿

 

 

 ウインターカップが始まった。俺達は第2シードなので2回戦から。そして2回戦が始まるとPGに宮城、Gに内村、Cに角田、SGに東、Fに八木の1年で構成したメンバーが躍動していく。

 

 特に目立っているのは宮城と角田だな。

 

 宮城は安田という明確なライバルがいる。角田は1つ年下の桜木っていう急成長をしている男を知っている。2人は自分の目指すべき方向性を確かにして日々の練習に励んできた。その結果が今現れている。

 

 安田はパスを軸に展開を作るPG……つまり味方を動かして展開を作るPGだ。対して宮城は牧の様なドリブルで展開を作っていくPGを……自分が動いて展開を作るPGを目指している。

 

 このコンセプトの違いは共にメリットがあるが、チームに求められる意識が全く違ってくる。なのでスタメンに採用されるかどうかはチームのメンバーの状況や監督の好みで変わってくるだろう。

 

 例えば海南だとどのチームが相手でもドリブル突破で展開を打破出来る選手は現状では牧ぐらいのものだ。だからこそ牧は不動のスタメンを勝ち取っているとも言える。

 

 対してうちの場合はドリブル突破出来る選手として俺がいる。なので相対的に宮城のドリブル突破の価値が下がってしまっているのが現状だ。

 

 うちに俺以外のスコアラーが1人いれば、俺をSGにして宮城を軸にラン&ガンをするっていう選択肢もないではないんだが……それでも安田のあの強かさは魅力的なんだよな。まぁ、宮城には腐らず諦めず頑張って貰うしかないだろう。

 

 角田の方は順調に成長をしてきている。赤木の様なパワータイプのCではなく、兼田さんの様なテクニックタイプのCとしてな。

 

 リバウンドだけを見れば赤木や桜木の方が上だが、それ以外の面も合わせれば……1年後には十分に湘北のゴール下を任せられる男になっているだろう。

 

 さて、前半が終わって17点差か。思ったより差が開いてないが、1年だけでこれなら十分だろう。さぁ、後半も頑張れよ、お前ら。

 

 

 

 

side:宮城リョータ

 

 

「カク!」

「おう!」

 

 中のカクにパスを通して得点を重ね点差を広げる。まだ諦めないのは敵ながら称賛ものだな。

 

 マッチアップしている相手のPG……名前はなんだったか?いけね、忘れちまった。

 

 そんなことを考えていたら不意を突かれてドリブルで仕掛けられた。危ねっ!?危うく抜かれるところだったぜ。

 

 もしこれが三井さんや牧さんだったら、あるいは仙道辺りにも確実に抜かれてたな。油断大敵だぜ。

 

 しっかりディフェンスをしてターンオーバーになった瞬間に速攻を決めて自身で得点。ベンチにいるヤスを指差す。するとヤスはサムズアップして喜んだ。

 

(正PGになった余裕……じゃねぇな。心から喜んでやがる)

 

 チームが勝てばそれでいい。そう本気で思える奴が何人いる?スポーツを始めとした勝負は自分が出て、勝った時が一番面白いもんだ。けど希にヤスみたいな奴もいる。

 

 ヤスはダチだ。だからこそ負けられねぇ。諦めて譲っちまったら、そこで対等なダチじゃなくなっちまう。

 

(だからよヤス……俺は絶対に諦めねぇぜ。今大会は仕方ねぇが、次は俺が正PGの座を取る!)

 

 その後、手を緩めず攻め続け圧勝した俺達は3回戦に駒を進めたのだった。




これで本日の投稿は終わりです。

また来週お会いしましょう。


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第116話『後無き者の気迫と新戦術』

side:三井寿

 

 

 ウインターカップの県予選の内3ブロックが決した。湘北、陵南、翔陽の3チームだ。

 

 そして今、最後のブロック予選の決勝戦の海南対武里の試合を見ているんだが……想像以上に武里が奮戦していた。

 

「須賀君は全国を経験して完全に一皮剥けましたね」

 

 そう、安西先生の言う通りに須賀さんの動きが秀逸だ。海南を食いかねない勢いを持っている。

 

 それに気付いた高頭監督は須賀さんのマッチアップを牧に代えたが、武里の勢いは止まらない。

 

 腹を括ったのかタイムアウトを取った海南は点の取り合いを挑んだ。

 

 須賀さんが決めれば牧が決め返し、牧が決めれば須賀さんが決め返す。

 

 須賀さんの奮闘に武里のメンバーが応え、牧の奮闘に海南のメンバーが応える。その様相は県予選とは思えない程に白熱し、レベルが高いものだ。

 

 チラリと安西先生に目を向けるとニコニコと微笑んでいた。おそらくこの状況は願っていたものだからだろう。

 

 湘北の勝利を目指しつつも楽はさせない。厳しくも俺達の成長を願う愛ある指導者の姿ってところか……流石は安西先生だぜ。

 

 前半を武里が4点リードで終えると会場はざわめきで包まれている。これがプレッシャーとなりコートにどんな影響を与えるのか……後半もまだまだ目を離せないな。

 

 

 

 

side:牧紳一

 

 

「神、アップは終わっているな?」

「はい、待ちくたびれましたよ、監督」

「決勝リーグまで温存するつもりだったが、どうやら武里はそこまで甘くない相手のようだ。後半は出し惜しみなしでいくぞ」

 

 神は元々CだったがSGにコンバートし、毎日500本のシューティング練習を欠かさずにやってきた。その努力のお披露目が早まったが、武里の圧力を考えると仕方ないだろうな。

 

 後半が始まった。後半は宮と神の2枚シューターを主体に組み立てる。

 

 前半は宮1人に集中出来ただろうが後半は2枚だ。どうする?

 

 宮と神は両サイドに広がり、その2人に武里がマークを割いたことで中にポッカリとスペースが出来た。これなら色々とやれそうだ。

 

 先ずは仕掛けてカットイン。須賀さんのチェックは完全に外せなかったが問題ない。さっきまで俺がいた場所にノールックでパスを出す。

 

 すると綺麗な放物線を描いてボールが宙を飛ぶ。神の3Pシュートだ。

 

 ボールはリングに触れることなく通過し3Pシュートが決まる。神は公式戦ではデビュー戦だが固さはないみたいだな。

 

 須賀さんに決め返されて3点差を追う展開。武里は宮と神へのチェックを強めたが……いいのか?

 

「俺も打てるんだぜ?」

 

 不意をつけたのか須賀さんは反応出来ずフリーで打てたが……こりゃ外れるな。まだまだ精進が必要だぜ。

 

 けど問題ない。うちのゴール下には高砂がいる。

 

 高砂は魚住や赤木と比べりゃ1枚落ちる選手だが、それでも1年の時から海南のユニフォームを着てきた男だ。そう簡単にゴール下は譲らない。

 

 リバウンドを制した高砂がそのまま決めて1点差に詰め寄る。

 

 外には宮と神、中には高砂と武藤、そして中をメインに外もいける俺……これが新しい海南の戦術だ。

 

 須賀さん、引退の掛かっているあんたの勝利への執念は大したもんだ。けど、勝つのは俺達だ。

 

 その後、新たな戦術が機能した海南は逆転し、更に徐々に点差を広げて勝利した。

 

 さぁ、次は決勝リーグだ。

 

 たった1つの全国への枠……掴み取るのは俺達海南だぜ!




これで本日の投稿は終わりです。

また来週お会いしましょう。


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第117話『2年目ウインターカップ決勝リーグ』

side:三井寿

 

 

 決勝リーグの第1戦目は翔陽との試合だ。スタメンはCに赤木、PGに安田、SGに木暮、Gに倉石、Fに俺だ。

 

 花形とのジャンプボールに赤木が勝ちうちの攻めから。この試合は特にマッチアップ相手の指定はない。だから試合の組み立てを安田に任せて自由に動かせてもらうか。

 

 中、外と適度に相手を揺さぶりながら安田と藤真の勝負を観察する。

 

 安田と藤真は似たタイプの選手だ。牧や仙道の様な個性を押し付けるパワープレイタイプの選手ではなく、フェイク等の駆け引きを好むテクニカルタイプと言うべきだな。

 

 もちろんパワープレイタイプでもフェイク等の駆け引きは行うし、テクニカルタイプも強引なプレーをすることがある。要するにどちらに軸を置いているかという話だ。

 

 早速安田が目線でフェイクを掛けたりして藤真の反応をみている。あれでその日の相手の調子を計ったりその後の駆け引きに利用したりするんだが、そこら辺が牧や仙道と違うところだな。

 

 牧や仙道は先ず自分ありき。自身の調子によってプレーの質が変化する。対して安田や藤真は相手ありき。相手に合わせて対応を変えていく。俺はどちらかというと牧や仙道よりのタイプだな。

 

 一概にどちらがいいとは言えない。いや、この場合は正解が無いと言うべきだな。

 

 例えばNBAにはスカイフックの使い手の様な個性の極みと言える選手もいれば、そうでなくとも第一線で活躍を続ける選手もいる。要はチームのニーズに合う何かを持っているかどうかだ。

 

 そして安田は湘北というチームのニーズに合うものを持っている選手。だからこそ選手個人としての能力では宮城に劣っていてもスタメンの座を勝ち取っているんだ。

 

 さぁ安田。お前の持っているものを存分に見せ付けてやれ。

 

 ふと不意に安田が力を抜いて棒立ちになり息を吐く。それに合わせる様に藤真が息を抜いた次の瞬間、安田がパスを出した。安田が息を吐いた瞬間に合わせて動き出した俺に。

 

 パスを受けた俺はそのまま流すようにしてリングの上に優しくボールを放る。それを赤木がアリウープでダンクを決めて先制点。ド派手なプレーに会場が沸き上がる。これだけ盛り上がるならセットプレーとして練習した甲斐があったってもんだ。

 

「「「ゴリラダーンク!」」」

 

 おぉ、ベンチの1年達が煽ってやがる。後で赤木に怒られてもしらねぇぞ。

 

「ゴリィ!派手に決めたからって調子に乗んなよぉ!」

「やかましいわぁ!」

 

 桜木の煽りに赤木が反応すると会場から笑い声が上がる。決勝リーグ独特のプレッシャーに影響されない……いいチームになったぜ。

 

「さぁここからだ。1本、止めるぞ!」

「「「おぉっ!」」」

 

 俺の檄に皆が応えディフェンスに戻る。

 

 試合はまだ始まったばかりだ。集中していくぞ!




これで本日の投稿は終わりです。

また来週お会いしましょう。


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第118話『決勝リーグ初戦の模様』

side:三井寿

 

 

 前半が終わって4点リードをしているが、しぶといというのが前半の翔陽に対する感想だ。

 

 2回流れに乗れそうな場面があった。けど2回ともタイムアウトを取られ止められた。藤真の判断なのか三淵監督の判断なのかはわからねぇが、本当にしぶといぜ。

 

「後半もこのまま行きます。安田君、翔陽は粘ってきていますが、焦らずじっくり攻めてください」

「はい!」

 

 安西先生の言葉を聞いて深呼吸をする。ウインターカップの全国への椅子は1つ。どうやらそのことに少しプレッシャーを感じてたみたいだぜ。

 

(いや、プレッシャーを感じることは悪いことじゃねぇ。それに気付かなかったり潰されたりするよりはな)

 

 集中をし直して挑んだ後半、7分が過ぎた頃に俺と木暮が続けて3Pシュートを決めるとついに流れを掴んだ。

 

 翔陽もタイムアウトを取ったり戦術を変えたりして対応しようとするが、点差はどんどん広がっていき決着。22点リードして俺達は決勝リーグの初戦を制したのだった。

 

 

 

 

side:赤木美和

 

 

 決勝リーグの初戦を制した私達は陵南と海南の試合を見ているんだけど、ちょっと海南の勢いがやばいわね。

 

「これで15点差か」

 

 剛憲の言葉に頷く。後半残り10分。ここまでよく牧君に食らい付いていた仙道君だけど彼はまだ1年生。スタミナが切れた彼はベンチに下がった。

 

 そして池上君が代わりに牧君とマッチアップしてなんとか抑えているんだけど、牧君の代わりに池上君のマークが無くなった宮益君の3Pシュートが当たり出した。

 

 福田君がスコアラーとして奮闘して点差は維持出来ていたけど、彼も残り5分といったところでスタミナ切れ。

 

 その後陵南は魚住君を中心に巻き返しをしようとするけどタイムアップ。陵南対海南の試合は22点差で海南が制した。

 

「海南の新戦術……厄介ですね」

 

 安西先生の言う通りに海南の新戦術はとても厄介。宮益君と神君の2枚シューターも厄介なんだけど、それ以上に厄介なのは2人が外に開くことによって出来る中のスペースなの。

 

 あれだけスペースがあれば牧君はドリブルで仕掛け放題。1回ぐらい仕掛けが失敗してもあれだけのスペースがあれば立て直しは容易。二の矢、三の矢と次々に海南は攻め立て、相手チームにプレッシャーを与えていく。

 

 牧君のドリブルに対応しようと距離をとって牧君と対峙したら今度は牧君自身が3Pシュートを撃つ。牧君の3Pシュートの精度は決して高くはないけど、それでもフリーで撃たせるわけにはいかないぐらいのものにはなっている。

 

 だからこそ距離を詰めて牧君と対峙しないといけないんだけど、そうすると今度は体力オバケの牧君と正面からバチバチにやり合わないといけなくなる。並みのチームじゃ対処のしようがないお手上げの戦術ね。

 

 けどうちには寿君がいる。そう簡単にはやられないわよ?

 

 まぁ、その前に次の陵南戦に勝たないとね。さぁ!全国に行くわよ!




これで本日の投稿は終わりです。

また来週お会いしましょう。


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第119話『決勝リーグ2戦目 湘北対陵南』

side:三井寿

 

 

 決勝リーグ第2試合は陵南との試合だ。序盤、俺とマッチアップした仙道はスタミナ温存のためか力を抑えていた。

 

「いいのか?」

「魚住さんを信じますよ」

 

 仙道の言葉通りに魚住を中心に得点を重ね陵南は俺達に食らい付いてきた。福田も得点を重ねようとするが、そちらは倉石が抑えているからか大人しい。……いや、あいつもスタミナを温存してやがるな?

 

 そして10点リードで始まった後半、鬱憤を晴らす様に仙道と福田はギアを上げてきた。だが、そう易々と向こうの思惑通りにはいかせねぇよ。

 

 安田が陵南の勢いを削ぐ様にターンオーバーまで目一杯時間を使って組み立て、俺や木暮が3Pシュートを決める。

 

 すると中々点差が詰まらないからか陵南の攻めに焦りが見え始めたんだが、ここで田岡監督はタイムアウトを取って陵南の選手達をクールダウンさせた。

 

「しぶといな」

「あぁ、それよりも赤木、大丈夫か?」

「悔しくないと言えば嘘になるが、先ずはチームが勝つこと。そう考えれば堪えられる」

 

 前半は魚住にいいように点を取られたから少し心配してたんだが、どうやら問題無さそうだ。

 

「そうか、じゃあこのままゴール下を頼むぜ」

「おう、任せとけ」

 

 試合が再開すると陵南の選手達は落ち着いていたが、流れに乗れず点差はジワジワと広がっていく。

 

 点差が広まる原因は3Pだ。湘北には俺と木暮がいるが、陵南には仙道ぐらいしか3Pシュートをまともに決められるやつがいない。

 

 だが3Pシュートも百発百中じゃない。だからこそリバウンドが重要になる。赤木と魚住の勝負だな。

 

 けどこの2人が真っ向勝負をしたら魚住が優位だ。そこで湘北は俺や木暮が3Pシュートを撃つ時は、倉石がゴール下のヘルプに走る。

 

「くっ!?」

 

 別にリバウンドを取る必要はない。身体を寄せて魚住の邪魔が出来ればいい。そうすれば赤木がリバウンドを取る。

 

 もちろん陵南の選手もゴール下のヘルプに入ってくる事があるが、チームの連携としてこの動きを練習している俺達と比べたら熟練度が違う。

 

 リバウンドを取ったらまたターンオーバーになるギリギリまで目一杯時間を使う。そして相手が焦りディフェンスが乱れたら一点速攻に切り替える。この切り替えのタイミングの判断が安田は抜群に上手い。

 

 こうして主導権を握り続けて試合終了。俺達の勝利だ。

 

 海南と翔陽の試合は海南が勝った。つまり残るうちと海南、試合で勝った方が全国に行ける。わかりやすくていいぜ。

 

「さぁ、残り1試合だ。勝って全国に行くぞ!」

「「「おぉ!」」」




これで本日の投稿は終わりです。

また来週お会いしましょう。


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第120『2年目ウインターカップ決勝リーグ最終戦 その1』

side:牧紳一

 

 

 決勝リーグ最終戦、湘北との試合だ。勝った方が全国にとわかりやすくていい。

 

「お前達、時間だ」

 

 アップを終え控え室で待機していた俺達を高頭監督が呼ぶ。

 

「行くぞ!」

「「「おぉっ!」」」

 

 夏のインターハイが終わってからのチームのキャプテンは俺だ。キャプテンとしてちゃんとやれているかはわからねぇが、勝利への意思だけは誰よりも示してきたつもりだ。

 

 試合前の整列が終わりジャンプボール。赤木に取られ湘北の攻めからだ。

 

 湘北のPGである安田の相手は武藤に任せ俺は三井のマークにつく。

 

 湘北に勝つには大まかに分けて2パターン。三井を抑えるか三井以外のところで勝負を掛けるかだ。

 

 だが、ここ最近は後者も厳しくなってきている。だから前者をやりつつ後者もやらにゃならん。そして海南で三井と渡り合えるのは俺だけだ。

 

 三井がボールを貰いこの試合初めてのマッチアップが始まる。

 

 高頭監督曰く、三井の本質はシューター。故に3Pシュートを撃たせれば撃たせる程に調子を上げていくタイプらしい。それには俺も同感だ。

 

 だからこそ三井にどれだけロングで撃たせないか。これが重要になる。だからといって内を疎かにすればドリブルで食い破られる。今日本で一番抑えるのが難しい男だろう。

 

 だから面白い。もし来年に将来海南のエースとなり得るやつが来ても、三井との勝負は譲れない。譲りたくない。

 

 その為にはここで結果を出さにゃならん。三井を抑えた。三井と渡り合えたという結果をだ。

 

 スッとハンドフェイクを掛けてくる。この動きがそのままドリブルの予備動作になっているんだが、ここからストレートに抜きにくるか、クロスに来るのかがわからねぇ。

 

 右足を引いた!?3Pか!

 

 そう思い一歩踏み込むと、三井は右足をついた反動で一気に前進。ストレートに抜かれ尻餅をつく。

 

 ストレートに俺を抜いた三井は右サイドに行きフリーで悠々と3Pシュートを撃つ。スウィッシュで決められ湘北に3点が入った。

 

 これだ。これが三井の厄介なところだ。

 

 全国でもナンバーワンの3Pシュート精度を持ちながら、全国でも三本の指に入るドリブル突破力を持つ。

 

 更にディフェンス力も全国トップレベルでどのポジションも出来る超ユーティリティプレイヤー……間違いなく日本のバスケの歴史に名を刻む男だ。

 

 立ち上がった俺は高砂にボールを要求。ボールを貰うとゆっくりと運び三井の前へ。

 

「借りは直ぐに返す」

「おう、やってみろ」

 

 ふっ、熱くなってきた。まだ試合は始まったばかりだというのに、既に終盤かと思う程にだ。

 

 俺はさっきの借りを返すために一層集中を高めるのだった。




これで本日の投稿は終わりです。

また来週お会いしましょう。


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第121『2年目ウインターカップ決勝リーグ最終戦 その2』

side:三井寿

 

 

「湘北、タイムアウト!」

 

 前半5分、8ー9で1点リードされた状況で安西先生がタイムアウトを取った。皆で急いでベンチに戻る。

 

「今日の宮益君は予想以上に調子が良いようです」

 

 安西先生の言う通りに今日の宮益は調子が良い。正に絶好調ってやつだな。

 

 8ー9の現状だが、海南の9点は宮益の3本の3Pシュートによるものだ。

 

「宮城君、準備は出来ていますね?安田君と交代です」

「はい!」

 

 宮益のマークについていた安田だが連続でいいようにやられてしまった。けど仕方ねぇだろうな。安田とは相性が悪かった。

 

 宮益はハッキリ言えば海南の選手の中で一番個人能力は低いかもしれない。だが、だからこそ宮益はチームメイトの力を借りることを躊躇しない。

 

 あいつのプレースタイルは木暮によく似ている。チームメイトのサポートをしつつ隙あらば外からシュート。これをとことん突き詰めたものだ。

 

 俺や牧は自分ありき、安田は相手ありきのプレーだが、木暮や宮益はチームメイトありきのプレーをしている。これが安田と相性が悪い。

 

 安田は駆け引きをして自分を有利に、あるいは相手を不利にして戦うんだが、宮益はそういった駆け引きをしない。なんせ宮益が見ているのは目の前の安田ではなく、チームメイト達の動きだからな。

 

 だから有利にも不利にもならず、安田は能力差を埋めることが出来ない。そうすると今の安田じゃ宮益を止めるのは難しい。

 

 宮益の選手個人としての能力が低いと言っても、それでもあいつは海南のユニフォームを勝ち取った男なんだ。まだ1年の安田じゃ荷が重くても仕方ないだろう。

 

 では同じ1年の宮城はどうなんだって話だが、正直に言って宮城は物が違う。湘北の1年の中じゃ東と1、2を争う実力を持っている。だからこの場面で安田に代わって出るんだ。

 

「ヤス、後は任せとけ」

「うん、頼んだよ、リョータ」

 

 ライバルでありながら友人でもある。こういった関係を持てている奴は伸びる。これからの成長が楽しみだが、先ずは目の前の試合に集中しねぇとな。

 

 

 

 

side:高頭力

 

 

 間に合った。それが今感じている思いだ。

 

 3Pシュートを戦術として取り入れた新たな戦術に取り組み四苦八苦する毎日。あるいは元の戦術にと悩んだことも一度や二度じゃない。

 

 だが新しい海南の姿を見た今、新戦術への挑戦は間違いではなかったと確信している。

 

「調子いいじゃねぇか、宮」

「なんか今日は落とす気がしないんだ。だからチャンスがあったらどんどんボールを回してよ」

「おう、期待してるぜ」

 

 選手達の表情も明るい。油断をしていれば喝の一つも入れるが、今それをするのはただ選手のモチベーションに水を差すだけだろう。

 

「その調子だ。手を緩めずガンガン攻めていけ」

「「「はいっ!」」」

 

 海南のバスケは攻めのバスケだ。だからどんどん行け。積極的な失敗なら幾らでもしていい。それは成長に繋がるのだからな。




これで本日の投稿は終わりです。

それと早いですが夏休みに入ります。

投稿再開は9月からです。

また9月にお会いしましょう。


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第122話『チームの為に走る』

side:宮城リョータ

 

 

「っし!」

 

 よっしゃ!宮益さん……いや、敵チームだからあえて宮益って呼ばせて貰うが、これで2回目の3Pシュートのブロック成功だぜ。

 

 ハッキリ言って宮益は1on1なら大した相手じゃない。けどこの人はチーム戦になると途端に厄介な相手になる。

 

 ルックアップ。この人はよくこれをする。状況の確認をしてるんだろうが、これが海南の誰かが宮益のフォローに来てるんじゃないかって思わせてくるフェイクになる。だから一瞬身構えちまうんだが……。

 

「っ!?」

 

 するとこうしてこの人が動き出した時に一歩遅れちまう。けど俺なら振り切られてフリーにはしない。そのぐらい俺と宮益の速さには差がある……って。

 

「三井さん!」

 

 くそっ、宮益が動き出したのは牧のフォローのためかよ!

 

 そう思った次の瞬間、目の前で信じられない光景が起きた。

 

 宮益が三井さんにスクリーンを掛けようとしたその刹那、三井さんは身体を少し後ろに倒したんだ。

 

 そして宮益の身体に当たったと思ったらその反動を利用して牧の鋭いアタックに反応して抜かせなかった。

 

 ……マジかよこの人。どんなバスケセンスしてやがるんだ。

 

 思わず見惚れちまった。だからこの失態は必然なんだろうな。

 

 三井さんを抜けなかった牧はパスを出した。俺がボールウォッチャーになってフリーになった宮益に。

 

「あっ」

 

 我ながら間抜けな声が出た。そして不思議な事にこんなバカなミスをやらかした時には多少の無茶なシュートも決まっちまうもんだ。

 

 だから当然の様に宮益の3Pシュートは決まった。

 

「くそっ!」

 

 バカか俺は!こんな間抜けな事をしてるから正PGになれねぇんだろうが!

 

 そう思ったら誰かにバシッと尻を叩かれた。

 

「……三井さん?」

「目は覚めたか?」

「はいっ!」

「ならよし。プレーで挽回しろ」

 

 バシバシと顔を張って気合いを入れ直す。

 

「さっきのミス……絶対に取り返すぜ!」

 

 

 

 

side:宮益

 

 

 また3Pシュートが入った。これで何本目だっけ?まぁ2回もシュートブロックされちゃってるから、気を付けないとな。

 

「宮、いい調子だな」

「うん、こんな感触は初めてだよ」

 

 打てば入る……と言ったら大袈裟かもしれないけど、なんか今日はそんな感じなんだ。三井はいつもこういう感じなのかな?

 

「わかってると思うが、ブロックされたからってひよるなよ」

「あぁ」

 

 俺は海南バスケ部の部員の中でも下から数えた方が早いぐらい足が遅いし、高くも跳べない。

 

 そんな俺に出来るのはチームのために走ること。そしてチャンスが来たら迷わずにシュートを打つことだけだ。

 

「さぁ1本!止めるぞ!」

「「「おぉ!」」」

 

 宮城はハッキリ言って俺よりも上手くて速い選手だ。けど俺は格上とのマッチアップには慣れてる。いつものことだ。

 

 だから……いつも通りに走るだけだ!




これで本日の投稿は終わりです。

また来週お会いしましょう。


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第123話『2年目ウインターカップ神奈川予選決勝リーグ決着』

side:三井寿

 

 

 海南にリードされた状態で始まった後半、ジワリジワリと差を縮めて3点差まで追い上げたが、もう一押しが出来ない状況が続いた。

 

「フッ!」

 

 牧を抜いて中に切り込む。ノールックで木暮にパスを出せば木暮が3Pシュートを決める。これで同点となったが、返しのオフェンスで宮益に3Pシュートを決められた。

 

 こんな感じでシーソーゲームが続く後半も半ばを迎えたが、宮城のスタミナが限界だった。

 

 宮城のスタミナは少なくない。1年としてはむしろ多い方だ。だがずっと宮益のペースで振り回され続けたことで、いつも以上に消耗が激しかったんだろうな。

 

 俺は安田と交代するのかと思ったが、驚いたことに安西先生は安田ではなく東を起用した。

 

「安西先生からの伝言です。三井先輩はPGに、俺はSFにだそうです」

 

 なるほど。安西先生はより攻撃的な布陣で行くつもりか。

 

 東は器用で外もこなせる。まだ木暮ほどの決定力はないが、海南と同じ形で真っ向勝負ってことだ。燃えてくるぜ。

 

 東は木暮の所にも行った。おそらくマッチアップ相手の変更だろうな。東なら神が相手でも身長差でのミスマッチが起きない。だから宮益とのマッチアップに慣れている木暮をってわけだ。

 

 流石は安西先生。素晴らしい采配だぜ。後はその采配に応えねぇとな。

 

 倉石からボールを貰いゲームメイクをしていく。マッチアップしている牧の目が更にギラついた気がするな。

 

「PGで負けるわけにはいかねぇな」

「それも興味はあるけどよ、先ずはチームが勝たねぇとな」

「フッ、違いない」

 

 こうして前半以上にバチバチになった俺と牧のマッチアップに呼応する様に、両チームの選手達の戦いもヒートアップしていく。

 

 ゴール下で赤木と高砂が、その2人をフォローする様に倉石と武藤が、シューターとして木暮と宮益が、同じ1年として東と神がそれぞれにチームの勝利を目指してガムシャラに足を動かす。

 

「くそっ、3点差が遠い」

「あぁ、けどまだ時間はある。最後まで諦めるなよ!」

「「「おぉ!」」」

 

 倉石の言葉を受けてチームに発破を掛けると皆が気合いの声を上げる。そんな俺達に負けるかと海南の連中も声を上げる。

 

 熱い試合だ。冬の寒さを吹き飛ばす様な熱い試合だぜ。

 

 そんな試合も残り30秒。まだ逆転のチャンスはある!

 

 閃き。そうとしか言えないイメージが頭を過る。

 

 俺はドリブルで仕掛けると木暮に目を向けつつ赤木にノールックでパスを出した。

 

 この試合は外が中心の展開がずっと続いていた。中で仕掛けるのが少なかった。だから突然中で勝負に行けば驚き、一瞬だが意識に空白を作れる。

 

「叩きつけろ赤木!」

 

 そして俺は声を出す。赤木にダンクの指示を聞かせる為に。赤木も面を食らったんだろうな。素直にダンクに行った。あぁ、それでいい。

 

 なにせ俺が求めたのは高砂の咄嗟の反応。本能的に跳んでしまうブロックなんだからな。

 

「よせ高砂!」

 

 牧は気付いたみてぇだがもう遅い。赤木が高砂の上から強引にダンクを決めると主審の笛が鳴る。

 

「バスケットカウント!ワンスロー!」

 

 俺は赤木を称賛する感じで近付くと耳打ちをする。

 

「赤木、フリースローは外せ。リングに当ててな」

「……リバウンド勝負か?まさか、さっきのパスは初めからこれを狙って?」

「頼んだぜ」

 

 このフリースローを決めても同点になるだけだ。だがリバウンドを取ってゴールを決め直せば少なくとも2点入る。そうすりゃ逆転。遠かった勝利が見える。

 

 可能なら3Pシュートを狙いたいとこだが……まぁ、リバウンドを取った後の状況次第だな。

 

 視線を送ると倉石が頷いた。どうやら俺の意図が伝わったらしい。木暮と東も頼んだぜ。

 

 2人も頷いた所で赤木のフリースローが始まる。俺と倉石の集中力はこの試合のピークに達する。

 

 赤木がシュートをした瞬間に始まるポジション争い。ボールの飛ぶ勢いと角度から直感的に動く。

 

 ガンッとリングに弾かれたボールが俺の所に。倉石が高砂を抑えてくれたことでベストポジションで跳べた俺はボールを確保出来た。だが着地と同時に牧と武藤に囲まれる。

 

 木暮と東は宮益と神に張り付かれている。俺のリバウンドのフォローをしてくれた倉石を高砂がマーク。なら……。

 

「もう一回派手なのを頼むぜ、赤木」

 

 俺と背中に張り付いていた武藤の股下を通してワンバウンドのパスを出す。ボールを受け取った赤木は跳び上がると、その巨体を活かした力強いダンクを決めた。

 

「うぉぉぉおおおおっ!」

 

 赤木が吠えた。気持ちはわかるがまだ試合は終わってねぇぞ。

 

「ラスト!集中!」

「「「おぉ!」」」

 

 残り5秒。ワンチャンスを祈ってのボールすら投げさせるな!

 

 高砂がボールを出す。牧が持った瞬間に距離を詰めると牧がドリブルで仕掛けてきた。

 

 ちっ!詰め過ぎたか!抜かれ掛けたところでファールをして止めた。残り3秒。

 

 熱くなりすぎるな。冷静に。ワンチャンスも与えるな。

 

 試合再開。牧が再びボールを持つ。残り2秒。まだ終わらないのか!

 

 牧がボールを持ち上げた。シュート!っ!?いや違う!

 

 ここでシュートフェイクかよ。やるじゃねぇか。

 

 シュートフェイクに引っ掛かって跳んだ俺を尻目に牧が横に一歩ずれてシュートを打つ。試合終了の笛が鳴り響く中で牧のシュートがネットを通過する音が耳に届いた。

 

「ッシャア!」

 

 牧が叫び拳を握り締めると、俺は息を吐きながら天井を見上げるのだった。




これで本日の投稿は終わりです。

また来週お会いしましょう。


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第124話『親善試合』

side:三井寿

 

 

 ウインターカップの県予選表彰式が始まった。得点王は仙道。決勝リーグでは俺と牧に抑えられたが、予選トーナメントでは大暴れしていたからな。この結果には素直に拍手を送る。福田が随分と悔しそうにしているのが印象的だ。

 

 まぁうちや海南は俺達の代が抜けた後を見据えて予選トーナメントでは1年を多く使っていたというのもある。それがなければ俺か牧は得点王を取っていたかもな。

 

 アシスト王は藤真だ。予選トーナメントから決勝リーグまでしっかり出ていたからな。この結果にも素直に拍手を送る。

 

 ベスト5はCに魚住、PGに牧、SGに木暮、SFに俺、Fに仙道が選ばれた。呼ばれた木暮がすげぇ驚いていて正直面白かったぜ。

 

 そして最後にMVPには俺が選ばれた。まぁ嬉しくないわけじゃねぇが……優勝出来なかったからな。嬉しさ半減だぜ。

 

 俺達のウインターカップは終わり日々の練習に励んでウインターカップの全国大会が終わった頃、不意に安西先生に呼ばれた。

 

 

 

「親善試合ですか?」

「えぇ、アメリカの高校生との親善試合です。今回の親善試合の日本代表として三井君に参加要請がありました」

 

 そう言った安西先生は冊子を一つ渡してくる。

 

「親善試合が行われるのはアメリカ。2泊3日を予定していて、渡航費用と滞在費は日本代表チームのスポンサーから出るそうです。最低限必要なのはパスポートとバッシュぐらいですね。参加しますか?」

「はい!もちろんです!」

 

 こんなの考えるまでもねぇ。アメリカのレベルを事前に経験出来るなんて願ったり叶ったりだ。

 

「今回の親善試合にはアメリカの大学並びにNBAのスカウトも見に来るそうですよ。君の未来のために、大いに頑張ってください」

「はい!」

 

 

 

 

side:三井寿

 

 

 親善試合のためにアメリカ行きの飛行機に乗りに空港に来た俺は、今回の日本代表メンバーと顔合わせをしたんだが……まぁ、結構見慣れた面子だった。

 

「よう、牧」

「よう。後は陵南の二人だな」

 

 今回の日本代表メンバーは10人。俺、牧、魚住、仙道、山王の河田、深津、沢北、野辺、愛和学院の諸星、豊玉の南だ。

 

 参加メンバーの全員が身長180cmをオーバーしているが、これでもアメリカ代表メンバーと比べたらチームの平均身長は低いんだろうなぁ……。

 

 そんな事を考えていると代表チームの監督とチームスタッフ。そして魚住と仙道がやって来た。

 

「全員揃ったようだな。先ずは挨拶をさせてもらう。今回の親善試合で日本代表の監督を務めさせてもらう二階堂だ。よろしく」

 

 この二階堂さんは前回のオリンピックで日本代表の監督をした人なんだが、その経験を買われて今回の代表監督になったんだろうな。

 

「連携確認も満足に出来ていないが、このメンバーなら十分勝負になるだろう。期待している」

 

 その後、他のスタッフの挨拶と現地に着いてからの注意事項等が話されると、俺達はアメリカへと飛び立ったのだった。




これで本日の投稿は終わりです。

ティンと思い付いて今回の流れに……。

また来週お会いしましょう。


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第125話『親善試合開始』

side:三井寿

 

 

 アメリカに渡って翌日、アメリカ代表の高校生達と顔を合わせたわけなんだが……。

 

(うぉぉ……!ジャマールにグラントにアーロン、名シューターのフィンリーもいる!それに……なんといってもシャックがいるじゃねぇか!震えるほどに燃えてきたぜ!)

 

 未来のNBAスター達の若き日の姿に内心でめちゃくちゃ興奮してたぜ。しかし……。

 

(今日の親善試合はかなり厳しそうだな)

 

 流石というべきか今回のアメリカ代表メンバーは俺が知る未来のNBAでオールスターに選出される様なメンバーばかりだ。特にCは歴代最強Cと謳われるあのシャックがいる。魚住や河田でもゴール下でどこまでやれるかわからねぇな。

 

「今回の親善試合はクウォーター制で行われる。前後半制と違い、試合時間の40分を10分毎に区切った形で行われる試合だな。これはNBAでの導入が検討されていて、そう遠くない内に日本のバスケ界もこのクウォーター制に変更されるだろう」

 

 そうか、そんなルール変更もあったな。すっかり頭から抜けてたぜ。

 

 そうなるとハンドチェックの禁止も近いか?いや、あれはもう少し後だったか?……まぁ、いいか。その時が来たら対応出来る様に基礎をしっかりと鍛えておかねぇとな。

 

「今日の親善試合は各クウォーター毎に選手を代えていく形にする。あくまで親善試合だからな。選手全員に出場機会を均等に与えていくぞ」

 

 そう言うと二階堂監督は各クウォーターのメンバーを発表した。第1、第3クウォーターはCに河田、PGに深津、SGに諸星、PFに野辺、Fに沢北。

 

 そして第2、第4クウォーターはCに魚住、PGに牧、SGに俺、SFに南、Fに仙道だ。

 

 どうやら二階堂監督は主に山王メンバーと神奈川メンバーを固めることでチームの連携を少しでも高めることを考えたみたいだな。親善試合とはいえ勝利を狙うなら悪くない選択だ。

 

「そんじゃ神奈川の皆、よろしく頼むで」

「おう、よろしくな」

 

 南と挨拶をしてある程度のプレーにおける意思疎通をしておく。後は試合をしながら擦り合わせって感じだな。

 

 さぁ親善試合が始まったぜ。俺が注目したアメリカのメンバーは第1クウォーターには出ていない。だが流石はアメリカ代表と言うべきか、全員レベルが高いぜ。山王メンバー相手にあっさりと試合を優位に進めている。

 

「おっ?」

「仕掛けたな」

 

 仙道と牧が注目の声を上げる。沢北が真っ向勝負で仕掛けたんだ。目線でのフェイクに引っ掛かったのか相手を抜いた沢北が中央に切れ込むとスクープショット(※1)を放ちゴールを決める。うん、上手いな。しっかりと他のメンバーの意識も出来ていた。前に見た時と比べて確実に成長してやがるぜ。

 

 今のワンゴールで目が覚めたのかアメリカチームの雰囲気が変わった。……楽しそうだな。羨ましいぜ。早く出番が来ねぇかなぁ。

 

 

 

 

side:沢北栄治

 

 

「ふぅ……先ずは一発かませたな」

 

 アメリカ代表の全員が俺より背が高い。これはアメリカを意識し始めた頃から想定していたから問題ないが、各選手のレベルは俺の想定以上だな。

 

「けど、三井さんほどの怖さは無い」

 

 そう、三井さんほどの怖さは無いんだ。身体能力とか身長とかそういったフィジカル面なら三井さん以上のやつらもいるだろう。けど、バスケセンスは三井さんの方が上だと感じる。まぁ、同じ日本人として三井さんを贔屓してるのかもしれないが、それはそれとしてもそう感じるだけ三井さんのレベルが高い証拠でもある。

 

 だから戦える。臆せずに。楽しんで。

 

「おっ?」

 

 アメリカ代表チームの空気が変わった。

 

「手を抜いてた……ってわけじゃなさそうだが……?」

 

 どこか集中しきれていない。そんな雰囲気を感じてたんだけど……あぁ、そうか。スカウトの人達を意識してたのか。

 

 そんな状態のあいつらに圧されてたんだからな。文句も言えないか。

 

「けど、うちの固さも取れたから五分ってとこだろ」

 

 時差ボケってわけじゃないけど、こっちも浮ついてた部分があったからな。こっからはガチンコだ。

 

「行くぜ、アメリカ代表」




※1:プロレイアップともいう。原作で沢北が桜木相手にひょいっと放り上げていたあのレイアップです。

これで本日の投稿は終わりです。

また来週お会いしましょう。


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第126話『親善試合第2Q』

すみません、予約投稿を忘れておりました……。


side:三井寿

 

 

 14点リードされて第1Qが終わった。山王勢と諸星の動きは悪くなかった。しっかりと実力を発揮出来ていたと思う。だが、アメリカ代表のメンバーがそれを上回るパフォーマンスを見せたんだ。沢北が何度もスクープショットを決めてなけりゃもっと点差は広がってただろうな。

 

 そして第2Qが始まった。さぁ、牧はどう組み立てる?……って、いきなりご指名かよ。

 

 俺にパスを出した牧がニヤリと笑う。オーケー。期待に応えるぜ。

 

 俺のマッチアップ相手はフィンリーだ。光栄に感じているが試合は別。本気で行くぜ!

 

 ボールを受け取った瞬間、俺は迷わずにキャッチ&シュートで3Pシュートを打った。面を食らったのかフィンリーは跳ばずに振り返るが、スウィッシュでゴールが決まる。

 

「ナイス」

 

 ポンッと尻を叩いてきた牧に笑い掛ける。

 

「牧、どんどんボールをくれ。どうやら今日の俺は絶好調みてぇだからな」

「そうか、そりゃアメリカさんが気の毒だな」

 

 アメリカ代表の攻めはオーソドックスにインサイドを中心のようだ。そしてCのシャックにボールが渡ると……。

 

『バガンッ!』

 

 そんなド派手な音を立ててシャックはダンクを決めたんだが、なんとリングをぶっ壊しちまった。リングを壊した当の本人は壊したリングを手に両肩を竦めている。

 

(リングクラッシュを生で見れた!く~っ!痺れるぜ!)

 

 ゴールの交換とコートの清掃で一時中断となった俺達は、ベンチで簡易的にミーティングをしていた。

 

「とんでもないパワーだな。魚住、どうだ?」

「正直に言って厳しいです。あのとんでもないパワーでポジションをあっさりと奪われてしまいます」

 

 二階堂監督の問い掛けに魚住がそう答える。まぁ、仕方ねぇだろうなぁ。なんせフィジカルモンスターの巣窟のNBAでも歴代最強のフィジカルモンスターなのがシャックだ。幾ら魚住でもそう簡単には対処出来ねぇ。

 

「そうすると外中心で攻めるべきか……。三井、頼むぞ」

「はい!」

「監督、俺も3P打てまっせ」

「俺も俺も」

 

 と、そんな感じで魚住以外が3Pシュートを打てるとアピールしていく。

 

「そういや今の高校バスケじゃ3Pが流行ってるんだったな」

「まぁ、そこにいるナンバーワンシューターの影響ですね」

 

 そう言って俺を親指で指し示す牧に俺は肩を竦める。

 

 別に今の日本の高校バスケ界の状況を狙っていたわけじゃない。けど、これから先の時代はどんどん3Pシュートの価値が、シューターの価値が見直されていく。

 

 ……もしかしたらこの世界はそうならねぇかもしれない。けど、俺にとって3Pシュートはアイデンティティと言っても過言じゃねぇもんだ。だからとことん極めてやる。

 

 いや、3Pシュートだけじゃねぇ。バスケをとことんやり尽くしてやる。選手を引退するその日に、笑って終われるようにな。

 

「おっ?どうやら再開するようだな。さぁお前ら。出番だ。思いっきり行ってこい!」

「「「はい!」」」

 

 さぁ、試合に集中だ。監督の希望通りに思いっきり行くぜ!




これで本日の投稿は終わりです。

また来週お会いしましょう。


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第127話『第2Q再開』

side:三井寿

 

 

 ゴール交換とコートの清掃が終わり第2Qが再開された。牧はミドルからロングで攻める組み立てをしていく。まぁアメリカ代表のゴール下にはシャックがいるからな。勝ちを狙うならこれが正解だろう。

 

 といっても凄い奴を見ると勝負をしたくなるものでな。仙道、南は牧からパスを貰うとドライブで中に切り込みシャックと勝負に行く。そしてブロックされちまうんだが……まぁ、なんとも楽しそうに笑ってやがるぜ。

 

 俺はロングシュートで攻める。俺まで中に行くとバランスが悪いからな。正直に言うとシャックと勝負出来ているあいつらが羨ましいけどよ。……やっぱチャンスがあったら俺も中で勝負に行くかな。

 

 動いて牧からボールを貰うとステップバックからディープスリーを打つ。スウィッシュで決まると俺とマッチアップしているフィンリーが驚いた表情をした。

 

(あぁ、そう言えばまだこの時代はディープスリーは珍しいんだったか。というか彼がNBAに現れる前だしそりゃそうか)

 

 その後もジャブステップでフェイクを掛けてからステップバックディープスリーを決めていくと第2Qだけで5本の3Pシュートを決めた。成功率も5の5でパーフェクト。調子が良すぎるぐらいだ。

 

 点数も追いつき第2Qも残り少ないとあって俺は仕掛ける事にした。ボールを貰うとフィンリーがロングシュートを警戒してチェックしてきたのでジャブステップ(※1)からクロスオーバーで抜く。そしてゴール下まで行くとユーロステップで揺さぶりシャックを抜きレイアップ。だがシャックのブロックの手が伸びてきた。

 

(でかすぎだろ!?)

 

 身長もウイングスパンも身体能力も規格外。そんなシャックとの勝負は楽しい。俺はリップスルー(※2)気味にシャックの伸びてきた腕に引っ掛ける様にしてダブルクラッチをすることでバスケットカウントを貰いながらゴールを決めた。

 

(バスケットカウントで思い出したが……そういやシャックはフリースローが苦手だったな)

 

 フリースローを沈めると自陣に戻りながら魚住に近付く。

 

「魚住、相手のCのオニールだが、ローポスト以外からジャンプシュートはしたか?」

「うん?……いや、してないな」

「そっか、じゃあゴール下以外は苦手かもしれねぇぞ。一回わざとフリースローさせてみてもいいかもな」

 

 出会ったばかりの頃の魚住相手なら絶対にしなかった提案だが、今の魚住はファールが重なってもプレーの質に影響しない男だ。だから問題無い。

 

 次のアメリカ代表の攻めでシャックにボールが回るとシャックのダンクを魚住はファールで止めた。

 

(いや、やってみろとは言ったが……シャックのダンクを止められるのかよ……)

 

 なんか魚住の動きのキレが増している気がする。もしかしてまた一皮剥けたのか?こりゃ来年のインターハイも厳しい戦いになりそうだぜ。

 

 その後、シャックがフリースローを2本とも外して第2Qが終わった。スコアは追いついており第3Qはフラットな状態で始まる。

 

「さて、第3Qは頼むぜ」

「えぇ、任せてくださいよ。三井さん」

 

 ポンッと軽く胸を叩くと沢北は楽しそうにコートに入っていくのだった。




※1:軸足になる足を動かさずに反対の足でステップを刻み相手を揺さぶる技術。

※2:ボールを保持している時に振り回すようにして身体の反対側に移動させる技術。このリップスルー時に相手の腕に引っ掛けるようにして強引にシュートに行けばシュートファールとなることも。

これで本日の投稿は終わりです。

また来週お会いしましょう。


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第128話『得られた多くの実り』

side:三井寿

 

 

 第3Qでは少しアクシデントがあった。日本代表メンバーの野辺が、日本の高校バスケとは規格が違うアメリカ代表メンバーのフィジカルに思った様にプレーが出来ず熱くなった結果、リバウンド時に相手Cと激しく接触をしてしまったんだ。

 

 幸いにもケガは無かったが野辺と相手C双方共にヒートアップしてしまい、二人共に頭を冷やす為に交代する事となった。

 

 そして代わりに出たのが仙道とシャック。二人共に予定外であったが楽しそうにコートに出てプレーをしてるぜ。

 

「おっと、諸星のやつ大丈夫か?」

 

 ゴール下でシャックと競り合った諸星が吹っ飛ばされた。幸いにも尻を少し強く打ったぐらいでケガは無し。むしろびくともしなかったシャックを見ながら驚いているな。

 

 そんなこんながあって頭が冷えた二人がコートに戻り第3Qは進んでいくと、終わる頃には15点差がついていた。

 

「やっぱインサイドでの勝負は厳しいな」

「あぁ、第2Q同様に外を中心に組み立てるぞ」

 

 俺と牧の会話に第4Qのメンバーが頷く。

 

 そして始まった第4Q。第2Qでこちらの出方を見たからか、アメリカ代表メンバーはしっかりと対応してきた。

 

 魚住と同等サイズでありながら、仙道や牧にも劣らない運動能力すら持つフィジカルモンスター達。そんなアメリカ代表が相手だからこそ中々点差は縮まらない。

 

 それでも僅かずつではあるが点差を縮めていく。その要因は俺が絶好調でブロックされない限りほとんど3Pシュートを外さなかったからだ。

 

 そのせいか不意に俺にダブルチームがついた。おいおい、マジかよ……。

 

『親善試合だぜ?』

『それと同時にNBAや大学からのスカウトの目もあるからな』

 

 俺の問い掛けにフィンリーが肩を竦める。まぁ、いいさ。なら俺も存分に楽しませてもらうぜ。

 

 右45度の位置で牧からボールを貰った俺はボールハンドリングとジャブステップで牽制を入れる。そして隙を見付けると縦に抜く様に見せ掛けてバックステップ。そしてディープスリーを打った。

 

『凄いな。試合が終わったら少し教えてくれよ』

『いいぜ。時間があればだけどな』

 

 上手い奴は上手いと認める。例え敵チームだったとしても。だからこそNBAの歴史に名を残す様な選手になれるんだろうな。

 

 決めれば決め返され、決められたら決め返す。そんなシーソーゲームを打破したのは魚住だ。

 

 魚住は残り5分で第2Qの時と同じ様にシャックのダンクをファールで止めた。するとシャックはフリースローを2本共外し、返しの速攻で俺が3Pシュートを決める。

 

 それを2度繰り返すと集中力が切れたのかシャックのパフォーマンスが落ちた。……まぁ、シャックも今はまだ高校生だ。メンタルコントロールをするにも限度があるか。

 

 そこからは一気呵成に得点を稼ぎ逆転。そのまま試合は終了し俺達日本代表が勝利した。

 

 そして挨拶が終わり勝利を喜ぼうとしたその時、俺と魚住はスカウトの人に声を掛けられた。いや、よく見ると他の日本代表メンバーやアメリカ代表メンバーも声を掛けられてるな。

 

『やぁ、少しいいかい?』

『勿論さ。あぁ、こいつは英語が苦手だから俺が訳すけどいいかい?』

『あぁ、助かるよ』

 

 スカウトの人達の言葉を魚住に通訳していくが、魚住は高校バスケが終われば板前になると決めている。だから何度もスカウトの人達に詫びの言葉と共に頭を下げた。

 

『なんてもったいない!なんせウオズミはアメリカの高校バスケ界でも特に注目されているオニールと渡り合ったのだからね』

『そうかもしれないが、日本食のシェフ……板前になるのは彼の小さな頃からの夢なんだ。応援してあげてくれ』

『oh……とても残念だがそうしよう。ウオズミ、グッドラック』

 

『ところでミツイ、君はどうなんだい?』

『俺はアメリカの大学に行くつもりさ。そしてNBAを目指すよ』

『ほう……少し詳しく話してくれないかな?』

 

 アメリカ代表との親善試合は良い経験を積めただけでなく、より多くの実りを得られた実感があったのだった。




これで本日の投稿は終わりです。

また来週お会いしましょう。


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第129話『高校三年目の始まりと新入部員達』

SIDE:三井寿

 

 

 アメリカでの親善試合を終えてしばらく、俺は3年へと進級し新入部員入部の時期を迎えていた。

 

「なーっはっはっはっ!この男桜木!目指すは全国制覇のぉーみ!てめぇら、ついてきやがれ!」

 

 無事に受験に成功した桜木が入部。そしてその桜木と付き合っている赤木の妹の晴子もマネージャーとして入部している。他に注目すべき入部部員は俺の中学時代の後輩達と……。

 

「富ヶ丘中の流川楓……よろしく…っす」

 

 この流川だな。まぁ、ちっとコミュニケーション能力が低そうだが、桜木との差からそう感じる面もあるだろうしな。

 

 新入部員も加えて始まった練習。もともと練習に参加していた桜木は問題なくついてこれているが……他の連中は息が上がっちまっているな。

 

 ゲーム形式の練習が始まると流川が生き生きとしだす。……うん、1年として見りゃ技術はある。フィジカルも悪くねぇ。けどそれらを高校バスケで活かしきるだけのスタミナがねぇってところだな。

 

「リバウンドは俺が制す!」

 

 おぉ~、桜木も張り切ってるな。今じゃゴール下だけでなくミドルレンジでもシュートを決められるようになった桜木はPFとして戦力に数えられる。スタミナやリバウンダーとしての実力を考えりゃ、現状では流川以上にうちの戦力になるだろうな。

 

「……キャプテン、1on1、お願いします」

「あぁ、いいぜ」

 

 通常の練習が終わって居残り練習。そこで流川が1on1を頼んできたので受けるが……。

 

「……っ!?」

「ほらどうした?足が止まってるぜ?」

 

 スラッシャーとして見れば悪い選手じゃないが、ゲーム形式での練習を見た限りではこいつはとにかくパスを出さない。去年のインハイで見た沢北並みにな。

 

 チームを活かすってほどじゃなくても、周りを使うって程度には意識出来りゃいいんだが……まぁ、それはこいつ次第か。

 

 ドリブルとシュートの二択からパスも含めた三択じゃ比べものにならないぐらい変わってくる。オフェンスもディフェンスもな。それに気付けばパスが楽しくなる。こいつ気付けばいいんだが……。

 

「よしっ、今日はここまでだ」

「……うすっ……ありがとう、ございました……」

 

 息も絶え絶えな流川を尻目に1on1を振り返る。バックステップからの3Pシュートが良く決まったな。親善試合で感覚を掴んでから以前と比べて格段に決定率が上がっている。今じゃ俺のシグネチャームーヴと言っても過言じゃないぐらいに気に入っているムーブだ。

 

 スラッシャーの流川にリバウンダーの桜木……湘北に足りないピースが揃ったな。

 

「じゃ、帰るか」

「うんっ!帰ろ~♪」

 

 そう言って笑顔の美和と共に家路に着くのだった。




これで本日の投稿は終わりです。

また来週お会いしましょう。


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第130話『期待の1年2人』

SIDE:三井寿

 

 

「まだまだぁ!来いや流川ァ!」

「……ドアホ」

 

 居残り練習で桜木と流川が1on1をやってるんだが、練習後ということもあって流川がへばってきてるな。まぁ、春の県大会が近いのもあって練習に熱が入ってるし仕方ないか。

 

 対して桜木はまだまだ動ける余裕がある。というかあいつのスタミナは正直少し前まで中学生だとは思えないレベルだ。しかも運動能力なら全国でもトップレベルにある。後は技術と経験を積んでいけばより良いバスケット選手になるだろうな。

 

 流川の方は運動能力は良く技術もある。だがとにかくスタミナが足りない。持ち前の運動能力と技術もスタミナがなくなれば活かせなくなる。だがスタミナは一朝一夕で付くようなもんじゃないからな。じっくりと育成していくしかないか。

 

「っしゃあ!」

「ちっ」

「お~花道の勝ちだな」

 

 審判役兼見物をしていた宮城が桜木に勝利宣言を出す。5回やって1勝4敗と負け越しちゃいるが、バスケ経験1年でこのレベルまで来た桜木の成長力は本当に大したもんだぜ。

 

「よーし!次はミッチー!やろうぜ!」

「俺はやってもいいが、そろそろいい時間だろう?晴子を送っていってやれよ」

「ぬあっ!?すみません晴子さん!決して忘れていたわけでは!」

「ううん、見ていて楽しかったよ、花道君!」

 

 晴子に名前を呼ばれて感涙を流す桜木だが、付き合い始めてからずっとこの調子なんだよなぁ。いつ慣れるんだろうな?まぁ晴子は天然が入ってるところがあるから、こういった感受性豊かな桜木は相性がいいだろうが。

 

「キャプテン、お願いします」

「おう」

 

 桜木と晴子が一足早く帰ると、桜木の代わりとでも言わんばかりに流川が俺に1on1を挑んでくる。こうして流川が俺に1on1を挑んでくるのはほぼ毎回だ。

 

「それじゃ先攻はやるよ」

「……ウス」

 

 今度こそ勝つと闘志を漲らせた目をしてやがる。

 

「フッ!」

 

 目線でフェイクを掛けてきた流川がストレートに抜きにくるがそれを読んで防ぐ。ロールをしようとした流川にチェックを掛けて行かせない。

 

 一度下がると流川がもう一度アタックしてくる。今度はクロスオーバーだ。だがそのキレは牧や仙道には及ばないものだから十分に止められる。まぁ、1年として見ればしっかり武器になるレベルだが……。

 

 攻守交替で俺の攻め。ハンドリングとジャブステップで流川の反応を見ていく。この駆け引きをしていく中で最近意識する様になったことがある。それは……ミスディレクションだ。

 

 ミスディレクションと言うと本命のモノを隠す技術という風に考えがちだが俺の認識は違う。俺にとってミスディレクションは『見せたいモノを見せる技術』なんだ。そうすることで結果的に本命を隠せるって感じだな。まぁ、俺も最初は本命のモノを隠すための技術だと思ってたんだが。

 

 ジャブステップを利用した反発ステップで一歩目を踏み切る……様に見せてバックステップからの3Pシュート。決まって先制。

 

 今の攻防ではジャブステップに興味を持たせ注目させた。それで反発ステップに反応させてからバックステップ……って流れだ。

 

 このミスディレクションを意識する様になってから自分が駆け引きの中で無意識にミスディレクションをやっていたことに気付いた。というかフェイク全般がミスディレクションの一種なんだ。

 

 それに気付いてから俺のボールを持ってからの動き……というか意識が変わった。フェイクに引っ掛けるんじゃなく、フェイクを見せるという感じに変わったんだ。

 

 それがまた面白い。どうフェイクを相手に見せるのか。どう相手に見せれば相手は注目するのか。そんなことを考えるのが頗る面白い。まだまだバスケは奥が深いぜ。

 

 さて、そろそろ俺も終わりにするか。

 

「よ~し、それじゃそろそろ掃除を始めるぞ~」

「「「う~っす」」」

 

 居残り練習に参加していた1、2年が率先して掃除を始めるが、その中で流川は完全にへばって膝をついている。

 

「流川、ちゃんとクールダウンしろよ。ケガするぜ」

「……うっ……す……」

 

 こいつ自転車通学なんだがちゃんと帰れるのか?ちとしごき過ぎたかもなぁ。




これで本日の投稿は終わりです。

また来週お会いしましょう。


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幕間8『流川楓という男』

 流川楓にとって高校バスケはアメリカに行くまでの足掛けの様なものであった。故に陵南の田岡や海南の高頭にスカウトされていたのだが、彼は近いという理由で湘北高校を進学先へと選んでいた。

 

 だがこの選択は彼にとって幸運だった。入部初日、富ケ丘中の先輩である中原彩子に告げられたことがある。それは『湘北には高校バスケ日本一の選手がいるわよ』だ。そう、三井寿の存在である。

 

 彩子の言葉を半信半疑ながら流川は練習後の居残り練習で三井に1on1を申し込んだ。すると……。

 

(ありがてぇ……本物だ)

 

 手も足も出ずに負けた流川は落ち込むどころか歓喜した。彼に挑んでいけば確実に自分は成長出来ると確信したからだ。だが、そんな彼に待ったを掛ける様に現れた男がいる……桜木花道だ。

 

「流川ァ!勝負だ!」

 

 そう言って1on1を挑んできた赤毛の坊主頭はチグハグだった。運動能力は高い。ジャンプ力やスタミナ等の一部は自身を上回る。基礎もしっかり出来ている。だが駆け引き等の技術は素人よりはマシだが、中学バスケ等で鳴らした選手のレベルにはなかった。

 

(こんだけ動けるのに技術がねぇってのはどういうことだ?)

 

 少し考えた流川だが直ぐに止めた。そんなことをしている暇があれば早くこいつに勝って三井との勝負をした方がいいと思ったからだ。

 

 三井と違い桜木はドリブルで抜くことは出来る。だが抜いてもその持ち前の運動能力で幾度もゴールを阻まれた。

 

(……後ろから追いつかれるってぇのはあまり経験したことねぇな)

 

 技術的には見るべきところはない。だが運動能力に任せたその理不尽とも言えるジャンプの高さとブロックは中々に得難い経験かもしれないと感じた流川は、三井との1on1前のウォーミングアップにはちょうどいいと考える様になった。

 

 もっとも、無尽蔵とも言える桜木のスタミナに圧されて不覚を取ることもあり、更に疲れている時の対応等に苦慮することで動きから無駄が減っていくことで、流川自身気付かぬ内に思わぬ成長をしていくことになるのだが……。

 

 流川にとってバスケは人生そのものだ。バスケに関わることは努力するがそれ以外は蛇足。故に学校の授業ではアメリカに行った後に関わる英語の授業以外は寝て過ごしている。晴子との受験勉強で意欲的に勉強する様になった桜木や、彩子の指導により学校の授業についていける様になった宮城よりも、そういった面では余程問題児だと湘北高校の教師陣に認識されていた。だが流川は一切気にしていなかった。彼はバスケが出来れば、バスケが上手くなれればそれでいいからだ。

 

 だから流川は今日も机を枕に目を瞑る。放課後の部活に体力を注ぎ込むために。



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幕間9『桜木花道という男』

今回も三人称視点です。


「それじゃあね、花道君!」

「はい!また明日です晴子さん!」

 

晴子を家に送った花道はそれはもう緩んだ顔をしていたが、家路を歩く中で徐々に表情が引き締まっていった。

 

(流川の野郎のドリブルはみっちーみてぇにどっちに抜きにくるかわからないほどじゃねぇ。けどこっちが反応した後が上手ぇ)

 

 花道の脳裏に浮かぶのは今日の流川との1on1の光景だ。

 

(反応して身体を寄せるまではよかった。だが問題はロールされて中に行かれてからだ。なんとか追いついてゴールは防げたが、その前にみっちーみてぇに止めるのが一番いい)

 

 不意に公園が目に入った花道は寄り道をすると、荷物を置いてイメージの流川と対峙する。

 

(こうか?いや、こうか)

 

 バスケを始めてから1年。今ではしっかりと安西に基礎を叩きこまれた花道だが、バスケット選手としての経験値は少ない。練習試合はともかく公式戦は一度も出場経験が無いのだ。

 

 故に花道は迫る春の県大会を想像すると武者震いを起こす。既にバスケの楽しさにどっぷりと浸かった彼は、早く大会の日が来ないかと何度も思っている。

 

 一通り試して満足したのか公園を後にして家に帰りついた花道は、先に帰っていた父親に一言言うと汗を流す為に風呂に向かう。そして風呂から上がると父親を前に神妙な顔をして話し出した。

 

「親父」

「おう、どうした?」

「俺……湘北を卒業したらアメリカの大学に行きてぇ」

 

 少し前に晴子に招かれて赤木家に訪れた花道は、そこに美和と共にいた三井の話を聞いた。彼が湘北卒業後にアメリカの大学に行くことを。

 

 三井がアメリカの大学に行く目的……それはプロバスケットボールの最高峰であるNBAに入るためである。それを聞いた花道は全身に電流が走った様な衝撃を受けた。

 

 花道はバスケが好きだ。バスケを始めてから1年が経ちより好きになった。だが先の事までは考えていなかった。

 

 その日の帰り道に花道は将来を考えた。人生で一番真剣に考えた。そして出した答えは……自身もプロバスケット選手になるだった。

 

「……そうか。じゃあ行けばいい」

「あっ?いや、大丈夫なのかよ?」

「舐めるな。ガキの我儘の一つや二つ、叶えてやれる程度には稼いでる。だから行ってこい」

 

 花道は自然と頭を下げていた。グレて迷惑を掛けていた。そんな自分にここまでしてくれる父親に頭が上がらなかった。

 

「それはいいんだが……ところで花道、晴子ちゃんはどうすんだ?」

「おぉ!聞いてくれ親父!晴子さんも一緒に来てくれるって言ってくれてるんだ!」

「そうか!」

 

 既に両家の親の付き合いもある故に花道の父親の喜びようは凄いものだ。

 

 そして日は経ち春の県大会の日がやって来る。歯を磨きながら少し伸びた坊主頭を撫でた花道は、玄関を出ると意気揚々と集合場所へと向かうのだった。




これで本日の投稿は終わりです。

また来週お会いしましょう。


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第131話『桜木花道の公式戦デビュー』

side:三井寿

 

 

 春の県大会が始まった。うちはシードだから2回戦からだ。

 

 その2回戦、俺達3年と安田のスタメン組はベンチスタート。そして1年と2年の混合メンバーがスタメンだ。

 

 俺達3年はインターハイが終わったら全員引退する。それで今から新チームの事も考えて控えメンバーを積極的に起用していっているわけだな。

 

 試合が始まるとスタメンで出ている桜木が躍動する。開始直後のワンプレーは固さがあったが、その後は誰よりも足を動かしインサイドからミドルレンジで大暴れだ。

 

 そんな桜木に続くように宮城達も活躍をしていく。その中でも目立つのはやっぱり流川だな。1年離れした技術。得点への執念。将来が楽しみなやつだが、1試合を通してパフォーマンスを継続出来るスタミナはまだ無い。それでもスコアラーとしてはかなり優秀なやつだから、この調子が続いていけば海南や陵南との試合でも出番があるかもな。

 

 2回戦は俺達3年の出番はなく勝利。続く3回戦でも桜木の躍動が続く。バスケ経験1年程とは思えない運動能力はまだ未熟な攻防の技術を補ってあまりある価値がある。特にあいつのリバウンド能力は俺や木暮みたいなシューターにとっては心強い限りだ。

 

 

 

 

side:桜木花道

 

 

 初めての公式戦。始めはちょっとやっちまったが、後はいつも通りに動けたぜ。

 

「見ててくれましたか晴子さん!」

「うん!見てたよ花道君!かっこよかった!」

「そ、そうすかぁ?」

 

 晴子さんの称賛の声に照れる。

 

 晴子さんを送っての帰り道、頭に浮かぶのは今日の試合のことだ。

 

 練習試合とは全く違った。敵味方関係なくある緊張感。見に来てくれてた観客の熱狂。いいプレーを出来た時のどよめきや称賛の声。思い出すだけで直ぐにコートに立ちたくなる。

 

 帰り道、ふとストリートバスケのゴールがある場所が目に入ったんだが、そこには流川がいた。

 

「……よう」

「……てめぇか」

 

 今日の試合、こいつはすげぇ点を取ってた。けど1回もパスを出しやがらなかった。

 

 別に今日のパスを出さなかったのは悪いとは思わねぇ。こいつを止められるやつがいなかったからな。けどこれから先の試合はどうだ?仙道や牧が相手でもこいつはパスを出さねぇのか?もしそうなったら試合に負けるかもしれねぇ。そう思うとこいつのすかした顔がやけに腹が立つ。

 

「今のてめぇじゃ仙道や牧に勝てねぇ」

「うん?誰だそいつら」

「神奈川でみっちーの次にうめぇやつらだ」

「……そうかよ」

 

 ちっ、こいつのこの顔……余計なことを言っちまったか?まぁ流石にあいつらが相手なら安西のオヤジもこいつをベンチに引っ込めるだろ。

 

 さて、次の試合も出れっかな?

 

 その後、流川に背を向けた俺は試合での疲労を心地よく感じながら家に帰ったのだった。




これで本日の投稿は終わりです。

また来週お会いしましょう。


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第132話『赤木と木暮の元仲間とナンパ野郎』

side:三井寿

 

 

 春の県大会の準々決勝の日、今日は津久武高校との試合なんだが……。

 

「晴子さん!大丈夫ですか!?」

「うん、大丈夫だよ花道君」

 

 会場について準備をしている時に津久武高校の選手に晴子がナンパをされた。

 

「うちの南郷がすまない」

 

 そう言って件のナンパ男に頭を下げさせているのは津久武の主将の伍代。中学時代の赤木と木暮のチームメイトだった男だ。

 

「あぁ、まぁ気にすんな」

「重ね重ねすまない」

 

 そんな俺達のやり取りの間も桜木は晴子の事を心配しているが、伍代と南郷が離れていくと南郷の背中を睨んだ。

 

「おのれナンパ野郎……」

「桜木、あいつらとは今日の試合であたる。その鬱憤はプレーで晴らせ」

「……おう!」

 

 そんなちょっとしたトラブルがあったが試合は始まった。

 

 試合の序盤、伍代の3Pシュートが冴えわたる。

 

「伍代のやつ……3Pが上手くなったな」

「あぁ、あいつも頑張ってたんだな」

 

 赤木と木暮は元チームメイトだったこともあって伍代の活躍に感慨深いものがあるみたいだな。

 

 さて、今日は後半から俺達の出番の予定なんだが……桜木は因縁の南郷相手にどこまでやれるかな?

 

 

 

 

side:桜木花道

 

 

「だりゃ!」

 

 リバウンドを取りリョーちんにパスを出すとリョーちんは流川にパスを出す。すると流川はそのまま一人でボールを持っていってゴールを決めた。

 

「あの野郎……外でズマっち(※1)がフリーだったのに」

「そういうなよ花道。ゴールを決めている間はいいさ」

 

 息を吐き気持ちを切り替える。

 

(伍代とかいうやつの3Pはメガネ君並みに入る。だからこそ外れた時のリバウンドが大事だ。リバウンドは俺が制す!)

 

 伍代がまた3Pを打った。……っ!これは外れる!

 

 ゴール下でポジションを確保しようとすると晴子さんをナンパしやがったナンパ野郎が身体を寄せてきた。

 

「てめぇにだけはぜってぇ負けねぇ!」

「うるせぇ!どけ!」

 

 スクリーンアウトでポジション争いをする。だが、こいつはゴリやみっちーほど上手くねぇ。これなら…!

 

「リバウンドは俺が取ーる!」

「ちっ!」

 

 しっかりボールを確保して着地したら直ぐに顔を上げて周りを確認する。

 

「花道!」

「リョーちん!」

 

 リョーちんにパスを出すと今度はリョーちんは自分でゴール下に切り込んだ。

 

 リョーちんは牧ほどのパワーはねぇ。けど一歩目の速さならみっちー並みの速さだ。ちょっと反応が遅れたと思ったら抜かれる。1on1で何度もやられているからわかる。

 

 だからリョーちんはもっとドリブルで仕掛けてもいいと思うんだが、リョーちんは『パスでゲームメイクするのがPGの醍醐味さ』って言って、基本はパスを出してチームを動かすプレーをする。流川の野郎はリョーちんの爪の垢を煎じて飲めってんだ。

 

 ゴール下に切り込んだリョーちんが跳んでレイアップに行った。けど相手のCもブロックに跳んでいる。するとリョーちんは外でフリーだったズマっちにパスを出した。

 

「リョータ!ナイスパス!」

 

 そう言ってズマっちが打った3Pシュートは決まった。この流れる様なプレー。起点は俺のリバウンドから。そう思うと震える様な感動が来る。

 

 楽しい。バスケが楽しい。ずっとこのコートに立っていたい。ここまで何かに本気になれたのはバスケが初めてだ。

 

 だからこそ勝ちたい。勝ってもっと試合がしたい。

 

 そのためには走れ。足を動かせ。そう思い試合にのめり込んでいくと、あのナンパ野郎のことは全く気にならなくなっていったのだった。




※1:東の愛称

これで本日の投稿は終わりです。

また来週お会いしましょう。


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第133話『南郷のセンス』

side:三井寿

 

 

 前半も残り7分。点差は6点リードされている。伍代の3Pが効いているな。だが、流れはじわじわとこちらに来ている。その理由が……。

 

「ッシャア!」

 

 桜木が尽くリバウンドを取っているからだ。

 

 あいつがオフェンスとディフェンスの双方でリバウンドを取る。するとオフェンス時にはこちらはアグレッシブに攻められ、ディフェンス時には相手にプレッシャーが掛かる。

 

 それだけじゃない。桜木はディフェンス時には南郷とマッチアップしてるんだが、その南郷は向こうのエース格の選手。その南郷と互角以上に渡り合っているんだ。

 

 オフェンスはまだまだと言ったとこだが、ディフェンスに関しては十分に信頼出来るレベルになってきたな。

 

 さて、そんな桜木の活躍が目立つ中でも向こうの伍代の3Pシュートが光る。あれはセンスで打ってるんじゃねぇな。膨大な練習量の果てに身に付いた自信を持って打ってるんだ。

 

 桜木の攻守に渡る献身と流川の猛アタックで食らいついているが、向こうさんが伍代中心のオフェンスに切り替えたことでその差が中々詰まらない。

 

 宮城も東を使ってはいるんだが、下手に東を中心にして流川のモチベーションが下がるのは避けたいんだろうな。どうしてもオフェンスでの選択肢が流川への比重が多くなっちまってる。

 

 そこら辺はきっちり割り切って勝ちを目指す安田とバランスを考える宮城。どっちがいいかは好みだが、トーナメント制が中心の高校バスケじゃ安田の方が評価が高くなりやすいか……?

 

 

 

 

side:南郷

 

 

「ふんっ!」

「ちっ!」

 

 くそっ、また赤毛野郎にブロックされた!どうして後ろから追いつけるんだよ!?どんな瞬発力してやがる!

 

 それにさっきからうちが全くリバウンドを拾えてねぇ。こりゃちとまずいんじゃねぇか?今はキャプテンが3Pシュートを決めてるからいいが、外れ出したらあっという間に追いつかれるどころか逆転されるぞ。

 

「だりゃ!」

 

 またリバウンドを取られ……あん?

 

「リョーちん!」

 

 こいつ……ボールを持った後、必ずPGにパスしてねぇか?そういや試合開始からずっとそうじゃ……いくらセオリーだからってなぁ……狙ってみるか……。

 

 うちのオフェンス。キャプテンが3Pシュート打ったが外れた。うちのCと赤毛野郎がリバウンドを競る。俺は跳ばずにこいつの死角に隠れる。

 

 リバウンドを取った赤毛がルックアップしてPGを探す……ここだ!

 

「リョーち……あぁっ!?」

 

 パスをインターセプトした俺はそのまま跳んでダンクを叩きこむ。完璧に狙い通りで思わずにやけちまう。

 

「ボール、ごちそうさん」

「ぐぬぬ……!」

 

 確かにこの赤毛……基礎はしっかりしてるし、むかつくが俺よりも動ける。だが、よく見りゃまだまだ付け入る隙があるじゃねぇか。そして、俺ならこいつのその隙を狙える。

 

「さぁ、ディフェンス!一本しっかり!」

 

 キャプテンの檄に応じながら赤毛の目を見る。

 

(好き勝手やれるのもここまでだぜ。バスケはもっと深いってのを教えてやるよ)

 

 その後、しっかりと赤毛を出し抜いて点差を広げて前半を終えた俺達は、いい雰囲気でハーフタイムを過ごしたのだった。




これで本日の投稿は終わりです。

また来週お会いしましょう。


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第134話『リバウンドの価値』

side:三井寿

 

 

「後半は桜木君を除きメンバーを交代します」

 

 そう言うと安西先生は赤木、倉石、木暮、安田の俺を除いた四人の名を呼ぶ。

 

「桜木君、前半はいい動きでした。後半も君のリバウンドに期待していますよ」

「おう!任せろ安西の親父!」

「それと桜木君、オフェンスリバウンドを取ったら君自身でゴールを狙ってみましょうか」

 

 そんな安西先生の言葉に桜木は疑問の顔をする。

 

「……俺が?」

「えぇ、今の君ならゴール下以外からでも十分にゴールを期待出来ます。ジャンプシュートを狙うもよし、ダンクを狙うもよし。君も湘北の得点源の一人だと津久武高校の皆さん、いえ、会場の皆さんに教えてあげましょう」

「オッシャア!この桜木に任せろォ!」

「バカたれ、調子に乗り過ぎるなよ」

 

 赤木が釘を刺すが桜木のモチベーションは最高のままだ。

 

 今の桜木はミドルレンジからでも十分にゴールを期待出来る奴だ。だからもっと積極的に狙ってもいいんだが……普段の俺や流川との1on1ではミドルレンジでの勝負はほとんど完封されてしまっていた。

 

 そのせいだろう。桜木は今大会で何度もミドルレンジからのシュートチャンスがあってもシュートを打たなかった。安西先生がそれを指摘しなかったのは、桜木に試合経験と共に自信をつけさせてからでも遅くないと判断したんだろうな。

 

「後半も三井君を温存する形になりますが、後半8分過ぎても負けていたら三井君を投入します。交代する選手はその時により判断しますので、交代したくなかったら8分以内に逆転してください」

 

 ニコリと微笑ながらそう話す安西先生の言葉に後半に出るメンバーから気炎が上がる。

 

「いつでも交代するぜ」

「するかぁ!行くぞお前達!絶対に逆転だ!」

「「「オォッ!」」」

 

 赤木の檄に応えて5人がコートに入る。

 

「さて、あいつらは逆転出来ますかね?」

「ふふふ、私は期待していますよ」

 

 それじゃ高見の見物といくか。

 

 

 

 

side:田岡茂一

 

 

「湘北はまだ三井を温存か」

 

 三井を温存出来るのは桜木の存在が大きい。桜木のリバウンドが木暮や東といった湘北のシューター達の価値を高くする。僅か1年であれほどのリバウンダーに成長するとはな。口の利き方はなっていないが、それもあいつの愛嬌だと感じる程度には色気のある選手になってきた。仙道や福田同様に先が楽しみな選手だ。

 

「仙道、流川はどうだった?」

「1年にしちゃ動けてますね。けど、息が続かないみたいですよ。あれなら抑えるのはそう難しくないです。ね?池上さん」

「そうだな。あれなら前半だけで潰せる」

 

 1年として見れば末恐ろしいスコアラーだが、今の仙道や池上にしてみればそこそこの選手になってしまうか。

 

 三井に追いつけ追いこせ。この言葉をスローガンにしたかの様にここ数年で神奈川の高校バスケのレベルがどんどん上がっていっている。うちも含めた四強だけではない。中堅や弱小と呼ばれる様な高校もどんどん強くなっているのだ。それこそ今の3年生達が引退したら神奈川の高校バスケの勢力図が変わってもおかしくない程に。

 

 その新たな勢力図の中心になっているのはうちの仙道や福田ではなく桜木だろう。

 

 三井によりシューターの存在が重要となった。そしてシューターが重要となった今、今大会で見せている桜木のパフォーマンスによってリバウンダーの存在が注目されるようになるだろう。

 

「いたちごっこだな」

 

 スポーツの世界では常にいたちごっこが終わらない。流行と対策が常に巡り巡っているのだ。

 

 外が流行れば中が脚光を浴びる時が来る。その逆もしかり。だから指導者には休まる時がない。常に情報のアップデートをし続けなければならないのだ。

 

「……まぁ、だからこそ飽きないんだがな」

 

 コート内では津久武高校も奮闘しているが、それ以上に湘北に勢いがある。後半半ばまでに追いつくどころか逆転も十分に可能だろう。三井を温存している状態で。

 

「津久武高校……今後は注目していくべきところだな」




これで今年の投稿は終わりです。

また来年お会いしましょう。


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第135話『海南の新エース候補』

今年もよろしくお願いします。


side:三人称

 

 

 倉石が伍代を抑え、安田が木暮に積極的にボールを供給し、木暮が迷うことなく3Pシュートを打つ。そして攻守共に桜木と赤木がリバウンドを制することで湘北は安西が課した制限時間以内に逆転することに成功した。

 

 だが、その勢いのままに点差を突き放すことは出来なかった。それは……南郷の活躍があったからだ。

 

 7割強。これはこの試合に於ける桜木のリバウンド成功率である。つまりそれだけ桜木がボールに触れる機会があるということだ。

 

 その桜木がボールに触れる度に南郷が手を変え品を変えボールを奪取する。

 

 ある時はリバウンドの着地際。ある時はリバウンドから着地をして次のプレーに意識が向いた瞬間。ある時はリバウンドから着地をして次のプレーの開始際。といった具合に桜木を翻弄し、湘北の勢いを寸断し続けていった。

 

 この南郷のプレーに会場で見学をしていた仙道や牧は感心する。今年の1年ナンバーワン候補と見ていた桜木を翻弄するバスケセンス。彼等の中で南郷の評価が上昇していく。

 

「清田、流川ばかり見てると足元を掬われるぞ」

「……はい」

 

 清田信長。今年海南バスケ部に入った1年生である。彼は1年生ながら既に海南のユニフォームを手にしていた。そんな清田は日頃から牧に可愛がられメキメキと実力を伸ばしている。

 

 そんな清田が注目し対抗心を燃やしていたのが流川だった。

 

 流川は中学時代から地元では有名なスコアラーであった。故に清田はそんな流川をライバルだと目していたのだが、今回の湘北対津久武の試合でその思いはひっくり返された。

 

(流川は相変わらず……いや、中学ん時よりも動きのキレが増していた。けど……あいつよりもヤベェのがいるなんて……)

 

 そう思いながら向ける彼の視線の先には桜木と南郷がいた。

 

 同じ1年ながら既に高校生離れした身体能力を持つフィジカルモンスターの桜木。そしてそんな桜木を翻弄する抜群のバスケセンスを持つ南郷。清田は背中に冷たい汗が流れるのを感じた。

 

「牧さん、あの2人を抑えられますか?」

「その程度出来んようじゃ、三井のライバルを自称も出来ん。清田、この先にお前が海南のエースを名乗りたいなら、今のあいつら程度に動じないぐらいの実力をつけにゃならん。その覚悟はあるか?」

 

 牧が醸す迫力に思わず唾を飲む清田。だが次の瞬間に彼は……笑ってみせた。

 

「はっ、上等っすよ牧さん!この清田信長!海南を背負うエースに成ってみせますよ!」

「ふっ、期待してるぞ」

 

 意気揚々と宣言をして席に座り直す清田は驚く光景を目にした。なんと桜木がリバウンドに跳ぼうとした瞬間、南郷が審判に見えない様にユニフォームを引っ張り阻止したのだ。

 

「う、上手い!」

 

 思わず口に出てしまった言葉を抑える様に両手で口に蓋をする清田。そんな彼を牧は横目でジトっと見る。

 

「……期待してるぞ」

「う、うすっ!」

 

 その後、南郷の奮闘は続くが徐々に点差は開き決着。湘北が準決勝へと駒を進めた。

 

 準決勝第2試合の組み合わせは湘北と海南。清田は武者震いする身体を抑える様に拳を握り締めたのだった。




これで本日の投稿は終わりです。

また来週お会いしましょう。


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第136話『BIG JUN』

side:三井寿

 

 

 春の県大会の準決勝第1試合。翔陽と陵南の試合が行われているが、コート上では驚く光景が広がっている。その光景を作り出したのは誰か?

 

 藤真か?福田か?仙道か?いや……魚住だ。

 

「これは……すごいわね」

「あぁ、素直にすげぇよ」

 

 美和に肯定の言葉を返しながらもコートからは目を離さない。それだけ魚住が凄いんだ。

 

 元々あいつには素質があった。2mというバスケに限らずアスリートなら誰もが羨む様な恵まれた身体だ。そんな魚住を田岡監督は根気よく鍛えていった。

 

 そして魚住は環境にも恵まれた。兼田さんという手本とすべき存在がいたこと。赤木というライバルが存在したこと。2人に何度挫かれても俯かずに前を見続けた。

 

 そうやって成長をした魚住の最後の一押しになったのがアメリカとの親善試合だ。シャックと渡り合ったことで魚住の中で何かが弾け一気に急成長したんだ。

 

 翔陽のインサイドは盤石と言っていい陣容だ。190cmオーバーの選手が3人もいる。日本の高校バスケなら鉄壁と言えるだろう。

 

 だが魚住はそんな翔陽のインサイドの3人を1人で圧倒し、ゴール下を完全に支配している。

 

 全国制覇のための最大の障壁は海南か山王だと思ってたんだが……。

 

「どうやら陵南こそが最大の障壁みたいだな」

 

 

 

 

side:魚住純

 

 

(コートはこんなに狭かったか?)

 

 アメリカとの親善試合が終わってからやけにそう感じるようになった。これがいいことなのか悪いことなのかはわからんが、俺のやることは変わらない。

 

(負ける気がせん……何故だ?)

 

 油断しているのか自問するが確信は変わらない。

 

 花形を始めとした翔陽のインサイドの3人は誰もがいい選手だ。心からそう思う。

 

 だが、そんな3人を相手にしても欠片も負ける気がしない。俺はどうしてしまったんだろうか?

 

 まぁいい。今は置いておこう。俺は俺のやるべきことをやる。チームが勝つためにベストを尽くす。以前も、そしてこれからも俺のやることに変わりはないんだ。やれることもな。

 

「魚住さん!」

 

 植草からのパスを貰った俺はベビーフックに行く。花形がブロックに跳んだのを見てベビーフックからパスに変更。福田にボールを渡す。

 

 すると福田は派手にダンクを決めて吠えた。

 

「「「いいぞ!いいぞ!フ・ク・ダ!いいぞ!いいぞ!フ・ク・ダ!」」」

 

 ベンチや会場から上がる歓声に福田が震える。素直に称賛の声を喜べるこいつが羨ましく思う時もあるが……。

 

「魚住さん、次は俺にボールをくださいよ。福田よりも点を取りますから」

「なら、俺は仙道よりも点を取ります」

 

 切磋琢磨を続ける後輩達がなんとも頼もしい。どうやら引退後の心配はせずにすみそうだ。

 

「ボールが欲しければ足を動かせよ。サボったらやらん」

「サボったらボールより先に田岡監督にどやされますよ」

 

 後輩達のそんな反応にクスリと笑ってしまった俺は、頬を張って集中し直すのだった。




これで本日の投稿は終わりです。

また来週お会いしましょう。


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第137話『ルーキー達への試練』

side:三井寿

 

 

 春の県大会の準決勝第1試合は陵南が勝った。最たる理由は魚住の活躍だな。

 

 さて次は俺達湘北と海南の試合だが、安西先生はこの試合でちょっとした試しをするつもりのようだ。

 

「試合の序盤、牧君とのマッチアップは流川君にお願いします」

「っ!?」

 

 この言葉には流川だけでなく桜木も驚いている。他は……驚いてるのは1年だけか。2年や3年達はこういった安西先生の奇襲というかいたずらじみた作戦に慣れたってことか。

 

「おそらく海南も試合の序盤は同じことをしてきます」

「流川同様に1年を俺にぶつけてくると?」

「えぇ、陵南を除いた神奈川四強は現在の3年生の存在が非常に重い。故に来る新チームを見据えて世代交代の準備をしなければなりません。インターハイ予選で試すには非常にリスキーなので、ほぼ間違いなくここで試してくるでしょう」

 

 俺達選手は今を考えりゃいいが、安西先生のように指導者は明日も考えなけりゃいけねぇ。その思考の難しさ……世の指導者達を尊敬するぜ。

 

「流川君、君はペース配分の技術を身に付けました。今度は逆の技術を身に付けましょう」

「逆……ですか?」

「えぇ、瞬間的に力を爆発させる。限られた時間内にスタミナを使いきる。そういった類いの技術です。」

 

 安西先生の言葉を受けて流川は思考に入る。

 

「バスケに限らず一流のアスリートならば誰もが持っている技術です。競技によってはその技術が邪魔になることもありますが、使い分けることが出来れば今後の君にとって大きな武器になるでしょう」

「……よろしくお願いします」

 

 そう言って素直に頭を下げた流川の姿に桜木が驚く。まぁ、マイペースを地で行く奴だからな。桜木が驚くのも納得だ。

 

 だが流川はバスケで成長するためなら真摯になれる奴でもある。そこを理解すれば、桜木も少しは流川に歩み寄れるとは思うんだが……。いや、桜木と流川は今の競い合う形の方がいいかもな。

 

 

 

 

side:清田信長

 

 

「今日の試合序盤、三井のマッチアップは清田、お前だ」

「お、俺っすか!?」

 

 試合前のミーティングで高頭監督にそう言われた俺は驚く。三井さんには牧さんが対処すると思ってたからだ。

 

「清田、三井とのマッチアップがお前にとって荷が重いのは皆がわかっている」

「いや、まぁそうなんすけど、ハッキリと言われるとへこみますよ」

 

 理解して納得していることでも改めて言葉にされるとへこむこともある。そうわかった。……これからは俺も言うのは気をつけよう。

 

「先ずは5分だ。死ぬ気で食らいつけ。何度挑んでダメでも構わん。積極的に挑んだ結果なら許す」

 

 俺が三井さんにボロボロに負けることが前提ってのはわかってる。わかっちゃいるが……。

 

「勝ってもいいんすよね?」

「ふっ、その前向きなところがお前の長所だ」

 

 そう言った牧さんが俺の髪をワシワシと掻き回す。

 

「骨は拾ってやる」

「くっそぉ!意地でも一泡吹かせてやる!」

 

 決めた!この試合、意地でも皆に一泡吹かせてやる!絶対に吹かせてやる!

 

 両手で頬を張って気合いを入れた俺は、メラメラと闘志を燃やすのだった。




これで本日の投稿は終わりです。

先週は不意に投稿せずにすみませんでした。

また来週お会いしましょう。


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第138話『ルーキー達の挑戦』

side:清田信長

 

 

 湘北との試合が始まった。ジャンプボールは高砂さんが競り負けて湘北の攻めから。……この試合まで一度もジャンプボールを取られなかったからこの展開に少し驚いてるが、気を引き締め直して直ぐに三井さんのマークに。

 

「改めてよろしくっす」

「おう、よろしくな」

 

 軽く拳を合わせて挨拶。この人が高校バスケナンバーワンプレイヤー……やっぱ雰囲気あんなぁ。

 

 そう思ってたら向こうのPGの安田さんから三井さんにボールが回ってきた。へへ、早速マッチアップか。お手並み拝見と……って!?

 

「……マジかよ」

 

 ストレートに来ると思って反応したらその逆。クロスオーバーでぶち抜かれた。しかもアンクルブレイクのオマケ付きで。

 

 俺を抜いた三井さんがドフリーで悠々とジャンプシュートを決めて2点先制された。

 

「くそっ、牧さんから聞いてたのに……」

 

 牧さんから三井さんのクロスオーバーについては散々聞かされていた。だが聞くと見るでは大違い。止められる気が微塵もしなかった。

 

「けどよ、そう簡単に諦めてちゃ、海南のユニフォームは着てられねぇってな」

 

 立ち上がった俺は挑戦の意思を込めて三井さんに目を向ける。すると三井さんはニッと笑った。

 

(上等!何度でも、何回でも挑戦し続けてやる!時間が許す限り、あんたが根負けするまでな!)

 

 

 

 

side:三人称

 

 

 清田が不屈の闘志で三井に挑んでいく一方で牧とマッチアップしている流川は、まだ試合序盤であるにもかかわらず多くの汗を流していた。

 

 彼の持つプレイヤースキルが、幾多の激闘を経験してきた凄みがプレッシャーとなって流川を襲う。だが流川はこの状況を心の底から楽しんでいた。

 

(ありがてぇ。監督、感謝します)

 

 己の成長の為に一部とはいえ試合を使ってくれる。それが希少なことだと、これが貴重な機会なのだと流川はわかっていた。

 

 アメリカでは学生達が所属するスポーツクラブでは、所属メンバー全員を試合に出す義務がある。機会は均等に与えるというのがアメリカの教育方針だからだ。それ故にスポーツクラブに加入出来る人数が制限されていたりもするが、多くのスポーツを掛け持ちしたりするのが普通なアメリカならば然程大きな問題ではないだろう。

 

 一方で日本では国民性なのか競技を一つにすることが多い。もちろん多くの習い事をする少年少女もいるだろうが、大多数は何か一つの競技に集中した経験の方が多いだろう。

 

 閑話休題。

 

 流川はその貴重な機会を存分に活かそうとしていた。それは流川が湘北に入って変化したことでもある。

 

 とある日の居残り練習の時、ふと気紛れに流川は桜木に中学の時はどうしていたのか問い掛けたことがある。その時の桜木の返答にはとても驚いた。なんと桜木はまだバスケの経験が1年しかないと知ったからだ。

 

 そしてどの様な1年を過ごしたか聞いて更に驚いた。己の努力が如何に温かったかを嫌でも思い知らされたからだ。

 

(盗めるだけ盗む。限界まで成長する。それが最低限)

 

 どこか漠然とバスケを続けていれば何とかなる、アメリカでやれると思っていた流川の意識は変わった。好きや憧れや夢ではなく、NBAプレイヤーになることを明確な目標として定めたのだ。

 

(あぁ、試合が終わったら勉強もしなくちゃならねぇか。まだまだ足りねぇもんばっかだ)

 

 そう思った流川だがフッと笑う。日々の成長を実感出来る今が、目標に着実に近付きつつある今が楽しくて仕方ないのだ。

 

(まぁそれよりもとりあえず……試合に勝たねぇとな)

 

 そう気を引き締め直した流川は集中を高めていく。

 

 その後、流川と清田は共にマッチアップ相手に手も足も出ずに一方的にやられてベンチへと下がる。

 

 しかしベンチに下がった二人は俯くどころか両の目を爛々と輝かせながらコートをみつづけていたのだった。




これで本日の投稿は終わりです。

また来週お会いしましょう。


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第139話『野猿と赤毛猿』

side:三井寿

 

 

 前半5分が過ぎたところで流川と海南の1年の清田がベンチに下がった。代わりにうちは桜木が、海南は2年の神をコートに送り出す。

 

 更にうちは倉石の代わりに木暮をコートに入れることで、両チーム共にシューターが複数人コートにいる状況になった。

 

 そしてそういった状況で輝くのが桜木のリバウンドだ。

 

「ふんがっ!」

 

 3Pシュートを戦術に取り入れたチーム同士の試合。必然的に3Pシュートが多くなる。そのこぼれ球を桜木が尽く拾う。そうするとオフェンス機会が増えるうちが点数を重ねていき点差が広がる。

 

 そんな状況を打破しようと牧が自ら仕掛けてくることもあるが、それは俺が止める。前半が終わると24点差でうちがリードしていた。

 

「前半はとても素晴らしい出来でした。後半も油断せずこの勢いで攻め抜きましょう」

「「「はい!」」」

 

「桜木君」

「むっ?」

「後半、海南はおそらく清田君を君にぶつけてくるでしょう」

 

 安西先生がそう言うと桜木は首を傾げる。

 

「確か前半の最初にみっちーとマッチアップした奴か?」

「ええ。彼は君と同じくフィジカルに優れたタイプの選手です。もしかすると君のブロックの上からダンクを叩き込んでくるかもしれませんね」

「上等だ。ゴリ直伝のハエ叩きで返り討ちにしてやるぜ」

 

 そして始まった後半。早速といった感じに清田と桜木のマッチアップを見ることが出来たが、安西先生の危惧が当たり清田は桜木のブロックの上からダンクを叩き込んでみせた。

 

 いや、驚いた。前半でマッチアップした時はそもそもゴール下まで行かせなかったから見られてなかったんだが、こうして見ると清田のフィジカル……そのポテンシャルの高さに驚くぜ。

 

「面白いだろ?」

「あぁ」

 

 牧の問い掛けに素直に頷く。

 

「調子に乗りやすいのが玉に瑕だがな」

「それは桜木も同じだ」

 

 俺達は顔を見合わせると同時に肩を竦めたのだった。

 

 

 

 

side:桜木花道

 

 

「おのれ野猿……」

「ハッハッハッ、決めてやったぜ!……って誰が野猿だ!この赤毛猿!」

 

 安西の親父に注意されていたから警戒はしてた。けどこいつにはその上を行かれた。悔しさで拳を握り締める。

 

「次はぜってー止めてやる!」

「次もぜってー決めてやる!」

 

 そして巡ってきた次の機会。今度はきっちりブロックを決めて弾き返してやった。

 

「んなっはっはっはっ!どーだ!?」

「くっそー、この馬鹿力め……」

 

 確かにこいつは速いし高く跳べる。けどゴリとかと比べたらパワーはねぇし、みっちーや流川ほど上手くねぇ。止められる。

 

「もうてめーにはゴールを決めさせねぇ」

「いーや、何度でも決めてやる。そして試合も逆転だ!」

 

 その後、俺は何度も野猿とぶつかり合った。試合は俺達の勝ち。そして野猿との勝負は勝率7割ってとこだ。けど、それでも何度かしてやられた場面がある。もっともっと上手くならねぇとな。




これで本日の投稿は終わりです。

また来週お会いしましょう。


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第140話『3年目の春の県大会決勝』

side:三井寿

 

 

 春の県大会の決勝戦は俺達湘北と陵南の試合だ。この試合、俺はスタメンじゃない。準決勝の時同様に流川に経験を積ませる為に仙道とぶつけるというのが安西先生の考えだ。

 

 スタメンは赤木、安田、木暮、桜木、流川の5人。桜木をスタメンにしたのは……まぁ、今の魚住を赤木1人で相手するのは難しいからだろうな。

 

「スタメンはこのメンバーです。流川君、準決勝の時と同様に序盤は君に仙道君とマッチアップしてもらいます」

「はい」

 

 流川が燃えている感じだな。その様子にニコリと微笑んだ安西先生は次に赤木に目を向ける。

 

「赤木君」

「はい」

「桜木君と協力してゴール下で戦ってください」

「……はい」

 

 元々赤木と魚住の力関係は赤木の方が上だった。だが今では魚住の方がはっきりと上と言える程に差がついた。赤木も素直には頷けないだろう。

 

 だがそこで不満を飲み込むなり折り合いをつけるなり出来なけりゃ……赤木、この先きつくなるぜ?

 

 試合が始まった。ジャンプボールは魚住が制して陵南ボールから。陵南PGの植草から仙道にボールが渡ると、早速流川とのマッチアップが始まる。

 

 スッと目線でフェイクを掛けた仙道が仕掛ける。僅かに遅れたがそれでも流川は食らいつく。そんな流川を気にしないかのように仙道はボールをリングの方に放る。すると……。

 

 ガツンッと勢いよくリングが音を立てて福田のアリウープダンクが決まった。

 

 パスを出した仙道を睨みつける様に見る流川だが今のは仙道が正しい。試合開始直後だ。どんな強豪チームでも緊張やらなんやらでパフォーマンスを発揮しきるのは難しい。だからパスでチームを動かした仙道の選択はチームの勝利を目指す上では正しいんだ。

 

 まぁ流川は自分の経験を積む機会が減ったと感じて睨んだんだろうな。だがそれも経験なんだぜ?抜いた止めただけが勝負じゃないんだ。早くそれに気付いてほしいもんだが……。

 

 

 

 

side:桜木花道

 

 

(ぐぬぅ、アリウープを決められた……)

 

 福ちゃんの背中に目を向けると振り返った福ちゃんと目が合う。すると福ちゃんに『どうだ』と言わんばかりに指差された。

 

(やっぱオフェンスはうめぇ……というか得点力がすげぇな)

 

 福ちゃんのオフェンスは上手いというのとはちょっと違う。みっちーや仙道のオフェンスとは違ってとにかくガムシャラにゴールを狙ってくるんだ。それが上手いやつのそれとリズムが違って戸惑うことがある。みっちーが言うには慣れれば止められるって話だが……。

 

(それよりも流川とゴリだな)

 

 流川に仙道は止められねぇ。それはわかってる。けどゴリまでなんか怪しい雰囲気をしてやがる。今の福ちゃんのアリウープの前にチラッとゴール下の状況が目に入ったが、完全にボス猿にポジションを取られてた。

 

(安西の親父はゴリと協力しろって言ったが……)

 

 どうにもゴリの目には俺どころかボス猿以外の奴が映ってねぇように感じる。

 

(ぬぬ……どうすんだよ安西の親父?)

 

 まだ試合は始まったばかりってのはわかってる。けどよ、このまま行くのはやばいんじゃねぇか?

 

「桜木!今のは仕方ねぇ!それよりもリバウンドを頼むぞ!」

「おう!わかってるぜみっちー!」

 

 そうだな。あれこれ考えるよりも今は俺に出来ることをやらねぇとな。ボス猿、インサイドの攻防はともかくリバウンドならおめぇに負けねぇぞ。




これで本日の投稿は終わりです。

また来週お会いしましょう。


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第141話『意識過剰』

side:三井寿

 

 

 陵南との試合序盤、試合展開は半ば予想通り。その予想通りは流川に関してだ。仙道に振り回されて四苦八苦してるぜ。

 

 そして予想外のことは赤木と桜木のことだ。赤木は明らかに魚住を意識している。むしろ意識し過ぎている。周りが全くと言っていいほどに見えてねぇ。桜木に関してはいい方面に予想外だ。魚住を相手に半分はリバウンドを取れている。いや、この場合は赤木をほぼ完全に抑えながらリバウンドで桜木と五分に渡り合っている魚住が凄いというべきだな。

 

 そんな感じでコート上で両チームが鎬を削ってるんだが、徐々に陵南に点差を広げられていって前半も半分を過ぎようといていた。そろそろ選手交代をするなりタイムアウトを取るなりした方がいいと思うが……。と思っていたら安西先生は俺と倉石と角田にアップの指示を出した。

 

(角田を出すってことは赤木を下げるのか……)

 

 まぁ今の赤木は一度下げて頭を冷やした方がいいだろうな。そして倉石を入れることで桜木と角田の三人でインサイドを……ってとこか。それでも魚住の相手は厳しいと思う。本当にとんでもない選手に成長したもんだぜ。

 

 前半残り7分半、ここで安西先生は選手交代をした。木暮と流川は素直に下がってきたが、赤木は交代の指示が信じられないのか呆然として立ち尽くしていた。

 

「赤木!交代だ!」

「……おう」

 

 俯きながらコートの外に出た赤木が気になるが試合に出る以上はそっちに集中だ。さぁ、こっから逆転しねぇとな。

 

「待ってましたよ、三井さん」

「おう、待たせたな仙道」

 

 コートに入るとウキウキした様子の仙道が俺の近くに来る。

 

「さぁ、今日こそは一本。いや、二本でも三本でも取らせてもらいますよ」

「はは、そう簡単にはやらせねぇよ」

 

 とはいえ仙道も随分と上手くなってきてるからな。流石にもう完封なんてのは難しいだろう。だからといって簡単にはやらせねぇけどな。

 

 

 

 

side:仙道彰

 

 

 流川も1年にしちゃ悪くなかったが、やっぱり湘北とやるなら三井さんとマッチアップしないと面白くないよな。

 

 植草からパスをもらいマッチアップ。さて、先ずは小細工抜きで行ってみるか。

 

 フェイク無しにストレートに。抜けない。一度下がって仕切り直し。目線でフェイク。クロスに。これもダメ。レッグスルーでリズムを切りバックステップ。3Pシュート。危ねっ!?

 

 危うくブロックされるとこだったがなんとか3Pシュート成功。感覚的に3Pが入ったのは偶然だな。

 

「やられたぜ」

「ははっ、まぁ3Pが入ったのは偶然ですけどね」

「偶然でいいのさ。結果が出たんなら後はそれを必然になるように練習すりゃいい」

 

 ……うん、確かに。今の感覚を忘れないようにしとくか。後で彦一にチェックノートを見せてもらうか。

 

「さて、お返しをしねぇとな」

 

 そう言った三井さんの圧力が増した。……緊張と興奮で笑えてくる。

 

「やらせませんよ」

「おう、止めてみろ」

 

 魚住さんすみません。三井さんは全力でなんとかしますんでゴール下は任せました。福田も得点頼むぜ。こっちは余裕が無くなりそうなんでな。




これで本日の投稿は終わりです。

また来週お会いしましょう。


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第142話『悔しさは成長の糧』

side:三人称

 

 

 ベンチに下がった赤木は項垂れていた。完全に自信を喪失しているのだ。

 

 2年前、赤木と魚住は確実に赤木が格上の選手だった。1年前、ほぼ互角といってよかったがそれでも選手としてはまだ赤木の方が上だった。

 

 そして今現在、確実に魚住の方が選手として格上となっていた。

 

 どうしてこうなった?俺には何が足りない?何故あいつを抑えられない?……何故?……何故?

 

「赤木君、顔を上げなさい」

 

 項垂れていた赤木に安西が声を掛ける。だがその声色は常の柔らかなものの中に強さがあった。拒絶は許さないと言わんばかりの強さが。

 

 それに引き上げられたのか赤木は顔を上げた。顔色を失っていた赤木の目にコートに目を向けたままの安西の横顔が映る。

 

「今の君がするべきことは何ですか?後悔?反省?そんなものは試合が終わってからで構いません。今の君がすべきことは、今目の前で行われている試合から少しでも何かを学びとること。そしてチームメイトが勝つことを信じて応援すること……違いますか?」

「は……はい」

 

 温和な筈の安西から感じられる圧力。思考は後ろ向きなままであったが、それでも赤木は顔を上げてコートに目を向けることが出来た。

 

 そんな赤木の様子に安西は眼鏡の奥で視線を緩め微笑む。

 

(先ずはそれでいいでしょう。心折れてどん底に落ちた君は後は這い上がるだけです。もっとも、這い上がれるかどうかは君次第。期待していますよ)

 

 そう内心思う安西だが、安西は赤木が高校バスケ現役中に復活することが無いかもしれないとも考えていた。

 

(赤木君、君はここまでハッキリとした挫折は初めてかもしれません。兼田君の時は相手が年上、河田君の時は全国という大舞台でのことと言い訳が出来る状況でしたからね。ですが今回は何も言い訳が出来ません。けれど赤木君、君は見たはずです。怪我に負けずに這い上がってきた三井君の姿を)

 

 赤木と三井の状況は違う。だが諦めずに挑戦を続けた三井の姿は同級生のみならず上級生や下級生の心を奮わせた。もちろん安西の心もだ。だから安西は信じる。赤木が這い上がってくることを……。

 

 場面は変わりコート上、赤木の代わりにゴール下に入った角田は歯を食いしばって魚住に喰いついていた。

 

「ぐっ!?桜木頼む!」

「おう!」

 

 角田では今の魚住を抑えることは不可能に近い。だが一歩プレーを遅らせることは、ディレイを掛けることぐらいは出来る。その遅れがあれば桜木はベストポジションを確保してリバウンドに跳ぶことが出来る。

 

 だが魚住はそれだけでは止まらなかった。キャッチは出来ない。桜木に取られる。そう瞬時に判断した魚住は身長とウイングスパンというアドバンテージを最大限に活かし、目一杯伸ばした手の指先でボールを弾いた。しかもただ弾いただけでなくカバーに来ていた池上のいる方へ弾いたのだ。

 

「ふがっ!?」

「嘘だろっ!?」

 

 空中で手が空振った桜木、そして魚住のファインプレーを目の前で見せられた角田は思わず声を上げてしまう。

 

 ボールを確保した池上が素早くボールを前線へ送ると、ボールを受け取った福田がそのまま速攻を仕掛け跳躍したが、先程の魚住のファインプレーのお返しとばかりに追いついた三井が右後方から腕を伸ばしブロックを決めた。

 

 三井のブロックにより転がるボールを倉石と仙道が同時に取ると笛が鳴り試合が止まる(※1)。すると会場から割れんばかりの歓声が上がった。

 

 それらの一連の流れを見た赤木は涙を流した。

 

(何故俺はコート上にいない?そんなの簡単だ。くだらない意地を張って魚住に挑み、負けて、桜木と協力を……チームプレーをしなかったからだ)

 

 項垂れ首に掛けていたタオルで顔を覆う赤木。

 

(何故俺は魚住を認められなかったんだ。いつから俺はこんなに傲慢になった?兼田さんを超えようと……挑戦をしていた頃の俺はどこにいった?)

 

 タオルで口を覆う。幸いにも歓声が彼の嗚咽を隠してくれた。しかし安西は赤木の悔し涙に気付いていた。

 

(涙を流すほどに悔しい……それでいいんです赤木君。その涙は己を誤魔化すよりもよほど成長に繋がる。這い上がろうとする君に今日の涙が糧になることを願いますよ)




※1:拙作ではオルタネイティング・ポゼション・ルールはまだ採用されておらずジャンプボールで再開とさせていただきます。どうぞご了承ください。

これで本日の投稿は終わりです。

また来週お会いしましょう。


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第143話『田岡の確信』

side:三井寿

 

 

 陵南にリードされた状態で前半が終わった。魚住がゴール下を制している影響がかなり大きいな。

 

「宮城君、準備は出来てますか?」

「はいっ!」

 

 どうやら安西先生は後半頭から安田と代えて宮城を出すようだ。安田との組み立てのギャップで流れを掴むのを期待ってところか。

 

 そこまで考えたところでチラリと赤木を見る。

 

 落ち着いている様には見えるが気が入ってないのが目に見えてわかる。まぁ、そう簡単に気持ちの立て直しは出来ねぇか。これが漫画やアニメなら赤木の覚醒の場面って感じなんだろうが、現実はそう簡単じゃねぇからな。ましてや多感な時期の学生なんだ。落ち着いてる様に見えているだけでも上出来だろう。

 

 安田と宮城を交代して始まった後半、立ち上がりは宮城の速い組み立てによる前半とのギャップで立て続けに得点を出来たが、田岡監督が早々とタイムアウトを取ったことで最小限の傷で立て直された。

 

 タイムアウト後、宮城にボールを要求して3Pを決める。2回、3回と連続で決めたことで一気に点差を縮めたが、陵南は織り込み済みだとでもいうかの如く慌てない。堅実に2点プレイで得点を重ねてくる。

 

 そして刻々と時間が過ぎていき試合終了。最後の最後、あと4点を逆転出来ずに負けた。陵南の優勝だ。

 

 負けたのは悔しいが悪くない収穫もあった。桜木が緊張感のある公式戦……その決勝戦を経験出来たこと。後は赤木が魚住との差を自覚したことだ。

 

 桜木の方は完全にチームにプラス。赤木の方は……プラスになってくれることを信じるしかねぇな。

 

 

 

 

side:田岡茂一

 

 

(やっと勝てたか)

 

 魚住がうちに来てから構想していたチームの完成形……いや、その完成形を超えたチームが出来上がった。そしてそのチームで県大会とはいえ優勝という結果を出すことが出来た。これはインターハイ予選に向けて大きな弾みになるだろう。

 

(随分と頼もしくなったもんだ)

 

 魚住の成長を信じていた。信じて、応えてくれて、俺の想像以上に成長してくれた。俺の知る限りだが高校バスケ史上最強のCになったと確信している。

 

 もちろん成長したのは魚住だけじゃない。池上も、仙道も、福田も、植草も陵南に欠かせない戦力になった。このチームを率いて全国に行けないようなら、それは確実に俺のせいだ。そう断言出来る。

 

「さぁ、帰ったらミーティングだ。優勝したとはいえ反省すべき点はあるからな」

「「「はいっ!」」」

 

 皆に油断はない。そうだ、それでいい。湘北は試合の序盤で流川を使うなどをしてきた。それに赤木の途中交代。彼が復調していたら結果が変わっていてもおかしくはない。それほどに湘北との試合では重要なキーマンになり得る選手だからな。

 

 湘北のエースは三井だ。三井は全国最高の3Pシューター。だがその三井でも全ての3Pシュートを決めることは出来ない。故にゴール下での攻防が非常に重要になる。

 

 もちろん赤木1人なら今の魚住には勝てん。それは今日の試合で確信した。だが桜木とのコンビなら魚住と言えど苦戦は必至だ。それを今日の試合で見ることになるかと思ったのだが……。

 

(予想以上に赤木が脆かった。いや、私の予想以上に魚住が強くなっていたんだ)

 

 赤木が交代した後、角田と桜木のコンビで魚住と競い合ったが、その2人を相手に魚住は十分以上のパフォーマンスを発揮した。試合中だというのに思わず顔が緩んでしまった。

 

(まったく……ミーティングの時には顔が緩まぬ様に気を付けねばな)




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また来週お会いしましょう。


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第144話『挫折』

side:三井寿

 

 

 春の県大会は湘北が準優勝、陵南が優勝という結果で終わった。MVPは魚住。あのゴール下では誰も寄せ付けない圧巻のパフォーマンスを見せられたら納得だな。

 

 ベスト5はPGに藤真、Fに仙道、PFに桜木、SGに俺、Cに魚住が選出された。

 

 PGに藤真が選出されたのは牧との出場試合数の差だろうな。牧はアメリカ行きもあって夏のインターハイで終わりだ。だから高頭監督は格下との試合で新しいチームの形を何度も試していた。

 

 まぁ……牧程のPGはそうそういねぇから苦労してるみたいだが……。

 

 それとPFで桜木が選出されたのはリバウンド数が大きな理由だろう。決勝では魚住の方がリバウンドを取っていたが、大会通じての総数では桜木の方が上だからな。あれだけ跳べる選手はそうはいない。先が楽しみな奴だぜ。

 

 さて、春の県大会が終わりインターハイに向け……といきたいとこなんだが、今の湘北は1つ問題を抱えている。それは……赤木の不調だ。

 

「フンガッ!」

「くっ!」

 

 春の県大会以降、居残り練習でよく見る光景だ。桜木とのリバウンド勝負でいいところがほとんど見れなくなっている。今のリバウンドも赤木が取れてもおかしくない状況だったが……。

 

(……完全に自信を喪失しちまってるな)

 

 自信がないせいでアクションがワンテンポ遅れる。そのせいでプレー全般のパフォーマンスが落ちている。そしてネガティブな思考に陥る。完全に悪循環だ。

 

「赤木にとっては人生で初めての挫折なんだろうな」

 

 そう言った木暮が中学時代の赤木を語る。

 

 相手チームはでかい赤木を抑えるのにダブルチームをよくしてくる。そしてチームが負ける。中学時代の赤木と木暮はずっとそんな展開の試合を繰り返していたそうだ。

 

「湘北に入っても、県内だと赤木よりも大きな選手は魚住ぐらいだった。その魚住にも赤木は勝ってた。兼田さんには負けたけど兼田さんは3年生だったしプレイスタイルも違ったから、赤木にとっては負けたショックよりも先に素直に尊敬出来たんだろうな」

「河田はどうなんだ?」

「河田がいる山王は全国王者だろ?だから負けてもどこかで納得しちゃってたんじゃないかな」

「……なるほどな」

 

 今の赤木に下手に口出しをすれば逆効果の可能性もある。どうしたもんか……。

 

「キャプテン、いいっすか?」

「お?いいぜ。お~い、3on3やるやついるかぁ?」

 

 流川の誘いに乗り適当にメンバーを集める。

 

「そんじゃ最初のセットはドリブル禁止だ」

 

 赤木が不調という状況だがその代わりというべきか流川が成長をしている。仙道に軽くあしらわれたのがよほど堪えたのか、春の県大会の後に俺にアドバイスを求めてきた。だが、俺はアドバイスをしていない。代わりに縛りを設けた3on3を流川にやらせる様にしている。

 

 縛りは主にドリブル禁止、ドリブル後のシュート禁止の二つ。この縛りのどちらかを導入して3on3をする。もちろん縛り無しの3on3もやる。

 

 これは流川が自分でパスという選択肢が増えることの意味に気付けばいいと思いやらせている。誰かに言われるよりも自分で気付く方がより成長に繋がるからな。

 

 チラリと赤木に目を向けるとそのでかい図体が小さく見える。

 

(……赤木にばかり気を向けているわけにもいかねぇか)

 

 さて、とりあえず赤木の事は置いておいてこっちに集中するか。




これで本日の投稿は終わりです。

また来週お会いしましょう。


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第145話『陵南の新世代』

今話のエセ関西弁……どうかご容赦を。


side:相田彦一

 

 

 わいが陵南に入ってから最初の大会、春の県大会は最高の結果で終わった。そんで少し経った今日は恒例やっちゅう湘北との練習試合の日や。

 

「安西先生、今年もよろしくお願いします」

「えぇ、こちらこそ」

 

 普段の練習じゃ鬼か思うほど厳しい田岡監督やけど、今日はなんや大人しい感じやな。せやけどそれも挨拶してる今だけやろ。練習試合が始まればいつも通りやろなぁ。

 

「今日は2試合行う。1試合目は3年生抜きだ」

 

 監督が言うには夏以降の新チームの運用を想定したらしいわ。せやけどうちは魚住さん達3年生の他にも仙道さん、福田さん、植草さんのスタメンも見学とのこと。2試合目に出した方がいい経験が積めるっちゅうことやな。

 

「さぁ、要チェックや!」

 

 1試合目が始まった。湘北との試合はいつも以上に要チェックやで。なんせわいが心の中で師匠と呼んでる人が2人もおるんやからな。

 

 1人は湘北の正PGの安田さん、そしてもう1人が今試合に出てる同じくPGの宮城さんや。

 

 わいは背が低い。これはハッキリ言ってバスケじゃ不利な要素や。けど師匠の御二人はその不利をものともせずに活躍してはる。もうわいには全てのプレーが参考になってメモを書く手が止まらんわ。

 

「おっ?」

 

 パスで捌かずに自らドリブルで仕掛けた宮城さん。その宮城さんは中まで切り込むとハンドフェイクでうちのCを空ジャンプさせたわ。

 

(今のフェイクはどこに引っ掛かる要素があったんや?)

 

 目に焼き付けた宮城さんの動きをノートに箇条書きにしていく。

 

(……キモはボールハンドリングやろか?それともジャンプフェイク?わからん。後で誰かに協力してもらって確かめなな)

 

 ノートに『要確認』と追記して目と思考をコート上に戻す。

 

(おっ?今度は流川君を使うんか。……うん、流川君は凄いには凄いけど、わいの参考にはならんわな)

 

 身長、運動能力、技術、どれをとっても全く参考にならへん。わいに無いモノだらけやからなぁ

 

(……それにしても湘北はメンバーが揃っとるなぁ。スコアラーの流川君、控えながら正PG以上の運動能力を持った宮城さん、湘北名物の飛び道具を受け継いだシューターの東さんと、夏以降も十分に戦えるだけの戦力がおるわぁ)

 

 もちろんうちも仙道さんや福田さんといった全国レベルの選手がおるから決して負けてへん。負けてへんけど、魚住さんの存在が大きすぎるんよ。

 

(監督の夏以降の新チームプランはラン&ガン。仙道さんと福田さんの2人のスコアラーを中心にした点の取り合いを考えてるみたいやけど、2人の負担が大きいのがネックなんよなぁ)

 

 まぁ三井さん達3年生4人がスタメンで、その4人が抜ける湘北に比べればうちはまだマシなんやろなぁ……マシなんやろか?

 

(おっと、そろそろアップを始めんとあかんわ)

 

 今日の練習試合、嬉しいことにわいの出番もあるんや。まぁ1試合目の後半だけなんやけどな。

 

(とはいえ使ってもらえるのはありがたいことや……)

 

 正直に言ってわいの運動能力は大したもんやない。というか高校バスケのレベルやと後半だけでも走りきれるかわからへん。もっともっと練習せな、練習試合ですら使ってもらえんくなるかもしれんわ。

 

(後半にチームを組むメンバーのデータは頭に入っとる。後は騙し騙しやって湘北メンバーのデータを集めて対応するしかあらへんな。スタミナ切れで頭が回らんくならんとええんやけど……)

 

 公式戦やないけどわいにとっては立派な高校バスケデビューや。気張ってくでぇ。




これで本日の投稿は終わりです。

また来週お会いしましょう。


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第146話『残る必要な1ピース』

side:三井寿

 

 

 陵南との練習試合の1試合目が終わった。結果はうちが勝って収穫もあったが、より多くの収穫を得たのは陵南かもしれねぇな。

 

 その陵南の収穫の中でも光ってたのが1年の相田彦一……だったか?確かそんな名前だ。あいつは安田と同じ駆け引きで勝負するタイプなんだが安田の様な勝負勘等の感覚タイプじゃなく、おそらくはデータを重視して確率で勝負する今の時代(※1)では珍しいタイプだ。

 

 安田の様な感覚タイプは個人のセンスやその日の調子に左右されやすいが嵌った時には試合の流れを一気に引き寄せることが出来たりする。

 

 対して相田の様なデータ重視タイプは安定性は高いが意外性に欠けやすい。だがそれとは別にデータ重視タイプには大きなメリットがある。それは……プレーの一つ一つに根拠があるので修正がしやすいことだ。

 

 例えばパスを出したとする。そのパスの理由はと安田が問われた場合、安田は何となくや流れでといった感じに曖昧な答えが返ってくることが多いだろう。

 

 対して相田はその日のプレーの成功率等を根拠として提示することが出来る。だからこそ一つ一つのプレーの安定感が高いし、一つ一つのプレーの修正が早くなる。

 

 とはいえ今の相田は高校バスケでやるには色々と足りないものが多い。だが将来の期待性という点では陵南の1年の中で一番だろうな。

 

 さて、1試合目後のミーティングを終えて2試合目だ。2試合目は両チームともにベストメンバーでの試合だ。うちはCに赤木、PF桜木、PG安田、SG木暮、SF俺だ。倉石は木暮か桜木との交代要員としてしっかりと身体を温めている。

 

 陵南はCに魚住、F仙道、PF福田、G池上、PG植草の見慣れたメンバー。見慣れているからこそチームとしての連携力は高い。先の春の県大会の借りを返しておきたいとこでもあるし、始めから飛ばしていきたいところだな。

 

 ジャンプボールは魚住が制して陵南ボールから試合開始。……今の赤木の状態を考えるとジャンプボールは桜木に任せてもよかったかもな。まぁ始まっちまった以上は仕方ねぇ。切り換えて集中だ。

 

 植草から仙道にボールが回る。マッチアップしてる俺に仙道は仕掛けてこずじっくりと時間を使う。……春の県大会で優勝したからか、仙道だけじゃなく陵南の連中全員にどこか貫禄がありやがるな。

 

「一本、止めるぞ!」

「「「おう!」」」

 

 俺の発破に安田、木暮、桜木の声が聞こえたが赤木の声は聞こえなかった。そこまでの余裕が無い……か?

 

 仙道は仕掛けてこずに植草にボールを戻す。ボールを持った植草は直ぐに中にパスを出す。ボールは福田へ。

 

 ボールを持った福田がゴールを狙うが桜木が張り付いて前を向かせない。するとヘルプに来た池上に福田がボールを渡し更にボールは魚住へ。

 

 そしてボールを持った魚住が間髪いれずにベビーフックを決める。赤木もブロックに跳んだが余裕をもって決められた。

 

 ……連携がスムーズだ。流れるように。セットプレーじゃなかったろうにセットプレーの様に滑らかだった。

 

「うちは強いでしょ、三井さん?」

「あぁ、強いな」

 

 だからこそやりがいがある。そう感じているのは俺だけじゃないぜ?

 

 木暮も、安田も、桜木もそう感じている。もちろん今はコートの外にいる倉石もだ。残るは赤木だけだが……。

 

 チラリと目を向けると試合開始直後だが何度も深呼吸をしている赤木がいる。

 

 視野狭窄に陥っちゃいねぇみてぇだが……魚住の醸すプレッシャーで上手く動けない。あるいは嫌なイメージが浮かんで萎縮しちまってるって感じか。

 

 ……頼むぜ赤木。うちのゴール下にはお前が必要なんだ。早く復活してくれよ。




※1:拙作中の時代は1990年頃でござる。

これで本日の投稿は終わりです。

また来週お会いしましょう。


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第147話『ライバルからの喝入れ』

side:三井寿

 

 

 前半も残り少しだが点数は陵南にリードされている。理由は春の県大会の時同様にゴール下を魚住に掌握されているからだな。それと木暮が少し3Pを打つのを控え気味だ。打っていないわけじゃないがシュートセレクションをかなりこだわる様にしている。もし外せば高い確率で魚住にリバウンドを取られちまうからな。

 

 俺は打ってリズムを作るタイプだから入ろうが外れようが気にせず打つが、俺とマッチアップしている仙道が3Pに関してはかなり注意を向けている。ドリブルで抜かれるのは割り切っている感じだな。だからといって俺のドリブルに対するディフェンスを捨てているわけじゃない。しっかりと全力でやってきているが、抜かれても反省だけして直ぐに切り替えているんだ。この精神的な強さ、しぶとさは魚住譲り……というか陵南の伝統の様なものになってきているな。福田や池上とか他の選手達も気持ちの切り替えが頗る上手い。田岡監督の指導のおかげか?

 

 さて、このままだと春の県大会のこともあって嫌なイメージをインターハイ予選に引きずりかねない。ちょっと仕掛けてみるか。

 

 安田にボールを要求した俺はボールを持つと直ぐにドリブルで仕掛ける。中に切り込むと赤木にパス。だがボールを持った赤木はシュートを打つのに躊躇した。

 

「打て赤木!」

「っ!?……くっ!」

 

 俺の声に押されてシュートを打とうとした赤木だが前半終了の笛が鳴り結局シュートを打てなかった。

 

(もう少し時間に余裕を持たせた方がよかったか?)

 

 魚住を相手にシュートを決めさせて前半を終わり良いイメージを持たせようと思ったんだが、赤木の状態は予想以上に重症なのかもしれねぇな。さて、どうしたもんか……。

 

 そう思っていた時、不意に魚住がこちらのベンチに向かって歩いてきた。

 

「なんだ?なんかあったのか?魚住」

「あぁ、ちょっと失礼する」

 

 そう言うと魚住は……。

 

『バヂィィィンン!』

 

 ベンチに座って俯いていた赤木の背中を、身体が浮いて前につんのめる程に平手で思い切り張り飛ばした。

 

「うぐっ!?……何をする!?」

「そのでかい身体は何のためにある?」

 

 自身を張り飛ばした魚住の方に振り返った赤木が抗議の声を上げるが、その抗議など気にもかけず魚住は逆に問い掛けた。

 

「なに?」

「そのでかい身体は何のためにあると聞いているんだ」

 

 赤木から答えが返ってこないと魚住は言葉を続ける。

 

「俺達には桜木や牧の様な運動能力は無い」

「三井や仙道の様なバスケセンスも無い」

 

「それでも俺達がコートにいられるのは何故だ?」

「チームのためにゴール下で身体を張るからだ。そのためのでかい身体だ。違うか?」

 

 言葉を失ったまま赤木は魚住を見続ける。

 

「失礼しました安西先生」

「いえ、ありがとうございます」

 

 ペコリと頭を下げた魚住は陵南ベンチに戻っていく。その背を呆然と見ていた赤木だが、不意に体育館に響き渡るほどの大きな音を出して己の頬を張った。

 

「魚住っ!」

 

 名を呼ばれて立ち止まった魚住に赤木が言葉を続ける。

 

「礼は言わん」

「あぁ、プレーで示せ」

 

 やれやれ、どうやって赤木を立ち直らせるか頭を悩ませてたがライバルである魚住自ら立ち直らせるとはな。甘いというべきか熱いというべきか悩むところだな。

 

 だが、嫌いじゃない。こういうのはな。

 

「赤木、もう大丈夫だな?」

「あぁ、ゴール下で勝てるとは言えんが、今の俺に出来る全力は尽くす。桜木、連携の確認をするぞ」

「おうっ!待ちくたびれたぜゴリ!」

 

 その後、練習試合は陵南の勝利で終わったが、この試合で湘北は最高の収穫を得た。赤木の復活だ。

 

 けどそれで勝って全国に行けると言い切れるほど甘くないのが今の神奈川の高校バスケだ。だが、だから面白い。そんな神奈川で勝って全国に行く。そして……全国制覇だ!




これで本日の投稿は終わりです。

また来週お会いしましょう。


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