PSYCHO-PASS Shepherd of the Sun (キラトマト)
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What Corer編
#01 謎の世界


 それは、僕らが渚輪区を脱出した後のことだった。僕らは船に乗って、本州をめざしているのだが、一昼夜たっても着かないからか、姫片は苛立ちが積もって、梨花に催促する。

 

「おい梨花、まだつかねぇのか?」

 

「すみません姫片さん。ナビ通りに動いてるんですが……」

 

 なんだって? 二日間ぐらい動かしてんのにまだ着かないのか? 

 

「まぁ梨花、ちょっと地図、見せてくれないか?」

 

 僕は梨花に少し地図を見せてもらうが、この距離ならもう本州は見えてきているはず。そう思わずにはいられない距離であった。

 

「なにも間違いはない、か」

 

 すると、突然波が激しくなり、船ごと揺れる。

 

「なんだよこんなときに?! 嵐か?!」

 

「……サン、あれ」

 

 ひさぎが指さした方向には、少し黒がかった大きい人型の影が見える。

 

「ちょっとサン、あれ近付いてきてない?」

 

「あぁ、見間違えじゃない、確かにこちらに向かって近付いてきている……!」

 

「リカッチ! なんとか避けられない!?」

 

 アドは梨花に回避命令を下すが時すでに遅し。黒い影が僕らの船を覆い尽くす。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん……あぁ、ここは……どこだ?」

 

 僕が目を覚ましたのは、病院のような真っ白なベッドに、隣に点滴が置いてある個室であった。

 

「僕は……なんでここにいるんだ?」

 

 なんとか思い出そうとしてみるが、船が大きな黒い影に覆われるところまでしか思い出せない。

 

 すると、個室のドアが開けられ、桃色の髪をした老婆と、警察が着ていそうな服を着た女性が入ってきた。

 

「療養中のところ失礼だが、加賀美三夜くん。君は、監視官になる気は無いかね?」

 

 加賀美三夜? 監視官? この人は一体何を言っているんだ? 加賀美三夜は恐らくだが僕の名前だろう。でも監視官ってなんなんだ? 僕は疑問に思ったことを目の前の老婆に問いかける。

 

「あの……失礼ですが、監視官とは一体なんなんですか?」

 

「まさか、知らない者がいるとはな。では常守監視官。説明してやれ」

 

 老婆の隣にいた女性は常守、と言うらしい。彼女も監視官らしい。

 

「はい。監視官と言うのはですね……」

 

 そこから、長い長い説明が始まる。なんでも僕たちは漂流していたところを救出され、この病室に寝かされていたそうだ。で、監視官っていうのは警察官みたいな職だそうだ。そしてどうやら、見つかったのは、僕とひさぎと礼音さんの三人だけらしい。しかも、ひさぎは潜在犯だそうだ。

 

 まぁ、潜在犯でも執行官っていう職に就けることもあるのだとか。しかし疑問に思ったことが幾つかある。

 

「あの、すみません常守さん。質問いいですか?」

 

「えぇ、どうぞ」

 

「三人の中で、執行官とか、監視官になれた人ってどれくらいいるんですか?」

 

「あぁ、そのことね。調べるからちょっと待ってね」

 

 そう言って常守さんは腕に着けた時計のようなもので検索をし始めた。

 

「えぇっと、まず来栖崎ひさぎさん。彼女はもう執行官になっているわ」

 

「えぇ?! ひさぎ、執行官になったんですか?! ッ──」

僕は驚きのあまり、急にベッドから起き上がってしまい、背中を痛めてしまう。

 

「大丈夫?! そんなに驚かなくてもいいのに……」

常守さんは僕のことを気遣ってくれる。

 

「あとは、貴方の他にもう一人、監視官適性が出ていたのだけれど、三静寂礼音さん。あの人はまだ目を覚ましていないんですよね」

 

 

 礼音さんは目を覚ましていないのか……

 

「じゃあ、僕は監視官になることにします」

 

「えぇ! いいんですか?! てっきり断るかと思っていました」

 

 常守さんが大声をあげる。

 

「はい。もちろんです。要は市民の安全を守る仕事ですよね? だったら大歓迎です」

 

「ふむ、では、本日付けで加賀美三夜を、公安局刑事課一係に任命する。では、傷も治っているだろう? 早速一係の部署に行ってもらう。いいな?」

いや、さっき痛めてたけど……と、言いたいが、恐らくこの老婆はお偉いさんかなにかだろう。反論したら、最悪クビになるかもしれない。なので、僕は

 

「はい、もちろんです」

 

そう言って、腕の端末を見ながら、一係の部署へと向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 こうして、僕は今日から公安局刑事課一係で働くこととなった。

 

「し、失礼します!」

 

「あなたが新人執行官?」

 

 僕が挨拶をすると、ポニーテールの女性が僕に話しかけてくる

 

「は、はい、そうです。貴方は?」

 

「私は霜月美佳。私もつい最近配属されたばかりなんだけどね」

 

 ほぅ、結構優しそうな人だな。周りを見渡していると、見知った顔がいた。

 

「ひさぎ……か?」

 

「サン?!」

 

 そうか、ひさぎは執行官になったって言っていたな。僕より早く配属されたってことは先輩ってこと……だよな? 

 

「やっぱりひさぎか! いや、ひさぎ先輩か?」

 

「ん? 二人は知り合いなのか」

 

 と、髪を後ろに束ねた男性が話しかけてくる。

 

「いや、まぁ、色々ありまして」

 

「漂流していたところを救出されたというのは君たちのことなのか?」

 

「えぇ、まぁ、僕ら以外も、ですけど」

 

 その他人行儀な口調で察したのか、男性は名前を名乗る。

 

「おっと、すまない。名前を言っていなかったな。俺は宜野座伸元、執行官だ」

 

「宜野座先輩、よろしくお願いします!」

 

「執行官と聞いて、何も反応しないのか?」

 

「何も、とは?」

 

「ふっ、これは面白い監視官が来たものだ」

 

 どういうことだろう。執行官って、そんなに怖がられる職業なんだろうか? 

 

「ていうか、こんなに少ないんですか? 一係って」

 

「違うわよ。あと四人いるんだけど、多分、自分の部屋にいるんじゃないかしら」

 

「四人ですか、楽しみです」

 

「楽しみって、潜在犯なのよ?」

 

「潜在犯だからなんなんですか?」

 

 正直、潜在犯とかよく分からないけど犯罪起こしてないんだからいいんじゃないのか? とは思ったけど、口には出さない。

 

「はぁ……あなたも常守監視官と同じなのね……」

 

 霜月さんは呆れてどこかへと行ってしまった。僕なんかおかしいこと言ったか? 

 

「放っておいてやれ。気持ちの整理が必要なんだろう」

 

「気持ちの整理、って、何かあったんですか?」

 

「あぁ、そうか、君は知らないんだったな。昨日監視官が行方不明になったんだ」

 

「へぇ、そんなことが……」

 

 行方不明ってだけで、そんなになるって、友達だったのかな? まぁ僕には関係ないことだけど。



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#02 事件

「なぁ、ひさぎ。お前らの世界の本州ってこんなんなのか?」

 

 僕は一応確認しておく。

 

「……違う。こんなにドローンとか飛んでない。それになんなのよ、潜在犯とか」

 

(やっぱりか……ってことはここはそもそも日本じゃないのか?)

 

「あの、すみません。宜野座さん、ここって日本なんですか?」

 

「何を言っているんだ君は……、ここは確かに日本だが。第一日本以外の国は、もう国として機能していない」

 

(国として機能していない?)

 

「失礼します。こちらが新しく配属された監視官でしょうか?」

 

 すると、少々目つきのキツい男性が入ってくる。この人も一係なんだろうか? 

 

「はい……そうですけど。あなたも一係所属なんですか?」

 

「はい、そうです。俺は東金朔夜。執行官です」

 

「あ、自己紹介ありがとうございます。東金さん」

 

(丁寧な口調な人だな。いい人そうだ)

 

「加賀美監視官。お言葉ですが、その端末で名前はわかると思いますが」

 

 あぁ、そういうことか、どうりでみんな僕の名前がわかるなって思ったんだ。

 

 そして、腕時計? のような端末で一係のメンバーを確認する。

 

(えぇっと、まだ会ってないのは……)と、探していると、残りの2人のデータを発見する。まぁ、1人はもう会ってるんだけど。今ここに来ていない最後の執行官は雛河翔というらしい。そして、病室であった常守さん、あの人も一係の監視官のようだ。

 

「……なんか、楽しみです」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 僕はこの世界でいまだ一回も外に出ていない、ということで、ひさぎと一緒に外出しようと思う。ま、断られればそれまでなんだけど。

 

「なぁひさぎ、ちょっと外行かねーか?」

 

「潜在犯は外出できないし」

 

「監視官が同行すれば、行けるってよ」

 

「うそ、マジ?! じゃあ着いてきて!」

 

 そんなこんなで先に目覚めていたひさぎに街案内をしてもらう僕。道中に腕の端末が鳴っていたが、どうせ大した用事ではないだろうということで僕は通話を切った。

 

「で、ここがメンタルケア施設。ってあれ……二係の」

 

 そう言ってひさぎが指さす。二係? まぁ、そうか一係があるんなら当然二係とか三係もあるよな。

 

「あのー、二係の方ですか?」

 

 僕はメンタルケア施設に集まっているひさぎが指差した三人組に声をかける。当然、彼らは誰? と言った感じでこちらを見ているが。

 

「まさか、君が噂の……」

 

 三人組のうちの黒髪の男性が話しかけてくる。

 

「あぁ、ご存知でしたか」

 

「あの、もう行くけど、いい?」

 

 と、女性の人が問う。

 

「あ、はい。問題ありません」

 

「あのさひさぎ、せっかくだし僕らも行ってみないか?」

 

「嫌よ、メンタルケアとかめんどくさいし」

 

「いいからいいから、いくぞ」

 

 僕は無理やりひさぎと一緒に中に入る。そこには、

 

「薬じゃダメなんだ! この国は────」

 

 受付の人に対して怒鳴っている老人がいた。

 

(ったく、どこの世界にもいるもんだな。迷惑客って)

 

 そう思いながら僕はその老人を止めにかかる。

 

「その辺にしときなって、お爺さん。周り見てみ?」

 

 そう言って肩に手をかけようとした瞬間、お爺さんが連れていたロボット犬が僕に飛び掛ってくる。

 

「うわっ!」

 

 僕は避ける術もなく、そのまま倒れてしまう。

 

 すると、さっきの女性の人が、銃のようなものをお爺さんに向ける。だが、弾丸が発射されることはなく、ロックされたようなカチャリという音が施設内に響くだけであった。

 

「なに?!」

 

 そして、彼女にもロボット犬が飛びかかる。

 

「ひさぎッ!」

 

「了解!」

 

 ひさぎは僕の命令をすんなりと返事をしてくれた。

 

 そして、ひさぎはロボット犬に向けて、またもやあの銃を向ける。(さっき無理だったじゃないか)

 

 そう思っているうちに銃の形がどんどん派手になっていき、変形が終わると、光の弾丸が打ち出される。しかし、その弾は貫通することなく、着弾すると、ロボット犬が破壊される。

 

「皆さん逃げてください!」

 

 女性の人が施設内の人全員に呼びかける。

 

「う、うぁあああああ!」

 

 すると、人々は一斉に悲鳴を上げて逃げていく。

 

「よし、逃げたわね。じゃあこのジジイ、どうする? サン」

 

「とりあえず外に出すか?」

 

「外にあなたの仲間もいるんでしょう?」

 

 僕は女性に問いかける。

 

「あ、えぇ、そうね。とりあえず本部に連絡入れなきゃ……」

 

 と、女性は腕の端末で連絡を取り始める。

 

「なぁひさぎ、今からどうする?」

 

「どうする、って、みんなが来るまで待っとかなきゃいけないんじゃないの?」

 

「うーん……やっぱそうか」

 

「っと、そうだ。今のうちにあの人たちの名前っと……」

 

 えぇっと、あの女性の名前は青柳璃彩というらしい。

 

「青柳さん。到着までいくらかかりそうですか?」

 

「大体20分ぐらいで着くって言ってたけど……」

 

 20分か……まぁお爺さんの身柄は蓮池さんと須郷さんによって抑えられてはいるけど……



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#03 事件の後には……

 僕らが待っていると、パトカーが数台、こちらに向かってくるのが見える。

 

「あ、みんな来ましたよ!」

 

 パトカーから一係の人達や、その他、刑事さんが降りて、こちらに向かって来る。

 

「加賀美監視官、来栖崎執行官。少しこちらに来てもらえないかしら?」

 

 霜月さんに呼び出される。

 

「加賀美監視官! 電話してるのに出ないってどういうこと?!」

 

「あぁ、電話ですか。なんか、かかってきましたけど……」

 

「なんかかかってきた、じゃないわよ! 初任務のはずだったのに……まったく」

 

「それに来栖崎執行官! あなた公共の場でデコンポーザー使ったって本当?!」

 

(デコンポーザー? あの変形したやつかな?)

 

「使いましたけど、何か問題でも?」

 

 と、ひさぎは悪びれもせずに答える。

 

「問題ありまくりよ! それに────」

 

「霜月監視官。まずは現場の調査」

 

 霜月さんは常守さんに咎められて、現場の調査に入る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

「なにこの数値……?」

 

 目の前のお爺さんにドミネーターを向けた霜月監視官の最初の一声は困惑の声であった。

 

(なにこれ……青柳監視官からの報告ではドミネーターは反応しないって言ってたじゃない!)

 

「霜月監視官、執行しないと」

 

 常守監視官に言われ、トリガーを押そうとした矢先、お爺さんが舌を噛みちぎってしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 被疑者が、死んでしまった。あの荒廃した世界にいた頃の僕なら、何も反応しなかったであろう。だが今は違う、この世界は、犯罪を起こす前に逮捕される。そんな世界なのだ、少し気が緩んでしまっていたのかもしれない。

 

「サン。サン!」

 

 考え込んでいると、ひさぎが入ってくる。

 

「ん? なんだひさぎ。こんな夜中に」

 

「あんた、様子変だったから来たの。しかもあんた家ないからって、公安局に泊まるとか、どうかしてんじゃないの?」

 

「ま、確かにここは流石にダメか」

 

 それもそうだ、まだデスクで雛河くんが仕事をしているし。もっともな指摘であろう。

 

「仕方ない。じゃあ僕はどこで寝ればいいんだ? ひさぎ」

 

「えっと……じゃ、じゃあ私の部屋に……来る?」

 

 どうやら泊めてくれるらしいが、いいのだろうか? いや、ひさぎの意見じゃなくて潜在犯がどうこうとか。

 

「いいのか? その……執行官の部屋で寝泊まりするなんて……」

 

「別にいいでしょ、ダメだったらその時考えれば?」

 

「また霜月さんに怒られろって言ってるのか? 絶対嫌だよ」

 

「どうせ怒られるだけで謹慎処分とかにはならないでしょ」

 

「だといいんだけど……」

 

 ともかく、今日のところはひさぎの部屋に泊めてもらうことになったが、早めに住むところ見つけないとなぁ、ひさぎに迷惑かける訳にはいかないし。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふわぁー、おはよう。って、ひさぎなんでもう着替えてるんだ?」

 

「あんた起きるの遅すぎ。もうすぐ作戦開始だから、早く着替えて」

 

「着替えて、って……」

 

「そこの機械で服自由に着替えられるわよ」

 

 ひさぎに言われ、その機械で服を決める。すると、瞬時に服装が変わる。

 

(すげぇな。この世界、未来的すぎるだろ)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「早く乗るわよ!」

 

 と、指さされたのは一台の車。そこには常守さんと東金さんが既に乗っており、あとは、僕らが乗れば直ぐに発車します。といった感じであった。

 

「すみません遅れました!」

 

「謝罪はいいから、早く乗って!」

 

 僕らは素早く車に乗り、作戦概要を腕の端末で確認する。

その説明によると、カムイ? 今まで起きた事件の犯人が潜伏しているらしい軍事ドローン実験場へと行くらしい。まぁ要は調査なんだが、一係から三係までのほぼ全員が出動するらしい。

 

 と、常守さんの腕から着信音が鳴る。

 

「なに? 霜月監視官」

 

「あの、こんなに大所帯で行く必要は無いと思って掛けさせて頂きました。こっちも大変なんです!」

 

 霜月さんが嫌味ったらしく抗議する。

 

「これは禾生局長の命令なの。それに、人数配分は言っておいたはずだけど」

 

「だからその人数じゃ足りないと────」

 

「ごめん着いたから切るわね」

 

(常守さん、それはちょっと酷いと思う……)



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#04 絶望

「ここが、軍事ドローン実験場ですか? なんか、思ったより質素ですね」

政府が関わってるって言うからすごく整備された場所なのかなと思っていたのだが、想像とは違い、普通の工業地域といった風貌であった。

 

「あなたどんな期待していたの。それより、ドミネーター使うの初めてだったよね?」

 

「ドミネーター? あぁ、ひさぎが持ってた銃ですか?」

 

「ええ、そうよ。とりあえずそれ、手に取ってみて」

 

 常守さんはそう言って、ドミネーターを指差す。

 

 僕はそれを手に取ると、音声が流れる。

 

『携帯型心理診断 鎮圧執行システム ドミネーター 起動しました 刑事課所属 加賀美三夜監視官 使用許諾確認 適正ユーザーです』

 

 突然銃から音が流れたことにより、僕は驚く。

 

「安心して。その音声はあなたにしか聞こえないようになっているから」

 

「あぁ、そうですよね。突然でビックリしました」

 

「それを対象に向けると、犯罪係数がわかるの。それで対象の犯罪係数によって、モードが変わるんだけど」

 

「いや、そこら辺は実践で試してみます。ま、使わないことに越したことはないんですけどね」

 

 僕はえへへ、と笑いかける。

 

「そんなことより、早く合流するわよ。ただでさえ遅れてるんだから」

 

 ひさぎはそう言って、僕を引っ張ってみんなのところへと走る。

 

「ばっ、いきなり引っ張るなって」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「では、これより調査を開始します。各自、自分の担当監視官に拘らず、適切と判断した監視官に同行してください」

 

「「了解」」

 

 そう言って、僕たち刑事課は調査を開始する。

 

「ったく、何張りきってんだか。たかが調査だろ?」

 

「そんなの、張り切ってる一係に任せとけばいいんだよ。俺らは車で待機」

 

 一部、不真面目な者もいるが。

 

 ふと、見知った顔を見かける。

 

「おっ、蓮池さんに須郷さんじゃないですか!」

 

「昨日の新人か。世話になったな」

 

「須郷、まったく。で、新人、刑事課ってのはキツい仕事なんだ。覚悟は出来てんだろーな?」

 

 蓮池さんはそう言って僕に確認をする。

 

「勿論です。それと、新人じゃなくて加賀美です」

 

「新人くんは新人くんだろう。なぁ、蓮池」

 

「そうっすよ、ま、時が経ったら名前で呼ばねーこともないけどな。ハハッ」

 

 蓮池さんはそう言うと、現場の調査に向かう。

 

「じゃあひさぎ。まずはこの施設の人達に聞き込みに行こうか」

 

「りょーかい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの、ここにカムイって人はいますか?」

 

 僕は直球でその名を出す。

 

「ちょバカサン! そんなやり方で見つかるわけないじゃない!」

 

「カムイ……? そんな人物。この実験場にいたっけなぁ……」

 

 作業服を着た男性が奥へと入っていく。そして、その男性は戻ってくるが、「そんな人物、ここでは働いていないけど……」と言う。

 

「あ……そうですか。捜査にご協力頂き感謝します」

 

 僕は礼を言い、その場を立ち去ろうとする。

 

 だが、その直前

 

「ど、ドローンが勝手に……うわぁぁああ!」

 

 奥で働いていた男性が肉片へと化す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

「おっこのゲーム新作来てたんだ」

 

「ん? ゲームか、そこそこにしておけよ」

 

「分かってますよ」

 

 口ではそう言うが、三係の監視官、錫木萌はゲームを開始してしまう。

 

 錫木はゲームを難なくクリアしていく。そして、敵MOBを前にして一言

 

「死ね、ザーコ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 次々と撃ち殺されていく従業員たち。

 

「ど、どうなって……とにかくひさぎ! 逃げるぞ!」

 

「……ッ、了解ッ!」

 

 僕たちは、サボっている刑事課の人たちに警告をしに行く。

 

「皆さん、戦闘態勢をッ! ドローンが……無差別に人を襲い始めましたッ!」

 

 一人、ゲームをしているメガネの子のスマホを取り上げる。

 

「おいメガネッ! 死にたくなかったら早くこっから降りろッ!」

 

 僕がそう言うと彼は、すぐさま車から降りて他の執行官たちに命令を下す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 僕は彼が遊んでいたゲームの画面を見て疑問を抱く。

 

「おいひさぎ。これって……」

 

 僕はひさぎに画面を見せる。

 

「これは……!」

 

 ひさぎは画面を見た瞬間、何かを察したのか、一人来た道を引き返す。

 

「ちょ待てッ!」

 

 僕はそれを追いかける。ひさぎはある地点で足を止める。

 

 それは、先程ドローンの暴走が発生した場所であった。

そして、ゲームの画面と実際の現場の様子を見比べてみると、ある事実に気付く。そう、ゲームではかなりデフォルメされているものの、死体の位置と、倒されていた敵キャラの位置が一致しているのだ。

 

「やっぱり、やっぱりよ! 早くみんなに知らせないとッ!」

ひさぎがみんなに連絡を取ろうとするが、それより先に、常守さんから連絡が入ってくる。

 

「皆さん、単独行動は絶対にしないでください。執行官は監視官と同行するように! 敵の目的は……ドミネーターよ」

 

 ドミネーター、だと? 

 

 すると、すぐ近くでドミネーターを構えている女を見かける。

 

「お前ッ! 単独行動は控えろと言われただろう!」

 

 僕はその女へと走りよる。だが、彼女は動くこうとせず、ドミネーターを構え続けていた。視線の先を見ると、そこには……血を流して倒れている蓮池さんがいた。

 

「蓮池さん?!」

 

 僕は急いで蓮池に駆け寄り、血を飲ませる。が、血が止まることはなく、ドクドクと溢れ出したままだ。

 

「おい新人……気付けろ……あいつらは……敵だ……」

 

 そして、女が持っているドミネーターから光の玉が発射され、蓮池さんへと着弾する。すると、蓮池さんの体はみるみるうちに膨れ上がり、そのまま粉微塵になってしまう。

 

「えっ……?」

 

 突然の出来事に、僕は呆然と立ち尽くしてしまう。さっき仲良く話した蓮池さんが、粉微塵に。嘘だ。ありえない。なんで僕の血が効かなかったんだ? 

 

「お前が……お前がぁぁぁあああ!!」

 

 僕は女にドミネーターを向けるが、

 

『犯罪係数54 執行対象ではありません。トリガーをロックします』

 

「クソがッ!」

 

 僕は蓮池さんのドミネーターを拾い、ひさぎと一緒にその場から逃げる。

 

 すると、車の前でへたり込むメガネの子を見かける。

 

 僕はそれに近づくドローンをドミネーターで破壊し、彼を救出する。

 

「大丈夫かッ!? 仲間はどこに行ったんだよ!?」

 

「アイツら、先行っちゃって、俺の命令、聞かなくて……」

 

「助けたいの?」

 

 ひさぎがメガネに問う。

 

「え?」

 

「仲間、助けたいのって聞いてるの」

 

「もちろんですよッ! でもッ……」

 

 僕は彼の心境を理解し、三係の仲間を救出することに決める。

 

「ひさぎ」

 

「言われなくてもわかってるわよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 三係の仲間を探していると、連絡が入る。

 

「し、至急応援を求む!」

 

 そして、救難信号が腕の端末に示される。

 

「とにかく行くぞ! お前の仲間、助けたいんだろう?」

 

「加賀美……さん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 救難信号へと向かった僕達。だが、そこに居たのは変わり果てた姿の男だけであった。

 

「堂本……?」

 

 どうやらこのメガネは彼のことを知っているらしい。

 

「堂本だよね? なぁ、返事しろよッ! なぁ!」

 

「やめろ。これ以上は……」

 

「あなたに何がわかるって言うんですかッ!?」

 

「分からない……けどッ!」

 

「コイツは……最期まで……戦ってた。これを見ろ」

 

 そう言って彼の向いている方向を指さす。そこには、破壊されたドローンが三体、転がっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 連絡がかかってくる。どうやら常守さんのようだ。

 

「作戦は……終わったわ……至急、港に集合して」



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#05 秘密

 時を巻き戻す。この時ほど俺はこの能力が欲しいと思ったことは無かった。

 

「須郷、お前は……逃げろ……」

 

 今の状況は2対3ドミネーターはフル充電だ。何とか倒せるだろう。でも、須郷を守りながらじゃ、やれるもんもやれねぇ。

 

「で、でもそれじゃあ堂本監視官はッ……!」

 

 須郷の言う通りだ。今の俺の体は傷だらけで、戦闘なんてやってる場合じゃない。でも、ここで意地はらなきゃ、いかねえんだよ。

 

「俺を……甘く見るんじゃねぇ。部下を守んのが……監視官の仕事だ」

 

「でも……その傷……」

 

「いいから早く行けぇ!」

 

 俺の気迫に押され、須郷はその場から退避する。

 

「ったく、俺ってバカだなぁ……」

 

 その日、堂本秀一郎は、名誉の死を遂げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 常守さんの指示通り、港に集まった僕たち刑事課。ここに来たのは僕達以外は宜野座さん、常守さん、東金さん、須郷さん、青柳さんの四人だけであった。

 

「残りの……みんなはどうなったんですか……?」

 

 分かりきったことだが、僕は事実を認知する義務がある。知らないフリなんて出来ないんだ。

 

「みんなは……もう……」

 

 常守さんは、言いづらそうにそう答える。

 

「そう……ですよね」

 

「じゃあ堂本監視官はどうなった!?」

 

 須郷さんはみんなに問いかける。それに真っ先に反応したのは、あのメガネであった。

 

「堂本さんは……間に合いませんでした……」

 

「……そうか、取り乱して済まない……」

 

 そうして僕達は、多大な犠牲を払いながらも、カムイを捕まえられないまま、本部へと帰還する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「蓮池さんを……救えませんでした……僕が……もっと早く行っていたら……」

 

 僕は帰還途中、船内で声が出なくなるまで泣きじゃくった。

 

「サン……アンタは悪くない。悪くないから」

 

 ひさぎは僕を慰めてくれるが、その言葉は、今の僕にとってはノイズにしかならなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 僕達は、帰還してすぐ、雛河くんが調査していたカムイのホロについて、説明を受けた。

 

「飛行機事故の被害者……」

 

「あんた、カムイに同情してんじゃないでしょうね?」

 

「いや、そういう訳じゃないんだけど、でも、これでカムイの顔は分かったってことですよね?」

 

「ええ、そうなるわねそして、それと同時に、彼の攻撃対象は医療関係の場所に限定されている」

 

「そこまでして何をしたいんだ?」

 

「……分からないけど、とにかく、このすりかえられた人達の元へ行ってみるしかなさそうね」

 

 そして僕達は、すりかえられた人達へと向かうが、すでにもぬけの殻であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして数日後、鹿矛囲桐斗を手術したという枡嵜という男の確保に成功したのだが、後日、檻の中でドミネーターを使い、殺害されてしまう。

 

 その日、僕は怪しげな会話を見かける。霜月さんと東金さんが会話をしている。

 

「枡嵜は知りすぎた。母さんの秘密に触れるものは排除しなければならない」

 

 知りすぎた? 母さん? どういうことだ? 

 

「やっぱりあなたが……」

 

「俺が怖いのか?」

 

 その問いかけに、霜月さんは無言で頷く。

 

「ならばその感情は誤りだ。なぜなら俺は母さんの……シビュラの申し子なのだから」

 

「俺の意思は社会の意思。俺の目は社会の目。順法精神を誓う以上お前は俺を否定することは出来ない」

 

「たとえどんなに潜在犯を嫌悪していたとしてもな」

 

「……要件はなに?」

 

「お前に調べて欲しいことがある。常守朱の祖母の居場所だ」

 

 常守さんのおばあちゃん? それを見つけてどうするつもりなんだ? 東金さんは。

 

「彼女には鹿矛囲を殺す役目を担ってもらう」

 

 は? 意味がわからない。これは……報告をするべきなのか? 

 

 いや、あの老婆も胡散臭かったし……。ひさぎには話しておくか。

 

 そして、ひさぎに事の概要を伝える。途中、東金さんを探してぶっ殺す。とか言って走り出そうとしたが、僕が、「あの人、まだなにか裏がありそうだから、もう少し様子を見ておこう」と言うと、大人しくなってくれた。

 

 話が終わると、僕たち二人は一係の部署へと向かって歩き出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一係の部署内に着くと、六合塚さんがなにかを発見したようで作戦会議が開かれていた。

 

「ここ最近国交相の役人が頻繁に会合を開いています。名前は、桒島浩一。23歳」

 

「例の飛行機事故の1週間前に転校しており、そのことが原因で色相悪化。現在は回復し、政治家をやっている」

 

「そして、鹿矛囲が潜伏していた港の管理会社の株主でもあった」

 

「クロってことですね」

 

 僕はそれを聞いて納得する。

 

「彼の現在位置を。直ちに桒島浩一を確保します」

 

 常守さんの命令とともに、桒島浩一確保作戦。アド的に言うと、『悪の役人逮捕大作戦』が開始された。



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#06 地獄

 僕たち一係が桒島浩一の元へ向かっている最中、分析官の唐之杜さんから連絡がかかってくる。

 

「酒々井監視官のドミネーターが使用されたわ。場所は千代田区セントラルホール」

 

 それを聞いた霜月さんは常守さんに確認する。

 

「それって今向かってる場所じゃ──」

 

「現場一帯をドローンで封鎖。急いでッ!」

 

(たく、鹿矛囲も何考えてるんだか。それに、さっきの常守さんのおばあちゃんの話も気になるし……)

 

 そう考えていると、僕らは事件現場へと到着した。だが、その地には鹿矛囲の姿はなく、燃焼中の屋敷と、桒島だけが残っていた。

 

「鹿矛囲はどこ?」

 

 常守さんは桒島に問いかける。

 

「彼は行った」

 

「だが無駄足ではないよ。彼らを見送ってやってくれ」

 

 桒島は僕たちに喋る暇も与えず、矢継ぎ早に言葉を繋げる。

 

(彼ら?)

 

 そう思いながら、桒島が指さしたのは、燃えたぎる屋敷の中にいる動物たち、の正体であった。

 

「これって……ひ──」

 

「それ以上言わないでッ!」

 

 僕が口に出そうとすると、ひさぎに止められる。

 

「これが人間のやることか!」

 

「まさに地獄絵図……だろう? 身の毛もよだつ行為だ」

 

「これをやったのは鹿矛囲か?」

 

 東金さんは問う。

 

「冗談を言うな。これをやったのはこんな遊びでしかサイコパスを保てなかったのはあの中で残骸になってる役人どもだ」

 

 役人がこれをやったというのか? 腐ってやがるッ。

 

「だから殺したのかッ?!」

 

「……彼らは全員密入国者だ。役人どもの甘い言葉に乗せられ、そしておもちゃにされ」

 

「そしていざ犯罪係数が上がると鹿矛囲に救いを求めた」

 

「……それが、鹿矛囲の逆鱗に触れたと」

 

「焼いてくれと願ったのは彼らだ。彼らはもう二度と元の姿に戻れない! 鹿矛囲がそうであるように……」

 

 鹿矛囲も……か。

 

「同行に応じてもらえますか?」

 

 常守さんが流れを断ち切るように彼に同行を促した。

 

「もちろんだ。だがその前にこれを……」

 

 そう言って桒島は常守さんにリングケースを手渡す。それを開けた常守さんは激しく激昂し、桒島に掴みかかる。

 

「何をした!」

 

「常守ッ、やめろ!」

 

 それを宜野座さんは素早く取り押さえ、ケースを六合塚さんに渡す。

 

「何をしたッ!!」

 

「六合塚ッ!」

 

 そのケースの中身を見た六合塚さんは腕の端末で読み取り、一人の名前をつぶやく。

 

「常守……葵……」

 

 常守葵って、まさか……! 

 

「なに!?」

 

 ──そして、その光景を見ていた東金さんは、心無しかほんの少し、口角が上がっているように見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、本部に帰還した僕達だが、一人足りない。そう、東金朔夜執行官である。

 

「あれ? 東金さんは?」

 

 僕はつぶやく。

 

「それくらい腕の端末で分かるでしょ?」

 

 霜月さんに言われ、僕はそれを起動し、東金さんの位置情報を確認する。

 

(……地下駐車場か)

 

「ちょっと僕、野暮用なんで、行ってきます」

 

「独断行動は……!」

 

 霜月さんは止めようとするが、

 

「それなら東金さんもでしょ?」

 

 僕がそれを言うと諦めたのか、彼女は、口出しをしなくなった。

 

「なら私も──」

 

「ここは僕に任せて、ひさぎは残ってて」

 

 僕は走る。後ろからひさぎの声が聞こえた気がするが、気にしない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 僕が地下駐車場に着くと、そこにはトランクが開けっ放しの車が一台、停まっていた。

 

 僕は中身が気になり、車に近づく。だがトランクの中には何も入っておらず、血痕だけが残っている。

 

「……血?」

 

 僕は六合塚さんがやっていたように血痕に向けて腕の端末を向ける。その血の正体は────

 

「常守……葵」

 

「おや、加賀美監視官ではないですか」

 

 ふと後ろから声がかけられる。

 

「あぁ、東金さんですか……。常守さんのおばあちゃんが……」

 

「ええ、俺も見ました。一歩遅れたようですね」

 

 どうやら、東金さんも常守葵を助けに来ていたらしい。

 

「どうします? 常守さんに報告しておきますか?」

 

「いえ、その必要はありません。加賀美監視官」

 

《常守朱の色相を曇らせるのはあのバアさんの死体が発見されてからだ。まだ、言うわけにはいかない》

 

(白々しい、その首についてる血はなんなんだよ?)

 

「では、戻りましょうか。加賀美監視官」

 

「えぇ、そうですね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただいま戻りました、っと」

 

 部署内に戻ると、既に刑事課の殆どが出払っていて、残っているのは僕と東金さんと常守さんだけである。まさか、また鹿矛囲絡みの事件か? 

 

「また事件ですか?」

 

「えぇ、それも現在進行中のね」

 

「常守さんは行かないんですか?」

 

「いえ、すぐに私も──」

 

 常守さんはそう言って外に出ようとするが、東金さんがそれを止める。

 

「肉親が人質になった時点であなたはこの事件に──」

 

(肉親? あぁ葵さんのことか)

 

「それを決めるのは監視官である私です」

 

「これは禾生局長のお考えです」

 

「……そこを、どいてください」

 

 そう言って、常守さんは無理やり外に出る。

 

「ちょ常守さん。もう、僕も行きますから」

 

 やはり常守さんは僕の提案を断るが、無理やり着いていく。常守さんはエレベーターの中で、霜月さんとなにか事件について話していたが、よく分からない言葉で溢れていたので、会話には参加しないでおいた。常守さんが向かっているのは──局長室。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 局長室に入った僕たち。局長に入って早々聞かれたのは僕のことであった。

 

「なぜ君がここにいる? まぁいい。君たちには別の任務を与えよう」

 

「鹿矛囲桐斗の暗殺」

 

 常守さんは分かりきったような口でそう言う。

 

「その通りだ」

 

「暗殺って、えぇ?!」

 

「加賀美くんは黙ってて」

 

 酷い……

 

「鹿矛囲桐斗の目的はシビュラシステム。だから鹿矛囲の始末を急いでいる。そうでしょ?」

 

「まったく、相変わらず余計なことを考えるのが好きだな」

 

「あと一時間もすれば、彼は目的を達成するだろう」

 

「現場に先行した三係には犯人が立てこもっている区画の頭上に爆弾を設置するよう指示してある」

 

「なっ……?!」

 

 僕は思わず声を上げる。

 

「あそこには500人もの人質がいるのよ?!」

 

「閉鎖空間で一方的に駆られる側となった人間がサイコパスをクリアに保てる可能性は極めて低い。恐らくは既に殆どが潜在犯であろう」

 

「……潜在犯だったら、殺していい。そう仰りたいんですか、禾生局長」

 

「すまないがこれは決定事項なのだよ。加賀美監視官、そして君たちの任務でもある」

 

「起爆の指揮を執れ。君たちの手で終わらせろ」

 

(僕らが、起爆の権限を持ってるってことは、起爆しない選択肢もあるってことだ。だったら、反抗してやるさ、徹底的にな。シビュラシステムッ……!)

 

「それと……今しがた残念な報告を受けてね」

 

「君の祖母……常守葵の遺体が倉庫外で発見された」

 

 遺体……、え? 

 

「拘束された状態で撲殺されたようだ。惨たらしい犯行だよ」

 

「最後の引き金は君に任せよう。信頼しているよ、常守監視官」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一係の部署に戻った僕と常守さん。

 

「常守さん……すみません」

 

 僕はあのとき間に合わなかったことを謝罪する。

 

「なんで、あなたが?」

 

「東金さんのところへ行った時、葵さんの血痕を発見したんです。でも、東金さんがあなたの色相を濁らせたくないって……」

 

「すみませんッ!!」

 

「過ぎた事を悔やんでも仕方ないわ。むしろ、私はあなたのおかげで決心した」

 

「え?」

 

 そう言って常守さんは足早に、取調室へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 取調室では、桒島浩一が取り調べをしている真っ最中であった。それも気にせずに、常守さんは発言する。

 

「桒島浩一。あなたに頼みがあります」



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#07 決戦

 桒島から鹿矛囲についての情報を聞き出した僕たち。そして、車に向かうとそこには、

 

「ひさぎじゃないか。行かなかったのか?」

 

 そう、ひさぎが待っていたのである。

 

「行ったわよ、ホロの、だけどね」

 

「いや、そんな技術いつの間に……」

 

「あのメガネ……錫木とか言ったかしら。そいつがあんたの為だからって、やってくれたわ」

 

 錫木さん……あいつ、成長したな……

 

「ほら、話はあとにして、早く行くわよ!」

 

「あぁ、すみません常守さん。ほら、ひさぎ行くぞ」

 

「りょーかい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 車内では、常守さんと鹿矛囲が取引をしていた。

 

「鹿矛囲桐斗ね? 私は公安局刑事課、一係所属 常守朱」

 

「シビュラは乗客ごとあなたを口封じする。それにもうすぐそこには公安が来る」

 

「人質を解放するなら、私があなたの望みを叶える。地下のマップデータを送るわ」

 

「ちょ────」

 

 ひさぎがなにか言い出しそうだったので、慌てて口を塞ぐ。

 

「目的の地点まで来なさい。そこで──」

 

「何を考えている」

 

 そこに、禾生局長が割り込んでくる。

 

「全能者のパラドクス。鹿矛囲の目的はシビュラシステムを裁くこと」

 

「あなたたちは免罪体質者という裁くことの出来ない例外を取り込むことで完全な裁きを実現させてきた」

 

「しかし新たな例外が生まれた。個人ではなく、集合体として形をなす鹿矛囲」

 

「彼を裁くには彼を成り立たせている存在をシビュラが認める他ない」

 

 常守さんは局長に話す隙を与えず、矢継ぎ早に話していく。

 

 そして、常守さんの話が終わると同時に、局長が言葉を紡いでいく。

 

「君は何を口にしているか分かっていない。あれを裁くには集団としてのサイコパスを計測させる必要がある。だがそうなれば──」

 

「集合体であるシビュラシステムも裁きを与える必要がある。それが鹿矛囲の狙いだった」

 

 は? シビュラが集合体? シビュラって集団で行動してるってこと? 

 

「そして集合的サイコパスを認めさせ、あなたたちをパラドクスに追い込んだ末に裁く」

 

「ならば余計に奴をシビュラに近づけるわけにはいかないな」

 

「そして都合の悪い物を見ないようにする。そんな社会でいいんですか? 禾生局長」

 

 僕はつい、言葉を発してしまう。

 

「君たちは目先の目的にとらわれ事の重大さに気づいていない。集合的サイコパスを認めた社会がどのようなものになるかを」

 

「個人個人がクリアでも集団として裁かれる可能性のある社会。そのリスクは理解しているわ」

 

「でも今まで目を背けてきたその問題を直視することはあなたたちの進化にも繋がるはず」

 

「逆にこの問題から目を背け、鹿矛囲の処分という逃避を選ぶなら、あなたたちに未来はない!」

 

「君たちの御託は聞き飽きた」

 

「独走する気なら、君たちの刑事権限を剥奪する。そして常守、君をこの社会から抹消することも考えねばな」

 

「あなた個人の見解はどうでもいいと言っているの、東金美沙子!」

 

 東金美沙子?! まさか、東金の血縁者なのか?! 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

「本当に、いいんでしょうか?」

 

 三係の監視官、錫木萌は苦悩していた。果たして、この爆弾を起爆させることで事件が解決できるのかどうか。

 

「やっちまえよ監視官」

 

「ふむ。では私がやるとしよう」

 

 そう言って、堂本の穴埋めで配属された監視官。三静寂さんが起爆のスイッチを押す。

 

「この犠牲が、この世界の平和に繋がることを願って」

 

 しかし、カチリ、という音が響き渡るだけで、爆発の音が聞こえない。

 

「ぐッ……」

 

 うめき声とともに、隣にいた執行官が破裂する。

 

「誰だッ?!」

 

 僕は慌ててドミネーターを放たれた方向に向ける。

 

「あなたは……!」

 

「酒々井元監視官か?」

 

 三静寂監視官がその女性の名前を言う。

 

 すると、その酒々井元監視官が言葉を放つ。

 

「その爆弾、喜多沢のでしょ? 喜多沢の爆弾は、こちらでコントロール出来るようになっているの」

 

「だから言ったのにッ!」

 

「ハァ ハァ もう少しで鹿矛囲が世界をクリアにしてくれる」

 

 そう言いながら、彼女は首筋に注射をする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 現場に到着した僕達は、鹿矛囲から人質の解放を知らせる連絡が来たことにより、僕らは地下線路へと向かう。もちろん、ひさぎを宜野座さんところに連れて行ってからだ。そして地下線路に到着すると、そこには東金が待っていた。

 

「監視官。禾生局長からあなたたちがここに来ることを聞きました。私も同行させてください」

 

「なんのつも──」

 

「少し黙ってて加賀美監視官」

 

 常守さんは語気を強めて、僕に命令する。

 

「東金執行官、あなたの経歴を見ました。隠匿していた本当のデータを」

 

「きっかけは霜月監視官の報告書です。あなたの経歴と矛盾する部分が多々あった。それでファイルを調べ直したんです」

 

 そう言って常守さんは僕に東金の経歴を見せる。

 

(監視官を五人も殺害? ちょ、これマジか?)

 

「監視官を次々と潜在犯へと陥れてきたその経歴。正直信じたくなかった」

 

「もしくは意図してやってるものでは無いと、そう思っていた」

 

「でも加賀美監視官の報告を受けて確信したわ。あなたは私を黒く染めたかった」

 

「報告、とは?」

 

「あなたが私の祖母、常守葵を殺害した疑いがあるという報告よ」

 

 その言葉を聞いた東金は僕を無言で睨みつける。

 

 そしてそこに、背後から声が聞こえてくる。

 

「彼女は君程度では染められないよ」

 

 その声の主を見た東金はカッターナイフを懐から取りだす。

 

「ふっ、丁度いい。お前は母さんを貶める存在、ここで消えてもらう」

 

 鹿矛囲は東金にドミネーターを向ける。そして一言

 

「散れ、漆黒」

 

 だが、そのドミネーターから球が発射されることはなく、東金は常守さんが取り押さえる。

 

「ぐぁっ……」

 

「待てッ! 貴様たちに母さんを汚させるものかぁッ!」

 

 東金は負け惜しみのようなことを言っているが、僕はそれを気にせず、常守さんと鹿矛囲に着いていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

「もうやめろ酒々井ッ!」

 

「来栖崎ッ!」

 

 私は酒々井にドミネーターを発射する。そして、その弾は当たるが、神経薬を投与しているのか、気絶することはない。

 

「ちいぃッ!」

 

「もうよせ酒々井ッ!」

 

 宜野座さんがボウガンの矢に当たるが、それを腕で弾く。

 

 しかし、酒々井は起爆用のスイッチを取りだし、私たちを脅す。

 

「三係が丁寧に設置してくれた爆弾よ! あなたたちの方こそここで終わるの!」

 

「よせ!」

 

 そして、爆弾のスイッチを押す直前、酒々井の体が宙に跳び上がる。

 

 そして近くの列車から須郷が出てくる。ほんと、いいとこだけ持っていくなんて……

 

「間に合ってよかったよ」

 

「……あぁ」

 

 そして雛河くんが酒々井さんに近寄り、脈を測る。

 

「大丈夫生きてる」

 

「よかったわね、青柳監視官」

 

 私は青柳に労いの言葉をかける。

 

「えぇ……本当に……良かったわ」

 

 青柳は今にも泣きそうな声でそう答える。



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#08 帰還

「どうして案内する気になった?」

 

 鹿矛囲が僕たちに問いかける。

 

「あなたを正しく裁くためよ」

 

「法の外で処分することも出来た」

 

「シビュラはそうしようとしてたみたいだけど、常守さん、そういうことしないでしょ?」

 

「当然、そんな選択肢は存在しない」

 

「ふっ、その断定があなたをクリアに保っているのが分かりますよ」

 

 その瞬間、鹿矛囲の姿が変化する。

 

「違うやり方もあったはず。社会を恨む人たちの思いばかり背負わずに」

 

「そんな選択肢は存在しない。たとえ君たちともっと早く話せていたとしても」

 

「っと、着いたみたいだよ」

 

 鹿矛囲は僕たちに呼びかける。そこに待ち受けていたのは……

 

「禾生……局長……?」

 

「いや、東金美沙子よ……」

 

「あなたたちの監視官権限はたった今剥奪されたわ。ここを出て野垂れ死ぬといい」

 

 そう言われて、とっさにドミネーターを自分に向けるが、反応はない。

 

「それがシビュラの答えね、あの扉の向こう側で聞くわ」

 

「……僕たちという存在をかけて聞こう。シビュラよ……」

 

「僕たちの色が見えるか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

「母さん……」

 

 東金はそう呟きながら、万年筆を自分の親指に突き刺す。そして親指が無くなったことにより、掛けられた手錠を外し、母親の元へと向かう東金朔夜。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 鹿矛囲は局長にドミネーターを向けるが、反応がない。

 

「無駄よ」

 

 局長の持っているドミネーターが変形する。

 

「シビュラシステムよ。裁きの神を気取るなら、選べる道はひとつだ」

 

「お前たちがお前たちでいるために乗り越えなければならない存在が目の前にいるぞッ!」

 

「裁けるか? 僕たちを」

 

「問えるか!? 僕とお前の色をッ!」

 

 鹿矛囲は激昂する。そんな日曜朝のテレビ番組じゃあるまいし、気合いで通じるわけないだろう、と思っていたのだが、予想は大きく外れ、ドミネーターはエリミネーターモードに変形する。

 

「何?!」

 

「これがお前の色か。東金美沙子」

 

 そう言って鹿矛囲は弾丸を局長に向けて発射する。

 

「認めない! こんな、変化を……」

 

 その言葉を残し、局長は頭の上半分を失い、倒れる。

 

 そして、シビュラの奥深くまで入った僕達。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これが……シビュラの正体……なんですか?」

 

 シビュラの最深部に入った僕は驚嘆の声を漏らす。そう、脳が大量のクリアケースに保管されていたのだ。その脳にドミネーターを向けた鹿矛囲。ドミネーターは予想通りエリミネーターに変形する。

 

「これがお前の色か。シビュラ」

 

 だが、鹿矛囲が発射する直前、どこからともなく、ドミネーターの声が聞こえる。

 

「ようこそ 鹿矛囲桐斗 協議により私たちはあなたたちを認識することを決断しました」

 

「また 常守朱の提案どおり集合的サイコパスを成立させます その上で私たちの犯罪係数を上昇させる要因を廃棄します」

 

 すると、脳が入っていたケースが黒い煙で染められていき、数を減らしていく。

 

「今 私たちは新たな認識と完全性を獲得しました。これが私たちの進化の形です」

 

 すると、鹿矛囲のドミネーターの反応が無くなる。

 

「これが答えよ。鹿矛囲」

 

 そして、常守さんは鹿矛囲にドミネーターを向ける。

 

「あなたを逮捕します」

 

「……だそうだ、鹿矛囲。大人しく連行されろ」

 

 僕はてっきり鹿矛囲は逮捕されるものなのかな、と思っていたのだが、その期待を裏切り、常守さんのドミネーターは無情にもエリミネーターモードに変形してしまう。

 

「僕は今、何色かな?」

 

「常守監視官 速やかな執行を推奨します」

 

「抵抗せずにドミネーターを渡しなさい」

 

「感じるよ。あれの中にも自分の色を取り戻せて喜んでるものたちがいる。君こそなぜシビュラにドミネーターを向けない?」

 

 その問いに常守さんは

 

「集合的であるならばドミネーターを向ける者もまたその一部になる。別の誰かが向ければあれは違う色になるかもしれない」

 

 と答える。

 

「あなたは……」

 

「シビュラはもう、後戻り出来ない」

 

「いつか本当の裁き手が現れたとき、あそこにいる脳が最後の一つになっても犯罪係数は下がらないままかもしれない」

 

「まさか最初からそのつもりで……」

 

「もしかするとその裁き手は、今目の前にいるのかもしれない」

 

「この……馬鹿野郎ッ!!」

 

 僕は鹿矛囲を殴ってしまう。

 

「何をやっているんですか加賀美監視官!」

 

「お前だけ逃げてんじゃねぇよ! 死んで償えるわけないだろッ! 生きて、生きて償えッ! この事件で死んだものたち全員のッ!」

 

「そこから出ろ冒涜者どもッ!」

 

 僕が鹿矛囲を説教していると、入口から叫び声が聞こえる。

 

 そして常守さんは咄嗟に、鹿矛囲の前に立つ。

 

「やめなさい!」

 

「いい目だ。気付いているだろう? 常守葵を殺したのはこの俺だと」

 

「ひからびた老人のくせにしぶとくってな。あーちゃん あーちゃんと呼び続けていたぞ」

 

「……っの外道が……」

 

「ハッハッハ、外道か……悪くないねぇ」

 

 そして、呻いている常守さんに鹿矛囲立ち上がり、が声をかける。

 

「別の可能性もある。君も気付いているだろう? 君が願う法の精神」

 

「もしそれが社会という存在に等しく正義の天秤となるなら、いつかその精神こそがあそこにいる怪物を本当の神様に変えるかもしれない」

 

 そして、回復した常守さんを押し退け、東金にドミネーターを向ける鹿矛囲。両者のドミネーターがエリミネーターモードに変形する。

 

 そして、同時に発射される弾丸。

 

 ────その光景を僕は、ただ見ていることしか出来ず、そして、鹿矛囲の体が膨らみ、そして破裂する。

 

「東金……東金朔夜ぁぁぁあああ!!!」

 

 僕はドミネーターを東金に向ける。だが、監視官権限が剥奪されているからか、ドミネーターに反応がない。

 

「何故だッ、なぜ染まらないッ」

 

「東金朔夜。反逆行為ならびに常守葵の殺害容疑であなたを逮捕します」

 

「ああ、ああ、あー!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

『犯罪係数899 執行モード リーサル エリミネーター』

 

「なにがシビュラの子よ。真っ黒じゃない……」

 

「母さん……あなたも俺も 結局シビュラの奴隷でしたね」

 

「あなたに従った自分が許せない。こうしなきゃ私がクリアじゃなくなるの」

 

「ハハハ……この娘が新しい奴隷というわけですか。せいぜいシビュラを美しく保つためだけに生きて……」

 

「私を濁らせる人間なんて消えればいい」

 

 トリガーに指をかけ、執行寸前のところで東金は絶命する。

 

「私ここから先へは進みません……秘密は守ります。いえ全部忘れます! 何も知りません!」

 

「私シビュラを信じます……私、この社会が大好きですから!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

「抵抗せずに──」

 

 外に出た僕たちを待っていたのは、刑事課の面々であった。

 

「よせッ! やめろ!」

 

 宜野座さんが錫木くんを止める。

 

「け……権限戻ってる……」

 

 雛河くんが僕たちの権限を見せる。

 

「……サンくんか?」

 

 三係の方から僕の名前が呼ばれる。それも、あだ名でだ。

 

「もしかして……礼音……さんですか?」

 

「やはり……サンくんなのだな。監視官になったとは聞いていたが、まさか、こんな出会い方をするとはな」

 

「サン……サンッ……!」

 

 すると、また後ろから僕を呼ぶ声が聞こえてくる。そして、振り返るとひさぎが僕に向かって飛びついて来ていた。

 

「ちょひさぎ、なんで泣いてんだよ──んむっ」

 

 ひさぎは飛びつき、僕に抱きついてきたと思ったら、その後、僕の唇を奪ったのだ。

 

「?!」

 

 一同が、困惑の声を流す。

 

 そして、僕の唇から離したと思ったらすぐに言葉を放つ。

 

「無茶しすぎなのよッ!! あんたはッ!!」

 

 パンッ、と僕の頬が思い切りぶたれる。

 

「いったッ! ちょ落ち着けひさぎッ!」

 

 僕はひさぎを体から引き剥がす。

 

「ひさぎ、僕は死なない。そうだろ?」

 

「……そう、だけど……」

 

「でもッ……!」

 

 僕らが、言い争いをしていると、錫木くんが声を放つ。

 

「二人ともこんなところで争ってないで、早く帰りますよ!」

 

「チッ」

 

「こらひさぎ、舌打ちしない。錫木くんも言ってるんだからさっさと帰還するぞ」

 

「はいはい、分かりましたー監視官さまー」

 

 ひさぎが気だるげに返事をする。



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#09 これからの道

 無事に帰還した僕とひさぎ、そして礼音さんは、休む暇もなく、局長室に呼び出される。

 

「失礼しまーす。って?! きょ、局長?! し、死んだはずでは?!」

 

 局長室に入った僕は、待ち受けていた人物に驚きの声を隠せない。

 

「ふむ、サンくんは知らないんだったな。向こうで見ただろ? あの脳が沢山ある光景」

 

「脳? って、あの時のか! でも、それとこれとでなんの関係があるんですか?」

 

「察しが悪いな、サンくんは。つまりはだな、局長はあの脳がある限り、死なないというわけだよ」

 

「つ、つまり今の局長はあの時とは違う人という訳ですか?!」

 

「あぁ、君の想像通りだ」

 

「へぇ、じゃあ、僕たちを呼び出した要件、教えて下さいよ」

 

「おっと、忘れていたよ。今君たちを呼び出した要件、それは、君たちの出自についてだよ」

 

 僕も薄々勘づいてはいたが、いざ言われると驚いてしまう。

 

「そのことなら、私の口から既に話してあったつもりですが」

 

「私は彼の口から聞きたいのだよ。三静寂監視官」

 

「……あの、覚えている範囲でいいですか?」

 

「構わん。続けろ」

 

「まず、僕達は、ここ本州からとても離れた場所にある渚輪区っていう離島からここまで船で来たんです」

 

「それで、船でここまで来る途中に、黒くて大きな人型の影に襲われたんです。そこから記憶がなくて、気が付いたらベッドに寝てた、という訳です」

 

「ふむ、では、君の体で、異常が起こったということは無かったかね?」

 

「異常……ですか……」

 

 ふと考えてみると、一つ心当たりがあったことを思い出す。

 

「あの……信じて貰えないかもなんですけど……僕の血って、怪我を治せる効果があるんですよ」

 

「ちょサンそれはッ」

 

「安心しろ来栖崎執行官。そのことは既に知っている。では、続けたまえ」

 

「それで前、ドローンの暴走があったじゃないですか。そのときに蓮池さんに血を飲ませたんです。でも、治らなくて……そのまま……」

 

「死んだ、というわけだな?」

 

「……はい」

 

 僕は彼の死を克服したつもりだった。でも、心のどこかでは、認められていない自分がいた。

 

「そんな君に、朗報がある。その能力が、戻る、と言ったら?」

 

「戻る、って、確証はあるんですか?」

 

「ある。君が影と言っている物体が、君の能力を奪ったのだ」

 

「でも、あの影がまた現れると言うんですか?」

 

「ああ、第一、あの影を開発したのは、この私、八月朔日真綾だからな」

 

 は? それって、僕の中にいる人じゃなかったっけ。

 

「ふふ、君は今、真綾は僕の中にいるはず、と思ったね?」

 

「だが残念。私はシビュラにこの身を捧げたのだよ」

 

「は、はぁ……」

 

 この身を捧げたって言われてもピンと来ないんだよなぁ。だがまぁいい。血の能力が戻るんだったら、なんでもいい! 

 

「では、その影、出して貰えますか?」

 

「君は影と言っているようだが、それは違う。あれは元は別の世界にワープするための実験装置だったんだよ」

 

「でも、どこに行くかはランダムだし、何より不安定だった。だから私は封印したつもりだったのだが」

 

「透露の奴、勝手に使ったみたいでね。それで、君たちが来たというわけだ」

 

「そして、私も透露に裏切られて、この世界に飛ばされたというわけだよ」

 

「だったら、他のメンバーはどこに行ったんですか?」

 

「他のメンバー、とは一緒に船に乗っていた少女たちのことか? 彼女たちは恐らく、また別の世界に飛ばされたのではないか?」

 

「そう……なんですね……」

 

「でもだったら、僕がそれ使ったらまた別の世界に行っちゃうんじゃ……」

 

「いや、そんな装置、私が使わせると思ったのかい? 勿論、既に改良済みさ」

 

「それはつまり、能力は戻るけど、元の世界に戻てしまうということですか?」

 

「いや? 勿論、戻ろうと思うのなら、戻れるが、君たちがここに残ると言うなら、別にそれでも構わんが」

 

「だってよ、ひさぎ、礼音さん。僕はここに残るつもりだけど、いいか?」

 

「サンが残るなら、私も残るわ」

 

「私も来栖崎くんと同感だ。ん? どうした? そんな顔して」

 

 僕はその言葉に安心感を覚える。

 

「……いえ、少し、ホッとしただけです」

 

「あんた、まさか私たちだけ戻るとか思ってたの?」

 

「い、いや、そんなことは……あるかも」

 

 局長がゴホン、と咳払いをして、話を元に戻す。

 

「談笑はそれくらいにしてくれないか? まあいい、では、これからも公安局で刑事課として働くということだな?」

 

「はい。勿論です」

 

 皆が肯定する。

 

「では、これからも、監視官、執行官として責任をもって働いてくれ」

 

「「「了解!!」」」

 

 そうだ、僕達はまだ、この世界にいなくちゃいけないんだ。



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