野菜人の王子に転生しました (ゆずのお茶)
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序章
野菜人の王子になってしまったようです


初投稿です。よろしくおねがいします。


こぽり、という優しい水の音が鼓膜を揺らした。

 

 

 

液体の中にいる。

それなのに呼吸ができる。

 

意識が覚醒へと傾いた時、まずはじめに理解した事がそれだった。

そんなこと現実ではありえないと分かってはいるけれど、今自分を取り囲んでいるものは明らかに空気ではなく、そう表現せざるを得なかった。

 

薄く目を開くと視界には薄い緑が広がるだけでなにも見えない。

耳をすませてもこぽこぽという柔らかい音が届くだけ。

極めつけは周囲はなにかに囲まれていてここから出られないときた。

 

 

うん、これは夢をみているのだろう。

 

謎の液体に身体を揺蕩わせ、その心地よさに意識を微睡ませながらそう判断する。

 

しかし、目が覚めるところから始まる夢も珍しいな。

確か起きてるのがわかってる夢は明晰夢、というんだったか。

だけどあれってある程度自分の思い通りになるんじゃないのか?

今みてるこの夢はものすごく固くて狭い容器みたいなものに入れられているだけで、自由度は完全にゼロだ。

それに景色はぼんやりした緑色だしなんの面白味もないような……。

 

そんなことを考えていると、夢の中だというのに意識はどんどんと覚醒の方向に向かっていく。

わかっている情報を整理して、今の自分の状況をイメージする、けど、なんだろう。まるでSFでよくある実験動物やクローンなんかをいれておく容器に入れられているような感じだ。

そういう夢、なんだろうか。じゃあ俺は今培養されてる設定とか?結構前日みた映画とか漫画とかに近い夢を見るけど、そんなものみたっけな……。

 

昨日の自分を振り返ってみるが、夢の中にいるせいか何故かぼんやりして思い出しにくい。

……いや、そうだ、確か昨日はいつも通りの日で、普通に仕事して、残業して、甥っ子姪っ子への土産を買って帰って。

……帰って…………。

 

……。

…………帰ったっけ?

 

 

 

突如、頭にひどい痛みが走り、記憶がぶつ切りに甦る。

脳内に酷く朧気になった光景が質の悪いフィルム映画のように流れては消えいった。

 

帰宅中。バイクに乗っていた。光源の無い海沿いの道。子供を乗せた車。居眠り運転。急カーブ。壊れたガードレール。車を止めさせようと。ぶつかって。強い衝撃。浮遊感。と。

 

…………黒。

 

 

ブツン。という音が聞こえた気がした。

記憶の再生は終了し、俺一人が何もない緑の世界に取り残される。

 

そうだ。思い出した。

真冬だった。

海沿いの、明かりの無い道だった。

残業を終えて帰る途中、居眠り運転の車を見つけた。

子連れだった。

おこすためにホーンを鳴らして、叫びながら並走したら起きたけど急加速をされた。

その先は急カーブで、ちょっと前に事故をしていてガードレールは壊れていて。

気づいたらしく急ブレーキを踏んでいたが、ギリギリ間に合いそうになかった。

だから、俺も加速して、追いついて、少しでも方向を変えようと思いきりバイクを側面から衝突させた。

 

その結果、衝撃で俺は投げ飛ばされた。

 

黒い世界が広がっていた。

前後どころかどっちがうえかしたかもわからない、真っ黒な世界。

 

その後、海に落ちたのだろう。

だろう、というのはその時の俺には何がなんだかよく分からなかったからだ。

 

初めは地面に叩きつけられたと思った。そのぐらい硬いものにぶつかった感覚だった。

だがその地面はすぐになくなり、身体中に壮絶な痛みが走った。

呼吸はできず目は開けられず、耳はただただやかましい音に包まれ、何がなんだかわからないまま、ただただ苦痛に悶えているうちに意識が途切れた。

 

そんな、最期だった。

 

思い返して沈黙する。

死んでしまった。

そうだ、俺は確かに、あそこで死んだ。

だが、それだと説明できないことがある。

 

あまりの衝撃にだろう、脳の血管は頭痛を伴いながら脈打ち、喉は火を呑み込んだように熱くなって、心臓は気が狂ったかのようにけたたましく拍動している。

 

そう、確かに俺は死んだはずなのに、俺の身体は俺が生きている、ということを全力で主張していた。

 

あれは夢ではない。それははっきりと自覚できた。

そしてこれも夢じゃない。

こんなにもリアルで痛くて生々しいものが夢であってたまるか。

 

死んだのに生きている。

意味のわからない液体に入って、何かの容器に入れられて、今もこうして命を動かしている。

これが何を意味するのかを考えて、あり得ない考えに至ってしまっていた。

 

死を自覚する前、俺はこれがSF的な夢だと思った。

実験動物的な立場になった夢だと。

だが夢でないとわかった今、最悪の可能性が出てきてしまっている

 

もしかして俺、今、リアルに実験動物になってるんじゃない?

……と。

 

ザァッと血の気が引く。

いやいやいや、日本に人間まるごと実験に使えるような技術はないよ?絶対無い、無いはずだ、無いよね?無いよな?無いといってくれよだれか!

いや、日本でなくても海外に運ばれてる可能性だってあるか……!

 

うわ!いやです!!被検体とか嫌です!!

実際目醒めちゃったし、成功例として扱われるのでは!?

 

死者蘇生とかすごいねおめでとう!!

けどこれからいろんな実験とかするんでしょ!?よくみる漫画よろしく拷問とかして耐久とかいろんなのみるんでしょ!?

嫌です!!!!

 

そこまで考えて、は、と我に返る。

 

ねえ、大丈夫?俺の自我大丈夫?脳みそいじられたりしてない?自分のプロフィール言える??と思い至ってしまったのだ。

だってまじで一回は死んでるんだし、欠損があるかもしれない

 

よし、落ち着いて深呼吸して振り返ろう。

俺は小野邉 哲、30歳、男。ド田舎の一般平凡会社員。姉と辰と雪……甥っ子姪っ子との4人暮らし。恋人…は……。

……いや、うん、やめよう。これ以上特筆してなんもねえな。

自分で自分を傷つけるのはやめよう。

 

割と覚えてる。てかバッチリだった。

そんでバッチリ過ぎてちょっといらないこと思い出しちゃった。

 

俺、童貞のまま、死んだんだな……。

このままだと童貞のまま実験動物になるんだな……。

それはなんだかすごく嫌なので、実験にはいる前に童貞だけでも卒業させてもらえないでしょうか。

もうどんな方でも良いんで。

人間相手ならなんでも良いんで。

お願いだからそこだけは許してほしいです。マジで。切実に。

同僚の被検体に女の子いるかなぁ……。いたら良いなぁ……。

人間成分が50%以上だったら誘ってみようかなぁ……。

いや、拷問とか嫌だから今すぐ逃げたいんだけどね。

 

……なんでこんなこと考えてるんだっけ。

……あ、うん。そうそう。脳みそいじられてないな。

俺だわ。

正真正銘俺だわ。

まごうことなき純度100%の俺だわ。

 

なら身体のほうか。

こっちは死体になったわけだし、真冬の海に投げ出されてるからな。何かしらいじられていてもおかしくないだろう。

そう思いながら漸くここで自分の身体を確認し始めた。まずは手を確認しよう、と自分の手をみる。

しかし、視力が悪いな……視神経イカれたんだろうか。そう思いながら目の前に自分の手を持ってくる。と、なにかがおかしい。

 

人間の手ではある。

だが、とても小さいかった。

甥っ子姪っ子の生まれたばっかりの、赤ん坊レベルに小さい。

 

新生児か乳幼児、といったところだろうか。なるほど。だから目が悪いのか。確か新生児の視力は0,01位とか言ってたもんな。あの頃の二人もそんぐらいの時は近くまでもの持っていかないと気づかないときあったし……。

いや、でもあの頃はガチの天使だったんだよなぁ~。今も十分に天使レベルで可愛いんだけどね~。

 

よし、現実逃避終了である。

赤ん坊になってるね、俺。

意味わかんないね。マジで。

 

は?どういうこと?よくわかんないんだけど真面目にどういうこと?

身体ぐちゃぐちゃすぎて再編成しちゃった感じ?脳みそよく生き残ってたなおい。でも新しい身体に30歳男性の意識インストールする必要がマジでないよね?脳みそ作るのは難しかったの?そういうやつなの?

でも少なくとも俺が研究者だったら非童貞の意識をインストールする。

 

という訳でチェンジだ!誰かチェンジしてくれ!せめて俺の身体に戻してくれ!!

 

そんな感じで脳にでギャーギャーいってたら遠くの方から足音が聞こえてきた。

複数で、早さ的にちょっと急いでいる風でもある。

これは起きているのが見つかったら面倒くさそうだと思い、目を閉じて狸寝入りを決め込むことにする。

ここで情報収集できると良いんだが。

 

「……が乱……というの……当か」

「は……。今は……て…すが…………な数値で」

 

うん?言葉がわかる。ということはやっぱり日本か。

まさかの日本でこんな黒い実験が行われているだなんて……ショックだ。でも日本なら割りと安心して逃げ出せそうだな。

家族のもとへはすぐには戻れないだろうけど、数年後にはきっと……

 

「殿下は今は落ち着いていらっしゃるようですね……」

「悪い夢でもみられたのでしょうか?」

 

………………でんか?

でんかってなんだ?電荷か?赤ん坊って興奮すると電気でも発生すんの?あ、バイタル?俺医学は詳しくないんだけど電荷とか図るの?心電図?

……もしかして興奮するとマジで発電しちゃうとかじゃないよね!?どういう改造!?なに目的!?いやかっこいいけどそういうのは人間やめてて困るっていうか!困るよね!?やめて取って!!

 

……あ、でも待て。もしかしたら子供たちに「ぴ○ちゅうみたーい♡」とかいってもらえるかも?

それに電気代自分で賄えるのでは……?家計に大助かりか?停電時の非常電源 is 俺とか最高では?

逆潮流や漏電超怖いけど制御学べば人間発電機として生きていけるかもしれない。

……やっぱりこのままで良いです。

 

「戦闘力だけはやはり乱れ続けておりますね」

 

……ん?戦闘力っていったか?

なんかその単語すごく聞き覚えがあるんだが?

 

「今はバイタルも安定しており、異常はないようです。ベジータ王」

 

………………。

…………。

……ん、んー???

え?

 

べじーたおう。

ベジータ王?

ベジータ?

 

おん?それ聞いたことあるな?なんか映画あったし、なんなら俺もみたわ。

へぇーこういう研究室?みたいなところでもそういうのみる人いるんだねぇ。さすがは日本。

戦闘力とかよく意味わかんないけど、隠語?かな?決して俺の知ってるそういうのではないはず。

 

「ふむ、王子は戦闘力制御の才能があるのかもしれんな」

 

どこか聞き覚えのある声だった。どこかって?そりゃあアニメや映画でだ。そしてその声で紡がれる王子、という単語も聞き覚えがありすぎて動悸がめちゃくちゃすごい。液体のなかにいるはずなのに冷や汗もかきそうである。

い、いやまておちつけ。同じ部屋にいる別のやつのことかもしれないし!

 

「おや、陛下のお声を聞かれて少し乱れ始めましたな」

「もしやベジータ王子はもう陛下のお声がお分かりになられるのでしょうか」

「……血の繋がりを感じ取ったのやも知れんな」

 

う、うお~!やっぱり俺のことだ!え?ほんとに?ほんとに俺がベジータ!?

い、いやいやいや!そんなことあるわけない!その証拠に俺には尻尾なんて……!

 

確認しようとして伸ばした手の先に、紐状のなにかが触れたのがわかった。さわられた感覚もしっかりあり、自分の目の前に持ってくると茶色の尻尾がそこにある。

 

俺のけつから、尻尾が、生えている。

 

なんだろう。よく分からない。とりあえず思いっきり力をいれて握ってみたらめちゃくちゃ力が抜ける。え、マジで俺。

 

なんて思っていたら歓声のような声が突如として湧いた。

 

もうサイヤ人の弱点を把握されていらっしゃるとは

流石は歴代サイヤ人王家のなかでも最高の戦闘力を誇られる方だ

これは今後の成長が非常に楽しみでございますねベジータ王

etc,etc…………

 

 

 

ああ、姉さん、辰、雪。俺はもしかしたら、野菜人の王子様になっちゃったかもしれません……。

 

俺は緑しか見えない世界のなかでその声を聞き、泣きそうになりながら自分の尻尾を握りしめていた。

 



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脳内発狂ベイビーは今生の目標を打ち立てます

どうも、おそらくドラゴンボールの野菜人の王子になってしまった一般人です。

 

そんな狂った挨拶あるか?という話だが、そういう感じっぽいからしょうがない。

 

 

実はあの後

寝て起きたら元通りの日常……

を期待して無理やり寝てみたけど、全然全くこれっぽっちも変化がなかった。クソです。

 

実際どのくらい経ったかわからないが、相変わらず視界は緑一色のみ。身動きは取れず、俺のけつからは変わらず尻尾が生えているという何もどうしようもない状況だった。

周囲に誰もいないっぽいのがせめてもの救いだろうか。これでゆっくり現状を考えられる。

 

 

 

とりあえず、俺は一度確実に死んだ。

そして、今、ベジータとして生き返っている。

 

それはわかったけど、それ以外わからないっていうね。

現状確認終了です。

誰か情報くれまじで。

赤ちゃんの前で説明口調で全部話しをしてくれ。

 

それにしても、なにをどう考えても夢としか言い様のない状況にまた頭痛がしてきた。

だって、現実にしては荒唐無稽すぎるし意味がわからなすぎる。

 

そもそも俺はただの日本出身の一般人だ。

仮に死んだとしても日本のどこか……せめて地球上の生物に転生するのが普通じゃないか?

それが何がどう間違えたらサイヤ人の王子様に生まれ変わるんだ?

 

あれか?

本当は死ぬ運命じゃなくてどうこう、とかいう前から流行っている定番の転生もしくは憑依ものみたいなやつ……?

 

 

くっそ、だったら神様的なやつ出てくるべきだろ……ッ

真っ先に謝罪に来いよ!

まちがえてごっめーん☆みたいなさ、そんなフランクなのでもいいからせめて状況説明があってしかるべきだろ!

それに転生得点とかキャラ選択とかあってもよくない?

何でよりによってベジータ?

他にもいるだろうに何でベジータ!?

 

いや、別にベジータのことが嫌いな訳じゃない。

初期及び中期の頃はさておき、あのストイックに力を求めて努力し、修行する姿は同じ男として尊敬するし見習いたい点だとも思っていた。

総合すると割りと好きな部類のキャラだと思う(ちなみに余談だけど一番好きなキャラはピッコロさん)。

 

 

だけど、なるとなったら話は別!

 

 

ベジータの一生を考えてみてほしい。

どこまでが公式なのか正直よくわからないが、生まれたてで従軍してサイバイマンと戦ったり、単独で星の殲滅をしたり、5歳で母星を破壊されて一族郎党皆殺されて最後に残った2人の同族と一緒に辛酸なめさせられまくる上に、その元凶であるフリーザに圧倒的な力で捩じ伏せられて泣きながら死ぬ。とか。

 

 

いや!なん!だけ!ど!!

 

 

地獄だよ!控えめに言わなくても正しい意味での地獄だよ!

地獄ついでに思い出したけどギニュー特戦隊絶対ベジータ虐待してただろ!

リクーム戦の反応見た?あのベジータが怯えるんだよ?

どんなことしたらあのベジータがあんな反応するんだよって虐待しかねえだろ!

 

あーー!5歳で一族郎党ぶっ殺されて民族差別食らって強制労働させられた上に虐待される!!

メディカルマシーンあるから大丈夫でしょ?とかいって半殺しの目に遭うんだ!嫌だ!絶対嫌だ!

 

それにその後も敵は逃がしてパワーアップさせる。ついでにそのパワーアップさせた敵に普通に負ける、原作屈指の美人なブルマと結婚しておきながら後期や超になるまで全然大事にしない。息子は死の間際まで抱っこしない。とかいう無様と鬼畜を晒す役回りときた。

 

嫌だ!そんなことしたくない!

俺は戦闘狂でもドMでもない!

あと家族大事にしたいし子供好きなんだよ!

 

て言うかマジで子供好きだからね、保父さん目指してたレベルだからね?甥っ子姪っ子溺愛してっからね?

そんな俺が実の息子を抱かないとかあると思う?

ないよ!あるわけないよ!

トランクスとか超だっこしたいに決まってんじゃん!

生まれた瞬間から熱烈なハグをかましてやるわ!

おむつ替えるのもミルク作るのもプロ級だっていうのを見せつけてやるわ!

 

あ、でもそれだとブウ編のあの感動シーンがなくなっちゃったりする……?

 

『お前は赤ん坊の頃から一度も抱いてやったことなかったな……。抱かせてくれ』(うろ覚え)

『いやパパ、俺のこと超抱っこしてんじゃん今更なにいってるのさ』

 

とか?

うっわ、トランクスにそれ言われたら『せやな、ごめん、忘れて』って顔真っ赤にしちゃうわ俺。

そんな会話のあとに自爆とかできないしな。恥ずかし過ぎて自殺したんかなとか思われるって絶対。末代までの恥として語り継がれそう。絶対やらねえ……。

 

てかもう普通にやっても色々問題が出てくるキャラだな本当。

やっぱりベジータはベジータじゃないとベジータになれないって。一般人が入っていい枠じゃないって!

俺みたいなクソ雑魚戦闘力民族はなれたとしても一般下級サイヤ人がいいとこでしょ?

よくあるじゃん、『一般サイヤ人になったけど地球に逃れてチート級戦闘力で生き延びます☆』みたいなの。

俺それがいいな!

もしくはベジータの親族にしてくれ!

それでも大分人生の攻略難易度下がるからさぁ!

 

このままだと『貴方の今生はベジータなので難易度はヘルかルナティックかナイトメアから選べます!』

みたいな感じになりそうなんだよ!

なんだそれ人生ガチャ排出率0.1%未満級SSRの地獄か!?

 

そんなん完全平和ボケ時代に生まれた企業戦士に堪えられるわけねえだろ!

殺されかけるよりも前に殴られただけでも泣くからな!

みっともなく泣いてやるからな!覚悟しておけよ!

というかもう今から泣きそう!

おおよそ考えられる地獄のほとんどを体験することになるとか耐えられる?しかもほぼ確とかありえる??俺なんか悪い事した!?

 

 

そこまで脳内でギャンギャン喚いて、一気に疲れが出てしまった。

くてん、と一気に脱力しても謎の液体が俺を受け止めてくれる。

うん、全ッ然嬉しくない。

 

 

あ〜あぁ〜〜

やむちゃがよかった。

おれ、できることならやむちゃがよかった。

 

序盤しっかり強キャラやって、徐々に三枚目コミカルキャラになって最後は戦力にはならないけれどしっかり存在感のある愛されキャラのヤムチャになりたかった。

一時的にだけどブルマとも付き合えるし、プロ野球選手になれるし、やり方間違えなければ相当な勝ち組人生を味わえるじゃんか。

ドラゴンボール一番の勝ち組は絶対ヤムチャだよ間違いないよ。

端から皆の戦闘をみて感動してたい。気を感じて誰と誰が激しい戦闘を繰り広げている……!とか言ってる役がしたい。

 

それがダメならプーアルとかウーロンでも良い。

永遠のマスコットとして映画にもきちんと登場できるけど絶対安全なポジション羨ましすぎる。

ちなみにクリリンは嫌です。だってシリーズでの死亡数最多だからね。

ついでに好きだけどピッコロさんも嫌です。超好きだけど演じきれる自信がないからね。

 

ベジータもだけどね!

 

 

と、さんざん脳内でわめき散らしたが、今後どうやって生きていくのかについて、真面目に考えなければならないと唐突に気づき、思い切り頭を抱えた。

 

なぜか。

答えは単純である。

 

偉大なる原作者様はおっしゃった。

『ベジータは元々単発キャラである』と。

『人気が出たために殺すことができず、最後まで生き残ったのだ』

と。

 

これがどこまで本当なのかはわからないが、この世界にはきっと読者なんていない。原作者もいない。忖度も温情もない。

つまり、

 

 

俺は、何時、何処で死んでも可笑しくない。

 

 

思って、内臓に氷でもぶちこまれたような感覚に襲われるのがわかった。

 

死は怖い。

死は苦しくて、冷たくて、痛くて、ただただ、暗い。

それを魂の奥深くに刻まれてしまった俺は、ただひたすらに死が怖くて仕方なかった。

 

死にたくない。

もう二度と、あんなものを味わいたくはない。

これがもし、仮に本当に質の悪い長い長い夢であったとしても、死なないために、なにもしないわけにはいかない、というのが俺の結論だ。

 

流されるままに生きていたら命がいくつあっても足りない。

原作をなぞるだけだと地獄が待っている。

ならば何かしらの対策を行わなければならないだろう。

それこそ、原作ブレイク待ったなしのことだろうとも。

 

……え?原作に対する愛はないのかだって?

神漫画が糞漫画になったらどうするのかだって?

 

うっっるさいよ!

そんなのは自分の命の安全が確保されたときにはじめて考える事であって、明日をも知れない我が身で考えることじゃあないんだよ!!

 

最優先事項は保身だ!自己防衛だ!!平和と安穏と生存だ!!!

 

でぇじょうぶだ、ドラゴンボールでいきけぇる!

 

とか言われても全然大丈夫じゃないんだよ!それ仲間になってからの特権だし、仲間になる前に死んだら死にっぱなしだし、それに死ぬときの苦痛がなくなる訳じゃないんだから全くもって全然なんにも大丈夫じゃない!

 

 

 

と、いうわけで、だ。俺の人生の目標をここに打ち立てておく。

 

 

占いババやサタンたちに並び、死ななかったキャラリストに乗る……!乗ってみせる!

 

 

以上だ!!



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