古の約束 (書架の山に埋もれる者 -雪華-)
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古の約束
空より、星が降った日。
幾数本の流星たちが、漆黒のキャンパスに赫い線を描く。
幻想のような光景。
誰もが目を奪われた。
心を奪われ立ち尽くした。
そして、いのちを奪われた。
それは永く、一瞬の出来事だった。
栄華を極めていたはずの、大陸でも指折りの緑豊かな大都市。
次の朝日を拝む頃には、その地に色は無かった。
◆◆◆
ざくり、と。
干からびた老骨の楔が、砂の雪原に足跡を刻む。
照りつける灼熱の太陽。皮袋の中の飲水はとうに無く、キリキリと痛む喉は、迅速な休養を訴えかけていた。
遥か天空で、ガブラスの群れが鳴いている。
老骨が背負う、錆びてなお覇気を放つ刃を恐れてか、牙を持つ天使はその瞳を老骨に向けるのみ。
頭上に死神の鎌を携えながらも、老骨は、楔を打ち続けた。
今にも折れそうな老骨に鞭打ち、楔を打つ由は唯ひとつ。
全ては、故郷に残した想い人に逢う為に。
待っていると、言ってくれた。
信じていると、言ってくれた。
愛していると、言ってくれた。
もう一度この手を握り、名を呼んで貰うために。
もう一度あの小さな背を抱き、名を呼ぶために。
もう一度。
もう一度。
もう、一度。
その為に還るのだ。
故郷へ。貴女の元へ。
たとえ、この身が朽ち果てようとも。
◆◆◆
どれ程、楔を打ち続けただろう。
一向に故郷は見えない。
─まさか。
老骨に一抹の懸念が過ぎる。気づけば踵を返し、走り出していた。
そして、辿り着く。
砂に埋もれながらも、道を示すようにその頭角を出す、地下へと続く路を。
躯体が、脳が、魂が震えた。
そして聞いた。
『□□□』
老骨の名を呼ぶ、想い人の声を。
「ーッ」
転げるように路を下った。
心臓が早鐘のように鳴っている。
ああ。アア。嗚呼。
─そこに、いるのか。
「■■■ッ!」
◆◆◆
この建物には見覚えがある。
ここも。ここも。
通りで、いくら捜し求めても見つからなかったわけだ。
何もかも、砂に埋まり覆い隠されていたのだから。
とうに限界を迎えた楔を引き摺りながら、老骨は記憶の地図を頼りに進む。
「■■■」
その角を左に曲がれば。
辿り着く。かつての住処に。
「■■■」
『□□□』
また、聞こえた。間違いない。
「■■■ッ!」
─いるんだな。そこに。
朽ちた扉を楔で穿つと、老骨は奥へと進む。
そして、見た。
壁面に遺された、想い人からの手記を。
「■■■……」
────赫い星が降り注ぎ、一族はこの地を離れた。私も故郷を離れるが、いつか再び貴方に、■■■に逢えると信じているから────
涙が、溢れた。
「■■■、■■■、■■■、■■■、■■■ッ!」
何度も彼女の名前を呼ぶ。
何度も何度も。
何度も。
喉が灼けても。
血を吐こうとも。
声が、掻き切れても。
「■ ■ ■ ッ!!!」
老骨の魂の咆哮は風となって、廃墟を抜けて虚空へ散った。
◆◆◆
To be continued……?
ガブラスの群れが現れるのは、古龍が出現する前触れだそうですね。
恋なんて微塵もしたことないのに、リハビリがてらラブコメを書き始めました。大分拗らせてます。ネタが降りてきたんだから仕方ない。気づけばキーボードを叩いてました。
それではまたどこかでお会いしましょう。
ご覧いただきありがとうございました。
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