《完結》新たなHOPE! -もうひとりの戦士- (灰猫ジジ)
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第一話 Z戦士との別れ

メッセージも込みで、この作品を見たいという希望が一番多かったため、まずはドラゴンボールから掲載していきます。
こちらは短編のため、すぐに完結になると思いますがもしよろしければ少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです。



「ご……悟飯はいるか……?」

「孫くん!」

「悟空!」

 

 心臓病に侵された孫悟空が寝ているベッドの周りにはブルマ、ウーロン、ヤムチャや親友のクリリンをはじめ、彼と関わりがあった者達で溢れていた。

 原因不明の心臓病。この時代には治すための特効薬なども開発されておらず、戦闘民族であるサイヤ人の彼をもってしても抗うことが出来なかった。

 先程まで昏睡状態だったのだが、薄っすらと目を開けたかと思うと、彼の一人息子である孫悟飯──育ての親より名前を貰った──を呼ぶ。

 

「お……おとう……さん……」

 

 悟飯は悲しげな顔をしながら、全員が開けてくれた悟空のベッドまでの道のりを歩いていく。

 自身の枕元まで悟飯が来たのを確認した悟空は、薄っすらと笑いながらほとんど動かすことすら出来なかった腕を上げ、悟飯の頭を撫でる。

 その左手はかつて伝説の超サイヤ人となり、フリーザを倒したとは思えないほど弱々しかった。

 

「す、すまねぇな……オラはもうダメみたいだ……」

「う……うぅ……」

 

 悟空の言葉に、悟飯は涙を溢れさせて声を出すことが出来なくなっていた。

 

「悟飯……手を……」

「お父さん……?」

 

 悟空は悟飯に手を出すように伝える。不思議に思いながらも悟飯は左手を差し出す。

 その悟飯の手を先程まで頭を撫でていた左手で弱々しく握りしめる。

 

「バトン……タッチだ……」

「バトン、タッチ……?」

 

 悟飯は、悟空の言っている意味が分からず──言葉の意味はわかっているのだが──その言葉を繰り返す。

 

「これからの……地球のみ、未来は……お、おめえ達が守るんだ……チチをたのん──」

 

 言葉を言い終えることなく、悟空の目が閉じられていく。それは、彼の最後を確信させるのには十分であった。

 

「……! おとうさ……!」

「ご……悟空ーーーーッ!!」

「悟空さーーッ!!」

 

 悟飯、クリリン、チチ。それだけではない。そこにいる全員が悟空の死に対して、涙を流していた。その最後を見るだけで、彼がどれだけ周りから愛されていたのかが分かった。

 しかし、そこで悟飯にしか分からない不可思議なことが起こる。悟空から悟飯へ光のようなものが移っていくのだ。それはまるで彼の魂が悟飯に注がれていくように。

 

「こ、これ……は……?」

 

 悟飯は戸惑いを見せる。そして、光が悟飯へと移り終えると悟空の手から力が抜けていき、悟飯の手から零れ落ちていくのであった。

 

「お……とうさん……?」

 

 全員が悟空の死に泣いている中、悟飯だけは上を向いて悟空へ何かを問いかけていた。

 そしてその場にいないのが二人。彼らは家の外で腕を組みながら立っていたが、家の中から聞こえる声で悟空が亡くなったことに気付く。

 

「ちっ……カカロットめ……」

 

 舌打ちをしたあと、宙に浮かび上がり飛び去っていく逆立(さかだ)った黒髪の青年。悟空のライバルの一人であったサイヤ人の王子ベジータ。

 ベジータが飛び去った様子を見届けた後、無言でベジータとは逆方向へと飛び去ったナメック星人。彼もまた悟空とはライバルであり、息子の悟飯の師匠であった。最強のナメック星人であるピッコロ。彼の胸中がどうだったのか、それは誰にも分からなかった。

 

 

 

     ◇

 

 

 

 悟空の死から三年後のエイジ767の五月十二日。この日は人類にとって決して忘れられない日となった。

 年若い二人の男女が出現。容姿が似た男女の人造人間は残虐非道であり、現れた場所で次々と人間を殺し回っていた。

 ときにはゲームと称して、ときにはただの憂さ晴らしとして。いきなり現れた相手に対し、地球人は悪魔が降臨したと絶望した。

 

「なんだ。やはり人間は本当に脆いな」

「孫悟空ももういないみたいだし、なんか拍子抜けだね」

 

 その男女は、生み出された本来の目的である〝孫悟空の抹殺〟が成し遂げられる前に孫悟空本人が心臓病で他界してしまったため、目的を見失っていた。だからこそ暇つぶしも兼ねて人間を殺し回っていたのだった。

 しかし、それをいつまでも彼らが許すはずがなかった。孫悟空から未来を託された地球の戦士達が、暴れまわる人造人間達の元に辿り着く。

 ベジータ、ピッコロ、天津飯、クリリン、ヤムチャ、チャオズ、そして悟飯。

 

「地球人を殺したくらいで、いつまでいい気になっているつもりだ?」

 

 男女の前に降り立ったベジータ達。しかし、彼らは二人に対して違和感を覚えていた。

 気がまったく感じられないのだ。普段から気を探ることで戦闘に活かしていた彼らにとっては、戸惑いしかなかった。

 

「貴様ら……何者だ? なぜ気を感じられない?」

 

 ベジータが疑問をぶつける。男はベジータを一瞥すると、微かに笑う。

 

「ベジータか。それはそうだろう。俺達は〝人造人間〟なんだからな」

「人造人間だと!?」

 

 男の回答を聞いたZ戦士達は驚きの声を上げる。そしてヤムチャが青年の左胸に描かれたマークを見て思い出したかのように叫ぶ。

 

「あのマークは……レッドリボン軍!」

「ほう、よく分かったな。俺達はレッドリボン軍の科学者であるドクター・ゲロによって作られたんだ。俺の名前は人造人間19号。こっちは20号だ」

 

 ヤムチャの言葉に19号は感心したような顔をして、自ら名乗る。

 

「な、なんの目的でこんなことをしているんだ!」

 

 クリリンが19号達に問いかける。

 

「目的……そうだな。元々は孫悟空を殺すために生み出されたんだがな。奴がいない今、やることがなくてな。暇潰しに人間を殺していたってわけだ」

「孫……の抹殺だと!?」

 

 ピッコロが驚きの声を上げる。三年前に他界した孫悟空の名前がここで出てくるとは思っていなかったため、それも仕方がない。

 Z戦士達が警戒する中、ベジータだけが前へと歩みだす。

 

「ふん……カカロットがどうだっていうんだ! あんなヤツがいようがいまいが、最強はこの俺だ!」

 

 ベジータが19号達を威圧するように叫ぶが、19号達は特に気にした様子もないような表情をしていた。

 

「あいつ……うざいね。殺しちゃってもいい?」

「……まぁ好きにしろ。雑魚だが、どうせいずれは殺すんだ」

 

 

 20号が19号にベジータを殺してもいいか聞き、19号はそれを了承する。そして20号が頭をかき上げながら、ベジータの前にゆっくりと歩いてくる。

 

「言っておくが、俺は女だからといって手加減はせんぞ? ……といっても人造人間だ。女じゃないか……」

「……いいからかかってきなよ」

「……舐めるなぁぁ!!」

 

 20号は面倒くさそうにベジータに返答をする。その態度が気に食わなかったのか、ベジータが20号へと飛び掛かるが──。

 

「な……!」

「ベジータ!!」

 

 それは一瞬だった。気が付くと、ベジータは倒れ、20号がベジータの頭を踏んでいた。

 

「こ、これはなんてことだ……」

 

 ピッコロがようやく相手の強さに気付く。彼だけが見えていたのだ。

 ベジータが突撃したとき、その攻撃は当たることなく20号に避けられ、腹を殴られたあと顎を蹴り飛ばされる。上空に上げられたベジータを回り込んで叩き落とし、降りてくるときにベジータの顔を踏んで今の状態となった。

 

「お、俺達では……か、勝てない……」

 

 ピッコロは戦う前に心が折れかけていた。あまりの戦闘力の差に絶望していたのだ。

 

「あ、あいつらどれだけ強いんだよ……」

 

 クリリンやヤムチャ、チャオズも恐怖の顔に染まり、天津飯も最大級の警戒をしていた。

 20号がベジータを蹴り、ピッコロ達の方へ転がす。

 

「もう終わりなの?」

「やっぱり孫悟空以外は雑魚だったか」

 

 その言葉に反応したベジータが、痛みに耐えながらもゆっくりと立ち上がる。その姿を見て19号が感心したような顔をする。

 

「ほう。まだ立ち上がるのか?」

「う……うるさい! き、貴様ら木偶人形なんぞに負けてたまるか!」

 

 ベジータは怒っていたが、さすがの戦闘民族ということもあり、我を忘れていなかった。

 

「……続きやんの?」

「当たり前だぁぁぁ!!」

「俺達も行くぞ!!」

 

 ベジータが再度突撃したのと同時に、ピッコロの号令で全員が攻撃を開始する。

 一対一での戦いでは絶対に勝てない──そう確信したピッコロの考えは間違っていなかった。唯一間違っていたのは、()()()()()()()()()()()ということだった。

 そこからは悲惨であった。いや、惨劇といった言葉のほうが正しいであろう。20号ただ一人に対し、一人、また一人と倒れていく。最初に倒されたのはピッコロだった。

 

「悟飯ッ!!」

 

 20号の特大の気功波を避けられないまま硬直した悟飯を庇う。背中で受けきったその攻撃は、もはや致命傷であった。

 

「ピ、ピッコロさん!!」

「……無事だった、か……ご、ごは……」

 

 そのまま倒れ、目覚めることはなかった。次にベジータ、天津飯と倒れていき、チャオズは過去にナッパに放った自爆をするも、ダメージを与えられなかった。

 クリリンとヤムチャは敵わないと分かりながらも、目を合わせると頷く。

 

「悟飯……お前だけは生きてくれ……」

「え……かはっ……」

 

 ベジータ達と戦っている隙に、悟飯の首の裏に手刀は放ち気絶させる。

 

「ヤムチャさん……俺、めちゃくちゃ怖いですよ……」

「俺もだ、クリリン……でも、今の俺達に出来ることをやるしかない!」

 

 そう言うと、クリリンとヤムチャは覚悟を決めて20号へと突撃していく。これが自身の最後だと分かりながらも。

 




この作品は未来悟飯に少しでも幸せになってほしいという気持ちから作りました。
原作と描写が違うところもあると思いますが、そこは独自に書いているところだと思ってください。

※解説
原作の17号、18号は未来では19号、20号となっています。
17号→19号(男性)
18号→20号(女性)

この話を読んでいて少し混乱するかもしれませんので、先にお伝えしておきます。
よろしくお願いします。

※次話は5分後に投稿します。


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第二話 喪失と覚醒……そして喪失

二話目です。
良ければご覧くださいませ。



「服が少し汚れたわ」

 

 20号が服に付いた埃を払いながら、冷たい口調で19号に愚痴を言う。

 

「お前がやりたいと言ったんだぞ……ところで()()の奴はどうするんだ?」

 

 19号は気絶している悟飯を見る。クリリンは気付かれないようにしていたつもりだったのだが、19号達には気付かれてしまっていた。

 

「ふん……あんな子供なんてどうでも良いよ。それよりもシャワー浴びにいこうよ」

「それもそうだな」

 

 19号達は宙に浮かび上がり、その場から飛び去っていく。その場には瓦礫の山とZ戦士達の無残な姿だけが取り残されていたのだった。

 そのことに悟飯が気付いたのは、19号達が飛び去ってから数時間後。日没間近の時間帯であった。

 

「ん……あれ……ぼ、僕は……」

 

 目をゆっくりと開けた悟飯。寝ぼけ(まなこ)をこすりながら起きた彼は、目の前の光景を見て全てを思い出し、全てを察した。

 

「あ……あ……」

 

 目に見える一番近くにはクリリンとヤムチャが倒れていた。その先に天津飯、そしてベジータも。

 その光景が信じられず後ろに座りながら後ろに下がろうとすると、何かを掴んだ。それは冷たくなっていたが、今まで何度も触ったことがあるものであった。

 

「あ……ピ……ピッコロ、さん……」

 

 自分を庇って倒れたピッコロの腕を掴んでいた悟飯。己の師として、いつも厳しくも暖かく見守ってくれた人物。第二の父と呼んでもおかしくないほど懐いていた彼に、悟飯は()()()()()()()のであった。

 

「ピッコロさん……クリリンさん……みんな、みんな……」

 

 そこで思い出す。それはドラゴンボールの存在だった。しかし、ピッコロが死んだ今、ドラゴンボールも永遠に戻ってこないことに気付き、そして全てを失った。

 

「う……う……うわあああああ!!」

 

 ピッコロを抱え、泣き叫ぶ悟飯。三年前、死に際の悟空から伝えられた言葉が脳裏によぎる。

 

(ぼ……僕には大切な人を守る力すらないのか……)

 

 自身の無力を嘆く悟飯。何よりも許せないのは、父の最後の言葉を守れない自分自身。

その日、その場には後悔を抱いたままの悟飯ただ一人が残されていたのだった。

 

 

 

     ◇

 

 

 

「はぁぁぁぁぁ!!」

 

 紫色の髪をした少年が、悟飯へと突撃していく。悟飯は、その少年が繰り出す攻撃を紙一重で全て躱す。何十発と打ち合ったあと、これでは勝てないと判断した少年が距離を取り、両手を広げて額に置き、気を集中させる。

 

「む……あれは……!」

「くらえ! 魔閃光ーーッ!!」

 

 前に突き出した両手から、凄まじい威力の光線が悟飯へと向かっていく。その攻撃を悟飯は避けずに待ち構えた。

 

「はぁぁぁぁ……」

 

 悟飯が全身に力を込めて、気を練り上げる。その纏っている気は徐々に変質し、黄金色に染まっていく。

 

「ずりゃああああ!!」

 

 魔閃光が当たる直前、練り上げた気を一気に爆発させた悟飯。舞い上がった土煙が晴れたとき、そこには気の性質と同じ髪色になった金色(こんじき)の戦士が立っていた。

 

「はぁ……はぁ……うう……」

 

 少年は力の限りの魔閃光を使ったせいで体力を消耗しており、片膝をついて座り込んでしまう。

 その姿を見た悟飯は元の姿に戻り、ゆっくりと少年の元へと歩いていった。

 

「さ……さすがですね……ご、悟飯さんにはまだまだ勝てそうにないです……」

「いやぁ、お前も随分強くなったさ、トランクス。まさか俺が超サイヤ人にさせられてしまうとはな」

 

 ピッコロ達を失ってから十二年後のエイジ779。悟飯は、ベジータの遺児であるトランクスと修行をしていた。悟飯は髪を短くし、山吹色の道着に身を纏っていた。

 この十二年の間に悟飯は超サイヤ人となることが出来ていた。

 

「それでも……僕はもっともっと強くならなきゃ……」

 

 十三歳になったトランクスは焦っていた。超サイヤ人になることは出来ていたのだが、自身と悟飯の力の差をどうしても感じてしまっていたのだった。

 なぜなら自身が全力で戦ってもまだ悟飯は超サイヤ人にならない状態でほぼ互角であったからだ。

 

「そんなに焦る必要はないさ。お前は本当に強くなっている」

「で、でも! 僕がもっと強くなれれば、悟飯さんの足を引っ張ることもないのに……!」

 

 焦る必要はないと(なだ)める悟飯に、トランクスは早く悟飯の役に立ちたいという気持ちをぶつける。その気持ちが嬉しかったのか、悟飯は笑みを浮かべてトランクスの頭を撫でていた。

 

(トランクスは確実に強くなっている……それよりも不味いのは……俺の方か……)

 

 決して表には出していなかったが、トランクス以上に焦りを感じていたのは悟飯だった。初めて超サイヤ人になってから約十年。初めは急激に強くなった気をコントロールしたり、自由に超サイヤ人になる訓練をするために試行錯誤を重ねていたお陰もあり、戦闘力は日増しに上がっている実感があった。

 しかし、直近の二、三年ほどは戦闘力の上がり方が明らかに鈍化しており、自身に限界を感じてしまっていた。

 それでもいつか人造人間を倒してみせるという意気込みのみで、ここまで修行を重ねていたのだった。

 

「それじゃあこれからも厳しい修行を積んでいこ──」

 

 トランクスに慰めの言葉を掛けようとしたとき、悟飯は遠くで小さな気が大量に失われていくのを感じた。

 

「こ、これは……悟飯さん!」

「……ああ。人造人間(やつら)だ」

 

 悟飯は人造人間が襲っているであろう街の方角を睨みつける。彼らは以前から明らかに楽しんで人殺しを行っていたため、悟飯としても許しがたいことであった。

 

「とりあえず俺が行ってくる。トランクスはここで待っていてくれ」

「で、でも! 僕だって強くなりました! 奴らを倒すことは出来なくても、足止めくらいは──」

 

 トランクスが一緒に行きたいと言い出したが、悟飯は黙って首を横に振った。

 

「今はまだダメだ。今のままのトランクスでは奴らの足止めすら出来ない」

「ご……悟飯さん……」

「なに、俺だってやばくなりそうだったら逃げるさ。……今地球上には俺とトランクス(お前)しか、戦士はいないんだからな」

 

 そう言うと、悟飯は舞空術で宙に浮き、常人には目にも見えないスピードで飛んでいくのであった。

 

「ご、悟飯さん……ぼ、僕は……」

 

 トランクスはただその場で立ち尽くすしか出来ないのであった。

 

 

 

     ◇

 

 

 

「あはははははっ! さっさと逃げなよ!」

「そうだ。十秒だけ時間をやろう。それで逃げられるだけ逃げてみろ」

 

 19号の言葉に市民が一斉に駆け出す。彼は薄く笑いながら、壊滅した街を逃げ惑う市民の姿を眺めているのであった。

 

「三、二、一……ゲームオーバーだ」

 

 カウントが終わったところで、19号が気功波を大量に打ち出す。それは寸分の狂いもなく、逃げ惑う市民に当たろうとしていたのだが。

 

「させるかぁぁぁ!!」

 

 上空から同じ量の気功波が打ち込まれ、全てかき消されたのであった。

 

「誰だ……?」

 

 19号は自身の楽しみを邪魔されたことに対して、不機嫌そうな声を出しながら上空を見上げる。そこには超サイヤ人となった孫悟飯が宙に浮きながら立っていた。

 

「またお前か……」

「お前達、今度こそ許さないぞ!」

 

 呆れた声を出す19号の前に降り立った悟飯は、いつ戦いが起きても大丈夫なように構えていた。

 

「多少強くなったところで、意味はないだろう。お前ほど無駄な努力が似合うやつも珍しいもんだな」

「ねぇ。こいつ、もう()っちゃっていいだろ? いい加減、面倒臭くなってきちゃった」

 

 20号はイライラした様子で19号に話しかける。

 

「ふむ……俺としてはまだまだ楽しみたいのだがな。20号が一人でやるのなら止めはしないさ」

 

 止めても無駄だと分かっている19号は、諦めたように後ろへ下がると、瓦礫の一つに腰をかける。20号は髪をかき上げると、悟飯に向かって構える。

 

「さぁ、掛かってきな」

 

 数瞬の後、二人の姿が消える。否、彼らは目に見えないほどの高速移動をしているのだった。上空で数回激しくぶつかる音が聞こえ、隙を突いた悟飯が20号の顔を殴る。

 

「ッ!! 良くもやったわね!」

 

 20号もお返しとばかりに悟飯に肘打ちを喰らわせ、仰け反ったところを踵落としで叩き落とす。大きな衝撃とともに悟飯は地面にぶつかるが、すぐに立ち上がる。

 

「へぇ……少しはやるようになったじゃないか。20号と互角に戦えるなんてな」

「うるさい! 今のはまだ本気でやっちゃいないんだよ!」

 

 感心したような19号の声に、20号は怒りが混じった声で反論する。19号は肩をすくめて軽く笑うと、勝負の続きを見守ることにした、

 

(く……あんなに修行したのに、まだ力が足りないというのか……)

 

 悟飯は自身の力不足を痛感していた。20号はまだ手加減をしていたが、悟飯は全力で戦っていたからだ。

 このままでは負ける。そう思った悟飯は、気を探って周りの人間が逃げたのことを確認するが──

 

(あ! ()()()に気配が……!)

 

「……何をしているのか知らないけど、逃さないよ?」

 

 不意に背後から20号の声が聞こえたと思うと、背中を思い切り蹴られて吹き飛ぶ悟飯。その飛んでいく悟飯目掛けて、20号は気功波を打ち込んでいく。

 

「はぁぁぁぁ────」

「やめろぉぉぉぉぉ!!!!」

 

 悟飯に気功波を打ち込む20号に向かって蹴りが放たれ、20号はその勢いのまま吹き飛んでいく。

 

「……ほう?」

「ト……トランクス!?」

 

 そこに現れたのは、超サイヤ人に変身したトランクスであった。悟飯に残れと言われたトランクスはその場で立ち尽くしていたのだが、悟飯との修行で得た力で自分にも何かできることがあるはずだと思い、悟飯を追いかけてきていたのだった。

 19号は不意打ちとはいえ、悟飯以外に20号を蹴り飛ばせる存在がいたことに微かな驚きを見せる。

 

「…………」

 

 吹き飛ばされた20号が起き上がり、無言で服についた埃をはたく。

 ダメージを一切受けていないことが分かったトランクスは身構えるが、そんなことは気にする素振りを見せない20号はトランクスの方へゆっくりと歩いていく。

 悟飯はトランクスの方へと助けに行こうとするが、20号から放たれた気功波のダメージですぐに動くことが出来なかった。

 

「…………」

「はぁぁぁ!!」

 

 トランクスは目の前まで近付いてきた20号に殴りかかるが、彼女は避ける素振りもせずに受ける。

 そこからトランクスは連続攻撃をする。しかし、20号は一切動くことはなかった。

 

「ガキが……良い気になるんじゃないよ!」

 

 20号はトランクスの顔面を殴ると、左側面蹴りを顔に放つ。トランクスはその勢いで崩れた瓦礫に突っ込む。

 土煙が晴れる前にトランクスがその中から出て20号に突っ込んでいく。

 トランクスの攻撃は20号に当たるが一切のダメージはなく、トランクスが攻撃をされて吹き飛ぶという事が繰り返される。

 

「ぐっ……が、あああ……」

 

 何度目かの同じやり取りのあと、ダメージが蓄積されたトランクスの動きが鈍り、立ち上がることが出来なくなっていた。

 しかし20号がそれで手を緩めることはなく、座ったまま起き上がれないトランクスの髪の毛を掴んで持ち上げる。

 超サイヤ人の変身は解けてしまっていた。

 

「20号、あんまり弱い者いじめをするもんじゃないぞ」

「19号。あんたにだけは言われたくないよ」

 

 笑いながらからかうように話す19号に、不意打ちとはいえ子供に吹き飛ばされたことに不機嫌さを隠さない20号。

 髪の毛掴み持ち上げられたトランクスは、20号との身長差もあり宙に浮いていた。

 20号は右手をトランクスのお腹に当て、気を溜めていく。

 

(く……そ……)

 

 やられる──そう思ったトランクスは目を瞑る。悟飯を助けに来たのに、結局何も出来ずに20号に負けてしまった。

 悔しさで涙が溢れそうになっていた。

 強い衝撃を感じ、自身が20号の気功波でやられてしまったと思ったトランクスであったが、抱えられた感覚を不思議に思い、目を開けると目の前には兄とも呼べる存在の顔があった。

 

「悟飯……さん……」

「トランクス、大丈夫か?」

 

 悟飯はトランクスにとどめを刺そうとしていた20号を蹴り飛ばし、トランクスを救出していた。

 しかし自分の攻撃が20号に効いているとは思っていなかった。

 

(ここまで差があるとは……このままではダメだ……なんとか逃げないと……)

 

 悟飯は今のままでは決して勝てないと理解して逃げようと隙を伺うが、果たして()()を連れて逃げられるのかと思っていた。

 だが20号が吹き飛ばされて、19号が油断している今しかチャンスは無かった。

 悟飯はトランクスに小さな声で「目を瞑っておけ」と呟く。

 

「孫悟飯────ッ!」

 

 20号が何度も吹き飛ばされ、お気に入りの服をボロボロにされたことを怒っていた。

 19号はその様子を面白そうに見ていた。()()()()()()()()()()──そう思った悟飯はこの最後のチャンスを逃さないように、孫悟空含めてかつてのZ戦士が愛用していたあの技を放つ。

 

「今だ!! ────()()()!!」

 

 悟飯は全身からまばゆい光を放つ。太陽拳とは天津飯が編み出した新鶴仙流の技で、気を放って相手の目をくらませる技である。

 サングラスがあれば防げるような光量なのだが、使いようによっては格上にも通用する。

 油断をしていた19号と20号から逃げるのには最適な技であった。

 

「なっ!」

「くっ!?」

 

 19号と20号は光を直接目に受けてしまい、視界が光で覆われてしまう。

 そして、光が無くなり、二人の視界が戻ったときには誰もいなくなっていたのであった。

 

「……逃げたのか?」

 

 19号は20号に問いかける。

 

「分かんないよ。けど、()()()()()()()()()()ことにするよ」

 

 20号はゆっくりと浮き上がっていき、地上へ右手を向ける。そして、気を集中させると、特大のエネルギー弾を放つのであった。その威力で辺り一帯が吹き飛ぶ。

 

「あらら。こりゃあもう生きていないかもな」

「……ふん。もう行くよ」

 

 19号と20号は悟飯の生死をきちんと確かめることもせず、飛び去っていく。

 そして、吹き飛ばされた周辺のある場所には血塗れで倒れていた孫悟飯の姿があった。

 

「く……くそ……」

 

 まさか20号が辺り一帯を吹き飛ばすとは思っていなかったため、隠れて気を消してやり過ごそうとしていた。

 しかし思っていた以上の威力の気功波が飛んできたため、悟飯は()()を守るので精一杯になってしまった。

 

「せ……仙豆を……」

 

 道着の帯に入れてあった袋をなんとか右手で取り出して、仙豆をその中から取り出す。

 地面に落ちた仙豆は()()()()だった。

 悟飯は一瞬戸惑いを見せたが、すぐにそれをトランクスと事前に助けていた黒髪の女の子に食べさせる。

 二人が飲み込んだのを確認した悟飯は安心した表情をして、気を失うのであった。

 




次話は5分後に投稿します。


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第三話 最後の戦士

第三話です。
良ければご覧くださいませ。



「…………ん、ここは……!」

 

 悟飯が目を覚ますと、そこは見覚えのある場所であった。

 徐々に覚醒をし、気を失う前に何があったのかを思い出す。

 

(19号と20号との戦いで逃げ遅れた女の子とトランクスを助けようとして……はっ! 二人は……!?)

 

 起き上がろうとするも身体が思うように動かない悟飯。しかし、気配を感じて横を見ると、そこに悟飯が助けた黒髪の女の子が寝ていて安心する。

 

(よ……よかった……)

 

 悟飯は身を挺して守った女の子が無事でいたことに心の底からホッとしていた。

 

「悟飯さん!! 目を覚ましたんですね!」

 

 悟飯と女の子が寝ている部屋に入ってきたのはトランクスだった。

 トランクスは悟飯に仙豆を食べさせて貰ったあと、比較的すぐに目を覚ます。

 女の子と一緒に倒れていた悟飯を見つけたトランクスはすぐに二人を自宅へと運び、ブルマと一緒に手当をしたのであった。

 

「トランクス……お前が運んでくれたのか……?」

「悟飯さん……勝手なことをして……ごめんなさい……」

 

 トランクスは俯きながら悟飯に謝罪をする。

 

「いいさ。むしろお前が来てくれていなかったら、俺やあの子は助からなかったかもしれない……」

「でも……でも……僕が未熟なせいで悟飯さんの…………腕……が……」

 

 トランクスは自身の無力さを嘆き、目に涙を浮かべていた。

 悟飯も二人に仙豆を食べさせた時に気付いていた。()()()()()()()()()()ということに。

 

「……気にするな。全員生き延びることが出来たことの方が大切さ」

 

 悟飯はゆっくりとトランクスの頭に手を伸ばして撫でていた。

 その手の力強さと暖かさに記憶にない父を感じていた。トランクスはまだ十三歳の少年だ。父の愛情を知らない彼は、悟飯にその感情を求めても仕方がない。

 

「悟飯さん……僕は……僕は……」

「う、う〜ん……」

 

 トランクスが涙を溢れさせていたとき、悟飯の隣のベッドで女の子が目を覚ました。

 彼はすぐに涙を拭うと、少女の方へ目をやる。

 

「え……え……? ここ……は……?」

「あ、目を覚ましたんだね! ここは俺の家だよ。君の街は人造人間に……」

「────ッ!」

 

 起きた時に知らない天井を見た少女はどこにいるのかと呟く。

 トランクスはすぐに少女の隣に行き状況を説明しようとするが、少女が思い出したのか辛い顔をしたため言葉を止める。

 

「あ……っと、その……ごめん……」

「…………ううん、大丈夫」

「あ、僕の名前はトランクス」

「私は……マイよ」

 

 マイは動揺していたが、すぐに落ち着いた表情を見せる。年齢でいえば見た目的にもトランクスと同じくらいのはずだが、落ち着くまでの早さは明らかに彼と同年代とは思えないほどであった。

 

「あの……私と一緒にいた顔色が悪い少年と犬の獣人はいませんでしたか……?」

「い……いや……俺が見たのは……君……だけだったよ」

 

 マイは自分と一緒にいた者達の行方を聞くが、途中で来たトランクスには分からず、悟飯も逃げ遅れていたのはマイだけだったと伝える。

 その言葉を聞いたマイは「そう……ですか……」とだけ呟き、疲れていたのかまた寝てしまった。

 

「あら悟飯君、目を覚ましたの?」

 

 部屋のドアから顔を出したのはトランクスの母親のブルマ。彼女は悟空と出会った後からずっとヤムチャと付き合っていたのだが、彼の浮気癖に嫌気が差し、ナメック星から戻って来た後にベジータと結婚することになる。

 トランクスはベジータとの子供であり、サイヤ人の血を引くトランクスがベジータの二の舞になることを不安に思っていた。

 

「ブルマさん……手当していただいて、ありがとうございます……」

「いいのよ。元気になるまでうちにいなさい……チチさんには内緒にしておくから」

「……ありがとうございます」

「大丈夫よ……トランクスを助けてくれてありがとね」

 

 ブルマはそのまま部屋を去っていく。

 悟飯はピッコロ達を失ったあの日、一度チチのもとへ報告に戻った後から帰っていない。

 チチ本人にも「もう戻らない」と伝え、泣き崩れるチチを背に飛び去っていた。

 

 すくなくとも19号と20号を倒すまでは家に帰ることはないだろう。そう思いながら十数年の月日が流れてしまっていた。

 当時の悟飯はそれほどまでに追い詰められており、仇を取ることしか考えていなかった。

 

「トランクス、今回は完敗だったなぁ」

「悟飯さん……」

 

 トランクスに気を遣わせないように笑いながら呟く悟飯。

 

()()。次こそ負けないように修行するぞ! ……一緒にな」

「……は、はいっ!!」

 

 トランクスは嬉しそうな顔をして両手を握りしめるのであった。

 

 

 

     ◇

 

 

 

 悟飯がマイを助けてから一年半のときが経ったエイジ780。二十三歳になった悟飯と十四歳になったトランクスは変わらず修行を重ねていた。

 助けられた黒髪の少女マイはそのままトランクスの家に居候するようになり、家事などの手伝いをするようになっていた。

 この一年半で変わったことは、トランクスが戦うことに反対していたブルマが渋々認めるようになったことと、悟飯が片腕でもある程度戦えるようになったことである。

 

 ブルマが反対していた頃は内緒で修行をしていた──彼女にはバレバレだったが──のだが、公認を貰ってからは堂々と修行が出来るため、修行効率も良くなっていた。

 

(この一年半でトランクスは随分強くなったな。あと数ヶ月もすれば追い抜かれてしまいそうだ。……しかし……やはり俺は……)

 

 トランクスはこの一年半でかなり強くなっていた。

 あと数ヶ月で追いつかれ、数年もすれば自分などには遠く及ばない存在になるかもしれないとまで感じていたのだった。

 

「なぁトランク──」

 

 いつもの岩山で修行していた悟飯がトランクスに話しかけようとしたとき、トランクスの住んでいた西の都に大きな爆発音が鳴る。

 異変に気付いた二人は驚いて立ち上がる。

 

「な……! ま、まさか……!」

「じ、人造人間め……とうとうこの街まで……!」

 

 人造人間が西の都を衝撃していたのであった。

 悟飯はこの一年半で出来ることをやってはいたが、片腕を失ったことと、そしてやはり修行をつけてくれる存在がいないことが大きな原因となり、実力がほとんど伸びていなかった。

 

(だが……だが……! 今度こそ!!)

 

「はああぁぁああ!!」

 

 悟飯は超サイヤ人へと変化する。トランクスは悟飯が人造人間と戦う気であると理解する。

 

「悟飯さん……その身体じゃ──」

「トランクス! 君はここにいるんだ! いいな?」

 

 トランクスの悟飯のことを心配した言葉を遮り、この場に残るように指示する。

 しかしトランクスはその指示を聞こうとしなかった。

 

「嫌だ! 悟飯さんが行くなら僕も行く! もう随分強くなったはずだ!!」

「トランクス! 人造人間の力を甘く見るな!!」

「もう足手まといにはなりません! 僕、悟飯さんと一緒に戦いたいんです!」

 

 強めにトランクスに言う悟飯の言葉に抵抗するトランクス。

 一年半前に悟飯が腕を失うことになったきっかけになった彼は、どうしても強くなった自分の力で悟飯を手助けしたかったのだった。

 トランクスを厳しい目で睨みつける悟飯。しかし、トランクスも怯むことなく睨み返す。少しの間睨み合っていた二人だったが、根負けした悟飯が「そうか」と言って穏やかな顔へと戻る。

 

「……分かった。トランクス、行くか」

「──! は、はいっ!」

 

 悟飯についに認めてもらった。そう思ったトランクスは拳を握りしめて嬉しそうな顔をする。

 そして二人は西の都のある方向へと向く。

 

「相手は前回完膚なきまでにやられた人造人間だ……絶対に油断するなよ」

「はいっ──」

 

 悟飯は返事をしたトランクスの首に後ろから手刀を放ち気絶させる。

 前のめりに倒れていくトランクスの服を掴むと、ゆっくりと地面へと寝かせてやる。

 そして気絶したトランクスのことを穏やかな目で見るのであった。

 

(トランクス、君は最後の希望だ。もし君まで死んでしまったら、地球を守る戦士は誰もいなくなってしまう。何年か先、あの人造人間を倒す可能性を持った最後の戦士が……!)

 

 悟飯はこの戦いで死ぬ可能性が高いと分かっていた。だからこそこの戦いにまだ未熟なトランクスを巻き込むわけにはいかなかった。

 いずれ自分を超えたトランクスが人造人間を倒してくれるであろうことを信じていた。

 自身が犠牲になる。そのことで時間を稼ぐことが出来るため、西の都の人間を少しでも救うことが出来る。そうして救った先に新たな希望が来るのを望んでいる悟飯であった。

 

 

 

     ◇

 

 

 

「あはははははっ! 逃げろ逃げろ逃げろ!」

「さっさと逃げないと死んじゃうよー?」

 

 人造人間19号と 20号は他の都市と同じく人間を虫けらのようにして殺し回っていた。

 その姿はまるでおもちゃで遊ぶ子供のようであった。

 

「やめろぉぉぉ!!」

 

 悟飯は逃げ惑う市民と二人の前に降り立つ。攻撃を止めて悟飯の方を向く二人。その行為だけで市民が逃げる時間を稼ぐことが出来ていた。

 

「孫……悟飯か……まだ生きていたとはな」

「あれから修行も積んだ。もうお前達には負けないぞ!」

 

 悟飯の言葉はハッタリだった。あれだけの重症を負い、片腕を失っている。一年半という歳月では治療と片腕でなんとか戦うことが出来るようになったレベルでしかなかった。

 しかし人造人間達には気に入らない言葉だったようであった。

 

「もう……いい加減にしなよ」

「そうだな。いい加減お前とやり合うのも飽きてきたな」

 

 20号はゆっくりと浮かび上がると、悟飯の背後に降り立つ。

 

「……今度こそ逃しはしないよ。こちらもフルパワーを出して殺す」

 

 前後に囲まれた悟飯。悟飯は身構えながら二人の様子を伺っていた。

 19号がゆっくりと前に歩いてくる。

 

「お前は今日で死ぬんだ」

「……俺は死なない! 例えこの肉体は滅んでも……俺の意志を継ぐ者が必ず立ち上がり……そして、お前達人造人間を必ず倒してみせる!!」

 

 悟飯の言葉を合図に19号と20号が一斉に襲いかかってくる。

 その連携を見抜いた悟飯は気功波を地面に放ち、土煙に紛れて空に逃げる。

 人造人間達は一瞬だけ悟飯を見失うが、すぐに上空へと追っていく。

 

 上空で19号と20号に挟まれる悟飯。二人は連携して両手から気功波を悟飯へと放つ。

 悟飯は咄嗟に気の膜でバリアを張り、気功波を防ぐがその隙をついて20号が突撃してくる。

 20号の攻撃を片手で防ぎ、反撃をしようとしたところで背後から19号に裏拳を喰らい、怯んだところを20号に殴られて地面へと落ちていく。

 瓦礫に埋まる悟飯。痛みで一瞬だけ動きが固まるが、人造人間達が追撃してくるのが分かり、起き上がって距離を取る。

 

「はあぁぁああ!!」

 

 悟飯は片手で魔閃光を放ち、19号と20号は追ってこないようにしようとしたが、二人はそれに対抗するように同時に気功波を悟飯に向けて放つ。

 お互いの気功波の力は拮抗していた。しかし、気を練ることについては悟飯の方が一日の長があった。

 

「ぐぐぐ……」

「ぬぬ……だああぁぁぁあ!!」

 

 悟飯が体内に練っていた気を魔閃光に乗せて放つと、人造人間達の気功波の威力を上回り二人を吹き飛ばす。

 それをチャンスだと見た悟飯。上空に上がり更に追撃をしようとするが、19号がすぐに起き上がり先に気功波を打つことで追撃のチャンスを潰す。

 上空に追ってきた19号に連続気功波で牽制しつつ、背後から攻撃してきた20号を避けて一撃を加えた後に足を掴んで、向かってきた19号もろともそのまま下にある建物へと叩きつけるのであった。

 

 地面に降り立つ悟飯。この程度でやられる二人ではないと確信したその目には、油断という文字はなかった。

 案の定、19号と20号は起き上がる。しかし、その表情はいつもの余裕さは無かった。

 

「……ふん」

「はああああ!」

 

 悟飯は再度気合を入れて黄金の気を纏う。その気に当てられたのか、雷が鳴り響き、ポツポツと雨が降ってきていた。

 人造人間達は強くなっていく雨の中、悟飯の前へと歩くとお互いの目を合わせて頷く。

 そして二人が一人になったかのように重なると、同時に突撃してくる。

 

「なっ──!?」

 

 悟飯はその流れるような連携に驚くが、19号の攻撃を避けて蹴りを入れる。その隙を付いて背後から20号が悟飯を殴る。

 一旦バックステップで距離を取る悟飯だったが、二人は悟飯から離れないように動き、片方が悟飯の隙をついては攻撃するということを繰り返す。

 

 悟飯は急に勢いの増した人造人間達の攻撃にたまらず空を飛んで距離を取ろうとするも、二人はしつこく追ってくる。

 19号と20号は後ろから気功波を放ち、悟飯の前で爆発させる。悟飯は突然のことに衝撃に備えて防御を取るが、後ろから追ってきた人造人間達の体当たりをまともに喰らい、倒れた建物の壁に激突する。

 

「…………」

「…………」

 

 人造人間達は悟飯の上空に上がると、両手を地面に向ける。手には気を溜めていた。

 

「し、しま──」

 

 悟飯が気付いたときには遅かった。19号と20号は両手から大量の気功波を悟飯に向けて放っていく。

 その攻撃が目の前に来る直前。悟飯は今まで過ごした出来事が脳裏に浮かんでいた。

 

 パオズ山で産まれて育ったときのこと。四歳で悟空の兄であるラディッツに攫われるも、悟空とピッコロに助けられたこと。

 そこから約一年間、ピッコロに厳しくも温かい修行をつけてもらったこと。

 そしてピッコロが自分を庇ってナッパにやられてしまったこと。

 

 なんとかベジータ達を撃退し、ピッコロを蘇らせるためにナメック星に行ったこと。そのとき生まれて初めてチチに反抗したことは今でも覚えていた。

 一ヶ月掛けて向かったナメック星でのフリーザとの戦い。結局自身はほとんど役に立つことなかった。

 ドラゴンボールで地球に戻り、全員を蘇らせたが悟空は戻ってこなかった。

 

 フリーザの再襲撃。あのときは悟空が瞬間移動で戻ってこなかったら、地球は全滅していたことであろう。

 そこから悟空の心臓病での死去。彼から渡されたバトンは、悟飯にとって今でも荷が重いものであった。

 Z戦士の全滅。これが悟飯を超サイヤ人に変化させるきっかけとなっていた。

 

 

 

 

 そして今────

 

 

 

 

(俺は…………僕は……誰一人として救えていない……。いつもみんなの足を引っ張って、いつもみんなに助けてもらって……。こんな……こんなところで死ぬわけには────)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 悟飯は光に飲み込まれていくのであった。

 

 

 

     ◇

 

 

 

「ん…………はっ! ご、悟飯さん!?」

 

 トランクスは雨が自分に当たる感触で目を覚ます。すぐに辺りを見回すがそこに悟飯の姿はなかった。

 そして手刀で気絶させられたことに気付いたのだった。

 

(悟飯さん…………気が……悟飯さんの気が感じられない……!)

 

 トランクスは急いで人造人間に襲われた西の都へと向かっていく。

 

「な、なんて酷いことを……」

 

 西の都に降り立ったトランクスは、被害が多くなっているところを見て呟いていた。

 破壊されたのは全てではないが、半壊している状態であった。

 

(母さんやマイは大丈夫だ。だが悟飯さんの気が────)

 

 トランクスはブルマとマイの気を感じていたため、生きていることは分かっていた。しかし悟飯の気だけは感じ取ることが出来ていなかった。

 雨がどんどん強くなっていく。それに嫌な予感を覚えながら、必死に、必死に悟飯を探す。

 

(悟飯さん、どこだ!? どこにいるんだ!?)

 

 走り回るトランクス。雨で髪や服が濡れることなど構うことはなかった。

 嫌な予感が頭から離れない。だが、もしかしたらという可能性に賭けるしか今のトランクスには出来なかった。

 そして瓦礫に手を掛けてふと横を見たとき──

 

「悟……飯……さん……?」

 

 水溜りに顔を半分ほど埋めて、傷だらけになった悟飯を発見する。

 目の前の現実が受け入れられず、呆然と立ち尽くすトランクス。顔から流れていたのは雨なのか、涙なのかもう分からなかった。

 

「う……嘘だ……」

 

 どうしても信じられず倒れている悟飯のもとへと駆け寄る。そして何度も悟飯の名前を呼ぶが、全身が冷え切った悟飯が返事をすることはなかった。

 悟飯を抱きかかえて叫ぶも、彼の声以外は雨の音だけがその場には響き渡るのであった。

 

「う……うあああああああああ!!!!!」

 

 トランクスはあまりのショックに声にならない声で叫んでいた。母であるブルマ以外で、家族という感情を抱かせてくれた大切な人。

 時に厳しく、時に優しく。悟飯の言葉は、全て自身を思って言ってくれていた。彼がいなかったらトランクスはここまで純粋に育っていなかったであろう。

 兄と慕い、あるいは物心ついた頃には既にいなかった父の代わりと言っても過言ではなかった。

 

 そんな、そんな存在を失ってしまった彼には喪失感とともに、激しい怒りがこみ上げていた。

 

『トランクス、超サイヤ人になるためにはな、()()()()()()()()()()()()()()()()()()というきっかけが必要なんだ』

 

 悟飯の言葉がトランクスの頭の中に思い出される。

 言いようのない怒りが彼を支配し、それを発散しようと叫ぶが、何の効果もなかった。

 悟飯を殺した人造人間への怒りもあるが、それ以上に自分自身への不甲斐なさに対しての怒りが勝っていた。

 もし自分がもっと強くなっていれば、このようなことにはなっていなかったであろう。

 

 

 

 

 大雨が降りしきる中、悟飯を抱くのはこの世界に唯一人残された最後の戦士であった。

 




次話は10分後に投稿します。


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第四話 転移と再会

第四話です。
良ければご覧くださいませ。



(…………浮いている? 俺はたしか19号と20号に……やはり死んだのか……?)

 

 孫悟飯は浮遊感のようなものを覚えていた。身体を一切動かすことが出来ず、目を開くことも出来ないでいた。

 今まで死を経験したことがなかった悟飯は──悟空やクリリンから話を聞く限り──すぐに閻魔大王のところへ行くとばかり思っていたため、不思議な感覚にとらわれていた。

 

(トランクスを置いて死んでしまったのは心残りだが……アイツなら大丈夫。きっと、きっと人造人間を倒してくれる。それよりも──)

 

 母親であるチチに別れの言葉を告げることなく死んでしまったことに、彼は深い後悔の念を持っていた。

 地球を守るという役割(バトン)を悟空から受け取った以上、親よりも先に死んでしまう可能性はもちろんあった。

 だが自身のわがままで人造人間を倒すまで家に帰らないと伝えたときの母の泣き顔は、今も脳裏に焼き付いていた。

 

(最期くらい……母さんに親孝行しておけばよかったな……俺が死んだと聞いたら、また悲しむんだろうな)

 

 ピッコロが死んでしまったため、地球のドラゴンボールは無くなってしまい、もう誰も蘇ることは出来ない。

 ナメック星のドラゴンボールもあるのだが、新しい惑星をナメック星の神龍(ポルンガ)が独自に決めてワープしてしまったため、肝心の場所が分からない。

 仮に実際に場所が分かったとしても、今の地球の技術レベルでは一生を費やしても到達できない距離にあるのだが。

 

 このまま閻魔大王のところまで運ばれていくのだと流れに身を任せていると、身体がゆっくりと地面に降り立ったという感触があった。

 ようやく到着したのかと思うと、身体が動くようになったのが分かった。ゆっくりと目を開いてみると──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そこには半壊したはずの西の都が、完全な姿で建っていたのであった。

 

 

 

     ◇

 

 

 

「え……こ……ここは……?」

 

 起き上がった悟飯は、不思議な現象に目を瞬かせていた。

 人造人間にやられて死んだはずの自分がまだ現世にいるということ、左腕は無くなったままだが人造人間と最後に戦った時にやられた傷が一切無いこと、そして()()()()()西()()()()()()()西の都が目の前に広がっていたこと。

 死んだ自分が幻を見ているのかと思うくらい混乱しているのだが、頬をつねってみると確かに痛みを感じていた。

 

(もしかして走馬灯が、俺にもしも人造人間が来なかったらという平和な世界を見せてくれているのかな……? ピッコロさん達の気も感じるし……え?)

 

 悟飯は確かに感じていた。悟空、クリリン、ヤムチャ、天津飯、チャオズ、ベジータ。そしてピッコロの気を。

 他にも亀仙人などの気ももちろん感じているが、()()()()()()()()()()()()()()()()()ことが不思議で仕方なかった。

 これは本当に走馬灯なのかもしれないと感じたとき、後ろから懐かしい声で呼ばれた。

 

「あれ? 悟飯! 悟飯じゃないか! こんなところでなにを……」

「ク……クリリン……さん……」

 

 兄と慕ったその声にゆっくりと振り向く。小さな頃から何かと気にかけてくれ、ナメック星に向かう宇宙船内で一緒に修行をしたりもした。

 その技の豊富さ、器用さ、実戦経験の多さにはナメック星に着いてからも助けられることは多かった。

 しかし、その本人は悟飯に向けてやや警戒の表情を見せる。

 

「お前……本当に悟飯……なのか? ()()はど、どうしたんだ!? それに顔の傷も!」

「いや、その……」

 

 クリリンは自身の知っている悟飯の姿と違うことに違和感を覚えていた。

 左腕がないことや修行や戦闘でついた全身の傷なども、目の前の男が知っている孫悟飯とは違っていたのだろう。

 悟飯はなんと答えて良いのか分からないまま悩んでいると、クリリンのことを呼ぶ女性の声が聞こえてその方向を向く。

 

「────ッ!」

「クリリン、先に行くなんて酷いじゃないか……って悟飯かい?」

「クリリンさん、離れて!! はああぁぁぁあ!」

 

 悟飯は驚いていた。クリリンを呼ぶその声。それはベジータや他のZ戦士たちを殺しただけでなく、この世界の住人を遊びと称して殺し回った悪魔。

 それがクリリンの名前を親しげに呼ぶだけでなく、自身の事まで下の名前で呼んだのだ。

 しかし悟飯からするとそのことはすぐに頭の外に出ていってしまった。なぜか分からないがいつも一緒にいるはずの1()9()()がいない。

 チャンスは今しかないとばかりに2()0()()へと飛びかかっていった。

 

「きゃっ!」

「お前が……お前達のせいでこの世界は……クリリンさんやピッコロさん達が──」

 

 油断していた2()0()()を殴り飛ばすと、倒れた2()0()()に追撃とばかりにもう一発殴り掛かる。

 このまま押し切れば倒せるかもしれないと思ったそのとき──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 2()0()()を庇い、自身の拳を防いだのはクリリンなのであった。

 

 

 

 

「なっ!? ク、クリリンさん……なんで……?」

「……理由を聞きたいのはこっちだ。なんで1()8()()さんを殴ったりした? 俺の奥さんに手を出すなら、いくら悟飯でも許さないぞ」

「お、奥……さん……?」

 

 悟飯は訳が分からなくなっていた。ここは自分の走馬灯が見せている〝理想の世界〟のはずだ。

 その理想の世界に人造人間がいるだけでなく、クリリンの伴侶となっていたのだ。

 しかしクリリンの目は真剣そのもの──むしろ怒りを含んでいる──であり、悟飯は気圧(けお)されて拳をゆっくりと下ろしてしまう。

 悟飯の戦う意志が無くなったと分かったクリリンは、すぐに倒れた2()0()()の方へと振り向く。

 

1()8()()さん! 大丈夫!?」

「…………ああ」

 

 2()0()()は殴られた頬に手をやりながら、差し伸べられたクリリンの手を掴んで立ち上がる。

 クリリンはハンカチを手渡したあとに、服の埃を払っていた。

 その姿はもはや仲睦まじい夫婦そのものであった。

 

(な……なん……で……?)

 

 悟飯は目の前の光景が信じられず、ショックのあまりふらふらと歩いていってしまう。

 

「お、おい! 悟飯!?」

 

 悟飯がどこかに歩いていく姿を呼び止めるが、今の彼は妻のことも心配なのであった。

 

「クリリン、行ってやりな」

1()8()()さん……」

「今の悟飯は様子がおかしい。見た目だけじゃなく、中身もだ。まるで……何かに追い詰められているような……」

「で、でも──」

「いいから行くんだよ! ……あたしの言うことが聞けないっていうのかい?」

 

 彼女は優しく微笑む。そんな彼女の姿にクリリンは「……ありがとう!」という言葉だけ残して悟飯の後を追っていくのだった。

 

(まったく……男どもはいつになっても世話が焼けるね……)

 

 

 

     ◇

 

 

 

 悟飯とクリリンはカフェにいた。クリリンが今にもどこかに飛び込みそうな雰囲気──実際に車に飛び込む寸前だった──の悟飯を呼び止めて、無理やり近くのカフェへと連れ込んでいたのだった。

 

「それで、なんであんなことをしたのかを聞きたいんだが……その前に、()()()()()()()()()()()?」

「…………」

 

 クリリンはまず目の前に座っている悟飯であろう人物の正体から問いただした。

 悟飯は俯いて黙っているだけだったので、話してくれるまで辛抱強く待つことにした。

 それは警官を職業としているクリリンにとって、そこまで苦ではなかった。少しの間の沈黙の後、悟飯が口を開く。

 

「……俺にも分からないんです。さっきいた人造人間2()0()()と、もう一人の1()9()()によって殺されたはずなのですが……」

「ちょっと待て。さっきいた? 1()8()()さんのことか?」

 

 悟飯とクリリンには話の齟齬(そご)が生じていた。悟飯の認識では、先程の女性は人造人間2()0()()。しかし、クリリンの中では1()8()()なのであった。

 

(……何かがおかしい。あれ? そういえばこんなことが()()()()()()ような……)

 

 クリリンは違和感の正体を突き止めようと過去の記憶を探る。

 それは十数年前のことであった。当時は敵だった人造人間18号のことを同じように2()0()()だと言っていた人物。

 地球に攻め込んできたフリーザとコルド大王を()()()()()を思い出していた。

 

「お前、もしかして未来から来たトランクスが言っていた悟飯……なのか?」

「え……?」

 

 悟飯はクリリンが何を言っているのか分からず、疑問を返す。

 クリリンは一度深呼吸をして考えをまとめると、悟飯に当時のときのことを話した。

 

「エイジ764の夏。フリーザが地球にやってきたときのことを覚えているか?」

「え、ええ。あのときはお父さんが()()()()でやってきて、フリーザ達を倒してくれましたよね?」

「……本当ならそういう歴史だったんだな。だが()()()では違ったんだ」

 

 クリリンは()()()()()()()を語り出す。

 フリーザ、コルド大王軍が地球に襲来した日。これで地球の命運が尽きたと思われたその時、超サイヤ人となった紫がかった青髪の青少年がフリーザ・コルド大王軍を撃退。

 そして大将であるフリーザ達もあっさりと倒してしまったこと。

 

「ま、まさか……!?」

「ああ。それこそがお前の歴史にいた()()()()()だったんだよ」

 

 悟飯は動揺する。なぜならそれはトランクスが過去を変えようとした事実に他ならないから。

 そしてそれとは別に、もしかしてという期待も込み上げてきていた。

 

「それでな、トランクスの言ったとおり悟空が心臓病になったんだけど、お前達の世界ではもう特効薬が出来ていたんだろ?」

「ええ。俺も特効薬(それ)が出来たと聞いたとき、もっと早く出来ていればと思わざるを得なかったです」

「……そうだよな。でもこっちの世界の悟空はそれで助かったんだ」

「──ッ! で、ではお父さんは!?」

「ああ、今でもちゃんと生きてるよ」

 

 クリリンは「そのあとも結局一回死んでたけどな」と笑いながら話していた。

 悟飯はその瞬間、思わず飛び上がりそうであった。あの孫悟空が生きている世界があった。それを生き残ったトランクスが作ってくれたということ。

 自身の死は決して無駄ではなかったのだと確信出来た喜びは、誰にも伝わらないであろう。

 

 クリリンはその後に起きたセルが倒されるまでの出来事を余さずに話した。

 この世界の17号、18号が悟飯の世界の19号、20号であるということや、性格なども若干違うこと、そして今は18号はクリリンの妻となっており、一児の母であるということから話す。

 悟飯は動揺を隠せなかったが、トランクスの件を聞いた以上受け入れることに決めていた。

 

 そしてセルが悟飯の世界からタイムマシンに乗ってやってきて、18号達を吸収し完全体になったこと。

 それを悟空が身を挺して地球を守り、悟飯がセルにとどめを刺したことなど。

 

「お、俺が18号さん達を吸収したセルを倒した……のですか……?」

「おおよ! あの時の悟飯(お前)は本当に凄かったんだぞ! ナメック星で一緒にフリーザと戦った時のお前とは次元が違っていてさ……俺なんててんで役に立てなかったよ」

 

 鼻の下を指で擦りながら、この世界の孫悟飯の凄さを語るクリリン。

 悟飯としては自身がやったことなのだが、まったく実感が湧かずに戸惑っていた。

 今でも全く敵わなかった人造人間を吸収したセルという存在を、あの当時の自分が倒すことが本当に出来るのか。答えは否である。

 

(これが……お父さんを失った俺と、お父さんが生き残った世界の俺の決定的な差か……)

 

 自身の成長に限界を感じていた悟飯。今以上の伸びはもはや無いと思っていたのだが、自分を導いてくれる師がいるだけでここまで変わるのだと理解する。

 この世界の孫悟飯が羨ましいと感じる反面、それを羨んではいけないとも思っていた。

 

「あ、そうそう! セルを倒した後にトランクスがすぐにまた来てくれてさ──」

 

 クリリンは悟飯の心中など分からないまま、セル戦後の話もしていた。

 元の世界に戻ったトランクスは、その世界の1()9()()2()0()()、そしてトランクスからタイムマシンを奪おうとしていたセルを完全に倒すことが出来た報告をわざわざしに来てくれたということだった。

 

(そうか、やってくれたか。お前ならやってくれると信じていたよ)

 

 二度と会えないと分かっている悟飯は、成長した自身の弟とも呼べる存在と会いたかったと思っていた。

 だが話を聞く限り、あの世界では恐らく自分は死んでいる身。そしてやり直すという意思を強く持っていないこの世界では、タイムマシンなどきっと無いであろうとも感じていた。

 

「なぁ悟飯。お前はこのあとどうするんだ?」

「このあと……ですか……?」

 

 話も一区切りしたところでクリリンは悟飯にこの後どうするのかを問う。

 それは全く考えていなかったことであった。

 

「なんでお前がこっちの世界にいるのか分からないから、下手に知ってるやつに会うと混乱させちまうし……ああ、そうだ! 神様の神殿に行ってみるのはどうだ?」

「神様の……神殿?」

 

 神の神殿。一度も行ったことはないが、生前の悟空やピッコロから話だけは聞いたことがあった。

 ピッコロの分身である神様が住んでいる場所。カリン塔のはるか上空に位置する場所にそれがある。

 

「アイツならもしかしたら何か分かるかもしれないしな! ……くひひ、お前きっと驚くぞ?」

 

 クリリンが神様に対して()()()と呼ぶのは不思議に思っていたが、確かに神と呼ばれる存在であればなぜ自分がこの世界に来てしまったのかなども分かるかもしれない。

 そう思った悟飯は神の神殿へと赴くことを決める。

 

「そうですね。それじゃあ神様の神殿に行ってみようと思います」

「ああ! 俺は18号さんのところに戻るよ」

「あ……そ、その……」

「18号さんのことはもう気にすんな。俺からちゃんと説明しとく」

「あ、ありがとうございます!」

 

 クリリンの男気に久々に触れた悟飯はお礼を言って店を出る。

 お金を持っていない悟飯のために、カフェの代金も出してくれたのはやはりクリリンの優しさでもあった。

 

「また会えるかは分からないけど……元気でな」

「……はい!」

 

 悟飯とクリリンはお互いに手を握り、別れるのであった。

 




悟飯って自分だけの修行ではあまり強くなれないタイプの気がするんですよね。
だから誰か師匠がいればどんどん伸びることが出来るタイプなのかなと。

本日の投稿は以上です。
良ければ感想などを頂けたらとても嬉しいです。
次話もなるべく早めに投稿します。


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第五話 神の神殿

第五話です。
よろしくお願いします。


「ここか」

 

 悟飯は舞空術で神の神殿があると言われる場所の地上に降り立った。

 そこには武術の神様と呼ばれるカリンの塔があり、その塔は雲を突っ切ってしまうほどの高さであった。

 

(よしっ!)

 

 悟飯は気持ちを引き締めると、舞空術で真上へと飛び始める。

 途中の建物に杖を持った二足歩行の白い猫がいたが、気にせず更に上へと飛んでいく。

 白い猫がいた場所からすぐに円状の建物が見え、それが神の神殿であると確信する。

 

 円に沿って更に上へと飛んでいくと、その建物は円ではなく、半円で降り立つ場所を見つけることが出来た。

 悟飯はそこに降り立つと、キョロキョロと辺りを見渡した。

 

(ここが神様の神殿……誰かいないのかな?)

 

 悟飯はシンプルで殺風景な場所に誰もいないため、目の前の宮殿へと向かおうとすると──。

 

「お前……孫悟飯か?」

「うわあ!!」

 

 悟飯は後ろから急に話し掛けられて驚きのあまり飛び上がる。

 そこには肌が黒く、頭にターバンを巻き、ずんぐりむっくりの体型、丸い眼に厚い唇でほとんど表情の変化を見せない男は、神の神殿の管理人をしているミスター・ポポであった。

 

「こ、こんにちは。あなたは……ミスター・ポポさんですか?」

「そう。孫悟飯、久しぶり。神様、お前に会いたがってた」

「神様が……?」

「ついてこい」

 

 ミスター・ポポは少しそっけない態度で宮殿へと向かっていく。

 悟飯もそれについていこうとしたところで、宮殿から緑色の肌に触覚を生やした男が出てきた。

 

「神様。ポポ、孫悟飯を連れてきた」

「ええ、ありがとうございます」

「ナ……ナメック星人……?」

 

 悟飯は地球の神がピッコロの片割れであるナメック星人だということは聞いていたが、ピッコロ大魔王時代からずっと神だったはずなので、目の前にいる神様の若々しい見た目がどうしてもピッコロの片割れには思えなかった。

 

「やだな、悟飯さ……ん……。本当に、悟飯さん……ですか?」

 

 神と(おぼ)しきナメック星人は、悟飯のことを知っているかのように話しかけようとしたのだが、明らかに纏っている雰囲気や見た目なども自身が知っている悟飯と違っていたため、疑問を持っていたようだった。

 しかし、それでも目の前の男は孫悟飯本人に間違いがないようでだった。

 

「え、ええ。孫悟飯です。実はクリリンさんにここに行くように言われまして……」

「クリリンさんに……? どういうことなのか詳しくお聞きしてもいいですか?」

 

 クリリンの名前を聞いて、神と(おぼ)しきナメック星人は悟飯に詳細を伺う。

 悟飯としても事情を話したクリリンから神の神殿に行くように言われていたため、彼を信じて目の前にいるナメック星人に正直に事情を話すことにした。

 

「……そういうことでしたか。それであれば僕のことも分からないのは仕方ないですね。でも、僕のことを本当に覚えていませんか?」

「そう言われても……ナメック星人はピッコロさんと、あとはナメック星に行ったときに……!」

 

 悟飯は途中まで言いかけて、言葉が途切れる。目の前にいるナメック星人を思い出のある()とダブって見えたのだ。

 記憶に残っている彼はまだ幼く、当時の悟飯と同世代と言ってもいいくらいだったため、すぐには気が付かなかった。

 しかし一度当たりをつけると、悟飯の頭の中に確信めいたものが広がっていく。

 

「も、も、もしかして……」

「はい、デンデです」

 

 デンデはようやく思い出してくれた悟飯に嬉しそうな笑みを浮かべる。

 平行世界とはいえ、()()()()()()()()()()()()()ということは嫌だったのだ。

 悟飯は「どひゃあ〜!」と驚いた素振りを見せ、その様子をデンデは悟空に似ているなと思い、心の中で苦笑していた。

 

「お、驚いた! 本当にデンデなのか!?」

「ええ。今の悟飯さんからすると……お久しぶりですと言えばいいのでしょうか?」

 

 デンデは見た目や雰囲気が変わっていても、やはり悟飯は悟飯なのだと実感する。

 世界は違っていても、その中身は変わっていないのだと分かり、嬉しい気持ちになっていた。

 

「……っと、再会を喜ぶのも良いのですが、ここに来たのはおそらく何か元の世界に戻る手立てがあるのではと思っていたということでよろしいのでしょうか?」

「…………そうか、俺はこの世界の人間ではないんだよな」

 

 悟飯はクリリン、デンデと懐かしい人たちに会えたことで忘れてしまっていたが、ここは悟飯が元々いた世界ではない。

 つまり、悟空もピッコロもベジータでさえもいるのだが、同時に()()()()()()()()()()()()()

 

「この世界の俺、孫悟飯は何をしているのか聞いてもいいかい?」

「……ええ。それはもちろん」

 

 この世界に来て、まずは元の世界がトランクスによって救われたことを知った悟飯。

 そしてこの世界があることで、悟空たちが死ななかった世界もあることを知った。

 デンデはこの世界の悟飯について語りだす。

 

「そうですね。まず今はエイジ780です。そこはおそらく悟飯さんが向こうの世界で亡くなった年と同じなので、こちらの世界の悟飯さんと貴方は同い年ということになります」

 

 悟飯は今が何年であるかという基本的なことすら聞き忘れていたことに気付く。そして平行世界の同じ時間軸に移動してきたということをデンデの話で知る。

 この世界の孫悟飯についてデンデはゆっくりと語っていく。

 

「この世界の悟飯さんは、今学者となっています。結婚もされて、一児のパパになっていますよ」

「学者……結婚……」

 

 悟飯はデンデの言葉を繰り返し呟いていた。〝学者〟は悟飯が小さい頃から憧れていた職業であった。

 そして、恐らくだが戦いに明け暮れる日々がなかったのだとしたら、自身もこの世界の悟飯と同じく勉強をして学者業を全うしていたのだろうと想像していた。

 俯きながら考え込む悟飯だったが、実はクリリンやデンデは、彼に敢えて詳細を語ってはいなかった。

 

 クリリンは未来の世界でトランクスが19号と20号、そしてセルを倒して、世界を救ったということまで話していたが、それ以降の魔人ブウや悟空ブラックの話などは一切していない。

 デンデも学者になったということや結婚もしているとは話したが、相手が誰であるのか、そして子供の名前はおろか性別すらも伝えていなかった。

 これは彼らの中で元の世界に戻った時の悟飯のことを考えてのことだったのかもしれない。

 

「それで、元の世界に戻る方法なのですが……」

「……それについてはちょっと待って欲しいんだ」

 

 デンデが元の世界に戻るための方法について悟飯に話そうとしたところで、ちょっと待つように伝える。

 

「今のまま元の世界に戻っても、俺はきっとトランクスの足手まといになったままやられてしまうに決まっている。それなら、少しでも強くなってから戻りたいんだ!」

「……ふふ。悟飯さんならそういうと思っていました。」

「……え?」

 デンデが悟飯の言葉に笑いながら答えたとき、近くで大きな声が響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────良く言った悟飯! それでこそ()()()()だ!

 

 

 

 

 

 

 

「…………あ……」

 

 それは懐かしくも嬉しい声。二度と聞くことはないと思っていた声。

 優しく、時に厳しく。言われたことを出来た時は黙って頭を撫でてくれたこともあった。

 そんな、そんな彼にただの一度も恩返しできずに別れてしまったことが、彼の中で後悔として残ったままだったのだ。

 

 

 

 

 ────ピッコロ…………さん……

 

 

 

 

 

 

 

 

     ◇

 

 

 

 懐かしいターバンとマントを身に纏ったナメック星人が悟飯の前に降り立った。

 ピッコロ──悟飯の師匠であり、悟飯によって性格を良い意味で変えてもらえた男。

 ナメック星人最強の男であり、彼のストイックに修行に打ち込む姿は悟飯に多大なる影響を与えたであろう。

 

「……ど、どうしてここに」

「僕がテレパシーで呼んだんですよ」

 

 涙目で困惑していた悟飯に対し、デンデはテレパシーを使ってピッコロに語りかけて神の神殿まで来てもらったことを話す。

 

「ある程度の事情はデンデから聞いている……俺の修行はあの頃とは比べ物にならんほど厳しいぞ?」

「…………は、はい! よろしくお願いします!」

 

 悟飯は懐かしい思いに胸を馳せ、姿勢を正してピッコロに頭を下げる。

 その様子を見たピッコロは、デンデに向かって口を開く。

 

「それで、悟飯を元の世界に帰す方法はあるのか?」

「……いえ、それがまだ分からないんです。そもそもなぜ悟飯さんがこの世界に来てしまったのかの原因を突き止めないと行けないので」

「そうか。それならそれまではまだ時間があるな……神の神殿(ここ)に来たのもタイミングがいいし、丁度いいか」

 

 ピッコロは(あご)に手をやり、考える仕草をしていた。

 悟飯は修行するための時間があるというのは分かったのだが、ここに来たことのタイミングが良いとはどういうことなのか分かっていなかった。

 しかし、デンデとミスター・ポポにはすぐに気が付く。

 

「ああ! ()()()()()()()を使うのですね!」

「そうだ。お前が改造してくれたお陰でより使いやすくなったからな。少しでも強くなるために、使わせてもらうがいいな?」

「ええ、もちろんです! 自由に使ってください!」

 

 〝精神と時の部屋〟というのは悟飯には聞き覚えがない言葉なのだが、神の神殿のどこかにある修行に適した場所なのだと推測していた。

 

「……その前に。お前のその腕をなんとかしないとな」

「ええ、僕の能力を使えば可能だと思います。悟飯さん、ちょっといいですか?」

 

 デンデは悟飯に近づくと、悟飯の左腕に両手を置き集中する。

 両手が光り出すと、悟飯の左腕が少しずつ再生し始めていた。そして数分もしないうちに、悟飯の左腕は完璧に復活したのだった。

 悟飯は手を開いたり閉じたりしながら、久しぶりの左手の感覚を確かめていた。

 

「デンデ、ありがとう。まさか俺の腕が元に戻るとは思っていなかったから、純粋に驚いたよ」

「いえ、僕も腕を再生させるまでの治癒をしたのは初めてだったので、上手くいって良かったです」

 

 悟飯とデンデが目を合わせて笑い合った。悟飯としてもここまで純粋に笑えたのはいつぶりだっただろうか。

 そんな様子を横で見ていたピッコロだったが、修行の話をするために口を開く。

 

「ではこれから精神と時の部屋で悟飯と修行をする。デンデ、お前は元の世界に戻す方法を考えつつ、悟空もここに呼んでおけ」

「ええ、分かりました」

「お、お父さん……!」

 

 ピッコロは悟空の名を聞いて驚いた表情をした悟飯を見て、意外そうな顔をしていた。

 

「お前を強くするためなら、俺だけでなく悟空(あいつ)も必要だからな。……ただそれだけだ」

「……は、はい! ありがとうございます!」

 

 悟飯はまた目に涙を浮かべながら、ピッコロへ頭を下げるのであった。

 

 

 

     ◇

 

 

 

 精神と時の部屋──部屋の中央に出入り口と居住スペースがある以外は、真っ白な空間が広がっている特殊な部屋である。

 その広さは地球と同じくらいのため、一度遠くまで行ってしまうと戻ってくることはほぼ不可能だと思われる危険な場所。

 そして環境はより過酷であり、居住スペースを除いた全ての場所は地球の十倍の重力が掛かっている。

 

 気温変化も激しく、最大五十度から最低でマイナス四十度まであり、しかも空気が外の約四分の一という一種の拷問部屋と言っても良いのではないかとも思われる場所である。

 なにより一番の特徴は、この部屋での一年間は現実世界での一日だということであった。

 

 精神と時の部屋に入ると、ピッコロは悟飯に部屋の特徴を説明する。

 この過酷な環境を今まで経験したことがない悟飯は地面に降り立ち、十倍の重力に少しだけよろめきそうになった。

 ピッコロはその姿を見ていたが、そのことに関しては特に何も言わず、黙っていた。

 

「とりあえずここで一年間過ごしてもらうぞ。現世では一日しか経っていないからな。お前の心身を鍛え直すにはもってこいだろう」

「……は、はい! お願いします!」

「よし、それでは今のお前の全力を見せてみろ」

 

 ピッコロの言葉に悟飯は少し戸惑う。超サイヤ人になってもいいのだが、それでピッコロと戦っても大丈夫なのかということであった。

 悟飯の知る限りのピッコロは、超サイヤ人の実力には到底達していなかったのだ。

 悟飯が気を遣っているのに気付いたピッコロは、微かに笑うとすぐに真剣な表情となって気を高め始める。

 

「はああああぁぁぁぁああ!!」

「こ、この気は……!?」

 

 明らかに自身よりも上の戦闘力を目の当たりにした悟飯は、驚愕の顔でピッコロを見ていた。

 

「……これで分かったか。今のお前は俺の戦闘力すら測れない程度の実力なのだ!」

「す、すみませんでした……改めてお願いします! 俺を、俺を強くしてください!」

「それならば早く超サイヤ人になってみせろ!」

 

 ピッコロの言葉に触発され、超サイヤ人へと変身する悟飯。

 超サイヤ人に変身した悟飯の戦闘力を大体で予測するピッコロ。

 

(ふむ。昔フリーザが地球に攻めてきたときの悟空よりは弱いな。あの時のトランクス以下ということか)

 

 予想していたとはいえ、()()()()()がここまでの弱さであったことに失望を隠せなかった。

 悟空が心臓病で死に、自分達がやられてしまうだけで、同じ悟飯でも戦闘力にここまでの差が出てしまっていたのだ。

 そして、そのことは悟飯に対してだけでなく、未来の世界の自分自身の不甲斐なさに苛立ちも覚えていたのだった。

 

(しかし、いつまでも嘆いていても仕方がない。今は悟飯を少しでも鍛えてやらないとな)

 

 不甲斐なくは思っていたが、それでも今の自分であればやれることは多いはずと信じ、ピッコロは構える。

 

「よし、ではかかってこい!」

「はい! いきます!」

 

 二十三歳にして、もう二度と行われるとは思っていなかった最愛の師との修行が始まるのだった。

 




>「お前を強くするためなら、俺だけでなく悟空(あいつ)も必要だからな。……ただそれだけだ」

ツンデレなピッコロさんが可愛いと思っていただけたら、お気に入り登録、感想や高評価をぜひよろしくお願いします!


【解説】
・17号達が未来世界で19号、20号と名前が変わっていることについて
 →これは原作設定上の仕様みたいですね。未来トランクスが原作世界に来てしまった影響で、ラピスとラズリの二人の改造が早まったというのが定説とのことです。

・未来編でもナメック星のポルンガを使えばいけるのではないか?
 →これは事実上不可能みたいです。そもそもナメック星人が地球から新ナメック星に移動した際に、ポルンガが以前のナメック星に近い環境の星を無作為に選んだため、悟空たちはおろか、ナメック星人本人達すらどこの場所にあるか分からないということです。
 実際の新ナメック星の場所は、当時の地球の技術では一生掛かってもナメック星に到達できない距離だったため、ポルンガに頼ることが出来ないみたいですね。
 ただ、ポルンガに頼れば病死した悟空を生き返らせることは出来ません(ドラゴンボールの設定上)が、心臓病のウイルスを除くことは可能になっていたかもしれませんね。
 実際に十数年以内に特効薬が作られるくらいのレベルのウイルスだったってことですし。

・デンデの回復能力について
 →これはナメック星時にベジータがクリリンにお腹を貫かれても復活させることができたという点から、再生能力はあると判断しました。
 そのため、未来悟飯の腕を再生できるくらいは出来ると。まぁ駄目なら仙豆かドラゴンボールでいけますよね。

・ピッコロのツンデレについて
 →仕様です。


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第六話 ピッコロとの修行

遅くなってしまい、申し訳ございません!
昨日、仕事でドタバタしていました!



「だあぁぁぁああ!」

 

 悟飯はピッコロへ突撃し、ラッシュを続ける。

 圧倒的に実力が上の相手(ピッコロ)に対し、今の悟飯が出来ることは小手先の技術を見せることではないと思っていた。

 

「…………」

 

 ピッコロは悟飯のラッシュに対し、黙って両腕を組んだまま軽く避けていく。

 まったく当たらないのだが、悟飯はそれでも攻撃を続けていた。

 

(あ……当たらない……!? 俺とピッコロさんにはそこまで差があるというのか!?)

 

 ピッコロが死亡したエイジ767、この時点での実力差はもちろん悟飯よりもピッコロのほうが上であった。

 しかし、超サイヤ人に変身した悟空よりは確実に下であったのは、当時の自分でも分かっていた。

 

(俺はその後、超サイヤ人になって修行を続けていたんだ! あのときのお父さんにはまだ及ばないかもしれないけれど、フリーザだったら倒せてもおかしくはないはずの実力は身に付けたはずだ! それなのに……)

 

 悟飯はがむしゃらになってピッコロへと攻撃を続けていく。

 しかし、先程と同じように彼には触れることすら出来ていなかった。

 

「……もう終わりか?」

「くっ……!」

 

 ピッコロは悟飯に対し、挑発をするような発言をする。

 それに苛立ちを感じたのか、悟飯はバックステップで後ろに下がり、気を両手に集中させる。

 

「はあぁぁぁあ! ──魔閃光!!」

「…………」

 

 悟飯が溜めた気を両手から放ち、ピッコロへエネルギー波を打ち出す。

 しかし、今の実力差ではこの程度を躱すなどピッコロにとっては造作もなかった。

 その場から動くことなく、上半身をわずかに反らしただけでそれは彼の後ろへと通り過ぎていった。

 

「あ……当たらない……! な、なぜ……」

 

 悟飯は何をしても攻撃が当たらないことにショックを受け、ついに膝をついてしまった。

 ピッコロはその様子の悟飯を見て、「ふんっ」と鼻を鳴らした。

 

「何をしても攻撃が当たらないのが不思議か?」

「────ッ!」

「なぜ当たらないのか教えてやろうか? ……それは()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 悟飯は顔を上げてピッコロを見た。

 

「超サイヤ人になれば実力が上がったと勘違いしているようだが、それは大きな間違いだ。大切なのは〝基礎能力〟を高めること。超サイヤ人はその実力を何倍にも引き上げるだけの、いうなればリミッター解除に過ぎないのだ」

「基礎……能力……」

 

 超サイヤ人は確かに本来の戦闘力を何十倍にも引き上げてくれる変身方法である。

 しかし、使い手本人の基礎能力や技術、精神状態が拙いのであれば、せっかくの超サイヤ人による効果も最大限に引き出すことが出来ない。

 

「そうだ。お前は超サイヤ人に変身できるようになっただけで、それを十全に使いこなすことが出来ていない。大切なのは超サイヤ人になれるようになったからこそ、基礎をいちから鍛え直すことだ」

「基礎を……」

 

 セルとの戦いのとき、悟空と悟飯の二人が精神と時の部屋に入った。

 悟飯を先に超サイヤ人に変身できるようにしたあと、彼らが行ったのは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ということであった。

 

「そうだ。だからお前にはこれからセルたちと戦った当時に、悟空と悟飯が行っていた修行と同じことをやってもらう」

「そ、それはなんですか!? どんなことでもやってみせます!」

 

 悟飯は悟空達がやっていた修行という言葉に、大きく反応をしていた。

 なぜなら全く戦力になっていなかった自分が、一年に満たない時間で人造人間達を倒すだけの実力を身に付けることが出来ていたと聞いていたからだった。

 そのためならばどんなに辛い修行でも耐えてみせるという意気込みを見せる悟飯。

 

「……分かった。それではお前にはこれから常時超サイヤ人で過ごしてもらうぞ」

「……え?」

 

 悟飯はピッコロの言葉が頭に入ってきていなかった。

 もちろん言葉そのものの意味は理解出来ていた。だが、超サイヤ人で過ごすことに何の意味があるのかが、よく分かっていなかったのだった。

 

「それはどういう……」

「つべこべ言うな! ……と言いたいところだが、説明してやろう」

 

 ピッコロはそう言うと、悟飯に理由を説明し始める。

 超サイヤ人に変身すると、特徴として軽い興奮状態となり、好戦的になりやすくなる。

 敵との実力差があるのであればそのままでも良いが、実は同等程度以上の相手に対してはこの特性は弱点となってしまっていた。

 

 それは()()()()()()()()()()()()というものだ。わずかでも冷静さを失うこと、それは戦いにおいてあってはならないこと。

 同等以上の実力の持ち主であれば少しの判断ミスが命取りになる。

 超サイヤ人になることで通常時と同じように戦えなくなるのは良くないため、まずはこの弱点を取り除くことが大切であった。

 

「お前にも人造人間との戦いで経験があるのではないか? 普段とは違うものを感じたことが」

「……あ……」

 

 ピッコロの指摘に対し、悟飯も心当たりがあるような声を出す。

 

(確かによくよく考えると、超サイヤ人になったときはいつもの俺とは違う感じがしていた。その違和感がなんなのか分からなかったから気のせいだと無視していたけど……そういうことだったのか)

 

 悟飯はピッコロの説明で理解した。普段どおりに戦えないことは、勝率を下げているのと同じである。

 

「……確かにいつもと違う何かを感じていました。まさかそれがそんな簡単なことだったなんて……」

「これに気付くのはなかなか難しいのだ。あの時点で気付いていた悟空が異常だったと思っていたほうがいい。それに常時超サイヤ人になっていることで、身体への負担を減らし、エネルギー消費を抑えるという副次的効果も見込める。

だが、これはあくまで()()()()()()()()という基礎以前の話だ。お前にはそれと並行して俺の修行も受けてもらうぞ」

「は、はい!」

 

 悟飯はピッコロの言葉に返事をすると、早速超サイヤ人に変身をし、自らの興奮状態を抑えることから始めるのであった。

 

 

 

     ◇

 

 

 

 二人が精神と時の部屋の部屋に入ってから半年が経った。現実世界ではまだ半日しか経っていないのだが、悟飯はその半日で見違えるような成長を見せていた。

 ピッコロが行った修行方法は至って単純だった。常時超サイヤ人でいること以外は、ピッコロが今まで自身の修行で培った基礎修行を行わせるということ。

 

「…………」

「…………」

 

 二人は一切話すことなく瞑想に(ふけ)っていた。

 何も戦うだけが修行ではない。瞑想をすることで自身の心を鍛えることも可能ではあるし、イメージトレーニングをすることで攻撃の幅も広がるのだ。

 ピッコロは瞑想をしながら、音も立てずに自身の周囲に複数の小さなエネルギー弾を発生させる。

 

「…………」

「…………」

 

 そのエネルギー弾はピッコロの周りをゆっくりと回り始め、徐々に四方八方へと散っていく。

 音を立てず、気配すら感じさせず、スピードも遅いため、移動した際の風の揺らぎを感じることも難しい。

 

「…………」

「…………」

 

 エネルギー弾はピッコロから離れ、徐々悟飯の周りを囲んでいく。

 殺意すら感じない──実際に当たったところで怪我すらしない程度の威力しかない──エネルギー弾は所定位置につくとピタリと動きを止め、()()()()()()()を待っていた。

 そして、彼の心の中の合図とともに、エネルギー弾が一斉に悟飯へと襲いかかった。

 

「…………」

 

 しかし悟飯は一切の動揺も見せず、その場で瞑想を続けていた。

 本当であれば当たったはずのエネルギー弾は悟飯を通り過ぎてしまい、空中で動きを止める。

 だが襲撃を一回失敗したくらいで諦めるはずもないエネルギー弾は、再度悟飯へと襲いかかる。

 

「…………」

 

 何度襲いかかっても一切当たることがないエネルギー弾。

 苦し紛れに何発か悟飯の近くで爆発したのだが、悟飯には動揺が見られることはなかった。

 そして──。

 

「……ちっ。()()()()()()()

 

 ピッコロの声とともに悟飯は目を開ける。そこには後ろから手刀を放っていたピッコロがおり、悟飯はそれを左手で防御していたのだった。

 

「ようやく落ち着いて対処出来るようになってきましたよ」

「ああ、超サイヤ人はこれで完全に制御出来たと言ってもいいな」

 

 この半年間、今まで悟飯が行っていた修行とは全く違う方法が取られていた。

 いつも身体を(いじ)め抜き、痛めつけ、トランクスと組み手をしていたときとは違い、穏やかで平穏な日々が流れていた。

 その間に重力十倍という過酷な状況にも慣れてしまい、ほとんど違和を感じることも無くなっていた。

 

「……ただこれで本当に強くなっているのでしょうか?」

 

 悟飯は一つだけ疑問に思っていたことを口に出す。

 それは当たり前のことであった。超サイヤ人で過ごすことと、瞑想以外はほぼ型修行と筋トレをやっていただけだったからだ。

 

「疑問に思うのであれば、力を開放してみるがいい」

「……力……を?」

「ああ、今のお前は自然な状態のまま超サイヤ人でいることが出来ている。その状態から超サイヤ人になったときと同じ要領で更に力を入れてみろ」

 

 ピッコロの言葉に疑問は持ちつつも、素直にやってみようと今の状態から超サイヤ人になる気持ちで力を入れてみる。

 すると、悟飯は周囲に衝撃波を撒き散らしながら黄金のオーラを纏うのであった。

 

「こ、これは……!」

 

 身体から力が溢れてくるのを感じ、自身の両手を広げて見つめる。

 悟飯自身は感じているかは分からないが、身に纏ったオーラはより大きく、より洗練された黄金色になっていた。

 

「これが()()()()()()()()姿()だ」

「本来……の……?」

 

 言葉の意味が分からず、悟飯は言葉を繰り返す。

 

「俺も実際になっているわけではないから感覚までは分からんが、超サイヤ人とは本来この状態をベストと呼ぶらしい」

 

 今まで悟飯が変身していた超サイヤ人はあくまで初期段階の未完成状態であった。

 そのため落ち着きもなくなり、興奮状態になっていた。未完成のため、エネルギー消費も激しく身体への負担も大きかった。

 超サイヤ人になった者が最初にたどり着くべき場所がここなのであるとピッコロは説明する。

 

「この半年間、お前は超サイヤ人を十全に使いこなすための訓練を行ってきた。そして同時に基礎的な修行を行い、変身時のパワーアップ効率を更に上げていたのだ」

「あ、あの修行だけで……ここまで……」

 

 ピッコロとたった半年間修行していただけで、ここまで戦闘力が上がったことに驚きを隠せない悟飯。

 今までの修行は何だったのかと思う反面、これであれば人造人間も倒すことが出来る。悟飯はそう確信していた。

 同時にこれで修行も終わりなのか、と寂しい気持ちになっていたとき、ピッコロから驚くべき言葉が出てくる。

 

「──これで土台作りの修行は終わりだ。そして、これからが()()だ」

「……そうですよね。これでもう修行は終わり……って、え!?」

 

 ピッコロから告げられた言葉。それはこれからが本当の修行の始まりだということであった。

 

「何を言っている? お前はまだ超サイヤ人1でフルパワー状態になれるようになったに過ぎない。これから更に上を目指すぞ」

「ちょ、ちょっと待ってください! 超サイヤ人〝1〟ってどういうことですか!?」

 

 まるで超サイヤ人2があるかのようなピッコロの言葉。初めて聞いた言葉に、悟飯は驚きの顔をしていた。

 

「……ちっ。未来のお前はなんでも説明を求めるんだな。いいだろう、説明してやろう」

 

 存外にこの世界の悟飯はもっと素直であると言われ、少しだけムッとする悟飯。

 だが、黙ってピッコロの言葉を待つことにした。

 

「超サイヤ人には更に上の進化がある。便宜上、〝超サイヤ人2〟、〝超サイヤ人3〟となり、数字が上がるだけで桁違いに強くなっていくのだ。その分エネルギー消費なども格段に増えるがな」

 

 まさに寝耳に水。超サイヤ人を使いこなせていないということ自体が驚きだったのにも関わらず、更に上があるということなど悟飯には想像出来るわけがなかった。

 この想像力と自身を把握する力の乏しさが今の彼を形作っているのかもしれないが、師匠がいない彼にとってそれは仕方のないことなのかもしれなかった。

 悟空のような開拓者ではなく、常に上位の存在がいた悟飯にとって、急に上がいなくなってしまったのだ。十年そこらで悟空と同じ存在になれという方が難しいのであろう。

 

「先に言っておくが、超サイヤ人2に初めてなったのは悟飯、お前だ」

「お、俺が……」

「ああ。だから修行次第だが、お前にも十分可能性があると言ってもいい。もちろん今のままでも人造人間に勝つことは可能だが……どうする?」

 

 決めるのはお前だと言わんばかりに悟飯へ結論を促すピッコロ。

 今後の彼の世界のことを考えると強制的にでも修行を続けたほうが良いと思っている。だが、悟飯はもう二十三歳の大人である。

 ピッコロは今の世界の悟飯と修業をするときもそうだったが、どうするかを本人に決めさせるのが良いと思っていた。

 

「…………ぜひお願いします」

 

 悟飯は少し考えた後、ピッコロへと頭を下げた。

 彼としてもピッコロの言葉から色々と考えていた。それは()()()()()3()があるという言葉が引っ掛かっていたのだ。

 

 今のままでも人造人間を倒すだけの実力はあることはピッコロのお墨付きを貰っている。

 しかし、それで戦いが終わるのであれば、なぜそれ以上の成長をしているのかが不思議に思っていた。

 悟空やベジータのような純粋サイヤ人であれば強さを求めた末の結果というのもあり得るが、もしかしたら()()()()()()()()()()()()()()()()()()()としたら?

 

 その過程で生まれたのだとしたら、それが自分の世界に同じ危機が訪れないとも限らない。

 今、自分の世界で戦える戦士は自分とトランクスだけだ。彼のためにも少しでも強くなっておきたいと考えるのは必然であった。

 

「……そうか」

 

 ピッコロはそう言うと、わずかに口角を上げて微笑んだ。

 彼は大きく口を開けて笑うことはない。しかし、このような表情を見せたときというのは、本当に嬉しく思ったときだということは悟飯も気付いていた。

 

(ピッコロさんが詳細を言わないということは、何か理由があるんだろう。やっぱりピッコロさんは昔から優しいんだな……)

 

 これから悟飯の超サイヤ人2になるための修行が始まる。

 これが終われば、ピッコロが師匠として出来ることは少なくなるだろうとピッコロ本人も分かっていた。

 だが、それでも今の悟飯との大切な時間を無駄にしないために、悟飯の師匠として出来る限りのことをやろうと考えていた。

 

 彼はそのことを決して表に出すことはないのだが。

 そして、更に一年の月日が流れたのであった。

 




ツンデレさんは文句言っていますが、説明するのは好きそうなイメージです。

彼がてぇてぇと思っていただけた方は、お気に入り登録、高評価や感想をぜひお願いします!


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第七話 自分に追い付き、追い越すために

 悟飯とピッコロが精神と時の部屋の部屋に入り、一年半が経った。

 現実世界では一日半しか経っていないのだが、悟飯にとっては濃厚で充実した時間を送ることが出来ていた。

 

「悟飯さん! ピッコロさん!」

「デンデ……! なんだか久しぶりに会った気がするなぁ」

「そりゃあこちらでは一日半しか時間が経っていないですが、そちらでは一年半ほど時間が経っていますからね」

 

 デンデは一日半ぶりに会った悟飯を上から下まで眺めた。

 身長は流石に伸びてはいなかったが、髪の毛は伸び、この世界に来たときに着ていた服はボロボロになっていた。

 

「それで、元の世界に戻る方法は分かったのか?」

「そ、それが……」

 

 ピッコロは悟飯が元の世界に戻るための方法を尋ねるが、デンデは申し訳無さそうな顔をして俯く。

 

「すみません。色々と調べたのですが、全く分からなくて……もしかしたら界王様や界王神様であれば分かるかもしれないのですが……」

「……界王神様?」

 

 悟飯は聞いたことがない名前に疑問に思い、繰り返す。

 

「えっと、まず地球のようにそれぞれの星には僕のような神がいるのですが、それを四つの銀河で束ねるのが界王様、更にそれを束ねるのが大界王様。そして、更に上位に四人の界王神様がおり、それを大界王神様が束ねているのです」

「一応宇宙も大きく十二個に分かれていてな、それぞれに界王神様達がいるのだ」

 

 デンデとピッコロの説明に対し、界王神が途轍もなく偉い人だということは分かったのだが、あまりにスケールがでかすぎたせいで、驚くことが出来ていなかった。

 

「そ、それでその界王神様だったら分かるのかい?」

「恐らくとしか……界王神様でも分からないようであれば……()()()()に聞いてみるしか……」

「む、むぅぅぅ」

「……?」

 

 デンデがいう()()()()という言葉に、ピッコロですらも難しい顔をしていた。

 悟飯は先程から話についていけず、首を傾げるしか出来ないのだった。

 

「ピッコロさん、どういうことですか? あの方々とは……?」

「む……あ、ああ。この世界には界王神様と表裏一体の存在である〝破壊神様〟という存在がいるのだ。その付き人である天使であれば、色々と解決策も持っていそうなのだがな……」

「……はい、可能性は高いと思います。でも……」

 

 要領を得ない二人の話しぶりによく分からない気持ちになる悟飯。

 

「何かあるのですか?」

「あの方々はなかなかに気難しくてな……特に破壊神様は機嫌を損ねると、問答無用で星を破壊しかねん……」

「ほ、星を!?」

 

 悟飯は驚きの声を上げる。

 破壊神が星を壊すということに驚いたのではない。それならば今の自分でもやろうと思えば簡単に出来る。

 そう、当たり前なのだが()()()()()()()()()()()

 

 それを機嫌が悪くなった程度で簡単に破壊してしまうという、名前通りの破壊神(サイコパス)具合に悟飯は驚いていたのだった。

 

「で、でも……どうにかならないのですか?」

「いずれにしても破壊神様には会うことになるであろうな」

「ええ、今悟空さんは破壊神様のところで修行をされているのですから」

 

 悟飯は更に驚く。父である悟空──ベジータもだが──が、星を簡単に破壊してしまう破壊神のもとで修行をしているということに対して。

 いくら強くなりたいと言っても、命の方が先に無くなるのではないか。

 だが、誰とでも仲良くなってしまう自分の父であれば、破壊神と仲良くなっていても不思議ではないとも逆に思っていた。

 

「先に界王神様のところへ行こう。幸いにも悟飯、この世界のお前は界王神様達に気に入られている。もしかしたらお前の力にもなってくれるかもしれない」

「お……俺が界王神様に……!?」

 

 更に驚きは続いた。

 界王神や破壊神のような存在と仲良くなれるのは父である悟空くらいなものかと思っていたのだが、自分もその血をきちんと受け継いでいたということに。

 

「ええ。悟飯さんは界王神様のもとで、物凄い強くなったのですよ!」

「強くなったって……」

 

 ピッコロの方を見て、「今の俺よりもですか?」と言葉を続けようとしたが、「今よりもだ」と先に伝えられ、この世界の自分は一体どこまで強くなっているのかと思う悟飯。

 この一年半の修業のお陰で、悟飯は超サイヤ人の壁を超えることが出来ていた。

 それだけでなく、気のコントロールの仕方などもより()()()()()()()を行い、より細やかな戦い方も出来るようになっていた。

 

 しかし、戦闘力でいうと確実にこの世界の悟飯の方が圧倒的に上だと断言されてしまう。

 少し悔しい気持ちにはなるが、それは自分がもっと強くなれるのだということの証明でもあるので、その気持ちは表に出さないようにするのだった。

 

『ピッコロさん』

『む、デンデか? どうした?』

 

 不意に目の前にいるデンデからテレパシーを送られるピッコロ。

 

『目の前にいる悟飯さんは、やはりこの世界の悟飯さんとは似て非なる存在なのですね……』

『ああ。俺もそう思う。この世界の悟飯は、ここまで強さに対してのこだわりはなかった。力の大会前後で意識はだいぶ変わったようだが、ここにいる悟飯は甘さや驕りといった感情とも無縁のようだ』

 

 この世界の悟飯はピッコロや他の者からも度々、甘さや驕りがあると指摘されていた。

 サイヤ人特有なのかもしれないが、強くなりすぎた時に相手を舐めて掛かるということも悟飯は受け継いでいるようだった。

 

 しかし、ここにいる悟飯は戦うということに関して、甘さも驕りも一切なかった。

 誰かと戦うとなった場合、全力で相手が戦闘不能になるまで戦い続ける。

 そこにはサイヤ人特有の舐めて掛かるということは一切していなかった。

 

 これは幼少期に実の父を心臓病で亡くし、その後に人造人間に仲間を殺されたという経験が今の彼を作っている可能性があった。

 その後、母親とも縁を切った彼は、誰かに甘えることもせず一人で生きていくしかなかった。

 そのように過ごしていうるうちに、自然と性格も変わっていってしまい、この世界の悟飯とは違う性格になってしまった。

 

(これは戦士としては良かったことなのかもしれんが……しかし……)

 

 ピッコロは複雑な表情で悟飯を見つめる。

 少年期に自分の仲間が全員殺されてしまう絶望を味わったこと、それは彼にしか気持ちが分からないことである。

 それでも歯を食いしばって、全てを捨てて生きてきた悟飯を心から抱きしめたい衝動に駆られるが────。

 

(……いや、だめだ)

 

 ピッコロは手を握りしめ、自分の気持ちを抑えた。

 今ではない。今の悟飯はまだ半ばなのだ。それを邪魔してはならない。

 そう思うことで優先度を明確にし、今やらなくてはいけないことを考えることにした。

 

「それで……まず界王神様との連絡を取らなければならな──」

「その必要はありませんよ」

 

 ピッコロの言葉を遮り、彼らの後ろから現れたのは先程から話に上がっていた界王神本人であった。

 

 

 

     ◇

 

 

 

「フンフンフーン、フフーン、フーーン」

 

 悟飯はその場にずっと立っていた。それも一言も話すことすら許されず。

 その周りには現界王神の先祖と名乗る者が変な踊りを踊ったまま、(ゆう)に数時間は経過していたのだった。

 悟飯はため息をつき、ここに至るまでのことを思い出していた。

 

 

 

 ピッコロ達の前に現れたのはこの宇宙の界王神。

 詳細を話すこともなく、彼は様子を見てある程度の事情を知っているようであった。

 最初、悟飯の気が二つになったこと──この世界に悟飯が転移してきたとき──がきっかけで様子を見るようにしていた。

 

 クリリンやデンデとの話、そしてピッコロとの修行を見つつも悟飯がこの世界に転移してきた原因を探っていた。

 同じ世界に同じ人物が二人いることは別に駄目なことではないのだが、出来ることであれば元いた世界にいるほうが望ましい。

 そのため調べていたのだが、界王神を持ってしても未だ分からずにいた。

 

 どうしようか考えているうちにピッコロ達が自分達に連絡を取ろうとしていることを知り、地球でクリリンのように変な誤解を受けるよりは界王神界にいた方が良いと判断され、界王神がキビトを連れてやってきたのだった。

 

(強くなりたいとは言ったけど……本当にこの世界の俺は()()を信じて耐えたのか……?)

 

 聖地・界王神界。界王神とその付き人だけが住まうことが許されている世界。

 そこで待っていた老界王神による〝潜在能力解放の儀式〟というのが行われていた。

 最初、老界王神は「面倒だし疲れるから嫌だ」とごねていたのだが、界王神達による()()()()により、渋々だが受け入れることに。

 

 そして今のこの状況となっているのだった。

 

「えっと……これっていつまでやるんでした──」

「儀式に五時間! そのあとのパワーアップの処置に二十時間じゃ! いいから黙って立っておれ!」

 

 悟飯は老界王神の怒鳴り声に驚き、直立不動で立ち続けていた。

 その様子を見て、界王神はクスリと笑っていた。

 

「界王神様……?」

「ああ、懐かしいと思いましてね。あのときの悟飯さんも、今のようにご先祖様に叱られていましたよね」

「……フッ、そうでしたな」

 

 キビトと界王神は魔人ブウが現れたときのことを思い出し、懐かしく思っていた。

 あのときは本当に死を覚悟するほど──実際にキビトは死んでいる──厳しい戦いであった。

 

「あのときの孫悟飯は真の戦士だと思ったものですが、そこの孫悟飯もあの当時と変わらぬ強さを持っているようですな」

「ええ。下手な強さだと、貴方が界王神界(ここ)に足を踏み入れるのを許可しないでしょう?」

「……ですな」

 

 お互いに笑いながら話しているが、界王神はキビトであれば本当にあり得ると思っていた。

 厳格な性格であるキビトのため、同じ悟飯であったとしても腑抜けた強さだった場合、認めない可能性が高かった。

 横で黙っていたピッコロは、精神と時の部屋で悟飯を鍛えておいて正解であったと冷や汗をかいていたのだが、それは誰にも気付かれることはなかった。

 

 

 

     ◇

 

 

 

「超なんちゃらになる容量で気合を入れればええ」

「気合いを──」

「ちょっと待て! この場でやるなよ!」

 

 潜在能力解放の儀式が開始してから、約二十五時間後。不眠不休──老界王神は確実に寝ていたが──で儀式を終えた悟飯が気合いを入れようとしたところで必死になって止める。

 前回のことで学んだ老界王神は自分が吹き飛ばされないように、事前に釘を差したのだった。

 

「……や、やだなぁ。やるわけないじゃないですかぁ」

「ふん、どうじゃかな。あとは()()()()()と連絡が取れれば良いのだが……」

 

 老界王神は誤魔化すように笑って頭を掻いている悟飯をジト目で見たあと、界王神を見る。

 しかし、界王神は首を横に振るだけであった。

 

「恐らくビルス様は寝ていらっしゃるのかと思います。ウイスさんに連絡を取っているところなのですが、恐らくまだ悟空さん達と修行中なのでしょう」

「それではどうすれば……」

「今は待つしかないですね。キビトに連れて行ってもらうこともできるのですが……」

 

 そう言ってキビトを見ると、慌てた様子で両手を前に出し、首と一緒に横に振って拒否の姿勢を示す。

 

「い、いやいやいやいやいや! 私が破壊神様の許可無しに行くなど、恐ろしくて出来ません!!」

「……ずっとこの調子なのですよ」

 

 ため息をついた界王神。悟飯は話の流れでビルスが破壊神なのだということを理解する。

 そこにピッコロが前へと出てきて、界王神達に提案をする。

 

「それではビルス様との連絡が取れるまでの間、悟飯と修行をしていてもよいでしょうか? この強さに慣れる修行も大切だと思いますので」

「え、ええ! それは問題ないですよ。それでは連絡が取れたら、ピッコロさんにお伝えするようにしますね」

 

 待っている間、やることが決まった悟飯達は一度地球に帰ろうとキビトにお願いしようとしたとき、テレパシーが届く。

 

『界王神様、話は聞きましたぞ。ビルス様から連絡が来るまでの間、わしのところで悟空の息子を預かってもよろしいでしょうか?』

「あ、貴方は……!」

 

 声を掛けてきたのは、()()()()であった。

 

 

 

     ◇

 

 

 

 悟飯が界王神のところで儀式をしてから一週間の月日が流れた。

 ようやく連絡が取れたとき、ウイスは「忙しかった」と言っていたが、後々地球に美味しいご飯を食べに来たりしていて、折り返すのを忘れていたという事実が発覚することになるのは余談である。

 

 しかし、それは悟飯にとっては逆に都合が良かった。

 ビルスと連絡が取れなかった間、悟飯は北の界王のところで修行をしていたのだが、ある程度の形になるまでちょうど一週間の時間を要したからである。

 

「界王様、ありがとうございました」

「大丈夫じゃよ。わしも久々に楽しめたしな。さすが悟空の息子といったところだ」

 

 悟空以来の才能の持ち主が自分のもとで修行をしてくれたことに、界王は久しぶりにワクワクが止まらなくなっていた。

 悟空を初めて修行を付けたのは、約四十年前。そのときにも彼を鍛え上げることに夢中になったのだが、その息子を少しだけとはいえ育てることが出来たのは界王にとっても感慨深いものがあったのだ。

 

「……ふん、俺には()()()を教えなかったがな」

「ええい、まだお前はその時のことを根に持っているのか!」

 

 ピッコロは悟空と入れ替わりで界王星に行ったとき、悟空に教えたものを自分には教えなかったことを根に持っていた。

 二人のやり取りを見て、悟飯は笑っていた。それは少しずつ彼の中で、()()()()()()()が動き出そうとしている証でもあった。

 

「では行くぞ」

「……はい、お願いします」

 

 界王に改めてお礼を言いながら、ピッコロと悟飯はキビト達とともに破壊神ビルスのところへと向かうのであった。

 




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第八話 VS悟空

遅くなりました。
GW明けから新しい事業を始めることになり、時間がなかなか取りにくいため早くても土日の更新になります。



「こ、ここが破壊神様の……?」

 

 悟飯はキビトによって連れてこられた場所を見渡していた。

 界王神と同等の存在であるということを聞いていたため、場所も聖地・界王神界と同じく自然に溢れた場所、もしくは相応の神々しい場所だと思っていた。

 しかし、悟飯にとってこの場所はそうではなかったようだった。

 

「とりあえずビルス様達のところへ行きましょうか。悟空さん達も向こうにいらっしゃるみたいですし」

 

 界王神が行き先を指で示し、そこに向かって歩いていく。

 キビトとピッコロもそれに習って後ろを歩いていくが、悟飯は一つだけ疑問に思っていた。

 ついていきながら、隣を歩いているピッコロへと我慢できずに尋ねてしまう。

 

「どうしてあっちにお父さん達がいると思うのでしょうか? 向こうには〝気〟を感じないのに……」

 

 その言葉を聞いて、ピッコロは口を開く。

 

「本来、〝神の気〟というものは常人には感じ取ることが出来ないらしい。界王神様達の気も感じ取ることは出来ないだろう?」

「あ……言われてみればたしかにそうですね」

「これから会う破壊神ビルス様や付き人である天使のウイス様も同じ〝神の気〟を持つのだ」

 

 悟飯は一旦納得しかけたのだが、更に疑問が浮かぶ。

 

「でもお父さんやベジータさんはサイヤ人ですよね? 俺の世界ではちゃんと気を感じ取ることは出来てましたし」

「それはな、あいつらは〝神の気〟に似た気の性質となったからだな」

「それは──」

 

 どういうことなのかと悟飯が続きを促そうとしたところで、界王神より「着きましたよ」と言われ前を向くと、そこには見たことがない人物が二人と見知った顔が二人。

 そのうちの一人は、かつて自分が目指した(いただき)にいた存在()であった。

 

「……あ…………」

 

 悟飯は胡座をかいて座っている父を前にして言葉を失う。

 そんな悟飯の様子など気にした素振りを見せない彼は、悟飯を見つけると軽く手を上げて「よっ」と挨拶をしていた。

 

「お、おとう──」

「界王神様達も〝力の大会〟ぶりだなあ〜! 元気にしてたか?」

「……ええ、悟空さんやベジータさんもお変わりないようで」

 

 十年以上ぶりの感動の再会。その出鼻を挫く行動。相変わらずの空気を読まない悟空()の行動に固まる悟飯。

 ピッコロも流石に酷いやつだとは思っていたが、()()()()()()()()を無視して勝手な行動は取ることは出来なかった。

 

「へぇ……ボクに挨拶無しなんて、いい度胸してるじゃない?」

 

 頭の後ろで腕を組んでビーチチェアに座っていた耳の大きい猫獣人が、勝手に話を進めていた界王神達に対してやや不機嫌そうに話し掛ける。

 キビトは破壊神に恐れ(おのの)き、鼻水を垂らしながら界王神の後ろに隠れるが、界王神は恐怖をおくびにも出さずにビルスへと挨拶をする。

 

「ビルス様、お久し振りです。本日はここにいる孫悟飯さんについて、ビルス様達にお聞きしたいことがありまして参りました」

「孫悟飯……悟空の息子のことかい? 力の大会で見たときより少し変わっているねぇ」

 

 界王神は話を逸らし、話題を悟飯に持っていく。

 ビルスは話を逸らされたことには気付いていたが、そこまでこだわっていたことではなかったため気にしない。

 それよりも力の大会で優勝に貢献した第七宇宙チームのリーダーであった悟飯が、わざわざ用事があって来たことに少しだけ興味を持ったようであった。

 

 悟飯を見たビルスは、顔の傷だけでなく目つきや纏っている雰囲気が以前見たそれとは違っていたため、目を細めて(いぶか)しげな表情をしていた。

 それに回答したのは横にいたウイスだった。

 

「ビルス様、彼は以前平行世界から来たトランクスさんの世界の悟飯さんですよ」

「なに? ザマスのときのか。時間移動は大罪だとあのとき伝えたのに、また来たのか?」

「いえ、今回はそういうことではないみたいですねぇ」

 

 ウイスは事情を察したのか、ビルスの言葉を否定する。

 その言葉に一瞬だけムッとしたような表情をしたビルスではあったが、今は事情を聞くのが先だと界王神の方を向く。

 そして、界王神は事情を説明し、ビルスは納得したような素振りを見せる。

 

「…………なるほどな。死んだはずの人間がなぜかこの平行世界に来てしまったということか」

「不思議なこともあるものですねぇ」

 

 ビルスは少し考え込んでいたのだが、ウイスは薄く笑いながらその様子を眺めていた。

 ベジータは視線をビルス達から悟飯に変える。そして少し落ち込んだ様子の悟飯を見て、話し掛ける。

 

「おい、悟飯。お前はこっちの世界のやつとは違って、少しはやるようだな」

「え……あ、でもこちらの世界に来てからピッコロさん達に修行を付けてもらったので……」

 

 ベジータの問いに悟飯は答えるが、回答が間違っていたのか、ベジータは首を振る。

 

「単純な戦闘力だけのことではない。その歳になるまで訓練をサボることなく続けていること、その積み重ねのことを言っているんだ」

「え……」

 

 ベジータは気付いていた。彼が研鑽を重ねているということに。

 それが復讐心からなのか、世界を守りたいと思っているからかなのかはベジータにとってはどうでもいい。

 サイヤ人として()()()()()()()()者がいたことを認めているようであった。

 

「確かにそうだなぁ! 単純な強さだけならこの世界の悟飯と同じくらいかも知んねぇけど、ちゃんと修行を続けていたのはオラも分かっぞ!」

「…………はい、ありがとう、ございます……」

 

 いつもその背中を追いかけていた。自分が強くなっても、更にその遥か先にまで強くなっている二人。

 その二人から認められていたという事実に、悟飯は涙が零れ落ちそうになるのを必死に堪える。

 誰もが──ビルスでさえ──その様子を見て黙っていたが、空気を読まない男(当人の父)はあっけらかんと笑いながら立ち上がって口を開く。

 

「じゃあ、いっちょ組手をやってみっか!」

「…………お前はなんでそう空気が読めないのだ」

 

 悟空の発言に全員がため息をつき、ピッコロが苦言を(てい)す。

 しかし彼は首を(かし)げることもなく、少し離れたところまで歩き、悟飯にも来るように伝える。

 

「……ははっ!」

 

 ポカンとしていた悟飯だったが、いつでもどこにいても変わることのない偉大な父を目の前にして、笑うしか出来なくなっていた。

 それだけで少しずつ、彼に掛けられた()が解かれていくようであった。

 

「悟飯、無理はするな──」

「いえ、せっかくなのでお願いしたいと思います」

 

 ピッコロの気遣いを制し、悟飯は目元を拭うとそのまま悟空の元へと向かう。

 戦う意志を見せた悟飯に対し、悟空は笑顔で応える。

 

「よろしくお願いします」

「おうっ!」

 

 悟飯は悟空に頭を下げると、気合いを入れる。

 

「はああぁぁぁあああ!!」

「……おいおい、こりゃあやべえかもな」

 

 気を高めていく悟飯。超サイヤ人になると思っていた悟空は、自分の世界の悟飯と同じくアルティメット形態へと変化していく様子に冷や汗をかく。

 そして、そこにはあの魔人ブウをも圧倒した最強の戦士が現れたのだった。

 

「ピッコロと修行していたとは聞いていたが、まさか界王神のところで潜在能力を解放していたとはな」

「……それだけではないぞ」

 

 ベジータの言葉にピッコロが口を挟む。

 目線を一瞬だけピッコロに向けたベジータは、悟空達の方を向き直しながら「それは楽しみだ」と笑っていた。

 界王神やキビト、ビルスやウイスもその様子を黙って見ている。

 

「よっしゃ! じゃあかかってこい!」

「ええ、いきます」

 

 悟空は通常形態のまま構える。それはウイスにも散々指摘されていた()()に他ならない。

 しかし、もはやそれは彼に染み付いてしまっているのか、追い詰められるまで実力を発揮しないという弱点を抱えているのだった。

 悟飯はそれを気にせずに悟空へと突っ込んでいく。

 

「おっ、ほっ!」

 

 悟飯の攻撃を自身の勘とセンス、経験を頼りに(さば)いていく。

 しかし、彼の戦闘力は通常形態の悟空ではもはや太刀打ちできるレベルではないのは周知の事実であり、すぐに追い込まれていく。

 

「ぐっ!」

 

 ついに悟飯の一撃をまともに受けてしまい、悟空は遙か先まで吹き飛ばされてしまう。

 悟飯はそれを追いかけることなく、その場で両手を右の腰辺りに持ってくる。

 

「む、アレは!?」

「ええ、悟空さんの技ですね」

 

 正確には亀仙人の技なのだが、それはもはやどちらでも良い。

 悟飯は全身に纏った気を両手に集中させていく。

 

「かめはめ…………波ぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 悟空がすぐに戻ってくるのは予測できたため、即座に全力のかめはめ波を放つ。

 その先には父がいるにも関わらず、殺してしまいかねないレベルの攻撃にピッコロは冷や汗をかいていた。

 

(こちらの世界の悟飯はまだ甘いところが多い。もし今と同じような状況になったとしても、かめはめ波の出力を抑えていただろう。

やはり…………俺達がいなくなったという環境が悟飯を変えてしまったのだな……)

 

 ピッコロは甘さを捨てた悟飯がどれだけ強くなるのか予想も出来ていなかった。

 いや、正確には予想はしていたのだが、目の前にいる孫悟飯は()()()()()()()()()だったのだ。

 

 この世界の悟飯には、常々甘さを捨てろと伝えてきた。同時にその甘さは悟飯にとっての長所でもあると。

 事実、悟飯の甘さに救われたのは紛れもなくピッコロ自身なのだから。

 だが、悟飯に甘さを捨てさせることが本当に良いことなのか、彼の中で迷いが出るようになってしまっていた。

 

「────ッ!?」

 

 考え事に(ふけ)っていたピッコロは、大きな爆発音で意識を悟飯達の方へと向ける。

 視線のはるか先には、両腕をクロスして全力で防御した()()()()()が立っていたのだった。

 

「あ、あれは……?」

 

 悟飯はかめはめ波を撃った格好のまま、姿が変化した父に対して目を見開いていた。

 それは超サイヤ人でも、超サイヤ人2でもない。ましてや自身の今の形態であるアルティメット化でもない。

 悟飯はそこで()()()()()に至る。

 

「これが……超サイヤ人……3……」

 

 悟飯はその圧力に息を呑む。

 見た目のシルエットは超サイヤ人のそれと同じなのだが、髪や目は青く、纏うオーラは冷静さを象徴するかのような綺麗な水色を纏っていた。

 何よりも驚くのは()()()()()()()()()()()ということだった。

 

 悟空はゆっくりと歩いてくる。

 未知の存在となった悟空に対して、悟飯は冷や汗をかいていた。

 

「……話には聞いていましたが、それが超サイヤ人3()なのですね」

 

 悟飯の言葉に対して、悟空は(かぶり)を振る。

 

「いいや、ちげえさ。これは()()()()()()()()を更に極めた、()()()()()()()()っちゅうやつだ」

「超サイヤ人……ゴッド? ……ブルー?」

 

 悟空の口から発せられた言葉に、悟飯は聞き覚えがなかった。

 その様子を見た悟空はふっと笑うと、通常形態に戻る。

 

「悟飯、超サイヤ人はどこまでなれるようになったんだ?」

「えっと……2までです」

「そうか。じゃあその先の3()から見せてやる」

 

 そう言うと、悟空は気合いを入れ始める。気がどんどん膨れ上がっていき、周囲の空気が震えていく。

 驚くべきは見た目の変化だ。悟空の髪が少しずつ伸びていき、顔の形も若干変わっていっているようであった。

 

「……これが超サイヤ人3だ」

「……あ…………」

 

 超サイヤ人2とは違うオーラの纏い方に神々しさすら感じてしまっていた。

 結局髪は腰まで伸び、眉も無くなったせいか悟空の面影が無くなっていたのだが、その分強くなっているのが分かった。

 

「けどな、これは消耗が激しくてな。継続して戦うには向いてねぇんだ。……次は超サイヤ人ゴッドだな」

 

 再度元の状態に戻ると、今度は軽く気合いを入れるだけで悟空は変身をする。

 それは界王拳を使った時のような色をしていたのだが、悟空は髪や目も赤くなり、身体も若干細くなっているようであった。

 

(これだ……お父さんの()が感じられなかったのは。……ゴッド……神……?)

 

 悟飯は一つの推測をする。超サイヤ人ゴッドというのは、一種の()と同じようなものなのではないかと。

 先程ピッコロから途中で終わってしまった説明──悟空達が神の気と同じ性質を持つようになったのはこのことではないかと。

 

「それでこの変身が、超サイヤ人ゴッドの力を持った超サイヤ人──超サイヤ人ブルーっちゅーやつだ」

 

 そう言いながら先程の青色を纏った超サイヤ人へと変身する。

 ここまで説明され、悟飯は全てを理解した。

 悟空はサイヤ人として更なる境地に達していたのだ。強さを求め続けるサイヤ人であり、悟空のような才能を持つ者だからこそここまでの強さを持つことが出来たのだと。

 

「……流石ですね。ですが、俺も今まで遊んできたわけではないです」

「そりゃそうだな。おめえを見りゃわかるぞ。その状態でもオラ達に届きつつある(りき)を持ってるかんな」

「ええ。だからこそ、今こそお父さんを超えてみせます!」

 

 悟飯はアルティメット状態から更に気合いを入れ始める。

 身体から徐々に赤いオーラが出始めていた。

 

「そ、そりゃあまさか……()()()か!?」

「……あの野郎、いつの間に」

 

 悟空は驚き、ベジータは別の意味で驚いていた。

 

「これが俺の本気────〝究極形態(アルティメット)界王拳〟だぁぁぁぁ!!!」

 

 悟飯は悟空へと突っ込んでいき、顔面を思い切り殴る。数mほど後退した悟空に追撃のラッシュを続ける。

 為す術なく攻撃を受け続ける悟空を思い切り蹴り上げ、上空へと舞い上げる。

 

「──くっ!」

「喰らえっ!!」

 

 悟空は体勢を立て直そうとするが、上空に先に移動していた悟飯によるダブルスレッジハンマーで今度は地面へと大きな音を立てて突き刺さっていくのであった。

 ゆっくりと降りてくる悟飯。しかしその様子は──。

 

「……はぁはぁ……はぁはぁ」

 

 界王拳を解き、息を荒くしていた悟飯。界王拳を学んだとはいえ、まだ一週間。悟飯の才能を持ってしても極めるには程遠く、体力をかなり消耗してしまっていた。

 しかし、この渾身の一撃を喰らっても、悟空はまだ起き上がってくるのだった。

 

「……いちちち。おめえ、まさか界王拳使えるようになったんか! こっちの世界の悟飯じゃあ修行が足りねえから無理だったんだけどな」

 

 頭を抑えながらもゆっくりと立ち上がる悟空。

 そして素直に界王拳を使えるようになった悟飯を褒めていた。修行をサボっていたこちらの世界の悟飯と違って、我流とはいえ修行を続けていた。

 そのためある程度の土台は出来ており、ピッコロとの精神と時の部屋で細かな気のコントロールの訓練を行っていたのも功を奏していたのだった。

 

「……まさか()()()()自分の変身に界王拳を乗せることを思い付くなんてな」

「俺……()……? ま、まさか!?」

「はああぁぁぁあああ!!」

 

 悟空は超サイヤ人ブルーの状態から更に気合いを入れ始める。

 元々持っている水色のオーラの周りに、先程まで悟飯が纏っていた赤いオーラを纏わせていく悟空。

 

「これが〝超サイヤ人ブルー界王拳〟だ」

「────なっ!」

 

 

 

 

 

 悟飯が声を上げて構えようとした瞬間に何かの衝撃を受け、彼はそのまま意識を失うのであった。

 

 

 

     ◇

 

 

 

「…………ん……ここは……?」

「悟飯さん、気が付かれましたか!」

 

 悟飯が目を覚ますと界王神の声が聞こえ、そこである程度のことを思い出していく。

 先程まで悟空と組手をしていたのだが、超サイヤ人ブルー界王拳の前には体力を失ってしまった悟飯では太刀打ちできずに一瞬でやられてしまっていた。

 上半身のみ起き上がらせた悟飯は、近くで座っていた悟空に笑い掛ける。

 

「……はは、やはりお父さんは凄いですね。まさか超サイヤ人ブルーの更に上を見つけていたとは」

「おめえだって同じじゃねぇか。オラも流石にやべえかもって思っちまったぞ!」

「ここは親子ということだな。……まだまだボクには敵わないけどね」

「ふふっ。そんなこと言って、ビルス様はちょっとやばいかもとか思っちゃったりしてるんじゃないんですかぁ?」

 

 お互いに褒め合う悟空と悟飯。そこに同じ発想に至るのはさすが親子だと腕を組みながら口を挟むビルス。

 強がるビルスをウイスは笑いながらからかい、それをきっかけに場の空気が和んでいった。

 ある程度時間が経ったところで、ウイスが本題に入る。

 

「そういえば忘れていましたが、悟飯さんがなぜこの平行世界に来てしまったのかということでしたよね」

「な、何か分かったのですか!?」

 

 悟飯がウイスの方を向き、答えを急かすように詰め寄る。

 天使に対して確実に不敬な態度と取られてもおかしくないのだが、悟飯の気持ちを理解しているウイスは薄く笑いながら話を続ける。

 

「ええ、あくまで推測ですが」

「お、教えて下さい!」

「きっかけはやはり()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()でしょうね」

 

 ウイスは咳払いをすると説明をしていく。

 トランクスがタイムマシンでこの世界に来てしまったことで、平行世界が生まれてしまった。

 そこまではあり得ること──時間移動は大罪なのだが──なので、置いておく。

 

 そして、この世界と平行世界に繋がりが出来てしまったのだ。

 初めはタイムマシンを介することでしか、その繋がりを移動できなかったのだが、ザマスの件によって状況は変わってきてしまう。

 ザマスとの戦い、最後に出てきた〝全王〟が平行世界を消滅させてしまった。

 

 そのときの衝撃が原因で平行世界の複数の時間軸でこの世界と繋がってしまい、悟飯は死んでしまう直前にたまたま渡ってきてしまったのだろうということであった。

 直接的な原因となったのは全王だが、きっかけになってしまったのはトランクスであるとはそういうことだった。

 しかし、この話を聞いたとき、悟飯はこの世界に来てしまった理由よりも別の言葉に衝撃を受けてしまっていた。

 

「俺の……世界が……消滅してしまった、のですか……?」

「────ッ!」

 

 ピッコロ達があえて言わないようにしていたことをウイスが話の流れで言ってしまったため、ピッコロは止めることが出来なかった。

 衝撃を受けている悟飯に対し、ピッコロは苦々しい表情をしながら心配そうに悟飯を見つめる。

 だが、ウイスはその質問を軽い口調で答える。

 

「それは()()()()()()()()()()の話ですね。貴方が生きているということは元々の歴史にはなかったはずです。

それであれば恐らく悟飯さんが生きているという平行世界が出来ていますので、貴方の世界は無事ですよ。

()()()()がもう一つ出来ているはずなので、界王神様が後ほど確認すれば分かるかと」

「そう……ですか……」

 

 自分の世界が無事であることには良かったのだが、逆に消滅してしまった世界があるという事実に素直には喜べない悟飯。

 やはり孫悟飯とはどの世界であっても本質の優しさは失っていないのだった。

 

「で、ではもしかして時の指輪を使えば、悟飯さんは元の世界に戻れるということでしょうか?」

「……ええ。大丈夫でしょう。ただ、時の指輪でも過去には戻れないので、悟飯さんが亡くなったとされる日からこの世界で過ごした一週間以上の時間が向こうでも過ぎてしまっていますけれど」

 

 界王神は〝時の指輪〟のことを思い出すことが出来ていなかったことを恥ずかしく思いつつも、ウイスに確認をすると是という返事があった。

 

「悟飯さん! これで元の世界に帰れますね!」

「……ええ。ありがとうございます」

 

 先程の件もあり、喜びづらいとは思いつつも界王神にお礼を伝える。

 さっそく帰ろうという空気になったところで、ベジータから待ったが掛かる。

 

「待て、悟飯」

「ベジータさん……?」

 

 悟飯を呼び止めたベジータが何を言い出すのかと身構えていると、彼から驚くべき言葉が出てくるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………俺とも戦え。カカロットばかりずるいぞ」

 

 

 

 まさかの言葉に全員がずっこけるのであった。

 




心配そうに悟飯を見つめるツンデレさんがてぇてぇと思っていただけた方は、お気に入り登録、高評価や感想をぜひお願いします!

超サイヤ人やアルティメット化は〝変身〟、界王拳は〝技〟という認識のため、この話では上乗せ可能ということで話を進めていきます。

悟飯の界王拳は覚えたてのため、三倍までしか使えないです。
それでも体力消費は激しいです。
悟空は二十倍まで使えます。

あと1〜2話くらいで本編完結の予定です。
後日譚として、魔人ブウ編やその他の話を見たい方っていますかね?


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第九話 帰還

次回の投稿は土日になります。
→これは来週ではなく、今週のでした(笑)



ベジータの希望──わがまま──で、悟飯との組手を行い、ボロボロになった二人を先程と同じくウイスが治す。

 

「それにしても今の悟空とベジータ相手にほぼ互角の戦いをするとはな」

「そうですねぇ。あの二人も相当強さを増していると思っていたのですが……やはりサイヤ人と地球人の混血は潜在能力が高まるのでしょう」

 

 ビルスとウイスはブルマからお土産で貰った唐揚げを頬張りながら、素直に悟飯を褒めていた。

 二十三歳という若さで、親世代である悟空・ベジータ両名とここまで戦うことが出来るということは通常では考えられなかった。

 それも悟飯の今までの境遇もあってのことなのであろう。

 

「……そういえばお父さんに聞きたいことがあったんでした」

「ん? なんだ?」

「お父さんから見て、この世界の俺って……()()ですか?」

 

 悟飯は父や他の戦士が生きているこの世界の悟飯が、悟空目線でどう映っているかが気になっていた。

 それに対し、悟空は少し悩んだあと、ゆっくりと口を開く。

 

「……ん〜、幸せっちゅうんがどういうことなのか分からねぇけど、悟飯はいつも笑顔で()()()()()()達と暮らしてるぞ。

オラとしてはもっと強さにこだわって欲しいんだけどなぁ。そうすりゃあ、おめえのようにまだまだ発展途上でも、オラ達に追い付くことができているかんなぁ」

「ビーデル……パン……」

 

 悟空が口を滑らせたその二人の名前を聞いて、悟飯は二人がこの世界の自分の妻と子供なのだと確信する。

 そして自分と違って、強さを求めなくても大丈夫な世の中になっているということがとても羨ましいと思ってしまっていた。

 

「ふん。最近はやるようになっているが、今までトレーニングを怠けていた悟飯が、貴様に勝てる道理はない。それにそっちの世界は貴様とトランクスしかいないのだろう? それならばこの世界とは違う、()()()()()()()とやらを見つければいいだけだ」

 

 考え込んでいた悟飯を励ますかのように、ベジータは珍しく饒舌になっていた。

 突然ベジータがそのようなことを言い出したことに、全員が目を丸くしていた。

 

「な、なんだ! 俺はカカロットと違ってまともなことくらいは言えるぞ! 第一、世界は違えど俺の息子(トランクス)のトレーニングをして、兄のような存在でいてくれたのだからな。……多少なりとも礼はする」

 

 やや顔を赤くして、そっぽを向きながら早口になるベジータ。

 ここにツンデレさん一号(ピッコロ)に続き、ツンデレさん二号(ベジータ)が誕生したのだが、この場にいる誰もがそれを望んではいなかった。

 

 しかし、悟飯はベジータの優しさに気が付いていた。

 彼が「俺とも戦え」と言ったのは、ただ単に自分が戦いたいということだけではなかった。

 サイヤ人は戦いを通して更に成長をする。強敵であればあるほど、成長度は更に増す。その一助(いちじょ)となればという思いで、悟飯との組手を望んでいたのだった。

 実際に悟飯は二人との戦いを通して、界王拳の倍率を更に上げることに成功していた。

 

「ベジータさん……ありがとうございます!」

「……ふん」

 

 素直にお礼を言われたベジータは、冷たく返事をする。

 悟飯は相変わらずだなと苦笑いするが、心の中で再度お礼を伝える。

 

(ベジータさん、ありがとうございます。貴方のことは、元の世界に戻ったときにトランクスへ改めて伝えますね)

 

 

 

 

 そうこうしているうちに界王神が時の指輪を確認して戻ってきたため、悟飯は元の世界に戻る時間となっていた。

 

「ではこのポタラを()()に付けてください」

「右耳、ですね」

 

 界王神は自身の()()に付いたポタラを悟飯に渡して、()()に付けるように伝える。

 ポタラは近くにいる者がそれぞれ左右の耳に付けることによって、究極の戦士へと融合することが出来る。

 間違って融合しないようにと、そのことを注意点として伝えたため、悟飯は疑問を持つこともなく右耳へと付ける。

 

「悟飯」

 

 悟空が悟飯に声を掛ける。

 先程散々話した二人だったため、最後の挨拶であろうと悟飯は推測する。

 

「おめえはあっちの世界でよく頑張った。おめえがいなかったら、地球はとっくに人造人間達に滅ぼされていただろうな」

「……え…………?」

「向こうの世界のオラが、おめえにバトンを渡した理由がよく分かったぞ。今のおめえになら、地球の命運をオラ達の代わりに任せることが出来るからな」

 

 不意の言葉。

 自分はまだまだ尊敬する父に追い付くことなど出来ない。それなのに受け取ったバトンはとても重く、自分へとのしかかってしまっていた。

 これを本当に自分が受け取る資格などあるのかと。

 

「お……父……さん……」

 

 悟飯の目から涙が零れてくる。

 トランクスが成長するまでは、戦える者は自分しかいないと母を捨て、甘さを捨て、夢を捨てた。

 全ては父から受け継いだバトンに応える、ただそれだけのために。

 

 人造人間にボロボロにされても、片腕になろうとも歴戦の戦士達が救ったこの地球という星を守り抜く。

 誰かに認められるということなど、望んでいない──そのはずだった。

 

「俺……()は……お父さんから、貰った、バトンを……きちんと受け継ぐことが出来ませんでした……」

「そんなことはねぇさ。おめえがいたからこそ、おめえの世界の人達はまだ生き残ってるんだ。……一人で抱え込むのは辛かっただろ? 今まで良く頑張ったな」

 

 悟空は涙で溢れた顔をしている悟飯を抱きしめ、頭を撫でる。

 そして、それをきっかけに今まで彼が囚われていた()が全て(ほど)かれていく。

 

「ありがとう……ございます。ありがとうございます……」

 

 悟飯は泣き止むまで、ずっとお礼を言い続けるのだった。

 

 

 

     ◇

 

 

 

「じゃあ僕は元の世界に帰りますね」

「ああ、元気でな」

 

 どうせなら他の人達と会ってから帰ればいいと勧められたのだが、悟飯は「そうすると元の世界に帰りたくなくなってしまうかもしれないので」とそれを固辞する。

 

「お父さん。帰って、人造人間の件が片付いたら……お母さんのところに戻って、たくさん謝りたいと思います」

「ああ、それがいい。チチのやつも、悟飯が戻ってきてくれるなら怒ったりなんかしねえさ」

 

 悟空と握手する悟飯。

 

「ベジータさん。トランクスに、貴方は本当に素晴らしい戦士だったと伝えています。トランクスが貴方を追い越せるように強くしてみせます」

「……そうか。それは楽しみだな」

 

 握手に応えることはなかったが、微かに笑ったベジータはトランクスのことを頼んだと言わんばかりの表情をしていた。

 そして、悟飯はピッコロのところへと向かう。

 

「ピッコロさん、今まで本当にありがとうございました。ピッコロさんがいなかったら、僕はここまで強くなることは出来なかったと思います」

「…………そうか」

「それで……最後にピッコロさんにお願いがあるのですが……」

 

 少し気まずそうにピッコロへとお願いがあると伝える悟飯。

 

「なんだ? 言ってみろ」

()()()()()()()()が欲しいんです。貴方は僕の師匠であり、二人目の父でもありました。そんな尊敬する人の服を纏って、元の世界に帰りたいです」

 

 悟飯のこの言葉に、ピッコロは昔のことを思い出していた。

 それは悟飯の少年期時代。超サイヤ人になるべく精神と時の部屋で修行後、出てきたときにお願いされたことと同じであったのだ。

 ピッコロはそのときと同じく笑いながら返事をした。

 

「……わかった。かっこいいやつをプレゼントしてやる」

 

 そう言うと、悟飯の方に手を向けて服を交換する。

 悟飯はピッコロのようにマントやターバンをしていなかったが、それは紛れもなくピッコロの衣装であった。

 

「わぁ! ……ありがとうございます!」

 

 悟飯は子供のように嬉しそうな顔をしていた。

 ピッコロもその姿を似合っていると素直に褒め、握手を交わすのだった。

 

 

 

 

 

「それでは時の指輪で悟飯さんを元の世界に返しますね」

「皆さん、本当にありがとうございました! このご恩は決して忘れません!」

 

 悟飯がそう言うと、界王神は時の指輪に力を込めて二人はこの世界から消えていくのだった。

 

 

 

     ◇

 

 

 

「……ここは……?」

「悟飯さんが亡くなったとされる日から一週間と数日ほど経っていますが、あなたの世界です」

 

 二人が到着した場所。それは最後に人造人間と戦った西の都だった。

 悟飯がすぐに駆けつけたため、場所によっては全壊しているところはあるがまだ半分以上は無事の状態だった。

 

「それでは私は元の世界に帰りますね」

「ええ。本当にありがとうございました」

「いいんですよ。私も元の世界の悟飯さんには助けられましたから。こちらの世界でも平和を取り戻してくださいね!」

 

 界王神は手を振りながら消えていった。

 彼がいなくなったのを確認したあと、西の都の現状を確認するべく散策する悟飯。

 

(あのあと、人造人間の二人はすぐに帰ったんだな。必要以上に人を殺されなくてよかった……)

 

 人造人間19号と20号は悟飯を仕留めたあと、傷付いてしまったため西の都から離れていた。

 様子を見るに、それから今までの間で襲撃は起こっていないようだった。

 

(……これ以上被害は出せないな。早く人造人間達を──)

 

「悟飯……さん……?」

 

 被害状況を確認し、少しでも早く人造人間を倒そうと決心を固めようとしたところで後ろから声を掛けられる。

 振り向くと、そこには紫色の髪をした少年が泣きそうな顔をして立っていたのだった。

 

「生きて……いたんです、ね……」

「ああ。心配させてしまってすまないな、トランクス」

 

 トランクスは嬉しさのあまり、悟飯に向かって飛び込んでいくのであった。

 




美味しいところを悟空に取られてしまい、隠れて嫉妬していたときに、悟飯にお願いをされて嬉しそうな笑顔を見せたツンデレさん。
そんな彼がてぇてぇと思っていただけた方は、お気に入り登録、高評価や感想をぜひお願いします!

次回、本編最終話です。
魔人ブウ編以降も見たいですか?アンケートをするので、良かったら教えて下さい!


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最終話 大団円

最終話です。
あとがきに色々と書いていますので、良かったらご覧くださいませ。



「悟飯くん! よかった……生きていてくれたのね……」

「はい。ご心配掛けてすみません、ブルマさん」

 

 カプセルコーポレーションに戻ってきた悟飯とトランクス。そこではブルマとマイが笑顔で出迎えてくれていた。

 人造人間が襲ってきた一週間ほど前。悟飯が一人で人造人間に立ち向かっていったのだが、全てが終わってトランクスが状況を確認しに来たとき、その場所には瓦礫のみが残されており、人造人間の姿はもちろん悟飯の姿もなかった。

 人造人間に関しては飛び去っていく姿を目撃されていたため生きていたのは分かっていたのだが、悟飯だけはどれだけ探しても見つかることはなかった。

 

「悟飯さんの気が感じられなくなってしまって……もしかしたらって……」

「トランクス……」

「何があったか説明してくれるわね? あなたの()()()()()のことも含めて」

 

 ブルマの言葉に悟飯は頷き、そして口を開く。

 

「実は、()は人造人間に殺されてしまったと思っていたんです……ですが──」

 

 淡々と何があったのかを説明していく。転移した先で死んでしまったはずのクリリンと出会ったこと。神の神殿に行ってデンデとピッコロと再会し、腕を治してもらって精神と時の部屋で修行をしてもらったこと。

 界王神界や界王星での出来事。そして、自分の父である悟空やブルマの夫、トランクスの父であるベジータとも再会したこと。

 

「そう……なの……ベジータ(あの人)にも会ったのね」

「僕の……お父さん……」

「トランクス。君の父さんはやっぱり誇り高きサイヤ人の戦士だったよ。()が前に話したときよりもずっと強く、厳しく、そして優しい人だった」

「悟飯くん……」

 

 トランクスに対し、ベジータの素晴らしさを語る悟飯。

 初めは気を遣ってベジータのことを良い風に言ってくれていたのだと思ったブルマだが、悟飯の目が嘘を語っていないことが分かって、ブルマは嬉しそうに笑う。

 

「それにしても悟飯くん、口調を変えたのね。いえ、元に戻したというのが正しいかしら?」

「あ……え、えっと……」

「別に責めている訳じゃないわよ。むしろ今のほうがずっと良いわ。前の貴方は、なんていうか自分のことを追い詰めているようだったか──」

 

 ブルマ達が話していると、突然ラジオが大きな音を立て始める。

 

〈緊急ニュースです! パセリシティに人造人間が現れました! 近くにいる市民は慌てずに避難をしてください!〉

 

 それは人造人間の襲来を知らせるニュースであった。その話を聞いて、悟飯とトランクスが反応する。

 

「悟飯さん!」

「……ああ、今度こそ人造人間たち(やつら)を倒すぞ!」

「悟飯くん! その……大丈夫なの……よね?」

 

 ブルマは心配そうに悟飯を見つめる。

 悟飯はそれに対し、薄く笑って答える。

 

「……ええ。向こうの世界で修行してきた僕は()()()()()()()()

「僕も、僕もついていっていいですよね!?」

 

 トランクスが今度こそ絶対についていくという意思を悟飯に告げる。

 少し考えた悟飯だったが、トランクスの顔を見て小さく頷く。

 

「ああ。トランクスもついて来い。この世界は僕と君で守るんだからな」

「────はいっ!」

 

 そして、この世界に残った二人の戦士は長年の決着を付けるべく、パセリシティへと向かうのであった。

 

 

 

     ◇

 

 

 

「あははははっ! ほらほら、さっさと逃げなよ!」

 

 人造人間20号は今までの鬱憤を晴らすかのように暴れまわっていた。

 

「なんだ、20号。今日はやけに遊びが少ないじゃないか」

「ふん、孫悟飯のせいでストレスが溜まっていたからね。あんただってそうじゃないのかい?」

「…………それもそうか。よし、俺もやろう」

 

 二人は悟飯との戦いで少なくないダメージを受けていた。そのため、回復するまで一週間以上の期間を大人しくしているしかなかった。

 20号の話に同意した人造人間19号は、腰を掛けていた瓦礫から立ち上がって20号の隣まで行き、逃げ惑う市民に向かって右手を伸ばす

 そして気功波を放とうとしたところに────

 

 

 

 

 

 

 

 現れたのは、孫悟飯とトランクスの二人であった。

 19号と20号は驚きの顔を見せていた。一週間ほど前に死んでいてもおかしくないダメージを与えたはずの孫悟飯が目の前にいたことに。

 そして、一切のダメージがないどころか、()()()()()()()()()()すら元に戻っていたからだ。

 

「まさか……生きていたとはな。これには流石に俺も驚いた」

「……お前達を倒すまでは死に切れなくてな」

 

 19号の素直な感想に対し、挑発するように返す悟飯。

 そのまま小さな声でトランクスへと話し掛ける。

 

「トランクス、ここは僕が一人でやる」

「え……でも……」

 

 トランクスは悟飯の言葉に対し、心配そうな声を上げる。

 一週間ちょっと別の世界で修行したとはいえ、その程度で本当に人造人間を倒せるようになったのかということまでは信じ切れていなかったのだ。

 

「大丈夫だ。ピッコロさんや僕の父さん、君のお父さんに付けてもらった修行がどれだけ凄かったのかを見せてやる」

「…………無理だけはしないでください」

 

 そう言うとトランクスは少し後ろへ下がる。この行動に反応したのは20号だった。

 

「なにごちゃごちゃ言ってるんだい!? 前回あれだけやられたってのに、もしかしてあんた一人でやるってのかい?」

「その通りだ。お前達の相手は僕一人で十分だ」

 

 その言葉に20号は青筋を立てて怒りの表情を見せる。

 

「いい度胸だ! 19号、手を出すんじゃないよ! コイツはあたしが──」

 

 

 

 

 

 

 これが人造人間20号の最後の言葉となった。

 

「────ッ!」

「…………な……」

 

 20号は決して油断していたわけではない。19号に話し掛けていたときも、悟飯の一挙手一投足を警戒していたし、実際に()()()()()()()()であれば、不意打ちを食らっても問題なく対処出来ていた。

 純粋に強さの桁が違った。ただそれだけで彼女はこの世を去ることとなったのだ。

 

「な、何が起こったというんだ……?」

 

 トランクスは悟飯の行動を追いきれていなかった。いつの間にか存在ごと消滅させられた20号は、悟飯によって行われたことなのだと気付き、目を見開いて驚いていた。

 そしてそれは19号も同じである。真隣にいた20号の姿形がいつの間にか消え去り、孫悟飯と入れ替わっていたのだ。驚かないはずがない。

 すぐにバックステップで後ろに下がり、現状の把握に努めていた。

 

「な、なにを……し……」

「……なんだ、見えていなかったのか? だが、お前の想像通りだ」

「そ、そんなわけがあるはずがないだろう! 貴様ごときに20号がやられるはずがない!」

 

 19号は珍しく感情を(あらわ)にしていた。

 不可解なことが起こったのだ、それも無理はないであろう。

 いつの間にか20号が消滅させられ、それを行ったのが目の前にいる孫悟飯と理解せざるを得ない状況なのだから。

 

(ご、悟飯さん……どんな修行をしてきたんだ……? 超サイヤ人にすらなっていないのに……)

 

 トランクスは黙っていたが、悟飯の底知れない強さにある種の恐怖を覚えていた。

 少し前にようやく背中が見えてきたと思っていた孫悟飯が、遙か先の遠いステージへと昇っていってしまったのだから。

 

「……はは。はははは! そうか、そういうことか! これは何かの間違いだ。そうに違いない! 俺達がこんなやつに負けるなど……そんなわけがないんだ!」

 

 19号は現実を受け入れることが出来ず、壊れた機械のように笑い続けていた。

 それを何の感情を見せずに見つめる悟飯。そして後ろにいるトランクスへと声を掛ける。

 

「トランクス、よく見ておけ。僕があっちの世界で手に入れた強さを!」

「ご……悟飯……さん……?」

 

 悟飯は気合いを入れ始める。まるで超サイヤ人に変身するかの如く、気を高め始める悟飯。

 しかし、彼の髪の毛や纏うオーラは黄金に変化することはない。それにも関わらず、彼の気は以前のそれとは全く違う存在へと変わっていったのだった。

 

「こ……これ……は……」

 

 トランクスは絶句していた。遥か先のステージへと行ってしまったと思っていたが、それは大きな間違いであった。

 ()()()()()──これが、トランクスが最終的に下した孫悟飯への評価だった。

 

「そうだ。何かの間違いであるならば、ここにあんなやつがいてはいけないんだ……ああ、そうだ。それなら俺が殺してやろう。孫悟飯、お前の存在をこの俺がなぁ!!」

 

 その一方で、気を感じることすら出来ない19号は未だ悟飯を受け入れることは出来ていなかった。

 それどころか狂ったかのように勝手に納得し、勝手に悟飯を倒せると勘違いし────。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

()()()()()()()

 

 一切の油断を見せることがなかった悟飯の手によって、何をされたかすら気付くこともなく、この世を去ったのだった。

 アルティメット化を解いた悟飯にトランクスが走っていく。

 

「悟飯さん! ついに……ついにやったんですね!」

「……ああ。だが、()()()

 

 

 

 

 

 ────僕達の世界を平和にするには、まだ倒さなくてはいけない人造人間がいるんだ。

 

 

 

     ◇

 

 

 

 エイジ788。人造人間19号、20号の恐怖から解放された地球人は、この八年で大体の場所が復興し、元通りの生活を営むことが出来ていた。

 

「はああぁぁあ!」

「そうだ! それで良いぞ!」

 

 三十一歳になった悟飯と二十二歳のトランクスは、いつものように修行を繰り返していた。

 

「まったく悟飯ちゃんってば、悟空さみたいに修行ばっかして!」

「それは父親に似たのかもしれないわね。うちのトランクスもベジータみたいにトレーニングの鬼になってるもの。これじゃあマイが可哀想だわ」

 

 パオズ山で修行をしていた二人を、チチとブルマは呆れた顔で見ていた。

 八年前に19号達を倒した悟飯は、パオズ山に残した母であるチチの元へと帰っていった。

 夜に自分の家の扉をノックする音。多少の警戒をしていたチチが扉を開けたときに見た光景は、今でも忘れることは出来なかったであろう。

 

「人造人間がいなくなって、悟飯ちゃんが戻ってきた時は本当に嬉しかっただ。これで本当に平和が戻ったんだなって思っただよ」

「そうね。でも()()()()()()()()って聞いたときは、私も血の気が引いて倒れるかと思ったわよ」

 

 まだ終わりではない。その情報は平行世界で聞いた情報なのだと言う悟飯の言葉を鵜呑みにはしたくなかった。

 だが、たった一週間ほどで人造人間を倒すだけの力を身に着けていた悟飯が夢を見ていたとも思えなかったのだ。

 

「いつになったら現れるのかしらね? その()()ってやつは──」

「悟飯さん!!」

「……ついに来たか」

 

 ブルマの声を遮るかのようにトランクスと悟飯がなにかに反応を示した。

 そして同じ方向へと飛び去っていく。

 チチとブルマは()()()()()()()とお互いに目を合わせて頷く。

 

「ま、あの二人に任せておけば大丈夫ね。私達はのんびりしていましょ」

「それがいいだ。悟飯ちゃん達なら大丈夫だ。それよかもう三十一歳になるのに、彼女の一人すら出来ないのが心配だぁ」

「あら、こっちもマイが散々アピールしているのに、修行をするからって一切構わないのよ? 毎回落ち込むマイを見てると、流石に可哀想って思うわ……」

 

 サイヤ人の血を引く子供を持つ母親は息子の将来を心配し、二人してため息を吐くのだった。

 

 

 

     ◇

 

 

 

(ようやくあの研究所から出ることが出来たか……まずは生体エネルギーを集めて、そのあとに19号と20号を吸収すれば、私は()()()へとなることが出来るのだ……)

 

 長い尻尾を生やし、全身緑色の虫のような姿をした物体は地下研究所で目覚め、地上へと登ってきた。

 自らが完全体へと進化するための手順を考えていたのだが、ふと何かがおかしいことに気が付く。

 

「19号と20号の反応が……ない……だと……?」

 

 19号達は人造人間のため、気で感じることは出来ない。だからこそドクターゲロが作った特殊な超小型装置によって居場所を把握できるようになっていたのだが、その反応が一切無かったのだった。

 何が起こっているのか分からず、戸惑っていると上空から声が聞こえてきた。

 

「それはもう()()()()()()()からさ、セルよ」

「──!? 誰だ!?」

 

 セルと呼ばれた存在が上を向くと、そこには悟飯とトランクスの姿があった。

 

「その気は……孫悟飯とトランクスだな? 19号達がいないというのはどういうことだ?」

「僕が倒してしまった、ということだ」

「……ふん。そんなこと信じられるわけがないだろう。スパイロボによってお前達のデータは八年前に揃っている。変身して戦闘力を上げるようだが、その程度の強さでは19号達に勝てるわけがない」

 

 セルは悟飯の言葉を鼻で笑っていた。八年前にスパイロボットによるデータ採取は終えており、ドクターゲロが作った機械はそれ以降、セル誕生までの最後の仕上げに注力していたのだった。

 

「……まぁそれはどちらでもいいさ。セル、お前を倒せばそれで全てが終わる」

 

 悟飯の言葉にセルは一切耳を傾けようとはしない。それ以前に彼からすると、悟飯達は格好の餌にしか見えていなかったのだ。

 目覚めたばかりで極上の生体エネルギーを味わえると思うと、それだけで涎が止まらなくなりそうでになっていたセル。

 そこにトランクスが前に出る。

 

「悟飯さん、ここは僕にやらせてください」

「……いいだろう、やってみろ」

 

 トランクスが単独でセルと戦うと言い出す。悟飯もそれを了承したことで、セルは内心喜びが隠せなかった。

 強さで勝っていていても、二対一。何が起こるか分からないのが勝負なのである。

 それをわざわざ弱い方から餌として差し出してくれるというのだ。セルからしても受け入れないはずがなかった。

 

「まずはトランクス、お前からか。見てみるがいい、これが私の真の強さ──」

「はああぁぁぁあああ!!!」

 

 セルがトランクスを驚かそうと気を高めていこうとしたところで、トランクスが先に超サイヤ人へと変身していく。

 

(ふん、その程度の戦闘力の上昇なら許容範囲内だ……な、なん……だと……!?)

 

 データにあった黄金の姿に変身したと思っていたセル。八年前から多少は強くなっていたとしても、それは許容範囲内であると()()()()()()

 しかし、トランクスはもう一段階の成長をしていた。髪は更に逆立ち、黄金のオーラは力強く、そして雷を纏ったかのようにスパークしていた。

 

「な……なんだそれは!? そんなものスパイロボのデータには無かったぞ!」

「行くぞ、セル!」

 

 トランクスが姿を消したかと思うと、次の瞬間にはセルの腹を殴っていた。

 

「ぐばぁぁ!」

 

 セルが悶絶する時間すら与えず、顎にアッパーを喰らわせ、そのままラッシュをしてセルにダメージを与えていく。

 超サイヤ人2へと変身できるようになっていたトランクスの一撃はとても重く、防御はおろか、躱すことなども到底出来るわけがなかった。

 

「ぬぅぅぅ! こうなったら、これでどうだ!」

 

 セルはトランクスから生体エネルギーを奪おうと、尻尾で突き刺そうとする。

 しかし、その攻撃は読まれており、尻尾を掴んだトランクスはセルを振り回して、その勢いで尻尾を引きちぎる。

 

「ぬ、ぬぐわあぁぁぁあ!!」

 

 尻尾を引きちぎられたセルは数m程吹っ飛び、倒れ込んでしまう。

 

「こ、こんなことが……こんなことがあるわけがない! 私はドクターゲロが作った人造人間セルなのだ! 完全体にならずに死んでたまるかぁぁ!」

 

 ピッコロの遺伝子を継いでいるため再生できるはずなのだが、激しく動揺しているためか再生をしようとせず、尻尾が生えていたところからは青い血が(したた)り落ちていた。

 そして、ゆっくりと浮かび上がっていく。

 

(今なら逃げられるぞ……青二才が油断しおって!)

 

()()()()()と、本当にそう思っているのか?」

 

 生まれたばかりのセルにとって、この世界の現実は甘くなかった。

 別の平行世界であれば、逃げられる可能性もあったかもしれない。しかし、この世界に残った二人の戦士には甘さも油断も一切無い。

 浮かび上がった後ろにいたアルティメット化している悟飯の姿を見て、セルは冷や汗を流していた。

 

「く、くそぉぉぉぉぉ! くそぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

 セルは自身の最期を悟り、絶望からか叫ぶしか出来なかった。

 だが、彼にもプライドというものはある。己の死を覚悟したからこそ、最後の攻撃に打って出ようとする。

 

「こうなったらお前達も道連れにしてやる……この地球ごと道連れにしてやるぞぉぉぉ!!!」

 

 空中で急に風船のように膨らみ始めたセル。

 だが、今の悟飯にはそれすらも通用しなかった。

 

「爆発しようとしても無駄だ。お前はここで死ぬんだ。()()()()()()()

 

 膨れ上がっていくセルを両手で掴む悟飯。

 

「や、やめ……やめろぉぉぉぉぉ!!」

 

 何をされるのかに気付いたセル。しかし、膨れ上がった彼には抵抗は一切出来なかった。

 そして、思い切り上空へと放り投げると、右腰に両手を持っていき、気を溜め始める。

 

「かめはめ…………波ぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 悟飯の両手から放たれた青い閃光。それは亀仙人が生み出し、その弟子である孫悟飯に継承され、悟飯の義孫である孫悟空も得意としていた技。

 彼らの思いも込めて、全てを終わらせる一撃が宇宙空間にまで吹き飛んだセルへと直撃する。

 

「ち、ちくしょぉぉぉぉぉぉぉ…………」

 

 セルは悟飯のかめはめ波によって完全に消滅してしまう。

 再生するために必要な頭の中にある核すらも消滅してしまったので、文字通りチリ一つ残っていなかった。

 

「悟飯さん……やりましたね」

「……ああ!」

 

 悟飯の隣に来たトランクスは悟飯に声を掛けて拳を突き出す。

 そして、悟飯は返事をし、トランクスの拳に自らの拳を合わせる。

 

(これで……これでようやく終わったんだ……やりましたよ、お父さん……!)

 

 こうして、人造人間セルを倒した悟飯達の世界にようやく本当の平和が取り戻されたのであった。

 

 

 

     ◇

 

 

 

「ほら! 蝶ネクタイがズレているわよ!」

「え……か、母さん……恥ずかしいな……」

 

 セルを倒してから一年の年月が流れていた。

 この日、西の都にある教会では結婚式が開かれようとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「トランクスよ、あなたはマイを妻とし、健やかなるときも病めるときも、喜びのときも悲しみのときも、富めるときも貧しいときも、妻を愛し敬い、慰め合い共に助け合い、その命ある限り真心を尽くすことを誓いますか?」

「は、はい! 誓います!」

 

「マイよ、あなたはトランクスを夫とし、健やかなるときも病めるときも、喜びのときも悲しみのときも、富めるときも貧しいときも、夫を愛し敬い、慰め合い共に助け合い、その命ある限り真心を尽くすことを誓いますか?」

「はい、誓います」

「それでは指輪の交換を」

 

 神父に促され、指輪の交換をするマイとトランクス。

 

「それでは誓いのキスを」

 

 照れながらも誓いのキスを交わす二人。

 その直後、出席者からは大きな拍手と歓声が沸き上がるのだった。

 

「おめでとう!」

「ちゃんとマイちゃんを大切にするんだぞ!」

「マイちゃん……結局金持ちのイケメンに取られてしまうのか……」

「いや、人妻のマイちゃんも……悪くない……」

 

 やや方向性がズレた歓声もあったようだが、ほとんどが祝福の声であったため、誰が発したのかは分からずじまいであった。

 

 マイはブルマのアドバイスを参考にして、強引にトランクスへと迫ることによってその心を射止めることに成功していた。

 しかし、それは初心(うぶ)な彼女にとって苦行であり、今思い返しても良くあそこまでの行動が出来たものだと自分を褒めてやりたいとマイ自身も思っている。

 愛はその人の行動も変えてしまうということなのであろうとマイは結論づけることで、あのときの行動を正当化することにしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「では、二人の今後の幸せな人生を祝して、かんぱーーーーい!」

 

 ブルマの声で、全員がグラスを上げる。

 この九年で以前よりも会社としての規模が大きくなったカプセルコーポレーション。彼らが所有する広すぎる土地の一角に披露宴会場を設置し、様々な著名人が招待された披露宴が盛大に執り行われていた。

 

「お坊ちゃんのご結婚、おめでとうございます。つきましては、今後とも弊社とのお付き合いもよろしくお願いいたします」

「トランクス坊ちゃまのご結婚、おめでとうございます。これで子供も出来れば、跡継ぎも安泰ですな!」

 

 様々な思惑を持った者も、純粋に祝福したいと思っていた者もたくさん集まっていたのだが、そこには一風変わった者ももちろんいた。

 

「ちょっと、パパ! 飲みすぎよ!」

「なんだぁ? 良いじゃないか飲んだって! 世界チャンピオンのミスター・サタンはこれくらいで酒に飲まれるわけがなぁぁ……むにゃむにゃ」

「あ、ちょっと、パパってば!」

 

 人造人間がいなくなってから娯楽に飢えていた者たちによって、久々に開催された天下一武道会。

 そこでチャンピオンとなったミスター・サタンも披露宴に呼ばれていた。

 横には酔い潰れた父を健気に介抱しようとする娘。

 

「ああ、もうどうしよう! せっかくおめかししてきたのにぃぃ!」

 

 未だ独身であった彼女は、今回の披露宴で何か良い出会いがあるのではないかと期待し、一生懸命化粧をして、綺麗なドレスを身に纏っていた。

 実際にその姿は見惚れるものがあり、何人もの男性がいつ声を掛けようかとチャンスを伺っていた。

 そして、そのチャンスが来たとばかりに男どもが群がって来たそのときだった。

 

「……大丈夫ですか?」

「え、あ、はい。父が酔い潰れてしまっ……」

 

 声を掛けられて振り向いたとき、彼女は固まってしまった。

 スーツに身を包んだ男性。細身ではあるが、服の上からでも鍛え上げられているのが分かる身体。

 そして傷は付いているが、その顔は整っていた。

 

「では医務室に運びましょうか。僕が運ぶので」

「え、あ、でも、父は格闘家なので、こう見えて結構重い──」

 

 重いので一人で運ぶのは難しいのではないかと言おうとしたのだが、軽々とミスター・サタンを持ち上げる男性。

 やせ我慢をしているわけではなく、本当に軽々と持ち上げていたのだ。

 

(え、嘘……な、なんで……?)

 

 その男性の身体がいくら鍛え上げられているとはいっても、ミスター・サタンも世界チャンピオンになるレベルで鍛えている。

 彼の鍛えた筋肉でできた身体は、常人の男性では持ち上げることなど決して出来ないほどの体重はあったのだ。

 

「それでは行きましょうか」

「え、でも会場から勝手に出ても大丈夫なんですか?」

「ええ、大丈夫ですよ」

 

 そう言いながら勝手に会場から出ていこうとする男性。

 今回招待されているとはいえ、ここは機密情報が多い世界一の大企業。

 勝手にうろつくことなど許されるはずがなかったのだったのだが──。

 

「こんにちは。ちょっと医務室まで連れて行きますね」

「かしこまりました! 自分が代わりに運びましょうか?」

「僕が運ぶので大丈夫ですよ。それよりもこんな日にまでご苦労さまです」

「いえ! ありがとうございます、悟飯さん!」

 

 警備員とも仲良く話す悟飯と呼ばれた男性。そのまま黙って医務室まで付いていく。

 

「よし、これでちょっと寝ていれば大丈夫かな」

「あの……本当にありがとうございます」

 

 いびきをかいている父親の横で、改めて頭を下げる。

 悟飯は「気にしなくて大丈夫ですよ」と笑顔で返事をしたが、その顔を見て更に自分の顔を赤くしてしまう。

 

「それじゃあこの後はどうしましょうか? お父さんに付いていますか?」

「えっと、その……」

 

 次の言葉が出てこない。何を話して良いのかが分からない。今までなかった経験にミスター・サタンの娘は戸惑うが、それでも何か話さなければならないと口を開く。

 

「私はビーデルといいます! よろしくお願いします!」

「……え、あ、ビーデルさんですね。僕は孫悟飯といいます」

 

 悟飯の質問に対し、自分の名前を名乗るというよく分からない返事をしてしまったビーデル。

 それに対し、悟飯は多少戸惑ったものの、自分も自己紹介をしてないことに気付き、名前を名乗っていた。

 

(……って、私ってば何言ってるのよ! 悟飯さんが聞いてくれていたのに、なんだか頭が真っ白になっちゃって……)

 

 一人で、悶えているビーデル。その様子を見ながら、悟飯も考え事をしていた。

 

(ビーデルさんってもしかして……!)

 

 どこかで聞いたことがある名前だった。それは平行世界で悟空が語っていた自身の妻の名前。

 同じ名前など世の中にたくさんいるであろう。だが名前が同じということで、悟飯も少しずつ彼女を意識し始めてしまっていた。

 

「「あ、あの!」」

 

 何かを話さなければならないと同時に口を開く二人。

 お互いに「先にどうぞ」、「いえいえ、そちらが先にどうぞ」という応酬が始まる。

 

「ぷっ」

「ふふっ」

 

 何回かのやり取りのあと、どちらがともなく吹き出す。

 

「「あははははははっ!」」

 

 

 

 

 これがこの世界での孫悟飯とビーデルの初めての出会いとなった。

 そして更に一年後、この二人もめでたく結婚することとなるのだが、それはまた別のお話。

 

 

 

 

 

 こうして本当であれば生まれるはずがなかった世界が一つの結末を迎える。

 彼らは新たな希望を手に、これからも地球を守り続けるのだろう。

 悟空から受け継いだバトンを絶やすことなく。

 

 

 

 

 

〜Fin〜

 




本話にて「新たなHOPE! -もうひとりの戦士-」の物語は一旦完結を迎えました。
短いお話でしたが、ここまでご覧いただき、本当にありがとうございました。

この話を書くきっかけとなったのは、やはり未来悟飯の不遇さが悲しいと思ったからです。
そして、未来悟飯のことをご存知であれば、幸せな未来があっても絶対にいいだろうと思うでしょう。
それを拙い文章ではありますが、私が書きたいと思った次第です。

あとはツンデレさんをちゃんとツンデレさんとして書きたいと思ったんです。
ピッコ……ツンデレさんってああいう感じだから好きなんですよね。

この後の話についてはプロットは用意しているのですが、書くかどうかでまだ悩んでいます。
ただ正直に言うと、私って結構おだてられると頑張ってしまうタイプなので、高評価をたくさん頂けたり、嬉しい感想をたくさん書いてくださることで、執筆意欲もかなり増すと思います。

ですので、アンケートを答えてくださった皆様、お気に入り登録をしてくださった皆様。
どうか高評価やご感想を頂けたら幸いです。

感想欄は少しの間だけですが、非ログインユーザーも書けるようにしておきます。
これからもぜひ応援をよろしくお願いいたします。

改めまして、ここまでご覧いただいたことに感謝申し上げます。
本当にありがとうございました!


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