ポケットモンスター 転生したのは初めに旅立った子供 (剣の舞姫)
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プロローグ

息抜きに初めての転生ものを書いてみました。
因みに主人公が転生したのはアニポケでサトシとシゲルの他に同時期マサラタウンから旅立った残る2人の子供の内の一人です。
途中で脱落してドロップアウトしたのかは知りませんが、アニメでは存在だけ語られていた子供に転生しました。


ポケットモンスター

転生したのは始めに旅立った子供

 

プロローグ

 

 前世の事は、正直殆ど覚えていない。精々、男だった事と、会社員として長く勤めて部下もそれなりに持つような立場になった事、それから……子供の頃から大好きだったゲーム、ポケットモンスターの事くらいだ。

 ポケットモンスター、縮めてポケモン。それは前世で言う1996年に最初のシリーズが発売されたご長寿シリーズゲーム。

 最初のシリーズが発売されてから20年以上、ずっと人気が衰える事の無かったこのゲームを、前世の自分はこよなく愛していた。

 ゲームだけでなく、漫画やアニメ、カード、様々な媒体で活躍するポケモンが大好きで、いい歳したおじさんになっても、ポケモンへの熱意は冷める事が無かった程に。

 だからだろうか、前世でいつの間にか死んでしまって、今世がアニメのポケモンの世界に転生したのだと気付いた時……前世の記憶を思い出した時は歓喜したものだ。

 

「こうして、本物のポケモンに触れる事が出来るなんて、幸せだよなぁ」

「ぶい~?」

 

 自室のベッドに腰掛けて、膝の上に座るポケモンの頭を撫でながら感慨に耽っていると、円らな瞳で見上げて来る愛らしい存在……イーブイが首を傾げた。

 何でもないよと言うように首辺りを撫で回すと、気持ちよさそうに手に頬を摺り寄せて来るのがたまらなく可愛らしい。

 このイーブイ、実は少年の母のポケモンのタマゴから孵ったポケモンで、母の手持ちであるシャワーズと父の手持ちであるブースターの間に生まれたイーブイなのだ。

 しかも、イーブイの中でも中々希少個体である♀のイーブイで、少年にとっては妹みたいな存在でもある。

 

「イーブイ、明日は俺の旅立ちの日だ」

「ぶい」

「オーキド博士から初心者用のポケモンを貰って、ポケモントレーナーとして旅に出る」

「ぶい!」

「だけど、お前を残して旅に出るなんて俺には出来ない……だから、一緒に来てくれるか?」

「いぶい!!」

 

 前々から決めていた事だった。オーキド博士から貰う初心者用ポケモン、そして妹分たるイーブイの2匹を連れて、旅に出るというのは。

 

『ソラタ~! そろそろ寝なさい! 明日遅刻するわよ~!』

「あ、は~い!」

 

 少年……ソラタは母の声に返事を返してイーブイを枕元の専用籠ベッドに置き、室内の電気を消すと自分もベッドに入って横になる。

 

「明日は一番にオーキド博士の所に行って、絶対にアイツを貰うんだ……!」

 

 脳裏に描いたのはオーキド研究所で貰える初心者用ポケモン3匹の内の1匹の姿だ。オレンジ色の身体と、尻尾の先の炎が特徴の、ずっと最初のポケモンにするならと決めていた炎タイプのポケモン。

 

「待ってろよぉ~……ヒト、カ、ゲ~……」

 

 精神年齢は30過ぎたおじさんでも、肉体はまだ10歳の子供だ。あっと言う間に睡魔に負けて、ソラタは夢の世界に旅立った。

 その枕元の籠で丸くなったイーブイも、兄貴分である主人と同様に寝息を立てている。

 息子が眠ったのか確認に来た母は、仲良く眠るソラタとイーブイの姿に微笑むと、そっと部屋の中に入って旅立ちの記念にと用意していたプレゼントを枕元に置く。

 翌朝、息子の喜ぶ姿を想像しながら部屋から去った母は、胸に疼く微かな寂しさを感じつつ、今夜は飲もうとリビングへと戻っていくのだった。



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カントー編
第1話 「新人トレーナーソラタ! ヒトカゲ、君に決めた!!」


ポケットモンスター

転生したのは始めに旅立った子供

 

第1話

「新人トレーナーソラタ! ヒトカゲ、君に決めた!!」

 

 ソラタ旅立ちの日の朝、昨夜は早めに寝たお陰か時間的にも余裕を持って起きる事が出来た。

 何日も前から今日という日の為に旅の荷造りはしていたので、部屋の片隅に置かれたリュックには旅に必要な物を全て入れてある。後はパジャマから着替えるだけだ。

 今日の為に母が買ってくれたジーパンとベルト、白のTシャツと紺色のパーカー、黒の指ぬきグローブ、これらに着替えて足元にすり寄ってきたイーブイをモンスターボールに入れると、そのボールを腰のベルトに備え付けられたホルダーにはめ込んだ。

 

「よし」

 

 この部屋とも暫くお別れかと思い部屋を見渡した時、起きた時には気付かなかったが、枕元に箱が置いてあるのに気付いた。

 寝る前には無かったソレの蓋を開けてみると、中には真新しいスニーカーが入っていた。白地に赤と青のラインが入った赤い紐のスニーカー、前にテレビでやっていたCMで新商品として紹介されていた、内心欲しいと思っていた物。

 

「これ……そっか、母さんが」

 

 きっと、母が買ってくれたのだろう。旅立つ息子にせめてもの贈り物として。

 新品のスニーカーを持って玄関に行くと、まだ履いた事の無い真新しさを感じる固さが若干履き心地が悪く感じるものの、それも直ぐに気にならなくなるだろうと無視してリュックを背負う。

 

「ソラタ」

「母さん……」

 

 スニーカーの紐を調整していると、後ろから声が掛けられ、振り返れば母が立っていた。まだパジャマ姿だという事は、起きたばかりなのだろう。

 

「オーキド研究所にお見送り、行く?」

「いや……ここで十分だよ」

 

 ソラタを17歳で出産した母はまだ27歳と若い。更に童顔な為、見た目は10代後半でも通用するような若々しい母が、心配そうな表情を浮かべてソラタを見つめる。

 若干涙が浮かんでいるのを見ると、息子としては逆に心配になってしまうので勘弁して欲しいが、靴紐の調整を終えて立ち上がったソラタは、頭一つ分背が高い母の頭に手を置いた。

 

「スニーカー、ありがとう母さん」

「ソラタ……」

「きっと……母さんが夢見たチャンピオンに、なって見せるから」

「うん……ソラタなら、きっと立派なチャンピオンになれるって信じてるね」

 

 母は現役トレーナー時代、カントーポケモンリーグとジョウトリーグの出場経験があったが、いずれも決勝トーナメントで敗退してチャンピオンズリーグに出場出来ずに引退してしまった。

 子供の頃から夢見ていたチャンピオンになるという目標、それを叶えられなかった母の為に、ソラタは息子である自分がチャンピオンになると、この旅に出るにあたって両親の目の前で誓ったのだ。

 

「じゃあ母さん……いってきます」

「うん、いってらっしゃい……頑張ってね、ソラタ」

 

 最後まで涙目だった母の頬にキスをして家を出たソラタは気障だったかなと反省しつつ、オーキド研究所へ向かって歩き出した。

 まだ早朝の道は、ポッポが飛び回り、コラッタが走り回るくらい静かで、澄んだ空気を肺一杯に吸い込んでみれば、マサラタウンという田舎だからこその美味しい空気を感じられる。

 

「お、流石に近所ってだけあって本当に近いな」

 

 オーキド研究所は自宅から割とご近所にある。もう小高い立地に立つオーキド研究所が見えて来た。

 門を通って石階段を上った先にある建物、その玄関前に立ったソラタはインターフォンを押す。朝早い時間ではあるが、オーキド博士は起きているだろうか。

 

「ほいほいっと、おぉ! ソラタ君かね!」

 

 玄関を開けて出て来た白衣を着た初老の男性、彼こそがカントー地方最大どころか世界的な知名度を誇るポケモン研究者、ポケモン研究の第一人者にして世界初のポケモン図鑑という道具を作成したオーキド・ユキナリ博士だった。

 

「早いのうソラタ、君が一番乗りじゃよ」

 

 どうやら他に来た者は居ないらしく、一番乗りのソラタは好きにポケモンを選べる立場を得た。

 早速中に案内してもらい、オーキド博士の研究室に入ると、中央の台に3つのモンスターボールが置かれていた。

 それぞれボールに炎、草、水のマークが入っている事から、どれがどのポケモンの入ったボールが判りやすい。

 

「さあ、この三匹の中から好きなポケモンを選ぶと良い。炎タイプのヒトカゲ、草タイプのフシギダネ、水タイプのゼニガメ、ソラタが選ぶのはどのポケモンかな?」

「……決まってます。ずっと前から、最初に貰うポケモンは決めてました」

 

 迷わずソラタが手に取ったのは炎のマークが入ったモンスターボール、ボールを開ければ中から光と共に現れるのはオレンジ色の体躯にトカゲのようなフォルム、尻尾の先に炎が燃え上がるカントー地方御三家の一角、ヒトカゲだった。

 

「ヒトカゲ、俺のパートナーになってくれ」

「カゲ!」

 

 小さな手を上げて笑顔を見せたヒトカゲに満足そうに頷いたソラタは、そっとヒトカゲを抱き上げた。

 炎タイプ特有の高い体温を感じながらヒトカゲの頭を撫でてやれば、彼は笑顔で抱きついてくる。

 

「うむ、ヒトカゲもソラタに懐いたようだの」

「それなら良かったです」

「ではワシからもう二つ、ソラタに渡すものがある」

 

 そう言ってオーキド博士が取り出したのはモンスターボールが6個とポケモン図鑑だった。

 転生者であるソラタにとっては、本当に懐かしいデザインのポケモン図鑑に少々感動しつつ受け取ると、トレーナーカード代わりにもなるという図鑑にソラタを所有トレーナーとして登録する。

 

「これでこの図鑑はソラタの物じゃ、今後はポケモンセンターで宿泊する際などにはジョーイさんに図鑑を渡して、登録情報をスキャンして貰えば無料で宿泊可能となるから、有効に活用してくれ」

 

 他にもフレンドリィショップで買い物する際にも図鑑をスキャンして貰えば一般人……つまり非トレーナー価格ではなく、トレーナー価格で道具を買う事が出来るなど、トレーナーカードで出来る事の殆どをポケモン図鑑が担ってくれるという。

 そして、何より大事なのは、図鑑の登録情報を使ってポケモンセンターからポケモンリーグへの出場エントリーも出来るとの事だ。

 勿論、エントリーした場合はジムバッチをリーグ大会開催までに集めなければ、エントリー無効となるので注意が必要なのだが。

 

「さあ、これで渡すべきものは全て渡した。ソラタよ、いよいよ旅立ちの時じゃ」

「はい!」

 

 ヒトカゲをモンスターボールに戻して腰ベルトのホルダーに取り付けると、図鑑をリュックのポケットに入れる。

 空のモンスターボールを4つ腰に取り付け、残る2個はリュックの中へ。これで全ての準備が完了だ。

 

「じゃあ、オーキド博士……行ってきます」

「うむ、頑張るんじゃぞ」

 

 オーキド博士に見送られ、研究所を出たソラタは最初の目的地、トキワシティを目指して歩き出した。

 トキワシティにはトキワジムがあるが、前世の記憶だと一番最後のジムがトキワジムだった筈だから、トキワシティは最初の宿泊地として立ち寄るだけになるだろう。

 だから、目指すはカントー地方最初のジム、ニビシティにあるニビジムだ。岩タイプのジムだと記憶しているので、ヒトカゲとイーブイだけでは突破は難しいと考えているものの、対策は既に考えている。

 だから、ジム対策をしながら、最終的なリーグ出場の為のパーティーメンバーを集める事に、集中するべきだと判断した。

 

「とは言え、アイツはカントーに生息してないからなぁ……クチバシティとかタマムシシティ辺りで持ってるトレーナーが居れば交換とか出来れば良いんだけど……シンオウ地方から来たトレーナーで、アイツを持っていて交換してくれるトレーナーが居るかどうか」

 

 割と珍しい部類に入るポケモンなので、持っているかどうか。シンオウじゃなくとも、欲しているポケモンの生息地で考えるのならカロス地方やアローラ地方から来たトレーナーでも良いのだが。

 

「交換用に、ポケモンは多めに捕獲しておくか」

 

 道中で図鑑埋めがてらポケモンを捕まえる事も忘れず、将来的なベストパーティーの完成という目標と、リーグ出場、その先に待つチャンピオンズリーグへの出場を目指し、新人トレーナー・ソラタの旅が今、始まるのだった。




絶望の言葉……皆さん、明日は月曜日ですよ!









死ぬわ。


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第2話 「初バトル! イーブイとヒトカゲ」

凡ミスしていたので一度削除させて頂いてました。
申し訳ございません。


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転生したのは始めに旅立った子供

 

第2話

「初バトル! イーブイとヒトカゲ」

 

 オーキド研究所を出発したソラタは既にマサラタウンの敷地から出て1番道路をトキワシティに向かって歩いていた。

 そして、現在道の途中で野生のポッポを発見して早速ゲットの為にバトルを挑もうとしている所だ。

 

「先ずはお前からだ! 行けイーブイ!!」

 

 腰ベルトのホルダーから取り外したモンスターボールを投げれば、ボールが開いて中からイーブイが出て来る。

 突然現れたイーブイの姿に驚いたポッポは慌てて羽を広げ、飛び去ろうとしたのだが、遅い。

 

「イーブイ! “でんこうせっか”!!」

「ぶい! ぶいぶいぶいぶぶい!!」

 

 その名の通り電光石火の如き素早さで走り出したイーブイは丁度空中に飛び立とうとしたポッポに当て身をする事で吹き飛ばした。

 “でんこうせっか”が直撃したポッポは漸く戦意をイーブイに向け、鋭い瞳を向けて威嚇の鳴き声を発する。

 

「ポー!」

「“かぜおこし”が来るぞ! かわして“スピードスター”!!」

 

 ポッポが羽ばたいて起こった“かぜおこし”だったが、イーブイは冷静にソラタの指示通り回避すると、口から星が吐き出され、それが物凄い勢いでポッポに襲い掛かった。

 

「ぶいぃぃぃ!!」

「ポー!?」

 

 “スピードスター”の直撃を受けたポッポは想像以上のダメージに怯んだのか、逃げ出そうとするも、ダメージの大きさから動きがぎこちなくなり、その動作は遅い。

 

「逃がすな! “でんこうせっか”からの“にどげり”!」

 

 再び素早い動きで走り出したイーブイは逃げようとするポッポに先回りして真正面から“にどげり”を直撃させる。

 顔面に受けた二発の蹴りで大ダメージを受けたポッポは目を回して地面に倒れたので、これで後はゲットするだけだ。

 

「行け、モンスターボール!」

 

 空のモンスターボールを取り出してポッポに向けて投げつければ、ポッポは赤い光となって開いたモンスターボールの中に入る。

 蓋が閉じて地面に落ちたモンスターボールはボタンを赤く点滅させながら何度か揺れると、PON! という音と共に揺れが無くなった。

 これで、ソラタはポッポをゲットした事になる。この世界に転生して、初のポケモンゲットに喜びが最高潮に達したのか、振るえる手でポッポが収まるモンスターボールを拾い上げた。

 

「よっしゃ!!! 人生初ゲット!!!」

 

 前世は何度もゲーム内でポケモンをゲットしてきたが、こうしてリアルにポケモンバトルをして、自分の手でモンスターボールを投げてゲットするというのは、ゲームとは違う感動があると思った。

 ゲームでは唯の作業と化していたポケモンのゲットだったが、こうしてリアルでゲットするのは作業とは違う何かを感じられる。

 

「よし、イーブイもお疲れ」

「ぶぃ~」

 

 

 すり寄ってきたイーブイの頭を撫で回して抱き上げると、イーブイもソラタの喜びが伝わっているのか笑顔で頬を舐めてくれた。

 

「この調子で1番道路に出るポケモンを全種類捕まえようか。確か、此処に出るのはポッポの他だと……」

 

 1番道路に出るのはコラッタとポッポだけなのはゲームの話だ。この世界は前世で言う所のアニメの世界だから、当然だがオニスズメも出て来るし、川なんかにはコイキングやギャラドスも生息している。

 

「コイキングが欲しいが、つりざおが無いとなぁ」

 

 残念ながらつりざおは持ち合わせていない。どこかでコイキングは絶対にゲットしておきたいが、今は仕方がないのでコラッタとオニスズメのゲットだけに留めておく事にした。

 

「さぁてと……お!」

 

 コラッタとオニズスメを探して周囲を見渡せば、見つけたのは前歯が特徴的なネズミポケモン、コラッタだった。

 

「よし、次はお前だ! 行けヒトカゲ!!」

 

 モンスターボールを投げて、続いてバトルをするヒトカゲを出す。コラッタは好戦的なのかヒトカゲが現れた事で直ぐに威嚇しながら臨戦態勢を整えていた。

 

「“たいあたり”が来る! 応戦しろ! “ひっかく”!!」

 

 まだオーキド博士から貰ったばかりで技のレパートリーもイーブイのように豊富ではないヒトカゲだが、戦い方次第だ。

 “たいあたり”で突っ込んできたコラッタに対してヒトカゲは自身の爪での“ひっかく”で応戦、両者の技がぶつかり合って互いに弾かれた。

 

「追撃だ! “ひのこ”!!」

 

 ゲームのポケモンであれば、ひのこはレベルアップしなければ覚えない技だが、アニメのポケモンではレベルの概念が殆ど無い。

 通常はレベルアップしなければ覚えない技を普通に使えたり、わざマシンやひでんマシン、わざレコードでなければ覚えない技も練習して覚えたりするのがこの世界なのだ。

 つまり、貰ったばかりのヒトカゲであっても、ひのこは……使える。

 

「カゲェ!!」

 

 尻尾を大きく振って、その先の炎から火の粉が飛ぶ。飛んだ火の粉は再び“たいあたり”で突っ込んできたコラッタに直撃、その熱さからコラッタが顔を前足で擦って怯んだ。

 

「今だ! “ひっかく”!」

 

 渾身の“ひっかく”をコラッタに直撃させた。吹き飛ばされたコラッタはこれでダウンするかと思われたのだが、空中で態勢を整えると、着地と同時に“でんこうせっか”で突っ込んできた。

 

「まずい! “えんまく”だ!!」

 

 慌てて“えんまく”を指示すると、ヒトカゲは口から黒い煙を吐き出してコラッタが“でんこうせっか”で走りながら煙の中へ突っ込んだ。

 だが、“えんまく”の指示が遅かった為、コラッタは迷う事なく煙の中を突っ込んでヒトカゲに突進する。

 

「カゲェ!?」

 

 “でんこうせっか”の直撃を受けたヒトカゲは、ダメージが大きいのか少しよろけてしまうものの、まだ“ひんし”状態にはなっていない。

 寧ろ至近距離に近づいたコラッタはヒトカゲにとって恰好の獲物だ。

 

「やれ!! “ひっかく”!」

 

 再度、ヒトカゲの爪がコラッタを捉えた。

 

「コリャッ!?」

 

 最後の“ひっかく”が直撃してコラッタは倒れた。この隙にモンスターボールを投げれば、見事コラッタの捕獲に成功、1番道路で2匹目のゲットとなった。

 

「お疲れヒトカゲ、トキワシティに着いたらポケモンセンターで休もうな」

 

 ヒトカゲの頭を撫でて労ってやると、笑顔を見せてくれた。まだまだ元気そうだが、ダメージは確かにある筈なので、モンスターボールに戻して腰のホルダーに収める。

 足元ではまだまだ元気そうなイーブイが自己主張をしていたので、残るオニスズメとはイーブイが戦う事になりそうだ。

 

「じゃあ、オニスズメを探しつつトキワシティに向かおうか!」

「ぶい!」

 

 この後、トキワシティに到着するまでにオニスズメと遭遇し、イーブイがバトル。見事オニスズメをゲットして1番道路を制覇するのだった。




次回はトキワシティ通り越してトキワの森まで行きます。


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第3話 「ニビジム目指して、トキワの森で修行!」

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第3話

「ニビジム目指して、トキワの森で修行!」

 

 トキワシティのポケモンセンターでヒトカゲとイーブイを回復し、ゲットしたコラッタ、オニスズメをオーキド研究所へ転送したソラタは、野宿をしながらトキワの森を歩いていた。

 トキワの森に来るまでにニドラン♂とニドラン♀、マンキーをゲットして順調に捕獲数を増やしながら先へ進んでいたのだが、トキワの森で少しの間ソラタの進みは遅くなる。

 キャタピーにビードルをゲットした後、ソラタが行っているのはヒトカゲとイーブイの修行とピカチュウの捜索だった。

 将来的に目指すパーティーにピカチュウは必須だと考えており、トキワの森に生息しているのは知っていたから、この森に居る間にゲットしておきたかったのだ。

 それから、平行して行っているイーブイとヒトカゲの修行、特にヒトカゲは次のニビジムでは不利なのは明白で、対抗策として“メタルクロー”を習得させる為の修行をしている。

 

「よし! イーブイ、“つぶらなひとみ”! ヒトカゲ、“メタルクロー”!」

 

 現在、イーブイに“つぶらなひとみ”、ヒトカゲに“メタルクロー”を覚えさせる修行中のソラタ、イーブイはゲットしたばかりのキャタピーを相手に“つぶらなひとみ”を使用、今のところ成功率は4割といった所だ。

 ヒトカゲは近場の岩に向かって“ひっかく”の要領で“メタルクロー”の練習中だ。“ひっかく”を“メタルクロー”に昇華させようとしてるのだろう。

 

「ピジョー!」

「お」

 

 暫く2匹の練習に付き合っていると、ピカチュウの捜索をさせていたポケモン、トキワの森に入って直ぐにポッポから進化したピジョンが戻ってきた。

 ソラタ達の上を旋回しているのは見つけたという合図だ。

 

「案内してくれ」

「ピジョ!」

 

 ヒトカゲ達をモンスターボールに戻してピジョンを追うと、暫く走った所に野生のピカチュウがきのみを食べているのを見つけた。

 尻尾の先端がハートマークの様に二股になっているのは雌のピカチュウであるという証。別に性別に拘ってはいないので、早速ゲットする為にヒトカゲが入ったモンスターボールを投げる。

 

「行けヒトカゲ! “ひのこ”!!」

 

 モンスターボールから出て直ぐに、ヒトカゲの尻尾から“ひのこ”が飛んでピカチュウに直撃する。きのみを食べていたピカチュウは驚き、そして直ぐに威嚇の為に頬に電気を走らせた。

 

「来るぞ! “りゅうのいぶき”!!」

 

 修行中に新しく覚えた“りゅうのいぶき”を口から放ったヒトカゲ、それに対してピカチュウも“でんきショック”で対抗してきた。

 “りゅうのいぶき”と“でんきショック”がぶつかり、2匹の間で爆発を起こして煙が充満する。視界を奪われてピカチュウが困惑する中、ヒトカゲが冷静にソラタの指示を待っている。

 

「真っ直ぐ走れ! その先で“メタルクロー”!」

 

 煙の中をヒトカゲが走り、漸く成功率8割を超えたばかりの“メタルクロー”を発動、鋼鉄と化した爪を構えて煙を抜けるとピカチュウ目掛けて鋼鉄の爪を振り下ろす。

 

「ピカ!」

 

 だが、そこで予想外の事が起きた。野生のピカチュウは己の尻尾を金属のように硬化させて、ヒトカゲの“メタルクロー”を受け止めたのだ。

 

「“アイアンテール”だと!? 野生のピカチュウがまさか!?」

 

 それだけではない。今度はピカチュウがジャンプして尻尾を下に向けると、回転しながら地面に突っ込み、穴を開けて潜ってしまった。

 

「不味い! “あなをほる”か!?」

 

 地面タイプの技は炎タイプのヒトカゲに効果抜群、どこから来るのか判らないピカチュウにヒトカゲがキョロキョロしていると、その隙に地面から飛び出したピカチュウの当て身が直撃した。

 

「カゲェ!?」

 

 不味い、“あなをほる”が直撃した事でヒトカゲの体力が大きく削られてしまった。まだ戦える事は間違い無いが、長期戦になると負ける。

 

「一気に決めるしか無い……ヒトカゲ! “えんまく”!」

「カァゲェ!!」

 

 ヒトカゲが口から“えんまく”を吐き出し、黒い煙に辺りが包まれた。再び視界を閉ざされたピカチュウは出鱈目に“でんきショック”を放つも、ヒトカゲには当たらない。

 

「走り回れ! 走りながら“りゅうのいぶき”!!」

 

 幸いにも“でんきショック”のお陰でピカチュウの位置は割れている。ヒトカゲは煙幕の中を走り、ピカチュウが完全にヒトカゲの気配を見失った所で“りゅうのいぶき”を放った。

 

「ピカァアア!?」

 

 直撃した。今がチャンスだと思い、ソラタは腰から取り出した空のモンスターボールをピカチュウが居るであろう場所目掛けて投げつけた。

 

「行け! モンスターボール!!」

 

 モンスターボールを投げた先で、ボールが開く音と、ポケモンがボールに収まる音が聞こえた。

 そして、次第に煙幕が消えると、ピカチュウが居た場所にはモンスターボールが地面に転がっており、ピカチュウの姿は無くなっている。

 

「……出てこい」

 

 モンスターボールを拾って、中からポケモンを出してみれば、先ほど戦ったピカチュウが出てきて、クシクシと顔を両手で洗っている愛らしい姿が。

 

「ピカ?」

「……っし!!!」

 

 リーグ挑戦の為のベストメンバーとして想定していた一匹をゲット出来た事に喜び、渾身のガッツポーズ。

 これで、ベストメンバーとして想定しているポケモンは残り3匹、このまま順調にゲットしていきたいものだ。

 

「しかし、野生の時点でアイアンテールを覚えているってのは運が良いな」

 

 普通はあり得ない。だが、今こうして頭を撫でてみても嫌がる素振りを見せないという事は人間を嫌っている様子は無さそうだ。それはつまり、人間にゲットされ、捨てられたポケモンではないという事。

 このピカチュウは野生でありながら、アイアンテールを自力で覚えたという証拠であり、即ち潜在能力が高いという事だ。

 

「とりあえずピカチュウをゲットした事だし、キャタピーとビードルを進化させながら進むか」

 

 ヒトカゲの“メタルクロー”は間もなく完成する。イーブイの“つぶらなひとみ”も、もう少し練習すれば確実に覚えられるだろう。

 

「いっそ、ピジョンに“はがねのつばさ”でも……あ~でもなぁ」

 

 ピジョンは、その進化先であるピジョットは現時点でサブメンバー候補だ。今覚えさせている技は“つばさでうつ”、“でんこうせっか”、“かぜおこし”、“はねやすめ”の4つ、“つばさでうつ”を“はがねのつばさ”に昇華させる事も考えたが、どうしたものかと悩む。

 ヒトカゲの“メタルクロー”はニビジム対策に覚えさせているだけなので、いずれ別の技を仕込む予定だから、将来的に鋼タイプの技を覚えているのはピカチュウとピジョットだけになってしまう。

 しかし、あくまでピジョットはサブメンバー候補なので、メインメンバーではピカチュウだけだ。

 

「いや、あいつをゲット出来れば“メタルクロー”を仕込むか? いやでも“かわらわり”も……“ドラゴンクロー”の方が良いか? だけど、氷タイプやフェアリータイプ対策なら“メタルクロー”だよなぁ」

 

 先の事を考えながら野生のポケモンと出会ってはヒトカゲの“メタルクロー”とイーブイの“つぶらなひとみ”を完成させ、他のポケモン達も育てつつ歩いていると、キャタピーがバタフリーに、ビードルがスピアーに進化する頃にはトキワの森も終わりに近づいていた。

 道中、甲冑を着た虫取り少年がバトルを挑んできて、クワガタポケモンのカイロスを出して来たが、ヒトカゲで返り討ち、次に出て来たトランセルもイーブイで蹴散らした。

 

「ラッキー、ヒトカゲの“ひのこ”が“かえんほうしゃ”に昇華したわ」

 

 先ほどの虫取り少年のカイロスとのバトルでヒトカゲは“かえんほうしゃ”を取得した。代わりに“ひのこ”の使用頻度が激減してしまったが、問題無い。寧ろ“かえんほうしゃ”を覚えたのなら“ひのこ”は最早不要の技だ。

 

「さて、あれがトキワの森の出口か」

 

 森の出口の向こうには街が見える。あれが、ニビシティ……カントーリーグ最初のジム、ニビジムが存在する、マサラタウン出身トレーナーにとって最初の関門。

 

「突破して見せるさ……母さんに誓ったチャンピオンになる夢、叶える為にも最初から躓く訳にはいかないからな」

 

 対策はバッチリ行って来た。だが先ずはトキワの森での修行で疲れているだろうポケモン達を休ませるのが先だ。

 トキワの森を出て、ニビシティを視界に入れたソラタは、ニビシティのポケモンセンターに向かって歩き出した。




次回はムノーさんに少し用事、そのあと直ぐにニビジムでタケシ戦です。


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第4話 「ニビシティ、最初のジムへ」

これまでの話で所々に将来的なパーティー候補のヒントが隠されてたりします。


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第4話

「ニビシティ、最初のジムへ」

 

 ニビシティに到着して直ぐ、ソラタはポケモンセンターに寄ってヒトカゲとイーブイ、ピカチュウ、ピジョン以外のポケモンをオーキド研究所へ預けて、残ったポケモン達を回復させると、ニビシティ内を歩いていた。

 ジムに向かってはいるのだが、実は他にも用事があったので、その用事を片付けたいという思いもあったのだ。

 

「どこだ……?」

 

 暫く探していると、石を並べている露天を発見した。そしてその店主である人物を見て、ソラタは前世の記憶を思い返し、確かに探していた人物であると確認し、露天へ向けて歩き出す。

 そこに居た髭顔の男、名をムノーと言い、こうして石売りをしているのだが、その正体は先代のニビジムのジムリーダー、現ジムリーダーであるタケシの父親だ。

 

「すいません」

「む? 何かな少年」

「見たところ石を売ってるみたいですが……」

「おお、お客さんか……何かお望みの品があるのかい?」

 

 並べられている石は漬物石や綺麗な石ばかりで、品物としては価値を見いだせないが、ニビシティが岩や石で有名な街である以上、可能性に賭けてみたいところだ。

 

「進化の石って扱ってますか?」

「進化の石か……仕入れれば何とかなる物もあるし、在庫を抱えている物もいくつかはあるぞ?」

「じゃあ、“たいようのいし”って在庫してますか?」

 

 進化の石、特定のポケモンは特別な石を使わなければ進化しない場合がある。ソラタのイーブイやピカチュウも進化の石を使って進化出来るポケモンに数えられるタイプだ。

 

「“たいようのいし”とはまた、珍しい物を欲しがるね」

「そんなに珍しいですか?」

「カントー出身の者で初心者トレーナーならまず欲しがる者は居ないだろう」

 

 確かに、カントーのポケモンで“たいようのいし”で進化出来るポケモンは殆ど居ない。だから知名度では“たいようのいし”は初心者トレーナーの間では全く無いと言っても良いだろう。

 

「将来的に捕まえる予定のポケモンに使いたいんですよ」

「なるほど、“たいようのいし”なら丁度仕入れたは良いが全く売れずに残っている物がある、ちょっと待ってなさい」

 

 そう言ってムノーは背後の箱をごそごそすると、太陽のマークのような形の石を取り出して差し出して来た。

 

「これが“たいようのいし”だ」

「おお……いくらですか?」

「ふむ……1500円でどうだ?」

 

 カントーでは需要が少ない石なので、少々高いような気もしないではないが、手頃と言えば手頃なお値段に即買いだった。

 

「これからジム戦か?」

「ええ、岩タイプ対策はバッチリしてきましたから、早速」

「ほう?」

 

 対策はバッチリという言葉に、元ジムリーダーとして興味が沸いたのか、面白そうな顔をして店仕舞いを始めるムノーに、ソラタは首を傾げる。

 

「案内しよう」

 

 ジムまで案内してくれるらしい。特に断る理由も無いので素直に礼を言って付いて行くと、暫くして大きな建物が見えて来た。

 

「あれが……」

「そう、あれがニビジムだ……マサラタウンから来たトレーナーは、あのジムで最初のジム戦をするのが通例で、新人トレーナーにとって最初の関門、ここで躓けばポケモンリーグ参加など夢の又夢だと思え」

 

 確かにそうだ。マサラタウン出身トレーナーはニビジムに来るまでの間に十分ポケモンを育てる時間があった。その時間を有効に使い、手持ちのポケモンを増やして育てて、ジムに挑むのに十分なレベルまで育ててニビシティまで来るのが普通なのだ。

 逆に、ポケモンを育てるのを怠れば最初の関門で簡単に躓いてしまう。最初の関門で躓く者は、例え乗り切れたとしても今後も同じ事を繰り返すだろう。

 

「少年、覚悟は十分かな?」

「……勿論」

「では、行きたまえ……そして、ジムリーダーという立場の者の実力を、その肌で感じて来ると良い」

 

 それだけ言い残して、ムノーは立ち去った。

 残されたソラタはジムの大きな扉を見上げて、それから大きく深呼吸をすると、自身の頬を叩いて気合を入れると、扉へ向かって歩き出す。

 流石に人の手で開けるには大きすぎる扉は自動扉になっているらしく、ソラタが近づいたのを感知してゆっくりと、自動で開き始めた。

 

「たのもー!」

 

 真っ暗なジムの中に入って誰か居ないか呼びかけてみると、直ぐにジムの天井に取り付けられたライトが一斉に点灯して、その眩さに一瞬顔を腕で覆ってしまった。

 

「よく来たな、チャレンジャー」

 

 目が慣れ、腕を下げてジム内を見てみれば、岩で出来たバトルフィールドと、その向こうにある岩の上に座る一人の青年の姿が。

 間違いない。前世のアニメで何度も見た糸目の青年、ニビジムのジムリーダーにしてポケモンブリーダー、そして未来のポケモンドクターとなるタケシだ。

 

「俺がこのニビジムのジムリーダー、タケシだ」

「お、俺はマサラタウンから来たソラタ! ジム戦に来ました!」

「フッ……だろうな」

 

 タケシはゆっくり立ち上がると、岩を下りてフィールドのトレーナーゾーンに立つ。それに習ってソラタも自分側、つまりチャレンジャー側のトレーナーゾーンに入った。

 

「ジロウ、審判を頼む」

 

 いつの間に居たのか、審判が立つべきポジションにはタケシによく似た少年が立っており、両手には赤いフラッグが握られている。

 

「こ、これより、ジムリーダー・タケシとチャレンジャーの試合を始めます! 使用ポケモンは互いに2体! ただし、バトル中のポケモンの交代はチャレンジャーにのみ認められています!」

 

 2体のみの縛り、これはゲームでは無かった仕様だ。やはりアニメ世界のジム戦ルールは厳正な縛りを設けている分、面白い。

 

「俺の一番手はコイツだ! 行け! イシツブテ!!」

「ラッシャイ!」

 

 タケシが出したポケモンは、がんせきポケモンのイシツブテ。岩タイプのジムらしい、そして初期のポケモン世界らしいチョイスだった。

 

「イシツブテか……頼むぞヒトカゲ!!」

「カゲカ!」

 

 対してソラタが出したのはヒトカゲ、相性で言えば最悪のチョイスだが、トキワの森での修行成果を存分に発揮するチャンスに、彼のテンションは十分に高まっている。

 

「いわ・じめんタイプのイシツブテに、ほのおタイプのヒトカゲか……」

「別にタイプ相性を知らない訳じゃないですよ……ただ、コイツはニビジム対策を確り仕込んで来たんで、簡単に負けるつもりは無いです」

「ほほう? それは楽しみだ」

 

 ジムリーダーとチャレンジャー、互いのポケモンが出た事で、審判を務めるジロウ少年はフラッグを上へ掲げ……。

 

「では、バトル……開始!!」

 

 大きく振り下ろす。

 

「先手必勝だ! イシツブテ、“たいあたり”!!」

「迎え撃てヒトカゲ! “かえんほうしゃ”!!」

 

 遂に、ソラタの初のジム戦が始まった。

 果たして、ポケモンリーグ出場を賭けた最初のジム戦に勝利するのはタケシか、ソラタか。それを決めるバトルは、灼熱の熱さを持ってゴングを鳴らすのだった。




次回は始まりましたジム戦!
初戦のヒトカゲVSイシツブテの戦いの行方は……次回に続く。


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第5話 「燃え上がれ! ヒトカゲの熱い戦い」

ポケットモンスター

転生したのは始めに旅立った子供

 

第5話

「燃え上がれ! ヒトカゲの熱い戦い」

 

 ポケモンジムとは、各地方ごとに開催されるポケモンリーグへの参加権を得るためにトレーナー達が挑戦する、謂わばリーグ挑戦の為の関門であり、リーグ開催までのポケモン育成チャンスでもある。

 ジム戦に勝利すると、ジムリーダーを倒した証としてジムバッジを受け取る。各地方ごとに最低8個のバッジを獲得する事がリーグ参加の条件の一つだ。

 勿論、リーグ参加資格はバッジを8個以上集めた者だけに与えられるものではなく、他にもポケモン認定試験という試験に合格する事で与えられるポケモンリーグ挑戦資格バッジを持つ者や、ポケモンゼミナールの上級クラスを卒業した者にはジムバッジを集めずともリーグ参加資格が認められる。

 だが、トレーナーなら、真の頂点を目指す者なら、ジム戦を突破せずして如何して堂々とリーグに参加できようか。

 

「先手必勝だ! イシツブテ、“たいあたり”!」

「迎え撃てヒトカゲ! “かえんほうしゃ”!!」

 

 そして現在、ソラタの最初のジム戦、ニビジムのジムリーダー・タケシとの戦いが始まっていた。

 タケシのイシツブテが“たいあたり”で突っ込んで来るのに対し、ヒトカゲの“かえんほうしゃ”で迎え撃てば、イシツブテは炎に飲み込まれる。

 

「なるほど、良い威力の“かえんほうしゃ”だ。よく育てられているな」

「それほどでも」

「だが、俺のイシツブテを甘くみるな!! イシツブテ! “こうそくスピン”!!」

 

 炎の中で、イシツブテが高速で回転を始めた。その結果、ヒトカゲの“かえんほうしゃ”は掻き消されてしまって、その勢いのまま回転しながらイシツブテはヒトカゲに突っ込んだ。

 

「カゲェ!?」

「慌てるな! “りゅうのいぶき”だ!!」

 

 炎タイプの“かえんほうしゃ”ではイシツブテも簡単に“こうそくスピン”で掻き消してしまうのかもしれないが、ドラゴンタイプの技ならどうか。

 “こうそくスピン”と“たいあたり”の合わせ技の直撃を受けたヒトカゲは、吹き飛ばされながらも口から今度は“りゅうのいぶき”を放った。

 

「ほう、ドラゴンタイプの技まで覚えているとはな……イシツブテ! “いわおとし”だ!!」

 

 流石はジムリーダー、冷静に“いわおとし”を指示して“りゅうのいぶき”を全て岩で受け止めてしまう。

 

「イシツブテ、一気に決めるぞ! “ころがる”!!」

「ラッシャイ!」

「っ!? ヒトカゲ! “りゅうのいぶき”で押し返せ!!」

 

 突如、視界を塞いだ岩の向こうからイシツブテが転がりながら岩を砕いて突っ込んできた。

 ヒトカゲが“りゅうのいぶき”で迎撃するも、“ころがる”を使用するイシツブテに直撃した瞬間に掻き消されてしまう。

 

「カゲェ!?」

「ヒトカゲ!!」

 

 “ころがる”の直撃を受けたヒトカゲは吹き飛ばされて倒れ込んでしまった。だが、まだ“ころがる”の脅威は終わらない。

 

「立て! 立って回避しろ! まだ来るぞ!!」

「カ、カゲ、カ……ゲェ!?」

 

 “ころがる”は転がり続ける限り速度も威力も増していく。先ほど以上の速度と威力になって突っ込んできたイシツブテに吹き飛ばされたヒトカゲのダメージは、大きい。

 

「どうした? ジム対策を仕込んで来たという割に、今のところこちらが優勢のようだな」

「クソッ……頑張れヒトカゲ! 何とか回避に専念しろ!」

 

 回避の指示を出して、ヒトカゲが転がり続けるイシツブテを避けている間に、ソラタはフィールド全体を見渡した。

 速度を増し続けるイシツブテに、長い時間回避を続けるのは不可能、いずれは避け切れなくなる。だからこそ急ぎ対策を考えなければ、ヒトカゲの敗北は確定する。

 

「何か……何か無いか?」

 

 しかし、辺りを見渡しても特に何も無い。ただ岩のフィールドがあるだけで、何も対抗策になる物など……。

 

「いや、岩のフィールドだからこそ!! ヒトカゲ! 突っ込んで来るイシツブテの軌道を見るんだ!! 自分の前方の地面に“メタルクロー”!!」

「“メタルクロー”だと!?」

 

 転がるイシツブテの軌道を見て、ヒトカゲは自身に迫って来るイシツブテの軌道上、自身の前方の地面を“メタルクロー”で大きく抉った。

 そして、転がり続けるイシツブテは前方で起きた事を確認する事も出来ずヒトカゲが抉った地面に引っかかり、段差となったそこで大きくバウンドして空中に投げ出されてしまう。

 

「しまった!? イシツブテ!!」

「今だ!! イシツブテの真下から渾身の“メタルクロー”!!!」

「カァ……ゲェ!!!!」

 

 イシツブテの真下に入ったヒトカゲが、渾身の一撃を決める勢いで飛び上がって、鋼鉄と化した爪をイシツブテに叩き込んだ。

 

「ラ、ラッシャ……」

 

 ようやく止まったイシツブテは、こうかばつぐんの“メタルクロー”のダメージが大きいのか、苦悶の表情を浮かべてふらふらしている。

 ……今が、好機だ。

 

「ヒトカゲ、決めるぞ! 連続で“メタルクロー”だ!!」

「不味い! イシツブテ! “いわおとし”!!」

 

 ヒトカゲの両手の爪が鋼鉄と化したのを見て、タケシはイシツブテに“いわおとし”を指示、放たれた岩をヒトカゲは鋼鉄の爪で砕いて一気にイシツブテに接近、その無防備な身体へトドメの一撃を叩き込んだ。

 

「カゲェエエエ!!」

「ラッシャ!?」

 

 吹き飛ばされたイシツブテは、フィールドにある岩にぶつかって止まった。そして、審判を務めるジロウ少年がイシツブテを見てみると、目を回して倒れているのを確認する。

 

「イシツブテ、戦闘不能! ヒトカゲの勝ち!」

 

 フラッグがヒトカゲの方へ向けられる。初のジム戦、その1匹目との戦いはソラタとヒトカゲの勝利だ。

 

「よっし! よくやったぞヒトカゲ!!」

「カゲェカ!!」

 

 互いに喜び合っているソラタとヒトカゲを微笑まし気に眺めながらイシツブテをモンスターボールに戻したタケシは、次のポケモンが入ったボールを用意する。

 イシツブテとの試合では、多少の苦戦はあったものの、ソラタの見事な機転とヒトカゲとの連携が逆転の目を導き出した。

 ならば、そんなソラタとヒトカゲに敬意を表して次のポケモンには遠慮なんてさせない。全力で倒しに掛かるつもりで行こう。

 

「イシツブテを倒した戦術は見事だったぞソラタ、君とヒトカゲの息の合ったコンビネーション、そしてソラタの機転とヒトカゲがソラタを心から信じているからこその逆転劇、ジムリーダーとして君達には敬意を覚えてならない」

「タケシさん……」

「だからこそ、次は全力で倒させて貰う!! 行け、イワーク!!」

 

 タケシが投げたボールから出て来たのは、無数の岩を繋いで蛇のような姿にしたような巨大なポケモン、いわへびポケモンのイワークだった。

 

「改めて名乗ろう、俺はニビジムのジムリーダー・タケシ!! 強くて硬い石の男!! そしてコイツは俺の最高のパートナー、イワーク!! 俺とイワークを倒さずして、ニビジム勝利はあり得ないと知れ!!」

 

 何故か上半身の服を脱いで、筋肉質の見事な肉体美を披露しながら、タケシはそう名乗った。

 強くて硬い石の男、前世のゲーム時代のタケシのキャッチコピーを、まさかこうして生で聞けるなど、前世からのポケモンファンとしては堪らない。

 

「では、イワークVSヒトカゲ……開始!!」

「今度はこっちが先手必勝だ! ヒトカゲ、“りゅうのいぶき”!!」

「構うな!! “すてみタックル”!!」

 

 ヒトカゲが放った“りゅうのいぶき”を物ともせず、イワークはその巨体の重量を生かしたとっしん、“すてみタックル”で突っ込んで来る。

 

「飛んでイワークに乗るんだ!」

「カゲ! カ……ゲ?」

 

 突っ込んでくるイワークを飛び上がって回避しようとしたヒトカゲだが、イシツブテ戦のダメージが残っているのか、膝に力が入らず行動が遅れてしまった。

 

「ヒトカゲ!」

「カゲェエエエ!?」

 

 そして、気付いた時には目の前にイワークが迫っていて、“すてみタックル”の直撃を受けてしまった。

 

「カ、ゲェ~……」

「ヒトカゲ、戦闘不能! イワークの勝ち!!」

 

 イシツブテ戦のダメージが残っているところにイワークの“すてみタックル”直撃、これにはヒトカゲもたまらず戦闘不能となり、目を回して倒れてしまった。

 

「戻れ、ヒトカゲ」

 

 手に持ったモンスターボールから赤い光の線がヒトカゲに伸びて、ヒトカゲがボールへと戻る。イシツブテ戦で頑張ってくれたヒトカゲは、後でポケモンセンターでゆっくり休んで貰わなければ。

 

「よく頑張ったな、後は任せて休んでくれ」

 

 ヒトカゲの入ったボールを腰のホルダーに戻して、ソラタは威風堂々とこちらを見下ろすイワークに視線を向けた。

 現在の手持ちで残っているのはイーブイ、ピカチュウ、ピジョンの3匹。内、ピジョンはイワーク相手に有効打を与えられないから却下として、残るは対岩タイプ技を持つイーブイとピカチュウのみ。

 

「……よし」

 

 どちらを出すのか決めたソラタは、ホルダーからモンスターボールを取り外してスイッチを推すと、縮小していたボールを元の大きさにして構えた。

 

「決めるぞ、イーブイ!!」

 

 捕まえたばかりのピカチュウではイワーク相手に勝てる可能性が低い、ならばここは一番の相棒たるイーブイに任せる他に無いだろう。

 

「いぶい!!」

 

 相棒たるイーブイも気合十分なのか、出て来た瞬間から凛々しい表情でイワークと対峙している。

 兄妹のように育ったソラタとイーブイのコンビネーションは、現在の手持ちの中でも一番だ。彼女と一緒なら、ソラタに負けは無い。

 

「イワークVSイーブイ、試合開始!!」

「後が無い、確実に勝つぞ! “つぶらなひとみ”!!」

「何をするつもりかは知らないが、簡単に負けるつもりは無い! イワーク、“すてみタックル”!!」

 

 ここで負ければジム戦はやり直し、それだけは回避したい。必ず勝つと、いう気合を入れてソラタとイーブイはイワークと対峙する。

 勝つのはイーブイかイワークか、ニビジム最後の戦いは今、始まった。




次回、ニビジム戦終わり。


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第6話 「決着のニビジム」

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転生したのは始めに旅立った子供

 

第6話

「決着のニビジム」

 

 ニビジム、タケシ戦の最後のポケモン、イワークを前にしてヒトカゲは倒れた。そして、2番手としてソラタが出したイーブイ、彼女はソラタにとって一番の相棒、兄妹同然に育ったソラタにとって妹みたいに信頼を寄せているパートナーだ。

 

「イワーク! “すてみタックル”!!」

「“でんこうせっか”で避けろ!」

 

 初手“つぶらなひとみ”でイワークの攻撃力は下げたものの、“すてみタックル”の直撃はなるべく回避したい。

 イーブイに“でんこうせっか”を指示して素早い動きで回避させると、イーブイはそのままイワークの周りを走り回る。

 

「っ! 素早い!」

「ウチのイーブイは素早さで言えばパーティー最速、しかも巨体のイワークでは小さくて小回りの利くイーブイを捉えるのは至難の業だ! イーブイ、イワークの顔面に“シャドーボール”!!」

「ぶいぶいぶいぶい! いぶぅぅぅ……いっ!」

 

 走り回りながら口元に黒いシャドーエネルギーを溜め、球体となったそれをイワークの顔面に放った。

 

「イワァアアア!!!」

「イワーク!」

「畳み掛けろ! 連続で“シャドーボール”!!」

 

 イーブイの周りに複数の“シャドーボール”が生成され、イワーク目掛けて放たれた。だが、それを黙って受けるほどタケシとイワークも甘くはない。

 

「迎撃だ! “いわなだれ”!」

 

 “シャドーボール”に対して“いわなだれ”で対抗してきたイワーク、イワークの顔の周りに現れた無数の岩が雪崩の如く降り注ぎ、“シャドーボール”を打ち消しただけでなく、その先に居るイーブイにも襲い掛かった。

 

「かわせ!」

「ぶい!」

 

 “いわなだれ”を回避したイーブイに再び“でんこうせっか”を指示しようとしたソラタだが、イーブイの周りを見て驚いた。

 

「ぶ、ぶい……」

 

 何故ならイーブイの周り……否、フィールド全体に“いわなだれ”による岩が無数に転がり、障害物となって素早い動きを阻害している。

 

「これで素早さを封じたぞ。イワーク! イーブイを捕まえろ!! “しめつける”攻撃!!」

 

 障害物の所為でまともに動き回れなくなったイーブイをイワークの大きな身体が周囲を囲むように動き、尾の先を使ってイーブイを捕まえようとした。

 

「タケシさん、迂闊ですよ……俺がイーブイにもジム戦対策を仕込んでないとでも?」

「っ!? まさか!!」

「“にどげり”だ!」

 

 格闘タイプの技、“にどげり”は岩タイプに“こうかばつぐん”だ。イーブイが後ろ足でイワークの尾を蹴り、大きく跳ね返す。

 

「“シャドーボール”!!」

 

 間髪入れず“シャドーボール”を放ってイワークに直撃させたイーブイはフィールドの岩の上に着地、“シャドーボール”の直撃を受けて仰け反ったイワークを見上げた。

 

「イワーク! “あなをほる”!!」

「イワァアアア!!!」

 

 だが、タケシは冷静だった。冷静にイワークへ“あなをほる”を指示しすると、イワークは仰け反った反動を利用して、そのまま後ろへ頭から地面に突っ込み、穴を掘って地中に潜った。

 

「イーブイ! 走り回れ!!」

 

 どこから出て来るか判らないイワークを相手に、一か所に留まるのは危険だ。イーブイを走り回らせて“あなをほる”の直撃を回避しようとしたのだが……。

 

「甘い!」

「イワァアア!!」

「ぶいぃいいい!?」

「イーブイ!」

 

 地面から飛び出してきたイワークに下から突き上げられて空中に投げ出されたイーブイは、完全な無防備になった。

 タケシはそこを見逃すほど、甘いジムリーダーではない。

 

「“しめつける”攻撃!」

「イーブイ!」

 

 今度こそイワークに捕まった。“しめつける”によって巻かれたイワークの尾の中心でイーブイが苦しそうにしているが、その様子を見ていたタケシが少々疑問符を浮かべる。

 

「ダメージが思ったより少ないな……?」

「っ! イーブイ! もう一度“つぶらなひとみ”!! 更に“シャドーボール」

 

 最初の“つぶらなひとみ”の効果に気付きそうだ。そう思って完全にタケシが理解する前にもう一度“つぶらなひとみ”を指示、イワークの攻撃力が下がった所で“しめつける”の力が弱まり、隙が出来る。

 もう一度“シャドーボール”をイワークの顔面に放って怯んだ事により、完全に拘束が緩んだ。イワークの尾から抜け出したイーブイはイワークの身体を駆け登り、頭上で飛び上がった。

 

「いっけぇええ!!! “にどげり”!!」

「ぶぅぅぅぅいっ! ぶいっ!」

「イワァアアア!!?」

 

 頭上からの“にどげり”がイワークの脳天に突き刺さり、イワークは顔面から地面に叩きつけられた。

 

「イワーク!!」

「トドメだ!! 連続で“シャドーボール”!!」

 

 最後に、倒れたイワーク目掛けて無数の“シャドーボール”が襲い掛かり、イワークは土煙の中に消える。

 そして、煙が晴れた時、そこには……。

 

「イ、ワァ~」

 

 倒れたまま目を回すイワークの姿が。

 

「い、イワーク戦闘不能! イーブイの勝ち! よって勝者、マサラタウンのソラタ!!」

 

 ジロウ少年の判定によって、イワークは戦闘不能となり、ニビジムの戦いはソラタの勝利となった。

 ソラタは自分の勝利が宣言されると、直ぐにイーブイへ駆け寄り、同じくソラタ目掛けて走って来るイーブイに両手を広げる。

 

「イーブイ!」

「ぶい!!」

「勝った! 勝ったよ俺達!!」

「ぶいぶい!!」

 

 ソラタの胸目掛けて飛び込んで来たイーブイをキャッチして抱き上げると、イーブイもソラタと同じように喜び、ご機嫌な様子で両手をバタバタ振っている。

 

「……戻れ、イワーク」

 

 タケシはソラタとイーブイの様子を微笑まし気に眺めつつ、イワークをモンスターボールに戻すと、投げ捨てていたベストの胸ポケットから目的の物を取り出してソラタとイーブイの所へ歩いてくる。

 

「ソラタ」

「タケシさん……」

「見事な戦いだった……君のヒトカゲも、イーブイも、良く育てられていて、何より君の事を、君が出す指示を、心から信頼していたからこそ、君達は勝利出来た」

「……はい」

「これは、そんな君達に敬意を表し渡そう……ニビジム勝利の証、グレーバッジだ」

 

 タケシが差し出したグレーバッジを、振るえる手で受け取り、マジマジと見つめる。

 照明の明かりに照らされて、キラリと光る真新しいバッジは、ゲームやアニメで見た事のあるグレーバッジと何一つ変わらないデザインだが、今こうして見ると、何よりも美しく見えて、何よりも誇らしく見えた。

 

「~~~~っ!! グレーバッジ、ゲット!!」

「いっぶい!!」

 

 全身で喜びを表すソラタを見つめるタケシの表情は優しい。ジムリーダーたる自分を負かしたトレーナーが、こんなにも喜んでくれるなら、全力でバトルをした甲斐があるというものだ。

 

「次はハナダシティに向かうのか?」

「ええ、おつきみやまを超えてハナダシティに、次はハナダジムに挑戦するつもりですから」

「そうか……君の今後の活躍を期待させてもらうよ」

「はい、ありがとうございます」

 

 こうして、ポケモンの世界に転生してから10年、初のジム戦に勝利したソラタは見事にグレーバッジをゲットした。

 次に目指すはハナダシティのハナダジム、ソラタの冒険はまだまだ始まったばかりだ。




次回はニビシティを出ておつきみやまを目指しますが、その前にポケモンセンターでとある出会いが。


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第7話 「ポケモンの売買」

今回の話に出て来るポケモンの売買について。
基本的に法律で全世界的に禁止されています。
ただし、ポケモン協会から特別に許可を貰った団体や企業、個人事業主なんかは厳正なルールを順守した上でなら許されているという設定です。


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第7話

「ポケモンの売買」

 

 ニビジムのジムリーダー・タケシに勝利し、グレーバッジを手に入れたソラタはポケモンセンターに一泊してから次のジムがあるハナダシティに向かう事にした。

 現在はジム戦を頑張ってくれたイーブイとヒトカゲをセンターに預けていて暇になったからニビシティ内を観光しているところだ。

 嘗ては進化の石や古代のポケモンの化石が大量に見つかった事で一時期有名だったこの町も、今は博物館があるくらいしか見る所が無い閑散とした町だが、ソラタとしてはこういった田舎っぽい雰囲気は嫌いではない。

 

「ゲームでは博物館で“ひみつのコハク”が貰えたんだけど、流石にそれはゲームの話だなぁ」

 

 そもそもプテラは想定してるパーティー候補に入っていないので、特別欲しいとは思っていない。むしろ、今欲しい道具とは釣り竿関係に他ならないのだ。

 

「いい加減にコイキングが欲しいな……」

 

 ハナダシティに行く前にはコイキングを手に入れて置きたい所だ。ポケモンリーグまで十分過ぎる程の時間的余裕はあるが、他のトレーナー達とてリーグまでにポケモンを確り育てて来るだろう。

 まだ新人トレーナーである自分だからこそ、他のトレーナーよりも努力しなければリーグ優勝など絶対に出来ないとソラタは考えているのだ。

 

「どこかで釣り竿、売ってないかなぁ」

 

 流石に岩の町ニビシティでは難しいかもしれない。水の町ハナダシティに行けば手に入るかもしれないから、その時に購入するしか無いかと思い、ソラタは一度ポケモンセンターに戻る事にした。

 空を見ればもう夕方になろうという時間で、今から戻れば夕飯時間となるだろう。イーブイとヒトカゲの回復も終わっているかもしれない。

 

「ん?」

 

 ポケモンセンターに戻ろうと歩き出した所で、ソラタは博物館へと続く道の途中でとあるものを見つけた。

 水槽を展示した屋台、その屋台には鉢巻を巻いたちょび髭の男性が立っており、水槽の中には1匹のポケモンが入れられている。

 

「あれは……!」

 

 水槽の中に入った赤い魚のフォルムを持ったポケモン、間違いない、今ソラタが一番欲しいと思っているポケモン、さかなポケモンのコイキングだ。

 

「ちょ、ちょっとおじさん! ソレ!」

 

 屋台を閉めようとしていた男性に気づいて、ソラタは慌てて屋台へ走り寄って男性に声を掛けた。

 

「ん? なんだ坊主、今日はもう店仕舞いだよ」

「あの、コイキングですよね……? 俺、コイキングが欲しいんですが」

「へ? コイツをかい?」

 

 何でも、この屋台の店主は普段はホウエン地方やシンオウ地方でヒンバスを売っていて、弟がカントーやジョウトでコイキングを売っているらしい。

 何故、普段ホウエンやシンオウに居るという男性がニビシティにいるかというと、弟がクチバシティで大儲けするつもりだから一口乗らないかと言ってきたから。

 一先ずカントーに来て、カントーではヒンバスは売れないだろうとコイキングをニビシティで売ってみて、儲ける事が出来るか確認していたようだ。

 

「ポケモンの売買って、良いんですか?」

「非合法なのは駄目だね。でも俺は全世界共通ポケモン販売許可をポケモン協会から貰っているから許されてるのさ」

 

 ポケモン販売許可とはポケモン協会が特別に発行する許可証の事だ。これを持つ者以外がポケモンを売買したりする事は固く禁じられており、許可証を持つ者でも売買して良いポケモンには制限が課されており、それを守らなければ許可証の剥奪もあり得る。

 今回の場合であればコイキングやヒンバスなどは比較的許可が下りやすいポケモンであり、逆に数が減っているラプラスやイーブイといった希少ポケモンは滅多なことでは下りないのだ。

 因みに、シンオウ地方だとヒンバスは売れるらしい。シンオウチャンピオンのシロナがミロカロスを使うから、そのためかミロカロスに進化するヒンバスは人気なのだとか。

 

「カントーやジョウトではコイキングが売れると思ったんだけどねぇ? あのジョウトチャンピオンにしてカントー四天王の一人、更にはマスターズエイトの一人に名を連ねているドラゴン使いワタルが持っているポケモンに進化するんだから」

「ギャラドス……」

「坊主も知ってたか、んで坊主もギャラドスが欲しいって訳かい?」

「ええ、俺が将来的に想定するベストパーティーに、ギャラドスは入ってます」

 

 ならば話は早いと男性は電卓を取り出して金額を提示してくれた。

 

「見たところまだ新人トレーナーと見た。ならお前さんの将来への投資として、コイキング1匹500円でどうだい?」

「……買います」

「良し来た! ならコイツはオマケのプレミアボールだ、こいつで水槽のコイキングをゲットしてくれ」

 

 上下真っ白のモンスターボール、プレミアボールを手渡されて、ソラタはそれを水槽のコイキングに投げる。

 ボールが開いてコイキングが中に入ると、暫く揺れたボールはPONという音と共に停止する。これでコイキングをゲットだ。

 

「毎度、頑張れよ坊主、お前さんが将来チャンピオンにでもなったら、ギャラドスは俺から買ったポケモンだって宣伝してくれや」

 

 豪快に笑って応援してくれた男性に頭を下げて屋台を離れたソラタは早速近くの池にコイキングを出してみる。

 

「コッコッコッ」

「よろしくなコイキング」

「コッコッコッ」

「俺が目指すのはトレーナーの頂点、チャンピオンだ。その高みへ行くのに、お前の力が必要だ……一緒に強くなろう」

 

 真っ直ぐ、力強い眼差しで見つめるソラタに、コイキングは戸惑う様子を見せたものの、高みへ行くという言葉、そのために自分が必要だという言葉に、コイキングは胸が熱くなるような気持ちが溢れて来た。

 だから、コイキングもまた力強い眼差しを向けて頷き、その場で飛び跳ねて見せる。

 

「よし、先ずはポケモンセンターに戻るか。そろそろイーブイとヒトカゲも待ち草臥れてるだろうし、新しい仲間を紹介しないとな」

 

 プレミアボールにコイキングを戻して腰のホルダーに収めると、ポケモンセンターへ向けて歩き出した。

 これで、ソラタの手持ちは現在、イーブイ、ヒトカゲ、ピカチュウ、コイキング、ピジョンの5匹、近々ピジョンをオーキド研究所に預ける事を考えれば、リーグ参加の為のメンバー集めは残り2匹だ。

 

「確か、アイツはハナダシティの近くに生息してたよな……」

 

 そして、想定している残り2匹の内、1匹は生息地が近い。早々にゲット出来るだろうと考え、やはりネックなのはカントーに生息していない残り1匹だ。

 

「いっそ、クチバシティに着いたら空港から一時的にシンオウ地方かアローラ地方に行くか? 上手い事アイツを持っているトレーナーに巡り合って交換して貰えるとは思えないし」

 

 だが、そんな事をしたらリーグ参加の為の時間を大幅にロスしてしまう。別のポケモンを手持ちに加える事も考えたが、やはり諦めたくは無かった。

 

「でも、最悪ロス時間を最小限に抑えるのなら、別の代案として考えてるのはバンギラスだけど……ヨーギラスならジョウト地方に生息してるよな……メタグロスやサザンドラでも良いけど、ダンバルはホウエン地方、モノズはイッシュ地方だから、やっぱりロス時間が大きいし」

 

 とりあえず、残り1匹についてはクチバシティに着くまでに考える事にした。他の地方に行くにはクチバシティかヤマブキシティに着かなければ如何することも出来ないので、今考えても仕方がないのだ。

 

「先ず第一に考えるべきなのは目先の目標だな」

 

 コイキングをゲット出来た事でベストパーティーを揃える事に現実味が帯びて来た。だから、最後の1匹ももしかしたら運よくゲット出来るチャンスが舞い込んで来るかもしれない。

 楽観視するつもりは欠片も無い。無いが、それでも希望が見えて来たのだ。最悪の場合は時間をロスする事も視野に入れてスケジュールを組む事も考えながら進むしかないのだ。

 

「チャンピオンになる為なら、俺はどんな手間だって惜しむつもりは無い……チャンピオンになるのは、母さんから受け継いだ俺の夢なんだから」

 

 この夜、ソラタはポケモンセンターに泊まって一夜を明かし、翌朝早々にハナダシティ目指して旅立った。

 ニビシティを出て最初に待ち受けているのはオツキミやま、後続の同期達には申し訳ないが、ソラタはさっさと先へ進ませて貰う。

 

「あ、そういえば旅に出てから一度も気にした事無かったけど、あいつらどうしてるかな?」

 

 ふと思い出したのはソラタの後に旅立ったであろう同期3人の姿だ。一応、転生してから今日まで、幼馴染という扱いにはなる3人。

 

「サトシ、シゲル、トワコ……順調に行けば今日辺りにシゲルとかトワコなんかはジム戦かな……サトシは、まぁ、うん」

 

 一応、前世で見ていたアニメの主人公でもある幼馴染は大丈夫だろうと思考を早々に断ち切って、いよいよソラタの目の前に見えて来るのはオツキミやま。

 

「さあ、行くか!」




今回、コイキングを売っていた親父はサントアンヌ号でコジロウにコイキングを売った親父の兄という設定です。
兄親父は弟とは違って詐欺などはしていない、正々堂々とした商売をしており、普段はホウエン地方やシンオウ地方で屋台を開いています。


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第8話 「おつきみやまにロケットの悪意」

ポケットモンスター

転生したのは始めに旅立った子供

 

第8話

「オツキミやまにロケットの悪意」

 

 ニビシティのポケモンセンターで一泊したソラタは、早朝から既に出発してオツキミやまに向かい、そして既に洞窟入口から内部に入って、ハナダシティ側へ向けて整備された洞窟道を歩いている。

 オツキミやまは数年前まで“つきのいし”と呼ばれる進化の石や古代のポケモンの化石が発掘されるという事で多くのコレクターやポケモントレーナーが訪れて洞窟内を好き放題荒らしてしまったという歴史があった。

 そこで、ニビシティとハナダシティが協力して遊歩道を整備、そこ以外の立ち入りは特別な許可が無い限り禁止する事で何とか洞窟内の環境を良くする事が出来たのだ。

 何より遊歩道以外の立ち入りを禁じた理由の大きな要因は、オツキミやまに生息するピッピと呼ばれるポケモンの乱獲があった事だろう。

 過去の乱獲でオツキミやまのピッピの生息数が一時期激減してしまった事もあって、遊歩道の整備はポケモン協会からの厳命でもあった。

 

「まぁ、俺はピッピが欲しいって訳じゃないし、ここまででイシツブテ、ズバット、プリンをゲット出来ただけで十分だわな……つきのいしも一個だけだけど、見つけたし」

 

 ソラタもピッピは無理に欲しいって訳ではない。図鑑完成を目指している心算は無いので、このままハナダシティ側に出てしまっても問題は無いのだ。

 更に言えば、ゲーム時代なら“かいのかせき”か“こうらのかせき”が手に入るイベントもあるが、そんなイベント、この世界に存在する筈も無く、そもそもオムナイトもカブトも欲しいとは欠片も思っていない。

 

「そういえば、今のところロケット団とかと遭遇した事が無いよな……何で?」

 

 我らが主人公サトシ君は今頃、何度もロケット団のムサシ、コジロウ、ニャースと会っているのだろうが、ソラタは今まで一度だってロケット団と会っていない。

 カントーと言えばロケット団の暗躍が一番活発な地域だというのに、これほどまでに遭遇しないというのも不思議な話だ。

 

「まあ、会わないのならそれに越したことは無いよな。無理に変なのと関わり合いになりたいとも思わないし、厄介事は御免だ」

 

 別に自分がロケット団を壊滅させてやる、などという英雄願望は持ち合わせていない。

 ソラタの旅の目的はチャンピオンになる為の修行とジムバッジ集めなのであって、ロケット団壊滅の為の正義の行いは目的に含まれていないのだ。

 

「そう、だからロケット団と関わりなんて持つつもりは無かったのになぁ……」

 

 ソラタは現在、オツキミやまの洞窟内で遊歩道から少し離れた所で怪しい動きをする女性を見つけ、その顔を見て思わず隠れてしまった。

 ソラタの視線の先に居るのは、赤い髪の黒い服を着た女性。その女性の着ている黒い服の胸の部分には大きく“R”の文字が。

 

「あれって、確かゲームで出て来たロケット団の幹部、アテナだよな? アニメの世界にも居たんだ……」

 

 さてどうするか、ゲームでは雑魚と言って良いレベルでしかないロケット団幹部だが、現実はそう上手くはいかないだろう。

 ソラタの手持ちでアテナに勝てるかどうか……ゲーム時代の彼女の手持ちを考えると、勝てなくはないと思うが。

 

「アーボックとヤミカラスならピカチュウで何とかなる……クサイハナはヒトカゲかピジョンで勝てるよな」

 

 そこまで考えて、ふと思った。これは、無理に戦う必要があるのかと。そもそも思わず隠れてしまったが、このまま何事も無かったかのようにスルーして先に進んでも誰に文句を言われようか。

 ソラタの旅の目的に一切関わり合いの無い事柄、不必要に悪の組織に目を付けられてリーグ出場を妨害なんてされたら目も当てられない。

 

「うん、スルーしようと思ってるのに……アレはなぁ」

 

 スルーしてさっさと立ち去ろうと思ったソラタだったが、見てしまった。

 アテナがアーボックに指示してピッピと、その子供だろうかピィを襲わせようとしている姿、それを見て無視出来る程、ソラタはポケモントレーナーとして非情な人間ではない。

 

「ピカチュウ! “10万ボルト”! イーブイ! “シャドーボール”! ヒトカゲ! “かえんほうしゃ”!!」

 

 腰のホルダーから3個のボールを取り出して、投げながら指示を出す。

 ボールから出て来た3匹はそれぞれ指示された通りの技をアテナのアーボック目掛けて放ち、後ろから奇襲を受けたアテナとアーボックは反応が遅れて3つの技がアーボックに直撃した。

 

「シャーボ!?」

「アーボック!? クソッ、何なのアンタは! いきなり襲い掛かるなんて常識無いんじゃないかしら!?」

「ふん、常識? 悪の組織に所属する犯罪者に常識を問われる筋合いは無いよ、ロケット団」

 

 ソラタが3匹のポケモンを出して岩陰から出て来ると、アテナは先ほどまで狼狽えていたのが嘘のように冷静さを取り戻しアーボックの他にヤミカラスとクサイハナを出して対峙してきた。

 

「それで坊や、あたくしが誰か判っての狼藉かしら」

「ああ、ロケット団だろ? こそこそと悪事を働くしか脳の無い社会からの落伍者の集まり」

「……随分と言ってくれるじゃない、あたくし達の崇高な理念も知らないで」

「ハッ! 崇高? 理念? 笑わせるな、お前達みたいな悪党に崇高な理念とやらがある訳が無い……お前らにはその言葉、不相応だぜ? お前達みたいな悪党にお似合いなのはな、“負け犬”“落伍者”“ドロップアウト”って言葉だけだ」

 

 アテナの後ろで襲われそうになっていたピッピとピィが逃げ出したのを確認し、ソラタはイーブイ達と戦いやすい場所まで移動する。

 アテナもバトルする気は十分なようで、ソラタの挑発によって米神に青筋が浮かんでいた。

 

「あたくし達を愚弄したんだ、無事に帰れると思わない事ね」

「それはこっちのセリフだ、ぶちのめしてジュンサーさんに突き出してやるよ」

 

 お互いのポケモンが臨戦態勢を整え、いつでも戦える状態になった。一触即発、いつぶつかってもおかしくない。

 

「……」

「……」

「アーボック! イーブイに“どくばり”! ヤミカラス! ヒトカゲに“ナイトヘッド”! クサイハナ! ピカチュウに“はっぱカッター”!」

 

 先に動いたのはアテナだった。3匹のポケモンがそれぞれ指定されたポケモンへ向かって技を放つが、ソラタから言わせて貰えば、態々1対1の状況を作ろうとするなど無駄な行為でしかない。

 

「ヒトカゲ! “かえんほうしゃ”で薙ぎ払え! ピカチュウは今の内に“あなをほる”で地中に! イーブイはアーボックに“シャドーボール”!!」

 

 ヒトカゲの“かえんほうしゃ”で“どくばり”と“はっぱカッター”を燃やし尽くし、“ナイトヘッド”を相殺する。

 その隙にピカチュウは地中へと“あなをほる”で潜り、イーブイの“シャドーボール”がアーボックに直撃した。

 

「なっ!?」

「判断が遅いぜ! ヒトカゲは天井の岩へ“メタルクロー”! イーブイは“でんこうせっか”で走り回れ!」

 

 イーブイが敵3匹の周りを走り回り、3匹の狙いを惑わせて、その間にヒトカゲが“メタルクロー”で破壊した天井の岩がヤミカラスに直撃、地面に叩き落とす。

 

「くそっ! アーボック、クサイハナ! “ヘドロばくだん”! ヤミカラスは“こごえるかぜ”でイーブイの動きを止めなさい!」

「させるか! ピカチュウ!! アイアンテール!!」

「ピッカ! チュウウウピッカ!!」

 

 “ヘドロばくだん”でヘドロを吐こうとしたアーボックの真下の地面からピカチュウが飛び出て鋼鉄と化した尻尾をアーボックの顎に叩きつけた。

 その勢いでアーボックの“ヘドロばくだん”は狙いが逸れて、仲間であるはずのヤミカラスに直撃、“こごえるかぜ”を出そうとしていたヤミカラスは大ダメージを受ける。

 

「クサイハナのヘドロが来る! イーブイは“シャドーボール”で迎え撃て! ピカチュウはそのままヤミカラスに“10万ボルト”! ヒトカゲはクサイハナに“かえんほうしゃ”!」

 

 クサイハナが放った“ヘドロばくだん”は“シャドーボール”で相殺され、ヤミカラスとクサイハナはそれぞれ戦闘不能に、残るはアーボックのみだ。

 

「あ、アーボック! “どくばり”よ!」

「最大火力だ! “シャドーボール”! “10万ボルト”! “りゅうのいぶき”!」

 

 アーボックの最後の“どくばり”は3つの技に飲み込まれて消滅、そのまま技が直撃して戦闘不能となってしまった。

 

「そ、そんな……あたくしが、こんな坊やに」

「さて、どうする? このまま大人しくジュンサーさんに捕まるか?」

「くっ……舐めるんじゃないよ!」

 

 アテナは煙幕玉を地面に叩きつけると、煙に包まれてしまう。そして、煙が晴れるとアテナも、アテナのポケモン達も姿を消しており、まんまと逃げられてしまった。

 

「まぁ、捕まえるのは出来ればで良かったから、どうでも良いか」

 

 とりあえず、頑張ったから褒めてと足元にじゃれつく3匹の頭をそれぞれ撫でてやって、ソラタはイーブイ以外をモンスターボールに戻す。

 自分だけボールに戻されなかった事に首を傾げるイーブイを抱き上げたら、後はハナダシティ側へ向けて歩き出すだけだ。

 

「よく頑張ったな、イーブイ」

「ぶい?」

「たまには良いだろ? こうして抱っこして歩くのも」

「ぶいぶい!」

 

 笑顔で抱きつくイーブイを撫でながら、ソラタは歩き出す。

 だが、この時は気付かなかった……ソラタに撫でられてご満悦な表情を浮かべるイーブイの首元から、透明なリボンのような触覚らしきものが伸びて、ソラタの腕に巻きつこうとソワソワしていた事に。




次回、ポケットモンスター~転生したのは初めに旅立った子供~

「ハナダジム美人3姉妹」

お楽しみに。


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第9話 「ハナダジム美人三姉妹」

お待たせしました。
最近夏バテ気味で、中々執筆に手が回らずでした。


ポケットモンスター

転生したのは始めに旅立った子供

 

第9話

「ハナダジム美人三姉妹」

 

 オツキミやまを抜けて、ついにハナダシティに到着したソラタは、ジム戦に供えてポケモンセンターに立ち寄っていた。

 オツキミやまでのロケット団の幹部の一人、アテナとの戦いに勝利した後、特に問題らしい問題も発生する事無く無事に山を出てハナダシティ入りを果たした。

 水の町ハナダシティ、ジムリーダーが水タイプのポケモンを使う事もあって特にカントーでは水に関する事では随一の町だと言えるだろう。

 特に、ハナダジムは町の水族館を兼ねているらしく、ジムリーダーやジムトレーナーも普段は水族館職員として働いているらしい。

 

「さて、誰で行くか……まぁ順当に考えるならピカチュウは第一候補だよな」

 

 ジョーイさんに聞いた話によれば、ハナダジムはチャレンジャーとジムリーダー共に使用ポケモンは2体という制限が課せられているらしい。

 ニビジムと同じ制限なら、誰を出すべきか慎重に検討したい所だが、現状ハナダジムの水ポケモンに有効なポケモンは手持ちにピカチュウしか居ないのだ。

 

「ヒトカゲ、イーブイ、コイキング、ピジョン……ヒトカゲとピジョンは確実に候補から外れるか」

 

 となると残るはイーブイとコイキングのみ。

 

「……よし」

 

 どちらを出すのか決めたソラタはモンスターボールを腰に戻して立ち上がると、ポケモンセンターを出る。

 向かった先はハナダジムがあるハナダ水族館、2個目のバッジであるブルーバッジをゲットして、次のクチバシティを目指す為、早々にジム戦を終えたい。

 

「ここか……」

 

 到着したハナダ水族館は本当にジムがあるのかと思うぐらい、大きなジュゴンの絵が特徴の屋内テーマパークのような外観をしている。

 入口の張り紙には水族館の入場料や、中で行われている水中ショーの開演時間などが書かれているが、その一番下に小さく「ジム戦も行ってます」と書かれていた。

 まるでジムはついでみたいな扱いだが、間違いなくハナダジムとしても機能はしているようだ。

 入口の自動ドアから中に入ってみれば、なるほど確かに水族館なのだと思わせた。受付にはピンクの髪の女性が座っており、ソラタを見つけると軽く会釈をされたので、早速受付へ向かう。

 

「あの、すいません」

「はい、水族館の入場料でしたら子供300円ですよ」

「いえ、水族館に用じゃないんです。ハナダジムに挑戦に来たんですが……」

「あら、ジムチャレンジャーだったの?」

「はい、今は水中ショーの時間外みたいなので、ジム戦出来ると思って来たんですが」

「ちょっと待っててね」

 

 女性はそう言うと内線電話で何処かに電話を掛ける。そして数分すると受話器を置いて受付席から立ち上がった。

 

「改めましてようこそハナダジムへ、私はハナダジムのジムリーダー3人の内の一人、ボタンよ」

「3人……?」

「そう、ここハナダジムは私達姉妹で経営しているジムでね。チャレンジャーには3人の内の誰かとジム戦をしてもらうの」

「そっすか」

 

 そういえばそうだ。アニメのポケモンで初代も初代だから忘れていたが、ハナダジムのジムリーダーは元々カスミの3人の姉が務めていたのだった。

 勿論、カスミにもジムリーダー資格があるので合計4人のジムリーダーがハナダジムにはいる事になっているらしい。

 

「今からバトルフィールドに案内するわ。そこに私の姉のサクラ姉さんとアヤメ姉さんがいるから、私を含めて3人の内の誰とバトルするか、決めて貰うわね」

「はい」

 

 ボタンに案内され水族館を通って奥に進むと、広いプールに出た。プールには円い足場が幾つか浮いており、水のバトルフィールドの名に相応しい場所だ。

 

「いらっしゃいチャレンジャー君」

「あ……」

 

 声を掛けられて振り返れば、そこにはボタンの他に金髪の女性と青い髪の女性が立っていた。覚えている、彼女達はアニメで見たカスミの姉……。

 

「ハナダジムのジムリーダーの一人、サクラよ」

「同じくアヤメ、よろしくね」

 

 そう、金髪の女性が長女のサクラ、青い髪の女性が次女のアヤメで、ボタンが三女、カスミが四女だった筈だ。

 

「マサラタウンのソラタです。今日はジム戦に来ました」

「そう、それじゃあソラタ君、私達三姉妹の誰とバトルするのかしら?」

「……それじゃあ、サクラさんでお願いしても?」

「ええ、良いわ」

 

 どうせなら長女であるサクラにお願いする事にした。彼女たちはジムリーダーとしてはお世辞にも強いとは言えないが、それでも三人の中で一番の実力者と言えばサクラだろう。

 バトルフィールドに移り、アヤメが審判をしてくれる事になったので、早速反対側に立つサクラと対峙した。

 

「これよりハナダジムのジム戦を行います。使用ポケモンは互いに2体! 先に2体のポケモンを戦闘不能にした方が勝ちとなります。尚、ポケモンの交代はチャレンジャーにのみ認められています」

 

 アヤメからの説明を受けて、ソラタは一体目のポケモンが入ったモンスターボールを取り出す。サクラも既にモンスターボールを構えているようで、互いに準備は万端だった。

 

「行くわよパウワウ!!」

「パワウ!」

 

 サクラが出したのは水タイプパウワウだった。もちろん予想通りだったので、ソラタに使用ポケモンの変更は無い。

 

「行け! コイキング!!」

 

 サクラのパウワウに対して出したのは、ニビシティで購入したコイキングだった。水のフィールドである以上、コイキングでも十分戦いやすい場所だからこその選択だが、勿論それだけがコイキングを出した理由ではない。

 

「あら、コイキングで良いの?」

「ええ、でもご安心を。俺のコイキングは特別なんで」

「特別……?」

 

 パウワウとコイキングが出て対峙する。審判のアヤメはそれを確認すると、両手に持ったフラッグを大きく振り上げ……。

 

「試合、開始!」

 

 振り下ろした。

 

「パウワウ! “オーロラビーム”!!」

「パ~ゥ~!」

「コイキング! 水中に逃げろ!」

「追いかけて!」

 

 オーロラビームを水中に潜る事で避けたコイキングだが、そもそも泳ぐスピードはコイキングよりパウワウの方が早い。

 コイキングを追ってパウワウも水中に潜り、あっと言う間にコイキングに追い付いた。

 

「そのまま“ずつき”!」

「引き付けろ!」

 

 “ずつき”の姿勢で一気に近づくパウワウを見つめて、コイキングとソラタはタイミングを計った。そして、射程距離まで接近したタイミングで、コイキングはソラタからの指示を予測して尾をパウワウの方へ向ける。

 

「パウワウの頭を利用して“はねる”!」

 

 コイキングの尾鰭がパウワウの頭を叩き、その勢いで一気に水面へ跳ね上がると、水から飛び出して空中へと飛び出した。

 

「パウワウ! コイキングに向けて“オーロラビーム”!」

「パゥ~」

 

 水面に出て来たパウワウは空中に居るコイキングに向かって再びオーロラビームを放つ。空中に居るコイキングは絶対に回避出来ないだろうと、直撃して戦闘不能になるのをサクラは、そして審判をしているアヤメと観戦中のボタンも予想していた。

 だが、言った筈だ。このコイキングは特別だと。

 

「コイキング! “ハイドロポンプ”で迎え撃て!!」

「“ハイドロポンプ”ですって!?」

 

 そう、このコイキング、購入した段階で既に“ハイドロポンプ”を覚えていたのだ。そうでなければ500円で売るのを将来への投資だ、などと言われる筈が無い。

 

「パウワウ!?」

 

 “オーロラビーム”が“ハイドロポンプ”に押し負けてパウワウに“ハイドロポンプ”が直撃した。勢い余って円い足場まで吹き飛ばされて倒れたパウワウに、空中で態勢を整えたコイキングは頭をパウワウへ向ける。

 

「今だ!! “たいあたり”!!!」

「コココココ!!」

 

 落下の勢いを乗せた“たいあたり”がパウワウに直撃、円い足場を叩き割って2匹とも水中に消えた。

 

「パウワウ!!」

 

 暫くして、コイキングが水面に出てきて元気そうな姿を見せると同時に、目を回したパウワウが浮かび上がってきた。

 

「パウワウ、戦闘不能! コイキングの勝ち!」

「よっし!」

 

 先ずは1勝、残り1匹を倒せばハナダジム制覇だ。

 

「戻りなさい、パウワウ……ご苦労様」

 

 サクラがパウワウをボールに戻すと、別のボールを取り出しつつパウワウを倒したコイキングを見つめた。

 

「凄い子ね、そのコイキング……“ハイドロポンプ”を使った事には驚かされたわ」

「ありがとうございます」

「でも、次は簡単に勝たせてあげないわ……行きなさい! アズマオウ!!」

 

 続いて出て来たのはトサキントの進化系、アズマオウだった。

 

「この子は私の手持ちでも最強の子、さあ掛かってらっしゃい」

「ああ、コイキング! 行くぜ!」

「では、アズマオウ対コイキング……始め!」

 

 ハナダジム、ジムリーダーサクラとの戦い、残るはアズマオウを倒すのみ。勝つのはソラタか、サクラか、運命のバトルは今、ゴングが鳴らされた。




次回はハナダジム戦決着です。


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第10話 「恐怖の水ポケモン」

お待たせしました。
ハナダジム戦最後です。


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第10話

「恐怖の水ポケモン」

 

 ハナダジムに挑戦中のソラタは、ジムリーダー・サクラの一番手であるパウワウをコイキングで見事撃破、続く二番手であるアズマオウに対して、そのままコイキングで試合を続行しようとしていた。

 

「アズマオウ! “バブルこうせん”よ!」

「ズマォ!」

「避けろ!」

 

 アズマオウが放った“バブルこうせん”を水中に潜る事で回避したコイキングだが、直ぐにアズマオウも水中に潜りコイキングを追いかける。

 状況は先ほどのパウワウ戦と同じだが、ソラタの表情に余裕は無い。

 

「いいわアズマオウ、そのまま“ハイドロポンプ”!」

「反転! “ハイドロポンプ”で迎え撃て!!」

 

 コイキングが反転してアズマオウの“ハイドロポンプ”に対して自身も“ハイドロポンプ”を放った。

 だが、同じ“ハイドロポンプ”でもトサキントから進化したアズマオウの“ハイドロポンプ”と、未進化ポケモンであるコイキングの“ハイドロポンプ”では威力が違う。

 結果、コイキングの“ハイドロポンプ”は簡単に押し負けてアズマオウの“ハイドロポンプ”がコイキングに直撃した。

 

「コイキング!」

「勝負あり、かしら?」

「くっ……」

 

 プールの壁に激突したコイキングは力無く水面に浮かんで来たものの、直ぐに目を覚ましてボロボロになりながらも戦意を失っていない瞳でソラタの方へ視線を向けた。

 

「コイキング……」

「コッ!」

 

 まだやれる。そう言っているのだろう。だから、トレーナーとしてソラタも、コイキングの気持ちを無下にする訳にはいかない。

 

「よし! アズマオウに突っ込め!」

「!? アズマオウ! “ドリルライナー”よ!」

 

 アズマオウに向かって泳ぎ出したコイキングに対して、アズマオウは自身の角を回転させながら向かってくるコイキングを迎え撃とうとする。

 

「……今だ! “たいあたり”!」

 

 段々と距離が縮まり、アズマオウの“ドリルライナー”が直撃する寸前、コイキングは身を捻って回避して横っ腹に“たいあたり”を決める。

 

「甘いわよ、“れいとうビーム”!」

 

 今度は自分が吹き飛ばされたアズマオウだが、直ぐに態勢を整えて“れいとうビーム”を放った。

 “れいとうビーム”の直撃を受けたコイキングはそのまま全身を氷に覆われ、氷漬けの状態で水面に浮かぶ。

 

「コイキング!!」

「勝負ありね、今度こそ」

 

 完全に凍ってしまったコイキングはソラタの声も届かない。身動きも取れず、氷が溶けなければ戦闘復帰は不可能だ。

 

「コイキング……」

 

 これはもう戦闘不能と見て良いだろう。そう思ったアヤメは審判フラッグを上げてコイキングの戦闘不能を宣言しようとしたのだが……。

 

「まだだ!」

 

 ソラタの声に、思わずフラッグを上げる手を止めてしまった。

 

「ソラタ君……?」

「まだ、まだ終わってない! そうだろコイキング!」

 

 必死にコイキングに声を掛けるソラタだが、無駄だ。凍ってしまったコイキングにいくら声を掛けたところで、聞こえる筈が無い。

 

「諦めなさいソラタ君、素直にコイキングの負けを認めるのもトレーナーである君の仕事よ」

「負け? まさか! まだ凍っただけで、コイキングは戦闘不能になったわけじゃない! 俺のコイキングが、こんな事で諦めるわけが無い!!」

 

 出会ったあの日、ソラタに見せた力強い瞳は、一緒に強くなるというソラタの言葉に同意してくれたあの瞳は、今も氷の中で健在だ。

 

「信じてるぞ俺は! お前は、まだ諦めてないって!!」

 

 その時だった。氷の中のコイキングの身体が光り出したのは。

 

「これは!?」

 

 氷を砕きながら、光に包まれた身体が宙に浮かび、魚らしいフォルムの身体が長く、長く伸びていく。

 そして、光が消えると、コイキングの赤い身体は青く変化して、魚から龍を思わせる姿へと変わったポケモンの咆哮がプールに響き渡った。

 

「ギャオァアアアア!!!」

「うそ……ギャラドスに進化したの?」

 

 コイキング改め、ギャラドスは鋭い眼光でアズマオウを睨み、次いで自身のトレーナーであるソラタの方を向くと、静かに頷いて見せた。

 

「! ギャラドス、行けるか?」

「ギャオァアアアアアアアアアアア!!!」

 

 ソラタの問いに咆哮で返すと、その青い巨体の頭上に黒雲が発生した。そして、その黒雲から大量の雨が振り出す。

 

「“あまごい”!?」

「いや、それだけじゃない……!」

 

 ギャラドスが“あまごい”で発生させた雨の中、感じるのは屋内だというのに突風と呼ぶのも烏滸がましい暴風、雨と合わせて暴風雨となっている。

 

「そうか! ギャラドス!! “ぼうふう”!!」

 

 “ぼうふう”によってプールの水が巻き上げられ、アズマオウがそれに巻き込まれるように空中へ投げ出された。

 水中ではなく空中では身動き一つ取れないアズマオウは、恰好の的だ。

 

「やれ!!」

 

 すると、ギャラドスの額に電気が走り、それが黒雲へと伸びると、雷となってアズマオウに降り注いだ。

 

「“かみなり”ですって!?」

 

 まさかの電気技に驚いたサクラだったが、アズマオウに電気タイプの“かみなり”が直撃したのは不味い。

 残念な事にサクラのアズマオウは特性“ひらいしん”ではないので、電気タイプの技はそのまま直撃してしまうのだ。

 

「アズマオウ!!」

 

 プールに落ちたアズマオウは、力無く水面に浮かび目を回してしまった。

 

「アズマオウ、戦闘不能! ギャラドスの勝ち! よって勝者、マサラタウンのソラタ!!」

「……よっしゃあああ!!!」

 

 勝てた。その事が嬉しくて思わずプールにダイブ、泳いでギャラドスの所まで行くと、顔を寄せてきたギャラドスの大きな顔に抱きついた。

 

「勝ったぞギャラドス! それに進化も! よくやった!!」

「ギャォ」

 

 そのまま暫くギャラドスと戯れたソラタは、漸くプールから上がると、ギャラドスをモンスターボールに戻してサクラ達の所へ歩み寄る。

 既にサクラは妹達と一緒に居て、その右手にはハナダジム勝者の証を持っていた。

 

「もう大丈夫?」

「はい」

「見事だったわ。貴方とコイキング……いえ、ギャラドスの絆、感動させられたもの。これは貴方とギャラドスの勝利と絆の証、ブルーバッジよ」

 

 雫の形をした青いバッジ、ブルーバッジを受け取ったソラタは大事にバッジケースへ収めると、ボタンに預けていたバッグにバッジケースを仕舞ってバスタオルを取り出した。

 

「そのままだと風邪を引くわ。シャワー室があるから、そこでシャワーを浴びて来なさいな」

「すいません、お借りします」

 

 何とも締まらない終わりだったが、関係ない。これで2つ目のバッジをゲットだ。

 

「次は何処へ行く予定なの?」

「次はクチバシティを目指します」

「クチバ……それじゃあ、少し遠いけど、頑張ってね」

「はい」

 

 ハナダジムのシャワー室を借りてシャワーを浴び、更衣室で着替えたソラタはサクラ、アヤメ、ボタンに見送られてハナダジムを後にした。

 目指すはクチバシティ、目標パーティーも残すは2匹のみ、順調な旅を続けるソラタに次はどのような出会いが待っているのか。

 それは、また次回。




次回は新たなポケモンとの出会い、さて誰と出会うのでしょうか。


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第11話 「ナゾノクサの草原」

大変お待たせしました。仕事が忙しくて休みは基本寝る生活でした。


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第11話

「ナゾノクサの草原」

 

 ハナダシティのハナダジムで、ジムリーダーのサクラに勝利し、見事ブルーバッジをゲットしたソラタは、次のジムがあるクチバシティを目指して旅を続けていた。

 その旅の途中、立ち寄ったのがゴールデンボールブリッジを渡った先にある小さな田舎町、ソメイタウンのポケモンセンターだった。

 

「ナゾノクサ! “はっぱカッター”!」

「“でんこうせっか”で回避! 続けて“シャドーボール”!!」

 

 そして現在、ポケモンセンターの敷地にあるバトルフィールドで、ソラタはテツと名乗った少年とポケモンバトルをしていた。

 テツ少年のポケモンはナゾノクサ、対するソラタはイーブイで、ナゾノクサの“はっぱカッター”を回避したイーブイが“シャドーボール”で反撃している。

 

「ナゾノクサ!?」

「ナ、ナゾ~」

「今だ! “でんこうせっか”!!」

「ブイ! ブイブイブイブイ!! イブイ!!」

 

 “シャドーボール”が直撃して怯んだナゾノクサを、イーブイの渾身の“でんこうせっか”が捉える。

 

「ナ……ゾ~」

「な、ナゾノクサ……戻れ」

 

 目を回して倒れたナゾノクサをモンスターボールに戻したテツ少年は手持ち全てが戦闘不能となったので、これでソラタの勝利だ。

 

「いや~参った! 強いなぁアンタのイーブイ」

「まぁな、一番の相棒だ」

「そりゃ強ぇや」

 

 足元に擦り寄ってきたイーブイを抱き上げて頭を撫でながら、ソラタはふとバトル中に気になっていた事があって周囲を見渡した。

 ソラタとテツ少年のバトルを観戦していたトレーナー達がちらほらと見えるのだが、皆が共通してナゾノクサやクサイハナ、ラフレシアを連れているという謎の光景。

 

「随分とナゾノクサ系のポケモンを連れたトレーナーが多いな」

「何だ知らないのか? この町の近くにナゾノクサが多く生息する場所があってな、大昔からこの町はナゾノクサと共に生きてきたってくらいで、だからこの町の出身トレーナーなんかは初心者ポケモンとしてナゾノクサを受け取るくらいに身近なポケモンなんだよ」

「ナゾノクサを初心者用にって……随分とまぁ」

 

 最終進化に石を必要とするポケモンを初心者用にするというのは随分と思い切った事というか、それくらいナゾノクサがこの町では当たり前のポケモンなのだろう。

 何でも偶に町中を野生のナゾノクサが散歩していたりする事もあるらしく。町のルールで住民も旅人も、町中を散歩しているナゾノクサにバトルを仕掛けたりゲットしたりする事を禁止しているくらいなのだ。

 

「そっか……実はナゾノクサをゲットしたいと思ってたんだけど、その生息地ってどこなんだ?」

「町から少し離れた所にナゾノクサの草原って呼ばれている場所がある。そこがナゾノクサの生息地になってるぜ」

 

 この町の住民は全員初心者ポケモンとしてナゾノクサを町長から受け取るから例外として、旅人はナゾノクサをゲットする場合はナゾノクサの草原へ行ってゲットするのがルールらしい。

 しかも、その際は町の住人の誰か一人が付き添い、尚且つゲットして良いのは一人一匹までだ。

 

「厳格なルールが定められてるんだな」

「それだけこの町がナゾノクサを大事にしてるんだよ、ずっと一緒に過ごしてきた家族みたいなものだからな」

 

 因みに、テツ少年はソメイタウン在住のトレーナーとの事なので、ソラタがナゾノクサの草原に行く際は同行してくれるとの事だ。

 

 

 ソメイタウンのポケモンセンターで一泊したソラタは朝からテツ少年と共にソメイタウンの近くにあるというナゾノクサの草原に向かっていた。

 ナゾノクサの草原がある場所は管理人の家で入園手続きを済ませなければならないとかで、今はその家に来ている。

 

「はい、これが入園パスね。帰りもこのパスを返してくれれば大丈夫」

「はい」

「それから、ナゾノクサの草原に入る際は空のモンスターボールの持ち込みは1個までだから、残りは預かるけど良いかな?」

「わかりました」

 

 本当に管理が徹底しているなと思いながら、空のモンスターボールを1個だけ持ち、残りは管理人のお爺さんに渡してテツ少年とナゾノクサの草原に入った。

 ナゾノクサの草原はとても広く、見渡す限り草花が綺麗に整えられた草原で、テツ少年の話によると草花を手入れしているのはナゾノクサやクサイハナ達なのだとか。

 

「凄いな」

「だろ? だからこの草原は町の人間にとっても散歩に来たりピクニックに来たり、子供の遊び場になったりもしているんだ」

「野生のナゾノクサやクサイハナが居るのにか?」

「ここのナゾノクサやクサイハナは町の人間か如何かって判るらしいぜ」

「へぇ」

 

 町の人間と草原のナゾノクサの信頼関係が出来てなければあり得ない事だろう。それだけ町が草原のナゾノクサ達を大切にして、ナゾノクサ達もそれを理解しているのだ。

 

「ただまぁ、この草原のナゾノクサは全部が全部人間に心許してる訳じゃないけどな」

「そうなのか?」

「ああ、人間に捨てられたナゾノクサやクサイハナの保護区でもあるんだよ、此処は」

「そういう事か……」

 

 弱いから、ラフレシアに進化させるのにリーフの石を手に入れるがダルいから、そんな身勝手な理由でナゾノクサやクサイハナを捨てるトレーナーも居る。

 そんなナゾノクサやクサイハナを保護しているのも、このナゾノクサの草原なのだ。多くの仲間達と共に自然の中で暮らせば人間に捨てられた心の傷も癒してくれるだろうと。

 

「あ、ちょうどあの子がそうだな」

「ん?」

「あの木陰に座ってるナゾノクサ、確か数週間前に捨てられたばかりの子だ」

 

 テツ少年が指さした先に居たのは、木陰で休んでいる一匹のナゾノクサだった。

 

「メスのナゾノクサなんだけど、確か弱いからって理由で捨てられたんじゃなかったかな」

「胸糞悪い話だな」

「本当にな」

 

 何でも“すいとる”と“あまいかおり”しか使えないからという理由で捨てられたらしい。聞けば聞くほど胸糞悪い話だった。

 人間の勝手な理由で捨てられて、あのナゾノクサがどれだけ悲しんだか。

 

「テツ、これはジョウト地方の話なんだが」

「ん?」

「ジョウト地方の四天王の言葉でな……“強いポケモン、弱いポケモン、そんなものは人間の勝手。本当に強いトレーナーなら好きなポケモンで勝てるように努力するべき”って言葉がある」

「それが?」

「ナゾノクサを弱いって断じるのは人間の勝手な判断だ。本当に強いトレーナーならナゾノクサでも勝てるように一緒に努力するべきだよな」

「……だな」

 

 とは言え、リーグ挑戦メンバーを予め決めているソラタが言えた言葉ではなかったかもしれない。ただ、ソラタがリーグ挑戦の為に想定しているメンバーは何も強いからという理由だけで選んだわけではない。

 ただ単純に、好きなポケモンだから選んだのだ。それだけは胸を張って言える。

 

「さて、それよりソラタに着いてきてくれるナゾノクサを探そうぜ」

「ああ……」

 

 木陰で休むナゾノクサをチラリともう一度だけ見て、テツ少年を追いかけた。

 そんなソラタの後ろ姿を、木陰で休んでいたナゾノクサが薄目で見ていたのだが、それにソラタが気付く事は無かった。

 

 

 半日掛けて草原を見て回ったが、中々この子は! と思えるナゾノクサと巡り合わなかった。人間であるソラタにも好意的なナゾノクサは多数居たのだが、中々フィーリングの合う子が居ない。

 

「今日はどうする? 諦めて町に戻るか?」

「そうだな……?」

 

 どうするか考えた所で、空を見上げていたソラタの視界に何かが光って見えた。

 

「あれは?」

 

 自然ではありえない人工物の光、ドローンと呼ばれる小型飛行機械が微かにだが見えた気がする。

 

「テツ、この草原はドローンで生態調査とかするのか?」

「ドローン? そんなもの今まで飛ばした事無いけど」

「調査が入るって話は?」

「いや……」

「……まさか」

 

 嫌な予感がする。ソラタは直ぐに腰ベルトからモンスターボールを取り出して投げた。

 

「ピジョン! あのドローンを追ってくれ!!」

「ピジョー!!!」

 

 ソラタが指示した方向へ飛んでいくピジョンを見て、テツ少年も何かを感じたのか、自身もモンスターボールを取り出して投げる。

 

「お前も行ってくれヨルノズク!」

「ホォー!」

 

 テツ少年もヨルノズクを出してピジョンを追わせた。その時だった、草原の一角から爆発音が響いたのは。

 

「今のは……っ!?」

 

 爆発音が聞こえた方角に目を向ければ、黒い煙が昇っているだけでなく、胸にRのマークが入った白い服を着た赤髪の女の姿が。

 

「アテナ……っ!」

 

 再び現れたロケット団幹部、2度目の邂逅となるアテナの姿を見て、ソラタはモンスターボールを握り締めて走り出した。

 その視線の先には、怯えるナゾノクサがヤミカラスに襲われている姿が。何の偶然か、そのナゾノクサはテツ少年に教えてもらった数週間前にトレーナーに捨てられたという木陰で休んでいたナゾノクサだった。




次回は再び現れたアテナ戦です。


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第12話 「燃え上がる進化」

何と、もう書き終えるとは思わず。


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転生したのは始めに旅立った子供

 

第12話

「燃え上がる進化」

 

 二つ目のバッジをゲットしたソラタは、次のジムがあるクチバシティに向かう途中、ナゾノクサの草原があるという町、ソメイタウンに来ていた。

 そこで出会った少年テツと共にナゾノクサをゲットする為にナゾノクサの草原に赴いたソラタだったが、ナゾノクサの草原でナゾノクサを襲うロケット団幹部アテナを発見する。

 

「ピジョン! ヤミカラスに“はがねのつばさ”!!」

 

 上空を飛んでいたピジョンに指示を出す。するとピジョンは両翼を鋼鉄へと変化させてヤミカラスに突っ込むと、その鋼と化した翼をヤミカラスに叩きつけた。

 

「ヤミィ!?」

「ヤミカラス!? なっ! アンタはあの時の!!」

 

 地面に叩き堕とされたヤミカラスに驚き、アテナが振り返ると、ソラタの姿を見て驚いた。

 

「よう、ロケット団のアテナ……随分と面白い悪事を働いているみたいだな」

 

 ピジョンが襲われていたナゾノクサを掴んでソラタの所まで運ぶと、ナゾノクサを受け取って腕の中に抱きかかえながらアテナを睨みつける。

 そして漸く追い付いて来たテツ少年がアテナを見て、何やら驚きの表情を浮かべているではないか。

 

「あんた、アテナさん? ソメイタウン出身のアテナさんだよな?」

「は?」

「チッ……あんなド田舎なんて知らないわよ、あたくしがあんなド田舎町出身だなんてありえないわ」

 

 そう言えば、アテナの手持ちにクサイハナが居た。まさかあのクサイハナは、この町で最初に貰ったポケモンだというのだろうか。

 

「テツ、こいつはロケット団の幹部だ」

「嘘だろ……何でアテナさん、ロケット団なんかに」

「ふん、ガキにあたくし達ロケット団の崇高な理念が理解出来るとは思ってないわ。それより、そっちのガキ、あたくしの邪魔を二度もしてくれて、今度こそ覚悟は出来ているんでしょうね?」

 

 そう言って、アテナはモンスターボールを投げると、アーボックが出て来た。そして地面に叩きつけられたヤミカラスも復帰してアーボックの横に並ぶ。

 

「戻れピジョン」

 

 それを見てソラタもピジョンをモンスターボールに戻すと、腰から別のモンスターボールを2個取り出して投げた。

 

「行け! ヒトカゲ! ピカチュウ!」

 

 ロケット団幹部の相手をテツ少年にやらせるのは流石にキツイだろうと判断し、ソラタは自分一人でダブルバトルをする事に。

 ヒトカゲとピカチュウは目の前の敵が以前倒したアーボックとヤミカラスだと気付いたのか、既に臨戦態勢を整えている。

 

「アーボック! “どくばり”! ヤミカラスは“ナイトヘッド”!!」

「回避!」

 

 アーボックの“どくばり”とヤミカラスの“ナイトヘッド”を回避したヒトカゲとピカチュウはそれぞれ戦うべき相手を見定めて駆け出す。

 アーボックにはヒトカゲが、ヤミカラスにはピカチュウが、ソラタが指示しなくとも自分が戦うべき相手は理解しているようだ。

 

「ヒトカゲ! “かえんほうしゃ”! ピカチュウ! “10まんボルト”!!」

「迎え撃ちなさい! アーボックは“ヘドロばくだん”! ヤミカラスは“こごえるかぜ”!」

 

 それぞれの技がぶつかり、爆発が起きる。煙に飲み込まれた4匹だが、ソラタもアテナも冷静だ。

 

「ピカチュウ! “アイアンテール”! ヒトカゲ! “りゅうのいぶき”!」

「かわしなさい!」

 

 煙で視界の悪い中、アーボックとヤミカラスは回避しようとするが、ソラタはポケモン達にヒトカゲの“えんまく”を使う事で視界悪くした状態での戦闘訓練もさせている。視界が悪かろうがピカチュウとヒトカゲは敵を見失う事は無い。

 

「シャーボッ!?」

「ヤ、ヤミッ!?」

 

 アーボックは“りゅうのいぶき”に飲み込まれ、ヤミカラスはピカチュウの鋼の尻尾によって叩き堕とされる。

 しかも、ピカチュウがヤミカラスを落とした先は、アーボックが居る場所だ。つまり……。

 

「トドメだ!! 全力で“かえんほうしゃ”と“10まんボルト”!!」

 

 “かえんほうしゃ”と“10まんボルト”がアーボックとヤミカラスに直撃、身動き取る間も無く技を受けた2匹は目を回して倒れてしまった。

 

「クッ……戻りなさいアーボック、ヤミカラス」

 

 アテナが悔しそうにモンスターボールへアーボックとヤミカラスを戻すと、別のボールを取り出した。

 

「仕方がないわね、だけどこの子には簡単に勝てると思わない事よ! 行きなさいラフレシア!!」

 

 アテナが次に出したのはクサイハナの進化系、ラフレシアだった。あの時のクサイハナが、進化していたらしい。

 

「ラフレシア! 先ずは先手必勝! “はなふぶき”!!」

「っ! 回避だ!!」

 

 全体攻撃の“はなふぶき”。ラフレシアが回転して周囲に散った花びらが刃と化してピカチュウとヒトカゲに襲い掛かった。

 

「カ、カゲ!」

「ピカ! ピッ!?」

 

 ヒトカゲは“かえんほうしゃ”を駆使して何とか回避したが、ピカチュウは回避し切れずに“はなふぶき”の直撃を受けてしまった。

 目を回して倒れたピカチュウをモンスターボールに戻すと、ソラタとヒトカゲはラフレシアと向かい合う。

 

「よく回避したわね。でもまだまだ行くわ! “ベノムショック”!!」

「“りゅうのいぶき”!」

 

 ラフレシアの“ベノムショック”を“りゅうのいぶき”で迎撃、すぐさまヒトカゲは走り出してラフレシアの懐へ潜り込んだ。

 

「“メタルクロー”!!」

「甘いわ! “リフレクター”!!」

「っ!?」

 

 ラフレシアが展開した“リフレクター”がヒトカゲの“メタルクロー”を受け止めてしまった。そして、それはラフレシアの目の前で決定的な隙を晒す事に等しい。

 

「今よ、“ギガインパクト”!!」

「ラ~フ~ッ!!!」

「カゲェエエ!?」

 

 至近距離からの“ギガインパクト”、ノーマルタイプの技の中でも最強クラスの威力を誇る技の直撃を受けたヒトカゲは大きく吹き飛ばされ、草原の上を転がった。

 

「ヒトカゲ!!」

「ふん、勝負あったわね。本気のあたくしを相手に、ガキが勝てる訳が無いじゃない」

 

 倒れたヒトカゲに駆け寄ると、ヒトカゲはダメージが大きいのかボロボロだった。立ち上がろうにも膝に力が入らないのか、足が震えて上手く立ち上がれない。

 

「カ、カゲ……」

「もういい、もういいヒトカゲ……戻れ」

 

 モンスターボールを取り出してヒトカゲを戻そうとしたソラタだが。

 

「カゲカ!」

 

 ヒトカゲはソラタの手を叩いてモンスターボールを叩き落とした。まだ、自分は戦えると言わんばかりにソラタを見つめて、振るえる足で何とか立ち上がる。

 

「ヒトカゲ……」

「カゲ、カゲカ、カゲ!!」

「……わかった」

 

 まだ戦えると言うのなら、その思いを汲んでやるのがトレーナーの務め。フラつくヒトカゲを支えながらラフレシアと対峙するソラタはヒトカゲの尻尾の炎が一際大きくなった事に気が付いた。

 

「行くぞ……ヒトカゲ!!」

「カァ……ゲッ!!!」

 

 その瞬間、ヒトカゲの姿が光に包まれた。

 

「ヒトカゲ……」

「これは……進化の光ですって!?」

 

 光の中でヒトカゲの姿が一際大きくなり、光が消えるとヒトカゲの頃より赤味が強くなった体色のポケモンが凛々しい瞳でラフレシアを睨みつける。

 

「リザァアアアア!!!!!」

 

 ヒトカゲ……否、リザードの咆哮がナゾノクサの草原に響き渡った。リザードとラフレシアの戦いは、まだまだ終わっていないと、言わんばかりに。




次回はアテナ戦決着と、ずっとソラタに抱きかかえられているナゾノクサのお話。


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第13話 「ロケット団幹部・アテナ」

お待たせしました。ワクチン接種1回目行ってきましたが、特に体調崩すとかは無かったですね。
2回目は……どうなんでしょ?


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第13話

「ロケット団幹部・アテナ」

 

 ナゾノクサの草原でナゾノクサを襲っていたロケット団幹部のアテナ、彼女の操るラフレシアを前にピカチュウが戦闘不能となり、ヒトカゲも戦闘不能となるかと思われた。

 しかし、まだ負けていないと不屈の闘志を燃やすヒトカゲにソラタが応えた時、ソラタとヒトカゲの絆がヒトカゲをリザードへと進化させたのだ。

 

「リザァアアア!!!」

「進化ですって!? この土壇場で……っ! ラフレシア! “はなふぶき”!!」

 

 進化したリザードに対して、アテナはラフレシアに“はなふぶき”を指示。戦闘不能直前で進化したのなら、体力はそこまで残っていない筈だと、力技でリザードにトドメを刺そうとしたのだろう。

 だが、不屈の意思で進化を果たしたリザードは簡単に倒れるような相手ではない。尻尾の炎が一際大きくなりソラタを、ラフレシアを、アテナを強い熱気が包み込んみ、更には“はなふぶき”の刃を焼き尽した。

 

「これは……“もうか”が発動したのか!?」

 

 リザードの特性“もうか”、それは体力が残り少なくなった時に発動する特性であり、炎タイプの技の威力が発動前よりも各段に大きくなるという諸刃の剣だ。

 

「リザード! “かえんほうしゃ”!!」

 

 ヒトカゲの時とは比べ物にならない威力の“かえんほうしゃ”を放ったリザード。“もうか”の効果も加わって、その威力は絶大だった。

 

「“ベノムショック”!!!」

 

 アテナはラフレシアに“ベノムショック”を指示、ラフレシアの“ベノムショック”が“かえんほうしゃ”とぶつかるが、拮抗する事も無く炎に飲み込まれて消滅、威力を落とす事無く“かえんほうしゃ”がラフレシアを飲み込んだ。

 

「ラフレシア!?」

「そのまま一気に決めるぞ! リザード!!」

「リィッ……ザァアアア!!!!」

 

 すると、リザードが放った炎は大の字になってラフレシアに直撃、倒れ掛かっていたラフレシアを吹き飛ばしてしまう。

 

「“だいもんじ”ですって!?」

「“だいもんじ”……リザード、覚えたのか!」

「リザッ! リザリザッ! ッザード!!」

 

 ヒトカゲからリザードへの進化、更に“だいもんじ”という高火力技の習得で一気に状況が好転した。

 “だいもんじ”に吹き飛ばされたラフレシアは“ひんし”寸前の状態でフラフラしており、一気に決めるチャンスだ。

 

「ラフレシア! 確りしなさい!!」

「リザード! 決めるぞ!! “だいもんじ”!!」

 

 再度放たれた“だいもんじ”がフラフラしているラフレシアに直撃、そのまま倒れたラフレシアは目を回してしまった。

 

「くっ……戻りなさい、ラフレシア」

 

 最後の手持ちを倒されたアテナに残された手段は無い。こちらを睨みつけつつラフレシアを戻したボールを腰のホルダーへ収め、逃げの姿勢を取る。

 

「逃げられると思うなよ」

 

 だが、逃げようとしているのなんて直ぐに分かったソラタが腰から取り出したプレミアボールを投げると、アテナの目の前にギャラドスが現れた。

 

「ヒッ!?」

「お前はこのままジュンサーさんに突き出す。もう終わりだ」

「こ、の……クソ餓鬼が!」

 

 すると、アテナは懐から取り出した煙幕玉を地面に叩きつけると、黒い煙に包まれた。だが、その程度で逃げられると思われては仕方がない。

 

「ギャラドス、“ぼうふう”」

「ギャオァアアアアア!!!」

 

 煙幕など、ギャラドスの“ぼうふう”で簡単に掻き消してしまった。残されたのは“ぼうふう”によって地面に叩きつけられ、立てずに腰を抜かしているアテナの姿。

 

「クソッ」

「往生際の悪い奴だ……逃げられると思うな」

 

 その後、アテナは駆け付けたジュンサーさんによって手錠を掛けられ、パトカーに乗せられて連行されて行った。

 ロケット団の一人、それも幹部として指名手配されていたアテナを逮捕出来た事は相当に大きく、ソラタは表彰されると言われたのだが、その場で辞退した。

 

「テツ、悪いな騒がしくしてしまって」

「いや、いいよ……まさかウチの町出身のアテナさんがあんな」

「……」

 

 その辺りの事はソラタが口を出す事ではない。一先ず同じ町の出身だった人間が悪の道に堕ち、そして逮捕されてしまった事に落ち込んでいるテツを他所にソラタはずっと抱きかかえていたナゾノクサを地面に下ろした。

 

「ナゾ……?」

「大丈夫だったか?」

 

 隣に並ぶリザードと一緒にナゾノクサを見下ろし、怪我が無いかを確認すると、ナゾノクサは何故か頬を赤くしてリザードを見上げていた。

 

「リザ?」

「ナゾ~」

 

 すると、ナゾノクサがリザードの足元まで寄ってきてスリスリと顔を摺り寄せる。

 

「おお、リザードってばモテモテだなぁ」

「リ、ザ?」

「可愛い女の子に懐かれて男冥利に尽きるだろ」

 

 メスのナゾノクサにオスのリザードが懐かれた。種族違いの恋にソラタがニヤニヤとリザードを見れば、リザードは戸惑った様にソラタを見上げて来る。

 

「きっと、お前の強さに惚れたんだろ」

「ザード?」

「ナゾ!」

 

 リザードから離れたがらないナゾノクサを見て、ソラタは一つ考えていた事を実行する為、テツ少年の方を向く。

 

「テツ、このナゾノクサだけど」

「ん? このナゾノクサって、さっき話してた捨てられたナゾノクサだよな」

「ウチのリザードに懐いたみたいでさ……連れて行ったら駄目か?」

「ん~……」

 

 元々ソラタがナゾノクサをゲットするのは問題無かった。ただ、問題は今回ゲットすると言っているのが捨てられたばかりのナゾノクサだという点だろう。

 捨てられて間もないナゾノクサは、心のケアがまだまだ不十分な事が多い。このナゾノクサも弱いからという理由で前のトレーナーに捨てられて、少し前までずっと落ち込んでいた子だ。

 だが、ソラタという少年の人となりは信用に値するものだと判断している。ナゾノクサもソラタのリザードに懐いているようなので、悪い様にはされないだろうという確信はあった。

 

「わかった。じゃあそのナゾノクサで良いなら、連れて行ってやってくれ」

「ああ、ありがとう」

 

 こうして、ソラタの手持ちにナゾノクサが加えられ、これでソラタのリーグ出場の為のベストパーティーメンバーは残り1匹になった。

 これまで手持ちに居たピジョンはオーキド研究所へ送られ、リザード、イーブイ、ギャラドス、ピカチュウ、ナゾノクサの5匹が手持ちとして残った事になる。

 残る1匹をどうやってゲットするか、それを考えながらも、次のジムがあるクチバシティへ向けて、ソラタの旅はまだまだ続くのだった。

 

 

 ハナダシティの警察署の監獄、そこに収監されたロケット団幹部のアテナはモンスターボールも没収されて何も出来ずに座り込んでいた。

 

「随分と情けない姿ですね」

「っ!?」

 

 ずっとこのままなのかと途方に暮れていたアテナだったが、檻の外から知った声を聞いて顔を上げる。

 すると、そこに立っていたのは水色の髪を短髪にした青年、胸元のRマークは同じロケット団の証であり、アテナ自身が青年の事をよく知っていた。

 

「アポロ……何でここに?」

「何でとは心外ですね、助ける為に忍び込んだと言うのに」

 

 そう、青年はアテナと同じロケット団幹部の一人、ボスの側近中の側近、幹部の中で最もボスに近い権限を持つ存在、名をアポロと言う。

 アポロはどこで手に入れたのか檻の鍵を開けてアテナのポケモン達が入っているモンスターボールを投げて寄越した。

 

「貴女ともあろう人が逮捕されるとは、随分と大きなミスですね」

「ふん……ボスの指示かい?」

「ええ、幹部である貴女が捕まるのは不味いとの事で」

 

 檻から出てアテナはアポロと共に彼が侵入に使ったルートから警察署の外に出ると、用意されていた車に乗り込んだ。

 アポロも一緒に乗り込むと、外で待機していた下っ端構成員がドアを閉めて運転席に座り、ゆっくり走り出す。

 

「それで、貴女が捕まるなんて、何があったんですか?」

「チッ……忌々しい餓鬼に負けたのよ」

「ほう? 我がロケット団の幹部であるアテナさんが負けたと、それも子供に?」

「ふん、餓鬼の癖に少しはやるようだけど、あたくしが本当の本気なら負ける訳が無いわ」

「まぁ、普段はフルメンバーを連れていないので、確かに本気ではないでしょうけど……それでも気になりますね、その子供」

 

 ロケット団の幹部であるアテナを倒す程の実力なら、是非ともロケット団に勧誘したいものだと、アポロは零すが、アテナはそれを嘲笑うように否定した。

 

「あの餓鬼、あたくし達の理念を鼻で哂ったわ。絶対に勧誘してもYESとは言わないでしょうね」

「ほう」

 

 ならば、組織の邪魔でしかないと判断して、早急に摘み取るのが一番だろうか。そう考えたアポロは車内にある電話機から何処かに電話を掛け始めた。

 

「アポロです。ええ、アテナさんを回収して……ええ、ご報告したい事もあるので、一度トキワシティに戻ります……ええ、ではそのように」

 

 アポロの電話を聞き流しながら、アテナは車窓から見える景色の流れを眺めつつアポロに見えない所で拳を握り締めていた。

 その拳は屈辱と怒りに震え、自分を一度はどん底に叩き落としたソラタに対する憎悪が膨れ上がっている。

 

「覚えてなさい……今度会った時は、絶対に容赦しないわ」




次回はクチバシティ入りです。ですがジム戦の前に思わぬ出会いと再会が。


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第14話 「目指す頂きに立つ者」

お待たせしました。来週ワクチン2回目です。楽しみだなぁ……(震え声)


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転生したのは始めに旅立った子供

 

第14話

「目指す頂きに立つ者」

 

 ポケモンリーグ参加を目指して旅をするソラタは、3つ目のジムがあるクチバシティに到着していた。

 道中、ゲットしたばかりのナゾノクサを育てつつポケモンをゲットしていたので、ポケモン達を休ませる為にポケモンセンターで1泊する事にしたソラタは、ジョーイさんにポケモンを預けて宿泊、翌朝は早速クチバジムに行こうとしていたのだが、ポケモンセンターの入口で見知った顔を見かけた為に足を止めるのだった。

 

「オーキド博士!」

「ん?おお!ソラタ君か!」

 

 そこに居たのはマサラタウンでヒトカゲを貰って以来となる人物、オーキド博士だった。しかも、オーキド博士は一人ではなく、同行者が居たのか、博士の後ろに二人の男女が。

 

「あ……え、も、もしかして」

 

 オーキド博士の同行者、男性の方も女性の方もソラタは知っていた。何より、女性の方は美しい金髪に黒衣という分かりやすい特徴で、その美貌は誰もが振り返るであろう美女。

 

「シンオウチャンピオンの……シロナさん?」

「あら、私の事を知ってくれてたのね」

「えっと、その……」

 

 そっくりさんでも何でもない。本物のシンオウチャンピオン、シロナがそこに居た。

 

「ソラタ君、紹介しよう。彼女は君も知っての通り、シンオウチャンピオンのシロナ君、それから彼は」

「知ってます。カロス地方でメガシンカ研究を始めとしたポケモンの進化の研究をしているプラターヌ博士」

「おや、僕の事も知ってるとは、驚いたね」

 

 どちらもアニメで見た顔、声だった。しかし、何故こんな所にシンオウチャンピオンのシロナとカロス地方のポケモン研究家であるプラターヌ博士がオーキド博士と一緒に居るのか。

 

「シロナ君、プラターヌ君、紹介しよう。彼はソラタ、ワシの所から旅立ったばかりの新人トレーナーじゃが、将来性は間違いなくある期待の星じゃ」

「ほほう?」

「しかも、彼の夢は母が果たせなかったチャンピオンになるという物。シロナ君にとっては将来のチャンピオンとしての後輩になるやもしれぬな」

「まぁ」

 

 二人に紹介され、ソラタは頭を下げる。実は前世の頃から二人は好きなキャラクターだったので、本物とこうして会えるのは実にラッキーだったのだ。

 

「あの、オーキド博士……お二人は何故ここに?」

「む? おおそうじゃった。実は二人は今度ジョウト地方のウツギ博士も入れて行おうと思っている研究の協力者なんじゃよ」

「ポケモンのタマゴの研究をしているジョウトのウツギ博士も……」

 

 オーキド博士とウツギ博士、プラターヌ博士にシロナ、この4人で行われる研究とは随分大きなものなのだろうか。

 

「その研究というのは?」

「うむ、実はの……これじゃ」

 

 そう言ってオーキド博士が取り出したのは、ポケモンのタマゴだった。

 

「これは……」

「これはね、僕のガブリアスとシロナ君のガブリアスのタマゴなんだ」

「ガブリアスの!?ってことは、フカマルのタマゴですか!」

「ええ、そうよ。カントーの新人トレーナーなのにガブリアスやフカマルまで知ってるなんて、随分と勉強熱心なのね」

 

 カントーやジョウトの新人トレーナーはホウエンやシンオウ、カロスといった他地方にしか生息しないポケモンの事は知らないというパターンが大半だ。

 よほど熱心に勉強しているか、他地方に行った事があるという事でもない限り、基本的に住んでいる地方のポケモンしか知らない。

 

「ポケモン協会の役員をしている父が、トレーナー時代は色々な地方を旅していたので、それで」

「なるほど、それなら納得だ」

 

 新人トレーナーの内から他地方のポケモンの知識もあるという事は、割と大きなアドバンテージがある。

 しかも、オーキド博士が将来有望だと評価しているのだから、その知識を有効活用しているのだろうと、プラターヌ博士は予想していた。

 

「実はね、今回の研究は強いポケモンの子供は、親の強さを遺伝するのかという研究なんだ」

「親の強さの遺伝……」

「そう、そこで選ばれたのがシロナ君のガブリアスで、彼女のガブリアスと子供を作るのに僕のガブリアスが選ばれたんだ」

「だから、シロナさんが……」

「そう、それに私は考古学者だから分野が違うけど、同じ学者としてオーキド博士達の研究に興味があったの」

 

 納得だ。それに、実を言うとソラタもその研究には大いに興味があった。ポケモンの遺伝、子が親と同じワザを覚えている事があるという研究結果があるのは知っていたので、それもあって興味があるのだ。

 

「そうじゃ、シロナ君、プラターヌ博士……このタマゴじゃが、ソラタ君に任せてみるというのはどうかの?」

「なるほど……確かにタマゴを孵すにも育てるにも、トレーナーは必要不可欠、シロナ君はチャンピオンの仕事と考古学者としての仕事で忙しいだろうから、中々時間も取れないし……」

「そうですね……」

 

 プラターヌ博士は賛同しそうな雰囲気だが、シロナがじっとソラタを見つめて来た。まるで、見定めるかのような視線に、ソラタは若干気圧されそうになるが、何とか真っ直ぐ見つめ返す。

 

「ソラタ君、私とバトルしてみない?」

「え……?」

「見定めさせて欲しいの……私のガブリアスの子を託すのに相応しいトレーナーか否かを」

「……っ!」

 

 一瞬、シロナから圧し潰されそうになるほどのプレッシャーが放たれた。これが、チャンピオンの……ソラタが目指す頂きに立つ者のプレッシャーなのだろう。

 

「はい……受けさせて下さい」

 

 フカマルは欲しい。だが、それ以上にチャンピオンとバトルしてみたいという欲求が勝った。

 まだまだ未熟な自分が、現役チャンピオンに勝てる筈が無いのは判っているが、それでもチャンピオンとのバトルに心躍らなければ、それはトレーナーじゃない。

 

 

 プラターヌ博士が審判をしてくれるという事で、ポケモンセンターの敷地にあるバトルフィールドへやって来たソラタとシロナは、互いにフィールドを挟んで向かい合う。

 

「では、互いに使用ポケモンは1匹のみ、どちらかのポケモンが戦闘不能になった時点でバトル終了だ」

「行くぜ……リザード!!」

「天空へ舞え、ガブリアス!!」

 

 ソラタが出したのは最近進化したばかりのリザード、そしてシロナはエースのガブリアスだった。このチャンピオン、相手が新人トレーナーだろうと容赦する気が無いようだ。

 

「ほう!?ヒトカゲが進化したんじゃな!」

「ええ、最近ですけどね」

 

 それに、リザードに進化してからクチバシティに来るまでの間、新わざの訓練もしてきた。ガブリアスにも十分有効な技だから、敵わないまでも、一矢報いる程度には出来るだろう。

 

「では、リザード対ガブリアス……始め!」

「リザード!最初から新わざ行くぞ!“りゅうのはどう”!!」

「ザーッド!!!」

「なるほど、ドラゴンタイプの技を……ガブリアス、“ドラゴンダイブ”!!」

「ガァッバァ!!」

 

 リザードの新わざ、全身から放たれたドラゴンのオーラ、“りゅうのはどう”がガブリアスへと直進するが、それをガブリアスはジャンプして回避、そのまま“ドラゴンダイブ”で突っ込んできた。

 

「受け止めろ!“メタルクロー”!!」

 

 突っ込んできたガブリアスを、鋼鉄の爪で受け止めようとしたリザードだが、レベルが違った。受け止めきれずにガブリアスの“ドラゴンダイブ”が直撃してしまう。

 

「リザード!!」

「リザァッ」

 

 まだ戦えるのか、直ぐに起き上がったリザードだったが、ダメージが大きいのか若干息が荒い。対するガブリアスはまだまだ余裕の表情だ。

 

「“かえんほうしゃ”!!」

「ザァアアア!!!」

「“スケイルショット”!!」

 

 リザードが放った“かえんほうしゃ”は、ガブリアスの“スケイルショット”に掻き消されたが、炎の向こうにリザードの姿は無い。

 

「っ!上!!」

「ガバァッ!?」

「“だいもんじ”!」

「リィザァ!!」

 

 ガブリアスの頭上へ飛び上がっていたリザードが、そのまま“だいもんじ”を放つ。頭上からの“だいもんじ”を回避出来なかったガブリアスは直撃を受けて“やけど”を負うものの、ドラゴンタイプのガブリアスに炎タイプの技によるダメージはそこまで大きく無い。

 

「天空に舞え、ガブリアス!」

「ガバァ!!」

 

 すると、ガブリアスが飛び上がってリザードの上を行く。

 

「“ドラゴンダイブ”!」

「っ!“りゅうのはどう”!!」

 

 再度“ドラゴンダイブ”で突っ込んできたガブリアスに、“りゅうのはどう”で対抗するリザードだったが、“りゅうのはどう”はドラゴンのオーラを纏って突っ込むガブリアスにぶつかった瞬間に弾かれて消滅、そのままリザードに“ドラゴンダイブ”が直撃してしまった。

 

「リザード!!」

「り、ざ~」

 

 地面に叩きつけられたリザードは目を回してしまっていた。完全に戦闘不能状態だ。

 

「そこまで!リザード戦闘不能、ガブリアスの勝ち!」

 

 戦闘不能となったリザードをモンスターボールに戻すとシロナとガブリアスが近づいて来た。

 

「中々良い育て方をしてるわね、あなたのリザード」

「いえ、まだまだ俺もリザードも未熟です」

「確かに新人トレーナーだから、未熟は仕方ないけど、新人という枠組みの中では十分上位の実力があると思うわ」

「ありがとうございます」

 

 すると、シロナはオーキド博士からタマゴを受け取ると、ソラタに差し出して来た。

 

「あなたなら、フカマルを任せても良いと思えた。今のバトルでそう確信したの」

「……はい!」

 

 フカマルのタマゴを受け取ると、オーキド博士とプラターヌ博士から今後について説明を受けた。フカマルが生まれたら定期的にレポートを提出して欲しいとの事だ。

 

「それと、今後フカマルを返してくれという事は無いから安心して欲しい。もうその子は君のポケモンだ……でも、そうだね、もしガブリアスまで進化させたら僕に教えてくれるかな? そうしたらご褒美をあげようと思うんだ」

「そうですか……わかりました」

 

 連絡はオーキド博士を通してという形にはなるが、これでプラターヌ博士とも繋がりが出来た。将来を考えるなら、幸先が良いと言えるだろう。

 

「ソラタ君」

「はい」

 

 今度はシロナだ。

 

「あなたがチャンピオンになったら、もう一度バトルしましょう。その時は手加減無しの全力バトルをしたいから」

「……はい!」

 

 シロナとプラターヌ博士とはここでお別れだ。二人は明日にはシンオウ地方とカロス地方にそれぞれ帰るとの事なので、今日はクチバシティを観光するのだとか。

 

「それじゃあソラタ君、ジム戦頑張るんだよ」

「応援してるわ」

「頑張ります!」

 

 オーキド博士と共にポケモンセンターを去った二人を見送り、ソラタはリザードをジョーイさんに預けた。

 そして、貰ったタマゴをカバンに入れたのだが、収まり切らず口からタマゴが見えてしまう。

 

「早く生まれて来いよ……一緒に強くなろうな」

 

 タマゴを一撫ですると、ドクンっと一度、タマゴが脈打ったような気がした。




次回はクチバジム! 3つ目のバッジ目指してマチスとのバトルです。


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第15話 「クチバジム、シビレる熱い戦い」

ワクチン2回目、辛いっす。


ポケットモンスター

転生したのは始めに旅立った子供

 

第15話

「クチバジム、シビレる熱い戦い」

 

 夢のチャンピオンを目指して旅を続けるソラタは、現在3つ目のバッジをゲットする為、ポケモンジムのあるクチバシティに来ていた。

 クチバシティで偶然の出会いがあり、リーグ参加の為の最後のメンバーのタマゴをゲットしたソラタはいよいよクチバジムにチャレンジする為、ジムの前まで来ている。

 

「ここがクチバジム……」

 

 外観は前世で見ていたアニメのクチバジムそのまま。ならばジムリーダーのマチスが使うポケモンは間違いなくライチュウだろう。

 だが、ソラタはもしかしたら使用ポケモンが2体になる可能性も考えて、今回のクチバジム戦のメンバーは色々と考えていた。

 

「よし、こいつらなら行けるよな……頼もう!!」

 

 腰ベルトのモンスターボールを再確認して扉を開いた。

 中に入ると真っ暗なジムの中央にヤンキーのような男女が座り、その奥に一際大柄な男が椅子に座っているのが見える。

 

「お? なんだチャレンジャーか? まだガキじゃねぇか」

「……ガキですが、これでも既にバッジ2つを持ってます」

「へぇ……リーダー、どうします?」

 

 すると、先ほどまで座っていた男が立ち上がってこちらへ歩み寄ってきた。近づくにつれてより明確に判る長身とガタイの良さは鍛え上げられているのが一目で判るほど。

 

「Welcome to クチバジム、チャレンジャーはBoyか?」

「マサラタウンのソラタです」

「オレはこのクチバジムのジムリーダー、マチスだ。ジムバッジを既に2つゲットしてるって? なるほど……良い瞳をしている」

 

 まだ10歳の子供、つまり新人トレーナーだろうというのはマチスにも直ぐに分かった。にも関わらず既にジムバッジを2個も手にしているという事は、それなりの実力があるのだろうと判断して、配下に指示を出すと、ジムに明かりを灯す。

 

「OK、バトルだ。オレに勝てたらこのオレンジバッジをくれてやる」

 

 マチスは懐から取り出したオレンジバッジを見せてフィールドに向かった。ソラタもそれを追うようにフィールドに入り、マチスの反対ポジションに立つ。

 

「これより、ジム戦を開始します。使用ポケモンは互いに3体! どちらかのポケモンが3体戦闘不能になった時点で試合終了となります。尚、ポケモンの交代はチャレンジャーにのみ認められます」

 

 予想通り、マチス戦は1体のみではなかった。ただ、予想より1匹多いので、直ぐにソラタは頭の中でメンバーを構築、ゲーム時代のマチスの手持ちも考慮して、1番手を決めた。

 

「まずオレの1番手はコイツだ! Go! レアコイル!!」

「行け! リザード!!」

 

 やはり、ソラタが予想していたポケモンだった。最も、予想していたのはコイルではあったのだが、レアコイルでも問題は無い。

 

「レアコイル対リザード、バトル開始」

 

 カーン! という甲高いゴングの音がジムに鳴り響き、バトルが始まった。

 

「先手必勝だ! レアコイル、“ソニックブーム”!!」

「回避!!」

 

 レアコイルから放たれた衝撃波は真っ直ぐリザードに向かうが、ギリギリを見極めて回避、そのままリザードは走りながらレアコイルに補足されないようジグザグに動く。

 

「“かえんほうしゃ”!!」

「But! “ひかりのかべ”!!」

 

 リザードの“かえんほうしゃ”はレアコイルの“ひかりのかべ”によって遮られ、レアコイルに届かない。

 だが、“ひかりのかべ”が効果を及ぼすのは特殊技のみであって、物理技には意味が無いのは基本だ。

 

「接近戦だ! “メタルクロー”!!!」

「What!?」

 

 まさかのはがねタイプの技にマチスが驚いている隙に、リザードがレアコイルに接近して“メタルクロー”を叩き付ける。

 更に追い打ちの様に至近距離から口を開いたリザードは、その口内に炎を貯め込んだ。

 

「“かえんほうしゃ”!!」

 

 超至近距離からの“かえんほうしゃ”、はがねタイプを持つレアコイルには効果抜群で、思った通り大ダメージを与えた。

 

「Goddamn!! レアコイル! “でんじは”!!」

「“りゅうのはどう”!!」

 

 レアコイルの“でんじは”がリザードに直撃するが、同時にリザードの“りゅうのはどう”もレアコイルに直撃、マヒしてしまったリザードは痺れを我慢しながらも地面に落ちたレアコイルが目を回しているのを確認した。

 

「レアコイル、戦闘不能! リザードの勝ち!」

「Unbelievable!!」

 

 レアコイルが敗れた事に驚愕しながら、モンスターボールにレアコイルを戻したマチスは、リザードを見て不敵に笑うと、次のモンスターボールを取り出す。

 

「イイぜ! 楽しくなってきた! 次はマヒした状態で勝てると思わない事だ! Go! マルマイン!!」

 

 マチスの2番手はマルマイン、すばやさが電気タイプでもトップクラスのポケモンだ。マヒした状態のリザードでは分が悪いか。

 

「戻れリザード」

 

 マルマインの相手は別に任せる事にしたソラタはリザードをモンスターボールに戻して腰ベルトへ収めると、別のモンスターボールを取り出した。

 

「素早さ勝負なら負けない! 行けピカチュウ!!」

 

 ソラタの2番手はパーティーメンバーの中で2番目の素早さを誇るピカチュウだ。

 

「What!? ピカチュウ!? 何だBoy、まだ進化させてないのか?」

「生憎、かみなりのいしをゲットしてなくてね」

「なるほど、進化の石をゲット出来るかはトレーナーの運次第、OK勝負と行こうか」

「マルマイン対ピカチュウ、バトル開始!」

 

 再び、ゴングがジムに響き渡り、バトルが始まる。

 

「今度はこっちから行くぞ! ピカチュウ! “でんこうせっか”!!」

「マルマイン! “ころがる”!!」

 

 走り出したピカチュウを追うように、マルマインがフィールド上を転がり出した。素早さが高いマルマインの“ころがる”は速度が桁違いで、直ぐに追い付かれる。

 

「“ころがる”対策はバッチリだ、ニビジムで苦戦したからな……ピカチュウ! 打ち返せ! “アイアンテール”!!」

「Why!?」

 

 カキーン! という音でも聞こえて来そうな程、良いタイミングでピカチュウの鋼鉄と化した尻尾が転がるマルマインを打ち付けて、マルマインは天井まで飛んで行った。

 

「甘いぜBoy! マルマイン! そのまま“かみなり”だ!!」

「回避しろ! “あなをほる”!!」

「ピカッ!」

 

 間一髪、“かみなり”はピカチュウが地面に潜った事で回避された。そして、フィールド上に落ちて来たマルマインはその際に大きな音を立ててしまい、地中のピカチュウに場所を補足されてしまう。

 

「今だ!!」

「ピィカァ!!」

「マルゥゥゥゥ!?」

 

 真下から突き上げられ、マルマインは大ダメージ。地面から飛び出したピカチュウは既にその尾を鋼鉄へと変化させている。

 

「“アイアンテール”!!」

「チュゥゥゥピカッ!!」

 

 今度は真横に吹き飛ばされたマルマインはマチスの横を突き抜けてジムの壁に激突、そのまま目を回してしまった。

 

「マルマイン、戦闘不能! ピカチュウの勝ち!!」

「……なるほど、良いGutsだ」

 

 マチスがマルマインをモンスターボールに戻したのを見て、ソラタもピカチュウを戻した。そして、互いに3体目のポケモンが入ったモンスターボールを取り出して構える。

 

「これが最後だ、Go! ライチュウ!!」

「行くぜ、イーブイ!!」

 

 マチスの切り札、エースたるライチュウに対して、ソラタも相棒たるイーブイを出す。

 威風堂々と威圧してくるライチュウに対し、イーブイも好戦的な表情で睨み返し、その首筋から微かに伸びる透明な触手のような何かがゆらゆら揺れていた。

 

「ライチュウ対イーブイ、バトル開始!!」

「一気に決めるぞライチュウ! “10まんボルト”だ!!」

「迎え撃つぞ! “シャドーボール”!!」

 

 クチバジム、最後のバトル。ライチュウの“10まんボルト”とイーブイの“シャドーボール”がぶつかり、爆発する所から始まった。

 多くのチャレンジャーを破ったライチュウと、ソラタの絶対の相棒たるイーブイ、勝利の女神はどちらに微笑むのか、次回に続く。




寝ます。
感想返しは明日します……。


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第16話 「妖精の風」

お待たせしました。
色々と忙しくて執筆時間が中々取れなくなってきたなぁ。


ポケットモンスター

転生したのは始めに旅立った子供

 

第16話

「妖精の風」

 

「Goライチュウ! “10まんボルト”だ!!」

「イーブイ! “シャドーボール”!!」

 

 3つ目のバッジを手に入れる為、クチバジムに挑戦していたソラタは、ジムリーダーのマチスとのバトルを行っていた。

 既に2体のポケモンを倒して、残るはマチスのエースポケモン、ライチュウを倒すのみとなったのだ。

 そして、現在マチスのライチュウが放った“10まんボルト”とソラタのイーブイが放った“シャドーボール”が中間でぶつかり、爆発する。

 

「畳み掛けろ! “スピードスター”だ!!」

「But! やらせねぇぜ!! ライチュウ! 地面に“メガトンパンチ”!!」

 

 マチスの指示でライチュウが地面に“メガトンパンチ”を放つと、割れた地面の一部がライチュウの目の前に壁の様に立ち上がった。

 その壁は見事に盾としての役割を果たし、イーブイの“スピードスター”を受け止めてライチュウには一切のダメージが入らない。

 

「飛び上がれライチュウ! “かみなり”だ!!」

「“でんこうせっか”!!」

 

 壁となった地面の一部を利用して飛び上がったライチュウが“かみなり”を放つも、イーブイは持前の素早さを生かした“でんこうせっか”で回避、ライチュウが飛び上がるのに使った地面の一部を利用して自身も飛び上がる。

 

「What!?」

「そのまま至近距離から“シャドーボール”!!」

 

 落下中のライチュウに飛び上がったイーブイが一気に迫り、至近距離からの“シャドーボール”が直撃、しかしライチュウもマチスも伊達でジムリーダーを、そのエースポケモンをやっていない。

 

「ライチュウ! “ちきゅうなげ”!!」

「ラーイ!!」

「ぶい!?」

「チュウウウウ!!!」

 

 空中でイーブイはライチュウに掴まれ、そのまま背負い投げのような形で地面へ投げ飛ばされてしまう。

 地面に着地したライチュウと地面に叩き付けられたイーブイ、互いに地面には戻ってきて、再び睨み合った。

 

「Heyソラタ、中々のGutsを見せてくれるじゃないか」

「どうも」

「ここからは俺もライチュウも本気で行く、覚悟は良いな?」

「望むところだ!」

 

 マチスもライチュウも、目つきが変わった。今までは平均的なバッジ2個獲得トレーナー相手のレベルで戦っていたのだろうが、恐らく今からそれより何段か上のレベルに合わせて戦ってくる筈だ。

 だが、ソラタもイーブイも臆した様子は無い。むしろ燃えてすらいた。すると、イーブイは首筋から透明の触手のようなものが再び伸びて、ソラタの手首に巻きつけて来る。

 

「イーブイ」

「ぶい」

「勝つぞ」

「いぶい!」

 

 ただ一言だけの指示だったが、イーブイにとって自身のトレーナーであり兄でもあるソラタからの指示は、それだけで十分だ。

 だから、イーブイは勝つという指示に確実に応えるために、その身体を光で包み込むのだった。

 

「What!?」

「イーブイ!?」

 

 ソラタの手首に巻かれた触手が離れ、光に包まれたイーブイの下へ戻る。だが、その触手は消える事なくリボンのように伸び、全身が大きくしなやかなフォルムへと成長していく。

 そして、光が消えた時、そこに居たのはイーブイではなく、ピンクと白のカラーが特徴の愛らしいポケモンの姿だった。

 

「フィア!!」

「進化した……ニンフィア」

「Unbelievable!! ニンフィアだって!? まさかカントーで!?」

 

 マチスの驚きも無理は無い。カントーでイーブイの進化系と言えばブースター、シャワーズ、サンダースのいずれか、偶にブラッキーやエーフィに進化させる者も居るが、大半が3匹のどれかだ。

 勿論マチスはジムリーダーとしてポケモンの知識は豊富だ。それ故にイーブイの進化系が先の5匹以外にも居る事は知っているが、カントーで見た事は一度だって無い。

 

「ニンフィア……行けるな?」

「フィイア」

「よし!」

 

 すると、ニンフィアの周りに風が吹き出した。ピンク色に染まった空気が風となって吹き出すこれは、間違いなくニンフィアの起こしているもの。

 

「! ニンフィア! “ようせいのかぜ”!!」

「フィアアアアアア!!!」

 

 ニンフィアの周囲を漂っていたピンク色の風が突風となり、ライチュウに襲い掛かる。対するマチスはイーブイがニンフィアに進化した事に驚きはしたものの、直ぐに冷静になってライチュウに指示を出した。

 

「構うな! そのまま突っ込んで“メガトンパンチ”!!」

「ラ~イ!!」

 

 “ようせいのかぜ”によってダメージを負うのも構わず、風の中を突っ切ってライチュウはニンフィアに迫る。

 しかし、ソラタもニンフィアもライチュウとマチスの戦法に驚きはしない。寧ろ冷静に状況を見ていた。

 

「“でんこうせっか”!」

「フィア!」

 

 ライチュウの拳を回避したニンフィアは、そのまま当て身をするという愚行は犯さない。ソラタのピカチュウもそうだが、ライチュウなら特性“せいでんき”を持っている可能性があるからこそ、ニンフィアは絶対にライチュウ相手に近接戦は行わず、ライチュウの周りを走り回った。

 

「“シャドーボール”!!」

「“10まんボルト”!!」

 

 ニンフィアの“シャドーボール”はライチュウの“10まんボルト”によって相殺され、爆発して煙が2匹の間に立ち込める。

 これで互いに相手を見失うものと思われたが、残念ながらニンフィアはリザードがヒトカゲだった頃から“えんまく”による視界不良状況での戦闘訓練を受けているのだ。この程度の煙、ニンフィアにとって何ら障害足り得ない。

 

「連続で“シャドーボール”!!」

「フィイイアアア!!」

「ラ、ライイイイ!?」

「ライチュウ!?」

 

 煙の中から飛んで来る無数の“シャドーボール”がライチュウに直撃、吹き飛ばされて倒れた所でニンフィアが煙の中から飛び出した。

 

「トドメだ!! “ようせいのかぜ”!!」

 

 最後の一撃がライチュウに直撃、倒れたまま“ようせいのかぜ”を受けたライチュウはマチスの足元まで吹き飛ばされ、目を回してしまった。

 

「ライチュウ、戦闘不能! ニンフィアの勝ち!! よって勝者、マサラタウンのソラタ!!」

 

 ゴングが鳴り響き、ソラタの勝利が高らかに宣言された。

 見事ライチュウに勝利したニンフィアはソラタの方へ振り返り、そのまま走ってソラタの胸に飛び込む。

 

「おっと……勝ったな、ニンフィア」

「フィア!」

 

 愛らしい妹分が若干大きくなって重くなったが、それでも抱き止めて頭を撫でてやれば、嬉しそうに鳴いて手に頭を摺り寄せながらリボン状の触手を手に巻き付けて来る。

 

「Hey boy……いや、ソラタ」

「マチスさん……」

「great なバトルだったぜ、最高に熱くなった」

「ありがとうございます」

「コイツは、great なバトルと見事なGutsを見せたソラタへ贈るクチバジム制覇の証、オレンジバッジだ、受け取ってくれ」

 

 マチスが差し出したオレンジバッジを受け取ると、ソラタは大事そうに一度だけ握り締め、バッジケースに収めて鞄に仕舞う。

 足元ではニンフィアがその作業を嬉しそうに見つめていて、マチスはニンフィアとソラタの間にある絆の強さを、その光景だけで見て取れた気がした。

 

「本当に熱いバトルだったぜ、新人トレーナー相手にこんな熱いバトルをしたのはソラタで二人目だ」

「二人目……?」

「ああ、2日前にジム戦をしたGirlの事なんだが、ソラタと同じイイ瞳をしていて、そして熱いバトルを見せてくれた」

「へぇ……新人だったんですよね?」

「間違いないぜ、カントーじゃなくジョウト出身だろうけどな。マグマラシを連れていた」

 

 マグマラシ、ジョウト御三家の一匹、ヒノアラシの進化系を連れていたという事は間違いなくジョウト出身の新人トレーナーなのだろう。

 今の時期だとジョウトリーグは暫く先になるから、カントーリーグ出場を目指してカントーに来たといったところか。

 

「このまま旅をしていれば、いつか出会う日が来るかもだぜ……何となくお前さんと、あのGirlは似ている気がするからな」

「似ている?」

「ああ、瞳といい、バトルスタイルといい、連れていたポケモンといい、色々と似ている所が多い」

 

 少し興味が沸いた。マグマラシを連れたトレーナーで、2日前にジム戦を終えたのであれば既に次のジム目指して出発しているだろう。

 ソラタは偶然知る事になったライバルになるかもしれない存在の情報に、闘争心が刺激されたのか礼を言ってニンフィアと共にジムを去る。

 残されたマチスは手を振って見送ると、ふと先ほどまでのバトルと、2日前のバトルを思い返した。

 

「そういえば、似てると言えばバトルしたポケモンのタイプも同じだったな……マグマラシ、エレキッド、エーフィ。しかもライチュウとバトルしてる最中にイーブイからエーフィに進化させてたから、全く同じだ」

 

 いつか、二人が出会ってバトルをする日が来るかもしれない。その時が、ポケモンリーグの舞台である事を願いたいものだ。

 きっと、このまま成長していけば二人とも、凄いトレーナーになるとマチスは確信しているのだから。




次回はソラタ、幼馴染と再会。
さて、3人いる同期の内、誰と再会するのか。


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第17話 「幼馴染」

大変、お待たせしました。
最近、書くモチベーションが上がらず、ずいぶんと間を空けてしまいました。


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転生したのは始めに旅立った子供

 

第17話

「幼馴染」

 

 クチバジムのジムリーダー、マチスに勝利し、見事オレンジバッジをゲットしたソラタは、次のジムがあるタマムシシティを目指して旅を続けていた。

 そして現在、ソラタは旅の途中で野宿をすることを決め、テントを張った後はリザードに新技を仕込む為にピカチュウを出して特訓中だった。

 

「よし、だいぶ形になってきたな」

「リザッ」

「ピカチュウから見てどうだ? リザードは合格だろうか」

「ピ? ……ピカ~、ピ!」

 

 グッと親指を立てて右手を突き出すピカチュウ、どうやらリザードはピカチュウから見て新技が合格点だということらしい。

 

「やっぱクチバジムでレアコイルの“でんじは”を受けたのが良かったな、アレがだいぶ参考になっただろ?」

「リザ、リザリザ! ザード」

 

 新技を会得して調子の良いリザードを見ながら、ソラタの頭の中では既に次のジム戦の戦略が練られていた。

 リザードの新技はタマムシジムでは役に立たないが、炎タイプのリザードを出すのは確定、前世のアニメ通りならタマムシジムは3体のポケモンによるバトルだから、残り2体を選出する必要がある。

 現在の手持ちでタマムシジムに有効な技を覚えているのはリザードとギャラドスのみ、オーキド研究所に預けているポケモンは暫く育てる予定が無いとして、誰を選ぶべきか迷っていた。

 

「普通に考えればニンフィアに“マジカルフレイム”を覚えさせるのが一番だよな」

 

 むしろ、先の事を考えればニンフィアに“マジカルフレイム”を覚えさせるのは必須だろう。

 弱点である鋼タイプが相手の時に“マジカルフレイム”を覚えておけばタイプ不一致とは言え逆に弱点を突けるのだから。

 

「よし、一先ず休憩にしようか、リザード、ピカチュウ」

「リザ」

「ピ!」

 

 太陽が天辺にあるという事は昼時間だということ。なので一度休憩と昼食をと思い、ソラタ達は近くの広場に用意した焚火へと向かい、そこでリザードの“ひのこ”で火を焚くと、早速昼食の用意を始めた。

 

「さてと、何食べるかな~」

 

 ポケモン達のポケモンフーズはクチバシティで買ってあるから、自分の分の昼食の用意だけで良いのはありがたい。

 鞄の中からインスタントのラーメンを発見したソラタは、十分だろうと水と鍋を用意して、早速調理しようかとしたときだった。

 

「おや? そこにいるのはソラタじゃないか」

 

 後ろから突然声を掛けられて、振り返れば沢山の女の子を引き連れた少年が立っていた。

 

「シゲル……!?」

 

 そう、その少年こそソラタの同期、同じマサラタウン出身であり、旅立ちの日、ソラタ以外にオーキド研究所でポケモンを貰う事になっていた少年の一人、オーキド博士の孫のオーキド・シゲルだ。

 

「久しぶりだねソラタ、先に旅立った君に追い付くとは、随分のんびりした旅をしているのかい?」

「まぁな、修行しながらだから最近は少しペースを落としてるよ」

 

 それでも既にバッジは3つ手に入れたと言って見せてやれば、シゲルも同じくグレーバッジ、ブルーバッジ、オレンジバッジを見せてくれた。

 

「同数か、シゲルも順調そうで何よりだ」

「お互い様さ、君はこれから昼食かい?」

「ああ、さっきまでリザードの修行をしててな、良い時間だし」

「リザード……やっぱりヒトカゲをお祖父様から貰ったのは君だったんだね」

 

 焚火の前でピカチュウと戯れているリザードを見て、シゲルは成程と頷きながらそう言ってきた。

 前世で見たアニメでは、シゲルはゼニガメを貰っていた筈だが、この世界でも同じなのだろうか。

 

「シゲルは? 残ってたのはフシギダネとゼニガメだったが」

「僕はゼニガメを貰ったよ。因みにサ~トシ君はピカチュウを貰ったらしい」 

「ピカチュウを? そう言えば何か問題児を捕まえたって博士が前に言ってたけど、それか?」

「多分ね。それで残るフシギダネはトワコって事になるかな。僕が行ったときはゼニガメしか残ってなかったから、トワコは2番目だった訳だ」

 

 トワコ、それはソラタとシゲルの同期にして幼馴染の一人。だが余り良い性格ではないため、そこまで親しいという程ではない。

 

「成程ね、それでサトシのやつはピカチュウしか残ってなかった訳か」

「ああ、大事な日に寝坊する程さ、会ったときは丁度僕が出発する時だったけど、パジャマ姿で研究所に来ていたよ」

「あいつらしいな」

 

 昔からそそっかしい所があり、寝坊癖もあった幼馴染の姿を思い返し、苦笑しか出てこない。

 基本的に良い奴だし、性格は悪くない。ポケモンに愛される少年だからソラタもサトシとは仲が良かった。

 というより、幼馴染4人、その中でサトシを見下していたのはトワコだけの筈だ。

 シゲルは何だかんだ言いながらサトシをライバル視している所を見るに、決して不仲という事は無い。

 

「そうだソラタ、良ければ昼食前に僕とバトルしないか? 僕も昼食前だから1対1で」

「ほう? ……よし、やるか!」

 

 シゲルがモンスターボールを見せてバトルを挑んできたので、ソラタも昼食前の軽い運動に丁度いいとリザードを見る。

 その意図に気づいたリザードも立ち上がって好戦的な目でシゲルを見つめた。

 

「よし、じゃあやろうか……行くよ、マイハニー!」

「カメェ!」

 

 シゲルが投げたモンスターボールから出てきたのはゼニガメの進化系、カメールだった。

 対するソラタは予定通りリザード、同じオーキド研究所出身のリザードとカメールは互いを認識するや、不敵に笑って戦意を高め合う。

 

「先制だ! カメール、“みずてっぽう”!!」

「カ~メゥーーー!!!」

「迎え撃て! リザード、“かえんほうしゃ”!!」

「リ、ザアアア!!!」

 

 “みずてっぽう”と“かえんほうしゃ”が中間でぶつかり合い、水蒸気を発生させながら拮抗する。いや、技の威力の問題で“かえんほうしゃ”の方が押しているようだ。

 

「中々の威力の“かえんほうしゃ”だね……なら、カメール! “こうそくスピン”だ!」

 

 “みずてっぽう”を中断したカメールは手足や頭を引っ込めて“こうそくスピン”による回転を始め、その場から動いて“かえんほうしゃ”を回避、近くの岩場まで移動すると、足を出して着地した。

 

「そこだ! “ロケットずつき”!!」

「っ! なるほどな」

 

 既に頭を引っ込めた状態だからこそ、ノータイムで放たれた“ロケットずつき”でリザードへ突っ込んできたカメール。

 だが、リザードは冷静に軌道を見て、回避したのだが。

 

「甘い! “かみつく”攻撃!」

「カメッ!」

 

 リザードの横すれすれの位置に来た時、カメールはリザードの腕へ嚙みついた。

 痛みに苦痛の表情を浮かべるリザードは振り解こうとするも、カメールの噛む力が強いのか、中々離れない。

 

「どうだいソラタ、“こうそくスピン”から“ロケットずつき”、そして“かみつく”への一連の流れは?」

「……見事だよ。だけどシゲル、迂闊過ぎるんじゃないか?」

「何?」

「俺が炎タイプのリザードに、水タイプのポケモンへの対策をしていないとでも?」

「……まさか!?」

「そのまさかさ! リザード、“かみなりパンチ”!!」

 

 すると、リザードはカメールが噛みついている腕から電気を放出、カメールはそのまま感電して思わず口を離してしまった。

 

「やれ!!」

 

 もう一本の腕にも電気を纏ったリザードの拳がカメールの腹へ突き刺さり、大きく吹き飛んだカメールは仰向けの状態で地面へ叩き付けられ、起き上がれなくなった。

 

「トドメだ、“りゅうのはどう”!!」

 

 最後にドラゴンのオーラを纏った波動がカメールを襲い、そのままカメールは戦闘不能となった。

 

「……参った。完敗だよ、まさかここまで差があったとはね」

 

 カメールをボールに戻したシゲルはソラタの所へ歩み寄って握手を求めてきたので、それに応えて握手をしたソラタは先ほどのシゲルとの戦闘を思い返す。

 まだ初心者トレーナーの域を出ないシゲルでは、成程納得の結果で、カメールも良い育て方をしているが、まだまだリザードよりも格下だった。

 だからこそ、これからシゲルとカメールが成長して、強力なライバルとなるのが楽しみではある。

 

「昔から僕より成績の良かったソラタだからね、この結果は納得だけど、次は負けないよ」

「ああ、次はリーグで会おうぜ」

「勿論だとも」

 

 次はリーグで、フルメンバーで戦いたいものだ。お互いの気持ちは同じなのか、それ以上は何も言わずシゲルはお供の女の子達と共に立ち去り、ソラタも昼食の準備へと戻る。

 カメールに勝利したリザードも、次も負けないと慢心する事無く、去っていくシゲルの背中を見つめてからソラタの後を追った。




次回はタマムシ到着前に、一度出したいキャラが居るので、そちらになります。


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第18話 「ライバル登場、似た者同士の初邂逅」

ついに、今作における主人公のライバル登場です。
存在自体はマチスが言及してましたが、今回が初登場となります。


ポケットモンスター

転生したのは始めに旅立った子供

 

第18話

「ライバル登場、似た者同士の初邂逅」

 

 ポケモンリーグに出場する為、次のジムがあるタマムシシティを目指してソラタは旅を続けていた。

 途中、修行しながらの旅でポケモン達の体力が減ってきていた事もあり、立ち寄った小さな町、アキバシティのポケモンセンターへ寄り、この日はポケモン達を預けて宿泊する事となった。

 

「順調だな、この調子で行けばタマムシシティも2~3日で到着するか」

 

 いち早く回復が終わったリザードとニンフィアだけ連れてポケモンセンターの敷地にあるバトルフィールドへ出てきたソラタはマップを広げてタマムシシティまでの道のりを確認、徒歩での残り日数を計算して今後の予定を立てていた。

 途中、何となくバトルフィールドに目を向けてみれば、旅のトレーナーらしき少年と少女がバトルをするところだった。

 少年の方はゲームで言うところの短パン小僧といった所で、少女は艶のある黒髪をストレートに伸ばしたロングヘアーで美少女と言っても過言ではない幼さの中に美しさを感じさせる。

 そして、丁度少年が投げたモンスターボールからアーボックが出てきたところだ。

 

「どうだ! 僕がパパから貰ったポケモンだ!」

「へぇ……」

 

 父親から貰ったアーボをアーボックに育て上げたのだろう少年はアーボックへの信頼を感じさせる。

 対する少女は薄ら笑みを浮かべながらモンスターボールを取り出して、フィールドへ投げつけた。

 

「行きますよ、エーフィ!」

「フィ!」

 

 少女が出したポケモンはイーブイの進化系、エーフィだった。まさかのポケモンに思わずソラタも注目してしまう。

 

「な、なんだそのポケモンは!?」

「イーブイが進化したポケモン、エーフィですよ」

「い、イーブイの進化系!? 嘘を言うな! イーブイが進化するのはブースター、サンダース、シャワーズの3種類だけだ! そんなポケモンに進化するなんて聞いたこと無い!」

「カントーではまだメジャーじゃないみたいですね、でもこの子はジョウト地方では普通に認知されているポケモンです」

 

 どうにもカントーの新人トレーナーはポケモンの知識がカントーにのみ生息するポケモンに偏っている気がしてならない。

 エーフィやブラッキーといったジョウト地方で発見されたイーブイの進化系だって、経験を積んだトレーナーなら当然のように知っている。

 これはトレーナー候補の教育を見直すべき点ではないだろうかと、ソラタも思わず考えてしまった。

 

「クソッ、カントーじゃ珍しいポケモンって事かよ……アーボック! “どくばり”!!」

「エーフィ、“ねんりき”です」

 

 アーボックが放った“どくばり”だが、エーフィの“ねんりき”によって途中で静止し、そのまま地面へ落ちる。

 そして、エーフィの“ねんりき”はアーボックを捕らえ、そのまま少年の足元まで吹き飛ばした。

 

「アーボック!」

「しゃ、しゃぼ……!」

「エスパータイプだったのかよ……! アーボック、“ヘドロばくだん”だ!」

 

 効果抜群のエスパー技を受けたアーボックだが、まだギリギリ体力が残っていたらしく、“ヘドロばくだん”を放った。

 だが、エーフィは華麗な回避でヘドロを避けて余裕を見せている。

 

「“でんこうせっか”です」

「フィ!」

 

 むしろ、降り注ぐ“ヘドロばくだん”の雨の中を“でんこうせっか”で駆け抜け、少女が指示していなくとも“シャドーボール”で回避が難しい物を迎撃している。

 

「アーボック! “かみつく”攻撃!」

「遅いですよ……“サイケこうせん”!!」

 

 トドメとばかりに、大きく口を開いたアーボックの口内に“サイケこうせん”が直撃、そのままアーボックは戦闘不能になった。

 

「く、くそっ!」

 

 戦闘不能になったアーボックをモンスターボールに戻した少年はポケモンセンターへ走り去った。恐らくジョーイさんに預けに行ったのだろう。

 そして、残された少女は観戦していたソラタの存在に気づいたのか、足元に擦り寄って来ていたエーフィの頭を撫でるのを止め、頭を下げた。

 

「こんにちは、バトルか修行ですか?」

「いや、観戦してただけだよ……エーフィ、良く育てられてるな」

「ありがとうございます。幼い頃から一緒に育った一番の相棒ですから、これくらいは」

「へぇ、俺と同じだな」

「あなたも……?」

 

 そういえば、お互いに自己紹介がまだだった。

 

「俺はソラタ、マサラタウンのソラタだ」

「私はワカバタウンのシズホと申します」

 

 ワカバタウン、それはジョウト地方の地名だ。つまりこの少女、ジョウト地方の出身ということか。

 

「君はジョウトの子?」

「ええ、ウツギ博士にポケモンを頂いて、ジョウトリーグ開催がまだ先という事もあって先にカントーでリーグに出ようと思いまして」

「なるほどな……ん?」

 

 ジョウト出身の新人という事だが、確かこの情報はクチバシティで……。

 

「もしかしてマチスさんが言ってたマグマラシを連れたジョウト出身のトレーナーって君?」

「あ、はい……多分私の事ですね」

 

 そう言って、シズホはマグマラシをモンスターボールから出して見せた。

 

「エーフィとマグマラシか……本気で俺と似てるよ君」

 

 ソラタもリザードとニンフィアをボールから出せば、シズホも些か驚きの表情を浮かべる。

 ニンフィアを見て大袈裟に驚かない辺り、どうやらニンフィアがイーブイの進化系だという事は知っているようだ。

 

「このニンフィアも俺が幼い頃からの付き合いで、リザードはオーキド博士から貰ったポケモンなんだ」

 

 オーキド博士から貰ったヒトカゲと家族であるイーブイと共に旅に出たソラタと、ウツギ博士から貰ったヒノアラシと家族であるイーブイと共に旅に出たシズホ、ビックリするぐらい似ている。

 

「……ソラタさん」

「ん?」

「良ければ、私とバトルしませんか? エーフィは先ほどバトルをしてしまったので、マグマラシとリザードで」

「……いいな」

 

 ソラタも、先ほどのシズホと少年のバトルを見て戦意が高まっていた所だ。それに、ここまで似た者同士だと、お互いの実力が気になるのも致し方ない。

 

「リザード、行けるな?」

「リザ」

「マグマラシ、行けますね?」

「マグ!」

 

 エーフィとニンフィアをボールに戻した二人は早速バトルフィールドへ歩き出し、向かい合った。

 フィールドには既にリザードとマグマラシがスタンバイしており、同じ炎タイプ同士、熱い闘志を燃やしている。

 

「では」

「早速」

 

 ソラタとシズホもフィールドを挟んで闘志に燃える瞳を交わすと、それぞれのパートナーへ同時に指示を出した。

 

「「“かえんほうしゃ”!!」」

 

 リザードとマグマラシが同時に炎を吐き、中央でぶつかって爆発する。同時に2匹とも動き出して爆煙の中を走った。

 

「“かみなりパンチ”だ!」

「“でんこうせっか”で回避です!」

 

 リザードの“かみなりパンチ”を回避したマグマラシは高速で動きながらリザードの周りを走り始める。

 

「“スピードスター”!!」

「迎撃しろ! “りゅうのはどう”!!」

 

 リザードの後ろから放たれた“スピードスター”だが、“りゅうのはどう”が全て迎撃して搔き消しながらマグマラシに直撃した。

 

「畳み掛けろ! “かみなりパンチ”!」

「リザ!」

 

 吹き飛んだマグマラシを追って拳に電気を纏ったリザードが走る。だが、それはシズホの狙い通り。

 

「“でんこうせっか”!」

 

 上手くバク転しながら着地したマグマラシが“でんこうせっか”でリザードに突っ込み、姿勢を低くして“かみなりパンチ”を回避すると、その頭がリザードの腹部に突き刺さった。

 

「リザード!?」

「今です! “スピードスター”!!」

 

 零距離からの“スピードスター”の直撃を受けて、今度はリザードが吹き飛ばされた。しかし、吹き飛びながらリザードの顔はマグマラシへ向いている。

 

「そのまま“かえんほうしゃ”!」

「迎え撃って!」

 

 リザードとマグマラシの“かえんほうしゃ”が再びぶつかる。その勢いでリザードは大きく後退しながら態勢を整え、両拳に再び電気を纏った。

 

「何度やっても同じです! マグマラシ! “でんこうせっか”です!」

 

 突っ込んできたリザードに再び姿勢を低くした“でんこうせっか”で同じく突っ込むマグマラシ、今度も同じように“かみなりパンチ”を回避しながらリザードの腹部へ突っ込もうとしたのだが……。

 

「っ! マグマラシ、避けて!!」

「マグッ!?」

「ザードッ!!」

 

 上から叩き付けるような拳が迫り、緊急回避したマグマラシはリザードの拳が地面を穿って電流を迸らせているのを見て冷や汗をかいた。

 

「その距離で良いのか? “りゅうのはどう”だ!!」

 

 “りゅうのはどう”が“かみなりパンチ”を回避したばかりのマグマラシに襲い掛かり、飲み込もうとする。

 

「“スピードスター”!!」

 

 だが、マグマラシは“りゅうのはどう”が直撃する寸前に“スピードスター”を発射、“りゅうのはどう”を放った直後のリザードに回避する術は無く、2匹とも相手の技の直撃を受けて吹き飛んでしまった。




次回はリザードVSマグマラシの決着から。
因みに、ソラタとシズホは本気で似た者同士です。
現在の手持ちポケモンの傾向もバトルスタイルも、何もかもが同じ。
ただ、シズホは転生者ではありません。
今作において転生者はソラタただ一人のみです。


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第19話 「互角」

お待たせしました。前回のライバル対決の続きです。


ポケットモンスター

転生したのは始めに旅立った子供

 

第19話

「互角」

 

 

 ポケモンリーグに参加する為、次のジムがあるタマムシシティを目指して旅をしていたソラタは、立ち寄った町のポケモンセンターで出会った少女、シズホとのバトルをしていた。

 リザードとマグマラシ、同じ炎タイプであり、カントーとジョウト、それぞれの地方における初心者用ポケモンの進化系同士の戦いは一進一退、互角の戦いをしている。

 

「マグマラシ、“かえんほうしゃ”です!!」

「“りゅうのはどう”だ!!」

 

 現在も、ボロボロになったリザードとマグマラシの“りゅうのはどう”と“かえんほうしゃ”がフィールド中央でぶつかり、爆発する。

 技の威力は互角、実力も互角の2匹を指示するトレーナー二人の実力も互角、どちらが勝っても負けてもおかしくない状況だ。

 

「“スピードスター”!!」

「“かみなりパンチ”!!」

 

 マグマラシの“スピードスター”をリザードが“かみなりパンチ”で迎撃しながら走る。マグマラシとの距離を詰めて一撃入れる為、その腕の電流がより強くなった所で、マグマラシの目が光った。

 

「ジャンプです!」

「マァグッ!!」

 

 シズホの指示と共に飛び上がったマグマラシはギリギリでリザードの“かみなりパンチ”を回避、だが同時に空中ではマグマラシに回避する術は無い。

 

「リザード! 新技いくぞ!! 全力で“フレアドライブ”だ!!」

「リ、ザァアア!!」

「マグマラシ!! こちらも全力の“フレアドライブ”です!!」

「マァグゥウウウ!!」

 

 リザードとマグマラシ、お互い同時に放った全力の“フレアドライブ”がぶつかり合う。互いの体力は残り少なくなった。

 空中でぶつかったまま“フレアドライブ”を維持する2匹は、“もうか”が発動して青白い炎と共に更に強く激しく燃え上がり、最後に爆発と共に煙の中へ消える。

 

「リザード!!」

「マグマラシ!!」

 

 煙が晴れて、フィールドに立つリザードとマグマラシ、一歩も動かず、肩で息をしながらも互いを睨み合う2匹、しかし体力の限界なのか同時に倒れてしまった。

 

「……引き、分けか」

「みたい、ですね」

 

 目を回して倒れるリザードとマグマラシをモンスターボールに戻したソラタとシズホは互いに見合うと、苦笑しつつ握手をした。

 ソラタもシズホも、同年代のトレーナーと戦って負けた事も引き分けた事も無かった。ジム戦も順調に勝利を重ねてきたからこそ、こうして同年代とのバトルで引き分けたのは初めての経験だ。

 

「なんだろう……凄い、悔しいな」

「はい、私もです」

「次は、絶対に勝つ」

「負けませんよ、絶対に」

 

 シロナに負けた時は、相手が現役のチャンピオンだという事もあって遥かな格上、負けて当然だったから悔しいという感情は湧いて来なかった。

 だが、このバトルで引き分けた時に感じた悔しいという気持ち、それで確信した。互いに、最高のライバルとなり得る存在だと。これから先、長い付き合いになると。

 

「俺は、次はタマムシシティを目指す」

「私はヤマブキシティです」

 

 4つ目のバッジはソラタはレインボーバッジを、シズホはゴールドバッジを目指しているようで、明日には別れる事になる。

 同じ実力のライバルとなった二人は、まだまだ話したい事が沢山あった。

 

「腹減ったな、リザードとマグマラシをジョーイさんに預けて飯にしようぜ」

「ご一緒しても?」

「勿論」

 

 その晩、ソラタとシズホは様々な話をした。最初のポケモンを貰った時の事、お互いのイーブイについて、これまでの旅の話、そして何より己の夢について。

 特に、お互いの夢については盛り上がった。何せソラタもシズホも、チャンピオンになる事が夢であり、その為にセキエイ大会を目指しているのだから。

 

「ソラタさんは何故チャンピオンを目指しているんですか?」

「俺の母さんが、昔チャンピオンを目指してたんだけど、夢半ばで挫折してな……だから息子の俺が母さんの夢だったチャンピオンになるんだって、ずっと思ってた。そういうシズホは?」

「私も同じようなものですね。私の場合は祖父ですが、祖父が叶えられなかった夢を叶える為に」

 

 つまり、お互いにチャンピオンになるという夢に対して、誰にも譲れない想いが込められているという事だ。

 ならばこそ、ソラタとシズホはいつかリーグで再び戦う事になるだろう。そしてその舞台は、ポケモンリーグ・セキエイ大会の場。

 

「そういえば、俺ってジョウトには行った事無いんだよな……ジョウトってどんな所?」

「カントーとそこまで違いはありませんよ。少々言葉が訛っている地域はありますが、基本的に中央ほど都会で、それ以外は割と田舎ですし」

「へぇ……ジョウトならエンジュシティには行ってみたいんだよなぁ、焼けた塔を見てみたい」

「あそこですか……」

 

 どうやらシズホはソラタが口にした焼けた塔について実際に見たことがあるらしい。ワカバタウン出身と言っても、一度もワカバタウンから出た事が無い訳ではないようだ。

 当然か。ソラタとて幼い頃は家族旅行で同じカントーのグレンタウンの温泉やセキチクシティのサファリゾーン、更にはアローラやイッシュなどにも行った事があるのだから。

 

「焼けた塔は確かに歴史を感じる建物でしたが、あそこで死んだポケモンが3匹もいるという話がある所為か、少し空気が重く感じるんです」

「それって確かジョウトの伝説の三聖獣、スイクン、エンテイ、ライコウの?」

「ええ、そうです。あの3匹は焼けた塔で死んだポケモンにホウオウが命を与えて復活したポケモンだと伝えられていますね」

 

 そういえば、原作ゲームで焼けた塔はカネの塔と呼ばれる塔で、ホウオウが降り立つスズの塔とは別のルギアが降り立っていた場所だった筈だが、この世界の元となったアニメでは焼けた塔は元々スズの塔で、今のスズの塔は復元した物という設定だ。

 

「それにしてもソラタさん、ジョウトに来た事がないのに、随分お詳しいですね?」

「ああ、実は両親が現役トレーナーだった時代に、ジョウトも旅してた事があってね」

 

 父も母も現役時代にジョウトも旅していて、エンジュシティにも当然だが行っている。その時に焼けた塔も見ているのだ。

 それから、母はカントーとジョウトだけだったが、父は少なくともカントー、ジョウト、シンオウ、カロスを旅したことがあると聞いた。

 

「そうですか、他の地方のお話を……カロスのお話は羨ましいですね。私の両親はカロスには流石に行ったことが無いとの事で、聞けてもイッシュ地方やオーレ地方のお話くらいでした」

 

「オーレ地方!? それはまた珍しい……一度話を聞いてみたいなぁ」

 

 ソラタも噂程度でしか知らないが、オーレ地方は野生のポケモン殆ど居ない場所で、生息地が限られている砂漠に覆われた地だという話だ。

 

「私の母が若い頃……現役のトレーナーだった頃に行ったことがあるのだそうですよ」

「あんな砂漠しか無い地方に?」

「ええ、好奇心……らしいです」

「へ、へぇ~」

 

 好奇心で行く所でもないような気がしないでもないが、そもそもシズホ達が生まれるよりも前の話なので、特に何も言う気は無かった。

 ただ、随分とアクティブな母親だったのだな、と内心思っただけだ。

 

「こういうの、良いですね」

「?」

「いえ……ソラタさんは、凄く話しやすいと言いますか、同じ目線で何でも言えると言いますか」

「そっか……いや、それは俺も同じだな」

 

 同い年の、同じ実力同士、シズホがソラタに対する感情はソラタがシズホに感じる感情と全く同じだろう。

 互いに絶対負けたくない相手、対等の相手、人はそれをライバルと呼ぶのだ。

 今日この日、互いを最大のライバルと認識した二人の出会いは、これが運命の出会いとなるのだった。

 

 

 翌朝、既にヤマブキシティに向けて旅立ったシズホを見送ったソラタは自分もタマムシシティへ向かって歩き出した。

 昨日、シズホとの会話は本当に有意義な時間だったし、同い年のライバルが出来たのは何よりの収穫だったと思う。

 

「さて……出てこいニンフィア」

「フィア!」

 

 モンスターボールからニンフィアを出して一緒に歩き出した。

 タマムシシティまでもう少し、タマムシジムを突破すれば残るジムは半分、ポケモンリーグの舞台でシズホと再会する日が、ポケモンリーグの舞台で昨日の決着を着ける時が待ち遠しい。

 

「強くなろうぜニンフィア、シズホに勝てなければ、チャンピオンになる事は出来ないんだから」

「フィ~ア」

 

 そして決めた。強くなる為にも、次のタマムシジムで出すポケモンをどうするのか。その3匹のメンバーを。

 

「よ~し! 走るか!」

「フィア!」

 

 ソラタとニンフィアは走り出した。気合を入れて、タマムシシティ目指して旅は続く。

 ただ、走った事で気付かなかった。ソラタのリュックに入っているフカマルのタマゴが、震え、少しだけ光っていた事に。




次回はタマムシシティ到着、タマムシジムでの戦いになります。


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第20話 「草ポケモン」

転職先決まりました! 来週から転職先で仕事開始ですので、今のうちに進めておきます。


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転生したのは始めに旅立った子供

 

第20話

「草ポケモン」

 

 

 ポケモンリーグに出場する為、旅を続けるソラタは、遂に4つ目のジムがあるタマムシシティに到着していた。

 タマムシシティに到着して直ぐにポケモンセンターに一泊、ポケモン達とソラタ自身の疲れを癒した後、昼前にタマムシジムへと向かっている。

 

「タマムシジムは草ポケモンのジム……アニメ通りなら使用ポケモンは3体になる筈」

 

 既に3体の選出は終わっている。出す順番も決めてあるので、後はチャレンジするだけだ。

 

「着いた」

 

 着いたのはクサイハナをモチーフにした建物、中は植物園も兼ねているらしく、ジムチャレンジャーとは別に、お客さん用の入場料が書かれた看板もある。

 他にも香水の製作所としての施設でもあるらしく、案内図にはそれなりに大きな立ち入り禁止区画も存在していた。

 

「すいませーん、ジム戦に来たのですがー?」

「はーい」

 

 中に入って人を呼んだら、植物園スタッフの女性が出てきて、ジム戦という言葉を聞いてか、園の客相手ではなく、ジムチャレンジャーに対する挑戦的な表情を浮かべる。

 

「運が良いのね、エリカ様はまだ出かける前なの。今ならチャレンジを受けられるわよ」

「では、良いですか?」

「ええ、ついてきて」

 

 案内されて連れてこられたのは、植物に囲まれたバトルフィールドだった。多くの草ポケモンがのんびりとしている中、フィールドには香水店の制服であろう服を着た女性が立っている。

 

「あら、チャレンジャーですの?」

「はい、エリカ様」

「ま、マサラタウンのソラタです」

「これはご丁寧に、タマムシジムのジムリーダー、エリカと申します」

 

 タマムシジム、ジムリーダーエリカ。草タイプのエキスパートであり、華道の名門一族出身のお嬢様、更にタマムシシティでは香水店や弓道の道場を営む経営者であり、更に非常勤ではあるがタマムシ大学の講師も務める才媛と名高い。

 

「ジム戦での使用ポケモンはお互い3体ですわ。先に相手のポケモン3体全てを倒した方の勝ち。途中でポケモンの交代を認められるのはチャレンジャーのみ、この辺りは他のジムでも同じですわね」

「ええ、同じでした」

「申し訳ございませんが、私もこの後用事で出掛けなければなりませんの。直ぐに始めましょう?」

 

 忙しい中、相手をしてくれるというので、少し申し訳ないと思いつつソラタもフィールドに立つ。

 エリカも準備は既に出来ているのか、片手にはモンスターボールを持っていた。

 

「それでは、これよりジムリーダーエリカと、チャレンジャーソラタのジム戦を開始します」

「行きますわよ、モンジャラ!」

「頼むぞ、ナゾノクサ!」

 

 エリカが出してきたのは草タイプのモンジャラ、そしてソラタが出したのは同じく草タイプのナゾノクサだ。

 ナゾノクサの里でゲットして以来、公式バトルには出していないが、それなりに育てている為、今回正式に公式バトルデビューとなった。

 

「モンジャラ対ナゾノクサ、バトル……始め!!」

「先手はお譲り致しますわ」

「なら遠慮なく……ナゾノクサ、“いあいぎり”!」

「ナゾ!」

 

 ナゾノクサの頭の草が一部刃となり、走り出したナゾノクサがモンジャラへ刃を一閃しようとする。

 

「モンジャラ、“からみつく”ですわ」

「モーン」

 

 “いあいぎり”を回避したモンジャラは全身の蔦をナゾノクサへ絡みつかせて、そのまま締め上げてきた。

 

「続いて“たたきつける”!」

「モ~ン」

「ナゾッ!?」

 

 ナゾノクサが持ち上げられ、地面へと叩き付けられる。しかも、それを何度も何度も、連続で“たたきつける”によるダメージがナゾノクサに蓄積した。

 

「そうだ! ナゾノクサ、“まとわりつく”攻撃!」

「!?」

 

 虫タイプのワザ、“まとわりつく”でナゾノクサは絡みついているモンジャラへダメージを与えた。

 このまま絡みつかせていては危険だと判断したエリカはナゾノクサを開放してモンジャラに距離を取らせる。

 

「今度はこっちの番だ! “エナジーボール”!!」

「ナ~ゾッ!」

「迎撃なさい! “エナジーボール”!!」

「モ~ンッ!」

 

 2体の“エナジーボール”がぶつかり、フィールド中央で消滅。その隙にエリカとモンジャラが動いた。

 

「“パワーウィップ”ですわ」

「“いあいぎり”!!」

 

 モンジャラの蔦が大きく振り上げられ、ナゾノクサに襲い掛かるも、“いあいぎり”で蔦を迎撃したナゾノクサはモンジャラへ向かって走り出した。

 

「そのまま“いあいぎり”だ!」

「ナ~……ゾッ!!」

「モンジャラ!?」

 

 ナゾノクサの“いあいぎり”が決まった。元々“まとわりつく”で大ダメージを負っていたモンジャラは耐え切れず倒れて目を回してしまう。

 

「モンジャラ、戦闘不能。ナゾノクサの勝ち!!」

「戻りなさい、モンジャラ……ご苦労様でした」

 

 これで1勝、ナゾノクサも初の公式戦勝利で勢いに乗ったのか、その体が光に包まれた。

 

「お」

「まぁ」

 

 体が大きくなり、草ではなく花が咲いたそのポケモンは、ナゾノクサの進化系であるクサイハナだった。

 

「クッサ~」

「クサイハナ……進化したんだな!」

「ハナハナ!」

 

 クサイハナに進化した事で新しい技を覚えたようだ。図鑑で見てみれば、その技についても載っていた。

 

「見事ですわソラタさん、そして進化おめでとうございます」

「ありがとうございます」

「ですが、次も勝てるとは思わない事ですわ……行きますわよウツドン!」

「ドッドッ」

 

 エリカの2番手はウツドンだ。モンジャラの時とは違い、毒タイプも持ち合わせているので、虫タイプの技は等倍、草タイプの技は逆に“こうかはいまひとつ”となる。

 

「ウツドン対クサイハナ、バトル開始!」

「今度はこちらから行きますわ! ウツドン、“にほんばれ”ですわ!」

 

 “にほんばれ”の効果でフィールドに射す太陽光の光が一際強くなった。これで“ソーラービーム”という草タイプでも最強クラスの技がノータイムで発射出来るようになった他、炎タイプの技の威力が上がる。

 

「クサイハナ、“いあいぎり”!!」

「“まもる”ですわ」

 

 ナゾノクサの時より走りやすくなったクサイハナは手を手刀の形にして“いあいぎり”を放ったのだが、ウツドンが“まもる”を使った事でノーダメージのまま受け止められる。

 

「“ウェザーボール”!!」

「っ! しまった!!」

「ハナーーーッ!?」

 

 “にほんばれ”で日差しが強くなった状態での“ウェザーボール”は通常のノーマルタイプではなく炎タイプの技となる。

 その一撃はクサイハナを瀕死寸前まで追い込む程で、大きく吹き飛ばされたクサイハナはボロボロだ。

 

「もう一度“ウェザーボール”ですわ」

「クサイハナ! “こうごうせい”!!」

 

 間一髪、“こうごうせい”で回復したクサイハナに、“ウェザーボール”が直撃。だが耐え切れずに目を回して倒れてしまった。

 

「クサイハナ、戦闘不能! ウツドンの勝ち!」

「戻れクサイハナ……良くやった、ゆっくり休んでくれ」

 

 クサイハナのモンスターボールをベルトのホルダーに戻して、次のモンスターボールに手を伸ばす。

 ウツドンは現時点でノーダメージ、しかも“にほんばれ”があるという事は“ソーラービーム”もノータイムで撃てるという状況にあるから、出すポケモンは慎重に選ばなければならない。

 

「……よし! 行け、ギャラドス!!」

「ギャオァアアア!!!」

 

 ソラタの2番手はギャラドスだ。水タイプではあるが、飛行タイプも持っているので、草タイプの技は等倍、しかもギャラドスは飛行タイプの技を持っているので、一方的に殴れる。

 

「ウツドン対ギャラドス、バトル開始!」

「まずはこれで、“あまごい”!!」

 

 フィールドの日差しが弱くなり、逆に今度はジムの天井に雨雲が発生、大雨が振り始めた。

 

「“ぼうふう”!!」

「っ! ウツドン、“まもる”ですわ!」

 

 命中率の低い“ぼうふう”も、“あまごい”で雨を降らせている状況では必中技となる。しかもウツドンにとって弱点となる飛行タイプの技なので、エリカは慌ててウツドンに“まもる”を指示した。

 だが、“まもる”でノーダメージになったからと言って、ウツドンが宙に投げ出されるのは防ぎようが無い。

 

「ギャラドス、“こおりのキバ”!!」

「ウツドン!!」

 

 宙に投げ出されたウツドンに回避する術は無い。“まもる”の効果が切れたウツドンにギャラドスの冷気を纏った牙が突き立てられ、あまごいで濡れていたウツドンはそのまま全身を凍り付かせてしまった。

 

「トドメの“アクアテール”!!」

 

 最後に、氷に覆われたウツドンを“アクアテール”で地面へ叩き落とすと、氷が割れて中から目を回したウツドンが出てきた。

 

「ウツドン、戦闘不能! ギャラドスの勝ち!!」

 

 これで2勝、残るポケモンもギャラドスで十分勝てる相手である事は間違い無い。

 しかし、エリカもジムリーダーとして簡単に負けるつもりは無いのか、次のポケモンに自信を滲ませる目をしていた。

 

「最後ですわ……参りますわよ“リーフィア”!」

 

 そして、エリカ最後のポケモンとして出てきたのは、ソラタが予想していたクサイハナでもラフレシアでもキレイハナでもない。

 まさかのイーブイの進化系であるリーフィアの登場に、ソラタの驚きは相当なものだ。

 

「本来でしたら、クサイハナを出す所でしたが……ソラタさんの実力が予想以上だったので、少しだけレベルを上げたバトルをする為にこの子を選びましたわ」

「……上等!」

 

 そうでなくては面白くない。

 予想していたポケモンとは違うが、それでもギャラドス有利に違いは無い。ソラタはギャラドスに目を向けると、ギャラドスも振り返って力強く頷いた。

 

「それでは、リーフィア対ギャラドス……バトル開始!!」

「リーフィア、“つるぎのまい”ですわ!」

「一気に行くぞ! ギャラドス、“ぼうふう”!!」

 

 タマムシジム最後のバトル、ソラタの予想とは大きく外れたポケモンの登場に、試合は大きく動き出す。

 勝つのはソラタか、エリカか、次回に続く。




次回はエリカ戦決着です。


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第21話 「全力の炎、翼を広げて」

お待たせしました。
転職先は人間関係にも恵まれた良い職場でしたよ。
これなら楽しく仕事できそうです。


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転生したのは始めに旅立った子供

 

第21話

「全力の炎、翼を広げて」

 

 

 ポケモンリーグに出場する為、旅をしていたソラタは、4つ目のバッジをゲットする為、タマムシジムに挑戦していた。

 ジムリーダーのエリカとの戦いは先鋒のナゾノクサがモンジャラを破り、クサイハナに進化して勢いに乗るものの、エリカの2番手であるウツドンに敗北。

 しかし、続くソラタの2番手であるギャラドスの“あまごい”“ぼうふう”のコンボによりウツドンを翻弄、見事に撃破した。

 そして、エリカの最後のポケモンはソラタの予想していたクサイハナではなく、まさかのイーブイの進化系であるリーフィアだったのだ。

 

「リーフィア! “つるぎのまい”ですわ!!」

「させるか! “ぼうふう”!!」

 

 再び、ジム内をギャラドスの“ぼうふう”による強烈な風が襲う。そして暴風雨の中、リーフィアはまるで動じないかのように“つるぎのまい”を舞って攻撃力を上げていた。

 

「なんだと!?」

「お生憎様ですわ。私のリーフィアは、日頃から日舞に付き合って踊る程、このような暴風雨など物ともしませんわ」

「なら、“こおりのキバ”だ!」

 

 ギャラドスの牙が冷気を纏い、その巨体に似合わぬ素早さでリーフィアに突っ込む。

 

「“かげぶんしん”ですわ」

「っ!?」

 

 だが、ギャラドスの牙はリーフィアの“かげぶんしん”による分身を貫くだけに終わり、決定的な隙を生み出してしまった。

 

「“リーフブレード”!!」

「リー……フィア!!」

「ギュアアア!?」

「ギャラドス!!」

 

 “つるぎのまい”で威力の上がった“リーフブレード”がまともに入ってしまった。飛行タイプを持つギャラドスに草タイプの技は等倍ダメージとは言え、これは痛い。

 

「続けて行きますわ! “ギガインパクト”!!」

 

 至近距離からトドメの“ギガインパクト”がギャラドスに直撃、吹き飛ばされたギャラドスはそのまま目を回して倒れてしまった。

 

「ギャラドス、戦闘不能! リーフィアの勝ち!」

「……戻れ、ギャラドス。ご苦労だった、ゆっくり休んでくれ」

 

 ギャラドスが倒れた今、ソラタの残りは1匹、タマムシジムを攻略するには、次のポケモンに全てを託すしか無い。

 

「最後だ……頼むぞリザード!!」

「リッザアアアア!!!」

 

 ソラタの3番手はセオリー通りにリザードだ。ソラタにとってニンフィアに次ぐ信頼を寄せる相棒。

 ソラタにとってニンフィアがパートナーなら、リザードは信頼出来る相棒と言える存在なのだ。

 

「リザードですか、成程……」

「では、リーフィア対リザード……試合開始!!」

「先手必勝だ! リザード、“かえんほうしゃ”!!」

 

 リザードの“かえんほうしゃ”がリーフィアに襲い掛かった。

 

「“かげぶんしん”!!」

 

 だが、リーフィアの“かげぶんしん”によって分身だけが燃やされ、回避したリーフィアは無傷だ。

 

「お次はこちらの番ですわ! “リーフブレード”!!」

「受け止めろ! “ドラゴンクロー”!!」

 

 リーフィアの“リーフブレード”をリザードがドラゴンのオーラによって緑色に輝く爪で受け止める。

 そして、両手でリーフィアの頭の葉を掴んだリザードは決定的なチャンスを得た。リーフィアは全く動けなくなったのだから。

 

「“かえんほうしゃ”!!」

「“ギガインパクト”ですわ!!」

 

 至近距離からの“かえんほうしゃ”と“ギガインパクト”、お互いに吹き飛ばされるも、空中で態勢を整えて着地した2匹は直ぐに動いた。

 

「リーフィア、“つるぎのまい”ですわ!」

「させるな! “りゅうのはどう”!!」

 

 リザードから放たれた“りゅうのはどう”は“つるぎのまい”を舞うリーフィアに襲い掛かるが、リーフィアは舞いながら華麗に回避、更には舞いながらリザードに接近してくる。

 

「“リーフブレード”!!」

「迎え撃て! “フレアドライブ”!!」

 

 “つるぎのまい”で更に攻撃力を上げたリーフィアの“リーフブレード”は、しかしリザードの“フレアドライブ”に押し負け、そのままリーフィアにクリーンヒットした。

 

「畳み掛けろ! “かえんほうしゃ”!!」

 

 吹き飛ぶリーフィアに追い打ちを掛けるように“かえんほうしゃ”が決まり、エリカの足元まで転がってきたリーフィアだったが、まだまだ戦えるとばかりにふらつきながらも起き上がる。

 

「やれますのね?」

「フィ」

「では、“かげぶんしん”からの“つるぎのまい”ですわ!」

 

 エリカが行った指示は実に面倒なものだった。“かげぶんしん”を使用して、そのうえで“つるぎのまい”による更なる攻撃力上昇、これに加え……。

 

「参りますわ! “ギガインパクト”!!」

「“かえんほうしゃ”!!」

 

 

 3回“つるぎのまい”を積んで放たれる“ギガインパクト”は危険だ。ソラタもリザードに“かえんほうしゃ”を指示して迎え撃つ。

 しかし、“かえんほうしゃ”は多数の分身を焼き払うだけで、リーフィア本体には届かない。

 

「フィイア!」

「ザーーーッ!?」

 

 強力なギガインパクトがリザードを直撃、ボロボロになりながらフィールド上を転がったリザードは何とか立ち上がったものの、ダメージは相当蓄積されている。

 

「リザード……」

「リザッ」

「……そうか」

 

 行ける。リザードの目はそう言っていた。ならばリザードを信じるのがトレーナーたるソラタの役目だ。

 

「これが最後の攻撃だ!! リザード、全力で“フレアドライブ”!!!」

「リィ……ザァアアアアア!!!!!」

 

 “もうか”が発動、青白い炎に包まれたリザードは、そのままリーフィアに突っ込む。

 

「迎え撃ちますわ!! “ギガインパクト”!!」

「フィイイイアァアアア!!!」

 

 リザードの“フレアドライブ”とリーフィアの“ギガインパクト”がフィールド中央でぶつかる。

 だが、体力が残り少ない中で反動のある“フレアドライブ”を使ったリザードは、もう体力の限界なのか足に力が入らず、そのまま押し負けそうになった

 

「負けるなリザード!! もう少しだ!!」

「っ!!」

 

 諦めそうになったその時、ソラタの声に反応したリザードは足にグッと力を込めてリーフィアを睨みつけると、更に炎の勢いが増した。

 

「ザァアアアアアド!!!」

 

 そして……炎の中でリザードの体が光に包まれる。

 

「まさか!?」

「リザード……お前」

 

 身体が更に大きくなり、背中からも大きな翼が生え、赤かった体色はオレンジ色へと変わる。

 

「グルゥアアアアア!!!」

 

 一際大きな咆哮と共に光が消え、炎に包まれながら新たな姿を見せたリザード……否、リザードンはジムの天井まで飛翔、ぶつかる相手が居なくなってバランスを崩したリーフィアの真上から“フレアドライブ”を維持したまま突っ込んだ。

 

「いっけえええ!!! リザードン!!!」

 

 リーフィアの真上から“フレアドライブ”が直撃、2匹の姿は煙に包まれてしまった。

 

「リーフィア!!」

「リザードン!!」

 

 やがて、煙が晴れると、フィールドには目を回して倒れるリーフィアと、翼を広げて威風堂々と立ち続けるリザードンの姿があった。

 

「リーフィア、戦闘不能! リザードンの勝ち! よって勝者、チャレンジャー・マサラタウンのソラタ!!」

「……よっしゃああ!!! リザードン! 勝ったぁああ!!」

「グルッ」

 

 走り出してリザードンに抱きつくと、リザードンも嬉しそうに鳴いて笑顔を見せてくれた。

 

「戻りなさい、リーフィア……ありがとうございます、大変素晴らしい戦いでしたわ」

 

 リーフィアをモンスターボールに戻したエリカは、リザードンに抱きついて喜びを見せるソラタに近づきながら懐から目的の物を取り出す。

 

「負けましたわソラタさん、完敗です」

「ありがとうございます!」

「あなたの戦術、ポケモンの実力、そして何よりポケモン達との絆、全て見事なものでした。ですので、これをお渡しする資格は十分ですわ」

 

 そう言ってエリカが差し出した手に乗せられているのは、タマムシジム勝利の証、レインボーバッジだった。

 

「受け取ってください、レインボーバッジですわ」

「はい」

 

 差し出されたレインボーバッジを受け取り、ポケットから出したバッジケースに納める。グレーバッジ、ブルーバッジ、オレンジバッジに続き、レインボーバッジが並ぶ光景は、実に喜ばしいものだ。

 

「これで4つですか……リーグ参加資格を得るまで、残り半分ですわね」

「ええ、次はヤマブキシティのヤマブキジムにチャレンジするつもりです」

「そうですの……では、次のジムも頑張ってくださいな」

「はい!」

 

 こうして、4つ目のバッジをゲットしたソラタは、タマムシジムを後にする。次に目指すは5つ目のジムがあるヤマブキシティだ。

 そして……ソラタはまだ気付いていない。リュックの中に入れられたままのタマゴが、淡い光を放っている事を。




次回はソラタの手持ちが増えるのと、進化の石を使います。
ソラタが現時点で持ってる進化の石、何かはわかりますよね?


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第22話 「綺麗な花と小さなドラゴン」

お待たせしました。
最近は仕事が忙しく、帰ってきて飯食って風呂入って寝る生活が続いているから、中々執筆時間が取れませんねぇ。


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転生したのは始めに旅立った子供

 

第22話

「綺麗な花と小さなドラゴン」

 

 

 ポケモンリーグに参加する為、旅を続けるソラタは、タマムシジムのジムリーダー・エリカに見事勝利してレインボーバッジをゲット。

 次のジムがあるヤマブキシティを目指すソラタは現在、タマムシジム戦で進化したリザードンの背中に乗り空の旅をしていた。

 

「どうだリザードン、大分俺を乗せて飛ぶのに慣れたか?」

「グルゥ!」

「そっか、やっぱお前は凄い奴だよ」

 

 何故、ソラタがリザードンに乗って飛んでいるのかというと、ソラタの記憶にある誰かが言った『リザードン使いならリザードンを乗りこなしてこそ』という言葉を思い出して、タマムシシティを出て直ぐに実践したのだ。

 最初こそ、進化したばかりで飛行に慣れていなかったリザードンはソラタを乗せて飛ぶのに苦労していたが、暫く練習を続ける内に慣れてきたのか、速度こそまだまだ遅いものの、何とかソラタを乗せて飛べるようになった。

 

「リザードン、今日は昼まで飛んで、それからクサイハナを進化させるぞ」

「グル?」

「クサイハナだよ、“たいようのいし”もあるから進化させられるんだ」

 

 リザードンに恋するクサイハナが、もう一段階進化する。きっとリザードンも気に入ってくれる気がするので、クサイハナの進化にはリザードンも立ち会わせたいのだ。

 クサイハナもリザードンも、きっと進化した姿を気に入ってくれる筈だと確信している。

 

「クサイハナは進化したら凄いぞ? リーフのいしを使うとラフレシアに進化するんだけど、たいようのいしを使った進化はまた別のポケモンでな」

「グルゥ」

「ん? ああ、楽しみにしておくって? なら昼までは頼むぞ」

「グルッ!」

 

 昼になったら自身を慕ってくれているクサイハナの進化が見られると楽しみにしているのか、この後の飛行は随分ハイテンションのリザードンであった。

 

 昼になり、リザードンに乗っての移動も一休みとなった。早速だがソラタは手持ちのポケモン全員を出してバッグからニビシティで購入した“たいようのいし”を取り出す。

 

「クサイハナ、今日はお前を更に進化させる」

「ハナ?」

「この“たいようのいし”を使えば、お前は更に進化出来るんだ」

「ハナハナ! クッサー!!」

 

 自分が更に強くなれるのだと理解したのか、クサイハナはソラタの手にある“たいようのいし”を見つめてテンションを上げる。

 その様子を、周りで見ているリザードン、ギャラドス、ピカチュウ、ニンフィアが微笑ましそうに見つめていた。

 

「じゃあ、早速行くぞ?」

「ハナ!」

 

 心の準備は出来ていると、クサイハナが起立をしたので、苦笑しながらソラタは手に持つ“たいようのいし”をクサイハナの額に当てた。

 すると、クサイハナの身体が光りだして“たいようのいし”が吸い込まれるように消えると、クサイハナは少し小さくなり、そのフォルムを大きく変える。

 そして光が消えると、そこには……。

 

「ハナ!!」

 

 クサイハナの進化系、フラワーポケモンのキレイハナが可愛らしい笑顔で立っていた。

 

「よし! キレイハナに進化した!!」

 

 キレイハナもピカチュウがソラタのバッグから取り出した鏡で自身の姿を見て、気に入ったのか踊りだした。

 キレイハナと言えば踊り、見事な踊りだ。ただ、その踊りが技として発動しているのだから、驚きだろう。

 

「え、まさか……“ちょうのまい”か!?」

 

 “はなびらのまい”なら花びらが舞うはず。それが無いという事は、キレイハナが自然に覚える舞いは“ちょうのまい”だけだ。

 

「凄いじゃないかキレイハナ! “ちょうのまい”を覚えたんだな!」

「ハナハナ!」

 

 更には進化した事で自然に“はなふぶき”も覚えたはず。これは即戦力級の進化と言って良いだろう。

 

「ピカ? ピッ!?」

 

 キレイハナが新しい技を覚えた事に喜んでいると、何やらピカチュウの驚きの声が聞こえてきた。

 何事かとピカチュウの方を振り向くと、ピカチュウが先ほど出した鏡をバッグに仕舞おうとしてバッグの中が光っている事に驚いている姿が。

 

「どうした?」

「ピ、ピカ……」

 

 ピカチュウが光っているバッグの中を指さすので、中を覗いてみれば……プラターヌ博士に貰ったタマゴが光っているではないか。

 

「嘘だろ!?」

 

 慌ててタマゴをバッグから取り出すと、タマゴは更に光が強くなり、続いて頂点に罅が入る。

 

「生まれる……!」

 

 遂にタマゴが割れて光となって消えると、そこには生まれたばかりの小さなドラゴンの姿があった。

 以前戦ったシロナの切り札、ガブリアスへといずれ進化する事になるポケモン、フカマルだ。

 

「フカマル……!」

「カフ!」

 

 とうとう、フカマルが手に入った。これで、ソラタが想定していたベストパーティが完成したのだ。

 

「フカマル!」

「カフカフ!」

 

 プラターヌ博士のガブリアスとシロナのガブリアスの子供となるソラタのフカマルは、きっと将来強いガブリアスになるだろう。

 フカマルの誕生を、ソラタは勿論だが、リザードン、ギャラドス、ピカチュウ、ニンフィア、キレイハナも喜んでくれて、フカマルも自分が生まれた事をこれほど喜んでくれる仲間に気を良くしたのか笑顔を見せてくれた。

 

「みんな」

 

 フカマルを地面に置いたソラタは、改めて自身のポケモン達を見渡す。

 翼を広げて威風堂々と立つリザードン、ソラタを絶対の信頼で見つめ返すニンフィア、いつの間にソラタのバッグから取り出したのかポケモンフーズをカリカリしていたピカチュウ、そんなピカチュウに呆れつつ分け前を貰っていたギャラドス、自身の進化とフカマルの誕生に喜びの舞いを踊るキレイハナ、最後に鼻提灯を作って寝そうになっていたフカマル。

 これが、この個性豊かなメンバーが、ソラタのベストパーティだ。

 

「これで俺がリーグ参加に想定していたベストパーティが完成した。残すはフカマルの進化とジムバッジ4つ、必ず達成してリーグに出場するんだ」

「グル!」

「フィア!」

「ピカ!」

「ギャオ!」

「ハナ!」

「カフ!」

「そして目指すはポケモンリーグ優勝と、その先のチャンピオンリーグ優勝、四天王攻略とチャンピオンに勝利して、チャンピオンになる事だ」

 

 母から受け継いだ夢、チャンピオンの椅子に座るまでの道のりはまだまだ長く険しい。だが間違いなく一歩ずつ近づいている手応えは感じている。

 

「リザードン、お前はウチのエースだ。パーティのリーダー、絶対の切り札となるんだから、頼むな」

「グルッ!」

 

 オーキド研究所で貰ったヒトカゲも、随分と逞しく、頼もしくなった。今やリザードンへと進化を果たし、立派にパーティのエースへと成長した。

 

「ニンフィア、お前は相棒だから実力は絶対の信頼がある。これからもリザードンと一緒にパーティを引っ張ってくれ」

「フィア!」

 

 兄妹のように育ったニンフィアはソラタが絶対の信頼を寄せる相棒、リザードンと並ぶパーティの二大柱の一角だ。

 

「ピカチュウ、今はお前を進化させてやれなくてすまない……だけど、お前の小回りの良さと素早さ、器用さは必ずバトルに役立つ。進化するまで大変だとは思うけど、頑張ってくれ」

「ピ~カ!」

 

 ソラタの予定では、ピカチュウをライチュウに進化させるのはアローラに行った時だ。それまでは進化させる予定は無いので、ピカチュウのままリーグに挑戦する事になるだろうが、野生の頃から既に“アイアンテール”と“あなをほる”を覚えていたほど、バトルセンスと才能がある彼女は、そのままでも十分通用すると見ている。

 

「ギャラドス、お前はウチのアタッカーだ。切り込み隊長は任せたぞ」

「ギャオ!!」

 

 コイキングの時から“ハイドロポンプ”を覚えていたガラル産のギャラドスは、火力は申し分無く、パーティの切り込み隊長に相応しい実力がある。

 

「キレイハナ、もうお前は弱いポケモンなんかじゃない。お前を捨てた前のトレーナーがお前を捨てた事を後悔するくらいの活躍を期待してるぞ」

「ハナ!」

 

 ナゾノクサの頃に弱いからという理由で捨てられたキレイハナも、今では一線級の実力に育ったと言えるだろう。

 もう、あの頃のナゾノクサは居ない。今ここに居るのはリーグ参加の為に着実に実力を伸ばし続けるキレイハナなのだ。

 

「フカマル、まだ生まれたばかりだけど、お前は俺が絶対にパーティに入れると決めていたポケモンだ。ガブリアスに進化するまで、先は長いけど頑張ろうな」

「カフ? カフカフ!」

 

 生まれたばかりのフカマルは、現状でパーティ最弱だろう。だけど、将来は必ずパーティを支える事が出来る存在になる筈だ。

 

「よし、それじゃあ次のジム目指して先ずは……飯にするか」

 

 ピカチュウが先ほどから空腹を訴えかけてくるので、苦笑しつつソラタが昼食の準備に入ると、ポケモン達も手伝ってくれた。

 とりあえず、ポケモンフーズを盗み食いしてくれたピカチュウとギャラドスの食事は、減らすのは決定だった。




次回はヤマブキシティ前に一波乱、Rのマークにご注意を。


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第23話 「ドガース使いのラムダ」

大変お待たせしました。
実は風邪でダウンしてるんですが、大分回復してきたので、何とか更新します。
そしてまた寝ます。


ポケットモンスター

転生したのは始めに旅立った子供

 

第23話

「ドガース使いのラムダ」

 

 

 ポケモンリーグに出場するため、5つ目のジムがあるヤマブキシティを目指して旅を続けるソラタ。

 リーグに参加する為のベストメンバーも揃って順調な旅が出来ていると、最近は機嫌良く楽しい旅をしていた。

 そんなソラタが次に立ち寄ったのはヤマブキシティに向かう途中にある大きな街“フチュウシティ”。

 ヤマブキシティやタマムシシティ程の栄えた街ではないが、カントーではそれなりの規模を持つ街で、ジュンサーさんの学校があるという街でもある。

 

「いいキズぐすり、なんでもなおし、ポケモンフーズ、レトルト食品に予備のモンスターボール、大体買う物は揃ったか」

「フィア!」

 

 購入品リストにチェックを入れつつ、バッグに入れた購入品を見て、間違いなく必要な物は買い揃えた事を確認する。

 このフチュウシティを出れば、次のヤマブキシティまで大きな買い物が出来る街は無いので、ここで買い忘れをする訳にはいかない。

 

「ヤマブキシティまでは普通に行けば後1~2日くらいって話だから、食料も持つよな」

「フィア」

「ヤマブキジムでは頼むなニンフィア、あそこはエスパータイプのジムだから、“シャドーボール”が使えるお前はメンバー確定なんだから」

「フィア!」

 

 ヤマブキジムは一番読めないジムなのだ。使用ポケモンが1体のみなのか、それとも3体前後になるのか。

 前世のアニメでは1体のみ、ゲームでは3体だったり4体だったりと、普通に考えれば前者だろうが、クチバジムの事を考えれば微妙な所。

 一応、どちらでも可能なようにジム戦に参加させるメンバーは構築済み。その時に合わせて臨機応変に対応出来るようにはしている。

 

「フィ? フィア、フィ~ア?」

「ん? ああ、お前以外だと誰なのかって?」

「フィア」

「ニンフィア以外だと、候補はギャラドスとキレイハナ、それからフカマルだな」

 

 ギャラドスは悪タイプの“かみくだく”が使えるし、キレイハナは虫タイプの“まとわりつく”が使える。更に、フカマルには生まれて直ぐに“シャドークロー”を覚えさせたから、一応は候補に入っているのだ。

 もっとも、フカマルは公式戦に出すにはまだ不安が残るので、ヤマブキシティに到着するまでにどれだけ育つかで出す出さないを決める必要がある。

 

「他にもバリヤードが出た場合はピカチュウの“かわらわり”も候補に入っている」

 

 “バリアー”や“リフレクター”、“ひかりのかべ”の対策もしてあるので、ヤマブキジムでは様々なパターンを構築して挑む予定だ。

 

「そういえば、俺が行く時はサトシの奴が挑戦した後なんだろうか……?」

 

 ヤマブキジムと言えば、前世のアニメではサトシが攻略するまでジムリーダーのナツメは心を閉ざした少女で、人形が代わりに喋るという状況にあった。

 更にチャレンジャーを人形に変えてしまうという恐ろしい存在で、サトシとゴーストが勝利した事でナツメに笑顔が取り戻されたというストーリーだった気がする。

 

「って、そういえばサトシが挑戦する前の状態のナツメ相手にしてシズホは大丈夫なのか?」

 

 一瞬、シズホが勝っても負けても人形にされる未来を想像してしまったが、考えてみればシズホにはエスパータイプのエーフィがいる。

 万が一の時はエーフィの力で何とでもなるだろうと、ソラタの希望が多分に含みながら強引に納得した。

 

「さてと、じゃあ買い物も終わったし、そろそろ出発しようか」

「フィア!」

 

 まだ昼前だが、今から出発すれば次の街には夕方くらいで辿り着ける筈。

 予定通りに旅を進める為、早々にニンフィアをモンスターボールに戻すと、荷物の最終確認を終えて、ソラタはフチュウシティを発った。

 目指すはフチュウシティとヤマブキシティの間にあるチョウフシティ。そこのポケモンセンターで一泊して、翌日の朝に出発すれば夜か野宿で一泊したくらいでヤマブキシティに到着出来る筈だ。

 とは言っても、途中でフカマルの育成もしたいので、もしかしたらもう少し掛かるかもしれないとは思っているが。

 因みにリザードンに乗って空を移動するつもりは無い。前はリザードンの飛行訓練もあったので空の旅をしたのだ。

 これは、あくまでソラタの持論だが、歩いて旅をする事、それ自体にトレーナーとして一流になるのに必要な要素があるのだと思っている。

 

「さてと、ヤマブキシティまでにフカマルをガバイトに進化させるのは……無理だろうけど、出来ればセキチクシティに着くまでには進化させたいなぁ。リーグ出場までにガブリアスに進化出来るかは……微妙なところか」

 

 下手したらグレンタウンに着くまでガバイトに進化出来ないかもしれないなと思いながら今後のフカマルの育成プランを練っていたソラタだったが、ふと前方に立つ人影に気付いて足を止めた。

 

「……」

 

 黒い服に赤いRの文字、見間違える筈が無い。ロケット団の制服であり、そしてRの文字の周りにある金のラインと子悪党じみたあの顔、紫色の特徴がある短髪、ソラタの記憶が確かなら……。

 

「お前がアテナの言っていたガキだな」

「ロケット団幹部、ラムダか」

「お? 俺を知っているとは、随分と俺も有名になったじゃねぇか」

 

 そう、この男こそロケット団の幹部が一人、ラムダだ。

 

「ロケット団の幹部が何の用だ?」

「なぁに、テメェには栄えあるロケット団への勧誘に来てやったのさ。アポロの奴が見所があるってんで、態々来てやったのよ」

「……はぁ」

 

 

 呆れて物も言えない。アテナが脱獄したという話はニュースで知っていたが、彼女から聞いていないのだろうか。

 ソラタはロケット団に入る気は無いし、そもそもロケット団を毛嫌いしているという事を。

 

「失せろ落伍者、お前らみたいな薄汚い犯罪者風情の仲間入りなんて死んでも御免だ」

「……ケッ、やっぱアテナの言ってた通りかよ。なら、アポロからも断ったなら殺せって言われてるんでな、悪く思うなよ!!」

 

 成程、最初から勧誘は建前で、本当の目的は邪魔者と判断したソラタの抹殺だったらしい。

 ラムダはモンスターボールを取り出して構えると、頭上へと放り投げた。

 

「行けゴルバット!!」

「キャッキャッ!!」

 

 ラムダが出したポケモンはズバットの進化系、ゴルバットだった。毒・飛行タイプを持つコウモリポケモン、素早さが中々に高い厄介な相手だ。

 

「テメェの手持ちはアテナから聞いてるぜ? リザードにイーブイ、ピカチュウとギャラドス。その程度なら俺様の相手にもならねぇぜ!」

「そうか、随分と古い情報だ……行け、リザードン!!」

 

 相手が空を飛ぶポケモンなら、こちらも同じ空を飛べるポケモンで挑むまで。どうやらラムダはリザードを予想していたようだが、情報が古すぎる。

 

「なっ!? リザードンに進化させてたのか!?」

「俺がアテナと戦ってからどれだけ経ってると思ってるんだよ、とっくに進化させているっての」

 

 事前情報とは違う事態にラムダは若干怯んだようだが、大の大人が子供相手に怯んだ事実を認めたくないのか、頭を振ってソラタとリザードンを睨みつける。

 

「進化したからって、ガキが大人に勝てると思うな! ゴルバット!! “つばさでうつ”攻撃!!」

「迎え撃て! “かみなりパンチ”!!」

 

 ゴルバットの“つばさでうつ”にリザードンは“かみなりパンチ”で迎撃する。ゴルバットの翼に雷を纏ったリザードンの拳が叩き付けられると、相性の問題で負けたゴルバットの全身に電流が流れた。

 

「ゴルバット!?」

「畳み掛けろ、“かえんほうしゃ”!!」

 

 空中で身体に流れる電気に麻痺していたゴルバットを、“かえんほうしゃ”が飲み込んだ。

 炎が消えた後、黒焦げになったゴルバットが空中で目を回して、そのまま力無く落下、地面に倒れると、ラムダはモンスターボールにゴルバットを戻す。

 

「や、やるじゃねぇか……なら次はコイツだ! 行けラッタ!!」

 

 続けてラムダが出したポケモンはコラッタの進化系、ラッタだ。コラッタより身体も前歯も大きくなった事で、噛み付く力と威力が大幅に上がり、一度噛みつかれれば巨大な前歯が肉を抉り取る程だ。

 

「ふむ」

 

 少しだけ考えて、ソラタはリザードンをボールに戻して、別のボールを手に取ると、前方に投げた。

 

「初陣だ! フカマル!!」

「カフカフカ!」

 

 ソラタの2番手は先日生まれたばかりのフカマルだった。ヤマブキジム及び、その後のセキチクジムに備えて育成中だが、まだまだジム戦が出来るレベルまで育っていない。

 その為、ソラタはラムダをフカマルを育成する為の練習台にする事にしたのだ。

 

「へぇ、珍しいポケモンじゃないか? 折角だからテメェぶっ殺して貰ってやるよ! ラッタ! “いかりのまえば”だ!」

「引き付けろ」

 

 ラッタの前歯が光り、突っ込んで来る。それに対してフカマルにラッタを引き付けるよう指示して、丁度良い距離までラッタが接近したのを見計らうと……。

 

「“りゅうのいぶき”!」

「カ~フ~!!」

 

 十分引き付けた上で至近距離からの“りゅうのいぶき”は、流石のラッタも回避出来なかったのか、直撃を受けて吹き飛ばされてしまう。

 

「ラッタ怯むな! “でんこうせっか”!」

「ラタ!!」

「させない! フカマル、“じならし”だ!」

 

 ラッタが高速で駆け出すのと同時にフカマルが地面を大きく踏みつけると、“じしん”には及ばないレベルだが、確かに地面が揺れた。

 そのおかげでラッタは足元が覚束なくなり、大きく失速してしまう。

 

「もう一度“りゅうのいぶき”!」

 

 再度放たれた“りゅうのいぶき”がラッタに直撃、今度こそラッタは目を回しながらラムダの足元まで吹き飛ばされてしまった。

 

「チッ、戻れラッタ」

 

 舌打ちをしてラッタをボールに戻したラムダは、同じくフカマルをボールに戻すソラタを睨みつけながら、そっと自身のエースポケモンの入っているモンスターボールに手を伸ばす。

 

「これで勝ったつもりなら、早計だぜ? コイツは俺のエースだ! テメェみてぇなガキが勝てるポケモンじゃねぇ!! 出てこいマタドガス!!」

「「マータドガー」」

 

 やはり出てきた。ラムダの代名詞、ドガース使いの名を持つラムダのエースは、やはりドガースの進化系、マタドガスだった。

 それを見て、ソラタも3体目のポケモンが入ったモンスターボールを投げる。

 

「行け、キレイハナ!!」

 

 ラムダの切り札であろうマタドガスの相手としてソラタが選択したのはキレイハナだった。

 先日進化したばかりだが、進化してから更に鍛え上げているだけあって、実力は十分信用に値すると判断しての選択だ。

 

「あん? キレイハナだぁ? 流石はガキだな! ポケモンのタイプ相性をちゃんと理解してねぇのかよ? キレイハナは草単タイプ、毒タイプのマタドガスとの相性は最悪なんだぜ?」

「知ってるさ……だからこそだよ」

「ああ?」

「理解出来ないか? 手加減してやってるんだよ」

「……上等だガキ、その舐め腐った態度、死んで後悔するんじゃねぇぞ!! マタドガス、“ヘドロばくだん”!!」

 

 マタドガスがヘドロを吐き出して爆弾となったソレがキレイハナに襲い掛かった。だが、キレイハナへと進化してから更に実力を付けた彼女にとって、それはあまりにも遅すぎる。

 

「かわせキレイハナ、“ちょうのまい”!」

「ハナッ! ハナッ! ハナッ!」

 

 回避しながら“ちょうのまい”を舞うキレイハナは正しく踊り子、美しく舞う姿は花の妖精の如き可憐さを魅せている。

 実はこの戦術、タマムシジムのジムリーダー、エリカとリーフィアがやっていた“つるぎのまい”をヒントに同じような戦術が使えないかと考案してソラタとキレイハナが猛特訓した事で可能となった技術だ。

 まだ粗さは残っているが、この程度の相手であれば問題なく通用する。

 

「クソッ! ちょこまかと……! マタドガス! “どくガス”攻撃だ!」

「やらせるな! “リーフストーム”で吹き飛ばせ!!」

 

 “ちょうのまい”で踊りながら“リーフストーム”を発動、マタドガスが吐き出した“どくガス”を綺麗さっぱり吹き飛ばすと、そのままマタドガスに“リーフストーム”が直撃する。

 効果はいまひとつだが“ちょうのまい”で特攻が上がった状態で放たれる“リーフストーム”はマタドガスに確かなダメージを与えた。

 

「マタドガス!?」

「たたみかけろ! “いあいぎり”!!」

 

 吹き飛ばされて地面に叩き付けられたマタドガスに、キレイハナが素早く接近、手に白いエネルギーの刃が形成され、それを振り抜いてマタドガスへと斬り付けた。

 

「マ、マァタドガァ」

「ま、マタドガス! 何やってるんだよお前は!! こうなったら……!!」

「無駄だ!」

 

 マタドガスの切り札など限られている。この追い詰められた状況で使う技など、“じばく”か“だいばくはつ”だろう。

 だが、そんな大技を使わせる暇なんて与える程、ソラタは優しくない。

 

「“だいばくはつ”だ!!」

「“みがわり”!!」

 

 マタドガスが光ったと思った瞬間、キレイハナの姿が身代わり人形へと代わり、数瞬後に大爆発が起きた。

 身代わり人形は一瞬でボロボロになり、爆風が納まるとキレイハナが地面から出て来て人形が消える。

 そして、ラムダとマタドガスの姿は爆発の煙が消えた後はどこにも見当たらなかった。

 

「逃げたか」

 

 勝てないと悟ってマタドガスの“だいばくはつ”による目くらましをして、その隙にマタドガスをボールに戻して逃げたのだろう。

 成程、ドガース使いの名を持つだけあって、マタドガスの使い方というか、応用が上手いらしい。

 

「しかし、まさかロケット団幹部から抹殺対象にされたとはな」

「ハナ……」

 

 足元に来たキレイハナが心配そうな表情でソラタを見上げ、小さな手でソラタのズボンの裾を握る。

 ソラタもそんなキレイハナの頭を撫でると、そっと抱き上げた。

 

「大丈夫だ。今のところラムダとアテナは相手にもならないし、ランスも同程度だろうさ……一番の問題はアポロが出てきたら、だな」

 

 ロケット団の幹部の中でもアポロは恐らく別格だろう。ボスであるサカキの右腕、サカキに最も近い男、サカキの信頼厚き信頼を受ける最高幹部の名は、伊達ではない筈だ。

 

「ホント、どうしてこうなったというか、なるべくしてなったのかねぇ?」

 

 カントー地方の旅にロケット団は付き物だと、今更ながらに思い出して溜息を零した。

 この分だと、ポケモンリーグ出場までにもう一波乱ありそうだなと、半ば確信に近い予想をしながら、テンションがダダ下がりしながらキレイハナを抱きしめて歩き出す。

 そんな自身のトレーナーのテンションを感じ取ったキレイハナは、抱き締められながらせめてソラタの心が癒されればと頭の花の香りをソラタへ向けるのだった。




次回はヤマブキシティ到着、の前にもう一つ挟みます。
そろそろこれアニポケだって事を忘れそうなので、主人公君に出て来て貰おうかと。


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第24話 「主人公サトシ」

アニメ主人公サ~トシ君の登場!


ポケットモンスター

転生したのは始めに旅立った子供

 

第24話

「主人公サトシ」

 

 

 ポケモンリーグに出場する為、旅を続けるソラタは、5つ目のジムがあるヤマブキシティを目指している最中だった。

 ヤマブキシティまでもう少しという所に居たソラタだが、途中でフカマルの育成をしていた為に大分遅れてしまっている。

 とは言え遅れた分の収穫はあった。フカマルを進化こそしていないものの、十分ジム戦に通用する程度には育てられたのだ。

 

「さて、ヤマブキシティまでもう少しだな」

 

 先ほどまでフカマルの修行をしていたソラタはフカマルとリザードン、ニンフィアの入ったボールを腰のベルトに戻しつつ、地面に置いていたリュックを背負うと、タウンマップを取り出した。

 

「少し修行に時間を使いすぎたな……ヤマブキシティまで今日明日中に着くのは難しいか?」

 

 ヤマブキシティまでの距離を計算しながら森の中を歩くソラタだったが、ふと近くから良い匂いがしてきた。

 そう言えばそろそろ昼時間だなと思いつつ空腹感を覚えたソラタは、自然と足が匂いのする方角へ向かっている。

 すると、少し開けた場所で昼食の用意をしている3人の少年少女の姿が見えて来た。

 

「……あれ?」

 

 しかも、その内の二人には見覚えがあった。特徴的なツンツン頭の少年と、細目が特徴の青年、この二人は……。

 

「サトシ!? タケシさん!?」

「え? ……ソラタ!?」

「おお! ホントだ、ソラタじゃないか!」

 

 間違いない。ソラタの幼馴染にして同期、ピカチュウをモンスターボールから出して連れている彼は、マサラタウンのサトシに、ニビジムのジムリーダータケシ。

 すると、もう一人の少女は……。

 

「誰?」

「ああカスミ! 紹介するよ、こいつはソラタ、俺の幼馴染で、同じマサラタウン出身の同期なんだ!」

「ソラタです。友人がお世話になっているようで」

「あ、えっと、ハナダジムのカスミよ。よろしくね」

 

 ハナダジムのカスミ。そう、彼女こそハナダジムのジムリーダーの一人、水タイプのスペシャリスト、カスミだった。

 

「ソラタ、こんな所で何してたんだ?」

「俺はヤマブキジムに備えてポケモン達の修行です……ってかタケシさん、ジムはどうしたんです?」

「ああ、ジムは親父が帰って来たから親父と弟に任せてサトシと一緒に旅をしてるんだ」

 

 何でも、タケシは夢だったポケモンブリーダーを目指してサトシと共に旅をする道を選んだ為、ジムリーダー資格こそ返上していないものの、ジムリーダーの座を降りたらしい。

 

「なぁなぁソラタ! ソラタはバッジ何個ゲットしたんだ? 俺は4つゲットしたんだぜ!」

「お! 奇遇だな、俺も4つ。ヤマブキジムで5つ目かな」

 

 サトシも次のタマムシジムで5つ目との事なので、ペースから言えばソラタの方が少し早いと言った所か。

 恐らく、スタートはソラタが一番だったが、現時点の一番はシゲルで、次点でソラタ、サトシなのだろう。

 

「そう言えばサトシはトワコに会ったか?」

「トワコに? 俺は会ってないけど、ソラタは会ったのか?」

「俺も会ってない。ちょっと前に会ったシゲルもトワコには会ってないそうだ」

 

 オーキド博士に以前、それとなくソラタ以外の同期の現状を電話で聞いた事があるが、トワコはいつの間にか誰よりも遅れてしまっているらしい。

 マサラタウンを出発したのは2番目だったのに、今ではサトシにも抜かれているのだとか。

 

「へぇ、俺っていつの間にかトワコの事、抜いてたんだ」

「らしいよ、あいつはクチバジム突破して以降はまだ4つ目で苦戦してるって聞いた」

 

 ソラタ、シゲル、サトシの共通の幼馴染にして最後の同期、トワコと呼ばれる少女はオーキド研究所でフシギダネを貰って2番目に旅立ったのだが、今では一番遅れている。

 クチバジムまでは問題なく突破出来ていたのだが、4つ目のジムにタマムシジムを選びソラタより先に挑戦したのだが敗北、今はセキチクシティ行ってセキチクジムで敗北したばかりとの事だ。

 

「でも意外だよな」

「何が?」

「トワコってソラタやシゲル程じゃなかったけど、俺よりスクールの成績良かっただろ? なのに俺より遅れてるってのがさ」

「あ~……もしかしてサトシ、知らないのか? あいつの成績、金で買ったものだぞ?」

「え!?」

 

 有名な話だ。トワコという少女の実家はマサラタウンという田舎ではオーキド家に次ぐ資産家の家だ。

 所謂金持ちの家のお嬢様で、スクールの成績も金で買収して得た成績だ。

 とは言ってもマサラタウンではトワコの実家より格上であるオーキド家出身の2位シゲルと、一般家庭だがシゲルの上を行っていた1位ソラタという金の力で持ってしても追い越せない壁が居たので、スクールの3位という成績に納まっていたのだが。

 

「まぁ、ここに居ない奴の話なんてしても仕方がないだろ。お前だってアイツの話、進んでしたい訳じゃないだろうし」

「ま、まあな」

 

 兎も角、サトシとタケシの好意でソラタも一緒に昼食をという話になった。

 ポケモン達は既に食事を済ませてあるからソラタの分だけ頼んで用意してもらい、サトシの隣に腰かけて4人で食事を摂る。

 

「それにしても、あなたがサクラ姉さんの言ってたギャラドス使いなのね」

「ああ、サクラさんね。ハナダジムで俺が戦ったジムリーダーだ」

「サクラ姉さん、アタシ達姉妹の中で一番強いのに、そんな姉さんを倒したって事はソラタ、凄く強いんだ」

「……それは、どうだろう? 確かに今のところジム戦では負け無しだけど、これまでの旅で勝てなかったことが無いわけじゃないし」

 

 実際、当たり前の話だがシロナに負けているし、同い年のシズホとは引き分けだった。これまでの旅のバトルでソラタは決して負け無しだった訳ではない。

 

「少なくとも俺より強い人なんて大勢いるし、同年代だと俺と同等の奴もいる。自分が強いなんて自惚れるつもりは無いよ」

 

 トレーナーとして自惚れてしまったが最後、それ以降の成長はあり得ない。ソラタ自身はそう思っているし、実際そういったトレーナーを父の仕事の関係で何人も見てきた。

 自惚れは人もポケモンも弱くする。チャンピオンを目指しているからこそ、絶対に自惚れてはならないと、戒めているのだ。

 

「へぇ~……サトシ、アンタに足りないのはこういう所なんじゃないの?」

「な、なんだよ?」

「アンタには謙虚さってものが無いって言ってんのよ。少しはソラタを見習った方が良いんじゃない?」

 

 カスミの言葉にサトシが反論しているが、正直サトシに勝ち目は無い。この頃のサトシは、どちらかと言うと生意気というか、何というか、年上に対しても敬語を使わない、謙虚さが無いなど色々と性格的に問題があったのだ。

 後々に改善されるとは言え、今はまだ旅立ったばかりの頃のサトシだ。礼儀が身につくのだって暫く先になるだろう。

 

「そうだ! ソラタ、バトルしようぜ!」

「……突然だな」

「昔からさ、俺はソラタにもシゲルにもトワコにも、勉強で勝てなかったけど、ポケモンバトルなら負けないって思ってたんだ」

「ふむ」

「だから俺とバトルだ」

「いや、説明になってないんだが……まぁ、一匹だけのバトルならな。俺もそろそろ先に進まないとだから、時間が無い」

「ああ!」

 

 ソラタがバトルを了承すると、サトシはさっさと食事を平らげて席を立った。呆れたバトル脳だなと思いつつ、ソラタも食事を終えると、タケシに礼を言って立ち上がり、サトシの所へ向かう。

 サトシとソラタが少し開けた場所で向かい合うと、中央の審判となる位置にタケシとカスミが立ち、タケシが審判を務める事になった。

 

「よしピカチュウ、君に決めた!」

「ピカッ!」

 

 案の定、サトシは一番の相棒であるピカチュウで来た。これに対してソラタが選んだのは……。

 

「行け、ピカチュウ!」

「ピカッ!」

 

 ソラタが投げたモンスターボールから出てきたのは、サトシの♂のピカチュウとは違う、♀のピカチュウだ。

 

「ピカチュウ!? ソラタもピカチュウをゲットしてたのか!」

「ああ、トキワの森でな。しかも、お前のピカチュウとは違って♀のピカチュウだ」

「え? 俺のピカチュウって♂なのか?」

「お前……オーキド博士から教わっただろ、ポケモンの性別について。ピカチュウの性別は尻尾で判別するって教科書に書いてなかったか?」

「え、え~っと……」

 

 覚えて無いらしい。

 

「タケシさん、とりあえずお願いします」

「わかった。これより、ソラタ対サトシのバトルを始める! 使用ポケモンは互いに1体のみ! どちらかのピカチュウが戦闘不能になった時点でバトルは終了だ! 良いな?」

「ああ!」

「ええ」

 

 サトシとソラタが頷いて、両者のピカチュウも戦意を高めたのを確認したタケシは腕を頭上へと上げて……。

 

「それじゃあ……バトル、開始!!」

 

 振り下ろした。

 

「先手必勝だピカチュウ! “10まんボルト”!!」

「迎え撃て! “10まんボルト”!!」

「「ピ~カッチュウウウウウ!!!」」

 

 ピカチュウ同士の“10まんボルト”がぶつかり、中央で爆発。煙が2匹を包むものの、直ぐに煙は晴れた。

 

「やるなソラタ、ピカチュウ! “でんこうせっか”だ!」

「ピカッ!」

 

 サトシのピカチュウが“でんこうせっか”の素早い動きでソラタのピカチュウへ突撃して来るが、ソラタもソラタのピカチュウも冷静にサトシのピカチュウの動きを見ている。

 はっきり言って、サトシのピカチュウの動きはソラタの手持ち最速を誇るニンフィアには及ばない。

 

「“アイアンテール”」

「チュ~アピカッ!!」

「ピカアア!?」

「ピカチュウ!?」

 

 “でんこうせっか”で突っ込んできたピカチュウに、鋼鉄と化したソラタのピカチュウの尻尾が叩きこまれ、逆に吹き飛ばされてしまう。

 

「“アイアンテール”!? カントーの新人トレーナーが鋼タイプの技を知ってるなんて!!」

「ソラタは最初から知ってたようだな、俺とのジム戦でも鋼タイプの技をポケモンに仕込んでいた」

 

 ソラタのピカチュウが“アイアンテール”を使った事にギャラリーであるカスミが驚愕している。

 しかし、サトシは“アイアンテール”が何なのか理解出来ていないようで、疑問符を浮かべていた。

 

「あ、あいあんてーる? ってなんだ?」

「サトシ、ポケモンのタイプは初等スクールで習ったよな?」

「ああ、炎、草、水、電気、岩、地面、毒、飛行、ゴースト、ノーマル、ドラゴン、氷、虫、格闘、エスパーだよな? 基本だぜ」

「そうだな、カントーのスクールだとそれしか教えてないんだよな。ポケモンのタイプは昔ならソレが正解だったが、今は更に発見されているんだ。今の“アイアンテール”って技は鋼タイプの技だ」

「鋼タイプ!? そんなタイプが居るのか!?」

「お前にわかるポケモンだと……コイルとかレアコイルが電気と鋼の複合タイプだな」

 

 鋼タイプについての講座はとりあえず今後タケシに任せるとして、今はバトル中だ。

 “アイアンテール”で吹き飛ばされたサトシのピカチュウが既に立ち上がって構えているので、バトルを再開する。

 

「ピカチュウ! “こうそくいどう”だ!」

「ピィカ!」

「ほう?」

 

 サトシのピカチュウが先ほどの“でんこうせっか”以上の速度で走り出した。流石にこれは速いなと評価しながらソラタは自身のピカチュウへ目を向ける。

 すると、ピカチュウもソラタの方へ振り返り、目を合わせて小さく頷いて返した。

 

「よし、連続で“エレキネット”だ!!」

「ピ~カチュウピカ!!」

「な、なんだ!?」

 

 ソラタのピカチュウが放った無数のエレキネットがフィールドに撒かれ、“こうそくいどう”で走り回るピカチュウがその内の一つに捕らえられてしまった。

 

「ピカチュウ!?」

「ピ、ピカピ~」

「トドメだ、“あなをほる”!」

 

 最後に、ソラタのピカチュウが“あなをほる”で地中に潜り、“エレキネット”に囚われて動けないサトシのピカチュウを真下から突き上げた。

 

「チャア~」

「サトシのピカチュウ、戦闘不能! ソラタのピカチュウの勝ち!」

 

 サトシのピカチュウが目を回して倒れたのを確認したタケシが、ソラタのピカチュウの勝利を宣言。

 サトシは慌てて倒れたピカチュウの所へ走り寄り、優しく抱き上げていた。

 

「大丈夫か? ピカチュウ」

「ピ、ピカ」

「よかったぁ」

「大丈夫そうか?」

「あ、ソラタ……」

 

 自身のピカチュウをモンスターボールに戻したソラタがサトシとピカチュウの所へ歩み寄ると、サトシのピカチュウは特に問題無さそうに手を挙げてくれた。

 

「大丈夫みたいだな」

「ああ、サンキューなソラタ。今回は俺の負けだ」

「まぁ、今回は俺が勝ったけど……サトシのピカチュウはまだまだ伸びしろが大きいな」

「そうかな?」

「ああ、速度は鍛えればまだまだ速くなるだろうし、技の威力だってもっと強化する余地が残っている」

 

 それと、今後はサトシのピカチュウも“アイアンテール”や“ボルテッカー”、“エレキボール”に“エレキネット”を覚える事になるだろうから、本当に先が楽しみだ。

 

「今のバトルで俺のピカチュウが使った“アイアンテール”はお前のピカチュウにも覚えさせて損は無いと思うぞ? 苦手な地面タイプ相手でも、岩タイプを複合してる相手であれば“アイアンテール”が十分な武器になるからな」

「そっか! ならピカチュウ、早速今度から“アイアンテール”の練習だな!」

「ピッカ!」

 

 地面タイプと岩タイプの複合は割とよくある。イワーク、イシツブテ、ゴローン、ゴローニャ、カントーだとこの辺りが代表各だが、いずれも岩と地面の複合だ。

 ニドキングやニドクインといった地面タイプと毒タイプの複合には意味が無いが、“アイアンテール”自体はピカチュウに覚えさせる価値が十分ある。

 それに、今は話さなかったが対フェアリータイプにも“アイアンテール”は有効だ。だから、本当にピカチュウには覚えさせるべき技だとソラタ自身が思っているのだ。

 

「さて、そろそろ俺は行くよ」

「そっか……頑張れよソラタ、俺も頑張るからさ」

「ああ、お互いに頑張ろうぜ……次はポケモンリーグで戦おう」

「ああ!」

 

 サトシと握手をして、それからサトシのピカチュウとも笑顔で握手を交わしたソラタはタケシ、カスミにも会釈をして旅立つ。

 5つ目のジムがあるヤマブキシティが目前に迫り、ソラタもポケモン達も気合は十分。この日の夜、ついにソラタはヤマブキシティに到着したのだった。




今回登場したサトシは「バイバイバタフリー」の直前、まだバタフリーと別れる前のサトシです。

訂正、サトシはナツメとのジム戦を終えているので、バイバイバタフリーは過ぎてます。
失礼しました。


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第25話 「ヤマブキジム、エスパータイプの脅威」

2日連続投稿出来ました。


ポケットモンスター

転生したのは始めに旅立った子供

 

第25話

「ヤマブキジム、エスパータイプの脅威」

 

 

 ポケモンリーグ出場の為に、旅を続けるソラタは遂に5つ目のジムがあるヤマブキシティに到着した。

 到着したのが夜だった為、ポケモンセンターで一泊した後、ポケモン達をジョーイさんから受け取り、早速ヤマブキジムへと向かっていた。

 

「たのもー」

 

 ジムに到着して早々、自動ドアを開いて中に入り声を掛ける。すると、奥から緑色のジャージとジーンズ姿の男性が現れ、ソラタの方へ向かってきた。

 

「いらっしゃい、ジム戦の挑戦者かな?」

「はい、マサラタウンのソラタと申します」

「マサラタウン……そうか。私はヤマブキジムの先代ジムリーダーで、今は娘のナツメがジムリーダーを継いでいる。娘とのバトルに勝利出来れば、ゴールドバッジは君の物だ」

「はい」

「着いて来なさい」

 

 ナツメの父に案内され、ジム戦が行われるバトルフィールドがある部屋へ連れて来られた。

 フィールドの奥にある椅子には赤いワンピース姿の少女が座っており、彼女がジムリーダーのナツメなのだろう。

 

「ナツメ、挑戦者を案内して来たぞ」

「ありがとう、お父さん……あなたが来る事は、知ってたわ。マサラタウンのソラタ君」

「えっと……?」

「私は、超能力を使える。未来予知で前から君が来る事は予知していた……ジム戦がしたいのよね? いいわ」

 

 静かに立ち上がったナツメはフィールドのトレーナーゾーンに立つと、ナツメの父も審判なのか審判エリアへ移動した。

 ソラタも挑戦者用のトレーナーゾーンに立ち、改めてナツメと相対する。

 

「改めて、ヤマブキジムのジムリーダー、ナツメよ。私が使用するのはエスパータイプ、数あるポケモンのタイプの中でも、最強のタイプだと思ってる」

「そっすね」

 

 確かに、エスパータイプは強い。悪タイプには一方的にボコられるものの、ゲームの初代ポケモンでは最強格のタイプだった。

 

「それではこれより、ジム戦を行う! 使用ポケモンは互いに3体! どちらかのポケモンが3体戦闘不能となった時点で試合終了とする。尚、ポケモンの交代はチャレンジャーのみ、認められる」

「まずは私から、いでよバリヤード」

「こっちも行け、ギャラドス!」

 

 ナツメの一番手は予想通りバリヤード、対するソラタはギャラドスを繰り出した。

 

「バリヤード対ギャラドス、試合開始!」

「まずはこっちの先手だ! ギャラドス、“りゅうのまい”!!」

「ギュオアアアア!!」

「バリヤード、“サイケこうせん”」

 

 開幕から“りゅうのまい”で舞うギャラドスにバリヤードが放った“サイケこうせん”が襲い掛かる。

 だが、ギャラドスは長い身体を華麗にくねらせながら舞いつつ、“サイケこうせん”を回避した。

 

「“ねんりき”」

「バリッ!」

「振り切って“ハイドロポンプ”!!」

「“ひかりのかべ”」

 

 バリヤードの“ねんりき”によって身動きを封じられたギャラドスだったのだが、力技で振り切って口から“ハイドロポンプ”を発射、しかしバリヤードが張った“ひかりのかべ”によって完全に防がれてしまった。

 

「読めていた! “かみくだく”だ!!」

「ギュオアアア!!!」

「っ! “かみなりパンチ”」

 

 ギャラドスが“ひかりのかべ”の脇からバリヤードへ迫り、鋭い牙を立てるのと同時に、バリヤードの握りこぶしが雷を纏った。

 そして、ギャラドスがバリヤードに噛み付くのと同時にバリヤードの拳がギャラドスの顔面に叩きこまれ、互いにダメージを受ける。

 

「ギャラドス!」

「ギュ」

「大丈夫だな?」

「ギャオ」

 

 バリヤードとの距離を取ったギャラドスがソラタの問いかけに頷いて返したので、取り合えずまだ戦えると判断する。

 だが、状況は良くない。バリヤードの“ひかりのかべ”の効果がある限り、特殊技の効果は大幅に低下する上、物理技の“かみくだく”を使おうものなら容赦なく“かみなりパンチ”が飛んでくるのだ。

 

「……よし、戻れギャラドス」

 

 ここはギャラドスを温存するべきだと判断したソラタはギャラドスを戻してボールを腰ベルトのホルダーへ納めると、別のボールを取り出した。

 

「次はお前だ、行け! フカマル!!」

 

 ソラタの2番手はフカマルだった。

 既にナツメのバリヤードは“サイケこうせん”“ねんりき”“ひかりのかべ”“かみなりパンチ”と、4つを使い切っている。地面タイプを持つフカマルなら、その内の“かみなりパンチ”を死に技に出来るので、バリヤードの手札を減らす事が出来ると判断したのだ。

 

「フカマル……カントーでは見ないポケモンね。確かシンオウ地方のポケモン」

「正解です。コイツは訳あってタマゴを貰って、それでゲット出来たポケモンなんです」

「そう……楽しみ」

 

 ナツメもシンオウ地方のポケモンと戦うのは初めてだったらしく、表情が少し変わった。

 

「バリヤード、“サイケこうせん”」

「バリバリバ~!」

「“りゅうのいぶき”だ!!」

「カフカフカ~!」

 

 “サイケこうせん”と“りゅうのいぶき”がぶつかり、中央で爆発する。すぐさまバリヤードが“ねんりき”で煙を晴らすと、既にフカマルはバリヤードの直ぐ傍まで接近していた。

 

「バリッ!?」

「“シャドークロー”!!」

「フーカッ!」

 

 黒いエネルギーを纏った爪でバリヤードに斬り掛かるフカマル、これは決まると思ったのだが、ジムリーダーのポケモンも、ジムリーダー自身も、そう甘くはない。

 

「“サイケこうせん”」

「バリバリバー!!」

 

 フカマルの“シャドークロー”が直撃したのと同時にバリヤードの“サイケこうせん”が0距離から放たれ、回避も出来ずフカマルにクリーンヒット、バリヤードを巻き込む形で爆発した。

 

「フカマル!」

 

 確実に大ダメージを受けたと、フカマルを心配ていると、煙が晴れて中から目を回して倒れるバリヤードとフカマルの姿が。

 

「バリヤード、フカマル、共に戦闘不能!」

 

 まさかのダブルノックダウン。ナツメもソラタもそれぞれバリヤードとフカマルをボールに戻して次のポケモンが入ったモンスターボールを取り出した。

 

「相打ちに持ち込まれるとは思わなかった」

「こっちとしては、“シャドークロー”が決まったと思ったんですがね」

「ジムリーダーは甘くない」

「みたいっすね」

 

 これでソラタはバリヤード戦のダメージが残るギャラドスと、残り1体の計2体。ナツメはノーダメージのポケモンが2体、状況だけを見ればソラタが不利だ。

 

「次、行く……出でよヤドラン」

「もう一度頼むぞ、ギャラドス!」

 

 ナツメの2番手はヤドンの進化系、ヤドラン。ソラタはバリヤード戦のダメージが残るギャラドスだ。

 

「ヤドラン対ギャラドス、バトル開始!」

「ギャラドス、また“りゅうのまい”だ!」

「迂闊」

「っ! しまった!」

 

 開幕早々にソラタはギャラドスに“りゅうのまい”を指示したのだが、ナツメの迂闊という言葉を聞いて、自身のミスを悟った。

 

「“じこあんじ”」

 

 “りゅうのまい”で上がったギャラドスの攻撃と素早さは、ヤドランにコピーされてしまった。

 更に、ナツメは畳みかけるようにヤドランに次の指示を出す。

 

「“ドわすれ”」

 

 これでヤドランの特防も上がった。こうなってしまってはソラタも挽回するには攻め続ける以外に道は無い。

 

「ギャラドス! “かみなり”だ!」

 

 ヤドランは水とエスパーの複合タイプ、当然電気タイプの技は効果抜群だ。攻撃が上がっているヤドランに迂闊に近づくのは危険だと判断しての指示だったのだが、問題は“かみなり”は命中率が低い技であるという事と、ヤドランが“じこあんじ”によって“りゅうのまい”の効果をコピーしたという点だろう。

 

「回避して“サイコフィールド”からの“しねんのずつき”」

 

 フィールドに紫色のオーラらしき物が展開され、強化された“しねんのずつき”が“かみなり”を撃っていて無防備なギャラドスの下顎に直撃した。

 

「ギャラドス!!」

 

 明確な急所への一撃に、ギャラドスは力無くその場に倒れ、目を回してしまった。

 

「ギャラドス、戦闘不能! ヤドランの勝ち!!」

 

 絶対絶命、ソラタの残りは1体。対するナツメはノーダメージのままの上、素早さ、攻撃、特防が上昇している上にサイコフィールドによる強化まで受けているヤドランと、まだ見ぬ1体が残っている。

 旅を始めて、5つ目のジムでついにソラタは、初めての危機を迎えるのだった。




ピンチを迎えたソラタですが、次回は3番手の彼女が何とかしてくれると信じて。


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第26話 「相棒」

お待たせしました。
ヤマブキジム戦の続きです。


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転生したのは始めに旅立った子供

 

第26話

「相棒」

 

 ポケモンリーグ出場の為、旅を続けるソラタは、5つ目のジムであるヤマブキジムのジムリーダー・ナツメとのジム戦の真っ最中だった。

 ナツメの一番手であるバリヤードはギャラドスで善戦するものの、途中でフカマルと交代したのだが、バリヤードの自爆とも言える巻き込み技でダブルノックダウン。

 二番手のヤドランに再びギャラドスを繰り出すも、能力上昇をコピーされた上、サイコフィールドを張った上での“しねんのずつき”がクリーンヒットしてダウン。

 ナツメにはまだ1体控えているポケモンが居る状況で、ソラタの出せるポケモンは1匹のみというピンチを迎えてしまったのだ。

 

「さあ、最後のポケモンを出しなさい」

「ええ……もう後が無い。お前に全てを託すぞ! 行け! ニンフィア!!」

「フィイア!」

 

 ソラタの最後の1体はエースであるリザードンと並ぶパーティの2大柱、ソラタにとって一番の相棒たるニンフィアだ。

 

「ニンフィア……珍しい、カントーでニンフィアに進化させる人、まず居ない」

「でしょうね。でも、俺はたまたま進化させる方法を知っていたのと、最初からイーブイをニンフィアに進化させるつもりだったというだけの事です」

「そう、ならフェアリータイプの存在も確り勉強してる証拠」

 

 ナツメの中でソラタに対する評価が上昇した。フカマルの存在から唯の新人トレーナーではないと思っていたが、イーブイをニンフィアに進化させるカントーの新人トレーナーは皆無だ。

 だからこそ、ナツメの中ではソラタは新人トレーナーという括りを外す決め手となった。

 

「ヤドラン対ニンフィア、バトル開始!」

「ヤドラン、もう一度“ドわすれ”」

 

 開幕早々にヤドランが再度“ドわすれ”をして特防を上げてきた。だが、特防を上げようとニンフィアの武器は上手く行けば上げた特防を下げられる。

 

「走れニンフィア! “でんこうせっか”!!」

「フィア!」

 

 だが、勝負を焦れば後が無いソラタの敗北が決まる。先ずはニンフィアに走り回らせてヤドラン唯一の攻撃技となった“しねんのずつき”を警戒している事をアピールした。

 更に、ヤドランが“サイコフィールド”をフィールドに張っている事も頭に入れて戦術を練りつつ次の一手に出る。

 

「“シャドーボール”だ!」

「回避」

 

 素早さが上がっているだけあって、ヤドランは中々素早い動きで“シャドーボール”を回避しつつ、頭にサイコエネルギーを集中し始めた。

 

「来るぞ! 今度は連続で“シャドーボール”!」

「“しねんのずつき”」

 

 ニンフィアが放った無数の“シャドーボール”はヤドランに直撃するにはしたのだが、“しねんのずつき”に掻き消されてダメージは見られない。

 迫って来たヤドランを回避したニンフィアは一度ソラタに視線を向けて、ソラタが頷いたのを確認すると、自身も頷き返してヤドランから距離を取る。

 

「やっぱ“サイコフィールド”の存在が厄介ですね」

「……ヤドラン、“しねんのずつき”」

「なので……」

 

 再びヤドランが“しねんのずつき”で突っ込んできた。だが、もう既にソラタとニンフィアの間で対策は練られている。

 

「“ミストフィールド”!!」

「っ!」

 

 今までフィールドを覆っていた紫色のオーラが消えて、代わりに今度はピンク色のオーラが覆いつくす。

 ニンフィアが使った“ミストフィールド”の効果で、先に張られていた“サイコフィールド”の効果を掻き消したのだ。

 

「“シャドーボール”!!」

「フィーア!」

 

 再度、ニンフィアが放った“シャドーボール”がヤドランに襲い掛かる。そして、今度は“しねんのずつき”によって掻き消される事無く、逆にヤドランを吹き飛ばした。

 

「ヤ、ドラ……」

「ダメージが大きい……そうか、“シャドーボール”の効果ね」

 

 “サイコフィールド”が消えた事で“しねんのずつき”の威力が落ちて“シャドーボール”を掻き消せなかったのはナツメも理解出来た。だが、ヤドランのダメージが想定より大きい事に思考を巡らせると、応えは先ほどの連続“シャドーボール”にあるのだと理解出来た。

 

「そう、いくら掻き消そうとも、間違いなくさっきの“シャドーボール”はヤドランに直撃していた。そして、“シャドーボール”には相手の特防を下げる効果がある」

「連続の“シャドーボール”で、ヤドランの上がっていた特防を下げられていたのね」

 

 ナツメがそこまで言った所でフラフラしていたヤドランが倒れ、目を回してしまった。

 

「ヤドラン、戦闘不能! ニンフィアの勝ち!」

「戻って、ヤドラン」

 

 ヤドランをモンスターボールに戻したナツメは、自身の最後のポケモンが入ったボールを取り出して、改めてチャレンジャーたるソラタに目を向けた。

 ソラタの目は、まだ諦めていない。ニンフィアというソラタの最高の相棒に対する絶対の信頼が見て取れた。

 

「あなたとニンフィアの絆、確かに見せて貰った……だから、私も本気で行く。出でよ、フーディン!」

「フーディンッ!」

 

 ナツメの最後のポケモンは、予想していたユンゲラーではなく、その進化系であるフーディンだった。

 

「ナツメ! そのポケモンは!」

「黙っててお父さん、ソラタにはこの子を使うだけの価値がある、この子で戦うべき相手だと判断した」

「だが、そのフーディンはお前の……」

「大丈夫、“アレ”は使わない」

 

 ナツメの言う“アレ”とは何なのか、それはフーディンの右腕に付いている腕輪が答えなのだろう。

 腕輪には、丸い石みたいな物が付いており、ソラタはそれが何なのか、知っている。

 

「まさか、メガストーン!?」

「……驚いた。カントーの新人トレーナーがメガストーンの存在を知ってるなんて」

「つまり、そのフーディンはメガ進化が出来るって事ですよね?」

「そう」

 

 すると、ナツメは襟元に手を突っ込み、ペンダントにしたキーストーンを取り出す。

 

「でも、安心して。ジム戦でメガ進化は使わない」

 

 取り出して見せただけで、直ぐにキーストーンを仕舞ったナツメは、成程確かにメガ進化を使うつもりが無いのだろう。

 ソラタも相当な実力があるとは言え、まだまだ本気のジムリーダーと、そのポケモンに勝てる程ではない。

 そんな相手に本気の証たるメガ進化を使うなど、ジムリーダーとしてあってはならない事だ。

 

「もう何も言うまい……フーディン対ニンフィア、バトル開始!」

「フーディン」

「ニンフィア!」

「「“シャドーボール”!」」

 

 ニンフィアとフーディンの“シャドーボール”が同時に放たれ、中間でぶつかり相殺される。

 だが、お互いにそんなもの想定の範囲内。既に動き出していた。

 

「“でんこうせっか”!」

「“テレポート”」

 

 高速でニンフィアが突っ込むと、フーディンの姿が消えて、今度はニンフィアの真後ろに現れる。

 しかし、走り続けるニンフィアの背後を取った所で、直ぐに距離を取られてしまい、次の一手を出すヒマが無かった。

 

「速い……普通の“でんこうせっか”じゃない」

「へぇ、やっぱ気付きます? 俺のニンフィア、素早さは確かに速い方ですが、“でんこうせっか”が普通じゃ無いって」

「……そう、“フェアリースキン”」

 

 そうだ。ナツメの言う通りソラタのニンフィアの特性は“フェアリースキン”。

 ノーマルタイプの技がフェアリータイプの技となる特性で、その効果で“でんこうせっか”がタイプ一致の技となって通常より性能が上がっているのだ。

 

「でも甘い“サイコキネシス”」

「フー!」

「走れ!」

 

 フーディンの“サイコキネシス”に捕らわれる前に動き出したニンフィアだが、いくら速くともフーディンに捕らえられない程ではなかったのか、簡単に捕まってしまった。

 

「ニンフィア!」

「フィ、フィア……」

「やって」

 

 “サイコキネシス”で身動き取れない状態のニンフィアがジムの天井へ、床へと叩き付けられ、ダメージを蓄積していく。

 

「“シャドーボール”だ!」

「ふぃ、フィア……フィイイ」

「フーディン」

「フー!」

 

 “サイコキネシス”で操られながらも、何とか“シャドーボール”を撃とうとするニンフィアだったが、いつの間に現れたのか頭上へ“テレポート”してきたフーディンがスプーンを鋼のエネルギーで光らせながら鞭のように伸ばしているのを見て驚愕してしまった。

 

「“アイアンテール”」

「フーディンッ!」

「フィッアアアア!?」

「ニンフィア!」

 

 フェアリータイプのニンフィアに鋼タイプの“アイアンテール”は効果抜群、地面へと叩き付けられたニンフィアは力無く倒れ伏してしまった。

 

「ニンフィア!」

「フィ、フィア……」

「トドメ、“シャドーボール”」

 

 何とか起き上がろうとしたニンフィアに、無情にもフーディンの“シャドーボール”が襲い掛かる。

 不味い、これは避けなければニンフィアは間違いなく戦闘不能になり、ソラタの敗北が決まってしまう。

 だけど、今のニンフィアにそこまでの体力が残っていない。回避は……不可能。

 

「フィ、ア……」

「ニンフィアアア!!」

 

 “シャドーボール”がニンフィアに直撃、吹き飛ばされたニンフィアが宙を舞っている姿を見て、ソラタの絶叫がジムに響いた。

 果たして、本当にこれでニンフィアは戦闘不能になってしまったのか……次回に続く。




次回、ヤマブキジム戦完結。
果たして、ソラタは初のジム戦敗北となるのか。


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第27話 「相棒の最後の意地」

ヤマブキジム、決着! 年内に何とかなりました。


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第27話

「相棒の最後の意地」

 

 ポケモンリーグに出場する為、旅をしているソラタは5つ目のジムであるヤマブキジムに挑戦していた。

 ジムリーダーのナツメが繰り出すバリヤード、ヤドランを撃破し、最後のフーディンを残すのみとなったのだが、ここまででフカマルとギャラドスが戦闘不能となり、ソラタも残るはニンフィアのみ。

 そして、ニンフィアはフーディンの高すぎる実力を前にピンチを迎えていた。

 “サイコキネシス”、“アイアンテール”のダメージを受けてボロボロとなり、体力が残り僅かといった状態で迫るフーディンの“シャドーボール”は、回避するだけの力が残っていないニンフィアには、どうする事もできなかったのだ。

 

「ニンフィアーーーーっ!!」

 

 “シャドーボール”が直撃し、吹き飛んだニンフィアの身体が宙を舞った。これで戦闘不能、ソラタにとってジム戦初の敗北が決まったと、そう思った。

 だが、次の瞬間ニンフィアがクルリと身体を捻って足から着地、確りと四足で立った事でソラタも、そして表情の乏しかったナツメも驚愕する。

 

「ニンフィア! 大丈夫なのか!?」

「フィ……フィ……フィア」

 

 確かに自身の足で確り立っているが、体力が限界なのは変わらず、今も息が荒い。だけど、ニンフィアの目はまだ諦めていなかった。

 

「そう……フーディンの“シャドーボール”が直撃する寸前に自身の“シャドーボール”を展開して盾にしたのね」

 

 そう、ナツメの読み通りだった。先ほど、ニンフィアはフーディンの“シャドーボール”が直撃する寸での所で自分の“シャドーボール”を緊急展開、盾として利用する事でフーディンの“シャドーボール”を相殺しながら、わざと後ろに吹き飛ぶ事で衝撃を逃がしてダメージを最小限に抑えたのだ。

 

「でも、ニンフィアの体力はもう限界……それでもまだ、戦う?」

「……ニンフィア」

 

 そうだ。ナツメのいう通り、ニンフィアの体力は限界だ。後一発でも攻撃を受ければ間違いなく戦闘不能になってしまうだろうという状況で、まだ戦うというのか。トレーナーが、ポケモンにそんな無茶な真似をさせるのかと、ナツメはジムリーダーとして問うてきたのだ。

 

「俺は……」

 

 もう、ここで一度ギブアップして、後日再チャレンジでも良いのではないか。リーグ開催までまだ時間はある。修行をし直して、もう一度ジムに挑めば良い。

 そこまで考えて、ソラタはギブアップを宣言しようとしたのだが、そこで頬に衝撃が奔った。

 

「ニンフィア……?」

 

 叩かれた。ニンフィアのリボン状の触手が伸びてきて、ソラタの頬を叩いた。見ればニンフィアはこちらを振り返っており、その表情はソラタに対する怒りが見て取れる程に怒っている。

 

「フィア! フィア、フィ、フィ~ア!!」

「ニンフィア……お前、まだ戦えるって言いたいのか?」

「フィア!」

「だけど、お前の体力はもう……」

 

 限界だ。そう言おうとして再び叩かれた。

 

「フィア! フィアフィア! フィ!」

「諦めるなって、そう言いたいのか?」

「フィ!」

 

 自分は諦めていない。だからソラタも諦めるなとニンフィアは言っていた。

 そうだ、ニンフィアの闘志はまだ死んでいない。旅に出る前、まだ実家で暮らしていた時のソラタと当時イーブイだったニンフィアは、ずっと母の夢だったチャンピオンになるという夢を叶えようと誓い合ったのだ。

 その夢を叶える為に、ニンフィアは絶対に諦めない。そして、ソラタ自身も諦めてはいけない。こんな所で、負ける訳にはいかない。

 

「そうだ……最後まで諦めるものか! 行くぞニンフィア! 最後の最後まで!!」

「フィア!!」

 

 ソラタとニンフィア、二人の闘志がシンクロした。もう最後まで止まる事がないだろうとナツメも判断して、フーディンに“シャドーボール”を指示する。

 

「“でんこうせっか”!!」

「フィア!」

 

 “シャドーボール”が直撃する前にニンフィアが走り出す。そのスピードは、先ほどまでの比じゃない。

 

「今度はこっちの番だ! 走りながら“シャドーボール”!」

 

「“テレポート”」

 

 ニンフィアが“シャドーボール”を放つと、フーディンは“テレポート”で回避。だが、それで終わりではない。

 ニンフィアは再び走りながら“シャドーボール”を放つと、何故か方向転換して走り出した。

 

「フーッ!?」

「フーディン……!?」

 

 何と、“シャドーボール”を“テレポート”で回避したフーディンが現れた場所にニンフィアが居たのだ。

 そのままニンフィアの“でんこうせっか”がフーディンの腹部に突き刺さり、大きく吹き飛ばされてしまった。

 

「今のは……」

「ニンフィア……! よし、もう一度“でんこうせっか”からの“シャドーボール”だ!!」

「っ! “テレポート”」

 

 今度は“でんこうせっか”を“テレポート”で回避したフーディンだが、回避された瞬間ニンフィアは別方向へ“シャドーボール”を放つと、その先にフーディンが出現、“シャドーボール”の直撃を受けた。

 

「また……」

「何故って顔ですね」

「……」

「はっきり言って、俺もニンフィアもフーディンが“テレポート”でどこに出現するかなんて予測してないですし、出来ません」

「なら何故……?」

「勘ですよ」

 

 勘、ただそれだけでニンフィアはフーディンの“テレポート”先を予想して技を先回りさせたのだ。

 

「そんな、曖昧なもので」

「ええ曖昧ですね。正直、普通のトレーナーなら絶対に頼りませんよ……でも、俺はニンフィアの全てを信じてる。その勘だって、ニンフィアだからこそ信じている。テレポート先を予想出来ないなら残るは勘で戦うだけ、ならばニンフィアの勘を信じるだけの簡単な事です」

 

 それからも、何度か“テレポート”を使ったが、その全てを先回りして見せた。その全てが勘頼り、ニンフィアの極限の集中による勘が、フーディンの“テレポート”を完全に封じ込めてしまった。

 

「なら、もう身動きさせなければ良い……“サイコキネシス”」

「フーディンッ!」

 

 再び、ニンフィアは“サイコキネシス”に捕らわれてしまう。身動き一つ取れない状態で、後一撃でもダメージを受ければ終わる程度の体力しか残っていないニンフィアは再度ピンチが訪れてしまったのだ。

 

「もう、勘でどうにかなる状況じゃない。これで終わらせる」

「終わるものか! 絶対に終わらない! 最後の最後まで、俺もニンフィアも、諦めるものか! ニンフィア!!!」

「フィア!」

 

 “サイコキネシス”によって天井へ叩き付けられようとした瞬間、ニンフィアは自身と天井の間に“シャドーボール”を展開、それをクッションにして衝撃を逃がすと、フーディンが驚いた一瞬の隙を付いて“シャドーボール”を蹴り、爆発を利用した加速でフーディンの背後へと着地する。

 

「やれぇ!!」

「フィイイイアアア!!!」

 

 すると、ニンフィアの全身からピンク色のオーラが発生して、頭上に月のようなものが現れる。

 その月から放たれた光がフーディンの背中へ直撃すると、フーディンは大きく前のめりに吹き飛んだ。

 

「今のは……“ムーンフォース”」

「っ!? 行け! もう一度“ムーンフォース”!!!」

 

 この土壇場で、ニンフィアは新しい技を覚えた。“ようせいのかぜ”より威力の高い、フェアリータイプ最強の技、“ムーンフォース”は再度フーディンに直撃して更に吹き飛ばす。

 しかし、フーディンもただでは負けないとばかりに“シャドーボール”を展開、ニンフィアへ向けて発射した。

 

「“でんこうせっか”!!」

「フィア!」

 

 フーディンの“シャドーボール”を回避しながら走るニンフィアに、“テレポート”は駄目だと判断したナツメはトドメとなる一撃の指示を出した。

 

「“アイアンテール”」

 

 迫るニンフィアに対して、フーディンはスプーンを鋼のエネルギーで光らせると、鞭のように伸びたそれを大きく振りかぶって、目の前まで迫って来たニンフィアへと渾身の力で振り下ろす。

 

「“シャドーボール”!!!」

 

 だが、振り下ろした“アイアンテール”は“シャドーボール”によって受け止められ、その下を潜るように身を屈めながら走ったニンフィアはついにフーディンの真下へと到達。

 

「いっけぇえええええ!!!」

「フィアアアア!!!」

 

 フーディンの顎下へ、“でんこうせっか”による渾身の当て身、ニンフィアの頭がフーディンの顎へ直撃した。

 

「フー……ディ」

 

 何とか倒れないようバランスを取ろうとしたフーディンだったが、脳を思いっきり揺らされてしまった事でバランスが取れなくなり、とうとう後ろへ倒れて目を回してしまった。

 

「フーディン、戦闘不能! ニンフィアの勝ち! よって勝者、マサラタウンのソラタ!!」

 

 勝った。残り体力が少ない中、逆転しての勝利、喜びがソラタの中から湧き上がる前にソラタは走り出してその場に倒れそうになったニンフィアを抱きとめる。

 

「ニンフィア!! 勝ったよ! 俺たち、勝てた!!」

「フィア……フィア!」

「ああ! ありがとう、ニンフィア! お前はやっぱ、最高の相棒だ!」

 

 抱き上げて目一杯抱き締めてやれば、ニンフィアも笑顔で抱きついてきた。ソラタの言う通り、ニンフィアはソラタにとってリザードン以上の相棒、パートナーだ。

 幼い頃からずっと兄妹の様に過ごしてきて、トレーナーとパートナーという間柄になっても変わらない絆が、この勝利を掴み取る事に繋がった。

 

「ソラタ君」

「ナツメさん」

「おめでとう……あなたとニンフィアの……いえ、ギャラドス、フカマルもね。ポケモン達との絆、見事だった」

「ありがとうございます」

 

 フーディンを連れて近寄ってきたナツメは表情こそ変わっていないものの、どこか雰囲気が柔らかい。

 純粋にソラタの勝利を祝福してくれているのだという事が伝わってきて、サトシとのバトルが彼女を良い方向へ成長させているのだと理解出来た。

 

「これを……ヤマブキジム勝利の証、ゴールドバッジ」

「ありがとうございます!」

 

 ゴールドバッジを受け取ってバッジケースに納めると、残るジムバッジは3つという事実を実感して身体が震えた。

 

「次は、どこに行くの?」

「次はセキチクシティのセキチクジムです。セキチクジムのジムリーダー、キョウさんと言えばジョウト地方の四天王も兼任している人で有名ですし、是非チャレンジしておきたいんで」

「そう……なら一つ占ってあげる」

「占い?」

「君のこれからについて」

 

 そう言ってナツメは水晶玉のようなものを取り出して見つめる。数秒そうしていると、直ぐに顔を上げてソラタを見つめた。

 

「試練が待ってる……試練は、君の前に立ちふさがる壁を意味していて、君にとってのライバルを意味する」

「ライバル……」

「そうね、これは二つの炎……大きな二つの炎がぶつかっている光景かしら」

 

 ソラタの前に立ちふさがる壁の前で大きな二つの炎がぶつかる。それが何を意味しているのか、何となくだけど一人の少女の姿が脳裏を過ぎった。

 

「多分、君の予想は当たってる……一つ言えるのは、全力でぶつかる事、それだけ」

「全力で……」

「君はポケモンを信じて全力で戦えば良い……結果がどうなっても、それで君の歩みが止まる事は無くなるから」

「……わかりました」

 

 ナツメの占いを受け止め、ソラタは旅立ちの準備を整えた。どんな結果になろうと、全力で、それだけわかれば良い。やること、目指す所は、何一つ変わらないのだから。

 

「それじゃあ、ありがとうございました」

「頑張って」

 

 こうして、ヤマブキジムを出たソラタは次のジムがあるセキチクシティを目指して旅立った。

 立ち去るソラタの後ろ姿を見つめながら、ナツメは先ほどの占いで水晶の中に見た光景を思い返しつつ、数日前のチャレンジャーだった少女の事も思い出す。

 

「炎と炎、きっと彼女がソラタ君のライバルね……きっと、あの二人は何度も戦う事になりそう」

 

 とは言っても、ナツメはそれすら将来を担うトレーナー二人の試練だと思い、成長を続けるであろう二人のトレーナーの行く末を楽しみにしながらジムへと戻るのだった。




次回は……未定! どうしよう。


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第28話 「セキチクシティを前に」

お久しぶりです。
長い長いスランプと仕事の忙しさに感けて全然執筆してませんでしたが、ようやく28話完成しました。


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第28話

「セキチクシティを前に」

 

 ポケモンリーグに出場する為、旅を続けるソラタはヤマブキジムを制覇して5つ目のバッジであるゴールドバッジをゲット、今は6つ目のジムがあるセキチクシティを目指していた。

 セキチクジムのジムリーダーはジョウト地方の四天王も兼任する毒タイプのスペシャリスト、忍者マスターのキョウという男。

 毒タイプのジムを相手にどう戦うかを考えながら、ソラタは昨晩の野宿で立てていたテントの横で朝食の用意をしている。

 更に、テントやソラタの周りではモンスターボールから出したポケモン達が思い思いの時間を過ごしていた。

 リザードンは器用にソラタの手伝いを、ニンフィアはテントの中でソラタが使っていた毛布に包まり、ギャラドスとピカチュウは近くの川で水遊び、フカマルとキレイハナは一緒に踊っている。

 

「リザードン、こっちの鍋に切った野菜入れて」

「グル」

「後は煮込むだけだし、俺はポケモンフーズの用意するから」

 

 鍋の方はリザードンが見ててくれるとの事なので、ソラタはポケモンフーズの用意を始める。すると、匂いに釣られたのか食いしん坊筆頭のピカチュウとギャラドスが水遊びをやめて近寄って来た。

 

「ピカ!」

「ギャオ!」

「ん? 早いっての、てか身体拭きなさい」

 

 濡れたままの2匹にタオルを投げて渡すと、ピカチュウは自分の身体を拭きながらギャラドスの身体も拭いてあげる。

 何気にこの2匹は仲が良い。いつも一緒に居るというか、よくつまみ食いをするコンビなのだ。

 

「キレイハナ、フカマル、そろそろ出来上がるからニンフィア起こしてあげて」

「ハナッ!」

「カフッ!」

 

 テントの中でいつの間にかソラタの毛布に包まりながら寝息を立てていたニンフィアの下へキレイハナとフカマルが向かったのを確認したソラタは、時々鍋の蓋を開けてお玉でかき混ぜているリザードンの背中を労うように軽く叩いてから器に入れたポケモンフーズを並べ始める。

 器を並べ終えたら直ぐにポケモン達は自分の器の前に並んで食べ始めたので、ソラタはリザードンからお玉を受け取って自分の食事の用意を始めた。

 

「うん、上手く出来たな」

 

 因みに今日のソラタの昼食は野菜スープと玉子サンドだ。

 リザードンに手伝って貰いながら作った野菜スープは自分だけでなくポケモン達にも分けており、ポケモン達はそれぞれ野菜スープの味に満足している様子。

 

「そうだ、今日の午後はフカマルの特訓な」

「カフ?」

「次のセキチクジムは毒タイプのジムだから、地面タイプのフカマルは主力になる。セキチクジムではフカマルとリザードン、ピカチュウで行くつもりだからな」

 

 毒単体ならフカマルで良いのだが、モルフォンやゴルバットなどの毒と虫や飛行タイプを持つポケモンには、ピカチュウやリザードンが有効だ。

 特にピカチュウは地面タイプの“あなをほる”を覚えているので、十分セキチクジムで戦えるポケモンだ。

 ポケモンの選定は既に終えているので、セキチクシティに到着するまではフカマルの育成がメインになる。

 相手はジムリーダーであり、同時にジョウト四天王でもある実力者、生半可な実力では勝てないとソラタは予想していた。

 それに、タマムシジムでは本来使用しない筈のリーフィアが、ヤマブキジムではメガ進化可能なメガストーンを持つフーディンが出てきた事を考えれば、キョウも本来使用するポケモン以外を使用する可能性がある。

 四天王としての手持ちであるクロバットやアリアドス、もしかすると他の地方の毒タイプポケモンか、もしくはリージョンフォームか。

 

「リージョンフォームを使うとしたらベトベトンのアローラの姿か、マタドガスのガラルの姿か……ベトベトンなら悪タイプ、マタドガスだったらフェアリータイプもあるからなぁ」

 

 まぁ、マタドガスの場合はピカチュウの“アイアンテール”かリザードンやフカマルの“メタルクロー”で対応可能だろう。

 ベトベトンでも対応は難しくないので、特に心配はいらないか。

 

「出来ればセキチクシティに到着するまでにフカマルをガバイトに進化させたい所だな」

 

 そうでなければポケモンリーグまでにガブリアスへ進化させるのも難しくなる。セキチクジムでもフカマルが進化しているのとしていないのとでは、大分変ってくるだろう。

 

「いや、でも現時点でフカマルだとなぁ……ギリギリか?」

 

 もしかしたら、ポケモンリーグまでにガブリアスへ進化出来ない可能性も見えて来た。残るジムバッジは3つ、次のセキチクジムとその次のグレンジムではフカマルの出番もあるが、最後のトキワジムではフカマルの出番は無いと考えているので、割とギリギリだった。

 とりあえず、考えていても仕方がないので、残りの食事を食べ終えてポケモン達の皿を回収、皿洗いをしてから特訓開始だと午後の予定を組み立て始めるのだった。

 

 

 午後は早速フカマルの特訓の時間だ。ソラタは今後の事を見据えてフカマルに二つの技を覚えさせようとしている。

 現時点でフカマルが使える地面タイプの技は“じならし”と“あなをほる”のみ、だがこれは主力技とするには弱すぎるので、今後ガブリアスへ進化した時の事やリーグ出場を考えて別の技を覚えておきたい所だった。

 

「という訳でフカマルには“じしん”と“ストーンエッジ”の二つの技を覚えて貰う」

「カフ?」

「ゆくゆくは“ドラゴンダイブ”とか“りゅうせいぐん”とかも覚えて貰うけど、今はこの二つが重要だと思ってな」

 

 因みに既に“ほのおのキバ”と“かみなりのキバ”“ドラゴンクロー”は覚えさせた。なので、今優先すべきは地面タイプの技の強化と色々と応用が効く技として割と有効な“ストーンエッジ”の二つだ。

 

「“じしん”はリザードンも覚えているから、リザードンが教えてやれるが……問題は“ストーンエッジ”だな」

 

 ソラタの手持ちで“ストーンエッジ”を覚えているポケモンはいない。一応、リザードンには“いわなだれ”を覚えさせているので、岩タイプの技の見本は見せる事が出来るが、やはり“ストーンエッジ”を覚えているポケモンが見本に欲しい所。

 

「オーキド博士の所に送った岩タイプはイシツブテとサイホーン、イワークだけど“ストーンエッジ”を覚えてるのは居ないしなぁ」

 

 そもそもポケモンセンターに行かないと手持ちを入れ替えられない。近くにポケモンセンターが無いのでそれは断念して一先ずリザードンを呼び、フカマルの講師役をやらせる事にした。

 

「まずはリザードン! “じしん”!!」

「グルッ!! リザァアアア!!!」

 

 リザードンが目の前の岩に向かって“じしん”を放つ。大きく振り上げた足を地面に叩き付けた事で発生した揺れと衝撃波が岩に直撃し、大きくひび割れたかと思った瞬間、激しい音と共に粉砕された。

 

「これが“じしん”だ。フカマル、“じならし”の要領でやってみろ」

「カフ! カァアフゥウウ!!!」

 

 意気揚々とフカマルが足を振り上げて地面に叩き付けたのだが、放たれたのは“じしん”には程遠い、“じならし”レベルの威力しか無い揺れだった。

 

「まだまだ威力が足りない。もう一度」

「カフカフ!」

 

 もう一度フカマルが足を振り上げて、先ほどよりも思いっきり地面へ叩き付けると、今度は“じならし”よりも大きな揺れになったが、まだ“じしん”と呼ぶには威力が足りていない。

 

「衝撃波も出ていないな……リザードン、もう一度見せてやってくれ」

「グル」

 

 今度はもっと大きな岩に向かってリザードンが“じしん”を放つと、その岩も先ほどと同様に大きな揺れの後に衝撃波によって粉砕される。

 フカマルはリザードンの放つ“じしん”を挙動から全て良く観察し、足を振り上げ、そして振り下ろす動作を確認していた。

 

「どうだ?」

「カフ……」

「リザッ」

「カフ?」

 

 よく分からないという表情を見せるフカマルに、リザードンが指先でちょいちょいと自分の足を指さした。

 そして、ゆっくり足を振り上げて振り下ろす際に一瞬だけ盛り上がった筋肉に注目させる。

 

「リザ、リザリザ」

「カフ!」

 

 リザードンが何かを言うと、理解したとばかりにフカマルが頷いてもう一度足を振り上げると、勢い良く地面へと叩き付ける。

 すると、先ほど以上の揺れが起こり、小さいながらも衝撃波が大きな岩にぶつかって少量の罅を作った。

 

「お?」

「カフ!」

 

 今のは“じしん”とまでは言えないにしても、中々に良い威力が出ている。リザードンのアドバイスのお陰でフカマルもコツを掴んだのか、揺れと衝撃波を一緒に出せるようになったらしい。

 

「良いアドバイスが出来たみたいだな、リザードン」

「グルゥ」

「そのままフカマルのアドバイス、任せて良いか?」

「グルッ!」

 

 頼れるパーティーリーダーのリザードンは面倒見が良い。フカマルの特訓でもリザードンはアドバイザーとして十分な仕事を見せてくれて、この日はフカマルの“じしん”が未完成ながらも一定の成果を叩きだす事に成功したのだった。

 

「明日は“ストーンエッジ”の練習な」

「カフ!」

「岩タイプの技のアドバイス、頼むなリザードン」

「リザ!」

 

 フカマルはこれで良い。後はリーグまでにフカマルをガバイトへ進化させられるかどうか、そしてもう一つ……リザードンの切り札となる技を覚えさせる事、考えるべき事はそれだけだ。




次回はセキチクシティ到着前に一つ、新キャラを出します。
ヒトカゲのソラタ、ピカチュウのサトシ、ゼニガメのシゲル、オーキド博士からポケモンを貰ってマサラタウンを旅立った子供は、もう一人いますよね。


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第29話 「最後の同期」

今回は原作でもドロップアウトしていたトレーナーです。


ポケットモンスター

転生したのは始めに旅立った子供

 

第29話

「最後の同期」

 

 ポケモンリーグに出場する為、旅をするソラタは次のジムがあるセキチクシティを目指していた。

 道中、フカマルの特訓を挟みつつ順調に旅を続けているソラタは、セキチクシティまで残り僅かという所にある小さな町、タバタタウンのポケモンセンターに訓練を終えたポケモン達の回復へ立ち寄っている。

 

「はい、お預かりしていたポケモン達は皆、元気になりましたよ」

「ありがとうございます、ジョーイさん」

 

 預けていたポケモン達のボールをジョーイさんから受け取ったソラタはボールを腰ベルトのホルダーへ戻し、今日はポケモンセンターに泊まるかと図鑑をジョーイさんに預けて宿泊手続きをする事にした。

 

「一泊で、明日には出発します」

「はい、一泊ですね。夕飯はどうしますか?」

「う~ん……そうですね、センターで食べます。それまではまたポケモン達の特訓でもしてますよ」

「わかりました。では夕食の用意もしておきますので、時間になったら食堂に来てください」

 

 その後、ジョーイさんから宿泊部屋の鍵と図鑑を受け取り、部屋に荷物を置いたソラタはセンター敷地内にあるバトルフィールドに向かった。

 フィールドには他の利用者も特に居ないようで、貸し切り状態なのは好都合だ。

 

「最近はフカマルの育成に力を注いでいたから、ピカチュウの方は疎かになっていたよな」

 

 という訳で早速ボールからピカチュウを出す。

 ソラタのピカチュウは素早さならソラタの手持ちで2番目の速度を誇り、野生の時から既に“アイアンテール”と“あなをほる”を自力で覚えていた程のバトルの天才的才能を持つポケモンだ。

 だが、その才能も確り育成しなければ無駄に終わる。そうならない為に、何よりセキチクジムで出番があるからこそ最近疎かになっていたピカチュウの育成も良い機会だからやろうと考えたのだ。

 

「とは言ってもなぁ、覚えさせるべき技はもう殆ど覚えさせたし……」

「ピィカ?」

「う~ん……あ!」

 

 思い出した。まだピカチュウに覚えさせていない技があったではないか。覚えさせるつもりではいたものの、流石にまだ早いと思って後回しにしていた電気タイプ最強の技が。

 

「ピカチュウ、今日から“ボルテッカー”の練習だ!」

「ピカピッカ?」

「そう、お前が覚える事の出来る電気タイプの技の中でも最強の大技だ」

 

 反動も大きいが、技の威力は申し分ない。暫くライチュウに進化させてやれないピカチュウの切り札として、“ボルテッカー”は十分役に立つ筈だ。

 

「一先ず“ボルテッカー”の習得をするには、感覚を掴む必要があるだろうから……ピカチュウ、“10万ボルト”の電気を纏いながら“でんこうせっか”出来るか?」

「ピ……ピカッチュ!」

 

 実際にやってもらったら、流石は自力で“アイアンテール”と“あなをほる”を習得した天才と言うべきか、完璧とは言えないまでも“ボルテッカー”に近いものは出来ていた。

 

「これならセキチクジムまでに仕上がりそうだな」

「あら、セキチクジムに挑むんですの?」

「っ!?」

 

 後ろから急に声を掛けられ、驚きながら振り返ると、そこには10歳でありながらド派手な金髪ドリルの少女が立っていた。

 一目でブランド物だと判る花柄ワンピースと高級品と思しき腰ベルトには、これまた成金と言うべきか、6個のゴージャスボールが。

 

「お久しぶりですわ、ソラタ」

「お前、トワコか」

 

 少女の名はトワコ、マサラタウンでオーキド家に次ぐ資産家の家の御令嬢で、ソラタにとってはサトシとシゲル同様に幼馴染の一人。

 

「こんな所でポケモンの修行ですの? しかも、ピカチュウとか……フッ」

「次のセキチクジムに備えてな」

 

 明らかにソラタと、ピカチュウを見下した態度、彼女のこの態度は相変わらずらしい。

 昔から、家柄が格上のシゲル以外を見下していたトワコはソラタとサトシを下に見ていた。スクールの成績はソラタの方が上であっても、家柄は格下だと舐めた態度を取っていたのを覚えている。

 

「セキチクジムですか、ソラタ程度が挑むには時期尚早だと思いますがね。因みにソラタはバッジいくつですの? 私は既に3個ものバッジをゲットしておりますのよ」

「5個だ」

「……はい?」

「だから、5個だよ。セキチクジムを攻略したら6個目だな」

 

 トワコが見せてきたグレーバッジ、ブルーバッジ、オレンジバッジに対して、ソラタはゴールドバッジとレインボーバッジを含む5つのバッジを見せた。

 格下だと思っていた相手が自分よりも先に進んでいる。その事実を受け入れがたいのか、ワナワナと震えてソラタを睨みつけてくる。

 

「あ、ありえませんわ!! ソラタ如きが私よりもバッジをゲットしているだなんて!! し、しかもレインボーバッジって、私が負けたタマムシジムの……っ!」

 

 どうやらトワコ、クチバジムを攻略して以降は成績が振るわず、タマムシジムだけでなく先日セキチクジムでも敗北した事まで口を滑らせた。

 つまり、トワコが此処にいるのは次にヤマブキジムへ行く為らしい。

 

「あ、ありえません……いったいどんな卑怯な手を使ったんですの!?」

「卑怯な手って、普通そんな手段でジムバッジがゲット出来るわけ無いだろ……ポケモンリーグ公認委員会のお膝元であるジムで、そんな真似したらリーグ関係施設出禁になるわ」

 

 そもそもの話、リーグ公認委員会の大本組織であるポケモン協会役員の息子に対して、何たる言い草か。

 

「ぐっ! うぅぅぅ!! こ、こうなったら勝負ですわ!! 今この場でフルバトルですわ! 私が勝ったら、ゴールドバッジとレインボーバッジを、私に寄こしなさい!!」

「はぁ? 何でそんな事をする必要があるんだか」

「あら逃げるんですの? スクール成績トップ様は、3位の私との勝負から逃げるような腰抜けだったという事ですわね」

 

 因みに2位はシゲルだ。

 

「……はぁ、わかったよ」

 

 ここらで、格の違いを見せつけるのも一つの手だろう。そう思ってピカチュウをモンスターボールに戻したソラタはフィールドのトレーナースペースに立つと、反対側にトワコが立つ。

 

「フルバトルですから、当然使用ポケモンは6体、先に全ての手持ちポケモンが戦闘不能になった者の負けですわ」

「ああ」

「では……」

 

 ソラタがモンスターボールを、トワコがゴージャスボールを構え、同時に投げる。

 

「お行きなさい! スピアー!」

「頼むぞ、ギャラドス」

「スピ!!」

「ギュアアオオオアアア!!!」

 

 トワコのゴージャスボールからはスピアーが、対するソラタはギャラドスを出す。相性の面で見れば飛行タイプを持つギャラドスが有利だ。

 

「スピアー! “ダブルニードル”!」

「スピスピスピ!!」

 

 スピアーが両手の針を構えて高速で飛びながらギャラドスに迫った。

 “ダブルニードル”は虫タイプの技だが、時々相手を毒状態にする事が可能な攻撃なので、ギャラドスにとってダメージは大きくはなくとも、多少厄介な効果があると言える技だ。

 

「まあ、当たればの話だがな。ギャラドス、自分の周りに“ぼうふう”だ」

「ギャオアアアア!!」

 

 暴風がギャラドスを中心に吹き荒れ、そこに突っ込んだスピアーは“ぼうふう”に捕らわれた。

 強力な風に煽られ上空へと吹き飛ばされたスピアーは自分では姿勢を制御出来なくなったのか、風に煽られるがままだ。

 

「スピアー! 何とかなさい!!」

「“こおりのキバ”」

 

 天高く吹き飛ばされたスピアー目掛けて飛び上がったギャラドスは氷のエネルギーを纏った牙でスピアーに噛み付く。

 上空で全身氷漬けになったスピアーはそのまま地面に叩き付けられ、氷が割れると目を回したスピアーが地面に転がった。

 

「ス、スピアー……」

「スピアー戦闘不能、だな」

「くっ……! 戻りなさいスピアー!」

 

 スピアーをボールに戻して腰ベルトのホルダーへゴージャスボールを納めると、次のボールを手に取るトワコ。

 対するソラタもギャラドスを戻して別のボールを手に取った。

 

「行きなさいゴローン!!」

「出番だ、ピカチュウ」

 

 トワコの2番手はゴローン、ソラタはピカチュウ。相性の面では先ほどと違いトワコが有利な場面だが……。

 

「ふん、ゴローン相手にピカチュウですの? ソラタは相性というものを理解してないのかしら! ピカチュウ如き、ゴローンの相手にもなりませんわ! ゴローン! “いわおとし”!!」

「“でんこうせっか”」

 

 ゴローンの“いわおとし”がピカチュウに迫るも、飛来する岩を高速で走るピカチュウが全て回避、ゴローンの懐へと一気に飛び込んだ。

 

「“アイアンテール”」

「チュ~ア! ピカ!!」

「ゴ、ゴロォオオオ!?」

 

 “アイアンテール”の一撃がゴローンに入り、ゴローンはその一撃で戦闘不能となったのか、目を回して転がった。

 

「そ、そんな……」

「確かにゴローンはピカチュウにとって相性最悪の相手だが、苦手なタイプが相手だからって戦えないままにする訳がないだろう?」

「くぅっ! ソ、ソラタの分際で生意気な!! 戻りなさいゴローン!!」

 

 顔を真っ赤にしながらゴローンをボールに戻したのを見て、ソラタもピカチュウをボールに戻す。

 そしてお互いに次のボールを手に取って同時に投げると、トワコ側にはスリーパーが、ソラタ側にはキレイハナが現れた。

 

「な、何ですの!? そのポケモンは!!」

「何って、キレイハナだよ、クサイハナの進化系の」

「クサイハナの!? クサイハナの進化系は、ラフレシアの筈ですわ!」

「リーフのいしを使ったらな。たいようのいしを使えばキレイハナに進化するんだよ」

 

 しかもキレイハナはクサイハナの時とは違い毒タイプを持っていないので、スリーパー……つまりエスパータイプは弱点ではなくなった。

 

「キレイハナ、“ちょうのまい”だ」

「ハナッ!」

「スリーパー! “ねんりき”ですわ!」

 

 キレイハナが踊り始めると、スリーパーが“ねんりき”を発動。キレイハナを捕らえたのだが、力の差が大きいのかスリーパーではキレイハナの動きを止める事すら出来ないようだ。

 

「そんな! “ねんりき”をもう一度ですわ!」

「甘いよ、“リーフストーム”!」

「ハァナァアアア!!!」

 

 踊りながら、手を突き出したキレイハナは“リーフストーム”を発動、そのままスリーパーを飲み込み、トワコの足元まで吹き飛ばした。

 

「リ、パ~」

「す、スリーパーまで……」

 

 トワコがスリーパーをボールに戻す。同じくソラタもキレイハナをボールに戻すと、今度はトワコがニョロゾを、ソラタはフカマルを出した。

 

「ま、また知らないポケモンを……!」

「シンオウ地方に生息するフカマルだ、ドラゴン・地面タイプのな」

 

 地面タイプだが、ドラゴンタイプもあるので、水タイプの技は効果抜群にはならない。だが、氷タイプの技なら弱点足りえる。

 流石に成績を金で買っていたという噂があったとは言え、それでも地頭が悪くはないトワコはそれを判断出来たらしい。

 

「ニョロゾ! “れいとうビーム”ですわ!」

「“あなをほる”」

 

 “れいとうビーム”を地面に潜る事で回避したフカマルは地中を進む。

 対するニョロゾはキョロキョロとフカマルがどこから出てくるのか困っているようで、トレーナーであるトワコの指示を仰ごうとトワコの方へ振り返るが。

 

「え、あ、えっと……な、何とかなさい!」

 

 まともな指示が出てこないのでますます困ったニョロゾは完全に隙だらけになってしまった。

 

「哀れだな、ニョロゾ……同情するよ。フカマル、そのまま“ドラゴンクロー”!」

 

 ニョロゾの足元から飛び出したフカマルはドラゴンのオーラを纏った爪をニョロゾへと叩き付ける。

 焦ったニョロゾは回避が間に合わず、“ドラゴンクロー”がクリーンヒットしたのか、そのまま戦闘不能になってしまった。

 

 

「今のところ、全部一撃で終わってるんだが……トワコ、お前どんな育て方してるんだよ?」

「う、うるさいですわ! 私の育て方が悪いとでも!? 私の期待に応えないポケモンが悪いんですわ!! 行きなさいポニータ!!」

 

 ハッキリ言ってトワコはトレーナーとしては最低だ。ポケモンの育て方も甘いし、そもそも自分の育て方が悪いのを認めずポケモンが悪いとまで言い出す始末。

 

「お前の言い訳は耳障りな事この上ないな……行け、ニンフィア」

「フィア!」

 

 トワコのポニータをニンフィアの“ムーンフォース”の一撃で沈める。後が無くなったトワコはソラタがニンフィアをボールに戻す姿を睨みながら最後のゴージャスボールを投げた。

 

「行きなさい、フシギソウ!」

「ソウソウ!!」

「行け、リザードン」

「リザアアア!!!」

 

 トワコが最後に出したのはオーキド研究所で貰ったフシギダネの進化系、フシギソウだった。

 そして、ソラタが出したのもオーキド研究所で貰ったヒトカゲの最終進化系、リザードンだ。

 奇しくも同郷対決となったのだが、以前のシゲルのカメールとのバトル程の熱量が皆無なのは、トワコが相手だからなのだろう。

 

「ウ、ウソ!? リザードン!? ヒトカゲじゃなくて!? ソラタ如きが最終進化させられるなんて!!」

「お前さ、俺如きって見下した発言するけど、ハッキリ言ってやろうか? お前の実力は、俺以下だ。お前では俺にもシゲルにも、サトシにも勝てないよ」

「なっ!? さ、サトシですって!? あの底辺に、あの底辺のサトシに私が負けると!?」

 

 本当に、トワコはサトシをとことん見下しているらしい。それも昔からで、サトシもそんなトワコを苦手に思っていたのを思い出した。

 

「ゆ、許しませんわ。私をあの底辺以下だなどと口にした事、後悔させてやりますわ!! フシギソウ!! “たいあたり”!!」

「止めろ」

 

 突っ込んできたフシギソウを、リザードンは片手で頭を抑えて止めてしまった。パワーの差でいくら力んでもフシギソウは前に進む事も出来ず、踏ん張っている姿は逆に哀れに思えてきてしまう。

 

「フ、フシギソウ! もっと踏ん張りなさい!!」

「“かえんほうしゃ”」

 

 そのまま頭を鷲掴みして放り投げたリザードンは、“かえんほうしゃ”をフシギソウへ向けて発射、炎に飲まれたフシギソウは戦闘不能となって地面を転がるのだった。

 

「ま、負けた……私が、ソラタ如きに」

 

 負けた事が信じられないのか、フシギソウを戻して尚、呆然とするトワコに歩み寄ったソラタは、座り込むトワコを冷たい目で見下ろした。

 

「トワコ、お前はトレーナー失格だ。自分の育て方の悪さをポケモンの所為にするなんてトレーナーが一番やっちゃいけない事だ。お前にトレーナーの才能なんて無い、今のままじゃお前のポケモンが可哀そうだ」

「わ、私は……マサラタウンで2番目の資産家の娘、ですのよ!? その私が」

「それが? マサラタウンで2番目の資産家の娘だから、トレーナーとしての才能があるとでも? 笑わせるな」

 

 家柄と、トレーナーとしての才能は関係無い。

 

「お前、マサラタウンに帰れ。今のお前にトレーナーの資格は無い、ポケモンを大事に出来ないお前なんかが、トレーナーを名乗るな」

 

 こうして、ソラタ、シゲル、サトシと同時期にマサラタウンを旅立った一人の少女の旅は終わった。

 マサラタウンに帰ったトワコは、その後自宅の部屋に引き籠り、完全にトレーナーとしてはドロップアウトしてしまう。

 そして、いつしか自身のポケモン達からの信用さえ失ったトワコは、完全にトレーナーとしての資格を失うのであった。




次回はついにセキチクシティ到着!
相手はジムリーダーにして四天王も兼任する凄腕、どうなる事か。


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第30話 「セキチクジム! 毒の忍者キョウ!」

連続投稿です。
ついにセキチクジム!



ポケットモンスター

転生したのは始めに旅立った子供

 

第30話

「セキチクジム! 毒の忍者キョウ!」

 

 ポケモンリーグに出場する為、旅を続けるソラタは、ついに6番目のジムがあるセキチクシティに来ていた。

 ポケモンセンターで一泊した後、ポケモン達のコンディションを整えて準備を終えたソラタは、早速セキチクジムへ向かうと、この辺りでは有名な忍者屋敷が見えてくる。

 

「あの忍者屋敷がセキチクジムか……アニメの通りだな」

 

 ついにセキチクジムまでにフカマルをガバイトに進化させられなかったが、それでもコンディションは最高、気合も十分にある。

 ピンクバッジをゲットする為にも、再度気合を入れなおして忍者屋敷へ向かったソラタは、屋敷に設置されているカラクリに度肝を抜かれる事となった。

 

「カラクリ屋敷かよ」

 

 回転する壁、ビリリダマが仕込まれた落とし穴、透明な壁など、様々なカラクリで中々ジムリーダーの待つであろう部屋に辿り着けずにいる。

 このままでは日が暮れる。どうしようかと思いつつ廊下を歩いていると、やっと大きな広間に出た。

 

「たのもー! ジム戦に来たんですけどー」

 

 ジムの人間が居ないかと、声を掛けてみれば、天井から人影が飛び降りて来た。ピンクの派手な忍者衣装を纏ったくノ一、確か彼女はアニメでキョウの妹だった……。

 

「私の名はアヤ、このセキチクジムのトレーナーにして、くノ一忍者」

「マサラタウンのソラタです。ジム戦に来たんですが」

「ほう? ならば先ずは私を倒す事だな、未熟なトレーナーでは多忙な兄者の時間を無駄に浪費させるだけだ」

「え~っと」

 

 良いのだろうか、ジムリーダーでもない者が勝手にそんな事を決めてしまって。そう思っていたら、奥からビリリダマが転がってきて“じばく”を使用、辺りに煙が舞った。

 

「アヤ、勝手な事をするでない。マサラタウンのソラタというトレーナーが訪ねて来たら素直に通せと言っておいた筈じゃ」

「あ、兄者!」

 

 煙の中から青い忍者服を着た中年程の男が現れた。間違いない、彼こそがセキチクジムのジムリーダーにして、ジョウト四天王が一人、毒タイプ使いのキョウだ。

 

「アヤ」

「あ、兄者……しかし、この程度の新人トレーナーなど、兄者の手を煩わせる訳には」

「言った筈じゃ、この者は初めから私が相手をするに相応しいトレーナーじゃと、お前では相手にもならん」

「そ、そんな……」

 

 ショックで固まるアヤを尻目にキョウは一歩前に出ると、真っ直ぐソラタを見つめ、フッと笑みを浮かべた。

 

「成程、エリカやナツメの言うておった通り、中々良い目をしておるではないか」

「え……」

「事前にタマムシジムのジムリーダーエリカと、ヤマブキジムのジムリーダーナツメから話を聞いておったのじゃよ、新人トレーナーにしては見所のある腕前の持ち主、マサラタウンのソラタという少年が訪ねてくる筈だとな」

 

「あの二人が、そんな事を……」

「うむ、そして今こうしてお主の目を見て確信した。お主は一般的な新人トレーナーよりも上のレベルで相手をするに相応しいトレーナーじゃとな」

 

 早速だが、ジム戦を行う事となった。キョウとアヤ、ソラタは庭に出て、庭のバトルフィールドにソラタとキョウが、審判ゾーンにはアヤが立つ。

 

「これより、セキチクジムのジム戦を行います! 使用ポケモンは互いに3体! 尚、バトル中のポケモンの交代はチャレンジャーにのみ認められます」

「では先ずはワシが、行けアリアドス!!」

「リア!!」

 

 キョウが出したのはジョウト地方の虫タイプ、アリアドスだった。しかも、キョウが使用するアリアドスと言えば、四天王の手持ちの一体だった筈。

 

「恐らくお主は四天王としてのワシの手持ちも凡そ知っておろう。確かにアリアドスは四天王としてのワシの手持ちじゃが、このアリアドスは別個体じゃ」

 

 このアリアドスはあくまでジム戦用のアリアドスであって四天王としての手持ちのアリアドスはまた別の個体なのだとか。

 それなら安心かと、ソラタもモンスターボールを構えて、初手のポケモンを出す。

 

「行け、フカマル!」

「カフカフカ!」

 

 虫と毒タイプのアリアドスなら、フカマルは十分相性が良い。元々セキチクジムの為に特訓していたのもあったので、初手から活躍して貰う事にした。

 

「ほう、フカマルか。シンオウ地方のポケモンとは珍しい」

「縁がありましてね、フカマルのタマゴを貰ったんです」

「成程、じゃが相性だけで勝てるとは思わぬ事じゃ」

「望む所です」

 

 ソラタもキョウも、互いに笑みを浮かべて、アリアドスとフカマルもやる気十分、それを見ていた審判のアヤはフラッグを大きく頭上へ掲げた。

 

「アリアドス対フカマル、バトル開始!!」

「先ずはこちらからじゃ! アリアドス、“かげぶんしん”!!」

 

 キョウの指示でアリアドスが分身した。無数の分身がフカマルを囲み、フカマルはどれが本物かキョロキョロと見渡すも、判断が付かない。

 

「続いて“クロスポイズン”!」

「落ち着け! “じしん”だ!!」

 

 分身しているアリアドスが“クロスポイズン”の構えで一斉に襲い掛かるも、フカマルは大きく足を振り上げ、地面に叩き付ける事で大きく地面が揺れて、衝撃波が全方位に拡散した。

 

「アリッ!?」

「アリアドス! ジャンプして“いとをはく”!!」

 

 すると、アリアドスが空中で糸を吐いて四方八方へ伸ばす。やがて空中に糸の足場が出来上がって、アリアドスは糸の上に飛び乗った。

 

「しまった!?」

「これで“じしん”は使えまい。アリアドス、“ふいうち”!」

「引き付けろフカマル! “ドラゴンクロー”!!」

 

 糸から糸へ飛び移りながらフカマルに迫るアリアドスに、地面タイプの技は意味が無い。ならばと、引き付けて接近戦に持ち込むしか無い。

 フカマルの“ドラゴンクロー”がアリアドスの角による“ふいうち”を受け止め、更にもう一撃叩きこもうとしたのだが。

 

「“クロスポイズン”じゃ」

「アリアリア!!」

「カフ!?」

「フカマル!!」

 

 まともに“クロスポイズン”を至近距離から受けてしまった。だが、フカマルも同時に“ドラゴンクロー”をアリアドスに叩きこんで、互いに吹き飛んでしまう。

 

「大丈夫か? フカマル」

「カフカフ、カ……フ」

「まさか、毒か!」

 

 “クロスポイズン”の副次効果で毒を受けてしまったフカマルは若干顔色が悪い。交代するべきかと思ったソラタはモンスターボールを取り出したが、フカマルは戻る事を拒否、まだ戦うと顔色が悪いまま立ち上がった。

 

「フカマル……」

 

 しかし、状況は良くない。地面タイプの技は空中に張った糸の上に乗るアリアドスには届かず、接近戦は互角の状況で、毒状態のフカマルは徐々に体力を失っていく。

 この状況を打開するには先ず糸を何とかしなければならない。

 

「“ストーンエッジ”は未完成、ならばフカマル! “りゅうのはどう”!!」

 

 遠距離からの攻撃ならと、“りゅうのはどう”を指示。フカマルがドラゴンのオーラを纏って放出すると、一直線に糸の上のアリアドスへ向かうが。

 

「甘いのう、アリアドス、もう一度“かげぶんしん”じゃ」

 

 再びアリアドスが分身を作り出して“りゅうのはどう”を回避した。

 

「連続で“ふいうち”じゃ」

 

 分身の一体がフカマルの背後から迫る。どうやら分身ではなく本体だったようで、フカマルは“ふいうち”による角の一撃を背中に受けてしまい、アリアドスも再び糸の上へ。

 更に別の分身と本体が入れ替わって“ふいうち”で攻撃しては糸の上に戻るヒットアンドアウェイに、フカマルのダメージが蓄積されていく。

 

「くそっ! どうする……? このままじゃフカマルの体力が」

 

 段々と息が荒くなってきたフカマルは、もうそろそろ体力の限界を迎えようとしている。やはり一度ボールに戻すべきかと、今度こそモンスターボールに戻そうとした時だった。

 

「カフカフカーー!!!!」

 

 フカマルが、体力の限界を迎えて火事場の馬鹿力と言うべきなのか、新しい技を繰り出した。

 撒きあがる砂嵐はアリアドスと、その足場の糸を巻き込み天高く吹き飛ばす。これは……。

 

「“すなあらし”か!」

「なんと! この土壇場でか!!」

 

 土壇場で覚えた“すなあらし”によって、周囲の糸が全て綺麗に無くなった。同時に落ちて来たアリアドスは“すなあらし”によるダメージを受けていて、隙が出来ている。

 

「フカマル! 最大パワーで“りゅうのはどう”!!」

「カフカフカフカフーーー!!」

 

 フカマルの放った“りゅうのはどう”が落下したばかりのアリアドスに直撃、吹き飛ばされたアリアドスは目を回して倒れてしまう。

 だが、同時に体力の限界を迎えたフカマルも、その場で倒れて目を回してしまった。

 

「アリアドス、フカマル、共に戦闘不能!」

 

 ソラタとキョウ、共に1体目は相打ちに終わった。互いのポケモンをモンスターボールに戻すと、キョウは少し嬉しそうな表情を浮かべながら次のボールを取り出している。

 

「いや、中々やるではないか。エリカやナツメの言っていた通りじゃ……新人トレーナーとのバトルで、ここまで楽しくなるのは、あの娘に続いて二人目じゃな」

 

 あの娘とは、ソラタの脳裏には一人の少女の姿が映し出されていた。そして恐らくその通りなのだろう。

 しかし、今はそれは関係ない。ソラタも次のボールを手に取り、構えた。

 

「さあ、次はお前じゃ! 行けゴルバット!!」

「頼むぞピカチュウ!!」

 

 お互いの2番手はゴルバットとピカチュウ、セキチクジムの戦いは中盤に差し掛かり、更に激しさを増して行く。

 勝つのはソラタか、キョウか、次回に続く。




次回でセキチクジム終了予定です。
早々に書きたい話があるので、早めに進めます。


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第31話 「毒の猛攻!」

お待たせしました。
そして、セキチクジム戦、終わりませんでした。


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第31話

「毒の猛攻!」

 

 ポケモンリーグに出場する為、旅を続けるソラタは、6つ目のジムであるセキチクジムに挑戦していた。

 ジムリーダーのキョウはジョウト地方の四天王を兼任する毒タイプの使い手、実力はカントーのジムリーダーの中でも最高位と言って良いだろう。

 第一戦目のアリアドスとフカマルのバトルはダブルノックダウンによる相打ちに終わり、ソラタもキョウも残るポケモンは2体、そしてその2体目であるゴルバットとピカチュウのバトルが、今始まろうとしている。

 

「ゴルバット対ピカチュウ、バトル開始!」

「今度はこっちから行くぞ! ピカチュウ! “10万ボルト”!!」

「ピ~カッ! チュウウウウウ!!!」

「回避じゃ!」

 

 ピカチュウの開幕“10万ボルト”を空中で華麗に回避したゴルバットは羽ばたきながらピカチュウを鋭い眼光で睨みつけていた。

 

「今度はこちらの番じゃな、ゴルバット! “エアスラッシュ”!!」

「迎え撃て! “アイアンテール”!!」

 

 ゴルバットが高速で羽根を羽ばたく事で発生した空気の刃がピカチュウに襲い掛かるが、尻尾を鋼鉄にしたピカチュウが、その悉くを叩き落として迎撃する。

 どちらの攻撃も当たらず、互角の勝負をしているように思うが……。

 

「“でんこうせっか”だ!」

「ぬぅっ! 中々のスピードだが、これでどうだ! “ねっぷう”!!」

 

 高速で動くピカチュウに熱気を帯びた風が襲い掛かった。今度は“エアスラッシュ”の時のように迎撃不可、ピカチュウは全身で“ねっぷう”の直撃を受ける……その前に。

 

「“あなをほる”!!」

 

 地中へと潜り回避に成功した。いや、ギリギリの回避だった為、背中を若干だが掠ったのが見えた。

 

「ほう、やるではないか。ゴルバット、“ちょうおんぱ”じゃ」

 

 本来、相手を混乱させる技である“ちょうおんぱ”だが、キョウはピカチュウを混乱させる為に使ったのではない。

 

「見つけたな? “どくどく”!!」

 

 ゴルバットがキョウの指示により一直線に地面のあるポイントへと急降下した。

そして、その真下の地面からピカチュウが飛び出してしまい、ゴルバットの猛毒のエネルギーを纏った翼の一撃を受けてしまう。

 

「ピ、カ……」

「馬鹿な!?」

 

 猛毒状態になったピカチュウが苦しそうに呻くのを見て、ピカチュウが飛び出すポイントをピンポイントで当てたゴルバットにソラタが驚く。

 しかし、直ぐにそのカラクリが理解出来た。

 

「そうか、“ちょうおんぱ”をソナー替わりに」

「左様、我がゴルバットは“ちょうおんぱ”を使う事で隠れた相手を見つけ出す事が出来る。例え水中であろうと、地中であろうとじゃ」

 

 強い、これがジムリーダーにして四天王の実力。巧みな戦術は見事にソラタを追い詰めている。

 更に言えば状況も不味いことになった。猛毒状態のピカチュウは先ほどのフカマルよりも早く体力が消耗していく為、長期戦は不可能と言って良い。

 

「……戻れ、ピカチュウ」

 

 だから、ソラタはピカチュウが戦闘不能となる前にボールへと戻した。

 

「良い判断だ。先ほどのフカマルはただの毒状態だったからまだ戦う余地があったが、猛毒状態のピカチュウはフカマルの時とは比べ物にならん速度で体力を奪われる。猛毒と毒、状態の違いを理解出来ておるようで何よりじゃ」

「ええ、本当に理解していて良かったです。お陰で残り一体にならずに済みましたから」

 

 とは言え、もうピカチュウは戦闘に出せない。ゴルバットと、残り一体をソラタの最後の一体で倒さなければならないのだ。

 

「最後は、お前だ……頼むぞ、エース」

 

 ソラタがセキチクジム戦で使用を決めた最後の一体、それは当然ソラタの手持ちのエースにして切り札。

 

「行け、リザードン!!」

「グルァアアア!!!」

 

 ボールから出た途端に天高く飛び上がり炎を吐くソラタのエース、リザードンが威風堂々と羽ばたきながらゴルバットを睨みつけた。

 

「ほう、リザードンか……相手にとって不足無し」

 

 ニヤリとキョウが笑うと、審判のアヤに目で合図をする。それを受けたアヤはフラッグを掲げた。

 

「では、ゴルバット対リザードン、バトル開始!!」

「ゴルバット、“ちょうおんぱ”じゃ!!」

「リザードン! 回転しながら“かえんほうしゃ”!!」

「何ぃ!?」

 

 本来の目的で放たれたゴルバットの“ちょうおんぱ”だったが、リザードンがその場で回転しながら“かえんほうしゃ”を放つ事で炎が四方八方へ飛び回り“ちょうおんぱ”を遮る。

 更には炎はそのままゴルバットにも襲い掛かり、ゴルバットも慌てて炎を回避するしかなくなってしまう。

 そう、これはソラタの幼馴染であるサトシが未来で編み出す攻防一体の戦術、カウンターシールドだ。

 

「何と奇天烈な戦術よ! 見事! ゴルバット、“エアスラッシュ”!!」

「リザードン! 回避して“かみなりパンチ”!!」

 

 無数の風の刃を高速で飛行しながら回避しつつ、リザードンは握り拳に雷を纏ってゴルバットへ迫った。

 リザードンの拳が雷を纏っている事に気付いたゴルバットは直ぐに回避しようと“エアスラッシュ”を止めて飛び回るが、リザードンはそれを追い続ける。

 

「ヌゥッ!?」

「良いぞリザードン、そのまま追い詰めろ!」

 

 時折リザードンが“かえんほうしゃ”でゴルバットの回避方向を塞ぎつつ逃げ場を誘導すると、ついにゴルバットの目の前には屋敷の塀が、完全に行き止まりだった。

 

「やれ!!」

「ゴルバット!!」

 

 追い詰められたゴルバットにリザードンの“かみなりパンチ”が直撃、一発二発と連続で叩きこまれたゴルバットは全身が痺れて羽ばたく事すら困難になった。

 

「そのまま地面に叩き付けて“かえんほうしゃ”だ!」

 

 リザードンはゴルバットをわし掴み地面へ叩き付けると、そのまま“かえんほうしゃ”を発射、炎に飲まれたゴルバットは戦闘不能となってしまった。

 

「ゴルバット、戦闘不能! リザードンの勝ち!」

 

 これでキョウの残るポケモンは一体だが、ソラタもリザードンと猛毒状態のピカチュウという状況、ソラタが有利だとは断言出来る状況ではない。

 

「ふ、ふふふふ、ふははははははは!! 楽しい! 楽しいぞソラタよ! まさか新人トレーナー相手に、ここまで楽しいバトルが出来るとは思わなんだ! 今この時ほど四天王としてバトル出来ない事が悔やまれる事は無い!!」

 

 実に愉快だと笑うキョウは、最後のモンスターボールを取り出した。そしてそれを、アヤへと投げ渡す。

 

「あ、兄者? これはベトベトンのボールでは……」

「ソラタよ! 四天王として戦えぬとも、ジムリーダーとしてもう一段レベルを上げたバトルを最後に見せよう! セキチクジム・ジムリーダーキョウの最後のポケモンはこやつじゃ!!」

「兄者! それは!!」

 

 キョウが取り出したのはダークボールと呼ばれる夜間や洞窟内部で使用する事で捕獲率が上がる特殊なモンスターボールだった。

 

「では行くぞ、出でよマタドガス!!」

 

 キョウが投げたダークボールから出てきたのは、どくガスポケモンのマタドガスだった。だが、ただのマタドガスではない。ソラタが良く知るマタドガスとは色も姿もまるで違う。

 

「まさか……リージョンフォーム!?」

「ほう! まさか、リージョンフォームを知っておったか!! 如何にも、このマタドガスはリージョンフォームによって毒・フェアリータイプを持つ、ガラル地方特有の進化を果たしたマタドガスよ」

「もう兄者! そのマタドガスはジム戦で使うには強すぎるって、他ならぬ兄者が言っていた事ではないですか! なのに、それを本人が破るなど、跡継ぎのアンズが見たら何と言うか!」

「黙っておれ、アンズにバレたとしても何を言わせるつもりもない。ソラタは、このマタドガスで戦うに相応しいトレーナーだと、ワシが判断したのじゃ」

 

 もう、キョウはソラタのリザードンと戦わせるのは、マタドガス・ガラルのすがた以外に無いと決めている。

 そして、ソラタもリザードンも二人の話を聞く限りこのマタドガスはジム戦で使うには強すぎるポケモンだという事で、静かに闘志を燃やしていた。

 

「行けるな、リザードン……相手は、強いぞ」

「グル」

 

 受けてた立とうではないか。セキチクジム・ジムリーダーにして四天王が一人、キョウがソラタならばと出してくれたマタドガス、これに勝たねばリーグ出場が叶わないのであれば、勝つだけだ。

 

「良い目だ、ソラタも、リザードンも」

「ああもう! どうなっても知りませんからね! マタドガス対リザードン……」

 

 フィールドで睨み合うマタドガスとリザードンは、もう既に闘志が漲っている。己が全力で、目の前の敵を倒せと、本能が叫んでいるのが判る。

 

「バトル開始!!」

「“かえんほうしゃ”!!」

「“ヘドロばくだん”!!」

 

 セキチクジム、後半戦。これがラストバトルになるのか否か、それは次回に続く。




次回で今度こそセキチクジム戦は終わります!


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第32話 「リザードンの切り札」

お待たせしました。
セキチクジム決着です。


ポケットモンスター

転生したのは始めに旅立った子供

 

第32話

「リザードンの切り札」

 

 ポケモンリーグに出場する為、旅を続けるソラタは6個目のバッジをゲットする為にセキチクジムに挑戦していた。

 ジムリーダーのキョウが操る毒タイプのポケモンにより毒状態という状態異常に苦しめられるソラタは、何とかキョウの残りポケモンを1体まで追い詰めたが、ソラタ自身にも余裕は残っていない。

 そして、キョウの最後のポケモンは毒・フェアリータイプを持つマタドガス・ガラルのすがた、リージョンフォームのマタドガスであり、キョウが本来ならジム戦では使用しないポケモンだと言う。

 

「リザードン! “かえんほうしゃ”!!」

「マタドガス! “ヘドロばくだん”!!」

 

 “かえんほうしゃ”と“ヘドロばくだん”の威力は互角、互いに押し切れないと判断したキョウが素早く次の指示を出した。

 

「“えんまく”じゃ」

 

 マタドガスが“えんまく”を吹き出し、その中に姿を隠した。そして、“えんまく”の中から“ヘドロばくだん”を撃って来るので、リザードンは回避するにしても動作が一歩遅れる。

 回避しきれず掠ったりもするが、今のところ大きなダメージにはなっていないので、ソラタはリザードンに目を向けると、リザードンもソラタの方を向いて小さく頷いた。

 

「突っ込めリザードン! “はがねのつばさ”だ!!」

「なんと!?」

 

 リザードンが己が翼を鋼のエネルギーで硬質化させながら“えんまく”の中に突っ込んだ。

 一見すれば無謀な行為、視界の悪い“えんまく”の中に突っ込むなど、普通のトレーナーなら絶対にしないであろう指示だったが、リザードンは迷う事無く指示に従い、視界の悪い“えんまく”の中であっても正確にマタドガスの位置を捕らえて鋼の一撃を与える。

 

「マタドガス!」

 

 “えんまく”の中から吹き飛ばされてきたマタドガスは大ダメージを受けたのだろう、若干苦し気で、同じく飛び出してきたリザードンは既に追撃の準備が整っていた。

 

「まさか、“えんまく”の中であっても正確にマタドガスの位置を見つけられるとは、見事じゃ」

「俺のリザードンはヒトカゲの時から“えんまく”を使って視界の悪い中でのバトルの訓練もして来たんです。あの程度の目暗まし、リザードンにはあって無いようなもの」

「成程、見事な育て方じゃ」

 

 キョウがリザードンの育て方に関心しているのは素直に嬉しいが、今はそれよりもバトルが優先だ。

 ソラタは既に構えているリザードンに目を向けた。

 

「行くぞリザードン! もう一度“はがねのつばさ”だ!」

「“まもる”!」

 

 再度、リザードンの“はがねのつばさ”がマタドガスに迫るも、キョウは素早く“まもる”を指示、マタドガスの前に“まもる”によるシールドが張られ、“はがねのつばさ”を受け止めた。

 

「“ようせいのかぜ”じゃ!」

「かわせ!!」

 

 至近距離からの“ようせいのかぜ”がリザードンに直撃した。回避を指示したが、流石に至近距離からの攻撃は回避不可能だったようで、ピンク色の風に襲われたリザードンは大きく吹き飛ばされた。

 

「畳み掛けろ、“ヘドロばくだん”!!」

「そのままの態勢で良い! “かえんほうしゃ”だ!」

 

 マタドガスの“ヘドロばくだん”に、吹き飛ばされた態勢のままリザードンも“かえんほうしゃ”を放つ。

 先ほどは威力が互角だったが、不自然な態勢での“かえんほうしゃ”はリザードン自身の踏ん張りが効かないのか、“ヘドロばくだん”に威力で負けてしまい、いくつかのヘドロがリザードンに直撃して爆発した。

 

「くっ! リザードン! 大丈夫か!?」

「グ、グルゥ」

 

 爆発により更に吹き飛ばされ、ソラタの隣まで飛んできたリザードンだったが、まだ戦えると立ち上がり、左手を握って親指を立てて大丈夫だとアピールして見せた。

 

「強いな、マタドガス」

「リザッ」

「だけど、勝てない相手じゃない」

「リザァッ!」

「まだ未完成で、成功率も低いけど……“アレ”、行けるな?」

「グルァアアアア!!!!」

 

 リザードンが大きく翼を広げてフィールドへジャンプ、炎を吐きながら再び戦意を高めた。

 

「ぬぅ? まだ何か隠しておるようじゃな……マタドガスよ、一気に決めるぞ、“ようせいのかぜ”じゃ!!」

「飛べ! リザードン!!」

 

 再度放たれた“ようせいのかぜ”を、リザードンは空を飛ぶ事で回避、マタドガスもそれを見て上空のリザードンを追うように“ようせいのかぜ”を操って追撃させる。

 

「“はがねのつばさ”で吹き飛ばせ!!」

 

 追ってくる“ようせいのかぜ”に対して、リザードンは再び翼を硬質化させると、その翼を羽ばたかせる事で“ようせいのかぜ”を打ち破って見せた。

 

「見事!」

「突っ込め!!」

 

 そのまま“はがねのつばさ”を維持してマタドガス目掛け突っ込んでくるリザードンにキョウは再度“まもる”を指示、リザードンの翼はシールドに受け止められたのだが……。

 

「“かみなりパンチ”だ!!」

「グルァアアア!!!」

 

 雷を纏った拳がシールドを叩き割ってマタドガスを捕らえた。まともに“かみなりパンチ”の一撃を受けたマタドガスは大きく吹き飛び、ソラタの運が良いのかマタドガスは麻痺の状態異常になったらしい。

 

「しまった! マタドガス!!」

「今だリザードン!! 一気に決めるぞ!! “ブラストバーン”!!!」

「グルゥッ!! リザアアアアア!!!」

 

 リザードンが全身に炎を纏い、その拳を大きく振り上げて地面に叩き付ける。すると、地面が大きくひび割れながら炎を吹き出しつつ、ひび割れがマタドガスへ迫った。

 

「マタドガス、避けるんじゃ!!」

 

 回避を指示するキョウだったが、麻痺して動きが鈍ったマタドガスでは回避が間に合わない。

 究極の炎技“ブラストバーン”の一撃により罅割れた地面からの炎に飲まれたマタドガスは炎が止んだ後、全身黒焦げ状態であるにも関わらず、倒れずにリザードンを睨んでいた。

 

「嘘だろ……」

 

 倒しきれなかった。究極技“ブラストバーン”で倒しきれず、リザードンは反動で動けない。

 まさかの事態に敗北も覚悟したソラタだったが……。

 

「フッ……マタドガスよ、もうよい」

「ま、マ~タドガ~……」

 

 キョウの言葉と共に、宙に浮いていたマタドガスが地面に落下、そのまま目を回してしまった。

 

「マタドガス、戦闘不能! リザードンの勝ち!! よって勝者、マサラタウンのソラタ!!」

 

 勝った。激闘の末、見事ソラタはセキチクジムを制覇し、ポケモンリーグ出場へ更に一歩近づくことが出来た。

 

「見事のバトルじゃったぞソラタ」

「キョウさん……ありがとうございます」

 

 マタドガスと共にソラタの傍まで歩み寄ったキョウは笑みを浮かべソラタの勝利を祝してくれた。

 マタドガスもソラタの隣に立つリザードンに笑顔を向けており、リザードンも笑顔を返す。

 

「最後までポケモンを信じ、戦略を駆使して戦うソラタとポケモン達の何と見事な事か……このピンクバッジを授けるに足るトレーナーとして、認めよう」

 

 キョウは懐から巻物を取り出して、広げたそこにはピンクバッジが。

 

「受け取るが良い。セキチクジム勝利の証、ピンクバッジはソラタの物でござる」

「……! ありがとうございます」

 

 巻物からピンクバッジを取り外して受け取ったソラタは、バッジケースを開いてゴールドバッジの隣にピンクバッジを納めた。

 これで6つ目、残るバッジ2つをゲットしたら、ソラタはポケモンリーグ出場資格を得る事になる。

 

「うむ、6つか……次はグレンジム辺りかの?」

「ええ、グレン島に行ってグレンジムに挑戦する予定です」

「となると、カツラか……あやつは元研究者ではあるが、バトルの腕は確かじゃ。研究者時代の知識を駆使したバトルは中々のもの故、確り戦略を練って挑むと良い」

「ありがとうございます。そうします」

 

 最後に、キョウと握手をしてセキチクジムを後にしたソラタは、ずっと出しっぱなしにしていたリザードンに跨ると、空を飛んでポケモンセンターを目指した。

 ポケモン達の回復をして、それからグレン島を目指すのだ。

 

「楽しみだなリザードン、もう少しで俺達、リーグに出場出来るんだ」

「グルッ」

「そこにはまだ見ぬ強敵が沢山いるに違いない……燃えてくるよな」

「リザァ!」

 

 サトシ、シゲル、シズホ、それにアニメの知識ではヒロシといった様々な強敵が待っている。

 残り2つのバッジをゲットして、そんな強敵が待つポケモンリーグに出場する。夢への扉が、もう直ぐそこまで来ているのだと、ソラタは一段と胸を熱くさせながら空を駆けるのだった。




次回は久しぶりの人物が出てきます。
アニメの話に少しオリジナルの展開をと考えています。


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第33話 「イーブイの進化」

連投です。


ポケットモンスター

転生したのは始めに旅立った子供

 

第33話

「イーブイの進化」

 

 ポケモンリーグに出場する為、旅を続けるソラタは7つ目のジムがあるグレン島を目指していた。

 旅の途中、ソラタは近くにあるストンタウンという街で進化の石を使って進化するポケモンとトレーナー達の集まりがあるという話を聞いて、もしかしたら“かみなりのいし”を買えるかもしれないと思い、立ち寄る事にしたのだ。

 

「この森を抜ければストンタウンだったよな」

 

 道中、森の中を歩いていたソラタはマップを頼りにストンタウンへの道を進んでいるのだが、ふと近くの木の影に人が立っているのに気が付いた。

 

「ん?」

 

 しかも、その人影は見覚えがあるではないか。艶やかな黒髪をロングストレートにした少女は、以前出会ったソラタにとってのライバルとなる少女。

 

「シズホ?」

「……あら? ソラタさん」

 

 どうやら木の実を採っていたらしいシズホはソラタに気付いてこちらへ歩み寄って来た。

 彼女の足元にはエーフィも居り、エーフィもまた、ソラタの姿を見て軽く頭を下げて来た。

 

「久しぶりだな」

「はい、ソラタさんも」

 

 折角シズホのエーフィがいるので、ソラタもニンフィアをボールから出してやれば、2匹は互いに頭をこすり合わせて挨拶をしている。

 

「ソラタさんはどちらへ?」

「この先にストンタウンって街があるんだけど、進化の石で進化出来るポケモンとトレーナーの集まりがあるんだって、そこに行こうと思ってるんだ」

「進化の石で進化するポケモンとトレーナーの集まり……噂で聞いた事があります」

 

 ストンタウンは進化山と呼ばれる進化の石が沢山採掘される山の麓にある街で、進化の石で進化するポケモンのトレーナーは旅の途中で必ずと言って良いほど多く訪れる街なのだ。

 事実、ソラタもピカチュウを持っているので、“かみなりのいし”を欲している。今すぐ進化させるつもりは無いが、いずれアローラ地方に行った時に進化させようと考えているから、今の内に一つだけ石を所持しておきたかったのだ。

 

「シズホは? 石で進化するポケモンは持ってないの?」

「一応、持ってますけど……メインの子じゃないんですよねぇ。でも、“やみのいし”は欲しいです」

 

 “やみのいし”で進化するポケモンとは、また珍しい。少なくともカントーやジョウトのポケモンではなさそうだが、メインの子ではないという事は、サブパーティーには入れているという事か。

 

「サブのポケモンにって事なら俺も“ほのおのいし”と“みずのいし”が欲しいかな、おつきみやまで“つきのいし”は手に入れてるし」

「ストンタウンで購入出来るんですかね?」

「大丈夫だと思う」

 

 そんな話をしていると、二人の目の前に開けた道が見えて来て、その向こうに街と、進化山と呼ばれる山が見えて来た。

 

「確か、話では今日が集まりの日って話だな、ガーデンパーティーをしてるらしい」

「行ってみましょうか」

 

 ニンフィアとエーフィをボールに戻して歩き出したソラタとシズホはストンタウンに入る。

 然程大きい街という訳ではないが、小さな町という程ではない街の通りを歩いていると、賑やかな場所が見えて来た。

 

「あれじゃないか?」

 

 通りの突き当りにある大きな屋敷、その庭でガーデンパーティーが開かれている。間違いない、あの庭で行われているのが進化の石で進化するポケモンとトレーナーの集まりだ。

 

「行ってみよう」

「はい」

 

 屋敷の庭に入ってみると、広い庭にテーブルを並べ、その上に料理や進化の石が置かれており、その周囲には多くのトレーナーとポケモンの姿があった。

 ポケモン達も皆、進化の石で進化する、あるいはしたポケモンばかりで、間違いなくこの場所が集まりのパーティーらしい。

 

「って、あれ? サトシ」

「え……ソラタ?」

 

 何と、パーティー会場にサトシと、それから旅の仲間であるタケシ、カスミの姿もあるではないか。

 

「何だ、サトシもこのパーティーに参加してたのか」

「あ、ああ、ちょっと訳ありでな」

 

 何でも、サトシ達は旅の途中で木に繋がれたイーブイを発見し、その首輪に付いているプレートに書かれた住所を見て来たとの事だ。

 

「そのイーブイは?」

「あそこ、トレーナーのタイチと一緒だ」

 

 タイチと呼ばれた少年とイーブイは庭の一角にあるベンチでパーティーの料理を食べているようだ。

 話を聞いて、イーブイは捨てられたのかと思ったがそうではないらしい。何でもタイチの3人の兄がイーブイをどのポケモンに進化させるのかと迫って来ていて、それで困っているのだとか。

 

「へぇ……イーブイの進化ね」

「そうなんだよ、ブースター、シャワーズ、サンダース、どれに進化させるのかってさ」

 

 別にその三匹に限定する必要は無いのではないだろうか。そう思ってしまった。

 

「イーブイの進化先は別に他にもあるんだから、その三匹に限定する必要無いんじゃないか?」

「え? イーブイってブースターやシャワーズ、サンダース以外にも進化するのか?」

「ああ」

 

 すると、サトシとソラタの話を聞いてタケシやカスミだけでなくタイチ、それにタイチの兄であるライゾウ、アツシ、ミズキも集まって来た。

 

「おいおい君、イーブイの進化先が他にあるだなんて出鱈目はよしてくれ、タイチが変に期待してしまうじゃないか」

「出鱈目って……お兄さん方はカントーしか旅した事が無いんですか?」

「む? まぁそうだが……」

「彼の仰っている事は本当ですよ」

 

 すると、庭の入口から声が聞こえて来た。そこには、綺麗な和服を纏った一人の女性が、クサイハナを連れて立っている。

 

「あれは、エリカさん!?」

「お久しぶりですわね、ソラタさん、シズホさん、サトシさん」

 

 そう、そこに居たのはタマムシジムのジムリーダー、エリカだった。

 

「エリカさん、今日はお越しになられたんですね」

「ええ、リーフのいしを購入しに」

 

 ライゾウに話しかけられ、エリカが答えると、エリカはタイチが抱っこしているイーブイに目を向けて優しく微笑む。

 

「イーブイの進化系は確かにカントーではブースター、シャワーズ、サンダースの3体が一般的ですわ。当然、カントーのトレーナーなら、イーブイをゲットして進化させるのはその何れか……ですが、私と、ソラタさん、それにシズホさんは嘗てはイーブイのトレーナーで、今はそれぞれ別々の進化先に進化させております」

 

 そこでエリカとソラタ、それにシズホはそれぞれモンスターボールを取り出して、そこに入ったポケモンを出すことになった。

 

「出てらっしゃい、リーフィア」

「出てこい、ニンフィア」

「出てきて、エーフィ」

 

 エリカが出したのは草タイプのリーフィア、ソラタはフェアリータイプのニンフィア、シズホはエスパータイプのエーフィ、ライゾウ、ミズキ、アツシのサンダース、シャワーズ、ブースターに並び、イーブイの進化系が更に並んだ。

 

「草タイプのリーフィア、エスパータイプのエーフィ、フェアリータイプのニンフィア、この場には居ませんが他にも悪タイプのブラッキーに氷タイプのグレイシアがおりますわ」

「グレイシアだったらシンオウ地方のチャンピオンのシロナさんの手持ちに居るな」

「ブラッキーはジョウト地方の四天王カリンさんの手持ちに居ますよ」

 

 カントーでは中々知られていないイーブイの進化系、炎、水、電気以外にも居た事が驚きなのか、ライゾウ達も、サトシ達も随分と驚いているようだ。

 

「そ、ソラタのイーブイだよな? 昔からソラタの家に居たあの……」

「ああ、今は進化してニンフィアだけどな」

「フィア!」

 

 ニンフィアもサトシを覚えているのか、頭を撫でる手に頬を摺り寄せて元気な返事を返している。

 

「このニンフィアは、あの時のイーブイなのか」

「ええ、タケシさんのイワークと戦ったあのイーブイです」

 

 そう言えばニビジムでイワーク相手にイーブイを使った事を思い出した。

 

「そうかニンフィアはイーブイの進化系だったのか」

「ええ、最初からニンフィアに進化させるつもりで育成してましたので」

 

 ポケモンブリーダーを目指すタケシはニンフィアを見て、よく育てられていると褒めてくれた。

 ブリーダー目線から褒められるのは、中々嬉しいものだ。

 

「な、なぁ、あんた達のイーブイは何の石を使って進化させたんだ?」

 

 すると、ミズキがソラタ達にイーブイを進化させるのに使った石を聞いてきた。とは言え、エリカのリーフィアはともかく、ソラタとシズホは石を使った進化ではない。

 

「私のリーフィアは“リーフのいし”ですわ」

「私のエーフィは石を使ってませんよ」

「俺のニンフィアもな」

 

 エーフィとニンフィアは特定の条件下での進化なのであって、進化の石を使っての進化ではない。

 

「タイチ君、君のイーブイはまだまだ可能性がある。ブースター、サンダース、シャワーズに限らず、他のポケモンへの進化の可能性も十分ある。まだまだこれから先は長いんだ、どんなポケモンに進化させるのかは、ゆっくり決めると良いんじゃないかな」

 

 勿論、イーブイから進化させないという選択肢もある。イーブイのトレーナーは将来、イーブイをどうするのか、それは自由な意思の下に悩み抜いた末に決めるべきなのだ。




次回は、ソラタは初遭遇の三人組が登場


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第34話 「銀河を駆けるロケット団」

アニポケ作品だというのに、彼らの登場は初ですね。


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転生したのは始めに旅立った子供

 

第34話

「銀河を駆けるロケット団」

 

 ポケモンリーグに出場する為、旅を続けるソラタは、7つ目のジムがあるグレンタウンを目指して旅をしていた。

 その途中、ストンタウンという街で石で進化するポケモンとトレーナーの集まりに参加する事になったソラタは、道中でライバルのシズホと再会し共に集まりに参加する。

 そこで出会ったイーブイとその進化系のトレーナー4兄弟に、イーブイの育て方や進化先について教授をする事となり、タイチ少年にイーブイのトレーナーの先達としてアドバイスをするのだった。

 

「なあなあソラタ! ソラタはバッジいくつ集まったんだ?」

 

 話がひと段落して、パーティーの食事を堪能していたソラタとシズホにサトシが話しかけてきた。

 3人ともリーグ出場の為にジム戦をする者同士、やはり気になるのだろう。

 

「俺は6つだな」

「私も6つです」

「じゃあ同じだ! 俺も6つなんだ」

 

 聞けばシズホはグレンタウンに向かう前に少しポケモンの育成をしたいという事でソラタより先にセキチクジムを攻略しているものの、少し遅れているらしい。

 サトシもまた、セキチクジムを攻略後はサファリゾーンに行ったり化石発掘をしたりと、色々と道草をしているとの事。

 

「そういえば、化石発掘の時にシゲルに会ったぜ」

「シゲルに? 元気だったか?」

「ああ、相変わらずだった」

 

 サトシがシゲルの話をしてくれたので、ソラタも気は進まないがトワコの話をする事にした。

 

「俺もトワコに会ったよ」

「と、トワコに……?」

「あいつはバッジ3つで、以降はどこのジムにも勝てなくてな……最終的に俺とバトルして心が折れたんだろ、オーキド博士の話だとマサラタウンに帰ったらしい」

「そっか……」

 

 まぁ、正確には心が折れたのではなく、ソラタが折ったのだが、そこは話す必要も無い。

 

「そう言えば、シズホはサトシとは初めてだよな? こいつはサトシ、俺の幼馴染で、同じマサラタウンの出身だ」

「初めまして、ワカバタウン出身のシズホと申します」

「よろしくな! ……ワカバタウンって何処だ?」

 

 カントーから出た事が無いサトシはやはりワカバタウンを知らないようだ。それも当然か、カントーとジョウト、隣同士の地方とは言っても行ったことがない人間には地名を言われても馴染みがないのだから。

 

「ジョウト地方の街だよ、俺達の住むマサラタウンと同じようなものかな」

「そうですね、カントーのマサラタウンとジョウトのワカバタウン、イメージは同じかと」

 

 ワカバタウンにはウツギ博士というポケモン博士が住んでおり、ワカバタウンの子供はウツギ博士から新人用ポケモンを貰って旅立つというのも同じだ。

 

「ジョウト地方はお前も覚えておけよ、カントー地方チャンピオンのワタルさんはジョウトチャンピオンも兼任してるんだからな。カントー出身の俺達が知らないってのは問題だぞ」

「そ、そうなのか……」

 

 それに、ワタルと言えば世界最強のトレーナー8人の一人、マスターズエイトに数えられる世界有数のトレーナーだ。

 カントー出身のトレーナーとしてワタルの情報からジョウト地方について知っていなければ流石に失礼に当たる。

 

「まぁ、サトシも追々勉強するといい。いくら昔から勉強嫌いでも、流石に知っておかなければならない情報まで知らないってのは問題だぞ」

「うっ、そうする……」

 

 サトシとシズホと、三人で話をしている最中だった。爆竹のような破裂音が鳴り響き、何事かと思って辺りを見渡すと……。

 

「はぁい、ショータイムの始まりよ」

 

 上空からニャースを模した気球が降りてきて、籠には二人の男女とニャースの姿が。

 

「何なんだ! お前たちは!!」

 

 突然現れた人間にライゾウが声を荒げて問いかける。

 一方ソラタは気球から降りた二人と一匹を見て、その服装を見て内心感動していた。そう言えばこの世界に転生して、旅を始めてから彼らには一度も会った事が無かったなと、今更ながらに思い返して、前世では割と嫌いではなかった彼らを生で見られて感動しているのだ。

 

「何だかんだと聞かれたら」

「答えてあげるが世の情け」

 

 本当に、感動した。あのセリフを、こうして生で聞ける事が本当に嬉しかった。ロケット団は嫌いだし、実際この世界で出会ったロケット団は碌な人間ではないが、彼らに会えた事だけは、本当に嬉しい。

 

「世界の破壊を防ぐ為」

「世界の平和を守る為」

「愛と真実の悪を貫く」

「ラブリーチャーミーな敵役」

「ムサシ」

「コジロウ」

 

 この無駄に長いのに、これが無いとと思ってしまうセリフ、何もかもが懐かしい。

 

「銀河を駆けるロケット団の二人には」

「ホワイトホール白い明日が待ってるぜ」

「にゃーんてにゃ」

 

 最後は料理を食べながらという締まらない所も、らしいと言えばらしいのか。

 

「皆気を付けろ! 奴らは珍しいポケモンを狙ってるんだ!!」

 

 サトシがライゾウ達の所まで言って警告をするが、少し遅かった。既にコジロウがマタドガスをモンスターボールから出している。

 

「マタドガス! “えんまく”を張れ!!」

「「ドガァース」」

 

 マタドガスによる“えんまく”で会場が煙に包まれた。直ぐにサトシが出したピジョンによって煙は吹き飛ばされたが、ロケット団の姿は無く、それどころか。

 

「サンダース!」

「シャワーズ!?」

「ブースター!」

 

 ライゾウ達のサンダース、シャワーズ、ブースターが居なくなっていた。いや、それだけでなく会場に居たポケモン……ソラタのニンフィアやシズホのエーフィ、エリカのリーフィアも含めたモンスターボールから出していた全てのポケモン達と、料理、進化の石全てが無くなっていた。

 

「畜生! あいつら……!」

「ポケモンも石も料理も、全部持って行きやがった!!」

 

 サトシとタケシが悔しそうに地団駄を踏む中、その向こうでカスミが何故か残っていたコダックを腕を組みながら見ている。

 

「で、何でアンタだけいるわけ?」

「コワァ?」

 

 カスミもタッツーとコダックを出していたのだが、タッツーは居ないのにコダックだけ残っているのが不満だったのだろう。

 

「気球はまだ上だ!!」

「ピジョン! 気球に穴を空けろ!!」

「ピジョ! ピジョオオオ!!!」

 

 サトシのピジョンが気球に突っ込んで穴を空ける。空気が抜けて地面に落下した気球に全員が集まって籠の中を見ると、誰も乗っていない。

 

「しまった、空だ!」

「くっ! ピジョン! 空からあいつらを探してくれ!!」

 

 気球に居ないとなると陸路で逃げた可能性があると、サトシは素早くピジョンに指示を出し、ピジョンもそれに従って飛んでいく。

 ソラタの隣でそれを見ていたシズホも腰からモンスターボールを一つ取り出すと、それを投げた。

 

「ストライク、あなたもサトシさんのピジョンと共に探してください!」

「ストーライックーーー!!」

 

 シズホが出したのは、かまきりポケモンのストライクだった。ストライクも自身の羽根で空を飛び、サトシのピジョンに続いた。

 

「あれだけ多くのポケモンや料理を一度に運ぶとなると、陸路なら考えられるのは車か」

「ですわね、タイヤ跡が残っているでしょうか?」

 

 ソラタとエリカがムサシ達の移動方法が車ではないかと当たりを付け、周囲を調べてみれば屋敷の裏へ続く道に急発進したであろう跡が発見された。

 

「ライゾウさん、屋敷の裏は進化山へ?」

「あ、ああ……進化山へ続く道がある」

 

 なら、ロケット団が逃げたのも進化山だろう。ピジョンとストライクが戻ってくるまで、なるべく動かない方が良いのかもしれないが、どうしたものかと思っていたら割と早く2匹が戻って来た。

 

「ピジョ! ピジョピジョ!」

「スト! ストライッ!」

「ピジョン達が何か見つけたみたいだ!」

 

 ピジョンとストライクの案内された所へ行ってみれば黒い墨が道に点々と残されており、同時にその両脇に車のタイヤ跡が。

 

「間違いないわ! アタシのタッツーが墨を吐いて道しるべを残したのよ!」

 

 墨を見て、カスミが自分のタッツーが残したものだと判断した。恐らくその推理で間違い無いだろう。

 すぐさま墨とタイヤ跡を追って行くと、丁度湖がある開けた場所に檻に捕らわれたポケモン達とムサシ達の姿を発見した。

 

「ゼニガメ! “みずてっぽう”発射!!」

 

 サトシが投げたモンスターボールからゼニガメが出て来て、“みずてっぽう”の構えを取った。

 同時に、進化の石を持って個別の檻に入れていたイーブイに迫っていたムサシ達も追い付かれた事に気付いて動きが止まる。

 

「ゼニゼニ! ゼニガ!!」

「コパァ」

 

 何故か、ゼニガメが“みずてっぽう”を撃つ前に、ゼニガメの前に出てきたカスミのコダックが“みずてっぽう”とも呼べない弱い水を吐いた。そして、何故かコダックはそれに満足してドヤ顔だ。

 

「コパパ、コパァ!」

「コパァじゃない!」

 

 勝手なことをするコダックをカスミが強制的にモンスターボールに戻す。

仕切りなおすようにサトシのゼニガメが再度“みずてっぽう”の構えを取って今度こそ発射。コジロウとニャースが向こうの木まで吹き飛ばされてしまう。

 

「さあ! ポケモン達を助けるんだ!」

「おう!」

 

 大きな檻に入れられたポケモン達は救助出来たが、個別の檻に入れられたイーブイはムサシが抱えた為、救助出来ていない。

 つまり、ムサシからイーブイを奪い返さなければ、この事件は解決とは言えない状況だ。

 

「お前たち! どうして此処が分かったんだ!」

「作戦は完璧だった筈だにゃ!」

「タッツーが墨を吐いて目印を残してくれてたのよ、残念だったわね」

 

 カスミが抱っこするタッツーがその通りとばかりに墨を吐いて見せれば、ムサシもコジロウも頭を抱えた。

 

「しまったミスった!! 隅々まで完璧にしとくんだった!!」

 

 墨だけに、なんて馬鹿な事を考えていたソラタを救助されたニンフィアが触手で軽く叩いてツッコミを入れた。何故考えが読めるのかという疑問は、ニンフィアの隣のエーフィが教えてくれたから、という回答が返ってきそうだ。

 

「出てこいマタドガス!」

「アーボック!!」

 

 イーブイだけでも奪ったまま逃げようとムサシとコジロウはアーボックとマタドガスを出してきた。

 この状況でもバトルで何とかしようとする辺り、二人は根っこがトレーナーなのだろうなと、場違いな関心をしてしまう。

 

「いくぞピカチュウ!」

「待ってくれ!」

 

 相手になろうと、サトシがピカチュウと前に出ようとしたのだが、ライゾウがそれを止めた。

 タイチのイーブイだ、兄である自分達で助け出したいのだと。

 

「見ていろよタイチ! 進化系の力を! 行け! サンダース!!」

「行け! シャワーズ!!」

「行けぇ! ブースター!!」

 

 ライゾウ達は確かに腕の良いトレーナーだ。サンダースとシャワーズがアーボックとマタドガスを吹き飛ばし、逃げようとしたムサシ達の行く手をブースターの“ほのおのうず”で塞いで逃げ場を無くす。

 見事な連携を見せてくれたが、だがまだ甘い。ソラタやシズホ、エリカから言わせて貰うなら、三人はまだまだ未熟だ。

 アーボックの“たいあたり”とマタドガスの“ヘドロこうげき”が3体を直撃、それだけで戦闘不能になってしまったのだから。

 

「ほーほほのほ!」

「今日はそう簡単にやられないのにゃ!!」

「ビクトリーロケット団だぜ!」

 

 簡単にサンダース達を倒した事で調子に乗ったロケット団だったが、忘れて貰っては困る、この場にはまだトレーナーがいるのだという事を。

 

「ニンフィア! “シャドーボール”!!」

「エーフィ! “シャドーボール”!!」

 

 ニンフィアとエーフィの“シャドーボール”がアーボックとマタドガスに直撃、ムサシとコジロウの足元まで吹き飛ばした。

 

「「え?」」

「選手交代だ」

「同じイーブイの進化系のトレーナーとして、今度は私たちがお相手します」

「あら、でしたら私も」

 

 ソラタのニンフィアとシズホのエーフィ、そしてついでとばかりにエリカのリーフィアも並ぶ。

 

「悪いが、ロケット団相手なら俺は容赦しない」

「な、生意気な! あんたのその珍しいポケモンも、もう一度頂いてやるわ!! アーボック! “どくばり”攻撃!!」

「ニンフィア! “でんこうせっか”!!」

「リーフィア! “つばめがえし”ですわ!!」

 

 アーボックの“どくばり”をニンフィアが回避し、その隙にリーフィアの“つばめがえし”がアーボックに直撃、そしてニンフィアはマタドガスに迫る。

 

「マタドガス! “ヘドロこうげき”だ!!」

「エーフィ、“サイコキネシス”です!」

 

 マタドガスが“ヘドロこうげき”を放とうとしたが、エーフィの“サイコキネシス”によって動きが止められ、そこにニンフィアの“でんこうせっか”が直撃、アーボックもマタドガスも再びムサシ達の所へ吹き飛ばされてしまう。

 

「今だニンフィア! “シャドーボール”!!」

「エーフィ! “シャドーボール”です!!」

「リーフィア、こちらも“シャドーボール”ですわ!!」

 

 3つの“シャドーボール”がアーボックとマタドガスに直撃、完全な隙が出来たのを見逃さずカスミがタッツーを掲げてタッツーに墨を吐かせる。

 タッツーの墨がイーブイの檻を持つムサシの顔面に直撃し、あまりの威力に檻を放り投げてしまった。

 

「今よサトシ!!」

「ああ! ピカチュウ!」

 

 ピカチュウの“10万ボルト”がロケット団を襲うも、中々粘り強い。倒れずにまだ向かって来ようとしているではないか。

 だが、それもここまで、イーブイを檻から出したタイチが戦意を高めたイーブイと共に前に立ったのだから。

 

「いっけぇイーブイ! “とっしん”だ!!!」

 

 イーブイが駆けだし、ムサシ達へ一直線に走る。身体は小さいが、秘めたパワーは確かな才能を感じさせる走りだった。

 

「怒りの“たいあたり”!!」

 

 攫われた事、兄達を傷つけられた事に対する怒りを込めた渾身の“たいあたり”が、今度こそムサシ達を天高く吹き飛ばしてしまった。

 

「見事な一撃だったぞ、タイチ君」

「あ……ソラタさん」

「ええ、見事な“たいあたり”でした。ジムリーダーとして、あれは見事な一撃であったと認めますわ」

 

 エリカもジムリーダーとしての視点から、先ほどのイーブイの“たいあたり”は見事な一撃だったと賞賛する。

 そして、兄達もタイチを褒めた。イーブイのままで、バトルなんて嫌だと言っていたタイチとイーブイの、確かな力を。

 

「……兄ちゃん、僕、イーブイのトレーナーになりたいんだ!」

 

 タイチは、兄達に向かってそう宣言する。進化させるつもりはない、イーブイはイーブイのまま、自分はイーブイのトレーナーとして成長していきたいと。

 タイチの宣言は兄達に受け入れられ、その後はタイチの初勝利祝いという事で一同は屋敷に戻って再びパーティーを再開した。

 最後に集まった全員で記念撮影をして、まだまだ未熟だけど確かな才能を感じさせる新米トレーナーの誕生を祝福するのだった。




次回は少しだけシズホとの話です。


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第35話 「ライバルとの再戦!」

お待たせしました。
コロナ陽性になって寝込んでました


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転生したのは始めに旅立った子供

 

第35話

「ライバルとの再戦!」

 

 ポケモンリーグに出場する為、旅を続けるソラタは、7つ目のジムがあるグレンタウンを目指して旅をしていたのだが、その途中で立ち寄った街、ストンタウンでのパーティーと騒動が終わった後、幼馴染のサトシ一行やタマムシジムのジムリーダーエリカと別れ、ストンタウンのポケモンセンターに一泊していた。

 ソラタだけでなく、ソラタのライバルであるシズホも同じく一泊しており、その日の夕食の席で、二人はパーティーで購入した石について話し合いをしている所だ。

 

「シズホは“やみのいし”を使うポケモンはサブの子って言ってたよな?」

「ええ、なので必要に迫られている訳ではないのですが、あって良かったです」

 

 パーティーでソラタとシズホはライゾウからそれぞれソラタが“ほのおのいし”と“みずのいし”を、シズホが“やみのいし”を購入していた。

 その中でもシズホが購入した“やみのいし”は在庫があるか疑問だったものの、どのポケモンに使うのか判らないとの事で、採掘されても持て余していたらしく、在庫が沢山あって購入する事が出来たのだ。

 

「“やみのいし”で進化出来るポケモンって言ったらヤミカラスにムウマ、ニダンギル、ランプラーか……」

「やはり、使うポケモンの種類が少ないから判りますよね」

「まぁ、当然だわな」

 

 “やみのいし”自体がマイナーな石であるというのもあり、使用して進化するポケモンも現在確認されている数が少ない。

 その中でもヤミカラスの進化系、ドンカラスはソラタの母であるアオノの手持ちのポケモンだったので、よく知っている。

 幼い頃は両親のポケモン達が遊び相手になってくれたので、ドンカラスは実はソラタにとって身近なポケモンだったのだ。

 

「私も父の手持ちにムウマージが居ましたね」

「へぇ、中々良いポケモンを手持ちに入れてたんだな」

 

 話をしながら夕食を食べ終えた二人はロビーの椅子に座り、モンスターボールから出したニンフィアとエーフィをブラッシングを始めた。

 しかも今回は気分を変える為という事でソラタがエーフィの、シズホがニンフィアのブラッシングを担当する事になった。

 

「毛並みが良いなエーフィ、大事に手入れしてるのがよく判るぞ」

「フィ~♪」

 

 ソラタのブラッシングがお気に召したのか、膝の上で伸びをしながら心地良さそうにエーフィが頬を摺り寄せて来た。

 隣ではニンフィアも同じ様にシズホの膝の上に座り、笑みを浮かべながらブラッシングされている。

 

「ニンフィアも良い毛並みです。それに、微かにポケコロンですかね? の香りもします」

「フィア♪」

「ああ、それはニンフィアがお気に入りの香りでな、前にタマムシシティでニンフィアにおねだりされて買ったコロンなんだよ」

 

 ポケコロンとはポケモン用のコロンで、ポケモンに無害な香水という事でタマムシシティのタマムシジムが全国販売している商品だ。

 そんな話をしていると、エーフィも気になったのかニンフィアに鼻を寄せて香りを嗅いでいるではないか。

 

「エーフィ」

「フィア?」

「フィフィ!」

「フィア~♪」

 

 互いの膝の上でエーフィもニンフィアも仲良さそうだ。聞いた所によるとエーフィは♂らしく、♀のニンフィアと仲が良いというのも成程と思ってしまったが、兄貴分のソラタとしては可愛い妹に彼氏が!? という気分にもなってしまう。

 

「そうだ、ソラタさん……いつぞやの再戦、しませんか?」

「……ああ、あの時の」

 

 再戦と言われて思い出すのは、シズホと初めて出会った時に行ったバトル、ソラタが初めて同年代と引き分けたあのバトル事だ。

 あの日から、あの引き分けた時からソラタとシズホは互いをライバルだと認定し、いつか再びバトルをしたいと考えていた。

 

「良いな、やろうか」

「折角ですし、これから」

 

 ポケモンセンターのバトルフィールドはナイトバトルにも対応する為にライトアップもされているから夜でも使用可能だ。

 早速ソラタとシズホはバトルフィールドの使用許可をジョーイさんに貰ってからフィールドに出て、観戦するつもりのニンフィアとエーフィを観客席に置いてバトルフィールドに立つ。

 

「使用ポケモンは2体で良いですね?」

「ああ」

「では……」

 

 互いにモンスターボールを構える。前回はリザードとマグマラシのバトルだったが、今回はどうなるのか……。

 

「行くぞ、キレイハナ!!」

「行きますよ、ストライク!!」

 

 ソラタはキレイハナを、シズホはストライクを出して対峙する。相性で言えばソラタのキレイハナが不利だが、ポケモンバトルは相性の差だけで決まるものではない。

 

「先手必勝です! ストライク、“つばめがえし”!!」

「受け止めろキレイハナ! “いあいぎり”だ!!」

 

 ストライクの鎌による一撃を避けたキレイハナは返す刀で振り上げられたソレに対して白いエネルギーの刃と化した手刀で受け止める。

 体格差があり、受け止めたキレイハナが若干押されるが、それでも確かに“つばめがえし”を受け止めたキレイハナは既に次の動作へと繋げる準備は整っていた。

 

「“リーフストーム”!!」

「っ! ハナァアア!!」

 

 効果今一つとは言え、至近距離から“リーフストーム”を受けたストライクは踏ん張りきれず吹き飛ばされてしまった。

 ストライクとの距離が取れたキレイハナは今がチャンスとソラタの方を振り返る。ソラタもキレイハナに頷き返して次の指示を出した。

 

「“ちょうのまい”だ!」

「っ!? ストライク! “つるぎのまい”です!」

 

 シズホも同じ様にストライクのステータスアップを狙ってきた。ならば取れる手段は一つだ。

 

「行くぞキレイハナ!! 先ずは“グラスフィールド”!」

「ハナッ!」

「続いて“いあいぎり”!!」

 

 飛行タイプを持つストライクは“グラスフィールド”による回復の恩恵を受けられない。キレイハナだけがダメージを受けても回復しつつ殴れる状況を作り、再度“いあいぎり”で斬り掛かった。

 

「“かげぶんしん”です」

 

 だが、シズホとストライクも負けていない。斬り掛かって来たキレイハナに対して“かげぶんしん”で回避、分身でキレイハナを囲って逃げ場を塞ぐ。

 

「“シザークロス”!」

「ストライッ!!」

「後ろだ!! “いあいぎり”で受け止めろ!」

 

 背後から振り下ろしてきたストライクの鎌を、キレイハナは振り向きざまに“いあいぎり”で受け止めたが、残念ながらストライクの鎌はもう一つある。

 横から振り抜かれた鎌がキレイハナに直撃して、今度はキレイハナが吹き飛ばされてしまった。

 

「今です! “つばめがえし”!!」

「キレイハナ!」

 

 吹き飛んだキレイハナを追うようにストライクが鎌を構えてキレイハナに迫る。

 対して“グラスフィールド”の効果で少しずつ回復しながらキレイハナは冷静にストライクを見つめ、頭の花を向けた。

 

「っ! 中止です! “かげぶんしん”!!」

「“リーフストーム”!!」

 

 “リーフストーム”が放たれるのとストライクが分身するのは同時だった。同時だったからこそ、分身は全て“リーフストーム”に飲み込まれ、間一髪逃れたストライクが鎌を構えてキレイハナに突っ込む。

 

「“つばめがえし”!」

「“いあいぎり”!」

 

 それは、一瞬の交差だった。ストライクの“つばめがえし”とキレイハナの“いあいぎり”が交差して、互いの立ち位置が入れ替わり互いに背を向け合う。

 そして、ストライクがバランスを崩して倒れそうになるも、何とか地面に鎌を刺して耐えたのに対し、キレイハナもその場でバランスを崩して倒れてしまった。

 

「キレイハナ……戻れ」

 

 戦闘不能になったキレイハナをボールに戻すソラタは、同じく限界のストライクをボールに戻したシズホと視線を合わせた。

 これで1敗、次のポケモンとのバトルで勝てば引き分けという所か。

 

「次はお前だ! 行けギャラドス!」

「行きますよ、キングドラ!」

 

 シズホの2番手はシードラの進化系、ドラゴンポケモンのキングドラだった。相性で言えば五分五分だが、キングドラは普通のドラゴンタイプのポケモンのような氷タイプの技が弱点という事が無い分、攻めるのが難しいポケモンだろう。

 

「「“ハイドロポンプ”!!」」

 

 二つの“ハイドロポンプ”がぶつかり合って中央で弾けた。技の威力は互角、ならば後はトレーナーの腕次第だ。

 

「キングドラ! “れいとうビーム”!」

「回避して“りゅうのはどう”!!」

 

 キングドラが放った“れいとうビーム”を回避したギャラドスが“りゅうのはどう”を放ったが、元々素早さの高いキングドラは余裕で回避する。

 その隙に反撃しようとしていたがソラタの目から見てキングドラの動きがいまいち悪い。なのでそこを突かせて貰う事にした。

 

「“ぼうふう”」

 

 キングドラが再び“れいとうビーム”を撃ってきたので、今度は回避ではなく“ぼうふう”による竜巻を起こしてビームを掻き消した。

 それどころか竜巻に巻き込まれたキングドラが天高く上空まで巻き上げられてシズホも絶句する。

 

「登れギャラドス!」

 

 ソラタはギャラドスに“ぼうふう”による竜巻を登るよう指示を出し、一気にキングドラへと接近させた。

 

「キングドラ! “ラスターカノン”!」

「止まるなギャラドス! “げきりん”!!」

 

 登りながら、ギャラドスの瞳から理性の色が消えた。“げきりん”により大暴れしながら竜巻を登ったギャラドスはキングドラに追い付くと我武者羅に攻撃を開始した。

 ドラゴンタイプの技の中でも最強クラスの威力を持つ“げきりん”はキングドラに効果抜群の大ダメージを与えて、地面に叩き落とした時点で戦闘不能にした。

 

「キングドラ……」

「シズホのキングドラ、進化したばかりか?」

「ええ……最近進化したばかりで、まだ調整中だったのですが、甘かったですね」

 

 これで引き分けとなった。ライバル対決は、今回も引き分けで終わりを迎えた。

 ソラタとシズホ、互角の実力を持つ二人の対決は、またしても引き分けによって決着とはならない。

 

「次は、ポケモンリーグで、だな」

「はい、私たちの決着はポケモンリーグの舞台で」

 

 きっと、それが相応しいのだろう。同じ実力を持つライバルの対決はポケモンリーグの大きな舞台こそが相応しい。

 ニンフィアとエーフィが見守る中、ソラタとシズホは握手をしながら、リーグでの対決を誓い合いながら、その日に向けて闘志を漲らせるのだった。




次回はシズホと別れて再びグレンタウン向けて旅です。


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第36話 「ポケモンゼミナール」

お待たせしました。


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第36話

「ポケモンゼミナール」

 

 ポケモンリーグに出場する為、旅を続けるソラタは7つ目のジムがあるグレンタウンを目指してライバルであるシズホと共にストンタウンを出発した。

 次の街へ向かう途中にある分かれ道でそれぞれが用事を済ませてグレン島へ向かうと言って別れてから、ソラタは一人で修行も兼ねた旅を続けている。

 

「グレンジムのカツラは炎タイプの使い手、なら次のジム戦のメンバーは必然的にギャラドスは確定として、フカマルもメンバーだな……ふむ」

 

 ポケモンセンターのある街を目指して歩きながら、次のジムでのメンバーを想定していたソラタの中では、既に2体までは確定している。

 グレンジムのジム戦は聞いたところによると3体3の勝ち抜き戦、ジムリーダーもチャレンジャーもバトル中のポケモンの交代を禁止しており、先に相手のポケモン3体を倒しきった方の勝ちとなるポケモンリーグの予選リーグと同ルールを採用しているらしい。

 グレンジムは炎タイプのジムなので、既にメンバーとして確定しているのはギャラドスとフカマル、残る1体を誰にするのかで、今は悩んでいる所だ。

 

「炎タイプが相手だとキレイハナは駄目だな……となると、ピカチュウかニンフィアか、リザードンか」

 

 カツラの切り札であるブーバーはかなり強力なポケモンだ。前世のアニメで見たブーバーも、当時サトシのパーティー最強の実力を秘めていたリザードンと互角の戦いをしていた事からも、その力は推し量れるというもの。

 

「となると、残るはリザードンか……うちの最強戦力だし、出し惜しみは無しにするか」

 

 ソラタのパーティー最強は間違いなくリザードンだ。

 昔はニンフィアが最も強かったが、リザード時代にシロナのガブリアスに敗北し、シズホのマグマラシと引き分けてからずっと修練を重ね、リザードンに進化して以降も己を高め続けたリザードンは間違いなくパーティー最強と言って良い実力を手にしていた。

 そんなリザードンだからこそ、グレンジムでのジム戦にも参戦させて問題無いと判断し、最後のメンバーとして決める事が出来た。

 

「問題は、フカマルだな……グレン島に行く前にはガバイトに進化させないと、本当に今後がキツイぞ」

 

 現時点で、フカマルは未だ進化していない。本当にこのままではリーグまでにガブリアスへ進化が間に合わない可能性が出てきてしまう。いや、現時点で進化していないという事は、間に合わないと考えて良いだろう。

 

「せめて、グレン島に行く前に進化させないとな」

 

 グレン島に行くのはフカマルをガバイトに進化させてからだ。正直、もうそろそろ進化しても良い頃合いではあるのだ。後は何か切っ掛けがあればガバイトに進化出来る筈。

 

「次のポケモンセンターに着いたら、フカマルの育成計画の見直しをするか」

 

 正直、もう時間はあまり無い。グレン島への移動を考えて、リーグ開催までの日数的に余裕を持たせなければならない事もあるので、フカマルを進化させるのは急いだ方が良い状況だ。

 

「そろそろ町に着くな」

 

 考え事をしていると時間が経つのも早いもので、道の向こうに町の建物が見えて来た。

 トーグタウン、それがこの町の名前で、然程大きい町ではないがポケモンセンターもあり、更にこの町には大きな特徴としてポケモンゼミナールが存在しているとの事だった。

 ポケモンゼミナール、それは初級コースから上級コースまでのコースに別れており、新米トレーナーや、これからトレーナーになるという子供達が通うポケモントレーナーとしてのイロハを学ぶ場所だ。

 特に上級コースを卒業した者はジムバッジを集めなくてもポケモンリーグ出場資格を与えられる為、上級コース卒業者は一種のエリート思考の者が多い。

 

「まぁ、だからって上級コース卒業者がリーグ優勝した例は一度も無いけどな」

 

 ポケモンセンターのロビーにて、ジョーイさんにポケモンを預けた後のソラタがゼミナールのチラシを見ながら呟いた。

 その通りなのだ。確かに上級コース卒業者にはポケモンリーグ出場資格が与えられ、過去にリーグに実際参加した者も数多く居るが、実際には予選止まりで、偶に決勝リーグに出場出来た者も居たが、リーグ優勝した者は居ないというのが現状だ。

 これはポケモン検定試験にてリーグ出場資格者バッジをゲットした者も同様で、リーグ優勝を果たした者は堅実にジムバッジを集めて来た者しか存在しない。

 なので、ソラタ個人の意見としては、ジムバッジを8個以上集める以外のリーグ参加資格など廃止するべきだと思っている。参加させる意味が無いのだから。

 

『マサラタウンのソラタさん、マサラタウンのソラタさん、ポケモンの回復が終わりました。受付までお越し下さい』

「お」

 

 預けていたポケモンの回復が終わり、アナウンスが流れたので、ソラタはチラシを戻して受付に戻った。

 受付でジョーイさんがモンスターボールを持って来るのを待っていると、隣に同じく待っているのか壮年の男性が立つ。

 

「お待たせしましたソラタさん、キンジョウさん、お預かりしていたポケモンは皆、元気になりましたよ」

 

 ソラタは自分のモンスターボールを受け取って腰のボールホルダーに収めつつ、隣のキンジョウという男性の方を見た。

 キンジョウという男性はジョーイさんから何と10個以上のボールを受け取って、そのボールを全てスーツケースの様な鞄に入れているではないか。

 

「ん? ああ、これが気になるかね?」

 

 何で個人で10個以上ものボールを、と思って見ていたソラタに気付いたのか、キンジョウは懐から名刺を取り出して差し出してきた。

 

「ポケモンゼミナール・トーグタウン校、上級クラス教育主任……」

「ええ、この町にあるゼミナールで教師をしておりまして、このモンスターボールも全部授業で使う実習用ポケモンが入っているんですよ」

 

 成程、確かゼミナールでは上級クラスになると本格的なバトルの授業があるとかいう話を聞いた事があるが、その為の実習用ポケモンはゼミナールが用意していたらしい。

 

「ゼミナール上級クラスは卒業と同時にポケモンリーグ出場資格を得ると聞きましたけど、リーグに参加する為の自分のポケモンは如何してるんですか?」

「ああ、それなら授業の中でポケモンゲットの実習もあるからね、そこでゲットしたポケモンを育てて出場しているんだよ」

 

 自分のポケモンをゲットしたら実習でも自分のポケモンでバトルをして、育てているという話らしい。

 

「もしかして君もゼミナールに興味があるのかい?」

「いえ、俺はジムバッジを集める旅をしているので、ゼミナール自体にはあまり」

「そうかジムバッジを! ちなみに今、何個集まっているんだい?」

「今は6個ですね、次のジムに行く前に少しポケモンを鍛えている所です」

 

 バッジケースを出して集めたバッジを見せれば、キンジョウは何を思ったのか何度か頷いてガシッとソラタの手を取った。

 

「よろしければ是非! 我がゼミナール上級クラスの生徒達に一日授業をしてもらえませんか? 実習の相手をして下さるだけで結構ですから!」

「ええ~……」

 

 ソラタには何のメリットも無い提案に、思わず否定的な声が出てしまった。次のジム戦に備えて修行中だというのに、何故ソラタにとって得にもならない事をしなければならないのか。

 

「正直、上級クラスのバトル実習はいつも同じクラスの生徒が相手なのが現状でして、生徒達にも刺激が無いと感じていた所なんです。そこで、外のトレーナーを招いてバトル実習の相手を務めて頂ければ、あの子たちの良い刺激になると思うのです! それに、ソラタさんにとっても良い修行相手になるかと、上級クラスの子たちはこの時期ですとバッジ6個から7個くらいの実力まで仕上がっていますからね」

 

 それはゼミナールの中ではの話だ。ゼミナールの授業という狭い世界でしかバトルをした事が無く、外部のトレーナーとのバトルを一度も経験した事が無いゼミナール生はバッジ7個相当の実力があると言っても、外の世界では通用しない。

 それはポケモンリーグの決勝リーグにゼミナール卒業生が進出出来ていない現状が物語っている。

 とは言え、確かにソラタにとっては野生のポケモン以外とのバトルは良い修行になるのも間違い無い。

 それに、ゼミナールの生徒とのバトルで一気にフカマルをガバイトに進化させられればという思惑もあった。

 

「まぁ、良いでしょう。確かに俺にとっても損をする話ではないですし、ゼミナールのバトル講習の講師、一日だけですが引き受けます」

「おお! ありがたい!」

 

 こうして、ソラタは一日だけの講師を引き受け、キンジョウと共にスクールに向かう為にポケモンセンターを出る。

 ただし、出る前にオーキド博士に電話をして手持ちのポケモンを何匹か入れ替えておいたのは、サブを育てるのも有りかと考えた結果だった。

 因みにリザードンとニンフィア、フカマル以外の3匹を全て入れ替えているので、フカマルを入れて4匹を今回育てる事にしたのだ。

 

「今日は頼むぞ、みんな」

 

 フカマルのモンスターボールと、それからオーキド博士から送って貰ったモンスターボールを撫でてから、ソラタはキンジョウと共にポケモンセンターを出てポケモンゼミナールへと向かった。

 案内されたゼミナールはソラタの予想していた学校という見た目ではなく、どちらかと言えばビルに近い見た目だろうか。

 横にはグラウンドと、バトルフィールドが併設してあり、スクールというより研究所という印象を受ける。

 

「驚いたかい? この町のゼミナールは元々はポケモンバトルの研究をしていた会社が開校したものでね、校舎になっているビルも会社ビルを増築したものなんだ。隣のバトルフィールドも会社時代からあるもので、グラウンドは後から造ったものなんだよ」

「へぇ……」

 

 バトルの研究とは、成程確かにゼミナールを開くのに十分な下地があったという事か。どんな研究をしていたのかは、気になる所ではある。

 

「どんな研究をしているんですか?」

「タイプ相性によるバトルの優位性だったり、技の威力の変動についてだったり、色々ね」

「それはまた」

 

 難しいというか、割とガチ目の研究をしていたらしい。

 

「さて、立ち話もなんだからね。早速中へ入ろうか」

「はい」

 

 初のポケモンゼミナール、さてどんな生徒と、どのようなバトルが出来るのか。若干の期待を込めながらソラタは校舎へと足を踏み入れた。

 今日、このゼミナールにて必ずフカマルを進化させるという誓いと共に。




次回はソラタのサブポケモン3匹の登場です。
因みに、1匹は皆さんも知ってる筈ですね。少しの間ですが、ソラタの手持ちとして活躍してましたし。


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第37話 「ゼミナールの生徒とトレーナーと」

大変お待たせいたしました。


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転生したのは始めに旅立った子供

 

第37話

「ゼミナールの生徒とトレーナーと」

 

 ポケモンリーグに出場する為、旅を続けるソラタは、次のジムがあるグレンタウンに向かって旅をしていた。

 次のジム戦を前に修行をしていたソラタはトーグタウンという町のポケモンセンターに立ち寄った時にキンジョウというポケモンゼミナールの講師を務める男性と出会った。

 キンジョウの勧めで一日だけゼミナールの特別講師を務める事になったソラタは現在、キンジョウと共にトーグタウンのポケモンゼミナールへと足を踏み入れている。

 

「我がポケモンゼミナール・トーグタウン校は先ほどお話しました通り以前はポケモンバトルの研究をしていた会社が母体となっており、今でもその研究は継続されて行われ、その研究で培った成果を授業を通して生徒達に学ばせております」

 

 例えばと言ってキンジョウが指さした先には強化ガラスの窓に仕切られた部屋に何名かの白衣を着た研究員らしき男女と、それから4匹のガーディが居た。

 

「あれは?」

「あれは同じポケモンでも得意な技が分かれるパターンがあるという検証です。今やっているのは“かえんほうしゃ”が得意なガーディと“かえんぐるま”が得意なガーディの違いを検証している所ですね」

 

 つまり物理と特殊のどちらが得意な個体なのかを見て、違いを検証している所という事か。

 ポケモンの育成において、その個体が物理攻撃と特殊攻撃のどちらが得意な個体なのかによって育て方を変えるというのは、今はまだ浸透していない考え方だ。

 この先の時代でそれも一般的になるのだが、今の段階だと検証中という所らしい。

 因みにソラタのリザードンはどちらかと言うと物理寄りの育て方をしているが、特殊攻撃が苦手という訳ではない。

 むしろ状況に合わせてどちらでも十分戦えるよう育成しているので、仮にメガシンカさせるとなった場合はメガリザードンXでもメガリザードンYでも、どっちでも対応可能なのだ。

 

「さて、この上の階が教室になっておりますので、ご案内しますね」

 

 実はポケモンに関する研究には一定の興味関心があるソラタはもし先ほどの研究に自分が参加していたらどうしてたかなどを想像しつつ、キンジョウの後に続いて階段を昇る。

 すると、2階は1階と違い研究フロアではなく教室フロアとなっているらしく、学校の廊下のような光景が広がっていた。

 

「こちらが下級クラスの教室になっておりまして、更に上に行くと中級クラス、上級クラスとなりますので、我々が向かうのは4階の上級クラスですね」

「へぇ……」

 

 一瞬、エレベーターは無いのかと思ったが、そこは旅慣れしているソラタ、4階まで階段で昇った所で疲れるという事は無い。

 キンジョウと共に4階まで昇ると2階と変わらない風景が広がっており、しかし感じられる空気は微妙に違う。

 

「こちらです」

 

 

 案内されたのは上級クラスの中でも選りすぐりのエリートを集めたクラスとの事で、キンジョウ達教師の中では次のポケモンリーグでも優秀な成績が残せるであろう生徒達だと太鼓判を推す程なのだとか。

 

「では先に私が入ってソラタさんの事をお話しますので、私が呼んだら入ってきてください」

 

 そう言ってキンジョウが教室に入るのを見送ったソラタは手持無沙汰になり廊下を見渡した。

 前世の学生時代を彷彿とさせる廊下は、何処か懐かしさを感じさせて、もう何十年前の記憶であるというのに、鮮明に当時の記憶が蘇ってくるようだ。

 

「あ……イカン、嫌な記憶まで思い出した」

 

 一瞬、前世の学生時代に経験した苦い失恋の記憶も思い出して顔を顰めたソラタは記憶を振り払って、今では何の意味も無い記憶だと気持ちを切り替えた。

 

「ソラタさん、どうぞ入って下さい」

 

 そうこうしている内に、キンジョウが扉を開けてソラタを呼んだので、ソラタはキンジョウの後ろに続く形で歩いて教室内に入った。

 教室内の生徒の数は15人程、内訳として男子8人の女子7人、この15名がゼミナールの誇るエリート達なのだろう。

 

「さて諸君、彼がソラタさんだ。現役のトレーナーであり、ポケモンリーグ出場を目指して旅をしている。ポケモンジムにもチャレンジしていて、ジムバッジを既に6つも所持している凄腕トレーナーだ」

 

 何やら大袈裟な紹介のされ方をしてしまい、少し照れてしまうも、キンジョウが自己紹介をと言ってきたので、表情には出さず胡散臭げにこちらを見る生徒達全員の顔を見渡す。

 

「マサラタウンのソラタだ。今日はキンジョウさんから君たちのバトルの授業で特別講師をして欲しいという話だったので一日限定だけど引き受けた。今度のポケモンリーグに君たちが出場するならばライバルになるかもしれないけど、だからと言って手を抜いた授業をするつもりは無い、よろしく頼む」

 

 手抜きをするつもりは無い、それは本当だ。実はこの講師を引き受ける報酬としてゼミが育成しているポケモンを1匹だけ貰える事になっているからだ。

 ベストパーティーは揃っているものの、サブパーティーの構成を考えていたソラタには渡りに船、丁度良い機会だった。

 

「キンジョウ先生、僕たちのカリキュラム的に、既に僕たちはバッジ7個相当の実力があるんですが、未だ6個のトレーナーなんかが講師なんて勤まるんですか?」

 

 生徒の一人、眼鏡を掛けた黒髪の少年がキンジョウにそんな質問をぶつける。見るからにガリ勉の文系少年というイメージの少年だが、このクラスにいる以上はそれなりの実力なのだろう。

 そして、彼の意見はクラスの全員が同意なのか、一人残らず頷いていた。

 

「安心したまえケンイチ君、彼はジムバッジこそ6個だが数々のトレーナーとバトルをしてきたトレーナー、つまり実戦経験では君たちを上回る」

 

 それを聞いて少年、ケンイチは面白いと言わんばかりに口元を歪め、品定めするかのような視線をソラタに投げかけた。

 

「良いでしょう。でしたら早速授業で見せて頂きますよ、講師様の実力とやらを」

 

 こうして、ソラタはクラスの生徒全員とポケモンバトルをする事となった。授業は校庭にあるバトルフィールドで行われる事になり、生徒達とソラタ、それから審判役をやるという事でキンジョウは校庭に出て来た。

 

「キンジョウさん、順番はキンジョウさんが決めて下さい。こちらは誰でも構いませんので」

「そうですか? では、最初のバトルはヒメカ! フィールドに入りなさい」

 

 ヒメカと呼ばれた茶髪セミロングの女子生徒がフィールドに入った。そして、ソラタも対面に入りオーキド博士の所から送って貰ったポケモンが入ったボールを構える。

 

「ソラタ先生がどの程度なのか、わたしが確かめます……行きなさいカイロス!」

「まぁ、無様なバトルはしないよ……行けニドリーナ!」

 

 ヒメカが出したポケモンは“くわがたポケモン”のカイロス、ソラタが出したのは“どくばりポケモン”のニドリーナ、旅に出た初期の頃にゲットしたニドラン♀が進化したポケモンであり、時々レベル上げしていたポケモンなのだ。

 

「では、カイロス対ニドリーナ、バトル開始!」

「先手必勝です! カイロス! “はさみギロチン”!」

「回避して“みずのはどう”!」

 

 カイロスの“はさみギロチン”をニドリーナが回避、そして避けながら口から水を勢い良く放つと、まるで水が衝撃波のような勢いでカイロスに直撃、大きく後退させた。

 

「カイロス!?」

「初手で“はさみギロチン”は悪手だな。確かに一撃必殺だからこそ、当たれば初手で相手を戦闘不能に出来るが、狙いが判りやすいから簡単に避けられる」

「くっ! カイロス、“あなをほる”です!」

「カイッ!」

 

 すると、カイロスが頭のハサミを器用に使って穴を掘ると地中へと潜っていった。成程、ニドリーナ相手に地面タイプの技は有効だ。

 それに、ニドリーナは進化系のニドクインと違って“じしん”を覚えない。“あなをほる”で地中にいる相手に攻撃する手段が無い。

 

「普通は、そう思うだろうけど、セオリー通りにいかないのがポケモンバトルだ。ニドリーナ、地面に向けて“アイアンテール”!!」

「ええ!?」

 

 ソラタの指示通り、ニドリーナは鋼鉄のエネルギーを纏った尻尾をフィールドの地面に叩き付けると、地面が罅割れて隆起、地中にいたカイロスもそれに巻き込まれてしまう。

 

「うそ、そんな戦い方、教科書には……」

「まぁ、これは俺が編み出した戦法じゃないんだけどね。でも、教科書通りに進むバトルなんて存在しない。ニドリーナ、“かげぶんしん”」

「ニィド!」

 

 ニドリーナが分身してカイロスを取り囲んだ。カイロスも自身の周りにい現れた無数のニドリーナの姿に困惑しているのか、トレーナーであるヒメカの方へ目を向ける。

 

「“はかいこうせん”で薙ぎ払って!」

「カイロ! カーイーローーー!!!」

 

 カイロスがその場で回転しながら“はかいこうせん”を放った。それによりカイロスを取り囲んでいたニドリーナの“かげぶんしん”は掻き消され、ニドリーナ本体も直撃を受けてしまった。

 

「やった!」

「判断としては悪くないけど、選択する技が悪かったな」

「うそ……」

 

 “はかいこうせん”の一撃を受けてダメージこそあるものの、未だ健在のニドリーナの姿を見て、ヒメカは驚愕していた。

 カントー及びジョウトのチャンピオンであるワタルも愛用する技として有名な“はかいこうせん”この技にはヒメカも絶対の自信があったのだろうが、使用するポケモンが悪かった。

 

「“はかいこうせん”は確かに強力な技だが、それを使うカイロス自身は特攻が高いポケモンじゃない。“かげぶんしん”を掻き消してニドリーナにダメージを与えるのなら“りんしょう”や“きあいだま”にするべきだった。“はかいこうせん”では相手を倒しきれなければ大きな隙が出来てしまう」

 

 そう、その通りカイロスは“はかいこうせん”を撃った反動で身動きが取れなくなってしまった。

 その隙をソラタが見逃す筈も無く……。

 

「“つばめがえし”」

「ニドッ!」

 

 効果抜群の“つばめがえし”を受けたカイロスはその場に沈んでしまった。

 

「それまで!!」

 

 キンジョウの合図でバトル終了、ニドリーナをモンスターボールに戻したソラタはカイロスをボールに戻したヒメカの所へ歩み寄った。

 

「“はさみギロチン”“あなをほる”“はかいこうせん”、これが今回カイロスが使った技だけど、あと一つは何を使うつもりだった?」

「え、えっと……“シザークロス”を」

「見事に攻撃一辺倒だな……攻撃技を回避に使ったりできるから悪いとは言わないし、実際“あなをほる”は悪い手ではないけど、例えば“つるぎのまい”とか“まもる”とか補助技も選択に入れておくべきだね。カイロスは攻撃値の高いポケモンだから“はかいこうせん”よりは“ギガインパクト”の方が良い。“はさみギロチン”は……正直、状況次第だからあまりオススメはしないかな」

 

 カイロス自体は決して弱いポケモンではない。これからの育て方次第ではヒメカの良きパートナーとなるだろう。

 そこまででヒメカへの指導は終わり、次の生徒がフィールドに入って来た。

 

「さて、じゃあ頼むぞピジョン」

 

 こうして、ソラタはニドリーナ、ピジョン、更にヒトデマンといったオーキド博士から送って貰ったポケモンを駆使してバトルの授業を進めていくのだった。




次回もゼミナール生とのバトル回です。


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第38話 「進化ポケモンと未進化ポケモン」

連続投稿出来ました。


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第38話

「進化ポケモンと未進化ポケモン」

 

 ポケモンリーグに出場する為、旅を続けるソラタは次のジムがあるグレンタウンを目指す途中トーグタウンで出会ったポケモンゼミナールの教師、キンジョウに頼まれて一日講師を務める事になった。

 卒業と同時にポケモンリーグへの参加資格を得られる上級クラスの生徒は使用するポケモンも中々強力なポケモンばかりで、バトルを通して実力もそれなりにあると感じるソラタだったが、残念ながら彼ら彼女らがリーグで通用するかと問われれば、正直厳しいとも思っている。

 

「サンドパン! “みだれひっかき”!!」

「ヒトデマン、“リフレクター”からの“みずのはどう”」

 

 現在、男子生徒のサンドパンをヒトデマンの“みずのはどう”で倒してようやく生徒も残り一人となった所だ。

 

「お疲れヒトデマン、戻ってくれ」

 

 ヒトデマンをモンスターボールに戻したソラタはサンドパンをボールに戻した男子生徒に一言二言アドバイスをすると、最後の生徒に目を向けた。

 ケンイチ少年、教室でソラタを品定めしていた眼鏡の男子生徒だ。先ほどキンジョウに貰った資料を読んだ限りではクラスどころかゼミナール一番の成績を残している優秀な生徒らしい。

 

「ソラタ先生、先ほどまでのバトル、見事でしたよ」

「そうか」

「ですが、残念ながら僕の足元にも及ばないのが判明しました。ピジョン、ヒトデマン、ニドリーナ、よく育てられていましたが、僕の自慢のパートナーには届きません」

 

 まぁ事実だろう。何故ならその3匹はソラタのメインパーティーではなくサブパーティーの予定となっているポケモンで、時間を見つけて育成はしていたが、まだ本格的な育成が出来ていないのだ。

 

「さあ、これで先生に教えてあげますよ、あなたは所詮僕に何かを教えるに値しないトレーナーであるという事を……行け! ゴローニャ!!」

 

 ケンイチが出したポケモンはイシツブテの最終進化系、ゴローニャだった。見れば判る、他の生徒達のポケモンよりも数段上の実力があるという事が。

 

「成程、他の子とレベルが違う……」

「当然です。僕は四天王やチャンピオンのバトルを研究して、バトルのいろはをゼミナールで学び、イシツブテをゲットしてからは常に共に上を目指して研究を重ねて来たのですから」

 

 これは、サブメンバーでは荷が重い。だからこそ、ソラタも残していたメインパーティーの内の1匹が入ったボールを手に取った。

 

「良いだろう、ならコイツで相手をしてやる。行け、フカマル!!」

 

 ソラタのポケモンはメインパーティーの一角、ドラゴンタイプとじめんタイプを持つフカマルだった。

 カントーには生息していないポケモン、当然旅に出た事も無い生徒達は初めて見るポケモンに驚き、中には羨望の眼差しを向ける者もいる。

 

「フカマル、確かシンオウ地方に生息するポケモンで、シンオウチャンピオンのシロナさんのガブリアスに進化するポケモンですね」

「へぇ、知ってるのか」

「言ったじゃないですか、四天王やチャンピオンのバトルを研究していたと、当然ワタルさんだけでなくダイゴさん、シロナさん、アデクさん、カルネさん、マスタードさん、ピオニーさん、ダンデさん、様々なチャンピオンのバトルを研究してきたんです」

 

 それは、他の地方のポケモンを知っていても不思議ではない。

 

「しかし、だからこそ許せませんね。僕のゴローニャに対して、進化もしてないフカマルで挑もうなど」

「進化してないから、弱いと?」

「当然です。進化していないポケモンでは、最終進化まで果たしたポケモンには勝てない。レベルが違うんですよ」

 

 まだニドリーナやピジョンの方が良かったというケンイチだったが、残念ながらニドリーナやピジョンより、メインパーティーとして育てているフカマルの方がずっと強い。

 勿論、進化したポケモンが強いというのも理解出来るし、間違っている訳ではない。しかし、未進化ポケモンが進化したポケモンに勝てない道理は無い。

 

「まぁ、やってみれば判るさ」

「ふん、負けた時の言い訳にしないで下さいね。進化してないポケモンだから負けたなどと」

「ああ、勿論だとも」

 

 フィールドでゴローニャとフカマルが対峙する。互いにやる気は十分、特にフカマルは何故か異様に高揚しているような雰囲気があるのが少し気になる所だが、バトルに支障は無さそうだ。

 

「ゴローニャ対フカマル、バトル開始!」

「ゴローニャ! “ストーンエッジ”だ!」

「ゴロッ! ゴロォオオ!!」

 

 初手でゴローニャが撃ってきた“ストーンエッジ”によって、地面から尖った岩の刃が次々突き出しながらフカマルに迫る。

 しかし、ここまで来るのに、フカマルとてその技は完成させているのだ。

 

「こっちも“ストーンエッジ”で応戦しろ」

「カフカフカ!!」

 

 フカマルもまた、同じ“ストーンエッジ”で応戦、中央で岩の刃がぶつかって相殺された。

 

「まだまだ! “すてみタックル”!!」

「ゴォロオオオ!!」

「カフゥウウウ!?」

 

 “ストーンエッジ”同士がぶつかった瞬間にはケンイチのゴローニャは動いており、超重量の“すてみタックル”がフカマルに激突した。

 しかも本来なら反動ダメージを受ける筈のゴローニャにダメージを負った様子は無い。これは特性によるものか。

 

「特性“いしあたま”か」

「その通り、僕のゴローニャは“すてみタックル”を使っても反動ダメージ無しで一方的にダメージを与えられるんですよ」

「特性も理解しているようだな、成程」

 

 数々のバトルを研究してきたという成果は出ているようだ。

 

「ゴローニャ、“ロックカット”!!」

 

 更には素早さまで上げてきた。補助技を利用して速度に不安があるゴローニャの素早さを補うのも見事と言う他にない。

 

「どうです? 僕のゴローニャは、フカマル程度が勝てる相手じゃないんですよ」

「さて、それはどうだろうな?」

「負け惜しみですか? ならもう終わらせますよ。ゴローニャ、“ボディプレス”!!」

 

 300kgの体重をものともしない軽やかな跳躍で飛び上がったゴローニャは真っ直ぐフカマル目掛けて落下してきた。

 直撃すれば間違いなくフカマルは戦闘不能になるであろう一撃に、ソラタもフカマルも、冷静だった。

 

「“アイアンヘッド”」

「カフカフカー!!」

 

 落下してくるゴローニャに対して、フカマルは鋼鉄のエネルギーを纏った頭を向け、飛び上がってゴローニャの顔面に叩きこんだ。

 岩タイプを持つゴローニャに鋼タイプの“アイアンヘッド”は効果抜群、しかも落下していたゴローニャは自身の全体重が乗ってしまった事で顔面が大惨事だった。

 

「ゴローニャ!?」

「“じしん”」

 

 地面に落下して痛そうに顔面を両手で擦るゴローニャに容赦なく“じしん”の一撃が叩きこまれた。

 立て続けに効果抜群の技を受けたゴローニャは大ダメージを負って、荒い息を吐きながらフカマルを睨む。

 

「ゴローニャ! もう一度“すてみタックル”だ!」

 

 “ロックカット”で素早さを上げたゴローニャによる“すてみタックル”は凶悪だ。しかし、もうそれを黙って受けるつもりは無い。

 

「“りゅうのはどう”で迎え撃て!」

 

 突っ込んできたゴローニャはフカマルが放った“りゅうのはどう”に飲み込まれ、フカマルの手前まで来てその場に倒れてしまった。

 

「ゴローニャ!」

「そこまで! ゴローニャ、戦闘不能!」

 

 特性を理解した技選びや補助技を使っての素早さの補強など、今のバトルで見せたケンイチの戦術は見事だと言って良い。

 だけど、ソラタとしては“ボディプレス”は選択ミスだったと思う。ゴローニャなら“まるくなる”からの“ころがる”のコンボを使っていれば負けていたのはこちらだったと思うし、そもそも“ボディプレス”を使うより、あの場面なら“ヘビーボンバー”を使われていたら負けていたのはフカマルの方だ。

 

「ど、どうして……僕のゴローニャが、進化もしていないフカマルなんかに」

「進化したら強いっていうのは否定しないし、事実だけど、だから必ず勝てるという訳ではない。ポケモンバトルはそんな単純じゃないって事だ」

 

 とはいえ、ケンイチの実力はまだまだ十分伸び代があると感じた。旅にでも出て確り実戦経験を積めば本当の意味でエリートトレーナーとなれる可能性がある。

 さて、フカマルをボールに戻すかとソラタは腰のホルダーからモンスターボールを取り出してフカマルに向けると、何やらフカマルの様子がおかしい。

 

「フカマル? どうした?」

「カ、カフ……カ!」

 

 すると、フカマルが光に包まれ、その姿を変え始めた。

 

「これは……!」

「何と! 進化ですか!?」

 

 キンジョウもカントーでは珍しいフカマルの進化に目を輝かせながら近づいてきた。

 そして、光が納まると、そこにはフカマルよりもスマートになったガブリアスに近いフォルムのポケモン、ほらあなポケモンのガバイトが立っていた。

 

「ガッバァ!」

「やっと、進化した……」

 

 ずっと進化を待ち望んでいたフカマルが、ようやく進化した。

 

「おめでとうございます。ソラタさん、まさかカントーでは珍しいフカマルの進化を目にする事が出来るとは思いませんでした」

 

 ついに、フカマルがガバイトに進化を果たした事で、ソラタは心置きなくグレンタウンへ向かう事が出来る。

 ゼミナールの講師も終わり、キンジョウから報酬にゼミナールで育成していたゲンガーを貰い受け、オーキド研究所へ送り、更にポケモンセンターで手持ちポケモンをメインパーティーに入れ替えて一泊、翌日には見送りに来たキンジョウに挨拶をしてトーグタウンを後にするのだった。




次回はいよいよグレン島に到着! 果たして……。


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第39話 「グレンジム! 熱い炎の戦い」

ついにグレンジム! カツラ戦です


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第39話

「グレンジム! 熱い炎の戦い」

 

 ポケモンリーグに出場する為、旅を続けるソラタはついに7つ目のジムがあるグレン島に到着した。

 グレンジムにて勝利すれば見事バッジ7個となり、残り1つという所まで来る。船でグレン島に向かうソラタは船内にある電話からオーキド研究所に連絡を入れてライバル達の近況を確認している。

 

「え!? じゃあサトシの奴もグレンジムに勝って、もう出発してるんですか?」

『うむ、お主が修行している間にサトシに抜かれてしまったようじゃな』

「そうですか……少しのんびりし過ぎましたね」

 

 聞けばシゲルも既にジムバッジを10個も集めてリーグ挑戦権を得ているのだとか。

 

『じゃが、ソラタも十分ポケモンを育ててグレンジムに挑むのじゃろう? ならば多少の遅れなど問題無かろう』

「そう、ですかね?」

『うむ、ソラタは優秀なトレーナーじゃ。期待しておるぞ?』

 

 オーキド博士との通話を終えたソラタは暫く船室でのんびりしながらグレンジムでの戦術を構築していた。

 既に出すポケモンは決まっている。後はグレンジムのジムリーダー・カツラのポケモンを予測しつつ、どのように戦うべきなのかを考え、使う技などの戦術も考えて行かなければならない。

 

『まもなく、当船はグレン島に到着致します。船内のお客様は下船の準備をお願い致します』

 

 船内アナウンスで船がグレン島に近づいている事を知らせてきた。もう30分もしたらグレン島の港に接岸するらしい。

 

「あれ? そういえばサトシがもうグレンジムに挑戦した後って事は……グレンジム使えないんじゃないか?」

 

 微かな記憶で、そういえばサトシがグレンジムに挑戦した時に何らかのトラブルでグレンジムが使えなくなって火山口でジム戦をしていたような気がする。

 確か、サトシのリザードンとカツラのブーバーのバトルが火山でのバトルだった気がしたのだが。

 

「あれぇ?」

 

 もしかして、グレンジムに挑戦出来ないかもしれない? そんな予感がして、一瞬不安になってしまった。

 そんな不安を抱えながら、ソラタの乗る船はグレン塔の港に接岸、ソラタ含めた乗客は下船する事になるのだった。

 

 

 グレン島はカントーでも随一の温泉地でもあり、有名な観光地でもある場所だ。当然、カントー中どころか、世界中からグレン島に観光に来る者が多く、島には多くの温泉旅館やホテルが存在している。

 ポケモンセンターも基本的に常に満員状態で、グレン島に行くには必ず事前に泊まる場所を予約しておかなければ野宿するハメになると言われている程だ。

 なので、ソラタも当然だがグレン島に向かう前に旅館を予約しており、船を降りて直ぐに予約していた旅館にチェックイン、ポケモンは船に乗る前に回復を済ませているので、直ぐにでもグレンジムに挑戦出来る状態だ。

 

「えっと、確かカツラさんはペンションを経営してるんだったよな……えっと、確か名前はペンションなぞなぞ、だったっけ」

 

 元々観光気分で訪れるチャレンジャーを快く思っていなかった為、ジムを閉鎖して温泉付きのペンションを経営している筈だった。

 

「旅館で貰った観光案内が役に立つな」

 

 観光案内のパンフレットを広げてみれば、確かにペンションなぞなぞの場所も書かれていた。

 早速その場所に向かうと、前世で見たアニメの通りのペンションが見えてきて、その入口には赤いアロハシャツを着た金髪のカツラを被った男性が掃除でもしているのか箒を持って立っている。

 

「あのー! すみません!」

「ん? おや、いらっしゃい」

「あ、すいません。ペンションの客じゃないんですが……グレンジムのジムリーダー、カツラさんですよね? 俺、マサラタウンのソラタって言います。ジム戦に来たのですが」

 

 ソラタが名乗ると、男性……カツラの目の色が変わった。

 

「成程、君がキョウの言っていたソラタ君か……しかもマサラタウン、サトシ君と同じ町の出身か」

「やはり、サトシはもうバトルを終えたんですね」

「ああ、良いバトルをさせて貰ったよ……キョウから話は聞いているよ、見所のあるトレーナーだとね」

 

 だが、残念な事にカツラが言うには地下のジムの修復はまだ終わっていないらしい。なので、ジム戦をしようにもそれが出来る状況にないとのこと。

 

「そう、ですか……」

「いや、申し訳ないね……しかし、キョウが絶賛する程のトレーナーならば、私も興味がある。このまま何もせず帰すのも忍びない。ゆえに、着いて来なさい」

 

 もしかして、サトシの時と同じ火口でのバトルになるのかと思いきや、カツラに連れられて案内されたのは、グレンタウンのポケモンセンターだった。

 

「ジョーイさん、悪いがバトルフィールドを借りれるかな?」

「あらカツラさん、構いませんが……もしかして、ジム戦ですか?」

「ああ、まだジムの修理が終わってないのでね。申し訳ないがポケモンセンターのフィールドでジム戦をさせて貰いたい」

「わかりました、でしたら審判は私が務めましょう」

 

 何と、ポケモンセンターのバトルフィールドを借りてジム戦をする事になった。しかもジョーイさんが審判役を務めてくれるという何とも申し訳ないというか、贅沢というか。

 

「さあソラタ君、早速ジム戦をしようか。キョウが認めた君の実力を私にも見せておくれ」

 

 ジョーイさんが受付をラッキーに任せて3人でバトルフィールドに出た。話を聞いていたセンター内のトレーナー達も観客としてフィールドの周囲に集まっており、随分と賑やかな事になっている。

 

「それでは、これよりグレンジムのジム戦を開始します。使用ポケモンは共に3体、どちらかのポケモンが3体戦闘不能となった時点で試合終了となります。尚、バトル中のポケモンの交代はジムリーダー、チャレンジャー共に禁止となります」

「ではまずこちらから行くぞ、いでよキュウコン!!」

「こっちも行くぞ、ガバイト!!」

 

 カツラが出したポケモンは予想通りキュウコンだった。そしてソラタはガバイト、相性の面では有利だが、当然カツラもジムリーダーとして相性の悪さをカバー出来る腕を持っている筈、油断は出来ない。

 

「ほうガバイトか、カントーでは珍しい」

 

 カツラが感心したという声を漏らすが、それも周囲のざわめきに掻き消された。当然か、カントーではまず見ないガバイトという珍しいポケモンに周囲が色めき立っているのだから。

 中には欲しいやら、試合が終わったら交換したいやら、そんな声も聞こえるが、ソラタは交換に応じるつもりは無い。

 

「では、キュウコン対ガバイト、バトル開始!」

「キュウコン! まずは様子見だ、“おにび”!!」

「させるなガバイト! “ストーンエッジ”!!」

 

 “やけど”状態にされては困る。キュウコンの“おにび”をガバイトの“ストーンエッジ”で盾にする事で防御したソラタは直ぐにガバイトへ指示を出した。

 

「“すなあらし”だ!」

「ガッバァア!!」

 

 ガバイトを中心に砂嵐が巻き起こり、キュウコンも飲み込んでバトルフィールドが砂塵の舞うフィールドへと変貌した。

 これでキュウコンは少しずつダメージを受けていく事になるので、持久戦は不利になる。

 

「ほう? キュウコン、“ほのおのうず”」

「コォオオオオン!!」

 

 キュウコンが炎を吐いたが、巻き起こる砂嵐によって炎が瞬く間に掻き消され、上手く技として機能しない。

 

「随分と強力なすなあらしだ、まさかこちらの炎技を封じるとは……だが、まだ甘いぞ! キュウコン! “ねっぷう”!!」

「コォン! コォオオオオ!!!」

 

 キュウコンから熱を帯びた風が放たれ、フィールドを舞っていた砂嵐が吹き飛ばされていった。

 更に“ねっぷう”はガバイトにも襲い掛かり、防御を姿勢を取ったガバイトは多少後退したものの、確かなダメージを負ってしまう。

 

「やりますね」

「これくらい、ジムリーダーならば当然だ」

「なら……ガバイト、“スケイルショット”!!」

「ガァバババババ!!!」

 

 次の一手を考えたソラタは先ずガバイトに“スケイルショット”を指示、連続の突きによるドラゴンのオーラを纏った空気の弾丸がキュウコンに襲い掛かった。

 

「“ほのおのうず”!」

 

 しかし、その弾丸もキュウコンが壁の様に作り出した“ほのおのうず”に阻まれてしまい、キュウコンには届かなかった。

 だが、それで良い。狙いは“スケイルショット”によるダメージではなく、キュウコンの目の前を炎で塞ぐ事にあったのだから。

 

「今だ! “じしん”!!」

「っ! しまった!!」

 

 炎の壁によって“じしん”のタイミングが図れず回避するタイミングを大きく外してしまい、キュウコンは飛び上がる前に“じしん”による衝撃波の直撃を受けてカツラの所まで吹き飛ばされてしまった。

 

「キュ~」

「キュウコン、戦闘不能! ガバイトの勝ち!!」

 

 先ずは一勝、キュウコンを倒してカツラに最初に黒星を付けた。だが、まだまだ油断は出来ない。

 次に出すカツラのポケモンが何なのか、それによって対応は変わるのだから。

 

「ふむ……見事だ。それに一勝した程度では油断もせんか、確かにキョウが褒めるのも納得だ」

 

 キュウコンをボールに戻しながら何かを呟いたカツラは、そのまま次のボールを取り出してフィールドへ投げる。

 

「2番手はコイツだ、ゆけウインディ!」

 

 カツラの2番手は、でんせつポケモンのウインディだった。ガーディの進化系であり、カントーの炎タイプの中でも最速を誇る素早さを持った手強い相手だ。

 

「ガバイト、行けるな?」

「ガバッ」

 

 相手にとって不足無し。ガバイトも進化して今までより戦える事でテンションが上がっているのか気合も十分だった。

 

「では、ウインディ対ガバイト、バトル開始!!!」

「今度はこっちから行くぞガバイト! “ストーンエッジ”!!」

「ウインディ、“しんそく”」

 

 ガバイトの“ストーンエッジ”を、“しんそく”で回避するウインディ、グレンジムのジム戦はまだまだ始まったばかり。

 果たして勝利の行方はどちらの手に輝くのか、次回に続く。




次回もカツラ戦の続き。さて、勝敗の行方は。


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第40話 「神速のバトル」

グレンジム戦続きです


ポケットモンスター

転生したのは始めに旅立った子供

 

第40話

「神速のバトル」

 

 ポケモンリーグに出場する為、旅を続けるソラタは7つ目のジムであるグレンジムに挑戦していた。

 ジムリーダー・カツラの繰り出す炎タイプのポケモンによるパワーと巧みな戦術により、初戦のキュウコンとのバトルにガバイトは苦戦するものの辛うじて撃破。

 続くカツラの2番手は、でんせつポケモンのウインディ。炎タイプのポケモンでも最速を誇るスピードが自慢の手強い相手だ。

 

「ガバイト! “ストーンエッジ”!!」

「ウインディ! “しんそく”!」

 

 ガバイトの“ストーンエッジ”はウインディの“しんそく”によって回避され、そのまま高速で走るウインディがガバイトの後ろへ回り込んだ。

 

「“フレアドライブ”!!」

「バォオオン!!」

 

 そのまま背後から全身に炎を纏って突撃してきたウインディは、ガバイトの背中に向かって突進、それに気付いたガバイトが振り向き様に直撃してしまい、大きく吹き飛ばされた。

 

「そのままで良い! “スケイルショット”!!」

「もう一度“フレアドライブ”、“しんそく”で突っ込め」

 

 今度は“しんそく”を使いながらの“フレアドライブ”によって“スケイルショットは全て回避され再び“フレアドライブ”がガバイトに直撃してしまう。

 だが、ガバイトも唯ではやられない、何故なら吹き飛ばされた勢いを利用してバク転しながら足に力を込めて筋肉を膨れ上がらせているのだから。

 

「“じしん”!!」

 

 ガバイトは着地と同時に足を地面に思いっきり叩き付ける事で“じしん”の衝撃波を発生させる。

 衝撃波はフィールドの全方向に広がり、ウインディも回避する間も無く直撃を受けてしまった。

 

「ほう、ガバイトが自らの判断で“じしん”の用意をしていたか、トレーナーとポケモンの息が合わなければ出来ない芸当だな」

 

 感心しながらカツラはウインディに目を向ける。

 2回の“フレアドライブ”による反動ダメージに加え“じしん”の直撃を受けたダメージは大きいが、まだ十分戦えると判断したカツラはガバイトも体力が残り少ないだろうと、トドメの一撃を指示した。

 

「もう一度“しんそく”で走れ!」

「バォン!」

 

 ウインディが再び走り出した。3度目の“フレアドライブ”かと警戒し、その前に“じしん”を指示しようとしたソラタは、その所為で対応が遅れてしまった。

 

「ウインディ! 走りながら“りゅうのはどう”!!」

「っ! “フレアドライブ”じゃない!? ガバイト! 回避だ!!」

 

 しかし遅い。ウインディは“しんそく”でガバイトとの距離を大きく詰めており、近距離からの“りゅうのはどう”はガバイトに回避を許さず直撃させた。

 

「ガ、バァ……」

 

 効果抜群の“りゅうのはどう”を受けたガバイトは、そのままその場で倒れてしまい、目を回してしまう。

 

「ガバイト、戦闘不能! ウインディの勝ち!」

「……戻れガバイト、良く頑張った」

 

 ガバイトをモンスターボールに戻したソラタは、ウインディの強さに改めてグレンジム攻略の難しさを感じつつ、次のポケモンが入ったプレミアボールを取り出した。

 

「頼むぞ、ギャラドス!!」

「ギュオアアア!!!」

 

 ソラタの2番手は水タイプのギャラドス、セオリー通りならガバイト同様に炎タイプに相性の良いポケモンだが、安心は出来ない。

 ウインディはまだ技を一つ残しており、そしてウインディはギャラドスにとって弱点のタイプの技を覚える事が出来るポケモンなのだから。

 

「ギャラドスか、良いポケモンだ。それに良く育てられている」

「ありがとうございます。ニビシティで出会ってからずっと、旅をしてきた自慢のポケモンですよ」

「うむ、良かろう」

「では、ウインディ対ギャラドス……バトル開始!」

 

 バトルが開始して直ぐにソラタは思考を巡らせた。ウインディの素早さは知っての通り、そこに“しんそく”が加わる事で最早攻撃を当てるのも“じしん”のような全方位の攻撃でもなければ一苦労な程だ。

 その時点で“ハイドロポンプ”で攻めるのは無し。元々の命中率が低い技を素早く動く相手に当てられる可能性は低いのだから。

 なら、危険ではあるが接近戦に持ち込む以外に対応策は無い。

 

「来ないのなら、こちらから行くぞ? ウインディ! “しんそく”!!」

「ギャラドス! ウインディを引き付けろ! “アクアテール”だ!!」

 

 ウインディが再び“しんそく”で走り出し、ギャラドスに迫る。対するソラタとギャラドスはウインディを十分に引き付けつつ、“アクアテール”の用意、だがカツラも黙ってそれを見ているようなトレーナーではない。

 

「受けて立とう、“フレアドライブ”だ」

 

 走りながらウインディが炎を纏った。そのまま突っ込んできたウインディに、ギャラドスは水を纏った尾を叩き付けると、水が炎で蒸発したのか白い煙が立ち込める。

 

「ウインディ! “りゅうのはどう”!!」

「ギャラドス! “ぼうふう”!!」

 

 水蒸気による白い煙の中、ウインディとギャラドスが同時に動いた。ギャラドスの“ぼうふう”によって煙が晴れ、同時にウインディの“りゅうのはどう”も暴風の壁で掻き消す。

 

「範囲技、行くぞ! “だくりゅう”!!」

 

 ギャラドスが口から大量の水を地面に向けて吐き出すと、それが濁流となって広い範囲に広がりながらウインディに迫った。

 これには流石のウインディも回避が出来なかったのか濁流に飲み込まれてしまうも、カツラの戦術は、まだまだ上手だ。

 

「“フレアドライブ”!」

 

 濁流の中、ウインディが全身に炎を纏う事で周囲の水を蒸発させて脱出した。とは言え、体力も残り僅かなのだろう、大きく荒い息を吐いているのを見て今が攻め時だと判断した。

-

 

「ギャラドス! もう一度“だくりゅう”!!」

「“しんそく”で走りながら跳ぶのだ!」

 

 再び濁流がウインディに襲い掛かるが、今度はウインディに直撃する事は無かった。何故ならウインディは“しんそく”の速度で走り、その勢いでジャンプする事で濁流の上を乗り越えて回避したのだから。

 それだけではない。ジャンプした先には当然だがギャラドスが居て“だくりゅう”を使った直後の隙が出来ている。

 

「“かみなりのキバ”!!」

 

 そのままギャラドスの懐へ着地したウインディは雷を纏った牙でギャラドスに噛み付いた。

 

「ギュアアア!!!」

「ギャラドス!!」

「そのまま出力を上げろ! 更に“かみなりのキバ”!!」

 

 噛み付く強さと、電気の出力が上がった。水と飛行タイプのギャラドスに電気タイプの技は4倍ダメージの効果抜群となってしまう。

 このままでは逆転を許してしまう状況に、ソラタは何とかしないとと考えた時、今ウインディがギャラドスに噛み付いて身動きが取れない事に気が付いた。

 

「ギャラドス!! そのまま“ハイドロポンプ”!!!」

 

 元々、“ハイドロポンプ”はウインディの動きが速いからこそ選択から外していたが、ウインディが“ワイルドボルト”ではなく“かみなりのキバ”を使ってくれたからこそ、チャンスが生まれた。

 ギャラドスは全身に流れる電流に苦しみながらも顔を自身の懐にいるウインディに向け、その大きな口から“ハイドロポンプ”を発射する。

 

「耐えろウインディ! そのまま“かみなりのキバ”!!」

「押し切れギャラドス!! 最大出力で“ハイドロポンプ”!!」

 

 ギャラドスに“かみなりのキバ”で噛み付いたままのウインディと、そのウインディに“ハイドロポンプ”を浴びせ続けるギャラドス、最早根競べのような状況に、ソラタもカツラも、審判のジョーイさんも、そして観客たちも固唾を飲んで勝負の行方に注目した。

 

「ギャラドス!!」

「ウインディ!!」

 

 やがて、ギャラドスのハイドロポンプが止み、ウインディの牙からも電気が消えた。そして、ズシンッという音と共にギャラドスとウインディ、両者が地面に倒れてしまった。

 

「ギュオ~」

「バウゥ~」

「ギャラドス、ウインディ、両者共に戦闘不能!!」

 

 相打ち、これでソラタとカツラは互いに残るポケモンは1匹のみとなった。

 

「戻れギャラドス、良く頑張った……ゆっくり休んでくれ」

 

 ギャラドスをプレミアボールに戻したソラタは労いの言葉を投げかけてから腰のホルダーに戻すと、最後のポケモンが入ったモンスターボールを取り出した。

 見ればカツラも同じようにウインディを戻して次のモンスターボールを取り出している。

 

「見事だよソラタ君、本当に見事なバトルだった。ガバイトもギャラドスも、トレーナーである君を心から信じ、そして君自身もポケモン達を信じているからこそ、ここまで追い詰められた……だから見せておくれ、君の最後のポケモンとの絆を」

「ええ、見せてあげますよ……俺の、俺達の切り札を」

 

 一瞬の静寂、その次の瞬間ソラタとカツラは同時にモンスターボールを投げた。

 

「ゆけ、ブーバー!!」

「行け、リザードン!!」

 

 ブーバーとリザードン、両者の切り札にしてエースポケモン。奇しくもカツラとブーバーにとっては、ソラタの前に戦った少年とのバトルを彷彿とさせる組み合わせとなった事に、何とも言えない気持ちが込み上げて来る。

 

「ブーバー対リザードン、バトル開始!!」

「ブーバー!」

「リザードン!」

「「かえんほうしゃ!!」」

 

 グレンジム最後のバトルは、グレンの名に相応しい紅蓮の炎対決、勝つのはソラタか、カツラか、勝利の女神はどちらに微笑むのか。




次回、グレンジム戦決着!


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第41話 「紅蓮」

グレンジム決着!


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転生したのは始めに旅立った子供

 

第41話

「紅蓮」

 

 ポケモンリーグに出場する為、旅を続けるソラタは7つ目のジムであるグレンジムに挑戦していた。

 ジムリーダー・カツラが操る強力な炎ポケモンとのバトルは一進一退、1番手のキュウコンをガバイトにて倒したものの、2番手のウインディに敗北、その後はギャラドスで勝負を挑むも惜しくも相打ちに終わってしまう。

 残すところ、ソラタもカツラも1体ずつ。最後のポケモンであるソラタのリザードンとカツラのブーバーによる紅蓮の戦いが、今まさに始まろうとしていた。

 

「「“かえんほうしゃ”!」」

 

 リザードンとブーバーの“かえんほうしゃ”がぶつかった。フィールドの中央で爆発し、相殺されたのを見るに威力は互角、ならば素早く次の行動に移るべき場面、ソラタは既に動いていた。

 

「飛べリザードン! “エアスラッシュ”だ!!」

「グルッ! リザァアア!!」

「ブーバー! “かげぶんしん”だ!」

「ブバ!」

 

 リザードンの“エアスラッシュ”による空気の刃がブーバーに襲い掛かるも、ブーバーも“かげぶんしん”で分身を作る事で回避、更に分身達全部がジャンプする事で空中にいるリザードンの周りをブーバーの分身が取り囲んだ。

 

「“だいもんじ”!!」

「ブーバアア!!」

 

 分身達が同時に“だいもんじ”を放つ。リザードンも己が尻尾で弾こうとしたが、悉くが偽物で、直後背後の本物が直撃した。

 

「リザードン!」

「今だブーバー! “かみなりパンチ”!!」

「迎え撃てリザードン! “ドラゴンクロー”!!」

 

 ブーバーが雷を纏った拳で殴りかかってきたのに対し、リザードンもドラゴンのオーラを纏った爪で迎撃、拳と爪が激突して激しく火花を散らした。

 

「やるなソラタ君、それに君のリザードンも」

「当然、俺のパーティー最強のエースです。絶対の信頼を置いてますから」

「成程、ならば楽しいバトルになりそうだ……ブーバー! “かえんほうしゃ”!!」

 

 ブーバーが至近距離から“かえんほうしゃ”を発射、リザードンは直撃を受けたが、まるでダメージを感じさせないかのように微動だにしない。

 やがてブーバーも地面に着地して宙にいるリザードンに鋭い眼光を向け、次の技の態勢に入った。

 

「ブーバー、もう一度“かげぶんしん”だ」

「ブバ!」

 

 再び、ブーバーが“かげぶんしん”で無数の分身を作り出した。この状況で“ブラストバーン”は悪手だと判断したソラタは、予定していた技とは別の技を選択、リザードンに目を向ける。

 リザードンも、ソラタと同じ事を考えていたのだろう。既に彼からも“ブラストバーン”という選択は入っていないらしい。

 

「“がんせきふうじ”!!」

「何っ!?」

 

 リザードンの周りに無数の岩が現れ、分身しているブーバーの周りに降り注いだ。

 その岩は本体に直撃しただけではなく、周りに無数の岩が突き立って“かげぶんしん”をするには邪魔な障害物となり行動を阻害した。

 

「もう一度“エアスラッシュ”!!」

「“かみなりパンチ”で迎撃だ!!」

 

 再度放たれた空気の刃をブーバーは“かみなりパンチ”で迎撃していくが、残念ながらソラタとリザードンの狙いは違う。

 “エアスラッシュ”を迎撃して拳の雷を解いたブーバーを見たソラタとリザードンは、その隙を見逃さなかった。

 

「今だ! “ドラゴンクロー”!!」

「グルゥアアア!!」

「しまった! ブーバー!!」

 

 一気に急降下してブーバーへ一直線に突撃するリザードンは、その爪をドラゴンのオーラで緑色に輝かせると、気付いて見上げたブーバーにその爪を叩きこんだ。

 

「ブゥッ!?」

「グルゥッ! リザァアア!!」

 

 一撃、そしてもう一撃を腹に叩き込みブーバーが大きく吹き飛ばされた。

 

「いけぇ!! “かえんほうしゃ”!!!」

「リザァアアアア!!!」

 

 吹き飛ぶブーバーがリザードンの“かえんほうしゃ”に飲み込まれた。カツラの足元まで吹き飛ばされたブーバーを見下ろすカツラは、己が相棒の様子を見て被っていた金髪のカツラを脱ぐと、ジョーイさんに目を向け頷く。

 

「ブーバー、戦闘不能! リザードンの勝ち! よって勝者、マサラタウンのソラタ!」

 

 ついに、ブーバーを倒してカツラに勝利した。これでグレンジムを攻略、7つめのジムを制覇した事になる。

 

「よっしゃあああ!! リザードン! 勝った!!」

「グルゥ!」

 

 ソラタはリザードンに駆け寄り、見事な勝利を納めたエースとハイタッチ、リザードンも笑顔を浮かべて嬉しそうだ。

 

「見事だったよソラタ君、そして君のポケモン達は。炎タイプのスペシャリストである私以上に熱いバトルを見せて貰った」

 

 ブーバーをモンスターボールに戻したカツラがソラタとリザードンの下に歩み寄ってくる。

 そして、カツラは懐から炎の形をしたバッジを取り出してソラタに差し出した。

 

「受け取りなさい、クリムゾンバッジは君の物だ」

「はい!」

 

 バッジを受け取り観客からの拍手の中、バッジケースに納めると、7つのバッジがキラリと輝いた。

 後1つ、残り1つのバッジを手に入れればポケモンリーグへの参加資格を得るのだ。遂にその段階まで来たのだと、7つのバッジを見て強く実感する。

 

「次はどこのジムに行くのかね?」

「トキワシティに戻ってトキワジムに行くつもりです」

「トキワジムか……」

 

 トキワジムと聞いて、カツラの表情が曇った。何となく理由は判るが、流石にソラタが知っているのは問題だろうと思い、何も知らないフリをして何かあるのかと訪ねてみた。

 

「トキワジムのジムリーダーの名はサカキと言うのだが、ジムリーダーの会合で何度か会った事もある。あの男は、私の直観だが危険だ。何かと悪い噂もあるのだが、カントー最強のジムリーダーという肩書がある所為か黙殺されている節があるのだ」

 

 ロケット団らしき服装の人物がトキワジムを出入りしているのを見たという噂もあるのだが、あくまで噂に過ぎず決定的な証拠がある訳ではない。

 カントー最強のジムリーダーという肩書に嫉妬した誰かが濡れ衣を着せる為に流した噂だという話もあるが、火の無い所に煙は立たないとも言う。

 

「悪い事は言わない。トキワジムはやめて、別のジムへ行くべきだ」

「……いえ、やはりトキワジムにします」

「ソラタ君……」

「確かに気になる噂ではありますが、カントー最強のジムリーダーなんですよね? なら挑戦する価値がありますし、そんなジムリーダーに勝利してこそポケモンリーグに胸を張って参加出来るってものです」

「……そうか、ならばもう何も言うまい。君の今後を私も応援している、頑張りたまえ」

「ありがとうございます!」

 

 ペンションなぞなぞに戻るカツラを見送ったソラタは、そのままポケモンセンターでポケモン達の回復をした後、旅館に戻る。

 勝利した後の夕飯は気分も高揚しているからか、より絶品に感じられ、温泉を堪能し、ふわふわの布団で一夜を明かした後はクチバシティ行きの船に乗ってグレン島を後にした。

 

 

 クチバシティ行きの船のデッキで、遠ざかるグレン島を眺めるソラタは改めて次に挑戦する予定のトキワジムについて考えていた。

 恐らくタイミング的にソラタがトキワシティに到着するのはサトシがグリーンバッジをゲットした後になるだろう。

 つまり、ミュウツーが居るか居ないか、絶妙なタイミングになる。もし、まだミュウツーが居るタイミングで到着した場合、必ずジム戦にミュウツーが出てくる事を想定しなければならない。

 

「ミュウツーか……エスパータイプだからニンフィアで当たるのが最適なんだろうけど……」

 

 他の地面タイプに対してはギャラドスやキレイハナで十分対応可能だ。だが、ミュウツーだけは別だと考えるべきだろう。

 あのポケモンは強い。いや、強すぎると言って良い。恐らくソラタのポケモンでまともに戦える可能性があるとしたらニンフィアとリザードンだけだ。

 

「とは言っても、リザードンの“シャドークロー”とニンフィアの“シャドーボール”くらいしか、有効打が無いのがなぁ」

 

 一応、ギャラドスの“かみくだく”やキレイハナの“まとわりつく”もミュウツーには有効なのだが、正直微妙だ。

 悪タイプのポケモンを持っていない事が悔やまれるが、無い物強請りをしても仕方がない。

 流石に一度マサラタウンに戻って母からドンカラスを借りるなんて真似をする訳にもいかないのだから、自分の手持ちでどうするかを考えるべきだろう。

 

「……あれ? そういえばトキワジムって」

 

 ふと、前世のアニメの記憶を思い出した。確か、トキワジムはサトシが挑戦した時に……。

 

「崩壊してんじゃん」

 

 不味い、下手をしたらジム戦が出来ない可能性が出て来た。

 

「やべぇ、クチバシティに到着したら急いでトキワシティに向かうか」

 

 ソラタ、ジムバッジ7個をゲットした所で唐突のピンチの可能性が出てきてしまった。それも、ロケット団の所為でという遣る瀬無い原因で。




次回は一気に時間が飛んでトキワシティ到着です。


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第42話 「トキワジム! 最後のジム戦」

ついに最後のジム戦です


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第42話

「トキワジム! 最後のジム戦」

 

 ポケモンリーグに出場する為、旅を続けるソラタは最後のジムがあるトキワシティにやってきた。

 旅を始めて最初に立ち寄った町でもあるトキワシティは非常に懐かしく感じるものの、その懐かしさを感じている余裕が今のソラタには無い。

 何故ならトキワジムに挑戦出来るかどうかの瀬戸際という状況にあるので、急いでトキワジムのある場所へ向かわなければならないのだから。

 

「確か……この先に」

 

 住宅街を抜け、ポケモンセンターを超えた所、そこにトキワジムがあるのだが、見えて来たのは……ガレキの山と、その撤去作業をしている作業員達の姿だった。

 

「あ、ちゃ~……遅かったかぁ」

 

 規制線を張ってガレキの撤去作業をしている光景は、手遅れだったという何よりの証。トキワジムは、完全に崩壊していた。

 

「どうするかなぁ」

 

 念の為、規制線の近くまで寄ってみるが、やはり撤去作業が始まって然程経っていないのかガレキの山ばかり、これではジム戦どころの話ではなさそうだ。

 

「君! 危ないから下がって!」

 

 すると、作業員らしき人物が現れてソラタに注意してきた。確かに規制線が張ってあったとしても危ない距離だったかと反省して少し距離を取ると、作業員らしき男性はソラタの横に立った。

 

「君はジム戦に来たのかい?」

「ええ、トキワジムが最後のジムだったのですが……この様子だと」

「そうだったのか……実は今、丁度ジムリーダーが作業の様子を確認に来ているんだけど、もし良ければ話を通してみるかい?」

「え? ジムリーダーが?」

 

 なんと、トキワジムのジムリーダー・サカキがガレキの撤去作業の様子見に来ているらしく、作業員はサカキの所へ案内してくれると言う。

 厚意に甘え、作業員の案内に従いついていくと、作業員の休憩用と思しきプレハブ小屋に連れて来られた。

 

「ちょっと待っていてくれ……サカキ様、お客様が来られてます」

「客? 今日は客人など予定に無いが」

「それが、どうやらジム戦に来たらしく……ただこの状況で途方に暮れていたものですから、念のためにと思いまして」

「そうか、わかった」

 

 中から話声が聞こえ、暫くするとオレンジ色のスーツを着た男性が中から出て来た。間違いない、トキワジムのジムリーダーにしてロケット団のボス、サカキだ。

 

「坊やがトキワジムのチャレンジャーかね?」

「あ、えっと……はい」

「そうか、私はトキワジムのジムリーダー・サカキだ。だが見ての通り、ジムは今ガレキの山でね、とてもではないが営業出来る状況ではない」

「そのようですね……あの、何があったんですか?」

「どうやら、私が留守の間にガス漏れがあったらしくてね、何かの拍子に引火して爆発したらしい」

 

 恐らくは表向きの理由だろう。とは言え、ソラタとしてはそれで納得するしかない。

 

「そうですか……困ったな、ニビジムは攻略してるし、他のジムに行くしか無いか」

「だが、ニビジム以外だと一番近いジムは結構な距離がある。手間ではないかな?」

「手間ではありますけど、仕方がないかなって」

「そうか……だが折角チャレンジに来てくれたのに、こちらの都合で追い返すのも忍びない。ジムの練習用屋外フィールドが近くにある、そこで良ければジム戦をしても構わないが?」

 

 なんと、サカキが屋外の練習用フィールドでジム戦をしてくれるという。悪の組織のボスにしては随分と気前が良いとは思うも、ソラタとしては非常に助かる提案だった。

 

「ただ、この後用事があるのでね、使用ポケモンは2体のみ、両者バトル中のポケモンの交代は禁止というルールになるが、良いかな?」

「はい! それで構いません!」

「では着いて来たまえ。君、悪いが審判を頼む」

 

 サカキが案内してくれた作業員に審判を頼んだ。どうやら彼はトキワジムのスタッフらしく、作業服を着ていたのもこの場に合わせてなのだとか。

 そして、サカキに案内されて連れて来られた屋外練習用フィールドでソラタとサカキが向かい合うと、中央には作業服の男性が審判として立った。

 

「それでは、これよりトキワジムのジム戦を開始します! 使用ポケモンは互いに2体、どちらかのポケモンが全て戦闘不能になった時点で試合終了となります。尚、バトル中のポケモンの交代は両者共に認められません!」

「では、私の初手はコイツだ。ゆけ、サイドン」

「俺の一番手はコイツだ! 行け、キレイハナ!」

 

 サカキのポケモンはサイドン、対するソラタはキレイハナ、セオリー通りならソラタの有利だが、相手はカントー最強のジムリーダー、相性で有利だからと油断して良い相手ではない。

 

「それではサイドン対キレイハナ、バトル開始!」

「サイドン、“ドリルライナー”」

「“ちょうのまい”でかわせ!」

 

 サイドンが角を回転させながら突撃してきたのに対し、キレイハナは舞いながら華麗に回避、更に自身の特攻と特防、スピードを上昇させる。

 サイドンは極端に特防が低いポケモン、馬鹿正直にガチンコ勝負をする方が間違いなのだ。だからこちらは遠距離からの特殊攻撃で攻めるのが一番良い。

 

「“リーフストーム”!!」

「ハナッ! ハナァアア!!」

「“ストーンエッジ”」

 

 キレイハナの“リーフストーム”はサイドンに直撃する前に“ストーンエッジ”によって防がれてしまい、サイドンには届かない。

 ならばと、キレイハナに目を向けると、こちらを向いていたキレイハナも頷いてその場で一回転、するとキレイハナを中心に大量の花びらが宙を舞った。

 

「“はなびらのまい”!」

「ほう?」

 

 全方位からサイドンに襲い掛かる花びらは、流石に“ストーンエッジ”では防ぐ事が出来ず、まともにサイドンに直撃した。

 

「やるな、坊や……ならばサイドン、“ロックブラスト”だ」

 

 サイドンの周囲に岩が無数に浮かび、弾丸の様にキレイハナ目掛けて飛来した。だが身体の小さいキレイハナは舞うように動き回って岩を全て回避してみせたのだが、それに気を取られてサイドンが接近しているのに気付かなかった。

 

「しまった!」

「“メガホーン”」

 

 虫タイプの中でも最強クラスの一撃がキレイハナに直撃、大ダメージを負ったキレイハナが吹き飛ばされる中、まだキレイハナは諦めていない。

 吹き飛びながらも態勢を整え、頭の花をサイドンに向けたのを見て、ソラタもキレイハナの意図を察した。

 

「“リーフストーム”!!」

 

 “メガホーン”を使用した直後の隙を狙い、“リーフストーム”が今度こそサイドンに命中、“はなびらのまい”と合わせて強力な草タイプの大技には耐えられなかったのか、サイドンは目を回してその場に倒れてしまった。

 

「サイドン、戦闘不能! キレイハナの勝ち!!」

「戻れサイドン」

 

 サイドンが倒れたというのに、サカキの表情は涼し気だ。まるでサイドンが倒された事など気にも留めていないかのような態度だった。

 

「では次のポケモンだ。いけ、ガルーラ」

「ガルッ!」

 

 サカキの2番手は地面タイプではなく、ノーマルタイプのガルーラだった。だが、ゲームでサカキがガルーラを持っていたのを知っていたソラタは、この世界でもサカキがガルーラを使う可能性を視野には入れていた。

 

「それでは、ガルーラ対キレイハナ、バトル開始!!」

「今度はこちらから行かせてもらおう。ガルーラ、“ほのおのパンチ”」

 

 ガルーラが炎を纏った拳でキレイハナに襲い掛かった。だが、やはりキレイハナは華麗に回避、舞いを踊るような動きで敵の攻撃を回避する練習の成果が出ているようだ。

 

「キレイハナ! “ドレインパンチ”!!」

 

 格闘タイプの技であり、ガルーラには効果抜群の上、更に先ほどの“メガホーン”で負ったダメージを回復出来る“ドレインパンチ”は良い選択だったと思う。

 事実、真横からの“ドレインパンチ”を受けたガルーラはダメージが大きい様子、ただ残念な事に接近してしまったが故に“ほのおのパンチ”をカウンターのような形で受けてしまった。

 

「キレイハナ! 大丈夫か?」

「~っ! ハナ!」

 

 “ドレインパンチ”で回復した分、“ほのおのパンチ”で削られたようだ。プラマイゼロ、あまりオイシイ状況ではない。

 

「ガルーラ、“きあいだま”」

「“リーフストーム”だ!」

 

 ガルーラが放った“きあいだま”をキレイハナが“リーフストーム”で跳ね返した。まさかの手段に反応が遅れたガルーラは自分が放った“きあいだま”が直撃した上、更にその上から“リーフストーム”まで受けてしまい、ダメージが大きい。

 

「良い威力の“リーフストーム”だ。ならばこれでどうだ? ガルーラ、“ギガインパクト”」

「“ちょうのまい”でかわせ!!」

 

 ノーマルタイプ最強の一撃、“ギガインパクト”は危険だ。“ちょうのまい”で何とか回避したキレイハナはその小さな拳を再び構えて見せる。

 

「“ドレインパンチ”!!」

 

 “ギガインパクト”の反動で動けないガルーラに、今度こそ回復込みで“ドレインパンチ”を叩き込むと、流石に攻撃を受け過ぎたのか、ガルーラはその一撃で地面に沈んだ。

 

「ガルーラ、戦闘不能! キレイハナの勝ち! よって勝者、マサラタウンのソラタ!!」

「え……?」

 

 あまりに呆気ない勝利に、本当に勝ったのかと呆然としてしまった。カントー最強のジムリーダーとのバトルに、期待していたのだが……いや、明らかに手抜きをされているように感じる。

 

「見事だったよ、坊や……申し訳ないが、時間が無い。グリーンバッジを受け取りたまえ」

 

 サカキはキレイハナをボールに戻すソラタに近づくと、懐から取り出したグリーンバッジを手渡して、懐中時計を開く。

 

「もうこんな時間か、すまないが私はこれで失礼するよ」

「あ、はい……」

 

 拍子抜け、そう言っても良いバトルにグリーンバッジをゲットしてリーグ挑戦資格を得たというのに、ソラタは釈然としない思いで一杯になり、素直に喜べなかった。

 とはいえ、これでソラタも無事にバッジ8個をゲットした事になる。一先ずポケモンセンターに寄ってキレイハナの回復を済ませたソラタは釈然としない気持ちのまま、故郷であるマサラタウンへと向けて旅立つのだった。




皆さんも釈然としない気持ちでしょう。
実際、この時のサカキは思いっきり手抜きをしています。
予定があったのは事実、ミュウツーもロケット団の施設に移していたので、あの場にはいなかったから、やる気が無かったのも事実、ソラタとしては最後のジム戦だというのに、肩透かしをくらった形になりましたね。
とはいえ、これでソラタも無事にポケモンリーグ参加資格を得ましたので、次回はマサラタウンに帰り、久しぶりの母登場!


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第43話 「故郷、旅の始まりの地」

お待たせしました。マサラタウン到着です


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転生したのは始めに旅立った子供

 

第43話

「故郷、旅の始まりの地」

 

 ポケモンリーグに出場する為、旅を続けるソラタは、ついにジムバッジを8個ゲットし、リーグへの出場資格を得た。

 現在、ソラタはトキワシティを後にして故郷であるマサラタウンに向かっている所だ。

 

「マサラタウンも久しぶりだなぁ、母さん元気にしてるかな?」

 

 旅立ちの日の朝、自宅の玄関で見送ってくれた心配性な母アオノを思い出す。母の事だから帰ったらきっと泣いてしまうかもしれないけど、自分を心配してくれているからこその涙だと理解出来るから嬉しい。

 早く母に会いたいと、少しだけ速足になったソラタと、突然自分からモンスターボールから出て来たニンフィアが横に並んで歩き出した。

 

「ニンフィア?」

「フィア!」

「そっか、ニンフィアも母さんに会いたいよな」

「フィイア」

 

 そうだ、ニンフィアにとっても生まれた時からアオノは家族だ。当然早く会いたいに決まっている。

 

「あ、見えて来た! マサラタウンだ!」

 

 やがて、マサラタウンが見えてくると、もう速足ではなく駆けだしたソラタとニンフィア、マサラタウンに入り長閑な田舎風景を楽しむでもなく自分達の家へ一直線に走る。

 そして、ついに懐かしの我が家が見えてくると、庭でガーデニングをしている母、アオノの姿が見えた。

 

「っ! 母さん!!」

「……? ソラタ?」

「母さん!」

「ソラタ!!」

 

 ソラタが駆け寄ると、アオノも手に持っていたスコップを放り投げて駆けだした。久しぶりの親子の再会、ソラタとアオノが抱き合うとアオノは息子の温もりに涙を流す。

 

「ソラタ……おかえり、おかえりなさい」

「うん、ただいま……母さん」

 

 暫く抱き合っていると、ソラタとアオノの足元にニンフィアが来て頭を摺り寄せてきた。

 それに気付いたソラタがニンフィアの頭を撫でると、アオノも目を丸くしてニンフィアを見つめる。

 

「この子は……」

「イーブイだよ。旅の間にニンフィアに進化したんだ」

「まあ……イーブイだったのね」

「フィア!」

 

 アオノにとってもイーブイ……ニンフィアは我が子同然、元気に返事を帰したニンフィアの頭を優しく撫でると、ニンフィアも嬉しそうにアオノの手に頭を擦りつける。

 

「ソラタ、お腹空いたでしょう? 直ぐにご飯を作るから、手を洗って待っていて」

「わかった!」

 

 久しぶりの母の手料理が食べられると聞いて、ソラタとニンフィアは駆け足で家の中に入って洗面所へ一直線、そんな息子とニンフィアの様子にクスッと笑みを零したアオノもそれに続くように家の中に入って行った。

 久しぶりに帰って来た息子の為に、息子の好物を作ってあげようと、冷蔵庫の中身を思い出しながら。

 

 

 洗面所で手を洗ったソラタはニンフィアと共に懐かしのリビングに入ると旅立つ前と何も変わらない我が家の様子に安心感を覚えながらテレビの前で丸くなっているポケモンに気付いた。

 

「シャワーズ! 元気だったか?」

「シャワ? シャワ!!」

 

 テレビの前で丸くなっていたのは母アオノのポケモンであり、ソラタのニンフィアにとっては母親にあたるシャワーズだった。

 シャワーズも懐かしい顔を見て起き上がるとソラタの足に顔を摺り寄せ、そして進化した我が子を見つめると笑顔を向ける。

 

「フィア!」

「シャワ!」

 

 シャワーズとニンフィアが額を擦り合わせているのを見つめながら、ソラタはテレビの前のソファに座ると、背負っていたリュックを足元に下して寛ぎ始めた。

 久しぶりの我が家のソファの感触、空気、窓から見える長閑な景色、何もかもが懐かしく感じて、ようやく帰って来たのだと実感する。

 

「お待たせソラタ、直ぐにご飯作るから待ってて」

「うん」

 

 家に入ってきて手を洗ったアオノがエプロン片手にリビングに入ってきた。そのままダイニイングキッチンに入り、冷蔵庫を開けて材料を取り出すと早速料理を始める。

 

「そういえば、帰って来たって事はバッジは8個以上ゲット出来たの?」

「ああ、ジムバッジ8個、ポケモンリーグへの出場資格を得たよ」

「そう、ならこれからが本番ね」

 

 昔、アオノも同じ様に旅をしてジムバッジを集めてポケモンリーグ・セキエイ大会に出場した事があるからこそ、理解している。

 ソラタにとってこれからが本番であるという事を、チャンピオンになる為にセキエイ大会で優勝する事が第一段階なのだという事を。

 

「任せて、必ず優勝してチャンピオンリーグに進む。そしてその先に待つワタルさんに勝ってチャンピオンになって見せるから」

 

 母は現役時代にセキエイ大会の決勝リーグで当時はまだ一般トレーナーだった現四天王の一人、カンナに敗北してベスト4で終わったと聞く。

 つまり、セキエイ大会で優勝してチャンピオンリーグでも優勝を果たせば嘗て母が敗北したカンナとも戦う事が出来るのだ。

 

「そう言えば、父さんは?」

「お父さんは暫く帰って来れないみたい。2か月後のポケモンリーグに向けてセキエイ高原で缶詰めですって」

 

 ポケモンリーグ本番が迫り、リーグ公認委員会も、ポケモン協会も今が一番忙しい時期だ。

 ポケモン協会役員を務める父もまた、リーグが終わるまではセキエイ高原にある大会本部から離れる事が出来ないらしい。

 

「そうだソラタ、オーキド博士が帰って来たら顔を出して欲しいって言ってたわよ?」

「オーキド博士が? ならご飯食べたら行ってくるよ」

「そうね、博士にもバッジを集めた事を報告すると良いわ」

 

 話をしながらだと時間が経つのも早い。アオノもご飯を作り終えてダイニングのテーブルに並べると少し早い昼食の時間となった。

 呼ばれてダイニングのテーブルに着くと、そこにはソラタの好物である唐揚げやポテトサラダ、オニオンスープまで並んでいるではないか。

 

「うわぁ! 唐揚げだ!」

「ソラタの大好物ですもの、久しぶりに食べたかったでしょ?」

「勿論!」

 

 元々、前世の頃から唐揚げは好きだったが、この世界に転生してからは特にアオノの作る唐揚げが大好物になった。

 早速、唐揚げを一つ箸で取って口に放り込むと、ジューシーな肉汁に肉の旨味と下味となった醤油や生姜、ニンニクの味が口いっぱいに広がる。

 

「~~~~っ!!!」

 

 口に唐揚げの味が残っている内に茶碗に盛られた白米を掻き込むと、オニオンスープで流し込む。

 

「美味い!!」

 

 変わらない母の作る唐揚げの味は絶品で、次々と唐揚げを口に放り込んでは白米を食べつつスープで流し込み、時々ポテトサラダを食べる。

 そんな息子の様子に笑顔を浮かべながらアオノはシャワーズとニンフィアにポケモンフーズを出して自分も椅子に座った。

 

「ねえソラタ、旅の話を聞かせて?」

 

 ソラタがどんな旅をしてきたのか、どんな出会いがあり、どんなバトルをしてきたのか、アオノはそれが聞きたいらしい。

 ソラタもオーキド研究所でヒトカゲを貰った所から記憶を遡り、アオノに旅の事を話し始めた。

 母の作った食事を楽しみながら、ソラタが旅の様子を語り、母が楽しそうに、時には驚きながら話を聞く、その日の昼食は実に楽しい時間となるのだった。

 

 

 昼食を終え、母が食器を洗っている間にソラタはニンフィアをモンスターボールに戻して出掛ける準備をしていた。

 オーキド博士が顔を見せて欲しいという話を聞いたので、早速オーキド研究所へ向かうのだ。

 

「じゃあ母さん、ちょっとオーキド研究所に行ってくる」

「ええ、オーキド博士によろしくね」

「わかった」

 

 玄関で靴を履き、扉を開いて外に出るとオーキド研究所へ向かって歩き出した。

 家からオーキド研究所に向かうのは、旅立ちの日の朝以来なので、随分と昔の事のように感じて、空を飛んでいるポッポや道端を走るコラッタの様子に懐かしさを感じながら、マサラタウンの静かな道のりを歩く。

 

「ここから始まったんだよな」

 

 旅の始まりは、まさにこの道から始まった。

 家を出てオーキド研究所に初心者用ポケモンを貰いに行く。それがソラタの旅の始まりだったのだ。

 

「見えて来た」

 

 暫く歩いていると、オーキド研究所が見えてきた。もしかしたらサトシやシゲルがいるかもしれないと思いながら、少しだけ駆け足になった。

 幼馴染との再会、特にシゲルとは本当に久しぶりに会う事になるかもしれないと、楽しみにしつつソラタはオーキド研究所へ続く石段を昇り始めるのだった。




次回はオーキド研究所でサトシとシゲルとの再会です。


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第44話 「幼馴染達」

オーキド研究所での一幕


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第44話

「幼馴染達」

 

 ポケモンリーグに出場する為、旅を続けるソラタは遂にジムバッジを8個ゲットし、ポケモンリーグ出場資格を得る。

 2か月後に開催されるポケモンリーグに備えて一度、故郷であるマサラタウンに帰ってきたソラタは母との再会後、オーキド博士に呼ばれて研究所へ向かっていた。

 

「こんにちはー」

 

 オーキド研究所の玄関前でインターフォンを鳴らして声を掛けたソラタは、暫く待っていると中から足音が聞こえて来る。

 そして、ドアが開かれて中から懐かしのオーキド博士が出て来た。

 

「おお! ソラタ! 久しぶりじゃのぅ」

「はい! オーキド博士、お久しぶりです。クチバシティでお会いして以来ですね」

 

 電話では何度か話をしていたが、直接会うのはクチバシティ以来だ。

 

「実はサトシとシゲルも来ておる。会って行くと良い」

「そうですか、なら是非」

 

 オーキド博士に案内されて研究所の応接室に入ると、そこにはシゲル、サトシ、タケシ、カスミの姿があった。

 道中、博士からサトシとシゲルもジムバッジを8個以上ゲットしてソラタと同様にポケモンリーグ出場資格を得ているという話も聞いているので、これで同じ日にマサラタウンを旅立った幼馴染はトワコ以外全員がポケモンリーグ出場資格を持って集まった事になる。

 

「ソラタ! 久しぶり!」

「ああ、サトシも元気そうだな。シゲルも、久しぶり」

「ああ久しぶりだねソラタ、僕より早く出発してた君が一番最後だなんて、随分とのんびりしていたんだね」

「まぁ、ジム戦前は納得行くまでポケモンを育ててから挑戦してたから、その分やっぱり遅くなるよなぁ」

 

 特にフカマル、フカマルの育成に時間が掛かったのは否めない。結局、ガブリアスに進化は出来なかったが、ガバイトには進化出来たので、後は2ヶ月後のリーグ開催までにガブリアスに進化出来るかどうかだ。

 それから、タケシやカスミにも挨拶をして、オーキド博士の隣に腰かけると、さわがにポケモンのクラブが人数分のお茶を乗せたトレーを持って来る。

 

「ほい、ご苦労さん」

「クラブ久しぶりー、元気してたか?」

「キコキコ」

 

 どうやらサトシのクラブだったらしく、久しぶりに会うのかサトシもクラブも嬉しそうだ。

 

「ここから旅立った4人の内、バッジを8個以上集めて戻って来たのはシゲルとサトシとソラタの3人だけじゃな」

「え? って事はトワコは……」

「トワコは残念ながら途中でマサラタウンに帰って来た。今は自宅で引き籠っておるようじゃな」

 

 サトシがこの場に居ないもう一人の幼馴染の事を聞けば、オーキド博士はあまり話題にしようとせず、今は引き籠っていると言葉を濁して別の話題に切り替えた。

 

「シゲルのバッジは10個、サトシとソラタのバッジは8個、みんなよく頑張ったな」

「ありがとう博士」

「ありがとうございます」

 

 これで3人ともリーグに出場が叶ったと、その3人の内の1人が自身の孫であるという事もあって、オーキド博士も嬉しそうだ。

 

「ところで、ポケモンリーグってどこでやるんだ?」

「サトシ……お前なぁ」

「はぁ、流石はサ~トシ君、呆れるよ」

 

 ポケモンリーグ出場資格を得たのに、肝心の会場の場所を知らないとは、何とも言えない。

 ソラタから教えても良いのだが、そこは説明したそうにしているオーキド博士に譲る事にした。

 

「場所はセキエイ高原、日時は今から2か月後、参加選手は200人を超える筈じゃ」

「サトシ達の他にもニビジムを攻略していったトレーナーは数多く居た。それだけじゃない、バッジを集めるのに時間が掛かって漸く集め終わったトレーナーも居る」

「他にもポケモンゼミナールの上級クラス卒業者やポケモントレーナー認定試験合格者などの出場枠もあるのよ」

 

 オーキド博士の説明に、タケシとカスミも補足してくれた。

 

「3人とも、2か月後に備えてしっかりトレーニングに励むんじゃぞ」

「そうだね、特にサ~トシ君には今までの倍の倍の倍以上に頑張って貰わないと」

「何ぃ!?」

「同じ幼馴染として、出場するからには僕やソラタと同じレベルになって貰わないとね」

 

 シゲル曰く、サトシはジムバッジ8個ゲットしたものの、まだまだシゲルやソラタには実力で及ばないとの事。

 

「サトシ、君はさっきクラブに久しぶりって言ったよね?」

「それがどうした?」

「こういう事さ」

 

 すると、シゲルは腰からモンスターボールを取り出して自分のクラブを出した。しかもサトシのクラブの横に並ぶ形で、すると明らかにシゲルのクラブの方が大きく、育てられているのが一目瞭然の見た目だった。

 

「で、でかぁい……」

「全然違うな……」

 

 カスミとタケシもサトシのクラブと比べてシゲルのクラブが明らかに格上なのが見て判ったのか、感心している様子。

 二人ともジムリーダー資格を保有しているトレーナーだけあって、サトシよりもポケモンを見る目は確実に上、その二人から見ても明らかだった。

 

「僕は定期的に手持ちのポケモンを入れ替えてバトルをしているのさ。全てのポケモンを強く育てるのが、真のトレーナーだと思うからね」

「うっ……」

「ある意味正論だな」

 

 サトシが何も言えなくなり、タケシがシゲルの持論に同意してしまう。ソラタもシゲルの持論は間違ってはいないとある程度の理解を示して頷いている。

 

「ところが君はクラブを育ててない事がさっきの一言でモロバレ、いつも使っているポケモンでしかバトルして来なかったんだろう?」

「ピンポーン! 大正解!」

 

 いつも通り、シゲルはサトシを挑発している。これでシゲルがサトシをライバル視していると知っている者以外誰が信じるだろうか。

 

「因みにシゲル、俺も他のポケモンは育成してはいるけど、ジム戦は基本的にいつものメンバーだぞ?」

「でも育ててない訳ではないんだろう? ならサトシとは違うさ」

「まぁ、確かに」

「今ソラタが言ったジム戦、これを例に挙げようか。ジムリーダーによって得意とするポケモンのタイプは異なるけど、僕は事前にチェックして有利なポケモンに交換しておくのさ」

 

 成程、シゲルのやり方はセオリー通り、実に堅実なやり方でジム戦を攻略していたらしい。

 そこで、元ジムリーダーのタケシがシゲルとソラタに質問をする。

 

「じゃあ、岩系ポケモンが相手の時、今ならどんなポケモンで挑戦する?」

「基本的には水タイプだね。でも通なら草タイプも用意しておきたいね」

「同じだな、水タイプに草タイプ、後は鋼タイプや格闘タイプを用意するか、もしくは鋼タイプの技か格闘タイプの技を覚えさせて挑む」

 

 事実、ソラタもニビジムでは鋼タイプの技と格闘タイプの技を覚えさせて挑んでいる。タケシもそれを知っているから納得だと頷いた。

 

「それでサトシ君は?」

「ピカチュウを使った」

 

 何故かカスミが答えたが、それを聞いてシゲルは更にサトシを煽るような表情を浮かべる。

 

「ほら、岩系を相手に電気系なんて素人以下だ」

「う~ん……そこはシゲルに同意出来ないかな」

「え?」

 

 シゲルの言葉にソラタが同意しなかった事で、シゲルが何故? とばかりにこちらを振り向く。

 

「さっきも言ったけど、俺は水タイプや草タイプを用意する以外に鋼タイプや格闘タイプの技を覚えさせるって言っただろう? ピカチュウは俺も持ってるけど、もしピカチュウでニビジムに挑むならピカチュウには“アイアンテール”をメインで使わせる。電気タイプだからって、素直に電気技しか覚えさせてない方が問題だからな」

「成程、そういう考え方もあるのか」

「うっ」

「で、サトシ……前にピカチュウに“アイアンテール”を覚えさせておくと良いって言った覚えがあるんだけど、覚えさせたのか?」

「……」

 

 沈黙が答えだった。

 

「あのなぁサトシ、せめて人の忠告というか、助言くらいはちゃんと受け入れような? 折角良いピカチュウを持ってるんだから、そのピカチュウを最大限活かせる育て方をしよう? 確かに電気タイプだから電気技をって思うかもしれないけど、苦手なタイプが相手でも戦えるように育てるのは基本、ではないけど、サトシくらいのレベルになればやって当然だ。ジムリーダーだって苦手なタイプに対する対策くらいはしているぞ」

「だな、俺もイシツブテには“ほのおのパンチ”や“かみなりパンチ”を覚えさせている」

「アタシもスターミーに“れいとうビーム”とか覚えさせてるわね」

 

 実際のジムリーダー資格保有者にまで言われてはサトシもぐうの音も出ないようだ。

 

「で、でも実際にジムバッジはゲット出来たんだし、それで良いだろ?」

「今はな、結果的にジムバッジをゲット出来たとしても、これからポケモンリーグを控えている以上、今までと同じでは勝ち抜く事なんて出来ないぞ? 相手は殆どが同じジムバッジを8個以上ゲットして参加する凄腕達ばかりなんだから」

 

 そう、ポケモンリーグは今までとは違う。ジムリーダーみたいに決まったタイプで来るわけではないし、そもそも殆どの選手がサトシ達と同じでジムバッジを集めて参加する猛者ばかりなのだ。

 漠然と、ポケモンリーグも今までと同じ勢いで何とかなると思っていたサトシは、ここに来て現実を叩き付けられたのか、途端に勢いを失い始めた。

 

「2か月だ。サトシ」

「え?」

「2か月あればお前の事だ、何もしないで遊んでいるなんて事は無いだろう? なら2か月、ポケモン達を更に育成して、リーグに備えるんだ」

「ソラタ……」

「自信を持てサトシ、少なくともお前はジムバッジ8個をゲットしたトレーナーなんだ。トレーナーとしてのポテンシャルは十分ある」

「……ああ! ありがとうソラタ! 俺、頑張るよ!」

 

 何とかサトシのメンタルが回復した所で、サトシとシゲル、それからソラタの図鑑をパソコンに繋げて何かを調べていたオーキド博士が調べ終えたのか3人の図鑑を持って来た。

 

「そうだおじい様、みんなに僕のゲットしたポケモン達を見せてあげてよ」

「おお! そうじゃな、ならば案内しよう」

 

 何でもオーキド博士が調べていたのは3人のポケモンと出会った数やゲットした数らしく、出会ったポケモンの数はサトシがダントツ、ゲットした数ではシゲルがダントツなのだとか。

 そこで、シゲルは皆にゲットしたポケモンを見せたいという事で、研究所の案内がてら全員で移動する事となった。




次回はソラタ再びムコニャと出会う。


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第45話 「オーキド研究所」

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第45話

「オーキド研究所」

 

 ポケモンリーグに出場する為、旅をしていたソラタは8つのジムを制覇してポケモンリーグ出場資格を得た。

 現在は故郷であるマサラタウンに帰ってきて、オーキド研究所で懐かしい幼馴染達と再会、2ヶ月後のリーグ開催について話をした後、オーキド研究所で預かっているポケモン達を見る事となった。

 そして研究所を案内されたソラタ達がまず訪れたのは沢山のモンスターボールが並べられたフロアだ。

 

「どうじゃ! マサラタウン出身のトレーナー達から送られてきたモンスターボールじゃ」

「すっげぇ! これ全部みんなから送られてきた奴なんだ!」

「サトシから送られてきたのはこの棚じゃな」

 

 そう言って博士が向かったのはサトシの似顔絵が貼られた棚だった。そこにはモンスターボールが2個とサファリボールが30個、意外とあってソラタも驚いた。

 

「意外にあるじゃない!」

「しかし、殆どがサファリゾーンでゲットしたケンタロスじゃわい」

「え……30個のサファリボール全部ケンタロスなのか?」

「えっと、まぁ」

 

 勿体ない。ソラタはサファリゾーンでゲット出来るポケモンに興味が無かったので行かなかったが、それでもサファリゾーンは珍しいポケモンもゲット出来る場所、そこに行ってケンタロスだけしかゲットしていないというのは、何というか……。

 

「シゲルの分はざっと200体を超えて、ソラタはおよそ80体くらいじゃったかな?」

「でしょうね」

「それくらいだった、かな」

 

 途中からゲットするより育てるのをメインにするようになってからは数えて無いけど、大体それくらいだった気がする。

 

「200体に80体……」

「カントーで確認されてるポケモンが150種くらいだったから、同じポケモンが何体かいるのね?」

「一度きりのゲットじゃ満足出来ないのさ、次に出会う奴の方がもっと強いかもしれないだろ?」

 

 つまり、シゲルは逃がしはしないものの、厳選をしていたらしい。

 

「へ~んだ! そんなのポケモンの事ちっとも判ってないよ!」

「何ぃ!?」

「俺とポケモン達は仲間なんだ、数なんて関係ないね」

「数では勝てない負け惜しみだろ? それに、ソラタはサトシと同じタイプみたいだけど、そのソラタにもサ~トシ君は負けてるんだから」

「何だと!?」

「はいはい、そこまで」

 

 すぐ喧嘩を始める二人に呆れつつ、ソラタが間に入った。昔からこの二人が喧嘩をする

度に間に入るのはソラタの役目だった。

 

「うむうむ、シゲルとサトシ、二人の考え方はどちらも間違ってはおらんぞ?」

「「え?」」

「同じポケモンを複数ゲットして強さの違いを知ろうとするシゲルと、一度ゲットしたポケモンを信じて育てるサトシ、どちらもポケモンを理解しようとしておる」

「「理解……?」」

 

 オーキド博士はその場で跪いてサトシの足元にいるピカチュウを頭を撫で始めた。

 

「ポケモンは誠に神秘的な生き物じゃ。進化、特殊能力、生き物を超えた存在とも言える。我々はそんなポケモン達の謎を解き明かし、仲良く付き合っていかねばならん」

 

 人とポケモンの共存、その為のポケモンへの理解、それがオーキド博士の生涯の研究テーマなのだ。

 

「その為に皆から送られてきたポケモンを預かってるんですね?」

「左様、皆から送られてきたポケモン全てが、ワシにとって大切な研究対象なのじゃよ」

 

 そう、だからオーキド博士の一日は送られてきたポケモン達の健康チェックから始まり、広い庭に解き放ったポケモン達の餌やりを終える頃には午前が終わる。

 午後からはテーマを決めて研究の時間、今はポケモンの個体差を研究している所で、他にも他の地方の博士との共同研究などもあり、ハードな一日を送っているらしい。

 

「とまぁ、ワシの研究ライフはそんな感じじゃな」

「なんか、動物園の飼育員みたい」

「確かにのう、じゃが餌やりにポケモンとのコミュニケーション、これらも全て研究の上で欠かせない大事なプロセスなんじゃよ」

 

 庭に出ながらそんな話をしていると、シゲルの姿を見つけたふたごどりポケモンのドードーが近寄って来た。

 

「ドー!」

「やあマイスイート、元気にしてたかい?」

「ドードー!」

「あ、それシゲルのドードー?」

「ああ」

 

 しかし、本当に広い庭だ。その広い庭の至る所にポケモン達が自然の姿で生活しており、のびのびとした環境で暮らしているのが判る。

 

「ん?」

「ピジョー!」

「ああピジョン! 元気だったか?」

「ピジョ!」

 

 ふと空からポケモンが降りてきてソラタの肩に乗った。見ればソラタのピジョンで、嬉しそうに顔をソラタの顔に摺り寄せて来る。

 

「あ! ピジョン! ソラタも持ってたんだ!」

「まぁね、この前少しだけ手持ちに入れてバトルに出したんだけど、それ以来だな」

 

 頭を撫でてやると満足したのか再び飛び立って空に居たポッポやオニスズメなどと並んで飛んで行った。

 

「この庭はの、ポケモン達が自然に生活出来るようにしておるんじゃ。なるべくゲットする前と同じ環境を整えてやることでポケモンの個体差が判りやすくなるのじゃよ」

 

 確かに池を見れば2匹のニョロモが泳いでいて、泳ぐ速度に違いがあるのが判った。これが博士の言う個体差という奴なのだろう。

 

「それで最近、面白い事が判ったんじゃ」

「面白い事?」

「うむ、ゲットされたポケモンは、ゲットした人間に似て来るって事じゃ」

「え……あ、そうか! カスミとコダック!」

「? ……全然似て無い!!」

 

 流石に失礼だろとソラタがサトシの頭を叩くと、サトシもニシシッと笑いながら頭を抑えた。

 

「ただそれもシゲルみたいに小まめにポケモンを入れ替えておればの話じゃ。サトシやソラタのようにいつも同じポケモンを使って居ると放っとかれたクラブやベトベトンなど、ワシに懐いてくる始末じゃ」

 

 言うが早いか、どこからともなく現れたベトベトンがオーキド博士を笑顔で押し倒した。

 

「ベトベト~!」

「だ、だから! そうくっつくでない!!」

 

 ベトベトンから嫌な臭いがしないという事は、随分とオーキド博士に懐いている証拠だ。でもこのベトベトン、博士の言葉を聞く限り……。

 

「コイツ、サトシの?」

「ああ」

「と、とまぁポケモンの個体差も進化するという訳じゃn」

 

 言葉の途中でオーキド博士の全身がベトベトンの下敷きになった。

 

「とりあえず、救出するか」

「だな」

「だね」

 

 その後、サトシ、シゲル、ソラタの幼馴染トリオでオーキド博士を救出、サトシはベトベトンの頭を撫でてから立ち去るベトベトンに手を振った。

 

「あ! 見てみてあの池! すっごぉい! 水ポケモンが一杯!!」

 

 オーキド博士を救出している間に、カスミが近くの池を発見、見ればそこには沢山の水ポケモンが泳いでおり、水ポケモン大好きなカスミは目を輝かせている。

 

「博士! もしかしてこの庭、ポケモンが全部いるとか?」

「それはちと無理じゃな。ここに居るのはカントーに生息しておるポケモンと、僅かにジョウトに生息しておるポケモンが精々じゃ。第一、我々はまだ全てのポケモンを知っているとは言えん」

 

 カントーに生息するポケモンは現在150種、他の地方にしか生息していないポケモンを含めると、その数は1000種近くになるとも言われている。

 

「ポケモン達の中には、まだその生態系や分布が判らんもの達もおる。彼らとの出会いや研究に終わりは無いじゃろう」

「俺、頑張るぜ! 世界中のポケモンと仲間になる!」

「僕もだ! 新しいポケモンをばんばんゲットする!」

 

 サトシとシゲルはまだ見ぬポケモンを更に仲間にするとオーキド博士に誓うが、残念ながらソラタはそこまでポケモンのゲットに拘りは無いし興味も無い。

 ソラタの目標はあくまでチャンピオンになる事、その為に必要なポケモンはゲットするが、全てのポケモンをゲットしたいとは思ってなかった。

 

「どうだ? サトシ、ソラタ、これからポケモンバトルをしないか? ポケモンリーグ前のちょっとした腕試しだ!」

「ああ良いとも! 受けてやるぜ!」

「そうだな、俺もやろう!」

 

 腕試しなら是非とも、ソラタもサトシも、シゲルも、幼馴染トリオはいつになく燃えている。

 だが、いざバトルを、と思った時だった。庭の一角で爆音が響き、見れば煙が立ち上っているのが見えた。

 

「むぅ? あの辺りは電気系ポケモンのエリアじゃ!」

「行ってみよう!」

 

 電気系ポケモンのエリアで爆発という事は、可能性としてビリリダマやマルマインが自爆したという事が考えられる。

 爆発に巻き込まれてケガをしたポケモンが居たら大変だと、全員で急いで爆発のあった辺りに向かうと、案の定大穴が空いており、中に大量のビリリダマとマルマインが転がっていた。

 そして、何故か穴からはロケット団のムサシ、コジロウ、ニャースの姿も。

 

「お前たちはロケット団!」

「ピピッカチュ!」

「また何か企んでるな!?」

 

 サトシの姿を見たムサシ達は穴から素早く抜け出すと、先ほどの爆発に巻き込まれてボロボロだったのが嘘のように身綺麗になった。

 

「ふん、知れた事よ!」

「そっちから来てくれて、ありがとう」

「改めて、そのピカチュウを頂きに来たのニャ!」

「ニャースが喋った!?」

 

 ニャースが人間の言葉を喋った事にシゲルとオーキド博士が驚いた。そういえば、この二人は彼等に会うのは初めてだったか。

 

「すまんが、もう一度喋ってくれんかのう?」

「よぉーし! 耳の穴掃除してよく聞くニャ!」

 

 懐かしいロケット団の口上をソラタは聞き流しながら、ふと柵が目に止まり、その向こうから何かの軍団が走って来るのを見た。

 

「あ~……あれはケンタロスか」

 

 ざっと30匹はいるか、ケンタロスの群れがこちらに向かって走って来るのが見える。それから再びロケット団の方を見れば、口上が終わったのかピカチュウと研究所のポケモン全てを頂くと宣っている所だ。

 

「そうはさせないぜ!」

「僕のポケモンに手を出す気か? 良い度胸だ、勝負しろ!」

 

 ムサシとコジロウがモンスターボールを構え、ニャースも爪を構えて襲い掛かろうとした時だった。

 

「はい、時間切れ」

 

 ソラタのその言葉と共に、ケンタロス達が柵をぶち破ってロケット団に突撃、圧倒的物量に負けて吹き飛ばされてしまった。

 

「「「やなかんじ~!!」」」

「お~……ホントに良く飛ぶなぁ」

 

 あのケンタロスの群れは全部サトシのケンタロスらしい。いつもああやって走り回っているのだとか。

 

「僕はもう帰るよ」

「そうだな、俺も帰るよ」

「え? バトルはしないのかよ?」

「さっきの騒ぎで気が失せた」

「バトルはポケモンリーグまでお預けだ」

「ああ、その時は負けないぜ! シゲルにも、ソラタにも!」

「俺も、負けるつもりは無い」

「フッ、精々トレーニングに励んでくれよ? サ~トシ君」

 

 幼馴染3人、次に会うのはポケモンリーグの会場で。試合で戦う事になれば、絶対に負けないと闘志を燃やしながら別れた。

 ポケモンリーグ開催まで2カ月、長いようで短いこの期間に、どれだけポケモンを育てられるのか、3人の挑戦はこれからが本番だ。




次回は修行回、そこまで長くやるつもりは無いです。


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第46話 「修行」

今回、母アオノの実力の一旦が見れます。


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転生したのは始めに旅立った子供

 

第46話

「修行」

 

 ポケモンリーグ開催まで残り1カ月を切った。ひと月前にマサラタウンに帰って来てからソラタは1カ月後のリーグ開催に向けてトレーニングに励んでいる。

 これまでジム戦で活躍してきたメインパーティーだけでなく、サブパーティーも含めたトレーニングを朝から夜になるまで、マサラタウン近くの山で行って、一日中修行漬けの毎日だ。

 

「よし! ピカチュウは“10まんボルト”! ピジョットは回避しながら急降下して“はがねのつばさ”!」

 

 この日も、ソラタは朝からポケモン達のトレーニングに励んでいる所だった。ピカチュウと、先日進化したピジョットを戦わせて互いの技や回避能力を鍛えている。

 ピジョットが急降下しながら鋼のエネルギーを宿した翼で攻撃してきたのに対し、電撃を止めたピカチュウはジャンプして回避した。

 

「良いぞピカチュウ! “アイアンテール”だ!」

「チュアアア! ピカ!」

「ピジョットォオオ!!」

 

 ピカチュウの“アイアンテール”とピジョットの“はがねのつばさ”が激突し、衝撃が周囲に広がる。

 周囲の木々が風圧によってミシミシと音を立てる中、ソラタは平然と二匹を見つめ、両者が静かに離れたのを確認すると、手を叩いた。

 

「そこまで! ピカチュウ、ピジョット、大分良い仕上がりだな」

 

 ピカチュウの課題だったウエイトの軽さによる物理技の威力が低い問題はピカチュウ自身の成長と筋トレで随分前から克服しようとしていたし、ピジョットはピジョンから進化して身体が大きくなった事による間合いの変化にようやく慣れてきた所だ。

 更に、ソラタは周囲を見渡せば近くの岩に向けて技の練習をしているニドクインとスターミー、自主トレをしているゲンガーやガバイトの仕上がりも確認する。

 

「うぅん……ニドクインはもう少し技のレパートリーを増やすべきだろうな。スターミーは水とエスパー両方を満遍なく使える様にして、電気技もこれから仕込む必要があるし、ゲンガーは……“サイコキネシス”を覚えさせるか、それとも“さいみんじゅつ”と“ゆめくい”コンボを完成させるのを優先するか……悩みどころだ」

 

 他にもサブメンバー2匹が残っているので、そちらの育成もしなければならない。

 日替わりで手持ちを入れ替えながらトレーニングをしているから、スケジュール自体は組んでいるものの、その日の成長具合などのトレーニング結果によっては今後のスケジュールを変更しなければならないから、やることは一杯だ。

 

「えっと、明日はピジョットとニドクインをウインディとバタフリーに入れ替える予定だけど……この分だとピカチュウとピジョットを入れ替えた方が良いか?」

 

 リーグ開催まで残り1カ月、大体のポケモンは育成が終わったが、まだゲンガー、

スターミー、ニドクイン辺りの仕上がりに不安が残り、ガバイトは未だガブリアスに進化していない。

 

「バタフリーは“むしのさざめき”が完成しているし、正直育成に不安は無いんだけど……ウインディはどうだったかな」

 

 ウインディについてはグレンジムで戦ったカツラのウインディを参考にした育成をしているので、完成系は最初から見えていた。

 仕込むべき技も仕込んだので、後は完成度を上げるだけだから、育成には然程時間も掛からないだろうと予測している。

 

「ソラター!」

「あ、母さん」

 

 あれやこれやと考え込んでいると、アオノの声が聞こえてきて、そちらに目を向けてみればバスケット片手に手を振りながら歩いてくる姿が見えた。

 実は、トレーニングをすると聞いてからアオノは家事の片手間ではあるが、時々トレーニングに付き合ってくれるのだ。

 

「はいお昼ご飯、家に忘れてたでしょ?」

「あ、そういえば」

 

 時計を見れば既に午後1時を過ぎている。家に昼食を忘れて来た事も、昼食時だという事もすっかり忘れていた。

 それから、休憩がてらソラタとポケモン達は昼食を食べて、アオノはソラタのポケモン達をチェックする。

 

「うん、良い感じに仕上がって来てるわ」

「そう?」

「ええ、それで今日もするんでしょ? ガバイトちゃんの修行」

「勿論」

 

 アオノが修行で手伝ってくれるのは主にガバイトの育成だ。大会までに何とかガブリアスに進化させたいソラタとしては、アオノが手伝ってくれるのは本当に助かる。

 

「ガバイト、行けるか?」

「ガバ!」

「うんうん、じゃあそこの広場で良い?」

「ああ」

 

 他のポケモンをボールに戻したソラタはガバイトとアオノと共に少し開けた場所へ移動、ソラタとアオノが距離を取って向き合うと、ガバイトはソラタの前に立つ。

 

「それじゃあお願いね、フシギバナ」

 

 アオノがモンスターボールを投げると、中から出て来たのはフシギダネの最終進化系、フシギバナだった。

 アオノの現役時代のエースポケモン、アオノが初めてオーキド博士から貰ったポケモンで、現役時代の母をずっと支えて来た最古参のポケモンだ。

 

「いくぞガバイト! “ほのおのキバ”!」

「フシギバナ、“パワーウィップ”!」

 

 ガバイトが炎を纏った牙を構えて突撃するが、フシギバナが通常の“つるのむち”よりも太い蔓のムチ、“パワーウィップ”を横薙ぎに振るってガバイトに直撃させる。

 

「ガバハァッ!?」

「ガバイト! そのまま“りゅうのはどう”!!」

「“ひかりのかべ”よ!」

 

 吹き飛びながらも放たれた“りゅうのはどう”だったが、フシギバナが張った“ひかりのかべ”に阻まれてしまいフシギバナには届かない。

 

「“にほんばれ”!」

「げっ!?」

 

 更にアオノはフシギバナに天候を変化させる“にほんばれ”を指示、これで日差しが強くなって炎タイプの技の威力が上がる。

 当然、草タイプのフシギバナには何の恩恵も無い筈だが、フシギバナだからこそ“にほんばれ”は危険だと知っているソラタはガバイトが着地しているのを確認してすぐさま指示を出した。

 

「“あなをほる”だ!」

「“ソーラービーム”!」

 

 ノーチャージで発射された草タイプの大技、“ソーラービーム”を間一髪、地面に潜った事で回避したガバイトは地面の中、フシギバナに迫った。

 

「あら、技4つ使っちゃったから“じしん”が使えないわ」

「だろうね! ガバイト!!」

「ガッバァ!!」

「バァナ!?」

 

 フシギバナの真下から飛び出したガバイトの拳がクリーンヒット、大きく仰け反ったフシギバナは隙だらけだ。

 

「日差しが強くなってるから、コイツの威力も上がってる! “ほのおのキバ”!」

「ガバッ!」

「甘いわよ、地面に向けて“ソーラービーム”」

「はぁああっ!?」

 

 仰け反った状態のフシギバナの背中の花から再度“ソーラービーム”が発射され地面に命中、その反動で飛び上がったフシギバナはガバイトの“ほのおのキバ”を回避した。

 

「うっそだろ……」

「惚けてちゃ駄目よソラタ、“パワーウィップ”!」

「バナバァナ! フッシー!!」

 

 着地したフシギバナが勢いよく振り向きながら太い蔓のムチで薙ぎ払って来た。

 背後から迫るムチに気付くのが遅れたガバイトは背中に痛恨の一撃を受けてしまい正面の木に叩き付けられてしまう。

 

「ガバイト!」

「ガッバァ……」

「はい、ガバイト戦闘不能ね」

「はぁ……負けたぁ」

 

 現役を引退して10年以上だというのに、アオノの強さは健在だった。流石はポケモンリーグ・セキエイ大会ではカンナが、ジョウトリーグ・シロガネ大会ではワタルがいなければ優勝していたと言われていただけの事はある。

 

「母さん、毎回思うけどさ、まだまだ現役でトレーナーいけるんじゃない?」

「無理よぉ、10年以上もブランクがあるもの」

 

 10年のブランクがあってこの強さなら、現役時代の母はどれだけ強かったのか、そしてその母に勝ったカンナとワタルの強さは如何ほどのものか、想像も出来ない。

 

「流石、“無冠の女帝”様だ」

「ちょ、ちょっとソラタ! その呼び名は禁止!! お、お母さん、自分からその呼び名を名乗ったこと無いんだからぁ」

 

 “無冠の女帝”とは現役時代に引退間際のアオノに付けられた異名だ。

 リーグ優勝こそ出来なかったが、それでも圧倒的な強さを誇った母に付けられたその異名は当時、新聞にまで取り上げられた程で、アオノは周囲が勝手に付けたその異名で呼ばれる事を酷く恥ずかしがっている。

 

「うぅ~……ソラタ、今日の夕飯はソラタの嫌いな人参ずくしにするからね!」

「うぇ!? ちょ、それは無し!!」

「知りませ~ん! 意地悪なソラタにはお仕置きが必要だもん!」

「だもんって、母さん歳考えろよ……」

「ソ・ラ・タ~?」

「な、何でもありません!!! いつまでもお若く美しいお母様!!!」

 

 残念ながらソラタの頬が限界まで引っ張られる事になったのは、言うまでもない。女性に対して年齢で弄るのは御法度というのは、いつの時代、どんな世界でも共通なのだ。




次回は一気に時間が飛んでポケモンリーグ開催直前、ソラタはセキエイ高原に旅立ちます。


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第47話 「セキエイ高原へ」

お待たせしました。
サイゾウはまだこの時点でセキエイ高原に向かってない設定なので、出会ってません。


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第47話

「セキエイ高原へ」

 

 ポケモンリーグに出場を決めたソラタは、リーグ開催を2週間後に控えてマサラタウンを旅立ち、セキエイ高原に向かう事になった。

 リーグに出場する為のポケモン達の調整も終わり、残念ながら当初の予定だったガバイトの進化こそ叶わなかったものの、全ポケモン気合十分、リーグではベストなフルパフォーマンスを魅せてくれる状態だ。

 

「それじゃあ母さん、行ってくる」

「ええ、お母さんも当日になったら会場に応援に行くからね」

「ホテルの部屋は?」

「お父さんが用意してくれてるから大丈夫。ソラタも選手村で過ごすんでしょ? 暇見て会いに来て」

「わかった」

 

 見送る母と別れてマサラタウンを出発したソラタは一路、セキエイ高原へと向けて出発する。

 セキエイ高原は父の職場がある場所でもあるので、ソラタ自身幼い頃に何度か父に連れられて行った事のある場所だから道に迷う心配は無い。

 

「ついにポケモンリーグか……今から緊張してきた」

 

 緊張しつつも楽しみにしながらソラタは22番道路に入った。このまま進んで23番道路の先にセキエイスタジアムへ続く所謂チャンピオンロードと呼ばれる道があるのだ。

 チャンピオンロードは毎回リーグ開催時には伝説のポケモン・ファイヤーの炎を使った聖火ランニングが行われており、今は聖火ランナーが走る為に道の整備をしている時期の筈だ。

 

「っと、あれは……」

 

 22番道路を暫く歩いていると、道の少し前の方に見覚えのある後ろ姿を発見した。あの艶のある長い黒髪は間違いなくソラタにとって一番のライバル……。

 

「シズホ!」

「……? あ、ソラタさん!」

 

 ジョウト地方ワカバタウン出身の、シズホだった。シズホがこの道を歩いているという事は、彼女もカントーのジムバッジを8個集め終えてリーグに出場を決めたという事なのだろう。

 

「久しぶり、ストンタウン以来だな」

「はい。ソラタさんもお変わりないようで安心しました」

「変わってない事は無いさ……あのバトルの時より強くなった」

「……そうですね、それは私も同じです」

 

 会う度に、お互い強くなっているのが雰囲気で伝わる。ソラタの不敵な笑みに、シズホも静かな笑みを浮かべて返すと、二人を中心に強者であるが故のプレッシャーが放たれ、野生のポケモンはそれだけで逃げ出してしまった。

 

「そういえばシズホはバッジ集めてから今日までどうしてたんだ?」

「集めてからですか? 一度ワカバタウンに帰ってトレーニングをして、少し前からトキワシティに移動してからはポケモンセンターに滞在して調整をしていました」

「あ、一度ワカバタウンに帰ったんだ」

「ええ、グレンジムを攻略した後、最後のジムバッジを手に入れて、そのままヤマブキシティに行ってリニアで」

 

 シズホがバッジケースを開いて見せてくれた。クリムゾンバッジまではソラタと同じ内容だが、最後のバッジだけが違う。

 ソラタはトキワジムのグリーンバッジだが、シズホは別のジムのバッジだ。

 

「ソラタさんも確かマサラタウン出身でしたから、今までずっとマサラタウンに?」

「ああ、1カ月半ずっとトレーニングしてた」

 

 話をしながら歩いていると、時間が経つのも早いもので、ふとソラタは今歩いている場所を見て以前に父から教えて貰った事を思い出した。

 

「確かこの近くだったか」

「何がですか?」

「いやな、将来この近くにセキエイ学園って全寮制の学園を作る計画があるんだって。ポケモントレーナー志望の子供達が通って、初心者用のポケモンも貰える学園にするって計画があるんだよ」

 

 ソラタのヒトカゲやシズホのヒノアラシなどは初心者トレーナーが受け取る場合、今はまだそれぞれの地方のポケモン博士、オーキド博士やウツギ博士から貰う事になっているのだが、将来的にセキエイ学園が出来上がれば学園が博士達の役割を担う計画になっているらしい。

 

「将来的にセキエイ学園ではカントー、ジョウト、ホウエン、シンオウ、イッシュ、カロス、アローラ、ガラル、パルデアの各地方の初心者用ポケモンを用意して入学した生徒に配布する。生徒は貰ったポケモンと共に授業で学び、時に旅に出て腕を磨く。そんな学園にしたいって父さんが言ってた」

「では、ソラタさんのお父様がそのセキエイ学園の計画を?」

「計画責任者ではないけど、計画自体には携わってるってさ」

 

 その計画している学園建設予定地の候補が、今ソラタ達が居る場所の近くにあるらしい。

 

「つっても、まだ候補地だから何も無いけどな。木々に覆われているし、建設地に決まれば伐採なんかして整地してってなるけど、まだまだ先の話だ」

 

 因みに学園が出来れば22番道路も整地して道路を拡幅、バスなんかも走れるようにして交通の便を良くしようとしているのだとか。

 今でもそれなりに道は整っており、車も通れるようにはなっているが、流石にバスが通るには狭い道だ。

 

「セキエイ学園ですか……良いですね。将来のポケモントレーナー候補が羨ましくなります」

「俺はあまり良いとは思わないけどなぁ」

「あら、どうして?」

「学園でお行儀良く勉強してってのが気に入らない。ポケモンバトルは机の上で教科書見てれば上達するもんじゃないからな」

 

 断然、旅派のソラタとしてはジュニアスクールまでは許容しても、トレーナー資格を得られる10歳以降も学園やゼミナールで勉強してというのは如何なものかと思ってしまう。

 何より、ポケモンバトルは旅を通してポケモンとの絆を深め、多くのトレーナーや野生のポケモンとの実戦を通してでしか上達しないと考えていた。

 勉強だけでポケモンバトルが上達するなどあり得ないというのが旅を通して結論付けたソラタの持論だ。

 

「そうですね……ですが、ポケモンゼミナールみたいに卒業と同時にポケモンリーグ参加資格を得るなんて事をセキエイ学園が採用しなければ問題無いのではないでしょうか?」

「う~ん、それならまぁ……ギリ許容出来るかもしれないけど、間違いなく10歳と同時に旅に出るトレーナーより出遅れると思うんだよなぁ」

 

 その事は母とも話した事があったのだが、母が言うには学園に通わせる事でトレーナーとしての質やマナーなんかも今より向上する事が期待出来るとの事。

 正直、10歳になって旅に出た今までのトレーナーは全部がとは言わないものの、質やマナーの悪いトレーナーが増えて来ているのも確かで、最近は色々と問題視される事もあるのだ。

 

「マナーの悪いトレーナーですか……確かに時々見かけますね」

「けど、それって個人の性格もあるから学園に通ったからって良くなるものでもないと思うんだよ」

 

 マナーの悪いトレーナーは子供の頃から問題がある者が多い。トレーナーのマナーを学ばなかった者もいるのだろうが、そういったトレーナーもトレーナーになってから学ぶ機会は十分あるのに自ら学ぼうとしなかった者が殆どだ。

 普通は、旅をして多くのトレーナーと出会っていく内に自ずとトレーナーのマナというものを学ぶものなのだが、学ぶ事をしなかった者が大人になってもマナーの悪いトレーナーになるのだ。

 そして、学ぶ事をしないものというのは総じて子供の頃から素行に問題がある事が大半で、そういう者を学園に入れたからといって、しっかり学ぶとは思えない。

 

「結局のところ、その人間の性格とか育ち次第なんだろうな。マナーの良いトレーナーになるのか、悪いトレーナーになるのかなんて、これは学園に入れたからどうこうなるような問題じゃないと俺は思ってる」

「手厳しいですね」

「とは言え、学園で学ぶ事のメリットまで否定するつもりは無いよ」

 

 勿論、ソラタとて学園が出来て、学ぶメリットがあるのも理解している。学園で学ぶという事はポケモンバトルの基礎は勿論、トレーナーとしての基礎、心構え、ポケモンとの接し方、そういったトレーナーとして覚えておかなければならない事を徹底的に学ぶ事が出来るのだ。

 そうして学んだ事を卒業してから旅に出て活かす事が出来るというのは、間違いなくメリットと言える。

 

「ジュニアスクールでもその辺は触り程度だけど教えてくれる。でも、あくまで触り程度だ。学園で徹底的に学んで、それからトレーナーとして独り立ちするのとしないのとでは大きな違いがある」

「そうですね、基礎は大事です。基礎無くして応用はあり得ませんから」

「そういう事……まぁ、時々基礎が不十分なのに何故か応用というか、奇策が得意なトレーナーも居るんだけどな」

 

 ソラタの脳裏に浮かぶの幼馴染の一人の姿だ。彼はトレーナーとしての基礎やポケモンバトルの基礎が不十分な内から割と奇策や応用が出来ていた。

 

「それって、所謂天才って言いません?」

「あ~……間違ってないのかもしれないけど、天才って呼ぶのは憚れるなぁ」

 

 少なくとも、幼馴染としては彼を天才とは呼びたくない。そこはソラタなりのプライドの問題だった。

 

「お、チャンピオンロードだ」

「ここが、聖火ランナーが走るコースですか」

「ああ、ここからスタジアムまで聖火ランナーが走ってファイヤーの炎を届けるのが、ポケモンリーグ開催を告げる一大イベントなんだ」

「楽しみですね……確か、聖火ランナーは当日誰が走っても良いんでしたっけ?」

「お? 走りたいの?」

「いえ……ただ、伝説のポケモン、ファイヤーの炎を間近で見てみたいとは思いますけど」

 

 確かに、その気持ちは判る。ソラタもやはり男として生まれたからには伝説のポケモンにはロマンを感じているタイプだ。

 

「シズホはもし伝説のポケモンに会えるとしたら、何に会ってみたい?」

「……悩みますね。色々と居ますけど、一番会いたいと思うのはやはりスイクンでしょうか」

「流石ジョウト出身、スイクンなぁ……良いよなぁ」

「ソラタさんは?」

「俺はそうだな……イベルタルとかカッコイイよなぁ」

「カロス地方の伝説のポケモンでしたか」

「そうそう」

 

 その後、ソラタとシズホは他に伝説のポケモンなら何に会ってみたいかなどといった話をしながら歩みを進め、ついにセキエイスタジアムのある選手村に到着した。

 この2週間後に、ポケモンリーグ・セキエイ大会が開催され、栄えあるポケモンリーグ優勝の座を賭けて熱いバトルが繰り広げられる事となるのだ。




次回からポケモンリーグ・セキエイ大会編となります。


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第48話 「開幕、ポケモンリーグ!」

ポケモンリーグ・セキエイ大会編開始!


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第48話

「開幕、ポケモンリーグ!」

 

 マサラタウンでオーキド博士にヒトカゲを貰ったあの日から始まった旅も、いよいよその集大成を見せる日が来た。

 ポケモンリーグ・セキエイ大会、カントーを旅した多くのトレーナー達が集まり、リーグ優勝の名誉とチャンピオンリーグへの出場権を得る為に熱い戦いを繰り広げる一大イベント。

 その開会式では多少のトラブルがあったものの、無事に聖火台へと聖火が灯され、大会責任者のタマランゼ会長の開会宣言と共に開会式が終了した。

 ここでポケモンリーグ・セキエイ大会の試合について説明しておこう。ポケモンリーグ・セキエイ大会はまず1回戦から4回戦まで全てのトレーナーが4種類のバトルフィールドで行う予選リーグ、5回戦からのセキエイスタジアムで行われる決勝リーグに分かれている。

 5回戦までは使用ポケモン3体での試合で、それ以降は6VS6のフルバトル、予選リーグと決勝リーグ通してバトル中のポケモンの交換は禁止だ。

 ポケモンが戦闘不能になる、ポケモンをモンスターボールに戻す、ポケモンが試合放棄をする、ポケモンが眠って一定時間が経過する、これらの条件に当て嵌まった場合はそのバトルに負けたものとみなされる。

 そして今、開会式を終えたトレーナー達が1回戦のバトルフィールドを決める為、抽選会場へと移動して試合会場と対戦相手を確認する時間となった。

 

「こんにちは、トレーナーの登録証を出して下さい」

「はい」

 

 抽選会場の数ある受付の一つで、ソラタは受付のお姉さんに言われた通りに登録証、トレーナーカード代わりになっているポケモン図鑑を手渡した。

 受付のお姉さんは図鑑を受け取って機械に差し込むと登録されているソラタの情報を読み取って手元の端末を操作、作業を終えるとソラタに図鑑を返す。

 

「マサラタウンのソラタ君ね?」

「はい」

「登録完了です。では1回戦のバトルフィールドを決めるので、上のパネルを見て下さい」

 

 受付のお姉さんが受付にあるボタンを押すと、受付の上にあったパネルにそれぞれ岩、草、水、氷のエンブレムが描かれたボードで光が回る。

 ソラタのタイミングでもう一度ボタンを押せば光が止まって1回戦のスタジアムが決まる仕組みになっているとの事だ。

 

「よし」

 

 ボタンを押すと、高速で回っていた光がゆっくりになり、やがて岩のボードで止まった。

 

「岩のフィールドか」

「それではトーナメントボードに入力します」

 

 受付のお姉さんが再び端末を操作すると、パネルの半分にソラタの写真が映し出され、続いて少し小太りの少年の姿が映し出された。

 

「彼が対戦相手ですか?」

「ええ、岩のフィールド、第4試合です。試合開始は3時ですね、遅れないようにお願いしますね」

「ありがとうございます」

 

 試合時間も決まり、時間に余裕が出来たソラタは先ずポケモンの転送機能付き公衆電話へ向かうと、オーキド研究所に電話、オーキド博士に試合時間を伝えて手持ちのポケモンの入れ替えをお願いした。

 

「こっちはギャラドスとピカチュウを送りますので、ニドクインとスターミーをお願いします」

『うむ、少し待っておれ』

 

 少し待って博士がポケモンの用意を終えると、電話横の転送装置にポケモンが入ったモンスターボールを置く。

 光と共にボールが消えて、もう一度光ったかと思うと再びモンスターボールが現れた。これでまず1匹目の交換の終わりだ。

 それをもう一個のモンスターボールでも同じ事をして予定通りギャラドスとピカチュウをオーキド研究所に送り、オーキド研究所からスターミーとニドクインを送って貰った。

 

「ありがとう、オーキド博士」

『構わんよ。それよりソラタ、頑張るんじゃぞ?』

「勿論!」

 

 博士との通話を終えたソラタは時計を確認、まだ3時間も余裕があったので昼食でも食べようかと、選手村のレストランに向かう事にした。

 

「ソラタさん」

「っと、シズホ?」

 

 早速レストランにでもと思って歩き出そうとした時、後ろから声を掛けられ振り返ればシズホが立っていた。

 

「ソラタさんもお昼ですか?」

「ああ、シズホも?」

「ええ、私も試合まで時間がありますので、ご一緒しても?」

「勿論、構わないよ」

 

 このポケモンリーグ選手村はリーグ開催期間中、参加トレーナーは無料で飲み食い出来るようになっている。

 レストランにファーストフード、カフェ、それだけでなく飲食店以外の娯楽施設に宿泊施設も全て選手とセコンド等の選手関係者であれば無料なのだ。

 ソラタとシズホも選手村の中にある少し大きなレストランに入り、注文をすると料理が運ばれてくるまで雑談で時間を潰す事となった。

 

「シズホの試合は?」

「私は草のフィールド、第4試合で3時からです。ソラタさんは?」

「俺も同じ第4試合だ。岩のフィールドで、時間も同じ3時から」

「あら、でしたら時間が被ってしまいましたね」

 

 お互いの試合を応援に行く事は出来無さそうだ。

 

「お互い、頑張ろうぜ。それで、もし俺とシズホが戦う事になったなら、その時は……」

「ええ、全力で戦いましょう。引き分け続きの私達のバトルに決着を」

 

 出会ってから2回、シズホとはバトルをした。その2回とも、引き分けで終わった二人は、このポケモンリーグの舞台で決着を望んでいる。

 だから先ずはお互い、1回戦を勝って次に進むのだ。こんな序盤で負ける訳にはいかない。

 

 

 遂に、ソラタの試合時間となった。食事を終えて岩のフィールドスタジアムに来たソラタは選手用の入口から控室に通され、現在行われている第3試合をモニターで見ながら入場口に向かう時間となって直ぐに係員の案内で入場口に来た。

 丁度、第3試合が終わった所で、ソラタが呼ばれたので入場口からスタジアムに出ると、ソラタの前にはトレーナー用の赤い立ち台があり、その向こうに岩のフィールドが見える。

 

『さあ、いよいよ岩フィールドの第4試合が始まります! 緑サイドのトレーナーはナリキタウンのカネミツ選手! 対する赤サイドはマサラタウンのソラタ選手! カネミツ選手はトレーナーズスクール上級コースを成績トップで卒業した超エリート! ソラタ選手はトレーナーになって1年未満でジムバッジを8個集めた才能溢れるトレーナーです!!』

 

 トレーナーの立ち台に立つと、緑の立ち台の方でも小太りの少年、カネミツが同じ様に立ち台に立った。

 見るからにブランド服に身を包み、まだ子供だというのにド派手な金髪が目に眩しい成金お坊ちゃまといった所か。

 

『使用ポケモンは各々3体! 岩のフィールド第4試合開始ぃ!!』

 

 実況による試合開始の言葉とともにゴングが鳴らされた。

 

「さあ! 僕様の華麗なるチャンピオンへの道の踏み台になると良い!! 行け! 僕様のゴローニャ!!」

「先ずはお前からだ、頼むぞニドクイン!!」

 

 両者、モンスターボールを投げてポケモンを出した。カネミツ少年はゴローニャを、ソラタはニドクイン、相性では互角の対決だ。

 

『カネミツ選手はゴローニャ、ソラタ選手はニドクインでの対戦です!!』

「ゴローニャ! “とっしん”攻撃!!」

「ゴロォ!!」

「ニドクイン、“かいりき”で受け止めて“みずのはどう”!!」

 

 ゴローニャが300㎏の巨体で“とっしん”してきたが、ニドクインは大岩をも動かす“かいりき”で敢えて受け止めると、多少後ろに押されたものの踏ん張って止まり、至近距離から“みずのはどう”をゴローニャに直撃させた。

 

『おおっと! これは痛い! ゴローニャ、渾身の“とっしん”をするも受け止められ、弱点の水技を喰らったぁ!!』

「ゴローニャ!?」

「ゴ、ゴロォ」

「ご、ゴローニャの様子が……」

『これは……ゴローニャ、毒状態です! ニドクインの特性、“どくのトゲ”で毒状態になったぁ!』

 

 吹き飛んだゴローニャの顔色が悪くなったのを見て、実況がゴローニャが毒状態になった事を見破った。

 そう、ソラタのニドクインの特性は“どくのトゲ”、物理攻撃を受けた場合は低確率だが相手を毒状態にする事が出来るのだ。

 

「ニドクイン! “アイアンテール”!!」

「ニィドォオ!! ニドッ!!」

 

 ゴローニャが毒状態になってカネミツ少年が動揺した隙に、ソラタは“アイアンテール”を指示、ニドクインは近場の岩を利用して見た目に似合わず軽快なジャンプをすると鋼鉄のエネルギーを纏った尻尾をゴローニャに叩き付けた。

 

「ゴローニャ!!」

「ゴ、ロォ~」

 

 “アイアンテール”がクリーンヒット、その場に叩き付けられたゴローニャは目を回して倒れてしまう。

 

「ゴローニャ、戦闘不能!」

『決まったぁああ!! ニドクイン、渾身の“アイアンテール”に、ゴローニャは耐え切れませんでした!!』

 

 カネミツ少年はゴローニャをモンスターボールに戻し、悔し気にソラタと、ソラタのニドクインを睨んだ。

 まさか、ここまで一方的にやられるとは思っていなかったのだろう。いや、もしかしたら逆に一方的に自分が勝つと思っていたのかもしれない。

 

『さあ! カネミツ選手、残り2体! ソラタ選手のニドクインに対し、次はどんなポケモンで挑むのか!!』

「行け! 僕様のウツボット!!」

 

 カネミツ少年の2番手は草タイプのウツボットだった。ニドクインとの相性は互角、しかも毒タイプも持つウツボットに“どくのトゲ”は効かない、まだまだ勝負は判らなくなった。

 

「ウツボット! “はっぱカッター”!!」

「キィーッ!」

 

 ウツボットが両サイドの葉を振ると、無数の小さな葉がカッターとなってニドクインに飛来、襲い掛かろうとする。

 

「“れいとうビーム”!」

 

 しかし、“はっぱカッター”はニドクインの“れいとうビーム”によって氷漬けになり落下、そのまま“れいとうビーム”がウツボットに向かった。

 

「避けるんだウツボット!」

 

 ギリギリの所でウツボットは“れいとうビーム”を回避、両者は再び睨み合いとなる。

 

『これは凄い! ソラタ選手のニドクイン、対となるポケモン、ニドキング同様に技のデパートと呼ばれるだけあって、豊富なタイプの技を見せてくれる! カネミツ選手のウツボットも、華麗な身のこなしで“れいとうビーム”を回避! 両者、まだどちらも相手にダメージを与えていない!!』

「ウツボット! “ねむりごな”!!」

『おぉっと! ここでカネミツ選手、ニドクインを眠らせて勝負に出るつもりだぁ!』

「“みずのはどう”!!」

 

 ウツボットが放った“ねむりごな”で眠ってしまうのは不味い。ポケモンが眠って一定時間が経過すると、そのポケモンは戦闘続行不能扱いで負け扱いになるのがポケモンリーグのルールだ。

 なので、ソラタはニドクインに“みずのはどう”を指示して“ねむりごな”を防御、だがそれはウツボットの前では隙を作る事になってしまった。

 

「今だ! “くさむすび”!!」

「っ!」

 

 ニドクインの足元から草が生えて、ニドクインの足に巻き付くと、そのまま堅結び状態になった。

 流石に急に足を固定されたニドクインはバランスを崩して倒れそうになり、カネミツ少年はその大きな隙を見逃さない。

 

「トドメだ! “つるのむち”!!」

 

 ウツボットの身体にある鞭が伸ばされ、鞭となってニドクインに迫る。何とかバランスを整えたニドクインだったが、足を固定されて動けない状態では回避不能だ。

 

「受け止めろ!」

「ニィド!」

『何と! 回避不能かと思われた“つるのむち”を、ニドクインは見事にキャッチ! そのまま掴んで離さない!!』

「そのまま振り回せ!!」

「あぁ! ウツボット!!」

 

 蔓を引っ張ってウツボットを宙に浮かせると、蔓を掴んだままニドクインは頭上でウツボットを振り回す。

 目が回ったウツボットから悲鳴のような鳴き声が聞こえるが、バトルは無情なものでソラタも無視、そのままニドクインに指示して近くの岩に叩き付けさせた。

 

「キィ~」

「ウツボット、戦闘不能!」

『見事な戦法だぁ! 相手の技とフィールドを利用して、見事ウツボットを倒したニドクイン! さあこれでカネミツ選手、残るポケモンは1体! 絶対絶命だ!!』

 

 カネミツ少年の表情が憤怒に染まっていくのが見えた。負けている事実、追い詰められている事実を受け入れがたいという態度が分かりやすく出ている。

 

「こ、この僕様をここまでお、追い詰めるなんて、なるほど、さ、才能は多少あるみ、みたいだね……で、でももう君に勝ちは無い。最後のポケモンは、ぼ、僕様の最強のポケモンなんだ!! 行け! 僕様のルージュラ!!」

 

 カネミツ少年、最後のポケモンは氷とエスパータイプを持つルージュラだった。地面と毒の複合タイプであるニドクインにとって相性最悪だからこそ、相手にとって不足無し。

 

「ルージュラ! “サイコキネシス”!!」

「ジュラル~!」

「“みずのはどう”!」

 

 サイコキネシスに捕まったニドクインは、そのまま超能力で拘束されて後方へ吹き飛ばされ岩に激突、激突する前に放った“みずのはどう”がルージュラの顔面に直撃して何とか集中力を削いだ事で“サイコキネシス”も途切れたが、ニドクインのダメージが思ったより大きい。

 

「ニドクイン! “かいりき”で岩を投げつけろ!」

 

 長期戦は不利だと悟ったソラタはニドクインに背後の岩を投げるよう指示、ニドクインも指示に従って背後の岩を持ち上げると、勢いよくルージュラに向けて投げつけた。

 

「ルージュラ! “メガトンパンチ”!!」

 

 ルージュラが強烈なパンチで飛来する岩を破壊すると、ニドクインの姿が無い。何処に行ったのかと周囲をキョロキョロ見渡していると、大きな影が自身を覆ったのに気付いた。

 

「上だ!」

「ジュラ!?」

「“アイアンテール”!!」

 

 再び、岩を利用して飛び上がったニドクインが鋼鉄のエネルギーを纏った尾をルージュラに叩き付ける。

 効果抜群の一撃に、ルージュラは大ダメージを負ったが、懐にニドクインが着地したのを見て口を開く。

 

「“ふぶき”だ!」

「“アイアンテール”!!」

 

 至近距離からの“ふぶき”がニドクインを襲う中、構わずニドクインは回転する事で遠心力を付けた“アイアンテール”をルージュラの横っ腹に叩き付けた。

 吹き飛び、岩に激突したルージュラはそのまま目を回して倒れてしまうが、“ふぶき”の直撃を受けていたニドクインも、同時にその場に倒れて目を回してしまう。

 

 

「ニドクイン、ルージュラ、共に戦闘不能! よってこの試合、ソラタ選手の勝ち!!」

『試合終了!! マサラタウンのソラタ選手の勝利です!! 最後は相打ちに終わりましたが、ニドクイン一体で第1回戦を突破しましたぁ!!』

「……よしっ!」

 

 呆然としているカネミツ少年を余所に、ソラタは小さくガッツポーズ。無事に1回戦を突破したソラタは2回戦進出を決めた。

 ポケモンリーグ・セキエイ大会初日、幸先の良いスタートを切ったソラタに、2回戦でどんな相手が待ち受けているのか、次回に続く。




次回は2回戦、どのフィールドで、どんな相手が待っているのか、お楽しみに。


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第49話 「3回戦」

お待たせしました。


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転生したのは始めに旅立った子供

 

第49話

「3回戦」

 

 ついに始まったポケモンリーグ・セキエイ大会、その第一回戦に臨んだソラタはニドクイン一体で見事勝利を納めて2回戦進出を果たした。

 そしてその2回戦、草のフィールドで行われているソラタの試合はソラタがピジョット一体で相手のポケモンを2体まで倒して、残り一体との戦いも大詰め。

 相手の最後のポケモンは同じ飛行タイプのオニドリル、奇しくも草のフィールドでありながら空中バトルでの決着となる。

 

「オニドリル! “ドリルくちばし”だ!」

「オーニィイ!!」

「“でんこうせっか”でかわせ!!」

 

 対戦相手である青年が“ドリルくちばし”を指示すると、オニドリルが回転しながら長い嘴で突っ込んで来る。それに対し、ピジョットは“でんこうせっか”による素早い飛行で回避、オニドリルの頭上を取った。

 

「今だ、ピジョット! “ブレイブバード”!!」

「ピィジョットォオオ!!!」

 

 オニドリルの頭上から青いオーラを纏った“ブレイブバード”で突っ込んだピジョットは、そのままオニドリルの背中へ“ブレイブバード”を直撃させて地面へ叩き落とす。

 地面に落ちて土煙に消えたオニドリル、その土煙が晴れると小さなクレーターの中で目を回して倒れていた。

 

「オニドリル、戦闘不能! よってこの試合、ソラタ選手の勝ち!!」

『試合終了! ソラタ選手、1回戦に続き使用ポケモン一体のみで2回戦も見事勝利! 3回戦への進出を決めました!!』

 

 2回戦に勝利したソラタはピジョットをモンスターボールに戻してフィールドを後にしようしたが、ふと観客席にシズホの姿を発見した。

 先に水のフィールドで2回戦に勝利し、3回戦へ進出を決めていたシズホはソラタの試合を観に来ていたらしい。

 シズホが小さく手を振っていたので、ソラタもVサインを返すと、彼女は少し照れたのか頬を少しだけ染めて苦笑する。

 

「あはは……」

 

 流石に彼氏彼女みたいなやり取りは不味かったかなと、ソラタも照れながら今度こそフィールドを去ると、直ぐに3回戦の試合会場を決めるための抽選会場へ向かう。

 抽選会場にて、3回戦のフィールドは水のフィールド第2試合、時間は午前10時からと説明を受け、対戦相手はセキチクシティ出身のツキミという女性トレーナーだと教えて貰った。

 

「水のフィールドか……」

 

 水フィールドならスターミーとギャラドス、そしてピカチュウが妥当だろうと思い、手持ちに居るピジョットとウインディを、オーキド研究所に預けたギャラドスとスターミーに交換してから選手村へと戻る。

 

「サトシとシゲルも順調に3回戦に進んだみたいだし、今のところ知り合いで脱落者は居ないらしいな」

 

 仕入れておいた他の選手の情報をチェックしながら歩いていたソラタは、現在残っている選手の中にサトシ、シゲル、シズホの名前を確認し、知り合いが順調に勝ち進んでいる事に安堵した。

 だが、ソラタの覚えている限りだとこの後、シゲルは4回戦で、サトシは5回戦で敗北するのがアニメでの内容だが、ソラタというイレギュラーの存在でどこまで未来が変わるのかは不明、なのであまりその辺の知識は当てにしない方が良い。

 

「後は、シズホといつ当たるかだな……出来れば6回戦以降のフルバトルで戦いたい」

 

 欲を言うなら決勝戦で、というのは贅沢か。どこかできっとぶつかるだろう。その時が来るのを楽しみにしつつ、一つ一つの試合で油断しないようにしっかり勝ち進めば良いのだ。

 

 

 翌日、宿泊しているコテージで目を覚ましたソラタは試合時間の30分前には朝食を終えて水のフィールドスタジアムに来ていた。

 試合時間が来るまで、対戦相手のツキミという女性の情報を控室の端末で調べていて、そこで得たのはツキミがジムバッジ8個を集めての参加トレーナーである事、1回戦と2回戦で使用されたポケモンについての情報だ。

 特にソラタが欲しかったのはツキミが戦った1回戦の氷のフィールドでの試合の情報だったので、この情報は非常に助かる。

 

「1回戦で使用したポケモンはジュゴンとサンダースか……試合自体は2体目のサンダースで勝利、って事は今回もジュゴンとサンダースが出て来る可能性が高いな」

 

 これはギャラドスかスターミー辺りをニドクインに予定変更するべきかもしれない。幸いにもセキエイ大会は試合前に使用ポケモンを登録するシステムにはなっていないので、手持ちから3体まで好きに選べるようになっているから、今手持ちにいるニドクインを選択肢に入れるべきだと判断した。

 

「まぁ、サンダースが出て来たらの話だが……出て来るだろうな、絶対」

 

 試合の映像も見たが、ジュゴンはそこそこの強さでサンダースは十分な強さを持っているように見える。

 特に今回の水のフィールドは水ポケモンが水の中に入っているだけでサンダースの電気攻撃が回避不能になるから、本当に考えなければならないだろう。

 

「ギャラドスは止めておくか」

 

 3回戦で出すポケモンをある程度決めた所で、係員に呼ばれた。時計を見れば、試合開始時刻まで残り5分を切っているではないか。

 

「ソラタ選手、試合時刻になります。準備はよろしいですか?」

「ええ、今行きます」

 

 テーブルに置いていたモンスターボールをベルトのホルダーに戻して控室を出ると、係員に案内されフィールド入口前に来た。

 既にスタジアムからは歓声が聞こえており、今日も朝から観客席は満員御礼状態なのだろう。

 

『さあ! ポケモンリーグ・セキエイ大会も3日目に入り、試合は3回戦へと進んだ!! この水のフィールドでも既に第1試合が終了し、これより第2試合が行われようとしている!! そして、第2試合を戦うのは……緑サイド、マサラタウンのソラタ選手! 赤サイド、セキチクシティのツキミ選手! 両者入場です!!』

 

 実況の言葉と共にスタジアムに出ると、トレーナー台に立ったソラタとツキミ、二人の間には丸い足場がいくつか浮いたプールがあり、そこがバトルフィールドとなる。

 

『ルールはこれまでと同じ! 使用ポケモンは各々3体! 水のフィールド第2試合開始!!』

「行きなさい、ジュゴン!」

「行け、スターミー!」

 

 予想通り、ツキミが出してきたポケモンはパウワウの進化系、あしかポケモンのジュゴンだった。

 ソラタも予定通りスターミーを出して両者共に水の中へと潜る。

 

「ジュゴン! “アクアジェット”!!」

「スターミー! “こうそくスピン”だ!」

 

 水中でジュゴンが自身の周囲に激流を作って突撃してきたのに対し、スターミーは回転しながら手裏剣の様に動いて“アクアジェット”を回避、逆にジュゴンの横っ腹に“こうそくスピン”を直撃させた。

 

「ジュゴン! 水から出てフィールド全体に“れいとうビーム”!!」

「ジュゴッ!」

 

 指示を受けたジュゴンが急いで水から上がると、足場に乗って水面に“れいとうビーム”を発射、プール全体が氷に覆われてスターミーが水中に閉じ込められてしまった。

 

『な、なんとぉ! ジュゴンの“れいとうビーム”によりプールが氷に覆われてしいまい、水のフィールドが氷のフィールドになってしまったぁ!!』

「甘い! スターミー! “パワージェム”!!」

 

 すると、スターミーはずっと回転しながら水中を移動していたのを止め、ジュゴンの乗っている足場板の真下から宝石のような岩を作って発射、足場を破壊しながらジュゴンに直撃する。

 

「脱出だ!」

「まだよ! 出て来た所を“アイアンテール”!!」

 

 ジュゴンが乗っていた足場を破壊した事で、その部分だけ氷に覆われていない状態になった。

 そこを出口として水中から飛び出したスターミーに、待ち構えていたジュゴンの“アイアンテール”がクリーンヒット、大きく吹き飛ばされてしまう。

 

『おおっと、これは痛い! スターミーに“アイアンテール”が直撃! このままホームランか!?』

「構うな! そのまま“10まんボルト”!!」

「っ! 不味いわ!! 避けてジュゴン!!」

「逃げ場は無い!!」

 

 スターミーが放った“10まんボルト”をジュゴンは回避したのだが、水も氷も電気をよく通す。

 ジュゴンが回避した事で電撃はプールを覆う氷に当たり、そのままフィールド全体に電気が流れた……当然、氷の上に乗っていたジュゴンにも。

 

「ジュゴゴゴ!?」

「ジュゴン!!」

「トドメの“パワージェム”!!」

 

 再度放たれた宝石のような岩がジュゴンに直撃、そのままジュゴンは目を回して倒れてしまった。

 

「ジュゴン、戦闘不能! スターミーの勝ち!!」

『ジュゴン、スターミーの“10まんボルト”と“パワージェム”による効果抜群の連続攻撃に耐えられずダウン! これでツキミ選手、残るポケモンは2体!!』

 

 ツキミはジュゴンをモンスターボールに戻して次のボールを取り出すと、何を思ったのか投げる前に口を開く。

 

「ソラタ君、なぜ私が水のフィールドを氷のフィールドに変えたのか、判るかしら?」

「?」

「答えは簡単! 行きなさいサンダース!!」

 

 ツキミの2番手はサンダース、思った通り氷のフィールドでツキミが試合をしていた時と同じ構成だった。

 そして、ツキミの問いの答えもサンダースの姿を見て理解する。何故ならサンダースは足場板ではなく氷の上に立っていたのだから。

 

「そういう事か……水のフィールドのままだと足場が限定されて素早さがウリのサンダースが最高のポテンシャルを発揮出来ないけど」

「そうよ、氷のフィールドにしてしまえば足場を気にする事無く戦える。サンダース、“こうそくいどう”よ!」

 

 氷の上を、サンダースが高速で走り始めた。流石は素早さがウリのポケモンというだけあって中々の速度、だがスターミーとて素早さには自信がある。

 

『これは速い! サンダース、目にも止まらぬ速度で走り回っている!!』

「スターミー! “パワージェム”!」

 

 “パワージェム”を発射したスターミーだったが、宝石の如き岩は全て回避されサンダースには当たらない。

 勿論、1発だけでなく何発か発射して数個は命中させたものの、大半は回避されてしまって、逆にサンダースはスターミーの背後を取り、その牙に電気を流した。

 

「後ろだ!」

「遅い! “かみなりのキバ”!!」

 

 電気を纏った牙に噛み付かれたスターミーが苦しそうな鳴き声を響かせた。直ぐにソラタはスターミーに噛み付いているサンダースを引きはがす為に“こうそくスピン”を指示、回転して何とかサンダースを引きはがして距離を取る。

 

「“10まんボルト”だ!」

「フゥッ!」

『ソラタ選手、電気タイプのサンダースに対して電気技を指示! これは指示ミスか!?』

 

 実況の言う通り、ソラタが指示した“10まんボルト”では電気タイプのサンダースに対し大きなダメージは見込めない。

 いや、それどころかサンダースは回避する様子を見せず“10まんボルト”の直撃を受けても全くダメージを受けた様子が無かった。

 

『何とサンダース無傷! 効果はいまひとつとはいえ、ダメージがある筈なのに全くのノーダメージです!!』

「やっぱり特性は“ちくでん”か」

「正解よ、わたしのサンダースは“ちくでん”の特性を持っているから、電気技は一切ノーダメージどころか回復してしまうわ」

「でしょうね」

『何と言う事! サンダース、その特性により電気技がノーダメージどころか“パワージェム”のダメージを回復! やはり“10まんボルト”を指示したのはミスだったぁ!』

 

 いや、ミスではない。ソラタはわざと“10まんボルト”を指示したのだ。サンダースの特性を調べる為に。

 

「サンダース! お返しに“かみなり”!!」

「サンッダァアア!!」

『これは強烈な“かみなり”!! スターミー、逃げ切れるか!!?』

「“こうそくスピン”で回避!」

 

 サンダースの“かみなり”を“こうそくスピン”で回避したのを見たツキミは、元々の命中率が低い“かみなり”をスターミーに当てるのは困難だと判断した。

 

「ならこれでどうかしらね? サンダース、“あまごい”!」

『これは不味い! “あまごい”によってフィールドに雨が降り始めた!! スターミー、これで“かみなり”を避けられなくなったぞ!!』

 

 予想通り、“あまごい”で“かみなり”を必中技にしてきた。これで強力な“かみなり”は100%スターミーに直撃して、勝負を決められてしまう。

 

「これで終わりね、サンダース! トドメの“かみなり”!!」

「今だ!」

 

 サンダースが放った“かみなり”がスターミーに迫る。そんな中だった、スターミーとサンダースの身体が一瞬光ったのは。

 2体の光が交差するように入れ替わった直後、“かみなり”が直撃して氷を破りながらスターミーの姿は水中に消える。

 

『決まったぁああ!! スターミーに“かみなり”が命中!! 効果は抜群だぁああ!!』

「今の光は……」

 

 誰もが戦闘不能となったスターミーが氷が割れて露わになった水面に浮いてくるものだと思っていたが、そんな観客や審判、実況の予想を裏切るようにソラタが新たな指示を出す。

 

「……スターミー! “パワージェム”!!」

 

 サンダースの足元の氷が下から突き破られ宝石状の岩が飛び出した。サンダースは回避する事も出来ず腹に直撃を受けて空へと吹き飛んだ。

 更に、岩が飛び出した穴からスターミーが勢い良く飛び出してきて先ほどより元気な姿を見せる。

 

『な、何とスターミー! 無事です! “かみなり”の直撃を受けた筈なのに、そのダメージを感じさせない動き! いや、それどころか先ほどよりも元気になっている!?』

「まさか……!?」

「そう、“かみなり”が直撃する寸前、スターミーとサンダースが一瞬光ったのには気付いていたでしょう? あれは“スキルスワップ”を使ったからです」

 

 “スキルスワップ”、それは自分と相手の特性を入れ替える技だ。つまり、“かみなり”が直撃する寸前にスターミーは“スキルスワップ”の効果でサンダースの特性である“ちくでん”を自分のものにし、逆に自分の特性をサンダースに押し付けたのだ。

 

「因みに、俺のスターミーの特性は“はっこう”です」

 

 そこまで説明して、やっとサンダースが落ちてきて穴から水中に沈み、目を回した状態で浮かんできた。

 

「サンダース、戦闘不能! スターミーの勝ち!」

『これは見事! ソラタ選手、相手の特性を利用した戦術で見事相性の悪いサンダースを下した!! さあ、ツキミ選手は残るポケモン1体! ソラタ選手、このまま1回戦と2回戦同様、使用ポケモン1体のみで3回戦も勝ち進むのか!?』

「悪いけど、そうはさせないわ! 最後のポケモンは私のエースよ、行きなさいニョロボン!!」

 

 ツキミの最後のポケモンはニョロモの最終進化系、おたまポケモンのニョロボンだ。

 水と格闘の複合タイプで、スターミーとの相性は良くないが、既に技を4つ使い切ったスターミーはエスパータイプの攻撃技が使えない事もあり、効果抜群の技に心配する必要は無い。

 

「ニョロボン! 一気に決めるわ! “ばくれつパンチ”!」

「ニョロ!」

「“こうそくスピン”で回避だ!」

 

 ニョロボンの“ばくれつパンチ”を回避すると、スターミーは距離を取って遠距離技を使おうとした。

 だが、ニョロボンは既にスターミーを追いかけており、その速度は想定以上だ。

 

「“すいすい”か!」

「正解よ! “じごくづき”!!」

 

 ニョロボンの特性は“すいすい”だった。サンダースの“あまごい”で未だ雨が降り続ける現状、ニョロボンは通常より速く動ける。

 そんなニョロボンが放った悪タイプの技、“じごくづき”がスターミーの中央の赤い宝石状の急所へ直撃、吹き飛ばされたスターミーは宝石部分を点滅させると、そのまま力を失ったように倒れてしまった。

 

「スターミー、戦闘不能! ニョロボンの勝ち!」

『なんと! ソラタ選手、今大会初の1体目戦闘不能! 2体目はどのようなポケモンでニョロボンに挑むのか!』

 

 スターミーをモンスターボールに戻したソラタは、ニョロボンを見て、次いで雨を降らしている上空の雨雲に目を向け、最後にもう一度ニョロボンに目を向けると、次のボールをホルダーから取り出して構えた。

 

「次はお前だ! 行け、ピカチュウ!!」

 

 ソラタが2番手に選んだのはセオリー通りに電気タイプのピカチュウだ。ニョロボンも地面タイプの技が使えるポケモンではあるが、氷に覆われているとはいえ元々水のフィールドであるこのフィールドでは地面タイプの技が使えない。

 ならばピカチュウでも十分通用すると考えて選択した。

 

『ソラタ選手、2番手はピカチュウだ! ツキミ選手のニョロボン、相性では不利ですが、どう戦うのか!!』

「ニョロボン! “ドわすれ”!」

 

 ピカチュウの電気技対策だろう。“ドわすれ”で特防を上げて来た。

 

「ピカチュウ! “でんこうせっか”!!」

「ピッカ!」

「ニョロボン! “しんくうは”!」

 

 ツキミはピカチュウの特性を“せいでんき”だろうと警戒しているらしい。

 正解だ。ソラタのピカチュウの特性は“せいでんき”、下手に物理攻撃をしようものなら麻痺状態になる危険がある。

 

「“アイアンテール”で迎撃しろ!」

「チュアアア! ピカッ!」

 

 ニョロボンが放った“しんくうは”を飛び上がったピカチュウが“アイアンテール”で叩き落とすと、そのまま落下しながら回転して鋼鉄の尾をニョロボンに叩き付けようとする。

 

「迎え撃って! “ばくれつパンチ”!!」

 

 ニョロボンが“ばくれつパンチ”で迎撃すると、両者の尾と拳がぶつかって拮抗した。

 

「そのまま“エレキボール”!」

「ピカピカピカ! チュッピッ!」

『ピカチュウの“エレキボール”炸裂! ニョロボン、これには大ダメージ!!』

 

 至近距離から“エレキボール”がニョロボンに直撃、爆発によってピカチュウはニョロボンと距離を取って再び“でんこうせっか”で走り回る。

 

「ニョロボン! 連続で“しんくうは”!!」

 

 先ほどと同じ単発の“しんくうは”では“アイアンテール”で迎撃されると判断したツキミは今度は連続での“しんくうは”を指示、ニョロボンが放った無数の“しんくうは”が走り回るピカチュウに襲い掛かった。

 

「ピカッ!?」

「ピカチュウ!」

『ああっと! 流石に避け切れなかったのか、“しんくうは”がピカチュウに直撃したぁ!』

「畳み掛けて! もう一度連続の“しんくうは”!!」

 

 吹き飛んだピカチュウ目掛けて、再び無数の“しんくうは”が襲ってきた。これの直撃は不味い。

 

「“アイアンテール”で氷を叩き割れ!!」

「ピカ! チュアア! ピッカ!!」

 

 “しんくうは”が直撃する前に、ピカチュウは“アイアンテール”で足元の氷を叩き割ると、水中に逃げて“しんくうは”を回避して、直ぐに氷上に戻る。

 

「“でんこうせっか”!!」

「ピッカ!!」

「もう一度同じ事を繰り返す気? ニョロボン! 連続で“しんくうは”!!」

 

 再びピカチュウが“でんこうせっか”で走り出すと、ニョロボンが先ほど同様に連続で“しんくうは”を放つ。

 だが、先ほどとは違い、ピカチュウはニョロボンの周りを走るのではなく、一直線にニョロボンへ向かって来ていた。

 

「何をっ!」

「そのまま突っ走れ! “ボルテッカー”だ!!」

「ピカピカピカピカ!! ピカピッカ!!」

 

 “しんくうは”が当たるのを気にする事無く走るピカチュウの身体が電気に包まれ、そのままニョロボンに突撃。

 電気タイプ最強の大技“ボルテッカー”の直撃を受けたニョロボンはトレーナー台まで吹き飛ばされ、激突すると氷上に倒れて目を回すのだった。

 

「ニョロボン、戦闘不能! よってこの試合、ソラタ選手の勝ち!!」

『試合終了!! ソラタ選手、2体残し見事に勝利!!』

 

 スターミーが戦闘不能になるという予想外の事態にはなったが、無事に3回戦も勝利したソラタは4回戦に進出した。

 予選リーグ最後の舞台は氷のフィールド、これに勝利すれば5回戦からは決勝リーグ、セキエイスタジアムでの試合だ。

 他にもこの日、サトシとシゲルも無事に3回戦に勝利、明日の4回戦はサトシが草のフィールド、シゲルとシズホは岩のフィールドでの試合を予定している。

 4回戦、4人とも無事に勝利して5回戦へと進めるのか、それは次回に続く。




次回、4回戦。予選リーグ最後の試合です。


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第50話 「予選リーグ最後の試合」

お待たせしました。今回で予選リーグ終了です。


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第50話

「予選リーグ最後の試合」

 

 ついに始まったポケモンリーグ・セキエイ大会も既に4回戦を迎えていた。

 ソラタ、シズホ、サトシ、シゲルも順調に勝ち上がっており、ソラタは氷のフィールドで、サトシは草のフィールドで4回戦を戦う事になっている中、何と岩のフィールドではまさかのシゲルとシズホが対戦する事になっていたのだ。

 ソラタがそれに気付いたのはシズホの試合を観に岩のフィールドに来て、シズホの前の試合にヨシキというトレーナーが出ていたのが切っ掛けだった。

 ヨシキと言えばアニメでシゲルが4回戦で戦い、敗北したゴローニャのトレーナーだったのを思い出し、つまりこの世界でのシゲルの相手はヨシキではないという事、なら誰がと次のシズホの試合の組み合わせを見て驚いた。フィールドにシズホとシゲルが出て来たのだから。

 正直、まだ今のシゲルのレベルでシズホと互角の戦いが出来るかと問われれば、難しい。事実、シゲルは1体目、2体目と、全てシズホのゴルダック1体によって敗北し、残るニドキングすらも追い詰められているのだ。

 

『さあシゲル選手、残るポケモンは1体! シズホ選手はまだ1体目のゴルダックが健在! シゲル選手、絶体絶命です!! ここから挽回なるのか!!』

「ニドキング! “メガトンパンチ”だ!!」

「ニィドォオオ!!」

 

 ニドキングの残り体力が少ない状況で、シゲルが勝負に出た。ニドキングが巨体に似合わぬ動きで拳を振り上げながら走り出し、ゴルダックに迫る中、シズホは冷静にその動きを見つめている。

 

「ゴルダック」

「ゴパッ」

「“サイコキネシス”です」

 

 ニドキングの“メガトンパンチ”がゴルダックに命中する直前、その拳が止まった。ゴルダックの“サイコキネシス”によってニドキングの動きが止められ、身体の自由を奪われたのだ。

 

「ニドキング!!」

「トドメの“ハイドロポンプ”です」

「ゴォッパアアア!!」

 

 動きを止められた状態から至近距離の“ハイドロポンプ”は強烈だ。流石のシゲルが育てたニドキングでも2つの効果抜群の技に耐えられず、吹き飛ばされて倒れたまま目を回してしまった。

 

「ニドキング、戦闘不能! よってこの試合、シズホ選手の勝ち!!」

『やりました! シズホ選手、見事ゴルダック1体で4回戦を勝ち抜きましたぁ!!』

 

 4回戦敗退が決まり、シゲルが悔しそうに崩れる中、シズホはゴルダックをモンスターボールに戻すと、シゲルを見る事も無く振り返りフィールドを後にしようとする。

 だが、途中でその歩みが止まり、観客席を見上げて、真っ直ぐソラタの姿を確認して見つめて来た。

 

「ああ、待ってろ……俺も直ぐに5回戦に行く」

 

 シズホの、先に決勝リーグで待っていると言わんばかりの視線を受けたソラタも、頷き返して呟いた。

 シズホも、ソラタが頷いた事に満足したのか、笑みを浮かべて今度こそフィールドを後にする。

 シズホが立ち去った後、シゲルもニドキングをボールに戻してフィールドを後にしたので、念のためソラタは席を立ってスタジアムの外に向かった。シゲルの事だ、気丈にふるまうかもしいれないが、相当悔しいと感じている筈だから。

 

「お、シゲルと……サトシも居たか」

 

 スタジアムの外に出てみれば、シゲルがいつも移動に使っている車の前で、サトシとシゲルが話をしているのが見えた。

 ソラタも近づいてみれば、二人がソラタに気付いたのか手を挙げて挨拶をしてきたので、ソラタも手を挙げて返すと、二人に歩み寄る。

 

「ソラタ、あのシズホって選手がキミのライバルかい?」

「……サトシから?」

「ああ、君の知り合いだって聞いてね……成程、キミがライバル視している程の選手なら、僕が負けるのも納得だ」

「シゲル……」

 

 シゲルは自分の敗北に納得したようだが、サトシは何処か納得出来ていないのか、シゲルを心配そうに見つめていた。

 

「正直、シズホ選手は強かったよ……この僕がゴルダック一体に完敗するなんて、思いもしなかった。まだまだ世界は広いんだなって実感したね、まさか同年代でソラタ以外に負けるなんて思いもしなかった」

「確かに、シズホは強いよ。俺もこれまで2回、シズホとはバトルしてきたけど、2回とも引き分けてる」

「ハハハ、納得だよ……それじゃ、僕はそろそろ失礼するね」

 

 シゲルが泣き続ける取り巻きと共に去って行った。それを見送っているサトシを尻目に、ソラタも試合時間が迫っているからと氷のフィールドスタジアムに向かう。

 シズホが5回戦、決勝リーグへ進出した以上、ソラタも遊んでいる暇は無い。4回戦、必ず勝ってシズホの待つ決勝リーグへ進むのだ。

 

 

 予選リーグ最後の試合、ソラタが戦う舞台は氷のフィールド。この試合に勝てばシズホの待つ決勝リーグに進出する事になる。

 決勝リーグに進めるのは16名のトレーナー、3回戦終了時点で32名のトレーナーが残っていて、今日の4回戦で決勝トーナメントに進んだのは既に9名、残り7試合が終われば予選リーグ終了となるのだ。

 

『さあ、いよいよこの氷のフィールドで行われる4回戦第3試合、予選リーグも残り僅か! この試合で熱いバトルをするのは、この2名のトレーナーだ! 赤サイド、ハナダシティのセンジュ選手! 緑サイド、マサラタウンのソラタ選手!』

 

 氷のフィールドにある選手台にソラタと、対戦相手の青年、センジュが立つ。どちらも決勝リーグ進出が掛かったこの試合、負ける訳にはいかないと気合は十分だ。

 

『この試合、見事勝利して決勝リーグへと駒を進めるのはどちらの選手なのか!! 氷のフィールド4回戦第3試合開始!!』

「頼むぞ“パルシェン”!」

「行け、“ゲンガー”!」

 

 センジュのポケモンはパルシェン、ソラタはゲンガーでのバトルだ。

 

「パルシェン! “つららばり”!!」

「回避して“おにび”!」

 

 先手でパルシェンが放った氷柱が飛んできたが、ゲンガーは余裕で回避しつつ周囲に展開した炎を一つに纏め、パルシェンに放った。

 炎を受けたパルシェンはダメージを受けなかったが、これで状態異常の一つ“やけど”状態になる。

 

「構うなパルシェン! “オーロラビーム”!」

 

 流石にここまで勝ち進んで来たトレーナーというだけあってセンジュは“おにび”の効果を知っているらしい。

 更に、火傷を負ったポケモンに物理技ではなく特殊技を指示するのも上手い。火傷状態では物理攻撃力が低下するので、即座に切り替えてきた。

 

「“シャドーボール”!!」

 

 しかし、火傷状態では常にダメージが蓄積していくので、長期戦は不可能。速めにゲンガーを倒さねばパルシェンは不利になる。

 ゲンガーの“シャドーボール”が“オーロラビーム”を相殺したのを見て、センジュは別の一手を考えたらしい。

 

「“アクアリング”だ!」

『これは上手い! 火傷状態のパルシェンに“アクアリング”で常時回復をさせる事で長期戦を可能にした!』

 

 確かに上手い手だが、流石にソラタも長期戦をするつもりは無い。ゲンガーに目を向けると、彼も頷いて返して拳を握った。

 

「“10まんボルト”!」

「っ! 避けろパルシェン!!」

 

 パルシェンは物理耐性が非常に高いポケモンだが、その半面特殊耐性が低い。効果抜群の電気技、それも特殊攻撃に分類される“10まんボルト”は今のパルシェンには非常に危険だ。

 回避を指示したセンジュだが、パルシェンは然程素早いポケモンとは言えない。避け切れずに“10まんボルト”が直撃する。

 

「パルシェン! 一か八かの“ふぶき”だ!!」

 

 電撃を受けている中、パルシェンがゲンガーに向けて“ふぶき”を放った。氷タイプの大技、直撃を受ければ大ダメージは必死だが……。

 

「“ゴーストダイブ”!!」

 

 ゲンガーの姿が消えて“ふぶき”は外れた。それどころか、パルシェンの目の前に現れたゲンガーからの拳を受けてパルシェンは回復が追い付かず目を回して倒れてしまった。

 

「パルシェン、戦闘不能!」

『惜しかったぁ! センジュ選手のパルシェン、相打ち覚悟の“ふぶき”を放つもソラタ選手とゲンガーが一枚上手だった!!』

 

 パルシェンをボールに戻したセンジュは次のボールを構えると、次のポケモンには自信があるのか、不敵な笑みを浮かべた。

 

「行け! ペルシアン!!」

 

 センジュの2番手はノーマルタイプのペルシアンだった。これは不味い、この時点でゲンガーは“シャドーボール”と“ゴーストダイブ”を封じられたも同然、“おにび”と“10まんボルト”しか使えなくなった。

 

「ゲンガー! “おにび”!」

「ペルシアン! “でんじは”!」

 

 これで両者状態異常になった。ペルシアンは火傷、ゲンガーは麻痺、勝負は互角の状況か。

 

「ゲンガー! “10まんボルト”!」

「ゲンゲロゲーン!!」

「ペルシアン! 回避して“バークアウト”だ!!」

「ニャォオオ!!」

 

 ゲンガーの放った“10まんボルト”はペルシアンの素早い動きに回避され、逆に反撃で放たれた悪タイプの技、“バークアウト”がゲンガーに直撃、効果は抜群だ。

 

「チッ……どうする? 技2つを封じられて、攻撃技は“10まんボルト”のみ、そのうえ麻痺状態か」

 

 明らかに状況は悪い。なら、ソラタが使用するべきはフィールドを利用した戦術のみ。

 

「よし! ゲンガー! 連続で“シャドーボール”!!」

『おおっとソラタ選手、ノーマルタイプのペルシアンに対してゴーストタイプの技を指示したぞ!? 効果が無いのに、これは指示ミスか!?』

「何を考えているのかは知らないが、自棄になったかな? ペルシアン、避ける必要は無い! そのまま“わるだくみ”だ!」

 

 そう、それで良い。油断してくれている方がソラタの狙いを悟られる心配は無いのだから。

 ゲンガーが放った無数の“シャドーボール”が動く気配の無いペルシアンに向かい、そのまますり抜けてしまう。

 

「まだまだ! もう一度連続で“シャドーボール”!!」

「いったい何をしたいのかな君は? ペルシアン、もう終わらせよう、“バークアウト”!!」

 

 再度放たれた連続の“シャドーボール”がペルシアンをすり抜けていく。そして、それが終わって直ぐに勝負を決めようとペルシアンが動こうとした時だった。

 

「ニャァア!?」

 

 足元の氷が割れて分厚い氷の下のプールにペルシアンが落ちてしまった。

 

「ペルシアン!?」

「今だ!! “10まんボルト”!!」

 

 水に落ちたペルシアンは周囲の氷が邪魔で身動きが出来ない。その中で“10まんボルト”の直撃を受けてしまい、電撃が止んだ後には目を回して水に浮かぶペルシアンの姿が。

 

「ペルシアン、戦闘不能!!」

『お見事! ソラタ選手、“シャドーボール”をわざとペルシアンにすり抜けさせて足元の氷を削り、ペルシアンが動いた事で脆くなった氷が割れて水に落とすというフィールドを利用した戦術でペルシアンを撃破!!』

 

 だが、ゲンガーもそろそろ限界だ。麻痺状態に加え、“バークアウト”のダメージが残っているので、次のバトルに耐えられるかどうか。

 

「もう後がない。頼むぞドククラゲ!」

 

 センジュ、最後のポケモンはメノクラゲの進化系、ドククラゲだった。

 

『センジュ選手、残るポケモンはドククラゲ! もう後がない! ソラタ選手のゲンガーを相手に、どう戦うのか!!』

「ドククラゲ! “みずのはどう”!!」

「ゲンガー! 回避して“10まんボルト”だ!」

 

 ドククラゲが放った“みずのはどう”を回避したゲンガーはお返しにと“10まんボルト”を放った。

 だが、それがセンジュの狙い通りだったと気付くことは、出来なかった。

 

「“ミラーコート”!!」

「っ! しまった!?」

 

 ドククラゲの身体が虹色の光に包まれると、“10まんボルト”が直撃した瞬間軌道を捻じ曲げてゲンガーへと跳ね返した。

 

「ゲェエエエン!?」

 

 “10まんボルト”自体は電気タイプの技だが、“ミラーコート”はエスパータイプの技だ。

 毒タイプを持つゲンガーには効果抜群、ダメージの蓄積もあったゲンガーは耐えられず目を回して倒れてしまう。

 

「ゲンガー、戦闘不能!」

 

 油断した。まさかの“ミラーコート”でゲンガーが戦闘不能になり、ボールに戻したソラタは、次のボールをホルダーから取り出して、己が油断を戒める。

 

「頼むぞ、ウインディ!」

「ウォン!!」

『ソラタ選手、2番手は炎タイプのウインディ! ドククラゲとは相性が悪いが、どう戦うつもりなのか!』

「出すポケモンを間違えたな! ドククラゲ! “みずのはどう”!」

「“りゅうのはどう”だ!」

 

 ドククラゲの“みずのはどう”を、“りゅうのはどう”で相殺したウインディはその場から走り出した。

 

「“しんそく”!」

「っ! は、速い!」

『これは速い! ソラタ選手のウインディ、目にも止まらぬ速さだ!!』

「ドククラゲ! 相手が素早くともフィールド全体に攻撃が及べば意味が無い!! “ヘドロウェーブ”だ!!」

 

 ドククラゲの“ヘドロウェーブ”によって、大量のヘドロがフィールド全体に津波のように襲い掛かる。

 流石にウインディもこれは避けられないだろうと思われたのだが、氷のフィールドは氷の山があるのに救われた。

 氷の山を利用して飛び上がったウインディはヘドロの波を飛び越え、ドククラゲに迫る。

 

「馬鹿め! 空中では身動きを取れまい! “みずのはどう”!!」

「ウインディ! “ワイルドボルト”!!」

 

 自身に迫る“みずのはどう”に対し、ウインディは全身に電気を纏う事で防御、そのままドククラゲに向けて急降下、突撃して2匹は煙の中へと消えた。

 

「ドククラゲ!!」

『ウインディの“ワイルドボルト”炸裂!! 効果は抜群だ!! ドククラゲ、耐えられるか!?』

「ド、ク~」

 

 煙が晴れると、威風堂々と立つウインディの足元で目を回したドククラゲが倒れていた。

 

「ドククラゲ、戦闘不能! よってこの試合、ソラタ選手の勝ち!!」

『決まったぁあああ!! ソラタ選手、見事4回戦を勝ち抜き、決勝リーグへと進出を決めました!!!』

 

 決まった。見事ソラタは4回戦に勝利、5回戦からはメインスタジアムであるセキエイスタジアムでの試合となる。

 長かった予選リーグを終えて、フィールドを立ち去ろうとしたソラタは、観客席にいるシズホの姿に気付き、足を止めた。

 

「勝ったぜ」

 

 ソラタとシズホ、互いに見つめ合って闘志を燃やす。二人が戦うのは決勝リーグ、セキエイスタジアムでだ。

 ソラタもシズホも、もはやお互いの事しか眼中に無い。このポケモンリーグで、決着をつける事をずっと願っていた。

 それがもうすぐ実現するのだと、決勝リーグを楽しみにしながらソラタはスタジアムを立ち去るのだった。




次回は決勝リーグ前のお休み。


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第51話 「休息は母と共に」

休息回です


ポケットモンスター

転生したのは始めに旅立った子供

 

第51話

「休息は母と共に」

 

 ポケモンリーグも既に予選リーグが全て終了し、決勝リーグ出場選手16名が決まった。その中にはソラタを始め、サトシ、シズホも含まれており、今は決勝リーグ前の3日間の休息期間だ。

 この3日間でポケモンもトレーナーもしっかり休んで、5回戦に備えて準備を整えるのが、決勝リーグ前の恒例なのである。

 

「とは言え、対戦相手が決まるのは明日の抽選でだから、正直初日は暇なんだけどなぁ」

 

 既にポケモンセンターでポケモン達の回復も終わり、コテージに戻って来たソラタは暇を持て余していた。

 さてどうしたものかと考えていると、コテージのチャイムを鳴らす音が響いて来客を知らせる。

 誰か来る用事でも入っていただろうかと疑問に思いつつもベッドから起き上がり、玄関まで行って扉を開けると、そこにはマサラタウンで別れて以来となる母・アオノの姿があった。

 

「母さん!」

「やっほーソラタ、元気だった?」

「元気も何も、まだ1カ月経ってないよ」

 

 母が応援に来るとは聞いていたが、もしかして今日セキエイ入りしたのだろうか。

 

「実は、初日からセキエイに来てたんだ」

「初日から?」

「うん、ソラタの試合全部見てたよ」

 

 単純に、ソラタに会いに来なかったのは邪魔したくなかったからなのだとか。

 

「まぁ、入ってよ」

「うん、お邪魔します」

 

 コテージの中に案内してお茶を出すと、アオノもテーブルの前に正座して出されたお茶を飲む。

 

「1回戦と2回戦は危な気なく勝てたけど、3回戦と4回戦は少しだけ油断しちゃったかな?」

「だなぁ、少し気が緩んでたかも」

 

 1回戦から4回戦までの試合全てを見ていたアオノは、ソラタの試合の評価をしてくれた。

 アオノ曰く、1回戦と2回戦は問題無かったが、3回戦と4回戦はもう少し戦いようがあったとの事。

 確かに対戦相手も強かったが、もう少し考えていれば少なくとも全試合ポケモン1体のみで勝ち抜く事は出来たというのがアオノの評価だ。

 

「因みにお母さんがセキエイ大会に出た時はカンナさんに負けるまでフシギバナ一体だけで勝ち上がって来たよ」

「母さんって確かセキエイ大会ベスト4だっけ……マジか」

 

 準決勝までフシギバナ一体だけで勝ち進んだというアオノの恐ろしさ。それは確かにカンナが居なければ優勝していたと言われていただけの事はある。

 

「ところでソラタ、お昼ご飯まだでしょ? 道具と材料持ってきたからコテージの簡易キッチン使わせてもらうね」

「マジ? 助かる!」

 

 コテージにも簡易キッチンがあるのだが、流石に選手村で無料で食事が出来るから使っていなかったけど、母が料理してくれるのなら存分に使って欲しい。

 選手村のレストランで食べる食事も確かに美味しいが、やはりソラタとしては母の手料理が一番なのだ。

 

「ねぇ母さん」

「ん~?」

 

 料理をしているアオノの後ろ姿を見つめながら、ベッドに腰かけるソラタは次いでテーブルに並べたモンスターボールに目を向けつつ問いかけた。

 

「母さんから見て、今回のセキエイ大会の有力なトレーナーって誰?」

「そうねぇ……何人か居たけど、お母さんは特にシズホ選手に注目してるかな」

「シズホに……」

「あら、ソラタ知り合いなの?」

「まぁね」

 

 アオノが言うには、シズホはソラタと同じトレーナー歴1年未満でありながら実力は上級者レベル、使用ポケモンの選択や技の構成、どれも一級品だという。

 勿論、まだまだアオノから見れば未熟ではあるが、それも経験を積めば解消される問題、正直現段階で足りないのが経験だけというのは、凄い事なのだとか。

 

「間違いなく優勝候補の一人だと思うわ」

「そっか……」

 

 自分の母にライバルがそう評価されていると思うと、嬉しくもあり、複雑でもあった。だけど、ライバルが高評価を受けているのだと思えば悪い気はしない。

 

「シズホとはさ、旅の間に2回バトルをしたんだ」

「そうなの?」

「ああ、だけどどっちも引き分けで終わった……だから、シズホと二人で約束したんだ、ポケモンリーグの舞台で決着をつけようって」

「そっかぁ……じゃあソラタにとってのライバルなんだね」

 

 アオノには当時、ライバルと呼べる者はいなかったらしい。同じ時期にオーキド博士からポケモンを貰ってマサラタウンを旅立った同期は居たが、誰一人ポケモンリーグにアオノと一緒に参加出来た者は居なかった。

 

「はい、出来上がり。ソラタが5回戦以降も勝つようにチキンカツ! それとソラタの大好きな唐揚げもね」

「おお!」

 

 ソラタの好きな物ばかり。勿論、栄養も考えてサラダもあるが、チキンカツに唐揚げは本当に嬉しい。

 

「さあ食べて食べて! ソラタが頑張れるように、お母さん頑張って作ったから」

「いただきます!」

 

 母が作ってくれる食事はどれも美味しい。特にソラタの大好物である唐揚げは絶品だ。正直、ソラタはレストランなどで食べる唐揚げより母が作る唐揚げの方が断然上だと思っている程、アオノは料理上手なのだ。

 

「うま~」

 

 

 食後、アオノが食器を洗っているのを尻目に、ソラタはテーブルに置いたモンスターボールを見つめながら考え込んでいた。

 5回戦からメインスタジアムでの試合となる事を考えると、今までのフィールドを利用した戦術は使えない。

 ならば真正面からのバトルがメインとなるのだが、メインパーティー以外は正直言ってフィールドを利用しない戦術で戦うには少しばかり不安が残るのだ。

 

「多分、ピジョットとニドクインくらいか、自信を持って戦えるのは」

 

 次点でウインディとゲンガーで、残るスターミーと一度も使用していないフーディンはまだ少し不安だった。

 

「スターミーとフーディンの育成が少しだけ足りなかったなぁ……」

 

 反省はそれくらいにして、5回戦は兎も角、6回戦……つまり準々決勝からのフルバトルの事を考えなければならない。

 

「ソラタ、何してるの?」

「ああ、5回戦以降の試合について考えてたんだ」

 

 洗い物を終えたアオノがベッドに座るソラタの横に腰かけると、テーブルに置いてあるモンスターボールの内、リザードンが入ったボールを手に取った。

 

「今日は考えなくても良いと思うよ? 明日の抽選会で5回戦以降のトーナメント表が決まるんだから」

「う~ん、でも何もしないのも落ち着かないんだよなぁ」

 

 生憎、暇を満喫するような性格をしていない。常に何か考えていないと落ち着かないのだ。

 

「その辺は、お父さんに似たのねぇ」

「ん~、かもしれない」

 

 おっとりしているアオノとは違い、父はソラタと同じで常に働いていたいタイプだ。休日の暇な時間ですら何かしら仕事に関係する書類を読んでないと落ち着かないくらいには。

 

「でも、休むべき時にしっかり休むのもトレーナーの大事な仕事だからね? ソラタが疲れてたら、ポケモン達だって最高のパフォーマンスを発揮出来ないんだから」

「それは……理解してる」

 

 ならよろしいと、母はソラタの頭を撫でてギュッと頭を抱き寄せた。

 突然、何をするのかと離れようとするソラタの頭をがっちり固定されると、ソラタの耳が丁度アオノの胸に当たり、その奥の心臓の鼓動が聞こえて来る。

 

「……母さん、恥ずかしいんだけど」

「聞きませ~ん、ソラタはこのままゆっくり休むと良いよ」

「いや、この歳になって母親に抱かれて寝るとか……」

 

 母の心臓の鼓動が耳に心地良いのは確かで、落ち着くのも間違いない。だけど、肉体年齢は10歳位でも心は40歳近くになるソラタにとって27歳のアオノの胸が顔に当たっているという現状は、どうしても気にしてしまうのだ。

 

「ソラタは昔からそうだよねぇ……でも、こうしてると落ち着くでしょ?」

「むぅ……」

 

 転生して、アオノの子供として過ごす内に精神年齢が下がったのだろうか。アオノの言う通り落ち着いて、そして段々と眠くなってきてしまう。

 母の心臓の鼓動がどうしても、ソラタに安心感を与えてくれて、瞼が重くなってくるのを自覚した。

 

「そのまま寝て良いよ……いつも一杯頑張ってるソラタは、今日くらいお母さんに甘えて、ゆっくり休んでね」

 

 そんな母の言葉が、ボーっとする意識の中で聞こえてきて、ゆっくりとソラタの意識は睡魔に抗えず眠りに落ちてしまった。

 そんな愛する我が子の様子を微笑みながら見つめて、頭を撫で続けるアオノは、そっとソラタの頭を己の膝の上に置いて、それから再び撫で始めるのだった。

 

 

 翌日、ソラタは抽選会場に来ていた。そこには5回戦に進出したトレーナー達が集まっており、受付の前には水槽が置かれている。

 5回戦出場選手は順番に釣り竿で水槽内のコイキングを釣り、その身体に書かれた番号を受付に伝える事で決勝リーグのトーナメントが決まるのだ。

 

「では次、ワカバタウンのシズホさん」

「はい」

 

 シズホが呼ばれた。シズホは手に持った釣り竿の糸の先にあるルアーを水槽に垂らすと、直ぐにヒット、釣り上げたコイキングの身体にはB-2の文字が。

 

「シズホさんはB-2、5回戦第6試合になります」

 

 トーナメントボードにはAー1からBー4まで分けられており、先に抽選を終えたサトシもA-3に写真が載っている。

 更にB-2の所にもシズホの写真が映し出され、対戦相手が決まった。

 

「では次、マサラタウンのソラタ君、どうぞ」

「はい」

 

 ソラタの番になった。釣り糸を垂らして直ぐに手応えを感じ、引き上げてみれば、釣れたコイキングの身体にはB-4の文字が書かれている。

 

「ソラタ君はB-4、5回戦第8試合になりますね」

 

 B-4、それはつまり……トーナメント表を改めて見れば、順調に勝ち進んだ場合、シズホとの直接対決は7回戦……つまり準決勝で、という事になる。

 

「決勝の舞台じゃないみたいだ」

「ええ」

「だけど……」

「勝った方が決勝に進める……ですね」

 

 ソラタとシズホの決着には十分な舞台だろう。闘志を燃やす二人が戦う舞台は、もう間も無く始まろうとしていた。




次回は5回戦、メイン会場であるセキエイスタジアムでの試合となります。


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第52話 「決勝リーグ開幕」

5回戦です


ポケットモンスター

転生したのは始めに旅立った子供

 

第52話

「決勝リーグ開幕」

 

 ポケモンリーグ・セキエイ大会もいよいよ後半戦、戦いの舞台はメイン会場であるセキエイスタジアムでの試合へと移り、決勝リーグに勝ち進んだトレーナー達による熱いバトルが繰り広げられている。

 そして、5回戦でソラタの幼馴染、サトシがヒロシという少年にリザードンの戦意喪失という結果で敗北した後、ソラタは観客席でシズホの試合を観戦していた。

 シズホの相手は原作でシゲルを破ったヨシキ選手で、ヨシキ選手は残り1体、シズホは残り2体という状況だ。

 

「ゴローニャ! “ころがる”!!」

「ゴォロォオオ!!」

「エレブー! “かいりき”で受け止めて“アームハンマー”!」

 

 ヨシキ選手のゴローニャが“ころがる”によって転がりながら勢い良くシズホのエレブーに迫るも、エレブーは何と300㎏あるゴローニャを真正面から受け止めて、逆に“アームハンマー”を叩き込んだ。

 物理防御の高いゴローニャも流石に効果抜群の格闘技、それも高威力の“アームハンマー”には耐えられず、目を回してその場に沈んでしまう。

 

「ゴローニャ、戦闘不能! よってこの試合、シズホ選手の勝ち!!」

『やりましたー!! シズホ選手、ゴローニャ相手に相性の悪いエレブーで見事勝利!! 準々決勝進出です!!』

 

 5回戦も見事勝利を納めたシズホは6回戦、準々決勝へ進出。これでソラタの知り合いで現在残っているのはシズホのみになった。

 

「そろそろ行くか」

 

 時間的にそろそろ選手控室に向かわなければいけない時間になったので、席を立ったソラタはフィールドを去るシズホにチラリと視線を向けた後、その場を去った。

 選手控室に入ると、既に5回戦第7試合が始まっており、モニターにその様子が映し出されているのだが、ソラタはそちらに興味を向ける事無く次の対戦相手の情報を端末から呼び出している所だ。

 

「えっと、メグミ選手……1回戦から4回戦までの試合は、可もなく不可もなくって感じの試合だったのかな」

 

 使用ポケモンは判明しているだけでもベロリンガ、シードラ、マルマイン、ゴルバット、モンジャラ、ギャロップ、スピアーやイワークなんかもいる。

 

「こっちはニドクインとピジョットは確定してるけど……後は、ギャラドスかな」

 

 それぞれが入ったモンスターボールとプレミアボールを確認して、腰のホルダーへ戻すと、丁度良い時間になったのかスタッフが呼びに来た。

 返事をして立ち上がったソラタは控室を出ると、スタッフに案内された選手入場口まで来る。

 丁度、第7試合が終わった所なのか、泣きながら戻ってくる少年を見て、ああ負けたんだなと思いながら、自分の試合時間が来たとスタッフの合図と共にフィールドに入場、大歓声に包まれた。

 

『さあ! いよいよ5回戦最後の試合です! 対戦するのは赤サイド、キレイナシティのメグミ選手! 緑サイド、マサラタウンのソラタ選手!』

 

 フィールドの選手ゾーンに立つソラタとメグミ選手、メグミはゲームで言う所のミニスカートのような見た目で、髪型もそのままといった感じだ。

 

『この試合に勝てば準々決勝進出が決まります! さて、試合を制し準々決勝へ駒を進めるのはどちらのトレーナーなのか! 5回戦第8試合開始!!』

「行くわよイワーク!」

「行け、ピジョット!」

『ピジョットとイワーク! 相性はイワークが有利だが、ソラタ選手は相性が良いからと油断出来ないトレーナー、メグミ選手は腕の見せ所です!』

 

 ソラタの1番手はピジョット、メグミはイワークだった。相性で言えばピジョットが不利の盤面、だが実況もソラタが相性の有利だけで勝てるトレーナーではないと、これまでの試合で理解しているらしい。

 

「でも、ポケモンバトルでは相性の優劣は圧倒的なアドバンテージ!! イワーク、“いわなだれ”!!」

「イワァアアア!!」

「回避して“フェザーダンス”!!」

 

 飛来する岩を回避しながら、ピジョットは踊り始めた。その踊りを見ていたイワークはフラフラとしてきて明らかに効果が発揮されているのが見て取れる。

 “フェザーダンス”は相手の物理攻撃力を下げる技、イワークは見た目に反して物理攻撃力が極端に低いポケモンなので、効果は十分過ぎるほどだ。

 

「ならイワーク、“りゅうのいぶき”!!」

 

 メグミもイワークの物理攻撃力が下げられたのを理解して、特殊技に切り替えて来た。ドラゴンタイプの“りゅうのいぶき”は当たれば麻痺する恐れのある技、ここは回避一択だ。

 

「“でんこうせっか”!!」

 

 “りゅうのいぶき”を回避しながら高速でイワークへ接近するピジョットに不味いと思ったのかメグミは直ぐに迎撃指示を出す。

 

「“うちおとす”攻撃よ!」

「甘い! “はがねのつばさ”!!」

 

 岩の弾丸が発射され、ピジョットを撃ち落とそうとしたのだろうが、ピジョットは翼に鋼鉄のエネルギーを纏って迎撃、そのままイワークに突っ込んで“はがねのつばさ”を決めた。

 

「イワーク! ピジョットを捕まえて! “しめつける”!!」

「“でんこうせっか”で回避して、もう一度“はがねのつばさ”だ!」

 

 倒れそうになりながら、イワークが尻尾でピジョットを捕まえようとしたものの、それは“でんこうせっか”で回避され再度“はがねのつばさ”がクリーンヒット、イワークは残念ながら耐えられずに沈んでしまった。

 

「イワーク、戦闘不能!」

 

 先ずは一体、イワークを倒してメグミの残るポケモンは二体だ。彼女の持っているポケモンでピジョットに対抗するとしたら、考えられるのは2体だろう。

 

「行って、マルマイン!」

「マルルルル!!」

 

 予想通り、電気タイプのマルマインで来た。注意しなければならないのは、マルマインの特性が“せいでんき”の可能性、下手に物理攻撃をした場合は麻痺状態になる危険性がある。

 

『メグミ選手の2番手はマルマイン! 下手に触ると爆発する恐れのあるポケモンだ! ピジョットとソラタ選手、どう攻めるのか!!』

「マルマイン! “チャージビーム”!!」

「“でんこうせっか”!!」

 

 マルマインが放った電撃のビームを回避したピジョットは、ソラタの意図を察しているのか旋回しながらマルマインと一定の距離を保つ。

 

「避けてばかりでは勝てないわよ! “ほうでん”!!」

 

 今度は点の攻撃ではなく面での攻撃に切り替えてきた。これは回避するのも容易ではないので、流石にピジョットもアウトかと思われた。

 しかし、そう簡単にやられる程、ソラタは未熟ではないし、生まれて初めてゲットしてから暫く一緒に旅をしていたピジョットも軟ではない。

 

「練習の成果だ! “フェザーダンス”を踊りながら“エアスラッシュ”だ!!」

「な、何をっ!?」

『な、なんとぉおおお!! ピジョット、“フェザーダンス”で踊りながら“エアスラッシュ”を放って“ほうでん”を防御! 更に踊りの激しさからか、凄まじい数の空気の刃が電撃をすり抜けてマルマインに襲い掛かるー!!』

 

 これもまた、一つのカウンターシールドだ。“フェザーダンス”で激しく踊りながら同時に“エアスラッシュ”を全方位に放つ事で相手の攻撃を防御しつつ攻撃する。

 ソラタがピジョットに仕込んだ対電気攻撃用のカウンターシールドは間違いなくマルマイン相手に有効だった。

 

「クッ! こうなったらマルマイン! “でんじふゆう”!!」

 

 すると、メグミの指示でマルマインが電磁力で宙に浮かび、空気の刃が襲ってくるのも構わずピジョットに突っ込んで来た。

 

「っ! “でんこうせっか”で逃げろ!!」

「遅いわ! “だいばくはつ”!!」

 

 まさかの、後が無くなるというのにメグミはマルマインに“だいばくはつ”を指示。恐らくカウンターシールドを破る手段が思い浮かばなかったが故の苦肉の策なのだろう。

 メグミとマルマインの意図を察したソラタも慌てて回避を指示したが、残念ながらマルマインの爆発にピジョットは巻き込まれて爆炎の中に消えた。

 

『マルマインの“だいばくはつ”炸裂!! ピジョットも爆発に巻き込まれてしまったが、無事なのかー!?』

 

 すると、煙の中からピジョットが飛び出してきた。

 その大きな翼を鋼のエネルギーで覆い、全身を包むように閉じている姿を見るに、咄嗟に自分の判断で“はがねのつばさ”を発動し、鋼と化した翼で全身を覆う事で鎧のようにしたのだろう。

 勿論、だからといって全くのノーダメージとはいかず、地面に降り立ったピジョットは肩で息をしている。

 

『ピジョット無事です! 咄嗟に“はがねのつばさ”を鎧代わりにして防御するという機転を利かせて何とか無事でした!』

「マルマイン、戦闘不能!」

 

 マルマインをモンスターボールに戻したメグミは最後のポケモンが入ったボールを取り出して、ピジョットの状態を見た。

 辛うじて“だいばくはつ”を防御したものの、ダメージは甚大、立っているのがやっとという状態なのは明白。

 

「頼むわよ、ベロリンガ!!」

 

 メグミの最後のポケモンはベロリンガだった。ノーマルタイプのポケモンで、格闘タイプの技でなければ弱点を突けない厄介なポケモンだ。

 

「ピジョット、頑張れるか?」

「ピジョ……ピジョッ!」

 

 体力も残り少ないピジョットでは、恐らくベロリンガには勝てないだろう。だが、簡単に負けるつもりは無い。

 少しでも良い状態で後に続くポケモンに託すのが、今のピジョットの役目だ。

 

「ベロリンガ! “まきつく”攻撃!」

「ピジョット! “でんこうせっか”!!」

 

 ベロリンガが舌を伸ばしてピジョットを捕らえようとしたが、残る体力を振り絞って“でんこうせっか”を使ったピジョットは何とか回避して距離を取る。

 

「“フェザーダンス”!!」

 

 ベロリンガの物理攻撃力を大きく下げたピジョットは、踊った事で息が切れたのか力無く地面に落下、その隙にベロリンガの舌が巻き付いて捕らえられてしまった。

 

「“10まんボルト”!!」

「ベェロォオオ!」

「ピジョォオオ!!」

 

 ベロリンガの舌が巻き付いたままの状態で“10まんボルト”が炸裂、逃げる事も出来ないピジョットはそれで戦闘不能になってしまった。

 

「ピジョット、戦闘不能!」

 

 残念ながらダメージを与えられなかったものの、物理攻撃力を大きく下げる働きをしたピジョットを労いながらボールに戻したソラタは、次のポケモンが入ったモンスターボールを投げる。

 

「出番だ、ニドクイン!」

 

 ソラタの2番手はニドクイン、サブメンバーの中ではピジョットに次ぐ実力を持つポケモンで、ソラタもニドクインには一定の信頼があった。

 しかも、ニドクインは地面タイプを持っているので、ベロリンガの技を一つ封じた形になる。

 

「ベロリンガ! “れいとうビーム”!」

「“ストーンエッジ”!!」

 

 やはり弱点を突いてきた。しかも、物理攻撃力が下がっている上に、“どくのとげ”を持つニドクインに対して特殊攻撃の“れいとうビーム”を使ってくる辺り、やはり決勝リーグに出場するトレーナーなだけはある。

 だが、“れいとうビーム”は“ストーンエッジ”によって阻まれ、突き出してきた岩の刃を凍らせるだけに終わった。

 

「ニドクイン! 連続で“ストーンエッジ”!!」

「避けてベロリンガ!」

 

 無数の岩の刃が突き出してベロリンガに襲い掛かった。回避して何とかノーダメージで切り抜けようとしたベロリンガだったが、ふと自分の周囲が岩の刃に囲われている事に気が付く。

 

「ベロリンガ!! “あまごい”!」

「今だ! “きあいだま”!!」

 

 格闘タイプの大技が逃げ場の無いベロリンガに直撃、効果は抜群だった。更にトドメを刺そうと再び“きあいだま”を指示したソラタだったが、メグミも諦めてはいない。今、フィールドにはベロリンガの“あまごい”によって雨が降っているのだから。

 

「ベロリンガ、“れいとうビーム”!!」

「ニドクイン! 避けろ!」

 

 辛うじて“れいとうビーム”を避けたニドクインだったが、ニドクインを含めてフィールド全体は今、雨で濡れているのだ。

 避けられて地面に当たった“れいとうビーム”を中心に地面が凍っていき、全身が濡れていたニドクインもそれに巻き込まれて氷に包まれてしまった。

 

『これは上手い! “あまごい”で濡れていたニドクイン、辛うじて回避した“れいとうビーム”が思いも拠らない所から影響を及ぼし、全身氷漬けになってしまったぁ!!』

「これで、ニドクインも戦闘不能ね」

 

 凍った状態で、戦闘続行不能のまま一定時間が経過すればポケモンリーグの公式ルール上、戦闘不能扱いになる。

 メグミはベロリンガの勝利を確信してか、腰に手を当てて得意気な態度だ。

 

「……そうだな、普通はそう思うだろうけど。悪いが凍ってても戦う手段はある!! ニドクイン! “ねっさのだいち”!!」

 

 すると、ニドクインを覆っていた氷が白い蒸気を発して溶け始めた。同時に周囲の地面が高温に熱されて赤く染まっていく。

 

「! ベロリンガ! もう一度“れいとうビーム”!」

 

 危険を察して再びベロリンガに“れいとうビーム”を指示し、ベロリンガもそれに従って“れいとうビーム”を放ったが、当たった所から蒸発して白い煙と共にビームが掻き消されてしまった。

 

「やれ!!」

 

 ソラタの合図と共に氷が割れて熱された赤い地面が急激に広がった。ベロリンガの足元にもそれは及んであまりの熱さにベロリンガが飛び跳ねる。

 

「決めるぞニドクイン! “きあいだま”!!」

「ベロリンガ、逃げて!」

 

 残念ながら、メグミの指示は熱がっているベロリンガに届く事は無く、“きあいだま

”の直撃を受けたベロリンガは大きく吹き飛ばされ、メグミの足元まで転がると、目を回してしまうのだった。

 

「べ、ベロ~……」

「ベロリンガ、戦闘不能! よってこの試合、ソラタ選手の勝ち!」

『試合終了!! ピンチを物ともせず、ソラタ選手みごと準々決勝進出を決めました!!』

 

 こうして、5回戦に見事勝利を納めたソラタは、準々決勝へと駒を進めた。次の試合からはポケモン6体を使用するフルバトル、後一勝でライバルのシズホとの試合が待っている。

 ソラタは泣き崩れるメグミに目もくれず、スタジアムを後にした。ただ、目前に迫ったシズホとの戦いの事だけを考えて。




次回は、準々決勝を長々と書くつもりはありません。
早々に終わらせる予定です。



ソラシズ推しの方々、歓喜の回になるかも。


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第53話 「決戦前夜」

準々決勝は面倒なので試合の最後の部分だけです。


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第53話

「決戦前夜」

 

 ポケモンリーグ・セキエイ大会もいよいよ後半戦、準々決勝では既にシズホが勝利を納めて準決勝へ駒を進めている。

 残る試合は準々決勝第4試合、ソラタの試合のみで、今正にその試合が行われている所だった。

 

『さあ、準々決勝第4試合も残すところ僅か! 緑サイドのソラタ選手は現在3体目のポケモンなのに対し、赤サイドのタクミ選手は6体目! タクミ選手、もう後がありません!』

 

 フィールドにはソラタのギャラドスと対戦相手であるタクミ青年のエビワラーの姿があり、バトルは一進一退の激しい様相を見せている。

 

「エビワラー! “こうそくいどう”からの“かみなりパンチ”だ!」

「引き付けろギャラドス! “まもる”!」

 

 高速で移動しながら雷を纏った拳をギャラドスに叩き付けたエビワラーだったが、その拳はギャラドスの前に張られたバリアの様なものに阻まれた。

 

「今だ! “ぼうふう”で天高く吹き飛ばせ!!」

「ギュオァアアア!!!」

 

 至近距離にエビワラーが来たのをチャンスと見たソラタが“ぼうふう”を指示、ギャラドスが自分を巻き込む形で“ぼうふう”を発動すると、エビワラー共々天高く吹き飛ばされてしまう。

 

「エビワラー!!」

『何とソラタ選手! “ぼうふう”でギャラドス共々エビワラーを空へと吹き飛ばしてしまったぁ!! 空中ではエビワラー、何も出来ません!!』

「トドメだ! “ハイドロポンプ”!!」

 

 暴風の中を器用に動いて体勢を整えたギャラドスが空中でもがくエビワラーを発見、その大きな口から放った“ハイドロポンプ”がエビワラーに直撃して地面に叩き付けた。

 

「エビシュ……」

「エビワラー、戦闘不能! よってこの試合、ソラタ選手の勝ち!」

『試合終了!! ソラタ選手、ポケモン4体を残し、タクミ選手に勝利! 準決勝進出決定だー!!』

 

 準々決勝も無事勝利、準決勝へ進出したソラタの次の対戦相手がスクリーンに表示された。

 

『これで明日の準決勝の対戦カードが全て決まった! 第1試合はジュンイチ選手VSサユリ選手! 第2試合はシズホ選手VSソラタ選手に決まりました!』

 

 シズホとソラタの写真がスクリーンに映し出されたのを見て、いよいよ明日なのだと実感が湧いてきた。

 初めて出会ってから今日まで、ずっと決着を望んでいた相手、ポケモンリーグの舞台で戦おうと約束したライバルとの戦いが、いよいよ明日に迫っている。

 

「さて」

 

 もう試合も終わって用事も無くなったソラタは早々にスタジアムを立ち去り、ポケモンセンターでポケモン達の回復を終わらせると、転送装置の所へ行ってポケモンの入れ替えを行う事にした。

 実はオーキド博士が大会を見に来ているらしいので、直接オーキド博士に送ってもらう訳ではないが、いつでも転送可能な状態にしてくれている。

 

「明日はベストメンバーで挑むべきだな」

 

 早速ソラタは手持ちのニドクイン、フーディン、ピジョットをオーキド研究所へ送り、逆にオーキド研究所へ預けていたピカチュウ、ガバイト、キレイハナをこちらへ転送する事で、明日の決勝戦に備えた。

 

「さてと、何処で飯食うか」

 

 明日の準備が全て整った所で空腹を感じたソラタは選手村のレストランに向かって歩き出した。

 選手村を歩いていると、準決勝進出選手の一人になったからか、有名になったソラタは周囲からの視線を感じている。

 

「なんか落ち着かない」

 

 どうしたものかと思っていると、後ろから肩を叩かれて振り向くと、そこには見慣れた顔があった。

 

「シズホ……」

「こんばんはソラタさん、お夕飯ご一緒しても?」

「勿論」

 

 シズホも明日の試合の準備を終えたとかで、夕飯を食べに来たらしい。

 二人並んでレストランに向かっていると、周囲の視線がより一層集まっているのを感じつつ、二人は目に留まったレストランに入り、ウエイトレスに案内された席に座って注文を済ませた。

 

「お互い、有名になっちゃいましたね」

「だなぁ……選手村を歩くと注目されっ放しだ」

 

 料理を待つ間、互いに周囲の視線についての愚痴を零し合いながら、準決勝第1試合を戦う二人の選手についての話になった。

 

「ソラタさんはジュンイチ選手とサユリ選手、どちらが勝つとお考えですか?」

「ジュンイチ選手だろう。正直、サユリ選手がここまで勝ち進んで来れたのは偶然みたいなものだ」

 

 正直、よく決勝リーグまで来れたものだと思う程度の実力だとソラタもシズホも判断している。

 準々決勝もヒロシ少年が手持ちのポケモンをバタフリー以外は進化させていないポケモンで構成されていたから勝てたようなもの。

 恐らく初期サトシやヒロシ少年には勝てる程度の実力でしかない。逆にジュンイチ選手は二人共通の見解では強い。間違いなく今大会トップクラスの実力だと見ている。

 

「どこでゲットしたのか、エース級のプテラが強敵だもんなぁジュンイチ選手は」

「プテラ以外も強いですもんね、ラプラスにブーバー、レアコイル、ナッシー、ピクシー」

「サユリ選手に勝てる要素無いな」

 

 普通に強いパーティーなのだ、ジュンイチ選手の手持ちは。しかも、まだまだ発展の余地があるのが恐ろしい。

 

「ブーバーをブーバーンに、レアコイルをジバコイルにして、プテラでメガシンカ、これだけの余地が残っているって考えると、恐ろしい」

「ガラル地方ならラプラスですとキョダイマックスもありますよね」

「カントーリーグで良かったな」

「ええ、本当に」

 

 因みに、ジュンイチ選手のナッシーは普通のナッシーであって、アローラのナッシーではない。

 

「お待たせしました、煮込みハンバーグセットと和風パスタです」

 

 丁度食事が届いたので話は中断、腹を満たす事にした二人は食事を始めた。時々雑談を挟みつつ楽しく会話をする二人の姿は、とてもではないが翌日戦うのだとは思えない光景だった。

 

 

 食事を終えて選手村のコテージエリアに帰って来たソラタとシズホは、すっかり星が輝く夜空となった空を見上げて、そのまま自分達のコテージには戻らず近くの湖まで来ていた。

 湖の畔に並んで腰かけた二人は、そのまま星空を写す湖の湖面を見つめながら、特に会話も無く、静かな時間を過ごしている。

 

「ついに、ここまで来たんだな」

「はい……」

 

 言うまでもない。決着をつける時、その舞台にだ。

 

「出会ってから、それほど回数会ったわけじゃないけどさ」

「?」

「シズホと俺は、長い付き合いになるって、会う度に思ってたんだ」

「そう、ですね……私も同じです」

 

 きっと、翌日の試合でどちらかが勝っても、まだまだ二人の戦いは終わらない。次も、その次も、前よりもっと強くなって繰り返し戦う事になるのだろう。

 ソラタとシズホ、出会った時から互いを唯一無二のライバルだと意識し合う二人、だからこそ思うのだ……明日の試合だけで終わらせたくないと。

 

「終わらせたくないけど」

「戦うからには全力で、です」

 

 互いに顔を見るわけでも無く、ただ真っ直ぐ湖面に映る星を眺めながら、自然と二人の闘志が、気迫が、オーラが強くなった。

 

「明日の試合、全力でもって君に勝ちに行く」

「私もです……全ての力を出し切ってでも、必ずあなたに勝ちます」

 

 今度はお互いに向き合い、拳と拳を合わせた。明日の試合、互いに悔いの残らない全力のバトルをする、その誓いを込めて。

 すると、二人に降り注ぐように銀色の光が空から降り注ぐ。何事かと空を見上げて、そして驚いた。

 

「うそ、だろ……?」

「あれは……」

 

 竜翼に近い全身は丸みを帯び、銀色にも見えそうな大きな白い翼と、同色の身体に腹部だけ薄い青、背中の無数の青いフィン、ドラゴンを思わせる鋭い眼光、間違いない。

 

「「ルギア……」」

 

 ジョウト地方の伝説のポケモン、海の神とも伝えられるルギアが、まるで二人の誓いを祝福するように銀色の粒子を降らせながら飛び去って行った。

 

「なんで、ルギアが……?」

「わかりません……もしかしたら、偶然近くを飛んでいたルギアが、私達の誓いを聞いて気が向いたのかもしれませんね」

「でもルギアって海の中にいるんだよな?」

「生息しているのは海ですけど、大昔は海以外の場所でも姿を表したそうです」

 

 それがジョウト地方のエンジュシティやコガネシティなのだとか。

 

「まぁ、何にしても……ルギアにまで祝福されたんだ、余計に無様な試合は出来ないな」

「はい、祝福してくれたルギアに恥じない試合をしましょう」

 

 ふと、ソラタの脳裏にはアニメのポケモンでサトシが旅立ちの日や、物語の分岐点にホウオウが姿を表していたのを思い出した。

 もしかしたら、サトシがホウオウだから、自分にはルギアが姿を見せたのかもしれないなんていうのは、都合の良い考えなのだろうか。

 そんな事を思いながら、ソラタとシズホは眠くなるギリギリまでルギアが飛び去って行った空を見つめながら語り合うのだった。




次回はいよいよ準決勝! ソラタVSシズホの開幕!!


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第54話 「準決勝、ライバル対決」

ようやく、ソラタとシズホの全力バトルの回です。


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第54話

「準決勝、ライバル対決」

 

 ポケモンリーグ・セキエイ大会もいよいよ終盤に差し掛かった。準決勝、第1試合が終わり、会場の誰もが予想した通りジュンイチ選手が勝利して決勝進出を決めると、待ちに待った第2試合の時間となる。

 既にフィールドには待ちきれなかったのかソラタとシズホがトレーナーゾーンに立って試合開始時間を待っており、観客も固唾を飲んで見守っていた。

 

『さあ、いよいよ準決勝第2試合の開始時間となりました! 赤サイド、ワカバタウンのシズホ選手と緑サイド、マサラタウンのソラタ選手、両者既にフィールドにスタンバイして、気合も準備も万全の様子! この試合に勝利して決勝戦へと駒を進めるのは、いったいどちらのトレーナーなのか! 準決勝第2試合開始!!』

「行くぞ、ギャラドス!!」

「行きますよ、ハッサム!!」

 

 ソラタの1番手はメインパーティーの突撃隊長ギャラドス、シズホは嘗てキレイハナとバトルをしたストライクの進化系であるハッサムだった。

 

『おおっと! シズホ選手、なんとカントーでは珍しいハッサムです! ストライクの進化系、ハッサムを出してきましたぁ!!』

「ギャラドス! シズホ相手に遠慮はいらない!! “アクアテール”だ!!」

「ハッサム! ソラタさんが相手だからこそ全力で行きますよ!! “バレットパンチ”です!!」

 

 ギャラドスの水を纏った尻尾とハッサムの鋼の閉じられたハサミが激突して、激しい衝撃波が発生した。

 両者、力は互角なのか拮抗した状態で静止し、しかしどちらとも力を込めて相手を押し返そうとしている。

 

「“ハイドロポンプ”!!」

「“かげぶんしん”!!」

 

 ギャラドスが即座に放った“ハイドロポンプ”を、ハッサムは“かげぶんしん”で分身して回避、分身体が掻き消されるも、直ぐに無数のハッサムがギャラドスを囲んだ。

 

「“エアスラッシュ”です!」

「自分の周りに“ぼうふう”だ!」

 

 ギャラドスを取り囲んだハッサムから放たれる空気の刃、回避不能のそれをギャラドスは自身の周囲に“ぼうふう”を発生させて防御、それどころか空気の刃だけでなくハッサムを分身体ごと巻き込んだ。

 

「飛べギャラドス!」

 

 ハッサムが“ぼうふう”に巻き上げられ宙を舞った所を狙ってギャラドスが飛び上がると、再び尾に水を纏わせる。

 

「“アクアテール”!」

「防御!」

 

 ギャラドスの“アクアテール”がハッサムに命中、直前に両手をクロスしてガードされたが、それでも威力を殺す事は出来ず地面に叩き付けられた。

 

「ハッサム!」

『これは強烈! ハッサム、咄嗟に防御しましたが、成す術なく地面に叩き付けられたぁ!』

 

 これで決まったかと、思われたが、ハッサムは土煙から飛び出してダメージこそあるものの、まだまだ戦えると両腕のハサミを構えて見せた。

 だが、今の攻防だけでシズホはハッサムではギャラドスを倒すのは難しいと判断して、手を変える事を考える。

 

「仕方ありませんね……ハッサム! “とんぼがえり”!!」

 

 すると、ハッサムは一直線にギャラドスへ向けて飛び上がり、その閉じたハサミによるパンチを叩き込むと、シズホの腰のモンスターボールへ自動で戻って、同時に別のボールからポケモンが出て来た。

 

「エレッブー!!」

『なんとここでハッサム、“とんぼがえり”でダメージを与えつつボールに戻り、代わりにエレブーが出て来た! ギャラドス、相性の悪いエレブーを相手に、どう戦うつもりなのか!!』

 

 大会ルール上、バトル中のポケモンの交代は認められていないが、例外がある。それが“とんぼがえり”などの技の効果で自動的に手持ちのポケモンと入れ替わる場合だ。

 “とんぼがえり”の他にも使用する事で自動的に手持ちのポケモンとバトル中に入れ替わる技がいくつかあり、それによる交代だけは認められている。

 

「エレブー! “10まんボルト”です!」

「エェレッブーーー!!!」

「“りゅうのはどう”!!」

 

 “10まんボルト”と“りゅうのはどう”がぶつかり、フィールドの中央で爆発。いや、若干だが“りゅうのはどう”が押し負けていた。

 やはりタイプ一致の技とタイプ不一致の技では、タイプ一致の方が威力が上になるのも仕方がないか。

 

「ギャラドス、エレブーを近づけるな! “ぼうふう”だ!」

「ギュオアアア!!」

「“ひかりのかべ”!」

 

 ギャラドスが発生させた“ぼうふう”だったが、エレブーが“ひかりのかべ”で防御、壁の向こうのエレブーには風の暴威が及ばない。それどころか、シズホは驚きの指示を出した。

 

「エレブー! “ひかりのかべ”を足場に!」

 

 何と、エレブーは“ひかりのかべ”を器用に水平にいくつも展開すると、それを足場に飛び移りながらギャラドスに接近してくる。

 

「迎撃しろ! “アクアテール”!!」

「“10まんボルト”!!」

 

 ギャラドスの“アクアテール”が迫りくるエレブーの腹に直撃した。

 だが、なんとエレブーは足場にした“ひかりのかべ”の上で踏ん張り、少し後退したものの耐えきってギャラドスの尾を掴むと、そのまま“10まんボルト”を使用、掴まれて逃げられないギャラドスはまともに“10まんボルト”の電撃を受けてしまう。

 

「耐えろギャラドス! “りゅうのはどう”だ!!」

 

 ギャラドスは電撃を受けながらも口をエレブーに向けて“りゅうのはどう”を放つ。至近距離からの“りゅうのはどう”を受けたエレブーも流石に耐え切れず吹き飛ばされたが、器用に着地、逆にギャラドスは力尽きたのか目を回して倒れてしまった。

 

「ギャラドス、戦闘不能!」

「ギャラドス……」

『見事! アクアテールを気合で耐えたエレブーの“10まんボルト”がギャラドスをノックアウトだ!』

 

 実況の声を聞きながらギャラドスをプレミアボールに戻したソラタは、腰のホルダーに戻して次のボールを取った。

 次のポケモンを出す前に、エレブーと、その向こうにいるシズホを見て、やはり強い、面白いと、ポケモンリーグに参加して初めてと言って良い程の高揚感を感じながら、手に持ったモンスターボールを投げる。

 

「行け、ガバイト!!」

「ガッバァ!!」

『な、なんとぉ!! ソラタ選手の2番手はカントーには生息していないガバイトだぁ!!』

 

 ソラタの2番手、地面タイプを持つガバイトならばエレブー相手に電気技を封じる事が出来る。

 しかし、それでも油断出来ないのはエレブーがまだ技を2つしか使用していないからだろう。エレブーはタイプ不一致になるとはいえどガバイトの弱点となる技を使えるのだから。

 

「ガバイト、初手から飛ばして行くぞ! “ストーンエッジ”!!」

「ガバァ!」

「回避です!」

 

 “ストーンエッジ”を横にジャンプして回避したエレブーは拳を構えてガバイトへ向かって走り出した。

 やはり、ソラタの思った通りの戦術で来るかと、すぐさまソラタはガバイトに指示を出す。

 

「“れいとうパンチ”!」

「“じしん”!!」

 

 冷気を纏った拳を構えて迫りくるエレブーに対して、ガバイトは大きく足を振り上げて、地面に勢いよく降り下ろす。

 発生した衝撃波が走るエレブーに向かい、勢いに乗っていたエレブーは回避する事も出来ずに衝撃波の直撃を受けてしまった。

 

「エレブー!」

「畳み掛けるぞ! もう一度“じしん”だ!」

 

 再び、ガバイトが足を降り下ろせば、衝撃波が再度発生して転んだエレブーに直撃、だが今度はエレブーも唯ではやられない。

 

「“はかいこうせん”です!」

「させるな! “ストーンエッジ”!」

 

 エレブーの“はかいこうせん”とガバイトの“ストーンエッジ”が放たれたのは同時だった。

 エレブーが放った“はかいこうせん”は次々と突き出してくる“ストーンエッジ”を破壊しながらガバイトに迫り、最後の一つを突き破るとガバイトに直撃する。

 

『“はかいこうせん”直撃ぃ!! ガバイトはどうなった!?』

 

 “はかいこうせん”によって発生した煙に飲み込まれたガバイトだったが、その煙が晴れるとダメージこそあるものの、何事もなく立っている。

 どうやら“ストーンエッジ”によって“はかいこうせん”の威力が殺された事でガバイトはダメージが少なく済んだらしい。

 そして、その姿を見て限界を迎えたのか、エレブーは今度こそ倒れて目を回してしまうのだった。

 

「エレ、ブ……」

「エレブー、戦闘不能!」

『エレブー、限界を迎えてダウン! これでシズホ選手も残るポケモンは5体! まだまだ互角の勝負が続く!』

 

 シズホは倒れているエレブーをモンスターボールに戻すと、次のボールを取り出した。しかも、取り出したボールは普通のモンスターボールではない。

 

「ヘビーボール?」

「流石はソラタさん、ジョウトでしか手に入らない特別なボールも御存知でしたか」

 

 そう、シズホが取り出したのはモンスターボールではなく、ヘビーボールと呼ばれる特別なボールだった。

 ヘビーボールはジョウト地方に住むガンテツというモンスターボール職人が“ぼんぐり”という特殊な木の実から作るボールで、一般的には出回っていない為、カントーでは知名度が低いボールなのだ。

 

「では、行きますよ! バンギラス!!」

「バッギャアアア!!!」

 

 シズホの次のポケモンはバンギラスだった。

 ゲームで言うところの600族の一体、ガバイトの進化系であるガブリアスも同じく600族だが、まだ進化していないガバイトに対して、バンギラスは最終進化系、相性は決して悪くないものの、大変な戦いになりそうだった。




次回もソラタとシズホの試合、続きです。


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第55話 「熾烈なバトル」

準決勝、続きです。


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第55話

「熾烈なバトル」

 

 ポケモンリーグ・セキエイ大会準決勝戦、ソラタの対戦相手は唯一無二のライバル、シズホだった。

 初戦からバトルは激しいぶつかり合いで、ソラタは1体目のギャラドスを失うも2体目のガバイトでエレブーを撃破、互いに残るポケモンは5体という状況で、シズホが次に繰り出したポケモンはバンギラス。

 特性“すなおこし”によって砂嵐が巻き起こる中、強敵を前にソラタとガバイトは闘志を剥き出しにして挑む。

 

「ガバイト、“メタルクロー”だ!」

「バンギラス、“れいとうパンチ”です!」

 

 ガバイトの鋼と化した爪とバンギラスの冷気を纏った拳がぶつかった。だが、明らかな体格の違いを理解しているガバイトはぶつかった瞬間には腕を引っ込めて少しだけ距離を取り、走り回ってはまた爪を叩き込む。

 力では勝てないと察したガバイトが独自の判断でヒットアンドアウェイ戦法を取った訳なのだが、バンギラスは巨体に似合わぬ反射神経でガバイトの素早い攻撃を“れいとうパンチ”で迎撃、両者共に攻めあぐねる状況となった。

 

『これは凄い! ガバイトの猛烈なラッシュにバンギラス、一歩も引かず迎え撃っている! 見た目に反した技とスピードの勝負、先に集中力を切らした方が手痛い一撃を受ける事になるぞ!!』

「だったら、一気に勝負に出るぞ! ガバイト! 距離を取れ!!」

 

 ソラタの指示と共にガバイトは鋼の爪をバンギラスの冷気を纏った拳にぶつけてから後ろへ大きくジャンプして距離を取った。

 

「“じしん”!!」

 

 着地したガバイトが足を振り上げ、思いっきり降り下ろすと衝撃波が発生してバンギラスへ迫った。

 だが、バンギラスは冷静に迫りくる衝撃波を見つめながら片足を振り上げ、その筋肉を大きく膨らませる。

 

「“じしん”です!」

 

 降り下ろされたバンギラスの足を中心に衝撃波が発生して、ガバイトの“じしん”の衝撃波と衝突、そのまま掻き消してガバイトへ迫り、そのまま直撃してしまった。

 

「ガバイト!!」

 

 バンギラスは元々物理攻撃力の高いポケモンであり、そもそも最終進化をしている事もあってガバイトより素の攻撃力が高い。

 物理攻撃技の“じしん”もタイプ不一致とは言えバンギラスの方が威力が高いのも無理は無いだろう。

 

「今です! “あくのはどう”!!」

「バッギャアアア!!!」

 

 バンギラスの口から黒いエネルギー波が発射され、“じしん”の直撃によって倒れていたガバイトに襲い掛かった。

 この直撃を受けるのは不味い、そう判断したソラタはガバイトの切り札を一つ切る選択を取る。

 

「天空に舞え、ガバイト!」

 

 嘗て一度だけ勝負をしたシンオウチャンピオン、シロナの台詞でガバイトに指示すると、素早く起き上がったガバイトは起き上がる勢いのまま飛び上がって“あくのはどう”を回避した。

 

『ガバイト、ギリギリで“あくのはどう”を回避!! だが、逃げ場を間違えたかぁ!?』

 

 そう、宙に浮かぶガバイトに逃げ場は無い。シズホは再びバンギラスに“あくのはどう”を指示すると、バンギラスは宙に浮かぶガバイト目掛けて黒いエネルギー波を放つ。

 

「お前の母親の得意技だ! 行くぞガバイト! “ドラゴンダイブ”!!」

 

 ガバイトは迫る“あくのはどう”に対して全身にドラゴンのオーラを纏って一気に急降下、“あくのはどう”を真正面から受け止めながらバンギラスへ向けて突撃する。

 

「迎え撃って下さい! “れいとうパンチ”!!」

「“ドラゴンダイブ”を維持したまま“メタルクロー”だ!」

 

 突撃してきたガバイトに冷気を纏った拳を叩き込むバンギラスに対し、ガバイトも全身に纏ったドラゴンのオーラをそのままに両手の爪に鋼のエネルギーを宿して迎え撃った。

 落下の勢いと“ドラゴンダイブ”の威力を乗せた“メタルクロー”は先ほどまでとは違いバンギラスの“れいとうパンチ”と拮抗、バンギラスは足元の地面を罅割れさせながら踏ん張ってガバイトを押し返そうとする。

 

「バンギラス! そのまま“あくのはどう”です!」

「ガバイト! “ドラゴンダイブ”! オーラを強くするんだ!!」

 

 バンギラスが至近距離から“あくのはどう”を放った。流石に回避は不可能と悟ったソラタの指示によってガバイトは纏っていたドラゴンのオーラを更に強くして“あくのはどう”に耐える。

 だが、何度も放たれる“あくのはどう”は間違いなくガバイトの体力を削り、ドラゴンのオーラが少しずつだが小さくなってきた。

 

「バンギラス! 後退しながら“ストーンエッジ”!!」

 

 すると、バンギラスが急に力を抜いて後退した為にガバイトはバランスを崩して、次の瞬間地面から突き出した“ストーンエッジ”が鳩尾に直撃した。

 

「ガッバハァ……」

「“れいとうパンチ”!!」

『ガバイト、“ストーンエッジ”がクリーンヒット!! そこに“れいとうパンチ”が叩き込まれて吹き飛ぶ! 効果は抜群だぁ!!』

「っ! まだだ!!」

 

 流石にダメージを受け過ぎている。これはもうガバイトは戦闘不能かと誰もが思ったが、ガバイトは耐えきった。

 バク転の要領で着地して、片膝を着いて息を荒げながらも、その鋭い眼光でバンギラスを睨み続けている。

 

「ガバイト」

「ガバッ!」

「ああ、まだまだ勝負は終わってない!! 天空に舞え!!」

「ガッバァ!!」

『何とガバイト、再び宙に舞ったぁ!』

 

 先ほど以上に大きく飛び上がったガバイトは、その全身に再びドラゴンのオーラを纏って眼下のバンギラスを睨むと、咆哮した。

 

「ガバァアアア!!!」

「“ドラゴンダイブ”だ……」

 

 ソラタが右手を大きく振り上げると、ガバイトも突撃の構えを取って、そしてドラゴンのオーラを纏った全身を光が包み込んだ。

 

「ガブリアス!!!」

『こ、これは! 進化の光だぁ!!!』

 

 光に包まれながら突撃、その中で姿を変えたガバイトは……ガブリアスとなってバンギラスに突っ込んだ。

 

「バンギラス! “れいとうパンチ”!!」

 

 バンギラスは迫り来るガブリアスを“れいとうパンチ”で迎え撃ち、二体の技がぶつかった瞬間に爆発、その姿は煙の中に消えた。

 しかし、直ぐに煙の中から飛び出す影があった。そのサメのようなシルエットは……ガブリアスだ。

 

「ガブ!」

『ガブリアス、無事です! ダメージはありますが、まだ健在!! バンギラスはどうなったぁ!?』

 

 未だ煙の中から出て来ないバンギラスだったが、やがて煙が晴れると、目を回して倒れているバンギラスの姿が見えた。

 

「バンギラス、戦闘不能!」

『見事! 土壇場でガバイトから進化を果たして強敵バンギラスを下したガブリアス! これでシズホ選手、残るポケモンは4体! 逆転を許してしまったぁ!!』

「戻って下さい、バンギラス……お疲れ様でした、よく頑張りましたね」

 

 戦闘不能となったバンギラスをヘビーボールに戻したシズホは腰のホルダーに戻して次のモンスターボールを取り出した。

 まさかのガバイトからガブリアスへの進化には驚かされたが、それでもバンギラス戦のダメージが蓄積している今のガブリアスなら、次のポケモンでも十分に勝てる、そう判断したシズホの次のポケモンは……。

 

「行きますよ、キングドラ!!」

『シズホ選手の次のポケモンはシードラの進化系、キングドラだぁ! 水タイプにドラゴンタイプも追加されたキングドラ、ガブリアス相手に相性では有利だ!!』

 

 シズホの4体目は嘗てギャラドスと戦ったキングドラだった。あの時は進化させたばかりで調整中だったから簡単に負けてしまったが、あれからしっかり調整をして修行を経た今のキングドラは、簡単に倒せる相手ではない。

 

「キングドラ! “れいとうビーム”!」

「“ストーンエッジ”だ!」

 

 キングドラが放った“れいとうビーム”はガブリアスの“ストーンエッジ”に阻まれて届かない。

 逆に迫って来た岩の刃を回避しながらキングドラはシズホへ視線を向けて頷く。

 

「“あまごい”!」

「ドゥラ!」

 

 シズホが“あまごい”を指示、すると上空に雨雲が発生してフィールドに雨が降り出した。

 雨降り状態になったフィールドでは、キングドラの動きが先ほどよりも速くなり、ガブリアスが急な速度変化に戸惑っている。

 

「やはり“すいすい”か……ガブリアス! キングドラの動きをよく見るんだ!」

「ガァブ!」

「キングドラ! “ウェーブタックル”!!」

「天空に舞えガブリアス! “ドラゴンダイブ”!!」

 

 キングドラが水を纏って突撃、特性“すいすい”によって速度も水タイプの技の威力も上がったタイプ一致の大技“ウェーブタックル”を真正面から受けるのは危険と判断し、上空へガブリアスを逃がす事で回避、逆に“ドラゴンダイブ”による突撃を指示する。

 

「待ってました……っ!」

「……っ!? 不味い! 攻撃キャンセル! 避けろ!!」

「遅いですよ! “りゅうせいぐん”!!」

 

 ガブリアスはガバイトの時とは違い空中でもある程度動く事が出来る。だが、流石にその更に上空から降り注ぐ“りゅうせいぐん”を全て回避するのは不可能だった。

 

『キングドラの“りゅうせいぐん”炸裂! ガブリアス、これは逃げられない!!』

 

 “ドラゴンダイブ”をキャンセルして逃げようとしたガブリアスだったが、少し遅かった。

 キングドラが上空へ放った光が弾けて無数の光が降り注ぎ、ガブリアスに直撃、そのまま地面へと叩き付けられてしまう。

 

「ガブリアス!」

「ガ、ブ……」

「ガブリアス、戦闘不能!」

 

 バンギラス戦のダメージが残っている所に効果抜群のドラゴン技、それもドラゴン技の奥義“りゅうせいぐん”を耐える事は不可能だった。

 目を回して倒れるガブリアスをボールに戻したソラタも、これで残るポケモンは4体。逆転したかに思われた状況も、再びリセットされてしまった状態だ。

 

『何と言う熾烈なバトルの連続! どちらも一進一退、準決勝戦に相応しい熱い試合が展開されています! さあ、ソラタ選手の次のポケモンは! キングドラ相手、どう挑むのか!!』

 

 水・ドラゴンの複合タイプのキングドラを相手にするのであれば、正攻法ならフェアリータイプのニンフィアが一番良い。

 だが、この後に控えるポケモンを考えると、今ニンフィアを出すのは時期尚早……ならばここで選択するべきは。

 

「行け、ピカチュウ!!」

 

 ソラタが腰のホルダーから取り出したモンスターボールを投げると、3番手のピカチュウが姿を現した。

 ドラゴンタイプを持つキングドラはシードラの時とは違い電気技は等倍ダメージ、だが“あまごい”を使った事で雨降り状態の今ならばピカチュウが一番最適なポケモンだと判断したのだ。

 

「一気に攻めるぞピカチュウ!! “かみなり”だ!!」




次回も準決勝、フルバトルは長いっスわ。


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第56話 「戦いは更に熱くなって」

お待たせしました。


ポケットモンスター

転生したのは始めに旅立った子供

 

第56話

「戦いは更に熱くなって」

 

 ポケモンリーグ・セキエイ大会もついに準決勝、その第2試合でソラタはライバルのシズホと熱い激闘を繰り広げていた。

 両者、既に2体のポケモンが戦闘不能となり、4体目のピカチュウとキングドラのバトルは、開幕から雨降り状態でピカチュウの“かみなり”が炸裂する。

 

「ピィカチュ~!!」

「ドゥララララ!?」

 

 雨降り状態での“かみなり”は必中、初手から強力な電気技を受けたキングドラだったが、シズホは冷静にフィールドを見渡しつつ指示を出す。

 

「キングドラ、“ウェーブタックル”!!」

「ドゥラ!」

 

 水を纏ったキングドラが広いフィールドを利用して大きく旋回しつつ移動を開始、特性“すいすい”の効果でスピードが上がった状態の上、“ウェーブタックル”での移動は相当な速度で、普通のポケモンであればキングドラの速度には追い付けないだろう。だが、ソラタのピカチュウはパーティーで2番目の素早さを誇るポケモン、追い付けないわけがない。

 

「“でんこうせっか”!!」

「ピッカ!」

 

 ピカチュウが駆けだす。その速度は普通のピカチュウを大きく上回る速度で、あっという間にキングドラに並んだ。

 

『ソラタ選手のピカチュウ、何と言う速度だ!! 雨降り状態のキングドラに追い付いてしまったぁ!!』

「今だ! “アイアンテール”!」

「チュァアアピッカ!!」

「甘いです! “れいとうビーム”!!」

 

 ピカチュウが鋼のエネルギーを纏った尻尾を叩き付けようとした所を狙い、キングドラが“れいとうビーム”を発射、ピカチュウの尻尾に直撃して、ピカチュウの尻尾が凍ってしまった。

 

「構うな! そのままキングドラに叩き付けろ!」

 

 凍り付いて重くなった尻尾を更に勢いよくキングドラの脳天に叩き付けた。

 重くなった尻尾を遠心力を利用して勢いを増して叩き付けた事でキングドラは脳を大きく揺さぶられてしまう。

 

「ピカチュウ! そのまま“かみなり”だ!」

「キングドラ! “ウェーブタックル”です!」

 

 “かみなり”が直撃したものの、構わずキングドラが水を纏ってピカチュウに突撃、まさかの攻撃に受け身を取れなかったピカチュウが大きく吹き飛ばされた。

 

「“りゅうせいぐん”!!」

「ドゥラ! ドゥゥラッ!」

 

 キングドラがエネルギー弾を上空へ発射、上空で弾けたそれは“りゅうせいぐん”となってフィールドに降り注ぎ、吹き飛ばされて倒れるピカチュウに襲い掛かる。

 

『“りゅうせいぐん”炸裂!! これはピカチュウ、逃げられないか!?』

「“エレキネット”だ!!」

「ピィカピカピカ! チュピッカァ!!」

 

 “りゅうせいぐん”が降り注ぐ中、ピカチュウは自身の真上に“エレキネット”を展開、直撃コースだった“りゅうせいぐん”を受け止めている間にその場から移動して何とか回避に成功した。

 

『上手い! ピカチュウ、“エレキネット”を利用して何とか“りゅうせいぐん”を回避しました!!』

「“でんこうせっか”!!」

「ピッカ!!」

 

 “りゅうせいぐん”を放った事で身動きが取れなくなったキングドラにピカチュウが突撃、その懐へ強烈な体当たりが突き刺さる。

 

「キングドラ!」

「“かみなり”だ!!」

「“れいとうビーム”です!!」

 

 至近距離からの“かみなり”に“れいとうビーム”で対抗、爆発して煙が立ち込める中、ピカチュウもキングドラも動き出した。

 

「“でんこうせっか”!!」

「“ウェーブタックル”!!」

 

 速度はどちらも互角、だがここで天はソラタに味方した。今まで降り続けていた雨が止み、雨雲が晴れてしまったのだ。

 

「しまったっ!?」

『おおっと! ここでまさかの雨が降り止んでしまってキングドラ減速!!』

「今だ!! “アイアンテール”!!」

 

 減速してしまったキングドラを抜いたピカチュウは飛び上がって回転しながら鋼のエネルギーを纏った尻尾を大きく振り回し、遠心力を利用した一撃をキングドラに叩き付けた。

 一瞬の静寂、その後にキングドラがフラフラとその場に倒れ目を回してしまう。

 

「キングドラ、戦闘不能!!」

『ここでキングドラ、力尽きたぁ!! これでシズホ選手、残るポケモンは3体! 再びソラタ選手にリードを許してしまった!!』

 

 何とか勝てたが、ピカチュウもダメージが大きい。次のポケモン次第ではピカチュウでは耐えられない可能性がある。

 そして、シズホもそれを理解していない筈が無い。なら、ここでシズホが出すポケモンを間違える事は無いだろう。

 

「では、行きますよ……エーフィ!」

「フィ!」

『シズホ選手、次のポケモンはイーブイの進化系、エーフィです!』

「やっぱり、そう来るよな……」

 

 バクフーンは最後の切り札、ここで切るとは思えない。ハッサムもピカチュウを相手にするにはイマイチ、ならば間違いなくエーフィで来ると思っていた。

 

「エーフィ、“サイコキネシス”!」

「フィイイイ!!」

「ピカ? ピカッ!?」

 

 開幕いきなり“サイコキネシス”でピカチュウを捕らえたエーフィ、そのまま宙に

浮かべて壁まで吹き飛ばし、壁に激突しても止まらずに地面へ更に叩き付けて来た。

 

「ピカチュウ! “かみなり”で抜け出すんだ!!」

「ピィカチュウウウ!!!」

 

 “サイコキネシス”に捕らわれたままの状態でピカチュウは“かみなり”を使用、エーフィに向けて電撃を放ったが……。

 

「“でんこうせっか”です!」

 

 エーフィも素早さは相当に高いようで“でんこうせっか”で“かみなり”を回避、だがそれで“サイコキネシス”も解けたピカチュウは自由の身となる。

 

「ピカチュウ! こっちも“でんこうせっか”だ!」

「ピッカ!」

 

 素早さは互角、フィールドを駆けまわるピカチュウとエーフィは一定の距離を取りながら走り続け相手の出方を伺っていた。

 

「“シャドーボール”!」

「“アイアンテール”!」

 

 エーフィが放った“シャドーボール”をピカチュウが“アイアンテール”で迎撃、そのままエーフィに叩き込むべく飛び上がったピカチュウは回転しながらエーフィに迫った。

 

「“かげぶんしん”です!!」

「フィ!」

「チュアアア! ピッカ!!」

 

 間一髪、“かげぶんしん”で“アイアンテール”を回避したエーフィは既に次の行動に移っている。

 

「“シャドーボール”!」

「“エレキネット”!!」

 

 “アイアンテール”で罅割れたフィールド、その罅の中央いるピカチュウ目掛けて再び“シャドーボール”を発射したエーフィだが、ピカチュウも“エレキネット”を盾にして防御した。

 

「“かみなり”だ!!」

「“かげぶんしん”!!」

 

 “エレキネット”の影からピカチュウが放った“かみなり”、だがエーフィは“かげぶんしん”で回避しつつ分身でピカチュウを取り囲む。

 

「“シャドーボール”!!」

 

 分身達が一斉に“シャドーボール”を発射、今度は“エレキネット”で防御出来る数ではない。

 

「連続で“アイアンテール”だ!!」

 

 迫り来る無数の“シャドーボール”を“アイアンテール”で全て迎撃したピカチュウだが、しかしそれはエーフィとシズホの次の一手への布石、最早ピカチュウに逃げ場は無い。

 

「“サイコキネシス”です!!」

「フィイイイ!!」

 

 “シャドーボール”を迎撃した隙を突いてエーフィの“サイコキネシス”が再びピカチュウを拘束、再度上空へ浮かび上げそのまま地面へ叩き落とした。

 

「ピカチュウ!!」

 

 地面に叩き付けられたピカチュウは何とか起き上がろうとしたものの、力尽きて目を回しながら倒れてしまった。

 

「チャ~」

「ピカチュウ、戦闘不能!」

『熱い……これは熱い!! 何と言う激闘! 一進一退の熱い激闘が続く!! ソラタ選手、これで残るポケモンはシズホ選手と同じ3体!』

 

 ピカチュウをボールに戻したソラタは直ぐに次のボールを取り出した。シズホの残るポケモンは今、場に出ているエーフィとハッサム、そしておそらくは……。

 ならば出すポケモンは決まっている。次に控えているのがハッサムだと判断し、ソラタが選んだポケモンは。

 

「頼むぞニンフィア!!」

「フィア!!」

『な、何と! ソラタ選手の4番手は、イーブイの進化系のニンフィアだぁ!! カントーでイーブイをニンフィアに進化させるトレーナーが居るとは!! そしてまさかのイーブイの進化系対決!! これは熱い展開だ!!』

 

 ニンフィアとエーフィ、互いにイーブイの進化系であり、そしてソラタとシズホにとって同じ、幼少の頃から家族として共に過ごしたポケモン同士、まだまだ熱いバトルが続く。




長い! ホントにフルバトルは長い!!


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第57話 「家族対決とリベンジマッチ」

お待たせです。


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第57話

「家族対決とリベンジマッチ」

 

 ポケモンリーグ・セキエイ大会準決勝戦、ソラタとシズホの試合もついに折り返し。両者、残るポケモンが3体となった状況で、フィールドに出ているポケモンはニンフィアとエーフィ、どちらもイーブイから進化したポケモンであり、ソラタとシズホにとって幼少の頃から共に家族として過ごしてきた相棒とも呼べるポケモンだ。

 

「エーフィ、“シャドーボール”!!」

「ニンフィア、“でんこうせっか”!!」

 

 開幕、エーフィの放った“シャドーボール”を“でんこうせっか”で回避したニンフィアは、そのままフィールドを駆けまわった。

 通常の“でんこうせっか”よりも速いそれは、ニンフィアの特性“フェアリースキン”によってフェアリータイプの技となった事でタイプ一致技として、威力も速度も上がっている事による影響だ。

 元々、ソラタのパーティ最速を誇っていたニンフィアにタイプ一致の“でんこうせっか”が組み合わされば最早止められる者はいない。

 

「流石に速いですね……なるほど、おそらく“フェアリースキン”ですか。ならエーフィ! “かげぶんしん”からの“でんこうせっか”です!」

「フィ!」

 

 エーフィが“かげぶんしん”で無数の分身を出現させ、本体含め全ての分身が一斉に駆け出す。

 おそらくはニンフィアの行く手を塞ぐ目的なのだろうが、それはソラタも予測済みだ。

 

「跳べ! ニンフィア!!」

 

 無数のエーフィが迫る中、ソラタの指示を受けたニンフィアが大きく跳躍、エーフィ達の頭上を取った。

 

「“ハイパーボイス”!!」

「フィイイイイアアアアアアア!!!!!」

 

 ニインフィアの絶叫が振動となってフィールド全体に叩き付けられた。エーフィも回避不能の一撃に分身が全て掻き消されて、自身も頭上からの圧によって地面へ頭から叩き付けられる。

 

「っ!? なんという威力……!!」

『なんという事でしょう! ニンフィアの“ハイパーボイス”はフィールド全体に影響を与えました! これは普通の“ハイパーボイス”とは違うのか!?』

 

 当然違う。元々がノーマルタイプの技の“ハイパーボイス”は“フェアリースキン”の影響でフェアリータイプの技になっている。

 タイプ一致の状態で放たれた“ハイパーボイス”の威力は、“フェアリースキン”を持たないニンフィアが放つよりも遥かに高いのだ。

 

「畳み掛けろ! “シャドーボール”!!」

「エーフィ! “サイコキネシス”です!」

 

 ニンフィアが地面に着地して直ぐに“シャドーボール”を放つと、何とか起き上がったエーフィが“サイコキネシス”でニンフィアのシャドーボールを操って地面に落とし、逆にそのままニンフィアを拘束した。

 

「そのまま持ち上げて叩き付けて!」

「ニンフィア! あの時と同じだ!」

「フィア!」

 

 “サイコキネシス”で持ち上げられたニンフィアは、そのまま地面に叩き付けられる筈だったが、寸前で“シャドーボール”を自身と地面の間に展開、クッション代わりにして衝撃を殺す事でダメージを最小限にする。

 

「嘘……!?」

『これは上手い! “シャドーボール”をクッションにして衝撃を吸収し、ダメージを抑えた!』

「今だ! “ハイパーボイス”!!」

 

 再度放たれた“ハイパーボイス”がエーフィに直撃、大きく吹き飛ばされたものの、バク転の要領で着地したエーフィはまだ戦える様子、流石はシズホのエーフィと言うべきか、中々タフだった。

 

「“でんこうせっか”です!」

「こっちも“でんこうせっか”だ!」

 

 ニンフィアとエーフィ、同時に駆け出すも、タイプ一致状態のニンフィアの方が速度も威力も上だ。

 真正面からぶつかれば負けるのはエーフィなのはシズホとて理解している筈、何かあると見るべきだろう。

 

「エーフィ! 走りながら“サイコキネシス”を自分に!」

「何を……!?」

 

 何を考えているのか、シズホはエーフィに自身に“サイコキネシス”を掛けさせた。だが、エーフィはそんな指示を困惑する事なく従い、己に“サイコキネシス”を掛ける。

 すると、エーフィの走る速度が大きく上がったではないか。それも、ニンフィアよりも速度が上という異常事態、一体何が起きたのか。

 

「っ! そうか! ニンフィア、回避しろ!」

「遅いです!」

 

 自身に“サイコキネシス”を掛ける事でエーフィの全身にサイコエネルギーが集まって紫色のオーラを纏った状態になり、そのまま“でんこうせっか”でニンフィアに突っ込んだ。

 そのあまりの速度に回避が間に合わなかったニンフィアは直撃を受けて吹き飛ばされてソラタの足元まで転がってくる。

 

「驚いたよ、まさかそんな方法で疑似的な“サイコブースト”にするなんてな」

 

 そう、シズホとエーフィが行ったのは疑似的な“サイコブースト”と呼ばれる技の再現だった。

 エーフィ自身に“サイコキネシス”を使う事でサイコエネルギーを纏い、本来の“サイコブースト”ならサイコエネルギーを飛ばす所を、代わりに“でんこうせっか”で相手にサイコエネルギーごと突っ込む事で疑似的な“サイコブースト”にしたのだ。

 

「ニンフィア、まだ行けるか?」

「フィア」

 

 ニンフィアもエーフィも、互いにダメージが大きい。これは次に大技の直撃を受けた方の負けとなる可能性が高い。

 

「エーフィ、もう一度行きますよ! “でんこうせっか”と“サイコキネシス”!」

 

 再び、エーフィが疑似“サイコブースト”を使うつもりだ。ならば、ここは勝負に出るべきだろう。

 

「行くぞニンフィア! “ハイパーボイス”で迎え撃て!!」

 

 真正面から疑似“サイコブースト”で突っ込んで来たエーフィと、ニンフィアが放った全力の“ハイパーボイス”の衝撃波がぶつかる。

 だが、一瞬の拮抗の後、衝撃波を耐え抜いたエーフィが疑似“サイコブースト”を維持したままニンフィアに迫った。

 

「迎え撃て! “とっておき”!!」

「フィアアア!!」

 

 最後の一撃とばかりに、ニンフィアが全身をピンクのオーラで包み込みエーフィへ突撃、両者が真正面から激突してサイコエネルギーとフェアリーエネルギーの衝突による爆発が起きた。

 

『両者激突!! 最後に立っているのは、どちらのポケモンなのか!!』

 

 煙が晴れると、フィールドの中央でニンフィアとエーフィが揃って倒れているのが見えた。

 共に目を回して倒れている様から、どちらも戦闘不能状態と判断するべきだろう。

 

「ニンフィア、エーフィ、共に戦闘不能!」

『何と、まさかのダブルノックダウン!! これでソラタ選手もシズホ選手も、残るポケモンは共に2体! 準決勝第2試合も佳境に入ったぁ!!』

 

 ニンフィアとエーフィがそれぞれのボールに戻されると、ソラタとシズホは次のモンスターボールを取り出して構える。

 お互いに残り2体、そしてシズホの残りポケモンの内の1体であるハッサムはギャラドス戦のダメージが残っているので、現時点ではソラタの方が有利だという見方も出来る状況だが、まだまだ安心出来る状態ではない。

 

「もう一度行きますよ、ハッサム!」

「ハッサ!」

『さあ、シズホ選手は再びハッサムです! ギャラドス戦のダメージが残る状態で、果たしてどこまで戦えるのか!』

「頼むぞ、キレイハナ!」

「ハナッ!」

『そしてソラタ選手の5番手はクサイハナの進化系、キレイハナだ! 相性ではキレイハナの方が不利だが、どうなるか!?』

 

 かつて、シズホのハッサムがまだストライクだった時、キレイハナは負けている。だからこれはあの時のリベンジマッチでもあるのだ。

 キレイハナもハッサムも、前回の戦いの事を思い出したのか、両者共に気合を入れ直していた。

 

「ハッサム、“かげぶんしん”!」

「キレイハナ、“はなふぶき”!」

 

 ハッサムが“かげぶんしん”を作るも、やはりギャラドス戦のダメージが残っているからか、技の精度が甘い。

 分身体の数が少ないのでキレイハナの“はなふぶき”によって全て掻き消され、本体も花びらの刃が全身に襲い掛かってダメージを受けていた。

 

「ならハッサム! 上空から“エアスラッシュ”です!」

「迎え撃て! “いあいぎり”!!」

 

 ハッサムが宙へ飛び上がると、空気の刃を連続で放ってきたので、キレイハナは両手をエネルギーの刃で包み、空気の刃を叩き落とす。

 しかし、その間にハッサムが突っ込んできて両腕のハサミを鋼のエネルギーで覆って振り被る姿が見えた。

 

「“バレットパンチ”!」

「“いあいぎり”!」

 

 ハッサムの“バレットパンチ”をキレイハナの“いあいぎり”で受け止めたのだが、予想以上に威力が高かったのかキレイハナが押されて、受け止めきれずに吹き飛ばされてしまった。

 

「タイプ一致だけの威力じゃない……特性“テクニシャン”か」

「正解です。本来なら“つるぎのまい”も合わせたかったのですが、既に技を4つ使ってますので、今回はお預けですね」

 

 恐ろしい事を言ってくれる。“テクニシャン”のハッサムに“つるぎのまい”を使わせて“バレットパンチ”なんて、手が付けられないではないか。

 幸いな事に、既にハッサムは試合中に技を4つ使い切っているので、公式ルール上これ以上他の技を使う事が出来ないので、最悪の状況にはならないが、“テクニシャン”と“バレットパンチ”だけでも十分に脅威だ。

 

「キレイハナ、これは一気に勝負を決めるべきだな」

「ハナッ!」

「よし、“にほんばれ”だ!」

 

 長引けば不利だと感じ、ギャラドス戦のダメージが残るハッサムを早々に片づけるべく“にほんばれ”を指示、フィールドへと強い日差しが降り注いだ。

 

「狙いは“ウェザーボール”ですか……ハッサム、再び“かげぶんしん”です!」

「ハッサ!」

「“はなふぶき”!」

 

 再びハッサムが分身を作り出したが、先ほど同様に“はなふぶき”で全ての分身を掻き消すも、今度は本体が見当たらない。

 

「後ろだ!」

「バレットパンチ!!」

「ハッサァ!」

「ハナァッ!?」

 

 背後から迫ったハッサムにキレイハナは反応が遅れ、“バレットパンチ”の一撃をまともに受けてしまった。

 

「追い打ちしますよ! “エアスラッシュ”!!」

 

 吹き飛ぶキレイハナへ更に追い打ちで“エアスラッシュ”が襲い掛かり、効果抜群の技の直撃を受けてしまう。

 これには大ダメージのキレイハナだが、まだまだ戦えると、“バレットパンチ”の構えで突進してきたハッサムに“いあいぎり”で斬り掛かった。

 

「ハッサ!」

「ハナ!」

 

 両手の“いあいぎり”と両腕の“バレットパンチ”による鍔迫り合いのような状況、これは不味い状況だとシズホはハッサムに距離を取らせようとしたのだが、既にキレイハナはソラタが指示する前から準備を整えている。

 

「“ウェザーボール”!!」

「ハナァ!」

「ハッサァアア!?」

『“ウェザーボール”決まったぁ!! “にほんばれ”の影響で炎タイプの技となった“ウェザーボール”、鋼と虫タイプのハッサムには大ダメージだ!!』

 

 唯でさえギャラドス戦のダメージが残っていた所に、試合開始時の“はなふぶき”のダメージに、今回の“ウェザーボール”はハッサムも耐えられるものではない。

 残念ながらハッサムはそのまま目を回して倒れてしまい、戦闘不能となってしまった。

 

「ハッサム、戦闘不能!」

『キレイハナ、不利な相性を物ともせずハッサムに勝利! これでシズホ選手、残るポケモンは1体のみ! ソラタ選手、決勝進出に大手を掛けた!!』

 

 大手は掛けた。だが、最後のポケモンは間違いなくあのポケモンだろう。油断して良い相手ではない。

 

「本当に、あなたとのバトルは本当に楽しいですね、ソラタさん……終わらせるのが、惜しいくらいに」

「同じ気持ちだ。シズホ、お前とのバトルは他のどの試合よりも一番心躍る……最高に楽しい」

「ええ……ですが、だからこそ私は負けたくない。最後のポケモン、本気で行きますよ……頼みます、バクフーン!!」

 

 シズホが投げたモンスターボールから出て来たのは、ソラタの予想通りだった。嘗てリザードと引き分けた……シズホとのライバル関係を強く意識させた記念すべき最初のバトルで戦ったマグマラシの進化系、バクフーンだ。

 

「バクフーン、“かえんほうしゃ”!!」

「キレイハナ! “ウェザーボール”!!」

 

 バクフーンが放った“かえんほうしゃ”に“ウェザーボール”で対抗しようとしたのだが、桁違いの威力の“かえんほうしゃ”に“ウェザーボール”が飲み込まれて消滅、そのまま“かえんほうしゃ”はキレイハナをも飲み込んでしまった。

 

「キレイハナ!!」

「ハ、ナ~」

「キレイハナ、戦闘不能!」

 

 一撃。ハッサムとのバトルのダメージが残っていたとは言え、相性が最悪だとは言え、キレイハナが一撃で戦闘不能になってしまうとは、流石はシズホのバクフーンと言うべきか。

 

『なんという威力でしょうか! これでソラタ選手も、残るポケモンは1体のみ! 次のバトルで、長きに渡る試合も決着となります!』

「……さあ、相手は嘗て引き分けた相手だ。気合入れて行くぞ! リザードン!!」

「リッザァアアア!!!!」

 

 モンスターボールから出た途端、炎を上空に吐いて気合の咆哮を放つリザードン。

 バクフーンも首から炎を吹き出してリザードンを睨み、両者とも嘗て引き分けたバトルを思い出したのか、その瞳に熱い炎と闘志を燃やしている。

 

「「かえんほうしゃ!!」」

「リザァアアア!!!」

「バァクァアアア!!!」

 

 ソラタとシズホ、互いのエース同士のバトルがこの試合においてのラストバトル。勝利の女神が微笑むのはリザードンか、バクフーンか、次回に続く。




次回、エース対決!


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第58話 「決着! 燃え盛るエース対決」

今回の話、めざせポケモンマスターを聞きながら読む事をお勧めします。そんな話です。


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転生したのは始めに旅立った子供

 

第58話

「決着! 燃え盛るエース対決」

 

 ポケモンリーグ・セキエイ大会準決勝第2試合もいよいよ大詰め、ソラタとシズホ共に残るポケモンは1体のみ、最後のバトルは互いのエース対決となった。

 ソラタのリザードンとシズホのバクフーン、嘗てリザードとマグマラシだった時に戦った時は引き分けに終わったが、今回のバトルであの時の決着を着けると、トレーナー同士も、そしてポケモン同士も熱い闘志の炎を燃やしている。

 

「「“かえんほうしゃ”!!」」

「リザァアアアア!!!」

「バクァアアアア!!!」

 

 開幕“かえんほうしゃ”がぶつかり、フィールド中央で爆発した。

 爆炎が広がる中、リザードンは翼を広げて空を飛び、バクフーンは走り出してそれぞれ衝撃から逃げるとバクフーンは既に両手に雷を纏い、リザードンは両手の爪にドラゴンのオーラを纏っている。

 

「“かみなりパンチ”です!」

「“ドラゴンクロー”!」

 

 上空から急降下してきたリザードンの“ドラゴンクロー”と跳び上がったバクフーンの“かみなりパンチ”が激突、そのままバクフーンの落下に合わせてリザードンも降下しながら互いの拳と爪による応酬が続き、バクフーンが着地すると再びリザードンは宙へ浮かんで距離を取った。

 

「“エアスラッシュ”だ!!」

「グルゥ!! リザアアア!!」

「回避!」

 

 リザードンが羽ばたく事で放たれる空気の刃がバクフーンを襲うが、バクフーンは余裕を持って回避、回避し切れないものについては己の判断で“かみなりパンチ”による迎撃で叩き落とした。

 

「リザードン! もう一度“ドラゴンクロー”!!」

「引き付けて!」

 

 “エアスラッシュ”を放った直後にリザードンはその合間を縫いながらバクフーンに接近、その両手の爪にドラゴンのオーラを纏って襲い掛かった。

 だが、バクフーンは空気の刃を回避しながらリザードンが接近するのを確認してタイミングを図っている。

 すると、どうしても集中力をリザードンに向けなければならなくなり、“エアスラッシュ”の回避が疎かになったのか、全てを回避する事が出来なくなったのか、何発か受けてしまう。

 

「今! “いわなだれ”!!」

「っ! 急上昇!!」

 

 だが、“エアスラッシュ”を受けてでも待った甲斐はあった。バクフーンの頭上に現れた無数の岩がリザードンに襲い掛かり、急上昇したリザードンに全てではないが岩を直撃させる事が出来たのだから。

 

「リザードン! “かえんほうしゃ”!」

 

 岩の直撃を受けたが、それでも上空に逃げる事は出来た。まだまだアドバンテージは捨てていない。バクフーンの頭上を取ったリザードンはそのまま“かえんほうしゃ”を放った。

 真上から炎が襲い掛かってきたバクフーンは地面に“かえんほうしゃ”を放ちながらバックステップ、ギリギリでリザードンの“かえんほうしゃ”を回避する。

 

「“いわなだれ”!!」

「“エアスラッシュ”!!」

 

 再びバクフーンの放った“いわなだれ”をリザードンも“エアスラッシュ”で迎撃、空気の刃が飛来する岩を両断して見事全てを防ぎ切ったのだが、バクフーンは既に動いていた。

 自身の“いわなだれ”の岩を利用して飛び移りながらリザードンの上を取って拳に雷を纏うバクフーンに気付いた時には既に遅い。

 

「“かみなりパンチ”です!!」

「“ドラゴンクロー”!!」

 

 バクフーンの“かみなりパンチ”がリザードンの腹に突き刺さり、リザードンは全身に流れる電流に苦しみながら、それでも自身の爪にドラゴンのオーラを纏って懐にいるバクフーンに叩き付ける。

 互いにダメージを受けて地面に着地すると、多少息が荒くなり始めている両者、それでも不敵に笑って睨み合うと再度拳に雷を、爪にドラゴンのオーラを纏って駆け出して激突した。

 

『凄い……凄いバトルだぁ!! 両者、どちらも譲らぬ攻防! 炎ポケモン同士の熱いバトル、これは目を離せません!!』

 

 雷の拳とドラゴンの爪が何度も激突し、時に相手の身体に叩き込まれ、お互い着実にダメージを受けているというのに、それでも不敵に笑い合うリザードンとバクフーン、そしてソラタとシズホ、それぞれのトレーナーとポケモン達はこの時、間違いなく気持ちがシンクロしていた。

 

「ぶっ飛ばせ!!」

 

 不意にリザードンがその場で回転、その長い尻尾がバクフーンに叩き付けられ、一瞬息が詰まったバクフーンは直ぐにその尻尾を抱え込んだ。

 

「“エアスラッシュ”!!」

「“いわなだれ”!!」

 

 両者の技がゼロ距離で直撃した。衝撃でリザードンの尻尾を離したバクフーンは吹き飛ばされ、リザードンもよろめいて後ろに後退、だが2体とも足を踏ん張って確りと地面を踏みしめると同時に“かえんほうしゃ”を発射、2体の間でぶつかって爆発する。

 

「グルゥ……グルゥ……」

「フゥ……フゥ……」

 

 息が荒くなってきた。リザードンもバクフーンも大分消耗しているのが目に見えて判る。しかし、それでも2体の瞳の奥に宿る炎は、闘志は尽きておらず、むしろ先ほど以上に激しく燃え盛っていた。

 

「リザァアアアアアアア!!!!」

「バァクフゥウウウウン!!!!」

 

 咆哮、そしてリザードンが宙へ飛び上がると“エアスラッシュ”を放ち、バクフーンも“かみなりパンチ”で迎撃しながら“いわなだれ”を発射し、リザードンは迫り来る岩を“ドラゴンクロー”で叩き割る。

 だが全てを迎撃するだけの体力が残っていない2体は何発か技の直撃を受けてしまい、それでも時に“かえんほうしゃ”を利用しながら迎撃していた。

 

「跳んで!」

「降下!」

 

 ソラタとシズホの指示でバクフーンは大きく跳躍、リザードンは急降下して“かみなりパンチ”と“ドラゴンクロー”が相手の頬を穿つ。

 どちらもそれで力を失ったように地面へ落下し、大きな衝撃と共に地面に倒れたが、まだ戦闘不能ではない。

 

「グルゥ……っ!」

「バクゥ……っ!」

 

 よろよろと立ち上がり互いを睨み合った瞬間、リザードンの尻尾の炎とバクフーンの首の炎が今までよりも大きく燃え盛った。

 

「リザァアアアアア!!!」

「バァクァアアアアア!!!」

 

 体力が残り少なくなった事で、リザードンもバクフーンも特性“もうか”を発動したのだ。

 吹き上がる炎による熱気がフィールドどころかスタジアム全体に広がり、そのあまりの熱に2体の足元の床がドロドロに溶けて溶岩のようになった。

 

「リザードン!!」

「バクフーン!!」

 

 ソラタとシズホの声と共に2体が再びぶつかった。“ドラゴンクロー”と“かみなりパンチ”の応酬、互いに防御も迎撃も全て捨てたラッシュは全て相手の身体に、顔に叩き付けられ、2体ともどんどんボロボロになっていく。

 

「グルガァッ!? リザァアア!!」

「バッハァ!? フゥウウウン!!」

 

 バクフーンの拳がリザードンの胸に突き刺さり、リザードンの爪がバクフーンの腹に叩き込まれると、互いにお返しとばかりに相手の頬を殴る。もう、その頃には雷もドラゴンのオーラも纏っていない、ただの拳になっていた。

 

『意地です! もうここまで来るとリザードンもバクフーンも絶対に負けないという意地だけで戦っている!! 先に倒れてなるものかという意地が、2体の身体を突き動かしている!!』

 

 もうリザードンもバクフーンも体力の限界だというのに、それでも倒れず技にもなっていない拳をぶつけ合う姿は、必ず勝つのだという意思と、絶対に負けないという意地で動いているのがよく判った。

 だから、ソラタとシズホは次の技を最後の技だと判断して互いのエースの名を呼んだ。

 

「リザードン!!」

「バクフーン!!」

 

 己のトレーナーの声を聞き、殴り合いを止めて距離を取った2体は、最早限界を超えている。

 そして審判も実況も、観客も、テレビで見ている全国の人間が固唾を飲んで見守る中、ソラタはシズホに声を掛けた。

 

「シズホ、バクフーン、楽しかった……本当に最高に楽しいバトルだった」

「リザッ!」

 

 ソラタの言葉と共にリザードンがグッとサムズアップ、それに笑ったシズホとバクフーンも笑みを浮かべる。

 

「はい、ソラタさん、リザードン。私も楽しかったです……こんなに熱くなったバトルは、こんなにも楽しいバトルは、旅立ってから初めてです」

「バクッ!」

 

 シズホの言葉の後、バクフーンもリザードンを習ってサムズアップ、それにソラタとリザードンも笑みを浮かべた。

 

「さあ行くぜリザードン! これが最後の一撃だ!!!」

「行きますよバクフーン! 最後の一撃、決めましょう!!!」

「リザッ! リザァアアアアアアアア!!!!!」

「バクッ! バァクフゥウウウウウン!!!!!」

 

 再び、睨み合った2体の炎が最大まで燃え上がりスタジアム全体を熱くした。

 

「リザードン!! 最大パワーで“ブラストバーン”!!!!」

「バクフーン!! 最大パワーで“ブラストバーン”!!!!」

「リィザァアアア!!」

「バァクゥウウウ!!」

 

 リザードンとバクフーンが飛び上がって地面に拳を叩き付けると、激しい炎が吹き上がって相手へと襲い掛かった。

 そして、2体がそれぞれ相手の“ブラストバーン”の直撃を受けて爆発し、煙の中に消える。

 煙が晴れた時、フィールドに立っていたのは……。

 

「―――――、戦闘不能! よってこの試合、―――選手の勝ち!!」




勝ったのはどちらなのか、それは次回。


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第59話 「閉会と別れ」

お待たせしました。



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第59話

「閉会と別れ」

 

 多くのトレーナーが熱いバトルを繰り広げたポケモンリーグ・セキエイ大会も遂に終わりの時を迎えていた。

 現在、決勝戦が行われているセキエイスタジアムには2体のポケモンが睨み合っており、観客たちも固唾を飲んで行く末を見守っている。

 

『さあ、長きに渡るポケモンリーグ・セキエイ大会もいよいよ大詰め! 勝つのはどちらのトレーナーなのか!!』

「プテラ! “ほのおのキバ”!!」

「ハッサム! “バレットパンチ”!!」

 

 フィールドで激闘を繰り広げる2体のポケモン、ジュンイチ選手のプテラとシズホのハッサムが激突、最後に立っていたのは……。

 

「ハッサム、戦闘不能! よってこの試合、ジュンイチ選手の勝ち!!」

『試合終了!! 見事、決勝戦を制し、ポケモンリーグ・セキエイ大会優勝を決めたのは、タマムシシティのジュンイチ選手だ!!』

 

 決勝戦、ジュンイチ選手はプテラともう一体を残した状態で勝利、シズホはプテラという壁を超える事は出来なかった。

 

『しかし、シズホ選手の健闘も称えたいところ! 準決勝の激闘によりドクターストップの掛かったバクフーンとエーフィが不在の状況で良く戦いました!』

 

 そう、シズホは決勝戦を万全の状態で戦えなかったのは敗因として考えられるだろう。ソラタとの試合でバクフーンとエーフィがドクターストップ、決勝には出せない状態になってしまった為に、シズホは万全な状態での決勝に挑めなかったのだ。

 試合が終わり、フィールドを去ったシズホは選手控室に戻る。震えそうになる手を抑えながらも控室のドアノブを掴んで何とか扉を開くと。

 

「おかえり……お疲れ様、シズホ」

 

 ソラタが出迎えてくれた。その姿を見て色々限界だったのか、シズホは何も言わずソラタの胸に飛び込んで声を押し殺しながら涙を流す。

 

「よく頑張った」

「でも、私……ソラタさんの分もって」

「気にしなくて良い……シズホとポケモン達が頑張ったのは理解してるし、ジュンイチ選手が強かった、それだけの事だ」

 

 シズホの頭に手を置いて泣き続ける彼女の背中をポンポンと叩いて慰める。

 正直、準決勝でソラタが勝っていた場合、ソラタだとリザードンとガブリアス、ピカチュウにドクターストップが掛かってしまっていたので、どの道ジュンイチ選手には勝てなかった。

 同じ状況のシズホがジュンイチ選手を残り2体まで追い詰めたのは、ソラタから見れば見事と言う他に無い。

 

「お互い、チャンピオンへの夢がまだ途絶えた訳じゃない……今夜は思いっきり食べて寝て、明日の閉会式で気持ちを切り替えよう」

「……はい」

 

 だけど今は、静かに泣き続けるシズホを抱き締め、泣き止むまで頭を撫で続けるのだった。

 

 

 閉会式が始まった。大会に出場した選手の殆どがセキエイスタジアムに入場し、タマランゼ会長から選手全員に大会出場の証であるメモリアルプレートが渡され、最後に表彰台には優勝者のジュンイチ選手、準優勝のシズホ、ベスト4のソラタとサユリ選手が並んだ。

 

『さあ、表彰台にはポケモンリーグ上位入賞者が立っております! 本当に嬉しそうです!』

 

 拍手で称えられ、手を振って応える4人、優勝の喜び、優勝出来なかった悔しさ、色々な思いはあれど、こうして表彰台に立てた事が何よりの名誉だと全員笑顔で手を振っている。

 最後にスタジアムの電気が消え、花火が打ち上がってポケモンリーグ・セキエイ大会閉会式は終わった。

 

「終わったな」

 

 閉会式が終わった後、全員が立ち去って無人になったスタジアムでソラタは炎の消えた聖火台を見つめながらポツリと呟いた。

 長いようで短いリーグが終わり、ソラタの中で何かが燃え尽きたのと、同時に新しい何かが燃え上がるのを感じている。

 

「ソラタさん」

「シズホ……」

 

 ふと、後ろから声を掛けられ振り返ればシズホが微笑みながら立っていた。

 

「終わっちゃいましたね」

「ああ」

 

 リーグ優勝出来なかった二人に、チャンピオンリーグへの出場資格は無い。チャンピオンになるという夢は、今回は果たされなかったが……。

 

「俺は、もう次の目標を決めてる」

「奇遇ですね、私もですよ」

 

 シズホがソラタの隣まで来たのでお互いに向き合う。シズホの瞳にもソラタの瞳にも、諦めの色は無かった。

 

「「次は、ジョウトリーグで」」

 

 そう、カントーでのポケモンリーグで負けたからと、チャンピオンになる夢は終わらない。

 次のリーグが行われる地方で直近にあるのはジョウトリーグだ。今から少しの間修行をして、ジョウト地方を旅してバッジを集めて、今度はジョウトリーグでの優勝を狙えば良いのだ。

 

「次に会う時は、お互いにジョウトを旅しているときになるのかな」

「そうですね、でも本当の決着はジョウトリーグで、です」

「……」

「あの時、ソラタさんはガバイトを完全に育て切れていなかった。ピカチュウも、進化の予定があるのでしょう? 私も、エレブーを完全に育てられてませんでしたし、バンギラスも最近進化したばかりでしたから」

 

 お互い、準備が完璧だったとは言えなかった。だからジョウトリーグの舞台で、今度こそ互いに完璧な状態で戦って決着を付けようと、シズホは言っている。

 

「そうだな……ああそうだ、俺だってまだまだ今のパーティーが完璧だなんて思ってない。ジョウトリーグまでに完璧なパーティーに仕上げて、今度こそお互い納得の行くバトルをしよう」

 

 それまでは、暫しの別れだ。

 ソラタはシズホに向けて右手を差し出した。別れる前に、握手をしようと。

 

「……」

 

 だけどシズホはその手を取る事無く、むしろ全身でソラタに突っ込み思いっきり抱き着いてきた。

 

「し、シズホ……?」

「暫く、会えませんから……約束してください、私以外にライバルを作っちゃ、駄目ですからね?」

「……ああ、当然だ。俺にとって永遠のライバルは、シズホ以外にあり得ない」

 

 その言葉に満足したのか、スッと離れたシズホは若干頬が赤いのを誤魔化しながら踵を返して歩き始めた。

 ソラタはそんなシズホを見送るでもなく、互いに背を向けたままジョウトでの再会を信じて別れる。

 次に会った時は、今よりももっと成長して、強くなっていると胸の内で誓いながら。

 

 

 翌朝、ソラタは大会期間中世話になったコテージの掃除を終えて荷物を纏め外に出るとマサラタウン目指して歩き始めた。

 足元にはボールから出ていたニンフィアが歩きながらソラタの顔を見上げ嬉しそうに笑顔を見せている。

 

「フィア!」

「ああ、帰ろうニンフィア……マサラタウンに!」

 

 そう言って走り出したソラタを、ニンフィアも走って追いかける。そんな一人と一匹の様子を上空から眺める存在が居る事にソラタは気付かなかった。

 その存在はソラタの姿を見て満足そうに頷くと、白銀の大きな翼を羽ばたいて銀色の粒子をまき散らしながらジョウト地方目掛けて飛び立つのだった。




これにてカントー編終了となります。
次回から修行編を挟んで、ジョウト編は修行編が終わってからになります。


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修行編
第60話 「カロス地方へ」


お待たせしました。修行編スタートです。


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第60話

「カロス地方へ」

 

 ポケモンリーグ・セキエイ大会が終わり、マサラタウンに帰って来たソラタは次の目標であるジョウトリーグへ出場する為、ジョウトへ旅立つ前に修行期間を設けていた。

 セキエイ大会ではメインパーティーが完璧な状態で挑めなかった事、サブメンバーの育成が不十分だった事、以上の反省を踏まえジョウトへ旅立つ前にある程度の調整を済ませておきたいという思いからマサラタウンに帰って来てから色々と試している。

 

「え、サトシの奴、オレンジ諸島へお使いに?」

 

 ある日、ソラタは修行の片手間でオーキド研究所を訪れたのだが、そこでオーキド博士からサトシが博士のお使いでオレンジ諸島へ旅立ったという話を聞かされた。

 

「うむ、オレンジ諸島のウチキド博士から珍しいモンスターボールを入手したという話を聞いてな、ワシに解析して欲しいから取りに来てくれないかと打診されたのじゃ」

 

 なんでも、そのボールは転送装置で転送出来ないという特殊性があり、オレンジ諸島を離れられないウチキド博士がマサラタウンまで来るのは不可能という事で、急遽サトシにお使いを依頼したのだとか。

 

「オレンジ諸島と言えばオレンジリーグというマイナーリーグがありましたね」

「うむ、興味があるのかの?」

「いえ、特には……ジョウトリーグに向けて調整中ですし、余計な事に感けてる暇はありません」

 

 それよりもと、ソラタはオーキド研究所に来た目的を果たす為に本題を切り出した。

 

「カロス地方のプラターヌ博士に連絡取れますか?」

「プラターヌ博士かの? ああ、そういえばガブリアスに進化させたのじゃったな」

 

 納得した博士は早速電話でプラターヌ博士に通信を繋いだ。モニターの向こうには以前にクチバシティで出会ったプラターヌ博士が何故かラーメンを啜りながら笑顔で手を振っている。

 

『やあソラタ君、久しぶり。ポケモンリーグベスト4おめでとう』

「お久しぶりです。プラターヌ博士、それと……ありがとうございます」

 

 どうやらプラターヌ博士もソラタのポケモンリーグの成績を知っているらしく。最初にベスト4入りを祝福してくれた。

 

『準決勝の試合映像見たよ、君も対戦相手のシズホ選手も、新米トレーナーとは思えない高レベルなバトルで、見ていて手に汗握る展開ばかりだった』

「そんな……」

『それに……ついにあの時のタマゴから孵ったフカマルが、ガブリアスに進化したんだね』

「あ、はい……実はそれでプラターヌ博士に報告しようと思って今回」

『なるほどね……うん、良ければ実際にガブリアスを見たいから、僕の研究所に来てくれないか?』

 

 それはつまり、カロス地方に来てくれという事だ。確かに元々、この調整期間中の何処かでカロスとアローラには行こうと考えていたので、今回の提案は渡りに船か。

 

『それに言っただろう? ガブリアスに進化させたら、ご褒美をあげようって』

「褒美……そう言えば仰ってましたね」

 

 その褒美が何なのかは、実際に来てからのお楽しみという事なので、これはもう行くしか無いではないか。

 

「わかりました、明日にでも出発します」

『うん、来るのを楽しみにしているよ』

 

 通信が切れてモニターが真っ暗になると、ソラタは後ろに居たオーキド博士と向き合った。

 

「そういう訳ですので、俺は明日にでもカロス地方のミアレシティに向かいます」

「そうか、なら飛行機の手配はワシの方でしておこう。明日、旅立つ前に研究所に寄りなさい、チケットを渡すからの」

「ありがとうございます」

 

 早速ソラタはカロスへ行く準備を整える為にオーキド研究所を後にして自宅へと戻った。

 自宅では夕食の用意をしていたアオノが出迎えてくれたので、早速明日の朝一にマサラタウンを発って飛行機でカロス地方へ向かう事を伝える。

 

「カロス地方のプラターヌ博士……メガ進化をメインとした進化の研究をしているポケモン博士ね」

「そう、旅の途中で縁あって、俺のガブリアスもプラターヌ博士のガブリアスの息子なんだ」

「そうなの……何日くらい滞在する予定?」

「うぅん……最長でも2週間かなぁ。でもカロスから真っ直ぐアローラにも行きたいから多分1ヶ月は帰らないかも」

「そう、なら夕飯までに準備を終わらせなさい」

 

 こうしてカロスへ旅立つ準備を終えたソラタは翌日、母に見送られてマサラタウンを旅立つのだった。

 

 

 カントー地方から遥か遠く離れた地、カロス地方の中央都市ミアレシティのミアレステーションに降り立ったソラタは街の中央に見えるミアレタワーを眺めつつカントーとはまた違った街並みに圧倒されていた。

 

「これが、カロス地方か……」

 

 カントーのタマムシシティやヤマブキシティのような都会を知っているソラタですら圧巻の街並み、ソラタ自身はカロスに来るのは初めてなので何もかもが珍しく映る。

 

「おっと、お上りさんになってる暇は無いか……プラターヌ研究所はっと」

 

 ミアレステーションで購入したマップを開くと、現在地からプラターヌ研究所への道程を確認、歩いて行ける距離だと判断して歩き出した。

 暫く歩いていると門にモンスターボールの石造が飾られた屋敷が見えてきた。間違いない、あれがプラターヌ研究所だ。

 

「ごめんくださーい!」

 

 呼び鈴を鳴らして暫くすると、扉が開いて中から以前クチバシティで出会ったプラターヌ博士が出て来る。

 

「いらっしゃいソラタ君! ようこそカロス地方へ!」

 

 歓迎してくれたプラターヌ博士に案内され、研究所の中に入ると中庭へ連れて来られた。

 中にはにはコダックやルリリ、ジグザグマやミツハニー、キャタピー、ビードル、エリキテルなど様々なポケモンが生活しており、みんな自然に近い環境になっている中庭でリラックスしていた。

 

「さて、早速で悪いんだけどガブリアスを出して貰えるかな?」

「わかりました、出てこいガブリアス」

 

 プラターヌ博士の言う通りにしてモンスターボールを取り出すと、ガブリアスを出した。

 

「ガブ?」

「おお、あの時のタマゴが……うん、良いガブリアスだ」

 

 ついでにあの日、シロナとバトルしたリザード、今はリザードンに進化しているが、を見たいと言われたのでリザードンも出す。

 

「成程……よく育てられている。それに、ポテンシャルも十分か……」

 

 何に納得したのかは不明だが、プラターヌ博士は何度か頷くとソラタの方を振り返り白衣のポケットから何かを取り出した。

 

「約束していたガブリアスまで育てたご褒美だ。受け取ってくれるかい?」

 

 そう言ってプラターヌ博士が差し出したのは腕輪だった。シンプルなデザインの黒い腕輪には虹色の丸い石が取り付けられている。

 

「これって……キーストーン!?」

「そう、メガシンカに必要なアイテムの一つ、キーストーンだ」

 

 プラターヌ博士の研究の一つ、メガシンカはバトル中にポケモンに更なる力を授けるトレーナーとポケモンの絆の証だ。

 キーストーンを持つトレーナーと、メガストーンを持つポケモンが共鳴する事で新たな扉を開く事が出来る。

 

「流石にメガストーンは無いから、それについては自分で探して貰うしか無いんだけどね」

「いえ、キーストーンだけでも十分です」

 

 メガストーンくらいは自分で探そう。ソラタの持っているポケモンでメガシンカが可能なポケモンはリザードン、ガブリアス、ギャラドス、ゲンガー、ピジョットがいる。

 ソラタとしてはリザードナイトかガブリアスナイト、ギャラドスナイトのどれかが欲しい所だ。

 

「2週間くらいはカロスにいるつもりなので、時間があればメガストーンも探してみます」

「そうだね、もしかしたら対応するメガストーンにポケモンの方が引き寄せられるかもしれない、少しの間だけでもカロスを旅してみると良いよ。もしかしたら、新しいポケモンとも出会えるかもしれないしね」

 

 それもアリかもしれない。ジョウトに向けて新しいポケモンの育成をするのもアリだろう。

 そうなると、カロス地方で出会えるポケモンで何か良いポケモンが居れば良いのだが……。

 

「リオルとか、ヤヤコマ、アマルスは“ヒレのかせき”が手に入ればかな……」

 

 何にしても、まずは2週間という限られた時間でどこまで旅出来るかだ。ソラタは改めてプラターヌ博士にキーストーンの礼を言うと研究所を後にして、ポケモンセンターで一泊する事にした。

 

 

 翌朝、ポケモンセンターのジョーイさんに部屋の鍵を返した後、回復したポケモンが入ったモンスターボールを受け取りセンターを後に。

 ミアレタウンを出発したソラタはカロス地方の街の一つ、シャラシティへ向けて旅立った。目指すは新しいポケモンのゲットと修行、そしてメガストーンの入手だ。

 

「2週間か……長いようで短い、なるべく寄り道しないで進まないとな」

 

 実は既にミアレシティを出て直ぐヤヤコマだけゲット出来たが、新しいポケモンのゲットは運次第になりそうだ。

 手あたり次第にゲットしていたら直ぐに滞在時間が無くなるだろうから、出会ったポケモンでも欲しいと思った時にしかゲットしないという形を取らなければ時間が足りなくなる。

 

「まぁ、なんにしても先ずはシャラシティに向かうか」

 

 こうして、ジョウトリーグ前のソラタの修行の旅が始まった。新たな出会いへの期待を胸に、新しい地方の地面をしっかり踏み締めて歩き出したソラタの新たな挑戦は、まだ先の事。




次回は早速カロスを旅するソラタに新しい出会いが。


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