NEXT PAGE (うんこたれ蔵)
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第1話 ネクストページ、入学するとのこと

「お前なぁ、何回やればちゃんと出来るんだ?」

 

「うるさい! そんな事、私が知るか!」

 

何度も何度も何度も何度も言われた言葉だ。出来るものならとっくにやっている。出来ないからこうして特訓しているのだ。

 

「基本的に人の話はちゃんと聞くし、言われた事もしっかりこなす。そして成果も出てる。大したもんだよお前は」

 

「そ、そう? えへへ……」

 

「でもスタートは毎回出遅れるし、あんな手作りのゲートですら入るのは超が付くほど苦手ときた。本当にウマ娘か?」

 

そこまで言うか!? この野郎、私という存在を全否定しやがった! あの感覚はな、走るやつにしか分からないんだよ!

 

「むっかー! そこまで言うんだったら先生が走ってみたらいいじゃん! これからは私がトレーナー、先生がウマ娘……いやさウマおじさんだ! 日本一のウマおじさんに育て上げる!」

 

「バッカお前、それ言ったら元も子もないだろうが。そして俺はおじさんじゃねぇ。せめてウマお兄さんにしろ」

 

「じゃあ日本一のウマお兄さんに育て上げる」

 

「そういう事言ってるんじゃないんだよ。聞いた話だと一年のジャスタウェイはちゃんと入ってるらしいぞ?」

 

「でもゴールドシップは入ってないよ?」

 

「あいつを引き合いに出すな。話が拗れる」

 

「ごめんなさい」

 

これは私が悪い。私はペコリと頭を下げた。

 

「……はぁ、まぁいい。いや良くないが。お前は4月から中央のトレセン学園に入学するんだ。俺は本職じゃないから矯正できなかったのかもしれんが、向こうには優秀なトレーナーが沢山いると聞く。そこで直してもらえ、ネクストページ(・・・・・・・)

 

「……うん、今までありがとう先生。向こうでも頑張るから、草葉の陰から応援しててね?」

 

「死んでねぇよ」

 

「だから、さようなら……」

 

「勝手に殺すな」

 

「聞いてください、いきものがかりよりYELL」

 

「それは今度の卒業式で歌え」

 

「さよならはかなーしいー」

 

「だから今度歌えって」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

 

違和感が確信に変わったのは、確か1歳と半ばくらいの時だった。

 

先に言っておくと、私には前世の記憶がある。男で、確か社会人だった筈だ。真面目が取り柄の、絵に描いたような普通の人生を送っていた……ような気がする。当たり障りのない人生だったせいか、どのような人間だったかは全く覚えてない。転生した理由とかどういった理由で死んだのかさえ。

 

違和感というのは転生した事に対しての事ではない。自分と周りの身体的特徴の違いだ。どうやら私はウマ娘なるものに転生したようで、ウマのような尻尾や耳が生えている。

 

つまりTS転生だ。本とかで読む分には大好きだった(ような気がする)がまさか当事者になるとは思ってもいなかった。ムスコがいないのは未だにちょっと慣れない。

 

ウマ娘というのは簡単に言うと、前世で言うところのウマと少女を掛け合わせたような生き物だ。ただこの世界にはウマという生物は存在しないので掛け合わせるも何も、元からそういう生き物な訳だ。耳があり尻尾があり、そして超人的な脚がある。太古の昔から人間と共存する、人間と共に歴史を重ねてきた霊長類の一種、らしい。知らんけど。

 

そんな種族がいるなんて知るよしもなかった私は、約一年半の時を経てようやく種族の違いについて知ったのであった。物心は生まれた瞬間に付いてたから多分正確な時期だと思う。

 

まぁ知ったきっかけは隣に住む幼馴染に初めて会った時に耳を思いっきり引っ張られたからなんだけど。最初何を引っ張られてるのか分からなかったから本気でビックリした。

 

え? 鈍すぎる? お前がウマ娘なら母親もウマ娘だろ? ……ちゃうねん。ウチのマミーはたしかにウマ娘だけど、コスプレと思うやん普通。マミーはコスプレが大好きなんやなって。もしくはパピーがそういう趣味か。

 

そりゃあ私にも付いてたよ? 耳と尻尾。でも赤ちゃんは動けないの。オキテスグメシ、タベテスグネルのが赤ちゃんの仕事。食べる以外は寝てれば大体終わってるから気付くのが遅れたんだ。そういうことにしておこう。

 

とにかく! ウマというのは総じて走る事が大好きだ。それはウマ娘も同じであり、私はそんなウマ娘! 私も例に漏れず本能的なところで走る事が大好き! ならばなるしかなかろう競走ウマ娘!

 

幸い私のクラスの担任がウマ娘にちょっと詳しいって事でトレーナーのような役割を買って出てくれたのだ。重賞で1着とったら飯でも奢ってやろう。

 

そんなこんなで、たった今小学校の卒業式が終わった。実に感動的な式であった。

 

合唱曲であるYELLを聴いて涙ぐんでる先生やマミー達を横目に、私はこれからの生活に思いを馳せるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

 

「はぁ、はぁ……ま、間に合わなかった……」

 

がくり。

 

力尽きた私は門の前で倒れてしまった。

 

私は懸命に走った。電車から降りた瞬間から人並み掻き分けてダッシュでここまできたし、ていうか日数的にもだいぶ余裕があった筈なんだ。

 

今日は中央トレセン学園の入学式。朝の9時開始で現在の時刻なんと15時。実家や小学校の先生から引っ切り無しにかかってくる鬼電。怖すぎて一つもまだ取れてない。果たしてこれは一体どういう事なのか。

 

「おいおいどうしたんだよページ。もしかしてまだ烈海王が死んだの納得出来てないのか?」

 

「そうだけど、そうじゃない……」

 

隣にいるのはゴールドシップというウマ娘。私の幼馴染であり現代社会に棲むハジケリストだ。嫌いじゃないがやることなす事訳が分からない奴なので正直ついて行けない。

 

今回入学式に遅れたのは大体こいつのせいだ。

 

まず事の発端は東京への飛行機が雨で飛ばなかったことにある。雨が止むまで待機しようとしたところ辛抱ならなかったのかゴールドシップのあんぽんたんがこんな事を言い始めた。

 

「だったら竹ウマでマントルまで行って海老をカラッと揚げてやる!」

 

竹ウマと言いつつ一輪車で東京まで向かおうとしていた為、慌てて止めて仕方なく新幹線で行くことにした。そこで大人しく座っていればいいものを、またこいつは

 

「ウニと栗を正確に見分けられる、そんな横綱に私はなりたい」

 

とか言って途中で下車しやがった。置いていくわけにも行かず慌てて付いていくと、そこにはお婆ちゃんをおんぶして横断歩道を渡るゴールドシップの姿があった。

 

なんとなく誇らしい気持ちになりつつ一緒に手伝っていると、お婆ちゃんから御礼にと花巻の高級温泉旅館の宿泊チケットをいただき、そして伝説へ……。

 

まぁその後も湯煙にんじんジュース事件だの幻の高麗人参紛失だのなんだのあった訳だが、大体そんな感じだ。入学式なんてとっくの昔に忘れていた私はチェックアウト後に慌てて移動してきたのだが、結果はこの有様だ。私悪くないよね?

 

……いや悪いな、うん。ゴールドシップのせいにしちゃいかん。途中から普通に楽しんでたし。くそっ、飛行機さえしっかり待てていればこんな事には……!

 

私は絶望感に打ちひしがれた。どうしよう絶対に怒られる。まずはこの鬼電してきてるマミー、そして小学校の先生。この時点で恐ろしいのに追加でトレセンの人からの怒りも待っているに違いない。

 

……よし、覚悟を決めよう。

 

「ねぇゴールドシップ」

 

「あん? どした?」

 

「……サボタージュ、決めちゃおっか♡」

 

「……へへっ、おうっ!」

 

二人見つめ合いながらニコリと微笑む。

 

私たちは幼少の頃から共に過ごしてきた幼馴染。一連托生の仲だ。悪い言い方をすれば死なば諸共、毒食らわば皿まで、赤信号みんなで渡れば怖くない。いつもそんな感じで過ごしてきた。きっと向こうもそう思ってくれている筈だ。だから頷いてくれたのだろう。多分、めいびー。

 

「あっとその前に……もしもし? おれおれ、おれだよ。あ? ゴールドシップか、だって? ちっげーよ、おれだよおれ! ゴールドシップだよ! トレセン学園に着いたからその連絡だ。ちゃんとページの奴もいるから安心しろよ。ウチの親とページの親にも伝えておいてくれ。じゃなー」

 

「……ゴールドシップ、いま誰と話してたの?」

 

「センセーだけど? 着いた報告くらいはしとかねーとな」

 

「なんか言ってなかった?」

 

「別に何も言ってなかったぞ。ところで何処を掘る? アタシの予想じゃ品川駅が怪しいと思うんだよなぁ〜源泉。さっさと掘り当てていい湯を浴びようぜ?」

 

「……どうしてそんな悠長に構えてられるの?」

 

「はぁ? 一体何の話だ? ……あぁ、安心しろって! アタシたちウマ娘は宇宙服なくたって人参があれば生存出来るって論文にもそう書いてあったし。まぁアタシが提出したんだけど」

 

「宇宙旅行の話じゃなくて入学式のこと! ガッツリ遅刻したんだよ私たち!」

 

「……本当に何の話だ?」

 

「はぁ?」

 

もしかしてゴールドシップのやつ、入学式の事本気で覚えてないのか? というかそもそもトレセン学園に入学する事も分かってない? いやいや! 流石のゴールドシップでもそのくらいは覚えてるだろ。一緒に試験受けたんだし。ていうか私より座学の点数良かったんだし。なんなんだこいつ。あんぽんたんのくせに。

 

「(……! こいつ、もしかして)……なぁページ、アタシ考え直したんだけど、やっぱり謝りに行った方がいいよな?」

 

「!!! や、やっぱりそうかな……?」

 

痛いところを突いてくる。正直遠慮しておきたいところ。でも嫌な事は早めに済ませておかないと後で後悔するんだよなぁ。

 

ていうかやっぱり覚えてるじゃん。しらばっくれて。

 

「じゃ、じゃあまずは母さんから──」

 

「いや、まずは学園の先生や生徒会長からだ。最悪、火星まで星流しの刑に遭うかもしれないが、そっちから謝っておいた方が親と話す時気が楽だろ?」

 

「たしかに! まさにその通り! 流石ゴールドシップ! さすゴル!」

 

「うっしゃぁ! そうとなればこのゴルシ様に任せとけー! まずは生徒会室までカチコミだー!」

 

「殴り込みだー!」

 

こいつも偶にはいい事を言う。やはり嫌な事はサッと終わらせるに限る。それじゃあ早速生徒会室に向かうとしよう。



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第2話 ネクストページ、伝説に逢うとのこと

伝説って?


 

 

ゴールドシップがのっしのっしと私の前を歩く。こいつはなんやかんやで要領がいい。きっと事前に学園内の道を把握でもしていたのだろう。ならば私はそれに付いていくだけだ。

 

……それにしても人通りが少ないな。入学式の後なんだから新一年生とかがワイワイやっててもいいと思うんだけど。

 

「どう思う、ゴールドシップ?」

 

「そりゃ明日の準備だろ。明日から本格的に競走ウマ娘としての生活が始まる訳だ。のんびりしてるヒマなんざないってこった」

 

「……それもそうか」

 

こいつ……割と意識高いのか? それとも私の意識が低いのか?

 

……まぁ二人して遅刻してる時点でど底辺は確定か。はぁ〜あ、気が滅入る。どんな風に怒られるんだろう? 実家に帰って人参農家でもやってろとか言われてしまうのかな?

 

「……おっ、売店があるぜ。おばちゃーん! ドロリッチ20個おーくれ! え? もう販売中止してる? そんなー」

 

「今日は天気がいいし、まさに将棋日和だなー。よーし今日は徹夜で指すぞ!」

 

「あそこに座ってる奴、もしかしてこのアタシにガン付けてんのか? ……やいてめーこら! アタシのイカした生姜ストラップに文句でもあんのか!? ゴルシちゃんドロップキックをグォレンダァお見舞いしてやる!」

 

「ばっ、ばか! それは流石にマズイよ! そこのウマ娘逃げて超逃げて!」

 

流石に聞き捨てならなかったのでゴールドシップを押さえる。非常に恵まれたこいつの体格から溢れるパゥアーは私には少々荷が重い。はよ行け!!!

 

はぁ、はぁ……ど、どうして歩いてるだけで疲れなきゃいけないんだ……? 普通に歩けないのだろうか。いい加減大人しくする事を覚えてほしい。

 

噛み付く相手が居なくなった途端、急に落ち着いたゴールドシップに問う。

 

「ね、ねぇゴールドシップ。生徒会室にはいつ着くの?」

 

「え? 知らね。アタシ場所分かんないし」

 

「は? じゃあなんで今まで前を歩いてたの?」

 

「そりゃあアタシがページの姉貴分だからだ。あの日飛ばしたタンポポの種を忘れたってのか!?」

 

「それ新幹線乗る前の話でしょ。そもそもゴールドシップが姉貴分とかありえない。むしろゴールドシップが私を姉貴って呼ぶべき」

 

「……お前アタシとの身長差理解してんのか?」

 

「こんなの誤差だよ誤差」

 

ジト目を向けてくるゴールドシップ。芦毛の長髪が美しいこいつは、中々の長身だ。170くらいあったっけ? 見上げると首が痛くなるから普段はこいつの胸と話してる。

 

「ていうか知らないなら勝手に歩かないでよ! 思わず付いていっちゃったじゃん!」

 

「まあまあ落ち着けって。そろそろターフに着くぞー」

 

「だからターフじゃなくてまずは生徒会室……ああっ、もう!」

 

確かにターフはとても気になるけど、それより先に謝りに行く方が先だと思う。

 

走っていったゴールドシップを追い掛ける。あいつは結構恵まれた体格をしてるので足がだいぶ速い(もちろん私の方が速い)。そこそこ重いキャリーケースを片手に持ってるくせに全く崩れない体幹に感嘆を覚えつつ、私はゴロゴロとキャリーを引きながら急足でその場に向かう。

 

ターフに着いた。先に着いていたゴールドシップの隣に並んでターフ全体を見渡す。そこでは様々なウマ娘達が特訓を行なっていた。

 

坂路で練習をする奴、数人で固まってランニングをする奴、トモ上げの筋トレをする奴、寝転んで葉っぱを食べてる奴などなど、皆がみな己の課題をクリアする為に必死になっていた。そして中央にいるだけあってレベルが非常に高い。

 

 

すごい……これがトレセン学園……。

 

 

思わず呆然と見下ろしてしまう。そもそも私は本格的なターフ自体を生で見るのが初めてなのだ。そして同年代のウマ娘もゴールドシップくらいしか知り合いのいない私が心を奪われるのは無理もない事だった。

 

「うっはー、こりゃすげーな! やっぱ中央なだけあって色んなコースに対応してやがる! まぁアタシんちの裏庭には負けるけどな!」

 

「……」

 

「なんてったって川という名の超弩級重バ場コースがある! ツツジも自生してるから生活にも困らないし、ついでにアタシが掘り当てたキン肉マン消しゴムたちもコミュニティを築きつつある。100点満点で完璧だろ! なぁページ?」

 

「じゃあ帰れ」

 

せっかく感傷に浸ってたのにこいつは……。しかしずっと見てると走りたくなってしまうので丁度良いといえば丁度良かった。

 

「はぁ……まぁいいや。あそこに校内の地図があるから、そろそろ生徒会室に行こうよ」

 

「んな事よりどんなチームがあるのか見に行こーぜ。アタシが土俵入りするに相応しいチームがあるのか、ねっとりと調べてやらん事もない!」

 

「そんなの明日からでもいいでしょ! いいから謝りに行こうよ! このままじゃ私のキューティクルな髪が五厘になっちゃうよ!」

 

「それはヤベーな! (まげ)を結えなかったらお相撲さんになれねーぞ!?」

 

「んなこたどーでもいいの! いい加減にしないとルービックキューブの色テープ全部剥がすよ!?」

 

 

 

「──君たちはもしかして新入生か?」

 

 

 

 

二人して騒いでいると後方から声をかけられた。この聞き方は間違いなく学園関係者だ。しかし、何処かで聞いたことがあるような声だ。知り合いなんていない筈だけど……。

 

振り向いてどのような人物かを確認すると、そこには思わず目を疑うような人物が悠然と立っていた。

 

「ああん? なんだァ? てめェ……」

 

「ちょちょちょ! お前ホントバカ! 喧嘩売る相手くらい考えろこのダボが!」

 

「オゴァッ!」

 

私は必殺のウマアッパッパーをガラ空きの顎へと叩き込む。ブシのナサケで顎先だけに掠めるだけにしてやった。

 

アホが転がった事を確認し、もう一度声をかけてきた人物へと視線を向ける。

 

……うん、やっぱりそうだ。

 

基本、人というものは興味のない事柄に対して記憶する能力というものは持ち合わせていない。無駄だからだ。

 

しかし何事にも例外は存在する。興味はなくとも知っている偉大な人物。

 

漫画で言うと手塚治虫。鉄腕アトムやブラックジャック。ストーリー漫画の第一人者である彼を知らぬ人はいないだろう。

 

音楽であれば矢沢永吉。スタッフのミスでスイートルームの予約がされていなかった際に放たれた言葉は余りにも有名だ(※個人的な意見です)

 

 

そしてウマ娘で言うと──。

 

 

「はっ、はじめまみめ! し、しししし……」

 

「ふふ、少し落ち着こうか。同じウマ娘なんだ。周章狼狽する必要はない」

 

「あ、そうですか? 私、ネクストページというものです。そして地べたに沈んでいるのはゴールドシップといいます」

 

「あ、ああ、よろしく頼む……適応が早いな」

 

この人。史上初、無敗でクラシック三冠を制したという功績を残し、永遠なる皇帝と呼ばれる彼女の名は──。

 

「シンボリルドルフ──ッ!」

 

「まるで親の仇を見るような目だな。私は君に恨みでも買ったか?」

 

「…………さん」

 

「遅くないか?」

 

「すいません。まだちょっと有名人見てる感覚が抜けなくて……。あと睨んでないです。眼力に気合入れただけです」

 

突然だが、私は嫌な事はさっさと終わらせるタイプだ。先生や親からの鬼電を着拒した手前信じ難いかもしれないが、宿題は速攻で終わらせるしミスしたらすぐに報告する。ストレスを溜めたくないからだ。

 

なのでここでやる事はただ一つだけだ。

 

「……シンボリルドルフさん」

 

「なぁ、そこの彼女は大丈夫なのか? ピクリとも動いてないぞ?」

 

「本当に、申し訳ありませんでしたーーー!!!」

 

私は土下座を敢行した。なぜ私がシンボリルドルフさんに謝ったのか? それは彼女がこのトレセン学園の生徒会長だからだ。

 

中央のトレセン学園で、誰でも知ってる史上初の七冠バであるシンボリルドルフが生徒会長だぞ? この人に謝っておけば万事解決! そう思っての行動だ。

 

「な、なんなんだいきなり。そんな謝られるような事をされた覚えはないが……」

 

「じ、実は、入学式に間に合わなくって、今学園に到着したところなんです!」

 

顔を上げずに理由を述べる。

 

言い訳はしない。謝るときは素直に謝る。というか言い訳が言い訳として成立しないからただ謝る以外に方法がない。

 

「……間に合わなかっただと? 間に合ってるじゃないか」

 

シンボリルドルフさんが怪訝そうな顔を向けてきた。

 

間に合ってるだって? いやいや間に合ってないよ。今3時過ぎぞ? 9時から入学式なのに今3時過ぎぞ? 遅刻どころかサボりの域だよこれ。

 

「はい? ……あれ、もしかして入学式ってこれからなんですか?」

 

「……なるほど。ネクストページといったか。今日が何月の何日か答えてくれ」

 

「4月1日です」

 

「君の携帯には何日と書いてある?」

 

「3月31日と書いてます。あれっ、今年の3月って31日までありましたっけ?」

 

「いや、3月は毎年31日まであると思うが……」

 

「う、うぉぉぉ……!」

 

私は土下座の状態から崩れ落ちた。服が汚れる事などお構いなしにその場でうつ伏せになりなり、取り敢えず顔を隠した。

 

は、恥ずかしい……! 月の日数とかいちいち覚えてないよ! そういえばよく考えたら今日は一回も携帯を開いてない。ゴールドシップに奪われるからっていうのもあるけど、親からの鬼電が来てたからというのが一番の理由だ。

 

……あれ? 入学式は明日なんでしょ? どうして鬼電なんかかかってきたんだ? 遅刻をトレセンの人から知らされて掛けてきた訳じゃないとしたら一体なんなんだ?

 

「つまりどういうこと、ゴールドシップ?」

 

「……」

 

「起きろや」

 

ちょうど手元にあったゴールドシップの乳をガシリと掴み取る。

 

「あいてっ。いや、着いたら連絡しろって言ってたじゃん。それをお前が忘れてるからアタシがかけてやったんだぞ」

 

「思い……出した!」

 

そういえば家出てから一回も連絡してないな。

 

つまりあれは安否確認の電話だったんだ! 連絡しろって言われてたにも関わらずゴールドシップと遊び呆けてて忘れてたから今日みたいなことになったんだ! 日付なんて忘れるくらい楽しかったんだろうなぁ(他人事)

 

「……まぁとにかく、入学式は明日で、私たちは遅刻してないって事ですよね、シンボリルドルフさん? やったねゴールドシップ!」

 

「おーそうだな」

 

「……もっと喜びなよゴールドシップ。君の親なら尻尾引きちぎりに飛んできてもおかしくないよ?」

 

「いや知ってたし。焦るページをもっと見たくて黙ってたんだよ。アタシとしては予定通り学園に到着したし、なんかページが面白い事言ってるからそれに乗っただけだ。生徒会室てか3月は31日まであるのは常識だろ? 5月が64日まであるのと同じでよー」

 

これは……どうなんだ? 黙ってたゴールドシップが悪いのか、常識のない私(自虐)が悪いのか。

 

「どっちが悪いと思います?」

 

「ここで私に振るのか。そうだな、まず勝手に勘違いをしたのがネクストページで、その勘違いに気付いていながら正さなかったのがゴールドシップということだな。普通に考えると正す正さないはその人の勝手であり、間違っていたら必ず指摘されると思い込むのはあまり良い事ではない。どちらかといえば自己管理能力が不足していたネクストページに不備があると思える。とはいえ先程の私への謝罪とゴールドシップの言い分から考慮すると、恐らく生徒会室まで来て謝罪するつもりだったのだろう。なるほど、ゴールドシップというウマ娘が今後トレセン学園において問題児筆頭になる事も想像に難くない」

 

「言われてるよゴールドシップ」

 

「おいおい、あんまり褒めるなよ。褒めても溜まり醤油煎餅しか出せねーぞ?」

 

「いや褒められてないしっていうかそれ私のだし! 返せコラ! それだけはらめぇ!」

 

ゴールドシップが私の煎餅を手に取り上へとあげる。それをやられると私は絶対に届かない訳で、頑張ってぴょんぴょん跳ねるしかやることが無い。くすぐるという手もない事はないが、残念な事にそれは常日頃からやってたせいで耐性が出来てしまっているのだ。おのれディケイド!

 

「とりあえず入寮してくるといい。その荷物から見るに移動してきたばかりだろう。長距離の移動は案外疲れが溜まる物だ。風呂にでも入ってゆっくりとくつろぎ、明日からの学園生活に励んでくれ」

 

「はい、分かりました! 明日からよろしくお願いします!」

 

「んじゃーなー」

 

シンボリルドルフさんが学園の方へと消えていった。まさか来て早々に七冠ウマ娘に会う事になるとは夢にも思わなかった。なんというか、貫禄が違うよね! ありゃ某男塾塾長並だよ。

 

「……はー、ドキドキしたー」

 

「なんだよページ。もしかして緊張してたのか?」

 

「そりゃあ緊張するよ。だってテレビの中の人だよ? 七冠だよ? シンザン超えてるんだよ? リビングレジェンドなんだよ!?」

 

「そうか? だったらゴルシちゃんはガマ星雲第一番惑星のゴルゴル星から来た地球外生命体だ! ほれほれ人類史初の芦毛宇宙人ぞよ〜」

 

「……まぁそう思うんならそうなんじゃない? 君の中ではね」

 

私はゴールドシップの言葉を軽く流して寮の方へと歩き始めた。恐らく実家からの荷物も届いている頃だろう。面倒だが、今日のうちに荷解きまでは終わらせとかないとな。

 

何と言ったって、明日は記念すべき入学式!

競走バとしての生活が本格的に始まる。

 

──俺たちの戦いはこれからだ!




ああ!


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第3話 ネクストページ、怒る

フジキセキ実装記念!(激遅)


 

 

 

 

「……ん? おや、よく来たね。いらっしゃいポニーちゃん」

 

 

……あれ、来る場所間違えたかな?

 

それは、私の煎餅を奪ったまま脱兎の如く逃げたゴールドシップを追うのが面倒になり、一人で寮へと向かい、扉を開けた瞬間の事だった。

 

なにやら気障ったらしい、おっぱいの付いたイケメンが私に向かって流し目を送ってきたのだ。おかしいな、寮に来たつもりだったんだけど……。彼女のそれは、まるで客を迎える歌舞伎町のホストのようだった。

 

……はっ! そうか、私はホステスに来てしまったのか! は、初めて来てしまった……! なるほど、こんなイケウマ(イケメンウマ娘の意)に接待されるのであれば……や、やぶさかではないな。うん。

 

とはいえ私にそんな金銭的余裕は存在しない。お暇させていただく。

 

「失礼しました〜」

 

開けた扉をスッと閉じる。ふ〜、危なかった。まさかこんな場所にホステスがあるなんて思いもしなかった。というか開店するのちょっと早すぎじゃない? まだ夕方ともいえない時間だぞ。

 

さて、気を取り直して、改めて寮へと向かうとしよう。住所が〇〇の△△だから……んん?

 

タタッと走って門の前の看板を見ると、トレセン学園の寮といった文言がしっかりと書かれている。

 

……やっぱここじゃん。なんでホストがいるんだ? 雇ってんのか? 確かにウマ娘っていうくらいだから女しかいないんだけど、この歳でホストを知るのはまだ早過ぎるだろ。学園は生徒を将来的に沼にでも沈めるつもりなのか?

 

「おーいポニーちゃーん。いったい何をしているんだい?」

 

そう思っていると、扉から出てきたホストが何かしらを呼ぶ声が聞こえた。いったい誰を呼んでいるのだろうか。キョロキョロと見渡す。

 

「いやいや、君! 君のことだから! 艶やかに煌めく黒鹿毛のポニーちゃん」

 

ピクリと顔が歪むのが分かったが、堪える。

 

「……まさかとは思いますが、私のことですか?」

 

「その通りだよ。というか、今この場所に私たち以外の存在はいないよ」

 

先程から神経を苛立たせるを何度も突き付けられているので思わず知らないフリをしてしまった。

 

よく見てみるとトレセン学園の制服を着ているので生徒である事は間違いない。つまりここはホステスではなく寮だと言う事。

 

ならばこの人は先輩である可能性が高い。挨拶を交わさなくてはなるまい。

 

「初めまして、立派なサラブレッド(・・・・・・・・・)のネクストページです。よろしくお願いします」

 

「私はフジキセキだ。よろしく頼むよ、ポニー(・・・)ちゃん」

 

ピクピク!

 

………………ふぅ、落ち着け私。

 

これはあれだ。多分新入生に対する洗礼というやつだ。こんな事で怒っていては中央ではやっていけないぞという洗礼なのだ。そうでなければならない。

 

そうでなければここまで辱めを受ける理由が見つからない。一度や二度であれば、まぁまだ許せる。この学園は良くも悪くもスポーツが盛んに行われている(というか競走だけだけども)体育会系の学園の為、このような事態も想定はしていた。

 

しかし、これは予想以上に、こう、クるものがあるな。こうも容易く許容範囲を超えて追撃をしてくるとは思いもしてなかった。D4Cである。

 

しかし、まだだ。まだ私は耐える事ができる。

 

「……どうしたんだいポニーちゃん? ここで出会ったのも何かの縁だし、せっかくだから寮を案内してあげよう」

 

あ^〜、尊厳破壊されりゅ^〜。

 

しかし、まだだ! まだ耐え……ない! もういいや! 私は耐えない!いざ、本能の赴くままに!

 

「……一言いいですか?」

 

「なんだい、ポニーちゃん?」

 

「さっきからポニーちゃんポニーちゃんって……私に喧嘩売ってるんですか? 売ってますよね? 言い値で買いますけど!?」

 

「ど、どうして怒ってるんだい!?」

 

そう、この私をポニーちゃんと呼ぶたぁ一体どういう了見だ!? 背は確かに……まぁ、百歩譲ってどっちかって言うと低い方かもしれない。そういう意見もない事はない。

 

しかし、私はポニーじゃあ断じてぬぁい! ポニーとはちっちゃい馬の事だ! 競走ウマ娘とは、遠い別世界でめっちゃ頑張ったという競走馬から受け継いだ生き物であるからして、私は確実にサラブレッドな筈なのだ。知らんけど。

 

そんな私の事をポニーちゃん呼ばわり……これは私というウマ娘が体格的に小さい為、走りが不得手だという事を暗に示しているのと変わりない。

 

無論、私は速い。体感100kmは堅い。その気になれば木を投げてそれに飛び乗る事も出来るだろうし、撃たれた弾丸をまるで時が止まったかのように余裕で避ける事だって可能なのだ。いずれイスカンダルにも辿り着く事だろう。

 

なのでこんなこと意に介す必要もないのだが、ここまで言われたらいくら仏のネクストページと地元で恐れられている私とて怒りを禁じ得ない。|他人に小さいと言われる事だけは我慢ならないのだ《・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・》。

 

怒髪天を衝く勢いとは、まさにこの事であった。

 

「ま、待ってくれ! 喧嘩って、いったい何が気に障ったんだい? ──ポニーちゃん」

 

「あああああまた言ったあああああ! 一体どれだけ人を愚弄すれば気が済むんだあああああああうああああああ!!!!」

 

やはり暴力、暴力は全てを解決する──!

 

自制の糸がブチ切れた私はケースの中からあるものを取り出し、それを彼女へと放り投げる。

 

「こ、これはなんだい……?」

 

「あ? 何って……見れば分かりますよね。グローブ(・・・・)ですよ。フジキセキさんの言い分は理解しました。中央は私のような、ポニーのごとき小さなウマ娘がしゃしゃり出てくる舞台ではない、そう言いたいんですよね? しっかり試験も面接も受けて普通に合格してきた私に対して。つまり喧嘩を売っているわけだ。なので私は不退転の覚悟で貴女にタイマンを挑みます──拳闘(こぶし)で!」

 

拳にテープを巻く。怪我は流石にまずい事は理解しているので、このグローブはウマ娘用の36オンスというド級物だ。

 

力の比べ合いとは、生物としての本能だ。ボクシングに限らず格闘技の全てにおいて勝敗というものがある。野生においても喧嘩が強い奴がモテる。そう、勝てば官軍なのだ! 文句があるのならば誰でもかかってこい! いつでも相手になってやる!

 

グローブをその手に嵌め込み、そしてアフロを被る。よし、準備は万端だ。

 

私は右手を顎につけ、左手をゆらりと腹部の方まで構えて左右に振る。これが私のファイトスタイルであるヒットマンスタイルだ。

 

リーチは然程長くは無いのでこのスタイルは全く合っていないのだが、はじめの一歩を読み込んでいる私からすればどうという事もない。むしろハンデとして丁度良い。

 

「ほら、はやくつけてくださいよ。ご待望のタイマンですよ」

 

「いや、その、全く意味が分からないのだけれど……」

 

「何も分からない事なんてありません。貴女が私に喧嘩を売り、私はそれを買った。それだけ、たったそれだけのシンプルな答えです」

 

「だ、だから喧嘩なんて売って──」

 

「なんだいフジ! タイマンやるんだって!?」

 

ここから少し離れた建屋の一部屋の窓がガラリと勢いよく開かれると、誰かしらがフジキセキへと声をかけた。褐色肌の彼女はキラキラとした笑みをフジキセキへ向けていた。

 

「ひ、ヒシアマ! 丁度良いところに! 早く、早く来てくれ! 何やら酷く誤解をされてるみたいなんだ!」

 

このアマ、何を抜かしおるか!?

 

「はぁ!? 誤解だって!? 私は何も誤解してない! 私は何も間違えない! 仮にそうだとしても誤解させる事を言う方が悪いに決まっている! 知らないのならば教えてやる! 私が言われて嫌な言葉は“ゲートに入れ”、“ゲートから出ろ”。そして一番は……

 

──“小さい”と言われる事だああああああああああ! おらあああああ校舎のシミにしてやらああああああ!」

 

「う、う、うわあああああああ!!!」

 

私が近年稀に見るほどの猛々しい吶喊をかました瞬間、フジキセキは脱兎の如く背後へと駆け抜けた。その瞬発力は目を見張るものがある。

 

「逃がすか! ハラワタを塩漬けにしてやる!」

 

「た、啖呵が怖すぎる!? 何が気に障ったか皆目検討も付かないが、私は君を侮辱する意思を持ち合わせていない! 許しておくれ、ポニーちゃん!」

 

 

 

私は激怒した。

 

 

 

怨み骨髄に入る思いであった。

 

咬牙切歯も当然であった。

 

切歯扼腕の面持ちであった。

 

必ず、かの傲岸不遜のアマを分からせなければならぬと決意した。どれだけ泣き縋られようとも漆黒の意思を持って、私を二度と莫迦にできないように教育を施さなければならないのだと。

 

「○す! 絶対に○す!」

 

「ひぃやあああ〜〜!!」

 

フジキセキが逃げる。奴は速かった。流石に私を莫迦にするだけのポテンシャルは持ち合わせているようだ。

 

しかし奴は私服で、しかも運動靴ですらない。そこは私も同じ条件なわけだが、私は先程までゴールドシップとの激戦を繰り広げており、身体は元々温まっていた。それに対して奴はどうだ? 寮の中から出てきた為、明らかに運動をしていた様子ではない。

 

 

つまり、この勝負──私の勝ちだ!

 

 

「さっさと往生せいやあああああああ!!」

 

「うおおおお! ちょっと待てページイイイイイ!」

 

鬨の声を上げた瞬間、後ろから急に羽交い締めにされてしまった。私の全力に対抗できる力といいこの声といい、まさかこいつは……!

 

「ゴールドシップぅ! 離せコラ! 私の邪魔をするなァ! あのアマ、私に何回ポニーって言ったと思う!? 1000も言ったんだぞ!?」

 

「なんで二進数で答えんだよ! 8回って言えよ! いいから落ち着け〜!」

 

「なんで二進数って分かるんだよぉ! ああああいたたた! バカバカバカ! パロ・スペシャルはダメだってばー!」

 

ゴールドシップが禁じ手を使用してきた為、私もこの為に伸ばしていると言っても良い長い髪をブンブンと振り回し、顔を攻撃する。

 

「おわっ、あてっ、いてっ……この髪、鬱陶しいな! ダイヤモンドカットしてジャスタウェイにお歳暮として送るぞ!」

 

「ジャスタウェイは本当に食べそうだからヤメロォ!」

 

「……よし、正気に戻ったか!? おいあんた! ページに対してポニーつったのは悪気があっての事か?」

 

「悪気なんて一切ないよ! 小さい事を揶揄する意図は含んでないし、そもそも初対面の娘にはポニーちゃんで統一しているだけさ!」

 

「ほら、なっ? 聞いただろ?」

 

「悪気が無いからって何でもかんでも許されると思うな! ごめんで済んだら警察はいらないんだよ! 裁判沙汰にしてやるぅ!」

 

私はゴールドシップの足を払い、後ろへ倒れ込む。柔道的なあれだ。

 

ぐえっ、と呻き声を上げたゴールドシップは地面に「犯人は毛利小五郎」とダイイングメッセージを残すと止まるんじゃねぇぞ……し、私はようやく解放された。

 

「はぁ……はぁ……さて、続きといきましょうか」

 

「ま、待ってくれ! ポニーちゃん呼ばわりが気に障ったのなら謝る! すまない!」

 

「絶対許早苗! 私は今、頭が沸騰しているのだ! 何を言われようともこの怒りが鎮まる事はない!」

 

「ひ、ひぇ〜〜!」

 

 

 

「──待ちな!」

 

 

 

その声と同時に、フジキセキの前に褐色肌のウマ娘が現れた。さっき窓から叫んでいた奴だ。

 

「そこのちっこいの!」

 

今なら悪魔に魂さえ売ってもいい。だから、力を……!

 

「フジの奴は悪意を持ってウマ娘を、ましてや新入生を馬鹿にするような奴じゃない! きっと何かの間違いだよ」

 

「ひ、ヒシアマ……!」

 

おっぱいの付いたイケメンが感動したように強気なアマへと視線を送る。

 

「聞く耳持たん! 悪意がない? 何かの間違い? そんな事はどうでもいい! 何を言われ、そして言われた私がどう思ったか、重要なのはそれだけだ!」

 

「……なるほど、これは重症だねぇ……。つまり、タイマンで片を付けるしかないって訳だね」

 

お互いに構える。

 

ア・マ・ゾーン! な感じで爪を立てるアマ。大切断など喰らってたまるか。

 

……と、その前に。

 

「怪我したらまずいんで、ちゃんとグローブつけてください!」

 

「お、おう……意外と冷静なのかい?」

 

そして先程とは打って変わり左手を頭より少し上に、右手を腰の位置にまで下げ、肩幅ほど足を開いた。これを“天地魔闘の構え”と呼ぶ。

 

緊迫した状況下にて一時の均衡状態を保っていると、騒ぎを駆けつけたのか数名のウマ娘が私たちに声を掛けてきた。いつの間にか野次も集まっているらしい。

 

「おい! これは一体どういう状況だ!?」

 

「え、エアグルーヴ! 頼む! どうにか彼女を説得してくれないか!?」

 

「彼女……? フジ、それはそこの黒鹿毛のウマ娘の事か?」

 

「……ネクストページ?」

 

聞き覚えのあるような声も聞こえてきたが、私は今、目の前のアマ二人にどう攻めていくかで頭がいっぱいだ。

 

片方を攻めると片方に逃げられる。もしくは攻められる。ヒシアマなるウマ娘は構えからしてステゴロもいけるようなので警戒が必要だ。くそっ、こっちにゴールドシップさえいればどうにかなったのだが、生憎とあいつは今伸びている。一人でどうにかするしかあるまい。

 

「おい貴様、見慣れない顔だな! 所属と名前を言え!」

 

「まぁ、待ってくれエアグルーヴ。彼女は私の知り合いだ。少し話をしたい」

 

「は、はい。会長がそう仰るのなら……」

 

ザッザッと近づいて来る足音が聞こえる。

 

「まさか入学前に問題を起こす新入生がいるとは……さっき振りだな、ネクストページ。少し落ち着こうか。そう張眉怒目していては冷静な判断が出来ないぞ?」

 

……確かにその通りだ。私は深呼吸を幾度か行うと、ようやくその声の主が誰なのか気が付いた。

 

「その声は……もしかしてシンボリルドルフさん? 良いところに来てくれました。あの悪虐かつ卑劣極まるウマ二匹を捕らえたいので、良ければ手伝ってくれませんか?」

 

「な、なに……?」

 

「彼女達は初対面にも関わらず、私の身体的特徴をあげつらって何度も何度も莫迦にしてきたんです! 最初は聞き流そうとしたんだ! 聞き間違いだと思おうとした! けれど、八回だ……っ! 八回もこのネクストページを侮辱した……っ! 貴女の七冠よりも多い回数だ!」

 

「いや、それは関係ないような……」

 

「ならばっ! 私のこの憤りはどう発散すればいい!? 狸寝入りでもすればいいのか!? ──私を莫迦にする……そういう奴らを、どうしたらいい!?」

 

そう呼び掛けると同時に私のスマホと、細工を仕掛けていたゴールドシップのワイヤレススピーカーから「○せー!」とコールが返ってきた。ぶへはははは!

 

「行くぞオラァ! 桜肉に加工してやらァ!」

 

「ま、待つんだ! ネクストページ!」

 

「もうっ! なんですかっ! 怒るのだって疲れるんですよ!? さっさとしないと落ち着いちゃうじゃないですか!」

 

しかし尊敬する七冠ウマ娘の言葉は無碍には出来ない。私はクルリと振り返った。

 

「一つ提案があるんだが聞いてくれないか?」

 

「レースですか? 生憎今日は走る気分ではないので駄目です」

 

「レースで──って、そ、そうか……」

 

耳が垂れたシンボリルドルフさんの制止を振り切り、敵軍陣営に向かって吶喊した。味方などいない、たった一人の最終決戦である!

 

駆け抜けた先に存在するはヒシアマゾンなるアマ。右の拳を握り締め、グオッと振り上げる。

 

──しかし

 

「──貴女、誰ですか」

 

「私は生徒会副会長のエアグルーヴだ。これ以上の狼藉はこの私が許さん!」

 

シンボリルドルフさんの隣にいたウマ娘──エアグルーヴが私の前に立ちはだかった。この人もG1で何度も一位になった事のある凄いウマ娘だ。

 

とはいえ、今はそんな事は関係ない。

 

「じゃあ聞きますけど! あーたは初対面かつ得体の知れない誰かに第一声で『頭大きいですね』とか言われたらどーいうキモチになりますか!?」

 

「……まぁ、不快になるだろうな。だが今はそんな事──」

 

「そうでしょうがッッ!! だったら黙って見といてください!!」

 

「だからと言って暴力は──」

 

「36オンス!!!! こんなもんで怪我する人なんかおりゃせん!!!!」

 

私はこれ見よがしにグローブを掲げた。こんな超弩級のグローブなんか、威力としては枕投げに等しいだろう。怪我なんて心配するだけ無駄だ。

 

「そしてこれは拳闘です!! レースと同様に歴としたスポーツであり、決して暴力なんかではありません! 貴女、自分がレースでトップレベルだからって他の競技の事をバカにしてませんか!?」

 

「そ、そんな事はない! しかし、万が一顔に怪我でも負ったら──」

 

その言葉を聞き、私は鞄の中にしまっていたヘッドギアを二つ取り出し、片方をヒシアマゾンなるアマに投げ渡した。

 

「用意がいいじゃないか。……というかその鞄の何処にそんな容量があるんだい?」

 

「私は片付け上手なんです。ほら、これで文句は無いでしょう?」

 

「し、しかし、ボクシングなんて格闘はウマ娘に……」

 

「レースもスポーツで、拳闘もスポーツだ! そこになんの違いもありゃしねぇだろうが!」

 

はい論破! もうこれ以上は我慢の限界だ。私の中に眠る、闘争を求めし秘めたる心が今にでも爆発しそうな──。

 

「──はい、当身。ようやく隙が出来たぜ。ったくよ〜、こんな面白い事、次からはアタシ抜きでやるんじゃねーぞ?」

 

耳元から声が聞こえてきたと思うと、私の意識は遠のいていった。




書いてて荒いって分かるけど、推敲する気力が出ない。なんで?


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