この素晴らしい世界を頑張って生き抜く (ゆかゆか)
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この素晴らしい女神に求婚を!
「ようこそ死後の世界へ。私は、あなたに新たな道を案内する女神。
目が覚めたら、謎の部屋にいた。
目の前には椅子に座った女神。
そしてどうやら、俺は死んだらしい。
到底信じられるような話ではないはずだが、目の前の神々しさを放つ美少女があまりにも現実離れしていて、俺はもう自分が死んだということを自然に受け入れてしまえた。
そして思い出されるのは自分が死ぬ直前の記憶。
休日に俺は遊びに出掛けていて、横断歩道を渡ろうとしていたんだ。
そうしたら急に信号無視のトラックが突っ込んできて、俺は咄嗟に前を歩いていた男の人を突き飛ばして……
「あ、そうだ! 一つ聞きたいんですけど」
「何ですか?」
「あの、俺が突き飛ばした男の人って無事ですか?」
これは聞いておきたかった。
無駄死になんてごめんだ。
「はい。特に怪我もせずピンピンとしていますよ?
……まあ助けてもらったと思っている相手が死んじゃって精神的に不安定になってるらしいですけど」
……はい?
「というかそもそもあなたが慌てて突き飛ばしに行かなければトラックはあなた達の間を通ったんですけどね? 行動自体は立派だし流石にこれをバカにしようとは思わないけど、とことん持ってないわよねー」
……となると、なんだ。
俺はあの行動で自分が死んだだけでなく、突き飛ばした男の人に精神的ダメージを与え、しかも自業自得の面もあるとはいえトラックの運転手に人殺しの称号を与えたってのか!?
「最悪だあ……」
「いやほんとね、私結構色んな死者を見てきたけどこんなに間が悪い人滅多にいないわよ? 逆に面白いわね」
この女神もなんなんだ……!
確かに人間とは死生観とか色々違うのかもしれんが、一応死にたてホヤホヤの俺にそんなこと言う!? 嘘でも励ましてくれないか!
「……あー、無駄話はこの辺にしておいて、さて。あなたには複数の選択肢があります。
日本で赤ん坊として生まれるか。天国みたいなとこでお爺ちゃんみたいに暮らすか、どっちにする?」
いやいくつかって二つじゃねえか。というかどこだよ天国みたいな所って。突っ込みどころ多すぎるだろ。
「天国、とは?」
「えっと、天国ってのはね。あなた達が想像している様な素敵な所ではないの。死んだんだからもう食べ物は必要ないし、死んでるんだから、物は当然産まれないわ。当然娯楽なんてものもないし、死人達の魂しかない。ほーんとに退屈な所なの」
なにそれ、地獄じゃねえか。
え? それ転生しかなくね?
今更赤ちゃんからやり直すなんてのも嫌なんだが。
記憶をなくすのであれば、それはもう俺は本当の意味で死んでしまうという訳だし……
「うんうん、天国なんて退屈な所行きたくないですよね? かといって、今更記憶を失って赤ちゃんからやり直すって言われても、あなたにとっては今までの記憶が消える以上、それってあなたって言う存在が消えちゃう様なものですよね。そこで! ちょっといい話があるのよお兄さん!」
なんだろう。この女神が言うとすんごーく嫌な予感がするのだが。
「実はね? 今、ある世界でちょっとマズイ事になってるのよね。って言うのも、俗に言う魔王軍ってのがいて、その連中にまあ、その世界の人類みたいなのが随分数を減らされちゃってピンチなのよ」
「……それで?」
「その星で死んだ人達って、まあほら魔王軍に殺された訳でしょう? なもんで、もう一度あんな死に方するのはヤダって怖がっちゃって、そこで死んだ人達は殆どがその星での生まれ変わりを拒否しちゃうの。はっきり言って、このままじゃ赤ちゃんも生まれないしその星滅びちゃう! みたいな。で、それなら他の星で死んじゃった人達を、そこに送り込んでしまえって事になってね?」
なるほどな、異世界からの移民政策か。
「だから、俺みたいな若くして死んだ人間をその世界にそのまま転生させているんですか?」
「そうそう。でも、それで送ってすぐに死んじゃっても意味ないじゃない? だから、異世界に何か一つだけ好きなものを持って行っていいことになってるの。固有スキルだとか、超強力な装備とか、ものすごい才能とかね。
……どう? 悪い話じゃないでしょ? あなた達は人生を異世界でやり直せるし、向こうとしても人口を増やせるし魔王軍相手の戦力が増えるもの」
そう言われれば、悪くは聞こえない。
というかあれだ、これって俺がトラックに轢かれてるの含めて異世界転生モノの定番じゃん。なになに、これ俺つえーできるの?
「あれ、でも、向こうの世界の常識とか俺わかるんですか?
文字とか言葉も違うだろうし……」
「ああ、安心して。そこはバックアップするわ。流石に一般常識まるごとって訳にはいかないけど、最低限言葉は通じるし向こうの通貨とかも勝手に脳内で日本円換算してくれるように神々の謎パワーでなんとかしているから」
謎パワーて。
だが、それなら後はもう持っていく特典を決めるだけだな。
何が良いかな? 無限の魔力とかやっぱそそられるな。
いやでもなんか凄いアイテムも……それともこういうので定番のステータス鑑定系とか?
夢が広がりまくるぜ。
「ねえ、早くしてー? どうせ何選んでも一緒よ? 見たところ特に何か優れた点がある人間にも見えないし。なにかテキトーに選んじゃってよー。後ろの死者の案内も詰まってるんだしさー」
ムカっとした。さっきからなんだこの女神。死に様から何から本当に不幸に苛まれていないか俺は。
……不幸? ああ、そうだ。
特典きーめた。
「じゃあ、人並みの……いや、人並み外れた幸運をください」
「はいはーい。幸運ね……幸運? 随分とピーキーなとこ要求すんのねえ」
「前世の最期から見て俺って運悪そうなので」
「それもそうね。まあなんでもいいけど。
……幸運か、ならあの娘のとこに送ればいいかしらね。
エリスー! 聞こえてるー!? 今からそっちの世界への転生予定者送るからテキトーにやっといてー!」
目の前の女神が突然後ろを向き虚空に向かって呼びかける。
「あ、アクア先輩!? どういうことですか!? 日本からの転生者は先輩の管轄ですよね!?」
「その辺の説明は多分転生者の子がやってくれるわよ! じゃあ送るわねー!」
「い、いや先輩、ちょっと待っ──」
会話が聞こえてくる最中、俺の意識が一瞬暗転した。
「……ここ、は?」
「はぁ……アクア先輩はまた突然こんな……」
突然目の前に現れたのはこれまたとんでもない美少女。
というかさっきから断片的に聞こえてる話といい見た感じのオーラといい、絶対女神としてまともだこの人。
「……先輩がごめんなさい。私の名前はエリス。幸運を司る女神で、あなたの世界で言う『異世界』の死者の管轄を──」
「結婚してください」
「ふぇっ!?」
いやなんだこの人マジ女神。
おそらく自分もあの水色の女神……アクアと呼ばれてたっけ? に振り回されているだろうにも関わらず俺を気遣ってくれている。
そして何よりとても可愛い。本当に可愛い。あの女神も中身はともかく美少女ではあったが、目の前の女神……エリス様はその上を行くと思う。
これはもう結婚するしかないのでは?
「い、いきなり何を言うんですか!
……そ、その、そういうのはまず互いを知って」
「申し遅れました俺の名前は赤城祐樹享年17歳ですもう死んではいますが貴方のためなら粉骨砕身して働ける所存でございます結婚してください!」
「互いを知るのハードル低くありませんか!?
……も、もう。からかうのはやめてください……」
むう、流石に初手求婚はダメだったか。
断じてからかってはいない。と断言したかったが、流石にこれ以上話をこじれさせてもしょうがないので仕方なく頷く。
「それで、なんで俺はここに送られたのでしょうか?」
「それは私も知りたいですよ……」
見渡せば先程アクア……様と会話した場所にそっくりだ。
そういえばさっき幸運が云々の話をしていたんだっけ。……幸運? そういえばいまエリス様は幸運を司る女神だって言ってたな。
「ああそうだ。転生特典に幸運を要求したらここに飛ばされたんでした」
「幸運を? ああ……なるほど。それなら確かに幸運を司る私が適任ですがだからってこんないきなり……だいたい先輩はいつも……」
エリス様が若干闇を見せている。
そんなところも可愛いなと思いつつ、それでは話が進まないので声をかけてみることにする。
「あ、あの、エリス様?」
「ああ、すみません! ……こほん。
転生者赤城祐樹さん。あなたはこれから異世界で第二の生を歩むこととなります。その人生に幸多からんことを……『祝福を!』」
エリス様から光が放たれ俺の中に入り込んでくる。
なんだろうこれは。
「これは私の祝福の光です。いま祐樹さんには幸運を司る女神である私の加護を与えました。これで祐樹さんは人並み外れた幸運の持ち主になったはずです」
「ありがとうございます」
おお、そんなことができるんだ。さすが神様だぜ。
「それでは、すみません……まだ色々と説明したいこともあるのですが、『この世界』での死者の方の案内をする必要がありますので……」
「いえいえ、突然邪魔してしまってすみません。すぐにでも出発出来ます」
「重ね重ねすみません……」
エリス様は何も悪くないというのに何を謝っているのか。
悪いとしたらあの水色の女神の方だろう。
「あ、そうだ」
「どうしましたか?」
「結婚の話、俺実は割と本気で言っていたので少しでいいから考えてみてくれると嬉しいです」
それを聞いたエリス様は顔を茹で蛸のように真っ赤にして。
「……!
そ、それでは異世界転生、いってみ……じゃなかった、いってらっしゃいませ!!」
「あ、ちょ……」
それと同時に意識が暗転した。
おそらく俺はまた別のところへと飛ばされるのだろう。
最後何か言いかけてたのは気になるが……まあそれ以上に顔真っ赤にしてたエリス様がかわいらしかったので別にどうでもいいか。
「……エリス様、またいつか会いたいなあ、さっき言ってた話が本当なら向こうで死んだら会えるんだろうか? よしそれなら初手自殺まで──」
「物騒なこと考えないでください!
……その、私はたまに姿を変えて下界に降りてますので……もし本当にそう思ってくださっているのなら探してみてくださいね?」
いや今の聞こえてたんかい。
こっちはもう完璧に目の前にいないもんと思って口に出したのに。
今さらすごく恥ずかしくなってきたぞオイ。求婚しといてほんと今更だとは思うけども。
……しかし、下界に降りてるのか、エリス様。
そうだな、当面の目標はエリス様探すってことでいいか。
さてさて、俺の第二の生は一体どうなるんだろうな?
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この使えない特典に救済を!
どうも。赤城祐樹17歳。一度死んで異世界転生してます。
突然ですが今俺は。
「……悪いことは言いません。アカギユウキさん。
……あなたは冒険者ではなく商人の道を歩むべきです」
冒険者になれるかどうかの瀬戸際に立たされています……!
「……おお……! ここが異世界か……!」
気付くと俺は、レンガの家が並ぶまさにファンタジー! というべき様な世界にいた。
お! 今獣耳の人が歩いてた! それにエルフ耳もいる1あれがエルフか!?
なんかやる気出てきたあ! 全力で働くぜ!
……さて、落ち着こう。
とりあえず異世界に来たならまず行くべきは冒険者ギルド的なところだよな。
……で、どこにあるんだろう。
ヤバい。いざ来た時のこととか考えてなかった。どうしよ。
改めて、自分の服装などを確認する。死んだときの服装……ふっつーのズボンとTシャツの上にパーカーというものだ。まあ外出した時そのまんまだしなあ。
ふとポケットに何か入っているのに気づく。
「なんだこれ……ん、一万……エリス?」
ああ、そういえばこの世界の貨幣単位の名前は『エリス』だったな。さすがはエリス様だ。貨幣の単位になるなんてすごいぜ!
確か一エリスが一円だったっけ。
某国民的RPGとかでも初期百Gくらいの所持金しかもらえないと考えると良心的……なのか?
うーん、でも人生の初期資金一万円と考えると絶望的な気もする。
まあいいや。とりあえずはその辺の人に話しかけてみよう。
「あー、そこの人! 冒険者ギルドの位置って知りませんか?」
「ああん? お前、誰に向かって口利いてるのかわかってんのか?」
あっやべ、いきなり地雷踏んじゃった☆
確認してなかった俺が悪いけど、金髪のめっちゃガラ悪そうな男に話しかけてしまっていた。
事前確認は大事だね!
「い、いや、そういうつもりじゃ……」
「なんだって? 冒険者ギルド? んなことも知らねーのかよ?
仕方ねーから特別にこのダスト様が教えてやるよ、その代わり代金は──いでっ」
「なーに初心者いじめてんのよ。というか教えるも何もそもそもあたしらも今から行くんだから一緒に行けばいいでしょ」
「んだよリーン、せっかくの臨時収入のチャンスだったのに……」
男の背後から青いマントを着た女の子が出てきて男の頭をはたいた。
なんだ、この光景?
「あーごめんね、ルーキーくん。
こいつはダストって言って、それなりに腕は立つんだけどいつもしょーもないことばっかりやってんのよ。
で、あたしがリーン。一応こいつとパーティ組んでるウィザードで、中級魔法までは使えるわ」
「あ、これは丁寧にどうも。
えーと、俺は赤城祐樹。この街には遠くから来たからあんまり勝手を知らないけど、一応冒険者を目指してる。よろしくな」
「アカギユウキ? 何だ、変な名前だなあお前」
「ちょっとダスト、失礼でしょ? ……確かに変わってるけど」
しっかり自己紹介を決めたつもりだったのだが。反応はそんなに芳しくない。
なんでだ。
「あっ、ひょっとして君って『ニホンジン』なんじゃないかな?」
「へっ?」
唐突に聞こえてきたなじみのありすぎる言葉。
「えーとね、君みたいな変わった格好で変わった名前の世間知らずの人たちがたまにいるんだけど、その人たちって自分のことをそう呼ぶって話でね」
「あー、そうなのか……てか世間知らずって」
「うん、それでニホンジンには王都で活躍するような有名冒険者も多くいるらしいのよ。それで君も冒険者になるのかなって」
「マジかよ。それなら恩売っとくべきなんじゃねえの?」
「いや、俺はそんな大層なもんではないぞ……」
転生特典もただの幸運だしな。戦いにおいてそこまで有利になるようなもんじゃない。
……あれ、俺ひょっとして外れの特典引いてない?
「……ここが冒険者ギルドだ。冒険者登録なら奥のほうの窓口でできるぞ」
「それにクエストの受注とか、あと食事もできるわよ」
「なるほど……二人ともありがとな」
「いつかなんか奢れよ」
「まったくダストは……まあ機会があったら一緒に冒険しようよ。そのときにはあたしらのもう二人のパーティメンバーも紹介するわ」
「ああ、本当にありがとう。いつか必ずお礼はするよ」
「おう、金でいいぞ金で」
無言でリーンがダストの頭をはたく。
なんだかんだでいいコンビ……なのか? この二人は。今リーンが言っていたことを考えると、いつもは四人パーティで行動してるのか。
……さて、俺はギルド内を見回してみる。
「あ、いらっしゃいませー。お仕事案内なら奥に、お食事なら空いている席にどうぞー」
ウェイトレスが笑顔で出迎えてくれる。
なるほど、酒場が併設されているな。リーンが言ってたのはこれのことか。
そこかしこに鎧を着こんだいかにも重戦士といったような風貌の人やローブを着込んだ魔法使いのような人などがたむろしている。
すげえ……これが冒険者ギルドか!
さて、受付は四つあるが……一つだけ並んでるな。
まあそれも当然のことだろう。
なぜならこの列の先の受付をやっているのは美人のお姉さんだからだ!!!
うーん、ここに並んでもいいんだが……
いや、こんなんで時間をとるべきでもないだろうな。他のところでいいや。
「すいません」
「はい、今日はどうされましたか?」
「えーっと、冒険者になりたいんですが、遠くから来たので勝手がわからないんですよ」
「あっはい冒険者登録ですね。登録手数料として千エリス掛かりますがよろしいでしょうか?」
「大丈夫です……あっ、今一万エリス札しかないんですけど大丈夫ですか?」
「大丈夫ですよ。こちら九千エリスのお返しです」
初期資金の十分の一を使い果たしてしまったぜ。いやまあ別にどうせこれから稼がなきゃいけないんだが。
「さて、まあ知っているとは思いますが一応形式上説明させていただきますね。
まず冒険者はモンスターなどといった人に害をなすモノの討伐などを生業とする職業です。まあそういった討伐のみでなく、遺跡やダンジョンの調査などで生計を立てる人もいますし、何でも屋のようなものですね」
「そして、冒険者には各職業というものがございまして、それぞれに応じたステータスの強化やスキルの習得ができます」
おお、ワクワクしてきた。
まるで本当にアニメやゲームの世界にそのまま飛んできたようだ。
受付のお兄さんが俺の前に運転免許証のようなものを差し出した。
これが冒険者カードなのか?
「さて、こちらをご覧ください。
ここに表記されているのがレベルです。モンスターの討伐などをすると経験値が入っていくわけですが、通常であれば見えないそれをこのカードは可視化してくれます。
経験値が貯まるとレベルが上がってより強いスキルを習得できるようになったりするので、ぜひ頑張ってレベルを上げてください」
なるほど、本当にゲームのようなシステムになっているんだな。
ただ敵を倒しただけで強くなるというのはなかなか謎なシステムだよなとは思うが、まあ強くなるものは強くなるのだから仕方ないのだろう。
「ではまずはこちらの用紙に身長、体重、年齢などの記入をお願いします」
「はい」
えーと、名前はアカギユウキ、身長は170㎝……本当だ、断じて169㎝ではない。それで体重は57㎏で……黒髪で……
うん、まあこんなもんかな。
驚くことに日本語で書いていると認識していた俺の字は見事にこの世界の字へと変換されていた。
これが謎パワーか。
「はい、受理しました。
それでは、こちらのカードに触れてください。するとあなたのステータスがわかりますので、それに応じて職業を選んでくださいね。職業によって覚えられるスキルも変わるので、真剣に選んでくださいね」
「はい」
カードに手を触れる。
へへへ、ここからきっと俺の輝かしい冒険者生活が始まるんだ!
「アカギユウキさんですね。ええと……
な、なんですかこの幸運値!? 高レベルの踊り子やバードでもなかなか見られない数値ですよ!?」
受付のお兄さんの驚いた声が聞こえたからか、ギルド内の視線をそれなりに集めたようだ。
しかし俺の今の幸運値ってそんなにすごいのか。エリス様万歳。
……あ、飯食ってたっぽいリーンとダストもこっち見てる。いぇーい。
しかし、これだよこれ。
この俺の潜在能力でギルドがわっと沸き立って、それでそれで──
「……あ、でも、幸運以外は軒並み平均値より低いですね……
知力は平均的か少し上くらいですが、この魔力だと魔法職は厳しめかな……」
「……え?」
「…………悪いことは言いません。アカギユウキさん。
……あなたは商人の道を歩むべきです」
「なんでだああああああああああああああああああ!!!!!!!!」
「っぷ、くくっ……まあまあユウキ、元気だしなって」
「リーン、笑われながら慰められるとダメージが増すんだが」
「あーっはっはっは! ざまあねえな新入り! 俺は最初からお前みたいなのはダメだと思ってたんだよ!」
「ダスト、お前は容赦なさすぎるだろうが! というか俺お前が貸し作っといたほうがいいかなみたいなこと言ってたの覚えてるからな!?」
「ふーっ、ふーっ……いや、ごめんごめん。
だってあんなに大きな声出されて視線集めといて結局なれるのが『冒険者』だけだったって……ぷふっ」
「まったくだぜ。お前のその規格外に高い幸運。実はただのハリボテなんじゃねえの?」
「あの受付の奴は絶対に許さねえ……!」
変に期待持たせやがって。
ダメだったならダメだったではっきり最初から言ってくれりゃあよかったのに。
ていうかなんで真っ先に幸運見るかなあ。
他見てからならあんな反応にもならんかっただろうに……!
「はーお腹痛い……でさ、実際どうすんのユウキは?」
「くそ、めちゃくちゃ笑いやがって……どうって、冒険者やってくしかねえじゃん。商人やるにも元になる金ないし」
「冒険者やってくって……お前レベル1の
「……リーン、ダスト、俺たち友達だよな?」
「ごめん。さすがにそこまでのお世話はあたしたちにはできないかな」
「まったくだ。お前みたいな荷物持ちもままならなそうなやつに報酬分けるなんて御免だね。というかいつ友達になったよ俺らは」
「ですよねー」
まあさすがにそこまでしてもらおうとは思ってはいない。
むしろそこも手伝ってくれるなんて言われてたらさすがに断って……たかな……
いや、うん、たぶん断ってたな。うんうん。
「いやー、でも本当に幸運値はすごいね幸運値は!」
「『は』を強調すんな。本当に働いてるのかこれ? 今の状況すでに不幸でしかないだろ」
「それは確かにね」
「まあまあ元気出せや! 今日は奢ってやるよ最弱職!」
「くそ、途端に上からになりやがって……」
「ダストは他人に奢るより先に借金返してよね。どうせ奢るってのもツケででしょ」
「いや、将来的にこいつに返してもらえやいいだろ」
「お前奢りの意味知ってる!? というかその最弱職に何の期待をしてんだよお前は!」
「まあまあそう邪険にしないで、多分これでもこいつなりに気を使ってんだと思うよ?」
「……本当か?」
「いや、こんくらいしとけば警察にお世話になった時の保証人候補増えるかなと思ってな。最近もうリーンやテイラーしか来てくれねえしよ」
うわあ……ちょっと見直しかけた俺がバカだった。
いやでも、正直俺の良識が全力でそれはダメだと訴えかけてきてるだけで、正直ダストとは仲良くなれそうなんだよな。
今はまだ異世界転生によるテンションの高さも相まってごまかせてるだけで。
「正真正銘クズだよお前は! …………とも言えねえかもしれないんだよな」
「ち、ちょっとユウキ! いくら困っても犯罪はだめだよ!? というかユウキのステータスじゃ返り討ちに……」
「ちげえよ! いや違わないけど! てか返り討ちに遭う前提かよ!
……今はまだよくても、冬になったら金なきゃ下手すりゃ凍死もんだろ。そうなったら死ぬよりかは軽犯罪犯して牢屋に入ったほうがマシかなって」
「お、そこに気付くたあ、案外目の付け所は悪くねえな」
「うっわあ……」
だすと の こうかんど が 1 あがった!
りーん の こうかんど が 10 さがった!
「ま、まあその方法はどうかと思うけど、冬を越す方法を考えなきゃいけないのは本当だね。
冬って、寒いのもそうだけどそのせいでモンスターの活動が鈍くて全然収入ないから」
「おいおい、そう言ってももう冬は結構近いぜ。間に合うのかよ?」
「冬ってそんなにやばいの? ……マジで?」
「「マジね(だな)」」
……拝啓、エリス様。
俺、異世界で冬を越すことなく貴女に逢いに行けそうです。
そして疑いたくはないのですが、授かった幸運は、ちゃんと俺を守ってくれているのでしょうか……?
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このぼっちの娘に友人を!
「ふ、不束者ですが……これから末永くよろしくお願いいたします……!!」
拝啓エリス様。ご報告したいことがあります。
ーーパーティメンバー探してたら、お嫁さんができましたーー
「はあ…………」
俺は今、ギルドのクエスト募集版の前でため息をついていた。
ジャイアントトードの討伐……食われたら終わり。
ゴブリンの群れの討伐……一人じゃ無理。
一撃熊の討伐……なめてんのか。
グリフォンとマンティコアの縄張り争い……これ貼る場所間違ってるよね?一応駆け出し冒険者の町って聞いたぞここ……
特にクエストの更新がなかったのを見届けると、取っておいたパーティ募集掲示板の近くの席に座りボーっとする。
流石に最弱職一人じゃ無理だと思いパーティ募集をしたのはいいのだが、まあ当然来てくれる人がいるはずもない。
当たり前だ。だって俺も入りたくねえしレベル1の最弱職だけのパーティとか。
「ようユウキ。相変わらず大人気だな」
「ダストか……これでそう見えんなら素晴らしい慧眼をお持ちだな。あと貸せる金はねえぞ」
「本気にすんなバカ。それに流石にお前から金借りるほど落ちぶれちゃいねえさ」
「それはひょっとしてギャグで言ってんのか?」
なぜかは知らんが、ちょこちょここいつに絡まれている。
この間の冬場投獄計画の話で同類と思われたのかもしれない。
「コラダスト、またユウキに絡んでるの?
あんたといつもつるんでると思われたらただでさえ厳しいユウキのパーティ結成が絶望的になるでしょ?」
「リーンは俺を慰めたいのか助けたいのかバカにしたいのかどれなんだ?」
「近くで死なれたらさすがに寝覚め悪いけど積極的に助けるほどの義理はない」
「さいですか……」
なんだかんだ今は土木作業などのバイトで食いつないではいるが、マジでこのままだとまずい。
今一番お世話になっている現場の作業がもうすぐ終わってしまうのだ。
そうすると俺は最大の収入源を失うわけで……
ああああ冬に馬小屋で凍死するなんて嫌だああああああああああ!
「……冒険者って厳しいんだな。俺はもっとこう、薬草の採取とかそういうクエストがあってそういうので生活できるもんだと思ってたよ」
「そういうのもないわけじゃないんだけどね。さすがにそれで生きていけるほどの量はないからなあ」
「そもそもお前のステータスじゃ森の薬草採取でも命掛けだろうな」
「いやーさすがに俺そんなに弱くは……えっなにその目、マジで?」
「「マジね(だな)」」
「……」
え、本当に?
いやいや、いよいよもって生命の危機だぞこれは。
どうするんだこれ……
「さすがにやべえな。本格的にパーティ組んでくれる人探すか」
「あてはあるの?」
「ない。いや、正確には一つだけあるにはあるんだけど……怖いというかなんというか」
「えっ、そんな心当たりがあるの!?そんなの怖いとかなんとか言ってる場合じゃないよすぐ行かなきゃ!どれどれ、募集掲示板のどの辺!?」
俺は無言で目をそらしながら掲示板の特定の方向を指さす。
そこにはーー
『パーティーメンバー募集してます。優しい人、つまらない話でも聞いてくれる人、名前が変わっていても笑わない人、クエストがない日でも、一緒にいてくれる人。前衛職を求めています。できれば歳が近い方。当方、最近十三歳になったばかりのアークウィザードで―――――』
「うわあ」
「……な?」
「パーティメンバーというより人生のパートナーの募集じゃねえか」
「というかこれこんなに個人情報書いてて大丈夫なの?悪用されない?」
「……へぇ、女でアークウィザードか」
「今リーンの目の前にまさに悪用しそうなやつがいるな」
ダストはリーンにはたかれた。
痛そうだが同情はしない。
「……でもチャンスだよユウキ。ちょっと地雷臭いけど紅魔族のアークウィザードらしいし、腕は確かだよたぶん」
「紅魔族?」
「ああ、ユウキは知らないんだっけ?
……紅魔族って言って、生まれつき魔力が高い種族がいるんだ」
「へえ、そうなのか」
「まあ、変わり者が多いんだけどね」
「それはこの募集見てりゃわかる」
「あはは……でもほんとにチャンスだと思うよ?紅魔族の人って性格で敬遠されがちだけど実力は高い人が多いし」
「……じゃあリーンたちのパーティで雇ったりは?」
「あたしたちはほら……一応あたし中級魔法使えるウィザードだもん」
……まあリーンの言う通りなんだよなあ。
別に、この募集の彼女が地雷臭いとか言うつもりはない。
それを言い出したらそもそも俺は見えてる核地雷みたいなもんだぞ。
ただ怖いだけだ、断られるのが。
断られる確率のほうが明らかに高いんだから。
「……迷惑になるんじゃとか、断られるだろうなとかいろいろあるだろうけど、だからって待ってるのは意味ないと思うよ?」
リーンに痛いところを突かれる。
そうだよな。俺にもう失われるプライドなんてないし。
失えるのは命だけとすら言えそうな状況になりつつあるのだ。
というかなんだよリーンのやつ。
そこまでする義理ないとか言いつつめっちゃ面倒見てくれるじゃん。惚れそう。
「ありがとな、リーン。お前にはいつか必ず恩を返すよ」
「おい、俺にもちゃんと返せよ」
「うん、もしユウキが商人として大成したらよろしくね」
「ああ。……って俺が冒険者として大成する確率0かよ!」
「あははは!」
笑われつつ席を後にして、あのパーティ募集をしている一人の少女のもとへ向かう。
……え、うそ、なんかめっちゃ睨まれてない?
助けてリーン、エリス様。ユウキちゃんくじけちゃう。
……い、いや、勇気を振り絞れ……!
「あ、あの」
「ひゃ、ひゃいっ!」
いやなんでこの子のほうが挙動不審なんだよ。
だ、だが言ってやれ俺!
「そ、その、俺は赤城祐樹。最弱職の冒険者なんだが、もし良かったら俺とパーティを組んでくれないか?」
「え……嘘……私が、パーティに誘われてる……?
ゆ、夢じゃないよね……いやきっとこれは夢……目を覚ましたらきっと……」
「あ、あのー?」
なんか明後日の方角を向いてブツブツ呟きだした。
……というか、自分から募集の貼り紙出しておいて夢も何もないだろう。
……しょうがない、話を聞いてもらうためだ。
俺は目の前の女の子の肩を掴んでこちらを向かせて、
「夢なんかじゃない。君の力が俺には必要なんだ。
その、なんだ……俺は力不足かもしれないけど、君の助けに頑張ってなりたいと思っているので、とりあえずパーティを組んでみてはくれないかな?荷物持ちでも何でもやるから……」
我ながらよくここまですいすいと言葉が出てくるものだなと思う。
しかも言ってる内容かなり情けないし。
……俺、どんどん人として大事なものを失ってる気がするなあ。
……あれ、女の子の様子がおかしい。なぜか肩を震わせて……って泣いてる!
「……っ、ぐすっ……」
「い、いやちょっと待って。
そんなに嫌がられるとは思ってなくてだな、えーとそのごめ……」
「……しくお願いいたします」
「えっ?」
「ふ、不束者ですが……これから末永くよろしくお願いいたします……!!」
「うん一回ちょっと落ち着こうか」
え?ちょっと待て。今俺たちってパーティを組む交渉をしていたよな?
別に縁談とかお見合いとか、そんな話じゃなかったよな!?
「ま、まあいったん落ち着いて話をしようぜ?なんか勢いだけみたいになっちゃって
ちゃんとした自己紹介もできてないし……」
「自己紹介……そうですよね、ごめんなさい。
パーティメンバーができると思ったら私、とっても嬉しくて……でもそれで自己紹介もできなくなっちゃうようなのいりませんよねごめんなさい!」
「違うから!別にそういう話じゃないから!自己紹介できないから解散ってどんなパーティだよそれ!!!」
あ、頭痛くなってきた……本当に大丈夫なのかこの子。
「え、えーと!私、ゆんゆんと申します!職業はアークウィザードで、中級魔法が使えます!」
「ゆんゆんか、さっきも言った気がするけど、俺の名前は赤城祐樹だ。
えーと、その……最弱職の『冒険者』をやってる」
「はい!よろしくお願いします!ユウキさん!」
「へっ!?」
「ど、どうしたんですかユウキさん?」
「い、いや俺比喩とか生業とかでなく職業の冒険者だよ?それにレベル1だし。いいのか?」
「私も、パーティ組むのはこれが初めてですしまだレベルもそんな高くないですし他の紅魔族のみんなと違って中級魔法しか撃てないですから、大丈夫です!」
「大丈夫な要素ある!?
聞けば聞くほど俺とゆんゆんの格の違いを見せつけられてる感じがするんだが!?」
「そ、そんなことないです!」
「そ、そうか……じゃあパーティ結成ってことで、明日から本格的に……」
「は、はい!」
かなり遠回りをしてはしまったが、なんとか念願のパーティメンバーを手に入れた。
とりあえずゆんゆんとは明日の昼間にギルドの酒場でまた集合するということで今日は解散した。
しきりに同じ宿屋で寝泊まりしたがるので、自分はお金がないことと男女パーティでそうすることの異常性を必死に説いて説得した。疲れた……
そして報告のためリーン達の元へ戻ると。
「結婚おめでとー、ユウキ」
「最弱職の分際で幼妻娶るとはな、なかなかやるじゃねえか」
「はっ倒すぞお前ら」
「アハハ……でも、気づいてなかったの?ゆんゆんさん、結構大きな声出してたじゃない」
「えっ」
「ああ、こっちにまで聞こえてきてたぜ」
……あそこのテーブルからここのテーブルまでは、結構な距離がある。
それで聞こえていたということは?
「あ、ああ、ああああ」
「明日の酒場の話題は『紅魔族を誑かした冒険者の男』で持ち切りだろうな」
「うわああああああああああああっ!?」
「まあまあ落ち着きなよユウキ、まだゆんゆんさんは十三歳でしょ」
「そ、そうだ!法律的にまだ三年は結婚できないはず!それなら何らかの誤解だという風に……」
「三年?一年だろ」
「え?結婚できるのって女性は十六から……じゃないの?」
「ユウキって変なところで常識ないよね。
少なくともこの国では十四歳から結婚は可能だよ」
「じゅ、じゅうよん!?」
まだロリじゃねえか!?なんだよこの国ロリコンの巣窟かよ!?
というかまずいじゃねえかそれ!
「ということはゆんゆんはあと一年で結婚出来て……」
「まあ、断片的にあんな声が聞こえてきたら、そういう可能性は考えられるよね」
「実際どうかは置いといて、からかいのネタとしては最高級だな」
「そしてそこから派生して根も葉もない噂が生まれてくるんですねわかります」
……本当に俺の幸運働いてるんだろうか。
ひとまずはあの変な子……ゆんゆんと良好な関係を築くところからだ。
……でも、聞いたところによると紅魔族って、好戦的で中二病君なのが多くて、センスが壊滅的というのが聞いていた話だが、ゆんゆんはそんなことはなさそうだ。
ーーまあその代わりに別の点で問題抱えてるけど。
……まあ、パーティが作れたのは本当なんだから。
頑張ってみようかなと、少しは思えた。
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この初めてのクエストに挑戦を!
さて、いよいよゆんゆんと活動する最初の日だ。
個人的にはこれが最初で最後にならないことを切実に祈っている。
だって俺最弱職の冒険者(レベル1)だよ?
絶対足手まといだよ?
前衛職募集って言われてたけど前衛立てないよ?
いや後衛でも何も出来ないけどさ。
昨日のうちにギルドの受付の人などにクエストを受ける時のことは聞いておいた。
その時「一人で受けるんですか!?」と驚かれたのでアークウィザードがパーティを組んでくれたと伝えると可哀想なものを見るような目で見られてしまった。
妄想ちゃうわ!!!!!
とりあえず最低限の装備……といっても武器だけだが……はギルドが貸してくれるらしい。
今の所持金かつ全財産が一万二千エリスである俺にとって、このことは非常にありがたかった。
高えんだもん装備品。
「いらっしゃいませ! お仕事なら……あっ。
空いている席にお座りください!」
「俺はクエストを受けることすら許されてないのかよ!
……いやまあ、座るけど」
最近では酒場のウェイトレスさんからもこんな扱いを受ける始末だ。
本格的にまずいよなあ……
まあとりあえず飯食ってその後支度もして……と思って集合時間の二時間前にギルドに来たのは良いんだが……
席を見渡していると、なにやら一人で大テーブルに座って色々なボードゲームやらなんやらを展開している少女の姿が見えた。
……というかアレ、絶対ゆんゆんだよな。
ほらなんか俺と目線あったらめっちゃこっちチラチラ見てくるもん。
それならもうさっさと声掛けて欲しい。
視線が気になって仕方ない。
……いや、まあパーティ組むんだから一緒に飯食うくらい当たり前だよな。うん、きっと。
今日はクエストではゆんゆんにおんぶにだっこになるだろうし、せめて朝飯の一つくらい奢ろう。金ないけど。
「おーいゆんゆん、奇遇だな」
「は、はいっ! すごい偶然ですね! ユウキさんも今来たところですか?」
「ああ、丁度朝飯にしようと思ってたんだが、よければゆんゆんも一緒にどうだ?」
いやお前、「も」じゃねえだろ、絶対俺のこともっと前から待ってただろ。
と言っても話をこじれさせるだけだと思うのでとりあえず黙っておく。
「い、良いんですか!? 私なんかと一緒で……」
「いやいや、パーティメンバーだろ? 飯くらい一緒に食おうぜ」
「パーティメンバー……私と……え、えへへ、そうですよね!」
可愛い。
ちょっと挙動不審で思い込みが激しそうなところはありそうだがなんでこんな娘がぼっちで……いや、こう見ると結構問題あるな?
まあ俺とパーティ組んでくれるような人だしな……
「それで、今日はどうする? 本来の集合時間までは全然あるけど飯食ったらさっさとクエスト行くか?」
「は、はい! それも良いと思うんですけど……その……」
「どうした?」
「いや……その……よければですけど、クエストに行く前に、えーと、わ、私と遊んで欲しいなって……」
「うん、別に良いけどその挙動不審と誤解を招きかねない表現は出来れば抑えてくれると助かる」
「ご、ごめんなさい!」
「ああいや、そんな別に怒ってるとかじゃなくて……
一応ジャイアントトードの討伐に行く予定なんだが、それで時間的に大丈夫か?」
「ジャイアントトード五体の討伐ですよね? それなら夕方近くに出発しても問題無いと思います」
「ま、マジか……あーでも、昨日も言ったように俺、最弱職だから。
多少余裕は見て動きたいな。ほら、俺たち組むのは今日が初めてだし」
「そ、そうですね……」
……出来てるよな? 俺会話出来てるよな?
俺も元の世界では流石にゆんゆん程ではないが人付き合いがそんなに得意ではなかったので不安だ。
女の子との会話とかわからねーよ。
「そ、そういえばユウキさんは冒険者なんですよね? なんのスキルを習得しているんですか?」
「あー、今は片手剣スキルと初級魔法だけだな。俺、まだレベル1だから」
他の職業と異なり、冒険者は他人にスキルを教えてもらってようやくスキルを習得する権利を得られる。
俺は初期にスキルポイントを2持っていたので、スキルポイント1で取れそうなスキルをダストとリーンにビールらしき何かを奢ることを条件に教えてもらったのだ。土下座して。
剣と魔法の組み合わせってまさに王道って感じだしな。
……初級魔法には基本殺傷力は無いらしいが。
本当にあの二人にはめっちゃ助けられている。
今度仲間のアーチャーのスキルも見せてくれるって言ってたな。ほんとさまさまだ。
「そうなんですね、私は昨日言った通り中級魔法を取っています」
「らしいな、期待してる」
「そそそそそんな! わた、私に期待なんて……」
「そこで挙動不審にならないで! ……それじゃあ注文しようぜ。
その並んでるボードゲームやトランプで遊ぶための時間も欲しいし」
というかこの世界トランプあるのね。
「それではテレポートでクルセイダーを前に出しますね」
「ぐぬぬ、これじゃあ攻撃が届かないな……
やっぱずるくないかテレポート」
「せ、正式なルールですよ!」
「納得いかねえ……冒険者をこっちに移動させるぜ」
適当に朝飯を終え、俺たちは今、チェスのような謎のゲームをしている。
しかしこのゲームがなかなか曲者で、テレポートだのなんだの複雑かつ壊れたルールが大量に存在するのだ。
駒の名前はどうやら冒険者たちの職業をもとにしているようだが、アークウィザードが明らかに強いし、正直アークプリーストとかはあんまり息していない。
冒険者? まあ元となったのが最弱職だし……
「ふふふ、追い詰めましたよユウキさん、これでもう詰みです!」
「甘いなゆんゆん。よく見ろアークウィザードの配置を」
「アークウィザード? ……あっ! ま、まさか!」
「その通り! さあ刮目せよ! 『エクスプロージョン』!!!!!」
叫ぶと俺はゲーム盤をひっくり返す。
これは俺の頭がおかしくなったとか負けたくなさ過ぎて無茶苦茶やったとかそういうのでは無く、ルールブックにも書かれた正式に認められた行為だ。
よし、これで俺の一敗三分だ。
……おいそこ、一回負けてんじゃねえかとか言うな。
初回プレイの時の負けは仕方ないだろ。
「またエクスプロージョンにやられた……もう一回! 次は、次は勝ちます!」
「いやもう一回負けてるけどな俺」
だが一度コツをつかんだゲームで俺は負けることはないぜ!
……勝てもしないけど。
「『エクスプロージョン』!」
「『エクスプロージョン』!!」
「『エクスプロージョン』!!!」
「『エクスプロージョン』!!!!」
「わああああん!! やっぱりこのルールおかしいわよ!」
「それに関しては100%同意するわ。
……なあ、このゲームいつまで続けるんだ?
そろそろ出発してもいい時間じゃないかなーと思うんだが」
「えっ、もうそんな時間ですか!?
す、すいません! やっと他の人と遊べると思ったら嬉しくって……」
外はもうすっかりオレンジ色に染まっている。
朝飯食べてから割とすぐ初めてついでだからって昼も食べてまた遊んで……
いくらなんでも遊びすぎた。何時間やってんだ。
「よし、じゃあ出発しようぜ」
「えっ? 申請とかは……」
「なんとなくこうなりそうだから先に済ませてたんだよ」
「そうなんですね! ありがとうございます!」
「おう」
そうするとゆんゆんは持ってきたボードゲームなどをしまい始めた。
……そんなに大きな袋を持っているようには見えないのだが、ひょっとしてあれも魔法の力だったりするのだろうか?
そして俺たちはギルドを後にして、ジャイアントトードの生息する町外れの平原へと向かう。
よし、はじめての
やったるぞ、このクエストでゆんゆんに良いところを……!
第一村人……じゃないジャイアントトード発見!
いやなんだよあれでかすぎるだろ! こんなん勝てるわけが……
「あ、見つけましたよ! ユウキさん! 『ファイアーボール』!」
巨大蛙はあっという間に炎に包まれてしまった。
……いやいや、そうだ、見た目より弱いんだろうきっとあいつは。
そうだ、良いところを!
よし、あそこにいる二匹を……
「『ライトニング』! 『ファイアーボール』!」
一匹は稲妻に貫かれ、もう一匹は先ほどのように炎に包まれた。
……良い、ところを……
そうだ! 俺もやればできるんだ!
そして俺は貸し出されたショートソードを構え蛙に突撃し、
死闘を繰り広げた末に蛙の頭に斬撃を複数回浴びせなんとか勝利した。
あ、危なかった。何回か飲み込まれそうになったぜ……!
……ちなみに、その間にゆんゆんは何の問題もなくジャイアントトードをもう一匹仕留めていた。
「それではクエスト達成報酬にジャイアントトード七体の回収分併せて、十三万五千エリスになります。
お疲れさまでした」
「……ありがとうございます」
俺は死んだ目で答え、ゆんゆんが待つ酒場のテーブルへと向かう。
そしてすぐさまゆんゆんに向かって土下座する。
「誠に申し訳ありませんでしたああああああああああ!!」
「え、ええっ!? どうしたんですかいきなり土下座なんかして!
か、顔を上げてください!」
「……パーティメンバーになったというのに足しか引っ張ってないので……」
「そ、そんなことないですよ! ジャイアントトードを三匹討伐したじゃないですか!」
「……一匹はゆんゆんが他を瞬殺している中死に物狂いでやって死にかけてようやく討伐。残り二匹はゆんゆんにトドメ直前にまで弱らせてもらってだけどな……」
流石にそれで経験値をもらうのはどうなのかと考えたのだが、これは紅魔族の間で『養殖』と呼ばれるれっきとしたレベル上げ方法ですから、とゆんゆんに固辞されたので結局受け取ってしまった。
……こんなパーティメンバーで本当にごめんなさい……
その甲斐もあり、見事俺のレベルは4へと上がっていた。
……うう、死にたい。
「だ、大丈夫です! レベルさえ上がればユウキさんもどんどん強くなれますから!
だから今は私を頼ってください。わ、私たち……その、パ、パーティなんですから!」
「……本当にごめんなさい……」
地雷っぽいとか重そうとかパーティ募集と出会い系間違えてんのかとか勝手に思ってて本当にごめんなさい……
この娘めちゃくちゃ良い娘じゃん。本当になんで今までぼっちだったのさ。
「それで、報酬は……」
「全額持って行ってくれ」
いくら俺が貧乏とはいえ、流石にこのお金を受け取る気にはなれない。
これは正真正銘ゆんゆんが100%貰うべき報酬であると思う。
「そ、そんなわけにはいかないです!
半分こ! 半分こしましょう!」
「いやいや、俺なんかがもらうわけにはいかないんだってマジで」
「……わかりました。そこまで言うなら私が受け取りますけど……
じ、じゃあその代わり、私と同じ宿屋に泊まってください!」
「……はい?」
何が「じゃあ」なのか一切わからないんだが。
どういうことなんだ……?
「ユウキさん、お金がないって言ってたじゃないですか。
……でも、報酬はもらえないというなら報酬は私が受け取りますので、せめて食費とか宿代とかは出させてください」
い、いや、それが同じ宿に泊まる理由にはならないと思うんだが。
それにその提案ってそもそも……
「ま、待ってくれ!
……そもそもゆんゆんは、明日からも俺とパーティを組んでくれるのか!?」
あの醜態で完璧に愛想つかされたと思っていたんだが。
というか正直我ながらパーティを組み続けるという選択肢は常軌を逸していると思うが。
「だ、だって……ユウキさんは私の初めての人ですし……」
「うんちょっと待とうかだからそういう言い方やめてって言ったよな!」
「えっ? …………っ!!!
ご、ごめんなさいごめんなさい! そういう意味じゃなくって……!」
さすがにこれは自分で気づいたのか顔を真っ赤にして弁明してくるゆんゆん。
多分(パーティを組む)初めてのってことなんだろうけどさあ!
夕方に出発して帰ってきたため今は夜。
酒場はまさに賑わっている時間帯だ。
こんなんを聞かれてあれこれと噂されたりとか、俺は嫌だし多分それ以上にゆんゆんのためにならない!
「ゆ、ユウキさんもレベルが上がって転職したりすればちゃんと戦えるようになりますから!」
「だからってそれにゆんゆんを付き合わせるわけには……」
「そ、それは大丈夫ですから!」
「でもだからって宿とかまで世話になるわけには……」
「き、昨日はああ言ってましたけど、やっぱりパーティを長い間組むなら情報の共有とかはしやすいほうがいいと思うんです!
……また一緒にゲームもしたいですし」
……どんどん断る理由がなくなっていく。
いやなんというかこの提案をそのまま受け入れるのは罪悪感がやばい。
ぼっちに付け込んで利用するなんてことは、さすがに俺の良心が許さない。
でも、非常にありがたいお誘いなのは違いないし、これに乗らないと俺が明日からちゃんとした生活を送れるか怪しいのも事実で。
……くっ、で、でも……うぅ……
「……わかった。これからもよろしくな、ゆんゆん」
……俺はこの瞬間、自分がどうしようもないクズであることを自覚した。
すまないダスト……俺、お前と同類どころかお前より酷い奴だったかもしれねえわ。
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この素晴らしい盗賊に弟子入りを!
ある朝。俺は一人でギルドの酒場に赴き……
「……どうすればこの状況から脱出できるだろう」
ただただ愚痴を吐いていた。
あれから俺とゆんゆんは同じ宿屋で寝泊まりすることになった。
当初は同じ部屋を取ろうとしていたゆんゆんをそれはそれは必死に説得し、なんとかゆんゆんの借りている隣の部屋に入ることで済ませることになった。
……その時にチラッと見た代金を見て絶句した。
そりゃ冒険者みんな普段は馬小屋生活するわ。
毎日宿屋泊なんてとてもじゃないがコスパに見合わない。
少なくとも男は。
ちなみに当然宿代はゆんゆん持ちである。死にたい。
まあ、それはいいんだ。まあよくはない……どころか最低の形だけど寝床が豪華になるのは悪いことではない。
問題は……
「アレが噂の……」
「ああ、なんでも十三歳の女の子と毎日同じベッドで寝てるとかなんとか……」
「マジかよ、うらや……けしからん」
「お前今羨ましいって……」
「言ってない」
「おいおいロリコンかよ」
こういう噂がすでに流れてることなんだよ!!!
まだヒモ生活開始して三日だぞ!?
いや確かに優秀な冒険者に寄生する最弱職なんて印象が悪いのは仕方ないよ! ってか俺もクズだと思うよ!
でもなんでその悪評がそっち方面に傾く!?
いくらゆんゆんのゆんゆんがゆんゆんしてるとはいえそこで自制できるくらいの良識はあるわ!
というかせめてダストとかみたいに真正面から言いに来てくれ!
そうすればこっちとしても説明できるのに……!
……いやまあ、これも俺が役立たずなのが悪いんだよな。
早く強くなろう。そして根も葉もない噂流してる奴らにはお礼参りしてやる。
……強くなるとはいっても、最弱職だとステータスの上がりも悪いんだよなあ。
この間から何回かクエストに行きその度にゆんゆんにレベル上げを手伝ってもらったため今のレベルは6になったのだが、正直ステータス画面を見てもあまり変わった感じがしない。
確かに強くはなっているのだが、これだけ上げてもやはりジャイアントトードを一撃で仕留められないのである。
ステータスの底上げが難しい以上、やっぱり冒険者の特徴であるスキルの自由さを生かすべき……なのだろうが……
「何か良いスキルないかなあ、戦闘でなくてもいいから少しでもパーティの役に立てるような……」
実際のところ、俺が多少戦闘系のスキルを取ったところでゆんゆんと並び立って戦えはしない……どころか足手纏いにしかならないのが現実だ。
それならば支援魔法とかはどうかとも思ったが、あれはあれで魔力がないと使いこなせないようで、俺には扱えない代物のようだ。
ああ、どこかに俺の幸運を活かせる上で直接戦闘力を必要としないような便利なスキルはないものか……
「だったら盗賊スキルはどうかな?」
「うわあ!?」
一人でテーブルで愚痴っているところに突然第三者に話しかけられ、俺はビックリしてしまった。
それも俺の悩みを的確に把握したような内容のことを言っているのでなおさらだ。
隣のテーブルに金髪の女性と一緒座っていた銀髪の女の子だ。
……? 妙だな。なんか既視感ととてつもない高揚感が……?
「ごめんごめん、驚かせちゃったかな? ……あたしはクリス。職業は盗賊だよ。
それでこっちの無愛想なのがクルセイダーのダクネス」
「無愛想言うな」
「……………………」
「実際そうじゃんかー。それでね……あれ? 聞いてる?」
「…………ああ、聞いてる」
「いや今絶対聞いてなかったでしょ。ボーっとしてたでしょ」
「す、すまん、何しろいきなりだったもんで……
俺はアカギユウキ。職業は冒険者だ」
「なるほど、ユウキくんね……ユウキくん?
…………あっ!」
「ど、どうした?」
クリスが急に何か納得したようにうんうん頷き出した。
一体なんなんだ……?
「? ……その様子だと、二人は知り合いなのか?」
金髪のクルセイダー……ダクネスがそう尋ねてくる。
……どこかで会ったか?
いや、俺がこっちに来てからまだ全然日が経ってないし……
「あ、えーと……そう! 噂! 噂で聞いたの!
黒髪でパーカーを着た冒険者の男が紅魔族のアークウィザードを手篭めにしたって!」
……?
今クリスが何か凄く違和感のあることを言っていた気がする。
いや、それ以前に、そもそも。
「誰がロリっ子を手篭めにしてる鬼畜冒険者野郎だこのやろおおおおお!」
「そ、そこまでは言ってないよ!?」
「何!? お前はそんなことを……羨ま、いや、けしからん!」
「……おい今羨ましいって」
「言ってない」
「言ったろ」
「言ってない」
なんだこのクルセイダー。
というかそんなに噂広まってるのかよ!? やべーなこの町の情報網!
……エリス様、俺、社会的に死にそうです。
……そういえばクリスとエリス様、何となく雰囲気似てるよなー。
髪の色とかもおんなじだしなあ。
まさかクリスがエリス様の言っていた「この世に降りている姿」だったりして。
……いや、それはないな。
だってエリス様こんなぺったんこじゃなかったし。うん。
「今何か凄く失礼なことを考えられてた気がするんだけど!?」
「気のせい気のせい」
「納得いかないんだけどー……まあいいか」
「い、良いのか? ……まあクリスが良いならそれで良いのだが……」
妙に潔く納得してくれたな。
こっちとしてはまあこれ以上誤魔化さなくて良いので楽だが、ダクネスが困惑してるぞ。
「それよりもスキル覚えたいんだよね? それも直接戦闘的なものでない」
「ああ」
「だったら盗賊スキルがオススメだよ!
盗賊スキルは良いよ〜便利だし、取るのにそんなにポイントかからないし」
「なるほどな……どういうのがあるんだ?」
「うん、敵から姿を隠す『隠蔽』とか、敵意のある相手を自動で認識できる『敵感知』なんかがあるね。
あとはダンジョンとかで役立つ罠発見や解除、暗視なんかもあるよ!」
「すげえな、でもそんなに便利なのになんで盗賊職って少ないんだ?
俺はあんまり顔が広いわけじゃないけど、盗賊を見るのはクリスが初めてだぜ」
「……盗賊は華々しい職ではないからな。だから数は少ないのだが、役立つスキルを持つということで重宝される」
「はえー、上級職のクルセイダーと盗賊が組んでるんだ、二人みたいなのは他のパーティからも引っ張りだこなんだろうな」
「……あー、うん、まあそれは……そう、かな?」
「急にどもらないでくれよクリス。
内心『このクルセイダー大丈夫かな?』って不安に思ってたのが確信に変わっちゃうじゃないか」
「ご、ごめん……ってあたしが悪いの!?」
「……ん、それよりもスキルを教えるのだろう? 話が逸れすぎだぞ」
「そうだったな、すまん」
……一見まともそうなことを言ってるダクネスだが、顔を若干赤くして興奮しているのが隠しきれていない。
まあそれでまた先程のようにやったやってないの言い争いになっても困るので、黙っておく。
「それで、何をご所望? 酒の一杯二杯は奢るぜ」
「えっ!? ……くれるなら貰うけど、良いの?」
「もちろん。スキルを教えるのに特にデメリットはないことは知ってるしそれでも吹っかけるような奴がいるのも知ってるが、基本的に善意で教えて貰ってるんだからな、デメリットないとはいえ」
「そういう風に言われるとなんか受け取りづらくなっちゃうんだけど……」
「まあそれは半分冗談で、一応俺なりの感謝の気持ちみたいなもんだから受け取ってくれ」
……財布の中身は悲しいことになっているけども。
報酬は基本的にゆんゆんに全部受け取って貰っているので、自分のこういう食事や装備を購入する代金はバイトで地道に稼いでいる。
そこをゆんゆんに頼ってしまったら自分はいよいよ帰れないところに踏み込んでしまうのではないかと考えたからだ。
……もう手遅れ? うるせえ。
「わかった。そういうことならありがたく貰っとくね。
……じゃあまず最初に隠蔽スキル、行ってみようか。
ダクネス、ちょっと後ろ向いててー」
「……? わかった」
ダクネスが後ろを向いたのを確認して、クリスは酒場にあった大樽の中に入っていった。
……これが隠蔽スキルなのか?
そう思ってカードを確認すると、ちゃんと盗賊スキルの欄に『隠蔽』の文字。
……マジか。
「習得できたかな? その様子だと行けたっぽいね。
じゃあ次は敵感知ね、……それっ!」
そう言うとクリスは後ろを向いているままのダクネスに向かって小石を投げ、即座に樽の中に身を隠す。
ダクネスが振り向き、樽の方面へ向かっていく。
「敵感知……うん、ダクネスの怒りをピリピリと感じるよ!
……ねえダクネス? これはあくまでスキルを教えるためだからね? わかっているよね? だからお手柔らかにあああああああああ!」
そしてクリスが入ったままのその樽を倒してゴロゴロと転がしていた。
その様子を見ながら再びカードを確認すると、『敵感知』スキルも習得可能になっていた。
こんなんで良いのか異世界。
「さ、さて、次はあたし一押しのスキル、窃盗スキルをやってみようか! これは対象の持ち物をランダムで一つ奪うスキルだね。
装備している武器でも、鞄の奥にしまい込んである財布でも、なんでも盗めるよ」
「なるほど、確かに使い勝手良さそうだ」
「でしょ? 成功率はステータスの幸運値に依存してるよ」
「幸運値か! そりゃ良いな」
「うん、幸運値の高いキミにはピッタリかなと思って」
「……あれ? 俺の幸運値が高いこと、クリスに言ってたっけ?
冒険者カードは見せてない……よな?」
「えっ、あ、うんと……ほら、噂に聞いてたんだよ噂で!」
噂便利すぎるだろ。
いやまあ確かにあの日はあの受付のせいで軽く話題になってしまった高幸運値の冒険者である俺だが……
まあいいか。なんで知ってるかは別にどうでもいいだろう。
知る機会は確かにそこそこありそうだし。
「じゃあキミに使ってみるね? いってみよう! 『スティール』!」
クリスが手を前に出し叫ぶ。
するとその手には何かが握られていた。それは……
「あっ、俺の財布!」
悲しくなるほどの金額しか入ってない俺の財布だ。
……一応あんなんでも全財産である。
「おっ、当た……り? ちょっと待って、軽すぎない?
本当に大丈夫……?」
「いや、今手持ちが少ないだけだから大丈夫だ。
ちょっと装備を買った後なんでな」
嘘はついていない。
現に俺は今朝店で最も安く売っていたショートソードを買った。
それで全財産が底を尽きかけている。ただそれだけである。
……「今の手持ち」が全財産で無いなんて言っていない。
「そ、そう? なら良いけど……
まあ、こんな感じで使うわけなんだけど……そうだなあ……うん!」
クリスがにんまりと笑う。
「ねえ、あたしと勝負しない? 早速今窃盗スキルを覚えてさ、あたしから何か一つ奪って良いよ。
それがあたしの財布だったり武器でも文句は言わない。
この財布よりは多分価値があると思うよ。
その代わり、何を引いてもキミの財布と交換。互いに文句言いっこなし。……どう?」
……いや、俺受け得じゃねえかこれ?
俺の財布の中身を過大評価してもらっては困る。
給料日が三日後とはいえそこまで耐えられるか怪しいくらいだぞ?
それになんかこっちに来てから始めて冒険者っぽいイベントに巻き込まれた気がするしな。
こういうことがしたくて俺はここに来ているのになぁ……
なんでバイトで生計立てて女の子とボードゲームして宿代出してもらってるんだろ俺。
……とりあえず今は勝負だ。
冒険者カードのスキル欄……お、今教えてもらっていたのは全部1ポイントで覚えられるのか、覚えとこ。
「よし、覚えたぞ。その勝負受けて立つぜ!」
「お、ノリがいいね! そういう人は好きだよ!
財布が当たり、そして大当たりはこのダガー! 魔法が掛けられた四十万エリスはくだらない一品だよ!
……そして外れはたくさん拾っておいたこの小石!」
「……なるほど、そういうことか。やられた! 騙したな!」
「騙したとは人聞きが悪いなあ、これは授業料みたいなもんだよ。
どんな便利なスキルにも対策法や抜け道はある。ってね。
さあ、スティールいってみよう!」
「ぐぬぬ……」
実際問題俺も「じゃあ窃盗スキルの対策に何をする?」と言われたら実行する案だろう。
何の不安もなく勝負を吹っかけてきたのはギャンブラーだなあと思ったものだが、そういうことだったのか。
くそ、悔しいがいい勉強にはなったな。
まあでも、俺を見て楽しそうなクリスの表情を見てると、不思議と許せる気に……
なるかあ! 確かに騙された俺が悪いけど、アレは俺の全財産で数日分の夕食代じゃい!
別に石確定ガチャではない! あの財布か何かを……!
「おっしゃ、やってやる! 俺の幸運値を舐めるなよ!」
……女神に貰っただけの物だけどね。
元来の俺はとことん運のない人間だったし。
「……『スティール』!」
右手を伸ばしそう叫ぶと、その右手にはしっかりと何かが握られていた。
一発成功するあたり、やはり幸運値は伊達じゃないようである。
……で、その掴まれていたものは。
「……何だこれ?」
台座に乗った謎の球体である。水晶玉のようにも見えるそれは鈍く光っていて、台座のところには日本語で『入』と書かれたスイッチと
『切』と書かれたスイッチが……日本語?
「あ、そ、それは……! ど、どうしてここに!?
ち、ちょっと待って! それは、それだけはちょっと待って!
財布でもダガーでもぱんつでも持ってっていいからそれは──」
クリスがとんでもなく狼藉している。
というかパンツってなんだ。俺は一体なんだと思われているんだ。
……しかしここに書かれた日本語、それにこれまでの口ぶりや仕草。やっぱり──
「すまんダクネス、少しクリスと二人で会話したいんだがいいか?」
「お、お前……そのアイテムをダシにクリスを路地裏に連れ込みあんなことやこんなことをする気だな!?
そうはさせんぞ、もしどうしてもそうしたいなら……私を連れて行くがいい!」
「違うわアホ! というかなんでお前を連れて行けって話になるんだ! やっぱりお前アレだろ、変態だろ!」
「……っ! いきなりの言葉責め、悪くない……!」
「……もういいや、クリス、ちょっと外出てくれるか」
「……わかったよ」
観念したようなクリスを連れて何か変なスイッチが入ってしまったらしいダクネスを放置して外に出る。
勘定はあそこの人に頼むとダクネスを指差して告げておいた。
……違うから、後で返すから。
今は早く話がしたかっただけだから。本当だから。
「……それで、何かな話って!
さっきなんでも渡すとは言ったけど流石に体で払えとか言われたら困るなー、なんて……」
「……単刀直入に聞く。
クリスは、日本人なのか?」
「……え?」
「いや、名前は俺たちとは違ってこの地域の人間らしいけどさ、パーカーのこと知ってたりもしたし、俺の名前を聞いた時にびっくりするとか変な名前と笑うとかもしなかったし、日本語の書かれたアイテムも持ってたからひょっとしてそうなのかなって」
そういうとクリスは目をパチクリさせる、そして心底安心したような表情で、
「いや、そういうわけじゃ無いよ。
ただ、知り合いにはその『ニホンジン』が結構多くいるから、その話を聞いたりする機会は多いんだよ」
「あ、そうだったのか! 悪い悪い、変なこと聞いた」
「う、うん……それで、その魔道具なんだけど……」
「これか? 一応俺としては賭けの報酬としてもらいたいんだけど……そんなに大切なものなのか?」
「……それは『神器』と言われるものでね、高い魔力を秘めてる危険なアイテムなんだ。
あたしはそれを集めてるの、悪用されないように」
「マジか」
「うん。……それで、悪いんだけどこのことはダクネスや他の冒険者には──」
「か、カッコいい……!」
「へっ?」
「世を偲ぶ盗賊の冒険者とは仮の姿!
実際は人知れず危険なアイテムを封印している義賊……!
カッコいい!」
「あ、うん、ありが、とう?
……それで、このことは」
「……クリス、いや、師匠!
俺にもそれを手伝わさせてくれ! いや、手伝わせてください!」
「え、ええええええ!?」
「あのね弟子君、神器集めってキミが思っているより簡単じゃないし、華々しくも無いんだよ?」
とかなんとか言ってはいるが、なんだかんだ俺の『師匠』呼びを受け入れてくれているし実際のところまんざらでも無いのではないかと俺は思う。
これは押し切れそうではないだろうか…〜?
「大丈夫ですよ、俺も一応冒険者の端くれですし」
「でも……」
「あー、ギルドに『実はクリスさんは人知れず危険なアイテムを封印している英雄らしいぞ』って噂流したくなってきたなー」
「そ、それはやめて!
……というか弟子君は噂の怖さを知ってるよね!?」
「だからこそですよ」
多分最終的に伝わる話では救世の英雄にでもなるんではなかろうか。
……別に立派なことなんだからいいと思うが、そこで他人を巻き込みたくないんだろうか?
「……はあ、わかったよ。でも、そんなにしょっちゅう活動はしてないからね?」
「大丈夫ですよ、むしろ好都合です。俺も冒険者としても活動したいですし」
「うん、わかったよ……じゃあこれからよろしくね、弟子君」
「はい。
……あ、そうだ。まだスキルポイント余ってるんだけど、何か良いスキルは──」
「人気の無いこんなところで二人きりで何をしているのだ!
私も混ぜ……!」
「『バインド』」
クリスが懐から出したロープがこちらに向かって飛び出してきたダクネスに巻き付いていく。
「ああっ!? 何故私にバインドをするクリス!?
た、確かにこの縄に縛られる感覚も悪くないが……!」
「どう? 弟子君、覚えられそう?」
「バッチリですぜ師匠!
……それでこれは何のスキルです? 変態喜ばせる用……?」
「ち、違うよ! これはロープとかで動きを封じるスキルだから! 決してそういうプレイをするためのものではないから!」
「冗談ですよ」
残った2ポイントで『バインド』を習得していると、もう空の太陽が真上に見えるような時刻になっている。
「じゃあ俺は今日は仕事があるんでこれで失礼します。
……盗賊スキルを教えてくれてありがとう、クリス」
「その敬語とタメ口の使い分けはなんなのさ……ま、いいか。
うん、それじゃあまたね、弟子君」
そして俺はそのまま作業現場へと向かって──
あっ、財布返してもらうの忘れてた……
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