チームポラリスの日常 (ジャスタウェイ)
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ポラリスリーダー

 私はトレーナー。トレセン学園でウマ娘のトレーニングを担当している。担当するウマ娘達の体調とモチベーションを慮りトレーニングのメニューを吟味し勉学を終えた彼女達を出迎えトレーニングに入る。これが日々のローテーションだ。

 タマモクロスと始まった新人トレーナーも、今やチームを支え活動するベテラントレーナーだ。当時の僕が見たら感動で咽び泣くに違いない。

 本来なら校舎内のトレーナー室からグラウンド近くに作られたチーム部屋に移動するのだが、私にその必要はない。何故ならチーム部屋が隣にあるからだ。こうなった原因は当時、私以外にも大量のトレーナーが雇用され部屋不足に陥った為である。私含め何人かは使われていなかったチーム用の部屋を改装して使うことになり、そして私がチームを持つ際に「いっそ隣に新しく併設してしまえばいいのではないか?」という会長の発案で今に至る。

 

「あれ〜、私が一番か〜。じゃみんなが来るまでおやすみ〜。起こしてねトレーナー」

「はいはい」

 

 結果どうなるかというと、トレーナー室は休憩所になった。今隣の部屋からジャージに着替えやってきたセイウンスカイが早速部屋の隅に架けられたハンモックに乗り込んでいる。その前にはカーペットが敷かれてこたつまで設置され、それを囲うように長ソファーが置かれている。ちなみにあのソファーは応接用の備品だ。残されたはずのテーブルはといえば大型液晶テレビの台代わりにされている。哀れ。

 

「ご機嫌ようトレーナーさん。あら、セイウンスカイさん今日は早いみたいですわね

 

 次にやってきたのはメジロマックイーンだ。セイウンスカイが寝ている事に気付き声を潜める気遣いを見せるその美貌はどこか憔悴しているようにも見える。場合によってはメニューを変えることも考えねばならない為理由を聞く事にする。

 

マックイーン、調子が悪そうだが何かあった?

……申し訳ありませんトレーナーさん。すごくくだらない事かもしれませんが……

 

 さぞ深刻な事だろうと身構える。

 

ゴールドシップさんが、真面目でしたの

「……?」

「ゴールドシップさんが、真面目でしたの」

「ご、ゴールドシップが真面目……?」

 

 意味を理解できなかった私に向けマックイーンが淡々と説明を始める。曰く、花壇に水をあげていた。食事前に手洗いをしっかりしていた。図書館で小説を読んでいた。出会って挨拶をされた等、事態の深刻さを私は実感する。朝練の時は変な様子はなかった筈。

 

「休息をさせることも考えないといけないかもしれない」

「ええ、場合によっては病院にゴールドシップさんを」「呼んだかマックイーン」

「ピッ……!? ッッ……!?!!?」

 

 ゴールドシップの身を案じる暗い顔のまま靴を脱いでソファーに座ろうとしたマックイーンの足元へコタツの中から仰向けにゴルシが滑り出てきた。いつから居たんだ。

 マックイーンは突然の出現に驚きすぎて硬直していたが、すぐりと立ち上がったゴールドシップを不安げに見つめる。

 

「どしたぁマックイーン、ゴルシちゃんに朝練以来会えなくて寂しかったか? そんな寂しがり屋ポニーちゃんのマックイーンにはこれをやるよ。ゴルシちゃんゆ・び・わ❤︎」

 

 そう言ってマックイーンの右手を取るとその人差し指に輪っかを嵌めた。指輪ではなくお菓子である。よくハバネロがまぶしてある輪っか状の激辛お菓子だ。その様子を見てマックイーンは安堵し目を潤ませた。

 

「良かった、元に戻ってくださったんですね……さっきまで本当に変で変で……脳卒中か何か頭に異常が起きてしまったのかと……!」

「いや酷くね? というかアタシ昼からここにいたんだけど」

「……え?」

 

 それはおかしい。マックイーンの口ぶりではさっきまで会っていたようであった。

 

「さっきまで外にいたんじゃないのか?」

「いや流石のゴルシちゃんでも透明にゃなれないぜ?」

 

 確かにそれはそうだ。いくらゴールドシップとはいえ透明にはなれない。透明になれそうなのと言えばアグネスタキオンがリーダーを務めるチーム・プロキオンのトレーナーくらいだろう。

 

「ならいつコタツに?」

「トレーナーが飯食いに行ってる頃」

 

 まあ確かに食事に部屋を空けたタイミングはある。午後の授業をサボっているのはおそらく担当が菅貝(すががい)先生だからだろう。ゴールドシップはこの授業に関しては補習も辞さない構えだ。それはまあいいとして? いや小言を言われるのは私だからよくないのでは? 置いておこうマックイーンの言っていることと辻褄が合わない。証言の信用度はマックイーンが高いがゴールドシップの言い分もロジック的にはおかしなところはない。

 どちらも真とするならゴールドシップが二人いる事になってしまう。マックイーンも私と同じ考えに至ったようだ。

 

「「まあゴールドシップ(さん)だし(ですし)……」」

「おい?」

 

 そして共に同じ結論に達した。問題は解決したようで安心だ。

 

「いやしてなくないか?」

「読心しないで」

「みんな待たせたな」「お待たせやでー」

 

 そこへオグリキャップがやってきた。タマモクロスも一緒だ。

 

「なんやゴールドシップ今日はえらい早よ来たな。今日のトレーニング場の芝は重かいな?」

「うっせー」

「カレンチャンは明後日まで休養だったか?」

「ああそうだオグリ」

「ならあとはハヤヒデだけか……珍しいな食堂にでもいっているんだろうか?」

「んなわけあるかい!」

 

 オグリキャップにタマモクロスがツッコミを入れる。カレンチャンは短期休養中である。

 チームメンバーはタマモクロス・オグリキャップ・メジロマックイーン・ゴールドシップ・ビワハヤヒデ・セイウンスカイ・カレンチャンの七人。

 そうチーム・ポラリスはなんでだか芦毛のウマ娘で構成されたチームなのだ。原因は私にもわからない。

 

「すまない、お待たせした」

 

 皆がいそいそとソファーに座ったりコタツに入っているとビワハヤヒデもやってきた。その手には紙が握られていた。髪の毛がモサついて膨らんでいるので雨が降るかもしれない。

 

「トレーナー、理事長から資料を預かっている。確認してくれ」

 

 そうやって手渡された資料に目を通す。本来なら校舎にトレーナー室があるので基本たづなさんか時々理事長が直接渡してくるのが普通なのだが、うちのチームポラリスは場所の都合でチームのウマ娘に託されることが多い。その相手は大体ビワハヤヒデかタマモクロスである。

 

「なあトレーナーなんだそれ?」

「興行として全五区のチーム対抗ウマ娘駅伝の開催を計画しているらしい」

「ああ、他の有力チームにも声をかけていると聞いた」

「予定ではチームアクルクスにレグルス、プロキオンとリギルも出る予定らしい」

 

 それを聞いてマックイーンが目の色を変えた。

 

「テイオーも出るんですね……!」

「そら出るやろ、アクルクスのエースやで」

「是非何区で走るかの情報が欲しいですわ」

「おはよ〜、私はパスかなぁ。おやすみ〜」

 

 決まったら起こしてと言わんばかりに手を振ってセイウンスカイはハンモックを揺らしながらまた寝た。

 

「カレンチャンも適正距離を伸ばそうとしてるこの時期に違うことはさせたくないから無しだな」

「後でなんか言われるぞートレーナー」

「甘んじて聞くさ。それにカレンチャンもわかってるからそこまで追求はしてこないと思う。さておき、一番盛り上がる五区は各チームのリーダーにやってもらいたいらしい」

 

 それと同時に皆が顔を上げた。

 

「えぇ……ですがわたくしはテイオーと走りたくて」「任せてくれ、少し趣は違うがルドルフとまた走れるのは楽しみだ」「任せときーやポラリス根性をウチが見したるで!」「しゃおらスーパーゴルシちゃん劇場をかましてやるぜ!」「私としては五区の地形と距離情報が欲しいな何事もまずはデータが必要だ」

 

 全員が同時に何か言って声が重なりトレーナーには雑音にしか聞こえなかった。

 

「「「「「ん?」」」」」

 

 疑問の一言は五人全員が見事に重なった。

 

「「「「「リーダーは私(ウチ(わたくし(ゴルシちゃん)じゃないのか(んか)!?」」」」」

 

 バッと立ち上がった皆がこっちを見る。

 

「待った、一人ずついこう。まずマックイーン」

「チーム部屋の合鍵を頂いていたのですが……?」

「それゴルシちゃんも持ってるぜ」

「えっ!?」

「ああみんな持ってる。マックイーン、不安そうな顔をしないで。君はチームのエースだ。トウカイテイオーもそうだろう?」

「エース……そうですわね!」

 

 マックイーンはルンルン気分だ。マックイーンの調子が上がった。

 

「次、オグリ」

「てっきり有馬でタマに勝った時チームリーダーを継承したと思っていた」

「リーダーは一子相伝やあらへんで? それにその理屈やったらこの間ウチがドリームトロフィーリーグ予選で勝ったやろ」

 

 オグリキャップとタマモクロスは共にトゥインクルシリーズを卒業しており、スターウマ娘達の集うドリームトロフィーリーグで切磋琢磨する関係だ。

 

「っちゅうより、ウチとトレーナーが始めたチームなんやからウチがリーダーなんが常識とちゃうか?」

「まあ確かにそれはそうだな」

「まっそれ言われちゃゴルシちゃんも引き下がらざるを得ねーな」

 

 もう一度になるがタマモクロスは私が初めて担当したウマ娘だ。それを考えるとゴールドシップもビワハヤヒデも納得のようであった。

 

「わかったやろ? リーダーはウチや。そもチームの紹介文の時一番上なのウチやし。せやから一番悪いんはトレーナーやで!!」

「えっ私?」

 

 突如矛先がこちらに向いた。

 

「何"ワタシカンケイアーリマセン!"みたいなツラしとるんじゃ! こういう時は客観的に見れんねやからトレーナーが率先して動くもんやろ! なに聞きに徹しとるねん!?」

「ごめんなさい」

 

 ぐうの音も出ない正論であった。これには平謝りするしかない。しかし言い訳もさせて欲しい。

 

「私はお前たちポラリスメンバーの全員が他のチームでリーダーを張れる逸材だと思ってる。これは実質全員リーダーでタマモクロスがリーダーのリーダーみたいなものだから動かなかったんだ」

「なんやそれ褒めとんのかいな?」

「褒めてる」

「まっ確かにアタシ達レベル高えからな」

 

 へへ、とゴールドシップが鼻の下を擦る。ウマ娘が照れ臭いとよくやる仕草だ。

 

「ああ、今度の駅伝も私たちの勝ちにしよう。タマ、五区は任せたぞ」

「任しときーや!」

「ふふ、ならわたくしは最長区間の二区をーーーッ!? ン゛ン゛ン゛ン゛ン゛ン゛ン゛!?」

 

 マックイーンが照れ臭仕草をした直後に悶え苦しみ始めた。

 

「痛、痛いですわ!? こ、これは鼻に煉獄がぁ!?」

 

 メジロ家令嬢の外面が崩壊するほどの何かがマックイーンを襲っている。のたうち回る足とぶつかればたかがトレーナーの私では粉砕骨折不可避なのでマックイーンをオグリキャップとビワハヤヒデに抑えてもらい苦しむマックイーンの顔を調べる。鼻出血を起こしているわけではないようだが鼻が赤くなっていた。

 

「……あ」

 

 マックイーンの右手人差し指を見る。そこにはゴールドシップが嵌めた激辛菓子の輪っか。それを通す際にどう考えても辛い粉は人差し指全体に付着する。それで鼻をこすればどうなるか、自明の理である。

 とりあえず指にはめられた菓子を取って指を拭く。

 これどうするか。マックイーンに事の真実を伝えるとゴールドシップの命が危うい。だが伝えないのもまた不誠実。

 

「……はふっ……クシュン!!!

 

 その瞬間マックイーンが思いっきりくしゃみをした。令嬢らしい抑えた可愛らしいクシャミはしかし時速七十キロクラスで疾走するウマ娘の強靭な心肺から放たれた代物だ。

 手に摘んでいた菓子が猛烈な風圧にさらされ吹っ飛ぶ。そしてそれが後ろから様子を見ていたゴールドシップの目に直撃した。

 

「フングぬ゛!? ア゛ア゛ア゛ア゛目がぁぁ!?」

「こらあかんな!?」

 

 鼻であれなのだから目に直撃はだいぶ不味いとマックイーン共々ゴールドシップも保健室に担ぎ込むこととなった。

 結局この日はトレーニング開始が二時間ほど遅れることとなるのだった。



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新幹線

 私はトレーナー。トレセン学園でウマ娘のトレーニングを担当している。担当するウマ娘達の体調とモチベーションを慮りトレーニングのメニューを吟味し勉学を終えた彼女達を出迎えトレーニングに入る。これが日々のローテーションだ。

 今日はカレンチャンのレースのため小倉競バ場へ向け東京駅から博多への新幹線の中でくつろいでいる。わざわざ五時間の道のりを行くなら飛行機でいいのではとなるが、トレセン学園やURAの公式見解でトゥインクルシリーズ、ドリームトロフィーリーグ所属のウマ娘が飛行機での移動をすることは非推奨とされているため仕方がない。

 またそれと別にチームポラリスには新幹線にルールがある。それは座席は指定席で、余計に確保しておくことだ。

 

「オグリ早よこんかい!」

「ま、待ってくれタマ! この加熱式弁当が気になって」

「加熱に一個八分かけて何個食べる気や!? 食い終わる前に博多に着いてまうやろがい!」

 

 名残惜しそうに手を差し伸ばす先、駅弁屋が深く深くお辞儀をしてオグリを新幹線へと送り出した。発進する新幹線の窓から加熱式弁当以外の場所にいそいそと本日売り切れの札を作る弁当屋の姿を流し見つつオグリキャップの得た戦利品を開いている座席に置く。一列を逆向きにしてチームポラリス全員がそこで小倉への旅路を楽しんでおり、余っている席にオグリキャップの戦利品が……まだ二駅くらいしか止まってないはずだが結構な量がもう積まれ始めていた。私の手元にはとても長い領収書。これがないと弁当代やら食事代が自費になってしまうのである種命より大切な領収書だ。

 

「わーオグリ先輩こっち向いて! はいチーズ」

 

 カレンチャンが呑気に食べるオグリキャップをウマッターに上げる。その先でゴールドシップとマックイーンはなぜか足つきの碁盤で囲碁をやっている。ルールわかっているのだろうか。

 

「王手」

「でしたらここに新たな王を」

 

 わかってない。囲碁の細かいルールはわからないが絶対に違う。

 視界を斜め前に向ければビワハヤヒデが落としたりしても安全なように布を巻かれたダンベルを上げ下げしている。後日皐月賞トライアルの若葉ステークスに出場予定なのだ。

 

「新横浜越えたからトレーニングは終わりにしよう」

「……私はまだいけるが」

 

 今はひたすらパワーを上げることに注力しているのだ。ただ少しオーバーワーク気味になってきているので注意していく必要があるだろう。

 

「無理しすぎない方がいいよぉ」

 

 その隣でのんびりしているのはセイウンスカイだ。今のシニア中、長距離戦線でスペシャルウィークやキングヘイロー達と激戦を繰り広げている一人でそろそろ世代揃ってドリームトロフィーリーグへの移籍も視野に入っている。のんびりして適当そうだがその強みは絶妙なペース配分を用いて後続を幻惑する駆け引きの鬼でクラシックの頃はこれが見事に嵌りキングヘイローやスペシャルウィークを押し潰し皐月賞、菊花賞を制した二冠ウマ娘である。

 

「それはそうなのだが……いやすまない。チケットやタイシンの事を考えるとどうしてもな」

 

 ウィニングチケットはアクルクス所属のウマ娘で今クラシック戦線の有力候補だ。情熱的なウマ娘と聞いている。

 そしてナリタタイシンは知り合いの熱血トレーナーが担当している子だ。現状体の小ささで競り負けるなど良いレースが出来ているとは言えない為、トレーナー間では皐月賞はビワハヤヒデとウィニングチケットのニ強対決と目されているものの、あの熱血トレーナーが指導をしているなら何かがあるのではと思わせる。

 焦る気持ちは痛いほどわかるので、素直にトレーニングをやめてストレッチに入ってくれるのはトレーナーとしてはとてもありがたかった。マックイーンなどはオーバーワークと言ってるのに止まってくれない頑迷な面もあって苦労した。

 

「じゃあ気晴らしに最速しりとりでもしよ〜か?」

「それは一体?」

「最速で"ん"で終わらせるしりとり。じゃぁビワハヤヒデからすたーとしよ」

「成る程……ではしりとりから……鱗粉」

「ンジャメナ」

「!? な、ナリタタイシン」

「ンゴロンゴロ」

「!!? なんだそれは!?」

「世界遺産だぞーい」

 

 ゴールドシップが傍から補足を入れる。セイウンスカイによる予想外の返しにビワハヤヒデが混乱しているのを苦笑しつつゴールドシップとマックイーンの方を見ると碁石が積み上がってピラミッドを形成していた。

 

「……そっちの二人はどういう状況なんだ」

「王を討たれてしまったので墓所を建てていましたの」

「アタシは前方後円墳がいいと思ったんだけどさー」

「やはり墓所といえばピラミッドではありませこと?」

 

 囲碁という規範を破壊し新たな価値観を生み出している……その時ふと閃いた! このアイディアはビワハヤヒデとのトレーニングに活かせるかもしれない!

 

「んな訳ないだろ!!」

「ど、どうしたトレーナー」

「気にすんなやビワハヤヒデ、このトレーナーのいつもの事や」

「そうだな。クラシックの頃の私が食事をしているのを見てよく自分の頭を引っ叩いて自分にツッコミを入れたいた」

「これやるとなぁ意味わからんトレーニング方法提案されることあんねんな。効果的なのがタチ悪いんや気ぃつけぇやビワハヤヒデ」

 

 

 ひどい言われようであるが、実際一日くらいするとさっきの閃きが具体案に切り替わってくるのだ。恐らくは私のトレーナーとしての勘が何かを察知し、それを経験からの具体案として組み上げるのに一日程度時間がかかってしまうのだ。

 

「薄々思ってたけどお兄ちゃんがこの間出した変なトレーニングサクラバクシンオーさん見て思い付いたでしょ」

「そうだね」

 

 カレンチャンが言うことは正しい。実際サクラバクシンオーが補習を受けている様子を見て思いついたものだ。

 

「でも良いトレーニングだったろう?」

「それが理不尽を感じさせるんやろなぁ」

 

 タマモクロスが遠い目をした。

 

「何にせよカレン、これから行く小倉での一戦は大事なものになる。負けるとは全く考えていないが、気を引き締めるんだぞ」

「そうですわね。でもカレンさん、あまり緊張しすぎるのも良くありませんわ。適度に、適度にでしてよ」

「それにはやはり食事が大切だ。食べるといい」

 

 オグリキャップが戦利品の駅弁の山に手を出しカレンチャンに差し出す。一個どころではない八個だ。それを片腕で渡すという無駄に高度なバランス感覚を発揮している。いやそこじゃなくて多い、受け取ったカレンチャンの笑顔がちょっと引き攣ってるぞ。

 

「あ、ありがとうございますオグリ先輩」

「いや無理せんと、昼にこんな食えんのはオグリくらいのもんやで」

「おやつのつもりだったんだが」

「なんでや! この量をおやつに出来んのはジブンくらいやろがい!」

「今日と明日で移動・休養・調整をやるのに突然の摂取カロリー大量増は勘弁して……」

 

 ウマ娘は内臓も代謝も基本強いので問題ないことが多いが、食べすぎると結構すぐに太り気味になる。そうなると痩せる事を主体としたトレーニングをする必要があるが今日明日では流石にレースに間に合わない。

 オグリキャップがあれだけ食べても平気なのはそれを消費し切るほどの膨大な運動量をしているからだ。ふと閃いた! このアイディアはカレンチャンのトレーニングに活かせるかもしれない!

 私はもう一度自分の頭を引っ叩いた。

 後日、無理して食べることもなく緊張をそこそこにカレンチャンは見事小倉でのレースを一着で制する事となった。

 

 

 

 




登山家のヒントレベルが1あがった!
栄養補給のヒントレベルが3あがった!


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