タロットカードは未来を導く (かりん)
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スライムカードは冒険の予感

 ゲーム世界にアイテム込みで転生した。

 都会から出戻った娘から産まれた私は、ジョブ認定の儀式に備え、せっせと準備をしていた。採取、狩猟、解体。そりゃもう必死に勉強した。

 そして、齢15歳にしてジョブ認定の儀式のために街へと出てきた。

 

 偉い人のお祈りの言葉を聞き、皆で祈り、食事をし、色々なテストを受ける。

 結果、ハズレ加護だと判定された。

 私は鑑定メガネを自分に使い、確認をする。

 

『占い師 LV1』

 

 よし、経験済みだし格好いい。

 占い師はトリッキーなジョブで、確率変動をして幸運を引き寄せることが出来る他、イベントなどで絶対1人はパーティに必要だったり、カードガチャが出来たりする。自分はしたくないけど必ず1人は伝手が欲しい、というキャラだ。フレーバーテキストにも出来ることが盛り沢山に書かれてあった。1人は絶対に欲しいキャラが自分というのは幸運なのではなかろうか。

 こうしてはいられない。レベルを上げなくては。

 

「ハズレ加護だと!? ハズレ加護だと!? 面汚しめ、二度と敷居をまたぐことは許さん! さっさと出ていくが良い、不吉の子め!!」

 

 大声がしてびっくりする。

 美形の男の子が、父親に捨てられて呆然と立っている。占い師じゃん。

 それにしても、権力者の息子が占い師って……イベントの予感。

 情報を得られた私は運が良い。

 私は、すすすっと近寄った。

 

「あ……俺は、俺は……」

「ねぇ」

「え……?」

「困ってるなら、私が面倒を見てあげるよ。採取とか狩りとか解体とか、教えてあげようか?」

 

 男の子は迷った様子を見せて、それからお願いしますと頭を下げた。うんうん。良い子じゃん。

 

「私、サクラ」

「俺は、ルーン……」

「ルーン! とってもいい名前! まずは腹ごしらえをしようか。こんなごちそうめったに食べられないよ。その後、早速街に出て狩りをしよう」

 

 食事をして、街の料理に舌鼓を打つ。さすが、宴のご飯だ。めちゃくちゃ美味しい。

 パンをポケットに入れて、ルーンの手を引く。

 

「じゃあ、行こうか」

「その……街を出るより、ダンジョンのほうが多分、稼げるよ」

「街の中にダンジョンがあるの?」

「うん、こっち」

 

 男の子は、私の手を引いて、ダンジョンまで連れて行ってくれた。

 

「冒険者ギルドの登録証と入場料がいるみたいだけど?」

 

 厳重な門と門番。気後れする。

 

「15才未満なら誰でも無料で入れるよ。だから、今日中に登録代と入場料を稼がないと」

「なるほど」

 

 ルーンが門番に話しかけ、入れてもらう。

 ダンジョンは、宴の最中だからか誰もいなかった。都合がいい。

 

「武器を渡しておくね」

「持ってるの?」

「うん。私と貴方しか使えないとっておきの物だよ」

 

 占い師の武器はカードと水晶玉である。

 カードは大人気のコレクターズアイテムでもあるため、占い師でなくても持っていたりする。なんといってもデザインがいいのだ。でも今回渡すのは、ショップで買った白紙のカードセットホルダー付き。

 

「カード?」

「こう使うの」

 

 私はちょうどそこにいたスライムの核にカードを投げた。

 ちょうど核に刺さったカードはスライムの核を吸収し、スライムカードとなる。

 

「!?」

「やってみて」

 

 カードを渡されて、ルーンも投げるけど、ペロンと舞い上がる。

 

「ちゃんと力を通して、カードの力を引き出して使わないと駄目だよ」

「ち、ちから?」

「今日の宿代と、登録代と、明日の入場料と、カードの材料費と、食事代! 飛ばすのが無理なら、カードで刺すだけでもいいから」

「わかった」

 

 そして、二人で弱い魔物を狩っていく。

 ルーンは、何回目かの試行錯誤で投擲が出来るようになった。

 白紙のカードが魔物のカードに変わっていく。

 ポケットのパンを分け合いながら食べ、手持ちのカードが無くなった頃、ざわめきが聞こえた。宴が終わってダンジョンに人が来たのだろう。

 

「そろそろ採取に切り替えようか。私の指定したものを取って。インベントリに入れて」

「インベントリって?」

「空間魔法で、ほら、アイテムをしまっておく奴よ」

 

 私は、目の前でインベントリに入れてみせる。

 

「!? 凄い!」

「やってみて?」

「? ? ??」

「はぁぁ……いいわ」

「あの、ごめ……」

「このカードにアイテムを押し付けて」

 

 私は、アイテムカードセットを渡す。

 

「うん。あっ カードになった!」

「じゃあ、それをこのカードホルダーに入れて。魔物のカードホルダーと混ぜないでね」

「はい!」

 

 ルーンは、せっせとアイテムを採取しては、カードに入れていく。手際良いじゃん。ちなみにこれも占い師の特技。重さが無視できるのだ。その代わり、占い師しかアイテム使えなくなるけど。占い師だけのパーティーなら問題ない。

 

「ねぇ。ドロップアイテム、僕らは何も出なかったね」

「カードで倒したからね。カードを破ればドロップアイテムが出てくるよ。他にも使いみちがあるから、まだ破らないでね」

 

 私はインベントリを、ルーンはカードホルダーをいっぱいにしてダンジョンを出る。

 インベントリに入れたアイテムを売って、そのお金で二人でダンジョン登録して、宿を探し、二部屋取る。

 

 次は私の部屋で作戦会議だ。

 

「じゃあ、カードを種類別に分けて」

 

 言いながら、私も分けていく。

 

「んー。まだ数が足りないなあ。一回するのがせいぜいか」

「足りない?」

「うん。まあ、ひとまずカードの使い方を教えるね」

 

 私はスライムカードを12枚取り、スキルを使った。

 

「カードセット生成!」

 

 カードに番号や記号が割り振られていく。

 よし、これで占いの準備ができた。

 更にカードを空中に設置していく。

 そして、一枚を選んだ。

 

「本日の占い! スライムに限りドロップアイテム増加」

 

 そして、私の体が光る。

 カードがもとに戻ったので、残りの11枚のスライムカードは破ってドロップアイテムにしていく。これは売ってダンジョンの入場料にしよう。

 

「魔物カードは、投げても強いよ。白紙のカードよりはね。ただし、消耗品。カードを作るための道具は明日買ってくるから。裁縫の練習もするよ」

「う、うん……」

 

 白紙のカードを2セット渡す。

 

 占い師は素早さと器用さ、魔力が上がるので、生産にも向いている職だ。すぐ作れるようになるだろう。取得生産は錬金と裁縫一択である。

 

 試行錯誤していたら、ルーンもインベントリが使えるようになったのでカードの生産セットをいくつも買う。ついでにポーション生産セットも。

 それでインベントリはいっぱいになった。NPCはそんなもんよね。プレイヤーのアイテムボックスないもんね。なのでアイテムカードセットもいくつか買っておこうか。

 

「今日採取した草と魔力をこの瓶に込めて振って、こっちの型に流し入れるの」

「わかった」

 

 ふぅ。カード作るの、面倒だな。いくつかある生産セットフル稼働で一狩分がやっと。

 ポーションの作り方も教えて、材料を使い切ったら寝るように言って各々の部屋に戻り就寝。

 

 翌日、成功したポーションと失敗したポーションを選り分けて、本日の占いでバフをして、昨日のスライム素材を売って、ダンジョンに向かい、採取と戦闘をして、宿で生産。

 ルーンは服を売り、ボロい服とお金に変えてお金を渡してきた。

 貴方の心意気は受け取りました。私に任せるのです……。

 冒険者セットをショップで買って渡す。

 装備も作らないとね。まずは糸を作るところから。

 水晶玉も買わないと。占いの方法も教えていかないとね。

 なんだかんだで一ヶ月、頑張った。

 でも、同じことの繰り返しで辛いだろうな。

 

「お貴族様には大変だろうけど、捨てられた以上は平民だからね。毎日毎日同じことの繰り返しで大変だけど、頑張って稼がないといけないよ」

 

 そう言い聞かせると、ルーンはキョトンとした顔をした。

 

「俺、出来る事が毎日たくさん増えて、すげー楽しい。今日はゴブリン倒せたの、見てただろ! 占いも楽しい! それに、七日に一日休暇くれるじゃん!」

「そ、そう? まあ、それなら良いよ」

 

 何この子、天使じゃん……。休みの日も色々出来ることを考えて頑張ってるの知ってるしね。私も情報収集や他の占い師の援助してるけど。優しーい!

 

「もしも、困ったことがあったらコレ使いな」

「うわ、強い魔物のカード! こんなに!? 良いの? 破ったら……」

「怒るよ。命の危険を感じたら迷わず使って。狙いをつけて、力を開放する感じで」

「わかった。その、すごく感謝してる。ありがとう」

「なんのなんの。弟子だもん。どうしても気になるなら、将来強いカードで返してね」

「ありがとう……」

 

 弟子が可愛くて死にそうです。

 

 さて、3ヶ月がたった。

 お金が溜まったのと、ほぼほぼ100%の確率で初心者ポーションが作れるようになったので、ポーション資格をとった。実際に作るのと、効果順に選り分けるのが試験だった。効果順に選り分けるので、なんと弟子に遅れを取った。鑑定メガネばかり使ってたからね。反省。

この資格は他の町でも通用する。それが大事。

 

「流石ルーン様、勉強していたのですか?」

「師匠が良かったものでな」

「それでも、凄いです。うちの子は強いジョブを得たと鼻にかけ、努力をせず……」

 

 ふぅ、と溜息をつく店員さん。この店員さんは口が固くていい人だ。今もこうして知らない振りでルーンの資格を交付してくれる。妨害がないわけないのに。

 

「権力者の息子が占い師って、大抵は神様の恵なんだけどね」

「そうなのですか?」

「そうよ。災いを予見して、防がせるために占い師を遣わせるの。領主様の子供や同時期の街の子供達がやたらと優れたジョブの子や占い師ばっかりだと倍率ドンね」

「……今年はやたらと両極端で、ハズレ加護と優れた加護が多いと」

「そうなのよね。占い師が多すぎるから、スタンピードじゃないわ。しかも占い師の子、皆能力高いの。少なくとも、悪意が介在する。優れた占い師が多数必要なほどの、邪悪なる者のとてつもない陰謀に巻き込まれる。早めに準備して街を離れないとね」

 

 何より私(転生者)が呼ばれる事態。神様には悪いけど逃げ一択ですわ。援助はしたよ!

 

「なんで!?」

「平民にどうにかできる災い規模じゃないわよ」

「師匠……」

 

あっ嫌な予感。

 

 



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家族占いは時報の予感

「師匠。師匠にまで命をかけろとは言わない。でも、俺が残る事を許して欲しい」

 

 手を握って、真摯な顔で訴えかけられる。気品のある整った顔立ちは中性的で、美しい。青い髪は不自然さを微塵も感じさせず、湖を思わせる。何よりも、目だ。その目は星の青。

 そして、占い師はフレーバーテキストで、カリスマ&話術が高いのだ。

 ま、負けちゃダメダメ! 私だって占い師!

 

「いやよ。だってそれ、育て損じゃない。こっちだって慈善事業じゃないのよ。そもそも、神様のくださった加護に、当たり外れ文句言うのが悪いのよ。外れなんてないのに。不吉……はある意味そうなんだけど。神のご意向に逆らった偉い人の自業自得でしょ!」

 

 喰らえ! 私の師匠としての威厳を駆使した超然とした態度!

 アルビノな見た目で神聖さ倍率ドン!

 

「そうだね。俺、神様に感謝してる。だから、神様の期待に応えたい。思うんだ。俺が選ばれた占い師なら、この出会いもまた、神様のお導きなんじゃないかって。それに、師匠。師匠は神のご意向に逆らうの?」

「うっ!!」

 

 そうなんだよね。レベルとか情報とか仲間欲しさの援助だったけど、罪悪感が7割位。でないと、占い師の子たちにカードを分けたり生産セットを分けたり基礎を教えたりなんてしない。占い師達がさ、皆、良い子なんだよ。そしてそれ以上に賢い。

 一度で覚えなかった子がいないって、凄くない?

 だから、週一の授業でも回せてるんだけど。

 皆、必死で喰らいついて試行錯誤しているんだよね。

 

 私だって、レベル上げだヒャッホウ! って思ってたさ。

 でも、私にはゲームの記憶がある。

 イベントの規模的に、何より、この占い師の第六感にビンビンに引っかかる嫌な予感に。私は尻込みしているのだ。だって、今はゲームじゃなくて現実だ。

 本当に人が死ぬんだよ? 冗談じゃない。ああでも、これはきっと、神様に貰った命なんだ。神様の為に、一回くらいはご奉仕しておくべきだよなあ。

 でも本当に死んだらどうしよう。大規模な事件だと、凄腕占い師設定のNPCが命と引き換えにした占いが事件の発端だったりするんだよね。その役を割当てられてるんじゃないかと戦々恐々なのである。

 ちなみに、その手の重要な占いはイベントを起こさないと出来ない。

 ミニゲーム形式で、指定のカードを使って指定の結果が出て、相手の反撃をカードで防ぐミニゲームだ。今まで自動だったというのも不安なところ。タイミングとか全部自分で判断ってことだもんね。

 

「……やばかったら逃げるから」

「師匠!」

 

 ぱあっと笑顔になるルーン。ああ、もう。本当にやばかったら逃げるからね?

 店員さんも笑顔になっている。こんな子供に期待しないでよ、もう!

 

「ただし! それは、ルーンがこの街の占い師達を纏め上げられたらよ! そうでもないと勝ち目なんてないもの。勝てない勝負はしない主義なの。信用稼ぎ班とレベル上げ班と生産班とに別れて、組織だって行動しなきゃだし。妨害だってあるかもだし」

 

 一番イヤなのが、魔物の人間成り代わり系だ。ないよね? ないよね?

 陰謀勝負なんてオタクに求めてんじゃね―ぞ。

 

「レベル上げと生産はわかるけど、信用はどうやって?」

「そりゃ、占いをして上流階級に食い込むのよ。占い師なんだからそれしかないでしょ。子供が将来どんなジョブになる確率が高いかとか、生まれる子は男の子だとか、女の子だとか、天気占いとか、今日の魔物は何が出やすいとか……。狩りの効率を上げるバフ占いはもう出来るわね? 後は、本腰入れた占いの為には最低でも100枚のカードが欲しいわ。一回の占いで使うのは5枚から20枚。何事もなければね。反撃されたら天井知らず。強いカードも集めないと。それには他の戦士や魔法使いのジョブも絶対に必要よ」

「強いカード……師匠がくれたようなものですか? 反撃とは?」

「勘のいい魔物なんかは、占われたらわかるし、反撃してくるわよ。カードでの防衛に失敗すれば大怪我、下手すりゃ死ぬわ。ま、成功すれば企み全部暴けることもあるけど」

 

 私は自らを抱いて、ブルリと震える。

 

「間違っても黒幕とかにぶち当たらないように占わないと。それに、権力者は当たらなければ殺し、災いを当てれば殺すわ。魔物なんかも率先して狙ってくる。占い師は人に化けた魔物を見破るのが得意……つまり、その手の賢い魔物に蛇蝎のごとく嫌われているものなの。あなたも覚えておきなさい。占い師として名を挙げたら、長くは生き延びられないわ。だから占い師は旅するの」

 

 まあ、フレーバーテキストからの受け売りですが。考えてみると、占い師って凄く大変な職よね。

 まあ、辻占いでのほほんしてることも出来るんだけどね? 多分、ルーンはその道は選ばないよなぁ。

 

「師匠! 俺、占い師って職業を舐めてた! ただ、特殊な武器なだけのジョブだって。でも、違うんだな。悪を見破り裁く、正義の執行人なんだな!」

 

 がしっとルーンは手を握る。

 

「俺、覚悟決めるよ! 一流の占い師になるって、そして生き延びてみせるって、今決めた!」

「ルーン……」

「俺、頑張る。領主の息子ルーンとして、占い師ルーンとして、産まれてきた役目を果たす! 師匠の試練、謹んで受けさせてもらう!」

「うちの息子も! うちの息子も使ってやって下さい! うちの子なんて、アルケミストなのにルーン様より成功率低いのですから! そうだ、集会にうちの使ってない倉庫を使って下さい!」

 

 2人で大いに盛り上がる。

 そういうんじゃないんだってば。占い師は、もっと儚くも悲しくも切なくも優美で可憐で……。そうだ。今度の日曜日、皆に占い師の出てくる物語を聞かせてあげようっと。

 その手の話なら公式なり同人なりで山ほど知ってるからね!

 ルーンの修行の時間も3日に減らして……いっそ、全員一緒に教えちゃおうか。

 

 ということで、倉庫を借りて占い師の寺子屋が誕生した。

 魔物や占いについて、がっつり教えちゃうよ! 捨て子も多かったので、寝泊まりできるのも大きい。というか、家のある子も引っ越してきて雑魚寝だ。

 申し訳ないので家賃は僅かながら支払わせていただいている。

 寝物語が大人気で、大号泣である。うん、占い師の物語さ、必ず占い師1人は死ぬんだわ。まず時報のごとく最初に死ぬ。謎解きパートで平均2人。事態解決の為にもう1人死ぬ。怖がる子もいたので、その子には占い師としての穏やかな日常の送り方を教えてあげた。産まれる子が男の子か女の子かだけを判定して暮らす選択肢もあるんやで……?

 

 まあでも、レベル上げないとどんな占いも出来ないけどね。

 って事で、ダンジョンや町の外でせっせとレベル上げ。

 街の人も段々、占い師って存在を認知しだした。

 まあ、カードで倒す一団がいたら目立つよね。死体カードに封じるしね。

 交代で占い商売も初めた。

 

 妊婦さんの子が男の子か女の子かの判定と、バフ掛けである。

 レベルの高い子はもう、バフデバフの剥ぎ取りとジョブ判定が出来る。

 

 どうも、判明してない加護はハズレ加護、身体能力が上がったら戦士、魔法が使えたら魔法使いというスーパーざるい判定方法だったらしく、これが当たった。

 

 例えば、同じ戦士でも弓と剣じゃあ適正があまりにも違う。

 そういったことで感謝されたのだ。もちろん、それに腹を立てる者もいる。

 

「あなたは狩人です。 弓や罠を学ぶといいでしょう」

「なんだとぉ!」

 

 掴みかかる男の手を掴む用心棒。

 

「占い結果が気に入らないからって、そういうの、良くないと思いますよ?」

 

 筋骨隆々のマスルさんが言うと、狩人さんはすごすご帰っていった。

 マスルさんは最近入った弟子である。ハズレ加護でも諦めず格闘をしてきた人で、筋骨隆々で迫力があるので助かっている。

 鑑定に来て、占い師だった人はそのまま弟子入りすることが多い。鍛え方がわからない人も、私を頼ってくることが多い。

 初期装備や、初期生産セットを渡している。

 あまりに多いので、アドバイス料を取ることに決めた。でないと出費が出る一方だし。

 ゲーム通貨、手に入る宛がないんだよね。カンストさせてたから、今まで気にしなかったけど……さすがに無尽蔵にはないわけで。

 

 皆で貯めたお金を持ち寄り、冬の防寒対策もなんとかなりそうだ。

 

「お正月でしょ? 今頃、領主の館では、お姫様たちがパーティーしてるんでしょ? いいなあ」

「見たいか? キララ。それなら、占ってやるよ」

 

 ルーンが占いをする。

 すると、水晶玉に豪華絢爛なパーテイー会場が映し出された。

 ほんと偵察に大活躍な能力よな。

 占い師の子供達が歓声を上げ、大人が微笑ましく見る。

 

 水晶が輝く。

 

「えっ!? 駄目だ、力が吸われる……!!」

 

 ぼふっと音を立てて、ルーンの父が魔物に変じた。

 

『何奴!!??』

 

 いや、お前が何奴だ。

 私は咄嗟にカードを投げていた。

 

 魔弾が水晶を砕いた中から飛び出して、ルーンに向かう。それをカードで防いでいた。

 結構いいカードがバシュっと音を立てて消滅する。ぺたんとルーンが尻餅をついた。

 

「じ、時報……」

 

 嘘でしょ。

 

「に、逃げるわよ!! 一箇所に固まってれば一網打尽だもの! ほら、皆立って!!」

 

 大変なことになった。

 

 



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真実の鏡は魔王を写す

 

 浮足だし、飛び出そうとする私達だが、マスルさんがドアに立ちはだかった。

 

「おちつけーい!! 今逃げても各個撃破される危険もある! 落ち着くのだ!!」

 

 仁王立ちで大音量。その言葉に、私達は固まった。

 

「マスルさん……!」

「ここに、舞踏会に出席しておる者の子はいるか! もう一度占うのだ! 皆のもの、覚悟していたはずではないか! 大いなる邪悪にこの街が狙われていると、それゆえ占い師が多いのだと、聞いていたではないか!」

「でも……でも……」

「ち、父上がっ それでも、父上がもう魔物に乗っ取られていたなんて! 聞いてない!!」

「しっかりなされよ、ルーン殿!! お父上の仇を取るのです!!」

 

 ぐっとルーンが黙る。

 

「……母上を、いや、兄上を占う。兄上が魔物なら早く見破らなければだし、兄上が人間なら兄上は生き残ると思う」

「わ、私も、占う……」

「僕も!」

「誰か、詰め所に連絡を。キース殿。お願いできますかな」

「いいでしょう」

「魔王復活じゃ! 魔王復活じゃああああ!!」

「魔王が来るぞ、来るぞおおおおおおおお!!」

「私も報告に向かいます!!」

「おい、今飛び出したオジジ達を引き戻せ、いたずらに混乱する!」

 

 と、とにかく!!

 

「ルーン様、怖い……!」

 

 女の子がルーンに近づく。

 

 とにかく、魔物がいないか見なきゃ!!

 

「やああああああああああああああ!! 真実の姿を晒せええええええええ!!」

 

 私が水晶玉を掲げると、MPをしこたま吸って水晶玉は輝いた。

 

 ルーンに近づこうとした女の子が、外に出ようとした者の1人が魔物に変ずる。

 

「きゃああああああああああああああああああああ!!」

「わああああああああああああああああああああ!!」

「あああああああああああああああああああ!!」

「成敗っ!!」

「消えろ」

 

 正拳突きで魔物を倒し、あるいはナイフで一閃し。

 

 男達……マスルとキースは叫んだ。

 

「「落ち着けぇ!!」」

 

 あまりの気迫に私達は気圧される。歴戦の戦士かよ。高レベルってことは歴戦の戦士だったわ。

 

「まずはよくやりました師匠、これで敵はここにはいないということですな」

「私は報告してくる。ここを動くなよ」

「すっ 少なくとも魔物の敵はね」

「よろしい。ではひとまず占いを。舞踏会の者全てが魔物なのかどうかだけでも調べなくては」

「う、うん。師匠、ごめん、水晶玉下さい」

「はい」

 

 水晶玉を渡され、ルーンは集中する。

 

『見られている……!? いや、これは……ルーン……!?』

『ルーン! 魔物を見破る力を得たというのは、嘘ではなかったのですね!』

『ルーン、これをお前が見破ったというのなら、なんとかしてみせろ!! 全ての魔物を明らかにせよ!』

「リーン兄上……! 母上……!」

 

 キンっと剣と爪がぶつかり合う。既に舞踏会は戦場と化していた。

 人と魔物の区別がつかないのだ。

 

「どうにか出来ませんか? 師匠!」

「出来るかどうかはわからないけれど……皆、力を貸してくれる?」

 

 占い師達が、恐る恐る頷いた。

 

「かつて一度見ただけだったけど……。占い師20人で、街一つの地面を全て鏡に変える儀式の例があったはず」

「ここには占い師は30人はいますぞ! やりましょう!」

「私ではレベルが足りない。それに、防御するものが必要よ。マスルさん、やってくれる?真実の鏡を掲げて……床に魔法陣を広げて……【我ら占い師の力を持って、全ての者、その真実を暴きたり!】っていうの。皆は一斉に鏡に魔力を注いで。マスルさん、一番危険な役目だけど……」

「……やりましょう!」

 

 儀式用魔法陣の布を広げ、鏡をマスルさんが持ち、私はカードを投げる準備をして、皆は魔力を注いだ。

 

「【我ら占い師の力を持って、全ての者、その真実を暴きたり!】」

 

 街中の床が鏡と化して、魔物に掛けられた変身の術を解除していく。

 それとは別に、鏡に囲まれた私達は四方八方から攻撃を受けた。

 私は大量のカードを投げてなんとか応戦したけど、結果はわからない。

 魔法陣に力を吸われ、気絶してしまったからだ。

 

 

 

 

 

 

 起きたら、温かいベッドだった。知らない天井である。豪華なのはわかる。

 

「お目覚めになられましたか。占い師殿。ご当主様がお待ちです。身支度のための湯浴みの準備はできております」

「……魔物の?」

「いいえ。新しいご当主様であり、聖騎士のリーン様です」

「ああ……。ルーンのお兄さんの」

「さようでございます」

「おなか空いたんですけど」

「湯浴みの後にご用意いたします」

 

 私は起き上がり、お風呂に入る。本当、久々のお風呂だ。

 時間を掛けて綺麗にした後、おかゆを食べる。弱った身体にありがたい。

 その後、もう一度着替えさせてもらう。ドレスはコルセットが恐ろしかったので、占い師の服を着ることとした。宮廷占い師の制服というかなり高価な装備なので、大丈夫だろう。ついでに化粧もちゃんとして、カードスロットを装備して、水晶をぶら下げて、戦闘準備を万全に整えて行く。

 

 向かった先には、超美形な金髪碧眼の、偉いぞおおおおおっとわかりやすい服の青年と、それに跪くリーンさんとルーンさんがいた。

 ちょっと? リーンさんがお待ちって言ってましたよね?

 その人傅いてるんですが、どういうことですかね?

 

「……そなたが全ての占い師の師、サクラか。此度のこと、不幸な事故はあったが、大儀であった」

 

 私ははっと気づいて慌てて這いつくばる。

 

「そ、その。ほんの偶然で……っ」

「ルーンから話は聞いた。権力者の子に占い師が生まれるは不吉の予兆。なぜなら、占い師はそもそも、その災を防ぐ為に神が遣わしたものだから。その言葉、しかとこの胸に刻ませてもらった。ならば、ルーンが成し遂げたように、私もまた、この国の、いや世界の救済をせねばならぬということなのだろう」

 

 いや、そこまで言っていない……いや、言った気がする……。でもですね! 占い師はフレーバーテキストてんこ盛りだけど、一般的なジョブなんですよ! 一般ジョブの仲間に入れて!

 

「そうだ。まだ名乗ってなかったな。ルーンのおかげで、私もようやくジョブを名乗れる。ルーンは私を占うと、こう告げた……「勇者導きし占い師ロードス」だと!!」

 

 あ、超重要NPCですわ。占い師で一番偉い人ですわ。

 ちなみに、私がしていたゲーム。勇者とプレイヤーは別である。別なのである。

 プレイヤーより強いNPCが存在しちゃうのである。

 

「我が師よ。これからよろしくお願いする……!」

 

 私は白目をむいて気絶した。魔王とガチでバトルやつやん……!!

 

 

 



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三人の覚悟(覚悟したとは言っていない)

★サクラ視点

 

「無理です。無理です。無理です」

 

 私は這いつくばって泣きじゃくる。

 

「そなたならば出来る。30人を超す弟子を持つ大占い師ではないか」

「魔王とウォーボード(この世界のチェスのようなもの)する奴じゃないですか! 駒は国とか人で! 勇者導きし占い師ってそういう事でしょ!? 魔王を倒すためなら眉一つ動かさず国を時間稼ぎとか囮とかですり潰すやつでしょ? 私知ってるんだから! 命がいくらあっても足りませんよ!」

 

 捨て石としてぽいっとするんだろう? 私は詳しいんだ!

 

「それだ。そのそなたの知ってることを教えてほしいのだ。恥ずかしながら、占い師というジョブすら知らなくてな。剣も習ったが、何か違うという意識が拭えなかった。短剣が少しはまともに使えるが、とても得意とは言えぬ。だが、このカード。これは手に馴染む。まるで幼い頃から慣れ親しんだかのように」

「私の腕では、二流占い師を育てるまでがせいぜいですが。そもそも私も二流です。超一流の占い師が持つべき諦念を持っていません」

「諦念?」

「誰も救えはしないという諦念です。目の前の5人を見捨てて、未来の遠くの、見たこともない100人の起こるかもわからない悲劇に備える。そのような事を星の数ほど繰り返すのに必要なのは、正義感ではありません。占いにも悪影響を与えてしまう。真の占い師に必要なのは、覚悟や正義感、義務感などの能動的な心持ちではなく、未来など変えられぬ、救う事など出来ぬというありのままをただ受け入れる受動的な諦念なのです。そのうえで強き意志を持ってより良い未来を引き寄せるのは、駒の仕事」

 

 というのが、公式の勇者導きし占い師の言だったはずだ。

 

「ふむ。諦念。諦念か。占い師とは過酷なジョブなのだな。二流占い師でいい。そなたの知る全てを私に刻んで欲しい。悪いが、世界の命運が掛かっているがゆえに、拒否権は与えられぬ。身の安全は保証しよう。私の葬式の準備もしなくてはな」

「へ?」

「占い師というのは、敵に狙われるのであろう。勇者を導くとなれば、尚更だ。私もそれなりの覚悟を持ってここにいる」

 

 ……ずるい。そこまで言われたら、逆らえないではないか。それに、隠れるなら、まあ。

 

「……一ヶ月で、占い師の基礎を。そして半年以内に、占い返しや隠蔽の術を覚えてもらいます。それが出来たら、弟子として認めます。魔王側にも、その手の魔物はいるのです。身を守る気もない者と行動をともには出来ません。葬式は、半年後に行いましょう」

「了解した」

「サクラ様。我らもどうか、引き続きご指導願います」

「悪いけど、全員に隠蔽の術は教えられません。表で動く人材も必要でしょうし。それは王子様が選んでくれるんでしょ?」

「うむ。私が負うべき責任ということだな」

 

 事も無げに頷かれて、私は再度言葉に詰まった。乱暴に涙を拭う。

 

「では、早速今から特訓を始めます。殿下と言えども、錬金と裁縫は最低限修めてもらいます。戦闘も同じく。武器としてカードと水晶玉をお渡しします。早速ダンジョンに向かいましょう。この街のダンジョンではありません。私の指定する魔物の生息するダンジョンです。殿下ならすぐわかるはず。出立の準備を。準備は最低限で構いません。ある程度は1人で旅を出来なくては」

「今からか!?」

「わかった行こう」

「殿下は記憶力に自信は?」

「もちろんあるぞ」

「よろしい。殿下には武器のカードの他に、私の魔物カードコレクションをお渡しします。ダンジョンでの手応えと威力を、一度で覚えて下さい」

「わかった。手紙だけ書かせてくれ」

 

 聞き分けの良さが、恐ろしい。こ、これが至高の占い師だというのか……!

 さっさと育てて離脱しよっと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

★マスル視点

 

 ハズレ加護というのは、正しくない。

 正しくは、判明していない加護だ。第二王子もその加護の内容が判明していなかった。

 幼い頃から文武両道性格良しと、何ら問題のない、優秀な第一王子をなお追い落としそうなほどに優秀な王子。それが判明していない加護だったのだから、国は揺れた。

 それでもたゆまぬ努力を続けたのは、第2王子の崇高な性格ゆえだろう。

 

 マスルがその噂を聞いたのは、とある商団からだった。

 何でも、授かった加護の名を正しく告げてくれる占い師がいるという。

 その者が弓を取れと言えば弓が上達し、剣を取れと言えば剣が上達するという。

 中にはお盆を取れと言われることもあり、困惑しているとお盆をくれたというのだが、これが使い勝手がよく、魔物を軽く叩きのめせてしまうのだという。

 

 これはと思い、その街へ行った。

 少額の占い料と引き換えに、マスルは自身の加護の名を知った。

 占い師。第六感が鋭かっただろうと言われ、どきりとする。勘に頼って生き延びた事は両手で数えてもとても足りない。

 カードを渡され、基礎を教えられた。

 占いに、戦い方に、カードの作り方。

 そして、語られるのは占い師の物語。それを聞いて、ふとおとぎ話で知っている名前に気づき、はるか昔の伝説の詳細が語られているのだと気づいた。

 師匠から伝わった口伝だというそれは、歴史学者垂涎のものだった。

 早速報告を送るが、喜ばしいことだけではない。

 もしも、第二王子が占い師だったなら。

 

 権力者の子、優秀なる占い師は災いの予兆。それはまるで第二王子そのものではないか!

 

 口伝では、まるで吐いて捨てるように占い師達が死んでいた。

 それはまるで、神の隠密。坑道のカナリア。

 占い師は簡単に、情報を対価に死んでいく。

 

 それでも、悲観しながらもサクラ殿は楽観視していた。

 神が乗り越えられぬ試練を用意するはずがなく、準備の時間があるはずだと。

 まともな占いが出来るようになるまで、手遅れにはならぬだろうと。

 

 しかし、ルーン殿は事故で街の真実を暴いてしまった。

 舞踏会で唐突に正体をさらされた魔物に、女子供を含む多くの客が殺された。

 

 占い師達は惨状を知らない。

 

 正体を暴かれた魔物達は、一斉に占い師の寺子屋を襲った。

 王家の隠密であるキースが正体を表し、狼煙を上げ、騎士に援軍を頼み、衛兵達を防衛に呼んでこなければ皆殺しにされていたであろう。

 街は既に多くの魔物に侵食されており、多くの血が流れ、衛兵たちの五分の一は亡くなった。第二王子が近衛を連れて街の近くまで来ていたことは誠に僥倖だった。

 なんとか意識を保った私だけが、その激しい戦いを見ていた。

 全て片付けるまで目覚めなかった占い師達は、その惨状を知らない。知っていたら尻込みしていただろう。

 とはいえ、知った顔が大分減ったことでその苛烈さは感じ取っているはずだ。

 魔王復活。そしてはじまる英雄譚。太古の冒険譚に幼き頃、身を焦がしたマスルは、武者震いにブルリとするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

★ロードス王子

 全てに恵まれて産まれてきた。そんな私だから、加護もきっと素晴らしいものだと、まだわからないだけだと心のどこかで確信していた。

 マスルの手紙、占い師という加護、それでなくとも加護を言い当てることが出来るとの言葉に、私は喜び勇んで近衛を引き連れて出立していた。

 加護が判明したらお祝いをするのだと、見栄を張って近衛を多めに用意してもらったのが幸いした。

 街に近づいた時、不穏な狼煙が上がる。

 そして、魔物が街中で暴れていた。

 その時、私は即座にマスルの手紙を思い出していた。

 占い師が生まれるのは、不吉の予兆。なぜなら、占い師とは災いを祓うために生まれるのだから。

 その言葉が胸をよぎる。

 

 すぐさま街に救援をよこし、私もまた戦いに加わった。

 魔物と衛兵の死体の中心で、魔法陣の上、折り重なり、死んだように見える若者たちが占い師と聞いた時、ぞっとした。

 占い師とは、輝かしいものではないのではないか。

 むしろ最前線で戦う隠密なのではないか。

 キースから詳細を聞き、まず胸によぎったのは父上や兄上の安否だ。

 即座にキースに、父上を、ついで兄上を占わせてホッとする。

 2人は人間で、生きていて、健康であるという判定だった。

 

「しっかり手遅れではないか!!」

 

 神からすればセーフでも、そこに住まう人間としてはアウトである。

 なにせ当主が成り代わられて、街の住人の多数が偽物だったと言うではないか。

 

 それでも平静を装えたのは、私の誰より優れた幼少時代を送ったがゆえの天より高きプライドゆえである。

 内心、占い師でなくとも構わぬぞ、と思いながらもキースに占わせたらやっぱり占い師だった。占い師達の師であるサクラは平民であるので、それでも部下を集めて小規模な式典の準備をして、直弟子であるルーンに占わせたところ、ルーンは私に這いつくばった。

 

「勇者導く占い師様……!! ああ、貴方様が助けに来てくださったのは偶然ではなかった!! ありがとうございます、勇者導く占い師様!」

 

 即座に箝口令を敷いた。

 勇者とはなんぞ。いや、おとぎ話では聞いた。魔王とセットで。

 それは台本になかったぞ、ルーン!!

 

 心は垂直に飛び立つかのような、落ちるかのような、不思議な心地である。

 自尊心は満たされている。それはもう満たされている。

 誰がどう言おうと、「勇者導く占い師」は特別な加護だ。勇者の次に特別である。

 ある意味特別感は勇者より上かもしれない。カードに触れた時も、岩に単なる紙であるカードを付き立たせた時も、たしかに心は躍った。

 

 でもでも。溢れ出る危険な香りがする。それでも勇者よりは安全だと思いたいが。

 しかして襲撃されて灰となった占い師の寺子屋の事を忘れされるほど私の頭は鳥ではない。拷問されて殺される未来しか見えず、突き落とされるかのような不安が覆う。

 

 かつてこれほど期待と不安に揺れたことはない。15の加護の儀式を遥かに超す揺れ幅である。

 

 とにもかくにも、偉大ではあるのだろうが生粋の平民に舐められるわけには行かないと私は胸を張って名乗った。

 街一つの陰謀を暴きし偉大なる占い師は、気絶した後這いつくばって泣きじゃくった。

 

「無理です。無理です。無理です」

 

 これは権力に気後れしたとかではありえない。もっと深い絶望で悲しみで恐怖だ。

 私は内心焦った。だが、私の鉄面皮は自信満々を維持する。私は必死でサクラを力づけた。

 

「そなたならば出来る。30人を超す弟子を持つ大占い師ではないか」

「魔王とウォーボード(この世界のチェスのようなもの)する奴じゃないですか! 駒は国とか人で! 勇者導きし占い師ってそういう事でしょ!? 魔王を倒すためなら眉一つ動かさず国を時間稼ぎとか囮とかですり潰すやつでしょ? 私知ってるんだから! 命がいくらあっても足りませんよ! 捨て石としてぽいっとするんだろう? 私は詳しいんだ!」

 

 えっ そうなん?

 えぐえぐと泣くのは、神の使いとかではなさそうだが、占い師事情や歴史についてはかなり詳しそうだった。

 こっちは占い師という言葉すら知らなかったんだから、知ってる前提で話されるのは困る。凄く困る。むしろ洗いざらい知っていることを教えて欲しい。

 一国の王ですら、国の興亡にはそうそう関わらない。それを、国をたった一つの駒とするというのか? 大げさで言っているのだと思いたい。

 だが、街一つ壊滅仕掛けた現実がある。この調子でやりたい放題やられたら、簡単に世界は滅ぶだろう。なにせ、一般的には占い師なんて知られてない。

 専門武器、それもカードの作成なんて、教えられずに誰が気づくか。

 しかも、それがないと占えない上、占いには知識がいるという。

 確かに、私は王位を望んでいた。でもそれは、国をもり立てるためであって、世界の趨勢を決める指し手に立候補した覚えは断じてない。

 自分の命も心配だが、自分の責任で世界が滅ぶの滅ばないのは辞めて欲しい。

 私は、今まで人一倍努力してきたつもりだ。誰より優れていたつもりだ。どんな加護を得てもいいよう、頑張ってきたつもりだ。その努力が、才能が、今、ひたすら薄っぺらく物足りなく感じた。

 

「それだ。そのそなたの知ってることを教えてほしいのだ。恥ずかしながら、占い師というジョブすら知らなくてな。剣も習ったが、何か違うという意識が拭えなかった。短剣が少しはまともに使えるが、とても得意とは言えぬ。だが、このカード。これは手に馴染む。まるで幼い頃から慣れ親しんだかのように」

「私の腕では、二流占い師を育てるまでがせいぜいですが。そもそも私も二流です。超一流の占い師が持つべき諦念を持っていません」

「諦念?」

「誰も救えはしないという諦念です。目の前の5人を見捨てて、未来の遠くの、見たこともない100人の起こるかもわからない悲劇に備える。そのような事を星の数ほど繰り返すのに必要なのは、正義感ではありません。占いにも悪影響を与えてしまう。真の占い師に必要なのは、覚悟や正義感、義務感などの能動的な心持ちではなく、未来など変えられぬ、救う事など出来ぬというありのままをただ受け入れる受動的な諦念なのです。そのうえで強き意志を持ってより良い未来を引き寄せるのは、駒の仕事」

 

 諦めきれなくてここまで来て、欲しい物を得たら諦めろと言われるこの理不尽。

 それでも私は頑張った。見栄を張った。

 

「ふむ。諦念。諦念か。占い師とは過酷なジョブなのだな。二流占い師でいい。そなたの知る全てを私に刻んで欲しい。悪いが、世界の命運が掛かっているがゆえに、拒否権は与えられぬ。身の安全は保証しよう。私の葬式の準備もしなくてはな」

「へ?」

「占い師というのは、敵に狙われるのであろう。勇者を導くとなれば、尚更だ。私もそれなりの覚悟を持ってここにいる」

 

 皆が尊敬の眼差しで見つめてくる。

 嘘だ。覚悟なんてない。ないから隠れるのだ。私は死んだことにする!!

 箝口令を敷いたとは言え、もう勇者を導くのはバレてしまっているのだ。

 

「……一ヶ月で、占い師の基礎を。そして半年以内に、占い返しや隠蔽の術を覚えてもらいます。それが出来たら、弟子として認めます。魔王側にも、その手の魔物はいるのです。身を守る気もない者と行動をともには出来ません。葬式は、半年後に行いましょう」

「了解した」

「サクラ様。我らもどうか、引き続きご指導願います」

「悪いけど、全員に隠蔽の術は教えられません。表で動く人材も必要でしょうし。それは王子様が選んでくれるんでしょ?」

「うむ。私が負うべき責任ということだな」

 

 いきなりのスパルタに涙目になりそう。ようは死ねと言えということだな。やってやろうではないか、半年後に! 半年後に! 見栄とプライドさえなければ、私も師のように泣いていた。お家帰りたい。

 

「では、早速今から特訓を始めます。殿下と言えども、錬金と裁縫は最低限修めてもらいます。戦闘も同じく。武器としてカードと水晶玉をお渡しします。早速ダンジョンに向かいましょう。この街のダンジョンではありません。私の指定する魔物の生息するダンジョンです。殿下ならすぐわかるはず。出立の準備を。準備は最低限で構いません。ある程度は1人で旅を出来なくては」

「今からか!?」

「わかった行こう」

「殿下は記憶力に自信は?」

「もちろんあるぞ」

「よろしい。殿下には武器のカードの他に、私の魔物カードコレクションをお渡しします。ダンジョンでの手応えと威力を、一度で覚えて下さい」

「わかった。手紙だけ書かせてくれ」

 

 スパルタなだけでなく、もはや、家族との再会も諦めろと言外に師は言う。

 お家に帰るのは無理ですね、むしろ故郷を失うやものですね、わかりたくありません。

 言う事言う事、過酷すぎるのだが、現実はこの大げさなほどに悲観的な師匠の予想の更に斜め上だった事を忘れてはいけない。

 

 即断即決のこの私も、手紙を前にして一瞬、なんと書いたらいいかわからず、思考が飛んだ。ふと、兄(捨て石勇者)が思い浮かぶ。

 !?

 

 するりと滑り込んだ確信。勇者だ。兄上勇者じゃん!!! 捨て石勇者とはなんぞ。

 いやいい、知りたくない。兄上を覚醒させねばとか、この国は時間稼ぎに使うとか、私は何も知らない。弟はいっちゃなんだが甘やかされてて戦乱の国を守るなんて無理だぞ。そもそも国をつぐことを想定されてないし。でも彼が次の王だ。

 

 あ”あ”あ”あ”あ”!!!

 

 ぐしゃぐしゃっと手紙を丸めると、初めての行為にお付きの秘書がビクッとなった。

 




王子様とサクラでチキンレースみたくなってしまった。


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『「キースよ。口頭でしか伝えられぬ、重大な報告があると聞いた。それに、街が一つ魔物に乗っ取られていたとか。ジョブを調べるだけではなかったのか?」

「は。まずは、お祝い申し上げます。第一王子殿下は勇者様。第二王子殿下は勇者導く占い師様、第三王子殿下は王になる運命を持つもの。それぞれ、祝福を得ましたこと、誠にめでたいことでございます」

「は?」

「恐れながら、第一王子殿下と第二王子殿下は揃って神に徴兵されております。第一王子殿下が覚醒すれば、魔王と戦うにふさわしい能力を得ると。第二王子殿下は、勇者達を導く為の修行の旅に出られました」

「は?」

「おとぎ話の再現でございます、陛下。魔王が復活するのです。覚醒方法は勇者によって違いますが、殿下の覚醒方法は伺っております」

「お前は何を言っているのだ」

「まあまあ、父上。その覚醒方法とやらを試してみればいいではないですか」

「いえ、覚醒方法はピンチになった時にのみ行なうようにとの殿下の伝言です。でなくば国ごと魔王に狙われるであろうと。それと、第三王子の教育をするようにと」

「無礼な!」

 

 王は立ち上がる。

 

「落ち着いて下さい、父上。証拠がないことにはどうにも出来ないね。私は王位を譲るつもりはない。とにかく試してみようではないか」

 

 殿下は王をなだめ、口止めが出来るようにと神殿で儀式をする。

 ガランガランと半透明の鈴が鳴り響き、天から光降り注ぎ、殿下は光り輝いた。

 口止めの意味がなかった。

 

「これは……はははっ なんという力だ! 気分がいい!!」

 

 殿下は叫び、力を開放される。余波だけで周囲が吹き飛んだ。

 

「これほどの力とは!」

「おお! 凄い! 勇者王の誕生じゃ! 早速隣国に攻め込むぞ!!」』

 

 

 

 

 

 

 

 

「という夢を見たから、止まれキースぅ!!」

 

 早朝、騒がしいので見に行ったら、手紙を持って出たキースを悪夢を見た殿下が止めたらしい。

 

「流石にその程度は予知に頼らず自力で予想してほしいです。本当に魔王とウォーボード出来るんですか?」

「見苦しいところを見せた。しばし考えるから待って欲しい。手紙は書き直す」

 

 机に向かった殿下は、深く悩んだ様子でゲンドウポーズをしていた。

 どうしたらよいか考えている様子ではない。

 ただ、覚悟を決める勇気がないだけだ。

 

「私は……初めて、兄上に嘘を付く」

 

 お兄ちゃん子だね!?? 悩んでたのそれか!!

 

「私は今日より、家族ではない。臣下でもない。世界の守り手なのだ」

 

 そうして、筆を執った。

 殿下の思い、確かに受け取りましたぞ……!!

 

 そうして、手紙を持ったキースが出発するのと同時、私達も旅に出た。

 サバイバルを教えながらの旅である。

 出来るだけその場にいた痕跡を消せるようになる訓練も。

 二週間ほどの旅をして、ダンジョン都市に着いた。

 小さな屋敷を借りて、占い師達の講習を行う。

 昼はダンジョン攻略、夜は生産と占い。

 カードを提供して、王子にはサクサク占いに慣れてもらうこととした。

 スパルタで教育し、半年が過ぎた。

 



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