史上最強の女子高生 (光の甘酒)
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第1話 志賀有栖-前編-

やってみたかった女性主人公!いくつもの世界を渡り歩きものすごいハイスペック女子高生・志賀有栖。時には力づく・時には頭脳でたくさん起きるいろんな問題をサクッと解決!1話前編後編の2部構成の予定です。
時系列はガルパ2章及びアニメ2期・3期です。


ああ、何度目だろうかこの感覚

 

私はゆっくりと目覚める。そして状況を確認する。

 

目を閉じ、自分の頭に記憶されているだろう事項をインストールする。

 

そっか、これが今の私。

私はハンガーにかけられている制服に手をかけ、着替えるのであった。

 

 

私は呪われている。永遠に生き続ける呪いだ。

とはいえ年相応に成長し、老化し、天寿を全うする。

しかしそのあとランダムに割り当てられたパラレルワールドに飛ばされ、そこで新しい私としての人生が始まる。これを無限に繰り返すのだから永遠に生きるという表現は間違いではないだろう。

今までいくつの世界を回ってきただろう。例えば女優をやっていた世界もあったし、クソみたいなブラック企業に勤めた世界もあった。ミュージシャンとして全国を渡り歩いたこともあった。軍隊にいたこともあった。

ちなみにひとつ前の世界での私は格闘家で、最強の女格闘家として世界を制したのであるがその後に交通事故にあってあっさり死んでしまった。

うわ、車に轢かれたことは記憶にない。ってことは即死だったのかなー・・・くわばらくわばら

そして今回の世界。今回の世界は・・・

 

 

「え、ただの女子高生?」

 

 

それだけである。何の変哲もないただの女子高生。

花咲川女学院に通う3年生。以上。

しかし女子高生をやるのは久々である。目覚めたタイミングでの年齢はまちまちである。

乳児で目が覚めることもあれば小学生、成人女性の時もある。いきなり軍の作戦中だったりもした。

ようは目覚めたタイミングでこの世界での私の設定が作成され、それを記憶として頭の中にインストール、世界に反映されるというわけである。

 

 

「史上最強の女子高生目指すってのも悪くないかな」

 

 

なんて冗談めいた独り言をする。

まあ今までの世界の経験値が今の私にすべて反映されているのであながち間違いではないが。とにかく今回の世界では自由にやれという思し召しであろう。

 

 

「志賀有栖(しか ありす) この世界でも頑張っていきますかー」

 

 

氏名:志賀有栖 性別:女性 年齢:18歳

特技:演技全般 楽器全般 格闘技 対人戦 アクション 銃(拳銃、小銃、狙撃) 剣道 居合道 護身術全般 車の運転 バイクの運転 諜報活動 英語 フランス語 ドイツ語 ブラック労働環境にもくじけない心  etc….

 

 

 

「アリスちゃん、おはよう!」

「おはよう、アリスちゃん」

「おはよう、アリス」

「彩ちゃん、かのちゃん、ちーちゃん。ごきげんよう」

 

通学途中、丸山彩ちゃん、松原花音ちゃん、白鷺千聖ちゃんに出会った。仲のいい学友のようである。

 

 

「アリスちゃん、相変わらず挨拶だけはお嬢様みたいだね」

「それはどういう意味かなー?彩ちゃん?」

「わわっごめんごめん」

「あはは。相変わらず仲いいね、彩ちゃんとアリスちゃん」

「えー?私はかのちゃんとも、とっても仲良しのつもりなんだけどなー」

「きゃっ・・・も、もうアリスちゃん。すぐに抱き着くのやめてっててばあ~」

「かのちゃん・・・相変わらずかわええのう・・・」

「アリス、またおじさんみたいになってるわよ」

「おおっと。こいつは失礼。えっと、ちーちゃんも仲間に入れてあげればいいのかな?」

「なんでそうなるのよ」

 

 

あー楽しい。でもこれもあくまで作られたものであって自分で形成したコミュニティでないのが少し寂しいな。

まあインストールのおかけでどうやって親友になったかとか幼少期の記憶もあるからまぎれもない私なんだけどさ。

 

 

「あ!アリスお姉さま!」

「アリスお姉さま・・・相変わらず美しい・・・」

「アリスお姉さま!おはようございます!」

「ふふ・・・ごきげんよう、みなさん」

 

 

門に入ると下級生たちが私を見つけ騒ぎ始める。

挨拶に返答しながら歩く私。

ありがたいことにどうやらこの世界の私は大層な人気者らしい。

 

 

「相変わらず下級生にすごい人気ね、アリスちゃん」

「みんなかわいいねえ」

「会話が嚙み合ってないような・・・」

「かのちゃん、それは気のせいさ」

「はぁ・・・なんだか薫を見ているようで頭が痛くなるわ」

「そんなこと言いつつ一緒にいてくれるちーちゃんのこと、私は大好きよ?」

「も、もう!先に教室行くわよ!」

「あはは、ちーちゃんごめんって」

 

 

そういって進んでいるうちに中庭が騒ぎになっていることに気が付いた。

 

 

「なんの騒ぎかしら?」

「アリス、あれ・・・!」

 

 

ちーちゃんに言われて上を見上げるとそこには屋上の柵を超えて立っている女の子がいた。

 

 

「キミ、危険だから!」

 

 

先生が下からそして屋上の柵の向こうにもいるようで説得しているようである。

 

 

「ど、どうしようアリスちゃん!?」

「彩ちゃん、落ち着こうか」

「逆になんでそんなに冷静なの!?」

 

 

自ら命を絶とうとしている女子生徒を見上げ私は考える。

飛び降りる高さ、落下速度、下で受け止めたとして私にかかる負荷は・・・

 

 

「いけそうね」

「え?」

 

 

彩ちゃんがそういった瞬間、その女生徒は―

 

飛び降りた。

 

 

「きゃあああああああああああああああ」

 

 

あたりに悲鳴が木霊する。

 

 

「え?あ、アリスちゃん!?」

「アリス!?」

 

 

そして駆け出す私。

 

 

「はっ!」

 

 

そして見事に落ちてきた女生徒をキャッチし衝撃を受け止めるために受け身をとった。

 

 

「上手くいった~。ケガもしてないみたいね」

「どうして助けたんですか!?私は・・・私は・・・」

「目の前でみすみす死なれたら目覚めが悪いじゃない」

「うう・・・これで苦しみから解放されると・・・あいつらから逃げられると思ったのに・・・!」

「あいつら?ってあれ、おーい」

 

 

気が緩んだのか気絶してしまうその子。

その後救急車が到着し、その子は運ばれていったのであった。

 

 

 

 

「アリス!!何を考えているの!?」

「まあでもあのままだったらあの場にいたみんなトラウマ確定よ?」

「だからってあなたが巻き込まれたら・・・!」

「実際巻き込まれなかったからいいじゃないのよ。でもゴメン、普通は心配になるよね・・・ごめんねちーちゃん」

 

 

涙目で怒るちーちゃんをなだめる。確かに逆の立場であんなものみたら心配するし怒りたくもなるよね。私は私のことをわかっているけど他の人が見たら普通の女子高生だもんね。

 

 

「でもさっきのアリスちゃん動きすごかったね」

「うん、突然駆けだして綺麗に受け止めるだもん。一瞬何が起きてるかわからなかったよ」

「人生経験の賜物だよ。あ、そういえば今日警察の事情聴取に呼ばれてるから一緒に帰れないや。このあとも職員室に生徒会・・・呼び出しがいっぱいなんだよなあ・・・」

「た、大変だね・・・」

 

 

 

 

さて、放課後。まずは職員室である。職員室に行くと担任と教頭、学年主任が待ち受けており色々とお説教を貰った。結果的に人命救助に繋がったのでおとがめなしではあるが無茶はするなということであった。

でもそのあと件の飛び降りた女生徒のご両親が来てめちゃくちゃ御礼を言われた。その時に入院先の病院も教えてもらい後で見舞いにいくことにした。

 

 

「失礼しまーす」

「アリスさん。すみませんご足労いただいて」

 

 

生徒会室のドアを開けると生徒会長・白金燐子ちゃんと風紀委員長・氷川紗夜さんが待っていた。

 

 

「いいよいいよ。紗夜ちゃんとりんりんちゃんの頼みならいくらでも。あれ?今日は有咲ちゃんはいないのかな?」

「市ヶ谷さんは別件で動いてもらっています」

「えー有咲ちゃんいないのかー。有咲ちゃんのおっぱいに顔を埋めたかったのになー。りんりんちゃん、代わりにいい?」

「ええ!?///」

「アリスさん、貴女そのうち捕まりますよ」

「冗談冗談。それで、今朝の件だよね?」

「はい。実は今日飛び降りた子、どうもいじめを受けていたようで・・・」

 

 

りんりんちゃんが説明を始める。

 

 

「いじめ?」

「白金さん、ここからは私が。実は彼女の友人と思しき方から匿名で相談を受けていたのです。何かを理由に脅しにあって色々理不尽な目に遭っていたと。それで生徒会でも調査することになったのですが・・・」

「その矢先に今朝の騒動ってわけね。でもいじめがあったってのは合ってるかも」

「何か心当たりがあるのですか?」

「うん。実は今日彼女をキャッチした時にね。言ったのよ、やっとあいつらから逃げられると思ったのにって」

「なるほど・・・しかしそうなると誰が、という話になりますが・・・」

「調べてみるしかないねえ。んじゃそれが今回の生徒会の依頼ってことでいいかな?」

「はい、よろしくお願いします」

「いつもすみません、アリスさん」

「いえいえー」

 

 

どうやらこの世界の私はこうやって色々な人の依頼を受けて動くことをやっているらしい。

そして今回の依頼は生徒会より、いじめ犯の特定。

よっしゃ、手始めに被害者の子のお見舞いがてら情報収集かな。その前に警察に行かなきゃだからそのあとか。

 

 

「きゃー!アリスお姉さまよ!」

「今朝の活躍みました!カッコよかったです!!」

「アリスお姉さま!私のお姉さまになって!!」

「あ、抜け駆けずるい!」

「こらこら、授業中止になったんだから早く帰らなきゃダメだぞ」

 

 

外に出たらなんだかすごい騒ぎになっている。私は捕まらないようにそう言い放ち、そそくさとその場を後にしたのであった。

 

 

 

 

「腹が減っては戦はできぬというしね」

「あ!アリスさん!!いらっしゃいませ!!」

「さーやちゃん、ごきげんよう」

 

 

警察署に行くまでまだ少し時間があったので私はおやつがてらやまぶきベーカリーによる。

 

 

 

「さーやちゃんは今日も可愛いねえ」

「もう、アリスさんそれみんなに言ってません?」

「みんなにも言っているけど可愛いに込められている感情はひとりひとり違うからさーやちゃんへの可愛いはオンリーワンだよ?だから安心してくれて大丈夫!」

「相変わらずですねえ。それで今日は何にしますか?」

「いつもどおり今日のおすすめを2~3個包んでくれるかな?」

「かしこまりました!」

 

 

パンを包むさーやちゃんを待っている間、私は軽く情報収集をすることにした。

なんせ今日飛び降りた子はさーやちゃんの学年の子だからだ。

 

 

「ねえさーやちゃん。少し聞いてもいいかな?」

「何でしょう?」「今日の事件知ってるよね」

「・・・ええ。あの子はあまり知ってる子じゃなかったけどああいうことが起こるとやっぱショックですよね」

「何か知らない?」

「・・・実はあの子が飛び降りる前、あの子と違うクラスの子がもめているっぽいのを見たんです」

 

 

 

いきなり核心的な情報きちゃったよ。

 

 

「それ、誰かわかる?」

「隣のクラスの―」

 

 

私はさーやちゃんが知っていることをすべて聞き出し、パンを受け取った。

 

 

「私が何かしていれば変わっていたんでしょうか?」

「ううん。気付きようがないしさーやちゃんは何も悪くないよ。後のことは私に任せてね」

「アリスさん・・・」

「もう、そんな顔しないの。またパン買いに来るからさ。その時また笑顔でいらっしゃいませって言ってよね?」

「・・・わかりました!ありがとうございます、話を聞いてくれて。今朝からずっとモヤモヤしてたので助かりました!!」

「うんうん。やっぱりさーやちゃんは可愛いねえ」

「からかうのやめてください!!」

「あはは。じゃあ私はこれでいくね。ばいばい」

「ありがとうございましたー!」

 

 

さておいしいパンも手に入った栄養補給もバッチリなところで動きますか。

 




次回はなるべく早めに投稿する予定です。
完全不定期になりますのでよろしくお願いいたします!


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第1話 志賀有栖-後編-

想像以上の長さになってしまいました。次回からは前中後編でわけるかもです。




「ねえ貴女達、少しよろしいかしら?」

「アリスお姉さま・・・?」

 

私が声をかけたのは2人組の生徒。そう、さーやちゃんが飛び降りた子とモメているのを目撃した二人だ。

 

 

「少しお話したくて。よろしければ一緒にお茶でもいかがかしら?」

 

 

びっくりしていたが結局二人はホイホイついてきた。うーん、これからの話次第ではその顔が苦悶の表情に変わるのが心苦しいなあ。

私たちはコーヒーチェーン店に入り、注文を済ませ着席した。

本当はつぐちゃん(羽沢つぐみちゃん)のお店に行きたかったけど話次第ではアレなので諦めた。

 

 

「ふう。チェーン店の味も捨てたものではないですね」

「私もそう思います!それでアリスお姉さま」

「話というのは?」

「うーん、貴女達。今朝の事件知っていますね?」

「・・・!?」

「も、もちろん知ってます。あんな騒ぎになったし・・・」

 

 

うん、明らかに動揺しているね。今までの人生、情報を扱う一通りの組織に属した経験もあるので素人相手なら大抵表情が読めるのだ。

 

 

「単刀直入に聞くわ。あの子が飛び降りる前、貴女達何かトラブルがあったのよね?私、みちゃったの」

「上級生のお姉さまが見られるはずが・・・あ!?」

「素直な子は好きよ」

 

 

誘導尋問に引っかかり、ポロっと漏れたようである。

 

 

「そ、それは・・・」

「いじめ、あったのよね?貴女達が実行犯?」

「ち、違います!」

「でも、いくらアリスお姉さま相手でも言えません・・・!」

 

 

二人はうつむいて震えている。

うーん、これはそう簡単な話じゃない気がしたなあ

 

 

「・・・信じて」

「え・・・?」

「私を信じてみて?悪いようにはしない。もし困っているなら私が助ける」

「お、お姉さま・・・」

 

 

二人は黙る。沈黙が続くが私はその間一言も喋らずコーヒーを飲みながら待った。

 

 

「・・・本当に、誰にも言いませんか?」

「うん」

「実は・・・」

 

 

要約するとこうだ。飛び降りた子含めこの子たち3人は仲のいい親友同士。

しかしある日、出来心でスリルを求めて3人はコンビニで万引きをしてしまった。

それをまた別の生徒に見られてしまい、さらに動画撮影までされてしまったようだ。

その日からこの3人はその生徒に脅迫され、3人同士ていじめあうことを命令されたり、その生徒におもちゃにされてしまうようになってしまったということだ。

そのいじめをさせられている現場を目撃した誰かが匿名で生徒会に相談したという流れだろう。

しかしそれも遅く、結果もう耐えられないといって一人が飛びだし、あの事件に発展したようである。

 

 

「話してくれてありがとね。辛かったよね」

「うう・・・」

「貴女達がやってしまったことはよくない。でもそれを理由に理不尽な目に遭っていいわけがないわ。その生徒の名前、教えてくれるかな?」

「それは・・・」

 

 

 

 

私は戻ってきた。どこにって?戻ってきたということはさっきいたところである。

 

 

「あれ?アリスさん?どうしたんですか?」

「や、さーやちゃん」

 

 

そこはやまぶきベーカリーであった。

 

 

「さーやちゃん、そういうことだったんだね」

「な、なんのことでしょう」

「なんでまたこんな回りくどいことを?最初から私に相談してくれればよかったのに」

 

 

つまるところ、さーやちゃんもいじめ実行犯に脅されていたというわけである。

経緯は3人組がモメているを目撃した後に起きた事件。さーやちゃんはモメていたのが何か関係があるのかも?と思いその二人に話を聞きに行った。

しかしそこには例のいじめ実行犯もいたようみたいだ。

 

 

”このこと誰かにいったら、半グレの彼氏にお願いしてアンタのバンド、一人ずつ潰すから”

 

 

「誰にも言えない・・・でも一人で抱えるには怖くて・・・もしみんなに危害が及んだらと思うと怖くて・・・実は生徒会に匿名で相談はしたんですけどそれだけだと不安で」

 

 

やはり、生徒会への匿名相談はさーやちゃんだったのか。

 

 

「そこでお店に来たのがアリスさんだったんです。でもすぐには言えなかった。アリスさんまで巻き込むなんて・・・でも耐えられないのもまた事実で。それならヒントになることをいって気づいてくれたら助けを求めようって。そんなこと考えてしまったんです」

「優しすぎるよさーやちゃん・・・そんなん、無条件で助けるに決まってるじゃない。私が気づかなかったらどうするつもりだったの?」

「その時は諦めようかなって・・・」

「でも現に気が付いた。ってことは私が助けに入ってもいいってことよね?」

「アリスさん・・・」

「やるべきことはわかったわ。ようは諸悪の根源を断てばいいのよ。あとのことは私に任せて」

「はい。試すようなことをしてすみませんでした・・・!」

「いいの。終わったらまたおいしいパンをご馳走してね」

 

 

 

「紗夜ちゃん!りんりんちゃん!わかったよ!」

「アリスさん、本当ですか!?」

「っておーーーーーー!有咲ちゃーーーーーん!」

「げぇ、アリスさん!?」

「げぇ関羽みたいに言うなあ!でもそういうところも可愛いぞ!

!」

「む、胸に顔埋めないでくださいいいい」

「はむはむスーハースーハー・・・あ゛あ゛~^^だま゛ら゛ん゛」

「ぎゃああああああああ!!!や、やめてくださいいい」

「よいではないかよいではないか・・・アリスとアリサ、名前が似てるし私たちはもはや姉妹だよ!」

「名前しか共通点ないんですけどお!?」

「アリスさん!!!!いい加減になさい!!!」

「ぬぐぉ!」

 

 

分厚い辞書の背表紙で脳天兜割を食らってしまった。

 

 

「紗夜ちゃん!これ以上バカになったらどうするのさ!?」

「まったく貴女は!こういうときでもいつもふざけてばかりで・・・大体この前も・・・」

「あーはいはいごめんちゃいごめんちゃい。反省してまーす」

「全然反省していないでしょうッ!まったく、そういうところがなければ本当に優秀な人なのに・・・なんで貴女と言う人は・・・」

「優秀だなんて//褒められて嬉しいわ//」

「褒めてません!!」

「あ、あの~そろそろ話を・・・」

「ああ、りんりんちゃん!放置プレイしてごめんよ!そして有咲ちゃん、素晴らしいおっぱいを今日もありがとう!!」

「ハァ・・・ハァ・・・もうダメ・・・」

 

 

さて、気を取り直して。

 

 

「コホン。今回の事件の真相がわかったよ。まず飛び降りた子と他に二人の子がいて・・・」

 

 

私は知った内容をすべて話す。もちろん、さーやちゃんが巻き込まれている件も併せてだ。

 

 

「というわけ」

「沙綾・・・相談しろっての・・・」

「でも有咲ちゃんの立場でも相談できないでしょ?大丈夫、今のところさーやちゃんに実害は出てないみたいだしね」

「不幸中の幸いですね」

「それでどうするのですか・・・?氷川さんや市ヶ谷さんにお願いしてた件も芳しくないみたいですし・・・」

「と、いいますと?教えて有咲ちゃん」

「あー・・・私たちもいじめの存在を受けて先生とかに相談しに行ったんですよ。そしたらわが校にいじめはない、それは勘違いだで一蹴されちゃって」

「腐ってるねえ」

「全くその通りですよ!学校側は体裁を守ることしか考えていません!」

「確かにねえ。万引きをネタに脅されていじめが発生したなんて学校側からしたらものすごい不祥事だもんね」

 

 

結局学校側はのらりくらりといじめはなかったで貫き通すつもりだろう。

私は花咲川が好きだ。たとえそれが今回のために構築された設定だとしても紛れもない私の感情だ。

そんな好きな空間が理不尽に汚されるのは我慢ならない。

それにたとえ最終的に隠ぺいされたとしても、少なくとも実行犯が花咲川で二度といじめを起こさぬよう、徹底的に叩く必要がある。

 

 

「実行犯を潰すしか」

「潰すとは物騒な・・・しかしどうやって?」

「そうだねえ。とりあえずあの子に話を聞きに行くよ」

 

 

あの子。そう、飛び降りたあの子である。

お見舞いに来てくださいとご両親に病院も教えてもらっているわけだし彼女に話を聞いて今まで集めた情報の裏付けをするのが一番早い。

 

 

「というわけで行ってきます。なんかあったら勝手に動くね」

 

 

 

 

”わかってるわよね?私たちのことバラしたらあいつらだけじゃなくてあんたの親や友達のこともめちゃくちゃにしてやるから”

 

 

病室のドアに手をかけようとした瞬間、聞こえてくる言葉。

そして次の瞬間、ドアが開き一人の女子生徒が出てきた。

 

 

「あ、すみません」

 

 

その生徒は笑顔で謝ってきた。

 

 

「あれ?志賀有栖先輩ですか?」

「ええ。あの子のお見舞いに」

「なるほど!あの子は私の親友なんです。飛び降りたって聞いたときはびっくりしたけど・・・」

「そうなの。彼女は元気だったかしら?」

「はい!あ、私そろそろ行かなきゃなんで有栖先輩、また!」

 

 

そういってその女子生徒は去ってゆく。

うーん、反吐が出るね☆

 

 

「こんにちは」

「え・・・?どうして・・・?」

「貴女のご両親にね。体の具合はいかがかしら?」

「先輩に助けてもらっておかけで軽傷です」

「そっか。私が何でここに来たかわかるよね?」

「・・・もう放っておいてくださいよ」

「そうはいかない。ごめんだけど貴女がどういう目に遭っているのかを知ってしまったのよ。知ってしまった以上、放っておくってもの性に合わないし。何より貴女たち以外の大事な後輩ちゃんが巻き込まれているんだ」

「・・・・・」

「・・・私を信じて。あの子なんでしょ?さっき出ていった」

「・・・信じても・・・いいんですか?」

「うん」

 

 

次の瞬間、彼女は堰を切ったように涙を流しながら受けた仕打ちを話し出した。

それはいじめの他にとても口にするのも憚られるようなことまであり、聞いているこっちの気分が悪くなるほどであった。この内容はいじめという言葉では生ぬるい、もはや犯罪である。

 

 

「そっか。辛かったよね。気づいてあげられなくてごめんね」

「先輩は・・・悪くない・・・です」

「そう言ってもらえると嬉しいな。でも大丈夫。もうすぐその苦しみも終わるから」

「え・・・?それってどういうことですか・・・?」

「・・・これから何が起きても貴女は何も知らないし、私のことも知らない。誰がどうなってもあなたには関わりない。できるかな?」

「・・・・・この苦しみが終わるなら。私何でもします!!だから私と・・・私の友達を助けてください!!」

「うん、りょーかい」

 

 

 

 

「こんなところに呼び出してなんのつもりですか?先輩」

「しらばっくれちゃって、呼出状に要件を書いたでしょう?」

「このお前の犯した罪、すべて把握している。ついてはそのことについて話がしたい・・・ってやつですかあ?匿名でこんなん送られてきても心当たりないんですけどお?」

「現に来てるじゃない」

「それは・・・」

「御託はいいわ。本題に入りましょう」

 

 

私は集めた情報をそのままぶつけた。もちろん、情報源は隠匿してだ。

 

 

「ええ~全然知らないですよお~誰から聞いたんですか~?」

「言うわけないじゃない。言ったら貴女、徹底的にその子を潰しにかかるでしょう?」

「まあ、何となく察しはついてますけどお」

 

 

その言葉と共に奥からもう一人、いや二人が姿を現す。

 

 

「さーやちゃん!?」

「ごめんなさい、アリスさん・・・」

 

 

それは、男に捕まるさーやちゃんであった。

 

 

「こんなことあろうかと彼氏にお願いして連れてきてもらったんだ~。じゃあ有栖先輩、服脱いでもらっていいですか?あの志賀有栖が被写体なんて、いい映像がとれると思うんですよ~」

 

 

スマホをこつらに向けながらゲス顔で言われてもなあ・・・

 

 

「アリスさん!私に構わず逃げてください!」

「あ~うるさいわね。ちょっと黙ってよ!今いいところなんだから!」

「オラ、黙れ!!」

「きゃあ!?」

 

 

強く腕を締め上げられるさーやちゃん。

私はその光景を見て考える。

 

 

殺っちゃお☆

 

 

「こいつもなかなかかわいいじゃないか。二人いっぺんに撮影会するってのも悪くねーんじゃないか?」

「うふふ、確かに。有栖先輩、さあ早く・・・ってあれ!?どこいったの?」

「いでででででで!?」

 

 

そう考えた後、私はすぐさま行動にでた。とはいえ本当に殺〇するわけではない。

俊足。一瞬で間合いを詰めてさーやちゃんを救出、男の腕を締め上げたのだ。

 

 

「は、放せ!俺が誰だかわかってんのか!?」

「私にとって貴方が何者であるかなんて関係ないし、興味もないわ。ただただ目障りなだけよ。さーやちゃん!」

「は、はい!?」

「耳を塞いで背を向けなさい。そしてすぐにここから逃げなさい」

「でも!!」

「二度は言わないわ」

「アリスさん!!」

「行け!!!!!」

 

 

そういってさーやちゃんを見送る。

 

 

「さてと」

「いてえっつってんだろ!放せゴラァ!!」

 

 

「 調 子 に 乗 る な よ 小 僧 」

 

 

ボキボキボキッ!

 

 

「うぎゃああああああ」

「あら、腕が折れたくらいで情けない」

「やめ、やめてくれ!!」

「貴様はやめてくれと懇願されてやめるような奴なのかな?己にできないことを他人に要求するなんて自分勝手の極じゃないの?」

 

 

あれま、軍人時代や格闘家時代に培った力をいかんなく発揮したらこんなことになってしまった。うーん、手加減って大事ね。

 

 

「こういうのなんて言うんだっけ・・・?ブーメラン、自業自得、因果応報・・・あ!目には目を歯には歯をだ!!よかったー、思い出せて」

 

 

メキメキメキッ!

 

 

「いでてえよおおおお・・・やめくれえええええ・・・」

「あら芸術的」

 

 

男の腕がすんごい方向に曲がったのを見て私はそんなことを口にする。

 

 

「あなた、半グレなんだってね?ってことはあの子に手を出した以外にもいろんな人を傷つけてると思うけど・・・自分がやられたからって情けない声出して恥ずかしくないのかな?」

「ううう・・・」

「もう寝ちゃったの?だらしないわね」

 

 

痛みで意識を失った男を床に放り投げ、私は振り返る。

 

 

「さてと」

「きゃああああああ!」

「やだ、そんな化け物見るような顔しないでよ。傷つくわねえ」

「たす、たす、たすけて・・・!」

 

 

彼女は腰が抜け、へたりこんだその周りには黄金色の水たまりができていた。

 

 

「変態さんだったら需要があるのかもしれないけど・・・あいにく私にそんな性癖はないのよねえ」

「ひぃ・・・ひぃ・・・」

「色々聞きたいことはあるから質問に答えてくれるかな?」

「今まで撮ったあの子たちの動画、どこにあるのかな?」

「こ、ここには・・・ない・・・」

 

 

私は無言で近くにあったコンクリート片をつかむ。

そしてそのまま握力のみで粉砕した。

 

 

「ひぃ!?」

「もう一回だけ聞くね。動画のデータは?」

「わ、私のスマホと彼のスマホの中です・・・」

「最初から正直に答えなきゃダメじゃないの。スマホ、出しなさい」

 

 

ガタガタ震えながら差し出されたスマホを、私はそのまま握力でひねりつぶした。

粉々になったスマホの破片を床に放り投げると、次は気絶している男のスマホを懐から出して同じく粉砕した。

 

 

「他にはないわよねえ?」

「ないですないです!本当です!」

 

 

ふむ。嘘をついている様子はない。

戦意喪失させたし大丈夫そうだ。

 

 

「さてと。もう用事はすんだわ」

「じゃ、じゃあ見逃してもらえるんですか?」

「そうね、私は見逃してあげる」

「私は・・・?え?うっ!」

 

 

そしてすぐさま意識を刈り取る。

これで準備は完了。二人を締め上げ、柱に固定した。

 

 

「さて、帰ろうかな」

 

 

 

「もう、駄目じゃない。ちゃんと逃げなきゃ」

「ごめんなさい、途中で腰が抜けちゃって」

 

 

帰る途中、さーやちゃんに出会ってしまった。

どうやら緊張が解けて腰が抜けてしまって途中で歩けなくなってしまったようだ。

 

 

「さーやちゃん。ケガしたり変なこととかされてない?」

「大丈夫です」

 

 

よく見るとカタカタと震えが止まらない様子である。

あんな目に遭ってしまったのだから仕方のないことだろう。さーやちゃんは正真正銘ただの女子高生なんだし、見かけだけただの女子高生である私とはわけが違う。

 

「ねえさーやちゃん」

「はい?わわっ」

 

 

返事を聞かずにお姫様抱っこをする私。

 

 

「アリスさん!?」

「いいから」

「恥ずかしいです・・・」

「うふふふ、こういう機会でもないとお姫様抱っこなんてできないでしょ」

「もう!アリスさんったら!!」

 

 

私はさーやちゃんをぎゅっと抱きしめ囁くように続ける。

 

 

「起きてしまったことを忘れることは難しいと思う。でもねさーやちゃん。もしさーやちゃんがまた困ってどうしようもなくってたまらない時は私が絶対に助けるからね」

「アリスさん・・・」

「怖い思いさせてごめんね。本当にごめんね」

 

 

その言葉と同時に緊張の糸が完全に切れたのかそのまま泣き出してしまうさーやちゃんを抱擁し、私は落ち着くまで待った。

 

 

「もう大丈夫です。ごめんなさい、アリスさん」

「いいよいいよ。泣く美少女を抱擁するなんて役得役得」

「アリスさんはやっぱり私が大好きなアリスさんなんですね」

「あら嬉しい。大体な告白ね」

「あ・・・その、それは言葉の綾で」

「わかってるわ。さて、帰りましょうか」

 

 

その後、さーやちゃんに口止めし、家まで送って生徒会には“完了した”という、メッセージ一文だけ入れて帰宅したのであった。

 

 

 

 

「詳しく説明してください」

「オッケー紗夜ちゃん。でもその前に有咲ちゃんモフモフしちゃだめ?」

「ダメです!!」

「勘弁してください!!」

 

 

翌日、生徒会。

私は昨日送った完了報告について聞かれていた。

 

 

「完了したというのは?」

「文字通りよ。もういじめが起きることはないようにしただけ」

「どんな方法をとったのですか?」

「企業ヒミツ♡」

「・・・実行犯の生徒が登校していないようですか」

「さぁ・・・転校でもしちゃったんじゃない?」

「答えになっていません!」

「そんな声を荒げないでよ。私の依頼は結果を出してるじゃない?それ以上聞くのは・・・ルール違反だよ」

 

 

これは警告の意味も込めている。威圧する雰囲気を出し、紗夜ちゃんを見る。

 

 

「・・・・!わかりました。これ以上は聞きません」

「うん、よろしい!」

 

 

ちゃんと伝わったようだ。私は一転してにこやかな雰囲気に戻す。

 

 

「んじゃ、私ちーちゃん達と約束があるから。紗夜ちゃん、りんりんちゃん、有咲ちゃん、ばいばい」

 

 

 

 

私のとった手法はシンプル。あの半グレ彼氏とやらの動向を調べ上げたところ、どうやらこの辺りでシノギをしているヤのつく方々のシマを荒らしていることが分かった。半グレは得体が知れないため、ヤのつく方々もなかなか捕まえることが出来ずに四苦八苦していたらしい。

そこで私はヤのつく方々に連絡をしたのだ。

 

 

“貴方方のシマを荒らしている奴らの一人をボコって縛り上げておくので回収に来てくれませんか?私?私はそいつに個人的な恨みを持つ者です”

 

これで後片付けまで自動で終わる、まさにエコ!

女生徒の方は半グレの活動自体とは関係ないから地元から追放するだけで済むように話はしてある。

 

え?仕返しとはいえ犯罪だって?んなもんわかっているよ。数々の世界を渡り歩いた私は司法の脆さを知っているし、犯罪者が理屈の通じるやつらばかりじゃないことも知っている。法律の穴を利用して悪事を働く奴らもたくさん知っている。であれば確実なのは私が知りうる方法で完膚なきまでに叩き潰す。これが志賀有栖流だ。もちろん、必要とあらば司法や警察を使うこともあるけどね。

 

というのうのが今回の顛末。さて、そんなことは置いておいて早くいかなきゃ・・・・あ

 

 

私はあることを思い出して生徒会室に戻ったのであった」

 

 

 

 

「本当に得体のしれない人です」

「紗夜先輩、よかったんですか?」

「あの目はこれ以上追求してはいけない目でした。根拠があるわけではありませんが・・・本能的にそう感じてしまったのです」

「先輩がそういうなら私はいいですけど」

「・・・同じ人とは思えなかったです」

「燐子先輩?」

「アリスさん、一体何者なんでしょうか?」

 

 

ドアを開けようとしたら重い空気が漂う生徒会室。うん、このタイミングかな。

 

 

ガラッ!

 

 

「あーーーーー!忘れてた!!有咲ちゃんをモフモフしていない!!!」

「って戻ってきたんですけど!?ぎゃあああああ」

「かわいいのう、かわいいのう」

 

「・・・やっぱアリスさんですね」

「やっぱりアリスさんでした」

「しみじみしてないで助けてください!」

 

 

さて、この世界最初の出来事はこれで終わりだ。

願わくば、平和で普遍的で女の子に囲まれた一生を終えられますように。

 

え?もう手遅れ?しらんがな。

おはよう、私が愛す世界よ。

 




どうでしょうこのテイスト?現実離れしつついろんなキャラと絡ませていきたいと思います!

引き続きよろしくお願いいたします。


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第2話 フラグ回収士-前編-

前回のあらすじ

いじめの主犯と半グレを一人ずつ社会的に抹殺したよ!
以上ッ!!





「何もない休日!これこそ休日ofホリデイ」

 

 

なんて意味不明なことを考えながら散歩する日曜日。

特に用事もなく気ままに歩く。キッチンカーを見つければ気ままに注文し、花咲川のいろんな風景を堪能するのも悪くない。

 

 

「おやおや?」

 

 

歩いているうちに大きな公園についたのだがなんだかにぎわっている。

どうやらフリーマーケットを開催しているようだ。

 

 

「いいねいいね~こういうの」

 

 

私はフラフラつられて公園内に足を踏み入れる。

中古品を売る店もあればハンドメイドの商品を売る店もある。

何があるかわからない。これがフリーマーケットの醍醐味だろう。

 

 

「あれ?アリスちゃん?」

「かのちゃんと・・・美咲ちゃん?」

 

 

歩いていると聞きなれた声に呼び止められてその方向に目を向ける。

そこには慣れ親しんだ親友と後輩の姿があった。

 

 

「かのちゃんも出品してるんだ」

「うん!実は前にはハロハピのみんなと参加してからちょくちょくやってるんだ」

「私はそのお手伝いってところです。花音さん、一人だと会場で迷うので」

「み、美咲ちゃ~ん」

「あはは、かのちゃんがあたふたする姿が容易に想像できるよ」

「もう、アリスちゃんまで」

 

 

かのちゃんも逞しくなったねえ。

まあ逞しくない頃のかのちゃんは記憶の中だけ、だけどさ。

 

 

「これはクラゲのあみぐるみ?」

「うん!大好きな海月をあみぐるみにしたくって美咲ちゃんに教えてもらって作ったんだ!」

「じゃあハンドメイド?すごいクオリティねこれ」

「褒めすぎだよ~」

「いやー贔屓目なしにしても花音さんのこれ、クオリティすごいと思いますよ」

 

 

かのちゃん手先器用だし美咲ちゃんが教えたんならこのクオリティは納得だねえ

 

 

「じゃあ私も一つもらおうかな。いくら?」

「300円だよ」

「300円!?そんなんじゃ利益出ないでしょ・・・」

「うーん、趣味みたいなものだからね。これを手に取って少しでも笑顔になれる人が増えるなら。ただ赤字だと作り続けることできなくなっちゃうから材料代くらい回収できればいいかなあって」

「いい子過ぎる・・・ハグしていい?」

「ここは人が多いからやっちゃだめ!!」

「ほう、ここでじゃなかったらいいんだね?」

「そ、それは・・・!もう~アリスちゃんからかうのやめてよぉ~!」

「あっはっは!ごめんて」

「いや~いつも思いますけど花音さんとアリスさん、ホント仲いですよね」

「だってかのちゃん可愛いから。でも~私的には美咲ちゃんもとっても可愛いよ?」

「あーはいはい。いつものやつですね。ソウデスネーアリガトウゴザイマス」

 

 

あらら棒読みの塩対応。でも・・・

 

 

「美咲ちゃん、顔赤いよ?」

「花音さん!ばらさないでください!!」

 

 

いやー眼福眼福。なんでこう楽しいかなあ。

 

 

「よし、時間あるし私もお店、手伝っちゃおう!」

 

 

かのちゃんは悪いよ、って言ってくれたけど私がやりたいんだから仕方ない。

 

 

「すごい・・・アリスさんが入っただけで売れるスピードが倍増してる・・・」

「やっぱりアリスちゃんはすごいなあ」

「モノがいいからだよ」

 

 

そんなやり取りをしていて一息ついたところで私と美咲ちゃんはお花を摘むために中座した。

そして戻っていたらまたお客さんが来たようだ。

 

 

「アリスさん、あれ」

「うん」

 

 

かのちゃんが対応しているけど・・・なんか雰囲気がおかしい。

 

 

「いらっしゃいませ~」

「これいくらかしら?」

「300円です」

「300円!?こんなもの糸の塊でしょ?原価100円もしないじゃないの」

「えっと・・・」

「100円もしないようだけど私が特別に100円で買い取ってあげるわ。ほら」

「こ、困ります・・・」

「何よナマイキね。あんた高校生?こういう時は大人のいうことを素直に聞いて社会にもまれなさい」

 

 

一方的に言い寄って値切る女性。かのちゃんは半泣きになっているのを確認して瞬間私は飛び出していった。

 

 

「かのちゃーん、ごめんね。お待たせしちゃったね。お客様?」

「アリスちゃん!えっと、その・・・」

「私が原価100円もしないソレを100円で買ってあげるところよ」

「そうなんですか!じゃあご用意しますね!」

「アリスちゃん!?」

「いいから、まかせて?」

 

 

私は店のストックケースに入っているあるモノを取り出す。

 

 

「ねえかのちゃん。あみぐるみに使う毛糸はどれくらいの量かな?」

「えっと・・・」

 

 

かのちゃんが取り出した量よりちょっと多めの量をもって私は件の客(モドキ)のところへも戻る。

 

 

「おまたせしました~」

「なによこれ!?」

「何ってご希望のモノですけど?」

「ただの毛糸の塊じゃない!」

「だって100円しか払わないんですよね?だったらそれ相応の材料代しかでませんよ」

「だってそんな原価100円も・・・」

「原価原価っておっしゃいますけどね。それに技術料が乗っかるのは当り前ですよ。原価で売買してたら成り立たないし次の制作もできません。大人なのにそんな世の中の当たり前の仕組みすら知らないんですか?」

「生意気な・・・!」

「生意気?すみませんね、貴女みたいな大人より世の中の仕組みを理解していて原価原価喚いてケチくさい値切りという高等技術をしらない子供で」

 

 

皮肉たっぷりに言い返す。

いや~こういう時は口が回る回る。こういうバカって煽ると大概ヒステリー起こして煙に巻こうとするんだよね。

 

 

「キィー!」

「分が悪くなったらヒステリー起こして煙に巻こうなんてどんだけ頭悪いんですか?」

 

 

想像通り過ぎてなにも言えないわこれ

 

 

”そうだそうだ!”

”ひっこめ!”

”それくらい普通に買いなさいよ!”

 

 

知らない間にギャラリーができておりヤジが飛ぶ。

 

 

「覚えてなさい!!」

 

 

そしてその客モドキは顔を真っ赤にし、いまどき聞かないような捨て台詞を吐き雑踏の中へ消えていったのでった。

 

 

”姉ちゃんすごいな!”

”かっこいい・・・”

”わたしもあんな風になりたいわ!”

 

 

「あーどもどもお騒がせしました。あ、そうだ!よかったら皆さん、あみぐるみ買っていってくださいね~」

 

 

その日、かのちゃんのあみぐるみは完売したのであった。

 

 

 

 

「アリスちゃん、今日は本当にありがとうねっ・・・!」

「いいのいいの。ああいうバカはストレートに言わないとわからないからね」

「バカとはまたストレートですね・・・」

「だってバカでしょ?」

「まあ、バカでしたけど・・・・」

 

 

そんな会話をして帰り道を歩く。

 

 

「やっぱりアリスちゃんはすごいなあ・・・あんな風に怖い人に言い返せるなんて」

「人生経験の差ですかね」

「アリスさん、花音さんと同い年ですよね・・・?」

「うむ、よいツッコミだぞ美咲ちゃん」

「掴みどころないなあほんと」

「うふふふふ」

「あそうだ!今日完売したからいつもより多くお金残ったんだ!お礼につぐみちゃんのお店でお茶していかない?」

「いいの!?やったあ!」

 

 

トラブルがあったけど今日は本当に楽しかった。そしてアフターのお茶女子会!つぐみちゃんにも会えるし最高の休日ね。

・・・・ただあの手のバカってこれで終わらない気がするんだよね。

交通事故起こしてもなぜか警察じゃなくて彼氏()に連絡したり、彼氏()に頼って連れてきてお礼参りにくるパターンが多い。

何この彼氏の万能感。

え?フラグ?いやいやそんなタイミングよくそんなことあるわけないじゃないですか。やだなあもう。

 

 

「みつけたわ!」

「あいつがお前を邪魔したガキか?」

「・・・・・」

「さっきはよくも恥をかかせてくれたわね!彼氏を連れてきたから!後悔させてやるわ!!」

「・・・・」

「おいおいビビッて声もでてねーじゃねーかwww」

「あらあら~?さっきの威勢はどこいったのかしら~?www」

 

 

煽る二人(バカども)

 

 

「アリスちゃん・・・?」

「アリスさん・・・・?」

 

 

そして不安そうに私の名を呼ぶ二人(しんゆうたち)

 

 

なんで・・・

 

 

「なーんでこうなるのお~~~~~!?!?!?」

 

 

目の前に現れたそれに私は心底辟易し、このあとの楽しい女子会が台無しになってしまったという現実に心の中で涙したのであった。




今回もしっかり2話構成でいけそうです。
引き続きよろしくお願いいたします。


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第2話 フラグ回収士-後編-

前編のあらすじ
原価厨を撃退しました。以上ッ!


「なんですか?用事ですか?まさか自分で解決できないからって無関係で力に差がある男性を連れてきて威圧して委縮させて勝ちに来たなんてとても大人がやるような情けない理由じゃないですよね?」

「な・・・・!」

「言葉に詰まってますけど・・・まさか図星ですか?悪知恵しかもってないわりには行動が短絡的なんですよね。自分が動いた結果どうなるかを全くイメージできてない。いや~こんな大人にはなりたくないですね」

 

 

煽りに煽って煽りまくる。

 

 

「そっちの彼氏さんもすごいですね~私が同じ立場だったら恥ずかしくて来れませんよ。200円ぽっちを得するために18の小娘にケンカ売って結果口で負けて恥をさらしてヒステリー起こして逃げた彼女のためにその小娘を威圧しに来るなんて。すっごく彼女さん想いなんですね。まあレベルは同レベルまで堕ちてますけどこれも愛のカタチというのであればまあ・・・」

 

 

イライラが収まらない私は頭に思い浮かんだことをポンポン口に出す。

だってしかないじゃないの。いい気分で休日を終えようとしてるところに不純物が混ざったら誰でもこうなるよね?

 

 

「かのちゃん、美咲ちゃんゴメンね。この人たち私に用事みたいだから先に行ってて?」

「で、でも・・・」

「さすがに一人にするわけには」

「いいのいいの。それにね、貴女達が一緒にいたところで何もできないから」

 

 

しまった、イラつきでちょっとキツイ言い方だったかなぁ・・・

 

 

「大丈夫、これでも話し合いは得意なんだから!ね?」

 

 

すぐに雰囲気を和らげる。

それが聞いたのか、かのちゃんと美咲ちゃんは意外とあっさり引き下がった。

 

 

「さて、お待たせしました。それで私に何をお望みなんでしょう?200円でも払えばいいんですか?」

「さっきから黙って聞いてたけどコイツマジでムカつくわ。お前の言った通りだったな」

「でしょ!?こんな感じで大勢の前で因縁つけられて・・・すっごく恥ずかしい思いさせられたんだから・・・」

「おーよちよち。可哀そうにね~」

「え、キモッ・・・」

「てめー今なんていった?」

「今夜の晩御飯はアンキモにしようかなって」

「さすがにそれは苦しいだろ!?」

 

 

バカにツッコミを入れられてしまうとは不覚だなあ。

 

 

「こいつが恥ずかしい思いしたってんならお前も恥ずかしい思いさせてやる」

「え~なんですか服でも剝いで写真でも撮ろうってんですか?」

「よくわかってるじゃないの!そうなればあんたは終わりよ!」

「曲りなりともJKなんで児童ポルノ法違反ですよそれ」

「うるさい!やっちゃって!」

「オラァ!」

 

 

男がこちらにやってきて女は勝ち誇った顔をしている。

うーん、結局暴力かあ。やりすぎないようにしなきゃ。

 

 

「意気揚々と走ってきますけどほんとにするんですか?」

「当たり前だ!ボコって裸にひん剥いて写真に撮ってやる」

「はーい、危害を加えるって言質いただきました~」

「は?今さらなにを・・・」

「貴様こそ調子に乗るなよクソガキ」

 

 

ボコォ!

 

 

「・・・・は?」

「あらら、一発KO。まあ正当防衛だし・・・いいよね」

 

 

こちとら18歳だけど実際はピー(自主規制)年くらい生きてるんですよ。

20そこらの男なんてガキといっても差し支えないでしょ?

 

 

「あ、あ、あ、あ、あ」

 

 

ニヤニヤしていた女の顔が一瞬で間抜けヅラになる。

手加減したつもりだったけど思いの外勢いあったから力入っちゃった。まあ前みたいに腕をぶっ壊したわけでもなく鳩尾にパンチ入れただけだから大丈夫だよね?

 

 

「え?ちょっと冗談辞めてよ。遊んでないで早くやっちゃってよ」

「・・・・・・」

「キレーに入ったんで当分起きないと思いますよ」

「きゃああああ」

「悲鳴上げるのって立場的に私だと思うんだけどなあ」

「じゃあお姉さん、警察いきましょうか?」

「け、警察!?」

「そりゃそうよ。もしかして恥ずかしい写真撮って脅せば何の問題もないって来ました?でも残念、現実はあなたの彼氏が負けてこの惨状。そりゃ危害を加えられた身としては警察に頼るのが筋ってものでしょ?」

「警察はやめて・・・!警察になったら両親にこんなことやってるってバレる・・・!大学も退学になっちゃう!!」

「大学生だったんですか。でも残念。悪いことしたら捕まる。んーでも条件を飲んでくれるなら見逃しますよ。正直私も早くいきたいんで」

「ほ、ほんと!?」

「ええ、その条件は・・・」

 

 

 

 

要件を済ませた私は急いで羽沢珈琲店へ向かう。

ちなみに私が要求した条件はノビてる彼氏と一緒に動画撮影し、自分がやった事をすべて喋らせたのだ。フリマでのこと、彼氏を連れて仕返しに来て逆に負けたこと、警察呼ばれると困ること。そして二度と私や私の周りに近づかないこと。これを彼女の口からすべて言わせた映像を手に入れた。こんなものが表沙汰になったらあの二人は恥ずかしくて表を歩けないだろうからこれでもう絡んでくることはないだろう。

 

 

「ごめーん!おそくなっちゃった!あ、つぐみちゃ~ん!!今日も可愛いね~」

「もうアリスさんったらいつもそんな調子のいいこといって~」

「とかいっていつもサービスしてくれるつぐみちゃんのこと、お姉さん大好きよ~?」

 

 

頭に手を置きポンポンするとつぐみちゃんの体温が上がるのをわずかに感じる。

 

 

「あ、あちらの席です!」

「あはは。ありがと、つぐみちゃん」

 

 

席に案内されるとかのちゃんと美咲ちゃんが不安そうな顔を一転、嬉しそうかつ心配そうな顔に変えた。

 

 

「アリスちゃん!大丈夫だったの!?」

「どこかケガとかしてませんか!?」

「どうどう、二人とも落ち着こ?見ての通り私はなーんにもされてません!キレーさっぱりいつもの志賀有栖だよ」

「よ、よかった~」

「あらあら、かのちゃんったら」

「でもどうやったんですか?」

「いったでしょ?私って話し合いが得意なの。じっくり話して無事円満解決!

ここに戻ってきたのがその証拠でしょ?」

 

 

じっくり(意識なし)円満解決(物理)だけど嘘は言ってないよ。嘘は。

 

 

「そんなことよりスイーツだ!つぐみちゃーん!」

「あ、はーい!ただいま~」

 

 

力技で空気を変えることにした。

ここまでやれば勘のいいかのちゃんや美咲ちゃんのことだ。

これ以上は追及してこないだろう。

 

 

「ん~~~~~おしいしいぃ~~~!甘いものは女子の原動力!糖質?脂質?そんなものはしらん!」

「アリスちゃん、こっちのも少し食べる?」

「え!?そんな・・・いいのですか花音サマ」

「あはは・・・サマって」

「じゃあ私のもどうぞ!美咲ちゃんもシェアする?」

「じゃあお言葉に甘えて」

 

 

甘いものを肴にコーヒーを飲みワイワイする・・・

これぞ女子会!

 

 

「かのちゃんはさ~好きな人とかいないの?」

「ふぇぇぇぇぇ!?」

 

 

女子会といえばコイバナでしょ。

え?偏見?別の世界だとたいてい盛り上がったんだけどなあ~

 

 

「おお?その反応はいそうだね!?どこ誰?どんな男?私が見定めてあげようか?」

「い、いないよ!好きな男の人なんて!女子高だし!断じて」

「必死になって否定するの怪しい~」

「・・・まあ男は、いないかもですよね花音さん。男は」

「み、美咲ちゃん!?」

「・・・まさか女の子同士!?」

「へ、変だよねやっぱり」

 

 

否定しないだと・・・?

ここでかのちゃん、まさかの女の子同士がOKである。

まあだからといってかのちゃんはかのちゃんだしそれも個性だ。

否定する必要は全くない。

 

 

「ん~別に変じゃないと思うよ?誰を好きになってもそれは紛れもない大切な想いだし、それがたまたま女の子同士だったって話でしょ?それも個性だし私だったら女の子からこう、恋愛的な意味で好きですって言われたら嬉しいけどなあ」

「ホント!?」

「お、食いつくねえ。ホントホント。だからいつかその想いが伝えられるといいね」

 

 

そっか~かのちゃん好きな人いるんだ。

こんなかわいい子に好きになってもらえるなんてどんな人だろ?

もしかしてウチの学校なのかな?まさかハロハピの誰か?もしかしてちーちゃん?

 

 

「気になる~!教えて教えて!」

「アリスちゃんだけには絶対教えられませんっ!」

「ガーン!」

「いや口で言うんですかい」

 

 

美咲ちゃんのツッコミがはいると同時に頭を除夜の鐘を鳴らす棒で殴られたような衝撃が襲う。

 

 

「そっか・・・そうだよね・・・ごめんね私ごときがデリケートな話題に首を突っ込んで・・・」

「え!?いやそうじゃないの絶対っていうのは言葉の綾でその・・・とにかくごめんなさい!」

 

 

まあ言いたくないこともあるよね。

私は顔を真っ赤にしてあたふたするかのちゃんが可愛いから復活することにし、残りのケーキに手を付け始めたのであった。

 

 

「・・・・アリスさん、わかってやってませんよね・・・?」

 

 

そんな様子を見ながらボソッと美咲ちゃんが何かをつぶやいたのであった。

 

 

 

 

これで私の慌ただしい休日は終わった。

今日の教訓。モノの価格にはその技術料、流通過程でかかる費用も見越してあるので原価がいくらだからもっと安くできるはずだからと安易に決めつけてはいけない。(もちろん必要以上に高くしてぼったくることや、買い占め転売などもってのほかだ)

そして誰がどんな趣味嗜好を持っていようとそれが法に触れたり猟奇的なものでないのであればそれは個性であって否定していいものではないということだ。

 

さーて、明日はどんなことが起きるかな?

 

願わくば、引き続き平和で普遍的で女の子に囲まれた一生を終えられますように。

 

え?やっぱり手遅れ?しらんがな。

 

おはよう、私が愛す世界よ。

 

 




2話目終了です~
ちょっとずつお気に入りやアクセスが増えていて嬉しい限りです!
趣味全開なので人を選ぶかと思いますが引き続き楽しんでくれたら嬉しいです~
あと、今後は1話完結の話も入ってくると思うのでよろしくお願いします!


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第3話 モニカのふたり

前回のあらすじ

フリマで200円おばさんを倒してコイバナしました!




「あれー?つくしちゃんに七深ちゃん?」

「アリスさん?」

「アリスさん~どもです~」

 

 

前回とは別の日の休日。私は駅に向かう途中、双葉つくしちゃんと広町七深ちゃんに出会った。

 

 

「今日は二人でデートかな~?」

「いやデートなんて」

「普通に休日に友達とお出かけしてるだけですよ~普通に」

「七深ちゃんらしいなあ」

 

 

相変わらず七深ちゃんの普通へのあこがれはすごいよね。

 

 

「アリスさんはどうしたんですか?」

「んー?私は映画でも観ようかなって思ってさ」

「え?そうなんですか?私達もなんですよ~」

 

 

スマホの画面を見せてもらうとなんとそれは私がこれから観に行こうと思っていたものと同じだった。

 

 

「こういっちゃアレだけど・・・つくしちゃんと七深ちゃんってB級映画マニアかなにか?」

 

 

そのタイトル。メジャーな出演者はほとんど出ておらず上映館も極端に少ないまさにB級映画のであった。

 

 

「いえ、そういうわけじゃないんですけどね。私がたまたまこの映画に出演している人のファンでモニカのみんなを誘ったんですけど・・・」

「予定が空いているのが私しかいなかったという感じですね~しろちゃんは家族とお出かけ、とーこちゃんはおうちの用事、るいるいは習い事だそうでして」

「なるほどね~実は私もコレ、観に行くつもりだったんだよね。私は普通にB級映画好きでして」

「・・・普通?」

「そ、普通だよ普通」

「・・・実は私もB級映画好きなんですよ~」

「・・・私の普通は他の人と違うかも?」

「・・・やっぱそうでもなかったです~」

「あっはっは。七深ちゃんは可愛いなあ」

 

 

これぞ普通にこだわる広町七深ちゃん。いやーこの子に絡むと楽しいなあ

 

 

「もう二人とも。漫才やってるんじゃないんだから」

 

 

ツッコミをいれるつくしちゃん。

 

 

「漫才か・・・アリス&ななみんなんてどう?」

 

 

それにのっかる私。

 

 

「お~なんて捻りのない名前。これは名コンビ結成ですね~」

「けなしてるのか褒めてるんかどっちなのかな~ん?」

「あわわ、アリスさん苦しいです~」

「えいえい。怒った?」

 

 

めちゃくちゃ弱い力でツンツンする。

完全にポプテ〇ピッ〇のそれである。

 

 

「わわっ。なんて躊躇のない盗作」

「盗作元もパロディの宝庫だからセーフセーフ」

「二人の世界になってる・・・」

 

 

おっと、つくしちゃんを置いてけぼりにするのはよくないね。

 

 

「つくしちゃんもおいで?アリス&ななみんwithつーちゃんの結成だね」

「早くいきますよ!!!!!」

 

 

怒られてしまった。確かにあまり時間もないね。なんせ上映館少ないうえに上演回数まで少ない。1つ逃すと何時間も時間をつぶさねばらないことを考えるとそろそろいかねば。

 

 

「そういえばアリスさん、いつも一人なんですか?」

「ん~そういうわけじゃないんだけどね。たまーにふらっと誰にも気を遣わず休日過ごすのが好きなだけだよ」

「あれ?じゃあ私たち邪魔なんじゃ・・・」

「ぜーんぜんだいじょーぶ!むしろ会えて嬉しかったよ?二人とも学校違うからなかなか会えないしね。相変わらず可愛いし」

「調子いいなあもう」

「いつも通りですね~」

 

 

 

 

「う~ん!よかった~!」

 

 

映画を観終わった私は伸びをしながら感想を口にする。

 

 

「こういっちゃなんですけどそんなに良かったですか・・・?」

「ぶっちゃけ結構アレだったよね~」

「うん、よかった!期待を上回るクソ映画で満足だよ!!」

「あっ・・・そういう意味でしたか」

「さすがB級映画マニアですね」

 

 

開始15分で観る気が失せる演出、半分くらいでオチが読めるシナリオ、演技力ガバガバな役者の演技。まさに芸術である。

 

 

「いくら好きな役者さんが出ていてもアレは辛かったです・・・」

 

 

七深ちゃんは涼しい顔をしていたがつくしちゃんは結構げっそりしていた。

 

 

「よし、映画も終わったことだし口直しにお茶していかない?」

「口直しって言っちゃったよ」

「いいですね~」

「んじゃお店探しますか」

 

 

スマホで適当に検索するとよさげなカフェがあったのでそこに入ることにした。

 

 

「うん、なかなか美味しいね」

 

 

出されたコーヒーの香りを楽しみ、一口飲んで咀嚼する。

 

 

「この店主、なかなかやりおるわ」

「アリスさんそんなキャラでしたっけ?」

「私のキャラなんて変幻自在よ」

「相変わらずですねえ~」

 

 

他愛のない会話で駄弁る私たち。うん、これぞ女子高生青春の1ページ。

まさに普通のJKライフである。

 

 

「・・・・臭いわね」

「臭いですね」

「臭いです」

 

 

と思ったら何やらニオってきた。

その正体はすぐに分かった。タバコである。目線の先を見ると若い女性数名がタバコをふかしながら談笑していた

あれ?この店禁煙では・・・?

 

 

「お客様、申し訳ありません」

 

 

と考えていた矢先スタッフさんが注意していた。

うんうん、すぐに動いて注意できるのは素晴らしいことである。

 

 

「はぁ?なんでそんなこと言われなきゃいけないわけ?」

「しかし他のお客様のご迷惑に・・・灰皿もおいていませんし」

「うるさいわね。携帯灰皿もってるからいいでしょ?」

 

 

うーん、この。

まあアレよね。禁煙ってわかってるところでタバコ吸うような奴が素直にいうこと聞くわけないよね。

あ、喫煙自体は全然いいんいだよ?問題はマナーをしっかり守れてるかどうか。

こういうアホが悪目立ちするせいでマナーを守っている善良な愛煙家の皆さんまで偏見の目で見られちゃうのはかわいそうだと思う。

 

 

「迷惑迷惑っていうけど誰も迷惑って言わないじゃん!ほら、誰か迷惑って思ってる人いるわけ!?」

 

 

でっかい声でめちゃくちゃなことをいう。そりゃアンタらみたいなアホに誰も関わりたくないから誰も声上げないでしょう。わかっててやってるなこいつら。

 

 

「迷惑です!」

 

 

っていたわ!しかも目の前に!!真面目委員長さんが!!!

 

 

「あら?中学生には聞いてないわよ!」

「ちゅ、中学生じゃありません!高校生です!!」

「ふーん、で?だからなんなの?あんた一人が迷惑がってもだからなんだって感じだけど?」

 

 

ふーとタバコの煙をつくしちゃんに吹きかけるアホ。聴いたのアンタですやん。

 

 

「ケホケホッ・・・やめてください!」

「やめてほしけりゃ消してみなさいよ!」

「ひゃっひゃっひゃっ!!」

「つーちゃん、大丈夫!?」

 

 

全員で笑いだすアホ共に半泣きになってるつくしちゃん。

そして自身に抱き寄せつくしちゃんをかばう七深ちゃん。

 

 

バシャッ!

 

 

 

「うわっ!?冷たッ!?」

「消してみろっていうから消してみましたけどこれでいいんですかね~?」

 

 

そしてその光景を見た私は、とりあえず消すのをご所望だったようなので手に持っていったお冷をタバコもろとも顔面にぶっかけてやった。

 

 

「何すんのよ!?」

「え~?消してみろっていったじゃないですかあ~」

「こんの!」

「いい加減にしてください!!警察を呼びますよ!!!!

 

 

その瞬間現れたのは店主と思しき人。

一喝した瞬間、アホどもは”警察は困るわ”とか抜かしてそそくさと帰っていった。だったら最初からこんな騒動起こすんじゃないっての。

 

 

「ふぇ~・・・」

「あ、つーちゃん腰抜けちゃった」

「怖かった・・・」

「大丈夫ですかお嬢さん方?」

 

 

店主さんはさっきとは打って変わって柔和な笑みを浮かべて話しかけてきた。

 

 

「ごめんなさい、騒ぎを大きくしてしまいました・・・」

「いえいえ。お嬢さんの勇気、立派でしたよ。きっと親御さんがとっても良い教育をされたのですね」

「あ~私も床を濡らしてしまいましたね」

「それくらいこちらで掃除しますよ。ご来店中のお客様方もお騒がせしました。この場にいるお客様のお会計は私が持たせていただきます」

 

太っ腹な店主さんの厚意に甘え、私たちはその後も楽しく過ごしたのであった。

 

 

 

 

店を後にした私たちは帰り道を歩く。

 

 

「今日は大変な1日になっちゃったね」

「本当にごめんなさい、私が騒ぎを大きくしちゃって・・・」

「さっきの店主さんもいってたけどすごく立派だと思うよ」

「あれぞつーちゃんって感じだったよね。そういうところ、やっぱ尊敬しちゃうな~」

「そ、そんな尊敬なんて」

「私もすごいと思うよ。素直に尊敬しちゃう」

「もう~!そんなに持ち上げないでください!!何も出ませんよ!?」

 

 

顔を真っ赤にするつくしちゃんはとても微笑ましい。

 

 

「可愛いなあ。ぎゅーっ」

「なんで抱き着くんですかぁ!?」

「これは広町的にもいい絵面ですね~」

「七深ちゃんもおいで?」

「わーい」

「わーいじゃなああああい!恥ずかしいからやめてください~~~~~」

 

 

ああ、今日も平和だ。

学校の違う可愛い後輩たちと一日遊ぶのも楽しかった。

今日も普通の女子高生でいられたかな?

願わくば、引き続き平和で普遍的で女の子に囲まれた一生を終えられますように。

え?だから手遅れだって?だからしらんがな。

 

 

おはよう、私が愛す世界よ。

 

 

 

 

 




第3話は1話完結です!
せっかくなのでいろんなキャラと絡ませていきたいと考えております。

そういえば最速で誤字脱字修正をくださる方がいらっしゃいましてありがたい限りです。
かき始めたら一気に書いちゃうんですけどその分チェックバックが甘くてですね・・・
ちょっとずつではありますが更新していきますので引き続きよろしくお願いいたします。前回のあらすじ



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第4話 市ヶ谷有咲とワタシの関係

前回までのあらすじ

モニカの二人とクソ映画を満喫して美味しいコーヒーを飲みました!
以上!!


今回ちょっと長めです。


「お姉ちゃん・・・?」

 

 

とある休日、街を一人で歩いていると女性に声をかけられた。

そちらのほうを向くとそこにはいかつい男を数名連れた若い女性。

 

 

「あ、すみません・・・あまりに亡くなった私の姉に似ていたものですから・・・」

「千耶・・・?」

 

 

思わずつぶやいてしまった。

私は思い出す。いくつ前の世界だろうか?

私の記憶にある関東最大の広域指定暴力団・志賀組の組長宅襲撃。敵対する組が送り込んだヒットマンが組長宅に乗り込み、組員数名とたまたま居合わせた組長の娘を殺害したという事件だ。そのあとのことは知らない。

だってその時死んだのがその世界にいたころの私なんだから。

 

 

「やっぱりアリスお姉ちゃんなの・・・?なんで・・・?どうして・・・?」

「千耶!!」

 

 

全力で飛び込んでハグをする。

そこにいたのはその世界での私の妹。志賀千耶の姿であった。

 

 

 

「まさかあの世界とこの世界が繋がっているなんてなあ・・・えっと私が死んでから何年になるのかな?」

「20年だよ」

 

 

私はかつての妹にすべてを話した。信じてもらえるとは思えなかったんだけど全く疑いもせず信じてくれた千耶。いやいや、まさか再び会う日が来るなんて思ってもみなかったよ。

 

 

「そっか。今はあなたが?」

「うん。組を仕切ってる。そうでないと後継争いで内部抗争になりそうだったし」

「あの可愛かった千耶がなあ。えっと当時の千耶が10歳だから・・・今は30歳かな?」

「お姉ちゃんは逆に全然変わってない・・いや、違うか。変わっていないお姉ちゃんになってだけかな」

「私が死んだのが18の時だからあの時と同じ年齢ね」

 

 

その後はしばらく姉妹水入らずで話した。

近況のこととか色々ね。

 

 

「お姉ちゃん、ウチに来る気はない?」

「・・・気持ちは嬉しいけど今の私は戸籍上、亡くなった志賀有栖と同姓同名の人物ってだけだからね。それに私は今あるみんなとの関係を大事にしたいんだ」

「そっか。でもせっかく会えたんだしなんでも頼ってね?こう見えても私、強くなったんだから!」

「そりゃ天下の志賀組の組長様だもんね。うん、ありがとう。いざというときは頼りにさせてもらうね」

 

 

こうして私たちは連絡先を交換してわかれた。

思わぬところで再開した妹。長い間、あまたの世界を渡り歩いて生き、そして死んでを繰り返してきたけどこんなこと初めて。きっとこの世界においてとても強い武器となるであろう。私はそう安堵したのであった。

 

 

 

「ばーちゃんただいま~」

「お帰り~有咲ちゃん♡ごはんにする?お肉にする?それとも・・・サ・カ・ナ?」

「ええ・・・(ドン引き)」

 

 

私は有咲ちゃんの家に用事がありお伺いしたところまだ帰っていないとのことだったので待たせてもらうことにしたのだった。そして無事帰宅を果たした有咲ちゃんをエプロン姿でお出迎えしたわけである。

 

 

「なんでアリスさんがいるんですか!?」

「ちょっと有咲ちゃんに用事が~(以下略)」

「なるほど。いや用事あるなら学校でよかったのでは?」

「ん~ちょっと野暮用でタイミングがね~」

「なるほど。とりあえず家に入れてもらっていいですかね?」

「おっとごめんよ」

 

 

そういって有咲ちゃんは家に上がる。

きちっとした姿勢で靴を脱ぎ、きれいにそろえるその動作には育ちの良さがにじみ出ている。

 

 

「あ・・・」

「どうしたの有咲ちゃん??」

「ごはんもお肉も魚も全部食べ物じゃないですか・・・どんだけ食欲旺盛にみられてんですか私・・・」

「タイムラグのあるツッコミも好きよ」

「そこはご飯かお風呂か・・・・」

「お風呂か・・・?」

「そ、その・・・ワタシ・・・っていうところじゃ・・・」

 

 

恥ずかしそうに顔を伏せる有咲ちゃん。完全にツッコミが藪蛇になっている。ここはお姉さんらしく対応しなきゃ。

 

 

「なぁに有咲ちゃん?ワ・タ・シがよかったのかな~ん?」

「しりません!!!」

「あーん、待ってよ~」

 

 

後ろから顔を近づけてくっついたら有咲ちゃんがショートしそうになったのでそのさまを堪能しつつ、有咲ちゃんの背中を追うのであった。

 

 

 

 

「ほんとにお肉も魚もあった・・・」

「さあ、召し上がれ♡」

 

 

有咲ちゃんを待っている間、暇だったので有咲ちゃんのおばあちゃんにキッチンを借りて市ヶ谷家の夕飯づくりを担当させてもらっていた。こう見えて料理は得意、というかとある前の世界では調理師をやっていた時代もあったからうまくやる自信はあったのである。

そしてメニューは見事肉も魚も取り入れてあるものにしたのだ。

 

 

「もぐもぐ」

「どうかな・・・?」

「美味すぎる・・・!」

「やったあ!」

 

 

どうやら大変好評のようである。

 

 

「なんか至れり尽くせりですいません」

「私が好きでやってることだから」

 

 

ご飯を食べながら雑談する私たち。

他愛のない話で盛り上がり、隙を見て有咲ちゃんをからかったりセクハラしたりとても楽しい時間だ。

 

 

「有咲ちゃんあの写真・・・」

「ん?ああ、私のお母さんの遺影です。私が小さいころに病気で死んじゃったんですけどね。そういえばうちのお母さんの有栖って名前だったな・・」

「え、すごい偶然!じゃあ私たちは実質親子でいいのかな??」

「なんでそうなるんですか!!!」

「冗談冗談。さて、私はそろそろ帰ろうかなあ」

「アリスさんが結局来た目的ってなんだったんです?」

「ん~もう済んだかなあ」

「ええ・・・なんか要領を得ないですね」

「まあ有咲ちゃんにご飯を作ってあげたかったってことで」

「うわあ~適当だあ~」

 

 

そんな会話をしながら玄関に向かい、ドアを開けたところで私はずぶぬれになった。

 

 

「ファッ!?」

「うわ、すげー雨風!?アリスさん!!とりあえず閉めて!閉めてください!!」

 

 

有咲ちゃんに言われピシャっとドアを閉める。

どうやら外は急に天候か崩れ、嵐のようになっているようだ。

 

 

「うわーこれ一晩続くみたいですね」

「マジかあ・・・」

 

 

天気アプリを見ながら有咲ちゃんが教えてくれる。

 

 

「んー困ったなあ。ねえ有咲ちゃん、雨合羽とかある?あるなら貸してもらえれば何とか帰れると思うからさ」

「いやいやこんな嵐の中放り出すわけにはいきませんって!」

「ん~そうはいってもなあ」

 

 

 

うーむと考えていると有咲ちゃんのおばあちゃんがやってきてこんな提案をする。

 

 

「今夜は泊まっていきなさいな」

 

 

 

 

「アリスさーん、湯加減どうですかー?」

「最高です~有咲ちゃんも一緒に入る?」

「入りません!!!タオルと着替えここに置いておきますから!!」

「つれないなあ」

 

 

ずぶぬれになってしまったのでお風呂をいただくことにした。

ちょうどよい湯加減に市ヶ谷家の広いお風呂はとても快適である。

 

 

「し、失礼します」

「あれ、有咲ちゃん??」

「ばあちゃんがせっかくだから一緒に入れって」

「サンキューバッバ」

 

 

結局一緒に入ることになった私たち。

 

 

「よし、洗いっこしよう!」

「洗いっこするのになんで鷲掴みする手の形してるんですか!?ぎゃああああああ」

「おお、でけェ・・・」

「うう・・・いつもやられっぱなしの私じゃないですよ!」

「わわっ有咲ちゃんったら大胆」

 

 

刹那、有咲ちゃんに鷲掴みにされてしまった。

 

 

「・・・・でけェ」

「そりゃどうも」

 

 

いや、私もそこそこサイズに自信あるけどさ。あなたの方が明らかにでかいからね?

 

 

「なんか全然動じなくてちょっと悔しいです」

「生乳掴まれる程度じゃねえ」

「どの程度なら動じるんですか!?」

 

 

そんな戯れをしていたらあっという間に時間が経過する。

さすがに長すぎ、騒がしすぎということでおばあちゃんにお叱りを受けてしまったので一通り入浴をすませて出ることにした私たちであった。

 

 

 

 

「パジャマに下着まで貸してもらって申し訳ない」

「いいですよ。アリスさんのは洗って乾燥機かけてるんで」

「何から何まで申し訳ない」

「晩御飯の御礼ってことで。あ、寝るときにブラはつける派ですか?」

「あ、つけない派なんでそれは借りなくて大丈夫だよ~」

「了解です」

 

 

借りたとしても若干有咲ちゃんの方がでかいからね。少し惨めになりそうなのでつけない派でよかったと思う。

 

 

「なんか不思議な感じです。アリスさんが家にいて一緒に寝てるなんて」

「有咲ちゃんと今までこういうことなかったもんね」

「なんで私だったんですか?」

「・・・んー・・・ある人との約束を果たしただけ」

「ある人・・・?」

「やっぱ何でもない。私の自己満足ってことにしておいてよ」

 

 

 

 

千耶ちゃんに再会した件で、他にもどこかの世界とつながっているのでは?という疑念が生まれた。色々調べると、少なくとももう一つつながっている世界があったのだ。

それが、私が調理師をしていた時の世界。その時に親友だったのが本郷有栖(ほんごう ありす)だ。高校で知り合い同じ名前で趣味も一緒ですぐに意気投合し親友となった彼女。同じ名前だったので、区別するために私が彼女を「あーちゃん」と呼び、彼女は私のことを「りーちゃん」と呼んでいた。そして大人になり、私は調理師、彼女は結婚して専業主婦になって、名字が市ヶ谷に変わった。

 

 

「え!?あーちゃん妊娠したの!?」

「そうなんだ~」

「おめでとう!!」

 

 

ある日呼び出されて何かあったのか!?と身構えていったらとても嬉しい報告であった。

 

 

「いやあ・・・あーちゃんが母親か~・・・感慨深いですなあ」

「ありがと。りーちゃんはいい人いないの?」

「私の恋人は当分包丁と鍋だよ」

「あはは、そっか」

 

 

親友に子どもができた。こんなにうれしいことはなかった。

 

 

「そっか~じゃあ私も生まれてくる子においしいものを作れるように腕を磨いておかなきゃなあ~」

「りーちゃんの料理、めちゃくちゃ美味しいじゃない」

「もっとだよもっと!あーちゃんの子どもに下手な物は食べさせられないし」

「大げさだなあ。でもありがと、楽しみにしてるね」

「うん、約束する!その時まで乞うご期待ってことで!!」

 

 

その日の帰り、私は死んだ。

高齢者が運転する暴走車があーちゃんの方へ向かってくるのを確認した私は瞬時にあーちゃんを突き飛ばした。それがその世界での私の最後の記憶だ。

 

 

実は、今まで有咲ちゃんに正体のわからない親近感がずっとあった。

そのせいか他の子よりスキンシップが激しめであった自覚もある。

そして千耶ちゃんとの再会、そしてさっき見た有咲ちゃんの母親の遺影・・・すべてが繋がった。

やっぱり有咲ちゃんはあの時のあーちゃんの子どもだったんだね。

でもあーちゃんが早くに亡くなっているのはとても残念だ。

 

 

 

 

「アリスさん?」

「あ、ごめんね有咲ちゃん。ぼーっとしちゃって」

 

 

しみじみと思いだしていたらぼーっとしていたようで有咲ちゃんに声をかけられた。

 

 

「大丈夫ですか?」

「うん、まあ」

「なんか歯切れが悪いですね。アリスさんらしくない・・・ってちょまっ!?」

 

 

有咲ちゃんが言い切る前に私は有咲ちゃんの布団に潜り込んでぎゅっと抱き着いた。

 

 

「ねえ有咲ちゃん。私ね・・・何があっても、世界の全員が有咲ちゃんの敵になっても私は有咲ちゃんの味方であり続けるから」

「え、いきなりどうしたんですか?」

「・・・・・ぐぉー」

「って寝てるし!?」

 

 

嘘だ。本当は寝ていない。

あーちゃん。有咲ちゃんがね、私の料理を食べてくれたよ。あーちゃんがもういないのは残念だけど約束、果たせたのかな?

これからは私が有咲ちゃんを守っていくから見ててね。

 

 

 

 

「あのままガチ寝しちゃってた」

「おはようございますアリスさん」

「あ、おはよう~有咲ちゃん」

「起きて早々申し訳ないのですがそろそろ離してもらえませんか?」

「あら、ごめん」

 

 

私は有咲ちゃんを解放した。

 

 

「いや~あまりに抱き心地よかったから」

「こっちは緊張してあまり眠れませんでした・・・」

「え~私ごときに緊張することなんてないでしょ~」

「ありますよ!アリスさんはもっと自分を理解してください!!」

「これ褒められてる?」

 

 

そういいながらパジャマを脱ぎ捨てる私。

 

 

「せめて前隠してくださいよ!」

「女同士じゃん~」

 

 

そういいながら顔を覆う掌の指は開かれており可愛いおめめはバッチリと私の胸部を凝視している。このムッツリさんめ。

 

 

「えっとアリスさん」

「何かな?」

「昨日のことなんですけど・・・」

「やっぱその話よね。えっと、今はまだ話せないけどさ。いつかその時が来たら絶対に話すから。待ってくれると嬉しいな」

「・・・わかりました」

「うん、素直でよろしい」

 

 

さすが有咲ちゃん。物分かりが良くて助かる。でもいつか、話すときは来るのだろう。

その時に備えて今はこの世界を満喫しよう。

おはよう、私の愛す・・・

 

 

「あー!」

「びっくりした!?どうしたんですか?」

「有咲ちゃんも寝る前はつけない派だったよね・・・?」

「ええ、まあ。あれ、あの、アリスさん!?手が!手の形がおかしいです!?ぎゃああああああ!」

 

 

 

 

 

ちょっと勢いで誤魔化す感があるけど、今はこれでいいのだ。

今度こそ。おはよう、私の愛す世界よ。

 




間が空き申し訳ありあません。
今回は設定紐解き回で、とても便利そうなでご都合主義に使えそうな肩書を持つ新キャラと、有咲とアリスは実はこんな関係があったという設定の公開です。
めちゃくちゃ前から書いてたんですけどなかなか文章にまとまらず申し訳ありあません。

ちなみに時系列的を解説すると
志賀組アリス世界→たくさんの別世界→調理師アリス世界(志賀組アリス死亡から年数が経っているため当時同じ世界だと気付かなかった)→たくさんの別世界→現世界という流れです。

千耶だけに正直に話したのは流れ上仕方なかったのと、そのほうが都合がよいとアリスが判断したからです。

今後はまた色んなキャラを登場させて絡ませていきます。引き続きよろしくお願いいたします!!


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第5話 ネコなあの子とか?-前編-

前回のあらすじ

有咲が実は親友の娘でした!
以上!!




「うわ~時間がやばい!!」

「ぜぇ・・・ぜぇ・・・アリスさん・・・私はもうダメです・・・」

 

 

目を覚ました後、私と有咲ちゃん改めあーちゃん(許可をもらった)は布団の中でダラダラ喋っていたのであるが、なんとそのままの流れで二人そろって2度寝。

目を覚ますころには家を出なければいけない時間が迫っていた。

全力で走り続ける私たちであるが、有咲ちゃんとの体力の差が響いていてどんどん私たちの距離は開けていく。

 

 

「あーちゃん!頑張って!!」

「そんなこと言われてもインドアなんで・・・というかアリスさんの体力が無尽蔵すぎるのでは・・・」

 

 

まあ私が体力お化けなのは否定しない。

軍隊にいた頃なんて今やっていることが準備運動にすらならないくらいの訓練してたしね。

 

 

「あーちゃん、ちょっと失礼」

「え・・・?ってちょまま!?」

 

 

私はあーちゃんをお姫様抱っこして全力疾走に切り替えた。

 

 

「急ぐよ~」

「恥ずかしい!?恥ずかしいです!!」

「我慢我慢」

 

 

走り続けているとちらほら花咲川の制服を着ている子たちの姿が見えてきた。

何とかいつも登校する時間くらいに間に合ったのであったようである。

 

 

「もう大丈夫ですからおろしてください!こんなところ知り合いに見られたら・・・」

「アリスちゃん・・・?有咲ちゃん・・・?」

「って花音先輩!?早速みられたぁ!」

「おはっよ~かのちゃん!今日も可愛いね!!」

「えっとおはよう・・・?」

「花音先輩困惑してるから!とりあえずおろしてください!!」

 

 

 

 

「歩いていたら有咲ちゃんを抱っこしてるアリスちゃんがいてびっくりしちゃった」

「ほんとすみません花音先輩・・・」

「でもどうして?」

「ふふふ・・・昨日はこの子とアツイ夜を過ごしたのさ」

「ふええええ!?それって・・・」

「アリスさん!?言い方言い方!確かに(抱き着かれて)暑い夜でしたけど!」

「ふえええええええ・・・・」

「花音さんがショートしてる!?!?」

「あっはっは」

 

 

あー楽しいなあ。

やっぱり日常はこうあるべきである。

 

 

「花音先輩・・・落ち着いてください。こういうことなんです!」

「な、なんだそういうことだったんだ・・・確かに昨夜の天気すごかったもんね」

「そうなんだよね。私は雨合羽でも借りて強行帰宅しようとしたけどあーちゃんに止められちゃって。お言葉に甘えたってわけ」

「・・・・あーちゃん?」

「あ、そっか。まあ心境の変化?ってやつかなあ。呼び方変えたんだ」

 

 

かつての親友の娘に親と同じあだ名をつける。これは、これからこの子を絶対に守るという私なりの決意だったりする。

 

 

「アリスさん、なんで急に変えるのか教えてくれなくて」

「まあ細かいことはいいじゃないのよ」

 

 

そんなことを話しているうちに昇降口についた。

ここからは学年が別れるためあーちゃんとはお別れだ。

 

 

「それじゃ、私コッチなんで」

「うん、あーちゃん。またね」

「有咲ちゃんまたね~」

「はーい」

 

 

あーちゃんと別れかのちゃんと自分たちのクラスの下駄箱へ向かう。

 

 

「でもいいなあ。成り行きとはいえアリスちゃんとお泊りかあ・・・」

「じゃあかのちゃんもお泊りする?どっか土曜日あたりでさ。私のうちでよかったら招待するよ」

「ほんと!?やったあ!」

「せっかくだしちーちゃんや彩ちゃんにも声かけて女子会でもする?」

「うんうん!いきなり一人は緊張しちゃうからよかった・・・」

「かのちゃん?」

「あ、ううん!なんでもないよ!千聖ちゃんと彩ちゃん、来られるといいなあ」

「二人とも忙しいからねえ」

 

 

その後、教室についたらちょうどちーちゃんと彩ちゃんが話していたのでお泊りの件を聞いてみた。

 

 

「月末の土曜日なら夕方まで仕事だけど次の日はオフだから大丈夫よ」

「私も~!うーん、楽しみだね!!」

 

 

無事ちーちゃんと彩ちゃんをゲットした。

その後は4人でお泊り会に向けて色々と計画を練るのであった。

 

 

 

 

学校帰り、仕事に向かうちーちゃんと彩ちゃん、バンド練習に向かうかのちゃん、生徒会に向かうあーちゃんとことごとく振られてしまった私は帰路についていた。

私が住むのは某タワーマンション。どうやらこの世界で私は住むところに関しては相当運が良いようだ。

自分に割り振られた設定を確認する。なるほど、両親を亡くしてその遺産がたんまりあるようだ。このタワーマンションは両親が買ったもので私が相続したらしい。

 

 

「あら?アリスじゃない」

「おや?ちゆちゃん?」

「久しぶりね」

 

 

そしてエントランスで同じマンションに住む住人、珠手ちゆちゃんに遭遇した。

この子は14歳であるが音楽のプロデューサーとして一人前に仕事をしているようだ。

バンドメンバーみんなとはしっかりと面識がある。それどころかドラムのますきとはサシで遊びに行く仲だったりする。

 

 

「今日は練習かな?」

「いえ、今日は練習はないわ。各々用事があるみたいでね」

「そっか。でもちゆちゃん、丸くなったね~昔のちゆちゃんだったらすべてを犠牲にしてRASに尽くしなさい!って言ってたのに」

「は、恥ずかしいから昔のことを掘り起こすのはやめてくれるかしら・・・」

「え~昔っていってもそんなにたってないじゃん」

「それでもよ!」

「今日はレオナちゃんは来ないのかな?」

「そうね」

「よし、じゃあお姉さんが晩御飯作ってあげよう!」

 

 

ちゆちゃん放っておくとビーフジャーキーとかクラッカーとかそんなものしか食べないからね。

お姉さんとしてはとても心配なのです。

 

 

「え!?べつにいいわよ」

「まあまあそういいなさんな~同じマンションに住む者のよしみじゃん」

「材料なんてないわよ?」

「よし、買い物に行こう!!」

「今帰ったばっかだけど!?」

 

 

 

 

「なんで私まで・・・」

「たまにはこうやって歩いて買い物して気分転換しなきゃ!こもりっぱなしだと気が滅入っちゃうよ?」

「あなたはいつも私のペースを乱してくるわね」

「いやだった?」

「いえ。気遣ってくれているはわかるから」

「もう~ちゆちゃんたら可愛いなあ~!」

「Wait!それ以上近づかないで!!」

「え~」

「公衆の面前で過度なスキンシップはダメよ」

「過度じゃなきゃいいの?」

「もう!パレオといいあなたといいなんでそんなに人にくっつきたがるのよ!?Why!?」

「そりゃあちゆちゃんが可愛いからに決まってるじゃないのよ~」

「あなた、それ誰にでも言ってるでしょ?」

「そりゃ女の子はみんな可愛いですから」

「ドヤ顔で言われても」

 

 

そんな他愛のない会話をしながらスーパーの中を歩く私たち。

何気ない、そして余計なことを考えずにこうやって人と触れ合えるのは嬉しいものだ。

 

 

「ちゆちゃん、ハンバーグでいい?」

「任せるわ」

「OK~」

 

 

ひき肉とつなぎに使う材料をかごに入れる。

うん、このスーパーは品ぞろえがいい。

 

※この作品では『』は外国語で話していることを表しています。

 

『なんてこった!もうこのひき肉はないの!?』

「えっと・・・ソーリー、アイドントスピークイングリッシュ」

 

 

外国人・・・おそらくアメリカ人だろうか?

女性が女の子に詰め寄って大きな声で問いただしている。

 

 

『じゃあ英語を話せる人を呼んでくれるかしら・・・?』

「えっと・・・どうしよう」

「あの、どうしたんですか?」

「この人が何かを言っているんですけどわからなくって・・・ってアリスさん?」

「あれ?ましろちゃん?」

 

 

そこにいたのは倉田ましろちゃんだった。

困惑するましろちゃんに困った顔をする女性。コミュ障を発動して借りてきた猫になるちゆちゃん。何だこの光景。

私は英語でその外国人の女性に話をかける。

 

 

『ソーリー、彼女に変わって私が話を聞くわ』

『まあ!なんて流暢な英語!えっとね、ひき肉を買いに来たんだけど棚になくて。最後の1つをそこの子が取ったからもうないのかを聞いたんだけど通じなくて』

『あ~確かに私がさっき見たときにもかなり在庫少なかったわ。・・・あ、今日特売日みたいね。それで売れ行きがいいみたいね』

『ええ!?どうしよう・・・息子にハンバーグを作ってあげる約束をしたのに・・・』

『よかったら私のやつ持ってく?』

『いいの?あなたも必要なんでしょう・・・?』

『構わないわ。息子さんに美味しいハンバーグを作ってあげてよ』

『ありがとう!この恩は忘れないわ!!』

 

 

そういって女性にひき肉を渡して女性はオーバーリアクションでお礼を言って去っていった。

 

 

「ありがとうございました!」

「いいのよ。ちゆちゃーん。もう出てきても大丈夫よ~」

「べ、別に隠れてないわよ」

 

 

私の背中に隠れていたちゆちゃんはぴょこっと顔を出す。

少し顔が赤い。

 

 

「あ、チュチュさん。こんにちは」

「あたなはマシロ・クラタ?奇遇ね」

「えへへ、アリスさんに助けて貰っちゃいました」

「みてたわよ。相変わらず流暢に喋るわね。私より英語上手いじゃない」

「帰国子女に褒められるなんて~」

「そんなに英語が上手くて嫌味かしら?」

「そんなことないよ~」

「えっとチュチュさん、そんなに怒らなくても」

 

 

ましろちゃんがどうしよ、仲裁しなきゃ・・・って顔で見ている。

 

 

「だいじょーぶよましろちゃん。ちゆちゃんチキンが発動したのが恥ずかしくて強がってるだけだし」

「誰がチキンよ!?」

「ハンバーグやめてローストチキンでもつくる?」

「あなたのそういうところ本当に掴みどころがないわ・・・」

「うふふふ」

 

 

ちゆちゃんは諦めたようだ。

 

 

「でもアリスさん、よかったんですか?ひき肉」

「ん~ああいいよいいよ。ってちゆちゃん、ハンバーグがダメになったからってそんな落ち込んだ顔しなくても」

「お、落ち込んでないわよ!?」

 

 

どうやらちゆちゃんはハンバーグのハラになっていたようだ。

そんな中で私がひき肉を譲ったのでちょっと落ち込んでいるのだろう。

こういう可愛いところはやっぱり14歳ね!

 

 

「だいじょーぶ♡ミンチ機使ってひき肉も自作するから♡超粗挽きの肉!って感じのハンバーグつくるね♡」

「前から思ってましたけどアリスさんってすごいですね・・・」

「・・・今さらだわ」

「コラー人を人外みたいにいわないの~!」

 

 

こうして私たちはひき肉用のお肉を買いなおし、スーパーを後にしたのであった。

 




今回は結構ゆるーい回です。次回に続きます。
引き続きよろしくお願いいたします!


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第5話 ネコなあの子とか?-後編-

後編です。




「私までよかったんですか・・・?」

「いいのいいのせっかくだから」

 

 

スーパーの帰り、買ったものを自宅に届けたましろちゃんと合流した私達。

ちゆちゃんに私の食材を持ち帰ってもらい先にマンションで待っているの。

あそこで会ったのも何かの縁せっかくなので3人で食卓を囲おうという魂胆である。

 

 

「ふふ、アリスさんの手料理食べたってみんなに自慢できちゃう」

「え~そんな大したものじゃないでしょ~?」

「アリスさん月ノ森でもすっごく有名なんですよ?花咲川にすっごく綺麗な人がいるって。性格もよくて何でもできてファンクラブまであって・・・」

「ストップストップ。え、なにそれは・・・(困惑)」

 

 

目をキラキラさせながら饒舌になるましろちゃんを制止して聞き返す。

なんかものすごーく美化されている気がするよ・・・

 

 

「実際知り合って話してみたら本当でしたし、とにかくアリスさんはすごいってことです」

「実感ないなあ」

「この前つくしちゃんと七深ちゃんがすっごく自慢してきたんですよ。一緒に映画見て甘いもの食べたんだよって」

 

 

はじめて会った印象はあまり自信なさげであまり自分から話すことはなかったましろちゃん。しかしこうやって素を見せてたくさん話してくれるのは嬉しいものだ。

 

 

「あ、すみません。わたしばっかり話して・・・」

「いいのよ~ましろちゃんの話はとっても面白いし」

 

 

そのまま退屈することなくマンションへの道を歩いた。

 

 

「お、おっきい・・・」

「私がすごいんじゃなくて遺してくれた親がすごいだけよ」

「七深ちゃんのアトリエもすごかったけどこっちはタワーマンション・・・すごい・・・」

「ほら~いくよ~?」

「あ、はい!」

 

 

未だ目をキラキラさせているましろちゃんを呼び、私たちはエントランスの方へ向かうのであった。

 

 

 

 

「超粗挽きにしちゃおう」

「おお・・・」

「なんで女子高生の家にミンチ機が置いてあるのよ・・・」

 

 

ミンチ機からにゅ~っと出る挽肉。

せっかくなので肉々しい触感がガッツリ堪能できる超粗挽きでの提供だ。

 

 

「ふつーじゃない?」

「それ、七深ちゃんに言わないでくださいね。アトリエにミンチ機が置かれそうなので・・・」

 

 

それはそれで楽しそうである。

 

 

「しばらくかかるからゆっくりしてよ。あ、冷蔵庫の飲み物とかは勝手に飲んでいいよ」

 

 

その後の私は料理に全集中し、ハンバーグ、付け合わせ、サラダ、スープを人数分作り上げたのであった。

 

 

「すごい・・・おうちごはんなのにハンバーグが鉄板に載ってる・・・!」

 

 

 

実はミンチ機やハンバーグ・ステーキ用の鉄板、その他調理器具を揃えることは私が新しい世界に来て一番最初にやることだったりする。

調理師だったこともあり暇だったら料理を作るし、こうやって友人に料理を振る舞うのも私の趣味なのだ。

 

 

「コラちゆちゃん、あからさまにサラダを避けようとしないの」

「うっ・・・」

 

 

そう、ちゆちゃんはサラダが苦手なのだ。

以前、レオナちゃんから聞いた話であるが、だからといって栄養バランスを考えると食べた方がいいので今回あえてメニューに入れた次第である。

もちろんどうしても無理なら強制するつもりはない。

 

 

「生野菜とか海藻とか食物繊維が多いものを最初に食べるとね、血糖値が上がりにくくなるんだから。それにこれはキャベツを使ってるから油のクッションにもなるの」

「へ~そうなんですね。私も今度から食べる順番考えなきゃ」

「うんうん。お米とか麺とかスイーツとか糖質が多いものを一番最初に食べると血糖値がグンって上がるからねえ。血糖値が上がると体に脂肪が付きやすくなるからこうやって緩やかに上げていくのがいいのよ」

「勉強になります」

 

 

ダイエット必須の知識を伝授したところで私はちゆちゃんに向き直る。

 

 

「さてちゆちゃん」

「うう~・・・・」

「あ、ドレッシング忘れてた!これかければ食べられるでしょ」

「す、少しは・・・」

 

 

私はドレッシングをかけてあげる。

それをちゆちゃんが恐る恐る食べるのであるが・・・

 

 

「これ本当にサラダ!?」

「どうかな?」

「驚くほどおいしいわ。このドレッシングのおかげ・・・?」

「あ、ほんとだ。美味しいですこのドレッシング」

「コレがあれば・・・これはどこで売ってるサラダなのかしら?」

「ん~自家製。気に入ったなら今度から多めに作って渡すね」

 

 

やった。これならちゆちゃんの絶望的な栄養バランス事情も少しは改善する。

あとでレオナちゃんに教えてあげなきゃ。

 

 

「アリスさんすごく嬉しそう」

「あら、顔に出てた?」

「ええ。私が見てもわかるくらいよ」

「私ってさ。友達はいっぱいいるけど両親いないからお家では一人でね。ごはんとかもやっぱ一人で食べることが多くて。だから今日みたいに複数人で食べてしかも私が作った料理をおいしそうに食べてもらえると嬉しいんだ」

 

 

昨日あーちゃんにご飯を食べてもらった時もそうだったけど、やっぱり自分が作ったものを美味しそうに食べてもらえるのは嬉しいな。

 

 

「私でよかったら・・・」

「え?」

「私でよかったらまた付き合ってあげるわ。暇だったら・・・だけど」

「本当!?じゃあ毎日作るね♡」

「毎日は流石に無理よ!!」

 

 

ああ、実に楽しい食卓だ。

私は心の底からそう思い、この時を楽しむことに全力を注ぐのであった。

 

 

 

 

「本当においしかったです。明日モニカのみんなに自慢しちゃいます」

「そんな大したものじゃないのに~」

「いえいえ。透子ちゃんなんてすごくうらやましがると思います」

「あ~確かに」

 

 

外が暗くなってきたのでましろちゃんを駅まで送るため一緒に歩く。

料理の感想やモニカでの出来事を楽しそうに話すましろちゃん。

 

 

「ましろちゃん、本当に楽しそうにお喋りしてくれるようになったよね」

「普段は全然自分から話せないんですけど・・・不思議とアリスさん相手ならそんなことないんです」

「おお~嬉しいことを言ってくれるね~」

 

 

他愛のない会話をしていると前方に影を見つけた。

ロングコートを着込んだ男性が道の隅にうずくまっているようだ。

 

 

「あの人・・・どうしたんでしょう」

「ん~ましろちゃん、ちょっと待っててね」

 

 

体調不良やアルコールの飲みすぎだったら助けなきゃなんだけどいかんせんああいう手合いは警戒が必要である。

なぜなら・・・

 

 

「どうかしましたか」

「ちょっと気分が悪くて・・・ああ暑い、ちょっとこれ脱ぎます」

「きゃあああ!?」

 

 

そういってロングコートを脱ぎ捨てた男性は・・・

下半身になにも身に着けていなかった。

それをみたましろちゃんは悲鳴を上げてしまう。

 

 

「ぐへへ、これ、どうです?ホレホレ」

 

 

こういう奴がいるからなんだよなあ・・・・

 

「・・・・」

「お、おい!お前もなんか言えよ!!」

「・・・早くその汚くて貧相なしめじをしまってください」

「し、しめじだとぉ!?」

 

 

私は汚物を見る目でそう言い放った。いや実際に汚物ですけどさ。

なんでお前TINTINをBINBINにしてんだよ・・・

 

 

「じょ、女子高生なら女子高生らしくそっちの子みたいに悲鳴でも上げろ!」

「だってぇ、悲鳴を上げるほどのものじゃないもん。あ、ましろちゃん、目が腐るからこれ以上見ちゃダメよ~両手で目を覆ってね~」

「は、はい」

 

 

しかし暖かくなってきたせいかやっぱ出るよな~こういう奴

露出狂はもはや春の風物詩である。

 

 

「バカにしやがってええええ!」

「危ないッ!」

 

 

危ないのはお主のTINTINだけどな!

 

 

 

「ぬごきぎああああああああ」

 

 

反射的に防御力0のソコに蹴りを入れてしまった。

突然襲ってきたから全然手加減できなかった・・・潰れてないといいなあ・・・

とりあえず悶え苦しむそいつを縛り上げ、私は警察に電話したのであった。

 

 

 

 

 

未成年ということもあり事情聴取は明日に持ち越しになり、男は警察に連れていかれた。

 

 

「本当に申し訳ございません、お子さんを危険な目に・・・」

「何をおっしゃいますか、ましろのこと守っていただいてありがとうございます」

 

 

ましろちゃんはご両親が迎えに来てくれてた。

 

 

「でもさっきのアリスさん、カッコよかったです。変態相手にも全然物怖じせずに立ち向かって・・・」

「ましろちゃん守らなきゃって必死だったからね」

 

 

まあ実際はそんなことはないのだがここはそういうことにしておいた方がよいでしょう。

 

 

「じゃあ私はこれにて。またごはん食べようね」

「はい!」

 

 

慌ただしい日であった。

きっと私はこうやってこの世界で生きていくのだろう。しかしこの世界は今までちと違うような気もするにで、これは色々と調べてみる必要がありそうだ。

さて、帰って寝て明日に備えようかな。願わくば常に平和であらんことを。

おはよう、私の愛す世界よ。

 

 




色々数字とか誤字脱字申し訳ありません!
着々とお気に入り登録いただけて嬉しい限りです~
引き続きよろしくお願いいたします!



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第6話 風紀委員のあの子といつものワタシ-前編-

前回までのあらすじ
飯食って露出狂のTINTINを蹴飛ばして倒しました



「おいっす~」

「あ、アリスさん。お疲れ様です」

「やっほー、あーちゃん。あれ、紗夜ちゃんはまだ来てないの?」

 

 

放課後の生徒会室。留守を預かっているのは市ヶ谷有咲ことあーちゃんであった。

 

 

「ええ。もうすぐ来ると思いますけど・・・アリスさんはあの件ですか?」

「うん。特定できたからその結果報告にね」

 

 

ご存知、私は生徒会の依頼で探偵の真似事をしている。

今回は度々敷地内の目立たないところに落ちているタバコの吸い殻の調査であった。

うちの生徒がタバコをやっているのであれば問題だし、教員がやっているのであればマナー違反だし、第三者が侵入してきているとしたら大問題だ。

 

 

「じゃあ紗夜ちゃんを待たせてもらおうかなー」

「わかりました」

「・・・」

「・・・・・・」

「・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・あれ?」

「どうしたのあーちゃん?」

 

 

少々の沈黙。それを破ったのはあーちゃんだった。

 

 

「え、いや。いつもだったら何振り構わず抱き着いてきたり胸揉んできたりしてくるのに今日のアリスさんおとなしいなって・・・」

「え~?私がいつでもそんなことしているわけじゃないよ~でもそういうことなら・・・」

「え・・・あの、アリスさん。何ですかその何かを鷲掴みにする手の形は」

「覚悟ぉ!」

「やめなさい!!!」

 

 

ゴスッ!

 

 

「ぬぐぉおおおお・・・・」

 

 

リクエストにお応えしてあーちゃんにセクハラをしようとしたところで頭に衝撃が下る。

そこには分厚い生徒会報をタテの持つ紗夜ちゃんがいた。

 

 

「ちょっと紗夜ちゃん!!目ん玉が飛び出たらどうしてくれんのさ!?」

「人体はそんなにたやすく目玉を分離してくれないから安心してください。それになんですか・・・人が部屋に入るや否やまたふざけて!!」

「あーはいはいごめんちゃい。超反省してまーす(反省しているとは言っていない)」

「カッコの中身が見えてますよ!!」

「わぁ、メタ発言だぁ」

 

 

うんうん、いつも通りだ。やっぱり生徒会室はこうでないと。

 

 

「さて紗夜ちゃんも来たことだし。本題かな。りんりんちゃんもでておいで~」

「え!?燐子先輩いたんですか!?」

「す、すみません・・・出るタイミングがわからなくて・・・」

 

 

奥の方からりんりんちゃんが出てきた。あーちゃんはいると思っていなかったらしくびっくりしている。

 

 

「えっとね。全部特定できたよ~これが吸っている時の動画、これが吸っている生徒の情報、これが生徒の交友関係と家族関係ね。ファイリングしてあるからみてね」

「相変わらずやべー調査能力・・・」

「はぁ~・・・本当に優秀なのになんで・・・」

「さ、さすがです。アリスさん」

「しかしこれだけ揃っていれば・・・」

「うん。あの子たち、タバコを数時間と場所でローテーション組んでるみたいで法則性があったからすぐに特定できちゃった。うーん、どうやら他校の人とお付き合いしているみたいだけど、あんまり素行のいい人たちじゃあないみたいね」

 

 

吸い殻の犯人はこの学校に通うとある女性と2人組だった。他校に通う男子生徒とお付き合いをしているようだが、その彼氏が所謂DQNと呼ばれる人たち。

うーん、女子高育ちって世間知らずだからなあ。

悪いことをしている男が新鮮でカッコよく見えちゃうんだよね。

あと趣味とかもオトコに影響されやすい。野球とか好きな女子がいたら十中八九彼氏がいるか元彼の趣味だから野球好きの女の子を狙っている人がいたら覚悟した方が良いぞ☆

 

 

「ひとまず調査お疲れ様でした。あとは風紀委員で対応いたします」

「りょーかい、じゃあ法則性教えるから現行犯になるようお願いね。私も手伝おっか?」

「そこまでお手を煩わせるわけにはいきませんよ」

「そっか。じゃあ頑張ってね」

「はい」

 

 

まああとは紗夜ちゃんに任せておけばよいだろう。

私の仕事はこれで終わり。さて、帰るとしますか。

 

 

「またお仕事あったら呼んでね~」

「ありがとうございます」

「お疲れ様です~」

「ありがとうございました」

 

 

生徒会室を出て校門に向かう。

うーん、今日は何しようかなあ。

 

 

「あ!アリス先輩!」

「そのハイパー元気な声は香澄ちゃん」

「こんにちは!今帰りですか!?」

「ごきげんよう。ええ、今帰りよ」

 

 

そこに現れたのは元気いっぱい、ポピパのギター&ボーカル担当、戸山香澄ちゃんであった。

 

 

「こんな時間にどうしたの?」

「この後バンド練習なので有咲を迎えに行こうと思いまして!」

「なるほど。あーちゃんとはさっきまで一緒だったんだけどね。まだ少し仕事が残ってるみたいよ」

「そうなんですか!まあいつものことなので大丈夫です!」

「香澄ちゃんが迎えに行くとあーちゃんも喜ぶだろうね。表面上は嫌がってそうだけど」

「そうなんですよ~有咲ってば可愛いんですよ~」

「わかるわかる!ツンツンしているよう見えて思いやりの塊だからね。ついついからかっちゃうんだよね」

「アリス先輩わかってるぅ~今度はぜひ一緒に!」

 

 

みなさんご存知香澄ちゃんはあーちゃんが大好きなので話が弾む。

 

 

「なに本人のいないところで不吉な相談してんだよ・・・・」

「あ!有咲だ~!!生徒会の仕事はもういいの?」

「今日はもう上がっていいってさ。それよりアリスさんまで何やってんですか!?」

「ごきげんよう、あーちゃん。さっきぶりだね」

「あ、ごきげんよう・・・じゃなくてぇ!」

「あはは!有咲楽しそう~!」

「何をどう見たらそう見えるんだあああああ」

 

 

いいねェ・・・

あーちゃんは香澄ちゃんの前だと本当に自然体という感じだ。

とても楽しそうでお姉さん嬉しいよ。

 

 

「私も帰るからさ。途中まで一緒しよっか」

 

 

 

 

帰り道。あーちゃんと香澄ちゃんはバンド練習のためにライブハウスへ、私は帰路につく。

他愛もない話をし、時々あーちゃんをちょっとイジる。そんな楽しい帰路であったが思わぬ横槍が入った。

 

 

「や~君たち可愛いね~。今からちょっと遊ばない?」

 

 

他校の男子生徒だ。なんだよこんちくしょう、人が楽しくお話しているときに。

あれ?こいつよく見たら・・・

 

 

「でね~あーちゃん。この前・・・」

 

 

少し困惑するあーちゃんと香澄ちゃんにアイコンタクトで「ガン無視を決め込め」と送り、二人は理解したようでそれを決行する。

それに合わせて私も雑談を続ける。

 

 

「って無視してんじゃねーぞ!俺が話しかけてんだ!」

 

 

あ~はいはい。わかったもう。

 

 

「すみませ~ん。私たちに言ってるとは思わなくて」

「あ、そうなの?ならいいよ。んで、遊びに行こうよ」

 

 

皮肉だ馬鹿野郎。

 

 

「ん~この子たちは本当に用事あるんで私だけでお付き合いするんでそれでいいですか?」

「いいよいいよ!マジかよこんな可愛い子!」

 

 

喜んでいるところ悪いが付き合うつもりはないんだよね。

 

 

「じゃああーちゃん、香澄ちゃん。みんな待ってるだろうし行きなよ」

「え、でもアリスさん・・・」

「大丈夫大丈夫!安心して?」

 

 

不安そうなあーちゃんと香澄ちゃんの背中を見送る。

さて、どうしてくれようかな~

 

 

「で、どこ行くよ?カラオケでもいっちゃう?」

「いいですね~ぜひ彼女も呼びましょうよ」

「え?俺、彼女なんていないよ・・・?」

「ふ~ん」

 

 

そう、こいつは例の調査で上がったタバコ犯人の彼氏なのだ。

 

 

「彼女とおんなじ学校の生徒に手を出すとろくなことないですよ~今なら何もなかったことにしますから退いてもらえるといいんですけど」

「この子あいつのこと知ってるな・・・バラされたらさすがに・・・しょうがねえ・・・」

 

 

無理だとわかるや否やそのまま立ち去ってしまった。

 

 

「人の時間奪ったんだから一言くらい謝ってくれてもいいと思うんだけどなあ」

 

 

まあああいう人に言っても仕方ないか。

私はあーちゃんに無事である旨のメッセージを送り、普通に帰宅したのであった。

 

 

 

 

「紗夜ちゃん、ごきげんよう」

「アリスさん、こんにちは。先日はありがとうございました」

 

 

3日後、帰ろうとしたところで紗夜ちゃんに会った。

 

 

「あれからどう?調子は」

「ええ。無事に現行犯で捕まえて先生に報告しました。どうやら件の生徒は停学になってしまうようなのですが・・・」

「ルールを破るっていうのはそういうことだよ。そのリスク込でルールを破ったんだから因果応報。紗夜ちゃんが気にすることはないよ」

「本人たちも反省しているようです。今日もこの後、そのうちの一人が停学になる前に私に謝っておきたいというのでこれから向かうところです」

「なるほど」

 

 

なるほど・・・ねえ

 

 

「では待ち合わせがありますので私はこれで」

「うん、じゃあね」

 

 

そういって学校を出る紗夜ちゃん。

私は同じ方向に歩き出したのであった。

 

 

 




後編は明日の予定です。引き続きよろしくお願いいたします。


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第6話 風紀委員のあの子といつものワタシ-後編-

後編です。
久々のガッツリ勧善懲悪、超人アリスです!


「あ、来た来た!」

「お待たせしました。しかしまた人気のない場所ですね」

「来たよ、やっちゃって!」

「なんですって・・・?」

 

 

あとをつけて正解。紗夜ちゃんが呼び出されたのはとある廃工場跡。

人に謝るのにこんな所に呼び出す意味が分からないしそもそもそんな殊勝な心掛けをしているとは思えなかったのだ。

件の生徒のうち1人とその後ろから現れた彼氏の姿を見て紗夜ちゃんは流石に動揺しているようだ。

 

 

「バッカみたい。こんなところに本当に一人で来るなんて」

「それはあなた達が謝りたいって言うから・・・」

「そんな訳ないじゃんwwwあんたのせいで停学に・・・絶対に許さない!」

 

 

ニヤニヤしながら前へ前へと進む彼氏。

これがほんとの前ヘススメ?やかましいわ。ポピパに謝らんかい。え?わたし?知らんがな。

 

 

「やっぱりそんなこったろうと思った」

「アリスさん!?」

「やっほ、紗夜ちゃん」

「あ!お前は!?」

「ごきげんよう。お久しぶりですね」

 

 

彼氏と再会の挨拶を交わす。まあ向こうは威嚇しまくってくるけど。

 

 

「知ってるの?」

「い、いや知らない」

「え~この前ナンパしてくれたのにもう忘れちゃったんですか~?」

「ナンパ!?アリスお姉さまを!?」

 

 

あ、こんな状況でも私のことお姉さまって呼んでくれるのね。

女生徒は彼氏をギロリと睨み付けるが、取り敢えず誤魔化すのに成功したようだ。

 

 

「それで、何で女のケンカに男が介入してるんですか?本当に情けないですね」

「んだと!?おい、アイツもやっちゃっていいのか?」

 

 

どうやらボロが出る前に私を黙らせたいようである。

 

 

「え!?アリスお姉さまを!?・・・ええと・・・アリスお姉さまに恨みはありませんから、ここは黙って立ち去ってくれませんか?」

「そんな虫のいい話あるわけなくてよ?見てしまったものは対処するしかないわ」

「そっか・・・・うーん・・・それなら・・・見られちゃったなら仕方ないわ」

「よっしゃ!」

 

 

彼氏が駆け寄ってくる。開き直ったのか女子生徒はニヤニヤと見守っている。そして紗夜ちゃんは驚愕した顔でこちらを心配している。

 

 

「この前の仕返しだ!!」

「あらかた恥ずかしい動画でも撮るつもりだったんですか?ほんっと、こういう悪人って芸がないですわね」

「な!?ぐごおおおおおおお」

 

 

勢いよく飛び込んできたので思いっきり胸倉を掴み、宙を浮かせてみる。

 

 

「は、はなせえええ・・・」

「あらやだ。放すわけないじゃないですか」

「く、クソ・・・うおおおお」

「痛いし重たいのでもういいです。お返しします」

 

 

脚でゲシゲシ蹴ってくるからね、スカートが汚れちゃうしね。

私はソレを持ったまま壁に歩み寄り・・・

 

 

「ウソだろ!?ぎゃあああああああああ!?!?!?」

 

 

そこに向かって思いっきりぶん投げたのであった。

衝撃で彼氏は転倒し、思いっきり背中を強打したようでこれはしばらく動けないだろうね。

 

 

「さてと。邪魔者はいなくなったことだし女のケンカ、はじめる?」

「うそ・・・」

「アリスさん・・・?」

 

 

あららびっくりしてる。でもしょうがないよね。これしか方法なかったもん。

 

 

「貴女が停学になったのは貴女がルールを破ったから。紗夜ちゃんはルールに則った行動をしただけ。なのに仕返しとかお門違いもいい所じゃないかしら?」

「そんなもん大人が決めた勝手なルールじゃないですか!私は自分の意思でやってるんだから!!」

「ええそうよ。これは大人が決めたルール。でもね、少なくとも長い歴史の元制定された法律として施行されているし学校も法を遵守しなければならない。それにね、自分の意思って言ってるけどそれこそ貴女が決めた勝手なルールよね?そこには何も根拠がない、ただのワガママ。子供が癇癪起こしてるだけ。抗いたいのなら世の中のルールに則った上で抗いなさい」

「くっ・・・」

 

 

火の玉ストレートのド正論をぶん投げてみると図星で言葉が出ないようだ。

所詮、暴力に訴える人たちなんてこんなものね。

 

 

「なぜ紗夜ちゃんなの?仕返しするならそれこそ学校。紗夜ちゃんは学校のルールに則り動いたに過ぎない。停学の判断をしたのも学校よ?」

「で、でもそいつが私のことを突き出さなければ・・・」

「それは違う。貴女は弱いものを狙っただけ。都合よく憂さ晴らしを出来る対象を狙いやすい紗夜ちゃんにして自分勝手なコトを起こしているだけ。何なら今からその彼氏と学校に乗り込んでみなさいな。貴女の理屈で言うならそれくらい出来るでしょう?」

「そ、それは・・・」

 

 

これ以上は言葉が出ないみたいだ。

 

「さて、紗夜ちゃんどうする?これはもう校則で解決できる範疇を超えていると思うけど。まだ紗夜ちゃん次第ではまだ後戻りできるかもしれないわ」

「そうですね・・・ひとつ聞きます。今の話を聞いてどう思いましたか?」

 

 

展開についていけてないのか紗夜ちゃんが多少あたふたしつつ、冷静になった紗夜ちゃんはそう問うた。

 

 

「・・・・私が間違ってました。本当にごめんなさい」

「よろしい。道を外れても己の過ちに気付きただす勇気を持つのは素晴らしいことです。今回のこと、私は明らかにするつもりはありません。ただし、学校が公式に下した処分は受けてください」

「あ、ありがとうございます!!」

 

 

うんうん。これにて一件落着だ。

 

 

「オイオイオイオイオイ。なーに勝手に終わらせようとしてんだ!ああん!?」

「あらら。結構思いっきりやったのにもう立ち上がれるなんて」

 

 

ぶんなげてダウンをとっていた彼氏の方が動けるようになったようだ。思いのほか頑丈だったのね。

 

 

「もう容赦しねえ。マジで殺す。女だって関係ねえ」

「ナンパに失敗した相手にぶん投げられてブチ切れてそんなおもちゃを出すなんて物凄くかっこ悪いわよ」

「うるせえ!!」

 

 

そう、彼氏が手に持つのはナイフ。高校生が持っていいものではなかった。

 

 

「アリスさん!逃げましょう!!危険です!!」

「そうねえ・・・危険は危険なんだけどあのまま放っておく訳にもいかないでしょ?」

 

 

あの手の奴はしつこいし、一度清算しないと終わらないだろう。

それに逆上してまた紗夜ちゃん単独を狙われたそのほうが危ないもんね。

 

 

「ちょっと!もういいの!」

「うるせえ!彼女だろうと邪魔すんならテメエからぶっ殺すぞ!!」

 

 

彼女もそういうがダメみたい。うん、完全に冷静さを失っている。確かにこのままここに残るのは危険かもしれない。・・・素人の二人は、だけどね。

 

 

「紗夜ちゃん、彼女を連れてお逃げなさいな」

「しかしアリスさん!」

「我に秘策ありってね。大丈夫だから」

「しかし!」

「・・・二度は言わないわよ」

「・・・!?」

 

 

威圧の気配を感じ取ったのだろう。紗夜ちゃんは一転して素直になる。

 

 

「わかりました。くれぐれも気を付けてください!!」

 

 

紗夜ちゃんと女生徒が立ち去るのを確認すると彼氏の方に向き直る。

 

 

「さて。あなた随分いいオモチャを持ってるけど、人に向けるのは初めてね?」

「なんでそんなことが分かるんだよ!?」

「見れば分かるわ」

 

 

だってホラ、私っていろんな経験してるじゃない?軍にいた頃はあんな高校生が持つオモチャなんかじゃなくて本場のサバイバルナイフでのナイフ術もあらかた習得してるしナイフ戦だって上位成績だったのだ。

私からしたらあんなオモチャ、もはやスプーンみたいなものである。

それにあの構え方に及び腰。威嚇で出したは良いが人に向けた事なんかないし引っ込みがつかないっていうのが正直な所だろう。

 

 

「それを捨てれば今なら見逃してあげないこともないけど・・・どうする?」

「うわああああああああああああああ」

 

 

完全に冷静さを失っている。あんなスキだらけで突進してきたら押さえつけて制圧して下さいといっているようなものだ。

 

 

「警告はしたよ」

「なっ!?」

 

 

1.ナイフを持つ腕を取る 2.ナイフを持つ手からナイフを捻り落す 3.落ちたナイフを拾う 4.動けない姿勢にして首元にナイフを突きつける。

 

以上、一連の流れ。素人高校生にやるなんぞ赤ん坊にやるようなものである。

 

 

「ナイフってのはね、こう言う風に使うんだよ」

「ひ、ひいいいいいいい!?」

 

私はナイフを皮膚が切れない程度にあてて切り裂くふりをした。

本当に切るつもりなんてないし力加減をしている。

 

 

「アリスさん!!それ以上はいけません!!」

「あら紗夜ちゃん?逃げたんじゃなかったのかな?」

 

 

紗夜ちゃんの声と同時に彼氏の方は気絶したようだ。これくらいでバテるなんて情けないわね。

 

 

「本当にやるわけないじゃいのさ。こんなアホのために殺人者になりたくないしね」

「アリスさん・・・?」

 

 

おおっとちょっと雰囲気が怖いな。いけないいけない。

 

 

「それで紗夜ちゃん?どうして戻ってきたのかな??」

「それは・・・やはりアリスさんが心配になって・・・」

「そっか。でも危ないから今度からはやめてね?」

 

 

私はそういいつつ伸びたアホ彼氏に往復ビンタを何発か打ち込み、ムリヤリ目を覚まさせる。そして紗夜ちゃん聞こえないようにこう言い聞かせるのであった。

 

 

「おい小僧。これ以上私や私の周りをウロチョロするな。次お前の姿を見たら・・・」

「あ・・・あ・・・・」

「 殺 す ぞ 」

「うわあああああああごめんなさああああい」

 

 

そんなクッソ情けない声を出して彼氏は全力疾走で消えていった。

 

 

「帰ろっか、紗夜ちゃん」

 

 

 

 

 

「聞いてもいいですか?」

「いいけど答えられないことの方が多いかも」

 

 

帰り道、紗夜ちゃんに訊ねられた。

 

 

「アリスさん・・・あなたは何者なんですか?」

「何の変哲もない、ただの志賀有栖だよ」

「・・・答える気はないようですね」

「答えてるよ。私はただの志賀有栖。それ以上でもそれ以下でもないよ」

「・・・ふう。わかりました。今日は助けられました。ありがとうございます」

「いえいえ。友達を助けるのは当然のことよ」

 

 

その後しばらく沈黙して歩き続ける。

 

 

「色々思うことはあるかもしれないけどさ」

 

 

その沈黙を先に破ったのは私だ。

 

 

「私は紗夜ちゃんの味方だから」

「・・・ふふっ」

「あー笑ったな~?」

「すみません。そうですよね、今日見てしまったものは衝撃的でしたが・・・アリスさんはアリスさんですね」

 

 

紗夜ちゃんは吹っ切れたように笑いながらそういった。

 

「納得したの?」

「・・・してませんけど冷静に考えたらアリスさんが意味不明なのはいつものことだなど」

「ひ、ひどい~~~~~・・・ま、でもありがと。明日からもいつも通りでいてくれると嬉しいな」

「ええ、わかりました」

 

 

私は私だ。この世界における役割があるのか、ないのかもわからない。

培った力をこうやって友達を守るために使うのもいいことだろう。

なんかトラブル続きな気がするけど、願わくばもっともっと常に平和であらんことを。

え?だから手遅れだって?知らんがな。

おはよう、私の愛す世界よ。




ギリギリになって申し訳ありません!
久々に暴れさせてみました。
次回はゆるい感じの1話完結で予定しています。まだ登場してないキャラだしたですね~
引き続きよろしくお願いいたします。


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第7話 白鷺千聖の場合

かなり期間が空いてしまい申し訳ありません。
いかんせん仕事が死ぬほど忙しくて休日もほぼ死んでおりまして・・・

約2か月半、放置している間に高評価をいただいたりお気に入りが増えていたりと本当にこんなクソ文章をたくさん読んでくださりありがとうございます。

さて、私は前回の〆でこう書きました。

「次回はゆるい感じの1話完結で予定しています」と。

最初に謝らせてください。


     *      *
       + うそです
     n ∧_∧ n
 + (ヨ(* ´∀`)E)
      Y     Y  *



今回はいつも以上にハイパーブラックなお話になっておりますので、結構過激かもしれません。
あ、これ苦手だなって思った方は今回と次回は読み飛ばすことを推奨します。

OK?OK牧場(激寒)
OKってかたはどうぞお楽しみください。

ちなみに今作初のバンドリオリジナルキャラクター目線です。




「新しいマネージャーですか?」

「新サブマネージャーの瀬長 瑠衣(せおさ るい)と申します。以後お見知りおきを」

 

パスパレのマネージャー体系はグループを総括するメインマネージャー、さらに各メンバーを担当するサブマネージャー、計2人のマネージャーが調整役として動いている組織なのである。

そんな中、私・白鷺千聖のサブマネージャーが産休に入ることになり、代わりにやってきたのがこの瀬長マネージャーということだ。

こうして新たな顔ぶれで芸能生活がスタートしたのである。

 

 

「瀬長さん、どこかでお会いしたことないですか?」

「いえ?私は活躍を存じておりますが実際にお会いするのは初めてだと思います」

 

 

なんだろう。こう瀬長さんは謎の親近感がある。話を聞くところによると事務所のスポンサー企業からの紹介で入社したらしく、かなりやり手だとか。

少しのやり取りで過去にもあっているかのような親近感をマネジメント相手に持たせるのは、やはり敏腕どいったところなんだろうか。

実際彼女はやり手だった。スケジュールの調整、先方との調整どれをとっても完璧にこなし、徹底的に無駄を省いてくれたおかげで私の活動にも余裕が出てきたのである。

 

 

「今日は白鷺さん、本日はお疲れ様でした」

「瀬長さんも、いつもありがとうございます」

「いえいえ、お礼を言うのはこちらの方ですよ。白鷺さんみたいなすごい人を担当させてもらって身が引き締まります」

「それは褒めすぎですよ」

「このあとは直ぐ帰られますか?」

「いえ、実はメインマネージャーに呼ばれていて」

「あ、そうなんですか。わかりました・・・あ、そういえばこれよろしかったら」

「これは?」

「白鷺さんが前に気になるけど売り切れで買えなかったって言ってた本です。たまたま売っていたのでもしまだ買っていなければ・・・」

「ありがとうございます、ちょうど今日も帰りに探しに行こうかと思っていたんです」

 

 

本が買えないなら電子書籍でいいのでは?という声があるのは理解できる。

でもやはり紙媒体には紙媒体の良さがあり、私はなかなかデジタルに移行できないのだ。デジタルだとブルーライトだったり、持っている感覚が違ったりということがあるのである。

 

 

「私はもう読んだのでまた感想を言い合いましょうね」

「ありがとうございます!あ、本代・・・・」

「大丈夫ですよ、役作りの資料購入費ってことで経費で落としてあります」

 

 

こういうところは流石だ。いたずらっぽく笑う彼女を見て、私はありがたくその厚意に甘えることにした。

 

 

「では、私はこれで」

「ええ、帰りもお気を付けて」

 

 

 

「接待ですか?」

 

瀬長さんと別れてメインマネージャーの話を聞くと、直接このような相談があった。

 

 

「ええ。実はとある有名プロデューサーが白鷺さんの活躍を目にしてぜひお会いしたいと申しているんです。向こうからの申し出ですが実質接待みたいな形になってしまいますし、相手が相手なので重要案件としてサブマネを通さず私が動いているわけですが・・・スケジュール大丈夫でしょうか?」

 

 

これは責任重大である。

私は今後のパスパレや私のキャリアになるならと二つ返事でOKした。

 

 

「キミが白鷺さんね。うん、実物の方が可愛いな」

「ありがとうございます」

「うんうん、実にフレッシュでいい感じだ。もうちょっと・・・こっちに来なさい」

 

 

私は戸惑った。相手が指定しているところはプロデューサーのすぐ横だったからだ。

嫌な予感がする。まさかこれは・・・

 

 

「白鷺さん、何をしているんですか」

 

 

メインマネージャーにどうにかしてくれとアイコンタクトを送ると、メインマネージャーはプロデューサーの言う通りにしろ言わんばかりにそう言い放った。

 

 

「まさかこれは・・・・枕営業ですか」

「え?いやいや、人聞きが悪いなあ」

「白鷺さん!これは我が事務所やパスパレにとっても重要な案件なんですよ?早く言う通りにしてください」

 

 

やられた。

メインマネージャーはプロデューサーとグルなんだ。

初めから私にこうさせるつもりでこの場を設けたんだ。

 

 

「ふーん、抵抗するんだ」

「オイ白鷺、テメエお高く止まってんじゃねえぞコラ。アイドルなんて体の一や二つ売ってナンボだろ」

 

 

そうこうしているうちにメインマネージャーの口調が豹変した。

その口調は明らかに一般人ではない。

 

 

「おい、そろそろいいぞ」

「え・・・?」

 

 

メインマネージャーの合図で入ってきたのは数名の人たち。

そこには撮影に使うようなカメラを抱えた人もいる。

 

 

「さっき枕営業かって聞いただろ?答えはノーだ。テメーはリニューアルして女優デビューすんだよ。セクシー女優ってんだけどよ」

「!?!?!?」

 

 

私は血の気がい引いた。現状をみると私は個室に一人、相手はプロデューサー(?)、メインマネージャー、カメラマン2人

逃げられる状況ではない。

 

 

「まあ諦めてくれや。定期的にアイドルを間引きしてな、こうやってビデオ撮らせてもらうんだよ。ただ今のままだと未成年だから売りに出せない。まあでもこれを使って被写体をコントロールすることはできる。んで18になったら元アイドルの女優としてデビューさせんのさ」

「・・・なぜ私なんですか」

「そこにいるプロデューサーいんだろ?そちらの方は志賀組っていうヤクザのお偉いさんでな。その方が気に入った娘とヤるためにこの場を設けてんだよ。それが今回お前だったってだけの話しさ」

「ま、そういうことだ。子役の頃から見てるけど男の影ないし枕した形跡もなかったから処女だろキミ。そういう子を犯すのが私の趣味なのだよ」

「うへ~相変わらずロリコン外道すね~」

「所属アイドル売り飛ばして荒稼ぎしてるおめえに言われたくなねえなあ」

「「はっはっはっはっはっは!!!」」

 

 

逃げなきゃ。でもなんで?体が硬直して、足が思うように動けない。

 

「あらら、腰を抜かしてしまったようだ。仕方ない、私からそちらに行くか。オイ!カメラ構えろ!私の大事なコレクションだからな、しっかり撮れよ!」

「ああ・・・ああああああ・・・・」

 

 

「やーっとこの日が来た。長かったなあ」

 

 

下半身を露出しながら近づいてくるプロデューサー(?)が迫ろうとした瞬間。ドアが開き、そんな声が聞こえた。

 

 

「せ、瀬長さん・・・?」

 

 

なんで彼女がここに・・・?もしかして、彼女もグルだったの・・・?

 

 

「い、今まで私に見せてきた姿は嘘だったんですか・・・!?優しくしてくれたのはこの日のためだったんですか・・・!?」

「ん・・・?あ~そういうことか。ごめんごめん。勘違いさせちゃったね。大丈夫、私は味方だよ」

「え・・・・?」

 

 

この声はいつもの瀬長さんじゃない。・・・・この声は!?

私の知っている声。なんで・・・?なんで貴女がここに・・・?

 

 

「貴女・・・そんな・・・!?」

「おい瀬長ァ!テメー・・・なんでここにいる!?」

 

 

メインマネージャーが瀬長さん(?)に向かってそう叫ぶ。

 

 

「この現場を押さえるためですよ。そして親友を守るためかな」

「んだと!?」

「ちーちゃん、すぐ済ますからさ。怖いだろうけどちょっとだけ待っててよ」

 

 

 

そこにいたのはサブマネージャーの瀬長瑠衣ではなく、私がよく知る親友・志賀有栖の姿だったのだ。

 




次回、アリス視点による解説です。

引き続きよろしくお願いいたします。


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第7話 瀬長瑠衣の場合

2話で終わらせるつもりが長くなってしまい3話構成に・・・
今回は瀬長瑠衣Part2、その経緯です。
解決編は次回の予定です。
オリキャラが喋っているだけです、申し訳ありません(申し訳ないとは言っていない)




「やあ千耶ちゃん」

「お姉ちゃん、急に呼び出してごめんね」

 

 

ある日、私はかつての妹であり関東最大の広域指定暴力団 志賀組のトップ・志賀千耶(しかちや)に呼び出されていた。

 

 

「お、お嬢・・・・!」

「あ~もう男泣きしないでよ、暑苦しい。でも久しぶりね、神谷」

 

 

横にいるのは志賀組の若頭(No.2)の神谷省吾(かみやせいご)である。

 

 

「部屋住だった神谷がカシラとはね~時代が進んだわけだ」

「本当に有栖お嬢なんですよね・・・幽霊とかじゃ」

「まあ幽霊っちゃあ幽霊みたいなもんかなあ。その反応をしてくれるってことは千耶ちゃんから話を聞いて信じてくれたってことでいいのかな?」

「はい。半信半疑でしたが姐さんがそんな冗談言うわけないしと思ってきてみたら・・・」

「信じてくれたってわけね。

「お、お嬢~~~~~」

「だから暑苦しいっての」

 

 

神谷は私が志賀組の娘をやっていた時にわりと私がお気に入りだった。

そんな神谷がカシラになって千耶ちゃんのサポートをしてくれているのは心強い。

 

 

「さて、感動の再会を済ませたところで本題に入っていいかな」

「うん」

「すいやせん、姐さん」

「切り替え早ッ」

 

 

その合図とともに神谷は空気を切り替えた。

 

 

「神谷、お願い」

「はい。最近、ウチのシマの中で未成年の女性が被害に遭う犯罪が増えてまして」

「具体的には?」

「芸能関係の子が多いみたいです。そこそこ名の知れた現役アイドルから地下アイドルまで被害者は多岐にわたるようですが、共通しているのはAV女優になってるみたいですね。仕入れた情報によると未成年のうちにツバをつけておいて18になった瞬間、元アイドルの肩書を使って売り出しているみたいです」

 

 

神谷が持ってきた資料をみるとなるほど、確かにこれは・・・

 

 

「これが本当だとしたら夢見て頑張っている女の子を食い物にするクソ野郎なんでしょうけど組が動いているってことはシマ荒らされているとかそんな感じかな?カシラが直々に動くってよほどのことだし」

「イメージはそうなんですけど、ただここは事情が複雑でして・・・シマがあらされているというよりは・・・」

「・・・もしかしてルール違反?」

「さすがです、お嬢」

 

 

組内かあ~

そういえば志賀組は代々の方針で18以下の未成年には手を出しちゃダメって決まってたしなあ

 

 

「なるほどねえ・・・被害者はどこで調達してるの?」

「それで仮にそれを行っている奴をXとしましょう。そいつが芸能事務所に勤めている協力者を使っているようでして」

 

 

そう言って神谷が出した資料に書かれている芸能事務所名をみて私は目を見開いた。

 

「私を呼んだ理由がこれってことね」

「そうです」

「神谷、ここからが私が説明する」

「わかりました、姐さん」

 

 

解説役が交代し千耶ちゃんに移る。

 

 

「パスパレか・・・」

「そう。こちらで仕入れた情報によるとここのメインマネージャーがネズミね。そして次のターゲットは・・・白鷺千聖さん」

「どうやって情報を仕入れたかはまあ聞かないでおくけど・・・なるほど」

 

 

多分とても効率的な方法(周辺の奴を拷〇したり〇問したり)したんだろうけどとりあえずそれはどうでもいい。

でもそうか・・・

 

 

「だからお姉ちゃんは彼女を気にかけての周りで何か起きそうだったら知らせてほしいの。ちょうど彼女のサブマネージャーが産休に入るみたいだから組の関連会社から誰かを潜入させて・・・・」

「私がやるよ」

「え?」

「私が、やる」

「でもお姉ちゃん・・・」

「三度目を言わせるつもり?」

「!?」

「なんて威圧感だ・・・!」

 

 

千耶ちゃんも神谷も驚いている。

 

 

「でもお嬢、現実問題どうやるんです?お嬢はメンバーにツラ割れてるわけですし第一お嬢もこの世界では18。未成年じゃないですか」

「組で身分だけ用意してくれる?そうだね、偽造免許と偽の経歴・・・あとは関連会社の方の社員資格かな。3日後、もう一回話そう」

 

 

私は正直ブチ切れていた。

またしても私の平穏と大事な友達を脅かす奴が現れたのだ。

女優業を愛し、アイドル業を愛し、仲間を足夢を突き進む彼女を絶対に餌食などには絶対にさせない。

その日の話し合いはそれで終わり、私は準備に取り掛かった。

 

 

 

 

「こんにちは、志賀有栖さんの紹介で参りました瀬長瑠衣です」

「はじめまして。なるほど、お嬢の紹介ですか」

「見るからにやり手ね。それで、お姉ちゃん・・・有栖さんはどこへ?」

「・・・いますよ、目の前に」

「え・・・?」

「どこかしら・・・」

 

 

私は声を戻してもう一度いう。

 

 

「こんにちは、志賀有栖とイコールの存在・瀬長瑠衣です」

「え・・・?」

「ええええええ!?」

「神谷、声がデカいわ」

「す、すいません・・・って違うでしょ!?」

「ノリがいいのは昔と変わらないのね」

「本当にお姉ちゃんなの・・・?」

「だからそう言ってるじゃない」

 

 

数多の世界を歩く中で私は諜報員をやっていたこともあるので、その時に培った変装スキルと演技を発揮した次第だ。

そのことを話すと二人はめちゃくちゃ驚いていた。

 

 

「お、お姉ちゃん。やっぱりウチに来ない?」

「もう、それは断ったでしょ。それで、本題」

「あ、はい」

「私がこの姿で潜入するわ。学友としてちーちゃんの行動を把握してサポートするのは限界があるし・・・潜入なら最も近くにいられるし、メインマネージャーの動きも把握できる。そのうち黒幕の正体が分かれば一石二鳥よ」

 

 

そう、これは私がすべて直接動くことで一気にやってしまおうという脳筋的な思考である。

 

 

「もちろん、血なまぐさいのはイヤだから黒幕とメインマネージャーの”処理”は本業のあなた達に任せていいのよね?」

「それはいいですがお嬢人一人じゃ危険では・・・?」

「そうね・・・相手は極道とその息がかかったチンピラ。逆上されたり潜入がばれて襲われでもしたら・・・」

 

 

あ、その心配か。

 

 

「ねえ神谷。ちょっと腕試しをしましょう。実力を確認できればいいでしょ?」

「でもお嬢・・・」

「ええから。かかってきなさい」

「・・・!?」

 

 

流石本職。私の出した殺気を感じ取ったみたいだ。

 

 

「いいんですね?」

「ええ」

「お姉ちゃん、神谷はゴリゴリの武闘派でもあるのよ。本当に大丈夫?」

「みてればわかるわ」

「いきますよ!!!!!ってなっ!?!?!?!」

 

 

動く神谷、捕らえてぶん投げる私。以上。

投げ飛ばされてわけのわからなくなっている神谷と驚く千耶ちゃん。

 

 

「えっ!?いやいやもう一度!・・・ゴフッ!!!」

 

 

次は強烈な拳を神谷の体に一撃。そして即座に神谷は両手を上げた。

 

 

「ゴホッゴホッ・・・こりゃ敵いませんわ。多分、続けたら俺死にます」

「・・・そのようね」

「決まりね」

 

 

こうして私は志賀組の関連会社からの出向という形でパスパレの運営事務所に潜入することになった。

 

サブマネージャー・瀬長瑠衣。これがこれからの私の肩書だ。

ちなみに瀬長瑠衣は私が諜報員時代に使ってた偽名の一つで

「しか ありす」の名字を一音ずつ下げ、名前を上げて並び替えただけの捻りのない由来である。

「さお いるせ」→「せおさ るい」 

 

「しかしお嬢、血なまぐさいのイヤっていってますけど一体どんな修羅場潜り抜けてきたんですか・・・ウソですやん」

「あら?血なまぐさいのはイヤと入ったけどダメとは言ってないわ?」

「あ、はい」

 

 

さて、ミッション開始ね。

私はその後、変装をして作られた身分で潜入し、瀬長瑠衣としてちーちゃんのマネージャーになったのであった。

 




引き続きよろしくお願いいたします。


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第7話 志賀有栖の場合

ごめんなさい、今回で終わりかと思ったらめちゃくちゃ長くなったのでまだ続きます。
想像以上の大長編になってしまい驚いているのは本人という・・・・

というわけでドウゾ




「新サブマネージャーの瀬長 瑠衣(せおさ るい)と申します。以後お見知りおきを」

 

 

無事に事務所へ潜入した。軽く挨拶を済ませたがちーちゃんも私の変装を見破れないようだ。

 

 

「瀬長さん、どこかでお会いしたことないですか?」

「いえ?私は活躍を存じておりますが実際にお会いするのは初めてだと思います」

 

 

ファッ!?一瞬バレたかと思って冷や汗モノだよ。

流石はプロ、鋭い。なんとかごまかしたけど。

その後は別の世界(以下略)でマネージャー業務を全うした。

 

 

「瀬長さん、白鷺さんはどうですか?」

「やはりすごいですね。仕事に無駄がなく方々からの評判もいいです」

「それはなにより」

 

 

事務作業中に話しかけて来たのはメインマネージャーだ。

千耶ちゃんや神谷が言うところのネズミである。

 

 

「それは・・・白鷺さんのスケジュールかな?」

「ええ。色々と予定が立ってきたので作成しているところです」

「なるほど。そうだな、僕にも後で見せてくれるかな」

「どうしてですか?」

「いや深い意味はないよ。所属タレントのスケジュールくらいメインマネージャーが把握しているのもおかしくないでしょ」

「確かに」

 

 

ここで抵抗すると怪しまれるな・・・仕方ない

 

 

「承知しました。完成しましたらお送りいたします」

「ありがとう」

 

 

それだけ話してメインマネージャーは帰宅していった。

 

 

「そろそろかな」

 

 

昼は学友として、放課後はマネージャーとしてちーちゃんと接する二重生活も終わりが近いかもしれないね。

 

 

「まあ近くする、が正しいけどね」

 

 

私はスケジュールを組み込む中で、明らかな穴のスケジュールを作っておいた。

近いうちに奴らが動くなら、この穴を狙ってくるだろう。

私は完成したスケジュールをメインマネージャーに送り、諸々の準備をするために帰宅したのであった。

 

 

 

 

「今日は白鷺さん、本日はお疲れ様でした」

「瀬長さんも、いつもありがとうございます」

 

 

そして私が作った「穴」当日。

この日は他のメンバーより早く仕事が終わり、帰るには早すぎる時間。

そう仕事が終わるよう調整したのである。

 

 

「いえいえ、お礼を言うのはこちらの方ですよ。白鷺さんみたいなすごい人を担当させてもらって身が引き締まります」

「それは褒めすぎですよ」

「このあとは直ぐ帰られますか?」

 

 

さて、どう出るか。

 

 

「いえ、実はメインマネージャーに呼ばれていて」

 

 

どうやら綺麗に罠にかかってくれたようである。

 

 

「あ、そうなんですか。わかりました・・・あ、そういえばこれよろしかったら」

「これは?」

「白鷺さんが前に気になるけど売り切れで買えなかったって言ってた本です。たまたま売っていたのでもしまだ買っていなければ・・・」

「ありがとうございます、ちょうど今日も帰りに探しに行こうかと思っていたんです」

 

 

そういってとある一冊の本を渡す。

ちなみに本に挟んである栞に高感度の集音チップが仕込んである。

これで状況をうかがい、奴らが動いたらちーちゃんに危害が及ぶ前に突入して救出。果たして黒幕まで言ってもらえるかどうか・・・

 

 

「私はもう読んだのでまた感想を言い合いましょうね」

「ありがとうございます!あ、本代・・・・」

「大丈夫ですよ、役作りの資料購入費ってことで経費で落としてあります」

 

 

経費(極道のカネ)で買ったのは盗聴器もであるが。

 

 

「では、私はこれで」

「ええ、帰りもお気を付けて」

 

 

さて・・・・

 

 

「もしもし神谷?うん、今日動くみたい。ええ、後をつけてみるからこっちに向かって。場所が分かったら合流しましょう」

 

 

 

 

場所はある雑居ビル。こんなところに呼び出しちゃって・・・

メインマネージャーの呼び出しだし警戒心がないのも仕方ないとは思うけど。

私は神谷に所在地を送り。盗聴器を聞く。

 

 

------「まあ諦めてくれや。定期的にアイドルを間引きしてな、こうやってビデオ撮らせてもらうんだよ。ただ今のままだと未成年だから売りに出せない。まあでもこれを使って被写体をコントロールすることはできる。んで18になったら元アイドルの女優としてデビューさせんのさ」-----

-----「・・・なぜ私なんですか」-----

「そこにいるプロデューサーいんだろ?そちらの方は志賀組っていうヤクザのお偉いさんでな。その方が気に入った娘とヤるためにこの場を設けてんだよ。それが今回お前だったってだけの話しさ」-----

-----「ま、そういうことだ。子役の頃から見てるけど男の影ないし枕した形跡もなかったから処女だろキミ。そういう子を犯すのが私の趣味なのだよ」

-----「うへ~相変わらずロリコン外道すね~」-----

-----「所属アイドル売り飛ばして荒稼ぎしてるおめえに言われたくなねえなあ」-----

-----「「はっはっはっはっはっは!!!」」-----

 

はいビンゴー。志賀組の偉い人ってこれ黒幕確定やん。

なるほど、そういう理由・手口で被害者を呼び出していたのね。

 

 

「随分身勝手な理由ね。反吐が出るわ」

 

 

私は即座に雑居ビルの階段を駆け上がる。

その間にもことは進み、どうやら黒幕がちーちゃんに近づき始めたみたいだ。

 

 

「やーっとこの日が来た。長かったなあ」

 

 

潜入して1か月。長かったけど意外と早く尻尾を出したというべきか。

もっともネズミの尻尾は長いから最初からみえていたけどね。

 

 

「せ、瀬長さん・・・?」

 

 

そりゃ驚くわね。しかしちーちゃんの恐怖に歪んだ絶望した顔。

こんな顔をさせた奴らを許しておくわけにはいかないなあ。

 

 

「い、今まで私に見せてきた姿は嘘だったんですか・・・!?優しくしてくれたのはこの日のためだったんですか・・・!?」

 

 

変態共が迫る→わたし、参上→やっとこの日が来たとかぬかす→このシチュエーションを待ってました→被害者からみたらグルのクソ野郎

・・・・これはアカン

 

 

「ん・・・?あ~そういうことか。ごめんごめん。勘違いさせちゃったね。大丈夫、私は味方だよ」

 

 

あくまで冷静に、優しく語りかける。

瀬長瑠衣の声ではなく、慣れ親しんだ志賀有栖の声でね。

 

 

「え・・・・?貴女・・・そんな・・・!?」

「おい瀬長ァ!テメー・・・なんでここにいる!?」

「この現場を押さえるためですよ。そして親友を守るためかな」

「んだと!?」

「ちーちゃん、すぐ済ますからさ。怖いだろうけどちょっとだけ待っててよ」

「アリス・・・・アリスなの?」

 

 

さすがプロの女優。姿形は違えど声と雰囲気で正解にたどり着いたようだ。

 

 

「ごめんね、ワケあって黙ることになっちゃって。それにこんな危ない目に遭わせちゃって」

 

 

これは心底反省しているところであった。

本来はこの状況になる前にどうにかすべき。しかし今回の場合、極道が絡んでいるためネズミだけを叩いて強行突破するのは根元が断ち切れないため、弊害が出る可能性があった。

故に言い逃れのできない証拠を押さえ、神谷・千耶ちゃんという本職の元、コトを処理をする必要があったのだ。

 

 

「おいなんだテメエ。邪魔すんなよ」

 

 

そう言ってカメラマンが二人私に近づいてきて、肩を掴み凄んでくる。

うーんこいつもカタギじゃないね。

 

 

「邪魔すんなってセリフはね、私が言うべきセリフだと思うんですよ」

 

 

 

刹那、私は奴の持つカメラを奪い取り、死なない程度にぶん殴った。

女相手でナメてかかっているのか隙だらけで2人とも一撃。

意識を刈り取ることに成功した。

 

 

「その身のこなし・・・まさか本家の回し者か・・・?」

「ん~正解っちゃ正解。でも私はカタギよ?今回はちょっと協力しただけ」

「ほ、本家だと?俺のことが本家にバレているのか?」

 

 

黒幕と思しき奴がそういう

 

 

「バレているかどうかで言ったらバレてないよ(神谷が到着するまでは)」

「それなら瀬長、テメエの口を塞げば問題なさそうだな」

 

 

メインマネージャーが凄んでくる。

しかしこの雰囲気は本職ではないね。本当にただの協力者なんだろう。

 

 

「アリス!私はいいから逃げて!!」

「大丈夫だよ」

「でも・・・貴女に何かあったら・・・!」

「ん~この状況を作ったのがそもそも私だし。ちーちゃんならわかるでしょ?そういうことよ」

「・・・・!」

「耳を塞いで、目を閉じていてくれるかな」

 

 

 

ちーちゃんはとても複雑そうな表情を見るに理解はしたけど・・・といった具合だ。正直、かなりひどいことを言っている自覚はある。

でも仕方ないのだ。ちーちゃんを完全に安全な、日の当たる世界で居続けてもらうためにはこうするしかない。

瀬長瑠衣として潜入すると決めたときには、悪になる覚悟はとうにできているのだから。

 

 

「さて、罪状の確認をしましょう。メインマネージャー、あなたは立場を濫用してそこのヤクザと結託してタレントを堕としていた。そしてそっちのヤクザは自らの欲望を満たすためにタレントの女性を蹂躙し、それに飽き足らずAV業界で荒稼ぎをしていた。間違いないないかな?」

「それがなんだってんだ?ビジネスってものはよ、誰かの犠牲の元成り立つもんだろ?」

「確かにね。ビジネスは一筋縄ではいかない。誰かが笑う一方で誰かが泣くこともある。でもそれは真っ当なビジネスの場合。あなたのように非合法で人の心を踏みにじる行為はビジネスとは言わない。ただの外道の犯罪行為よ」

「知った口をきいてるんじゃねえ!」

「こっちは色々知ってんだよ」

 

 

私は迫ってきたメインマネージャーの首を真正面から掴み、そのまま持ち上げた。

 

 

「ぐ、がががががががががが」

「人一人を持ちあげる力で首を締め上げているんだもん。苦しくて仕方ないでしょうね」

「は、はなしでぐれええええええ・・・・ヤメテ・・・ヤメ・・・」

「あなたが今まで堕とした被害者たちは一回もやめてって言わなかったのかな?でも言ったとしてもやめてないよね。権利ばかり主張しやがって義務を果たせよコラ」

 

 

そしてそのまま壁に顔面を叩きつける。

その後、奴は鼻血を噴き出して意識を失った。

 

 

「オイ女。テメエ、タダ者じゃねえな。何モンだ」

「私はカタギだよ。それ以上でもそれ以下でもない。ただの友達想いの女の子」

「んなワケあるかよ。この迫力、いったいどれだけ修羅場をくぐってきたら身につくんだ?」

「ご想像にお任せします」

「フン。まあいい。俺はそこの雑魚とは一味違うぞ」

 

 

懐からドスを出し、雰囲気を一気に”本職”に変えてきた。

私も構えたのであるが、そこで状況が変わった。

 

 

「おう柿本。カタギ相手に結構なモン向けてるじゃねえか」

「神谷のカシラ!?」

 

 

こいつ、柿本って名前なんだ。

神谷が来たようね。うん、私の仕事はここまでか・・・

できればこいつをぶちのめしたかったけど、ちーちゃんもいるしこの辺にしておくか。

 

 

「ってお嬢・・・あ~もう派手にやっちゃって。血なまぐさいのはイヤじゃなかったんですか?」

「だーかーらーイヤだけどダメじゃないって」

「それ屁理屈じゃないすか」

「あー!屁理屈っていった!神谷、あんた何でもかんでも屁理屈で片付けるオッサンになってるわよ?」

「誰がオッサンですか!?・・・まあいいです。あとは俺でやります。その子を連れて逃げてください」

「りょーかい」

 

 

耳を塞いで震えていたちーちゃんの元へ向かうべく背を向けたのであった。

 

 




引き続きよろしくお願いいたします。


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第7話 また、始まる

4部構成になったこの回、今回で終わりです。
よろしくお願いいたします!!


「ちーちゃん、逃げるよ」

「・・・アリス」

 

 

震えるちーちゃんの手を取り、立ち上がらせる。

彼女は少し落ち着いたようでなんとか歩行できるレベルにはなっているようだ。

 

 

「ごめんね」

「どうして謝るの・・・?」

「どうしても。詳しいこと、ちゃんと話すから。ひとまずここから離脱しよう?」

「・・・わかったわ」

 

 

ちーちゃんはしっかりと立ち上がり、私と手をつなぐ。

 

 

「神谷!あとは任せるわよ!!」

「はい!若い衆を下に待機させてるんで、お嬢たちが出ると同時に突入するように指示してあります!!」

「OK、あとは頼むわ」

 

 

これで安心だ。柿本という組員は若頭直々に粛清され、あのメインマネージャーもタダでは済まないだろう。

これでちーちゃんを脅かすものはなくなる。安全に日の当たる場所を歩かせてあげられるんだ。

 

 

「逃がすかボケエエエエエ!」

「!?」

 

 

パァン!!!!

 

 

突然叫ぶ柿本。

鳴り響く破裂音。

熱くなる肩。

 

 

「テメエエエエエ柿本おおおおおお!」

「アリスううううううう!!!」

 

 

神谷は激昂し、柿本を一撃で沈める。

ちーちゃんは涙で顔をボロボロにして私の名前を叫ぶ。

 

 

「やってくれたなあ」

 

 

状況を確認する。

うん、左肩を撃たれたようだ。

熱さと共に自覚したことで痛みがどんどん増してくる。

幸い、出血は少ないようだがこりゃ撃たれた左肩は当分使えそうもないねえ・・・

 

 

「ちーちゃん、そんな顔しなさんな」

「でも・・・でも・・・!」

 

 

こういう時って撃たれてそのまま意識を失って目を覚まさなくて・・・

ってのがセオリーだとは思うんだけどね。

すまんな、あいにく私はそこまでヤワじゃなあない。肩を撃たれた程度で意識を失うこともなければ痛みでのたうち回ることもない。

アドレナリンを分泌させまくってある程度は痛みが軽減されている。

痛いっちゃあ痛いけどね。

 

 

「神谷、そっち片付いたならもう若い衆呼んでさ、そいつら回収させてよ」

「お嬢、大丈夫なんですか!?すんません、俺がついておきながら・・・」

「大丈夫とは言えないかもだけどお前が考えているほど酷くはないかな。ついでといっちゃなんだけど弾丸摘出してくれる病院紹介してくれる?」

 

 

所謂、闇医者というやつだ。

病院には暴力団関係者をお得意様にしている闇医者がいる。

志賀組程の巨大組織なら間違いなくいるだろうからそこで秘密裏に摘出をしてもらおうというハラである。

 

 

「わかりました、ウチの若いのにつれてかせます。そちらのご友人はどうなさいますか?」

「さすがにちーちゃんを若いのに送らせるのはまずよなあ。芸能人とヤクザって一番繋がってちゃいけないし。タクシー呼んであげてよ」

「わかりました。オイ!話は聞いてたな!?」

「ハイ!!」

 

 

若いのが元気よく返事をする。

 

 

「悪いですね、お手を煩わせてしまって」

「いえ!姐さんやカシラからVIPの方だと聞いておりますので!!」

「ありがとう」

 

 

若いのに微笑みかけると少し顔を赤くする。

あらやだ、可愛い子。

 

 

「じゃあちーちゃん、ごめんだけどここでいったんお別れ。詳しいことは落ち着いたら話すね。あと多分1週間くらい学校休むと思うけど心配しないでね」

 

 

私は返事を聞かずにそのまま病院へ向かった。なんとなくこれ以上話すのが気まずかったのだ。

別れ際、ちーちゃんはどうしたらいいかわからない困惑した表情だった。

 

 

 

 

志賀組に紹介してもらった病院で弾丸摘出をした私は数日入院することになった。

当たり所が良く神経も傷ついていない、さらに回復威力が高いようで医者には撃たれてこの軽傷なのは奇跡とまで言われた。

本当は入院は煩わしいと思ったが千耶と神谷が安静にしろと譲らなかったので諦めた。

ちなみに私が撃たれたことにより千耶ちゃんは神谷を処罰するつもりだったみたいだけど、参加したこと自体私の意思で自己責任だったわけで、それはやめてあげてと申し上げたところ、渋々承諾してくれた。

 

 

コンコン

 

 

病室のドアをノックする音が聞こえる。

 

 

「どうぞ」

「失礼します」

 

 

やってきたのはちーちゃんだ。

今日この日、しっかりと話すということで来てもらったである。

 

 

「ごめんね、こんな格好で」

 

 

腕を吊っている私を見てちーちゃんは酷く痛ましい顔をする。

もうそんなに痛くないのに。

 

 

「まずはごめんなさい。あの場は慌ただしくてしっかり言えなかったから」

「いいのよ・・・アリスが無事なら。傷は・・・?撃たれたときは私が倒れそうだったわ」

「大丈夫よ、ありがとう」

 

 

微妙な空気が流れる中、私は息を吸い込み話を始める。

 

 

「あの日のこと。黒幕とメインマネージャーを吊り上げるためにちーちゃんを囮に使う形になった。でもそれしかなかった。言い訳になっちゃうけど」

 

 

実際、あの時メインマネージャーだけを叩いていたら黒幕の柿本はメインマネージャーを切り捨てて違う協力者を作っただけだろうし、そうなるとちーちゃんが危険に晒された状況を改善できず、手っ取り早く黒幕にたどり着くにはこれが最善だったと今でも言える。

 

 

「なんでアリスだったの・・・?」

「それはね・・・」

 

 

志賀組から協力の要請があったこと。本当は志賀組が別の潜入要員を用意するはずだったところを私が請け負うことを申し出たこと。

そのあたりを話すと理由が分かって少し納得したようだ。

 

 

「話はわかった。確かにそういう事情なら私を囮にするのが最善ね。アリスじゃなくてもそうなってたから結果は変わらないと思うわ。でも・・・私が聞きたいところの本題はそこじゃない。私が全く気付かないハイレベルな変装スキル、あの強さ。そして志賀組との関係。一体貴女は何者なの?もしかして志賀組の構成員とかなの?」

 

 

そらきた。本題だ。

 

 

「私は極道じゃない。名前が一緒なのにも理由がある。・・・これを友達に話すのは初めてだけどさ。多分すごく突拍子もなくて信じられない話だと思う。それでも最後まで聞いてくれるかな?」

「わかったわ」

 

 

私は一つずつ話す。私という存在が何なのか、数多の世界を渡り歩いた経験をそのまま持っていることや、志賀組の面々との関係。

 

 

「・・・というわけ」

「・・・・・」

 

 

ちーちゃんは黙って俯いてしまう。

 

 

「からかっているの・・・?」

「そりゃそういう反応になるよねえ普通」

 

 

まあある意味当然である。

 

 

「私は真面目に話に来ているのに、何よ。意味がわからない・・・わからないわ!」

「ごめんね。でもこれ以上言いようがない。私にとってそれは真実だから」

 

 

まっすぐ目を見据えてちーちゃんを見る。

それに対しちーちゃんも私の目をしっかりと見る。

そのまま数十秒、にらめっこ状態が続いたのだが、沈黙を破ったのはちーちゃんだった。

 

 

「ごめんなさい」

「え、なして謝るの」

「試させてもらったの。信じられない話だったから。でも貴女は翻すこともなく私の目をしっかりと見据えた。・・・・突拍子もなくて現実味のない話。でも私は信じる。貴女という人間性や現実に起きたことを加味すると信じるしかないわ」

「そっか。ありがとう」

 

 

ようやく、緊張していた雰囲気が和らいだ。

ああ、やっぱりちーちゃんはちーちゃんだなあ

 

 

「だからといって私たちの関係が変わるわけじゃない。私はいつも通りのただの志賀有栖。それ以上でもそれ以下でもないからね。それでいいかな?ちーちゃん」

「ええ。この身に起きたことはあまりに衝撃的だけど、もう大丈夫」

「よかった。あ、でもこれだけは約束する。私は絶対にちーちゃんの味方だからね。またちーちゃんが危ない目に遭ったり、悪い大人に利用されそうになった全力で助けるから」

「ありがとう。そういう状況が来ないことを願うわ」

「あはは、確かに!」

 

 

その後、私はしばらくちーちゃんと久方振りの雑談を楽しんだ。

 

 

「学校への復帰はいつから?」

「来週明けには。ほんとは今すぐにでも退院したいくらいなんだけど」

「やたらタフね・・・じゃあ、私は帰るわね」

「うん。また学校で」

 

 

そういってちーちゃんが退室した。

ふ~・・・なんとかなった。秘密を知る人が増えてしまったけどそれがちーちゃんでよかったのかもしれない。

 

 

「おーい、神谷。盗み聞きはよくないぞ~」

 

 

実はさっきから病室の外に暑苦しい男の気配を感じていたのでそれに向かって声をかける。

 

 

「うっうっうっ・・・女の子の友情っていいですね・・・お嬢もよかったですねえ・・・ううううう」

「あっつくるしいわ!でもま、今回は色々ありがと。おかげで何とかなったわ」

「なにをおっしゃいますか、お嬢にケガまでさせちゃって。しかも姐さんに恩赦まで・・・」

「それは私の自己責任だから。で、その後は?」

「柿本は粛清、メインマネージャーは永久契約でゲイ専門の風呂に沈めてやりました。奴らが持っていたAV会社も潰してルートを完全に断ち切りました」

「えげつなっ!まあでもそれくらい当然か~」

 

 

結果良し。

というわけで今回の騒動はこれにて落着。

普通に過ごすつもりがやれ芸能界の闇だのやれ極道だのスケールがどんどんでかくなちゃった。

 

 

「おはよう、アリスちゃん。一週間も休んで・・・ってその腕どうしちゃったの!?」

「おはよう、あやちゃん。いやー階段から落ちちゃって。受け身とたっらこのざまよ」

「おはよう、アリスちゃ・・・どうしたのそれ!?」

「おはよう、かのちゃん。いやー階段(以下略)」

 

 

退院し学校に復帰した。声をかけてくるみんなは腕を吊っているのに驚いているようだ。

 

 

「おはよう、アリス」

「おはよう、ちーちゃん」

 

 

笑顔のちーちゃん。

それは曇りがなくいつも通りのちーちゃん。

この笑顔を守れただけでも、よかったと思う。

 

 

「教室まで一緒にいきましょう。カバンを持つわ」

「うん、ありがと」

 

 

さあ、また新しい日常が始まる。いつも変わらない日常が。

でも私は気づいてしまった。多分私は平穏に過ごすためにこの世界に来たのではなく、友達に降りかかる危険から友達を守るために来たんだなって。

それでも私はこの世界が好きだ。というわけでいつもの、やっておこう。

 

おはよう、私の愛す世界よ。

 

 

 




日常回にするといっておきながらクッソ黒い話になったり、2話で終わらせるといっておきながら4分割したり大嘘つきまくった今回、ようやく終わりです。
気付いている方も多いかと思いますが、千聖は有咲と同じく特別な立場が与えられたヒロインの一人でした。
今後どのキャラが抜擢されるかはどうぞお楽しみに。
引き続きよろしくお願いいたします。


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第8話 こころこねくと

前回までが真っ黒だったので今回は平和です!




「お食事会の付き添いですか?」

「ええ、実はこころが社長令嬢の食事会に招待されてるんだけどね。こころはいい意味でも悪い意味でも個性的だろう?中には悪意を持って近づいてくる令嬢もいるかもしれないからね。有栖ちゃんさえよければ付き添いをしてあげられないかい?」

 

 

ある日、突然黒服の方々に囲まれたと思ったらある会社の社長室にいた私。

目の前にいる弦巻さんからそんな話をされた。

 

 

「主催者のお嬢さんがライバル会社社長の娘さんでいつも断っているんだけどね。しかしあまり無下にもできない。もしかしたら娘に新しい友達もできるかもしれないしね」

「いいですよ。私もこころさんが良くない目に遭うのは不本意ですし」

「助かるよ」

「弦巻さんにはお世話になっているのでこんなことでよければ。それに実は・・・」

 

 

弦巻さんはこの世界での私の父の親友らしい。

父と母が事故で亡くなった時も相続やその他諸々で助けてくれて、遺産にすり寄ってくる有象無象も対処してくれたようだ。

そのおかげで私は両親の財産を問題なく想像できて、相続税などの問題も弦巻さんがやってくれた。

私は一人っ子だったため、一生使いきれない資産と父が経営していた会社の株も父と母の持ち株をすべて相続したため、筆頭株主という立場を手に入れたわけである。

そんなこともあり私はこの人に大きな恩があるわけである。

 

 

「実は私のところにも招待が来ていたんで。スルーしようと思ってましたけどそういうことなら」

「そういうことか。有栖ちゃんはもステータス的には参加資格は十分だし頼むよ」

 

 

 

 

 

「こころ、わからなかったら私がやるし周りがなんて言おうと気にしなくていいからね」

「何が起きるのかしら?ワクワクするわ!!」

 

 

うーん・・・

わかってねえやこれ。ま、露払いは私がしますか~

 

 

「今日はお集まりいただいてありがとうございます。楽しんでいってください」

 

 

主催者の令嬢がそういう。

テーブルには5人

主催者令嬢、お仲間の令嬢2人、私、こころちゃんだ。

メンバーの下調べは済んでいる。

お仲間の令嬢はどうやら主催者令嬢の父が経営する会社の役員の娘たち。

つまり3人は完全に派閥と考えていいだろう。

 

 

「ようやく弦巻こころさんと志賀有栖さんにお会いできて光栄ですわ。招待してもなかなか来てくださらないんですもの」

「申し訳ありませんわ、色々と忙しくて」

「さすがあの会社の筆頭株主様は違いますわね」

 

 

嫌味っぽく言われる。

どうやら友好的な食事会ではないみたいね。

 

 

「弦巻さんも、ようやくお会いできましたわね」

「あなたは誰かしら?」

 

 

おおう、いきなり爆弾投下してるやん・・・

 

 

「弦巻と比べたらわたくしなど名前を覚える価値もないと・・・?」

「あら?どうかしたのかしら??お腹が痛い時の顔してるわよ???」

 

 

すげえ!こころちゃん天然で嫌味に迎撃してる・・・そしてクリティカルしてるわ

取り巻きの令嬢も”まあなんて失礼な”って顔してるし。

しかしこれでは進まないのでここは空気を切り替えよう。

 

 

「まあまあご挨拶はそれくらいにしておいてお食事にしましょう」

「コホン、そうですわね」

 

 

令嬢は手を上げてスタッフを呼ぶ。

 

 

『いつものをいただけるかしら』

『かしこまりました』

 

※『』会話は外国語で会話していることを表しています。

 

 

「あら?どうかなさいました?このお店では英語でオーダーするのが決まりでしてよ?」

「あら、そうなの?困ったわ、あたしは英語が話せないもの」

「まあまあそうですの!仕方ありませんわね、ここはわたくしが代わりにご注文して差し上げますわ!!」

 

 

こころちゃんの返しに水を得た魚のように元気になる主催者令嬢。

あ~やっぱそういうことね。

 

 

「そうですわね、せっかくなのでお願いしましょうか。あ、でもその前に・・・ご注文するもののメニューをご説明いただけます?もしかしたらアレルギーがあるかもしれないので・・・」

「え!?ええと、その・・・・」

 

 

私はそういう。

 

 

「まあ!アレルギーは大変ですわね。私はいつも主催者令嬢さん(仮名)にお任せしていますので・・・・」

「わたくしも・・・」

 

 

取り巻きたちがそういう。

 

 

「どうかしたのですか?」

「ええと・・・」

『ま、ろくに英語も話せないくせにマウントをとろうとするからそうなるのよ』

「え・・・?」

 

 

私が突然流暢な英語を話し出したので驚いているようだ。

そもそもこの食事会自体、主催者令嬢が私やこころちゃんにマウントを取るために開催されているもの。

英語を話せない私たちの代わりに華麗に振る舞い、英語を話せないことをバカにしつつマウントをとる。そんな計画のようだ。

ぶっちゃけ彼女の英語は発音が怪しいし、なんというか文章を”丸暗記しました”という感じがわかる。つまるところ彼女は簡単なビジネス場面でのあいさつ程度の英語しか話せない。

おそらくレストラン側に事前に話を通しておき、ヘタクソな英語で”いつもの”といえば料理が出る仕組みにしておいたんだろう。

故に彼女はどんな料理が出てくるか知らない、だから私の質問に困惑しているのだ。

さらに言うと私がさっき英語でいったことも理解できていないだろう。

 

 

『え?わからないのかしら??はぁ~マウントをとるならもっと英語を勉強してからしなさいな。あなた、最高にカッコ悪いわよ』

「え?え?」

「主催者令嬢(仮名)さん、志賀さんはなんとおっしゃってますの?」

 

 

取り巻きが追い打ちをかける。

 

 

『あなたに聞いてもラチが明かないわね』

 

 

そういってスタッフの方を向き直る。

スタッフは必死に笑いをこらえている様子だった。

 

 

『と、いうわけで彼女の注文したメニューの解説をしてくれるかしら?』

『かしこまりました。メニューは・・・』

 

 

メニューの解説を聞いた。まあ内容はどうでもよかったので適当に聞き流したわけであるが。

 

 

『ありがとう。そうね、ノンアルコールワインはあるかしら?あいにく未成年だから・・・メインディッシュのステーキにあうものがいいわ』

『でしたらこちらのメニューの・・・これがおススメです』

『いいわね。彼女たちにも同じものを頼めるかしら?』

『かしこまりました』

「主催者令嬢さん、全員同じものでよろしいでしょうか?」

「え!?あ、はい・・・」

『と、いうわけで”いつもの”を全員分と私がさっきいったワインを人数分、頼むわね』

 

ニヤッと笑ったスタッフはオーダーを取り終えて下がっていく。

きっとバックヤードは爆笑の渦になっていることだろう。

 

 

「ノンアルコールのワインを勝手に注文してしましましたわ。今日の出会いに感謝して私から皆様にご馳走いたしますわ」

「~~~~~~~~//////!!!!」

 

 

余裕たっぷりな感じでそういうと主催者令嬢は顔を真っ赤にしてプルプル震えていた。

 

 

「・・・・・」

「・・・・・」

 

 

どう反応していいかわからない取り巻きたち。

 

 

「まあ!アリスは英語が上手なのね!!」

 

 

ひとりいつも通りのこころちゃん

 

 

「さあ、いただきましょうか」

 

 

こうして、運ばれてきた料理たちを前に、食事会をはじまった。

主催者令嬢は終始おとなしく、平和に平和に終わったのであった。

 

 

うん、平和だなあ。ごはんは美味しかったし久々にこころちゃんと遊べたしマウント令嬢っていうオモチャでも遊べたしたまにはこういう日があってもいいわね。

 

おはよう、私の愛す世界よ。

 

 

 




平和だってでしょう?
というわけで引き続きよろしくお願いいたします!!


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第9話 うおおおお!僕アルバイトオオオオ!

お久しぶりです。リサ回です。

前回はこころ回でしたね。


「リサ~、きたよー」

「アリスー!ごめんね急に」

 

 

私はコンビニでここの制服を着てスタッフルームにいる。

目の前にいるのは今井リサちゃん。羽丘の3年生で私の友達。そして紗夜ちゃんとりんりんちゃんのバンドメンバーでもある。

 

 

「いや~急に悪いね~」

「モカちゃんがああなっちゃ仕方ないよね」

 

 

そう、リサはこのコンビニでバイトをしているのであるが、相棒の青葉モカちゃんがインフルエンザになってしまい出勤停止に。

他のバイトの人もたまたまシフトの調整が合わず、このままではリサのワンオペになってしまうため、時間限定で私がバイトに入ることになった。

 

 

「一通りの業務はできると思うけどわからなかったら教えてね」

「即戦力助かる~~!」

 

 

そんなこんなで業務を人並みにこなしているわけである。

 

 

「いや~この手際の良さは人並みのレベル超えてるなあ~」

「人の心を読むのはマナー違反だぞ~?」

 

 

そこそこ忙しくわりと楽しく仕事をしているが、やはりコンビニ。老若男女色んなお客さんが来る。

しかしこのあたりは治安がいいのかマナーのいいお客さんがいいように思える。

 

 

「リサちゃ~ん、すまんけどまた教えてくれんかね?」

「はーい。これの操作難しいですよね~」

 

 

リサに至っては常連と完全に顔見知りとなっており、今日もコピー機を使いに来たおばあちゃんの相手をしている。

 

 

「はい、おつり300円です。ありがとうございました!」

「きゃあ~アリスお姉さまからおつり貰っちゃった!!」

「あはは~そりゃおつりですもの」

 

 

私がここでバイトしているとどこから話が広がったのか、同じ学校の子たちがこうやって来てくれることも増えた。

 

 

「あの・・・これ・・・」

 

 

何故か連絡先の書かれたメモを渡されることもある。

こちらに関しては後日謝る形になっているけど。

そんなこんなでバイトを始めてあっという間に1週間が過ぎて、インフルエンザの隔離から解放されたモカちゃんももうすぐ復帰するらしい。

 

 

「お会計1000円です」

「1万円でお願いします」

 

 

ホットスナックの在庫を整理しているとリサがあるお客さんの相手をている。

 

 

「9000円のお返しですありがとうございました!」

 

 

リサがそのお客さんを見送ると、その人は即座に戻ってきた。

 

 

「あのおつり9000円ですよね?」

 

 

そういってお客さんが見せてきたのは千円札が4枚。4000円しかなかった。

 

 

「え?アレ??」

 

 

リサが困惑する。

 

 

「いや困りますよ」

「しかし確かにお渡ししたかと・・・」

「そうはいっても実際手元に4000円しかないわけですよ。店外には出ていませんし目の前にあるのが事実では?」

 

 

なにやらもめている。

ちょうどホットスナック商品の整理が終わった私はレジに合流することにした。

 

 

「どうかしましたか?」

「さっきお会計して9000円のおつりを私つもりだったんだけど4000円しかないっておっしゃってまして・・・」

「そうですよ。受け取って店を出ることなくすぐ戻ってきたんです」

「なるほど」

 

 

ん~なーんか怪しいなあ

リサがそんな単純なミスをするはずないし。

しかしだからといってこの状況で判断するのは難しいところ。

 

 

「もういいです。貰った貰ってないを言い合っても仕方ないし、商品とおつりは返すので1万円を返金していただけますか?」

「そうですね~・・・」

 

 

リサは判断しかねるといった様子。

仕方ない、ここは私が出ますか。

 

 

「うーん。札数の確認はしたんですよね?」

「はい。でもお客様の前でしたわけじゃなくて」

「なるほど」

 

 

これは・・・多分クロ。

いくらなんでも札の枚数を間違えることはあっても5000円の抜けを見逃すわけない。

 

 

「お客様、申し訳ございません。一度レジ上に設置されている防犯カメラの映像を確認してもよろしいでしょうか?」

「なんだよ、疑うのかよ」

「お客様を一方的に疑っているというわけではありません。当店のスタッフがお札の枚数を数えている映像もあると思うので、お客様のおっしゃるように当店のミスでしたらその映像もあるはずなので・・・それを確認するためにも少しお時間をいただけないでしょうか?」

 

 

この手のクレーム対応の基本。

それはどちらかを一方的に悪いと決めつけるのではなく、あくまで「どちらが悪いのかわからない」「確認するのはお客様のためでもある」というスタンスを崩さないことだ。

 

 

「人を疑うということはそれなりの覚悟があるんだろうなあ?あ?」

 

 

とはいったもののこの客にはそんな配慮は無意味だったようだ。

声のトーンは完全に脅しにかかっている。こっちは女子高生2人。凄んでゴリ押しすればなんとかなると思っているのかもしれない。

 

 

「その結果当店のミスであった場合は誠心誠意謝罪いたします」

「謝罪だけで済むかね~」

 

 

なんて強がっているが明らかに焦っている雰囲気が伝わってくる。

 

 

「一応、上席に連絡の上確認を行います。少々お時間をいただきますね。今井さん、店長に電話してきていただけるかしら?」

「は、はい」

「あーもうめんどくさい。時間がないんだ。もういい。5000円は諦めるから俺は帰る!」

「お待ちください!」

 

 

私はカウンターの外に出て客に近づく。

 

 

「近寄るな!」

 

 

バシン!

 

 

反社的に男の手が動き、その手が私の頬に命中する。

 

 

「アリス!?」

 

 

リサが心配そうに声を上げる。

大丈夫だよリサ。命中“した”んじゃなくて命中“させた”んだから

 

 

「うおおおおお!僕アルバイトオオオオ!」

 

 

わりと余裕があったので少しネタに走ってみた。え?知らない?検索してみなされ。

 

 

「な、なんだよ!お前が勝手に近寄ってきたんだからな!ちくしょう、あんま調子に乗るとぶっ殺すぞ!本部と通っている高校にもクレーム入れてやるぞ!?」

「暴行と脅迫の現行犯です。逮捕します」

「何!?いでででででで!!!」

「リサ!警察に電話を。客が店員を殴って私人逮捕したって言えばいいから。その後店長にもお願い!」

「わかった!」

 

 

私はその男を締め上げ、制圧する。

 

 

「放せ!ガキがこんなことしていいと思っているのか!?」

「法律の則った行為ですよ」

 

 

逮捕と聞くと警察官が犯罪者を・・・というイメージが大きいが実は法律上、私人逮捕といって警察官以外の市民でも逮捕を行うことは可能だ。

ただしそれは現行犯に限られているし、身柄誘致(引渡し)できる警察官の役職にも決まりがある。通報したけど無資格の警察官が来ても困るので通報時に私人逮捕をしたと伝えるのはわりと重要なのだ。

 

 

「おおかた、女子高生相手だからと油断していたんでしょうけど、残念ですね」

「クソッ!クソッ!なんでだ!?ピクリとも動かない!!」

 

 

そして集まってきた野次馬や常連たちも加わり男は完全制圧。

そのまま警察に引き渡されていったのであった。

 

 

 

 

「アリス、頬っぺた大丈夫?」

「うん。ちょっと赤くなっただけだよ。リサこそお疲れさま。大変だったよね」

「いやいや、アタシあたふたしてただけだし」

 

 

警察に男の身柄が引き渡されたあと、私たちはスタッフ控室にいた。

ひとまず業務は一旦停止で私たちは警察の事情聴取のための待機である。

警察は駆け付けた店長と一緒に防犯カメラ映像の確認をしている。

 

 

「うう~事情聴取なんて初めてだから緊張するなあ~」

「そうたいしたもんじゃないよ。今回は被害者だしありのまま起こったことを話せばいいのよ」

「なんか慣れてるなあアリス」

「そんなことないよ」

 

 

まあ実際こちらは未成年の女子高生。被害者。さらに防犯カメラにばっちり証拠が収められているだろうから多分危惧することはない。私人逮捕も問題ないようにふるまったはずだ。

 

 

「お待たせしました。やはり今井さんは間違いなく9000円のおつりを渡していました」

 

 

カメラの確認を終えた店長が警察官とやってきてそう告げる。

 

 

「よかった~間違えてないつもりだったけどやっぱり不安だったあ~」

「よかったね、リサ」

「ご協力感謝いたします。ちなみに志賀さんへの暴行、脅迫の映像もバッチリ撮れていたので、このまま男は警察で引き取ります」

 

 

これであの男は詐欺未遂、暴行、脅迫の3連コンボか。こりゃあお先真っ暗だなあ。

警官の話を聞くところによると、どうやらおつりを受け取って振り返った瞬間5000円を懐に入れてすぐさま振り返って・・・という手口だったらしい。同様の手口が近隣でも多発していたらしいので、おそらく詐欺の既遂もいっぱい加わるだろうなあ

 

 

「しかし志賀さん、いくら何でも危険です。今度からは下手に前に出ないようにしてすぐ警察や私に連絡してくださいね」

「あはは、すみせん」

 

 

 

店長に怒られてしまった。

 

 

 

「それではこれから署で事情聴取を行いますので、店長さん、申し訳ありませんがお二人をお借りいたします」

 

 

あらら~店長ワンオペになっちゃうわね。

店長も仕方ないかさすがに・・・って顔をしている。

 

 

「じゃあリサ、一緒に行こうか」

「うん」

 

 

こうして警察署にパトカーで向かい、事情聴取が終わることには夜になっていた。

リサはお母さんが迎えに来ていて、私は迎えてくれる人なんていないので一人で帰ることにした。

 

 

「アリスは一人暮らしなんだっけ?」

「そうよ~」

「せっかくだし今日ウチこない?お母さんもお礼がしたいって」

「そうよ~アリスちゃん大活躍だったみたいね!せっかくだし晩御飯どうかしら?」

 

 

リサとリサママがキラキラの笑顔で提案してくる。

 

 

 

「そうですね~・・・うん、ではお言葉に甘えようかな。よろしくお願いします」

「せっかくだから友希那も呼ぼっか」

 

 

 

 

 

「うっ・・・うっ・・・リ、リサ・・・辛いよお・・・・」

「あ、アリス・・・アタシも・・・もう無理・・・」

「どういうことかしらこれは」

 

 

友希那がやってきて第一声がこれである。

なぜかって?私とリサが目から涙をボロボロ流しているからである。

 

 

「ゆ、友希那・・・・」

「な、なにかしら・・・?どこか痛いのかしら・・・?」

「タ マ ネ ギ 切 っ て た か ら く っ そ 目 が 染 み る ん よ」

「・・・・心配を返してちょうだい」

 

 

 

夕飯の支度を手伝うことになった私とリサはタマネギの皮むきとカットを担当していたからね、こうなるのも仕方ないね。と、いうわけでそのあとは楽しいお食事会であった。

しかしあれだなあ・・・なんか行く先々で友達がトラブルに巻き込まれるのってやっぱ"こういう世界"で私の役割だからなのかなあ・・・・

 

 

 

「やっと私の出番かと思ったらこれだけなんてあんまりじゃないかしら」

 

 

 

食事が終わり解散、というところで友希那がなんかメタ発言しているような気がしたけどきっと気のせいよね。

彼女にはまた舞台が用意されることだろう。

というわけでおはよう、私の愛す世界よ。




評価を頂いた方ありがとうございます!高評価でも低評価でもそれだけ読んでいただけているということなので嬉しいです!
ちなみに今回の話は実際に起きてニュースにもなった詐欺の手口を使用しています。皆さんもお気をつけください。
今後も不定期になりますが少しでも皆様に楽しんでいただけるよいうに頑張りますので引き続きよろしくお願いいたします!


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第10話 ガレット・デ・ロワとセクシーサンタ

クリスマス回です。
1か月遅れで申し訳ありません・・・
平和回です。はっちゃけ気味です。



「いえーい!メリークリスマース!!」

 

香澄ちゃんの元気な声が響き渡る。

そう、ここは市ヶ谷家の蔵。私はポピパのクリパにお邪魔させてもらっているのである。

え?なんでこの時期にクリパかって?クリスマスイブから書き始めたくせに筆者が遅筆過ぎて気が付いたら1か月経ってたんだよ、言わせんな。

 

 

「いや~香澄ちゃんは元気だね~でもよかったのかな。部外者の私がお邪魔しちゃって」

「全然大丈夫です!!むしろ来てもらえて嬉しいです!!」

「そうだね~アリスさんならいろんなところからお誘い来てただろうし」

 

 

沙綾ちゃんの言う通り、実は他からもお誘いはいただいていたのであるがポピパにお誘いいただいたのが一番早かっただけという極めて単純な理由である。そういえばハロハピのクリパに誘ってくれてたかのちゃん、断ったらこの世の終わりのような顔してたなあ・・・

あとでフォロー入れとかなきゃ。

 

「ま、いいってことよ。とりあえずお料理を運ぼうか」

 

お料理は私と沙綾ちゃんで担当した。市ヶ谷家のキッチンを借り出来上がったものをみんなで運ぶ。一通りクリスマスらしい料理は揃えることができただろう。

 

 

「よし、じゃあ料理もそろったところで」

 

 

「「「「「「メリークリスマス!!」」」」」」

 

 

シャンメリーのコルクをポンッっと空けて一斉に叫んだ。

 

 

「そういえばなんでシャンパンじゃなくてシャンメリーなんだろ?」

「”シャンパンでメリークリスマス”って言うのが語源みたいよ。元々はノンアルコールのソフトシャンパンって名前で売り出してたけどフランスからシャンパンじゃないものにシャンパンの名前を使わないでって言われて今の形になったみたい」

「へ~アリスさん物知りだなあ」

 

 

何気なく答えたら感心されてしまった。でもこのせいで”シャンパンもどき”を”シャンパン”と思いこんで、しかもそれしか飲んだことがなくて”シャンパンはまずいもの”っていう認識を持つ人もたくさんいたらしい。そう考えるとフランス政府の要求は至極真っ当なものかもしれないね。

 

 

 

 

「じゃーん!」

 

 

クリパが進み料理も結構減ってきた。

そんなタイミングで香澄ちゃんが何かを取り出したのだ。

 

 

「これは?」

「えへへ~これはですね~・・・」

 

 

がさがさと袋を漁り取り出したもの。

それは”セクシーサンタコス”と書かれたサンタのコスプレ衣装であった。

 

 

「なんか結構売れてて2着しか買えなかったけど、誰かこれ着ようよ!メリークリスマスって感じで!!」

 

 

 

ふむ。悪くない。

真冬に着るには似つかわしくない露出が多めなサンタ衣装だ。

あんなもんを着てプレゼントを配りに回ってたらただのドMだしあの露出、確実に痴女だろう。

だが暖房の効いた室内で切るなら別。可愛い女の子のセクシーサンタの出来上がりである。

 

 

「ええ~!?香澄ちゃん!?それはちょっと露出が・・・」

「うーん。私も恥ずかしいかな~」

「そう?私はいいけど」

「香澄・・・さすがに恥ずかしすぎるぞそれは・・・」

 

 

みんなはちょっと気が進まないようである。一人を除いては。

 

 

「え~せっかく買ってきたのにい」

「そこまでいうなら香澄が着ろよな!アリスさんもなんか言ってやってください」

「うん、着ようか」

「そうそう・・・ええ!?」

 

 

まあクリスマスだし室内で他の誰が見てるわけでもないし少しくらいハメを外してもいいだろう。

あ、そうだ

 

 

「そういえばさ、クリスマスケーキ」

 

 

実はクリスマスケーキも私が担当であった。

自宅で作って持ってきたわけであるがそれをそろそろ出そうと思った。

なぜならケーキにはある仕掛けがしてあるからだ。

 

 

「冷蔵庫から出すね」

 

 

そういって冷蔵から出したケーキをみんなの前に持ってきた。

 

 

「うわ~!!すごいです!!!」

「普通にお店で出せそうな奴だ・・・」

「美味しそう~~~~!」

「あ、写真撮ろ」

「アリスさんすげえ・・・万能すぎる・・・」

 

 

ポピパのみんなが口を揃えて褒めてくれると悪い気がしない。

登場したケーキにみんなは夢中でセクシーサンタ衣装のことをすでに忘れているようだ。

 

 

「じゃあ切り分けて・・・」

「おっと香澄ちゃん。待った」

 

 

私は待ったをかける。もちろんケーキに施された仕組みを説明するためである。

 

 

「ガレット・デ・ロワって知ってる?」

「かれっとでろわ?」

「あ、聞いたことあります。フランスのやつですよね?」

 

 

さすがパン屋の娘。沙綾ちゃんは心当たりがあるようだ。

ガレット・デ・ロワが何かと説明すると、フランスのお菓子である。

本来は新年を祝うもので、王冠の乗ったホールパイの中に陶磁器で作られた小さな人形が仕込まれており、切り分けたパイからこれを引き当てた人はその日の王様となり、皆から祝福される・・・という縁起物である。

ということを説明した。

 

 

「これをやろうと思ってね。まあケーキだし新年でもないけど・・・実は仕込んできました!」

 

 

盛り上がればいいかな~と思って、思い付きで仕込んだわけだけどまさか役に立つとは・・・

 

 

「あ~そういうことっすか・・・」

「あーちゃんは気づいたみたいね」

「あ!なるほど!」

「沙綾ちゃんも」

「いいアイデアかも」

「うう~あたりませんように・・・」

「え?え?どういうこと?」

 

 

香澄ちゃん以外は気づいているようである。

 

 

「つまりアレですよね。王様じゃなくて今日のサンタを決めようっていう」

「さっすがあーちゃん!その通り。人形を引き当てた人が本日のサンタってことで」

「それなら公平ですけど・・・しかし本来引いたら嬉しいはずの人形がセクシーサンタとは・・・」

「なるほど!!でも衣装は二着ありますけどもう一人はどうしますか?」

「香澄・・・もう一着は使わないっていう選択肢はないのかよ・・・」

 

 

あーちゃんが呆れ気味にいう。

 

 

「う~んそうだな~・・・じゃあ当たった人が指名でいいんじゃないかな?恨みっこなしで」

 

 

そう提案したところ、特に反対意見も出なかったため早速ケーキを切り分けたのであった。ちなみに人形は陶磁器でなくクラッカーで作ってあるので、こちらも美味しくいただけるだろう。

 

 

 

 

「よし、皆さまケーキはいきわたりましたかな?」

「おっけーです!」

「よし、じゃあいただきます!!」

「「「「「いただきます!」」」」」

 

 

みんな緊張した面もちでケーキを恐る恐る食べ始める。

 

 

「・・・ないですね」

「こっちもない」

「よかったぁ~ないわ~」

「ハズレみたい」

 

 

沙綾ちゃん、おたえちゃん、りみちゃん、香澄ちゃんはハズレのようだ。

 

 

「ということは・・・・」

「私とあーちゃんの一騎打ちだね」

 

 

いざ!・・・・あっ

 

 

「入ってたわ」

「・・・あれ、私も」

 

 

なんと二人とも入っていた。

 

 

「あ~これ・・・うーん。焼いたときに割れちゃったのかなあ」

「この場合はってどうするんですかね?」

 

 

そこには真っ二つに割れたクラッカー製の人形。

どうやら作る過程のどっかで割れてしまってそれが切り分けたときたまたま2ピースのケーキに混入してしまったようだ。

 

 

「二人ともサンタでいいんじゃない?」

 

 

というわけで本日のサンタは私とあーちゃんに決まったわけであった。

 

 

 

 

 

「わわわわわわ~~~~!可愛い~~~~~!!!!」

「有咲ちゃん!アリスさん!こっち、こっち向いて~~~!パシャパシャ」

「・・・・いい パシャパシャ」

「これは予想以上に・・・パシャパシャ」

「~~~~~~~////////」

「あらあら」

 

 

阿 鼻 叫 喚

 

 

まさにそれだ。可愛いを連呼してくれる香澄ちゃん。興奮して写真を撮りまくるりみちゃん、無言で写真を撮りまくるおたえちゃん、神妙な顔で写真を撮る沙綾ちゃん。うん、カオス!

 

 

「そんなに撮るなあ~~~~////」

「撮らなきゃもったいないでしょ?はい、チーズ パシャ」

「あ、はい。・・・・ってアリスさんまでえええええええ!」

 

 

無論、あーちゃんは顔をゆでだこのように真っ赤にしている。

ま~確かに気持ちはわかるよ。このサンタコス、想像以上のセクシーサンタであるもん。もう本家のサンタクロースに謝れって言うレベルでセクシーサンタ。

サイズがかなりきわどく、私やあーちゃんのサイズではスパッツやブラを装着できなかった。故に下は生パンだし上は生乳。胸は生乳でもかなりキツイ。支えているのは心もとないボタンだけである。

正直室内じゃかったら逮捕されるし写真もギリギリ児童ポルノ法に引っかからないレベルである。

 

 

「まあまああーちゃん、ここまで来たら開き直って楽しんじゃおうよ。ほらくっつこ?はーい!アリス&アリサでぇ~す」

「シテ・・・コロシテ・・・」

 

 

あーちゃんを抱き寄せてギュッとする。あーちゃんはもうどうでもいいやと目が死んでいるがまあ仕方ない。

 

 

「きゃー! パシャパシャ」

「りみちゃーん、鼻血」

「はっ!?」

 

 

興奮しすぎである。

 

 

「有咲~~~!こっちで写真撮ろうよ!」

「シテ・・・コロシテ・・・」

「ほらほら~おいでよ~」

 

 

ドン ブチッ

 

 

「え・・・・?」

 

 

香澄ちゃんがあーちゃんの背中を叩く。

その刹那、胸のボタンがはじけ飛ぶ。

 

 

ばいいいいいいいん!

 

 

「おおっ!?」

「きゃあっ///」

「でけえ・・・」

「えええええ!?」

 

 

それぞれが感想を述べる。そしてみんなの視界に入ったのは・・・・

ボタンがはじけ飛ぶことで支えがなくなった、あーちゃんの双丘であった。

 

 

「ぎにゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!?!?!?!?!?!?」

「あーちゃん、落ち着いて・・・あっ」

 

 

我を忘れて叫んで体を揺らすあーちゃんの体当たりを受けてしまう。

 

 

ブチッ ばいいいいいいいん!

 

 

「あらやだ」

 

 

無論、私のボタンもはじけ飛んだわけである。

 

 

「どうも~アリス&アリサで~す」

「そんなこと言ってる場合じゃなああああああい!」

「これは失礼」

 

どうやらそういう場合じゃないらしい。

 

 

「はわわわわわ~~~////」バタン

「りみりんが死んだ!?」

「これはこれは・・・あ、写真はさすがにまずいか」

「いや~これは流石に予想外だなあ~・・・・どうすればいいのかなこれ・・・・」

「シテ・・・コロシテ・・・」

 

 

上半身裸の変態二人、鼻血を出して倒れるりみちゃん、介抱する香澄ちゃん、意外と冷静なおたえちゃん、どうしていいかわからない沙綾ちゃん。放心状態のあーちゃん。

このクリパはまさに”カオス”の一言。

そんな感じで終わったのであった。

 

 

「〆方雑!?それに私を変態にしないでください!!!!!」

「あ、これは失礼」

 

 

そんなこんなでいつも言ってみよう。

おはよう、私の愛す世界よ。

 

 




ご覧いただきありがとうございます。
クリスマスということでわりとはっちゃけました。
後悔はしていません。
引き続きよろしくお願いいたします。


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