オリオペ短編集 (神仙神楽)
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勿忘草、二輪(ロスモンティス)
【性別】男
【戦闘経験】五年
【出身地】不明
【誕生日】4月15日
【種族】フェリーン
【身長】204cm
【鉱石病感染状況】
異例ながらも体表に源石結晶の分布を確認。メディカルチェックの結果、感染者に認定。
【物理強度】卓越
【戦場機動】優秀
【生理的耐性】欠落
【戦術立案】標準
【戦闘技術】卓越
【アーツ適正】欠落
移動都市「ロドス」の甲板からぼんやりと空を見る。視界に入るのは一日の終わりを告げる赤い陽。小さく風に吹かれ、鈴の音が耳元で聞こえた。
ただ一つに限り並以上にこなせる事柄からエリートオペレーターとして任命された我に、平時の居場所は
「…あぁ、今回は此処にいたんだ」
首だけで彼女の方へ振り返る。
戦闘時につけているユニットを外しているからか、さらに小柄に見える幼いフェリーンの少女ローズマリーが居た。
「どうした、ロスモンティス?」
「ケルシー先生が"定期診断だから離れに戻ってきてほしい"って、カーナ―――」
「スワラチカ、だ。少なくとも、職務中はコードネームで呼んでくれ」
…そうだっけ?と透き通るような声で彼女が呟き、紙のこすれる音が微かに響く。とあるところでこすれる音が無くなり、その見開きを見た後に小さく「ごめん、忘れてた」と謝られた。
「まだ夜勤と変わっていない故、細かいかもしれないが…規則だしな」
「うん。…スワラチカ」
首を傾げながらも、ローズマリーに話を促す。
「スワラチカは、離れに1人で暮らしてるけど…寂しく、無いの?」
「寂しくない、と言えば嘘になるが―――この体質では仕方ない。アーツのように"制御できる"代物でもない以上、入るわけにはいかないのは分かってる」
「…私が、離れに住むのは―――」
「冗談でも、それを言うな」
彼女が頬を膨らませる。
だが、こればかりは譲るわけにはいかない。彼女が皆を家族と思っている事は、エリートオペレーターとして互いに自己紹介をしたときに知っている。家族が同じ家で過ごすという考えから、我を離れから艦内の居住施設*1に移したいと考え付いたのは一度や二度ではなかった。
それを断り続けたら、次は彼女自身が離れで生活すると提案することが多くなった。だが、我が物理的に艦内から引き離されている原因を考えると好ましくない。
頬を膨らませていた彼女が、小さく息を吐いた後隣に座る。…しばらく夕日が沈むのを眺めていると、ローズマリーが来た方向から潜めた足音が聞こえた。
「…見回り、お疲れ」
「夜勤はグレースロートか」
リーベリの少女―――が頷く。ケテルと関わる前はロドスから逃げるように遠方の任務を好んで受けていたが、今ではロドスで過ごす時間が増えている。ケテルが巧くやっているのだろう。
「では、任せた」
「じゃ、朝になったらよろしく」
「分かっている」
短くやり取りをし、離れへと向かう。その隣をローズマリーが小走りで付いてくるので、彼女の歩幅にあわせる。…随分と物好きな事だ、何の面白みも無い我に用も無くついてくる位なら彼女自身の為の時間を取ったほうが余程建設的だというのに。
だが―――悪い心地はしない。
コードネーム名、スワラチカ。…カーナとは、実のところかなり昔から交流していたらしい。らしい、というのは私自身がその事を覚えていないから…なんだけど。
彼はエリートオペレーターの中で異端と、職員たちから悪い意味で注目を集めていた。というのも彼自身の鉱石病と制御の儘ならないアーツの組み合わせによって、日常生活を
だから外の離れで生活をしている。…それもあって、ロドス内のエリートオペレーターの中では一番職員に嫌われていた。それこそ例外を言うのであれば、同じエリートオペレーターたちとケルシー先生、グレースロートさん位。…本当は皆が仲良くしてほしいけど、それも難しい事は過去の私が実証済みだった。彼と皆の溝は…思っている以上に深いらしい。
隣で歩いていると私のほうに流れないよう、彼が自身の髪に手を当てる。その際に響く
彼の感染は硬ケラチンを主成分として作る物、
初めはエリートオペレーターである彼が嫌いだった。家族である皆が、彼を嫌っていたから。記録を見る限り1年前―――エリートオペレーターに私がなるまでは少なくとも。
でも、ケルシー先生が「彼は皆の事が大事だと思っている。当人が当人を
「…スワラチカ」
「カーナでいい。夜勤と変わった事で職務は終わった故な」
「ん。カーナは優しいよね、誰に対しても。グレースロートさんも、カーナを信じてた」
そして、その優しさは"傷つける事しかできない自己との対比"で齎されている。彼はエリートオペレーターの中で
然し彼は
「そうだろうか。我には、これしかできない故よく分からないが」
ほら、また卑下してる。でも―――慰める事は、出来ない。頭を撫でようとしたら過去に手を切った事があったらしい。…その時の記録には、最後に一文。
"触れてはいけない。触れたら、私も。
何があったのだろう。
この事をカーナには聞けず、ケルシー先生も黙って首を横に振るばかり。この時は、私自身の忘れっぽい精神症状を恨んだ。
彼のやさしさ―――自己との対比によっておこる歪なそれに気付いて。何故か、とても泣きたくなった。
それから、何時からだろう。
彼から、眼を離したくなくなったのは。彼の事だけは、忘れたくないと。彼を忘れることに、恐怖を覚えるようになってしまったのは。
カーナのフェリーンのモデルはサーベルタイガー。
性能はこんな感じ。
コードネーム:スワラチカ レアリティ:6 ロゴ:ロドスアイランド
性別:男 職業:重装 募集タグ:火力/爆発力
特性:通常攻撃が前方1マスの範囲攻撃/術師に含まれ、回復の対象とならない。
基礎ステータス(未昇進Lv50)
H P:1350 攻撃:640(+60) 防御:640(+60) 耐性:10
再配置:普通(25s) 攻撃速度:やや遅い(1.6s) コスト:38 ブロック:2
素質
剣身:近接攻撃に対して自身の攻撃の[20+10%]の[確定ダメージ]を与える。
??:不明(第一昇進で開放)
??:不明(第二昇進で開放)
スキル(特化Ⅲ)
小災(パッシヴ)
自身を中心とした周囲8マスの対象全員に[2秒]に付き[70%]の[確定ダメージ]を与える。
その上で素質1発動時、自身のH Pを最大H Pの[10%]回復する。
但し[味方]も対象となる。
基地スキル
[配置不可]
コンセプト
[大虐殺]
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海咲きの勿忘草(スカジ)
【個人経歴】
エリートオペレーター。
対怪物・対兵器等「ロドスが本来管轄しえない感染者戦以外の作戦」を含む全単独戦闘にのみ適応している。
ケルシー先生からの診察を終え、ぼんやりと壁を見る。
歪んで3層に生えた爪と地面に着くまで伸びきった髪。ケルシー先生曰く"アーツの暴走*1で鉱石病が進行し続けているから仕方ない"とのこと。
…もう一度、我の制御下に存在しないアーツの特性を反芻する。
我が鋭利化、ケルシー先生が刃化と呼ぶそれは有効範囲が[接触した物質から半径1m付近]となる。これはあくまで[平時]であり、一度感情に任せて暴発した時は目も当てられない事となった。
効能は「範囲内に存在する無機物/源石の鋭角を刃とし、切れ味を向上させる」「前述した対象を
切れ味の向上においては引き摺った髪の毛1本1本が地面に突き刺さり抉る程度。鉄であれば火花を上げながら不快な金属音と鉄の灼ける匂いが漂った程。最大の特徴として[アーツを付与された無機物/源石は他のアーツからの干渉を受けない]事。
これについてはメリット/デメリットが大きい。先ずはメリットとして「術師の攻撃を無効化できる」事。但しアーツそのものをエネルギー体としてぶつける場合のみであり、アーツの福産的効果*2は無効化できない。
そしてデメリットは「治療オペレーターの回復を受けられない」事。一般的な治療であれば受ける事ができるが、アーツによる治療は無効化の対象となってしまう。
この性質が髪と爪に付与されるという事は、身だしなみですら結構大変で。だからこそ
「こんばんは、カーナ。えらく伸びたわね…」
「こんばんは。早速ですまないが、頼んでもいいか?」
―――それをぶつ切りに出来る程の武器と怪力を持つ女性、スカジを頼っていた。
「えぇ。前と同じぐらいの長さね?」
頷き、髪の毛を剣で斬りやすいように横になる。直後、複数の鉄糸を斬ったような音。床には新しく1本の跡が刻まれるが―――今に始まった事ではない。
「…次は反対側ね」
頷き、反対に向く。再度響く音。
「助かった」
「また
「その時は必ず」
…何か他用でもあるのだろうか?普段ならこれで彼女は宿舎に帰るのだが…首を傾げながらも、彼女と目を合わせ続ける。
普段被っている黒のハットは着けておらず、薄暗いランタンの中でも輝く白髪。ローズマリーと比べると健康的な白い肌と、垂れ目の内にある火の灯に近い赤い瞳。整った顔立ちは、口調に反して幼く可愛らしいと思う。
暫くすると白い肌が赤みを帯び、小さくそっぽを向かれた。
「…その、見つめられると…恥ずかしい、のだけど…」
「すまない。普段はこれで別れていた故、残っているのが不思議でな。他に何かあるのか?」
「…そう言えばそうね…今日は此処間借りするからよろしくね」
…その時我は間抜けな顔をしたと思う。彼女が面白そうに、笑っていたから。
寝転がったまま珍しい表情をした彼―――カーナとは、2年ほど前から付き合いがある。私と同じように、自身のせいで傷つく事を恐れている彼とは恐ろしいほどに波長が合った。
「…初めて聞いたんだが」
「そうね、初めて言ったもの」
とはいう物の、これには事情がある。
「単独任務が予定より早く終わったのだけど、それが災いして宿舎が空いてなかったのよ。だから間借りしようと思ったのだけど…」
彼の反応はあまり芳しくない。
「…一つの屋根の下というのはな。少しばかり、気恥ずかしい」
「あら、そう?」
初めて知った。ロスモンティスと一緒に居る様子からは思えない言葉に小さく目を見開く。
「事実、初めてだしな。だが、スカジなら問題はないか」
「…それはどういう意味かしら?」
「スカジが我を傍に置いて戦えるというように、我もスカジであれば安心できる。我のアーツの暴走を気にせず傍にいてくれる、唯一のオペレーター故」
…何処か、落ち着いたような口調の彼の言葉に小さく歯噛みする。…2年しかたってない、なんて私は思えない。2年
「カーナは…逃げたいと思わないの?」
「思ったところで、逃げる先が無い。此処が初めで、最後。―――駄目だったら。誰かを傷つけて、悲しませる位なら―――」
「カーナッ」
それ以上、言わせない。
小さくカーナへ声を荒げると、「…すまない、忘れてくれ」と呟かれた。
彼と私は自身のせいで傷つく事を恐れている。
けれど、優先するものが違った。
私が優先するのは、あくまで私自身。私に降りかかるべき厄災が大切な誰かを巻き込み、奪われる事を恐れた。だから、私は大切な人を作らない為に逃げた。大切な人を巻き込まない為に、距離を取った。
彼が優先するのは―――大切な人。大切な人の為なら、彼は捨てるのだろうとあっさり瞬きした瞼の裏に浮かんだ。
「…間借りする、という事は寝る場所が必要だな…なら、ベッドを使ってくれ」
話を変えるように、彼がベッドを指し示す。一度も使われていないベッドは、誰かが掃除しているのか埃をかぶった様子が無い。―――彼が使えば、1日で寝具が駄目になる。その代わりに傷だらけの壁が寝具の反対側に存在している事から、普段寝ている場所がそこなのだろう。立ち上がり、向かおうとする彼よりも先にその隣を陣取ると、困惑したようにカーナがつぶやいた。
「…何故自ら寝心地の悪い所に?」
「…それは私の勝手よ。それとも、安心できないのかしら?」
溜息。
そのまま何時もの場所へ背を預け―――寝息が聞こえた。
「…おやすみ、カーナ」
【健康診断】
造影検査の結果、臓器の輪郭は明瞭で異常陰影も認められない。循環器系源石顆粒検査においても、同じく鉱石病の兆候は認められない。
然し髪の毛、爪から源石の成分と同様の物が判別されることから、鉱石病感染者と判定。
【源石融合率】--%
髪の毛や爪においてはほぼ完全に源石化している。
その証拠に暴走したアーツに反応する形で髪の毛と爪はひと月で惨事と呼べる状態となる。爪においては痛みも明確に感じるらしい。
【血液中源石密度】0u/L
ふざけている!
テラにおいて源石に触れあわない等という事はない!
だというのに血液中に源石が
ケルシー先生、これは器材の故障です!
言いたい気持ちはわかる。
だが10回やって全て同じ結果なんだ、認めるしかないだろう?
―――一般職員とケルシーの会話
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危機契約モデル#1:序盤三重奏
【コードネーム】ケテル
【性別】男
【戦闘経験】三年
【出身地】不明
【誕生日】8月26日
【種族】リーベリ
【身長】176cm
【鉱石病感染状況】
体表に源石結晶の分布を確認。メディカルチェックの結果、感染者に認定。
【物理強度】普通
【戦場機動】優秀
【生理的耐性】標準
【戦術立案】標準
【戦闘技術】優秀
【アーツ適正】優秀
【コードネーム】ススヒト
【性別】男
【戦闘経験】不明
【出身地】不明
【誕生日】不明
【種族】サルカズ
【身長】192cm
【鉱石病感染状況】
メディカルチェックの結果、非感染者に認定。
【物理強度】優秀
【戦場機動】標準
【生理的耐性】■■
【戦術立案】優秀
【戦闘技術】卓越
【アーツ適正】普通
目を覚ます。
隣にはスカジが此方の右腕に頭を預けて寝ていた。本来なら我の髪で切り傷位つくはずなのだが、彼女には一切の傷が無い。それはひとえに彼女が深海の水圧環境に適応しているからだろう。
彼女を起こさないように、抱き上げる。見た目に反した重さが腕に帰ってくるが、何の問題も無い。体格と筋力に恵まれて良かった等と思いながらも彼女をベッドへ横に寝かせる。
「…、…―――」
そっと、頭を撫でる。爪は当たらないよう、手の平で彼女の頭をなぞる程度。
…時計を見る。あともう少しで見回りの時間だ、そろそろ準備をしなければ。ケルシー先生曰く"アーツの暴走であっても本人に影響しない*1"らしく、予め我のアーツ*2に耐えられる合金製であれば私生活も送れる。
身だしなみを整え、爪においては1層を残して剥ぐ。月に一度、14年近くもやっていると痛みに慣れる。
準備が終わり、離れから出る。
「…おはよう、スワラチカ」
「おはよう、ロスモンティス」
何処か不機嫌そうなローズマリーが声をかけに来ていた。…恐らくはスカジが離れを間借りしているのを何処か*3から知ったのだろう。ケルシー先生はアーミヤCEOやローズマリー等一部のオペレーターには甘い傾向がある、あり得ない話ではない。
だが―――
「場所は?」
「炎国西の荒野。メンバーは私、スワラチカ、ケテル*4、ススヒト*5、ワルファリン、レッド。指揮については―――」
「分かっている。我が遊撃で、他が部隊…だろう?」
彼女が小さく頷いたのを確認し、中へ引き返す。そうなると移動用ヘリに乗る為の対内防御を目的とした装備が必要で―――それはとても暑い。炎国という地理も関係している為、着心地は最悪だろう。
だが、我はこの時しかエリートオペレーターとして働けないのだ。文句も何もない。
そう言い聞かせ、着込んでいく。準備は特に滞ることなく、ローズマリーと共にヘリポートへ向かう。既に4人がヘリポートで待機しているのが見えた。
「皆、おまたせ」
「離れだから仕方ないっすけど…緊急時において、誰かが呼びに行かないとならないのが面倒っすね」
眼に包帯を巻いた、赤毛のリーベリの青年ケテルが呟く。
「爪が無い時ならまだしも、爪があると通信機器が斬られてしまう故。…爪においては毎週剥いでしまうのも手か…?」
「無理しちゃ、駄目」
「…冗談っすよ。てか、昨日まで3層になってた爪が1層になってるのはそれっすか」
頷くと呆れたように溜息を返された。
「時間だ、乗ろう」
外見からはどの種族であるか予想の付かない男性ススヒトがヘリの扉を開けながら促す。後ろから離れずに付いて行くレッドに続いて、我々も乗り込んでいく。
作戦については単純。
敵本隊が出撃した後の敵防衛隊をケテルが誘引し、我が撃滅。ロスモンティスが此方を援護しながらも本隊に連絡を取り合い、帰ってくる敵本隊及び残りの防衛隊を全員で迎撃。この際我はロスモンティスの視界から消えない立ち回りを前提とする。レッドにおいては暗殺及び全戦場を走るとのことだった。
この際、防衛隊を内部から引きずり出す為にケテルがアーツを使うというが…
「ロスモンティス、今は戦場から離れろ。ケテルが帰ってくるまでは出撃するな」
「…どうして?配置コスト*6が高いのは自覚してるけど…」
「…あー、俺のアーツによる精神錯乱が普通にやばい部類っすからね。たぶんスワラチカはそれを見せたくないんだと思うっす」
その言葉に頷き、ローズマリーを見つめる。暫くすると不承不承ながらも彼女は頷き、補給物資を受け取る為の仮拠点へ引き返した。
「じゃ、やるっすよ」
―――目元の包帯を外し、拠点内部にいる1人を目視した直後。
内部から響く悲鳴。彼のコードネームを呟きながら錯乱しクロスボウから放たれる太矢の刺突音、ナイフによって重いものを斬り捨てたような音、槍が同じものに複数突き刺さる音、切れ味の悪い刃物が肉塊を殴り斬るような音。精神錯乱によってもたらされるのは
「本当、あんたには
「制御はできるようになってるのか?」
「えぇ、オレの場合は敵という被験体が居てくれたっすし、フィリ姉からのアドバイスもあるっすからね。今回はその制御を放棄してるっすけど…あんたも敵を被験体としてやってみたことは無いんすか?」
やったことはある。然し、一度とて成功せず、現状維持のほうが余程ましという結果まで出てしまった。その意図を込めて濁った眼を向ければ、ケテルも察したらしく「あー…」と苦い表情を浮かべた。
「そんじゃ、オレは仮拠点に戻ってロスモンティスさんを呼ぶっすね」
「あぁ…お疲れ」
目元に包帯を巻き、通信機器と伸ばしたワイヤー線を収納指輪へ押し込んだ後走っていく。中から錯乱した感染者が見受けられるが―――既に同士討ちで息も絶え絶えだった。
「…おま、えが?」
「客に種を明かす手品師がいるか?」
「…っへ…殺して、やる…」
軽装兵が切りかかる。それを鞘で受け、納刀された刀で頸を撥ねる―――次に迫る兵士諸共。2人目はどうにか盾で受け止め、此方へ反撃を加えようとする。それに対し、背を向けながら納刀し直し
「…っな?」
鉈が、髪の毛によって阻まれた挙句に2人目の目を輪切りにした。3人目はそれを見て、脇に抜けようとする。
大雑把に、1回転。
髪の毛が舞い、ただの鉄の塊を斬り捨てる。下半身と別れた上半身は、どうにか這って進もうとしていたので鞘で頸を潰す。
通路は奴らが整備した場所をそのまま利用している。その上で言うなら炎国の国防が周囲を封鎖している為、我々が用いている仮拠点から以外は脱出も儘ならない。とはいえ、敵から不審に思われないよう脱出路と思われる場所に兵を伏せてもらっているだけだが。
1対1から、徐々に此方へ手を出す人数が増えていく。物量で押され続ければ、我とて厳しいものがある。射手が見え始めたあたりから、少しばかり余裕はなくなるが―――問題ない。唐突な1回転で複数人を負傷させながら防衛ラインを後ろへ下げる。飛んできた矢が腕に突き刺さるが―――どうにでもなる。
「…始まる」
―――大丈夫?
ローズマリーの声が脳裏に直接聞こえた後、背負うユニットが我の目の前に着弾した。それに巻き込まれる形で数人が無造作に吹き飛ばされる。直撃した数人においては部位が潰され、激痛に悲鳴を上げていた。
―――問題ない。左右に頼んだ。
―――ん。
思念で彼女に返し、ユニットを2本我の左右に着弾、配置してもらう。大雑把ながらもこれで護身は完成。ユニットに阻まれ通り抜けられず、破壊しようとする2人へユニットが跳び、無造作に頭から拉げさせた。
新たに配置されたユニットを破壊しようと、敵からの攻撃が集中する―――が、我を忘れるのはどうなのだろうか。ユニットを掴み、大きく振り抜くことで首から上を血霧に返す。
―――ユニットの強度は大丈夫か?
―――敵の攻撃も集中してるし、カーナのアーツの影響もあって厳しい。
―――戦線を下げる。抜けようとした敵を頼む。
―――うん、わかった。
地面に配置されたユニットが彼女の元へ戻っていく。その間に我は再度戦線を下げ―――1本道を封鎖するような形で立ちはだかる。ローズマリーは現状無事なユニットでのみの援護となるが―――この狭い通路ならば十分だろう。
さらに12人ほど排除したところで。
―――敵本隊が帰ってきた。
―――了解だ、ロスモンティスも
何処か、悲しそうな表情が視界の端に映った。
―――ローズマリーも気を付けて
―――うん。
ケテルのリーベリのモデルはSCP-444-jp。
性能はこんな感じ。
コードネーム:ケテル レアリティ:6 ロゴ:ライン生命
性別:男 職業:先鋒 募集タグ:支援/爆発力
特性:敵を倒す度所持コスト+1/撤退時に初期配置時のコストを返却
基礎ステータス(未昇進Lv50)
H P:1065(+500) 攻撃:320 防御:205 耐性:0
再配置:遅い(70s) 攻撃速度:非常に速い(0.78s) コスト:12 ブロック:1
素質
戦意高揚:20+5%の確率で敵を倒す度所持コストをさらに+2。その上で編成時全員の再配置時間を-(5+2)%
??:不明(第二昇進で開放)
スキル(特化Ⅲ)
汚染暴走(自動回復[初期SP:15/必要SP:20]/手動発動[--])
全画面で最も本陣に近い敵に[攻撃の300%]術ダメージを与える。
この一撃で敵を倒した場合、倒した敵を中心とした周囲8マスに[攻撃の150%]術ダメージを与える(以後連鎖ダメージと呼ぶ)。
連鎖ダメージは[4]回まで敵を倒す毎に発生する。
但し連鎖ダメージにおいては[味方]も受ける。
基地スキル
[御調子者]
配置宿舎内、全員の体力回復速度が1時間ごと+0.15(同種の効果は高いほうのみ適応)
コンセプト
[スキル発火型先鋒]
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喧噪の掟#0:太陽偲ぶ月(グラニ)
【性別】男
【戦闘経験】五年
【出身地】ヴィクトリア
【誕生日】9月30日
【種族】ループス
【身長】183cm
【鉱石病感染状況】
メディカルチェックの結果、感染者に認定。
【物理強度】標準
【戦場機動】優秀
【生理的耐性】標準
【戦術立案】卓越
【戦闘技術】標準(防御戦闘に限れば卓越)
【アーツ適正】優秀
「あ、アーシェ!騎馬警察の業務時間直に終わるから待ってて!」
中から快活な少女の声が響き渡る。其方に目を向けると小柄なクランタの少女、グラニが此方に手を振りかけている。軽く手を振り返した後待ち続けるのを、僕は俯瞰していた。
随分と懐かしい…1年前、まだヴィクトリアの騎馬警察に所属していたころの記憶だ。だからすぐにこれは夢だと分かった*1。
「おまたせー!アーシェ、今日の見回り楽しかったねー」
「業務、というのは分かってるからいっか…僕はあまり感じないからなぁ」
業務を楽しい、と自ら率先してこなすのはグラニ位ではなかろうか。少なくとも僕自身は業務に対して特に娯楽性を求めていない。時折サボっている同僚及び先輩方の顔面に拳を突き刺し、手早く効率的に物事を済ませるようにはしてたけど。
「そう言えばそうだっけ」
「仕事が無くなれば上から何も言われないからね」
「あー…でも、他の人の業務を手伝ったりはしないの?」
グラニの問いに嫌そうな顔を返す。
「鉱石病より腐りきった同僚は御免だよ。真面目にやってくれる同僚ならやぶさかでもないけどさ」
「あ、てことはあたしは真面目にやってるように見てくれるんだ!」
「そりゃね。もしグラニが仕事してないと言う馬鹿がいるようなら性根が源石病にかかってるよ」
右こぶしからバキボキと音を響き渡らせつつ笑顔で返す。それに対してグラニは少し引いたような笑みを浮かべていた。
当時騎馬警察の中でも腐敗が酷かった支部に、グラニと共に配備された。グラニに突っかかる奴らが居て、それを助けて以降の付き合いだ。今ではグラニの頑張りが認められ、騎馬警察と言ったらグラニの名が上がる程度には市民から人気を集めている。…今も太陽のように、元気でやっていればいいなぁ。
「アーシェはどうして騎馬警察になったの?」
「唐突だね…何で今気になったのさ」
「んー、興味本位かな。興味なんて降ってわいてくるものだしねー」
改めて考えてみる。正直給料は然程良くないし、騎馬警察に拘りはなかった。なんならウルサスの軍人でも、龍門近衛曲の近衛兵でも、傭兵でも。
ただ、あえて言うなら。
「今は君が理由かな」
「え、あたし?」
「うん。グラニが良くした街を守りたい。とは言っても僕ができる事はさほど多くないし、守るというほどの事態も来てないから」
あの当時は、よくもまあ言えたと思う。たぶん僕自身がグラニに対して抱いてた感情を認知出来てなかったからだろうけど、今じゃ言える気がしない。
「…な、んていうか…照れ臭いね、そう言われると。アーシェ、一切の冗談も言わないし」
「冗談を言えるだけのユーモアが無いから、せめて誠実であろうと思ってるだけだよ」
「あたしが揶揄われていた時の"次ふざけたら別所に追い込んでやる"を本気で実行したもんね…因みにあれってどうやったの?」
「あれらが引き受けていた業務を全て受けただけだよ。結果として必要人員が減って、その中でもサボりがちだったあれらが飛ばされた」
今思えば、一目惚れだったのかもしれない。グラニ以外ならその現場を見ても自身の業務に戻っていただろうし。
「なんというか、アーシェらしいね…ねぇ」
「うん?」
「あたしが良くした街をアーシェがこれからも守ってね」
頷く。…その半年後に天災が訪れ、グラニを庇ってシラクーザ迄流され。今では―――
―――龍門サンセット通りのとあるバー、裏口に一番近い汚れたテーブル
―――P.M/11:37 天候:曇天
剣呑な空気を覚え、目を覚ます。その先にはスペードのストレートフラッシュ*2とブタ*3の手札を持ちながら言い争う上司二人。関わらないよう、カウンター席へひっそりと向かう。
ごめん、グラニ。今じゃ騎馬警察じゃなくてマフィアの幹部候補だから敵対することになる。
そして持ち出されるのは昨夜の処理の話。カボネが我が物顔で語ってる話、処理したの僕と僕の部下なんだけど。
それを言われ口を荒げるガンビーノ。いくらバーであってもその声量は違和を抱かれる。何も知らない周りから見たら手元のカードの差が酷すぎてイカサマ疑って突っかかっているシチリアン。尚イカサマをしていると思われる*4相手もシチリアン。
口論が激しくなっていく2人に溜息を吐く。嗚呼、無関係ならよかったのに。
「こんなところでガタガタやってんじゃねぇ!タダでもこのマズすぎるシャンパンにイライラしてんのによ。邪魔くせぇ、空き瓶でも持って表でやれや」
「…そうなんです?あ、僕にもこの人と同じシャンパンをください―――え、資産は大丈夫か?値段だけ聞いても―――」
ガンビーノの言葉を無視して店員にシャンパンの値段を聞き無言となる。この
「お前ガキだろ、ジンジャーエールで我慢しな。それと俺のこの店でそんな口利くなんて言い度胸じゃねぇか」
「まあ興味本位で。でも暫く戻れる目途も無いですし、その間に非行ぐらいしておきたいじゃないですか。未成年で飲酒は未成年だからこそできる物ですよ?*5あ、其方のおごりであればごちになります」
「っかー!!いうねぇ坊主!そいつら2人が共倒れした時後見人として引き取ってやりたいぐらいだ」
「おいロウロウ!俺が拾った事の恩を忘れて何のうのうとしてやがる!」
「その恩でこのシャンパンの20倍の龍門幣を要求したのは返したはずですがねぇガンビーノ。恩着せがましい上司共を持って此方不快値指数うなぎ上りですよ。それどカボネ、我が物顔で僕がした後始末語ってるの一番鼻にキました」
ガンビーノがわめく中、カボネは此方を睨むだけで黙ったまま。隣のペンギン龍門であれば圧倒的知名度だ、下調べもしないボスが一番悪い。僕を含めた制御しない幹部組は二番目だ。
「あぁ?」
「老舗って感じが僕としては好きなんですけどね…まあ、上司方は分からなかったみたいですけど」
「誰の趣味が悪いって?」
「あ、これ僕も巻き込まれる奴じゃないですか。何してんですかボス」
「カボネ、何故此奴を龍門のマフィア幹部候補にした!?」
「アンタへの当てつけだよ―――ってそれどころじゃねぇなこれ、ロウロウ足止め任せた。ボスは早く行くぞ」
舌打ちした後2人はバーの外へと走っていった。なおそのバーのカウンターから咄嗟に離れた直後―――4人の少女が、カウンターの裏から現れる。
「僕、このやり取り何度やればいいんですかね?教えてくださいよシアさん、クロワッさん、テキさん、ソラさん。あとソラさん、先日の折誠に申し訳ありませんでした」
「いやー、君が上司二人をしばけばいいんじゃないかな?それよりペンギン急便来ない?君なら歓迎するよ?」
赤髪のサンクタの少女、エクシアがそんな事を宣う。心の底から"
「あんなのでも僕を拾ってくれた命の恩人ではありますし、命を守る程度の恩を返すまでは無理ですよ」
「そっかー、それは残念。ちなみにソラに何をしたの?」
「仕事疲れにベンチで横に―――」
「わーっ!?ロウロウ君、それ言っちゃうとあたし炎上しちゃうからダメッ!」
黄髪の
「隊列β、射撃戦構え」
「ッ」「うっそぉ!?」
灰髪のループスの少女、テキサスと橙髪のフォルテの少女、クロワッサンが入り口から出ようとしたのを封鎖し、
「すみませんね、10分だけ足止めします。…はぁ、仕事だから仕方ないですけど…何故貧乏くじなんですかね…」
ロウロウのループスのモデルはニホンオオカミ。
性能はこんな感じ。
コードネーム:ロウロウ レアリティ:6 ロゴ:ペンギン急便
性別:男 職業:補助 募集タグ:召喚/生存
特性:召喚ユニットを使用可能(配置数に含まれる)。近距離/遠距離どちらにも配置可能。
基礎ステータス(未昇進Lv50)
H P:1210(+350) 攻撃:116 防御:480(+60) 耐性:0
再配置:遅い(70s) 攻撃速度:遅い(1.9s) コスト:12 ブロック:2
素質
軍略:召喚ユニット配置時、合計配置数を-(1+1)する。その上で配置数が0となった場合自身と召喚ユニットの[攻撃][防御]を[+(10+5)%]する。
??:不明(第二昇進で開放)
スキル(特化Ⅲ)
隊列β(自動回復[初期SP:0/必要SP:15]/手動発動)
召喚ユニットの射程を正面に[+3]し、召喚ユニットの攻撃力の[200%]の射撃攻撃を2回行わせる。
その上で召喚ユニットの[H P]を[自身の攻撃力の150%]回復する。
基地スキル
[軍事指揮]
訓練室で協力者として配置時、訓練速度+25%
コンセプト
近距離型召喚補助
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危機契約モデル#1:中盤四重奏
ワルファリン
→ススヒト:不老同士、最も長く一緒に居る。
→ケテル:被験体にして治療対象。精神汚染の方法に心当たりがある。
→スワラチカ:治療の必要が無い治療対象。優先度がかなり低い為さほど関心が無い。
レッド
→ススヒト:「オバアサン」と同じぐらいに大事な「狩人」。
→ケテル:「赤」を背負う鳥。
→スワラチカ:「刃」に呑まれた虎。
ロスモンティス
→ススヒト:ワルファリンと一緒に居る最古参の人。ロドスの戦闘顧問。
→ケテル:スワラチカとよく話す人。エリートオペレーターの皆とも仲が良い。
→スワラチカ:忘れたくない人。エリートオペレーターとなる前は嫌いだった。
「ただいまっす」
オレから声をかけると仮拠点で待つ3人が此方を向く。そのうちの一人であるススヒトが声をかけてきた。
「よく戻った。スワラチカが戦闘を始めた頃合いか?」
「そうっすね。あの人の配置コストって結構高い筈っすけど…オレの自主撤退と討伐報告によって稼いだコスト*1で足りたのが救いでしたっす」
それに対し、ワルファリンが首を横に振る。
「あのものにおいては、ロドスの医療を
「感染者なのに、受けていない…?それなら、普通は重傷なんじゃないっすか?」
「普通じゃない、そういう事だろう?ワルファリン」
ススヒトの言葉にワルファリンが頷いた。そのままススヒトがロスモンティスへ眼を向ける。
「ロスモンティス」
「命令を出して、完璧にやってみせるから」
「スワラチカを高台から援護。その際、ロスモンティスの指揮権を己からスワラチカへ。スワラチカが撤退するようであれば、此方に連絡を」
それにロスモンティスが頷き、戦術装備を背負って飛び出す。それと入れ替わるように、血濡れとなったナイフを持つレッドが仮拠点の上から飛び降りてきた。
「狩ってきた」
「お疲れ、レッド。次に備えてくると良い」
ススヒトの言葉に、振られていたレッドの尻尾が力なく垂れる。…ワルファリンを見ると「この鈍感め」と呆れたようにつぶやいていた。レッドの様子*2にいたたまれなくなり、ススヒトに耳打ちする。
「(ありがとうと、一撫で位してあげてもいいんじゃないっすかね?幸い時間もあるし、ワルファリンとオレは帰ってきた敵本隊の先行迎撃準備でもしておくっすよ)」
「(…む、ならば頼もう)」
ススヒトから許諾を得て、ワルファリンの手を掴む。
「む、なんだケテル?配置までの時間的余裕はあるはずだが―――」
「ススヒトからも許可を貰ってるっすから、速く行くっす」
流石にススヒトも人が居るとレッドを甘やかしにくいだろう、仮拠点からワルファリンを強引に連れ出した。
「む、わかった。分かったから思い切り手を引くでない!」
「こっちの方で医療器具を持つのも手伝うっすから、ハリーアップっす!」
患者であるケテルにより、妾も敵本隊が帰ってくる前段階で配備される。
「…全く、速すぎるではないか。転びそうになったぞ」
「それについては悪い事をしたと思ってるっすよ。でも、流石にレッドがいたたまれなくてつい」
…ああ、妾を連れ出したのはススヒトとレッドへの配慮か。
レッドと年齢が変わらぬにも関わらず、機微に敏い。精神干渉のアーツを保有する、という事からだろうか。
「あの鈍感に気遣った結果…か。ならばよい。妾とてススヒトの鈍感にはやきもきしていた」
「…?そうなんすか?」
「そう。レッドとて9年も片想いし続けているにも関わらず、ススヒトはとんと気付かない」
「…スワラチカとは逆っすねぇ…」
首を傾げる。スワラチカについては正直分からない。
何せ一般の鉱石病患者と違い命の危険性が無い感染者―――ロスモンティスと似たような存在である。妾が鉱石病を治療する医者である以上、このように時たま戦闘で同伴するぐらいしかない。
「妾から見るとススヒトとスワラチカは同じように見えるがな」
「まあ、傍から見ればそうっすね。ただススヒトは言う通り鈍感で、カーナ…いや、スワラチカは
「…スワラチカ、殊の外に質が悪いな?」
思わずつぶやく。対してケテルは「そうっすね」と同意を返した。
「ただ、離れという物理的に距離を取る理由位はワルファリンも聞いてる筈っすよ。だからこそ―――」
―――足音。それも、かなり多い。ケテルは言葉を止めると同時に収納指輪からワイヤーを必要な長さ迄引っ張り出していた。
「っと、来てしまったっすね」
「そうだな。…まあ、使っても問題ないだろう」
手元の輸血パックの封を口で千切り、飲み干す。ケテルはそれを気にすることなく合計10本のワイヤー線を構える。…戦士の面構え、と言う物だろう―――戦闘時におけるススヒトの面構えに、よく似ている。
「輸血準備!」
相手からの攻撃を受けると同時、血を織り交ぜた医療アーツを彼に投与する。ワイヤーで斬りつけ、時には拘束したまま締め斬る。…何処か困惑しているのが伺えた。
「…どうした?」
「あぁ、いや。あんたのアーツの影響っすか?疲労が酷い代わりに妙に力が篭るというか」
頷く。妾が不安定血漿と呼んでいるそれは投与者の運動能力を引き上げる*3。その感覚に慣れないと、確かに困惑を覚えるやもしれない。
「気になるなら、通常の医療に戻すが」
「正直助かるっす。今ならオレ以外が、間違えて同士討ちに巻き込まれることも無いっすしね」
ケテルが包帯を外し、一人を睨む。
直後その1人から始まる同士討ち―――その症状は、妾が
「…気にするよりも、まずは目の前の戦場か」
「ワルファリン」
「わひゃっ!?」
背後からの声に驚き、振り向く。そこにはレッドが首を傾げながらもそこにいた。
「…驚いたぞ…ススヒトからの言伝か?」
頷き。
「スワラチカ・ロスモンティスが一度撤退。最終防衛ラインは、仮拠点前の2本通路」
「了解だ。レッドはどうする?」
「ケテルとワルファリンの撤退援護」
大剣を後ろ手に、短剣を前に構えつつも3人を待つ。
『ススヒト、スワラチカから"2本通路の片方を封鎖する"だって』
「分かった。…敵防衛隊の動きは?」
『指揮系列が無いのか、混乱している』
ケテルのアーツ発動後にレッドに指示を出し、敵陣営内部で指導者だけを討ち取って撤退してもらった影響だろう。烏合の衆ならばスワラチカが残る事を選択しても問題なく対処しきれるはずだ。
他愛もない話を続ける。
暫くすると、正面から2人*4が此方に来ているのが見える。
その後ろには、小規模ながらも砂塵が舞い上がっていた。
「…敵本隊が来た」
『分かった。スワラチカは任せて』
それを最後に通信が切れる。切れた直後に、先にワルファリンがすれ違いざまに此方に声をかけてきた。
「ススヒト、妾はケテルと共に準備を済ませてくる。レッドは既に潜伏済みで指示を待っている状態だ」
「分かった。それまでは持たせよう」
ワルファリンが仮拠点へ走っていく。ケテルもそれに続き―――
「帰ったらレッドを誉めてあげるんすよ?結構頑張ってるっすから」
「…善処はしよう、速く準備して来い」
その一言だけを残し、仮拠点へ走る。以降見えるのは見慣れない装備―――即ち敵だ。
鉈の一撃を短剣で弾き、空いた胴に大剣を叩きつける。後ろから続くクロスボウの射撃を、刃の食い込んだ敵諸共大剣で弾き、大剣の死角より走り抜けようとしたステルス兵の首を短剣で掻っ切る。
何れも基礎ですら完成していない粗暴な物でしかない*5。一撃で奪命し、屍を左右の山として行く。
8人ほど斬り捨てた頃に、後ろから巨大な人型が迫ってくる。それが纏う甲冑を見る限り*6苦労させられそうだ。隊長でない*7のなら、スワラチカかケテルに投げてしまいたい*8ところだが…
「…た、隊長!アイツです!あいつが、仲間たちを―――」
「レッド」
「もう逃げ場、ない」
足場が悪いにもかかわらず、隊長の下へ一瞬にして飛び込み甲冑の隙間の生身に黒いナイフが6本突き刺さった。敵隊長の苦悶の声に、周囲の兵士たちが固まる。
だが、隊長はそれを気力でねじ伏せてレッドへハンマーを振り下ろす。
―――既にそこにレッドはいない。新たに6回、肉に鋭い何かが突き刺さる音と共に赤い影は戦線から消えた。
「隊長ぉ!?」
「っぐ、ま…だだッ!」
巨大なハンマーを杖に、迫ってくる敵隊長。…流れていく血は徐々に減り、レッドの付き刺したナイフに黒い結晶*9が纏わりついていた。源石で止血し、止血した源石を介してアーツを発することで運動能力を強化したらしい。
「なぜ、ロドスは感染者なのに炎国に付く!あいつ等から始めた、迫害を!」
「炎国から発された危機契約*10履行の為」
「危機契約―――っは…結局のところ、ロドスは金の亡者か!感染者を助ける、そんな綺麗事の裏で脂ぎった紙幣を受け取ってる!俺達という感染者の犠牲を代価に!」
屍の山に新しく肉塊を突っ込む。
…反対側の通路からも悲鳴が響き始めた事に相手も気付いたのだろう。死兵となって此方へと迫ってくる。
喚き散らす隊長と、それに同調する隊員。あまり聞いていて心地の良い物ではなかった。それは―――ケルシーから炎国に対する交渉の顛末を聞いているからだろう。
「ロドスはこれでも殲滅ではなく
「…そ、…れは…」
死兵となって迫る中、その一言で動きが鈍った者が数人いた。
それらにおいては此方の勝手な判断で
「あいつ等の民は、感染者を追いやった!なら俺らだってやり返す権利はあるはずだ!」
「成程、ならそこからさらにやり返されることも考慮済みなんすね」
「っひ、あい―――けてるけてるけてるけてるけてるけて―――」
「ケテル」
軽い口調で、一切目の笑っていないケテルが隣に立つ。再度包帯を巻きなおしたために、その怒りが見えたのは一瞬だった。同士討ちによって始まる混乱に乗じ、己が生かした数人を回収してもらう。
「ワルファリン」
「此処にいる」
「屍の山の傍に気絶した奴らがいる。そいつらだけ、レッドと一緒に回収してくれ」
2人が、動く。その間に―――躊躇わなかった奴らと、黒い結晶に覆われつつある隊長が迫ってくる。その眼には狂気とでもいうべき物が宿っていた。
ススヒトのサルカズのモデルは不死人。
性能はこんな感じ。
コードネーム:ススヒト レアリティ:6 ロゴ:ヴィクトリア
性別:男 職業:前衛 募集タグ:生存/範囲攻撃
特性:ブロック中の敵全員を同時に攻撃
基礎ステータス(未昇進Lv50)
H P:2130(+350) 攻撃:395(+60) 防御:180 耐性:0
再配置:遅い(70s) 攻撃速度:普通(1.2s) コスト:24 ブロック:2+1
素質
対多数戦闘:ブロック数を常に+1する。その上で1人ブロックする毎に[攻撃]を[+5+2]%する(第一昇進/第二昇進強化)。
??:不明(第二昇進で開放)
スキル(特化Ⅲ)
残り火(自動回復[初期SP:15/必要SP:50]/手動発動[30秒])
自身の[H P]を[1秒]ごとに[最大H Pの10%]回復する。
その上で[ブロック数]を[+2]、素質による[攻撃上昇]を[+200%]する。
基地スキル
[保護者]
制御中枢配置時、宿舎配置オペレーターの回復効果を[2倍]にする。
コンセプト
[最多ブロック群攻前衛]
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危機契約現行:間奏
元ネタはイベント:危機契約#1の黄鉄の峡谷。
独自設定として場所は勝手ながら炎国となってます(
―――危機契約履行前日
―――P.M/23:18
「これより、炎国から発された危機契約についての話し合いを始めます」
私の声とともに張り詰める空気。現在この場にいるのはドーベルマン教官、ブレイズさん、Aceさん、ケルシー先生、Stormeyeさん、ススヒトさん、そしてオーキッドさんとヤトウさんの8人。…ドクターが座る席が空いているのを見ると、小さく心が痛んだ。
「初めに言いました通り、今回の危機契約は炎国より発されたものとなります。概要としては"感染者たちの組織だった行動によって住民が犠牲になっている"とのことです」
一息置く。
「これは私たちが掲げる"感染者問題の解決*1"に関わります。その為、現在レム・ビリトンへロドスを走らせてますが北上して炎国へと路線を変えようと思ってます。これについて何か意見はありますでしょうか?」
8人は特に意見はないらしい。
「無い、という事で大丈夫ですね?」
「少なくとも、己からは特にない」
ススヒトさんの一言に続く形で、それぞれが私の意志を尊重してくれる。それが何よりもの救いで、支え。
「有難うございます。続いて、手元の資料を見てください」
PRTS*2の端末を操作し、スクリーンにも手元の資料と同じ画像を映し出す。その画面に映るのは今回の作戦環境と、敵の編成。そして契約。
「左側が相手の本拠地で、右側が問題となる感染者たちの拠点外部迄の通路となります。本拠地と強奪の隊でそれぞれ隊長と思われる人物―――資料では暗殺者とクラッシャーが確認されているようです」
「暗殺者は…見た感じサルカズね。アーツによる通りは然程期待出来なさそう」
オーキッドさんからの呟きを聞き、PRTSを通じてメモを取る。術が聞きづらいとなると、物理的に相手を倒す必要が出てくる。或いはスワラチカさんのような、物理的な装甲もアーツへの耐性も無視して切り裂くか。
「ならレッドに暗殺を託そう。ケルシー、構わないか?」
「ああ。彼女には私から話を通しておこう」
「んー…見た感じ私が出るのは厳しそうかな。機動軽装兵が多い以上、アーツを併用した攻撃のない私よりも、スワラチカが適任に見えるよ。あの子、なんでも切り裂いちゃうし」
「私からも同感です。それに、スワラチカの昇進を見定める良い機会だと愚考しますが…」
「?どういう事かな、ヤトウ」
ブレイズさんの言葉に、ヤトウさんが返す。
「これを機会に
…確かにスワラチカさんは基本的に感染者の保護等は出来ず、大型感染生物への対処を始めとした"方針に沿わない戦闘"を業務としていた。エリートオペレーターの中で
「確かにそうだな。この危機契約を成功させれば、職員たちが向ける不満もある程度は解決できる。…十全に解決は難しいだろうが」
「そう、ですね。離れという環境も、職員からすれば特別なように見えるのでしょう。医療部門の人達は―――」
「残念ながら、感染者の中で命に関わらない発症というのもあって軽視されている。見た目は完全な感染者のそれにもかかわらずな」
「胸糞悪い話だな…」
Aceさんの溜息が、重く響く。スワラチカさんは、言うなればロドスにおける被差別対象にすら近い存在だった*3。ロスモンティスさんも似てはいるが、彼女は職員方からの信頼を自ら得ている為、寧ろ好意的に見られている。彼自身も信頼を得ようとしていたが…
「ヤトウは職員からスワラチカへの印象回復の為に参加する、ってことでいいのかしら?」
オーキッドさんの言葉にヤトウさんが頷く。ブレイズさんの発言―――機動装甲兵の対処も兼ねた印象回復は確かに良い案かもしれない。
「俺からも賛成だ。そうなると重装オペレーターとして配置コストを2人で食うわけにもいかねぇし、俺は留守番だな。」
「…そうなると私も出るわけにはいかないか」
「敵にドローンも居ねぇんじゃ、俺も仕事は出来なそうだな…むしろ契約の中に"火力減衰"迄ありやがる。CEO、今回はどの等級まで目指すんだ?」
少し考える。資金運営等も、実のところあまりよくない。その上でスワラチカの昇進の為に必要な素材―――彼の装備で重要なのは"鋭角を喪失しない事"。金属としての強度があればあるほど良い。
「なるべく上を目指すつもりです。資金運営とスワラチカさんの昇進の素材の確保の為にも」
結果として等級は18程度で落ち着く事となった。18もあればスワラチカの昇進及び資金運営も持ち直せると、アーミヤが言っていた。彼女の言葉を信じよう、もしもの時は■■■から引き下ろせばいい。
レッドに「明日の朝、ケテルとワルファリンへ出撃を頼む。レッドも明日の朝に出撃だ」と言伝をする。その際に「ススヒトも一緒だ」と言ってやると彼女の足取りは軽くなった。
続いてローズマリーの部屋へと向かう。ノックをした後、しばらくして中から彼女が出てきた。
「あ…ケルシー先生、だよね」
「あぁ。今時間は大丈夫か?」
「うん。大丈夫、少し記録とかで散らかっちゃってるけど…」
そこまで時間を取る事ではない為、首を横に振る。
「明日の朝8:00、発令された危機契約の参加メンバーにローズマリーも選ばれた」
「うん、わかっている。私がオペレーターのみんなを守るよ。絶対に」
「それは心強い。それと、カーナにも明日の朝声をかけてくれ。彼もメンバーで、この危機契約が成功すれば昇進する」
小さく見開いた後、自分の事のように喜ぶ彼女。…エリートオペレーターとなる前はあれほど毛嫌いしていたというのに、良くも悪くも変わった。何処か、彼に依存している節もあるのは…多分気のせいではないだろう。
「漸く、だね。これで、職員の皆にも認められるかな?」
「そうだな。…それと、スカジが依頼を速めに終わらせてたな。宿舎が空いてないから、カーナの離れに向かうと言ってたが」
それを聞いた途端、何処か不満そうに「…とーへんぼく」とローズマリーが呟く。…そんな彼女に老婆心ながらも助言をしてみる。
「スカジが離れで一晩過ごしたとなれば、それを種にローズマリーも離れで過ごせるかもな」
「…でも、それはずるい気がするよ」
「するかしないかは、ローズマリーに任せる。良い夢を」
「うん、ありがとう。ケルシー先生も、おやすみ」
現状存在するのは行動予備隊A6、行動隊A4。
エリートオペレーターとしてAce、Stormeye、Sharp、Scout、Pith、Touch、ブレイズ、ロスモンティス、スワラチカ。
古参としてススヒト、ワルファリン、レッド、ケルシー。
人材発掘でケテル、フィリオプシス、グレースロート、スカジ。
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