【天彗龍 バルファルク】 (ナガレッ伽)
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第一話 最高のゲーム

モンハンライズにバルファルクが追加されることを祈願して。




 2043年7月15日。

 

 その日、世界のゲーマー達は(興奮で)死んだ。

 

 何故か。

 一つのダイブ型VRMMOが発売された、いや発売されてしまったのだ。

 

 そのゲームの名は、〈Infinite (インフィニット )Dendrogram(デンドログラム)〉。

 

 ダイブ型VRMMOと聞いて眉を顰める者も少なく無いだろう。確かに以前発売された最初のダイブ型VRMMO〈NEXT WORLD〉はマジで酷かった。「現実と変わらないリアリティ」とか抜かした癖に五感は全く再現出来ておらず、違和感MAXだった。グラフィックも大して優れてはでいなかったし、なんならプレイ中に気持ち悪くなってゲロ吐いたよ僕は。

 当然そんなゲームが現代社会で許されることはなく、裁判が起きたりなんやらかんやらあって制作会社は倒産した。

 

 だが、だが!

 〈Infinite Dendrogram〉は違う!

 

 完全に完璧に再現された五感!飯どころか空気も美味い!らしい!!

 

 選択できるグラフィック!現実(リアル)風、アニメ風、3DCGの三つ全てがハイクオリティ!!

 

 一つのサーバーで億人単位のプレイヤーが同時に遊べる!もはや意味不明!!

 

 そして極め付けはゲーム内では現実の3倍の速度で時間が進む!

 

 アホーーッ!!なんなのこれ?オーバーテクノロジー過ぎて気持ち悪いね。でも好き!ほんとありがとうございます開発責任者ルイス・キャロル様及びスタッフの方々!!あいらぶゆー!!

 

 ルイス様にもそう伝えておいて貰っていい?

 

 さて。これまで〈Infinite Dendrogram〉通称デンドロとルイス様への愛を叫ばせてもらったが、自己紹介、もといプレイヤー設定に進ませてさせてもらっても?はいありがとうございます。

 

 では。僕のプレイヤー名はゆうき!多分狩人か剣士のジョブに就く男だ!

 

 ゆうきはもう使われてる?そっか…名前被るのはちょっとなー。ありきたりな名前だししょうがないか。うーん、ちょっと待って貰っていい?頑張って考えるので。

 

 あ、先に他の設定決めれるんだ。じゃあお願いします。

 

 えーと、グラフィックは3DCGのヤツに変更で。アバターって現実の僕の容姿をベースに出来る?おぉ、ありがとう。じゃあ髪の色はそのまま黒で、瞳の色は銀色。

 鼻をちょっと高くして、身長も伸ばして180㎝、筋肉も盛っちゃえ。

 

 初期装備か。武器はこの木刀、防具はこの和装で。

 

 アイテムボックス?ふむふむ、これ1トンも入るんだすげぇ。壊れるし盗まれることもあるから注意が必要と。

 銀貨5枚で5000リル、1リルは十円だから…五万円か。あざっす。

 

 名前?ごめーんもうちょい待って。あと候補が3、4個あってね。

 『 X(クロス)』『XX(ダブルクロス)』『カジキマグロ』『ニャン太ー』の4つだけど。何笑っとんねん!

 

 えぇい!じゃあもう『XX』で決定!!

 

 おお、これが噂のエンブリオ。左手の甲につけるんだっけ。説明はいいや。早く始めたい。

 

 最後にスタート地点。じゃあこの『アルター王国』で。理由?なんとなく。

 

 質問はなあ、ひとつだけあるんですけど…デンドロのストーリーっつうか、プレイヤーの目的って何なの?調べてみたけど何にも分からなかったんすよ。

 

 え、何でも?

 

 

 

 

 可愛らしい猫のぬいぐるみのような管理AI、チェシャは纏う雰囲気を少し変えて言った。

 

 『そうだよー』

 『英雄になるのも魔王になるのも、王になるのも奴隷になるのも、善人になるのも悪人になるのも、何かするのも何もしないのも、<Infinite Dendrogram>に居ても、<Infinite Dendrogram>を去っても、何でも自由だよ。出来るなら何をしたっていい』

 

 『これから始まるのは無限の可能性』

 

 『〈Infinite Dendrogram>へようこそ。“僕ら”は君の来訪を歓迎する』

 

 

 「何それかっこい…ん?急にあしもぎゃああああああああ!!!

 

 

 

 

 

 ぼくはそらから、ははなるだいちへぽいっされた。

 

 こしがぷるぷるふるえてます。あのねこはゆるさない!

 

 

 

────────────────────────

□王都アルテア前    【???】 ???

 

 

 僕には前世の記憶がある。と言っても、その前世はファンタジー世界の勇者でも魔王でも冒険者でもない。日本で平凡な大学生をやっていた。記憶を探ってみたところ、恐らく三十年前─2015年あたり─の人物である筈だ。

 ただし、並行世界の。

 前世の記憶と現在の世界には少し、ほんっの少しだけ違いがあるのだ。その違いだって例えば織田信長が女性だったとか、第二次世界大戦で日本が勝ったとかそんな世界的には大した違いじゃあない。

 

 ではどんな違いがあるのか。

 

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 あの大人気ゲーム、『モンスターハンター』。前世ではハンティングアクションというジャンルを確立した偉大なるゲームだ。

 

 だが今世ではめちゃんこマイナーな伝説となっている。日本で知っている人はほぼ皆無。それこそ専門家くらいだろう。

 モンスターハンター改め、『狩人と竜たち(日本語訳)』はアフリカとかその辺り発祥の伝説で、ネットで調べても10件ほどしかヒットしない。

 

 ポケモンとかマリオ等々任◯堂様の作品は存在してるし、前世の記憶と一致する作品もある。なんならモンハンと同じ制作会社のバイオハザードは存在する。ただし制作会社の名前はカペコンだ。

 

 

 モンハンは大好きだった。小学五年生くらいに初めてプレイし、大学生になっても新作を買い続けていた。同級生とのコミュニケーションツールでもあったし、僕の青春を象徴するものでもあった。

 それが今世ではプレイできないのは悲しいけれど、それは求め過ぎだろう。またこうして平和な世界に転生できただけありがたい。もしも某暗い魂とか悪夢の狩人みたいな世界だったら発狂してたもん。

 

 話を少し戻そう。僕は前世の記憶がある。が、大した影響はなく、中学校のテストがほぼ満点だったり、高校生二年生になった今でも前世の記憶でそれなりの成績を取れてるくらいだ。

 あと小さい頃からたくさん運動したお陰か体は凄い健康だ。ネクストワールドをプレイしたらゲロ吐いたし特別三半規管が優れていたり、運動部で全国大会を制覇したりとかは無理。(この世界の人間、前世よりも運動能力が優れているのが多い気がする)

 

 そんな前世の記憶を持つだけな僕は、両親に文句を言われない程度の成績を取り、部活に入り、友達と遊ぶ。彼女はいないが、リア充と言っても過言ではない。

 

 だが!

 

 それも今日で終わり。部活は辞めた!テストも諦めるし、友達付き合いも減らす!

 

 デンドロをする為に!!!

 

 

 

 圧倒的なクオリティが広まりつつある7月17日現在ではもはや、価格沸騰転売地獄阿鼻叫喚となっているデンドロだが、僕は研ぎ澄まされた直感によって発売日に購入していた。

 

 さて、ログインする前にデンドロの情報を整理しよう。

 

 ・ゲーム内時間は現実の3倍

 ・選べるグラフィックは3種類(リアル、CG、アニメ)

 ・五感の完全再現(痛覚は調整可能)

 

 そして、ゲーマー達が一番惹かれた要素〈エンブリオ〉。全プレイヤーに与えられるもので、持ち主によって全く違う進化を遂げ、千差万別、オンリーワンの能力となる。ゲーマーはオンリーワンって単語が一番好きだからね。

 一応カテゴリーはあるが完全に同一の能力は存在しないらしい。

 そのカテゴリーは 

 

 道具型のエンブリオ TYPE:アームズ

 モンスター型のエンブリオ TYPE:ガードナー

 乗り物型のエンブリオ TYPE:チャリオッツ

 建物型のエンブリオ TYPE:キャッスル

 結界型のエンブリオ TYPE:テリトリー

 

 の五つ。進化すると更に増えるらしい。覚えるのがたいへんだ。

 

 ちなみに僕は主人公っぽいアームズか、チャリオッツが良いな。アームズなら大剣とか太刀、チャリオッツならロボかバイク!

 

 では次にチュートリアルで何をするのか…を調べたが詳しくは分からなかった。一応キャラメイクと所属する国を選べる事は分かったけど。

 情報のまとめもこれくらいでいいだろう。

 

 では最後に確認を。

 エアコン…ヨシ!トイレ…ヨシ!ご飯…ヨシ!水分…ヨシ!

 

 おーるおっけー。さっそくログイン。

 

 

 

 

 …そして、僕はカワイイなりして邪智暴虐な猫に紐なしバンジーをさせられるのだった。

 

 

 To be continued

 





設定の矛盾やら不可解な点があったらご指摘お願いします。デンドロは設定がモリモリで大変だぁ…。


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第二話 エンブリオ

□王都アルテア 【──】XX(ダブルクロス)

 

 管理AIの猫に紐なしバンジーをさせられ、降り立ったのは草原。少し先を見ると立派な城門らしき建物が見える。

 

 僕がチュートリアル空間で選んだ所属国、『アルター王国』。白亜の城がトレードマーク。まさに西洋ファンタジーといった国であり、騎士の国と呼ばれたりもするらしい。

 

 なお今の僕の格好は、紺色の剣道着みたいな初期装備『和装』と、『木刀』なので見た目的には天地─和風な国─の人みたいなので、街に入ったら浮きそうだ。

 西洋ファンタジーと和風の国だったら大体後者を選ぶのだが、天地は修羅の国らしく、流石にいきなり初心者が魔境に飛び込むのはなあ…という事で選ばなかった。ので次に興味があり、比較的平和そうなアルターを選んだ。

 現実では中々感じることのできない景色を全身で楽しみながら城門へ歩いて進む。

 

 「やっぱすげぇなぁ…!」

 

 思わず声に出してしまうくらいリアルだ。風も、土も違和感のかけらもない。

 

 数分歩くとアルター王国の王都アルテアに到着。めっちゃ大きい門にはやはりと言うか門番さんがいた。でも人の流れを見るに出入りは自由で、毎回門番さんに荷物チェックを受けるとか、そういうのは無さそうだ。ちょっと無防備じゃないのぉ?テロとか起こし放題じゃん。

 なんて物騒な事を考えながら門を潜ると、そこにはファンタジーが広がっていた。

 中世っていうのかなぁ?白色の目立つ、日本ではお目にかかれない街並みだ。

 街の人つまりNPC─デンドロではティアンと呼ぶ─の格好も中世ヨーロッパ風?僕はナーロッパしか知らないんだけどそんな感じ。

 

 「おーい!そこのマスターさん!ウチの店よってかないかい?今ならサービスしとくよ!」

 

 屋台にいる元気そうなおばさんに話しかけられた。第一村人発見!

 

 「へぇ。これ焼き鳥ですか、美味しそう。何リルですか?」

 「一本30リルだよ!カッコいいマスターさんは特別に二本で50リルでいいよ!」

 

 高いのか安いのか分からないが、とても美味しそうだし、おばさんも良い人そうなので2本買ってみる。

 

 「まいどあり!熱いうちに食べとくれよ!」

 

  受け取ったその場で頂く。

 

 「あつッ。でも美味ぇっす!」

 「ははは!そりゃ良かった。ゆっくり噛んで食べなよ」

 

 はぇーすっごいAI。流石デンドロ。ちゃんと会話が成立するんだねぇ。しかも不自然さがない、中に人とか入ってないんだよね?にしてもこの焼き鳥ガチで美味い。現実の近所にある焼き鳥とは比べ物にならない。

 

 「ごちそうさまでしたー」

 

 買い食いも済んだところで、まずはジョブに就こうか。デンドロはジョブに就いてないとレベルが上げられないらしいからね。

 

 『メインメニュー』と呟くと、ゲーム画面のウィンドウ的なやつが出現する。そこには自分のステータスや、装備、道具などを確認出来る。今回使うのはマップ機能。チュートリアルで王都の地図を貰ったので、僕は目的地を探した。

 発見。目的地はクリスタル。よく分からんがこのクリスタルに触るとジョブに就けるらしい。まぁゲームだし深く考えなくてもいいか。

 

 時々ティアンに話しかけられたり、他のマスターの様子を伺いながらジョブクリスタル、もといハ◯ーワークへと足を進める。

 

 

 ハ◯ワに到着。空いていたのですぐにクリスタルに接触、するまえにデンドロのジョブについておさらいだ。

 ジョブには下級職と上級職、超級職と三つの段階がある。

 

 下級職はほとんどの場合無条件で転職出来るが、その分大して強くはない。そしてレベルの上限は50で、六つまで就くことが出来る。

 上級職は強いが転職の条件が厳しく、サービス開始2日の時点ではまだ誰も就けていないようだ。そしてレベル上限は100、二つまで就ける。

 超級職については…よく分かってない。まだ誰も就いておらず、ティアンからの情報しかないので。ただめっちゃ強くて、レベル上限がない事は判明している。

 

 さて。おさらいもこの辺で良いだろう。僕はクリスタルに触り、出現したウィンドウに表示されたジョブを眺める。

 

 「えーと、いちにいさんしーごー…何個あんのコレ?」

 

 ジョブ多すぎィ!確実に500は超えてるぞ?デンドロぱねぇわ。さすがルイス・キャロル。略してさすルイ。

 

 ジョブの数が多すぎて頭が痛くなりそうだが、何とか僕は御目当てのジョブを見つけた。

 

 ジョブ【剣士(ソードマン)】。その名の通り剣を扱う下級職。特にSTR(筋力)AGI(速度)のステータスが上昇しやすくなるジョブだ。

 初期スキルは《剣術》。戦闘系はんようスキルで、効果は簡単に言えば『剣が使える』。レベルを上げていけば属性を纏った剣とかも使えるようになるだろう。多分!

 

 飯も食った!ジョブにも就いた!エンブリオはまだ孵化しないけど多分だいじょーぶ!

 

 それじゃあ……

 

 「一狩りいこうぜ!」

 

 

────────────────────────

□イースター平原 【剣士】XX(ダブルクロス)

 

 

 東門を出た先には〈イースター平原〉が広がっている。ここで出現するモンスターはレベルが低く、弱い。つまりここは初心者用マップだ。

 僕は木刀を肩に担いでちょうど良さそうなモンスターに近付いていく。そのモンスター【リトルゴブリン】は小学一年生くらいの背丈をした小鬼だ。他には少し遠くにウサギもいるな。後で狩ろう。

 

 リトルゴブリンとの距離は大体十メートル。全速力で駆け寄、木刀を頭部目掛けて振るう。途中で向こうもこちらに気がつき、警戒体制を取ったが大した抵抗を見せることもなく僕の木刀が頭にクリーンヒット。

 

 

 「Gy!」

 

 死んだ。

 

 何か思ってたんと違う…。ブナハブラでももう少し手強いぞ。まぁいい。次!

 

 「Gyaa!」次!

 

 「gyh次!

 

 「g次!

 

 「次!

 

 ……

 

 それから1時間ほどイースター平原でモンスターを狩った。成果はレベルが5上昇し、スキルも一つ獲得した。

 

ステータスはこちら。

 

 

レベル:5(合計レベル:5)

 職業:【剣士】

  HP(体力):258

  MP(魔力):36

  SP(技力):61

 

  STR(筋力):41

  END(耐久力):25

  DEX(器用):28

  AGI(速度):39

  LUC(幸運):17

 

 強くはなってるが、急激ってほどではない。まあ?僕のさいきょーエンブリオが孵化したらもう俺TUEEEしてやりますよ。エンブリオを持つだけでステータスに補正が入るからね。

 それと獲得したスキルは《パワー・スラッシュ》と言って、自身のSTRに応じて威力が高くなるという序盤らしいスキル。

 

 

 1時間狩りをしたわけだけど、現実だと20分しか経ってないんだよな?何これ最高かよ。1日が72時間になってしまったァ!!まぁログイン時間には制限があるんですけどね?

 

 つーかゴブリンとウサギ狩りにも飽きたな。一回街に戻ってご飯食べよっと。

 

 【メニュー】を閉じ、東門へと足を進めようとしたその時。

 左手の甲、つまりエンブリオが光を放ち始めた。きたきたエンブリオきたよコレ!!アームズこい!太刀こい!

 光が収まり、孵化したエンブリオの姿が現れる。

 

 そこには。

 

 ドラゴンがいた。大型犬ほどの、銀色に輝く鱗で覆われた流線型の体躯をした4本足のドラゴン。鋭い眼。

 何よりも特徴的なのは槍のような、現代兵器ミサイルのように尖った大きい翼。

 

 僕はこのドラゴンを知っている。

 

 

──バルファルク

 

 前世の記憶によると、『モンスターハンターXX』のメインモンスター。ゲーム内では古龍種という規格外の生物に分類され、【絶望と災厄の化身】【銀翼の凶星】と称されるモンスター。

 今世ではアフリカの伝説『狩人と竜たち』において龍という生物ではなく、世界に災厄をもたらす赤い彗星として登場していた。

 

 「キュィイイー!」

 

 バルファルクが飛びついてきた。大型犬くらいの大きさなのでバランスを崩すくらいで済んだが、鱗が刺さって痛い。でも可愛いなぁコイツ。ゲームだと音速で飛行して文明破壊したりするんだけど。

 

 えーと、モンスター型のエンブリオはガードナーって言うんだっけ。とりあえずステータスを確認しよう。僕は戯れてくるバルファルク(とてもかわいい)を撫でながら【メニュー】を操作した。

 

【天彗竜 バルファルク】

 

 TYPE:ガードナー  到達形態:Ⅰ

 ステータス補正

 HP:F

 MP:F

 SP:F

 

 STR:F

 END:F

 DEX:F

 AGI:C

 LUC:F

 

 

 「なるほどな…バルちゃんは優秀だねぇ」

 「ピュィイ!!」

 

 あぁ、鱗で腕が削られてく。痛覚切っといて良かった〜。HPは減ってくけど気にせず撫でる。後でポーション買わないと。

 

 それで。ステータス補正ってのは名前通り僕のステータスが強化される。そしてバルファルクのステータス補正は見事にAGI特化。モンハン最速の古龍らしくていいね。

 

 固有スキル

 

 《龍気》LV:-

 アクティブスキル。MPとSPを龍気エネルギーに変換し、操作する。

 

 《赤き彗星》LV:1

 パッシブスキル。飛行時、AGIが100%上昇する。スキルレベルによって倍率は上昇する。

 

 「ほーん、赤い彗星と龍気ねぇ。よし、バルファルク!あそこのゴブリンを()()()で倒してこい!」

 

──キュィイイイー!!

 

 膝の上でキュイキュイ鳴いていたバルファルクは僕の命令を聞くや否や、槍の様な翼を広げて地面に降り立つ。そして猛禽類の鳴き声と機械音が混じったような高音で咆哮。

 翼から赤い炎の様なエネルギーを放ち──

 

 数秒後、ゴブリンは爆散。

 

 血と臓物に塗れたバルファルクは嬉しそうに跳ねながらこちらに帰ってきた。僕はバルファルクを無言で撫で回し、HPがけずれすぎて瀕死になった。

 

 

 

 To be continued

 




ステータスは適当なので、余程おかしかない限りは許して…ユルシテ





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第三話 レベル上げ

 □イースター平原 【剣士】XX(ダブルクロス)

 

 ゴブリンを爆散させた後、バルファルクと共に目につく限りのモンスターを狩りレベルを3つほど上げた。バルファルクと戯れるたびにHPが減り瀕死になった僕は王都アルテアに帰還し、ポーションを購入して回復した後、【剣士】ギルドなる施設を目指し歩みを進める。

 バルファルクは大型犬サイズであり、王都の通路が広いおかげもあって通行の邪魔にはならないから隣を歩かせている。親睦を深めたい意図もあるが、何より他のマスターに自慢したかった。うちのバルファルクめちゃカッコ良くね?って。

 

 「お、それお兄さんのエンブリオか?かっけえな」

 

 冒険者風の格好をした青年に話しかけられたり。やはりバルファルクのかっこよさは群を抜いてるよな。古龍の中でも一番。

 

 「あぁはい、エンブリオですよ。やっぱドラゴンって良いですよねー。えーっと、あなたもマスターですかね?」

 「俺は『ノンノー』。実はさっきログインしたばっかでな。エンブリオが孵化するの待ってンだわ。街見てるだけでも楽しいんだが、まぁ折角だしな?」

 「なるほど。僕のエンブリオもさっき孵化したばっかで…。ところでジョブはもう就いたんですか?」

 「いや、エンブリオが孵化してから就こうと思ってな。だがら今ヒマなんだわ」

 

 それから5分くらい雑談し、今度一緒に冒険する約束とフレンド登録をしてから別れた。その間バルファルクが脛を齧ったり、引っ掻いたりしてくれたお陰でHPが半減した。溢れ出る凶暴性…!やはり何処まで行っても龍なのか。

 

 歩きながらバルファルクと戯れ、ポーションで回復を二回ほど繰り返したところで剣士ギルドに到着。 

 そこでモンスターが落とした素材を全て売却すると800リルになった。素材を売るついでに受付の男性に質問する。

 

 「手頃なクエストって何かないですかね?レベル10くらいでもクリアできる難易度の」

 「マスターの方でよろしかったですよね?でしたら…【ゴブリン討伐 難易度ニ】と、【ウルフ討伐 難易度ニ】ですかね。どちらとも10匹討伐につき報酬が支払われますが」

 「じゃあそれでお願いしまーす」

 

 先にクエスト受けてから行けば良かったな。ちょっと勿体無いことをした。他にギルドに用事もないのでそのままモンスターを狩りに行くことにする。あ、いや。

 

 「武器屋って何処にあります?」

 「武器なら当ギルドの2階で販売していますよ」

 

 マジかよラッキー。って事で武器を買ってきた。

 

 【スティールソード】

 装備制限:合計レベル1以上

 装備補正:攻撃力+10

 

 まあ初心者用の武器だね。800リルで買えた。日本円換算では8000円か。

 

 「ピュイイ」

 「おし、行こう」

 

 剣士のレベルカンストしたら次は【従魔師(テイマー)】になろう。エンブリオがガードナーだったマスターの大体がこのジョブに就くらしいね。能力はテイムモンスター(ガードナー含む)の強化だった筈。

 

 準備オーケー。最後に一度確認しよう。

武器、ヨシ!エンブリオ、ヨシ!ポーション、ヨシ!マップ、ヨシ!

 

 それじゃあ…

 

 「一狩り行こうぜ!」

 「キュィイイー!」

 

 

───────────────────────

□〈ノズ森林〉 【剣士】XX

 

 森の中だとバルファルクは全力を発揮できない。だからここは僕が良いところをバルファルクに見せつけてやろう!

 

 そう考えたていた時もありました…。

 

 僕の前には【ティーウルフ】が1匹。LVは僕より少し高いが、ステータスは僕の方が優っている。

 獣らしい俊敏な動きに最初は翻弄されたが、攻撃を当てられる様になってきている。AGIは僕の方が高く、後は慣れの問題だったのだ。

 

 「GRRAAA!」

 「オラッ!」

 

 飛びかかってきた【ティール・ウルフ】の前脚を切り落とす。すると着地に失敗し地面に倒れ込んだ。その隙を見逃さず首に剣を突き刺し、トドメ。

 

 「ふぅ…っと。バルファルクの方は、まぁ、うん」

 

 バルファルクは翼から龍気を放出し《赤い彗星》の効果が乗った高速移動。直線上にいた【ティール・ウルフ】は轢き殺され、その隣にいたヤツは頭を噛みちぎられた。少し離れた位置にいるヤツらには、翼を大きく広げて龍気をミサイルの様に飛ばして攻撃、命中、殺害。

 

 そして群れを率いていたリーダー格【ブラック・ウルフ】と対峙する。

 

 先に動いたのは【ブラック・ウルフ】。バルファルクに前脚を振るい爪で引っ掻いた。が、それをバルファルクは回避し、折り畳み鋭くなった槍翼は正しく槍のように【ブラック・ウルフ】の頭をブチ抜いた。

 

 「えぇ……」

 

 怖いんだが。何アイツ、一人だけ無双し過ぎだろ。僕が狼1匹殺してる間に10匹くらい殺したぞ。これがガードナーのエンブリオなの?どのマスターも自分のエンブリオが無双する光景にドン引きしてるの?

 

 「ピュイピュイー!」

 「ああ、うん。お前すげぇや。よしよし(5ダメージ)」

 

 痛い。

 

 

 

 気を取り直して、狩りの続きをしよう。今の戦闘でレベルも上がったし、次は僕も少しは活躍出来るだろう。

 

 「次行くぞ次!」

 

 

 数分後、遭遇したのはゴブリン系のモンスター。【リトルゴブリン】をはじめに【ゴブリン・ウォーリアー】、【ゴブリン・アーチャー】がいる。レベル的には格上。僕一人なら絶っ対死んじゃう。だが僕にはバルファルク様がついてるのだ!ひれ伏せ!

 

 「よし、バルファルク。蹴散らしてやれ!」

 「キュイイイイー!!」

 

 槍翼から龍気を噴出。棒立ちのゴブリンたちへ一直線に突っ込み、肉塊に変えてしまった。

 

 ゴブリン壊滅!ガハハハ、勝ったな。

 

 と笑っていたら右肩に矢が刺さった。

 その一撃でHPが40%を下回る。冷や汗を流し、僕は苦笑いを浮かべながら矢が飛んできた方向を見た。【ゴブリン・アーチャー】が3匹、木の枝の上で弓を構えている。

 

 「へへへ……

  助けてぇぇぇバルファルク〜!」

 

 バルファルクが僕の声に反応し、振り向いた瞬間には3つの矢が放たれた。的確に僕の頭を狙っている。矢は速いが、反応出来ない程ではない!

 

 脳天を貫くべく一番に放たれた矢をしゃがんで回避。二の矢は地面を転がって回避。三の矢は転がった方向が悪く、脚を掠ったがダメージは10程度。問題はない。

 弓の射線から逃れるべく距離を取り、木で身を隠す。その間にアイテムボックスからポーションを取り出して回復。そして剣を構えながら飛び出すと、バルファルクが龍気のミサイルで【ゴブリン・アーチャー】を討伐していた。

 

 「ほんとありがとう…」

 

 バルファルクは『気にすんなよ』とでも言うように首を横に振って僕の顔を舐めた。なんだコイツ可愛いカッコいいもぉ〜(ダメージ10)

 

 

 

 

 【ゴブリン討伐】  QUEST CLEAR

 【ウルフ討伐】   QUEST CLEAR

 

 

 

 「クエスト終わりましたー」

 「おぉ、本当にクリア出来るんですね」

 「ん?どういう…」

 「ああいえ、そのクエストはティアンだったらレベル15はないと死んでしまう程度の難易度なんですよ。いやぁ、流石マスターさんですね!」

 

 このクエスト受けた時レベル7だったよねぇ!?いやクエストはクリア出来たけどさぁ。何回か死に掛けましたけど!?

 

 「ははは、まぁそう睨まずに。ではクエスト報酬の2000リルと、モンスターの素材で1500リル。合計3500リルですね、どうぞ」

 「ありがとうございますぅ…」

 

 ギルドを出た僕は、噴水の近くに設置してあるベンチに腰掛けてバルファルクと戯れながらステータスを確認した。

 

 

 レベル:13(合計レベル:13)

 職業:【剣士】

  HP(体力):568

  MP(魔力):137

  SP(技力):169

 

  STR(筋力):140

  END(耐久力):103  

  DEX(器用):112   

  AGI(速度):257  

  LUC(幸運):19 

 

 

 レベルは6上昇し、ステータスはやはりAGIが群を抜いて成長している。あと剣士ジョブはSTRが伸びやすいので他と比べると高い。

 次にスキルだ。

 

 《パワースラッシュ》

 《テクニックスラッシュ》

 《スピードスラッシュ》

 

 新しく覚えたのは《テクニックスラッシュ》と《スピードスラッシュ》の二つ。名前の通りそれぞれ自身のDEX、AGIに応じて威力の上がる攻撃だ。きっと僕は《スピードスラッシュ》を愛用することになるだろう。

 

 【尿意】

 

 え、もう?ログインしてから3時間くらい、現実だと1時間前にトイレ行ったばっかりなんだが…。

 まあ出るもんは仕方ない。一旦ログアウトしましょーかね。

 

 「じゃあ、また後でな。バルファルク」

 

 しょんぼりしたバルファルクをみて僕は四十秒でトイレを済まそうと誓った。

 

 To be continued

 

 





原作キャラと絡ませたいなぁ。


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第四話 全力で生きる人々

誤字報告、感想、評価に超感謝します。ありがとうございます。



□王都アルテア 【剣士】XX

 

 デンドロを始めて5日経った。ゲーム内時間で言えば約二週間だ。毎日毎日クエストを受けながらレベリングを続け【剣士】ジョブはLV50に到達、つまりカンストした。そして僕は予定通り【従魔師】のジョブに…就かなかった。

 

 一緒にレベリングして仲良くなった、クマのぬいぐるみを着たマスターが【適職診断カタログ】という便利なアイテムを貸してくれたのだ。このアイテムを使用し、質問に答えていくと今の自分に合ったジョブを教えてくれる優れものだ。

 そして質問に答えた僕にお勧めされたジョブは元々就く予定だった【従魔師】と、【騎兵(ライダー)】というジョブだった。この【騎兵】というジョブは《騎乗》という汎用パッシブスキルが習得でき、基本的にどの獣も騎乗できる。

 似たようなスキルに《乗馬》があるがそちらは馬範疇生物にしか乗れないが馬に関しては同レベルの《騎乗》より乗りこなせる。つまり特化型な訳だ。

 

 僕はこの【騎兵】に転職した。僕はずっとバルファルクに乗りたかった!!その夢が叶う!!

 

 けれどバルファルクは大型犬(具体的にはガルク)サイズ。僕が乗ると速度が大きく制限されてしまう…。

 

 だが!それは昨日までの話だ!!

 

 

 【天彗龍 バルファルク】

 TYPE:ガードナー

 ()()()()()

 

 おめでとう!バルファルク は 第ニ形態に進化した!

 

 

 大きくなったバルファルクの頭を撫でる。

 

 第一形態の大きさは大型犬くらいであった。具体的な数値は体高約100センチ、体長約250センチ、体重は100キロオーバー。【従魔師】ギルドで測ってもらった。

 そんなバルファルクだが第二形態に進化したら一回り大きくなった。可愛いね(母性)。

 

 到達形態Ⅱのバルファルクは体高170センチ、体長300センチ、体重は200キロに近い。つまり、僕の頭とバルファルクの翼の高さがほぼ同じなのだ。

 確かモンハンで登場するバルファルクの最小サイズが2000センチ程度だったから、バルファルクはまだまだ大きくなると言うこと。可愛いね(父性)。

 

 さて。バルちゃんのステータスだが、全ステータスが剣士をカンストした僕の2倍程度。AGIは《赤い彗星》スキルの補正が入る飛行中なら僕の4倍……1000くらいだ。クソ速ぇや!

 新しく増えたスキルは《怒り》。最大HPの30%を下回ると全ステータスが上昇、加えて龍気エネルギーの変換率が上がるらしい。

 ちなみに僕へのステータス補正はENDが一段階上がっただけだった。

 

 近くの露店で買った焼き鳥をバルファルクと一緒に食べる。初日も買った焼き鳥だ。すげぇうまい。

 

 と、ここで声を掛けられた。

 

 「おーい。そろそろ行こうぜ」

 「あ、ごめん。もう準備出来たの?」

 

 プレイヤー、『ノーノ』。緑色の髪をした、モブ顔の男。彼のジョブは【斥候(スカウト)】だ。どうやら探索に向いたエンブリオらしく、それを活かすために【斥候】になったと聞いた。

 そんな彼と僕は二人で、初日にフレンド登録をしてからパーティーを組んでいる。健全な高校生男子の僕としては、可愛い女性プレイヤーと冒険したい気持ちがある。

 せめてクマさんいや、クマさんはぬいぐるみの癖してキャノン砲とガトリングぶっ放すファンタジーブレイカーだからなぁ。

 

 「何で野郎とクエストなんざって顔してんなぁ。分かりやすいぜ、坊や」

 「人生経験が豊富なおじさまには分かっちゃうか〜。人生経験が豊富な」

 「お、喧嘩か?おじさんに喧嘩売っちゃってるのか?」

 「バルファルク、脛を齧ってやりなさい」

 

 バルファルクは僕とノーノの顔を見つめると、溜息を吐くかのように頭を下げて歩きだした。なんか今『しょうもねぇなぁ』って聞こえた気がする!!僕まだ《魔物言語》待ってないよねぇ!?

 

 「…行くか」

 「…そっすね」

 

 【配達依頼─決闘都市ギデオン】

 【護衛依頼─決闘都市ギデオン】

 

 報酬は合計30000リル。配達物を持ち逃げすると殺されます。

 

 

 ◇

 

 

 「よいしょォッ!」

 

 掛け声と共に剣を振るう。【ゴブリン・ウォーリアー】を大きく上回るAGIで接近、翻弄。隙を見て腕を斬り飛ばし、首を刎ねる。

 

 【騎兵】に転職したのでパワースラッシュ等のスキルは使えないが、《剣術》スキルとステータスは引き継がれているので十分戦える。そしてなによりバルファルクがいるから、この草原辺りに出現するモンスターにはまず負けない。

 

 「こっちは済んだ!ノーノは!?」

 「俺の方も問題ねぇ!商人さんも怪我とかねぇよな?」

 「大丈夫ですぞ。いやぁ〜はは、流石はマスター。噂通りの実力だ。6日前に初めてジョブに就いたとは信じられませんな」

 「そりゃッ、どーも!」

 

 ノーノは器用に依頼人の商人さんと会話しながら戦闘する。商人さんはティアンで、マスターに護衛を依頼するのは初めてなのだそうだ。マスターはこの世界に訪れ始めてゲーム内だと一週間くらいだし。そしてよくそんな奴らに命を預けられるなぁと思う。

 

 さて。襲ってきたモンスターもあらかた倒し、逃走を始めた数匹もバルファルクが追撃し仕留めた。なので竜車に戻る事にする。

 

 「ではノーノさん、引き続き警戒をよろしくお願いしますぞ」

 「おーっす、任せてくださいよ。あ、ダブクロ。バルファルクこっちに付けてくれよ。一人じゃ寂しくて死ぬぜ?」

 「えぇヤだなぁ。ほら、バルちゃんも死ぬほど嫌そうな顔してるよ?」

 「流石にドラゴンの表情は読めねぇけどよぉ。バルファルク俺にめっちゃ懐いてるからな?マジで」

 「ハァ?バルちゃんは誇り高きドラゴンだぞ。ノーノなんかに懐くか!」

 「ははは!お二人は仲がよろしいですな!まるで親子のようだ」

 

 結局、まあこれも仕事の内かと割り切ってバルファルクをノーノに預けた。それに進化したバルファルクにこの竜車は狭すぎるからな。

 

 つまりノーノとバルファルクは外で警戒。商人さんは竜に騎乗中なので竜車の中には僕一人。暇なので商人さんと話すことにした。

 話しでもしないかと聞くと、快く頷いてくれた。やはり商人、コミュ力が高いな。面白くて会話が途切れない。

 

 「え、娘さんがいる?商人さん結婚してるんですか?」

 「おや?意外でしたかな?これでも若い頃はぶいぶいと…」

 

 なんとこの商人さん結婚してると言うのだ。しかも馴れ初めや思い出話など、かなり詳しく設定されている。恐らく商人さんが特別なのではなく、全てのNPC─ティアン─が彼と同じだけ設定されているのだろう。

 

 流石に、異常じゃないか?

 

 現実と変わらないグラフィック。五感の完全再現。時間加速。そして人間と変わらないAI。

 

 デンドロはオーバーテクノロジーの塊だと言った話はよく聞くが、ここまでの物なのか。僕は少しだけ、怖くなった。

 デンドロが、本当にゲームなのか信じれなくて。

 

 

──────────────────────

□山道 【騎兵】XX

 

 

 「ん…?商人さん、この山道を抜けたらネクス平原に出るんだよな?」

 「ええ、この先はネクス平原ですが…。何かあったのかね」

 

 外で警戒中だったノーノがバルファルクを連れ戻ってきた。一体どうしたんだろう。交代して欲しいのかな? 

 

 「どしたのノーノ。あ、それ。もしかしてノーノの〈エンブリオ〉?モノクルだから…TYPEはアームズか」

 

 いつの間にかノーノは左目に片眼鏡(モノクル)を装備していた。それについて問うが、ノーノは軽く流してどこか焦った風に話を続ける。

 

 「あ、ああ。これは俺のエンブリオ【全知眼 ウジャト】っつうんだが…今それはどうでもいい。商人さん、この先に

 

──亜竜級のモンスターがいる。それも2体だ。

 

 「ほ、本当か!?何故だ?ネクス平原には20LV程度のモンスターしか生息していないはず!」

 「亜竜級って確か…下級職六人分、もしくは上級職一人分の強さだっけ?まあ、別に遠回りして行けば良いんじゃないの?」

 

 そう言うとノーノは眉を顰めて悩み始めた。そして呟くように、葛藤を漏らすように言葉を発する。

 

 「人が…ティアンが襲われてる。このままじゃ確実に全滅だ。マスターも一人いるみたいだが…流石に亜竜2体相手は無理だろ」

 

 正直、意外だった。ノーノがNPCの心配をするなんて。僕の思う彼は、ちょっとやさぐれた面白おじさん。少なくともNPCの、所詮ゲームの仮初の命を気にするような性格には見えなかった。

 

 「助けたいの?」

 

 僕はただシンプルに。ストレートに質問する。ノーノは驚いたように目を開いた後、ゆっくりと頷いた。

 

 「ああ……助けたい。俺は、俺は。ティアンを──」

 

 「よし、分かった!商人さん、ノーノはここに残していきますから、僕に護衛を一旦離れる許可を貰えませんか?」

 「…むしろこちらからお願いしたい。あの竜車、私の知人で違いないだろう。クロスくん。マスターとはいえど少年に命を掛けろなどと言うつもりは全くないが…頼むっ。彼らを助けてやってくれ!」

 

 頭を下げている商人さんの手を見た。力強く、爪がのめり込むほどの強さで握っている。

 ああ、全力なんだなぁ。

 

 商人さんは。露店のおばさんは。ギルドの受付さんも。

 みんな、今を生きる()()なんじゃないかって。

 

 

 「バルファルクッ!全速力で行くぞ!」

 

 これから挑むのは『狩り』じゃない。人を護り、救う闘いだ。

 

 

 僕の声に相棒は、力強い高音の咆哮で応えた。



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第五話 亜竜猛虎

RISEにバルファルク来ましたね。しかも特殊個体。
もう皆さん狩りましたよね?最高でしたよね?
間違いなくRISE最強格のモンスター、バルファルク。防具も強いし。完璧ッす。新しいモーションに翻弄されたし…。初見は2乙しました。楽しかった!





□山道 【騎兵】XX

 

 僕の言葉に応えるようにバルファルクは高音を響かせた。その音に魂が刺激でもされたのか、前世の記憶が蘇る。

 

 立ち塞がる銀色の龍。槍であり、刃であり、砲でもあるその翼。

 赤く染まる胸部に、噴出される赫き龍のエネルギー。

 

──【天彗龍 バルファルク】

 

 かつては討伐対象()であった龍が、今では最も頼れる相棒か。

 

 「バルファルク、全速力で頼む!」

 

 僕は【騎兵】に転職し、バルファルクは第二形態に進化した。《騎乗》スキルは未だLV3だが問題ない。しがみつくだけだから。僕はバルファルクの背中に跨り、飛行の邪魔にならないよう姿勢を低く、腕は太い首に回して固定する。

 

 バルファルクのAGIは約600、そして《赤い彗星》の効果により飛行中はAGI+100%。よってバルファルクのAGIは1200まで跳ね上がる。

 詳しい数値は分からんが、秒速30メートルくらい?まあ、とにかくクソ速い。

 今襲われてる人達とは500メートルは離れてるが、僕という重りがあっても20秒有れば到達できる。

 

 

──KYUYYYY!

 

 二回目の咆哮と共にバルファルクの胸部が空気を吸引する。これは本気で龍気を扱う為の前準備。SPとMPの変換が完了すると、槍翼から龍気が漏れ出していた。ああ、ちなみにバルファルクの槍翼が後方を向いている状態を「彗龍形態」と呼ぶ。移動特化の形態で、ミサイルや戦闘機を連想させるフォルムだ。

 この形態で龍気を噴出すると──

 

 バルファルクが駆け出し、軽く身を浮かせた瞬間

 

 

 気が付けば僕は山道から、開けた平原にいた。

 意識が飛んでいた訳ではない…筈だ。そう、バルファルクが速すぎる。AGIに4倍の差が有ればそれはもう別世界って事か。

 振り落とされないよう強くしがみついたせいで、バルファルクの鱗が刺さってダメージを負う。やっぱ格が違うんすねェ…。

 

 さて、モンスター達まで残り100メートル程度。残り5秒くらい。4、3、2……!

 

 衝撃。

 あまりの衝撃に今度こそ意識が飛んだ。一瞬で戻れたけど。

 

 どうやら、えーッと。ティアンを襲っていたモンスターにそのまま突っ込んだらしい。お陰で一体のモンスターをかなりのダメージを与えると同時に吹き飛ばし、ティアンから距離を取らすことが出来たが……。

 

 こちらも瀕死です。

 

 僕のHP 24/464

 バルファルクのHP 17/841

 

 僕は急いでアイテムポーチから【HPポーション】を取り出し、自分とバルファルクに使用した。HPが30%を下回ったからバルファルクの〈怒り〉スキルを発動するが、今攻め込んでも返り討ちだろう。待ったをかける。

 

 「びっくりしたクマー…けど助かった、XX(ダブルクロス)

 

 「その声に4980リル(ヨンキュッパ)で売ってたクマのきぐるみはッ…!()()()()()!」

 

 キャラクリでミスって着ぐるみプレイを強制されてるシュウ・スターリングさんじゃないか!可愛い着ぐるみに似合わないイケボとゴツい銃をぶん回すファンタジー壊し屋のシュウ・スターリングさんじゃないか!

 

 「失礼な事考えてないクマ?まあ、それよりもだ。XX、今吹っ飛ばした方任せてもいいか?」

 「オッケー。モンスターのステータスは分かります?」

 「ENDは低め。STR、AGIは800は堅いな。亜竜級…ボスモンスタークマ」

 

 名前は【亜竜猛虎(デミドラグタイガー)】。名前の通り、虎だ。ただサイズはバルファルクより一回り大きい。体高2メートルはありそうだ。

 つーかAGI800!?素のバルファルクより速いのかよ。僕の3倍くらいか?よくシュウさん生き残ってんな。確かAGI100前後だろこの人。

 

 「ティアンは?怪我とか」

 「軽症だ。隙を見て逃げるよう伝えてある。…そっちの奴が復帰してくる。任せるぞ」

 

 そう言うとシュウさんはゴツいガトリングをぶっ放す。そして「やっぱり大したダメージにならんクマ…。殴るか」って呟いてた。もはやクマじゃなくてゴリラじゃん…

 

 「KYUYY!」

 「ああ、分かってる。スリーカウントで仕掛けるぞ」

 

 手に握るのは新調したばかりの【アイアンソード】。少し大きめの片手剣だ。防具も勿論初期装備から二回更新して【ソードマン】シリーズだ。今は【騎兵】だけど。

 …どうでもいい事で思考が埋まる。緊張してるんだろう。亜竜級との遭遇は初めてでは無いが、前回はすぐに逃げた。絶対に敵わないと遠目から見ても判断したから。

 

 目の前の【亜竜猛虎】だって格上だ。僕もバルファルクもステータスは劣っている。勝ち目は薄い…デンドロのデスペナルティは現実で24時間のログイン不可だ。楽しみが減るが我慢は出来る。

 だがティアンが助からないかもしれない。それは、何か嫌だ。

 

 ティアンはただのNPCで、データだけの存在かもしれない。もしかしたら本当に、僕らと変わらない魂がある人間なのかもしれない。

 でもいま、ティアンの真実なんて関係ない。どうでもいい!

 

 僕が、ノーノが、シュウさんが!助けたいと思ったから助ける。だって、()()()()()()()()()()()()()

 

 「今ッ!」

 

 剣を構えて走り出す。それと同時に後方で控えているバルファルクが槍翼を前方に展開し、龍気を溜めミサイルのように十発ほど放った。僕では目で追うのも難しい速度で迫るそれを【亜竜猛虎】は全てを回避する。

 

 「GWOOO!!」

 

 咆哮と共に【亜竜猛虎】が僕に向かってくる。推定AGI800、その速度はやはり僕が対応できるレベルじゃない。ステータスも技量も、戦闘経験も何もかもが不足している。

 1秒と掛からずに眼前に迫った【亜竜猛虎】の牙。ピクリとも動かぬ腕と脚。お飾りとかした剣。

 

 「KUYYYY─!」

 

 一撃で僕のHPの全てを掻っ攫うであろう攻撃を避けれたのは、バルファルクによる僕への体当たり。

 吹き飛ばされた僕を置いて始まったのは獣同士の殺し合い。

 

 【亜竜猛虎】の殺害に特化したような爪による引っ掻きをバルファルクは紙一重で回避し、龍気の放出で加速した槍翼による突きで反撃。槍翼は【亜竜猛虎】の肩を掠りHPを僅かだが削った。

 

 「GRRRU…」

 「PUYY…」

 

 一瞬の攻防。それを見て僕は悟った。

 

 「これ、無理ぞ?」

 

 えぇ〜?何アレ速くない?僕のAGI300くらいよ?一応【剣士】カンスト、バルファルクのステータス補正はAGI特化なんですけど…ついていける気がしない。

 むぅぅん。全速バルファルクよりは遅いが、対応できるかと言われると厳しいな。もう少し慣れが必要だ。

 

 ちらりとシュウさんの様子を見る。まだ、生きてますか…?

 

 「シィッッ!」

 「GAAッ!?」

 

 えぇ〜…シュウさん殴ってるし蹴り入れてる。AGI差10倍近くだよね?ナニあれ?攻撃避けてるし、反撃もしてる。えぇ…?

 

 ま、まあ。やれる事をやれば良いさ!ぼかぁバルファルク様のサポートに専念しましょうかねぇ!?

 

 

 僕の役目はバルファルクのサポート。敵の妨害、消耗を狙い、バルファルクの回復、いざと言うときの盾。

 

 ゆっくりと、ヘイトを買わないように猛虎の側面に回る。それに猛虎は反応するが、バルファルクの方を向いたままだ。…脅威度の判定は済んだのだろう。雑魚はどうでもいいようだ。

 静かな睨み合い。それを崩したのは……

 

 「今のうちに逃げるぞっ!走れ走れ!」

 「ぉおっ、お!くそったれ!死にたくねぇ〜!」

 

 竜車から逃げ出したティアン。荷台を引く竜は既に殺されているので走って逃げるしか無いんだろう。

 猛虎にティアンを襲う様子は、ない。『勿体ねえ』みたいな顔をした気はする。反対にバルファルクはティアンに目もくれず駆け出している。

 ティアンに意識を割いた猛虎は必然、遅れをとった。

 

 地面から両脚が離れ飛行判定のバルファルクは〈赤い彗星〉の効果が乗る。更に彗龍形態での龍気放出による加速も合わさり猛虎を余裕で上回る速度で突撃した。バルファルクのぶちかまし。 

 バルファルクにも反動でダメージが入るが、それ以上に猛虎がダメージを負い、大きく怯む。

 

 その怯みを逃さずバルファルクは追撃する。爪で引っ掻き、噛みつき、槍翼で肉を穿つ。【亜竜猛虎】は恐らくAGI、STR型のステータス。ENDつまり防御は低めだろう。HPはかなり削られたはず。

 

 僕も一応攻撃したんだからねっ。バルファルクのぶちかましで怯んだ隙に背後に回って猛虎の尻尾を切り落としてついでに後脚を軽く切った。

 

 デンドロはリアリティが高い。それには戦闘のシステムも含まれる。現実的に考えて尻尾と脚を切られたら痛いし血が出るさ。猛虎に状態異常【出血(小)】が追加される。

 そしてそれは猛虎を怒らせるには十分だったようだ。

 

 「GRRRRAAA!!」

 

 咆哮。

 

 スキルの効果によるものかビリビリと身体が震え、動かない。バルファルクも同様だ。

 動かない格下なんて案山子ですよね。そして猛虎さんは弱い方の案山子から減らしていくらしい。つまり……僕だッッ。

 

 「GRRRRAAA!!」

 

 猛虎が駆け出すと共にスキルの効果が解除、身体が動く!

 

 「うぉッおおぉ…!」

 

 構えた剣で前脚の振り下ろしをギリギリで受け止めた。STRでは大きく劣る。力比べは愚の骨頂!受け流す技量はないので剣を手放し、後ろに飛び退く。

 

 猛虎の追撃。

 

 相手は自分より3倍以上速く、一撃で僕は瀕死もしくは即死。だから相手の動きを視て、攻撃を予測するしかない。無駄な思考は一切止んで生存への道だけを模索する。

 

 右上からの振り下ろし、バックステップで回避。

 連続で左から引っ掻き、バックステップで回避。

 噛みつき、横に飛んで回避。

 噛みつきからの体当たり、両腕を交差し防御。敢えて踏ん張らずにそのまま吹き飛ばされる。一撃でHPが二割を切った。

 硬い地面と衝突、HPが一割を切る。

 

 猛虎が迫り、トドメを刺さんと爪を振り下ろす。転がって回避。

 連続で爪が振り下ろされる。緊張も合わさり息は切れ、回避もままならない。

 詰みだ。

 

 僕が一人だったなら。

 

 「バル…ファル、ク…!」

 

──KYUYYYY!!!

 

 僕を守るように槍翼を大きく広げて構えた。バルファルクの翼は飛行と攻撃の為のものであり、防御に用いられる事は殆どない。故に。

 猛虎の一撃を受けた槍翼の鱗には罅が入り、所々剥がれ落ちる。血も流れ出し、バルファルクのHPは一気に()()()()()()()

 

 スキル〈怒り〉の発動条件は、最大HPの30%以下。

 効果はSTR、AGIへの補正と攻撃力の上昇!

 

 バルファルクの頭部と翼が黒化し、龍気が過剰なまでに放出される。

 

 その姿を見た者は、不吉さを感じるかもしれない。凶兆だと言う者もいるだろう。だが僕にはその姿が、何よりも輝いて見えるのだ。

 

 

 

 

 





矛盾点等ありましたらどうぞよろしくおねがいします〜。


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第六話 彗星

□ネクス平原

 

 決闘都市ギデオンへ続くネクス平原、そこで二人の〈マスター〉と二匹の【亜竜猛虎(デミドラグタイガー)】が死闘を繰り広げている。

 

 熊の着ぐるみを着た男、シュウ・スターリング。シュウのステータスはSTR(筋力)特化型であり、AGI(速度)は100にも届かない。対する【亜竜猛虎】のAGIは800を上回っている。

 常識的に考えて、自身の10倍の速度で動く虎に襲われた人間は殺され食われているだろう。

 

 その筈だった。

 

 シュウは戦闘開始から5分経った今、受けたダメージはゼロ。それどころか亜竜猛虎のHPを7割削っている。それを成したのは〈エンブリオ〉による力でも、ジョブの力でもない。

 技量。鍛えられた格闘技術によって格上を追い詰めていた。

 

 (今まで遭遇した中で一番速いクマー…。ステータスはほぼ負けてる。STRだけは僅差か)

 

 「GRRRRAAA!!」

 

 猛虎が振った爪はシュウの身体を無惨に引き裂──かれる事はなく、その攻撃を先読みし待ち構えていたシュウの拳と衝突し、破壊された。爪は折れ、肉は裂け、骨は砕かれる。それだけのSTRをシュウは有している。

 

 (相手が10倍の速度で動くなら…()()()()()()()()攻撃を置いておけば良い)

 

 意味が不明だった。その光景を見ていたもう一人のマスターが「えぇ…?」と首を傾げたのは当然だろう。彼の戦闘技術は人類最高峰、神業と称される領域なのだから。

 

 (あと十発も入れれば倒せるか。アレはまだ温存だな、当てにくいし。状況は…ティアンは無事に逃げられた。あとは XX(ダブルクロス)の方か)

 

 後ろに飛び退き距離を取った猛虎への警戒は緩めず、シュウはもう一つの戦場に目を向ける。

 

 

 隣の戦場では赫黒き"龍"と血塗れの"虎"が殺し合っていた。

 龍は空を舞いながら赫い雷の如きエネルギーを放つ。対する虎も負けじと大地を駆け回り牙が爪が空気を切り裂いている。

 

 そしてその横には怪獣大戦を目の当たりにし、死んだ目をして立っているマスターがいた。偶に「助けて…」と呟いている。

 

 シュウは助太刀に来てくれたマスターに少し同情した。

 

 

 

 赫く黒い銀翼の龍──【天彗龍 バルファルク】は彗龍形態へ変化、翼から龍気を放出し空へ飛び上がり【亜竜猛虎】に攻撃を開始する。

 

 まず放たれたのは圧縮された龍気の砲弾(XXは龍気弾と名付けた)。通常時であればゴブリン程度のモンスターを瀕死に追いやる程度の威力しか持たないが…、今のバルファルクは《怒り》状態。

 MPとSPを変換して生む龍気エネルギーの変換率が跳ね上がり、更に攻撃力が30%上昇する。結果、【亜竜猛虎】も無視出来ない程の威力になった龍気弾が空中から一方的に二十発ほどばら撒かれる。

 

 命中した龍気弾は肉を焦がしHPを削り、外れた弾は大地を吹き飛ばした。猛虎は痛みで多少怯んだ様子を見せたが脚は止めずに移動を続け、まさに虎視眈々と反撃の機会を待っている。

 

 《怒り》状態で理性が薄れているバルファルクだがこれ以上空中に留まるのは龍気が持たないと判断し、龍気形態へ変化しながら地へ降りた。

 

 その瞬間に猛虎が脚に溜めていた力を一気に爆発させ、バルファルクへと襲い掛かった。飛行をやめた事で《赤い彗星》が停止しAGIで劣るバルファルクだが猛虎の攻撃を龍気を放出して回避。爪が僅かに掠るが致命傷は避け、すれ違いざまに槍翼を伸ばして刀のように斬りつけた。

 

 睨み合い威嚇し合う二体の怪獣。

 

 「PYUYYYYY!!!

 「GRRRRAAAAAA!!!

 

 怪獣同士の咆哮は、ぽつんと立っている人間(マスター)をビビらせる。

 

 「やばい」

 

 (頼む……!こっち来るなよこっち来るなよぅ…。てか何なの?これじゃあもうデンドロじゃなくて絶対絶命都市的なゲームになってるじゃん!つーかバルちゃん僕のこと分かる???さっき龍気弾が僕を掠めたんですけど謀反ですか…?)

 

 マスターが現実逃避している間も戦闘は続き、最終局面へと突入した。

 

 

 バルファルクのHPは先程の擦り傷で残り2割、MPSPは龍気の多用によって尽き掛け、短期決戦しか道はない。

 対する【亜竜猛虎】もバルファルクの攻撃によりHPが残り3割を切り、動きが鈍くなるほど全身に傷を負った。そして駆け続けた事によりSPを消耗している。

 

 互いに満身創痍。手負いの獣。

 

 高まる凶暴性、極まる野性、燃え上がる執念。

 

 砕け血塗れた銀翼槍翼、砕け血塗れた鋭爪鋭牙。

 

 

 

───決着は、一撃で決まる。

 

 

 

 一瞬の静寂、達人同士の立ち合いに似た空気を破ったのはバルファルク。動きが鈍る猛虎は先手を譲る形となった。

 バルファルクは残るMPSPを振り絞り全て龍気に変換、噴出。赫い尾を引き上昇した。

 【亜竜猛虎】はバルファルクを迎え撃つ為、体を低く低く構える。それはまるで限界まで引き絞られた弓のよう。

 

 飛翔するバルファルク。50メテルを超え、70、80……100メテルへと達す。そこで龍気の噴出を一時止める。空中で身体を捻って、真下へ方向転換。その槍翼は【亜竜猛虎】を貫かんと定められた。

 

 爆発。超加速。残る龍気は全て加速に回され、最高速度で落下する。

 

 その姿はまさに。

 

 

 「()()()()……」

 

 

 

 

──平原に堕ちた赫い彗星は、一体の獣を打ち砕いた

 

  

 

  

 

 

 

 

 

 

 

□決闘都市ギデオン 【騎兵(ライダー)】XX

 

 

 「乾杯クマー!」

 「うぇーい!お疲れー!!俺何もしてねーけど!」

 「…かんぱい」

 

 その後ギデオンに辿り着いた僕とノーノ、それとクマさんも一緒に冒険者ギルドへお届け物クエストと護衛クエストの達成報告をしに行った。あと【デミドラグタイガー】に襲われたことも。

 

 「いやぁ〜まさか亜竜と遭遇するとは。正直死んだって思ったけど案外何とかなって……無いんですけど!?」

 

 ギデオンに辿り着いたとは言ったが、無事に辿り着いたとは言っていない。この通り、僕もノーノもクマさんも五体満足で飯食ってるんだが。

 一人、否。一体足りないよね?

 

 そう。僕の相棒バルファルクが、いない。

 

 「ははは、彗星みたいに虎を倒したと思ったら、本当にお星サマになっちまった……なんてな?」

 「ぶっ殺すぞ!!!」

 「ごめーーんっ!」

 

 つまりはそういうことだ。まあ上空100メートルからジェット噴射で加速して衝突したらバルファルクのENDじゃ耐えられないよね…。

 

 「まあまあ、これでも食べて落ち着くクマー」

 

 クマさんから注文したあったかいホワイトシチューを受け取り食べる。マッッジで美味い。ここの店のシェフは【料理人】の上位職にも手が届きそうなレベルで、大人気なんだとか。

 

 「ハァ〜…バルファルクの復活は現実時間で24時間、こっちだと3日。泣きそうなんだが」

 「24時間か、実質デスペナだな。俺の知ってるやつはデンドロ時間で1日だったぜ?やっぱりエンブリオごとで復活時間も全然違うんだな」

 

 「そう言えばXXはもう【亜竜猛虎の宝櫃】はオープンしたクマ?」

 「いや、まだだよ。折角ならシュウさんと一緒に開けようかなって」

 

 【亜竜猛虎の宝櫃】…一言で言えば宝箱だ。ボス級のモンスターを倒すとドロップして、アイテムが最大5個?入っている。

 

 「じゃあせーので開けるクマ。ノーノ頼むクマ」

 「おう。いくぞー…せーのッ!」

 

 

 《【亜竜猛虎の短剣・ネイティブ】を獲得しました》

 《【亜竜猛虎の短剣・ネイティブ】を獲得しました》

 《【エメンテリウム】を獲得しました》

 《【エメンテリウム】を獲得しました》

 

 短剣が二つに、エメンテリウム(換金アイテム)が二つ。

 

 「あ、神引きしたクマ」

 「あ、ダブった」

 

 …まぁ僕も全然引き悪く無いし?気にしてないし?

 

 「XXは何が出たクマー?俺はネイティブの鎧と剣だったクマ。それとエメンテリウムが二つ」

 「短剣2本とエメンテリウム二つッすねぇ」

 

 「いーなーいーな俺も欲しーな」

 「お前見てただけじゃん。精々ソロで亜竜狩れるように頑張れ」

 「確か剣も鎧も売れば百万リルくらいにはなるクマ。俺は剣も鎧もいらんしすぐ売るクマ。それに必要レベルがまだまだ遠いしな」

 

 この短剣装備制限レベル合計200!?えっぐいなぁ…あと150レベルも必要なのかか。どっちも売ったろ。その金でいま自分に必要な装備を整えればいい。これでバルファルクが復活するまでの予定が一つ埋まったな。

 

 「この後どうする?解散か、それともギデオン名物の決闘でも見るか」

 「あー…僕ぁもう疲れたし、今日は落ちるわ。リアルも良い時間だしな」 

 「そっか、日本は深夜か。シュウはどうする?」

 「俺は闘技場行きたいクマー。夜はまだまだ始まったばかりクマ!」

 

 日本時間は深夜の一時ですけどね。身体に気をつけてね。廃人クマさん。

 

 「じゃ、今日はお疲れー。またヨロシクねー」

 

 僕はログアウトした。その後、泥のように眠って。

 

 

 To be continued

 

 

 







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