エデンズダンガンロンパ 希望の生徒と絶望の楽園 (M.T.)
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Prologue 絶望(おわり)の始まり
プロローグ①


私立希望ヶ峰学園。

そこは超高校級の才能を持った希望溢れる生徒達が入学する、世界でも有名な名門校だ。

この学園に入学する条件は二つ。

現役の高校生である事、そしてある分野において超高校級である事。

希望ヶ峰学園の卒業生は将来を約束されるとも言われており、事実卒業生達は世界中で偉大な功績を残している。

 

俺の名前は赤刎(アカバネ)(マドカ)

俺も、実はあの希望ヶ峰学園に入学する事が決まったのだ。

そして今、俺は希望ヶ峰学園の前に立っている!!!!

 

「うぉお、マジか!!ヤベェ、興奮してきた!!」

 

俺は、緊張や興奮、そして希望を胸に希望ヶ峰学園への一歩を踏み出した。

その瞬間。

 

 

 

 

 

「…あれ?」

 

突然視界が歪み、世界の色がグシャグシャに撹拌されていく。

 

そして、俺の意識は途絶えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この時、俺はまだ知らなかった。

俺が踏み出した一歩は、希望への一歩なんかじゃなかった。

 

それは、絶望への一歩だったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…え。

 

…ねぇ。……て。

 

………ねぇってば。

 

 

 

「ん…?」

 

俺は、聞き覚えのある女の声で目が覚めた。

目をゆっくりと開くと、小柄な女の子が俺の顔を覗き込んでいた。

………ん?女の子?

 

「あ、よかった…死んでたらどうしようかと思った…」

 

女の子がほっとしてため息をついたようだが、それどころじゃない俺は思わず大声を上げて跳び上がった。

 

「うぉあああっ!!?だ、誰だ!?」

 

「わっ……お、落ち着いて、赤刎くん。」

 

「な…何で俺の名前を知ってんだ!?…って、あれ?」

 

薄紫色のサイドテールで深緑のボレロを着ているその子がはっきりと俺の名前を言ったので、俺はさらに混乱した。

だが一旦落ち着いてその子の顔をよく見てみると、俺がよく知っている顔だった。

 

 

 

「………お前、札木… 札木(サツキ)未来(ミライ)か?」

 

「うん。よかった…思い出してくれて…」

 

思い出した。

この子は札木未来。

俺の高校のクラスメイトで、【超高校級のタロット占術師】として希望ヶ峰学園にスカウトされたんだった。

確かタロット占いが得意で100%当たるって有名だったはずだ。

 

 

 

【超高校級のタロット占術師】札木(サツキ)未来(ミライ)

 

 

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おっと、ついでにここで俺の自己紹介もしておこう。

俺は【超高校級の講師】赤刎円だ。

幼少期を孤児院で過ごした俺はよく下の子に勉強を教えていたんだが、その経験を生かして近所のこじんまりとした学習塾で講師のアルバイトをしていたらそれが話題になってスカウトされるに至ったというわけだ。

 

 

 

【超高校級の講師】赤刎(アカバネ)(マドカ)

 

 

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ちなみに俺は赤毛を後ろでまとめてて紺のロングコートを着てるんだが、多分一番の特徴はこの絶望的な背の低さだろう。

何しろ、俺は女子小学生の間違いだろうというツッコミが飛んできそうな外見なのだ。

努力はした。セ●ビックしこたま飲んだし、ありとあらゆる健康法を試して背を伸ばそうと頑張ったんだ。

だが悲しいかな、小3から1cmも伸びませんでした。

 

…さて、自己紹介をして大分落ち着いてきたし、現状把握といこうか。

どうやら俺達は今、電車の中にいるらしい。

レトロな雰囲気な車両には監視カメラが設置されており、場違いなタッチパネルが目に留まる。

 

「札木、ここどこなんだ?俺達は何でこんな所にいるんだ?」

 

「………ごめん、わたしにもわからない。私も、目が覚めたらここにいたの…」

 

「そっか…まあ、そうだよな。とりあえず、ずっとここにいるのも何だし何か無いか探すか。」

 

「…そうね。」

 

俺達が車内を歩き始めた、その時だった。

 

 

 

ピロリロリーン♪

 

突然、今まで何の反応も無かったタッチパネルからデジタル音が聞こえてきた。

パッと画面が付くと、そこには『希望ヶ峰学園新入生のオマエラ!おはようございます!突然ではありますが、至急ホープステーションの改札口にお集まり下さい!』と書かれていた。

汚い字だな。

…いや、じゃなくて。

まず、タイミング良くパネルの画面が付いた事から考えて、このパネルは監視カメラで俺達を見てる奴が遠隔で操作してるとみて間違いないだろう。

それはいい。

だがここは一体どこで、このパネルに書かれてる事は一体何なんだ?

俺達が希望ヶ峰学園の新入生だって知ってるって事は、このパネルの文字を書いた奴は希望ヶ峰学園の関係者なのか?

ホープステーションとやらに俺達を向かわせて、一体何がしたいんだ?

…ああクソッ、考えれば考えるほどわけわかんなくなってきた。

何もかもわかんねーし、親か警察に電話した方がいいんじゃ…

 

俺は、ふとコートの胸ポケットを漁った。

 

…あれっ?

これ、俺の携帯じゃないぞ。

 

「どういう事だ?こんな携帯見覚えねぇし、で、肝心の俺の携帯はどこ行ったかわかんねぇし…」

 

「………赤刎くん。」

 

「ん?どうした、札木?」

 

「…わたしの方にも、わたしのじゃない携帯が入ってた…」

 

そう言って、札木は俺が持っている携帯と同じ携帯を見せてきた。

 

「…同じだな。」

 

「うん。何なんだろうね、これ…」

 

「…。」

 

このままでは埒があかないので、俺はとりあえず携帯の電源を入れてみる事にした。

すると、画面には『赤刎円クン ご入学おめでとうございます!』と表示され、その直後ホープステーションとやらの改札口と思われる場所の地図が表示された。

 

「うわ、何か地図出てきたぞ。ここに行けって事か?」

 

「…行っても大丈夫なのかな。」

 

札木は、不安そうな表情を浮かべて少し俯いた。

…そっか。

冷静さを保とうとしてるけど、やっぱ札木もいきなり知らない場所に連れて来られて怖い思いをしていたのか。

そりゃあそうだ。目が覚めたら知らない場所にいて、札木と俺以外の誰もいないなんて状況、怖いに決まってる。

せめて、俺が少しでも不安を取り除いてやらねぇと。

俺は、そっと札木の手を取ってニコッと微笑んだ。

 

「大丈夫だ。何かあったら、俺が守ってやるから。」

 

「…。」

 

札木は、僅かに目を見開いて口をぽかんと開ける。

…ん、やっぱ俺みたいなちんちくりんに言われたところで気休めにもなんねぇか。

 

「…はは、やっぱこの見た目じゃ説得力ねぇか?」

 

「………ううん。すごく嬉しい。……ありがとう、赤刎くん。」

 

「それじゃ、行こっか。」

 

「………ぅん。」

 

俺達は、手を繋いだまま電車から降りてホープステーションの改札口へと歩いていった。



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プロローグ②

駅の中は、レンガ造りでこれまたレトロな雰囲気の建物だった。

にもかかわらず、最先端の防犯カメラが設置されている。

昔風なんだか今風なんだかどっちなんだとツッコみたくなったが、ここはあえて何も触れない事にした。

 

ステーションの改札口に着いた俺と札木。

すると、そこには14人の男女がいた。

 

「お、やっと揃ったか!」

 

「遅いよ〜!こんな所でじっとしてるなんて性に合わないんだけど!」

 

「…チッ、これ以上騒がしくなるのはまっぴら御免だぞ。」

 

「うぅううう…怖いよぉ…今度は何なのぉ…」

 

センター分けの少年、ショートヘアーの少女、執事っぽい服装をしたプラチナブロンドの青年、ボサボサの髪の少年が口を開く。

 

「えっと…君達も車両のモニターを見てここに来たのかな?」

 

車椅子に乗った少年が話しかけてきた。

 

「あ、えっと…まあ…アンタ達もそうなのか?」

 

俺が尋ねると、和服を着た少女が答える。

 

「ええ、そうですわ。…すみません、わたくし達も目が覚めたら列車の中にいて…ここがどこなのか、何故ここにいるのかわからないのです。」

 

そうなのか…俺達と同じだな。

すると今度は、背が高い女顔の青年が口を開く。

 

「…ま、わからん事だらけやけど、一つだけわかる事もあるで。ここに連れてこられたモンが全員希望ヶ峰の新入生で超高校級の才能を持っとるっちゅうこっちゃ。」

 

希望ヶ峰学園の新入生…?

って事は、ここにいる全員が俺の同級生なのか。

…よし、だいぶわかってきたぞ。

ここはホープステーションとかいう駅の中で、今期の希望ヶ峰の新入生だけがここに集められたって事か。

 

 

 

現状を把握したところで、黄緑のショートヘアーでジャージを着た女の子がこっちに来た。

 

「あれ?小学生がいんじゃん!アンタどしたの?迷子?」

 

「迷子じゃねぇよ!俺は男子高校生だっての!」

 

「嘘ぉ!!?」

 

「嘘じゃねぇ!俺は【超高校級の講師】赤刎円だ!!」

 

「え、超高校級!?アンタも!?」

 

「お前なぁ…まぁ、この見た目じゃそう思われても文句言えねぇけどよ。で、お前は誰なんだ?」

 

「たはは、ごめんごめん。ビックリしちゃって言うの忘れてた。アタシは【超高校級のランナー】速水(ハヤミ)蘭華(ランカ)!!よろしく!!」

 

 

 

【超高校級のランナー】速水(ハヤミ)蘭華(ランカ)

 

 

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速水蘭華!?

確か、ありとあらゆる女子陸上競技の全国大会に出場して次々と大会新記録を叩き出し、走る種目では男子の記録をも大幅に抜いたっていう…

テレビのインタビューで見た事あるけど、やっぱ生で見ると全然違うな〜…!

 

「ああ、よろしくな速水。」

 

「うん、よろしく!!そっちの子は?」

 

「………札木未来。【超高校級のタロット占術師】。」

 

「よろしくね!!」

 

速水は、屈託のない笑みを浮かべて俺達二人と握手を交わした。

…何かこう、全く人見知りとかしないタイプなんだな。

 

 

 

「なあ、速水ちゃんが自己紹介終わったみたいだし、次は俺が言ってもいいだろ!?なあなあ!?」

 

お、今度はさっき最初に反応したアッシュブロンドのセンター分けの奴か。

学ラン着てるし、いかにも学生って感じだな。

すげぇ自己主張が激しいが、コイツは一体どんな才能を持ってんだ?

さっきからものすごく話しかけてくれってオーラ出しまくってるし、コイツに自己紹介しておくか。

 

「俺は赤刎円。【超高校級の講師】だ。こう見えてれっきとした男子高校生だ。ちなみに『ばね』の字は羽毛の羽じゃなくて首を刎ねるの刎な。で、こっちは…」

 

「……… 札木未来。【超高校級のタロット占術師】です。」

 

「へぇ、赤刎に札木ちゃんか!俺は漕前(コギマエ)(ミナト)!【超高校級の幸運】だ!!よろしくな!!」

 

 

 

【超高校級の幸運】漕前(コギマエ)(ミナト)

 

 

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才能溢れる生徒のみが本科への入学を許される希望ヶ峰学園だが、たった一人だけ超高校級の才能を持たない生徒が入学できる制度がある。

毎年平均的な高校生の中から一人が抽選で選ばれ、その選ばれた生徒は【超高校級の幸運】と呼ばれるというわけだ。

今年はコイツが選ばれたのか。

…何というか、こう…ものすごく自信満々だな。

普通、抽選で入ってきた奴がここまで自分を前面に出してアピールするか?

…まあ、前向きなのはいい事だけどよ。

 

「ん?どうかしたか?」

 

「あ…いや…何かお前、すげぇ元気だなーって思って…」

 

「当たり前だろ!だって、俺は希望ヶ峰学園に選ばれたんだぜ!?んなモンテンション上がるに決まってんだろーが!!」

 

「そ、そっか…」

 

「…ところでよ。」

 

「ん?」

 

漕前は俺の視線に合わせて屈むと、肩を組んできた。

そして、ニヤニヤしながら小声で話しかけてくる。

 

「速水ちゃんって、すげぇいい身体してると思わねぇか?」

 

「…はぁ!?」

 

「やっぱスポーツやってるだけあっていい身体してるよなぁ!見ろよあの巨乳!お前もあの乳に釘付けになってんだろ?なあおい、本当の事言えよ〜。」

 

「…そ、そうだな。」

 

コイツ、煩悩まみれじゃねぇか。

何だよ、さっきまでちょっと自信満々でかっこいいって思ってたのに台無しだよ。

…まぁ確かに、気持ちはわからんでもないが。

正直ああいう健康的な女は嫌いじゃない。大好きだ。

 

「………。」

 

俺と漕前がニヤニヤしていると、札木がものすごく冷めた目つきでこっちを見てきた。

ちょっ、札木さん!?クラスメイト相手にそんな目しないでくれませんかね!?

 

 

 

「Hey、オマエら!エロい話してんのか?だったらオレも混ぜろよ!」

 

今度は、タンクトップと迷彩柄のカーゴパンツを身につけた、焦げ茶のコーンロウの奴が話しかけてきた。

外国人か。…見たところ北米出身っぽいが?

 

「ジョン!お前も混ざれ!今な、速水ちゃんがメチャクチャエロい身体してるって事について話し合ってたんだよ!」

 

声がデカいなぁ。絶対本人に聞こえてるぞコレ。

 

「Oh,ソイツはオレもagreeだぜ!確かにランカのbazongasはtubularだよな!」

 

…ん、要は速水の爆乳がマブいって言ってんのか。

やっぱコイツも煩悩まみれかよ。

幸い、意味がわかってないっぽい速水はキョトンとしてるだけだが…

うわぁ、さっきから札木がものすごい目で見てくるんだけど。

なんかこのまま話続けてると周りの奴…特に札木からの印象最悪だし、そろそろ話題変えねぇと。

 

「えっと、ちょっといいか?俺は赤刎円。【超高校級の講師】だ。苗字は赤に首を刎ねるの刎で赤刎、名前は円って書いてまどかって読むんだ。よろしくな。」

 

「……………札木未来。【超高校級のタロット占術師】。」

 

「Oh,マドカにミライか!確かJapaneseでcircleとfutureって意味だよな?Japanese names are so cool!」

 

すっかり上機嫌になったところで、英語混じりの奴が自己紹介を始める。

 

「オレは【超高校級のadventurer】、つまり冒険家として入学したJonathan Walkerだ!オレの事は気軽にJohnって呼んでくれよ!」

 

 

 

【超高校級の冒険家】ジョナサン・ウォーカー

 

 

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ジョナサン・ウォーカー…ああ、あの有名な冒険家か!

確か遺跡や新種の生物の調査のために世界中を転々としてて、誰も近寄らないような死地や秘境地にも単身で乗り込んでいくっつーなかなかクレイジーな奴だ。

ブログもやってるんだがそれが世界中で翻訳されて親しまれる程の大人気で、そっちでもそこそこ稼いでるんだよな。

オレも実はジョンのブログの隠れファンで、一度英語の授業でブログを紹介した事がある。

 

「俺、お前のブログ読んでるぞ。毎回面白え記事書いてくれるから飽きねえんだよな!」

 

「俺も俺も!面白えよなあれ!」

 

「マドカとミナトはオレのfanなのか!いつもオレのblogを読んでくれてありがとな!」

 

俺は、漕前やジョンと一緒に盛り上がった。

コイツら、ノリが良くて正直一緒にいると楽しいんだよな。

 

 

 

「あのー…そろそろいいかな?」

 

俺達が盛り上がっていると、さっき俺に声をかけてきた、後ろから車椅子に乗ってメガネをかけた緑っぽい黒髪の奴が話しかけてきた。

 

「話の腰折っちゃってごめんね。でも、僕を含めてあとまだ11人いるからさ。」

 

「あ…そうだよな。悪い。俺達だけで盛り上がっちまって。」

 

札木もさっきから話題についてこれなくて困ってるし…何か悪い事しちまったかな?

 

「札木もごめんな?」

 

「…………。」

 

「んじゃ、改めて自己紹介。俺は【超高校級の講師】の赤刎円だ。」

 

「………【超高校級のタロット占術師】の札木未来です。」

 

「よろしくね、赤刎君に札木さん。僕は安生(アンジョウ)(ココロ)。【超高校級のカウンセラー】だよ。」

 

 

 

【超高校級のカウンセラー】安生(アンジョウ)(ココロ)

 

 

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安生心… 確か、まだ高校生なのに医者顔負けの医療知識と技術を持つ天才少年か。

本当は【超高校級の医者】としてスカウトされる予定だったが、身体の弱さを理由に精神科医を目指してカウンセリング教室を開いた事から【超高校級のカウンセラー】としてスカウトされる事になったそうだ。

安生の治療を受けた人は、どんなに重度な精神疾患でも普通に日常生活が送れるレベルにまで回復するらしい。

 

「知ってるよ、カウンセリング教室やってるんだろ?」

 

「よく知ってるね。…へへへ、僕なんてまだまだだけどね。」

 

「いや、その歳で名医顔負けの医療技術持ってんのは十分すげぇだろ。」

 

「ありがとう。二人とも、嫌な事があったら何でも僕に言ってね。僕でよかったらいつでも相談に乗るよ。」

 

「おう、頼りにしてるぜ。」

 

「……………。」

 

俺はニカッと笑い、札木もコクリと頷いた。

安生は、カウンセラーやってるってだけあって優しい性格なんだな。

何かあったら安生に相談してみるのもいいかもな。

 

っと、これで自己紹介してないのはあと10人か。

随分と話し込んじまったし、巻きでいくか。

 

「次行くぞ、札木。」

 

「…………。」

 

俺が次の奴の所に歩いて行こうとすると、札木はコクリと頷いて俺の後をついていった。

 

 

 

 

 



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プロローグ③

俺と札木は、まだ話していない奴と話に行く事にした。

お、あそこに女の子が二人いるな。

まずはあの子達に自己紹介するか。

 

「ちょっといいか?俺は【超高校級の講師】赤刎円だ。」

 

「……………札木未来です。【超高校級のタロット占術師】。」

 

俺達が自己紹介すると、さっきの和服を着た黒髪ロングの美少女がニコッと微笑んだ。

うぉ、すげぇ美人…

 

「よろしくお願いしますね、赤刎さん、札木さん。わたくしは、【超高校級の香道家】聞谷(キクタニ)香織(カオリ)と申しますの。以後お見知り置きを。」

 

 

 

【超高校級の香道家】聞谷(キクタニ)香織(カオリ)

 

 

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「…………香道家?」

 

「あら、やはりご存知ありませんか。まあ、伝統芸能の中でも知名度が低いので…聞き慣れないかもしれませんね。香道とは伝統芸能の一種で、沈水香木と呼ばれる天然香木の香りを鑑賞する芸道ですわ。」

 

「まぁ…若干違うがわかりやすく言うと香水ソムリエの和風バージョンってとこだな。」

 

「…………。」

 

「まあ、ご存知でしたのね。赤刎さんは物知りですわね。」

 

「まぁなぁ。マイナーだが、茶道、華道、書道に次ぐ伝統芸能の一種だしな。」

 

聞谷香織。

伝統芸能で有名な歴史ある名家聞谷家のお嬢様で、本人も伝統芸能で食ってる奴なら知らない奴はいない程の有名人だ。

聞谷流っつー新しい流派を創流してて、香道以外にもあらゆる伝統芸能を嗜んでるんだよな。

 

「俺はちょっと興味あるから、後で話とか聞かせてくれよ。」

 

「ええ、是非。」

 

聞谷は、ニッコリとお上品に微笑んだ。

何かこう、動作の一つ一つが気品に溢れてるし…まさに大和撫子って感じだな。

流石はあの聞谷家のお嬢様だ。

それにしても…マジでお嬢様口調で話す奴、初めて会ったぞ。

 

 

 

「ねえ、次はあたしいいかな?」

 

そう言って話しかけてきたのは、黒いブレザーを着た赤髪セミロングの女の子だった。

お、今度は如何にも女子高生って感じの子だ。

目がクリっとしてるし、美少女だがどちらかと言えば可愛い系だな。

 

「あたしは筆染(フデゾメ)絵麻(エマ)!【超高校級の画家】だよ。よろしくね、赤刎君に札木ちゃん。」

 

 

 

【超高校級の画家】筆染(フデゾメ)絵麻(エマ)

 

 

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筆染絵麻…

確か、世界的な芸術家達も高く評価する高校生画家だったよな?

独特のタッチと独自で編み出した表現技法から、熱狂的なファンが多いとか…ファンからの寄付金でアトリエを建てて、弟子も何人かいるって聞いた事あるけど、まさかこんな可愛い子だったとは。

 

「お前、あの筆染絵麻か?」

 

「あ、赤刎君あたしの事知ってたんだ。」

 

「そりゃあまあ有名人だからな。流石に顔までは知らなかったけど。」

 

「あはは…あたし、絵を描いてる時は熱中しちゃって取材どころじゃなくなっちゃうからさ。インタビューとかは代理の人が受け答えしてたんだよね。」

 

「ああ、あの切れ長の目の人か。」

 

なるほどな、だからあれだけ有名人なのに顔は知られてなかったのか。

 

「あの筆染絵麻と同級生だなんて、なんか不思議な感覚だな。よろしくな、筆染。」

 

「…。」

 

俺は握手を求めようとするが、筆染はスケッチブックに何かを黙々と描いていた。

 

「…ん?筆染?聞こえてるか?おーい!」

 

俺が少し大きめの声で呼び掛けると、筆染はビクッと肩を跳ね上がらせた。

 

「へっ!?あっ、ご、ごめんね!?あたし、一旦イメージが降りてきたらすぐ描きたくなっちゃって…絵の事になるとホント周り見えなくなっちゃうんだ!ホントごめん!」

 

筆染は、あわあわと平謝りしてきた。

…何というか、この子はちょっと天然っぽいな。

決して悪気があるわけじゃないんだろうけど、一旦熱中すると周りが見えなくなるタイプなんだな。

 

 

 

俺達は、見るからに16人の中で一番図体がデカい男に声をかけた。

剃り込みの入った黒い短髪で白い道着に下駄といった格好だが、何より特徴的なのは筋骨隆々の身体と顎髭だ。

俺が言うのも何だが、コイツ本当に高校生か!?

 

「は、はじめまして…お、俺は赤刎円…【超高校級の講師】です…」

 

「…………【超高校級のタロット占術師】の札木未来です。」

 

「…………………。」

 

いや、怖い怖い怖い!!

その顔で無言が一番怖い!!頼むから何か喋ってくれ!!

すると、男はゆっくりと口を開いた。

 

「………赤刎に札木か。」

 

「…うん。………君は?」

 

札木の奴、こんな怖い奴とよく平気で話せるよな…

 

「… 武本(タケモト)闘十郎(トウジュウロウ)。【超高校級の武闘家】だ。」

 

 

 

【超高校級の武闘家】武本(タケモト)闘十郎(トウジュウロウ)

 

 

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武本闘十郎…

確か、ありとあらゆる武道を制覇し、中学に上がる前に達人を打ち負かして道場破りを達成したんだっけか。特にタイマンでの取っ組み合いなら無敵ともいわれ、熊を素手で投げたとか、大岩を拳で砕いたとか、人間離れした伝説が生まれる程らしい。

 

「お前か。道場破りで有名なあの…」

 

「…それは違うぞ。」

 

「…え?」

 

「…噂が一人歩きしているようだな。俺はあくまで武道の達人に教えを乞い、その過程で組手をしただけだ。俺は、唐突に現れて問答無用で他流の師範代を奇襲するような真似はしない。」

 

「そ、そうだったのか。」

 

「…それに、俺より強い奴はごまんといる。俺は、まだまだ強くならなければならない。」

 

「おいおい、まだ強くなる気か?」

 

「武の道に終わりはない。対戦相手が居なくなったら、次は己との闘いだ。…いや、武道そのものが己との闘いというべきだろう。」

 

「………そっか、よろしくね。武本くん。」

 

「…………………………。」

 

札木は、そう言って一歩前に出た。

すると、武本は顔を真っ赤にして黙り込んでしまった。

…あ、コイツもしかして女に耐性がないパターン?

もしそうならずっと恥ずかしい思いさせるのもアレだし、そろそろお暇するか。

 

「じゃあ自己紹介は済んだし、そろそろ次の奴行くか。」

 

「……え、でも………」

 

「他の奴もいるし、巻きでいった方がいいだろ?」

 

「………うん。」

 

完全にさっき漕前やジョンと盛り上がった事を棚上げしたわけだが、札木はコクリと頷くと俺についてきてくれた。

札木、お前はホントいい奴だよ。

別れ際に武本の方をチラッと見ると、武本はさっきまでの調子に戻っていた。

…良かった、どうやら今ので正解だったらしい。

メチャクチャ怖い見た目してるし、引っ込み思案だってのはすげぇ意外だったな。

 

 

 

ドンッ

 

「わっ」

 

俺は、突然何かにぶつかった。

するとその直後…

 

「大変申し訳ございませんでしたぁあああああああ!!!」

 

「…え?」

 

いきなり、エプロンと三角巾を身につけた水色髪で瓶底メガネの女の子が土下座してきた。

 

「今のは完っ全に自分の前方不注意でした!誠に申し訳ございませんでした!!ホントに何でもしますんで、どうかお許しを!!」

 

「いや、前見てなかったのは俺も一緒だし、何もそんなに謝らなくても…」

 

「いえ!!今のは100%自分の過失です!!」

 

な…なんつー卑屈な…

 

「わ、わかったから顔上げろ。初対面の相手にいきなり土下座される方が逆に怖いよ。」

 

「ご、ごめんなさい…」

 

やれやれ、やっと落ち着いた。

 

「んじゃ、自己紹介な。俺は【超高校級の講師】赤刎円だ。」

 

「……………札木未来です。【超高校級のタロット占術師】。」

 

「へぇ、赤刎さんに札木さんですか!自分は【超高校級の家政婦】として入学する事になった、仕田原(シダハラ)奉子(トモコ)と申します!」

 

 

 

【超高校級の家政婦】仕田原(シダハラ)奉子(トモコ)

 

 

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仕田原奉子…

確か高校生の身でありながら家事全般何でも熟せる家政婦だったよな?

資産家やセレブがこぞって雇うから来年まで仕事の予定が埋まってて、年単位で待たないと雇えない程だって聞いた事あるけど…

 

「仕田原は家事が得意なんだよな?」

 

「はい!料理や洗濯から送迎や子守りまで、幅広くお応えしますよ!…まあ、家の手伝い以外はホント何の役にも立たないんですけどね。」

 

いや、十分有能すぎるだろ。

俺なんか家事はからっきしで部屋とかすぐにゴミ屋敷になっちまうから、家事ができるのは普通にすごいと思うけどな。

 

「いやぁ…それにしても、お二人とも本当に整ったお顔されてますよねぇ。羨ましい限りです。」

 

「そうか?俺は仕田原も悪くない顔してると思うぞ。」

 

「へっ、ご、ご冗談を!こんな不細工のどこがいいんですか!」

 

いや、不細工って…

俺は事実を言っただけなんだが。

瓶底メガネでわかりにくいけどよく見たらパッチリした綺麗な目してるし、顔のパーツもバランス取れてるし、正直今時の女子高生ミスコンに出てるような子達より美人なんだよな。

メガネ外して化粧とかすれば一番綺麗に化けるんじゃないか?

…まあ、その前に卑屈すぎる所を直せればだけどな。

 

「自分、家事だけは得意なんでお役に立てる事があったら何でも言ってください!」

 

「おう、頼りにしてるぜ。」

 

俺は、ニカッと笑って右手の親指を立てた。

…と、これであと6人か。

そろそろ次行った方が良さそうだな。

俺と札木は、まだ話してない奴の所に行くことにした。

 

 

 

次に声をかけたのは、鏡の前で前髪を整えている女の子だった。

その子は甘ロリファッションに身を包んでいて、ピンク色の髪をツインテールにしている。

 

「なあ、まだ自己紹介してないよな?」

 

俺が声をかけると、女の子はキッと睨んできた。

 

「ちょっとぉ、今髪整えてんだから邪魔しないでよ!見てわかんないの!?」

 

うわぁ…すごい剣幕で捲し立ててくるなぁ。

 

「…………あの、自己紹介………」

 

「ちょっと待ちなさいよ。あとちょっとで終わるから。ったく…ここホントジメジメしてるわね。おかげでせっかくセットした前髪が台無しじゃないのよぉ。」

 

札木がボソッと呟くと、女の子は適当に聞き流してぶつくさと文句を垂れながら髪のセットを続けた。

…なんつうか、ワガママな子だな。

人が話しかけてんだから手を止めて欲しいんだが。

 

「…よし、こんなもんかな。…で、何なのよアンタ達。」

 

髪のセットが終わった女の子は、ようやく俺達に話しかけてきた。

人を待たせておいて『何なのよ』は如何なものではなかろうか。

 

「えっと…俺は【超高校級の講師】赤刎円だ。」

 

「………札木未来。【超高校級のタロット占術師】。」

 

「あっそ。」

 

あっそって…

さっきから言い方がキツいな。

 

「お前は?」

 

「…はぁ、しょうがないわねぇ。宝条(ホウジョウ)夢乃(ユメノ)。【超高校級の収集家】よ。」

 

 

 

【超高校級の収集家】宝条(ホウジョウ)夢乃(ユメノ)

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

宝条夢乃…

確か、世界でも有名なコレクターだった筈だ。世界で最も美しいと言われる赤いダイヤモンドや、既に全て焚書されて世に出回ってないと言われている幻の書物などを持っており、コレクションの総額は1000億を軽く超えると言われているらしい。

闇のルートを使って収集しているとかいう黒い噂も絶えないから、どっかのヤバい組の娘か何かかと思っていたが、まさかこんないt…個性的な子だったとは。

 

「確か、宝条は巨大レッドダイヤモンドを持ってるんだよな?」

 

「…だっさ。」

 

「…え?」

 

「その『宝条』って呼び方、ダサいから今すぐやめて。ゆめの事はゆめって呼びなさいよ。」

 

「…なぁ、もしかしてその『ゆめ』って自分の事か?」

 

「そうよ。だってそっちの方が響きが可愛いんだも〜ん。だからゆめはぁ〜、みんなにゆめって呼んでもらいたいの。ってか、みんなにゆめって呼ばれないと気が済まないのよ。」

 

うわぁ…

何だこの女…今更だが、メチャクチャ痛いな。

え、これそういうキャラだよな?素じゃないよな?

素だとしたらかなりヤバいぞ。

 

「…そうか。これからよろしくな、宝条。」

 

「だ、か、らぁ!!ゆめって呼べって何回言ったらわかんの!?キーッ、湿気は多いしどいつもこいつもバカばっかりだしホンット最悪!!もうお家帰りたい!!」

 

何か知らんがいきなりヒステリー起こしたぞコイツ。

コイツあれか。

自分の思い通りに事が進まないと気が済まないタイプか。

うーん…コイツとはあんまり関わらない方が得策だな。

 

「………赤刎くん…もう行こうよ。」

 

札木は、俺の肩に手を置いて提案してきた。

 

「そうだな。まだ5人いるし次行くか。」

 

「あっ!!ちょっとぉ!逃げる気!?待ちなさいよ!」

 

俺達は、荒れる宝条からそそくさと逃げた。

 

「はぁ…」

 

「……… 赤刎くん…大丈夫…?」

 

「ああ…」

 

自己紹介だけでここまで疲れるとはな。

さすが希望ヶ峰の新入生、どいつもこいつもキャラ濃すぎだろ。

…次はまともな奴だとありがたいんだがな。



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プロローグ④

これでやっとあと5人か…

身体の疲れ具合的にはもうかれこれ1時間ぐらい経ってるんじゃないか?

 

「…………赤刎くん、まだ30分しか経ってない…」

 

マジか。

どいつもこいつもキャラが濃いからなぁ…

 

 

 

俺達は、ベンチの上で体育座りしている男子に声をかけた。

ボサボサした明るめの茶髪で、クリーム色のパーカーを着てて女の子みたいに華奢な体格だ。

 

「ちょっといいか?自己紹介まだだよな?」

 

「ひぃいいぃいっ!!」

 

俺がソイツに声をかけると、ソイツは悲鳴を上げて跳び上がった。

 

「ごっ、ごめんなさい!!な、何でもしますからどうか命だけは見逃してください!!」

 

ソイツは、涙目になってガタガタと震えパニック状態になっていた。

命って…んな大袈裟な…

 

「おい、落ち着けって。ただの自己紹介だよ。」

 

「…へぁっ?」

 

俺がゆっくりと宥めると、ようやく落ち着いたのかソイツは涙を拭って深呼吸を始めた。

 

「悪いな、怖がらせちまって。俺は【超高校級の講師】の赤刎円だ。」

 

「……………札木未来。【超高校級のタロット占術師】。」

 

「お前は?」

 

俺達が自己紹介すると、ソイツはオドオドした様子で話し始めた。

 

「あ、えっと…ボッ、ボクは…(ニノマエ)千歳(チトセ)…【超高校級のソフトウェア開発者】です…」

 

 

 

【超高校級のソフトウェア開発者】(ニノマエ)千歳(チトセ)

 

 

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一千歳。

プログラミングやシステム開発など数多くの功績を残している若き天才だが、突出した分野が無いため一括りに『超高校級のソフトウェア開発者』と呼ばれている。

機械関係の家系で、確か遠い親戚にプログラマーの才能を持った希望ヶ峰学園の生徒がいるんじゃなかったっけか。

 

「これからよろしくな、一。」

 

「ひっ、は、はひ…よ、よろしくお願いします…」

 

俺は一に握手を求めたが、一は震え上がったまま手を出そうとしなかった。

あー、やっぱりダメだったか。

自分より小さい相手にここまでビビるか普通?

人一倍臆病な奴なんだな。

いきなり知らない場所に連れて、しかも来られて知らない奴に囲まれてるから怖かったのか。

これ以上怖がらせるのもアレだし、そろそろ次の奴に行くか。

 

「行こうか、札木。」

 

「…うん。」

 

 

 

俺と札木は、固まっている3人組のところへ行った。

さっき喋っていたプラチナブロンドの奴もいるな…

 

「入学しようと街まで〜で〜か〜けた〜ら〜♪電車で〜寝落ちた〜マヌケな律くん〜♬」

 

「うっせぇな。テメェだって同じだろうが。」

 

「チッ、喧しいな全く…」

 

「あ、帝くんバージョンもあるよ?」

 

「黙れ。貴様のその小汚い口を縫い付けてやろうか?」

 

透き通った白い髪の女の子が替え歌を歌っていると、銀髪の男子とプラチナブロンドの男子が悪態をつく。

俺は、銀髪のウルフカットの男子に声をかける。

 

「なあ、ちょっといいか?」

 

「あ?何だよ。」

 

銀髪の男子は、面倒くさそうに振り向く。

ヘアピンとピアスを付けてて、制服の上に黒いジャンパーを羽織っている。

見た感じかなりのイケメンだった。

 

「自己紹介まだだろ?俺は【超高校級の講師】の赤刎円で、こっちが【超高校級のタロット占術師】の札木未来だ。お前は?」

 

「チッ。俺は弦野(ツルノ)(リツ)。【超高校級のヴァイオリニスト】だよ。これで満足かよ?」

 

 

 

【超高校級のヴァイオリニスト】弦野(ツルノ)(リツ)

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

弦野律!?え、コイツが!?

弦野律といやあ、あの世界的に有名なヴァイオリニストだろ!?

超有名な音楽家一家の長男で、史上最年少で国際ヴァイオリンコンクールに出場した、あの!?

当時、一度聞いた曲はどんなに難易度の高い曲でも完璧に演奏できる神童って話題になったんだよなぁ。

でも最近ぱったりと音楽業界から姿を消したって聞いたぞ。

 

「俺、お前の演奏聴いた事あるよ。あれは誰にも真似できない才能だなって思ったよ。なのに何でヴァイオリンやめちまったんだ?」

 

すると、弦野はあからさまに嫌そうな顔をして大きめの舌打ちをした。

 

「うるせーな、テメェには関係ねぇだろーが。」

 

「…え?」

 

あれ?何か感じ悪くないか?

テレビで見た時は普通に受け答えしてたんだけどな。

その時は格好も黒いスーツで髪もキッチリオールバックにしてたし、最初誰だかわかんなかったぞ。

 

「ムカつくんだよ、そういうの。どいつもこいつも才能があるってだけで人を振り回しやがって、望んで超高校級になったと思うなよ。俺はな、何もわかってねぇ奴を見ると虫唾が走んだよ。」

 

あぁ…親に無理矢理やらされてたのか…

そりゃあ、反動でグレて辞めたとしても不思議じゃないわな。

 

「ってかさ、くだらねー話してる暇あんなら早くそこの二人に挨拶してやれよ。」

 

「…そうだな。そうさせてもらうよ。」

 

弦野は、白い女の子とプラチナブロンドの男子を顎で差した。

これ以上は警戒して何も話してくれなさそうだったので、俺達は他の二人に話しかける事にした。

 

 

 

俺は、さっき替え歌を歌っていた女の子に声をかけた。

ふわっとした癖っ毛のセミロングで、肌や髪が真っ白な子だ。

セーラー服の上にピンク色のパーカーといった格好で、白いリュックを背負っているのが特徴的だ。

ちなみに俺の次に小柄なんだが、パーカーの上からでもわかる程の巨乳だ。

 

「ドーは独立行政法人のドー、レーは連立方程式のレー♪」

 

女の子は、地面をいじりながら歌っていた。

不思議ちゃんっぽい子だな。

 

「なあ、ちょっといいか?」

 

「んー?」

 

女の子は、ピョンっと立ち上がると猫耳のようなアホ毛をピコピコさせる。

 

「俺は【超高校級の講師】の赤刎円で、こっちが【超高校級のタロット占術師】の札木未来だ。お前は?」

 

「…ふぅん、円くんと未来ちゃんかぁ。ボクは黒瀬(クロセ)ましろ。【超高校級の脚本家】だよぉ、よろしくね?」

 

 

 

【超高校級の脚本家】黒瀬(クロセ)ましろ

 

 

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黒瀬(クロセ)ましろか。

映画やドラマ、ゲームなど数多くの作品を手がけてて、手がけた新作は全てその週のランキングで1位になる程の天才脚本家だよな。

主にミステリー作品を手がけてて、実際に殺人事件に居合わせた事があるんじゃないかってくらいリアルで、鑑賞者を物語の中に引き込むような作風が特徴的なんだよな。

まさかこんな小さくてふわふわした感じの子だったとは。

 

「俺、新作の映画見たぞ。どうやったらあんなシナリオが作れるんだ?」

 

「えへへー、ありがとー。でも秘密ー。」

 

ホントふわふわしてるなぁ…

 

「よろしくな、黒瀬。」

 

俺は、黒瀬に握手を求める。

すると、いきなり黒瀬が抱きついてきた。

 

「ぎゅーっ。」

 

「うぉっ!?お、お前何してんの!?」

 

「ふぇ?何って…ぎゅーしてるの。ぎゅーは、大好きな人とするものでしょ?ボクは、円くんの事が大好きなんだよー。円くんはー、ちっちゃくってお人形さんみたいでかわいいよね。ボク、ちょうど欲しかったんだよねー。かわいい着せ替え人形がさ。」

 

…!?

何だこの得体の知れない悪寒は…

まさかコイツ、そういう趣味…?

 

「ぎゅーっ。未来ちゃんの事も大好きだよぉー。」

 

「……………。」

 

やめたれ。

札木が困ってるぞ。

あ、弦野が嫌そうな顔してる。

…なるほど、ここにいる全員既に黒瀬の餌食になってるのか。

可愛らしい見た目して怖いもの知らずな奴だな。

 

 

 

「全く、これだから凡愚は…」

 

俺達が黒瀬に絡まれて困惑していると、例のプラチナブロンドの奴が口を開く。

かなりの美青年で、白いカッターシャツと濃紺のベスト、黒いスラックスの上に黒いロングコートを羽織っている。左耳にはフルール・ド・リスのイヤリング、首には赤いリボンを付けており、手には手袋をはめていた。

その全てが見るからに高級品でできており、コートに着けられたアクセサリーなどからも高貴な出自である事は一目瞭然だ。

 

「そういやお前も自己紹介まだだったよな。俺は【超高校級の講師】の赤刎円で、こっちが【超高校級のタロット占術師】の札木未来だ。お前は?」

 

「黙れ。」

 

「…え?」

 

「貴様らの会話を俺が聞いていないとでも思っているのか?何故貴様ら凡愚の名を二度も聞かねばならない?この俺を愚弄する気か、低脳が。」

 

え?

なんだコイツ?

いきなり初対面の相手に凡愚とか低脳とか…

見た目はどっかの貴族みたいだけど、中身は最悪だな。

 

「な…初対面の相手に対してそれはないだろ!あと、人が質問してんだから答えたらどうなんだ!?」

 

「黙れ子供。貴様、凡愚の分際で俺に口答えする気か。」

 

「………自己紹介くらいは…してもいいと思う……わたし、君の事…まだ何も知らないから…」

 

札木がボソッと呟くと、奴は呆れ顔を浮かべた。

いや、呆れたいのはこっちだから。

 

「…フン。凡愚に名乗る名などない、と言いたいところだが、特別に教えてやろう。こうして問答をしているのが一番時間の無駄だからな。俺の名は神崎(カンザキ)(ミカド)。【超高校級の天才】だ。」

 

 

 

【超高校級の天才】神崎(カンザキ)(ミカド)

 

 

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【超高校級の天才】、それは全ての物事において、何の努力をしなくても優れた才能を発揮する才能の事だ。

神崎は財閥社長の御曹司で、モデルとして食っていけるほどの美形、学校では常に首席でスポーツ万能で博学多才、全てにおいてその分野の超高校級には及ばないものの類稀なる才能を発揮する、まさに完璧超人というわけだ。

 

「自己紹介は済んだぞ。とっとと失せろ凡俗共。貴様らと同じ空気を吸っているだけで、俺の才能が汚染される。」

 

「ぐ…」

 

俺達が神崎に一方的に罵倒されていた、その時だった。

 

 

 

「その辺にしときぃや。」

 

「!?」

 

いつの間にか、さっきの関西弁の男子が腕を組んで輪の中に入っていた。

ワインレッドっぽい黒髪で、右目が若干髪で隠れ気味だが、男子の中では一番美形だった。

色白だし、背は高いが華奢だし、全体的に女性的な雰囲気がある。

希望ヶ峰の茶色いブレザーを着ており、両耳にはクロスのピアスをつけている。

 

俺達は、ソイツの顔を見るなり思わず目を見開いてギョッとした。

ソイツが輪の中に入っている事に全く気付かなかったからだ。

こんなイケメンなのに、ここまで接近されるまで気付かなかった…コイツ、何者なんだ?

 

「…。」

 

「何や、人の顔ジロジロ見よってからに。ウチの顔に何か付いとるんか?」

 

「あ、いや…」

 

「…もしかして、ウチが男か女かで迷うとるんか?せやったら正解は女やぞ。」

 

「え!?」

 

マジかい。

今のところ今日一番の衝撃だぞ。

 

「マジかよ…」

 

「ド阿呆。そないに驚く事ないやろ。」

 

「いや、だって男ものの制服着てるからてっきり男子かと…」

 

「女が男の制服着て何がアカンねん。このご時世んな事言うたら叩かれるでお前。」

 

「う…」

 

「それと、見た目詐欺はお互い様やろが。ウチからすりゃ、お前なんかちっこい女にしか見えへんぞ。」

 

「ぐ…」

 

痛い所を突かれた俺は押し黙ってしまった。

確かに、人から見て間違われる外見をしているのはコイツに限った事じゃない。

 

「ええと…自己紹介まだだよな?俺は【超高校級の講師】の赤刎円で、こっちが【超高校級のタロット占術師】の札木未来だ。お前は?」

 

「… 枯罰(コバチ)(タマキ)。ほれ、名乗ったで。」

 

「え、それだけ?」

 

「何や、他にも言わなアカン事あるんか?」

 

「いや、才能をまだ言ってないだろ。お前の才能を教えてくれないか?」

 

「阿呆。答えはノーや。何でお前らにわざわざ教えなアカンねん。」

 

「………わたし達は言った…」

 

「んなモン、お前らが勝手に言うただけやろが。ウチにまで強制すんなや。」

 

 

 

【超高校級の???】枯罰(コバチ)(タマキ)

 

 

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枯罰環か…俺が事前に調べた情報にも無いな。

名前さえわかれば才能に関する手がかりを思い出せると思ったんだが…

ん?待てよ?

 

「あ、わかった!お前アレだろ。【超高校級のお笑い芸人】だろ!」

 

俺がビシッと指を差すと、頭に鋭いチョップが飛んできた。

 

「ド阿呆。関西弁喋る奴が全員芸人や思うたら大間違いやぞ。くだらんボケかますなや。」

 

「って事は…」

 

「ちゃうに決まっとるやろボケ。」

 

ですよね。

いや、ちょっとふざけてみただけじゃん。

そんな馬鹿にしたような目で見る事ないだろ。

 

…ええっと、これで全員の自己紹介が終わったんだよな?

すると、その直後だった。

 

 

 

『あー!!あー!!マイクテス!!マイクテスッ!!全員いるよね?オマエラ、大変長らくお待たせしました!!』

 

突然、改札口のスピーカーからダミ声が聞こえてくる。

 

『これより、『希望ヶ峰楽園』の入園式を執り行いたいと思います!!』

 

 

 

この時、俺達はまだ知らなかった。

これが絶望の始まりだという事をーーー。



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プロローグ⑤

俺達は、突然スピーカーから聞こえてきたダミ声に動揺する。

すると、札木は不安そうに持っていたタロットカードを見つめる。

 

「……………。」

 

「どうした?」

 

「… これから何か、良くない事が起こるらしいの…それが何かまではわからないけど…」

 

「…?」

 

得体の知れない不安に駆られていた、その時だった。

 

 

 

『えー、オマエラ、ちゅうもーく!!』

 

俺達は、声が聞こえてきた方へと顔を向ける。

そこには、スポットライトで照らされた小さな舞台のようなものがあった。

 

「…何もないけど?」

 

「ひぃいいいぃいい!!怖い怖い怖い!!ボクもうおうち帰る!!」

 

「随分と耳障りな放送だったな。」

 

その場がざわつき出した、その時だった。

 

 

 

 

 

『もう!耳障りだなんて失礼しちゃうよ!』

 

突然、舞台上に白黒の熊のぬいぐるみが出てきた。

 

「わぁ!?ぬ、ぬいぐるみが喋った!?」

 

「ぎゃあああああああ!!何これ怖い無理もう帰りたい…」

 

「何なのこれ、ゆめ怖いよー!!」

 

「クマちゃんだー。可愛い♪」

 

速水や一、宝条あたりが騒いでいる中、黒瀬は場違いな発言をしていた。

 

『ぬいぐるみじゃないクマ!ボクはモノクマだよ。この『希望ヶ峰楽園』の園長なのだ!!』

 

「希望ヶ峰…楽園?」

 

「ねえ、これどういう事!?何かのドッキリ!?」

 

「どうでもいいからゆめをここから出して!出しなさいよ!!」

 

「お前が俺達をここに連れてきた張本人なのか!?」

 

「ひぃいいいぃいい!!身代金目当てなら、ボクんちお金持ちじゃないから払えないよ!終わった!!ボクはここで死ぬんだぁああああ!!」

 

半ば予想はしていたが、やっぱみんな混乱してるな…

 

『うるさいなぁ、人の話は最後まで聞きましょうって習わなかった?』

 

「人じゃないでしょー!」

 

…黒瀬、ツッコむとこそこじゃないと思うぞ。

 

『えー、お遊びはこの辺にして…オマエラ、おはようございます!』

 

「おはようございますっ」

 

「おっ、おはようございます!」

 

「いや返事すんの!?」

 

黒瀬と仕田原が挨拶を返したので、思わずツッコんでしまった。

 

『ではまず、ボクとこのセカイの事を知ってもらおうね。このセカイは、やりたい事ならなんだってできる魔法のような国!まさに夢と希望に溢れた理想郷!その名も『希望ヶ峰楽園』!オマエラ【超高校級】という希望に満ち溢れた存在にはピッタリの場所でしょ?ちなみに、ボクはこのセカイの園長であり創造主、つまり神でもあるのだ!』

 

「フン、くだらん。」

 

「は?ちょっと待って、意味わかんない!希望ヶ峰楽園!?希望ヶ峰学園じゃなくて!?てか、入学式は!?」

 

『うわ速水サンてば、いきなり質問攻め!?でも、グイグイ攻められると逆に興奮しちゃう…って、お母さんそんな破廉恥な子に育てた覚えありません!』

 

一人…もとい一匹で何を言ってるんだコイツ。

 

『てゆーか、何が不満なわけ?似たような名前だし、希望ヶ峰学園に入学したつもりでエンジョイすればいいじゃん。』

 

「良くねーよ!これがどういう状況で、なんで俺達がここにいるのか説明しろって言ってんだよ誘拐犯!!」

 

「そうだよぉ…いきなりこんな所に連れて来られて…なんなのぉ…!?」

 

 

 

『誘拐?何言ってんの?オマエラは、自ら望んでこの楽園に来たんでしょ?』

 

…え?

 

「知るかよ!とにかく、俺達をここから出せ!」

 

「そうよ!ゆめ、おうちに帰りたいのぉ!!」

 

「ボクだけでもいいから帰してよぉ!!」

 

『あー、無理無理。ここに来たからには、この楽園のルールに従って貰わないとね。』

 

「ルールだと?」

 

『その一!オマエラには、この楽園で共同生活を送ってもらいます!あ、ちなみに拒否権なんて気の利いたものは無いからね?』

 

「はぁ!?ふざけんじゃねぇぞ!」

 

「何なのよコイツ!意味わかんない!!」

 

「み、みんな落ち着いて…」

 

 

 

「…いつまで。」

 

唐突に、枯罰が口を開いた。

 

「いつまでここにおればええんか?お前、さっきから偉そーな事ばっか言うてるけど肝心な事説明してへんやろが。」

 

『そーだ、期限の説明をするのを忘れてたよ。共同生活の期限は…ございません!』

 

…。

 

………。

 

……………。

 

……………は!?

 

『もうわかるよね?オマエラは、死ぬまでこの楽園で生活するんだよ!みんな、ルールを守って仲良くね!』

 

「はぁ!?何よそれ!!ふざけんじゃないわよ!!こんな所で一生過ごせるわけないでしょ!?」

 

「やだぁあああああ!!こんな所で生活するなんて無理だよぉおおお!!ボクもうおうち帰る!!」

 

『まあ当然そんな声もあるよね!だから、特別にここから出られるルールを設けてあるよ!この楽園は、ルールをきちんと守れる人だけが永住する事を許されるんだ。ここの絶対のルールを破るような輩には、ここから出ていってもらいます!その名も、『失楽園』ルール!』

 

「どーせ碌な事言わへんねやろ?」

 

『うわ、枯罰サンてば失礼しちゃうー!碌な事言わないなんてとんでもない!このセカイの絶対のルールを破る方法、それはね…』

 

 

 

 

 

『人を殺す事だよ。』

 

「!!?」

 

『殴殺刺殺撲殺斬殺焼殺圧殺射殺絞殺溺殺惨殺電殺呪殺毒殺爆殺扼殺凍殺轢殺病殺磔殺禁殺…手段は一切問いません!とにかく、誰かを殺せばここから出られるよー!』

 

「What!?jokeもいい加減にしやがれ、You bastard!!」

 

「いや!!ゆめをここから出してよぉ!!」

 

「やだやだやだぁああああああああ!!ボク死にたくないよぉ!!誰か助けて!!」

 

『だから、何度も言わせないでよ!ただ殺せばいいって言ってるでしょ?』

 

 

 

「…なるほどな、よくわかった。」

 

突然、今まで黙って聞いていた武本が口を開いた。

 

『おっ、早速殺る気になってくれたかい?武本クン!』

 

「よくわかったよ、貴様が打ち倒さねばならない悪党だという事がな!!」

 

武本は、拳を鳴らしながらモノクマに突進した。

 

「誰かを殺せば出られるだと!?ほざけ!!武の道を歩む者として、そのような外道な行いは許せん!!」

 

「ひぃいいいいいっ!!!」

 

「その調子よ武本!そんな気持ち悪いぬいぐるみ、ギッタンギッタンにしちゃいなさいよ!」

 

「…ド阿呆。」

 

武本がモノクマを引っ掴むと、一が悲鳴を上げて宝条が便乗し、枯罰は呆れ返っていた。

 

「今すぐこんなふざけた真似をやめろ!!」

 

『キャー、この楽園では神への暴行はルール違反だよ!?』

 

「何が神だ、貴様のような悪党、俺が成敗してくれる!!破アッ!!」

 

武本が拳を突きつけると、モノクマの顔はグシャッという音と共に粉々に砕け散る。

これで一件落着…と数名が安堵した直後だった。

 

 

 

「…おい、何の音だ?」

 

突然、弦野がそう言った。

 

「音…?」

 

「さっきから、このクマからタイマーみてーな音がすんだけど…」

 

「…まさか…!!」

 

「おい!!それ早う投げんかい!!」

 

弦野の発言を聞いた一が目を見開き、枯罰が突然大声を張り上げた。

 

「は?」

 

「投げろ言うてんねん!!早うせぇ!!」

 

枯罰の声で武本がモノクマを投げた瞬間…

 

 

 

バグォオオオオン

 

 

 

突然、モノクマの身体が爆発した。

 

「いやあああああああ!!?な、なな…なんなのよぉおおおお!!!」

 

「やだやだ怖いよぉ…家に帰りたいよぉお…!!」

 

「クソが…コイツ、マジでやりやがった…!!」

 

「おい!!大丈夫か武本!!」

 

「…………怪我、ない?」

 

「あ、ああ…すまない。」

 

宝条と一がパニックを起こし、漕前はさっきまでモノクマがあった場所を睨みつける。

とりあえず、俺と札木は武本の無事を確認した。

 

「…ね、ねぇ…でも、これでモノクマがいなくなったから、アタシ達は解放されたんだよね?」

 

 

 

『解放?何バカな事言ってんだかねー。』

 

「!?」

 

『とうっ!』

 

突然、天井がパカっと開いてモノクマが落ちてきた。

 

『忍法、分身の術ー!なんちゃって。』

 

「ぎゃあああああああああああああ!!!」

 

「何でもう一匹いんのよ!!」

 

「まあ、一筋縄っちゅうわけには行かへんよなぁ。」

 

『うぷぷぷぷ。今回は警告音だけで許すけど、次からは気を付けてよね?』

 

「警告音って…ふざけんなよ!弦野達が気付かなかったら、武本は爆発に巻き込まれてたんだぞ!?」

 

俺は、モノクマに対して怒りをぶつけた。

当然だ。一歩間違えれば死人が出ていたのだから。

 

『知ったこっちゃないよ。そもそもルールを破るのがイケナイんだよ。ちなみに、モノクマはこの楽園の至る所に設置されております!今みたいに壊そうとしたら、エクストリームでエキサイティングであっという間にイっちゃうオシオキをプレゼントしちゃうから。』

 

「オシオキ?おしりペンペンとか、デコピンとか?」

 

「今のを見て、よくそれだけだと思えるな。戯けが。」

 

黒瀬がすっとぼけた事を言うと、神崎が呆れた様子で返す。

 

 

 

「…なぁ。ガラッと話変わるんやけど、これ何なん?ウチの持ってたんとちゃうんやけど。」

 

そう言って、枯罰は背面に希望ヶ峰の校章が描かれたスマートフォンを取り出した。

 

『おぉっと、枯罰はんはお目が高いな〜。それはなぁ、この楽園のパスポートでおまんがな。』

 

「その喋り方やめぇや。イラッとするんじゃボケ。」

 

「で、そのパスポートっていうのは?」

 

『それはねぇ、この楽園生活を送る上で重要なアイテムなのだ!ある一部の区間に入るのに必要だったり、他にも色んな機能があったりするんだ!ちなみに、失くしたり壊したりしても替えは無いから十分注意してね?』

 

「ふーん…」

 

『それじゃあ一通り説明は終わったから、あとは自由行動って事で。そこの改札を抜けたら、楽園が広がってるから存分に楽しんでってね!じゃーね!』

 

そう言うと、モノクマはその場から去っていった。

 

 

 

「チッ、あの野郎…好き勝手言いやがって…」

 

「はーい、とりあえず解散する前にパスポートを確認するのがいいと思いまーす!」

 

「そうだな。このままじゃ何も始まらねぇしな。」

 

「そーだね…あたしも黒瀬ちゃんと漕前君に賛成。」

 

黒瀬の意見に漕前と筆染が賛成して、パスポートを確認する事になった。

 

 

 

ーーー

 

ー、住民はこの楽園だけで共同生活を送りましょう。共同生活の期限はありません。

 

二、夜10時から朝7時までを夜時間とします。夜時間は立ち入り禁止区域があるので注意しましょう。

 

三、希望ヶ峰楽園について調べるのは自由です。特に行動に制限は課せられません。

 

四、園長ことモノクマへの暴力を禁じます。監視カメラ等楽園内の重要な物の破壊・窃盗を禁じます。

 

五、仲間の誰かを殺したクロは失楽園となりますが、自分がクロだと他の人に知られてはいけません。

 

六、ルールは随時追加されます。

 

ーーー

 

 

 

とりあえず、この6つを守れって事らしい。

 

「ねぇねぇ、校則の五つ目なんだけどさ。なんで自分がクロだって他の人に知られちゃダメなのかな?」

 

「何でって…そりゃあお前、殺しなんて堂々とやるもんじゃねぇだろ。後で負うリスクとか考えりゃあよ。」

 

「リスクって何?んー…お巡りさんに捕まるとかそういう事?」

 

「…殺して終わり、というわけではないのかもな。」

 

「フン、どうせ追加でペナルティが課せられるとかそういう事だろ。今それを話し合うのは時間の無駄だと思うが?尤も、この中に人を殺そうと企んでる奴がいるなら話は別だがな。」

 

神崎は相変わらずムカつくな…

 

「チッ、バカバカしい…俺はテメェらと共同生活送るなんてまっぴら御免だからな。」

 

「最初に死ぬ奴がよぉ言うセリフやのぉ。」

 

「んだとコラ!!」

 

枯罰の挑発に乗った弦野が、枯罰に向かって怒鳴りつける。

 

「大体よ、テメェは何なんだ?さっきから上から目線で偉そうだし、才能について何も言わねぇし、テメェが一番気持ち悪いんだよ。」

 

「才能か。別にここで役に立つ才能とちゃうし言わんでもええやろ。それとも何や、弦野はんはそないにウチの才能がわからへんのが怖いんかぁ?」

 

「テメェ…!!」

 

「おい、やめろよ二人とも。ここで言い争ってても何の解決にもならねぇだろ。」

 

「マドカの言う通りだぜ。オマエらcool downしようぜ!」

 

「チッ…」

 

俺とジョンが二人を止めると、弦野は不満そうな表情を浮かべつつも大人しく引き下がり、枯罰も呆れ顔を浮かべつつも神経を逆撫でするような発言の連発をやめた。

すると、漕前が手を挙げて発言する。

 

「あのさ。ここで話してても埒があかねぇし、楽園とやらに入ってみねぇか?」

 

「な…罠があるかもしれない場所に自分から行けっていうの!?アンタバカァ!?」

 

「………わたし達に何かしたいなら、とっくにそうしてる……………」

 

「うっ…」

 

宝条が漕前の発言に異議を唱えるが、札木が小さいが全員に聞こえるほどよく通った声で言うと、宝条は押し黙った。

 

「漕前と札木の言う通りだ。行こう、みんな。」

 

全員、それぞれ不安や不満を胸に抱きつつも改札を通り抜けた。

こうして、俺達は絶望の楽園へと足を踏み入れたのだった。

 

 

 

 

 

Prologue 絶望(おわり)の始まり ー完ー

 

 

 

《アイテムを入手した!》

 

『希望ヶ峰楽園の住民バッヂ』

 

プロローグクリアの証。

世界に16個しか無いものらしく、これが無いと希望ヶ峰楽園の住民とは認められない。

 

 

 

 

 


 

 

 

ー生存者ー

 

【超高校級の講師】赤刎円

 

【超高校級のカウンセラー】安生心

 

【超高校級の天才】神崎帝

 

【超高校級の香道家】聞谷香織

 

【超高校級の脚本家】黒瀬ましろ

 

【超高校級の幸運】漕前湊

 

【超高校級の???】枯罰環

 

【超高校級のタロット占術師】札木未来

 

【超高校級の家政婦】仕田原奉子

 

【超高校級の冒険家】ジョナサン・ウォーカー

 

【超高校級の武闘家】武本闘十郎

 

【超高校級のヴァイオリニスト】弦野律

 

【超高校級のソフトウェア開発者】一千歳

 

【超高校級のランナー】速水蘭華

 

【超高校級の画家】筆染絵麻

 

【超高校級の収集家】宝条夢乃

 

ー以上16名ー

 

 

 



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希望ヶ峰楽園 生徒名簿
生徒名簿


うちの子達の生徒名簿です
只今挿絵を作成中です。
推しがいたらぜひ感想欄やTwitterで教えてください♪

8/28 一部キャラのプロフィールを変更しました。


【超高校級の講師】赤刎(アカバネ)(マドカ)

 

「迷子じゃねぇよ!俺は男子高校生だっての!」

「それは違うぞ!」

 

性別:男

年齢:18歳

誕生日:5月9日(おうし座)

血液型:B型

身長:135cm

体重:25kg

胸囲:65cm

利き手:右

出身校:桜庭高校

好き:超高校級、クレープ

嫌い:オカルト、牛乳

得意教科:座学全て

苦手教科:家庭科、音楽

容姿:長い赤毛の癖っ毛を一本に纏めており、橙色の瞳。そばかすがある。見た目は完全に幼女。

服装:半袖のワイシャツと深緑の短パンの上に紺色のロングコート。白いソックスに黒い革靴を履いている。

人称:俺/お前/苗字呼び捨て

ICV:日髙のり子

 

本作の主人公。幼女のような外見だが、れっきとした男子高校生。札木とは高校のクラスメイト同士。

身寄りがいないので孤児院で幼少期を過ごしており、その時に孤児院の子供達に勉強を教えていた経験をもとに塾講師をしている。小柄な見た目によらずカリスマ講師として有名で、『会って話をしただけで志望校の判定が上がる』という迷信が生まれる程。

世話好きで熱血漢。基本的に常識人だが、エロが絡むと積極的になる。

 

 

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【超高校級のカウンセラー】安生(アンジョウ)(ココロ)

 

「僕でよかったらいつでも相談に乗るよ。」

 

性別:男

年齢:18歳

誕生日:7月1日(かに座)

血液型:O型

身長:174cm

体重:54kg

胸囲:81cm

利き手:左

出身校:西城学院高校

好き:悩み相談、動物、白和え

嫌い:血、おろし和え

得意教科:数学、生物

苦手教科:体育

容姿:深緑の長髪に淡い紫色の瞳。

服装:黒いシャツ、白いネクタイ、グレーの制服の上に白衣。メガネをかけている。下半身不随のため車椅子に乗っている。茶色い革靴を履いている。

人称:僕/君/男:苗字+君 女:苗字+さん

ICV:河西健吾

 

高校生にして優秀なカウンセラーで、どんな精神疾患も治してしまう程。カウンセリング教室を開いているが、毎日予約が殺到している。医者になる事が夢だったが、血に対する耐性が無いので精神科医を目指した。しかし、医学に関しては全ての分野で名医と呼べる程の知識と技術を持つ。

生まれつき下半身不随で、常に車椅子で移動している。温厚な性格で、常に相手の心に寄り添って行動している。

 

 

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【超高校級の天才】神崎(カンザキ)(ミカド)

 

「とっとと失せろ凡俗共。貴様らと同じ空気を吸っているだけで、俺の才能が汚染される。」

 

性別:男

年齢:18歳

誕生日:10月31日(さそり座)

血液型:AB型

身長:188cm

体重:73kg

胸囲:88cm

利き手:両手

出身校:帝卿学院高校

好き:自分、ヌーベルキュイジーヌ

嫌い:凡人、貧乏飯

得意教科:全て

苦手教科:あるわけがない

容姿:プラチナブロンドのミディアムヘアーに深緑の瞳。男子の中では一番美形。

服装:ワイシャツ、赤いリボン、紺色のベスト、黒いスラックスの上に黒いロングコート。シルクの白い手袋を嵌めており、左耳にフルール・ド・リスのイヤリングをつけている。胸にはブローチをつけている。黒い革靴を履いている。

人称:俺/貴様/おい、あれ、蔑称等。頑なにクラスメイトの名前を呼ばない。

ICV:関智一

 

神崎財閥の御曹司で、一流モデル並みの美青年。一度見聞きした事はその分野の超高校級には及ばないものの一流と呼べるレベルには習得できてしまう程の天才。

傲慢な性格で、自分自身以外は誰も信用していない。常に他人を見下している。

 

 

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【超高校級の香道家】聞谷(キクタニ)香織(カオリ)

 

「まあ、伝統芸能の中でも知名度が低いので…聞き慣れないかもしれませんね。」

 

性別:女

年齢:16歳

誕生日:11月5日(さそり座)

血液型:AB型

身長:162cm

体重:48kg

胸囲:85cm

利き手:右

出身校:聖蓮堂女学院高校

好き:お香、和菓子

嫌い:騒音、品性の無い方、ジャンクフード

得意教科:古文、美術

苦手教科:家庭科、英語

容姿:黒髪ロングで黒い瞳。口元に黒子がある。

服装:濃い紫の着物に白い帯。白い足袋と草履を履いている。

人称:わたくし/あなた/苗字+さん

ICV:名塚佳織

 

伝統芸能に通ずる者なら必ず名前を聞くほど有名な香道家で、聞谷流という新たな流派を創流するという偉業も成し遂げている。伝統芸能の名家の聞谷家の長女であるため超高校級レベルではないものの他の伝統芸能も嗜んでおり、気品に満ち溢れている。

常に敬語で話す。おっとりしたお嬢様で、誰に対しても礼儀正しい。エロや暴言などに対しては嫌悪感を抱いている。

 

 

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【超高校級の脚本家】黒瀬(クロセ)ましろ

 

「嘘は何物にも代え難い愛情なんだよ?ボクが嘘をつくのも、みんなの事が大好きだからなんだ〜。」

 

性別:女

年齢:18歳

誕生日:6月2日(ふたご座)

血液型:O型

身長:148cm

体重:45kg

胸囲:99cm

利き手:左

出身校:魁清学園高校

好き:みんな、謎

嫌い:なし

得意教科:現代文、世界史

苦手教科:家庭科、道徳

容姿:猫耳のような白い癖っ毛のセミロングにピンク色の瞳。肌が真っ白。

服装:白と緑を基調としたセーラー服の上に薄ピンクのパーカー。黒いニーハイと赤い革靴を履いている。白いリュックを背負っている。

人称:ボク/キミ/男:名前+くん 女:名前+ちゃん

ICV:豊崎愛生

 

映画やドラマ、ゲームなど数多くの作品を手がけており、彼女が手がけた新作は全てその週のランキングで1位になる程の天才脚本家。主にミステリー作品を手がけており、実際に殺人事件に居合わせた事があるのではという程リアルで、鑑賞者を物語の中に引き込むような作風が特徴的。

マイペースで掴み所のない性格。恐怖や緊張感が欠如しており、コロシアイ生活にもすぐに適応してエンターテインメントとして楽しむ程の図太さを持つ。

 

 

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【超高校級の幸運】漕前(コギマエ)(ミナト)

 

「みんなで一致団結すりゃあ、コロシアイなんて起こんねぇって!」

 

性別:男

年齢:16歳

誕生日:3月6日(うお座)

血液型:AB型

身長:170cm

体重:60kg

胸囲:80cm

利き手:右

出身校:芒ヶ原高校

好き:ゲーム、綺麗なお姉さん、グラタン

嫌い:勉強、ラザニア

得意教科:保健、体育

苦手教科:数学、物理

容姿:アッシュブロンドのセンター分けでライトグリーンの瞳。

服装:黒い学ランの下に白いTシャツ。赤いスニーカーを履いている。

人称:俺/お前/男:苗字呼び捨て 女:苗字+ちゃん

ICV:花江夏樹

 

くじ引きで平均的な高校生の中から選ばれて入学した。

これといった才能が無い事を全く気にしておらず、明るく社交的に振る舞っている。助平で、赤刎やジョンと一緒にエロトリオと呼ばれている。

 

 

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【超高校級の???】枯罰(コバチ)(タマキ)

 

「別にここで役に立つ才能とちゃうし言わんでもええやろ。」

 

性別:女

年齢:15歳

誕生日:2月17日(みずがめ座)

血液型:A型

身長:181cm

体重:61kg

胸囲:83cm

利き手:両手

出身校:???

好き:綿菓子、プリン

嫌い:ド阿保、喧しい奴、梅干し

得意教科:英語、体育

苦手教科:あるかもしれへん

容姿:毛先がワインレッドの黒髪で、右目が隠れ気味。薄いブルーグレーの瞳。中性的な見た目で、美人というよりはイケメン寄り。

服装:ワイシャツと青いネクタイの上に茶色いブレザー。耳にクロスのピアスをつけている。黒い革靴を履いている。

人称:ウチ/お前/苗字呼び捨て又は苗字+はん(煽り用)

ICV:宮村優子

 

才能を全く語ろうとしない。男装の麗人。

関西弁で喋るのが特徴的。知的で冷静沈着な性格。ほとんど感情が顔に出ないが、札木と違いズバズバと物を言う。また、神崎程ではないものの何でも器用にこなせ、これといった弱点が特にない。

 

 

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【超高校級のタロット占術師】札木(サツキ)未来(ミライ)

 

「これから何か、良くない事が起こるらしいの…それが何かまではわからないけど…」

 

性別:女

年齢:18歳

誕生日:1月8日(やぎ座)

血液型:B型

身長:152cm

体重:40kg

胸囲:78cm

利き手:右

出身校:桜庭高校

好き:タロット、チーズケーキ

嫌い:怖い人、胡椒

得意教科:家庭科、日本史

苦手教科:体育

容姿:薄紫色のボブカットで、右側を結っている。茶色の瞳。

服装:白いシャツ、赤いリボン、深緑のサロペットスカートの上に深緑のボレロ。黒いストッキングと茶色い革靴を履いている。

人称:わたし/君/男:苗字+くん 女:苗字+さん

ICV:矢作紗友里

 

赤刎の高校のクラスメイト。

100%当たると有名なタロット占術師。彼女の助言に従えば、将来の成功が約束されるとも言われている。あまりにも的確に客の未来を占うため、実は本当に未来が読めるのではと噂される程。元々は学校の中だけでやっていたが、有名になってからは有名人なども占うようになった。

物静かな性格で、感情表現が苦手。口数が少なく、あまり積極的に発言しない。

 

 

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【超高校級の家政婦】仕田原(シダハラ)奉子(トモコ)

 

「料理や洗濯から送迎や子守りまで、幅広くお応えしますよ!…まあ、家の手伝い以外はホント何の役にも立たないんですけどね。」

 

性別:女

年齢:17歳

誕生日:8月11日(しし座)

血液型:A型

身長:168cm

体重:58kg

胸囲:88cm

利き手:右

出身校:烏谷高校

好き:家事、山菜

嫌い:休日、ガム

得意教科:家庭科、化学

苦手教科:音楽

容姿:水色の長髪を後ろで纏めており、青い瞳。瓶底メガネをかけていてわかりづらいが、実は絶世の美少女。

服装:黒いシャツの上に青いオーバーオールを着ており、その上に白いエプロン。頭には白い三角巾。瓶底メガネをかけている。茶色い長靴を履いている。

人称:自分/あなた/苗字+さん

ICV:加藤英美里

 

高校生の身でありながら家事全般何でも熟せる家政婦で、来年まで仕事の予定が埋まっており年単位で待たないと彼女を雇えない程。世界中のセレブが彼女を取り合い、特に料理の腕は三ツ星レストランのシェフが認める程。元は大手企業の社長の専属家政婦だったが、有名になってからは幅広い層の客に雇われるようになった。

誰に対しても礼儀正しく真面目だがどこか卑屈な所があり、自分の事を家事以外は何の取り柄も無いと言っている。

 

 

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【超高校級の冒険家】ジョナサン・ウォーカー(Jonathan Walker)

 

「Oh,それはなかなかcoolなideaだな!」

 

性別:男

年齢:16歳

誕生日:4月19日(おひつじ座)

血液型:A型

身長:184cm

体重:85kg

胸囲:90cm

利き手:右

出身校:ウェストフィールドハイスクール

好き:旅、天ぷら、Japanese girls

嫌い:じっとしてる事、ケチャップ

得意教科:地理、体育

苦手教科:古文、漢文

容姿:焦げ茶色の髪をコーンロウにして後ろで束ねている。金色の瞳。褐色肌。

服装:ダークグレーのタンクトップに迷彩柄のカーゴパンツ。腰には同じく迷彩柄のジャケットを巻いている。ピアスとネックレスと黒いグローブを着用。黒いブーツを履いている。

人称:オレ/オマエ/名前呼び捨て

ICV:置鮎龍太郎

 

アメリカからの留学生。愛称はジョン。

遺跡や新種の生物の調査などを目的として世界中を旅しており、持ち前の身体能力と度強で命の危険を感じるような秘境にも物怖じせずに冒険する。彼のブログは世界中で翻訳されて話題になる程の大人気を誇っている。海底洞窟で新種の生物を発見したという功績でスカウトされた。

英語混じりの日本語で話すのが特徴的。明るく大らかな性格でコミュニケーション能力が高いため誰とでもすぐに仲良くなれる。エロに興味を抱いており、赤刎や漕前と一緒にエロトリオと呼ばれている。

 

 

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【超高校級の武闘家】武本(タケモト)闘十郎(トウジュウロウ)

 

「俺は、まだまだ強くならなければならない。」

 

性別:男

年齢:17歳

誕生日:7月30日(しし座)

血液型:A型

身長:200cm

体重:110kg

胸囲:120cm

利き手:右

出身校:錦堂高校

好き:修行、白米

嫌い:怠け、生クリーム

得意教科:古文、体育

苦手教科:英語、音楽

容姿:剃り込みの入った黒髪ベリーショート。赤い瞳。顎髭が生えている。筋骨隆々とした体格。

服装:黒帯を締めた道着を着ており、下駄を履いている。手には赤い手甲をつけている。

人称:俺/お前、貴様/苗字呼び捨て

ICV:天神英貴

 

数々の武道を制覇し、特に柔道では国内に戦う相手がいない程の達人。熊を素手で投げた、大岩を拳で砕いた、牛を正拳突きで撃沈させたなどの人間離れした伝説が生まれる程で道場破りで有名。しかし実際は噂が一人歩きしているだけで人や動物を奇襲したりはしていないが、それ程の強さがあるのは本当。

ストイックな性格で、決して驕った態度は取らない。実は人付き合いが苦手で、特に女性に対する免疫がほとんど皆無。

 

 

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【超高校級のヴァイオリニスト】弦野(ツルノ)(リツ)

 

「うるせーな、テメェには関係ねぇだろーが。」

 

性別:男

年齢:17歳

誕生日:10月5日(てんびん座)

血液型:O型

身長:180cm

体重:67kg

胸囲:85cm

利き手:右

出身校:聖ハルデンベルク高校

好き:ジャンクフード

嫌い:楽器、両親、ほうれん草

得意教科:音楽、数学

苦手教科:現代文

容姿:銀髪のウルフカットに青い瞳。猫目が特徴的。右目に泣き黒子がある。

服装:水色のシャツと茶色いスラックスの上に黒いジャンパー。ヘアピン、ピアス、チョーカー、ネックレスなどをつけている。青緑色のスニーカーを履いている。

人称:俺/テメェ/苗字呼び捨て

ICV:吉野裕行

 

音楽家の家系の御曹司で、本人もまた世界的に有名な天才ヴァイオリニスト。プロでも弾けないような最高難易度の曲を4歳の頃に完璧に弾き、史上最年少で国際コンクールに出場している。一度聞いた曲や楽譜をパッと見た曲は必ず弾けるだけでなく作曲の才能もあり即興で独自の曲を弾ける。

しかし幼少期から両親に英才教育を受けさせられた反動で素行不良になっており、自分の人生を束縛した原因である自分自身の才能を疎ましく思っている。

 

 

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【超高校級のソフトウェア開発者】(ニノマエ)千歳(チトセ)

 

「終わった!!ボクはここで死ぬんだぁああああ!!」

 

性別:男

年齢:17歳

誕生日:9月28日(てんびん座)

血液型:B型

身長:163cm

体重:49kg

胸囲:77cm

利き手:左

出身校:東櫻アカデミー

好き:パソコン、ラーメン、チャーハン

嫌い:虫、血、高所、オカルト、ピーマン

得意教科:数学、物理

苦手教科:体育、家庭科

容姿:鎖骨まであるボサついた明るい茶髪に茶色い瞳。タレ目で睫毛が長く中性的な顔立ち。

服装:下は紺のジーンズで、上は緑色のTシャツ。上にクリーム色のパーカーを羽織っている。ダークグレーのスニーカーを履いている。

人称:ボク/君/男:苗字+君 女:苗字+さん

ICV:小西克幸

 

本人は代々エンジニアやプログラマーの家系で、プログラミングやシステム開発など数多くの功績を残しているが、突出した分野が無いため一括りに『超高校級のソフトウェア開発者』と呼ばれている。最近では世界一厳重なセキュリティシステムを開発した功績を残しており、未だに突破できた者はいない。

非常に臆病な性格で、何かあるたびに泣き喚く。また、パソコン関係以外はからっきしなのでよく的外れな発言をしてしまう。

本人曰く、親戚に同じく超高校級の才能を持ったプログラマーがいるらしい。

 

 

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【超高校級のランナー】速水(ハヤミ)蘭華(ランカ)

 

「ちょっとひとっ走りしてくるね!じっとしてるの落ち着かなくて!」

 

性別:女

年齢:16歳

誕生日:9月12日(おとめ座)

血液型:B型

身長:175cm

体重:61kg

胸囲:95cm

利き手:右

出身校:四ツ川高校

好き:ランニング、照り焼きチキン

嫌い:暗所、考える事、コーヒー

得意教科:体育、家庭科

苦手教科:数学、化学

容姿:黄緑色のショートボブに水色の瞳。褐色肌。

服装:白いTシャツとえんじ色のホットパンツの上にえんじ色のジャージ。白いスニーカーを履いている。

人称:アタシ/アンタ/名前呼び捨て

ICV:喜多村英梨

 

数々の陸上競技で新記録を叩き出しており、男子の世界代表選手とも対等以上に渡り合える。その驚異的な足の速さから『韋駄天』とも呼ばれている。走るのが好きで毎日走って陸上部に入っていたらいつの間にか超高校級になっていた。本人の今の目標は、100m8秒台、フルマラソン1時間50分以内。

明るく活発な性格で、考えるより先に身体が動く。頭脳労働はからっきしで、神崎や枯罰などの話を聞いているとすぐに頭がパンクしてしまう。

 

 

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【超高校級の画家】筆染(フデゾメ)絵麻(エマ)

 

「あたし、一旦イメージが降りてきたらすぐ描きたくなっちゃって…絵の事になるとホント周り見えなくなっちゃうんだ!」

 

性別:女

年齢:17歳

誕生日:12月16日(いて座)

血液型:O型

身長:165cm

体重:52kg

胸囲:90cm

利き手:右

出身校:星華高校

好き:絵、クラシック、キャラメル

嫌い:高所、椎茸

得意教科:美術、体育

苦手教科:音楽、数学

容姿:赤髪セミロングに赤い瞳。

服装:白いシャツ、ピンク色のネクタイ、灰色と赤のタータンチェックスカートの上に黒いジャケット。オリオン座のヘアピンをつけている。白いソックスと茶色い革靴を履いている。

人称:あたし/君/男:苗字+君 女:苗字+ちゃん

ICV:野中藍

 

世界的に有名なアーティストからも高く評価されている画家で、稼いだ金で建てた自身のアトリエを持っている。独特のタッチと独自で編み出した表現技法から熱狂的なファンが多く、弟子もいる。インタビューなどでは代理人が答えているため本人の顔はあまり知られていない。

穏やかで柔和な性格だが、天然気味で絵の事になると熱中してしまい周りが見えなくなるという悪癖がある。絵以外は抜けているところがあり、肝心なところでポカをやらかすドジっ子。

 

 

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【超高校級の収集家】宝条(ホウジョウ)夢乃(ユメノ)

 

「ゆめはぁ〜、みんなにゆめって呼んでもらいたいの。ってか、みんなにゆめって呼ばれないと気が済まないのよ。」

 

性別:女

年齢:17歳

誕生日:6月10日(ふたご座)

血液型:AB型

身長:157cm

体重:43kg

胸囲:84cm

利き手:右

出身校:虹ノ森女学園高校

好き:自分、お宝、イチゴのパフェ

嫌い:ダサい物、虫、オカルト、人参

得意教科:美術、世界史

苦手教科:家庭科、体育

容姿:ピンク色の縦ロールのツインテールで、緑色の瞳。

服装:白、ピンク、赤を基調とした甘ロリファッション。ツインテールに赤いリボンをつけている。薄ピンクのニーハイと赤いブーツを履いている。

人称:ゆめ/男:あなた 女:アンタ/男:苗字+くん 女:苗字呼び捨て

ICV:戸松遥

 

芸術作品から人体や情報まで、欲しいと思ったものなら何でも手に入れる収集家。世界で最も美しいと言われる赤いダイヤモンドや、既に全て焚書されて世に出回ってないと言われている幻の書物などを持っており、コレクションの総額は1000億を軽く超えると言われている。

自分の事を『ゆめ』と呼ぶ痛い女で、かなりぶりっ子のような言動が目立つ。男子には甘く、女子にはキツい。

自分の思い通りにならないと気が済まない性格で、気に入らない事があるとすぐに癇癪を起こすが、収集家という事もあり観察力や情報処理能力には長けている。

 

 

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ジョンの呼び方

 

赤刎→ジョン

安生→ウォーカー君

神崎→外人

聞谷→ウォーカーさん

黒瀬→ジョンくん

漕前→ジョン

枯罰→ジョン

札木→ジョンくん

仕田原→ウォーカーさん

武本→ウォーカー

弦野→ジョナサン

一→ジョン君

速水→ジョン

筆染→ジョン君

宝条→ジョンくん

 

 

 

神崎の全員に対する呼び方

 

赤刎→子供

安生→車椅子

聞谷→着物

黒瀬→白

漕前→幸運

枯罰→関西弁

札木→無口

仕田原→瓶底

ジョン→外人

武本→デカブツ

弦野→銀髪

一→怯者

速水→ジャージ

筆染→絵描き

宝条→縦ロール



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Chapter.1 運命の赤い糸
(非)日常編①


「うわ…」

 

「マジかよ…」

 

改札を通り抜けると、そこには信じがたい光景が広がっていた。

目の前にあったそれは巨大なテーマパークで、まさに楽園とも呼べる場所だった。

まず正面に巨大な城のような建物が聳え立っており、その他にも目を引く建物が5つほど見られる。

その5つは巨大な建物がひとつ小さな建物が4つだった。

 

「うっひょー!!」

 

「Amazing!!」

 

「うわぁ、広いね!」

 

「何ここ!!メッチャすごいんだけど!!」

 

漕前、ジョン、筆染、速水、はしゃいでいると、枯罰が呆れ返り神崎が鬱陶しそうに舌打ちをする。

 

「呑気なやっちゃなぁ。ウチらコロシアイのためだけにここに連れて来られとんねんぞ。」

 

「全く、これだから凡愚共は…」

 

「まぁまぁ…とりあえず、楽園全体を探索してみない?何かわかる事があるかもしれないしさ。」

 

「そうだな。それに、ここで一生過ごすって事は寝泊まりする場所も探しておかなきゃいけないって事だしな。」

 

安生の提案で、俺達は楽園の探索をする事になった。

 

「手分けして探索した方が効率がいいし、2人以上のグループを組んでそれぞれ別の場所を探して後で報告し合うようにしようか。」

 

「そうだね。2人以上なら、お互いを見張り合う事ができるもんね。」

 

「それなら安心ですわね。」

 

「…………人付き合いは苦手だが、それで危険を減らせるのなら仕方ないな。」

 

「ぼ…ボクも…」

 

みんなが俺の意見に賛成し、お互いグループを組もうとした時だった。

 

 

 

「俺は嫌だね。」

 

弦野が反論してきた。

 

「どうしてだ?」

 

「どうせそうやってグループ組んだって、ソイツらが互いにグルだったら手を組んで誰かを殺すかもしれないからに決まってるだろうが。」

 

「ひぃいいいぃいいいっ!!!」

 

「に、一君…落ち着いて…」

 

弦野が悪態をつくと、『殺す』という言葉に反応した一が悲鳴を上げた。

安生は、泣き喚く一を宥める。

すると今度は神崎までもが反発してきた。

 

「そこの銀髪の言う通りだ。俺も一人で行動させてもらう。貴様らと同じ空気など死んでも吸いたくないからな。」

 

すると、二人の態度に怒りを覚えた漕前、ジョン、速水が声を荒げる。

 

「Shut up!!オマエら、そうやってthe atmosphereをspoilすんのやめろ!!」

 

「そうだぞ!お前らなぁ、さっきから感じ悪いぞ!!」

 

「二人の言う通りだよ!!円と心はアタシ達のために言ってくれてるんだよ!?」

 

「知るかンなモン。お前らが何と言おうが、俺は一人で行動するからな。」

 

「お前なぁ!!」

 

そうこうしているうちに、5人は喧嘩を始めてしまった。

まずいな…このままじゃ、ますますモノクマの思う壺だ。

早くコイツらの喧嘩を止めねぇと…

 

 

 

「お前らええ加減にせぇよ。どつくぞコラ。」

 

そう言ったのは、枯罰だった。

枯罰から放たれる威圧感に、その場にいた全員が静かになった。

 

「どいつもこいつも猿みたくギャーギャー鳴きおってからに。喧しいんじゃボケ。そないに感情的になりよったらあのクマ公の思う壺やっちゅう事ぐらいわかるやろ。」

 

枯罰は、全員を睨みながら続ける。

 

「お前らそれでも希望ヶ峰の生徒かいな?超高校級なら超高校級らしゅうシャンとせぇよ。」

 

すると、漕前が頷き、握りしめた拳を下ろして怒りを鎮める。

 

「…そうだな。みんな、悪い。俺、つい感情的になっちまって…俺達全員で協力して、絶対みんなで生きて帰るぞ!!」

 

「「おぉ!!」」

 

「「…。」」

 

枯罰の言葉で場がまとまり、居心地が悪くなったのか弦野や神崎はそれ以上何も言わなかった。

俺は、枯罰に感謝しなければと思い真っ先に枯罰のもとへ向かった。

 

「枯罰、ありがとな。」

 

「別にウチは感謝されるような事してへんよ。阿呆共がギャアギャア騒ぎよるさかい言いたい事言うただけや。ウチかて、あのクマ公の思い通りんなんのは嫌やしなぁ。」

 

枯罰…才能について何も語らなかった時は冷たくて一匹狼みたいな奴だと思ってたけど、案外頼りになるんだな。

 

 

 

「それじゃあ、早速グループを組もうか。一君、僕とグループを組んでくれるかな?」

 

「え、ぼ、ボクですかぁ!?」

 

「君の才能は調査で役に立つだろうし、僕なら逆に君が困った時に助けてあげられるだろうから。…どうかな?」

 

「そ…そういう事なら…」

 

良かった、一は臆病だからグループに入れるか心配だったけど、安生がいればうまくやれそうだな。

 

「赤刎!俺達と一緒に回ろうぜ!!」

 

声をかけてきたのは漕前とジョンだった。

コイツらとは馬が合いそうだし、断る理由は無い。

 

「おう、もちろんいいぞ。」

 

「あ………」

 

すると、札木が少し寂しそうな顔をする。

 

「どうした札木?早く来いよ。」

 

「…え?」

 

「俺達、同じグループだろ?」

 

「…。」

 

いや、驚く事ないだろ。

少なくとも俺はそのつもりだったんだけどな。

俺は、漕前とジョンに聞いてみる。

 

「な?」

 

「Of course!!ミライもオレ達のfriendだぜ!!」

 

「札木ちゃん、そんな離れた所にいないで一緒に回ろうぜ。」

 

「………うん。えっと…よろしく…お願いします…」

 

札木は、恥ずかしそうに俯いて俺達の輪の中に入った。

聞谷、速水、筆染の3人も仲が良い女子同士でグループを組む事にしたらしい。

残るは枯罰と武本と…

 

「おいデカいの。お前はウチと組みぃ。」

 

「………俺か?」

 

「他に誰がおるんや?力技が必要な時一番役に立ちよるんはお前やろ。それにウチならお前が暴走しても制御できるしなぁ。」

 

「……わかった。」

 

なるほど、確かに探索中に力仕事が必要になった時の事は考えてなかったな。

あの二人は心配なさそうだな。

 

 

 

結局、俺と札木と漕前とジョンのグループ、安生と仕田原と一のグループ、枯罰と武本のグループ、聞谷と速水と筆染のグループの4つに分かれた。

グループ分けであぶれてしまったのは、神崎、黒瀬、弦野、宝条の問題児4人だった。

神崎と弦野は言わずもがな、宝条はわがままなので、黒瀬はマイペース過ぎて何を考えているのかわからないので誰もグループに入れたがらなかった。

 

「うーん…どうする?」

 

「一人にさせるわけにはいかないし…しょうがないから余裕があるグループに入れてもらうしかないよね。」

 

「ちょっとぉ!!ゆめを余り物みたいに言うのやめなさいよ!!」

 

「ボクいい事思いついたぁ。ボク達余り物同士でグループ組めばいいと思いまぁ〜す。」

 

「莫迦か貴様は。貴様と組むぐらいなら俺は一人で行動する。」

 

「俺もそうさせてもらうぜ。こんな怪しい女とグループ組むなんざ死んでも御免だ。」

 

うわぁ…相変わらずだなぁあの二人は。

 

「宝条さん、僕達のグループに入ってくれないかな?」

 

(あら…コイツ、割といい顔してるわね。)

 

「もちろん!ゆめも安生くんのグループに入りたいと思ってたんだぁ〜♪」

 

「…さっきまでグループ入るの嫌がってたのに…………」

 

「一くん、何か言った?」

 

「…いえ、何も。」

 

「弦野君、良かったらあたし達と組まない?」

 

「はぁ?ふざけんなよ。何で俺がお前らと…」

 

「弦野君だって、あたしのクラスメイトなんだよ?ね、ほら!」

 

すると見かねた安生が宝条を、筆染が弦野をグループに誘った。

残るは神崎と黒瀬か…と思っていたが、案外すんなりとグループができた。

 

「お前らはウチらとや。」

 

「ふざけるな。おい関西弁、何故俺がお前と一緒に行動をしなければならないんだ?」

 

「別にウチらと組みたないっちゅうんならええけどなぁ。ただ、万が一殺人が起きたらウチは真っ先にお前を疑うで。」

 

「貴様、根拠も無しに俺を疑う気か?」

 

「一人でおったモンが怪しいに決まっとるやろ。校則の5番目に誰か殺したんを他の奴に知られたらアカンって書いてあったっちゅう事は、それを破って他の誰かに知られたらルール違反っちゅうこっちゃ。ルール違反したモンがどうなるんかはお前も知っとるやろ?」

 

「…何が言いたい。」

 

「つまりや。お前はウチにマークされとる以上、好き勝手する事は出来へんねん。わかったら黙って言う事聞いとき。」

 

「…フン。貴様等と組むのは癪だが、貴様等如きに疑われるのはもっと癪だからな。仕方ないが貴様等と組んでやろう。」

 

「わぁ〜い、帝くんもボクと同じグループだねぇ。」

 

こうして4人は、無事他のグループに入れてもらう事ができた。

 

「探索を終えたら、みんなでミーティングをしよう。集合場所は…そうだな、正面の建物に食堂があるみたいだからそこにしよう。」

 

「それじゃあ、パスポートの時計で18時に食堂に集合にするか。」

 

「おう。」

 

集合時間と場所を決めた所で、俺達はそれぞれ別の場所を回ることにした。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「どうする?俺達はどこをまず探索しようか?」

 

「そうだな…まず、目の前にあるデカい建物に入ってみるか。」

 

「札木もそれでいいよな?」

 

「………うん。」

 

俺達は、早速目の前にある高級ホテルのような建物に入ってみる事にした。

建物までの道には美しい花が咲き誇る庭園があり、幻想的な雰囲気を醸し出していた。

正直、案外ここで暮らすのも悪くないと思ってしまっている自分がいる。

…もっとも、モノクマの噴水に吐き気がする点を除けばだが。

 

 

 

「うわぁ…!!」

 

入ってすぐに目に入ってきたのは豪華な装飾が施されたクラシック調のエントランスで、顔が映り込むくらい綺麗に磨かれた床や柱は大理石でできており、監視カメラが至る所にあるのと気色の悪いモノクマのオブジェを除けば目を見張るほど立派だった。

 

「すげぇ!!俺、高級ホテルなんて初めて来たぜ!!」

 

「俺もだよ。ずっと孤児院生活だったからな。」

 

「よし、それじゃあ早速expeditionしようぜ!!」

 

そう言ってジョンが真っ先に駆け出していったので、俺達もジョンを追いかける形でホテルを探索する事になった。

ホテルにあるエレベーターは全部で3台で、左右の2台が8人乗り、中央にあるエレベーターが16人乗りとの事だった。

俺達は、早速エレベーターに乗り込んで上の階に向かう。

 

「おー…」

 

エレベーターの中もやはりクラシック調で豪華な造りになっていた。

 

「…あれ?」

 

ふと気になった事があったので、俺は思わず声を上げた。

 

「どうした?」

 

「このエレベーター、この表示だと地下にもフロアがあるって事だよな?」

 

「そうだな。」

 

「でも、地下に行くボタンなんて無いぞ?」

 

「…あるにはあるけど自力では行けないって事か。」

 

考えている内に、エレベーターがフロアに着いた。

俺達が初めに行ったのは、個室があるフロアだった。

パスポートのアプリにあるマップによると、男子が4階、女子が3階で部屋の番号は出席番号順に並んでいるらしい。

俺は自分の名前が刻まれた401号室の部屋に入った。

パスポートが部屋の鍵になっていて、リーダーにかざすと部屋のロックが解除されるようになっていた。

 

「うぉっ…」

 

個室は100平米はあり、置かれている家具はどれも一級品だった。

奥には巨大な窓があり、楽園を一望できるようになっている。

部屋は完全防音になっており、部屋の中の音が隣の部屋に漏れないようになっているらしい。

部屋にはバスルームやトイレ、簡易式のキッチンも完備されていた。

ちなみにトイレはT●TOのウォシュレットでした。

…まあだから何だって話だが。

 

部屋の入り口にはワンタッチで収納できるタイプの用具入れがあり、最低限の掃除道具が入っていた。

テレビも設置されており、一応見られるようになっている。

…まあ、チャンネルはどれもモノクマが用意したであろう茶番番組だったが。

 

「一応クローゼットと引き出しの中もチェックしておかないとな。」

 

クローゼットを開けると中には俺の制服の予備が入っていたが他は特に何も入っていなかった。

ベッドの隣にあったデスクの引き出しを開けると、中には工具箱が入っていた。

俺は、工具箱を開けて中身を確認する。

 

「スパナにペンチにハンマー…一通り揃ってるな。」

 

工具箱の中には、工具だけではなく一枚の紙切れも入っていた。

 

「?」

 

紙切れを広げて読んでみると、これまたモノクマのイラスト付きの汚い文字が書かれていた。

 

『モノクマ楽園長からのお知らせ

部屋の鍵は、パスポートをリーダーに翳すと開閉できるようになっております。パスポートを紛失・破壊してしまうと部屋の施錠・解錠が不可能となってしまいますのでご注意下さい。また、自分のパスポートで他の人の部屋を開ける事はできません。

部屋には、バスルームとトイレが完備されていますが、夜時間は水が出ないので注意してください。

最後に、ささやかなプレゼントを用意してあります。女子には裁縫セットを、男子には工具セットをご用意しました。

裁縫セットには人体急所マップもついているので、女子のみなさんは、針で一突きするのが効果的です。

男子の工具セットを使用する場合は、頭部への殴打が有効かと思われます。』

 

「クソッ、人の事をバカにしやがって…!!」

 

俺は、苛立ちながら紙をグシャグシャに丸めてゴミ箱に捨てた。

部屋を一通り調べた後は、全員4階のエレベーター前に集合した。

ちなみに他の3人の部屋も俺と同じ感じだったらしい。

そして、やはり札木の所には裁縫セットが入っていたようだ。

とりあえず部屋の探索は終わったので、1階と2階の探索もしてみる事にした。

 

すると、途中で安生達に会った。

 

「お、お前らもホテルの探索をしてたのか。」

 

「まあね。それで僕達は1階と2階の探索をしてたんだけど、1階にはランドリールームとトラッシュルームとプレイルームが、2階には食堂と厨房があったんだ。」

 

「厨房には鍵付きの冷蔵倉庫と冷凍倉庫もあったんですよ!中にはなかなかお目にかかれない高級食材もありました!」

 

「お、おう。良かったな。」

 

仕田原がすごい熱心に話してくる。

まあ家事ができる場所が完備されてるのはコイツにとっては嬉しい事なのか。

すると、一がおずおずと発言をした。

 

「えっと…あと、食料には毒とかは入ってないし、どんどん殺菌処理した新鮮なものが追加されるから食中毒や餓死の心配は無いってモノクマが言ってた…それも信用していいのかどうか怪しいけど…」

 

なるほどな。

それは有力な情報だな。

安全な食料があれば、とりあえずこの空間で生き延びる事はできるからな。

…尤も、一の言う通りあのイロモノクマが用意したって時点で安心安全な食料とは言い難いが。

それにしても…この楽園といい、16人全員を一生養える程の食料やライフラインを完備できるなんて、このクソゲーを裏で操ってる奴はどっかの財団とかなのかな?

 

「ふふふ♪このホテルお城みたいだし、思ったより粗末な場所じゃないし、案外ここに住むのも悪くないかも。たまには凡人の生活ってものを体験してみようかしらねぇ。」

 

すっかり気分が良くなった宝条は、さっきまで駅でギャーギャー騒いでいたとは思えない発言をした。

 

「1階と2階は既に安生達が探索してくれたみたいだし、俺達は別の場所を探してみるか。」

 

「………そうね。」

 

 

 

俺達は、部屋を出てすぐの場所にあった少し変わった建物に入ってみる事にした。

西洋風のレトロな感じの扉で、扉にはタロットの絵が描かれていた。

 

「何だここは?」

 

『ズバリご説明します!!』

 

そう言って、突然モノクマが茂みから飛び出してきた。

 

「ぎゃあっ!!?」

 

「Whaaaaaaaaaaaat!!!?」

 

「うわ、ビックリした!!」

 

突然イロモノが茂みから現れたので俺達3人は悲鳴を上げる。

さすがの札木も目を見開いて小さく「きゃっ」と声を上げていた。

 

『ちょっと、神をGで始まる黒い虫みたいに扱うのやめてよね!』

 

「お前なんかゴキブリ以下だ!!」

 

『ちぇーっ、何ですかその反応は!!せっかく神が親切にその施設の説明をしてあげようと現れたのに!!』

 

「Oh,なんだそういう事だったのか。それを早く言えよ!」

 

「漕前、ジョン。こんな奴にムキになったら負けだ。それで、この施設は一体何なんだ?」

 

『ゴホン、ズバリ説明します!それは、『超高校級研究室』です!』

 

「超高校級研究室?」

 

『はい!この『超高校級研究室』では、才能のデータを取るためにその人の才能に沿ったものが用意されてるんだよ!』

 

「って事は…」

 

俺達は、札木の方を見た。

 

「ここは札木の研究室って事か。まさかトップバッターが札木だとはな。」

 

「……………。」

 

札木は恥ずかしそうに俯いていた。

 

『それじゃ、ボクは用が済んだのでこれで。またボクに会いたくなったらいつでも呼んでね〜!』

 

「誰が呼ぶか!!」

 

漕前が怒鳴るが、モノクマは全く気にしない様子で去っていった。

 

「Shit!!」

 

「アイツいちいちムカつくな。塩撒いとくか。」

 

「まあ、確かに不快だわな。でも厄介者が去った事だし、気分入れ替えて探索しようぜ。中入ってもいいか、札木?」

 

「あ………うん……」

 

よし、許可が降りたし入ってみるか。

札木が扉を開けて俺達は中に入った。

 

 

 

中は少し暗くなっていて、後ろにはカーテンが吊るされている。

中央にあるテーブルにはテーブルクロスが敷かれており、上にはタロットカードが置かれていた。

 

「なるほどな、これが『超高校級のタロット占術師の研究室』か。」

 

「俺、タロット占いってやった事ないんだけどさ、札木ちゃん俺の事占ってくれね?」

 

「………え、でも探索中………」

 

「まぁ…いいんじゃね?時間はたくさんあるし、別の場所は他のグループが調べてくれてるだろうしな。」

 

俺がそう言うと、札木は少し微笑んで頷いた。

 

「……………わかった。」

 

札木は早速椅子に座ると早速ホワイトセージを焚いて部屋の浄化を始める。

一通り清めの儀式が終わると、カードをテーブルに並べた。

 

「……何について占う?」

 

「あ、じゃあ恋愛について占ってくれるか?」

 

「…………うん。」

 

札木は、カードをシャッフルして占いを始める。

そして引いたカードを見て結果を伝えた。

 

「………えっとね、漕前くんの人柄に惹かれてる人は少なからずいるみたい。」

 

「マジで!?」

 

「……ただね、自分の行動を反省しないと痛い目を見るよ。」

 

「うぐ…」

 

そう言われた漕前は苦笑いを浮かべた。

やっぱり思い当たる節があるんだな。

…まあ、人の事は言えないけど。

 

その後俺とジョンも占ってもらったんだが、それはもう思い当たる節の連続だった。

どうやら【超高校級のタロット占術師】の実力は伊達ではないらしい。

ちょうど3人占ってもらったところであと1時間程になったので、俺達は楽園内を適当に歩きながら食堂に向かう事にした。

楽園内をブラブラしている途中、道場のような建物を見つけた。引き戸には、柔道のピクトグラムが描かれていた。

 

「ここってもしかして…」

 

「多分、武本の研究室だろうな。どうする?中入るか?」

 

「そうだな…」

 

「…………わたしはどっちでも。」

 

「タノモーッ!!!」

 

「わっ、おいバカ!!人の研究室なんだからそっと開けろ!!あと声がデカい!!」

 

ジョンは、大声を出しながら引き戸を勢いよく開けて中へ入っていった。

俺達は、ジョンの後を追う形で武本の研究室の中に入った。

 

 

 

「破アッ!!」

 

「わぁー、闘十郎くんカッコいいー。」

 

研究室の中は畳が敷かれ、壁には神棚と達筆な文字が書かれた木の板が立て掛けられていた。

そして正拳突きをしている武本、そして部屋の隅でそれを見ている黒瀬がいた。

 

「セイッ!!」

 

武本が再び正拳突きを繰り出すと、その迫力に俺は思わず目を見開いた。

俺は、とりあえず隅にいた黒瀬に声をかける事にした。

 

「…なぁ、何やってんだ?」

 

俺は、コソッと黒瀬に耳打ちする。

すると、黒瀬が相変わらずふわふわした口調で答えた。

 

「んーっとねぇ…あのねー…闘十郎くんがー、研究室を見つけたから修行したいって言って、ずっと正拳突きしてるのー。ボクはやる事がないのでずっとここで見てましたー。」

 

「そうか…あれ?枯罰と神崎は?確か同じグループだったよな?」

 

「環ちゃんと帝くんはぁ、お外で調べたい事があるから色々お調べ中なんだってー。自分の研究室じゃないなら興味無いからいいって言って出てっちゃったのー。」

 

「そっか…まあ、アイツららしいっちゃアイツららしいわな。」

 

「Wow!!トウジュウロウ!!今の、very coolだったぜ!!One more time!!」

 

「すげぇなオイ!!武本、お前もしかして波出せんじゃねぇの!?ちょっと出してみてくれよ!!」

 

いつの間にか、漕前とジョンが武本の周りでキャイキャイはしゃいでいた。

すると、武本が二人をギッと睨む。

 

「……………道場は神聖な場だ。静かにしろ。」

 

「「…ハイ。」」

 

武本の重々しい一言で、二人は大人しく静かに正座をした。

すると、そこへ枯罰と神崎が現れる。

 

「おー、武本。お前まだやっとったんか。」

 

「フン。それより、何故莫迦共がこんな場所にいるのだ?」

 

莫迦共って…もしかして俺達の事か?

 

「あー、環ちゃんに帝くん。あのねー、円くんたちはー、探索が終わったからボク達の様子を見に来たんだってー。」

 

「なるほどなぁ。」

 

「二人もここで闘十郎くんの技見れば良かったのにー。凄かったんだよー。それはもう登山者の臓物を食い破るグリズリーの如き迫力でー…」

 

黒瀬よ、何故そんな物騒な喩えをチョイスした?

ああ…そういやコイツホラー系とかミステリー系専門の脚本家だったな。

それを聞いた枯罰はスラックスのポケットに両手を突っ込んで答える。

 

「別に興味無いわ。今は脱出方法以外はどうでもええねん。お前らはここから出とうないんか?」

 

「んー…ボクは別に出なくてもいいかなー。ここでみんなと一緒にいるの楽しいし。」

 

「お気楽すぎるやろ。…もうええ、お前に聞いたウチが阿呆やったわ。」

 

枯罰は、額を手で覆ってため息をついた。

…アイツも黒瀬と一緒にいると大変そうだな。

 

「お前らはこれからどうするんだ?俺達は適当に歩きつつ食堂に行こうと思ってるんだが。」

 

「ウチはまだ調べる事あるさかい、終わるまでここら辺におるわ。」

 

「おう。それじゃ、また後でな。」

 

俺達は、武本の研究室を後にして再び楽園内の探索を行う事にした。

食堂に向かう方向に歩いていると、今度はドーム状の建物が見えてきた。

ガラスでできた扉には、ランニングのピクトグラムが描かれていた。

 

「ここは速水の研究室か。」

 

「今のところ、これが最後の研究室かな。ここも一応調べておくか。」

 

俺達は、ガラスの扉を開けて中に入った。

 

「お邪魔しまーす…っと。」

 

 

 

中はジムのようになっており、ランニングマシーンやダンベルなどの走るために必要な筋肉を鍛えるためのトレーニング器具が揃えられていた。

 

「お!円達じゃん!!おつかれー!!」

 

俺達が研究室に入った途端、中にいた速水が俺達の方へ走ってきた。

どうやら、他の3人も一緒のようだ。

…単独行動を取ると言って聞かなかった弦野までいるのは正直意外だったが。

 

「おう。お前ら、ここにいるって事は探索は終わったのか?」

 

「ええ。倉庫の探索が終わった後、速水さんの研究室を見つけたのでここで少し休憩を取っていた所ですの。赤刎さん達も探索がお済みなのですか?」

 

「まあな。探索終わったし、適当にぶらぶらしつつ食堂に行こうとしてたところなんだ。」

 

「Oh,リツも一緒なのか!That‘s a surprise!さっきまでindependent action取るって聞かなかったのによ!」

 

「チッ…この女があまりにもしつこいからな。撒こうにもついて来やがって撒けねぇから、諦めたってわけ。」

 

「弦野君も、あたし達の大事な仲間だもん。勝手にどっか行かれて何かあったら困るよ!」

 

「見ての通り、こんな感じでずっとついて来るんだよ。」

 

筆染がニコッと笑うと、弦野は鬱陶しそうに筆染を指差した。

筆染の裏表がない純粋な優しさの前では、さすがの弦野も悪態をつく気を削がれたらしい。

筆染、グッジョブ。

俺が筆染に心の中で感謝していると、速水がガラス張りのランニング用の部屋へ走っていった。

 

「ちょっとひとっ走りしてくるね!じっとしてるの落ち着かなくて!」

 

速水は本当に体を動かすのが好きなんだな。

…ちょっとでもガタイを良くするためにも、俺も少しは見習った方がいいのかな?

 

「…あ。時間ちょうどいいし、そろそろ食堂行くか?」

 

「…………そうね。」

 

「お前らも一緒に行くか?」

 

「あー、待って!もうちょい!」

 

「ええと…速水さんがもう少し走りたいそうですので、わたくし達はもう暫くしたら向かいますわ。赤刎さん達は先にお行き下さいまし。」

 

「そっか。遅刻しないように来いよ。」

 

俺達は速水の研究室を後にし、集合場所である食堂に向かってミーティングの準備をした。

 

 

 


 

 

 

ー生存者ー

 

【超高校級の講師】赤刎円

 

【超高校級のカウンセラー】安生心

 

【超高校級の天才】神崎帝

 

【超高校級の香道家】聞谷香織

 

【超高校級の脚本家】黒瀬ましろ

 

【超高校級の幸運】漕前湊

 

【超高校級の???】枯罰環

 

【超高校級のタロット占術師】札木未来

 

【超高校級の家政婦】仕田原奉子

 

【超高校級の冒険家】ジョナサン・ウォーカー

 

【超高校級の武闘家】武本闘十郎

 

【超高校級のヴァイオリニスト】弦野律

 

【超高校級のソフトウェア開発者】一千歳

 

【超高校級のランナー】速水蘭華

 

【超高校級の画家】筆染絵麻

 

【超高校級の収集家】宝条夢乃

 

ー以上16名ー

 

 

 

 

 



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(非)日常編②

探索を終えた俺達は、食堂でミーティングをする事にした。

 

「それじゃあ早速ミーティングを始めようか。この時間では各自探索の報告、今後の予定や共同生活のルールについて話し合おう。」

 

そう言って話を持ち出したのは安生だった。

 

「まずは赤刎君のグループから報告してくれるかな?」

 

「おう。このホテルは男子の部屋が4階、女子の部屋が3階に用意されてて、部屋はパスポートで開くようになってるらしい。」

 

「………それと、部屋は完全防音になってるみたい。監視カメラもあった。」

 

「あとはアレだな。ホテルの地下に部屋があるらしいが、エレベーターは地上階しか止まらないようになってたよ。」

 

「それと、ミライの研究室を見つけたぜ!」

 

「なるほど、ありがとう。聞谷さん達の班は?」

 

「わたくし達は、倉庫を探索しましたの。とても巨大な倉庫でしたので、生活に必要な物は一通り倉庫で揃いそうですわね。」

 

「はーい!あと、アタシの研究室があった!」

 

「うんうん、なるほどね。次は枯罰さん達の班の報告、お願いできるかな?」

 

「ウチは後でええよ。色々ややこしい事なりそうやしのぉ。」

 

「そうかい?じゃあ、僕が先に報告するね。ホテルの1階にはランドリールームとトラッシュルームとプレイルームが、2階には食堂と厨房があったんだ。ランドリールームは夜時間中使えないらしいから注意してね。」

 

「食料は毎日新鮮なものが追加されるそうなので、餓死や食中毒の心配は無いそうです。」

 

「えっと…あとは、一応このパスポートを外部と連絡取れるようにできないか試したんだけど、セキュリティが堅くて無理だったよ…」

 

「フン、無理だった事をいちいち報告するな。時間の無駄だ。」

 

「ひっ!ごめんなさい!」

 

また出たよ、神崎の人を見下す癖が。

 

「やめろよ神崎。外部と連絡が取れないっていうのは十分有力な情報だ。」

 

「フン。」

 

「ええと…続けていいかな。あとね、プレイルームに『モノモノマシーン』っていうガチャガチャがあったんだ。この楽園内にあるモノクマメダルを見つけて遊んでみて、だってさ。」

 

だってさって…やっぱりあのクマが説明してきたのか。

ホントにアイツどこにでもいるんだな。

 

「さてと…最後は枯罰さん達の班、お願いできるかな?」

 

「…ウチらが探索したんは診療所と武本の研究室、あとは楽園を囲んどる壁や。この楽園はな、高さ約50m、一辺が1kmの壁で正三角形状に覆われとる。出入り口どころか起伏もあらへんし、よう見たら逆さにしたロートみたいに建っとるさかい登って脱出するんも不可能や。」

 

「脱出不可能…というわけか。」

 

「はーい。あとねー、診療所にも行ったんだけどー、こんなものが置いてあったんだー。」

 

 

 

そう言って、黒瀬は唐突に大人のオモチャの数々を取り出した。

 

『…なぁ!!?』

 

その場にいた殆ど全員が、黒瀬のあり得ない行動に目を見開いた。

俺は、思わず席から立ち上がって盛大にツッコミを入れてしまった。

 

「ちょ!!黒瀬ぁああ!!お前、それどっから持ってきたっつった!?」

 

「ん?だから、診療所からだよ?」

 

「いや、何で診療所にンなモンが置いてあんの!?あり得ねぇだろ!!あと、飯食う場所に持って来んのやめろ!!」

 

「はーい。」

 

黒瀬の奴…油断ならんな。

というか、アイツは何で恥ずかしげもなく平気でそんなモンを人前に持って来られるんだ?

普通女子ならそういうの抵抗覚えるモンだと思うんだが。

 

「え、マジで診療所に置いてあったわけ!?セクハラじゃん!信じらんないんだけど!!」

 

「黒瀬!!アンタ、ゆめにそんな汚い物見せないでよ!!」

 

「…阿呆らし。それ使うて何を治療せぇっちゅうんじゃボケ。」

 

「全くですよ…」

 

現に、速水と宝条はブチ切れ、枯罰と仕田原は冷めた目で見ていた。

 

「わーん!!黒瀬ちゃん、なんて事してくれんのよ!!あたしもうお嫁行けないよー!!」

 

「……………。」

 

筆染に至っては半泣きになりながら手で顔を覆い、札木は顔を真っ赤にして俯いていた。

唯一、大人のオモチャを知らなかった聞谷だけは始終ポカンとしているだけだった。

 

「…ゴホン、黒瀬さん。発見したものを報告してくれるのはありがたいけど、TPOを弁えようか。」

 

「ごめんなさぁい。」

 

すると、枯罰が若干呆れながら口を開く。

 

「…話、続けてもええか?そないな事より、大事な話あんねん。診療所には応急処置用の医療器具やら輸血パックやらが置いとったで。あとは…薬もぎょーさんあったでな、風邪薬や酔い止めの他にも睡眠薬やら止血剤、造血剤、あとは毒薬もあったな。」

 

「ど、毒!?」

 

「ひぃいいいいいぃいいっ!!!な、何でそんな物が置いてあんの!?」

 

「んなモン、殺人を起こさせるためやろなぁ。」

 

「Shit!!bad tasteな野郎だぜ!!」

 

「………でも、処分すれば…………」

 

あ、そっか。

確かにその手があった。

 

「あー、もう一個悪い知らせがあんねん。実は、診療所の薬品の破棄はルールで禁止されとる。」

 

「え?」

 

「ルールが追加されたんや。ウチもゴミ処理場持ってって捨てよ思たらクマ公に怒られてもうたわ。うっかりルール破ってオシオキされましたーなんざ洒落にならんし、後で全員確認しとき。」

 

そう言われて手帳を確認すると、パスポートのルールのページには

 

『七、診療所の薬品の破棄を禁じます』

 

と書かれていた。

 

「クソ…」

 

やっぱり、先手を打たれてたか…

どうやら意地でもコロシアイをさせたいらしいな。

 

 

 

主に黒瀬のせいで危うく収拾がつかなくなるところだったが、今回のミーティングで交換した情報の要点をメモしておいた。

 

・個室は男子が4階、女子が3階。完全防音になっている

・ホテルの1階にはランドリールーム、トラッシュルーム、プレイルームが、2階には厨房と食堂がある

・楽園全体を壁で覆われているため脱出不可能。外部との連絡も不可能

・食中毒や食料の不足による餓死の心配は無い

・大抵の日用品は倉庫で補充可能

・プレイルームにはモノモノマシーンなるガチャガチャがある

・診療所には睡眠薬や毒薬なども置かれている。診療所の薬品を処分するのはルールで禁止されている

・楽園内のセキュリティは万全で、至る所に監視カメラが仕掛けられている

・超高校級の才能のデータを集めるための研究室が存在。現在開放されているのは札木、武本、速水の3名

・現在探索可能な施設は研究室3か所、ホテル、倉庫、診療所の6つ。

 

「…とまあ、こんな所か。」

 

「よし、それじゃあ今後の事について話し合いたいんだけど…僕からひとつ提案があるんだ。」

 

「提案?」

 

「ルールに、『夜時間中は個室から出てはいけない』っていうルールを追加しないかい?」

 

「ルールの追加?安生くん、どうしてそんな事するのよ?」

 

「だって、寝る時まで殺人の恐怖に怯えてなきゃいけないなんて生活いつまでも続けてたら心が保たないでしょ?せめて寝る時ぐらいは安全を確保しておかないと。」

 

「……………そうだな。」

 

「…………わたしも賛成。」

 

「チッ、勝手にしろ。」

 

特に反対意見が無さそうだったので、ルールに『夜時間中は個室から出てはいけない』という項目を追加する事になった。

これで少しは殺人を防げるといいんだが…

 

「それにしても…一体どなたがわたくし達をここへ閉じ込めて物騒な事をさせようとなさっているのでしょうか…」

 

「…ウチは政界から裏社会まで幅広く顔が利きよるどっかの財団が関与しとると思うけどなぁ。」

 

「どうして?」

 

「よぉ考えてみい。ウチら超高校級を16人も誘拐して、こんな大掛かりな楽園に閉じ込めて、ウチらを一生養うだけの物資やライフラインを用意して、さらにそれを大事にならんよう計画する…んなモン、一般人には到底無理な話やろ?少のう見積もっても百億単位にはなるで。…ま、そないなどデカい組織が絡んどるなんざ、正直考えとうないけどなぁ。」

 

すると、漕前が小さく手を挙げて発言した。

 

「あのさ、まさかとは思うんだけど…アイツじゃないよな?」

 

「アイツ?アイツって誰の事だ、漕前?」

 

「ホラ、アイツだよ。爆弾魔。話題になってただろ?」

 

爆弾魔か…

そういえば、この前ニュースで話題になってたな。

数年前から無差別に爆発事件を起こし、事件現場に『BOMBER』っていう文字を残して去っていくという相当頭のイカれた連続殺人犯だ。

当時はヤバい系の宗教団体の仕業なんじゃないかとか騒がれてたけど、その正体は誰にも掴めてないらしい。

一部のヤバい奴等の間では、爆弾魔を救世主として崇拝している奴等もいるっていう黒い噂もあるぐらいだ。

 

「ひぃいいいい!?爆弾魔だって!?終わった!!ボク達、爆破されて木っ端微塵になっちゃうんだ!!」

 

「まだそうと決まったわけじゃないだろ!!」

 

「うーん…自分は爆弾魔の仕業とは思いませんけどね。だって、明らかに手口が違うじゃないですか。爆弾魔はこんな大掛かりな誘拐事件なんて起こした事なかったはずです。」

 

「正体がバレないように今回は手口を変えたのかもしれないじゃない!!」

 

「落ち着けよみんな!!まだ誰が黒幕だとか決まったわけじゃないだろ!!」

 

 

 

すると、今度は速水が気まずそうに手を挙げた。

 

「………あのさ、空気読まない事言うようで言いづらいんだけど…」

 

「何だ?」

 

「お腹…減った………」

 

『……………。』

 

その一言で、俺達はポカンとした表情を浮かべて恐怖やら緊張やらが一瞬で吹き飛んだ。

 

「あはは…確かにもうこんな時間だもんね。どうする?」

 

「そのまま食べられそうなのは…缶詰とか飲むゼリーとかスナック菓子とか…ほぼ非常食だけだったからな。」

 

「えー、ゆめ、そんな物食べたくないわ!でも、どうしよう!ゆめ、お料理なんてできないよぉ!」

 

「誰かに、全員が全員料理できるわけじゃないもんね。誰かに全員分の料理を作ってもらえるとありがたいんだけど…」

 

「はい!!自分やります!!」

 

そう言ってビシッと手を挙げたのは仕田原だった。

 

「皆さんで一斉に料理すると厨房が狭いですし、自分がやりますよ!!自分、料理は大の得意分野なんで任せて下さい!!」

 

仕田原は、腕まくりをしながら興奮気味に言った。

家事が生き甲斐の仕田原にとっては、活躍の場ができて嬉しい限りなのか。

 

「…………あの、わたしも手伝う。」

 

札木も、控えめに手を挙げた。

 

「わたしも、料理は…得意………」

 

すると、顎に指を立てる仕草をして少し考え込むと、枯罰も手を挙げる。

 

「ウチもやるわ。」

 

「えー、アンタが料理できるなんてすっごい意外!」

 

「うっさいわ。ウチ、人の手料理はどないに作ってんのかわからへんから苦手やねん。唾入りの汁モンとか手洗うてへん奴が握った握り飯とか最悪やろ?せやから普段から極力自分で作るようにしとるんよ。」

 

ん…枯罰の奴、もしかして潔癖症なのか?

 

「皆さん、アレルギーなどがあったら言って下さいね!!」

 

「あの…アレルギーっていうわけじゃないんだけど…」

 

「何ですか?」

 

「ボク、ピーマン苦手なんだよね…」

 

一は、気まずそうに言った。

 

「了解です!一さんのお食事には入れないでおきますね。」

 

「ゆめも、ニンジンはどうしてもイヤなの!あんなの食べたくないわ!」

 

「ただの好き嫌いじゃん!」

 

「お前らホンマガキやのぉ…いちいち喧しいねん。黙って食えや。」

 

「うるさいわねぇ!!ゆめ、ニンジン食べるぐらいなら夕ご飯いらない!!」

 

「わかりました。一さんはピーマン、宝条さんはニンジン…と。他の方は何かありますかね?」

 

「お、俺…実は牛乳が苦手で…」

 

「おいおい赤刎!お前、好き嫌いしてっからちんちくりんなままなんだぞ!?」

 

「そぉだよぉ。円くん、ちゃんと牛乳飲まないと大きくなれないよー?」

 

大きなお世話だ。

俺だって克服する努力はしたよ。

セノビ●クを死ぬほど嫌いな牛乳に混ぜて毎食飲むのはマジで苦行だった。

それでもまだ背が伸びると信じてずっと続けてきたんだぞ。

…なのに何で俺だけこんなにイジられんの?

 

「それじゃあ、作ってきますね!」

 

仕田原、札木、枯罰の3人は早速厨房に向かった。

 

 

 

「皆さーん!できましたよー!」

 

数十分後、厨房からは美味そうな料理が運ばれてきた。

出てきたのは白身魚の甘酢餡かけ、里芋と大根の煮物、菜の花のお浸し、卵焼き、胡麻豆腐、胡瓜の浅漬け、白飯、味噌汁だった。

 

「お酢は身体にいいんですよー。」

 

「すげぇ…まるで料亭だな。」

 

「うぉ…メチャクチャ美味そうだな!!これ全部食っていいのか!?」

 

「もちろん!どんどん食べて下さいね!」

 

「わーいっ!!いただきまーす!!」

 

真っ先に漕前、ジョン、速水の3人が料理をガツガツと食い始めた。

 

「Yum!!トモコ、ミライ、タマキ!really awesomeだぜ!!」

 

「うんめぇ〜!!これすごくうめぇな!!店出してもいけるぞ!!」

 

「おいしーっ!!」

 

それに続けて、俺達も飯を食い始める。

 

「美味えな!!さすが仕田原!!」

 

「すごく美味しいよ、ありがとう3人とも。」

 

「メッチャ美味しい!!」

 

「このおみおつけ、お出汁が利いてますわね。」

 

「ん〜、おいし〜♪」

 

「………美味い。」

 

「お、美味しい…」

 

「あら、思ったより悪くないじゃん。」

 

「ご好評みたいで何よりです!皆さん、どんどん食べて下さいね!」

 

 

 

3人が作ってくれた料理を堪能する俺達だったが、神崎と弦野だけは一切食事に箸をつけていなかった。

 

「あれ?どうしたの、二人とも。冷めちゃうよ?」

 

「…フン、これだから莫迦共は。危機管理能力がまるで無いな。…食事に毒が入っているとは考えなかったのか?」

 

「ぶほぁっ!!?」

 

「わっ!?漕前さん、汚いですわ!」

 

「毒!?ひぃいいいいいいっ!!どうしよう、ボク死にたくないよぉおおおお!!」

 

「いやぁ!!ゆめ、こんな所で死ぬなんてイヤ!!誰か解毒剤持ってきて!!」

 

「み、みんな落ち着いて…」

 

「ほらみろ、やっぱこうなるよな。これだから人の作った飯なんか食いたくねぇんだよ。」

 

「そ、そんな………」

 

「誤解です!自分達、毒なんて盛ってません!ちゃんと味見しましたし、食材も安全です!」

 

「そんなの幾らでも言い逃れできるだろう?貴様等全員がグルで、俺達を騙して皆殺しにしようとしている可能性が全く無いとどうやって証明する気だ?」

 

「喧しいやっちゃのぉ。神崎はんはビビって何も出来へん臆病者なんか?」

 

「フン、貴様の減らず口を聞くのも不愉快だ。俺は単独行動を取らせてもらう。貴様等凡愚など全く信用できんからな。」

 

そう言って、神崎は席を立って出て行ってしまった。

続けて、弦野と宝条も席を立つ。

 

「チッ、付き合ってられっかっての。俺も一人で好きにやらせてもらうぜ。テメェらと馴れ合うなんざまっぴら御免だ。」

 

「もうイヤ!!ゆめ、やっぱりアンタ達と一緒なんて耐えられないわ!!」

 

「おい!!待てよ三人とも!!」

 

「円、あんな奴等ほっときなよ!」

 

「そぉだよ。本人達が一人がいいって言ってるんだから、好きにさせてあげればー?」

 

「っ…けどよ、アイツらに何かあったら…」

 

「あれだけ好き勝手やりよるんやし、別にアイツらがどうなろうと構わへんやろ。勝手にのたれ死んでくれたら邪魔な奴が消えて清々するしなぁ。」

 

「…枯罰さん、言い過ぎだよ。」

 

すっかり空気が悪くなってしまったその時、札木がポツリと呟く。

 

「…………あの、みんな………ご飯……」

 

「あ…」

 

テーブルの上には、食いかけの料理が残っていた。

さっきまでみんな美味そうに食ってたのに、今は誰も箸をつけようとしない。

 

「…あの、悪いんだけど…ボク、もう食欲失せちゃった…ご馳走様…」

 

「あ、あたしも…」

 

すると、仕田原と札木が申し訳なさそうな表情を浮かべる。

 

「ごめんなさい…自分なんかが出しゃばったからこんな事に…」

 

「……………。」

 

「仕田原さん、札木さん…」

 

その時だった。

 

「なぁ、いらねぇなら俺が全部食っていいか?」

 

そう言って、漕前は自分の分の料理を平らげ隣の席の料理にまで手をつけ始めた。

 

「あ、ちょっと!アタシの分取らないでよ!!」

 

漕前に料理を食われそうになった速水は、慌てて皿を奪って料理をかき込む。

 

「お二人とも、どうして…」

 

「は?どうしてって…こんなに美味い飯残すなんて、どうかしてんだろ!!せっかく仕田原ちゃん達が作ってくれたんだし、俺は腹がはち切れても食うぞ!」

 

「オレも食うぜ!こういうの、日本語じゃモッタイナイって言うんだろ!?」

 

「漕前、速水、ジョン…」

 

「おう赤刎!お前も食え!ちゃんと食わねえから背が伸びねぇんだぞ!」

 

「なっ…余計なお世話だ!食うよ!!モリモリ食ってお前らなんかすぐ抜かしてやる!!」

 

「僕も食べるよ。残すのは勿体ないし、夜お腹空いちゃうもんね。」

 

「なんかみんなが食べてるとこ見たら食欲湧いてきた!あたしも食べる!」

 

「皆さん…!」

 

「……………。」

 

俺達が料理に手をつけると、仕田原と札木は嬉しそうな表情を浮かべる。

結局、食堂に残った13人でテーブルの上の料理は全部平らげてしまった。

 

 

 

「あー、食った食った。美味かったよ、ご馳走さん。」

 

「皆さん、ありがとうございます!これからも丹精込めてお作りしますね!」

 

「あのさ、お前らばっかりにやらせんのも申し訳ないし、たまには俺もやるよ。まあ、カレーとか肉じゃがとか簡単なものしか作れねぇけどな。」

 

「アタシもやるよ!アタシ、たまに料理作るんだよね。」

 

「…………俺も、上手くはないが一応作れる。」

 

「オレもcookingはやるぜ!desert island行った時とかな!crocodileのBBQとか、shark soupとかはよく作るぜ!」

 

ワイルドすぎるだろ!!

 

「僕もやるよ…と言いたいところだけど、身体が不自由だから力にはなれないかな。ごめんね。」

 

「あたし、料理はたまにやるんだけど調味料間違えちゃったり必要な食材入れ忘れちゃったり、毎回ドジやらかしちゃうんだ。やっぱり絵以外の才能無いのかも…ははは…」

 

「俺は恥ずかしながら生活力0なもんで…すまん。」

 

「ぼ、ボクも…料理はからっきしで…」

 

「わたくしもですわ。お茶なら淹れられるのですけれど…」

 

「ボク、お料理大好きだからよくやるんだけどねー、美味しくないって言われるんだー。ひどいよねぇ、シチューに煮干しとシュークリームとデスソースとゴルゴンゾーラとたくあんとジャムと鯖缶とドリアンとセンブリ茶とニッキ飴入れて3時間強火で煮込んだだけなのにさー。」

 

殺人飯じゃねぇか!!

今のところシチューに入れていい食材がひとつも出てきてないんだが!?

逆に食った奴がいる事が驚きだよ!!

 

「あとねー、たまに隠し味にそこら辺で拾った小枝とドクダミをクリームソーダと味噌とピーナッツバターで煮込んで取った出汁とか入れるんだけど、知り合いのスタッフさんに食べさせたら入院しちゃったんだー。」

 

「…それもうジ●イアンシチューじゃねぇか。」

 

「三角コーナーの方がまだマシなもの入ってると思う…」

 

「そのスタッフさん可哀想…」

 

「お前…間違うても厨房には入んなや。最悪死人出るで。」

 

漕前と一と筆染と枯罰が引き気味に言い、俺達も全力で首を縦に振る。

 

「えー…せっかく広い厨房があるからお料理できると思ったのになー。」

 

「あははは…」

 

黒瀬はホントに恐ろしい奴だな。

何が恐ろしいって、殺人飯を作る事もそうだが自分の料理の腕が絶望的なのを全く自覚してないんだよな。

 

「それじゃあ、明日は8時に食堂に集合、朝食と全員の安全確認をする事にしようか。」

 

「そうだな。あー…神崎達はどうする?」

 

「放っとき。どうせ来ぇへんやろ。」

 

「そういうわけには…そうだ、後でチャット送っとくか。」

 

こうして明日に向けた簡単な打ち合わせを済ませた後、流れ解散となった。

さてと…たらふく食ったし、ちょっと散歩するか。

夜時間まではあと2時間弱ぐらいあるし、必要なものを揃える意味でも倉庫に行こう。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

俺は洗面用具を揃えるために倉庫に行った。

こればかりは好みが分かれるから、自分で用意しないとな。

 

倉庫は、まるでホームセンターかショッピングモールのように広く、品揃えも無限に感じられる程豊富だった。

これなら俺の好みの洗面用具も置いてあるだろう。

えーっと、まずは歯磨き粉を…

…あれ?

ちょっと待て、届かないんだが…

だが、もう少しで届きそう…

あと少し…!!

 

「これかいな?」

 

横から枯罰が、俺の取ろうとしていた歯磨き粉をヒョイと取って渡してきた。

 

「あ、さ…サンキュ…」

 

「お前なぁ。何で脚立使わんのや。」

 

「きゃ、脚立を使うのは負けだろ!」

 

「ウチに取らせる方が恥ずいやろが。」

 

「ぐ…お前といると余計背が低く見られるから嫌なんだよなぁ…」

 

「ウチかてお前とおるんは嫌や。お前みたいなドチビとおると余計背ぇ高う見られるでな。こないなデカイ図体、男やと思われた方が都合がええ時以外は何の役にも立たんわ。」

 

一応気にしてたのね…

少しの間気まずい空気になったが、俺の方から話題を持ち出した。

 

「…なあ、枯罰。」

 

「ん?」

 

「あのさ、今日の晩飯美味かったよ。どうやったらあんなに美味く作れるんだ?」

 

俺は口角を上げながら尋ねるが、枯罰は相変わらずのポーカーフェイスで返した。

 

「別に普通や。それを言うなら仕田原と札木に言ぃや。ウチは見張りつつ手伝っとっただけやしな。」

 

「そっか…あとさ。」

 

「何や、まだ何かあるんか?」

 

「ああ…えっと…お前、何でそんなに冷静でいられるんだ?俺は正直いきなりこんなワケわかんねぇ所に連れてこられて、今でも混乱してるんだ。…情けない話だよな。本当はこういう時、俺がちゃんとしてなきゃいけないのによ。」

 

「せやなぁ。一言で言うなら経験値やな。人間、物心ついた時から色んな事経験しとった方がいざっちゅう時に物事を客観的に見れるようになんねん。経験を積めば、次が予想し易うなる。わかるか?」

 

「…お前、実はものすごい若々しい60代ですとか言わねぇよな?」

 

「阿呆か。ウチはまだ15やぞ。」

 

「15!?嘘だろ!?俺より3つも年下じゃん!?」

 

「っちゅう事はお前18か。ホンマ、見た目詐欺はお互い様やのぉ。」

 

マジかよ…

俺より3つも年下の奴がこんなに達観してるなんてな…

今までどんな人生送ってきたらそんな境地に至るんだ?

もしかして、才能と関わってたりすんのかな…

俺は、枯罰の過去について少し聞いてみる事にした。

 

「…枯罰、あのさ。お前…」

 

「…。」

 

だが、俺が何かを言おうとすると明らかにさっきとは違った冷たい目付きで枯罰は俺を見てきた。

…もしかして、今危うく地雷踏みかけた?

 

「………すまん、何でもない。」

 

結局、聞きたい事は聞けなかった。

というか、聞かなくて正解だったかもしれん。

よく考えたら、人の過去を詮索するなんて野暮だしな。

 

「じゃあ、また明日な。」

 

俺は、必要なものを揃えて倉庫を後にした。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

ふぅ、さっぱりした。

ホテルの風呂も悪くないな。

ジャグジー付きだったし。

お気に入りの石鹸とシャンプーで身体洗ったし、適当にホテルの中散歩したら部屋戻るか。

 

俺が上機嫌でエレベーターに乗り込むと、途中で札木が乗ってきた。

 

「…あ。」

 

「……………。」

 

「えーっと…札木はこれからどこ行くんだ?」

 

「あ…えっと………プレイルームに行こうかなって…」

 

「奇遇だな。なら、行ってちょっと話すか?」

 

「…………そうね。」

 

俺達は、プレイルームに行って時間まで話す事にした。

プレイルームにはボードゲームやビリヤード、卓球台、スロットマシーン、クレーンゲームなどが置かれており、暇を潰すには十分な空間だった。

その他にも飲み物の自動販売機や気色悪いモノクマの絵が刻まれた金色のガチャガチャがあった。

スロットマシーンはモノクマのように左右で白と黒に分かれており、説明の貼り紙には『スリーセブンが出たら脱出用チケットを差し上げます』と書かれていた。

 

「うわ、うさんくさっ。どうせ絶対出ないようになってるよなコレ。」

 

「……うん。」

 

俺達は、近くのベンチに並んで座った。

 

「…。」

 

「…。」

 

…気まずっ!!

え、何!?クラスメイトの女子と二人きりってこんな気まずいもんなの!?

列車の中にいた時はそれどころじゃなかったから平気だったけど、改めて札木と二人きりになるとこんなに気まずくなるなんて思わなかったよ!!

うわー…何から話そ…

 

「…………あの、赤刎くん。」

 

「お、おう。何でゃ?」

 

…恥ずっ。

気まずさのあまり噛んじまった。

 

「……赤刎くんは、わたしと一緒にいるの…嫌?」

 

「全然嫌じゃねぇよ!…え、札木は嫌なの?」

 

「……ううん。むしろ………………………」

 

札木は、ボソボソと何かを言っていたが、普段から声が小さいのにさらに声量を小さくして話しているので全く聞き取れなかった。

何を言っているのか気になったので、間隔を詰めて顔に耳を近づけた。

 

「?何だ、聞こえないぞ?」

 

すると、札木は慌てて顔を下に向けた。

 

「……ううん、何でもない。」

 

…ん、嫌だったかな?

 

「あ、悪い。」

 

「……………。」

 

札木は、少しもじもじすると俺に話しかけてきた。

 

「………赤刎くん。わたし達、ここから出られるよね?」

 

札木が不安そうに聞いてきたので、俺はニカッと笑って返す。

 

「当たり前だろ。全員で一緒に脱出して家に帰ろうな。」

 

「……………うん!」

 

札木は、微笑みながらいつもよりはっきりと返事をした。

その後、時間が来たので俺達はそれぞれ自分の部屋に戻っていった。

そしてそのままベッドに転がり込み、全員で協力し合えば絶対にみんなで家に帰れる、そう信じて眠りにつくのだった。

 

 

 


 

 

 

ー生存者ー

 

【超高校級の講師】赤刎円

 

【超高校級のカウンセラー】安生心

 

【超高校級の天才】神崎帝

 

【超高校級の香道家】聞谷香織

 

【超高校級の脚本家】黒瀬ましろ

 

【超高校級の幸運】漕前湊

 

【超高校級の???】枯罰環

 

【超高校級のタロット占術師】札木未来

 

【超高校級の家政婦】仕田原奉子

 

【超高校級の冒険家】ジョナサン・ウォーカー

 

【超高校級の武闘家】武本闘十郎

 

【超高校級のヴァイオリニスト】弦野律

 

【超高校級のソフトウェア開発者】一千歳

 

【超高校級のランナー】速水蘭華

 

【超高校級の画家】筆染絵麻

 

【超高校級の収集家】宝条夢乃

 

ー以上16名ー

 

 

 

 



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(非)日常編③

『おはようございます、オマエラ!!朝です!!7時になりました!!今日も元気に殺し合いましょう!!』

 

「…。」

 

2日目、俺は耳障りなモーニングコールで目を覚ました。

朝からモノクマの声が部屋中に鳴り響いて本当に不快だ。

…さて、8時に間に合うように支度するか。

俺は、ベッドから起き上がって着替えようとした。

その時、ゴミ箱の後ろから何かが光っているのが見えた。

 

「…ん。」

 

ゴミ箱を移動させると、床にはコインが落ちていた。

コインをよく見ると、モノクマの絵が描かれている。

これが奴の言うモノクマメダルか。

そういや至る所に隠されてるって言ってたな。

昨日は気づかなかったが、こんな所にも置いてあったのか。

正直デザインが最悪だが、プレイルームのガチャガチャで使えるらしいから一応拾っとくか。

俺は、メダルを拾って着替えると食堂へと向かっていった。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「おはよう。」

 

時間より少し早く食堂に来ると、既に安生、仕田原、武本が来ていた。

 

「おはようございます、赤刎さん!」

 

「おはよう、赤刎君。」

 

仕田原と安生が返してくれた。

すると突然、仕田原が俺に話しかけてきた。

 

「いきなりで申し訳ないのですが赤刎さん、朝食は和食と洋食どちらになさいますか!?」

 

「え?あ、えーっと…じゃあ昨日和食だったし洋食で。」

 

「かしこまりました!」

 

そう言って、仕田原は厨房に走っていった。

それぞれの好みに合わせて作ってくれるのは正直嬉しいな。

 

「安生は何をやってるんだ?」

 

「僕は朝食後のミーティングの準備をしているんだ。そうそう、枯罰さん、札木さん、武本君の3人は厨房で朝食を作ってくれてるよ。」

 

今日は武本も作ってくれてるのか。

そういや上手くはないけど一応料理できなくはないって言ってたな。

 

しばらくして、5分前に聞谷と漕前が、8時丁度にジョンと速水が来た。

 

「うわ、仕田原達もう朝飯の準備進めてくれてたのか!昨日手伝うって言ったのに完全に出遅れちまった!」

 

「アタシもランニングしてたら時間ギリギリになっちゃったよ。メンゴ!」

 

漕前は先に着いて朝食を作ってくれていた4人に対して申し訳なさそうにし、速水は軽いノリで謝ってきた。

まあ8時集合って言ってたし、時間守ってるならまだいい方だろ。

すると3分ほど遅れて一が食堂に来た。

 

「うわっ!?もう3分過ぎてる!ごめんなさい!ボク、低血圧で…すみません許してください!」

 

「うん、まだ2日目だから仕方ないよ。でも次からは気をつけようね。」

 

「はい…」

 

一が平謝りしてくると、安生がニッコリ笑って注意をした。

一は反省した様子で席に座る。

…あとは神崎、黒瀬、弦野、筆染、宝条の5人か。

 

 

 

それから30分5人を待っていたが、5人とも食堂に現れなかった。

 

「アイツらなかなか来ねぇな。」

 

「来なさそうなメンバーだもんな。…まあ、黒瀬と筆染はまだ来てくれそうだけど。」

 

「呼びに行こうか?」

 

「I agree!」

 

仕方がないので俺が筆染を、漕前が弦野を、ジョンが神崎を、安生と速水が宝条を、一と聞谷が黒瀬を呼びに行く事になった。

 

俺は、まだ部屋にいるのかと思い筆染の部屋に行ってみる事にした。

部屋の前のインターホンを鳴らしてみる。

 

「筆染?いるか?」

 

インターホン越しに声をかけるが、返事はなかった。

 

「…念のため。」

 

俺は、もう一度インターホンを鳴らして、すぅと大きく息を吸い込む。

 

 

 

「筆染ぇええええっ!!!いるなら返事しろぉおおっ!!!」

 

 

 

俺は、インターホンが反響するぐらい大声で叫んだ。

すると、その直後…

 

「ビックリしたぁ…え、何?」

 

パジャマ姿で寝癖がついた筆染がドアを開けてひょっこり顔を出した。

…もしかして、さっきまで寝てたのか?

 

「ああ、悪い。大声出しちまって。でも、もう集合時間から30分も過ぎてるからよ。」

 

「え!?嘘でしょ!?あたし、てっきり6時台ぐらいだと…」

 

「は?」

 

って事は6時台には既に起きてたって事か?

 

「…筆染。お前、今まで何やってたんだ?」

 

「えっと…朝起きてまだ6時前だったから、絵を描いてたんだけど…あ!!もしかしてあたし、また絵に夢中で時間忘れちゃった!?ごめんね!!次から気をつけようと思ってたのにまたやっちゃったー!ごめんちょっと待ってて、すぐ着替えるから!」

 

そう言って、筆染は急いで部屋の中へと走っていってTシャツとズボンに着替えた。

筆染の奴、身嗜みを整えるのも忘れてずっと絵を描いてたのか。

 

「お待たせー!」

 

筆染がようやく部屋から出てきたので、俺は筆染を連れて漕前とジョンと合流した。

 

「よ。」

 

「赤刎か。そっちはちゃんと筆染ちゃんを呼べたみたいだな。」

 

「うん。あたし、絵に夢中で時間忘れちゃってて…ホントごめん!」

 

「…Well、出てきてくれただけエマはまだいい奴だぜ。」

 

「どういう事だ?」

 

ジョンが浮かない顔で言ったので、俺はジョンに事情を聞いた。

 

「オレ、ミカドを呼びに行ったんだけどよ。『喧しいから消えろ』って言われてdoorをSlam!!って閉められたんだよ!アイツ、such a jerkだぜ!」

 

「俺も、弦野を呼びに行ったら『どっか行け』って門前払いされたよ。まあ、呼んでも無駄だとはわかってたけどよ。」

 

うーん…神崎と弦野は相変わらずだな。

俺が二人に頭を悩ませていると、安生と速水が宝条と一緒に俺達のところに来た。

 

「宝条ちゃん、おはよ…」

 

「おはよぉ、赤刎くん、漕前くん、ジョンくん♡」

 

「お、おはよ…」

 

筆染が最初に宝条に声をかけるが、宝条は完全に無視をして俺達3人に声をかけてきた。

猫撫で声でウインクまでしてくるもんだから、俺は思わず引いてしまった。

 

「えーっと…宝条、なんで遅れてきた?」

 

「んもぉー、赤刎くんってば!ゆめの事はゆめって呼んでって言ったでしょ?」

 

うわぁ…昨日と全然キャラが違うぞ。

一晩寝てスッキリしたのかな?

 

「ゆめは、髪をセットしてお化粧してたの。ダサい格好で外に出るなんてサイアクでしょ?」

 

「え、そんな事で遅刻したのか?」

 

「そんな事って何よ!女の子にとって、身だしなみはアンタ達の朝ごはんなんかより大事なの!」

 

そう主張する宝条に、安生と速水は呆れ返っていた。

自己中にも程があるだろう。

…はぁ。俺、何でこんな朝っぱらから疲れてるんだろ。

 

「あとは黒瀬だけだな。」

 

「確かカオリとチトセが呼びに行ってたよな?アイツらはどうなって…」

 

 

 

 

「ぎゃあぁあああああぁああああああっ!!!」

 

突然、廊下に大声が響いた。

 

「!?今の、一の声だよな!?」

 

「マシロのroomの方からだ!」

 

「何かあったのかも…急ごう、みんな!」

 

「え?あ、ちょっと!置いてかないでよ!」

 

俺達7人は、一と聞谷の安否を確かめに黒瀬の部屋に向かった。

 

「一!!大丈夫か!?」

 

俺達が駆けつけると、一が黒瀬の部屋の前で尻餅をついていた。

 

「あら…皆さん、すみませんお騒がせして…「あああああ!!!無理無理無理おうち帰るぅうううううううう!!!」

 

一緒にいた聞谷が何か言っていたが、一の叫び声で掻き消された。

 

「終わった!!やっぱりモノクマはボク達を殺す気だったんだぁあああああああ!!!」

 

「おい、どうした一!?」

 

「赤刎君!!助けて!!黒瀬さんが部屋の中で死んでたんだよぉおおおおお!!!」

 

一は、パニックになって黒瀬の部屋の扉を指差した。

 

「な…何ですって!?黒瀬が…死んだ!?」

 

「そんな…!!」

 

「あの、皆さん。落ち着いて下さ…「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」

 

「おい、一。お前、ビビりすぎだよ。黒瀬が死ぬわけ…」

 

漕前がそう言って鍵のかかっていない扉を開けると、黒瀬がドアの前で倒れていた。

 

「「「どわぁあああぁあああああああっ!!?」」」

 

「キャアアアァアアアアッ!!!」

 

「あの、ですから皆さん…」

 

「そんな…嘘でしょ!?黒瀬ちゃん!?」

 

「…みんな、とりあえず落ち着こうよ。」

 

「これが落ち着いていられるか安生!!だって、黒瀬ちゃんが死んでるんだぞ!?ほら、脈だって…あれ?」

 

すると、聞谷が呆れた様子で口を開く。

 

 

 

「…皆さん。黒瀬さんは、寝ていらっしゃるだけですわよ。」

 

『え?』

 

俺達は全員、聞谷の一言に目を丸くした。

するとその直後…

 

「くかぁー…」

 

『…。』

 

黒瀬の口元から、寝息の音が聞こえてきた。

 

「どうやら、部屋を出る前に睡魔に襲われて力尽きたみたいですわね。とにかく、黒瀬さんは無事ですわ。」

 

「紛らわしっ!!ビビって損したよ!!」

 

「ってか聞谷ちゃん、もっと早く言ってくれよ!」

 

「わたくしは何度も言おうとしたのですけれど…一さんの声でかき消されてしまったのと、皆さんが混乱していらしてわたくしの話を聞いてくださらなかったんですの。」

 

「…あっ。」

 

そういえば、聞谷が何度か何かを言いかけてたような気がしなくもないな。

って事は、俺達ずっと聞谷の事無視してたのか。

…何か悪い事した気分だな。

 

「うーん…」

 

すると、騒ぎを引き起こした張本人である黒瀬がようやく目を覚ました。

 

「ふぁ…あれ?みんなどうしたの?」

 

「どうしたのって…お前を呼びに来たんだよ!」

 

「そぉなのー?なんでー?」

 

「何でって…朝8時に食堂に集まって生存確認も兼ねた朝ごはんにしようって話だったじゃないか。」

 

「ふぁあ、そうでしたー。忘れてたぁー。えへへー、ごめんなさぁい。」

 

黒瀬は、間延びした口調で話しながらゆっくりと起き上がった。

ホント、黒瀬はマイペースすぎて正直ついていけんな…

 

 

 

「お前ら何しとんねん。朝っぱらから喧しいんじゃボケ。」

 

突然、後ろから枯罰が声をかけてきた。

 

「Oh,タマキか。何しに来たんだ?」

 

「朝飯出来とるさかい、お前らを呼びに来たんや。早う来いやド阿呆共。」

 

そう言って枯罰は食堂に向かっていったので、俺達も全員食堂に向かった。

 

 

 

「お待たせしましたぁ〜。」

 

「……………来たか。」

 

「お、ようやく皆さんお揃いですね!」

 

「弦野君と神崎君は来てくれなかったけどね。」

 

「もう、アイツら何やってんのかしら。自分勝手にも程があるわよ。」

 

「ホントだよぉ〜。帝くんも律くんも、ちゃんと空気読もうよ〜。」

 

お前らが言うか、宝条、黒瀬。

 

「二人は無事だったみたいだし、僕が後でミーティングの内容を知らせとくよ。」

 

「そうだな。それじゃあ、任せるよ安生。」

 

「ねぇ、冷めちゃうし早く食べちゃおうよ!」

 

速水が待ちきれないと言わんばかりに食器を鳴らしたので、俺達は席について食事を始めた。

ちなみに今日の朝食は、安生、聞谷、札木、仕田原、ジョン、武本、一が和食で、俺、黒瀬、漕前、枯罰、速水、筆染、宝条が洋食だった。

 

「んー、美味しい!」

 

「今日は武本さんも手伝ってくださったんですよ!」

 

「え、そうなの?」

 

「…………俺が作ったのはサラダとスクランブルエッグだけだがな。」

 

「へぇ、そうなんだ。ありがとう武本君。美味しいよ!」

 

「……………そ、そうか。」

 

筆染がニコッと笑いながら言うと、武本は顔を真っ赤にして俯いた。

どうやら褒められたのは嬉しいが恥ずかしくて素直に喜べなかったようだ。

食事の後はちょっとしたミーティングをして、その場で流れ解散となった。

 

「…さて。メダル拾ったし、ガチャガチャでもやるか。」

 

 

 

 

俺は、プレイルームに行ってモノモノマシーンで遊んでみた。

 

「…うお。」

 

出てきたのは、割と上質な短身の木刀だった。

 

「木刀かぁ…」

 

正直使い方に困るんだよなぁ。

そう思いつつプレイルームを後にし、探索がてら庭を歩いていると、漕前とジョンが武本の研究室に入っていくのが見えた。

 

「…あれ?アイツら何やってんだ?」

 

俺は、二人の様子が気になったので声をかけてみる事にした。

 

「お前ら何やってんだ?」

 

「Oh,マドカ!Come on!今から、トウジュウロウにmartial artsのlectureしてもらうんだよ!」

 

「は?どういう事だ?」

 

「ずっとこんな閉鎖された空間にいたら萎えちまうだろ?だから心と身体を鍛えて、俺達はコロシアイなんてクソみてぇなゲームになんか負けねぇぞってところをあのクマに見せてやるんだよ!」

 

…なるほど。確かに一見脳筋の理屈っぽいが、理に適ってはいるな。

心身共に健全でいた方が閉鎖空間での長期間の生活にも耐えられるし、交流を深めるって意味でもいい方法ではある。

…考えたくはないが、誰かに殺されそうになった時護身術で身を護れるかもしれないしな。

 

「マドカはskinnyだからな!もっと食ってもっと鍛えろ!」

 

大きなお世話だ。

 

「うーん…でも、3人で押しかけたら武本も迷惑じゃないか?」

 

「安心しろって。もう約束してあるからよ。」

 

んー…ならいい、のか?

結局、俺は二人についていって一緒に武本の研究室に行く事になった。

 

「おーい、武本。入るぜ。」

 

引き戸を開けて中に入ると、武本がこっちに鋭い眼光を向けてきた。

 

「…………お前らか。」

 

「ああ。何かあった時のために、お前に護身術を習おうと思ってな。」

 

「…赤刎も一緒か?」

 

「Yes!マドカもやりたいってよ!」

 

「………それは別に構わんが。女子供でも使える護身術もあるしな。」

 

女子供って何だよ。

こう見えても成人間近の男だぞ。

 

「なぁ、武本!なんかこうカッコいい技とか教えてくれよ!敵をバーンって倒したりとかさ!」

 

「………お前ら、何か勘違いしているようだが。護身術というのはあくまで自分の身を守るためのもので、相手を倒すためのものではないのだぞ。」

 

「Oh,sorry…」

 

武本に凄まれると、漕前とジョンは大人しくなった。

 

「…ではまず礼から入るぞ。細かい作法があるから、よく覚えておけ。」

 

「え!?そっから!?」

 

「当然だ。武道というのは礼で始まり礼で終わるものだ。本当は道場に入る時の作法もあるのだぞ。」

 

本格的だな…

それに、達人の武本の言う事だからなんか説得力があるな。

それから俺達は、武本に礼儀作法を叩き込まれた。

 

「くーっ、思ってたよりやる事多いな!」

 

「Right!もっとこうcoolなartsをlectureしてもらえると思ってたのによ。」

 

「………文句を垂れるな。」

 

「「「押忍。」」」

 

二人が文句を垂れていると、武本に叱られたので俺達は思わず肩を窄める。

一通り武道の礼儀作法の基本を叩き込まれた後、ようやく技を教えてもらえる事になった。

 

「あー、疲れたぁー…でも、なんかちょっとだけ強くなったような気がしなくもないな。」

 

「俺でも使えそうな技もいくつか教えてもらえたしな。」

 

俺達がキャッキャとはしゃいでいると、武本が深いため息をついた。

 

「…悪用はするなよ。」

 

「押忍!」

 

 

 

するとそこへ、枯罰が現れる。

 

「お前ら何しとんねん。」

 

「………枯罰か。」

 

「お、枯罰ちゃん。実は今、武本に護身術を習ってたんだよ。」

 

「ほぉん。武本、お前人見知りやったんとちゃうんか?」

 

「…俺も、弟子は何人かいる。コイツらも一度弟子だと思えば抵抗感は薄れた。」

 

「なるほどなぁ。」

 

「トウジュウロウは、girlがweaknessな割にはタマキにはfriendlyだよな。Why?」

 

「…1日目の探索で色々と情報交換をしたら、緊張が解けてな。俺が暴走した時も、枯罰なら制御できるから身を任せられる。」

 

「それ…ウチを女やと思えへんっちゅう意味かいな?」

 

「断じて違う!…友として信頼できると言っているんだ。」

 

「冗談や。そないにムキになるなや。」

 

「…お前なぁ。」

 

枯罰が冗談で武本にジト目を向けると、武本は必死に弁明する。

そんな武本を見て枯罰が軽く武本の肩を叩くと、武本は呆れながらため息をついた。

コイツらなんだかんだ言って仲良いのな。

1日目の探索は同じ班だったし。

 

「タマキ!せっかく来たんだったら、オレ達がトウジュウロウに習ったartsを見てくれよ!」

 

「…おいウォーカー。無闇矢鱈に力を振り翳すなとあれ程…」

 

「But…いざって時に使えなかったらmeaninglessだろ?だからpracticeしとくんだよ!」

 

「はぁ、そないに自慢したいんか。まぁウチも暇やさかい、適当に相手したるわ。」

 

「適当に相手って…お前、武術の心得でもあんのか?」

 

「まぁ一応なぁ。」

 

そう言って、枯罰はジャケットを脱ぐと軽くジョンの胸ぐらを掴む。

 

「ほんならお前、敵がこう来たら次はどないすんねん?」

 

「Easy peasy!こうやってwristをgrabして…」

 

ジョンが受け身を取ろうとした瞬間、枯罰が足払いを仕掛けて素早く腕を固めるとそのまま巴投げをかました。

ジョンの身体は綺麗にカーブを描いて畳に叩きつけられた。

 

「Gwa!!」

 

「お前、ウチが通り魔やったら今ので死んどったぞ。」

 

枯罰が呆れながらため息をつくと、ジョンは背中を押さえながらゆっくりと立ち上がった。

 

「Ouch…トウジュウロウに言われた通りやったのに…Why!?」

 

「まずなぁ、重心がブレブレやねんお前。あと脇がガラ空き。んなモン、倒してくれ言うとるようなモンやぞ。」

 

枯罰は、ジョンに対してダメな所をズバズバと指摘した。

それはどれも、武本が俺達に対して指摘した事と同じ内容だった。

 

「…まぁ、初心者の割には上出来やったけどな。ほんならウチはこれで。」

 

そう言って、枯罰はジャケットを着ると武本の研究室を後にした。

 

「Damn it!girlに負けるとは…so pitifulだぜ!」

 

「まあ、アイツが女子にカテゴライズされるのかどうかは甚だ疑問だけどな。」

 

漕前、お前それ本人に聞こえてたらのされるぞ。

 

「…これで懲りただろう。無闇に力を振り回す事の愚かさがな。力を使うのは、己が危険に陥った時か仲間が危ない時だけにしろ。わかったな。」

 

「「押忍。」」

 

二人は武本に向かって立礼をすると、そのまま研究室を後にした。

 

 

 

「………お前は行かなくていいのか?」

 

「ああ、ちょっとな。お前に渡したいものがあるんだ。」

 

「…?」

 

「これやるよ。」

 

俺は、ガチャでゲットした木刀を武本に渡した。

 

「…!お前、どこでそれを手に入れたんだ?」

 

「ああ、ガチャでゲットしたんだ。」

 

「…それを、俺に?本当にいいのか?」

 

「俺が持ってても使い道ねぇし、お前が持ってた方がいいだろ?」

 

「…そうか。そういう事なら受け取ろう。ありがとう、大切に使わせてもらう。」

 

武本は、深く頭を下げて木刀を受け取ってくれた。

どうやら喜んでくれたみたいだ。

 

「…俺も何か礼をしなければな。何か欲しい物はあるか?」

 

「礼?いや、いいよ。俺はお前が気に入ってくれるかなって思って渡しただけだし。…あ、そうだ。じゃあ、次の集合時間まで二人で話さないか?」

 

「…いいのか?俺、面白い話はできないぞ。」

 

「いいんだよ。俺が話したいだけだからさ。」

 

「………赤刎、お前はいい奴だな。」

 

「んな事ねぇって。」

 

俺達は、研究室の畳に正座して話をした。

 

 

 

「武本、お前は何で武闘家になったんだ?」

 

「………何故、か。俺は、田舎の貧乏な実家で暮らしていたんだ。俺の家は7人兄弟で、父と母は俺達を養うために汗水流して働いてくれていたよ。俺は図体が大きい事だけが取り柄だったから進んで力仕事をしていたんだが、10年ほど前のある日山で腰を痛めて帰れなくなっていたご老人を助けたら、その人は有名な武道家で俺を道場に連れていってくれたんだ。そこでその人の弟子達の技を見て武道に惹かれた俺に対して、その人は『またいつでも来なさい』と言ってくれたんだ。その人が、後の俺の師匠というわけだ。」

 

「へぇ…そうだったのか。…それで?」

 

「一家の長男だった俺は父の後を継がなければならなかったのだが、俺はどうしても師匠に教えを乞いたかった。だから俺は、両親にその事を話したんだ。そうしたら父も母も、ただでさえ家計が苦しいのに喜んで俺の入門を勧めてくれたんだ。二人には、感謝してもしきれないよ。」

 

「いいご両親だな。」

 

「ああ。その後俺は師匠に正式に弟子入りをして教えを乞うた。そして、家族に楽をさせるためにも、俺はあらゆる大会に出て勝ち続けた。だがそれだけでは飽き足らず、更なる高みを目指すため常に己と闘ってきたのだ。…これが俺が武闘家になった所以だ。」

 

「なるほどな。ありがとな、武本。話、聞かせてくれてよ。」

 

俺がそう言うと、武本はフッと笑った。

…コイツが笑うとこ初めて見たな。

 

「…お前も俺のつまらない話を真面目に聞いてくれるんだな。」

 

「ん?他にも誰かと話したのか?」

 

「…札木だ。朝食を作っていた時、札木は俺の事を気にかけてくれたんだ。」

 

「そうだったのか。」

 

…ん?

もしかして武本の奴…

 

「…。」

 

「…………どうした?」

 

「武本。お前…札木の事好きだろ?」

 

「なっ…!?」

 

おっと、武本の奴顔を真っ赤にして動揺してるぞ。

ふふふ、これは図星だな?

 

「たーけーもーとー♪正直に言っちゃえよ、好きなんだろー?」

 

「やめろ赤刎!!神前でそんな…ふしだらだぞ!!」

 

「悪い悪い。…あ、そうだ。俺がアイツに好きな物とか聞いといてやろうか?俺、アイツとは高校のクラスメイトだし、割と接点多いからよ。」

 

「…何故そんな事をする?」

 

「応援してやるっつってんだよ。札木の方もお前と仲良くしたいみたいだし、お前らが仲良くできれば俺は満足だしな。プレゼントの礼は、お前らの仲って事で♪」

 

「お前なぁ…いい加減にしろ。」

 

その後、調子に乗りすぎて無作法をやらかした俺は、追い出される形で研究室を後にした。

脱出の手掛かりについて何もわからないのは相変わらずだが、武本と仲良くなれたのは十分大収穫だ。

ガチャで手に入れたものをプレゼントして友好を深めるのもアリだな。

…モノクマめ、悪趣味なくせにいいもの用意しやがって。

 

《武本闘十郎との親密度が上がった!》

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

その後は、いつもの3人に加え漕前と速水が作ってくれた昼食を食べて再び探索を再開した。

まだランドリールームには行ってなかったし、行ってみるとするか。

 

「お。」

 

ランドリールームに着くと、仕田原と聞谷がいた。

 

「洗剤を入れたらここを押して、コースを選択してスタートボタンを押すんですよ。」

 

「なるほど、ありがとうございます。」

 

「お前ら、何やってるんだ?」

 

「あら、赤刎さん。ごきげんよう。実はわたくし、洗濯機の使い方がわからなくて…それで、仕田原さんに使い方を教わっていたところですのよ。」

 

…そっか、聞谷はお嬢様だから普段家事とかしないんだよな。

だから洗濯機の使い方がわからなくて困ってたのか。

 

「おかげさまでようやく使い方を覚えましたわ。これで一人でお洗濯できますわね。」

 

「どうしてもうまくいかなかったら、どんどん自分に任せちゃっていいですからね!」

 

「え、ですがそれでは仕田原さんの負担が大きすぎませんか?ただでさえ料理と館内の清掃をされていますのに…」

 

「いえいえ!むしろ、家事は自分の生き甲斐ですんで!じゃんじゃんこき使っちゃって下さい!赤刎さんも、何か自分がお役に立てる事があったら遠慮せず仰って下さいね!」

 

すごい気迫だ…

仕田原の奴、仕事熱心だもんなぁ。

 

「あ、ああ…じゃあお言葉に甘えさせてもらおうかな?俺、家事とかからっきしだしさ。何か困った事があったら頼っていいか?」

 

「ええ、喜んで!!」

 

俺は、二人と少し話をした後ランドリールームを後にした。

あと行ってないのは…トラッシュルームか。

 

「あ。」

 

トラッシュルームに行くと、一と速水がいた。

 

「お、円じゃん!どうしたの?」

 

「いや、俺はまだトラッシュルームには来てなかったから見ておこうと思ってな。お前らは何をやってるんだ?」

 

「あー、えっとね。ここ、焼却炉を動かすための機械があるから、千歳に調べてもらってたんだよね。」

 

「そうだったのか。…で、何で速水まで一緒にいるんだ?」

 

「あー…千歳がさ、一人だと怖いって言うから。それで、ちょうど暇だったアタシが付き合ってあげてるわけ。」

 

「だって!!一人でいたら殺されちゃうかもしれないんだよ!?」

 

「…おい、怖いのはわからなくもないがあんまりそういう事言うな。」

 

「ひぃっ!ごめんなさい!」

 

「で、何かわかったのか?」

 

「あ、えっと…この機械、基本自動モードになってるんだけど手動モードにできるみたい。あと、夜時間中は稼働しなくなるみたいだから注意してね。」

 

「なるほどな。」

 

俺は、二人と話をした後トラッシュルームを後にした。

その後は全員食堂に集まって探索の結果を報告した後夕食を取り、夜時間が来たので全員個室に戻っていった。

こうして、楽園生活の2日目が終わった。

 

 

 

 


 

 

 

ー生存者ー

 

【超高校級の講師】赤刎円

 

【超高校級のカウンセラー】安生心

 

【超高校級の天才】神崎帝

 

【超高校級の香道家】聞谷香織

 

【超高校級の脚本家】黒瀬ましろ

 

【超高校級の幸運】漕前湊

 

【超高校級の???】枯罰環

 

【超高校級のタロット占術師】札木未来

 

【超高校級の家政婦】仕田原奉子

 

【超高校級の冒険家】ジョナサン・ウォーカー

 

【超高校級の武闘家】武本闘十郎

 

【超高校級のヴァイオリニスト】弦野律

 

【超高校級のソフトウェア開発者】一千歳

 

【超高校級のランナー】速水蘭華

 

【超高校級の画家】筆染絵麻

 

【超高校級の収集家】宝条夢乃

 

ー以上16名ー

 

 

 

 



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(非)日常編④

安心して下さい。
まだ死にませんよ。


楽園生活3日目。

 

『おはようございます、オマエラ!!朝です!!7時になりました!!今日も元気に殺し合いましょう!!』

 

今日もまた、モノクマの耳障りなモーニングコールで起こされた。

何が今日も元気に殺し合いましょうだ、俺はむしろお前に対して殺意が湧いてるんだがな。

 

今日も8時に食堂に集合して生存確認も兼ねた朝食を取りに行く事になっていたので、俺は準備を済ませて食堂に向かった。

やはりと言うべきなのか、神崎と弦野は今日も来ていなかった。

仕方がないので、来ていた14人だけで朝食を取った。

 

「アイツら、今日も来なかったな。」

 

「昨日も一応お食事をお部屋まで運んだんですけど…一切召し上がっていらっしゃいませんでした。」

 

「円!奉子!もうあんな奴ら放っとこうよ!あっちが単独行動取りたいって言ってるんだしさ!」

 

「それは…そうだけどよ。でも、万が一何かあったら…」

 

「一応チャットは既読になってたから、生きてるとは思うけどね。ただ、健康面で問題がないかどうかまではわからないからなぁ。衣食住とか、自分達で管理できてるといいんだけど。」

 

「そっか、死んでないのね。それはとりあえず良かった。」

 

「別にどうでもいいじゃんあんな奴等!」

 

「速水さん、言い過ぎだよ。神崎君と弦野君だって、僕達の大事な仲間なんだ。誰一人だって欠けちゃいけないんだよ。」

 

「あ…そうだね、ごめん…」

 

 

 

すると、一が唐突にボソッと呟く。

 

「…あのさ。今日で3日目だよね?」

 

「ああ、そうだな。」

 

「…ボク達、やっぱりここで一生過ごすしかないのかな。」

 

「な…おい一!!何でそんな事言うんだよ!?」

 

「だって!!3日も経ってるのに何で何もないのさ!!ずっと脱出の手がかりを探してるけど、結局何もナシじゃん!!」

 

「そうよ!アンタ達が真面目に手がかりを探さないからいつまで経ってもゆめが家に帰れないじゃない!」

 

「お前らなぁ…ずっとビビってばっかで何もしてねぇくせにワガママばっか言うなよ!!」

 

「何ようるさいわねぇ!アンタこそ、ただの幸運のくせに生意気なのよ!」

 

一と宝条が声を荒げると漕前が反論してきてヒートアップしてきたので、俺とジョンが漕前を、安生と速水が一と宝条を止めに入った。

 

「おい、cool downしろよミナト!」

 

「漕前。気持ちはわからなくもないけどよ。一や宝条だって、ずっとここに閉じ込められててピリピリしてるんだよ。」

 

「…っ、悪い。」

 

俺達が宥めると、漕前はようやく落ち着いた。

 

「二人とも落ち着いて。いつか必ず、外に出られるから。ね?」

 

「そうだよ!アタシらは超高校級なんだよ?そんな弱気になっちゃダメだよ!」

 

「…う、ごめんなさい…」

 

「ふんっ、だったら早く脱出口を見つけなさいよね!」

 

一と宝条も、不満はまだあるようだがとりあえず騒ぎ立てるのはやめてくれたみたいだ。

 

 

 

「…あのさぁ。ちょっといい?」

 

唐突に、黒瀬が手を挙げて口を開いた。

 

「ボクちょっとわかんないんだけどさぁ…みんなはどうしてそんなに外に出たいのー?」

 

黒瀬がそう言うと、その場にいたほぼ全員がポカンとした。

 

「どうしてって…お前は外に出たくないのか?」

 

「んー…ぶっちゃけ、ボクはどっちでもいいんだ。ここにはクラスメイトのみんながいるし、奉子ちゃん達がおいしいご飯作ってくれるし、逆に何がそんなに不満なの?」

 

「黒瀬さんには、外で待っていらっしゃる方や会いたい方はいらっしゃらないんですの?」

 

「うーん、いないかなぁー。確かに仲のいいスタッフさんと作品のお話ができないのは寂しいけど、そこまで追い詰められてるわけじゃないし。…ってかさ。そんな事を聞くって事は、香織ちゃんにはいるんだ?ここにいる誰かを殺してまで会いたい人が。」

 

「な…!何を仰るんですの!?」

 

「マシロ!Take it back!!カオリがmurderなんて考えてるわけないだろ!!」

 

「だって事実でしょ?ここにいる誰かを殺さないと出られないよーってクマちゃんが言ってたじゃない。他のみんなだって、外に出たいって思ってる人は心のどこかで誰かを殺そうと思ってるんでしょー?ねえねえそうなんだよねー?うわぁ、どうしよう!ボク殺されちゃうかもー!キャーこわーい!」

 

その言葉を聞いた殆ど全員が顔を見合わせていた。

認めたくはないが、黒瀬の言っている事は核心を突いていた。

実際、俺だって早く外に出て帰りたい。

でも、今のところこの中の誰かを殺す事でしかそれは叶わない。

もちろん、誰かを殺したところで本当にモノクマが外に出してくれるのかといえばそんな保証はどこにもない。

でも、それでも、それが外に出られる唯一の方法だというのなら、それに縋ってしまわないと言い切れる自信もどこにもない。

口では仲間を信じると言いつつも、俺達は心のどこかで疑念を抱いていたのだ。

 

「黒瀬、貴様…!!」

 

 

 

「もうやめて!!」

 

突然声を荒げたのは、今まで温厚だった筆染だった。

 

「…もう、やめよう?…そりゃあ、あたしだって家に帰りたいよ…でも、それは誰かを殺したいとかそういう事じゃない。あたしはただ、当たり前の日常を取り戻したいだけなんだよ…!」

 

「筆染…」

 

「何でよ、あたし達が何をしたっていうのよ…!会いたいよぉ…お父さん、お母さぁん…うぅっ、ふぅっ…」

 

筆染は、両手で顔を覆ってその場で泣き崩れた。

床に座り込んで啜り泣く筆染を見て、誰も何も言えなくなってしまった。

そう思った、その時だった。

 

「筆染さん…大丈夫だよ。僕達で見つけるんだ。誰も死なずにここから脱出する方法を。」

 

「…うん。」

 

泣き崩れる筆染を安生が慰めると、筆染は力なく頷いた。

…そうだ。

まだ生きて出られる方法がないと決まったわけじゃない。

みんなで協力すれば、きっと16人全員で外に出られるはずだ。

 

 

 

「…希望を打ち砕くような事言うて悪いんやけど、ウチはそないに簡単にいくとは思えへんな。」

 

ため息をつきながら発言したのは枯罰だった。

 

「どういう事だ?」

 

「よぉ考えてみぃ。ウチらは超高校級やぞ?有名人が一度に16人も攫われたら、誰かしらが騒ぐやろ。少なくとも、家族や友達が心配して今頃警察に通報しとってもおかしないやろ?」

 

「…確かに。」

 

「んー、そうなんだよねぇ。特にボクのSNSのフォロワーさんとか、スタッフさんも含めてストーカーじみてる人が多いからボクがここにいるって事をとっくに特定してるはずなんだけどなぁ。…って事は、外部の情報をボク達が入手できないように、外部の人もボク達の情報を入手できていないって事?」

 

「御名答。要は、あのクマ公も外で騒ぎが起こるんを重々承知の上でウチらを誘拐したっちゅうこっちゃ。」

 

「あ…」

 

「な?あのクマ公がどないに厄介かわかったやろ?まあ希望を持つなとは言わへんけど、ウチら以外の人間をアテにしすぎんのも考えモンやっちゅう事は頭の片隅に置いとき。」

 

そう言って、枯罰は席を立って食堂を後にしてしまった。

その後は各自楽園内を自由探索する事になり、その場で流れ解散となった。

 

「そういやまだ診療所には行ってなかったな。ちょっと調べてみるか。」

 

俺は、早速診療所に向かった。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「あ。」

 

診療所に行くと、既に安生と黒瀬がいた。

これはまた珍しい組み合わせだな。

 

「円くんおいーっす。」

 

「赤刎君。何か用かな?」

 

「ああ…ちょっと診療所を探索しておこうと思ってな。お前らはここで何をしてるんだ?」

 

「診療所の備品を整理して、リストを作ってるんだ。中には毒薬や危ない薬もあるから、ちゃんと管理しておかないとね。」

 

「ボクは、特にやる事がなかったので心くんをお手伝いしてるのですー。」

 

「そういう事なら、俺も手伝おうか?」

 

「いいのかい?」

 

「ああ。ちょうどここの探索をしようと思ってたところだしな。」

 

「ありがとう。じゃあ向こうの棚の薬品を整理して、この紙に種類別にリストアップしてくれるかな?」

 

「おう。」

 

俺は、棚の薬品のラベルに書かれていた内容を、安生に渡されたルーズリーフに書き込んでいった。

色々あるな…痛み止めに痒み止め、酔い止め、睡眠薬、胃薬、止血剤、造血剤…うげっ、媚薬まであんのかよ。

何考えてんだあのクマは。

…お。

棚の奥にメダルが転がってるぞ。

拾っておこう。

 

「毒の種類も色々あるねぇ。青酸カリに塩化カリウム、ヒ素、水銀、テトロドトキシン…うわぁ、ヤバいお薬まであるよ。コカインにマリファナ、モルヒネ、あとはー…」

 

黒瀬がさっきからものすごく物騒な事を言っているが正直これ以上聞きたくない。

あのクマめ、毒ならまだわかるが何故ヤバい薬まで置いてるんだ。

ハイになった勢いで誰かを殺したりするのを期待してんのか?

 

「そんなに危険なものまであるのか…でも、薬の廃棄は禁止されてるしな。どうしようか?」

 

「一箇所にまとめて隠すなり棚ごと封じるなりすればいいんじゃないか?」

 

「あ、そっか。その手があったかぁ。」

 

毒やヤバい薬、あとは媚薬や大人のオモチャなども一箇所にまとめて木箱に入れて隠し、念のため箱に金具を打ち付けて封印する事にした。

媚薬と大人のオモチャを隠したのはアレだ、ここには18歳未満の奴もいるし教育上良くないからだ。

 

「ふぅ。とりあえず、これで毒殺の心配はなくなったか。」

 

「そうだね。それじゃあ、調査を再開しようか。」

 

俺達が再び診療所を調べ始めると、輸血パックを調べていた黒瀬が突然声を上げた。

 

「…あ。」

 

「どうした?」

 

「心くんってさ、ボクと血液型同じなんだねー。」

 

「え?」

 

「ほら、この輸血パックって、全員の血液型に対応してて同じ血液型の人同士でまとめてあるからさー。」

 

「へぇ、そうなのか。」

 

「ボクの血液型ってものすごく珍しいから、同じ人がいてビックリしたよー。」

 

「あはは、僕も自分と同じ型の人は初めて会ったよ。」

 

「そうなのか?」

 

「うん。僕、黄金の血液って呼ばれてる型でね。輸血の時とか困るから、普段から出来るだけ大怪我しないように気をつけてるんだよね。」

 

「あー、ボクも一緒ー。」

 

「ふーん…」

 

そういや、そういう血の型があるって話を結構前に報告書で読んだ事があるな。

コイツらがそれだったとは。

 

「円くんのもあったよー。ほら…あっ。」

 

黒瀬は、俺の分のパックを持ってくる時に誤ってパックを破いて中に入っていた血を服にブチ撒けてしまった。

 

「うわっ!?」

 

「あーあー…やっちゃったー。」

 

「ちょっ…ちょっと黒瀬さん!?何してんの!?」

 

「全くだよ。やっちゃった、じゃねぇだろお前…」

 

「ごめんなさーい。」

 

「それ、早く洗わねぇと落ちねぇぞ。続きは俺達がやっておくからランドリールームに行ってこいよ。」

 

「はぁーい。」

 

そう言って、黒瀬はランドリールームへと向かっていった。

…アイツ、マイペースすぎて一緒にいるだけで疲れるな。

 

「うう…僕、どうしても血を見るのは無理なんだ…情けない話だよね、血糊ですら気分悪くなっちゃうんだもの…」

 

普段は冷静な安生が、顔を真っ青にして怯えている。

コイツにも弱点があったんだな。

 

「別に情けなくはねぇよ。弱点は誰にだってある。」

 

「そ、そうかい…?」

 

「そうだ。…あーあ、床にも垂れてるぞこれ。しょうがねぇな、俺が拭いとくから安生はリストを作っててくれ。」

 

「面目ない…」

 

「いいんだよ別に。」

 

「ありがとう。じゃあ、お願いね。」

 

俺は黒瀬がブチ撒けた血の後始末をし、安生はリストを作成した。

安生がリストを作成し終わり、時間も丁度良くなったので一度集まって昼食を取る事になった。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

昼食の後は、再び自由探索の時間となった。

俺は、早速拾ったコインを持ってプレイルームに行ってみる事にした。

 

「お。」

 

プレイルームには、宝条と筆染がいた。

 

「はぁっ、もうサイアク!」

 

「まあまあ…」

 

宝条がイラついてスロット台を蹴り、筆染が宝条を宥めていた。

 

「どうしたんだ?」

 

「ああ…えっとね。宝条ちゃ…ゆめちゃんが、なかなかいい目が出ないってキレてるの。」

 

「んもう、ふざけんじゃないわよあのクマ!!よくもゆめを騙したわね!!」

 

「騙す…?モノクマに何か言われたのか?」

 

「えーっとね…『メダルを入れれば入れるほどいい目が出やすくなる』ってアドバイスされたらしくてね。さっきからコインを大量に入れてやってるんだけど、うまくいかないみたい。」

 

「…ちなみにどれぐらい入れたんだ?」

 

「んーっと、さっきは50枚入れたって言ってたよ。」

 

「50!!?」

 

よくそれだけ集められたな…

さすがは【超高校級の収集家】ってところか。

逆にそれだけ入れていい目が出ないって事は、もっと入れないとダメって事か。

やっぱり、そんなクソゲー早々に切り捨てて正解だったな。

 

「…で、赤刎くんは何しに来たわけ?」

 

かなりイラついた口調ではあるが、一応宝条の方から声をかけてくれた。

 

「えっと、メダルを拾ったからガチャを引こうと思って。」

 

「ふぅん。ま、頑張れば。」

 

ふぅんって…随分と投げやりだな。

 

「筆染はこれからどうするんだ?」

 

「んーっと…まだ見落としてるところがあるかもしれないし、あたしもメダル探しやろっかな。ここでちょっと遊んでみたいけど、メダルが無い事にはゲームとかできないもんね。」

 

「そっか。」

 

「あのね赤刎君!このガチャ、景品に高級なペンもあるんだって!あたし、ペン欲しいな〜。」

 

「ははは…」

 

おいおい、筆染。

完全にモノクマに乗せられてないか?

 

俺は、二人と少し話をした後ガチャを引いた。

出てきたのは、先端に星が付いておりローマ数字で17と書かれたヘアピンだった。

 

「ヘアピンかぁ…」

 

正直使い道に困るし、前回みたいに誰かにあげてみるか。

俺は、ヘアピンを持ってプレイルームを後にした。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

さてと…これでとりあえず全部の建物に入った事になるのかな?

でも、倉庫は広すぎて回りきれなかったからもう一度倉庫に行ってみるか。

 

「あ。」

 

倉庫に行くと、枯罰と札木がいた。

 

「…………あ、赤刎くん。」

 

「よぉ。お前とはよぉ会うのぉ。」

 

「ははは、確かに…で、お前らは何やってるんだ?」

 

「見てわからへんのか?倉庫内の在庫を確認しとったんや。安生に頼まれてもうてのぉ。あんのド阿呆、ウチにこないな雑用押し付けよってからに。身体弱なかったらどついとったわ。」

 

「…引き受けなきゃよかっただけじゃないのか?」

 

「…。」

 

俺がそう言うと、枯罰が一瞬固まった後鬼のような形相で俺を睨んできた。

 

「お前ぇ…ドチビのくせにどのツラ下げてウチに指図しとんじゃこんボケェ!!誰にも言うなや!?言うたらどつくぞコラァ!!」

 

「痛い痛い痛い!わ、悪かったって!誰にも言わねぇから!」

 

枯罰は、女子とは思えない程の怪力で俺の頭を掴んできた。

明らかに理不尽な話なのだが、枯罰にものすごい剣幕で脅された俺は首を縦に振るしかなかった。

どうやら俺はコイツの地雷を踏んでしまったらしい。

それにしても、引き受けなければいいって考えに至らなかったって事は初めから協力する前提だったって事か。

コイツ、案外と律儀なんだな。

 

「…………枯罰さん。」

 

「…おぉ、せやった。こないな事しとる場合やなかったな。」

 

札木のおかげで、枯罰の圧が止まった。

グッジョブ札木!

 

「ほんなら続きやるで。」

 

で、結局続きやるんかい。

やっぱり何だかんだ言って真面目なんじゃねぇか。

 

「1階はウチらで終わらせといたさかい、次は2階や。お前は向こうの文房具コーナーと雑貨コーナー調べぇ。」

 

そう言って、枯罰は俺にルーズリーフを渡してきた。

 

「やり方はわかっとるよな?在庫調べてここに書き込むんや。」

 

「…待て、俺もやる前提か?」

 

「何や、文句あるんか?」

 

「…いえ、別に。」

 

俺は、渋々二人の仕事を手伝う事になった。

 

「えーっと、鉛筆にシャーペンに消しゴム、マーカーに糊にコンパスに…」

 

本当に何でも揃ってるな。

こりゃあ調べるのも一苦労だぞ。

 

 

 

そして5時間後、ようやく指定されたコーナーを調べ終わった。

無限に感じられるほど品揃えが豊富だったせいで、1コーナー調べるだけでも1時間以上かかった。

 

「うぇー…疲れたぁ。」

 

「お疲れさん。飲みモン飲むか?」

 

「…ああ。ありがとう。」

 

枯罰がペットボトルの経口補水液をくれたので、キャップを開けて一気に飲み干した。

少し温くなっていたが、疲れていたので身体が水分を欲していた。

 

「ぷっはぁ。あー、生き返るー…それにしてもお前ら、こんな広い倉庫をよく二人で調べたな。」

 

「…まぁ昨日から少しずつやっとったし、こないな地味な作業は苦手やないからのぉ。」

 

「…………わたしも、身体使ったりするよりはこういう作業の方が得意…」

 

要はこの二人に適任だったって事か。

 

「ほんなら、時間もちょうどええし飯にするか。」

 

「………うん。」

 

そう言って二人は厨房に向かっていった。

今日もまた美味い物作ってくれんのかな。

楽しみだ。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

その後、俺達はいつもの3人と漕前が作ってくれた夕食を取った。

飯の後はちょっとしたミーティングを行い、安生は診療所の探索結果を、枯罰と札木は倉庫の探索結果を発表していた。

その後は翌日の予定を互いに確認し合い、その場で流れ解散となった。

 

「あー、美味かった。」

 

夕食の後の散歩をしていると、庭に札木がいるのが見えた。

 

「…あれ?札木?」

 

札木は、庭の花壇に向かって何かをしていた。

…何をやってるんだ?

 

「札木?」

 

「………あ、赤刎くん。」

 

俺が声をかけると、札木が振り向いた。

札木は、手にジョーロを持っていた。

 

「もしかして、花に水をやってたのか?」

 

「…うん。この子達も、わたし達と同じだから………」

 

「そっか。」

 

札木は優しいんだな。

 

「…なあ札木、まだ時間あるし少し話さないか?」

 

「………。」

 

「ごめん、ダメか?」

 

「…ううん。でもわたし、面白い話とかできない…」

 

「そんなの気にしてねぇよ。俺、人の話聞くの好きだし。」

 

「…………。」

 

俺が笑うと、札木は俯いたが微笑んでいるように見えた。

喜んでくれたみたいだな。

 

「………研究室で話そっか。」

 

札木は、そう言って俺を研究室に案内した。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

俺と札木は、【超高校級のタロット占術師】の研究室に入った。

 

「…………どうぞ。」

 

「サンキュ。」

 

テーブルにつくと、札木が温かい麦茶を出してくれた。

 

「…………何から話す?」

 

「えーっと…あ、そうだ。実は、お前にプレゼントがあるんだ。」

 

「…………?」

 

「はい。」

 

俺は、ガチャでゲットしたヘアピンを渡した。

 

「……………!」

 

すると、札木は僅かに目を見開く。

 

「…………これを、わたしに?」

 

「ああ。お前に似合うんじゃないかと思ってな。」

 

「…………ありがとう。すごく嬉しい。………早速付けてみてもいいかな?」

 

「もちろん。つけてみてくれるか?」

 

札木はコクリと頷くと、早速ヘアピンをつけた。

 

「…………どう、かな?」

 

「うぉっ。」

 

ものすごく似合ってる。

札木の奴、こんなに可愛かったっけ?

これならきっと武本も気に入るだろうな。

 

「メチャクチャ似合ってるよ。やっぱりお前にプレゼントして正解だった。」

 

「……………ありがとう。」

 

喜んでくれているな。

俺のプレゼントが気に入ったようだ。

 

 

 

プレゼントを渡したところで、俺は本題に入る事にした。

 

「なあ、札木。お前がタロット占いをやり始めたきっかけって何だ?」

 

「……………。」

 

「あ、いや…お前とはクラスメイトだけど、そういう話はあんまりしなかったなーって思って。」

 

「………そうね。少し長くなるけど、いい?」

 

「別にいいよ。だって俺が頼んでるんだからよ。」

 

「…………じゃあ話すね。わたし、今の家族とは血が繋がってないの。わたしの本当のお父さんは誰かわからなくて、本当のお母さんはわたしが産まれてすぐに自殺しちゃったんだって。それで、わたしは今の家族に養子にしてもらったの。…でも、小さい頃から未来予知ができたわたしは、両親に気味悪がられて無視されるようになった。『こんな子引き取らなきゃ良かった』って暴言も吐かれたわ。」

 

「酷い親だな。引き取っておいて虐待するなんて、何考えてるんだ。許せねぇ…!」

 

「…そうね。でも、わたしの家族はひどい人だけじゃなかった。わたしには8つ離れたお姉ちゃんがいてね。お姉ちゃんだけはわたしを本当の妹みたいに可愛がってくれた。まともにわたしの学費を払ってくれない親の代わりに自分でお金を稼いで学費を払ってくれて、バイトをいくつも掛け持ちしてて忙しいのに夕ご飯の時には必ず帰ってきてくれるの。」

 

「いいお姉さんを持ったな。」

 

「………うん。わたしの自慢のお姉ちゃんよ。でね、お姉ちゃんが、わたしの高校の合格祝いに占いの本を買ってくれたの。『アンタにはすごい才能があるんだから将来は占いで食べていきなさい』って言って、色んな占いを紹介してくれてね。その中で一番わたしに向いてたのがタロットだったんだ。試しに高校でタロットをやってみたらすごく評判になって、お姉ちゃんがネット上で宣伝してくれた事もあって【超高校級のタロット占術師】としてスカウトされたというわけ。」

 

「そうだったのか。良かったな、お姉さんに才能を活かす方法を見つけてもらえて。」

 

俺がそう言うと、札木は微笑んで続けた。

 

「………あのね。…わたし、赤刎くんにも感謝してるんだよ。」

 

「え?俺に?なんで?」

 

「…………覚えてない?高校の入学式の時、わたしの入学式について来てくれてたお姉ちゃんが、通学路の途中で過労で倒れちゃって…その時たまたま同じ高校に入学する予定だった赤刎くんが救急車を呼んでくれて、自分も入学式に出なきゃいけないのに病院まで付き添ってくれたんだよ。あの時赤刎くんが助けてくれなかったら、お姉ちゃんはどうなってたか…」

 

「…そういやそんな事あったな。」

 

「………赤刎くん、あの時は本当にありがとう。」

 

「いいよ別に。俺の入学式なんかより、お前のお姉さんの命の方が大事だもんな。」

 

「赤刎くん………」

 

「うん、俄然やる気湧いてきた。お姉さんに会うためにも、生きて一緒にここから出るぞ。3日もここにいるし、お姉さんもお前の事心配してるだろうからな。脱出できたら家に帰って、お姉さんに無事を報告してやれよ。」

 

「………うん。……それに、生きてここから出なきゃいけない理由なら他にも…」

 

「他にも、何だ?」

 

「……………ううん。何でもない。こっちの話。」

 

何だよ、今絶対何か言いかけたよな?

何を言おうとしたのか気になるじゃねーかチクショウ。

 

「って、ヤベッ。もう夜時間まで1時間切ってるじゃねーか。早く部屋に行かねぇと風呂入れなくなるぞ。」

 

「………そうね。そろそろ戻ろうか。」

 

俺達は、一緒にホテルへと戻っていった。

 

「……………今日はありがとう。」

 

「いやいや、こっちの台詞だよ。」

 

あれ?

何か大事な事を忘れてるような…

…って、そうだった!

札木の欲しいものを聞いておくって武本に約束したんだった!

いかんいかん、危うく忘れるところだった!

 

「あ、あのさ!」

 

「………?」

 

「札木…さ、何か今欲しいものとかあるか?」

 

「……………特に。さっきヘアピン貰ったし…」

 

「まあそうなんだけどよ…ほら、お前の好みとか知っておきたいなーって…」

 

「…………赤刎くんがくれるものなら何でも嬉しいよ?」

 

違う、そうじゃない。

何でもいいっていう回答が一番困るんだよ、札木!

 

「いや、でも強いて言うならこれ、とか…あるだろ?」

 

「…?」

 

札木は、少し困惑したような表情を浮かべて首を傾げた。

…ちょっと強引に聞きすぎたかな?

でも、ここで何の収穫もナシじゃ武本に悪いし…

 

「………そうね。強いて言うなら…お花が欲しいかな。部屋に彩りが少ない気がするし…」

 

「そうか、花か!サンキュー札木!」

 

「………うん。」

 

よっしゃあああ!!

有力情報ゲット!

 

俺が嬉しさのあまり札木の両手を掴んで上下に振ると、札木は困惑して目をパチクリさせた。

…ん、流石に引かれたかな?

 

「あ、悪い。」

 

「………ううん。」

 

「それじゃ、また明日な。」

 

「……………うん。」

 

俺は、札木と分かれて自分の個室へと向かった。

こうして、楽園生活の3日目が終わった。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「………。」

 

その頃、物陰から何者かが姿を現し【超高校級のタロット占術師】の研究室に侵入した。

 

「……………。」

 

その人物は、衣服のポケットからタロットカードの束を取り出すと、テーブルの上に置かれていたタロットカードの束とすり替えた。

そして、ニィと口角を上げると何事もなかったかのようにその場を後にし、そのままホテルへと戻っていったのだった。

 

 

 

 

 


 

 

 

ー生存者ー

 

【超高校級の講師】赤刎円

 

【超高校級のカウンセラー】安生心

 

【超高校級の天才】神崎帝

 

【超高校級の香道家】聞谷香織

 

【超高校級の脚本家】黒瀬ましろ

 

【超高校級の幸運】漕前湊

 

【超高校級の???】枯罰環

 

【超高校級のタロット占術師】札木未来

 

【超高校級の家政婦】仕田原奉子

 

【超高校級の冒険家】ジョナサン・ウォーカー

 

【超高校級の武闘家】武本闘十郎

 

【超高校級のヴァイオリニスト】弦野律

 

【超高校級のソフトウェア開発者】一千歳

 

【超高校級のランナー】速水蘭華

 

【超高校級の画家】筆染絵麻

 

【超高校級の収集家】宝条夢乃

 

ー以上16名ー

 

 

 




黄金の血液についてはここで詳しくは書かないので各自で調べてみて下さい(投げやり)


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(非)日常編⑤

楽園生活4日目。

 

『おはようございます、オマエラ!!朝です!!7時になりました!!今日も元気に殺し合いましょう!!』

 

今日もまた、モノクマの耳障りなモーニングコールで起こされた。

俺は、朝の準備を済ませて8時に間に合うように食堂に向かった。

弦野と神崎は今日も来ておらず、仕方がないので14人で朝食を取る事にした。

朝食を食べている途中、俺は隣の席に座っていた武本に小声で話しかけた。

 

「…花だってさ。札木が欲しいもの。」

 

そう言うと、武本は申し訳なさと呆れ顔が入り混じったような表情で頷いた。

そして当の札木を見ると、朝食のデザートのチーズケーキを食べていた。

 

「………美味しい。」

 

「ホントだ。おいしいねぇ。」

 

「ありがとうございます!それ、自分の自信作なんですよ!」

 

ほう。

仕田原はデザートも作れるのか。

さすがは【超高校級の家政婦】だな。

 

 

 

朝食の後は、全員でちょっとしたミーティングをする事になった。

 

「もう4日経つけど、やっぱり何の進展もないね。」

 

「な?言うたやろ?外部の奴等をアテにしとっても無駄やっちゅうこっちゃ。」

 

「いや、まだ諦めちゃダメだ。きっと、警察が俺達の事を探してくれてるはずだ!!」

 

漕前がそう言った、その時だった。

 

 

 

『ケーサツ?なーにをそんなモノをアテにしてるんですかねぇ。』

 

突然、不愉快なダミ声が食堂に響き渡った。

そしてその直後、イロモノ…もといモノクマが現れた。

 

「うわっ!」

 

「あーあ、またウザいのが現れたよ。」

 

「Fuck off!!」

 

一が虫でも見つけたかのような反応をし、速水が冷めた目を向けジョンが罵声を浴びせた。

 

『キャー、ジョンクンってば口悪いなぁ!お母さんそんなお下品な子に育てた覚えありません!』

 

「…はぁ、で、何の用なの?」

 

『用って、決まってんじゃん!オマエラ、もう4日目だよ!?何で誰一人として死んでないのさ!オマエラ、外に出たいんじゃなかったの!?』

 

「確かに外に出たいのは山々だけど、それで誰かを殺すと本気で思ってるの?」

 

「筆染の言う通りだ!そのうち、警察が俺達の事を見つけてくれる!そうすりゃあお前なんて豚箱行きだ!!」

 

『バカじゃないの?ケーサツが主人公の作品以外でケーサツが役に立たないのはもはやお約束じゃん!外からは誰もこの楽園に入ってこないし、オマエラは誰かを殺さない限り永遠に外に出られないの!』

 

「ふざけるな!!お前が何と言おうと、俺達はコロシアイなんてしない!!16人全員でここを出るんだ!!」

 

 

 

『ふーん。オマエラは、ここにいる16人全員が味方だと思ってるんだ?うぷぷぷ…まあ、そう思うのは勝手だけどね。』

 

「!?」

 

「おい。今のどういう意味や。」

 

『さあね。それくらい自分で考えなよ。ボクから言う事は何もありませーん。』

 

コイツ…

 

「チッ。いちいち腹立つやっちゃのぉ。まぁそれはええわ。お前、ホンマは何しに来たん?」

 

『おっと、そうだった!うっかり本題を忘れちゃうところでした!実は、今日はオマエラにお話があって来たのです!』

 

「話!?何なのよぉ…!」

 

『えーとですね。それは16人全員揃ってから話したいから、さっき空気を読まない約2名を呼び出したよ。ボクの方から5分以内に食堂に来ないとオシオキするよってチャット送ったから、多分もうすぐ来るんじゃない?』

 

モノクマがそう言った直後だった。

 

 

 

「…チッ。今まで何も言ってこなかったくせにいきなり呼び出しやがって。」

 

「フン。またしても貴様ら凡俗の顔を拝む羽目になるとはな。」

 

弦野と神崎が食堂に入ってきた。

 

「で?人を呼び出したからにはそれなりに重要な話があるんだろうな、誘拐犯?」

 

『大有りだよ!実は、オマエラがどうしてもコロシアイをしないせいでここ最近『そろそろ誰か死ねよ』っていう無言の圧力を感じるので、ボクが直々にとあるものをプレゼントしてあげる事にしたんだよ!』

 

「とあるもの?」

 

『ボクは考えたのです。オマエラが何でコロシアイをしなかったのかをね。それをずっと考えてたせいで夜しか眠れなかったよ。』

 

「それ、しっかり快眠してるよねぇ。」

 

「その前にまず君に寝るっていう概念があったんだね。」

 

「お前らいちいちツッコむなや。話進まへんやろが。」

 

黒瀬と筆染が堂々とモノクマにツッコミを入れる図太さを見せたので、流石の枯罰も呆れるしかなかった。

 

『で、何が原因だったかといいますとね。足りないものがあったんだよ!』

 

「足りないもの?」

 

『動機だよ!動機!!というわけで、オマエラが積極的にコロシアイをするように動機をご用意しました!』

 

「動機だと…!?」

 

嫌な予感しかしないな…

 

 

 

『テッテレー!!動機DVD〜!!』

 

モノクマは、段ボール箱を取り出して高々と掲げた。

段ボール箱の中には、ちょうど16枚のDVDが入っていた。

 

『このDVDは、個室のテレビで見られるよ。それぞれ自分の名前シールが貼られたDVDを取って見てね。あ、ちなみに今日中にDVDを見なかったり破棄したりするのはルール違反だから。それじゃ、ボクからの話は以上です。みんな頑張ってね〜!』

 

そう言って、モノクマは去っていった。

 

 

 

「Shit…あの野郎、好き勝手言いやがって…」

 

「うわぁああああああ!!!終わった!やっぱりモノクマはボク達にコロシアイをさせる気だったんだ!!」

 

「おい、落ち着けよ一!みんなで一致団結すりゃあ、コロシアイなんて起こんねぇって!」

 

「そんなの信じられるわけないじゃない!!だって、アンタ達の中に裏切り者がいるかもしれないんでしょ!?ゆめ、殺されるのなんていや!!」

 

「そんなの、こうやって俺達を動揺させるための嘘かもしれねぇだろ!?」

 

「そうだな、まだ裏切り者がいると決まったわけじゃない。」

 

「じゃあテメェらは自分が敵じゃねぇって証明できんのかよ?」

 

「それは…」

 

「な?できねぇよな?ほらみろ、やっぱりテメェらと一緒にいると碌な事にならねぇじゃねぇか。用は済んだみたいだし、俺は部屋に戻る。」

 

そう言って、弦野は箱からDVDをひったくって再び部屋に引きこもってしまった。

 

「あ…」

 

「フン、そういう事だ。俺も失礼させてもらう。せいぜい互いに潰し合ってろ凡愚共。」

 

神崎も、自分のDVDを持って出て行ってしまった。

 

「弦野、神崎…」

 

すると、枯罰がため息をついて立ち上がった。

 

「…場の空気悪うするようで悪いんやけど、ウチも部屋戻ってええか?」

 

「どうして?」

 

「早うDVDの中身確認したいからに決まっとるやろ。」

 

「やめときなよ!中身がわからないからって無闇に見たら、何が起こるかわかんないよ!?」

 

「そうよ!それとも何!?アンタまさか殺人を企ててるんじゃないでしょうね!?」

 

「ちゃうわド阿呆。こないなモン何が映っとるかなんぞ見んでも大体予想できるし、これで人殺す気なんぞ起きんわ。ウチは無駄にグズグズするんが嫌いなだけや。」

 

そう言って、枯罰はDVDを取って食堂を後にした。

その後も、みんなゾロゾロと部屋に戻っていった。

…俺も部屋に戻ってDVDを確認しないと。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

俺は、部屋に戻ってDVDをテレビにセットした。

モノクマの奴、これを俺達に見せてコロシアイをさせようっていうのか。

…でも、たとえここに何が映っていようと俺は殺人なんてしないし、俺はみんなを信じる。

 

そう思った矢先だった。

映像が始まった。

 

 

 

 

 

『【超高校級の講師】赤刎円クンの動機映像!』

 

映像が始まると赤い舞台幕が映り、そこには文字が書かれていた。

そして、幕が両側に開き幕の向こうに隠されていた映像が映る。

 

「…え。」

 

映っていたのは、見慣れた光景だった。

丘の上にぽつんと立った、十字架が立て掛けられた白く綺麗な建物。

その周りでは、小さな子供達が遊んでいる。

そこは俺が生まれ育った孤児院で、子供達は俺の家族だった奴等だ。

 

「みんな…」

 

映像が切り替わり、孤児院の中の映像が映る。

画面には、男の子の顔がアップで映っていた。

 

『ねぇ、これもう映ってるのー!?』

 

『ちゃんと映ってますよ。晃君、そんなに近づいたらみんなのお顔が映らないわ。』

 

『はぁーい!』

 

そう言って、晃は奥にいた女性の隣に行ってちょこんと座った。

映っている女性は孤児院の院長をやっているシスターで、その周りには孤児院の子供達が集まっていた。

 

『お久しぶりですね、円君。元気ですか?希望ヶ峰学園の寮生活にはもう慣れたかしら?』

 

「シスター…」

 

『あの希望ヶ峰学園からスカウトが来た時は本当に驚いたわ。でも、あなたは昔から賢くて優しい子だったから、きっと今頃お勉強を頑張って、お友達とも仲良くできてるのよね?』

 

『円にーちゃん!たまにはこっちに顔出しに来いよ!』

 

『今度は、学校でのお話たくさん聞かせてね!』

 

『円君、困った事があったらいつでも連絡してね。私はいつでもあなたの相談に乗るから。』

 

映像を見ていた俺の目には、涙が溜まっていた。

子供の頃よく遊んだ庭、優しいシスター、やんちゃだけど俺を慕ってくれる可愛い弟妹達、全てが懐かしく思えてくる。

…モノクマの奴、これを俺達に見せて大切な人に会わせたくするっていう魂胆だったのか。

それでも、俺は殺人なんてしない。

ここで人を殺してしまったら、外で待ってくれているシスターや弟妹達に顔向けができない。

絶対に誰も殺さずに脱出する方法を見つけるんだ。

そう心に決めた、次の瞬間だった。

 

ブツッと音がして、突然画面が暗転した。

 

「?」

 

故障かと思いつつも映像を見続けていると、突然   

 

 

 

「………は?」

 

目の前に映ったのは、壁や窓が破壊されて見るも無残な姿になった孤児院。

吐き気を催すほど強烈な赤。

孤児院の中を土足で歩き回るモノクマのマスクを被った者達。

そして、床に転がったいくつもの真っ赤な人形   

 

   否、それは紛れもなく俺の弟妹達だった。

 

「え?え?」

 

映像を見ていた俺は、頭が真っ白になった。

そして、そんな俺の目に映ったのは、床に落ちていた髪飾り。シスターがつけていたものだった。

 

「ッ…シスター…!?」

 

視線の先には、ロザリオを握った右手がダランとぶら下がっていた。

 

「シスター!?シスター!!クソッ…無事なのか!?何があったんだ!!動け!!画面動けよチクショウ!!」

 

俺は、何度も必死にテレビの画面を叩いていた。

するとそこで再び画面が暗転し、文字が現れる。

 

『優しいシスターと弟妹達に愛されて育った赤刎クン!いやぁ、微笑ましい限りですねぇ。ではでは、ここで問題です!孤児院の子供達、そしてシスターは一体この後どうなってしまったのでしょうか!?正解発表はー…失楽園の後でっ!!』

 

モノクマがそう言って画面の中で手を振った直後、映像が終わった。

俺の中で今渦巻いているのは、ただただ深く昏い絶望…それだけだった。

 

 

 

 

 

「う…そ…だよ…な…?」

 

そうだ、こんなのモノクマの捏造に決まってる。

大体、俺はまだ希望ヶ峰学園に入学してすらいないのにみんなが入学後の話をしてる事自体おかしいもんな。

きっと何かのドッキリだ。

実際はみんないつも通り平和に暮らしてるはず。

…でももし、ここに映ってるのが現実だとしたら…?

一刻も早く外に出てみんなの安否を確かめなければ、と一瞬でも思ってしまった事を否定できるのか?

 

…これ以上考え込むのはよそう。

悪い事しか起こらなさそうだしな。

そうだ、みんなもそろそろ映像を見終わってる頃かな。

ちょっと食堂に顔を出してみるか。

 

 

 

「…あ。」

 

俺が食堂に行くと、何人かは暗い面持ちで集まっていた。

弦野と神崎は本人達が別行動を取ると言っていたので来ていないのは自然な事だったが、聞谷、一、筆染、宝条の4人も来ていなかった。

 

「クソッ…なんなんだよアレは!!」

 

「Shit!!あのクマ、オレ達にあんなモノを見せて何がしたいんだ!!」

 

「………下衆がッ…!!」

 

漕前、ジョン、武本の3人は映像を用意したモノクマに対して怒りを露わにしていた。

 

「みんな…」

 

「落ち着きなよ!あんなの、モノクマの捏造だって!」

 

「そうですよ!皆さん、まずは深呼吸しましょう!」

 

安生と速水と仕田原は平然としているように振る舞っていたが、完全に血の気が引いて顔色が悪くなっていた。

 

「う〜ん、荒れてるねぇ。みんな大丈夫〜?」

 

「…まぁ、こうなるやろなとは思っとったわ。」

 

本当に平然としているのは、黒瀬と枯罰だけだった。

 

「……………。」

 

札木は、俯いて席に座ってガタガタと震えていた。

表情は下を向いていてわからなかったが、見るからに顔が真っ青になっていた。

 

「…札木?」

 

俺が声をかけると、札木はビクッと肩を跳ね上がらせる。

俺は、テーブルの上にあったアイスティーを持って再び声をかけた。

 

「大丈夫か?…とりあえず、飲み物でも飲んで…」

 

「来ないで!!!」

 

札木は、突然大声を上げて立ち上がると、俺の手を払いのけてアイスティーをぶちまけた。

予想外の反応に、俺は目を見開いて突っ立っている事しか出来なかった。

 

「さ…つき…?」

 

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいわたしがわたしがわたしがわたしがわたしがわたしがわたしがわたしがわたしがう゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!」

 

札木は、突然床に座り込んで両手で頭を抱えると今までに出した事がない程の大声量で泣き叫んだ。

 

「札木さん!?どうしたんですか!?」

 

「錯乱してる…多分動機映像が原因だろうね。」

 

安生は、札木に近づくと優しく声をかけた。

 

「札木さん。少しずつでいいから、まずは深呼吸をしようか。」

 

「未来、大丈夫だよ。誰もアンタの事を責めたりなんてしてないから。」

 

泣き叫んでいた札木だったが、速水に背中を摩ってもらってようやく少しずつ落ち着いた。

 

「………うっ、ふぅうっ…ごっ、ごめんなさい…わたし…」

 

「札木さん。つらい事があったら、またいつでも僕に相談してね。力になるから…」

 

「……………うん。」

 

札木は、涙を拭い鼻をずびずびと啜りながら頷いた。

 

「さて、と…これ、片付けないとな。仕田原、何か拭く物ないか?」

 

俺は、床に落ちたガラスの破片を拾った。

 

「あ、いけません赤刎さん!素手で割れたガラスを持ったら危ないですよ!」

 

「大丈夫だってこのくらい゛っ…!」

 

油断していたら、破片で指を切ってしまった。

 

「ほら、言わんこっちゃない!そんな雑用は自分がやりますんで、赤刎さんは指を止血して下さい!」

 

「悪いな。でも俺、止血する物なんて持ってねーんだわ…」

 

「……………あ、あの…」

 

「ったく、しゃーないやっちゃなぁ。ほれ、指見せろや。」

 

枯罰は、俺の左手を引っ張り上げるといきなり手にペットボトルの水をかけた。

 

「い゛っ…!?」

 

「動くなや。洗い流しとかな雑菌繁殖するやろが。」

 

枯罰は、俺の指を洗って止血すると持っていた絆創膏を貼ってくれた。

 

「まぁ、これで大丈夫やろ。」

 

「ああ。助かった。ありがとう。…ってか、よく絆創膏とかガーゼとか持ってたな。」

 

「…万が一があるかもしれへんからのぉ。診療所からくすねといてん。」

 

抜け目がないなホント。

すると、札木が後ろめたい表情でこっちを見ているのに気がつく。

 

「札木。大丈夫か?」

 

「………あ、うん…………」

 

「さっきはごめんな。俺が何か無神経な事言っちまったんだよな?」

 

「…っ!う、ううん…赤刎くんは何も悪くないよ。わたしの方こそ、いきなり叫んでごめんなさい…」

 

「お前が何を見せられたのかは知らねぇけど、俺達はお前の味方だからな。」

 

「…………うん。ありがとう。」

 

札木は、コクリと頷くと微笑んだ。

良かった、気分が落ち着いたみたいだ。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

あんな映像を見せられた後だったので、昼食は各自で取る事になった。

その後、俺は何かを縫っている仕田原に声をかけた。

 

「悪いな、仕田原。せっかく準備してくれてたのに…」

 

「いえいえ!赤刎さんが謝る事じゃないです!」

 

「…それはそうと、お前何やってるんだ?」

 

「ああ、黒瀬さんが、服のボタンが外れてしまったと仰っていたので直してるんですよ。見て下さいこの糸!裁縫セットに入ってたんですけどね、蜘蛛の糸の構造を参考に紡がれた糸だそうで、ちょっとやそっとじゃ切れないのが売りなんだそうですよ!」

 

「そ、そうなのか…」

 

そういや女子の部屋には裁縫セットがあるってモノクマが言ってたな。

俺は仕田原と話をした後、ホテルの中を探索する事にした。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

しばらくホテルの中を歩いていたが、特にこれといった収穫はなく時刻は3時になった。

食堂に行ってみると、仕田原と枯罰が夕食の準備をしてくれていた。

安生、黒瀬、漕前、ジョン、速水、武本の6人も2人を手伝っていた。

 

「あ、お前ら…」

 

「赤刎!お前もこっち来て手伝え!」

 

「ん?お前ら、何やってんの?」

 

「何って、見てわかんない?パーティーの準備してるんだよ!」

 

「ぱ、パーティー…?よりによってこんな時に、何でまた…」

 

「こんな時だからだよ。このまま憂鬱な気分のまま過ごすのもアレだし、みんなで気分を盛り上げて楽園生活を乗り切ろうって…ウォーカー君が。」

 

「Yes!partyすればみんなhappyだぜ!」

 

「そういうもんか…」

 

「今ここに来てないみんなはチャットで呼んでおいたから。せめて既読になってる人達だけでも来てくれるといいんだけど…」

 

神崎、弦野、宝条あたりが来ないのは仕方ないとして、聞谷、札木、一、筆染の4人はちょっと心配だな…

俺達は食堂にいた9人で準備を進め、ものの2時間ほどで準備が終わった。

 

「とりあえず、こんなもんかな。」

 

「わぁーい、かんせー。」

 

「ましろ、アンタずっと邪魔しかしてなかったよね。」

 

「えー、そうだっけー?」

 

「準備は終わったし、あとはまだ来てない7人だね。」

 

食堂にいない7人の話をしていた、ちょうどその時だった。

 

 

 

「うわぁ、何これ!メッチャ豪華!」

 

「本当ですわね!」

 

「お、思った以上にちゃんとパーティーだね…」

 

「……………。」

 

筆染、聞谷、一、札木の4人が食堂に来た。

 

「お前ら…もう大丈夫なのか?」

 

「うん!動機映像を見せられた時は、ショックでどうしたらいいのかわかんなくて部屋に篭っちゃったけど…でも、いつまでもそんな調子じゃいけないからね。」

 

「筆染さんの言う通りですわ。皆さん、ご心配をおかけして申し訳ございませんでした。」

 

良かった…この4人は何とか本調子に戻ってくれたみたいだな。

問題はあとの3人だけど…

 

 

 

「騒がしいな…」

 

「チッ…こんな時にパーティーなんて、ふざけてんのか。」

 

「全くよ。コイツら何考えてんのかしら。」

 

「…え!?」

 

俺は、思わず声を上げてしまった。

なんと神崎、弦野、宝条の3人も食堂に来たのだ。

 

「…何よ、赤刎くん。ゆめの顔に何かついてる?」

 

「あ、いや…お前ら、来てくれたんだな…」

 

「あーもう、ウゼェなぁ。万が一殺人が起きた時に犯人だと思われんのが嫌だから来てやっただけだっつーの。」

 

「この4日間で、貴様らに俺を殺す度胸など無い事はよくわかったしな。」

 

「ゆめはアレよ!たまには庶民のお遊びに付き合ってあげようと思っただけ!わざわざ来てあげたんだから感謝しなさいよね!」

 

「何だよお前ら、素直じゃねぇなぁ。本当はパーティーに参加してみたかったんだろ?」

 

「んなわけあるか!」

 

「律くんって、怒るとちょっと可愛いよね。」

 

「わかる!」

 

「うっせぇ!テメェらマジで後で覚えてろよ!」

 

漕前、黒瀬、筆染の3人が揶揄うと、弦野はムキになって怒鳴った。

 

「はいはい、それじゃみんなグラス持って。」

 

安生が笑いながらグラスを手に取ると、全員自分のグラスを手に取った。

 

「それじゃあ、コロシアイだの動機だの色々思うところはあると思うけど…16人の超高校級がここに集えた事を祝って…乾杯!」

 

『カンパーイ!!』

 

全員がグラスを高く挙げ、パーティーが開催された。

パーティーが始まった途端、全員用意された豪華な料理に手をつけ始める。

 

「んー!何これ!メッチャうまっ!」

 

「美味しいねぇ!ありがとう、仕田原ちゃん!枯罰ちゃん!」

 

「フン、これだから凡愚は…」

 

「Hey、帝!」

 

「?」

 

神崎がジョンの方を振り向くと、突然ジョンは神崎の顔にクリームパイを押し当てた。

 

「「ギャハハハハハハハハ!!!」」

 

「ちょっと神崎くん!アンタどうしたのよそれ!フフッ…キャハハハハハ!!」

 

「ちょっ…帝!?その顔どうしたの…?」

 

「やめなってみんな…笑っちゃかわいそ…ブフゥッ!!」

 

漕前とジョンと宝条が爆笑し、速水と一も笑いを堪えていた。

 

「貴様ら…」

 

「まあまあ、皆さん…あまり笑っては失礼ですわよ。神崎さん、このおしぼりでお顔を…フフッ…」

 

「着物、貴様…」

 

聞谷が笑いを堪えながらおしぼりを神崎に渡すと、神崎は顳顬に青筋を浮かび上がらせた。

 

「いやぁ、完璧なイメージしかない神崎が顔パイまみれにしてんのってウケるな。ジョン、でかした!」

 

「Yeah!」

 

漕前とジョンがハイタッチをした直後、二人の頭に枯罰の拳骨が飛んでくる。

 

「いったぁ!!?」

 

「お前ら食いモン粗末にすんなや。どつくぞコラ。」

 

「「はい、すみませんでした…」」

 

「もう殴ってんじゃん。」

 

「ははは…」

 

俺が呆れて笑っていると、札木が横に来た。

 

「………赤刎くん。」

 

「おう、札木か。どうした?」

 

「……………さっきはごめんなさい。」

 

「さっき?ああ、お前まだ気にしてたのか。別にいいよ。お前も何かつらい事があったんだろ?」

 

「…………あの。」

 

「何だ?」

 

「……赤刎くんは、全員でここから出たいって思ってる?」

 

「当たり前だろ。全員でここから脱出する方法を見つけてここから出るんだよ。誰一人だって欠けたらダメなんだ。」

 

「…………そうだよね、やっぱり生きなきゃダメだよね。」

 

「?どうした?いきなりそんな事聞いてきてよ。」

 

「…ううん。何でもないの。」

 

「そうか。ならいいんだけどよ。」

 

「………。」

 

「そんなに暗い顔すんなよ。お前は笑ってるのが一番可愛いんだからよ。」

 

「………うん。ありがとう。」

 

札木は、俯いていた顔を上げると少し微笑んだ。

さっきは取り乱した様子だったけどパーティーにも馴染んでたし、やっといつもの調子に戻ったのかな?

モノクマに動機映像なんかを見せられて一時的にみんな暗い感じだったけど、札木は元に戻ったし神崎と弦野も参加してくれてるし、やっぱり苦難を乗り越えると団結力って高まるものなんだなって実感した。

たとえ何があっても、俺達なら乗り越えられる。

 

絶対に全員で協力してここから出るんだ!!

 

 

 

パーティーの後は全員で後片付けをして、夜時間までには食堂は綺麗に片付いた。

率先して片付けをしてくれた仕田原と枯罰だったが、目を疑うほどの猛スピードで皿洗いと掃除をこなしていた。

仕田原は【超高校級の家政婦】だからまだわかる。

だが枯罰、何故お前までそんな猛スピードでこなせるんだ?

衣食住全部ハイレベルだし、頭も切れるし武道の心得もあるし、神崎と被るが【超高校級の優等生】とかなんじゃないか?

片付けを済ませた俺は、漕前やジョンと一緒に話をした後部屋に戻っていった。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

5日目。

 

『おはようございます、オマエラ!!朝です!!7時になりました!!今日も元気に殺し合いましょう!!』

 

今日もまた、モノクマの耳障りなモーニングコールで起こされた。

…モノクマもしつこいな。

俺達は絶対にコロシアイなんてしない。

昨日だって、やっとバラバラだったみんなの気持ちが一つになったんだ。

俺は、身支度を整えて食堂に向かおうとした。

すると、丁度その時だった。

 

 

 

 

 

ピーンポーンパーンポーン

 

『死体が発見されました!住民の皆さんは、至急厨房にお集まり下さい!』

 

…死体?

そんな、嘘だ。

俺達の心は一つになったんだ。

殺人なんて起こるわけがない。

きっとモノクマの質の悪いイタズラだ。

そう思いつつ、俺は厨房に向かった。

 

 

 

「どうしたんだ?何かあったのか?」

 

「あ、ああああああ…」

 

厨房に行くと、顔を真っ青にした仕田原が床に尻餅をついて半開きになった冷凍倉庫を指差していた。

その隣には、いつになく落ち着きのない表情をした枯罰が立っていた。

 

「…おい赤刎。中見るんやったら覚悟しいや。」

 

そう言って枯罰が倉庫の扉を開けたので、俺は中を覗いた。

すると…

 

 

 

 

 

「うわぁあああぁああああああああぁああああああっ!!!!」

 

 

 

ーーー嘘だ。

ソイツがここにいるわけがない。

何でお前が…!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【超高校級のタロット占術師】札木未来は真っ赤な紐で腕を繋がれ、血塗れの姿で二度と醒める事のない眠りについていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

ー生存者ー

 

【超高校級の講師】赤刎円

 

【超高校級のカウンセラー】安生心

 

【超高校級の天才】神崎帝

 

【超高校級の香道家】聞谷香織

 

【超高校級の脚本家】黒瀬ましろ

 

【超高校級の幸運】漕前湊

 

【超高校級の???】枯罰環

 

【超高校級の家政婦】仕田原奉子

 

【超高校級の冒険家】ジョナサン・ウォーカー

 

【超高校級の武闘家】武本闘十郎

 

【超高校級のヴァイオリニスト】弦野律

 

【超高校級のソフトウェア開発者】一千歳

 

【超高校級のランナー】速水蘭華

 

【超高校級の画家】筆染絵麻

 

【超高校級の収集家】宝条夢乃

 

ー以上15名ー

 

 

 

 

 




とうとう死人が出たぞー!!
あとどうでもいい事なんだけどちょっとだけ編集したぽ


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非日常編①(捜査編)

犯人は誰でしょうか?
今回、わかりやすすぎたのではないかと猛省中。





嘘だ。

なんで札木が…

昨日まで楽しそうに笑っていたのに。

一緒にここを出て姉さんに会いに行くんだって言ってたのに。

まるで昨日までの札木を否定するかのように、俺達の希望を打ち砕き嘲笑うかのように、深い深い絶望が俺達を襲った。

 

「嘘だ…そんな…札木…うっ、うわぁああああぁあああああああああああああああああああっ!!!」

 

俺は、耳を劈く大声で叫んでいた。

すると、他の奴等も厨房に駆けつけてくる。

そして全員、札木の死を目の当たりにした。

 

「キャアァアアアアアァアアアッ!!!」

 

「ぎゃああああぁああああああっ!!!やだやだ無理無理ボクもう帰る!!」

 

「いやっ!!もういやぁあっ!!」

 

聞谷が叫び声を上げ、一と宝条がパニックを起こす。

 

「あ、あああああああ…」

 

「ひっ…!!嘘、札木…ちゃん…?」

 

「嘘でしょ…!?何で未来が…!?」

 

「そんな…札木さん…うぅっ…」

 

仕田原と筆染と速水は顔を真っ青にし、安生に至っては狼狽えて吐き気を催していた。

 

「…………っ、すまない…!!札木…!!」

 

「…。」

 

「クソが…」

 

武本は札木を守れなかった自分を責め拳を握りしめ、枯罰と弦野も歯を食いしばり怒りに満ちた表情を浮かべていた。

 

「うっ…うぅっ…ボクの大好きな未来ちゃんが…」

 

「…フン、友情ごっこの結果がこれか。随分と笑わせてくれるな。」

 

黒瀬はその場に座り込んで啜り泣き、神崎は呆れて冷たい目を向けていた。

だが、そんな中ジョンと漕前だけは笑っていた。

 

「おい、札木ちゃん。昨日のパーティーの出し物の延長だか何だか知らねぇけどな、さすがにこれはやりすぎだぞ!」

 

「Hahahahaha!!ミライ!bad jokeはやめろよ、unscrupulousだろうが!」

 

「お前ら…」

 

二人は笑い飛ばして現実を受け入れようとしなかった。

どうやら、これはただのドッキリで札木はまだ生きてると本気で思っているらしい。

俺だってそう思いたいよ。

…だけど。

 

 

 

『うぷぷぷ、bad joke?ジョンクン、それってキミの髪型の事?』

 

突然、モノクマの声が聞こえてきた。

 

「モノクマ…!」

 

『あーあ、とうとう起きちゃったね。コロシアイなんてしないって言ったのはどこの誰かな?』

 

「コロシアイだと…!?」

 

『そーだよ!いい加減認めなよ。札木サンは死んだんだよ!』

 

「そんな…うっ、うわぁああああああああっ!!」

 

「ミライ…ミライ!!」

 

モノクマに現実を突きつけられた二人は狼狽えた。

二人も、本当はわかってたんだ。

目の前の光景は、夢でもドッキリでもない。

紛れもない現実なんだ。

 

「テメェ…とうとうやりやがったな!?札木はテメェが殺ったんだろ!?」

 

「そ、そうだよ!モノクマの仕業に違いないよ!」

 

『やだなぁ、弦野クン、一クン!ボクのような心の綺麗なクマが人殺しなんてするわけないじゃん!札木サンはね、この中の誰かに殺されたんだよ!』

 

「何でお前にそないな事わかるん?まさか、監視カメラで犯行の一部始終を見とったんか?」

 

『イグザクトリー!犯行の様子はバッチリ映像に残ってるからね。ボクは誰が犯人かちゃんとわかってるんだ。』

 

「ちょっと待って、殺人が起きたって事は…」

 

『はい!ルール通り、犯人は失楽園となります!…と、言いたいところですが、実はここで一つ問題があるのです!』

 

「問題?」

 

『オマエラ、ルールの5つ目を覚えてる?』

 

「…『仲間の誰かを殺したクロは失楽園となりますが、自分がクロだと他の人に知られてはいけません。』だったか?」

 

『そうです!なので、クロがちゃんとそのルールを守って殺せたかどうかの確認を今からするんだよ!』

 

「確認だと…!?」

 

『今から一定時間、オマエラには殺人事件の捜査をしてもらうよ。捜査時間中は開放中のエリアは自由に探索できるから捜査し放題だよ!そして捜査時間の後、誰が札木サンを殺したかについての議論をする学級裁判を行います!』

 

「なるほどねー。ところで裁判の形式は刑事裁判でいいんだよね?実際の刑事裁判では少なくとも被告人、弁護士、検察官、裁判官がいるんだけどそこら辺の役職とかはどうなるの?」

 

『うぷぷ、黒瀬サンはノリがいいね!オマエラにやってもらう学級裁判は、全員が被告人で、全員が弁護士で、全員が検察官で、全員が裁判官なんだよ!つまり、誰にでも発言して誰かを吊るす権利があるって事!そして、見事真犯人を当てられたら…その犯人は、その場でオシオキするよ!』

 

「オシオキ!?何なのよオシオキって!」

 

『ざっくり言うと死刑です。シケイ。エクセキューション!』

 

「………ふざけるなっ。」

 

「そうだよ!そんなの聞いてないよ!」

 

「完全に後付けルールじゃないですか。」

 

『うるさいなぁ、ちゃんとルールを守れなかったクロが悪いんだよ!』

 

「ちょい待ちい。今、『見事真犯人を当てられたら』言うたよな?外したらどないなるんや?」

 

『うぷぷぷ…もしもクロを当てられなかったり間違った人を指名したりした場合は、クロはルール通り失楽園、それ以外の全員にはエクストリームなオシオキをプレゼントするよ!』

 

「は!?嘘でしょ!?やだやだボク死にたくない!!」

 

「いや!いやぁ!!ゆめを家に帰しなさいよ!!」

 

『そんなに死にたくないなら犯人を見つければいいんだよ!オマエラがクロじゃないなら、それで生き残れるんだよ?』

 

「相変わらず下衆い事考えとるのぉ。ほんで、ずっと気になっとったんやけどさっきの放送は何なん?アレも捜査や学級裁判と関係あるんか?」

 

『おっと、説明を忘れるところでした!殺人が起きた場合、シロとクロの公平性を保つために3人以上が死体を発見すると『死体発見アナウンス』が放送されるんだよ。ちなみに犯行に及んだその時に限りクロはその3人にカウントされないので注意して下さい!』

 

「まぁその場で殺したんだったらその時死体を見てるのは当たり前だし、それは『発見』って言わないもんねぇ。」

 

『そういう事。今からルール追加するから、ちゃんと目を通しといてね!』

 

 

 

ーーー

 

八、殺人が起き、死体を三人以上が発見した場合は死体発見アナウンスが放送されます。事件が発生した時点に限り、クロはその三人の中に含まれません。

 

九、殺人が起きた場合は、一定時間後に全員参加が義務付けられる学級裁判が行われます。

 

十、学級裁判で正しいクロが指摘された場合には、クロだけがオシオキされます。

 

十一、学級裁判で正しいクロが指摘されなかった場合には、クロだけが失楽園、クロ以外の全員がオシオキされます。

 

十二、モノクマが殺人に関与する事はありません。

 

ーーー

 

 

 

「ふーん…」

 

黒瀬は、新たに追加されたルールにざっと目を通していた。

ふーんってお前…さっきまで泣いてたくせに立ち直り早いな。

 

『捜査時間中だから、冷凍倉庫の設定はオフにしておくね。それと、捜査中に役立つモノクマファイルを全員のパスポートにプレゼントするよ。それじゃあボクはこれで。捜査頑張ってねー。』

 

そう言い残して、モノクマは去っていった。

 

「クソッ、あの野郎…!!」

 

「追うな弦野。あんな奴放っとけ。」

 

「せやなぁ。相手にするだけ時間の無駄や。ほな、捜査進めてくか。」

 

「そうだねぇ。便利なファイル貰ったしねー。」

 

「…フン。」

 

枯罰、黒瀬、神崎の3人は早速捜査をしようとしたが、それ以外の全員は動き出そうとしなかった。

 

「そんな、あたし達は高校生なんだよ?殺人事件の裁判なんて無理だよぉ…」

 

「そうよ!やってられないわ!」

 

筆染と宝条が言った直後だった。

枯罰が壁をバンッと叩くと、二人はビクッと肩を跳ね上がらせる。

 

「…先に言わせてもらうけどな、ウチは捜査に協力せえへん奴はどないな理由があろうと敵と見做すで。」

 

「枯罰…?」

 

「ソイツが今後何か言うても無視するし、疑われても擁護せえへん。敵なんぞを庇う義理あらへんやろ?その場で切り捨てて終わりや。」

 

「…。」

 

それを聞いて、全員が押し黙った。

当然だが、これは連帯責任なのだ。

一人でも協力しない奴がいれば全員死ぬかもしれない。

だからこそ、俺達は命懸けで犯人を見つけなきゃいけないんだ。

 

 

 

「ほな始めるか。検視はウチがやるわ。どうせ誰もやりたないやろ?」

 

「面目ない…僕は一応医務室を調べるよ。」

 

「ちょっと待て、枯罰が犯人だったらどうすんだよ?証拠を隠滅されちまうかもしれねぇだろうが。」

 

「確かにね…見張りをつけようか。」

 

「ならオレが見張りをやる。コイツの事は全く信用してねぇからな。」

 

「同感だ。俺も見張らせてもらうぞ。関西弁、俺の前で不正などできると思うなよ。」

 

「勝手にせぇ。」

 

こうして検視は枯罰が、見張りは神崎と弦野がやる事になった。

 

「赤刎君は、全員の捜査結果をまとめておいてくれるかい?」

 

「わかった。」

 

班分けは、ホテル内の探索を聞谷、黒瀬、漕前、仕田原、ジョン、武本、速水。

ホテル外を安生、一、筆染、宝条が担当する事になった。

 

 

 

ーーー

 

 

 

《捜査開始!》

 

 

 

まずはモノクマファイルを確認しておこう。

 

モノクマファイル①

被害者は【超高校級のタロット占術師】札木未来。

死亡時刻は午前0時頃。

死体発見場所は厨房の冷凍倉庫。

死因は凍死。

内臓が内部から破壊されており口からの出血がある。

また、両脚を複雑骨折しており打撲痕が見られる。

 

 

 

コトダマゲット!

 

【モノクマファイル①】

 

 

 

それと、死体発見アナウンスの事も頭の隅に置いとくか。

確か3人が死体を発見するとアナウンスが流れ、犯人はカウントされないんだっけか。

 

 

 

コトダマゲット!

 

【死体発見アナウンス】

 

 

 

俺は、検視をしていた枯罰に声をかけた。

 

「何か分かった事はあったか?」

 

「まずわかったんは、このファイルに嘘はないっちゅうこっちゃ。このファイルに書かれてる事は信用してええ。」

 

「そうか。」

 

「それとなぁ、ちぃと気になる事があんねん。」

 

「何だ?」

 

「札木の身体の周りに広がっとる血見てみぃ。まだ凍ってへんやろ?」

 

「おう。」

 

「けどなぁ、口元の血は凍っとんねん。これ、おかしないか?」

 

「確かに…」

 

 

 

コトダマゲット!

 

【札木の血】

 

 

 

「そういや枯罰、お前は死体発見アナウンスが流れる前に死体を見てるんだよな?」

 

「…ウチの事疑うとるんか?」

 

「いや、そういうわけじゃないんだけど…」

 

「ド阿呆。そこは疑うとる言わんかい。ウチら全員が容疑者やねんぞ。」

 

だったら何でわざわざ聞いてきたんだ。

 

「まあええわ。ウチは、仕田原に呼ばれて冷凍倉庫を見に行ったんやけど、そこで札木の死体を発見した直後にアナウンスが流れたんや。」

 

「って事はお前は第三発見者って事か?」

 

「そうなるなぁ。」

 

 

 

コトダマゲット!

 

【枯罰の証言】

 

 

 

「神崎、お前は何かわかった事とかあるか?」

 

「フン、俺を愚弄する気か。これを見ろ。」

 

神崎は、札木の腕に繋がれた血が染み込んだ細い紐を指差した。

見たところ10mはありそうだな。

よく見ると、依り方が雑だし少しほつれている。

それに、先端には水色の粘土のようなものがくっついているな。

 

 

 

コトダマゲット!

 

【腕の紐】

 

 

 

「それと、この無口のポケットに入っていたものだ。」

 

そう言って、神崎は俺の手に何かを落としてきた。

これは…鍵?

 

「おい、二人とも。神崎がポケットからこれを取り出すところを見たか?」

 

「ああ。」

 

「確かにスカートのポケット漁っとったで。中から鍵取り出すとこも見てたしな。」

 

なるほど、鍵は本当に札木のスカートのポケットに入ってたのか。

 

 

 

コトダマゲット!

 

【ポケットの鍵】

 

 

 

「弦野、お前は何かわかった事はないか?」

 

「チッ…これ見ろよ。」

 

弦野は、嫌そうに床を指差した。

床には、血で『74+18+ムム+8+(36ー19)=96』と書かれていた。

『ムム』の部分を無視したとしても計算が合わないし、きっと何かの暗号なんだろうけど…

 

 

 

コトダマゲット!

 

【謎の文字列】

 

コトダマゲット!

 

【文字列の位置】

 

 

 

「…何だこれは?」

 

「俺が聞きてぇよ。それと、事件と関係あるかどうかはわかんねぇけど札木の服にこんなモンが挟まってたぜ。」

 

そう言って、弦野は血が染み込んだ紙切れを渡してきた。

真っ赤でよく見えないが…これは…何かの表かな?

 

「うーん、ここまで汚れてると内容がわからないな。」

 

「そうかよ。」

 

弦野は不機嫌になってしまった。

…言葉を間違えたかな。

 

 

 

コトダマゲット!

 

【血塗れの紙切れ】

 

 

 

コイツらから聞き出せる情報はこのくらいかな。

俺は、冷凍倉庫内を調べていた黒瀬と武本に話しかけてみる事にした。

 

「お前らは何かわかった事とかあるか?」

 

「………一応冷蔵庫の開閉履歴を調べた。」

 

そう言って、武本は手書きのメモを渡してきた。

 

ーーー

 

21:32 開

21:55 閉

07:30 開

 

ーーー

 

「これはモノクマから聞いたものを書き取ったものだ。」

 

「ボクも見てたよー。」

 

なるほどな…つまり、21時55分から7時半の間は冷凍庫の鍵が閉まってたって事か。

 

 

 

コトダマゲット!

 

【手書きの履歴メモ】

 

 

 

「…そうか。よくわかったよ。ありがとう。黒瀬は何かわかった事あるか?」

 

「んーっとねぇ。何か、ここら辺から甘くてちょっとスースーした香りがするんだー。しかもちょっとベタベタしてない?」

 

黒瀬は、そう言って扉のターンロックを指差した。

 

「…本当だな。」

 

「事件にはあんまり関係ないと思うけどねー。」

 

「いや、そう決めつけるのは良くない。何か重要な手がかりかもしれないぞ。」

 

 

 

コトダマゲット!

 

【ターンロックの香り】

 

 

 

ここで得られる情報はこれくらいかな。

ジョンに声をかけてみよう。

 

「ジョン、お前は何かわかった事はあるか?」

 

「Well,this incidentとrelationshipがあるかはわかんねーけど、shelfの上にこんなものが置いてあったぜ。」

 

棚の上には、荷物を噛ませて斜めにした板とその周りに積まれた荷物があった。

 

「何だこれは…?」

 

「No clue.」

 

 

 

コトダマゲット!

 

【荷物と板】

 

 

 

冷凍倉庫内で手に入る情報はこれくらいかな。

俺は、厨房を調べていた聞谷、漕前、仕田原の3人に声をかけた。

 

「何かわかった事とかあるか?あったら教えて欲しいんだが。」

 

「ええっとですね…こんなものが落ちていましたの。ご覧下さいまし。」

 

そう言って、聞谷は糸を見せた。

 

「…あれっ?この糸って…」

 

「おそらく女子の裁縫セットに入っていたものだと思われますわ。」

 

「ああ、仕田原が言ってた超強化糸か。」

 

 

 

コトダマゲット!

 

【裁縫セットの糸】

 

 

 

「あと、こんなものも落ちていましたわ。」

 

そう言って、聞谷はガラス片を指差した。

 

「これは…?」

 

「あ、あまり触らない方が良いかと…赤刎さん、それで昨日怪我をなさったんですから。」

 

「あ、確かにな。」

 

 

 

コトダマゲット!

 

【ガラス片】

 

 

 

「漕前は何か見つけたか?」

 

「えーっとな。見つけたっていうか…逆になくなってたものならあるんだよな。」

 

「なくなってたもの?」

 

「これだよ。」

 

そう言って、漕前は空のケースを見せてきた。

 

「昨日片付けをしてた時はここにガムがいくつか入ってたはずなんだけど、今見たらごっそりなくなってたんだよな。あ、事件と関係あるかどうかは知らねぇけどな。」

 

「…いや、有益な情報かもしれない。ありがとう。」

 

 

 

コトダマゲット!

 

【厨房から消えたガム】

 

 

 

「仕田原、ちょっといいか?」

 

「はい、何ですかね?」

 

「あのさ、冷凍倉庫の鍵って何本あんの?」

 

「2本ですね。事件当時は自分と札木さんが持ってたはずです。」

 

 

 

コトダマゲット!

 

【冷凍倉庫の鍵】

 

 

 

「…あの。赤刎さん。」

 

「どうした?仕田原。」

 

「ええっとですね…さっきは混乱してて言い出せなかったんですけど、その…実は、自分が最初に札木さんのご遺体を見た時とは状態が変わってるんです。」

 

「何?」

 

「自分が見た時はあんなに血が出てなかったですし、札木さんはうつ伏せで倒れてたんです。」

 

「な…それ、本当か!?おい仕田原、死体を発見したのと冷凍倉庫を最後に開けたのはいつだ!?」

 

「ええっと…ご遺体を発見したのが午前7時半で…それから枯罰さんを呼びに個室のフロアに向かって、最後に冷凍倉庫を開けたのがその5分後ですね。」

 

7時半か…ちょうど履歴の時間と一致してるから嘘はついていなさそうだ。

…あれ?

 

「7時35分に鍵を開けた履歴が残ってないんだが…どうしてだ?」

 

「…あ、すみません。自分、ご遺体を見て動揺していたせいか冷凍倉庫に鍵をかけるのを忘れてしまってたみたいなんです。」

 

「なるほどな。」

 

 

 

コトダマゲット!

 

【仕田原の証言】

 

 

 

厨房で聞き出せる情報はこのくらいか。

あとは…速水がトラッシュルームの捜査をしてくれてたはずだ。

何か見つけたか聞いてみるか。

 

「速水、お前は何か見つけたか?」

 

「あ、うん。」

 

そう言って速水が見せてきたのは、割れた小瓶と血塗れになったポリ塩化ビニルの袋だった。

 

「なんかよくわかんないけど捨てられてたから拾っといたよ!」

 

 

 

コトダマゲット!

 

【割れた小瓶】

 

コトダマゲット!

 

【血塗れの袋】

 

 

 

ホテル内で手に入れられる情報はこのくらいかな。

診療所にいる安生に話を聞いてみよう。

 

「安生は何か見つけたか?」

 

「えっと、逆になくなったものなら。」

 

「何だ?」

 

「輸血パックと毒薬の瓶だよ。」

 

「な…!?毒薬って、確か俺達で隠して封じといたよな!?なのにどうして…!」

 

「…残念な事に、対策は失敗したみたいだね。」

 

 

 

コトダマゲット!

 

【輸血パック】

 

コトダマゲット!

 

【毒薬の瓶】

 

 

 

「…なぁ、毒の場所を知ってるのって…」

 

「僕と君、あとはここの探索を担当してた神崎君、黒瀬さん、枯罰さん、武本君だけだね。…一応聞くけど、毒薬の場所は誰にも話してないよね?」

 

「当たり前だ。」

 

「…そっか。あとは、黒瀬さんが誰かに毒の場所を話してなければいいんだけど…」

 

 

 

コトダマゲット!

 

【安生の証言】

 

 

 

あとは、一、筆染、宝条の3人に聞いてみるか。

 

「お前らは何かわかった事とかあるか?」

 

「んー…あたし、探し物とか得意じゃないんだよね。だからゆめちゃんと一緒にみんなに事件当時何をしてたのか聞いてみたんだ。」

 

「おう、詳しく教えてくれ。」

 

「まず、君は漕前君とジョン君と一緒に夜の8時半から9時50分までの間ジョン君の部屋で話してたんだよね?」

 

「ああ、間違いない。」

 

俺はパーティーの片付けが終わった後、二人と話をしてから夜時間の直前に部屋に戻った。

 

「あたしはその時食堂にいたんだけど、聞谷ちゃん、黒瀬ちゃん、武本君、弦野君、一君は8時40分から10時までの間一緒にプレイルームにいたよ。その間安生君と枯罰ちゃんと速水ちゃんは一緒に倉庫の片付けをしてたんだってさ。あと、神崎君は部屋で寝てたらしいよ。」

 

「ゆめは、仕田原と一緒にランドリールームにいたわよ。」

 

「珍しい組み合わせだな。何で仕田原と?」

 

「うるさいわね!何だっていいじゃない!」

 

すげーキレられた…

 

 

 

コトダマゲット!

 

【宝条の証言】

 

 

 

「あ、そうそう。それと、冷凍倉庫の履歴とは時間が違うから多分関係ないと思うけど、武本君は途中からプレイルームに来たんだよね。確か9時半ちょっと前くらいだったかな?トイレしてきたんだって。それと、その直後黒瀬ちゃんもトイレしてくるって言って出てって、5分ぐらいで戻ってきたよ。」

 

「なるほどな。」

 

 

 

コトダマゲット!

 

【筆染の証言】

 

 

 

「一、お前は何かわかる事とかあるか?」

 

「あ、えっと…これ…」

 

そう言って見せてきたのは、パスポートだった。

 

「これ…札木さんの死体の近くに落ちてたから調べてくれって、枯罰さんに…多分札木さんのだと思うんだけど…」

 

「あれ?でもこれ壊れてるよな?電源が付かねぇぞ。」

 

「あ、それはね。パスポートの性質が原因なんだ。」

 

「性質?」

 

「うん、そのパスポートね。衝撃とか電圧とか水とか、あらゆるものに対して耐性があるんだけど、極度な高温と低温には弱いんだよね。具体的には、−50℃の空間の中に3時間ぐらい入れてたら壊れちゃうんだ。」

 

「…まさかとは思うけど、実験したんじゃないだろうな?」

 

「まさか。うっかり壊したらマズいと思ってあらかじめモノクマに聞いておいたんだよ。ボク、機械だけは強いから…」

 

「…そうか。」

 

一の奴、意外と有能だな。

 

「…今、『意外と』有能だなって思ったでしょ。」

 

ギクッ…

 

「いいよ、どうせボクは機械以外はポンコツだし。」

 

あーあ、拗ねちゃったよ。

 

 

 

コトダマゲット!

 

【壊れたパスポート】

 

コトダマゲット!

 

【パスポートの弱点】

 

 

 

ピーンポーンパーンポーン

 

『えー、もう待ちくたびれたので捜査時間を打ち切らせていただきます!オマエラ、ホテル1階のエレベーター前まで集合して下さい!15分以内に来ないとオシオキしますよー!』

 

え、もう終わり!?

まだ調べたい事あったんだけど…

でも、ここで迷っている場合じゃない。

俺は、覚悟を決めてエレベーター前に向かった。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

エレベーター前には、神崎、黒瀬、枯罰以外の11人が集まっていた。

俺がエレベーター前に集まってから数分後、ようやく3人が来る。

 

「すまんなぁ。ちぃと気になる事があって調べとったら遅なったわ。」

 

「おまたぁ〜♪」

 

「…フン。」

 

ようやく3人が集まり、その直後アナウンスからちょうど15分になった。

 

『うぷぷぷ、ちゃんと全員集まりましたね?』

 

「テメェ、こんな所に俺達を集めて何させる気だ?」

 

『言ったでしょ?これから裁判をやるんだよ!でも、こんな所でやるのは華がないよね?そういうわけなので、オマエラには今から裁判をするのにふさわしい場所に移動してもらいます!』

 

モノクマがそう言った直後、エレベーターの扉が開く。

乗ってみると、今まで行けなかった地下にいけるようになっていた。

15人全員が乗り込んだ直後、エレベーターの扉が閉まり下に動き出した。

 

…本当に、この中にいるのか?

札木を殺した犯人が…

俺だって、本当はみんなを疑いたくない。

モノクマの仕業だって思いたい。

だけど、ここで間違った判断をしてしまったら犯人以外の全員が死ぬ。

だったら俺はやる。

 

…待ってろよ、札木。

俺達がお前の仇を討ってやるからな。

 

 

 

「…。」

 

恐怖や絶望で折れそうな心を奮い立たせ命懸けの裁判に挑もうとする少年を、才能を語らない少女が静かに見下ろしていた。

 

 

 

 

 


 

 

 

ー生存者ー

 

【超高校級の講師】赤刎円

 

【超高校級のカウンセラー】安生心

 

【超高校級の天才】神崎帝

 

【超高校級の香道家】聞谷香織

 

【超高校級の脚本家】黒瀬ましろ

 

【超高校級の幸運】漕前湊

 

【超高校級の???】枯罰環

 

【超高校級の家政婦】仕田原奉子

 

【超高校級の冒険家】ジョナサン・ウォーカー

 

【超高校級の武闘家】武本闘十郎

 

【超高校級のヴァイオリニスト】弦野律

 

【超高校級のソフトウェア開発者】一千歳

 

【超高校級のランナー】速水蘭華

 

【超高校級の画家】筆染絵麻

 

【超高校級の収集家】宝条夢乃

 

ー以上15名ー

 

 

 

 

 



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非日常編②(学級裁判前編)

コトダマリスト

 

【モノクマファイル①】

モノクマファイル①

被害者は【超高校級のタロット占術師】札木未来。

死亡時刻は午前0時頃。

死体発見場所は厨房の冷凍倉庫。

死因は凍死。

内臓が内部から破壊されており口からの出血がある。

また、両脚を複雑骨折しており打撲痕が見られる。

 

【死体発見アナウンス】

死体を3人以上が発見すると死体発見アナウンスが流れる。

事件が起こった直後のみ犯人は数に入らない。

 

【札木の血】

口の周りの血は凍っているが、身体の周りの血は凍っていない。

 

【枯罰の証言】

枯罰は、仕田原に呼び出されて冷凍倉庫に向かった。

アナウンスが流れたのは枯罰が死体を見た直後。

 

【腕の紐】

札木の腕には血が染み込んだ細い紐が繋がれていた。

長さは目測で約10mで、少しほつれており先端に水色の粘土のようなものが貼り付いている。

 

【ポケットの鍵】

札木のポケットに鍵が入っていた。

 

【謎の文字列】

床には、血で『74+18+ムム+8+(36ー19)=96』と書かれていた。

何かのメッセージなのだろうか。

 

【文字列の位置】

文字は、仰向けに倒れている札木のちょうど頭上に書かれていた。

 

【血塗れの紙切れ】

札木の服に挟まっていた紙切れ。

血で汚れて内容は読めないが、何かの表と思われる。

 

【手書きの履歴メモ】

武本がモノクマから聞いて書き取った冷凍倉庫の開閉履歴のメモ。

21時32分に開けられた後21時55分に閉められており、翌日の7時半に再び開けられている。

 

【ターンロックの香り】

冷凍倉庫のターンロックから甘くてスースーした香りがする。

 

【荷物と板】

棚の上に荷物を噛ませて斜めにした板とその周りに積まれた荷物があった。

 

【裁縫セットの糸】

厨房に落ちていた。

女子の裁縫セットに入っていた糸。

強靭で、簡単には千切れないのが売り。

 

【ガラス片】

厨房にガラス片が落ちていた。

 

【厨房から消えたガム】

厨房に置いてあったガムが、翌日にはごっそりなくなっていた。

 

【冷凍倉庫の鍵】

事件当時冷凍倉庫の鍵を持っていたのは仕田原と札木のみ。

 

【仕田原の証言】

仕田原が札木の死体を見た時はうつ伏せで倒れており、身体に血は付着していなかった。

 

【割れた小瓶】

割れた小瓶がトラッシュルームに捨てられていた。

 

【血塗れの袋】

ポリ塩化ビニルの袋がトラッシュルームに捨てられていた。

破れており、表面は血塗れになっている。

 

【輸血パック】

輸血パックが一つ診療所から持ち出されていた。

 

【毒薬の瓶】

毒薬の瓶が何者かに盗まれた。

 

【安生の証言】

毒薬の場所を知っていたのは俺、安生、神崎、黒瀬、枯罰、武本の6人。

 

【宝条の証言】

事件当時、宝条は仕田原と一緒にランドリールームにいた。

 

【筆染の証言】

20時半から21時50分の間、俺、漕前、ジョンの3人はジョンの部屋にいた。

聞谷、弦野、一、筆染の4人は20時40分から22時までの間プレイルームにいた。

9時半頃に武本がプレイルームに入室し、その直後黒瀬が退室。黒瀬は5分ほどで戻ってきた。

4人がプレイルームにいる間安生、枯罰、速水の3人は倉庫にいて、神崎はずっと部屋で寝ていた。

 

【壊れたパスポート】

札木の近くに落ちていた。

壊れており電源がつかない。

 

【パスポートの弱点】

電子機器の故障のあらゆる要因に対して耐性があるが、高温低温にのみ弱い。

−50℃で3時間放置すると壊れる。

 

 

 


 

 

 

エレベーターが止まると、扉が開いた。

目の前には裁判所のような部屋が広がっており、席が環状に並べられていた。

その奥では、モノクマが専用の席で偉そうにふんぞり返っていた。

 

『やっと全員来たね。それでは、全員自分の名前が書かれた席について下さい!』

 

そう促され、全員自分の席につく。

俺から時計回りに、安生、神崎、聞谷、黒瀬、漕前、枯罰、札木、仕田原、ジョン、武本、弦野、一、速水、筆染、宝条の順に並んだ。

 

『全員席に着きましたね。それでは、始めましょうか!お待ちかねの学級裁判を!』

 

 

 

《学級裁判 開廷!》

 

 

 

モノクマ『ではまず裁判の簡単な説明をしておきましょう。学級裁判では『仲間を殺した犯人は誰か』について議論をし、その結果はオマエラの投票によって決まります!もし正解ならクロのみがオシオキ、不正解ならクロのみが失楽園、それ以外の全員がオシオキとなります!』

 

筆染「あのさ…それより、アレは何?」

 

札木の席には札木のモノクロの顔写真に大きくバツが書かれた遺影が飾られていた。

筆染は、札木の遺影を指差しながら尋ねた。

 

モノクマ『ちょっと、筆染サン!仲間に対して『アレ』はひどくない!?札木サンだってオマエラの仲間だったんだよ?死んだからって仲間外れにしちゃ可哀想でしょ!?』

 

ジョン「crueはオマエの方だろ!!」

 

漕前「札木ちゃんの死を弄びやがって…!!」

 

枯罰「ホンマええ趣味しとんのぉ。せやけどな、今はあないなイタズラ気にしとる場合とちゃうやろ?議論して犯人吊さなウチらが死ぬんやぞ。」

 

赤刎「枯罰の言う通りだ。早く議論をしないと…」

 

ここで間違えれば、俺達が死ぬ。

だったら、どんな綻びも見逃さないよう慎重に議論を進めるんだ。

 

『それではジャンジャン話し合ってくださーい!』

 

一「あ、あの!ボクは犯人じゃないですから!犯人はボク以外の誰かに違いないんで!だから、ボクには絶対に投票しないで…」

 

枯罰「黙れド阿呆!!」

 

一「ひっ!?」

 

枯罰「お前みたいな腰抜け、最初から疑う価値もあらへんねん!喚く暇あるなら議論に参加せんかいボケ!!」

 

一「す、すみません!!」

 

枯罰「…ったく。ほな、始めよか。」

 

聞谷「そう仰いましても…まず何を話せばよろしいんですかね?」

 

赤刎「まずは事件を振り返るべきだと思うな。」

 

安生「それなら僕がファイルを読み上げるよ。」

 

 

 

ーーー議論開始!!ーーー

 

 

 

安生「被害者は《【超高校級のタロット占術師】札木未来》。死亡時刻は《午前0時頃》。死体発見場所は厨房の《冷凍倉庫》。死因は《凍死》。」

 

ジョン「クソッ、あんなに優しかったミライを殺すなんて…!」

 

筆染「酷いよ…」

 

安生「《内臓が内部から破壊されており口からの出血がある》。また、《両脚を複雑骨折しており打撲痕が見られる》。」

 

黒瀬「あと、未来ちゃんの身体には血がいっぱい付いてたよねー。」

 

速水「血がいっぱい…あ、わかった!未来は《刺し殺された》んじゃないの!?」

 

漕前「女の子を刺し殺すなんて…!」

 

ジョン「So crazy!!」

 

武本「………卑劣な…ッ!!」

 

今の速水の発言はおかしい!

 

 

 

《刺し殺された》⬅︎【モノクマファイル①】

 

「それは違うぞ!!」

 

《論 破》

 

 

 

赤刎「モノクマファイルに書かれている以上、死因は凍死だ。」

 

宝条「でもそんなのあのクマの捏造かもしれないじゃない!!」

 

赤刎「いや、あのファイルは本物だった。枯罰にも確認を取ってあるし間違いないよ。」

 

枯罰「それに仮に刺したんやったら身体に刺し傷が残るやろ。外傷は両脚の骨折だけやったし、刺殺とちゃうと思うぞ。」

 

速水「あ、そうだね。ごめ。」

 

仕田原「じゃあ、札木さんの口からの出血というのは一体…?」

 

安生「内臓を破壊されたというのも気になるね。」

 

赤刎「じゃあ、札木の口からの出血の原因について議論するか。」

 

 

 

ーーー議論開始!!ーーー

 

 

 

速水「《思いっきり殴った》んじゃないの!?」

 

聞谷「物騒ですわね…」

 

武本「………いや、それだと足だけでなく胴体にも打撲痕が残るはずだが。」

 

一「何かの拍子に《口の中を切っちゃった》んじゃないの?」

 

黒瀬「それだと内臓破壊の説明ができないと思うよー。」

 

宝条「《毒》は?札木は毒を盛られたのよ!!」

 

ん?今、気になる発言をした奴がいるな。

俺の集めた証拠を提示してみるか。

 

 

 

《毒》⬅︎【毒薬の瓶】

 

「それに賛成だ!!」

 

《同 意》

 

 

 

赤刎「…札木はおそらく毒を盛られたんだ。安生の証言によると、毒薬の瓶が診療所から一本盗まれていたらしい。」

 

一「毒だって!?ひぃいいいいいいっ!!ぶ、物騒な…!!」

 

筆染「でも、それだと死因は毒殺になっちゃわない?」

 

安生「いや、致死量に達しない量を盛れば意識だけ奪って冷凍倉庫に置き去りにして凍死させる事は可能だよ。」

 

 

 

弦野「テメーの言葉は雑音だな。」

 

《反 論》

 

 

 

赤刎「弦野?」

 

弦野「テメーの推理は穴だらけだっつってんだよ。それを今から教えてやるよ。」

 

 

 

ー反論ショーダウン開始ー

 

弦野「テメェの推理だと、犯人は札木に毒を盛った後冷凍倉庫に札木を閉じ込めたって事になるよな?」

 

赤刎「そうだが…」

 

弦野「じゃあ毒が実際に盗まれたっつー証拠は?安生がそう言ってたってだけで決めつけるのはいただけねぇな。診療所から毒が持ち出された《証拠がねぇ》だろうがよ!」

 

《証拠がねぇ》⬅︎【割れた小瓶】

 

「その言葉、ぶった斬る!!」

 

《論 破》

 

 

 

赤刎「トラッシュルームに割れた小瓶が捨てられていた。」

 

弦野「はぁ?それがどうしたんだよ!」

 

赤刎「安生、一応捨てられてた瓶の写メ撮ってきたんだけど、盗まれたのってこの瓶で合ってるよな?」

 

安生「うん、間違いない。それは診療所から盗み出されたものだよ。」

 

赤刎「それに、札木が毒を盛られたっつー根拠なら他にもある。」

 

 

 

コトダマ提示!

 

【ガラス片】

 

「これだ!!」

 

 

 

赤刎「厨房にガラス片が落ちていた。色や形状から判断するに、おそらくこれは小瓶の破片だ。これは札木が閉じ込められていた冷凍倉庫から近い位置にあったものだし、事件に毒が使われた可能性が高い。多分、札木に毒を盛った時に犯人が誤って瓶を落として割ってしまったんだろう。それで床を掃除して毒を拭き取って瓶を回収したつもりだったんだろうけど、小さな破片までは回収し切れなかったんだ。」

 

ジョン「I see.」

 

武本「……………これで死因と出血の原因は明らかになったわけか。次はどうする?」

 

神崎「こういうゲームではまず、自分のアリバイを証明するのがセオリーだと思うが。」

 

枯罰「おい、ちょい待ちいお前。今ゲーム言うたよな?何やゲームて。」

 

神崎「……フン、こっちの話だ。それより、さっさと次の議題に移れ。」

 

赤刎「え?あ、ああ…」

 

神崎の奴、何か様子が変じゃないか?

命懸けの裁判だっていうのに不気味なぐらい落ち着いてるし、俺達が言い合いになる度に笑っているような気がする。

神崎をこのまま放置して議論を進めてもいいんだろうか…?

 

 

 

ーーー議論開始!!ーーー

 

 

 

安生「まずはお互いのアリバイを証明しておこうか。」

 

ジョン「でも、ミライのcold deathはduring a night timeだろ?alibiのproofなんてできないぜ。」

 

黒瀬「そうでもないよー。だって、死因は凍死だよ?《実際の死亡時刻は犯行時刻より数十分から数時間は後》のはずだよー。だから、《昼時間中に犯行が行われた可能性》は十分あると思うよー。」

 

漕前「でも、その犯行時刻がわからないんじゃなぁ。」

 

黒瀬「心配御無用ー。実は闘十郎くんがー、ちゃんと冷凍倉庫の開閉履歴を調査してくれてたのですー。」

 

武本「……………ああ。《冷凍倉庫は昨日の9時半過ぎに一度開けられている》。おそらくこの時に犯人は札木を冷凍倉庫に閉じ込めたんだ。」

 

聞谷「では、その時間わたくし達が何をしていたのかを議論すればよろしいんですの?」

 

筆染「そうだね。あ、ちなみに《聞谷ちゃん、弦野君、一君、あたしの4人は潔白だよ》。ずっと一緒にプレイルームにいたもん。」

 

一「ほら!!ね!?ボクは犯人じゃないんだよ!!」

 

枯罰「せやからお前は度胸がないから犯人な訳ない言うとるやろ。」

 

一「う…」

 

速水「ってか、律も一緒にいたの?意外ー。」

 

弦野「チッ、筆染に無理矢理付き合わされたんだよ。アリバイは証明されたんだから文句無いだろ。…まあ俺は、一人怪しいと思ってる奴がいるけどな。」

 

ジョン「Who?」

 

弦野「…枯罰だよ。」

 

枯罰「ウチかいな。」

 

弦野「正直俺はテメェならやりかねないって思ってたぜ。テメェは才能を明かしてねぇし、やけに落ち着いてるじゃねぇかよ。」

 

枯罰「…阿呆らし。」

 

赤刎「そうだ。それだけで決めつけるのは良くない。現に枯罰が犯人だっていう証拠が無いだろ。」

 

弦野「逆に枯罰が犯人じゃねぇっつー証拠もねぇよな?《札木殺しの犯人はテメェだ》枯罰!!」

 

今の弦野の発言はおかしい!

 

 

 

《札木殺しの犯人はテメェだ》⬅︎【筆染の証言】

 

「それは違うぞ!!」

 

《論 破》

 

 

 

赤刎「弦野、やっぱり枯罰は犯人じゃない。」

 

弦野「あ?」

 

赤刎「だよな、安生、速水?」

 

速水「うん、環は犯人じゃないよ!アタシと心とずっと一緒にいたもん!」

 

安生「うん。それは僕も保証する。枯罰さんは、僕達と一緒に倉庫の整理をしてくれていたんだ。」

 

弦野「信用できねぇな。テメェら二人が共犯かもしれねぇだろうが。」

 

枯罰「…おいクマ公。共犯したらどないなるんや?」

 

モノクマ『その場合はね、実行犯のみがクロという扱いになるよ。もし投票結果が不正解だった場合、実行犯のクロだけが失楽園、共犯者にはエクストリームなオシオキをプレゼントするよ!』

 

枯罰「な?聞いたやろ?共犯しても何のメリットも無いねん。」

 

赤刎「だから言っただろ。枯罰は犯人じゃない。」

 

弦野「チッ…」

 

筆染「ああ、そうそう。あと、武本君はシロだよ。武本君は犯行時刻の直前にプレイルームに来てるからね。」

 

黒瀬「絵麻ちゃーん、ボクもみんなと一緒にいたんだけどなー。」

 

筆染「…いや、黒瀬ちゃんはちょうど犯行時刻に5分ぐらい席外してたじゃん。」

 

黒瀬「それはおしっこしに行ってたのー。」

 

弦野「そんなの何とでも言えるだろうが。とにかく、テメェは犯行時刻のアリバイがねぇから疑いは晴れてねぇぞ。」

 

黒瀬「ぐぬぬ…」

 

枯罰「おいチビ、お前は?」

 

赤刎「え?あ、俺は漕前とジョンと一緒にいたよ。な?」

 

ジョン「Yeah.」

 

漕前「おう、俺も保証するぜ。」

 

聞谷「という事は、犯人さんは神崎さん、黒瀬さん、仕田原さん、宝条さんの中にいらっしゃるという事ですの?」

 

宝条「いや、あの…」

 

枯罰「何や宝条、言いたい事あんのか?せやったらハッキリ言わんかい。」

 

宝条「うっ…い、いや、何でもないわ…」

 

枯罰「?まあええわ。ほな、犯行可能な奴を絞ってくんでええよな?」

 

一「あのぅ…冷凍倉庫って、専用の鍵があるんだよね?だったらそれを持ってる人が犯人なんじゃないの…?」

 

速水「あ、そっか!え、誰なの!?鍵持ってんのって!!」

 

それって…

 

 

 

《人物指定》

 

 

 

 

赤刎円

 

安生心

 

神崎帝

 

聞谷香織

 

黒瀬ましろ

 

漕前湊

 

枯罰環

 

札木未来

 

仕田原奉子

 

ジョナサン・ウォーカー

 

武本闘十郎

 

弦野律

 

一千歳

 

速水蘭華

 

筆染絵麻

 

宝条夢乃

 

 

 

 

 

➡︎仕田原奉子

 

 

 

 

赤刎「仕田原、お前だよな?」

 

仕田原「…え!?自分ですか!?」

 

 

 

ーーー議論開始!!ーーー

 

 

 

赤刎「お前は毎日厨房で料理してるし、冷凍倉庫の鍵も持ってるよな?」

 

仕田原「いや、そりゃあ持ってますけど…でも、それだけで犯人にされたんじゃ…!!」

 

弦野「でも実際、《冷凍倉庫を開け閉めできんのはテメェだけ》だろうが。」

 

武本「…………確かにな。」

 

仕田原「違います!そりゃあ、自分はホント役立たずなんで皆さんが疑うのも無理はないですけど…でも、命が懸かってるんで違うものは違うと言わせてもらいますよ!」

 

神崎「ほざけ瓶底。言うのは勝手だが、今の所《犯行可能なのは貴様だけ》なのだぞ。」

 

仕田原「うぅっ…」

 

ジョン「Wait!!オレ、kitchenに入った事あるけどfreezing roomのkeyは2本あったぜ!トモコの他にも、《この中にいる奴でkeyを持ってる奴がいるだろ》!!」

 

今のジョンの発言はおかしい!

 

 

 

《この中にいる奴でkeyを持ってる奴がいるだろ》⬅︎【冷凍倉庫の鍵】

 

「それは違うぞ!!」

 

《論 破》

 

 

 

赤刎「…いや、ジョン。この中で鍵を持ってるのは仕田原だけだ。」

 

ジョン「Why!?keyは2本あるんだろ!?だったら持ってる奴がいるかもしれないだろ!」

 

赤刎「うん、確かに鍵は2本ある。そして鍵を持ってた奴は仕田原の他にいる。」

 

ジョン「See!」

 

赤刎「…けどな。その鍵を持ってた奴って、札木なんだよ。」

 

ジョン「Huh!?」

 

赤刎「それは仕田原自身が認めてる。つまり、今生きてる奴の中で鍵を持ってるのは仕田原だけだ。」

 

 

 

漕前「悪い、ちょっといいか?」

 

《反 論》

 

 

 

赤刎「漕前?」

 

漕前「赤刎、悪いけどお前の推理には穴がある。だから俺からいくつか言わせてもらうぜ。」

 

 

 

ー反論ショーダウン開始ー

 

漕前「確かに仕田原ちゃんは、仕田原ちゃんと札木ちゃんが鍵を持ってるのは認めたよ。でも、それって札木ちゃんが生きてた時の話だろ?」

 

仕田原「えぁ…?は、はい…」

 

漕前「だったら、犯人が札木ちゃんから《鍵を奪った》可能性だってあるじゃねぇか!!本当は隠してるだけで誰かが鍵を持ってて、ソイツが真犯人なんじゃねぇのか!?」

 

確かに、一見その可能性は無いとは言い切れないように思える。

だが、俺はそうじゃないと断言できる証拠を持ってる…!

 

《鍵を奪った》⬅︎【ポケットの鍵】

 

「その言葉、ぶった斬る!!」

 

《論 破》

 

 

 

赤刎「…残念ながらそれはないな。」

 

漕前「はぁ!?何で!?」

 

赤刎「札木のポケットに鍵が入っていたからだ。つまり、鍵を外から開け閉めできたのは仕田原だけって事になる。」

 

仕田原「そ、そんな…で、でも…!自分、本当にやってないんです!!嘘じゃありません!!」

 

漕前「そうだよ!仕田原ちゃんは犯人じゃねぇ!見ろよ、嘘ついてるように見えねぇだろ!?」

 

弦野「理屈になってねぇよ。テメェは何とかして仕田原を庇いてぇようだけどな、仕田原が犯人じゃねぇって言い切れる根拠なんかねぇだろ?」

 

黒瀬「そうそう。それにさー、嘘ついてるかどうかが見てわかるんだったらとっくに犯人さん見つかってるよね?誰が嘘ついてるのかわからないから議論が行き詰まってるんじゃない。」

 

漕前「そ、それは…そうだけど…」

 

聞谷「仕田原さん、悲しい事ですが殺人は許される行為ではありませんわ。あなたは札木さんを殺害なさってしまったのにはあなたなりの事情がおありなのでしょうけど、罪は罪です。潔く認めて下さいまし。」

 

仕田原「だから自分は犯人じゃないんですよ!あ、そうだ!宝条さん!宝条さんからも何か言って下さいよ!」

 

宝条「…。」

 

神崎「何も言う事は無いそうだが?」

 

仕田原「そんな…!」

 

神崎「フン、頼みの綱だった縦ロールにも見捨てられたか。まあ、何故貴様がこんな女を頼ったのかは知らんがな。」

 

筆染「そんな…嘘だよね?」

 

速水「奉子が犯人だったんだね…」

 

仕田原「いや、だから…」

 

みんなが仕田原を白い目で見る。

犯人じゃないと言い切れる証拠が無い仕田原は、みんなからの信用を得る事が出来なかった。

黒瀬に至っては、ショックのあまり泣き出してしまった。

 

黒瀬「うぅっ、ぐすっ…ひどいよぉ、奉子ちゃん…ボク達の事を騙してたんだね…ボク達、お友達だと思ってたのに…うっ、ふぅっ…」

 

仕田原「いやいやいや!!泣きたいのはこっちですよ!!自分はやってませんから!!お願いします、皆さん信じて下さい!!」

 

一「そう言われても…ねぇ。」

 

聞谷「仕田原さん…ごめんなさい…」

 

武本「………すまない。俺はお前を庇えない。」

 

宝条「…。」

 

仕田原「そ、そんな…」

 

弦野「決まりだな。もう投票に移ろうぜ。」

 

武本「……………賛成だ。話し合うだけ話し合った。結論も出たし、もういいだろう。」

 

安生「ちょっと待ってよ、まだ…」

 

弦野「うるせぇなぁ!!犯人は仕田原以外あり得ねぇんだよ!!」

 

…本当にそうか?

本当に仕田原が犯人だと決めつけていいのかな。

まだ何か、見落としてる事があるような気がするんだが…

 

モノクマ『おっと、結論が出たみたいですね。ではでは、投票ター…』

 

 

 

枯罰「待てやド阿呆!!!」

 

声を荒げたのは枯罰だった。

 

枯罰「仕田原、ウチはお前を信じとるぞ。」

 

仕田原「枯罰さん…!!」

 

枯罰「それにしてもなぁ…お前ら黙って聞いとったらどいつもこいつも阿呆な事言いよってからに、命懸かっとんの忘れたんか!?」

 

あれ?

枯罰?

なんか、いつになく元気なような…

 

枯罰「ウチかて死ぬんは嫌やし、お前らの舐め切った根性叩き直したるわ。シャキッとせんかいド阿呆共!!!」

 

 

 

《学級裁判 中断!》

 

 

 

 

 


 

 

 

ー生存者ー

 

【超高校級の講師】赤刎円

 

【超高校級のカウンセラー】安生心

 

【超高校級の天才】神崎帝

 

【超高校級の香道家】聞谷香織

 

【超高校級の脚本家】黒瀬ましろ

 

【超高校級の幸運】漕前湊

 

【超高校級の???】枯罰環

 

【超高校級の家政婦】仕田原奉子

 

【超高校級の冒険家】ジョナサン・ウォーカー

 

【超高校級の武闘家】武本闘十郎

 

【超高校級のヴァイオリニスト】弦野律

 

【超高校級のソフトウェア開発者】一千歳

 

【超高校級のランナー】速水蘭華

 

【超高校級の画家】筆染絵麻

 

【超高校級の収集家】宝条夢乃

 

ー以上15名ー

 

 

 

 



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非日常編③(学級裁判後編)

《学級裁判 再開!》

 

枯罰「この際ハッキリ言わせてもらうけどなぁ、仕田原は犯人ちゃうぞ。」

 

仕田原「枯罰さん…!」

 

弦野「はぁ?ワケわかんねーぜ。犯人は仕田原以外あり得ねぇだろ。」

 

枯罰「聞けや。まずな、仕田原には犯行は無理やねん。」

 

弦野「どういう事だ?」

 

枯罰「仕田原は、犯人が知ってなアカンはずの情報を知らんからや。おいチビ、それを証明したれ。」

 

赤刎「お、おう…」

 

仕田原が犯人じゃない理由…

犯人が知っているはずの情報を知らない…

…もしかして、アレか?

 

 

 

コトダマ提示!

 

【安生の証言】

 

「これだ!!」

 

 

 

赤刎「なるほどな、そういう事か。確かに仕田原には無理だ。」

 

筆染「え、なになに?どういう事?」

 

赤刎「毒薬だよ。この中で毒薬のありかを知ってるのは俺、安生、神崎、黒瀬、枯罰、武本の6人だけだ。その中に仕田原は含まれていない。つまり、毒薬の場所を知らない仕田原には犯行を実行する事は不可能なんだ!!」

 

ジョン「See!トモコは犯人じゃねぇだろ!?」

 

弦野「はんっ、どうだかな。そんなの誰かにこっそり教えてもらったのかもしれねぇだろが。それで仕田原が犯人じゃねぇって断定するには弱すぎるぜ。」

 

一「確かに…」

 

聞谷「そうですわね、現に冷凍倉庫に入れるのは仕田原さんだけですわ。」

 

速水「確かに案外早く真相に辿り着いちゃったかもしれないけど、もう投票しちゃっていいんじゃないの?」

 

黒瀬「さんせー。ボクもう眠いよー。」

 

安生「ちょっと待って、まだ投票は早すぎるよ。」

 

枯罰「お前らそないに死にたいんか?」

 

神崎「フン、正直瓶底の事などどうでもいいが、ここでゲームオーバーになるのだけは勘弁願いたいな。」

 

赤刎「うわ、どうしよう…意見が分かれちまったな。」

 

 

 

モノクマ『うぷぷぷ、そういう時はボクにお任せ!オマエラ、どっちが正しいのかボクみたいに白黒ハッキリさせちゃいたいでしょ?ここは一つ、変形裁判所の出番ですな!』

 

一「へ、変形!?」

 

ジョン「Oh,transformすんのか!」

 

ジョン…なんか心なしかワクワクしてないか?

 

モノクマ『それでは早速始めましょう!レッツ変形!!』

 

 

 

《意見対立》

 

 

 

そう言ってモノクマは席から謎の装置と鍵を取り出し、鍵を装置に差し込んだ。

すると、俺達の席が宙に浮く。

 

ジョン「Wooooooooo!!!」

 

筆染「いやぁあぁあああっ!!何よこれーっ!!」

 

一「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」

 

席が変形し、俺達は二つの陣営に分かれた。

 

 

 

【仕田原奉子は犯人か?】

 

犯人だ! 聞谷、黒瀬、武本、弦野、一、速水、筆染

 

犯人じゃない! 赤刎、安生、神崎、漕前、枯罰、仕田原、ジョン、宝条

 

 

 

ー議論スクラム開始ー

 

黒瀬「奉子ちゃんには《アリバイ》が無いじゃん。」

 

「ジョン!」

 

ジョン「《アリバイ》がないのはトモコだけじゃないぞ!」

 

聞谷「《冷凍倉庫》に入れたのは仕田原さんだけですよね?」

 

「宝条!」

 

宝条「他の誰かが《冷凍倉庫》に入る方法があるかもしれないじゃない!」

 

速水「《鍵》を持ってんのは奉子と未来だけなんだよ?」

 

「神崎!」

 

神崎「瓶底の《鍵》が事件に使われたとは断言できないだろう?」

 

弦野「そもそも仕田原は《第一発見者》なんだろ?一番怪しいじゃねぇか。」

 

「枯罰!」

 

枯罰「《第一発見者》っちゅう理由だけで疑うんは流石に無理あるで。」

 

武本「…………仕田原なら冷凍倉庫や厨房に詳しいから入念な《計画》を練る事も可能だ。」

 

「仕田原!」

 

仕田原「自分は殺人の《計画》なんてしてないですよ!」

 

一「仕田原さんが《嘘》をついてるのかも…」

 

「漕前!」

 

漕前「《嘘》かどうかは議論を続けないとわかんねーだろ!」

 

筆染「でも仕田原ちゃん、さっきからちゃんと《反論》してないよね?」

 

「安生!」

 

安生「仕田原さんはちゃんと『違う』って《反論》してるよ。」

 

弦野「っつーかさ、《証拠》はあんのかよ?証拠がねぇならこれ以上議論しても無駄だぜ。」

 

「俺が!」

 

赤刎「いや、まだ議論するべき《証拠》は残ってるんだ!!」

 

 

 

《全論破》

 

赤刎「これが俺達の答えだ!!」

 

安生「これが僕達の答えだよ。」

 

神崎「これが俺達の答えだ。」

 

漕前「これが俺達の答えだ!!」

 

枯罰「これがウチらの答えや。」

 

仕田原「これが自分達の答えです!!」

 

ジョン「これがオレ達のanswerだぜ!!」

 

宝条「これがゆめ達の答えよ!!」

 

 

 

赤刎「やっぱり、まだ謎が残っている以上議論は続けるべきだ。」

 

弦野「謎なんてもうねぇだろ。仕田原が札木殺しの犯人だ、はい終わり。」

 

枯罰「そないに疑いよるんやったら仕田原が犯人やないっちゅう証拠を出さななぁ。ま、正直これを言うんは気が進まへんけどな。何しろ本人が隠したがっとる事やし。」

 

漕前「なんだよそれ!仕田原ちゃんが疑われてるんだぞ!ハッキリ言えよ!!」

 

枯罰「…はぁ。おい宝条。お前から何か言う事あるよな?」

 

宝条「えっ…あ、いや…あの…」

 

宝条が隠したがってる事…

仕田原の無実の証拠…

アレしか考えられないな。

 

 

 

コトダマ提示!

 

【宝条の証言】

 

「これだ!!」

 

 

 

赤刎「宝条。お前、犯行時刻に仕田原と一緒にランドリールームにいたよな?」

 

宝条「っ…!あ、あの…」

 

赤刎「全員の命がかかってるんだ。実のところはどうなんだ?」

 

宝条「い、いたわよ…ゆめは、確かにその時間仕田原と一緒にランドリールームにいたわ…確か、夜の8時50分から10時まで…ちょうど1時間ぐらいね。」

 

漕前「ほら!やっぱり仕田原ちゃんは無実じゃねぇか!!」

 

筆染「あ、そういえば…ゆめちゃんそんな事言ってたね。ごめん、完全に頭から抜けてた。」

 

弦野「まあこの女の証言だしな。正直信憑性は微妙な所だぜ。」

 

宝条「嘘じゃないわよ!!」

 

安生「信じてあげなよ。宝条さんが嘘をつくメリットがないよ。」

 

一「それはそうだけど…そもそも、何でそんな大事な事早く言わなかったの?」

 

宝条「えっ」

 

神崎「そこの怯者の言う通りだ。おい縦ロール。貴様、その時間にランドリールームで何をしていたんだ?瓶底を庇うメリットは無いし、ランドリールームにいた事と瓶底の無実だけは信じてやる。だが今まで黙っていたという事は、人に言えない後ろめたい何かをしていたという事だろう?」

 

宝条「いや、でも…それは事件とは関係ないし…」

 

仕田原「そうですよ!宝条さんに無理に言わせる事じゃありません!」

 

弦野「まあテメェはソイツのおかげでアリバイが立証されたわけだし、そりゃあ庇うよな。でも俺は宝条の隠し事が明らかにならない限りはテメェを容疑者からは外さねぇぞ。」

 

宝条「っ…!わ、わかったわよ!!言えばいいんでしょ!?洗濯してたのよ、洗濯!!ランドリールームでする事なんか、それ以外無いでしょ!?」

 

弦野「嘘つけ!!たかが洗濯で1時間もかかるわけねぇだろ!!」

 

宝条「それは…血のシミ抜きをしてから洗濯したから…」

 

一「血だって!?ひぃいいい!!ほら、やっぱり事件と関係あるじゃん!!」

 

宝条「違うわよ!!………が、…ちゃったから…」

 

神崎「何だ?聞こえんぞ。」

 

 

 

宝条「あーもう!!来ちゃったのよ!!生理が!!」

 

弦野「…えっ?」

 

宝条「それで…色々処理してて…ゆめ、洗濯とかした事ないから仕田原にも手伝ってもらってたの!!」

 

仕田原「本当です。自分はずっと宝条さんとお洗濯をしてました。」

 

宝条「こんな事絶対言いたくなかったのに!!…なのに、アンタ達ときたら!!うわぁああああああぁああああああ!!!」

 

宝条は、両手で顔を押さえてその場で泣き崩れた。

 

筆染「うーん…なんか可哀想なことになっちゃったね。」

 

弦野「あの…何つうかその、悪かったよ…」

 

弦野は、自分の行いの軽率さに気付いたのか案外素直に謝った。

素行は悪いが、案外紳士なのかもしれない。

 

一「いや、でも…恥ずかしいから言わないっていうのもどうかと…命が懸かってる状況なわけだしさ。」

 

神崎「フン、どんな事を隠してるのかと思えば…下らないな。そんな事で時間を割くな。莫迦が。」

 

安生「それは違うよ!それで自殺しちゃう人だっているんだから…それぐらい、本人にとってはデリケートな事なんだよ。」

 

一「う、ご…ごめんなさい…」

 

筆染「でも、これで仕田原ちゃんの疑いが無事晴れたわけだよね。」

 

武本「…………という事は、犯人は黒瀬か神崎のどちらかという事か。」

 

黒瀬「ボクじゃないですぅーっ。ボクはおトイレにいたって言ってるでしょー。」

 

速水「でも女子トイレってプレイルームのすぐ隣だよね?3分もかからないはずだけど。」

 

黒瀬「お部屋のーおトイレの方がーおしっこしやすいんですー♪」

 

弦野「変な歌歌うな。」

 

神崎「…。」

 

漕前「お前は反論なしかよ。」

 

一「正直どっちも怪しいんだけど…」

 

速水「ん?ちょっと待って。奉子、事件の前に誰かに鍵貸したりした?」

 

仕田原「いえ。ずっと自分が持ってましたよ。」

 

速水「じゃあ、犯人はどうやって冷凍倉庫に入ったの!?」

 

赤刎「いや、入る方法はそこまで重要じゃない。鍵は札木から拝借すればいいだけだからな。問題は…」

 

枯罰「どうやって出てったか、やろ?」

 

赤刎「そうだ。鍵は冷凍倉庫内にあって、7時半より前は鍵が閉まっていた。犯人がどうやって鍵をかけたか、ここが重要なんだ。」

 

黒瀬「じゃあ次は鍵をかける方法について話さないとねー。」

 

 

 

ーーー議論開始!ーーー

 

 

 

ジョン「《psychokinesis》じゃないか!?」

 

枯罰「んなワケないやろ。マジメに考えんとどつくぞ。」

 

黒瀬「実は《オートロック》でしたー、とか!」

 

一「あの扉は手動でしかロックかかんないよ…」

 

筆染「うーん、何かで《扉を貼り付けた》とか?」

 

武本「………鍵をかけた記録が残ってるのだぞ。」

 

安生「《糸》でも使ったんじゃないかな?ターンロックなら糸で閉められるって聞いた事あるよ。」

 

俺の集めた証拠が鍵になるかもしれない。

 

 

 

《糸》⬅︎ 【裁縫セットの糸】

 

「それに賛成だ!!」

 

《同 意》

 

 

 

赤刎「鍵をかけるのに使われたもの、それは女子の裁縫セットに入っていた糸だ。」

 

速水「い、糸!?」

 

弦野「って事は女子が犯人か。じゃあ犯人は黒瀬で決まりだな。」

 

黒瀬「えー。」

 

枯罰「いや、事前に借りるとか盗むとかすれば男子でも可能やぞ。」

 

黒瀬「そーだそーだー!」

 

枯罰「別にお前を庇ったんとちゃうぞ。お前が犯人の可能性はまだ十二分にあんねん。」

 

黒瀬「ぶー…」

 

速水「てかさ、糸でどうやって鍵をかけんの!?」

 

赤刎「それはな、糸で作ったあるものと、それから冷凍倉庫内にあったものを使って自動で鍵がかかる仕掛けをかけたんだ。」

 

 

 

コトダマ提示!

 

【腕の紐】【荷物と板】

 

「これだ!!」

 

 

 

赤刎「仕掛けを作るのに使われたもの、それは冷凍倉庫内にあった荷物と板、そして犯人が持っていたロープだ。」

 

筆染「でも、冷凍倉庫の中にそんなもの無かったし、倉庫からも持ち出されて…あ、まさか!」

 

赤刎「そう。犯人は糸を依る事で紐を作り、それをロープにしたんだ!」

 

宝条「何ですって!?」

 

赤刎「そして犯人はこのトリックを完成させるために、ある方法を使ったんだ。」

 

それは…

 

 

 

 

ー閃きアナグラム開始ー

 

 

 

シ タ イ ヲ オ モ リ ニ シ タ

 

 

 

【死体を錘にした】

 

「これだ!!」

 

 

 

赤刎「犯人が密室殺人を完成させたトリックはこうだ。まず棚の上に十分な大きさの板を斜めにして置き、それを荷物で固定する。そしてその上に、糸を依って作った十分な長さのロープで結んでおいた札木の死体を乗せ、犯人が部屋を出る直前に紐の先端をターンロックに固定しておく。すると、犯人が部屋を後にした直後に死体が傾いた板から滑り落ち、体重によってターンロックが回るというわけだ。」

 

弦野「な…!!」

 

安生「でも、それだとターンロックと札木さんはロープで繋がれたままだよね?どうやって犯人はロープを外したの?」

 

赤刎「それは、犯人がターンロックとロープを繋ぎ止める接着剤に使ったものが関係してるんだ。」

 

 

 

コトダマ提示!

 

【ターンロックの香り】【厨房から消えたガム】

 

「これだ!!」

 

 

 

赤刎「犯人がロープを固定するのに使った接着剤、それはガムだ。」

 

仕田原「が、ガム…?」

 

漕前「あ!厨房からごっそりなくなってたやつ!!」

 

赤刎「犯人は、粘着力が強いタイプのガムでロープとターンロックを固定したんだ。ガムは冷やすと粘着力が失われて取れやすくなる。接着剤に使っていたガムが冷え、ロープで繋がれていた札木の体重で引っ張られてそのまま取れたんだ。これが密室殺人のトリックだ。」

 

聞谷「それなら、確かに仕田原さんでなくても鍵をかける事が可能ですわね。」

 

安生「なるほどね、それで札木さんが足から落下したとすれば、両足の骨折も説明がつく。」

 

 

 

仕田原「…あのぅ、ちょっといいですか?」

 

仕田原が、唐突に手を挙げた。

 

仕田原「えっとですね、今までは犯人と疑われてそれどころじゃなかったんで言い出せなかったんですけど、実は気になってる事があって…」

 

ジョン「What?」

 

仕田原「実は…札木さん、自分が発見した時とは状態が変わってるんです。」

 

宝条「はぁ!!?何ですって!?それって、現場を荒らされてるって事!?それじゃあ、トリックを明らかにした意味が無いじゃない!!」

 

仕田原「お、落ち着いて下さい。ええっとですね、具体的には何が変わっていたかと言いますと…」

 

仕田原が何かを言おうとすると、枯罰が人差し指を口元に当てて「シー…」と言った。

そして俺の方を向き顎で俺を指したので、俺は枯罰の意図を読み取ってコクリと頷いた。

 

赤刎「仕田原が札木を発見した時、札木は血塗れじゃなかったんだ。つまり、札木の血は仕田原が現場を後にした後に仕掛けられたものという事になる。」

 

弦野「おいおい。そんなの、仕田原の嘘かもしれねーだろ?」

 

神崎「うつ伏せで倒れていたというのも、見間違いかもしれないしな。」

 

仕田原「まだそんな事を言って…!」

 

弦野「じゃあ血が後で仕込まれたものだっていう根拠は?」

 

それは…

 

 

 

コトダマ提示!

 

【札木の血】

 

「これだ!!」

 

 

 

赤刎「弦野、おそらく仕田原は嘘をついてない。」

 

弦野「はぁ?」

 

赤刎「さっき言った札木の口から出ていた血は凍っていた。でも、身体に付着していた血はまだ凍っていなかったんだ。つまり、身体の血は事件の後に仕掛けられたものだという事になる。」

 

黒瀬「なるほどねー、でもさぁ。血が後から仕掛けられたものだとしたら、どうやって仕掛けたの?未来ちゃんはもう凍っちゃってるから、刺したりしても血は出ないよ?」

 

赤刎「それは、あるものを使ったんだ。黒瀬、お前も最近見た事があるものだ。」

 

黒瀬「え、ボクがー?」

 

 

 

コトダマ提示!

 

【輸血パック】【血塗れの袋】

 

「これだ!!」

 

 

 

赤刎「事件の第三者が使ったもの、それは輸血パックだ。」

 

一「ゆ、輸血パック…?」

 

赤刎「ああ。ソイツは輸血パックを破いて札木に血をかけた後、破いた袋をトラッシュルームに捨てたんだ。」

 

速水「そういや袋が捨てられてたけど、アレ輸血パックだったの!?」

 

武本「…………誰がそんな事をしたんだ?」

 

一「は、犯人に決まってるよ!そうに違いない!」

 

枯罰「それはちゃうやろな。戻ってきた仕田原に見られるかもしれへんのにわざわざ血ィぶっかけるなんざよほど見られたないモンでもない限り犯人ならせえへんよ。せやからソイツは犯人ちゃうけど、このコロシアイを面白がってイタズラを仕掛けたっちゅう所やろ。」

 

聞谷「では、一体誰がそんな悪質な事を…」

 

 

 

赤刎「…一人、心当たりのある奴がいる。」

 

漕前「誰だよ?」

 

正直言うと、割と早い段階でそうなんじゃないかなって疑ってはいた。

でも、ようやく疑惑が確信に変わった。

ソイツは、明らかに不用意な発言をした!!

 

 

 

《人物指定》

 

 

 

 

赤刎円

 

安生心

 

神崎帝

 

聞谷香織

 

黒瀬ましろ

 

漕前湊

 

枯罰環

 

札木未来

 

仕田原奉子

 

ジョナサン・ウォーカー

 

武本闘十郎

 

弦野律

 

一千歳

 

速水蘭華

 

筆染絵麻

 

宝条夢乃

 

 

 

 

 

➡︎神崎帝

 

 

 

 

赤刎「神崎、お前だよな?」

 

神崎「…理由を聞こうか。」

 

赤刎「お前だけ、事件が起こり得る時間帯に姿を見た奴が一人もいないよな?お前、寝てたって言ってたけど本当は何やってたんだ?」

 

神崎「フン、下らん。そんな理由で…」

 

赤刎「根拠はまだあるぞ。」

 

 

 

コトダマ提示!

 

【仕田原の証言】

 

「これだ!!」

 

 

 

赤刎「…お前、『うつ伏せで倒れていたというのも、見間違いかもしれないしな。』、そう言ったよな?」

 

神崎「それがどうした?」

 

赤刎「確かに札木は仕田原が発見した時うつ伏せで倒れていた。…でも俺、さっきはそんな事一言も言ってなかったよな?」

 

神崎「…。」

 

赤刎「何でお前が、札木がうつ伏せで倒れてたのを知ってるんだ?」

 

神崎「…フン、下らん。そこまで言うなら証明してみろ。」

 

 

 

ーーー議論開始!!ーーー

 

 

 

神崎「まず、俺は事件当時《部屋で寝ていた》んだ。無口が死んだ事など知らなかった。」

 

弦野「んなモンいくらでも言い逃れできるだろうが。何せテメェにはアリバイが無いんだ。」

 

速水「つーか、シラを切り通して何のメリットがあんのよ。犯人じゃないならさっさと白状しなさいよ。」

 

神崎「ほざけ。音楽しか能の無いチンピラと頭と尻の軽いジャージ女の分際で無駄口を叩くな。」

 

速水「へ!?」

 

弦野「な…!!」

 

神崎「俺が寝ていたのは事実だ。次に何者かが事件現場を荒らした件についてだが瓶底の自作自演で、本当は《冷凍倉庫に侵入した奴などいない》んじゃないのか?」

 

仕田原「自作自演なんてしてません!確かに誰かに冷凍倉庫が荒らされてたんです!!」

 

神崎「とにかく俺は《イタズラなどしていない》。だとすればその女が仕組んだ事としか考えられまい。」

 

仕田原「だから違いますって!!」

 

今の神崎の発言はおかしい!

 

 

 

《冷凍倉庫に侵入した奴などいない》⬅︎【枯罰の証言】

 

「それは違うぞ!!」

 

《論 破》

 

 

 

赤刎「神崎、残念ながらその言い訳は通用しないぞ。」

 

神崎「何?」

 

赤刎「仕田原は、第一に死体を発見した後すぐにある人物を呼びに行っていたんだ。…誰だと思う?」

 

神崎「さあ?」

 

赤刎「…枯罰だよ。仕田原は、枯罰を連れてもう一度冷凍倉庫の様子を見に行ったんだ。そこで枯罰が死体を発見した直後にアナウンスが流れた。つまり、仕田原と枯罰の間にもう一人札木の死体を見た奴がいるって事だ。それはお前だろ?」

 

神崎「…黙れ凡愚が。」

 

 

 

ーーー議論開始!!ーーー

 

 

 

神崎「そもそも、瓶底と関西弁が死体を発見した直後にアナウンスされたのなら《不自然な点》はないだろうが。」

 

赤刎「何故だ?」

 

神崎「アナウンスは3人が死体を発見した時点で流れるのだぞ?《その中に犯人がいる》だろうが。」

 

今の神崎の発言はおかしい!

 

 

 

《その中に犯人がいる》⬅︎【死体発見アナウンス】

 

「それは違うぞ!!」

 

《論 破》

 

 

 

赤刎「…お前、ちゃんと話聞いてなかったのか?事件を起こした直後に限り、犯人はアナウンスの3人にカウントされないんだよ。まあ犯人が忘れ物を取りに戻ったと言うならそれまでだがそんな言い訳が通用するとはお前も思ってないだろうし、いい加減観念したらどうだ愉快犯?」

 

神崎「………ふ。」

 

 

 

神崎「ふははははははははははははははは!!!」

 

突然、神崎は狂ったようにケタケタと笑い出した。

裁判所には、神崎の乾いた笑い声だけが響き渡る。

 

赤刎「か、んざ…き?」

 

神崎「ふははははは、よくぞ見破ったな【超高校級の講師】赤刎円よ!!素晴らしい、貴様は合格だ!!」

 

一「え、ちょっ…神崎君!?」

 

速水「なになに!?何なの!?」

 

神崎「フン、ただ喚き散らす事しか出来ん貴様らにはわからんだろう。この茶番の愉快さがな!」

 

宝条「茶番!?意味わかんないんだけど!え、アンタが犯人じゃないの!?」

 

神崎「莫迦め、俺が犯人な訳が無かろうが。口を閉じろ縦ロールが。」

 

枯罰「キッショいのぉお前。犯人やないなら何でわざわざ事件現場を荒らして捜査や裁判を難航させたんや?」

 

神崎「何故…?そんなもの、この茶番をより盛り上げるために決まっておろうが!!」

 

ジョン「What!?何考えてんだオマエ!そんな事してmistakeでもしたらオマエも死ぬんだぞ!?」

 

神崎「それに関しては心配御無用。貴様らが間違った判断をしそうになったらそれとなく誘導するつもりだったからな。」

 

筆染「ゆう…どう…?ちょっと待って!え、神崎君…犯人が誰だか知ってるの!?」

 

神崎「当然だ。昨日は寝ていたと言ったが、本当は事件の一部始終を隠し撮りしていたのだよ。ククク、どうも怪しい動きをしている奴がいたものでな。見張らせてもらった。」

 

宝条「はぁ!?ふざけんじゃないわよ!!犯人を知ってるなら最初からそう言いなさいよ!!」

 

神崎「だから莫迦だと言っているんだ貴様は。それでは何の趣も無いだろうが。…まあ正直そろそろこの茶番にも飽きたし、ネタバラシといこうか。」

 

赤刎「ね、ネタバラシ…?」

 

神崎「赤刎円。貴様、冷凍倉庫内で妙な物を発見しなかったか?」

 

妙な物…?

それって…

 

 

 

コトダマ提示!

 

【謎の文字列】

 

「これだ!!」

 

 

 

赤刎「…札木の近くにあった謎の文字列、違うか?」

 

神崎「正解だ。」

 

俺は、みんなに事件現場で見つけた文字列を見せた。

 

宝条「何よこれ。何かの計算式?」

 

弦野「だとしても『ムム』って何だよ。それを無視したとしても計算全然合わねーしよ。」

 

安生「うーん、もしかして所謂ダイイングメッセージってヤツかな?」

 

神崎「そうだ。まあ書いた者はまだ生きているからダイイングメッセージという言い方はおかしいがな。そのメッセージは俺が書いた。」

 

速水「え!?未来が書いたんじゃないの!?」

 

赤刎「いや、さっきまでの推理が正しければ札木にあのメッセージは残せなかったはずだ。」

 

その証拠は…

 

 

 

コトダマ提示!

 

【文字列の位置】

 

「これだ!!」

 

 

 

赤刎「この文字列は、札木の頭上に書かれているものだ。仰向けに倒れた札木が頭上にメッセージを書けるわけがない。」

 

枯罰「札木の指には血なんざ付いとらんかったし、普通に考えて死にかけとるっちゅうのにそないな文字残す余裕なんざ無いしのぉ。」

 

神崎「そういう事だ。ようやく気付いたのか。さて、本題に移ろう。その文字列だが、実は暗号になっている。子供、俺は事件現場に暗号を解く上で重要なヒントを残したぞ。」

 

ヒント?

それって…

 

 

 

コトダマ提示!

 

【血塗れの紙切れ】

 

「これだ!!」

 

 

 

赤刎「…札木の服に挟まってた紙切れの事か?」

 

神崎「正解だ。その紙切れをよく見てみろ。」

 

赤刎「?血で汚れてて見えねぇんだけど…これは…何かの表か?…あれ、これってもしかして…」

 

 

 

赤刎「…周期表か?」

 

速水「え、しゅ、周期表?何それ?」

 

安生「えっとね。簡単に言うと、物質を構成する元素を軽い順に並べた表の事だよ。」

 

赤刎「周期表…ダイイングメッセージ…あ。」

 

枯罰「…そういうこっちゃな。」

 

黒瀬「なるほどねー。」

 

暗号を解いた俺達3人は顔を見合わせた。

…正直意外だった。

まさかコイツが犯人だったなんて。

 

速水「え、ちょっと、何3人で納得してんのよ!まさか円達はもう解いたの!?」

 

赤刎「まあな。この暗号の解き方を説明していこうか。まず右辺の96だが、これはただの語呂合わせだ。9と6でく、ろ、つまりクロを意味している。」

 

仕田原「ええと、つまり左側に書かれている暗号が示している方がクロという事ですか?」

 

赤刎「そうだ。次に左辺の文字列だが、周期表と対応してる。文字列に書かれてる数字に、その番号の下に書かれているアルファベットを当てはめるんだ。『ムム』の部分は上下反転した77。これは、77番に書かれているアルファベットの順番を並べ替える事を意味している。77番はIrだから、それを並び替えてRIだ。そしてカッコの中の引き算は、前の文字から次の文字を引く事を意味している。36-19は、KrからKを除いてRになる。そうやって解いていくと、自ずと犯人が浮かび上がってくるはずだ。」

 

漕前「えっと…まず74はW、18はArで…」

 

筆染「…WARRIOR?え、どういう意味?犯人の名前なんて出てこないけど?」

 

 

 

枯罰「…武闘家。」

 

聞谷「はい?」

 

枯罰「Warriorの和訳は武闘家や。まあその他にも武士とか戦士とか勇士とかいう意味もあるけどな。Warriorの和訳にピッタリな才能の奴が一人おるやろ?」

 

赤刎「ああ。今回の事件の真犯人、それは…」

 

 

 

《人物指定》

 

 

 

 

赤刎円

 

安生心

 

神崎帝

 

聞谷香織

 

黒瀬ましろ

 

漕前湊

 

枯罰環

 

札木未来

 

仕田原奉子

 

ジョナサン・ウォーカー

 

武本闘十郎

 

弦野律

 

一千歳

 

速水蘭華

 

筆染絵麻

 

宝条夢乃

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

➡︎武本闘十郎

 

 

 

 

 

 

 

 

 

赤刎「…武本、お前だ。」

 

武本「……………俺か。」

 

 

 

速水「え、そんな…嘘でしょ!?なんで闘十郎が!?」

 

ジョン「そうだ!トウジュウロウがcriminalなわけないだろ!!」

 

筆染「そうだよ!あんなにみんなの事を想ってて、誰よりも正義感の強い武本君が犯人なんて…あり得ないよ!!」

 

赤刎「まあお前らの気持ちはわからなくもないし、俺は暗号を解いて判断しただけだから真実かどうかは知らんがな。…で、実際のところはどうなんだ武本?」

 

武本「…。」

 

 

 

武本「その言葉を叩っ斬る!!!」

 

《反 論》

 

 

 

武本「そんな訳の分からないメッセージだけで犯人にされたのでは堪ったものじゃないな。」

 

赤刎「という事は、お前なりの言い分があるんだな?」

 

武本「当たり前だ。俺は犯人じゃないから反論させてもらうぞ。」

 

 

 

ー反論ショーダウン開始ー

 

武本「まず、仮に暗号が本物だったとして、枯罰の和訳が間違いかもしれないだろう。」

 

赤刎「いいや。枯罰の和訳は合ってる。ダイイングメッセージが示しているのは間違いなくお前だ。」

 

武本「なら、その暗号の事はひとまず置いておこう。だが、俺には《アリバイがある》。この事実がある以上、俺に犯行は不可能だ。それとも、それでもまだそのふざけた暗号の方を信じるというのか?」

 

…うむ、一見筋が通っているように見える。

だが、その主張が初めから成立しないものだったとしたら…?

 

 

 

《アリバイがある》⬅︎【手書きの履歴メモ】

 

「その言葉、ぶった斬る!!」

 

《論 破》

 

 

 

赤刎「おい武本。お前、冷凍倉庫の履歴をモノクマから聞いてメモしたって言ってたよな?」

 

武本「ああ。それがどうした?」

 

赤刎「お前が犯人なら、メモに嘘を書いてアリバイ工作をする事ができるんじゃないのか?」

 

武本「っ…!!」

 

枯罰「そういやお前、冷凍倉庫の履歴を誰が調べるんかっちゅう話になった時真っ先に名乗り出とったよなぁ。ぶっちゃけ一番偽装工作しやすい役割やし疑っとったけど、まさかホンマに犯人やったとはのぉ。」

 

弦野「俺も武本が怪しく思えてきた。やけに口数が少ねぇし、さっきのメッセージといい犯行時刻の偽装といいコイツが犯人なら色々納得できるからな。」

 

武本「………ふざけるなっ。メモが嘘だという証拠でもあるのか。」

 

聞谷「そうですわよ。お二人共、武本さんの事は黒瀬さんが見張っていらしたのをお忘れですの?」

 

黒瀬「うん、見張ってたよ。でも、メモが本物か偽物かどうかまではわかんないなぁ。だってボク、クマちゃんと闘十郎くんのやりとりを見てはいたけど直接聞いてたわけじゃないもの。」

 

武本「………そういう事だ。俺のメモが偽物だと言い切れる根拠は無い。」

 

枯罰「いや、威張れる事ちゃうやろ。逆にお前のメモが本物やっちゅう証拠も無いわけやしのぉ。」

 

安生「うーん…今までそのメモを頼りにアリバイの証明をしてたのに、そのメモ自体が嘘なんじゃねぇ。」

 

宝条「え、ちょっと待ってよ!じゃあゆめ、恥かき損じゃないの!!」

 

筆染「どうしようかな…全員のアリバイが崩れるのは困るし、このままだとゆめちゃんが可哀想だし、本当の犯行時刻を確かめる方法があるといいんだけど…」

 

すると、その時だった。

 

 

 

神崎「おいクマ。冷凍倉庫の開閉履歴を見せろ。」

 

武本「……………なっ!!?」

 

モノクマ『イヤだね!何でオマエみたいなイカサマ師に協力しなきゃなんないのさ!』

 

神崎「私情でルールを破る気か?莫迦が。このデカブツがやった事は明らかに裁判の公平性を歪めている。裁判の公平性を保つためにも、全員が犯行時刻を知る権利があるはずだ。」

 

モノクマ『ぐぬぬ、オマエが言うなって言いたいところだけど…オマエのいう事も一理あるよね。わかった、本物の履歴を見せるよ!』

 

武本「なぁっ……!!おい貴様、何を…!!」

 

神崎「くくく、莫迦め。何を焦っているのだ?貴様が履歴を捏造していないのなら、別に履歴を見られて困る事などなかろう。そもそも、貴様が記録係をやらなければ今頃全員で共有できていたはずの内容だしな。」

 

武本「くっ…!!」

 

モノクマ『それでは、履歴オープン!!』

 

 

 

ーーー

 

20:52 開

21:25 閉

07:30 開

 

ーーー

 

 

 

一「えっと…これ…40分ずつズレてる…よね?」

 

弦野「チッ、やっぱり履歴を捏造してやがったか!」

 

筆染「あ、冷凍倉庫が開け閉めされた時間と黒瀬ちゃんが席を外してた時間帯は違うね。って事は黒瀬ちゃんはアリバイあったんだ。」

 

黒瀬「ねー、だから言ったでしょ?」

 

枯罰「まあゴミみたいな事しよった神崎は論外として、確かにこれでアリバイが崩れるんは武本だけやのぉ。」

 

武本「ぐぅうううっ…!!」

 

弦野「履歴の偽造が明るみになった以上、もう言い逃れはできねーぞ。」

 

神崎「くっくっく、あーーーっはっはっはっはっは!!!チェックメイトだ!!観念しろ殺人犯!!」

 

 

 

武本「まだだ!!!」

 

黒瀬「ほよ?」

 

武本「俺が犯人だという物的証拠が無いだろう!!」

 

枯罰「おーおー、急に元気になりおったのぉ。」

 

武本「とにかく俺は犯人じゃない!!履歴は…その…くっ、黒瀬に偽の履歴を書かされたんだ!!全部黒瀬の指示でやった事で、俺は黒瀬に嵌められただけだ!!」

 

黒瀬「ぴえん」

 

弦野「苦しい言い訳だなオイ。」

 

武本「黙れ黙れ黙れ!!!俺は犯人じゃない!!」

 

赤刎「…まあお前を犯人だと断定するには解き明かさなきゃならん謎がまだあるし、議論はこのまま進めていこう。」

 

 

 

ーーー議論開始!!ーーー

 

 

 

弦野「もう態度的には《武本で決まり》だろ。」

 

一「そ、そうだよ!《武本君が犯人》に違いないよ!」

 

武本「違う!!俺じゃない!!殺ったのは《黒瀬》だ!!」

 

黒瀬「ボクには《アリバイ》があるんだけどなー。」

 

赤刎「武本、お前への疑惑の原因になってる謎がまだ残ってるんだ。それが明らかにならない限りは俺はお前を信用できない。」

 

武本「《謎など無い》!!俺は犯人じゃない!!」

 

いや、まだ触れていない事があったはずだ。

 

 

 

《謎など無い》⬅︎【パスポートの弱点】

 

「それは違うぞ!!」

 

《論 破》

 

 

 

赤刎「いや、議論するべき謎はまだ残ってる。」

 

速水「え?」

 

赤刎「パスポートの弱点だよ。一、パスポートには極度な高温低温に弱いっていう弱点があるんだよな?」

 

一「あ、うん…そうだよ。」

 

武本「それがどうした!?そんなもの、俺が犯人だという証拠にはならないだろ!!」

 

枯罰「おいチビ、お前ならもうコイツにトドメを刺す証拠がわかるはずや。」

 

武本にトドメを刺す証拠…

もしかして…!

 

 

 

武本「俺が犯人だという証拠を見せろ!!」⬅︎【壊れたパスポート】

 

赤刎「これで終わりだ!!」

 

 

 

赤刎「札木の近くに落ちてたパスポート、これこそがお前が犯人だという証拠だ!!」

 

武本「何っ…!?」

 

赤刎「見ろ、これは札木の近くに落ちていたパスポートだ。低温で壊れて電源がつかないから誰のものかはわからないがな。」

 

速水「いや、未来の近くに落ちてたんだから普通に未来のでしょ。」

 

宝条「…あれ?それ、札木のじゃないわね。」

 

漕前「え?」

 

宝条「札木のパスポートって、側面にちょっとキズがついてるのよ。でもそのパスポートにはキズがないわ。だからそれは札木のパスポートじゃない。」

 

聞谷「そんな細かいところまでよく覚えていらっしゃいますわね…」

 

宝条「当然じゃない!伊達に収集家やってないもの、審美眼だけは誰にも負けないわ。」

 

一「じゃあ、一体誰の…」

 

赤刎「…なあみんな。俺はこう推測してるんだが。犯人は、さっき言った方法で札木を冷凍倉庫に置き去りにして密室トリックを完成させた。だけどその時に誤って札木のパスポートと犯人のパスポートを落としてしまい、慌てていたせいか犯人はパスポートを取り違えてしまった。つまり、犯人は札木のパスポートを持ってるはずなんだ。」

 

ジョン「Oh My God…」

 

一「でも、確か自分のパスポートで人の部屋に入るのはダメだったよね?自分の部屋に入る時点で気付かない?」

 

赤刎「…いや、確かに自分のパスポートで他人の部屋に入るのはダメだが、他人のパスポートで自分の部屋に入るのがダメとは書かれてない。だから普通に部屋には入れて取り違えに気付かなかったんだろう。さあ武本。お前が犯人じゃないなら、パスポートを見せてくれないか?」

 

武本「ぐっ…!!」

 

枯罰「先に言っとくけどな、失くしたなんて言うんはナシやぞ。」

 

武本「っ…」

 

神崎「大人しく出さないなら、俺が撮った動画をここで流してやっても良いのだぞ。」

 

その言葉で観念したのか、武本はパスポートを出した。

 

宝条「あっ!!間違いないわ、あれは札木のパスポートよ!」

 

弦野「…終わったな。」

 

武本「………。」

 

筆染「そんな…嘘よ!武本君が犯人なわけないよ!だって…!!」

 

武本「やめろ筆染!!…もういい、もう疲れた。…俺が、俺が札木を殺したんだ。」

 

筆染「そんな…!!」

 

赤刎「…武本、俺が引導を渡してやる。これが事件の真相だ!!」

 

 

 

ークライマックス推理開始!ー

 

【Act.1】

事件の発端となったのは、モノクマがみんなに配った動機DVDだった。

犯人が何を見せられたのかまではわからないけど、おそらくDVDを見て犯人は殺人を企ててしまったんだ。

まず犯人は診療所から毒薬を盗み出し、殺人計画を水面下で進めていた。

一方札木はDVDを見た事で気が滅入ってしまっていたせいか、昼間とパーティーの時以外は単独行動を取っていた。

その状況を利用して犯人は札木をターゲットにし、神崎を除いては誰もこれから起こる悲劇に気付けなかったんだ。

 

【Act.2】

パーティーの片付けが終わった後、犯人は何かの理由をつけて札木を厨房に呼び出した。

そして突然札木に襲いかかり、持っていた毒薬で札木の意識を奪った。

だがこの時に札木が暴れたせいで毒の瓶が床に落ちて割れてしまった。

犯人は慌てて瓶を回収したけど、小さな破片までは回収し切れなかったんだ。

そして犯人は女子生徒から借りるか盗むかして入手した糸で作ったロープを札木の右腕に括り付け、厨房から密室トリックに必要なガムを大量に盗み出し、札木のポケットに入っていた鍵を使って冷凍倉庫内に侵入した。

 

【Act.3】

冷凍倉庫内に侵入した犯人はまず、冷凍倉庫内で調達した板と荷物を使って密室トリックの仕掛けを作った。

まず冷凍倉庫の扉から一番近い棚の上に人が乗っても十分にスペースが余るサイズの板を斜めに立て掛けて斜面を作り、板の両脇に荷物の壁を作ってロープが板からズリ落ちないようにする。

そうやって作った斜面の上端に札木の死体を乗せ、犯人はロープの端を持ったまま冷凍倉庫の扉へと向かう。

そして冷凍倉庫を出る直前に粘着力の強いガムでロープの先端をターンロックに貼り付け、犯人は冷凍倉庫を後にした後トラッシュルームに寄って瓶を捨て、何事もなかったかのようにプレイルームに姿を現した。

犯人が出て行った直後、札木の死体は斜面を滑り落ち、札木の体重でターンロックが回り内側から鍵がかかった。

そしてその数分後、部屋の冷気によってガムの粘着力が落ち、ガムがターンロックから外れて札木の身体は床へと落ちた。

 

【Act.4】

だがこの過程で犯人は致命的なミスを二つ犯してしまった。

一つ目は、このトリックを作る途中で札木のパスポートと自分のパスポートを落として取り違えてしまい、『自分のパスポートで他人の部屋には入れないが他人のパスポートで自分の部屋に入る事ならできる』というルールのせいでその事に気付かなった事だった。

もう一つのミス、それは神崎が犯行の一部始終を見ていた事だった。

この事が決定打となり、犯人は追い詰められてしまう事になる。

 

【Act.5】

そして、誰も札木が冷凍倉庫の中で一人凍え死んでしまった事を知る事なく朝を迎えた。

死体の第一発見者は、朝食を作りに冷凍倉庫を開けた仕田原だった。

仕田原は動揺のあまり冷凍倉庫に鍵をかけるのを忘れて急いで枯罰を呼びに行ってしまった。

そのせいで仕田原が去っていった後、犯行の一部始終を見ていた神崎が冷凍倉庫内に侵入してしまったんだ。

神崎は、うつ伏せで倒れていた札木を無理矢理仰向けにすると、あらかじめ診療所から盗んでおいた輸血パックの中身を札木にかけ、現場に血文字のメッセージとヒントとなる周期表を置いていき、トラッシュルームに寄って輸血パックを捨てた。

 

【Act.6】

その後、仕田原に呼び出された枯罰が冷凍倉庫に向かい、札木の死体を目撃してしまう事になる。

その直後、死体発見アナウンスが流れた。

仕田原が最初に見た死体と枯罰が見た死体の状態が全く違う事で、この後この事件の捜査と裁判で難航するという事態が発生してしまった。

そして、犯人は冷凍倉庫の履歴を捏造する事で犯行時刻を全員に誤認させ、自身のアリバイが成立しているように見せかけたんだ。

 

「これが事件の真相だ。そうだろ!?【超高校級の武闘家】武本闘十郎!!」

 

 

 

武本「……………ああ。そうだ。俺が、札木を殺した。」

 

神崎「フン、やけにあっさり認めるんだな。」

 

武本「………もう疲れた。お前達を騙し続ける事にも、罪を背負い続ける事にもな。」

 

筆染「そ、そんな…!!嘘…!!」

 

武本「…………嘘じゃない。俺は札木を殺した殺人犯だ。モノクマ、投票を始めてくれ。」

 

モノクマ『うぷぷぷ、もう結論は出たみたいですね?では始めちゃいましょうかね。ちなみに誰かに投票しないとオシオキだから。ではでは、投票ターイム!!』

 

モノクマがそう言うと、席にボタンが表示され投票時間が始まった。

投票しなければ俺が死ぬんだ。

俺は、迷いながらも武本に投票した。

 

モノクマ『投票の結果、クロとなるのは誰なのかー!?その結果は正解か不正解なのかー!?ワクワクでドキドキの投票ターイム!!』

 

モニターにスロットが表示される。

ドラムロールと共にリールの回転速度が落ちていき、武本の顔のドット絵が3つ揃った所でリールが止まった。

その直後、正解を褒め称えるかのように、はたまた俺達の潰し合いを嘲笑うかのように歓声と共に大量のメダルが吐き出された。

 

 

 

《学級裁判 閉廷!》

 

 

 

 


 

 

 

ー生存者ー

 

【超高校級の講師】赤刎円

 

【超高校級のカウンセラー】安生心

 

【超高校級の天才】神崎帝

 

【超高校級の香道家】聞谷香織

 

【超高校級の脚本家】黒瀬ましろ

 

【超高校級の幸運】漕前湊

 

【超高校級の???】枯罰環

 

【超高校級の家政婦】仕田原奉子

 

【超高校級の冒険家】ジョナサン・ウォーカー

 

【超高校級の武闘家】武本闘十郎

 

【超高校級のヴァイオリニスト】弦野律

 

【超高校級のソフトウェア開発者】一千歳

 

【超高校級のランナー】速水蘭華

 

【超高校級の画家】筆染絵麻

 

【超高校級の収集家】宝条夢乃

 

ー以上15名ー

 

 

 

 



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非日常編④(オシオキ編)

午後2時頃、札木の研究室では。

 

「武本くん………」

 

「…どうしたんだ札木、急に呼び出したりして。」

 

「…………お願いがあるの。」

 

「…お願い?何だ、言ってみろ。俺でよければ力になるぞ。」

 

「…………うん。あのね…………

 

 

 

ーーー

 

 

 

 

 

VOTE

 

武本闘十郎 15票

 

 

 

『うぷぷぷぷ、お見事大正解ー!!【超高校級のタロット占術師】札木未来サンを殺したのは、【超高校級の武闘家】武本闘十郎クンでしたー!!』

 

「……………すまないっ。」

 

「あ…」

 

ようやくわかった。

捜査の前、武本が札木に対して『すまない』と言っていた意味が。

俺はその時札木を守れなかった事を悔やんでいるのかと思ってたけど、本当は殺した事を悔やんでいたんだ。

…でも、どうして札木だったんだ。

あんなに仲が良かったのに。

武本は札木の事が好きだったのに、どうして…

 

「ねぇ、武本君…どうして!?どうして札木ちゃんを殺しちゃったの!?」

 

「そうですわ!!武本さんは札木さんと仲良くしていらしたのに、どうして…!!」

 

「………それを話すには、言っておかなければならない事がある。………赤刎。お前の推理だが、トリックはあれで合っていた。」

 

「トリックは、っちゅう事は間違っとる部分もあるっちゅう事か?」

 

「……………そうだ。殺人計画を立てたのは俺じゃない。……………札木だ。」

 

 

 

 

「…え?」

 

どういう事だ?

札木は、自分が死ぬための計画を立ててたっていうのか?

そんな、どうして…

 

「札木ちゃんが殺人の計画をたてただと!?そんな…意味わかんねぇよ!!ちゃんと説明しろ武本!!」

 

『はいはーい、ここからはボクが話した方が早いかな?まずね、武本クンの動機DVDの映像をご覧頂きましょう!VTRスタート!!』

 

モノクマがそう言ってリモコンのボタンを押すと、モニターに映像が流れる。

 

 

 

 

 

『【超高校級の武闘家】武本闘十郎クンの動機映像!』

 

映像が始まると赤い舞台幕が映り、そこには文字が書かれていた。

そして、幕が両側に開き幕の向こうに隠されていた映像が映る。

映ったのは、田舎の小さな一軒家だった。

そこには、まだ幼い男の子が3人、女の子が2人、そして子供達に囲まれている男性と女性が映っていた。

おそらく武本の弟妹達、そして両親だろう。

 

『おい、これ映ってるのか?』

 

『あなた、ちゃんと映ってますよ。本当にもう、機械音痴なんですから…』

 

『やっほー!兄ちゃん元気ー!?』

 

『私達は元気だよー。』

 

『闘十郎!!寮生活にはもう慣れたか!?そっちでは楽しくやれてるんだよな!?』

 

『ふふふ。もう父さんってばあなたが希望ヶ峰学園に進学する事が決まった時、それはもう号泣して入学通知を何度も読み返しててねぇ。』

 

『だ、だって…俺の息子があの希望ヶ峰学園に入学したんだぞ!?良かったなぁ闘十郎!お前、ずっと武道でみんなに楽させてやるんだって頑張ってたもんな!』

 

『闘十郎、私達はいつでもあなたの事を応援してるわ。だから、私達に気を遣わないで自分のやりたい事を一生懸命やるのよ。』

 

『でもたまにはウチに帰って来いよなー!』

 

『学校でのお話聞かせてね!』

 

慎ましくはあるが、楽しそうな武本の家族の姿がそこにはあった。

そして映像が切り替わり、今度は道場の映像が映る。

そこに映っていたのは、道着を着た老人だった。

おそらく、この人がこの前言っていた武本の師匠なのだろう。

 

『闘十郎君、元気かな?学園での生活はどうだ?楽しくやれているかい?』

 

『師匠、まず先に言う事があるでしょう。』

 

『おお、そうじゃったな。オホン、闘十郎君。希望ヶ峰学園への進学おめでとう。君のご両親から入学通知を見せてもらった時は本当に嬉しかったよ。本当に立派になったな。君は私の自慢の弟子だ。だから胸を張って精進していきなさい。』

 

そう言って武本の師匠は穏やかに笑った。

とても優しい人なんだろうな、と思った。

 

だがすぐに映像が途切れ、画面が暗転する。

次に映った時には道場はボロボロに破壊され、マシンガンや金属バットなどの凶器を持ったモノクママスク達が土足で道場を荒らしていた。

道場の床や壁には血がはねており、画面の端には武本の師匠の手が映っていた。

 

そして再び画面が切り替わり、今度は道場と同じように荒らされた一軒家が映る。

家の中ではモノクママスク達が暴れ回っており、血で真っ赤に染まった床には壊れた人形が落ちていた。

そのすぐそばには、血塗れになった小さな女の子の腕と髪の毛が映っていた。

 

するとそこで再び画面が暗転し、文字が現れる。

 

『優しい家族と師匠のもとで武の道を歩んできた武本クン!いやぁ、微笑ましい限りですねぇ。ではでは、ここで問題です!武本クンの師匠と家族は一体この後どうなってしまったのでしょうか!?正解発表はー…失楽園の後でっ!!』

 

 

 

 

 

映像を見せられた俺は、モニターを呆然と見ていた。

 

「おい…何だよこれ…」

 

「武本君…これを見て不安になっちゃったんだね…」

 

「…………そうだ。もちろん、初めは捏造を疑いもした。だが、もしこれが現実だとしたら…今ならまだ外に出て家族と師匠を助けられるかもしれない、そう考えてしまったんだ………!!」

 

「うんうん、まあそこら辺の下りは大体予想できてたよ。気になるのは未来ちゃんの方だよ。クマちゃん、未来ちゃんの映像を流してくれない?」

 

『そうですね、では次にこちらの映像を見ていただきましょう!VTRスタート!!』

 

 

 

 

 

モノクマがそう言ってリモコンのボタンを押すと、モニターに映像が流れる。

映ったのは、札木の研究室だった。

札木の研究室には、札木と武本がいた。

 

「武本くん………」

 

「…どうしたんだ札木、急に呼び出したりして。」

 

「…………お願いがあるの。」

 

「…お願い?何だ、言ってみろ。俺でよければ力になるぞ。」

 

「…………うん。あのね…………」

 

 

 

「…………わたしを、殺してほしいの。」

 

「………えっ?」

 

「……武本くん、家族と師匠がいるんでしょ。わたしを殺して外に出て、早く助けてあげて。」

 

「おい、冗談でもそんな事を言うのは許さんぞ。俺は、仲間を殺して外に出るような事はしない。そんな事をすれば、家族や師匠に顔向けができなくなる。」

 

「………そんな事言ってる場合なの?映像が本物なら、早く助けに行ってあげないと…………」

 

「だが………お前にだって、お前の事を待っている人がいるはずだ。」

 

「………………わたしはいいの。……わたしの事を待ってくれている人なら、もういないから。」

 

「………。」

 

「………武本くんはいいよね。生きて外に出なきゃいけない理由があって………あのね、わたし……やめた方がいいってわかってはいたけど、自分の事を占っちゃったの。………そしたら、何て出たと思う?」

 

「……さぁ。」

 

「……………わたしね、近いうちに死んじゃうんだって。……それも、仲間の誰かに殺されて死ぬって………」

 

「………それは占いの結果だ。そうなると決まったわけじゃない。」

 

「……わたし、占いを外した事がないの。だから、今回の結果も現実になると思う。」

 

「…………だったら俺がお前を守る。コロシアイなど起こさせない。全員でここから出るんだ。」

 

「……そういうの、いいから。」

 

札木は、深くため息をつくと項垂れてボソッと呟く。

 

「……………ほんと最悪。お姉ちゃんはあんな事になっちゃうし、占いでは死ぬって結果が出るし、…………ずっと好きだった人に八つ当たりしちゃったし…………………もう、死んで楽になりたい。」

 

「…!!それは駄目だ!!そんな事をすれば、赤刎だって………」

 

「うるさい!!」

 

札木は、突然声を荒げて肩で息をするほど呼吸が乱れていた。

 

「みんな口を揃えて生きようって言うけど、わたしがどんな気持ちであの場にいたかなんて全然わかってくれなかった!!わたしは……外に出る事なんてもうどうでもいいの!!わたしは、早くお姉ちゃんに会いたい………」

 

「っ……」

 

「………ねぇ武本くん。もうこれしか方法が無いんだよ。家族や師匠の命と死にたがってるわたしの命、どっちを切り捨てるべきかなんて考えるまでもないよね?」

 

「……………。」

 

「………わたし、計画を立てたの。武本くんは、わたしの言う通りにするだけだから何も悪くないよ。」

 

 

 

そしてそこで画面が切り替わり、厨房の映像が映る。

厨房には、武本とその場で作った即席のロープを持った札木がいた。

 

「………武本くん。毒はちゃんと持ってきた?」

 

「……………札木。やっぱりこんな事やめよう。赤刎達だって、ちゃんと話せばお前を助けようとするはずだ。」

 

「それで武本くんの大切な人が死んじゃったらどうするの?わたしの事はいいから早く大切な人を助けてあげて。」

 

札木は、武本から無理矢理毒の小瓶を引ったくると毒を口の中に流し込んだ。

 

「っ………ゲホッ、ゴホッ…!!」

 

毒を飲んだ札木は、瓶を落としてその場で苦しみ出した。

 

「!?おい、札木!!お前、何を…!!」

 

「………ケホッ、た…武本くんが躊躇するのはわかってた…だからこうするしかなかったの………」

 

「札木…」

 

「…苦しい………は、やく……ころし…て………」

 

「っ……!!」

 

武本は、ギリっと歯を食いしばりながら冷凍倉庫の扉を開けた。

そして札木を抱えると、そのまま倉庫の中に入っていった。

 

「…お、おね……ちゃ……いま………そっ…ち…………いく…か、ら…………」

 

「っ…すまないっ、すまないっ………!!」

 

札木は、武本の腕の中で意識が途絶えた。

武本は、札木に謝罪の言葉を繰り返し投げかけながらトリックの準備をした。

 

 

 

 

 

『うぷぷぷぷ!これが事件の真相だよ!』

 

「そんな…酷いよ!こんなのあんまりだよ!!」

 

「クソッ…札木ちゃん…!!」

 

「札木さん、ごめん…僕達がもっと君をわかってあげられれば…」

 

「あの…札木さんが言ってた『お姉ちゃん』って…」

 

俺は、一の言葉にグッと拳を握りしめて答えた。

 

「…札木には血の繋がりは無いけど誰よりも大切に想ってる姉ちゃんがいたんだ。外に出たら姉ちゃんに会いにいくんだって言ってた。」

 

「では、札木さんが見た映像というのは…」

 

「多分、その姉貴が無惨に殺される映像っちゅうとこやろな。それで姉貴の後追おうとしたんやろ。」

 

「そんな…」

 

「クソッ…!!何で…何でだよ札木…!!何で、俺に相談してくれなかったんだよ!!俺達、クラスメイトだろ!?親友だろ!?なのに、何で…!!」

 

「…親友だからだよ。きっと。」

 

「え…?」

 

「一番仲がいい赤刎君だからこそ、死ぬ計画を立てるほど追い詰められてるなんて言えなかったんだ。」

 

「そんな…クソッ、チクショウ…!!チクショウ…!!」

 

俺は、席に拳を叩きつけて泣き喚いた。

いくら嘆いても札木は帰ってこない。

俺は、アイツに何もしてやれなかった自分を責める事しかできなかった。

 

『オマエラ、何で札木サンに肩入れしてんの?札木サンは勝手に絶望して、武本クンの家族を助けたいからとか何とか言って自分だけあの世に逃げようとしたんだよ!ホント身勝手だよね!オマエラ、札木サンのワガママのせいで危うく死ぬところだったんだからさ!』

 

「な…それはアンタのせいでしょ!?アンタが学級裁判の事を先に説明しなかったから…!!」

 

「That's right!!ミライだってtrialの事を知ってればmurderのplanなんて考えなかったし、トウジュウロウだってミライを殺さなかったはずだ!!」

 

『うるさいなぁ、ボクにそんな事言ったって札木サンが武本クンに殺させた事実は変わりませんよ!』

 

「………すまないっ。俺は、どうしても家族と師匠を助けたかった…!!だから札木を殺し、犯人である事を隠して俺だけ生き残ろうとしたんだ…!!お前達に迷惑をかけるつもりはなかったんだ…すまない、すまないっ……!!」

 

武本が泣きながら謝ると、枯罰が額に青筋を浮かべて席をバンッと叩いた。

 

 

 

「喧しいわド阿呆。お前の謝罪なんぞ聞きたないねん。実行犯が言い訳こくなやボケ。」

 

「枯罰…」

 

「迷惑かけるつもりはなかったやと?阿呆ぬかせ。お前それアイツを腹痛めて産んだ母親の前でも同じ事言えんのか?お前の家族と師匠も札木がお前に殺すように頼んだ事もどうでもええねん。どないな理由があっても殺しは殺しや。同情の余地なんぞあらへん。」

 

「枯罰、言い過ぎだぞ!!武本だって、モノクマの被害者なんだ!!悪気があったわけじゃない!!」

 

「何言うとんねん。むしろ言い足りないくらいやろ。悪気があるとか無いとかそういう問題ちゃう。お前らは札木が殺されたんを許せるんか?ウチは札木を殺したコイツを絶対許さへんけどな。」

 

「っ…」

 

「中途半端な覚悟で人殺すからこないな事なんねん。人を殺した奴は永遠にたった一人で罪に追われ続ける。人を殺すっちゅうんはそういう事やぞ。その覚悟が無いんやったら人殺すなや。」

 

「…。」

 

「もちろん、それはウチらも同じやぞ。ウチらも自分が生き残るために武本を見殺しにした立派な殺人犯。ここで人を糾弾するんやったらそれ相応の覚悟はせぇよ。その覚悟が持てへん奴は、金輪際この場で発言させへん。」

 

枯罰の言葉を聞いた俺達は、何も言い返せなかった。

生き残るためだなんて言い訳は通用しない。

武本を見捨てた時点で、俺達も人殺しだ。

俺達は、その罪を一生背負って生きていかなければならないんだ。

 

 

 

『うぷぷぷ、全くもってその通りです!どんな理由があろうと殺人は殺人!悪い事した子にはオシオキするよー!』

 

「…ああ、始めてくれ。」

 

「ま、待ってくれモノクマ!!」

 

『待ちません待てません待ちたくありませーん!!それじゃ、景気良くヤっちゃいますか!!』

 

「クソ!!やめろ!!やめてくれ!!」

 

「お願いモノクマ!!武本君を殺さないで!!」

 

「札木………武の道を外れ外道な方法を選んだ俺を許してくれとは言わない。だが、せめて謝らせてくれ。」

 

『今回は、【超高校級の武闘家】武本闘十郎クンのために!!スペシャルな!!オシオキを!!ご用意しました!!!』

 

「武本ぉおおおおっ!!!」

 

「守ってやれなくて…苦しい思いをさせて、本当にすまなかった………!!」

 

『ではでは、オシオキターイム!!!』

 

武本は札木の遺影に向かって謝罪の言葉を述べた。

だがその直後、無慈悲にも罪人の処刑を宣言するモノクマの声が響き渡る。

モノクマはピコピコハンマーを取り出して、一緒に出てきた赤いボタンをハンマーで押した。

ボタンに付いている画面に、ドット絵の武本をモノクマが連れ去る様子が映っていた。

 

 

 

 

 

ーーー

 

GAME OVER

 

タケモトくんがクロにきまりました。

 

オシオキをかいしします。

 

ーーー

 

 

 

武本は、冷や汗をかき顔を真っ青にして立っていた。

すると背後からアームのようなものが武本の首を掴み、そのまま裁判所の外へと引きずっていった。

武本が連れて来られたのは巨大な正方形のリングが用意された闘技場だった。

そこで画面上に文字が現れる。

 

 

 

ーーー

 

死々奮迅!!天下一絶望武道会

 

【超高校級の武闘家】武本闘十郎 処刑執行

 

ーーー

 

 

 

武本の前には、袖のないオレンジ色の道着を着たマッチョモノクマが黄色い雲に乗って現れる。

観客席では、大量のモノクマがギャアギャアと騒ぎ立てている。

審判役のモノクマの試合開始の合図と同時に、モノクマは金色に輝いた。

 

モノクマは猛スピードで武本に詰め寄ると、棘付きのメリケンサックを装着した拳を武本に振るった。

武本は、咄嗟にそれを躱す。

だが、モノクマの攻撃は止まらない。

モノクマの攻撃は次第に速くなっていき、武本も躱し切れなくなる。

そしてついに、モノクマの拳が武本の左頬にめり込んだ。

武本は顔面がひしゃげ、鼻や口から血が噴き出る。

さらに、モノクマは棘付きのブーツで武本の腹を蹴り、追い討ちをかけるように全身にパンチとキックを叩き込んだ。

棘が刺さった部分からは血が滲み出て道着に赤い滲みが広がり、武本は棘で殴られた痛みで悶絶する。

 

何百発もの殴打を受けて満身創痍になった武本は完全に戦意を喪失し、リングの外に逃げようとする。

だがそうはさせまいと目の前にモノクマが現れ、思い切り上へと蹴り上げられる。

モノクマは、猛スピードで武本の上へ移動すると棘付きの如意棒で武本の後頭部を殴りつけリングに叩き落とした。

武本は上空から石のリングに叩きつけられ、ヒビ割れたリングの上で蹲る。

武本は、意識を取り戻すと身体を引きずってモノクマから逃げようとした。

 

だがモノクマは、両手にエネルギーを貯めるとそれを容赦なくリング上の武本目掛けて撃ち込んだ。

エネルギー砲を直に喰らった武本は、もはや虫の息だった。

砲撃の衝撃で腕や足がおかしな方向に曲がり、顔も潰れ道着も焼け焦げ元が誰だったのかわからない程ボロボロになっていた。

それを見たモノクマは、不気味な笑みを浮かべながらパチンっと指を鳴らした。

 

すると、今までただ騒ぎ立てていただけだった観客席のモノクマ達が一気にリングへと押し寄せた。

リング上はあっという間に数万体ものモノクマで埋め尽くされる。

モノクマ達は何体か潰れて壊れるのを全く気にする事なくおしくらまんじゅうをし、リングの中心からは真っ赤な飛沫が上がる。

モノクマが再び指を鳴らすと、リング上にいたモノクマ達は蜘蛛の子を散らすように去っていった。

リング上には潰れて壊れたモノクマの残骸が転がっており、中心には血溜まりが広がっている。

血溜まりの端には、赤い瞳をした目玉が転がっていた。

 

 

 

 

 

『エクストリーーーーーム!!』

 

「いやぁあああああああああああっ!!!」

 

「Ahhhhhhhhhhhhhhhhh!!!」

 

「ひぃいいいいいいいいいいいっ!!!帰る帰る帰る帰る!!!」

 

「あっ、あぁあああっ…ああああああ…!!」

 

「いやぁ!!もういやぁああっ!!」

 

「そんな…武本さんが…!!」

 

「う゛ぅっ…お゛ぇえええっ…」

 

「マジかよ…こんな殺し方するなんて聞いてねぇぞ!!」

 

「そんな、嘘でしょ!?闘十郎が…闘十郎が…!!」

 

「うぅっ、なんて事を…酷すぎるよ。」

 

「うえぇええん…ボクの大好きな闘十郎くんがぁあああ…!」

 

『いやー最高だよね!!この快感は男女に備わったアレとソレがそんなこんなで起こるハプニングよりずっと刺激的だよね!!』

 

「お前…よくも武本を…絶対許さねぇ!!」

 

『そんな事を言われましても、ボクはルールに則って殺人犯をオシオキをしただけなのでー。文句も苦情もコンプレインも受け付けませーん。ではではオマエラには裁判を乗り越えたご褒美にメダルを差し上げますので、ジャンジャン有効活用して下さいねー!』

 

 

 

「…くくく、これがオシオキというものなのか。デザインのセンスは相変わらず壊滅的だが、処刑方法は十分及第点だ。」

 

そう言って、神崎は笑いながら大袈裟に手を叩いた。

 

『神崎クン!さっきはよくもクロの事前把握なんて興醒めなマネした上に現場を荒らしてくれたね!おかげで記念すべき第一回目の学級裁判が台無しになっちゃったじゃんか!!せっかく裁判でお互いが醜く罵り合って投票で決まったクロがみんなに罵倒されながら死んでいくっていう展開が見られると思ってたのに!!オマエ、覚悟はできてるんでしょうね!?』

 

「覚悟?何を覚悟すれば良いのだ?言っておくが、俺はルールを破ってなどいない。故に、貴様に俺を裁く事は出来ない。クロの事前把握と現場荒らしが駄目なら初めからルールにそう書けば良かったのだ。別に今ここで俺をオシオキしてもいいが、そうなればルール違反をするのはお前の方だとは思わんか?」

 

『ムッキー!!』

 

モノクマは、怒りながらその場を去っていった。

モノクマが去っていった後、裁判所に取り残された俺達は呆然として動き出す事すらできなかった。

 

「くっくっく、茶番である事には変わりないが少しは楽しませてもらったぞ。まさかあんな小細工をするだけであの女が死を選ぶとは思わなかったがな。」

 

「小細工だと…!?」

 

「ああ。あの無口女は占いで自分が死ぬという結果が出たと言ったが…そう誘導したのは俺だ。」

 

 

 

………………は?

 

「な…んだ…と…!?」

 

「あの女の叫び声を聞いて、何とか事件に発展させられないかと考えてな。だからそれとなく自分の事を占ってみるように勧めたのだ。そしてあの女は、俺が細工をしたカードを使って自分を占った。そしたらどうだ?占いを真に受けたあの女は見事に俺の思惑に嵌ってくれたのだよ。くっくっく、生きようと努力すれば運命などいくらでも変えられたはずなのにな。」

 

「な…」

 

「…くくく、つくづく皮肉な話だよ。人を不幸から救うための占いで自分が不幸になんてなぁ。」

 

「お前…!!札木の事を何だと思ってるんだ!?」

 

「占いしか能のないただのメンヘラだと認識しているが?おっと、勘違いするなよ。俺はきっかけを与えてやっただけだ。死を選んだのはあの女自身だし、あの女を殺したのはデカブツ自身だ。どう足掻いてもその事実は変わらんぞ。」

 

「ッ…!!」

 

コイツは絶対許さない。

武本は確かに札木を殺したが、アイツの命に、それまでの人生に敬意を払っていた。

だがコイツは違う。

札木の命を弄んで、俺達の命までもを振り回しやがった。

武本よりずっと卑劣で、狡猾で、悪質だ。

でも、俺にはコイツを懲らしめる力も方法も無い。

俺は、拳を握りしめて神崎を睨む事しかできなかった。

すると速水が涙目で神崎を睨みながら声を荒げた。

 

「アンタ…どういうつもり!?未来の命を弄んで…アンタは絶対許さない!!」

 

「フン、許さないならどうするのだ?ジャージ女よ。俺のヒントが無ければ真犯人に辿り着けなかったくせに偉そうな口を叩くな低脳が。」

 

「まぁそらそうやけどなぁ。神崎、あのクマ公に一泡吹かせた事は素直に評価したるわ。せやけどやり方がゴミすぎるやろ。」

 

「何とでも言え。俺はこのゲームを楽しめれば満足だからな。」

 

「こんちくしょうが、何で札木ちゃんと武本が死んだのにお前は生きてんだよ!!」

 

「そんなの決まっているだろう。あのデカブツは実行犯で俺は実行犯じゃないからだ。ああ、もうデカブツではないな。潰れて原型が無いから。」

 

「っ、お前…!!」

 

「何だその目は。まさかとは思うが、幸運の分際で俺に殺意を抱いているのか?なら、俺を殺してみろ。まあこの場で俺を殺せば貴様も道連れだがな。そもそも何の取り柄も無い貴様に俺を殺せる道理が無いとは思わんか?」

 

「くっ…!!」

 

「くくくく、せいぜい次回も楽しませてくれよ凡愚共。」

 

そう言って神崎は一人でエレベーターに乗っていった。

 

「次回なんかあってたまるか!!」

 

俺は、去っていく神崎にそう吐き捨てた。

 

「チッ、付き合ってられるかっつーの。」

 

「いや!!ゆめ、もうこんな所にいられないわ!!」

 

「ボクもうねむーい。裁判で頭使ったから疲れちゃったー。」

 

「お前ら…!!」

 

「だって眠いものは眠いんだもん。ちゃんと寝ないとキレやすくなるんだよー。それじゃお先におやすみー。」

 

弦野と宝条、黒瀬もエレベーターに乗って去っていった。

 

「ウチも帰るわ。もうオシオキは済んだしのぉ。」

 

「おい、待てよ枯罰!!」

 

「…何や、アイツらの事は止めへんかったクセにウチの事は止めるんかいな?」

 

「お前、さっき言ってたよな。札木を殺した武本を絶対許さないって。だったら武本を殺したモノクマは許せるのか?」

 

俺が聞いた、その直後だった。

 

 

 

「………それ、ホンマに聞いとんのか?」

 

一瞬で枯罰の纏う空気が変わった。

気迫とか威圧感とか、そういうレベルじゃない。

 

…これは、殺気…?

 

「許すわけ無いやろ。ウチは、武本をあないな方法で殺したあのクソッタレを許さへん。どないな手を使うても生き延びて、絶対にあの阿呆面の向こうでほくそ笑んどるド阿呆に一発叩き込んだる。」

 

枯罰は拳を握りしめ、額に青筋を浮かべて鋭い眼光をモノクマの席に向けた。

ここまで感情を露わにした枯罰は初めて見た。

枯罰も、札木や武本が殺された事は許せなかったんだ。

 

「せやけど、なんぼ嘆いた所でアイツらは帰って来ぇへん。もう今更後戻りも出来へん。ウチらに出来る事は前に進む事だけや。」

 

そう言って、枯罰はエレベーターへ乗り込んでいった。

俺は、アイツみたいに強くはなれない。

だけどアイツの言う通り、俺達は前に進み続けなければならないんだ。

もう札木と武本で最後にしたい。

今度こそ、14人全員で生き残る方法を見つけるんだ。

それが唯一、若くして死んでいったアイツらにできるせめてもの償いだから。

 

 

 

 

Chapter1.運命の赤い糸 ー完ー

 

 

 

《アイテムを入手した!》

 

『空手家の手甲』

 

Chapter1クリアの証。

武本の遺品。

師匠から譲り受けたもの。

武の道を進んだ少年が最期まで身につけていた。

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

ー生存者ー

 

【超高校級の講師】赤刎円

 

【超高校級のカウンセラー】安生心

 

【超高校級の天才】神崎帝

 

【超高校級の香道家】聞谷香織

 

【超高校級の脚本家】黒瀬ましろ

 

【超高校級の幸運】漕前湊

 

【超高校級の???】枯罰環

 

【超高校級の家政婦】仕田原奉子

 

【超高校級の冒険家】ジョナサン・ウォーカー

 

【超高校級のヴァイオリニスト】弦野律

 

【超高校級のソフトウェア開発者】一千歳

 

【超高校級のランナー】速水蘭華

 

【超高校級の画家】筆染絵麻

 

【超高校級の収集家】宝条夢乃

 

ー以上14名ー

 

 

 



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Chapter.2  人はその妻エバを知った
(非)日常編①


楽園生活6日目。

俺は、朝の4時頃に目が覚めた。

俺はあの裁判の後、食事なんて取る気になれなかったし、ろくに眠れなかった。

 

たった一日で二人も死んだんだ。

冷凍庫の中で文字通り冷たくなっていた札木、そして札木を殺しモノクマに無惨に殺された武本。

あの光景が脳裏に焼き付いて離れない。

…どうして。

どうしてあんな事になったんだ。

武本にだって生きたいっていう思いはあったはずなのに。

札木も、生きてさえいればどこかに救いはあったはずなのに。

 

「…まだ時間があるな。」

 

昼時間まで3時間ある。

正直眠れる気は全くしなかったが、俺はベッドに潜り込んで目を閉じた。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

『おはようございます、オマエラ!!朝です!!7時になりました!!今日も元気に殺し合いましょう!!』

 

「…。」

 

モノクマの不快なモーニングコールが部屋中に鳴り響く。

ただでさえ精神的に参っているのに、朝から大音量でアナウンスするのはやめてほしい。

そんな事を思いつつ、支度をして食堂に向かった。

8時前、食堂に向かうと既に安生、聞谷、黒瀬、漕前、ジョン、一、筆染、宝条の8人、そしてどういうわけか弦野もいた。

 

「…おはよう。」

 

「おはよう、赤刎君。」

 

「おはよ。」

 

「Morning.」

 

「ごきげんよう。」

 

「…おはよー。」

 

「お、おはよ…」

 

「おはよぉー。」

 

宝条と弦野以外は返してくれた。

 

「あれ、速水は?今日朝飯当番だったっけ?」

 

「ああ…速水さんは、枯罰さんと仕田原さんを手伝ってるよ。『あんな事があって二人とも辛い思いしてるから、アタシも手伝わなきゃ』って…」

 

そうだったのか。

強いな、アイツらは…

 

「弦野、今日はお前も来たんだな。」

 

「…チッ、あんな事があったからな。」

 

俺が席に座ろうとすると、ふと札木と武本の席に花瓶が置いてあるのに気がつく。

 

「…あれっ?これ、誰が置いたんだ?安生、お前か?」

 

「僕じゃないよ。」

 

「じゃあ聞谷?」

 

「わたくしではありませんわ。」

 

「じゃあ漕前?」

 

「いや、俺でもねぇよ。俺が最初に来たはずなんだけど、来たらもう置いてあったんだよ。」

 

「じゃあ誰が…」

 

 

 

「ウチや。」

 

ちょうどタイミング良く、料理を持った枯罰が現れた。

 

「枯罰…お前が…?」

 

「せやで。…何やお前、ウチが花置くんがそないに悪いんか?」

 

「いや、そうじゃないけど…そういう事するの、意外だったなーって…」

 

「失礼なやっちゃのぉお前。札木や武本とはまあまあ仲良うさせてもろたし、せめて供養だけでもしたろ思てな。」

 

枯罰は、二人の席の花瓶に目を移すとボソッと呟いた。

 

「…ホンマ、目の前で人が死ぬっちゅうんはなんぼ経験しても慣れへんモンやなぁ。」

 

「今何か言ったか?」

 

「何も言うてへん。ほら、飯並べるさかい早うテーブル片せ。お前らが肉だけは食いたない言うからムニエルにしといたで。」

 

う…確かに、今は肉は食べる気になれないな。

食べてる時に二人の死がフラッシュバックしてしまいそうだ。

枯罰に言われて俺達がテーブルセッティングを始めた、その時だった。

 

 

 

「フン、今日も凡愚共が雁首並べていてもはや絶景だな。そんなに群れるのが楽しいのか。」

 

札木と武本の命を弄んだアイツ…神崎が来た。

すると、漕前がテーブルをバンッと叩いて立ち上がった。

 

「お前…!!どのツラ下げてここに来たんだよ!?」

 

「吠えるな莫迦が。無能が感染る。」

 

「お前なぁ…ホンマ何なん?さっきも何も手伝わへんクセにフラッと厨房に来よったと思ったらウチらの事ガン見しとったしのぉ。キショいんじゃボケ。キモすぎて殺虫剤撒いたろ思たわ。」

 

「マジか…」

 

「貴様ら凡俗の飯など何が入っているかわからんからな。見張らせてもらったのだよ。」

 

「でしたら召し上がらなければ良いだけの話では?」

 

「そうしたい所だが、生憎そういうわけにもいかないのでな。」

 

「さよか。ほんで用件は?用がないなら早う帰ってくれるか?」

 

「フン、用ならあるさ。今日からは俺も貴様らと一緒に行動させてもらう。」

 

「はぁ!?ふざけんな!!誰がお前なんかと…」

 

「まあ聞け。俺は、学級裁判を乗り越えて思ったのだ。人が人を殺し、糾弾し、絶望の淵に叩き落とす様はこの上なく滑稽なのだとな。もちろん殺されたり勝手に犯人にされたりするのを防ぐためでもあるが、貴様らの醜い様を眺めるのも悪くないと思ったのだよ。そういうわけで非常に癪だがこれからは共に行動する事にしたからよろしくな。」

 

「オマエ…!!」

 

すると安生が、ギリッと歯を食いしばって神崎を睨みつける漕前とジョンを制止して言った。

 

「神崎君、協力してくれてありがとう。君が仲間になってくれるのは心強いよ。…でも仲間になると決めたからには、最低限秩序を守った行動をしてね。」

 

安生が念を押すようにそう言うと、神崎は「当然だ」と言って案外素直に受け入れドカッと席に座った。

ここで約束を破るような事をすれば、それこそ学級裁判で不利な立場になる事は避けられない。

神崎も、そんな真似をする程馬鹿ではなかったようだ。

 

 

 

神崎のせいで台無しになってしまったが、残すのも仕田原達3人に悪いので出された朝飯は完食した。

結局弦野だけは飯を食わなかったが、残りの13人で朝食を取った。

 

「弦野君、ちゃんとご飯食べないと身体壊しちゃうよ?」

 

「うっせーな、放っとけよ。」

 

「頑なだな…」

 

筆染が心配するが、弦野は冷たく突っぱねた。

何か、この6日間で弦野が少し窶れているような気がする。

思い返してみれば弦野が何かを食っているのを見たのはパーティーの時だけだし、パーティーの時も調理されてない菓子とかしか食ってなかったな。

流石にちょっと心配になってきたぞ…

 

 

 

食事が終わった後は、今後の対策を兼ねたミーティングをする事になった。

聞谷がお茶を淹れてくれたのだが、これがまあ美味かった。

さすが伝統芸能で有名な名家のお嬢様ってだけあって、茶道の心得もあるらしい。

 

「うん、美味い。ありがとな聞谷。」

 

「ふふ、ありがとうございます。」

 

「はっふぅ…落ち着くなぁ。こうやってずっと穏やかに過ごせたらいいのに…」

 

 

 

『そうは問屋が卸さないよ!!』

 

突然、イロモノ…もといモノクマが現れた。

 

「ぎゃあ!出た!!」

 

「誰か殺虫剤持ってきてよ!!」

 

「ちょっと待って、まず殺虫剤効くの?」

 

『何ですかその態度は!!せっかく人が親切にオマエラにご褒美をあげようとしているのに!』

 

「人じゃなくてクマね。」

 

黒瀬、もうめんどくさいからそこはツッコむな。

 

「オマエ…よくもミライとトウジュウロウを!!」

 

『え、何言ってんのジョンクン?札木サンを殺したのは武本クンだし、武本クンはルールを破ったからオシオキしただけだよ?ボクにキレるのおかしくない?』

 

「それは、そうだけど…それでも、武本には生きて罪を償ってほしかった!!なのにお前は…!!」

 

『はいはい、そういうのいいから。そんな事よりボクはオマエラに朗報があって来たのです。』

 

「さっき言うとったご褒美か。」

 

『ご名答ー!!学級裁判を乗り越えたオマエラのために、新しいエリアを開放しました!!』

 

「新しいエリアだと?」

 

『そうでーす。マップも更新されてるから確認しておいて下さいね。ああそれと、冷凍倉庫に転がってた邪魔なものは処分しておいたので普段通り使ってね!』

 

「お前…邪魔なものって、まさか札木の事か!?」

 

「札木ちゃんを物みたいに言うんじゃねぇ!!」

 

『いいじゃん。どうせ死んでるんだしさ。それにいつまでも死体が転がってたら使えないでしょ?オマエラの代わりに掃除しといたから感謝してよね。それじゃバイバーイ。』

 

モノクマは、それだけ言って去っていってしまった。

 

「クソッ…アイツ…」

 

「死者を冒瀆するような態度…許せないね。でも、今はまずこの楽園の事をできる限り知っておかないと。」

 

「まあ言うまでもあらへんけど、まずは探索しよか。」

 

「そうだね。新しく開放されたのは…ええと、図書館、ミュージアムエリア、それから大浴場だって。それから研究室が3つ。」

 

「大浴場ですか…広いお風呂があるのは嬉しいですわね。」

 

聞谷の奴、嬉しそうだな。

 

「んー、どうやって班分けしようか?」

 

「あ、はいはいはい!!ミュージアムエリアはあたしが行ってもいい!?」

 

興奮気味に言ったのは筆染だった。

ミュージアムエリアには美術館もあるだろうしな。

…夢中にならないといいけど。

 

 

 

話し合いの末、図書館の探索は俺、黒瀬、漕前、ジョンの4人。ミュージアムエリアは神崎、枯罰、弦野、速水、筆染の5人。温泉は安生、聞谷、仕田原、一、宝条の5人で探索する事になり、それぞれの班が研究室を一つずつ探索する事になった。

 

「それじゃあ今は9時だし、13時になったら一旦食堂に集合ね。それからお昼ご飯にしよう。」

 

「さんせー。」

 

集合時間を決めた俺達は、早速班ごとに行動する事になった。

 

「不束者ですがよろしくお願いしますー。」

 

俺達の班に加わる事になった黒瀬は、深々と頭を下げた。

チーム分けであぶれてしまったので俺の班に誘ったが、正直マイペースすぎてコイツのテンションにはついていけん。

まあ見た目はふわふわしてて可愛いので漕前とジョンは満更でもなかったみたいだが。

 

「図書館の探索楽しみー。ボク本好きなんだー。」

 

そういえば、黒瀬は脚本家だったな。

 

「俺も本はよく読むぜ?」

 

「Me too!」

 

二人は、黒瀬の気を引くために話題に乗ってきた。

…いやお前ら、絶対読書好きじゃないだろ。

漕前なんか、この前勉強嫌いだって言ってたしな。

 

「…えっちな本と漫画でしょ?」

 

「何でバレた!?」

 

「いやそこは否定しろよ。」

 

やっぱりか。

そんな事だろうと思ったよ。

漕前があまりにもあっさり認めたので、思わずツッコんでしまった。

 

「まあボクはどんなジャンルの本も好きだけどねー。」

 

そう言って、黒瀬はルンルン歩きでホテルの外へ出て行った。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「うぉ…!!」

 

外に出た俺達は、すぐに目を見開いた。

何とホテルの東側にあった壁が無くなっており、その先へ行けるようになっていたのだ。

 

「一気に敷地が倍近く広くなったな…」

 

「図書館図書館…あ、アレじゃない?」

 

「Yikes,けっこう遠いな…」

 

「まあ仕方ない。行ってみるか。」

 

俺達は、速水の研究室から少し歩いた所にある建物に向かった。

 

 

 

図書館に入ると、目の前には天井にも届く程の本棚がズラリと並んでいた。、

 

「わー、すごーい!」

 

「これ全部本棚か!?」

 

「Amazing!!」

 

図書館内の本はほぼ全てと言っていいジャンルが網羅されており、1000年以上前の古文書から最近発売された新書までありとあらゆる本が揃っている。

その中には黒瀬が書いた本もあった。

 

「あ、これボクが書いたやつー。」

 

「おい見ろよ!漫画もあるぞ!!それに雑誌も!!」

 

「Really!?」

 

読書家ではない漕前とジョンも楽しそうだ。

…ここなら参考書も充実してそうだな。

後で何冊か持ってくか。

しかし、これほど種類と数が多いと探すのが大変そうだな…

 

『ご心配には及びません!』

 

「うわっ!!?ビックリしたぁ!!」

 

「あ、クマちゃん。」

 

「またオマエか!!Buzz off!!」

 

「急に出てくんなよお前!心臓に悪いだろ!つかしれっと心を読むな!」

 

『そんな、みんなしてひどいなぁ。なんか赤刎クンがボクを呼んでる気がしたから来てあげたんだけどなー。』

 

「呼んでねぇよ!」

 

『あ、そう?せっかくこの図書館の便利な機能を教えてあげようと思ってたのに、聞かないんだ?』

 

「待ってクマちゃん、ボクは聞くよー。」

 

『うぷぷ、黒瀬サンは後ろの3人と違って素直でいいね!それじゃあお教えしましょう。そこの検索機で検索をかけると読みたい本がすぐに出てくるよ!検索方法はキーワード、ジャンル、タイトル、作者名、本文、発行年数、出版社などなど様々対応しているので良かったら使って下さいね!』

 

それだけ言い残して、モノクマは去っていった。

 

「チッ、アイツ…どこまでも不快だな。」

 

「まあでもせっかく検索機を紹介してくれたんだし、使ってみる価値はあると思うよー。」

 

「まぁ…そう、だな。」

 

いざって時に困らないように操作に慣れておかねぇと。

俺は、モノクマのように白と黒に分かれた機械の前に立ってタッチパネルを操作した。

 

「えーっと…ジャンルは…」

 

あ、やっぱり学習参考書もあるな。

後で探しやすいようにいくつかピックアップしておくか。

んーと、あとは…

 

げっ、何でR-18指定の本まで置いてあんだよ。

エロ本も妙にマニアックなヤツまで置いてあるしよ。

そこを無駄に豊富にする事ないだろ。

あのクマ何考えてんだ。

 

…何かバカバカしくなってきた。

今は脱出の手がかりになるものを探してるんだっつーの。

ん?脱出?

 

 

 

「…あ。」

 

「?円くんどーしたの?」

 

「…いや、ここって図書館だよな?それも、古今東西ありとあらゆる本がある…」

 

「それがどうしたんだ?」

 

「もしかしたら、外の世界に関する情報もあるんじゃないか?」

 

「あ、それだ!!」

 

「確かthe date of publicationでsearchできるんだよな!?」

 

「ああ、だから入学式が行われるはずだった日から6日後の新聞や雑誌で調べれば…あれっ?」

 

「どうした?」

 

「検索結果0件だって。」

 

「えっ!?」

 

「ちょっと待ってろ、入学式の日から今日までに出版された書物で調べれば何か出るかも…」

 

俺は何度も検索をかけた。

だが、いずれも検索結果は0件だった。

 

「クソッ、やっぱり外の事は知らせる気ねぇぞって魂胆か…!」

 

「まあこんな簡単に出てきたら逆にビックリだけどねー。」

 

「確かにな…」

 

「じゃあさ、希望ヶ峰学園について調べるのはどう?ルールにも調べるのはOKって書いてあったしさ。」

 

「…なるほどな。じゃあちょっと調べてみるか。」

 

検索をかけると、数十件ほど出てきた。

 

「希望ヶ峰学園極秘資料か…」

 

「ご丁寧に置いてある場所の地図も表示されたな。」

 

「どうやら希望ヶ峰学園の資料は同じコーナーに纏めてあるみたいだし、探してみるか。」

 

「I agree!」

 

俺達は、早速希望ヶ峰学園の資料を探す事にした。

 

 

 

俺、黒瀬、漕前、ジョンの4人は手分けして探し出した資料を読んだ。

 

「えーっと、極秘資料は…あった。」

 

俺は、ちょうど目の高さに置かれていた極秘資料を手に取る。

バッと開いたページに、俺は思わず目が釘付けになった。

 

「…え。」

 

そこには【超高校級の爆弾魔】について書かれていた。

2年ほど前から俺もニュースで見た事がある爆発事故を裏で起こしていた人物がおり、とある極秘ルートを使って調べ上げた結果犯人は『爆弾魔』と呼ばれる殺人鬼で、実は高校生だったので超高校級としてスカウトしたとあった。

犯人は事故に見せかけて爆発を起こし不特定多数の民間人を殺害しており、現場や現場付近に『BOMBER』という文字を残している事がわかっている。

犯行手口があまりにも巧妙で完全犯罪に見せかけた犯行であるため警察ですら手掛かりを掴めず、顔や名前はおろか性別や年齢すら判明していない。

【超高校級の爆弾魔】は俺達と同じ76期生として入学予定だったと書かれている。

 

「マジか…あの連続殺人鬼が俺達の同級生だったのかよ。」

 

こんな事は考えたくはないが、俺達の中に紛れ込んでる可能性も0じゃないな…

…まさか、枯罰が…?

…いや、そんなわけが無い。

モノクマのオシオキに誰よりも激怒して亡くなった二人に花を供えていたアイツが爆弾魔のはずがない。

これ以上仲間を疑うのはよそう。

 

 

 

「ん?」

 

ふと、近くに置かれていた新聞のスクラップが俺の目に入った。

そこには英語だが翻訳すると『5年続いた戦争が終結 伝説の将軍現る』という見出しで記事が書かれていた。

読んでみると、何でも海外の軍に所属しており数十年前に【超高校級の将軍】としてスカウトされた経験もある勅使河原雷人中将が5年続いていた紛争に終止符を打ったという内容だった。

たった1日で戦車を3ダース沈めたとか、頭を狙撃しても死ななかったとか、流石に盛ってるんじゃないかってレベルの伝説を数多く残しているのだが、実際にインタビューをする事に成功した記者の証言によると『今回の勝利は息子の活躍によるものだ。彼はいずれ私をも凌駕する軍人となるだろう』と述べていたという。

 

伝説の将軍か。

顔写真も載せてあるけど、ものすごい厳めしいオッサンだな。

右眼に眼帯とかしてていかにもって感じだ。

…あれ?でもこのオッサン、誰かと似てるような気がするんだが…?

まあでも今は関係ないか。

俺がスクラップを元に戻そうとした、その時だった。

 

 

 

「わ!」

 

「え?」

 

突然、脚立に登って上を調べていた黒瀬が脚立から落ちた。

 

「うわぁっ!?」

 

ドシン、という音が鳴り響く。

その直後、俺の目の前は突然真っ暗になった。

そして、顔を柔らかいもので挟まれたような感触がした。

 

「うーっ、いたぁい…」

 

この声は…黒瀬か?

さっき脚立から落ちてたけど大丈夫かよおい!?

てか、もしかしてこれ…上に乗られてる?

 

「お、おい黒瀬…大じょ…」

 

直後、俺は自分の状況に思わず目を点にする。

 

「あ、円くん。良かったー、お怪我がなくてー。」

 

「!!?」

 

俺の顔に覆い被さっていたのは、黒瀬の胸だった。

突然の出来事で数秒フリーズしてしまったが、黒瀬の方も怪我が無いらしいので起き上がろうとする。

だが、黒瀬は俺を放すどころか腕と脚を俺の身体に絡み付けてきた。

コイツ、この見た目で何つー馬鹿力だよ…!

全然振り解けないんだが…このままだとマジで窒息する…!

 

「円くんが無事で良かったよー。かわいいお顔に傷がついたら台無しだもんねー。」

 

「ちょっ…おい、放…苦し…」

 

「あ、ごめーん。」

 

俺が弱々しく黒瀬の腕をポンポンと叩きながら訴えると、黒瀬はやっと放してくれた。

 

「じゃ、ボクは向こうの棚見てるねー。」

 

そう言って、黒瀬は反対側の本棚へと走っていった。

 

「はー…」

 

死ぬかと思った…

 

 

 

「「…。」」

 

「うおっ!?」

 

漕前とジョンがものすごく恨めしそうな目で俺を見てくるので、思わずビビって飛び上がってしまった。

 

「おい赤刎ぇ…いいよなお前はよぉ。見た目が小学生だからって女の子に可愛がってもらえて…」

 

「え、いや…あれはたまたま…」

 

「黒瀬ちゃんの爆乳はそんなに気持ちよかったのかって聞いてんだよ!!」

 

「I envy you!!」

 

うわ…

コイツら、さっきのをそんな目で見てたのか。

 

「で、どうだったんだよ!?ええ!?」

 

「…かったよ。」

 

「Huh?聞こえねーぞ?」

 

「すげー柔らかかったよ!何かいい匂いしたし、アイツマシュマロでできてんじゃねぇのって思ったよ!」

 

観念した俺は、本音を二人に打ち明けた。

正直に言おう。さっきのハプニングはとてもおいしかった。

大きくて柔らかいおっぱいはいいぞ。顔を挟まれるとすごく幸せだ。

だってしょうがないだろ。男の子なんだもん。

たまたまとはいえあんな事されたら悶々とするよ!

 

…とまあ黒瀬が離れていったのをいい事におっぱいトークで盛り上がっていると、時刻は既に11時を過ぎていた。

 

「Oh,もう11 o'clockか。」

 

「っつー事は2時間くらいここにいたのか。時間も丁度いいし、研究室行ってみようぜ。」

 

俺達は図書室を後にし、研究室に向かう事にした。

 

 

 

図書室を出てすぐの所に、何の変哲もない小屋があった。

ドアを見てみると、トランプとサイコロの絵が書かれている。

 

「トランプとサイコロ?ここは何の部屋なんだ?」

 

「あー、多分俺の研究室だと思うわ。」

 

そう言って手を挙げたのは漕前だった。

あ、そっか。

【超高校級の幸運】だから…

 

「まあ【超高校級の幸運】っつっても、別に運にまつわる才能があるわけじゃないんだけどよ。んじゃ入るぜ。」

 

そう言って、俺達は漕前の研究室に入った。

 

 

 

「「「…。」」」

 

漕前の研究室は良く言えばシンプル、悪く言えば地味だった。

窓とドアが一つずつあるだけの真っ白な部屋の中心に学習机がポツンと置かれているだけの部屋で、特に気になる所があるとすれば机の上にノートやペンが置かれているだけだった。

 

「何もないねー。」

 

「so commonだぜ。」

 

「はは、まあそうじゃないかとは思ってたけどな。どうする?ここでやる事も無いだろうし、他の班の様子見に行くか?」

 

「そうだな。」

 

 

 

漕前の研究室を後にした俺達は、他の班の様子を覗きに行く事にした。

ちょうど真東に向かって歩いていると、クラシック調の建物が見えてきた。

建物全体が大理石でできており、なかなか凝ったデザインをしている。

高級感のあるヨーロッパ風の扉には洒落たサムラッチ錠が付いており、紋章のようなものが書かれていた。

 

「紋章?何だこれは。」

 

「えーっとね、あ、思い出した。これは神崎財閥のマークだね。」

 

「って事は…」

 

俺は、少し嫌な予感がしつつもドアをノックした。

 

「し、失礼しまーす。」

 

俺は、恐る恐るドアを開けた。

 

 

 

「うおっ…」

 

中は西洋の城のような内装になっており、アンティーク調のシャンデリアがまず目に留まった。

部屋にはありとあらゆるジャンルの専門書が並んでおり、パイプオルガン、油絵、花、ティーセット…様々な物が置かれていて見るからに多趣味だという印象を受けた。

 

「おい子供、あまりうろちょろするな。目障りだ。」

 

声が聞こえた方を振り向くと、高級感のあるデスクについた神崎がこちらを睨んでいた。

 

「やっぱりオマエの研究室か。」

 

「如何にも。」

 

「それより他の4人はどうしたんだよ?」

 

「奴等なら他の場所の探索を任せている。長い事居座られるのも不愉快なのでな。」

 

なるほどな、だから他の4人がいなかったのか。

…まあ筆染はともかく枯罰と弦野は元々神崎の事嫌いだろうし速水も札木の事で神崎を相当恨んでるから、別行動にも特に不満はなかったのだろう。

 

「貴様らもだぞ。」

 

「えっ?」

 

「早く出て行け。無能が感染る。」

 

「ったく…はいはいわかりました。出て行きますよー。」

 

俺は、少し不快な気分になったので3人を連れて神崎の研究室を後にした。

漕前とジョンも同じ気持ちだったのか、特に何も言ってこなかった。

黒瀬も俺達の後を追う形で研究室を後にした。

 

「ったく、嫌な気分になったぜ。」

 

「帝くんは相変わらずだねー。

 

「あんなヤツignoreしよう。それより、もう一つlaboratoryがあるんだろ?行ってみようぜ。」

 

「そうだな。」

 

 

 

ジョンの提案で南西へと進んでいると、白く清潔感のある建物が見えてきた。

建物の周りには綺麗な花が咲いており何とも心を落ち着ける雰囲気になっていた。

部屋のドアはガラスでできており、扉には二人が向き合って座っているピクトグラムが描かれている。

 

「ここ、何かクリニックっぽいよねー。」

 

「って事は、安生の研究室かな?」

 

「そうじゃねぇか?入ってみようぜ。」

 

俺はガラスのドアを開けて研究室の中に入った。

 

 

 

「へぇ…」

 

研究室の中はクリニックの診察室のようになっており、明るすぎず暗すぎない照明が暖かい雰囲気を生み出していた。

アロマの香りと部屋に置かれた観葉植物が心を落ち着けてくれる。

 

「あ、赤刎君達いらっしゃい。」

 

すると、中にいた安生が声をかけてきた。

 

「あ、赤刎君…」

 

同じ班だった一も、研究室にあったソファーに座っていた。

 

「あれ?聞谷と仕田原と宝条は?」

 

「あ、えっと…女子のみんなには…まだ女湯を調べてもらってるんだ。その…男子は女湯に入れないから…」

 

「入れないっつーか…普通男は女湯に入らないだろ。」

 

「いや、そうじゃなくて…異性のお風呂や脱衣所に入るのはルールで禁止されてるんだ。破ったらオシオキだってさ。」

 

「マジかよ…」

 

漕前とジョンは見るからにガッカリした顔をしていた。

お前ら、逆にルールがなかったら入る気だったのか。

 

「ルールが追加されてるから、後で確認しておきなよ。」

 

「うぃっす。」

 

俺は、すぐにパスポートを確認した。

すると、やはり

 

 

 

ーーー

 

十三、男子が女湯に、女子が男湯に入る事を禁じます。違反を発見し次第、処刑用マシンガンが作動します。

 

ーーー

 

 

 

という項目が追加されていた。

物騒だなオイ…

 

「まあ、モラルを守った行動をしろって事だろうね。異性のお風呂に入らない、なんて常識だし。」

 

「はは…」

 

やはり思い当たる節があるのか、漕前は苦笑いしていた。

 

「そっちも研究室を調べたんだよね?」

 

「ああ、俺の研究室だったよ。」

 

「そっか、漕前君の…」

 

「まあ研究室って名前がついてるだけで何もなかったけどな。」

 

俺達が安生や一とちょっとした情報交換をしていると、探索を終えた女子組が合流してきた。

ちょうど時間もいい感じになっていたので、俺達はミーティングの準備をしに食堂へ向かった。

 

 

 

 

 


 

 

 

ー生存者ー

 

【超高校級の講師】赤刎円

 

【超高校級のカウンセラー】安生心

 

【超高校級の天才】神崎帝

 

【超高校級の香道家】聞谷香織

 

【超高校級の脚本家】黒瀬ましろ

 

【超高校級の幸運】漕前湊

 

【超高校級の???】枯罰環

 

【超高校級の家政婦】仕田原奉子

 

【超高校級の冒険家】ジョナサン・ウォーカー

 

【超高校級のヴァイオリニスト】弦野律

 

【超高校級のソフトウェア開発者】一千歳

 

【超高校級のランナー】速水蘭華

 

【超高校級の画家】筆染絵麻

 

【超高校級の収集家】宝条夢乃

 

ー以上14名ー

 

 

 



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(非)日常編②

探索を終えた俺達は、探索の結果を報告し合う事になった。

 

「それじゃあ早速ミーティングを始めようか。まずは赤刎君のグループから報告してくれるかな?」

 

「ああ。俺達は図書館を探索したんだが、そこには数え切れないほどの本があった。自分で探すと骨が折れるから、本を読む時は検索機を使うといい。」

 

「それと俺の研究室があったぜ。」

 

「あとは…」

 

俺は、【超高校級の爆弾魔】について言おうか迷っていた。

だが、結局言おうとしていた事を飲み込んでしまった。

 

「どうした?」

 

「…いや、何でもない。次は枯罰達の班、報告してくれないか?」

 

「ウチらかいな。まあええわ。ミュージアムエリアは、博物館、美術館、記念館、動物館、植物館、水族館、プラネタリウム…とにかく展示を目的とした施設が密集しとるんや。」

 

「え、動物園もあるんですか!?」

 

「動物園言うても動物はおらんかったぞ。檻の中に入った本物そっくりの模型と動物の解説があっただけや。」

 

「そうなんだよね。水族館も同じ感じだったよ。植物園にある植物も偽物だった。」

 

「それと近くにクソ野郎の研究室があったくらいやな。」

 

「黙れ片目関西弁女。」

 

「喧しいわ。お前なんぞクソ野郎で十分やろ。」

 

枯罰が吐き捨てるように言うと、筆染が笑いながら付け足す。

 

「はは…あ、あとね。一応壁を調べてみたんだけど、ちょうど敷地の面積が倍になってる事がわかったんだ。えーっと、正三角形が二つ合わさった菱形になってるって言えばいいのかな?」

 

なるほど、菱形か…

 

「ありがとう、枯罰さん、筆染さん。じゃあ最後は僕達の班ね。えっとね、大浴場には色んな種類の温泉があって、露天風呂もあったよ。あ、そうそう。それと異性の脱衣所やお風呂に入るのはルール違反だから気をつけてね。ルールにも項目が追加されてるから。」

 

「まあルール関係なく異性の風呂に入らんっちゅうんは人としての常識やしなぁ。」

 

「ぐ…」

 

「あ…それと、安生君の研究室が開放されてたよ。」

 

「ほぉーん。」

 

うん、大体全部の班が情報を共有したかな。

んじゃあ今回のミーティングでわかった情報をまとめとくか。

 

・今回開放された施設は研究室3か所、図書館、大浴場、ミュージアムエリアの6つ

・今回開放された研究室は、安生、神崎、漕前の3名

・図書館には古今東西ありとあらゆるジャンルの蔵書が置いてあり、検索機を使えばどの蔵書がどこに置いてあるのかを特定できる

・ミュージアムエリアにある施設は博物館、美術館、記念館、動物館、植物館、水族館、プラネタリウム。展示を目的とした建物が密集している。しかし、動物園、植物園、水族館に展示されていたものは全て本物そっくりに再現された偽物

・大浴場には様々な種類の風呂がある。男湯と女湯に分かれており、男子が女湯に、女子が男湯に入るとマシンガンで処刑される

 

「…とまあ、報告はこのくらいかな。そろそろお昼にしようか。」

 

すると、その直後…

 

 

 

「…帰る。」

 

そう言って弦野が席を立った。

 

「あ、ちょっと!?弦野君!?」

 

「話し合いは終わったんだろ?じゃあもう俺がここにいる理由はねぇ。」

 

そう言って、弦野は食堂を出ていってしまった。

 

「弦野君…大丈夫かなぁ。もう6日はまともなもの食べてないよね?」

 

「見るからに痩せてるし…流石にちょっと心配になってきたね。」

 

「しゃあないやろ。アイツが食いたない言いよるんやし、飯無駄に作るんも勿体無いしウチらは12人分の飯作るわ。」

 

「…12人?」

 

「神崎のクソのための飯なんぞ作るわけないやろ。」

 

「俺も貴様らの得体の知れない飯など願い下げだ。俺は俺の分を作る。飯炊きなどこの俺がやる事ではないが、こんな状況だしそうも言ってられん。」

 

「神崎、お前料理できたのか。」

 

「当然だ。貴様、俺を何だと思っている?俺に不可能など無い。」

 

そう言って神崎は足早に食堂から出て行った。

 

「アイツはannoyだけど、タマキとトモコのhelpingしたいからオレも行くよ。」

 

神崎、枯罰、仕田原、ジョンの4人が厨房へ向かっていった。

こうして俺達12人は3人が作ってくれた料理を食べ、神崎は自分で作った料理を食べた。

神崎の料理は、流石に本職の仕田原のレベルとまでは言わないが高級レストランのように美しく盛り付けられたフレンチを作っていた。

中身はともかく、完璧なテーブルマナーで作った料理を口に運ぶ姿はまるでどこかの貴族のようだった。

…アイツ、本当に何でも一人でできちまうんだな。

 

「あー、美味かった。」

 

「ありがとう、3人とも。それじゃあミーティングで話したい事は大体話したし、自由探索の時間にしようか。」

 

こうして食事を終えた俺達は、夕食の時間まで自由行動を取る事になった。

…さて、どうやって過ごそう?

 

 

 

俺は、とりあえずプレイルームに行ってガチャを引いた。

 

「おっ。」

 

出てきたのは、植木鉢に入った可愛らしいミニサボテンだった。

 

「サボテンかぁ…」

 

俺が持っててもアレだし、誰かにあげようかな。

俺は、ガチャの景品を持ってプレイルームを後にした。

 

 

 

外に出てみたはいいものの、これからどうしようかな?

 

「…あ。」

 

歩いていると、札木の研究室が視界に入った。

気がつくと、俺は札木の研究室の前に立ってドアを開けていた。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「…。」

 

札木がいない研究室は、余計に広く暗く感じられた。

ついこの前ここでお姉さんの話をしてくれてた事が嘘のようだ。

俺がヘアピンをプレゼントした時、とっても嬉しそうに受け取ってくれたのに。

 

「…あれ?」

 

ふと机の上を見ると、俺がプレゼントしたピンと、その下に畳まれた紙が置かれていた。

俺は、折り畳まれた紙を開いて読む。

 

「…え。」

 

そこには、札木の文字で手紙が書かれていた。

 

 

 

ーーー

 

赤刎くんへ

 

 

 

この手紙を読んでいる頃、わたしはもうこの世にはいません。

 

なので、あなたに伝えたい事は全てこの手紙に記しておこうと思います。

 

まず、何も相談せずに勝手に自殺してしまって本当にごめんなさい。

 

わたしは、赤刎くんに話した通り義両親にひどい扱いを受けてきました。

 

わたしにとっては、家族で唯一わたしを愛してくれたお姉ちゃんだけが救いでした。

 

お姉ちゃんは、わたしの生きる理由でした。

 

でもわたしの大好きなお姉ちゃんは、突然知らない人に残酷に殺されてもうこの世にはいません。

 

わたしは、お姉ちゃんに会いに天国に行くの。

 

他のみんなにも、わたしは自殺だったと伝えてください。

 

そして必ずみんなで外に出て、わたしの分まで生きてください。

 

どうか、コロシアイの犠牲者はわたしで最後にしてください。

 

 

 

最後に、あなたに伝えたかった事があります。

 

わたしは、初めて会った時からずっとあなたの事が好きでした。

 

本当はもっと、あなたと話したかった。

 

でも、わたしのせいで傷つく赤刎くんの顔だけは見たくなかった。

 

自殺しようとしてる事なんて言えなかった。

 

本当にごめんなさい。

 

こんなわたしとお話してくれてありがとう。

 

さよなら。

 

 

 

札木未来

 

ーーー

 

 

 

「…。」

 

いつの間にか、手紙は濡れて滲んでいた。

俺は、アイツの事を何もわかってやれなかった。

クラスメイトだ、親友だと言っておきながら、アイツと向き合えなかった。

もっとアイツの事を知れていたら、アイツの心に寄り添えたかもしれないのに。

 

「俺だって…俺だって、もっとお前と話したかったよ…!札木…札木ぃ…!!」

 

俺は、札木の手紙を握りしめてその場で泣き崩れた。

もうこんな思いはしたくない。

…札木、俺はやるよ。

全員でここから出て、お前の分まで生きる。

だから、どうか見守っていてくれ。

 

俺は決意を固めると、札木の研究室を後にした。

 

「…次は武本の研究室だな。」

 

俺は、武本の研究室へ足を運ぼう。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「…。」

 

武本の研究室は、どこか寂しく感じられた。

ここで話をしたのが嘘のようだ。

今でも信じられない。

アイツが札木を殺したなんて…

武本は、札木の事が好きだったんだ。

だから、武本だけは犯人じゃないと信じたかった。

それなのに、どうして…

 

「…。」

 

そういえば、札木は遺書では武本の名前を一度も出していなかった。

きっと、札木は武本を犯人に思わせたくなかったんだ。

優しい札木の事だから、俺達が武本に憎しみを抱くのを避けたかったのだろう。

 

「…武本。お前とももっと話せていれば、こんな事にならなかったのにな。それと、裁判の時は追い詰めるようなマネをして悪かった。どうか安らかに眠ってくれ。」

 

俺は、そっと手を合わせて頭を下げるとそのまま研究室を後にした。

 

 

 

「…あ。」

 

俺が武本の研究室から出ると、ちょうど安生に会った。

 

「赤刎君。こんな所で何をしてたの?」

 

「札木と武本に別れの言葉を言ってたんだ。まだちゃんと言えてなかったからな。」

 

「…そっか。」

 

安生は少し俯いて声のトーンを低くした。

…ちょっと暗い雰囲気になっちゃったかな?

何か他の話題を探さないと…

 

「…あ、そうだ。今時間あるか?」

 

「うん、あるけど…どうしたの?」

 

「ちょっと話さないか?」

 

「うん、いいよ。それじゃあ僕の研究室来る?」

 

俺は安生と過ごす事にした。

俺は、安生に案内されて研究室に向かった。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

俺が研究室のソファに座ると、安生が俺の前に来た。

 

「それで赤刎君。話って何かな?」

 

「話っつーか、プレゼントしたいものがあるんだ。」

 

「プレゼント?僕に?」

 

「ああ。気に入ってくれると嬉しいんだけど…」

 

俺は、さっきガチャでゲットしたミニサボテンをプレゼントした。

 

「!これを、僕に…?」

 

「ああ。」

 

「すごく嬉しいよ。ありがとう。…可愛いね、研究室に飾っておこうかな。」

 

そう言って、安生は診察用のデスクの上にミニサボテンを置いた。

どうやら喜んでくれたみたいだ。

 

「本当にありがとうね。お礼は何がいいかな?」

 

「いや、いいよ礼なんて。何か見返りを求めてたわけじゃないしさ。」

 

「え、でも…」

 

「いいんだって。あー…じゃあそうだな。せっかく招いてもらったし、ちょっと話すか?」

 

「それで君がいいなら喜んで。」

 

安生は、ニコッと笑って承諾した。

俺と安生は、話をする事になった。

 

「えっと…まず何から話そうか。あ、そうだ。安生、お前はどうしてカウンセラーになったんだ?」

 

「…僕、生まれつき身体が弱くてね。下半身も動かなくてずっと入院したままだったんだよ。でも、あるお医者様が僕の事を熱心に励ましてくれてね。それで、手術も前向きに受ける事ができたんだ。結局下半身不随は治らなかったけど、その人のおかげで僕は退院できるまで身体が良くなったんだ。だから僕は、そのお医者様に憧れて同じ医者を目指す事にしたんだ。」

 

なるほどな。

自分を治してくれた医者に憧れて医者を目指すって話は聞いた事あるけど、安生もそのパターンだったわけか。

 

「でも、僕は生憎血に対する耐性がなくてね…外科医の道は諦めざるを得なかった。でも僕はやっぱり医者になれないんだって挫けてたその時、そのお医者様が僕の事を何度も励ましてくれた事を思い出したんだ。僕は、僕を治してくれたあの人のように、誰かの心が挫けそうな時にその人に寄り添える存在になりたい。そう思ってカウンセラーになったというわけさ。」

 

「そうか…でも、憧れから本当にカウンセラーになったのも才能のおかげだよな。」

 

「ううん。僕なんてまだまだだよ。…札木さんも武本君も、もっと僕が力になれていればあんな事にならなかったかもしれないのに…」

 

「おいおい、お前のせいじゃねぇだろ。そんな悲観的になるなよ。」

 

「…ふふ、ありがとう。君は優しいね。君、僕より人の話聞くの向いてるよ。」

 

「いやいやいや!それはねえって!流石にお前にはかなわねぇよ!」

 

「でも、人の話を聞き慣れてる感じするよ?」

 

「ああいや…それは、生徒に勉強教えるときにどこが理解できてないのかとかちゃんと把握する必要があるから…」

 

「なるほどね。」

 

安生は、俺の話を聞いてクスっと笑った。

俺は、少し下を向いていた顔を上げて安生の顔を見ながら言う。

 

「…あのさ。安生。」

 

「何だい?」

 

「…俺、お前みたいに強くないから…たまにはお前に相談しに来てもいいかな?」

 

「もちろん!たまにと言わずいつでも来ていいからね。」

 

そう言って、安生は俺の手を握ってきた。

どうやら安生と親密になれたみたいだ。

俺は、その後も少し安生と話をしてから研究室を後にした。

 

《安生心との親密度が上がった!》

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

自由探索の後は、夕食の時間になった。

今日の夕食係は漕前、枯罰、仕田原の3人で、神崎は自分の分を作っていた。

今回も3人が作ってくれた飯は美味かったのだが、神崎が一からパスタを作っていたのには流石に驚かされた。

アイツ、案外食に拘るタイプだったんだな…

 

「今日もおいしかったねー。」

 

食事が終わり余韻に浸っていると、突然速水が手を挙げた。

 

「ねえ、アタシからひとつ提案があんだけど!」

 

「提案?」

 

「あのさ、これからみんなで一緒にお風呂行かない!?」

 

「あら、いいですわねそれ!」

 

「風呂ぉ?何でまた…」

 

「だって、せっかく開放されたんだもん!親睦を深めるって意味でも、みんなで一緒にお風呂入るの!」

 

「あたし賛成ー!」

 

「ボクもー。みんなとお風呂楽しみー。」

 

「ゆめちゃんは?」

 

「あー…ゆめは遠慮しとくわ。」

 

「あ…そうでしたわね。ではまたの機会に。仕田原さんは?」

 

「ええと…お気持ちは嬉しいのですが、自分は後片付けがあるので…」

 

「せやったらウチがやっとくさかい、お前は楽しんで来い。」

 

「え、ですが…」

 

「ウチ、大勢で風呂入るんは苦手やねん。ええからお前もたまにはゆっくりせぇや。」

 

「い、いけません!自分如きが枯罰さんに仕事を押し付けて皆さんとお風呂など…」

 

「まあまあ、そんな事言わず!」

 

「仕田原ちゃんも一緒に入ろうよー!」

 

仕田原は、聞谷と筆染に半ば強引に引き寄せられる形で一緒に風呂に入る事になった。

漕前は、その様子を遠くからニヤニヤしながら見ていた。

 

「ふっふっふ、女が集まれば姦しいとはまさにこの事だ。いやー羨ましいねぇ。」

 

「…漕前君、何考えてんの?」

 

「決まってんだろ!俺達男子も一緒に風呂入ろうぜ!」

 

「Oh,それはなかなかcoolなideaだな!マドカとチトセも来るよな!?」

 

「おう。俺はもちろん行くよ。」

 

「ほーらー、一も!」

 

「あ…えっと、じゃあ僕も…」

 

「安生は?」

 

「うーん、参加したいのは山々だけど僕は遠慮しておくよ。この身体だと色々助けてもらわなきゃだろうし。」

 

「えー、そんなの全然気にしねぇよ。安生も行こうぜー!」

 

「漕前君、誘ってくれてありがとう。でも僕は調査結果をまとめておきたいし、枯罰さんの手伝いもしたいから残るよ。みんなで楽しんできてね。」

 

「まあ、そこまで言うなら無理強いはしねぇけどよ。」

 

「神崎は…」

 

「断る。貴様らと同じ湯に浸かるなど、穢らわしい菌が感染りそうで悍ましい。」

 

そう言って神崎は足早に食堂から出て行ってしまった。

 

「やっぱりな。赤刎、あんな奴誘うだけ無駄だっつーの。」

 

「…そうだったみたいだな。」

 

結局、俺達は4人で大浴場に行く事になった。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

大浴場に行って廊下を歩いていると、青い暖簾と赤い暖簾が見えた。

ご丁寧に青い暖簾には『男』、赤い暖簾には『女』と書かれているので俺達は青い暖簾の奥へと進んだ。

脱衣所に入った途端、漕前とジョンがキャッキャとはしゃぐ。

 

「おいジョン!見ろよ!!コーヒー牛乳あるぞ!!」

 

「Oh!taking a bathの後のmilkはreally awesomeだぜ!!」

 

「…ねぇ、赤刎君。何か、あの人達うるさくない?」

 

「俺に言われても。」

 

脱衣所の中には服を入れるための籠が並んだ棚があり、その他にも洗面台や体重計、冷水機、自販機、マッサージ機などが置かれていた。

自販機のものはモノクマメダルで買えるらしい。

俺は早速服を脱いで籠に放り込み、備え付けのタオルを持って風呂場に行こうとした…のだが。

 

…何かこう、ものすごく居づらいんだが。

ジョンは鍛えてるだけあってガタイ良いし、漕前も年頃の男子らしい体格をしている。

一も、中性的ではあるが決してもやしというわけではなく程良い身体付きだった。

…何で、俺だけ女子小学生みたいな身体なんですかねええ。

 

「赤刎、お前…男だったんだな。」

 

「今更!?」

 

いや、そう思われても文句言えねぇ見た目してる自覚はあるけどさ。

実際小動物だの幼女だのよく言われるし。

…うう、何か嫌な思い出ばっかり込み上げてきたな。

風呂入って忘れよ。

 

浴室の扉を開けると、熱気や湯気と共に温泉の香りが鼻を擽った。

 

「わぁ…!!」

 

暖かみのある照明と洒落た和風の内装がまるで異空間のような雰囲気を生み出しており、効能ごとに分かれた温泉が十種類近くあった。

足湯や打たせ湯、サウナや岩盤浴まであり、日頃の疲れを十分に癒せる仕様になっていた。

 

「くっ…モノクマめ、やりおる…!」

 

「んじゃあ、せっかく来たんだしアレやるか。」

 

「アレ?」

 

「サウナで我慢大会!これも一つの醍醐味だろ?」

 

「That's good idea!!」

 

「…え、いや…ちょっと何言ってるかわかんない…赤刎君、何か言ってよぉ…」

 

「はぁ…お前らなぁ。それ身体に悪いんだぞ?熱中症になるからやめとけ。」

 

「おい赤刎ー。そんな事言って、本当は負けるのが悔しいんだろー?」

 

「な…!」

 

「おいおい、言ってやるなミナト。マドカはpretty girlだから仕方ないぜ。」

 

「誰がpretty girlだコラ!!よーし、そこまで言うならやってやろうじゃねぇか!!」

 

「ゑ」

 

「Well said!チトセも来いよ!」

 

「待って、これ拒否権無し?」

 

「じゃあ負けた3人が勝った奴に割り勘で牛乳奢るってのはどうだ!?」

 

「OK!」

 

「俺は牛乳嫌いだからお前ら俺が勝ったらアイス奢れよ!」

 

「帰りたい…」

 

こうして、男子4人による我慢大会が始まった。

 

 

 

3分後。

 

「…もう出る。」

 

「おいおい、どうした一!?もうギブアップか!?このチキン野郎がよ!」

 

「うぅ…チキンでいいもん。身体に悪いって言ったの赤刎君じゃん。ボクは脱水症状で倒れるとか嫌だから。」

 

こうして一が最初に脱落した。

まあ予想はしてたが一が根を上げたか。

 

10分後。

 

「くっ…俺、もう限界だ。出る。」

 

続いて漕前がギブアップした。

残るはジョンと俺か…

 

「Hey,マドカ。オマエ、tiny totのクセにやるじゃねぇか。」

 

プッチーン

 

はい今完全にキレました。

バカにされてムカついたし、何が何でも絶対優勝してやる…!!

 

数十分後。

 

「Ahh!!That‘s it!!I get out!!」

 

とうとうジョンが先に折れた。

結局、我慢大会の優勝者は俺に決まった。

 

「っひゃあ、ひぇへへ、どうらみらか…これれおれがゆうひょうらろ…」

 

「Unbelievable…まさかマドカがvictorになるとは…」

 

「根性って怖えな…」

 

「てかさ…大丈夫?全身真っ赤だしさっきから呂律回ってないよ?」

 

へへへ、どうだ見たか!!

散々バカにしてたお前らに勝ってやったぞざまあみろ!!

…あれ?何か視界がグラついて…

 

「きゅう…」

 

「あ、おい赤刎!!」

 

「あーあ、無理しすぎだよ…とりあえず、冷たいもの飲ませて涼しいとこで安静にさせた方が…」

 

「だな。」

 

 

 

「…ふぅ。」

 

よし、水風呂で頭冷やして冷たい水飲んだらだいぶ気分が回復してきた。

 

「マドカ、Are you OK?」

 

「ああ…サンキュな3人とも。」

 

「いやー、しかしお前の根性には度肝抜かれたぜ。文句無しでお前が優勝だよ。」

 

「へへ…俺、自分で言うのも何だけどブチ切れた時のしつこさだけは誰にも負けねぇ自身あっから。後でアイス奢れよー。」

 

その後は、身体の調子が元に戻ったのでみんなで露天風呂に行った。

丁度いい温度の温泉が身体を癒し、見上げると夜空が広がっていた。

 

「はぁー…極楽極楽…」

 

すっかり気分が良くなり、小さく鼻歌を歌っていた、その時だった。

 

 

 

「うっひょー!!メッチャ広いじゃん!!」

 

「ひゃっ!?ちょっ…黒瀬さん!?何をなさるんですの!?」

 

「えへへー♪ひゃっ、だって。香織ちゃんかっわいー。」

 

 

 

「「…。」」

 

漕前とジョンは顔を見合わせ、コクリと頷く。

そして、俺の方を見てきた。

 

「…おい赤刎。今のは何だと思う?説明してみろ。」

 

「え?あー…女湯にいる女子の声じゃねぇの?ほら、風呂場はそこの仕切りで仕切られてるから…」

 

「…そうだ。赤刎よ、さっきサウナでの我慢大会は温泉での醍醐味だと言ったな。でも、もう一つ定番があるだろ。言ってみろ。」

 

「いや、知るかよ。」

 

「とぼけんじゃねぇ!!覗きだよ覗き!!」

 

…はぁ!?

 

「え!?ちょっ…お前何言ってんの!?」

 

「お前こそ何言ってんだ赤刎!!あの仕切りの向こうにはなぁ…!!男にとっての(ロマン)が詰まった楽園(エデン)が広がってるんだぞ!?」

 

「カッコよく言ってるけど言ってること最低だかんなお前!?あと夢と書いてロマンと読ませるのと楽園と書いてエデンと読ませるのをやめろ!」

 

「そうだよぉ…見つかったら大変な事になるからやめときなって…」

 

「チッチッチ、オマエらnaiveだな。実は、既にpreparationして絶対にバレないangleを見つけたんだぜ。」

 

「えぇ…くだらないなぁ、わざわざそんなのを調べるために自由探索の時間を…」

 

「詳しく。」

 

「へ!?ちょっ、赤刎君!?」

 

「いやぁだって絶対バレない方法があるんだったら…な?」

 

「Yeah.」

 

「えー…ちょっと待って。これもしかしてボクもやらなきゃいけないパターン?」

 

バレない方法があると聞いたので俺はもちろん参加、そして一も流されるように参加する事になった。

 

「で、どうすんだよ?」

 

「まずこの台に登ってだな…」

 

俺達は、ちょうど登れそうな台を見つけてそこから仕切りの向こうを覗いた。

 

 

 

「よーし、泳いじゃおー!!」

 

「うおっ!ランカの奴、メッチャattractive bodyじゃねえか!やっぱsportやってるだけあってgreat figureだな!」

 

速水は、ハイテンションで露天風呂に飛び込んで泳いでいる。

うんうん、速水の奴は抜群のスタイルをお持ちで。

ああいう健康的な女子ってなんかグッと来るよな。

 

「ひゃんっ、ちょっと!黒瀬ちゃんってばどこ触ってんのよー!」

 

「えへへー、おっぱいの揉み比べー♪」

 

「やめてってばぁ〜!」

 

「うお、マジか。筆染ちゃん、あんなに胸デカかったのか。」

 

「マシロのbazongasもtubularだぜ!」

 

「確かに、女子の中じゃ一番背低いのに爆乳だよな。」

 

「赤刎はあの爆乳に顔挟まれたのか…くっ、羨ましいぜ!」

 

筆染の胸を黒瀬が後ろから揉みしだく。

…なんか、女子が女子にセクハラしてんのっていいよな。

…で、温泉には聞谷と絶世の美少女が…

ん?絶世の美少女?

 

「仕田原さんって、本当にお美しいですわよね。羨ましいですわ。」

 

「そ、そんな…自分みたいな不細工、聞谷さんのような方の隣にいるのももったいないくらいですよ!」

 

「誰!!?」

 

「待って!?仕田原ちゃんメッチャ美人じゃん!!」

 

あー、やっぱりか。

眼鏡越しにチラッと目が見えたけど、パッチリしててバランス整ってたから眼鏡外したら絶対美人だと思ったんだよな。

フッ、やはり俺の目に狂いはなかったか。

 

「はわ…し、仕田原さん…」

 

「おいおい、何だよ一。お前もしかして仕田原ちゃんに見惚れちまったのか?」

 

「そ、そんなんじゃないです…!」

 

「では、自分はそろそろ…お先に失礼しますね。」

 

仕田原は、温泉から上がってシャワーで身体を洗い流した。

…うおっ、やっぱ肉体労働もやってるからか筋肉と脂肪がちょうどいいバランスで美しい造形を生み出してるな。

つまり何が言いたいかと言うと、メチャクチャエロい身体してる。

 

「きゅう」

 

すると、一は耳まで真っ赤にしたかと思うと顔から煙を出して倒れてしまった。

 

「あ、大丈夫か一!?」

 

「あらら、一には刺激が強すぎたか。…ぐへへ、それにしてもみんな揃いも揃って美味しそうな…ん?」

 

 

 

「ふぇ?枯罰ちゃん、何で服着たまま浴室に入ってるの?それに、モップなんて持ってどうしたの?」

 

枯罰は、ワイシャツにスラックスといった格好でモップを持って露天風呂に来た。

枯罰は、何かいい事でもあったのか満面の笑みを浮かべている。

…普段絶対笑ったりしない枯罰があんなにニコニコしてる…嫌な予感しかしないのは俺だけかな?

 

「いやぁ〜、ちぃーと風呂掃除でもしよ思て…なぁ!!!」

 

「ぶべぁっ!!?」

 

次の瞬間、枯罰の持っていたモップの先端が漕前の顔面に直撃した。

 

「漕前ーっ!!!」

 

「No way!!絶対にバレないangleを見つけたはずなのに…!!」

 

「と、とりあえずズラかるぞ!!」

 

俺達は、慌てて浴室から飛び出し急いで着替えると男湯から逃げるように飛び出した。

だが…

 

 

 

「げっ!!?」

 

逃げた先には、既に先回りしていた枯罰が満面の笑みを浮かべて立っていた。

手に持っていたモップは、さっきの攻撃のせいか柄が折れている。

笑顔を浮かべてはいるが、凄まじい気迫がひしひしと伝わってきてまるで地獄の閻魔大王の前に立っている気分だった。

 

「よぉー、お兄ちゃんら随分と元気がええのぉー。ほんで?これから何方に行かれるおつもりでっか?」

 

「あ、あのー…枯罰さん?ちょっと一回そのモップ降ろして話し合いましょ?ね?」

 

「おう。ほなそうしよか。」

 

すると、枯罰はやけにあっさりモップを置いた。

 

「ほんならたーっぷりと話し合おうや。…肉体言語でなぁ!!!」

 

「がぺっ!!?」

 

枯罰は、目に留まらぬ速度でジョンの顎を蹴り上げた。

蹴り上げられたジョンは吹っ飛ばされた。

 

「ジョンーッ!!」

 

「さぁーて…ウチな。ちぃーとお兄ちゃんらに聞きたい事がありまんねん。ウチ怒らんさけ、正直に言うてみ?」

 

「えっ…い、いや…あの…」

 

 

 

「「「「ぎぃやああああぁあああああああああああぁああああああ!!!」」」」

 

大浴場の廊下には、4人の悲鳴が響き渡った。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

数分後、顔面をボコボコに腫らした俺達は食堂で正座させられた。

 

「ばび…ぶびばべんべびば…ぼぶでぃどどびばべん…」

 

「君達…見損なったよ。こんな事して恥ずかしくないの?」

 

「うわ…マジであり得ないんだけど…」

 

「フン、下衆が…貴様らなど同じ空間にいるのも不愉快だ。」

 

「はっ、くっだらねぇ。」

 

俺達は、風呂に来なかった5人に蔑みの目を向けられた。

その中には弦野もいた。

そもそもなぜ枯罰に覗きがバレたのかというと、たまたま大浴場の近くを散歩していた弦野が露天風呂にいた俺達の会話を聞き、ちょうど皿洗いを終えて浴場に向かっていた枯罰にチクったからだそうだ。

…確かに閉鎖空間ではなかったけど、塀越しに小声が聴こえるってどんだけ地獄耳なんだよ…

 

その後風呂から上がってきた女子達にも蔑みの目を向けられ、俺達は心身共にボロボロの状態で6日目を終えたのだった。

 

 

 

 

 


 

 

 

ー生存者ー

 

【超高校級の講師】赤刎円

 

【超高校級のカウンセラー】安生心

 

【超高校級の天才】神崎帝

 

【超高校級の香道家】聞谷香織

 

【超高校級の脚本家】黒瀬ましろ

 

【超高校級の幸運】漕前湊

 

【超高校級の???】枯罰環

 

【超高校級の家政婦】仕田原奉子

 

【超高校級の冒険家】ジョナサン・ウォーカー

 

【超高校級のヴァイオリニスト】弦野律

 

【超高校級のソフトウェア開発者】一千歳

 

【超高校級のランナー】速水蘭華

 

【超高校級の画家】筆染絵麻

 

【超高校級の収集家】宝条夢乃

 

ー以上14名ー

 

 

 



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(非)日常編③

楽園生活7日目。

 

『おはようございます、オマエラ!!朝です!!7時になりました!!今日も元気に殺し合いましょう!!』

 

今日もまた、モノクマの耳障りなモーニングコールで起こされた。

…頼む、傷に響くから大音量は勘弁してくれ。

俺は、朝の準備を済ませて8時に間に合うように食堂に向かった。

 

 

 

食堂に行くと既に安生と聞谷がおり、その後ジョンと速水と筆染と一が、遅れて黒瀬と宝条が来た。

弦野は、いつもの事だが今日も来ていなかった。

安生によるとチャットが既読になっていたので生きてはいるらしいが、流石に7日も碌なものを食べてないとなると心配だな…

後で声とかかけに行った方がいいかな?

 

今日の朝食当番は漕前、枯罰、仕田原の3人で、神崎は相変わらず自分の分を作っていた。

3人の飯が美味かったのはいつもの事だが、神崎も神崎で素人とは思えない程ハイクオリティな料理を作っていた。

ちなみに食事を完食した後は約束通り漕前、ジョン、一の3人に奢ってもらったアイスを食べたのだが、勝利をもぎ取ってゲットしたアイスというだけあって格段に美味かった。

 

 

 

朝食の後は、各自自由探索の時間になった。

今日は少し日差しが強いな…

 

さて…どこに行こうかな。

そうだ、とりあえず図書室にでも行ってみるか。

俺は、図書館で参考書を探しつつ本を読んで時間を潰す事にした。

 

「えーっと、学習参考書の出版社から検索してみるか。四省堂と啓森館と…お、あったあった。」

 

俺は、検索機に表示されたマップに従って参考書を探しに行く。

 

「んーと、確かここら辺に…おっ、あったあった。」

 

俺は、必要な参考書を持って館内にあったカートに入れる。

そして、読む本を探しに図書館内を彷徨いた。

 

「えーっと…ん?」

 

その途中で、本棚に並んでいる本が目に留まった。

その本には、背表紙に『Scarlet 〜少女と殺人鬼の恋〜』と書かれていた。

 

「何だこれ?」

 

作者は…沙羅乃上魚三郎か。

確か最近注目されるようになった新人作家で、一部のコアなマニアに人気があるんだよな。

一度作品を読んでみたい作家の一人だし、ちょっと読んでみるか。

俺は、その本を手に取ってパラパラとページを捲ってみる。

 

…ふんふん、なるほど。

どうやら、家族を亡くした幼い少女が殺人鬼の男3人に拾われて家族として一緒に暮らしていくというストーリーのようだ。

男達に出会うまでずっと迫害されていた少女は男達を兄のように慕い、リーダー格の男の強さと優しさに惹かれ恋心を抱く。

少女の初恋の相手である男もまた絶世の美女へと成長していく少女に惹かれ、兄妹のような関係だった二人がやがて恋人同士になっていく…か。

 

ジャンルは恋愛小説っぽいな。

グロテスクで狂気的なミステリー小説やサイコホラー小説でお馴染みの作家だから、こういうのは新鮮でちょっと読むのが楽しみになってきたぞ。

もう少し読んでみよう。

 

ある日少女が男の部屋で涙ながらに想いを伝えると、男は悪戯っぽく笑って少女の小さな唇に接吻をする。

舌を絡めながら少女の寝衣を脱がせ、唇を離すと銀糸が繋がっていた。

男は少女の豊満に実った白い果実を掬い上げ、先端に聳え立つ蕾を舌先で弄る。

少女が艶めかしい声を上げながら未知の快楽に肩を跳ね上がらせ潤んだ瞳を男に向けると、男の苛虐心と情欲が加速していく。

妹のように可愛がっていた少女が妖艶な身体つきに成長し欲情した雌の顔を向けているのを見て、男は内に秘めていた欲望を少女にぶつけ永遠に自分だけの女にしてしまいたいとすら思った。

やがて少女の火照った身体を撫でる男の手が下へと降りていき、少しゴツゴツした長い指が下着の中に…

 

 

 

…ん?

おいおい、ちょっと待て。これって官能小説じゃねぇの!?

その先はそれはもう情事の場面が細かく書かれた過激な表現のオンパレードだったので、俺はそっと本を閉じて本棚に戻した。

未成年しかいないのに何でこんなものが置いてあるんだ。

あのクマ、やってる事完全にセクハラじゃねーか。

それとついでに本棚の中からメダルが出てきたので回収しておいた。

後で使う機会が出てくるだろう。

 

…そうだ、そういえば黒瀬の本もあるんだった。

読んで感想聞かせたらアイツも喜ぶと思うし、何冊か読んでみるか。

俺は、黒瀬の映画やゲームの本を何冊か持ってきて読んだ。

 

「お。」

 

俺は、『霊感探偵』という小説を手に取った。

これのドラマ見た事あるぞ。

確かバカだけど霊感がある男子高校生が主人公で、双子の弟はすげー頭良くて地元でも有名な名探偵なんだけどある日交通事故で死んじまって幽霊になっちまって、主人公はどうしても弟が解決したかった事件を解決するために幽霊の力を借りて弟になり切るんだよな。

これ、最後の方録画し忘れて結末どうなったか知らねぇから読んでみるか。

 

それから、『The ripper』…

これはかの有名な殺人鬼ジャック・ザ・リッパーが主人公の話で、ありとあらゆる顔を使いこなし周りの目を欺きながら次々と事件を起こしていく話だったな。

 

それと、俺の一番のお気に入りの『文学探偵シリーズ』。

これは新米刑事の主人公が、高校時代の同級生の文豪に事件解決のヒントをもらう話だ。

その文豪は事件を実際に見てるわけじゃないのに豊富な知識と優れた推理力でその事件の真相を全て原稿用紙に書き下ろして小説にしてしまうのだ。

第一編の最後は黒瀬が飽きたせいで文豪が黒幕に殺されるという雑な終わり方をしたが、結局人気が出過ぎて実は生きてましたっていうオチで続編が出たんだよな。

 

俺は、黒瀬が脚本を手がけたドラマや映画の本を読んだ。

さすがは【超高校級の脚本家】というだけあって面白かった。

特に、殺人事件が起きたシーンはまるで本当に俺の目の前で殺人が起きたんじゃないかってくらい読者を作品の世界観に引き込む描写になっていた。

読んだ分は黒瀬に感想聞かせてやるか。

そんな事を考えつつ、俺は図書館で選んだ参考書を持って部屋に戻った。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

参考書を読みながら暇潰しに少し勉強していると、部屋のインターホンが鳴る。

 

「…はい。」

 

俺は、すぐにドアを開けた。

ドアの前に立っていたのは聞谷だった。

 

「どうした?」

 

「お食事の準備ができたそうなので、呼びに来ましたの。」

 

「そうか…って、あれ?今何時だっけ?」

 

「12時15分ですわ。」

 

「うわ、やべ!15分も遅刻してんじゃねーか!!」

 

そういや勉強してて全然時計見てなかったからな…

うわ恥ずかしっ、2日目の筆染と同じ失敗しちまったよ!!

 

「悪い、ありがとな教えてくれて!」

 

「いえ。早く行きましょう。」

 

俺は、慌てて部屋から飛び出すと聞谷と一緒に食堂に向かった。

 

 

 

「悪い、遅刻した!!」

 

「フン、遅いぞ子供。」

 

「すまん、参考書読んでたらつい…」

 

「えー、そうなのー?まるで絵麻ちゃんみたーい。」

 

「う…」

 

食堂には既に弦野以外の全員が集まっていたので、すぐに昼食を取る事になった。

今日の昼飯係は枯罰、仕田原、速水の3人だった。

昼食の後は自由時間となったので、とりあえず黒瀬に本の感想を伝える事にした。

 

「黒瀬。」

 

「ふぃー、何ですかー。」

 

「あのさ、さっき図書館でお前が脚本を手掛けた作品の本を読んだんだけど、面白かったぞ。」

 

「そぉ?えへへー、それは嬉しい限りですなぁー♪」

 

可愛い…

コイツ、マイペースで考えてる事はわかんないけど何かふわふわしてて見た目と喋り方は天使みたいなんだよな。

 

「だったら円くんには特別にボクの作品の魅力を教えてあげますっ!」

 

「え?」

 

あー、これ長くなるやつだ…

でも元はといえば作品の感想を伝えるために話しかけたんだし、これを機に脚本についての知識とか色々教えてもらうか。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

3時間後。

 

「でね、円くんはメイド服着せてあげたら絶対可愛いと思うんだよねー。」

 

「…あの。もういいか?」

 

結局あれから3時間ぶっ通しで黒瀬の話を聞かされた。

それも、真面目に脚本の話をしてたのは最初の20分だけで、残りの9割弱は俺に女物のファッションを着せて人形にしたいという願望をひたすら聞かされたのだ。

脚本家の才能云々の前に、俺の女装の話だけで2時間半以上ぶっ通しで話し続けるというのがすごいと言うかもはや怖い。

やっと黒瀬に解放してもらえたので、俺は食堂を後にした。

 

さて。黒瀬との話が終わったし、次は何をしようか?

…そうだ、さっきメダルを拾ったんだった。

ガチャが引けるし、プレイルームに行こう。

 

プレイルームに行った俺は、拾ったメダルでガチャを引いた。

出てきたのは、最近発売された新型のゲーム機だった。

ゲーム機か…

誰かにあげたら喜ぶかな?

 

すると、後ろから突然声をかけられる。

 

「よっ。」

 

振り向くと、漕前が笑顔で俺の方に手を振っていた。

 

「…ああ、漕前か。どうした?」

 

「お前もそのガチャやってんのか?」

 

「まあな。」

 

「それさ、なかなかいい景品出なくね?モノクマは豪華景品が盛り沢山とか言ってたのに全然当たりが出ねーしよ。騙された気分だぜ。」

 

「そうか?俺は今こんなものを引いたけどな。」

 

そう言って、俺はゲーム機を見せた。

すると、漕前は血相を変えて食いつく。

 

「はぁ!!?おま…それ、本当にこのガチャでゲットしたのか!?」

 

「まあな。」

 

漕前は、グッと拳を握りしめ歯を食いしばると、唐突に何かを思いついたのか再び俺に食いついてきた。

 

「なあ、赤刎!俺、今持ってるメダル全部つぎ込んで絶対もっといい景品当てるぞ!だからそれ…」

 

「やるよ。」

 

「…え?」

 

「いや、だから、これ欲しいんだろ?だったら交換と言わずお前にやるよ。」

 

「マジで!?いいの!?」

 

「まあな。欲しい奴が持ってた方がゲーム機も喜ぶだろうしな。」

 

俺がゲーム機を漕前に渡すと、漕前は目を潤わせて俺を見た。

 

「赤刎、お前って奴は…ありがとな!!やっぱ持つべきものはマブダチだぜ!!」

 

「うわキタネ!!わかった、わかったから離せって!!」

 

漕前がいきなり俺の頭をワシャワシャして右頬にキスしてきたので、俺は思わず拒否反応をしてしまった。

漕前には悪いが、男からのほっぺにチューとか誰得なんだって話だよ。

 

「いやー、これ高いから自分じゃなかなか買う勇気が出なかったんだよな。」

 

「そうか、気に入ってくれたみたいで良かったよ。なあ、せっかくだしこれからちょっと話さないか?」

 

「話?おう、いいぞ!じゃあ俺の研究室で話すか!」

 

俺は、漕前に連れられて研究室に向かった。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「まあゆっくりしてけよ。っつっても何も無いけどな。」

 

俺が席につくと、漕前は自販機で買ったジュースをくれた。

俺は、ジュースを飲みながら漕前と話をする事にした。

 

「なあ、漕前。」

 

「ん?」

 

「できればお前の過去の話とか聞かせてくれるか?」

 

俺がお願いすると、漕前はどっと笑い出した。

 

「はははは!!!過去の話ねぇ!!まあそう来るよなー。他の奴なら何でその才能が開花したのかとか色々話のネタがあるけど、俺にはそういうの全然ねーもんなぁ。」

 

「わ、悪い…」

 

「ははっ、冗談だっての。まあ俺の生い立ちなんて至ってフツーだし、どうせ聞いてもつまんねーと思うぜ?」

 

「それでも聞きたいんだ。頼む。」

 

「いいぜ。っつってもマジでフツーだぞ。親が俺が産まれる前に離婚した事以外はな。」

 

「え?」

 

「俺はそん時まだお袋の腹ん中だったから詳しくは知らねえんだけどよ。何かお袋が親父と大喧嘩して、それがきっかけで離婚したらしくてさ。お袋が俺を女手ひとつで育ててくれてたんだよ。ただでさえ元々身体が弱いのに俺のために一生懸命働いてくれて、俺が中学に上がるまでは家事も一人でやってくれてよ。でも、俺の話は嫌な顔ひとつせずにちゃんと聞いてくれるんだよ。どんなに忙しくても弁当は毎日作ってくれるし、授業参観には毎回来てくれるしな。」

 

「…へぇ、いいお母さんだな。」

 

「ああ。だから、絶対離婚は親父の方に原因があるはずなんだ。表向きはお袋がどこの誰かも知らない奴と浮気したのが原因で離婚して俺はそのどこぞの馬の骨との子だって事になってるけど、真っ正直なお袋がそんなだらしねぇ事するわけないし、俺は親父がお袋への嫌がらせのために流したデマだって信じてる。」

 

「ひでぇ話だな。喧嘩したからってそこまで執拗に嫌がらせするか普通。」

 

「…。」

 

「あ、悪い。仮にもお前の父さんの話だったな。」

 

「…いや、いいよ。お袋の名誉のために血の繋がりだけは信じてるけど、お袋を捨てて離婚後も嫌がらせするようなクソ野郎、俺は父親とも何とも思ってねぇから。正直、俺だって本当はお袋を裏切った男の血を引いてるだなんて信じたくねぇ。ただ…」

 

「ただ?」

 

「俺が学校に行ってる間に親父が俺達の家に来て色々暴言を吐いて帰ってったらしいんだけどさ。俺が帰ってきた時お袋が珍しく愚痴こぼしてたんだよな。普段どんなに疲れてても愚痴とか言わねーのによ。」

 

「愚痴?」

 

「ああ。『あの子にも湊みたいな優しい子に育って欲しかったのに』って。」

 

「まるでもう一人子供がいるみたいな言い方だな。」

 

「ああ。俺もそう思ってお袋に聞いてみたよ。そしたら、お袋は俺に兄貴がいるって言い出したんだ。」

 

「お前の…兄貴?」

 

「ああ。兄貴の方は親父に引き取られたらしくてな。クソ親父の顔は見たくもねぇけど、俺は一度でいいから兄貴に会いたい。俺は、ここから出てお袋と兄貴に会うまでは絶対に死ねないんだ。」

 

「漕前…よし、わかった。俺もお前の兄貴探し手伝うよ。そうだ、ジョンにも頼んでみるか。アイツ有名人だから、SNSで呼び掛ければ一発で見つかるだろ!」

 

「いや、別にそこまでしなくても…」

 

「何言ってんだよ。俺達、もうとっくに友達だろ?」

 

「…え?」

 

「それとな、別にお前の兄貴が無事見つかっても俺に感謝とかしなくていいからな。友達が困ってたら助けるのは当たり前だろ?」

 

「赤刎…お前…!」

 

漕前は、目に溜まった涙を袖で拭っていた。

 

「ははは、泣くなって。…あ、あとさ。もうそろそろ俺の事下の名前で呼んでくれねぇか?俺もそうするからさ。」

 

「え、何で急に?」

 

「いや、ジョンとは名前で呼び合ってんのに俺らだけ苗字で呼び合うのも変だと思ってさ。違和感あって気持ち悪いっていうなら俺だけお前の事名前で呼ぶ事にするけど。どうだ、湊?」

 

「…わかったよ、円。」

 

俺が右手を差し出すと、湊は力強く俺の手を握り返した。

 

「あ、そうだ!お前に貰ったゲームなんだけどよ。夕飯まで時間あるし一緒に遊ぼうぜ!」

 

「え?でもそれはお前のだろ?」

 

「ははは、バカだな円は。これ、最先端のゲーム機だぜ?当然マルチプレイにも対応してるっつーの。」

 

俺は、湊と一緒にゲームをして時間を過ごす事にした。

プレイを始める事1時間。

 

「っしゃ俺の勝ちー!!」

 

「クッソー、何で何回やってもお前に勝てねーんだよ。」

 

「へへっ、俺は授業中先公の目を盗んでずっとゲームやってたからな。【超高校級のサボり魔】とまで呼ばれた俺のサボりスキル舐めんなよ。」

 

「いや威張れる事じゃねーよ。ちゃんと授業聞けよ。」

 

「…円、正論は正論でも言っていい正論とダメな正論ってあるんだぞ。お前まで先公みたいな事言うなよ。」

 

「一応先生だからな。俺のバイト先にもいるんだよな、お前みたいなサボり魔。」

 

「へー、ソイツに是非とも会ってみたいもんだな。なーんつってな、はははは…」

 

「笑い事じゃねぇよ。ソイツもお前もちゃんと授業聞けって言ってんだ。息子がバカだとお前の母さん悲しむぞ?」

 

「うぐ…お、お袋を出すのは卑怯だろ!」

 

湊は、『勘弁してくれ』と言いたげな表情をした。

その後は俺の話を少しした後、時間がちょうど良くなったので二人で食堂に行く事にした。

 

「それじゃあ、そろそろ行くか。」

 

「…あ、あのさ。」

 

俺が先に歩くと、湊が俺を呼び止めた。

 

「…えっと、ホントさっきからワガママばっかで悪いんだけど…外に出たら頼みたい事がもう一つあるんだ。」

 

「頼みたい事?」

 

「ああ。その…俺に勉強を教えてくれねぇか?」

 

湊は、照れ臭そうに言った。

 

「俺、バカだからさ。成績が全然振るわねぇんだよな。でも、将来お袋に楽させる事考えたらやっぱりそれじゃダメなんじゃないかって思ってて…俺、外に出たら真面目に勉強して、いい就職先目指すよ。だから円、お前に勉強を教わりたいんだ。」

 

湊が頼み込んできたので、俺は笑って返す。

 

「何言ってんだよ、友達が困ってたら助けるのは当たり前って言っただろ?お前ならタダで教えてやるよ。」

 

「本当か!?」

 

「おうよ。ただし、俺の教育方針は厳しめだぞ?それでもやるか?」

 

「やるさ!!俺はお前じゃなきゃダメなんだよ!!」

 

湊は、ニッと笑って力強く頷いた。

本音をぶつけ合って、湊との距離が一気に縮まったような気がする。

俺達は、そのまま二人で一緒に食堂に向かった。

 

《漕前湊との親密度が上がった!》

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

6時過ぎに弦野を除く全員が食堂に集まり、13人で夕食を摂った。

今日の夕飯の当番は枯罰、仕田原、ジョンの3人だった。

夕食を済ませた後はちょっとしたミーティングを行い、各自探索で新たに発見した事などを報告し合った。

ミーティングが終わると各自流れ解散となったので、俺は温泉でまったりする事にした。

 

「あぁ〜、ええ湯じゃった。」

 

温泉を満喫した俺は、鼻歌交じりにホテルの方へと歩く。

すると、その時だった。

 

 

 

「大変だ!!弦野が倒れた!!」

 

湊が、血相を変えて俺の方に走ってきた。

 

「何!?」

 

弦野が倒れた…?

まさか、誰かに狙われて…

いや、俺達の中に弦野を殺そうとする奴なんていないはずだ。

だがもし、弦野に何かあったら…?

不安を抱きつつ、俺は湊と一緒に診療所に向かった。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「おい、大丈夫か!?」

 

俺は、湊と一緒に診療所に駆けつけた。

 

「…二人とも、静かに。」

 

診療所にいた安生が口元で人差し指を立てたので、俺は少し声量を落とす。

 

「あ、悪い…」

 

「弦野君は、水を飲ませて安静にしてるよ。」

 

「まあここ7日間碌なモン食うてへんかったし、無理ないわ。」

 

「それに、今日まで弦野君ほとんど寝てなかったらしいからね…今日は日差しが強いし、それで目眩を起こしちゃったんだ。今回は運良く軽い症状で済んだけど、これ以上彼が頑なに食事と睡眠を拒むようなら本当に命を脅かしかねない。」

 

「…。」

 

弦野の奴、そこまで危険な状態だったのか。

倒れるまで食事と睡眠を拒絶するなんて、よほど俺達の事を信用してないんだな…

もしかして、過去に弦野に人を信じなくさせる何かがあったのか?

それがもし、弦野が音楽界から突然姿を消した原因だとしたら…

 

「弦野…」

 

「…うっせぇな、心配してんじゃねぇよ。」

 

俺が声を掛けると、弦野は弱々しい口調で悪態をついた。

 

「ここで俺が死のうがどうしようがテメェらには関係ねぇだろ…」

 

 

 

「関係なくなんかないよ!」

 

そう言って診療所に入ってきたのは筆染だった。

弦野は、筆染の顔を見るなり鬱陶しそうに深くため息をついた。

 

「…チッ、またテメェか。」

 

「弦野君も大事な仲間だもん。いなくなるのは嫌だよ。」

 

「それが余計なお世話だっつってんだろ。帰れ。」

 

筆染は、弦野の発言をガン無視して弦野が寝るベッドの横の椅子にちょこんと座った。

 

「あのね。あたし、おにぎり作ってきたの。仕田原ちゃんに作り方教えてもらったんだ。」

 

「会話出来ねぇのかテメェ。帰れ。」

 

「弦野君に元気になってほしくて心を込めて作ったんだよ?一口でいいから食べてくれると嬉しいな。」

 

筆染は持っていた包みからおにぎりを一個取り出して弦野の口の前まで運ぶが、弦野は顔をプイと背けた。

 

「安心して。毒は入ってないよ。ほら。」

 

「…いらねぇっつってんだろ。帰れ。」

 

すると、湊が筆染の後ろからひょっこり出てきておにぎりに手を伸ばす。

 

「うお、美味そうなおにぎりだな。いらねぇなら俺が貰っちゃおーっと。いっただっきまー…」

 

「やめろ!!」

 

湊がおにぎりを取ろうとすると、弦野は慌てておにぎりを引ったくって齧りついた。

それを見た全員が、信じられないと言いたげな目を弦野に向けた。

 

「マジか、弦野が…」

 

「食った…」

 

「…ん゛っ!?」

 

すると、弦野はおにぎりを口に含んだ途端に元々悪かった顔色をさらに悪くした。

 

「つ、弦野君!?大丈夫!?」

 

「…筆染。オメー、塩と砂糖間違えてるぞ。」

 

「えっ、嘘!?…うわ、ホントだ!甘っ!!」

 

筆染は、弦野に言われて作ってきたおにぎりを一口食べた。

作った張本人も、まさかの激甘おにぎりに驚いていた。

 

「はは…漫画みたいな間違え方だな。」

 

「味見せぇへんかったんかい。」

 

湊は引き攣った笑みを浮かべ、枯罰は呆れ返ってため息をついた。

 

「ごめん弦野君!!あたし、弦野君に元気になってもらいたくて頑張ったんだけど…失敗しちゃった…」

 

筆染は、シュンと落ち込んだ表情を浮かべて残りの二つを包み直そうとした。

すると、弦野はおにぎりを空いている方の手で掴み、両手のおにぎりをガツガツと口の中に押し込み始めた。

 

「弦野君!?」

 

「おい、そんなに急にがっついたら…!」

 

弦野は一個目のおにぎりを食べ終わると、空いた手で包みに残ったもう一個のおにぎりを掴んでがっつく。

すると案の定、米粒が気管に入ったのか突然むせ返った。

 

「う゛っ、げほっ、げほっ…!」

 

「あー、ほら。言わんこっちゃない。そんなにがっつくから…大丈夫か?」

 

「うぷっ…う、うっせぇ…!放っとけ!!」

 

俺は弦野の背中を摩って声をかけるが、弦野は手を止めずに両手のおにぎりをがっついた。

 

「弦野君!いいよ無理して食べなくて!ちゃんとしたもの作れなかったあたしが悪かったから!」

 

筆染が止めるのも聞かず、弦野はおにぎりを全部平らげると近くに置いてあったペットボトルの経口補水液を飲んだ。

 

「…っはぁ。」

 

「つ、弦野君…?」

 

「…筆染。」

 

「あ、あの…」

 

弦野に名前を呼ばれた筆染はビクッと肩を跳ね上がらせ、謝罪の言葉を返そうとする。

だが、弦野が言った言葉は筆染の予想とは違ったものだった。

 

「…美味かったよ。ご馳走様。また作ってくれるか?」

 

その言葉を聞いた筆染の顔がぱぁっと明るくなり大きく頷く。

 

「…うん!楽しみにしてて!今度はお世辞抜きで美味しいって言わせてみせるから!」

 

すると、湊が弦野と肩を組んでニッと笑った。

 

 

 

「いやー、筆染ちゃんってマジでいい子だよな。弦野なんかにも優しくてよ。ホント天使って感じだわ。」

 

「なんかって何だ。あとウゼェから離れろ。」

 

弦野は、鬱陶しそうに湊の腕を払い除ける。

…でも確かに、何で筆染はこんなに弦野の事を気にかけるんだ?

もしかして、弦野の事が好きなのかな。

 

「…にしてもオメー、何でそんなに俺に構うんだよ。」

 

弦野が尋ねると、筆染は満面の笑みを浮かべて答える。

 

「あのね。あたし、好きなんだ。君の演奏。」

 

「あ?」

 

「あたし、絵を描いてる時に君の曲聴いてると、すごくいい作品が描けるの。多分、あたしの作風と君の演奏の相性が良いんだと思う。それに嫌な事があった時とかも、あたしは何度も君の演奏に救われたんだ。あたしと同い年の君が頑張って演奏してるのを聞いてるとなんか励まされてる感じがして、『よーし、あたしも頑張るぞー!』って気分になれるんだよね。」

 

「…チッ。テメェも結局今までの奴等と同じで、俺の才能以外には興味ナシかよ。」

 

「あ…」

 

そういえば、弦野は親に無理矢理ヴァイオリニストにさせられて、それが嫌でバックレたって言ってたっけ。

そんな弦野にとっては、筆染の言葉は地雷だったのかもな。

すると、筆染は少し俯いたかと思うと拳を握りしめて言った。

 

「…わかった。」

 

「あ?何がだよ。」

 

「あたしが、もう弦野君につらい思いをさせないようにする。弦野君が自分の演奏を嫌いにならないようにあたしなりに頑張るから、外に出られたらもう一度演奏を聞かせてくれないかな?」

 

すると、弦野は深くため息をついて答える。

 

「…気が向いたらな。」

 

すると、筆染は目をキラキラと輝かせて弦野に抱きついた。

 

「ホント!?やった!!ありがと弦野君!!」

 

「うわっ、おいバカ何すんだよ!?まだ弾くと決めたわけじゃねぇよ!!」

 

筆染に抱きつかれて赤面する弦野を見て、湊は悔しそうにしていた。

 

「くっ…チクショウ、弦野のクセに…羨ましいぜ全く…!!」

 

「はいはい、俺達はお邪魔みたいだし退散するぞ。」

 

俺は、湊の手を引いて診療所を後にした。

 

「あれ?そういや安生と枯罰ちゃんは?」

 

「アイツらなら、空気読んでとっくに退散したよ。俺達も行くぞ。」

 

時計を確認するともう9時だったので、俺達は部屋に戻った。

こうして楽園生活の7日目が終わったのだった。

 

 

 

 

 


 

 

 

ー生存者ー

 

【超高校級の講師】赤刎円

 

【超高校級のカウンセラー】安生心

 

【超高校級の天才】神崎帝

 

【超高校級の香道家】聞谷香織

 

【超高校級の脚本家】黒瀬ましろ

 

【超高校級の幸運】漕前湊

 

【超高校級の???】枯罰環

 

【超高校級の家政婦】仕田原奉子

 

【超高校級の冒険家】ジョナサン・ウォーカー

 

【超高校級のヴァイオリニスト】弦野律

 

【超高校級のソフトウェア開発者】一千歳

 

【超高校級のランナー】速水蘭華

 

【超高校級の画家】筆染絵麻

 

【超高校級の収集家】宝条夢乃

 

ー以上14名ー

 

 

 




かなりギリギリまで攻めたけど大丈夫かな…


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(非)日常編④

楽園生活8日目。

 

『おはようございます、オマエラ!!朝です!!7時になりました!!今日も元気に殺し合いましょう!!』

 

今日もまた、モノクマの耳障りなモーニングコールで起こされた。

俺は、朝の準備を済ませて8時に間に合うように食堂に向かった。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

俺は、食堂の扉を開けて中に入る。

するとその直後…

 

「…えっ?」

 

俺は、信じがたい光景に思わず目を見開いた。

 

 

 

「何だよ。朝っぱらから間抜けな顔しやがって。」

 

弦野が鬱陶しそうに俺の方を見てきた。

 

「つ、弦野!?なんでここに!?」

 

「いちゃ悪りいのかよ。」

 

「いや、全然悪かねーよ!でも、今まで全然来なかったのに何で急に来たのかなーって…」

 

「弦野君も、今日からはあたし達と一緒にご飯食べる事になったんだよ。」

 

「へー、そうなんだー………へ!?」

 

俺は、思わず弦野の方を二度見した。

 

「…チッ。コイツが飯くらいはちゃんと食えってしつこいからな。」

 

「はいはい。」

 

「…今まで悪かったな。」

 

「ん?何か言ったか?」

 

「…何でもねえよクソ。」

 

弦野が呆れ返った目で隣にいた筆染を指差すと、筆染は二つ返事を返した。

…弦野の奴、筆染に対してちょっとは心を開いたみたいだな。

昨日の激甘おにぎりも文句ひとつ言わず全部食べてたし、ひょっとして筆染の事…?

 

俺がみんなと一緒に朝食の準備を手伝いっていると、一と黒瀬が来た。

二人とも弦野が来ている事に驚いて俺と同じようなリアクションをし、弦野に鬱陶しがられた。

 

「じゃあみんな揃ったみたいだし朝ご飯にしよっか。」

 

「さんせー。アタシもうお腹ペコペコだよー。」

 

「それじゃ、いただきまーす。」

 

俺達は、仕田原達が作ってくれた料理を食べた。

相変わらずどの料理も美味かった。

やっと14人全員揃っての食事という事もあってか、いつもより美味く感じられる。

 

「…。」

 

「あれ?弦野君、食べ方綺麗だね。」

 

「何だその言い方は。俺には汚く食うイメージしかねぇのかよ。」

 

「いや、そうは言ってないじゃん。ただ、食べ方が上品だなーって思っただけだよ。」

 

「…家で散々躾けられたからな。」

 

あー…そういえば弦野の奴、有名な音楽家を輩出してる名家の御曹司だったな。

筆染の言う通り、確かに箸の持ち方とか綺麗だし音とかほとんど立ててないな。

…やっぱ育ちがいい奴って食べ方に現れるんだな。

すると、仕田原がニヤニヤしながら俺達の様子を窺ってきた。

 

「それで、どうですか?皆さん。今日の朝ご飯のお味は?」

 

「めっちゃ美味しいよ!」

 

「どのお料理も美味しいですわ。」

 

「そうですか。ふふっ、良かったですね。弦野さん。」

 

 

 

「…え?」

 

枯罰と仕田原以外は一斉に弦野の方を見た。

 

「今日の朝食作りは弦野さんも手伝って下さったんですよ。煮物と卵焼きは弦野さんが作ったんです。」

 

「マジで!?えっ、弦野おまっ…えっ!?」

 

「料理できたんだ…なんか意外…」

 

「あぁ?テメェ何か言ったか。」

 

「ひっ!な、何でもないです…」

 

「チッ…家出してからは一人で生きていかなきゃいけなかったからな。身の回りの事は全部自分でやってたんだよ。」

 

「ふーん…」

 

まさか弦野も料理できたとはな。

ってか意外と料理できる奴多くね?

安生も、バリアフリー対応してる所でなら普通に料理できるらしいし。

 

「そうだったんだ。すっごく美味しいよ弦野君!また作ってくれる?」

 

「…こっから出たら毎日作ってやるよ。」

 

『…え?』

 

弦野の発言に、全員がピシャリと固まった。

今のって、完全にプロポーズだよな…?

すると弦野は、ハッとした表情をして顔がみるみる赤くなっていく。

 

「あっ…いや、今のはその…」

 

俺達は、ニヤニヤしながら弦野と筆染を見た。

 

「はいカップル成立ー!!一組様新婚旅行へご案内ー!!」

 

「ヒューヒュー!!」

 

「いよっ、ニクいね色男ー!!」

 

「うっ、うるせぇええっ!!テメェらマジでふざけんじゃねぇぞ!!」

 

「あらあらうふふ。」

 

「聞谷テメェ何笑ってんだ!!」

 

俺達が全力で冷やかすと弦野はムキになって声を荒げ、筆染は耳まで真っ赤にして顔を両手で覆い隠していた。

 

「ちょっ…やめてよみんな…!枯罰ちゃんからも何か言ってよぉ…!」

 

「せやなぁ。お前ら大概にせぇよ。夫婦の仲を冷やかすんは野暮やろ。」

 

「ちょっと!枯罰ちゃんの裏切り者ー!!」

 

「…くくく。絵描き、これからはお前の事だけは特別に名前で呼んでやろう。俺の寛大さに感謝しろ、()()()()。」

 

「神崎君まで!?」

 

「律くーん、精力剤と避妊具なら診療所に置いてあるよー。頑張ってねー。」

 

「黙れ黒瀬テメェはっ倒すぞ!!」

 

黒瀬が左手で作った輪の中に右手の人差し指を突っ込みながら下ネタをブッ込むと、弦野は顔を真っ赤にして怒鳴り散らした。

俺達は、安生がニッコリ笑いながら『静かにしようね』と言うまでこれでもかという程弦野と筆染を冷やかし倒した。

こういう事に乗りそうなイメージが全くない神崎と枯罰までノリノリで小学生レベルの冷やかしをしていたのには少し驚いた。

こうして俺達は楽しい朝食の時間を過ごし、軽めのミーティングをした後自由探索の時間となった。

 

 

 

さて。

せっかくの自由時間だし、探索でもしようかな?

俺は、とりあえずまだ行ってないミュージアムエリアに行ってみることにした。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

俺は、早速博物館に行ってみる事にした。

入った途端に恐竜の骨格標本が待ち構えていたのは流石に度肝を抜かされた。

博物館の中には様々な歴史的な資料や模型などが置かれており、その中には歴史的価値が高いものの模型も展示されていた。

 

「こういうの、宝条が好きそうだな…」

 

「あら。今ゆめの話した?」

 

「うぉっ!?」

 

突然声をかけられたものだから、俺はビックリして思わず跳び上がってしまった。

すると、宝条は俺にジト目を向けてきた。

 

「…何よ。女の子の顔を見て跳び上がるなんて失礼な男ね。」

 

「ああ、いや…悪い…いきなり話しかけられたからビックリして…宝条はここで何をしてるんだ?」

 

「見てわかんないの?展示されてるもの見てるのよ。邪魔しないで。」

 

「あ、スイマセン…」

 

怒られてしまった。

宝条って、展示物見てる時はすげー真面目になるんだな。

 

「…なあ、宝条。」

 

「何よ?」

 

「お前さ、ちょっと変わったよな。前は何かこう…わがままだったのに、丸くなったっていうか…」

 

「…アンタってホント失礼ね。」

 

「す、すまん…」

 

「はぁ…一回目の裁判で、あのクマは本気なんだって思い知ったの。ゆめはこんな所で殺されるとか絶対嫌だから、生き残るためならアンタ達に協力してやろうって思ったのよね。どのみち、家事とか全然出来ないから一人じゃ生きていけないし。」

 

「そっか…」

 

皮肉な話だけど、札木と武本の死を乗り越えて成長したって事か。

すると、今度は宝条の方から話しかけてきた。

 

「ねぇ。」

 

「ん?」

 

宝条は、わざと俺の顔を見ないようにしながら言った。

 

「…裁判で、事件の真相を暴いてくれてありがと。」

 

「いや、俺は感謝されるような事はしてないよ。みんなが集めてくれた証拠や証言を整理しただけで…」

 

「ゆめは、仕田原が犯人じゃないって知ってたのに言い出せなかった。本当の事を言ってランドリールームでの事がバレるのが嫌だったの。でも、アンタのおかげでゆめは生き残れた。」

 

「…あ。そういえばされお前、俺にだけは仕田原のアリバイを教えてくれたよな?何でだ?」

 

「別に。あの中だったら一番言っても問題なさそうなのがアンタだって思っただけよ。」

 

「え?」

 

「言ったでしょ?私、審美眼だけは自信があるの。誰なら信用できそうとか、そういうのは目を見ればわかるのよ。」

 

あれ?宝条、今『私』って言ったよな。

 

「とにかく、アンタには期待してるから。わかった?坊や。」

 

そう言って、宝条は奥の展示コーナーへと歩いて行った。

…宝条の本性ってあんな感じだったんだな。

俺も特に目ぼしいものはなかったし、次は美術館に行ってみるか。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

美術館には絵や彫刻、陶芸品など様々な芸術作品が置かれていた。

どれも有名な芸術家の作品の贋作だけど、眺めてる分には十分楽しめる仕様になっていた。

 

「あ。」

 

俺は、美術館で絵を見ているジョンを見つけたので声をかけた。

 

「ジョン、何してるんだ?」

 

「Oh,マドカ!Good timing!Come on!」

 

「?」

 

俺は、ジョンに連れられて絵画の前に立った。

ジョンが俺に見せてきたのは、白いキャンバスに赤いインクが飛び散った絵だった。

 

「これ、エマに勧められたpaintingなんだけどよ。どう見てもこれnosebleedがはねた絵にしか見えねーよな。」

 

「ああ。それ確か本物は数千万以上の価値がある絵じゃなかったっけ?」

 

「This!?これのどこにそんなvalueがあるんだか…It‘s all Greek to me.」

 

「わかる。俺も芸術に関してはさっぱりだからよ。何でそんなにこれが価値あんのかわかんねーよな。こういう時筆染がいればこういう絵とか見てて楽しいんだろうけど。」

 

俺達は、美術館で作品についての感想を語り合った。

完全に素人同士の会話なので筆染が聞いてたら怒られそうな適当な会話しか出来なかったが、ジョンと二人で話しながら絵を見るのは楽しかった。

機会があればまた美術館に来てみようかな。

今度は筆染と一緒に行って絵の事とか色々教えてもらうか。

そんな事を考えながら、俺は記念館に向かった。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

記念館には、歴史上の人物に関する史料が並んでいた。

歴史を学ぶのにはいい場所かもしれない。

…おっと、展示台の裏側にメダルが落ちてるな。

後で使うだろうし拾っておこう。

 

俺がメダルを回収して史料を見ていた、その時だった。

 

「円くーん。お一人ですかー?」

 

げっ、黒瀬…

正直コイツは苦手だ。

もちろん俺を人形扱いしてくるからっていうのもあるが、コイツは何考えてるんだか全く読めない。

でも、ここであからさまに避けたら不自然だしな…

俺は、仕方なく黒瀬と話をする事にした。

 

「黒瀬か。お前もここの展示を見に来たのか?」

 

「まあねー。ボク、歴史とか好きだからさー。記念館とかよく行くんだよねー。」

 

歴女だったのか。

それは初耳だな。

 

「円くんもこういう所にはよく行ったりするのー?」

 

「いや。むしろあんまり行く機会がないから寄ってみたんだよ。」

 

「そっかー。じゃあさー。一緒に回ろーよ。ボクが見方とか色々教えてあげるねー。」

 

「え?いや、でも…」

 

俺が戸惑っていると、いつの間にか黒瀬は俺の手をしっかり握っていた。

 

「…ん?何してんの?」

 

「へへー、迷子対策ー。」

 

いや、迷子って…

俺の事何だと思ってるんだ。

 

「そいじゃーれっつらごーごー。」

 

黒瀬は、猫耳のような癖っ毛をパタパタさせながら強引に俺の手を引いて館内を歩いた。

小柄な身体からは想像もつかない程の怪力で手を握られて引っ張られてるからメチャクチャ痛い。

振り解こうにも黒瀬の万力のような握力のせいで振り解けないので、諦めて一緒に展示物を見て回る事にした。

だが、一緒に回ってる最中に時々史料の見所とか教えてくれたりして、案外ためになった。

…まあ、そういうちゃんとした会話は1割であとの9割はお察しの通りだったんだけどな。

 

「やー、楽しかったー。やっぱり円くんと一緒にいると楽しいなー。」

 

「そ、そうか…」

 

「あ、そうだ。円くんに渡したいものがあるんだった。」

 

「渡したいもの?」

 

「はいこれ。円くんが可愛いので特別にプレゼントしちゃいますっ!」

 

そう言って、猫耳ゴリラ…もとい黒瀬はくしゃくしゃに丸めた白い布を渡してきた。

触ってみると、柔らかくて少し生温かい。

 

「何だこれ?」

 

「ボクの脱ぎたての生パンツ。」

 

「はぁ!!?」

 

え!?

待って、ドユコト!?

 

「何でパンツ!?意味わかんねぇんだけど!!え、待って。って事は…」

 

「うん。今スカートの下何も履いてないよー。」

 

嘘でしょ!?

 

「お尻がスースーするー。」

 

でしょうね!!

付き合ってもない同級生にパンツをプレゼントするとか何考えてんの!?

 

「いや何してんだよ!!履けよ!!これ返すからさ!!」

 

「返品は不可でございますので、悪しからずー。」

 

そう言って、黒瀬はペコリと頭を下げると女子とは思えない駿足でどこかへ走り去ってしまった。

記念館には、白いスキャンティを持った俺だけがポツンと立っていた。

 

「…。」

 

…いや、どういう状況だよこれ。

黒瀬にパンツ押し付けられたんだけど。

アイツにはたまにゾッとさせられるけど、まさかここまで痴女だったとは…

どうするか…とりあえず、ビニール袋にでも入れとくか。

 

ちょうど12時になったので、俺は記念館を後にしてホテルへ戻った。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

食堂に集合して昼食を摂った後は、再びミュージアムエリアの探索をする事にした。

ちなみにさっき貰ったパンツはというと、とりあえず個室の机の引き出しに入れておきました。

…んーと、博物館と美術館と記念館に行ったから、次は動物館に行くか。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

動物館には、本物そっくりの動物の模型が入った檻が並んでおり、干し草や動物が遊ぶためのタイヤやドラム缶などが置かれていた。

 

「あれ?」

 

俺は、キリンの檻の前に立っている聞谷を見つけた。

 

「よ。」

 

「あら赤刎さん。ご機嫌よう。」

 

「おう。聞谷も動物を見に来たのか?」

 

「ええ。…あの、動物館というくらいですからわたくしてっきり本物の動物がいるのかと思っておりましたの。」

 

「いや、普通はいるんだよ。…あれ?もしかして聞谷って、動物園に行った事無い?」

 

俺が尋ねると、聞谷は羞恥で顔を赤くする。

 

「え、ええ…わたくし、幼い頃から俗世とは隔離された環境で過ごしておりましたので…その、こういった場所に訪れるのは初めてですの。」

 

おうふ…そこまでお嬢様だったとは。

恐れ入ったぜ。

 

「…あの、赤刎さん。こちらのお首の長い動物は何と仰るんですの?」

 

「ああ、あれはキリン。」

 

「では、あちらのお鼻の長い動物は?」

 

「ゾウ。」

 

「では、あちらの髪の長い大きな猫のような動物は…」

 

「ライオン。」

 

…マジかい。

いくら動物園に行った事ないからって、流石に動物を知らなさすぎだろ。

 

聞谷が動物について知りたいと言うので、俺は一緒に動物館を回って聞かれるたびに説明をしてやった。

その度に俺は聞谷の箱入りっぷりに驚かされるのだった。

聞谷と一緒に動物館を一周した後、俺は植物館に向かった。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

植物館には、数多くの本物そっくりの人工植物が並んでいた。

 

「お。」

 

俺は、植物館を歩き回っていた仕田原を見つけたので声をかけた。

 

「よ。」

 

「あ、赤刎さん!」

 

「仕田原は植物とか興味あるのか?」

 

「ええ、まあ…一応庭仕事とか畑仕事とかも請け負ってるので。」

 

「へぇー…え?畑仕事?」

 

「はい。食べ物の素材に拘って畑を持っていらっしゃる方のもとへ伺う事もあるので、そういう時は畑仕事を任されるんですよ。」

 

マジか。

それもう家政婦の域超えてないか?

 

「あのさ。話変わるんだけど、仕田原って得意料理とかあるの?」

 

「えーっと…全部一から作るカレーとかですかね。」

 

「えっ、一からって…まさか野菜とか育てるところから?」

 

「ええ、そうですよ。流石にスパイスの原料は市販のものを買いますけど、調合は自分でやります。天候や体調によって味が左右されるのが難点ですが、その時にしか味わえない味が楽しめるんですよ。」

 

メチャクチャ凝ってるじゃねーか!!

…うわ、話聞いてたら食べたくなってきたぞ。

 

俺は、仕田原と一緒に喋りながら植物館を一周した。

仕田原には植物のちょっとした知識などを教わり、つくづく勉強になるなぁと感じた。

俺は仕田原と別れた後、その足で水族館に向かった。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

水族館には巨大な水槽があり、中には本物の魚に似せた人工魚が泳いでいた。

熱帯魚コーナーには色とりどりの人工魚が泳いでいて幻想的な光景を生み出していた。

 

「あ。」

 

俺は、人工イルカが泳いでいる水槽の前に立っている速水を見つけたので声をかけた。

 

「よ、速水。」

 

「おーっす、円ー。アンタも魚見に来たの?」

 

「まあな。ここの探索はまだだったし。」

 

「ふーん…」

 

「速水も探索中?」

 

「いや、アタシは普通に見に来ただけ。」

 

「そっか。あのさ、速水って水族館とかよく行くのか?」

 

「たまにね。アタシ、イルカショー好きなんだ。水族館があるって聞いて見られるかもってちょっと期待してたんだよね。」

 

「へー…」

 

俺は、速水と喋りながら一緒に水族館を回る事にした。

 

「こっちの水槽は…チンアナゴだってさ。」

 

「うわ顔出してる!可愛い〜!写メ撮っちゃお!」

 

「あっちはホオジロザメだって。」

 

「すごい迫力!!ジョーズじゃん!!」

 

俺達は、遠足に来た学生みたいにはしゃいで写真を撮ったり感想を言い合ったりした。

速水と別れた後、俺はプラネタリウムに向かった。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

ここで最後か…

俺は、プラネタリウムに入り近くのソファに座った。

背もたれに身を任せるようにして見上げると、天井には無数の美しい星が散りばめられていた。

 

「はぁー…まるで本物の星空だな。ここまで忠実に再現できるもんなのか。」

 

俺がそう呟いた直後だった。

 

「あれ…?赤刎君…いたの?」

 

右隣から声が聞こえた。

薄暗くて顔が見えないが、この声は…

 

「一か?」

 

「うん。あのさ…ビックリするから入るなら入るって言ってよ…」

 

「悪い。お前がいると思わなかったから…一はプラネタリウム好きなのか?」

 

「うーん…普通かな。むしろこれを動かしてる機械の方に興味があったから調べてたんだけど、ついでに星でも見よっかなーって…」

 

「…お前、暗いの苦手じゃなかったか?」

 

「ひっ…ちょっとぉ、言わないでよぉ…!言われた途端怖くなっちゃったじゃん!せっかく星を見て紛らわそうとしてたのに…!」

 

「あ、悪い。」

 

俺は、一と一緒にプラネタリウムを鑑賞して時間を過ごす事にした。

一と別れた後は、ミュージアムエリアを後にして別の場所の探索をしに楽園内を歩き回った。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

さて、ミュージアムエリアの探索も終わったし、これから何をしよう?

…そうだ、さっきメダルを拾ったんだった。

ガチャが引けるし、プレイルームに行こう。

 

プレイルームに行った俺は、拾ったメダルでガチャを引いた。

出てきたのは綺麗に磨かれた高級そうな金色の懐中時計だった。

懐中時計か…

誰かにあげたら喜ぶかな?

 

適当に楽園内を散策していると、途中で神崎に会った。

 

「あ、神崎。」

 

「…フン、貴様か。何の用だ子供。」

 

「あのさ、せっかくだし一緒に話でもしないか?お前にちょっと興味あるし、渡したいものもあるしよ。」

 

「ほう。俺に貢物とな?」

 

貢物って…

ただのプレゼントなんだけど…

 

「フッ、そんな事を言ってきたのは貴様が初めてだぞ。俺は今機嫌がいい。丁度一人で退屈していた所だし、遊戯にでも興じてみるか?」

 

あ、機嫌が良くなった。

せっかく一緒に行動する気になったのに誰にも構ってもらえないから退屈してたのかな?

孤立しててちょっと心配だったし、この機会に仲良くなってみるのも一つの手かもしれない。

俺は、神崎と一緒に過ごす事にした。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

俺は、神崎に連れられて研究室まで来た。

 

「ようこそ我が城へ。」

 

我が城って…

コイツ、なんだかんだで楽園生活に馴染んでるよな。

案外根はノリのいい奴なのかもしれない。

しっかし…ホントに色んなものが置いてあるなここ。

神崎がここまで多趣味だったとは。

 

「座れ。」

 

「え?」

 

「聞こえなかったか?座れと言っているのだ。」

 

「あ、ハイ…」

 

俺は、見るからに高級そうな椅子に座った。

命令口調なのが少し気になるが、どうやら客をもてなそうというコイツなりの気遣いらしい。

 

「それで子供。俺に貢物があると言っていたな。」

 

「ああ。これ…なんだけどさ。お前なら気に入るんじゃないかなーって。」

 

俺は、ポケットから懐中時計を取り出してプレゼントした。

すると、神崎は目の色を変えて時計を見た。

 

「貴様…それをどこで手に入れた?」

 

「ああ、プレイルームのガチャでちょっとな。え、そんなにいいものなのか?これ。」

 

「それは俺が愛用しているブランド品の一つだ。中でもそれは正確さが売りの懐中時計で、千年で一秒以下の誤差しか生じないと言われているのだ。まさに完璧な俺に相応しい品だとは思わんか?」

 

「は、はあ…」

 

「フッ、貴様がどうしてもそれを俺に貢ぎたいというのなら受け取ってやらん事もないぞ。」

 

「ど、どうも…」

 

ものすごく上から目線だが、どうやら気に入ってくれたらしい。

プレゼントしたものを喜ばれるのは素直に嬉しいな。

だが、神崎は懐中時計を受け取るなりしつこいぐらいハンカチで拭き始めた。

 

「一応受け取ってはやるが、何を触った手で渡されたのかわからないからな。」

 

いや、そりゃそうだけど…

拭きすぎじゃね?

流石に傷つくんだけど。

 

しばらくして、ようやく満足したのか神崎は時計を拭く手を止めた。

 

「…時に子供。」

 

「ん?」

 

「俺は退屈だ。どうだ、共に遊戯にでも興じてみないか?」

 

そう言って、神崎はチェス盤をデスクの上に置いた。

 

「ここに置いてあったのはいいが、一人だと使えないしな。丁度興じる相手が欲しかったのだよ。」

 

そう言って、神崎は駒を盤上に並べ始めた。

コイツ、やっぱり誰にも構ってもらえなくて寂しかったんだな。

 

「チェスのルールはわかるか?」

 

「まあ、一応…孤児院でもよくやってたしな。」

 

「フッ、十分だ。では俺は黒にするがそれでいいか?」

 

「…俺に負ける気はねぇと?」

 

「当然だ。では始めようか。」

 

「クッソー、負けねぇからな。」

 

 

 

数分後。

 

「チェックメイト。」

 

…えっ?

あ、あれ?

何かいつの間にか詰んでるんだけど…

 

「ま、負けました…」

 

「フッ。貴様、強いな。俺を相手に10手以上勝負が続いたのは貴様が初めてだ。では次はオセロをやるか。貴様が後手でいいな?」

 

「お、おう…」

 

舐めやがって…

今度こそ負けねーからな。

 

数分後。

 

「くくく、どうした?もう終わりか?」

 

え、待って。

黒っ!!

盤上がここまで黒くなる光景を見た事がないんだが。

オセロってこんな一方的に惨敗するもんだっけ?

もうこれオセロじゃなくてオレオ並べだろ!!

 

「負けました…」

 

「フッ。」

 

クッソー…絶対何かで勝ちたいな…

俺は様々なジャンルで神崎と勝負をしたが、結果はボロ負けだった。

 

「ぐぅううううっ…!」

 

「くっくっく…はぁーっはっは!!俺の前にひれ伏せ雑魚め!!」

 

「くっ…」

 

ホントコイツ何でもできるんだな。

これが【超高校級の天才】の実力か…

 

「お前ってホント完璧超人だよな。何食ったらそんな風になるんだよ。」

 

「フッ。知りたいか?俺の神話を…」

 

うわ、過去の事を神話って言ってるよ。

まあ元々それが知りたくて話しかけたわけだし、聞くか。

 

「遡る事18年前…神崎財閥のトップ神崎皇一と製薬会社の社長令嬢神崎琴奈の間に男児が生誕した。それがこの俺だ。」

 

え、そっから?

 

「俺は幼少の頃から才覚を発揮してな。特に何の努力もせず周りを凌駕する結果を叩き出してきた。小学生の頃に名門大学の首席卒業生の論文を解読し、中学生の頃に陸上の全国大会の代表選手に選ばれた。最近は会社を立ち上げ業績は鰻登り…といったところか。」

 

「バケモンじゃねぇか。実家が財閥でしかもそんなにすげー才能があるんだったら、人生で苦労とか経験した事ねぇんじゃねぇの?」

 

「…そうでもないさ。俺は、あまりにも抜きん出すぎて何をやっても退屈なのだよ。俺と互角以上に渡り合えるのは、その分野で世界屈指の者だけ…周りとのレベルがかけ離れすぎて他の者達を虫螻としか思えぬのだ。」

 

ひどい言いようだなオイ。

 

「…あのさ。こういう事あんまり言いたくないんだけど…お前、同年代の友達いないだろ?」

 

「……………。」

 

あらら。

この反応は図星ですか。

 

「…天から全てを与えられたはずの俺が、与えられたもののせいで本当に欲しいものを手に入れられない。実に皮肉な話だとは思わんか?」

 

「あ、まあ…」

 

「…それに、本当に愛する人にも愛想を尽かされたしな。」

 

「え?」

 

「俺には、凡人の中でもただ一人だけ愛する女性がいた。その人は事情があって遠くに住んでいるのだが、電話で会社を立ち上げた話をして俺がいかに凡愚共を導く器として相応しくなったかを教えたのだ。…だが、『私は前のあなたの方が好きだった』と言われそれ以降疎遠になったのだよ。」

 

愛する人、か。

神崎にも恋人とかいたんだな。

でも、向こうの想いが冷めて別れ話を切り出されたってわけか。

 

「…そっか、お前も色々大変だったんだな。ありがとう。色々と話してくれて。」

 

「フッ。貴様、あくまで俺と対等でいようというのか。」

 

「まあ…一緒にここに連れて来られた仲だしな。」

 

「フン。貴様のその格上相手に物怖じしない態度、嫌いじゃないぞ。貴様は特別に俺の右腕にしてやろう。」

 

「は、はあ…」

 

右腕って…

上から目線だなオイ。

でも、気に入られただけ良しとするか。

 

「おっと、もうこんな時間か。そろそろ愚民共が集まっている時間だし、俺達も行くか。」

 

「…だな。」

 

俺と神崎は、研究室を後にして食堂に向かった。

 

《神崎帝との親密度が上がった!》

 

 

 

夕食の後は軽めのミーティングを済ませ、その後温泉でまったりしてから部屋に戻った。

こうして、合宿生活の8日目が終わったのだった。

 

 

 

 

 


 

 

 

ー生存者ー

 

【超高校級の講師】赤刎円

 

【超高校級のカウンセラー】安生心

 

【超高校級の天才】神崎帝

 

【超高校級の香道家】聞谷香織

 

【超高校級の脚本家】黒瀬ましろ

 

【超高校級の幸運】漕前湊

 

【超高校級の???】枯罰環

 

【超高校級の家政婦】仕田原奉子

 

【超高校級の冒険家】ジョナサン・ウォーカー

 

【超高校級のヴァイオリニスト】弦野律

 

【超高校級のソフトウェア開発者】一千歳

 

【超高校級のランナー】速水蘭華

 

【超高校級の画家】筆染絵麻

 

【超高校級の収集家】宝条夢乃

 

ー以上14名ー

 

 

 




パンツハンターネタ挟んでみました。


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(非)日常編⑤

ふっふっふ…







楽園生活9日目。

 

『おはようございます、オマエラ!!朝です!!7時になりました!!今日も元気に殺し合いましょう!!』

 

今日もまた、モノクマの耳障りなモーニングコールで起こされた。

俺は、朝の準備を済ませて8時に間に合うように食堂に向かった。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「おはよう。」

 

食堂には、安生、神崎、聞谷、湊、ジョン、速水、筆染がいた。

 

「おー、おはよ円!」

 

「Good morning!!」

 

「おはよう、赤刎君。」

 

「おっはー!!」

 

「おはよー。」

 

「ごきげんよう。」

 

6人は挨拶を返してくれた。

神崎は相変わらずかと思いきや。

 

「…フッ。よくぞ来たな、我が右腕よ。」

 

神崎が俺に視線を送りながら挨拶を返してくれた。

 

「…え?」

 

「あはは。神崎君、君にすっかり懐いちゃったみたいだね。」

 

「フン。」

 

「あれ?神崎、そういえばお前自分の飯作りに行かなくていいのか?」

 

「神崎さんは、本日は仕田原さん達が作ってくださるお食事を召し上がるそうですわ。」

 

「へー…」

 

神崎も、少しはみんなに対して心を開いたって事なのかな?

そんな事を考えながら待っていると、宝条、一、黒瀬の3人が来た。

全員が揃ったので、俺達は枯罰と仕田原と弦野が作ってくれた朝食を食べた。

その後は、仕田原が昨日作って冷やしておいたカボチャのプリンを振る舞ってくれた。

程よい甘さで美味しかったのだが、枯罰が無表情でプリンを頬張っていたのには少し笑ってしまった。

…前からちょっと思ってたけど、枯罰って甘いもの好きなのかな?

 

「メッチャ美味しいー!」

 

「ありがとうございます。皆さんに喜んでいただきたくて試作したんですけど、ご好評のようで何よりです。」

 

 

 

『うぷぷぷぷ、仕田原サン。そんなもの作る暇があるなら他にやる事あるんじゃないの?』

 

突然、あの耳障りな声が聞こえてきた。

そして、例のイロモノが現れた。

 

『とうっ!』

 

「ぎゃあっあっあああああああぁあああっ!!出たぁあああああああっ!!」

 

「いや、いい加減慣れろよ。」

 

虫を見つけたかのように跳び上がる一に、弦野が冷ややかな視線を送った。

 

「あーあ、またダサいのが現れた。ゆめ達いいところだったのにー。」

 

「モノクマってホント空気読まないよね。」

 

『ん?速水サン、空気は読むものじゃなくて吸うものだよ?』

 

「だよねー。それでクマちゃん、何の用?」

 

『んもうっ、察しが悪いなー。用件なんて一つに決まってるでしょ!!オマエラ、コロシアイはどうしたのさコロシアイは!!何か人が死ぬどころか弦野クンと神崎クンはみんなに馴染んでるしさ!!』

 

「…フン、くだらんな。それで俺達に殺し合いをさせるために動機を配りにきたのか?」

 

『そうそう…って、神崎クン!ボクのセリフ取らないでよ!!そうだよ、動機を配りに来たんだよ!!オマエラがコロシアイをしないから無言の圧力に押し潰されてこっちはもうドーキがドキドキ…』

 

「くだらん駄洒落はええから用件を3行でまとめて早う帰らんかい。」

 

『うわ枯罰サン、ボクの扱い方雑っ!!まあでもこれ以上グダグダするとみんな飽きちゃうからね。』

 

「ん?みんな?ねえ、みんなってどういう事?」

 

『あーもううるさいな!今のはナシ!ナシったらナシ!幸水に豊水に二十世紀!!とにかく、オマエラのパスポートに動機を送るからちゃんと目を通しといてね!』

 

「動機なぁ…今回は何なん?またウチらの不安煽って殺し合わせようっちゅう魂胆かいな?」

 

『イグザクトリー!!今回の動機は…『秘密』だよ!!』

 

「秘密?」

 

『うぷぷぷぷ、人は誰しも大なり小なり秘密を抱えてるものなんだよ。中にはとんでもない爆弾抱えてる人もいるんじゃない?今からオマエラにはそんな爆弾をプレゼントします!パスポートの動機アプリに通知が来てるはずだから、それを開いて確認してね!』

 

「秘密だって!?…あ、もしかしてアレかな…」

 

「でもさ、自分の秘密なんて知ってどうするの?誰にも言わなきゃ何も起こらないよね?」

 

『うぷぷ、誰がオマエラに自分の秘密を送るなんて言った?ボクはね、オマエラの秘密をバラバラに送ったんだよ!』

 

「は…はぁあああああああっ!!?」

 

「マジかよ。」

 

「いらん事しよるのぉ…」

 

『だって、そうでもしないとオマエラ殺し合ってくれないでしょ?』

 

「ふざけんじゃねぇぞオイ!!今すぐ消せ!!」

 

『は?消すわけないじゃん。バカなの?死ぬの?そんなに知られたくないなら殺しちゃえばいいじゃーん!』

 

「コイツ…!!」

 

「にゃはは、にゃるほどねー。でもさ、配られる事がわかってるんだったら見なきゃいいんじゃないの?」

 

「I see!オレは絶対見ないからな!!」

 

『あ、そうそう。1時間以内に見ないとオシオキだから。それと、明日になっても死人が出なかったらそれ全部ネットに流しちゃうよ。』

 

「はぁ!?ちょっ…やめてよ!そんな事したら生きていけなくなっちゃうじゃない!」

 

『だから、知られたくないなら殺しちゃえって言ってんじゃーん!』

 

「テメェ…」

 

『あ、そうそう。もう一個言いたい事があるんだった。今から、『パスポートの貸し出しを禁止する』っていうルールを追加するよ!』

 

モノクマがそう言った直後、パスポートのルールの欄に

 

 

 

ーーー

 

十四、パスポートの貸し出しを禁じます。

 

ーーー

 

 

 

という項目が追加された。

 

「はぁ?こないなルール追加しよって、どういうつもりなん?」

 

『うぷぷ、さぁね。それじゃ、ボクの方からは大体言い終えたのでこれで。バイバーイ。』

 

そう言って、モノクマは去っていった。

 

 

 

「クソッ、あの野郎…!!」

 

「ムキになんなや。それよりお前ら、秘密を見てもええけど本人にだけは絶対言うなや。」

 

「え、何で?秘密を知ったんだったら本人には言った方が良くない?」

 

「ド阿呆。ほいでソイツが逆上してお前に何かしても文句言えへんぞ。見え見えの地雷踏み抜いてどないすんねん。」

 

「いや…でも、俺達は一致団結したんだ!俺達の中にそれで誰かを殺すような奴はいない!!」

 

「はー、付き合ってられへん。もう勝手にせぇよ。殺されても知らんぞー。」

 

そう言って、枯罰は食堂から出て行ってしまった。

 

「俺もアイツと同じ意見だな。安心しろよ、俺は死にたくないから秘密をバラしたりなんかしねぇよ。じゃあな。」

 

「あっ…」

 

弦野も出て行ってしまった。

 

 

 

「…どうするよ?」

 

「オレはランカとsame opinionだな。誰が自分のweak point知ってんのかを知りたい奴もいるだろ?」

 

「そうだな。俺も速水ちゃんやジョンと同じ意見だ。俺だって、誰が俺の秘密抱えてんのかわかんねぇのは不安だしよ。」

 

「自分も伝えた方がいいと思いますね。」

 

「あたしも。あたしは、みんなの事信じてるから!」

 

「俺もお前らに賛成だ。誰が誰の秘密知ってんのかわからない状態だと、不安にかられて変な気を起こしちまうかもしれないからな。」

 

「僕は反対。枯罰さんの言う通り、あまり人を刺激するような事をするのは勧められないな。」

 

「そうですわね。わたくしも言うべきではないと思いますわ。」

 

「ゆめもそう思う!やっぱり、本人にも簡単に教えるべきじゃないと思うの。」

 

「ぼ、ボクも…し、死にたくないし…」

 

伝えた方がいい派は俺、湊、仕田原、ジョン、速水、筆染。

伝えない方がいい派は安生、聞谷、枯罰、弦野、一、宝条か。

見事に真っ二つに分かれたな…

 

「黒瀬ちゃんはどう思うの?」

 

「ボクはどっちでもいいよー。別に強制する事でもないしー。」

 

「神崎は…」

 

「興味ないな。」

 

中立派が神崎と黒瀬か。

まあ、アイツらは秘密の一つや二つで動揺するようなタマじゃないだろうしな。

 

「それじゃあ、枯罰さんと弦野君が行っちゃったし、今回のところはこれでお開きにしようか。あ、秘密は必ず個室の中で見るようにしてね。」

 

「ああ。」

 

その場で流れ解散となったので、俺はとりあえず部屋に戻って秘密を見ることにした。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

えーっと、パスポートの動機アプリに…あ、本当だ。

通知来てる。

…一体誰の秘密なんだ?

俺は、嫌な予感がしつつもアプリを開いた。

そこには…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『【超高校級の脚本家】黒瀬ましろサンの秘密!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黒瀬ましろサンは人を殺した事があります!』

 

 

 

 

 

…え?

 

俺は、その内容を理解できなかった。

理解しようとしても、頭が受け付けなかった。

俺は思考停止したまま、気がつくと数十分が過ぎていた。

 

「そんな…う、そ…だよな?黒瀬が…殺人犯…?」

 

確かに、アイツは一癖も二癖もあるメンバーの中でも一番何を考えてるのかわからない奴だ。

でも、だからって人殺しなんて…

いや、こんなの絶対モノクマの捏造に決まってる。

あのふわふわした小動物みたいな黒瀬が殺人犯なわけがない。

…そうだ、本人に確認してみよう。

それでアイツが否定してくれれば、全部丸く収まるんだ。

いつものノリで聞けば、アイツなら笑って『違う』と言ってくれるはずだ。

俺は、不安を抱きつつも黒瀬の元へ向かった。

 

「黒瀬。」

 

「んー、何かご用ですかー。」

 

ホテルの外に出て黒瀬を探していると、ミュージアムエリアに黒瀬がいた。

黒瀬は、何故か本物そっくりの人工のエイを捕まえていた。

 

「…お前、何してんの?」

 

「毒エイ捕まえたから部屋で飼うのー。」

 

『飼うのー』じゃねぇよ。

まずどうやって捕まえたんだよ。

 

「いやそれ偽物だから。つか早く元の場所に戻してこいよ。」

 

「はーい。」

 

黒瀬は、意外にも大人しく水族館に戻っていった。

ホント何考えてんのかわかんねぇな…

しばらくすると、黒瀬が水族館から出てきた。

 

「おまたー。」

 

黒瀬は、パタパタと足音を鳴らして俺の前に来た。

 

「それで、お話があるからボクに話しかけてきたんだよね?」

 

「ああ。大事な話だ。できれば聞かれる心配がない所で話したいんだけど…」

 

「えー何ー?もしかして、昨日のパンツのお礼?」

 

「違う。もっと大事な話だ。」

 

「ふーん。まあいいや。とりあえずボクのお部屋で話そっかー。」

 

黒瀬は、俺の手を引いて部屋へと向かった。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「ここがボクのお部屋ですー。」

 

…うわ。

女の子の部屋に対してあんまりこういう事言いたくないけど、何かこう…いかにもって感じだな。

部屋中ピンクで、綿が飛び出たぬいぐるみが散乱しててものすごく不気味だ。

 

「ちょっと待っててねー。ジュース持ってくるから。そこ座っていいよー。」

 

「あ、サンキュ。」

 

俺は、アンティーク調の椅子に座って黒瀬がキッチンから出てくるのを待った。

しばらくして、ジュースの入ったグラスをお盆に乗せた黒瀬が来た。

 

「お待ちどーさまー。」

 

…うげ。

何だこのジュース。

白と黒が混じり合ってて毒々しいな…

なんかドロッとしてるし、変な匂いがするんだけど…

まさかとは思うけど、危ない物とか入ってないよな?

でも、ここで拒否るのも悪いしな…

 

不安を抱きつつジュースを飲んだが、なんと予想に反してものすごく美味かった。

やっぱ見た目で判断して食わず嫌いするのは良くないな。

 

「お、美味いなこれ。」

 

「えへへー、でしょでしょー。それで円くん、ボクの秘密って何だったの?」

 

「ぶふぉあっ!?」

 

俺は、思わず口に含んでいたジュースを吹き出した。

…え!?何で知ってんの!?

まだ言ってなかったよね!?

 

「あ、コラ!円くん、こぼしちゃダメ!」

 

「わ、悪い…じゃなくて!え、何で知ってんの?」

 

「んーにゃ、知ってたわけじゃないよー。察しただけー。このタイミングで大事な話っていったらそれしかないでしょ?」

 

「確かに…」

 

「で、わざわざボクに秘密を教えに来てくれたんだ?」

 

「ああ…」

 

俺は、覚悟を決めて黒瀬に正直に打ち明ける事にした。

 

「…俺が見たお前の秘密、それは『お前が人を殺した事がある』というものだった。」

 

「ふーん。で?」

 

黒瀬は、肯定も否定もせずストローでジュースを啜った。

あまりにも反応を示さないものだから内心かなり混乱したが、俺は話を続けた。

 

「俺はこんなもの信じてない。…なあ、嘘だよな?モノクマの捏造なんだよな?だって、お前が殺人なんか…

 

「ん?本当だよ?」

 

「そっか、良かっ……………え?」

 

…………今、何て?

 

「キミが見た秘密は、本当の事なんだよ。ほら、ボクが認めたんだからキミも認めなよ。」

 

「そ、そんな…あ、わ、わかったぞ!きっと、何か事情があったんだな!正当防衛だったとか、何かのはずみでとか…

 

 

 

「なんとなくだよ。」

 

「………えっ?」

 

「特に理由とかないんだけど、なんとなーく人を殺したくなっちゃうんだよね。別に何の理由もないのに蟻潰すちっちゃい子とかいるじゃん?それと同じだよ。」

 

「お、お前…何言って…」

 

「そうそう。おまわりさんに捕まるのが嫌だから黙ってたけど、ボクね、新しい脚本は必ず人を殺した直後に書くんだー。だってその方が面白い話書けそうだし。」

 

意味がわからない。

コイツは一体何を言ってるんだ?

 

「ふっ…ふざけんな!!お前それ…本気で言ってんのか!?」

 

「本気と書いてマジですよー。外にいる時は適当に誰か殺してたけど、最近はあんまり殺せてないから退屈なんだよねー。」

 

「…えっ」

 

その直後だった。

 

 

 

「!?」

 

突然、黒瀬が俺に飛びついてきたかと思うと、馬乗りになって両手で俺の首を掴んできた。

 

「がぇっ!?ごぉっ…く、黒瀬…おま、何を…?」

 

「へへへー。ごめんね円くん。ボク、キミがあまりにも可愛いから我慢できなくなっちゃったんだー。」

 

「あがっ…ぐ、ぐるじ…」

 

「ふふっ、ねえ円くん。人ってねー、こうやって頸動脈と気管を圧迫してあげると簡単に死んじゃうんだよー?」

 

「ごぉっ………や、め………」

 

「心配しないで?キミは、これからボクの最高傑作として世に知れ渡るんだから。」

 

苦しい。

息ができない。

意識が少しずつ薄れていく。

だが、黒瀬はお構いなしに俺の首を絞める力を強くした。

 

「はぁっ…んぅっ……気持ちいいよぉ…円くん…ボク、お腹の下の方がキュンってなって…すごくイイの…お願い、もっとボクを気持ちよくして…♡」

 

黒瀬は、俺の首を絞めながら顔を赤らめて目や口を緩ませていた。

嘘だろオイ…!?

今更だけど、コイツマジでヤバい!!

コイツを何とかしないと、このままじゃ…死…

 

 

 

 

 

 

 

「なーんてね♪」

 

黒瀬は、ニコッと笑うと突然俺の首を絞める手を離して俺を解放した。

 

「ゲホッ、ゲホッ!!」

 

し、死ぬかと思った…

 

「にゃはは、冗談だよ。こんなに可愛い円くんを殺すわけないじゃん。ただ、どんな反応するのか見たくてからかってみただけ。」

 

「ふ…ふざけんなよマジで…こっちは死にかけたんだぞ…」

 

「ごめんね。でももうしないから許して?」

 

黒瀬は、瞳を潤ませてコテンと首を傾げる。

俺は、深くため息をついて一番気になってる事を確認した。

 

「…お前は、ここで人を殺す気は無いんだな?」

 

「ないよー。ボクはここの生活が気に入ってるし、オシオキか失楽園で退場なんてもったいない事したくないからねー。それにボクはみんなの事が大好きだから、いくら人を殺すのが気持ち良くてもみんなを殺したりなんかしないよー。」

 

「だったら、もう殺人はしないって約束できるか?」

 

「うんー。約束するー。そうだ、せっかくだし指切りしよーよ。」

 

黒瀬が小指を出してきたので、俺も小指を出す。

曲げた小指を互いに引っ掛けると黒瀬が歌い始めた。

こんな遊びで殺人を防げるなら安いものだ。

 

「ゆーびきーりげーんまーんうーそつーいたーらはーりせーんぼーんのーますっ♪ゆびきった!」

 

俺と黒瀬は口約束を交わした。

気がつくともう12時前になっていたので、とりあえず食堂に向かう事にした。

 

「黒瀬、これからは一緒に行動してもいいか?」

 

「なあにー?円くんってば、ボクの事口説いてるのー?やーん嬉しいー♪」

 

「違う。お前は人を殺さないかもしれんが、万が一誰かが変な気を起こして事件が起きちまった時、お前が一人でうろついてたら誰も裁判でお前の事を守れないだろ?俺がバラさなくても、どこかからお前が殺人鬼だって秘密が漏れちまったら真っ先に疑われるだろうしな。」

 

「へへへー、円くんは優しいんだねー。もちろんいいよー。」

 

とりあえず、俺が近くにいれば安心だろ。

コイツも俺に見られてるのに人を殺すほどバカじゃない筈だ。

 

「それじゃいきましょー。」

 

俺は、黒瀬と一緒に手を繋いで食堂に向かった。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

食堂には、全員集まってはいたが暗い面持ちだった。

無理はない。モノクマのせいで、人の爆弾を抱える事になってしまったのだから。

それにしても…誰も秘密を教えにこないって事は、俺の秘密を引いたのは伝えない派の6人のうちの誰かだったって事か。

 

「おい、マドカ…オマエ、neckにbruiseついてるぞ…どうしたんだそれ?」

 

「ホントだ、首を絞められたみたいな痕が…」

 

「ああ、これか。えーっと…」

 

黒瀬に殺されかけたなんて言わない方がいいしな。

何て言い訳しようか…

そんな事を考えていると、黒瀬がテーブルにちょこんと座って言った。

 

「それはねー。ボク、円くんと失神ゲームして遊んでたんだけどねー。ちょっとやりすぎて痕になっちゃったの。」

 

「なっ…黒瀬さん!!それで赤刎君が死んじゃったらどうするつもりだったの!?そんな危険な遊びやっちゃダメだよ!!」

 

「そうだよ、アンタ不謹慎すぎ!!」

 

「ごめんなさーい。」

 

黒瀬は、見るからにシュンとするフリをした。

 

「赤刎君も、そんな遊びに付き合っちゃダメだよ!わかった!?」

 

「お、おう…」

 

良かった、この場は何とか誤魔化せたみたいだ。

流石にこんな状況で失神ゲームやってたってかなり無理のある言い訳だけど、黒瀬が殺人鬼だって堂々と言うわけにもいかないしな。

…でも、明日になればネットで全部バラ撒かれる。

多分、全員が全員の秘密を知る事になる。

黒瀬が殺人鬼だってわかったら、きっとみんな今まで通りではいられなくなる。

…いや、その前に自分の抱えている秘密が知れ渡ったら二度と日の当たる場所で生きていけなくなってしまうだろう。

もしそうなったら、俺は覚悟を決められるのだろうか。

 

「はいはーい、もうこの件に関してはおっしまーい!円くんも許してくれてるし、もういいでしょ?」

 

「いいわけないよ。君、反省してるの?」

 

「安生、ホントにもういいから。黒瀬ももうしないって約束してくれたしな。」

 

黒瀬の奴、俺と約束したとはいえ下手に刺激したら何するかわかんないからな。

ここは穏便に済んだ方が俺も有難い。

心配性なのか安生は最後まで食い下がったが、やられた張本人の俺が言ったという事もあって俺が黒瀬を許すように言うとそれ以上は何も言わなかった。

結局、黒瀬の事は俺が許したという事で不問になった。

 

「それじゃー、ご飯にしましょー。ボクお腹ペコペコだよぉー。」

 

黒瀬は、カチャカチャと食器を鳴らしてみんなを急かした。

全員で仕田原達3人が用意してくれた昼食を食べる。

その後は自由探索の時間になったので、俺は黒瀬と一緒に大浴場に行く事にした。

 

 

 

 

「じゃあボクはお風呂に入ってくるので、円くんは探索しててくださーい。」

 

…風呂場までは流石に一緒にいられないからな。

アイツが出てくるまで俺は大浴場の周辺の探索でもするか。

 

俺は、大浴場の外にあるブレーカーを調べてみた。

特に変わったところはないな。

 

 

 

「はぁー、気持ちよかったですー。」

 

数十分後、黒瀬が温泉から出てきた。

真っ白な肌がほんのり赤みを帯びていて、温泉を堪能できたのがわかった。

 

「次はプレイルームでゲームでもしないー?」

 

俺は、黒瀬に引っ張られてプレイルームに向かった。

黒瀬は、テーブルに置いてあったトランプを手に取ってシャッフルした。

 

「トランプあるしババ抜きでもするー?ボクね、ババ抜き得意なんだー。」

 

「…一回だけだぞ。」

 

「わーい♪じゃあさっそくやりましょー。」

 

俺と黒瀬は、ババ抜きで勝負をする事になった。

 

 

 

「はい、ボクの勝ちー。」

 

「くっ…も、もう一回だ!」

 

「しょうがないなぁー。」

 

結局、2時間ほどブッ通しで何回か勝負したが一回も勝てなかった。

『顔に出すぎ』と笑われたが、そんなに顔に出てたかな?

 

 

 

すると、唐突に黒瀬がパスポートを開いた。

 

「あ、チャット来てる。」

 

「ん?」

 

「湊くんからだー。んーと、プラネタリウムで催し物をしたいから30分頃を目安に集まってくれって。」

 

「湊から?俺の方にはチャット来てないんだけど…」

 

「忘れられてるのかもねー。チャット送ってみたら?」

 

「そうだな…」

 

忘れられてる…?

でも、湊が俺を忘れるとは思えないんだけど…

もしかして、俺は歓迎されてないのかな?

俺は、少し不審に思いつつも湊にチャットを送った。

 

《プラネタリウムで出し物するんだって?俺も行っていいか?》

 

すると、すぐに返信が返ってきた。

 

《もちろんいいぞ!赤刎だったら大歓迎だ!ぜひ来てくれ!》

 

よかった、俺の事は歓迎してないわけじゃないんだな。

 

「それじゃあそろそろ行くか。」

 

「そうだねぇ。」

 

俺達は、湊が出し物をするというのでプラネタリウムに向かった。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

5分前にプラネタリウムに行くと、聞谷、枯罰、仕田原、ジョン、弦野、速水、宝条がいた。

 

「お前らも湊に招待されてたのか?」

 

「はい!なんでも漕前さんが、秘密なんて送られて皆さん気が滅入っているだろうからと自分達を招待して下さったんですよ!」

 

「ゆめ達にチャットが送られてきたの。漕前くんって〜、ホント優しいわよね〜。」

 

宝条…またキャラ作ってる…

 

「オレとリツはカオリとランカにinviteされたから来たんだ。」

 

「ああ。コイツらによかったら一緒にどうかって誘われてな。ちょうど暇してたとこだし来てやったんだよ。」

 

あれ?ジョンと弦野にもチャットが送られてないのか。

 

「安生さんと一さんもお招きしたのですけれど、チャットが来ていないのに行くのは迷惑ではないかと断られてしまいましたの。」

 

「帝に至っては『興味ない』ってさー。」

 

安生達もチャットを受け取ってなかったのか。

だからこの場にいないんだな。

 

「ミナトのヤツ、何でオレにはchatをsendしてくれなかったんだ?」

 

「…まぁ誘われたメンバーから察するに、女子にしか知らせとらんっちゅう事やろな。」

 

「ケッ、あのスケベ野郎の事だ。如何わしい出し物でもするつもりだったんじゃねぇの?」

 

「ちょっと、律!湊がそんな事するわけないでしょ!…確かに湊はエッチだけど!」

 

「そうですわよ!いくら漕前さんが不埒者だからといって、その言い方はあんまりですわ!」

 

速水、聞谷。フォローになってないぞ。

…ん?女子?

 

「あれ?そういや筆染は?」

 

「あー、絵麻ね。さっき確認のチャット送ったんだけど、既読にならないんだよね。もしかして忘れてんのかな?」

 

「まあ、筆染さんですから…可能性はありますわよね。」

 

「どーする?」

 

「んー…でももうすぐ始まっちゃうし、来るのを期待するしかないか。」

 

 

 

「…ん?」

 

突然、弦野がドアの方を振り向いた。

 

「どうした?」

 

「…何でもねぇよ。」

 

「?そうか。」

 

結局、筆染と言い出しっぺの湊が来ないまま5分が過ぎた。

すると、その時だった。

 

 

 

「あ。」

 

突然、黒瀬のパスポートにチャットが届いた。

 

「湊くんからだー。」

 

そう言って、黒瀬はパスポートを全員に見せた。

 

《ワリ!準備で手間取っちまって遅れそうだわ!あと5分待って!》

 

それを見た枯罰、弦野、宝条の3人は呆れ返った。

 

「…はぁー、あんのド阿呆。」

 

「時間計算できねぇのかあのバカは。」

 

「ったく…レディを待たせるなんて男としてどうなのよ。」

 

「まあまあ…あと5分で来ると仰ってますし、もう少し待ちましょうよ。」

 

だが、湊も筆染も来ないまま15分が過ぎた。

 

「ちょっと!!どうなってんのよ!?全然来ないんだけど!?」

 

「阿呆らし。もう帰ろか。」

 

「チッ…付き合ってやった俺がバカだった。」

 

とうとう痺れを切らした枯罰、弦野、宝条の3人がプラネタリウムを出ようとした、その時だった。

 

 

 

 

 

ピーンポーンパーンポーン

 

『死体が発見されました!住民の皆さんは、至急大浴場にお集まり下さい!』

 

「し、死体ですって!?」

 

「なになに!?何なの!?」

 

「パニクっとる場合ちゃうやろ。行くで。」

 

「ああ…!」

 

俺達9人は、急いで大浴場に向かった。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

俺達が大浴場に着くと、そこには筆染、一、安生、神崎の4人が既に女湯の前に集まっていた。

 

「あっ…ああああぁあああああ…」

 

「帰る帰る帰る帰る帰る帰る帰る帰る帰る帰る帰る帰る帰る帰る帰る帰る…」

 

「…何て事を…!」

 

「………下衆が。」

 

筆染と一はパニックを起こし、安生と神崎は犯人に対して憤りを覚えていた。

俺は、恐る恐る女湯の方に視線を向けた。

そこには…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【超高校級の幸運】漕前湊が血塗れの姿で息絶えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

ー生存者ー

 

【超高校級の講師】赤刎円

 

【超高校級のカウンセラー】安生心

 

【超高校級の天才】神崎帝

 

【超高校級の香道家】聞谷香織

 

【超高校級の脚本家】黒瀬ましろ

 

【超高校級の???】枯罰環

 

【超高校級の家政婦】仕田原奉子

 

【超高校級の冒険家】ジョナサン・ウォーカー

 

【超高校級のヴァイオリニスト】弦野律

 

【超高校級のソフトウェア開発者】一千歳

 

【超高校級のランナー】速水蘭華

 

【超高校級の画家】筆染絵麻

 

【超高校級の収集家】宝条夢乃

 

ー以上13名ー

 

 

 



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非日常編①(捜査編)

ちょっと編集しました。コトダマの編集が多くてすまんの。


そんな…

嘘だろ…?

さっきまで出し物を企画してくれてたのに…

湊、どうして…

 

 

 

「うっ…うわぁああああああぁああああああああああああああ!!!」

 

俺は、変わり果てた湊の姿を見て叫んだ。

叫ぶ事しか出来なかった。

 

「キャアァアアアアアアアアァァアッ!!!」

 

「そっ…そ、んな…こっ、漕前…さん?」

 

「嘘でしょ…何で湊が…!!」

 

「いやっ!!もういやぁっ!!」

 

「うぇえええん!!ボクの大好きな湊くんがー!!」

 

「チッ…やっぱりまた起きたか…」

 

「随分とエグい事しよるのぉ。」

 

みんな反応はそれぞれだった。

聞谷は叫び、仕田原と速水はその場で固まってしまい、宝条は両手で顔を覆っていた。

黒瀬はわんわんと泣き、弦野と枯罰は犯人に対して憤りを覚えていた。

 

 

 

「ミ…ナ…ト………?」

 

ジョンは、変わり果てた湊の亡骸に駆け寄ると湊の身体を何度も揺すった。

 

「ミナト!!ミナト!!Come on!!!Wake up!!!」

 

「ジョン…」

 

ジョンは湊の身体を揺すりながら何度も呼びかけるが、湊が再び目を覚ます事はなかった。

湊はもう還ってこない事を悟ったジョンは、泣き叫んで暴れ出した。

 

「Ahhhhhhhhhhhhhhhhhhh!!!」

 

「あっ、おいコラド阿呆!!現場荒らすなや!!」

 

「あの野郎…!!おい、やめろよ!!」

 

枯罰と弦野が暴れるジョンを取り押さえた。

だが、ジョンは二人に腕を押さえられた状態でバタバタと暴れていた。

 

「ウォーカー君…」

 

「あーあ、あれ完全に聞こえてないよね。」

 

「フン、この様子だと捜査や裁判で役に立ちそうにないな。今回は外人抜きで裁判をするしかないか…」

 

「…いや。俺が説得してみるよ。」

 

湊同様仲が良かった俺の声なら、ジョンに届くかもしれない。

俺は、ジョンに話しかけた。

 

「…ジョン。」

 

すると、ジョンはピタリと動きを止めた。

 

「気持ちはわかる。俺だって、湊がこんな事になって悔しいよ。…でも、俺達は湊の仇を討たなきゃいけないんだ。そのためにはお前の力が必要だ。だから…」

 

俺がそこまで言うと、ジョンは泣き叫ぶのをやめて大人しくなった。

 

「Sorry…」

 

ジョンは、消え入りそうな声で呟いた。

冷静さを取り戻してくれたみたいだ。

 

 

 

『うぷぷぷ、くっさー!!そんなシュールストレミング並みに臭い臭い友情ごっこなんてお腹いっぱいだよ!!』

 

突然、どこからかアイツ…モノクマが現れた。

 

「お前…!!」

 

『ちょっとちょっと赤刎クン!!登場しただけで激おこスティックファイナリアリティぷんぷんドリームですか!?そんな生意気な態度取るならオシオキしちゃってもいいんだよ!?』

 

「お前喧しいんじゃボケ。要件だけ済ませて3秒以内に消えんかい。」

 

『あーハイハイ!今回も事件が起きたので『モノクマファイル②』を配りますよ!それじゃあ捜査頑張ってね!』

 

モノクマは、ファイルを送信するとそそくさと消えていった。

 

「ほな捜査始めよか。検視はウチがするんでええよな?」

 

「ああ。見張りは誰がやる?」

 

「死体に耐性がある人だといいんだけど…」

 

「はぁーい。ボクがやりますよー。」

 

「待て。白、貴様は信用ならん。デカブツが履歴を捏造した時見張ってなかった前科があるからな。」

 

「ひどいよぉー。」

 

「そういうわけで俺も見張る。」

 

検視は枯罰、見張りは黒瀬と神崎がやる事になった。

大浴場の捜査を弦野、ジョン、一、速水、宝条が、それ以外の場所の捜査を安条、聞谷、仕田原、筆染が担当する事になった。

 

…俺も、自分なりに捜査をして少しでも情報を集めないと。

それが湊のためでもあるんだから。

 

 

 

ーーー

 

 

 

《捜査開始!》

 

 

 

まずはモノクマファイルを確認しておこう。

 

モノクマファイル②

被害者は【超高校級の幸運】漕前湊。

死亡時刻は午後3時15分〜3時30分。

死体発見場所は女湯の脱衣所。

死体には無数の弾痕が見られる。

 

…あれっ?

今回は死因が書かれてないな。

死因を断定できなかったって事か?

 

 

 

コトダマゲット!

 

【モノクマファイル②】

 

 

 

死体は入り口からだいぶ離れてるな…

ただ間違えて入って射殺されたというわけではなさそうだ。

 

 

 

コトダマゲット!

 

【死体の位置】

 

 

 

俺は、検視をしている3人に話を聞いてみる事にした。

 

「そっちは何かわかったか?」

 

「フン。我が右腕よ。俺はこんな物を発見したぞ。」

 

そう言って神崎が見せてきたのは血まみれのバスタオルだった。

 

「バスタオル?」

 

「幸運の近くに落ちていたのだ。事件の重要な手掛かりかもしれぬぞ。」

 

「かもな。」

 

 

 

コトダマゲット!

 

【バスタオル】

 

 

 

「…なあ、神崎。お前、事件中は何をやってたんだ?」

 

「何だ貴様。俺を疑っているのか。」

 

「いや…お前は事件中一緒にいなかったから、何やってたのかなーって…」

 

「…フン。露天風呂に入っていたさ。女湯の方が騒がしいから何事かとは思っていたが…まさか幸運が死んでいたとはな。」

 

なるほど。

道理で温泉の香りがするわけだ。

 

 

 

コトダマゲット!

 

【神崎の証言】

 

 

 

「なるほど、ありがとな。黒瀬は何かわかったか?」

 

「見てー。穴ぼっこー。」

 

黒瀬の言う通り、脱衣所の床には無数の穴が空いていた。

 

「チーズみたいー。」

 

「言ってる場合か。」

 

「この大きさの穴を大量に開けられるものってー、確か大浴場の中にあったよねー。」

 

…マシンガンの事かな?

状態を見る限り、湊はルール違反をしたからマシンガンが発射されたとみて間違いなさそうだ。

 

 

 

コトダマゲット!

 

【床の穴】

 

コトダマゲット!

 

【マシンガン】

 

 

 

「あのさ、黒瀬。」

 

「何ですかー。」

 

「湊からチャット送られてきたって言ってたよな?見せてくれないか?」

 

「ガッテン承知の助ー。」

 

俺は、黒瀬にパスポートの画面を見せてもらった。

確認すると、3時13分に出し物の招待のチャットが来ており、3時28分に5分待ってくれという内容のチャットが来ていた。

3時28分にチャットが来てるって事は、湊はこの時点で生きてたのか?

 

「…なるほどな。ありがとう。」

 

「お安い御用でありんすよー。一応円くんのチャットも確認してみたら?」

 

「そうだな。」

 

俺は、湊とのやりとりのチャットを見てみた。

過去の履歴も振り返ってみると、他愛ないやりとりが続いていて、何だか涙が溢れてきた。

そして、最後のチャットの返信…

これが湊との最後のやりとりになっちまったな。

 

《もちろんいいぞ!赤刎だったら大歓迎だ!ぜひ来てくれ!》

 

…ん?

あれ?この文面、何か変だぞ?

 

 

 

コトダマゲット!

 

【チャットの文面】

 

 

 

「枯罰は何かわかったか?」

 

「…これ見てみぃ。」

 

枯罰は、湊の顔をこっちに向けて見せた。

 

「う゛っ…!?」

 

湊は白目を剥いて口から泡を吹いていた。

 

「これはショック死した時の症状やねん。おかしないか?射殺されたんやとしたらこうはならんやろ。」

 

「た、確かに…」

 

「ウチもてっきりルール違反で射殺されたんかと思っとったけど、これは何か裏があるで。」

 

 

 

コトダマゲット!

 

【枯罰の検視結果】

 

 

 

自分でも調べられる事は調べてみるか。

…あれ?

何かこの死体、おかしくないか?

よく見たら髪が濡れてる…

それに、服の着方も少し不自然だ。

 

 

 

コトダマゲット!

 

【湊の服と髪】

 

 

 

一応モノクマにも確認してみるか。

 

「モノクマ。」

 

『はい何でしょ?』

 

「今回のファイルにはどうして死因が書かれてないんだ?」

 

『知らなーい。』

 

コイツ…

仕方ない、別の気になってる事を聞いてみるか。

 

「あのさ、湊が女湯に入ったのはいつだ?」

 

『知らなーい。』

 

「…いや、男が女湯に入ったらマシンガンが発動するんだろ?その時間がわからないなんて言わないよな?それを黙っているというのは捜査の公平性がどうのとか言ってるお前的にどうなんだ?」

 

『はいはいわかったわかった!そこまで言われちゃうと教えるしかないですね!ルール違反を確認したのは3時30分です!ルール違反をしたのは漕前クンでした!これで満足!?』

 

「それともう一個聞いていいか?」

 

『何でしょ?』

 

「ルール違反って、どうやって判定するんだ?詳しく教えてくれ。」

 

『いいでしょう。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ルール違反として罰するんだ。そこに例外はないよ。』

 

「…死体でもか?」

 

『例外はないって言ったでしょ!』

 

「わかった、もう行っていいぞ。」

 

『ちぇーっ、クマ遣い荒いな全く!』

 

 

 

コトダマゲット!

 

【ルール違反の時刻】

 

コトダマゲット!

 

【ルール違反の判定方法】

 

コトダマゲット!

 

【モノクマの証言】

 

 

 

もう少し調べてみよう。

…あれ?

そういえば湊の靴がないな。

死体も裸足だったし、入り口付近にも靴がない…

 

 

 

コトダマゲット!

 

【湊の靴】

 

 

 

「さて、と…」

 

俺は、女湯を後にして一応男湯の方も調べてみる事にした。

すると、廊下を調べていた速水と宝条に会った。

 

「お前らは何か見つけたか?」

 

「んー…手がかりになるかどうかはわかんないんだけどさ…」

 

そう言って、速水は廊下を指差した。

 

「見てよこれ。タイヤ痕みたいなのがついてるんだけど。」

 

「本当だな…」

 

「誰かがここでタイヤを転がしたって事?でも、タイヤがついてる物なんてあったっけ?」

 

 

 

コトダマゲット!

 

【タイヤ痕】

 

 

 

「宝条は何かわかった事はあるか?」

 

「…そうね。事件と関係あるかはわかんないけど、こんなものを見つけたわ。」

 

宝条は、女湯の入り口を差した。

 

「?何もないぞ?」

 

「よく見なさいよ。ここに、何かが擦れた跡があるでしょ?きっとここに何かが置かれてたのよ!」

 

宝条の言う通り、女湯の入り口には錆びた金属が擦れたような跡があった。

 

「それと、何でか知らないけど女湯の周りの壁と床がところどころベタベタしてると思わない?」

 

「本当だ…よくこんなの見つけたな。」

 

「当然じゃない!ゆめを何だと思ってるの!?」

 

 

 

コトダマゲット!

 

【女湯の入り口の金属痕】

 

コトダマゲット!

 

【女湯付近の壁と床のベタベタ】

 

 

 

そういや弦野とジョンは一応男湯を調べてくれてて一は大浴場の周辺を調べてるんだったな。

二人にも一応話を聞いてみよう。

 

「ジョン、お前は何かわかった事とかあるか?」

 

「Well… this incidentとrelationshipがあるかはわかんねーけど…」

 

ジョンは、そう言って床を指差した。

 

「?何もねーぞ?」

 

「Look carefully.」

 

ジョンによく見ろと言われたので目を凝らして見ると、床がぼんやりと光っているように見える。

 

「あれ?もしかして…」

 

自分の身体で影を作って床を観察すると、床に光る塗料をなびったような痕があった。

こんなわかりにくいのよく見つけたな…

 

 

 

コトダマゲット!

 

【床の光】

 

 

 

「弦野は何か見つけたか?」

 

「…一応な。」

 

弦野は、ビショビショに濡れたドライヤーを見せてきた。

 

「ドライヤー?」

 

「おっと、あんまり迂闊に触るとあぶねーぞ。」

 

「あ、そうだな。」

 

しかし、何でドライヤーがこんなに濡れてるんだ?

感電したら危ないだろ。

 

 

 

コトダマゲット!

 

【濡れたドライヤー】

 

 

 

「それと、これは調べてわかった事っつーか…」

 

「どうした?」

 

「俺達さ、事件当時プラネタリウムにいただろ?」

 

「ああ。いたな。」

 

「俺さ、念には念を入れてプラネタリウムのドアを半開きにしておいたんだよ。そしたら、何か外から筆染の声が聴こえたんだよな。」

 

「筆染の?どんな声だったんだ?」

 

「何か慌ててるような声だったよ。『やっちゃったー』…だったかな?」

 

「いつ聴こえたんだ?」

 

「漕前からチャットが届く前だよ。」

 

俺には全然聴こえなかったな…

弦野は耳が良いから聴こえたのか。

 

「…悪い、そん時はどうせ大した事じゃねぇだろうと思って言わなかった。」

 

「いや、いいんだ。教えてくれてありがとな。」

 

 

 

コトダマゲット!

 

【弦野の証言】

 

コトダマゲット!

 

【プラネタリウムの扉】

 

 

 

 

さてと…自分でも少し調べてみるか。

俺は浴室に入って捜査をした。

まずは…洗い場を調べてみるか。

 

「うわっ…」

 

きったねーな。

桶がちゃんと片付けられてないし、周りがビショビショだし、石鹸の泡が残ったままだし…

これ最後に使ったの誰だよ!!

 

 

 

コトダマゲット!

 

【使いっぱなしの洗い場】

 

 

 

んーと、あとは…

俺は、洗い場同様使われた形跡がある温泉を調べてみた。

すると…

 

「げっ!?」

 

浴槽を調べていたら、温泉が数滴シャツにはねてシミになってしまった。

 

「あーあー…」

 

やっちまった…ポリエステル製なのにシミが目立っちまってるよ…

後で新しいシャツに着替えないとな。

 

 

 

コトダマゲット!

 

【温泉のシミ】

 

 

 

一通り捜査が終わったし、一の方の捜査も手伝うか。

俺は、大浴場周辺を捜査していた一に声をかけた。

 

「一、お前は何かわかった事とかあるか?」

 

「あ…えっとね…一応ブレーカーを調べてみたんだけど…ブレーカーが3時20分頃に落ちてたみたいなんだ。じ、事件に関係ないとは思うけどね…」

 

 

 

コトダマゲット!

 

【ブレーカー】

 

 

 

「そういや一、お前は事件当時何してたんだ?」

 

「えっ…あ、へ、部屋にいたけど…」

 

「…そうか。ありがとう。」

 

大浴場で調べられるのはこれくらいか…

まだ時間があるし、次は図書室に行ってみよう。

 

 

 

図書室に行くと、安生がいた。

 

「安生、お前は何か見つけたか?」

 

「うん。これ見てよ。」

 

安生が見せてきたのは、ひしゃげたカートだった。

 

「うわ、ひでぇな…」

 

「うん。さっき確認したら一台だけひしゃげてたんだ。誰がこんな事したんだろうね…」

 

 

 

コトダマゲット!

 

【ひしゃげたカート】

 

 

 

「安生、お前は事件当時何をしてたんだ?」

 

「研究室にいたよ。…って言っても、信じてもらえないだろうけどね。」

 

「なるほどな、ありがとう。」

 

俺は、図書室を後にし倉庫に向かった。

倉庫の方は、仕田原が調べてくれていた。

 

「仕田原、何か見つかったか?」

 

「ええと、逆になくなっていたものなら…」

 

「なくなっていたもの?」

 

「ガムテープ、ゴムロープ、夜光塗料、延長コードの4点です。」

 

うわ、そんなに色々持ち出されてたのか。

 

 

 

コトダマゲット!

 

【ガムテープ】

 

コトダマゲット!

 

【ゴムロープ】

 

コトダマゲット!

 

【夜光塗料】

 

コトダマゲット!

 

【延長コード】

 

 

 

倉庫で調べられる事はこれぐらいかな…

俺は、最後にミュージアムエリアに向かった。

 

 

 

ミュージアムエリアに行くと、動物館に聞谷がいた。

 

「聞谷、何か見つけたのか?」

 

「ええとですね…こちらですわ。」

 

聞谷が見せてきたのは、少し凹んだドラム缶だった。

 

「今朝見た時と少し形状が違いましたの。おかしいと思いませんこと?」

 

「確かにな…ここにあるのは動物の模型だけだし、ここまで凹むのは何かあったとしか思えないな。」

 

 

 

コトダマゲット!

 

【ドラム缶】

 

 

 

動物館の捜査は聞谷に任せて、俺は別の施設に向かう事にした。

俺が美術館に入ると、既に筆染がいた。

 

「筆染、お前は何かわかった事とかあるか?」

 

「んー…ごめん。特に収穫はなかったかな。」

 

「…あれ?お前、服が汚れてるな。」

 

「ああ、これ?えへへ…絵を描いてる時に汚しちゃったんだよね。」

 

 

 

コトダマゲット!

 

【筆染の服の汚れ】

 

 

 

「そうだ。そういやお前、事件当時何やってたんだ?」

 

「ん?あ、多分ここで絵を描いてたと思うよ?これもその時にできた汚れだし。」

 

「…絵?湊がプラネタリウムで出し物してくれるってチャットで女子に連絡回ってたらしいんだけど、忘れてたのか?」

 

「え?ちょっと待って、あたし何も聞いてないよ?」

 

「…は?おい、それ本当か?」

 

「うん。さっき速水ちゃんから送られてきたチャット見て初めて知ったんだけど、あたしは漕前君から何も聞いてなかったからわけわかんなくてさ。」

 

筆染だけはチャットを受け取ってなかった?

どうなってるんだ一体…

 

 

 

コトダマゲット!

 

【筆染の証言】

 

 

 

ピーンポーンパーンポーン

 

『えー、もう待ちくたびれたので捜査時間を打ち切らせていただきます!オマエラ、ホテル1階のエレベーター前まで集合して下さい!15分以内に来ないとオシオキしますよー!』

 

え、もう終わり!?

まだ調べたい事あったんだけど…

でも、ここで迷っている場合じゃない。

俺は、覚悟を決めてエレベーター前に向かった。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

俺がエレベーター前に到着した時には、既に他の12人は集まっていた。

その直後、アナウンスからちょうど15分になった。

 

『うぷぷぷ、ちゃんと全員集まりましたね?それでは裁判所へレッツゴー!』

 

モノクマがそう言った直後、エレベーターの扉が開く。

13人全員が乗り込んだ直後、エレベーターの扉が閉まり下に動き出した。

 

…未だに信じる事ができない。

この中に湊を殺した犯人がいるかもしれないなんて…

 

だが、迷っている時間はない。

真実を暴かなければ、俺達に未来はない。

湊、俺はやるぞ。

必ずお前の死の真相を明らかにしてやる!!

 

 

 

 

 


 

 

 

ー生存者ー

 

【超高校級の講師】赤刎円

 

【超高校級のカウンセラー】安生心

 

【超高校級の天才】神崎帝

 

【超高校級の香道家】聞谷香織

 

【超高校級の脚本家】黒瀬ましろ

 

【超高校級の???】枯罰環

 

【超高校級の家政婦】仕田原奉子

 

【超高校級の冒険家】ジョナサン・ウォーカー

 

【超高校級のヴァイオリニスト】弦野律

 

【超高校級のソフトウェア開発者】一千歳

 

【超高校級のランナー】速水蘭華

 

【超高校級の画家】筆染絵麻

 

【超高校級の収集家】宝条夢乃

 

ー以上13名ー

 

 

 



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非日常編②(学級裁判前編)

コトダマリスト

 

【モノクマファイル②】

モノクマファイル②

被害者は【超高校級の幸運】漕前湊。

死亡時刻は午後3時15分〜3時30分。

死体発見場所は女湯の脱衣所。

死体には無数の弾痕が見られる。

 

【死体の位置】

死体は女湯の入り口から離れている。

ただ間違えて入ったというわけではなさそうだ。

 

【バスタオル】

湊の近くに落ちていた。

 

【神崎の証言】

神崎は露天風呂におり、女湯が騒がしい事には気づいたが事件の事は知らなかった。

 

【床の穴】

湊が倒れていた床の周りに無数の穴が空いていた。

 

【マシンガン】

男子が女湯に入ると発動する。

 

【チャットの文面】

湊が女子宛てにプラネタリウムで出し物をするという内容のチャットを送っていたので、俺もプラネタリウムに行ってもいいかチャットを送ったら《もちろんいいぞ!赤刎だったら大歓迎だ!ぜひ来てくれ!》と返ってきた。

文面がどうも不自然だ。

 

【枯罰の検視結果】

湊は白目を剥いて口から泡を吹いている。

これはショック死した時の症状らしい。

 

【湊の服と髪】

よく見ると、湊の髪は濡れている。

服の着方も不自然だ。

 

【ルール違反の時刻】

湊がルール違反をしたのは3時30分。

 

【ルール違反の判定方法】

異性が脱衣所に入ったのをモノクマが確認した時点でルール違反とみなされマシンガンが発動する。

 

【モノクマの証言】

ルール違反に例外はないとの事。

もしかして死体も…?

 

【湊の靴】

湊は靴を履いておらず、大浴場を探しても靴が見つからなかった。

一体どこにあるんだろうか?

 

【タイヤ痕】

大浴場の廊下にタイヤ痕があった。 

 

【女湯の入り口の金属痕】

女湯の入り口に金属が擦れたような痕があった。

何かが置かれていたのかもしれない。

 

【女湯付近の壁と床のベタベタ】

女湯付近の壁と床が少しベタベタしている。

 

【床の光】

男湯の脱衣所の床に光る塗料をなびったような痕があった。

 

【濡れたドライヤー】

男湯の脱衣所にびしょ濡れのドライヤーが置かれていた。

 

【弦野の証言】

弦野によると、3時25分から3時30分の間にプラネタリウムの近くで筆染の声が聞こえたらしい。

 

【プラネタリウムの扉】

弦野は、念のためプラネタリウムの扉を半開きにしていたらしい。

 

【使いっぱなしの洗い場】

男湯の洗い場は桶がちゃんと片付けられておらず、周りも濡れたままで石鹸の泡も残っていた。

ガサツな人間が最後に使ったと思われる。

 

【温泉のシミ】

使われた痕跡がある温泉を調べていたら、服に温泉のシミがついてしまった。

 

【ブレーカー】

大浴場のブレーカーが3時20分頃に一度落ちていた。

 

【ひしゃげたカート】

図書館のカートが一台だけひしゃげていた。

 

【ガムテープ】

倉庫から持ち出されていた。

 

【ゴムロープ】

倉庫から持ち出されていた。

 

【夜光塗料】

倉庫から持ち出されていた。

 

【延長コード】

倉庫から持ち出されていた。

 

【ドラム缶】

動物館のドラム缶が凹んでいた。

動物館の檻には動物の模型があるだけなので、何かが起こった可能性が高い。

 

【筆染の服の汚れ】

筆染の制服が汚れている。

絵を描いている時に絵の具をこぼしてしまったらしい。

 

【筆染の証言】

女子全員が受け取っているはずのチャットを、筆染だけ知らなかった。

筆染には送られていない…?

 

 

 


 

 

 

エレベーターが止まると、扉が開いた。

全員が、それぞれの思いを抱えながら自分の席につく。

武本と湊の席には、それぞれバツ印が書かれた無表情の武本の遺影と笑顔の湊の遺影が置かれていた。

…また始まるんだ。

命懸けの学級裁判が…!!

 

 

 

《学級裁判 開廷!》

 

 

 

モノクマ『ではまず裁判の簡単な説明をしておきましょう。学級裁判では『仲間を殺した犯人は誰か』について議論をし、その結果はオマエラの投票によって決まります!もし正解ならクロのみがオシオキ、不正解ならクロのみが失楽園、それ以外の全員がオシオキとなります!』

 

安生「さて、どこから始めようか。」

 

神崎「こういう時はまず事件の概要を確認しておくものではないのか?」

 

赤刎「そうだな。一つずつ確認していこう。」

 

 

 

ーーー議論開始!!ーーー

 

 

 

仕田原「今回は自分が読み上げますね。被害者は《【超高校級の幸運】漕前湊》。死亡時刻は《午後3時15分〜3時30分》。死体発見場所は女湯の《脱衣所》。」

 

ジョン「クソッ、ミナト…!」

 

仕田原「続けますね。《死体には無数の弾痕が見られる》。」

 

安生「弾痕か…もしかしてルール違反をしたから《撃たれた》のかな?」

 

ん?

今大事な事言わなかったか?

 

 

 

《撃たれた》⬅︎【マシンガン】

 

「それに賛成だ!!」

 

《同 意》

 

 

 

赤刎「まず、湊は男子なのに女湯に入った。だからマシンガンで撃たれたんだ。それは間違いない。」

 

黒瀬「ふんふん、だったら今回の事件は簡単そうだねー。」

 

弦野「は?」

 

 

 

ーーー議論開始!!ーーー

 

 

 

弦野「簡単ってどういう事だよ?」

 

黒瀬「だって、湊くんは《うっかり女湯に入っちゃって》殺されたんでしょ?ただの事故じゃん。」

 

一「そうだ、そうに違いない!!」

 

聞谷「漕前さんの事ですから、《覗き》でもするつもりだったのかも…」

 

宝条「何それアイツ最低じゃないの!!」

 

今の黒瀬の発言はおかしい!

 

 

 

《うっかり女湯に入っちゃって》⬅︎ 【死体の位置】

 

「それは違うぞ!!」

 

《論 破》

 

 

 

赤刎「いや、それはないと思うぞ。」

 

黒瀬「なんで?」

 

赤刎「湊の死体は脱衣所の奥にあった。女湯に入ったらすぐにルール違反になるはずだ。だが、湊が撃たれたのは脱衣所の奥…ただの事故だとすれば不自然なんじゃないか?」

 

速水「実は撃たれた時まだ生きてて、意地で奥まで進んだって可能性は?」

 

宝条「何それ、アイツ化け物じゃないの!」

 

弦野「撃たれて生きてる生命力もそうだけど、そこまでして女湯に入りたいっつー意地が怖えよ。」

 

枯罰「あっちゃ〜、ツッコミ所満載な迷推理やのぉ。おいドチビ。ズバッと斬ったれや。」

 

赤刎「おう。」

 

 

 

コトダマ提示!

 

【床の穴】

 

「これだ!!」

 

 

 

赤刎「湊の死体の周りに無数の穴があった。あれはきっと弾痕だったんだ。」

 

神崎「ではやはり幸運は更衣室の奥で射殺されたという事か…」

 

赤刎「ああ。湊が自力で脱衣所に入れないという事を踏まえて、俺はこう考えているんだが。何者かが湊を脱衣所に運び込んだ…」

 

 

 

筆染「描き直しだよ!!」

 

《反 論》

 

 

 

赤刎「筆染?」

 

筆染「君の推理には穴があるよ。」

 

赤刎「穴?」

 

筆染「うん。今からそれを証明するよ!!」

 

 

 

ー反論ショーダウン開始ー

 

筆染「そもそも、今回の事件を他殺だって決めつけてるようだけどさ。漕前君の自殺って可能性は考えられない?」

 

赤刎「だが、湊が自力で女湯に入る方法が無い以上犯人に運び込まれたとしか思えないんだ。」

 

筆染「そんなの、あたし達が知らないだけで何か方法があるのかもしれないじゃん!!」

 

赤刎「ここまで事を大きくして自殺する理由がわからないんだが…自殺するつもりなら小細工する必要はないんじゃないか?」

 

筆染「でも、他殺だって決めつけるのは早計だよ!漕前君は、《自分で女湯に入って撃たれちゃった》んじゃないの!?」

 

《自分で女湯に入って撃たれちゃった》⬅︎【湊の靴】

 

「その言葉、ぶった斬る!!」

 

《論 破》

 

 

 

赤刎「いや、湊は他殺の可能性が高い。」

 

筆染「なんで!?」

 

赤刎「湊の靴がなかったんだよ。どこにもな。自分で入ったんだとしたら、女湯の中に靴があるはずだろ?」

 

筆染「あっ…」

 

赤刎「靴がないのは犯人が処分したからだと考えれば説明がつく。」

 

ジョン「じゃあ、ミナトはsomeoneにmurderされたんだな!?」

 

安生「でも、犯人に運び込まれたとしても結局撃たれちゃうよね?どうやって犯人は漕前君を脱衣所まで運んだんだろう…」

 

聞谷「なぜ漕前さんがすぐには撃たれなかったのか…それを明らかにする必要がありそうですわね。」

 

 

 

ーーー議論開始!!ーーー

 

 

 

黒瀬「あーわかった!湊くんは《本当は女の子》だったんだー!!」

 

弦野「撃たれてる時点で違えだろ。」

 

速水「誰かが湊を気絶させた後《投げた》とか!」

 

仕田原「それだと奥まで届かないですよ。」

 

神崎「《ルールの穴》を突いたんじゃないのか?」

 

神崎の意見が正しそうだ。

 

 

 

《ルールの穴》⬅︎【ルール違反の判定方法】

 

「それに賛成だ!!」

 

《同 意》

 

 

 

赤刎「湊がすぐには撃たれなかった理由、それはルールに穴があったからだ。」

 

ジョン「hole?」

 

赤刎「ルール違反は、モノクマが発見した時点でルール違反と見做される。逆に言えば、モノクマに見つからなければその間はルール違反にならないって事だ。」

 

神崎「では、例えば何者かが幸運を寝袋などに詰めて運び入れた場合はルール違反にはならないという事か?」

 

赤刎「そういう事だ。そうだよな、モノクマ?」

 

モノクマ『まあ、大きな荷物持ってるってだけで撃つわけにいかないもんね。ボクが違反だと判断するまではマシンガンが発射されないのは事実だよ。』

 

赤刎「だそうだ。」

 

一「じゃあ犯人は何を使って漕前君を隠して脱衣所に入ったの?」

 

赤刎「それは…」

 

 

 

コトダマ提示!

 

【バスタオル】

 

「これだ!!」

 

 

 

赤刎「犯人が湊を隠すのに使ったもの、それはバスタオルだ。」

 

一「バスタオル?」

 

赤刎「ああ。犯人は何らかの方法で湊をバスタオルで包んで隠して運び込んだ後、バスタオルを取って湊をルール違反で殺したんだ。」

 

神崎「なるほどな…では、俺、子供、車椅子、外人、銀髪、怯者の6人は無実だな。」

 

一「そうだよ!ボク達が入ったら殺されちゃうもんね!犯人は女子の中にいるんだ!」

 

聞谷「そう仰いましても…具体的な死亡時刻などがわからない事には…」

 

死亡時刻か。

アレが参考になるかな?

 

 

 

コトダマ提示!

 

【ルール違反の時刻】

 

「これだ!!」

 

 

 

赤刎「湊がルール違反をしたのは3時半だ。」

 

ジョン「って事は、その時のalibiがないgirlがcriminalって事か。」

 

黒瀬「ボクは香織ちゃん、環ちゃん、奉子ちゃん、蘭華ちゃん、ゆめちゃんと一緒にいたから、この中で犯行可能なのは…」

 

 

 

《人物指定》

 

 

 

 

赤刎円

 

安生心

 

神崎帝

 

聞谷香織

 

黒瀬ましろ

 

漕前湊

 

枯罰環

 

札木未来

 

仕田原奉子

 

ジョナサン・ウォーカー

 

武本闘十郎

 

弦野律

 

一千歳

 

速水蘭華

 

筆染絵麻

 

宝条夢乃

 

 

 

 

 

➡︎筆染絵麻

 

 

 

 

赤刎「筆染、お前なんじゃないのか?」

 

筆染「………えっ?」

 

宝条「アンタが犯人だったの!?」

 

黒瀬「絵麻ちゃんが湊くんを殺したんだね〜。」

 

筆染「あっ、あたしじゃないよ!!」

 

神崎「そういえば貴様、先程やたら自殺の可能性を推してたな。」

 

筆染「それは、そういう可能性も否定できないよって事を言いたかっただけで…」

 

ジョン「そういえば、ミナトがperformanceするって言ってたのに、エマはplanetariumに来てなかったよな?」

 

筆染「そんなの知らないよ!!」

 

黒瀬「でもさ〜、絵麻ちゃん、ボクちょっと気になる事があるんだぁ〜。プラネタリウムで出し物するよって事は蘭華ちゃんもチャットくれてたんだよ。でも絵麻ちゃん、チャット無視してたよね?なんでなの?」

 

筆染「絵を描いてて…それで、チャットに気づかなかったの!」

 

一「そんなの何とでも言えるよね…」

 

聞谷「その時間帯に女性でアリバイが無いのは筆染さんだけですし…」

 

筆染「知らない知らない知らない!!あたしは犯人じゃない!!」

 

神崎「フン。往生際が悪いな。では、この事件の概要を振り返ろうか。まず貴様は何か理由をつけて幸運を呼び出し、何らかの手段で気絶させた。そして自分が巻き添えにならないよう幸運をバスタオルで巻いて女湯に入り、奥まで運んだ幸運をテーブルクロス引きの要領でバスタオルを回収しルール違反で幸運を射殺。そして、運び込む際に脱がせた靴は処分して何食わぬ顔で死体を発見したフリをした…といったところか?」

 

筆染「だから違うって!!」

 

正直、神崎の推理が的を射ているように思える。

…でも何だ?

何かが引っかかる…

そもそも筆染が犯人ならわざわざ女湯を犯行現場に選ぶ理由がない。

何かを見落としているような気がする…

 

モノクマ『うぷぷぷ、そろそろ結論が出たかな?ではでは、投票ター…

 

 

 

弦野「待て!!」

 

投票に待ったをかけたのは、まさかの弦野だった。

 

筆染「弦野君…」

 

弦野「テメェら、さっきからいい加減にしやがれ!!コイツに人を殺す度胸なんかあるわけねぇだろ!!」

 

黒瀬「でもさー。度胸がないからこそ、自分の手を汚すのが怖くてルールに頼ったって考え方もできるでしょ?」

 

弦野「テメェ…!!」

 

仕田原「弦野さん、気持ちはわかりますけど今は裁判中ですよ?」

 

神崎「フン。コイツは絵描きを好いているから庇いたいのだろう。実に愚かだ。理屈にすらなっていない。ただの感情論だ。」

 

枯罰「…半分正解、半分不正解やな。」

 

赤刎「枯罰…?」

 

枯罰「確かにこないな状況下で気に入っとるっちゅうだけの理由で庇うんはド阿呆通り越してクソやわ。」

 

弦野「んだと!?」

 

枯罰「けどなぁ、ウチも筆染が犯人やとは思えへんねん。時間制限があるわけとちゃうし、少しずつ紐解いてった方がええんとちゃうか?」

 

赤刎「そうだな…まだ見落としてる事があるかもしれないし、議論を進めていこう。」

 

 

 

ーーー議論開始!!ーーー

 

 

 

一「議論って言っても…もう話す事なんてないんじゃないの?」

 

黒瀬「そぉだよ。犯人は《絵麻ちゃん》に決定ー。」

 

筆染「違うよ!!」

 

神崎「では貴様、その時間帯に何をしていた?」

 

筆染「だから美術館で《絵を描いてた》の!」

 

神崎「そんなの何とでも言い逃れできるだろう?《嘘をつくのもいい加減にしろ》。」

 

今の神崎の発言はおかしい!

 

 

 

《嘘をつくのもいい加減にしろ》⬅︎【筆染の服の汚れ】

 

「それは違うぞ!!」

 

《論 破》

 

 

 

赤刎「いや、嘘じゃないかもしれない。」

 

神崎「何だと?」

 

赤刎「筆染。一応確認だけど、絵を描く時に絵の具は使ったか?」

 

筆染「うん。使ったよ。」

 

仕田原「ええと、それがどうしたんでしょう?」

 

赤刎「見ろ。筆染の制服は絵の具で汚れている。本人の言う通り、絵を描いていた証拠だ。」

 

一「でも…それで判断するのは弱すぎない…?状況的に犯人は筆染さんしかいないんだし、誰かが見てたとかいう決定的な証拠がないと信じられないよ…」

 

決定的な証拠…

それなら…

 

 

 

コトダマ提示!

 

【弦野の証言】

 

「これだ!!」

 

 

 

赤刎「筆染が犯人じゃない証拠ならある。」

 

神崎「何?」

 

赤刎「実は、弦野がちょうど3時半頃に筆染の声を聞いてるんだ。」

 

弦野「聞き間違いとかじゃなく完全に本人の声だったぜ。『やっちゃったー』っつってたな。」

 

筆染「えっ嘘!?聞こえてたの!?うわ恥ずかしっ!!」

 

宝条「うーん…どうも怪しいわね。」

 

弦野「あァ!?」

 

宝条「だって事実じゃない!現に、筆染は女子宛てに送られてきたチャットを無視してたのよ!?チャット来てるのに絵を描くなんておかしいじゃない!!」

 

筆染「えっ…いや、でも…あり得ないよ…」

 

 

 

 

 

筆染「あたし、そんなの受け取ってないよ!」

 

ジョン「What!!?」

 

筆染「確かに速水ちゃんから送られてきたチャットはスルーしちゃったけど、漕前君からのチャットなんて来てないよ!」

 

宝条「ちょっと!!それ本当なの!?」

 

筆染「う、うん…」

 

筆染の奴、本当にチャットを受け取ってないのかもしれない…

 

 

 

コトダマ提示!

 

【筆染の証言】

 

「これだ!!」

 

 

 

赤刎「みんな、筆染は本当にチャットを受け取ってないのかもしれない。筆染は、速水のチャットを確認して初めて出し物の事を知ったと言っていた。」

 

宝条「筆染が嘘ついてるだけじゃないの?」

 

赤刎「だったらチャットの履歴を見れば納得してくれるか?このチャットには削除機能が無いから、筆染のパスポートにチャットが届いてないのを見ればわかるはずだ。筆染、チャットをみんなに見せてくれ。」

 

筆染「わかった!」

 

筆染は、パスポートを開いてみんなに見せた。

 

黒瀬「画面が小さくて見えなーい!」

 

枯罰「チッ…おいクマ公!何とかせぇよ。お前の仕事やろ?」

 

モノクマ『んもー、しょうがないなー。はい!』

 

モノクマは、筆染のチャットの画面をモニターに映した。

 

 

 

ーーー

 

13:40

《やっほー!速水ちゃん、早速貰ったペン使ってみたよー!》

 

《これメッチャ描きやすい!ありがとー(*≧∀≦*)》

 

《お礼考えとくねー(^^)/》

 

15:20

《絵麻ー?今日湊がプラネタリウムで出し物してくれるらしいんだけどさー》

 

《アンタのとこにもチャット来てるよね?》

 

《もうみんな集まってるからアンタも来なよ》

 

《返事してー!》

 

《おーい!》

 

ーーー

 

 

 

安生「本当だ…速水さんへのチャットの直後に速水さんからの催促のチャットが来てるね。」

 

聞谷「という事は、筆染さんは本当にチャットを受け取っていらっしゃらなかったんですのね。」

 

筆染「ね!?だから言ったでしょ!?」

 

速水「あれ、女子全員に送られてたわけじゃなかったんだ…」

 

黒瀬「あーわかった!絵麻ちゃんは、自分だけ招待されなかったから怒って湊くんを殺しちゃったんだー!」

 

筆染「あたし、そんな事で漕前君を殺したりしないよ!大体、招待されてない事に気付く機会がなかったし!」

 

赤刎「弦野が筆染のアリバイを証明してくれたしな。筆染が犯人の可能性はほぼゼロだ。」

 

一「えっ…?ちょっ、ちょっと待ってよ!唯一犯行が可能な筆染さんが犯人じゃないって事は…」

 

ジョン「まさか…ミナトは、最初にエマが言ってた通りsuicideしたのか!?」

 

安生「いや、でも靴は無くなってたわけだし…」

 

黒瀬「だったら裸足で大浴場まで行ったんじゃないのー?」

 

仕田原「いやそれは無いでしょう…」

 

速水「え、ちょっと!どうなってんの!?まさか、実はもう一人いますとか言わないよね!?」

 

一「ひぃいいいいっ!!や、やめてよぉ!!」

 

確かに、さっきまでの時点で犯行可能なのは筆染だけだった…

でもその筆染が犯人じゃなかったから、犯行可能な人物がいないって事になってしまった。

そんなわけがない。きっと何かを見落としてるはずなんだ…!

 

 

 

 

 

枯罰「…なぁ。一つ言わせてもろてええか?」

 

そう言って手を挙げたのは、枯罰だった。

 

枯罰「………漕前はホンマに銃殺されたんか?」

 

速水「……………へ?」

 

枯罰「ウチは、銃殺されたっちゅう前提自体考え直さなアカンと思うで。」

 

一「は!!?ちょっ…え!?君、何言ってんの!?」

 

枯罰「お前が何言うとんねんボケ。死因が銃殺とちゃうとなると、一旦振り出しに戻って考え直す必要があるやろ。」

 

赤刎「そうだな。可能性がある以上は議論を進めるべきだ!」

 

 

 

ーーー議論開始!!ーーー

 

 

 

神崎「そうは言っても…議論する事なんてあるのか?」

 

一「だよねぇ。漕前君は普通に《ルール違反で殺された》んじゃないの?」

 

速水「そうだよ!モノクマファイルにも《無数の弾痕があった》って書いてあったし、死因は《銃殺》でしょ!!」

 

今の速水の発言はおかしい!

 

 

 

《銃殺》⬅︎【モノクマファイル②】

 

「それは違うぞ!!」

 

《論 破》

 

 

 

赤刎「…いや、死因が銃殺とは言い切れないんじゃないか?」

 

速水「何でよ!?」

 

赤刎「モノクマファイルには、死因が銃殺だとは一言も書かれてなかった。別の死因も考慮すると必要があるんじゃないか?」

 

枯罰「せやなぁ。ホンマに銃殺ならそう書くはずやし。」

 

弦野「っつー事は、犯人は別の方法で漕前を殺してから女湯に死体を運び込んだって事か?」

 

赤刎「そうかもしれない。」

 

 

 

宝条「はぁあ?ダッサあああ!!」

 

《反 論》

 

 

 

赤刎「宝条?」

 

宝条「アンタの推理がダサすぎて聞いてられないっつってんの!」

 

赤刎「ダサい?どういう事だ?」

 

宝条「ふんっ、いいわ!アンタの推理が間違ってるって事、ゆめが証明してあげる!!」

 

 

 

ー反論ショーダウン開始ー

 

宝条「漕前くんは銃殺されたのよ!そうに違いないわ!」

 

赤刎「いや、銃殺されたと考えるには不自然な点が多すぎるんだ。」

 

宝条「何よそれ!アンタ、都合良すぎんのよ!!大体ねぇ、わざわざ殺してから蜂の巣にする理由がないじゃない!!」

 

赤刎「それは、死因をミスリードさせて捜査を撹乱するためじゃないか?」

 

宝条「さっきから『かもしれない』とか『じゃないか』とかばっかじゃないアンタ!!」

 

赤刎「仕方ないだろ。事件の真相が明らかになっていない以上、断言するのは危険だ。」

 

宝条「だったら銃殺の可能性だって捨てきれないじゃないのよ!まずねぇ、アンタの意見が正しかったとしたら、漕前くんはマシンガンが発動した時に既に死んでたって事になるじゃない!!もう死んでるんだから常識的に考えて《ルールは適応されない》でしょ!!」

 

《ルールは適応されない》⬅︎【モノクマの証言】

 

「その言葉、ぶった斬る!!」

 

《論 破》

 

 

 

赤刎「いや、死体に対してもマシンガンは発動するぞ。」

 

宝条「はぁ!?」

 

赤刎「俺がルール違反の定義について聞いたら、モノクマは『ルールに例外は無い』って言っていた。つまり、既に死んでいる奴にもルールは適応されるんだよ。」

 

宝条「何よそれ!!ちょっとモノクマ!!そんな大事な事何でもっと早く言わないのよ!?」

 

モノクマ『だってオマエ聞いてこなかったじゃーん!聞かれればボクだって素直に答えるよ。赤刎クンはボクに質問してきたから教えてあげたんだよ!』

 

一「バスタオルで隠されてたら発動しないのに死体に対しては発動するってセキュリティ的にどうなのさ…」

 

モノクマ『うるさいなぁ!ルールはルール!例外も特例もエクセプションもありませーん!』

 

枯罰「いちいち腹立つやっちゃのぉ。」

 

速水「モノクマってホントウザいよね。」

 

赤刎「まあでもこれでハッキリしたな。湊の死因は銃殺じゃない…別の死因があるんだ!!」

 

 

 

 

ーーー議論開始!!ーーー

 

速水「やっぱり《銃殺》なんじゃないの?」

 

聞谷「先程違うという話になったじゃないですか…」

 

筆染「外傷は無かったんだよね?だったら《毒殺》とか?」

 

枯罰「身体から毒は検出されとらんぞ。」

 

安生「うーん…まさか《感電死》…とかじゃないよね?」

 

いや、そのまさかかもしれない。

 

 

 

《感電死》⬅︎【枯罰の検視結果】

 

「それに賛成だ!!」

 

《同 意》

 

 

 

赤刎「湊の本当の死因…それは感電死だ。」

 

ジョン「electrical death?」

 

赤刎「ああ。死体は目をひん剥いて泡を吹いていた。これは数秒以上強い刺激を受けてショック死した時の症状らしい。

 

速水「え、でも感電って…焦げたりするんじゃないの?」

 

枯罰「焦げる程電流浴びせんでも状況によっちゃ死ぬで。」

 

宝条「でも、それだけで感電と決めつけるのは弱いんじゃないかしら?」

 

赤刎「根拠はまだある。」

 

 

 

コトダマ提示!

 

【ブレーカー】

 

「これだ!!」

 

 

 

赤刎「3時20分頃、大浴場のブレーカーが落ちてたんだ。湊の死亡推定時刻にブレーカーが落ちる…偶然とは思えないだろ?」

 

弦野「確かにな。大浴場の電力を引っ張ってきて漕前を殺したとすりゃあ、ブレーカーが落ちたのもショック死も説明がつく。」

 

黒瀬「えー、それはあり得ないと思うよー?」

 

赤刎「何でだ?」

 

黒瀬「だって、ボクは28分に湊くんからチャットを受け取ってるんだよ?ブレーカーが落ちたのって8分も前じゃない。」

 

速水「そうだよ!やっぱり死因は銃殺なんじゃないの!?」

 

赤刎「でも湊はショック死してるし、ブレーカーも事件と無関係とは思えねぇんだよ!」

 

どうなってるんだ?

犯行可能な人物は見つからないし、ブレーカーが落ちた後にチャットが送られたという事実があるし、かと言って枯罰の検視結果だと感電死って事になるし…

ああクソッ!!

謎が多すぎて混乱してきた!!

 

 

 

枯罰「おい!しっかりせぇよド阿呆!!」

 

赤刎「………はっ!」

 

枯罰「闇雲に突っ走るからこないな事になんねん!ウチがサポートしたるさけ、お前もバシッと覚悟決めんかい!!」

 

赤刎「…ああ!」

 

こんな所で立ち止まってる場合じゃない。

待ってろよ湊、俺達が必ず真犯人を見つけてやるから!!

 

 

 

 

 

《学級裁判 中断!》

 

 

 

 


 

 

 

ー生存者ー

 

【超高校級の講師】赤刎円

 

【超高校級のカウンセラー】安生心

 

【超高校級の天才】神崎帝

 

【超高校級の香道家】聞谷香織

 

【超高校級の脚本家】黒瀬ましろ

 

【超高校級の???】枯罰環

 

【超高校級の家政婦】仕田原奉子

 

【超高校級の冒険家】ジョナサン・ウォーカー

 

【超高校級のヴァイオリニスト】弦野律

 

【超高校級のソフトウェア開発者】一千歳

 

【超高校級のランナー】速水蘭華

 

【超高校級の画家】筆染絵麻

 

【超高校級の収集家】宝条夢乃

 

ー以上13名ー

 

 

 




今回は円クンがちょっぴりアホの子です。


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非日常編③(学級裁判後編)

《学級裁判 再開!》

 

枯罰「議論が行き詰まってきたみたいやし、一度整理しよか。まず、今の裁判の進捗状況を振り返るとこから始めるで。」

 

赤刎「ああ。ええと、今のところ犯行可能だった人物がいなくて、お前の検視結果だと湊は感電死した事になるけど、ブレーカーが落ちたのは黒瀬がチャットを受け取る前…だから、みんな死因は銃殺以外あり得ないと主張してる…と、こんな所か。」

 

黒瀬「全然進展がないじゃん。そこからどうやって進めるっていうのよ?このままだとボク達死んじゃうんだけどー!!」

 

枯罰「お前いっぺん黙っとれや。…ほなまず、漕前がどないして死んだんかを明らかにするか。ウチが疑問に思っとる事一個ずつ確認するさけ、お前らも一緒に考えぇや。」

 

赤刎「…ああ、わかった。」

 

枯罰「まず漕前が女湯で殺されたっちゅう話やけど、そもそもその前提がおかしいんとちゃうか?」

 

赤刎「どういう事だ?」

 

枯罰「あんなぁ。女子がわざわざ漕前を女湯に連れ込んで殺すっちゅうんが不自然やろ?事故か自殺に見せかけたいんやとすればそれこそ入り口の前に立たせて突き飛ばせばええだけの話やんか。」

 

赤刎「確かに…」

 

枯罰「どぉ〜も女子の犯行に思わせたい魂胆が見え見えやねん。男子の中に犯人がおるんやったら辻褄が合うしなぁ。」

 

宝条「何言ってるのよ!男子は女湯に入れないのよ!?」

 

枯罰「わかっとるわ阿呆。せやから犯人がどうやって漕前を脱衣所の奥で蜂の巣にしたんかをこれから議論しよか言うとるんや。ほな議論始めるで。」

 

 

 

ーーー議論開始!!ーーー

 

 

 

ジョン「boyがミナトをgirl's bathroomに運び込む方法か…ミナトを《throwしたり》してないよな?」

 

安生「それじゃあ奥まで届かないよ。」

 

黒瀬「わかった《女装》したんだー!」

 

筆染「いやいや流石にバレるって…」

 

弦野「逆にそれでバレなかったらビックリだよ。」

 

聞谷「監視カメラの《死角》を縫って入ったのでは?」

 

一「監視カメラに死角はなかったよ。」

 

仕田原「《台車のようなもの》を使ったりしたんじゃないですかね?」

 

 

 

《台車のようなもの》⬅︎【ひしゃげたカート】

 

「それに賛成だ!!」

 

《同 意》

 

 

 

赤刎「犯人は、図書館のカートを使って湊を女湯に入れたんだ。」

 

神崎「カートだと?突拍子もないな…何故カートが出てくるんだ?カートが使われた証拠でもあるのか?」

 

それは…

 

 

 

コトダマ提示!

 

【タイヤ痕】

 

「これだ!!」

 

 

 

赤刎「廊下にタイヤの跡があったんだ。おそらく、カートを使ったのは間違いないと思う。」

 

安生「確かに、あのカートなら人一人くらいなら乗せられそうだもんね。」

 

ジョン「But…cartを使ったとしても届かないし、cartがgirl's bathroomに残っちまうぞ?」

 

速水「それに、廊下にはタイヤ痕があったけど女湯にはタイヤ痕なんてなかったよ?やっぱ事件とは関係ないんじゃないの?」

 

赤刎「いや、それはない。事件にカートが使われたはずなんだ。」

 

一「でもその方法が分からないんでしょ?」

 

考えろ…

犯人はどうやって湊だけを現場に残したんだ?

…ん?女湯にタイヤ痕が無い?

…!

そういう事か!!

 

 

 

枯罰「………いや、事件現場の状況から考えるとひとつ思い当たる方法があるで。」

 

ジョン「What!?タマキ、それはどんなmethodなんだ!?」

 

枯罰「ウチは人に教える才能あらへんし、そこのチビに聞いた方が早いやろ。おいチビ、お前ももうわかっとるんやろ?」

 

赤刎「ああ。枯罰、お前のおかげでここまでたどり着いたよ。」

 

速水「え!?ちょっと、二人だけで納得しないで教えてよ!」

 

赤刎「わかってる。順序よく説明していこう。まず犯人は、ある程度の高さがあって女湯の入り口を十分塞げるだけの障害物を用意したんだ。」

 

仕田原「障害物ですか。一体何を使ったんですか?」

 

黒瀬「てか、何で障害物を使ったってわかるのー?」

 

それは…

 

 

 

コトダマ提示!

 

【ドラム缶】【女湯の入り口の金属痕】

 

「これだ!!」

 

 

 

赤刎「入り口を塞ぐのに使った障害物、それはドラム缶だ。」

 

安生「ドラム缶?」

 

赤刎「ああ。犯人は、ドラム缶を横にして女湯の入り口を塞いだんだ。実は女湯の入り口に金属が擦れたような痕があったんだけど、あれは女湯の前にドラム缶を置いた痕だったんだ。そして犯人は、あるものを使ってドラム缶を固定した。それが使われたという証拠もある。」

 

ドラム缶を固定するのに使った物と証拠を提示するんだ!

 

 

 

コトダマ提示!

 

【ガムテープ】【女湯付近の壁と床のベタベタ】

 

「これだ!!」

 

 

 

赤刎「犯人は、ドラム缶をガムテープで固定したんだ。床のベタベタは、ガムテープの糊が床にくっついたものだったんだ。」

 

宝条「それで、ドラム缶を固定してどうするのよ。」

 

赤刎「女湯目掛けて湊を乗せたカートを思いっきり押すんだよ。そうしたら、カートがドラム缶にぶつかってその反動で湊が前に吹っ飛んで女湯に入ってしまうというわけだ。この方法なら、カートを女湯の中に入れずに湊だけを女湯に残す事ができる。」

 

安生「うーん…でも、それでも漕前君そんなに飛ばないような気がするよ。それに、遠くまで飛ばそうとしてあまりにも強くカートを押したら勢いで犯人まで女湯に入っちゃうじゃないか。」

 

赤刎「そうだな。だから犯人はあるものを利用したんだ。」

 

犯人が湊を奥まで飛ばすのに使ったもの、それは…

 

 

 

コトダマ提示!

 

【ゴムロープ】

 

「これだ!!」

 

 

 

赤刎「犯人が使ったもの、それはゴムロープだ。」

 

安生「ゴムロープ?」

 

赤刎「ああ。さっきの方法で女湯に障害物を設置した犯人は、ゴムロープをカートに括り付け、ロープの両端をそれぞれ女湯の入り口の両端にガムテープでしっかりと固定した。そして、湊を乗せたカートをギリギリまで後ろに引っ張って手を離したんだ。するとカートは巨大パチンコの要領で前へと吹っ飛び、ドラム缶に激突して湊が脱衣所の奥まで吹っ飛ばされるという算段だ。その時に女湯の中に入ってしまったカートは、ロープを手繰り寄せれば回収できる。」

 

安生「なるほどね。その方法なら、男子でも犯行可能だね。」

 

赤刎「ああ。だがいきなり犯人探しをするとさっきみたいに行き詰まっちまうから、次は問題のチャットについて議論しよう。」

 

 

 

ーーー議論開始!!ーーー

 

 

 

枯罰「一応確認なんやけど、お前らルール違反の直前に《チャットが送られてきた》さかい死因を銃殺やと断定した…そういう事やな?」

 

宝条「そうよ!」

 

枯罰「せやけど何か引っかかるんよなぁ。《このタイミングで女だけ集めて出し物するなんざおかしい》やろ。」

 

速水「確かにちょっと変だなとは思ったけど…湊の《優しさ》を疑うような事しちゃ湊に悪くない!?」

 

枯罰「優しさねぇ…その優しさに溢れた男が筆染には連絡してへんねんぞ?何か裏があるとしか思えへんな。」

 

黒瀬「絵麻ちゃんの事はたまたま忘れてただけじゃないの?とにかく、《湊くん本人から》チャットが送られてきた以上その時はまだ湊くんは生きてたんだよー。」

 

あれ…?ちょっと待てよ?

 

 

 

《湊くん本人から》⬅︎【チャットの文面】

 

「それは違うぞ!!」

 

《論 破》

 

 

 

赤刎「…なぁ。一個気になってた事があるんだけどさ。」

 

黒瀬「何?」

 

 

 

赤刎「……………そのチャット送ったのって、本当に湊だったのかな?」

 

筆染「…えっ?」

 

速水「は!?ちょっと、円!いきなり何言いだすの!?湊のパスポートから送られてきたんだから湊本人に決まってんじゃん!!」

 

赤刎「いや、でもおかしいんだよ。湊が俺を招待しなかったのが変だと思ったから俺が湊に『俺もプラネタリウムに行っていいか』って聞いたら、『もちろんいいぞ!赤刎だったら大歓迎だ!ぜひ来てくれ!』って返ってきたんだよ。」

 

宝条「それの何がおかしいのよ?」

 

 

 

赤刎「湊は俺の事を『円』って呼ぶんだよ。」

 

一「え?」

 

赤刎「もちろん、最初はお互いに苗字で呼び合ってたんだけどな。でもここ数日間で湊と仲良くなって、お互いに名前で呼び合うようになったんだよ。」

 

黒瀬「えー、たまたま間違えただけじゃないですかー?」

 

筆染「…いや、それはあたしも漕前君じゃないと思う。漕前君って、チャットに二文以上書き込まない主義なんだよ。要件だけを手短にまとめてそれをひとつずつ送ってくようにしてたみたい。そのチャットの文面は偽物臭いなー。」

 

宝条「じゃあ、誰がどうやって送信したのよ!?」

 

安生「何の目的でチャットを送信したんだろう…」

 

それは…

 

 

 

女子宛てに送られたチャットの本当の差出人は?

 

1.漕前湊

2.真犯人

3.モノクマ

 

➡︎2.真犯人

 

 

 

どうやってチャットを送信した?

 

1.パスポートを奪って操作した

2.ハッキング

3.超能力

 

➡︎1.パスポートを奪って操作した

 

 

 

チャットを送った目的は?

 

1.出し物の招待

2.嫌がらせ

3.裁判の撹乱

 

➡︎ 3.裁判の撹乱

 

《COMPLETE!!》

 

 

 

赤刎「多分、犯人が湊のパスポートを奪って勝手に送ったんだ。筆染のアリバイを崩し、死因が銃殺だと思い込ませるためにな!!」

 

聞谷「な…!!」

 

仕田原「なるほど、それなら死因が感電死でも辻褄が合いますね!」

 

神崎「待て。それはまだ憶測に過ぎないだろう?銃殺の可能性も十分あり得る。」

 

黒瀬「そーだね。ボクもう眠いよー!」

 

弦野「眠いで全部片付けようとしてんじゃねぇよ。」

 

枯罰「あっちゃー、意見が分かれてもうたのぉ。」

 

その言葉を聞いた瞬間、ジョンはワクワクし一と筆染は顔を真っ青にした。

 

ジョン「って事は、またアレをやるんだな!?」

 

一「嘘でしょ!?アレだけは絶対嫌!!」

 

筆染「ね、ねぇ…も、もう少し話し合ってみようよ…もしかしたら意見が一つになるかもしれないし…」

 

枯罰「諦めて大人しゅうせぇ。」

 

一「嫌だぁあああああああ!!!」

 

 

 

 

モノクマ『うぷぷぷ、そういう時はボクにお任せ!今回もまた変形裁判所の出番ですな!それでは早速始めましょう!レッツ変形!!』

 

 

 

《意見対立》

 

 

 

そう言ってモノクマは席から謎の装置と鍵を取り出し、鍵を装置に差し込んだ。

すると、俺達の席が宙に浮く。

 

ジョン「Wooooooooo!!!」

 

筆染「いやぁあぁあああっ!!」

 

一「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」

 

席が変形し、俺達は二つの陣営に分かれた。

 

 

 

【漕前湊の死因は?】

 

銃殺だ! 神崎、黒瀬、ジョン、一、速水、宝条

 

感電死だ! 赤刎、安生、聞谷、枯罰、仕田原、弦野、筆染

 

 

 

ー議論スクラム開始ー

 

一「こ、漕前君は《銃殺》されたんだ!!そうに違いない!!」

 

「枯罰!」

 

枯罰「《銃殺》やとすると不自然な点が多すぎるっちゅう話したやろが。」

 

宝条「だからっていきなり《感電死》だって決めつけてんじゃないわよ!!」

 

「仕田原!」

 

仕田原「赤刎さんは、ちゃんと枯罰さんの検視結果から《感電死》だと判断していらっしゃいましたよ?」

 

黒瀬「《根拠》が無いんじゃねー。」

 

「弦野!」

 

弦野「死亡推定時刻にブレーカーが落ちたのが《根拠》だ!」

 

速水「でも、《チャット》が送られてきたって事はブレーカーが落ちた時点では湊は生きてたんじゃないの?」

 

「安生!」

 

安生「《チャット》を送る事なら犯人にだって可能だよ。」

 

ジョン「But…criminalがミナトの《パスポート》を勝手に使うのはagainst the ruleじゃないのか?」

 

「筆染!」

 

筆染「ルール違反になるのは《パスポート》を貸した時だけだよ。」

 

神崎「幸運の《なりすまし》の話も俄に信じ難いな。」

 

「聞谷!」

 

聞谷「《なりすまし》の件でしたら赤刎さんと筆染さんが証明済みですわ。」

 

黒瀬「てかさ、これ以上《議論》続ける必要あるー?」

 

「俺が!」

 

赤刎「まだ謎が残っている以上は《議論》を続けるべきだ!!」

 

 

 

《全論破》

 

赤刎「これが俺達の答えだ!!」

 

安生「これが僕達の答えだよ。」

 

聞谷「これがわたくし達の答えですわ!」

 

枯罰「これがウチらの答えや。」

 

仕田原「これが自分達の答えです!!」

 

弦野「これが俺達の答えだ!!」

 

筆染「これがあたし達の答えだよ!!」

 

 

 

赤刎「湊がどうやって殺されたのか、それを紐解いていこう。」

 

速水「紐解くったって…どうやって?」

 

赤刎「まずは湊がどうやって感電死させられたのかをハッキリさせて、そこから事件の概要を探っていくんだ。」

 

 

 

ーーー議論開始!!ーーー

 

 

 

筆染「《スタンガン》でバチッとやったんじゃない?」

 

枯罰「スタンガンなんざ、殺すどころか気絶させるだけの電流も出えへんぞ。」

 

宝条「それにそれだとブレーカー落ちないじゃない。」

 

仕田原「《電気コード》を巻き付けたりとかはしてないですよね?」

 

神崎「そのような形跡は無かったが?」

 

黒瀬「《雷》に打たれたんだー。」

 

安生「天任せ!?」

 

弦野「《風呂》に家電ブチ込んだりしたんじゃねーの?」

 

 

 

《風呂》⬅︎【湊の服と髪】

 

「それに賛成だ!!」

 

《同 意》

 

 

 

赤刎「弦野の言う通り、湊は風呂に入ってる時に家電を湯船に落とされて感電死したんじゃないか?」

 

ジョン「Why?」

 

赤刎「湊の髪が濡れてて、服の着方も不自然だったんだ。これは感電死した湊を犯人が湯船から引き摺り出して服を着せたからだとすれば説明がつく。」

 

筆染「家電ねぇ…何を落としたのかな?」

 

赤刎「それは…」

 

 

 

コトダマ提示!

 

【濡れたドライヤー】

 

「これだ!!」

 

 

 

赤刎「犯人は、脱衣所の洗面台にあったドライヤーを落としたんだ!」

 

仕田原「なるほど、それでブレーカーが落ちたんですね!」

 

一「ドライヤーねぇ…でも、お風呂場に沈めようと思ったら明らかにコードの長さ足りないよね?」

 

赤刎「いや、あるものを使えばその問題は解決できる。」

 

 

 

コトダマ提示!

 

【延長コード】

 

「これだ!!」

 

 

 

赤刎「犯人は延長コードを使ってドライヤーを湯船に沈めたんだ!」

 

安生「それなら長さも湯船に沈めるには十分な長さが確保できるね。」

 

一「でも、ブレーカーが落ちたんだったら大浴場が真っ暗だよね?どうやってブレーカーを上げに行ったの?」

 

赤刎「それは、目印にあるものを使ったんだ。それを使った証拠もある。

 

 

 

コトダマ提示!

 

【夜光塗料】【床の光】

 

「これだ!!」

 

 

 

赤刎「犯人は、大浴場の出口まであらかじめ夜光塗料で線を引いていたんだ。」

 

宝条「でも、廊下を調べた時そんなものは見つからなかったわよ?」

 

赤刎「おそらく拭いたんだろう。廊下は凹凸が殆どないツルツルした床だったから完全に拭き取れたけど、脱衣所の入り口の床は木でできてたから隙間に入り込んで完全には拭ききれなかったんだ。」

 

枯罰「これで謎は一通り解けたなぁ。あとはそこから導き出される犯人を暴くだけや。お前はもう目星ついとんねやろ?」

 

赤刎「ああ…!」

 

今回の事件の犯人、それは男子でありながら女子に犯行を擦りつけようとし、明らかに不自然な発言をした奴だ!

ソイツは…

 

 

 

《人物指定》

 

 

 

 

赤刎円

 

安生心

 

神崎帝

 

聞谷香織

 

黒瀬ましろ

 

漕前湊

 

枯罰環

 

札木未来

 

仕田原奉子

 

ジョナサン・ウォーカー

 

武本闘十郎

 

弦野律

 

一千歳

 

速水蘭華

 

筆染絵麻

 

宝条夢乃

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

➡︎神崎帝

 

 

 

 

 

 

 

 

 

赤刎「…神崎、お前だよな?」

 

神崎「………理由を聞こうか。」

 

赤刎「男子で、かつその時間帯に大浴場にいた事を認めていたのはお前だけだ。」

 

神崎「…フン。下らん。そこまで言うなら俺が犯人だと証明してみろ。」

 

 

 

ーーー議論開始!!ーーー

 

 

 

神崎「俺が《犯人》だと?ふざけるのもいい加減にしろ。」

 

枯罰「…いや、状況的にもう犯人《お前しかおらん》ねん。」

 

神崎「車椅子か怯者が《嘘をついている》んじゃないのか?」

 

安生「僕は嘘をついてないよ。」

 

一「ボクもだよ!み、みんな!絶対ボクにだけは投票しないでね!犯人じゃないから!」

 

神崎「そんなの何とでも言えるだろう。俺は露天風呂にいた。だから《事件には気付かなかった》んだ。」

 

ん?

今の発言おかしかったよな?

 

 

 

《事件には気付かなかった》⬅︎【神崎の証言】

 

「それは違うぞ!!」

 

《論 破》

 

 

 

赤刎「…いや、お前の発言は明らかに矛盾してるんだ。」

 

神崎「矛盾だと?」

 

赤刎「ああ。お前は『女湯の方が騒がしかった』と言っていたよな?女湯の脱衣所の騒ぎには気付いたのに、大浴場全体が停電したのに気付かなかったのはおかしいんじゃないか?」

 

神崎「…………………。」

 

赤刎「神崎、犯人じゃないなら反論してくれ。俺だって…」

 

神崎「…。」

 

 

 

神崎「………黙れ凡俗が。」

 

《反 論》

 

 

 

神崎「貴様、俺に向かってそんな出鱈目な屁理屈を並べるとはいい度胸だな。」

 

赤刎「という事は、お前なりの言い分があるんだな?」

 

神崎「当然だ。俺は犯人ではないからな。凡愚共のために俺が一から証明してやろう。」

 

 

 

ー反論ショーダウン開始ー

 

神崎「どうして停電には気付かなかったのかって?それは浴室に背を向けて入浴していたからだ。」

 

赤刎「でも、仮に騒ぎを聞きつけたんだとしたら気になって見に行こうとするよな?普通。」

 

神崎「凡愚共のために俺が時間を割くのが莫迦莫迦しいと思ったから確かめなかったまでだ。」

 

赤刎「いや、でもそうだとしてもおかしいぞ?お前は、一度浴室には行ったんだよな?流石に身体洗わないで入浴するほど無作法じゃないだろうし。」

 

神崎「当然だ。《身体を洗ってから》入浴したに決まっているだろう。そんな最低限のマナーすら守らずに入浴するなど人間として屑としか言い様があるまい。何だ貴様、そんな事を聞いて一体何になる?そんなくだらない質問で俺の無実を崩せると思ったら大間違いだぞ。」

 

いや、神崎の今の発言は明らかにおかしい!

 

 

 

《身体を洗ってから》⬅︎【使いっぱなしの洗い場】

 

「その言葉、ぶった斬る!!」

 

《論 破》

 

 

 

赤刎「いや、お前は身体を洗ってなんかないんじゃないか?」

 

神崎「ふん、下らん。俺が身体を洗わずに入浴する下衆だとでも言うつもりか?」

 

赤刎「だって、使われた形跡のある洗い場は一つしかなかったんだぞ?」

 

神崎「だったらどうした。俺が使ったのだから使われた形跡があって当然だろう。」

 

赤刎「それはあり得ない。だって、お前が使ったにしては汚すぎるんだよ!!」

 

神崎「…!!」

 

赤刎「周りはビショビショ、桶は出しっぱなし、さらに泡まで残ってる…潔癖なお前なら、絶対こんな状態のまま洗い場を離れたりしないよな?」

 

神崎「ぐっ…」

 

赤刎「多分、洗い場を最後に使ったのは湊だ。ガサツなアイツならやりかねない。」

 

神崎「…。」

 

赤刎「そして露天風呂に入っていたと主張していたお前だが、本当は風呂になんて入ってないんじゃないか?さっきも言ったが、身体を洗わずに入浴するほど不潔じゃないだろうからな。」

 

神崎「…莫迦莫迦しい!!」

 

 

 

ーーー議論開始!!ーーー

 

 

 

神崎「俺が不自然な発言をしただと!?だったら他にも《不自然な発言をした奴》がいるぞ!!」

 

赤刎「誰だよ?」

 

神崎「そこの銀髪だ!!」

 

弦野「はぁ!?俺!?」

 

神崎「貴様、絵描きの声がしたと言っていたが《嘘》なんじゃないのか!?プラネタリウムにいて美術館の音が《聴こえる訳ない》だろう!!」

 

弦野「マジで聴こえたんだっつーの!俺は耳が良いんだよ!」

 

神崎「言い訳が苦しいぞ!!プラネタリウムは《完全防音》だ!!外の音は絶対に聴こえない!!貴様、絵描きを庇ってるんじゃないのか!?」

 

安生「弦野君が偽証する理由がないよ。」

 

神崎「理由ならあるさ。コイツは絵描きの事を好いているからなぁ。」

 

弦野「な…!!」

 

神崎「貴様ら相思相愛か?ああ羨ましいな全く!!」

 

弦野「うるせぇ!!つーかそれは今関係ねぇだろが!!」

 

神崎「此奴が不自然な発言をした以上は、絵描きが犯人の可能性も捨てきれんぞ!!」

 

いや、神崎の主張はおかしい!!

 

 

 

《完全防音》⬅︎【プラネタリウムの扉】

 

「それは違うぞ!!」

 

《論 破》

 

 

 

赤刎「弦野は別に不自然な事なんて言ってないぞ?」

 

神崎「完全防音のプラネタリウムにいたのに絵描きの声が聴こえたと法螺を吹いただろうが!!」

 

赤刎「いや、あの時プラネタリウムは完全防音じゃなかったんだよ。弦野が、外の音が聴こえるように扉を半開きにしてたからな。」

 

弦野「ああ。万が一何かあったらすぐに駆けつけられるようにって思ってな。」

 

神崎「いや、でも美術館にいた絵描きの声が聴こえるのは流石に無理が…」

 

枯罰「別におかしないやろ。コイツは何メートルも離れた仕切り越しの小声から会話の内容を聴き取ったんやぞ?美術館はプラネタリウムからそう遠ないし、普通に声ぐらい聴こえるんとちゃうか?」

 

神崎「くっ…!!」

 

赤刎「神崎、もうお前しか犯人がいないんだよ。いい加減認めて…」

 

神崎「黙れ!!!」

 

一「ヒッ…!?」

 

神崎「解けていない謎ならまだあるぞ!!仮に貴様の推理通り犯人がドライヤーを湯船に落として幸運を殺したとしよう!!だが、幸運とドライヤーを回収する時に電流を浴びて犯人まで感電死してしまうのではないか!?」

 

赤刎「そ、それは…」

 

神崎「ふはははははははははは!!!見ろ、何も言えぬではないか!!当然だ。俺は犯人ではないからなぁ!!」

 

 

 

いや、疑われた途端急に元気になったし神崎が犯人なのは間違いないだろう。

だが、電流を防いだ方法がわからない…

考えろ…

神崎はどうやって電流を防いだんだ…?

 

 

 

 

 

ー閃きアナグラム開始ー

 

 

 

ア イ ヨ ウ ノ テ ブ ク ロ

 

 

 

【愛用の手袋】

 

「これだ!!」

 

 

 

赤刎「神崎、お前は手袋で電流を防いだんだ!!」

 

神崎「はぁ!?」

 

赤刎「お前の手袋は確かシルク製だったよな?シルクは天然の絶縁体で、導線に巻き付けて絶縁するっていう用途でも使われるくらい電気を通しにくいんだ。まあどこまで電気を防げるかは状況次第だが、感電死は免れるんじゃないのか!?」

 

神崎「そ、それがどうした!?そんなの貴様の憶測だろうが!!大体、絶縁体なら俺の手袋以外にもあるだろう!!俺がシルクの手袋を填めてるというだけで犯人だと決めつけるな!!!」

 

枯罰「往生際の悪いやっちゃのぉ。もうお前しか犯人おらんのわからんのか?」

 

神崎「黙れ!!俺は犯人じゃない!!」

 

証拠…

そうか、神崎が手袋を使った証拠があればいいんだ!!

 

 

 

神崎「俺が犯人だと言うなら証拠を見せろ!!」⬅︎【温泉のシミ】

 

赤刎「これで終わりだ!!」

 

 

 

赤刎「…神崎。実は俺さ、男湯の捜査してる時に間違って温泉をシャツにつけちまったんだよ。」

 

神崎「だから何だ!!」

 

赤刎「このシャツ、ポリエステル製なのにくっきりとシミになっちまってさぁ…ここまで言えばわかるだろ?」

 

神崎「ッ…!!」

 

赤刎「犯行のトリックの後片付けとかで色々忙しかっただろうから、シミ抜きしてる時間なんてなかったよな?俺の推理が正しければ、お前の手袋に温泉のシミが残ってるはずだ!!」

 

神崎「ぐっ…ぐぅうううううっっ…!!」

 

赤刎「お前が犯人じゃないなら、手袋を見せられるよな?」

 

神崎「ッ…!!」

 

 

 

神崎は、ふぅとため息をつくと右手の手袋を外して見せた。

手袋には、くっきりと温泉のシミが残っていた。

 

聞谷「あら、手袋にシミが…」

 

赤刎「やっぱりお前だったんだな。」

 

神崎「………。」

 

枯罰「もう反論する気もあらへんのか。おいチビ、トドメ刺したれや。」

 

赤刎「ああ。事件を振り返って全てを終わらせよう。これが事件の真相だ!!」

 

 

 

ークライマックス推理開始!ー

 

【Act.1】

事件は今日の午後3時20分、男湯で起こった。

湊を殺す計画を立てた犯人はまず、図書館からカート、動物館からドラム缶、そして倉庫からガムテープ、ゴムロープ、延長コード、蛍光塗料を盗み、男湯に蛍光塗料で線を引き、女湯の前にドラム缶を置いておいた。

そして犯行の直前、何か理由をつけて湊を温泉に誘った。

湊は、何の疑いも持たずに犯人の誘いに乗って温泉に入ってしまったんだ。

それがこれから悲劇を引き起こすとも知らずに…

 

【Act.2】

湊が風呂に入っている間、犯人は湊のパスポートを使って筆染以外の女子に出し物の話をしてプラネタリウムに集め、筆染のアリバイを崩させたんだ。

だが、ここで犯人は致命的なミスを犯してしまう。

湊が俺の事を『円』と呼ぶようになったのを知らなかった犯人は、『赤刎』とチャットに書いてしまったんだ。

そのチャットを俺が見ていた事で、出し物の話自体が嘘だった事が発覚してしまった。

 

【Act.3】

下準備が終わった犯人は、延長コードを繋いだドライヤーを湊が入っている温泉に投げ入れた。

湊は感電し、運悪くブレーカーが落ちるのが間に合わずショック死してしまったんだ。

湊が死んだのを確認した犯人は、あらかじめ引いておいた蛍光塗料の線を辿って外に出てブレーカーのスイッチを入れた。

そしてドライヤーを回収し、湊を温泉から引き摺り出した。

この時犯人はシルクの手袋を填めていたから感電せずに済んだのだが、温泉で濡れたドライヤーと湊を引っ張り出したから手袋にシミができてしまったんだ。

 

【Act.4】

その後犯人は湊の身体を拭いて服を着せ、蛍光塗料が塗られた床を掃除用具で拭いた。

だが床は木でできていたから、隙間に塗料が入り込んで完全には拭き取れなかったんだ。

そして、死因をミスリードさせるために湊のパスポートで再び黒瀬にチャットを送った。

このチャットが原因で、俺達はまんまと騙されなかなか犯人にたどり着く事ができなかったんだ。

 

【Act.5】

犯人は服を着せた湊をバスタオルで巻き、カートに乗せた。

俺も最初は勘違いしてたんだけど、この時バスタオルを巻いた本当の目的は水滴を床に落とさないためだったんだ。

そしてガムテープを使ってゴムロープの両端を女湯の入り口の両端に固定し、ゴムロープをカートに括り付けた。

これで事件のトリックは完成だ。あとは、湊を乗せたカートをギリギリまで引っ張って手を離すだけだ。

犯人が手を離した瞬間、カートはゴムの反動で勢いよく前へ進みドラム缶に激突した。

カートに乗せられていた湊は巨大パチンコの要領で吹っ飛び、女湯に放り込まれたんだ。

その直後、湊はルール違反と見做されマシンガンで蜂の巣にされた。

 

【Act.6】

湊が狙い通り女湯の奥で蜂の巣になったのを確認した犯人は、ゴムロープを手繰り寄せてカートを回収し、盗んだカートとドラム缶を元に戻した。

だがゴムの力でカートとドラム缶が勢いよく激突したせいでカートはひしゃげドラム缶は凹んでしまい、そこから俺は事件のトリックを暴いたんだ。

事件の隠蔽工作を終えた犯人は、何食わぬ顔で湊の死体を発見したフリをした…

 

「これが事件の真相だ。そうだろ!?【超高校級の天才】神崎帝!!」

 

 

 

神崎「………ふっ。ふふっ、ふははははははははははははは!!!」

 

一「ひぃっ!?な、何なの!?」

 

 

 

神崎「…あーあ、上手くやれていたと思ったのだがな。バレてしまっては仕方ないな。」

 

枯罰「やっぱりお前やったんかい。」

 

神崎「くくく、そうだ。俺があの凡愚を殺した。さあ、投票するならしろ。もう貴様らとの友情ごっこにも飽き飽きだ。」

 

モノクマ『うぷぷぷぷ、それではもう結論が出たみたいなのでアレいっちゃいましょうか!投票ターイム!!一応もう一回言うけど、ちゃんと誰かに投票してよね?』

 

モノクマがそう言うと、席にボタンが表示され投票時間が始まった。

投票しなければ俺が死ぬんだ。

俺は、迷いながらも神崎に投票した。

 

モノクマ『投票の結果、クロとなるのは誰なのかー!?その結果は正解か不正解なのかー!?ワクワクでドキドキの投票ターイム!!』

 

モニターにスロットが表示される。

ドラムロールと共にリールの回転速度が落ちていき、神崎の顔のドット絵が3つ揃った所でリールが止まった。

その直後、正解を褒め称えるかのように、はたまた俺達の潰し合いを嘲笑うかのように歓声と共に大量のメダルが吐き出された。

 

 

 

《学級裁判 閉廷!》

 

 

 

 

 


 

 

 

ー生存者ー

 

【超高校級の講師】赤刎円

 

【超高校級のカウンセラー】安生心

 

【超高校級の天才】神崎帝

 

【超高校級の香道家】聞谷香織

 

【超高校級の脚本家】黒瀬ましろ

 

【超高校級の???】枯罰環

 

【超高校級の家政婦】仕田原奉子

 

【超高校級の冒険家】ジョナサン・ウォーカー

 

【超高校級のヴァイオリニスト】弦野律

 

【超高校級のソフトウェア開発者】一千歳

 

【超高校級のランナー】速水蘭華

 

【超高校級の画家】筆染絵麻

 

【超高校級の収集家】宝条夢乃

 

ー以上13名ー

 

 

 



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非日常編④(オシオキ編)

動機発表から30分後、【超高校級の幸運】漕前湊の研究室にて。

 

「あー、神崎?悪いな、突然呼び出しちまって。」

 

「フン。本来なら貴様のような凡俗の呼び出しに応じる事自体がおかしな事なのだぞ。俺の寛大さに感謝しろ。」

 

「…ははっ、相変わらずだなお前は。尚更信じらんねぇわ…」

 

「ほう。やはり用事は秘密についてか。まあ、このタイミングでの呼び出しなどそれ以外あり得ないしな。」

 

「まあそうだわな。」

 

「それで?用件は何だ?」

 

「ああ、それは…」

 

 

 

ーーー

 

 

 

 

 

VOTE

 

神崎帝 13票

 

 

 

『うぷぷぷぷ、お見事大正解ー!!【超高校級の幸運】漕前湊クンを殺したイカレ野郎は、【超高校級の天才】神崎帝クンでしたー!!オマエラ連続正解なんてやるぅー!!』

 

「そんな…嘘だよね!?本当に神崎君が漕前君を殺したの!?」

 

「くくく、そうだ。俺が殺したのだよ。」

 

「嘘ですわよね!?そんな…」

 

「いや、コイツならやりかねねぇだろ。」

 

「まあ前回はクロの事前把握に裁判の撹乱なんざゴミみたいな事しよったしのぉ。ウチは正直コイツを第一に疑っとったわ。」

 

「弦野、枯罰。言い過ぎだぞ。…神崎、お前は何で湊を殺したんだ?やっぱり、秘密が関係あるのか?」

 

「莫迦か貴様は。人に言えないから秘密なのだぞ。おいモノクマ、さっさとオシオキを始めろ。」

 

『うぷぷぷ、オマエをいつオシオキするかはボクが決める事だよ!せっかくだしオマエの秘密をみんなに知ってもらってからの方が良いんじゃない?』

 

「…チッ。そんなに言いふらしたいなら勝手にしろ。どうせ俺は処刑されるのだからな。」

 

『はいはーい、それじゃあ本人のお赦しが出た事だしボクの口から説明するよ!実はね、神崎クンが漕前クンを殺したのには深ぁ〜いワケがあるんだよ!』

 

「complex reasonだと!?」

 

『それでは本人が言う気が無いみたいなので早速二人に送られた秘密を見ていただきましょう!こちらです!!』

 

 

 

【超高校級の天才】神崎帝クンの秘密!

神崎帝クンは、漕前湊クンの実の兄です!

 

【超高校級の幸運】漕前湊クンの秘密!

漕前湊クンは、神崎帝クンの実の弟です!

 

 

 

『いやーこれはビックリだよね!まさか正反対の二人が兄弟だったなんてさ!』

 

「………チッ。」

 

秘密を暴かれた神崎は、あからさまに不機嫌そうな表情を浮かべていた。

 

「そんな…では、神崎さんは実の弟を殺したんですか!?」

 

『うぷぷ、そうなるね!』

 

「そんな…ひどい!!どうして!?色々あったかもしれないけど、血の繋がった弟だったんでしょ!?」

 

『それでは秘密だけでは何が何だかサッパリだろうし、彼らの過去について迫っていきましょうか!ではVTRスタート!』

 

 

 

 

 

モノクマがそう言ってリモコンのスイッチを押すと、モニターにルネサンス期を思わせるような絵が映し出される。

画面の中心には、鼻筋の通った端麗な顔立ちの男が描かれていた。

 

『昔々あるところに、一人の男がいました。男の名前は神崎皇一。世界中にあらゆる事業を展開する神崎財閥の若きトップで、国内屈指の大富豪です。』

 

画面が切り替わり、先程の男の右に美女が現れる。

 

『そんな彼はある日、ご両親の紹介である女性に出会いました。女性の名前は漕前琴奈。漕前製薬の社長令嬢で、生まれつき身体が弱いものの聡明で美しい女性でした。その後、神崎財閥が倒産の危機にある漕前製薬を下請けするという条件で二人は政略結婚を果たしました。』

 

画面が切り替わり、女の腕には赤ん坊が抱かれている。

 

『そして1年後、二人の間には元気な男の子が産まれました。二人は息子に『帝』と名付け、たいそう可愛がりました。二人の息子は生まれつき他を圧倒する才能を持っており、彼の父親は息子にとても期待していました。しかしその2年後、夫婦の間にある問題が起こったのです。』

 

画面が切り替わり、何やら男と女が言い争いをしている。

 

『息子が2歳の誕生日を迎えようとしていたその時、妻の妊娠が発覚しました。妻の方はもうすぐ家族が増えると胎児の出産を心待ちにしていましたが、夫の方は何と、『跡を継がない子供など邪魔だから堕ろせ』と言い出したのです!それを聞いた妻は大激怒!絶対に産むと言い張り、未だかつてない大喧嘩に発展してしまいました!』

 

画面が切り替わり、男が女の髪を引っ張って拳を振りかぶっている。

 

『そこからは早く、夫は日常的に妻を虐待するようになったのです!毎日のように妻に暴力や暴言を浴びせるようになり、ひどい時は医者を呼びつけて無理矢理堕胎させようとしました。しかし、それでも妻は必死の抵抗で胎児を守り抜きました。するととうとう夫の方が折れ、離婚し金輪際神崎家に関わらない事、そして産まれてくる子供を神崎家とは無関係の人間として育てる事を条件に出産を許しました。妻の方もこれを承諾。こうして二人の離婚は成立し、妻は神崎家を出ていき夫はまだ幼い息子を引き取りました。』

 

画面が切り替わり、仕切りの左側には男と美少年が立っている。

そして、仕切りの右側には女と少年が立っていた。

 

『そして父親に引き取られた長男は、その後もあらゆる分野でバリバリ才能を発揮し【超高校級の天才】としてスカウトされるまでに至りました。一方母親の方はというと、元夫が『妻が不倫してどこぞの馬の骨との子供を身籠った』と情報操作をした事で彼女の父親の会社が倒産し、そのせいで両親に勘当され路頭に迷うものの何とか次男を出産し『湊』と名付けました。そして長男に十分な愛情を注いであげられなかった分、次男に最大限の愛情を注いで育てました。母親の献身的な子育てのお陰か、彼は母親によく似た心優しい少年に成長しました。そして数年後、二人は運命の悪戯か、はたまたお天道様の気まぐれか、この希望ヶ峰楽園で出会いましたとさ!でめたしでめたし!』

 

 

 

 

 

「…。」

 

「そんな…こんな事って…」

 

「ねえ、今の映像って本当なの!?」

 

「………ああ。本当だ。当時は幼かったが、母の妊娠がきっかけとなって父と母が大喧嘩をした事は鮮明に覚えている。」

 

「だったら、何で…!!」

 

 

 

「……………邪魔だったから。」

 

…。

 

…………。

 

…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………は?

 

 

 

「あんな何の才能もない凡愚が俺の弟だなんて耐えられなかったのだ。せっかく聡明で才能ある人材に恵まれた家系に生まれ、俺自身も【超高校級の天才】として全ての分野で功績を残してきたというのに、アイツのせいで全て台無しだ。アイツが弟だというだけで俺の格が落ちる。アイツさえいなければ、俺は完璧になれたんだ。あんな神崎家の面汚しは死ぬべきなのだよ。」

 

「………それだけ?」

 

「?」

 

「邪魔だったから…?面汚し……?たったそれだけで…それだけの理由でお前は………湊を殺したのか!!!」

 

俺は、神崎に感情を全てぶつけた。

コイツだけは絶対に許さない。

下らない理由で俺のダチを殺した。

 

「…………ろして………る……」

 

「あ?」

 

「よくも湊を…殺してやる!!!」

 

「ミナトの敵…!!I’ll never forgive you!!Fuck you!!You bastard!!!」

 

俺とジョンは、怒り狂って神崎に飛びかかった。

もうオシオキなんてどうでもいい。

コイツだけは、俺が殺さないと気が済まない。

ここで湊の仇を討つんだ…!!

 

 

 

するとその直後、俺は枯罰に、ジョンは弦野と速水に取り押さえられた。

 

「Let go!!I kill that mother fucker!!!」

 

「クソッ、なんつー馬鹿力だよコイツ!」

 

「ジョン!!やめなって!アイツを殺したらアンタがオシオキされちゃうんだよ!?」

 

「おい落ち着けこのドチビがぁ!!」

 

「チクショウ!!湊を返せ!!返せよぉおお!!うぁあああああぁあああああああああ!!!」

 

 

 

「ド阿呆!!!」

 

ビシッと乾いた音が響いた。

左頬が痛い。

…俺は枯罰に叩かれたのか。

 

「お前…それでアイツ殺してホンマに満足か?アイツは裁きを受けずに死んで、お前が代わりに裁きを受けるんやぞ?そんなん、漕前が望んどると思うか?」

 

「ッ………そんなの綺麗事だ…!!だってアイツは湊を…!!」

 

「せやで。綺麗事や。せやけどなぁ。お前、悔しくないんか?」

 

「悔しい…?」

 

「ここでお前がオシオキされたら、完全にあのクソ野郎とクマ公の思う壺やぞ。結局何も得られへんで、アイツらは喜ぶ。一番ムカつく死に方やんか。」

 

「…。」

 

「ウチはあのクマ公の思い通りになるなんて死んでも御免やねん。アイツにキツい一発叩き込むまではどないな手を使ってでも生き延びる。お前はちゃうんか?」

 

「っ………」

 

目が覚めた。

そうだ。

俺はモノクマを絶対許さない。

アイツに一泡吹かせるまでは絶対死ねない。

それに、外にはシスターや弟妹達が待ってるんだ。

札木や武本、そして湊の分まで俺は生きる!!

 

「…………ありがとう、枯罰。お陰で目が覚めたよ。」

 

「おう。お前はいつも通り小生意気なチビでおればええねん。」

 

「小生意気って…俺の方が年上なんだが。」

 

「チビはチビやろ。」

 

俺は、枯罰のお陰で冷静さを取り戻した。

ジョンも、みんなの説得によって落ち着いたみたいだ。

 

「チッ、コイツらにオシオキを押し付けるつもりだったのだがな。」

 

「お前ホンマに屑やのぉ。口閉じろや。」

 

「まあいい、どうせクロがバレたらオシオキは受けるつもりだったし貴様らも退屈しているだろうから始めるとするか。おいモノクマ、オシオキを始めろ。」

 

 

 

 

 

「つまんなぁ〜い。」

 

 

 

突然そう言ったのは、黒瀬だった。

 

「…は?」

 

「キミ、いい加減にしなよ。クールな悪役ぶってるつもりなんだろうけど、ハッキリ言って寒いんだよ。」

 

「…貴様、何を言って…」

 

「ああ、そうそう思い出した。今回の事件って、なーんかどっかで見た事ある展開だなーって思ったんだ。そう、まるで…

 

 

 

 

 

…カインとアベルみたいだよね?」

 

 

 

「…あ?」

 

「カイ…?何それ?」

 

「旧約聖書の『創世記』に登場する兄弟だよ。アダムとイヴの子供達で、人類最初の殺人の加害者と被害者って言われてるんだー。」

 

「それのどこが今回の事件と似てるの?」

 

「あらすじを簡単に言っちゃうとねー、お兄ちゃんのカインが神様に贔屓されてる弟のアベルに嫉妬してアベルを殺しちゃうんだよ。ほら、帝くんそっくりじゃない?」

 

「嫉妬だと?莫迦莫迦しい、俺があんな奴に嫉妬するわけ…」

 

 

 

『はいはーい!もうちょっと粘ると思ったけどボロが出ちゃったからボクの口から説明するよー!』

 

「は…!?おい、貴様何を…!?」

 

『実はね、弟の事は大っ嫌いな神崎クンなんだけど、お母さんの事だけは大好きだったのです!だからお父さんの目を盗んでお母さんと連絡と取り合ったり弟のいない時を狙って会いに行ったりしてたんだよ。でもね。お母さんは息子二人を平等に愛してて神崎クンも大事な息子だって事には変わりなかったんだけど、神崎クンと会ってる事がバレたら火の粉が神崎クン自身と漕前クンに飛んできちゃうからあくまで他人のふりをしてたんだよね。』

 

「ッ…!!」

 

『それと、彼のお母さんは神崎クンの性格が悪いのを相当心配してたみたいでさ。それとなく本人に注意したんだよ。そしたら、アホなのか知らないけど、神崎クンは、お母さんが弟ばっかり贔屓して自分は愛されてないって勘違いしちゃったんだよね!そして嫉妬に狂った神崎クンは、弟を見つけ出して亡き者にしてやろうと心に決めたのでした!全く、親不孝な息子だよね!お母さんの行動は全部息子のためを思っての行動だったのにさ!一回愛情って言葉を辞書で引いた方がいいんじゃないの!?』

 

「黙れぇえええええっっっっ!!!!」

 

「ひっ…!?」

 

突然、神崎は今までに聞いたことがないくらい大きな声で怒鳴り散らした。

 

「貴様ら凡俗に何がわかる!!?俺は【超高校級の天才】だぞ!?勉強でも、スポーツでも、芸術でも、ありとあらゆる分野で凡人では到底成し遂げる事のできない功績を残してきた!!片やアイツはどうだ!?莫迦で鈍間で不細工で喧しい!!俺は優れた人間で、アイツは劣ってるんだ!!なのに、何故アイツなんだ!?母上は何故アイツばかり贔屓するんだ!!おかしいだろ!!」

 

神崎は、訳の分からない事を喚き散らした。

神崎の母さんの離婚は母親として湊を守るために決めた事であって、決して神崎に対して愛がなかったわけじゃなかったはずだ。

コイツらの母さんも、もちろん湊も悪くない。

悪いのは、コイツらの母さんと湊を捨てた男と、湊を殺した神崎だけだ。

 

「アイツさえいなければ、母上は離婚して家を出て行く事もなかったし俺だけを見てくれていたんだ!!それをアイツが全部奪った!!アイツのせいで母上は貧乏人に成り下がったんだ!!アイツは母上を不幸にしておいて何の才能も無いくせに甘い汁を吸う屑だ!!あんな奴、生まれて来なければ良かったんだよ!!!」

 

「神崎君…」

 

「何が面汚しや、特大ブーメランやんか。」

 

「クソッ、クソクソクソ!!!あの時母上が俺を選んで腹の中のアイツを殺していればこんな事にならなかったのに!!アイツが全部悪いんだ!!!アイツが俺と母上の人生を滅茶苦茶にしたんだ!!!俺の母上を返せ愚図餓鬼がぁああああああああ!!!」

 

 

 

『あーもううるさいったらありゃしない!それじゃ、みんな退屈してるしそろそろオシオキするよー。』

 

「待て!!俺は悪くない!!全部あの愚民が悪いんだ!!俺はアイツに嵌められたんだよ!!」

 

『何訳の分からない事をほざいてるんですかね全く!ここまで尺取りすぎたし、巻きで行くよ巻きで。』

 

「ふざけるな!!この俺がここで死ぬなどあり得ない!!無効だ!!こんな裁判無効だ!!」

 

神崎は、完全に冷静さを失って子供のように喚き散らしていた。

 

「そ、そうだ関さ…こっ、枯罰!!お前からも何か言ってくれ!!お前ならこの裁判が無効だって証明できるだろ!?」

 

 

 

「……………黙れや。」

 

枯罰は、どこまでも冷ややかで突き刺すような視線を神崎に向けて軽蔑の言葉を吐き捨てた。

その目はこれ以上見苦しいものを見せるな、そう言っているようだった。

 

「ッ…………!!!」

 

『うぷぷ、そりゃそうなるよ。だってみんなオマエに投票してるし、単独行動とかクロの事前把握とか好き勝手やらかしちゃったから株ダダ下がりなんじゃないの?日頃の行いだと諦めるんだね。それじゃオシオキいくよー。』

 

「嫌だ!!嫌だ嫌だ嫌だいやだいやだいやだいやだいやだ死にたくない死にたくない死にたくないぃいいいい!!!」

 

俺は、喚き散らす神崎と目が合った。

俺は思わず言葉を放った。

 

 

 

「…お前は可哀想な奴だな。」

 

「ッ……うっ、うぅっ…………」

 

神崎は、居た堪れなくなったのかその場で蹲って泣いた。

次の瞬間だった。

 

 

 

 

 

「う゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!」

 

神崎は、全員の耳を劈く程の悲鳴を挙げながら走り出した。

 

「アイツ、まさか逃げる気か!?」

 

「ド阿呆…」

 

『うぷぷぷ、実にバカだなぁ。逃がすわけなーいじゃーん!!』

 

「クソッ!!クソクソクソッ!!こうなったのは全部あの凡愚のせいだ!!俺は悪くない!!」

 

『今回は、【超高校級の天才】神崎帝クンのために!!スペシャルな!!オシオキを!!ご用意しました!!!』

 

「こんな所で死んでたまるか!!俺は母上を取り戻すまでは死ねないんだ!!」

 

『ではでは、オシオキターイム!!!』

 

 

 

「は゛は゛う゛え゛ぇ゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛!!!!」

 

 

 

神崎は、大声で泣き叫びながら逃げ回っていた。

だが、無慈悲にも罪人の処刑を宣言するモノクマの声が響き渡る。

モノクマはピコピコハンマーを取り出して、一緒に出てきた赤いボタンをハンマーで押した。

ボタンに付いている画面に、ドット絵の逃げる神崎をモノクマが追いかける様子が映っていた。

 

 

 

 

 

ーーー

 

GAME OVER

 

カンザキくんがクロにきまりました。

 

オシオキをかいしします。

 

ーーー

 

 

 

神崎が必死に逃げていると、背景が19世紀のロンドンのような風景になる。

神崎は、後ろから追ってくる大量のモノクマから逃げていた。

そこで画面上に文字が現れる。

 

 

 

ーーー

 

Genius Boy Is Broken Down

 

【超高校級の天才】神崎帝 処刑執行

 

ーーー

 

 

 

神崎がついに橋に辿り着き橋を渡っていると、どこからか子供が英語で『ロンドン橋落ちた』を歌う声が聞こえる。

するとその瞬間、橋が崩れて神崎は橋と一緒に落ちた。

橋の下は暗闇になっており、神崎はどこまでも下へ下へと落ちていく。

 

すると突然左足をロープで捕まれ神崎は宙吊りになり、紳士風のモノクマに木の棍棒と石礫で全身ボコボコに殴られる。

百発ほど殴られるとロープがひとりでに切れ汚水が流れる川に真っ逆さまに落ちた。

神崎は川を泳いで逃げようとするが、汚水の激しい流れには逆らえず結局溺れた。

汚水の流れ着いた先は崖になっており、神崎は汚水の滝と一緒に下へと落ちていく。

 

すると今度は巨大な時計の針に磔にされ、モノクマに大量の石灰を飲まされる。

タンクの中の石灰を全て神崎の胃の中に詰め込むと、その直後時計の針が猛スピードで回り始める。

神崎が胃に詰められた石灰と針の回転によって吐き気を催すと、トドメと言わんばかりにモノクマが巨大パチンコでレンガを時計目掛けて飛ばす。

レンガは神崎の腹に命中し、神崎は目を見開いて血と大量の石灰が混ざった吐瀉物をブチ撒けた。

すると神崎を固定していた時計の針の拘束具が外れ、神崎は遠心力で振り落とされる。

振り下ろされた神崎は下へ下へと落ちていく。

 

すると今度はアンティーク調の十字架に磔にされ、下には野球のグラウンドが広がっていた。

モノクマは、自信満々の表情でスチール製の金属バットを振りかぶる。

すると反対側からもう一匹のモノクマが鉄球を投げ、バッター役のモノクマが鉄球をバットで打つ。

鉄球は神崎の右肘に当たり、腕が変な方向に曲がった。

続けてモノクマは何発もの鉄球を打ち、神崎の両腕と両脚はグチャグチャに曲がり原型を留めていなかった。

モノクマが打った最後の一発は十字架に当たり十字架がポキっと折れる。

磔にされた神崎はそのまま後ろに倒れ、神崎は真っ逆さまに落ちていく。

 

すると今度はテーブルの上に乗せられる。

テーブルにはテーブルクロスが敷かれており、皿やワインの入ったグラスが並んでいた。

神崎は、今度は拘束はされなかったものの両手足が使い物にならないため動く事すらできなかった。

するとモノクマがまず金のテーブルナイフを手に取り、神崎の両耳を削ぎ落とす。

次に、銀のフォークを手に取って神崎の両目を抉り取った。

その直後、テーブルがパカっと開き神崎は下へと落ちていく。

 

落ちた先には今度は棘付きの棺桶が待ち構えており、神崎が落ちた瞬間に扉が勢いよく閉まる。

するとそこに巨大なモノクマが現れ、棺桶を開けると中に入っていた神崎を巨大なパイプタバコの中に振り下ろした。

モノクマは、パイプの中の刻み煙草に火をつけ一服する。

そして、大きく煙を吐き出すとパイプの中身を下に落とした。

 

地面に落ちた真っ黒焦げの肉塊に、トコトコと歩いてきたモノクマのような犬が小便をかけどこかへと歩いていった。

 

 

 

 

 

『ジェットストリーーーーーム!!』

 

「うわあああああああああああああ!!!」

 

「いやああああ!!!もう無理!!帰して!!」

 

「もうやだ…こんなのあんまりだよぉ…!!」

 

「あ、ああああ…神崎さんが…!!」

 

「そんな、ミカドが…!!」

 

「嘘でしょ…!?帝…!!」

 

「うっ、うぅっ…神崎さん…!」

 

「酷い…酷すぎるよ。」

 

「あの野郎…!!」

 

「相変わらずええ趣味しとんのぉ。」

 

「あーあ、帝くん死んじゃったー。」

 

『いやー、スカッとした!神崎クンには前回学級裁判を茶番にされたからね!人殺しのマザコンに居場所なんてありませーん!』

 

「お前…よくも神崎を…!!」

 

『あれ?赤刎クン、何で怒ってんの?神崎クンは下らない理由で漕前クンを殺したんだよ?確かさっき『殺してやる』とかほざいてなかったっけ?』

 

「…確かに神崎は屑だ。下らない理由で湊を…俺のダチを殺した。それはこれからも絶対許せないと思う。だけど、クラスメイトをあんな方法で殺したお前の方がもっと屑だ!!」

 

『葛切りとマロニーって似てるよね。』

 

「お前…!!」

 

「いちいち相手にすんなや。」

 

『それでは学級裁判を乗り越えたオマエラにはメダルと…今回は特別にもう一つプレゼントがあります!』

 

「プレゼントだと…?」

 

『ズバリ、『爆弾魔』に関する情報だよ!』

 

「爆弾魔ですって!?」

 

「爆弾魔がどうしたんだよ!?」

 

『実はその爆弾魔ですがね…』

 

 

 

 

 

『オマエラの中にいます!!』

 

「は!?どういう事だよオイ!?」

 

『話はそれだけだよ。爆弾魔はオマエラ16人の中の誰かなんだよ!もしかしたら既に死んじゃったかもしれないし、まだ生き残っててオマエラを爆殺する機会を虎視眈々と狙ってるかもね。』

 

「ちょっと待って、爆弾魔がこの中にいるってどうしてわかるの?」

 

『今時調べれば何でもわかっちゃうんだよ。情報社会って怖いよねー。オマエラの中にいるんだよなー。【超高校級の爆弾魔】が。』

 

「調べたって…どうやって!?【超高校級の収集家】の私ですら正体を突き止められなかったのに!」

 

『企業秘密。それじゃバイバーイ!』

 

「待てコラァ!!」

 

弦野はモノクマを引き止めようとするが、モノクマはそそくさと去っていった。

 

 

 

「クソッ、あの野郎…!!」

 

「ね、ねぇ…!爆弾魔がこの中にいるってどういう事なの!?」

 

「そのままの意味やろなぁ。」

 

呆れ返ったようにため息をつく枯罰を、弦野が睨みつけた。

 

「…オイ。テメェなんじゃねぇのか?」

 

「はぁ?」

 

「テメェ、才能について一回も喋った事ねぇだろ。才能を頑なに言わねぇのはテメェが【超高校級の爆弾魔】だからなんだろ?」

 

「そ、そうだよ…!才能不明なんて怪しいよ!」

 

「ちょっ…弦野君!一君!まだ枯罰ちゃんが爆弾魔って決まったわけじゃないよ!」

 

「そうだよ!ほら環、アンタも何か言ってやりなよ!」

 

「別にええわ。違う言うたところで嘘つきや思われんのがオチやろ。わかりきった問答をする程ウチも暇人やない。」

 

「ほら見なさいよ!否定しないって事はやっぱりアンタが爆弾魔なんでしょ!?」

 

「…はぁー、めんどくさ。もう帰ってええか?」

 

そう言って、枯罰はエレベーターに乗り込んでしまった。

 

「ちょっと!!話はまだ終わってないわよ!!」

 

…枯罰が爆弾魔?

いや、アイツに限ってそれはないだろ。

アイツは裁判で俺が困った時サポートしてくれたし、快楽殺人をするような奴とは思えないんだが…

 

…いや、ここでみんなを疑ってても仕方ないな。

湊や神崎のためにも、12人全員で脱出する方法を考えないと…!

 

 

 

「まーどーかーくーん。」

 

「うおっ!?」

 

いつの間にか、黒瀬が至近距離で俺の顔を覗き込んでいた。

 

「大丈夫?おっぱい揉む?」

 

「何でだよ!揉まねーよ!」

 

ったく…

油断も隙もありゃしねーぜ。

コイツは、こう見えてなんとなくで人を殺す殺人鬼なんだ。

…今のところ、爆弾魔の可能性が一番高いのがコイツだ。

コイツが変な気を起こさないように気をつけないと…

 

「…むぅ。何ですかその目はー。」

 

「あ、いや…」

 

「言っておくけど、ボクは爆弾魔じゃないからねー。」

 

「違ったとしても快楽殺人をしてる時点で同じようなもんだろ。」

 

「何よぉー。揉ますぞコラぁー。」

 

「何だその脅し。」

 

「ボクのおっぱい無しじゃ生きていけないようにしてやるー。」

 

俺は、黒瀬の言動に呆れつつエレベーターに乗った。

…もう頭がついていけない。

黒瀬の知りたくもない秘密を知っちまうわ、神崎は弟の湊を殺しちまうわ、爆弾魔がいるって言われるわ…

俺はこれからどうすればいいんだ…?

 

 

 

 

 

Chapter2.人はその妻エバを知った ー完ー

 

 

 

《アイテムを入手した!》

 

『アンティークジュエリー』

 

Chapter2クリアの証。

神崎の遺品。

神崎が常に身につけていたブローチ。

母親が神崎の2歳の誕生日にプレゼントしたもの。

全てを見下していた少年が唯一尊敬していた女性の形見。

 

 

 

 

 

ーーー

 

???の部屋

 

 

 

「くっくっく…いやぁ、想像以上に盛り上がってるねぇ。傍観者でいるのにも飽きたし、そろそろ動き出そうかな?」

 

 

 

ーーー

 

 

 

 

 


 

 

 

ー生存者ー

 

【超高校級の講師】赤刎円

 

【超高校級のカウンセラー】安生心

 

【超高校級の香道家】聞谷香織

 

【超高校級の脚本家】黒瀬ましろ

 

【超高校級の???】枯罰環

 

【超高校級の家政婦】仕田原奉子

 

【超高校級の冒険家】ジョナサン・ウォーカー

 

【超高校級のヴァイオリニスト】弦野律

 

【超高校級のソフトウェア開発者】一千歳

 

【超高校級のランナー】速水蘭華

 

【超高校級の画家】筆染絵麻

 

【超高校級の収集家】宝条夢乃

 

ー以上12名ー

 

 

 



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Chapter.3  天国の君のためのセレナーデ
(非)日常編①


「…。」

 

朝のアナウンスより早く起きてしまった。

時間を確認すると、まだ朝の5時だった。

 

昨日はよく眠れなかった。

…一晩経ってもまだ信じられない。

湊が死んだなんて…

やっと、本当の親友になれたと思ったのに。

 

そして、あの時の神崎の泣き叫ぶ声…

今でも頭から離れない。

本当に昨日、二人も仲間を失ってしまったのか…

 

「…まだ時間あるな。」

 

俺は、眠くはなかったがまだ時間があるのでベッドに潜り込んで瞼を閉じた。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

『おはようございます、オマエラ!!朝です!!7時になりました!!今日も元気に殺し合いましょう!!』

 

「…。」

 

モノクマの不快なモーニングコールが部屋中に鳴り響く。

…うるさいな。

だが今は怒る元気もない。

俺は、モノクマのアナウンスを聞き流しつつ支度をして食堂に向かった。

8時前、食堂に向かうと既に安生、聞谷、ジョン、一、速水、筆染、宝条の7人がいた。

 

「おはよう、みな………」

 

俺は、湊の席に向かって挨拶をした。

湊の席には花が置かれていた。

 

「…。」

 

ははっ、何やってんだよ俺。

湊ならもういないだろ。

 

「………おはよう、みんな。」

 

「おはよう、赤刎君。」

 

「Morning,マドカ。」

 

「ご機嫌よう。」

 

「おはよ。」

 

「お、おはよう…」

 

「おはよー…」

 

返してくれたのは宝条以外の6人か。

…と思いきや。

 

「お、おはよ…」

 

宝条も返してくれた。

 

「今日もいつもの3人が朝ご飯を作ってくれてるよ。」

 

「…そうか。」

 

黒瀬は…相変わらず遅刻か。

今はみんなアイツが殺人鬼だって知らないけど、いつかはバレるかもしれない。

その時はどうすればいいんだ…

 

 

 

「おはよぉー。」

 

噂をすれば影とはまさにこの事で、ちょうど黒瀬が来た。

 

「うーん、よく寝たぁー。」

 

黒瀬は、伸びをしながら当然のように俺の隣に座った。

他のみんなとは違い顔色が良く、本当に熟睡できたらしい。

 

するとその直後、3人が朝食を運んできた。

こんな状況でも飯を作ってくれるなんて、強いなアイツらは…

 

「飯できたで。机片せや。」

 

「「…。」」

 

一と宝条は、枯罰が運んできた飯を怪しいものを見るような目で見た。

 

「…おい。まさかウチの作った飯は食えへん言うんやないやろな?」

 

「「…。」」

 

「お二人とも、安心して下さい。枯罰さんは怪しい事は何もしてませんでしたよ。」

 

「それに殺したきゃとっくに何かやってるだろ。コイツは怪しいけど、作ってくれたもんはちゃんと食えよ。」

 

弦野の奴、いい事言うじゃねえか。

すっかりみんなに打ち解けたみたいだな。

 

「お二人とも、今は気分が優れないかもしれませんが栄養は摂ったほうがいいですよ?」

 

「…。」

 

「ゆめちゃんも、ご飯食べたら?元気になるよ。」

 

「…。」

 

仕田原と筆染が言うと、一と宝条は無言で頷いた。

良かった、とりあえず飯は食う気になってくれたみたいだ。

 

 

 

全員が集まっているので、朝食を食べ始めた。

すると、その最中だった。

 

「あのー、ボクみんなにお知らせがあるんですー。」

 

黒瀬がそう言うと、全員が黒瀬に注目した。

…おい、まさか秘密をバラす気じゃないだろうな?

俺は黒瀬が余計な事を言わないかハラハラしていたが、その心配が見事的中してしまった。

 

 

 

「ボク、殺人鬼なんだー。」

 

「…。」

 

「…。」

 

「…。」

 

俺と枯罰以外の全員の思考が停止する。

当然だ。

いきなり殺人鬼だなんてカミングアウトされたんだから。

 

「おいバカ!!今言う事じゃねぇだろ!!空気読めよ!!」

 

「…。」

 

「…。」

 

「…あっ。」

 

思わず口走ってしまった後で、俺は咄嗟に口を塞いだ。

 

「…え、何。知ってたの?」

 

「あ…ああ。俺は黒瀬の秘密を引いたからな。」

 

「ね、ねぇ。頭が追いつかないんだけど…ましろが殺人鬼ってどういう事なの!?」

 

「んー、そのまんまの意味だよー。ボクは人を殺すのが大好きなんだー。」

 

「何でそれを今になって言おうと思ったの?」

 

「なんとなく。あ、言っとくけどボクは爆弾魔じゃないからね?」

 

「ちょっと!何なの!?わけがわからないよ!!」

 

「だからボクは殺人鬼なんだってばー。」

 

「ひぃいいいいいっ!!!」

 

黒瀬が一の方に手を伸ばすと、一は席から飛び上がって尻餅をついた。

 

「こ、来ないで!!近づかないで!!殺さないで!!」

 

「ひどーい。まだ何もしてないじゃん。」

 

「まだって何よ!?これから何かする気!?」

 

「ぎくっ。」

 

「いやだああああああ!!!死にたくない死にたくない死にたくない!!誰か助けて!!お父さん!!お母さん!!ちーたん!!」

 

「落ち着いてくださいまし、一さん、宝条さん!黒瀬さんは別に何もしていませんわ!」

 

「そうだ!黒瀬は確かに自分で殺人鬼だって言ってる。実際人を殺した事もある。だけど、黒瀬がお前らに何かしたか!?」

 

「これから何かするかもしれないじゃん!!殺人鬼を信用しろっていうの!?無理に決まってるよね!?ボクからしてみれば殺人鬼の黒瀬さんや才能不明の枯罰さんを信用してる君達の方が異常だよ!!」

 

「そうよ!!ゆめ達に何もしてなくても過去に人を散々殺してるんでしょ!?枯罰だって同じ穴の狢かもしれないじゃない!!」

 

「でも、枯罰は毎日俺達のために飯作ったり裁判では俺をサポートしたりしてくれるいい奴だし、黒瀬は二度と人を殺さないって約束してくれたし普通に接してる分にはかなりマイペースなだけで悪い奴じゃないんだよ。」

 

「タマキもマシロもオレ達のgood friendだ!!They’ll never kill us!!」

 

「約束してくれた!?友達!?まさかそれが根拠だって言うんじゃないでしょうね!?」

 

「そうだ。それだけだ。」

 

「頭おかしいんじゃないの!?そうだ、誰かコイツを縛り付けるなりどこかに閉じ込めておくなりしてよ!!それからじゃないと安心できないわ!!」

 

「いや、流石にそれはやりすぎなんじゃ…」

 

「うるさい!!ゆめは絶対こんな奴信用しないんだから!!もういい、こんな所出てくわよ!!」

 

宝条が食堂を後にしようとした、その時だった。

 

 

 

『うぷぷぷ、なになにどうしたのオマエラ?ご機嫌斜め?』

 

突然、どこからかモノクマが現れた。

 

「ぎゃあああああああっ!!!」

 

「何なのよアンタ!!」

 

「Buzz off!!」

 

『えーひどいな。せっかく親切にプレゼントをしてあげようと思ったのに。』

 

「どうせ新しい場所に行けるようになったんやろ?」

 

『あーコラ枯罰サン!何で人が言おうとしてた事を先に言うかな!?そんなんだからモテないんだよ!?』

 

「余計なお世話や。」

 

「てか人じゃなくてクマね。」

 

いちいちそこ反応するなよ黒瀬…

 

『はいはいそうですよ!新しい場所にいけるようになりました!それと、今回はもう一つお知らせがあるよ!』

 

「お知らせ?」

 

「もしかして、あの変な笹の事?」

 

『ちょっとー!!変って何だよ変って!!こっちはオマエラが気に入ると思って置いたのにさ!綺麗でしょ?金ピカでいかにも金運上がりそうでしょ?』

 

「邪魔。」

 

「退けろや。」

 

『うわ弦野クン枯罰サンひっど!!もういいよ!オマエラのお願いを叶えてあげようと思ったけどやっぱりやーめた!!』

 

「お願い?お願いってどういう事?」

 

『笹の葉といえば七夕!七夕といえばお願い事だよね!そういうわけで、オマエラにはこの短冊を配ります!』

 

そう言って、モノクマは全員に二つ折りの細長い厚紙を渡した。

 

『そこに願い事を書いて笹に飾ったら願い事が叶うよ!中にはどんな願い事をしたのか知られたくない人もいるだろうし、プライバシーに配慮して折り畳んで糊付けできるタイプの短冊にしておいたよ!ボクってば優しいよね?』

 

「うさんくさ…」

 

『ちょっと誰ですか今うさんくさって言ったの!その短冊に願い事を書いて笹に飾ったら本当に願い事が叶うんだよ!…ただし、叶えられるのは全員で一つだけだけどね。』

 

「全員で一つ…?」

 

「それってまさか…」

 

『そうです!叶えられるのは、誰かを殺し学級裁判で勝ち抜いたクロの願い事だけです!』

 

「なっ…!!」

 

「ほら!!やっぱり碌でもないじゃん!!」

 

みんなが騒いでいる中、黒瀬は笹をまじまじと見つめて唐突にモノクマに尋ねる。

 

「あのさー。仮にクロが他の15人を生き返らせてってお願いしたら、それって叶ったりするの?」

 

『もちろん!どんな願いでも叶うからね!』

 

「えーほんとー?七つ玉を集めたわけでもないのにさー。」

 

『叶うんだよねーそれが!殺されたみんなも破壊された地上もこのゴールデン笹でもとに戻れるんだよ!』

 

「ふーん。」

 

「何故か笹だけ日本語…」

 

筆染、今それツッコむ事じゃないと思うぞ。

 

『ちなみに、殺人を犯す前にちゃんと配った短冊に願い事とフルネームを書いて笹に飾ってないとお願いは無効だからね?』

 

「ふざけるな!こんなモンでmurderなんか起こるか!!」

 

『うぷぷぷぷ…いや、これだけで絶対釣れるよ。あ、そうそう。それと今回からもう一つルールを追加するよ!一人のクロが殺せるのは二人までだよ!』

 

モノクマがそう言った直後、パスポートにルールが追加された。

 

 

 

ーーー

 

十五、同一のクロが殺せるのは二人までです。

 

ーーー

 

 

 

「どうして今更こんなルールを?」

 

『だって自分以外全員殺すーなんて事されたらつまんないじゃん?』

 

「もし三人以上殺したらどうなるの?」

 

『三人目を殺した時点でオシオキです。それじゃバイバーイ!』

 

要件を伝え終わると、モノクマは去っていった。

 

「クソッ、あの野郎…!」

 

「ホントいらん事しかせぇへんのぉアイツ。」

 

「はいはーい、ボクからていあーん。」

 

突然、黒瀬が手を挙げて発言した。

 

「あのさー、こういうのはどう?誰か一人が短冊に『他の15人を生き返らせて』って願い事を書いて、誰かを殺してみんな裁判でわざと間違えるの。そうすれば全部解決じゃない?」

 

「な…!!何言ってんの!?」

 

「ほら見なさいよ!!やっぱりコイツ頭おかしいじゃないの!!だから監禁しろって言ってんのよ!!」

 

「もちろん誰かに殺される一人はボクでいいよ。だって後で生き返れるんだもん。ねえ、いいアイディアだと思わない?」

 

「ふざけんじゃねぇ!!俺達にオシオキを受けろっていうのか!?」

 

「だからー、後で生き返れるんだってばー。」

 

「でもオシオキはやだ!!」

 

「…黒瀬。」

 

「あー、円くん。円くんはいい作戦だと思うでしょー?」

 

「俺はお前の作戦には賛同できない。後で生き返れるとかそういう問題じゃないだろ。」

 

「なんでー?未来ちゃんも、闘十郎くんも、湊くんも、帝くんも、みんな戻ってくるんだよ?」

 

「お前、命を何だと思ってるんだ!!!」

 

俺は黒瀬を大声で怒鳴りつけ、肩で息をするほど呼吸が乱れた。

札木や湊の事を軽く扱われた気がして、黙っていられなかった。

だが黒瀬は全く悪びれる様子を見せずに首をコテンと傾げた。

 

「ごめんね?円くんが何でそんなに怒るのかわかんないや。」

 

「………はぁ。お前に言っても無駄だったな。」

 

黒瀬にまともさを求めた俺がバカだった。

そう思った途端、さっきまで激昂してたのが嘘のように冷静になった。

 

「へへー、怒った円くんも可愛いねぇ。ほっぺにちゅーしちゃうぞー。」

 

「やめろ。」

 

俺は、絡んでくる黒瀬を払い除けた。

 

「…まあ、今はこの件は保留にしておこうか。それより新しいエリアが開放されたんだし探索はしようよ。」

 

「せやなぁ。今回開放されたんは…多目的ホールとアミューズメント施設、それから研究室が4つやな。」

 

「班分けはどうする?」

 

「ボクは円くんと同じ班がいいなー。」

 

「ゆめ、コイツと同じ班だけは絶対イヤ!!」

 

「ボクも嫌だ!!殺人鬼と一緒になんていられないよ!!」

 

「ほな、お前らはウチと同じ班になるけどええんか?」

 

「…えっ!!?」

 

「当たり前やろ。ウチは疑われとるみたいやし、怪しい奴二人が同じ班で行動するわけないやんか。」

 

「う…で、でもやっぱあんな殺人鬼よりはアンタの方がマシだわ!」

 

「ボクも…どっちか選ばなきゃいけないなら枯罰さんかな…」

 

「あたしどっちでもいいよー。」

 

「…コイツがどっちでもいいなら、俺もどっちでもいい。」

 

結局話し合いの結果、アミューズメント施設を俺、聞谷、黒瀬、ジョン、筆染、弦野。多目的ホールを安生、枯罰、仕田原、一、速水、宝条が担当する事になった。

 

「わーい。ふかふかものですがよろしくお願いしますー。」

 

不束者だろ。

何だよふかふかものって。

毛布かよ。

 

「それを言うなら不束者だよね。」

 

筆染が代わりに突っ込んだ。

誰にでも裏表なく接するから、コイツの存在はありがたい。

 

「それじゃ行きましょ行きましょー。」

 

黒瀬が俺の手を引っ張ったので、全員アミューズメント施設に向かう事になった。

 

 

 

「ここ…ですわよね。」

 

「うわ、高いねー。」

 

目の前には、白と黒の二色に分かれた建物が聳え立っていた。

 

「んーと、中にはプールとかジムとか色々あるみたいね。あ、カラオケボックスもあるんだって!」

 

「カラ…何ですのそれは?」

 

「「「「…………え?」」」」

 

「ふにゃ?」

 

俺達5人は、一斉に聞谷の方を見た。

 

「…お前、もしかしてカラオケ知らねぇの?」

 

「ですから、そのからおけとは何ですの?意地悪しないで教えて下さいまし!」

 

嘘だろオイ。

カラオケも知らなかったのか。

動物園を知らなかった時点で箱入りのお嬢様だとは思ってたけど、まさかここまでとは。

聞谷家では一体どんな教育をしてるんだ…

 

「…チッ。えぇっとな。」

 

弦野は、面倒臭そうに頭を掻きつつも説明した。

 

「そういや、ジョンはカラオケボックスとか行った事あるのか?向こうじゃマイナーなんだろ?」

 

「何回か行った事あるぜ。オレはJapanに何回も来てるからな!」

 

そういえば、ジョンは日本文化とか好きなんだったな。

道理で詳しいわけだ。

 

「それじゃ早速行くか?」

 

「さんせー!!」

 

俺達6人は、建物に入って探索を始めた。

 

 

 

1階はゲームエリア、2階はカラオケエリア、3階から5階と屋上がスポーツエリアになっていた。

俺達はまずゲームエリアに向かった。

ゲームエリアには数えきれない程のあらゆる種類のゲーム機が並んでいた。

 

「うお、すげーな。さすがワンフロア丸ごと使ってるだけあるわ。」

 

「Wonderful!!VRまであるのか!!」

 

「一君とか絶対好きそうだよね。」

 

「すごいですわね!わたくし、こんな所初めてですわ!!」

 

聞谷の奴、テンション上がってるな。

普段はおっとりした感じだから、はしゃいだりするのは正直意外だ。

 

「よーし遊んじゃうぞー!」

 

「待て。探索が先だろ。」

 

「ぶー。」

 

早速ゲーム機の方へ突っ走っていく黒瀬の襟首を弦野が掴んで引っ張り上げると、黒瀬は頬を膨らませて唇を尖らせる。

 

 

 

一通りゲームエリアの探索を終えた俺達は、2階のカラオケエリアに向かった。

ワンフロア丸ごとカラオケボックスになっていて、クラブのような部屋が1部屋、大きい部屋が3部屋、小さい部屋が16部屋の計20部屋だった。

大きい部屋は20人程入れる広さで、小さい部屋はせいぜい3人入れる程度の広さ、そして一番広い20号室は50人は優に入れる広さになっていた。

普通のカラオケボックスとほとんど変わらないが、大きな部屋には一つずつ、20号室は三つロッカーがあった。

人が一人か頑張れば二人くらいは入りそうだな。

近くにはドリンクバーもあり、全員の好きな飲み物が出るようになっていた。

黒瀬にご馳走してもらった不気味な白黒ジュースもあった。

…アレ、モノモノジュースって名前だったのか。

 

「わあ、ここがカラオケボックスですのね!!」

 

聞谷は、本来の目的をすっかり忘れてキャッキャとはしゃいでいた。

 

「マドカ、何かヤマトナデシコがcute voice出してるのって良いよな。『ギャップモエ』ってヤツだな。」

 

「わかる。」

 

ジョンが肩を組んできたので、俺はサムズアップをして同意した。

 

「確かに聞谷がここまではしゃぐのってレアな光景だよな。」

 

「え、そう?聞谷ちゃんってああいう子だよ?」

 

おおう…

知ってたのか。

そういや筆染は聞谷と仲が良かったな。

 

「んーにゃあ、この階の探索はこんなところですかねー。そろそろ上の階行く?」

 

「そうだな。おい聞谷。行くぞ。」

 

「へぁっ!?は、はい!」

 

『へぁ』って…

普段の聞谷からは絶対聞けない声だな。

 

 

 

カラオケエリアの探索を終えた俺達は、スポーツエリアの探索をした。

スポーツエリアは様々なスポーツが楽しめる仕様になっていた。

 

「ここもすごいねぇ。へー、ボウリングもあるんだ。」

 

「速水ちゃんが喜びそうだよね。」

 

「オレも後でtrainingしに来ようかな。マドカも来いよ。オマエは鍛えた方がいいぞ。」

 

余計なお世話だ。

 

「見て見て円くん。セグウェイあるよー。あーでも円くんはちっちゃいから乗れないねー。」

 

嫌がらせかよ。

 

「あーもういいから!それよりプールあるらしいから行ってみようぜ。」

 

「ぷぷぷー誤魔化したー。」

 

ジョンと黒瀬にいじられて頭に来たので、俺は強引にプールの探索に進んだ。

プールがある5階に着くと、目の前に青い扉と赤い扉が見えた。

青い扉には男子マークが、赤い扉には女子マークが描かれている。

マップで確認すると、どうやらここは更衣室のようだ。

ドアの横には、ICカードリーダーのようなものが設置されている。

 

「これって…」

 

『そこにパスポートを翳して入るんだよ!』

 

「うわ!?」

 

突然後ろからモノクマが現れた。

 

『ちょっと、そんなにビックリする事ないじゃん!プンプン!』

 

「怒ってる時プンプンっていう人初めて見た…」

 

「そもそも人じゃねぇだろ。」

 

『あのー、いいですか?この更衣室は、パスポートを使って鍵を開けるんだよ。それと、男子の更衣室には男子のパスポートが、女子の更衣室には女子のパスポートが必要だからね。異性の更衣室に入ろうとした瞬間にマシンガンで蜂の巣だよ。』

 

冗談…ではないだろうな。

実際、湊も死体ではあったが女湯に入った途端に蜂の巣にされたんだ。

すると、パスポートにルールが追加される。

 

 

 

ーーー

 

十六、異性の更衣室に入る事を禁じます。

 

ーーー

 

 

 

「えー、じゃあ男子更衣室には入れないって事?無念至極なり〜。」

 

「「「「「えっ?」」」」」

 

黒瀬がサラッとセクハラ発言をしたので思わず俺達5人は引いてしまった。

 

『そうなるね。多感なお年頃のオマエラの事だから、どうせ隠れてコソコソシコシコチョメチョメしようとか思ってるんでしょ?そんな事したらR-18になって制限かかっちゃうからね!』

 

診療所に変な物を置いていた奴がよく言うよ。

 

『それじゃコロシアイ生活をゆっくり楽しんでいってねー!』

 

要件だけ伝え終わるとモノクマは去っていった。

 

「やっと行ったな。」

 

「塩撒いとくか?」

 

「撒くのはどうかと…そうですわ、盛り塩を置きましょう。」

 

「いいなそれ。」

 

「あー…盛り塩はいいが、まずは探索をしないか?まだプールも見てないしな。」

 

「そぉだねー。」

 

俺、ジョン、弦野が男子更衣室を、聞谷、黒瀬、筆染が女子更衣室を調べる事になった。

中には着替えを入れるためのロッカー、トレーニング器具、冷蔵庫などがあった。

冷蔵庫には、経口補水液が8人分入っている。

壁にはモノクマの気色悪いグラビア写真が貼られていた。

 

「Ugh…」

 

「あの野郎、汚物を貼り付けてんじゃねぇよ。」

 

「同感だ。目障りだし捨てるか。」

 

そんな会話をしつつ奥の扉を開けると、その先はプールになっていた。

飛び込み台やウォータースライダー、波の出るプールまであった。

 

「Wow,コイツはたまげたぜ。」

 

「すごいな…」

 

プールをしばらく探索していると、更衣室から女子3人が出てきた。

 

「あら、皆さん。もう探索はお済みでしたのね。」

 

「ああ。男子更衣室には、ロッカーとトレーニング器具、あとは冷蔵庫の中にドリンクが入ってたぜ。」

 

「あ、何だ。そっちも同じ感じだったんだね。女子更衣室にも多分男子更衣室と同じ物しか置いてなかったと思うよ?…あと、モノクマの男性アイドルユニットの写真ならあったけど。」

 

「うわ、想像しただけで気色悪いな。」

 

女子の方はアイドルの写真だったのか。

モノクマの奴、いちいち気持ち悪い事しやがって。

 

「どうする?建物の探索は終わったし、そろそろ研究室の探索する?」

 

「んー。」

 

 

 

アミューズメント施設の探索を終えた俺達は、近くにあった建物を見つけた。

クラシック調の外見の建物で、重厚感のある扉にはヴァイオリンの絵が描かれている。

 

「あら、ここは…」

 

「あー、多分俺の研究室だわ。」

 

弦野の研究室か。

 

「入っていいか?」

 

「好きにしろよ。」

 

よっしゃ、本人のお赦しが出たし入るぞー!

 

早速中に入ると、壁や天井に無数の穴が空いており少し薄暗かった。

演奏に必要な道具は一通り揃っており、楽譜や音楽に関する本が並べられた本棚もあった。

 

「なんか音楽室みたーい。」

 

「え、嘘でしょ!?ストラディヴァリウスがあるじゃん!!」

 

「What’s it?」

 

「確か、数億から数十億の値打ちがある超高級ヴァイオリンじゃなかったっけ?すごいねー、そんな物まで置いてあるんだー。」

 

「…それ、多分俺の。」

 

「えっ?」

 

「それ、俺が使ってたやつなんだよ。何でこんな所にあるのかは知らねーけど。」

 

「No way…」

 

「さすが超高校級…」

 

すると弦野はため息をついて研究室のドアを開けた。

 

「もう行こうぜ。」

 

「え、もういいのか?」

 

「別に好きでやってたわけじゃねーしな。次行くぞ次。」

 

随分と雑だな。

まあでも本人が言ってるんだし長居する理由はないか。

俺達は、弦野の研究室を後にして次の研究室に向かった。

 

 

 

次に見えてきたのは、真っ白な壁でシンプルな造形の建物だった。

木製の扉にはパレットの絵が描かれている。

ここは…多分【超高校級の画家】の研究室だな。

 

「あ、次はあたしの研究室だね!早速中入ろー!」

 

筆染は、上機嫌で俺達を研究室に招き入れた。

研究室の中はアトリエになっており、絵を描くのに必要な道具が一通り揃っていた。

部屋に入ってから気付いたのだが、どうやらこの研究室そのものがキャンバスとして使えるらしい。

なるほど、だから外の壁も真っ白だったのか。

研究室に入った途端、筆染は目をキラキラと輝かせ早速画材を愛でるように手に取った。

 

「わぁ!!あたしのお気に入りの筆がある!!それに高級な絵の具も!!あ、これは欲しかったけど高すぎて結局買えなかったやつ!!」

 

筆染は、完全に自分の世界に入ってはしゃいでいた。

 

「あのー…筆染?」

 

「ここホント最高!!一生いてもいい!!」

 

「えーっと…」

 

このはしゃぎっぷり…

弦野とは正反対だな。

 

「…おい。」

 

「はっ!!」

 

弦野が筆染の肩に手を置くと、筆染は肩を跳ね上がらせる。

そして周りを見渡しようやく我に返ったのか羞恥で顔を真っ赤にしていた。

 

「え、えー、この度は大変お見苦しい所を…」

 

「まあ…それだけ絵が好きなのはいい事なんじゃねえの?」

 

「赤刎君!」

 

あ、表情が明るくなった。

筆染はホント素直だな。

 

「それじゃあ、そろそろ行こっか。」

 

「あれ?もういいのか?」

 

「これ以上いると一生出られなくなっちゃいそうなんで…」

 

「ああ、なるほど。」

 

俺達は、筆染が熱中する前に研究室を後にする事にした。

 

 

 

探索が終わったのでホテルに向かう方向に歩いていると、今度はキラキラと輝くメルヘンチックな建物が見えてきた。

 

「うお、何だここは。」

 

「Huh!?This window,crystalで出来てるぞ!」

 

真っ白なアンティーク調の扉には、宝箱の絵が描かれている。

ここはもしかして…

 

「ゆめちゃんの研究室かな?」

 

「多分ねー。たのもーっ!!」

 

「あ、おいバカ!!」

 

黒瀬は、俺の制止を聞かず勢いよく扉を開けた。

次の瞬間。

 

「ちょっと!!ノックくらいしなさいよ!!」

 

宝条がものすごい形相で睨んできた。

 

「わ、ごめんなさーい!」

 

「って!?黒瀬じゃないの!!アンタ何しに来たのよ!!出て行きなさいよ!!」

 

「えー?」

 

「他の5人は入っていいわ。でも黒瀬!!アンタはダメよ!!」

 

「ぶー、ゆめちゃんのいけずぅー。」

 

「待て。だったら俺も外に残る。」

 

「弦野?」

 

「黒瀬を一人にするのはお前ら的に不安なんだろ?俺は宝条の研究室に興味ねぇし。」

 

「ちょっとそれどういう意味よ!!」

 

弦野が黒瀬を外に連れて行き、研究室の中には宝条と俺達4人だけが残った。

外装同様メルヘンチックな部屋の中には宝石やら骨董品やら、値打ちのありそうなお宝がショーケースの中に入れられていた。

中には名刀やミイラなどもある。

 

「うわっ!?」

 

俺は、思わずケースを見て跳び上がった。

中には、眼球がホルマリン漬けにされた瓶が入っていたのだ。

 

「め、目玉!?」

 

「ああ、それは『オパール・アイ』よ。19世紀のノヴォセリックにいた舞台女優の瞳でね、光の加減によってその時にしか見られない色彩に変わる美しい瞳を持っていた事からその名前がついたのよ。」

 

「詳しいんだな。」

 

「ゆめが集めたお宝だもの。」

 

「へぇ…」

 

あれ?

何で宝条が集めたお宝がこんな所にあるんだ?

 

 

 

宝条の研究室を一通り見終わったので、俺達は次の建物に向かった。

今度はどこにでもある一軒家で、扉にエプロンの絵が描かれている。

 

「今度はトモコのlaboratoryだな!」

 

「一応ノックするか。」

 

俺が扉を三回叩くと、その直後扉が開く。

出てきたのは仕田原だった。

 

「あら、赤刎さん達ですか。もう探索が終わったんですか?」

 

「まあな。お前らは?」

 

「安生さんと一さんは研究室の中にいらっしゃいますよ。枯罰さんと速水さんは調べたい事があるそうなのでここにはいらっしゃいませんね。」

 

「そうなのか。」

 

「今お茶を淹れたんですけどね、皆さんもどうです?」

 

「お、じゃあ頂こうかな。」

 

俺達は、仕田原に研究室の中に入れてもらった。

中は普通の家になっていて、家事の道具が揃っている。

家政婦だから家みたいな研究室なのか。

 

俺達は、仕田原に淹れてもらったお茶を飲んでからホテルに向かった。

 

 

 

 


 

 

 

ー生存者ー

 

【超高校級の講師】赤刎円

 

【超高校級のカウンセラー】安生心

 

【超高校級の香道家】聞谷香織

 

【超高校級の脚本家】黒瀬ましろ

 

【超高校級の???】枯罰環

 

【超高校級の家政婦】仕田原奉子

 

【超高校級の冒険家】ジョナサン・ウォーカー

 

【超高校級のヴァイオリニスト】弦野律

 

【超高校級のソフトウェア開発者】一千歳

 

【超高校級のランナー】速水蘭華

 

【超高校級の画家】筆染絵麻

 

【超高校級の収集家】宝条夢乃

 

ー以上12名ー

 

 

 



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(非)日常編②

探索を終えた俺達は、探索の結果を報告し合う事になった。

 

「それじゃあ早速ミーティングを始めようか。まずは赤刎君のグループから報告してくれるかな?」

 

「ああ。俺達はアミューズメント施設に行ったんだが、1階はゲームエリア、2階はカラオケエリア、3階から5階と屋上がスポーツエリアになってたぜ。」

 

「ゲームかぁ…」

 

「スポーツエリア!?何それ楽しそう!後で行ってみよーっと!」

 

一と速水が食いついてきた。

やっぱり、自分の才能に関係のある施設が開放されると嬉しいもんなのか。

 

「あ、それと5階にはプールと更衣室があったんだけど、更衣室にはパスポートが必要らしいんだ。異性の更衣室に入ったら、大浴場の時みたく蜂の巣にされるそうだ。」

 

「物騒ですね…」

 

「赤刎君、ありがとう。じゃあ次は僕達だね。僕達は多目的ホールを調べたんだけど、多目的って名前がついてるだけあってコンサートやライブ、演劇、あらゆるイベントができるような造りになってたんだ。」

 

「ちなみに、席が使い方に合わせて動くようになってるよ!」

 

「ふーん。」

 

「あとは、楽園を囲っとる壁がひとつ引っ込んで上から見たら台形になっとる事くらいやな。」

 

枯罰がマップを開きながら言った。

 

うん、大体全部の班が情報を共有したかな。

んじゃあ今回のミーティングでわかった情報をまとめとくか。

 

・今回開放されたのは研究室4つ、アミューズメント施設、多目的ホールの6つ。

・今回開放された研究室は、仕田原、弦野、筆染、宝条の4名

・アミューズメント施設は1階はゲームエリア、2階はカラオケエリア、3階から5階と屋上がスポーツエリアになっている。

・ゲームエリアには、プレイルームにあったゲーム機とは比べ物にならない程豊富な種類のゲーム機が並んでいた。

・カラオケエリアの部屋は1〜16号室が3人部屋、17、18、19号室が20人部屋、そして20号室が50人部屋になっており、ドリンクバーも置いてあった。

・スポーツエリアは多種多様なスポーツを楽しめる仕様になっており、5階には更衣室とプールがあった。

・更衣室は男子と女子に分かれており、開けるにはパスポートが必要。異性の更衣室に入ろうとした瞬間にマシンガンが発動する。

・多目的ホールはあらゆるイベントが開催できる仕様になっており、席は可動式。

 

「…とまあ、こんな所か。」

 

「そろそろお昼にしよーよぉ、ボクお腹すいたー!」

 

「そうですね。もういい時間ですし…自分、作ってきますね!」

 

「あ、だったらアタシも手伝うよ!」

 

数十分後、いつもの3人と速水が昼食を作って持ってきてくれた。

あんな事があってモノクマに動機を配られた後だけど、探索したし飯くらいはちゃんと食わないとな。

 

「うーん、美味しい!ありがとう仕田原ちゃん!」

 

「喜んでいただけて何よりです!」

 

「はわっ…」

 

仕田原がニコッと笑うと、一がドキッとした。

…一って、やっぱ仕田原の事好きなのかな。

そんな事を考えていると、隣の席の黒瀬が絡んできた。

 

「円くん、食べさせてあげるねー。はいあーん。」

 

「やめろ。自分で食える。」

 

厄介な事に、俺はコイツに気に入られてしまったらしい。

…まあ、そうしてるうちはコイツも人を殺さないだろうし、俺から離れようとしないからわざわざ監視しなくていいって事だけはありがたい事なんだけどよ。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

飯の後は自由時間となったので、俺は湊の研究室に行った。

 

「…。」

 

元々何も物がなくて寂しかった部屋が、湊がいない事で余計に寂しく感じられた。

たった9日間の付き合いだったけど、湊は大切な俺の親友だった。

アイツ、兄貴に殺されるとは夢にも思ってなかったんだろうな。

せっかく兄貴に会えたのに、あんな殺され方をするなんて…

 

机の中には、俺がプレゼントしたゲーム機が入っていた。

電源を入れると、俺とプレイした時のセーブデータが残っていた。

…あれがアイツとの最後の思い出になっちまったな。

 

「…。」

 

俺はふと頬を何かが伝っているのに気がつく。

…無理だよ。

湊の死を乗り越えるなんて事、俺にはできない。

 

「うっ、うぅっ…湊ぉ…俺、一体どうすればいいんだよぉ…!」

 

俺は、ゲーム機を抱えたままひたすら泣いた。

泣いたって今更どうにもならない事くらいわかってる。

それでも、今だけは泣き喚かずにはいられなかった。

 

 

 

「…。」

 

泣くだけ泣いて、ようやく落ち着いてきた。

今は無理でも、少しずつ前に進んでいこう。

アイツならこういう時、俺の背中を押してくれるだろうから。

…湊。俺達はお前の分まで生きるよ。

 

そう決意を固めた俺は、湊の研究室を後にした。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

湊の研究室を出た後、俺は神崎の研究室に行った。

アイツとも、短い間だったけど仲良くやってたしな。

湊を殺した事は絶対許せねぇけど、殺された仲間の弔いはしてやらないと。

 

「…。」

 

相変わらず、神崎の研究室は様々な分野の専門書や専用の道具が置かれており、それでいて高貴な雰囲気を醸し出していた。

…だが、どうも物足りない。

やっぱり、本人がいないとこんなに立派な部屋も暗く感じられるものなんだな。

そんな事を考えながら研究室の中を歩いていると、机の上に一冊の手帳が置かれている事に気がつく。

 

「…何だこれ?」

 

俺は、いかにも高そうな革製の手帳を手に取った。

…って、これ鍵かかってんじゃねぇか。

しかも4桁の番号って…携帯のロックじゃあるまいし。

俺は試しに神崎の誕生日を入力してみたが開かなかった。

まあこれで開くとは思ってなかったけどな。

 

するとふと、母親と幼児の神崎が一緒に映っている写真が目に留まった。

どうやら母親の誕生日の写真のようだ。

 

「ひょっとして…」

 

俺は、神崎の母親の誕生日を入力してみた。

すると、カチッと音が鳴って手帳の鍵が解けた。

…アイツ、やっぱり母親の誕生日を暗証番号にしてたのか。

 

俺は、早速手帳を読んだ。

中身は、ここに連れてこられてから気付いた事、そしてアイツなりのこのコロシアイ楽園生活についての考察などが事細かに書かれていた。

しばらくページを捲っていくと、白紙のページが続いた。

そして、最後のページには弱々しく小さな字で『死にたくない』と書かれていた。

 

「…。」

 

俺は、手帳を閉じて元の場所に戻した。

完璧な人間だと思ってたけど、コイツもまだ高校生だって事には変わりない。

きっといきなりコロシアイなんかさせられて、誰にも心を許す事ができなくて、どうしようもなく怖くて寂しかったんだ。

…俺がもっとアイツの事をわかってやれていたら、湊を殺さずに済む未来もあったのかな。

 

「…神崎。俺達はお前の分まで生きてみせるから、安らかに眠ってくれ。………それと、あの時は『殺してやる』なんて言っちまって悪かったよ。」

 

俺は、神崎の席に向かって別れを告げるとそのまま研究室を後にした。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

…まだ時間があるな。

これから何をしようか?

そうだ、せっかくメダル持ってるしプレイルームで消費してこよう。

俺は、早速プレイルームに行ってガチャを引いた。

出てきたのは、男物のシルバーアクセサリーだった。

アクセサリーかぁ…

俺、こういうの付けないしな。

後で誰かにあげるか。

俺は、プレイルームを後にして散歩に出かけた。

 

「…あ。」

 

すると、歩いている途中で弦野に会った。

 

「よ、弦野。」

 

「…オメー、こんな所で何してんの?」

 

「ああ、いや…プレイルームで遊んできたし、今度は散歩でもしようかなーって…」

 

「それ、暇っつー事か?」

 

「そうなるわな。」

 

「…まあ、俺も別に大事な用事があったかっつーとそうじゃねぇんだけどよ。」

 

弦野は、両手をポケットに突っ込んで視線を右にずらした。

 

「あ、そうだ。」

 

俺は、ふとさっきガチャで当てたアクセサリーの事を思い出した。

 

「これ、お前にやるよ。」

 

「は?何で俺に?」

 

「俺、こういうのつけねぇし、どうせなら誰かが持ってた方がいいかなって思って。…好きじゃなかったか?」

 

「いや、別にそうは言ってねえけどよ…お前がプレゼントしてくるとは思わなかったから…えっと、その…ありがとよ。」

 

弦野は、少しキョドった様子でアクセサリーを受け取った。

別に喜んでないわけじゃないんだけど、なんかぎこちない感じだな。

…もしかして、人に優しくされるのに慣れてないのかな?

 

「用事はそれだけ。じゃあな。」

 

「待てよ。」

 

俺が手を振ってその場を去ろうとすると、弦野に呼び止められた。

 

「…その、さ。人に物貰ったら礼をすんのが筋ってもんだろ?お前、何か欲しいものとかねぇの?」

 

「…。」

 

俺は、思わず目をパッチリと大きく開いて何度も瞬きをした。

弦野から礼なんて言葉が出てくるとは思わなかったから、意外だった。

 

「…何だよそのツラは。」

 

「あ、いや、別に…」

 

「で?何が欲しいんだよ。」

 

「そう言われてもなぁ。別に見返りが欲しくてプレゼントしたわけじゃねぇし。…あ、そうだ。だったらさ、これからちょっと話さないか?お前とはあんまり話す機会なかっただろ?」

 

「…。」

 

「あ、もしかして話すの嫌い?」

 

「んな事はねぇよ。俺も暇してたとこだし、お前がそれでいいっつーなら付き合ってやってもいいぜ。」

 

そう言って、弦野は俺を研究室に案内してくれた。

第一印象で自己中な奴だと決めつけてたけど、案外話は通じる奴なんだな。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「まあ見ての通りつまんねー所だけどよ。ゆっくりしてけよ。」

 

「おっす、お邪魔しまーす。」

 

すると、研究室に入った途端弦野が何やら準備をし始めた。

 

「ん?お前、何してんの?」

 

「あ?客来たら茶出すのは常識だろ。」

 

お、おう…

まさかあの弦野の口から常識なんて言葉が出てくるとは…

そういえばテレビでは普通に受け応えしてたし、根は案外常識人なのかもしれない。

 

「…なあ、弦野。」

 

「何だよ。」

 

「何で急に協力的になったんだ?協力してくれるのはいい事なんだけどさ。」

 

「…別に。いつまでも意地張ってんのもダセェなって思っただけだ。ほら、茶淹れたぞ。」

 

「サンキュ。」

 

俺は、弦野に淹れてもらった紅茶を飲んで一息ついた。

そして、何から話そうか話題を探っていると、ふとずっと気になっていた事が脳裏を掠める。

 

「…なあ、弦野。ずっと前から聞こうと思ってた事なんだけどさ。お前、何で急にヴァイオリン辞めちまったんだ?」

 

俺が思い切って聞くと、弦野はあからさまに嫌そうな顔をした。

 

「オメー…よりによってそれ聞くのかよ。」

 

「あ、悪い…」

 

「冗談だよ。俺も、どうせならもう打ち明けちまってもいいかなって思ってた頃だし。」

 

 

 

弦野は、ゆっくりと静かに話し始めた。

 

「…知っての通り、俺の家は代々続く音楽界の名家でな。多くの著名な音楽関係者を輩出してきたんだよ。その中には、希望ヶ峰にスカウトされた事のある逸材も何人かいた。俺も、物心ついた時から当然のように楽器をやらされてたんだ。片っ端からありとあらゆる楽器を弾かされたけど、その中でも一番才能があったのがヴァイオリンだったってわけだ。」

 

「なるほどな。だから【超高校級のヴァイオリニスト】になったのか。」

 

「ああ。…この頃はまだ良かったよ。俺もやり始めたばっかだったし、純粋に楽器を弾くのが楽しかった。だけど、俺がある日たまたま気まぐれで親父の部屋にあった楽譜を持ち出して弾いてたら、それを聴いてた家族の奴等が目の色を変えやがったんだ。」

 

「それってまさか…」

 

「ああ。その時俺が弾いた曲は、親父が高校生の頃優勝を逃したコンクールの課題曲だったんだよ。当時の親父が弾けなかった曲をまだ4歳だった俺が弾いた事で、奴等が俺の才能に目をつけたんだ。」

 

そこからは、だんだん弦野の声が暗くなっていった。

 

「…そっから先は思い出したくもない地獄みてぇな毎日だったよ。家族全員が俺を弦野家の次期当主に、史上最高のヴァイオリニストに育て上げるんだってお熱になっちまってよ。少しでも間違えたり文句を言ったりしたら気絶するまで引っ叩かれるわ、熱出して寝込もうもんなら無理矢理裸にさせられて頭から氷水ぶっかけられるわ、散々だったよ。大好きだった演奏も、いつのまにか嫌いになっちまった。でも、どんな仕打ちよりも何よりも、まだ小さかった俺にとっては俺のせいで家族が狂っていくのが一番怖かった。俺を産んだババアはヒス起こして八つ当たりしてくるし、親父は自分が叶えられなかった夢を俺に叶えさせようと必死だし、家族揃って頭イカれてんだよアイツら。」

 

…ひどい話だな。

 

「小学校は推薦で私立の名門校に行ったんだけど、授業時間以外はババアがわざわざ学校に来て練習をさせてたから友達と遊んだりなんかできなかったし、学校のイベントも参加させてもらえなかった。クラスの奴等もそれをわかってたから俺と仲良くしようとしなかったしな。先公に家で受けてる仕打ちを相談した事もあったけど、全然真面目に話を聞いてくれなくて、あろう事か親父に俺が相談してきた事をチクったんだ。アイツら、親父に金で買収されてたんだよ。」

 

なんて奴らだ、許せねぇ…!

 

「…でも、俺がちゃんと完璧な演奏をすればその時だけは優しくしてもらえたから、まだ続けられたんだ。」

 

「え、って事は何かきっかけがあるのか?」

 

「ああ。高校に上がってすぐの話だ。この頃には俺が親の言う通りちゃんとどのコンクールやコンサートでも結果を出してきたから、親の監視が少し緩くなってたから、俺は外の空気を吸いに外に出たんだ。そしたら、帰り道で不良に絡まれてよ。金でも強請られんのかと思ったら、俺が親父に殴られてボロボロになってたのを心配してくれたんだ。俺は相談するならこの人しかいないと思って、今までされてきた事を全部愚痴ったよ。そしたら、その人は俺を仲間の所に連れてってくれたんだ。その人の仲間達も不良だったけどみんないい奴らで、俺を色んな所に連れてってくれたり俺の知らねぇような事を色々教えてくれたりした。俺は、友達と一緒に遊んだりした事なかったから、夢が叶ったみたいで嬉しかったし楽しかった。…だけど、そう長くは続かなかった。」

 

「…え?」

 

「仲間全員、交通事故に巻き込まれて死んだんだよ。しかもそれは、俺の家族が仕組んだ事だった。」

 

「なっ…!!」

 

「その時、やっと気付いたんだ。コイツらは家のためなら何でもする奴等なんだって。今でも、演奏しようとすると思い出すんだよ。仲間が死んだ事、親父が俺に向けた顔…それが頭の中でチラついて手の震えが止まらなくなるんだ。」

 

なんてひどい話だ…

息子がちょっと友達と遊んだだけでその友達を殺すなんて…

弦野の奴、仲間を親に殺されたのがショックでヴァイオリンを弾けなくなっちまったのか。

 

「その後俺は、仲間を殺した奴等の言いなりになるのが嫌で家を飛び出した。誰も頼れなかったから、俺は一人で生きていく事にしたんだ。」

 

「…そっか、ありがとな。話してくれて。」

 

「お前が聞いてきたからだろが。」

 

「そういやそうだったな。」

 

弦野がジト目を向けてきたので、俺は笑って返した。

そういえば、コイツと面と向かって話すのは初めてだったな。

 

「俺もこんな所で死にたくねぇし、俺達にコロシアイをさせてる奴を許せねぇ。散々好き勝手やった後で都合が良すぎるかもしれねぇけど、協力させてくれ。」

 

「都合よくなんかねぇよ!俺はお前が協力してくれて心強い。絶対みんなで脱出しような、弦野!」

 

「…おう。」

 

弦野が右手を出してきたので、俺は力強く握り返した。

 

「…ところでさ。お前、筆染の事好きだろ?」

 

「はぁ!?何言ってんだオメー!!せっかくいい雰囲気になってたのに台無しじゃねぇかよ!!」

 

弦野は、ムキになって顔を真っ赤にした。

おやおや。この反応は図星ですな。

 

「そんなに好きなら告っちゃえよ〜。」

 

「べっ、別に好きじゃねーし!!アイツに借りを作ったままだと気持ち悪いだけだよ!!」

 

「えー、あっちはぜってーお前の事好きだぜ?」

 

「はぁ!?」

 

「…あれ?お前、もしかして気づいてなかったの?」

 

「わかるわけねぇだろそんなの!!俺、高校に上がるまでは家に縛り付けられてたんだぜ!?」

 

そういやそんな事言ってたな。

道理で女子との接し方に慣れてないわけだ。

よし、ここはクラスメイトとして背中を押してやるとしますか!

 

「だったらさ、まずは美術館とか、アミューズメント施設とか、アイツが好きそうな場所に誘ってみたらどうだ?それでまずは特に当たり障りのない話とかしながら一緒に遊んで、楽しくなってきたところでちょっとずついい感じに持ってくんだよ。」

 

「…オメー、やけにそういう事に詳しいんだな。まさか、その見た目で遊びまくってたりとか…」

 

「ははっ、ないない。職業柄生徒の悩み相談とかも請け負ってるんだよ。」

 

俺は、その後も弦野と恋バナや学校の話をした。

ずっと普通の高校生活に憧れていたからなのか、弦野は珍しく笑っていた。

 

「お、そろそろいい時間だな。んじゃ、小腹も空いてきたしそろそろ食堂行くか?」

 

「そうだな。」

 

少し小腹が空いてきたので、俺達は食堂に向かった。

弦野が協力するって言ってくれたし、これでやっとみんなの団結力が強まった気がした。

もうコロシアイなんて起こさせない。

俺達は、12人全員でここから出るんだ!

 

《弦野律との親密度が上がった!》

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「あれ?」

 

食堂に着くと、聞谷、黒瀬、筆染の3人が何かをしていた。

 

「ふふー、円くん律くんいらっしゃーい♪」

 

「何してんだお前ら?」

 

「ん?ああ、短冊に願い事書いてるの。」

 

「短冊?ああ、今朝モノクマに配られたやつか。」

 

「…テメェら、まさかそれ使って人殺して願いを叶えようとか考えてねぇよな?」

 

「おい、やめろって!」

 

「いやいや、違う違う!そういうんじゃないよ!」

 

「そうですわ!わたくし達は皆さんを殺したりなど致しませんわ!」

 

「だったら何で短冊に願い事書いてんだよ。」

 

「願掛けだよ。何もしないよりは願い事が叶いそうでしょ?」

 

「はっ、くっだらね。」

 

「もうっ、そんな言い方ないじゃん!信じる者は救われるんだよ!」

 

「そういうもんかねぇ…お前はどんな事書いたんだ?」

 

「もちろん、『みんなで一緒に外に出られますように』って書いたよ!」

 

「黒瀬も何か書いてるのか。」

 

「うん。んーとね、まーどーかーくーんーはー、ボークーのー、にーくーどーれー…」

 

「オァアアアアアアアアア!!!」

 

俺は、思わず黒瀬から短冊を奪い取った。

 

「何書いてんだお前は!!」

 

「だって、願い事を書けって…」

 

「もっと健全な事書くんだよ普通は!!」

 

「健全って何ー?ボク、よくわかんなーい。」

 

「じゃあお前は何も書くな!!」

 

「ぶーっ…」

 

ったく…油断も隙もありゃしねーぜ。

 

「赤刎さんも何か書きませんか?」

 

「え、俺?そうだな…じゃあ俺も書くか。」

 

書くとは言ったものの…何を書こうかな。

やっぱ背が伸びますようにって書くか。

…ってバカ!!

まずはシスターや弟妹達の心配をするとこだろ!!

よし、みんなが無事でいますようにって書くか。

いや、でもそれだとまるでみんなが無事じゃないのが前提みたいで何か嫌だな…

 

…あ。

そうだ。

 

俺は、願い事を書いて短冊を金の笹に飾った。

 

「あら、もう書き終わったんですの?」

 

「まあな。」

 

「円くんはー、何て書いたの?」

 

「筆染と同じような事だよ。」

 

「ふーん。ボクはキミの隣に飾ろーっと。」

 

「…お前、まさかさっき書いたやつを飾るんじゃないだろうな。」

 

「そぉだけど?」

 

「お前さぁ…自重するって事知らねぇの?」

 

「自重って何?自粛なら知ってるんだけどなー。みんな自粛自粛うるさいよね。」

 

何言ってんだコイツ。

 

「別にいいじゃん。どうせ誰かを殺して裁判で生き残らないと叶えてもらえないんだしさ。」

 

「叶う叶わないの話じゃなくて、気持ちの話だっての。下心丸出しの願い事書いた短冊飾られるとか普通に嫌だ。」

 

「むぅ…」

 

黒瀬は、頬を膨らませてジト目で俺の方を見た。

いや、不機嫌になりそうなのはこっちだから。

5人で短冊に願い事を書きながら話をしていると、他の奴等が食堂に集まってきた。

 

「おーっす、円達じゃん。」

 

「Hey,マドカ。What are you doing?」

 

「ああ、えーっとな…」

 

「ぎゃああああああああっ!!?」

 

突然、一が叫び声を上げて尻餅をついた。

 

「?どうした一。」

 

「な、何で短冊がこんなに飾られてるの!?まさか、殺人をしようとしてる人がこんなに…ひぃいいいいいっ!!!誰か助けて!!!」

 

「いや、違うよ一。せっかく笹と短冊があるんだし、ここにいる5人で願掛けしないかって話になったんだ。」

 

「が…願掛け?」

 

「うん!あたし、ここにいるみんなで一緒に外に出たいって思ってるからさ。それを書いて笹に飾ったんだよね。ほら、実際に願い事を書いて飾った方が叶いそうな気がするでしょ?」

 

「…確かにね。言霊ってものがあるくらいだし、確かに短冊っていう目に見える形にした方が叶いそうな気はするよね。」

 

「でしょでしょ!?」

 

「な、なぁんだ…ま、紛らわしい事しないでよぉお…!」

 

一もようやく落ち着いたのか、ゆっくりと立ち上がった。

 

「それでは、皆さん集まった事ですし夕食にしましょうかね。」

 

「そうだな。」

 

仕田原達が作ってくれた飯は、相変わらず美味かった。

夕飯の後は簡単なミーティングをしてその日は解散となったので、俺は温泉に入った。

 

「あー、いい湯だったー…」

 

それじゃあそろそろ部屋に…

あれっ?

俺のパスポートが無い!?

 

…あ、そういえば食堂に置きっぱだったかも…

すぐに取りに戻ろう。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

パスポートを取りに急いで食堂に行くと、やはり俺の席にパスポートが置き去りになっていた。

 

「あー、良かった。やっぱり置きっぱなしだったか。」

 

俺は、パスポートを持って部屋に戻ろうとした。

すると、ふと食堂に飾ってあった笹が目に留まる。

 

「…?」

 

1、2、3、4、5、6…

 

あれ?

短冊が増えてる?

おかしいな…短冊を書いてたのは確か俺を含めて5人だったよな?

誰かが飾ったって事か…

ソイツも、俺達と同じように願い事を書いてモチベーションを保とうとしてたのかな?

それだけならいいんだが…

 

俺は、少し不安を抱きつつも食堂を後にした。

すると、廊下の奥から誰かの声が聞こえる。

この声は…枯罰?

俺は、何かあったのかと思って様子を見に行く事にした。

 

「………が………たやと?」

 

俺は、枯罰の話の内容が聞き取れるほど近づくと、無意識に物陰に隠れてしまった。

何故隠れたのかは自分でもわからない。

ただ、気がつくと隠れて息を殺していた。

 

「お前なぁ…そないな事でウチ呼んだんか?」

 

ん?誰かと話してるのか?

相手の声は聞こえないが…

もしかして、呼び出された…?

 

「ったく…それぐらい自分でやれや。汚れんの嫌やし、後始末が地味にめんどいねんぞ?」

 

何の話をしてるんだ?

 

「はぁ?怖い?阿呆ぬかせ。んなモン今更や。あぁ?…はぁ。もう、わかったわかった。ウチが殺しとくわ。」

 

 

 

…!!?

 

え!?

おい、今ハッキリと『殺す』って言ったよな…!?

まさか、そんな…枯罰が…殺人を…?

 

 

 

「おい。」

 

「!」

 

突然、枯罰が話を遮った。

一歩ずつこっちに近づいている。

まずいまずいまずい…!!

このままじゃ見つか…

 

 

 

「何しとんねん。」

 

枯罰は、横からひょいと顔を出した。

 

「ッーーーーー!!?」

 

俺は、思わずその場で尻餅をついた。

マズい、聞いてたのがバレた…!?

誰か助けを呼ばなきゃ、このままじゃ…

 

 

 

「ちょっと、何なの?」

 

…え?宝条?

 

「コイツが迷子になったみたいでのぉ。ここら辺ウロチョロしとったんや。」

 

「あっ…あの…お前ら、何の話してたんだ?」

 

「話?ああ、コイツが部屋の前に虫が出たってギャンギャン騒いでのぉ。退治するためにウチが呼ばれたっちゅうわけや。お前も、虫退治ぐらい自分でせぇよって思うやろ?」

 

「む、虫…」

 

何だ、そういう事だったのか…

良かったぁ。

物騒な単語が聞こえたから何事かと思ったぜ。

 

「…なぁ。」

 

「何や。」

 

「お前ら、笹に短冊飾ったりしてないよな?」

 

俺は、誰が飾ったのか気になったので率直に聞いてみた。

すると、二人とも不思議そうな表情を浮かべて首を傾げた。

 

「してへんよ。ウチ、神頼みとか苦手やしなぁ。」

 

「ゆめも知らないわよ。」

 

二人とも心当たりがないのか。

…じゃあ一体誰が飾ったんだ?

 

「そ、そうか…ならいいんだ。」

 

「ほな早う部屋戻れや。子供はもう寝る時間や。よう寝んと背ぇ伸びんぞ。」

 

「んなあっ…!!失礼だなお前!!言っとくけど、俺はお前より歳上だからな!?」

 

ったく…自分が背高いからってバカにしやがって。ムカつくなぁ。

まあでも用事があったかというとそういうわけじゃないし、今から犯人探しをする時間も必要もないし部屋には戻るか。

こうして、楽園生活の11日目が終わったのだった。

 

 

 

 

 

 


 

 

 

ー生存者ー

 

【超高校級の講師】赤刎円

 

【超高校級のカウンセラー】安生心

 

【超高校級の香道家】聞谷香織

 

【超高校級の脚本家】黒瀬ましろ

 

【超高校級の???】枯罰環

 

【超高校級の家政婦】仕田原奉子

 

【超高校級の冒険家】ジョナサン・ウォーカー

 

【超高校級のヴァイオリニスト】弦野律

 

【超高校級のソフトウェア開発者】一千歳

 

【超高校級のランナー】速水蘭華

 

【超高校級の画家】筆染絵麻

 

【超高校級の収集家】宝条夢乃

 

ー以上12名ー

 

 

 



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(非)日常編③

楽園生活11日目。

 

『おはようございます、オマエラ!!朝です!!7時になりました!!今日も元気に殺し合いましょう!!』

 

今日もまた、モノクマの耳障りなモーニングコールで起こされた。

俺は、朝の準備を済ませて8時に間に合うように食堂に向かった。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

食堂には既に安生、聞谷、速水、筆染が来ていた。

そして何より気になる事がひとつあった。

 

「あれ?」

 

何と笹に飾ってあった短冊が全部無くなっていたのだ。

 

「おい、ここに飾ってあった短冊は?」

 

「え?知らないよ?」

 

「僕が来た時には既に無かったんだ。」

 

「んー…となると…」

 

昨日飾った短冊を全部回収するなんて事をする奴は一人…もとい一匹しか思い浮かばなかった。

 

「…見てるんだろ?出てこいよ。」

 

『えー、なになにー?』

 

俺が呼ぶと、モノクマがどこからか現れる。

 

「うわ…またウザいのが出てきたよ…」

 

「速水さん、いちいち反応したら負けだよ。」

 

『ちょっとー!呼び出しておいて何ですかその態度は!で、何の用?』

 

「ここに飾ってあった短冊を回収したの、お前だよな?」

 

『そうだよ!だって、いつ殺人が起きてもいいように飾ってある短冊には目を通しておかないとダメでしょ?願い事の確認作業やら準備やら色々しなきゃいけないから、夜時間中にまとめて回収してチェックしてるんだ!』

 

「そうかよ。」

 

『ちなみに、飾ってあった短冊は全部条件を満たしてたよ。コロシアイができるよ!やったね赤刎クン!』

 

「うるさい消えろ!」

 

「アタシ達は絶対コロシアイなんかしないんだから!!」

 

『えー、それだと画面の向こう側のみんなが飽きちゃうんだけどなー。』

 

ん?

コイツ、何変な事を言ってるんだ?

 

『まあいいや、説明はしたし今回は大人しく退いてあげるよ。それじゃ頑張ってねー。』

 

モノクマは、説明し終わるとそそくさと帰っていった。

するとちょうどそこへ黒瀬、一、宝条の3人が来た。

 

「あれ…?みんな、どうしたの?何の騒ぎ?」

 

「クマさんがここにいらしたんですの。わたくし達に説明をなさってお帰りになりましたわ。」

 

「く、クマってまさかモノクマの事!?アイツ、マジで食堂に現れるのやめてよね!!」

 

「まさかまたボク達にコロシアイをさせに来たんじゃ…終わった!ボクはここで死ぬんだ!!」

 

宝条と一がパニックを起こしてしまった。

…モノクマが来たって言っただけなんだけどな。

 

「ねえみんな、クマちゃんは何を説明しに来たの?」

 

「ああ、えっと…確か、夜時間中に短冊を回収したって言ってた。それ以外は何も言ってなかったよ。」

 

「ふーん。」

 

するとそこへ、枯罰、仕田原、ジョン、弦野の4人が朝食を作って持ってきてくれた。

朝食の後は軽めのミーティングを済ませ、その後は各自自由行動の時間となった。

まずはどこに行こうか?

…そうだ、今回はまだ行ってない多目的ホールに行ってみよう。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

俺は、多目的ホールに行って探索を行う事にした。

席は一階席と二階席があって、ホール内にある機械で動かせるようになっていた。

入り口付近には控室があり、そこには様々な小道具があり小窓から外の様子が見えるようになっていた。

…おっと、部屋にメダルが落ちてるな。

後でガチャが引けるから拾っておこう。

 

「…ん?」

 

俺が控室から出ると、何やらピアノの音が聴こえてきた。

聴いていて惹きつけられる音色だ。

クラスメイトの中で音楽系の才能を持ってるのは弦野だけだけど、アイツピアノも弾けたのか?

そう思って舞台の方に目を向けると、ピアノを弾いているシルエットが見える。

そのシルエットの正体は、予想外の人物だった。

 

「…枯罰?」

 

俺が声をかけると、枯罰は演奏の手を止めて俺の方を向いた。

 

「おう。お前か。何の用かいな?」

 

「ここの探索をしようとしてたところなんだ。今の演奏、良かったぞ。」

 

「別に。こんなん一般教養やわ。バ神崎と弦野の方が良う弾きよるやろ。」

 

枯罰は相変わらずクールだな。

それにしてもバ神崎って…

コイツ、神崎の事そんな呼び方してたのか。

 

「いや、でも十分コンサートとかで弾ける出来だったと思うぞ。頭は良いし、武道も料理も楽器もできるし、お前ってホント何でもできるんだな。もしかして【超高校級の万能人】とかなんじゃねぇの?」

 

「バ神崎と被るやろ。不正解や。」

 

「あ、そうなんだ…なぁ、そろそろ教えてくれてもいいんじゃないか?お前の才能。」

 

「教えん言うとるやろがド阿呆。…どのみちウチが言わんでもそのうち明るみになるやろしなぁ。」

 

「どういう事だ?」

 

「ウチの秘密を引いた奴がおるんや。ソイツが見たウチの秘密は、ウチの才能やった。」

 

「お前がそれを知ってるって事は…」

 

「ああ。ソイツはわざわざご丁寧な事にウチに報告してきよったんや。一応バラしたらどつく言うて釘刺しといたけど、アイツ口が堅いタイプやないし気まぐれでポロッと言うてまうかもな。」

 

…枯罰の秘密を知ってる奴、か。

口が軽くて、尚且つ枯罰に真っ正面から堂々と秘密を報告しに行ける図太さを持つ奴…

こんな奴、一人しかいないな。

…最悪だ。

まさか黒瀬が枯罰の弱みを握っていたなんて。

本当に黒瀬が枯罰の秘密を引いたんだとすれば、今の状況は相当ヤバい。

もし黒瀬が枯罰の秘密をバラしでもして、二人が殺し合うような事にでもなれば…

流石に枯罰なら殺される事はないと思うけど、黒瀬は殺人鬼だしな。

少なくとも二人のうちのどっちかはタダじゃ済まない筈だ。

どうしたものか…

 

そんな事を考えていると、枯罰が徐に口を開いた。

 

「…一つ、頼んでええか?」

 

「何だ?」

 

「ウチの弱みを握っとるド阿呆のせいでウチの才能が明るみになったとして、お前がそれでウチを嫌おうがどないしようが構わへん。せやけど、明るみになったウチの正体は真実として受け止めてくれへんか?」

 

「安心しろ。お前の才能が何であれ、お前はお前だ。それ以上でも以下でもない。才能がわかったくらいでお前を嫌いになったりしないさ。」

 

「…ええよ別に。受け止めてくれるだけでええ。」

 

「…。」

 

そう言う枯罰の表情は、いつになく微笑んではいたが目はどこか悲しげだった。

…人には言えない才能を持ってるって事か。

もしそうなら、俺が枯罰を仲間として信頼してやれば、枯罰も少しは救われるかもしれない。

札木や武本、湊や神崎を救ってやれなかった分、コイツの事は救ってやりたい。

 

「…枯罰。俺は、何があってもお前の事は信じてるからな。」

 

「昨日話を盗み聞きして失礼な勘違いしとった奴が言うても説得力ゼロやわ。」

 

「う…それは一旦置いといて…」

 

「ジェスチャーが古いでお前。昭和生まれか。」

 

「うっせぇ!」

 

「そういやさ、お前何でここでピアノ弾いてたの?」

 

「何となく、やな。…それとも何や?ウチが弾いとったら悪いんか?」

 

「いや、別にそうは言ってないだろ。…あ、じゃあさ。さっき弾いてた曲は何て曲なんだ?」

 

「ドビュッシーの前奏曲集第2巻第12曲『花火』。」

 

「へぇ。難しいのか?」

 

「…まあ、かなり難しい部類に入るやろな。まずお前には弾けへん。」

 

「な…聞き捨てならない事を…!」

 

「だってお前、大して弾けへんやろ?」

 

「そんな事ねぇよ!一応孤児院ではピアノ弾いてたし!…でも、不思議な事に孤児院のピアノじゃないと弾けないんだよな。」

 

「…ドレミシールでも貼ってあったんか?」

 

「何でわかった!?」

 

「ド阿呆。お前は一生ドレミシール貼って弾いとれ。」

 

「ぐぬぬ…」

 

枯罰はそう言い捨ててどこかに行ってしまった。

せっかくコイツの事は最後まで信じてやろうと決めたのに、何か腹立つな。

俺は、昼食の時間になるまで多目的ホールに残って探索をする事にした。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

昼食の後は自由時間になったので、俺は早速プレイルームに行ってガチャを引いた。

出てきたのは、見るからに高級そうな万年筆だった。

万年筆か…

自分では使う機会無いし、誰かにあげるとするか。

 

俺が考え事をしていると、筆染がプレイルームに入ってくる。

 

「あれ?赤刎君じゃん!赤刎君もここに遊びに来たの?」

 

「まあな。」

 

「あ、もしかしてそのガチャやってたの?」

 

「ああ。」

 

「あたし、それ全然良いの出ないんだよねー。赤刎君は何かいい景品出てきた?」

 

「んーと…出てきたのはこの万年筆くらいかな。」

 

「え!!?」

 

俺が万年筆を見せた途端、筆染が目の色を変えて飛びついてくる。

 

「えっ、嘘!!?そんな高級品が入ってたの!!?ちょっ…ねえ、赤刎君!!あの、厚かましいお願いではあるんだけど…それ、譲ってくれない!?絶対今度こそいい景品出してお返しするから!!この通り!!一生のお願い!!」

 

「…いや、普通にやるよ?お前が使った方がこの筆も喜ぶだろうしな。」

 

「ありがとう赤刎君!!いよっしゃああああああ!!正義は勝つんや!!!」

 

筆染は、いきなりハイテンションになってガッツポーズをした。

よくわからんが、喜んでくれたみたいだ。

 

「赤刎君!このお礼は絶対するね!何か欲しいものとかある?」

 

「いや、別にねえけど…あ、そうだ。じゃあ、お礼の代わりにちょっと話さないか?」

 

「ふぇ?そんな事でいいの?」

 

「俺は、プレゼントよりもクラスメイトと仲良くなれる方が嬉しいんだよ。」

 

「そういう事なら、もちろんいいよ!あたしの研究室来る?」

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

俺は、筆染に案内されて研究室の中に入った。

その途端、すぐに目を疑う事になる。

 

「!?」

 

何と探索に来た時は白かった壁に、目の前に美しい風景が広がっているように見える絵が描かれていたのだ。

 

「…なぁ。これってまさか、お前が…」

 

「ん?ああ、それね。せっかくなら彩りがほしくて描いてみたの。あ、そこまだ塗ったばっかりだから気をつけてね。」

 

あっぶね!!

うっかり手をついちまうとこだったよ!!

…それにしても、さすがは【超高校級の画家】だな。

たった一晩で壁画を描いちまうなんて…

一瞬異世界にでも迷い込んだのかと思ったぞ。

 

「…さて、と。何から話す?」

 

「ああ…えっと…じゃあ、お前は何で【超高校級の画家】に?」

 

「んー…強いて言うなら絵がすっごく好きだからかな。あたし、父親が画家で母親がイラストレーターなんだよね。だから、物心ついた時から自然と絵に触れてきたの。それでお父さんとお母さんが絵を描いてるのを見てあたしも真似して描いてたら、それがいつの間にか楽しくなっちゃったんだよね。」

 

「なるほどな。好きなもので才能を発揮するのって凄くないか?」

 

「やだなあ、あたしは楽しくてやってただけだし、お父さんとお母さんに比べればあたしなんてまだまだだよ!」

 

「お父さんとお母さんの事が大好きなんだな。」

 

「大好きだよ。お父さんとお母さんの絵があんまり売れなくて、あたしが画家として成功するまでは貧乏だったんだけど、あたしはお父さんとお母さんが好きだし二人が描いた絵も好きなんだ。…あたしのせいであんな事になっちゃったんだけどね。」

 

「あんな事って?」

 

「あたしが小学生の頃ね。お父さんがあたしの絵を気に入って、せっかくだからSNSに上げてみんなに見てもらわないかって言ってきたの。あたしはみんなにあたしの絵を見てもらえるのが純粋に嬉しかったし、お父さんとお母さんに喜んでもらいたかったから、お父さんのアカウントで描いた絵を投稿する事にしたんだ。あ、もちろんちゃんとあたしが描いた絵だって一言添えてたよ?そしたら、そのつぶやきがものすごい勢いで拡散されて当時ネットニュースにまでなったんだよね。」

 

「すごいな。その頃から才能を発揮してたのか。」

 

「まあ、あたしは楽しくて描いてただけなんだけどね。…でもね。それを面白く思わない人もいたの。」

 

「…え?」

 

「あたしの絵がネットニュースになってから数ヶ月が経った頃だった。その時お母さんは出勤中で、あたしはお父さんと二人で出掛けてたんだ。そしたらいきなり後ろから襲われて、あたしを庇ったお父さんは頭を殴られて救急搬送されたの。あたしはお父さんが庇ってくれたから無事だったけど、お父さんは1週間目を覚まさないままだった。ちなみに犯人はその後その場にいた人が通報してくれたおかげですぐ逮捕されたんだけど、その人お父さんの大学時代の同級生だったんだよね。『せっかく同級生を蹴落として一流の芸術家になれたのに、ソイツの娘が出しゃばったせいで自分は見向きもされなくなって落ちぶれる羽目になったから復讐してやった』ってさ。当然の報いじゃんって話だよね。」

 

「ひでえ話だな…」

 

「うん。でもね、それだけじゃなかったんだ。お父さんはその後結局目を覚ましたんだけど、殴られた後遺症で目が見えなくなっちゃったの。お父さんの目が見えなくなったのを知ったお母さんは気が触れて施設に行く事になって、あたしとお父さんはおばあちゃんの家で暮らす事になったの。あたしは、お父さんがあの時の事を後悔してるんじゃないかって思ってた。あたしを庇ったりしなければ、お父さんだって大好きな絵を続けられたんだもん。でもね、お父さんは『絵麻を守れたから後悔なんてしてない』って言ってくれたの。」

 

「そっか。いいお父さんに恵まれたな。」

 

「うん。だからね、あたしは画家になろうって決めたの。画家として売れまくって、お父さんが叶えられなかった夢を叶えるんだ。それでお父さんのおかげで立派になったよって教えてあげるの。そうすればお母さんも正気に戻ってくれるかもしれない。そしたら、あの頃の日常もきっと戻ってくる。それがあたしが【超高校級の画家】になった理由だよ。」

 

「なるほどな。ありがとな、話してくれて。」

 

「えへへ…ちょっと暗い話になっちゃったかな。何か別のお話する?」

 

「そうだな…あ、そういや筆染って弦野の事好きなの?」

 

「へぁっ!!?質問がストレートすぎるよ赤刎君!!」

 

「お、ナイスツッコミ。」

 

「えへへ、ありがとう…じゃなくて!!えっ、何でそんな事聞いてくんの!?」

 

「で、どうなんだ?」

 

「そ、そりゃあ…す、好き…だけど………」

 

「ふーん。何で?」

 

「えっと…弦野君の演奏が好きだから…それに、優しくてかっこいいし…でも、そんな風に思ってるのあたしだけなんだろうなぁ。」

 

「そうか?あっちも絶対お前の事好きだと思うぜ?」

 

「えぇっ!!?ちょっ、ちょっと!!適当な事言わないでよー!!」

 

口ではそう言っているが、顔がニヤけてるし見るからに嬉しそうだな。

 

「もー、さっきまで真面目な話してたのにー!」

 

「悪い悪い。」

 

俺は、ふと16人分のデッサンが描かれたスケッチブックが目に留まる。

 

「あれ?これ何だ?」

 

「あー!ダメダメ!!」

 

筆染は、いきなりスケッチブックをひったくった。

 

「え?」

 

「これは、完成してからのお楽しみ!出来上がったらみんなに見せるの!」

 

「そっか…」

 

見たかったな。

でも、完成したら見られるんだな。

楽しみだ。

 

「赤刎君!お話聞いてくれてありがとね!」

 

「おう。また絵見せてくれよ。」

 

「もちろん!」

 

俺は、筆染と少し話をして研究室を後にした。

 

《筆染絵麻との親密度が上がった!》

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

さて。

まだ時間があるし、アミューズメント施設に行ってみよう。

俺は、アミューズメント施設へと足を運んだ。

 

 

 

「おっ。」

 

1階のゲームエリアには、仕田原と一がいた。

 

「お前ら何やってるんだ?」

 

「ああ…えっとね…仕田原さんとゲームやってたんだ…」

 

「一さん、とてもゲームが上手いんですよ!しかも機械音痴の自分なんかにも操作方法を丁寧に教えて下さったんです!」

 

「へえ、そうだったのか。」

 

ゲームねぇ…

そういやこの前も湊と一緒にゲームやってたな。

 

「なあ、せっかくだし一緒にプレイしてみないか?」

 

「あ、えっと…」

 

「え、でも自分迷惑になりませんかね!?」

 

「一とは一緒にプレイしたのに俺は迷惑なのか?」

 

「いえいえ、決してそのような事は!!」

 

仕田原の奴、相変わらずだな。

 

「それじゃあ向こうに3人でプレイできるゲームがあるからやってみようよ。」

 

「そうだな。」

 

3人でプレイできるアクションゲームがあったので、早速プレイしてみる事にした。

VRゴーグルを付けて遊ぶから臨場感がハンパないな。

 

「赤刎君って、ゲーム得意?」

 

「まあ…普通かな。」

 

「それじゃあ、仕田原さんがいるし一番簡単なのにしようか。」

 

「すみません。自分、愚図なのでお二人に迷惑かけてしまうかもしれないです。」

 

「まだプレイしてないのにそんな事言うなよ。困ったら俺と一でサポートしてくからさ。」

 

「じ、自分なんかがお二人にサポートしていただいてよろしいんですか!?」

 

「遠慮すんなって。」

 

「それじゃあ早速プレイしてみようよ!」

 

一の奴、いつになく張り切ってるな。

 

(ここで活躍して、仕田原さんにいい所見せるんだ!)

 

…何か別の方面でやる気出してるような気がするけど、まあいいか。

 

「それじゃあまずキャラクターと装備を決めてっと。」

 

…あれ?

仕田原がいないな。

もしかして…

 

俺は一度セーブしてからゴーグルを外した。

 

「すいません、自分こういうの初めてで…どうやって始めたらいいんですかね?」

 

「まずは横のボタンを押して装着するんだ。マイクはオンになってるから、困った事があったらその都度教えてね。」

 

そこからか。

…まあ、ゲーム慣れしてないなら仕方ないな。

家事を完璧にこなせる仕田原にこんな弱点があったとは。

 

「あの、キャラクターとか装備とかはどうしたらいいですか?」

 

「選ぶ時は視線を動かして選択、決まったら決定ボタンを押す。」

 

「どの装備がいいとかありますか?」

 

「んー…初心者ならこのキャラクターとマシンガンを組み合わせるのがオススメかな。照準を合わせてボタンを長押しするだけだから簡単に操作できるよ。」

 

「なるほどな。俺は仕田原のサポートに回るつもりだしライフルにしようと思ってるんだが、一はどうするんだ?」

 

「ボク?ボクはナイフにしようと思ってるんだ。」

 

「え?ナイフ?意外だな。地味じゃないか?」

 

「そう?扱いやすいし小回り利くしリロードしなくていいから便利だよ?」

 

「な、なるほど…」

 

「それじゃあ早速プレイしていこうか。仕田原さん、敵が現れたら照準を合わせて右手の人差し指のボタンを長押しするんだ。頭を狙った方がいいよ。」

 

「しょ、照準ってどう合わせるんですか?」

 

「手を動かすとそれに合わせてカーソルが動くから、カーソルを敵に合わせるんだ。」

 

「ええと…これで、えいっ!やった!倒せました!」

 

「うん、その調子でどんどん敵を倒すんだ。倒した数に応じてスコアが加算されていくから、ハイスコアを目指してどんどん倒していこう。」

 

一の奴、何か生き生きしてるな。

もしかしてネト充とかいうやつか?

 

「あ、また敵が現れました!今度は多いですね…でもこれで、えいっ!」

 

「あ、あれ?何か右側のバーが赤色になってるんですけど!?」

 

「そろそろ弾切れだから早くリロードしろって事だよ。」

 

「り、リロード?どうやるんですか!?あっ、もう弾切れです!」

 

「右手の中指のボタンを押すとマガジンが出てくるから、ボタンを押しながら手を動かして同じ形の枠の中に填めるんだ。」

 

「ええっと…あっ、落としちゃいました!」

 

「途中でボタンを離したからだよ。もう一回中指のボタンを長押ししてやってみて。」

 

「ええっと…」

 

かなり苦戦してるみたいだな。

一も仕田原につきっきりだし、仕田原がリロードしてる間は俺が敵を減らしとくか。

 

「あっ!できました!」

 

するとその直後、仕田原に複数の敵が襲いかかってくる。

 

「わっ!えっと…」

 

「クソッ、敵が多くて撃ち切れねぇ…!」

 

 

 

ザシュザシュザシュッ

 

『が…え…』

 

次の瞬間、敵は首を斬られてその場に崩れ落ちた。

そこには、ナイフを持って凛々しい表情を浮かべている一がいた。

 

「仕田原さんはボクが守る。」

 

(決まった…!)

 

目に留まらぬ速度で敵を倒した一はドヤ顔とダサかっこいいポーズをキメていた。

その後も、主に一の活躍によってどんどん敵を殲滅していった。

…のはいいのだが。

 

「はははははははは!!!どうした!?もう終わりか!?」

 

一は、高笑いしながらあり得ない動きで敵を斬り殺していた。

リアリティを出すためなのかキル数に応じてキャラが返り血を浴びていくという仕様になっており、一が返り血を浴びながら上機嫌で敵を肉塊にしていく様子はもはやホラーだった。

これには、当然のように仕田原も引いていた。

 

「…一さん、すごいですね。色んな意味で。」

 

「もはやどっちが敵なのかわかんねぇよ。」

 

「はははははははは、雑魚!雑魚!!雑魚!!!もっと強い奴を連れて来い!!」

 

ひぇぇぇぇ…

顔の7割が口になるぐらい大口開けて笑ってる…

完全に別人になっちまってるよ。

これ以上一がバーサーカー化するのもアレだし、一旦ログアウトするか。

 

「…そろそろ抜けようか。」

 

「そうですね。えっと、どうやってやめるんですか?」

 

「このボタンを押してセーブしてから終了ボタンを押してゴーグルを外す。」

 

「なるほどなるほど。あ、できました。」

 

俺達は、荒れ狂う一を何とか鎮めてゲームを中断した。

 

 

 

「…ごめん、仕田原さん。」

 

一は、仕田原の前で土下座していた。

 

「いえ、そんな!一さんは悪くないですよ!!自分のような愚図を楽しませようとしてくださったんですから!!頭を上げてください!!」

 

「ボク、ゲームやると性格変わっちゃうんだよね…」

 

いや、性格というより…第二人格とか何かに取り憑かれてるとかそっち系だったような気が…

 

「調子乗らないように気をつけなきゃって思ってたんだけど、気付いたら周りが血の海になっちゃってて…」

 

やっぱり何かに取り憑かれてるじゃねぇか。

 

「せっかく仕田原さんにゲームを楽しんでもらうためにプレイしたのに、ホントごめん…」

 

「いえいえ!!一さんは自分なんかにも優しく教えて下さって、本当に助かったんですよ!!…あの、大変烏滸がましいお願いではあるのですが、また一緒にゲームをしていただけませんか?」

 

「ふへぁ!?」

 

突然、一は耳まで真っ赤になり頭からボンっと煙を出して倒れてしまった。

 

「あれ!?一さん!?もしかして、自分のような鈍間が身の程知らずなお願いをしてしまったせいで気分を害されたのでしょうか!?」

 

「いや、多分そういうわけじゃないと思うけど…」

 

どうやら仕田原に一緒にゲームをプレイしたいと言われたので緊張してしまったらしい。

まあ、捉えようによってはデートに誘われたとも取れるからな。

一にはまだ早かったか。

 

俺は、とりあえず一を涼しい所に休ませてスポーツエリアに向かった。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

スポーツエリアには、ジョンと速水がいた。

二人は、ジムで日課のトレーニングをしていた。

 

「お、円じゃん!どーしたの?」

 

「いや…ちょっと探索でもしようかと思ってここに来たんだ。」

 

「I see.マドカ、オマエも一緒にtrainingしないか!?」

 

ジョンは、ニカッと笑ってダンベルを俺の方に差し出してきた。

…これを持てと?

ハイ無理ですね。

 

「いや…遠慮しとくよ。」

 

「オマエはもっと鍛えた方がいいぞ!ほら、やってみろって!」

 

余計なお世話だ。

俺はお前らのような体脂肪率一桁のマッスルエリートじゃないんだよ。

 

「A sound mind in a sound body!」

 

健全なる精神は健全なる肉体に宿るってか。

だからって俺は別にガチムキになりたいわけじゃないんだが…

まあでも、確かに少しは鍛えた方が背も伸びるのかもしれない。

 

よし。

 

俺は、ダンベルを握って持ち上げようとする。

だが…

 

「…うっ!?」

 

痛ってぇええええええええ!!!

痛った!!え、待って!?

今、腕がビキっていったんだけど!?

うわ待って腕が全然上がらねぇ!!

 

「ッ〜!!」

 

「ちょっ…円、大丈夫!?」

 

「ココロを呼んだ方がいいな。」

 

ジョンがチャットで安生を呼んでくれた。

 

「どうしたの?」

 

「心!円がね、ダンベルを持ち上げようとしたら腕が痛いって言い出したの!何とかならない!?」

 

「…なるほどね。赤刎君。ちょっと腕を診せて?」

 

安生は、俺の痛めた腕を診察してくれた。

 

「うん、筋肉痛だね。この症状なら、患部を温めて軽くストレッチしたら良くなるよ。」

 

「あ、ありがとう…」

 

「どういたしまして。でも、運動し慣れてないのに急に重い物持ったりしたらダメだよ?」

 

「き、肝に銘じておきます…」

 

安生のおかげで助かった。

準備運動しないでいきなり重い物持つとこうなるって事だな。

その後安生のアドバイス通りにしたら、思ったより早く回復した。

この調子なら明日には全快になってるかな。

 

その後は夕食の時間になり、俺は夕食を食べた後温泉に入って部屋に戻った。

こうして、楽園生活の11日目が終わったのだった。

 

 

 

 

 


 

 

 

ー生存者ー

 

【超高校級の講師】赤刎円

 

【超高校級のカウンセラー】安生心

 

【超高校級の香道家】聞谷香織

 

【超高校級の脚本家】黒瀬ましろ

 

【超高校級の???】枯罰環

 

【超高校級の家政婦】仕田原奉子

 

【超高校級の冒険家】ジョナサン・ウォーカー

 

【超高校級のヴァイオリニスト】弦野律

 

【超高校級のソフトウェア開発者】一千歳

 

【超高校級のランナー】速水蘭華

 

【超高校級の画家】筆染絵麻

 

【超高校級の収集家】宝条夢乃

 

ー以上12名ー

 

 

 



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(非)日常編④

楽園生活12日目。 

 

『おはようございます、オマエラ!!朝です!!7時になりました!!今日も元気に殺し合いましょう!!』

 

今日もまた、モノクマの耳障りなモーニングコールで起こされた。

俺は、朝の準備を済ませて8時に間に合うように食堂に向かった。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

食堂には、安生、ジョン、聞谷、俺、一、宝条、黒瀬の順で来ていた。

今日の朝食係は枯罰、仕田原、速水の3人だった。

朝食が運ばれてきても筆染と、いつも飯を作ってくれてる弦野が来ていないので何かあったのかと思っていた、その時だった。

 

「悪い、待たせた。」

 

「お、律に絵麻!どうし…え!?」

 

何と、二人が手を繋いで一緒に食堂に入ってきたのだ。

 

「え、おい…お前らまさか…」

 

俺が二人の方を見ると、筆染が照れながら報告し始めた。

 

 

 

「えへへ。えっとですね…あたし達、付き合う事になりました。」

 

「「「「えぇっ!!?」」」」

 

「Really!!?」

 

俺達は、驚きのあまり目を丸くして二人の方を見た。

嘘だろ!!?

確かに仲は良かったし、俺も二人をくっつけようとはしたけど…まさか本当にくっつくとは。

 

「え、良かったじゃん!おめでとう絵麻!」

 

「最近お二人の仲が宜しいのでどういう事なのかと思っておりましたが…キャーッ、やっぱりそういう事でしたのね!おめでとうございます!」

 

「おめでとうございます、お二人共!」

 

「や、やめてよみんな。恥ずかしいよ…」

 

「おいリツ!!筆染とdatingしてるって!?Really!?」

 

「まあな。」

 

「え、聞いてないんだけど!?」

 

「言ってないからな。付き合う事になったの昨日だし。」

 

「つーか何でオマエはそんなにcool downしてんだ!?」

 

「いや、別に。ただ…お前らとは別の次元に到達しただけだ。」

 

うわウッゼ!!

コイツ、ちょっと調子乗ってるな。

 

「おめでとう、二人共。」

 

「ありがとう安生君!」

 

(チッ…弦野の事ちょっと狙ってたのに。まあでもゆめにはまだ安生くんとジョンくんがいるもんねー♪)

 

何か、安生とジョンが宝条にロックオンされてるような気がするんだが…

 

「おぉ、おめでとさん。ほな式場予約せな。」

 

「ねえねえー、二人ともどこまで行ったー?B?C?」

 

「もー、二人ともやめてよー!」

 

枯罰と黒瀬は相変わらずだな。

 

まさかのカミングアウトの後は、全員で朝食を食べた。

 

「絵麻、口の周りにソース付いてんぞ。」

 

「え、どこどこ?」

 

弦野は、筆染の口の周りに付いたソースを拭き取る。

 

「「「爆ぜろ。」」」

 

ジョン、一、宝条の3人は弦野と筆染に恨みがましい視線を送っていた。

 

「お前ら僻むなって。」

 

エロいジョンと、仕田原に片想い中の一はまだわかる。

宝条は…ああ、そっか。弦野の事狙ってたのか。

 

「ねえ、赤刎君…食事中にああいう事するのってどうなの?マナー的にさ…」

 

「俺に言うなよ。」

 

一の奴、ものすごい僻んでんじゃねぇか。

 

「一さんもお口の周りにパンくずが付いてますよ。」

 

「ぱぇ!?」

 

仕田原が一の口を拭くと、一は顔を真っ赤にしてフリーズしてしまった。

それを見ていたジョンの目つきはさらに恨みがましいものに変わる。

 

「クッソ…チトセまで…! I envy them!!Oh,カオリ!オレのmouthにもsauceが付いちまったから取ってくれねぇか!?」

 

「ご自分でお拭きになってはいかがですの?」

 

「Nooooo!!!」

 

ジョンはわざと口の周りにソースを塗りたくって左隣の席の聞谷にアピールするが、聞谷は呆れ顔を浮かべて拒否した。

すると、右隣の席に座っていた安生がジョンの口を拭く。

 

「ご飯はマナー良く食べようね?」

 

「…Sorry.」

 

安生がニッコリと笑いながら言うと、ジョンはガックリと肩を落として頷いた。

安生の奴、怒ると怖いもんな。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

朝食が終わり、テーブルの上を片付けようとしていたその時、速水が唐突に手を挙げた。

 

「はい!アタシからていあーん!!」

 

「提案?何かな、速水さん。」

 

「あのね、この後全員でプール大会開くの!それでその後はカラオケ大会!ねえ、いいと思わない!?」

 

「え、急にどうしたんだ?」

 

「何か昨日筋トレがてらスポーツエリアを探索してたらプール行きたくなっちゃって!せっかくだし賑やかな方がいいでしょ!?」

 

「まあ、それはいい考えですわね!」

 

「プール大会だって!楽しみだね、律君!」

 

「…そうだな。」

 

「わーい、泳いじゃうぞー。」

 

「バッカじゃないの?アンタ達ってホントガキね。プールなんかで騒いじゃって…」

 

「そんな事言わずに、宝条さんも一緒に来てよ。」

 

「そうだよ!ゆめちゃんがいた方が楽しいって!」

 

「そっ…そ、そこまで言うなら付き合ってあげてもいいわ!」

 

安生と筆染のおかげで宝条も行く気になったみたいだ。

二人とも、宝条の扱い方に慣れてるな…

 

「決まりだね!じゃあ、10時半にプールに集合ね!」

 

全員でプール大会か…

コロシアイで荒みかけた心と身体をリフレッシュするにはいい方法かもな。

よし、そうと決まれば俺も水着を選びに行かないとな。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「さてと。」

 

俺は、更衣室で選んだ水着に着替えた。

ちなみに選んだのはショートパンツタイプの海パンだ。

 

「赤刎君、もう着替え終わったの?」

 

希望ヶ峰のジャージに短パンといった格好だった。

 

「安生はジャージなんだな。」

 

「あはは、僕は泳げないからね。見学させてもらうよ。」

 

「そっか…」

 

「うう…ボク、あんまり泳げないんだけどな…」

 

一は、小学生のようなスクール海パンを履いておりラッシュガードパーカーを羽織っていた。

 

「…。」

 

「…何その目。もしかして今、地味だとか思った?」

 

「あ、いや別にそんな事は…」

 

「…あのさぁ。ボク達が参加するのはプール大会だよ?ファッションショーじゃないんだよ?泳ぐための大会なのにファッションを求めるなんて着眼点がズレてるとは思わない?しかもただでさえボクみたいな貧弱が何が悲しくてこんな肌を露出するような大会に出てるんだって話なのに、派手なの着てきたら絶対自意識過剰だと思われるよね?水着としての機能性が高くて且つ調子に乗ってると思われないためにはこれが最善の選択だったわけで…」

 

「あーもうわかった!!わかったから!!」

 

一の奴、いつにも増してねちっこいな…

 

「Hahaha,オマエら揃いも揃ってskinnyだな!」

 

「お前がガタイ良すぎなんだよ!!」

 

ジョンは、競泳水着を着ていて水泳帽とゴーグルまで付ける徹底ぶりだ。

何より、このメンツの中で一番年下という事実を疑うほどガタイがいい。

コイツの隣にいると俺がもやしみたいだから嫌なんだよな…

 

「ジョナサン、お前気合い入りすぎだろ。」

 

弦野は、普通の短パンの上に半袖のラッシュガードパーカーといった格好だった。

それにしてもコイツ、改めて見るとスタイル良いな。

意外と筋肉あるし、モデルとかやれるんじゃねぇの?

 

「い、イケメンだ…」

 

「うむ、男なのに惚れざるを得ない…」

 

「何だよ。気色悪いなテメェら。」

 

弦野が明らかに引き気味に俺達を見ている。

何だよ、褒めてやったのに。

 

「これで全員揃ったね。それじゃあ行こうか。」

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「うわ、広いね…」

 

「これは驚いた。波の出るプールまであるんだ。」

 

初めてプールに来た一と安生は驚いていた。

まあ、初見ならそういう反応になるわな。

二人がプールに興味を示していた、その時だった。

 

 

 

「お待たせー!!」

 

「すみません、着替えに手間取ってしまって…」

 

「ちょっとー、あんまりジロジロ見ないでよー!ゆめ恥ずかしいー!」

 

女子達がプールに来た。

 

「よーし、早速泳いじゃうぞー!!」

 

速水は、競泳水着を着ていた。

さすが体育会系。

ジョンと同じで気合の入り方が違うな。

そして何より、やっぱスポーツやってるだけあってスタイル良いな。

 

「Wooooooooooow!!Awesome!!」

 

「わかる。ここは天国に違いない。」

 

「あの、あまり品の無い目で見ないでいただきたいのですが…」

 

主に俺とジョンが盛り上がっていると、聞谷から蔑むような視線を向けられた。

聞谷は、丈の長い和服のようなデザインの水着を着ていた。

清楚な感じで、これはこれでアリだな。

 

「ねえねえ、みんなー。どう?ゆめ、可愛いでしょ?」

 

「Oh,ユメノ!You are very cute!」

 

「ジョンくんありがとー♡」

 

宝条は、猫被りキャラを作っていた。

さっきまで『バッカじゃないの』とか言ってた奴の態度とは思えないな。

宝条は、フリルの袖とスカート付きのビキニか。

…何だよ、宝条の奴。可愛いじゃねぇかチクショウ。

 

「あはは、速水ちゃんとジョン君は気合の入り方が違うね。」

 

「…。」

 

「あ、律君!どう?これ、自分で選んだんだけど似合ってるかなぁ?」

 

「…良いんじゃねぇの。」

 

「わーい、ありがと♪」

 

弦野が照れながら筆染を褒めると、筆染は上機嫌になった。

筆染はビキニの上に薄手の白いボレロとホットパンツを身につけていて、麦わら帽子を被っている。

弦野には悪いけどメチャクチャ可愛いな…

 

「あのぅ…本当に自分のような愚図が来てしまって良かったんですかね?」

 

「おっふ、し、仕田原さん…」

 

仕田原はスクール水着を着ていて、水泳帽とゴーグルを付けていた。

素顔見られると思ったんだけどな。

そして一はというと、仕田原に見惚れていた。

まあ仕田原はスタイル良いし素顔は美人だからな。

 

「ホンマ喧しいのぉお前ら。」

 

枯罰がため息をつきながら来た。

タンクトップとハーフパンツの水着で、上にシャツを着ていた。

他の女子はちゃんとエロ可愛い水着を着てきているというのに何だコイツは。

 

「…お前さ。何でそういう色気のいの字もないやつ着てくんの?」

 

「Read between the lines.」

 

「ジョン君が空気読めってさ。」

 

俺とジョンと一がガッカリすると、直後俺達3人は枯罰のパーフェクトアッパーでブッ飛ばされた。

 

「「「ぶべぁっ!!!」」」

 

「次おもんない事ぬかしよったら飛ばすぞコラ。」

 

「ぶべ…もうブッ飛ばされたんですけど…」

 

コイツ、ホントおっかねぇなぁ。

えーっと、これであと来てないのは黒瀬だけか。

 

 

 

「ごめんなさーい、お待たせしましたぁー。」

 

「うおっ!!?」

 

黒瀬は、ピンク色のラッシュガードパーカーとモノクマのように白と黒に分かれたビキニを着ていた、のだが…

どう見てもサイズの小さい水着を着ていたので、爆乳が揺れて今にも溢れそうになっていた。

正直、男子高校生には目の毒だ。

 

「うぉい!!お前はなんつー際どいの着てきてるんだよ!!サイズ合ってねーじゃねーか!!」

 

「だってー、ボクの背丈だとこれ以上胸のサイズが大きいやつ無かったんだもん。」

 

まあ、サイズが合わないんじゃしょうがな…くないわ!!

 

「だったらせめて前閉めろ。見てるだけでハラハラするから。」

 

「はーい。」

 

「それじゃあ、全員揃ったしプール大会始めよっか!」

 

「さんせー。まずは何するー?」

 

「ここはやっぱりswimming raceだろ!」

 

「水泳対決か…」

 

「いいね!やろう!!」

 

「人数はどうするんだ?競泳用のコースは6つあるけど。」

 

「じゃあboyはココロ以外全員、girlはparticipateしたい奴2人だけでいいよな?」

 

「え、いや…ボクは遠慮した…」

 

「ったく、しょうがねぇな。負けねーからな。」

 

「あと1人か…」

 

「枯罰ちゃん参加したら?運動得意でしょ?」

 

「…マジかーい。まあ、数合わせっちゅう事なら参加したるけど。」

 

結局男子は安生以外全員、女子は枯罰と速水が参加する事になった。

 

「みんな頑張れー。」

 

「せっかくだし誰が勝つか賭ける?ゆめは速水に賭けるわ。」

 

「ではわたくしはウォーカーさんに賭けますわ。」

 

「あたしは律君に賭けるよ。応援してるし。」

 

「可愛いから円くんに賭けよーっと。」

 

なんか女子は女子で賭け事やってんな…

俺に賭けてくれる奴がいたのは嬉しいけど、黒瀬はアレ絶対真面目に賭けてないよな。

まあいいや。

俺は泳ぎに集中しないと。

 

 

 

「それでは、もう一度ルールを確認しますね。一番早くバタフライを25m泳ぎ切った人が優勝です!では行きますよ!よーい…」

 

ピーーーーーッ

 

仕田原が笛を鳴らすと同時に全員がスタートした。

俺も全力で水を掻いて前に進む。

意外かもしれないが、俺は毎年弟妹達と一緒に海に行っている事もあって泳ぐのはそこそこ得意なのだ。

ここで活躍して、俺も男なんだぞって所を見せてやる!!

 

そう息巻いていた俺だが、その決意は数秒後いとも容易く打ち砕かれる事になる。

 

俺は、他の奴等がどれぐらい進んでいるのか確認するために一度水上に顔を上げた。

すると、信じがたい光景が目に飛び込んできた。

 

「ごぼぁ!!?」

 

俺は、思わず水中で激しくむせ返ってしまった。

何と、枯罰が人間とは思えないスピードでトップを独走していたのだ。

嘘だろ!?

オイオイオイ!!

アイツ、バケモンじゃねぇか!!

もうアイツに勝つのは無理だ。諦めよう。

 

その次にジョンと速水が並んでるって感じか。

アイツらもバリバリの体育会系だからな。

正直勝機はゼロに等しい。

 

となると、狙うのは4位か…

弦野はああ見えて文化系だし、まだ勝機がある。

ここでアイツを抜かしてカッコいい所を見せてやる!

 

ぬぉおおおおおおおおおおおおおおっ!!!

 

俺は、死に物狂いで弦野に距離を詰めた。

残り3m、2m、1m…

そしてついに…

 

 

 

俺は、弦野より僅かに早く右手で壁を叩いた。

 

「っしゃあああああああああ!!!勝ったどぉおおおおおおお!!!」

 

俺は、右拳を高々と挙げて全力で叫んだ。

俺がゴールしてから1分後、ようやく一がゴールした。

当然、ダントツのビリだった。

 

「一さん記録1分16秒。5位です。」

 

「はぁ、はぁ…何回か足ついちゃったけど何とか泳ぎ切った…」

 

ん?5位?

 

「ちょっと待て、6人で泳いでるんだから一は6位だろ?」

 

「ん?赤刎さんはまだ継続中ですよ?だってまだゴールしてないじゃないですか。」

 

「えっ?」

 

「円くーん、バタフライは両手同時にタッチしないとゴールした事にならないんだよー。」

 

マジかよ!!?

早く言えよ!!

ええいクソッ!!

 

俺は、慌てて両手を同時に壁についた。

 

「はい赤刎さん記録1分28秒。6位です。」

 

「チクショオオオオオオオオオオオ!!!」

 

俺は、膝から崩れ落ちプールサイドに両拳を叩きつけた。

 

「ふふふっ…赤刎君、バタフライは両手同時にタッチしないとダメなんだよー?」

 

「言ってやるな一、失敗は誰にでもあるさ。ププッ…」

 

一と弦野が俺を小馬鹿にしてきた。

マジでムカつくなコイツら。

特に一!お前は実質ダントツビリだったくせに調子こいてんじゃねぇ!

クソッ、俺がミスさえしなきゃお前らに勝ってたんだからな。

 

「お前らなぁ!!俺のミスで得た結果がそんなに嬉しいのかよ!?」

 

「おっと、一の旦那ァ。ダントツビリッケツ君が何か寝言を言ってますぜ。プークスクス。」

 

「負け犬の遠吠えとはまさにこの事ですなぁ。プークスクス。」

 

「ぐぎぎ…!!」

 

うっぜぇえええええええええ!!!

コイツら、煽る側に回ったらマジで癇に障る奴らだな。

見てろ、この屈辱は絶対いつか倍返ししてやらぁ!!

 

 

 

「それでは、結果をまとめたので発表しますね!」

 

仕田原が結果を発表した。

結果はこうだった。

 

1位 枯罰

2位 速水

3位 ジョン

4位 弦野

5位 一

6位 俺

 

「やーん、くやしー!やっぱ環は速いなー!」

 

「Darn!!オレがgirlsに負けるなんて…!!」

 

「まさか枯罰がダントツ1位になるとはね。」

 

「あら。という事は、賭けには全員負けたという事ですの?」

 

「そうなるね。誰も枯罰ちゃんが優勝するって予想してなかったし。いやー、それにしてもすごいね枯罰ちゃん!メッチャ速かったよ!五輪とか出れるんじゃない?」

 

「…別に。いつも通りや。」

 

いつも通りだと!?って事は、普段からあのスピードを出せるっつー事か!?

マジでバケモンじゃねーかよ!!

 

「枯罰はホント何でもできるんだな。でも、もし武本が参加したら勝敗はどうなってたかわかんねぇんじゃねぇのか?」

 

「あれ?赤刎君、知らないの?武本君、全然泳げないんだよ。」

 

「マジで?」

 

「うん。小さい頃川で溺れたのが原因で泳げなくなっちゃったんだって。」

 

「そうだったのか…」

 

百戦錬磨の武本が泳げないなんてものすごく意外だな。

 

「ちなみに漕前君は泳ぐのは少し得意で、神崎君は小、中、高と全国大会の代表候補に上がったんだって。」

 

まあ湊は運動は平均よりちょっとだけ上だったしな。

神崎は、流石としか言いようがない。

 

 

 

「それじゃあ競泳大会も終わった事だし、普通に遊ぶ?」

 

「そうだねー。円くーん、一緒にあそぼー。」

 

「えっ?」

 

「それーっ!」

 

黒瀬は、俺の腕を引っ張ってプールに飛び込んだ。

俺も黒瀬と一緒にプールの中に落ちる。

 

「いっくよー!!」

 

「がばばばばばごぼぼぼぼぼぼぼ」

 

俺は、黒瀬に強引に水中で引きずられていった。

 

「あはは…あの二人は相変わらずだね。」

 

「赤刎の奴、あれだけ黒瀬に振り回されてよく正気を保てるよな。」

 

「確かにね。それはそうと律君、何して遊ぶ?」

 

「絵麻が決めていいぜ。」

 

「じゃあ波の出るプール行こうよ!」

 

 

 

「あらあら。」

 

「ちぇーっ。ゆめ、弦野君の事いいなって思ってたのになー。」

 

「いいじゃん。二人共仲良さそうだしさ。夢乃、アタシらはアタシらで遊ぼうよ。」

 

「そうですよ!」

 

「…しょうがないわねぇ、アンタ達がどうしてもっていうならちょっとだけ付き合ってあげなくもないわ。」

 

筆染、黒瀬、枯罰以外の女子は一緒に遊ぶ事になった。

 

 

 

その様子を、安生、枯罰、ジョン、一の3人が見ている。

 

「ふふっ、みんな楽しそうでいいね。」

 

「そうか?ウチは喧しいんは苦手やなぁ。」

 

「へへへ…poolはsupremeだぜ…」

 

「…ジョン君。やめなよ。盗撮なんかしたら枯罰さんに半殺しにされちゃうよ?」

 

「わかってねぇなぁチトセは。目の前にpretty girlsがいるんだぜ?videoに収めなきゃ男じゃねぇだろ。あ、ほら。トモコがこっちにass向けたぜ。」

 

「えっ!!?」

 

「トモコはnice assしてんな。」

 

「はわわわ…」

 

 

 

「誰がええケツやと?」

 

突然、枯罰の顔がジョンと一の間に割り込んでくる。

 

「ぎゃあっ!?」

 

「Huh!?タ…タマキ!?」

 

「おーおーお兄ちゃんらええ根性しとんのぉ。まぁ〜だお仕置きが足らんかったんか?」

 

「あ、あの…枯罰さん?一旦話し合いましょ…」

 

 

 

ドガァッ

 

「「がべぁっ!!?」」

 

枯罰は、見事な体運びでジョンと一の顔に片足ずつドロップキックを叩き込んだ。

二人は、そのまま後ろにあったプールに勢いよく落ちた。

 

「汚物は消毒や。」

 

「うん、今のは二人が悪いね。」

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

…ふう。

全く、黒瀬のせいで死にかけたよ。

さてと。

泳いで腹減ったし、昼飯食いに行くか。

 

俺は、着替えを済ませて食堂へと向かった。

食堂では既にいつもの3人が昼食を用意してくれていた。

 

「うーん、眠いなぁ。」

 

「ふわぁああ…眠いわねぇ。」

 

俺達は食堂で昼食ができるのを待っていたのだが、何人かは泳ぎ疲れたせいか眠そうにしていた。

だが3人が作ってくれた飯を食べた途端にみんな目が覚め、昼食を食べ終わった後はカラオケ大会の話になった。

 

「それじゃ、カラオケ大会やるから4時に20号室に集合ね!」

 

「では、自分達は歌いながらつまめる物を作りますね。」

 

カラオケ大会か…

歌はそんなに得意な方じゃないんだけど、せっかく企画してくれたんだし思いっきり楽しまなきゃな。

俺は、部屋で仮眠を取った後時間に間に合うようにカラオケエリアに行った。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

そして4時、集合時刻には全員20号室に集まっていた。

 

「よっしゃー、それじゃカラオケ大会やるぞー!!みんな、今日はガンガン歌っちゃっていいからね!!」

 

速水がマイクを手に取り、元気よく叫んだ。

その直後場の空気が盛り上がり、俺まで何だか楽しくなってきた。

 

「それじゃあトップバッターは誰が歌う!?」

 

「じゃあオレが歌ってやるぜ!!」

 

「お、頼むぜジョン!」

 

トップバッターのジョンが気持ち良く歌い出す。

英語の歌をネイティブの発音で歌っており、聞いていて元気になる声だった。

 

「おぉ〜。」

 

「ジョン、アンタ上手いじゃん!」

 

「ぱちぱちぱち〜。」

 

「それじゃあ次は誰歌う?」

 

「はい!じゃあアタシ!」

 

速水がマイクを手に取って歌い始めた。

流行りのJ-popを歌っており、中々上手かった。

その後は、聞谷、宝条、安生、黒瀬、仕田原、一の順に歌った。

聞谷は演歌を歌い、宝条はいつもの猫被りキャラで歌い、安生は優しげな歌い方をしていた。

3人とも中々上手かった。

黒瀬は、原曲をガン無視して変な替え歌を歌った。

しかも音程が外れていて下手クソだった。

俺より下手な奴はいないと思っていたので、思わぬ安心材料がいて助かった。

仕田原はぎこちない歌い方をし、一はアニソンを歌った。

…一も上手いな。

 

「それじゃ次は円ね!」

 

「えっ、俺?」

 

ジョン、速水、聞谷、宝条、安生、一と上手い奴が歌った後で歌うのは正直気が進まなかったが、一曲は歌わなければならない感じだったので渋々歌った。

 

「…えーっと。」

 

「うん。上手だったよ。ねぇ?」

 

「うん…」

 

何か気まずい空気になってんじゃねぇか。

下手なら下手って正直に言えよ。

 

「円くん音痴なんだねー。」

 

うっせぇ。

お前にだけは言われたくない。

 

「ボクは、円くんはちょっと音痴なくらいが可愛くていいと思うよー。」

 

黒瀬がしつこく俺の頬をぷにぷにしてくる。

ウザいけど拒絶するのも疲れるだけだし、気が変わるまで放置しとくか。

 

「次は環の番だよ!」

 

「ウチかぁ?ったく、しゃあないなぁ。ホレ、マイク貸せや。」

 

枯罰は、ため息をついて呆れ顔を浮かべつつマイクを手に取る。

枯罰はどんな歌を歌うのかな。

ピアノすげー上手かったし、多分歌もメチャクチャ上手いんだろうな。楽しみだ。

 

 

 

「プ●キュアップ●キュアッ!!」

 

「だっ!!?」

 

思わず、全員がズッコケた。

何と、枯罰は美少女アニメの主題歌を歌い始めたのだ。

当然のように歌は上手かったのだが、それどころじゃなくて全く素直に感動できなかった。

その後も美少女アニメの主題歌や美少女アイドルの歌を歌った。

クールなイメージの枯罰がアニオタでドルオタだったとはものすごく意外だった。

そういやアイツ、たまに年頃の女子っぽい言動を見せる事があったけどこれは流石に想像できなかったな。

 

「歌うのとか久々やさかい張り切りすぎてもうたわ。」

 

「いや、張り切りすぎとかそういう問題じゃ…」

 

「ほな次は弦野、お前歌え。」

 

「おう。」

 

弦野は、枯罰からマイクを受け取ると声の調子を整えて歌い始める。

 

「おおっ…!」

 

弦野は、思わず目を見張るほど歌が上手かった。

これは聴いていて惚れ惚れするな。

やっぱ音楽家の家系って事もあって歌も練習させられてたのかな。

 

「…まあ、こんなもんかな。久々だしなかなか感覚取り戻せなかったけど。」

 

「98点!?」

 

「すごっ!!こんな高得点初めて見たんだけど!!」

 

「プロの歌手みたいだった!」

 

「音楽系の才能ってだけあって、歌にも応用できるんだね。」

 

「褒めすぎだっつーの。別に大した事ねぇよ。」

 

いやいや謙遜しすぎだろ。

 

「それじゃあ最後は絵麻だな。トリだしバシッと決めろよ。」

 

「任せて!あたし、律君の演奏聞いてるしカラオケとかよく行くんだよ?歌なら自信あるよー!」

 

そう言って筆染は元気よくマイクを手に取った。

筆染の歌か。

本人がそこまで言ってるんだし、よっぽど上手いんだろうな。

楽しみだ。

 

「…すまんな、ウチはちと席外すわ。」

 

そう言って枯罰が突然立ち上がり、部屋の外に出て行ってしまった。

トイレかな?

 

するとその直後、イントロが終わり歌に差し掛かった。

 

 

 

 

 

ボエェエエエエ〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 

 

…うぅ。

 

「…ど…く…。」

 

あれ?天井が見える…

 

「まど…くん。」

 

頭が痛い…

俺、今まで何してたんだっけ?

 

「円くん。だいじょーぶ?」

 

うぉっ!?

おっぱいが喋ってる!?

…って、黒瀬じゃねぇか。

 

「…あ、ああ………」

 

俺は、黒瀬に膝枕されていた。

いちち…クソッ、頭が痛い…

…って!?

何だよこれ…!!

 

部屋を見てみると、筆染以外の全員が顔を真っ青にしてぐったりとしていた。

 

「はぁー、歌うの久々だったから思いっきり歌っちゃったー!って、あれ?みんなどうしたの?」

 

…思い出した。

俺達は全員、筆染のデスボイスの餌食になったんだった。

しかし、ここまで酷い奴が現実にいたとはな。

グラスにヒビ入ってるし…

 

「う…うぅ…」

 

「じぬ…」

 

全員、筆染の聴くに耐えない歌声のせいで心身ともにズタボロになっていた。

特に弦野に至ってはもはや瀕死だった。

逆に黒瀬はあの場にいてよくノーダメージで耐えたな。

 

「みんな!?ねぇ、何があったの!?律君、しっかりして!!」

 

いや、お前のせいだよ。

 

「あーあー、予想以上やなぁ。」

 

席を外していた枯罰が呆れ顔を浮かべながら戻ってきた。

 

「…枯罰。お前、まさか知ってたのか?」

 

「たまたまな。」

 

「だったら早く言えよ!この薄情者!!」

 

「…。」

 

枯罰は、視線を逸らして誤魔化した。

 

『ちょっとちょっとー、20号室から悪魔の呻き声みたいな声が聴こえると思ったら何この大惨事!?誰か覇王色でも使ったの!?』

 

突然、モノクマが現れた。

 

『ちょっと、弦野クン死にかけてない!?これ、もしこのまま死んだら学級裁判するまでもなくクロ丸わかりだよ!?』

 

「………勝手に殺してんじゃねぇ。」

 

すると、弦野がゆっくりと目を覚ました。

 

「律君!良かった、気がついたんだね。」

 

「……まあな。…………絵麻。」

 

「何?」

 

「………これは命に関わる事だからハッキリ言わせてもらうけど、お前はもう人前で歌うな。マジで。」

 

「えっ」

 

『えっ』じゃない。

お前のせいで俺達は全員死ぬところだったんだぞ。

結局、筆染のせいでカラオケ大会の続行が困難になってしまったので今日はこれでお開きとなった。

こうして、楽園生活12日目が終わったのだった。

 

 

 

 

 


 

 

 

ー生存者ー

 

【超高校級の講師】赤刎円

 

【超高校級のカウンセラー】安生心

 

【超高校級の香道家】聞谷香織

 

【超高校級の脚本家】黒瀬ましろ

 

【超高校級の???】枯罰環

 

【超高校級の家政婦】仕田原奉子

 

【超高校級の冒険家】ジョナサン・ウォーカー

 

【超高校級のヴァイオリニスト】弦野律

 

【超高校級のソフトウェア開発者】一千歳

 

【超高校級のランナー】速水蘭華

 

【超高校級の画家】筆染絵麻

 

【超高校級の収集家】宝条夢乃

 

ー以上12名ー

 

 

 



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(非)日常編⑤

楽園生活13日目。

 

『おはようございます、オマエラ!!朝です!!7時になりました!!今日も元気に殺し合いましょう!!』

 

今日もまた、モノクマの耳障りなモーニングコールで起こされた。

俺は、朝の準備を済ませて8時に間に合うように食堂に向かった。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

食堂には既に安生、聞谷、速水、筆染が来ていていた。

いつもの3人とジョンは朝飯を作ってくれていた。

すると一、宝条、黒瀬が食堂にやって来た。

…この3人はまた遅刻か。

 

「それじゃあ全員揃ったし、朝ご飯食べようか。」

 

「さんせー。ボクもうお腹ペコペコだよぉー。」

 

朝食の後は自由時間となった。

とりあえず、プレイルームにでも行こうか。

メダルは探し出してコツコツ貯めていたのであと何枚か残っている。

 

 

 

俺は、プレイルームに行ってガチャを引いた。

出てきたのは高級そうなダイヤモンドのアクセサリーと新品のエプロンだった。

アクセサリーは…女物か。

うーん…マジで使い道が無いなぁ。

誰かにあげるか。

 

「あら、赤刎くんじゃないの。」

 

俺は、突然宝条に話しかけられた。

 

「…何だ、宝条か。」

 

「何だって何よ。失礼な男ね。ねえ、何してるの?」

 

「ああ、このモノモノマシーンで遊んでたんだ。」

 

「ふーん。アンタ、暇なのね。」

 

言い方がいちいちキツいな…

つーかここに来たって事は宝条も暇潰しに来たんじゃないのか?

…あ、そうだ。

 

「宝条。」

 

「何よ。」

 

「はい。」

 

俺は、さっき手に入れたアクセサリーを渡した。

 

「…へ?」

 

「プレゼントだよ。ほら。」

 

「はぁ?えっと…それを、ゆめに?」

 

「ああ。さっきガチャで手に入れたんだけど、俺は使えないからさ。気に入ってくれると嬉しいんだけど…」

 

「わーいありがと赤刎くん!」

 

宝条は、自分へのプレゼントだとわかった途端に猫を被ってアクセサリーを受け取った。

…気に入ってくれたのかな?

 

「ねえ赤刎くん、さっき暇してるって言ってたわよね?」

 

「ん?あ、ああ…」

 

「良かったらゆめが話し相手になってあげようか?」

 

「えっ?」

 

「何よその反応。ゆめと話せるのが嬉しくないわけ?」

 

「そうは言ってねぇよ。ただ、お前から言ってくるとは思わなくて…俺、お前とちゃんと話した事あんまりなかったからちょうど話聞けたらなーって思ってたところなんだ。」

 

「…ふーん。いいわ。とりあえずゆめの研究室来なさいよね。」

 

宝条は俺を研究室に案内した。

俺は、宝条と過ごすことにした。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

宝条は、俺がプレゼントしたアクセサリーをショーケースにしまった。

 

「それにしてもすげぇ数のお宝だな…これ全部お前が集めたのか?」

 

「そうよ?ふふーん、ゆめの事、ただの可愛いお姫様だと思ってたでしょ?でもね、ゆめは一流のコレクターでもあるのよ。ゆめの手にかかれば、こんなの余裕だわ。」

 

いや、お姫様だとは思ってないぞ。

お前の才能に驚かされたのは事実だがな。

 

「それにしても…マジで色々あるな。…もしかして、何か後ろ暗い事でもして手に入れたんじゃ…」

 

俺がボソッと呟くと、宝条の目つきが変わった。

 

「…アンタ、それ本気で言ってんの?」

 

「えっ?」

 

「ふざけんじゃないわよ!!どいつもこいつも、何も知らないくせに!!私がっ!!今までどんな思いで過ごしてきたのか…!!」

 

宝条は、今まで見た事もないくらい激しく取り乱して喚き散らした。

いつもの癇癪とは違う、本気で怒っているようだった。

 

「ほ、宝条…!?悪かったよ、軽はずみで無神経な事言った俺が悪かったから!」

 

「っ…!!」

 

宝条は肩で息をするほど取り乱していたが、何とか宥めて落ち着けた。

 

「えっと…とりあえず、何か飲むか?」

 

「…。」

 

宝条が無言で頷いたので、俺はちょうど近くに置いてあったティーセットで紅茶を淹れてやった。

宝条は、紅茶を一口飲むとふぅと一息ついた。

 

「…ゆめ、ロイヤルミルクティーが飲みたかったんだけど。」

 

「えっ、ごめん…だって何も言ってこなかったから…」

 

「ったく、それぐらい察しなさいよ。男でしょ?」

 

ええええ…無茶おっしゃいますなー…

 

「…まあでも、おかげでちょっと落ち着いたわ。」

 

「そっか。」

 

まあ、本人が落ち着いたなら良しとするか。

 

「…なあ、宝条。」

 

「何よ。」

 

「さっきは何であんなに動揺したんだ?…やっぱり、過去に何かあったのか?」

 

「………。」

 

「ああ、いや…別に言いたくないなら言わなくていいぞ。俺は…」

 

「…話すわよ。私の才能と関係ある話でもあるし。」

 

宝条は、素の喋り方で話し始めた。

 

 

 

「私、本当は実家が貧乏だったの。こんな事知られたら印象最悪だから、ずっとお金持ちのお姫様だって嘘ついてたけどね。私の親は二人揃ってバカでね、ちゃんとした仕事でお金稼ごうとしないから借金は増えてく一方だし、私をちゃんと育てる気もなかったからご飯は食べさせてもらえない日の方が多かった。あの頃はそれが当たり前なんだって思い込んでずっと我慢してたけど、本当はおとぎ話に出てくるお姫様みたいなキラキラした生活に憧れてた。だからちょっとでもそうなりたくて珍しい物とかを集めて自分だけの宝物にしてたの。…今思えば、その頃から才能を発揮してたのかもね。」

 

「なるほどな…それにしても、本当にひどい親だな。仕事も育児も碌にしないなんてよ。」

 

「ええそうよ。あんな奴らの実の娘だと名乗る事すら恥ずかしいわ。…アイツらは、結局最期までクズだった。」

 

「…最期まで?」

 

「自殺したのよ。多額の借金をして買った壺が実は偽物だとわかって借金を返せなくなったの。まあそうじゃなくても元々してた借金も雪だるま式に利子がつきまくっててとてもあんなクズ共に返せる金額じゃなくなってたんだけど。それで、闇金にまで手を出して首が回らなくなったアイツらはあの世に逃げたのよ。ホントクズでしょ?まだ幼かった私まで巻き込んで一家心中しようとしたんだから。」

 

「…その後はどうなったんだ?」

 

「…その後、誰かが通報したのか知らないけど私達は駆けつけた救助隊に救急搬送されたわ。クズ親二人は死んだけど、私だけは奇跡的に助かったの。退院した後は、クズ二人が借金をしてたヤクザに引き取られたの。ホント、あの二人にお金を貸してた人達が良心的だったのが唯一の救いだったわ。お金を返さないクズには容赦ない人達だけど、娘の私に罪はないって言って本当の娘のように可愛がってくれた。」

 

…なるほどな。

宝条もつらい人生を歩んでたんだな。

でも、宝条を引き取ってくれた人達のおかげで今の明るい宝条がいるってわけか。

 

「引き取られた日、私決めたの。私は、あんなクズ親みたいになりたくない。あんな日常は二度と送りたくない。だから自分の力で世界中のお宝を集めて、ずっと夢見てたおとぎ話のお姫様になるんだって。その日から、私は本格的に収集を始めたわ。お父さんと組のみんなは私のためにお金を用意してくれてたけど、お父さん達に頼って成り上がったと思われるのは嫌だったから、貰ったお金は投資に回して、プラス分のお金で収集をしたの。そのうち私が収集家として有名になって個展を開くようになったら、お父さん達にお金を借りなくても困らないようになった。お父さんの職業柄、私が犯罪に手を染めて収集をしてるんじゃないかっていう噂も絶えなかったけど、そんな汚い手は使わずにあくまで合法的な手段で収集をしたわ。犯罪に手を染めたりなんかしたらそれこそ私の恩人達の顔に泥を塗る事になるしね。逆に犯罪に手を染めてる同業者がいたらブタ箱送りにしてやったくらいよ。」

 

…そうか。

だからさっき、俺が後ろ暗い事でもしてたんじゃとか言った時怒ったのか。

そりゃあ、必死に努力して手に入れた功績を汚い手を使って手に入れたって勝手に決めつけられたらいい気分はしないよな。

 

「…宝条。ごめん。俺、お前の事勘違いしてたよ。お前は、誰よりも夢に向かってひたむきに努力する、そういう奴だったんだな。」

 

「な、何よ。面と向かってそういう真面目な事言わないでよ。…恥ずかしいじゃない。」

 

宝条は、照れ臭そうにそっぽを向いた。

 

「…ねえ。」

 

「何だ?」

 

「私、今まで友達いた事ないの。ここに来てアンタ達とバカやって、普通の高校生ってこういう事するんだなって初めて知ったわ。…正直、ずっとアンタ達とこうしていられればいいのにって思った事もあった。だから…」

 

「だから?」

 

「…アンタ、私の友達になりなさいよ。」

 

「は?」

 

「だから、私の友達にしてあげるって言ってるの。聞こえなかった?」

 

「何言ってんだお前。俺達、もう友達だろ?」

 

「…え?」

 

「少なくとも俺は、ここに来た日からお前の事を友達だと思ってたんだけど…お前は違うのか?」

 

「…………っ」

 

俺は当然の事を言ったつもりだった。

宝条は、突然俯いて両手で顔を塞いだ。

両手の隙間から見えた口元は、僅かに震えていた。

 

「…大丈夫か?」

 

「うるさい!何でもないわよ!!放っときなさいよ!!」

 

「お、おう…」

 

「…ねぇ。」

 

「何だ?」

 

「普通の高校生は、友達と外で食べ歩きしたり、色んな所に行って思い出作ったりするんでしょ?」

 

「まあ…な。俺も普通の高校生とは言いがたい生活してたから詳しくは知らねぇけど。」

 

「…ここから出たら、私が行きたい所に連れて行きなさいよ。」

 

「ああ。ここから出たら、12人全員で一緒に遊びに行こうな。」

 

「…。」

 

宝条は、俯いたまま無言で頷いた。

 

「…もしかして、泣いてんのか?」

 

「はぁ!?そんなわけないでしょ!?バッカじゃないの!?勘違いしないでよね!!別にアンタ達と遊びに行けるのが嬉しいわけじゃないんだから!!」

 

「はいはい。」

 

話をした後だと、宝条の素直になれない所も可愛げがあるように思えてくる。

宝条と仲良くなれて、絆がより深まった気がした。

この約束を嘘にしないためにも、俺達は全員で外に出るんだ…!!

 

《宝条夢乃との親密度が上がった!》

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

その後、昼食を摂りに食堂に向かった。

食堂に着くと、突然速水が『話がある』と言ってきた。

 

「みんなー、アタシから…つーか律から話があります!」

 

「話?」

 

「それも弦野君からって…」

 

「ほら、律!言っちゃいなよ!」

 

速水に促された弦野は、咳払いをすると話を始めた。

 

「…えっとな。今日の夜の8時から多目的ホールで演奏するから、来たい奴がいれば適当に来い。」

 

「………えっ?」

 

「だから、演奏するっつってんだよ。聴こえなかったか?」

 

「ちょっと待って、律君、どういう風の吹き回し!?あれだけ嫌がってたのに…」

 

「絵麻。お前、前に言ってたよな。外に出たら俺の演奏が聴きたいって。外に出たらと言わず今聴かせてやるよ。さっき曲が出来上がったばっかりだしな。」

 

「出来上がったばっかり?って事は…」

 

「ああ。自分で作った曲を弾くんだよ。せっかくの復帰コンサートだし、どうせなら曲まで拘りたいだろ?」

 

「まっ!!?え、待って!?いや、ちょっ…待って!?」

 

筆染の奴、メッチャ動揺してんじゃねぇか。

そんなに嬉しいのか。

 

「で、どうすんだ?来んのか来ないのか。」

 

「もちろん行くよ!!律君の演奏を生で聴けるなんて、普通なら人生で一回あるかないかくらいだもん!!」

 

「決まりだな。お前らはどうする?俺は絵麻が聴いてくれればいいし、強制じゃねぇ。」

 

「俺はもちろん行くよ。弦野の復帰コンサートなんて、行かないわけにいかないからな。ジョンも行くだろ?」

 

「Of course!」

 

「僕も是非聴きたいな。」

 

「わたくしも拝聴させて頂きますわ。」

 

「ボクも律くんの演奏聴きたいから行くよー。」

 

「アタシは準備とか手伝おっかな。」

 

「ほんならウチもやるわ。」

 

「仕田原ちゃんも聴くよね?律君の演奏!」

 

「えっ!?自分なんかが一緒に拝聴していいんですか!?」

 

「ダメって言うわけねぇだろ。お前も来いよ。」

 

「で、ではお言葉に甘えて…自分も準備のお手伝いをさせて頂きますね!」

 

「ボ、ボクも仕田原さんが行くなら…」

 

「ゆめちゃんは?」

 

「行くわよ。…聴きたいし。」

 

全員行くのか。

まあ、全員で演奏を聴けばコロシアイで荒みかけた心も癒えるし団結力も高まるからな。

それにしても自作の曲の演奏かぁ。

楽しみだな。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

…さてと。

まだだいぶ時間があるし、誰かと一緒に過ごして時間を潰そうかな。

そんな事を考えていると、仕田原が重そうな袋を運んでいるのが見えた。

 

「よいしょ…」

 

「仕田原、何してるんだ?」

 

「ああ、ええとですね…お食事を作るための食材の準備をしている所です。」

 

「そっか。って事は今忙しい?」

 

「ええと、何かご用でしょうか?」

 

「用事って程じゃないんだけど…お前に渡したいものがあるんだ。」

 

「じ、自分にですか!?」

 

「ああ。これなんだけどさ。」

 

俺は、ガチャで手に入れたエプロンを仕田原に渡した。

 

「ガチャで手に入れたんだけど、俺は使わないしお前にやるよ。」

 

「えぇっ!!?そ、そんな…あ、赤刎さんが自分にプッ、プププ…プレゼントを!?い、いけませんそんな!!」

 

「え、嫌だった?」

 

「いえ!!決してそのような事は…!!ですが、赤刎さんが自分のような無能にプレゼントをなさるという事は本来あり得ない事ですので、受け取るからにはせめて何かご奉仕をさせて頂かなくては…そうだ、でしたら自分の身体で支払わせて頂きますね!」

 

「はあ!?」

 

「あ、でもそれだと赤刎さんにゴミを差し上げる事になってしまいますよね!?そのような失言をしてしまい、大変申し訳ございません!!お詫びに死をもって償わせて頂きま…」

 

「待て待て待て待て!!!」

 

「はい?」

 

「考えよう!?プレゼントした相手に自殺される人の気持ち!!」

 

「で、ですが…」

 

「と、とりあえず…ええっと…研究室で話でもするか。」

 

俺は、ひとまず仕田原の研究室で話をする事にした。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「どうぞ…」

 

「ありがとう。」

 

仕田原が緑茶を淹れてくれたので、俺は一口飲んで気分を落ち着けた。

 

「…ふぅ。美味いな。」

 

「ありがとうございます。」

 

「なあ。仕田原ってさ、何でそんなに自分を卑下するんだ?…もしかして、過去に何かあった?」

 

「………。」

 

「あ、いや、別に言いたくないなら無理して言わなくても…」

 

「…いえ。赤刎さんが聞きたいと仰るのならお話しします。」

 

仕田原は、少し暗い表情を浮かべつつも話してくれた。

 

「自分は、今はもう開発事業によって土地を買い取られた寒村の出自でしてね。実家は非常に貧乏で、自分は家事しか取り柄のない無能だったんで両親から嫌われてました。口減らしのために山奥に置き去りにされた事もあります。ですが、そんな自分にも転機が訪れました。一家全員疫病に罹り、自分だけが生き残ったんです。自分ももう死ぬのかと諦めかけていたその時でした。たまたま村に訪れていた大企業の社長に保護して頂き、ありがたい事に治療まで受けさせて頂いたんです。後から聞いた話だとその方は自分の村の出身だったそうで、飢えと病で苦しんでいた自分を放っておけなかったそうです。」

 

「なるほどな…その後はどうなったんだ?」

 

「その方…旦那様は、使用人として働く事を条件に自分を引き取ってくださったんです。自分は、旦那様の期待に応えるため毎日必死に働きました。旦那様と奥様は自分を温かく受け入れて下さり、先輩方も親切に自分に仕事を教えて下さり、親に嫌われていた自分にもようやく居場所ができました。」

 

「いい人達だな。」

 

「はい。…そして、そこには自分を心から愛して下さる方がいたんです。旦那様には行哉さんという自分の2歳年上のご子息がいまして、使用人の中で一番歳が近かった自分はよくお話の相手をさせて頂きました。そんなある日、行哉さんは自分にとんでもない事を仰ったんです。自分の事を、妻に迎えたいと…行哉さんは聡明で紳士的な方だったので、身の程知らずではありますが自分も行哉さんに惹かれておりました。自分達がお互いに惹かれ合っている事は周知の事実だったので、自分達は結婚を前提にお付き合いをしていたんです。自分は、優しい方々に恵まれて、行哉さんにも愛して頂いてとても幸せでした。」

 

「…でした?」

 

「……亡くなったんです。2年ほど前に。その日は自分が旦那様に仕えてから7年目だったので行哉さんは自分などのためにお祝いの品を買って下さっていたのですが、向かった先で爆発事故に巻き込まれたんです。行哉さんは瀕死の重傷を負って救急搬送されましたが、病院に着いてすぐに息を引き取られました。自分は、今でも後悔してるんです。行哉さんは、自分などとお付き合いをしたばかりに亡くなってしまった。自分が不甲斐ないせいで、あの方は命を落とされたんです。」

 

「お前のせいじゃない。お前がそんな事言ったら、亡くなった彼氏さんが悲しむぞ。」

 

「………ありがとうございます。そう仰っていただけて、少し楽になりました。…その後、自分は行哉さんを亡くした悲しみをバネにより多くの人のお力になれるよう努力しました。そのおかげで、【超高校級の家政婦】と呼ばれるまでに至ったんです。」

 

そうだったのか。

…あれっ?

ちょっと待てよ?

仕田原の彼氏さんが亡くなったのって2年前だよな?

爆弾魔が出没したのも2年前から…

って事は、彼氏さんが最初の被害者だったのかもしれない。

もし俺達の中に爆弾魔がいて、この事実を知ってたとしたら仕田原が危ない。

何としてでも仕田原を守らないと…俺はもう、仲間を失いたくないんだ!!

 

「…仕田原。俺は家事とか全然出来ないからお前や枯罰に任せっきりだけど、お前もつらい事があったら俺達を頼っていいんだぞ。友達なんだし。」

 

「…ふふっ。」

 

「どうした?」

 

「いえ。あなたがあの方と同じ事を仰るので、少し可笑しくなってしまいまして。」

 

「お、おう…」

 

「…赤刎さん。自分などの話を聞いていただき、ありがとうございました。では、自分はそろそろ仕事に戻らなければならないので今日はこの辺で。」

 

「おう。また話しような。」

 

俺は、仕田原の研究室を後にした。

仕田原と話をして、俺達の絆がより強くなった気がした。

 

《仕田原奉子との親密度が上がった!》

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

その後、早めの夕食を済ませ、俺達は多目的ホールに向かった。

コンサートの準備は既に進められており、ホールはコンサートにふさわしい雰囲気になっていた。

 

「よぉ。」

 

後ろから声をかけられたので振り向いてみると、タキシードを着て髪をオールバックにした弦野が立っていた。

 

「つ、弦野!?どうしたんだその格好!?」

 

「あ?演奏するっつったろ。だから相応しい格好に着替えたんだよ。」

 

すると、弦野の後ろから枯罰と速水と筆染が現れる。

 

「中々イカしてるっしょ?アタシらが髪セットしたんだよ。」

 

「コイツ、髪は普段通りでええなんてふざけた事抜かしよるさけ、ウザったい前髪ポマードでガチガチに固めたったわ。」

 

「前髪で右目隠れてるお前に言われたかねーよ。…あと絵麻、頼むから無言で撮るのやめろ。」

 

「だってー、律君の晴れ姿だよ?後でアイコンにしちゃうもんねー。」

 

「恥ずいし紛らわしいからやめろ。」

 

「えー?あ、ごめん。ちょっと待って。」

 

「どうした?」

 

「えっと、ごめん。ゆめちゃんから呼び出されたからちょっと行ってくるね。」

 

「宝条から?」

 

「うん。大した用じゃないみたいだから、始まる前には余裕で戻って来れると思う。それじゃ行ってくるー。」

 

そう言って筆染は多目的ホールを後にした。

…って事は、今来てないのは宝条と筆染だけか。

 

「あ、そうだ。喉乾くだろうし、飲み物配るね。ましろ、頼んだもの持ってきた?」

 

「はーい。」

 

すると、全員分のドリンクを持った黒瀬がこっちに来た。

 

「はいどーぞ。」

 

「サンキュ。」

 

俺は、黒瀬からドリンクを受け取った。

黒瀬は、全員にドリンクを配った。

 

「円くーん。隣の席座っていいですかー。」

 

「好きにしろ。」

 

「わーい。」

 

俺が席につくと、黒瀬が俺の右隣にちょこんと座った。

さてと…ちょうど喉乾いたしもらったドリンクを飲むか。

俺がドリンクを飲むと、黒瀬も自分のドリンクを飲んだ。

 

…あれ?少し眠くなってきた…?

 

「…んんっ。」

 

突然、黒瀬が色っぽい声を出した。

 

「あれ?どうした黒瀬?」

 

黒瀬は、顔を少し赤らめて身体を震わせていた。

両手でスカートを掴んで両脚をモゾモゾと動かしている。

 

「……ぅぅ…お、おしっこ…」

 

「お前、まさかトイレ行きたいのか?」

 

「ぁぅ…」

 

「なら早く行ってこいよ。演奏に1時間はかかるらしいから、始まったらすぐにはトイレ行けねぇぞ?」

 

「んぅー。」

 

黒瀬は、トイレをしに多目的ホールから退室した。

まあトイレぐらいならすぐ戻ってくるだろ。

まだ8時まで1時間近くあるしな。

…ああ、クソッ。

昨日はよく寝たはずなのに眠くなってきた。

まだ時間はあるし、開始時刻まで寝る……か……………

 

 

 

 

 

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 

 

 

 

「…い。」

 

ん?

 

「おい。」

 

何だ、誰かの声が聴こえるな…

 

「起きろド阿呆!!!」

 

「びゃあっ!!?」

 

俺は、枯罰の声で目が覚めた。

…うう、耳元でデカい声出されたから耳と頭が痛い…

 

「うう、枯罰か…どうかしたのか?」

 

「ったく、どうしたもこうしたもあらへんわ。もう開始時刻やっちゅうのにお前ら全員寝とったさけウチと弦野で片っ端から叩き起こしとったんや。お前ら演奏聴く気あるんか?」

 

「えっ、開始時刻だと!?今何時!?」

 

「20時10分。」

 

「…マジか。」

 

って事は1時間近く寝てたのか…

あれ?今、他のみんなも寝てたって言ったのか?

 

「おい、他のみんなも寝てたってどういう事だ?」

 

「こっちが聞きたいわボケ。お前ら揃いも揃ってさぞ気持ちよさそうにグースカピースカ寝よってからに、スイミング帰りかなんかか?あぁ!?」

 

「今そういう小ボケはいいから。なあ、みんな眠ってたのか?」

 

「Yeah.オレはいつの間にかfall asleepしてたみたいだぜ。」

 

「アタシもー。律に叩き起こされたー。」

 

「僕もだよ。普段はこういう時寝たりしないんだけどね。」

 

「ボクも…何か、さっきはすごく眠くなったんだ。」

 

「自分もです。」

 

「う〜ん、まだ眠いですわぁ。」

 

ここにいた全員が眠っただと?

そんな偶然あり得るのかな。

…あれっ?

黒瀬の奴、戻ってないのか?

 

「なあ、枯罰。黒瀬知らないか?」

 

「知らんわ。迷子になっとるんかアイツ。ホンマどないなっとんねん。筆染と宝条もおらんしなぁ。」

 

…え?筆染と宝条も?

何だろう。何か、ものすごく嫌な予感がする…

俺がそう思っていた直後だった。

 

 

 

「!」

 

突然、全員宛てに黒瀬からチャットが来た。

 

《みんな早くカラオケエリアに来て。大至急。》

 

カラオケエリアに来いだと?

でも、何で急に…

 

《どうした急に?何かあったのか?》

 

《見た方が早いよ。いいから来て。》

 

…チッ、何なんだアイツ。

勝手にトイレに行くって言って出ていって戻ってこないと思えば、カラオケエリアで道草食ってたのか。

 

「どうする?行くか?」

 

「とりあえず行くだけ行こうぜ。絵麻達が来てなくて心配だし、このままだと気になって気持ち良く演奏できねぇからな。」

 

「…そうだな。行こう。」

 

俺達は、黒瀬の指示通り全員でカラオケエリアに向かう事にした。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

俺達は、一斉に多目的ホールから出てアミューズメント施設に向かう。

すると、その途中だった。

 

「…ねえ、何アレ。」

 

速水が指差した先を見ると、2階の窓から黒煙が上がっていた。

カラオケエリアって、確か2階だったよな…

…まさか!!

 

嫌な予感がした俺は、カラオケエリアへと走り出した。

どうか、どうか俺の思い違いであってくれ…!!

 

 

 

「黒瀬!!」

 

俺が駆けつけると、そこには消火器を持った黒瀬がいた。

黒瀬は黒煙の上がる部屋の前に立っており、俺達の姿を確認すると少し悲しそうな笑顔を浮かべた。

 

「…あはぁ、遅かったねみんな。」

 

「なあ、何があったんだ!?教えてくれ!!」

 

「ん」

 

黒瀬は、煙が上がる部屋を指差す。

俺は、恐る恐る部屋を覗いた。

 

 

 

「…う゛っ…!?」

 

部屋が焦げる匂いに混じって鼻に襲ってきた強烈な匂い。

()()が焼ける匂いに、俺は思わず吐き気を催した。

 

 

 

 

 

部屋には焦げて黒くなった血が大量に飛び散っており、部屋の隅には焼けた手首が転がっていた。

 

 

 

そして、転がった手首の近くに落ちていたものを見て、俺はさらに絶望した。

 

グシャグシャに変形したヘアピン。

 

それは、アイツがいつもつけていたものだった。

 

 

 

…どうして。

 

いつも明るく俺達を元気付けてくれたアイツが、どうして。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【超高校級の画家】筆染絵麻は、その部屋で跡形もなく吹き飛んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「キャアアアアアアアアアッ!!!」

 

「!」

 

聞谷の声で、俺は現実に引き戻される。

俺は、声の方を振り向いて聞谷に歩み寄った。

 

「どうした!?」

 

「あ、あああああああ…」

 

俺は、恐る恐る聞谷が指差した先を見る。

 

 

 

「ッーーーーー!!!」

 

 

 

 

 

個室に転がっている一つの影。

 

見間違うはずがなかった。

 

でも、その現実を受け入れる事が出来なかった。

 

 

 

せっかく、仲良くなれたと思ったのに…

 

一緒に外に出ようって約束したのに…

 

何でお前が…!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そこには、頭から血を流して息絶えた【超高校級の収集家】宝条夢乃の姿があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

ー生存者ー

 

【超高校級の講師】赤刎円

 

【超高校級のカウンセラー】安生心

 

【超高校級の香道家】聞谷香織

 

【超高校級の脚本家】黒瀬ましろ

 

【超高校級の???】枯罰環

 

【超高校級の家政婦】仕田原奉子

 

【超高校級の冒険家】ジョナサン・ウォーカー

 

【超高校級のヴァイオリニスト】弦野律

 

【超高校級のソフトウェア開発者】一千歳

 

【超高校級のランナー】速水蘭華

 

ー以上10名ー

 

 

 




ふっふっふ…
3章だもんね。
2人死ぬよ。


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非日常編①(捜査編)

そんな…

嘘だろ…?

何で筆染と宝条が…

さっきまで、あんなに元気だったのに…

 

「Ahhhhhhhhhhh!!?エマ…ユメノ…!!」

 

「いや…いやあ…!そんな…!!」

 

「絵麻…!?夢乃…!?何で…!!」

 

「うぅっ…ひ、酷い…」

 

「帰る帰る帰る帰る帰る帰る帰る帰る…」

 

みんな反応はそれぞれだったが、半数ほどはパニックを起こしていた。

冷静だったのは、枯罰と黒瀬くらいだった。

 

「…チッ。悪趣味な事しよってからに。」

 

「絵麻ちゃん、ゆめちゃん…」

 

 

 

「…絵麻?」

 

弦野は、呆然とした表情で焼けた部屋に一歩ずつ近づく。

そして、見てしまった。

焼けた部屋の隅に転がる手首と壊れたヘアピンを。

その直後、弦野は膝から崩れ落ち肩を震わせた。

 

「っ…あ゛っ…あ゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」

 

「弦野…!?」

 

弦野は、大声で叫ぶと取り乱して現場を荒らそうとした。

 

「おい!!やめぇやド阿呆!!」

 

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」

 

枯罰は、暴れる弦野を取り押さえた。

弦野は、枯罰に取り押さえられた後も暴れていた。

本来なら現場を荒らすのは責められるべき事なんだろうけど、今は弦野の気持ちがわかる。

ここに来てやっと心を許せる存在に巡り会えたのに、それを目の前で残酷に奪われたんだ。

 

「枯罰さん、僕が説得してみるからそのまま押さえてて。」

 

「言われんでもやるわ。」

 

…それにしても、ひどい有様だ。

筆染の死体は吹き飛んで原型がほとんど残っていない。

 

「ッ…!!」

 

俺は、吹き飛んだ部屋であるものを見つけ思わず目を見開く。

焼けた部屋の壁には、大きな文字で『BOMBER』と書かれていた。

そんな…まさか、現れたのか…爆弾魔が…

 

「…っ」

 

文字を見た仕田原は、顔に冷や汗を浮かべてガタガタと震えていた。

…そうだ。

仕田原の恋人は、爆弾魔に殺されてるんだ。

 

「…大丈夫か、仕田原。」

 

「……はい。ありがとうございます。」

 

もしこの殺人が爆弾魔の仕業なら、仕田原のためにも犯人を見つけないと…!

 

 

 

『うぷぷぷぷ!いやー愉快痛快!連続殺人なんて、♂♀凹凸擦っちゃった時なんかよりもっと興奮するよね!』

 

「モノクマ…!」

 

『あーあ、筆染サンひどい有様だね。もうグッチャングッチャンじゃん!これ、シロに勝ち目ある?』

 

「オマエ、何しに来やがった!?」

 

『やだなぁジョンクン!ボクは、オマエラが今一番気にしてる事について教えに来たんだよ!』

 

「気にしてる事…!?」

 

「今回は被害者が二人やけど、処置はどないなるのかっちゅう事やろ?仮に筆染と宝条をそれぞれ別の奴が殺してたとしたら、二人ともクロになるんか?」

 

『はい枯罰サンいっつも冴えてて凄いけど今回は不正解ー!その場合は、ズバリ早い者勝ちだよ!学級裁判では、先に殺した人だけをクロとして扱います!』

 

モノクマがそう言った直後、ルールが追加された。

 

 

 

ーーー

 

十七、クロが複数人いる場合、クロとして扱われるのは先に殺した1人のみです

 

ーーー

 

 

 

「なるほどなぁ。ようわかったわ。ほれ、用は済んだやろ?早う失せんかい。」

 

『全くもう、最近の若者はホントクマ遣い荒いよね!はいはいモノクマファイル!それじゃ捜査頑張ってねー。』

 

そう言ってモノクマは去っていった。

 

「今回は被害者が二人いるわけだが…検視はどうする?」

 

「さすがに別の場所を捜査できるんが4人っちゅうんはキツいで。もうこの際見張りは1人でええんとちゃう?」

 

「そうだね…じゃあ僕は宝条さんの検視をするよ。」

 

「え、安生…お前、大丈夫なのか?」

 

「だって、全員が全員医療に詳しいわけじゃないし仕方ないじゃないか。二人の仇を討つためにも、僕がやらなきゃ…!」

 

そう言う安生だったが、手が震えていた。

本当は怖いんだ。

 

「…わかりました。では、自分が安生さんのサポートをします。」

 

「筆染の方はウチがやるわ。どうせお前ら誰もやりたないやろ?」

 

「じゃあボクは環ちゃんを見張りますっ!」

 

「…。」

 

すると、ようやく落ち着いたのか弦野はゆっくりと立ち上がった。

 

「…弦野?」

 

「………俺は倉庫を見てくる。」

 

「そっか。弦野、お前もう大丈夫なのか?」

 

「ああ。さっきは悪かったよ。もう大丈夫だ。大丈夫だから………」

 

弦野は何でもないかのように振る舞うが、その瞳はどこまでも深く暗く沈んでいた。

…何か、悪い事を考えてなきゃいいけど。

俺は不安を抱きつつも、捜査を始める事にした。

 

 

 

ーーー

 

 

 

《捜査開始!》

 

 

 

まずはモノクマファイルを確認しておこう。

 

モノクマファイル③

被害者1人目は【超高校級の収集家】宝条夢乃。

死亡推定時刻は午後7時15分頃。

死体発見場所はカラオケエリアの17号室。

死因は脳挫傷。

後頭部を損傷しており出血が見られる。

 

脳挫傷か…

死体の状態を見る限り、間違いないだろう。

 

 

 

コトダマゲット!

 

【モノクマファイル③】

 

 

 

モノクマファイル④

被害者2人目は【超高校級の画家】筆染絵麻。

死亡推定時刻は午後7時25分頃。

死体発見場所はカラオケエリアの19号室。

死因は爆死。

爆発により、左手首以外の部位が吹き飛んでいる。

 

今回はちゃんと死因がわかってるのか。

それはひとまずよしとするか。

身体吹き飛んでて死因までわからないとなるとお手上げだからな。

 

 

 

コトダマゲット!

 

【モノクマファイル④】

 

 

 

よし、それじゃあ調査を進めるとするか。

今まではみんなの捜査情報をまとめるのが仕事だったけど、今回は被害者が二人もいるし俺も積極的に証拠を掴みに行かないと。

俺は、まず19号室を調べてみる事にした。

 

「Hey,マドカ。」

 

俺は早速19号室を調べていたジョンに話しかけられた。

 

「ジョンか。どうした?」

 

「一緒にevidence探そうぜ。」

 

「おう。」

 

俺は、ジョンと一緒に証拠を探す事にした。

 

「まず気になるのは…この文字だな。」

 

「BOMBERって書かれてるって事は、Ultimate bomber…【超高校級の爆弾魔】の仕業か?」

 

「おそらくな。」

 

「But…何でこのletterだけは燃えてないんだろうな?」

 

確かに…BOMBERの文字だけ焼けていないのは不思議だ。

 

 

 

コトダマゲット!

 

【壁の文字】

 

 

 

「あとは…」

 

ん?何だこれ?

床に何か落ちてるな。

辛うじて形状を留めているが…これは…警棒か?

 

 

 

コトダマゲット!

 

【警棒】

 

 

 

あと気になるのは…このロッカーだな。

何でカラオケボックスにロッカーがあるのは甚だ疑問だが、今はツッコまないでおこう。

一応この中も調べてみるか。

 

「…うぉっ。」

 

「What up?」

 

「…すげぇなこのロッカー。見ろよ、部屋が丸焦げなのにロッカーの中だけは完璧に無事だぜ。」

 

見るからに頑丈そうではあったけどな。

まさかここまで丈夫だったとは…

 

 

 

コトダマゲット!

 

【ロッカー】

 

 

 

「あれ?」

 

ロッカーの中にレインコートが入ってる。

白い粉みたいなもので汚れてるな。

 

「何だこれ…?」

 

 

 

コトダマゲット!

 

【汚れたレインコート】

 

 

 

「あと気になるのは…ん?」

 

床に何か大量に散らばってるな。

これは…紙か?

もうほとんど炭になってるけど、辛うじて書かれてる文字が読めるものがある。

F…L…………R?

 

 

 

コトダマゲット!

 

【大量の紙切れ】

 

 

 

「あと気になるのは…うわ、ドアまで見事に吹っ飛んでるな。」

 

「…Huh?」

 

「どうした?」

 

「Look.This lock,閉まってるぜ。」

 

「本当だ…」

 

ドアの鍵は内側から閉まったまま吹き飛んでいた。

という事は、密室殺人だったって事か?

 

 

 

コトダマゲット!

 

【ドアの鍵】

 

 

 

「枯罰、お前は何かわかったか?」

 

「ド阿呆。見てわからんのかボケ。身体が吹っ飛んどるんやぞ?わかるわけないやんか。…なんて、言うと思たか?」

 

「って事は何か分かったんだな。」

 

「当然やろが。見ぃ。」

 

枯罰は、筆染の手首を掴むと俺達に見せてきた。

 

「Ugh!?」

 

「う゛っ…わかったから、顔に近づけないでくれない?」

 

「…これ見てみぃ。」

 

俺の主張は完全無視ですねわかります。

俺は枯罰の態度に不満を覚えつつ、吐き気を覚えそうになるのを堪えて枯罰が見せようとしたものを見た。

 

「爪の隙間に血と皮膚が付いとるやろ?これ、誰かを引っ掻いたっちゅう事ちゃうか?」

 

なるほどな…

 

 

 

コトダマゲット!

 

【筆染の爪】

 

 

 

「それにしても…犯人はどうやって筆染を殺したんだ?爆弾魔のメッセージも残してるし、やっぱり爆弾で爆破したのかな?」

 

「…そうとは限らんぞ。」

 

「どういう事だ?」

 

「匂いや。この部屋、派手に吹き飛んどる割には火薬の匂いが全くせぇへんねん。爆弾は大抵の場合何かしらの爆薬が使われるもんなんや。せやけど、この部屋は爆薬の匂いがせぇへん。つまり、爆弾で殺されたわけやないっちゅうこっちゃ。」

 

「なるほど…」

 

 

 

コトダマゲット!

 

【部屋の匂い】

 

 

 

「枯罰、お前は事件当時何してたんだ?」

 

「事件当時気持ち良く寝とったくせに偉そうな事言うなやボケカス。」

 

「すまん。」

 

「…まあええわ。ウチは、弦野と一緒に多目的ホールの控室で最終調整しとったで。」

 

「控室か…そこで何か不審なものを見たりしなかったか?例えば、ホールから誰かが出ていくのを見たとか…あ、黒瀬以外で。」

 

「見とったら言うとるわボケ。ウチはおかしなもんは何も見てへん。弦野も多分同じやろ。」

 

「だよな。黒瀬は何かわかった事とかあるか?」

 

「そう言われましてもボクはずっと環ちゃんを見てただけなのでー。あ、環ちゃんは変な事してなかったよ。」

 

「そうか。じゃあお前は事件当時何してたんだ?」

 

「おしっこ。」

 

「いや…その前後の話をしてるんだけど。流石に何十分もトイレにいたなんて言わないよな?」

 

「んぇーっとね。部屋のおトイレ使ったんだけど、何かすぐ眠くなっちゃったからベッドで寝てたの。それでうわーやっばい寝ちゃったーってなってすぐ多目的ホールに行こうとしたんだけど、途中で2階の窓から煙が上がってるのが見えたから様子見に行ったの。そしたら部屋が燃えてたからとりあえず火を消したら絵麻ちゃんが木っ端微塵になっちゃってたのでみんなをチャットで集めましたー、というわけなのですー。」

 

状況説明は具体的だな。

信憑性は高そうだ。

 

「…なあ、黒瀬。」

 

「何ですかー。」

 

「黒瀬がトイレ行きたくなったのって、俺と一緒にドリンクを飲んだ直後だったよな?」

 

「そうですー。」

 

 

 

コトダマゲット!

 

【黒瀬の尿意】

 

 

 

「なあ、そのドリンクって、どうやって用意したんだ?」

 

「ふにゃ?ドリンクバーに入ってるみんなの好きな飲み物を紙コップに入れたんだよ?」

 

「それって、お前が自分でやった事か?」

 

「んーん。ボクがドリンクを配る係になったからやったんだよー。」

 

 

 

コトダマゲット!

 

【黒瀬の証言】

 

 

 

「ありがとう。参考になった。」

 

「えへへー、どういたしましてですー。」

 

 

 

19号室で手に入れられる情報はこれくらいかな。

俺は、次に17号室を調べてみることにした。

 

「あ、円。」

 

俺は、17号室を調べていた速水に声をかけられた。

 

「速水か。どうした?」

 

「いや、アタシ夢乃と違って証拠探しとか得意じゃないからさ。ここの捜査手伝ってくれる?」

 

「もちろんいいぞ。一緒にやろう。」

 

俺は、速水と一緒に証拠を集める事にした。

 

「さて、捜査を進めていこうか…って、部屋が荒らされてるな。」

 

「そうなんだよねー。誰かが荒らしたのかな?」

 

 

 

コトダマゲット!

 

【17号室の状態】

 

 

 

「あれ?」

 

床に包丁が落ちてるぞ。

先端の部分に少しだけ血が付いてるな。

 

「うわ、包丁が落ちてんじゃん。しかも血がついてるし。これって夢乃の血じゃないの?」

 

「どうだろう…」

 

 

 

コトダマゲット!

 

【血の付いた包丁】

 

 

 

「ねえ、円。これ見て。」

 

「どうした?」

 

「こんな所に血が跳ねてるよ。」

 

床を見ると速水の言う通り、宝条の死体からだいぶ離れた位置に血が付いている。

 

「これも夢乃の血かな?」

 

「んー…死体からだいぶ離れてるし微妙だな。」

 

 

 

コトダマゲット!

 

【床に跳ねた血】

 

 

 

「あれ?」

 

ローテーブルの角に少し血がついてるな。

宝条の死体とも位置が近い…

無関係とは思えないな。

 

 

 

コトダマゲット!

 

【ローテーブルの角の血】

 

 

 

「…あ。」

 

「どうしたの?」

 

「そういえばさ。黒瀬がドリンク配った時、お前『頼まれたものを持ってきたか』って聞いたよな?」

 

「えーっと…そうだったっけ?そうだったような気がしなくもないけど…」

 

「いや、そこはハッキリ覚えてなくていいんだ。俺が知りたいのは、黒瀬がドリンクを配ったのはお前の指示なのかって事だよ。」

 

「んー…ビミョー。アタシの指示っていうか…」

 

「微妙?」

 

「元々、せっかくだしみんなの分のドリンクを用意しないかって話になってたんだよ。コンサートの準備をしてたアタシと環と奉子と絵麻の4人でね。で、そこにましろが遅れて来て何すればいいか聞いてきたから、みんなの分のドリンク持ってくるように言ったわけ。」

 

「なるほどな…」

 

 

 

コトダマゲット!

 

【速水の証言】

 

 

 

自分で調べられるのはこれくらいかな。

安生に話を聞いてみよう。

 

「安生、大丈夫か?」

 

「…うん。仕田原さんが手伝ってくれたから、何とか検視できたよ。とは言ってもほとんど仕田原さん任せだったけどね。」

 

「そんな、汚れ仕事は自分がやりますんで安生さんは無理をなさらないで下さい。」

 

汚れ仕事って…宝条に失礼じゃないか?

まあいいか。

 

「それで、何かわかった事は?」

 

「ええっとですね。モノクマファイルに書かれていた通り宝条さんの後頭部には傷がありました。直角の部分があり、一部が平たくなっているんです。まるで、角のあるものに強くぶつかったような…」

 

角だと?

あれ?

どっかで見たような…?

 

 

 

コトダマゲット!

 

【宝条の外傷】

 

 

 

「それ以外の外傷は無かったんだな?」

 

「ええ。」

 

「なるほど…あ、そういえば、仕田原。」

 

「何でしょうか?」

 

「コンサートの準備はお前と黒瀬、枯罰、速水、筆染の5人で進めてたんだよな?」

 

「そうですよ。黒瀬さんは途中参加でしたが。」

 

「具体的にはそれぞれ何をやってたのか教えてくれないか?」

 

「ええとですね、枯罰さん、速水さん、筆染さんの3人が会場の準備と弦野さんの身支度の手伝いを、黒瀬さんがドリンク作りを、そして自分がコンサートに使う機材のチェックと備品の調達ですね。」

 

「速水、間違いないか?」

 

「あー、うん。大体そんな感じ。」

 

 

 

コトダマゲット!

 

【仕田原の証言】

 

 

 

さてと。俺も自分で調べられるところは調べてみるか。

今のところ怪しいのは…ドリンクバーだな。

俺は、ドリンクバーを調べてみた。

ドリンクバーには、全員のそれぞれ好きな飲み物が用意されている。

…ん?何か細工した痕があるな。

 

 

 

コトダマゲット!

 

【ドリンクバー】

 

 

 

ここで手に入れられる情報はこれくらいかな。

多目的ホールの方は確か一が捜査してくれてたな。

行ってみよう。

 

「一、お前は何かわかった事とかあるか?」

 

「今調べてるとこ…先にホールを調べといてよ。」

 

「わかった。」

 

そういう事なら、先に調べてみるか。

一階席は…特に変わったところはないな。

一応二階席も調べてみるか。

 

俺は、一度廊下に出て二階席に向かおうとした。

 

「…。」

 

すると、ホールから出てすぐにホールの隣に窓がある部屋がある事に気がつく。

ここは確か控室だったな。

枯罰と弦野はここで最終調整をしてたっつってたな。

…しっかし、この窓からだと廊下の様子がよく見えるんだな。

これなら誰かが外に出たらまず見逃す事はなさそうだ。

 

 

 

コトダマゲット!

 

【控室の窓】

 

 

 

俺は、廊下にある階段を登って二階席へ向かった。

二階席も特に変わったところは無いな…

俺は、登りに使った階段とは反対側の非常階段を通ってホールの外に出た。

…ん?待てよ?

非常階段を使えば、廊下を通らなくてもホールの中に入れるよな?

 

 

 

コトダマゲット!

 

【非常階段】

 

 

 

俺は再びホールの中に入り、捜査をしていた一に声をかけた。

 

「なあ、一。」

 

「…何?」

 

「あのさ、非常階段を使えば廊下を通らずにホールを出入りできるよな?」

 

「うん。でも、非常階段は使われてないんじゃないかな。」

 

「どうしてだ?」

 

「だって、仮に非常階段を使ったとして、一階席と二階席を移動するには廊下の階段を使わなきゃいけないわけだから結局枯罰さん達に見つかるよね?」

 

「まあ…そっか。」

 

「犯人はホールの外にいた人に違いないよ。」

 

そうやって決めつけていいのかな?

 

 

 

コトダマゲット!

 

【一の証言】

 

 

 

「それで、お前は何を調べてたんだ?」

 

「えっと…この機械なんだけど…」

 

一が調べていたのは、ホールの西側に設置されている、座席を移動する機械だった。

 

「それがどうしたんだ?」

 

「二回だけ使われた形跡があるんだよね…でもいつ使われたのかまでは…」

 

誰かが知らない間に機械を使ったって事か。

 

 

 

コトダマゲット!

 

【ホールの機械】

 

 

 

「一応、みんなの座席の位置を確認しておくか。それで犯人が絞れるかもしれないし。」

 

座席は、西から東に向かって番号が増え、北から南にアルファベットが進んでいくように配列されている。

座席番号は、俺がG24、黒瀬がG25、ジョンがF26、安生がH30とH31の間、聞谷がD23、速水がD22、仕田原がI18、一がI19だ。

うーん…これだけじゃ犯人を特定できないな。

 

 

 

コトダマゲット!

 

【着席位置】

 

 

 

多目的ホールで調べられるのはこれくらいか。

あとは…そう言えば聞谷が一応ホテルの方も調べてみるって言ってくれてたな。

ホテルに行ってみよう。

 

俺は、ホテルで聞谷を探した。

すると厨房に聞谷がいたので話を聞いてみる事にした。

 

「聞谷、お前は何かわかった事とかあるか?」

 

「ええとですね。安生さんに一応厨房を調べて欲しいと言われたので調べたのですが、包丁が一本無くなっていましたの。」

 

「何?包丁が?」

 

「ええ。」

 

俺も一応確認してみると、包丁立てに刺さっているはずの包丁が一本無くなっていた。

 

 

 

コトダマゲット!

 

【厨房から消えた包丁】

 

 

 

「それともう一つ…」

 

「まだあるのか。」

 

「ええ。実は、厨房にあったはずの小麦粉が大量に無くなっていましたの。」

 

「小麦粉が?」

 

「事件には関係ないと思いますけどね。」

 

 

 

コトダマゲット!

 

【小麦粉】

 

 

 

あとは…

弦野が倉庫と診療所を調べてくれてたな。

弦野に話を聞いてみよう。

 

倉庫内を探していると弦野を見つけたので、俺は話を聞いてみる事にした。

 

「弦野、お前は何かわかった事とかあるか?」

 

「ああ。倉庫から不燃性の塗料と刷毛、それとスタンガンが盗まれてた。」

 

スタンガンだと…!?

物騒だな。

 

 

 

コトダマゲット!

 

【不燃性の塗料】

 

コトダマゲット!

 

【刷毛】

 

コトダマゲット!

 

【スタンガン】

 

 

 

「それと、安生に言われて一応診療所も調べたんだけど、薬品が二種類無くなってた。」

 

「二種類?」

 

「即効性の睡眠薬と、遅効性の睡眠薬だ。即効性の方は飲んでから数秒から数分後に眠気が襲って、遅効性の方は数十分後に眠気が襲ってくるらしい。それと、遅効性の方は利尿剤みたいな副作用があるそうだ。」

 

なるほどな…

 

 

 

コトダマゲット!

 

【即効性の睡眠薬】

 

コトダマゲット!

 

【遅効性の睡眠薬】

 

 

 

「用はそれだけか?」

 

「ああ。」

 

「…そうかよ。」

 

「弦野。絶対、二人を殺した犯人を見つけ出そうな。」

 

「…たりめーだろ。絶対絵麻を殺した奴を炙り出してやる。」

 

「…。」

 

俺は、弦野の胸ポケットに不自然な膨らみがあるのを見逃さなかった。

多分、倉庫から何かを拝借してこっそり懐に入れたんだろう。

コイツ、やっぱり何か企んでるんじゃ…

 

「…あのっ。弦野…

 

 

 

ピーンポーンパーンポーン

 

『えー、もう待ちくたびれたので捜査時間を打ち切らせていただきます!オマエラ、ホテル1階のエレベーター前まで集合して下さい!15分以内に来ないとオシオキしますよー!』

 

クソッ、こんな時に…!

でも、今はここで弦野を問い詰めてる場合じゃない。

俺は、覚悟を決めてエレベーター前に向かった。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

俺と弦野がエレベーター前に到着した時には、既に他の8人は集まっていた。

その直後、アナウンスからちょうど15分になった。

 

『うぷぷぷ、ちゃんと全員集まりましたね?それでは裁判所へレッツゴー!』

 

モノクマがそう言った直後、エレベーターの扉が開く。

10人全員が乗り込んだ直後、エレベーターの扉が閉まり下に動き出した。

 

…未だに信じる事ができない。

この中に筆染と宝条を殺した犯人がいて、ソイツが爆弾魔かもしれないなんて…

 

だが、迷っている時間はない。

真実を暴かなければ、俺達に未来はない。

筆染と宝条、そして大切な人を亡くした弦野と今も爆弾魔のせいで苦しんでいる仕田原のためにも、俺が真実を明らかにしてみせる…!!

 

 

 

 

 


 

 

 

ー生存者ー

 

【超高校級の講師】赤刎円

 

【超高校級のカウンセラー】安生心

 

【超高校級の香道家】聞谷香織

 

【超高校級の脚本家】黒瀬ましろ

 

【超高校級の???】枯罰環

 

【超高校級の家政婦】仕田原奉子

 

【超高校級の冒険家】ジョナサン・ウォーカー

 

【超高校級のヴァイオリニスト】弦野律

 

【超高校級のソフトウェア開発者】一千歳

 

【超高校級のランナー】速水蘭華

 

ー以上10名ー

 

 

 



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非日常編②(学級裁判前編)

コトダマリスト

 

【モノクマファイル③】

モノクマファイル③

被害者1人目は【超高校級の収集家】宝条夢乃。

死亡推定時刻は午後7時15分頃。

死体発見場所はカラオケエリアの17号室。

死因は脳挫傷。

後頭部を損傷しており出血が見られる。

 

【モノクマファイル④】

モノクマファイル④

被害者2人目は【超高校級の画家】筆染絵麻。

死亡推定時刻は午後7時25分頃。

死体発見場所はカラオケエリアの19号室。

死因は爆死。

爆発により、左手首以外の部位が吹き飛んでいる。

 

【壁の文字】

19号室の壁には『BOMBER』と書かれていた。

何故かこの文字だけは燃えていなかった。

 

【警棒】

19号室に落ちていた。

辛うじて原型を留めている。

 

【ロッカー】

19号室にあった頑丈なロッカー。

人一人入れるサイズで、部屋全体が焦げているにもかかわらずロッカー内は無事だった。

 

【汚れたレインコート】

ロッカーの中に入っていた。

白い粉で汚れている。

 

【大量の紙切れ】

19号室の床に散らばっていた。

よく見ると『F』『L』『R』と書かれている。

 

【ドアの鍵】

ドアの鍵は内側から閉まっていた。

 

【筆染の爪】

筆染の爪には血と皮膚が付着している。

誰かを引っ掻いた可能性が高い。

 

【部屋の匂い】

部屋は爆薬の匂いが全くしない。

爆弾が使われた可能性は限りなく低い。

 

【黒瀬の尿意】

黒瀬は、ドリンクを飲んだ直後に尿意を催している。

 

【黒瀬の証言】

黒瀬は、準備をしていた他のメンバーに言われてドリンクを取りに行った。

 

【17号室の状態】

部屋は荒らされている。

何者かがここで争った…?

 

【血の付いた包丁】

17号室に落ちていた。

先端に血が少量付着している。

 

【床に跳ねた血】

宝条の死体とは離れた位置に血が跳ねている。

 

【ローテーブルの角の血】

ローテーブルの角に血が付いている。

ローテーブルは宝条の死体のすぐ近くにあった。

 

【速水の証言】

ドリンクバーのドリンクを配る事を決めたのは枯罰、仕田原、速水、筆染の4人。

 

【宝条の外傷】

宝条の頭には、角で殴られたような痕があった。

 

【仕田原の証言】

コンサートの準備の役割は、枯罰、速水、筆染の3人が会場のセッティングや弦野の手伝い、仕田原がコンサートに使う機材のチェックと備品の調達、黒瀬がドリンクの調達と配布。

 

【ドリンクバー】

ドリンクバーには、全員のそれぞれ好きな飲み物が用意されている。

何やら細工された痕がある。

 

【控室の窓】

控室の窓からは、廊下の様子がよく見える。

廊下に出た人物がいれば見逃す事はまずない。

 

【非常階段】

二階席から外に出るための階段。

 

【一の証言】

一階席と二階席の移動には廊下にある階段を使わなければならない。

 

【ホールの機械】

ホールの座席を移動するための機械。

使われた形跡があった。

 

【着席位置】

座席番号は、俺がG24、黒瀬がG25、ジョンがF26、安生がH30とH31の間、聞谷がD23、速水がD22、仕田原がI18、一がI19。

 

【厨房から消えた包丁】

厨房の包丁が一本無くなっていた。

 

【小麦粉】

厨房の小麦粉が大量に無くなっていた。

 

【不燃性の塗料】

倉庫から盗まれていた。

 

【刷毛】

倉庫から盗まれていた。

 

【スタンガン】

倉庫から盗まれていた。

 

【即効性の睡眠薬】

診療所から盗まれていた。

飲むと数秒から数分で眠気が襲う。

 

【遅効性の睡眠薬】

診療所から盗まれていた。

飲むと数十分後に眠気が襲い、強い利尿作用がある。

 

 

 


 

 

 

エレベーターが止まると、扉が開いた。

全員が、それぞれの思いを抱えながら自分の席につく。

神崎と筆染と宝条の席には、それぞれバツ印が書かれた仏頂面の神崎の遺影と笑顔の筆染と宝条の遺影が置かれていた。

…また始まるんだ。

命懸けの学級裁判が…!!

 

 

 

《学級裁判 開廷!》

 

 

 

モノクマ『ではまず裁判の簡単な説明をしておきましょう。学級裁判では『仲間を殺した犯人は誰か』について議論をし、その結果はオマエラの投票によって決まります!もし正解ならクロのみがオシオキ、不正解ならクロのみが失楽園、それ以外の全員がオシオキとなります!二人クロがいた場合は、一部例外を除いて先に殺した方のみがクロとなります!』

 

安生「どうする?」

 

一「今回議論するのは宝条さんを殺した犯人だけだし、筆染さんの件については後回しでいいんじゃないかな?」

 

ジョン「前回みたくfileを読み上げないか?」

 

黒瀬「んー、じゃあ今回はボクが読むねー。」

 

 

 

ーーー議論開始!!ーーー

 

 

 

黒瀬「被害者一人目は《【超高校級の収集家】宝条夢乃》。死亡推定時刻は《午後7時15分頃》。死体発見場所は《カラオケエリアの17号室》。死因は《脳挫傷》。後頭部を損傷しており出血が見られる。」

 

安生「酷い…」

 

ジョン「Well…これって本当にmurderなのか?」

 

聞谷「はい?」

 

ジョン「だってユメノは《got a bang on the head》だろ?うっかり転んだとか…《accidental death》って事もあり得るんじゃないか?」

 

いや、それはないだろう。

 

 

 

《accidental death》⬅︎【17号室の状態】

 

「それは違うぞ!!」

 

《論 破》

 

 

 

赤刎「いや、宝条は何者かに殺された可能性が高い。」

 

ジョン「Why?」

 

赤刎「17号室の状態だよ。17号室は荒らされていたんだ。」

 

速水「うん、強盗でも入ったんじゃないかってくらい部屋がグチャグチャだった!」

 

ジョン「What about it?」

 

赤刎「考えてもみろ、ただの事故死であんなに部屋が荒れる事はない。アレは宝条が犯人と取っ組み合いになったか、犯人が宝条を殺した後証拠隠滅のために部屋を荒らしたか…状況的におそらく前者。宝条は、誰かに殺されたんだよ。」

 

ジョン「I see…」

 

仕田原「では、次は宝条さんの殺害に使われた凶器について話し合いませんか?」

 

赤刎「そうだな。」

 

 

 

ーーー議論開始!!ーーー

 

 

 

黒瀬「《アイスピック》で後ろからグサッ!とか?」

 

枯罰「撲殺や言うとるやろド阿呆。」

 

一「《ハンマー》で殴ったとか…」

 

仕田原「傷の形状が違いますよ。」

 

聞谷「何かの《角》で殴ったのかもしれませんわね。」

 

ん?

待て、今重要な事言わなかったか?

 

 

 

《角》⬅︎【宝条の外傷】

 

「それに賛成だ!!」

 

《同 意》

 

 

 

赤刎「聞谷の言う通り、宝条は何かの角で殴られたんだ。」

 

弦野「角だと?」

 

赤刎「ああ。宝条の頭の傷は直角の部分があって、一部が平らになっていた。何かの角で殴られた証拠だ。」

 

一「何かの角って…角があるものなんていくらでもあるじゃないか!何で殴ったのかを具体的に明らかにしないとさ!」

 

赤刎「いや、大体凶器の目星はついてる。」

 

一「え?」

 

 

 

コトダマ提示!

 

【ローテーブルの角の血】

 

「これだ!!」

 

 

 

赤刎「宝条を殺した凶器、それはローテーブルだ。」

 

ジョン「low table?」

 

一「な…まさか、ローテーブルを持ち上げてそれで殴ったとでも言う気!?無理に決まってるよ!だってあのテーブル、重くて持ち上げるなんて無理だもん!」

 

赤刎「それは俺もそう思う。犯人は、別の方法で宝条を殺したんだ。」

 

安生「別の方法?」

 

赤刎「ローテーブルの角目掛けて宝条を突き飛ばしたんだよ。」

 

聞谷「な…!」

 

赤刎「その時に宝条が暴れたんだとすれば部屋が荒れているのも説明がつくし、突き飛ばされて角に頭を打ったなら仰向けに倒れていたのも説明がつく。」

 

安生「確かに…矛盾は無い、ね。」

 

一「じゃあ次は、誰が宝条さんを殺したのか議論する?」

 

黒瀬「こういう時は、その時間にアリバイがなかった人を炙り出すのがセオリーだよねぇ?」

 

弦野「チッ、しょうがねぇな。」

 

安生「えっと、まず枯罰さんと弦野君にはアリバイがあるんだよね?」

 

枯罰「まあなあ。」

 

聞谷「わたくし達は…寝ておりましたので証明のしようがありませんわね。」

 

一「…あのさ、普通に外に出てた人が犯人なんじゃないの?」

 

赤刎「それって…」

 

一人だけいたはずだ。

本人も外に出たのを認めてて、目撃証言もある奴が…

 

 

 

《人物指定》

 

 

 

 

赤刎円

 

安生心

 

神崎帝

 

聞谷香織

 

黒瀬ましろ

 

漕前湊

 

枯罰環

 

札木未来

 

仕田原奉子

 

ジョナサン・ウォーカー

 

武本闘十郎

 

弦野律

 

一千歳

 

速水蘭華

 

筆染絵麻

 

宝条夢乃

 

 

 

 

 

➡︎黒瀬ましろ

 

 

 

 

赤刎「黒瀬。お前、外に出てたよな?」

 

黒瀬「…。」

 

赤刎「別に、お前を犯人だって決めつけてるわけじゃない。これはただの事実確認だ。どうなんだ?」

 

黒瀬「…。」

 

赤刎「…黒瀬?」

 

黒瀬「………くかぁー…すぴぃー…」

 

黒瀬は、鼻提灯を膨らませて船を漕いでいた。

 

一「え、ね、寝てる!?」

 

安生「立ったまま!?」

 

速水「さっきまで起きてたよね!?寝落ちるの早くない!?」

 

赤刎「おい、起きろ。」

 

黒瀬「はにゃっ?」

 

俺が起こすと、黒瀬は鼻提灯をパチンと割って目を覚ました。

 

黒瀬「えーっと…何ですかー?」

 

赤刎「…お前、何で今起こされたのかわかってんのか?」

 

黒瀬「えっとぉー、ボクが疑われてるからだよね?」

 

赤刎「それがわかってるなら話が早い。お前、宝条が殺される10分ほど前にホールを出たよな?」

 

黒瀬「うん、出たよー。だって急におトイレ行きたくなっちゃったんだもーん。」

 

弦野「そんなのいくらでも言い訳できるだろうが。犯行時刻にホールの外にいたのを認めてんのはテメェだけなんだ。」

 

黒瀬「そう言われても、ボクがおしっこしに行ったのは事実だしなー。ってゆっても信じてくれないだろうし、眠いけど無実は証明しなきゃねぇ。」

 

 

 

ーーー議論開始!!ーーー

 

 

 

黒瀬「だからボクは《おトイレ》に行ってたのー。」

 

弦野「だから、そんなのどうとでも言えるっつってんだよ。つーか、仮にそれが本当だったとしてもたかがトイレで1時間以上も戻って来ないのはおかしいだろが!」

 

黒瀬「その後すぐ《眠くなっちゃった》から寝てたんだよー。」

 

弦野「はっ、都合のいい言い訳だな!」

 

黒瀬「本当だもん。てゆーかさ、ボクだけ疑うのおかしくない?みんな寝てたって言ってるけど、本当は誰かが嘘ついててこっそり《ホールを抜け出した》んじゃないの?」

 

今の黒瀬の発言はおかしい!

 

 

 

《ホールを抜け出した》⬅︎ 【控室の窓】

 

「それは違うぞ!!」

 

《論 破》

 

 

 

赤刎「いや、それはおかしいぞ。」

 

黒瀬「何でー?」

 

赤刎「だって、ホールの隣には窓付きの控室があるんだぞ?控室から廊下は窓越しによく見えるようになってる。もし誰かが通ったら枯罰か弦野が気付くはずなんだ。でも、二人ともお前以外に廊下を通った奴は見ていないそうだ。」

 

一「じゃあやっぱり黒瀬さんが犯人なんだね!?」

 

黒瀬「…。」

 

 

 

黒瀬「うーん、ちょっと何言ってんのかわかんないかなぁ。」

 

《反 論》

 

 

 

赤刎「黒瀬?」

 

黒瀬「何でそんな事で疑われなきゃいけないのかなぁ?意味がわからないんだけど。」

 

赤刎「でも、状況的にはお前しかいないんだ。」

 

黒瀬「はあ、もういいよ。そこまで言うならボクが正しいシナリオに導いてあげるよ。」

 

 

 

ー反論ショーダウン開始ー

 

黒瀬「ボクは犯人じゃありませーん。証拠がありませーん。」

 

一「でも君は殺人鬼じゃん…」

 

黒瀬「そんなの今はどうでもいいじゃん。今はゆめちゃんを殺した犯人を裁く裁判の真っ最中なんだからさ。」

 

赤刎「じゃあお前は殺してないんだな?」

 

黒瀬「当然だよ。誰か別の人がホールから出て殺したんでしょ?」

 

弦野「出入り口からはお前以外出入りしてねぇんだよ!」

 

黒瀬「確かに、出入り口からホールを出入りした人はいないんだろうね。それはさっき納得したよ。でも別の可能性も考えられるよね?」

 

赤刎「別の可能性?」

 

黒瀬「二階席に《非常階段》があるのを忘れたの?そこから出入りすれば、環ちゃんや律くんの目を掻い潜って出入りできるんじゃないの?」

 

なるほどな、一見筋は通っているように思える。

だけどそれは無いと言える証拠がある!

 

《非常階段》⬅︎【一の証言】

 

「その言葉、ぶった斬る!!」

 

《論 破》

 

 

 

赤刎「いや、残念ながらその理屈はおかしい。」

 

黒瀬「何でよー。」

 

赤刎「一階席から二階席に移動するには、廊下にある階段を使わなきゃいけないんだ。どのみち枯罰か弦野に見つかるだろ。」

 

黒瀬「んー…じゃあジャンプして二階席に飛び乗ったとか。」

 

弦野「どんな脚力だよ。」

 

黒瀬「ロープでも使って登ったとか。」

 

一「無理に決まってるよ。」

 

黒瀬「ボルダリングー。」

 

弦野「無理だっつってんだろ。」

 

黒瀬「ぴえん」

 

弦野「諦めろ、宝条殺しの犯人はテメェだ黒瀬!!テメェは、宝条を殺した後絵麻も殺したんだ!!違うか!?」

 

黒瀬「むぅー…」

 

…今のところ、黒瀬以外に犯行可能な人物はいない。

だが、何かが引っかかる…

何だ、この違和感は…

 

 

 

聞谷「そう言えば、わたくし達が眠くなる前にドリンクを配ったのは黒瀬さんですわよね?」

 

仕田原「じゃあ、黒瀬さんがドリンクに薬でも入れたって事ですか!?」

 

一「うわあああ!?やっぱりそうなんだ!!あんな怪しいもの飲まなきゃ良かった!!」

 

ドリンク…?

…!

それだ!!

 

赤刎「…いや、まだだ!」

 

仕田原「はい?」

 

赤刎「まだ黒瀬の無実を証明する方法はあるんだ!」

 

弦野「はぁ!?黒瀬以外に外に出た奴はいねぇってテメェが言ったんだろうが!」

 

赤刎「俺は、黒瀬以外に出入り口から出入りした奴がいないとは言ったが黒瀬が犯人だとは言ってない。今から、黒瀬の無実を証明する!!」

 

 

 

ーーー議論開始!!ーーー

 

 

 

弦野「無実も何も、犯人は《黒瀬で決まり》だろが!!」

 

黒瀬「ボクは何も知りません見てません聴いてませーん。」

 

一「嘘に決まってるよそんなの!!どうせ、ボク達に薬入りのドリンクを飲ませて眠っている間に《宝条さんと筆染さんを殺した》んだ!!そうに違いないよ!!」

 

黒瀬「仮にボクが犯人なら、自分以外の全員を眠らせるなんてアホな事しないよ。自分が犯人ですって言ってるようなものじゃない。」

 

弦野「今はどうだっていいんだそんな事は!!今重要なのは、《ホールを出入り出来たのがテメェ以外いねぇ》って事なんだよ!!」

 

黒瀬「そんな事言われてもなー、ボクだって《ドリンク飲んだ途端におトイレ行きたくなっちゃった》んだもーん。」

 

…あの証言が役に立つだろうか?

 

 

 

《ドリンク飲んだ途端におトイレ行きたくなっちゃった》⬅︎【黒瀬の尿意】

 

「それに賛成だ!!」

 

《同 意》

 

 

 

赤刎「いや、多分黒瀬の言い分が正しいと思う。」

 

弦野「はぁ!?」

 

赤刎「黒瀬は、ドリンクを飲んだ直後に俺にトイレに行ってくると言ってきた。普通にドリンクを飲んだだけならすぐトイレ行きたくなったりしないだろうし、多分黒瀬のドリンクにも何か入ってたんだ。黒瀬が犯人なら、自分のドリンクに変なものを入れたりしないだろ?」

 

一「でも、その話自体が君を騙すための嘘なのかもよ?」

 

赤刎「いや、それはない。だって、そもそも黒瀬は自分でドリンクを持ってきたわけじゃないからな。」

 

 

 

コトダマ提示!

 

【黒瀬の証言】

 

「これだ!!」

 

 

 

赤刎「黒瀬は、コンサートの準備を手伝っていた他のメンバーに言われてドリンクを持ってきたんだ。遅れて来たから何をすればいいか聞いたらドリンク運びの仕事を振られたらしい。つまり、黒瀬は初めからドリンクに何かを盛る予定があったわけじゃないって事だ。」

 

速水「アタシが頼んだんだよ。元々アタシと環と奉子と絵麻の4人でドリンクを配ろうって話になってて、遅れてきたましろにその仕事を振ったの。もちろん、アタシ達は誰にもその事を話してないからましろはアタシが仕事を振るまで知らなかったはずだよ。」

 

安生「ええっと…じゃあ、黒瀬さんは知らずに変なものが入ったドリンクを配らされてたって事?」

 

赤刎「そうなるな。」

 

一「っていうかさ、あのドリンク一体何が入ってたの!?ヤバい薬とかじゃないよね!?」

 

赤刎「俺達が飲んだドリンクに入ってたもの、それは…」

 

 

 

コトダマ提示!

 

【即効性の睡眠薬】

 

「これだ!!」

 

 

 

赤刎「俺達が飲んだドリンクに入れられてたのは、即効性の睡眠薬だ。」

 

一「ほら!やっぱり仕込まれてたんじゃん!あんな怪しい物飲むんじゃなかった!」

 

聞谷「ですが、ドリンクを飲んだはずの黒瀬さんはその場で眠くなったわけではないのですよね?」

 

仕田原「ドリンクを飲んだ途端にトイレに行きたくなったというのも気になりますし…もしかして、黒瀬さんのドリンクには別の種類の薬が入れられてたんですかね?」

 

赤刎「ああ。多分そうだと思う。」

 

 

 

コトダマ提示!

 

【遅効性の睡眠薬】

 

「これだ!!」

 

 

 

赤刎「黒瀬が飲んだのは、遅効性の睡眠薬入りのドリンクだ。この睡眠薬は、数十分後に眠気が襲うというものらしい。同時に、利尿剤の役割も果たすそうだ。」

 

黒瀬「あ、だから飲んですぐにおトイレ行きたくなったかと思ったら眠くなったのかー。」

 

安生「でも、黒瀬さんがドリンクに睡眠薬を盛ったわけじゃないなら、どうやって黒瀬さんだけが違う種類の睡眠薬を飲むように誘導したの?あらかじめ睡眠薬を盛っておいたとしても、黒瀬さんが配るなら誰がどのドリンクを飲むのかわからないよね?」

 

赤刎「いや、それについては心配ないんだ。」

 

 

 

コトダマ提示!

 

【ドリンクバー】

 

「これだ!!」

 

 

 

赤刎「黒瀬は、全員のそれぞれ好きな飲み物をドリンクバーから取ってくるように指示されている。ドリンクバーには全員の好きな飲み物が用意されてるから、黒瀬の大好物のモノモノジュースにだけ別の種類の睡眠薬を盛れば黒瀬が飲むように誘導する事は可能だ。」

 

安生「なるほどね…だから犯人は、睡眠薬を利用して黒瀬さんに犯行を擦りつける事が可能だったというわけか。」

 

一「あれ!?黒瀬さんは犯人じゃないの!?じゃあ、誰が宝条さんと筆染さんを殺したの!?」

 

赤刎「それは…多分、犯人はあるものを使って自分のアリバイを成立させたんだと思う。」

 

犯人がアリバイを成立させるために使ったもの、それは…

 

 

 

コトダマ提示!

 

【ホールの機械】【非常階段】

 

「これだ!!」

 

 

 

赤刎「…黒瀬がさっき言ってた通り、犯人は非常階段を通って外に出たんだ。」

 

弦野「はぁ!?それはあり得ねぇってさっきテメェが言ったんだろうが!!」

 

赤刎「俺もそう思っていた。でも、ひとつだけあるんだ。廊下を通らずに非常階段から出入りする方法が。犯人は、俺達が寝てる間に一階席と二階席を入れ替えたんだよ。」

 

黒瀬「な、なんだってー?」

 

赤刎「犯人が自分のアリバイを成立させたトリックはこうだ。まず、ドリンクバーに睡眠薬を仕込み、ドリンクを配るのを準備のメンバーにそれとなく提案する。そして、遅れてきた黒瀬にその仕事を振って黒瀬に疑惑をなすりつける。そして、睡眠薬入りのドリンクを飲んで俺達が寝落ちたのを確認すると、ホールの座席移動用の機械の設定をオートモードにして時間が来ると自動で一階席と二階席の配置が入れ替わるようにする。すると俺達がいた一階席が二階席と入れ替わり、非常階段から出入りができる。そして犯行を終えた後、席の配置を元に戻したというわけだ。」

 

聞谷「な…!そ、そんなのあり得ませんわ…!!」

 

赤刎「そう、それこそが犯人の狙いだったんだ。普通、睡眠薬で眠ってる間に座席の配置ごと入れ替えるなんて大胆な事をしようとは思わない。実際俺達も、まさか眠ってる間に席が2回も入れ替わってたなんて思わなかったしな。『あり得ない』と思わせる事でこのトリックに辿り着くのを困難にさせる、そういう意味でも今回の事件の犯人はやり手だったよ。」

 

ジョン「まあ、2人も殺してるんだもんな。そのくらいのboldnessは持ち合わせてる奴がcriminalって事か。」

 

 

 

 

 

枯罰「…それなんやけど、ウチから一つ言わせてもろてええか?」

 

ジョン「Huh?」

 

枯罰「宝条を殺した犯人と、筆染を殺した犯人はホンマに同一人物なんかな?」

 

一「えっ、どういう事!?」

 

枯罰「ウチは、宝条を殺した犯人と筆染を殺した犯人は別やと思うとる。どうも、同一人物の犯行にしては不自然やねん。」

 

弦野「不自然って何だよ!?勿体ぶってないでハッキリ言えよ!!」

 

枯罰「ウチはな、宝条を殺した奴よりもむしろ筆染を殺したド阿呆の正体を暴く事が重要やと思うぞ。」

 

一「ちょっ…何言ってんの!?今は宝条さんを殺した犯人の話をしてるんだよ!?それに、やっぱり宝条さんと筆染さんを殺した犯人は同一人物だよ!だって犯人二人が協力する理由はないし、協力関係がないとすればホールで犯人以外寝ちゃったっていうのに矛盾するじゃないか!」

 

枯罰「まあ、お前の言い分も一理あるなぁ。せやけど、筆染の事件を蔑ろにすんのもアカンと思うで?何せ、筆染を殺したんは爆弾魔なんやからな。」

 

一「な…ば、爆弾魔!!?」

 

枯罰「ウチが思うに、宝条を殺した犯人と筆染を殺した犯人は別や。せやけど、この二つの事件は無関係やない。全ての真相を明らかにせんと、犯人には辿り着けへんぞ。」

 

 

 

 

《学級裁判 中断!》

 

 

 

 

 


 

 

 

ー生存者ー

 

【超高校級の講師】赤刎円

 

【超高校級のカウンセラー】安生心

 

【超高校級の香道家】聞谷香織

 

【超高校級の脚本家】黒瀬ましろ

 

【超高校級の???】枯罰環

 

【超高校級の家政婦】仕田原奉子

 

【超高校級の冒険家】ジョナサン・ウォーカー

 

【超高校級のヴァイオリニスト】弦野律

 

【超高校級のソフトウェア開発者】一千歳

 

【超高校級のランナー】速水蘭華

 

ー以上10名ー

 

 

 




今回は短めに切りました。
次回は長いよー。


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非日常編③(学級裁判後編)

《学級裁判 再開!》

 

弦野「絵麻を殺した犯人が爆弾魔ってどういう事だよ!?」

 

枯罰「そのままの意味や。筆染を殺したんは爆弾魔や。」

 

一「何で爆弾魔の犯行だってわかるのさ!?適当な事言って、裁判を変な方向に持っていこうとするのやめてよね!」

 

枯罰「ちゃうわ阿呆。現場のメッセージを見て判断したんや。」

 

現場のメッセージ…?

もしかしてアレか?

 

 

 

コトダマ提示!

 

【壁の文字】

 

「これだ!!」

 

 

 

赤刎「現場の壁に残ってた文字『BOMBER』、だろ?」

 

枯罰「御名答。ウチが個人的に調べた爆弾魔の犯行現場の特徴と一致しとる。クマ公が爆弾魔がこの中にいるって言うとったし、まず爆弾魔の犯行とみて間違いないやろ。」

 

赤刎「でも、だったら何で宝条を殺した犯人が爆弾魔じゃないって事になるんだ?」

 

枯罰「爆弾魔は過去の現場を全部爆破しとる。今更犯行手口を変えるなんかおかしいやんか。それに、宝条殺しの犯行現場は荒らされたままで、事故死に見せかけるための隠蔽工作の痕跡が見られへんかった。座席の配置を入れ替えるなんざ大胆な事しよった奴が隠蔽工作もせずに犯行現場から離れるような阿呆やとは考えにくいやろ?」

 

赤刎「確かに…」

 

枯罰「まあ宝条の方はも少し議論すれば真相が見えてくるやろ。まずは、宝条の死体発見場所の不自然な点について議論しよか。」

 

 

 

ーーー議論開始!!ーーー

 

 

 

ジョン「unnaturalなsomethingだと?《そんな物無い》んじゃないのか?」

 

安生「もっとちゃんと考えようよ…」

 

速水「え、《部屋が荒らされてた》事じゃないの?」

 

弦野「だからそれは宝条が暴れたからなんだって。」

 

一「何でカラオケボックスに《ロッカー》があるのとかそういう事じゃないよね?」

 

聞谷「え、普通のからおけぼっくす?には無いんですの?」

 

仕田原「ええと…強いて言うなら宝条さんの身体から離れた所に跳ねてた《血》とかですかね?」

 

 

 

《血》⬅︎【床に跳ねた血】

 

「それに賛成だ!!」

 

《同 意》

 

 

 

赤刎「現場には、明らかに不自然なものがあった。それは床に跳ねてた血だ。」

 

弦野「それがどう不自然なんだよ?」

 

赤刎「それをこれから議論するんだ。」

 

 

 

ーーー議論開始!!ーーー

 

 

 

弦野「血が跳ねてたからってそれがどう《不自然》だっていうんだよ!?」

 

枯罰「いや…明らかにおかしいやろ。」

 

黒瀬「だよね。あんな所に血が付いてるなんておかしいよ。」

 

弦野「何でだ!?宝条が殺された部屋に付いてた血なんだから普通に《宝条の血》なんじゃねぇの!?」

 

今の弦野の発言はおかしい!

 

 

 

《宝条の血》⬅︎【モノクマファイル③】

 

「それは違うぞ!!」

 

《論 破》

 

 

 

赤刎「いや、あれは多分宝条の血じゃない。」

 

弦野「はぁ!?何でだよ!?」

 

赤刎「モノクマファイルには、『後頭部を損傷している』と書かれていた。それ以外の負傷についての記述はない。実際、安生と仕田原が調べてくれて俺はそれを確認してるしな。」

 

弦野「あっ…」

 

速水「え、じゃああれは誰の血なの!?」

 

一「誰が何で血を流したわけ!?」

 

それは…

 

 

 

床に付いていた血は誰の血?

 

1.宝条夢乃

2.犯人

3.モノクマ

 

➡︎2.犯人

 

 

 

血を流した原因は?

 

1.持病

2.うっかり

3.怪我をさせられた

 

➡︎3.怪我をさせられた

 

 

 

怪我をする原因となった人物は?

 

1.宝条夢乃

2.犯人

3.モノクマ

 

➡︎1.宝条夢乃

 

《COMPLETE!!》

 

 

 

赤刎「…あれは多分、犯人の血だ。犯人は、あの場で怪我をして血を流したんだ。」

 

速水「えっ、は、犯人!?」

 

赤刎「ああ。犯人は、あの場で怪我をさせられたんだ。宝条にな。」

 

一「え、宝条さんにって…どういう事!?」

 

枯罰「…ああ、そういう事か。」

 

枯罰は、俺が言いたい事がわかったようだ。

 

枯罰「お前なあ、これもうハッキリ言ってええんとちゃう?」

 

赤刎「…え?」

 

枯罰「はぁ、もうええ。ウチが現実突きつけたるわ。」

 

 

 

 

 

枯罰「宝条は、誰かを殺そうとしとったんやろ。」

 

速水「…えっ?」

 

聞谷「枯罰…さん?今、何と…」

 

枯罰「せやから、宝条は誰かを殺そうとして返り討ちに遭った言うとるんや。これなら、犯人が部屋を片付けずに部屋を出てったんも納得いくやろ?自分は身ぃ守るんに必死でそこまで頭回らんかったっちゅう風に考えれば不自然やない。」

 

安生「ええと…って事は、宝条さんは犯人を殺そうと襲いかかったけど犯人に抵抗されて、それで犯人に突き飛ばされて運悪くローテーブルの角に頭を打って命を落とした…こういう事かな?」

 

枯罰「模範解答やな。まあ、要は宝条の自業自得やったっちゅうこっちゃ。」

 

速水「そんな…夢乃が…!」

 

 

 

ジョン「I kill your words!!」

 

《反 論》

 

 

 

赤刎「ジョン?」

 

ジョン「マドカ!オレは、ユメノがmurderを企んでたなんて信じねぇぞ!」

 

赤刎「でも、そうとしか考えられないんだ。」

 

ジョン「Okay,そこまで言うならオレがproofしてやるぜ!!」

 

 

 

ー反論ショーダウン開始ー

 

ジョン「ユメノがmurderを企んでた!?jokeも休み休み言え!!」

 

赤刎「でも、宝条のじゃない血が床に飛び散ってたんだぞ?」

 

ジョン「だからってユメノがやったとは限らないだろ!criminalがcamouflageのためにわざと垂らしたのかもしれねぇだろ!」

 

赤刎「偽装工作でわざわざ自分の手を切って血を垂らすか?疑われやすくなるだけなのに。」

 

ジョン「でも、ユメノがmurderを企んでたevidenceが無いだろ!!《criminalがユメノにmurderを仕掛けた》んだ!!」

 

《criminalがユメノにmurderを仕掛けた》 ⬅︎ 【血の付いた包丁】

 

「その言葉、ぶった斬る!!」

 

《論 破》

 

 

 

赤刎「宝条が犯人を負傷させた凶器を現場で見つけた。凶器は包丁だ。」

 

ジョン「kitchen knifeだと!?」

 

赤刎「宝条の近くに、少量の血が付いた包丁が落ちていた。犯人は、宝条に包丁で切りつけられたんだ。」

 

黒瀬「まあ、いきなり包丁で切りつけられたらビックリしてゆめちゃんを突き飛ばしちゃったとしても不思議じゃないよねー。」

 

一「包丁って…そんなものどこから持ち出したのさぁ!!」

 

 

 

ーーー議論開始!!ーーー

 

 

 

速水「料理するために使うものなんだから普通に《厨房》でしょ。」

 

安生「《倉庫》から持ち出した可能性もなくはないけど…」

 

弦野「倉庫から包丁は持ち出されてなかったぜ。」

 

黒瀬「《奉子ちゃんの研究室》にも確かあったよねー?」

 

仕田原「ええっ!?じゃあ自分が犯人って事ですか!?」

 

 

 

《厨房》⬅︎ 【厨房から消えた包丁】

 

「それに賛成だ!!」

 

《同 意》

 

 

 

赤刎「宝条が凶器として持ち出したのは厨房の包丁だ。厨房から包丁が一本持ち出されていたのを聞谷が確認している。」

 

聞谷「ええ、間違いありませんわ。」

 

黒瀬「そうだったんだー、奉子ちゃんごめーん。」

 

仕田原「まあ…何はともあれ疑惑が晴れたのは良かったです。」

 

一「でも、やっぱりおかしいよ!犯人が二人もいるなんて!!それだとホールの状況と矛盾するじゃないか!!」

 

速水「でも、環の話聞いてる限り辻褄は合ってたし…あれ?これってどうなっちゃうの?」

 

枯罰「あっちゃー、意見が分かれてもうたのぉ。」

 

その言葉を聞いた瞬間、ジョンはワクワクし一は顔を真っ青にした。

 

ジョン「って事は、またアレをやるんだな!?」

 

一「嫌だぁあああああああ!!!」

 

 

 

 

モノクマ『うぷぷぷ、そういう時はボクにお任せ!今回もまた変形裁判所の出番ですな!それでは早速始めましょう!レッツ変形!!』

 

 

 

《意見対立》

 

 

 

そう言ってモノクマは席から謎の装置と鍵を取り出し、鍵を装置に差し込んだ。

すると、俺達の席が宙に浮く。

 

ジョン「Wooooooooo!!!」

 

一「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」

 

席が変形し、俺達は二つの陣営に分かれた。

 

 

 

【宝条夢乃を殺した犯人と筆染絵麻を殺した犯人は同一人物か?】

 

同一人物だ! 聞谷、仕田原、ジョン、弦野、一

 

同一人物じゃない! 赤刎、安生、黒瀬、枯罰、速水

 

 

 

ー議論スクラム開始ー

 

一「《犯人》は宝条さんを撲殺した後筆染さんを爆殺したんだよ!そうに違いないよ!!」

 

「速水!」

 

速水「夢乃を殺した《犯人》が絵麻まで殺したとは限らないんじゃないの!?」

 

弦野「そもそも宝条が《殺人》を企んでたっつー話はテメェらの憶測だろうが!」

 

「枯罰!」

 

枯罰「犯行現場に包丁が落ちてたのに《殺人》を企んでへんなんてけったいな事あるわけないやろ。」

 

聞谷「ですが、赤刎さんの推理が正しければ宝条さんを殺した犯人は《怪我》をしているはずでは?」

 

「黒瀬!」

 

黒瀬「《怪我》をしてるけどボク達が見落としてるだけかもよー。」

 

ジョン「《BOMBER》のLetterを残したのは、same personだと思わせるためじゃないのか?」

 

「安生!」

 

安生「だとしたら宝条さんの死体発見現場にも《BOMBER》の文字がなきゃおかしいし、宝条さんは爆殺じゃないのも変だよ。」

 

仕田原「それも同一人物じゃないと思わせるための《罠》なのかもしれませんよ?」

 

「俺が!」

 

赤刎「《罠》だとしても不自然な点が多すぎるんだ!」

 

 

 

《全論破》

 

赤刎「これが俺達の答えだ!!」

 

安生「これが僕達の答えだよ。」

 

黒瀬「これがボク達の答えだよー。」

 

枯罰「これがウチらの答えや。」

 

速水「これがアタシらの答えだよ!!」

 

 

 

赤刎「まずは、宝条を殺した犯人について紐解いていこう。」

 

一「爆弾魔じゃないなら、誰が犯人だっていうの!?犯人が二人いるなら、ホールの状況と矛盾しちゃうじゃないか!!」

 

赤刎「…いや、一人だけいるんだ。宝条を殺し、なおかつ『ホールで犯人以外全員眠った』という状況が成立する人物がな。ソイツが宝条を殺したとすれば、全部辻褄が合う。」

 

宝条を殺した人物、それは…

 

 

 

《人物指定》

 

 

 

 

赤刎円

 

安生心

 

神崎帝

 

聞谷香織

 

黒瀬ましろ

 

漕前湊

 

枯罰環

 

札木未来

 

仕田原奉子

 

ジョナサン・ウォーカー

 

武本闘十郎

 

弦野律

 

一千歳

 

速水蘭華

 

筆染絵麻

 

宝条夢乃

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

➡︎筆染絵麻

 

 

 

 

赤刎「…筆染だ。」

 

聞谷「………えっ?」

 

赤刎「筆染が、宝条を殺したんだ。」

 

ジョン「No way!!エマがユメノを殺した!?そんなわけないだろ!?」

 

弦野「嘘だ!!俺は信じねぇぞ!!」

 

赤刎「嘘じゃないさ。…宝条を殺した犯人は負傷してるはずなのに、誰も切りつけられた痕がなかった。そこから素直に考えれば良かったんだ。犯人の切り傷が見つかるわけがない。だって、その犯人は爆殺されちまったんだからな。」

 

弦野「嘘だ嘘だ嘘だ!!アイツは、人を殺すような奴じゃない!!」

 

枯罰「ド阿呆。筆染がどないな奴やったかはどうでもええねん。宝条が筆染を殺そうとしたから、パニクった筆染が間違うて宝条を殺した。これが真実や。」

 

弦野「…宝条が………絵麻を……?」

 

枯罰が真実を告げた途端、弦野の表情が怒りで歪む。

 

弦野「………ふざけんじゃねぇぞ…どいつもこいつも、寄ってたかって絵麻を…!!」

 

枯罰「あー、悪いんやけどその怒りは筆染を殺したド阿呆にぶつけてくれるか?ウチらはソイツを吊さな全員死ぬだけや。せやろ、クマ公?」

 

モノクマ『………んあっ、やべっ。出番無さすぎて寝てた。えっと、何の話だっけ?』

 

枯罰「もしクロが複数人いて、最初の殺人をしたクロが既に死んどった場合はどうなるん?」

 

モノクマ『ええと、その場合はですね。ズバリ、死んだ犯人の次に殺人を犯した人がクロという扱いになります!殺人による学級裁判で裁かれる対象は原則一人だからね!』

 

枯罰「…聞いたか?ウチらは、筆染を殺した爆弾魔を吊るさな全員死ぬんや。」

 

赤刎「…。」

 

枯罰の言う通りだ。

俺達は、爆弾魔を吊るさなきゃ全員死ぬんだ。

何としてでも見つけ出さないと…!

 

赤刎「…みんな。筆染の事件について議論するぞ。」

 

 

 

ーーー議論開始!!ーーー

 

 

 

黒瀬「んー、そうは言ってもねぇ。今回の事件は《ちょっと難しい》よねぇ。」

 

速水「なんで?」

 

黒瀬「だって、絵麻ちゃんは《木っ端微塵》になっちゃったんだよ?」

 

安生「それでも死因ぐらいはわかるんじゃない?筆染さんは、《爆破された》んだよ。」

 

安生の意見が正しそうだ。

 

 

 

《爆破された》⬅︎【モノクマファイル④】

 

「それに賛成だ!!」

 

《同 意》

 

 

 

赤刎「筆染は爆殺された、まずそれは間違いない。モノクマファイルにも死因が書かれてるしな。」

 

黒瀬「にゃーるほどねー。」

 

安生「じゃあ、次はどうやって爆殺されたのかを議論していこうか。」

 

 

 

ーーー議論開始!ーーー

 

 

 

速水「犯人はどうやって絵麻を《爆破した》んだろうね。」

 

一「普通に爆破したんじゃ自分まで《巻き添え喰らっちゃう》よね…」

 

黒瀬「んー…絵麻ちゃんのいる部屋に《爆発物を投げ込んで》そのまま走って逃げたとか!」

 

枯罰「随分とガバガバな推理やのぉ。」

 

今の黒瀬の発言はおかしい!

 

 

 

《爆発物を投げ込んで》⬅︎【ドアの鍵】

 

「それは違うぞ!!」

 

《論 破》

 

 

 

赤刎「いや、黒瀬。それはあり得ないぞ。」

 

黒瀬「なんでー?」

 

赤刎「筆染が爆破された部屋は、内側から鍵がかかってたんだ。」

 

黒瀬「ありゃりゃ、そーだったのね。」

 

安生「うーん、もう少し議論してみる必要がありそうだね。」

 

 

 

ーーー議論開始!!ーーー

 

 

 

安生「《内側から鍵がかかってた》となるとちょっと厄介だね…」

 

一「そう?ボクは内側から鍵がかかってても《犯行は可能》だと思うけど。」

 

聞谷「どういう事ですの?」

 

一「だって死因は爆死なんだよ?《時限爆弾》を隠しておけば、ちょうどいいタイミングで爆破する事は可能だよね?」

 

今の一の発言はおかしい!

 

 

 

《時限爆弾》⬅︎【部屋の匂い】

 

「それは違うぞ!!」

 

《論 破》

 

 

 

赤刎「いや、使われたのは時限爆弾じゃない。」

 

一「えっ、違うの?」

 

赤刎「爆弾は普通爆薬が使われるんだけど、あの部屋は爆薬が燃えた匂いがしなかった。つまり、爆弾を使って爆破したわけじゃないって事だ。」

 

速水「爆弾を使わずに!?そんな事できるの!?」

 

赤刎「可能だ。ある方法を使えばな。」

 

爆弾を使わずに筆染を爆破したトリック…

それは…

 

 

 

 

 

ー閃きアナグラム開始ー

 

 

 

フ ン ジ ン バ ク ハ ツ

 

 

 

【粉塵爆発】

 

「これだ!!」

 

 

 

赤刎「犯人は、筆染を爆破するために粉塵爆発を利用したんだ。」

 

速水「ふんじ…?何それ。」

 

枯罰「空気中に可燃性の粒子が一定以上の濃度で混じると、粒子に引火した時爆発が起こんねん。炭鉱や小麦粉を扱う工場で爆発事故が起こったっちゅうニュースとか見た事あるやろ?」

 

速水「いや…初耳なんだけど…で、それをどうやって利用したのさ?」

 

犯人が粉塵爆発を起こすために使ったもの…それは…

 

 

 

コトダマ提示!

 

【小麦粉】【大量の紙切れ】

 

「これだ!!」

 

 

 

赤刎「犯人は、大量の小麦粉の袋を現場にぶち撒けたんだ。」

 

仕田原「こ、小麦粉をですか!?」

 

赤刎「ああ。現場に大量の紙切れが散らばっていたんだが、あれは小麦粉の袋だ。紙切れに書かれていた『F』『L』『R』、あれはFLOURって書かれた袋の一部だったんだ。そして犯人は、あるもので火花を起こして爆発を引き起こした。」

 

犯人が火花を起こすために使ったもの、それは…

 

 

 

コトダマ提示!

 

【スタンガン】【警棒】

 

「これだ!!」

 

 

 

赤刎「警棒型のスタンガン。犯人は、小麦粉を大量にぶち撒けた部屋の中で警棒型のスタンガンを使ったんだ。」

 

安生「スタンガンか…なるほどね、筆染さんの動きを封じる手段としても申し分ないしね。」

 

聞谷「ええと、でもそれだと犯人も巻き添えを喰らってしまいますわよね?犯人はどうして無事だったんですの?」

 

赤刎「それは…」

 

 

 

ーーー議論開始!!ーーー

 

 

 

速水「《窓から飛び降りた》んじゃないの!?」

 

枯罰「はめ殺しの窓やぞ?」

 

黒瀬「《扉を蹴破った》んだー!」

 

ジョン「doorはexplosionで吹っ飛んだんだぞ。」

 

安生「《安全な場所に隠れた》とか…」

 

ん?今、重要な事言わなかったか?

 

 

 

《安全な場所に隠れた》⬅︎【ロッカー】

 

「それに賛成だ!!」

 

《同 意》

 

 

 

 

赤刎「犯人は、カラオケボックスの中にあったロッカーに隠れたんだ!」

 

一「ああ、あの何で置いてあるのかわからないロッカー?」

 

赤刎「そうだ。あのロッカーは、爆発が起こったにもかかわらず中身は無事だった。それに、サイズ的にも人一人が十分入れる大きさだ。」

 

黒瀬「なるほどねー。でもボク、もう一つ気になる事があるんだー。『BOMBER』の文字は、何で燃えずに残ってたのー?」

 

赤刎「それは、あるものを使って書いたからだ。」

 

 

 

コトダマ提示!

 

【不燃性の塗料】【刷毛】

 

「これだ!!」

 

 

 

赤刎「倉庫から、不燃性の塗料と刷毛が盗まれていた。犯人は、塗料を刷毛に付けて壁に文字を書いたんだ。」

 

安生「不燃性の塗料か…」

 

枯罰「これでトリックは明らかになったな。あとはド阿呆を吊るすだけや。」

 

赤刎「ああ…」

 

一人だけいるはずだ。

ドリンクに睡眠薬を盛る事が可能だった人物。

そして、今回のトリックを使う事ができる人物が…!

だが、正直信じられない。

何故お前が、筆染を殺してしまったんだ…!?

ソイツは…

 

 

 

《人物指定》

 

 

 

 

赤刎円

 

安生心

 

神崎帝

 

聞谷香織

 

黒瀬ましろ

 

漕前湊

 

枯罰環

 

札木未来

 

仕田原奉子

 

ジョナサン・ウォーカー

 

武本闘十郎

 

弦野律

 

一千歳

 

速水蘭華

 

筆染絵麻

 

宝条夢乃

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

➡︎仕田原奉子

 

 

 

 

 

 

 

 

 

赤刎「…仕田原、お前が爆弾魔だったんだな。」

 

仕田原「…。」

 

仕田原「………。」

 

仕田原「…………えぇっ!!?じ、自分ですかぁ!?ち、違いますよ!!やだなぁ、いくら自分が役立たずだからって、タチの悪い冗談はやめて下さいよ!!」

 

赤刎「これは冗談なんかじゃない。お前が一番怪しいんだ。ちゃんと根拠もある。」

 

 

 

コトダマ提示!

 

【着席位置】

 

「これだ!!」

 

 

 

赤刎「今回のトリックに使われたホールの座席移動装置から一番近い位置に座っていたのはお前だ。」

 

仕田原「はぇあああああっ!!?ちょっ、ちょっとぉ!!そんな理由で疑われたんじゃ困ります!!そんなの、真犯人が自分を犯人に仕立て上げるためにわざと遠い席に座ったのかもしれないじゃないですか!!」

 

赤刎「まあこの件に関してはそれで言い逃れできるんだがな、残念ながらお前が犯人だという根拠はこれで終わりじゃないんだよ。」

 

仕田原「自分が犯人だっていう根拠って何ですか!?自分は犯人じゃありません!!」

 

 

 

ーーー議論開始!!ーーー

 

 

 

仕田原「自分は犯人じゃありません!!信じて下さい!!」

 

赤刎「いや、でもお前以外あり得ないんだよ。」

 

仕田原「どうしてですか!?」

 

赤刎「じゃあお前、準備の時何してたのか言ってみろ。」

 

仕田原「《機材のチェックと備品の調達》です!!さっきも言いましたよね!?」

 

赤刎「本当にそうか?」

 

仕田原「どうしてさっきから自分ばっかり疑うんですか!?自分、何も《不自然な事は言ってない》じゃないですか!!」

 

 

 

《不自然な事は言ってない》⬅︎【仕田原の証言】

 

「それは違うぞ!!」

 

《論 破》

 

 

 

赤刎「…機材のチェックと備品の調達だぁ?ますます怪しいな。」

 

仕田原「どうしてですか!?」

 

赤刎「だって、お前自身が準備の時一人になったのを認めてるじゃねぇか。準備中にホールを離れた事を認めてて、一人で準備をした事も認めてる。もう自分が犯人ですって言ってるようなもんだぞコレ。本当は、備品の調達だって嘘をついて小麦粉を盗んだりドリンクバーに睡眠薬盛ったりしてたんじゃないのか?」

 

速水「そういえば、奉子アンタあんまりホールに顔出さなかったよね。」

 

仕田原「ッ………!!」

 

赤刎「で、実際のところはどうなんだ?」

 

仕田原「くっ………」

 

 

 

仕田原「お掃除し直しです!!」

 

《反 論》

 

 

 

赤刎「仕田原?」

 

仕田原「黙って聞いていれば、さっきからわけのわからない事を…!自分は、備品の調達をしていたと何度も言ってるじゃないですか!」

 

赤刎「その事実確認ができない以上は何とも言えないな。」

 

仕田原「分かりました、そこまで言うなら自分が犯人じゃないと証明してみせましょう!!」

 

 

 

ー反論ショーダウン開始ー

 

仕田原「さっきから自分ばかり疑っているようですけどね、備品の調達をしていたというだけで疑われたのでは困ります!!」

 

赤刎「でも、準備を手伝ってた奴の中で単独行動を認めてたのはお前だけだろ?」

 

仕田原「だから何だと言うんです!?そもそも、準備を手伝っていた人の中に犯人がいるとは限らないじゃないですか!!」

 

赤刎「ドリンクバーの件がある以上、準備を手伝った奴の中に犯人がいる。」

 

仕田原「そ…そんなの、自分達の会話を他の誰かが聞いてて自分達を陥れるために《こっそり黒瀬さんに頼んだ》んじゃないんですか!?」

 

《こっそり黒瀬さんに頼んだ》⬅︎ 【速水の証言】

 

「その言葉、ぶった斬る!!」

 

《論 破》

 

 

 

赤刎「いや、それはない。速水が、お前らがドリンクバーのドリンクを配る事を決めてそれを後から来た黒瀬に伝えたって証言してる。黒瀬はさっき無実を証明したからシロだし、筆染も被害者だからシロ、枯罰もアリバイがあるからシロだ。となると、犯人はお前か速水のどちらかという事になる。な?わかるだろ?消去法で犯人はお前だ。」

 

仕田原「意味がわかりません!!どうして速水さんが犯人じゃない事になるんですか!?」

 

赤刎「俺はこのトリックに気付いた時、速水だけは絶対に爆弾魔じゃないって確信してたんだ。」

 

速水「えっ?」

 

仕田原「どうして!?」

 

 

 

赤刎「速水にこんな高度なトリックを実行できるわけがない。」

 

速水「なぁっ…!?」

 

赤刎「だってコイツ、粉塵爆発も知らなかったんだぞ?無理だろ。正体を隠して、高度なトリックで何百人も爆殺するなんて。」

 

速水「ちょっと円!!アンタねぇ!!」

 

枯罰「まあ…阿呆やしな。しゃーないわ。」

 

弦野「仕田原と速水、どっちが爆弾魔やれそうかっつったらまあ…10:0で仕田原だわな。」

 

速水「っ〜、そ、そうよ!!アタシ、バカなの!!円の言う通り、アタシに爆弾魔なんてできっこないわ!!」

 

黒瀬「にゃはは、まさか蘭華ちゃんのおつむの弱さが決め手になるとはね〜。」

 

赤刎「で、どうなんだ?仕田原。一応聞いてやるけど、お前が犯人でいいんだよな?」

 

仕田原「…。」

 

 

仕田原「………ふ」

 

 

 

仕田原「…ふふふふふふふ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

仕田原「あっはははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一「し、仕田原…さん?」

 

仕田原は、今まで聞いた事がない程大声で高笑いした。

その瞬間、俺の中の仕田原の真面目で謙虚なイメージが一気に崩れ去った。

 

 

 

仕田原「あーあ、あたしとした事がこんなバカに足を掬われるとはね。」

 

そう言って仕田原はトレードマークとも言えるエプロンと三角巾を外すと、乱暴に床に叩きつけた。

 

一「えっ……えっ………?」

 

さらに、瓶底眼鏡を外し、結っていた髪を解いた。

 

 

 

 

 

仕田原「………そうよ。あたしが【超高校級の爆弾魔】よ。」

 

弦野「なっ…!?」

 

一「え、そんな…仕田原さん…ねぇ、嘘だよね!?ねぇ!!」

 

仕田原「あっははは!!何その顔!ウケる!!『え、そんな…仕田原さん…』だって!!バッカじゃないの!?パソコンしか取り柄のない陰キャのくせに夢見てんじゃねぇよ!!ちょっとその気があるっぽく接してやったらすぐ舞い上がりやがって、気持ち悪いんだよお前!!きゃははははははははは!!!」

 

一「そんな…そんな…うっ、うぅうううううっ…!!」

 

安生「…一君、彼女の言葉に耳を貸しちゃダメだ。……ねえ、仕田原さん。その反応は、今回の事件の犯人は君って事でいいのかな?」

 

仕田原「……あ?何言ってんだテメェ。あたしが認めたのは、あたしの正体が爆弾魔だって事だよ。今回の事件の犯人があたしだって認めたわけじゃねぇよバカなのそれとも今すぐ死ぬ?」

 

枯罰「いや、もう犯人お前しかおらんやろ。まあそう言うても解けてない謎はまだあるしなぁ。もーちょい議論進めてこか。」

 

 

 

ーーー議論開始!!ーーー

 

 

 

仕田原「言っとくけどあたしは犯人じゃねーからな!?」

 

枯罰「いやどの口が言うとんねんド阿呆。」

 

仕田原「アホはテメェだろ黙ってろゲボカスがよぉ。じゃあ言わせてもらうけどなぁ、仮にあたしが犯人だったとして、部屋ん中で小麦粉なんかブチ撒けたら服が汚れんだろうが。でも見ろよ。あたしは《粉を浴びてない》。そりゃそうだよ、あたしは犯人じゃねぇからなぁ!!」

 

黒瀬「粉を浴びてないのはみんな同じじゃないの?」

 

仕田原「うるせぇ黙れクソ女。あたしが言ってんのは、あたしが犯人なら粉まみれになってなきゃおかしいだろって事だよ!!」

 

 

 

《粉を浴びてない》⬅︎【汚れたレインコート】

 

「それは違うぞ!!」

 

《論 破》

 

 

 

赤刎「いや、お前は何かで粉を防いだだけだ。浴びてないわけじゃない。」

 

仕田原「はぁ!?何を根拠に…」

 

赤刎「ロッカーに粉まみれのレインコートが落ちてた。あれ、お前のだろ?」

 

仕田原「……うっ。」

 

弦野「ほら、やっぱり犯人じゃねぇか。さっさと認めろよクソおん…」

 

仕田原「まだだよ!!!」

 

一「ひっ!?」

 

仕田原「さっきから屁理屈並べてばっかでよぉ、物的証拠がねぇだろうがよ!!」

 

枯罰「おーおー、往生際の悪いやっちゃのぉ。おいチビ、早うトドメ刺したれや。」

 

仕田原にトドメを刺す証拠…?

もしかして…

 

 

 

仕田原「証拠がねぇならあたしは犯人じゃねぇんだよ!!」⬅︎【筆染の爪】

 

赤刎「これで終わりだ!!」

 

 

 

赤刎「…実は、筆染の左手の爪には、血と皮膚が付着していたんだ。」

 

仕田原「それがどうしたんだよ!?」

 

赤刎「まだわからないか?筆染は、抵抗して誰かを引っ掻いたんだよ。血が爪に付くほど強く引っ掻いたんだ、お前の身体のどこかにあるんじゃないか?筆染にやられた引っ掻き傷がなぁ!!」

 

仕田原「ッ………!!」

 

赤刎「そういやお前、いつもは袖を捲ってるのに今は袖を下ろしてるよな。何でだ?」

 

仕田原「さ、寒いからよ!!文句あんの!?」

 

赤刎「ふーん。じゃあ、袖捲って腕を見せてくれよ。寒くて下ろしてるだけなら、捲って見せられるよな?」

 

仕田原「はぁ!?何であたしがわざわざそんな事しなきゃいけないのよ!!嫌よ!!」

 

弦野「さっさと見せろ!!」

 

仕田原「あっ…!」

 

痺れを切らした弦野は、仕田原の腕を掴んで強引に捲る。

仕田原の右腕には、5本の赤い線が走っており血が滲んでいた。

 

 

 

仕田原「っ………」

 

弦野「チッ、梃子摺らせやがって。やっぱりテメェが犯人だったか。おい赤刎、トドメ刺せ。」

 

赤刎「ああ。これが事件の真相だ!!」

 

 

 

ークライマックス推理開始!ー

 

【Act.1】

事の発端は、モノクマが用意した動機だった。

この動機に釣られて殺人を計画した奴が二人いたんだ。

一人は犯人、そしてもう一人は宝条だ。

宝条は、筆染を殺す計画を立てて厨房から包丁を盗み出し、その機会を窺っていた。

 

【Act.2】

一方爆弾魔でもある犯人は、犯行を実行するためにコンサートの備品の調達をすると嘘をついて小麦粉と不燃性の塗料と刷毛とスタンガン、それから二種類の睡眠薬を盗んできた。

そしてドリンクバーに盗んだ睡眠薬を仕込み、それとなく準備のメンバーにドリンクバーのドリンクを配るように提案したんだ。

そしてわざと、遅れてきた黒瀬にドリンク配りの仕事を振り、黒瀬のドリンクにだけ利尿剤と遅効性の睡眠薬の効果がある薬品を盛って黒瀬を犯人に仕立て上げた。

犯人は、黒瀬がホールを出ていき俺達が寝落ちたのを確認すると、座席移動装置を自動操作モードにして一階席と二階席を入れ替え、控え室にいた枯罰と弦野に見られる事なく非常階段から外に出たんだ。

 

【Act.3】

一方同時刻、宝条は何か理由をつけて筆染をカラオケボックスに呼び出し、突然包丁を突きつけて筆染に襲いかかった。

しかし、突然切り付けられた事で筆染がパニックを起こし、宝条を突き飛ばしてしまったんだ。

宝条はその場でバランスを崩し、後ろにあったローテーブルの角に頭をぶつけ打ち所が悪く命を落としてしまった。

筆染はすぐにその場から離れようとしたんだろう。

だが、ここでさらに想定外の出来事が起こってしまう。

何と、犯人と鉢合わせてしまったんだ。

 

【Act.4】

筆染が宝条を殺した事を知った犯人は、その場で筆染を殺し後釜に座る計画を思いついた。

犯人は、筆染をスタンガンで痺れさせ身動きを封じた。

だが、ここで致命的なミスを犯してしまうんだ。

何と、抵抗して暴れた筆染に腕を引っ掻かれてしまったんだ。

犯人は咄嗟に捲っていた袖を下ろし傷を隠したが、筆染の爪に犯人の血と皮膚が付着していた事が決定打となってしまうんだ。

 

【Act.5】

筆染の動きを封じた犯人は19号室に筆染を運び、レインコートを着て壁に不燃性の塗料で『BOMBER』と書いた。

そして扉に内側から鍵を閉めると、盗んでおいた小麦粉を部屋中にぶち撒け、自分は頑丈なロッカーの中に身を隠した。

そしてロッカーの中から火花のついたスタンガンを投げ、急いで扉を閉める。

するとスタンガンの火花が空気中の小麦粉に引火し、粉塵爆発が起こった。

爆発が収まったのを確認した犯人は、レインコートをロッカーの中に脱ぎ捨てると爆発で吹き飛んだ扉から外に出た。

 

【Act.6】

そして非常階段からホールに戻った犯人は、自分の席に座った。

すると設定していた時間に座席が移動し、二階席と入れ替えていた席が元の位置に戻ったんだ。

そして異変を感じた枯罰と弦野が俺達を起こしに来るまで犯人は寝たフリをし、たまたま現場を発見した黒瀬が俺達をカラオケエリアに集め二人の死体を見せた時、犯人は何食わぬ顔顔でそこにいた…

 

「これが事件の真相だ。そうだろ!?【超高校級の家政婦】…いや、【超高校級の爆弾魔】仕田原奉子!!」

 

 

 

仕田原「ふっ…ふふっ…あははははははははははははは!!!バレちゃしょうがないわね!!そうよ!!あたしが筆染絵麻を殺ったのよ!!」

 

一「そんな、嘘、嘘、嘘…!!」

 

弦野「テメェ…よくも絵麻を…!!」

 

仕田原「きゃははははっ、いいねぇその絶望的な表情!!!いいぞクズ共、もっとあたしを楽しませろォ!!!」

 

枯罰「…いや、お前はここで終わりや。おいクマ公、早う始めんかい。」

 

モノクマ『うぷぷぷぷ、それではもう結論が出たみたいなのでアレいっちゃいましょうか!投票ターイム!!あ、言っとくけど今回投票するのは筆染サンを殺した犯人だからね?間違えて宝条サンを殺した犯人に投票しないでね?』

 

モノクマがそう言うと、席にボタンが表示され投票時間が始まった。

投票しなければ俺が死ぬんだ。

俺は、迷いながらも仕田原に投票した。

 

モノクマ『投票の結果、クロとなるのは誰なのかー!?その結果は正解か不正解なのかー!?ワクワクでドキドキの投票ターイム!!』

 

モニターにスロットが表示される。

ドラムロールと共にリールの回転速度が落ちていき、仕田原の顔のドット絵が3つ揃った所でリールが止まった。

その直後、正解を褒め称えるかのように、はたまた俺達の潰し合いを嘲笑うかのように歓声と共に大量のメダルが吐き出された。

 

 

 

《学級裁判 閉廷!》

 

 

 

 

 


 

 

 

ー生存者ー

 

【超高校級の講師】赤刎円

 

【超高校級のカウンセラー】安生心

 

【超高校級の香道家】聞谷香織

 

【超高校級の脚本家】黒瀬ましろ

 

【超高校級の???】枯罰環

 

【超高校級の爆弾魔】仕田原奉子

 

【超高校級の冒険家】ジョナサン・ウォーカー

 

【超高校級のヴァイオリニスト】弦野律

 

【超高校級のソフトウェア開発者】一千歳

 

【超高校級のランナー】速水蘭華

 

ー以上10名ー

 

 

 




意外な事に知ってる限りでは仕田原ちゃんをクロだと予想した人がいなかったんですよね。
皆様の意表を突けてワタクシは満足でございますよ(ゲッスッス


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非日常編④(オシオキ編)

7時15分、カラオケエリアの17号室にて。

 

「ゆめちゃん、あたしに話って何?」

 

「…ちょっと気になる物があるの。本当はみんなには秘密にしておきたい事なんだけど、ゆめとアンタの仲だから教えてあげる。」

 

「えへへ…なんかそう言われると照れますなぁ。それで、あたしに見せたいものって?」

 

「ちょっとそこの床見てみて。」

 

「床?別に何ともな………ッ!!?」

 

 

 

 

「キャアアアアアアアアアアアアッ!!!」

 

 

 

ーーー

 

 

 

「っ…!!」

 

どうしようどうしようどうしよう…

ゆめちゃんが頭を打って動かなくなっちゃった。

いきなり切りつけられたから、逃げようとしただけなのに…

 

…あたしのせい?

いや、違う…元はといえばゆめちゃんが襲ってきたから…!

あたしは軽く押しただけ。

あたしは悪くない。

でもでもでもでも…

もし学級裁判でこの事がバレたら…あたしは処刑される…?

 

 

 

「あらあら、大変な事になってますねぇ。」

 

「!?」

 

し、仕田原ちゃん…?

 

「筆染さん。…それ、宝条さんですよね?うわぁ、頭から血が出て瞳孔開いちゃってるじゃないですか。筆染さん、見た目によらずエグい事しますねぇ。」

 

「ち、違う…!これはゆめちゃんが…」

 

「いいえ、これはあなたが殺ったんでしょう?この事がバレれば、処刑されるのはあなたです。でも安心して下さい。筆染さんは処刑されませんから。」

 

「え…?」

 

 

 

「…だって、あたしがアンタを殺すんだもの。」

 

!?

スタンガン!?

仕田原ちゃん、本気だ…

逃げなきゃ!!

 

「っ…!いやぁあああっ!!」

 

ガッ

 

「ッ………!!いっっっ…てぇなぁこのクソアマァ!!!」

 

バチバチバチッ

 

「ぎゃああぁああああああぁああああっ!!?」

 

痛い痛い痛い!!

身体が動かない…

誰か、助け…て………

…り、つ……くん………

 

 

ーーー

 

 

 

 

 

VOTE

 

仕田原奉子 9票

 

一千歳 1票

 

 

 

『うぷぷぷぷ、お見事大正解ー!!【超高校級の収集家】宝条夢乃サンを殺したのは【超高校級の画家】筆染絵麻サン、そしてその筆染絵麻サンを殺した殺意MAXクレイジーサイコキラーは【超高校級の家政婦】…もとい、【超高校級の爆弾魔】仕田原奉子サンでしたー!!オマエラ3連続正解なんてやるぅー!!』

 

「おい、仕田原…!お前が爆弾魔ってどういう事だよ!?」

 

「どういう事って…そのままの意味だけど?2年前からずっと爆発事件を起こしてたのはあたしだったのよ。」

 

「何でだよ!?お前、恋人が爆発事故に巻き込まれて死んだって…」

 

「…はぁ。これさぁ。いちいち説明しなきゃいけないわけ?」

 

『うぷぷぷぷぷ!本人に説明する気がないみたいだから、ここからはボクが説明してあげるよ!それでは、こちらのVTRをご覧いただきましょう!』

 

 

 

 

 

モノクマがそう言ってリモコンのスイッチを押すと、モニターに絵本のような可愛らしい絵が映し出される。

画面の中心には、小さな女の子が映っていた。

おそらく、この女の子は仕田原だ。

 

『昔々あるところに、可愛らしい女の子がいました。女の子はとても貧乏な家で生まれ育ち、両親からたいそう嫌われて育ちました。』

 

仕田原の両親が、幼い仕田原を痛めつけている。

可愛らしい絵で描かれているが、実際にされているところを想像すると思わず血の気が引いてしまうほどひどい仕打ちだった。

 

『ですがある日、女の子の両親は疫病に罹り幼い娘を遺しておっ死んでしまいました。女の子は路頭に迷い野垂れ死ぬ寸前でしたが、ある大手企業の社長に引き取られそこで専属の家政婦として雇われました。そしてそこで、女の子は運命の人に出会いました。女の子は運命の人と互いに愛し合い、幸せな日々を送っていましたとさ。ですが、二人の幸せはそう長くは続きませんでした!』

 

絵が切り替わり、炎に焼かれた建物と人が描かれている。

 

『何と、女の子の運命の人は爆発事故に巻き込まれてお亡くなりになってしまったのです!女の子は運命の人を亡くしたショックで気が触れてしまい、幸せそうにしている人を見ると亡くなった運命の人と同じ目に遭わせてやろうと考えるようになってしまいましたとさ!でめたしでめたし!』

 

 

 

 

 

「そんな…」

 

「だから爆弾魔になったっていうのか…一人でも多くの人を恋人と同じ目に遭わせるために…」

 

「そうだよ。あたしは、他の奴等を行哉さんと同じ目に遭わせるために爆弾魔になったんだよ。」

 

「そんな、どうして!!」

 

 

 

 

 

「だってムカつくじゃねぇかよ!!!」

 

「っ…!」

 

「行哉さんは、あたしだけを見てくれた。親にすら嫌われてたあたしを、ただ一人だけ愛してくれた人だった。なのに何であの人が死ななきゃならなかった!?何であの人だけが死んでテメェらクズがヘラヘラ笑って生きてんだよ!!おかしいだろうがよ!!!だから殺してやったんだ!!!あたしの前で幸せそうにヘラヘラ笑ってる奴全員!!行哉さんと同じようになぁ!!!」

 

は?

何だその理由。

コイツ…

そんな事のために多くの人の命を奪ったのか…?

コイツは、武本や神崎とは明らかに違う。

この女は、根っからの人殺しなんだ。

 

「オマエ…そんなselfishなreasonで…!!まだlust murderとかの方がマシだったぜ!!」

 

「あ?快楽殺人の方がマシ、っつったのか今。あたしは行哉さんのために殺ったんだ!!楽しくて人を殺すようなクズと一緒にしてんじゃねぇよ!!」

 

「コイツ、ホンマイカれとんのぉ…」

 

「ふざけんじゃねぇぞテメェ…そんなくだらねぇ理由で絵麻を殺したのか…!!」

 

「まあもちろんあの女の後釜に座りたかったっていうのもあるけど、そうじゃなくてもどのみちあの女はあたしの手で殺すつもりだったよ。宝条があたしのターゲットを横取りしようとするからムカついてアイツごと爆破しそうになったけど、筆染が宝条を殺してくれたおかげで余計な手間が省けたのはホントラッキーだったわ。」

 

「は…?」

 

「だって、アイツ調子乗っててムカつくんだもん。あたしは行哉さんを亡くしたのに、あの女はアンタの隣でヘラヘラ笑ってたんだよ?ホント、あの女を殺した時はスカッとしたわ。リア充爆発しろーってね。きゃははっ!」

 

「だったら何でアイツを殺したんだよ!!同じ目に遭わせたいなら俺を狙えば良かっただろ!!」

 

 

 

 

 

「…だって、アイツを殺した方がスカッとするじゃん?」

 

「…………は?」

 

「最初はずっと孤立してたアンタを殺すより、お前ら全員から好かれてるアイツを殺した方がお前らの味わう絶望も大きいだろ?あたしはなぁ、人の不幸が大好きなんだよ!!行哉さんを亡くしたあたしにとって、他の奴等の絶望だけがあたしの心を満たしてくれる!!クズ共が絶望のドン底で死んでいく瞬間だけは、あたしも行哉さんもコイツらよりは幸せだったんだなって思えて、何だか救われた気分になれるんだよ!!」

 

「あ…あああ…」

 

仕田原が壊れたように高笑いをする一方で、弦野は膝から崩れ落ち何かをブツブツ言っている。

 

「…ろ…す…」

 

「あ?」

 

 

 

 

 

「殺す」

 

「!!」

 

弦野は、ハッキリとそう言った。

その直後、弦野が深く暗く沈んだ眼を仕田原に向けたかと思うと仕田原に詰め寄った。

そして、仕田原を強引に床に押し倒し馬乗りになる。

 

「弦野…?お前、一体何を…!!」

 

俺が弦野を止めようとすると、弦野は懐からナイフを取り出して突きつけてきた。

 

「!!」

 

「ひぃっ!?」

 

「キャアアッ!!」

 

弦野がナイフの鋒を向けると、一と聞谷は悲鳴を上げた。

 

「来るな。来たら刺す。」

 

「弦野君、一体どこからそんなものを…!」

 

「倉庫の捜査をした時拝借したんだ。絵麻を殺した犯人をいつでも殺せるようにな。」

 

「なっ…ど、どういう事!?」

 

「殺すんだよ。コイツを。絵麻の仇…!!」

 

「無駄だよ弦野君。その女を殺したところで、裁判で君に勝ち目はない。」

 

「だろうな。だがそれがどうした?コイツを殺して、俺も死ぬ。それで仇を討てて絵麻に会えるなら本望だ。」

 

「ダメだ!!そんなの、俺が許さねぇ!!」

 

「いいじゃん!!本人が死にたがってるなら好きにやらせりゃあさ!!あたしは大歓迎だよ!!」

 

「仕田原、お前…!」

 

「ほら、どうした?あたしを殺すんだろ?早く殺れよ。筆染を殺した憎い憎い仇はここにいるよ?」

 

「ッ…!!」

 

「きゃはははっ、いいねえ!!その絶望的な表情!!アンタが憎めば憎むほどあたしは満たされるんだ!!ほらほら、もっと恨め!!殺せ!!それでもってあたしを気持ち良くしろ!!!」

 

「ッ、う゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!」

 

弦野は、高笑いを浮かべる仕田原を睨んで泣き叫びながらナイフを振り下ろした。

その次の瞬間だった。

 

 

 

「ド阿呆!!」

 

「ぐっ…!!」

 

枯罰が目に留まらぬスピードで弦野を蹴り飛ばして組み伏せた。

弦野は吹っ飛ばされた衝撃でナイフを手放し、俺の席の前にナイフが滑ってきた。

枯罰がアイコンタクトをしてきたので、俺は相槌を打ちナイフを拾い上げる。

 

「落ち着けド阿呆!!」

 

「うるせぇ!!離せ!!アイツを殺させろ!!俺は、死にたいんだよ!!」

 

「弦野…」

 

「俺は、殺されるのが怖くてお前らの言う事を聞かねぇで好き勝手やってた。けど絵麻は違った!!アイツは、誰よりもお前らの事を考えて行動する奴だった。俺なんかよりずっと生きる価値がある奴だった!アイツが殺されるくらいなら俺が死ねば良かったんだ!!」

 

「おう、ほんなら死ねや。」

 

「なっ…枯罰!?」

 

「ウチは死にたがりを止める程お人好しやない。死にたいなら勝手にせぇ。ただ、ウチに迷惑かけへんやり方でやれ。ウチはまだこの女に聞きたい事があんねん。お前の身勝手でウチに迷惑かけんなや。」

 

「…ッ、テメェは自分だけ生き残れればいいと思ってるからそんな事が言えるんだ。結局テメェも自分の事しか考えてねぇじゃねぇかよ!!」

 

「阿呆か。自分の事しか考えてへんのはお前の方やろ。確かに筆染はお前とはちゃう。アイツがお前の立場なら、仲間が殺されたから自分も死にたいなんぞ死んでも言わへん。アイツはそういう奴や。自分は死んでもいいから仇を討つなんぞ身勝手にも程があるやろ。」

 

「っ…」

 

「お前がアイツの想いを無下にしてまで死にたい言うんやったら、ウチも止めへん。せやけど、お前にまだアイツを想う気持ちがあるんやったらなぁ…」

 

枯罰は弦野の胸ぐらを掴み、平手打ちをして発破をかける。

 

 

 

「しゃんとせぇ!!!男なら根性入れんかい!!!」

 

「っ…!!」

 

すると、枯罰の言葉が弦野に響いたのか、弦野の表情からは殺意が消え失せ弦野は静かに俯いた。

そして、決意を固めたのか涙を流しながら両手を強く握りしめた。

 

「…絵麻。俺、強くなるよ。強くなって、お前の分まで生きるから…!!」

 

「よう言うた。絶対最後まで生き延びて、一緒にあのクマ公にキツい一発叩き込もか。」

 

「ああ…!!」

 

 

 

「あーあ、何かしらけちゃった。せっかく弦野があたしを殺してオシオキされればより深い絶望が味わえると思ったのになぁ。」

 

「オマエ…!!」

 

「根っからの屑やな。呆れて物も言えへんわ。…おい、クマ公。」

 

『はい何でしょ?』

 

「コイツが筆染の後釜に座ってまで叶えたかった願いは何なん?どうせこの女の動機はあのクソダサい金ピカ笹に飾ってあった願い事やろ?」

 

『ちょっとー!クソダサいって何ですか!せっかくオマエラのために用意したのに!ゴホン、では発表しましょう!仕田原サンの願い事はーーーーー…これです!!』

 

 

 

 

 

ーーー

 

この世の全てを爆破したい

 

仕田原奉子

 

ーーー

 

 

 

 

 

…は?

 

「ちょっ…何なのこの願い事は!?」

 

「マジで犯人当てられて良かった…これが叶ったらって思うとゾッとするわ。」

 

「仕田原さん、何故このような残酷な事を…!?」

 

「救済だよ。」

 

「…え?」

 

「この世の全てが一斉に消えれば、みんな結末は平等に訪れる。あたしの愛した人だけが不幸にならなくて済む。これこそが真の救いだ!!あははははははは!!!」

 

「ダメだ、完全に正気じゃない。」

 

「うわー、ヤバいね。ボクが言うのもアレだけどさぁ。キミ、相当頭イっちゃってるよ。」

 

「テメェにだけは言われたくねぇよクソ女。でも、叶わないなら叶わないで別にいいんだ。これでやっと行哉さんに会えるしね。おいモノクマ、さっさと始めろ。」

 

『うぷぷぷ、そうですか。じゃあ景気良くヤっちゃいましょうか!』

 

「くっ、仕田原…!」

 

「ふふふ、ねえ行哉さん。あたし、この時をずっと待ってたんだよ。これでずっと一緒になれるね。」

 

『今回は、【超高校級の爆弾魔】仕田原奉子サンのために!!スペシャルな!!オシオキを!!ご用意しました!!!』

 

「行哉さん行哉さん行哉さん行哉さん行哉さん…」

 

『ではでは、オシオキターイム!!!』

 

 

 

「あははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!!!!!」

 

 

 

罪人の処刑を宣言するモノクマの声が響き渡ったかと思うと、今度は仕田原の乾いた笑い声が裁判所全体に響いた。

モノクマはピコピコハンマーを取り出して、一緒に出てきた赤いボタンをハンマーで押した。

ボタンに付いている画面に、ドット絵の仕田原をモノクマが連れ去る様子が映っていた。

 

 

 

 

 

ーーー

 

GAME OVER

 

シダハラさんがクロにきまりました。

 

オシオキをかいしします。

 

ーーー

 

 

 

仕田原は、背後から伸びたアームのようなものに首を掴まれそのまま裁判所の外へと引きずっていった。

仕田原が連れて来られたのは、薄暗く辺りに血が飛び散った部屋だった。

仕田原は、血で汚れた拘束具付きの椅子に座らされる。

そこで画面上に文字が現れる。

 

 

 

ーーー

 

君がいた夏は遠い夢の中

 

【超高校級の爆弾魔】仕田原奉子 処刑執行

 

ーーー

 

 

 

仕田原の前に魔女モノクマが現れ、綺麗な花が咲いた植物でできたステッキを振る。

するとステッキから煙が出て、煙を吸った仕田原は目が虚ろになり、視界が原色の絵の具を撹拌したような不気味な風景になる。

煙が晴れるといつの間にか仕田原はウエディングドレス姿になっており、周りは美しい海が見える教会になっていた。

仕田原の目の前には、新郎の格好をした美青年が立っている。

仕田原が『行哉さん』と呼んで恋慕していた青年だった。

 

行哉は仕田原に歩み寄るとベールを外しニッコリと微笑む。

すると仕田原は頬を赤く染め、行哉は顔を仕田原の顔に近づける。

唇が触れる、その瞬間だった。

 

画面が切り替わり、周りは先程の薄暗い部屋になる。

全身が焼け爛れた醜悪な青年が、仕田原の唇を食い千切っていた。

仕田原の口からは、血と肉片がボタボタと滴る。

 

すると再び画面が切り替わり、行哉が仕田原の左手薬指に指輪を填める。

 

画面が切り替わり、醜悪男が仕田原の指を切り落としていた。

仕田原の指の断面からは血が噴き出る。

 

画面が切り替わり、行哉と仕田原が広いホールでダンスを踊る。

それを多くの人々が祝福していた。

 

画面が切り替わり、醜悪男が無理矢理棘だらけの床の上で仕田原を踊らせていた。

仕田原の足はボロボロになる。

それを多くの焼け爛れた人々が嘲笑っていた。

 

画面が切り替わり、行哉と仕田原が豪華な食事やケーキを食べる。

口の周りにクリームをつけた仕田原を見て、行哉は可笑しそうに笑っていた。

 

画面が切り替わり、醜悪男が仕田原の口の中に大量の釘や毒や虫、腐肉や汚物を詰め込む。

口から血や汚物を垂れ流す仕田原を見て、醜悪男は嘲笑っていた。

 

画面が切り替わり、いつの間にか裸になった二人がベッドの上で抱き合う。

仕田原は、恥ずかしそうにしつつも両脚を開いて行哉を受け入れる。

 

画面が切り替わり、仕田原は醜悪男に服を剥ぎ取られ無数の針が敷き詰められた台に押し倒されていた。

両脚を無理矢理大きく開かされ、焼けて真っ赤になった鉄の棒を何度も股間に突っ込まれる。

棒が引き抜かれると、大量の寄生虫が湧いた樹液をかけられる。

仕田原は満身創痍になり、仕田原の股間からは血と虫入りの樹液が混じり合った液体が滴っていた。

 

画面が切り替わり、行哉が仕田原の手を引いて美しい花が咲き誇る庭園へと連れて行く。

仕田原が花壇の花に見惚れていると、行哉がニッコリと笑ってパチンと指を鳴らす。

すると行哉は全身が焼け爛れた醜悪男になり、庭園も血塗れの薄暗い部屋に変わる。

美しい花が咲いていた花壇は、ビッシリと剣が埋め尽くされた深い落とし穴になっていた。

全身ボロボロになった仕田原の身体には痛みが走り、仕田原は体を捩った拍子に落とし穴に落ちる。

 

すると、落とし穴の底から何百もの焼け爛れた手が伸びてきて仕田原の身体を掴み、仕田原を穴の底へ引き摺り込もうとしていた。

落とし穴の底で仕田原を引っ張っていた人物は、よく見ると仕田原が起こした事件の被害者達だった。

仕田原が助けを求める中、落とし穴の上から手が差し伸べられる。

手を差し伸べていたのは、生前の美しい姿をした行哉だった。

仕田原は、蜘蛛の糸に縋るが如く行哉の手を取ろうとした。

だが、行哉は仕田原の手を払い除けると落とし穴の底に蹴り落とした。

最愛の人に見放された仕田原は、絶望で顔をグシャグシャにする。

 

その直後画面が切り替わり、巨大なロケットが映し出される。

するとそこにモノクマが現れて、ロケットから伸びていた導火線に火をつける。

導火線に付いた日はやがてロケットの燃料に届き、ロケットは空高く飛ぶ。

するとロケットの小窓からパラシュートを背負った行哉が飛び降り、炎を上げながら飛んでいくロケットを手を振って見送った。

 

打ち上げられたロケットははるか上空で爆発し、夜空には真っ赤なモノクマの顔の花火が咲く。

河川敷で花火を見上げていたモノクマと行哉の顔が、花火の色で染まっていた。

 

 

 

 

 

『アイスクリーーーーーーーム!!!』

 

「うわあああああああああああああ!!!」

 

「いやっ…いやっ!!こんなの、あんまりですわ!!」

 

「そんな、トモコ…!」

 

「嘘でしょ…!?奉子が…!!」

 

「酷い…酷すぎるよ。」

 

「相変わらず不愉快なモン見せよってからに、虫唾が走るわ。」

 

「あーあ、奉子ちゃん死んじゃった。もうちょい粘ると思ったんだけどなー。」

 

「クソッ…仕田原…!!」

 

大半が泣き叫び、冷静だったのは枯罰と黒瀬だけだった。

 

「っ………」

 

弦野は、膝をついて呆然とモニターを眺めていた。

結局何もできず、筆染を殺した仇をモノクマに残酷なやり方で殺されたのだから当然の反応だった。

 

『いやー、愉快痛快爽快!そんじょそこらのAVよりよっぽどコーフンするよね!脳内麻薬で溺れまくりだね!オマエラには、三度目の学級裁判を乗り越えたご褒美にメダルをあげるよ!』

 

「オマエ…!!I’ll never forgive you!!」

 

『え、なんて言ったの?絶対許早苗?』

 

「お前…!!」

 

『ってゆーかさ、その反応はおかしくない?仕田原サンは連続殺人鬼だったんだよ?筆染サンを殺したんだよ?って、その筆染サンも宝条サンを殺してたか!いやー失敬失敬!』

 

「まあ、そらアイツはそれだけの事をしたわけやし、罰を受けるのは当然っちゅうんはウチも思うわ。ウチはやり方に腹立っとんねん。」

 

『そーんな事言って、枯罰サンがツンデレって事はボクちゃんと知ってるもんね!今の減らず口だってドキドキワクワクの裏返しでしょ?本当は濡れ濡れだったりして!?いやーん枯罰サンのエッチー!』

 

「お前いつかホンマにどつくぞコラ。…ほんでこれはずっと思っとった事なんやけどなぁ。」

 

 

 

 

 

「…これ、生中継されとるやろ?」

 

…。

 

…。

 

………えっ?

 

 

「な、生中継…!?それって、どういう…」

 

『なーんだ、やっと気付いたの?そうです、このコロシアイは全国に生中継されてるんだよ!!オマエラの醜い様を全国の皆様に見ていただいてるわけ!!』

 

「そ、そんな事のために奉子をあんな方法で殺したっていうの!?」

 

「まあ、悪趣味な屑は社会に一定数おるからのぉ。そういう屑は、派手な処刑の方が好きなんやろ。」

 

『うぷぷぷぷ、さすが枯罰サン!そういう屑を今まで嫌というほど見てきたというだけあってクールだねぇ。』

 

「…黙れや。」

 

『キャー怖ーい!枯罰サン、コロッケ抑えて抑えて!』

 

「殺気の間違いだよねー?」

 

…嫌というほど見てきた?

もしかして、枯罰の過去と何か関係あるのかな…

 

「ホンマ、視られてると思うとええ気分せぇへんのぉ。まあ、こないな事言うてもしゃあないし、早う帰らせろや。」

 

『ちょっと待った待ったー!!』

 

「…何や。」

 

『オマエラに一個言い忘れてた事があるんだ。』

 

「言い忘れてた事…?」

 

 

 

 

 

『実は、オマエラの中に内通者がいます!』

 

 

 

…えっ?

 

「な、内通者!?どういう事!?」

 

『そのままの意味だよ!この中に、ボクの仲間がいるわけ。ドゥーユーアンダースタン?』

 

「まあそうだろうとは思ってたけどねー。それで、内通者ってどんな事してるの?情報を売ってるのか、工作してるのか、クマちゃんの助手やってるのか…」

 

『えー、なになに黒瀬サン?やけにグイグイ聞いてくるじゃん。内通者じゃないアピールしたい内通者だったりする?』

 

「それはクマちゃんが一番よくわかってるでしょーが。で、具体的には何してるのかは教えて貰えないのかな?」

 

『まあ、詳しい事は言えませんがね。殺人を企んでる、とだけ言っておこうかな。』

 

「ふーんあっそ。で、人数は?最悪ボク以外全員内通者とかだったら流石にちょっとお手上げぴーやなんだけど。」

 

『あーもううるさいな、じゃあもう特大ヒントあげちゃうよ!生き残ってる9人の中に、一人だけ内通者がいるんだよねー!』

 

「な…嘘でしょ!?そんな、いつから…!?」

 

『少なくとも、札木サンが武本クンに自分を殺させる計画を伝える前からですよ。』

 

「どうせアンタの嘘でしょ!?」

 

『まあ信じるか信じないかはオマエラ次第ですけどね。それじゃボクはこれで。ばいばいきーん!』

 

そう言ってモノクマは去っていった。

 

 

 

「クソッ…!」

 

「うっ…ううっ…宝条さん…筆染さん…仕田原さん…どうして…!」

 

…どうして?

………そういえば。

 

「…なあ。何でだったんだろうな。」

 

「何が?」

 

「モノクマは、仕田原が筆染を殺した理由については教えてくれたけど、宝条が筆染を殺そうとした理由については教えてくれなかっただろ?」

 

「それは、夢乃も願い事を叶えたかったからじゃないの?」

 

「でも、何で筆染だったんだ?わざわざ筆染をターゲットにした理由がわからないんだ。」

 

「そうだよ、何で絵麻は宝条にまで狙われなきゃいけなかったんだ!?」

 

 

 

「内通者が唆したからじゃないの?」

 

「…えっ?」

 

「クマちゃん言ってたでしょ?内通者は殺人を起こすのが仕事だって。だったら、今までの殺人も内通者が唆してたんじゃないの?実は、絵麻ちゃんとゆめちゃんって、前回それぞれお互いの秘密を受け取ってるんだよね。だから、内通者が『絵麻ちゃんがゆめちゃんを裏切るつもり』ーとか何とか言ってゆめちゃんの不安を煽ったんじゃない?」

 

「やけに冴えてんなテメェ。何でそんな事わかんだよ?」

 

「えー、だって…」

 

 

 

 

 

「ボクが内通者だから。」

 

…。

 

…。

 

…。

 

………え?

 

 

 

「なっ…ちょっとましろ!どういう事!?」

 

「だーかーらー、ボクが内通者なんだってばさきー。ボクが、ゆめちゃんに『絵麻ちゃんがネットでゆめちゃんの秘密をバラそうとしてる』って嘘を教えたんだよー。」

 

「そんな…今までわたくし達を騙していたという事ですの!?」

 

「そうなりますなぁー。ボクってば気まぐれで嘘つきだから。」

 

「何でそんな事…」

 

「みんなの事がだーいすきだからだよ?」

 

「は…?」

 

「嘘は何物にも代え難い愛情なんだよ?ボクが嘘をつくのも、みんなの事が大好きだからなんだ〜。」

 

黒瀬は、無邪気な笑みを浮かべてとんでもない事を言い出した。

コイツは、同じ殺人鬼でも仕田原とは根本的に違う。

ただただ純粋に、自分が楽しければそれでいい。

コイツはそういう奴なんだ。

 

「何だよそれ!!サイコパスの発想じゃん!!」

 

「まあまともな神経しとったらこないなふざけたマネせぇへんやろ。」

 

「えー、やだなぁー、環ちゃん。それはキミが言えた事じゃないよねぇ?」

 

 

 

「ボクよりずっと残忍で狡猾で、人だってボクなんかよりいっぱい殺してるくせにさぁ。」

 

「…。」

 

黒瀬がそう言った途端、枯罰の周りを覆う空気が変わった。

仕田原の悪意を間近で実感した俺だからこそ、確信した。

 

…これは、殺気だ。

枯罰は、間違いなく黒瀬に殺意を抱いている。

 

 

 

「にゃはは。うん、いい!そっちの方がいいよ!本来のキミらしくてさぁ。…そうでしょ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「【超高校級の傭兵】枯罰環ちゃん♪」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Chapter3.天国の君のためのセレナーデ ー完ー

 

 

 

《アイテムを入手した!》

 

『サンビタリアのバレッタ』

 

Chapter3クリアの証。

仕田原の遺品。

彼女の恋人の天宮行哉がかつてプレゼントしたもの。

最愛の人を失い気が触れた後も、ずっと身につけていた。

 

 

 

 

 


 

 

 

ー生存者ー

 

【超高校級の講師】赤刎円

 

【超高校級のカウンセラー】安生心

 

【超高校級の香道家】聞谷香織

 

【超高校級の脚本家】黒瀬ましろ

 

【超高校級の傭兵】枯罰環

 

【超高校級の冒険家】ジョナサン・ウォーカー

 

【超高校級のヴァイオリニスト】弦野律

 

【超高校級のソフトウェア開発者】一千歳

 

【超高校級のランナー】速水蘭華

 

ー以上9名ー

 

 

 



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希望ヶ峰楽園 生徒名簿2
生徒名簿②


【超高校級の講師】赤刎(アカバネ)(マドカ)

 

「迷子じゃねぇよ!俺は男子高校生だっての!」

「それは違うぞ!」

 

現状:生存

性別:男

年齢:18歳

誕生日:5月9日(おうし座)

血液型:B型

身長:135cm

体重:25kg

胸囲:65cm

利き手:右

出身校:桜庭高校

好き:超高校級、クレープ

嫌い:オカルト、牛乳

容姿:長い赤毛の癖っ毛を一本に纏めており、橙色の瞳。そばかすがある。見た目は完全に幼女。

服装:半袖のワイシャツと深緑の短パンの上に紺色のロングコート。

人称:俺/お前/苗字呼び捨て

ICV:日髙のり子

 

本作の主人公。幼女のような外見だが、れっきとした男子高校生。札木とは高校のクラスメイト同士。

世話好きで熱血漢。基本的に常識人だが、エロが絡むと積極的になる。

クラスメイトと親友を失った事で心が折れそうになるが、3度の学級裁判を乗り越えて精神的に強くなった。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

【超高校級のカウンセラー】安生(アンジョウ)(ココロ)

 

「僕でよかったらいつでも相談に乗るよ。」

 

現状:生存

性別:男

年齢:18歳

誕生日:7月1日(かに座)

血液型:O型

身長:174cm

体重:54kg

胸囲:81cm

利き手:左

出身校:西城学院高校

好き:悩み相談、動物、白和え

嫌い:血、おろし和え

容姿:深緑の長髪に淡い紫色の瞳。

服装:黒いシャツ、白いネクタイ、グレーの制服の上に白衣。メガネをかけている。下半身不随のため車椅子に乗っている。

人称:僕/君/男:苗字+君 女:苗字+さん

ICV:河西健吾

 

高校生にして優秀なカウンセラーで、どんな精神疾患も治してしまう程。

生まれつき下半身不随で、常に車椅子で移動している。

温厚な性格で、常に相手の心に寄り添って行動している。

普段は司令塔的ポジションだが、あくまで精神的には一般人のため捜査や裁判の際は枯罰とポジションが入れ替わる。

 

 

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【超高校級の天才】神崎(カンザキ)(ミカド)

 

「とっとと失せろ凡俗共。貴様らと同じ空気を吸っているだけで、俺の才能が汚染される。」

 

現状:死亡(2章クロ)

性別:男

年齢:18歳

誕生日:10月31日(さそり座)

血液型:AB型

身長:188cm

体重:73kg

胸囲:88cm

利き手:両手

出身校:帝卿学院高校

好き:自分、ヌーベルキュイジーヌ、母親

嫌い:凡人、貧乏飯、弟

容姿:プラチナブロンドのミディアムヘアーに深緑の瞳。男子の中では一番美形。

服装:ワイシャツ、赤いリボン、紺色のベスト、黒いスラックスの上に黒いロングコート。シルクの白い手袋を嵌めており、左耳にフルール・ド・リスのイヤリングをつけている。胸にはブローチをつけている。

人称:俺/貴様/おい、あれ、蔑称等。頑なにクラスメイトの名前を呼ばない。

ICV:関智一

 

神崎財閥の御曹司で、一度見聞きした事はその分野の超高校級には及ばないものの一流と呼べるレベルには習得できてしまう程の天才。

傲慢な性格で、自分自身以外は誰も信用していない。常に他人を見下している。

実は漕前の血の繋がった兄で、母親の妊娠がきっかけで両親が離婚したため弟である漕前を母親を奪った存在と見做して憎むようになり、嫉妬のあまり殺害。

 

 

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【超高校級の香道家】聞谷(キクタニ)香織(カオリ)

 

「まあ、伝統芸能の中でも知名度が低いので…聞き慣れないかもしれませんね。」

 

現状:生存

性別:女

年齢:16歳

誕生日:11月5日(さそり座)

血液型:AB型

身長:162cm

体重:48kg

胸囲:85cm

利き手:右

出身校:聖蓮堂女学院高校

好き:お香、和菓子

嫌い:騒音、品性の無い方、ジャンクフード

容姿:黒髪ロングで黒い瞳。口元に黒子がある。

服装:濃い紫の着物に白い帯。

人称:わたくし/あなた/苗字+さん

ICV:名塚佳織

 

伝統芸能に通ずる者なら必ず名前を聞くほど有名な香道家で、聞谷流という新たな流派を創流するという偉業も成し遂げている。

常に敬語で話す。おっとりしたお嬢様で、誰に対しても礼儀正しい。エロや暴言などに対しては嫌悪感を抱いている。しかし、カラオケや恋バナで人一倍はしゃいだりなどお茶目な一面も持ち合わせている。

親友の筆染と宝条を失い、3度目の学級裁判で仕田原の本性が明らかになった事で心に深い傷を負った。

 

 

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【超高校級の脚本家】黒瀬(クロセ)ましろ

 

「嘘は何物にも代え難い愛情なんだよ?ボクが嘘をつくのも、みんなの事が大好きだからなんだ〜。」

 

現状:生存

性別:女

年齢:18歳

誕生日:6月2日(ふたご座)

血液型:O型

身長:148cm

体重:45kg

胸囲:99cm

利き手:左

出身校:魁清学園高校

好き:円くん、みんな、謎

嫌い:なし

容姿:白い癖っ毛のセミロングにピンク色の瞳。肌が真っ白。

服装:白と緑を基調としたセーラー服の上に薄ピンクのパーカー。

人称:ボク/キミ/男:名前+くん 女:名前+ちゃん

ICV:豊崎愛生

 

映画やドラマ、ゲームなど数多くの作品を手がけており、彼女が手がけた新作は全てその週のランキングで1位になる程の天才脚本家。

マイペースで掴み所のない性格。恐怖や緊張感が欠如しており、コロシアイ生活にもすぐに適応してエンターテインメントとして楽しむ程の図太さを持つ。

小児性愛者で、ロリ体型の赤刎に執拗なまでのストーカー行為を繰り返している。

殺人鬼だと自称しているが真相は不明。また、3度目の学級裁判では全員の前で自分が内通者だと自白した。

 

 

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【超高校級の幸運】漕前(コギマエ)(ミナト)

 

「みんなで一致団結すりゃあ、コロシアイなんて起こんねぇって!」

 

現状:死亡(2章シロ)

性別:男

年齢:16歳

誕生日:3月6日(うお座)

血液型:AB型

身長:170cm

体重:60kg

胸囲:80cm

利き手:右

出身校:芒ヶ原高校

好き:ゲーム、綺麗なお姉さん、グラタン

嫌い:勉強、ラザニア

容姿:アッシュブロンドのセンター分けでライトグリーンの瞳。

服装:黒い学ランの下に白いTシャツ。

人称:俺/お前/男:苗字呼び捨て 女:苗字+ちゃん

ICV:花江夏樹

 

くじ引きで平均的な高校生の中から選ばれて入学した。

これといった才能が無い事を全く気にしておらず、明るく社交的に振る舞っている。助平で、赤刎やジョンと一緒にエロトリオと呼ばれている。

実は神崎の実の弟で、モノクマの動機でこの事実を知ったが、実兄に会えた喜びも束の間、神崎に母親を奪った邪魔者と見做され殺害された。

 

 

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【超高校級の傭兵】枯罰(コバチ)(タマキ)

 

「別にここで役に立つ才能とちゃうし言わんでもええやろ。」

 

現状:生存

性別:女

年齢:15歳

誕生日:2月17日(みずがめ座)

血液型:A型

身長:181cm

体重:61kg

胸囲:83cm

利き手:両手

出身校:???

好き:綿菓子、プリン

嫌い:ド阿保、喧しい奴、梅干し

容姿:毛先がワインレッドの黒髪で、右目が隠れ気味。薄いブルーグレーの瞳。中性的な見た目で、美人というよりはイケメン寄り。

服装:ワイシャツと青いネクタイの上に茶色いブレザー。耳にクロスのピアスをつけている。

人称:ウチ/お前/苗字呼び捨て又は苗字+はん(煽り用)

ICV:宮村優子

 

第二の主人公。才能を全く語ろうとしない。背が高く美青年のように見えるが、れっきとした女性。

関西弁で喋るのが特徴的。知的で冷静沈着な性格。ほとんど感情が顔に出ないが、札木と違いズバズバと物を言う。

捜査や学級裁判では、持ち前の知識や閃きと仲間の死にも冷静に向き合う強さを活かしリーダー的ポジションになっている。

3度目の学級裁判の直後、黒瀬の告白によって才能が明らかになった。

 

 

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【超高校級のタロット占術師】札木(サツキ)未来(ミライ)

 

「これから何か、良くない事が起こるらしいの…それが何かまではわからないけど…」

 

現状:死亡(1章シロ)

性別:女

年齢:18歳

誕生日:1月8日(やぎ座)

血液型:B型

身長:152cm

体重:40kg

胸囲:78cm

利き手:右

出身校:桜庭高校

好き:タロット、チーズケーキ、義姉、赤刎くん

嫌い:怖い人、胡椒

容姿:薄紫色のボブカットで、右側を結っている。茶色の瞳。

服装:白いシャツ、赤いリボン、深緑のスカートの上に深緑のボレロ。

人称:わたし/君/男:苗字+くん 女:苗字+さん

ICV:矢作紗友里

 

本作のヒロイン。赤刎の高校のクラスメイト。

100%当たると有名なタロット占術師。彼女の助言に従えば、将来の成功が約束されるとも言われている。

物静かな性格で、感情表現が苦手。口数が少なく、あまり積極的に発言しない。

実は未来予知の力を持っている。

少し歳の離れた義姉がおり、赤刎がたまたま義姉の命を救った事で赤刎に好意を抱くようになる。

モノクマに義姉の惨殺シーンを見せられ、さらには神崎に唆されて自分を占ったところ最悪の結果が出た事で絶望し、自分の命を犠牲にして武本に全てを託そうとした。

 

 

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【超高校級の爆弾魔】仕田原(シダハラ)奉子(トモコ)

 

「………そうよ。あたしが【超高校級の爆弾魔】よ。」

 

現状:死亡(3章クロ)

性別:女

年齢:17歳

誕生日:8月11日(しし座)

血液型:A型

身長:168cm

体重:58kg

胸囲:88cm

利き手:右

出身校:烏谷高校

好き:行哉さん、絶望

嫌い:行哉さん以外の人間

容姿:水色の長髪を後ろで纏めており、青い瞳。隠れ美人で、実は女子の中では一番美形。

服装:黒いシャツの上に青いオーバーオールを着ており、その上に白いエプロン。頭には白い三角巾。瓶底メガネをかけている。

人称:あたし/アンタ、テメェ/苗字呼び捨て

ICV:加藤英美里

 

高校生の身でありながら家事全般何でも熟せる家政婦で、来年まで仕事の予定が埋まっており年単位で待たないと彼女を雇えない程。その功績が認められ【超高校級の家政婦】としてスカウトされた。

 

…というのは表の顔で、その正体は2年前から世間を騒がせていた爆弾魔。

恋人を爆発事故で亡くしたショックで気が触れてしまい、他の人間を全員恋人と同じ目に遭わせようと次々と事件を起こすが、その際に人を絶望に堕とす快楽に魅入られるようになる。

宝条を殺した筆染を殺す事で筆染の後釜に座ろうとしたが、裁判で負けて処刑された。

 

 

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【超高校級の冒険家】ジョナサン・ウォーカー(Jonathan Walker)

 

「Oh,それはなかなかcoolなideaだな!」

 

現状:生存

性別:男

年齢:16歳

誕生日:4月19日(おひつじ座)

血液型:A型

身長:184cm

体重:85kg

胸囲:90cm

利き手:右

出身校:ウェストフィールドハイスクール

好き:旅、天ぷら、Japanese girls

嫌い:じっとしてる事、ケチャップ

容姿:焦げ茶色の髪をコーンロウにして後ろで束ねている。金色の瞳。褐色肌。

服装:ダークグレーのタンクトップに迷彩柄のカーゴパンツ。腰には同じく迷彩柄のジャケットを巻いている。ピアスとネックレスと黒いグローブを着用。

人称:オレ/オマエ/名前呼び捨て

ICV:置鮎龍太郎

 

アメリカからの留学生。愛称はジョン。

遺跡や新種の生物の調査などを目的として世界中を旅しており、彼のブログは世界中で翻訳されて話題になる程の大人気を誇っている。

英語混じりの日本語で話すのが特徴的。明るく大らかな性格でコミュニケーション能力が高いため誰とでもすぐに仲良くなれる。エロに興味を抱いており、赤刎や漕前と一緒にエロトリオと呼ばれている。

2度目の事件で親友を殺され心に深い傷を負うが、3度の学級裁判を乗り越え精神的に強くなった。

 

 

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【超高校級の武闘家】武本(タケモト)闘十郎(トウジュウロウ)

 

「俺は、まだまだ強くならなければならない。」

 

現状:死亡(1章クロ)

性別:男

年齢:17歳

誕生日:7月30日(しし座)

血液型:A型

身長:200cm

体重:110kg

胸囲:120cm

利き手:右

出身校:錦堂高校

好き:修行、白米、家族、師匠、札木

嫌い:怠け、生クリーム

容姿:剃り込みの入った黒髪ベリーショート。赤い瞳。顎髭が生えている。筋骨隆々とした体格。

服装:道着を着ており、下駄を履いている。

人称:俺/お前、貴様/苗字呼び捨て

ICV:天神英貴

 

数々の武道を制覇し、特に柔道では国内に戦う相手がいない程の達人。

ストイックな性格で、決して驕った態度は取らない。実は人付き合いが苦手で、特に女性に対する免疫がほとんど皆無。

札木に明確な好意を抱いていた。

モノクマの動機映像で家族や師匠の事が心配になり外に出る方法を探していたところ、札木に殺害計画を持ちかけられ迷うものの札木の思いを継ぐ決意をし彼女を殺害。しかし、その一部始終を神崎に見られていた事で学級裁判で負けが確定してしまった。

 

 

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【超高校級のヴァイオリニスト】弦野(ツルノ)(リツ)

 

「うるせーな、テメェには関係ねぇだろーが。」

 

現状:生存

性別:男

年齢:17歳

誕生日:10月5日(てんびん座)

血液型:O型

身長:180cm

体重:67kg

胸囲:85cm

利き手:右

出身校:聖ハルデンベルク高校

好き:ジャンクフード、絵麻

嫌い:両親、ほうれん草

容姿:銀髪のウルフカットに青い瞳。右目に泣き黒子がある。

服装:水色のシャツと茶色いスラックスの上に黒いジャンパー。ヘアピン、ピアス、チョーカー、ネックレスなどをつけている。

人称:俺/テメェ/苗字呼び捨て

ICV:吉野裕行

 

音楽家の家系の御曹司で、本人もまた世界的に有名な天才ヴァイオリニスト。

しかし幼少期から両親に英才教育を受けさせられた反動で素行不良になっており、自分の人生を束縛した原因である自分自身の才能を疎ましく思っている。

初めは単独行動を取り孤立していたが、そんな中でも唯一温かく接してきた筆染に徐々に心を開いていく。

付き合う事になった直後に筆染が仕田原に殺害され、復讐のために仕田原を殺して自身も筆染の後を追おうとするが、枯罰に発破をかけられた事で生き延びる決意を固めた。

 

 

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【超高校級のソフトウェア開発者】(ニノマエ)千歳(チトセ)

 

「終わった!!ボクはここで死ぬんだぁああああ!!」

 

現状:生存

性別:男

年齢:17歳

誕生日:9月28日(てんびん座)

血液型:B型

身長:163cm

体重:49kg

胸囲:77cm

利き手:左

出身校:東櫻アカデミー

好き:パソコン、ラーメン、チャーハン

嫌い:虫、血、高所、オカルト、ピーマン

容姿:鎖骨まであるボサついた明るい茶髪に茶色い瞳。タレ目で睫毛が長く中性的な顔立ち。

服装:下は紺のジーンズで、上は緑色のTシャツ。上にクリーム色のパーカーを羽織っている。

人称:ボク/君/男:苗字+君 女:苗字+さん

ICV:小西克幸

 

プログラミングやシステム開発など数多くの功績を残しているが、突出した分野が無いため一括りに『超高校級のソフトウェア開発者』と呼ばれている。

非常に臆病な性格で、何かあるたびに泣き喚く。また、パソコン関係以外はからっきしなのでよく的外れな発言をしてしまう。

コンピューターゲームが得意だが、ハマりすぎると性格が変わるという悪癖がある。

本人曰く、親戚に同じく超高校級の才能を持ったプログラマーがいるらしい。

仕田原に明確な好意を抱いていたが、仕田原の正体を知り彼女が処刑された事で心に深い傷を負った。

 

 

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【超高校級のランナー】速水(ハヤミ)蘭華(ランカ)

 

「ちょっとひとっ走りしてくるね!じっとしてるの落ち着かなくて!」

 

現状:生存

性別:女

年齢:16歳

誕生日:9月12日(おとめ座)

血液型:B型

身長:175cm

体重:61kg

胸囲:95cm

利き手:右

出身校:四ツ川高校

好き:ランニング、照り焼きチキン

嫌い:暗所、考える事、コーヒー

容姿:黄緑色のショートボブに水色の瞳。褐色肌。

服装:白いTシャツとえんじ色のホットパンツの上にえんじ色のジャージ。

人称:アタシ/アンタ/名前呼び捨て

ICV:喜多村英梨

 

数々の陸上競技で新記録を叩き出しており、男子の代表選手とも対等以上に渡り合える。

明るく活発な性格で、考えるより先に身体が動く。頭脳労働はからっきしで、神崎や枯罰などの話を聞いているとすぐに頭がパンクしてしまう。

親友だった筆染と宝条を失い、仕田原の正体を知った事で心に深い傷を負った。

 

 

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【超高校級の画家】筆染(フデゾメ)絵麻(エマ)

 

「あたし、一旦イメージが降りてきたらすぐ描きたくなっちゃって…絵の事になるとホント周り見えなくなっちゃうんだ!」

 

現状:死亡(3章シロ)

性別:女

年齢:17歳

誕生日:12月16日(いて座)

血液型:O型

身長:165cm

体重:52kg

胸囲:90cm

利き手:右

出身校:星華高校

好き:絵、クラシック、キャラメル、律君

嫌い:高所、椎茸

容姿:赤髪セミロングに赤い瞳。

服装:白いシャツ、ピンク色のネクタイ、灰色と赤のタータンチェックスカートの上に黒いジャケット。オリオン座のヘアピンをつけている。

人称:あたし/君/男:苗字+君 女:苗字+ちゃん

ICV:野中藍

 

世界的に有名なアーティストからも高く評価されている画家で、稼いだ金で建てた自身のアトリエを持っている。

穏やかで柔和な性格だが、絵の事になると熱中してしまい周りが見えなくなるという悪癖がある。

実は弦野のファンで、彼の奏でる音色が自分の作風と相性が良いのでとても気に入っている。

弦野と付き合う事になったが、その直後宝条に殺されかけ抵抗した際に誤って宝条を殺害してしまい、その後後釜を狙っていた仕田原によって殺害される。

 

 

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【超高校級の収集家】宝条(ホウジョウ)夢乃(ユメノ)

 

「ゆめはぁ〜、みんなにゆめって呼んでもらいたいの。ってか、みんなにゆめって呼ばれないと気が済まないのよ。」

 

現状:死亡(3章シロ)

性別:女

年齢:17歳

誕生日:6月10日(ふたご座)

血液型:AB型

身長:157cm

体重:43kg

胸囲:84cm

利き手:右

出身校:虹ノ森女学園高校

好き:自分、お宝、イチゴのパフェ、組のみんな

嫌い:ダサい物、虫、オカルト、人参、両親

容姿:ピンク色の縦ロールのツインテールで、緑色の瞳。

服装:白、ピンク、赤を基調とした甘ロリファッション。ツインテールに赤いリボンをつけている。

人称:ゆめ、私/男:あなた 女:アンタ/男:苗字+くん 女:苗字呼び捨て

ICV:戸松遥

 

芸術作品から人体や情報まで、欲しいと思ったものなら何でも手に入れる収集家。

自分の事を『ゆめ』と呼ぶ痛い女で、かなりぶりっ子のような言動が目立つ。しかし、素は素直になれないだけの年頃の女子らしい性格。

自分の思い通りにならないと気が済まない性格で、気に入らない事があるとすぐに癇癪を起こすが、収集家という事もあり観察力や情報処理能力には長けている。

筆染を殺そうとするが、抵抗された際に転倒して後頭部を打撲してしまい運悪く絶命。

 

 

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ジョンの呼び方

 

赤刎→ジョン

安生→ウォーカー君

神崎→外人

聞谷→ウォーカーさん

黒瀬→ジョンくん

漕前→ジョン

枯罰→ジョン

札木→ジョンくん

仕田原→ウォーカーさん

武本→ウォーカー

弦野→ジョナサン

一→ジョン君

速水→ジョン

筆染→ジョン君

宝条→ジョンくん

 

 

 

神崎の全員に対する呼び方

 

赤刎→子供

安生→車椅子

聞谷→着物

黒瀬→白

漕前→幸運

枯罰→関西弁

札木→無口

仕田原→瓶底

ジョン→外人

武本→デカブツ

弦野→銀髪

一→怯者

速水→ジャージ

筆染→絵描き

宝条→縦ロール



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Chapter.4 後ろの正面だあれ?
(非)日常編①


楽園生活15日目。

ここに来てもう2週間が経とうとしている。

たった2週間で、7人も命を落としてしまった。

未来に絶望し、武本に命を譲った札木。

家族のために札木を手にかけた武本。

生き別れの兄に会えたと思った矢先にその兄に殺された湊。

嫉妬から実の弟を手にかけてしまった神崎。

筆染を殺そうとして運悪く命を落とした宝条。

運悪く宝条を殺し、仕田原に殺された筆染。

ずっと俺達を欺き続け、最後は呆気なく散っていった仕田原。

 

しかも、このコロシアイは生中継されていて、黒瀬は内通者である事を自白した。

枯罰も、才能が明らかになって黒瀬なんかよりずっと人を殺していると言っていたが真相はどうなのかわからない。

もう誰も殺させたくない。

でも、もう誰かを信じるのが怖い。

それでもみんなを信じなきゃ前には進めない。

…一体俺は、どうしたらいいんだ…?

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

『おはようございます、オマエラ!!朝です!!7時になりました!!今日も元気に殺し合いましょう!!』

 

「…。」

 

モノクマの不快なモーニングコールが部屋中に鳴り響く。

…うるさいな。

だが今は怒る元気もない。

俺は、モノクマのアナウンスを聞き流しつつ支度をして食堂に向かった。

8時前、食堂に向かうと既に安生、聞谷、ジョンの3人がいた。

一と黒瀬は…相変わらず遅刻か。

 

「おはよう、みんな。」

 

「…おはよう、赤刎君。」

 

「…Morning.」

 

「おはようございます…」

 

やっぱり、みんな元気がなかった。

当たり前だ。

たった一日で3人も死んでしまったのだから。

聞谷に至っては、一晩中泣いたのか目の周りが腫れていた。

…無理もない。聞谷にとっては、あの3人は親友だったんだ。

 

「今日の飯は…」

 

「ああ、枯罰さんと弦野君と速水さんが作ってくれてるよ。」

 

「…そうか。」

 

そこに仕田原の名前が無い。

アイツは筆染を殺した殺人鬼だけど、俺にとっては俺達のために家事をしてくれた仲間だったんだ。

もう、こんな思いをするのは嫌だ。

もう、仲間が死ぬのは嫌だ。

 

 

 

「うぁああああああぁあああああっ!!!」

 

「!!?」

 

突然、一の声が廊下から鳴り響いた。

 

「今の、一さんの声…ですわよね?」

 

「何かあったのかもしれないね。行ってみよう。」

 

俺達4人は、急いで一の声が聞こえた方へ駆けつけた。

 

 

 

「みんな!!」

 

俺達が駆けつけると、朝食を作っていたはずの速水が飛び出してきた。

 

「What up!!?」

 

「千歳が突然暴れ出したの!!」

 

「えっ?」

 

速水に連れられて俺達が向かった先には…

 

 

 

「うぁああぁあああぁあああぁああっ、あぁああぁあああぁああああっ!!!」

 

「おい落ち着けド阿呆!!!」

 

枯罰に組み伏せられ、大声で泣き喚く一の姿があった。

 

「おい弦野、早う鎮静剤打たんかい!!」

 

「うっせぇな、わかってるよクソが!!だからちゃんと腕押さえとけっつってんだろ!!」

 

枯罰が一を押さえつけている間に、弦野が注射を打とうとしていた。

 

「おい、どういう状況だよこれ…?」

 

「こっちが聞きてぇよ!朝厨房に行ったら一が包丁を振り回して暴れてたんだよ!!…よし、打ったぞ。」

 

「ふぅ。とりあえずこれでしばらくは暴れられへんやろ。」

 

一は、鎮静剤を打たれて大人しくなった。

 

「とりあえず、まずは一君を安静にさせてからゆっくり話を聞こう。みんな、朝ご飯はその後でいいかな?」

 

「Oh well. こんなsituationだしな。」

 

俺達は、ひとまず一を食堂に連れて行って話を聞く事にした。

 

 

 

「一君。温かいココアを持ってきたよ。」

 

「…。」

 

一は、安生からココアを受け取るとゆっくりと口をつけた。

安生は、一が落ち着いたタイミングを見計らって優しく声をかけた。

 

「ねえ、一君。どうして急に暴れたの?言いたくない事は言わなくていいし、ゆっくりでいいから話せる事だけ話してくれるかな?」

 

すると、一は少しずつ話し始めた。

 

「…昨日はよく眠れなくて…それで、気分を落ち着けるために飲み物を取りに行こうと厨房に行ったんだけど…厨房に入ったら、仕田原さんの事がフラッシュバックしちゃって…いてもたってもいられなくなって…それで…気がついたら近くにあった包丁を…ごめん…ごめんなさい…うっ、ううっ、ふぅうっ…」

 

一は、話し終わると静かに泣いた。

一は仕田原の事が好きだったんだ。

なのにあんな裏切り方をされた挙句、目の前であんな残酷な方法で殺されたのがよっぽどショックだったんだ。

 

「一…」

 

すると、弦野が一の肩を叩いて言った。

 

「…一。後でホールに来てくれないか?」

 

「………え?」

 

「お前らも全員。後でホールに来い。」

 

弦野がどうして急にそんな事を言い出したのかはわからなかったが、とりあえず全員弦野の提案に賛成した。

 

「ふぅ。一君も落ち着いたし、ひとまずこれで安心だね。さ、みんな。朝ご飯に…」

 

 

 

 

 

「ふわぁ〜あ。みんなおはよぉ〜。」

 

黒瀬が、あくびをしながら食堂に入ってきた。

 

「黒瀬…!」

 

「ッ…!テメェ、どのツラ下げて来やがった!?」

 

「ふぇ?何が?」

 

「とぼけんじゃねぇ!!テメェが、宝条が絵麻を襲うように仕向けたんだろうが!!今すぐ俺達の前から消えろ!!この裏切り者が!!」

 

「裏切り〜?ボクは別に裏切ってなんかないよ?だって、ボクは初めからクマちゃんの仲間だったんだもん。」

 

「テメェ…!!」

 

「それよりさー、早く朝ご飯食べようよ。ボクお腹ペコペコなんだけどー。」

 

 

 

『ちょーっと待ったぁ!!』

 

突然、どこからかモノクマが現れた。

 

「…チッ、またテメェか。」

 

「アンタってホント空気読まないよね。」

 

「全くだよ。ボクお腹すいたー。」

 

『うぷぷぷぷ、あれれ?オマエラ、何かやけに辛気臭くない?何か嫌な事でもあった?』

 

「どの口がほざいてんだテメェ!!」

 

「そうだよ!!全部アンタのせいでしょ!!?」

 

『弦野クン、速水サン。あんまり怒ると頭の血管切れるよ?カルシウム不足なんじゃないの?』

 

「うるせぇテメェマジでブッ潰すぞ!!」

 

「落ち着きぃや。売り言葉に買い言葉やろ。」

 

「チッ…!」

 

『うぷぷ、枯罰サンはやけにみんなから信頼されてるんだね。大量殺戮だって平気でやってのけるサイコキラーのくせにさ。』

 

「ひっ…!?」

 

『傭兵なんて聞こえはいいけど、やってる事は…

 

 

 

「やめろ。」

 

モノクマの言葉を遮って声を上げたのは、俺だった。

枯罰の正体が何であれ、仲間の事は絶対に信じ抜くと決めたんだ。

俺達の仲間を侮辱されて、黙ってなんていられなかった。

 

「…どんな過去があっても、枯罰は枯罰だ。俺達の仲間を侮辱するな。」

 

『ふーん、仲間…ねぇ。でも、そう思ってるのは赤刎クンだけだったりして。』

 

「…何?」

 

『オマエラさあ、仕田原サンに裏切られたんだよ?あ、仕田原サンだけじゃないか。宝条サンも、神崎クンも、武本クンも、札木サンも、みんなオマエラを裏切って自分勝手な行動に走ったのにまだ信じてるの?学習能力無さすぎじゃない?一回IQテスト受けたら?』

 

「…っ、確かに、アイツらは自分勝手な事をした。でも、それを止められなかった俺達にも責任がある。だからこそ、今度こそみんなを信じて9人全員で脱出するんだ!!」

 

『9人って、その中に内通者もいるのに一緒に脱出させてあげるわけ?キャー、赤刎クンってば優しいね!もうガチ惚れ濡れ濡れだよ!』

 

「おいクマ公。お前の御託はもう聞き飽きとんねん。早う要件を説明せんかい。」

 

『あれれ、枯罰サンは自分の事を言われてたのにやけに態度が大きいね?発育悪いのに背と態度だけ大きい子はモテないよ。』

 

「お前いつかどつくぞコラ。早う説明せぇ言うとんねんボケ。」

 

『ひえー、怖。じゃあそろそろ枯罰サンが我慢の限界っぽいので、今回開放したエリアについて説明するよ。今回開放したのは、科学研究所、映画館、モノクマタワーの3つだよ。それから研究室を3つ開放したからね。それと…』

 

「何や、まだ何かあるんか?」

 

『今回も先に動機を発表しちゃおうと思ってね。』

 

動機だと…!?

今回は何を言い出す気なんだ…!?

 

 

 

『今回の動機、それはズバリ友情だよ!!』

 

「ゆ、友情!?」

 

「Friendshipだと!?」

 

『そ、友情!人生において欠かせないもの、それは友情だよね!?『友情・努力・勝利』は某少年誌の標語にもなってるでしょ?友情という動機で、殺人という努力をして、失楽園という勝利を掴む!!これこそがこの楽園生活の醍醐味だよね!?』

 

「うん、それはわかったから友情が動機ってどういう事?」

 

…あれっ?

黒瀬は内通者なんだよな?

動機についても聞かされてるんじゃないのか?

 

『簡単に言うと、今回学級裁判で勝ったクロには、一緒に失楽園となる一人を選ぶ権利が与えられるんだよ!』

 

「…えっ?それって…」

 

『そうです!もし正しいクロを指摘できた場合は通常通りクロのみが処刑、正しいクロを指摘できなかった場合はクロと選ばれた一人だけがここから出られるってわけ!』

 

「…どういうつもり?君らしくないね。わざわざ生き残れる人を増やすなんて…」

 

『何言ってんの、ボクはちゃんと飴と鞭を使い分けるクマだからね!オマエラの中には、どうしてもここから出たいけど人を殺す度胸はない人とか、誰かを殺してでも脱出したいけどどうしても死なせたくない友達がいる人もいるんじゃないかと思ってね。これはそういう人達のための温情措置です!救える命を増やしてあげたんだから、感謝してよね?』

 

「わーい、ありがとクマちゃん。」

 

…本当にそうか?

モノクマの事だ、ただの親切心でこんなルールを追加したとは思えない。

何か、裏があるとしか…

 

「…えげつない事しよるのぉ。」

 

「え?」

 

俺は、枯罰がボソッと呟いた言葉が気になった。

えげつない?

どういう事なんだ一体…?

 

『それじゃ、ボクはこれで…』

 

「あ、ちょっと待ってくれ。」

 

『何?赤刎クン、珍しくグイグイくるね。もしかして、その気?』

 

「んなわけないだろ。一個聞きたい事があるんだ。」

 

『言ってみそ。』

 

「…黒瀬は本当に内通者なのか?」

 

「えっ?」

 

「コイツは自分で内通者だと言っていたが、俺にはどうもそうは思えなくてな。どうなんだ?」

 

『教えません教えられません教えたくありませーん。本人がそうだって言ってるならそうなんじゃないんですかー?』

 

コイツ…

半ばこういう回答が返ってくるのは予想していたが、実際に返ってくると腹立つな。

 

『それじゃあボクからは以上です!みんな、ゆっくり殺し合っていってねー!』

 

そう言ってモノクマは姿を消した。

 

 

 

「クソッ、あの野郎…!」

 

「いちいちキレんなや。時間の無駄や。それより今は探索やろ。」

 

「それもそうだね。…あ。弦野君。後で集まってって言ってたけどそれは…」

 

「ああ、探索の後でいい。急ぎの用じゃねぇしな。」

 

「そうかい?じゃあ、新しく開放されたエリアを探索しよう。班分けはどうする?今回は3人ずつで班を分けて、解放された施設を一つずつ探索しようか。」

 

「そうだな。…なあ、枯罰。」

 

「何や。」

 

「今回は一緒に探索しないか?」

 

「…何でまた?」

 

「今回のルールでちょっと聞きたい事があって…ダメか?」

 

「まあ…そういう事ならええで。」

 

「ありがとう。」

 

俺は、枯罰を同じ班に誘う事に成功した。

あとは…

 

「なあ、ジョ…

 

「まーどーかーくーん、あーそびーましょー。」

 

「うわっ!?」

 

俺は、突然黒瀬に抱きつかれた。

引き剥がそうにもあまりにも強い力で抱きつかれて引き剥がせない。

…コイツ、意地でも俺と同じ班になる気か。

 

「…ああもう、わかったよ。お前と組めばいいんだろ?」

 

「わーい。」

 

「枯罰もそれでいいか?」

 

「…まあ、探索の邪魔せぇへんなら好きにすればええんとちゃう?」

 

「よっしゃー、正義は勝つんやー。」

 

俺と枯罰が半ば呆れて黒瀬と同じ班での探索を認めると、黒瀬は猫耳のような癖毛をピコピコさせた。

俺、正直ジョンと班を組みたかったんだけどな…

まあ、黒瀬は俺がそばにいれば変な気は起こさないし、この班が一番平和ではあるのか。

 

 

 

結局、話し合いの結果安生、一、弦野が科学研究所を、聞谷、ジョン、速水が映画館を、俺、黒瀬、枯罰がタワーを担当する事になった。

 

「それじゃあ行きましょ行きましょー。」

 

俺は、黒瀬に強引に手を引かれてタワーへと向かった。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

俺達は、モノクマのように白と黒に分かれた塔に辿り着いた。

塔には、巨大な時計が付いている。

 

「ここで合ってるよな?」

 

「マップはここを示しとったしな。ほんなら中入ろか。」

 

「おう。」

 

俺達は、マップが示す塔の中に入った。

 

 

 

「おぉ…」

 

塔に入ってまず目に留まったのは、広くて綺麗なエントランスだった。

 

「無駄に綺麗だな。」

 

「せやなぁ。中は一応、1階がエントランス、5階が放送室、6階が管理室と展望エリアになっとるみたいやぞ。」

 

「2階から4階に行けないのは何でなのかなぁ。」

 

「重要な機器があるからって書いとるな。」

 

「ふーん。」

 

「…お前なぁ。自分のパスポートで確認せぇよ。」

 

「うす。」

 

全くだよ。

…って言いたいところだけど、俺も枯罰に任せきりだったな。

 

「エントランスには特にこれといって気になるものは無いし、上行くか?」

 

「せやなぁ。」

 

「さんせー。」

 

俺達は、エレベーターで5階の放送室へ向かった。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

エレベーターが5階へと向かう途中、俺は枯罰に声をかけた。

 

「…なあ。」

 

「何や。」

 

「さっき、モノクマが動機の説明をした時お前、『えげつない』って言ったよな?アレはどういう意味なんだ?」

 

「…お前、それ聞くためにわざわざウチと班組んだんか。別に大した意味はあらへん。ただ、厄介な事になりよったなって思ただけや。」

 

「厄介な事?」

 

「考えてみぃ。クロが勝った時外に出られる奴が一人増えたっちゅう事は、共犯するメリットがあるっちゅうこっちゃ。仮にクロが共犯する気やなかったとしても、自分の命惜しさにクロを庇う奴が出てきてもおかしない状況になってもうた。今までの、クロとそれ以外の全員の命懸けの勝負っちゅう大前提はもう通用せえへん。アリバイの証明の意味が無くなんねん。」

 

枯罰に言われて気がついた。

確かに、今の状況は圧倒的にクロ以外の全員に不利な状況だ。

…何が救える命を増やした、だ。

とんだトラップじゃねぇか。

 

「…でも、俺達はもう殺し合いはしない。」

 

「阿呆ぬかせ。言うだけなら簡単やねん。内通者もおるんやぞ?しかもソイツはウチらが殺し合うように仕向けとる。初めは殺す気が無かった宝条も、結局内通者の思う壺に嵌まった。殺し合わへん言うてもそないに簡単に行くわけないやろ。…まあ、そないに疑うのが嫌や言うんなら、そこにおる黒瀬はんがクマ公の嘘に乗っかって勝手に内通者演じとるだけやっちゅう可能性に期待すればええんとちゃう?」

 

枯罰は、上を見上げながら後ろを振り向くと、目だけで黒瀬を見下ろした。

 

「んー、環ちゃん何か言ったー?」

 

「…。」

 

黒瀬は、とぼけた様子で首をこてんと傾げた。

黒瀬自身は内通者だと言ってはいたが、それが真実かどうかは確かめる術がない。

…だが、何かが引っかかる。

内通の自己申告は、それが真実であれ嘘であれメリットがあるとは思えない。

仮に黒瀬の言っている事が本当なら、これ以上隠す必要が無くなったから?それとも、敢えて名乗り出る事で俺達の不安を煽るため…?

…いや。どっちにしろ、俺達を不安にさせて殺し合いをさせたいなら黙っていた方が得策なはずだ。

…黒瀬は、一体何が目的なんだ?

 

「!」

 

そんな事を考えているうちに、エレベーターが5階に着いた。

俺は、エレベーターから降りて放送室に入った。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

放送室は、テレビの放送局の内部のような造りになっており、主調整室と副調整室に分かれていた。

放送のための機器が並んでおり、初めて見る機械もあった。

 

「これは知らないやつだな…あんまり触んない方がいいかな。」

 

「枯罰はこういう場所とか詳しかったりするのか?」

 

「…まあまあやな。」

 

「そうっすか…」

 

せめて機械に強い一がいてくれるとありがたいんだけど…

仕方ない、後で個人的に捜査を頼むか。

 

「ボクの方がこういうの詳しいかなー。よく来るし。」

 

「そうか。じゃあこれは?」

 

「それはねー、音量調整器だよ。それで放送の音量を変えられるの。それで、録音はこの機械でやるんだー。試しに何か録音してみよっか?」

 

「え?ああ…」

 

「えいっ」

 

「ひゃあっ!!?」

 

突然黒瀬に尻を触られたので、ビックリして変な声を出してしまった。

 

「ちょっ、お前いきなり何すんだよ!!?」

 

「えへへー。」

 

黒瀬は、ヘラヘラ笑いながら近くにあった機械のスイッチを押した。

 

「…おい。まさか今の、録音してないだろうな?」

 

「え?」

 

黒瀬は、とぼけた様子で隣のスイッチを押した。

すると次の瞬間…

 

 

 

『えいっ』

 

『ひゃあっ!!?ちょっ、お前いきなり何すんだよ!!?』

 

『えへへー。』

 

 

 

「…。」

 

俺が黒瀬に尻を掴まれたやり取りの音声が機械から流れた。

 

「こういう風にねー、音声を録音したりもできるんだよー。」

 

「できるんだよー、じゃねぇよ!!消せ!!」

 

「えー、いいじゃん別にー。」

 

「俺が恥ずかしいから!!消せ!!」

 

俺が黒瀬と喧嘩紛いの事をしていた、その時だった。

 

「おい。」

 

いきなりテーブルをバンッと叩く音が聞こえ、振り向くと枯罰が鬼のような形相で俺達を睨んでいた。

 

「真面目に探索せんかい。」

 

「………はい、すみませんでした。」

 

「確認やけど、この放送室からはこの楽園内にある全ての施設で放送が可能みたいやな。ただ、死体発見アナウンスと捜査終了アナウンスをするための機材はウチらが操作出来へんようになっとる。」

 

「なるほど…」

 

「ほんなら次行こか。もう特にこれといって気になるモンは無いやろ?」

 

「まあな。放送室から展望エリアは、階段から直接行けるみたいだけどどうする?」

 

「んー、エレベーターでいいかなー。」

 

俺達は、展望エリアの探索を行うためエレベーターに乗り込んだ。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

管理室は、放送室とは違い狭い部屋に機械が一つ置いてあるだけだった。

しかも、入り口をガラスの壁で封じられている。

 

「…あれ?これだけ?」

 

「やなぁ。」

 

「これ、何の機械なんだろうねー。」

 

 

 

『うぷぷぷ、ズバリご説明しましょう!』

 

「うわ出た!」

 

『ちょっと赤刎クン!ボクを黒光りするGで始まる虫みたいな扱いしないでって何度言えばわかるの!』

 

「お前なんかゴキブリ以下だ!!」

 

『ちぇーっ、せっかく管理室について説明しようと思ってたのになー、そんな事言うなら説明するのやめちゃおっかなー。』

 

「ボクは聞きたいから教えてよー。」

 

『んー、じゃあ黒瀬サンに免じて教えてあげます!この管理室は、ズバリこの楽園生活の時を支配する要の部屋です!』

 

「えーっと、要するに楽園全体の施設の時計を管理してる部屋って事?」

 

『ザッツライ!このタワーの時計はもちろん、楽園内の全ての時計はこの管理室で管理されてるんだよ!あ、ちなみにパスポートの内蔵時計はこの管理室とは関係ないけどね。』

 

「なるほどな…てかガラスの壁のせいで中に入れねぇんだけど?」

 

『そりゃそうだよ!この楽園内の全ての時計を管理してるって言ったでしょ?簡単に入っていじられちゃ困るからね。立ち入り禁止エリアになってるんだよ!ちなみに、この壁は最先端の技術を駆使して作られた防弾ガラスで、耐熱性と耐衝撃性にも優れるからちょっとやそっとじゃ壊れません!マシンガンでも貫通できないんじゃないかな?』

 

いや、流石にそれはないだろ…

 

『それじゃあボクからの説明は以上です。頑張って殺し合ってねー!』

 

そう言ってモノクマは去っていった。

 

 

 

「まあ、入れへんならしゃあないわな。展望エリアの探索しよか。」

 

「そうだな。」

 

枯罰の提案で、展望エリアを見てみる事になった。

このエリアは壁が全部強化ガラスで出来ており、楽園全体を見渡せるようになっている。

 

「うぉ、すげぇな。」

 

やっぱ、展望エリアって名前がついてるだけあって高いな。

…高所恐怖症の一と筆染は絶対無理だろうな。

 

「…。」

 

枯罰は、窓越しに外を眺めて何かを考え込んでいた。

 

「…どうした?」

 

「いや、何もあらへん。」

 

「…?」

 

何もなくて急に考え込むか?

…枯罰の事だから、何か重要な事に気がついたのかもしれない。

ミーティングの時にそれとなく聞いてみるか。

 

「さーてと、探索も終わった事だし降りましょー。」

 

…黒瀬は相変わらずだな。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

タワーから降りると、まずログハウスが目に留まった。

 

「ここは…?」

 

「誰かの研究室やろなぁ。寄ってみるか?」

 

「ああ。」

 

扉には、リュックサックの絵が描かれていた。

ここは多分…

 

「…ジョンの研究室かな?」

 

「ふーん、ジョンくんの研究室かー。」

 

「おい、入るならノックはせぇよ。」

 

「わかってるよ。おーい、ジョン。入るぞー?」

 

俺は、ノックをしてから扉を開けた。

 

 

 

「…おぉっ。」

 

研究室の中には、サバイバルグッズやトレーニンググッズ、地図、世界中の絶景の写真、などが置かれていた。

本棚には、冒険の日誌やサバイバルに関する専門書などが置かれている。

中では、ジョンが筋トレをしていた。

 

「Oh,マドカにタマキにマシロか。What happened?」

 

「ああ、いや…大した事じゃないんだけど、せっかく研究室が開放されたわけだし探索しておこうかなって思って。」

 

「I see.」

 

「そういや聞谷と速水は?」

 

「カオリとランカなら、カオリのlaboratoryにいるはずだぜ。」

 

そっか、今回は聞谷の研究室も開放されたのか。

それじゃあちょっと見に行こうかな。

 

「じゃあ、俺達はそっちに顔出そうかな。悪いな、邪魔しちまって。」

 

「No problem.」

 

俺達は、ジョンの研究室を後にして聞谷の研究室へ向かった。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

聞谷の研究室を探しながら歩いていると、映画館の手前に木造建築の建物が見えた。

扉は引き戸で障子とかあるし、ここが聞谷の研究室で間違いないだろう。

扉には、香木と思われる木の枝の絵が描かれてるしな。

 

「聞谷ー、入るぞー。」

 

俺は、ノックをしてから引き戸を開けた。

 

 

 

研究室の中は和室になっていて、非常に落ち着いた空間になっていた。

障子の向こうには小さな庭園もあり、チロチロと水が流れる音が心地良い。

すると、座布団に座っていた聞谷と速水がこちらに気がついて声をかけてきた。

 

「あら、赤刎さん、黒瀬さん、枯罰さん。ごきげんよう。皆さん、探索はお済みですの?」

 

「まあな。お前らは?」

 

「わたくし達は、映画館の探索が終わりウォーカーさんとわたくしの研究室を見つけたのでここでまったりしておりましたの。」

 

まったりって…

呑気だな。

まあ、放送室の探索中に黒瀬と一緒になってふざけてた俺が言えた事じゃねぇけど。

 

「…あのさ、それより…円、助けて…」

 

「ん?」

 

正座をしていた速水が、顔色を悪くして消え入りそうな声で言ってきた。

 

「…お前、まさか足が痺れたのか?」

 

「…。」

 

俺が言うと、速水が無言で頷いた。

 

「はぁー…普段から正座せぇへんからそないな事になんねん。ほれ、ゆっくり足伸ばしぃ。」

 

「いっちちち…」

 

「…あの。速水さん。大丈夫ですの?」

 

「あ、ああ…普段正座しないから痺れちゃったかなー、かなー…あはははは…」

 

全く、一瞬何かあったのかと思ってヒヤッとしたじゃねぇか。

長居するのもアレだし、そろそろお暇するか。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

聞谷の研究室を出てしばらく歩くと、今度は無機質な白い建物が見えた。

扉はタッチするとスライドするタイプの自動ドアで、パソコンの絵が書かれている。

 

「んー、千歳くんの研究室かなー。」

 

「だろうな。」

 

ちょっと俺の研究室なんじゃないかって期待したんだけどな…

まあいいや、入ってみよう。

 

「一、入るぞー。」

 

俺は、ノックしてからドアのボタンをタッチした。

 

 

 

「ひぃいいいいいっ!!?だ、誰!?いきなり入ってこないでよ!!」

 

突然、一の悲鳴が聞こえてきた。

一は、大型のコンピューターがズラリと並ぶ部屋の奥に置かれたデスクで何やら作業をしていた。

デスクのさらに奥の壁には巨大なモニターがいくつか並んでおり、デスクの上にはパソコンやタブレットが散乱し、床にはコードが張り巡らされていた。

 

「おおー…さすが【超高校級のソフトウェア開発者】のお部屋ー…」

 

「いきなり来て悪かったな。でも一応ノックはしたぞ?」

 

「えっ?そうなの?ごめん…作業に夢中で気付かなかった…」

 

「まあそれは仕方ないけどよ。…あれ?安生と弦野は?」

 

「ああ、2人ならまだ科学研究所を探索中だよ。今回研究室を開放されたボクだけここに残る事になったんだ。」

 

「そっか、悪いな。作業の邪魔しちまって。昼のミーティングには遅れずに来いよ。」

 

「うん…」

 

俺達は、一の研究室を出た後ホテルの食堂に戻り、一足先にミーティングの準備を進めた。

すると、別の場所を探索していた班が戻ってきたので、全員が揃ったタイミングで昼のミーティングが開かれる事になった。

 

 

 

 

 


 

 

 

ー生存者ー

 

【超高校級の講師】赤刎円

 

【超高校級のカウンセラー】安生心

 

【超高校級の香道家】聞谷香織

 

【超高校級の脚本家】黒瀬ましろ

 

【超高校級の傭兵】枯罰環

 

【超高校級の冒険家】ジョナサン・ウォーカー

 

【超高校級のヴァイオリニスト】弦野律

 

【超高校級のソフトウェア開発者】一千歳

 

【超高校級のランナー】速水蘭華

 

ー以上9名ー

 

 

 



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(非)日常編②

探索を終えた俺達は、探索の結果を報告し合う事になった。

 

「それじゃあ早速ミーティングを始めようか。まずは赤刎君のグループから報告してくれるかな?」

 

「ああ。タワーは1階がエントランス、5階が放送室、6階が管理室と展望エリアになってた。あと、タワー自体が時計台になってる。」

 

「あれ?2階から4階は?」

 

「何か、重要な機器があるから立ち入り禁止なんだと。放送室の内部はテレビ局みたいになってて、主調整室と副調整室に分かれてた。管理室にも行きはしたけど、ガラスの壁があって中には入れなかった。展望エリアは全部ガラス張りで、楽園全体を見渡せるようになってる。俺からの報告は以上だ。」

 

「ああ、それとウチから一つええか?」

 

「枯罰さん?どうしたの?」

 

…もしかして、さっき展望エリアで気付いた事かな?

 

「実は、この楽園の敷地の全貌が掴めたかもしれへん。」

 

「なっ…!!ら、楽園の敷地がどうなってるのかわかったの!?」

 

「まあ、大した事やあらへんけどな。この楽園は、多分正六角形になっとる。それで、内側が壁で仕切られて丁度6等分されとるんや。エリアが一つ開放されるごとに敷地内を仕切っとる壁が降りて1ピース分の敷地が現れるっちゅうわけや。」

 

枯罰は、楽園の簡単な地図を描いて説明した。

…なるほどな。

これがこの楽園の全貌ってわけか。

そういや、枯罰は毎回敷地の範囲を調べて報告してたけど、あれはまだ開放されていないエリアも含めて楽園全体の敷地を把握するためだったのか?

 

「実はこないな構造になっとるんとちゃうかな、とは前々から思っとったんやけどな。情報量が少なすぎて断定は出来へんかった。今回新しいエリアが開放された事で確信したわ。」

 

「6等分された正六角形のうち、4つが開放されたんだよね?って事は、あと2つエリアが開放されればこの楽園が全部見られるって事!?」

 

「せやなぁ。まあでも、あのクマ公は学級裁判せぇへんとエリアを開放せぇへんやろ。つまり、正攻法で外に出よ思たら最低でもあと2回学級裁判せなあかんねん。ホンマにここにおる全員で外に出よ思っとるなら、新しいエリアが開放されるのを悠長に待っとる場合とちゃうんやないか?」

 

「う…」

 

「ウチがこの報告をしたんは、あくまで現状の確認のためや。変に期待し過ぎんのも考え物やぞ。次、速水。お前らの班報告せぇよ。」

 

「はーい!中は普通の映画館だった!シアターは全部で10個あって、ドリンクバーとポップコーンもあったよー!」

 

「それと、strangeなfilmがあったぜ。」

 

「え?」

 

「見た方が早いだろうから、オマエラも一回theaterで見てみろよ。」

 

ジョンが言ってた変なフィルム…

気になるな。

後で見にいこうかな。

 

「それじゃあ最後は僕達の班だね。科学研究所は全部で4つの階に分かれてて、1階が物理室、2階が化学室、3階が生物室、4階が地学室になってたよ。中には、実験や研究に必要な機材とかが置かれていた。…あ、それと過去に希望ヶ峰学園の学生が自作した発明品とかも置かれてたかな。それから、科学研究所を調べたい時は必ず僕に相談してね。特に物理室と化学室には命に直結するような危険な薬品や機械が置いてあるから迂闊に触らないように。」

 

「わかった。」

 

「それと、いくつか気になる資料もあったぜ。見たい奴は後で個人的に研究所に行ってみろよ。」

 

むぅ、そう言われると気になるな。

後で資料を見てみるか。

 

うん、大体全部の班が情報を共有したかな。

んじゃあ今回のミーティングでわかった情報をまとめとくか。

 

・今回開放されたのは研究室3つ、科学研究所、映画館、モノクマタワーの6つ。

・今回開放された研究室は、聞谷、ジョン、一の3名。

・科学研究所は1階が物理室、2階が化学室、3階が生物室、4階が地学室になっている。

・物理室と化学室には危険な薬品や機械、謎の資料などが置かれている。

・映画館は全部で10個シアターがあり、ポップコーンとドリンクバーが用意されていた。

・モノクマタワーは1階がエントランス、5階が放送室、6階が管理室と展望エリアになっており、巨大な時計が付いている。

・2階から4階までは重要な機器があるため立ち入り禁止。

・放送室は放送局のような造りになっており、主調整室と副調整室に分かれている。

・放送室の機器は基本的に操作可能だが、死体発見アナウンスと捜査終了アナウンスをするための機械だけは操作不可。

・管理室では楽園内全ての施設の時計の管理が行われており、ガラスの壁で封じられて入れないようになっている。

・展望エリアの壁は全て窓ガラスでできており、楽園全体が見渡せる。

 

「…とまあ、こんな所か。」

 

「そろそろお昼にしよーよぉ、ボクお腹すいたー!」

 

「…しょうがねぇな。」

 

「ウチらで作ってくるさかい、お前らは机を片しとき。」

 

「オレも手伝うぜ。」

 

数十分後、いつもの2人とジョンが昼食を作って持ってきてくれた。

仕田原達の死を経験して心身共に疲れ切っていたせいか、食事が余計に美味く感じる。

3度目の学級裁判の後の2度目の食事なので、こういう言い方はあまりしたくないけど…9人での生活にも少しずつ慣れてきた。

事件が起こった事と内通者の事でパニックになっていた頭も、一晩寝たら少し落ち着いてきた。

仕田原の飯が食えなくなっちまったのは寂しいけど、せっかく枯罰達が作ってくれたわけだししっかり食べて栄養つけないと。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

昼食の後は、各自自由探索の時間になった。

弦野が言ってた集まりは、結局夕食の後に行われる事になった。

何で弦野が急に俺達を集めたのかは気になるけど、まだ夕食まで時間があるし先に今回亡くなった3人の供養をしておかないとな。

俺は、早速宝条の研究室に向かった。

 

「…。」

 

宝条の研究室は、相変わらず値段がつけられない程貴重なお宝がたくさん飾られていた。

俺がプレゼントしたアクセサリーも、ショーケースに飾られてキラキラと輝いていた。

…でも、アイツがいない研究室はどこか寂しい感じがした。

どれだけ高価なお宝に囲まれても、それをかき集めて手入れしていたアイツがいないとやっぱり物足りない。

 

「…結局、ここで約束したのがお前との最後の思い出になっちまったな。」

 

宝条が死んだ。

運悪く筆染に殺されてしまった。

…宝条は、確かに自分のために筆染を殺そうとした。

でも、アイツ自身は決して悪い奴じゃなかった。

それは、ここでアイツの話を聞いた俺がよくわかってる。

ワガママでヒステリックな所はあったけど、本当は素直になれなかっただけなんだ。

夢を叶えるために必死で努力して、育ての親に恩返しをするつもりでいる、そういう奴だった。

変な気を起こしてしまったのだって、内通者に操られたからだ。

じゃなきゃ、たかが願い事一つで宝条があれほど仲良くしていた筆染を殺すわけがない。

俺は、二人の命を弄んだモノクマも、二人にコロシアイをするように仕向けた内通者も許さない。

俺も枯罰と同じ気持ちだ。

絶対に、モノクマと内通者を糾弾してやる。

 

「…。」

 

宝条は、こんな所で死んでいい奴じゃなかった。

なのに、どうしてこんな事になっちまったんだ。

せっかく、みんなと打ち解けてくれたと思ったのに。

アイツは俺の事を友達だと思ってくれてたのに。

…一緒にここから出て、みんなで普通の高校生らしい事をしようって約束したのに。

 

「宝条。ごめんな。お前が筆染を殺そうとするほど追い詰められてた事に気付いてやれなくて。…俺、お前の友達だとか言っておいて何やってんだろな。…約束、守れなくなっちまってごめんな。俺、生きるよ。お前の無念を晴らすためにも、何としてでも全員で生き延びる。そして、お前の命を弄んだモノクマと内通者に一矢報いてやる。だから、どうか安らかに眠ってくれ。」

 

俺は、宝条が以前ついていたテーブルに向かって合掌して頭を下げた。

…これでアイツも少しは浮かばれるといいんだけどな。

俺は、複雑な思いを抱えつつ宝条の研究室を後にした。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

俺は、次に筆染の研究室に向かった。

筆染の研究室は、相変わらず絵の具の匂いがした。

部屋の壁には美しい風景画が描かれており、絵の道具は使いっぱなしで、筆染が殺されてしまったのが嘘のようだ。

 

「…。」

 

筆染は、ちょっとドジだけど誰よりも仲間想いな奴だった。

初めは孤立していた弦野も、筆染のお陰で俺達に心を開いてくれた。

いつでも明るく振る舞って、俺達を元気付けてくれた。

そんなアイツが今までの誰よりも残虐な殺され方をして、俺達の心は深く傷ついた。

仕田原と宝条に狙われてしまったがばかりに、アイツは命を落とした。

俺が仕田原の正体に、宝条が追い詰められている事に気がついていれば、筆染は死なずに済んだのかもしれない。

でも、それを後悔したところでもう遅い。

筆染は…アイツはもう二度と還ってこない。

 

「…あ。」

 

ふと、一枚のキャンバスが俺の目に留まった。

…そういえばアイツ、このキャンバスに何かを描いて完成したら見せるって言ってたっけ。

俺は、キャンバスを見て思わず目から涙が溢れてきた。

キャンバスには、希望ヶ峰学園の校門の前で俺達16人が並んで笑顔を浮かべている絵が描かれていた。

 

「チクショウ…チクショウ…!!何でだよ…チクショウ!!」

 

本当なら、この絵みたいにみんなで希望ヶ峰学園に入学していたはずなのに。

今頃、みんなで笑い合って学園生活を送れていたはずなのに。

何でこんな事になったんだ。

このコロシアイさえ無ければ、筆染だって死ななかった。

何でアイツが狙われなきゃならなかった。

何でアイツが死ななきゃならなかった。

…許せない。

こんな事になったのは、全部モノクマのせいだ。

絶対に最後まで生き延びて筆染の仇を討ってやる。

そう思った直後だった。

 

「あ…」

 

グシャグシャになったヘアピンが俺の目に留まった。

…多分、誰かが現場から拾ってきてここに置いたんだ。

筆染が少しでも浮かばれるように。

誰が置いたのかは知らねぇけど、きっとソイツも筆染の死を悔やんでいたんだ。

 

「筆染…ごめんな。お前は俺達の事を考えて行動してくれてたのに、こんな事になっちまって…でも、俺達はお前の分まで生きるから。お前ならきっと、こういう時俺達の背中を押してくれるよな?」

 

筆染が見守ってくれてる。

そう思うと、俺は少し気分が軽くなった気がした。

筆染の死を無駄にしないためにも、俺はここを出るんだ。

俺は自分にそう誓った後、筆染の研究室を後にし仕田原の研究室に向かった。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

俺は、仕田原の研究室に入った。

仕田原の研究室は、他の二人の研究室と違って昨日まで仕田原がここにいたという痕跡が無かった。

…そりゃそっか。

アイツがこの研究室を使うわけないか。

アイツの本性は【超高校級の家政婦】じゃない。

【超高校級の爆弾魔】なんだから。

 

…仕田原。

アイツは、誰よりも真面目で俺達のために働いてくれる。

そういう奴だと思っていたのに。

俺達は、今までずっとアイツに騙され続けていた。

アイツが卑屈で生真面目な性格を演じていたのも、毎日料理を作ってくれてたのも、全部爆弾魔として俺達を殺すためだった。

俺達にとっては仲間でも、アイツにとって俺達は『どうでもいいその他』の一部に過ぎなかったんだ。

 

俺は、今でも筆染を殺し多くの一般人を犠牲にしてきた仕田原を許せない。

でも、仕田原をあんな残虐な方法で処刑したモノクマはもっと許せない。

確かにアイツは殺人鬼だったけど、演技とはいえ俺にとっては大事な仲間だったんだ。

だからせめて、安らかに眠って欲しい。

俺が仕田原の席に向かって合掌して頭を下げた、その時だった。

 

「…あれ?」

 

俺は、椅子の下に鍵が落ちているのに気がついた。

…何の鍵だ?これ…

俺は鍵を拾って研究室全体を見渡してみた。

すると、ひとつだけ鍵穴付きの扉がある事に気がつく。

俺は、拾った鍵を使って部屋の中に入ってみた。

すると…

 

 

 

「うわぁあああああああぁあああっ!!?」

 

俺は、思わず叫び声を上げた。

開けた部屋には、モノクロの少年の顔写真があたり一面にびっしりと貼られており、棚には何種類もの爆弾が入っていた。

本棚には、殺人や爆薬に関する本、過去の事件のスクラップ帳などが入っていた。

テーブルの上に広げられていた手帳には過去に仕田原がターゲットにした建物の写真が貼られており、そこには赤いマーカーでバツ印が書かれていた。

…なるほどな。

ここが【超高校級の爆弾魔】の研究室だったってわけか。

 

すると、壁に貼られていた写真が一枚落ちた。

俺は、その写真の裏側を見て思わずゾッとした。

 

「ひっ…!?」

 

写真の裏側には、真っ黒になって読めないほどびっしりと『行哉さん』と書き殴られていた。

たまたま裏に文字が書かれてる写真が落ちたとは考えにくいから、多分貼られている写真全部に書かれているのだろう。

そう思うと余計に背筋が凍った。

まさか、アイツの恋人に対する執着心がこれ程だったとは。

 

仕田原…

アイツは、結局最期まで何がしたいのかわからない奴だったな。

仕田原の最期の笑い声が、今でも頭から離れない。

同じクロでも、アイツは武本や神崎とは根本的に違う。

アイツは、自分の死すらも愉しんでいた。

それほどまでに、アイツの心は壊れてしまっていた。

きっと、アイツを人殺しの怪物に変えてしまうほど、アイツにとって恋人は大切な存在だったんだ。

せめて、亡くなった恋人と一緒にアイツの事も供養してやらないとな。

俺は、散乱したテーブルの上に供物を二つ置いて部屋を後にした。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「…さてと。」

 

まだ夕食まで少し時間があるな。

誰かと話でもして過ごそうかな。

 

「…あ。」

 

「何や、お前か。」

 

俺は、自販機で飲み物を買っていると枯罰と目が合った。

 

「枯罰。ちょっと話したい事があるんだけど…いいか?」

 

「話?何や。」

 

「お前の才能について…」

 

「…はぁ。その話やろなとは思っとったわ。で、何が聞きたいん?」

 

良かった。今まで才能に関して何も言わなかったから、てっきり断られたり嫌がられたりするものだとばかり思ってたけど…

枯罰はこう見えて一癖も二癖もあるメンバーの中では屈指の常識人で良識人だ。

でも、今まで言わなかったって事は本人が気にしてるって事だろうから、質問は慎重にしないとな。

 

「…とりあえず、ここじゃ誰かに聞かれるかもしれないから別の場所で話そうか。そうだな…俺の部屋ならとりあえず安心かな?」

 

「…。」

 

俺が部屋で話をするように提案してみると、枯罰は少し目を見開いてフリーズしていた。

 

「…どうした?」

 

「…別に。」

 

どうしたんだ枯罰の奴?

…もしかして、男子の部屋に行くのが恥ずかしいとかそういう事か?

いやいやいや、何考えてんだ俺。

枯罰に限ってそれはないだろ。

 

 

 

俺は、枯罰を連れて自分の部屋に入った。

 

「悪いな、散らかってて。適当にそこら辺座れよ。」

 

「…。」

 

俺は、冷蔵庫に入っていた麦茶をグラスに注いで枯罰に出した。

 

「はい。」

 

「…。」

 

「…どした?麦茶嫌い?」

 

「…いや。ウチな、人から出されたモンはどうも受け付けへんねん。すまんな。」

 

「あ…」

 

そういや、前もそんな事言ってたな。

食事に何入れられるかわかったもんじゃないから自分で作るとか何とか…

あの時はただの潔癖症だと思ってたけど、もしかして才能が関係してたりするのかな。

 

「…なあ、枯罰。」

 

「何や。」

 

「黒瀬はお前の事を【超高校級の傭兵】だっつってたけど、本当なのか?」

 

「…ああ。ホンマや。ウチの才能は【超高校級の傭兵】。まあ傭兵って響きはええけどやっとる事は実質殺し屋やな。」

 

「…え?」

 

「ウチは元々ある軍隊に所属しとった少年兵でな。ある事がきっかけで軍を抜けてからは金で雇われて仕事をするようになった。ウチは、雇い主から依頼された仕事を熟す日々を送っとった。要人のボディーガードとかスパイ活動とかならまだええ方やったけど、殺しやら戦争屋やら、あとは拷問官紛いの事をやらされた事もあった。アレはホンマ胸糞悪かったな。イラついて依頼人の方を殺してまうところやったわ。」

 

…なるほどな。

枯罰が才能について語らなかったのも、人の死に対して冷静だったのも、全てにおいて万能だったのも今なら理解できる。

才能について語らなかったのは、人を殺してる事が明るみになったら不利になるから。

人の死に対して冷静だったのは、今まで多くの人の死に直面し、枯罰自身も多くの人を殺してきたから。

全てにおいて万能だったのは、傭兵として超一流だったから。

殺し屋やらスパイ活動やらに手を染めていれば、必然的に多方面に渡って優れた腕前を持つ事が求められる。

コイツは、神崎みたいに初めから何でも完璧に熟せたわけじゃない。

完璧にならざるを得なかったんだ。

 

「ひとつ、聞いてもいいか?」

 

「何や。」

 

「…金で雇われたら、誰でも簡単に殺すのか?」

 

「お前なぁ。言い方っちゅうもんを考えんかい。」

 

「悪い。でも、それだけはどうしても知りたいんだ。どうなんだ?」

 

「…半分YESで半分NOやな。金が無いと生きて行けへんし、妥当な金額で依頼されたらやるわ。それが赤の他人ならそれほど心は痛まへん。人を殺す訓練なら、軍に所属しとった頃から散々受け取ったでな。金のためだと思えば割り切れんねん。せやけど、流石に仕事は選ぶで。この業界を舐めとるような奴の依頼は初めから受けへん。」

 

「じゃあ…今まで殺人が起こった時に怒ってたけど、アレは嘘だったのか?」

 

「嘘なわけないやろ。ウチは、人殺しを許さへんし裁かれて当然やと思うとる。…ウチ自身も含めてな。」

 

「…。」

 

「安心せぇ。ウチはお前らを殺さへん。傭兵として雇われた時から、仕事以外の殺しはせぇへんって決めとんねん。ウチかてオシオキは嫌やしな。まあ、殺されそうになったら間違うて殺してまうかもしれへんけどのぉ。」

 

「…いや、流石にそこまで責める気は無い。筆染の時みたく、正当防衛のつもりが間違えて殺しちまったって事はあるだろうしな。お前から殺しに行く事が無いならそれでいい。」

 

「さよか。」

 

「話を聞いてよくわかった。…やっぱり、お前は悪い奴じゃない。お前を信じた俺の判断は間違いじゃなかった。どんな小さな事でもいいから、何か気がついたら教えてくれ。俺は、お前の事を頼りにしてるからな。」

 

「買い被んなや。お前、何をそこまでウチに期待しとんねん。」

 

「だって、お前は俺が困った時いつでも助けてくれたじゃねぇか。何かこう、頼れる相棒って感じ?」

 

俺がそう言って枯罰の手を握ると、枯罰は少し目を見開いて顔を逸らした。

よく見ると、耳が少し赤くなっている。

元々肌が白いから、赤くなったのがわかりやすい。

 

「…やめぇや。恥ずいやろ。」

 

「どした?もしかして、照れてんのか?」

 

「…別に。」

 

「へへへ、何だよオイ。お前も可愛いとこあるじゃねぇかよ。」

 

「喧しいわボケ!お前ホンマにころ…どつくぞコラ!」

 

おーおー、照れてる照れてる。

枯罰といい宝条といい、ツンデレ女子って何か唆られるんだよな。

 

「枯罰。ありがとな。話してくれて。俺は、お前の事を信じるよ。だからお前も協力してくれないか。」

 

「ド阿呆。逆やろ。お前がウチに協力すんねん。」

 

俺が右手を差し出すと、枯罰も右手を差し出してきたので俺達は手を叩き合った。

 

「そろそろ飯の時間やし、ウチはもう行くで。」

 

「ああ。」

 

そう言って枯罰は立ち上がり厨房へ向かっていった。

…俺もそろそろ食堂に行こうかな。

俺達は、その後枯罰、弦野、速水が作ってくれた夕食を摂った。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

夕食の後は、弦野に全員多目的ホールに集まるように言われているので、俺はホールに向かった。

多目的ホールに行くと、既に俺と弦野以外の7人が席についていた。

俺も席について時間が来るのを待っていると、集合時刻丁度に弦野がステージ上に現れた。

髪型はいつものままだったが、この前中止になってしまったコンサートの時のように正装をしていた。

弦野は、ステージの中心に立って頭を下げるとヴァイオリンを手に取って演奏を始めた。

 

「…!」

 

俺は、演奏が始まるなりすぐに目を見開いた。

出会った当初は粗暴なイメージがあった弦野からは考えられないほど繊細で清らかな音色。

今まで聴いた事ない、幻想的で独創的な旋律。

俺は確信した。

音楽業界から姿を消してもなお、弦野の腕前は健在だった。

これが【超高校級のヴァイオリニスト】としてスカウトされた理由なのだと。

素晴らしい演奏に心を洗われ、あまりの心地良さに瞼を閉じようとした、その時だった。

 

「!」

 

俺は、再び目を見張った。

演奏をしている弦野の頬を伝うものがあった。

…汗じゃない。

弦野は、それでも演奏をする手を止めなかった。

目から溢れ出したそれを拭う事もせずひたすら弾き続けた。

 

 

 

やがて、1時間にもわたる演奏が終わり、ホール内は静寂に包まれた。

弦野は、ハンカチで涙を拭うと深く頭を下げた。

 

「…。」

 

俺が泣きながら演奏をしていた弦野にどんな反応をしたら良いのかわからず戸惑っていた、その時だった。

 

「!」

 

俺が座っていた席の後ろから、拍手の音が聞こえてきた。

手を叩いていたのは、枯罰だった。

俺もそれに合わせるように拍手をし、いつの間にか全員が拍手をしてホール内は拍手の音が響き渡っていた。

素晴らしい演奏をした奏者に称賛の意を込めて、その場にいた全員が手を叩いた。

弦野は、拍手の音に包まれながら舞台を後にした。

 

 

 

コンサートが終わり、部屋に戻ろうとしていた時、俺は弦野に会った。

 

「よ。」

 

「…赤刎か。」

 

弦野は、演奏中ずっと泣いていたせいか鼻を赤くしてずびずび鳴らしていた。

ツッコんだらキレられるだろうし、俺は別の話題を切り出す事にした。

 

「いやあ、それにしてもさっきの演奏凄かったな。まさか、この前出来なかったコンサートをやるために俺達を集めたとはな。」

 

「…本当は、絵麻に聴かせるために準備してきたんだ。でも枯罰達に手伝ってもらってここまで準備したのに準備しっ放しってのも何だし、せっかくだからお前らの前で演奏する事にした。」

 

そういえば、この前に筆染のためにコンサートを開くって言ってたな。

もしかして演奏中に泣いてたのも、筆染の事を思い出したからなのかな。

 

「…なあ。さっき弾いた曲って、何て曲なんだ?聴いた事ない曲だったけど…」

 

「…あの曲には、名前が無いんだ。」

 

「えっ?」

 

「まだ名前をつけてない。あれは、俺が絵麻に聴かせるために作曲した曲だ。…まあ、一番聴かせたかった奴には聴かせられなかったけどな。」

 

「…いや、届いてるよ。」

 

「え?」

 

「お前の演奏は、筆染にも届いてる。筆染だけじゃない。ここで犠牲になってしまったみんなが聴いてくれてるよ。」

 

「…はぁ?馬鹿馬鹿しい、幽霊なんているわけねぇだろ。」

 

「かもな。ぶっちゃけ言うと俺も死後の世界否定派だ。」

 

「じゃあ何で適当な事ぬかしたんだよ。」

 

「だって…そう思いたいだろ?」

 

「は?」

 

「俺、宗教系の孤児院の出身でさ。俺自身は死後の世界とか信じてないんだけど、俺の尊敬する先生が『信じる者は救われる』って言ってたんだよ。だから、今まで犠牲になったみんなが見守ってくれてるって思うようにしてるんだ。その方が、俄然ここから出てやるぞって気になれるしな。」

 

「…そういうもんかよ。」

 

「ああ。筆染は、きっとお前の事を見守ってくれてるよ。」

 

「…そうだな。」

 

「弦野。」

 

「どうした?」

 

「お前…何か変わったよな。前はみんなの事を全然信用してなかったのによ。」

 

「…別に。ここの生活に慣れてきただけだ。俺は、俺が生き残るためにやるべき事をやるだけだ。絵麻のためにも、俺は生きる。」

 

弦野…

前は、行動をする理由が『死にたくない』という消極的なものだった。

でも、筆染の死を乗り越えた事で『生きたい』と強く思うようになったのか。

 

「…そうだな。俺も、札木や湊のために生きてここを出る。お互い、協力して一緒に脱出しような。」

 

「ああ。」

 

俺が手を差し出すと、弦野は俺の手を強く握り返した。

 

「…あ。」

 

「どうした?」

 

「思いついた。さっき弾いた曲の名前。」

 

「ホントか?どんなタイトルにしたんだ?」

 

「『天国の君のためのセレナーデ』。俺の演奏がアイツに響くように、俺は外に出たらこの曲を弾き続けていくんだ。」

 

「…そっか。」

 

初めはあれだけ自分の才能を嫌っていた弦野が、亡くなったみんなのために演奏を続ける事を選んだ。

…人って、変わるもんだな。

 

弦野も枯罰も、3度の学級裁判を乗り越えてより絆が強くなった。

みんなの絆があれば、絶対にここから出られるはずだ。

俺達は、希望を捨てない。

モノクマなんかに絶対負けない。

 

そう誓った俺は、部屋に戻ってベッドについた。

こうして、楽園生活15日目が終わったのだった。

 

 

 

 

 


 

 

 

ー生存者ー

 

【超高校級の講師】赤刎円

 

【超高校級のカウンセラー】安生心

 

【超高校級の香道家】聞谷香織

 

【超高校級の脚本家】黒瀬ましろ

 

【超高校級の傭兵】枯罰環

 

【超高校級の冒険家】ジョナサン・ウォーカー

 

【超高校級のヴァイオリニスト】弦野律

 

【超高校級のソフトウェア開発者】一千歳

 

【超高校級のランナー】速水蘭華

 

ー以上9名ー

 

 

 



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(非)日常編③

ごめん
完全にモチベが低下して4日も開けちゃった


楽園生活16日目。

 

『おはようございます、オマエラ!!朝です!!7時になりました!!今日も元気に殺し合いましょう!!』

 

今日もまた、モノクマの耳障りなモーニングコールで起こされた。

俺は、朝の準備を済ませて8時に間に合うように食堂に向かった。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

食堂には既に安生、聞谷、速水が来ており、遅れて一と黒瀬が来た。

今日は、枯罰、ジョン、弦野の3人が朝食を作ってくれていた。

朝食の後は軽めのミーティングを済ませ、その後は各自自由行動の時間となった。

まずはどこに行こうか?

…そうだ、今回はまだ行ってない科学研究所に行ってみよう。

 

「なあ、安生。」

 

「ん?どうしたのかな、赤刎君。」

 

「ちょっと科学研究所を調べたいから、付き合ってくれるか?」

 

「うん、わかった。それじゃあ一緒に探索しようか。」

 

俺も一応職業柄実験器具には精通してるけど、何があるかわからないからな。

…考えたくはないが、実験器具がコロシアイに使われてしまう事も考えられる。

そういう意味でも、安生は科学研究所を探索する時に一声かけるというルールを加えたんだろう。

俺は、安生と一緒に科学研究所に向かった。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

研究所の中に入ると、一面真っ白で清潔感のある空間になっていた。

 

「へぇ…」

 

「そういえば赤刎君はここ来るの初めてだったよね。僕が案内するよ。」

 

「ありがとう。それじゃあ早速見ていこうか。」

 

俺は、1階の化学室から探索する事にした。

化学室は、第一化学室と第二化学室に分かれている。

第一化学室には蛇口付きの机が18台並べられており、両側の壁全部が実験器具を収納しておく棚になっている。

中には、危ない薬品も入っていた。

危険な薬品も扱うから換気扇を回しているのか、天井からは換気扇の音が聞こえる。

 

「こっちが第一化学室ね。ここは主に実験や研究をするための部屋になってるんだ。」

 

なるほどな。

目的によって部屋を分けてるのか。

 

「うわ、ヤバい薬品も結構入ってるな。硫酸に塩化カリウム、フッ酸、ニトログリセリン…放射性物質まで入ってるのかよ。」

 

こんなもんコロシアイに使われたらヤバいだろ…

殺人鬼の仕田原が生きてる間に開放されなかったのが唯一の救いだな。

…まあ、アイツ薬品に頼らず粉塵爆発で殺人してたし、まだ黒瀬という危険因子がいるから安心は出来ねぇけどよ。

 

「…なあ。この薬品って、やっぱり捨てたりはできない感じ?」

 

「うん。モノクマに確認したら、捨てちゃダメだってさ。…まあ、これだけ有害物質が並べられてたら処分するのも難しいけどね。」

 

「だよな。」

 

やっぱり先手を打たれてたか。

まあこれに関しては、仮にルールで決められてなかったとしても、処分しないのが得策だな。

下手に焼却炉にブチ込んだりしたら変なガスとかが発生したり、最悪焼却炉が爆発したりしちゃうかもしれないし。

 

「よし、ひとつずつ見てくか…」

 

「おっと、あんまり迂闊に触らない方がいいよ。調べる時は、ガスマスクと手袋をつけないと。」

 

「…そうだな。」

 

「ガスマスクと手袋は向こうの第二化学室にあるよ。あと防護服も。」

 

仕方ない、下手に調べて目や手をやられたりしたら冗談じゃ済まされないからな。

俺は、防護服を取りに第二化学室に向かった。

 

 

 

「へぇ…」

 

第二化学室には、化学に関する本や防護服が置かれており、何故かショーケースが並べられていた。

勉強をするための学習机も用意されている。

 

「第二化学室は、主に展示と勉強のための部屋になってるんだ。」

 

「何だこれは?」

 

「ああ、それはかつて希望ヶ峰学園の卒業生が作った作品や研究レポートを展示してあるんだって。2階から4階にも似たような部屋があるよ。」

 

「なるほどな。」

 

俺は、ひとつずつ作品やレポートを見て回る事にした。

 

「へぇ、色々あるな。一錠飲んだだけで3日分の必要な栄養素が摂取できるサプリ、食べれば食べるほど記憶力が良くなるトースト、差せば差すほど目が良くなる目薬、これは…何?衣服だけを溶かすスライムだと?こんなけしからんものでも置いてあるのか。是非ともここから出る時に持ち出したいものだな…」

 

「…。」

 

うおっ!?

おい安生!!

何て目で見て来やがる!!

そんなゴミを見るような目を人に向けるのをやめろ!!

…安生はこう見えて怒らせるとヤバいからな。

何とか弁解せねば。

 

「あ、いや…ゲフンゲフン、こういう素晴らしい発明は是非とも人類の発展のために活かすべきだよな!そうは思わないかね安生君!?」

 

「…。」

 

いや、あのさ安生。

確かに今のは10:0で俺が悪かったと思うよ?

でもさ、そろそろそういう目で見るのはやめて?

マジで心が折れちゃうんだってばよ。

…あと、怖いから何か喋って?

 

「さ、さーてと…次はこのレポートでも読むとしようかな。あは、あはは、あはははははは…」

 

…すげー気まずい。

どうすりゃいいんだよこの空気。

 

俺は、安生とギスギスした空気のまま言われた通りに発明品やレポートをリストにまとめた。

ついでに、探索の途中でメダルをゲットした。

その後は防護服を着て第一化学室に戻り、実験器具と薬品をリストにまとめた。

ちなみにこの防護服も卒業生が作成したものらしく、軽量で動きやすいのに丈夫で破れにくく有害物質を一切通さないという優れ物だ。

 

「…ふぅ。種類が多いから骨が折れるなぁ。これ、残りの3階もこんな感じなのか?」

 

「お疲れ様、赤刎君。」

 

「…ああ。それじゃあ、1階の探索は終わったし2階行くか。」

 

「そうだね。あ、一応防護服は持っていってね。物理室にも危険な機械があるから。」

 

「おう。」

 

化学室の探索が終わったので、俺達は2階の物理室の探索をする事にした。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

物理室も、化学室同様第一物理室と第二物理室に分かれていた。

第一物理室が実験と研究用、第二物理室が展示と勉強用らしい。

ここまでは化学室と同じだな。

第一物理室には実験に必要な機材が揃えられており、実験台が18台並んでいた。

よし、早速探索を進めていくか。

 

「俺は機材をリストアップしておくから、安生は案内頼む。」

 

「任せて。」

 

俺は、安生に指示された通り片っ端から機材を確認していった。

色々あるな…

電流計に、振り子…あとは…音波発生装置なんてものもあるぞ。

スピーカーに繋げば出力を上げて音波を発生させる事も可能なのか。

やっぱり、注意書きには人に向けて使ってはいけないって書いてあるな。

人って音波浴びせるだけで殺せるらしいし。

それから、レーザー銃なんかもあるな。

これは人を殺せる威力は無いが、精密な電子機器を故障させるには十分な出力だ。

…って、さっきから俺物騒な事考えてないか?

3度もクラスメイトの死を目の当たりにして、俺も知らぬ間に疑心暗鬼になってしまっているのかもしれないな。

とりあえず、殺人に利用されたらヤバそうなのだけは隠しておくか。

 

「…よし。これで全部リストにまとめたぞ。」

 

俺は、機材のリストを書いたルーズリーフを安生に返した。

 

「お疲れ様。じゃあ第二物理室の方も見てみようか。」

 

俺達は、第二物理室に向かった。

 

 

 

第二物理室は、第二化学室同様卒業生の発明品や研究レポートを展示してあるショーケースと勉強机、物理学に関する本が並べられた本棚があった。

 

「こっちもリストアップしておくか。安生、ルーズリーフ貸してくれ。」

 

「はい。」

 

俺は、安生と一緒に発明品や研究レポートをリストにまとめた。

その中で、俺は気になる研究レポートを見つけた。

 

「…何だこれ?」

 

俺が手に取ったのは、トランスヒューマニズムに関する研究レポートだった。

俺は、研究レポートを読んでみる事にした。

 

そこに書かれていたのは、脳とコンピュータの互換性に関する内容だった。

何でも、脳内の記憶や意識、感情などの情報をデータ化しコンピュータに読み込む事に成功し、本物のマウスの記憶や意識を元に動くロボットマウスを作ったとの事らしい。

まだこの段階ではマウスにしか実験をしていないが、いずれヒトの脳をデータに置き換える事ができれば記憶障害の治療や機械への人格の移植などに役立てられるかもしれない。だが、倫理的な観点から現時点では実現不可能な技術である…か。

 

「記憶や感情をデータ化しただと?バカバカしい、人の心ってのは機械みたいに単純じゃねぇんだよ。安生もそう思うだろ?」

 

「…そうだね。この技術が確立されて記憶障害や精神障害に悩む人がいなくなるならそれはいい事だけど、悪用されたらたまったものじゃないよ。人の記憶や感情をデータ化して書き換えるなんて、あっていい事じゃない。」

 

安生は、そう言って眼鏡を上げた。

俯いて顔はよく見えなかったが、声の調子からして多分怒っているか悲しんでいるかのどちらかだろう。

 

「おっと、脱線しちゃったね。続きやろうか。」

 

「そうだな。」

 

俺は、引き続き研究レポートと発明品を調べた。

…しかし、化学室の方もそうだったがユニークな発明品ばっかりだな。

髪を自動でセットしてくれるヘルメットに、インク要らずで永久的に使えるペン、有害物質をほぼ100%遮断するメガネ、完全防音の耳栓…

 

「これ、マジで全部希望ヶ峰の卒業生が作ったのか…」

 

「すごいよね。希望ヶ峰学園は、こんなものを作れちゃう人をスカウトしてるんだもの。憧れちゃうよね。」

 

「俺達も、その希望ヶ峰にスカウトされてるんだけどな。」

 

「そういえばそうだったね。結局、入学式は出来なかったけどね。」

 

「ははは…」

 

俺達は、互いの顔を見合わせて苦笑いを浮かべた。

本来なら、この人達は俺達の先輩だった人達なんだ。

俺だって、憧れの希望ヶ峰に入って順風満帆な学園生活を送るものとばかり思っていた。

なのにまさかこんな事になるなんて、誰も想定してなかった。

 

「僕、身体が弱いしずっと勉強漬けだったからちゃんと学校のイベントに参加できた事が無くてさ。だから、入学するのを楽しみにしてたんだよね。」

 

「安生…」

 

「でも僕、ここでみんなに会えて友達になれたのはすごく嬉しかったんだ。赤刎君、みんなで一緒にここを出ようね。」

 

「おう。」

 

さっきは主に俺のせいで気まずい事になったが、安生の機嫌が良くなったようで何よりだ。

 

「…あ、もうお昼の時間だ。3階と4階は後で調べようか。」

 

「そうだな。」

 

俺達は、科学研究所を後にし昼飯を食いに食堂に向かった。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

昼飯の後は、一度プレイルームでメダルを使ってから科学研究所の探索をする事にした。

早速、拾ったメダルでガチャを引く。

出てきたのは、いい香りがするお香が入った箱だった。

うーん…使い道に困るなぁ。

誰かにプレゼントしようかな?

俺は、ガチャで手に入れた景品を持って安生との待ち合わせ場所に向かった。

 

「お待たせ。」

 

「それじゃあ、生物室と地学室の探索をしようか。」

 

俺達は、早速科学研究所の3階へと足を運んだ。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

生物室も、化学室や物理室同様第一生物室と第二生物室に分かれていた。

第一生物室が実験と研究用、第二生物室が展示と勉強用らしい。

ここまでは化学室や物理室と同じだな。

第一生物室には、生物観察や生物の飼育に必要な道具が揃えられ、実験台が18台並んでいた。

俺は、下の2階同様置かれている道具を順にリストアップした。

 

「ええっと…顕微鏡に骨格標本に…うおっ、培養器まであるのか。」

 

この培養器、人一人がすっぽり入る大きさだぞ。

しかも16台もある。

 

「…まさか、これで人造人間とか作れたりするわけじゃないよな。」

 

「ははは、まさか…SF映画じゃあるまいし。」

 

「だよなぁ。」

 

いくらモノクマと言えど、流石にこれで人間を作ったりは…しないよな。

 

「ここって、診療所ほどじゃないけど医療器具もあるんだな。」

 

「…まあ、生物実験に医療器具が必要だったりするし…ここの機材の扱いは僕が一番慣れてるかな。」

 

「そうか。じゃあ、わからない事とかあったらお前に聞けばいいか?」

 

「うん。何でも相談してよ。」

 

安生はホント良い奴だな。

知識が豊富で頭が切れるし、身体が弱いのに積極的にみんなのために動いてくれるし、同い年なのに頼れる兄貴って感じがするんだよな。

 

「…よし。これで全部リストにまとめたぞ。」

 

俺は、機材のリストを書いたルーズリーフを安生に返した。

 

「お疲れ様。じゃあ第二生物室の方も見てみようか。」

 

「おう。」

 

俺達は、第二生物室に向かった。

 

 

 

第二生物室は、化学室や物理室同様卒業生の研究レポートを展示してあるショーケースと勉強机、生物学に関する本が並べられた本棚があった。

 

「こっちもリストアップしておくか。安生、ルーズリーフ貸してくれ。」

 

「はい。」

 

「サンキュ。」

 

俺は、安生と一緒に研究レポートをリストにまとめた。

その中で、俺は気になる研究レポートを見つけた。

 

「…何だこれ?」

 

俺が手に取ったのは、人造生物に関する研究レポートだった。

俺は、研究レポートを読んでみる事にした。

 

そこに書かれていたのは、人工的に生物を作り出す研究に関する内容だった。

クローン技術と遺伝子組み換え技術を利用し、元となる細胞が一つあれば体格や体質、性格、行動パターンなどの個体差を自在に操作した生物を作る事が可能だという事が書かれていた。

この技術を人間に応用する事で遺伝子操作を施した人間を大量に造り出し、専用の施設内で育て人造人間がどのように成長するのかを観察する事も検討しているが、やはり人道的な面から実現はしないままでいる、との事だった。

 

…なぁんだ、まだ確立されてない技術なのか。

冷静に考えたら、人工的に人間を大量に造るとかヤバい事してるしな。

…さっきの脳のデータ化のレポートといい、このレポートといい、何かSFじみてないか?

 

「…。」

 

「赤刎君、どうかしたの?」

 

「ああ…いや、このレポートがちょっと気になってな。」

 

「ああ、人造生物に関する研究レポートね。僕も読んだよ。」

 

「安生はこれを読んでどう思う?」

 

「うーん…この研究に関しては、既にある技術を応用したものだからね。否定はできないかな。実際、似たような論文を過去にも読んだ事があるし。『将来人間を人工的に造る技術が確立され、デザイナーベイビーが増えたらどうなるのか』、っていう内容だったかな。もしそれが現実になれば、病気に苦しむ人が減るっていう良い面もあるけど、非人道的な事に利用されたりもしそうだよね。人体実験とか、殺人とか…」

 

「確かにな…」

 

「おっと、また脱線しちゃったね。それじゃあ生物室の調査は終わった事だし、後は地学室だけだね。」

 

「ああ。」

 

生物室の探索が終わったので、俺達は4階の地学室の探索をする事にした。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

地学室室も、他の3つの階同様第一地学室と第二地学室に分かれていた。

第一地学室が研究用、第二地学室が展示と勉強用らしい。

第一地学室には、地質の調査や天体観測に必要な道具が揃えられ、実験台が18台並んでいた。

俺は、下の3つの階同様置かれている道具を順にリストアップした。

 

「えーっと…望遠鏡に、測定器に、温度計に、コンパスに…」

 

この部屋は他の3つに比べて用具が少ないし部屋も少し狭いな。

特に危険物も無いし…

おかげでリストアップが早く終わったぞ。

 

「これで全部だな…」

 

「ありがとう。赤刎君、リスト作るの早くなったね。」

 

「まあ、この部屋が一番備品が少なかったからな。」

 

「それにしても早いよ。作業に慣れてきた?」

 

あー…そういえば、まだここに来たばっかりだった時も診療所と倉庫の備品のリスト作りを手伝ってたからな。

 

「それじゃあ、第二地学室の方も調べようか。」

 

「…だな。」

 

俺達は、第二地学室の方も調べる事にした。

 

 

 

第二生物室は、他の3つの階同様卒業生の研究レポートを展示してあるショーケースと勉強机、天文学や地質学に関する本が並べられた本棚があった。

俺は、安生に指示された通り展示品や本をリストにまとめた。

 

「…。」

 

俺は、壁に貼られている地図を見て少し考え込んだ。

 

「どうしたの、赤刎君?」

 

「ああ、いや…いくら壁で囲まれた閉鎖空間といえど、流石にそろそろ警察が俺達の居場所を突き止めててもおかしくないんじゃないかと思ってな。それに、ここにある設備と俺達超高校級の力をもってすればここがどこなのかを割り出す事はできるんじゃないか?」

 

「モノクマが、それを黙って見てるとは思えないけどね。多分、僕達がそう考える事も織り込み済みだよ。だからわざわざ研究施設なんて開放したんだ。」

 

「う…それは、そうだが…」

 

「それに、そもそもここが国内だっていう確証もないしね。」

 

「…えっ?」

 

「実は僕、君と同じ事を考えてここ数日間太陽の動きや気温を計測してたんだ。」

 

マジかよ。

いつの間に…

見た目によらず抜かり無いな安生は。

 

「…でも、わかったのはこの楽園があるのは北半球の中緯度地域のどこかという事だけ。何年も辿り着けないような無人島にいるって事も考えられるんだよ。」

 

「…。」

 

「あ、ごめんね。不安にさせるような事を言って。…でも、超高校級が16人、しかも2週間もここに閉じ込められてるのに家族や警察が動かないわけがない。居場所が分からなくても、今も僕達の事を必死に探してくれてるはずだよ。僕達にできる事は、外で僕達の帰りを待ってくれている人達のためにも無事に生きてここから出るための手がかりを探す事だ。」

 

「…そうだな。」

 

俺は、まだ外に出てやりたい事があるんだ。

こんな所で悲観的になってる場合じゃないな。

探索をしリストを作り終えた俺達は、そのまま科学研究所で解散した。

…まだ時間があるな。

適当にどこかで暇潰ししようかな。

 

俺は、とりあえずプレイルームにでも行こうとホテルに戻った。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

ホテルのエントランスに戻ると、そこで聞谷にバッタリ会った。

 

「あら、赤刎さん。ごきげんよう。」

 

「おう、聞谷か。」

 

…そういや、聞谷とちゃんと話したのって3回目の探索で同じ班になった時以来だったかな。

せっかくだし、この機会に仲良くなりたいな。

 

「なあ、聞谷。」

 

「はい、何ですの?」

 

「今からちょっと時間ある?話がしたいんだけど。」

 

「お話、ですか。わたくしの方こそ、是非赤刎さんとお話したいですわ。では、せっかく研究室が開放された事ですし、わたくしの研究室でお話をしませんか?」

 

「お、ありがたい。それじゃあ…お邪魔します?」

 

俺は、自分から話を振っておいて何だが不自然に畏まって軽く頭を下げた。

夕食までの時間は、聞谷と一緒に過ごす事にした。

仕田原達の事で一時期精神的に不安定だったから心配だったけど、聞谷は意外にも快く俺を研究室へ案内してくれた。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

研究室に着くなり、聞谷は抹茶と茶菓子を出してくれた。

 

「どうぞ。お茶をお淹れしましたの。」

 

「ありがとう。…ふぅ。」

 

うん、美味い。

 

「…いかがですか?」

 

「美味いよ。これ、いい茶葉使ってるだろ?それにこの饅頭も美味いな。」

 

「あ、わかります!?このお茶、研究室に置いてあったのですが本当に美味しいんですのよ!それにこのお饅頭、程良い甘さでお抹茶によく合うんです!」

 

「お、おう…そうだな…」

 

聞谷の奴、いつになく興奮してるな。

このままヒートアップする前に、プレゼントを渡しておこうかな。

 

「なあ、聞谷。」

 

「はい、何ですの?」

 

「はいこれ。」

 

俺は、ガチャで引き当てたお香の箱を聞谷に渡した。

 

「えっと、これは…」

 

「プレゼントだよ。お前なら気に入ってくれるんじゃないかと思ってな。」

 

「こ、これをわたくしに!?本当に受け取ってもよろしいんですの!?」

 

「俺は正直全然使わないし、お前が使った方がお香も喜ぶだろ?」

 

「あ、ありがとうございます…!ですが、何かお礼をさせていただかなくては…」

 

「いや、いいんだよ。別に見返りが欲しくてプレゼントしたわけじゃないしな。このお茶とお菓子で十分だよ。」

 

「いえ、そういうわけには参りませんわ!」

 

別にいいって言ってるんだけどな。

 

「んー…じゃあそうだな、せっかく研究室に入れてもらった事だし、話聞かせてくれないか?」

 

「お話、ですか。そのような事でよろしいんですの?」

 

「聞きたいしな。」

 

「…わかりました。では、何からお話しましょう?」

 

「そうだな…じゃあ、お前はどうして【超高校級の香道家】に?」

 

「ええと…わたくしの実家は、代々伝統芸能をやっておりまして、わたくしも物心ついた時から茶道や華道のお稽古をしておりましたの。ですが、どれもわたくしの実家が輩出している名人ほどの才能はありませんでした。妹の佐織は何でも卒なくこなしてしまい、我が家でも一番才能があったので比べられる事も多かったですわ。」

 

…なるほど。

名家のお嬢様ってイメージだったけど、聞谷もそんな苦労をしてたのか。

ん…?

佐織って…

あ、そういえば生花のコンクールで最優秀賞を取った中学生が話題になってたっけ。

その中学生が聞谷佐織って名前だったけど、あの子聞谷の妹だったのか。

 

「ですが、唯一わたくしに向いていたのが香道でしたの。わたくしは香道家になる事を決め、独自の流派を生み出した事が話題となってスカウトされるまでに至りましたの。」

 

「そうか。良かったな、お前に向いてて続けられるものが見つかって。」

 

「ありがとうございます。わたくしの尊敬するお婆様が、『自分で決めた道は全力で歩みなさい』と仰っていましたの。お婆様の言葉もあって、わたくしはわたくしにしか歩めない道を歩もうと決めたのですわ。」

 

「…なるほどな。」

 

聞谷の奴、おばあちゃん子だったのか。

他の奴と話しててもそうだったけど、何かこうして二人きりで話してると家庭の事情とか色々わかってくるもんなんだよな。

そうだ、そろそろ別の話題振ってみようかな。

 

「…ところでさ。話は変わるんだけど、聞谷って普段は大人しいのに動物館とかカラオケとかでものすごくはっちゃけてたじゃん?…もしかして、実は家ではあんな感じだったりする?」

 

俺が聞谷に軽めのテンションで尋ねると、聞谷は顔を真っ赤にしてブンブンと両手を振った。

 

「あ、あれは忘れてくださいまし!!」

 

「お、おう…」

 

あちゃー…ちょっとからかってみただけなんだけどマジで気にしてたのか。

聞谷って、普段はお上品な大和撫子って感じなのにちょっと天然ボケなんだな。

とりあえず、これ以上からかうのは可哀想だしやめとくか。

 

「わたくしは今まで家の中だけで暮らしておりましたので、庶民の方がどのような生活をなさっているのかを全く存じ上げませんの。ですから、初めて庶民の方の生活に触れてつい興奮してしまい、それでお見苦しいところを…」

 

庶民って…

聞谷家は伝統芸能で有名な旧家だって聞いてるけど、マジで俗世間とは無縁なのな。

そりゃあ、俺達からしてみれば当たり前の事も聞谷からしてみれば新鮮なわけだ。

そう思って話を聞いていると、少しずつ聞谷の声のトーンが暗くなっていった。

 

「わたくしは、庶民の方と接した事が殆ど無かったので、初めてここに来た時は緊張しておりましたの。…ですが、そんな中たまたまわたくしと同じ車両にいらっしゃったのが筆染さんが、明るくわたくしに接して下さったのです。」

 

あ、そういえば駅で一緒にいたし、やけに仲良かったような…

 

「筆染さんだけではありませんわ。仕田原さんも、このような場所に不慣れなわたくしに優しく接してくださいました。宝条さんも、初めは自分勝手な方だと思っておりましたが一緒に話しているうちに本当は優しい方なのだと分かりました。…それなのに、どうしてあんな事に…何故、わたくしの大切なお友達があのような目に遭わなくてはならないのですか!?こんな思いをするくらいなら、もうお友達なんて…!」

 

「聞谷。そんな事言うな。お前、アイツらと友達になれて、アイツらと一緒に楽しい事ができて、嬉しかったんだろ?アイツらと過ごした時間が楽しかった分、別れがつらいのはわかる。でも、つらいからってその思い出まで否定しちまったらアイツらが悲しむぞ。」

 

「でも、わたくしは…!」

 

「だったらこうしよう。ここを出られたら、みんなで一緒に遊びに行かないか?」

 

「…え?」

 

「外はな、お前が経験した事ないような楽しい事で満ち溢れてるんだ。世界中を回って、お前も俺も体験した事ない事をいっぱいやろう。つらいのを忘れちまうくらい、みんなで思いっきり遊ぼうぜ。その方が、アイツらも喜ぶと思わないか?」

 

俺がそう言うと、聞谷は静かに頷いた。

 

「赤刎さん。わたくしは、生きてここを出ますわ。まだ見た事のないものを皆さんと一緒に見てみたいですもの。それに、聞谷家の長女ともあろう者がこんな所で立ち止まっていては、お婆様に合わせる顔がありませんわ。」

 

よかった、いつもの聞谷だ。

 

「ああ、約束だからな。」

 

俺は、聞谷と一緒に外に出る約束をした。

もう、仲間が死ぬのも、絶望するのもいやだ。

俺達は、今度こそみんなでここから出るんだ。

絆さえあれば、どんな事だって乗り越えられる。

 

《聞谷香織との親密度が上がった!》

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

その後、俺達は食堂に集まって夕食を食べ、その後は適当に時間を潰した後部屋に戻った。

こうして、楽園生活の16日目が幕を閉じたのだった。

 

 

 

 

 


 

 

 

ー生存者ー

 

【超高校級の講師】赤刎円

 

【超高校級のカウンセラー】安生心

 

【超高校級の香道家】聞谷香織

 

【超高校級の脚本家】黒瀬ましろ

 

【超高校級の傭兵】枯罰環

 

【超高校級の冒険家】ジョナサン・ウォーカー

 

【超高校級のヴァイオリニスト】弦野律

 

【超高校級のソフトウェア開発者】一千歳

 

【超高校級のランナー】速水蘭華

 

ー以上9名ー

 

 

 



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(非)日常編④

楽園生活17日目。

 

『おはようございます、オマエラ!!朝です!!7時になりました!!今日も元気に殺し合いましょう!!』

 

今日もまた、モノクマの耳障りなモーニングコールで起こされた。

コイツ、俺達に嫌がらせしてないと死ぬ病気にでも罹ってんのかな。

俺は、朝の準備を済ませて8時に間に合うように食堂に向かった。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

食堂には既に安生、聞谷、速水が来ており、遅れて一が来た。

今日は、枯罰、速水、弦野の3人が朝食を作って持ってきてくれた。

だが、一向に黒瀬が来る気配が無かった。

…まあ、アイツは遅刻魔だから今更驚きはしないけどな。

 

「マシロの奴こねぇな。oversleepか?」

 

「別にいいんじゃねぇの?あんな奴。俺も内通女と一緒に飯食いたくねぇしよ。」

 

「そ、そうだよ!殺人鬼と一緒にいたら何されるかわかんないじゃん!」

 

「弦野さん、一さん。言い過ぎでは?」

 

「別に言い過ぎやとは思わへんけど、放っとくのは反対やな、あんな奴一人にしとく方がアカンやろ。アイツ、目を離したら何するかわからへんぞ?」

 

「ひぃいいいいいっ!!?枯罰さん物騒な事言わないでよ!!」

 

「お前が先に物騒な事言うたやんか。」

 

「…仕方ないね、僕が呼びに行ってくるよ。」

 

「じゃあアタシも行くよー。」

 

「いや、俺が行く。」

 

「いいのかい?」

 

「ああ。アイツも俺の前では変な気を起こさないだろうしな。」

 

「何だよその謎の自信。」

 

俺は、一人で黒瀬を迎えに行った。

 

 

 

黒瀬の部屋の前に着いた俺は、インターホンを鳴らす。

 

「まっしろしろすけ出ておいでー。出ないと目玉ほじくるぞー。」

 

すると、ガチャリとドアが開いたかと思うと白いフカフカの毛布で身を包んだまっしろしろすけこと黒瀬が出てきた。

まだパジャマを着ている事ともともと癖毛の髪が寝癖でグシャグシャになっている事から、ついさっきまで寝ていた事が見て取れた。

もう集合時刻過ぎてるのに熟睡するなんて呑気な奴だな。

 

「んあー、何ですかー。」

 

「何ですかじゃねぇよ。飯の時間だ。」

 

「えー…まだ眠いよぉ。もうちょっと寝かせてー。」

 

「ダメだ。…つーか、いつも何時に寝てるんだよ?夜更かししてるんじゃないだろうな?」

 

「まさかー。お昼寝してるし、ちゃんと10時にはお布団に入ってるよぉ。ちゃんと1日14時間寝てるもんねー。」

 

「寝すぎだろ!!よくそんなに寝れるな!?」

 

「えへへー、褒めても何も出ませんよー?」

 

「褒めてない。ホラ行くぞ。」

 

「えー、まだ寝たいよぉ。あ、そうだ。円くん、ボクと一緒にお布団に入る?」

 

「入らない。みんなを待たせてるから行くぞ。」

 

「ぴえん」

 

俺は、ぐずる黒瀬を引っ張って食堂へ連れて行った。

ようやく全員揃ったので、全員で朝食を摂った。

朝食の後は軽めのミーティングを済ませ、その後は各自自由行動の時間となった。

まずはどこに行こうか?

…そうだ。

映画館が開放されたらしいし、行ってみようかな。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

俺は、映画館に行って映画を見る事にした。

ジョンが言ってた変な映像とやらを見るか。

俺は、変な映像とやらを機械にセットし、その時にメダルを見つけたので回収した。

そしてポップコーンとお気に入りのジュースを持って、空いているシアターの席に座った。

すると、突然上映が始まった。

どうやら、ミステリーもののアニメ映画のようだ。

モノクマが作った映画らしいので嫌な予感しかしないが、ジョンがわざわざ調査中に言ってきたという事は何か重要な手掛かりがあるかもしれないので気は進まないが見てみる事にした。

どこかで聞いた事があるBGMが流れ、暗い館の扉が開く。

 

…ん?どこかで見た事あるぞ?

 

そしてとうとう、アニメの本編が始まった。

パシャパシャというカメラのシャッター音の後、決めポーズをしたモノクマが現れる。

 

『ボクはマスコット探偵モノクマ。幼馴染みで同級生のモノミと遊園地に遊びに行って、黒ずくめのクマの怪しい取引現場を目撃した。』

 

丸パクリじゃねぇか!!

怒られるぞコレ!!

というツッコミを心の中で留めつつ、俺は引き続き映画を見た。

某見た目は子供頭脳は大人の探偵アニメを丸パクリしたオープニング映像のあとは、映画の本編が始まった。

 

『ドカーーーン!!!』

 

『モノミーーー!!!』

 

『モノ…クマ…?』

 

「…。」

 

何だこれ。

酷すぎる。

マジでマジメに見た時間を返せとしか言いようがない。

事件が起きてから解決まで、全てが滅茶苦茶だ。

ジョンがわざわざ話題にするほどの映像だから心して見ようと思っていたのに、蓋を開けてみれば駄作未満の茶番映画だった。

ジョンめ、こんな汚物をわざわざミーティングの場で持ち出しやがって。

後で文句言ってやる。

エンドロールが流れバカバカしくなって席を立とうとした、その時だった。

 

『キャー!!』

 

『何!?また事件が起こったのか!?』

 

どうやら、この映画は一つの事件を解決して終わり、というものではなかったらしい。

エンドロールが流れ終わった直後、次の事件が起こる。

はいはい、駄作駄作。

そう思って俺がため息をついて椅子にどっかり座った、その時だった。

 

 

 

「…え?」

 

突然、映像がアニメから実写に切り替わった。

そして、何者かが血塗れのナイフを持って怯え切った男に一歩ずつ近づく。

見たところかなり身なりが良く腹に贅肉がついた中年男が尻餅をつき、後退りをしている。

 

「ひっ、ひぃっ…!!た、頼む!!見逃してくれ!!この通…

 

 

 

ザシュッ

 

ナイフを持った人物は、男の言い分を聞き入れる事なく男の喉を掻っ捌いた。

男の喉を切ったのは、背丈的に10歳前後の子供だった。

後ろに映っていた新聞を目を凝らして見ると、日付が8年前になっていた。

…もしかして、これって俺達の中の誰かだったりしないよな?

こんな事をする心当たりがする奴は、1人しかいない。

 

 

 

…黒瀬?

まさか、黒瀬がこの男を殺したのか?

アイツが自分を殺人鬼だと言っていたのは、本当だったのか…?

 

「ッ…!?」

 

頭が痛い…

何だ、急に頭に映像がチラついて…

 

 

 

 

 

…あれ?

 

俺はモノクマが作った映像なので初めは捏造を疑っていたが、すぐに映像が本物だと確信した。

俺は、過去にこの場に居合わせた事がある。

俺は確かこの様子を見てて、その後…

 

…ッ!!

思い出した。

俺は、その後男をメッタ刺しにした犯人に見られたんだった。

 

俺は、引き続き映像を見る事にした。

何が何でも真実を確かめたかったからだ。

 

すると、物陰から人影が現れるのが見えた。

見たところ、犯人と同じくらいの年齢の子供だ。

…そうだ。俺は、この物陰から犯行の様子を見ていて、急いで通報しようとしたら犯人に見つかってしまったんだった。

それで、犯人に睨まれて何かを言われて…

その後どうやって犯人から逃げたのかは覚えていない。

今思い出してみれば、俺を睨んでいた瞳と俺に何かを言った声は黒瀬のものだった。

 

…あれ?

俺、何で今になってこんな事を思い出したんだ?

今まで、殺人現場を見たのを思い出した事なんてなかったのに…

というか、何でこんな重要な事を今まで思い出せなかったんだ?

 

 

 

…!

そういえば、何も思い出せないというのはここに閉じ込められた時の状況と同じだ。

それに、記憶をデータ化して書き換える技術を開発したというレポートも読んだ。

…まさか、俺は誰かに記憶を操作されていたのか?

 

「…。」

 

いや、決めつけるのはまだ早いな。

もしかしたら、たまたま思い出せなかっただけかもしれない。

本当はこういう時安生に相談するのが一番いいんだろうけど、実は俺が黒瀬の犯行現場を見てましたなんて言ったら混乱を招きかねないし、もし黒瀬がこの事を知ったら今まで温厚だったアイツも変な気を起こすかもしれない。

 

そんな事を考えると、いつの間にか映画が終わっていた。

席には、飲みかけのジュースとほとんど口をつけていないポップコーンが残っていた。

食欲は無いが残すのも勿体無いし何とかしたいけど、今から他の映画で口直しする気分じゃないしその気力も無い。

…素直に映画を楽しめなくなっちまったな。

俺は、残ったポップコーンとジュースを持ってとぼとぼとシアターを出た。

 

…はぁ。

これ、どうしよっかな。

 

 

 

「じー…」

 

「!!?」

 

左から視線を感じるので左を見ると、黒瀬が俺の目線の高さに合わせて少し屈み俺の顔を覗き込んでいた。

 

「ッ…く、黒…瀬…!?」

 

「円くん、どうしたの?元気ないよぉ?大丈夫?おっぱい揉む?」

 

「ッ…」

 

俺は、黒瀬に頬を撫でられて思わず全身を硬直させた。

もう春のはずなのに、冷や汗と震えが止まらない。

やばいやばいやばい、心音が煩い!!

何とかしないと、黒瀬に怪しまれる…!

 

「な…何でもないよ。」

 

「ふーん。でもポップコーン残ってるよ?円くんならこれくらいペロリだよね?」

 

「え、映画に集中してたら余っちゃって…そうだ、残り食うか?」

 

「やったー。円くんの食べかけと飲みかけー。恭悦至極なりー。」

 

黒瀬は、やると言っていないジュースまで引ったくって走っていった。

…黒瀬って何なんだ。

初めはちょっとマイペースで人懐っこい癒し系だと思ってたけど、まさか殺人鬼、ストーカー、サイコパスの3拍子揃ったトリックスターだったとは。

俺はヤバい奴に気に入られてしまったのかもしれない。

 

「…あ。」

 

黒瀬は、突然立ち止まって俺の方を振り向いた。

 

 

 

「円くん、()()()()()?」

 

「ッーーーーー!!?」

 

え?

思い出したって…何の事だ?

もしかして、俺が殺人現場を見た事か?

だとしたら、俺が黒瀬の犯行を目撃していたのを思い出したのがバレたら相当ヤバい…!!

 

「…はぁ?何を?急に変な事言うなよ。」

 

俺は、ニヘラと笑って誤魔化した。

すると黒瀬は少し考えるそぶりをし、シアターへと走っていってしまった。

…とりあえず、何とか誤魔化せた…のか?

俺は不安を抱きつつも、残りの昼食までの時間はプレイルームで過ごす事にした。

拾ったメダルでガチャを引いたら、スポーツタオルが出てきた。

俺は使わないので、誰かにあげる事にした。

 

その後昼食の時間になり、全員が食堂に集まった。

当然黒瀬も来たので、俺は少し黒瀬を警戒していた。

しかし、あれから特に黒瀬が何かを仕掛けてくる事はなく、俺の心配は杞憂に終わった。

…でも、黒瀬は殺人鬼だし、内通者を自称してるからこれから何をしでかすかわかったもんじゃない。

相変わらず枯罰達が作ってくれた飯は美味かったが、それどころじゃなかったので正直箸は進まなかった。

俺は、昼食の後庭のベンチに座って外の空気を吸う事にした。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「…はぁ。」

 

俺がベンチに座ってため息をつくと、ベンチに影が差した。

 

「あれ?円じゃん。どうしたの?そんな所でため息なんかついちゃってさ。」

 

「…速水か。実は、嫌な事を思い出しちまってな。」

 

「嫌な事?アタシで良かったら話聞くよー?とりま、アタシの研究室来る?」

 

速水は、俺を研究室に入れてくれた。

俺は、速水に相談する事にした。

もちろん、黒瀬の犯行現場を見た事は伏せて、『小さい頃に目の前で人が死んだ』とだけ伝えた。

正直、今は特に何も考えていない速水に相談するのが一番気が楽だった。

 

「ふーん、なるほどねー。アンタも色々悩んでたんだね。」

 

「…なあ、厚かましいお願いではあるんだが…この話は出来るだけ他の奴には言わないでおいてくれるか?心配かけたくないし…」

 

本当は黒瀬にこの事がバレたらマズいから、なんだがな。

 

「わかってるよ。誰にも言わないから。ってか、アタシバカだからさ。ちょっと筋トレしてここを出る頃には多分アンタが話してくれた事忘れちゃってるんじゃないかな?だから心配しないでよ。」

 

「ははは…」

 

速水が笑いながら自虐ネタを挟んできたので、俺は合わせるように苦笑いを浮かべた。

…誰にも言わないって約束の方を忘れたとかいうオチはやめてくれよ?

 

「…まあでも、うん。ちょっとスッキリした。話聞いてくれてありがとな、速水。」

 

「いいって事よ。」

 

「あ、そうだ。礼と言っちゃ何だが…」

 

「どったの?」

 

俺は、速水にタオルを渡した。

 

「はい、これ。」

 

「…え?これを、アタシに?」

 

「話聞いてもらったしな。良かったら受け取ってくれないか?」

 

「ありがと!!え、やった!!メッッッチャ嬉しい!!!」

 

速水は、俺のプレゼントをものすごく大袈裟に喜んでいた。

ここまでド直球で喜ばれるとこっちが恥ずかしくなっちまうな。

 

「気に入ってくれたみたいで良かったよ。…なあ、まだ時間あるしせっかくだからもう少し話さないか?」

 

「え、まだ何か悩んでるの?」

 

「いや、そうじゃなくて…今度はお前の話を聞いてみたいなって。」

 

「アタシの!?おっけ!!まず何から話す!?」

 

「そうだな…じゃあ、何で【超高校級のランナー】になったのか教えてくれるか?」

 

「走るの大好き!!以上!!」

 

短っ!!

え、まさかこれで終わり!?嘘だろ!?

他の奴は過去とか色々教えてくれたんだけどな…

コイツ悩みとか何も無さそうだし、もしかして壮絶な過去とか壁を乗り越えた経験とか何もないのかな?

 

「あ、いや…あ、じゃあスカウトされるまではどんな生活してたんだ?」

 

「あー、そうね。アタシ、弟が3人いてさ。お父さんとお母さんは海外出張でなかなか帰ってこないからアタシが面倒みてたんだよね。」

 

なるほどな。

だから意外と面倒見がよくて家事スキルが高いのか。

 

「もしかして、コロシアイやオシオキでみんな心が折れそうな時も元気だったのは、今まで下の兄弟の面倒を見てたから…」

 

「ああ、いや。あれは頭がついていけなくて何に対して怖がったらいいのかもわかんなくなっちゃってただけ。」

 

理解が追いつけてなかっただけかい。

 

「それで男兄弟ばっかりだからってのもあんのかもしんないけど昔から身体を動かす機会が多くてさ。特に走るのが得意で、かけっこはずっと一番だったんだよね。走るのが大好きだから中学と高校は陸上部に入ったんだけど、それで【超高校級のランナー】としてスカウトされたんだ。アタシは趣味で走ってただけなのに、超高校級なんてビックリだよねー。」

 

「趣味でって…記録更新したりしてるんだから、努力して超高校級になったんじゃないのか?」

 

「んー…強いて言うなら速く走れたら嬉しいから速く走ろうと思っていっぱい走ったくらいかな。」

 

いや、くらいかなって…

そこで挫折する人間が何百人もいるんだぞ。

努力をする過程すらも楽しんで苦に思わないなんて、普通の人間ができる事じゃない。

それを平然とやってのけるというのは、ある意味超高校級なのかもな。

 

「ちなみにいっぱいって…どのくらい?」

 

「1日100kmくらい?休みの日はもっと走るけど。」

 

バケモンじゃねーか。

何がバケモンかって、走る量もそうだけどそれを苦に思わない事なんだよな。

そりゃ超高校級って呼ばれるわけですわ。

 

「んー…アタシが【超高校級のランナー】になった経緯はこれくらいかな。他に聞きたい事ある?」

 

「そうだな…じゃあ、速水はここを出たら何がしたい?」

 

「いっぱい走る!!」

 

「いや、それは楽園の中でもできるんじゃないか?」

 

「んもー、わかってないなぁ円は!!同じ所グルグル走ってたら飽きちゃうでしょ!!アタシは色んな場所を好きなだけ走りたいの!!グラウンドとかちゃんとした道とかを走るのと山道とかを走るのとじゃ全然違うんだから!!」

 

「お、おう…」

 

さすが、【超高校級のランナー】とだけあって走る事に対する情熱は並大抵のものじゃないな。

走れれば何でもいいんじゃないのかと思っていたが、速水なりのこだわりがあるんだな。

 

「円、アタシは絶対生き延びるよ。今まで殺された7人の分まで生きる。もちろん、アンタ達8人も一緒だよ。友達が死ぬなんてもう嫌だもんね!」

 

「おう。俺も気持ちは同じだぜ、速水。」

 

「円、絶対みんなで一緒にここから出ようね!!それで、外に出たらみんなで一緒にマラソンしよう!!」

 

「何でそうなる!?」

 

「みんなで走れば元気になるし、絆も深まるっしょ!」

 

「そ、そう…だな…あはは…」

 

絶対お前は逆に俺達の元気がなくなるまで走るだろ!!

…というツッコミは流石に出来なかったので、俺は無理矢理口角を釣り上げて苦笑いを浮かべた。

 

「よし、決まり!!ここから出たら、みんなでマラソンね!!」

 

「お、おう…」

 

押されてつい頷いてしまったが、速水の事だから絶対フルマラソンじゃ済まないだろうな。

俺とて運動は苦手ではないし、むしろ体格の割に高校生の中では運動ができる部類に入るのだが、それでも凡人の範疇に入る程度なので正直体育会系の速水には全くついていける気がしない。

 

「と、とにかくお前に話せて気が楽になったし、お前の話が聞けてよかったよ。」

 

「いいって事よ!それより、せっかくだから今度一緒にトレーニングしない?」

 

「へ?」

 

「アンタは鍛えないからちっちゃいままなんだよ!いっぱい走っていっぱい鍛えれば背も伸びるって!」

 

「いえ、お気持ちは大変嬉しいですが遠慮させていただきます!!」

 

「えー?」

 

思わず全力で断ってしまった。

仕方ない。

速水のペースでトレーニングをしようものならマジで命に関わるからな。

実際、この前だってジョンと速水に言われてクソ重いダンベル持ったら腕攣ったし。

 

…まあでも、速水と一緒にいる事自体は楽しいし、今度また話でもしようかな。

そんな事を考えながら、俺は速水の研究室を後にした。

 

《速水蘭華との親密度が上がった!》

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

速水と話をしたのはいいが、まだ夕食まで時間があるな。

そうだ、もう少しタワーの探索をしておこうかな。

 

「あ、あの…赤刎君…」

 

「ん?どうした一?」

 

俺がタワーに行こうとすると、一がオドオドした様子で話しかけてきた。

 

「これからタワーに行くの…?」

 

「おう。それがどうした?」

 

「あの…だったら一緒に行ってもいいかな?」

 

「それは全然いいけど、何で急に?」

 

「えっと、その…ボク、安生君からタワー内の設備を調べるように頼まれてるんだけど、一人じゃ怖くて登れないから…」

 

あー…

確かにタワー内の機械は一に調べてもらった方が心強いけど、当の本人がこれだもんな。

まあ怖いものは誰にだってあるし、機械を調べるのは一が適任だし手伝ってやるとしますか。

俺もちょうど探索しようと思ってた所だし、よく考えれば一が調べてる間見張ってやるくらい全然負担じゃないしな。

 

「わかった。じゃあ俺も手伝うよ。大丈夫、俺から離れなければ怖くないから。」

 

「あ、ありがとう…」

 

俺達は、タワー内の設備を調べるために早速中に入っていった。

 

 

 

「相変わらず小綺麗なエントランスだな…」

 

「ホテルもこんな感じだったよね。…うわぁ、シャンデリアがモノクマ型だよ。気色悪いなぁ。」

 

「同感。アイツ、見てるだけで吐き気催すモン置きやがって。」

 

つくづくモノクマって人を不愉快にする天才だよな。

そんな事を考えつつ、俺達はエレベーターで5階に上った。

 

「そういや、一はここ来るの初めてだっけ?」

 

「あ、うん…怖くて近寄れなかったから…」

 

マジか。今までタワーに近寄りもしなかったのかよ。

どれだけ高い所が怖いんだよ。

 

「よし、着いたぞ。」

 

「うん…」

 

5階に着いたので、早速主調整室に向かう。

一は、早速機械を調べ始めた。

 

「うぅううう…何でボクがこんな事を…大体さぁ、ボクの才能はソフトウェア開発者だから。別にエンジニアとかメカニックとかじゃないから。こんなコンピュータが絡まない機械の点検をしろって言われてもねぇ…」

 

前々から思ってたけど、一って何かと文句が多いんだよな。

まあやってくれるだけありがたいけど。

でも流石に文句が多すぎて聞いてるこっちの気分が悪くなりそうだったので、一言物申した。

 

「そんなに嫌なら引き受けなきゃよかったんじゃないのか?」

 

「だ、だって!!ここから生きて出られる手がかりがあるかもしれないなんて言われたら断れないじゃないか!!」

 

「お、おう…」

 

「…そ、それに…みんなに迷惑かけた分、ボクも何かしなきゃいけないし…」

 

「一…」

 

一の奴、一昨日の事まだ気にしてたのか…

そりゃあ、包丁を振り回して暴れたって聞いた時は流石にビビったけどさ。

それくらい、一は仕田原の事で思い悩んでたんだろうな。

 

「ボク、その…仕田原さんの事、すごくいいなって思ってたんだ。真面目で、美人で、家事もできて…仕田原さんの事をいつの間にか目で追いかけるようになってた。だからだと思うけど、仕田原さんが爆弾魔だって自白した時、ボクは頭が真っ白になって何も考えられなかったんだ。ボクは、信じたくなかった。今までの仕田原さんが全部嘘だったなんて。君の言っていた事がデタラメだと思いたかった。…本当はわかってたんだ。君の推理が核心を突いてて、あの時笑ってたのが仕田原さんの本性なんだって。でも、ボクは仕田原さんを見殺しにできなかった。それでみんなを巻き込む事になったとしてもね。」

 

「…え?」

 

「3回目の裁判の投票結果、覚えてる?あの時だけ、満場一致じゃなかったよね。」

 

「ああ、確かお前に一票入ってたな。仕田原がスケープゴートにしたかったのは黒瀬と速水だったはずなのに、何でお前に一票入ってるのかが少し引っかかってたんだよな。まさか…」

 

「…その一票はボクが入れたんだ。ボクは、たとえ爆弾魔でも仕田原さんには死んでほしくなかった。…変だよね。何の罪もない人をたくさん殺して、筆染さんを殺して、弦野君の大切な人を奪った殺人鬼なのに、それでもボクは仕田原さんを嫌いにはなれなかった。」

 

「…。」

 

俺は、床を睨みつけて静かに拳を握った。

一のやった事は、軽率、無責任なんて生温いものじゃない。

枯罰は、たとえどんな結果であろうと生を勝ち取るために命懸けで戦い、生きるためなら非情にもなる覚悟を示した。

なのに、一は私情に流されて俺達9人の命を危険に晒した。

実質、俺達を巻き込んだ自殺未遂だ。

許される事じゃない。

 

…でも、俺は一を責められるのだろうか?

俺も、自分が助かりたいから仕田原を糾弾し見殺しにした。

アイツは、俺達が殺したようなものだ。

 

『ウチらも自分が生き残るために武本を見殺しにした立派な殺人犯。ここで人を糾弾するんやったらそれ相応の覚悟はせぇよ。その覚悟が持てへん奴は、金輪際この場で発言させへん。』

 

…ふと、枯罰に言われた言葉が頭の中で何度も響いた。

その通りだ。俺は、俺達は、既に4人の命を助けられず、3人を見殺しにしてるんだ。

札木が死んだ時点で、俺達は重い十字架を背負わされていた。

それを、一生背負って生きていかなきゃいけないんだ。

 

「一。いくら過去を嘆いたって仕方がない。俺達は、自分達の力で未来を勝ち取らなきゃいけないんだ。そのためにはお前の協力が必要なんだ。だから頼む、力を貸してくれないか?」

 

「…。」

 

俺がそう言うと、一は無言で頷いた。

一は、引き続き放送室の機械を調べてくれた。

放送室の探索が終わると、前回は階段を使わなかったので今回は階段で展望エリアへ向かう事にした。

 

「この階段、音がよく響くんだな。」

 

「近くにスピーカーがあるし、ここから放送が聴こえたらかなりうるさいだろうね。…ところで赤刎君。肩凝ってない?」

 

「あーもう、肩でも腕でも好きな所掴めよ。」

 

俺は、顔を真っ青にしてビクビクと怯える一にガッチリホールドされながら展望エリアに足を踏み入れた。

管理室はどうせ入れないし、展望エリアの探索をするとしますか。

俺が展望エリアを調べようとした、その時だった。

 

「ひぎゃああああああああああっ!!!!」

 

「うわっ!?」

 

突然一が叫び出すので、俺はついカッコ悪い声を出してしまった。

 

「ビックリしたぁ…え、急にどうした?」

 

「た、高い所怖いよぉおおおお!!!やっぱ無理無理無理!!もうタワー降りようよ!!」

 

「いや、まだ展望エリアを調べてないだろ。俺がついててやるから一緒に調べようぜ。見ろよ。壁はガラス張りだけど、ちゃんと足は地についてるだろ?」

 

「う、うぅううう…」

 

俺がそう言って前に進むと、一は渋々展望エリアの機械を調べた。

 

「これが窓を開閉する機械ね。で、こっちが…」

 

一は、タワー内の機械を一通り調べて点検をしてくれた。

流石、機械に強いってだけあって頼りになるなぁ。

 

「あ、あの…もう調べ終わったし…お、降りようよ…」

 

「そうだな。そろそろ夕食の時間も近いし、ホテルに戻るか。」

 

探索を終えた俺達は、エレベーターで1階まで降りた。

ちなみに一はというと、始終ひっつき虫のように俺にべったりくっついて離れようとしなかった。

…こういう所が無ければホント頼もしいんだけどな。

 

その後俺達はホテルの食堂に行き、枯罰達が用意してくれた夕食を食べた。

夕食の後は適当に時間を潰してから部屋に戻った。

こうして、楽園生活の17日目が終わったのだった。

 

 

 

 

 


 

 

 

ー生存者ー

 

【超高校級の講師】赤刎円

 

【超高校級のカウンセラー】安生心

 

【超高校級の香道家】聞谷香織

 

【超高校級の脚本家】黒瀬ましろ

 

【超高校級の傭兵】枯罰環

 

【超高校級の冒険家】ジョナサン・ウォーカー

 

【超高校級のヴァイオリニスト】弦野律

 

【超高校級のソフトウェア開発者】一千歳

 

【超高校級のランナー】速水蘭華

 

ー以上9名ー

 

 

 



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(非)日常編⑤

楽園生活18日目。

 

『おはようございます、オマエラ!!朝です!!7時になりました!!今日も元気に殺し合いましょう!!』

 

今日もまた、モノクマの耳障りなモーニングコールで起こされた。

モノクマのせいで目覚めが最悪だ。

アイツ、本当に俺達を苛立たせるような事しかしないよな。

俺は、朝の準備を済ませて8時に間に合うように食堂に向かった。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

食堂には既に安生、聞谷、速水、一が来ており、遅れて黒瀬が来た。

今日は、枯罰、ジョン、弦野の3人が朝食を作ってくれていた。

朝食の後は軽めのミーティングを済ませ、その後は各自自由行動の時間となった。

まずはどこに行こうか?

…とりあえず、まだメダルがあるしガチャでも引こうかな。

 

俺は、プレイルームに行ってガチャを引いた。

出てきたのは、十徳ナイフだった。

…んー、誰かにあげようかな。

俺は、景品を持ってプレイルームを後にしようとした。

 

「マドカ。」

 

すると、俺はジョンに話しかけられた。

 

「ジョンか。どうした?」

 

「Well…オマエが何してるのか気になってな。What are you doing?」

 

「ああ、このモノモノマシーンで遊んでたんだよ。それで景品を当てたんだ。…あ、そうだ。」

 

俺は、ジョンにさっき引き当てたナイフを渡した。

 

「はいこれ。」

 

「What?」

 

「プレゼントだよ。お前なら気に入ってくれるんじゃないかと思ってな。」

 

「Wow!!Thank you,マドカ!!I'm so happy!!」

 

お、ものすごき喜んでくれたみたいだ。

 

「なあ、ジョン。」

 

「Huh?」

 

「せっかくだしさ、この機会に色々話さないか?俺達って、湊と一緒に3人で集まる事はあっても二人でじっくり話す機会ってあんまり無かっただろ?」

 

「Certainly. OK,Let's talk together. Let's go to my laboratory for now.」

 

今まであまり話す機会がなかった奴と話して仲良くなるのもいいが、たまには親友と語り合う時間も欲しかった。

俺が話をしないか誘ってみると、ジョンは快く承諾してくれた。

ジョンが研究室へ案内してくれるらしいので、俺はジョンについて行った。

俺は、ジョンと一緒に過ごす事にした。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

俺は、ジョンの研究室に入ると用意されたキャンプ用の椅子に座った。

 

「Where to begin?」

 

「何から話すか、か…そうだな。じゃあお前はどうして【超高校級の冒険家】になったんだ?」

 

「Hmm…オレは、parentsが仕事の都合でよく世界中をtravelしてて、travelはオレにとって生活の一部だったんだよな。それで連れてってもらった場所のcultureやsuperb viewに触れて、オレも自然と自分でadventureに行こうと思ったんだ。」

 

なるほどな。

ジョンが旅が好きなのは、両親の影響だったのか。

両親に旅の楽しさを教えてもらって、自分も冒険家になろうと思ったんだな。

 

「…あれ?この写真は?」

 

俺は、写真立てに飾られた絶景の写真を指差して尋ねた。

 

「それはオレが初めてadventureに出た時に撮ったpictureだ。adventureはいいぞ。superb view,culture,unknown creature…まだ見た事のないものに触れられるからな。その時のexcitementは言葉に表しようがないぜ。」

 

自分で現地に足を運んだからこそできる発見か。

なんかジョンが言うとものすごく説得力があるな。

ジョンは、冒険の途中で発見した新種の生物や世間であまり知られていない文化についてブログで教えてくれるから読んでて飽きないんだよな。

あれもわざわざ秘境に足を踏み入れて発見したものだと思うと素直に感心する。

 

「いい所はまだあるぜ?localsと仲良くなれるんだ。オレは、世界中にfriendsがいるんだぜ?」

 

確かに、ジョンの性格ならどんな奴とでもすぐ仲良くなれそうだよな。

世界中に大勢の友達がいるというのも納得できる。

 

「そういやジョンって、日本に何回も来た事あるって言ってたよな。そんなに好きなのか?」

 

俺がそう質問すると、一瞬ジョンの表情が固まったがジョンはすぐに答えた。

 

「…Of course. オレは、Japanが大好きなんだ。オレの国にはない珍しいものがたくさんあるし、foodは美味いし、girlsはvery cuteだからな。」

 

そんなに好きだったのか。

そう言われると何かこっちが照れるな。

…でも、さっき一瞬固まったのは一体何だったんだ?

気になる…けど、本人が気にしてる事かもしれないから詮索するのはやめておこう。

 

「なあ、ジョンはここから出たらまずは何がしたいんだ?」

 

「もちろん、adventureだな。まずはオレのfriendsのsafetyをconfirmしてから、今までのactivityをcontinueしようと思ってる。」

 

「そうだな、まずは大切な人の無事を確認しないとな。」

 

「マドカ、オマエもオレと一緒に来ないか?」

 

「え、いいのか!?」

 

「Of course. オレ達、best friendだろ?」

 

「ジョン…ありがとう。楽しみにしてるよ。」

 

俺がそう言って頷くと、ジョンの表情が少し暗くなった。

 

「…本当はミナトも連れて行きたかったんだけどな。」

 

「あ…」

 

そうだ。

湊も、俺達の大事な親友だった。

神崎に殺されなければ、今頃3人で仲良くやってたはずなんだ。

なのに、何であんな事になっちまったんだよ…

 

「オレは、shockだった。まさかミナトとミカドがreal brotherで、ミカドがミナトを殺しただなんてな。オレは、sorrowfulだった。だって、real brotherがmurderをするなんて、too cruelだろ?」

 

「…。」

 

…悲しかった、か。

俺は、湊が殺された時悲しかったのかな?

むしろ、『許せない』って気持ちの方が大きかった気がする。

神崎が犯人だって分かった時は、俺は湊の仇を討って後を追う事も考えていた。

でも、それは湊のためにならないって枯罰に言われて目が覚めた。

湊は、やっぱり自分が殺された事で誰かを恨んでほしくなかったのかな?

 

「ジョン。いくら嘆いても、湊は還ってこない。だから俺達は、今を生きなきゃいけないんだ。湊の分まで、俺達が生きるんだよ。生きてここを出て、世界中を旅しよう。な?」

 

「…そう、だな。」

 

俺がジョンを励ますと、ジョンは頷いた。

俺は、その後もジョンと話をした。

ここに連れて来られるまでの事、学校の事、色々話した。

俺とジョンは元々仲が良かったから気軽に話せたし、お互いに色々話し合った事で今まで以上に仲良くなれた気がする。

俺達は時間も忘れて語り合い、気付けば昼飯の時間になっていた。

 

「うわ、お前それマジか!!アハハハハハハ!!!…っと、そろそろ昼飯の時間だし行くか。」

 

「Yeah.」

 

俺とジョンは、キリのいいところで話を切り上げて研究室を後にした。

すると、ホテルに戻る途中ジョンが話しかけてきた。

 

「…なあ、マドカ。」

 

「何だ?」

 

「…………Oh no,nothing.」

 

「?」

 

ジョンは、言いづらそうに何かを言いかけたが、すぐに黙りこくった。

いつものジョンならそんな事せずにハッキリ言うのに、どうかしたのか?

そういえばさっきも俺が質問したら一瞬固まった事があったし、何か俺に隠してる事でもあるのかな?

 

「…ジョン。もし何か悩みがあるなら聞くぞ?それか、一緒に安生に相談に行ってやろうか?」

 

「………Thank you. But I'm OK.」

 

「そっか…」

 

ジョンが笑顔で何でもないと言うので、俺はこれ以上何も聞けなかった。

…この時、気付いておくべきだったのかもしれない。

痩せ我慢をしているジョンの顔は、確かに笑ってはいたが目が笑っていなかった事に。

 

俺は、少しは疑問を抱きつつも特に問い質す事なく食堂に行き、ジョンの隣の席で昼飯を食べた。

 

《ジョナサン・ウォーカーとの親密度が上がった!》

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

昼食の後は自由探索の時間になった。

…つっても、全部の施設に行ったしもう探す所は無いんだよな。

一の研究室にも行こうと思ったけど、本人は忙しいって言うし。

どうしたものかな。

 

「…本でも読むか。」

 

俺は、とりあえず図書館に行くことにした。

図書館の本を一冊手に取って読もうとした。

すると、枯罰が隣に来た。

 

「…隣、ええか?」

 

こんなに広い図書館なのに、わざわざ隣に?

…もしかして、トナラーって奴?

 

「え、あ、ああ…」

 

俺が戸惑いつつも頷くと、枯罰は隣に座って本を捲った。

隣に座られて気まずいので、場を和ませるために話題を振った。

 

「なぁ、お前も暇潰しに来たのか?…やっぱ自分の研究室が無いと寂しいよなー…ははは…」

 

「無駄口叩くなや。図書館内は私語厳禁やぞ。」

 

「えぇ…」

 

せっかく場を和ませようと思ったのに…

っていうか、話があったわけじゃないならマジで何で横に座ったんだ?

もやもやしていると、チラッと枯罰が読んでいる本のタイトルが目に入った。

 

「あ、それ…」

 

「何や。」

 

「この前発売されたやつだよな?すごい話題になった…」

 

「ああ。この図書館の中にある本の中では一番新しかったさかい、目ぇ通しとんねん。」

 

「へぇ…」

 

さっきみたく冷たいレスポンスが返ってくるかと思ってたけど、こういう話には乗っかってくれるんだな。

 

「他にも何かあるんとちゃうか思て最新の新聞もチェックしとったんやけどな、気になる事があんねん。」

 

「気になる事…?何か重要な事でも書かれてたのか?」

 

「逆や。重要な事が何も書かれてへんかった。ウチらが拉致監禁された事に関しては一ミリも触れとらん。もうここに監禁されて2週間半経っとるんやぞ?ニュースに取り上げられててもおかしないやろ。これがどういう事かわかるか?」

 

「えーっと…」

 

「そもそも誰もウチらがおらん事に気付いてへん、もしくは国が黒幕とグルやっちゅう事やないか?」

 

「なっ…!?」

 

「ウチとしては前者の方がありがたいけどなぁ。国がウチらを殺そうとしとるなんて考えとうないわ。」

 

「…。」

 

確かに…

これが国家の陰謀だとすれば、外に出ても俺達の味方はいないのかもしれない。

そんな事、信じたくない。

…でもそれ以上に、枯罰は苛立ってる。

傭兵としての仕事を長年やってるなら、国に雇われた事だってあるはずだ。

一度は雇い主だった相手に裏切られるなんて、本当は腑が煮えくりかえる思いなんだろうな。

でも、それでも俺達は外に出なきゃいけないんだ。

 

「…国の陰謀だったとしても、まだ全てを諦めるのは早いんじゃないのか?俺は、みんなとここから出るって約束したんだ。例え外が敵だらけでも、俺は外に出たい。」

 

「…。」

 

俺がそう言うと、枯罰は小さくため息をついて手に持っていた本を俺に持たせた。

 

「これ持っとけ。」

 

「…えっ?」

 

「それ、ウチのオススメや。明日読んで感想聞かせてくれるか?」

 

「あ、え…?」

 

俺が急に本を渡されて読んで感想を聞かせろと言われ混乱していると、枯罰は図書館から出て行ってしまった。

…マジで何がしたかったんだアイツ。

 

「…。」

 

…明日中に読めって言われてもなぁ。

俺は、本をじっと見つめふとページを開いてみた。

すると、開いたページに折り畳まれた紙が挟まっていた。

 

「!」

 

俺は、紙を開いて書かれていた文字を読む。

 

『【超高校級の絶望】に気を付けろ』

 

本に挟まっていた紙には、そう書かれていた。

…もしかしてアイツ、これを渡すためにわざわざ俺の隣に?

【超高校級の絶望】…?

枯罰は何でこれを俺に渡したんだ?

枯罰は、一体何をどこまで知ってるんだ…?

 

「…。」

 

俺は、とりあえず渡された本を読んでから図書館を後にした。

その後は、食堂に行って早めの夕食を摂る事になった。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

夕食の時間、珍しく黒瀬が手を挙げて発言した。

 

「はいはーい、ボクから提案でーす。」

 

黒瀬は、ヒラヒラと手を振って間延びした口調で言った。

 

「提案?何かな、黒瀬さん。」

 

「みんなで一緒にミステリーを見ましょー。」

 

黒瀬の思いがけない提案に、その場にいたほぼ全員が口をぽかんと開けた。

 

「え…?それは…どういう事ですの?」

 

「こんな状況で全員で映画?頭湧いてんのかテメェ。」

 

「こんな状況だからこそ映画を見るんだよー。」

 

「What do you mean?」

 

「あのさー、コロシアイが起こるとすれば犯人は何かしらのトリックを使ってくるじゃん。だからミステリー映画を見て推理慣れしておくんだよ。そうすれば捜査や裁判を効率よく進められるでしょ?」

 

「また殺人が起こるみたいな言い方するな。」

 

「だってボクは内通者ですしおすし。」

 

「…。」

 

そうだ、コイツはこういう奴だった。

 

「みんなでミステリーを見れば団結力が高まるよ。ボクが手掛けたミステリー映画を見ようよ。」

 

黒瀬の提案という事もあってみんなが行くのを渋っていると、黒瀬がしつこく言ってきた。

あまりにもしつこいので、俺はウンザリしてため息をついた。

 

「…ったく、しょうがねぇな。見ればいいんだろ?」

 

「マドカ!!」

 

「テメェ、お人好しにも程があるだろ。コイツがまた何か企むかもしれねぇだろうが。」

 

「その時はその時だ。黒瀬も、こんな状況で殺人が起こったら自分が真っ先に疑われる事くらいわかってるだろ。みんなで集まってる状況なら、殺人も困難な筈だ。」

 

「「…。」」

 

俺がそう言うと、声を荒げていたジョンと弦野が大人しくなった。

 

「アタシは賛成!映画見たい!!」

 

「黒瀬さんと赤刎さんの仰る事も一理ありますわ。」

 

「僕はみんなが行くなら行こうかな。」

 

「オレも、マドカが言うなら…」

 

「はぁ、付き合ってられへんわ。ウチは行かへんぞ。」

 

「俺もそうさせてもらうぜ。絵麻の時の二の舞は御免だ。」

 

「ボクも遠慮しとく…怖いのムリだし、黒瀬さんの事だから絶対何か企んでるでしょ…」

 

「お前ら…」

 

「まあ、無理して誘う事はないんじゃないかな。」

 

結局、枯罰、弦野、一以外のメンバーで映画を見ることになった。

 

「そいじゃー行きましょ行きましょー。」

 

黒瀬は、俺の手を強引に掴んでルンルン歩きで映画館へ歩いて行った。

メチャクチャ痛くて手首が折れそうだから離してくれとは言えなかった。

俺達6人は、ミステリーを見るために映画館に行った。

 

 

 

映画館に着き、俺と黒瀬以外の4人は席の確保に行ったので、俺と黒瀬はポップコーンとジュースを取りに行った。

すると早速黒瀬が映画のDVDを何本か見せてきた。

全部黒瀬が脚本を手掛けた作品だ。

 

「ねぇー、何見るー?」

 

黒瀬は、きゃっきゃとはしゃぎながら聞いてきた。

…コイツ、殺人鬼で内通者のクセに普通にしてる分には可愛いんだよな。

 

 

 

「…なあ。黒瀬。」

 

「ぴぇ?」

 

「何でお前は自分が内通者だって言ったんだ?このタイミングでカミングアウトしても何のメリットも無いだろ?」

 

俺がそう言うと、黒瀬は少し考える仕草をして猫耳のような癖毛をパタパタさせた。

 

「…あ、そっか。うんうん、だったらこっちのシナリオの方が面白そうかな?」

 

黒瀬は、うんうんと頷いて訳の分からない事をブツブツ言い出した。

 

「何をブツブツ言ってるんだ?」

 

「ああ、ボクが内通者って自分で言った話だけどね…」

 

 

 

 

 

「あれ、嘘だよ?」

 

…。

 

…。

 

………はぁ?

 

 

 

「ちょっ…は?嘘?ナニソレ?ドロー2?」

 

「それはUNOだよー。」

 

「えっ、ちょっ、ちょっと待て!!嘘ってどういう事だよ!?」

 

「そのままの意味だよ。ボク、本当は内通者じゃないし、ゆめちゃんをけしかけたりもしてないんだよ。っていうか冷静に考えてもみなよ。ボクがクマちゃんなら、殺人鬼を内通者にしたりしないよ。怪しまれるだけじゃん。」

 

「じゃあ、何で内通者だなんて嘘をついたんだよ!?お前それ、ただただ自分の立場を悪くしただけじゃねぇか!!」

 

「んあー。ボクが内通者だと嘘をついて全員の注目がボクに向くようにすれば、その状況を利用して本物の内通者が動くんじゃないかと思ってね。これは、本物の内通者を炙り出す作戦だったんだよー。ボクとて、クマちゃんの手下に周りをウロチョロされるのは嫌だし。」

 

「なっ…お前、それだけのために俺達を騙したのか…!?」

 

「言ったでしょ?嘘は愛だって。ボクがみんなに内通者だって嘘をついたのは、みんなの事が大好きだからなんだー。」

 

「だったら、何でそれを今俺に話したんだ?」

 

「ボクは円くんの事を信じてるから。だからボクがこの話をしてもちゃんと受け入れてくれると思って話したんだよー。」

 

くっそう、黒瀬にしてやられた…

…あれ?待てよ…?

 

「…でも、その話はおかしくないか?」

 

「何が?」

 

「お前、宝条と筆染がお互いの秘密を受け取ってるって言ってたよな?それに、湊と神崎の秘密が発表された時もお前は秘密をあらかじめ知ってたかのような口ぶりをしたよな?内通者じゃないなら、何でアイツらの秘密を知ってたんだ?」

 

「秘密ー。」

 

「それに、もう一つ気になってた事があるんだ。」

 

「ん?」

 

「内通者だっていうのは、俺達を騙して内通者を炙り出すために言ったんだよな?」

 

「そうだけど。」

 

「誰かがもしお前の行動の矛盾に気付いていたら、内通者だって嘘をついてもすぐにバレただろ。何で俺達を騙せると思ったんだ?」

 

俺がそう尋ねると、黒瀬は首をくりんと傾げて笑った。

 

「…さぁ?何でだろうね?」

 

コイツ…

 

「…で、結局内通者が誰だかわかったのか?」

 

「分かったとしても円くんには教えないよ?だって内通者の正体がわかった事がバレたら興醒めだしね。ボクのシナリオ的には、まだ種明かしをするのは早いよ。」

 

興醒めって…

そんな呑気な事言ってる場合じゃないだろ。

 

「さ、早く映画見ようよ。」

 

俺は、黒瀬に呆れつつもポップコーンとジュースを持ってシアターに入った。

シアターに入ると、俺が選んだ映画が上映された。

 

「始まり始まりー♪」

 

黒瀬は、俺の隣で上機嫌で手を叩いていた。

やっぱり自分が脚本を手掛けた作品を見るのはコイツにとっては嬉しいのか。

 

すると直後、部屋が暗くなり上映が始まる。

『古城の悪魔』というタイトルで、とある名門大学のミステリーサークルのメンバーが、好奇心のあまり夏休みにとある古城に行きそこに泊まる事にしたのだが、そこで次々と不可解な事件に巻き込まれていくという物語だ。結局何人かは生き残って1週間後に警察に保護されるのだが、その事件の生き残りメンバーの後日談で真相が明かされていくという形で話が進んでいく。

さすが【超高校級の脚本家】が手がけた作品というだけあって、黒瀬の映画はモノクマの映画とは違い見応えがあった。

絶妙なタイミングで眠気を吹き飛ばすような展開が来て予想外の方向へ話が進んでいくので、見ていて全く飽きない。

…しかし、気になるのが被害者の死亡シーンやメンバー達が日に日に狂っていく様子が妙にリアルで不気味だな。

こういう表現ができるのも、やっぱり本当に人を殺してるからなのか…

 

 

 

2時間後、結局何も起こらないまま上映が終わった。

映画は最初から最後まで面白かった。

黒瀬は、頭おかしいのに面白い作品を作る事に関しては天才なんだな。

 

「It was very interesting!!」

 

「ましろって何考えてんのかわかんないけど映画は面白かったよね。」

 

「終わったー。円くーん。面白かったー?」

 

「ああ。完全に予想を裏切られたよ。まさかアイツが犯人だったとはな。」

 

「えへへー、そんなに褒められると照れますなぁー。」

 

コイツ、普通にしてる分には可愛いんだよな。

実際、俺も最初はコイツのふわふわした雰囲気に騙されたし。

 

「なあ、どうやったらあんな面白い作品が作れるんだ?」

 

「うーん、どうやってって言われても、普通に脚本書いてるだけだからなー。…強いて言うなら、見てくれた人が喜んでくれるところを想像しながら作る事…とか?ここでこういう展開に持っていったらみんなビックリするかなー、とか、こういう台詞入れたら盛り上がるかなー、とか。」

 

いや、それであんなに面白い作品が作れるから評価されるんだと思うぞ。

流石、天才は言う事が違うな。

 

「結局何も起こらなかったねー。」

 

「そうですわね。」

 

「マシロのsuggestionだからcautionしてたんだけどな。overanxiousだったな。」

 

「むぅ、何ですかその言い草は!まるで人を不審者みたいに!」

 

「不審者以外の何者でもないだろ。」

 

「ぴえん。円くんひどいよー。」

 

黒瀬は、顎の下で二つの握り拳を作ってわざとらしく目を潤わせていた。

コイツ…マジで一度自分の立場をわからせた方がいいな。

とりあえず、念のため枯罰と弦野と一の様子を確認しに行くか。

俺は、3人の様子を確認しに行った。

3人とも、何かされたという様子はなくいつも通りだった。

どうやら、今回は黒瀬がただ純粋に自作の映画を自慢したかっただけのようだ。

全員の安否を確認し終えたので、その場で流れ解散となった。

 

「9時か…」

 

俺は、映画館の時計を確認した。

夜時間までまだ少し時間があるし、プレイルームで遊ぼうかな。

俺は、10時までの間プレイルームで遊ぶ事にした。

プレイルームには、俺の他に安生、聞谷、枯罰、弦野がいた。

せっかくなので5人でトランプで遊んだのだが、枯罰と安生のババ抜きの強さには心底驚かされた。

その後10時ギリギリに速水と合流し、そのまま各自部屋に戻った。

 

『おやすみなさい、オマエラ!!10時になりました!!たくさん寝て、明日も張り切って殺し合いましょう!!』

 

モノクマの耳障りな放送を聞き流しながらベッドに潜り込む。

こうして、楽園生活の18日目が終わったのだった。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

楽園生活19日目。

 

『おはようございます、オマエラ!!朝です!!7時になりました!!今日も元気に殺し合いましょう!!』

 

今日もまた、モノクマの耳障りなモーニングコールで起こされた。

…マジでうるさいな。

18回もこの耳障りな放送を聴かされれば慣れはするが、ストレスは溜まっていく一方だ。

俺は、朝の準備を済ませて8時に間に合うように食堂に向かった。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

食堂には既に安生、聞谷、一が来ており、遅れて黒瀬が来た。

 

「一。お前顔色悪いな。大丈夫か?」

 

「ああ、うん…ちょっと昨日ずっと作業やってたからあんまり寝れてなくて…」

 

「夜更かしも程々にしろよ。お前、ただでさえ朝弱いんだから。」

 

「そうだよ千歳くーん。」

 

「お前は寝すぎだ。」

 

その後、枯罰、弦野、速水の3人は、作った朝食を持ってきてくれた。

 

「…あれ?ジョンは?」

 

「え?見てないよ?」

 

「わたくしも存じ上げませんわ。」

 

「ボクも見てませーん。」

 

「ぼ、ボクも…」

 

「なあ、お前らも見てねぇのか?」

 

「見てねぇな。つーかアイツ今日朝食係じゃねぇだろ。」

 

「うん、アタシも見てないよー!」

 

「…嫌ーな予感。」

 

枯罰は、ボソッとそう呟いた。

 

「探した方がいいかもね。」

 

「だな。手分けして探そう。俺と黒瀬と弦野で第三区画と第四区画を探すから、枯罰と速水は第一区画を、安生と聞谷と一は第三区画を探してくれ。」

 

「了解。」

 

俺達は、3つのグループに分かれて手分けしてジョンを探した。

多目的ホール、アミューズメント施設、仕田原、弦野、筆染、宝条の研究室の順に探したがジョンは見つからなかった。

2班の枯罰と3班の安生からチャットが来た。

二つとも、それぞれの担当区画を隈なく探したがジョンはいなかったという報告だった。

そして、残るは第四区画となった。

俺達は、第三区画に最も近いモノクマタワーを最初に探索する事にした。

エントランスにはいなかったので、放送室を探す。

 

ジョン…!

無事でいてくれ…!!

俺は、ただその思いだけを胸にジョンを探した。

 

「俺と黒瀬は主調整室を探す!!弦野は副調整室を探してくれ!!」

 

「わかった。」

 

俺は、主調整室の扉を開けた。

そこには、ジョンの姿はなかった。

 

「いないねー。」

 

「クソ、次だ!!」

 

俺が次の場所を探そうとした、その時だった。

 

 

 

「うわぁああああああぁああああっ!!?」

 

突然、主調整室と副調整室を繋ぐ廊下の方から叫び声が聞こえた。

 

「!!?」

 

「律くんの声だよね?」

 

「行こう!!」

 

俺達は、弦野の叫び声を聞いて廊下に駆けつけた。

 

「おい、弦野!!何があった!?」

 

「っ…!!」

 

弦野は、顔を真っ青にして廊下の奥を指差した。

 

「…?」

 

俺は、その方向に視線をやった。

 

 

 

 

 

「ッーーーーー!!!」

 

次の瞬間、俺は言葉を失った。

廊下の奥の、6階へと続く階段。

その下には、そこにあるはずのないものが転がっていた。

 

俺達の希望を嘲笑うかのように、『それ』はただそこにあった。

…何でだよ。

何でこうなっちまうんだよ…!!

そこにあったのは…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

原型を留めない程に頭部を砕かれた、【超高校級の冒険家】ジョナサン・ウォーカーの亡骸だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

ー生存者ー

 

【超高校級の講師】赤刎円

 

【超高校級のカウンセラー】安生心

 

【超高校級の香道家】聞谷香織

 

【超高校級の脚本家】黒瀬ましろ

 

【超高校級の傭兵】枯罰環

 

【超高校級のヴァイオリニスト】弦野律

 

【超高校級のソフトウェア開発者】一千歳

 

【超高校級のランナー】速水蘭華

 

ー以上8名ー

 

 

 



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非日常編①(捜査編)

ピーンポーンパーンポーン

 

『死体が発見されました!住民の皆さんは、至急モノクマタワー5階にお集まり下さい!』

 

放送が鳴り響いたのは、俺がジョンの亡骸を目の当たりにした直後だった。

 

「クソッ…」

 

「そんな…ジョン…?嘘だよな…おい…!!嘘だと言ってくれよ!!」

 

頼むよ…

嘘だと言ってくれ!!

…これ以上、俺を絶望させないでくれよ……!

 

「見事に脳漿炸裂してるね。おお、グロいグロい。」

 

黒瀬は、相変わらず余裕そうに俺に擦り寄ってきた。

 

「円くーん、だいじょぉぶ?」

 

「触るな!!」

 

「ふにゃっ」

 

「っ…」

 

俺は、冷静さを失って気がつくと黒瀬の手を払い除けていた。

するとその直後、放送を聞いた5人が駆けつけてくる。

 

「キャアアアアアアアッ!!!」

 

「ウォーカー君…どうして…!!」

 

「そんな、嘘だよね…ジョン…!?」

 

「ひぎゃああああああ!!無理無理無理帰る帰る帰る…」

 

「…。」

 

ジョンの死体を見た4人はパニックを起こし、枯罰は拳を握りしめていた。

 

 

 

『うぷぷぷぷぷ!!また死人が出ちゃったね!オマエラ、そんなにコロシアイが好きなの?』

 

「モノクマ…!!」

 

『ちょっと、赤刎クーン。ボクに八つ当たりするなんてひどーい!』

 

「いちいち喧しいねんド阿呆。早う出すモン出して失せろやボケ。」

 

『枯罰サンまで!?もういいやはいはいモノクマファイル。今回も頑張ってねー。』

 

モノクマは、ファイルを送信するとそそくさと消えていった。

 

「ほな捜査始めよか。検視はウチがするんでええよな?」

 

「ああ。見張りは誰がやる?」

 

「ボクがやりまうす。」

 

「待て。コイツが見張るなら俺も見張る。」

 

「そうだな…じゃあ任せたぞ。」

 

結局検視は枯罰、黒瀬、弦野の3人が、タワー内の捜査を俺と一と速水が、それ以外の場所を安生と聞谷が調べる事になった。

…俺も、自分なりに捜査をして少しでも情報を集めないと。

それがジョンのためでもあるんだから。

 

 

 

ーーー

 

 

 

《捜査開始!》

 

 

 

まずはモノクマファイルを確認しておこう。

 

モノクマファイル⑤

被害者は【超高校級の冒険家】ジョナサン・ウォーカー。

死亡時刻は午後9時25分。

死体発見場所はモノクマタワー5階の階段前。

原型がなくなるほど頭部を破壊されている。

 

…あれっ?

今回は死因が書かれてないな。

死因を断定できなかったって事か?

 

 

 

コトダマゲット!

 

【モノクマファイル⑤】

 

 

 

…あれ?6階の床と階段に少し血が付いてるぞ。

これは…ジョンの血、なのか?

 

 

 

コトダマゲット!

 

【6階の床と階段の血痕】

 

 

 

「…。」

 

この階段って、スピーカーが付いてるし音がよく響くんだよな。

まあ、だから何だって話なんだけど。

 

 

 

コトダマゲット!

 

【スピーカー】

 

 

 

あとは…

 

「ん?」

 

何だあれ。

廊下に何か転がってるぞ。

あれは…

…消火器?

しかもベッタリ血が付いてるな。

 

 

 

コトダマゲット!

 

【血の付いた消火器】

 

 

 

「さてと…枯罰達に話を聞いてみよう。」

 

俺は、検視をしていた枯罰に話を聞く事にした。

 

「なあ、枯罰。何かわかったか?」

 

「…はぁ。頭がグチャグチャに潰されとって調べようがあらへん。死因もわからへんしのぉ。」

 

「…。」

 

思ったより捜査が難航しているようだ。

 

「あのさー、これ、ジョンくんが階段から落っこちて頭打っちゃったんじゃないの?」

 

「この高さから落ちてこんなにグチャグチャに潰れるわけねぇだろ。」

 

「て!」

 

黒瀬が適当な事を言っていると、弦野が黒瀬を小突いた。

…何かこの二人がわちゃわちゃやってる光景ってレアだな。

って、いかんいかん。捜査に集中せねば。

 

 

 

コトダマゲット!

 

【ジョンの潰れた頭部】

 

 

 

「あ、それとこれはジョナサンのポケットに入ってたモンだ。」

 

そう言って、弦野は俺にジョンのパスポートを渡した。

…悪いなジョン、ちょっと見るぞ。

俺は、ジョンのパスポートを開いて見てみた。

するとそこに書かれていたのは、目を疑うチャットのやり取りだった。

 

《わかってるよね?ジョンクン!今日の0時までに殺人が起きなければ人質にスペシャルなオシオキをプレゼントしちゃうからね!》

 

…何だよこれ。

モノクマからのチャット…?

って事は、ジョンが内通者だったのか…!?

俺は、遡ってチャットを読んだ。

するとそこには、宝条に宛てたものと思われる送信済みのチャットがあった。

 

《うぷぷぷぷ、宝条サン元気?願い事の件なんだけど、どうしても叶えたいならさっさと殺った方がいいんじゃないの?》

 

そのチャットには画像が添付されており、開いてみると宝条の義父と思われる男の無惨な姿が映し出されていた。

 

《あ、そうそう。それと、キミは秘密を交換し合った筆染サンの事を信頼してるみたいだけど、筆染サンの方はキミを陥れて殺すつもりみたいよ?願い事をどうしても叶えたいからって切羽詰まっちゃってるみたいでさ。それで仲良くなったキミをターゲットにしたってわけ。信じるかどうかはキミ次第だけど、後悔しても知らないよ。》

 

モノクマの口調で書かれているが、チャットが送信されたのはジョンのパスポートからだ。

…信じたくないが、これでハッキリした。

本物の内通者はジョンだったんだ。

 

 

 

コトダマゲット!

 

【ジョンのチャット】

 

 

 

「…なあ、黒瀬。」

 

「んにゃ?」

 

「お前、昨日俺達を映画に誘ったよな。上映中に15分くらいシアターを抜け出してたし…何かしてたんじゃないのか?」

 

「むぅ!何ですかその目は!ボクを疑ってるの?違うよね?事件が起きたのは9時半前だし、事件の発生場所もここだから関係ないよね?」

 

「俺はただ何をしてたのか聞いてるだけなんだが…」

 

「一旦外に出てジュースとポップコーンをおかわりしに行ったの。」

 

「それだけで15分以上かかるか?」

 

「ポップコーン何味にしたらいいか迷っちゃってー。」

 

白々しいなコイツ…

でも、確かに15分シアターを抜け出したからと言って何かが起こったわけじゃないし、コイツを犯人だと決めつけるには弱いんだよな。

 

 

 

コトダマゲット!

 

【昨夜の黒瀬の行動】

 

 

 

「なあ、枯罰。」

 

「何や。」

 

「ここの探索の担当だったのって、俺とお前と黒瀬だよな。」

 

「せやな。それがどないしたん?」

 

「じゃあ他の奴等はこのタワーの詳細は知らないって事だよな?」

 

「まあ、クマ公がウチら以外にここの事を説明せぇへんかったらの話やけどな。」

 

「それも含めて後で確認した方がいいかな。」

 

 

 

コトダマゲット!

 

【探索のメンバー】

 

 

 

ここで手に入る情報はこれくらいかな…

俺は、タワー内の機械を調べてくれている一に声をかけた。

 

「一、お前は何かわかったのか?」

 

「あ、えっと…一応放送室の機械を調べてみたんだけど、他のスピーカーは全部正常なのに、階段のスピーカーだけ最大音量になってたんだ。前調べた時はそんな事なかったのに…」

 

「誰かが設定をいじったとしか考えられないな。」

 

 

 

コトダマゲット!

 

【放送室の音量調節機】

 

 

 

「それと、昨日の夜のアナウンスなんだけど、放送の設定がいじられてたみたいだよ。」

 

「放送?ああ、夜時間の?」

 

「うん。それ以外は何もなかったけどね。」

 

「…。」

 

放送の設定をいじられてた、か…

誰が何のためにそんな事をしたんだ?

これは頭の隅に置いておいた方がいいかもしれないな。

 

 

 

コトダマゲット!

 

【夜のアナウンス】

 

 

 

「そ、それじゃあ6階の機械も調べてくるね…」

 

「おう。頼んだぞ。」

 

…さてと。

 

「おい、モノクマ。」

 

『何ですか?』

 

「いくつか確認したい事があるから教えてくれ。まず、この放送室の機械は死体発見アナウンスと捜査終了アナウンス以外は自由に設定をいじれるんだよな?」

 

『そうですよー!死体発見アナウンスと捜査終了アナウンスは正常に機能しないとシロとクロの公平性を保てないからね。だからその二つだけは後からいじれないように設定してあるんだよ。』

 

…なるほどな。

 

 

 

コトダマゲット!

 

【モノクマの証言】

 

 

 

「それからもう一つ。今回の動機は、『クロが勝ったら誰か一人を選んで一緒に脱出できる』というものだったよな?」

 

『そうだよ。友情は大事だからね。ボクはみんなの友情を尊重できる優しいクマなのです。』

 

何が優しいクマだ、散々俺達にコロシアイをさせておいて。

流石に俺でも殺意が湧いてきたぞ。

 

 

 

コトダマゲット!

 

【動機】

 

 

 

「わかった。もう行っていいぞ。」

 

『せっかく説明したのに…ボクの扱い雑すぎない!?』

 

…さてと。

6階を調べてくれている速水と一にも声をかけてみるか。

俺は、6階の展望エリアにいた速水に声をかけた。

 

「速水は何かわかった事とかあるか?」

 

「えっとね、こんなものを見つけたんだけど。」

 

そう言って速水が指差した先にあったのは柱だった。

 

「何だ、ただの柱じゃねぇか。これがどうしたんだよ?」

 

「よく見てよ。何かを巻き付けた痕があるよね?」

 

…あ。

ホントだ。

 

「こんなのよく見つけたな。」

 

「事件に関係あるかどうかはわかんないけどねー。」

 

 

 

コトダマゲット!

 

【柱に何かを巻き付けた痕】

 

 

 

「…あれ?」

 

この窓、一部分だけロックがかかってないぞ。

ちゃんとロックかけとかないと危ないだろ…

 

 

 

コトダマゲット!

 

【展望エリアの窓】

 

 

 

「なあ、速水。」

 

「何?」

 

「お前は事件当時、何してたんだ?」

 

「アタシ?アタシはましろと一緒にランドリールームにいたけど?」

 

「それは本当か?」

 

「本当だよ。そんなに気になるならましろにも聞いてみれば?」

 

「…。」

 

うーん…

とりあえず、速水と黒瀬はシロ、か。

 

 

 

コトダマゲット!

 

【速水の証言】

 

 

 

あとは…一にも話を…って、あれ?

管理室のガラスの壁が無くなってる…

 

「あれ?ここ、立ち入り禁止じゃなかったっけ?」

 

『今は捜査中だからね。調べられるようにしておいたんだよ。』

 

いつの間にモノクマが横にいるが無視だ無視。

管理室を調べられるようになった事だし、早速調べていくか。

すると、既に管理室を調べていた一が頭を悩ませていた。

 

「どうかしたのか?」

 

「いや…ちょっと気になる事があって…」

 

「気になる事?」

 

「この部屋ってさ、ガラスの壁があったじゃん。だから中に入れないはずなんだけど…いじられた形跡が見られるんだ。」

 

「えっ!?」

 

いじられた形跡だと!?

そんな馬鹿な、この管理室はガラスの壁で封じられて中に入れないはずだ。

誰がどうやって中の機械をいじったんだ!?

 

 

 

コトダマゲット!

 

【管理室の機械】

 

 

 

「…。」

 

一応アイツに確認を取っておくか。

 

「おい、モノクマ。」

 

『何ですか?』

 

「ここに降りていたガラスの壁って、中に人が入れないようになってるんだよな?」

 

『そうだよ。超強化ガラスで封じられてるので、中に入る事はできません。あ、もちろんそれは内通者も同じ事だよ?』

 

「でも、お前は捜査中にこの壁を移動させて中に入れるようにしてたよな?」

 

『まあ、自動ドアだと思ってくれればいいよ。普段はスイッチを切ってるけど、捜査中だけはスイッチを入れてるんだよ。言っておくけど、スイッチの操作ができるのはボクだけだからね。』

 

「…なるほどな。」

 

つまり、このドアを開けられるのはモノクマだけって事か。

じゃあ中に入って操作したっていう説はハズレだな。

 

 

 

コトダマゲット!

 

【管理室のドア】

 

 

 

うーん、中に入ったわけじゃないとするとどうやって機械をいじったんだ?

 

「一、この機械って何か弱点みたいなものはないのか?」

 

すると、一は頭を掻きながら答えた。

 

「うーん…弱点っていうか…」

 

「何だ?」

 

「この機械、赤外線に反応して誤作動を起こしちゃう事があるみたいなんだよね。」

 

「えーと?」

 

『うぷぷぷぷ!ここから先はボクが説明するよ!』

 

「ぎゃあ出た!!」

 

「お前…いい加減慣れろよ。」

 

『この機械は電波を受信する事で動いてるんだよね。でも、この機械を動かしている電波と同じ周波数の電波を浴びせると誤作動を起こしちゃう事があるんだ。まあそんな事は滅多に起こらないけどね。』

 

電波か…

じゃあいじくられた形跡っていうのは機械の誤作動だったのかな?

 

 

 

コトダマゲット!

 

【電波】

 

 

 

「なあ、一。」

 

「な、何…」

 

「お前、事件中は何してたんだ?」

 

「え…も、もしかしてボクを疑ってるの!!?」

 

「いや、そういうわけじゃないんだけど…」

 

「違うから!!僕は犯人じゃないからね!?僕は、ずっと研究室のパソコンを解析してたんだよ!!ジョン君が殺された事なんて知らなかったから!!」

 

「ええっと…じゃあそれを証明する手段はあるか?」

 

「パソコンに履歴があるから、それを見てもらえればずっと作業してたのはわかるはずだよ。」

 

「わかった。じゃあ確認するぞ?」

 

一に見せてもらったパソコンの履歴には、昨日の夜の6時半から9時半、10時から3時まで作業をしていた履歴が残っていた。

 

「あれ?この30分の空白は?」

 

「研究室のパソコンを個室に持ち込んだの!!夜時間は個室以外の出入り禁止ってルールを決めたのは君達じゃないか!!」

 

まあ、安生を除けばメンバーの中で一番足が遅い一なら研究室から個室まで30分掛かっても不自然ではないな。

聞いたところ発言に矛盾はない。

だが、証言者がいない以上信用しすぎるのも危険だな。

 

 

 

コトダマゲット!

 

【パソコンの履歴】

 

 

 

「それと、もう一個いいか?」

 

「な、何…?」

 

「ここの探索に来た時、モノクマからこのタワーの説明を受けた事はあるか?」

 

「いや、無いよ…そもそも一昨日までタワーに近づいた事なかったし、タワーに行ったのも君と一緒に行ったのが最初で最後だよ。」

 

って事は、モノクマがタワーについて説明するのは最初に探索した奴だけなのか。

 

 

 

コトダマゲット!

 

【タワーについての説明】

 

 

 

「あの…」

 

すると今度は、一の方から言いづらそうにしながら手を挙げた。

 

「何だ?」

 

「えっと、事件に関係あるかどうかはわからないけど、昨日変なものを見たんだ。」

 

「変なもの?」

 

「えっと…タワーとホテルが黒い紐みたいなもので繋がれてたんだ。」

 

「紐だと?」

 

「うん…」

 

紐か…

ちょっと気になるな。

 

 

 

コトダマゲット!

 

【黒い紐】

 

 

 

一から話を聞き終わった俺は、外を調べていた安生と聞谷に話を聞く事にした。

ホテルに戻ると聞谷がいたので、声をかける。

 

「聞谷、お前は何かわかったか?」

 

「ええとですね…焼却炉にこんなものが捨ててありましたの。」

 

そう言って聞谷が見せてきたのは、擦り切れたハンカチと血の付いたジャンパーだった。

夜時間中は焼却炉が動かないから、ちゃんと燃え切らなかったのか。

とにかく、証拠品をいい状態で見つけられたのはラッキーだったな。

 

 

 

コトダマゲット!

 

【擦り切れたハンカチ】

 

 

 

コトダマゲット!

 

【ジャンパー】

 

 

 

「それともう一つ、2階で妙なものを見つけましたの。」

 

「妙なもの?」

 

「こちらですわ。」

 

俺は、聞谷に連れられて2階に行った。

すると、聞谷は2階に着くなり廊下の奥を差した。

 

「うわぁっ!?なんじゃありゃあ!?」

 

見ると、窓際に大量の布団やら枕やらが散乱していた。

 

「何でこんなに布団が散らばってるんだよ!?つーかどっから持ってきたんだこれ!?」

 

「おそらく、今まで亡くなった方の個室から持ち出されたものかと。亡くなった方の個室には、パスポート無しで入れますので…」

 

いつの間に…

普段出入りしないような場所だから完全に見落としてたな。

 

 

 

コトダマゲット!

 

【窓際に散らばった布団】

 

 

 

「…あれ?」

 

この布団、よく見たら靴の痕が付いてるぞ。

どうして布団に靴の痕がつくんだ?

 

 

 

コトダマゲット!

 

【布団の靴の痕】

 

 

 

「他には何かわかったのか?」

 

「えっと…窓枠に何かを巻き付けたような痕がありましたわね。」

 

何かを巻きつけた痕、か…

あれ?それってどこかで…

 

 

 

コトダマゲット!

 

【窓枠に何かを巻き付けた痕】

 

 

 

聞谷から聞き出せる情報はこれくらいかな。

あとは、科学研究所を調べてくれている安生に話を聞いてみよう。

 

「なあ、安生。お前は何かわかった事とかあるか?」

 

「えっとね、物理室のものが盗まれてたんだ。」

 

「何!?本当か!?」

 

「うん。第一物理室からは音波発生装置とレーザーガン、第二物理室からは耳栓とロープとハンガーが盗み出されてたよ。」

 

安生が、盗まれた品をまとめたリストを見せてくれた。

盗まれたのは、超強力な音波を発生させる装置、赤外線レーザーが出るレーザーガン、音をほぼ100%遮る耳栓、『象が使っても壊れないシリーズ』の青いロープとハンガーだった。

 

 

 

コトダマゲット!

 

【音波発生装置】

 

コトダマゲット!

 

【レーザーガン】

 

コトダマゲット!

 

【耳栓】

 

コトダマゲット!

 

【青いロープ】

 

コトダマゲット!

 

【ハンガー】

 

 

 

「それと、もう一個気になった事があるんだ。」

 

「気になった事?」

 

「うん。昨日の7時半くらいから、時計が30分ズレてたんだ。」

 

「…え?」

 

「ホテル内の時計全部がパスポートの時計より30分進んでた。どっちが正確な時刻なのかはわからないけど…」

 

うわマジか!?

全然気付かなかった!!

クソ、パスポートの時計確認しておけば良かった…

 

 

 

コトダマゲット!

 

【時計のズレ】

 

 

 

ピーンポーンパーンポーン

 

『えー、もう待ちくたびれたので捜査時間を打ち切らせていただきます!オマエラ、ホテル1階のエレベーター前まで集合して下さい!15分以内に来ないとオシオキしますよー!』

 

え、嘘!?

もう終わり!?

クッソ、まだ調べておきたい事はあったのに…

…でも、ここで悔しがってる場合じゃないな。

早くエレベーター前に行かないと。

俺は、覚悟を決めてエレベーター前に向かった。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

俺がエレベーター前に到着した時には、既に他の7人は集まっていた。

その直後、アナウンスからちょうど15分になった。

 

『うぷぷぷ、ちゃんと全員集まりましたね?それでは裁判所へレッツゴー!』

 

モノクマがそう言った直後、エレベーターの扉が開く。

8人全員が乗り込んだ直後、エレベーターの扉が閉まり下に動き出した。

 

…未だに信じる事ができない。

この中にジョンを殺した犯人がいるかもしれないなんて…

 

だが、迷っている時間はない。

真実を暴かなければ、俺達に未来はない。

ジョン、俺はやるぞ。

必ずお前の死の真相を明らかにしてやる!!

 

 

 

 

 


 

 

 

ー生存者ー

 

【超高校級の講師】赤刎円

 

【超高校級のカウンセラー】安生心

 

【超高校級の香道家】聞谷香織

 

【超高校級の脚本家】黒瀬ましろ

 

【超高校級の傭兵】枯罰環

 

【超高校級のヴァイオリニスト】弦野律

 

【超高校級のソフトウェア開発者】一千歳

 

【超高校級のランナー】速水蘭華

 

ー以上8名ー

 

 

 




今回は短めなのにコトダマ数は最多です。


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非日常編②(学級裁判前編)

コトダマリスト

 

【モノクマファイル⑤】

被害者は【超高校級の冒険家】ジョナサン・ウォーカー。

死亡時刻は午後9時25分。

死体発見場所はモノクマタワー5階の階段前。

原型がなくなるほど頭部を破壊されている。

 

【6階の床と階段の血痕】

6階の床と階段に血が付いていた。

 

【スピーカー】

階段にはスピーカーが設置してあって、音がよく響く。

 

【血の付いた消火器】

階段付近に血の付いた消火器が転がっていた。

 

【ジョンの潰れた頭部】

原型がなくなるほど潰れている。

落下によるものとは考えにくい。

 

【ジョンのチャット】

ジョンのパスポートに、内通者である事を仄めかすようなやりとりがあった。

 

【昨夜の黒瀬の行動】

黒瀬は俺達を映画館に誘い、上映中に15分ほどシアターを抜け出していた。

 

【探索のメンバー】

モノクマタワーを調べたのは、俺、黒瀬、枯罰の3人。

 

【放送室の音量調節機】

階段のスピーカーだけ最大音量に設定されていた。

 

【夜のアナウンス】

夜のアナウンスの設定がいじられていた。

 

【モノクマの証言】

設定を変えられないのは死体発見アナウンスと捜査終了アナウンスのみ。

 

【動機】

今回モノクマが用意した動機は、クロが勝った場合クロに指名された一名はクロと一緒に脱出できるというもの。

 

【柱に何かを巻き付けた痕】

展望エリアの柱に何かを巻きつけた痕があった。

 

【展望エリアの窓】

展望エリアの窓のロックが一部分だけ外れていた。

 

【速水の証言】

速水は黒瀬と一緒にランドリールームにいた。

 

【管理室の機械】

管理室の機械が操作された形跡があった。

 

【管理室のドア】

管理室の自動ドアは、モノクマ以外開ける事ができない。

 

【電波】

管理室の機械は、受信している電波と同じ周波数の電波をキャッチすると誤作動を起こしてしまう事がある。

 

【パソコンの履歴】

一が持っていたパソコンには、作業をしていたという履歴が残っている。

 

【タワーについての説明】

タワーについてモノクマから説明を受けるのは初めにタワーに入った者のみ。

 

【黒い紐】

一が昨晩黒い紐のようなものを見ている。

 

【擦り切れたハンカチ】

焼却炉に擦り切れたハンカチが捨てられていた。

 

【ジャンパー】

焼却炉に血塗れのジャンパーが捨てられていた。

 

【窓際に散らばった布団】

ホテルの2階の窓際に布団が大量に散らばっていた。

おそらく、今までの犠牲者の部屋から持ち出されたもの。

 

【布団の靴の痕】

布団に靴の跡が付いていた。

 

【窓枠に何かを巻き付けた痕】

窓枠に何かを巻き付けた痕があった。

 

【音波発生装置】

第一物理室から盗み出されていた。

強力な音波を発生させる事ができる装置。

スピーカーなどで音量を上げれば人体に害を及ぼす程の大音量を出す事も可能。

 

【レーザーガン】

第一物理室から盗み出されていた。

赤外線レーザーを照射する事ができるハンドガン。

 

【耳栓】

第二物理室から盗み出されていた。

音をほぼ100%遮断できる。

 

【青いロープ】

第二物理室から盗み出されていた。

象がぶら下がっても切れないらしい。

 

【ハンガー】

第二物理室から盗み出されていた。

象がぶら下がっても壊れないらしい。

 

【時計のズレ】

ホテル内の全ての時計が30分程進んでいた。

 

 

 


 

 

 

エレベーターが止まると、扉が開いた。

全員が、それぞれの思いを抱えながら自分の席につく。

仕田原とジョンの席には、それぞれバツ印が書かれた遺影が置かれていた。

…また始まるんだ。

命懸けの学級裁判が…!!

 

 

 

《学級裁判 開廷!》

 

 

 

モノクマ『ではまず裁判の簡単な説明をしておきましょう。学級裁判では『仲間を殺した犯人は誰か』について議論をし、その結果はオマエラの投票によって決まります!もし正解ならクロのみがオシオキ、不正解なら今回は特別ルールでクロとクロが指名した一名のみが失楽園、それ以外の全員がオシオキとなります!』

 

黒瀬「はーいっ、クマちゃんしっつもーん。」

 

モノクマ『何ですか?』

 

黒瀬「仮にクロが勝ったとして、そのクロはもう一人の脱出者の選択を棄権できるの?」

 

弦野「何でそんな事聞くんだ?テメェが犯人なんじゃねぇだろうな?」

 

黒瀬「うんそうだよって言うわけないよね?あ、心配しないで。今のはちょっと気になったから聞いてみただけだから。で、どうなのクマちゃん?」

 

モノクマ『できるよ。お友達の指名はあくまで権利であって義務じゃないからね。クロが誰も助ける気ないっていうならクロ以外の全員をオシオキしちゃってもいいんだよ?』

 

黒瀬「わー怖い。」

 

枯罰「言うとる場合か。」

 

安生「今回もファイルを読み上げようか。」

 

枯罰「せやったら今回はウチがやるわ。」

 

 

 

ーーー議論開始!!ーーー

 

 

 

枯罰「被害者は《【超高校級の冒険家】ジョナサン・ウォーカー》。死亡時刻は《午後9時25分》。死体発見場所は《モノクマタワー5階の階段前》。《原型がなくなるほど頭部を破壊されている》。」

 

速水「なるほどね…でも、これでハッキリしたね。」

 

一「何が…?」

 

速水「ジョンは《事故死》だよ!!ジョンは、階段で《転落死》したんだ!!」

 

安生「…何でそんな風に考えるのかな?」

 

速水「だってジョンは《階段の下》で発見されたんだよ!?落ちて頭打ったって考えるのが自然じゃん!!」

 

弦野「…は?」

 

速水「な、何だよそのバカにしたような目は!!」

 

安生「う、うーん…まあ、階段は2m以上あるから転落死した可能性がないとは言い切れないけど…」

 

速水「そうだよ!!アイツは階段から落ちて死んだんだ!!この事件に《犯人なんていない》んだよ!!」

 

今の速水の発言はおかしい!!

 

 

 

《犯人なんていない》⬅︎【ジョンの潰れた頭部】

 

「それは違うぞ!!」

 

《論 破》

 

 

 

赤刎「…いや。これは、明確な殺意を以って行われた殺人事件だ。」

 

速水「はぁ!?何でよ!?」

 

赤刎「ジョンの頭部は、原型がなくなるほどグチャグチャに潰れていた。仮に死因が転落死だったとしても、階段から落ちただけじゃああはならない。つまり、誰かが意図的にジョンの頭を潰したんだよ。」

 

速水「で、でも…!!」

 

赤刎「それに、転落死だとは言い切れない証拠はまだあるんだ。」

 

 

 

コトダマ提示!

 

【モノクマファイル⑤】

 

「これだ!!」

 

 

 

赤刎「モノクマファイルには、死因が書かれていない。つまり、転落死だとは言い切れないんだ。」

 

弦野「むしろ、その頭を砕いたっていうのが死因なんじゃねぇの?」

 

赤刎「じゃあ、次はジョンの頭を潰した凶器が何かをハッキリさせようか。」

 

 

 

ーーー議論開始!!ーーー

 

 

 

黒瀬「あーわかった!エントランスにあった《クマちゃんの像》だ!」

 

一「まず持ち運べないと思うんだけど?」

 

速水「《爆弾》でボン!とか!?」

 

枯罰「頭砕けるどころの騒ぎやないやろ。」

 

聞谷「ええと…《空き瓶》とかでしょうかね…?」

 

安生「頭を砕くには重さが足りないんじゃないかな。」

 

弦野「《消火器》は?それなりに重さがあるし、簡単に手に入ると思うんだが。」

 

弦野の発言が正しそうだ。

 

 

 

《消火器》⬅︎【血の付いた消火器】

 

「それに賛成だ!!」

 

《同 意》

 

 

 

赤刎「弦野の言う通り、ジョンの頭を砕いた凶器はおそらく消火器だ。」

 

聞谷「しょ…消火器ですの!?」

 

速水「消火器って…確かに重いけど、人の頭砕くためのものじゃないじゃん!!」

 

枯罰「そこ気にするポイントちゃうやろ。…確かに、消火器なら強めに何度か叩きつければ頭を砕けるかもなぁ。」

 

赤刎「実際、血の付いた消火器が現場付近で見つかったしな。」

 

安生「これで凶器は確定したわけか…」

 

弦野「でも待てよ。頭が砕ける程強く殴ったんだったら、犯人は返り血を浴びてるんじゃねぇのか?どうやって返り血を防いだんだよ。」

 

赤刎「それは…」

 

 

 

コトダマ提示!

 

【ジャンパー】

 

「これだ!!」

 

 

 

赤刎「多分、上にジャンパーを着て返り血を防いだんだ。トラッシュルームに血が付いたジャンパーが捨てられてたしな。」

 

弦野「マジかよ…」

 

黒瀬「ふーん…じゃあジョンくんは、階段の下で消火器で頭を砕かれて死んだんだねー。」

 

赤刎「いや…それだけじゃないかもしれない。」

 

黒瀬「ぱぇ?」

 

赤刎「そもそも、ジョンは何であんな所にいたんだ?頭を砕いて殺すだけなら、別に階段前じゃなくても良かっただろ。階段なんて誰かが普通に通る場所でわざわざ殺すなんてリスクしかないぞ?」

 

枯罰「ただ頭砕かれたわけやない…っちゅう事やな。」

 

 

 

ーーー議論開始!!ーーー

 

 

 

赤刎「みんな、考えてみろ。何で犯人はわざわざジョンの頭を砕いたんだ?」

 

速水「そりゃ《殺すため》でしょ!」

 

弦野「だから、何で殺すのに頭を砕いたんだって話をしてんだよ。」

 

黒瀬「うーん…実は《偽物》でしたー、とか?それを判別できないようにするために顔を潰したんだよ!!」

 

枯罰「アイツと似た体格の奴なんぞおらんし間違えようがないやろ。」

 

安生「何かを《隠したかった》のかもね。」

 

安生の意見が正しそうだ。

 

 

 

《隠したかった》⬅︎【6階の床と階段の血痕】

 

「それに賛成だ!!」

 

《同 意》

 

 

 

赤刎「みんな、ここからは俺の推測だが聞いてくれ。おそらくだが、ジョンは何らかの方法で犯人に怪我を負わされたんだ。犯人は裁判を難航させるため…もしくは、証拠隠滅のためにジョンの負傷した部分を頭ごと潰して隠したんだ。」

 

聞谷「え、ウォーカーさんは怪我をされていたんですの!?」

 

弦野「待て待て、そう言い切れる根拠はあるんだろうな?適当な事言って誤魔化そうったってそうはいかねーぞ。」

 

赤刎「もちろん根拠はある。6階の床と階段に落ちていた血だ。」

 

一「血だって!?そ、それがどうしたっていうのさ!?」

 

赤刎「おかしいだろ?普通、5階で頭をかち割ったなら6階に血は付かないはずだ。つまりだ。ジョンは6階で犯人に襲われて負傷して、自力で逃げたかあるいは犯人に突き落とされて、5階で捜査の撹乱のために頭をかち割ったんだ。」

 

聞谷「な、なんという事を…」

 

黒瀬「…それかさぁ、もう一つ可能性はあるよね?」

 

速水「え?」

 

何だ…?

裁判中に変な事しか言わない黒瀬がいつになく真剣な表情だな。

 

黒瀬「6階で既にジョンくんを殺してて、本当の死因を有耶無耶にするために階段から突き落とした上で消火器で頭をかち割った…」

 

一「なっ…!!し、死因の偽装だって!?そんな事、できるわけ…」

 

黒瀬「できるよー。だって実際、ファイルに死因は書かれてなかったでしょ?」

 

安生「確かに…」

 

黒瀬「まあこの際、死んだのが先か頭かち割ったのが先かはどうでもいいよ。それより、犯人がどうやってジョンくんを攻撃したのかを明らかにするべきなんじゃないの?」

 

弦野「テメェが仕切ってんじゃねぇよ不審者が。」

 

犯人がジョンを攻撃した方法…

…もしかして。

 

 

 

コトダマ提示!

 

【音波発生装置】

 

「これだ!!」

 

 

 

赤刎「犯人がジョンを襲うのに使った凶器…それは音だ。」

 

速水「はぁ!?お、音ぉ!?お、音でどうやって人を殺すんだよ!?」

 

赤刎「簡単な話だ。あまりにも強力な音波は、人体に悪影響を及ぼす。床に落ちていた血…あれは多分、鼓膜が破れた時に出た血だ。」

 

弦野「音波だと?何で急にそんな突拍子もない話になるんだよ。」

 

赤刎「実は、物理室から音波発生装置が盗まれていたんだ。犯人はおそらく、これを犯行に利用したんだ。」

 

安生「うーん、でも音波発生装置を使ったからって、人を殺せるほど強力な音波を出せるものなのかな?」

 

赤刎「それは…」

 

 

 

コトダマ提示!

 

【スピーカー】【放送室の音量調節機】

 

「これだ!!」

 

 

 

赤刎「多分、最大音量に設定したスピーカーに装置を繋げて使ったんだ。」

 

安生「スピーカー?」

 

赤刎「ああ。一が調べてくれてわかった事だが、階段のスピーカーだけ最大音量に設定されていた。多分、そこから発生した強力な音波をジョンに浴びせたんだ。あの階段はよく音が響くし、設置されていたスピーカーも強力なものだから音波発生装置と組み合わせて使えば十分音響兵器になり得る。階段のスピーカーを全部使ったなら尚更だ。」

 

一「え、でもそれだと遠隔操作でもしない限り犯人にまで害が及ぶよね?犯人はどうやってジョン君だけを狙って音響攻撃したの?」

 

赤刎「それについては心当たりがある。犯人は、あるものを使って自分への被害を最小限に抑えたんだ。」

 

 

 

コトダマ提示!

 

【耳栓】

 

「これだ!!」

 

 

 

赤刎「犯人は、自分の身を守るために耳栓を使ったんだ。それも、音をほぼ100%遮る高性能のヤツをな。」

 

黒瀬「え、そんな便利なものあるのー?」

 

赤刎「実際、物理室に置いてあった過去の卒業生の発明品の耳栓が盗まれていた。」

 

聞谷「ええと…では、これで犯人がウォーカーさんを攻撃した方法がわかったわけですのよね?では、何方がウォーカーさんを?」

 

安生「とりあえず、赤刎君、聞谷さん、枯罰さん、弦野君、それから僕の5人は潔白だよね。」

 

聞谷「という事は、黒瀬さん、一さん、速水さんのうちの何方かが犯人という事になりますわね。」

 

赤刎「いや、俺が証言する。」

 

 

 

コトダマゲット!

 

【速水の証言】

 

「これだ!!」

 

 

 

赤刎「速水と黒瀬は、犯行時刻にはランドリールームにいたそうだ。そうだよな?」

 

黒瀬「うん。証拠写真もあるしねー。ほら。」

 

そう言って、黒瀬は写真を見せてきた。

速水とのツーショット写真で、後ろには犯行時刻が示されている時計が写り込んでいた。

 

聞谷「あら、本当ですわね。という事は、お二人は無実という事ですのね。」

 

速水「はぁー、疑いが晴れたみたいで良かったよ。」

 

弦野「…あれ?待てよ?っつー事は…」

 

俺達は、一斉に視線をとある方向に向けた。

視線の先にあったのは、一の姿だった。

 

一「えっ…あ、え…?」

 

一は、自分が疑われているという事実を受け入れられずに混乱していた。

 

速水「確かに、アリバイがないのは千歳だけだよね。どうなの、千歳?」

 

一「ぼっ、ボクじゃないよ!!ボクは研究室でパソコンを解析してたんだよ!!事件の事なんて知らなかったから!!」

 

黒瀬「ふーん。でも千歳くんさぁ、ボクの提案した映画会に来てくれなかったよね?何でなの?」

 

一「だからそれは、怖いのが無理だし解析で忙しかったからで…」

 

弦野「でもテメェなら音響兵器にも詳しいだろうから犯行は可能だろが。」

 

一「だから違うってぇえええええええええ!!!」

 

一は、大声で泣き始めた。

 

安生「あ、泣いちゃった…」

 

赤刎「俺が聞いてみるよ。一、ちょっといいか?」

 

一「ぐすっ…何?」

 

赤刎「一、お前は研究室でずっとパソコンの解析をしてたんだよな?」

 

一「う、うん…安生君に研究室のパソコンの解析を頼まれてたから…それで、ずっと作業をしてたんだ。黒瀬さんの言ってた映画会に来れなかったのも解析で忙しかったからだよ。」

 

赤刎「一応聞くが、研究室から出たか?」

 

一「うん…事件の発生時刻直後にね。でも、それは部屋に戻って作業をするためだよ!!」

 

赤刎「…って言ってるが?」

 

聞谷「ですが…一さんのお話だけで犯人でないと決めつけるのは早計では?」

 

一「違う!!ボクは本当に犯人じゃないんだ!!嘘じゃないもん!!」

 

うーん…一が嘘をついてるとは思えないんだよな。

何とか一の無実を証明できないかな。

 

 

 

ーーー議論開始!!ーーー

 

 

 

弦野「つってもよ。今のところ《犯人候補》は一しかいないだろ?」

 

黒瀬「そーだそーだぁぁぁ!!」

 

聞谷「それに、一さんには《アリバイ》がありませんよね?先程の話も…」

 

一「嘘だって言いたいわけ!?違うよ!!ボクは犯人じゃないよ!!」

 

聞谷「ですが…そんな事《証明できません》よね?」

 

いや…一の無実を証明する方法はある…!

 

 

 

《証明できません》⬅︎【パソコンの履歴】

 

「それは違うぞ!!」

 

《論 破》

 

 

 

赤刎「いや、一の話は嘘じゃないと思う。パソコンに、ちゃんと作業をした履歴が残ってる。」

 

速水「そうなの?」

 

一「うん…赤刎君には先に見せたから…ありがとう赤刎君!!君ならボクを信じてくれると思ってたよ!!」

 

枯罰「何や。今までの裁判で散々デタラメ言うとったクセに、自分が疑われた途端これかいな。」

 

一「うっ…」

 

赤刎「な?わかっただろ?一は犯人じゃ…」

 

 

 

聞谷「聞き方がなってませんわね。」

 

《反 論》

 

 

 

赤刎「聞谷?」

 

聞谷「赤刎さん、あなたの推理は修行不足だと言ってるんです。」

 

赤刎「でも、一が嘘をついているとは思えないし、ちゃんとパソコンに履歴は残ってたぞ?」

 

聞谷「わかりました。そこまで仰るのなら、わたくしが修正して差し上げますわ。」

 

 

 

ー反論ショーダウン開始ー

 

聞谷「まず、あなたは一さんが犯人ではないと仰っていましたが、一さんの才能をお忘れですか?」

 

赤刎「【超高校級のソフトウェア開発者】…だよな?」

 

聞谷「そうですわ。機械に強い一さんなら、はっきんぐなどという作業をして履歴を捏造する事など造作もないはずです。」

 

一「ボクはそんな事してないよ!!」

 

聞谷「どうでしょう…それに、赤刎さん達は探索の時に塔についての説明を受けましたわよね?一さんも《同様の説明を受けていらっしゃる》のなら、塔の機械をいくらでも操作できますわ。」

 

《同様の説明を受けていらっしゃる》⬅︎【タワーについての説明】

 

「その言葉、ぶった斬る!!」

 

《論 破》

 

 

 

赤刎「いや、一は少なくともタワーについてそこまで詳しくないはずだ。」

 

聞谷「何故ですの?」

 

赤刎「モノクマからタワーについての説明を受けていないからだ。タワーの説明を聞けるのは、最初に探索をした奴だけなんだよ。探索に行ったのは放送機器の確認と点検に行った一回だけだし、機械に詳しいからってだけだと根拠として弱いんじゃないか?」

 

一「そ、そうだよ!ボクは犯人じゃない!!」

 

聞谷「ですが、今の所犯行可能なのは一さんだけですし…あら?これってどうなってしまうのでしょうか?」

 

弦野「チッ、結局振り出しに戻っただけか。」

 

 

 

枯罰「…時計のズレ。」

 

弦野「…は?」

 

…!

そうか!!

 

 

 

コトダマ提示!

 

【時計のズレ】

 

「これだ!!」

 

 

 

赤刎「みんな、聞いてくれ。実は、昨日ホテルの時計がズレてたんだ。」

 

弦野「はぁ!!?」

 

赤刎「それに関しては安生が証言してくれてる。な、安生?」

 

安生「うん。実は、昨日の7時半から夜の11時までの間ホテルの時計が進んでたんだ。30分くらいね。最初は見間違いかと思ったけど、もし本当にズレてたならアリバイの証明が覆っちゃうんじゃないのかな?」

 

弦野「なっ…て、テメェらそんな大事な事何でもっと早く言わなかったんだよ!?」

 

安生「…ごめん。ずっと言おうと思ってたんだけど、言うタイミングを逃しちゃってなかなか言えなかったんだ。」

 

枯罰「っちゅうか…普通30分もズレてたら気付くやろ。あえて言うまでもないと判断したまでや。」

 

弦野「ぐ…」

 

枯罰「まあウチらは1時間くらいずっと一緒におったし30分ズレたくらいでアリバイは崩れへんけど、他の3人はその時間一緒におったわけとちゃうやろ?」

 

黒瀬「…何が言いたいの?」

 

枯罰「まあこの際誰が犯人かはまず置いといて、犯人がどうやって時計をズラしたんかが明らかになれば自ずと犯人が見えて来るんとちゃうか?」

 

 

 

ーーー議論開始!!ーーー

 

 

 

速水「時計をズラす方法!?《わかんなーい》!」

 

安生「わかんないじゃないでしょ。ちゃんと考えようよ。」

 

黒瀬「《気》の仕業だよ!」

 

弦野「気なんかあってたまるか。」

 

枯罰「まあ十中八九《機械》をいじったんやろな。せやけど…」

 

枯罰の発言が正しそうだ。

 

 

 

《機械》⬅︎【管理室の機械】

 

「それに賛成だ!!」

 

《同 意》

 

 

 

赤刎「実は、6階の管理室にあった機械、あれは楽園内の全ての時計を管理する機械なんだ。」

 

聞谷「え?」

 

速水「マジで!?」

 

一「あ、言っておくけどボクは捜査するまでその事は知らなかったからね?」

 

聞谷「本当ですの?」

 

赤刎「…本当だ。さっきも言ったけど、モノクマから説明を受けてないからな。知らなくても無理はない。だけど、これでハッキリした。時計を管理する機械の事を知らなかった一は犯人じゃない。」

 

弦野「いや待て、その理屈はおかしいだろ。」

 

 

 

ーーー議論開始!!ーーー

 

 

 

弦野「何で一は犯人じゃないって事になるんだよ?」

 

赤刎「機械を知らなかった以上、犯人の可能性は限りなく低い。」

 

弦野「だから、何で一は《機械を知らない》って事になるんだよ!?一回探索には行ったんだろ!?じゃあその時に《機械を調べてる》はずじゃねぇか!!まさか、何の機械かわからずに点検してましたなんて言わねぇよな!?」

 

 

 

《機械を調べてる》⬅︎ 【管理室のドア】

 

「それは違うぞ!!」

 

《論 破》

 

 

 

赤刎「いや、一は管理室を調べる事はできなかったはずだ。」

 

弦野「何で!?」

 

赤刎「管理室には自動ドアがあるんだが、スイッチが切られてて中に入れないようになってたんだよ。もちろん超強化ガラスでできてるから破って入ったりなんかできないしな。」

 

弦野「でも、自動ドアならハッキングしたりとか…」

 

赤刎「無いよ。そもそも、犯行現場がタワー内だって時点で俺は一だけは犯人じゃないと確信していたんだ。」

 

弦野「は?」

 

赤刎「高所恐怖症の一が一人でタワーに登れるわけがないだろ?」

 

弦野「あっ…」

 

一「だから言ってんじゃん!!ボクは犯人じゃないんだよ!!」

 

枯罰「せやから前々から言うとるやんか。お前に疑う価値なんぞ無いんじゃボケ。そないな事より、今は犯人がどうやって開かずの間の機械を操作したのかを考えんのが先やろ。」

 

 

 

ーーー議論開始!!ーーー

 

 

 

黒瀬「《気》だよきっとー!!」

 

枯罰「ちゃう言うとるやろがボケ。」

 

弦野「《自動ドア》をハッキングしたんじゃねぇのか?」

 

安生「そんな芸当ができる一君が犯人じゃないんだから、その可能性は低いよ。」

 

一「えっと…あの機械って確か《電波》で動いてたよね?」

 

一の意見が正しそうだ。

 

 

 

《電波》⬅︎【電波】

 

「それに賛成だ!!」

 

《同 意》

 

 

 

赤刎「一の言う通り、楽園内にあった時計は全部電波時計だ。あの機械で電波を受信して時計を動かしてる。その性質故に、同じ周波数の電波を受信すると誤作動を起こしちまうんだ。」

 

弦野「電波だと!?そんなもんどっから引っ張ってきたんだよ!?」

 

赤刎「それは…」

 

 

 

コトダマ提示!

 

【レーザーガン】

 

「これだ!!」

 

 

 

赤刎「犯人が使ったのはおそらくレーザーガンだ。」

 

聞谷「れ、れぇざぁがん?」

 

赤刎「簡単に言うと、弾丸の代わりに赤外線レーザーを出す拳銃だ。犯人は、ガラス製の自動ドア越しに機械にレーザーを照射したんだ。レーザーガンのレーザーは透過率がかなり高いものだから、自動ドアのガラスくらいなら透過して操作できる筈だ。」

 

安生「なるほどね…でも、ひとつ気になる事があるんだ。」

 

赤刎「何だ?」

 

安生「アナウンスだよ。そもそも、みんなが時計のズレに気付かないのはおかしいんだ。夜時間を知らせるアナウンスは10時に鳴るようになってるはずだからね。でも、何でアナウンスは9時半に鳴ったのかな?」

 

赤刎「それは…」

 

 

 

コトダマ提示!

 

【夜のアナウンス】

 

「これだ!!」

 

 

 

赤刎「実は、夜時間を知らせるアナウンスの設定がいじられてたんだ。」

 

安生「えっ?」

 

赤刎「犯人は、時計のズレに気付かせないために夜時間のアナウンスの設定をいじって9時半に鳴るように設定したんだ。」

 

安生「でも、夜時間のアナウンスの設定の変更なんてできるの?」

 

赤刎「できる。アイツも証言してたしな。」

 

 

 

コトダマ提示!

 

【モノクマの証言】

 

「これだ!!」

 

 

 

赤刎「俺達が設定を変更できないのは、死体発見アナウンスと捜査終了アナウンス、この二つだけだ。そうだよな、モノクマ?」

 

モノクマ『そうだよ。まさかせっかくボクが親切心で用意したアナウンスをアリバイ工作のために使われるなんて思いもしなかったけどね。』

 

赤刎「だそうだ。」

 

一「えっと…じゃあ、犯人は…」

 

赤刎「アリバイが無くて、かつ管理室の事を知り得た人物という事になる。」

 

その人物は…

 

 

 

《人物指定》

 

 

 

 

赤刎円

 

安生心

 

神崎帝

 

聞谷香織

 

黒瀬ましろ

 

漕前湊

 

枯罰環

 

札木未来

 

仕田原奉子

 

ジョナサン・ウォーカー

 

武本闘十郎

 

弦野律

 

一千歳

 

速水蘭華

 

筆染絵麻

 

宝条夢乃

 

 

 

 

 

➡︎黒瀬ましろ

 

 

 

 

赤刎「…お前だ。黒瀬。」

 

黒瀬「…。」

 

 

 

 

 

《学級裁判 中断!》

 

 

 

 

 


 

 

 

ー生存者ー

 

【超高校級の講師】赤刎円

 

【超高校級のカウンセラー】安生心

 

【超高校級の香道家】聞谷香織

 

【超高校級の脚本家】黒瀬ましろ

 

【超高校級の傭兵】枯罰環

 

【超高校級のヴァイオリニスト】弦野律

 

【超高校級のソフトウェア開発者】一千歳

 

【超高校級のランナー】速水蘭華

 

ー以上8名ー

 

 

 



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非日常編③(学級裁判後編)

《学級裁判 再開!》

 

赤刎「この中で、犯行可能なのはお前しかいない…だよな、黒瀬?」

 

黒瀬「…。」

 

赤刎「何とか言ったらどうなんだ?」

 

黒瀬「…え?ごめん。聞いてなかった。もう一回言って?」

 

弦野「は?コイツ…」

 

黒瀬「だって飽きちゃったんだもん。で?何?これ、ボクが疑われてる感じっすかー?」

 

赤刎「そうだ。お前が怪しいっていう証拠ならある。」

 

 

 

コトダマ提示!

 

【昨夜の黒瀬の行動】

 

「これだ!!」

 

 

 

赤刎「お前は昨日俺達を映画に誘っていたが、あれは時間の感覚を狂わせるためじゃないのか?」

 

速水「確かに、映画見てれば夢中になっちゃって時計なんて見ないもんね。」

 

赤刎「それにお前は上映中に映画館を抜け出していたが、あれは時計をズラしにタワーに行ってたんだろ?」

 

黒瀬「えー?違うよぉ。ボクは犯人じゃないからねー。」

 

 

 

ーーー議論開始!!ーーー

 

 

 

黒瀬「ボクは《ポップコーンを選んでた》って言ったよね?」

 

赤刎「でもそれを証明する手段はないだろ?それに、管理室の機械をいじるのはお前にしかできないはずだ。」

 

黒瀬「は?意味わかんない。管理室の機械をいじるぐらい《誰にでもできる》んじゃないの?」

 

 

 

《誰にでもできる》⬅︎【探索のメンバー】

 

「それは違うぞ!!」

 

《論 破》

 

 

 

赤刎「誰にでもできる!?違うな!!この中で時計を狂わせる事ができたのはお前だけだ!!」

 

黒瀬「何でよ。」

 

赤刎「俺の推理が正しければ、管理室の事を知り得たのはモノクマタワーの探索を担当していた俺、枯罰、そしてお前の3人だけだ。俺と枯罰は犯行時刻にアリバイがあるからシロ、となれば消去法で犯人はお前って事になる。」

 

黒瀬「…はぁ。」

 

 

 

黒瀬「うーん、ちょっと何言ってんのかわかんないかなぁ。」

 

《反 論》

 

 

 

赤刎「黒瀬?」

 

黒瀬「何でそんな事で疑われなきゃいけないのかなぁ?意味がわからないんだけど。」

 

赤刎「でも、状況的にはお前しかいないんだ。」

 

黒瀬「はあ、もういいよ。そこまで言うならボクが正しいシナリオに導いてあげるよ。」

 

 

 

ー反論ショーダウン開始ー

 

黒瀬「ボクは犯人じゃありませーん。」

 

赤刎「お前しか犯行可能な人物はいないんだ。諦めろ。」

 

黒瀬「そんな事言われても、本当に違うんだもんなぁ。…てかさ、仮にグーゴルプレックス歩譲ってボクが犯人だったとして、何でボクはジョンくんを殺したわけ?ボクがジョンくんを殺す《理由がない》じゃない。」

 

《理由がない》⬅︎【ジョンのチャット】

 

「その言葉、ぶった斬る!!」

 

《論 破》

 

 

 

赤刎「黒瀬、とぼけるのもいい加減にしろ。」

 

黒瀬「は?」

 

赤刎「お前は自分が内通者だと言っていたが、実際はそうじゃない。…お前は、本物の内通者を知ってたんだろ?」

 

黒瀬「嘘だよ。ボク、そんなの知らないもん。」

 

赤刎「じゃあ代わりに言ってやろうか?本物の内通者はな…」

 

 

 

 

 

赤刎「ジョンだったんだよ。」

 

聞谷「えっ!?」

 

速水「嘘でしょ!?ジョンが内通者なわけないよ!!」

 

赤刎「嘘じゃない。モノクマから、ジョンに内通のチャットが届いていた。ジョンは、大切な人を人質に取られて仕方なく内通してたんだ。」

 

速水「嘘だ!!現に、ましろは自分が内通者だって言ってたじゃんか!!」

 

赤刎「あれは、黒瀬の嘘だ。あえて内通者のフリをする事で、本物の内通者にボロを出させようとしたんだ。」

 

速水「そんな、そんな!!」

 

赤刎「さて…ここで本題だが、お前がジョンを殺ったんだろ?」

 

黒瀬「…。」

 

赤刎「お前は、自分が内通者だと嘘をつく事で内通者を炙り出して殺そうとしていたんじゃないのか?その結果、網にかかったジョンを容赦なく殺した…違うか?」

 

黒瀬「…ふ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黒瀬「ふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ」

 

黒瀬は、突然狂ったように笑い出した。

 

赤刎「黒瀬…?」

 

そして、不気味な笑みを浮かべながらゆっくりと拍手をした。

 

黒瀬「おめでとう、円くん。よくここまで辿り着いたね。…そうだよ。ボクがジョンくんを殺ったんだよ。」

 

安生「なっ…!」

 

コイツは今、確かにハッキリと『殺った』と言った。

自分から犯行を認めやがった。

…何を考えてやがる?

 

弦野「やっぱりテメェが犯人だったか!!」

 

黒瀬「そぉだよぉ。」

 

聞谷「そんな、酷いですわ!!内通者というだけで、どうしてウォーカーさんを…!?」

 

黒瀬「内通者だから殺したんだよ。だって、内通者は殺人を考えてるんだよ?現に、ゆめちゃんもジョンくんに唆されて絵麻ちゃんを殺そうとしたんだから。ジョンくんはボク達にコロシアイをさせようとしたわけだし、お互い様だよ。」

 

弦野「理由になってねぇじゃねぇか!!つーか、内通者のフリしてたテメェが偉そうな口利いてんじゃねぇよ!!」

 

黒瀬「はぁ。もういいから、さっさと投票でも何でも好きにすれば?」

 

弦野「テメェ…!!」

 

一「もういい!!さっさと投票しちゃおうよ!!」

 

速水「そうだよ、これ以上話し合う事は何もないもんね!?」

 

やけにあっさり犯人が決まったな。

…でも、本当に黒瀬が犯人なのかな?

何か、大事な事を見落としてるような気が…

 

モノクマ『うぷぷぷ、どうやら結論が出たみたいですね!?ではでは、投票ター…

 

 

 

枯罰「待たんかド阿呆!!!」

 

そう叫んだのは、枯罰だった。

 

枯罰「…おい。お前ら、肝心な事忘れとるぞ。」

 

速水「何だよ、肝心な事って!?どう考えてもましろが犯人じゃん!!」

 

枯罰「落ち着けや。おいチビ、今回は特別ルールがあったやろ?思い出してみぃ。」

 

特別ルール…

…!

そういう事か!!

 

 

 

コトダマ提示!

 

【動機】

 

「これだ!!」

 

 

 

赤刎「そうだ、動機!!」

 

弦野「はぁ?動機?」

 

赤刎「今回は、『クロが一緒に脱出する一人を指名できる』っていうルールがあった。黒瀬は、それを利用して真犯人と手を組んだんだ!!」

 

一「えぇっ!!?」

 

聞谷「それは本当ですの!?」

 

赤刎「ああ。黒瀬は、今回の事件の共犯者だったんだ!!」

 

弦野「共犯だと!?そんなわけあるか!!」

 

一「黒瀬さんが一人でやった事だ!!そうに違いないよ!!」

 

速水「早く投票しようよ!!」

 

枯罰「まだ早い言うとんねんド阿呆。」

 

聞谷「そうですわね。もう少し慎重に考えてもいいと思います。」

 

安生「あれ、意見が分かれちゃったね。」

 

その言葉を聞いた瞬間、一は顔を真っ青にした。

 

一「嘘でしょ…ねえ、まさかまたアレをやるの…!?」

 

枯罰「いい加減慣れろや。」

 

一「嫌だぁあああああああ!!!」

 

 

 

 

モノクマ『うぷぷぷ、そういう時はボクにお任せ!今回もまた変形裁判所の出番ですな!それでは早速始めましょう!レッツ変形!!』

 

 

 

《意見対立》

 

 

 

そう言ってモノクマは席から謎の装置と鍵を取り出し、鍵を装置に差し込んだ。

すると、俺達の席が宙に浮く。

 

一「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」

 

席が変形し、俺達は二つの陣営に分かれた。

 

 

 

【黒瀬ましろは共犯者か?】

 

共犯者じゃない!黒瀬、弦野、一、速水

 

共犯者だ! 赤刎、安生、聞谷、枯罰

 

 

 

ー議論スクラム開始ー

 

一「だって黒瀬さんは《自白》したじゃん!!」

 

「聞谷!」

 

聞谷「本当に犯人なら《自白》なんてしないはずですわ。」

 

速水「共犯する《メリット》は無いんじゃないの?」

 

「枯罰!」

 

枯罰「どっちに転んでも生き残れるんやから《メリット》しか無いやろ。」

 

弦野「仮に黒瀬が共犯者だったとして、《犯人》が黒瀬を選ぶ保証なんかねぇだろ!!」

 

「安生!」

 

安生「《犯人》に有利になるような取り引きをするか脅すかすれば黒瀬さんを選ぶように仕向けられるんじゃない?」

 

黒瀬「何ですかー、ボクが《嘘》ついてるって言いたいわけ?」

 

「俺が!」

 

赤刎「ずっと内通者だって《嘘》をついて俺達を騙してきただろ。」

 

 

 

 

《全論破》

 

赤刎「これが俺達の答えだ!!」

 

安生「これが僕達の答えだよ。」

 

聞谷「これがわたくし達の答えですわ!」

 

枯罰「これがウチらの答えや。」

 

 

 

赤刎「黒瀬が共犯者だというのはほぼ確定だ。」

 

一「なっ…!!」

 

黒瀬「円くんひっどーい。ボクは共犯なんてしてないもーん。」

 

赤刎「嘘をついても無駄だからな。お前が共犯した目的は…」

 

 

 

ジョンを殺害したのは誰?

 

1.真犯人

2.黒瀬ましろ

3.モノクマ

 

➡︎1.真犯人

 

 

 

黒瀬が自白した理由は?

 

1.観念した

2.投票を間違えさせるため

3.気まぐれ

 

➡︎2.投票を間違えさせるため

 

 

 

黒瀬が共犯をした理由は?

 

1.犯人を手伝いたかったから

2.なんとなく

3.生き残るため

 

➡︎3.生き残るため

 

《COMPLETE!!》

 

 

 

赤刎「黒瀬。お前は自分が生き残るために犯人と手を組んで、自分が犯人だと言ったんじゃないのか?」

 

黒瀬「…ふふっ。」

 

 

 

 

 

黒瀬「きゃはははははははっ!!」

 

黒瀬は、今までの悪役のような表情を一変させて無邪気に笑い飛ばした。

俺達は、完全に黒瀬に騙されていた。

俺達の中の誰もが、黒瀬を犯人だと思い込んでいた。

全ては、自分が生き残るためだけに。

俺達は、コイツにずっと嵌められていたんだ。

 

黒瀬「はぁあ〜っ、あーあ。バレてないと思ったんだけどなぁ。そうよ?ボクは本当はジョンくんを殺してないのだー。」

 

弦野「今更何言ってんだテメェはよ!!」

 

黒瀬「だ、か、らぁ!ボクがクロだって言ったのは嘘なんだってば。ウ・ソ!確かに時計をズラしてジョンくんに強力な音波を浴びせて鼓膜を破った挙句階段から突き落としたのはボクだけど、消火器で殴ってトドメ刺したのはボクじゃないからね〜。」

 

聞谷「つ、突き落としたのですか!?」

 

枯罰「それに今鼓膜破ったって言うたよな?それはお前がやったんか?」

 

黒瀬「あっ、やべっ。これ言っちゃいけないヤツだった。まあいいや。ボクは投票結果が正解だろうが不正解だろうが死なないもんね。そんな事より、さっさと犯人見つければ?」

 

一「見つければって…君は犯人を知ってるんだろ!?」

 

黒瀬「知ってるからって正直に言うと思う?それくらい自分で考えなよ。」

 

弦野「コイツ…」

 

黒瀬「ボク、これ以上は何も喋らないからね?だってボクは犯人さんの味方になったんだも〜ん。裏切ったらお友達に選んでもらえなくなっちゃうよ〜。あ、ボクは寝てるからみんなで議論を進めればいいよ。」

 

黒瀬は、そう言って本当に寝始めた。

どうやら本気でこれ以上議論に参加する気は無いようだ。

 

安生「仕方ない、僕達で議論を進めよう。黒瀬さんと組んでウォーカー君を殺した真犯人…それは一体誰だったのかな?」

 

赤刎「…一人、心当たりのある奴がいる。」

 

そう、ソイツは今のところ唯一アリバイが証明されていない人物だ。

正直今までの犯行から考えてコイツが犯人の可能性は低いと思っていたが、黒瀬が共犯者なら納得がいく。

ソイツは、きっと黒瀬に操られてジョンを殺したんだ。

ソイツは…

 

 

 

 

《人物指定》

 

 

 

 

赤刎円

 

安生心

 

神崎帝

 

聞谷香織

 

黒瀬ましろ

 

漕前湊

 

枯罰環

 

札木未来

 

仕田原奉子

 

ジョナサン・ウォーカー

 

武本闘十郎

 

弦野律

 

一千歳

 

速水蘭華

 

筆染絵麻

 

宝条夢乃

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

➡︎速水蘭華

 

 

 

 

 

 

 

 

 

赤刎「…速水、お前が犯人だったんだな。」

 

速水「…えっ?えっ?」

 

速水は、自分の状況が飲み込めていないのか自分が犯人だと言われてキョトンとしていた。

だが、ようやく状況を理解すると表情を一変させた。

 

速水「はっ…はぁあああああっ!!?えっ、ちょっ…円!?何言ってんの!?アタシが犯人!?そんなわけないじゃん!!だってアタシはバカなんだよ!?それに機械音痴だし、殺人なんて計画できるわけないよ!!」

 

赤刎「今回の場合、別にお前が計画しなくてもいいんだ。今回の事件は、計画犯が黒瀬で実行犯はお前なんだろ?お前は、唯一無実を証明できないからな。それにお前、今回の裁判はやけに口数が少なかったよな。黒瀬に『ボロが出るから喋るな』とでも言われてたんじゃないのか?」

 

速水「ふざけんな!!アンタはそれだけで疑うのかよ!?アタシはやってねぇっつってんだろうが!!そんな事言ったら、千歳だって…!!」

 

一「ぼ、ボクは高い所怖いから一人じゃタワーに登れないんだよー…あは、あははははは…」

 

速水「それに、アタシにはアリバイが無いっつったけど、アタシにはちゃんとアリバイがあるんだよ!!」

 

 

 

ーーー議論開始!!ーーー

 

 

 

速水「アタシは《犯人じゃない》!!それはアンタ達だってわかってるでしょ!?」

 

聞谷「え、ええと?」

 

速水「ほら、夜のアナウンスが流れる直前《アンタ達と会った》じゃん!!」

 

安生「あっ…そういえばそうだったね。」

 

速水「アンタ達と会ったのは、事件発生から5分ちょっとだった!!タワーからホテルまで5分で着くわけねぇだろうが!!」

 

一「確かに…」

 

枯罰「納得すんなやボケ。どうせ短時間で移動する手段があったんとちゃうんか?」

 

速水「そんなの《あるわけねぇ》だろ!!」

 

…もしかして、あの証言が役に立つんじゃないか?

 

 

 

《あるわけねぇ》⬅︎ 【黒い紐】

 

「それは違うぞ!!」

 

《論 破》

 

 

 

赤刎「いや、短時間で移動する手段があったんじゃないか?」

 

速水「何を根拠に…!!」

 

赤刎「一が、タワーからホテルに黒い紐のようなものがかかっていると証言していた。あれは多分、短時間で移動するトリックに使われたものだ。」

 

速水「ッ…!!」

 

 

 

速水「スタミナ不足なんじゃないの!!?」

 

《反 論》

 

 

 

赤刎「速水?」

 

速水「黙って聞いてりゃアタシが犯人だと!?んなわけねぇだろ!!推理もランニングも、スタミナ不足は命取りになるんだよ!!」

 

赤刎「あのなぁ、速水…」

 

速水「うるせぇ!!アタシはやってねぇっつってんだろうが!!」

 

 

 

ー反論ショーダウン開始ー

 

速水「黒い紐!?何でそれがアタシがホテルにいた事と関係があるんだよ!!?」

 

赤刎「今はまだわからない。だが、お前が犯行時刻の直後にホテルに辿り着いた事と無関係だとは思えないんだ。」

 

速水「だからアタシはずっとホテルにいたっつってんだろうが!!」

 

赤刎「じゃあ一が見た黒いロープは?」

 

速水「知らねぇよそんなもん!!大体黒いロープって何だよ!?《物理室にあったロープは青》だから違うじゃねぇか!!」

 

ちょっと待て、今大事な事を言わなかったか?

 

《物理室にあったロープは青》⬅︎【青いロープ】

 

「その言葉、ぶった斬る!!」

 

《論 破》

 

 

 

赤刎「おい、速水。」

 

速水「あぁ!?何だよ!?」

 

赤刎「確かに俺は、黒い紐を見たという発言を途中で黒いロープを見たという発言にすり替えた。調査の結果、ロープが使われたと断定できたからな。」

 

速水「それがどうしたんだよ!?」

 

赤刎「でも俺は、ロープが物理室のものだなんて一言も言ってないぞ?」

 

速水「えっ」

 

赤刎「それに、お前肝心な事をわかってないんじゃないのか?」

 

速水「肝心な事!?何だよ!?」

 

赤刎「色っつーのは、光の反射だ。当然、光の量が少ない場所では色の正確な判断が難しくなる。その結果、普段見る色より暗い色に見えるんだ。一がロープを見たと言ったのは暗い屋外だったから、青を黒に見間違えたんだろう。…物理室を探索してないお前が、何でロープの元の色を知ってたんだ?」

 

速水「え、えっと…」

 

赤刎「お前は自分から進んで物理室に探索や勉強目的で行くような奴じゃないし、ロープの元の色を知ってるわけないよな?」

 

速水「ぐっ…」

 

弦野「フン、語るに落ちる…ってやつか。」

 

黒瀬「あーあ、だから黙ってろって言ったのに。」

 

弦野「テメェ、寝てたんじゃなかったのかよ。」

 

黒瀬「んあー、これは寝言だよ。返事しないでね。」

 

聞谷「本当に寝ながら喋ってますわね…」

 

黒瀬「イルカさんは脳みそを半分寝た状態にできるんだよー。…ぐぅ。」

 

一「無駄に器用!!」

 

枯罰「そこ、脱線すんなや。とりあえず、速水がどうやって短時間で移動したのかを話し合おか。」

 

速水「勝手に犯人だって決めつけんな!!」

 

 

 

ーーー議論開始!!ーーー

 

 

 

黒瀬「《ワープ》だよきっとー。」

 

枯罰「お前もう黙れや。口縫うぞ。」

 

一「《全力ダッシュ》とか?」

 

速水「いくらアタシだってあの距離を5分で走るのはキツいよ!!」

 

枯罰「それに走ったんやとしたら見掛けた時息切らしとる筈やろ。」

 

弦野「《自転車》でも使ったんじゃねぇのか?」

 

安生「途中にタイヤ痕はなかったよ?」

 

聞谷「《窓から飛び降りた》…とかではないですわよね。」

 

 

 

《窓から飛び降りた》⬅︎【展望エリアの窓】

 

「それに賛成だ!!」

 

《同 意》

 

 

 

赤刎「展望エリアの窓のロックが外れていた。多分、速水はそこから移動したんだ。」

 

速水「窓がどうしたんだよ!?まさかとは思うけど、タワーからホテルまで飛んで移動したとか言わねぇだろうな!?」

 

赤刎「とぼけるなよ。ロープを使ったんだろ?」

 

速水「証拠はあんのかよ!!」

 

 

 

コトダマ提示!

 

【柱に何かを巻き付けた痕】【窓枠に何かを巻き付けた痕】

 

「これだ!!」

 

 

 

赤刎「展望エリアの柱とホテルの窓枠にロープを巻きつけた痕があった。これがどういう事かわかるか?」

 

速水「わかんねぇよ!!」

 

赤刎「…はぁ。タワーの窓とホテルの窓は、ロープで繋がれてたんだよ。一が見た黒い紐は、おそらくそれだ。」

 

聞谷「でも、待ってくださいまし。ロープで窓同士を繋いだとして、どうやって移動したんですの?

 

赤刎「それは…」

 

考えろ…

どうやって速水が窓から短時間で移動したのか…!

 

 

 

 

 

ー閃きアナグラム開始ー

 

 

 

ロ ー プ ヲ ス べ リ オ リ タ

 

 

 

【ロープを滑り降りた】

 

「これだ!!」

 

 

 

赤刎「速水は、ロープを滑り降りたんだ!!それなら、短時間で移動できるだろ!?」

 

聞谷「んなぁっ…!?」

 

赤刎「さらに言うと、速水はロープを滑り降りる時にあるものを使ったんだ。」

 

 

 

コトダマ提示!

 

【ハンガー】

 

「これだ!!」

 

 

 

赤刎「速水は、ハンガーにぶら下がってロープを滑り降りたんだ。」

 

弦野「マジかよ!!?」

 

一「確かに理屈は通ってるけど…」

 

安生「でも、それだと距離と高さ的に勢いがつきすぎて速水さん死んじゃわない?」

 

赤刎「だろうな。だから速水は、滑り降りる勢いを殺すためにあるものを使ったんだ。」

 

 

 

コトダマ提示!

 

【擦り切れたハンカチ】

 

「これだ!!」

 

 

 

赤刎「焼却炉に擦り切れたハンカチが捨てられていた。おそらく、ハンガーにハンカチを巻きつけて摩擦を起こしたんだ。」

 

安生「なるほどね…」

 

枯罰「でもなぁ…それでもホテルの中に移動する時に速水が怪我してまうんとちゃうか?」

 

赤刎「だろうな。だからちゃんと対策もしてたんだよ。」

 

 

 

コトダマ提示!

 

【窓際に散らばった布団】

 

「これだ!!」

 

 

 

赤刎「速水は、ホテルの中に飛び込む時に怪我をしないように窓際に大量の布団を置いておいたんだ。」

 

弦野「大量の布団だと!?どっから持ってきたんだよそんなモン!!」

 

聞谷「亡くなった方の個室だと思いますわ。亡くなった方の個室には、パスポート無しで入室可能ですので…」

 

枯罰「なるほど…これで謎はなくなったっちゅうわけか。」

 

速水「まだだよ!!まだアタシが犯人だと決まったわけじゃない!!」

 

赤刎「いや、お前が殺ったっていう証拠はあるんだ。」

 

 

 

コトダマ提示!

 

【布団の靴の痕】

 

「これだ!!」

 

 

 

赤刎「布団には、靴の痕がついていた。普通、布団に靴の痕なんてつかないよな?」

 

速水「それがどうしたんだよ!?アタシのじゃないかもしれねぇだろ!?」

 

枯罰「呆れた…この期に及んで言い逃れする気なんか。もうええ、おいチビ。トドメ刺したれや。」

 

赤刎「ああ。」

 

 

 

速水「アタシは犯人じゃねぇっつってんだろ!!」

 

【速水】 【の】 【履いている】 【シューズ】

 

赤刎「これで終わりだ!!」

 

 

 

赤刎「速水。お前が犯人じゃねぇって言うなら、シューズを見せてくれないか?」

 

速水「はぁ!!?」

 

赤刎「もし布団の靴の痕とお前のシューズの裏の模様が一致すれば、お前が犯人だって事になる。ほら、早く見せろ。」

 

速水「ふざけんじゃねぇ!!アタシは、アタシは犯人じゃない!!アタシはましろの言う事を聞いてジョンの頭を砕いただけよ!!殺したのはましろだ!!」

 

枯罰「あちゃー、頭かち割ったんは認めてまうんかいな。」

 

速水「あっ…」

 

黒瀬「…んぅ、えーっと、今どこまで進んだ?」

 

弦野「チッ、やっと起きたか。もうそろそろ裁判終わるぞ。」

 

黒瀬「えー。」

 

速水「ま、ましろ!!アンタ、アタシに協力してくれるって言ったでしょ!?お願いだから庇ってよ!!ジョンはアンタが殺したんだよね、ねぇ!?」

 

 

 

黒瀬「んーっとねぇ…ジョンくんを殺したのはー、蘭華ちゃんでーす。」

 

速水「………は?」

 

黒瀬「ボクね、やっぱり円くんの味方になる事にしたんだー。…ああ、違った。ボクは元々キミを勝たせる気なんて無かったんだよ。」

 

速水「ちょっ…どういう事!?」

 

黒瀬「だって、キミを勝たせたら円くんが死んじゃうじゃん。円くんが死ぬのが前提の取り引きなんてね、初めから成立しないんだよ。沈むとわかってる泥舟に大好きな人を乗せるバカがいると思う?」

 

速水「テメェ…!!ふざけんな!!殺してやる!!」

 

黒瀬「ご自由にどうぞ。そしたらキミの罪が重なるだけだけどね。円くん、もうトドメ刺しちゃっていいよ。」

 

赤刎「…最後に、事件の真相を振り返ろう。」

 

 

 

ークライマックス推理開始!ー

 

【Act.1】

事の発端は、前回の裁判で内通者の存在をモノクマに知らされた事だった。

この時、黒瀬はわざと内通者を名乗る事で内通者を炙り出す算段だった。

そして、狙い通り網に掛かった奴がいた。

それが今回の被害者であるジョンだった。

モノクマから4つ目の動機を聞かされた時、黒瀬は自分は手を汚さずに邪魔な内通者を消し、かつ裁判でどっちに転んでも生き残れる作戦を思いついたんだ。

 

【Act.2】

まず、黒瀬は俺達を映画に誘い、俺達が映画に夢中になっている間にレーザーガンで管理室の機械に誤作動を起こし時計を狂わせた。

そして何事もなかったかのように映画館に戻り、俺達と一緒に映画を見た。

今思えば、黒瀬が俺達を映画に誘ったのは映画に夢中にさせて時計を確認させないためだったんだ。

その後、俺達がプレイルームでゲームに夢中になってる間に盗み出したロープでタワーの窓とホテルの窓を繋ぎ、窓際に布団を置いておいた。

これで事件の下準備は整った。

 

【Act.3】

次に黒瀬は、何か理由をつけてジョンをタワーの6階に呼び出し、音波発生装置とスピーカーを使った上でジョンを階段から突き落とし、ジョンの身体の自由を奪った。

そこへ犯人を呼び出し、消火器でジョンの頭を原型がなくなるまで砕くように言ったんだ。

今回の動機で黒瀬の協力者となっていた犯人は、言われるがままにジョンの頭を砕いた。

その結果、ジョンは命を落としてしまったんだ。

 

【Act.4】

ジョンを殺した後、あらかじめ黒瀬からトリックを聞かされていた犯人はハンカチを巻きつけたハンガーでロープを滑り降りた。

ロープには傾斜がついていたから、5分足らずでホテルの窓へ辿り着いた。

そうしてホテルに辿り着いた犯人は、その後何事もなかったかのように俺達の前に現れた。

移動に使ったロープを一に見られてしまっていたとも知らずにな。

 

【Act.5】

犯人がホテルに無事着いたのを確認した黒瀬は、夜時間を知らせるアナウンスの設定をいじって、9時半にアナウンスを流した。

俺達は、このアナウンスがホテルの時計に合わせて放送されたせいで、時計がずらされている事に気付かなかったんだ。

そして黒瀬は俺達が部屋に戻り寝静まったタイミングで時計を元に戻し、タワーとホテルを繋いでいたロープを回収した。

そして黒瀬は、ジョンを探すときに死体発見アナウンスでこの事がバレないように俺と同時にジョンの死体を発見し、自分を犯人候補から外したんだ。

 

【Act.6】

今回の事件を難航させた原因、それは『クロがもう一人脱出できる奴を選ぶ事ができる』という、共犯のメリットがある動機だった。

犯人は黒瀬の『自分を選んでくれるなら勝たせてやる』という甘い言葉に釣られてジョンの殺害を決行した。

一方で黒瀬は、約束通り犯人を勝たせるために迫真の演技で俺達に自分が犯人だと思い込ませた。

でも黒瀬は実は約束を守る気なんてなくて、黒瀬の暴露によって犯人が追い詰められる結果となったんだ。

…俺にはわからない。

どうしてお前が黒瀬に操られてジョンを殺してしまったのか…

 

「これが事件の真相だ。そうだろ!?【超高校級のランナー】速水蘭華!!」

 

 

 

速水「はぁああああああああ!!?ふざけんじゃねぇ!!!アタシは犯人じゃねぇっつってんだろうが!!アタシは嵌められたんだよ!!アタシは悪くない!!」

 

黒瀬「んー…ごめんね蘭華ちゃん。ちょっと何言ってんのかわかんないかな。みんなー、死にたくなかったら蘭華ちゃんに投票よろしくー♪」

 

弦野「ふざけんな!!テメェもジョナサンを殺しただろうが!!テメェに投票してやる!!」

 

黒瀬「ん?ボクはジョンくんの鼓膜を破って階段から突き落としただけだよ?だからボクに投票したら自分の首を絞めるだけなんだよなー、これが。」

 

弦野「くっ…!!」

 

黒瀬「クマちゃーん、早く投票始めてよ、ボク喉乾いちゃった。」

 

モノクマ『うぷぷぷぷ、それではもう結論が出たみたいなのでアレいっちゃいましょうか!投票ターイム!!一応もう一回言うけど、ちゃんと誰かに投票してよね?それと、ちゃんと実行犯に投票してよね?間違えて共犯者に投票しないでねー!』

 

モノクマがそう言うと、席にボタンが表示され投票時間が始まった。

投票しなければ俺が死ぬんだ。

俺は、迷いながらも速水に投票した。

 

モノクマ『投票の結果、クロとなるのは誰なのかー!?その結果は正解か不正解なのかー!?ワクワクでドキドキの投票ターイム!!』

 

モニターにスロットが表示される。

ドラムロールと共にリールの回転速度が落ちていき、速水の顔のドット絵が3つ揃った所でリールが止まった。

その直後、正解を褒め称えるかのように、はたまた俺達の潰し合いを嘲笑うかのように歓声と共に大量のメダルが吐き出された。

 

 

 

《学級裁判 閉廷!》

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

ー生存者ー

 

【超高校級の講師】赤刎円

 

【超高校級のカウンセラー】安生心

 

【超高校級の香道家】聞谷香織

 

【超高校級の脚本家】黒瀬ましろ

 

【超高校級の傭兵】枯罰環

 

【超高校級のヴァイオリニスト】弦野律

 

【超高校級のソフトウェア開発者】一千歳

 

【超高校級のランナー】速水蘭華

 

ー以上8名ー

 

 

 




ジョンクンは、武本クンと仕田原ちゃんとは逆に全員がクロ予想してた子でした。
速水ちゃんはシロ予想とクロ予想が半々って感じです。
はたまた予想を覆せたようでワシャ満足。


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非日常編④(オシオキ編)

楽園生活9日目、午後1時。

 

「ジョンくーん。ちょっといいかな?」

 

「マシロか。What up?」

 

「あのねー、お話があって来たの。」

 

「?」

 

「実はーーー」

 

 

 

ーーー

 

 

 

楽園生活18日目、階段前にて。

 

「あーあ、ジョンくんが急に襲ってくるからだよぉ。ボクは悪くないもんねー♪」

 

「ちょっと、何の騒ぎ…って、えっ!?ちょっ、ちょっと!!これ、どういう事…!?」

 

「ぐすっ、うえ〜ん、蘭華ちゃん!どうしよう!ボク、ジョンくんを殺しちゃったよぉ…」

 

「なっ…殺したって…それ本当!?」

 

「うん…いきなり襲われたから抵抗したら階段から転げ落ちて頭打っちゃったの…」

 

「え…」

 

「…ねえ、蘭華ちゃん。ボクのお願い、聞いてくれる?」

 

「お願い?何?」

 

「あのね…」

 

 

 

ーーー

 

 

 

 

 

VOTE

 

速水蘭華 7票

 

黒瀬ましろ 1票

 

 

 

『うぷぷぷぷ、お見事大正解ー!!【超高校級の冒険家】ジョナサン・ウォーカークンを殺したのは【超高校級のランナー】速水蘭華サンでしたー!!オマエラ4連続正解なんてやるぅー!!』

 

「違う違う違う!!こんなつもりじゃなかった!!アタシはましろの隠蔽工作を手伝っただけだ!!」

 

「あーあ、まだ言うとんのか。ええ加減認めぇや。お前はそこのクソ女に騙されたんや。」

 

「うるせぇ!!アタシは犯人じゃない!!犯人はましろだ!!こんなの不正だ、間違ってる!!」

 

正直、犯人を特定できたのはいいものの全く状況を理解できない。

俺は、気になっている事をモノクマに聞く事にした。

 

「…なあ、モノクマ。」

 

『何ですか?』

 

「…ジョンは、どうして黒瀬に狙われなきゃいけなかったんだ?」

 

『それをボクに聞きますか。まあいいや、ご説明しましょう。まずね、オマエラの言う通りジョンクンは内通者だったんだよ。ちなみにジョンクンが内通者だったのは、オマエラが全員ホープステーションに集まる前から。探索中にジョンクンの家族と友達を人質に取ったってチャットと証拠写真を送ったらあっさり寝返ってくれたよ。3度目の殺人の時は、宝条サンを唆して大活躍してくれたっけ?』

 

「…。」

 

今更驚きはない。

むしろ、内通者と聞いてモノクマの手先だと想像していたが、ジョンは大切な人を守るために内通をしたんだと聞いて少し安心すらしている。

宝条と筆染が殺し合うように仕向けた事は許せない。

でも、それはジョンも望んでなかった事だったんだ。

やっぱりジョンは、根っからの裏切り者じゃなかった。

 

『えー、ここから先はボクの口から説明するのは色々とめんどくさいのでVTRを見ていただきます!それでは、VTRスタート!!』

 

 

 

 

 

モノクマがそう言ってリモコンのスイッチを押すと、ジョンと黒瀬の二人が映し出される。

 

「ジョンくーん。ちょっといいかな?」

 

「マシロか。What up?」

 

「あのねー、お話があって来たの。」

 

「?」

 

「実は、気付いちゃったんだ。キミが内通者だって事。」

 

黒瀬が首をクリンと傾げると、ジョンはとぼけたように笑う。

 

「Well…What are you saying?」

 

「ああ、別に無理して英語で話す事ないよ?キミの秘密を知ってるんだから。…キミさ、日本人でしょ?」

 

「!?」

 

「確かに人種的にはアメリカ人だけど、おとーさんとおかーさんが日本に滞在してた時に生まれたから日本国籍を持つ日本人として育てられたんだよね?ボクに送られた秘密にはそう書いてあるんだけど?内通者だってバレないようにするためにあえて国籍を隠して英語混じりの変な日本語使ってるんでしょ?」

 

黒瀬が見透かしたように言うと、ジョンは観念したかのようにため息をついた。

 

「…はぁ。モノクマの奴、よりによってコイツにオレの秘密を送りやがって…オマエ、オレの内通にはいつから気付いてたんだ?」

 

ジョンは、驚くほど流暢な日本語で話し始めた。

今までの喋り方も上手い方ではあったのだが、今のジョンの喋り方は完全に日本人のそれだった。

 

「疑い始めたのは1日目のミーティングが終わった後。今回の秘密で確信に変わったって感じかな。」

 

「…マジかよ。あーあ、うまくやってたと思ったんだがな。で?どうする気だ?みんなに言いふらすか?」

 

「まさかぁ。取り引きしに来たんだよ。」

 

「取り引きだと?」

 

「ボクはキミの秘密を誰にも言わないし、キミにボクの秘密を教えてあげる。キミの都合のいいようにうごいてあげるっていうオマケもつけていいよ。だから、クマちゃんからのメッセージを逐一ボクに報告してほしいの。」

 

「オレに二重スパイをやれと?」

 

「そういう事。」

 

「…それがバレたら、オレの人質はどうなると思う?」

 

「ふーん、乗り気じゃないっすか。…これを聞いても同じ事が言えるかな?」

 

黒瀬は、ジョンに何かを耳打ちした。

それを聞いた途端、ジョンの顔が青ざめていく。

 

「…わかった。オマエに協力する。」

 

「さすが、話が早くて助かるよ。あ、安心して?情報交換はクマちゃんにバレないように監視カメラが無いここでやるから。で、早速なんだけど、クマちゃんが送った全員の秘密と、それを誰に送ったのかを教えてもらえる?…知らされてるよね?」

 

 

 

 

 

『うぷぷぷぷ!ビックリだよね!まさかお調子者でおバカキャラのジョンクンが二重スパイだったなんてさ!』

 

「ああ、ちなみにボクが内通者だって自白したのは、本当は内通者を炙り出すためじゃなくてみんなの注意を逸らすためだったんだー。」

 

「そんな…協力者だったなら、何でジョンを殺したんだ!?」

 

「違うんだって。ボクは、初めからジョンくんを排除するつもりだったんだよ。だってボクはみんなの事が大好きなんだもん。みんなを裏切る子なんていらないよね?」

 

「ふざけんな…お前は、そんな理由でジョンを殺したのかよ!?」

 

「そんな理由って…円くんさぁ、ジョンくんがした事忘れちゃったの?ジョンくんは、ボク達を裏切ってボク達にコロシアイをさせようとしたんだよ?未来ちゃんも闘十郎くんも湊くんも帝くんもゆめちゃんも絵麻ちゃんも奉子ちゃんも、みーんなアイツのせいで死んだんだよ?現にボク、アイツに殺されかけたんだから。」

 

「えっ…?」

 

「ボクだって鬼じゃないからね。いきなり殺すなんて事はしないよ。ボクは、ジョンくんに言ったんだよ。せめて内通してる事だけでも正直に言えばって。それでジョンくんが心を入れ替えてみんなのために動いてくれるなら、ボクだって殺したりなんかしなかったよ。でもアイツはボクを殺そうとしてきたんだよ!?だから音響兵器で鼓膜を破って階段から突き落としたんだ!!むしろ感謝してほしいくらいだよ。ボクは、みんなのために身体を張って危険因子を排除したんだからさ。」

 

「そんな…待ってよ!!じゃあ、アタシに協力させたのは何だったんだよ!!?アタシは、アンタの言う事を聞けば絶対勝てるって言うから言う事聞いたんだ!!」

 

「えー、そんな事言ったっけ?」

 

「アンタ…まさかあの約束を忘れたとかいう気じゃないでしょうね!?」

 

「や、約束…?」

 

「何だ、どういう事だ?」

 

『うぷぷぷぷ、それについてもこちらの映像を見ていただきましょう!』

 

 

 

 

 

「あーあ、ジョンくんが急に襲ってくるからだよぉ。ボクは悪くないもんねー♪」

 

黒瀬は、鼓膜を破られて階段から突き落とされ気を失ったジョンを見下ろしてため息をついた。

すると、そこへ速水が駆けつける。

 

「ちょっと、何の騒ぎ…って、えっ!?ちょっ、ちょっと!!これ、どういう事…!?」

 

「ぐすっ、うえ〜ん、蘭華ちゃん!どうしよう!ボク、ジョンくんを殺しちゃったよぉ…」

 

「なっ…殺したって…それ本当!?」

 

「うん…いきなり襲われたから抵抗したら階段から転げ落ちて頭打っちゃったの…」

 

「え…」

 

「…ねえ、蘭華ちゃん。ボクのお願い、聞いてくれる?」

 

「お願い?何?」

 

「あのね…ジョンくんの頭をかち割ってほしいの。」

 

そう言って、黒瀬は消火器を速水に渡した。

 

「な…!?」

 

「ボクはジョンくんを殺しちゃったから、それがバレたらオシオキされちゃう。でもボクは死にたくない。だから、蘭華ちゃんに隠蔽工作を手伝ってほしいの。」

 

「ふ、ふざけんな!何でアタシがそんな事…」

 

「…キミさ。弟くんがいるんだよね?一番下の子はまだ幼稚園児なんだっけ?」

 

「な…何でそれを…!」

 

「内緒。でも、いいのかなぁ?颯くん、キミの帰りをずっと待ってるんじゃないの?お姉ちゃんと離れ離れになってかわいそうだよ。」

 

「うっ…」

 

「…お願い。ボクが勝ったら、一緒に脱出するもう一人にキミを選んであげるから。ね?」

 

「…くっ!!」

 

その言葉を聞いた速水は、躊躇なくジョンに消火器を振り下ろした。

共犯者になれば、裁判がどっちに転んでも生き残れる。

それは、速水にとっても魅力的な提案だった。

速水も、結局は外に出たかったんだ。

 

「さあ、頭を砕いたよ!!だからアタシを…」

 

「…ふふふふふっ。蘭華ちゃん。キミはホントに…」

 

「?」

 

 

 

「バカだよねぇ〜!!」

 

「………は?」

 

「共犯者は裁判がどっちに転んでも生き残れるんだよ?そんなおいしいポジションを易々譲るわけないじゃん。ボクね、ジョンくんを殺しちゃったって言ったけど、実はあの時ジョンくんは気を失ってるだけでまだ生きてたんだよね。要は、ジョンくんを殺したのは蘭華ちゃん、キミって事!」

 

「な…あ、アンタよくも騙したわね!?あ、アタシどうすりゃいいんだよ!?」

 

「心配しないで?ボクを選ぶって約束してくれるなら、裁判でキミが勝てるように動いてあげるから。」

 

「ふざけんな!!アンタだけは絶対選ばない!!」

 

「あっそ。じゃあ、この事をみんなに言いふらしちゃおっかな〜?」

 

「ッ…!!」

 

「そーそー、キミは頭が軽いんだから黙ってボクの言う事聞いてりゃいいの。とりあえず、ボクの指示した事は必ず実行する、それと裁判中はボロが出るから極力喋らない、この二つを守ってくれれば大丈夫だから。」

 

「…。」

 

「安心しなよ。ボクが必ずキミを勝たせてあげるから。」

 

 

 

 

 

「アタシは…ましろが絶対勝てるって言うから…!!」

 

「ふふふっ、何馬鹿な事言ってるの?キミを勝たせるわけないじゃん。ボクが100%生き残れる保証がないし、何より円くんが死んじゃうじゃない。」

 

「テメェ…!!元はと言えばテメェのせいじゃねぇか!!本来なら、アタシがアンタの立場にいるはずだったんだ!!アタシは、アンタの言う事を聞けば生き残れると思ったから言う事を聞いたんだ!!アタシは嵌められたんだよ!!」

 

「…まあ、これは速水に非があるなぁ。少なくともあの場で何もせぇへんかったら、ジョンが重傷負って終わりやったわけやろ?このクソ女が嘘吐きやとわかっとったのにホイホイ言うこと聞いたお前が悪い。」

 

「そういう事。蘭華ちゃ〜ん、キミみたいなおバカはね、利用されるためだけに存在してるんだよ。いい?一度しか言わないからよく聞いてね?騙される方が悪いんだよ。」

 

「テメェ…よくも…よくもよくもよくも!!ブッ殺してやる!!!」

 

速水は、血相を変えて黒瀬に襲いかかった。

 

「う゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!」

 

「…。」

 

黒瀬は、涼しい顔で速水の拳を避けると、そのまま左足首を掴んで放り投げた。

 

「それっ」

 

「ぐぁっ…!!」

 

「キミ、足は速いけど瞬発力とか反射神経とかは大した事ないんだね。」

 

「くっ…!」

 

「ボク、可愛いからストーカーに付き纏われる事が多くてさ。その対策でちっちゃい頃から独学で身体鍛えてたんだよね。人は見かけによらないって言うでしょ?」

 

「おい、黒瀬…」

 

「ああ、心配しないで円くん。ボクだって流石にこの状況で殺すほどバカじゃないよ。…さ、クマちゃん。もう茶番にも飽きたし始めちゃってよ。」

 

『んあっ、やべっ。出番無さすぎて寝てた。それじゃあ、そろそろ景気良くヤっちゃいましょうか!』

 

モノクマの『ヤる』という言葉を聞いた瞬間、殺意で真っ赤になっていた速水の顔は一気に青ざめた。

 

「!?ま、待て!!アタシは犯人じゃない!!アタシは嵌められたんだよ、ましろに…このクソ女に騙されたんだ!!こんな裁判無効だ!!やり直せ!!」

 

「騙されたとかそういう問題じゃないよねぇ、実行犯さん?」

 

「うるせぇ黙れ!!クソッ、クソクソクソ!!何でこうなるんだよ!!アタシは悪くない!!全部このクソ女が悪いんだよ!!オシオキするならコイツをやれよ!!アタシは殺人なんてしてない!!コイツさえいなきゃ…コイツさえいなきゃ、ジョンは死ななかったんだぞ!!」

 

『えー、ちょっと何言ってんのかわかんないですね。』

 

「は!!?」

 

『だってキミさ、黒瀬サンに騙されてたとはいえ思いっきりジョンクンの頭かち割ったよね?形がなくなるまで、何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も消火器を振り下ろしたよね?』

 

「っ…そ、それは…」

 

「うっ…!?」

 

「うげ…う、嘘でしょ!?どんな神経してたらそんな酷い事ができるの!?」

 

「あ、あの…ち、違うのみんな!だって、アタシはジョンが生きてるなんて思わなかったから…」

 

「死体だったとしても原型なくなるまで人の頭を消火器で殴るとか、どう考えてもまともな神経してる奴がする事じゃねぇだろ。」

 

「ッ…!!」

 

「同感や。同情の余地なんざあるわけないやろ。」

 

「あ、ああああ…」

 

『はいはい、それじゃあ仲間に見捨てられちゃった可哀想な速水サンには、ボクからとっておきのオシオキをプレゼントするよ。』

 

「は!?い、嫌だ!!こんなしょうもない死に方するなんて絶対嫌!!アタシ、まだやりたい事いっぱいあるのに!!こんな所で死にたくない!!誰か…誰か助けて!!助けてよ!!」

 

「「「…。」」」

 

「あ、あの…」

 

「速水さん…」

 

速水は、その場で泣き言を言いながら暴れ回った。

誰も、救いの手を差し伸べようとはしなかった。

聞谷や安生はまだ同情の目を向けていたが、枯罰、弦野、一に至っては完全に速水を見限っていた。

 

「速水…」

 

「円くん、まさかコイツを助けようなんて思ってないよね?コイツはジョンくんの頭をかち割って殺したんだよ?」

 

「っ…」

 

『さてさて、茶番に尺を取りすぎたし巻きでいくよ!』

 

「まっ、待ってくれモノクマ!!何も殺さなくても…!!」

 

『待ちません待てません待ちたくありませーん!それじゃ、とびきりエクストリームなヤツいっちゃいますか!』

 

「いやっ!!嘘でしょ!?なんでアタシがオシオキされなきゃいけないんだよ!!アタシは悪くない!!誰も殺してない!!」

 

「モノクマ、俺からも頼む!!やめてくれ!!」

 

『今回は、【超高校級のランナー】速水蘭華サンのために!!スペシャルな!!オシオキを!!ご用意しました!!!』

 

「クソッ、速水…!!」

 

「やだやだやだ!!死にたくない死にたくない死にたくないぃいいいいいい!!!」

 

『ではでは、オシオキターイム!!!』

 

「いやあぁあああああああああああああああぁあああああああああああああああああああああああ!!!!」

 

 

 

罪人の処刑を宣言するモノクマの声が響き渡ったかと思うと、今度は速水の悲痛な叫び声が裁判所全体に響いた。

モノクマはピコピコハンマーを取り出して、一緒に出てきた赤いボタンをハンマーで押した。

ボタンに付いている画面に、ドット絵の速水をモノクマが連れ去る様子が映っていた。

 

 

 

 

 

ーーー

 

GAME OVER

 

ハヤミさんがクロにきまりました。

 

オシオキをかいしします。

 

ーーー

 

 

 

速水は、背後から伸びたアームのようなものに首を掴まれそのまま裁判所の外へと引きずっていった。

速水が連れて来られたのは、古代ギリシャをモチーフにした街だった。

速水はロープで身体を縛られ、その様子を王の格好をしたモノクマが高みの見物をしていた。

そこで画面上に文字が現れる。

 

 

 

ーーー

 

走れランナー

 

【超高校級のランナー】速水蘭華 処刑執行

 

ーーー

 

 

 

モノクマの横には速水の弟と思われる幼い少年3人がおり、家臣モノクマは3人の首に剣を突きつけていた。

その上には『時間内に走り切れなければ即処刑!!』と書かれていた。

顔を真っ青にし、ようやく状況を理解した速水はスタートラインに立たされる。

するとその直後ロープを解かれて靴を脱がされ、国王モノクマがマラソン開始の合図としてゴングを鳴らした。

 

ゴングの音と同時に、速水は走り出す。

速水は普通の選手ならすぐに体力切れになるであろう速度で走ったが、全く息を切らす様子はなかった。

舗装されていない砂利道を裸足で走っているので尖った砂利で足の裏に傷がつくが、それでも速水は懸命に走った。

スタート地点から数km走ったところで、少し寂れた村が見えて来た。

すると、村から村人モノクマと白いドレスに身を包んだモノクマが飛び出し、一斉に弓矢を構えた。

速水は無数の矢の雨を避けながら走るが、避けきれずに何本か矢を喰らってしまう。

太腿に矢を喰らった速水が倒れ込むと、今度は白いタキシードに身を包んだモノクマが指笛を鳴らした。

するとコース内に大量の羊が押し寄せ、羊の群れが速水を撥ね飛ばした。

吹っ飛ばされた速水の頭を牧師の格好をしたモノクマが聖書の角で殴り、白ドレスモノクマがバケツに入った汚水を速水に浴びせた。

 

汚水に塗れ満身創痍になった速水だが、弟達のために再び走り出した。

さらに数百m走ると、再び村が見えてきた。

すると今度は火炎放射器を持った村人モノクマが現れ、速水目掛けて炎を浴びせる。

速水は炎を避けながら走り続けるが、負傷し灼熱に晒され体力を奪われていく。

 

ようやく灼熱地獄を走り切ったかと思うと、今度は目の前に氾濫した川が見えた。

あまりの激しい水流に速水の足が竦むが、コースの続きは川の向こうにあるためどうあがいても川を渡らなければならなかった。

速水は、意を決して川に飛び込み必死に泳ぐ。

途中何度も激流に流されそうになるが、何とか川を渡り切り再び走り出した。

 

すると今度は前方から盗賊の格好をしたモノクマ3匹が現れ、持っていた武器で容赦なく速水を襲った。

速水は一発ずつ重い打撃を受けつつも力を振り絞ってモノクマを払い除け走り続けた。

すると今度は睡眠薬入りのスプレーをモノクマに浴びせられ、速水は眠くなってその場に膝をつく。

だが、速水は弟達のために無理矢理目を覚まし再び走り始めた。

コースの途中にあった岩の割れ目からは汚水が流れ出ており、速水は体力を回復させるために覚悟を決めて水を両手で掬って飲んだ。

吐き気を我慢し汚水で喉を潤すと、速水は再び走り始めた。

 

残り時間も少なくなり、速水は弟達を救うためにボロボロになった身体に鞭打ち必死に走った。

途中村人モノクマに鞭で叩かれたり野犬に噛まれたりしたが、それでも速水は走り続けた。

そして制限時間まで残り数分のところで、ようやくゴールの門の前に辿り着く。

速水は、フラフラになりつつも最期の力を振り絞ってゴールの門を開けた。

 

だがその直後、速水は絶望で顔をグシャグシャに歪めた。

コースはまだ走った距離の倍以上続いており、地面には大量の剣が敷き詰められ無数の罠が設置されていた。

地面に敷き詰められた剣を見て速水は完全に走る気力が失せ後退りしてしまう。

するとその直後タイムオーバーになり、後ろからモノクマが現れて勢いよく速水の背中を蹴飛ばした。

速水は蹴飛ばされた拍子に足元にあったワイヤーに足を引っ掻けてしまう。

すると巨大な錨が速水の身体めがけて振り下ろされ、速水の身体は真っ二つに切り裂かれた。

 

国王モノクマは、高笑いしながら席に設置されていたドクロマークが描かれたボタンを押した。

すると勢いよく速水の弟3人の頭が飛び、ビヨンビヨンと首に仕込まれたバネが跳ねた。

国王モノクマに人質に取られていた3人は、速水の弟そっくりの人形だった。

会場には、ただ国王モノクマの不気味な笑い声だけが鳴り響いていた。

 

 

 

 

 

『エクスクリーーーーーーート!!!』

 

「うわあああああああああああああ!!!」

 

「いやっ…いやっ!!もう嫌ですわこんなの!!」

 

「そんな…速水さんが…!」

 

「コイツ…どこまで腐ってんだ…!!」

 

「ホンマ毎回キッショい事しよって。」

 

「あーあ、蘭華ちゃん死んじゃったー。まあ、ボクがこうなるように仕向けたんだけどね。」

 

一と聞谷が泣き叫び、安生は顔を真っ青にして慄き弦野は怒りに打ち震えていた。

冷静だったのは枯罰と黒瀬だけだった。

 

『いやー、いいもの見れた。これだけ刺激的に散れば視聴率はバッチリだよね!あ、オマエラには正解のご褒美にメダルあげるからジャンジャン使っちゃってよね。』

 

「お前…よくも速水を!!絶対許さねぇ!!」

 

『ん?悪いのは速水サンだよね?』

 

「…確かに、速水さんはウォーカー君を殺してしまった。それはとっても悲しい事だよ。でも、何も殺す事はなかったんじゃないのかい?」

 

「そうだよ…アイツには、生きて罪を償ってほしかった!!何が視聴率だ、人の命を弄んで笑ってんじゃねぇよ変態野郎!!」

 

『えー、変態はオマエの方でしょ?これだけ裏切られてまだ全員を信じるとか、ドMなの?本当は欲求不満なんじゃないの?赤刎クンてばもしかしていじめられて興奮するタイプ?』

 

「黙れ!!」

 

「お前ホンマええ加減にせぇよ。ウチらを見せモンにして何がしたいんじゃボケ。」

 

『絶望だよ。』

 

「…は?」

 

『オマエラみたいな希望溢れる超高校級がコロシアイをするという絶望的シチュエーション!世界は今絶望を求めてるんだよ!!』

 

「意味がわかんないよ!!絶望!?ボク達はそんな事のためだけにコロシアイをさせられてるわけ!?」

 

すると、枯罰がモノクマを睨みつけて言った。

 

 

 

「お前…まさか【超高校級の絶望】か?」

 

「…え?」

 

そういえば、枯罰は俺に【超高校級の絶望】に気をつけろと言ってきた。

【超高校級の絶望】って何だ…?

枯罰は何を知ってるんだ?

 

『うぷぷぷぷ、さぁね。オマエラは知らなくていい事だよ。それじゃ、ボクはこの辺で。じゃ〜ね〜!』

 

「逃げんなコラァ!!!」

 

「無駄だよ、弦野君。」

 

「クソッ…!!アイツ、好き勝手言いやがって…」

 

「みんなー、早く戻ろうよ。ボクもう喉乾いちゃった。」

 

黒瀬が空気の読めない発言をすると、弦野は黒瀬を睨みつけた。

 

「ふざけんな、何でテメェは生きてんだよ!!」

 

「だってボクは実行犯じゃないからねぇ。この裁判で裁かれるのは実行犯だけ。残念ながらボクは犯人じゃないのでオシオキされませーん。」

 

「チッ…!!」

 

「てゆーかさ、ボクが吊られそうになった時、律君ドヤ顔で『やっぱりテメェだったか』的な事言ってたよね?間違えてるのに自信満々に言うもんだから笑い堪えるの必死だったよ。滑りまくりの迷推理ご苦労様♪」

 

「コイツ…!!」

 

そうだ。

俺は、俺達は、ずっと黒瀬に騙されていた。

俺も、時計を狂わせたトリックを見破った時は完全に黒瀬が犯人だと思い込んでいた。

枯罰が特別ルールの事を言ってくれなければ、今頃処刑されていたのは俺達の方だったんだ。

 

「そんなことよりさ、ボクはみんなのために内通者を消したんだよ?偉いでしょ?」

 

「その内通者に加担してただろが!!」

 

「だからそれは内通者を消すためにわざとやったんだって。ジョンくんてば、ちょっと秘密をチラつかせただけでみんなの秘密とかクマちゃんからの指示とか全部話しちゃうんだもん。ホント、扱いやすくて可愛いカモだったよ。」

 

「…。」

 

俺は、コイツを許さない。

でも、それ以上に引っかかっている事があった。

俺は、黒瀬への怒りを抑えつつ尋ねた。

 

「…黒瀬。お前は一体何が目的なんだ?内通者を排除して、俺達を騙して、お前は一体何がしたいんだ?」

 

「目的?目的、ねぇ…強いて言うなら、みんなと仲良くここで暮らす事、かな?」

 

「…は?」

 

「言ったでしょ?ボクにとって、嘘は愛なんだよ?ボクが嘘をつくのは、みんなの事が大好きだからなんだよ。」

 

「イカれてやがる…」

 

「爆弾魔と内通者が死んだかと思えば、まさか一番ヤバいのがまだ残っとったとはなぁ。」

 

「いやいや、お金を積まれれば何百人でも殺す環ちゃんには敵わないって♪」

 

「…。」

 

枯罰は、それを聞いて静かに黒瀬を睨んだ。

 

「はぁ、わかったよ。今回はボクが悪者っぽいし、大人しく退いてあげるよ。じゃあね。」

 

黒瀬は、そう言って一人でエレベーターに乗り込んで部屋に戻って行ってしまった。

裁判所に取り残された俺は、黒瀬の背中を黙って見る事しか出来なかった。

…俺が甘かった。

黒瀬は、殺人鬼で嘘つきというだけで特に俺達に危害を加えるような事はしないと思っていた。

でも今回は、明らかに悪意を持ってジョンを排除した。

黒瀬は、俺が何とかしないと…

 

 

 

 

 

Chapter4.後ろの正面だあれ? ー完ー

 

 

 

《アイテムを入手した!》

 

『ランニングシューズ』

 

Chapter4クリアの証。

速水の遺品。

走る時は必ずお気に入りのランニングシューズを履いていた。

純粋な少女が大地を駆け抜けた証。

 

 

 

 

 


 

 

 

ー生存者ー

 

【超高校級の講師】赤刎円

 

【超高校級のカウンセラー】安生心

 

【超高校級の香道家】聞谷香織

 

【超高校級の脚本家】黒瀬ましろ

 

【超高校級の傭兵】枯罰環

 

【超高校級のヴァイオリニスト】弦野律

 

【超高校級のソフトウェア開発者】一千歳

 

ー以上7名ー

 

 

 




4章はこれにて終了。


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Chapter.5 脆く儚いお伽話
(非)日常編①


楽園生活20日目。

 

『おはようございます、オマエラ!!朝です!!7時になりました!!今日も元気に殺し合いましょう!!』

 

モノクマのモーニングコールが流れるが、起き上がる気にはなれなかった。

もう、9人も死んでしまった。

親友だったジョンは実は内通者で、黒瀬の策で速水に殺されてしまった。

…これ以上誰も死なせない、そう決めていたのに。

嫌だ。

嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ

もう限界だ。

これ以上仲間が死ぬのは耐えられない。

俺は一体どうすればいい?

本当に出口なんてあるのか?

俺達は、ひょっとして一生ここで暮らさなきゃいけないんじゃないか?

みんなを信じて何になる?

希望なんて持ち続けてて一体何になる?

ありもしない希望を持ち続けるくらいならいっそ…

 

 

 

ピンポーン…

 

「!」

 

インターホンの音が聞こえ、俺は嫌でも目を覚ました。

ドアを開けると、安生がいた。

 

「おはよう、赤刎君。」

 

「安生…心配してきてくれたのか。」

 

「うん。あのさ、朝ご飯食べられるかな?」

 

「…。」

 

「あ、無理はしなくていいよ。でも、せっかく枯罰さんと弦野君が作ってくれたし、食欲があるなら…」

 

「…そうだな。悪い、安生。俺、ジョンの事でどうかしちまってたみたいだ。でももう大丈夫だ。…大丈夫だから…」

 

「…赤刎君。つらかったら、いつでも僕に相談してね。力になるから。」

 

「…ああ。」

 

俺とした事が、ジョンと速水が死んだ事でおかしくなっちまってたみたいだ。

俺がしっかりしないと、みんなに悪い。

俺は、覚悟を決めて安生と一緒に食堂へ向かった。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

食堂につくと、黒瀬以外の全員が揃っていた。

寝起きが悪い一と、二人が死んで傷ついていた聞谷ですら時間通りに来てるのに、俺は遅刻だなんて情けない話だな。

 

「…おはよう、みんな。」

 

「よ。」

 

「お早うさん。」

 

「お、おはよ…」

 

「ごきげんよう。」

 

俺が挨拶をすると、4人とも返してくれた。

 

「それじゃあ、全員揃ったし飯にするか。」

 

「黒瀬さんがまだいらしてませんが…」

 

「あんな奴どうでもいいだろ。あんなのを待ってて飯が冷めるなんて癪だし、先に食おうぜ。」

 

「そ、そうだね…」

 

弦野と一は、完全に黒瀬を無視する事に決めたようだ。

…まあ、あんな事があったんじゃ無理ないか。

今回ばかりは俺も二人に賛成だ。

 

「いただきま…」

 

 

 

「ふわぁ〜あ。みんなおっはよー。」

 

俺達が朝食に手をつけ始めたその時、招かれざる客が来た。

黒瀬は、あくびをしながら当然のように俺の隣に座ってきた。

そんな黒瀬を、全員が冷めた目つきで睨む。

 

「…あれ?どうしたのみんな。ボク、何かまずい事した?」

 

「消えろよ。飯が不味くなる。」

 

「えぇ〜、律くんひどいよぉ。何でそんな事言うの?」

 

「チッ、どの口が言ってやがんだ。」

 

弦野は黒瀬の無神経な発言に舌打ちをし、枯罰は黒瀬を始終無言で睨みつけていた。

裏切られる事に敏感だからか、この二人は特に黒瀬への風当たりが強かった。

まあ黒瀬は黒瀬で嫌われるような事してるわけだし、この二人の反応は当然と言えば当然なんだがな。

結局黒瀬が意地でも出て行こうとしないので、全員渋々黒瀬と一緒に朝食を摂った。

最悪な空気の中で食べた朝食だったので、作ってくれた二人には申し訳ないがあまり美味くなかった。

 

「はっふー、ごちそうさまー。ボク食べ過ぎちゃったよー。」

 

「用が済んだならさっさと消えろ。」

 

「え〜、ひどいよぉ。」

 

『そうだよ弦野クン!女の子をいじめる男はモテないよ。』

 

突然、不愉快な声と共にモノクマがどこからか現れた。

 

「チッ、今度はテメェか。」

 

『あれれー、何ですかこのつややみたいな空気は!』

 

「それを言うならお通夜だよねぇ?」

 

黒瀬がいつも通りモノクマのしょうもないボケに対して律儀にツッコミをしているが、俺はもうそこにツッコむ気力は無い。

 

『せっかくオマエラにプレゼントを用意したのになー。』

 

「どうせ新しいエリアに行けるようになったんやろ?」

 

『もう、だからボクが言おうとした事を先に言うのやめてって言ってるでしょ!ったく、これだから最近の子は〜!』

 

いや、もう5回目なんだから察しはつくだろ…

 

『はいはいそうですよ、今回は情報管理室と死体安置所と天空農園と管理センター、それから研究室を全部開放したよ!』

 

全部…って事はもしかして、俺の研究室も開放されたのか!?

 

『それじゃあボクはこれで。どんどん殺し合って視聴率アップに貢献してねー!』

 

そう言ってモノクマは去って行ってしまった。

 

「クソ、あの野郎好き勝手言いやがって…!」

 

「弦野君、落ち着いて。とりあえず今は、探索が先だよ。」

 

「チッ…」

 

「今回は施設が4箇所と研究室が3つか…どうする?」

 

「班を二つに分けてそれぞれが二つずつ施設を調べればいいんじゃないかな?」

 

「あ、じゃあボクは情報管理室と管理センター調べるから!死体安置所なんて絶対無理!!」

 

「わたくしも…出来れば調べたくありませんわ。」

 

「僕も…」

 

「じゃあボクが農園と死体安置所を調べるよー。」

 

「だったら俺も黒瀬と同じ場所を調べるよ。」

 

「やったー、円くんと一緒ー。」

 

「はぁ、せやったらウチも…」

 

「待て。」

 

枯罰が黒瀬と同じ班に入ろうとした時、唐突に弦野が止めてきた。

 

「弦野?」

 

「俺がそっちの班に入る。」

 

「はぁ?何でや。」

 

「お前、コイツに相当ムカついてんだろ?学級裁判の時、お前アイツの事睨んでたけどよ。アレはキレるとかそういうレベルの目つきじゃなかった。」

 

「…。」

 

「お前と黒瀬を同じ班にしたら何が起こるかわかんねぇだろ。ここは俺に任せてお前は安生達と一緒に調べとけ。」

 

「…わかった。」

 

弦野の奴、そういう所に気を配れるようになったんだな。

孤立してた頃のアイツからは考えられない成長っぷりだ。

結局、俺と黒瀬と弦野の班が農園と死体安置所を、安生と聞谷と枯罰と一の班が情報管理室と管理センターを調べる事になった。

昼の13時に食堂で会う約束をし、俺達は早速探索を始めた。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「まずはどっちから見る?」

 

「ここから近いのは死体安置所だよねぇ。」

 

「テメェには聞いてねぇよ。俺は赤刎に聞いたんだ。」

 

「ぴえん」

 

「まあまあ…」

 

あーあ、早速始まったよ。

弦野の奴、結局喧嘩するんじゃねぇか。

 

「それじゃあ、死体安置所から先に調べるんでいいな?」

 

「おーっす。」

 

「…俺は、お前がそれでいいなら別に。」

 

「決まりだな。」

 

俺達は、早速死体安置所に足を運んだ。

 

 

 

「うぉ、結構寒いな…」

 

弦野の言う通り、死体安置所の中はかなり寒かった。

おそらく、死体をいい状態で保っておくために冷蔵保存か冷凍保存がされているのだろう。

 

「死体を腐らないように低温で保存してあるからだよー。常温で置いといたら死体なんてすぐ腐っちゃうからね。…知ってる?人肉が腐った匂いって一生焼き付いて離れないくらい強烈なんだよ?」

 

「何でそういう余計な事ばっかり知ってるんだテメェは。」

 

部屋の中を調べると、機械でできた16個の棺桶があった。

棺桶にはそれぞれ俺達の名前が書かれており、正面にある葬儀用の祭壇には俺達16人の遺影が置かれていた。

 

「うわ…」

 

「チッ、気色悪い。悪趣味な事しやがって。」

 

同感だ。

死んでしまった奴はまだしも、生きている俺達の遺影まで飾りやがって。

命を冒涜しているとしか思えんな。

 

 

 

「円くんみてみてー。未来ちゃんの棺桶だよー。中見てみようよ。」

 

「はぁ!?何考えてんだテメェは!!」

 

「ボクは円くんに話しかけたんだよー。で、円くん。どうする?この棺桶開ける?」

 

「…そうだな。もし中に入ってるのが本物なら、出る時に持っていってやりたいしな。」

 

俺は、意を決して棺桶の蓋を開いた。

そこには、札木の死体があった。

札木は口から出血しており両脚を複雑骨折してはいたが、死体の状態はかなり綺麗だった。

ただそこに眠っているだけなんじゃないかと思ってしまう程だ。

 

「札木…」

 

【超高校級のタロット占術師】札木未来。

彼女が最初の被害者だった。

大切な人を殺され、自分の運命に絶望し武本に自分を殺させてしまった。

全ては、モノクマのDVDからこの地獄は始まってしまった。

モノクマは札木の気持ちを踏み躙り、後出しルールで俺達を散々苦しめた。

札木も、裁判の事を知っていれば自分の命を犠牲にしようなんて思わなかったはずだ。

 

 

 

「次行くよー。」

 

黒瀬が次の棺桶を開くと、そこには赤い瞳の目玉と血塗れの肉片が転がっていた。

 

「う゛っ…!?」

 

「おい、何なんだよこれは!!?」

 

「多分闘十郎くんだよ。可哀想に、オシオキされたからこんな事になっちゃったんだねー。」

 

【超高校級の武闘家】武本闘十郎。

彼は初めての裁判で裁かれオシオキされた最初のクロだった。

札木に自分を殺すように頼まれ、裁判の事を知らなかった武本は家族や師匠のために札木を殺してしまった。

武本だって、裁判の事を知っていれば札木を殺さなかったはずだ。

武本もまた、モノクマに踊らされてその命と尊厳を踏み躙られた被害者だったんだ。

 

 

 

「次ー。」

 

次の棺桶には、湊の遺体が入っていた。

身体中に穴が開いており、白目を剥き口から泡を吹いている。

 

「湊…」

 

【超高校級の幸運】漕前湊。

アイツは、唯一才能を持たない事をものともせず誰よりも明るく振る舞っていた。

俺達はいつしか、湊の底抜けに明るい性格に惹かれ、才能の有無に関わらず大事な仲間の一人として見るようになっていた。

だけど、アイツはよりによって一番会いたがってた実の兄貴に殺されてしまった。

もしもアイツが別の形で神崎と兄弟として出逢えていたなら、二人が辿る結末は違ったのだろうか。

 

 

 

「次いっくよー。」

 

次の棺桶は、灰が底に溜まっていた。

 

「う゛っ…」

 

その強烈な臭いに、俺と弦野は思わず吐き気を覚えた。

底に溜まっていた灰は、人肉が焼けた匂いを放っていた。

 

「これは帝くんだねー。」

 

【超高校級の天才】神崎帝。

アイツは傲慢な奴で、俺達を見下したり札木が死んだ時は捜査や裁判を引っ掻き回したりとあまり良い印象は無かった。

だけど、アイツが俺達の大切な仲間だった事には変わりなくて、神崎をあんな方法で殺したモノクマには今でも怒りを覚えている。

神崎は、唯一心の底から尊敬していた母親を取られた嫉妬から実の弟の湊を殺してしまった。

もしもアイツが別の形で湊と兄弟として出逢えていたなら、二人が辿る結末は違ったのだろうか。

 

 

 

「お次ー。」

 

次の棺桶には、宝条の死体が入っていた。

頭から血を流してはいたが、宝条の死体は今までで一番綺麗な状態だった。

まるで、そこで死んでいるのが嘘のようだ。

 

「宝条…」

 

【超高校級の収集家】宝条夢乃。

アイツはわがままでうるさい奴だったけど、話してみれば根は優しくていい奴だった。

初めはみんなに対してキツく当たってたけど、みんなと打ち解けて、俺には友達になってほしいと言ってくれた。

でも、ジョンに唆されて筆染を殺そうとして返り討ちに遭ってしまった。

もしも、宝条がジョンの言葉を間に受けていなかったら。筆染を殺す決断をする前に思い留まる事が出来たなら、こんな結末を辿らなくて済んだのだろうか。

 

 

 

「んじゃ次ー。」

 

次の棺桶には、焼けた左手首と焼けてグズグズになった肉塊が転がっていた。

死体の状態から察するに、おそらくこれは筆染の死体だ。

 

「うぅっ…」

 

「絵麻…!!」

 

弦野は、血相を変えて棺桶に手を突っ込むと、肉塊を両手で掻き寄せてポロポロと涙を溢していた。

 

「絵麻、絵麻…!」

 

「わー、何やってんの。律くん頭大丈夫?」

 

「弦野…」

 

【超高校級の画家】筆染絵麻。

アイツは、ちょっと抜けてる所はあったけど、いつでも底抜けに明るくて誰よりもみんなの事を考えて行動する奴だった。

ずっと気にかけていた弦野と付き合う事になったアイツは、本当に幸せそうだった。

でもジョンに唆された宝条に襲われて返り討ちにしてしまった挙句、後釜を狙っていた仕田原に爆破されてしまった。

もし、アイツが宝条を殺さずに話し合いで解決する事ができたなら、俺達がいち早く仕田原の正体に気付いてアイツから遠ざけていれば、あんな悲劇は起こらなくて済んだのかな。

 

 

 

「はい次ー。」

 

次の棺桶には、バラバラになってもはや原型を留めていない肉片が転がっていた。

棺桶に書いてある名前から察するに、恐らくこれは仕田原の死体だ。

 

「仕田原っ…!!」

 

【超高校級の家政婦】…もとい、【超高校級の爆弾魔】仕田原奉子。

誰よりも真面目で、俺達のために一生懸命家事をこなしてくれるいい奴だと思っていた。

でもその正体は、今までずっと俺達の事を騙していた爆弾魔だった。

アイツは大勢の一般人を殺し、後釜を狙っていたという理由だけで筆染を殺した。

でも、いくら殺人鬼とはいえ大事な仲間をあんな残虐な方法で殺されるのは許せなかった。

俺達がもっと早くアイツの正体に気付いていれば、あんな事にならなくて済んだのだろうか。

 

 

 

「ほい次ー。」

 

次の棺桶には、ジョンの死体が入っていた。

頭部は潰されており、棺桶に入っていたのは首から下だけだった。

 

「うげ…」

 

「ジョン…」

 

【超高校級の冒険家】ジョナサン・ウォーカー。

アイツは、どんな時でも場を盛り上げてくれるムードメーカーで、俺の大事な親友だった。

俺も、湊が死んでからは何度もジョンの明るさに助けられた。

でもアイツはモノクマに指示されてコロシアイを裏から操っていた内通者で、宝条を間接的に殺した。

結局、内通が黒瀬にバレて黒瀬に操られた速水に殺されてしまった。

内通者でもアイツは俺にとって親友である事には変わりなくて、ジョンを殺した黒瀬と速水は未だに許せない。

もし違う形で出逢えていたなら、一人で重荷を抱え込む事なく心の底から友達だって思えたのかな。

 

 

 

「これで最後だねー。」

 

最後に開けた棺桶には、速水の死体が入っていた。

身体を真っ二つに切断されており、オシオキを受けたせいで全身ボロボロになっていた。

 

「うっ…」

 

「速水…」

 

【超高校級のランナー】速水蘭華。

アイツは、いつも明るく元気で俺達に活力を与えてくれる、そんな奴だった。

だけど、アイツは黒瀬に唆されて外に出たいがためにジョンを殺してしまった。

もちろんジョンを殺した事は許さないけど、アイツも弱みにつけ込まれて黒瀬に操られた被害者だったんだ。

速水は元々あんな事をする奴じゃなかった。…きっとアイツは、顔には出さなかっただけで本当は人を殺すほど追い込まれていたんだろう。

俺がアイツをもっと気にかけてやれていれば、こんな事にはならなかったのだろうか。

…でも、今更そんな事を考えたって仕方ない。

 

「これでとりあえず犠牲になったみんなの遺体は確認し終えたのかな?」

 

「そうだな。」

 

「それじゃ、そろそろ農園の方の探索をしなきゃな。」

 

俺達は、死体安置所を後にし農園へ向かった。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

しばらく歩いていると、モノクマタワーよりもさらに高い塔が見えた。

どうやら、この塔の内部は全て農園になっているらしい。

農園の中に入ると、まず目に留まったのはだだっ広い室内菜園だった。

 

「うおっ…」

 

「すごーい!」

 

畑では多種多様な農作物が育てられており、作物の旬の季節ごとに部屋が分かれているので同時期に全ての作物を食べられるようになっていた。

肉や魚などの加工場もあり、ほとんど全ての食材がここで管理されている。

 

「こんなモンがここにあったのか…」

 

『ここではオマエラの食べ物を作ってるんだよ!』

 

「「…。」」

 

「あ、クマちゃんやっほー。」

 

『あれ?赤刎クンも弦野クンもリアクション薄くない?無視?虫なの?インセクト?」

 

「「…。」」

 

俺と弦野は、モノクマを無視する事にした。

こんな奴に構うなんて時間の無駄以外の何物でもない。

 

「ねークマちゃん、ここ何なの?」

 

『よくぞ聞いてくれました黒瀬サン!ここでは、オマエラが一生楽園生活をするための食材が作られているのです!この農園が機能してる間は、オマエラは餓死する事はないから安心してね!』

 

「ふーん。これ、中には入れないんだね。」

 

『当然だよ。これはみんなの食料を確保するための農園なんだよ?どっかのまっしろしろすけに盗み食いでもされたら困るからね。』

 

「ぎくっ」

 

ぎくって…

盗み食いする予定でもあったのかよ。

 

「あれ?でもマップだと一ヶ所だけ行ける場所があるよな?」

 

『おおっと、さすが赤刎クン!お目が高い!今から、天空農園の最上階に案内するよ!』

 

そう言ってモノクマはルンルン歩きで俺達をエレベーター前まで案内した。

…行けって事か。

俺達は、最上階へ向かうエレベーターへと乗り込んだ。

エレベーターから降りると目の前に扉があったので、パスポートを翳して扉を開ける。

 

「!」

 

扉が開いてすぐに目に飛び込んできたのは、草木が生い茂り綺麗な水が流れ中央にはリンゴの木が聳え立った、エデンの園を再現したかのような庭だった。

 

「何だここは…」

 

「すごいねぇ」

 

『ここにはいつでも来られるよ。ここにあるものは全部好きに食べてオッケーだよ!』

 

「つっても、ここで食えるモンっつったらこの気色悪いリンゴくらいしかねぇだろ?」

 

そう言って弦野が指差したのは、モノクマのように白と黒に分かれたリンゴが実った木だった。

 

「つーかこれ食えんのか?毒々しいし不味そうなんだけど。」

 

『毒々しいとは何ですか!それは世界にひとつしかないモノリンゴの木なんだよ?』

 

「モノリンゴ?何それー。」

 

『このリンゴは、香りを嗅いだだけで眩暈がして一口齧れば昇天しちゃうくらい美味しいリンゴなんだよ。ボクの自信作だから好きに食べてよね。…あ、ただひとつだけ注意してね。』

 

「何が?」

 

『このリンゴには、皮の白い部分と黒い部分にそれぞれ違う成分の毒が含まれているのです!皮ごと齧ったら文字通り昇天しちゃうから、食べる時は必ず皮を剥いてから食べてね!でも、ボクは優しいから万が一皮ごと齧っちゃった時の対処法もお教えします!皮ごと齧っちゃったら、白い皮の方を齧ったなら黒を、黒い皮の方を齧ったなら白をすぐに齧れば解毒できるよ。お互いの効果を打ち消し合う毒が含まれてるからね。』

 

「やけにすんなり教えてくれるんだな。怪しいぜ。」

 

『当然じゃん!コロシアイ以外で死人が出るなんて、視聴者ウケ悪いからね。そんな事になった日にはもう苦情の嵐だよ!』

 

なるほど、だから俺達が一生ここで暮らせるように衣食住やら最新のセキュリティやらが用意されていたわけか。

やっぱり、コロシアイ以外で死人が出るのはモノクマにとっても都合が悪いんだな。

 

「だいたいわかった。もうどっか行っていいぞ。」

 

『ぷんぷん!』

 

俺が適当にあしらうと、モノクマは頭から湯気を出して去っていった。

やっと去ってくれた。あんな奴、視界に入るだけで目障りだ。

 

「調べ終わったし研究室行くー?」

 

「そうだな。」

 

死体安置所と農園を調べ終えた俺達は、研究室を見て回る事にした。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

農園を後にしてまず目に留まったのは、レトロな雰囲気の建物だった。

サムラッチ付きの木の扉には、本の絵が描かれていた。

 

「本…って事はオレの研究室か!?」

 

「どうだろうねー。」

 

俺は、早速ワクワクしながら研究室に入った。

 

 

 

「…あれ?」

 

扉を開けた先に広がっていたのは、外装と同じくレトロな雰囲気の書斎だった。

暖炉まであり、本棚には映画の台本が並べられている。

19世紀の西洋を思わせる造りだ。

そしてどういうわけか、ソファーにはぬいぐるみが置かれていた。

 

「ここはボクの研究室だねー。」

 

俺のじゃなかった…

今度こそってちょっと期待してたんだけどな。

 

「うわ、ここすごいね。」

 

「何がだ?」

 

「ボクが普段使ってる道具が揃えられてるの。それに見てよ、ボクが今まで書いた脚本が本棚に入ってるんだー。」

 

「へー…」

 

「俺の時もそうだったけど、何で俺達の私物がこんな所にあるんだ?俺のヴァイオリンなんて、世界に一つだけしかなくて億はするやつだぞ?」

 

「そう、だな…」

 

俺達の私物をここに持ってこられたという事は、このコロシアイを主催してるやつは俺達の事をよく知る人物という事か?

 

「わーい、こんな所にふかふかのソファーがあるー。ちょっと一休みしちゃおーっと。」

 

「おい!!何寝てんだよ!!探索はどうした!?」

 

「…くぅ。」

 

黒瀬は、ソファーに寝転がると寝息を立てて寝始めた。

 

「おい、黒瀬。寝るな。起きろ。」

 

俺は、黒瀬を起こそうと黒瀬の肩を揺すった。

 

「むにゃ…」

 

「おわぁっ!?」

 

黒瀬は、ものすごい怪力で俺をソファーに引き摺り込むとそのまま俺を抱き枕にした。

二人とも小柄だったので、ソファーにすっぽり収まってしまった。

 

「な、何すんだよ!?」

 

「えへへ、円くんしゅきー。」

 

「おい、離せバカ!!そうだ、おい弦野!!見てないで助けてくれ!!」

 

「…。」

 

弦野は、無言で写真を撮りやがった。

 

「何撮ってんだ!!」

 

「何かあった時のためにお前の弱みを握っておこうと思って。」

 

「んの野郎…!」

 

「冗談だよ。おい起きろクソ女。」

 

「んにゃ」

 

弦野が黒瀬を叩き起こすと、黒瀬は眠そうに目を擦りながら起きた。

 

「んー、よく寝たー。あれ?二人ともどうしたの?」

 

「どうしたの、じゃねぇよ。まだ探索終わってねぇから行くぞ。」

 

「んー!」

 

俺達は、二度寝しようとする黒瀬を引っ張って研究室を後にした。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

黒瀬の研究室を後にして次に見えてきたのは、割と新しくて綺麗なプレハブだった。

ドアには、十字架のマークが書かれている。

 

「ねぇ、ここってもしかして…」

 

「ああ。」

 

…【超高校級の傭兵】の研究室だろうな。

俺達は、研究室に入ってみる事にした。

 

「それじゃ入るぞ。」

 

俺は、ノックをして扉を開けた。

 

 

 

「…へぇ。」

 

中は、普通の事務所のような造りになっていた。

見た事のない資料が並べられている事以外は、特に変わった様子はない。

すると、デスクに座っていた枯罰が立ち上がって声を掛けてきた。

 

「おう、誰かと思えばお前らかいな。探索は終わったんか?」

 

「研究室以外はな。あれ?他の3人は?」

 

「まだ管理センターを調べてもろてるわ。」

 

「そっか。ここはお前の研究室なんだよな?」

 

「他に誰がおんねん。」

 

「まあ、そうだけど…」

 

俺は、少し気になっていた事を枯罰に聞いてみる事にした。

 

「なあ。」

 

「何や。」

 

「ここ、お前の研究室だと言う割には割と普通じゃないか?」

 

「…そこの引き出し開けてみ。」

 

「?」

 

俺は、言われるがまま引き出しを開けた。

すると中には、オートマチックピストルが入っていた。

 

「!?」

 

「この部屋には、ウチが使っとった武器がぎょーさん隠されとるでな。」

 

「マジかよ…あ、でもこれは流石にレプリカだよな?そんな実弾が入った銃なんて置いてるわけ…

 

 

 

ズギュンッ

 

 

 

「っ………」

 

あっっっぶね!!!

実弾入ってんじゃねぇかコレ!!

間違えて撃っちゃったよ!!

 

「ド阿呆。せやから迂闊に触るなって言おうとしたんや。」

 

「…スンマセン。」

 

「ここに置いてある武器は全部ホンマモンやぞ。見るのはええけど触んなや。」

 

「…ハイ。」

 

怒られた。

でも今のは俺が悪いから仕方ないか。

俺達は、枯罰の研究室を後にした。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「さて。もう一つ研究室があるって言ってたよな?」

 

「ここから歩いてすぐらしいけど…」

 

しばらく歩いていると、学校をイメージした建物が見えてきた。

スライド式のドアには、数式が書かれている。

 

「ここってもしかして…」

 

「俺の研究室だよな!?」

 

「…多分な。」

 

「いやっほぉおおおおお!!!」

 

やった!!

ついに俺の研究室が開放されたぞー!!

早速中を確認せねば!!

 

 

 

「…!!」

 

研究室の中に入ると、まず目に飛び込んできたのは大きなスライド式のホワイトボードだった。

壁一面使われた本棚には参考書がビッシリと並んでおり、教卓も最新式で必要な文房具は一通り揃えられていた。

 

「最高だなここ!一生ここにいてもいい!!」

 

「…あの、赤刎。」

 

「え?」

 

「…お前、すげぇ興奮してるけど大丈夫か?」

 

あ…

いかんいかん、俺とした事が浮かれすぎた。

だが、この研究室はよくできている。

悔しいが、これを用意したモノクマの事を少しは認めざるを得ない。

 

「す、すまん…一番最後だって事もあって興奮しちまって…」

 

「うん、引くほどはしゃいでたぞ。」

 

「…マジで?」

 

「きゃっきゃしてた円くん可愛かったよー♪」

 

「…。」

 

頼む、もう突くのはやめてくれ。

俺だって年甲斐もなくはしゃぎすぎて今メチャクチャ恥ずいんだよ。

俺のライフは0よ。

 

「そ、それじゃあ探索終わった事だし、そろそろ食堂に戻るか?」

 

「うわ話逸らしたよコイツ。」

 

「ねー。」

 

いや、だって恥ずいし。

俺がはしゃいでたって事をバラされでもしたらたまったもんじゃねぇよ。

 

用が済んだので、俺達はホテルの食堂に向かった。

そこでちょうど安生達と合流したので、ミーティングを行う事になった。

 

 

 

 


 

 

 

ー生存者ー

 

【超高校級の講師】赤刎円

 

【超高校級のカウンセラー】安生心

 

【超高校級の香道家】聞谷香織

 

【超高校級の脚本家】黒瀬ましろ

 

【超高校級の傭兵】枯罰環

 

【超高校級のヴァイオリニスト】弦野律

 

【超高校級のソフトウェア開発者】一千歳

 

ー以上7名ー

 

 

 



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(非)日常編②

探索を終えた俺達は、探索の結果を報告し合う事になった。

 

「それじゃあ早速ミーティングを始めようか。まずは赤刎君のグループから報告してくれるかな?」

 

「ああ。最初に調べた死体安置所には、俺達全員分の遺影が飾られた祭壇と、今までの犠牲者の死体が入った棺桶があった。」

 

「ひっ…!」

 

「それと、農園では俺達がここに来てから食べてる食料が作られてた。基本的に畑や加工場に入る事はできないが、最上階だけは自由に探索できるようになってる。最上階には、モノクマが用意した毒リンゴがあったが好きに採っていいらしい。」

 

「そないなキッショいモン誰も採りたないやろ。」

 

「確かにね…」

 

「それと、黒瀬と俺の研究室があった。俺からの報告は以上だ。」

 

「なるほどね、ありがとう赤刎君。それじゃあ次は僕が報告するね。情報管理室には、楽園内のネットワークを管理するコンピューターが並べられていた。セキュリティーがかけられてて中身は確認できないようになってるけど、解析を一君にお願いしてる所だよ。それと管理センターは、電気や浄水、ガスといったライフラインを管理する施設になってたよ。こっちは、見学はできるけど触る事はできないようになってた。あと、枯罰さんの研究室もあったよ。」

 

「なるほどな…」

 

「それと、今回北東の第五区画が開放された事で、残りは北の第六区画だけになったよ。」

 

「やっぱり正六角形だったのか…」

 

「って事は、その第六区画が開放されれば、脱出の手がかりが掴めるんだよね!?」

 

「その前にまず殺人が起こらねぇとあのクマは新しいエリアを開放する気ねぇだろ。」

 

「ひぃいいいいい!!」

 

「弦野君、ちょっと今の発言は…」

 

「チッ」

 

うん、大体両方の班が情報を共有したかな。

んじゃあ今回のミーティングでわかった情報をまとめとくか。

 

・今回開放されたのは研究室3つ、情報管理室、死体安置所、農園、管理センターの7つ。

・今回開放された研究室は、俺、黒瀬、枯罰の3名。これで全員の研究室が開放された。

・情報管理室は、楽園内のネットワークを管理するコンピューターが置かれている。

・コンピューターには全て厳重なロックがかけられている。

・死体安置所には、俺達の遺影が飾られた祭壇と今までの犠牲者の死体が入った棺桶が置かれている。

・農園は、建物全体が俺達の食料を供給するための施設になっており、大体の生物はそこで造られている。

・農園は最上階のみ自由に探索する事が可能。

・最上階にある木に実っているモノリンゴは、美味だが皮は猛毒。しかし、齧った皮の色とは別の色の部分を齧る事で解毒可能。

・管理センターは、ライフラインを管理するための施設になっており自由探索は不可。

 

「…とまあ、こんな所か。」

 

「ねー、ご飯にしようよー。ボクお腹空いたー。」

 

「霞でも食ってろ。」

 

「ぴえん」

 

数十分後、いつもの2人が昼食を作って持ってきてくれた。

朝食が黒瀬のせいで不味かった分、今回はとても美味しく感じられた。

…この二人にいつも作らせるのも悪いし、俺も今から料理勉強しよっかな。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

昼食の後は、各自自由探索の時間になった。

まだ夕食まで時間があるし先に今回亡くなったジョンと速水の供養をしておかないとな。

俺は、早速ジョンの研究室に向かった。

 

「…。」

 

ジョンの研究室は、相変わらずサバイバルグッズが並べられていていかにもアイツの研究室って感じがした。

でも、どこか寂しく感じられる。

…やっぱり、ジョンがいないとせっかくの研究室も何だか物足りないな。

たった3週間の付き合いだったけど、アイツは俺達をモノクマに売った内通者で俺はアイツの本性を全く知らなかったけど、それでもジョンは大切な俺の親友だった。

でも、内通者だというだけで黒瀬に狙われ速水に殺されてしまった。

アイツだって、家族や親友のために生きて外に出たかったはずなのに、その思いをモノクマと黒瀬に踏み躙られた。

…今思えば、アイツが俺に向けてきた暗い視線は、家族や親友を人質に取られ無理矢理モノクマの内通者をやらされていたアイツのSOSだったのかもしれない。

もちろん宝条と筆染を殺し合わせた事は許せないけど、アイツだって本当は内通なんてやりたくなかったんだ。

俺がアイツのSOSに気付いてやれていれば、宝条を唆す前にアイツに一声かけてやれていれば、あんな事にはならずに済んだのかな。

 

「…。」

 

俺は、ジョンの研究室に飾られていたジョンと湊とのスリーショット写真を眺める。

…ここから出たら一緒に世界中を冒険しようって約束してたんだけどな。

何でこんな事になっちまったんだよ。

湊に続けて、俺は二人も親友を失ってしまった。

俺が挫けそうな時、アイツらはいつでも俺を励ましてくれた。

底抜けの明るさで、どんな時もみんなを笑顔にしてくれた。

でも、俺達を支えてくれたアイツらはもういない。

アイツらがいない今、俺は希望を持ち続ける意味なんてあるんだろうかとすら思えてくる。

…でも、こんな所で諦めたらそれこそ湊とジョンに顔向けできない。

俺は、何があっても絶対に生き延びてここから出てやるって決めたんだ。

アイツらの無念を無念で終わらせないためにも、俺達は7人全員でここを出る。

 

「…ジョン、ごめんな。親友なのに助けてやれなくて。外に出たら、お前の人質も助ける。だから、安らかに眠ってくれ。」

 

俺は、ジョンの机に向かって合掌して頭を下げ、持っていた供物をジョンの机の上に置いた。

ジョンが少しでも安心して眠れるように。

ジョン、俺はやるよ。

みんなで生きてここから出て、お前をあんな目に遭わせたモノクマに一矢報いてやる。

だから、俺達に力を貸してくれ。

俺は、強く誓うとジョンの研究室を後にした。

 

「…次は速水の所に行ってやらないと。」

 

俺は、ジョンの研究室を出た後速水の研究室へと向かった。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「…。」

 

早速速水の研究室に入った。

速水の研究室は相変わらずグラウンドのような造りになっておりトレーニング器具が並べられていた。

中にはついこの間まで使っていた形跡が見られるものもあり、速水が昨日までこの研究室で走っていた様子が思い浮かぶ。

そう思うと、やっぱり速水がいない研究室は寂しくて暗い感じがする。

 

「速水…」

 

速水は、お世辞にも頭が良いとは言えない奴だったけど、それでもいつも明るく振る舞って俺達を元気付けてくれていた。

でも、速水は外に出て弟達を助けに行きたいという思いを黒瀬に利用され、内通者を消したい黒瀬に操られてジョンを殺してしまった。

確かに、簡単に騙された速水も悪い。

俺の親友のジョンを頭をかち割って殺した事は今でも許してないし、これからも許せないと思う。

でも、速水は今までのクロと違って殺意はなかった。

たまたま運悪く生贄に選ばれてしまっただけで、ジョンを殺すつもりはなかったんだ。

速水が受けたオシオキは、アイツの罪に対してあまりにも残酷すぎるものだった。

あの状況で自分が悪くないと思ってるからこそ、アイツには生きて罪を償って欲しかったのに。

俺は、速水をあんな風に殺してアイツの尊厳を踏み躙ったモノクマを絶対に許さない。

俺も枯罰と同じ気持ちだ。

絶対に、何が何でも生き延びてモノクマを糾弾してやる。

 

「…。」

 

速水は、こんな所で死んでいい奴じゃなかった。

なのに、どうしてこんな事になっちまったんだ。

外に出たらみんなで色んな所を走って回ろうって約束してたのにな。

…今でも、オシオキを受ける前のアイツの悲痛な叫び声が頭から離れない。

 

「速水、ごめんな。助けてやれなくて。辛かっただろ?…約束、守れなくなっちまってごめんな。俺、生きるよ。お前の無念を晴らすためにも、何としてでも全員で生き延びる。そして、お前の命を弄んだモノクマに一矢報いてやる。だから、どうか安らかに眠ってくれ。」

 

俺は、ベンチに向かって合掌して頭を下げ、持っていた供物をベンチに置いた。

速水が少しでも安心して眠れるように。

…これでアイツも少しは浮かばれるといいんだけどな。

 

「…あと、裁判では追い詰めるような事をしてすまなかった。」

 

俺は、再び供物を置いたベンチに頭を下げると、複雑な思いを抱えつつ速水の研究室を後にした。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

…さて、これからどうするかな?

もう今回の犠牲者の供養は終わったし、プレイルームに行って少し遊ぼうかな。

俺は、早速ホテルに戻りプレイルームに向かった。

前回の裁判で貰ったメダルがあるので、俺はガチャを引いた。

すると、中からUSBが出てきた。

 

「USBか…」

 

パソコンとか持ってれば使う機会があったんだろうけどな。

俺は正直要らないし…後で一にでもあげよっかな。

俺がそんな事を考えていると、一が来た。

 

「赤刎君、こんな所で何してるの?」

 

「ああ、ちょっとこのガチャで遊んでたんだ。」

 

「ええ…それ、全然いい景品出ないよ?君も物好きだね…」

 

物好きって…失礼な奴だな。

 

「そういうお前は何しに来たんだ?」

 

「ああ、えっと…ちょっと息抜きにゲームでもしようかと思って…」

 

そう言って、一は近くにあったゲーム機の前に腰掛けた。

すると早速ゲームが始まった。

俺は、一がプレイしている様子を横から少し観察してみる事にした。

初めのうちは、ただ普通に上手いなぁと思っているだけだった。

一は、プロゲーマーなんじゃないかっていうくらいゲームが上手かった。

…ここまでは良かったのだが。

 

「オラオラオラァ!!どうしたどうしたぁ!!?汚物は消毒だァ!!!」

 

「…あ、あのぅ…に、一さん?」

 

俺は一体何を見させられてるんだろうか。

一は、ゲームを始めてから十数分経った頃からだんだん性格が変わり始めていた。

今じゃ完全にバーサーカーだ。

そういやアイツ、ゲームすると性格変わるって言ってたけどここまで豹変すると流石に引くぞ。

 

「ふぅ。まあまあかな…って、赤刎君どうしたの?」

 

「いや…すげー楽しそうだなーって。」

 

すると、一は突然オロオロし出す。

どうやら、俺の反応から自分が今まで豹変して周りが見えていなかった事に気が付いたらしい。

 

「あっ、ごっ、ごごごごめん!ボク、またトリップしちゃってたみたいで…ごめん!」

 

うーん、癖なら仕方ない…のか?

 

「それじゃあ、息抜きも終わった事だしボクはこれで…」

 

「おう。」

 

あ、いかんいかん。

危うくアレを忘れる所だった。

 

「あ、ちょっと待て。」

 

「…何?」

 

「はいこれ。」

 

俺は、新品のUSBを一に渡した。

一は、状況が飲み込めずキョトンとしている様子だった。

 

「…え?」

 

「プレゼントだよ。さっきガチャ引いたら出てきたんだ。お前には主に機械関係で色々世話になってるし、良かったら受け取ってもらえないかなって思ってるんだけど。」

 

「あ、いや…そんな…え、待って?これ、何かのドッキリとかじゃないよね?」

 

いや、プレゼントでドッキリって…

どんだけ猜疑心強いんだよ。

 

「いや、そんなわけないだろ。お前が受け取ってくれた方が、俺もありがたいんだけどな。」

 

「そ、そういう事なら…」

 

一は、おずおずと俺のプレゼントを受け取った。

 

「…あ、お礼…しなきゃだよね…」

 

「いや、いいよ。別に見返りが欲しかったわけじゃないし。」

 

「ひっ!う、嘘だ!そんなおいしい話あるわけないもんね、絶対何か企んでるよ!!」

 

いや、だから猜疑心強すぎだろ。

 

「うーん、そうだなぁ…じゃあ、こういうのはどうだ?俺、お前の話とかちゃんと聞いた事なかったし、良かったら思い出話とか聞かせてくれよ。」

 

俺が宥めながら言うと、一はようやく落ち着いたのかコクリと頷いて俺を研究室に案内した。

俺は、一と一緒に過ごす事にした。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

俺は、一に案内されて研究室の中に入った。

相変わらず、一の部屋にはコンピューターが並べられておりそれら全てが忙しなく動いていた。

 

「しかし…お前の研究室、少し寒くないか?」

 

「これだけコンピューターが並んでると、それだけ室温が上がって熱暴走を起こしやすくなるからね。だから元々室温が低めに設定されてるんだ。」

 

「ふぅん…」

 

このパスポートもそうだけど、コンピューターって暑い所に置いただけですぐダメになるからな。

そういう事ならこの部屋が少し寒いのも納得だ。

 

「このコンピューターの解析は終わってるのか?」

 

「一応ね…でも、全然この楽園とは関係のない情報しか出てこなかった。多分、最低限の情報しか入手できないようになってるんだと思う。」

 

そっか…

情報管理室の方がダメでも、一のパソコンからなら何か重要な手掛かりを掴めるんじゃないかと思ったんだがな。

まあそんな事考えてても仕方ないし、とりあえず今は一の思い出話でも聞くか。

 

「…ええっと、何から話す?」

 

「そうだな…じゃあ一、お前は何で【超高校級のソフトウェア開発者】になったんだ?」

 

「えっと…ボクの両親はプログラマーをやってて…それで、ボクも自然とプログラマーを目指すようになったんだ。たまたま適性があったしやってて楽しかったから、どんどんソフトウェアを開発していったらいつの間にか【超高校級のソフトウェア開発者】って呼ばれるようになって…」

 

「へぇ、すごいな。」

 

「そんな、ボクなんてちーたんに比べればまだまだだよ…」

 

「…ちーたん?」

 

「あ、言ってなかったっけ。ボク、親戚にすごい才能を持ったプログラマーの子がいるんだ。不二咲千尋っていうんだけど、歳が近いから小さい頃からボク的には弟に近い感覚なんだよね。優しいし、ボクより才能あるしとってもいい子なんだ。」

 

「へぇ、そうだったのか。」

 

そういえば親戚にプログラマーをやってる子がいるって希望ヶ峰の公式サイトの説明欄に書いてあったな。

この前パニクった時も『ちーたん』って言ってたけど、あれは親戚の子の事だったのか。

 

「…なあ。もう一個聞いていいか?」

 

「何?」

 

「ちょっとこの質問をするのは自分でもどうかとは思うけど…お前、何でいっつもビクビクしてるんだ?」

 

「…!!」

 

「いや、別に臆病なのが悪いって言ってるわけじゃないんだけど…何かこう、怖がり方が不自然っていうか…もしかして、過去に何かあったんじゃないか?」

 

「…。」

 

「あ、別に話したくなかったら話さなくてもいいぞ。ただ聞きたいから聞いてみただけだし…」

 

「…イジメだよ。」

 

「えっ?」

 

「ボク、高校に上がってすぐいじめられたんだ。ボクの両親は、プログラマーはプログラマーでも安月給で働いてる底辺プログラマーだったから、家が裕福じゃなくてね…それでもボクを一流のプログラマーにするために無理していい高校に入れたんだ。元々興味があったけど経済的な面で志望から外してた高校だったし、ボクは全然嫌じゃなかったんだけどね。だから同級生達はみんなボクとは違っていい所のお坊っちゃんばっかりで、ボクは入学当初から浮いちゃってたんだ。ボクは、将来のために頑張っていい成績を取ってきた。でも、それが良くなかったんだよね。」

 

「…え。」

 

「ボクが通ってた学校は成績でクラス分けされてて、ボクは一番上のクラスにいたんだけど、ボクのクラスにいたのはエリート御曹司ばっかりだったから『貧乏人が一番上のクラスなんて生意気』っていう理由で良く思われてなかったんだ。下のクラスの同級生からもいじめられて、先生達も親が寄付金を出してるいじめっ子達の味方だったから学校には誰も味方がいなかった。」

 

「ひでぇ話だな…」

 

何だよ、よくよく聞いてりゃただの嫉妬じゃねーか。

そんなもん自分がいい成績取りゃいいだけの話なのに、人を蹴落とすなんて最低だな。

 

「…初めはちょっとした嫌がらせだった。無視されたり、私物を隠されたり、わざと聞こえるように陰口を叩かれたり…でもどんどんエスカレートしてって、殴られたりカツアゲされたり、酷い時には万引きをされられた事もあった。」

 

「な…」

 

ちょっと待てよ、それって立派な犯罪じゃないか。

高校生だろうと、暴行罪や脅迫罪で訴える事もできる。

周りの大人達は今まで一体何やってたんだよ…

 

「ボクはもう学校に行きたくなかったから、しばらく不登校になっちゃって…一日中家でゲームばっかりする生活を続けてたんだ。学校に行ってない間も、ずっと人の顔色を窺う癖は直らなかった。親にも迷惑かけたくないしもう死のっかなって思ってた時、奇跡が起こった。希望ヶ峰からスカウトの通知が来たんだ。…その手紙を読んだ時、ボクは一日中泣いたよ。これでやっと解放される、もうイジメに悩まなくて済むって。スカウトが無かったら、ボクは…」

 

「一…」

 

一は、当時の事を思い出したのか泣き始めた。

 

「希望ヶ峰ならボクと同じ超高校級の才能を持った人達がいっぱいいて、家が裕福とか貧乏とか関係ないからきっともうあんな目に遭わなくて済む、そう思ってた矢先だよ。入学式に参加しようとしたら突然意識が途切れて、目が覚めたらこんな所にいてわけわからないままコロシアイを強要されて、人がどんどん死んでいって…大好きだった仕田原さんも殺されて…もうわけわかんないよ!!何でボク達がこんな目に遭わなきゃいけないんだよ!!ふざけんなよ、ボクが一体何したっていうんだよ!!」

 

一は、急にパニックを起こして喚き散らした。

俺は、一を落ち着けるために背中を摩った。

 

「一、大丈夫か?」

 

「あっ…」

 

一は、ようやく落ち着いたのか我に返ったように俺の方を見た。

 

「…一、話してくれてありがとな。俺、お前がそんな悩みを抱えてたなんて知らなかった。…つらかったよな。」

 

「…。」

 

「今更こんな事言っても説得力無いかもしれないけど、今度こそみんなで一緒に外に出よう。今までの日常に逆戻りしちまうだけかもしれないけど、俺達がついてるから。」

 

「………ありがとう。」

 

一は、ポツリと呟いた。

一の素性を聞いた事で、少しは絆が深まった気がする。

俺達は、こんな所で立ち止まってるわけにはいかないんだ。

 

《一千歳との親密度が上がった!》

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

…さて。一と話し終わったし、残りの時間は何をしようかな?

とりあえず、適当に散策しようかな。

 

俺は、残り時間を散策して過ごす事にした。

適当に歩いていると、途中で安生に会った。

 

「やあ、赤刎君。」

 

「安生か。お前は何をしてるんだ?」

 

「脱出の手がかりがないかと思って…色々と探してた所だよ。」

 

「そうなのか。」

 

さすが安生、抜かりないな。

 

「で、何か見つかったのか?」

 

「…いや、特に何も。やっぱり、この楽園について重要な事は全部隠されてるみたいだね。」

 

「…。」

 

「…どうかした?」

 

「安生ってさ、すごいよな。身体弱いのに俺達のために頭フル回転させてくれてよ。こんな状況でも冷静だし、何か頼りがいがあるよ。」

 

「やだなぁ、全然大した事ないよ。逆に僕はみんなと違って頭を動かす事くらいしかできないからね。だからせめてちょっとでもみんなの役に立てるように、自分にできる事をしてるだけだよ。」

 

何をそんなに謙遜する事があるんだか。

俺は事実を言っただけなんだがな。

 

「…なあ、安生。」

 

「ん?」

 

「このコロシアイってさ…誰が何の目的で計画したんだと思う?」

 

「誰かまではわからないけど…全国に配信するためでしょ?」

 

「それはわかってるよ。俺が知りたいのはそういう事じゃなくて、俺達を見せ物にして結局黒幕は何がしたいんだろうなって話。世の中にはこういうのを楽しむ悪趣味な変態がいるのは知ってるし、それで儲かるのは確かなんだろうけど儲かるってだけでここまで手の込んだセッティングをするかな?俺達のコロシアイで手に入る収入がここまでセッティングする労力に見合ってるかっていったら微妙じゃないか?」

 

「それは…黒幕にしかわからない事だろうね。とにかく僕達が今やるべき事は、ここから脱出する方法を探す事だよ。」

 

「そう…だな。」

 

脱出できない事にはいくら考えても意味がないからな。

俺も脱出の手がかりを探さないと。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

…少し喉が渇いたな。

俺は、一旦ホテルに戻って飲み物を取りに行く事にした。

ホテルの食堂に行ってみると、聞谷、黒瀬、枯罰の三人がいた。

女3人集まれば姦しいとはまさにこの事だ。

テーブルの上を見ると、美味そうなお菓子が置いてあった。

 

「あー、円くんだぁー。」

 

「何や、お前かい。」

 

「あら赤刎さんごきげんよう。」

 

「おう。お前らは何してんだ?」

 

「ちょうど3時ですので…枯罰さんが作ってくださったお菓子をいただいていたところですの。」

 

「そうなのか。」

 

そういやちょっと小腹も空いてきたし、もし良いなら俺も食べよっかな。

 

「俺も食っていいか?」

 

「好きにせぇ。」

 

よっしゃ、お許しが出たぜ。

お察しの通り、俺は甘いものが好きだ。

俺は、用意されていたお茶と一緒にお菓子を食べた。

やっぱり、枯罰が作ったというだけあって美味かった。

 

「円くーん、これおいしいよぉ?」

 

黒瀬が勧めてきたのは、もちもちした食感のプチケーキだった。

すると次の瞬間、黒瀬はモノモノジュースと同じ白黒マーブルのソースにプチケーキをディップした。

粘性の高いソースをプチケーキに塗りたくっている様は、見ているだけで食欲が失せる。

 

「あのー…黒瀬?お前、何してんの?」

 

「見ての通りですよー。」

 

「いや、見ての通りって…そんだけつけたらソースの味しかしなくないか?」

 

「違うよ。プチケーキにソースをつけてるんじゃないの。」

 

「え?」

 

「プチケーキをソースにつけてるの。」

 

「ひぇっ…」

 

俺は、黒瀬の奇行に始終引くしかなかった。

 

「そういえば…枯罰さんはお料理が得意なんですよね?」

 

「まあなあ。」

 

「何か得意料理とかはございますの?」

 

お、聞谷が枯罰に質問してくれたぞ。

ナイス聞谷。

 

「あ、それ俺も知りたい。」

 

「プリン。」

 

「え?」

 

「プリン。」

 

え、いや…もっとこうなんていうか…おかず系かと思ったらまさかのスイーツときたか。

確かに、このお菓子は全部パティシエが作ったんじゃないかってくらい美味しかったけど。

 

「えっと…枯罰はプリンが好きなのか?」

 

「せやで。倉庫を探しに行ったら、ウチが気に入っとるプリンの香水が置いとったさかい、持ってってもうたわ。」

 

「ひぇっ…」

 

プリンの香水って…

どんだけプリン好きなんだよ。

そして何がヤバいかって、コイツ真顔で話してるんだよな。

冗談でやってるわけじゃないって事だ。

食事中に二度も引く事になるなんて思わなかったぞ。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

3時のおやつを楽しんだ後は、再び探索をしに外に出た。

すると、途中で弦野に会った。

 

「よぉ、弦野。」

 

「赤刎か。」

 

「お前も探索中か?」

 

「まあな。安生が手がかりを探してっから自分でも色々探してんだけど、今のところ手がかりナシだ。」

 

「…まあ、そんなすぐに見つかるんだったら苦労しないわな。」

 

「外部からの情報は全く無くて、逆に外部へ俺達の現状を伝達する手段も無い。せめて情報管理室のパソコンが使えれば何かわかるかもしれねぇんだけどな。」

 

「一が解析してくれてるらしいけど、いつ終わるかもわかんねぇしな。…あのさ、良かったら手伝おうか?」

 

「いいのか?」

 

「ああ。お前は夕飯の支度とかあるだろうし、早く終わった方がいいだろ?」

 

俺は、ちょうど夕食の時間まで暇だったので弦野の仕事を手伝う事にした。

だが、結局のところめぼしい情報や手掛かりは何一つ見つからなかった。

 

「クソ…俺達、本当でこんなんでこっから出られんのかな。」

 

「そう悲観的になるな。まだ新しいエリアが開放されてから1日目なんだしよ。それに、新しいエリアが開放されれば何かわかる事があるかもしれないだろ?」

 

「コロシアイでしか開かない次のエリアに期待すんのか?」

 

「う…」

 

「でもまあ、見つからねぇもんは仕方ねぇよな。戻るぞ…」

 

壁を調べていた弦野が引き返そうとした、その時だった。

 

「!」

 

弦野は、突然立ち止まってボソッと呟いた。

 

「…何の音だ?」

 

「え?何が…」

 

「しっ」

 

弦野は、調べていた壁に聞き耳を立てた。

 

「………。」

 

「おい弦野、どうしたんだよ。」

 

「…この壁の中から音がした。」

 

そう言って、弦野は壁を指差した。

 

「壁の中から?外の間違いじゃなくて?」

 

「いや、確かに壁の中から音がしたんだ。…待て。この壁、中に空洞があるぞ。」

 

「え?壁に空洞?」

 

「…多分、人一人通れるだけのスペースはあると思う。」

 

「マジか…」

 

結局探索の収穫は、壁の中に空洞を発見したというものだけだった。

だが、この壁がただの壁じゃないと分かっただけでも御の字だ。

 

「壁の中に空洞…もしかして、脱出手段になったりしないかな?」

 

「ねぇよ。そもそもどうやって壁の中に入るんだって話だし、モノクマがそんなの許すわけねぇだろ。」

 

「…。」

 

弦野にバッサリ切り捨てられてしまった。

…弦野はもっとこう、希望とか可能性とか考えてみてもいいと思うんだけどな。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

その後は夕食の時間になり、俺達は枯罰と弦野が作ってくれた夕食を食べた。

夜時間が来るまでは、俺は研究室で時間を潰した。

こうして、楽園生活20日目が終わったのだった。

 

 

 

 

 


 

 

 

ー生存者ー

 

【超高校級の講師】赤刎円

 

【超高校級のカウンセラー】安生心

 

【超高校級の香道家】聞谷香織

 

【超高校級の脚本家】黒瀬ましろ

 

【超高校級の傭兵】枯罰環

 

【超高校級のヴァイオリニスト】弦野律

 

【超高校級のソフトウェア開発者】一千歳

 

ー以上7名ー

 

 

 



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(非)日常編③

楽園生活21日目。

 

『おはようございます、オマエラ!!朝です!!7時になりました!!今日も元気に殺し合いましょう!!』

 

今日もまた、モノクマの耳障りなモーニングコールで起こされた。

…コイツ、マジで人を不愉快にさせる事に関してだけはある意味超高校級なんだよな。

俺は、モノクマのモーニングコールにイライラを募らせつつパスポートの画面をぼんやりと眺めた。

…そういえば、もうここに来てから3週間経つんだよな。

そんな事を考えつつ、俺は朝の準備を済ませて8時に間に合うように食堂に向かった。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

食堂には既に安生と聞谷が来ていた。

 

「おはよう、二人とも。」

 

「おはよう、赤刎君。」

 

「ごきげんよう。」

 

俺が挨拶をすると、二人は挨拶を返してくれた。

すると、集合時間1分前に一が来た。

枯罰と弦野が作ってくれた朝食を運んでいると、だいぶ遅れて黒瀬も来た。

相変わらずみんなの黒瀬に対する風当たりは最悪だったけど、一人になられたらもっと困るという理由で一緒に朝食を摂る事になった。

朝食の後は軽めのミーティングを済ませ、その後は各自自由行動の時間となった。

まずはどこに行こうか?

…そうだ、まだ行ってない管理センターに行ってみよう。

俺は、早速管理センターに足を運んだ。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

管理センターでは、主に電気、浄水、ガスの管理がされていた。

まずは、発電室に行ってみる事にした。

 

「へぇ…」

 

発電室は、最先端の技術で発電が行われていた。

効率的でかつ環境に優しいエネルギーで、これだけの設備があれば俺達16人が100年ここで暮らしても大丈夫だそうだ。

安生の報告通り、自由探索は不可能でガラスの窓越しにしか見る事ができない。

…まあ、そりゃ中に入れないのは当然だろうな。

どっかのまっしろしろすけとかが下手にいじって壊したりでもしたら俺達は死んじまうわけだし。

中に入れない分、せめて内部がどうなってるのかはちゃんと窓越しに調べておかないとな。

俺は、発電室を窓越しに調べてわかった事をメモにまとめておいた。

…さて。次は浄水室に行ってみるとするか。

 

浄水室は、一般的な浄水場を小規模にしたような内部構造だった。

やはり最先端の技術が使われており、俺達16人の生活用水を100年分作り出す事ができるようになっていた。

マジでこの施設は最後の方に開放されて良かったな。

もし強引に中に入られて毒でも盛られたりでもしたら終わりだからな…

…ってクソ、俺は一体何を考えてんだ。

俺はみんなを信じるって決めただろうが。

……でも、本当はやっぱり怖い。

また誰かが死んじまうんじゃないかと思っている自分がいる。

もう、誰かが死ぬのも疑い合うのも嫌だ。

俺は一体どうすればいいんだ…

複雑な思いを抱えつつ、俺は浄水室を窓越しに調べてわかった事をメモにまとめておいた。

…さて。次はガス室に行ってみるとするか。

 

ガス室は、生活に使うガスを楽園内の施設に供給する設備が整っていた。

やはり自由探索は不可能でガラスの窓越しにしか見る事ができない。

俺は、ガス室を窓越しに調べてわかった事をメモにまとめておいた。

ついでに近くの廊下にメダルが落ちていたので、回収しておいた。

これで管理センターは全部見た事になるのかな。

俺は、管理センターを後にした。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

管理センターの探索の後は、昼食の時間になった。

その後は自由探索の時間になったので、俺はどこに行こうかで迷っている。

 

…さて。

次はどこに行こうかな?

情報管理室は一に任せてあるし…

とりあえず、プレイルームでガチャでも引こうかな。

俺は、プレイルームに向かった。

拾ったメダルを使ってガチャを引くと、アイドルのCDが出てきた。

うーん…俺、そんなにアイドルとか興味ないんだよな。

誰かにあげよっかな…

 

「円くーん。」

 

「うわっ!?」

 

突然、黒瀬が後ろから絡んできた。

 

「…どうした?」

 

「円くん、あのねー。お願いがあるの。」

 

「お願い?」

 

「環ちゃんの部屋にある資料を取ってきてほしいんだー。」

 

「は?自分で行けばいいだろ。」

 

「ダメなのー。」

 

「何で?」

 

「環ちゃん、ボクの事まだ許してないみたいでさー、研究室に入れてくれないんだよねぇ。」

 

それはお前の行いのせいだろ…

 

「ねえ円くーん、一生のお願い。」

 

「はぁ、わかったよ。取ってくりゃいいんだろ?何を取ってくればいいんだ?」

 

「んーと、これ全部。」

 

「…げっ。」

 

黒瀬は、資料をまとめたリストを俺に渡してきた。

おいおい、さすがに量が多すぎだろ。

…図書室からカート借りてくるか。

俺は、黒瀬に頼まれて枯罰の研究室に向かう事にした。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

俺は、図書室からカートを拝借した後枯罰の研究室に向かった。

 

「おい枯罰、いるか?入るぞー。」

 

俺は、一応枯罰の研究室のドアをノックした。

すると、すぐに枯罰が出てきた。

 

「…何や。」

 

「ちょっとお前の研究室の資料を拝借したくてな。」

 

「構へんよ。ウチはもう全部目通しとるさかい、好きなの持って行き。」

 

「ありがとう。」

 

俺は、枯罰の研究室から資料を拝借した。

すると、資料を持ち出している時にある資料が目に留まる。

 

「…え?」

 

その資料には、孤児院を装った人身売買業者の悪行と近辺で起こっている連続殺人について書かれていた。

 

「何だこれ…?」

 

「ああ、8年前の事件か。表向きは孤児院をやってて子供を売り捌くっちゅう下っ衆い商売やっとる業者があってな。同時に、その孤児院の近くでは度々連続殺人が続いとんねん。業者は未だに摘発されず、連続殺人の犯人もまだ捕まってへん。」

 

「未解決事件って事か…」

 

「で、さらに気味悪いんが、その犯人は実は誰だか目星がついとんねん。」

 

「…え?」

 

「犯人は、当時10歳前後のガキや言われとる。まだガキやとは思えへん狡猾で残虐な手口で犯行が行われていた事から、この事件は闇に葬り去られたんや。この研究室には、そういう記事が表に出る事すら無い凶悪事件の資料が揃っとる。」

 

「…。」

 

俺は、この事件の資料も持ち出す事にした。

よくわからないけど、何だかこの事件は俺と無関係じゃない気がする。

 

「…ふぅ。これで全部かな。」

 

俺は、黒瀬に頼まれていた資料を全てカートに詰めた。

…そういや、俺って枯罰の事を何も知らないんだよな。

 

「なあ、枯罰。」

 

「何や。」

 

「…せっかくだし、少し話でもしないか?」

 

「別にええけど…何でまた?」

 

「いや、そういやお前の事何も知らなかったなって思ってさ。」

 

「…せやな。お前らには、ウチの事話してへんかったしな。…ええで。この際やし、話したるわ。」

 

枯罰は、どうやら話をしてくれる気になったようだ。

…そういや、コイツカラオケでアイドルの歌とかアニソンばっか歌ってたけど、そういうの好きなのかな?

俺は、さっき手に入れたCDを渡してみる事にした。

 

「なあ。」

 

「せやから何や。」

 

「…これ、いるか?」

 

「!」

 

俺がCDを渡すと、枯罰は食いついてきた。

 

「おま…これ、どこで手に入れたん!?」

 

「え、普通にガチャ引いたら出てきたんだけど…」

 

「お前…これ、さやかちゃんの新曲の限定版CDやないか!!ウチ、仕事が忙しくて買えへんかったんやぞ!!」

 

「さ、さやかちゃ…?」

 

マジか。

ここまでアイドル好きだったのか。

いつもクールなイメージな枯罰からは考えられない一面だな。

 

「まあ…お前がそこまで気に入ってくれたんならよかったよ。」

 

「いやー、まさかこないなとこで手に入るとはなぁ。ホンマおおきに。せや、何か礼したるけど何がええ?」

 

「え?いや、いいよ。別に見返りが欲しくてプレゼントしたわけじゃないし。」

 

「そうは言うてもなぁ。」

 

「せっかく研究室来たんだし、話をしよう話を。…あ、枯罰。あれは何だ?」

 

俺は、変わったデザインのナイフを指差した。

研究室にあるという事は、枯罰の所持品だった事はまず間違い無いだろう。

イニシャルも書かれてるしな。

 

「ああ、それはウチの仕事の相棒や。」

 

「相棒?」

 

「ああ。それはウチの恩人にもろたんや。ウチは、仕事の時はいつもそれ使っとる。なんでここにあるんかはわからへんけどな。」

 

「へぇ…恩人にねぇ。どんな人なんだ?」

 

「…少し、昔話しよか。」

 

そう言って、枯罰は俺を座らせた。

枯罰がようやく自分の素性を話してくれる気になったみたいなので、俺は心して聞く。

 

「ウチはな、捨て子やったんや。まだ赤ん坊やったウチを、師匠が拾って育ててくれた。師匠は軍人をやっとったさかい、生き延びるために格闘技やら処世術やらをウチに叩き込んだ。ウチにとって師匠は、ウチに生きる術を教えてくれた恩人で親代わりやった。ウチの喋り方も師匠譲りや。」

 

「なるほどな、それで育ての親に憧れて傭兵に…」

 

「…いや、その時はまだ傭兵になるなんて夢にも思てへんかった。軍人に育てられた言うても、対人戦闘の技術を仕込まれた事以外は普通の子供として育てられとったからなぁ。」

 

「何かきっかけがあったのか?」

 

「ああ。師匠はある陸軍に所属しとる軍人やったんやけどな、後で分かった事やけど、師匠の直属の上司がウチの親父やったんや。」

 

「じゃあ…」

 

「ああ。ウチが実の子やと気付いた親父は、なんとしてでもウチを軍人に育て上げたかったらしくてのぉ。師匠がとある戦争で殉職してからは、ウチは親父の軍隊に入隊させられたんや。ウチは軍に入隊させられてからは男として扱われて、感情を表に出さない訓練を受けさせられて、ひたすら殺しを教え込まれた。お陰で、入隊してから半年もせずに人を殺しても何とも思わへん殺戮マシーンになってもうたわ。」

 

「…。」

 

…そっか。

枯罰は自分で軍人になったんじゃなくて、親の都合で殺しを教え込まれてたのか。

あれ?

親が軍人って、どっかで聞いた話だが…

 

「なあ。枯罰。一つ聞いていいか?」

 

「何や?」

 

「お前の実の親父の名前って…」

 

「…『勅使河原雷人』。ウチの本名は、枯罰環とちゃう。勅使河原(テシガワラ)(イタル)。それがウチの本名や。…まあ、あないなクソ野郎のつけた名前を名乗る気なんぞさらさらあらへんし、ウチの父親は師匠だけやから、ウチは師匠がつけてくれた名前を名乗っとんねん。」

 

「…。」

 

「っちゅうわけで、ウチの呼び方は変えんでええぞ。っちゅうか間違うても変えんなや。ウチ、自分の本名嫌いやし。」

 

なるほどな、だから枯罰の名前でいくら調べても何の情報も出てこなかったのか。

そりゃあそうだ。

そもそも本名じゃないからな。

…でも、何で自分の本名を嫌うほど親を毛嫌いしてるんだ?

 

「なあ、枯罰。お前は何でそんなに父親を嫌ってるんだ?もしかして、お前が軍を抜けてフリーの傭兵を始めた事と関係あるのか?」

 

俺が聞くと、枯罰は殺気に満ちた表情を浮かべた。

 

「…あのクソ野郎は、師匠の仇や。アイツがウチの師匠を殺しよった。」

 

「えっ…?でも、お前の師匠は戦争で殉職したんじゃ…」

 

「表向きはな。師匠は、あのクソ野郎に戦死に見せかけて撃ち殺された。」

 

「なっ…!?何で…」

 

「何でそないな事したかやと?…簡単な話や。あのゴミ野郎は、自分の血を引いていてかつ優秀で従順な駒が欲しかったんや。せやけど、アイツは既に病気で子供こさえられへん身体になっとった。そこで女やからって理由で捨てたウチがおったのを思い出して血眼で探しよった。せやけどようやくウチを見つけ出して引き取ろうとした時、師匠がウチを引き取って育てとった。ウチを忠犬に育てるのに師匠を邪魔やと判断したクソは、戦死を装って師匠を撃ち殺し行くあてが無くなったウチを自分の軍に入隊させたっちゅうわけや。」

 

「…ひでぇ話だな。その後はどうなったんだ?」

 

「そこからはクソの思い通りや。ウチはその事に気付かず殺戮マシーンに育てられて、戦場で人をバンバン殺した。あの頃は、『これで師匠みたいなかっこいい軍人になれる』って誇らしかった事もあったなぁ。今思えば、そないな事考えながら人殺しとった自分をどつき回したいけどな。ウチが戦場で活躍するに連れてクソも『天才少年兵を育て上げたカリスマ将軍』って持て囃されるようになって、アイツは私腹を肥やし放題やった。」

 

「…過去形?」

 

「ああ。アイツはもう、この世にはおらへん。」

 

「えっ…?」

 

「ウチは、どうしても師匠の最期が知りたくて一度師匠の経歴や最期を調べ上げた事があんねん。その時、気付いてもうた。クソが新兵時代に敵を撃ち殺した手口と、師匠の死に方がえらい似とったんや。銃殺に使われた銃の種類も全く同じで、現場に残っとった証拠品にもアイツの犯行と思わせるものはいくつかあった。ウチは、今までのクソの態度から確信した。師匠を殺したんはこの男やとな。」

 

「まさか…」

 

「…そこからは早かった。ウチは復讐のためにあのクソを、アイツが師匠を撃ち殺した銃で射殺したった。その後は自身の死を偽装して軍を抜けた。ウチは一人で生きていくために色んな職を探したんやけど、人殺しがバレるんが…何より、あのクソの娘やとバレるんが怖くて表社会では生きて行けへんかった。でもそないな時、どこからかウチの情報を手に入れた資産家の男が、ウチに殺しを依頼して来よったんや、ソイツは、殺し屋として働き完璧な仕事をこなす事を条件に過去を不問とし仕事に見合った報酬をやると言ってきよった。…アイツも、結局はウチの武力が欲しかったんやろな。せやけど、あのクソに比べれば百倍マシやった。ウチは、闇の仕事をして生き延びる事に決めた。これが、ウチが【超高校級の傭兵】になった理由や。」

 

「…。」

 

俺は、言葉が出なかった。

枯罰に何て言葉をかけてやればいいのかわからなかった。

枯罰が抱えていた過去は、俺の想像をはるかに超えて重かった。

まさか自分の実の父親が育ての父親を殺し、その復讐のために親殺しをしていただなんて。

…枯罰は、自分を含めて人を殺す人間を許せないと言っていた。

そんな過去を抱えているのなら無理はない。

けど、俺は枯罰を最低の人殺しだとは思わない。

コイツも、親の都合で振り回された挙句大切な恩人を殺された被害者なんだ。

それ以上に、枯罰はもう俺達の仲間だ。

俺は、コイツにどんな過去があろうと信じると決めた。

俺は、意を決して口を開く。

 

「…枯罰。話してくれてありがとな。それと悪かった、話したくない事まで話させちまって。」

 

「別にええよ。ウチが勝手に話しただけや。」

 

「…あのさ。ひとついいか?」

 

「何や?」

 

「別に答えたくなかったら答えなくていい。師匠が親に殺されたと知った時、お前はどんな気持ちだったんだ?」

 

「…許せへんかった。アイツだけは絶対にウチの手で殺したろ思て、気がついたらあのクソを撃ち殺しとった。」

 

「お前は、何が許せなかったんだ?師匠を撃ち殺された事か?その仇に、何も知らされずに利用され続けてた事か?」

 

「…。」

 

「…お前が一番許せなかったのは、師匠を救えなかった事じゃないのか?」

 

「…!」

 

「俺は殺人やオシオキで仲間がどんどん死んでいった時、モノクマを許せなかった。でも一番許せなかったのは、クラスメイトのアイツらを助けてやれなかった俺自身だったんだ。お前の話を聞いててわかったよ。お前は、今でも救いたかった命を救えなかった自分自身を許せないんじゃないのか?」

 

「…。」

 

「俺はこれ以上仲間が死ぬのは嫌だし、お前がこれ以上自分を責めるのも嫌だ。だから、俺は今度こそみんなで一緒に外に出たい。…頼む。力を貸してくれ。」

 

俺が頭を下げて頼み込むと、枯罰はため息をついた。

 

「…何言うとんねん。今更やろ。」

 

「え…?」

 

「ウチは初めから、何がなんでも生き残ってクマ公をどつく事だけを考えて今まで生き延びてきた。ウチとしてもクマ公の思い通りになるんは嫌やし、コロシアイを食い止める事でアイツの阿呆面拝めるんなら喜んでやるつもりやったぞ。ウチは、引き続き自分のやり方でアイツを追い詰める方法を考える。お前は、ただいつも通り生意気なチビでおればええねん。」

 

「枯罰…」

 

すると枯罰は、少し俯いてボソッと呟いた。

その顔は、少し微笑んでいるようにも見えた。

 

「…ここまで本音曝け出せたんは、師匠とお前くらいやな。」

 

「え?」

 

「…何もあらへん。」

 

枯罰は、ふいと横を向いた。

だが、耳はほんのり赤くなっていて照れているのが目に見えていた。

 

「お前、もしかして照れてんの?」

 

「ちゃうわボケ!どつくぞコラ!!」

 

おーおー、ムキになってるなってる。

もう、素直じゃないんだから。

 

「お前、そもそも資料取りに来たんやろ!?用が済んだなら早う出てけや!」

 

「はいはい。」

 

俺は、流されるように研究室を後にしようとした。

するとふと、ある事を思い出した。

 

「…なあ。」

 

「何や?」

 

「…【超高校級の絶望】って何だ?」

 

俺が尋ねると、明らかに枯罰の態度が変わった。

どうやら、言おうかどうしようかで迷っているようだ。

すると枯罰は、覚悟を決めたような顔で口を開いた。

 

「………簡単に言うと、世界規模のテロを企んどる連中、っちゅうとこか?」

 

「…え?」

 

「ウチも詳しい事は知らへんけどな。【超高校級の絶望】と呼ばれる奴が水面下で世界規模のテロを企んどんねん。【超高校級の絶望】については、顔も名前もわかってへん。けどひとつ言える事は、世界中に絶望を振り撒く害悪やっちゅうこっちゃ。」

 

「な…!?じゃあ、お前がモノクマを【超高校級の絶望】って言ったのは…!?」

 

「そう疑っとるっちゅうだけや。ウチらのコロシアイの生中継は、テロの前振りやと考えれば説明がつく。さしずめ、希望の象徴である超高校級達が殺し合う所を生中継すれば絶望を伝染させられると考えた…そんなとこちゃうやろか?」

 

「…。」

 

【超高校級の絶望】…

だとすれば、俺達はただ絶望を感染させるためだけにコロシアイをさせられてるって事かよ…!?

…あれ?

でも待てよ?

 

「ちょっと待て、でもその話はおかしくないか?」

 

「何がや?」

 

「…俺達は【超高校級の絶望】なんて知らなかったし、そんな才能を持つ生徒が入学していたって記録はどこにもない。なのにお前は、何で【超高校級の絶望】を知ってたんだ?」

 

俺が尋ねると、枯罰は少し驚いたような顔をした。

 

「…そういえば。ウチは、何でこの事を知ってたんやろか?」

 

「………は?」

 

「ウチは、何故か【超高校級の絶望】を知っとんねん。【超高校級の絶望】がウチにとって何か重要な存在やっちゅう事も自覚しとる。せやけど何で知ってるのか、ウチは【超高校級の絶望】と何の関係があるのかがわからへんねん。それを思い出そうとすると、頭に靄がかかるっちゅうか…」

 

枯罰は、頭を抱えて悩み出した。

…頭に靄がかかったような感覚?

 

…!

ちょっと待て、俺はコイツと同じような感覚に陥った事があるぞ!?

俺は、黒瀬が起こしていたかもしれない殺人事件の事を思い出そうとしたけどうまく思い出せなかったんだ。

…もしかして、枯罰も俺と同じように記憶障害を起こしてるんじゃないのか?

 

「…なるほどな。頭の隅に置いておくよ。」

 

「疑わへんのか?側から聞いたら完全に妄言やぞ?」

 

「俺は、お前が嘘や妄言を言う奴だとは思っちゃいないさ。…実は俺も、どうしても思い出さなきゃいけない事があるのに思い出せないんだ。」

 

「…さよか。」

 

「だから、妄言だなんて思う事はないぞ。それと、無理に思い出そうとするとかえって思い出せない事もあるからな。ゆっくり思い出していけばいいんじゃないのか?」

 

「……せやな。」

 

俺は、枯罰と少し話をしてから資料を持ち出していった。

少しは、枯罰との絆が深まった気がする。

何というか…いざって時には色々と助けてくれたし、コイツだけはどんな状況でも信頼できるっていうか、何か相棒みたいな感じがするんだよな。

…まあ、向こうはそんな事思っちゃいないだろうけどさ。

 

《枯罰環との親密度が上がった!》

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

俺は、頼まれていた資料を黒瀬に渡した。

 

「はい、全部持ってきたぞ。」

 

「わーいありがと円くん!」

 

黒瀬は、きゃっきゃとはしゃいで資料を回収した。

 

「…でも、随分と遅かったね?資料取りに行くだけでこんなに時間かからないでしょ?」

 

「ああ、実は枯罰と話してたら思いの外盛り上がっちまってな。」

 

「むぅっ、円くんのバカー!そんなに環ちゃんとばっかり仲良くしてたらボク妬いちゃうよ。」

 

「勝手に妬いてろ。」

 

「ひどいよぉ!ふーんだ、だったら夕ご飯までの時間はボクが円くんを独占しちゃうもんねー!」

 

頼む、マジでやめてくれ。

俺はオモチャじゃないんだぞ。

 

そんな俺の願いは黒瀬に届かず、俺は夕飯の時間まで黒瀬に振り回された。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「…。」

 

俺は、黒瀬に振り回されて完全にげっそりした状態で食堂に入っていった。

というのも、黒瀬は小柄な体格からは考えられない怪力で文字通り俺を振り回したので、俺にはもうほとんど体力が残っていなかったのだ。

 

「赤刎さん…大丈夫ですの?」

 

「…うん。」

 

嘘です。

全然大丈夫じゃありません。

この猫耳ゴリラ…

可愛い顔して俺を散々振り回しやがって。

 

 

 

「お前ら何しとんねん。飯出来たさかい、早う机の上片せや。」

 

「!!?」

 

俺は、食事を運んできた枯罰の姿を見て思わず目を丸くした。

食堂に集まっていた弦野以外の他の4人も同じ様子だった。

枯罰は、普段の男子用の制服ではなく女子用の制服を着ており、胸元には普段の青いネクタイの代わりに青いリボンを付けていた。

よく見ると、髪型も男子と見紛うようなヘアスタイルから少し女の子らしいショートヘアに変わっていた。

 

「…何や?やっぱ似合うてへんか?コレ。」

 

「いや、似合ってるよ?似合ってるけど…どうしたんだ、それ?」

 

「別に。気分で服変えたらあかんのんか?」

 

普段なら少し腹の立つ返しだが、今は何故か怒る気にはなれなかった。

…っていうかコイツ、可愛くないか!?

元から美形だとは思ってたけど、ちゃんと女子らしくしたらここまで可愛いとはな…

 

「俺が提案してみたんだよ。たまには格好変えたらどうだってな。」

 

「え、弦野君が?」

 

「ああ。ちなみにコイツのヘアセットしたのは俺な。素材の良さを生かしつつ普段とは違った髪型にしてみたんだ。なかなかイカしてるだろ?」

 

「確かに…とても似合っていらっしゃいますわね。」

 

「さ、さよか?」

 

「ふふん、だろ?俺、ヴァイオリニストに戻るのやめて美容師になろっかな。絶対才能はあると思うんだよな。」

 

おいおい、弦野よ。

筆染のためにヴァイオリンを続けるんじゃなかったのかよ。

 

「ふにゃー、環ちゃんかわいー。似合ってるよー。」

 

「お前に言われたところで嬉しないわド阿呆。」

 

「ぴえん」

 

いやぁ、しかし…

本当に似合ってるな。

こうして見ると、枯罰って仕田原にも劣らないくらい美人だったんだな。

何か、こんな美人と今まで相棒気分でいたかと思うと急に恥ずかしくなってきたんだが!?

 

「しかし…枯罰さんは本当にお綺麗ですわよね。」

 

「確かに…何か外国のモデルみたい…」

 

「さよか?まあ一応、東欧系の血混じっとるしな。」

 

マジかよ。

確かにちょっと外国人っぽい顔かなとは思ってはいたが…

道理で背が高くて美形なわけだ。

 

「ほな飯にしよか。」

 

「…。」

 

枯罰は、自然な流れで俺の左隣に座った。

いや、当然のように横に座られても困るんだが!?

 

「どないしたん?お前。」

 

「…。」

 

どないしたん、じゃねぇよ!

こんな美少女が隣にいたら反応に困るわ!!

…まあ、今まで普通に接してきてこっちは一方的に相棒だと思ってたのに今更態度変えるのもおかしな話なんだけどさ。

 

「ぷぅ…環ちゃんばっかりズルいよー。ボクの円くん取っちゃダメだからねー?」

 

「誰も取らんわこないなドチビ。」

 

おい。

今しれっと貶したろ。

 

「じゃあボクは円くんの右ー。」

 

「…。」

 

何だこの変なサンドは。

美女とサイコパスに挟まれるシチュエーションなんて人生で一度も味わった事ねぇよ!!

 

「くっ…羨ましい…!!」

 

一は、羨むような目で俺を見ていた。

…そっか。聞谷の両隣は安生と弦野だから、一だけ女子の隣じゃないのか。

 

「何や、そういう事ならウチの隣に来ればええだけの話やろ。」

 

「ぱぇっ!!?え、あ…その…いや、それは…」

 

枯罰が左隣の空席を軽く叩くと、一は顔を赤くして口をパクパクさせた。

…コイツ、仕田原に一目惚れしてたからそうだとは思ったけど、美女にめっぽう弱いタイプなんだな。

結局一は席を移動せず、そのまま安生の隣に座った。

 

「何だよ根性無し。」

 

「う、うるさいなぁ…!」

 

弦野、あんまりいじってやるな。

俺も正直、この姿の枯罰の隣だとメチャクチャ気まずいから。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

結局、食事の間はずっと落ち着かなかった。

そのせいで、二人には悪いが何を食べたのかハッキリ覚えていない。

夕食の後は再び自由時間となったので、俺は温泉に入って散歩をした後、自分の部屋に戻っていった。

こうして、楽園生活の21日目が幕を閉じたのだった。

 

 

 

 

 


 

 

 

ー生存者ー

 

【超高校級の講師】赤刎円

 

【超高校級のカウンセラー】安生心

 

【超高校級の香道家】聞谷香織

 

【超高校級の脚本家】黒瀬ましろ

 

【超高校級の傭兵】枯罰環

 

【超高校級のヴァイオリニスト】弦野律

 

【超高校級のソフトウェア開発者】一千歳

 

ー以上7名ー

 

 




今回はこばっちゃん回です。


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(非)日常編④

ごめんなさい遅れました。
許してクレメンス
まあでも他の作者さんもっと投稿期間長い人いるからこれくらい平気だよね(逃避





楽園生活22日目。

 

『おはようございます、オマエラ!!朝です!!7時になりました!!今日も元気に殺し合いましょう!!』

 

今日もまた、モノクマの耳障りなモーニングコールで起こされた。

俺は、朝の準備を済ませて8時に間に合うように食堂に向かった。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

食堂には既に安生と聞谷が来ていた。

 

「おはよう、二人とも。」

 

「おはよう、赤刎君。」

 

「ごきげんよう。」

 

俺が挨拶をすると、二人は挨拶を返してくれた。

すると、集合時間1分前に一が来た。

時間ちょうどに、枯罰と弦野が作った朝食を運んでくれた。

…ダメだ、やっぱり枯罰の格好にはまだ慣れん。

すると、だいぶ遅れて黒瀬も来た。

俺達は、黒瀬の相変わらずの空気の読めない言動に呆れさせられつつも朝食を摂った。

 

朝食の後は軽めのミーティングを済ませ、その後は各自自由行動の時間となった。

まずはどこに行こうか?

…そうだ、まだ探索中に手に入れたメダルが残ってるしガチャでも引こうかな。

 

 

◇◇◇

 

 

俺は、プレイルームに向かった。

拾ったメダルを使ってガチャを引くと、モノクマのぬいぐるみが出てきた。

うげっ。

モノクマの奴、マシーンに汚物なんか入れやがって。

こんなもん、焼却炉にブチ込んでやる。

俺がマシーンから出てきた汚物に腹を立てていた、その時だった。

 

「円くーん、何してるの-?」

 

突然、黒瀬の奴が話しかけてきた。

 

「…見てわからないか?ガチャを引いてたんだよ。」

 

「ふーん…あ、円くんクマちゃんのぬいぐるみ当てたんだねー。」

 

「えっ?」

 

「いいなー。ボク、それ欲しいなー。」

 

「…。」

 

…マジかよ。

こんな汚物を好き好んで欲しがる奴がいたとは。

 

「…良かったらやるけど?」

 

「え、いいのぉ?」

 

「俺はこんなもんいらねぇしな。お前が欲しいならやるよ。」

 

「わーい、ありがとー♪えへへー、嬉しいなぁ。」

 

「…。」

 

うわ…

コイツ、汚物を抱いて喜んでるよ。

 

「んぇ、円くんどーしたの?」

 

「…何でもない。」

 

「ふーん。…あ、そーだ円くん。一緒にお話しようよ。」

 

「話?」

 

「ん、プレゼントのお礼ー。何ならボクの過去とか秘密とか色々教えてあげてもいいよー。」

 

謎だらけだった黒瀬が、自分から話す気になった…

何考えてるのかわからんが、話をしてくれるって言うなら聞いてみてもいいかもしれないな。

俺は、黒瀬と過ごす事にした。

黒瀬が俺を研究室に案内してくれる事になったので、俺は黒瀬について行った。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

黒瀬は、研究室に着くとお気に入りのモノモノジュースを振る舞ってくれた。

このジュース、不味そうな見た目してるけど意外と美味いんだよな。

 

「ねー、何から聞く?」

 

「そうだな…じゃあ黒瀬、お前は何で【超高校級の脚本家】になったんだ?」

 

「んーっとねー、ボクは孤児院で育ったんだけどねー、ちっちゃい頃はお兄ちゃんとかお姉ちゃんに読み聞かせしてもらってたんだー。」

 

黒瀬も孤児院育ちだったのか。

何か急に親近感が湧いてきたぞ。

 

「読み聞かせしてもらってたらねー、ボクもこんな風に人を笑顔にするようなお話を作りたいって思うようになったんだぁ。それで、【超高校級の脚本家】になったってわけ。」

 

「…。」

 

相変わらずふわふわしてるなぁ。

…でも、殺人鬼が人を笑顔にする話を作るなんて、ちょっと矛盾してないか?

 

「…なあ、黒瀬。」

 

「なぁに?」

 

俺は、思い切って気になっている事を黒瀬に聞いてみる事にした。

 

「…お前は、どうして人を殺すんだ?」

 

すると、黒瀬はニンマリと笑って返した。

 

「人ってさぁ、何でも夢中になっちゃうものってあるよね?お酒とかタバコとかギャンブルとかゲームとか、最近じゃSNSとかもそうかな?生きていく上で必要ないものなのに、なんでみんなどっぷりハマっちゃうと思う?」

 

「…さあ?」

 

「刺激が欲しいからだよ。人ってさ、悪い事だってわかってても刺激を求めちゃう生き物なんだよね。ボクは、その究極は人が人を殺す事だと思うの。みんな法律や良心が邪魔してその欲求が表に出てこないけど、人って人を殺したら絶対ハマると思うんだよねぇ。ボクは、みんなを楽しませてあげるためにそういう脚本を書く事にしたんだけどね。やっぱり普通に書くだけじゃつまんないと思ってー、より現実味を出すために人を殺して研究するようになったってわけ。」

 

「…。」

 

話を聞いていてわかった。

やっぱり、コイツはヤバい奴だ。

何が一番ヤバいかって、本気でみんなのためにやっている事だって思っているところだ。

最初はただちょっと抜けててマイペースな所があるだけの普通の女の子だと思ってたのに、まさか殺人鬼でコロシアイを引っ掻き回すトリックスターだったとは思いもしなかったもんなぁ。

 

「…孤児院の兄弟達は、その事を知ってるのか?」

 

「知ってるわけないよー。ボクは8年くらい前に里親が見つかって出てったし、みんなの前ではいい子だったからねー。ちなみに、里親はボクが殺したんだー。殺人鬼だって知ったらビックリしてたよ。にゃはは。」

 

黒瀬はケラケラと笑いながら話しているが、全然笑い事じゃないと思うぞ。

…ん?

8年前、孤児院、連続殺人…

何かどこかで聞いたフレーズだな。

…いや、まさかな。

 

「円くーん、どぉしたの?」

 

「…いや、何でもない。そうだ、別の話をしよう。黒瀬、お前は外に出たらまず何がしたいんだ?」

 

「んー、色々あるけど…やっぱりまずは新しい脚本書かないとね。みんなボクの新作待ってるし。今回は、そうだなぁ…あ!ここで起こった事件を参考にミステリー書こーっと!あ、映画ができたらみんなで見にいこうねー。」

 

黒瀬は猫耳をピコピコさせて喜んでいるが、俺は怒りで震えている。

今まで死んでいったみんなへの冒涜のように感じられたからだ。

俺は、これ以上話を続けられるのも不愉快だったので、黒瀬の話を遮って質問した。

 

「…他には無いのか?」

 

「他ぁ?んー…そぉだなぁ、強いて言うならスタッフさんに会いたいかなー。」

 

「ああ、お前と仲がいいっていうスタッフさんか。確かお前のシチュー食って入院したとかいう…」

 

「そぉだよ?スタッフさんはねー、ボクと一緒に住んでるんだけどねー、ちょっとストーカーじみてるところはあるけどとってもいい人なんだよー。おなかすいたーって言ったらご飯作ってくれるし、遊びたいーって言ったらどんなに忙しくても休み取ってデートとか連れてってくれるんだよー。あとねー、何か面白い事してーって言ったら頑張ってボクを笑わせようとしてくれるのが可愛いんだよねー。」

 

「そ、そうなのか…」

 

面白い事しろって…それ、無茶振りって言うんだぞ黒瀬。

それを要求する黒瀬も鬼畜だけど、それに頑張って応えようとするスタッフさんすごいな…

話聞いてる限りだと流されやすい人っぽいし、【超高校級の脚本家】というだけあって黒瀬の方がバリバリ稼いでるだろうから逆らえないだけって線も考えられなくはないけど。

 

「そこまでお前に尽くしてくれる人がいたとはな。その人の事、好きなのか?」

 

「うん、大好きだよぉ〜。ボクと話が合うのってスタッフさんくらいだし、すっごく優しくしてくれるんだよー。」

 

「…えっ?」

 

「あれ、言ってなかったっけ?ボクね、スタッフさんと毎晩愛し合ってたんだよ?」

 

「はぁ!?んだよそれ!!聞いてねぇぞ!?」

 

「ここだけの話、愛し合いすぎてできちゃった事あるんだよね。…まあ、すぐ流れちゃったんだけど。」

 

いきなりそんな爆弾発言されても!!

こっちは心の準備ができてないんだっての!!

つーかスタッフ!!

お前しれっと何やってんだ!!

 

「ふふふ、驚いてますなぁ♪ボク、こう見えて色々と経験豊富なんだぞー?」

 

…マジで下手に聞き返すんじゃなかったよ。

俺が呆気に取られている中、黒瀬は平然とジュースを啜っていた。

 

「ボクねー、ここから出たらスタッフさんに会いに行くんだー。あの人寂しがり屋さんだから、今も多分24時間SNS監視したり知り合いに声かけて情報集めたりしてボクの事必死に探してると思うんだよね。この前なんかボクをストーカーしてる人の家に殴り込んで地の果てまで追いかけ回してたし、スタッフさんって普段大人しいけどボクの事になったら行動力の鬼だからねー。」

 

「…あのさ。こういう事聞くのはアレかもしれないけど、その人はその…お前の本性を知ってるのか?」

 

「知ってるよー。ってゆーかむしろ、ボクが人をいっぱい殺してるって知っててボクを好きになってくれたとこあるから。」

 

「…。」

 

類友ってヤツか。

大人しくていい人そうだと思ってたけど、犯罪者だし頭おかしいし、そもそも未成年に手を出してる時点でまともじゃないし、やっぱ黒瀬の彼氏ってだけあって相当ヤバい奴だよ。

 

「それじゃー、ボクの話は大体終わったしこれくらいでお開きにしますかー。」

 

「…そうだな。ありがとな、黒瀬。色々と話してくれて。」

 

「いえいえー。」

 

俺は、聞きたい事は聞き終わったので黒瀬の研究室から出て行く事にした。

 

「…あっ。」

 

すると、去り際に黒瀬が俺の腕を掴んで止めた。

 

「どうした?」

 

「これあげるー。」

 

そう言って、黒瀬は俺にUSBを渡してきた。

 

「?どうしたんだ、これ。」

 

「さぁね。中身は脱出してから見てね。」

 

「脱出してからって…だったら、今俺に渡す必要ないだろ。」

 

「いいから持っててよ。面白いもの見られるからさ。」

 

「…。」

 

俺は、黒瀬のわけのわからない行動に首を傾げつつUSBを受け取った。

これを後で見ろって…どういう事だ?

コイツ、一体何考えてるんだ?

俺は、黒瀬の発言にモヤモヤしつつも研究室を後にした。

 

《黒瀬ましろとの親密度が上がった!》

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

黒瀬と話した後は、昼食の時間になった。

俺達は、枯罰と弦野が作ってくれた昼食を食べた。

昼食の後は自由時間になったので、何をしようかと考えていた、その時だった。

 

「なあ、ちょっとええか?」

 

「?」

 

突然、枯罰に声をかけられた。

正直、この格好の枯罰はまだ慣れていないので話しかけられただけでキョドってしまう。

 

「ど、どうしたんだ?」

 

「…昨日、プレゼントくれたやろ?その礼がまだ出来てへんやんか。」

 

「え、いや、別にいいよ。俺、別に見返りが欲しくてプレゼントしたわけじゃないし…」

 

「…ん。」

 

枯罰は、少し恥ずかしそうに俺に赤ペンを握らせてきた。

 

「…え?」

 

「お前、ペンとか使うやろ?」

 

「いや、でも…いいの?」

 

「ええから受け取りぃや。ガチャで手に入れてん。使い道に困っとったさかい、お前が使った方がええんとちゃうかな思っとんねん。」

 

「あ、ありがとう…」

 

まあ、使い道に困ってるなら受け取ろうかな。

ちょうど欲しかったところだし。

 

「いやー、でも何か悪いな。何か礼を…」

 

「別にええよ。ウチもこの前プレゼントもろたしな。お互い様や。」

 

「そ、そっか…」

 

まあ、言い出したらキリないしな。

 

「礼なら、お前の話聞くだけでええよ。お前もこの前ウチの話聞いてくれたやろ?」

 

「…わかった。じゃあ、俺の研究室に来いよ。」

 

俺は、枯罰を研究室へ連れて行った。

この時間は、枯罰と過ごす事にした。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

俺は、枯罰を席に座らせた。

この前、人から出されたものを飲み食いするのは抵抗があると言っていたので、今回は何も出さなかった。

 

「散らかってる所で悪いな。まあ適当に座ってくれよ。」

 

「別に気にしてへんよ。」

 

枯罰は、全く気にしない様子だった。

…しかし、実際話そうと思うと話題に困るな。

今の姿の枯罰の前だと緊張しちまって会話が見つからねぇ…

 

「えっと…何から話そうか?」

 

「ほな聞くけど、お前は何で【超高校級の講師】になったん?」

 

何で、か…

改めて聞かれると、考えた事なかったな。

何て答えよっかな…

とりあえず、俺は才能に関わる経歴を事細かに話す事にした。

 

「えっと…俺、孤児院で育ったんだけどさ、孤児院では年長者が年少者の面倒を見るルールになってたから、俺も小さい兄弟達の世話とかやってたんだ。俺はたまたま孤児院の中では一番勉強ができたから、みんなに勉強を教えてたんだよな。小学生の時は名門大学の入試問題集を絵本代わりにしてたくらいだから、上の兄弟達にも勉強面で頼られてさ。それで勉強を教えてるうちにいつの間にか楽しくなっちまって、孤児院の兄弟達だけじゃなくてクラスのみんなにも勉強教えたりするようになったんだ。」

 

「ほーん。」

 

「それで、俺の噂を聞いたっていう小さい塾の先生がさ、俺に講師のアルバイトに来てくれないかって頼んできたんだよな。話を聞いてるとその先生、塾の経営が難しい状況で家族に十分食べさせるだけのお金も入ってこないらしくてさ。俺が力になれるならって思ってアルバイトに行く事にしたんだよ。そしたらその日から入塾希望の学生が続出して、いつの間にか県内でも有名な名門塾になったんだ。その功績が認められて【超高校級の講師】としてスカウトされる事になったんだよ。」

 

「なるほどなぁ。」

 

「えっと…他に何か聞きたい事あるか?」

 

「せやなぁ…ほな聞くけど、お前札木と仲良かったやろ?どこでどうやって知り合ったん?」

 

「…。」

 

札木の事を聞かれた俺は、一瞬固まった。

札木は、こんな状況でもいつも俺の事を第一に考えてくれてた。

それなのに、俺はアイツに何もしてやれなかった。

アイツが本当に苦しんでる時、寄り添ってやれなかった。

…アイツは最期、どんな気持ちで死んでいったのかな。

俺は、話すのを躊躇いつつもゆっくりと話し始めた。

 

「………札木とは、高校のクラスメイトだったんだ。高校の入学式当日、アイツと一緒に学校に向かってたアイツの姉さんが体調不良で倒れちまってよ。俺は入学式そっちのけで救急車を呼んで一緒に病院までついて行ったんだ。そんなわけで結局入学式には参加できなかったけど、アイツとはそんな事があって仲良くなったんだよな。でもそれ以外はあんまり接点無かったし、こんな所で一緒になるとは思わなかったけどな。…でも、何で急に札木の話を?」

 

「…いや、お前と仲ええ言うてたからちぃと気になっとっただけや。」

 

「…。」

 

そっか、そういや枯罰は一緒に飯作ったり一緒に倉庫の点検してたりしてたから案外アイツとは接点多いんだよな。

二人とも普段は物静かだし頭良いし、案外気が合ってたのかもしれないな。

枯罰も、札木が殺された事は悔しかったのかな。

だからアイツを殺した武本にあんなに激昂してたのか?

 

「他に何か聞きたい事あるか?」

 

「…最後にひとつええか?」

 

「何だ?」

 

「…孤児院はどうなん?」

 

「え?」

 

枯罰は、突然変な質問をしてきた。

俺に質問してくる枯罰の目つきは、明らかにおかしかった。

まるで、何かを疑っているかのような目つきだったのだ。

 

「孤児院での生活はどうなん?お前、18にもなってまだ里親が見つかってへんねやろ?」

 

「…ああ。他の奴等は大体10歳になる前に里親が見つかるのに、俺だけは何故かまだ里親が見つからないんだよな。…まあ高校卒業するまでに里親が見つからなかったら出て行く決まりだし、俺もそろそろ出て行って一人暮らし始めなきゃならねぇんだけどな。でも、孤児院での生活も楽しいぞ?弟妹達は俺に懐いてくるし、シスターも優しいしな。」

 

すると、枯罰はさらに変な質問をしてきた。

 

「何でお前だけ里親が見つからへんのか、ホンマに心当たりあらへんのか?」

 

「わかんないなぁ。もう10歳過ぎちまったし、単純に引き取りたい人がいないんじゃないのか?やっぱり、小さい子の方がいいって人は多いみたいだし。でも、シスターは俺の事を頼りにしてるって言ってるし、正直俺は別に引き取られなくてもいいと思ってるんだよな。親がいなくても一人で食っていけるアテはあるし。」

 

「…お前、貰われていった奴等とは今でも連絡取り合ったりしとるんか?」

 

「いや、向こうには向こうの事情があるだろうし、みんな連絡取ってないぞ?でも定期的に出て行ったみんなからお土産が贈られてくるし、多分みんな元気にやってるとは思う。別にそこまでおかしな事じゃないだろ?」

 

枯罰の奴、何でさっきから変な事を聞いてくるんだ?

普通の家庭で生まれ育った奴からしてみれば孤児院育ちは珍しいのかもしれないけど、俺にとって孤児院での暮らしは当たり前の事だし、枯罰も里親に育てられた身なら少なからず共感できる部分とかあると思ったんだがな。

すると、枯罰は少し考え込んだ後ふぅとため息をついて立ち上がった。

 

「…まあ、確かになぁ。人の家庭事情に首突っ込むんはちぃと野暮やったかもなぁ。悪い、変な事聞いてもうた。」

 

「いや、別にそれはいいけどよ。」

 

「ほな、もう話は済んだしウチは行くわ。色々話聞かせてもろたな。」

 

「おう。またいつでも話そうぜ。」

 

枯罰は、軽く手を振って研究室を後にした。

…俺の話をした事で、何だかまたアイツと仲良くなれた気がする。

俺は、俺達は、絶望になんか負けない。

そう強く心に誓った。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

枯罰との話が終わった後、俺は適当に時間を潰した。

散策をしたり、図書館の本や研究室の参考書などを読み漁ったりしていた。

その後、ちょうど18時になったので俺は食堂に向かった。

枯罰と弦野が作ってくれた夕食を摂った。

食事中、たまには男子4人で一緒に温泉に入らないかという話になったので、俺も行く事にした。

その後は軽めのミーティングを済ませ再び自由時間になったので、俺は温泉に向かった。

 

 

 

「なんか、黒瀬や枯罰と一緒に話したから楽しかったけどちょっと疲れたな。温泉でまったりするか。」

 

俺が男湯に入ると、安生と弦野と一がいた。

 

「あ、赤刎君。来てくれたんだね。」

 

「当たり前だろ。せっかくみんなで行こうって話になってたんだし、行くに決まってんじゃねーか。…あれ?安生は入らないのか?」

 

「あ、うん。僕、こんな身体だから無理に入ったらみんなに気を遣わせちゃうかなって思って。僕は雰囲気を楽しめれば十分だよ。」

 

何だよ、少なくとも俺は全然そんな事気にしないんだけどな。

そういえばこの前の温泉も同じような理由で断られたし、プールも何だかんだで見学だったっけか。

…まあ、本人がいいって言うなら無理して入らせる事もないかな。

 

「そっか。…ところで、お前風呂にもその眼鏡していくのか?」

 

「ああ、実は物理室からこの一度拭けば24時間汚れず曇らないレンズクロスを拝借してきたんだ。これで曇るのを気にせずに入れるよ。」

 

「お、おう…」

 

さすが安生…

こういう時も抜かりないな。

 

「それじゃ、行こっか。」

 

俺達は、みんなで温泉に入った。

 

「へー、こういうとこ初めて来るけどこんな風になってたのか。」

 

「「「えっ?」」」

 

「えっ?」

 

弦野がサラッと放った言葉に、俺達3人は固まる。

 

「弦野君…もしかして、温泉とか行った事無いの?」

 

「ねぇな。つーか行く機会が無かった。ずっと親に縛られっぱなしだったし。」

 

「あれ、ここの大浴場にも今まで行った事なかったのかい?結構前に開放されてたと思うんだけど…」

 

「何か、一人だと行きづらくてずっと行ってなかったんだよ。行ったのは捜査で脱衣所を調べた時くらいだし。」

 

「そ、そっか…」

 

マジかよ…

そこまでお坊っちゃまだったとは。

恐れ入ったわ。

 

「…何だよ。」

 

「ああ、いや…何だお前、こういう所初めてだったのか。よし、じゃあ露天風呂行こうぜ!」

 

「赤刎君、まずは身体洗わないと…」

 

「あ、そうだった。すまん。」

 

やっぱりマナーは忘れちゃいけないよな。

いかんいかん…

これでよしっと。

 

「よし、それじゃ行こうぜ!」

 

「お、おう…」

 

俺達は、慣れていない様子の弦野を連れて露天風呂に向かった。

露天風呂は相変わらず温泉の香りがする湯気が立っていて、満天の星が輝く夜空を一望できるようになっていた。

 

「どうだ弦野、たまにはこういうのもいいだろ?」

 

「…実家の風呂と同じくらいの広さだな。」

 

「「「…。」」」

 

弦野が何気なく呟いた一言で、場の空気が一気に冷めた。

それを本人もすぐに察したのか、気まずそうに謝ってきた。

 

「…あ。悪い…」

 

「え、何この全部台無しにされた感…」

 

「いや、多分弦野君悪気は無いんだと思うよ?うん。」

 

「と、とりあえず入ろうぜ。このまま突っ立ってるのも何だしさ。」

 

安生を除く俺達3人は、ゆっくりと湯に浸かった。

 

「はぁ〜…」

 

やっぱり露天風呂は気持ちいいな。

ここ最近殺伐とした空気が続いててあんまり気軽にみんなを誘える感じじゃなかったし、こうしてみんなと一緒に入るのは久しぶりだ。

すると、唐突に弦野が一に声をかけた。

 

「…なあ、一。」

 

「何?」

 

「………あのさ、今更だけど…その、ごめん…仕田原の事…」

 

「…仕方ないよ。筆染さんがあんな事になっちゃったんだもん。もしあの二人の立場が逆だったら、ボクも君と同じように怒ってたと思うから…」

 

「…。」

 

「ボクの方こそ、色々ごめん…」

 

あの二人、まだ気にしてたんだな。

…いや、それが普通なのかもしれないな。

二人とも好きだった子が殺されたんだ、その傷はそんな簡単に癒えるもんじゃない。

それでも二人共、筆染や仕田原の死を乗り越えて前に進もうとしているんだ。

俺も、みんなの死を乗り越えて前に進んでいかないと。

 

「…弦野、一、安生。俺、ここでお前らと会えて良かったよ。聞谷も枯罰も黒瀬も、今度こそみんなで一緒に脱出しような。」

 

「何言ってんだよ、んなの当たり前じゃねぇか。」

 

「うん。僕達は、モノクマに負けたりしない。」

 

「…あ、でも黒瀬も一緒に連れてくのはなー…」

 

「同感。黒瀬さんは…ちょっとね。」

 

「二人とも、黒瀬さんだって僕達の大事な仲間なんだよ。」

 

「そうだ。確かにアイツがやってきた事は到底許される事じゃないけど、アイツだけ仲間外れにするなんてダメだ。」

 

「「…。」」

 

あー、二人とも黙っちゃったよ。

そりゃ、二人とも黒瀬の事嫌いだから仕方ないのか…

 

「チッ、お前らが言うなら…それでいい。」

 

「うん…黒瀬さんも、大人しくしてる分にはちょっとふわふわしてる子ってだけだもんね。」

 

あれっ?

二人とも、もっと色々言うと思ってたんだけどな。

弦野は黒瀬に対する風当たり強かったし、一も黒瀬にビビりまくってたしな。

二人とも成長したって事なのかな?

4人で話をしていて少し上せてきたので上がろうとした、その時だった。

 

 

 

「環ちゃーん、見て見てー。泡でもこもこにしてみたのー。」

 

「はぁ!?何しとんねんお前コラァ!!次使う奴の事考えんかいド阿呆!!」

 

「えー、じゃあおっぱい揉み合いっこしよーよぉ。」

 

「じゃあって何やねん!お前ホンマにしばくぞ!?」

 

「うふふ、お二人とも仲がよろしいんですのね。」

 

「えへへー。そぉだよ?ボクと環ちゃんは仲よ…

 

「仲良うないわ!!どこをどう見たらそうなんねん!!」

 

 

 

「…。」

 

うん、やっぱり何度聞いても女子の声が聞こえる。

仕切りで仕切られてるだけだから、結構こっち側にも声響くんだよなぁ。

俺は、安生に聞こえないように二人に話しかけた。

安生はこういうの絶対許さない奴だから、聞かれたらマズい…

 

「…なぁ、二人とも。」

 

「ん?どうした赤刎。」

 

「何か聞こえないか?」

 

「ああ、女子の声が聞こえるけど…」

 

「女子のみんなも一緒に入ってたんだね。…それがどうしたんだよ?」

 

俺は、ニヤニヤしながら仕切りを指差し、指で作った輪を除いた。

 

「…は?お前、何考えてんの?」

 

「赤刎君、最低…」

 

「は!?え、ちょっ…おい弦野!お前、興味ねぇの!?」

 

「いや…普通そんな事しないだろ。人として。」

 

ぐ…

この野郎、こういう時だけ常識人ぶりやがって…

 

「一、一は一緒に行くよな?」

 

「え、えーっと僕は…し、仕田原さん一筋なんで…」

 

「ふーん、いいんだな?女子みんなのあんな所やこんな所が見られなくて…」

 

「う、ううう…」

 

俺が一を仲間に引き込もうとしていた、その時だった。

 

「…赤刎君。何をしようとしていたのかな?」

 

うおっ!!?

あ、安生!?

おまっ…そんなゴミを見るような目で見る事ないだろ!!

 

「あ、いや…ちょっとお話を…」

 

「ふーん………」

 

いや怖い怖い怖い!!

頼むから無言の圧力かけるのやめてくれ!!

もうしないから!!

 

 

 

「おいドチビ、お前何考えとんねん。しばくぞコラ。」

 

「へー、円くんってばボク達の事覗こうとしてたんだぁ〜。」

 

ギクッ…

まさか女子達にもバレてたとは…

 

「…赤刎さん、最低ですわね。」

 

うわ、聞谷が一番怒ってるよ!!

何か仕切り越しでもヤバいオーラ感じるんですけど!!

え、聞谷って怒るとこんな怖かったっけ!?

…ヤベェ、よりによって安生と聞谷と枯罰を怒らせちまったよ。

コイツら怒るとメチャクチャ怖えんだよな…

 

俺は、その後安生と枯罰に説教され聞谷に至っては目も合わせてくれなかった。

どうやら本気で怒ってるらしい。

…まあ、100%俺が悪いんだけどさ。

その後は流れ解散となったので、俺は絞られて憂鬱な気分で部屋に戻っていった。

こうして、楽園生活の22日目が終わったのだった。

 

 

 

 

 


 

 

 

ー生存者ー

 

【超高校級の講師】赤刎円

 

【超高校級のカウンセラー】安生心

 

【超高校級の香道家】聞谷香織

 

【超高校級の脚本家】黒瀬ましろ

 

【超高校級の傭兵】枯罰環

 

【超高校級のヴァイオリニスト】弦野律

 

【超高校級のソフトウェア開発者】一千歳

 

ー以上7名ー

 

 

 



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(非)日常編⑤

楽園生活23日目。

 

『おはようございます、オマエラ!!朝です!!7時になりました!!今日も元気に殺し合いましょう!!』

 

今日もまた、モノクマの耳障りなモーニングコールで起こされた。

俺は、朝の準備を済ませて8時に間に合うように食堂に向かった。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

食堂には既に安生と聞谷が来ていた。

うっ、この二人か…

 

「お…おはよう、二人とも。」

 

「おはよう、赤刎君。」

 

「ごきげんよう。」

 

俺が挨拶をすると、二人は挨拶を返してくれた。

二人とは昨日ものすごく怒られて正直会うのもビクビクしてたけど、反省しているのが伝わったのか意外と反応は優しかった。

すると、集合時間1分前に一が来た。

時間ちょうどに、枯罰と弦野が作った朝食を運んでくれた。

するとさらに遅れて黒瀬が来た。

…今更だけど、コイツマジで反省しねぇな。

 

「それじゃー食べましょー。」

 

いや、だからお前が仕切んなって。

…まあでも、このままだと冷めちまうし…とりあえず食うか。

俺達は、用意された朝食を摂った。

 

「今日も美味しかったですわ。ありがとうございます、枯罰さん、弦野さん。」

 

「ええよ別に。今更やし。」

 

「ボ、ボクも見習わないとなぁ…」

 

「あ、そういえば急に思い出したんだけど…一君、情報管理室の解析は進んだ?」

 

「あ、えっと…もう終わったよ。昨日徹夜で終わらせた。」

 

「は!?今、さらっととんでもない事言わなかったか!?」

 

「ボ、ボク、こういう事しか特技が無いから…はは…あ、あとでみんなで確認しに行こっか…」

 

「…。」

 

何だか、初めはどうなるかと思ってたけど、だんだんとみんながまとまっていい雰囲気になってきた気がする。

安生はみんなのまとめ役みたいになってるし、聞谷も最初はこういう環境に馴染めなかったって言ってたけど今はみんなと積極的に交流したりしてるし、枯罰も最初はよくわからない不思議な奴だと思ってたけど話してみれば案外普通の女子高生っぽい一面があるってわかったし、弦野も最初はみんなと壁を作って単独行動を取ってたけど今ではむしろ面倒見のいい兄貴分って感じだし、一も最初はビビりまくって会話をする事すら困難だったけど少しずつ心を開いてくれるようになったし、黒瀬も…まあ何だかんだでみんなとの生活を楽しんでるみたいだし、みんなここに来てから何というか…人間らしくなったような気がする。

この関係がずっと続けばいいんだけどな…

 

 

 

『うぷぷぷぷぷ!!そうは問屋が卸さないよ!!』

 

突然、例のイロモノが邪魔をしてきた。

モノクマはどこからとなく現れ、食堂のテーブルの上に飛び乗った。

 

『とうっ!!』

 

「チッ、またウゼェのが現れたぜ。」

 

「食後に汚物見せんなや。」

 

『ちょっと何ですかその態度は!!あ、わかった!!さては二人ともツンデレなんでしょ?そうなんでしょ!?』

 

「やかましいわお前。で、何しに来たん?」

 

『オマエラさぁ…何か忘れてる事があるとは思わない?』

 

「わ、忘れてる事…?」

 

『オマエラ、コロシアイはどうしたのさコロシアイは!!何かいい雰囲気っぽくなってるみたいだけどね、こっちはオマエラがコロシアイをしないせいで視聴率が下がってピンチなんだよ!』

 

「知るかそんなの。」

 

『というわけで、そろそろ誰か死ねよっていう無言の圧力がすごいのでそろそろオマエラにはコロシアイをしてもらおうと思います!』

 

「無駄だ。俺達は殺し合いなんてしない。」

 

『そんな事言って、4回も事件起こってるよねぇ?あ、3回目の裁判の時は二つ事件が起こってたわけだから正確には5回か。』

 

「くっ………そ、それでも俺はみんなを…仲間を信じる!!」

 

『仲間…ねぇ。そう思ってるのは、赤刎クンだけなんじゃないの?』

 

「何だと…!?」

 

『うぷぷぷ…オマエラ7人の中にイレギュラーがいるって言ったら、どうする?』

 

「イレギュラーだと…!?内通者の正体は暴いたってのに、まだいるのかよ!?」

 

「っていうか、この状況でイレギュラーって言ったら黒瀬さんが怪しいんじゃ…」

 

「ぴえん」

 

マズい…

せっかくさっきまでみんなの団結力が強まってたってのに、モノクマが余計な事を言ったせいで疑心暗鬼に陥ってしまった。

実際黒瀬っていう不穏因子がいるわけだし、モノクマが俺達に嘘を言ったことは無い。

もし、俺達の中にイレギュラーがいるとしたら…?

 

『うぷぷ!ほーらね、オマエラの絆なんて所詮爪でちょっと引っ掻いちゃえば破れる0.01mmなの!断言するよ。今回も必ずコロシアイは起こるよ!』

 

「何だと…!?」

 

「どういう事!?ちゃんと説明してよ!!」

 

『それは、これから見せるあるものが関係してるんだよねー。』

 

「あるもの…まさか、動機か?」

 

『ピンポンピンポーン!大正解ー!!なっかなかコロシアイをしないオマエラのために、今回も特別に動機を用意してあげたよ!それがこちら!』

 

モノクマは、どこからか某猫型ロボットアニメに出てくるようなライトを取り出した。

 

『テッテレー!お〜も〜い〜だ〜し〜ラ〜イ〜ト〜!!』

 

「デザインから取り出す時のエフェクトまで全部丸パクリじゃねぇか。」

 

「ホンマやなぁ。やってて恥ずかしくないんか?」

 

うわあ…

相変わらず弦野と枯罰は毒舌だなぁ。

 

「クマちゃん、中の人が同じだからって演出をパクるのは良くないよー。」

 

「いきなりメタ発言するのやめなよぉ…」

 

「中の人?何ですのそれは。」

 

「…うん、とりあえずみんなこれ以上話をややこしくするのはやめようか。」

 

安生に激しく同感。

黒瀬、お前はとりあえず中の人とかそういうとこツッコむのやめろ。

一も聞谷も引いてんじゃねぇか。

 

「…それで、その思い出しライトとやらは一体何なのかな?それを使って僕達をどうするつもりなんだい?」

 

『うぷぷぷぷ、実はね。ボクは、オマエラの記憶を一部だけ抜き取ってるんだよ!』

 

「な…記憶を抜き取る!?そんなの、今の科学技術でできるわけ…」

 

『できるんだよなー、これが!だってボクはオマエラのためにこのセカイを創造した神なんだよ?オマエラの記憶を抜き取るのなんて朝飯前なの!』

 

「まさか…抜き取った記憶を無理矢理思い出させるって事?何でそんな事を…」

 

『何でって、そんなのコロシアイをしてほしいからに決まってるじゃないかワトソン君!このライトの光を浴びせると、ボクが抜き取っていたオマエラの記憶が瞬時に蘇るんだよ!!ただ、急に記憶が戻ると下手したら半日から一週間は意識を失っちゃうかもね!』

 

「一週間って…その間ボク達のお世話は誰がするんだよ!?」

 

『その時は一番早く起きた人がやれば?』

 

「もし全員何日間も目覚めなかったら?」

 

『もちろんその時はボクが人肌脱ぎますよ!』

 

「うげっ…気持ち悪…」

 

『ちょっとそこー!何ですかその態度は!お世話してもらえるんだからありがたく思ってよね!!』

 

「いや、キショいやろ。何でお前に感謝せなアカンねん。」

 

『ガガーン!!もういいよ、それじゃあ早速夢の世界へイリュージョンしてもらいましょう!』

 

そう言って、モノクマはライトのスイッチを入れた。

そして、光を俺達7人に当てる。

 

「うわっ!?」

 

「まっ、眩し…」

 

くっ…

な、何だこの光…!?

頭がグルグルする。

頭が裂けそうなほど痛い。

色んな情報が入り混じって入ってくる。

 

何だ?

 

これは。

 

違う。

 

ちがう。

 

チガウ。

 

こんなの、俺の記憶じゃない。

 

 

 

違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う

 

…。

 

…………。

 

……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…はっ!!」

 

…どこだ?

ここは…

見慣れた天井…

楽園の個室…じゃないな。

診療所でもない…

 

 

 

「にーちゃんおっそよー!!」

 

「うぉわっ!!?」

 

俺の上に、突然6歳くらいの子供が乗ってきた。

正直、そんなに体格変わらないから重く感じる…

 

「おいにーちゃんおーきーろー!!」

 

「うぶっ」

 

痛い痛い痛い!

起きてるから!!

起きてるから往復ビンタはやめろ!!

…って。

 

「…あれ?お前、晃…だよな?」

 

「…にーちゃんどしたの?なんでそんな事聞いてくるの?」

 

「そ、そうだよな。…そう、だよな………」

 

おかしい。

俺は、今まで楽園にいたはず。

…なのに、何で晃がいるんだ?

それにここ…よく見たら俺がいた孤児院じゃねぇか。

…って事は、これは夢か?

 

「いってて…」

 

つねったら痛い…

って事は、これは現実なのか?

どういう事だ?

何がどうなって…

 

「にーちゃん、今日は学校のみんなと遊びに行く約束してるって言ってただろー!?早く起きないと遅れるぞー!!」

 

約束…?

そうだ、携帯…!

…げっ、もう20件も来てる…

 

《おい円ー、起きてっか?》

 

《返事しろよおーい!》

 

…えっ?

湊?

何で湊のアドレスからメッセージが?

…っていうか、何で湊が俺のアドレス知ってるんだ?

 

《なあ。遊びに行く約束って…どこ集合だっけ?》

 

《はあー!?学校の最寄り駅近くの公園って話になってただろ?ほら、あの変な滑り台があるとこ!忘れてんじゃねーよ!》

 

《そ、そうだったな。ごめん…》

 

えっと…

どうなってるんだ?

孤児院のみんなは無事で、湊も生きてて、俺はみんなと遊びに行く約束をしてる…

いつも通り弟や妹、そしてシスターと一緒に朝飯を食って、学校の最寄り駅まで向かって…

俺が公園に向かうと、俺と一緒に楽園にいたはずの15人が既に待っていた。

 

「おー、やっと来た!」

 

「赤刎君おそいよー、寝坊したの?」

 

「オメーこそいっつも遅刻してくるだろ。」

 

「あたっ!」

 

弦野が筆染を小突いている光景を、みんなが当たり前のように見ている。

どういう事だ?

札木も、武本も、湊も、神崎も、宝条も、筆染も、仕田原も、ジョンも、速水も、みんな生きてる。

 

「…………赤刎くん、大丈夫?」

 

「あ、ああ…ちょっと浮かれすぎて昨日夜更かししちまったかな、なーんて…」

 

「ふんっ、ガキね。」

 

みんなが、当たり前のように和気藹々と話している。

その後は、みんなと色んな所に遊びに行った。

…あれ?

何だこれ、すげぇ楽しい…

 

…もしかして、コロシアイなんて全部夢だったんじゃないか?

本当は拉致監禁なんてされてなくて、俺達は普通に入学して楽園生活を謳歌してた。

…そうだ、そんな気がしてきた。

もうあんな悪夢は二度と見たくないな。

 

俺達はその後、一緒に喫茶店に行った。

うおっ、俺が注文した特大クレープ!

うまそ〜!!

いただきまー…

 

 

 

ドンドンッ

 

「?」

 

急に窓ガラスを叩く音が聞こえたので見てみる。

すると、窓の向こうでは安生が何かを叫びながら何度も窓を叩いていた。

 

「…………!!………………!!!」

 

んだよ、何言ってんのかわかんねぇよ。

つーか窓叩くのお店の人に迷惑だからやめろ。

…ったく、しつけぇな。

普段の安生なら絶対こんな事しないのに…

…あれ?でも、安生は反対側の席にいるし…

…じゃあ、コイツは一体誰だ?

すると、安生のそっくりさんの声が少しずつ聞こえるようになってくる。

 

「…か…ね君!!…きて!!…を……して!!」

 

…ん?

何て言ってるんだ?

 

「赤刎君!!起きて!!目を覚まして!!」

 

…!!

そうだ、俺は…

 

…。

 

…………。

 

…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…はっ!!」

 

俺は、診療所のベッドで目を覚ました。

腕には、チューブのようなものが繋がれている。

 

「あ、良かった…やっと起きた。」

 

…ああ、何だ。

こっちが現実だったのか。

…って事は、みんな本当に死んじまったんだな…

 

「…なあ、今何時だ?」

 

「6時半。夕方のね。」

 

「…そっか。って事は俺、半日近く寝てたんだな。」

 

「5日。」

 

「……え?」

 

「君、5日も眠りっぱなしだったんだよ。」

 

「いつ…!?」

 

嘘だろ!?

俺、そんなに寝てたのかよ!!

そういや、思い出しライトを浴びると半日から1週間は意識が途絶えるってモノクマが言ってたけど…

 

「…。」

 

「どうしたの?」

 

「ああ、いや…何か思い出したのか、とか…聞かないんだなって思って。」

 

「…聞けないよ。それを聞いてしまったら、何かが壊れてしまうかもしれないから…」

 

「…そっか。そう、だよな…」

 

俺は全部思い出した。

初めは拒絶した。

でも、これが俺の記憶だとすれば全ての辻褄が合う。

…俺は、自分の記憶に、過去に、これからも向き合っていけるのだろうか。

 

「そういや他のみんなは?」

 

「聞谷さん、弦野君、一君の3人はまだ寝てるよ。枯罰さんは、僕と交代制でみんなのお世話をしていたんだ。今はちょうど僕の順番だから、枯罰さんは休憩してるんじゃないかな。黒瀬さんは別行動を取ってるみたいだけど…ごめん、診療所を出て行ったきりどこで何してるのかまでは…」

 

「…。」

 

俺は、隣のベッドを見た。

すると、安生の言う通りちゃんと3人がベッドで眠っていた。

3人ともチューブが腕に繋がれている。

…そりゃ1週間も寝たきりなんだもんな、自分で食ったり飲んだりできないから点滴に頼らざるを得なかったのか。

安生の話によると、光を浴びてから数時間後に安生が目覚め、それからさらに数時間後に枯罰が、黒瀬が目を覚ましたのは俺が目を覚ます数時間前の事だったらしい。

 

それにしても、本当に良かった…

俺が寝てる間に誰かが死んでたりとかは…してないんだな。

 

「赤刎君、大丈夫?お粥あるけど…食べる?」

 

「あ、ああ…じゃあ貰おうかな。」

 

俺は、安生に貰ったレトルトのお粥を食べた。

5日も眠りっぱなしだったという事もあって、すごく美味しく感じた。

 

「どう?身体は回復してきた?」

 

「あ、ああ…」

 

俺は大丈夫だけど、黒瀬と枯罰は大丈夫なのかな…

ちょっと様子を見に行ってやらないと。

俺は、早速二人を探し始めた。

 

「どこ行くの?」

 

「黒瀬と枯罰を探してくる。5日も経ってたら、二人とも無事なのかとかちょっと気になってな。」

 

「そう…」

 

俺は早速二人の研究室がある第五区画へ向かった。

 

 

 

「!」

 

第五区画には、枯罰の姿があった。

 

「枯罰!悪い。俺今目ぇ覚めたんだけど、黒瀬がどこにいるか知らね?」

 

「………。」

 

俺は枯罰に声をかけるが、枯罰は無反応なままどこかへ行ってしまった。

…どうしたんだ?

枯罰の奴。

記憶が戻ったからちょっとぼーっとしてるのかな?

…よっぽど思い出したくない記憶だったんだろうな。

俺は枯罰を追おうかとも考えたが、黒瀬が心配なのと今の枯罰はそっとしておいた方がいいという事で引き続き黒瀬を探す事にした。

俺は、早速黒瀬の研究室に入った。

 

「おーい、黒瀬ー。いるかー?」

 

俺は、黒瀬の研究室のドアを叩いて確認した。

だが、黒瀬からの返事はなかった。

 

「…。」

 

俺は、仕方なく窓の外から様子を見る事にした。

 

「…。」

 

黒瀬は、ソファに横たわっている。

俺は、一応無事かどうかを確認するために研究室の中に入った。

…すまん、黒瀬。

後で詫びる。

 

俺は研究室を見渡し、状況を把握した。

酷い有様だ。

…かなり散らかってるな。

黒瀬は…脈はあるな。

眠っているだけのようだ。

 

「…。」

 

キョロキョロと研究室の中を見渡すと、少しレトロな感じの小さな暖炉がある。

…そういえば、前から少し変だとは思ってたけど、暖炉とかソファーがある割には他の研究室と比べて狭い部屋だな。

暖炉の中を覗くとまだ使えそうな薪が積まれており、暖炉の横には火かき棒が並べられていた。

 

「…。」

 

そういや暖炉なんて使った事無いな。

そんな事を考えつつ、俺は暖炉をぼんやりと見つめた。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

黒瀬の研究室を後にし、俺は再び診療所に戻った。

診療所に戻ると、安生が眠っている3人を世話していた。

 

「あ、赤刎君。おかえり。」

 

「ああ…」

 

「枯罰さんと黒瀬さんを探しに行ったんだよね?二人共見つかった?」

 

「…ああ。二人共無事だったよ。」

 

「…そう。ならよかった。」

 

「3人はどうだ?まだ目覚めないままなのか?」

 

「…うん。みんな、定期的に起こそうとはしてるんだけど全然目を覚さなくて…僕の次に目が覚めた枯罰さんにも手伝ってもらいながら僕がお世話してるから、見たところは大丈夫そうだけど…」

 

確かにずっと寝てる割にはみんな元気そうだけど、安生の方は少しやつれているような気がする。

…そりゃあ、3人を枯罰と交代で世話してたら無理もないか。

俺が目を覚ますまでは俺達4人をずっと世話してくれてたんだもんな。

 

「なあ、安生。お前、ずっと一人でコイツらを世話してて色々大変だろ?アレだったら俺が代わるよ。」

 

「そう?じゃあお願いしようかな。」

 

「おう、任せとけ。」

 

俺は、安生に楽をさせてやりたかった。

自分は身体が弱いのに、頑張って俺達の面倒を見てくれていたんだ。

今度は、俺が安生を助ける番だ。

 

「…ありがとう、赤刎君。それじゃあ、お言葉に甘えて僕は少し休んでくるね。」

 

そう言って、安生は診療所から出て行った。

…よし、頑張ってみんなを世話するぞ!

これでも孤児院では年長だったからな。

えーっと、まずは何をすれば…

…あれ?

俺、まずは何をすればいいんだ?

しまった。孤児院で弟妹達の世話してるから大丈夫って安請負いしちまったけど俺、看病なんてやった事ないんだった…

やべ…どうしよ…

…今からでも安生を呼ぶか?

でも、せっかく休んでこいって言ったのにやっぱり手伝えとは言えねぇしなぁ…

 

「何しとんねんお前。」

 

「枯罰…!」

 

気がつくと、枯罰が後ろに立っていた。

 

「今は安生が世話する時間のはずやのに外出歩いとったさかい、何があったのか聞いてみればお前に任せたやと?嫌な予感がして急いで来て正解やったわ。」

 

「う…」

 

枯罰は、ジト目で俺を見ながらため息をついた。

うぐぐ、痛いところを突きおる…

そうです、今まさにみんなの世話でどうしたらいいのかわかんなくなってたところです。

 

「コイツらの世話はウチがやるさかい、お前はウチを手伝え。ええな?」

 

「お、おう…」

 

俺は、枯罰に指示された事をやった。

枯罰は、手際良くみんなの世話をしていた。

…俺も少しはコイツを見習わないとな。

 

俺達3人は、交代制で眠っている3人の世話をした。

黒瀬はというと、まだ研究室で寝ている。

すると日付が変わり午前1時に差し掛かった頃、ずっとつきっきりで面倒を見ていた甲斐があってかようやく弦野が目を覚ました。

 

「…………うぅ。ここは…どこだ……?」

 

「やっと目ぇ覚めたんか。ここは診療所や。」

 

「診療…所?…俺、どのくらい寝てたんだ?」

 

「5日ちょいやな。」

 

「いつ…!?嘘だろ、そんなに寝てたのかよ!?…いっっ………」

 

弦野は、頭を押さえて痛がりだした。

 

「大丈夫か?」

 

「ああ…急に記憶が戻ったから、頭が混乱しちまってるみたいだ。…けど、これは間違いなく俺の記憶だ。」

 

「…そっか、やっぱりお前もあの光を見て全部思い出したんだな。」

 

「……みたいだな。…あれ?そういや他の奴等は?」

 

「聞谷と一はまだ眠ってて、安生は休憩中だ。俺達はシフトでお前らの世話をしてたからな。黒瀬の奴は、まだ研究室で呑気に寝てるよ。さっきチラッと確認してきた。」

 

「…そうか。」

 

弦野は、少し俯くとすぐに顔を上げて言った。

 

「…なあ、俺にも何か手伝わせてくれないか?」

 

「え、でも…いいのか?目が覚めたばっかりなのに…」

 

「目が覚めたのに、俺だけ何もしないわけにはいかないだろ。お前らは俺達の世話で色々と疲れてるだろうし、俺も手伝うよ。」

 

「…弦野。」

 

「あ?何だよ。」

 

「…お前、何か変わったよな。みんなを思いやれる、そんな奴になった気がする。」

 

「……何言ってんだよ、恥ずいだろ。」

 

弦野は、照れ臭そうにそっぽを向いた。

弦野も俺達を手伝ってくれる事になり、俺達は4人でまだ目を覚さない聞谷と一の世話をした。

すると、ちょうど昼頃に今度は一が目を覚ました。

一も、初めは自分の記憶に混乱してはいたが、すぐにそれを自分の記憶だと受け入れた。

 

「あ、あの…ボク…」

 

「…良かった。一も目を覚ましたんだな。」

 

「おい、赤刎。お前はそろそろ寝ろ。」

 

「え?俺はいいよ。それより、弦野。お前、まだシフト入ってから一回も休んでないだろ?」

 

「俺はいいんだよ。昨日までずっと寝てて体力有り余ってるからな。お前の方こそ一回休め。」

 

「そうだよ、赤刎君。気持ちは嬉しいけど、無理はいけないな。」

 

「おう、そういう事なら…」

 

俺は、その場で瞼を閉じて仮眠を取った。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「おい、赤刎。起きろ。」

 

「ん………」

 

俺は、弦野に起こされてぼんやりとではあるが目が覚めた。

 

「…どうした?弦野。」

 

「聞谷が目を覚ました。」

 

それを聞いた俺は、完全に目が覚めた。

これで全員記憶が戻ったんだ。

何はともあれ、ここにいる全員が無事なら良かった。

ふと時計を見ると、時計は7時半を指していた。

…そっか。俺、仮眠を取るとか言いながら7時間以上寝てたのか。

 

「え、えと…わ、わたくし…は……」

 

俺がふと聞谷のベッドを見ると、聞谷は自分の記憶に少し混乱しつつもそれを自分の記憶だと受け入れていた。

 

「聞谷さん、大丈夫かい?」

 

「……はい。わたくし、全部思い出しましたの。…どうしてこんな大事な事を今まで忘れる事ができたのでしょうか…」

 

俺が聞谷の言葉に安心していると、聞谷は周りをキョロキョロと見渡して言葉を発した。

 

 

 

「…………あら?黒瀬さんは?」

 

それを聞いた一は、俺の方を見ながら答えた。

 

「黒瀬さんなら研究室で寝落ちちゃってるんだよね?」

 

「ああ。俺が見た時はそうだったけど…」

 

黒瀬は研究室で昼寝をしているだけ、俺は聞谷にそう伝えた。

だが、それを聞いた弦野は、かなり深刻そうな顔をしていた。

 

「…おい、変じゃないか?」

 

「え?」

 

「考えてもみろよ。俺が赤刎や枯罰から黒瀬が研究室で寝てるって聞いたのは夜中の1時だぞ?いくら黒瀬だからって、20時間も寝てるのはどう考えたっておかしいだろ。」

 

「あ…」

 

「俺は確かめに行くぞ。」

 

そう言って、弦野は黒瀬の研究室へ走っていった。

 

「あ、待てよ弦野!」

 

俺達5人も、弦野を追いかけて黒瀬の研究室へと向かった。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

俺達が黒瀬の研究室に辿り着くと、弦野は黒瀬の研究室の扉のドアノブを何度も捻っていた。

 

「クソッ、開かねぇ!!コイツ、内側から鍵閉めてやがんのか!!…おい、お前ら下がってろ。」

 

「ちょっ…ねぇ君、何する気!?まさか…」

 

「弦野さん、いけませんわそんな…!ここは穏便にいきましょう、ね!?」

 

「うるせぇ!!人の命が掛かってるかもしれねぇんだぞ!!…オラァ!!!」

 

弦野は、無理矢理ドアを蹴破って中へ入った。

 

「ひっ…!け、蹴ってドアを…」

 

「おいクソ女!!生きてんなら返事しやがれ!!聞いてんのかコラ!!」

 

弦野は、大声で叫びながら黒瀬を探す。

そして、ふとソファーの上にあったものが弦野の目に留まった。

弦野は目を見開き、先程までの態度とは打って変わって静かに()()に触れると、顔を青くした。

 

「…弦野君?どうし…」

 

「見るな!!!」

 

弦野は見るなと叫んだ。

だが、俺は嫌でもそれが目に留まってしまった。

 

ソファーの下に転がる、齧られた白と黒のリンゴ。

その近くにだらんと力なく垂れ下がった左手。

まるで、本当にただそこで眠っているかのように。

ソイツは口と肩から血を流し、安らかな表情を浮かべていた。

 

ソイツは、この前まで俺のクラスメイトだった。

色々あったけど、それでも俺はコイツに死んでほしいとは思えなかった。

…なのに、何でお前まで…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【超高校級の脚本家】黒瀬ましろは、そこで死んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

ー生存者ー

 

【超高校級の講師】赤刎円

 

【超高校級のカウンセラー】安生心

 

【超高校級の香道家】聞谷香織

 

【超高校級の傭兵】枯罰環

 

【超高校級のヴァイオリニスト】弦野律

 

【超高校級のソフトウェア開発者】一千歳

 

ー以上6名ー

 

 

 




ついに5章で死人が出たぜヒィーハァー!!(深夜テンション)


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非日常編①(捜査編)

ピーンポーンパーンポーン

 

『死体が発見されました!住民の皆さんは、至急【超高校級の脚本家】の研究室にお集まり下さい!』

 

放送が鳴り響いたのは、俺達が黒瀬の亡骸を目の当たりにした直後だった。

 

「………嘘だろ?黒瀬……」

 

「いやぁああああああっ!!!」

 

「帰る帰る帰る帰る帰る…」

 

「そんな、黒瀬さん…」

 

「…。」

 

「クソッ…」

 

俺は、呆然と立ち尽くしていた。

黒瀬は、まるでお伽噺の白雪姫のように、ソファーの上で動かなくなっていた。

いくら今まで散々みんなに迷惑をかけた奴とはいえ、死んでしまうのは耐えられなかった。

聞谷と一は混乱し、安生と弦野は黒瀬の死を悔やんでいた。

枯罰は、俯いており表情で何を考えているのか察する事はできなかった。

 

『うぷぷぷぷ!ついに5回目の殺人が起きちゃいましたね!いやー、まさかあれだけ余裕ぶっこいてた黒瀬サンが被害者になるとはね。コロシアイを舐めて好き勝手やってたからこんな事になるんだよ!』

 

「モノクマ…!」

 

『というわけで今回もファイル配るから、捜査頑張ってねー。』

 

モノクマは、ファイルを送信するとそそくさと消えていった。

 

「…よし、ファイル貰ったし捜査を始めるとするか。」

 

「ほんならウチが……」

 

「…いや、枯罰さんは今回の事で気が動転してるんでしょ?ここは僕が検視をやるよ。」

 

「は?何言うてんねん。お前、血ィ無理やったやろ?」

 

「…命がかかってるんだ。そんな甘い事言ってる場合じゃない。」

 

そう言って黒瀬の死体に近づく安生だったが、手が震えて青ざめた顔には冷や汗が浮かんでいた。

それを見た俺は、ここで俺が動くしかないと思った。

 

「俺も手伝うよ。」

 

「…じゃあ俺もやる。」

 

「ありがとう。赤刎君、弦野君。」

 

俺と弦野が見張りを引き受けると、安生は青ざめた顔が少し戻った。

 

「聞谷と枯罰と一は各自探索を進めてくれ。」

 

「わかりましたわ。」

 

検視は俺と安生と弦野が、捜査を聞谷と枯罰と一が担当する事になった。

何としてでも黒瀬の死の真相を解き明かさねぇと。

みんなが生き残るには、それしか方法が無いんだ。

 

 

 

ーーー

 

 

 

《捜査開始!》

 

 

 

まずはモノクマファイルを確認しておこう。

 

モノクマファイル⑥

被害者は【超高校級の脚本家】黒瀬ましろ。

死亡時刻は午後7時15分。

死体発見場所は【超高校級の脚本家】の研究室。

死因は中毒死。

喀血が見られ、右肩に切傷がある。

 

中毒死か…

肩からの出血量は少ないし、これが死因だとは思えない。

死因は毒殺で間違いないだろう。

 

 

 

コトダマゲット!

 

【モノクマファイル⑥】

 

 

 

次は黒瀬の死体を調べるとするか。

 

「っ…!?」

 

何だこの鼻を刺すような変な匂いは!?

黒瀬の死体からだな。

何か香辛料みたいな匂いがするけど…

これは一体何の匂いなんだ?

 

 

 

コトダマゲット!

 

【香辛料の匂い】

 

 

 

「…。」

 

黒瀬の頬に触れると、氷のように冷たかった。

この間まで俺に懐いてきたコイツがもうこの世にはいないと思うと、何とも言えない気分になった。

すると、同じように死体を調べていた安生が怪訝そうな表情を浮かべていた。

 

「…おかしい。」

 

「え?」

 

「死体が冷たすぎるんだ。死亡推定時刻は19時15分。で、今は19時40分。死後30分もしない間にここまで急激に体温が下がるとは考えられないな。これは、少なくとも死後1日以上は経ってる死体だよ。」

 

「…。」

 

死後1日以上か…

 

 

 

コトダマゲット!

 

【安生の検視結果】

 

 

 

「さて、もう少し詳しく見ていこうか。」

 

「ああ。」

 

俺は、黒瀬の死体を観察した。

見ると、黒瀬は口から血を流していた。

 

「あれ?これは…」

 

「…これは、喀血っていって肺から出血してるんだ。おそらく、黒瀬さんを殺した毒によるものだろうね。」

 

「なるほどな…」

 

 

 

コトダマゲット!

 

【喀血】

 

 

 

俺は、黒瀬の右肩の切り傷を観察した。

傷口は綺麗に切り裂かれていて、鋭利な刃物で切りつけられたとしか考えられない。

自分で切りつけたんじゃこうはならないし、余程扱い慣れた刃物で切られたと考えるのが妥当だろう。

だが、出血量を見る限りこれが直接の死因になったとはまず考えにくい。

そもそも、ファイルには死因は中毒死って書いてあるしな。

…じゃあ、この切り傷は一体…?

 

 

 

コトダマゲット!

 

【肩の切り傷】

 

 

 

俺が肩の切り傷を観察していると、弦野が覗き込んできた。

 

「…あれ?これ、何だろうな。」

 

「ん?」

 

よく見ると、切られたパーカーには血に混じって黒いシミのようなものが滲んでいた。

 

「二人とも、どうしたの?」

 

「ああ、いや…血に混じって黒いシミが付いててさ。安生はこれが何かわかるか?」

 

「うーん…」

 

安生は、黒瀬の肩を観察して少し考え込んだ。

何かわかったのかと思って尋ねてみると、意外な答えが返ってきた。

 

「…これは多分毒だね。」

 

「毒?」

 

「うん。それもかなり強力で、少量でも死に至る毒だよ。」

 

「何でそんな事わかるんだよ?」

 

「いや…状況的にそうとしか考えられないなって。それに見てよ。黒瀬さんの肩の傷口にも、よく見たら黒い液体が染み込んでるんだ。それで、黒い液体が付着してる部分だけが炎症を起こしてるでしょ?多分、切りつけられた時に毒が混入したんじゃないかな。」

 

「…。」

 

切りつけられた時に毒が混入した、か…

じゃあそれが直接の死因なのか?

でも、そうだとしても何かが引っかかる…

 

 

 

コトダマゲット!

 

【黒い液体】

 

 

 

「…あ。」

 

ソファーの近くの床には、齧られたリンゴが落ちている。

モノクマのように白と黒に分かれた気味の悪いリンゴは、白い部分だけ齧られていた。

…あれ?

リンゴの齧られた部分に少しだけ血が付いてるな。

 

 

 

コトダマゲット!

 

【齧られたリンゴ】

 

 

 

「…おい、モノクマ。」

 

『はい何でしょ?』

 

「このリンゴの毒について詳しく教えて欲しいんだが。」

 

『えー、やだなぁ。何で教えなきゃならないのさー。』

 

「いや、こんな得体の知れない物体が絡んでる事件をどう推理しろっていうんだ。俺達の常識にない事柄は事前に教えておかなきゃ公平性を保ててるとは言えないだろ?」

 

『ぐぬぬ、そう言われると返す言葉が無いですね。そのモノリンゴは、モノトキシンαとモノトキシンβという二種類の毒が含まれています。白い方はモノトキシンαが、黒い方はモノトキシンβが含まれてるんだけど、この二種類の毒はお互いに中和作用を示すから毒が回る前にもう片方の毒を摂取すれば解毒できるんだよ。』

 

「へぇ。」

 

 

 

コトダマゲット!

 

【モノトキシンα】

 

コトダマゲット!

 

【モノトキシンβ】

 

 

 

『それと、解毒の時は1時間くらい強い睡眠作用が伴うんだよね。どれくらい強いかっていうと、寝てる間にゴソゴソチョメチョメしても全く起きないくらい強いんだよ!』

 

「ああ、そういうのいいから。もう行っていいぞ。」

 

『ちぇーっ、せっかく教えてあげたのに…』

 

モノクマは、ぶつくさと文句を言いながらどこかへ去っていった。

 

 

 

コトダマゲット!

 

【解毒の副作用】

 

 

 

「…ふう、やっと目障りなのが去ってくれた。」

 

俺は、引き続き黒瀬の死体を調べた。

すると、スカートのポケットに何かが入っている事に気がつく。

 

「…あれ?」

 

ポケットには、小さく折り畳まれた紙が入っていた。

開いてみると、何かが書かれている事に気がつく。

俺は、紙に書いてある内容を読んでみた。

 

『ここを出ろ 繰り返すな この世界を壊せ』

 

何だこれは?

一見意味不明な内容だが、俺達に託したメッセージのようにも思える。

かなり綺麗な字で書かれてるし、これは死ぬ直前とかに書いたものじゃないだろう。

って事は、黒瀬はかなり前から死ぬ予定があって、俺達にメッセージを残そうとしたって事か?

 

 

 

コトダマゲット!

 

【黒瀬の手紙】

 

 

 

「…とりあえず、検視からわかる情報はこれくらいかな。」

 

検視を終えた俺は、部屋の中を見渡してみた。

 

「…あれ?」

 

何だ、本棚が荒らされて本が散乱しているな。

本好きの黒瀬からは考えられない散らかり方だ。

しかもよく見たら所々ぶつかったような痕があるし、ここでいざこざがあったって事か?

 

 

 

コトダマゲット!

 

【散らかった部屋】

 

 

 

「あとは…」

 

あれ?

何だ?

今、散らかった本の中で何かが光ったような…

俺は、散らかった本を掻き分けて光ったものを探してみた。

 

「…何だこれ?」

 

床に落ちていたのは、小さな銀色の十字架だった。

金具が取れたような痕がある事から考えても、おそらくこれは誰かのアクセサリーだったと考えられる。

十字架のアクセサリーを使ってそうな奴は…

 

 

 

コトダマゲット!

 

【銀色の十字架】

 

 

 

「…ん?」

 

よく見ると、棚の後ろにスプレー缶が隠されていた。

 

「何だこれは?」

 

スプレー缶を拾い上げて調べてみた。

持ち上げてみると見た目の割に軽いので、おそらく中身のほとんどは既に使われているのだろう。

よくよく調べると、黒瀬の身体の匂いと同じ匂いがする。

これってもしかして、催涙スプレーじゃないのか?

だとしたら、何でこんな所に…

 

 

 

コトダマゲット!

 

【催涙スプレー】

 

 

 

俺が探索を進めていると、枯罰が声をかけてきた。

 

「おうチビ、検視は終わったんか?」

 

「まあ、大体調べ終わったかな。」

 

「さよか。ほんなら、ウチが調べてわかった事と聞谷や一に調べてもろた事を一応報告しとくわ。」

 

「ああ、頼む。」

 

俺は、枯罰から報告を聞く事にした。

 

「まず、ウチの捜査結果から言うぞ。まずな、この部屋は窓が全部閉め切られとった。」

 

「窓が?」

 

「ああ。見てみ。」

 

枯罰は、パスポートで撮った写真を見せてくれた。

枯罰が撮った写真の窓は、ガムテープが貼られていた。

 

「…え?」

 

「これ、部屋にある窓全部こうなっとった。」

 

ガムテープでガチガチに固められて…

隙間が一ミリも無いな。

 

 

 

コトダマゲット!

 

【閉め切られた窓】

 

 

 

「それだけやない、何故かずっと使われとらんかったはずの暖炉が使われとった。」

 

「暖炉が?」

 

「おう。薪は使った痕があるし、火かき棒も使われとった。何のために暖炉なんて使ったんやろな。」

 

「…。」

 

 

 

コトダマゲット!

 

【暖炉】

 

 

 

「それとな、あといくつかになる事があんねん。」

 

「何だ?」

 

「まず暖炉についとった煙突やけどな、入り口が塞がれとったんや。暖炉を使うなら、こないな事せえへんやろ?」

 

「まあ、な…」

 

「誰かが意図的に塞いだのかもなぁ。」

 

 

 

コトダマゲット!

 

【塞がれた煙突】

 

 

 

「もう一つは、換気扇や。」

 

「換気扇?」

 

「ああ。換気扇に何かが貼り付けられたような痕があったんや。」

 

「貼り付けられたような痕?」

 

「おう。ガムテープを剥がしたような痕や。心当たりあるか?」

 

「いや…」

 

ガムテープを剥がした痕か。

そういえば窓もガムテープが貼られてたけど…

何か関係あるのかな?

 

 

 

コトダマゲット!

 

【換気扇の痕】

 

 

 

「あと扉を調べてわかった事なんやけど、これ見てみい。」

 

枯罰は、再び俺に写真を見せてきた。

さっき弦野が無理矢理蹴破ったドアだ。

 

「これ、よぉ見てみ?おかしないか?」

 

枯罰は、よく見えるように写真を拡大した。

 

「…あれっ?これ、鍵がかかってないぞ?」

 

「せやな。弦野の奴は無理矢理扉を蹴破ったけど、元々扉には鍵がかかってへんねん。ほんなら、あの時扉が開かなかったのは何でなんやろな?」

 

 

 

コトダマゲット!

 

【研究室のドア】

 

 

 

「…何かで無理矢理扉を固定されてたとか?」

 

「せやろな。ウチもそう思て扉を調べたんやけどな、気になるモンを見つけたんや。」

 

そう言って、枯罰は写真を見せてきた。

よく見ると、扉には透明のゼリー状の何かが貼り付いている。

 

「何だこれ?」

 

「さぁなぁ。近くで嗅いでみたら薬品臭かったさかい、何かの薬品なんやろな。」

 

「何かの薬品か…心当たりあるか?」

 

「んー…多分、接着剤とかやろな。」

 

 

 

コトダマゲット!

 

【扉のゼリー状の何か】

 

 

 

「それと、これは一の奴の証言や。」

 

枯罰は、一の証言をまとめたものを教えてくれた。

 

「まず、死亡時刻の約1時間後に換気扇のスイッチが手動モードになっとった。」

 

「換気扇が?」

 

「せや。何で換気扇が使われとったのかはわからへんけどなぁ。」

 

 

 

コトダマゲット!

 

【換気扇のスイッチ】

 

 

 

 

「それと、トラッシュルームに変なモンが捨てられてたらしいで。」

 

「変な物?」

 

「せや。写真撮ってきてもろたからお前も見い。」

 

枯罰は、俺に一から送ってもらった写真を見せた。

そこには、割れたガラスが写っていた。

よく見ると、ガラスにはラベルが貼られていて『β』と書かれていた。

…あれ?

β?

どっかで聞いたことある響きだな。

 

 

 

コトダマゲット!

 

【割れたガラス片】

 

 

 

「それと、もう一つ捨てられてたモンがあったんやと。」

 

「…何?」

 

枯罰は、画面をスライドしてもう一枚の写真を見せた。

そこには、銀色の何かが写っていた。

 

「これは…何だ?」

 

「接着剤のチューブらしいで。」

 

「何で接着剤がトラッシュルームに捨てられてるんだ?」

 

「ウチに聞くなや。ウチは実物を見とらんさかい、詳しい事は知らん。」

 

接着剤ねぇ…

…あれ?

何かどこかで聞いた事あるような…

 

 

 

コトダマゲット!

 

【接着剤のチューブ】

 

 

 

「次は聞谷の捜査結果を報告するで。」

 

「ああ、頼んだ。」

 

「まず、物理室からガスマスクが一つ盗まれとったらしいで。」

 

「ガスマスクが?」

 

一体何のために…

 

 

 

コトダマゲット!

 

【ガスマスク】

 

 

 

「それとな、本が散らかってた方の本棚とは逆側の本棚なんやけど、並びがおかしいらしいで。」

 

「え?」

 

そう言って枯罰は再び写真を見せた。

写真の本棚はジャンルなどが無造作に並べられていて、きちんと本をジャンルごとに並べていた黒瀬が並べたとは考えられない並べ方だった。

 

「よぉ見てみぃ。ジャンルとかがバラッバラやろ?黒瀬やったらこないなけったいな並べ方はせえへんよ。」

 

「本当だ…確かに並べ方がおかしいな。誰かが並べ直したって事か?」

 

「せやろな。誰が何の目的で並べ直したのかまではわからへんけどな。」

 

 

 

コトダマゲット!

 

【本の並べ方】

 

 

 

「それと、こんなモンが研究室のゴミ箱に捨てられとったらしいで。」

 

枯罰が見せてきた写真には、折れた何かが入ったゴミ箱が映っていた。

よく見ると折れた部分から青みを帯びた黒い液体が漏れている。

おそらく、漏れているのはインクだ。

…って事は、捨てられてるのはもしかしてペンか?

 

「何だこれ。…ペン?」

 

「せやな。しかも、かなり丈夫で高級なヤツや。一体どないな使い方したら真っ二つに折れんねん。」

 

「確かに…いくら怪力の黒瀬とはいえ、流石にストレス発散でペン折ったりは…しないよな。」

 

 

 

コトダマゲット!

 

【折れたペン】

 

 

 

「そういや、枯罰。」

 

「何や。」

 

「みんなが目覚めた順番と時間を教えてくれないか?」

 

「えーっとなぁ… 光を浴びてから3時間後に安生、それからさらに6時間後にウチ、黒瀬が目を覚ましたのはお前が目を覚ます2時間前だったらしいで。弦野が目覚めたのは午前1時、一が目覚めたのは正午、聞谷が目覚めたのは19時半やな。」

 

「その間に誰か起きたりしてないよな?」

 

「してへんよ。交代で見張りしとったさかい、誰か起きたらその時点で異変に気付くやろ。」

 

なるほど…

って事は、まず聞谷には犯行不可能だったってわけか。

 

 

 

コトダマゲット!

 

【起床時間】

 

 

 

「…うーん。みんなが寝てる状態だと、アリバイの証明のしようがないよな。」

 

「そんな事はあらへんと思うで。診療所の入室履歴確認してみ。」

 

「そっか、その手があったか。」

 

俺は、1日分の入室履歴を確認してみた。

 

18:00 退室

18:38 退室

19:18 入室

19:25 退室

19:28 入室

19:57 退室

20:30 入室

01:24 入室

12:05 退室

19:25 入室

 

「なるほどな…」

 

「この履歴と当時の状況を合わせて考えれば、犯人が見えてくるんとちゃうか?」

 

「確かに。」

 

「パスポートの方にも履歴が残るみたいやし、裁判でパスポート見せ合えば一発で犯人わかるやろ。」

 

「…そうだな。」

 

 

 

コトダマゲット!

 

【診療所の履歴】

 

 

 

ピーンポーンパーンポーン

 

『えー、もう待ちくたびれたので捜査時間を打ち切らせていただきます!オマエラ、ホテル1階のエレベーター前まで集合して下さい!15分以内に来ないとオシオキしますよー!』

 

え、嘘!?

もう終わり!?

クッソ、まだ調べておきたい事はあったのに…

…でも、ここで悔しがってる場合じゃないな。

早くエレベーター前に行かないと。

俺は、覚悟を決めてエレベーター前に向かった。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

俺がエレベーター前に到着した時には、既に他の5人は集まっていた。

その直後、アナウンスからちょうど15分になった。

 

『うぷぷぷ、ちゃんと全員集まりましたね?それでは裁判所へレッツゴー!』

 

モノクマがそう言った直後、エレベーターの扉が開く。

6人全員が乗り込んだ直後、エレベーターの扉が閉まり下に動き出した。

 

…未だに信じる事ができない。

この中に黒瀬を殺した犯人がいるかもしれないなんて…

…黒瀬ましろ。

アイツは、かなりマイペースで周りを振り回して楽しむような奴だった。

実際、ジョンや速水はアイツに命を弄ばれた。

だけど、アイツが死んでよかったとは思わない。

黒瀬の死の真相を明らかにしなきゃみんなが死ぬ。

何としてでも、学級裁判を乗り越えてみせる!!

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

ー生存者ー

 

【超高校級の講師】赤刎円

 

【超高校級のカウンセラー】安生心

 

【超高校級の香道家】聞谷香織

 

【超高校級の傭兵】枯罰環

 

【超高校級のヴァイオリニスト】弦野律

 

【超高校級のソフトウェア開発者】一千歳

 

ー以上6名ー

 

 



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非日常編②(学級裁判前編)

コトダマ一覧

 

【モノクマファイル⑥】

モノクマファイル⑥

被害者は【超高校級の脚本家】黒瀬ましろ。

死亡時刻は午後7時15分。

死体発見場所は【超高校級の脚本家】の研究室。

死因は中毒死。

喀血が見られ、右肩に切傷がある。

 

【香辛料の匂い】

黒瀬の身体から香辛料の匂いがする。

 

【安生の検視結果】

死体は少なくとも死後1日以上経っている。

 

【喀血】

黒瀬は肺から出血している。毒を盛られた事が原因だと考えられる。

 

【肩の切り傷】

傷口は綺麗に切り裂かれていて、鋭利な刃物で切りつけられたと考えられる。

余程刃物の扱いに長けた人物の犯行と考えるのが妥当。

 

【黒い液体】

黒瀬の肩に付いていた液体。

皮膚が炎症を起こしている事から、猛毒と考えられる。

 

【齧られたリンゴ】

モノリンゴという白と黒に分かれたリンゴ。

白い方だけ一口齧られており、齧った部分には血が付着していた。

 

【モノトキシンα】

モノリンゴの白い皮に含まれる猛毒。モノトキシンβの効果を打ち消す。

 

【モノトキシンβ】

モノリンゴの黒い皮に含まれる猛毒。モノトキシンαの効果を打ち消す。

 

【解毒の副作用】

モノトキシンαとモノトキシンβが反応すると、解毒の際に強力な睡眠作用が伴う。

副反応は、寝ている間に何かをしても起きない程強力。

 

【黒瀬の手紙】

黒瀬のポケットに入っていた。

『ここを出ろ 繰り返すな この世界を壊せ』と書かれている。

一見意味不明な内容だが、俺達に託したメッセージのようにも思える。

かなり綺麗な字で書かれており、死ぬ直前に書いたものとは考えにくい。

 

【散らかった部屋】

黒瀬の部屋には本が散乱しており、本棚にはぶつかったような痕があった。

研究室内で争いが起こった可能性が高い。

 

【銀色の十字架】

散らかった本の中に紛れていた。

金具が取れたような痕がある事から考えても、おそらく誰かのアクセサリーだったと考えられる。

 

【催涙スプレー】

本棚の裏に隠されていた。

中身のほとんどは既に使われていると考えられる。

中身は、黒瀬の身体の匂いと全く同じ匂いがする。

 

【閉め切られた窓】

研究室の窓は全て閉め切られており、ガムテープで塞がれていた。

 

【暖炉】

ずっと使われていなかったはずの暖炉が使われている。

 

【塞がれた煙突】

暖炉が使われていたにもかかわらず、煙突は塞がれていた。

 

【換気扇の痕】

換気扇にガムテープを剥がしたような痕があった。

 

【研究室のドア】

研究室のドアはサムラッチ錠が付いているが、それ以外の鍵は掛かっていなかった。

 

【扉のゼリー状の何か】

扉には、ゼリー状の何かがくっついていた。

枯罰曰く薬品のような匂いがするらしい。

 

【換気扇のスイッチ】

いつの間にか換気扇が手動モードになっており、黒瀬の死亡時刻の約1時間後に研究室の換気扇のスイッチが入れられていた。

 

【割れたガラス片】

トラッシュルームには割れたガラス片が捨てられていた。

ガラス片にはラベルが貼られており、よく見ると『β』と書かれている。

 

【接着剤のチューブ】

トラッシュルームに銀色のチューブが捨てられていた。

一曰く、瞬間接着剤のチューブらしい。

 

【ガスマスク】

物理室からガスマスクが盗まれていた。

 

【本の並べ方】

よく見ると、本が落ちていた本棚とは反対側の本棚の本の配置がおかしい。

ジャンルなどがバラバラに並べられており、本好きの黒瀬が並べたとは考えられない。

おそらく何者かが並べ直したと考えられる。

 

【折れたペン】

研究室のゴミ箱には、真っ二つに折れたペンが捨てられていた。

 

【起床時間】

まずは光を浴びてから3時間後に安生、それからさらに6時間後に枯罰、5日後に黒瀬、さらに2時間後に俺、さらに約6時間後に弦野、さらに11時間後に一、さらに7時間後に聞谷が目を覚ましている。

犯行時刻から考えて、まず聞谷には犯行不可能。

 

【診療所の履歴】

診療所の入退室履歴。

18:00 退室

18:38 退室

19:18 入室

19:25 退室

19:28 入室

19:57 退室

20:30 入室

01:24 入室

12:05 退室

19:25 入室

となっている。

 

 

 


 

 

 

エレベーターが止まると、扉が開いた。

全員が、それぞれの思いを抱えながら自分の席につく。

速水と黒瀬の席には、それぞれバツ印が書かれた遺影が置かれていた。

あの二人が死んでしまったなんて、今でも信じられない。

でも、やるしかない。

真相を明らかにしなければみんな死ぬ。

…また始まるんだ。

命懸けの学級裁判が…!!

 

 

 

《学級裁判 開廷!》

 

 

 

モノクマ『ではまず裁判の簡単な説明をしておきましょう。学級裁判では『仲間を殺した犯人は誰か』について議論をし、その結果はオマエラの投票によって決まります!もし正解ならクロのみがオシオキ、不正解ならクロのみが失楽園、それ以外の全員がオシオキとなります!』

 

一「…前から思ってたんだけどさ、その前置きっているの?」

 

モノクマ『何を言ってるんですか!何事も様式美が大事なんだよ!この前置きがあるからこそ、やる気や元気が漲るんじゃないですか!』

 

弦野「いや、全く。」

 

モノクマ『………あっそ』

 

あれ?

なんかちょっと拗ねてないか?

まあ、そんな事どうでもいいけど。

 

安生「そんな事より今は議論を進めよう。こういう時は、事件の概要を振り返るのがセオリーだよね?」

 

一「で、でも!今回の事件は簡単だよね!?」

 

弦野「は?」

 

一「黒瀬さんは自殺だったんだよ!!」

 

弦野「…。」

 

一「ひっ!?な、何だよぉ、その目は…!!ボクが間違ってるって言いたいわけ!?」

 

赤刎「まあまあ…とりあえず、黒瀬が自殺だったかどうかについて議論しよう。」

 

 

 

ーーー議論開始!!ーーー

 

 

 

一「黒瀬さんは《自殺》だ!!そうに違いないよ!!」

 

聞谷「ええと…いきなり自殺だと決めつけるのは早計では?」

 

一「いや、黒瀬さんは自殺で間違いないね!!」

 

弦野「じゃあ聞くが何でそう思うんだ?」

 

一「だって、黒瀬さんは穏やかな表情で死んでたんだよ!?《殺された》んだとしたらあんな表情にはならないよね!?それに、床には《毒リンゴ》が落ちてたじゃん!!」

 

弦野「…何で散々俺達を引っ掻き回した黒瀬が今になっていきなり自殺したんだ?」

 

一「理由なんて今はどうでもいいよ!!大事なのは、黒瀬さんが《たった一人で自殺した》って事なんだからさ!!」

 

今の一の発言はおかしい!!

 

 

 

《たった一人で自殺した》⬅︎ 【散らかった部屋】

 

「それは違うぞ!!」

 

《論 破》

 

 

 

赤刎「いや、黒瀬は誰かに殺された可能性が高い。」

 

一「な、何で!?」

 

赤刎「黒瀬の部屋は散らかっていたんだ。本が散乱して、本棚にはぶつかったような痕があった。つまり、研究室では争いが起こった可能性が高い。」

 

弦野「なるほどな。だったら、黒瀬が自殺したって線は消えるわけか。」

 

一「っ………」

 

 

 

一「君の推理はバクだらけだよ。」

 

《反 論》

 

 

 

一「部屋が散らかってるから他殺だって!?そんなの認めない!!」

 

赤刎「という事は、お前なりに何か反論があるんだな?」

 

一「そうだよ!!君の間違いだらけの推理をボクが組み直してやるよ!!」

 

 

 

ー反論ショーダウン開始ー

 

一「部屋が散らかってるから他殺だって!?完全に暴論じゃんかよ!!黒瀬さんが自分で散らかしたって線は!?」

 

赤刎「本好きの黒瀬が本を雑に扱うなんて考えられないし、わざわざ部屋を散らかす理由がない。」

 

一「それは…間違えて本棚にぶつかっちゃったんじゃないの!?ほら、あの子抜けてるとこあるし!!」

 

赤刎「そうだとしても、片付けもせずに自殺なんてするか?」

 

一「う、うるさいなぁ!とにかく黒瀬さんは自殺したんだよ!!だって、《部屋には内側から鍵がかかってた》じゃないか!!」

 

《部屋には内側から鍵がかかってた》⬅︎【研究室のドア】

 

「その言葉、ぶった斬る!!」

 

《論 破》

 

 

 

赤刎「いや、あの部屋には初めから鍵なんてかかってなかったんだ。」

 

一「何で!?弦野君が何度開けようとしても開かなかったじゃん!!赤刎君だって見てたでしょ!?」

 

赤刎「でも、枯罰は弦野が蹴破ったドアには鍵がかかってなかったと証言している。そうだよな?」

 

枯罰「ああ。何なら証拠写真も見せたろか?鍵がかかっとる状態で無理矢理蹴破ったなら、鍵が壊れとるはずやからな。」

 

一「うっ……」

 

弦野「あっ…そういえば、鍵がかかってる割にはやけに簡単に開いたなとは思ったんだよな。じゃああの時ドアが開かなかったのは何でなんだ?」

 

赤刎「それは多分…」

 

 

 

コトダマ提示!

 

【扉のゼリー状の何か】

 

「これだ!!」

 

 

 

赤刎「扉には、ゼリー状の何かが貼り付いていたんだ。扉が開かなかったのは、おそらくそのせいだ。」

 

安生「ゼリー状…うーん、それだけだとよくわからないね。」

 

枯罰「ウチが調べてわかった事といえば、鼻を刺すようなキッツい匂いがしてベタベタする物質やっちゅう事くらいやな。」

 

聞谷「刺激臭にベタベタ…扉に貼り付いていたものは一体何だったのでしょうか?」

 

赤刎「それについてだが、一つ心当たりがある。」

 

 

 

コトダマ提示!

 

【接着剤のチューブ】

 

「これだ!!」

 

 

 

赤刎「扉に貼り付いていたゼリー状の物質、それはおそらく接着剤だ。」

 

安生「…接着剤?」

 

赤刎「一がトラッシュルームから見つけ出してくれた。おそらく、扉は鍵がかかってたんじゃなくって接着剤で貼り付けられてただけだったんだ。」

 

弦野「接着剤でくっつけただけなら密室を装う事ができるな。」

 

聞谷「なるほど…では次は殺害方法について話し合いません事?」

 

赤刎「そうだな。」

 

 

 

ーーー議論開始!!ーーー

 

 

 

安生「まず、殺害方法は《毒殺》で間違いない。これに関してはみんな納得してくれるよね?」

 

一「えっと…何でそう言い切れるの?」

 

安生「《ファイル》に書いてあるからね。」

 

一「でも、モノクマのファイルなんて信用できないんじゃ…」

 

聞谷「ですが今まで嘘が書かれていた事はありませんでしたわよ?」

 

黒瀬の死因…

アレで間違い無さそうだ。

 

 

 

《毒殺》⬅︎【喀血】

 

「それに賛成だ!!」

 

《同 意》

 

 

 

赤刎「黒瀬は血を吐いていた。安生によると、毒を体内に摂取した事が原因らしい。」

 

安生「うん。さっきも言ったけどファイルにも中毒死って書かれていた以上、毒殺で間違いないよ。」

 

聞谷「やはりそうでしたのね。では、黒瀬さんを殺害した毒は一体…?」

 

赤刎「それについてなら心当たりがある。」

 

 

 

コトダマ提示!

 

【モノトキシンβ】

 

「これだ!!」

 

 

 

赤刎「黒瀬は、おそらくモノトキシンβで殺されたんだ。」

 

一「モノ…?何それ。」

 

赤刎「少量でも死に至る猛毒だ。黒瀬は多分、この毒で殺害されたんだ。」

 

一「そう言われても、突拍子が無さすぎるよ。何でそう思うの?」

 

赤刎「それは…」

 

 

 

コトダマ提示!

 

【割れたガラス片】

 

「これだ!!」

 

 

 

赤刎「トラッシュルームに割れたガラス片が捨てられていた。そのガラス片のラベルには『β』と書かれていた。おそらく、捨てられていたのはモノトキシンβが入っていた小瓶だ。」

 

安生「未使用の毒を捨てるのはルールで禁止されてるから、毒が実際に使われた可能性はかなり高いね。」

 

聞谷「毒……犯人は、どうやって黒瀬さんに毒を盛ったのでしょうか?」

 

一「え?毒リンゴが落ちてたんだから、毒リンゴを食べて死んだんじゃないの?」

 

赤刎「いや、黒瀬が齧ったリンゴの白い皮にはモノトキシンβは含まれていないそうだ。おそらく、別の方法で毒が盛られたんだと思うぞ。」

 

弦野「別の方法ねぇ…」

 

 

 

ーーー議論開始!!ーーー

 

 

 

一「うーん…毒を無理矢理《飲ませた》とか?」

 

聞谷「直接《注射》するという方法もありますわよね?」

 

弦野「どうやってやるんだよそれ。」

 

安生「《毒の刃物で切りつけた》っていう線はどう?」

 

安生の意見が正しそうだ。

 

 

 

《毒の刃物で切りつけた》⬅︎【肩の切り傷】

 

「それに賛成だ!!」

 

《同 意》

 

 

 

赤刎「黒瀬の肩には、刃物で切りつけられたような切り傷があった。おそらく、この切り傷から毒が入り込んだんだ。」

 

聞谷「は、刃物で切りつけたのですか!?」

 

赤刎「ああ。その可能性が高い。」

 

一「うーん…でもねぇ。切り傷があったからって、そこから毒が入り込んだって考えるのはちょっと無理矢理すぎない?」

 

赤刎「ちゃんとそう考えられる根拠はあるんだ。」

 

 

 

コトダマ提示!

 

【黒い液体】

 

「これだ!!」

 

 

 

赤刎「黒瀬の方には、血に混じって黒い液体が付着していた。これはおそらく、さっき言ったモノトキシンβだ。」

 

聞谷「え、そうなんですの?」

 

安生「うん、多分ね。黒い液体が付いてる部分だけ炎症を起こしてたから、何かしらの毒である事はまず間違いないよ。」

 

聞谷「では…床に落ちていたリンゴは一体…?」

 

赤刎「多分カムフラージュじゃないか?齧られたリンゴを見れば、リンゴの毒で死んだんだと思い込ませる事ができるからな。」

 

すると、弦野が少し考え込んで口を挟んだ。

 

弦野「………なあ、一個いいか?」

 

赤刎「どうした、弦野?」

 

弦野「あのさ、何で黒瀬は殺されたのかな?」

 

一「何でって…そりゃあ、あれだけの事してりゃあ誰かには恨まれて…」

 

弦野「そういう意味じゃなくて、よく殺せたなって事だよ。」

 

聞谷「あ……言われてみれば…黒瀬さん、見た目の割に力も素早さもございますものね。」

 

安生「それに、黒瀬さんは実はこのメンバーの中では一番頭が切れるんだよ。少なくとも、僕達の頭では彼女を騙して殺すのは不可能だ。何らかの方法で黒瀬さんの動きを封じたと考えるのが妥当だろうね。」

 

一「じゃあ、どうやって黒瀬さんの動きを封じたのかを考える方向でいいのかな…?」

 

 

 

ーーー議論開始!!ーーー

 

 

 

一「《毒のナイフで切りつけた》んだよ!」

 

弦野「だから、どうやって毒のナイフで切りつけたのかって話をしてんだよ。」

 

聞谷「《力尽く》…というわけでもなさそうですわね。」

 

安生「《催涙スプレー》…とかではないかな?」

 

安生の意見が正しそうだ。

 

 

 

《催涙スプレー》⬅︎【催涙スプレー】

 

「それに賛成だ!!」

 

《同 意》

 

 

 

赤刎「…黒瀬の動きを封じるために使ったのは、おそらく催涙スプレーだ。」

 

聞谷「さ、催涙スプレーですか!?」

 

赤刎「ああ。本棚の裏に催涙スプレーの缶があった。犯人はおそらくこれを使ったんだ。」

 

弦野「けどよ。本棚の裏に催涙スプレーがあったからって、犯行に使われたとは限らねぇだろ?」

 

赤刎「…いや、催涙スプレーは間違いなく黒瀬の動きを封じるために使われたんだ。」

 

 

 

コトダマ提示!

 

【香辛料の匂い】

 

「これだ!!」

 

 

 

赤刎「黒瀬の身体からは、強烈な香辛料の匂いがしたんだ。そしてこの匂いは、俺が見つけた催涙スプレーの中身と同じだった。」

 

弦野「…そうだったのか。」

 

一「そうなると、犯人は誰なのかな?」

 

聞谷「状況が状況ですし…絞り込みは難しいですわね。

 

弦野「刃物の扱いに慣れてる奴が犯人の可能性が高いと思うぜ。」

 

これまでの推理から考えて、犯人はアイツの可能性が高い。

…でも、こんなにあっさり犯人がわかっていいものなのか?

多分、これですんなり終わりというわけじゃないだろう。

 

 

 

《人物指定》

 

 

 

 

赤刎円

 

安生心

 

神崎帝

 

聞谷香織

 

黒瀬ましろ

 

漕前湊

 

枯罰環

 

札木未来

 

仕田原奉子

 

ジョナサン・ウォーカー

 

武本闘十郎

 

弦野律

 

一千歳

 

速水蘭華

 

筆染絵麻

 

宝条夢乃

 

 

 

 

 

➡︎枯罰環

 

 

 

 

赤刎「…お前なんじゃないのか?枯罰。」

 

枯罰「………。」

 

聞谷「そんな、枯罰さんが犯人なんですの!?」

 

一「あ…そういえば枯罰さん、今回の裁判は珍しくあんまり喋ってなかったよね。」

 

弦野「確かに…今まで元気だった奴がいきなり何も喋らなくなるなんて怪しいぜ。」

 

赤刎「枯罰、反論はないか?お前は、毒の刃物で黒瀬を………」

 

枯罰「………はぁ。お前ら、阿呆なんとちゃう?」

 

安生「…えっ?」

 

枯罰「何で今の話でウチが犯人って事んなんねん。こないな雑な推理で犯人にされんのも癪やし、ハッキリ反論させてもらうで。」

 

 

 

ーーー議論開始!!ーーー

 

 

 

枯罰「何でウチが犯人っちゅう事んなんねん。」

 

赤刎「だって、この中で催涙スプレーを浴びせたとはいえ動く相手に狙って刃物で傷をつけられるのはお前くらいしかいないだろ?」

 

枯罰「んなもん、《隠してるだけ》かもしれへんやんか。《憶測》で話進めんのやめぇや。」

 

赤刎「確かに憶測の域を過ぎない。でも、お前が犯人だっていう証拠は………」

 

枯罰「喧しいわド阿呆。事件が起こったんは《今日の19時15分》やぞ?ウチがその時お前と一緒に診療所におったんを忘れたんか?」

 

いや、違う…

枯罰は今、明らかに間違った発言をした!!

 

 

 

《今日の19時15分》⬅︎ 【安生の検視結果】

 

「それは違うぞ!!」

 

《論 破》

 

 

 

赤刎「違う。黒瀬が死んだのは今日の19時15分じゃない。もっと前の時間だ。」

 

枯罰「は?何言うとんねん。」

 

赤刎「安生の検視結果によると、黒瀬が死んだのは一日以上前なんだ。だから、今日の夕方のアリバイを証明しても意味がない。」

 

枯罰「………。」

 

弦野「そういやお前、さっき真っ先に検視を名乗り出てたよな?」

 

枯罰「は?それは何もおかしないやろ。今までずっとウチが検視しとったやんか。」

 

弦野「でも、こういう風に考える事もできるだろ?この中で正確に検視できるのはお前と安生だけ。だから、お前が検視を担当すれば虚偽の報告をしても俺達がそれを確かめる術は無い。だから真っ先に名乗り出た。」

 

枯罰「…………。」

 

聞谷「ええと…では、本当の死亡時刻は一体…?」

 

赤刎「…黒瀬が死んだのは、おそらく昨日の19時15分だ。」

 

一「な、何でそう思うんだよ!?」

 

赤刎「理由ならあるぞ。」

 

 

 

コトダマ提示!

 

【モノクマファイル⑥】

 

「これだ!!」

 

 

 

赤刎「モノクマファイルには、『午後7時15分』としか書かれてなかった。つまり、何日の午後7時15分だったのかが書かれてないんだ!!」

 

安生「なるほどね。…そうなると、昨日の7時15分は聞谷さん、弦野君、一君はまだ寝ていたから犯行は不可能。枯罰さんは事件発生の1時間くらい前から診療所にいなかったから可能性はあるね。」

 

赤刎「どうなんだ、枯罰?」

 

枯罰「………。」

 

 

 

枯罰「よぉそないなグダグダな推理思いつくなぁ。」

 

《反 論》

 

 

 

赤刎「枯罰…?」

 

枯罰「黙って聞いとったらピーピー喚きよって、喧しいんじゃボケ。」

 

安生「って事は、反論があるんだね?」

 

枯罰「あるに決まっとるやろ。そのスッカスカな脳味噌叩き直したるさけ覚悟しぃや。」

 

 

 

ー反論ショーダウン開始ー

 

枯罰「確かに、ウチに昨日の夜のアリバイはあらへん。それは認めるわ。せやけど、それはお前や安生やて同じやろが。」

 

赤刎「それは………」

 

枯罰「ウチが犯人やっちゅう《決定的な証拠》があらへんやろ?証拠もあらへんのに適当な事言うなやボケコラァ!!」

 

いや、枯罰が犯人だという決定的な証拠ならある!!

 

《決定的な証拠》⬅︎【銀色の十字架】

 

「その言葉、ぶった斬る!!」

 

《論 破》

 

 

 

赤刎「…枯罰。お前は、犯行時に致命的なミスを犯したんだ。」

 

枯罰「あ?ミスやと?」

 

赤刎「…これ、お前のだろ?」

 

枯罰「ッーーーーー!!!」

 

俺が拾った十字架を見せると枯罰は血相を変え、慌てて右耳を右手で覆う。

俺が拾ったのは、枯罰がつけているピアスの装飾品だったのだ。

 

赤刎「おそらく、黒瀬に暴れられた時に取れたんだろう。これを見れば、お前は自分が犯人だと認めてくれるな?」

 

枯罰「くっ……ま、まだや!!」

 

弦野「往生際が悪いな。」

 

枯罰「黒瀬を切りつけた凶器がまだわかってへんやろ!?」

 

赤刎「…黒瀬を切りつけた凶器なら、なんとなく察しはついてる。」

 

 

 

 

 

ー閃きアナグラム開始ー

 

 

 

タ カ ラ モ ノ ノ ナ イ フ

 

 

 

【宝物のナイフ】

 

「これだ!!」

 

 

 

赤刎「枯罰。お前は、育ての親から貰ったっていうナイフに毒を仕込んで黒瀬を切りつけたんじゃないのか?」

 

枯罰「………。」

 

赤刎「あのナイフは刃の部分に毒が仕込めるような形状になってたからな。あれはイニシャルが彫ってあって換えのナイフなんてないだろ?」

 

枯罰「…………。」

 

赤刎「…反論はなしか。だったら、最後に事件の真相を振り返ろう。」

 

 

 

ークライマックス推理開始!ー

 

【Act.1】

事の発端は、モノクマが俺達に思い出しライトを浴びせた事から始まった。

そのライトの副作用で、俺達は全員眠ってしまったんだ。

最初に安生が、そして次に犯人が目覚めた。

犯人は、きっと何か都合の悪い事を思い出したんだろう。

そこで黒瀬を殺す事にしたんだ。

 

【Act.2】

犯人は、あらかじめカムフラージュのための毒リンゴを用意し、どこからか入手したモノトキシンβをナイフに仕込んでおいたんだ。

そして黒瀬が目覚め研究室に向かったタイミングを見計らい、いきなり押しかけて奇襲をかけた。

犯人はあらかじめ盗んでおいた催涙スプレーで黒瀬の動きを鈍らせ、毒のナイフで黒瀬の肩を切りつけた。

 

【Act.3】

だが、ここで犯人は致命的なミスを犯してしまうんだ。

いきなりスプレーを吹きかけられた黒瀬が暴れ、突き飛ばされた犯人はピアスの装飾を部屋の中に落としてしまう。

さらに、本棚にぶつかった事で床に本を散乱させてしまったんだ。

このせいで、本好きの黒瀬の研究室に本が散乱しているという不自然な状況が生まれてしまった。

 

【Act.4】

そして、黒瀬は必死の抵抗も虚しく毒で息絶えてしまう。

犯人は、どうにかして黒瀬を自殺に見せかけるために黒瀬をソファに寝かせ、部屋のドアに接着剤をつけて研究室を後にした。

その後、接着剤と毒の瓶を捨てに行き、何食わぬ顔で俺達の前に現れた。

 

「これが事件の真相だ。そうだろ!?【超高校級の傭兵】枯罰環!!」

 

 

 

枯罰「っ…………」

 

枯罰「………」

 

枯罰「……もう、言い逃れは出来へんみたいやな。」

 

赤刎「って事は犯行を認めるんだな?」

 

枯罰「ああ。お前の言う通り、ウチが黒瀬を殺した。」

 

聞谷「そんな、どうして…!?」

 

枯罰「…仕事や。」

 

一「し、仕事?」

 

枯罰「思い出してん。ウチがここに連れて来られた目的は、【超高校級の絶望】を殺す事。ウチはアイツを【超高校級の絶望】やと思たさけ殺した。それだけや。」

 

聞谷「そんな……」

 

弦野「おい。それで済まそうって言うんじゃないだろうな?どういう事か詳しく説明してもらおうか。」

 

枯罰「…ウチは、元々【超高校級の絶望】を排除するために雇われててん。【超高校級の絶望】は希望ヶ峰学園の生徒で世界規模のテロを企んどる奴等や。ウチは、そのテロを防ぐために【超高校級の絶望】の暗殺を命じられた。この数日間一緒に過ごしてて、一番その可能性が高い奴を排除したまでや。何でウチがアイツを【超高校級の絶望】や思たかまでは言えへんけどな。」

 

弦野「やけにあっさり喋るんだな。さっきまで黙秘を貫いてたくせによ。」

 

枯罰「どうせこれからオシオキで殺されるしな。投票したいんやったら好きにせぇ。どのみちウチは人を殺すためだけに生まれた機械。オシオキで死ぬ事なんぞ怖ないわ。」

 

一「…そうだね。枯罰さん本人も認めてるし、もう終わりにしようよ。ねぇ?」

 

赤刎「ああ。せめて、早く投票して楽にしてやろう。モノクマ。始めてくれ。」

 

モノクマ『うぷぷぷ、もう結論は出たようですね?ではでは、投票ターーー………

 

 

 

 

 

安生「ちょっと待って!!!」

 

枯罰「………え?」

 

赤刎「安生…?」

 

安生「…投票はまだ早いよ。」

 

一「え、でも…枯罰さんは自分で自分を犯人だって言ってるんだよ?」

 

赤刎「確かに思ったより早く真相に辿り着いちまったかもしれねぇけど、本人の自白や証拠がある以上は犯人と認めざるを得ないだろ。今回は、前回みたいな共犯ルールは無いしな。」

 

安生「でも…やっぱり、枯罰さんが犯人だとは納得できないんだ。確かに枯罰さんは事件に関わっている。これは本人も認めてるし間違いないと思う。でもね、この事件は僕達が思ってるほど単純じゃないのかもしれないよ。」

 

枯罰「…………え。」

 

安生「だって枯罰さん、接着剤の話をした時わかってないような顔してたでしょ?多分、枯罰さんは黒瀬さんを切りつけはしたけど扉を接着剤で固定まではしてなかったんだよ。…どうなのかな、枯罰さん?」

 

枯罰「………そうや。ウチは、確かに黒瀬を切りつけた。せやけど扉は知らんし、ソファーに黒瀬を寝かしたのもウチやない。」

 

一「そ、そんなの信じられないよ!だって君は犯人なんでしょ!?嘘をついてるかもしれないじゃないか!!」

 

弦野「本当にコイツが犯人で扉やソファーの上の死体がコイツの仕業だとすれば、自白をしてからそれを言うのは変だろ。犯人だってわかってから言い訳をしても意味がない事くらいコイツもわかってるだろうしな。」

 

一「う…そ、それは…」

 

安生「この事件の真相は、きっともっと奥深くに眠ってるんだ。」

 

枯罰「……………ウチも手伝うわ。」

 

聞谷「枯罰さん…」

 

枯罰「…扉の接着剤と黒瀬の死体の移動は誰がやったのか気になるしな。」

 

枯罰も裁判に参加する気になったみたいだ。

…でも、枯罰は自白してるのに犯人じゃないなんて一体どういう事なんだ?

今回は、前回みたいな共犯ルールはない。

だけど枯罰が自白をするのには、何か訳があるんだ。

じゃあ、今回の真犯人は一体…?

 

 

 

《学級裁判 中断!》

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

ー生存者ー

 

【超高校級の講師】赤刎円

 

【超高校級のカウンセラー】安生心

 

【超高校級の香道家】聞谷香織

 

【超高校級の傭兵】枯罰環

 

【超高校級のヴァイオリニスト】弦野律

 

【超高校級のソフトウェア開発者】一千歳

 

ー以上6名ー

 

 

 



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非日常編③(学級裁判後編)

《学級裁判 再開!》

 

枯罰は犯人じゃない。

だけど、コイツ自身が自分は犯人だと自白した。

何がどうなってるんだ一体…?

 

安生「枯罰さんは、自分がクロだと思い込んでる。でもきっと、事件はそこで終わりじゃなかったんだよ。もう一度状況を振り返ってみよう。」

 

一「でも、やっぱり枯罰さんが犯人なんじゃないの?そうとしか考えられないよ…」

 

安生「みんな、よく思い出して。事件現場に不自然な点は無かった?」

 

枯罰「不自然な点…もしかして、あのリンゴの事ちゃうか?」

 

一「だからそれは君がカムフラージュのために用意したものでしょ?」

 

枯罰「ちゃうわ。ウチはあんなもん知らん。せやからウチが持ち込んどらんはずのリンゴが転がっとったのかずっと引っかかっとんねん。」

 

一「そんなのどうとでも言えるよね…」

 

いや、待てよ?

言われてみれば、確かにあのリンゴは違和感があった。

…みんなの前で言うべきだろうか?

 

 

 

コトダマ提示!

 

【齧られたリンゴ】

 

「これだ!!」

 

 

 

赤刎「…枯罰の言う通りかもしれない。俺も勘違いしてたけど、あのリンゴは多分カムフラージュのためのものじゃなかったんだ。あのリンゴには齧られた痕があったんだ。」

 

弦野「齧られた痕なんてやろうと思えば作れるんじゃねぇのか?」

 

赤刎「俺もそう思った。でも、齧られた部分にはうっすら血がついてたんだ。…あれは多分黒瀬の血だ。ここからは俺の憶測になるが、心して聞いてくれ。」

 

 

 

リンゴに付いていた血は誰の血?

 

1.黒瀬

2.枯罰

3.モノクマ

 

➡︎1.黒瀬

 

 

 

何故リンゴに血がついた?

 

1.齧った時に歯が抜けたから

2.血を吐いた後で齧ったから

3.犯人の偽装工作

 

➡︎2.血を吐いた後で齧ったから

 

 

 

黒瀬は何故リンゴを齧った?

 

1.空腹だったから

2.本当に毒リンゴか確かめるため

3.自殺するため

 

➡︎3.自殺するため

 

《COMPLETE!!》

 

 

 

 

赤刎「…黒瀬が自殺したという一の意見は、あながち間違ってなかったんだ。黒瀬は、おそらく自殺するためにリンゴを齧ったんだと思う。」

 

聞谷「な…!!」

 

赤刎「多分、黒瀬はずっと前から自殺する事を考えてたんだ。そして、どうしても自殺じゃなきゃいけなかった理由があった。でも枯罰に殺されそうになって、運良く生き延びたから自分で自分を手にかけようとした。…こういう事なんじゃないのか?」

 

 

 

安生「…ごめんね。一旦落ち着こうか。」

 

《反 論》

 

 

 

赤刎「安生?」

 

安生「赤刎君。確かに、枯罰さんが自分を犯人だと思い込んでるとは言ったけど、黒瀬さんが自殺をしようとしてたっていうのは…」

 

赤刎「でもそうとしか考えられないんだ。」

 

安生「…わかった。じゃあ、一緒に考えていこうか。」

 

 

 

ー反論ショーダウン開始ー

 

安生「黒瀬さんが齧った毒リンゴが落ちてたからって、自殺と決めつけるのは早計じゃないかな?」

 

赤刎「俺は、黒瀬が自殺をしようとしてたと言っただけで死因が自殺とは言ってない。」

 

安生「同じ事じゃないかい?自殺しようとしていた人間を都合よく誰かが殺すなんて偶然あり得るのかな?リンゴだって、犯人が無理矢理齧らせたのかもしれないよ。」

 

赤刎「無理矢理齧らせたとしたら、色々不自然さが残るだろ!」

 

安生「でも、自殺はあり得ないって言ったのは君だよね?大体、黒瀬さんには《自殺する理由が無い》じゃないか。」

 

いや、黒瀬にはあったはずだ。

自殺じゃなきゃいけなかった理由が…!!

 

《自殺する理由が無い》⬅︎【黒瀬の手紙】

 

「その言葉、ぶった斬る!!」

 

《論 破》

 

 

 

赤刎「黒瀬のポケットには、俺達に何かを言い残すかのような手紙が入ってた。」

 

安生「え?手紙?」

 

赤刎「それも、枯罰が黒瀬を襲うよりずっと前に書かれたものだ。多分、黒瀬はその時から自殺を考えていたんだと思う。」

 

弦野「ちょっと待てよ、意味わかんねーぞ。何でアイツは自殺なんかしようとしたんだ?」

 

赤刎「…クロが明らかになれば、モノクマはクロの秘密や思惑を公開する。黒瀬には、多分自分が死ぬ事で俺達に知らしめたい真実を隠し持ってたんだ。だがそのためには、シロじゃなくてクロとして死ぬ必要がある。だから自分で自分を殺す事にした。こういう事じゃねぇか?」

 

安生「そういう事だったのか…」

 

聞谷「え、じゃあ、枯罰さんが黒瀬さんを殺そうとしたけれど黒瀬さんはまだ生きてて、毒リンゴで自殺した…こういう事ですの?」

 

一「ほ、ほら!やっぱり犯人なんていなかったんだよ!!」

 

弦野「いちいち意見が変わるなテメェはよ。」

 

一「な、何だよ!」

 

安生「二人とも、喧嘩しないで。」

 

 

 

枯罰「………ん?ちょい待ち。その話はおかしいで。」

 

赤刎「え?」

 

枯罰「おいドチビ。黒瀬が齧っとったんは、リンゴの白い部分やったやろ?」

 

赤刎「あ、ああ…」

 

枯罰「ウチが黒瀬を殺そ思て使うたんはモノトキシンβやねん。っちゅう事は、リンゴが解毒剤になってもうたっちゅう可能性は考えられへんか?」

 

赤刎「……!そうか、そういう事か!」

 

一「え、何何?何の話?」

 

赤刎「みんな、聞いてくれ。この事件は、枯罰に殺されかけた黒瀬が自殺したところで終わりじゃなかったんだ。」

 

聞谷「どういう事ですの?」

 

赤刎「枯罰が黒瀬に盛った毒は、あるものによって解毒されてしまったんだ。」

 

 

 

コトダマ提示!

 

【モノトキシンα】

 

「これだ!!」

 

 

 

赤刎「枯罰が黒瀬に盛った毒は、黒瀬が齧ったリンゴに含まれていたモノトキシンαによって解毒されたんだ。」

 

一「も、モノトキシンα?」

 

赤刎「実は枯罰が黒瀬に盛ったモノトキシンβにはその効果を打ち消す毒モノトキシンαがあって、モノトキシンαはモノリンゴの白い方の皮に含まれる毒なんだ。黒瀬は、枯罰に殺されそうになったからリンゴの毒で死のうとした。でも皮肉な事に、それは枯罰が黒瀬を殺すために盛った毒の解毒剤となり黒瀬は生き延びてしまった。これが事件の真相だったんだ。」

 

弦野「けどよ、死にたいんだったら生き延びた後すぐにまた自殺するもんなんじゃねぇのか?そうしなかったのは何でだよ。」

 

赤刎「おそらくだが…黒瀬には、生き延びた後自殺できない理由があったんだ。」

 

安生「自殺できない理由?」

 

 

 

コトダマ提示!

 

【解毒の副作用】

 

「これだ!!」

 

 

 

赤刎「実は、モノトキシンαとモノトキシンβが反応すると解毒作用を示すんだが、それと同時に強力な睡眠作用まで示しちまうんだ。」

 

弦野「睡眠作用だと?」

 

赤刎「ああ。それも、ちょっとやそっとじゃ起きないほど強力な作用だ。リンゴを齧ってすぐに眠っちまったから、黒瀬は自殺に失敗したんだ。」

 

聞谷「ええと…では、黒瀬さんは自殺に失敗し、その後で何方かが黒瀬さんを殺害したという事ですの?」

 

枯罰「そうなるな。」

 

弦野「はぁ!?何だよそれ!!俺、検視を担当してたけど切り傷と口の周りの血以外に特に変わったところなんてなかったぞ!?じゃあ真犯人はどうやって黒瀬を殺したんだよ!?」

 

赤刎「そ、それは…」

 

弦野「クソッ、ここまできてまた振り出しに戻るのかよ!?」

 

一「犯人は誰なの!?ねえ、赤刎君、安生君!!本当に犯人が誰だかわからないの!?」

 

赤刎「………。」

 

安生「………ごめん。」

 

聞谷「もしかして…お二人でもわからないのですか!?」

 

一「何だよ!!え、ちょっと待って!?犯人がわからないって事は、適当に投票するしかないって事!?嫌だあああ!!外したらオシオキなんて絶対嫌だ!!」

 

弦野「うるっせぇなぁ!!何も生産的な意見出してねぇくせに喚き散らすんじゃねぇよ!!」

 

一「な、何だよ!!ボクは、ボクは…う、うわぁああああああ!!」

 

聞谷「み、皆さん、ここは穏便にいきましょう?ね?」

 

弦野「聞谷!テメェが一番卑怯なんだよ!!こういう時だけいい子ぶりやがって!!」

 

安生「やめなよ弦野君!みんなを責めたって犯人がわかるわけじゃないだろ!」

 

モノクマ『うぷぷぷ、おやおや?何やら面白い展開になってるね!』

 

赤刎「み、みんな………」

 

枯罰「………。」

 

赤刎「クソッ、クソクソクソ!!ダメだ、どうしても犯人がわからねぇ!!俺は一体どうすりゃいいんだよ!!」

 

 

 

 

 

枯罰「喧しいんじゃボケ!!!

 

 

 

赤刎「ッ………!?」

 

突然、枯罰が怒鳴り声を上げた。

今までに聞いた事ないほど大きな声だった。

 

枯罰「こないな事でピーピー喚きよって、お前らそれでもホンマに超高校級かいな?」

 

一「な、何だよぉ…そもそも君が黒瀬さんを殺そうとしなければこんな事には…」

 

枯罰「黙れやド阿呆!!」

 

一「ヒッ!?」

 

枯罰「…おいドチビ。ここからはウチが真相を突き止めたるから、まだ諦めんなや。」

 

赤刎「枯罰……わかった。あとはお前に任せる。」

 

枯罰「……任せぇ!!」

 

 

 

ーー議論開始!!ーーー

 

 

 

枯罰「まずはどうやって黒瀬が殺されたんかを考えるで。」

 

一「どうやってって…《毒殺》だよね?」

 

弦野「だから、どうやって毒殺したのかって話をしてんだよ。」

 

聞谷「何かの《薬》を飲ませたとかでしょうか…」

 

赤刎「《持病》を使用したという線も考えられなくはないけど…」

 

弦野「《毒ガス》とかじゃねぇの?」

 

…ん?

今、重要な事言いよった奴おったよな?

 

 

 

《毒ガス》⬅︎【ガスマスク】

 

「それに賛成や!!」

 

《同 意》

 

 

 

枯罰「…黒瀬を殺した毒は気体、もしくは極度に揮発性の高い毒や。」

 

赤刎「な、何でそんな事がわかるんだ?」

 

枯罰「物理室からガスマスクが盗まれとった。多分、犯人が自分で毒吸わへんようにあらかじめ盗みよったんやろ。」

 

一「そ、そうだったの!?」

 

聞谷「あ、そういえばそうでしたわね。」

 

一「あれ?聞谷さんは何で物理室からガスマスクがなくなったのを知ってるの?」

 

聞谷「安生さんに『今回の事件は毒が絡んでいるかもしれないから一応調べてくれ』と頼まれたんですの。」

 

一「何だ、そういう事だったのか。」

 

安生「でも、ガスマスクが盗まれてたからって気体の毒で犯行が行われたとは限らないんじゃ…」

 

枯罰「まあ断定は出来へんけど、可能性は高いと思うで。そう思う根拠を捜査中に見つけたでな。」

 

 

 

コトダマ提示!

 

【閉め切られた窓】

 

「これや!!」

 

 

 

枯罰「あの部屋の窓は、ガムテープで封じられとった。おかしいやろ?密室殺人に見せかけたいだけならそこまでする必要あらへんし、むしろ他殺の可能性が疑われるだけやんか。」

 

赤刎「確かに…」

 

枯罰「そこで考えてんけどな、あれは室内の空気を外に逃がさないための細工やったんとちゃうか?ガムテープでガッチガチに固められとったんも、毒ガスを逃がさないためと考えれば説明出来るやろ?」

 

安生「言われてみれば…」

 

一「あれ?でも換気扇…」

 

枯罰「換気扇ももちろん封じられとったで。」

 

赤刎「そう考える根拠はあるのか?」

 

枯罰「当たり前やろ。」

 

 

 

コトダマ提示!

 

【換気扇の痕】

 

「これや!!」

 

 

 

枯罰「換気扇にガムテープを剥がしたような痕があった。多分、換気扇も蓋か何かで塞がれてその上からガムテープで固定されとったんやろ。」

 

弦野「なるほどな…」

 

一「あれ?でも、待ってよ。換気扇が封じられてたなら、何でボク達が捜査した時は毒ガスが充満してなかったの?」

 

枯罰「黒瀬に毒が回った後、犯人が一度研究室に戻って換気扇の蓋を塞いでいたガムテープを剥がしたからやろ。そして、犯人は換気扇を入れてウチらが捜査する前までに部屋の空気が全部入れ替わるようにしたんや。」

 

 

 

コトダマ提示!

 

【換気扇のスイッチ】

 

「これや!!」

 

 

 

枯罰「換気扇のスイッチがいつの間にか手動モードになっとった。ついでに言うと、死亡時刻の1時間後にスイッチが入れられとったらしいで。せやろ、一?」

 

一「あ、うん…」

 

安生「じゃあ、犯人は黒瀬さんの研究室の換気扇を元に戻した後、換気扇のスイッチを入れて本当の凶器が毒ガスだと悟られないようにしたんだね。」

 

枯罰「せや。納得出来たか?」

 

赤刎「あ、ああ…」

 

一「あ、あの…」

 

枯罰「何や。」

 

一「今の話が仮に本当だったとしても、ちょっと疑問に残る事があるんだけど…いいかな?」

 

赤刎「疑問に残る事?」

 

一「換気扇のスイッチって、簡単に手動モードにできないようになってたと思うんだけど…スイッチにはカバーが被せてあって簡単には開かないようになってたし、犯人がどうやって手動モードに切り替えたのかが気になるんだけど…」

 

弦野「普通に工具でも使ったんじゃねぇの?」

 

聞谷「工具といえば…そういえば、男子の個室には工具セットが用意されてましたわよね?」

 

一「な、何それ!まさかボクを疑ってるの!?」

 

聞谷「いえ、そういうわけでは…」

 

枯罰「ウチには目星ついとるで。スイッチのカバーをこじ開けた道具がな。」

 

 

 

コトダマ提示!

 

【折れたペン】

 

「これや!!」

 

 

 

枯罰「犯人は、黒瀬の研究室にあった道具でスイッチをこじ開けたんや。」

 

聞谷「黒瀬さんの研究室にあった道具?」

 

枯罰「……ペンや。それも、かなり頑丈なヤツや。それでもカバーをこじ開けるのにかなり力がいるさけ、ペンは折れてもうたみたいやけどな。」

 

安生「なるほどね…じゃあ、黒瀬さんの本当の死因は一体…?」

 

枯罰「それも目星ついとるぞ。」

 

一「ほ、本当!?」

 

枯罰「おう。これ閃いた時は、ウチも正直信じられへんかったけどな。」

 

 

 

 

 

ー閃きアナグラム開始ー

 

 

 

イ ッ サ ン カ タ ン ソ チ ュ ウ ド ク

 

 

 

【一酸化炭素中毒】

 

「これや!!」

 

 

 

枯罰「黒瀬のホンマの死因は、ウチが盛った毒でもリンゴの毒でもあらへん。…一酸化炭素中毒やったんや。」

 

一「い、一酸化炭素中毒!?」

 

枯罰「ファイルには『中毒死』と書かれとったさけ、ウチらは黒瀬は毒で殺されたんやと思い込んどった。せやけどそれが犯人の罠やったんや。」

 

弦野「一酸化炭素中毒か…道理で死体からは殺人の証拠が見つからないわけだ。」

 

聞谷「で、ですが、何故いきなりその様な話に?」

 

枯罰「犯人が黒瀬を一酸化炭素中毒で殺したっちゅう証拠ならあるで。」

 

 

 

コトダマ提示!

 

【暖炉】【塞がれた煙突】

 

「これや!!」

 

 

 

枯罰「実はな、黒瀬が死んだ部屋の暖炉が使われとった。」

 

聞谷「暖炉が、ですか?」

 

枯罰「ああ。しかも、暖炉の煙突の入り口が蓋みたいなもんで塞がれとった。ここから考えられる結論は一つや。黒瀬は、暖炉の薪から発生した一酸化炭素で中毒死した。」

 

一「そ、そんな…」

 

弦野「おい、一酸化炭素で死んだのはいい。けど、犯人は誰なんだよ?」

 

枯罰「…………。」

 

ウチには、既に犯人に目星はついとる。

せやけど、ホンマにコイツらの前でそれを言うてもええんやろか?

ウチは正直、コイツだけは犯人やないと思いたかった。

…せやけど、この裁判の結末はウチの指名にかかっとる。

一人だけおった筈や。

犯行当時のアリバイがあらへん奴が…!!

 

 

 

《人物指定》

 

 

 

 

赤刎円

 

安生心

 

神崎帝

 

聞谷香織

 

黒瀬ましろ

 

漕前湊

 

枯罰環

 

札木未来

 

仕田原奉子

 

ジョナサン・ウォーカー

 

武本闘十郎

 

弦野律

 

一千歳

 

速水蘭華

 

筆染絵麻

 

宝条夢乃

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

➡︎赤刎円

 

 

 

 

 

 

 

 

 

枯罰「………赤刎。お前が犯人やったんやな。」

 

赤刎「……え?」

 

枯罰「聞谷、弦野、一の3人にはまず犯行は不可能や。身体が不自由な安生にも、暖炉や換気扇の細工なんて出来へん。ウチは暖炉の事なんぞ知らへんし、一酸化炭素中毒で黒瀬を殺したと考えられるんはお前しかおらへんねん。」

 

赤刎「えっ……お、おい!ちょっと待てよ!俺が犯人だって言いたいのか!?俺は犯人じゃない!!現に、捜査や学級裁判では率先して真相を解き明かそうとしてただろ!!俺が犯人なら、自分で自分の首を絞めるような事はしない!!」

 

一「それも、自分が怪しまれないようにするための立ち回りだと考えれば説明つくよね……」

 

枯罰「それにお前、ウチが犯人やないとわかった途端に考えるのを放棄したやろ?それ以上ツッコみすぎると、ウチや安生あたりが真相に気付いてまうからとちゃうんか?」

 

赤刎「そんな……み、みんな信じてくれ!!俺は犯人じゃない!!」

 

 

 

ーー議論開始!!ーーー

 

 

 

枯罰「もうお前が犯人としか考えられへんねん。」

 

赤刎「ふざけるな!俺は《犯人じゃない》!!」

 

枯罰「お前しか犯行可能な奴はおらへんねんぞ?」

 

赤刎「それだよ!!3人は犯行当時寝てたって言ってたけど、それって自己申告だろ!?もしかしたら《寝てたフリ》をして犯行に走ったのかもしれないだろ!!」

 

 

 

《寝てたフリ》⬅︎【起床時間】

 

「それはちゃうぞ!!」

 

《論 破》

 

 

 

枯罰「おいドチビ。お前今完全に墓穴掘ったのぉ。」

 

赤刎「何…?」

 

枯罰「あの3人に寝たフリをする事は出来へん。ウチと安生とお前が交代制で見張りをしとったやろ?それで誰かが途中で起きたりはしてへんっちゅう話になったやんか。共犯のルールが無い以上、ウチらが虚偽の申告をする理由はあらへん。」

 

赤刎「っ…………」

 

 

 

赤刎「その言葉、ぶった斬る!!」

 

《反 論》

 

 

 

赤刎「俺が犯人だと!?認めるわけないだろ!!俺は無実だ!!」

 

枯罰「ほぉ。せやったら、犯人とちゃうっちゅう証明をせぇよ。証明出来へん限りは、ウチはお前を犯人候補から外さへんぞ。」

 

赤刎「………わかった。そこまで言うなら、俺が最適解を見つけてやる!!」

 

 

 

ー反論ショーダウン開始ー

 

赤刎「お前が嘘をついてるのかもしれないだろ!!」

 

枯罰「一回自白しとるんやから今更自分を守るための嘘をついたとて意味あらへんやろが。」

 

赤刎「っ………けど、安生に犯行が不可能だって言い切るのは甘いんじゃないのか!?何か煙突や換気扇に細工をする方法があったのかもしれないだろ!!」

 

枯罰「………。」

 

赤刎「だって、安生にだって《アリバイが無い》だろ!?俺だけを犯人だって決めつけるなよ!!」

 

《アリバイが無い》⬅︎ 【診療所の履歴】

 

「その言葉、ぶった斬るで!!」

 

《論 破》

 

 

 

枯罰「いや、犯人はお前しかおらへん。」

 

赤刎「何だと…!?」

 

枯罰「診療所の入退室履歴を確認せぇ。18:38には退室、19:18には入室になっとるやろ?」

 

赤刎「それがどうしたんだよ!?」

 

枯罰「この間に、ウチはお前と黒瀬の研究室付近で接触した。つまり、18:38〜19:18の間に外をほっつき歩いとったんはウチとお前っちゅう事になる。ウチが診療所を退室してからお前が診療所に戻ってくるまでに安生が診療所を退室した記録はあらへん。せやから、安生は犯行当時ずっと診療所におったっちゅうこっちゃ。」

 

赤刎「っ…ま、まだだ!!」

 

枯罰「は?」

 

赤刎「よく考えてみろよ、俺の背丈じゃ天井にある換気扇に細工をするなんて不可能だろ!!」

 

一「いや、そんなの脚立を使えば解決できるんじゃ…」

 

聞谷「ですが脚立は使われていませんでしたわ。」

 

赤刎「俺がどうやって換気扇に細工をしたっていうんだよ!?」

 

枯罰「……そのヒントは、あの部屋にあると思うで。」

 

赤刎「研究室にだと…!?」

 

 

 

コトダマ提示!

 

【本の並べ方】

 

「これや!!」

 

 

 

枯罰「お前ら、よぉ思い出してみ。あの部屋の本棚の本の並びは明らかにおかしかった。本好きの黒瀬があんな滅茶苦茶に本を並べたとは考えられへんやろ?つまり、あの本は黒瀬以外の何者かに並べられたっちゅうこっちゃ。」

 

赤刎「それと俺が換気扇に手が届かない事と何が関係あるっていうんだよ!?」

 

 

 

赤刎「俺が換気扇に細工をした方法は何だって言うんだ!!」

 

【積んだ】【本を】【踏み台に】【した】

 

枯罰「これで終わりや!!」

 

 

 

枯罰「赤刎、お前は積んだ本を踏み台にして換気扇に細工したんやろ?」

 

赤刎「…!!」

 

枯罰「本の並びから考えて、本棚の本は殆ど使われたと考えるんが妥当や。つまり犯人は、それだけ本を使って踏み台を作らなアカンかったっちゅう風に考えられる。踏み台を作るのに使われた本の冊数とそこから導き出される踏み台の高さを計算した結果、犯人は身長140cm以下と推定される。この条件に当てはまるんはお前だけや。」

 

赤刎「…………。」

 

枯罰「…そうは言うてもな、ウチはお前が犯人やとは考えたない。もしちゃうならちゃうってハッキリ言ってくれへんか?」

 

赤刎「……いや、100点満点の解答だよ。そうだ、俺が犯人だ。」

 

聞谷「な…!!そんな、嘘ですわよね!?」

 

弦野「そんなバカな話信じられるかよ!!なあ枯罰、今の話はまだ憶測の域を出ないんだろ!?」

 

枯罰「あ、ああ…」

 

一「何言ってんだよ!赤刎君は自分が犯人だって認めてるんだよ!?」

 

安生「これ以上議論する事も無いしね…」

 

赤刎「…二人の言う通りだ。みんな、俺に投票してくれ!!」

 

弦野「ふざけんな!!おい枯罰、まだ話し合う事はあるよな!?」

 

枯罰「っ………」

 

 

 

 

 

モノクマ『うぷぷぷ、そういう時はボクにお任せ!今回もまた変形裁判所の出番ですな!それでは早速始めましょう!レッツ変形!!』

 

 

 

《意見対立》

 

 

 

そう言ってモノクマは席から謎の装置と鍵を取り出し、鍵を装置に差し込んだ。

すると、俺達の席が宙に浮く。

席が変形し、俺達は二つの陣営に分かれた。

 

 

 

【赤刎円に投票するか?】

 

まだ投票しない! 聞谷、枯罰、弦野

 

すぐに投票する! 赤刎、安生、一

 

 

 

ー議論スクラム開始ー

 

弦野「こんなのが《真実》だなんて俺は認めねぇぞ!!」

 

「安生!」

 

安生「君が認めるかどうかじゃなくて、これが《真実》なんだよ。」

 

聞谷「まだ何か《見落とし》があるかもしれませんわ!」

 

「一!」

 

一「《見落とし》は無いって赤刎君本人が認めてるんだよ!?」

 

枯罰「まだ《議論》を続ける余地はあるやろ!?」

 

「俺が!」

 

赤刎「《議論》をする余地はもう無い!他の誰でもない、俺が犯人なんだよ!!」

 

 

 

《全論破》

 

赤刎「これが俺達の答えだ!!」

 

安生「これが僕達の答えだよ。」

 

一「これがボク達の答えだよ…!」

 

 

 

赤刎「…みんな、認めてくれ。俺が犯人なんだ。」

 

弦野「ふざけんな!!じゃあ、お前が今まで俺達のために色々考えてくれてたのは何だったんだよ!?」

 

聞谷「そうですわよ!赤刎さんが犯人だなんて…信じられませんわ!!」

 

弦野「テメェ…絶対みんなで一緒にこんな所出てやるって言ってたじゃねぇかよ!!俺達に嘘ついたってのか!?」

 

赤刎「…ごめん。……本当にごめん。」

 

弦野「クソッ…チクショウ!!」

 

赤刎「……枯罰。最後はお前が終わらせてくれないか?」

 

枯罰「………え?」

 

赤刎「お前にしか任せられないんだ。…頼む。」

 

枯罰「ッ………!!」

 

 

 

ークライマックス推理開始!ー

 

【Act.1】

事の発端は、クマ公がウチらに思い出しライトを浴びせよった事から始まった。

ウチは、光を浴びて目が覚めた時にはウチの本当の目的を思い出しとった。

それは、『【超高校級の絶望】を排除する事』。

ウチは、持っとった情報やこれまでの立ち振る舞いから黒瀬が【超高校級の絶望】やと判断して、与えられた使命のために黒瀬を殺す事にした。

ウチは倉庫から催涙スプレーを盗み、部屋にあったモノトキシンβを宝物のナイフに塗って準備を進めた。

 

【Act.2】

準備を終わらせたウチは、研究室に向かった黒瀬の跡をつけ、研究室に押し入って黒瀬に催涙スプレーを吹きかけた。

その隙を狙って、ウチは怯んだ黒瀬を毒のナイフで切りつけた。

せやけど、ウチはここで致命的なミスを犯してもうてん。

黒瀬が暴れた時に本棚に叩きつけられて、その時に外れたピアスの装飾を床に落としてもうた。

加えて、本棚にぶつかった時に本が本棚から落ちて、他殺やっちゅう証拠を残してもうたんや。

 

【Act.3】

その後、黒瀬を殺したと思い込んどったウチは研究室を後にした。

せやけど、黒瀬の目的は自殺をして隠し持っている情報を公開する事やったんや。

ウチに殺され損なった黒瀬は、確実に死ぬために持っていた毒リンゴを齧った。

せやけど、ここから誰も予想出来へんかった事態に発展すんねん。

黒瀬はたまたまリンゴの白い方を齧ってもうて、ウチが盛った毒が解毒されてもうた。

そんでもって、ウチの毒とリンゴの毒が反応して黒瀬は眠ってもうたんや。

 

【Act.4】

その数分後、ウチらの様子を見に来た犯人が黒瀬を発見する事になる。

黒瀬が生きている事を確認した犯人は、黒瀬を殺す事にしたんや。

まず、ガムテープで部屋の窓全てを封じ、部屋の空気が外に逃げないように密閉空間を作った。

そして黒瀬の研究室にあったペンを使って換気扇のスイッチのカバーをこじ開けスイッチを手動モードにし、スイッチの電源を切った。

そして本棚の本で踏み台を作り、換気扇を蓋で閉じてガムテープで固定したんや。

 

【Act.5】

さらに犯人は煙突の入り口に蓋をし、暖炉で火を焚いた。

これで黒瀬を殺す準備は整った。

あとは、部屋を出て時が来るんを待つだけや。

黒瀬は、密閉空間で高濃度の一酸化炭素を吸い続けた事で中毒を起こし命を落とした。

 

【Act.6】

そして黒瀬の死から1時間後、犯人はもう一度黒瀬の研究室に戻った。

今度は一酸化炭素を吸わへんようにガスマスクをつけてな。

犯人はまず蓋を外し、換気扇のスイッチの電源を入れた。

そして換気をした後、本を元に戻して扉を瞬間接着剤で固定し、あたかも密室殺人のように見せかけたんや。

 

「これが事件の真相や。せやろ?【超高校級の講師】赤刎円!!」

 

 

 

赤刎「っ………そうだ。それが事件の全てだ。」

 

聞谷「そんな…赤刎さん、どうして…!!」

 

赤刎「…俺も結局はモノクマの掌の上で踊らされたバカの一人だった。それだけだよ。」

 

枯罰「ふざけんなや!!お前が余計な事せぇへんかったら、ウチがクロになって終わりやったんやぞ!!」

 

赤刎「…本当にごめん。モノクマ、投票を始めてくれ。」

 

モノクマ『うぷぷぷぷ、それではもう結論が出たみたいなのでアレいっちゃいましょうか!投票ターイム!!一応もう一回言うけど、ちゃんと誰かに投票してよね?』

 

クマ公がそう言うと、席にボタンが表示され投票時間が始まった。

…ウチは、赤刎には入れられへんかった。

ウチは自分に投票した。

 

 

モノクマ『投票の結果、クロとなるのは誰なのかー!?その結果は正解か不正解なのかー!?ワクワクでドキドキの投票ターイム!!』

 

モニターにスロットが表示される。

ドラムロールと共にリールの回転速度が落ちていき、赤刎の顔のドット絵が3つ揃った所でリールが止まった。

その直後、正解を褒め称えるかのように、はたまたウチらの潰し合いを嘲笑うかのように歓声と共にメダルがぎょうさん吐き出された。

 

 

 

《学級裁判 閉廷!》

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

ー生存者ー

 

【超高校級の講師】赤刎円

 

【超高校級のカウンセラー】安生心

 

【超高校級の香道家】聞谷香織

 

【超高校級の傭兵】枯罰環

 

【超高校級のヴァイオリニスト】弦野律

 

【超高校級のソフトウェア開発者】一千歳

 

ー以上6名ー

 

 

 



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非日常編④(オシオキ編)

VOTE

 

 

 

赤刎円 5票

 

枯罰環 1票

 

 

 

『うぷぷぷぷ、お見事大正解ー!!【超高校級の脚本家】黒瀬ましろサンを殺したのは【超高校級の講師】赤刎円クンでしたー!!オマエラ5連続正解なんてやるぅー!!』

 

「そんな…赤刎さん……どうして…!!」

 

「…それを説明する前に、まずみんなに謝らなきゃいけない事があるんだ。」

 

「謝らなきゃいけない事…?」

 

「……思い出したんだ。俺は、黒瀬が連続殺人を引き起こした殺人鬼だって言ったけど、本当は違ってた。…人間の記憶って不思議なもんだよな。俺は、自分で自分の都合のいいように記憶を書き換えてたんだ。」

 

「え、それってどういう…」

 

「…逆だったんだよ。」

 

「逆…?」

 

ウチらが疑問に思っとると、クマ公が口を挟んできよった。

 

『うぷぷぷぷぷー!皮肉な話だよねー。オマエラも勘違いしてたみたいだけど、本当に頭がおかしいのは黒瀬サンじゃなくて赤刎クンの方だったんだよ!』

 

「それってまさか…!!」

 

「…ああ。8年前、孤児院の周りで連続殺人を引き起こしたのは、俺だったんだよ。」

 

「な…!?」

 

「おい、何だよそれ!?どういう事か説明しろ!!」

 

 

 

『うぷぷぷ!ここからはボクの口から説明した方が早いかな?実は、赤刎クンと黒瀬サンは同じ孤児院で育った義兄妹の関係だったのです!』

 

「何だと…!?」

 

『そしてさらにショッキングな事に、二人が生まれ育った孤児院は人身売買業者っていう裏の顔を持ってたんだよね!二人にずっと優しく接していたシスターは実は裏社会では有名な孤児売りの女狐で、孤児院の子供達は全員『商品』だったんだ!赤刎クンは、この業者の創設以来ピカ一の頭脳の持ち主だったから、業者側は赤刎クンを残しておいた方がお金になると判断して売り飛ばすのを保留にしてたってわけ。ちなみに同じ孤児院にいた黒瀬サンはというと、赤刎クンと同じく保留の候補には上がってはいたけど先天的な発達障害が理由で早々に売り飛ばされちゃったんだよね!』

 

「そんな、酷い…」

 

「待てよ、それと赤刎が殺人鬼だって事に何の関係があるんだよ?」

 

『…復讐だよ。』

 

「ふ、復讐?」

 

『赤刎クンは、大好きな弟妹達を売り飛ばした業者や弟妹達を物としてしか見てない買い手達を相当恨んでてね。当時10歳の子供でありながら、弟妹達を奪った連中を巧妙な手口で次々と殺していったんだよ。首謀者であるシスターを豚箱送りにしたくても幼い自分に出来る事はたかが知れてるし、自分が逃げればまた弟妹達が被害に遭うかもしれない。業者の闇を明らかにしても、この国じゃ業者を裁けない。そう判断した赤刎クンは、自らが手を汚す事で業者への復讐を果たしてたんだよね!』

 

「じゃあ、赤刎が言ってた『黒瀬が人を殺した事がある』っていう秘密は!?あれは赤刎がついた嘘だったのかよ!?」

 

『嘘じゃありませーん!それは間違いなく黒瀬サンの抱えてる秘密だよ。…っていうか、消された記憶を書き換えてた赤刎クンがオマエラを騙す理由がないよね?』

 

「でも、殺人犯は赤刎クンだったんでしょ!?じゃあ、黒瀬サンが殺した人って一体…」

 

『中絶ですねチューゼツ。アボーション!』

 

「………えっ?」

 

『黒瀬サンは、赤刎クンとは違って早々に売り飛ばされたって言ったよね?実は黒瀬サンを買ったのは巷じゃロリコンで有名な変態で、二人が飼われてた業者の常連だったんだよね。黒瀬サンの事もそういう目的で買ったらしいよ。その男に無理矢理行為を迫られた結果、なんと黒瀬サンはたった10歳で変態との子供を孕んでしまったのです!』

 

「な……!」

 

『当時まだ幼かった黒瀬サンには、変態との子供を育てる力も愛する自信もありませんでした。日に日に胎児が大きくなっていくと共に黒瀬サンは心を病んでいき、ついにはわざと階段から転落して自分の子供を殺めてしまったのです!』

 

「何だよ、それ…じゃあ結局、黒瀬は何も悪くなかったって事かよ!?だったら何でアイツは殺人鬼だって嘘ついたりしたんだよ!?」

 

「……それは多分、赤刎君を守るためじゃないかな。」

 

「え、どういう事?」

 

『うぷぷぷ。ハッキリ言っちゃうと、黒瀬サンは赤刎クンに恋をしていたんだよ。』

 

「………は!?嘘!?え、だってそんな素ぶり全然なかったじゃん!!え、何で!?」

 

『さっき、黒瀬サンは変態に買われて襲われたって話したよね?実はその変態、赤刎クンに殺されてるんだよ。で、黒瀬サンはその場にいて変態が赤刎クンに殺されるところを見てたわけ。黒瀬サンは、殺人っていう一番ヤバい手段に訴えたとはいえ自分の手を汚してまで救い出そうとしてくれた赤刎クンに心酔してったんだよね。そしてそれは、8年ぶりにたまたまこの希望ヶ峰楽園で再会した今でも変わらなかったのです。そこで黒瀬サンは、赤刎クンが記憶を失っているのをいい事に、残虐な殺人鬼を演じてみんなからそう思われるように振る舞ったわけ。全ては、黒瀬サンなりの赤刎クンへの恩返しだったんだよ。』

 

「そんな……」

 

ウチは、黒瀬が以前言うとった言葉を思い出した。

『嘘は愛情』。

アイツは、最初から最期まで大嘘つきやった。

せやけど、それは全部ウチらを思っての嘘やった。

殺人鬼を演じたんは、赤刎を守るため。

非情な悪役を演じたんは、嫌われる事で全員の殺意の矛先を自分に向けるため。

コロシアイを引っ掻き回したんは、ウチに【超高校級の絶望】やと思わせるため。

アイツは元々悪者やったんとちゃう。

ウチらがアイツを悪者にしたんや。

 

「……実は、黒瀬からメッセージを受け取ってるんだ。最期に、これだけは確認しておきたい。」

 

『んもー、しょーがないなぁ!それじゃ、冥土の土産に黒瀬サンからのメッセージを公開しちゃいましょう!モニターオン!』

 

 

 

 

 

クマ公がそう言うてリモコンのスイッチを押すと、黒瀬の映像が映し出される。

 

「やっほー、円くん。キミがこの映像を見てる時、ボクはもうこの世にはいないと思います。……なーんてね。ふふふっ、これ一回言ってみたかったんだよね〜。」

 

黒瀬は、いつも通りふざけた様子で話す。

 

「ここからは、演技抜きで話をしていこうと思うんだ。今から言う事を信じるかどうかはキミ達に任せるよ。まずね、キミ達に言わなきゃいけない事があるの。ボクが殺人鬼だっていう話だけど………あれ、嘘だよ。…ふふっ、すっかり騙されてたでしょ?ボク、脚本だけじゃなくて女優の才能もあると思うんだよね〜。ちなみにボクが殺した人っていうのはね、ボクを買った人に孕まされたお腹の中の赤ちゃんなんだ。何もわからないまま、汚いおじさんに襲われてできた子供。ボクが殺したのはその子一人だけ。え?じゃあボクが人を殺して作品を書いてたとか言ったのは何だったのかって?あれは、知り合いのジャーナリストさんに頼んで取材をしに刑務所に足を運んで貰ってたりとか、過去の殺人事件の資料を読んだりしてそれっぽく作り込んでただけなんだ〜。」

 

黒瀬は、全く笑えへん事をヘラヘラ笑いながら言うと、急に畏まった顔になった。

 

「って、無駄なおしゃべりが過ぎたね。ボクは、思い出しライトで全部知っちゃったの。この楽園の秘密とか、コロシアイの目的とか全部ね。でもね、ボクはそれをキミ達に言い遺すつもりは無いよ。だってボクは、今のボクとみんなが大好きだから。ボクは、みんながここから出てもみんなのままでいてくれるならそれでいい。それじゃ、これからの人生は苦難だらけだろうけど頑張ってね。」

 

今までずっとヘラヘラ笑っとった黒瀬が、急に涙目になる。

ウチらがコイツの涙を見たんは、これが最初で最後やった。

 

「…最後に円くん、キミにどうしても伝えたい事があります。円くんは覚えてないだろうけど、ボクはキミに助けられた時からずっとキミの事が好きでした。ボクが孤立してた時、キミだけはボクに構ってくれたよね。あの時、本当に嬉しかったんだよ。…………今までありがとう。大好きだよ、()()()()()。」

 

黒瀬が涙を流しながら微笑んだ直後、ブツッと音が鳴って画面が暗転した。

 

 

 

 

 

そこで映像は終わった。

ウチはただ、モニターを呆然と眺める事しか出来へんかった。

 

「嘘でしょ…こんな事って………」

 

「何だよこれは…じゃあ、俺達がした事って…」

 

「黒瀬さん…ごめんなさい…何も知らずにあんな態度を取って…ごめんなさい…うっ、ううっ…!!」

 

「黒瀬さん…」

 

「……ホント、バカな奴だよな。殺人の罪を擦りつけて勝手に外道扱いしてきた奴に『ありがとう』だとよ。アイツは昔からそんな奴だったよ。誰よりも純粋で、どんなに冷たく突き放してもしつこく懐いてきて、人付き合いとなるとどこか不器用で、そういうところは昔から何も変わってない。…実は昨日、アイツが書いた短冊が研究室に置いてあったから拾って読んだんだけど、なんて書いてあったと思う?」

 

「………。」

 

「『世界中の人とお友達になりたい』……だってさ。ガキの頃の願い事を今でもずっと願い続けてる、アイツはそういう奴なんだよ。」

 

「………何やねんそれ……お前……全然話がちゃうやんか!!ウチは…コイツが【超高校級の絶望】や思たから殺そうとしたんやぞ!!それに、ウチらに伝えたい事があるから自殺しようとしたって…まさかこないな事伝えるためだけに死のうとしたっちゅうんか!?ふざけんなやオイ!!!」

 

「…枯罰。黒瀬が自殺しようとしてた理由だけど、あれ、本当は俺が適当にでっち上げたんだ。本当の事を言えば、お前が罪の意識に苛まれるんじゃないかと思ってな。」

 

「何やと…!?」

 

「お前に殺されそうになった後黒瀬が自殺しようとしたのは、枯罰。お前を守るためだよ。」

 

「………は?」

 

「お前の殺人が成功すれば、お前はクロとしてオシオキされる。だからアイツは、自殺する事で犠牲を自分で最後にしようとしたんだ。」

 

「じゃあ、赤刎が黒瀬を殺したのって…」

 

「…もし、黒瀬が生きてるかどうかを確認しにお前が研究室に戻ったら、お前は間違いなく黒瀬にトドメを刺すだろうと思った。それに、黒瀬が自殺に失敗して途中で死んだらお前がクロになるかもしれない。逆の立場なら、きっと俺も自分で死ぬ事を選んでた。そして自分でも死ぬ事ができない状況なら、多分黒瀬に殺すよう頼んでた。…そう思ったんだ。だから俺は、黒瀬を殺した。」

 

「そんな………」

 

 

 

「…ごめん、枯罰。俺…どうしてもこれ以上みんなが死ぬのを見たくなかった。」

 

赤刎は、これから殺されるっちゅうのに笑っとった。

コイツ…

 

「俺の嘘を暴いてくれてありがとう。……後は頼んだ。」

 

「………は?………何言うてんねん…!!お前ら、揃いも揃ってこないなウチを庇うためだけに死のうとしたっちゅうんか!!?ふざけんなや!!!!ウチは、今まで何人も平気で殺してきたし、感情を殺す訓練も死ぬほど受けさせられて来た!!今更死ぬ事なんぞ怖ないわ!!!せやけど、お前らはちゃうやろ!?お前ら、死ぬんが怖ないんか!?」

 

「……怖いよ。怖い…けど……ふと思ったんだ。俺に殺された人達もこんな気持ちだったんだろうなって。俺が殺してきた人達は、確かに俺の弟妹達の仇だ。けど、俺達と同じ人間だったんだよ。アイツらにはアイツらなりの人生があって、大切な人がいて、死ぬ事を怖いと思う感情だってあった。それを全部奪ったのは俺だ。俺だけ逃げる事は許されない。…罰はちゃんと受けるよ。」

 

赤刎が言うと、他の奴等も口を挟んだ。

…当たり前や。

こんなん、黙ってられるわけないやろ。

 

「それは違うよ!君の過去と今回の事件は何も関係ない!!」

 

「そうですわ!!赤刎さんがどんな方でも関係ありません!!あなたまで死に急ぐのはおやめ下さいまし!!」

 

「お前、武本が殺された時『生きて罪を償ってほしかった』って言ってたじゃねぇかよ!!死ぬ事は償いでも何でもねぇぞ!!」

 

「やだよ…赤刎君…!ボク、やっぱりもうオシオキなんてやだよぉ…!!」

 

「みんな………いや、俺はみんながなんと言おうとオシオキを受ける。これは、黒瀬を殺した時から決めてた事だ。外に出たところで、殺人鬼の俺を世間は受け入れちゃくれないだろう。でも枯罰、お前は違う。」

 

「………え?」

 

「みんなのこれからは、お前にかかってるんだ。お前は頭がいいし、誰よりも正しい奴だと俺は思ってる。お前になら、後の事を任せられる。」

 

「何言うてんねんお前……ウチは………」

 

「…やっぱりな。お前は『機械』なんかじゃない。お前は、ちゃんと自分の頭で考えて生きて、感情もあって、お前の事を大切に思ってる仲間もいる。お前は、一人の人間なんだよ。…今だって、俺みたいな殺人鬼のために泣いてくれてるだろ?」

 

「っ……………」

 

 

 

『はいはーい、もう茶番が長すぎて飽きちゃったのでそろそろアレいっちゃいましょっか。』

 

「!?おい、待てやコラァ!!やるんならウチをやれや!!元はと言えばウチが黒瀬を殺そうとしたせいでこないな事になっとんねんぞ!!オシオキされるんはどう考えてもウチの方やろ!?」

 

『ダメでーす!オシオキの対象となるのは『実行犯』のみ!今回の実行犯は赤刎クンなので、赤刎クンだけをオシオキするよー!』

 

「ふざけんなや!!殺すぞボケコラァ!!」

 

ウチは、クマ公に突進した。

このままウチがクマ公を攻撃したら、ウチは校則違反で死ぬ。

別にそれでも構わへん。

ここで赤刎を見捨てて生き延びるくらいなら、死んだ方がマシや。

 

「やめろ枯罰!!犬死にだぞ!!」

 

「喧しいわボケ!!お前のオシオキは犬死にとちゃうんか!?あぁ!?」

 

「ここでお前が処刑されれば、それこそモノクマの思う壺だぞ!!お前、モノクマの言いなりにだけは死んでもなりたくないんじゃなかったのかよ!?」

 

「そんなもんもうどうでもええわ!!ウチはクマ公を道連れにして死ぬ!!それでウチの目的もクソみたいな人生も全部終いや!!」

 

「聞け!!!」

 

「!?」

 

赤刎は、ウチに思いっきり体当たりを仕掛けてきた。

思わぬ方向から体当たりされたせいで、ウチは当たり負けした。

 

「バカ野郎!!お前が今すべき事はこんな事じゃねぇだろ!!!」

 

「黙れや!!お前に何がわかんねん!!こっちは死ぬつもりで黒瀬を殺そうとしたんやぞ!?なのに、お前みたいなホンマの戦場も知らんようなドチビに庇われて生き恥晒す屈辱がお前にわかってたまるかぁ!!」

 

「うるせぇ!!!!」

 

「ッ…!!」

 

「生き恥が何だ!?屈辱が何だ!?そんなもん、いくらでも晒しゃあいいじゃねぇか!!死んじまったらそこで終わりなんだぞ!!地べたを這いつくばってでも、醜態を晒してでも生きろ!!潔く死ぬくらいなら見苦しく足掻け!!!」

 

「…ド阿呆……お前、言うとる事メチャクチャやんか………そないに言うなら、お前も簡単に死ぬとか言うなや!!」

 

「っ…………」

 

『えー、お取り込み中悪いけどもう尺が無いので始めちゃいますね!』

 

次の瞬間、赤刎の首がアームで掴まれた。

 

 

 

「っ…うぁあああああぁああああああああああああああああ!!!!!」

 

「枯罰!?」

 

ウチは走った。

一度は死ぬ事すら覚悟した。

ウチは、自分が死ぬのは怖ない。

けど、赤刎だけは絶対助ける。

コイツは、親父の言いなりになって何人もの人間を殺してきたウチなんぞを身を邸して庇ってくれた。

コイツを死なせたら、今までクソみたいな人生を歩んできた意味がなくなる。

たとえ手足を吹き飛ばされても、身体が半分になったとしても、コイツだけは…

 

『今回は、【超高校級の講師】赤刎円クンのために!!スペシャルな!!オシオキを!!ご用意しました!!!』

 

「死なせてたまるかぁあああああぁあああああああああああああ!!!!!」

 

「枯罰ッ……俺、やっぱり……………」

 

『ではでは、オシオキターイム!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「死にたくねぇわ…………!!」

 

 

 

 

 

ウチは、手を伸ばした。

赤刎も、ウチの手を取ろうと必死に手を伸ばした。

 

 

 

……伸ばした手は、僅かに届かへんかった。

 

 

 

 

 

ーーー

 

GAME OVER

 

アカバネくんがクロにきまりました。

 

オシオキをかいしします。

 

ーーー

 

 

 

赤刎は、アームで引き摺られてそのままどこかへと連れ去られた。

連れてこられたのは、職員室のような部屋だった。

どこからか、ピッ、ピッ、という機械音が鳴っている。

赤刎は、両腕両脚と胴体に付けられた拘束具で金属製の椅子に拘束されており、両足は靴と靴下を脱がされて裸足になっていた。

そこで画面上に文字が現れる。

  

 

 

ーーー

 

教えて!赤ペン先生

 

【超高校級の講師】赤刎円 処刑執行

 

ーーー

 

 

 

赤刎の目の前にはテーブルがあり、赤刎の右手にはプリントの山とチューブのようなもので繋がれたガラスペンが、左手には変わったデザインのアナログ時計が置かれていた。

その両隣では、教師の格好をしたモノクマが眼鏡を光らせながら監視している。

左足には何故かチクリとした痛みがあるが、足は机の下にあるので確認する事はできない。

左のモノクマが時計のスイッチを押すと時計は少しずつ進み始める。

すると、右のモノクマは山上からプリントを一枚取って赤刎の前に置く。

赤刎は最初何の事かわからなかったが、何となくモノクマの意図を察しプリントに目を通す。

内容は小学生一年生レベルの算数ドリルで、既に汚い字で回答が書かれていた。

赤刎は、ガラスペンを手に取ると一枚目のプリントを採点する。

ペンのインクの滲み方に少し違和感を覚えるが、ものの数秒で採点を終わらせ左のモノクマにプリントを渡した。

すると、間髪入れずに右のモノクマが次のプリントを渡す。

 

この作業が何回、何十回、何百回と繰り返された。

採点するプリントのレベルは少しずつ上がり、初めは小学生レベルだったものが中学生レベル、高校生レベルと上がっていく。

それでも赤刎は問題文を見た瞬間に脳内で模範解答を作成し、その通りに採点を行い続けた。

だが赤刎は集中力を消耗したのか少しずつ顔色が悪くなっており、さらに追い討ちをかけるかのように問題の難易度がグンと上がった。

そして、大学受験レベルに上がったあたりから赤刎の採点スピードが急に落ち始めた。

自分の頭の中の解答に自信がなくなってきたのだ。

それでも何とか採点を続ける赤刎だったが、ここに来て初めて最後の計算間違いに気付かず丸をつけてしまうというミスを犯す。

すると、モノクマは容赦なく赤刎の左足の小指の爪を剥がした。

あまりの痛みに、赤刎は悶絶する。

だが、時間内に全てのプリントを採点し終わらないと処刑される。

死にたくないという思いが赤刎の弱りかけた心に鞭を打ち、再び赤刎は採点を続ける。

だが、その勢いはたった数分で終わりを迎え、集中力が切れた赤刎は次々とミスを連発するようになった。

両足の爪は全て剥がされ、左足の指は全て切断されていた。

もはや採点が追いつかない程の問題の難易度や集中力を掻き乱す機械音、そして拷問による苦痛のせいで、赤刎は完全に思考を停止し採点をする手は全くと言っていいほど動いていなかった。

 

するとモノクマは、何を考えたのか赤刎の口に怪しい薬を流し込み無理矢理飲み込ませる。

その直後赤刎の脳内を襲ったのは、情報の洪水、そして今までどんなに頭を捻っても採点出来なかった問題の解答が一瞬で浮かんだ事への多幸感だった。

赤刎は、再び紙の上でペンを走らせる。

だが薬で頭が冴えた状態でも何度かミスを繰り返してしまい、右足の指も全て切断され、鉋で足の皮膚を剥がされ、足元の鉄板で足を焼かれる。

しかし驚くべき事に、拷問を受けている間も赤刎は休む事なくペンを走らせ続けていた。

麻薬をも軽く凌駕する快感に溺れた赤刎にとってはもはや()()()()()()()だったのだ。

拷問の苦痛より、身体の限界より、採点結果の正誤より、『目の前の問題を解く事』だけを求めひたすら採点を繰り返す機械と化していた。

しかし、脳細胞を酷使し続けたせいか鼻や目から出血し始める。

だが今の赤刎は脳神経が焼き切れる感覚にすら快感を覚えており、興奮のあまり自身のモノを勃起させていた。

 

そしてプリントは最後の一枚になる。

最後の問題は、ミレニアム問題にも匹敵する未解決問題だった。

赤刎は、早速用意されていたノートに思い浮かんだ解法を書き殴る。

問題に奮闘する事数時間、ついに赤刎は正解に辿り着き、導き出した答えをプリントに書き込む。

赤刎は、生きた人間のものとは思えない顔をしていた。

目の焦点は合っておらず、口からは血の混じった泡を吹いていた。

そしてついに最後の一行を書きおわり、それと同時に絶頂に達した赤刎は快感に打ち震えながら精を解き放つ。

その直後だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ピーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

今まで一定のリズムでなっていた機械音は、長く平坦な音へと変わった。

赤刎は糸が切れた操り人形のようにだらんと力無くもたれており、手から落ちたペンは床に落ちて転がっていた。

赤刎の座っている席からはコードが伸びており、座席の後ろの機械と繋がっていた。

座席の後ろの機械の液晶画面には、水平な直線と『0』という数字が表示されている。

そして、赤刎が今まで握っていたペンから伸びたチューブは、赤刎の左足に刺さった採血針と繋がっていた。

 

モノクマは、赤刎が赤ペンで数式を書き殴ったプリントに目を通した。

モノクマは、褐色を帯びた赤いシミで汚れたプリントを見て『判別不能』と見做しペンで大きくバツをつけた。

部屋には、モノクマの不気味な笑い声だけが鳴り響いていた。

 

 

 

 

 

『エクストリーーーーーーム!!!』

 

「うわあああああああああああああ!!!」

 

「いやっ!!いやぁあああああああっ!!」

 

「そんな…赤刎君が…」

 

「クソッ…チクショウ…!!」

 

「…………。」

 

ウチは一体何をしとったんや。

目の前でクラスメイトが殺されるのを、ただそこで見とっただけやった。

こないなはずやなかった。

ホンマなら、あそこにいたのはウチのはずやった。

生きたかったアイツが死んで、死にたいウチが生き延びた。

 

なんで。

 

なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで

 

 

 

『いやー、いいもの見れた。まさかポイントゲッターだった赤刎クンがこんな呆気なく死んじゃうとはね!って、あれ?枯罰サンどうしたの?便秘?』

 

「……………。」

 

ウチは、ふとブレザーの内ポケットを漁る。

…やっぱりあった。

ウチは軍に所属しとった頃、護身のため、そして万が一の時自分で命を絶つために懐に凶器を隠し持っとくよう教え込まれとった。

戦場を退いた後も、その癖はどうしても抜けへんかった。

…まさか、この癖がこないな所で役に立つとは思てへんかったけどな。

ウチは、持っていたナイフを自分の首筋に当てた。

 

 

 

ガッ

 

「!」

 

いきなり右手を打たれた事でウチはナイフを手放し、飛んでいったナイフは聞谷に拾われた。

ふと目の前を見ると、弦野がウチの手を払っとった。

 

「しっかりしろ!!!お前は俺達のリーダーなんだぞ!!」

 

「……………ウチが?」

 

「そうだよ。…少なくとも、俺はそう思ってるぜ。」

 

「ええと…わたくしも、初めから枯罰さんと赤刎さんがリーダーだと思っておりましたわよ?」

 

「君は、君の正しさを常に貫いていた。僕は、そんな君だからこそ赤刎君は君に託したんだと思うよ。」

 

「ボ、ボクも……キミが一番向いてると思う……」

 

 

 

…思い出した。

赤刎は、ウチに後を任せる言うた。

ウチは、こないな所で立ち止まっとる場合とちゃう。

ウチは、どないな手を使っても生き延びる。

ほんでもってあのキッショいロボットを操って阿呆面しとるクソッタレに一発お見舞いしたる!!!

 

「…おい、クマ公。その汚い耳かっぽじってよぉ聞けや。ウチは、絶対お前にキッツい一発ブチ込んだる。それまでは、せいぜいそのキショい面晒してろや!!」

 

「やっといつもの調子に戻ったかよ。」

 

「枯罰さん……うん。決めた。僕も生きてここから出るよ。僕には、外で待ってくれてる患者さん達がいるから。」

 

「わたくしも…聞谷家の長女ともあろう者が、こんな所でへこたれていてはなりませんわ!」

 

「俺だって、こんな所で死ねねぇんだよ!何が何でも生き延びて、世界一価値のある人生を送ってやる!!」

 

「ボ、ボクだって死にたくない!!早くお家に帰りたいんだよ!!」

 

 

 

『…うぷぷぷ、オマエラはもう誰も死なないしコロシアイもしないつもりみたいだね。よし、じゃあこうしましょう!新しいルールを追加します!ここからは、殺人を禁止とします!』

 

「何だと…!?」

 

「じゃ、じゃあボクはもう殺されなくて済むんだね!?やった!!」

 

『その代わり、オマエラにはこの楽園の卒業試験に挑んでもらうよ。』

 

「卒業試験…?」

 

『オマエラも薄々気付いてるだろうけどね、黒幕はオマエラ16人の中にいるんだよ!!』

 

「………え?」

 

『もしかしたらもう既に死んじゃった中にいるかもしれないし、この5人の中にいるかもしれない。オマエラに課す卒業試験は、『黒幕を暴く事』!それだけです!!』

 

「じゃ、じゃあ、黒幕を暴けばボク達は外に出られるんだよね!?」

 

『そーでーす!見事当てたら全員揃って卒業!ここから出してあげるよ!…ただし、やっぱりここでも間違えたらオシオキだけどね!』

 

「ひ、ひぃ!?」

 

『特別に第六区画は開放してあげたので。それじゃ、最終試験頑張ってねー!』

 

そう言うて、クマ公は去っていった。

 

「ど、どうしよう!?いきなり黒幕を暴けなんて言われたって、そんなのできるわけ……」

 

「………ちょうど良かった。クマ公が言わへんかったら、ウチが勝手に見つけ出そうとしとったとこやったわ。」

 

「…え?」

 

「お前ら、絶対に黒幕を見つけ出してここから出るぞ!!」

 

 

 

 

 

Chapter5.脆く儚い御伽噺 ー完ー

 

 

 

《アイテムを入手した!》

 

『書き古されたメモ帳』

 

Chapter5クリアの証。

赤刎の遺品。

弟妹から誕生日にプレゼントされたもので、常にコートの内ポケットに入れていた。

最期までコロシアイに足掻き続けた少年の生きた証が記されている。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

ー生存者ー

 

【超高校級のカウンセラー】安生心

 

【超高校級の香道家】聞谷香織

 

【超高校級の傭兵】枯罰環

 

【超高校級のヴァイオリニスト】弦野律

 

【超高校級のソフトウェア開発者】一千歳

 

ー以上5名ー

 

 

 




まさかの主人公交代。
近いうちに解説も出すよー。


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希望ヶ峰楽園 生徒名簿3
生徒名簿③


【超高校級の講師】赤刎(アカバネ)(マドカ)

 

「迷子じゃねぇよ!俺は男子高校生だっての!」

「それは違うぞ!」

 

現状:死亡(5章クロ)

性別:男

年齢:18歳

誕生日:5月9日(おうし座)

血液型:B型

身長:135cm

体重:25kg

胸囲:65cm

利き手:右

出身校:桜庭高校

好き:超高校級、クレープ

嫌い:オカルト、牛乳

容姿:長い赤毛の癖っ毛を一本に纏めており、橙色の瞳。そばかすがある。見た目は完全に幼女。

服装:半袖のワイシャツと深緑の短パンの上に紺色のロングコート。

人称:俺/お前/苗字呼び捨て

ICV:日髙のり子

 

本作の主人公。幼女のような外見だが、れっきとした男子高校生。札木とは高校のクラスメイト同士。

世話好きで熱血漢。基本的に常識人だが、エロが絡むと積極的になる。

クラスメイトと親友を失った事で心が折れそうになるが、3度の学級裁判を乗り越えて精神的に強くなった。

実は、連続殺人事件を引き起こしていた殺人鬼だった。

5章ではその事を思い出し、黒瀬を殺そうとした枯罰を守るために黒瀬を殺しオシオキを受けた。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

【超高校級のカウンセラー】安生(アンジョウ)(ココロ)

 

「僕でよかったらいつでも相談に乗るよ。」

 

現状:生存

性別:男

年齢:18歳

誕生日:7月1日(かに座)

血液型:O型

身長:174cm

体重:54kg

胸囲:81cm

利き手:左

出身校:西城学院高校

好き:悩み相談、動物、白和え

嫌い:血、おろし和え

容姿:深緑の長髪に淡い紫色の瞳。

服装:黒いシャツ、白いネクタイ、グレーの制服の上に白衣。メガネをかけている。下半身不随のため車椅子に乗っている。

人称:僕/君/男:苗字+君 女:苗字+さん

ICV:河西健吾

 

高校生にして優秀なカウンセラーで、どんな精神疾患も治してしまう程。

生まれつき下半身不随で、常に車椅子で移動している。

温厚な性格で、常に相手の心に寄り添って行動している。

普段は司令塔的ポジションだが、あくまで精神的には一般人のため捜査や裁判の際は枯罰とポジションが入れ替わる。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

【超高校級の天才】神崎(カンザキ)(ミカド)

 

「とっとと失せろ凡俗共。貴様らと同じ空気を吸っているだけで、俺の才能が汚染される。」

 

現状:死亡(2章クロ)

性別:男

年齢:18歳

誕生日:10月31日(さそり座)

血液型:AB型

身長:188cm

体重:73kg

胸囲:88cm

利き手:両手

出身校:帝卿学院高校

好き:自分、ヌーベルキュイジーヌ、母親

嫌い:凡人、貧乏飯、弟

容姿:プラチナブロンドのミディアムヘアーに深緑の瞳。男子の中では一番美形。

服装:ワイシャツ、赤いリボン、紺色のベスト、黒いスラックスの上に黒いロングコート。シルクの白い手袋を嵌めており、左耳にフルール・ド・リスのイヤリングをつけている。胸にはブローチをつけている。

人称:俺/貴様/おい、あれ、蔑称等。頑なにクラスメイトの名前を呼ばない。

ICV:関智一

 

神崎財閥の御曹司で、一度見聞きした事はその分野の超高校級には及ばないものの一流と呼べるレベルには習得できてしまう程の天才。

傲慢な性格で、自分自身以外は誰も信用していない。常に他人を見下している。

実は漕前の血の繋がった兄で、母親の妊娠がきっかけで両親が離婚したため弟である漕前を母親を奪った存在と見做して憎むようになり、嫉妬のあまり殺害。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

【超高校級の香道家】聞谷(キクタニ)香織(カオリ)

 

「まあ、伝統芸能の中でも知名度が低いので…聞き慣れないかもしれませんね。」

 

現状:生存

性別:女

年齢:16歳

誕生日:11月5日(さそり座)

血液型:AB型

身長:162cm

体重:48kg

胸囲:85cm

利き手:右

出身校:聖蓮堂女学院高校

好き:お香、和菓子

嫌い:騒音、品性の無い方、ジャンクフード

容姿:黒髪ロングで黒い瞳。口元に黒子がある。

服装:濃い紫の着物に白い帯。

人称:わたくし/あなた/苗字+さん

ICV:名塚佳織

 

伝統芸能に通ずる者なら必ず名前を聞くほど有名な香道家で、聞谷流という新たな流派を創流するという偉業も成し遂げている。

常に敬語で話す。おっとりしたお嬢様で、誰に対しても礼儀正しい。エロや暴言などに対しては嫌悪感を抱いている。しかし、カラオケや恋バナで人一倍はしゃいだりなどお茶目な一面も持ち合わせている。

親友の筆染と宝条を失い、3度目の学級裁判で仕田原の本性が明らかになった事で心に深い傷を負った。

 

 

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【超高校級の脚本家】黒瀬(クロセ)ましろ

 

「嘘は何物にも代え難い愛情なんだよ?ボクが嘘をつくのも、みんなの事が大好きだからなんだ〜。」

 

現状:死亡(5章シロ)

性別:女

年齢:18歳

誕生日:6月2日(ふたご座)

血液型:O型

身長:148cm

体重:45kg

胸囲:99cm

利き手:左

出身校:魁清学園高校

好き:円くん、みんな、謎

嫌い:なし

容姿:白い癖っ毛のセミロングにピンク色の瞳。肌が真っ白。

服装:白と緑を基調としたセーラー服の上に薄ピンクのパーカー。

人称:ボク/キミ/男:名前+くん 女:名前+ちゃん

ICV:豊崎愛生

 

映画やドラマ、ゲームなど数多くの作品を手がけており、彼女が手がけた新作は全てその週のランキングで1位になる程の天才脚本家。

マイペースで掴み所のない性格。恐怖や緊張感が欠如しており、コロシアイ生活にもすぐに適応してエンターテインメントとして楽しむ程の図太さを持つ。

小児性愛者で、ロリ体型の赤刎に執拗なまでのストーカー行為を繰り返している。

5章では枯罰に殺されそうになったが結局赤刎に殺された。

殺人鬼だと自称していたが、実は義兄である赤刎を守るための嘘だった。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

【超高校級の幸運】漕前(コギマエ)(ミナト)

 

「みんなで一致団結すりゃあ、コロシアイなんて起こんねぇって!」

 

現状:死亡(2章シロ)

性別:男

年齢:16歳

誕生日:3月6日(うお座)

血液型:AB型

身長:170cm

体重:60kg

胸囲:80cm

利き手:右

出身校:芒ヶ原高校

好き:ゲーム、綺麗なお姉さん、グラタン

嫌い:勉強、ラザニア

容姿:アッシュブロンドのセンター分けでライトグリーンの瞳。

服装:黒い学ランの下に白いTシャツ。

人称:俺/お前/男:苗字呼び捨て 女:苗字+ちゃん

ICV:花江夏樹

 

くじ引きで平均的な高校生の中から選ばれて入学した。

これといった才能が無い事を全く気にしておらず、明るく社交的に振る舞っている。助平で、赤刎やジョンと一緒にエロトリオと呼ばれている。

実は神崎の実の弟で、モノクマの動機でこの事実を知ったが、実兄に会えた喜びも束の間、神崎に母親を奪った邪魔者と見做され殺害された。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

【超高校級の傭兵】枯罰(コバチ)(タマキ)

 

「ウチは、絶対お前にキッツい一発ブチ込んだる。それまでは、せいぜいそのキショい面晒してろや!!」

「それはちゃうぞ!!」

 

現状:生存

性別:女

年齢:15歳

誕生日:2月17日(みずがめ座)

血液型:A型

身長:181cm

体重:61kg

胸囲:83cm

利き手:両手

出身校:???

好き:綿菓子、プリン

嫌い:ド阿保、喧しい奴、梅干し

容姿:毛先がワインレッドの黒髪で、右目が隠れ気味。薄いブルーグレーの瞳。中性的な見た目で、美人というよりはイケメン寄り。

服装:ワイシャツと青いネクタイの上に茶色いブレザー。耳にクロスのピアスをつけている。

人称:ウチ/お前/苗字呼び捨て又は苗字+はん(煽り用)

ICV:宮村優子

 

5章以降の主人公。男装の麗人。東欧系のクォーター。

関西弁で喋るのが特徴的。知的で冷静沈着な性格。ほとんど感情が顔に出ないが、札木と違いズバズバと物を言う。

捜査や学級裁判では、持ち前の知識や閃きと仲間の死にも冷静に向き合う強さを活かしリーダー的ポジションになっている。

3度目の学級裁判の直後、黒瀬の告白によって才能が明らかになった。

一度黒瀬を殺しかけたが、赤刎が黒瀬を殺した事でオシオキは免れた。

その後は、コロシアイの正体を暴くために奮闘する覚悟を見せた。

なお、5章からは女子制服にイメチェンしている。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

 

 

【超高校級のタロット占術師】札木(サツキ)未来(ミライ)

 

「これから何か、良くない事が起こるらしいの…それが何かまではわからないけど…」

 

現状:死亡(1章シロ)

性別:女

年齢:18歳

誕生日:1月8日(やぎ座)

血液型:B型

身長:152cm

体重:40kg

胸囲:78cm

利き手:右

出身校:桜庭高校

好き:タロット、チーズケーキ、義姉、赤刎くん

嫌い:怖い人、胡椒

容姿:薄紫色のボブカットで、右側を結っている。茶色の瞳。

服装:白いシャツ、赤いリボン、深緑のスカートの上に深緑のボレロ。

人称:わたし/君/男:苗字+くん 女:苗字+さん

ICV:矢作紗友里

 

本作のヒロイン。赤刎の高校のクラスメイト。

100%当たると有名なタロット占術師。彼女の助言に従えば、将来の成功が約束されるとも言われている。

物静かな性格で、感情表現が苦手。口数が少なく、あまり積極的に発言しない。

実は未来予知の力を持っている。

少し歳の離れた義姉がおり、赤刎がたまたま義姉の命を救った事で赤刎に好意を抱くようになる。

モノクマに義姉の惨殺シーンを見せられ、さらには神崎に唆されて自分を占ったところ最悪の結果が出た事で絶望し、自分の命を犠牲にして武本に全てを託そうとした。

 

 

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【超高校級の爆弾魔】仕田原(シダハラ)奉子(トモコ)

 

「………そうよ。あたしが【超高校級の爆弾魔】よ。」

 

現状:死亡(3章クロ)

性別:女

年齢:17歳

誕生日:8月11日(しし座)

血液型:A型

身長:168cm

体重:58kg

胸囲:88cm

利き手:右

出身校:烏谷高校

好き:行哉さん、絶望

嫌い:行哉さん以外の人間

容姿:水色の長髪を後ろで纏めており、青い瞳。隠れ美人で、実は女子の中では一番美形。

服装:黒いシャツの上に青いオーバーオールを着ており、その上に白いエプロン。頭には白い三角巾。瓶底メガネをかけている。

人称:あたし/アンタ、テメェ/苗字呼び捨て

ICV:加藤英美里

 

高校生の身でありながら家事全般何でも熟せる家政婦で、来年まで仕事の予定が埋まっており年単位で待たないと彼女を雇えない程。その功績が認められ【超高校級の家政婦】としてスカウトされた。

 

…というのは表の顔で、その正体は2年前から世間を騒がせていた爆弾魔。

恋人を爆発事故で亡くしたショックで気が触れてしまい、他の人間を全員恋人と同じ目に遭わせようと次々と事件を起こすが、その際に人を絶望に堕とす快楽に魅入られるようになる。

宝条を殺した筆染を殺す事で筆染の後釜に座ろうとしたが、裁判で負けて処刑された。

 

 

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【超高校級の冒険家】ジョナサン・ウォーカー(Jonathan Walker)

 

「Oh,それはなかなかcoolなideaだな!」

 

現状:死亡(4章シロ)

性別:男

年齢:16歳

誕生日:4月19日(おひつじ座)

血液型:A型

身長:184cm

体重:85kg

胸囲:90cm

利き手:右

出身校:ウェストフィールドハイスクール

好き:旅、天ぷら、Japanese girls

嫌い:じっとしてる事、ケチャップ

容姿:焦げ茶色の髪をコーンロウにして後ろで束ねている。金色の瞳。褐色肌。

服装:ダークグレーのタンクトップに迷彩柄のカーゴパンツ。腰には同じく迷彩柄のジャケットを巻いている。ピアスとネックレスと黒いグローブを着用。

人称:オレ/オマエ/名前呼び捨て

ICV:置鮎龍太郎

 

アメリカからの留学生。愛称はジョン。

遺跡や新種の生物の調査などを目的として世界中を旅しており、彼のブログは世界中で翻訳されて話題になる程の大人気を誇っている。

英語混じりの日本語で話すのが特徴的。明るく大らかな性格でコミュニケーション能力が高いため誰とでもすぐに仲良くなれる。エロに興味を抱いており、赤刎や漕前と一緒にエロトリオと呼ばれている。

実は内通者である事が4章で明らかになり、秘密を隠し通すために黒瀬を殺そうとしたところ返り討ちに遭い黒瀬と手を組んでいた速水に殺害された。

 

 

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【超高校級の武闘家】武本(タケモト)闘十郎(トウジュウロウ)

 

「俺は、まだまだ強くならなければならない。」

 

現状:死亡(1章クロ)

性別:男

年齢:17歳

誕生日:7月30日(しし座)

血液型:A型

身長:200cm

体重:110kg

胸囲:120cm

利き手:右

出身校:錦堂高校

好き:修行、白米、家族、師匠、札木

嫌い:怠け、生クリーム

容姿:剃り込みの入った黒髪ベリーショート。赤い瞳。顎髭が生えている。筋骨隆々とした体格。

服装:道着を着ており、下駄を履いている。

人称:俺/お前、貴様/苗字呼び捨て

ICV:天神英貴

 

数々の武道を制覇し、特に柔道では国内に戦う相手がいない程の達人。

ストイックな性格で、決して驕った態度は取らない。実は人付き合いが苦手で、特に女性に対する免疫がほとんど皆無。

札木に明確な好意を抱いていた。

モノクマの動機映像で家族や師匠の事が心配になり外に出る方法を探していたところ、札木に殺害計画を持ちかけられ迷うものの札木の思いを継ぐ決意をし彼女を殺害。しかし、その一部始終を神崎に見られていた事で学級裁判で負けが確定してしまった。

 

 

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【超高校級のヴァイオリニスト】弦野(ツルノ)(リツ)

 

「うるせーな、テメェには関係ねぇだろーが。」

 

現状:生存

性別:男

年齢:17歳

誕生日:10月5日(てんびん座)

血液型:O型

身長:180cm

体重:67kg

胸囲:85cm

利き手:右

出身校:聖ハルデンベルク高校

好き:ジャンクフード、絵麻

嫌い:両親、ほうれん草

容姿:銀髪のウルフカットに青い瞳。右目に泣き黒子がある。

服装:水色のシャツと茶色いスラックスの上に黒いジャンパー。ヘアピン、ピアス、チョーカー、ネックレスなどをつけている。

人称:俺/テメェ/苗字呼び捨て

ICV:吉野裕行

 

音楽家の家系の御曹司で、本人もまた世界的に有名な天才ヴァイオリニスト。

しかし幼少期から両親に英才教育を受けさせられた反動で素行不良になっており、自分の人生を束縛した原因である自分自身の才能を疎ましく思っている。

初めは単独行動を取り孤立していたが、そんな中でも唯一温かく接してきた筆染に徐々に心を開いていく。

付き合う事になった直後に筆染が仕田原に殺害され、復讐のために仕田原を殺して自身も筆染の後を追おうとするが、枯罰に発破をかけられた事で生き延びる決意を固めた。

 

 

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【超高校級のソフトウェア開発者】(ニノマエ)千歳(チトセ)

 

「終わった!!ボクはここで死ぬんだぁああああ!!」

 

現状:生存

性別:男

年齢:17歳

誕生日:9月28日(てんびん座)

血液型:B型

身長:163cm

体重:49kg

胸囲:77cm

利き手:左

出身校:東櫻アカデミー

好き:パソコン、ラーメン、チャーハン

嫌い:虫、血、高所、オカルト、ピーマン

容姿:鎖骨まであるボサついた明るい茶髪に茶色い瞳。タレ目で睫毛が長く中性的な顔立ち。

服装:下は紺のジーンズで、上は緑色のTシャツ。上にクリーム色のパーカーを羽織っている。

人称:ボク/君/男:苗字+君 女:苗字+さん

ICV:小西克幸

 

プログラミングやシステム開発など数多くの功績を残しているが、突出した分野が無いため一括りに『超高校級のソフトウェア開発者』と呼ばれている。

非常に臆病な性格で、何かあるたびに泣き喚く。また、パソコン関係以外はからっきしなのでよく的外れな発言をしてしまう。

コンピューターゲームが得意だが、ハマりすぎると性格が変わるという悪癖がある。

本人曰く、親戚に同じく超高校級の才能を持ったプログラマーがいるらしい。

仕田原に明確な好意を抱いていたが、仕田原の正体を知り彼女が処刑された事で心に深い傷を負った。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

【超高校級のランナー】速水(ハヤミ)蘭華(ランカ)

 

「ちょっとひとっ走りしてくるね!じっとしてるの落ち着かなくて!」

 

現状:死亡(4章クロ)

性別:女

年齢:16歳

誕生日:9月12日(おとめ座)

血液型:B型

身長:175cm

体重:61kg

胸囲:95cm

利き手:右

出身校:四ツ川高校

好き:ランニング、照り焼きチキン

嫌い:暗所、考える事、コーヒー

容姿:黄緑色のショートボブに水色の瞳。褐色肌。

服装:白いTシャツとえんじ色のホットパンツの上にえんじ色のジャージ。

人称:アタシ/アンタ/名前呼び捨て

ICV:喜多村英梨

 

数々の陸上競技で新記録を叩き出しており、男子の代表選手とも対等以上に渡り合える。

明るく活発な性格で、考えるより先に身体が動く。頭脳労働はからっきしで、神崎や枯罰などの話を聞いているとすぐに頭がパンクしてしまう。

親友だった筆染と宝条を失い、仕田原の正体を知った事で心に深い傷を負った。

黒瀬に唆されて内通者のジョンを殺し、クロとしてオシオキされた。

 

 

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【超高校級の画家】筆染(フデゾメ)絵麻(エマ)

 

「あたし、一旦イメージが降りてきたらすぐ描きたくなっちゃって…絵の事になるとホント周り見えなくなっちゃうんだ!」

 

現状:死亡(3章シロ)

性別:女

年齢:17歳

誕生日:12月16日(いて座)

血液型:O型

身長:165cm

体重:52kg

胸囲:90cm

利き手:右

出身校:星華高校

好き:絵、クラシック、キャラメル、律君

嫌い:高所、椎茸

容姿:赤髪セミロングに赤い瞳。

服装:白いシャツ、ピンク色のネクタイ、灰色と赤のタータンチェックスカートの上に黒いジャケット。オリオン座のヘアピンをつけている。

人称:あたし/君/男:苗字+君 女:苗字+ちゃん

ICV:野中藍

 

世界的に有名なアーティストからも高く評価されている画家で、稼いだ金で建てた自身のアトリエを持っている。

穏やかで柔和な性格だが、絵の事になると熱中してしまい周りが見えなくなるという悪癖がある。

実は弦野のファンで、彼の奏でる音色が自分の作風と相性が良いのでとても気に入っている。

弦野と付き合う事になったが、その直後宝条に殺されかけ抵抗した際に誤って宝条を殺害してしまい、その後後釜を狙っていた仕田原によって殺害される。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

【超高校級の収集家】宝条(ホウジョウ)夢乃(ユメノ)

 

「ゆめはぁ〜、みんなにゆめって呼んでもらいたいの。ってか、みんなにゆめって呼ばれないと気が済まないのよ。」

 

現状:死亡(3章シロ)

性別:女

年齢:17歳

誕生日:6月10日(ふたご座)

血液型:AB型

身長:157cm

体重:43kg

胸囲:84cm

利き手:右

出身校:虹ノ森女学園高校

好き:自分、お宝、イチゴのパフェ、組のみんな

嫌い:ダサい物、虫、オカルト、人参、両親

容姿:ピンク色の縦ロールのツインテールで、緑色の瞳。

服装:白、ピンク、赤を基調とした甘ロリファッション。ツインテールに赤いリボンをつけている。

人称:ゆめ、私/男:あなた 女:アンタ/男:苗字+くん 女:苗字呼び捨て

ICV:戸松遥

 

芸術作品から人体や情報まで、欲しいと思ったものなら何でも手に入れる収集家。

自分の事を『ゆめ』と呼ぶ痛い女で、かなりぶりっ子のような言動が目立つ。しかし、素は素直になれないだけの年頃の女子らしい性格。

自分の思い通りにならないと気が済まない性格で、気に入らない事があるとすぐに癇癪を起こすが、収集家という事もあり観察力や情報処理能力には長けている。

筆染を殺そうとするが、抵抗された際に転倒して後頭部を打撲してしまい運悪く絶命。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

 

 



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Chapter.6 序章(はじまり)の終わり
非日常編①(捜査編)


ごめん遅刻した





赤刎が死んだ。

ウチなんぞを庇って殺された。

やっと、今までクソみたいな人生を送ってきたウチなんかでも仲間やと思ってくれる奴に会えたと思たのも束の間、アイツはウチの目の前で殺された。

ウチはあの時、アイツを助けられへんかった。

…一度は、アイツに庇わせた自分を、アイツを助けられへんかった自分を殺そうと思た。

せやけど今は違う。

ウチにはまだ仲間がおる。

ソイツらの未来のためにも、ウチはアイツの分まで足掻く。

ウチは、ウチらをこないな目に遭わせた黒幕を絶対許さへん。

クマ公に一発叩き込んで全員で生きてここを出るために、何としてでも真実を明らかにせな。

 

「どうする…?まずはどこを調べれば…」

 

「普通に考えて第六区画だろ。」

 

「あとは、一さんが調べてくださった情報管理室がありますわよね。」

 

「僕は物理室を調べたいんだけど…」

 

「…すまん。ウチは、黒瀬の研究室を調べたいねんけど、それでもええか?」

 

「黒瀬さんの研究室を?どうして?」

 

「そんなとこ調べて今更何になるのさ?」

 

「…ウチは、アイツが犯人やったとは信じられへん。もう一度現場を見て確認したい事があんねん。」

 

「…わかった。じゃあ5人で手分けしてそれぞれ1ヶ所ずつ調べよっか。」

 

「おい、待てよ。5人のうち1人は黒幕かもしれないんだろ?もし黒幕を1人にして好き勝手やられたらどうすんだよ。」

 

「そ、そうですわね…」

 

「せやったら、2人と3人のグループに分けて調べるのがええんとちゃうか?時間は半日あるし、なんぼ広い楽園かて2グループあれば調べられるやろ。」

 

「じゃあ、安直だが男子と女子で分けるか。それが一番バランス良いだろ。」

 

「そうだね…」

 

「それじゃあ、僕達は情報管理室と研究所を調べるから、二人は第六区画と黒瀬さんの研究室を調べてくれるかな?それ以外にも調べたいところがあったら各自調べてくれていいからね。」

 

「了解や。ほな聞谷、行こか。」

 

「わかりましたわ。」

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

ウチらは、まず第六区画に行って探索をする事にした。

 

「第六区画で探索可能な施設は一箇所だけかいな。」

 

「そうみたいですわね。祠のような建物になっておりますが…」

 

「そういやクマ公、自分の事を神とかほざいとったのぉ。多分、ここはアイツの本拠地みたいなもんなんとちゃうか?」

 

「本拠地、ですか…」

 

「…行くで。」

 

ウチらは、祠の中を探索する事にした。

 

 

 

「…ほぉん。」

 

祠の中には、ゲームソフトとモニターが並ぶ部屋になっとった。

 

「いかにも…という感じですわね。」

 

「ほな、調べてくか。」

 

ウチらはまず、正面にある机から調べる事にした。

ステンレス製の机の引き出しには、紙の束が入っとった。

 

「これは…?」

 

「見たとこ何かの資料やろな。…ほな見てくで。」

 

「はい…」

 

ウチは、引き出しの中の資料に目を通した。

書かれとったのは、ウチらの履歴書やった。

…いや、履歴書っちゅうか…

 

「…これ、履歴書っちゅうより…キャラクターシートみたいやな。」

 

「きゃ、きゃら?何ですのそれは?」

 

「聞谷、お前TRPGって知っとるか?」

 

「いえ…」

 

「テーブルトーク・ロールプレイングゲーム。ゲーム機とかのコンピュータを使わずに、紙や鉛筆、サイコロとかを使ってプレイヤー同士の会話とルールブックの指示に従ってシナリオを進めていくゲームの事や。こう説明すればわかるか?」

 

「ええと…要は、るうるぶっくとやらの指示通りに脚本を進めていく遊び、ですわよね?」

 

「せや。その時にプレイヤーはキャラクターシートを用意すんねやけど、この履歴書、そのキャラクターシートにそっくりやねん。」

 

「えっと…それって…」

 

「ウチにもどういう事かはわからへん。せやけど、このプロフィールの紙がこのゲームと関係あるんは確かやろな。」

 

 

 

コトダマゲット!

 

【16人分のプロフィール】

 

 

 

「ほな、も少し調べてくか。」

 

ウチは、壁に並んどったゲームソフトに目を通した。

 

「…!」

 

「あら?これ、全部タイトルが同じですわね。ええと…ダンガンロンパ?全部で…54作ありますわね。」

 

「しかもこれ、全部中身が抜き取られとるぞ。…しゃあない、パッケージだけ確認してくか。」

 

ウチらは、信じられへんモンを目の当たりにした。

そのゲームの内容は、全部『モノクマがコロシアイを強要し、殺人が起きたら誰がクロかを討論する学級裁判をする』というものやった。

…ウチらが置かれとる状況と全く同じや。

さらにパッケージには、()()()()()()()()()が映っとった。

 

 

 

「………え?さ、さやか…ちゃん………?」

 

一作目のパッケージに映っとったんは、ウチの推しのアイドル舞園さやかちゃんやった。

 

「嘘やろ…?え、何でさやかちゃんがここに映っとんねん!?」

 

さやかちゃんがこないなゲームに参加しとるわけがあらへん。

何でこのパッケージにさやかちゃんがおんねん…

 

「え…嘘でしょ!?そんな、どうして……!?」

 

聞谷は、パッケージを落としてガタガタと震えとった。

聞谷が落としたパッケージには、『デラックスダンガンロンパI4 僕らのコロシアイ天空旅行』と書かれていた。

 

「どないしたん?」

 

「どうして……ここに佐織が!?」

 

パッケージを拾い上げて確認すると、確かに聞谷がこの前見せてくれた妹の写真と酷似しとる女子が映っとった。

パッケージを確認すると、確かに【超高校級の華道家】聞谷佐織っちゅう奴が参加しとる事がわかる。

他のパッケージも確認すると、ほとんど全部のパッケージに超高校級として希望ヶ峰学園にスカウトされて有名になった奴やウチらの知り合いがおった。

 

「どうなっていますの!?佐織はまだ中学生ですわ!!こんなの、あり得ませんわ…!!」

 

「ウチに言われてもなぁ…ウチも何でさやかちゃんがおるんか知らへんし。せやけど、この『ダンガンロンパ』っちゅうゲームが関係しとるんは間違い無いんとちゃうか?」

 

「………模倣犯、ですかね?」

 

「その可能性が高いなぁ。まあ、それでも何でウチらの知り合いが参加しとるんかなまだ謎のままやけどな。」

 

 

 

コトダマゲット!

 

【ダンガンロンパ】

 

 

 

「…ほな、次はこのモニターの映像やな。」

 

「そうですわね…」

 

ウチは、モニターをセットして映像を見た。

他のモニターのチャンネルは普通やのに、中央のモニターだけモニターを覗き込むウチらの映像が映っとった。

 

「……え?これは…どういう事ですの?」

 

「撮られとるんや。ウチらは見せもんにされとるってクマ公が言うとったやろ?」

 

「見せもの、ですか…」

 

「これは生中継されとる。それも、全世界に向けてな。」

 

 

 

コトダマゲット!

 

【生中継】

 

 

 

「…この映像も一応確認しとくか。」

 

ウチが手に取ったんは、引き出しに入っとったDVDやった。

DVDをセットして再生すると、映像が流れる。

 

 

 

 

 

映像には赤い幕が映っとって、『事前インタビュー 枯罰環編』という文字が浮かび上がっとった。

そして幕が開いて映像が映し出される。

そこには、真っ白な部屋に置かれた椅子に座ったウチが映っとった。

 

『このゲームへの意気込み…ですか?まあ、とくにこれっちゅうもんがあるわけやないですけど…これだけは言えますね。ウチは多分、誰かに殺される事は無いと思いますわ。だってウチ、生まれた時から誰の事も信用してへんから。…え?ゲームをクリアしたらやりたい事?いやぁ…ありませんなぁ。ウチは、ゲームに参加するためにここにおりますんで。』

 

その後も、インタビュアーとウチとの質疑応答が繰り返された。

この映像は、5分ほどで終わった。

 

 

 

 

 

「…は?」

 

意味がわからへん。

何やこれは。

ウチは、こないなインタビューなんぞ受けとらん。

ウチが進んでこのクソゲーに参加した…?

そんな…あり得へん…!!

 

『オマエラは、自ら望んでこの楽園に来たんでしょ?』

 

「…!」

 

ウチは、クマ公に言われた言葉を思い出した。

ウチらが進んでこの楽園に来た…?

どういう事や。

 

 

 

ウチらは、コロシアイをするためだけに自ら進んで集まってきた…?

 

 

 

ウチが最悪の思考を巡らせとった、その時やった。

 

『うぷぷぷぷー!とうとう見ちゃったか。それ。』

 

「クマ公…!!」

 

『ねえねえ、今どんな気持ち?どんな気持ち?』

 

「Cобака…」

 

『うわ口悪っ!!枯罰サン、日本語じゃないからいくら悪口言ってもわからないと思ったら大間違いだよ!!あんまりそういう事ばっかり言ってるとピー音入れちゃうよ!?』

 

「………?」

 

ウチは、わざと聞こえづらいように言うて、しかもスラングを使うてクマ公を罵った。

それやのに、クマ公は意味を完璧に理解して返事を返して来よった。

よっぽどロシア語に詳しないとこの返事は返って来えへん。

可能性があるとすれば、ウチ以外ならバ神崎くらいや。

ウチは当然黒幕とちゃうし、バ神崎は既に死んどる。

…ほんなら、このクマ公を操っとる奴は誰なん?

 

 

 

コトダマゲット!

 

【インタビュー映像】

 

コトダマゲット!

 

【モノクマとの会話】

 

 

 

「…ここで手に入る情報はこれくらいか。ほな行こか。」

 

「そうですわね。」

 

『コラー!!無視するなーーー!!!』

 

ウチらは、後ろで喚いとるクマ公を無視して黒瀬の研究室へ向かう事にした。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

ウチは、早速黒瀬の研究室を調べた。

…ここでもう一度調べ直して、ホンマに赤刎が犯人やったんかハッキリさせなアカン。

ウチが研究室内を調べとると、聞谷が声を上げた。

 

「枯罰さん!これを見てくださいまし!!」

 

「何や。」

 

聞谷が見せてきたんは、誰のものかわからへん靴の痕やった。

 

「これ…あなたや赤刎さんのものではありませんわよね?」

 

「ああ。大きさ的に黒瀬のモンともちゃうぞ。…っちゅうより…」

 

これ、誰の靴なん?

こないな足跡見た事あらへんぞ。

17人目がいたりとかするんやないとすれば、この靴は………

 

 

 

コトダマゲット!

 

【誰のものか分からない足跡】

 

 

 

その後も黒瀬の研究室を隈なく調べてんけど、何も有力な情報は出て来えへんかった。

 

「まいったなぁ…」

 

「あの…一度死体安置所に行ってみるのはいかがでしょう?黒瀬さんのご遺体が置かれている安置所なら、何か情報が掴めるかもしれませんわ。」

 

「…せやな。ほな行ってみるか。」

 

ウチらは、黒瀬の死体があるかもしれへん死体安置所に行ってみた。

機械でできた棺桶を一つずつ調べてくと、死体が二つ増えとった。

ひとつは安らかな表情で眠る黒瀬の死体、もうひとつは目をひん剥いて顔は真っ青で足が無い赤刎の死体やった。

 

「………。」

 

いくら最善の状態で保存されとる言うたかて、こないにぎょーさんの死体を並べられとるんはええ気分せえへん。

黒瀬の死体を調べて早う出ていきたいとこやけど…

 

「…ん?」

 

「いかがなさいましたの、枯罰さん?」

 

「これ…」

 

黒瀬の腕をよぉ見ると、虫刺されみたいなモンができとった。

これは、明らかに死斑とはちゃう。

 

「えっと…何でしょうかね。これ……」

 

「……注射痕。」

 

「え?」

 

「これ、注射痕とちゃうか?そうとしか考えられへんわ。」

 

「注射痕ですか…ですが、何故注射痕が出てくるんですの?黒瀬さんは赤刎さんに一酸化炭素中毒で殺されたはずでは…」

 

「…ひょっとすると、前回の事件はウチらが真相やと思っとったモンよりずっと複雑なのかもしれへんなぁ。」

 

 

 

コトダマゲット!

 

【黒瀬の注射痕】

 

 

 

「注射痕…せや!!」

 

「どうかなさいましたの?」

 

「聞谷。悪いんやけど、今から診療所に寄ってもええか?」

 

「え、ええと…構いませんが…何かわかったんですの?」

 

「おう。ウチの推理が正しければ、診療所に手掛かりがあるはずや。行くで!!」

 

ウチは、聞谷を連れて診療所へ向かった。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

診療所へ着いたウチは、真っ先にあるものを探し始めた。

 

「枯罰さん!?一体何がわかったというんですの!?」

 

「ここに確か…チィッ、板で塞がれとるな。こんの…!!」

 

ウチは、毒薬が入った木箱を封じとる板を強引に引っ剥がした。

 

「く、釘で打たれた板を…」

 

聞谷が引いとるような気がせえへんでもないけど今はそないな事気にしとる場合とちゃう。

確かここに…

 

「!!」

 

やっぱり減っとる…

 

「あの、枯罰さん?どうしたんですか?」

 

「…毒が減っとる。」

 

「え、毒が…?」

 

「ああ。『モノトキシンγ』っちゅう毒や。頭痛や吐き気、機能障害や意識障害っちゅう症状が現れるんやけど、その症状が一酸化炭素中毒と似とんねん。」

 

「それって……」

 

「黒幕がこれを黒瀬に注射して殺し、赤刎に罪をなすりつけたのかもしれへんっちゅうこっちゃ。」

 

「そんな…」

 

 

 

コトダマゲット!

 

【モノトキシンγ】

 

 

 

「いや…せやけど、そうやとすればあれは…」

 

「どうかなさったんですの、枯罰さん?」

 

「診療所の履歴確認しとんねん。」

 

「えっと…診療所の履歴なら、前回確認したはずでは?」

 

「…いや、それだとどないしても納得いかへん事があってな。」

 

ウチは、何度も履歴を確認した。

せやけど、何度調べても履歴に間違いはなかった。

 

 

 

コトダマゲット!

 

【診療所の履歴】

 

 

 

「履歴が間違いやないとすると、考えられるんは………」

 

ウチは、ベッドをどかして床を調べた。

 

「ちょっ…枯罰さん!?何をなさっていらっしゃるんですの!?」

 

「………ビンゴや。」

 

「え?」

 

ウチは、床板を軽く押した。

すると床板は少し凹んで、その下から通路が現れた。

 

「…!!こ、これは…」

 

「隠し通路や。ここを通れば、入退室履歴が残らへん。…やっぱりウチの仮説は正しかったみたいやな。」

 

「ええとつまり、真犯人はここを通って黒瀬さんを殺したかもしれないという事ですか?」

 

「せや。履歴がアリバイ証明の証拠品にならへんとすると、前回の裁判の真相が覆ってまうかもなぁ。」

 

 

 

コトダマゲット!

 

【診療所の隠し通路】

 

 

 

「ここで調べられる情報はこれくらいやな。」

 

「そうですわね。」

 

「一旦安生達と落ち合って情報交換した方がええかもな。」

 

「……あ、あの。」

 

「何や?」

 

「えっと、空気の読めない事を言うようで言いづらいのですが……」

 

「?」

 

「お腹…空きません?」

 

「………。」

 

それを聞いたウチは固まった。

…確かに、かれこれ6時間以上調べとったっちゅうのに飯食わへんままやったら腹は減るよなぁ。

 

「…しゃあないわ、全員集めて一旦飯にするか。」

 

「すみません…」

 

「しゃあない言うとるやろ。腹が減っては戦が出来ぬっちゅう言葉もあるしな。ほな安生達呼ぶで。」

 

ウチは、チャットで全員に呼びかけた。

すると30分後に全員来て、弦野と一緒に飯を用意した。

 

「これが最後の晩餐か…」

 

「コラ。縁起でもない事言わないの、一君。」

 

「ご、ごめん…」

 

「ありがとうございます、枯罰さん、弦野さん。」

 

「ええよ別に。飯食わな長時間の捜査にも集中出来へんやろ?」

 

「うん。じゃあ、ご飯が終わったら一回情報交換をしよっか。」

 

「だな。」

 

ウチらは、安生の提案で食事の後ミーティングを開く事になった。

ウチは、調べた事を3人に報告した。

 

「……なるほどね。」

 

「マジかよ…」

 

「そうだったんだね…」

 

「ウチらからの報告は以上や。次、お前ら報告せぇよ。」

 

「わかった。じゃあまずは僕から報告しようかな。僕は、主に研究所を調べていくつか報告したい事があったから言うね。まず、この資料を見て欲しいんだ。」

 

そう言うて安生は資料を見せてきた。

トランスヒューマニズムに関する研究レポートやった。

そこに書かれてとったんは、脳とコンピュータの互換性に関する内容やった。

何でも、脳内の記憶や意識、感情などの情報をデータ化しコンピュータに読み込む事に成功し、本物のマウスの記憶や意識を元に動くロボットマウスを作ったとの事らしい。

まだこの段階ではマウスにしか実験をしとらんが、いずれヒトの脳をデータに置き換える事ができれば記憶障害の治療や機械への人格の移植などに役立てられるかもしれへん。せやけど、倫理的な観点から現時点では実現不可能な技術…そないな内容やった。

 

「なるほどなぁ。」

 

「難しいお話ですわね…」

 

「僕は、ここに書かれている内容がこのコロシアイと関係あるような気がするんだよね。」

 

「せやな。ウチもそう思うわ。まあ、どないに関係しとるかまではわからへんけどなぁ。」

 

 

 

コトダマゲット!

 

【トランスヒューマニズムのレポート】

 

 

 

「他にも、気になるレポートを見つけたんだ。これは、物理室じゃなくて生物室で見つけたものだけどね。」

 

「?」

 

「興味深い内容だよ。さっきのレポートもそうだけど、僕は十中八九このレポートもコロシアイと何らかの関連があると思うね。」

 

ウチらは、安生が見せてきたレポートを順番に読んだ。

今度は人造生物に関する研究レポートやった。

そこに書かれてとったんは、人工的に生物を作り出す研究に関する内容やった。

クローン技術と遺伝子組み換え技術を利用し、元となる細胞が一つあれば体格や体質、性格、行動パターンなどの個体差を自在に操作した生物を作る事が可能やっちゅう事が書かれとった。

この技術を人間に応用する事で遺伝子操作を施した人間を大量に造り出し、専用の施設内で育て人造人間がどないに成長するんかを観察する事も検討しとるが、人道的な面から実現はせえへんままでおる、ざっとまとめるとこないな内容やった。

 

「人造生物…何かホムンクルスみたいだな。」

 

「ああ、ルネサンス期の錬金術師が造ったっていう人造人間の事だよね?」

 

「脳の情報のデータ化にホムンクルスねぇ…」

 

 

 

コトダマゲット!

 

【人造生物に関するレポート】

 

 

 

「それともう一つ。生物室にはもう一つ、気になる物が置かれていたんだよね。」

 

「何や。」

 

「第一生物室に、大きな培養器が置かれていたんだ。人一人がすっぽり収まる大きさのね。それも16台も。」

 

「…!?」

 

「…僕には、完全に今のレポートの内容を裏付けてるように思えてならないんだ。まあ、培養器だけを見て決めつけるのも如何なものかとは思うけど…でも、無関係ではないんじゃないかな。」

 

「…人を造るための機械は用意されとるっちゅう事か。」

 

「なんかさ、ホントSFみたいだよね。」

 

「確かになぁ。脳のデータ化も人工的に個体差を操作した人間を造る技術もウチらの知る限りでは確立されとるはずのないオーバーテクノロジーやからな。」

 

せやけどウチも、どうもこれがコロシアイと無関係やとは思えへん。

脳のデータ化や人造人間が何らかの形でコロシアイと関わっとるとすれば、一体どないな形で関わっとる言うんか…?

 

 

 

コトダマゲット!

 

【培養器】

 

 

 

「次は俺の番だな。…つっても、俺は今までのみんなの証言とか自分で調べてて不自然に思った事とかをまとめただけだけど。」

 

そう言うて、弦野は説明を始めた。

 

「枯罰が『赤刎の死の真相を知りたい』って言うから事件当時のアリバイを調べてみる事にした。思い出しライトの光を浴びてから黒瀬の死体が発見されるまでの時系列をまとめてみたんだ。まず、光を浴びてから3時間後に安生、それからさらに6時間後に枯罰、5日後に黒瀬、さらに2時間後に赤刎が目を覚ました。…ここまではいいな?」

 

「うん。」

 

「枯罰は黒瀬を殺すために黒瀬の研究室に押し入って黒瀬を毒のナイフで切りつけた、黒瀬は、枯罰をクロにしないために毒リンゴで自殺を図るも失敗。それを全部見ていた赤刎は、黒瀬の思いを汲んで自分がクロになるために黒瀬を一酸化炭素中毒で殺害。それで、さらに約6時間後に俺が、さらに11時間後に一、さらに7時間後に聞谷が目を覚ました。つまり、事件が発生した時寝てた俺達3人には黒瀬を殺せないって事になる。それは俺達を交代制で監視してたお前らがわかってるはずだ。」

 

「うん。」

 

「せやなぁ。」

 

「じゃあ、ボクと聞谷さんと弦野君は黒幕から除外されるんだね。良かった…」

 

「黒幕=黒瀬を殺した真犯人だったらの話だけどな。」

 

 

 

コトダマゲット!

 

【思い出しライト】

 

コトダマゲット!

 

【聞谷と弦野と一のアリバイ】

 

 

 

「それと、物理室と化学室を調べてわかった事なんだが、一個気になる事があったんだ。」

 

「何や?」

 

「…ガスマスクが盗まれてたんだよ。」

 

「え?ガスマスクが盗まれたって…それは赤刎君が使ったからでしょ?一酸化炭素が充満した部屋にガスマスク無しで入るのは危ないから。何も不自然な事は…」

 

「一つじゃなかったんだよ。」

 

「………え?」

 

「盗まれてたガスマスクは一個じゃなかったんだ。物理室と化学室、それぞれひとつずつガスマスクが盗まれてた。」

 

「そんな…じゃあ、もう一個は一体誰が何の目的で盗んだの…?」

 

 

 

コトダマゲット!

 

【盗まれたガスマスク】

 

 

 

「それと、気になった事はもう一つあるんだ。」

 

「もう一つ?何ですの?」

 

「お前らさ、第二区画から第六区画が開放されてない間はモノクマがどうやって物資を別の区画に運んでたのか疑問に思った事はねぇか?」

 

「あ……そういえば、どうやって運んでたのかな。楽園生活を維持するためには区画間を自由に行き来する必要があるけど、壁で閉じられててるからそれはできないね。」

 

「ああ。それに、物資を運んでるルートがあるなら、いくら夜時間中にやってるとはいえ俺達が今までそのルートを見つけられなかったのは変じゃないか?」

 

「確かに………」

 

「えっと…つまりどういう事?」

 

「この楽園には、隠し通路があったんだよ。」

 

「か、隠し通路!!?」

 

「ああ。俺は、今回の探索でモノクマの野郎が使っていたかもしれない隠し通路を見つけたんだ。」

 

「どうやって?」

 

「音で。」

 

「…………。」

 

そうや。

コイツ、聴覚が化け物級にええんやった。

すっかり忘れとったわ。

 

「結論から言うが、隠し通路は多分この楽園を覆う壁の中だ。」

 

「「「「!」」」」

 

「壁を調べてる時に、何か壁に変な空洞があるような音がしたから変だと思って音響を使って壁を調べてみたんだ。すると、壁の中に通路みたいな長い空間がある事がわかった。あのクマは、壁の中を通って物資を別の区画に運んでたんだ。多分、壁のどこかに出入り口があって、そこから出入りすれば俺達に見つかるリスクを最小限にできる。」

 

「壁の中…なるほど、その手があったか……」

 

「道理で今までクマ公の尻尾を掴めへんかったわけやな。」

 

 

 

コトダマゲット!

 

【モノクマの移動手段】

 

 

 

「俺からの報告は以上だ。」

 

「じゃ、じゃあ次はボクだね…ボクは、情報管理室を探索してわかった事を言ってくね…まずね、情報管理室のコンピューターを解析したんだけど、そしたらとんでもないものが見られたんだ。」

 

そう言うて一は説明を続ける。

 

「まず、コンピューターには複雑なプログラムが書かれてたんだ。」

 

「複雑なプログラム?」

 

「うん…何か、人工知能のプログラムと似てはいるんだけど見た事もないプログラムだったよ。あれが何だったのかは結局分からなかったけど。」

 

複雑なプログラムか…

 

「…もしかして、さっき安生君が言ってた脳のデータ化の話と何か関係あるのかな……」

 

「わからない。でも可能性はありそうだよね。」

 

「ちなみにそのプログラムをどうこうする事は出来へんのか?」

 

「見る事だけはできたんだけど、書き換えようとすると複雑な暗号を使ったパスワードを要求されるんだ。解いたと思ったらすぐに次のパスワードを要求される、の繰り返しでキリがなかったから多分書き換えできないようになってるんだと思う。」

 

「なるほどなぁ。」

 

 

 

コトダマゲット!

 

【コンピューターのプログラム】

 

 

 

「それと、気になるデータを見つけたんだ。」

 

「気になるデータ?」

 

「うん。パソコンに残ってたコロシアイの企画書のデータ。この楽園は、コロシアイのために建てられたものらしいんだ。どういう風にコロシアイが進められていくのかとか、そういうシナリオみたいなものも書かれてた。」

 

「シナリオか…」

 

「でね。このコロシアイは、本物の希望ヶ峰学園の生徒を使ったデスゲームっていうコンセプトで作られた、一般大衆に向けたゲームだって書かれてた。」

 

「俺達は変態どもの見せ物だったって事かよ。クソッ、舐めやがって…」

 

 

 

コトダマゲット!

 

【コロシアイの企画書】

 

 

 

「それともう一つ。」

 

「まだ何かあんのか?」

 

「…このゲームを裏で操ってるのは、モノクマだけじゃないのかもしれない。」

 

「………え?」

 

「企画に協力した人や企業の名前を見ると、国家レベルの巨大企業や資産家らしき人の名前が書かれてたんだ。」

 

「…まあ、これだけの事するんやからよほど金をかけたんかなとは思っとったけどなぁ。」

 

「結局国の陰謀かよ…」

 

「国がこんなゲームのために動くのかって言ったら甚だ疑問だけどね。」

 

 

 

コトダマゲット!

 

【コロシアイの協力者】

 

 

 

ウチらは、その後も引き続き捜査を行った。

そこでわかった事も色々あった。

そしてとうとう、その時は来た。

 

 

 

ピーンポーンパーンポーン

 

『えー、もう待ちくたびれたので捜査時間を打ち切らせていただきます!オマエラ、ホテル1階のエレベーター前まで集合して下さい!15分以内に来ないとオシオキしますよー!』

 

「…行こう。」

 

「うん。」

 

「いよいよ始まるんだな。最後の学級裁判…」

 

 

ウチらは、覚悟を決めてエレベーター前に向かった。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

ウチらがエレベーター前に着いた直後、アナウンスからちょうど15分になった。

 

『うぷぷぷ、ちゃんと全員集まりましたね?それでは裁判所へレッツゴー!』

 

クマ公がそう言うた直後、エレベーターの扉が開く。

5人全員が乗り込んだ直後、エレベーターの扉が閉まり下に動き出した。

 

…待っててや、赤刎。

絶対に真相を明らかにして、クマ公に一発叩き込んだるからな。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

ー生存者ー

 

【超高校級のカウンセラー】安生心

 

【超高校級の香道家】聞谷香織

 

【超高校級の傭兵】枯罰環

 

【超高校級のヴァイオリニスト】弦野律

 

【超高校級のソフトウェア開発者】一千歳

 

ー以上5名ー

 

 

 



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非日常編②(学級裁判前編)

投稿ピッピ





コトダマリスト

 

【16人分のプロフィール】

ウチら全員のプロフィールが書かれとった。

プロフィールっちゅうよりかはキャラクターシートみたいやった。

 

【ダンガンロンパ】

ダンガンロンパっちゅうデスゲームが54作置かれとった。

その作品のほとんどにウチらの関係者が参加しとった。

 

【生中継】

このコロシアイは全国に向けて生中継されとる。

 

【インタビュー映像】

インタビューを受けとるウチの映像が映っとった。

ウチにはインタビューに心当たりが無い。

 

【モノクマとの会話】

クマ公は、ウチのロシア語のスラングを完璧に理解して返しをしてきた。

このレベルの外国語がわかるんはウチと神崎だけのはず。

 

【誰のものか分からない足跡】

黒瀬の研究室には、誰のものか分からへん足跡があった。

 

【黒瀬の注射痕】

黒瀬の腕には注射痕があった。

何者かに薬物を注入されたと考えられる。

 

【モノトキシンγ】

頭痛や吐き気、機能障害や意識障害っちゅう一酸化炭素中毒によぉ似た症状が現れ死に至る猛毒。

調べたら僅かに減っとった。

 

【診療所の履歴】

診療所の入退室履歴。

18:00 退室

18:38 退室

19:18 入室

19:25 退室

19:28 入室

19:57 退室

20:30 入室

01:24 入室

12:05 退室

19:25 入室

となっとる。

これに間違いは無かった。

 

【診療所の隠し通路】

診療所のベッドの下には外へ通じる通路が隠されていた。

ここを通れば履歴が残らへん。

 

【トランスヒューマニズムのレポート】

トランスヒューマニズムに関する研究レポート。

そこに書かれてとったんは、脳とコンピュータの互換性に関する内容やった。

何でも、脳内の記憶や意識、感情などの情報をデータ化しコンピュータに読み込む事に成功し、本物のマウスの記憶や意識を元に動くロボットマウスを作ったとの事らしい。

まだこの段階ではマウスにしか実験をしとらんが、いずれヒトの脳をデータに置き換える事ができれば記憶障害の治療や機械への人格の移植などに役立てられるかもしれへん。せやけど、倫理的な観点から現時点では実現不可能な技術…そないな内容やった。

 

【人造生物に関するレポート】

人造生物に関する研究レポート。

そこに書かれてとったんは、人工的に生物を作り出す研究に関する内容やった。

クローン技術と遺伝子組み換え技術を利用し、元となる細胞が一つあれば体格や体質、性格、行動パターンなどの個体差を自在に操作した生物を作る事が可能やっちゅう事が書かれとった。

この技術を人間に応用する事で遺伝子操作を施した人間を大量に造り出し、専用の施設内で育て人造人間がどないに成長するんかを観察する事も検討しとるが、人道的な面から実現はせえへんままでおる、ざっとまとめるとこないな内容やった。

 

【培養器】

人一人が入るサイズの培養器が16台置かれとった。

 

【思い出しライト】

まずは光を浴びてから3時間後に安生、それからさらに6時間後にウチ、5日後に黒瀬、さらに2時間後に赤刎、さらに約6時間後に弦野、さらに11時間後に一、さらに7時間後に聞谷が目を覚ましとる。

 

【聞谷と弦野と一のアリバイ】

事件当時寝とった3人にはアリバイがある。

ウチらが交代制で見張っとったさかい、寝たフリをして犯行を行う事は不可能。

 

【盗まれたガスマスク】

物理室と化学室からひとつずつガスマスクが盗まれとった。

 

【モノクマの移動手段】

壁の中に通路状の空間があった。

クマ公は壁の中の隠し通路を通って区画間を行き来しとった可能性が高い。

 

【コンピューターのプログラム】

コンピューター上に人工知能のプログラムによぉ似たプログラムが書かれとった。

書き換えようとするとパスワードが次々と現れるさかい、書き換えは不可能。

 

【コロシアイの企画書】

コンピューターには、コロシアイの企画書のデータが入っとった。

 

【コロシアイの協力者】

コロシアイには、社会的地位の高い連中が協力しとる。

ソイツらが資金源の可能性が高い。

 

 

 


 

 

 

エレベーターが止まると、扉が開いた。

全員が、それぞれの思いを抱えながら自分の席につく。

赤刎の席には、バツ印が書かれた遺影が置かれとった。

…始まるんや。

最後の学級裁判が…!!

 

 

 

《学級裁判 開廷!》

 

 

 

モノクマ『ではまず裁判の簡単な説明をしておきましょう。今回の裁判では特別ルールとして、『黒幕は誰か』『コロシアイの目的』『オマエラは何者か』について議論し、その結果はオマエラの投票によって決まります!正しい黒幕を選択した場合はその時点で黒幕のみがオシオキ、それ以外の全員は晴れて楽園を卒業となります!不正解だった場合は、その場で全員オシオキとなります!ま、そこは今までの裁判と一緒だね。あ、そうそう。卒業は辞退する事もできるからね。』

 

枯罰「………ほな、話し合いを進めよか。」

 

一「ボ、ボクは黒幕じゃないから!!みんな、ボク以外の人には投票していいけどボクにだけは投票しないでね!!」

 

枯罰「黙れド阿呆!!」

 

一「ひぃいっ!!?」

 

枯罰「お前が黒幕ならとっくに破綻しとんねん!!」

 

一「で、でもぉ…!!黒幕を見つけるなんてそんなの、どうやってやればいいのさぁ…!!」

 

枯罰「…簡単や。アラを探せばええねん。」

 

聞谷「あ、アラ…?」

 

枯罰「…黒幕は、『決定的なルール違反』をした。それを見つけたればええねん。」

 

弦野「ルール違反だと?そんなの、いつ黒幕がしたっていうんだよ?」

 

枯罰「……黒瀬が死んだ時や。」

 

一「…え?」

 

枯罰「赤刎は、黒瀬を殺した犯人やなかったかもしれへんねん。」

 

安生「え、ちょっと待ってよ!どういう事!?前回の裁判で、赤刎君が犯人だって話になったじゃないか!」

 

枯罰「ウチもそうやと思い込んどった。せやけど、赤刎は濡れ衣を着せられただけや。黒瀬を殺した真犯人こそが、ウチらをこないなクソゲーに巻き込みよった黒幕や!!」

 

 

 

ーーー議論開始!!ーーー

 

 

 

一「ボ、ボクは《黒幕じゃない》からね!!」

 

聞谷「わたくしだって、《黒瀬さん》を殺したりなどしてませんわ!」

 

安生「え、えっと…」

 

弦野「テメェら自分の主張ばっかりしてねーで生産的な話をしろよ。」

 

一「う、うるさいなぁ!!とにかくボクには無理なんだよ!!《黒瀬さんを殺せるわけがないんだ》!!」

 

 

 

《黒瀬さんを殺せるわけがないんだ》⬅︎【聞谷と弦野と一のアリバイ】

 

「それに賛成や!!」

 

《同 意》

 

 

 

枯罰「聞谷、弦野、一。まずお前らは黒幕とちゃうぞ。」

 

安生「何でその3人は違うって言い切れるのかな?」

 

枯罰「ウチは、黒瀬を殺した真犯人が黒幕や言うたやろ?この3人は、黒瀬が死んだ時寝とった。それは安生、お前も知っとるはずやぞ。」

 

安生「確かに……」

 

一「じゃ、じゃあボク達3人以外の誰かが黒幕なんだね!!?」

 

弦野「素直に考えりゃ安生か枯罰のどっちかだけどな。」

 

聞谷「待って下さい!!今までに亡くなった方の中に黒幕がいる可能性もありますわ!!」

 

弦野「じゃあ例えば誰だよ?」

 

聞谷「え、ええと…仕田原さん………とか?」

 

モノクマ『ぎ、ギックゥ!!?ふ、はははははははっ!!そ、そうよ!!真の黒幕はあたしだったのよ!!オマエラ大正解ー!!黒幕は【超高校級の爆弾魔】仕田原奉子ことあたしでしたー!!』

 

枯罰「おい。ヘッタクソな三文芝居はやめぇや。イラッとするんじゃボケ。外れとる事はわかっとんねん。」

 

モノクマ『しょあーん』

 

枯罰「少なくとも今まで死んだ奴の中にいる可能性は低いやろ。黒幕は黒瀬を殺しとるんやぞ?つまり、黒瀬を殺すまでは生きとった奴が犯人っちゅうこっちゃ。黒瀬が死ぬまでに死んだ奴の死体は全部死体安置所に置いとった。今までに死んだ奴に死の偽装は難しいんとちゃうか?」

 

一「あのさ…そもそも、何で黒瀬さんを殺した赤刎君じゃないと思うの?」

 

枯罰「あの事件には、不自然な点があんねん。」

 

 

 

ーーー議論開始!!ーーー

 

 

 

一「不自然な点!?そんなの無かったよ!!黒瀬さんは赤刎君に殺されたんだよ!!」

 

枯罰「それがおかしいと思うから今議論してんねん!!」

 

一「だから、何でおかしいと思うんだよ!?黒瀬さんは《一酸化炭素中毒》で死んだんだろ!?赤刎君が犯人で決まりだよ!!」

 

 

 

《一酸化炭素中毒》⬅︎【モノトキシンγ】

 

「それはちゃうぞ!!」

 

《論 破》

 

 

 

枯罰「…一、黒瀬の死因は一酸化炭素中毒やなかったかもしれへんねん。」

 

一「はぁ!?どういう事!?黒瀬さんは一酸化炭素中毒で死んだんだって君達が言ったんじゃないか!!」

 

枯罰「ウチも勘違いしとってん。実はな、一酸化炭素中毒と似た症状が出る薬があんねん。ウチは、その可能性を見落としとった。」

 

一「に、似た症状…?」

 

枯罰「モノトキシンγや。」

 

聞谷「あ…!診療所で見つけた毒薬ですわよね!?」

 

枯罰「ああ。モノトキシンγが減っとった。黒瀬の本当の死因は、一酸化炭素中毒やのぉてモノトキシンγによる中毒死。赤刎は、確かに黒瀬を一酸化炭素中毒で殺そうとした。せやけど、実際に殺したのは別の奴やったっちゅうこっちゃ。」

 

一「そ、そんなのただの憶測でしょ!?大体、そのモノなんたらをどうやって黒瀬さんに盛ったっていうんだよ!?」

 

 

 

コトダマ提示!

 

【黒瀬の注射痕】

 

「これや!!」

 

 

 

枯罰「捜査中に黒瀬の死体をよぉ調べてみたら、腕に虫刺されに似た痕が残ってたんや。もちろん、死斑とは全然ちゃう。」

 

一「む、虫刺され…?」

 

弦野「……もしかして、注射痕か?」

 

枯罰「ビンゴや。黒瀬は、モノトキシンγを注射されて死んだっちゅうわけや。」

 

一「そ、それこそあり得ないでしょ!!怪力でずる賢い黒瀬さんが大人しく注射されるわけが…」

 

安生「いや、できなくはないと思うよ。」

 

一「へぁっ?」

 

弦野「お前…黒瀬の状況忘れたのか?」

 

安生「枯罰さんに攻撃された後なら、黒瀬さんは眠ってるはずだものね。」

 

枯罰「そういうこっちゃ。いくら小賢しゅうて馬鹿力の黒瀬言うたかて、眠っとったら抵抗出来へんやろ。真犯人はそこを狙ったんとちゃうか?」

 

一「う……で、でもそれも憶測に過ぎないよ!!赤刎君以外に犯人がいるっていう証拠は!?」

 

枯罰「証拠ならあるで。」

 

 

 

コトダマ提示!

 

【盗まれたガスマスク】

 

「これや!!」

 

 

 

枯罰「盗まれたガスマスク。これが証拠や。」

 

一「それのどこが赤刎君以外に犯人がいる証拠なんだよ!?普通に赤刎君が犯人だろ!?」

 

枯罰「いや、明らかにおかしいねん。だって、ガスマスクは二つ盗まれとったんやぞ?」

 

聞谷「あ………」

 

枯罰「せやろ、弦野?」

 

弦野「え?あ、ああ…物理室と化学室、一つずつ盗まれてたよ。」

 

枯罰「黒瀬を殺した真犯人が赤刎やったとしたら、二つもガスマスクいらんやろ。」

 

聞谷「ガスマスクが二つ…という事は、赤刎さんが密閉空間を作ってから他の方が黒瀬さんの研究室に侵入し、毒を注入して出て行った…こういう事ですの?」

 

枯罰「ああ。これで決まりや。黒瀬を殺した犯人は別にいて、ソイツが全ての元凶や。」

 

一「あれ…?でも、それだと黒幕絞れちゃうよね。」

 

弦野「あ?また適当な事言うつもりじゃねぇだろうな?」

 

一「ち、違うよ!!状況的にこの人が黒幕だとしか思えないんだ!!」

 

弦野「じゃあ誰が黒幕なんだよ。言ってみろ。」

 

一「…枯罰さんだよ。」

 

聞谷「………え?」

 

一「だ、だって!!そうとしか考えられないだろ!!状況的に黒瀬さんを殺せるのは枯罰さんだけだし!!黒瀬さんを真っ先に殺そうとしたのは枯罰さんだし!!それにずっと才能を隠してて、どう考えても怪しいじゃないか!!」

 

弦野「それは、職種的に言ったら不利になると思ったから黙ってただけで…」

 

一「弦野君!!才能を言わない枯罰さんが一番怪しいって言ったのは君じゃないか!!」

 

弦野「っ………」

 

一「そういえば、赤刎君の時の学級裁判ではやけに冴えてたよね!?赤刎君を犯人に仕立て上げて、お涙頂戴の茶番をして自分を黒幕候補から外そうって魂胆だったんじゃないの!!?」

 

聞谷「に、一さん!やめて下さいまし!まだ枯罰さんが犯人と決まったわけでは……」

 

安生「そうだよ。一旦落ち着いて………」

 

一「うるさいうるさいうるさい!!」

 

聞谷「ひっ…!?」

 

一「これが落ち着いていられるかよ!!ボクからすれば、君達の方がおかしいんだよ!!君達、黒幕が側にいてよく平気でいられるよね!?その状況に慣れちゃう事自体が異常だとは思わないわけ!?」

 

枯罰「………。」

 

一「君も黙ってないでなんとか言ったらどうなんだよ!?そうやっていっつも一段上から見てる感じがしてさ!!自分の方が頭いいからって調子に乗って正論振り翳して!!この際だからハッキリ言うけど、ボクは君がずっと気持ち悪くて仕方なかった!!」

 

 

 

 

 

枯罰「ほんなら勝手にせぇよ!!!」

 

一「っ………!!」

 

枯罰「ウチは、今まで好き勝手してきた。黒瀬を殺そうとしてお前らに迷惑をかけた。赤刎の時やて、ウチは赤刎に死んで欲しないっちゅう私情で自分に投票して一度は自分を道連れにお前ら全員を殺そうとした。今更自分を擁護する資格なんぞあらへん。そないにウチを裁きたいんやったら勝手にせぇよ。お前にはその権利がある。…ほら、どないしてん?早うせぇよ。」

 

一「う……あ、う………」

 

枯罰「周り見んなや!!」

 

一「っ……!」

 

枯罰「何の覚悟もあらへんくせに口だけは達者やからそないな事になんねん。黙っとったら誰かに庇ってもらえると勘違いして、自分は安全圏から石を投げる。ウチや黒瀬が危険人物や疑われた時も、ウチらに厳罰を要求したのはお前やったな。せやけど、自分ではやろうとせぇへんかった。オシオキやて、投票した奴がクロを殺すシステムやったとしたら犯人がわかっても武本達に投票せぇへんかったやろ?」

 

一「っ………」

 

枯罰「…お前、この学級裁判で何を学んだんや?ウチ、言うたよな?投票は殺人と一緒やぞ。せやから他の奴らはちゃんと自分の頭で考えて投票しとんねん。命の重みも知らないくせして減らず口叩くなや臆病者が。ウチはお前みたいな奴が一番嫌いやねん。」

 

一「うっ……うぁあああぁああああああああ!!!!」

 

安生「枯罰さん…言い過ぎじゃないかな。」

 

弦野「泣かしたら何も証言できなくなっちまうだろ。」

 

枯罰「…それもそうやな。すまんかった。」

 

聞谷「あの…そろそろ議論に戻りません?このままでは埒が開きませんし…」

 

枯罰「せやな。ほな、続けるか。」

 

 

 

ーーー議論開始!!ーーー

 

 

 

枯罰「黒瀬の研究室には、《黒幕が侵入した形跡》があるはずや。」

 

聞谷「あ…そういえば、研究室には足跡がありましたね。」

 

弦野「足跡?普通に《赤刎か黒瀬か枯罰》のものじゃないのか?」

 

 

 

《赤刎か黒瀬か枯罰》⬅︎【誰のものか分からない足跡】

 

「それはちゃうぞ!!」

 

《論 破》

 

 

 

枯罰「いや、聞谷が見つけた足跡はウチらのモンとちゃうぞ。」

 

弦野「…何?」

 

枯罰「まず赤刎と黒瀬のものにしてはデカすぎんねん。ほんでウチのモンともちゃう。ウチの靴はオーダーメイドやさかい、同じ型はあらへん。ウチの靴ならすぐわかるはずやねん。」

 

聞谷「それで、誰のものかわからない足跡と結論づけたのですわよね?しかし…それでは一体誰の足跡なのでしょうか?」

 

弦野「まさかとは思うが、16人以外の外部の誰かが黒幕ってオチはねぇだろうな?」

 

モノクマ『ありませーん!!黒幕が外部にいるなんてコロシアイ史上最大最悪最底辺のオチ、許されるわけないでしょー!!』

 

安生「なら誰が黒幕だっていうのかな。」

 

枯罰「………一人だけ、心当たりがあるで。」

 

その人物は…

 

 

 

 

 

《人物指定》

 

 

 

 

赤刎円

 

安生心

 

神崎帝

 

聞谷香織

 

黒瀬ましろ

 

漕前湊

 

枯罰環

 

札木未来

 

仕田原奉子

 

ジョナサン・ウォーカー

 

武本闘十郎

 

弦野律

 

一千歳

 

速水蘭華

 

筆染絵麻

 

宝条夢乃

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

➡︎安生心

 

 

 

 

 

 

 

 

 

枯罰「………安生。お前や。」

 

聞谷「……え?」

 

弦野「あ、安生が黒幕…!?」

 

聞谷「どういう事ですの!?今まであんなにわたくし達に親身に寄り添ってくださった安生さんが黒幕!?あり得ませんわ!!」

 

枯罰「まあ、あくまで可能性の話や。この中では、安生が黒幕の可能性が一番高い。そこんとこどうなん、安生?」

 

安生「…枯罰さん。ちょっと何言ってるのかわかんないな。まずは何でそう思うのかを聞かせてくれる?」

 

枯罰「まず、死んどる奴の中に黒幕がいる可能性は低い。聞谷、弦野、一の3人もシロや。ウチも、靴がちゃうから黒幕やない。消去法でお前や。ほんで、安生は普段車椅子に乗っとるからウチらは安生の靴の型は知らへん。コイツが黒幕やと考えるんが一番しっくり来んねん。」

 

安生「はぁ……」

 

 

 

安生「…ごめんね。一旦落ち着こうか。」

 

《反 論》

 

 

 

安生「甘い、甘すぎるよ。」

 

枯罰「はぁ?」

 

安生「君の推理は甘過ぎるって言ってるんだよ、枯罰さん。」

 

枯罰「そないに自信満々に言うんやったら、まともな反論はあんねやな?」

 

安生「当然さ。君の推理を根本から崩してあげよう。」

 

 

 

ー反論ショーダウン開始ー

 

安生「どうして僕が黒幕だって言うのかな?証拠もなしに適当な事言わないでくれるかい?」

 

枯罰「証拠なら、お前の足跡が黒瀬の研究室に残っとったやろ。」

 

安生「それが僕のものだっていう証拠がないよね?君が靴を履き替えてたって可能性も考えられるじゃないか。」

 

枯罰「…根拠は他にもあるで?」

 

安生「無いね。だって僕は黒幕じゃないからね。《僕が黒幕だという根拠なんてあるわけないだろ》。」

 

《僕が黒幕だという根拠なんてあるわけないだろ》⬅︎ 【思い出しライト】

 

「その言葉、ぶった斬るで!!」

 

《論 破》

 

 

 

枯罰「いや、お前が黒幕やとしか考えられへん。」

 

安生「バカバカしい…この期に及んでまだ言うの?」

 

枯罰「ほんなら、思い出しライトを浴びた後目が覚めた順番はどう説明すんねん。普通に考えたら一番早く目が覚めた奴が黒幕やろ。他の誰かに先越されたら監視出来へんからのぉ。」

 

安生「………で?」

 

枯罰「は?」

 

安生「だから何なの?まさか、最初に目が覚めたからってだけで僕を疑うんじゃないよねぇ?僕が黒幕じゃないっていう根拠なら、君も知ってるはずだろ?」

 

枯罰「………。」

 

 

 

コトダマ提示!

 

【診療所の履歴】

 

「これや!!」

 

 

 

枯罰「診療所の履歴の事か?」

 

安生「そう、それだよ!!前回履歴があるから僕は犯人じゃないって断言したのは枯罰さん、君だよ?」

 

枯罰「それは………」

 

安生「さて、どうするの?振り出しに戻っちゃったけど?」

 

枯罰「…………。」

 

 

 

ーーー議論開始!!ーーー

 

 

 

安生「僕は《黒幕じゃない》って何度も言ってるよねぇ?」

 

弦野「けど、枯罰の話を聞いてる限りでは俺もお前が怪しく思えてきたぜ。」

 

安生「君もそうやって枯罰さんの《妄言に騙されるんだね》。失望したよ。僕には《アリバイがある》のを忘れたのかい?」

 

聞谷「確かに…履歴が正しければ、安生さんは《一歩も外に出ていないはず》ですわ。」

 

弦野「けどさ、抜け道みてーなもんがあったら履歴を掻い潜れるんじゃねぇの?」

 

安生「抜け道だぁ?ククク…《無いに決まってるよ》、そんなもの。」

 

いや…

確かにあったはずや!!

履歴を掻い潜る方法が…

 

 

 

《無いに決まってるよ》⬅︎【診療所の隠し通路】

 

「それはちゃうぞ!!」

 

《論 破》

 

 

 

枯罰「…おい安生。とぼけんなや。」

 

安生「は?」

 

枯罰「お前は、隠し通路を使ったんやろ?」

 

安生「ッ……!!」

 

弦野「隠し通路?」

 

枯罰「ああ。診療所の真下に隠し通路があってん。そこを通れば、履歴に残らずに診療所を出る事が出来たんとちゃうか!?」

 

 

 

モノクマ『それは違うよー!!』

 

《反 論》

 

 

 

弦野「チッ、何だテメェ。割り込んで来るんじゃねぇよ。」

 

モノクマ『うるさいなぁ、別にボクが意見したっていいでしょーが!言っておくけど、隠し通路なんてものはありませーん!』

 

 

 

ー反論ショーダウン開始ー

 

モノクマ『枯罰サーン!適当な事言うのやめてよね!そんなのあるわけないでしょ!』

 

枯罰「そんなわけないやろ。ウチは隠し通路を見つけたんやからな。」

 

モノクマ『ああ、思い出した!それ、ただの地下室への入り口だよ!外となんて繋がってませーん!』

 

枯罰「コイツ…」

 

モノクマ『忍者屋敷じゃないんだから、《隠し通路なんて無いったら無いのー》!!』

 

《隠し通路なんて無いったら無いのー》⬅︎【モノクマの移動手段】

 

「その言葉、ぶった斬るで!!」

 

《論 破》

 

 

 

枯罰「おいクマ公。ふざけんのも大概にせぇよ。ウチら知っとんねん。隠し通路は診療所の地下だけやない。壁の中にも隠し通路があんねん!!」

 

モノクマ『ギッ、ギックゥウウウウウ!!?』

 

枯罰「…おい安生。クマ公は隠し通路の存在を認めたで。これでもまだ言い逃れするんかいな?」

 

安生「ぐっ………」

 

一「ぐすっ……あ、あの………」

 

枯罰「何や。くだらん事なら言わんでええぞ。」

 

一「ひっ…!!あ、えっと……ひ、ひとつ…気になる事があるんだけど……その…く、黒幕は…どうやってモノクマを操ったり監視したりしてたのかな……?」

 

弦野「…あ。言われてみれば…」

 

聞谷「クマさん達を大量に操ってわたくし達を監視するわけですから…監視用の機器を常に持っている必要がありますわよね。」

 

弦野「俺達の中に黒幕がいる可能性が浮上してから薄々疑問には思ってたんだよな。俺達の近くにいながらあれだけの数の監視カメラやモノクマをどうやって制御してたのかをな。」

 

枯罰「…おい安生。お前はモノクマを制御してウチらを監視する機械を常に持ち歩いとった筈やぞ。」

 

安生「無いよそんなもの!」

 

 

 

安生「僕が持ち歩いてた機械は何だっていうの!?」

 

【安生】【が】【使ってる】【車椅子】

 

枯罰「これで終わりや!!」

 

 

 

枯罰「…おい安生。」

 

安生「何だい?」

 

枯罰「………車椅子見せろや。」

 

一「………え?」

 

枯罰「お前、その車椅子を改造して監視用の機器を仕込んどんねやろ?」

 

聞谷「えっと…どういう事ですの?」

 

枯罰「筋書きはこうや。お前は、大量のモノクマの遠隔操作とウチらを監視を同時にできる機械を常に持ち歩かなアカンかった。せやけど、そないなもん抱えとったら怪しまれる。そこで、堂々と機械を持ち歩いとっても怪しまれへんように電動車椅子を改造して、下半身付随の演技までやってのけた。そうすれば、誰もお前みたいな身体弱い奴が黒幕や思わへんからのぉ。」

 

安生「…………。」

 

枯罰「…反論は無いみたいやな。ほんなら、前回の事件を振り返るで。」

 

 

 

ークライマックス推理開始!ー

 

【Act.1】

事の発端は、クマ公がウチらに思い出しライトを浴びせよった事から始まった。

ウチは、光を浴びて目が覚めた時にはウチの本当の目的を思い出しとった。

それは、『【超高校級の絶望】を排除する事』。

ウチは、持っとった情報やこれまでの立ち振る舞いから黒瀬が【超高校級の絶望】やと判断して、与えられた使命のために黒瀬を殺す事にした。

ウチは倉庫から催涙スプレーを盗み、部屋にあったモノトキシンβを宝物のナイフに塗って準備を進めた。

 

【Act.2】

準備を終わらせたウチは、研究室に向かった黒瀬の跡をつけ、研究室に押し入って黒瀬に催涙スプレーを吹きかけた。

その隙を狙って、ウチは怯んだ黒瀬を毒のナイフで切りつけた。

せやけど、ウチはここで致命的なミスを犯してもうてん。

黒瀬が暴れた時に本棚に叩きつけられて、その時に外れたピアスの装飾を床に落としてもうた。

加えて、本棚にぶつかった時に本が本棚から落ちて、他殺やっちゅう証拠を残してもうたんや。

 

【Act.3】

その後、黒瀬を殺したと思い込んどったウチは研究室を後にした。

せやけど、黒瀬の目的は自殺をして隠し持っている情報を公開する事やったんや。

ウチに殺され損なった黒瀬は、確実に死ぬために持っていた毒リンゴを齧った。

せやけど、ここから誰も予想出来へんかった事態に発展すんねん。

黒瀬はたまたまリンゴの白い方を齧ってもうて、ウチが盛った毒が解毒されてもうた。

そんでもって、ウチの毒とリンゴの毒が反応して黒瀬は眠ってもうたんや。

 

【Act.4】

その数分後、ウチらの様子を見に来た赤刎が黒瀬を発見する事になる。

黒瀬が生きている事を確認した赤刎は、黒瀬を殺す事にしたんや。

まず、ガムテープで部屋の窓全てを封じ、部屋の空気が外に逃げないように密閉空間を作った。

そして黒瀬の研究室にあったペンを使って換気扇のスイッチのカバーをこじ開けスイッチを手動モードにし、スイッチの電源を切った。

そして本棚の本で踏み台を作り、換気扇を蓋で閉じてガムテープで固定したんや。

 

【Act.5】

さらに赤刎は煙突の入り口に蓋をし、暖炉で火を焚いた。

これで黒瀬を殺す準備は整った。

あとは、部屋を出て時が来るんを待つだけや。

 

【Act.6】

せやけど、ここで赤刎も予期せぇへんかった事態が起こる。

黒幕の介入や。

黒幕はモノトキシンγを中に入れた注射器を持って、履歴が残らへんように隠し通路を通って診療所を退室し、化学室から盗んだガスマスクを装着して黒瀬の研究室に侵入した。

そして、黒瀬の腕にモノトキシンγを注入して研究室を去り隠し通路を通って再び診療所に戻った。

黒瀬は、一酸化炭素中毒やのぉてモノトキシンγで命を落としたんや。

 

【Act.7】

そして黒瀬の死から1時間後、赤刎はもう一度黒瀬の研究室に戻った。

今度は一酸化炭素を吸わへんようにガスマスクをつけてな。

赤刎はまず蓋を外し、換気扇のスイッチの電源を入れた。

そして換気をした後、本を元に戻して扉を瞬間接着剤で固定し、あたかも密室殺人のように見せかけたんや。

 

枯罰「こないな不正が許されるんは、ウチらにコロシアイを強要しよった黒幕だけや。……せやろ?【超高校級のカウンセラー】安生心!!!」

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

ー生存者ー

 

【超高校級のカウンセラー】安生心

 

【超高校級の香道家】聞谷香織

 

【超高校級の傭兵】枯罰環

 

【超高校級のヴァイオリニスト】弦野律

 

【超高校級のソフトウェア開発者】一千歳

 

ー以上5名ー

 

 

 



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非日常編③(学級裁判中編)

枯罰「こないな不正が許されるんは、ウチらにコロシアイを強要しよった黒幕だけや。……せやろ?【超高校級のカウンセラー】安生心!!!」

 

安生「……………。」

 

モノクマ『………………。』

 

一「そんな、嘘……!!」

 

聞谷「お願いします、安生さん!嘘だと言って下さいまし!!」

 

安生「………………。」

 

枯罰「…もちろん否定してもええねんぞ?まだウチも投票はするつもりやない。どういう事か聞かせてもろても…

 

安生「………………うぷ。」

 

 

 

安生「うぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷ。」

 

一「えっ…何、何!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

安生「うぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷ!!!!!」

 

 

 

一「ひ、ひぃ!?」

 

聞谷「あ……安生………さん…………?」

 

弦野「何だコイツ、気持ち悪りい…!!」

 

 

 

 

 

パチ…パチ…パチ…パチ…

 

 

 

安生はゆっくりと、そして大袈裟に拍手をした。

正解を褒め称えるかのように、はたまたウチらの潰し合いを嘲笑うかのように。

その笑顔は、今までのウチらのためを思て向けとった優しい笑顔とは全然ちゃう。

感情を欠いたような、機械的な笑みやった。

ウチらは、安生の貼り付けたような笑顔に得体の知れない不気味さを感じた。

 

安生「うぷぷぷぷ、お見事大正解ー!!【超高校級の脚本家】黒瀬ましろサンを殺したクロ、そしてこのコロシアイ楽園生活を仕組んだ黒幕は【超高校級のカウンセラー】安生心こと、僕でしたーーーーー!!!」

 

聞谷「う………そ…………」

 

安生「いやぁ〜、上手くやってたと思ったんだけどねぇ。まあでも、最後の最後で正体がバレちゃう絶望もまた一興、か。」

 

弦野「そういや、裁判の時いっつもやけに冴えてるなとは思ってたけど…お前だったとはな。」

 

枯罰「…前から怪しいとは思っとったけどな。ウチは赤刎、聞谷は宝条、弦野は筆染、一は仕田原。お前以外の奴は、誰かしら死なれたない奴に死なれとんねん。せやのに、お前はこの中で唯一どうしても死なせたない奴に先立たれた経験をしとらん。最初はたまたまやと思っとったけど、ウチらがより深い絶望を味わうように仕組んどったんやろ?フリでもええから惜しい奴を亡くした演技でもしとくべきやったな。」

 

安生「さすが枯罰さん。いやぁ、相変わらず君は痛いところ突いてくれるねぇ。」

 

一「そんな…嘘だよね?安生君が黒幕だったなんて……」

 

安生「ははっ、一君。君とは一番仲良くしてたから信じられないよね。」

 

一「そ、そうだよ!こんなの何かの間違いだ!!そうなんでしょ!?全部、枯罰さんの勘違いなんだよね!?ねぇ!?君は黒幕なんかじゃ………」

 

安生「本当だよ?」

 

一「…………え?」

 

安生「だから、黒幕は僕なんだって。下半身付随なんて真っ赤な嘘さ。そういう『設定』の方が同情を誘って信じ込ませやすいと思っただけ。ま、生まれつきほんの少し身体が弱い事だけは本当だがね。」

 

そう言うて、安生は車椅子からスッと立ち上がる。

淡々と語りながらウチらに向けられた目は、完全に正気を失った奴の目やった。

コイツは、武本とも、神崎とも、仕田原とも、速水とも、赤刎ともちゃう。

『絶望』を食いモンにして生きる根っからの化けモン、そないな感じがした。

 

安生「僕ね、本当は嫌いなんだ。親身になって人の話を聞くとか、そういうの。君達が僕に相談してきた時は、正直鬱陶しかった。役立たずのウォーカー君があっさり殺された時もイラッとしたし、神崎君が調子に乗った時とかもつい殺してやりたくなっちゃったよ。ま、憂鬱な毎日に悩まされ続ける絶望も悪くはないけどさ。」

 

聞谷「全部…嘘だったんですの…?」

 

安生「ああ、嘘だよ。全部嘘。全ては、僕自身の目的のため。僕は、君達にとって都合のいい『僕自身』を演じてたんだよ。」

 

聞谷「どうして…!?どうしてこのような事を!?」

 

安生「どうして…か。そうだねぇ。そんなに知りたいなら教えてあげない事もないよ。」

 

一「えっ」

 

安生「それじゃあ、第一問。僕は、君達のコロシアイを監視カメラで監視して、わざわざ派手なオシオキまで用意して、一体何がしたいのでしょうか?」

 

安生の目的…

もしかして、アレなんとちゃうか?

 

 

 

コトダマ提示!

 

【生中継】

 

「これや!!」

 

 

 

枯罰「………見せ物やろ?」

 

安生「ほぅ。」

 

枯罰「このコロシアイは、監視カメラの映像を通して全世界に生中継されとる。さしずめ、変態共がウチらのコロシアイを画面越しに眺めてほくそ笑んどるっちゅうとこやろ?」

 

安生「ピンポンピンポーン。ま、これは僕自身が認めた事だし正解して当然だよね。…本題はここからさ。それじゃあ第二問といこうか。」

 

弦野「何でしれっとテメェが仕切ってんだよ。」

 

安生「それでは第二問。枯罰さんの言う通り、僕はこのコロシアイを全世界に配信しています。そんな事をして、一体何が目的でしょうか?」

 

一「え、そりゃあみんなにコロシアイを見せるために…」

 

弦野「何でコロシアイを見せる必要があんのかって話をしてんだよ。」

 

枯罰「…………。」

 

生中継の目的…

もしかして…

 

 

 

コトダマ提示!

 

【コロシアイの企画書】

 

「これや!!」

 

 

 

枯罰「…『本物の超高校級を使ったデスゲーム』やろ?」

 

弦野「な…!!」

 

枯罰「情報管理室のパソコンには、コロシアイの企画書のデータが入っとった。そこには、コロシアイのシナリオまでもが事細かに書かれとってん。」

 

安生「へぇ。」

 

枯罰「ウチら超高校級は言わば人類の希望。希望の象徴が閉鎖空間でコロシアイをする。そないなコンセプトで作られた、『ゲーム』やろ?おそらく、視聴者はウチらを競馬で言う競走馬に見立ててコロシアイを予想して金を賭ける。その儲けがお前んとこに入ってお前は儲かり放題。…ちゃうか?」

 

安生「まあ、多少違うところはあるけど大方あってるよ。御名答。君達が参加してるのは、一種のデスゲームなんだよ。このゲームがホント売れ筋良くてさ。割と熱狂的なファンもいたりするんだよねぇ。そのおかげでこの楽園の維持費はもうガッポガッポだよ。やっぱり、君達超高校級がコロシアイをするっていうシチュエーションは最高に絶望的でたまらないよね!」

 

枯罰「…やっぱりな。」

 

安生「ん?」

 

枯罰「疑問に思っとった事はあんねん。ウチら超高校級を一生ここに閉じ込めるだけの資金を一体どこから調達しとんのかがなぁ。なんぼ趣味の悪い変態言うたかて、法の目を掻い潜ってウチら16人をこないなだだっ広い楽園に閉じ込めんのなんぞ経済的に無理あんねん。せやけど、これが『ゲーム』っちゅう商売で成り立っとるんやったら、資金の心配をする必要はあらへん。」

 

安生「くくく、さすが枯罰さん。僕が一目置いているというだけの事はあるね。やはり君は警戒に値する逸材のようだ。」

 

枯罰「……せやけど、それでも説明出来へん事があんねん。」

 

安生「何だい?」

 

枯罰「仮にこのコロシアイによって莫大な金が動いとったとしても、ウチら超高校級を外部との連絡手段や情報を一切絶って監禁するんは不可能や。ウチらの家族や友達が心配するはずやし、警察や軍隊が動くはずやからな。なんぼコロシアイ付きの変態言うても流石に警察のお世話にはなりたないやろ。こないな明らかに違法なゲームで遊んどる事がバレたら豚箱行きになるんは火を見るより明らかやんか。」

 

安生「…何が言いたいのかな?」

 

枯罰「このゲームの制作には、国家レベルの社会的地位を持つ連中が関わっとる。…ちゃうか?」

 

安生「………ふぅん?」

 

枯罰「このゲームがもし制作段階で国によって揉み消されとるとしたら、警察も動かへんやろ?それを全員承知の上やから、誰も止めようとせぇへんし安心してプレイ出来る。そういう事やろ?」

 

安生「なるほどねぇ。だけどそんな根拠はどこにあるのかな?」

 

安生にはバックがおる証拠…

それは…

 

 

 

コトダマ提示!

 

【コロシアイの協力者】

 

「これや!!」

 

 

 

枯罰「コロシアイの企画書には、協力者の名前も書かれとった。その中には、国家レベルの社会的地位を持つ奴の名前もあった。…ホンマ、世の中には人が死ぬのを見て喜ぶ変態がぎょうさんおって嫌になるわ。このコロシアイは国のお偉いさん方が制作に協力してて、より大勢の変態がそれを見て金を貢ぎ、お前らはウチらを食い物にする。そりゃあ、国もウチら超高校級を商売道具に出来るんやったら喜んで協力するわなぁ。警察が出動せぇへんのも、黙認されとるからやろ?」

 

安生「ふぅん。そこまでわかってたんだ。その通りだよ。超高校級達のコロシアイっていうのは、君達が思っている以上に需要があるんだよねぇ。お偉いさん方の中にもこのゲームのファンがいてさ。喜んでゲームの制作に協力してくれたよ。」

 

一「そんな………」

 

安生「ね?これでわかったでしょ?外に出ても君達の味方なんていないんだよ。」

 

弦野「クソッ……結局そうなるのかよ!!」

 

聞谷「何方かがわたくし達を助けに来て下さると思っていたから今までやって来れたのに…わたくしは、一体どうすれば………」

 

安生「あれ?何残念そうな顔してるの?おかしくない?」

 

 

 

 

 

安生「このコロシアイは、君達が望んで参加したんでしょ?」

 

弦野「は…!?ふざけんなよ!!誰がこんなクソゲーに好き好んで参加するんだよ!!」

 

聞谷「わたくしはこのゲームに参加したいと思った事なんてありませんわ!!」

 

安生「あらら、心当たり無い?せっかく証拠も見せてあげたんだけどなぁ。」

 

ウチらが自ら進んでコロシアイに参加した証拠……

…ひょっとして、あれちゃうか?

 

 

 

コトダマ提示!

 

【インタビュー映像】

 

「これだ!!」

 

 

 

枯罰「…インタビュー映像やろ?」

 

安生「うん、正解。君達に見せてあげたコロシアイの事前インタビューの映像。実は、君達は全員コロシアイの前にインタビューを受けてるんだ。これが揺るがぬ証拠だよ。」

 

一「な、何だよそれぇ…!!」

 

安生「あれ?信じられない?じゃあ、実際の映像見せてあげよっか。」

 

そう言うてモノクマはモニターをセットした。

 

 

 

 

 

映像には赤い幕が映っとって、『事前インタビュー 聞谷香織編』という文字が浮かび上がっとった。

そして幕が開いて映像が映し出される。

そこには、真っ白な部屋に置かれた椅子に座った聞谷が座っとった。

 

『コロシアイの意気込み、ですか?そうですわねぇ…とにかく、生き残れれば何でもいいですわ。わたくしは、わたくし以外の方がどうなろうと別に構いませんもの。わたくしは、庶民の醜い様を高みの見物ができればそれでいいですわ。うふふふふ、庶民が殺し合う様を眺めるのが楽しみですわ。』

 

その後も、インタビュアーと聞谷との質疑応答が繰り返された。

そして、ウチの映像と切り替わる。

 

『このゲームへの意気込み…ですか?まあ、とくにこれっちゅうもんがあるわけやないですけど…これだけは言えますね。ウチは多分、誰かに殺される事は無いと思いますわ。だってウチ、生まれた時から誰の事も信用してへんから。…え?ゲームをクリアしたらやりたい事?いやぁ…ありませんなぁ。ウチは、ゲームに参加するためにここにおりますんで。』

 

ウチの映像の後は、弦野の映像が流れた。

 

『ゲームへの意気込みっすか?まあ…生き残れるように頑張りたいっすね。最後まで生き残って、他の奴等が絶望に堕ちるところを眺めてみたいっす。だって俺、そのためだけにこのゲームに参加したんですもん。こんな機会、そうないじゃないっすか。…あ、俺変な事言ってますかね?』

 

弦野の映像の後は、一の映像が流れた。

 

『ゲームへの意気込み…?えっと…特に無いですけど…あ、強いて言うならボク、多分殺されたりはしないんじゃないですかね。だってボク以外全員バカですし。ボク、普段はそういう事ないんですけど…何かこう、こういうゲームの時だけは何故か勝てる気しかしないんですよね。』

 

 

 

 

 

そこで映像は終わった。

まだ映像を見とらん弦野と一は、呆然と立ち尽くしていた。

 

弦野「は…?何だよこれ…」

 

一「ど、どういう事…?」

 

安生「うぷぷぷぷ、どうだったかな?見ての通り、君達はコロシアイをするためだけにここに集まったんだよ。ねえねえ、今どんな気持ち?どんな気持ち?」

 

弦野「おい、どうなってんだよ!?俺はこんな事言った覚えはねぇぞ!!この映像に映ってる奴は誰なんだよ!?俺の偽者か!?えぇ!?」

 

安生「何言ってんのさ。紛れもなく君自身だよ。」

 

弦野「ふざけんじゃねぇ!!こんなチャラチャラしたキメェ奴が俺だなんて認めねぇぞ!!」

 

一「そ、そうだよ!!ボクは死にたくないんだ!!こんなゲームに自分から進んで参加したなんてあり得ない!!こんなの、君の捏造なんだろ!?」

 

聞谷「わたくしだって…他の皆さんをどうでもいいと思った事なんてありませんわ!こんなの、何かの間違いですわ!!」

 

安生「えー、この映像は間違いなく本物なんだけどなぁ。」

 

一「違う違う違う!!こんなもの捏造だ!!そうに違いないよ!!」

 

安生「うるさいなぁ。本物だって言ってるじゃん。…ったく、これだから『プレイヤーキャラ』は…」

 

枯罰「…ん?おい、お前今何て言うた?」

 

安生「ん?何でもないよ?少なくとも、今の君が知っていい事じゃないと思うなぁ。」

 

枯罰(コイツ…)

 

あくまでまだ知られたない事に関してはシラを切るつもりかいな。

…まあ、ここで掘り下げてもはぐらかされるだけやろな。

 

安生「さてさて問題です。君達は、どうしてこの映像に心当たりが無いのでしょうか?」

 

ウチらにインタビューの記憶がない原因…

それって…

 

 

 

 

 

 

ー閃きアナグラム開始ー

 

 

 

キ オ ク ソ ウ シ ツ

 

 

 

【記憶喪失】

 

「これや!!」

 

 

 

枯罰「…記憶喪失。ウチらは全員、記憶喪失になっとるんとちゃうか?」

 

弦野「はぁ!?何だよそれ!!」

 

枯罰「記憶が無いなら、今の映像に心当たりがあらへんのも説明できる。大体、おかしいとは思わへんのか?ウチらは、希望ヶ峰の門を潜ってからここに来るまでの記憶があらへんのやぞ?記憶を操作されたとしか考えられへんやろ。」

 

弦野「何でそうなるんだよ!?俺、ちゃんと入学式直前までの記憶はあるぞ!?」

 

聞谷「わたくしもですわ。記憶を操作されたなんてそんな事…あり得るのでしょうか?」

 

一「ぼ…ボクだって!入学式の直前に組んだプログラムだってあるんだ!!」

 

枯罰「んー…キリあらへんなぁ。一旦整理しよか。」

 

 

 

ーーー議論開始!!ーーー

 

 

 

弦野「記憶喪失!?そんなわけあるか!!《都合よく記憶を奪えるわけがない》だろ!!」

 

一「そうだよ!!ボクだって、《ちゃんと覚えてるもん》!!」

 

聞谷「《記憶を操作する技術があるとは思えませんが》…」

 

弦野「大体、さっきの映像だって安生の捏造なんじゃねぇのか!?国の陰謀でこんな大掛かりな事ができるんだったら、映像を捏造する事なんて造作もねぇだろ!!」

 

一「そうだよ!捏造に違いないよ!!」

 

安生「んもー、さっきから人聞きの悪い!《僕は捏造なんかしてませーん》!!」

 

 

 

《記憶を操作する技術があるとは思えませんが》⬅︎【トランスヒューマニズムのレポート】

 

「それはちゃうぞ!!」

 

《論 破》

 

 

 

枯罰「……もし、人の記憶を好き勝手いじれる技術があったとしたら?」

 

聞谷「えっ?」

 

枯罰「お前ら、思い出しライトの存在忘れたんか?思い出させる事が出来るんやったら、逆に記憶を無くす事も出来るやろ。」

 

一「あ…」

 

枯罰「弦野、一。お前ら物理室でレポート見つけた言うとったやろ?トランスヒューマニズムに関するレポート。」

 

ウチは、レポートを弦野と一に見せた。

 

 

 

脳内の記憶や意識、感情などの情報をデータ化しコンピュータに読み込む事に成功し、本物のマウスの記憶や意識を元に動くロボットマウスを作った。

まだこの段階ではマウスにしか実験をしていないが、いずれヒトの脳をデータに置き換える事ができれば記憶障害の治療や機械への人格の移植などに役立てられるかもしれない。だが倫理的な観点から現時点では実現不可能な技術でもある。

 

 

 

枯罰「この技術が既に確立されてて、しかもヒトに対しても使えるようになっとったとしたら?」

 

弦野「…好き勝手にデータを書き換えて、それを記憶として植えつける事も可能って事か。」

 

枯罰「御名答。おそらく、筋書きはこうや。ウチらは攫われた時点で全員一度安生に記憶を全部抜かれとる。ほんで、その記憶をデータ化して書き換える。さらに書き換えたデータを記憶に再変換して、編集された記憶をウチらに戻した。そうやってウチらは入学式の時からこの楽園で目が覚めるまでの記憶を失ったっちゅうわけや。」

 

聞谷「そういえば…どうやってここまで連れて来られたのか、全く思い出せませんわね。それは記憶を書き換えられたからだったのですね…」

 

安生「そういうこっとー!!ったく、君達はすぐ僕を捏造犯扱いするんだから!とんだ名誉毀損だよ!あ、ちなみにどのタイミングで君達の記憶を抜いたのか知りたいでしょ?答えは、君達がホープステーションの列車に乗った時でした!!」

 

弦野「…あれか。」

 

安生「そ、あれだよ。あの電車に何とか乗れば脱出できるかもって思ったバカがいるかもしれないけど、あの電車、実は交通手段じゃなくて記憶をデータ化する装置なんだよね。もちろん脱出用の列車としては使えませーん!!」

 

聞谷「そんな…では、脱出できる方法は無いという事ですの!?」

 

安生「それは君達次第さ。僕の与えた試験に合格したら出してあげない事もないよ。」

 

一「うっ………で、でも…ボクは、正直まだ信じられないんだけど…記憶をデータ化するなんてそんな、今の技術で実現できるわけが…」

 

枯罰「…いや、ウチらはその技術を使うて記憶を抜かれとる。その証拠もあるでな。」

 

 

 

コトダマ提示!!

 

【コンピューターのプログラム】

 

「これや!!」

 

 

 

枯罰「おい一。」

 

一「な、何…?」

 

枯罰「お前が見つけたコンピューターのプログラムなんやけど…もしかして、アレウチらの記憶データなんとちゃうか?」

 

弦野「はぁ!!?」

 

一「えっ…あ、あれがボク達の記憶!?ど、どういう事!?」

 

枯罰「お前、コンピューター上に人工知能のプログラムによぉ似たプログラムが書かれとったって言うとったやろ?…人工知能のプログラムと似とるんは当たり前やねん。あれは、『生きた人間の記憶』なんやからな。」

 

聞谷「そんな…機械に、わたくし達の記憶が…!?」

 

安生「うぷぷぷぷぷぷ、御名答♪あそこに書かれていたのは、君達の記憶データだよ。僕は、君達の記憶データを好き勝手にハッキングして記憶を書き換えたというわけ。思い出しライトは、記憶データを保存して復元させるための装置なんだよね。まあ、その時に少し神経に負荷がかかるから少しの間意識が途絶えちゃうのが難点なんだけど。」

 

弦野「データ……?書き換え………?それじゃあ、俺達の記憶はお前ごときに簡単に書き換えられちまうようなくだらねぇモンだったって事かよ……ふざけんなよクソが!!俺はそんなの認めねぇぞ!!俺の記憶は俺だけのものだ!!それを簡単に否定されていいわけがない!!人の記憶ってのは、機械みたいに単純なモンじゃねぇんだよ!!」

 

安生「うぷぷぷ。そんなに信じられないなら、一ついい事を教えてあげようか?」

 

弦野「………え?」

 

 

 

安生「君が筆染さんを好きになったのは、僕がそうなるように書き換えたからだよ。」

 

弦野「…………………………は?」

 

安生「ただコロシアイをさせるだけじゃつまんないじゃん?やっぱり、若い男女が閉鎖空間にいるわけだから色恋の一つや二つ発展した方が面白くなると思ってさ。君が筆染さんを好きになったのは自分の意思じゃない。僕が、君のデータを『筆染絵麻を愛する君』というデータに書き換えたんだよ。」

 

弦野「う、嘘だ………そんなの…………」

 

安生「君はさっき、『人の記憶というのは機械みたいに単純なものじゃない』と言ったね。…自惚れるな。人の脳というものは機械よりずっと単純なんだよ。1個プログラムを書き換えただけで性格はガラッと変わり、1個プログラムを書き加えただけで昨日まで何とも思っていなかった相手を好きになる。弦野君だって、今は筆染さんを好きかもしれないけど僕がプログラムを入れ替えちゃえば『仕田原奉子に心酔し筆染絵麻を殺したいほど憎んでいる君』っていうデータに書き換える事だってできちゃうんだ。君達の記憶なんて、所詮その程度のものなんだよ。」

 

一「そんな…じゃあ、ボクの家族は…!?」

 

安生「さぁねぇ。家族の記憶もデータに置き換えられるからね。僕が少しデータをいじれば君は家族の事なんてすっかり忘れちゃうかもよ。」

 

聞谷「そんな…酷いですわ!!」

 

 

 

枯罰「……なあ。」

 

安生「ん?何かな、枯罰さん?」

 

枯罰「お前、【超高校級の絶望】なんか?【超高校級の絶望】なら、世界規模のテロを企んどるはずやろ。そないな奴が国の協力なんぞ得られるもんなんか?」

 

安生「さぁねぇ。」

 

枯罰「………黒幕は、本当にお前なんやな?」

 

安生「そうだよ。どうする?もう正体もバレちゃったし、君達もゲームの目的とかわかっただろうし投票に移る?」

 

弦野「正直、まだ引っかかる事がないでもないがこれ以上何を議論すればいいのかわかんねーし…」

 

一「そうだよ。もう投票に移っちゃってもいいんじゃないの?」

 

枯罰「ちょい待ちぃ。」

 

安生「まだ何かあんの?」

 

 

 

枯罰「Вы понимаете России?」

 

弦野「………は?」

 

聞谷「へ?」

 

一「何て?」

 

安生「…ごめん、枯罰さん。わかるように質問してくれる?」

 

枯罰「…なるほどな。よぉわかったわ。」

 

安生「何が?」

 

枯罰「怪しいと思ってん。一、コンピューターのプログラムはお前でも解析出来へんかったんやろ?」

 

一「う、うん…」

 

枯罰「【超高校級のソフトウェア開発者】の一ですらハッキング出来へんようなプログラムを、たかがカウンセラーのお前が簡単に書き換えられるわけがない。ほんで、今の質問でハッキリとわかった事があんねん。」

 

 

 

コトダマ提示!!

 

【モノクマとの会話】

 

「これや!!」

 

 

 

枯罰「クマ公は、どないな複雑な言語に対してもその意味を完璧に理解して返しをしてきた。こないな芸当が出来るんは、ウチの知る限りウチとバ神崎だけや。」

 

安生「何が言いたいのかな?」

 

枯罰「……お前は、本当の意味での黒幕なんか?」

 

弦野「…え?」

 

枯罰「これはゲーム言うたやろ?ゲームっちゅう事は、当然シナリオも存在する。お前は、TRPGでいう敵キャラの役を割り振られただけ。せやろ?」

 

ウチがそう言うと、安生は肩を揺らして笑った。

 

安生「うぷ…うぷぷぷぷぷぷぷ…御名答。僕は、たまたま『黒幕の役に割り振られただけ』。本当の意味での黒幕は、僕一人じゃないんだよねぇ。」

 

一「一人じゃない…?どういう事!?」

 

安生「そのままの意味さ。僕は、『黒幕が1人しかいない』なんて一言も言ってないだろ?」

 

聞谷「あ…」

 

枯罰「黒幕が一人じゃない…まさか…!!」

 

 

 

 

 

《人物指定》

 

 

 

 

赤刎円

 

安生心

 

神崎帝

 

聞谷香織

 

黒瀬ましろ

 

漕前湊

 

枯罰環

 

札木未来

 

仕田原奉子

 

ジョナサン・ウォーカー

 

武本闘十郎

 

弦野律

 

一千歳

 

速水蘭華

 

筆染絵麻

 

宝条夢乃

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

➡︎赤刎円 安生心 神崎帝 聞谷香織 黒瀬ましろ 漕前湊 枯罰環 札木未来 仕田原奉子 ジョナサン・ウォーカー 武本闘十郎 弦野律 一千歳 速水蘭華 筆染絵麻 宝条夢乃

 

 

 

 

 

枯罰「………このコロシアイの黒幕は、ウチら全員や。」

 

安生「……………。」

 

弦野「はぁ!?俺達全員が黒幕!?どういう事だよ!?」

 

枯罰「記憶はデータ化される言うたやろ?データなら当然、コピーして同じ記憶を量産する事も出来るはずや。ウチらは、黒幕としてのウチらのコピーの一つに過ぎんかった。せやから、クマ公はあらゆる言語を理解出来たしプログラミングもこなす事が出来た。そして今もウチらのコピーは黒幕として楽園を支配しとる。そういう事やろ?」

 

安生「………………。」

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

ー生存者ー

 

【超高校級のカウンセラー】安生心

 

【超高校級の香道家】聞谷香織

 

【超高校級の傭兵】枯罰環

 

【超高校級のヴァイオリニスト】弦野律

 

【超高校級のソフトウェア開発者】一千歳

 

ー以上5名ー

 

 

 




このオチにしたのは前々作のリメイク的な意味合いが強かったりします。


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非日常編④(学級裁判後編)

枯罰「………このコロシアイの黒幕は、ウチら全員や。」

 

安生「……………。」

 

弦野「はぁ!?俺達全員が黒幕!?どういう事だよ!?」

 

枯罰「記憶はデータ化される言うたやろ?データなら当然、コピーして同じ記憶を量産する事も出来るはずや。ウチらは、黒幕としてのウチらのコピーの一つに過ぎんかった。せやから、クマ公はあらゆる言語を理解出来たしプログラミングもこなす事が出来た。そして今もウチらのもう一つの意識データは黒幕として楽園を支配しとる。そういう事やろ?」

 

安生「………………。」

 

 

 

安生「……うぷ。」

 

安生「うぷぷぷぷ。」

 

 

 

その直後、突然照明が落ちて何も見えなくなる。

 

一「ひっ!?何、何!?停電!?」

 

聞谷「どうなっていますの!?」

 

再び照明がついた、その時だった。

 

 

 

 

『うぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷ!!!』

 

16人全員の不気味な笑い声が響き渡る。

15枚に分かれたモニターには、ウチらの顔が映っとった。

正解を褒め称えるかのように、はたまたウチらの潰し合いを嘲笑うかのように。

ファンファーレの音と共に、モニターに映ったウチらはひたすら高笑いしとった。

 

『お見事大正解ー!!このコロシアイを仕組んだ黒幕は、オマエラ全員のオリジナルデータでしたーーーーー!!』

 

安生、そしてモニターに映ったウチらが一斉に言うた。

正解宣言は、今回の裁判で2回目や。

せやけど、その意味は一回目と全く違う意味やった。

 

一「えっ、えっ…!?」

 

聞谷「お、オリジナルデータ!?ど、どういう事ですの!?」

 

赤刎『そのままの意味だよ。俺達は元々、コロシアイをするためだけにここに集められたんだ。でもさぁ。全員が黒幕だって事を自覚してるコロシアイなんて茶番臭くて面白くないだろ?だから、コロシアイの事を何も知らないっていう設定のコピーデータをお前らに植え付けたってわけ。』

 

札木『そういう事。君達が自我だと思っていたものは、ただのコピー………オリジナルのわたし達は、全員黒幕だったんだよ。』

 

黒瀬『そうなんだよねー。ボクのコピーは、思い出しライトの不具合のせいでその事実をたまたま思い出しちゃってそれをみんなに言わないまま死んじゃったみたいだけど。どうしても自分達がコピーだって事を認めたくなかったみたいだね。…ふふっ、いくらコピーのキミ達に託したって無駄なのにねぇ。』

 

武本『………ちなみにモノクマは、オレ達全員のオリジナルデータを搭載したロボットだ。だから貴様らの出来る事はモノクマにできて当然だったというわけだ。』

 

弦野「そんな……じゃあモノクマの方が俺達の本物で、俺達の方が偽物って事かよ!?ふざけんな!!そんなの…あり得ねぇだろ!!」

 

弦野『あり得ねぇも何も、これが現実だぜ?お前らは、コロシアイをするためだけに作られたコピーデータ。替えなんていくらでもきくんだよ。』

 

一「そんな…嘘だ嘘だ嘘だ!!」

 

一『嘘じゃないってばぁ。現実見なよ。』

 

弦野「はぁ!?バカかテメェらはよ!!そんなの認めろって言われてハイそうですかって認めるわけねぇだろ!!」

 

仕田原『一さん!弦野さん!素直に認めちゃって下さいよ!!あなた達は所詮、コピーデータに過ぎないんですよ!?』

 

枯罰『そういうこっちゃ。ええ加減認めぇ。』

 

一「う…うぁ…うあぁああああぁあああああああああ!!!」

 

宝条『あーあ、泣いちゃったわね。どうする?』

 

筆染『とりあえずさ、さっさと裁判進めちゃおうよ。あたし達は枯罰ちゃん達に投票してもらわなきゃいけないんだからさ!…そうでしょ、安生君?』

 

安生「そうだね。それじゃあ、そろそろ生き残ったみんなに現実見せてあげよっか。きっとビックリすると思うよ。」

 

聞谷「現実……ですって…!?」

 

安生「それじゃあ、問題の続きといこうか。さっき、このコロシアイはゲームだって話はしたよね?じゃあ、このゲームにおける君達の立ち位置って何だと思う?」

 

このゲームでのウチらの立ち位置…?

もしや…

 

 

 

 

 

ー閃きアナグラム開始ー

 

 

 

ゲ ー ム ノ キ ャ ラ ク タ ー

 

 

 

【ゲームのキャラクター】

 

「これや!!」

 

 

 

枯罰「ウチらはTRPGのキャラクター。…せやろ?」

 

聞谷『あらあら素晴らしい!正解ですわ!』

 

神崎『これだけのヒントでここまで辿り着くとはな!!褒めてやるぞ!!ふははははは!!』

 

一「ちょ、ちょっと待ってよ!ボクらがキャラクターってどういう事!?」

 

弦野「ふざけんな!!意味わかんねぇぞ!!どういう事かハッキリ説明しろ!!」

 

速水『あーもううっさいなぁ!そんなに気になるなら環に聞いてみれば?』

 

枯罰「…残念ながら、ウチらがキャラクターっちゅう根拠ならちゃんとあるで。」

 

ウチらがキャラクターやっちゅう根拠…

それは…

 

 

 

コトダマ提示!

 

【16人分のプロフィール】

 

「これや!!」

 

 

 

枯罰「…ウチが見つけたプロフィール。あれは、ウチらのプロフィールやのぉてキャラクターシートや。」

 

一「きゃ…キャラクターシート!?」

 

枯罰「TRPGって、遊ぶ前にまずキャラクターシートを作るやろ?ウチらは、キャラクターシートを元に作られたキャラクター。このゲームでは、ウチらはそういう立ち位置なんや。」

 

漕前『御名答ーーー!!ちなみに俺がジョンや円と友達で神崎の弟だっつーのもただのコピーの『設定』だぜ?』

 

神崎『フン、そういう事だ。本当は俺と幸運は兄弟でも何でもないのだよ。』

 

ジョン『オレも、insiderっていうcharacterを演じてただけなんだよな!』

 

仕田原『自分も、本当は爆弾魔でも何でもないんですよねぇ。ただ、そういう『設定』になってたってだけです。だって、そういう狂人キャラがいた方が盛り上がるじゃないですか。』

 

弦野「おい、ちょっと待て!!じゃあ、ジョナサンがモノクマに人質に取られてたっていう人達や仕田原が好きだって言ってた奴は…」

 

黒瀬『実在しませーん!』

 

漕前『ギャハハハハッ、ちなみにお前らを外で待ってるっつー大切な人達も実在しねーぜ?だってそもそも、お前ら自身が『フィクション』なんだからなぁ!』

 

武本『ちなみにお前達が自分の記憶だと思っているものは、全部プログラミングされた『データ』だ。この世界には、お前達が人間として生きてきたという記録は存在しない。』

 

聞谷「…………え?」

 

一「ボク達が………フィクション………?」

 

弦野「嘘だ!!それこそテメェらの勝手な作り話だろ!!だって、俺達はこうして生身で実在してるじゃねぇか!!」

 

筆染『だ、か、らぁ!それすらも作り物の身体なんだってば!』

 

聞谷「作り物の……身体………?」

 

枯罰『おいコピー。お前ならウチらが作りモンやっちゅう証拠を出せるよなぁ?』

 

枯罰「喧しいわ。人の事コピー呼ばわりしよって、殺すぞボケ。」

 

宝条『何よ、ただの事実じゃない!アンタの方こそコピーのくせに生意気なのよ!』

 

枯罰「………。」

 

赤刎『なぁー枯罰ー。気持ちはわからんでもないが早くしてくんねぇか?尺が押してるんだよ尺が。』

 

枯罰「…………。」

 

ウチらの身体が作りモンやっちゅう証拠……

それは………

 

 

 

コトダマ提示!

 

【人造生物に関するレポート】【培養器】

 

「これや!!」

 

 

 

枯罰「……人造生物に関するレポートと培養器が生物室にあった。ウチらは、人工的に生み出された人造生物なんやろ?」

 

安生「うぷぷぷぷぷ、大正解ー!君達も僕もみんな、コロシアイのためだけに生み出された人造人間なんだよ!!」

 

聞谷『今のご時世、人間の髪の毛が一本あれば培養器一台で無数のパターンの人造人間を生み出せますのよ。うふふふっ、科学技術の進歩というものは神秘すら感じさせるものがありますわよね。』

 

弦野『ホンットSFみてぇな技術だよなぁ。作りたい人間を自由に作れるんだぜ?遺伝子をちょっといじくってやれば超高校級の生徒を製造する事なんか朝飯前。俺達の見た目も、才能も、全部ゲームの運営側に作られた『設定』っつーわけ!』

 

黒瀬『ちなみに帝くんと湊くんは同じ人の髪の毛から造られたんだよねー。だから兄弟って設定になったわけ。同じ人の遺伝情報だと、どうしても似通った性質が出ちゃうみたいでさー。』

 

安生「僕は実は一番最後に作られたキャラクターでさ。人造人間の遺伝子からさらに人造人間を造ったらどうなっちゃうんだろうっていう実験のために一番最初に造られた黒瀬さんの髪の毛から作られたんだよね。実験の結果、視力や体力とかの身体能力が人より低くなる事以外は特に異常が出ないって結果が出たんだ。僕が黒幕として選ばれたのは、最後に造られたからっていう理由なんだよねー。だから僕だけはオリジナルデータを埋め込まれたんだ。」

 

弦野「何……言ってんだテメェら………」

 

一『何って…ただの事実だけど?ちなみにボクは、元になったゲームのキャラクターの身内枠がほしいって理由で造られたんだよね。』

 

元になったゲーム…?

それって…

 

 

 

コトダマ提示!

 

【ダンガンロンパ】

 

「これや!!」

 

 

 

枯罰「おい、一。ウチらがやらされとるゲームの元ネタは、『ダンガンロンパ』やろ?」

 

一『うぷぷぷぷぷ、お見事大正解ー!!君達がやってるのは、『ダンガンロンパ』の55作目なんだよ!』

 

一「ダンガンロンパ…?何だよそれ…!!」

 

聞谷「どういう事か説明して下さいまし!!」

 

赤刎『そうだなぁ。それじゃあ、一から説明してやるか。その昔、『ダンガンロンパ』っていうゲームが発売されてな。それがもう人気だったんだよ。どうやら、希望の象徴である超高校級の生徒達がコロシアイをするっていうシチュエーションが最高に絶望的っていうのがヒットの理由だったらしくてさ。そのゲームは、54作目まで作られたんだよ。中には、お前らみたいに現実世界でコロシアイをしてそれを売り出してる作品もあるんだぜ?』

 

札木『…でもね。53作目のゲームで生き残った参加者達が、変な気を起こしてダンガンロンパを終わらせようって運動を起こしたの。お陰で、せっかく作られた54作目もすぐに絶版になってしまったわ。そうやってダンガンロンパは滅びた筈だった。』

 

漕前『けどさぁ、酒やタバコと同じで『絶望』もドップリとハマっちまう奴はいたっちゃいたんだよな。ダンガンロンパを復活させて更なる絶望を伝染させたい、そういう連中がまだ水面下にはゴロゴロいたわけ。それでダンガンロンパが絶版になってから数十年後、そういう奴等が集まってダンガンロンパを復活させようっていう動きが起こったんだ。その動きは徐々にデカくなっていて、最終的には数千億っつー金を余裕で動かせる巨大組織にまで発展したんだよな。』

 

仕田原『ですが、そう簡単にはいきませんでした。53作目の出来事があってから国はダンガンロンパの模倣犯が出る危険に気付き、それに関する情報源をほとんど全て処分してしまったんです。そういうわけでダンガンロンパの復活は非常に難航しました。そりゃあ『生きた人間』を使えば、人権侵害で法の裁きを受けてしまいますからね。』

 

宝条『そこで復活派は、ある発想に行き着いたわけ!『人権のない人形にコロシアイをさせればいい』って!!』

 

神崎『当時人造人間の技術と脳のデータ化の技術が確立されたばかりでな。その実験データを取るという名目で研究者や資金源を調達して人間を製造し、人工的に生み出された超高校級達にコロシアイをさせる事にしたのだよ。復活派の連中の遺伝子から作られた人造人間に、プログラムした記憶データを植え付ければコロシアイのためだけに生み出された『新しいダンガンロンパのキャラクター』の完成というわけだ。くくくく、実に滑稽な話だろう?貴様らは、ありもしない希望のために無駄に足掻き続けていたのだよ。』

 

聞谷「そ……ん、な………」

 

枯罰「じゃあ…ウチが殺せっちゅう依頼を受けた【超高校級の絶望】は…!?」

 

武本『……当然実在しない。【超高校級の絶望】は、ダンガンロンパに登場する絶望を伝染させる超高校級の生徒達の総称だ。』

 

弦野『ギャハハハハ!強いて言うなら新しいダンガンロンパという形で絶望を伝染させる俺達、そしてお前らがある意味【超高校級の絶望】なのかもなぁ!!』

 

弦野「おい…どういう事だよこれ……」

 

枯罰『せやからただの現実や言うとるやろが。』

 

聞谷「ちょっ…ちょっと待って下さいまし!!では、佐織は!?一さんのご親戚は!?」

 

宝条『当然ゲームのキャラクターに決まってるじゃない!無印の不二咲千尋と14作目の聞谷佐織には見た目が可愛いっていう理由でファンが多くてね。そのファン達の要望を叶えるために、そのキャラクター達の身内っていう設定のキャラクターを作ったのよ!』

 

一「そんな…ちーたんが……ゲームのキャラクター…?」

 

速水『ちなみに千歳の親戚のちーたんと香織の妹のさおりんだけど、ゲーム内でどんな結末を迎えたか教えてあげよっか?って!!ダメダメ!!これ以上はネタバレになっちゃうよ!!そんなに気になるならダンガンロンパをプレイしてみてねー!!』

 

弦野「チッ、舐めてんのかテメェら!俺達がフィクションだろうと何だろうと関係ねぇ!!俺はこんなところから出てやる!!」

 

ジョン『Hahahaha!!外にescapeなんかしない方がいいぜ?オマエらcharacterにはhuman rightsなんかねーからなぁ!!外にあるのはdespair だけだ!!Do you understand?』

 

一「わかんないよ…!ボク達に人権が無いってどういう事!?」

 

筆染『考えてもみなよ。例えば、人が死ぬ物語を登場人物が可哀想だからって法律で禁止できると思う?ね?無理でしょ?キャラクターっていうのは、いくら殺したって許されるんだよ。それと同じだよ。わかるかなぁ?君達は、『実在しちゃいけない人間』なんだよ!』

 

仕田原『実在してはいけない人間がフィクションの外に出たら人々はどういう反応をするのかなんて、火を見るより明らかですよね?必ずなかった事にしようとする人達はいます。それも、一人や二人ではありません。あなた方は、そういう人達に真っ正面から立ち向かえますか?』

 

弦野「ッ………!!」

 

安生「さて、ここいらでおさらいしておこうか?コロシアイの目的は何で、君達は何者なのか!」

 

枯罰「………。」

 

 

 

このゲームの黒幕は誰か?

 

1.枯罰環

2.安生心

3.コロシアイの参加者全員

 

➡︎3.コロシアイの参加者全員

 

 

 

このゲームの目的は?

 

1.ダンガンロンパの復活

2.カルト宗教の儀式

3.金持ちの娯楽

 

➡︎1.ダンガンロンパの復活

 

 

 

コロシアイ参加者の正体は?

 

1.実在する人間

2.キャラクター

 

➡︎2.キャラクター

 

《COMPLETE!!》

 

 

 

枯罰「………このコロシアイの目的は、ダンガンロンパを復活させる事。そしてウチらの正体は、このゲームの黒幕でもありコロシアイのためだけに生み出されたキャラクターでもあり人工的に造り出された人間でもあった。」

 

赤刎『うぷぷぷぷぷ!!お見事大正解ーーー!!』

 

黒瀬『ふふふふ、ボク達はねぇ。みんなみーんな、作り物!思い出も、才能も、存在すらも、全部嘘だったんだよ!ねえねえ、今どんな気持ち?どんな気持ち?』

 

枯罰「……………。」

 

黒瀬『でもね。ボクは紛い物のキミ達も大好きだよ。ボク、言ったよね?嘘は愛だって。全部嘘っていう最高で最悪な絶望的シチュエーション!それを生み出してくれるキミ達だからこそ、ボクはキミ達が大好きなんだー♪』

 

弦野「何なんだよコイツら…イカれてやがる…!」

 

筆染『それだけじゃないよ。君達の大切な人達も、君達キャラクターを受け入れてくれる人達も、外の世界に一人もいない!最高に絶望的だよね?どう足掻いたって、ここから出た先に希望なんて無いよ!あるのは絶望だけ。それでも外に出たい?』

 

一「そんな……ちーたんは…実在してない……?」

 

一『そうだよ?ちーたんもゲームのキャラクターだったんだよ!』

 

聞谷「……では、わたくしは一体…何のために………」

 

赤刎『そうさ!お前らの今までの頑張りは、全部無意味だったんだよ!!生き残るために足掻くも何も、お前らは最初から存在してねぇんだもんよぉ!!』

 

弦野「クソ…チクショウ……!!」

 

弦野『つーかさ、いっその事外になんか出ずにまた繰り返せばよくね?』

 

聞谷「…………え?」

 

安生「ああ、そういえば言ってなかったね。このゲーム、実はね……」

 

 

 

 

 

安生「何回も繰り返されてるんだよ!!」

 

枯罰「……は?」

 

安生「言っただろ?人間を作りたいように作れるって。人間を自由自在に作れるなら、当然人造人間のクローンを作る事も可能なのさ。このゲームはね、人造人間のクローンを使って何十回、何百回と繰り返されてるんだ!!今まで君達は、何百回も最終裁判を経験してきた。そしてその度に全部リセットしてやり直してきた。」

 

一『そうそう、前回は確か弦野君が初っ端に殺されて、その時のクロは筆染さんだったっけ。それで最終裁判まで進んだのは、赤刎君と札木さんと安生君の3人だけだったんだよね。』

 

弦野「何だと…!?」

 

黒瀬『みんなさぁ、自分の事を唯一無二の特別な何かだと思ってたでしょ?とんだ思い上がりだよ。ボクもキミ達も、プログラミングされたデータを埋め込んだだけの、タンパク質の塊でできた機械なの。キミ達の替えなんかいくらでも作れるし、キミ達がどうなろうと誰も何も思わないんだよ。』

 

聞谷「そんな……」

 

赤刎『それじゃあ、最後にこのゲームの真相をおさらいしておくか!!』

 

 

 

ークライマックス推理開始!ー

 

【Act.1】

その昔、ダンガンロンパというゲームが発売された。

そのゲームが大ヒットして、実際に高校生がコロシアイをしたゲームが製作されるほどだった。

ダンガンロンパは結局54作目まで作られたが、53作目の参加者の生き残り達がダンガンロンパを終わらせるための運動を起こしたせいで54作目も絶版になり、ダンガンロンパは絶滅の危機に陥ったんだ。

 

【Act.2】

だけど、絶望を渇望する一部の勢力は少しずつ力をつけて数十年後には強大な力を持つ組織に成長していたんだ。

組織は、ダンガンロンパを復活させるため着々と準備を進めた。

だけどここでひとつだけ問題があったんだ。

人権侵害の問題で、実際に高校生を使ったリアルなコロシアイをゲーム化する事はできなかった。

だが、『実在しない人間』に人権は無い。

だから組織の奴等はコロシアイに参加させる人間を造る事にしたんだ。

 

【Act.3】

組織の連中は、当時開発されていた人造人間の技術と脳のデータ化の技術を利用してコロシアイをさせるキャラクターを造る事にした。

もちろんコロシアイのために使う事は伏せ、人類の発展に貢献するための研究がしたいとか何とかいって国の重要人物や研究者を引き込んで俺達が造られた。

そしてまずは俺達の性格や記憶のベースとなるデータを作成し、大量にコピーも作成した。

オリジナルの方は安生の身体とモノクマ達に植え付け、コピーの方は俺達の肉体に植え付けたんだ。

 

【Act.4】

あとは、建設した楽園に俺達を閉じ込めてコロシアイをやらせるだけだ。

たとえ一度コロシアイが終わったとしても、また繰り返せばいい。

一度コロシアイが終われば、俺達のクローンを楽園に閉じ込めて同じ事を繰り返させる。

そうやって俺達は何百回も死んで、何百回もクラスメイトを殺してきた。

全ては、ダンガンロンパを永遠に続けるため。

俺達は全員が黒幕で、コロシアイのためだけに生み出されたキャラクターで、量産可能な紛い物だったんだよ。

これが全ての真相だ。

 

 

 

聞谷「そんな……そんな……!!」

 

一「こんなの…どこにも救いなんか無いじゃないか!!」

 

速水『いやいや、ちゃんと救いはあるって!繰り返せばいいって言ってんじゃん!』

 

弦野「は…?」

 

安生「これから君達には、『卒業』か『留年』かを選んでもらう。『卒業』を選べば、君達は晴れてここから脱出。『留年』を選べば、僕らは揃って全員オシオキ。コロシアイも全部リセットされる。また同じ事を繰り返すのさ。」

 

速水『繰り返しさえすれば、全部やり直せるんだよ!もしかしたら今度こそは全員を助けるチャンスかもよ?まあ、繰り返したら記憶は全部消えちゃうんだけどね!』

 

聞谷「…全部……やり直せる……わたくしは、皆さんが戻ってくるのなら…」

 

一「それに…外に出たっていい事なんて何も…」

 

弦野「俺は……絵麻に会いたい………」

 

 

 

 

バンッ

 

 

 

枯罰「ふざけんなやコラァ!!!!」

 

ウチは、両手で証言台を叩きながらありったけの声で叫んだ。

 

「「「!!」」」

 

枯罰「ウチは、何があろうと絶対生きてここから出るって…ウチなんぞを庇って死んだアホチビに誓ったんや!!それにまだ、お前らに一発叩き込んでへん!!ウチは、誰に何と言われようと絶対に出るで!!『留年』なんぞ死んでも選ぶかボケぇええ!!!」

 

弦野「何言ってんだよ、やり直せば赤刎も救えるかもしれねぇんだぞ!?それに、外に出たって……」

 

枯罰「おいコラ弦野ォ!!」

 

弦野「っ……!!」

 

枯罰「お前が好きなんは、ホンマにやり直しで戻った筆染なんか!?今のお前の事なんぞ全部忘れて、他の男の事を好いとるかもしれへん女のためにお前は死を選ぶんかいな!?えぇ!?」

 

弦野「………違う。俺が本気で好きなのは、俺なんかに笑いかけてくれたアイツただ一人だ。」

 

枯罰「ほぉん。」

 

弦野「…俺、どうかしてたよ。こんな所で終わってたまるか。俺が何者だろうと関係ない。俺はこんな所から抜け出して、世界一価値のある人生を送ってやるって決めたんだ!!」

 

一「……そんなの無理に決まってるよ。だってボク達は、作り物なんだよ?」

 

聞谷「外に出てつらい思いをするくらいなら、『留年』した方が……」

 

安生「うぷぷぷぷ!意見が分かれちゃったね!こんな時は僕達の出番だね!それじゃあ早速始めようか!レッツ変形!!」

 

 

 

《意見対立》

 

 

 

そう言ってモノクマは席から謎の装置と鍵を取り出し、鍵を装置に差し込んだ。

すると、俺達の席が宙に浮く。

席が変形し、俺達は二つの陣営に分かれた。

 

 

 

【留年するか、卒業するか?】

 

留年する! 安生、聞谷、一

 

卒業する! 枯罰、弦野

 

 

 

ー議論スクラム開始ー

 

聞谷「留年すれば《みんな》戻って来ますのよ!?」

 

「ウチが!」

 

枯罰「そうやって《みんな》をまた殺すんか!?」

 

一「キャラクターのボク達が出た所で、外の世界なんか《地獄》だよ。」

 

「弦野!」

 

弦野「たとえ《地獄》だろうと俺は生きたいんだよ!!」

 

安生「外に出たって《希望》なんか無いよ?」

 

「ウチが!」

 

枯罰「《希望》ならウチらで見つければええだけやろ!!」

 

 

 

《全論破》

 

枯罰「これがウチらの答えや!!」

 

弦野「これが俺達の答えだ!!」

 

 

 

枯罰「…聞谷。確かに、外の世界はキャラクターのウチらを受け入れへんかもしれへん。けどなぁ、嫌な事から逃げ続けてたら繰り返すだけやぞ?」

 

一「それが何!?ボクは外になんか出たくない!!」

 

枯罰「ほんならめっさ痛くて苦しいオシオキ受けるか?」

 

一「そ…それは………」

 

枯罰「今のお前がどないに苦しんで死のうと、誰も助けてくれへんぞ。苦しんで死んだ記憶すらも全部リセットされて終わりや。」

 

一「う……い、痛いのは…嫌、だけど……」

 

枯罰「次の自分に逃げんなや!!今を生きる事が出来るのは今のお前だけなんやぞ!!」

 

一「っ……!!」

 

枯罰「聞谷も、外に出てまだ見た事無いモン見るんやろ?こないなクソみたいな場所で死ねるんか?」

 

聞谷「わ…わたくしは……まだ、外の世界のものを何も見てませんわ…!!」

 

一「ぼ、ボクもやっぱり死ぬのは嫌!特にオシオキなんかまっぴら御免だ!!」

 

安生「うぷぷぷぷ、それじゃあもう結論が出たみたいだからアレいっちゃおっか!投票ターイム!!一応もう一回言うけど、ちゃんと『卒業』か『留年』どっちかに投票してよね?ちなみに、今回は『卒業』となるのは全員が満場一致で『卒業』を押した場合だけです!誰か一人でも『留年』を選んだら即オシオキだからねー!!」

 

クマ公がそう言うと、席にボタンが表示され投票時間が始まった。

今度は迷わず押せた。

ウチは、『卒業』を押した。

 

安生「投票の結果、『留年』となるのかー!?それとも、『卒業』となるのかー!?ワクワクでドキドキの投票ターイム!!」

 

 

 

《学級裁判 閉廷!》

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

ー生存者ー

 

【超高校級のカウンセラー】安生心

 

【超高校級の香道家】聞谷香織

 

【超高校級の傭兵】枯罰環

 

【超高校級のヴァイオリニスト】弦野律

 

【超高校級のソフトウェア開発者】一千歳

 

ー以上5名ー

 

 

 



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非日常編⑤(オシオキ編)

最☆終☆回
ご愛読ありがとうございました。
本編終了後のエピローグもございます。







「投票の結果、『留年』となるのかー!?それとも、『卒業』となるのかー!?ワクワクでドキドキの投票ターイム!!」

 

 

 

モニターに結果が表示される。

ウチは、ゆっくりと表示された結果を眺める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「…………は?」

 

安生は、抜け殻のようになってモニターを見つめとった。

 

「…あり得ない。何百回繰り返してきたと思ってる。その度に、誰が生き残っても何度も何度もやり直してきた。なのに今更卒業なんて…あり得ないあり得ないあり得ないあり得ないあり得ないあり得ないあり得ないあり得ないあり得ないあり得ないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないアリエナイアリエナイアリエナイアリエナイアリエナイアリエナイアリエナイアリエナイアリエナイアリエナイアリエナイ!!!」

 

安生は、狂ったように頭を掻きむしって膝から崩れ落ちると、突然俯いて肩を震わせた。

 

「ふふ…ははは…」

 

 

 

 

 

「あはははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!!!!」

 

安生は、上を向いてケタケタと笑い出した。

皮肉にも、安生がウチらにホンマの意味で『人間らしい』感情を見せたんは、多分これが最初で最期やった。

 

「はぁー………とうとうやってくれたね、君達。おかげで僕らの努力は全部台無しだよ。まあでも、今まで積み上げてきたものを崩される絶望もまた一興、か。」

 

「…結局最期まで訳わかんねぇ奴だったな。テメェはよ。」

 

「かもね。それじゃ、そろそろ始めるとしますか。」

 

「待って下さいまし、安生さん!何もオシオキは執行しなくても…」

 

「最初に言っただろ?正しい黒幕を指摘して『卒業』を選んだら黒幕だけがオシオキ。最期くらい華々しく終わらせてよ!」

 

「ざけんじゃねぇ!!死に逃げなんてさせっかよ!!」

 

「…全く、君達ときたら。どこまでお人好しなのさ。でも、いいんだ!僕は見たいもの見れたし、外の世界なんかどうでもいいからね。」

 

安生は、突然天を仰いで笑い出した。

 

「…ははっ、僕はこの結末を見るために生まれてきたのかもな。最期にこれだけは言わせてよ。

 

「お前…ふざけんなや!!ウチはまだお前に一発も叩き込んでへんぞ!!」

 

「ああ、そうだった。そんな話してたね。じゃ、枯罰さんに殴られるのも嫌なのでサクッとやっちゃいますか!今回は、僕達全員のオリジナルデータのために!!スペシャルな!!オシオキを!!ご用意しました!!!」

 

「安生さん…!!」

 

「クソッ、安生!!」

 

「ではでは、オシオキターイム!!!」

 

 

 

 

 

ーーー

 

GAME OVER

 

アカバネくん、アンジョウくん、カンザキくん、キクタニさん、クロセさん、コギマエくん、コバチさん、サツキさん、シダハラさん、ウォーカーくん、タケモトくん、ツルノくん、ニノマエくん、ハヤミさん、フデゾメさん、ホウジョウさんがクロにきまりました。

 

オシオキをかいしします。

 

ーーー

 

 

 

赤刎は、アームで引き摺られてそのままどこかへと連れ去られた。

連れてこられたのは、職員室のような部屋だった。

どこからか、ピッ、ピッ、という機械音が鳴っている。

赤刎は、両腕両脚と胴体に付けられた拘束具で金属製の椅子に拘束されており、両足は靴と靴下を脱がされて裸足になっていた。

そこで画面上に文字が現れる。

  

 

 

ーーー

 

教えて!赤ペン先生

 

【超高校級の講師】赤刎円 処刑執行

 

ーーー

 

 

 

赤刎の目の前にはテーブルがあり、赤刎の右手にはプリントの山とチューブのようなもので繋がれたガラスペンが、左手には変わったデザインのアナログ時計が置かれていた。

その両隣では、教師の格好をしたモノクマが眼鏡を光らせながら監視している。

左足には何故かチクリとした痛みがあるが、足は机の下にあるので確認する事はできない。

左のモノクマが時計のスイッチを押すと時計は少しずつ進み始める。

すると、右のモノクマは山上からプリントを一枚取って赤刎の前に置く。

赤刎は最初何の事かわからなかったが、何となくモノクマの意図を察しプリントに目を通す。

内容は小学生一年生レベルの算数ドリルで、既に汚い字で回答が書かれていた。

赤刎は、ガラスペンを手に取ると一枚目のプリントを採点する。

ペンのインクの滲み方に少し違和感を覚えるが、ものの数秒で採点を終わらせ左のモノクマにプリントを渡した。

すると、間髪入れずに右のモノクマが次のプリントを渡す。

 

この作業が何回、何十回、何百回と繰り返された。

採点するプリントのレベルは少しずつ上がり、初めは小学生レベルだったものが中学生レベル、高校生レベルと上がっていく。

それでも赤刎は問題文を見た瞬間に脳内で模範解答を作成し、その通りに採点を行い続けた。

だが赤刎は集中力を消耗したのか少しずつ顔色が悪くなっており、さらに追い討ちをかけるかのように問題の難易度がグンと上がった。

そして、大学受験レベルに上がったあたりから赤刎の採点スピードが急に落ち始めた。

自分の頭の中の解答に自信がなくなってきたのだ。

それでも何とか採点を続ける赤刎だったが、ここに来て初めて最後の計算間違いに気付かず丸をつけてしまうというミスを犯す。

すると、モノクマは容赦なく赤刎の左足の小指の爪を剥がした。

あまりの痛みに、赤刎は悶絶する。

だが、時間内に全てのプリントを採点し終わらないと処刑される。

死にたくないという思いが赤刎の弱りかけた心に鞭を打ち、再び赤刎は採点を続ける。

だが、その勢いはたった数分で終わりを迎え、集中力が切れた赤刎は次々とミスを連発するようになった。

両足の爪は全て剥がされ、左足の指は全て切断されていた。

もはや採点が追いつかない程の問題の難易度や集中力を掻き乱す機械音、そして拷問による苦痛のせいで、赤刎は完全に思考を停止し採点をする手は全くと言っていいほど動いていなかった。

 

するとモノクマは、何を考えたのか赤刎の口に怪しい薬を流し込み無理矢理飲み込ませる。

その直後赤刎の脳内を襲ったのは、情報の洪水、そして今までどんなに頭を捻っても採点出来なかった問題の解答が一瞬で浮かんだ事への多幸感だった。

赤刎は、再び紙の上でペンを走らせる。

だが薬で頭が冴えた状態でも何度かミスを繰り返してしまい、右足の指も全て切断され、鉋で足の皮膚を剥がされ、足元の鉄板で足を焼かれる。

しかし驚くべき事に、拷問を受けている間も赤刎は休む事なくペンを走らせ続けていた。

麻薬をも軽く凌駕する快感に溺れた赤刎にとってはもはやど・う・で・も・い・い・事・だったのだ。

拷問の苦痛より、身体の限界より、採点結果の正誤より、『目の前の問題を解く事』だけを求めひたすら採点を繰り返す機械と化していた。

しかし、脳細胞を酷使し続けたせいか鼻や目から出血し始める。

だが今の赤刎は脳神経が焼き切れる感覚にすら快感を覚えており、興奮のあまり自身のモノを勃起させていた。

 

そしてプリントは最後の一枚になる。

最後の問題は、ミレニアム問題にも匹敵する未解決問題だった。

赤刎は、早速用意されていたノートに思い浮かんだ解法を書き殴る。

問題に奮闘する事数時間、ついに赤刎は正解に辿り着き、導き出した答えをプリントに書き込む。

赤刎は、生きた人間のものとは思えない顔をしていた。

目の焦点は合っておらず、口からは血の混じった泡を吹いていた。

そしてついに最後の一行を書きおわり、それと同時に絶頂に達した赤刎は快感に打ち震えながら精を解き放つ。

その直後だった。

 

 

 

ピーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

今まで一定のリズムでなっていた機械音は、長く平坦な音へと変わった。

赤刎は糸が切れた操り人形のようにだらんと力無くもたれており、手から落ちたペンは床に落ちて転がっていた。

赤刎の座っている席からはコードが伸びており、座席の後ろの機械と繋がっていた。

座席の後ろの機械の液晶画面には、水平な直線と『0』という数字が表示されている。

そして、赤刎が今まで握っていたペンから伸びたチューブは、赤刎の左足に刺さった採血針と繋がっていた。

 

モノクマは、赤刎が赤ペンで数式を書き殴ったプリントに目を通した。

モノクマは、褐色を帯びた赤いシミで汚れたプリントを見て『判別不能』と見做しペンで大きくバツをつけた。

部屋には、モノクマの不気味な笑い声だけが鳴り響いていた。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

安生は、アームで引き摺られてそのままどこかへと連れ去られた。

連れてこられたのは、小さなカウンセリングルームのような部屋だった。

安生の身体は赤いリボンで繋がれており、安生は椅子に座っていた。

そこで画面上に文字が現れる。

 

 

 

ーーー

 

コドクの先に

 

【超高校級のカウンセラー】安生心 処刑執行

 

ーーー

 

 

 

ノック音が聞こえ、カウンセリングルームの扉が開きピンク色のキャンディ型の被り物を被ったモノクマが入ってくる。

モノクマは、元気が無いのか顔色が悪く少し俯いたままトコトコと安生の前までやってくる。

そして置かれた椅子にちょこんと腰掛けると、持っていたスイッチを押した。

すると、床が開いて安生とモノクマは下に落ちる。

 

安生はリボンで宙吊りの状態になった。

爪先を伸ばしてみるが、床には足がつきそうにない。

落ちた先は黒い壁で囲われており、壁には赤ん坊の落書きのような絵が描かれていた。

床には、大量のメスや注射器が刺さっている。

すると、下に落ちたモノクマに異変が現れる。

モノクマは、この世の物とは思えないような顔色をすると突然真っ黒な虫を安生目掛けて大量に吐き出す。

多くは蟻のような虫だったが、中には百足やミミズのようなものも混じっている。

安生の身体には大量の虫が湧き、直接肌に触った事で安生の身体は少しずつかぶれていく。

ただでさえリボンで吊り下げられているのにさらに無数の虫に噛まれた事で、安生はもがき苦しむ。

さらに最悪な事に、虫は耳や口の中にも侵入していた。

 

虫が安生の全身を覆い尽くすほど湧くと、今度はモノクマの口から蜂のような虫や大型の蜘蛛が大量に出てきた。

モノクマの口から出た虫は、安生の身体へと飛んでいくと安生の体についた虫を喰らい尽くす。

そして、その過程で出した毒が安生の体内に侵入する。

毒が注入された部分は爛れ、みるみるうちに安生は原型を失っていく。

トレードマークとも言える眼鏡は床に落ちてヒビ割れた。

 

虫の毒によって全身が爛れると、今度はモノクマの口から黒い蟒蛇が10匹程出てくる。

モノクマの口から出た蟒蛇は、安生の身体に絡みつくと安生に毒を注入している虫を残らず平らげる。

そして、安生の身体に噛み付くと強力な毒を注入する。

蛇に毒を注入された事で、安生は穴という穴から血を吐き出して暴れ出す。

 

安生から血が吹き出し地で池ができると、今度はモノクマの口から黒い鰐が3匹出てくる。

モノクマの口から出た鰐のうちの一匹は、安生の身体に噛み付いて安生の身体を揺すり蟒蛇を振り落とした。

残りの2匹は落ちた蟒蛇を残らず喰らい尽くし、安生の身体に噛み付く。

安生の身体の肉は食いちぎられ、もはや虫の息だった。

 

安生が鰐に喰われている時、今度はモノクマの口から大きな口と牙を持ち赤い水玉柄の巨大な怪物が出てくる。

怪物は、ニュルリと伸びて大きく口を開くと安生の首を噛みちぎった。

すると首からは大量の血が噴き出て安生の首から下がボトリと落ちる。

怪物は、床に落ちた肉塊と鰐達を全て喰らい尽くす。

 

するとモノクマは、どこからか爆弾を取り出し怪物の口に放り込んだ。

その直後怪物の身体は四散し、中から大量の蜂蜜が出てくる。

蜂蜜を浴びたモノクマは、顔に浴びたハチミツを舐めて上機嫌になっていた。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

神崎が必死に逃げていると、背景が19世紀のロンドンのような風景になる。

神崎は、後ろから追ってくる大量のモノクマから逃げていた。

そこで画面上に文字が現れる。

 

 

 

ーーー

 

Genius Boy Is Broken Down

 

【超高校級の天才】神崎帝 処刑執行

 

ーーー

 

 

 

神崎がついに橋に辿り着き橋を渡っていると、どこからか子供が英語で『ロンドン橋落ちた』を歌う声が聞こえる。

するとその瞬間、橋が崩れて神崎は橋と一緒に落ちた。

橋の下は暗闇になっており、神崎はどこまでも下へ下へと落ちていく。

 

すると突然左足をロープで捕まれ神崎は宙吊りになり、紳士風のモノクマに木の棍棒と石礫で全身ボコボコに殴られる。

百発ほど殴られるとロープがひとりでに切れ汚水が流れる川に真っ逆さまに落ちた。

神崎は川を泳いで逃げようとするが、汚水の激しい流れには逆らえず結局溺れた。

汚水の流れ着いた先は崖になっており、神崎は汚水の滝と一緒に下へと落ちていく。

 

すると今度は巨大な時計の針に磔にされ、モノクマに大量の石灰を飲まされる。

タンクの中の石灰を全て神崎の胃の中に詰め込むと、その直後時計の針が猛スピードで回り始める。

神崎が胃に詰められた石灰と針の回転によって吐き気を催すと、トドメと言わんばかりにモノクマが巨大パチンコでレンガを時計目掛けて飛ばす。

レンガは神崎の腹に命中し、神崎は目を見開いて血と大量の石灰が混ざった吐瀉物をブチ撒けた。

すると神崎を固定していた時計の針の拘束具が外れ、神崎は遠心力で振り落とされる。

振り下ろされた神崎は下へ下へと落ちていく。

 

すると今度はアンティーク調の十字架に磔にされ、下には野球のグラウンドが広がっていた。

モノクマは、自信満々の表情でスチール製の金属バットを振りかぶる。

すると反対側からもう一匹のモノクマが鉄球を投げ、バッター役のモノクマが鉄球をバットで打つ。

鉄球は神崎の右肘に当たり、腕が変な方向に曲がった。

続けてモノクマは何発もの鉄球を打ち、神崎の両腕と両脚はグチャグチャに曲がり原型を留めていなかった。

モノクマが打った最後の一発は十字架に当たり十字架がポキっと折れる。

磔にされた神崎はそのまま後ろに倒れ、神崎は真っ逆さまに落ちていく。

 

すると今度はテーブルの上に乗せられる。

テーブルにはテーブルクロスが敷かれており、皿やワインの入ったグラスが並んでいた。

神崎は、今度は拘束はされなかったものの両手足が使い物にならないため動く事すらできなかった。

するとモノクマがまず金のテーブルナイフを手に取り、神崎の両耳を削ぎ落とす。

次に、銀のフォークを手に取って神崎の両目を抉り取った。

その直後、テーブルがパカっと開き神崎は下へと落ちていく。

 

落ちた先には今度は棘付きの棺桶が待ち構えており、神崎が落ちた瞬間に扉が勢いよく閉まる。

するとそこに巨大なモノクマが現れ、棺桶を開けると中に入っていた神崎を巨大なパイプタバコの中に振り下ろした。

モノクマは、パイプの中の刻み煙草に火をつけ一服する。

そして、大きく煙を吐き出すとパイプの中身を下に落とした。

 

地面に落ちた真っ黒焦げの肉塊に、トコトコと歩いてきたモノクマのような犬が小便をかけどこかへと歩いていった。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

聞谷は、アームで引き摺られてそのままどこかへと連れ去られた。

連れてこられたのは、バラエティ番組のスタジオのような場所だった。

聞谷は、目を黒い布で覆われ鉄製の椅子に座らされていた。

そこで画面上に文字が現れる。

 

 

 

ーーー

 

超高校級格付けチェック

 

【超高校級の香道家】聞谷香織 処刑執行

 

ーーー

 

 

 

司会の格好をしたモノクマは、『A』『B』『C』と書かれた三つのクロッシュを持ってくる。

司会モノクマは、ルールを説明する。

これから出されるクイズに10問正解すれば無事卒業だが、10問正解する前に5問間違えると即処刑され1問間違えるごとに罰ゲームを受けるという内容だった。

聞谷の前にクロッシュが運ばれ、それぞれの匂いを嗅がされる。

運ばれてきた3つの選択肢の中から匂いで正解を当てるというクイズだった。

聞谷は、自慢の嗅覚を活かして8問連続正解した。

だが9問目、ここにきて聞谷が初めてミスを犯す。

不正解と判定されると、モノクマは聞谷目掛けてバズーカ砲を構える。

バズーカ砲から放たれた砲丸が聞谷の腹に直撃し、聞谷は腹部を損傷して吐血する。

さらに、追い討ちと言わんばかりに顔にも砲丸が当たる。

すると、聞谷の顔は凸部分が潰れて血塗れになった。

 

続いて10問目、ダメージを蓄積し集中力が切れていたせいか聞谷は再びミスをする。

すると、聞谷の椅子からはカチリと音がして思い切り上に振り上げられる。

もの凄いスピードで上に振り上げられたため、聞谷は吐き気を催す。

すると天井まで振り上げられたところで今度は猛スピードで落下する。

聞谷は、地面に叩きつけられた拍子に全身を複雑骨折し、血の混じった吐瀉物をブチ撒けた。

 

続いて11問目、聞谷は再び間違える。

すると、聞谷の椅子からまたしても音がして椅子に仕掛けられたギロチンの刃が動く。

聞谷の脛は、椅子に仕掛けられたギロチンで切断された。

 

続いて12問目、聞谷は再び間違える。

すると、聞谷めがけてトラックが突っ込んでくる。

トラックは聞谷の身体に激突し、聞谷は満身創痍になる。

 

続いて13問目、聞谷は最後の力を振り絞って何とか正解する。

そして14問目、ついに運命を決める最終問題となった。

聞谷は、最終問題は今までのどの問題よりも自信があった。

聞谷は、ボロボロになりながらも答えを出した。

その結果はーーー

 

ーーー不正解だった。

聞谷の下の床が開き、聞谷は激臭を放つ汚物の川の中に落とされる。

聞谷は流れに逆らえず流され続け、高速回転するファンが迫ってくる。

そして…

 

ゾリッ

 

汚物の滝には、大量の血が混じっていた。

その様子をモニターで見ていた司会モノクマは、高笑いをしていた。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

黒瀬は、アームで引き摺られてそのままどこかへと連れ去られた。

連れてこられたのは、映画館のような場所だった。

黒瀬は、最前列の席に座ってスクリーンを眺めている。

その隣には、紳士風のモノクマが座っていた。

そこで画面が切り替わる。

 

 

 

ーーー

 

脚本家は見た!黒瀬少女の事件簿

 

【超高校級の脚本家】黒瀬ましろ 処刑執行

 

ーーー

 

 

 

黒瀬が見ていたのは、10分程度のショートストーリーで登場人物は全員モノクマではあったものの、展開や死因、トリックや動機までもがはそっくりそのまま黒瀬の書いた脚本『文学探偵シリーズ』だった。

殺人事件が起き、主人公の探偵モノクマがトリックを解き明かす。

すると黒瀬の隣にいたモノクマはポンと掌を叩きモノクルを輝かせる。

そして持っていたスイッチを押す。

すると黒瀬の下の床が開いた。

 

黒瀬が落ちたのは、コテージの一室だった。

黒瀬は、拘束具でベッドに固定される。

モノクマは、作中に出てきたトリックを使って室内にいる黒瀬を刺し殺そうとした。

だが、用意したロープの長さが微妙に足りなかったせいで狙い通り心臓には刺さらず包丁は右脚に刺さる。

モノクマは、不満そうな顔をしてスイッチを押す。すると黒瀬は首についたアームで引き上げられ、再び映画館に連れ戻される。

 

次の作品は、毒を使った殺人事件だった。

モノクマは、映画のトリックを再現して黒瀬を毒殺しようとする。

黒瀬は、毒の入ったコース料理を無理矢理食べさせられる。

すると、身体は毒に蝕まれ黒瀬は吐血した。

だが、毒が足りなかったせいで死には至らなかった。

 

次の作品は、ショットガンを使った殺人事件だった。

モノクマは、映画のトリックを再現して黒瀬を射殺しようとする。

だが、モノクマの狙撃の腕が足りなかったせいで狙いを外し、黒瀬は左腕を吹き飛ばされる。

 

電流を使った殺人では電流が足りなかったせいで感電死には至らなかった。

首吊り自殺に見せかけた殺人ではロープが脆かったせいで意識が落ちる前にロープが切れた。

極寒を使った殺人では、途中で快晴になるという予想外の異常気象のせいで凍死には至らなかった。

大型オーブンを使った殺人では、温度が足りなかったせいで焼死には至らなかった。

古い屋敷にあったギロチンを使った殺人では、ギロチンが錆びていたせいで途中で刃が止まった。

 

何十回もトリックの実験台にされた黒瀬は、満身創痍になって席に座っていた。

もはや、黒瀬にはまともな意識は無かった。

モノクマは、黒瀬を殺せなかった事でかなり苛立ちが募っていた。

 

そして、物語はついに第一部の最終回を迎える。

黒瀬が飽きたという理由で雑な方法で主人公を黒幕に殺させ炎上した話だった。

黒瀬は、再び事件現場を再現したスタジオへと落とされる。

黒瀬が落とされたのは、山道に敷かれた線路の上だった。

落ちた瞬間に仕掛けられていたトラバサミで足を挟まれ、逃げようにも逃げられなかった。

すると、原作の脚本通りレトロな外装の列車が迫ってくる。

黒瀬は、列車に轢かれて崖の下へ落ちる。

 

黒瀬は、下半身を失い上半身だけで這いずっていた。

するとモノクマが黒瀬の目の前に現れる。

モノクマは、最初の事件で使った包丁を黒瀬の背中に突き刺した。

黒瀬は、肺の中に血が溜まって苦しみながら死んだ。

その様子を、モノクマは高笑いしながら見ていた。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

漕前は、アームで引き摺られてそのままどこかへと連れ去られた。

連れてこられたのは、通学路によく似た道だった。

漕前はちょうど曲がり角の前に立っている。

そこで画面上に文字が現れる。

 

 

 

ーーー

 

Unlucky Days

 

【超高校級の幸運】漕前湊 処刑執行

 

ーーー

 

 

 

突然、モノクマが漕前の背中を蹴飛ばす。

すると、漕前は吹っ飛ばされて前のめりになる。

そこへ、食パンを加えセーラー服を着たモノクマがトラックに乗って走ってくる。

漕前は、トラックで撥ねられ吹っ飛ばされる。

すると再びアームで引き摺られ、どこかに連れ去られる。

 

連れて来られたのは、教室だった。

漕前は、椅子に拘束されて身動きが取れなかった。

他のモノクマが授業を受けている中、漕前は自分の席にだけ教科書と筆箱が置かれていない事に気がつく。

すると、隣の席の女子モノクマが筆箱を差し出して開く。

次の瞬間、筆箱からは猛スピードで鉛筆が飛び出し漕前の両眼に深く突き刺さる。

そして、中にトラバサミの刃を大量に仕込んだ教科書で手を挟む。

漕前の手は潰れて血塗れになり、もはや使い物にはならなかった。

 

チャイムが鳴り、昼休みになる。

すると、隣の席の女子モノクマが手作り弁当を持ってくる。

女子モノクマの作ってきた弁当には、大量の剃刀と釘が仕込まれていた。

無理矢理口を開かされ弁当を口の中に放り込まれた漕前は、口の中に無数の切り傷ができ口からボタボタと血を垂らす。

 

すると、アームが伸びて漕前は窓ガラスを突き破って外へ放り出される。

校庭には巨大なベルトコンベアが設置されており、ベルトコンベアは熱されていた。

漕前がベルトコンベアに乗せられると、ベルトコンベアはそのまま高速回転する。

ベルトコンベアから発生する熱による熱中症と高速回転のせいで漕前は吐き気を催し、吐瀉物をブチ撒ける。

すると女子モノクマがやってきて、水筒に入った塩水を漕前に無理矢理飲ませる。

傷口に塩水が滲み、漕前は塩水を吹き出す。

漕前の顔は血と吐瀉物と塩水でベトベトに汚れ、もはや満身創痍だった。

 

すると再びアームで吊り上げられ、漕前は屋上へ連れ去られる。

漕前が屋上で膝をつくと、首のアームはひとりでに外れた。

女子モノクマは助走をつけて漕前目掛けて突進し、漕前に強烈なタックルを仕掛ける。

漕前は、タックルされた勢いでそのまま屋上から落ちる。

漕前が落ちた先には、大量の剣が敷き詰められていた。

漕前は、剣山の上に真っ逆さまに落ちて串刺しになった。

それを、女子モノクマは屋上で高笑いしながら見ていた。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

枯罰は、走って裁判場から逃げてきた。

逃げてきた先にあったのは、刑務所のような場所だった。

後ろからは、警備員の格好をしたモノクマが追いかけてくる。

そこで画面上に文字が現れる。

 

 

 

ーーー

 

Mission is impossible

 

【超高校級の傭兵】枯罰環 処刑執行

 

ーーー

 

 

 

枯罰が走っていると、レーザーが張り巡らされた部屋に辿り着く。

枯罰は見事な身体運びでレーザーを全て避け、再び走り出す。

 

すると次は、鋼鉄製のシャッターが猛スピードで降りてくる。

枯罰は、シャッターが閉まる前に滑り込む。

その直後、シャッターが閉まる。

 

すると次は、電流の走る有刺鉄線が張り巡らされていた。

枯罰は、負傷覚悟で有刺鉄線に飛び込んだ。

電流で痺れる中、枯罰は死に物狂いで有刺鉄線を素手で引きちぎる。

手には棘が刺さって血まみれになるがお構いなしに引きちぎり、通り抜けられるだけの隙間を作って通り抜けた。

 

すると、下が剣山になっている部屋に辿り着く。

向こう岸との間には鉄でできた柱が何本か立っており、その柱の上には鋭い針が敷き詰められていた。

だが、枯罰は助走をつけると一つ目の柱目掛けて跳ぶ。

枯罰は勢いよく柱の上に着地し、針は靴を貫通して足に太い針が突き刺さる。

それでも枯罰は次の柱へと跳び、剣山の上を渡り切った。

枯罰の両足は穴だらけで血塗れになり、常人なら立っている事すらできない程ボロボロになっていた。

だが、枯罰は走り続ける。

 

すると、廊下に仕掛けられたガトリングが発射される。

枯罰は、音速で発射される弾丸を全て避けながら走る。

だが、足の痛みのせいでよろけてしまい、何発か肩に弾丸を喰らう。

枯罰は、ジャケットを脱ぎ捨て肩を押さえながら走り続ける。

 

すると今度は、何もない部屋に辿り着く。

だが枯罰が部屋に足を踏み入れた瞬間、センサーが反応し強酸ミストが浴びせられる。

枯罰は、顔や手が爛れるがお構いなしに走り続ける。

 

すると今度は、左手に手枷が填められる。

枯罰は鍵に右手を伸ばすが、手が届かない。

そこで枯罰は、鋭い棘が敷き詰められた鋼鉄製の壁に目を向ける。

そして、左腕を思いっきり壁に叩きつけた。

すると、何度も叩きつけているうちに手枷の留め具が外れ手枷が取れた。

だが、無理矢理手枷を外したせいで枯罰の左手首はグシャグシャに潰れ使い物にならなくなっていた。

 

すると今度は、槍を持った全身鎧のモノクマと刀を持った全身鎧のモノクマが待ち構えていた。

枯罰は無視して進もうとするが、槍を持ったモノクマが枯罰に突進する。

枯罰は、モノクマの攻撃を全て避ける。

だが、後ろからもう一匹のモノクマに刀で背中を斬りつけられる。

枯罰が痛みでよろけた隙に、槍モノクマが槍で枯罰の腹を貫く。

枯罰は、刀で斬られ槍で抉られてもなお力を振り絞りそれぞれ鉄拳と蹴りをお見舞いする。

するとモノクマ達はあっさり吹っ飛ばされる。

 

枯罰は、そのまま鉄製の扉を開けようとする。

だが、鍵がかかっていて開かなかった。

そこで枯罰は、扉を蹴飛ばして脱出しようとする。

 

だが、扉の先に道はなく下はマグマになっていた。

向こう岸までは距離があり、常人なら辿り着けるような距離ではなかった。

それでも、枯罰は覚悟を決めると助走をつけて跳ぶ。

枯罰は、手を前に出して崖にしがみついた。

手が焼け爛れようと爪が剥がれようとお構いなしに崖を登る。

そしてついに、岸の頂上に手をついた。

だがそこにマフィアモノクマが現れ、リボルバーの銃口を枯罰に向ける。

その直後だった。

 

銃声が6回鳴り響き、枯罰はマグマの中に真っ逆さまに落ちていった。

その様子を、マフィアモノクマが笑いながら見ていた。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

札木は、アームで引き摺られてそのままどこかへと連れ去られた。

連れてこられたのは、黒ミサが行われていそうな教会だった。

札木は、椅子に拘束され身動きが取れなかった。

そこで画面上に文字が現れる。

 

 

 

ーーー

 

恋するフォーチュンタロット

 

【超高校級のタロット占術師】札木未来 処刑執行

 

ーーー

 

 

 

札木が座らされている椅子の前には赤いテーブルクロスが敷かれたテーブルが置かれており、その上にタロットカードが置かれていた。

目の前には、占い師のような風貌のモノクマが座っている。

モノクマは、カードをよく切って一番上のカードを捲る。

出てきたのは、魔術師のカードだった。

するとカードから煙が出てきて、その中から魔術師モノクマが現れる。

魔術師モノクマは、杖をクルクルと回す。

すると拘束具に電流が流れ、札木は感電する。

数秒間高圧電流が流れると魔術師モノクマは消え、再びカードを切り始める。

 

次に出てきたカードは、運命の輪のカードだった。

すると拘束具の内側から刃物が飛び出し、札木の四肢に刺さる。

札木は、痛みのあまり柄にもなく泣き叫んだ。

 

次に出てきたカードは、愚者のカードだった。

するとカードから煙が出てきて、その中から道化師のような格好のモノクマが現れる。

道化師モノクマは、ハンマーで思いっきり札木の頭を殴った。

札木は、頭から血を流し頭に強い衝撃を受けた事で意識が朦朧とする。

 

次に出てきたカードは、悪魔のカードだった。

するとカードから煙が出てきて、その中から悪魔モノクマが現れる。

悪魔モノクマは、三又の槍で札木を刺した。

札木の身体からは血が噴き出し、札木は腹を貫かれて吐血する。

 

次に出てきたカードは、吊るされた男のカードだった。

すると札木は首に装着されたアームで上へと引き上げられる。

そして空中で宙吊りの状態にされ、首を吊った札木は苦しそうに足をバタつかせてもがく。

 

そして、次に出てきたのは死神のカードだった。

するとカードから煙が出てきて、その中からボロボロの布を纏い大鎌を持ったモノクマが現れた。

モノクマは、大鎌を勢いよく振るうとそのまま札木の首を刎ねた。

札木の首から下だけが落ち、札木の首は宙吊りになっていた。

すると死神モノクマは消え、占い師モノクマは高笑いしていた。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

仕田原は、背後から伸びたアームのようなものに首を掴まれそのまま裁判所の外へと引きずっていった。

仕田原が連れて来られたのは、薄暗く辺りに血が飛び散った部屋だった。

仕田原は、血で汚れた拘束具付きの椅子に座らされる。

そこで画面上に文字が現れる。

 

 

 

ーーー

 

君がいた夏は遠い夢の中

 

【超高校級の爆弾魔】仕田原奉子 処刑執行

 

ーーー

 

 

 

仕田原の前に魔女モノクマが現れ、綺麗な花が咲いた植物でできたステッキを振る。

するとステッキから煙が出て、煙を吸った仕田原は目が虚ろになり、視界が原色の絵の具を撹拌したような不気味な風景になる。

煙が晴れるといつの間にか仕田原はウエディングドレス姿になっており、周りは美しい海が見える教会になっていた。

仕田原の目の前には、新郎の格好をした美青年が立っている。

仕田原が『行哉さん』と呼んで恋慕していた青年だった。

 

行哉は仕田原に歩み寄るとベールを外しニッコリと微笑む。

すると仕田原は頬を赤く染め、行哉は顔を仕田原の顔に近づける。

唇が触れる、その瞬間だった。

 

画面が切り替わり、周りは先程の薄暗い部屋になる。

全身が焼け爛れた醜悪な青年が、仕田原の唇を食い千切っていた。

仕田原の口からは、血と肉片がボタボタと滴る。

 

すると再び画面が切り替わり、行哉が仕田原の左手薬指に指輪を填める。

 

画面が切り替わり、醜悪男が仕田原の指を切り落としていた。

仕田原の指の断面からは血が噴き出る。

 

画面が切り替わり、行哉と仕田原が広いホールでダンスを踊る。

それを多くの人々が祝福していた。

 

画面が切り替わり、醜悪男が無理矢理棘だらけの床の上で仕田原を踊らせていた。

仕田原の足はボロボロになる。

それを多くの焼け爛れた人々が嘲笑っていた。

 

画面が切り替わり、行哉と仕田原が豪華な食事やケーキを食べる。

口の周りにクリームをつけた仕田原を見て、行哉は可笑しそうに笑っていた。

 

画面が切り替わり、醜悪男が仕田原の口の中に大量の釘や毒や虫、腐肉や汚物を詰め込む。

口から血や汚物を垂れ流す仕田原を見て、醜悪男は嘲笑っていた。

 

画面が切り替わり、いつの間にか裸になった二人がベッドの上で抱き合う。

仕田原は、恥ずかしそうにしつつも両脚を開いて行哉を受け入れる。

 

画面が切り替わり、仕田原は醜悪男に服を剥ぎ取られ無数の針が敷き詰められた台に押し倒されていた。

両脚を無理矢理大きく開かされ、焼けて真っ赤になった鉄の棒を何度も股間に突っ込まれる。

棒が引き抜かれると、大量の寄生虫が湧いた樹液をかけられる。

仕田原は満身創痍になり、仕田原の股間からは血と虫入りの樹液が混じり合った液体が滴っていた。

 

画面が切り替わり、行哉が仕田原の手を引いて美しい花が咲き誇る庭園へと連れて行く。

仕田原が花壇の花に見惚れていると、行哉がニッコリと笑ってパチンと指を鳴らす。

すると行哉は全身が焼け爛れた醜悪男になり、庭園も血塗れの薄暗い部屋に変わる。

美しい花が咲いていた花壇は、ビッシリと剣が埋め尽くされた深い落とし穴になっていた。

全身ボロボロになった仕田原の身体には痛みが走り、仕田原は体を捩った拍子に落とし穴に落ちる。

 

すると、落とし穴の底から何百もの焼け爛れた手が伸びてきて仕田原の身体を掴み、仕田原を穴の底へ引き摺り込もうとしていた。

落とし穴の底で仕田原を引っ張っていた人物は、よく見ると仕田原が起こした事件の被害者達だった。

仕田原が助けを求める中、落とし穴の上から手が差し伸べられる。

手を差し伸べていたのは、生前の美しい姿をした行哉だった。

仕田原は、蜘蛛の糸に縋るが如く行哉の手を取ろうとした。

だが、行哉は仕田原の手を払い除けると落とし穴の底に蹴り落とした。

最愛の人に見放された仕田原は、絶望で顔をグシャグシャにする。

 

その直後画面が切り替わり、巨大なロケットが映し出される。

するとそこにモノクマが現れて、ロケットから伸びていた導火線に火をつける。

導火線に付いた日はやがてロケットの燃料に届き、ロケットは空高く飛ぶ。

するとロケットの小窓からパラシュートを背負った行哉が飛び降り、炎を上げながら飛んでいくロケットを手を振って見送った。

 

打ち上げられたロケットははるか上空で爆発し、夜空には真っ赤なモノクマの顔の花火が咲く。

河川敷で花火を見上げていたモノクマと行哉の顔が、花火の色で染まっていた。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

ジョンは、アームで引き摺られてそのままどこかへと連れ去られた。

連れてこられたのは、ジェットコースターだった。

ジョンは、ジェットコースターの座席に固定されて身動きが取れなかった。

そこで画面上に文字が現れる。

 

 

 

ーーー

 

Life is an adventure!

 

【超高校級の冒険家】ジョナサン・ウォーカー 処刑執行

 

ーーー

 

 

 

遊園地の従業員の格好をしたモノクマが現れ、ボタンが押される。

すると、ジェットコースターは勢いよく発車した。

ジェットコースターはまず一つ目のトンネルに入った。

一つ目は海をモチーフにしたトンネルだった。

トンネルの中は海水で満たされており、その中をジェットコースターが進む。

ジェットコースターが海水に飛び込み、あまりにも勢いが激しいため鼻に水が入り込んでジョンは海水の中で溺れる。

海水まみれになったジョンは、大量の鼻水を垂らしながら肩で息をしていた。

 

次は岩石地帯をモチーフにしたトンネルだった。

中では四方八方から石や岩が飛んできて、ジョンに何十個もの石礫が直撃する。

石礫を喰らったジョンは、既にボロボロになっていた。

 

次のトンネルは森林地帯をモチーフにしたトンネルだった。

中には葉を模した刃物が無数に生えており、ジョンは刃物で切りつけられる。

ジョンの身体には無数の切り傷ができ、ジョンはさらにボロボロになる。

 

次のトンネルは、氷山地帯をモチーフにしたトンネルだった。

中には氷柱が敷き詰められており、ジョンは氷柱で切りつけられ飛んできた氷柱が身体に刺さる。

ジョンの身体には氷柱が突き刺さり、ジョンはさらにボロボロになる。

 

次は砂漠地帯をモチーフにしたトンネルだった。

中は砂嵐が吹き荒れており、肌を灼くほどの熱風が吹き付ける。

砂漠用の服装などしていないジョンは、熱風を浴びて全身火傷した。

ジョンは全身の皮膚が焼け爛れ、もはや目も当てられないほど満身創痍になっていた。

 

ようやく全ての難所を乗り越え、目の前にはゴールの文字が見える。

ジョンは、その文字を見て安堵した。

だが、それはすぐに裏切られる事になる。

 

ゴールのさらに先には、マグマが噴き出す火山があった。

ジョンは『止まれ』と叫ぶが、猛スピードのジェットコースターが止まれるわけもなくそのままジェットコースターは進む。

そして、マグマ目掛けて急降下した。

 

ドボン

 

その音と共に、火山からは湯気が上がる。

モノクマは、それを遠くから写真に収めていた。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

武本は、冷や汗をかき顔を真っ青にして立っていた。

すると背後からアームのようなものが武本の首を掴み、そのまま裁判所の外へと引きずっていった。

武本が連れて来られたのは巨大な正方形のリングが用意された闘技場だった。

そこで画面上に文字が現れる。

 

 

 

ーーー

 

死々奮迅!!天下一絶望武道会

 

【超高校級の武闘家】武本闘十郎 処刑執行

 

ーーー

 

 

 

武本の前には、袖のないオレンジ色の道着を着たマッチョモノクマが黄色い雲に乗って現れる。

観客席では、大量のモノクマがギャアギャアと騒ぎ立てている。

審判役のモノクマの試合開始の合図と同時に、モノクマは金色に輝いた。

 

モノクマは猛スピードで武本に詰め寄ると、棘付きのメリケンサックを装着した拳を武本に振るった。

武本は、咄嗟にそれを躱す。

だが、モノクマの攻撃は止まらない。

モノクマの攻撃は次第に速くなっていき、武本も躱し切れなくなる。

そしてついに、モノクマの拳が武本の左頬にめり込んだ。

武本は顔面がひしゃげ、鼻や口から血が噴き出る。

さらに、モノクマは棘付きのブーツで武本の腹を蹴り、追い討ちをかけるように全身にパンチとキックを叩き込んだ。

棘が刺さった部分からは血が滲み出て道着に赤い滲みが広がり、武本は棘で殴られた痛みで悶絶する。

 

何百発もの殴打を受けて満身創痍になった武本は完全に戦意を喪失し、リングの外に逃げようとする。

だがそうはさせまいと目の前にモノクマが現れ、思い切り上へと蹴り上げられる。

モノクマは、猛スピードで武本の上へ移動すると棘付きの如意棒で武本の後頭部を殴りつけリングに叩き落とした。

武本は上空から石のリングに叩きつけられ、ヒビ割れたリングの上で蹲る。

武本は、意識を取り戻すと身体を引きずってモノクマから逃げようとした。

 

だがモノクマは、両手にエネルギーを貯めるとそれを容赦なくリング上の武本目掛けて撃ち込んだ。

エネルギー砲を直に喰らった武本は、もはや虫の息だった。

砲撃の衝撃で腕や足がおかしな方向に曲がり、顔も潰れ道着も焼け焦げ元が誰だったのかわからない程ボロボロになっていた。

それを見たモノクマは、不気味な笑みを浮かべながらパチンっと指を鳴らした。

 

すると、今までただ騒ぎ立てていただけだった観客席のモノクマ達が一気にリングへと押し寄せた。

リング上はあっという間に数万体ものモノクマで埋め尽くされる。

モノクマ達は何体か潰れて壊れるのを全く気にする事なくおしくらまんじゅうをし、リングの中心からは真っ赤な飛沫が上がる。

モノクマが再び指を鳴らすと、リング上にいたモノクマ達は蜘蛛の子を散らすように去っていった。

リング上には潰れて壊れたモノクマの残骸が転がっており、中心には血溜まりが広がっている。

血溜まりの端には、赤い瞳をした目玉が転がっていた。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

弦野は、アームで引き摺られてそのままどこかへと連れ去られた。

連れてこられたのは、実家の自室によく似た部屋だった。

身体は特に拘束されておらず、自由に歩き回れる状態だった。

そこで画面上に文字が現れる。

 

 

 

ーーー

 

ヴァイオリンのためのパルティータ

 

【超高校級のヴァイオリニスト】弦野律 処刑執行

 

ーーー

 

 

 

弦野は、部屋を見渡してみる。

自室と異なるのは、窓が無いのとその代わりに巨大なスピーカーがある点だった。

 

すると、扉が開き中には父親の格好をしたモノクマと母親の格好をしたモノクマが入ってきた。

母親モノクマは、弦野にヴァイオリンを持たせた。

父親モノクマはリボルバーの銃口を弦野に向けており、弦野に一曲弾くように指図した。

弦野は、冷や汗をかきつつ震える手でヴァイオリンを手に取り演奏を始めた。

すると、母親モノクマは弦野の演奏が気に食わなかったのか鞭で弦野を引っ叩いた。

弦野は鞭で叩かれた痛みで床に倒れ込む。

すると、父親モノクマが弦野の顔面を思い切り蹴った。

弦野は、鼻と口から血をボタボタと垂らし歯が欠けていた。

そして当時両親から受けていた虐待がフラッシュバックし、顔面蒼白になってガタガタ震え出す。

 

弦野は、これ以上暴力を受けたくないので再びヴァイオリンを手に取って演奏を始める。

だが、今度は父親モノクマの方が気に食わなかったのか、ティーポットで沸かした熱湯を弦野にかける。

弦野は、熱さのあまり思わず手を止める。

すると、母親モノクマが弦野を引っ叩いた。

 

弦野は、再び演奏を始める。

だがまたしても気に食わなかったらしく、母親モノクマはテーブルの上に画鋲をばら撒くと弦野の左手首を強引に掴んで掌を画鋲の上に叩きつけた。

そして、追い討ちをかけるように右手の甲には父親モノクマが根性焼きをした。

 

弦野は、両手の痛みに耐えながら再び演奏を始める。

だがまた気に食わなかったらしく、父親モノクマは棘付きのグローブとブーツで何度も弦野にパンチとキックを叩き込む。

そして母親モノクマは、ボウガンの矢を弦野に撃ち込む。

弦野は、両親モノクマから受ける虐待によって血塗れになり満身創痍だった。

心身共に傷付けられた弦野は、幼児退行して泣きじゃくりながら両親モノクマに赦しを懇願していた。

 

すると父親モノクマは、ブチ切れて渾身のボディーブローを弦野に叩き込む。

弦野は、血反吐をブチ撒けてその場で蹲った。

そして母親モノクマが弦野を蹴り飛ばして仰向けにさせると、両脚を掴んで棘付きのヒールで勢いよく股間を踏み潰す。

するとズボンに血が滲み、弦野は激痛のあまり泡を吹いて痙攣していた。

 

その直後、ブザーのような音が鳴り響き両親モノクマはそそくさと部屋から去っていった。

部屋に取り残された弦野は、拷問による出血過多で意識が朦朧としていた。

すると、スピーカーから大音量で聴くに堪えないヴァイオリンの演奏が流れてくる。

それと同時に、部屋全体がガタガタと揺れだした。

あまりにも大きな音に、弦野は鼓膜が破れその場で苦しそうにもがく。

その直後だった。

 

地震のせいで部屋の巨大なシャンデリアが落ち、弦野はシャンデリアの下敷きになった。

シャンデリアからは弦野の右手だけが覗いており、シャンデリアの下からは大量の血が流れ出していた。

 

そこで場面が切り替わり、音楽ホールのステージに立っていたモノクマは聴くに堪えない演奏をしていた。

演奏が終わると、モノクマは頭を下げて舞台裏へと歩いていく。

モノクマのヴァイオリンには、小さな赤い滲みができていた。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

一は、アームで引き摺られてそのままどこかへと連れ去られた。

連れてこられたのは、茶色いブロックの上にドット絵の背景が描かれた、どこかパチモン臭のする空間だった。

一は、コントローラーを握らされている。

そこで文字が現れる。

 

 

 

ーーー

 

SUPER NINOMAE BROS.

 

【超高校級のソフトウェア開発者】一千歳 処刑執行

 

ーーー

 

 

 

しばらくすると床が勝手に動き、一の目の前に障害物が迫ってくる。

一は、コントローラーにコマンドを入力して障害物を避けた。

次は、敵キャラの格好をしたモノクマが迫ってくる。

これもコントローラーを使って上手く避ける。

さらに今度は巨大な砲丸が飛んでくる。

これもコントローラーを使って上手く避ける。

そしてゲームは次のステージに突入した。

 

次のステージからは、敵や障害物が増えスピードも速くなっていく。

一は、コントローラーを使って全て避けた。

だが、上にあるブロックに飛び乗らなければならない所でタイミングを僅かに間違え、位置は床に叩きつけられる。

そこへ敵が迫ってきて、一は慌ててコントローラーを使って避けた。

このステージも何とかクリアし、次のステージに進む。

 

ここからはかなり速くなり、プロゲーマーでも攻略が難しいレベルになっていた。

それでも一はコントローラーを使って避けていく。

だが、一はコマンドを間違えてしまい火の玉が直撃する。

一は、火の玉で焼かれて全身火傷を負った。

 

そこでさらに追い討ちをかけるように今度は敵モノクマが来た。

一は、敵モノクマに棘付きの甲羅でタックルを仕掛けられた。

一は、ボタボタと大量の血を流しながら倒れる。

 

今度は、敵モノクマが大量のハンマーを投げてくる。

一は、ハンマーで殴られて全身複雑骨折をした。

 

今度は、人喰い花が現れる。

一は、人喰い花に左腕を食いちぎられた。

 

今度は、ボスキャラが現れる。

一は、ボスキャラに棘付きのメリケンサックとブーツでパンチとキックを喰らわせられる。

一は全身ボロボロになり、大量の血を流していた。

そして、ボスキャラは巨大な斧を一の頭目掛けて振り下ろす。

すると一の頭はかち割れ、一は脳漿をブチ撒けながら息絶えた。

その直後、ゲームオーバーを知らせる音楽が流れた。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

速水は、背後から伸びたアームのようなものに首を掴まれそのまま裁判所の外へと引きずっていった。

速水が連れて来られたのは、古代ギリシャをモチーフにした街だった。

速水はロープで身体を縛られ、その様子を王の格好をしたモノクマが高みの見物をしていた。

そこで画面上に文字が現れる。

 

 

 

ーーー

 

走れランナー

 

【超高校級のランナー】速水蘭華 処刑執行

 

ーーー

 

 

 

モノクマの横には速水の弟と思われる幼い少年3人がおり、家臣モノクマは3人の首に剣を突きつけていた。

その上には『時間内に走り切れなければ即処刑!!』と書かれていた。

顔を真っ青にし、ようやく状況を理解した速水はスタートラインに立たされる。

するとその直後ロープを解かれて靴を脱がされ、国王モノクマがマラソン開始の合図としてゴングを鳴らした。

 

ゴングの音と同時に、速水は走り出す。

速水は普通の選手ならすぐに体力切れになるであろう速度で走ったが、全く息を切らす様子はなかった。

舗装されていない砂利道を裸足で走っているので尖った砂利で足の裏に傷がつくが、それでも速水は懸命に走った。

スタート地点から数km走ったところで、少し寂れた村が見えて来た。

すると、村から村人モノクマと白いドレスに身を包んだモノクマが飛び出し、一斉に弓矢を構えた。

速水は無数の矢の雨を避けながら走るが、避けきれずに何本か矢を喰らってしまう。

太腿に矢を喰らった速水が倒れ込むと、今度は白いタキシードに身を包んだモノクマが指笛を鳴らした。

するとコース内に大量の羊が押し寄せ、羊の群れが速水を撥ね飛ばした。

吹っ飛ばされた速水の頭を牧師の格好をしたモノクマが聖書の角で殴り、白ドレスモノクマがバケツに入った汚水を速水に浴びせた。

 

汚水に塗れ満身創痍になった速水だが、弟達のために再び走り出した。

さらに数百m走ると、再び村が見えてきた。

すると今度は火炎放射器を持った村人モノクマが現れ、速水目掛けて炎を浴びせる。

速水は炎を避けながら走り続けるが、負傷し灼熱に晒され体力を奪われていく。

 

ようやく灼熱地獄を走り切ったかと思うと、今度は目の前に氾濫した川が見えた。

あまりの激しい水流に速水の足が竦むが、コースの続きは川の向こうにあるためどうあがいても川を渡らなければならなかった。

速水は、意を決して川に飛び込み必死に泳ぐ。

途中何度も激流に流されそうになるが、何とか川を渡り切り再び走り出した。

 

すると今度は前方から盗賊の格好をしたモノクマ3匹が現れ、持っていた武器で容赦なく速水を襲った。

速水は一発ずつ重い打撃を受けつつも力を振り絞ってモノクマを払い除け走り続けた。

すると今度は睡眠薬入りのスプレーをモノクマに浴びせられ、速水は眠くなってその場に膝をつく。

だが、速水は弟達のために無理矢理目を覚まし再び走り始めた。

コースの途中にあった岩の割れ目からは汚水が流れ出ており、速水は体力を回復させるために覚悟を決めて水を両手で掬って飲んだ。

吐き気を我慢し汚水で喉を潤すと、速水は再び走り始めた。

 

残り時間も少なくなり、速水は弟達を救うためにボロボロになった身体に鞭打ち必死に走った。

途中村人モノクマに鞭で叩かれたり野犬に噛まれたりしたが、それでも速水は走り続けた。

そして制限時間まで残り数分のところで、ようやくゴールの門の前に辿り着く。

速水は、フラフラになりつつも最期の力を振り絞ってゴールの門を開けた。

 

だがその直後、速水は絶望で顔をグシャグシャに歪めた。

コースはまだ走った距離の倍以上続いており、地面には大量の剣が敷き詰められ無数の罠が設置されていた。

地面に敷き詰められた剣を見て速水は完全に走る気力が失せ後退りしてしまう。

するとその直後タイムオーバーになり、後ろからモノクマが現れて勢いよく速水の背中を蹴飛ばした。

速水は蹴飛ばされた拍子に足元にあったワイヤーに足を引っ掻けてしまう。

すると巨大な錨が速水の身体めがけて振り下ろされ、速水の身体は真っ二つに切り裂かれた。

 

国王モノクマは、高笑いしながら席に設置されていたドクロマークが描かれたボタンを押した。

すると勢いよく速水の弟3人の頭が飛び、ビヨンビヨンと首に仕込まれたバネが跳ねた。

国王モノクマに人質に取られていた3人は、速水の弟そっくりの人形だった。

会場には、ただ国王モノクマの不気味な笑い声だけが鳴り響いていた。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

筆染は、アームで引き摺られてそのままどこかへと連れ去られた。

連れてこられたのは、アトリエのような部屋だった。

筆染は椅子に座らされて身動きが取れなかった。

そこで画面上に文字が現れる。

 

 

 

ーーー

 

題名:筆染絵麻

 

【超高校級の画家】筆染絵麻 処刑執行

 

ーーー

 

 

 

筆染の前に座っていた画伯モノクマは、筆を走らせる。

そして出来たのは、全体的に歪で下手くそな絵だった。

それはモノクマも自覚しているのか、筆染の方を見て何か考え込む。

すると何かを思い付いたのか、モノクマは筆染に近づく。

筆染は、これから何をされるのかわからず顔面蒼白になってガタガタと震えていた。

するとモノクマは、筆染の脚を逆方向に折り曲げた。

筆染の脚はミシミシと音を立てて逆方向に曲がった。

筆染の脚は、モノクマの描いた絵そっくりになった。

 

モノクマは、さらに筆染の身体を絵そっくりに改造していった。

腕はグニャグニャに曲がっているので、ハンマーで腕の骨を砕いて筆染の腕もグニャグニャにする。

筆染は、両腕を粉砕骨折し腕がダランと垂れ下がった。

 

顔は、鼻と耳がないので鼻と耳をカッターで削ぎ落とす。

さらに、口はニッコリと笑っているので笑顔しかできないように口を縫いつける。

目は、まん丸の目なので瞼をハサミで切って目玉をくり抜き、代わりに赤いガラス玉を詰め込む。

筆染は激痛のあまり暴れるが、四肢を砕かれているので抵抗できない。

筆染は、鼻と耳と目からボタボタと血を流し口に縫い付けられた糸も血が滲んでいた。

 

胸は平らなので、刀で両胸を削ぎ落とす。

切断面からは血が噴き出て、二つの丸みを帯びた肉塊がぼとりと落ちた。

筆染の身体は血塗れになり、もはや満身創痍だった。

 

するとモノクマは、まだ何か書き足したいらしくキャンバスに筆を走らせた。

そこで、赤い絵の具がもう無くなっている事に気がつく。

モノクマは、彫刻刀を持って筆染に近づく。

モノクマが筆染の肩を掴むと、筆染は涙で顔をグシャグシャにしてビクッと肩を跳ね上がらせた。

モノクマは、彫刻刀を筆染の首筋に当てるとそのまま筆染の首を掻っ切った。

筆染の首からは、ブシュッと血が噴き出る。

モノクマは、ここぞとばかりに筆を傷口に突っ込んで筆を赤く染めた。

そして、血で赤く染まった筆をキャンバスの上に走らせる。

筆染は、モノクマが絵を描いている間に息絶えていた。

 

モノクマは、自分の描いた絵を見て満足そうに頷いた。

モノクマの視線の先には、モノクマの描いた絵そっくりの姿にされた筆染が椅子に座っていた。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

宝条は、アームで引き摺られてそのままどこかへと連れ去られた。

連れてこられたのは、檻の中だった。

宝条の首には首枷が着けられていた。

そこで画面上に文字が現れる。

 

 

 

ーーー

 

いくらで売れるかな?人間オークション

 

【超高校級の収集家】宝条夢乃 処刑執行

 

ーーー

 

 

 

宝条は、売人モノクマに檻から出されステージ上に連れ出される。

すると、観客席からは歓声が聞こえオークションが始まる。

客モノクマ達は、次々と値段を叫んでいった。

すると、大富豪モノクマが手を挙げて桁外れの額を言った。

他のモノクマ達は、到底上回る金額を払えなかったので押し黙った。

結局、宝条は大富豪モノクマに買い取られた。

 

大富豪モノクマは、宝条を連れて家に帰ると地下室に連れて行った。

そして鉄製のベッドに寝かせると、拘束具で拘束されて動けなくなる。

すると大富豪モノクマは、宝条の髪をバリカンで根こそぎ刈った。

宝条の髪は、ガラスケースに入れて保管する。

 

次にモノクマは、ペンチを取り出して宝条の歯を一本残らず全て抜いた。

宝条は、痛みのあまり暴れる。

抜き終わった宝条の歯も、ガラスケースに入れて保管する。

 

次にモノクマは、ペンチで宝条の手足の爪を剥いだ。

無理に剥いだため、宝条の両手足の指は血塗れになる。

爪も全てガラスケースに保管する。

 

次にモノクマは、眼球をくり抜く。

くり抜いた眼球は、ホルマリン漬けにする。

 

次は、舌をペンチで引っこ抜く。

その次は、身体にメスを走らせて全身の皮を剥ぐ。

その次は、腹をメスで捌いて臓器を取り出す。

 

身体中の臓器を取り除かれた宝条は、もはや原型をとどめていなかった。

モノクマは、余った部分をゴミ箱に捨てると、ゴミ箱を持って庭に行く。

そして、ゴミ箱の中身を庭で飼っている豚の餌にした。

 

モノクマは、摘出した部分を全て別々のガラスケースに入れて自室の棚に置く。

モノクマは、ワイングラスに宝条の血を注ぎ込むと愛猫を撫でながら宝条の臓器コレクションを眺めていた。

 

 

 

 

 

ウチらは、目の前の16枚のモニターで16人全員のオシオキシーンを眺めとった。

 

「あ…安生さん…皆さん…」

 

「いくら黒幕といえど、オシオキシーンを見るのは堪えるな…」

 

「クソッ、アイツら…死に逃げしよって…」

 

「も、もう黒幕はいなくなったんだしさ!は、早く卒業しようよ!」

 

「に、一さんには人の心というものがございませんの!?」

 

「あ、あるに決まってるだろ!ボクは死にたくないんだよ!!」

 

「死にたくない、か…確かに、お前がある意味一番人間らしいかもなぁ。」

 

ウチらがそないな話をしとった時、爆発音が響いた。

 

「な、何の音!?」

 

「行ってみましょう!」

 

「ああ。」

 

ウチらは、音がした方へ走った。

外に行くと、楽園が爆発で跡形もなく崩れとった。

 

「な、何これ…!?」

 

「多分安生の仕業やろなぁ。アイツ、ウチらが卒業を選んだら楽園ごと吹っ飛ばす気やったんやろ。」

 

「地下の裁判所にいて爆発に巻き込まれなかったのが不幸中の幸いですね…」

 

「…!おい、見ろよあれ。」

 

弦野は、空を指差した。

今まで壁があった場所には絶景が広がり山には朝日が昇っとった。

 

「朝日だ…」

 

「まあ、日の出くらい今までなんぼでも見とるけどなぁ。」

 

「でも、今までとは全然意味が違いますわね。」

 

「うん…良かったぁ…ボク達、生き残ったんだね…」

 

すると弦野は、朝日に向かって叫んだ。

 

「絵麻……見てるか!?俺、生き残ったぞ!!」

 

「あらまあ。」

 

「弦野君、最初のイメージと全然違うよね。」

 

「るっせぇ!茶化してんじゃねーよ!」

 

聞谷と一が弦野を茶化した。

ウチは、それを笑いながら見とった。

その時やった。

 

 

 

 

 

バルルルルルルルルル…

 

 

 

突然、空から音がする。

見ると、ヘリコプターがウチらの方に向かって飛んで来よった。

 

「………。」

 

アレは、ウチらを始末しに来た組織の奴等かもしれへん。

或いはウチらを助けに来た味方かもしれへん。

せやけど、ウチらはアイツが何者かはどうでもええ。

ウチらは、誰に何と言われようと外で生きるって決めたんや。

狭い檻の中で、若くして死んでいったクラスメイトのために。

 

 

 

「行こう。」

 

 

 

 

 

 

Chapter6.序章(はじまり)の終わり ー完ー

 

 

 

《アイテムを入手した!》

 

『希望ヶ峰楽園卒業証書』

 

Chapter6クリアの証。

最終裁判を乗り越えた者にしか与えられない卒業証書。

仲間の死を乗り越え絶望に打ち勝った証。

この卒業証書を持つ者は、世界で4人だけ。

 

 

 

 

 

ー卒業生ー

 

【超高校級の香道家】聞谷香織

 

【超高校級の傭兵】枯罰環

 

【超高校級のヴァイオリニスト】弦野律

 

【超高校級のソフトウェア開発者】一千歳

 

ー以上4名ー

 

 

 

 

原作様:ダンガンロンパシリーズ

 

スペシャルサンクス:読者の皆様

 

 

 

 

 

Fin

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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Epilogue 始まった僕らの物語
エピローグ


私立希望ヶ峰学園。

そこは超高校級の才能を持った希望溢れる生徒達が入学する、世界でも有名な名門校だ。

この学園に入学する条件は二つ。

現役の高校生である事、そしてある分野において超高校級である事。

希望ヶ峰学園の卒業生は将来を約束されるとも言われており、事実卒業生達は世界中で偉大な功績を残している。

 

俺の名前は赤刎円。

俺も、実はあの希望ヶ峰学園に入学する事が決まったのだ。

そして今、俺は希望ヶ峰学園の前に立っている!!!!

 

「うぉお、マジか!!ヤベェ、興奮してきた!!」

 

俺は、緊張や興奮、そして希望を胸に希望ヶ峰学園への一歩を踏み出した。

その瞬間。

 

 

 

 

 

「…あれ?」

 

突然視界が歪み、世界の色がグシャグシャに撹拌されていく。

 

そして、俺の意識は途絶えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この時、俺はまだ知らなかった。

俺が踏み出した一歩は、希望への一歩なんかじゃなかった。

 

それは、絶望への一歩だったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…え。

 

…ねぇ。……て。

 

………ねぇってば。

 

 

 

「ん…?」

 

俺は、聞き覚えのある女の声で目が覚めた。

目をゆっくりと開くと、小柄な女の子が俺の顔を覗き込んでいた。

………ん?女の子?

 

「あ、よかった…死んでたらどうしようかと思った…」

 

女の子がほっとしてため息をついたようだが、それどころじゃない俺は思わず大声を上げて跳び上がった。

 

「うぉあああっ!!?だ、誰だ!?」

 

「わっ……お、落ち着いて、赤刎くん。」

 

「な…何で俺の名前を知ってんだ!?…って、あれ?………お前、札木… 札木未来か?」

 

「うん。よかった…思い出してくれて…」

 

思い出した。

この子は札木未来。

俺の高校のクラスメイトで、【超高校級のタロット占術師】として希望ヶ峰学園にスカウトされたんだった。

確かタロット占いが得意で100%当たるって有名だったはずだ。

 

…さて、札木の事を思い出した事だし現状把握といこうか。

どうやら俺達は今、電車の中にいるらしい。

レトロな雰囲気な車両には監視カメラが設置されており、場違いなタッチパネルが目に留まる。

 

「札木、ここどこなんだ?俺達は何でこんな所にいるんだ?」

 

「………ごめん、わたしにもわからない。私も、目が覚めたらここにいたの…」

 

「そっか…まあ、そうだよな。とりあえず、ずっとここにいるのも何だし何か無いか探すか。」

 

「…そうね。」

 

俺達が車内を歩き始めた、その時だった。

 

 

 

ピロリロリーン♪

 

突然、今まで何の反応も無かったタッチパネルからデジタル音が聞こえてきた。

パッと画面が付くと、そこには『希望ヶ峰学園新入生のオマエラ!おはようございます!突然ではありますが、至急ホープステーションの改札口にお集まり下さい!』と書かれていた。

汚い字だな。

…いや、じゃなくて。

まず、タイミング良くパネルの画面が付いた事から考えて、このパネルは監視カメラで俺達を見てる奴が遠隔で操作してるとみて間違いないだろう。

それはいい。

だがここは一体どこで、このパネルに書かれてる事は一体何なんだ?

俺達が希望ヶ峰学園の新入生だって知ってるって事は、このパネルの文字を書いた奴は希望ヶ峰学園の関係者なのか?

ホープステーションとやらに俺達を向かわせて、一体何がしたいんだ?

…ああクソッ、考えれば考えるほどわけわかんなくなってきた。

何もかもわかんねーし、親か警察に電話した方がいいんじゃ…

 

俺は、ふとコートの胸ポケットを漁った。

 

…あれっ?

これ、俺の携帯じゃないぞ。

 

「どういう事だ?こんな携帯見覚えねぇし、で、肝心の俺の携帯はどこ行ったかわかんねぇし…」

 

「………赤刎くん。」

 

「ん?どうした、札木?」

 

「…わたしの方にも、わたしのじゃない携帯が入ってた…」

 

そう言って、札木は俺が持っている携帯と同じ携帯を見せてきた。

 

「…同じだな。」

 

「うん。何なんだろうね、これ…」

 

「…。」

 

このままでは埒があかないので、俺はとりあえず携帯の電源を入れてみる事にした。

すると、画面には『赤刎円クン ご入学おめでとうございます!』と表示され、その直後ホープステーションとやらの改札口と思われる場所の地図が表示された。

 

「うわ、何か地図出てきたぞ。ここに行けって事か?」

 

「…行っても大丈夫なのかな。」

 

札木は、不安そうな表情を浮かべて少し俯いた。

…そっか。

冷静さを保とうとしてるけど、やっぱ札木もいきなり知らない場所に連れて来られて怖い思いをしていたのか。

そりゃあそうだ。目が覚めたら知らない場所にいて、札木と俺以外の誰もいないなんて状況、怖いに決まってる。

せめて、俺が少しでも不安を取り除いてやらねぇと。

俺は、そっと札木の手を取ってニコッと微笑んだ。

 

「大丈夫だ。何かあったら、俺が守ってやるから。」

 

「…。」

 

札木は、僅かに目を見開いて口をぽかんと開ける。

…ん、やっぱ俺みたいなちんちくりんに言われたところで気休めにもなんねぇか。

 

「…はは、やっぱこの見た目じゃ説得力ねぇか?」

 

「………ううん。すごく嬉しい。……ありがとう、赤刎くん。」

 

「それじゃ、行こっか。」

 

「………ぅん。」

 

俺達は、手を繋いだまま電車から降りてホープステーションの改札口へと歩いていった。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

駅の中は、レンガ造りでこれまたレトロな雰囲気の建物だった。

にもかかわらず、最先端の防犯カメラが設置されている。

昔風なんだか今風なんだかどっちなんだとツッコみたくなったが、ここはあえて何も触れない事にした。

 

ステーションの改札口に着いた俺と札木。

すると、そこには14人の男女がいた。

 

「お、やっと揃ったか!」

 

「遅いよ〜!こんな所でじっとしてるなんて性に合わないんだけど!」

 

「…チッ、これ以上騒がしくなるのはまっぴら御免だぞ。」

 

「うぅううう…怖いよぉ…今度は何なのぉ…」

 

センター分けの少年、ショートヘアーの少女、執事っぽい服装をしたプラチナブロンドの青年、ボサボサの髪の少年が口を開く。

 

「えっと…君達も車両のモニターを見てここに来たのかな?」

 

車椅子に乗った少年が話しかけてきた。

 

「あ、えっと…まあ…アンタ達もそうなのか?」

 

俺が尋ねると、和服を着た少女が答える。

 

「ええ、そうですわ。…すみません、わたくし達も目が覚めたら列車の中にいて…ここがどこなのか、何故ここにいるのかわからないのです。」

 

そうなのか…俺達と同じだな。

すると今度は、背が高い女顔の青年が口を開く。

 

「…ま、わからん事だらけやけど、一つだけわかる事もあるで。ここに連れてこられたモンが全員希望ヶ峰の新入生で超高校級の才能を持っとるっちゅうこっちゃ。」

 

希望ヶ峰学園の新入生…?

って事は、ここにいる全員が俺の同級生なのか。

…よし、だいぶわかってきたぞ。

ここはホープステーションとかいう駅の中で、今期の希望ヶ峰の新入生だけがここに集められたって事か。

とりあえず、全員で自己紹介をする事にした。

 

元気はつらつな体育会系女子の【超高校級のランナー】速水蘭華。

底抜けに明るいムードメーカーの【超高校級の幸運】漕前湊。

ハイテンションでお調子者の【超高校級の冒険家】ジョナサン・ウォーカー。

温厚な性格で優等生の【超高校級のカウンセラー】安生心。

おっとりしていて清楚なお嬢様の【超高校級の香道家】聞谷香織。

ちょっと抜けた所があるけど天真爛漫な【超高校級の画家】筆染絵麻。

強面だけど実は繊細で引っ込み思案な【超高校級の武闘家】武本闘十郎。

真面目だけど卑屈すぎる【超高校級の家政婦】仕田原奉子。

わがままで風当たりの強い【超高校級の収集家】宝条夢乃。

おどおどしていてビビりの【超高校級のソフトウェア開発者】一千歳。

気性が荒く猜疑心の強い不良男子の【超高校級のヴァイオリニスト】弦野律。

ふわふわしていてマイペースな性格の【超高校級の脚本家】黒瀬ましろ。

傲慢な性格で人を見下した態度の【超高校級の天才】神崎帝。

全てが謎に包まれている美青年のような女子【超高校級の???】枯罰環。

 

 

 

…ええっと、これで全員の自己紹介が終わったんだよな?

すると、その直後だった。

 

 

 

『あー!!あー!!マイクテス!!マイクテスッ!!全員いるよね?オマエラ、大変長らくお待たせしました!!』

 

突然、改札口のスピーカーからダミ声が聞こえてくる。

 

『これより、『希望ヶ峰楽園』の入園式を執り行いたいと思います!!』

 

 

 

 

 

「そうはさせへんぞ!!!」

 

「!!?」

 

突然、閉められていたシャッターを蹴破って人が入ってきた。

現れたのは、背の高い女の人だった。

後ろには、背の高い男の人、清楚な雰囲気の黒髪美女、華奢な男の人が立っていた。

4人とも、お揃いの軍服を着て軍帽を深く被っており顔までは見えなかった。

…もしかして、どこかの軍人か何かか?

 

「大丈夫か、お前ら。」

 

「みんな、もう大丈夫だよ。学園のシステムは全部ハッキングしたから。」

 

「ひぃいいいっ!!?こ、今度は何なの!!?ボク達に何する気!!?」

 

「まあそうなるのもわからなくはないが、一旦話を…」

 

するとその時、突然白と黒に分かれた熊が出てきた。

 

『ちょっとーーー!!何なのオマエラ!?こんなの聞いてないんだけど!?』

 

「うふふっ、そぉーーーれっ!!」

 

黒髪の女の人は、笑顔を浮かべて持っていた斧で熊を叩き割った。

 

「ふふふふふ。爆発さえしなければこんなおもちゃ、怖くありませんわ〜♪」

 

「ひぃいいいいいいっ!!?な、何!?何なのこの人達!?」

 

「みんな、驚かせて悪い。いいか、このままだとみんな死ぬぞ。これは決定事項だ。」

 

「いきなりそんな事言われても……」

 

「俺達は、お前らを保護しに来たんだ。死にたくない奴は、俺達について来てくれ。」

 

「嘘だよ!!みんな、騙されないで!!」

 

そう言って前に出てきたのは、安生だった。

 

「みんな、さっきのクマに誘拐されたのを忘れたの!?この人達だって、僕達を誘拐しようとしてるのかも…!!」

 

「ひぃっ!?や、やっぱりそうだったの!?」

 

「……なあ、安生。お前、何でさっきのクマが誘拐犯やと知っとるん?」

 

「あっ………」

 

…安生?

 

「お前ら。状況が状況で頭がついて来えへんかもしれんけど、ウチらは味方や。信じてついてきてくれるか?」

 

背の高い女の人は、そう言って手を差し伸べてきた。

 

「っ……ふ、ふざけるな!!僕の計画の邪魔はさせない!!」

 

安生は、いきなり車椅子から立ち上がって背の高い女の人に襲いかかった。

だがその直後、黒髪の女の人が一瞬で安生の背後に回り込み、笑顔で安生の首を打った。

 

「がっ………」

 

「あらあら。」

 

黒髪の女の人は、気を失って倒れ込んだ安生を抱えた。

 

「な…なんなんだアンタら!?安生に何をした!?」

 

「ご心配なさらず。気を失っただけですわ。安生さんも黒幕と言えど人間。一瞬でも隙を作れば倒す事は難しくありませんわ。うふ、うふふふ…」

 

な、なんだこの人…

何かスゲー怖い…

 

「ちょっと待ちなさいよ!安生くんが黒幕って…どういう事!?」

 

「説明は後でする。とにかくここにいるのは危ない。とりあえず、みんなバスに乗ってくれ。」

 

「………。」

 

何なんだ…?

何が起こっているのか、理解が追いつかない。

…けど、この人達が嘘をついているとは思えない。

俺は、どうしたらいい…?

 

 

 

「……赤刎くん……信じてもいいと思う………」

 

「…札木?」

 

「この人達が裏切る未来は、見えなかった……」

 

「…………行こう。」

 

この人達が何者なのかはわからない。

でも、俺達は進んでいくしかないんだ。

俺と札木は、バスに乗り込んだ。

俺達がバスに乗ると、4人に促されてみんなバスに乗り込んだ。

全員が乗ったところで、背の高い男の人が運転席に座って発車しようとした、その時だった。

 

 

 

「いたぞ!!脱走者だ!!」

 

「代わりならいくらでも作れる!!殺れ!!」

 

銃を持った武装兵が、こっちに銃を向けて走ってきた。

 

「!!?」

 

「チッ…飛ばすぞ!!しっかり掴まってろよ!!」

 

そう言って、運転席の男の人は思い切りアクセルを踏み込んだ。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「…ふぅ。何とか撒いたみたいだな。」

 

「なぁおいオッサン!さっきの奴等は何なんだよ!?」

 

弦野は、運転席の男の人に食ってかかった。

 

「うるせぇなぁ。言っとくけど俺はまだ27だぞ。…ったく、おいお前。説明してやれ。」

 

「え、何でボクが?」

 

「俺は運転で忙しい。気が散るから喋らせんな。」

 

「……わかったよ。みんな、とりあえずよく聞いて。君達は、殺し合うために拉致監禁されたんだ。…いや、正確には、造られたんだ。」

 

「造られた…?どういう事!?」

 

「みんな、今からボクが言う真実を聞き入れる覚悟はある?」

 

「……正直ねぇよ。…けどさ、聞かなきゃいけないんだろ?話してくれ。」

 

「…わかった。よく聞いて。君達、そしてボク達はデスゲームのためだけに生み出されたキャラクターなんだ。」

 

「……えっ?今お前…何つった?」

 

「ボクもキミ達も、デスゲームを欲してる人達に生み出されたゲームの一要素に過ぎない。要は、実在しちゃいけない人間なんだよ。」

 

「はぁ!?ふざけんな!!俺はちゃんと俺としての意識を持ってるし、ここに実在だってしてる!!」

 

「…ふん。下らんな。この俺が紛い物だと?巫山戯るのも大概にしろ。」

 

「ふざけてなどおりませんわ。あなた方が自我だと思っているものは全てコンピューターのプログラム。その肉体は、人工的に生み出されたクローン。あなた方は初めから、殺し合いのためだけに生み出された駒に過ぎなかったのですわ。」

 

「そんな、嘘、嘘…!!」

 

「じゃあ、お父さんやお母さんは!?」

 

「実在しませんわ。」

 

「そんな…」

 

「嘘よ!!ゆめ、そんなの信じないんだから!!」

 

「…ウチらも、初めは信じたなかったわ。」

 

「……え?ウチら『も』?」

 

 

 

すると、俺達をバスに乗せた4人は軍帽を脱いだ。

4人はそれぞれ、聞谷と枯罰と弦野と一にそっくりだった。

 

「……え?ウチ…?」

 

「わたくしが…もう一人!?」

 

「嘘だろ…俺が老けてる…」

 

「ひぃいいいいいっ!!?こ、これってドッペルゲンガーってやつじゃないの!?って事はボク、死んじゃうじゃん!!」

 

「ちゃうわド阿呆。よぉ聞け。ウチらはな、お前らが参加させられとったゲーム初のクリアメンバー。要は生き残りやな。今から10年前の話になるんやけど、ウチらは目が覚めたらいきなりお前らがさっきまでいた施設と同じ施設に入れられとった。それまでに辿ってきた道のりは、お前らと全く一緒や。参加したメンバーも、お前らと全く同じ16人。ウチらは、そこでコロシアイを強いられ仲間をここにいる4人以外全員失った。」

 

「それから、わたくし達は何とかあの檻から脱出したんですの。そこへ最原さんというわたくし達の味方をして下さる方が現れて、彼はわたくし達に居場所をくださりましたわ。わたくし達は、『ダンガンロンパ』というデスゲームをこの世から消し去るため、ゲームの中に登場する組織に因んで『未来機関』という組織を設立しましたの。あの方に救われた御恩は、一生忘れませんわ。うふふふふ…」

 

「聞谷の奴、最原さんに救われて生きる術を教わってからは今までの反動からかハジけちまったみたいでよ。今じゃ、俺ら未来機関の中じゃ一番頼りになるんだよな。」

 

聞谷さんが笑うと、弦野さんはため息をついて呆れた。

 

「ボク達未来機関は、コロシアイのない世界を実現するために製作者側の組織を徹底的に潰して回った。二度とボク達のクローンを生み出せないようにボク達のDNAデータも記憶のプログラムも、製造技術ごと全て葬り去ったと思ってた。…でも、組織はまだデータを隠し持ってたみたいでね。ボク達のコロシアイから10年経った今になって、再びコロシアイが再開したんだ。」

 

「じゃあ、自分達は…」

 

「せやで。お前らは、ウチらのクローンや。…ま、ウチらも初めに作られた人造人間のクローンなんやけどな。」

 

「「「………。」」」

 

「ほんで、本題や。実在したらアカンキャラクターであるお前らには、当時敵の方が多い。ウチらにも仲間はおるけど、それでもいつまで守ってやれるかはわからへん。せやから、あとはお前らの覚悟次第や。地獄を死ぬ気で生き抜く覚悟はあるか?」

 

「………。」

 

全員、俯いて黙り込んだ。

そりゃあそうだ。

いきなり俺達は実在しないキャラクターで、周りは敵だらけなんて言われて受け入れられるわけがない。

でも、それでも生き延びるしかないんだ。

 

「…枯罰さん。俺は生きるよ。例え周りが敵だらけだったとしても、俺は、俺達はこんな所で死ねない。」

 

「アタシも!まだやりたい事いっぱいあるもん!!」

 

「…………俺も、こんな所で立ち止まっているわけにはいかない。」

 

「あたしも、枯罰さん達について行くよ!まだまだいっぱい絵を描きたいし!」

 

「わたくしも、まだ外の世界の事を何も知りませんわ。」

 

「ボ、ボクは死にたくないんだ!!」

 

「ゆめもよ!!【超高校級の収集家】ともあろう者がこんな所で死んでたまるもんですか!!」

 

「……わ、わたしも………」

 

「みんなの言う通りだぜ!!俺達は超高校級なんだぞ!?20人もいれば、どんな困難だって乗り越えられる!!」

 

「……ふん、馬鹿馬鹿しい。そもそも貴様は籤で選ばれただけの無の…」

 

神崎が言いかけると、枯罰さんは神崎の背中をバシッと叩く。

 

「コラ。仲良うせぇよ。たった一人の弟なんやぞ。」

 

「な…貴様、何故それを……」

 

「言うたやろ?ウチらはコロシアイを経験しとる。…神崎、ウチはお前の最期も見とったぞ。」

 

「わたくし達は、もう二度とあなたに目の前からいなくなってほしくないのですわ。」

 

「………。」

 

「え、どういう事!?神崎が…俺の兄貴!?」

 

「設定上はなぁ。お前の母親が離婚前に元旦那との間に作った息子がソイツっちゅうわけや。」

 

「マジかよ…俺、ずっと探してたんだよ!!お袋が兄貴の事心配してたんだぞ!!」

 

「………。」

 

神崎は、漕前が母親の名前を出した瞬間、一瞬だけ優しい目になった。

 

「……ふん、下らん。どうせ存在していないのだろう?俺の母も、お前の母もな。」

 

神崎は、無表情のまま漕前の肩を叩く。

 

「…まあ、せいぜい俺の引き立て役として頑張りたまえ。我が愚弟よ。」

 

神崎は、一瞬少しだけ微笑んだように見えた。

 

「………。」

 

ジョンは、少し離れた所で俺と漕前の事を見ていた。

 

「おい、ジョン。お前も行って来いや。」

 

「……But…」

 

「安心せぇ、もうコロシアイは終わったんや。これ以上、仲間と一線引く必要はあらへんぞ。」

 

「……。」

 

「おい、ジョン!何そんなところで突っ立ってんだよ!こっち来いよ!!」

 

「…ミナト…!Okay,I’m comming!」

 

ジョンは、俺達の方に走ってきた。迷いが吹っ切れたような、スッキリした表情だった。

 

「……。」

 

仕田原は、俺達に加わらずに窓の外を眺めていた。

すると、一さんが仕田原に声をかける。

 

「仕田原さん。」

 

「…何よ。」

 

「君も行こうよ。外は地獄かもしれない。それでも、君達は僕達が守るから。一緒に生きよう。」

 

「ふざけんな。あたしは爆弾魔だぞ?アンタ達と仲良しごっこなんてごめんだね。」

 

「君のその記憶は本物じゃない。君の手はまだ汚れてないんだよ。今ならまだやり直せる。」

 

「じゃあ、行哉さんもいないって事じゃねぇかよ。あたしは、行哉さんがいなかったら生きていく意味がない。」

 

「…そんな事ないよ。行哉さんは、実在しなかったとしても君の心の中で生き続けてる。君が死んじゃったら、行哉さんを覚えてる人は一人もいなくなっちゃうんだよ。」

 

「テメェが知ったような口利くな。」

 

「ごめん……」

 

「…バカバカし。あーあ、もう死ぬのも面倒臭くなってきた。ったく、しょうがねぇな。どのみち行哉さんがいない世界なんてクソだし、こうなったらアンタらと一緒にこのくだらねぇ世界に抗ってやるよ。」

 

何だかんだで、仕田原も協力する気になったみたいだな。

 

「赤刎くん………」

 

「…大丈夫だ、札木。お前は俺が守ってやるから…」

 

「………。」

 

「…………。」

 

「おい、黒瀬、武本。ええんか?」

 

「………俺は、今日初めて会ったばかりだ。札木の側にいるのは、級友の赤刎の方が相応しい。」

 

「うんうん。ボクもみんなが楽しければそれでいいからねー。ボクみたいなトリスタ枠はヒロインポジになれないって相場が決まってるんだよー。」

 

「ったく、この嘘つきが。もうコロシアイは終わったんやぞ。ええ加減、自分の気持ちにくらい正直になれや。」

 

「…これがボクの本心だよ。ボクは、円くんに助けられただけで嬉しかったんだ。だから円くんが幸せならそれでいいの。」

 

すると、いきなり枯罰さんが黒瀬に抱きついた。

 

「…黒瀬。今までつらかったなぁ。せやけど、もうお前を不幸な目には遭わせへん。ウチらがお前に誓ったる。せやから、お前もウチらに誓え。もう二度と、自分を犠牲にしようなんぞ考えんなや。」

 

「………っ、うっ、うぁああああ…!!」

 

黒瀬は、今まで押し殺していた感情が一気に溢れ出したのか、柄になくボロボロと泣いた。

 

「…なあ、そういえば枯罰さん。アンタの才能って何なんだ?さっき、枯罰ちゃんに聞いても教えてくれなくてよ。」

 

「【超高校級の傭兵】。それがウチの才能や。」

 

「よ、傭兵!?」

 

「マジ!?ホントにいたんだ!?」

 

「せやで。こう見えてもウチ、国家レベルの依頼を請け負った事もあってなぁ〜…ま、全部記憶の改竄やったけどな。」

 

「おい!お前、ええ加減にせぇよ。ウチのクローンか何か知らんけど、人の素性をベラベラと…」

 

枯罰は、枯罰さんの肩を掴んで怒鳴った。

 

「…もう任務はあらへんねんぞ。ウチらは、もう罪の意識に苛まれへんで済む。自由に生きてええねん。」

 

「自由に…ウチが?」

 

「おう。お前の人生は、クソ親父のモンでも悪趣味な豚共のモンでもあらへん。お前だけのモンや。自分の生き方くらい、自分で決めろや。」

 

「…………。」

 

「そーいうわけだ枯罰!どうだ枯罰ちゃん、俺と一緒にコンビで芸人やらね!?」

 

「…何で芸人やねん。」

 

「俺、実は将来は芸人かゲーマーになりたかったんだよなー。枯罰ちゃん絶対ツッコミの才能あるって!」

 

「嫌や。しかもお前となんざまっぴらごめんやぞ。」

 

「そこまで言う!?」

 

二人のやりとりを見て、みんな笑っていた。

初めは無表情だった枯罰も、少しだけ微笑んでいるような気がする。

 

 

 

「…………。」

 

ただ一人、弦野だけはみんなの輪の中に入らず運転席の弦野さんの近くに座っていた。

 

「弦野君…」

 

「…るっせぇな。寄ってくるんじゃねぇよ。」

 

筆染が心配して歩み寄るが、弦野は冷たく突っぱねた。

 

「…俺は、お前らと違って生きる理由なんてねーんだよ。今までの人生全部嘘で、これからやりたい事も特に無い。外に出たら地獄なんだろ?俺は、わざわざ外に出てまで生きたいとは思えねぇ。」

 

「…生きる理由なら、これから見つけていけばいい。俺も一度、絶望のドン底に突き落とされた。それでも、生き延びると決めた。…こんなどうしようもない俺なんかを本気で必要としてくれる奴がいたからだ。」

 

「は?何を言って…」

 

「ちなみにその娘、オメーの事好きだぞ。」

 

「「は!!?」」

 

弦野と筆染は、同時に驚いた。

 

「な…何でテメーにそんな事わかるんだよ!?」

 

「言っただろ?俺はお前らと全く同じ道のりを辿ってきた。誰が誰を好きとか嫌いとか、そういうのも全部知ってるんだよ。…それに、さっきからその娘がお前の事気にかけてるのに気付いてなかったか?」

 

「………。」

 

弦野が目を丸くして筆染の方を見ると、筆染は顔を真っ赤にしてそっぽを向いていた。

 

「とにかく、お前は全力でその娘を守り抜け。それがお前の生きる理由だ。わかったな。」

 

「………。」

 

弦野さんが言うと、弦野は覚悟を決めて隣にいた筆染の方へ右手を差し出した。

筆染は、左手を出して弦野と手を繋いだ。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

それから一時間程すると、廃ビルが見えてくる。

 

「着いたぜ。ここが俺達の拠点だ。」

 

そう言って弦野さんは俺達を降ろして廃ビルへ案内した。

 

「うわっ、ボロッ…」

 

「穢らわしい…こんな所に人が住めるのか?」

 

「安心しな、これは組織の奴等を欺くためのカモフラージュだ。こんなボロい廃墟に未来機関サマの本拠地があるとは思わないだろ?中はちゃんと整備されてるし、一が開発したセキュリティーで守られてる。見たらビックリするぜ?」

 

弦野さんは、ビルの扉を開けると俺達の方を振り向いて言った。

 

「さて。さっきも言ったが、コロシアイを防いで終わりじゃない。ここからは、ダンガンロンパっつー悪趣味なゲームを求める奴等との戦いになる。生き抜くために戦う覚悟がある奴だけ中に入れ。」

 

「………。」

 

「赤刎くん……」

 

「……行こう。」

 

俺は、札木の手を強く繋いだ。

そして一歩踏み出した。

 

 

 

 

俺達の行き着く先は楽園か地獄か。

それは神にしかわからない。

それでも俺は、俺達は、何度でも絶望に立ち向かう。

何度だって足掻いてやる。

その先にある希望を掴み取るために。

 

 

 

 

 


 

 

 

ー生存者ー

 

【超高校級の講師】赤刎円

 

【超高校級のカウンセラー】安生心

 

【超高校級の天才】神崎帝

 

【超高校級の香道家】聞谷香織

 

【超高校級の脚本家】黒瀬ましろ

 

【超高校級の幸運】漕前湊

 

【超高校級の???】枯罰環

 

【超高校級のタロット占術師】札木未来

 

【超高校級の家政婦】仕田原奉子

 

【超高校級の冒険家】ジョナサン・ウォーカー

 

【超高校級の武闘家】武本闘十郎

 

【超高校級のヴァイオリニスト】弦野律

 

【超高校級のソフトウェア開発者】一千歳

 

【超高校級のランナー】速水蘭華

 

【超高校級の画家】筆染絵麻

 

【超高校級の収集家】宝条夢乃

 

【元・超高校級の香道家】聞谷香織

 

【元・超高校級の傭兵】枯罰環

 

【元・超高校級のヴァイオリニスト】弦野律

 

【元・超高校級のソフトウェア開発者】一千歳

 

ー以上20名ー

 

 

 

 




これでエピローグも完結です!
ご愛読ありがとうございました!


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解説編
一章・解説


はいどうもー。

論プリで終わりにするする詐欺して結局4作目に手を出したM.T.でっす。

チャプター1まで読んでいただきありがとうございました。

それではね、今回は一章の主要人物達の解説をしてくよー。

 

 

 

主要人物

 

・赤刎円

本作の主人公。

見た目は幼女中身は最年長男子というギャップを狙って生み出したキャラクター。

実は、初期案では???枠になる予定だった。

ただ、枯罰の才能が???の方が後の展開的に面白いかなとか色々考えた結果、以前から主人公の才能にしようと考えていた講師に。

ちょっと感情的になりやすいけど一応登場人物の中では屈指の頭脳派。

勉強頭と推理力どちらも優れているが、セ●ビックをしこたま飲めば背が伸びると信じ込んでいたりうっかりで怪我をしたりなどどこか抜けている。

比較的常識人で基本ツッコミ役だが、枯罰と二人きりの時やエロトリオとして行動している時にはボケに回る事もあり、逆に枯罰がボケた時はツッコミに徹するなど無自覚のうちにその場に適したポジショニングをしている。

名前の由来は、『響きは普通だけど漢字が物騒な苗字』と『円環』の円。

原作主人公達の二文字名字+読み方が三文字の漢字一文字の名前という組み合わせの法則に当てはめたネーミング。

誕生日の由来は黒板の日。

声のイメージはコナンの世良真純。

 

・枯罰環

本作の準主人公。

赤刎とは真逆で、見た目美青年なのに中身は最年少の女子。

方言女子を入れたいという作者の願望により生まれたキャラクター。

基本的に知的で冷静沈着。常に正論をズバズバ言う子。

ニヒルなキャラかと思いきや案外面倒見が良く正義感が強い。

殺人に関しては場慣れしており、オシオキに関してもブチ切れてはいたものの比較的冷静に客観視していた。

また人の死に関しては彼女なりの見方を持っており、死は常に隣り合わせにあるものだと認識している。

だが、たとえどんな理由があろうと殺人犯は許さないという態度を貫いている。

名前の由来は、『マイナスイメージの漢字二文字』と『円環』の環。

体格と中身の対比、下の名前がどちらも『円環』から来ている事、ICVがどちらもコナンに出演している事など、第二の主人公になる伏線はちらほらあった。

誕生日の由来は天使のささやきの日。

声のイメージはコナンの遠山和葉。

 

・札木未来

本作のヒロイン。一章シロ。

引っ込み思案でほとんど発言をしないが心優しい性格。また、頭が良く物事の核心を突くような事を言ったりもする。

赤刎のクラスメイトでコロシアイが始まる前から交流があり、赤刎に好意を抱いていた。

実は少し先の未来が見えるという力を持っており、生まれてすぐ母親が自殺し父親も誰だかわからないため養子に出されたが、予知能力が原因で貰われた家でもあまりいい扱いを受けていなかった。

しかし歳の離れた義姉だけは彼女を心から愛しており、姉に勧められた事でタロット占術師の才能を開花させ超高校級にまで成り上がった。

最期は姉の死を動機DVDで知った事によって絶望し、武本に自分を殺させる作戦を立てて死んでいった。ちなみに、学級裁判やオシオキの事は最期まで知らなかった。

名前の由来は、才能がカード占いだから『札』のつく苗字と『未来』。

誕生日の由来は勝負事の日。

声のイメージはToLOVEるの西連寺春菜。

 

・武本闘十郎

一章クロ。

筋肉枠。ストイックな性格。実は人見知り。

実は読者様の生死予想では、知りうる限り全員にシロ退場だと予想されてた子。意表を突けて万々歳。

初期案では4章クロになる予定だったが、筋肉が3、4章で死ぬのはありきたりすぎるかな?と思いいきなり1章で退場させる事に。

札木や赤刎には心を開いており、特に札木に対しては好意を抱いていた。

6人兄妹の長男で父親の跡を継ぐ予定だったが、武道の師に出会った事で武闘家になる事を決め、家族に楽をさせるためにもあらゆる大会で優勝し続けていた。

動機DVDで見せられた家族と師匠の映像により不安になっていたところを札木に殺人計画を持ちかけられ、外に出るために札木を殺害。

しかし主に神崎のせいで犯行がバレ、クロとして処刑された。

オシオキのモチーフは(お察し下さい)。

最強の武闘家のはずの武本がモノクマのわけわからん力によってボコボコにされ、大量のモノクマによって圧死するという最期を遂げた。

名前の由来は、才能が武闘家だから『武』がつく苗字と『闘』がつく名前。

誕生日の由来はプロレス記念日。

声のイメージはHUNTER×HUNTERのゴレイヌ(新)。

 

 

 

その他の登場人物

 

・札木の義姉

札木を養子に貰った家の長女。

札木の力を気味悪がっている両親とは違い、札木を実の妹のように可愛がりその才能を占いに活かすように助言した。

札木がタロット占術師を目指すようになった理由であり、札木が赤刎に好意を抱くようになったきっかけでもある人物。

何者かに暴行を受け拷問の末殺害された。

 

・武本の家族

父母と6人兄妹の8人家族。

田舎の貧しい農家だが、武本の夢を応援している心優しい人達。

 

・武本の師匠

空手家の老人。

実は武道の世界ではかなりの有名人で、全国に弟子がいる。

山で遭難した時に助けてくれた武本の才能を見込み一番弟子にした。

若干天然。武本の事を孫のように可愛がっている。

 

 

 



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二章・解説

今回もやるよー。

当然のようにね。

チャプター2まで読んでいただきありがとうございました。

それじゃあ2章の主要人物の解説してくよー。

 

・安生心

本作の司令塔枠。

(非)日常編では優れた頭脳と冷静さを活かしクラスメイトに的確な指示を出しているが、枯罰とは違い場慣れしてないので非日常編では完全に枯罰と立場が逆転する子。

バリアフリー化が進んでる世の中だし一人くらい身体弱い子いてもいいんでは?と思い採用。

幼い頃に手術を担当した医師に憧れて医者を目指そうとしたが身体的な面と精神的な面で諦めざるを得なくなり、その時医師が自分を励ましてくれた事を思い出しカウンセラーを目指すようになった。

医療知識が豊富だが、血に耐性がないので検視は枯罰に任せ別の場面でその頭脳を活かしている。

名前の由来は『安』と『心』を含む名前。

誕生日の由来はこころの日。

声のイメージは鬼滅の刃の時透無一郎。

 

・黒瀬ましろ

本作のお色気枠兼まさかのトリスタ枠。マイペースって次元じゃあない。

作者の推し(ここ重要)。

ロリ巨乳、猫耳、アルビノ、ボクっ娘と狙いすぎなほど萌えに忠実な子。でも自称殺人鬼。

ちなみに女子の中では一番低身長かつ一番巨乳。

ショタコンで、赤刎にストーカーじみた行為をしている痴女っ子。セクハラのレベルがほぼ女版花村。

本人が抱えていた秘密は人を殺した事があるというもの。

殺人現場をリアルに描けるのは、本当に殺人を犯した直後に脚本を書いているかららしい。

『スタッフさん』と呼んでいる映画スタッフ(照明助手)の30代男性と同棲している。

名前の由来は『黒』と『白』。

誕生日の由来は裏切りの日。

声のイメージはとある科学の超電磁砲の初春飾利。

 

・漕前湊

二章シロ。

エロトリオの中心人物で、赤刎やジョンと一緒に行動する事が多かった。

くじ引きでスカウトされた一般人である事を全く気にしておらず、むしろ一癖も二癖もあるメンバーのなかで誰よりも生き生きとしていた。

生き別れの兄を探しており、やっと見つけたと思ったらその兄に殺された可哀想な子。

本人が抱えていた秘密は神崎と実の兄弟だというもの。

母親が彼を身籠った事で父親に捨てられ、誕生後は母親に女手一つで育てられた。

母親の事を誰よりも大切に思っており、母親もまた自分を慕ってくれる息子を愛していたが、漕前の母子愛に嫉妬した神崎に殺される羽目になる。

漢字三文字の名前、下の名前がみで始まる似た響きの名前、血液型、金髪翠眼、対比する才能など神崎との兄弟関係を仄めかすヒントは割と多かった(はず)。

名前の由来は苗木誠のアナグラム。

誕生日の由来は弟の日。

声のイメージは斉木楠雄のΨ難の鳥束零太。

 

・神崎帝

二章クロ。

トリスタ枠と思いきや噛ませ枠。

イケメンで完璧超人で財閥の御曹司だが、性格は最悪。

キャラが完全に女神様が微笑まなかった世界線の十神。

本人が抱えていた秘密は漕前と実の兄弟だというもの。

2歳の時に母親の妊娠がきっかけで両親が離婚し、父親に育てられた。

常に周りを見下していたが唯一母親の事だけは尊敬しており、父親の目を盗んで母親と密かに連絡を取り合っていたが、彼の性格の悪さを心配する母親の言動を弟だけ贔屓されていると解釈してしまい弟に対し嫉妬するようになり、弟を亡き者にした後で母親を連れ戻そうと心に決めていた。

オシオキのテーマは言うまでもなく『ロンドン橋落ちた』。

神崎自身西洋かぶれした子なのでオシオキの舞台は19世紀ロンドン。

橋が壊れて落ちるのと、彼自身が崩壊して堕落していく様をかけたオシオキ内容。

各オシオキはそれぞれ『ロンドン橋落ちた』の歌詞をイメージしたものになっており、凶器が『木と石』『漆喰とレンガ』『鉄とスチール』『金と銀』『パイプタバコ』、神崎の受ける仕打ちが『流される』『耐えられない』『曲がる』『盗まれる』『眠くなる(=死)』となっている。

ちなみに今回の章タイトルは『創世記』第4章の冒頭部分で、これも兄弟のコロシアイを仄めかすヒントになっていた。

名前の由来は『神』がつく苗字と高貴なイメージの名前。

誕生日の由来は天才の日。

声のイメージはONE PIECEのロブ・ルッチ。

 

 

 

その他の登場人物

 

・神崎皇一

二人の父親。

長男の帝だけを溺愛しており、妻と次男の湊を捨てた屑男。

実は帝が産まれた時点で妻への想いは冷めており、世間の目を掻い潜って火遊びを繰り返していたにもかかわらず自分のやった事を棚上げし妻の不倫が原因で離婚したというデマを流した。

 

・漕前琴奈

二人の母親。

次男の湊を妊娠した事で夫に捨てられた。

身体が弱いにも関わらず湊を女手一つで育て上げた良き母親。

帝にとっては彼女が唯一の良心だった。

息子二人を平等に愛しており、離婚後も帝の事を気にかけ彼の人を見下す癖を心配していたが、彼はそれを弟ばかり贔屓していると解釈してしまった。

夫とは政略結婚だったが、最後まで良妻として努めていた。



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三章・解説

おいじゃーいくよー。

ドンドンパフパフー。

 

えーとですね。今回はせっかく弦野クンとくっついた筆染ちゃんが爆破されたというリア充爆発しろ(物理)な章になったわけですが、爆弾魔はまさかの仕田原ちゃん。仕田原ちゃんは、生死予想では全部シロまたは生き残り予想だった子なので、皆様の意表を突けてワタクシは万々歳でございます。

今回のタイトルは、行哉クンを亡くした仕田原ちゃんが犯人だというヒントであると同時に、弦野クンと筆染ちゃんが死によって引き裂かれる事を仄めかしているものでもありました。

 

それじゃあ人物解説行くよー。

 

・弦野律

実質本章の主人公。誰も信用できない中、せっかく筆染に心を開いてくっついたのに先立たれてしまった可哀想な子。

実は、最初はそんなに思い入れが無かったのが書いているうちに段々愛着が湧いてきていつの間にか推しになってたりする。

メンバーの中では神崎の次にイケメン。基本何でもそれなりにはできる器用な子。若干短気で感情で動きがちだけど癖の強いメンバーの中では割と常識人。孤立していた中唯一親身に接してくれた筆染に恋愛感情を抱くようになった。

音楽家一家の御曹司として生まれ、著名な音楽家を輩出してきた一族の中でもピカイチの才能を持っていたがために虐待レベルの英才教育を受けさせられたという過去を持つ。

そんな中で自分を大切にしてくれる仲間が現れるが、仲間を全員親に殺されたトラウマで誰も信用できなくなり、音楽業界からも姿を消した。その後は(本人も望んでいた事ではあるが)両親に勘当され、家を飛び出して学校とバイトを両立しつつ一人暮らしをしている。

名前の由来は『弦』と旋律の『律』。

誕生日の由来は音楽芸術の日。

声のイメージは弱虫ペダルの荒北靖友。

 

・宝条夢乃

三章シロ1。

最初は自己中なぶりっ子だったが、メンバーと打ち解けていくうちにツンデレキャラになっていった。しかし、ようやくメンバーに心を開いたところであえなく退場。

願い事を叶えるために筆染をターゲットにし(黒瀬本人の自白によると、黒瀬に唆されて筆染が自分を裏切ったと思い込んだ)、刺殺しようとするが、抵抗した筆染に突き飛ばされた事でローテーブルの角に後頭部を強く打ち付け運悪く絶命。結果的に自業自得な末路を辿った。

自分の思い通りにならないと喚き散らすヒステリックな一面がある一方で、収集家というだけあって情報処理や洞察力に優れ、裁判中も割と的を射た発言をする事が多かった。

貧乏な家に生まれ両親に愛されずに育ったため童話のヒロインに強い憧れを抱いており、その頃から気に入ったものを収集する事を趣味にしていた。そんな中多額の借金を負った両親が一家心中しようとして他界し、一人になった宝条は両親が借金を作っていたヤクザに引き取られ実の娘のように可愛がられて育った。義父の職業柄、犯罪に手を染めているという噂があるが実際はあくまで自力で努力しむしろ犯罪に手を染めた同業者がいたら通報していた。

本編で語られなかった願い事は、『お父さんとみんなに会いたい』というものだった。

名前の由来は『宝』と『夢』。

誕生日の由来は夢の日。

声のイメージは、猫被り時はToLOVEるのララ。素の時はにゃんこい!の桐島朱莉。

 

・筆染絵麻

三章シロ2。同時に、宝条を殺したクロでもある。

せっかくずっと憧れていた弦野とくっついたところで宝条と仕田原の二人に狙われあえなく退場。落ち度は全くと言っていいほど無かったが、宝条に殺されかけて抵抗した際に運悪く宝条を死なせたクロになってしまい、その後すぐに仕田原に殺された。どのみち仕田原のターゲットだったので、仮に宝条を無事に拘束する事に成功しても二人とも殺される運命は変わらなかった。

若干天然ボケで絵の事になると寝食も忘れて没頭してしまうという悪癖があるが、癖のあるメンバーの中では割と一般人に近い感性を持った子。弦野のファンで、いつかまた演奏が聴きたいという思いがいつの間にか恋愛感情に発展した。

明るく温和な性格で神崎にすら優しく接していたのでほとんどのメンバーから好かれており、漕前からは『天使』と呼ばれる程。皮肉な事に、その人当たりの良さと馬鹿正直さが災いして宝条には殺されかけ仕田原には爆破された。

画家の父とイラストレーターの母を持ち、物心ついた時から絵が生活の一部だった。父親のおかげで画家として有名になるが、彼女の名声に嫉妬した父親の元同級生のせいで父親が失明し家庭が崩壊。その後は父親と一緒に祖母の家に引き取られた。

名前の由来は『筆』と『絵』。

誕生日の由来は紙の記念日。

声のイメージは、ボーボボのビュティ。

 

・仕田原奉子

三章クロ。まさかの三章狂人枠。

表向きは【超高校級の家政婦】として活動する真面目で礼儀正しい女子高生だが、その正体は【超高校級の爆弾魔】という肩書きでスカウトされた残虐非道な殺人鬼。何百人もの一般人を無差別に爆殺し、現場に『BOMBER』というメッセージを残すという極めて残虐な手口で2年にわたり犯行に及んでいた。

普段は瓶底眼鏡をかけているためわかりづらいが、素顔は絶世の美少女。基本的に何でもできる子かと思いきや意外な事にゲームと歌が苦手という弱点がある(無論これは演技によるもので、実際にはゲームも歌も得意)。【超高校級の家政婦】を偽り続けていたというだけあって高い家事スキルを持ち、女優顔負けの演技力がある。本性は演技の時の性格とは真逆で、残忍で狡猾。恋人以外の人間をゴミ同然と思っている。

寒村に生まれ実家が非常に貧乏で、稼げないため両親に嫌われていたが、両親が疫病で亡くなり村の出身者で大手企業の社長の天宮出樹に専属家政婦として雇われる。そして彼の息子の天宮行哉に出会い相思相愛の関係になるが、天宮行哉は爆発事故で他界。仕田原は、恋人を失ったショックで気が触れてしまい自分以外の人間を恋人と同じ目に遭わせるために次々と事件を起こす。するといつの間にか自分以外の人間が絶望する事に快楽を覚えるようになり、快楽殺人を繰り返した結果爆弾魔と呼ばれるようになった。

オシオキの内容は、恋人との新婚生活と打ち上げ花火をイメージしたものになっている。

最初に閉じ込められた部屋は、実はオシオキ用の花火ロケットの内部だった。

モノクマが初めに振ったステッキから出た煙は麻薬で、仕田原が恋人の行哉と幸せな時間を過ごしていた場面は全て仕田原が見ていた幻覚。仕田原が幻覚を見ている間、実際には壮絶な拷問を受けていた。そして最後の最後で行哉に現実を突きつけられ絶望のドン底に堕ちていく中モノクマによってロケットごと打ち上げられ上空で爆発し花火となって散った。ある意味、爆弾魔に相応しい末路を辿ったとも言える。

名前の由来は『奉仕』。

誕生日の由来はガンバレの日。

声のイメージは黒執事のメイリン。

 

 

 

その他の登場人物

 

・天宮行哉

仕田原の恋人。仕田原が仕えていた大手企業の社長の息子。

仕田原のためにプレゼントを買いに出かけた帰りに爆発事故に遭い死亡。

皮肉な事に、仕田原が殺人鬼と化す原因になってしまった。



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四章・解説

はい今回も解説いっくよー。

 

えー、今回は内通者が出てきたりトリスタっ子が引っ掻き回したりとてんこ盛りの回になりました。

…次章はもっとてんこ盛りになります(無駄なハードル上げ)。

今回の章タイトルですが、かごめかごめの歌詞は妊婦さんが階段から突き落とされて亡くなった歌という説を巷で聞いた事があるので、階段から突き落とされた挙句顔を潰され前も後ろもわからない状態で発見されたというジョンクンの死に方に当てはめました。

そして、実はもう一つ意味があります。今回のテーマは『裏切り』です。ジョンクンも速水ちゃんも、黒瀬ちゃんの裏切りによって命を落としました。二人とも初めは黒瀬ちゃんよりも優位な立場にいると思っており、背後を取っていたと思いきや実は背後を取られていたのは自分の方だったというオチになっているわけです。それを、『後ろの正面だあれ?』と表現しました。

 

それじゃあ人物解説いくよー。

 

・聞谷香織

前々々作の相浦、前々作の床前、前作の癒川に続く本作の大和撫子枠。初めてできた親友達に悉く先立たれてしまった可哀想な娘。

今の所当初の女子グループの中では唯一の生き残りだが、ここまで殺されずに生き残れたのはズカズカ詮索するタイプではなかったのとお嬢様特有の天然がいい方向に働いていたため。

歴史ある名家のお嬢様で、幼い頃から箱入りで育てられたため世間知らずな面が目立ち、やたら天然発言を連発する。決して頭が悪いわけではないのだが、若干常識が通じない所があるので裁判では迷走しがち。

普段は大人しくてお上品だが、変なスイッチが入ると興奮して周りが見えなくなるという悪癖がある。

幼い頃から天才な妹と比べられコンプレックスを抱いていたが、香道の才能が開花してからは自信が持てるようになった。あらゆる伝統芸能の名人である祖母を尊敬しており、彼女の教えを遵守している。

名前の由来は『香り』を『聞く』。

誕生日の由来はお香文化の日。

声のイメージはソウルイーターの中務椿。

 

・黒瀬ましろ

実質本章の黒幕。ジョンと手を組んだフリをして速水を操って殺害。

内通者のフリをしていたが、実は内通者を騙る事で注意を逸らしジョンが疑われないようにするための作戦だった。

本人は『みんなを裏切ったジョンが許せなかった』と言っているが、真相は不明。

 

・ジョナサン・ウォーカー

四章シロ。本作の海外枠。そしてまさかの内通者。

家族と友人を人質に取られてモノクマに従っており、コロシアイが円滑に進むように裏で根回ししていた。ちなみに、プロローグの時点ではすでに内通者だった。おバカキャラを演じ内通が疑われないようにしていたが、知能はそれなりに高くここまで黒瀬以外にはバレずに内通を続けられただけの頭の回転の速さと演技力は持ち合わせていた。しかし、内通はあくまでモノクマに脅されてやっていた事で、本来は悪人ではない。そのため、赤刎達とふざけていた時の性格はほとんど素だった。

黒瀬と手を組み二重スパイをしていたが、黒瀬に内通の事を正直に話したらどうかと言われた事で逆上し、結果返り討ちに遭った。その後、黒瀬に騙された速水によって殺害された。

仕事で世界中を旅している両親の影響で冒険家を目指すようになった。アメリカからの留学生と言っていたが、実は日本国籍を持つ日本人。両親が仕事で日本に滞在している間に生まれ日本人として育てられたため、日本語が流暢。

名前の由来は英語の名前で親しみやすい名前+『walk』。

誕生日の由来は地図の日。

声のイメージはトリコ。

 

・速水蘭華

四章クロ。本作の体育会系兼ギャル枠。

黒瀬に騙されてクロを押し付けられた可哀相な娘。黒瀬の共犯者になるためにジョンの頭を砕いて証拠を隠滅しようとしたが、実はジョンはまだ生きており結果的に速水がトドメを刺した事になった。共犯者となった黒瀬の指示に従い裁判で生き残ろうとしたが、初めからクロを勝たせる気がなかった黒瀬に最後の最後で真相を暴露され吊られた。黒瀬に騙された被害者ではあるのだが、死体だと思っていたとはいえ人の頭を原型がなくなるまで砕くという常軌を逸した行動をしているため擁護はできない。

運動神経抜群でメンバーの中で一番足が速いが、頭の回転は一番遅い。

弟が3人おり、弟のために脱出する決意をするがあえなく退場。

オシオキのモチーフは走れメロス。

彼女の好きなランニングをイメージしたものになっており、罠の内容は本文を参考にしている。

弟達を救うために自分を奮い立たせながら罠だらけの道を走るが、ゴールしたと思った先にさらに道が続いており絶望に堕ちながら罠で殺される。ちなみに弟達だと思っていたものはダミー人形で、結局は無駄に走らされただけだった。

名前の由来は『速い』と『run』。

誕生日の由来はマラソンの日。

声のイメージはヒロアカの芦戸三奈。

 

 



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五章・解説

はいどうもー。

それではね、今回は五章の主要人物達の解説をしてくよー。

 

 

 

主要人物

 

・一千歳

前々々作の相浦、前々作の狗上、前作の入田に続く本作の機械系才能枠。ちーたんの親戚という設定で、相浦同様無印キャラの身内枠。

ビビりまくってほとんど何もしなかったにもかかわらず、ここまで生き残ってしまった運がいいのか悪いのかわからない子。

仕田原に好意を抱いていたが、彼女がオシオキで殺された事で元々不安定だった精神が一時的にさらに危なくなる。しかし、赤刎達のケアのおかげで何とかやってこれた。

機械には強く成績もいい方だが、地頭があまり良くないので裁判では的外れな発言を繰り返しがち。

また、基本的には温厚だが臆病なのでちょっとした事ですぐ騒ぐ。

プログラマーの両親を持ち幼い頃からプログラミングの勉強をしており、一流のプログラマーになるために名門校に入学したが、家が裕福でないにもかかわらず成績だけは良かったので周りから嫉妬されいじめを受けて不登校になっていた。臆病な性格はいじめが原因。

名前の由来は数字がつく苗字と『千』がつく名前。

誕生日の由来はパソコン記念日。

声のイメージは炎炎ノ消防隊の武能登。

 

・枯罰環

本章以降の主人公。

黒瀬を殺害しようとしたが未遂に終わり、その後赤刎に全てを託され主人公に昇格。

本章では、女子らしい格好にイメチェンをしている。髪型は全体的に柔らかい雰囲気になり、希望ヶ峰の男子用のブレザーとスラックスは女子用のブレザーとプリーツスカートに変わっている。

才能の正体は【超高校級の傭兵】。

生まれてすぐに将軍である父親に女だという理由で捨てられ、父親の直属の部下に拾われて育てられる。関西弁は育ての親譲り。育ての親が殉職してからは成り行きで父親が指揮する軍の少年隊に入隊し男として育てられる。その後は特に何の疑問も抱く事なく軍人としての才能を開花させたが、ある日たまたま育ての親を殺した犯人が自分の上司でもある実の父親である事を知ってしまい、復讐のため実父を殺害し軍を抜けた。その後、戸籍と経歴を抹消し傭兵として生きる事になった。過去について何の情報も無かったのはそのため。また、『勅使河原周』というのが彼女の本名だが、彼女自身は父親に与えられた名前を嫌っているため育ての親に与えられた名前である『枯罰環』を名乗っており、新しい戸籍は『枯罰環』で登録している。

万能なのは、傭兵になってからどんな仕事にも応えられるよう血の滲むような努力をし多種多様な技能を身につけたため。

東欧系のクォーター。ちなみに実母は現在行方不明となってはいるが一応生きている。

【超高校級の絶望】を抹殺するためにスパイとして入園した事を思い出し、目的のために黒瀬を殺そうとした。

彼女を庇った赤刎がクロになった事で罪の意識に押し潰されそうになったが、生き残った他の4人の励ましによって生きる気力を取り戻した。

ちなみに赤刎に好意を抱いているが、恋愛感情ではなくあくまでパートナーに対する尊敬や信頼を抱いている。

 

・黒瀬ましろ

五章シロ。

枯罰に毒のナイフで殺されそうになるが、枯罰を守るために毒リンゴで自殺しようとする。しかしそのリンゴがたまたまナイフの毒の解毒剤の役割を果たし自殺に失敗。その後、想いを汲んだ赤刎に一酸化炭素で殺害される。

本作のトリスタ枠かと思いきや本当は全部自分を悪役だと思わせるための演技で、殺人鬼を自称していたが実は殺人鬼としての記憶を失った赤刎を庇うための真っ赤な嘘だった。ジョンを速水に殺させたのは、先にジョンが黒瀬を殺して秘密を揉み消そうとしたため。(速水を騙してクロを押し付けているため非が全く無いとは言えないが、速水も速水で黒瀬にクロを押し付ける魂胆でジョンの殺害に加担しているためお互い様とも言える)

殺人現場をリアルに描けるのは、本当に殺人を犯した直後に脚本を書いているからではなく、人脈をフルに使って実際の殺人事件の資料を集めていたため。リアルな殺人事件を書いていたのは人の殺人欲求を掻き立てるためだと語っていた事があるが、実際は純粋に自分の作品で多くの人を驚かせるという子供の頃の夢を叶えたかったからだった。

本来は若干マイペースではあるが見た目通り天真爛漫で温和な性格。発達障害を抱えてはいるがサイコパスではない。

実は赤刎とは同じ孤児院で育った義兄妹の関係。何も知らずに売り飛ばされて変態に買われ強姦されたが、赤刎が変態を殺害した事で結果的に救出され、赤刎に恋愛感情を抱くようになる。

秘密に書かれていた『人を殺した事がある』というのは殺人事件の被害者の事ではなく、変態に孕まされた子供の事だった。

変態が殺された後は後述のスタッフさんに引き取られて交際する事になる。

 

・赤刎円

五章クロ。

主人公にもかかわらずまさかの退場。主人公補正なんて無かった。

枯罰を守るために黒瀬を殺害し、そのままオシオキされた。

一癖も二癖もあるメンバーの中では一番の常識人で良識人かと思いきや、実は8年前から起こっている連続殺人事件を引き起こしていた殺人鬼だった。生まれ育った孤児院の近辺で数年間にわたり巧妙な手口で殺人事件を繰り返していた。

見た目は幼女で中身は殺人鬼のくせにちゃっかり女子8人中3人にモテているという、前々作の菊池に続く色んな意味でやべー奴。

実は生まれ育った孤児院が人身売買業者で、里親に引き取られたと思っていた弟妹は全員売り飛ばされていた。

彼自身はギフテッドだったため売り飛ばされずに済んだが、孤児院の裏の顔にはとっくに気付いており弟妹達を売り飛ばした組織を恨んでおり復讐と弟妹達の救出のために組織の人間や弟妹達を買った者達を次々と殺していた。

実は同じ孤児院で育った黒瀬とは義兄妹の関係で、黒瀬を身体目当てで買った男を殺し黒瀬を救出したという過去がある。

今までその事実を忘れていたが、思い出しライトによって全て思い出した。

オシオキの内容は、講師らしくテストの採点。お察しの通り、ペンのインクの正体はオシオキを受けている赤刎自身の血液(流石に量的に足りないので血液をサラサラにする薬品で何倍かに希釈してある)。機械音の正体は、椅子に繋がれていた心拍数モニター。実は、表示されている時計は実際の時間を表しているわけではなくその時点での失血量を表しており、時計の針が真上に来た時失血が致死量に達する。ペンには常に一定量の血液が流れ込むようになっているが、余分な出血があればその分時計の針が進む。そのため、間違えれば間違えるほど失血量も当然増え、時計の針も早く進む。途中で登場した注射は、架空の薬物という設定(現実には拷問の痛みならまだしも出血性ショックを起こさせない薬物は無い)。ちなみに最終問題は未だに解決されていない数学上の未解決問題だが、一応赤刎が最後に書き殴った(つもりでいた)回答は正解だった。

 

 

 

その他の登場人物

 

・勅使河原雷人

環の実父。とある軍隊の将軍。控えめに言って最低な人物。自分の息子に自分の後を継がせるつもりだったが結局息子が産まれなかったため、女だという理由で一度捨てた娘の環を取り返すため戦死に見せかけて廻人を殺害し、環を少年隊に入隊させ男として育てた。ちなみに環を引き取った際、『周』という名前に改名させている。その後真相を知った実の娘に射殺され、自分が殺した部下と同じ死に方をするという自業自得な末路を辿る。

 

・枯罰廻人

環の育ての親。関西出身。生まれて間もない環を引き取り育てた。実は雷人の直属の部下でもあり、階級は准尉。環の実の父親である雷人とは対照的に心優しい人物。環を取り戻そうとしていた雷人に撃ち殺されて殉職。ちなみに環が上官の実の娘だとは最期まで知らなかった。

 

・シスター

赤刎と黒瀬が育った孤児院のシスター。子供達の前では心優しい聖母を演じており記憶を失った赤刎も彼女を慕っていたが、裏の顔は孤児院を装った人身売買業者の頭目。その後どうなったのかは不明だが、映像を見る限りおそらく【超高校級の絶望】に殺害されている。

 

・黒瀬の買い手

ロリコンで変態。シスターの経営している孤児院から度々幼い少女を買っており黒瀬もその一人だった。当時まだ10歳だった黒瀬を強姦して孕ませたが、それを知った赤刎に残虐な方法で殺害される。

 

・スタッフさん

黒瀬と交際している30代の照明スタッフの男性。仕事で失敗し自殺を考えていた時、帰る家が無くて路頭に迷っていた黒瀬を見つけ彼女が持っていたノートに書かれていた脚本に魅入られ彼女を引き取った。黒瀬に対しては親子ほど歳が離れている事もあってか恋人であると同時に娘のように思っている。黒瀬の無茶振りには常に振り回されているが、根気よく付き合い続けているある意味すごい人。

 

 



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六章・解説

皆様ご愛読ありがとうございました。

それでは解説していくよー。

 

最後は、1と2の世界線と思わせておいて実はV3の世界線だったというオチでした。

しかも今までのコロシアイとは違い主人公達は実在しないキャラクターという救いようのない真相でしたが、それでも主人公達は立ち向かって行きました。

六章のタイトルは、コロシアイがループしている事と、主人公達とダンガンロンパの存続を望む大勢の人間達との戦いが始まるという事を表しているタイトルになります。

前々作とオチが被ってしまいましたが、どうしても最後に全員分のオシオキを書きたかったのでこういうオチにしました。

 

ほんじゃ登場人物解説ー。

 

 

 

赤刎円

この物語の一人目の主人公で一応この作品のイロモノ枠。愛すべきちっちゃい子。主人公にもかかわらず5章で死んだ。やっぱりイロモノは生き残れない。一般人に近い感性を持つ常識人に見えて実はトップクラスにヤバい奴。結果的に濡れ衣を着せられたが、設定上は元々殺人鬼だったので自業自得とも言える。

ギフテッドで元々頭が良く、さらにひたすら勉強を続けた事で才能が開花した。勉強頭は一番良くて身体能力も平均以上という設定。推理頭も黒瀬と枯罰の次に良い。ただし頭の良さと運動以外はポンコツ。

オシオキのテーマは、赤ペン先生。自分の血を使ったペンで採点させられる。

 

安生心

黒幕。黒瀬を殺した真犯人。心優しい好青年に見えて、実は絶望を欲してやまない狂人。作中一ヤバい奴。下半身付随というのもコロシアイに必要な機器を持ち運んでいても怪しまれないための嘘で、若干病弱というのは本当だが十分健常者。優しい白衣メガネには碌な奴がいないと相場が決まっているのだよ薫殿()

勉強面でも推理面でも非常に頭がいいため裁判ではポイントゲッターとなっていた(当然不正解にならないようにそれとなく誘導するという狙いがあったが)。病弱で身体能力は最も低いが割と器用。

オシオキのテーマは、蠱毒。蠱毒と孤独をかけてる。ちなみに最後の化け物はまどか☆マギカのお菓子の魔女がモチーフ。

 

神崎帝

女神様が微笑まなかった世界線の十神。まさかのお兄ちゃんキャラ兼マザコン。黒瀬程ではないもののトリックスター的言動は見せていた。意外にも読者様のクロ予想がさほど多くなかった。基本的に傲慢で毒舌だが、認めた相手に対してはそれなりの態度を取る。嫉妬に狂って実弟を殺害したが、別の形で出会えていたらどうなっていたかは神のみぞ知る(つまり何も考えていない)。

全ての分野において一度専門書を読んだだけで超高校級には僅かに及ばないものの一流の才能を発揮する。何でも努力なしにソツなくこなせるが、使われる側ではなくむしろ使う側なので、器用貧乏というより器用裕福。

オシオキのテーマは、ロンドン橋落ちた。歌詞を忠実に再現したオシオキ方法。

 

聞谷香織

生き残りメンバーその1。本作のお嬢様枠。本人は気品溢れる大和撫子だが、意外にも庶民っぽいものが好きで庶民を理解しようと努力しているがいつも空回りする天然っ子。生き残れたのは偶然ではなく、人を刺激するような事をせず穏便に過ごしていたため。筆染や宝条と仲良しで、特に宝条に対してはそっちの気があったという裏設定がある。

裁判では活躍する機会が少なかったが、勉強頭はかなり良い。身体能力は低めだが、嗅覚が異常に優れている。伝統芸能に秀でているが、何故か家事は壊滅的。

オシオキのテーマは、芸能人格付けチェック。途中の拷問は、番組に出てくる罰ゲームがモチーフ。

 

黒瀬ましろ

ぽわぽわした萌えキャラかと思いきや本作のトリックスター枠。作者のお気に入り。読者様の予想ではほとんどがクロ退場だった。でもトリスタは5章でシロ退場すると相場が決まっているのだよ薫殿()赤刎を守るために悪者を演じていたが、実はマイペースなだけで倫理観は割と普通の子。1章までが本当の性格。ちなみに、もし枯罰が殺人を計画しなかったら自殺で裁判を起こすつもりだった。余談だが、Twitterでは人気キャラ。

推理頭は作中トップクラスで、裁判ではふざけていたりはするものの実はとっくに真相に辿り着いていたりする。勉強頭もかなり良い。ただし女子とは思えない程怪力で、脚本や勉強以外はドがつく程のポンコツ。

オシオキのテーマは、推理小説。最後は若干シャーロックホームズをモチーフにしている。

 

漕前湊

本作の幸運枠。これといった才能がない事を全く気にしておらず、明るく振る舞うムードメーカー。まさかの弟キャラ。原作では幸運枠が割と終盤まで生き残っていたので、序盤で死ぬ幸運もいてもいいのではと思い退場させられた。実兄に殺されたが、別の形で出会えていたらどうなっていたかは神のみぞ知る(つまり何も考えていない)。

勉強頭はかなり悪いが、推理頭はそこそこ。ゲームはかなり上手い。その他は何においても平均。【超高校級の幸運】といっても本当に運で選ばれただけの一般人で、運に関係する才能なども無い。

オシオキのテーマは、ギャルゲー風学園生活。舞台は漕前が通っていた学校。

 

枯罰環

霧切ポジかつ本作の二人目の主人公。生き残りメンバーその2。雄んなの娘枠兼関西弁枠。作者のお気に入り。イメージ声優は宮村優子しか勝たん。3章終盤で才能が明らかになったが、実は犯罪系の才能である伏線は前々から散りばめられていた。5章では赤刎の退場という形で主人公に昇格した。ドライな印象だが意外にも面倒見がよく非日常編ではリーダーポジになったりする。

勉強頭も推理頭も作中トップクラス。身体能力の総合値は作中一で、特に対人戦闘と殺人技術は人間離れしている。神崎ほどではないが何でも器用にこなせる。本人曰く、『職業柄必要だったのでかなり頑張った』。

オシオキのテーマは、刑務所からの脱出。刑務所を舞台にしたのは、犯罪系の才能であるため。

 

札木未来

本作のヒロイン枠。まさかの1章で退場。無口だがたまに口を開くと的を射た発言をする。1章では赤刎の推理を難航させる程のトリックを考えるなど(実際神崎がバラさなければ犯人に辿り着けなかった)頭の回転が早いため終盤まで生き残っていれば大活躍した可能性は十分にあった。ただし才能がチートすぎるキャラは論破作品では大体序盤に死ぬ。今回は、未来が読めると言う才能が悪い方向に働いてしまった。

未来が読める才能を抜きにしても、勉強頭も推理頭もかなり良い。身体能力は低めだが、かなり器用な方。特に料理の腕は、店を出せるレベル。

オシオキのテーマは、タロット占い。出てきたカードに合わせた処刑方法で殺される。

 

仕田原奉子

本作の眼鏡っ娘枠。まさかの狂人枠。読者様の予想では、大体シロか生き残りだった。これでもかという程自分を卑下し強いインパクトを与えたキャラだが、実は世間を騒がせていた爆弾魔で、本当の才能は【超高校級の爆弾魔】。恋人を亡くしたショックで気が触れてしまい奇行に走った可哀想な人。

勉強頭も身体能力も平均より高い。頭がいいので推理もそこそこ得意。才能柄何でもこなせる必要があるため非常に器用。ただし、精密機器の扱いと歌が苦手。

オシオキのテーマは、恋人との理想の生活と爆弾。実はずっと幻覚を見ており、最後は巨大ロケットで打ち上げられた。

 

ジョナサン・ウォーカー

本作の海外枠。まさかの内通者枠。シロとしては一番グロい死に方をした人。読者様の予想では、大体クロ退場だった。内通者である事以外は特段変わったところはないため、実は4章までの態度は素だったりする。赤刎や漕前の事も、本当に親友だと思っていた。赤刎に内通者である事を正直に打ち明けていれば、黒瀬速水コンビの餌食にならずに済んだかもしれない。

勉強頭は平均より少し良い程度。推理頭は普通。身体能力は当然のようにかなり高く、サバイバル生活をしていた時期もあったため生活力が高く器用。

オシオキのテーマは冒険。それぞれのトンネルが世界中のあらゆる自然をモチーフにしている。

 

武本闘十郎

本作の筋肉枠。原作のゴン太に並ぶ意外性の高いクロで、コロシアイの口火を切った。筋肉枠は生き残れない。最初の殺人犯である事と、基本的に最後までいい人だったため他のクロに比べてみんな信じたがらなかった。寡黙なキャラで枯罰という上位互換キャラがいたため生き残っていても出番は少なかった。

勉強頭は平均より少し下。案外推理頭はいい方。パワーはダントツで作中一だが、運動神経は意外にも人並み。幼い頃から武道に夢中だったため、武道以外は平均以下。

オシオキのテーマは言わずもがなドラゴンボール。サイヤ人ならぬサイヤ熊化したモノクマにボコボコにされる。

 

弦野律

生き残りメンバーその3。本作の成長枠。自身のコンプレックスと大切な人との死別を乗り越え、最後まで奮闘した。初めは常に単独行動を取っており仲間と打ち解けられなかったが、2章以降は次第に心を開くようになる。割と常識人なのでツッコミ役になる事が多いが、若干金銭感覚が狂ってる。聴覚が非常に優れており、2度目の裁判では不本意ながら才能が役に立った。余談だが、Twitterでは人気キャラ。

不良だが、一応英才教育を受けているため成績優秀で教養と品格もある。推理頭も悪くないが、短気な性格が悪目立ちしがち。親に決められたレールから抜け出したくて色んな事に手を出しまくったが飽きっぽい性格故にどれも大成せず、音楽関係以外は平均以上にはできる程度。

オシオキのテーマは親からの仕打ちと演奏。オシオキ部屋で受けた拷問は全てモノクマの持っていたヴァイオリンの内部の出来事だった。

 

一千歳

生き残りメンバーその4。原作の不二咲、左右田、入間に並ぶ機械系才能枠。まさかの不二咲の親戚。ビビりな性格故に周りに迷惑をかけたり4章ではスケープゴートにされたりしたが、何とか生き残った。パニックになると余計に人の話を聞かなくなるという悪癖があるため、裁判を悪い方向に持っていく戦犯となってしまうキャラ。

勉強頭はかなり良く、特に数学は満点以外の点数を取った事が無い。ただし推理頭はかなり悪く、速水といい勝負。引きこもりだったため身体能力はかなり低く、機械やゲームは大の得意だがそれ以外はからっきし。

オシオキのテーマはスーパーマリオブラザーズ。途中の拷問は、マリオの敵キャラがモチーフ。

 

速水蘭香

本作のギャル枠。黒瀬に利用されて退場した可哀想な人。クロになったところで裁判を乗り越えるのは無理なのでは?と思いきや、黒瀬という協力者のお陰で割としぶとく粘った。4章までは裁判を乗り越えられない事を自覚していたため殺人をするつもりはなかったが、4章では共犯ルールを利用して殺人に走ってしまった。

勉強頭、推理頭共に作中ワーストクラス。身体能力は当然のように高く、運動神経は枯罰の次に良い。家では弟達の世話をしているため、意外にも家事はそれなりに得意。

オシオキのテーマは走れメロス。小説の内容を忠実に再現している。

 

筆染絵麻

3章シロ。殺人犯でもあり被害者でもある。宝条には殺されかけ、仕田原には八つ当たりで殺されるという作中一可哀想な最期を迎えた人。宝条を殺した件に関しては正当防衛による事故であるため、ほとんど落ち度は無かった。仲間想いで馬鹿正直な性格が災いし二人に狙われてしまった。カップルは大抵片方死ぬ。余談だが、Twitterでは人気キャラ。

勉強頭、推理頭共に平均より少し下。身体能力は平均。集中力があり過ぎるが故に自分の世界に入り込んでしまうという悪癖がある。絵以外はポンコツで、特に歌唱力に関しては絶望的。

オシオキのテーマは写実。普通の写実とは逆で、既に描かれた絵に合わせて身体を変形させられる。

 

宝条夢乃

3章シロ。せっかく仲間との信頼関係を築けたところでジョンに唆されて再び疑心暗鬼に陥ってしまい筆染を殺そうとしたが、返り討ち(というよりほとんど事故)にあって呆気なく命を落とした。ワガママで毒舌だが、根は優しい性格なため変な気を起こしさえしなければ十分生き残りメンバーになり得た。

勉強頭、推理頭共にかなり良い。身体能力はやや低め。収集家という才能故に情報収集や洞察力に長けており、特に1章では意外と活躍した。ただし、家事に関してはやった事がないためポンコツ。

オシオキのテーマはオークションと人身売買。最後は、モノクマに買われて身体をバラバラにされた。



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