蒼き鋼のアルペジオ 光速の駆逐艦が征く (ニャモししゃもじ)
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始まり

執筆中の中で眠っていた作品を引っ張り出して来たので、修正は加えましたがところどころおかしくなっているかもしれません。


この世界には“霧の艦隊”と呼ばれる人類の科学力を遥かに超える超兵器を持つ謎の勢力が存在する。

人類は霧達によって海から駆逐され、シーレーンも長距離通信も断たれたことによって各地に孤立した。

 

霧は“アドミラリティ・コード”に従って行動しているが、ヨーロッパを最後に現在は消息不明。霧は最上位に位置するアドミラリティ・コードを探し求めている。

 

何故こんなに詳しいのには二つの理由があり、一つ目は俺も霧の一員だから、もう一つは今は置いておく。

 

そして、そんな霧に立ち向かう者達がいる。彼らの名は“蒼き鋼”、イ401に乗って霧を倒す言ってしまえば英雄的な存在なのだが、リーダーである千早群像率いる彼らは人類に与している訳でもないので、霧だけでなく人類からも危険視されている。

 

確かに例え同族であったとしても、命令を聞かないくせに自分達よりも強いと脅威に感じるのは仕方ないと思うが、流石にアホじゃないかと思う。

 

独自の航路を爆走しているとはいえ霧と敵対してるのに違いは無いのだから。

 

「やっぱり、そう考えると人って醜いな」

 

俺も元は人だった(・・・・・・)が、こうなると溜め息を吐きたくなる。

 

「なに辛気臭い空気出してんだよ。そんなのお前には似合わないって言ったろ?」

 

「………そう言うお前はもうちょっと緊張感持てよ」

 

だから人の気も知らないでいきなり背後から声をかけて来たコイツに文句を言っても許される筈だ。

 

「おいおい、それが“艦長”に対する態度かよ?」

 

「何度も言うが俺はお前を艦長と認めたことは無いからな。立場的に仕方なく付き合ってやってるだけだってこと忘れんなよ?」

 

俺がジト目でそう言えばソイツはおどけたように手を広げてこう言った。

 

「相変わらず冷てえじゃねぇか、相棒」

 

「冷たくて結構、特にお前にはな」

 

そう、コイツには情けなど不要。コイツは甘やかしたらとことん付け上がる生き物だ。コイツのせいで何度酷い目にあったことか……俺が駆逐艦の中でも速度特化の艦じゃなければ今頃どうなっていたかと思う場面多々あるしな。

 

まぁ、コイツの立てる戦術に助けられたこともあるから信頼はしてる。態度として見せたらどうなるかなんて考えなくてもわかるからいつも内心思うだけだがな。

 

にしても、さっきから感じるこの嫌な悪寒……まさかだが……

 

「なぁ、ちょっと行ってもらいたいとこがあるんだけどさ」

 

はい予感的中〜俺おめでとうございま〜す

 

「はいはい、お前の考えてることはお見通しだよ。どうせ反対しても無理矢理行かせるんだろ?」

 

「よくわかってるな。流石は俺の相棒」

 

………少しは否定して欲しかった。とは口が裂けても言えんな。前こういう空気になった時に言ったらその後三日くらい荒れまくって困ったし。

 

「この紙に書かれた座標に向かってくれ」

 

言い方からして他の誰かが書いたものなの……いやこれコイツの字だな、何故わざわざ紙に書く……まぁ行くんだけどさ。

 

「はいはい、駆逐艦シマカゼ抜錨しまーす!」

 

俺は自身の艦体(カラダ)を旋回させ、記された座標に向けて動かし始めた―――

 

――――――――――――――――――――――――――

「これで……よし!出来た!」

 

俺は何時もどおり趣味である休日のプラモ祭りを行っていた。だが、今回のプラモは一味違った。

なんせ、このプラモはなんとか手に入れた俺が大好きな駆逐艦“島風”のプラモなのだから!

 

 

俺が島風と出会ったのは親友である坂井(さかい) 当真(とうま)に進められたとあるゲームをプレイした時だった。

ゲーム自体は凄く楽しかったのだが、俺は熱く語られた“嫁艦”や“推し艦”を見つけられないでいた。というか探す必要性を本気で考えていた。マジで。

 

なので仕方なく当真に相談すると、当真はすぐさま嫁艦である島風を紹介して来た。最初こそふーん程度だったのだが、聞けば聞くほど戦力として欲しくなり、それまでよりもガチになった。具体的に言えば、一日のプレイ時間が三倍になった。

 

そして紆余曲折あってようやく島風を手に入れた時は有頂天になったな。(その後当真が引くほどの凄まじい速度で練度上げまくってケッ○ンもした。)

 

で、結局俺はキャラクターとしての島風だけでなく、軍艦としての島風も好きなった。なので資料を片っ端から漁って情報を頭に叩き込み、ネットを見たり店舗を回ったりして島風のプラモを探した。

ただ、何故かはわからないが島風だけどこにもなくて、何日も何日も途方に暮れる毎日を過ごした。

 

だが、今目の前にその島風が!ようやく手に入れた島風が!あ〜、やっぱりこの造形いいな〜軍艦て時速40ノット出せるとかホンマ凄いわ〜

 

そんな感じに、俺が飾る場所を考えながら島風のプラモをペタペタと触っていると、突如として大きな揺れが俺を襲った。

 

「うわぁぁぁ!?なんだ!地震か!?」

 

自分でも何やってるんだと思うが、俺は机の下に隠れないであたふたしている。原因は抱えている島風なのだが、これは何があろうと絶対に離さん。絶対にだ。

 

でもとりあえず机の下に隠れよう、そう思って屈んだ瞬間に、棚が倒れて来た。

 

「いってぇぇ!?」

 

この時、俺は重大なるミスを犯した。そう、俺は絶対に離さないと誓った矢先に島風を離してしまったのだ。

 

「島風、どこd…………!?」

 

俺は背中に走る痛みに耐えながら島風がどこに行ったのか知るために揺れが収まらない部屋の中を見回し、見つけた。

だが、島風は俺同じように棚に潰されてしまっていて、無残な姿を晒していた。

 

「あ、あぁ………」

 

せっかく買って、あんなに慎重に組み上げたのに、こんな一瞬で……酷い、酷過ぎる……俺が何をしたっていうんだ……

俺は項垂れ、生きる気力を失った。

 

そして天井に付けられていた照明器具が俺の頭に落下し、後頭部に激痛を感じた―――と思えば何故か女の子になってなんかの船に乗って大海原の上にいる。

 

うむ、どれだけ見てもやはり海は青い………そして地球は丸い。

 

「って現実逃避してる場合じゃないな。なんでこうなったのか調べなければ……」

 

とりあえずさっきまでのが全部夢………ってのは無いか。マジで痛かったし。ならこれだけ夢の可能性がある。とりあえず頬を抓ってみるか。痛くないなら夢ってことだし。

 

「よし!思いっきりいくぞ! せい!………?」

 

なんなんだこの感じ?痛くはないけど頬を触ってる感覚はある。ちなみに言うとスベスベのモチモチだ。

うーん、服は見覚えないけどこの特徴的な色の髪……どっかで見たことあるんだよな……どこだっけ?

 

「うぉっ!?なんだ!?」

 

そんなことを考えていると、突然チ、チ、チという音が鳴り、俺の周りに光るリングのが展開された。

って待てよ?これもしかしなくてもアルペジオに出てきたアレなのでは?

………見れば見るほどそうとしか思えない。ん?

 

「指令?『再起動の後は海洋を占有し人類を海から駆逐、分断せよ』っていうアレ?」

 

でも確認した感じそうでもなさそうなんだよな。なんかここに行けみたいな感じだし。

でも、命じるくらいなら何かあるだろうし、行ってみるか。それでなんかわかれば万々歳だし。

 

まぁ、俺この艦の動かし方わからないんだけどな。適当に念じたりすれば動くのか?とりあえず、前進?

 

俺が前進と念じると、駆逐艦島風――いや、シマカゼは物凄いスピードで前進し始めた。具体的に言うと景色が光に見えるくらいの速度で。

 

「って早い早い早い!?今どれくらいの速度出てんの!? え、時速80ノット!?そんな速くしろとか言ってないんだけど!?」

 

俺が思わずそう言いながら減速と念じると、シマカゼはゆっくりと減速し、速度は40ノットまで下がった。いやまぁ、これが島風の速度なんだけども。

 

にしても、

 

「疲れたぁ……この体(メンタルモデル)でも疲れって感じるんだな――ってアレ?アルペジオってリソース的な問題で潜水艦か重巡洋艦以上じゃないとメンタルモデルを持てなかった筈じゃなかったか?」

 

シマカゼって駆逐艦だったよな?なら上位クラスが手を貸してくれてたりするのか?でもそんな気配無いし………うーん、とりあえず今考えても仕方なさそうだな。今は移動に専念しよう。

 

そんでもって移動しながらこの艦の情報とか漁ろう。霧が模した姿とはいえこの艦も島風に変わりはないからな。



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再会

今回は殆ど艦長視点です。


「指定された座標までもうちょっとだな」

 

俺は甲板の上で潮風に吹かれながらそう呟いた。にしても、やはり冷たい風に吹かれるのはいいものだ。

ただ一つ不安なことがあるんだが……

 

「さっきから陸に向かってる気しかしないんだけど……これ本当に大丈夫なのか?」

 

もう既に千早群像達が動き出してたら普通に死ぬし、禁じられている陸への攻撃とみなされたら霧にやられるし……

でもそれ以外にやることないしな〜

 

「まぁ、一応わかりにくそうな位置だし、大丈夫か。うん?新しい指令?」

 

え〜っと?200海里以内に入る前に潜航せよ……は?潜航しても同じなのでは?やるけど。

てかこれって、200海里に入る前ってことは今からでもいいんじゃね?

 

よし、やろう。どうせこれも念じるか言えばなんとかなるだろうし。

 

「急速潜航」

 

俺がそう言えば、指示に従うようにどんどん沈んで行く駆逐艦シマカゼ。ほらね、思った通りだ―――ん?そういえばここ甲板じゃね?

 

「まずいまずいまずいマズい!」

 

俺は大慌ててで艦内に駆け込んだ。劇場版でアシガラが海中に突っ込んでもゴボボとか言いまくってるだけで問題は無さそうだったし、ナチに言われてフィールド張ってからはそれも無くなったとはいえ、人として生身で海中に入るとか普通に御免被る。

 

「ふぅ、なんとか間に合ったな……」

 

とりあえず艦橋に上がろう。話はそれからだ。

そう思うと同時に意識が一度拡散し、再び元に戻った。

え、何?そして何時の間に艦橋に?今のは一体……?

 

俺が突然の出来事に思考停止して呆けていると、思考回路に情報が流れ込んで来た。

何々?『仮指定目標地点到達まで残り300秒』、か。どうやら思ってるよりも早いみたいだな。

 

「………海の中って、こんなに静かなんだな」

 

改めて実感して呟くと、どこか寂しく感じる。いつも俺の周りにはアイツがいたからだろうか………アイツ、元気にやってるかな……

 

そんなことを思っていると、頭の中にこうなる前の記憶が表示される。アルバムみたいな感じに。

しんみりとした空気のまま一つ一つ見ていると、先程感じていた物寂しさが倍になり、見なければ良かったと後悔した。

 

――――――――――――――――――――――――――

★☆★☆★

 

いきなり発生した地震に襲われて、倒れてきた電柱に潰されたと思ったら幼児になっていた。何を言ってるかわからねぇと思うが、俺もわからねぇ……マジでどうなってんのコレ?

 

あれか?転生?転生なのか?神様を名乗るジジイとか会ってないけど転生で合ってるのか?

そして気が付けばずっと持ってるこの紙はなんなんだ?

 

「………ふつうにかんがえてあやしすぎるんだが……きになるし……みるか」

 

え〜っと?『すまん!お主を手違いで殺してしまった!』おいいきなり物騒な始まりだな……まぁいいや。

 

『本当はお主はまだまだ生き、94歳で老衰によって死ぬ筈じゃったのじゃが、儂の部下がお主の書類を間違えて燃やしてしまったのじゃ!

部下のミスは上司のミスということで、お主を転生の間に呼んだのはいいが、何時まで経っても目覚めぬのでやむを得ずお主が深層心理で考えた“蒼き鋼のアルペジオ”という世界に送らせてもらった。

 

転生特典なども聞けておらぬ故、この手紙の最後に特典を書く欄を用意した。書けば特典はお主のものになるが、変更は出来ぬので慎重に考えた方がよいぞ!

あと、特典を何時何処で受け取るかの指定も可能じゃ!

 

⚠一度決定してしまえば変更は不可能です!⚠

 

―――――――――――――――――――――――――

神より』

 

…………思いっきり“転生”って単語出てたな。ってことは俺マジで転生したのか……でもなんか実感湧かない、転生なんて所詮は妄想でしかないと思ってたからか?

 

にしても、この転生特典を書く欄らしき線の上にある文字のインパクトが凄い……絶対見ろよ!的な意思を感じる……

特典を書けって言われてもな、この世界がアルペジオの世界ならそんな簡単な問題じゃねえんだよな。欲しいのは決まってるけど………えぇい!もうどうとでもなれ!

 

⚠一度決定してしまえば変更は不可能です!⚠

駆逐艦シマカゼを士官学校入学後に

―――――――――――――――――――――――――

 

俺が別に“海洋技術総合学院入学後”と書かなくても士官学校だけでわかるだろうから絶対入れるだろうとか狡賢い考えを膨らましていると、手紙が光輝いた。眩しいなオイ。

ってあれ?書いてあった文字が全部消えた……?

 

……とりあえず、当面の目標は海洋技術総合学院に入って千早群像達と交友関係を持つことになりそうだな。

 

 

 

 

 

なんて考えて勉強を始めたのがちょうど14年前になる今日だったな。いや〜、ここまで長った。なんて言う俺は今18歳である。

 

ちなみに、あながち嘘でもないが人類のために戦いたいと言ったら即勉強漬けの日々になったのにはキレたりしてたりする。

その時はお前らそれでも親かよぉ!?ってマジで思ったな。まぁ幼児の頭ってスポンジレベルで情報吸い込むからなんとかなったんだけども。

 

「だが、まぁ、ようやくここまで来た」

 

俺は書かれた文字が変化した紙とスマホを取り出し、書かれている座標と現在地の座標を確認した。間違ってはないな。

これに書かれてる時間が正しいならば、後3、2、1……ザバァァァン!!>お、おぉ……!

 

「こりゃすげぇな……」

 

激しい水飛沫を上げながら俺の目の前に姿を表した青紫色の船体にバイオレットカラーの光を灯すこの駆逐艦は、第二次世界大戦で活躍した駆逐艦“島風”の姿を模している。つまり、こいつが俺の相棒となる駆逐艦シマカゼということか。理解したら急に興奮してきた……!

 

え、これ乗ってもいいんだよな?俺の艦だし……

そう思って一歩近づくと、目前の駆逐艦から実に見覚えのある顔をした黒いセーラー服に身を包む一人の金髪美少女が降りてきた――ってうん?駆逐艦って演算領域の問題でメンタルモデル持てなかった筈じゃね?………見間違いじゃ、ないね…。

 

「えっと、お前がシマカゼか?」

 

なんとか声震えなかったけど……興奮しまくってんのバレてるかな?

 

「………そう、私がシマカゼだ。人間よ。その上で問おう、お前が私のマスター(艦長)か?」

 

………聞き間違いじゃなければ今俺は霧の駆逐艦に有名な某運命のネタを投げかけられている。調べたらこの世界にもあったけど、霧がネタを口にするって………

などと考えるだけで返答をしなかった俺に痺れを切らしたのか、シマカゼは若干苛立った口調で言った。

 

「お前が艦長じゃないなら帰るぞ」

 

「待って、本当に待って!?俺だよ、俺がお前の艦長だよ!」

 

流石に声を上げる俺。当たり前だよなぁ!?せっかくの相棒をみすみす逃がすとか有りえないから!!

 

「……そうか。チッ、嫌な予感が的中したか…!だがまぁ、これはこれで好都合だな

 

ん〜?シマカゼちゃん今なんか舌打ちしてなかった?後半は何言ってたのか聞き取れなかったけど………

俺が多分微妙な顔をしていると、シマカゼは俺を艦に乗せようとして来た。

 

「って何やってんの!?」

 

「………?艦長なんだろ?」

 

お前こそ何踏ん張ってるんだ?的な目で見られてるけど、万一にも俺が間違えている可能性はない……筈。だって俺まだ学生だし。

 

「確かに艦長は俺だが、俺まだ学生!まだ学ぶ立場なんだよ!心配しなくてももうちょっとで起きる筈の火災起きたら乗るか、ら……」

 

俺はしまったと思った。何故なら前に立つシマカゼの目が怪しく光ったから。

けど何故かこういう時感じるであろう冷たい空気は感じない。というか、なんか……

 

「やっぱ、()が知ってる当真で合ってんだな。安心したわ」

 

急に機械的な表情から人間的な優しい表情に変わった……

あれ?この雰囲気ってまさか………いや、待て待て。ありえない……あり得る筈がない……

 

「お前も転生したんだな」

 

聞こえない聞こえな〜い。微笑んでる金髪美少女の声なんか聞こえませ〜ん。

 

「話聞かんかいワレェ!」

 

「ひでぶ!?」

 

コイツ、殴りやがった!親父にも殴られたこと………あったわ。前世でも今世でも何回も殴られたわ。

それにしてもいきなり殴るのは酷いんじゃないんですかね!?

 

「お前が話を聞かないのが悪い」

 

「心読むなよ……なんで読めるのか知らないけどさ」

 

だがまぁ、これでハッキリしたな。

 

「そんじゃまぁ、今世でもよろしくな。相棒?」

 

俺がそう言いながら手を差し出すと、シマカゼはニヤリと笑って俺の手を取った。

 

「こちらこそ、よろしくな」

 

俺とシマカゼはお互いの手を強く握り、笑いあった。

 

 

 

「でもお前だとわかった以上、俺はお前を艦長とは認めないからな」

 

………。シマカゼ、空気読め……




駆逐艦シマカゼのスペックなどはまた後程ご紹介します。


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出航

俺はヒエイがやっていたみたいに艦橋の上に乗りながら戦術ネットワークにアクセスしていた。理由は一つ、暇だったから。

 

「今の所は戦術ネットワークのデータの更新も行われているな。まぁ、もうじきに使えなくなるだろうし、この先重要になるであろうデータを抜き出せるだけ抜き出して保存しとこ」

 

アイツの言う通り千早群像らは今日、というかこの後に第4施設での研修に入り、原因不明という名の新たなる指揮官の適正を持つ天羽琴乃を求めた霧のポカが元凶の火災に巻き込まれて天羽琴乃は死ぬ。

 

そして数週間後にイ401のメンタルモデルであるイオナが現れ、千早群像は彼女と共に海に出る。

 

それら全ての始まりを見たいのは山々だが、艦長から合図があるまでは待機しておけと言われたから待機しておくつもりだ。時間的に今は見学中かな?と思いながら一言呟く。

 

「それにしても、まさか群像達と友人と言われる関係にまでなるとは……」

 

これは単純にアイツ頑張ったんだなっと思う。なんでも成績は基本4位を陣取ってるらしいし。前に基本?と聞いたらシマカゼのこと思い出すと勉強に集中出来なくなって、たまに8位まで転落して群像達にも呆れられるって自信満々に答えられてこっちも呆れたが。少しは緊張感持てよって何度思ったことか。

 

そう言えば、あの後言われて始めて気付いたが、シマカゼのメンタルモデルの容姿は俺が好きなゲームの島風のそれだった。まぁ、だからなんだという話でもあるのだが……だって中身俺だし……

 

「見つけた」

 

そんなことを考えていると、思考の片隅で探していた今一番求めている情報が入っているであろうファイルを発見したので、俺は早速見つけ出した情報を閲覧することにした。

 

「総旗艦ヤマト……アクセス権限が必要?そんなのあったっけ?」

 

割と時間をかけて見つけたけど、一介の駆逐艦にそんな権限持たせる訳ないしな………あーあ、また振り出しだ。

大海戦時にムサシによって既にヤマトが沈められているのならばこの世界はアニメ版だとわかるんだけどな……見れないなら諦めるしか無さそうだ。レーザーと実弾で見分ける術はプラズマの方も出来たから諦める他無くなったし……αコアのメンタルモデル“コトノ”がいるかいないかでもわかるんだが、それも同じようにただの駆逐艦には知る由もないだろうしな……

 

「はぁ、結局この世界が漫画基準かアニメ基準のどちらかを知るという目的も、暇を潰すという目的も潰れたな。これからどうしたものか……」

 

泳いでる魚見るのも飽きたし、侵食魚雷とか侵食弾頭の仕組みは見るだけでげんなりとするし、マジで何すればいいんだろうか……

 

「……そうだ。ナノマテリアルで工作しよう」

 

結局俺が辿り着いたのは、後で絶対に怒られるナノマテリアルと演算領域の無駄使いだった。

いやでも今は戦闘中でも無いし、暇で暇で仕方ない俺とは対照的にアイツは群像達と楽しい学校生活を送っているんだからこれくらい許されるだろう。というか、許さないなら殴る。

 

おっと、そんなことを考えていたら俺がアイツを殴る像が完成してしまった。ふむ、これはいい。アイツがたまに見せる間抜けな表情も、俺の腕がアイツの頬にしっかりと食い込んでいるのも考えた通りだ。

 

一つだけ不満なのは俺の姿がシマカゼなところだけだな……まぁいい、とりあえずこれは傑作だからファイルに保存しよう。

……よし、保存が終わったからこの像は消して、今度は駆逐艦シマカゼを作ろう。

 

俺がそう思うと同時に目前に駆逐艦シマカゼの画像と各種スペックが表示されたモニターが出現した。

……この体になってから割とあるんだよな。合ってるけど、なんか違うっていうコレ。

 

像の作成は考えるだけで出来るから、見よう見ようと思いつつも見てなかった本艦のスペックでも見てみるか。

 

全長:129.50m

全幅:11.20m

喫水:7.02m

排水量:3506t

速力:80kt

メンタルモデル:G-1シングルコア1基

機関:重力子エンジンS型改70基

  :重力子エンジンT型3基

最高速力:111kt(リミッター有り)

    :444kt*発動後エンジン効率大幅にダウン

テスト深度:820m

センサー:ソナー(音響/重力子アクティブ/パッシブ)

    :フェードアレイシステム

    :複合センサー

    :外部カメラ

装甲:強制波動装甲

武装:127mm/140mm複合アクティブターレット×3

  :523mm魚雷管×15(水面下×30)

  :127mm荷電粒子砲×6

  :25mm3連装砲パルサーガン×4

  :13mmレーザーガン×2

  :垂直発射装置×32

  :対艦ミサイル×10

  :誘導魚雷管×2

  :パッシブデコイシステム(使用不可)

 

うーん、やっぱりユニオンコアはシングルだったか。もしかしたら総旗艦の資格を持つ大戦艦級以上に搭載されるデルタか、一部のみが持つデュアルだったからメンタルモデルを構成できたのかもしれないと思ったんだがな……

 

こうなると中身が人間だからだとしか考えられなくなってきた……でもそれ以外の可能性が考えつかないし、恐らくそういうことなんだろうな。うん。

 

やる気が削がれた俺は無理矢理そう納得し、艦橋の上に寝そべった。最高速度やら何やらは今は気にしない。

 

「………群像とイオナが海に出る日は劇場版でアシガラがやったダイナミック入水をやってみたいな。まぁ、駄目だろうけど」

 

――――――――――――――――――――――――――

★☆★☆★

 

「クッソ!なんでいきなり火災なんか起こるんだよ!」

 

俺は炎が轟々と燃え盛る施設内を走り、僧達を助けるために地下に向かっていた。

 

「確かに妙だが、今はそれどころじゃない!」

 

隣を走る群像にそう言われ、改めて今の状況を確認した。確かに、文句言ってる暇は無いな。

 

「俺は右に行く、当真はそっちを頼む!」

 

「あぁ、任せろ!」

 

地下に降り、暫く走ると分かれ道があったので、群像と俺は別れ、要救助者達を探す為に再び走り出した。

 

「誰か!いないのか!?いたら返事してくれ!」

 

原作通りならば助かるのは確定しているが、俺とシマカゼという異分子がいる以上、バタフライエフェクトが発生している可能性がある…、もし俺達のせいで僧が死ねば……いや、そんなことを考えるのはやめだ。今は探すことに専念しよう。

 

 

救助を行いながら捜索を続けていると、琴乃からもう要救助者はいないという連絡を受けたので、俺は外に出た。

 

「おい、琴乃は……?」

 

俺がそう聞くと、一度歯を食いしばって顔を歪めた群像が入口に向けて走り出した。

 

「やめるんだ群像!」

 

「うるさい!!離せ!」

 

こんなにも荒れる群像は見たことがない。だが、救助活動で忘れていたがよくやく思い出した。琴乃はここで死ぬんだったな……俺が察して項垂れていると、群像が俺に目を向け叫んだ。

 

「当真!まだ中に琴乃がいる!!助けに行ってくれ!!」

 

「行っては駄目だ!!」

 

群像の叫びを掻き消すように僧も叫び、二人とも俺を見る。俺は崩落しつつある入口に目を向けた。そして一歩踏み出そうとすると、僧が悲痛な声を上げた。

 

「群像、当真……もうやめてくれ……頼む、頼むから……」 

 

「っ!クソッ!」

 

その声を聞いた群像と俺は僧を見て、群像は暴れるのをやめ、俺はまた項垂れた―――

 

 

 

 

 

そして、あれから3週間が経過した今、俺は旧倉庫区画にて群像とイオナの会話を聞いていた。

ある程度まで話が進んだのを確認して聞くのをやめた俺はその場を後にし、シマカゼと決めた合流地点へと急いだ。

 

「やっと来たか、待ちくたびれたぞ」

 

シマカゼは既に船体を浮上させた状態で俺を待っていた。言葉とは裏腹にその顔には笑みが浮かんでおり、興奮を隠しきれないという様子だ。やっぱり、コイツは霧よりも人間の部分が強いんだな。

 

「悪かったよ。でももうこれでなんの未練も無く出れるわ。退学届叩きつけておいたしな」

 

「………まぁ、もう戻らないから合ってるけど。必要だったのか?」

 

「あぁ、これは俺なりのケジメさ」

 

シマカゼが一度額に皺を浮かべかけたが、すぐに何時もの表情に戻し、俺に問いを投げて来たが、俺はしっかりと応えた。

 

「ならいい、乗れ」

 

俺の答えを聞いたシマカゼは階段を作り、甲板の上に上がった。てか、もうクラインフィールドで階段作れるくらいになったんだな……

 

そして、艦橋に上がった俺は艦長席に腰を降ろし、シマカゼは俺の隣に立ち、こう言った。

 

「こっちの準備はとっくの昔に完了してるから何時でも出れる。後は艦長(・・)次第だ」

 

「っ!……ああ!シマカゼ、発進!!」

 

俺はようやくコイツが俺を艦長と認めてくれたのかと嬉しくなり、何時もよりも大きな声を出した。




スペックは他の艦のスペック一覧と駆逐艦島風のスペックを基にかなり適当に考えたものです。

444ktという頭のおかしい数値なのは、抵抗を極限まで減らしたハグロが300ktなのでさらに上にした結果です。
ですが書いてある通り、最高速度に達して暫く光速移動を行った後はOOのTRA○S−AM後のような状態になるので、色々考慮するとハグロの方が上となります。


次回から数話の間オリジナル展開を挟みます。


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初戦闘

千早群像やイオナに合わせて出航したあの日から島に寄りまくったりとグダグダ過ごしながら操艦の練習をしていたら何時の間に一ヶ月が経っていた今日、俺達は日本近海の太平洋上を航行していた。

 

「それで、今回はどこに行くつもりなんだ?」

 

「……最終目的地はある、けど今は経験を積むことが重要だ」

 

とりあえず率直に思ったことを口にした俺に、当真は真面目な表情で応えた。けど、一つ言いたいことがある。

 

「経験を積むって言っても、どうするつもりなんだ?いきなり重巡やらとぶつかったら普通に沈むぞ?」

 

確かに経験を積むのはこの先のために必要だ。だがそうなると相手が重要になってくる。大戦艦、重巡洋艦は論外として、現状勝てる見込みがあるのは……

 

「わかってる。だから俺達は駆逐艦を狙う」

 

やはり駆逐艦、か。まぁ大体そうだろうとは思っていたが……

 

「駆逐艦を狙うと言っても、途中で大戦艦とかに会ってしまったらどうするんだよ?まぁそんなこと有り得ないと思うけど

 

「その場合はリミッター解除からの最大戦速で逃げる。シマカゼの最高速度なら余裕だろ?」

 

「…………」

 

……もう遅いかもしれないが、俺はコイツにシマカゼのスペック見せたことを後悔している。

確かに各武装に回す演算領域やエネルギーを全て回して初めて発動可能になるリミッターを解除した最大戦速なら余裕で振り切ることが出来るのだが、振り切った後が問題になってくる。何故なら、

 

「逃げた後はどうするんだ?リミッター解除後は重力子機関(グラビトンエンジン)の稼働率が2割まで下がるんだぞ?」

 

リミッターを解除した最大戦速航行をした後は強大な負荷がかかった重力子機関を休ませる必要があり、完全再稼働までの待機時間で霧に襲われでもすれば一発アウトだからだ。一体どうするつもりなのか……

 

「潜航して再稼働まで待機する。まだ401も大体的に動いていない以上、現在そこまでの警戒はされていない筈だからな」

 

「なるほどな……」

 

言われてみればそうだ。まだ千早群像達は“蒼き鋼”として動き出しておらず、当分のところもクルーを集めたり拠点を構えたりなどの準備期間になるだろう。そう考えるならば、今動くのもアリか――ってうん?いや待てよ?でもそれだと……

 

「それだと群像達苦しくなるんじゃないか?」

 

「わかってる。だから戦うのは一隻、その一隻で出来るだけ多くのデータを集めてシミュレーターに活かさせる」

 

さっきからひたすら真面目に言っているが、シミュレーターってコイツに作れるのか?というかそれ以前に拠点どうするつもりなんだ?

 

「戦闘後は八丈島に向かい、地下に拠点を構える」

 

八丈島……伊豆諸島にあるランクCの火山島。一応は東京扱いだから距離もそこまで離れていない。なるほど、確かに乗艦が駆逐艦である俺達からすれば随分と魅力的な島だな。

 

「わかった。なら俺は駆逐艦のとこまで向かい、沈めればいいんだな?」

 

「八丈島に着いてからは拠点作成も手伝ってもらうがな」

 

「言われなくともわかってるわ」

 

忘れんなよ?的に言ってきたが、お前に何年も振り回されてるんで非常に不本意だが、言いたいことは理解出来る。だからその顔ヤメロ。

 

まぁ、そんなこと言ってても仕方ないんだよな……よし、メンタルモデルを構成するやつ以外の演算領域を全て戦術ネットワークからのデータ収集とレーダーに回して……おっいたいた、にしても割と距離近かったな。

 

「敵艦発見」

 

「早いな、でどいつだ?」

 

「少し待て……コイツは、マツカゼだな」

 

「マツカゼ……神風型四番艦の松風か」

 

よく知ってるな、まぁコイツも一応は軍艦マニアだったし当たり前か。

 

「なんだよその顔」

 

「別にこれだけでわかるとは当真にしては凄いなーって思っただけだ」

 

「…………なんか、凄い貶された気がする……」

 

貶してるから安心しろ、とは口が裂けても言えんな。こんなでも俺の艦長だし。

なんて思いながら目の前に出現させたモニターに赤いバイナルパターンを光らせる駆逐艦の映像を表示する。

 

「敵艦には気付かれてないんだよな?」

 

「勿論、ただこれ以上近付かれれば向こうにもバレるがな」

 

というか、もう気付かれてる説は……無いか。

 

「なるほどな……先制攻撃だ。魚雷用意」

 

「数は?」

 

「一つ、まだ様子見だ」

 

「了解」

 

俺は当真に言われた通りに魚雷を装填し、照準を前方を進んでいるマツカゼに固定した。

 

「放て!」

 

そして当真がそう言うと共に発射した魚雷は真っ直ぐにマツカゼに向かっていき、バリアのようなもので防がれた。

 

「あれがクラインフィールドか……現実で見ると綺麗だな」

 

隣のアホはなんか言ってるがどうでもいいことだろう。

それよりも今はマツカゼ――いや、敵駆逐艦に集中しないとな。ヤツも気付いたように旋回してるし。

 

「ミサイル用意!撃て!」

 

「せめて明確な数くらいは言えアホ!」

 

数指定はされなかったので、シマカゼに搭載された32基のVLSから全弾発射した。

 

「一番及び二番砲塔旋回、目標、敵駆逐艦」

 

「抜け目が無いな……まぁいい」

 

俺はそう呟きながら一番と二番砲塔を回転させ、砲身の向きを駆逐艦に向けた。

そして先程放ったミサイルが駆逐艦のクラインフィールドで防がれた瞬間に当真が叫んだ。

 

「撃て!!」

 

俺が砲撃を行えば、向こうもただでは受けてやらないとでも言うようにミサイルと魚雷を発射した。しかも魚雷の方にはタナトニウム反応もある。

 

「ミサイル及び魚雷接近、中にはタナトニウム反応あり」

 

「ッ!侵食魚雷か!回避!」

 

「イエッサー!」

 

重力子機関(グラビトンエンジン)の回転数を少し上昇させて直線に向けて高速航行を行い、侵食魚雷を含む魚雷群は躱せたが降り注いでいたミサイルは相変わらずこちらに向かって飛んで来ている。

 

「迎撃しろ」

 

なんか一々反応するの面倒くさくなって来た……

思っていたよりも大変な各武装制御の為の演算処理にウンザリしつつも2基のレーザーガンで迎撃を行う。

勿論だが、こんな素人に完璧な迎撃など出来る筈も無く、撃ち漏らしたミサイルは全て俺の張ったクラインフィールドに直撃する。

 

「稼働率は……9%か、あんだけ撃ち漏らした割には少なく済んだな」

 

などと呟きながら俺は主砲を放つ。

 

「ってオイ!あ”〜〜っ!!」

 

当真が少し荒れたけどすぐに元に戻ったから問題は無いだろう。

 

「侵食魚雷を二本用意しろ、奴のクラインフィールドを剥がす(飽和させる)ぞ!」

 

無言で侵食魚雷を装填し、照準を固定してすぐさま放つ。間違っても反撃の隙などは与えない。

駆逐艦の張ったクラインフィールドに直撃した俺の侵食魚雷はその場で炸裂し、まるで抉り取るかのように空間を喰らい尽くしてから消滅し、船体の一部を抉り取られた駆逐艦をその場に残した。

 

で、駆逐艦が爆発したのだが……武装とかに回しているナノマテリアルを穴に回してなんとか轟沈を避けようとしている姿が見える……

 

「敵駆逐艦、クラインフィールド飽和。けど、まだギリギリ生き残ってる」

 

「そうか……なら、抜錨!」

 

「は?」

 

コイツ、何言ってんの?

 

「いいから抜錨!アイツ(駆逐艦)にぶっ刺せ!」

 

「え、あ、うん」

 

……言われた通りに用意した錨を駆逐艦の甲板に突き刺したのはいいのだが、こっからどうすればいいんだ?

 

「駆逐艦の周りをグルグル回って振り回せ!なるべく早くな!」

 

「それただの無駄なんじゃないのかなぁ!?」

 

口ではそう叫けんでも拒否権なんか無いのでやるしかないんだけどね……それにコイツの無茶振りは今に始まったことではないから別に問題無い……うん、きっと。

 

うっぷ……

 

回転数が20回超えた辺りでとうとう限界を迎えたらしい当真が嫌な声を出したので回転を止めたら、目前の駆逐艦がグラグラと揺れながら転覆し、そのまま海中へと沈み始めた。

 

「えー」

 

そんなことある?と思いつつもダメ押しに主砲を放つと、命中したのか海中で爆発が起きた。

 

「…駆逐艦、どうなった……?」

 

うわー、顔色悪っ!

 

「何故か自分から沈んで行った」

 

「そうか…思った通りだな」

 

思った通りって……どういうことだ?これは素直に聞いた方が良さそうだ。

 

「どういうことだ?」

 

「さっきのアレみたいに、船体に重大なダメージが発生している時にああやって引き摺り回せば応急処置をしつつも転覆を阻止しようとするだろうからな。後は急に回転を止めたら演算が追い付かず自滅するって寸法だ」

 

なるほど、言いたいことはわかった。けど一つ思ったことがある。

 

「それって重巡から上には使えなくないか?」

 

「あぁ、でもそれで十分だ。今はな」

 

「………そうか」

 

俺は当真のその言葉を聞き、広くて青いこの海を眺め始めた。




これからも更新スピードは低下していくと思いますが、読んでいただければ幸いです。


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拠点

もっと良くしようとしたのですが、文才の無いこの頭ではこれが限界でした……


自分で言うのもなんだが、初戦闘で見事勝利を収めた俺達は上機嫌で八丈島に向かっていた。

上機嫌にはなってるが、俺も当真も警戒はしてるから多分大丈夫だろう。

ただ、油断するとすぐ死ぬ危ない世界だから気を抜けないというのが少し悩ましいとこでもある。

 

そんなことを考えていると、不意に当真がこっちに視線を向けた。

 

「あとどれくらいだ?」

 

あとどれくらい……現在地と目的地の距離を検索……このままの速度で後23分くらいか。

 

「このまま何事も無ければ23分ほどで着くな」

 

幸い進行方向に霧の反応は見当たらないし。

 

「何事も無ければ、か……」

 

そう言って厳しい目をして進行方向に視線向けるのはいいが、本当に何も無いと思うぞ?てか、また戦闘とかあってたまるかって話なんだが……そうだな、ちょっと冗談でも言ってやるか。

 

「なら潜るか?海中なら少しだけでも気は楽になるだろうさ」

 

これで結局レーダーで見つかるだろなんだの言って来れば暫く話す内に元に戻るだろうか「そうだな……潜航」ら?

 

「どうしたんだよその顔……てか、お前から言ったのになんでお前が驚いてんだよ?」

 

「あ、うん」

 

と、とりあえず言われた通り潜航しよう。考えるのはその後でも問題無いし。うん……

そう無理矢理納得しながら海中を進んだ。

――――――――――――――――――――――――――

そろそろか、もうここまで来たら浮上しても良さそうだが………悩ましい顔をしているところを見るに、まだみたいだな。

一体何時まで潜航する気なのやら……ちょっと聞いてみるか。

 

「なぁ、何時まで潜航してるつもりなんだ?」

 

「そうだな……周囲に霧の艦艇は?」

 

「いないに決まってる。それにもしいたら迂回するなりなんなりするわ」

 

それ以前に報告するしな。

 

「そうか、なら浮上だ」

 

「了解」

 

当真の命令に従って艦体を浮上させた俺は、万が一を考えてソナーに反応が無いか確認したが、潜水艦などはいないと確信し、ソナーから意識を移した。

 

「あれが八丈島か」

 

「思ってたよりもデカい……」

 

前者が当真で後者が俺である。なんというか、デカかったのだ。衛星写真で見た限りではそこまで広く無さそうに見えたのだが、普通に広い。

 

「この島にも港はあるだろうし、そこに行くぞ。地下ドックは無いだろうがな」

 

当たり前だろ。こんな絶海の孤島に等しい島であんな地下ドックある訳ないし第一あったら逃げるわ……

 

崩れたりして道が狭まっており、一瞬通れるのか?と心配になったが、駆逐艦だったのが幸いして入港することが出来た。

二人で艦から降りると、不意に当真が港全体を見回して言った。

 

「ここに地下ドックの入り口を作ると考えると、ちょっと狭いな」

 

「確かに、横須賀の地下ドックを再現するとなると狭いかもな」

 

この港の拡張作業以前にまずは発電設備の設置諸々やらなきゃいけないからそれに取り掛かるの当分先だと思うがな。

それに防衛機構は優先する必要もあるし、何より資材も必要だから資材回収して来ないといけないし……

 

こうして考えると、一体何ヶ月かかるのか想像着かないな……幸いにもこの島付近の海域にナノマテリアルの鉱床があるのでちょっとは楽になるとは思うのだが、決して多い訳ではないから全部終わった後に残るか微妙なところなんだよな……

 

「とりあえず、何するんだ?」

 

段々思考が暗い方向に進み始めたので、頭を振って当真に質問を投げかけた。

 

「まずお前はナノマテリアルを集めて来てくれないか?その内に俺は少し島内を見てくる」

 

二手に別れて行動。その内俺の役目ナノマテリアル集め……ならコイツを渡しておくか。

 

「ほれ」

 

「おっと、なんだこれ?」

 

「無線機、人間サマからちょっと頂いて来たやつさ」

 

俺の言葉に当真は物凄く微妙な表情をしたが、全く気にする必要は無い。だってその無線機の元の持ち主はテロを企んでいたのだから。

 

「……後で返してきたほうがいいやつか?」

 

「返さない方が日本の為だし、そもそもどうやって返すつもりだ」

 

疑問に満ちたという表情で返した方がいいかなんて聞いて来たのでそう返してやった。

 

「そうか、じゃあ頼むぞ」

 

「おう!…あ、待って!」

 

煮えきらないという顔で歩いて行こうとする当真を呼び止めた俺は、当真に駆け寄って少し大きい人形のようなもの――ちびシマカゼを二人手渡した。

 

「これって……」

 

もう既にわかっているようだな、流石だ。

 

「ちびシマカゼだ、シマカゼ2号は演算が追いつかなくて流石に無理だったからこれで我慢してくれ」

 

「あ、ありがとう」

 

さて、当真も行ったし、ナノマテリアル回収行って来るとしますか。

まずはちょちょいとボート作って、オールも作って、後は海に出てナノマテリアルを積めるだけ積んで入らなくなったら港――ではサイズ的に無理そうだからに海岸辺りに行って、ある程度貯まるまで繰り返すだけだな。

 

「よし、それじゃ出航〜」

 

俺はボートに乗り込んでオールを漕ぎ、海に出た。

――――――――――――――――――――――――――

多分必要な量のナノマテリアルは揃ったし、そろそろ戻るか……ちなみにだが、結論から言うと、せめて気分だけでも良くしようという試みは全て無駄だった。

何故なら、どれだけ楽しくしようとしても、人類の頭脳を軽く超える我がユニオンコアが勝手に残り回数を算出してしまうのだから。

あの心が疲れ果てていた時に無慈悲に『残り:79回』と表示された時の絶望は二度と御免だ……

 

「と言っても、もう終わったから今凄く清々しい気分なんだがな!アハハハハハ!」

 

嬉しすぎて笑いが止まらないのだが、何時までもこれでは駄目だと思って感情コントロールに制限をかけると一瞬で高揚感が収まり冷静になった。

多分顔もイオナみたいな無表情になってると思う。

 

 

結局そこから無心でオールを漕ぎ続けて行くと、ものの数十分ほどで八丈島に着いた。

ある程度までボートに乗りながら進み、足が着きそうなところまで来てからは歩いて押した。

 

「後はこれを持って行くだけ、だがその前に向こうの確認をしておくか」

 

俺は無線機のボタンを押すと、すぐに返事が来た。

 

『なんかあったのか?』

 

「いや、こっちの作業が終了したから連絡したんだが、どうだ?」

 

『あー、そうだな。ひとまず仮拠点と崩れてた港の整備は出来たな|

 

仮拠点と聞き、普通に考えてそれくらいかと考えた俺の耳に、衝撃的な一言が聞こえて来た。

 

『それと、片方だけだが発電施設も完成したぞ(・・・・・・・・・・)

 

「そっか、頑張ったな―――え?」

 

『ん?どうした?』

 

聞き間違い……だよな?もう一度聞いてみよう……

 

「発電施設が完成したって言ったか?」

 

『あぁ、労力や資材の関係上、今設置出来てるのは西山だけだけどな』

 

………一瞬耳を疑ったが、どうやら聞き間違いでは無いようなのだが、一体どうやって……普通の人間の体ではまず耐えられない筈なの……まさかっ!?

 

「おい、まさかだがちびシマカゼ使ったか?」

 

……ほぼ確定だと思うが一応聞いておくとしよう。

 

『よくわかったな。なんでだ?』

 

やっぱりか。

 

「あんな環境に防護服もないただの人間が耐えれる訳ないだろ。そう考えたらちびシマカゼという結論に至るのは至極普通だ」

 

『なるほどな。とりあえず続きは後にして、港に戻って来てくれないか?仮拠点はそこに設置したからさ』

 

仮拠点は港に置いたのか。海から少し離した方が安全ではあるが、仮拠点だしまぁ妥当か。

 

「わかった、これから向かう」

 

『了解、助けはいるか?』

 

「……往復すればなんとかなるが、時間が惜しい助けてくれ」

 

『わかった。今どこだ?』

 

「そっちのちびシマカゼに位置情報を送る。ちびシマカゼの案内に従って来てくれ、その間に俺も動いておくからさ」

 

『わかった』

 

さてと、ちびシマカゼ1号に位置情報を送信して、こっちは回収したナノマテリアルから台車を4台作り、その内の一つに残りのナノマテリアルを積み込めるだけ積み込み運び始める。

 

 

俺は日が暮れる前には終わらせたいと思いながら台車を押し続けた。




数話とか言いましたが、次回から原作に突入しようと思います。


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